松山久美子「屠所の羊」 (100)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

当SSはアイドル名「ことわざ」でタイトルをつけているシリーズです。


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前回
喜多見柚「人こそ人の鏡」
喜多見柚「人こそ人の鏡」 - SSまとめ速報
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 ─ 前回のお話 ─


・ライバル会社であるアステリズムエンターテイメント社行ったけど、特になんでもなかった。

・なお、モバPはストレスで吐いた。

・そんな所に1人の女性がやってきた。名前は・・・




 ─ ○○プロ事務所・事務室 ─


モバP(以下P)「ごぼっ・・・ごほっごほっ!!」

西川保奈美「大丈夫?もう・・・」

P「ごめっ・・・うぅぅっぷ」

保奈美「なんで帰ってからストレスで吐くの」

P「ふと腰休めたら、いつかAePみたいになるんじゃないかって・・・みんなの事傷つけるんじゃないかって・・・ごほごほっ」

保奈美「私からしたらそうやって嘆いてるPさんが一番私たちを傷つけています!」

P「うっ・・・」

保奈美「胸張って、私たちを導いてください」

P「ごめん・・・」


保奈美「ほらっ、落ち着いた?」

P「うん・・・なんとか」

保奈美「洗面台で口濯いで、顔洗ってきたら?」

P「そうするよ」

P(・・・前にもしっかりするしっかりするって言ってるクセに、なんでこんな時にまたネガティブが再発するんだよぉ・・・)

P(こらっ、P!一部のアイドルにはしっかり言っただろう!トップアイドルになったら結婚するって!それまでどっしりと構えるんだって!)

P(顔を引っ叩いて、次に進もう。前に進まなきゃ・・・頑張ってくれてるみんなに申し訳なくなる)



バチンッ!!!



P「いってぇ!!!かぁぁ!!気合入ったぁっ!!!」


喜多見柚「あっ、Pサン大丈夫だった?」

P「ああ、もう十分に吐いたよ」

矢口美羽「は、吐いたらすっごい体力使うんですよ!?」

P「大丈夫、体力ならかなり自信あるから。ほら、亜季ちゃんとしょっちゅうサバゲーしてるし」

美羽「ホントですかー?不安ですよ、もう。体力の“サバ”読みとか怪我のもとですからねー!!」


柚「・・・・・・」

P「・・・・・・」

保奈美「・・・・・・」


美羽「つまんないくらい言ってよぉー!!!うわーん!!!!」


P「あははははっ・・・」

美羽「へへへへっ」

保奈美「美羽ちゃんもだいぶ慣れてきたわね」

柚「最初はガッチガチだったもんね」

美羽『ち、中学生なのでー!!インターンなのでー!!頑張っちゃうのでー!!』

柚「最初は“のでー!”が口癖かと思ったヨ」

P「へー、そんなこと言ってたんだ」

美羽「わ、わ、わ、忘れてよぉ!!////緊張に緊張重ねてただけなんだって!!」

保奈美「今ではすっかり○○プロの一員よね」

美羽「そうです、私矢口美羽は○○プロとして最高のアイドルになれました!いつでも現場にお呼びください!!」

P「まだまだひよっこでしょうが」


美羽「うぅ~、LIVE経験あるのにぃ」

P「LIVE経験だけで選んでたらハートさんはとっくに現場デビューしてるんだよなぁ」

保奈美「美羽ちゃんが○○プロの看板を背負うのは先になりそうね」

P「いや、それが・・・」


ピンポーン



P「ん、宅配便かな?」

千川ちひろ「あーっ、プロデューサーさん!代わりに出てください。多分、注文していた事務用具一式です」

P「なるほど・・・はーい、只今ー!」



ガチャ


P「はい、おつかr」

P(俺は言葉が詰まった。ちひろさんに言われた通り宅配の人かと思っていたがドアの向こうにいたのは茶髪の女性だった)

P「ど、どちらさま?」

P(茶髪の女性は俯き、顔面に髪が掛かって確認できなかった)


「P君・・・・・・」


P(彼女はかすれるような声で俺を呼んだ。待て、俺の名前を知ってる・・・そして、この雰囲気・・・)



P「まっちゃん?」

P(彼女はコクリと頷いた)


P「ど、どしたの?こんな仕事場まで・・・」

松山久美子「・・・P君・・・」




P(事務所の入り口ですすり泣いている人をそのままにするわけにもいかず、とりあえず事務所内に入れる事にした)



久美子「・・・・・・」


P(ソファに座らせた後、ずっと手で顔を覆うようにしている。泣き顔は見せたくないという所か)


美羽「・・・」ジー

柚「・・・」ジー

保奈美「・・・」ジー


P(候補生たちはずっと俺を見ている。たぶん、美羽だけは誰なんだろうって反応。残り2人はまた女か!って反応)


P「まっちゃん、ココアでも飲む?落ち着くよ?」


久美子[首を縦に振る]


P「ん、じゃあ待っててね」


久美子「あっ・・・!」ダキッ

P「ちょ、ちょっ!?まっちゃん、どうしたの急に抱きついたりして・・・」

P(落ち着け、抱きしめられるだけならハートさんや芽衣子のボディランゲージで慣れているはずだ、落ち着け)

久美子「・・・────・・・」

P「え゛?」

久美子「そ、側にいて・・・話したい事が・・・」

P「あ、はい・・・えっと、ほなみ~・・・代わりにココア淹れてくれないかな?」

柚「あっ、アタシもー」

保奈美「はいはい、分かったわ」



P(まっちゃん、一体どういうつもりなんだろう・・・)

P(再び彼女をソファに座らせ、俺は彼女の横に座った)


美羽「Pさん、その方は・・・恋人なんですか?」

P「いや、そういうわけじゃないんだけどね」

P(何かに怯えて腕に抱きついてるまっちゃんこと松山久美子は妹分の先輩、というだけだ)

P「昔の知り合いだよ。朋のな」

美羽「朋さんのですか、うーん・・・」

P「どうした?」

美羽「いえ、こういう時にいいギャグが浮かばないなーって」

P「無理して言うもんじゃないよ、美羽は自然体がよさそうだし」

美羽「そ、そうですか・・・」

柚「美羽がいくら言っても無駄じゃないかなー」

美羽「うわーん!」

柚「だって、その人・・・ちょっと前のアタシと同じ顔してる」



P(・・・言われてみれば何か似ている。こう・・・恐怖している感じに)

P(柚を見つけた時、彼女は冷え切った体に死んだような目をしていた。原因は保護者の虐待だが、今ではカウンセリングや俺たち○○プロ全員が支えたおかげで自分を取り戻している)


P(ココア飲んで、少ししたら聞いてみるか)


久美子「・・・・・・」

保奈美「ココア入りましたよ」

久美子「ありがとう・・・」

保奈美「お菓子も持ってきました。・・・ってココアにチョコ菓子はカロリー高すぎかしら」

柚「もーまんたいもーまんたい、うまー♪」

P(生クリームを生地で挟みチョコでコーティングしたお菓子を片手にココアを飲む柚。ここまでとはいかないが今まっちゃんを元気ださせる方法はないだろうか)

P「俺もお菓子もらおうかな」



「ただいまー♪」



P「あっ、あの声は・・・」

久美子「っ!!」

P「うぉっ!?」


P(まっちゃんに抱きしめられ、立ち上がろうとした所を再び座らされる)


久美子「ど、どっかいかないで・・・」

P「わ、分かったから・・・」



P(彼女の顔が俺の胸にうずめられる、正直くすぐったい・・・じゃなくて!!)

P(・・・とあたふたしているうちに朋たちが部屋に入ってきた。当然、朋をはじめとするメンバーは俺を見るなり苦い顔をした)


藤居朋「ちょっとP!その人・・・は・・・」

久美子「と・・・も・・・ちゃん・・・?」


P(朋は怒鳴ろうとした途中で気付いたようだった、自らの先輩の怯えた顔とかすれた声で驚きに変わった)


朋「クミちゃん先輩!?」


P「と、朋、まっちゃんは今・・・!」

朋「クミちゃん先輩!!」

久美子「朋ちゃん・・・」

朋「どうしたの、どうしちゃったの!!?」

P「俺も分からないんだ。分かるのは、今まっちゃんはひどく怖がってるって事」

朋「誰よ!クミちゃんにこんな事したのっ!!!!」

P「朋、お前も落ち着け!」

朋「あっ・・・うん・・・」


P「みんな、すまない。レッスンあるヤツは早めに行ってくれ。それ以外のメンバーは事務所のこの階だけ使ってくれ」

P「私事になってしまうが会議室を借りようと思う。ちひろさんは・・・今外出中か・・・音葉」

梅木音葉「はい、旦那様」

P「(旦那様って・・・スルーだスルー)ちひろさんが戻り次第、俺が色々と問題に引っ掛かってるのを伝えてくれ。最悪、仕事は夜中に回す」

音葉「わかりました」

P「朋、お前も一緒に来て。まっちゃんの側にいてくれ」

朋「当然よ」



 ─ ○○プロ事務所・会議室 ─


P(朋は先輩に対し、胸を貸し頭を撫でている体勢だ。高校時代にフラれた女子に同じグループの女子が一斉にああやってたのを見た記憶がある)

P(やっぱり先輩後輩が染み付いてるのだろうか・・・、それはともかく)


P「まっちゃん、何があったのか・・・教えてくれるかい?」


久美子「ぁ・・・」

P(彼女はゆっくりと口を開いた)


久美子「・・・P君・・・連帯保証人って分かる・・・?」

P「・・・・・・マジかー・・・」

朋「え、何!?P!!何の事なの!?」


P(俺の背中に怖気が走った。連帯保証人、この状況でこの単語が出た事でいろいろとマズいモノがいるのが理解できる)


P「朋、金を借りる時に必要な事って分かるか?」

朋「え?普通にそういう会社に行けばやってくれるんじゃないの?」

P「ああ。だが大事な事に会社側に個人情報を多々渡すんだ。絶対に返します、っていう意思表示でもある」

P「だが、返せない状況に陥る場合がある。例えば返す人間が死んだ時とかな」

朋「そういう時のためにあるの?その連帯保証人・・・」

P「そうだ。代わりに返しますよーって人の事。だがな・・・これには穴がある」

朋「穴?」

P「つまりは詐欺だ。大金を借りた後、借りた人間が逃げてしまうというな」

朋「そ、それって・・・」

P「連帯保証人になった人に全部の負担を被せて、持ち逃げって事だ」


P「だがそもそも連帯保証人は親族でしかなれない。どういう事なんだ?」

久美子「・・・・・・私のお母さん、お人好しで頼まれたら断れない性格なんだ」

久美子「それで・・・ある時、お母さんがやってたピアノ教室にとある親子がやってきたんだ。子供が凄く暗い子だったけど、その親がどうしてもって・・・ね」

久美子「その子の申し訳ないような顔・・・すごく印象的だった。やりたくない、でもやらなきゃ親に・・・って感じの」

P「それで・・・図々しくもその親が連帯保証人を要求してきたのか」

久美子「うん・・・『子供は心臓に病気持ってて、そろそろ本格的に治療に持っていかなくてはいけない』だって、お母さんはそういう話に弱くて」

P「保証人にサインしちゃったのか」

久美子[首を縦に振る]

P(親族ではない人間が連帯保証人にする事はほぼ無理だろう。それをわざわざやったという事は知らない相手に対し金貸しとその親子はグルか)


朋「P、助けてよ!クミちゃん先輩の事・・・っ!!」

P「・・・・・・」

朋「柚ちゃんの時みたいにっ!!音葉ちゃんの時でも桃華ちゃんの時みたいでもいいよっ!!だから・・・」


P「朋・・・こればかりは無理だ」

久美子「ぅっ・・・」

朋「なんでよっ!!!!なんで!!!!いつも・・・いつも女の子のヒーローだったじゃない!!あたしの知ってるPは・・・あたしの大好きなPは絶対に見捨てないっ!!!」

P(朋は感情が溢れ出し、怒り、泣き出している。自分の先輩だけ助けられないのか、そんな理不尽が頭に来ている)


P「・・・朋、この事例は聞く限りじゃ契約書等々がしっかり書き込まれているだろう、助けに助けられない。たとえ金貸しが悪名高くとも不当ではない契約ならば弁護士らの援護は微量だ」

朋「だったら逃げた犯人捕まえればいいじゃないっ!!!」

P「それを見つけられる保証は?探している間の返済は?警察を動かすための費用は?」

朋「全部Pg・・・・・・っっっ!!!!」


P(おそらく俺に全部払ってくれと言いたかったのだろう、だが、俺にも生活がある事をふと思い出したという顔だ)


朋「・・・・・・っ。・・・・・・っ!!!」

P「朋、感情のままに動くな。もし、この松山久美子が話に出ていた詐欺師だったらどうする!」

久美子「そんなっ!」

朋「は・・・・・・っ!?・・・うぐぐぐぅ・・・!!!!」

P(俺の妹分は自らの先輩の顔を見た後、俺をギラリと睨んだ)


朋「サイッテイよ!!!!Pなんて大キライッ!!!!!!」


P「・・・・・・」

P(朋は1人、部屋を出て行ってしまった)

久美子「とも・・・ちゃん」

P「・・・放っておいてくれ。仲良くたって従兄妹同士なんだ、喧嘩だってする」


久美子「でも・・・」

P「まっちゃん、俺はキミを信じてはいない」

久美子「・・・・・・っ」

P「詐欺師の可能性だってまだ無くなったわけじゃない」

久美子「そんなわけ・・・!」

P「キミは泣きながら俺に抱きついてきた。泣くほどの感情の揺れを起こす案件に巻き込まれてるのにキミは淡々と被害を話せた」

P「偏見ではあるけど、泣かずに言えるものかな?もちろん俺らに会えた事がデカいのかもしれない」

P「まっちゃん、キミが詐欺師でないなら教えてくれ。何があった、何が原因だ?」





久美子「・・・ついてきてくれる・・・?」





P(まっちゃんは心配そうに俺を見つめた・・・)




 ─ 商店街 ─


「────、───」チラッ

「──────」チラッ


P(俺は松山久美子に案内され、車で揺られ40分、隣の県のある商店街にやってきた)

P(時刻は夕暮れ。商店街と聞くと今ではシャッター街を浮かべる人が多いかもしれない。だが、ここには少なくともシャッター街という言葉から遠く離れているくらい繁盛していた)

P(走りゆく子供たち、スーパーから流れるアイドルの歌、散歩中の太った猫、どこか懐かしさがある風景だった)



P「松山ピアノ教室・・・」

久美子「ここが私のお母さんがいる場所」


P(俺は彼女に先導を任せ、その後を追う)



「──────」チラッ



P(しかしなんだこの不愉快さは?見る人見る人が俺の顔を見る度に不安な顔をしている)




 ─ 商店街のはずれ・ピアノ教室 ─



久美子「ここでちょっと待って・・・・・・」

P「?分かった」


P(玄関先で待つよう言われた)

P(入れてもらったピアノ教室は・・・静寂という言葉どころではない、閑散という言葉がひたすらにうろついていた)


久美子「・・・ここに来て、ここで顔を覗かせて・・・」


P(メインの部屋であろう所から戻ってくるまっちゃん、俺にはそっと顔を覗かせ、部屋の中を見るよう指示した)

P(・・・中の景色は・・・俺の予想を遥かに超えていた)



「・・・・・・・・・」


P(1人の女性が・・・ずっと、ずっと目の前のピアノを見つめていた。いや・・・)

P(おそらく何も見えてないのだろう。ゆらゆらと体を揺らし、何もない空虚な空間で草のように存在していた)



P「あれは・・・」

久美子「私の・・・お母さん」

P「お母さん・・・!?・・・廃人当然じゃないか・・・!!」

久美子「朝早くここに来て・・・日が暮れたらお父さんが回収してる・・・」

P「食事は・・・?水分は取れてるのか?」

久美子「気付いた時にここの冷蔵庫から取ってる。多分、教室がやれてた時のペースと同じ・・・」

P「・・・まるで生きる屍か・・・」


久美子「・・・・・・ぅっ」

久美子「ごめん、P君・・・これだけはりか・・・りかい、したくなか・・・なかった・・・」

久美子「こんなの・・・こんなおかあさん・・・みたくないの・・・っぅ・・・ぅぅぅううっ!!!」

P「まっちゃん」


P(彼女は今度こそ自分の心の辛さを見せて泣いた)

P(俺は彼女の頭を撫で、胸を貸した。泣いた理由はここにあった、決してお金という問題ではない・・・彼女は母の失われた心に泣いていた)


久美子「Pくん・・・あぁぁぁっ・・・ひぐっ、ぅぅぅぅっ!!!!」

P「・・・・・・」

久美子「い、言ったらぁ・・・みん、みんな避けるんだよ・・・!関わりたくないって・・・!!」

久美子「も、もぅ・・・Pくん、しかいないんだよ・・・っ!!!」


P(ここまで女の子を大声で泣かせたんだ。俺の中には彼女が詐欺師の可能性などこれっぽっちもなくなっていた)



P「まっちゃん、お父さんはいるかい・・・?」

久美子「あと・・・ちょっ、ちょっとで・・・っぅっく・・・かえ、帰ってくる・・・」



P「待とう、これは・・・解決しなきゃいけない問題だ」



P(俺の中の何かに火が付いた。泣いている人を助ける、いつかの熱い俺がメラメラと立ち上がった)

P「ごめん、朋・・・俺は面倒な男みたいだ」



 ─ 松山家 ─


P(あれから数時間。外はすっかり日が暮れた)


松山父「初めまして、久美子の父でございます」

P「初めまして、アイドルプロダクションの○○プロという所で働いているPと申します。久美子さんにはウチの朋がよくお世話になってます」

松山父「久美子の友達の家族という事でよろしいですか?」

P「ええ。私の従妹と仲良くて、先日久しぶりに会えたと言ったところです」

松山父「えっと、彼氏とか・・・ではない?」

P「すみません。私と彼女はそういう関係ではありません」

久美子「お父さん・・・」


P(自分の娘から哀れみの目で見られ、たじろぐ父。気持ちは分からないでもない、将来俺も娘や息子が異性を連れてきたら期待しそう)


松山父「それで・・・どんなご用件でしょうか」

P「聞きたい事がいくつか」

松山父「・・・妻を壊したこんな私でよければ」

久美子「っ・・・・・・」

P(父親も引きずっているか・・・早急な対処が必要だ)

P「1点目、久美子さんは何故婚活会場にいたのか」

P(これは個人的に気になっていた事だ。もしかしたらこの時に知る事が出来ればもっと早く助ける事が出来たかもしれない)


松山父「その件は・・・私の薦めです。妻が精神的に病んでしまい、このままでは久美子にまで影響が及んでしまう・・・私はそう考えました」

松山父「多少ムリヤリにでも今よりも幸せな所に行って欲しい、そう願った所存であります・・・」

P「なるほど」

P(何となく、あの婚活パーティーでの背景が見えてきた。再会したばかりの彼女がどこか元気がなく俺と亜季ちゃんのパワーに押し負けて会話が途切れたのも・・・おそらくは)

松山父「Pさん、久美子はどうですか!?嫁にはピッタリの・・・」

久美子「お父さん!!」

松山父「あ、あっと、すみません・・・」


P「2点目、奥さんがああなってしまった原因は?」

松山父「一番の理由はあのピアノ教室を売らなくてはいけない所でしょう・・・あの場所は妻にとって念願の夢みたいなものでした」

松山父「それに原因は売るという事だけではありません。詐欺に遭って以来、騙されたという絶望感に加え、日に日に疲労でやつれた妻を見かねた生徒たちが次々に離れていったのもあるでしょう」

久美子「顔がまるで・・・屠所の羊だって」

P(屠所の羊・・・死人の顔か)

P(商店街で俺に変な視線を向けていたのも、おそらくは噂が行き届いているからだろう。つまり俺は借金取りか何かと見間違えられた)

松山父「なぜ勝手に行動してしまったんだ・・・私に一声かけてくれれば、まだこんな事には・・・」

P「奥さんの独断、と?」

松山父「ええ、いらぬ老婆心が湧いたのでしょう。昔から人の喜ぶ顔が好きなヤツでしたから」

P(恨むべきは詐欺師、だが今となってはもう遅い)


P「3点目です。借金の返済は出来そうなのですか?」

松山父「一応、目処が立ちました。貯金と・・・私の車とあのピアノ教室の建物を売却する事でギリギリ足りそうです」

P「・・・・・・」

松山父「あの・・・何か?」

P「いえ、考え事です」

P(・・・・・・ふむ)

P「あの土地はお借りしたものですか?」

松山父「いえ、妻の父・・・久美子の祖父から譲り受けたものです。しかし土地は・・・担保にいれてしまってたそうで」

P「・・・つかぬ事をお聞きしますが、ピアノ教室だけでおいくらですか?」

松山父「そんな事を聞いて、どうするおつもりですか」

P「少し考えが浮かんだので」

松山父「・・・この程度です」

P「なるほど、分かりました」

松山父「でも悪い事は言いません、手を引いてください。これはウチの家族の問題ですから・・・」



P(そう彼に言われ、俺はそれ以上何も口に出さなかった)


P(だが頭の四隅ではひたすらに助ける方法を探していた。何か、何か出来ないものか・・・)


P(隣の部屋では夫に回収され、虚空を見つめる女性の姿があった・・・)





 ─ 事務所・事務室 ─




P「・・・・・・」

千川ちひろ「プロデューサーさん?」

P「・・・・・・」

ちひろ「プロデューサーさんってば!!」

P「おうっ!?」

ちひろ「どうしたんですか、ものすご~く変な顔してましたよ?」

P「いえ、ちょっと・・・」

ちひろ「あれですか?今日のお昼頃にお客様がお見えになったという・・・」

P「ええ、そうです。どうにかお手伝いできないか、と」

ちひろ「それはあとせめて30分後に考えませんか?」

P「30分・・・あっ」

P(とっくのとうに定時を過ぎ、時刻はまもなく21時を迎える時間だった)

P「やべっ、まだ資料終わってな・・・」

ちひろ「?」


P(・・・これは・・・今度やる音楽番組の収録の資料・・・雪乃さんのソロ曲・・・)

P「これだっ!!!」

ちひろ「わっ、びっくりしたぁ・・・」

P「すいません、ちょっと今日は徹夜します!!」

ちひろ「ええっ、社長に怒られ・・・」

P「タイムカード押せば問題ないから!」ピッ

ちひろ「どんだけ働きたいんですか・・・」

P「浮かんだ案を今の内にまとめておきたいんです!」

ちひろ「・・・もう・・・・・・ふふっ♪」

P「なんですか、気持ち悪い笑みを見せて・・・」

ちひろ「き、きも、き、気持ち悪い!?そそんなに気持ち悪かったですかっ!?」

P「ええ、まるで玄関先で飛び込み営業やってドリンク剤を売りまくったようなそんな・・・」

ちひろ「や、やだっ・・・」

P「冗談ですよ。今日の徹夜は社長には内緒にしてくださいね」

ちひろ「はい、分かりました(よ、よかった~冗談だった~)」



カリッ・・・カリッカリッ・・・


P(無音の中、ひっそりとシャーペンが紙の上で走る音だけが鳴り響く)

P「・・・・・・・・・」


P(この企画はちょっと挑戦的すぎるか・・・?)


P(いや、それ以上に人に対する責任が強すぎるか・・・?)


P(提案だけとは言え・・・いや待て、これはやはりピアノ教室存続がなければキツい・・・)


P(むー、いや、恥を捨てよう。俺はこの仕事で人を助けるんだ)


P「出来た・・・だがこれを遂行するには・・・個人的なお金が足りない・・・」




次の日・・・。



P「桃華、話があるんだが」

P(確か、櫻井グループは金融もやっていたはず。俺が個人で借りれるものもあるか聞けないだろうか・・・)

櫻井桃華「Pちゃま、朋さんから話は聞きましたわ」

P「朋から?」

桃華「大切な先輩を借金の魔の手から助けたい、と。わたくし、仲間の願いとあらば身を削りきるつもりですわ」

P「削りきっちゃダメだぞ?余計な情けは人のためにならないしな」

桃華「でも・・・朋さんが泣くのを見たのは初めてですわ。ともキュービックのリーダーにしてこのプロダクションのNo.2とも言える彼女があそこまで荒れた、これは一大事だと思いますの」

P「そうだな・・・だが朋は勘違いもしているんだ」

桃華「勘違い?」

P「ああ、本当に大事だったのは家族の生活と絆だ」

桃華「家族との絆・・・」

P「もちろん、借金もある・・・これはあくまでトリガーになっているだけなんだ」

桃華「ならまずはそのトリガーを消してしまいましょう!」

P「もちろんだ。確かに今はお金が必要だ、喉から手が出るほど欲しい」

桃華「Pちゃまの為にもなるなら、この桃華!最大限のサポートをさせていただきますわ!」

P(桃華から借りるのは忍びないが、今は恥を捨てよう。交渉材料として・・・申し分ないはずだ)



 ─ 松山家 ─


Pipipipi...


久美子「はい、松山です・・・P君?どうしたの?」

P『まっちゃん、もう一度お話がしたい。次は交渉だ、キミのお父さんも呼んでほしい』

久美子「交渉・・・?」

P「借金の事と、キミの将来に関わることだ」

久美子「私の?」

P「ああ、キミの返事次第では、色々と好転するかもしれないし何も変わらないかもしれない」



そして、夕方頃・・・。


松山父「今日も来られるとは・・・何かありましたか?」

P「少しでも奥さんの状態がよくなる手を考えたのです」

松山父「えっ・・・本当ですか?」

P「ええ、簡単ではないですが、元に戻すのが一番の特効薬かと」

久美子「元に戻す!?それって・・・ピアノ教室を売らなくてもいいって事!?」

P「そうなります。こちらに借金の返済額から貯金と車の売却した金額を減らした最低金額が入っています」

久美子「このアタッシュケースの中に・・・?」

P「このお金を我々から借りてください」

松山父「しゃ、借金を借金で返せと言うのですか!?」

P「ええ、聞こえは悪いですが、私もプロデューサーという立場、アナタたちをプロデュースしているつもりです」

P「このお金も私の個人的な貯金と櫻井グループの中枢から借りた物です。保障はありますし、利子はつけないつもりです」

松山父「櫻井グループ!?・・・そこまでして・・・要求はなんですか?」



P「久美子さんをアイドルにしたい」


久美子「わ、私がアイドル・・・?む、無理よそんなの・・・」

P「久美子さんがアイドルをやる事であのピアノ教室の宣伝になるとは思いませんか?」

久美子「え・・・」

P「アナタの頑張り次第で詐欺に遭う前までの時間に戻せます。流石に生徒までは同じにできませんが、従来通り生徒がやってくる空間にまではPRできるでしょう」

久美子「・・・・・・」

松山父「久美子・・・無茶は・・・」

P(父親としては芸能界という訳も分からない世界に行かせたくない、そういう心情もある。だが、彼女は・・・)


久美子「P君・・・私、アイドルやれるのかな?」




P「もちろん。俺はまっちゃんの事、昔から美人だと思ってる」

久美子「・・・・・・」




久美子「やる。アイドルやるよ」

P「その言葉を待ってました」

松山父「久美子、お前・・・」

久美子「どんな荒療治でもお父さんとお母さんが治ってくれるなら・・・私は戦いたい」

松山父「俺も、か・・・お前の目からは俺も病んでいたんだな・・・」

久美子「うん。家族に笑顔が戻るなら、どんな道だって・・・」


P(彼女の意思は・・・決まったようだ)


久美子「お母さん・・・」

松山母「・・・・・・」

久美子「お母さん・・・ピアノ教室、続けてもいいって」

松山母「・・・・・・」

久美子「私が頑張って戻すから・・・ううん、あの頃よりずっと良くしてみせる」

松山母「・・・・・・」

久美子「だから、見ててね・・・!」


ギュッ


久美子「お母さん・・・?」

松山母「──────」

久美子「大丈夫だよ、お母さん。とっても頼もしい人が側で見てくれるから」



 ─ 商店街 ─


P「お母さんとの久しぶりの会話どうだった?」

久美子「ずっと私もお母さんも泣いてた。私も久しぶりに声聞いたからこんな声だっけ?って心配になったけど」

P「それでも、キミの母だ」

久美子「うん、落ち着くまでずっと抱きしめられた。初めて親孝行出来たかな・・・?」

P「何言ってるんだ?勝負はこれからだよ」

久美子「これから?」

P「うん、本当の勝負は3週間後だ」

久美子「3週間・・・」

P「それまでにやらなきゃいけない事が3つある。1つはキミのお母さんのカウンセリング。もし生徒が来るようになったとしても本人がまた騙されるかもって思ったら終わりだ」

久美子「うん」

P「カウンセラーには柚の時にお世話になった人がいる。その人に頼む予定だ」


P「2つ目にキミのピアノの実力を高める事だ」

久美子「ピアノ?アイドルなら歌唱力じゃないの?」

P「もちろんアイドルになった以上はやってもらうが、まず先決なのは3週間後に撮影がある」

久美子「撮影?え、ちょっと待って、私・・・テレビとかに出るの?」

P「ああ、依怙贔屓になるかもしれないけど、今回ばかりはたった一人をプロデュースしているわけじゃない。大げさな話、この商店街ごと話題に出すかもしれない」

P「このチャンス、絶対掴んでくれ」

久美子「・・・うん」

P「3つ目は俺が各地に奔走するだけだ、気にしないでね」

久美子「・・・・・・ごめんね」

P「謝るより、お礼言って欲しいな」

久美子「あっ・・・ありg」

P「ノンノン、一通り終わったら、ね?」

久美子「・・・・・・うん。これからよろしくね、プロデューサー」




それからの行動は大変なものになった。



 ─ M局 ─


「えっ、相原雪乃さんと一緒に新人アイドルを使わせてほしい!?」

P「はい、相原に歌わせる歌はピアノによる伴奏ができます。そこをウチの新人アイドル、松山を使わせてほしいのです」

「って言われてもなぁ・・・」

P「そこをお願いします。相原には口パクではなく生声で歌う事を保障します」

「んで、そこまでやってどれくらい増やさないといけないのよ、予算」

P「いえ、増やさなくて結構です。出してもらえるだけで、今は」

「おっ、それじゃあお買い得じゃん。乗った!」

P「ありがとうございます」

「んで、ピアノでしょ?それなら俺が隣のスタジオから持ってくるよ」

P「ええ、そこまでして頂けて助かります」

「あと松山・・・ちゃんだっけ?歌うの?」

P「調整が間に合えば、ですが」

「出来れば歌うようにしてね、そうすれば番組オリジナルバージョンになるし」

P「ええ、予定しておきます」



 ─ Cuプロダクション ─


CuteP(以下CuP)「なぁに?わざわざCuプロに来るなんて・・・袋小路だよ、Pちゃん?」

P「簡潔に言います、井村雪菜を貸してください。彼女のメイク技術が必要なんです」

CuP「へぇ、ウチのリーダーの技術を、ねぇ?」

P「かなり無理を言っているのは分かってます」

CuP「何がしたいの?理由を言ってみて?」

P「一つの家族を救いたい」

CuP「むー、気になるじゃないの?詳しく聞こうかー?」

P(俺はまっちゃんに起こった事、そしてこれからの事を話した。ライバル会社にここまで言うのは正直、ウィークポイントになるだけだけど・・・)

P(彼女らを救うにはなりふり構ってられなかった)

CuP「うううう゛う゛う゛う゛う゛う゛、泣けるぅ!!私、そういう話弱いのよ~!!」

P(でも、CuPさんは力になってくれそうだった)

CuP「分かった、せっちゃん貸す!全力でやれ!」

P「ありがとうございます!」


CuP「でもリターンも欲しいよね~?」

P「   」ギクッ

P(こ、この場合、おそらくは星花さんとデートとか・・・やらされるんだろうか・・・?いや、今はそれが一番楽なのか)

P「分かりました、星花さんとデート・・・」


<ガタタタッ


P(今何か聞こえたような)

CuP「ううん、今デートしてほしいのはフレデリカちゃんと小春ちゃんの2人」

P「は?」

P(え、ちょっと待って、俺なんも接点ないんですけど)

CuP「実はね~、この二人とも今いろいろと不満を持っててねー」

P「不満とは・・・」

CuP「フレちゃんは遊ぶ時間ないー!って言ってたの。だから夜景デートとかしてほしいなーって」

P「はぁ・・・」

CuP「小春ちゃんは王子様に憧れてる子でね、ほら、ここってパッと見女性しかいないじゃない?」

P「そ、ソウデスネ」

CuP「男のプロデューサーは基本誰かの専属のプロデューサーでね、双葉杏ちゃんとかの。小春ちゃんのプロデューサーは私なんだけど、夢を少しでも叶えてあげたいなーってね」


CuP「だからねー?(流し目)」


P「はい、やります・・・トホホ」

CuP「ヤッタネ☆」



<フレデリカサアアアアアアアアアアン!!!

<イヤーゴメンネー


P「今日は耳なりが激しいなぁ・・・(虚)」



 ─ ○○プロ事務所・会議室 ─


音葉「Pさん、何か御用ですか?」

桃華「そちらの方は?」

P「この人は松山久美子、うちの新人アイドルだ」

桃華「この方が朋さんの言ってたクミちゃんさんですわね。わたくしたちと同様、アイドルになったのですね」

P「ああ」

久美子「えっと、これからよろしくお願いします」

音葉「よろしくお願いします、久美子さん」

久美子「えっと、櫻井さん」

桃華「桃華で構いませんわ」

久美子「それじゃあ・・・桃華ちゃんありがとね。お母さんの事助けてくれて」

桃華「結果として仲間の、そしてその家族の事を救えたのならわたくし大満足ですわ」


P「まだまだ救う途中だ。挨拶はそれくらいにして、音葉、そして桃華、2人にはやって欲しい事がある」

2人「?」

P「ここに行ってくれ」

音葉「松山ピアノ教室?」

桃華「ここって、もしかして」

P「まっちゃんのお母さんのピアノ教室だ」

P「ここで新人アイドル松山久美子のピアノ技術を上げるのと、お母さんの話し相手になってあげてくれ」

音葉「話し相手・・・私が務まるのでしょうか・・・?」

P「同じ技術を持った人間だ、きっかけはたくさんある」

P「音楽に対する教養がある音葉と桃華、2人にしか頼めないんだ。できるか?」

桃華「ここで首を横に振るような外道ではありませんわ。当然、受けますわ」

音葉「私も・・・ピアノの歌うような音色で育った身、精一杯力添えさせていただきます」

久美子「・・・ありがとう」

P「よかった、2人なら受けてくれると思ったんだ」




別の日・・・。



相原雪乃「アナタが松山久美子さんですね」

久美子「相原雪乃さん・・・」

雪乃「うふふ、雪乃で構いませんわ。久美子ちゃんって呼んでもいいかしら?」

久美子「あっ、はい!」

久美子(すごい・・・なんだか他の皆とオーラが全然違う・・・)

雪乃「畏まらなくても大丈夫ですよ?1歳しか違わないのですから♪」

久美子「・・・うん、よろしくね、雪乃さん」


P「雪乃さんに歌ってもらう曲は『やさしい両手』って曲だ、知ってる?」

久美子「聞いたことないな」

P「むしろ知ってたら曲選択ミスったかなーって思う。まだ知られている可能性のあるアニメソングよりあまり知られてないゲームソングを選んでるからね」

P「今度、○○プロでゲームソングカバー集って題してアルバムを出すんだ。知られてない曲なら知らない人からすれば新曲のように聞こえるだろう?」

雪乃「素敵な曲を貸してもらえてよかったですわ」

P「んで、それの宣伝で雪乃さんは3週間後の音楽番組で歌う事になってるんだ」

久美子「3週間後!?もしかして・・・」

P「前に言った撮影の件だね。そう、まっちゃんはこの曲のピアノ伴奏をしてもらう」

久美子「・・・分かった、頑張る。やるって決めたら最後までやりきるんだから」

P「おう、期待してる」


それからの時間はあっという間に過ぎた。

俺は衣装の調達、それに加えての井村雪菜との調整。

演出はどうするか、いかに松山久美子を画面に映しつつ、相原雪乃の曲であることを捨てずに済むかというディレクターとの会議。

久美子の母親の方は音葉と桃華の方に任せきりだが聞くところによると俺が見た時と比べれば天と地ぐらい差ができるレベルの劇的な回復を見せたそうだ。

それに時おり、伊吹がピアノを教えてもらいに行ってるらしい。何でもダンスにおいて曲やリズムは大事だから楽器ひとつでも弾けるようになりたかったらしい。

教える教師として復活するのも間もなくだろう。

そして、その久美子と言えば、毎日体力作りに加え、雪乃さんと桃華と音葉、そして少しずつ回復している自分の母親からみっちり指導を受けている。


準備は・・・万全だ。





そして3週間の時間は過ぎた。




 ─ M局・スタジオ ─


久美子「へぇ、裏側ってこんななんだ」

P「どうした、緊張してる?」

久美子「うん・・・今日が勝負の日」

P「そうだ。すべてはまっちゃんの演奏に懸かってる。キミがどれだけ輝けるかで、家族が本当に救われるかが変わる」

久美子「・・・・・・」

P「?」

久美子「P君、ううん、プロデューサー・・・今の私、アイドルになれているかな?」

P「なれてるよ。熱意が瞳に込められてる、そのメイクも今のキミにはピッタリだ」

P(井村雪菜に頼んで正解だった。彼女の腕によって“誰もが顔を覚える”メイクを施された。今日と言う1日で松山の名前を広く伝えるためだ)

P(目の前にいる松山久美子という新人アイドルは暗闇にも関わらずまるでトップアイドルをも超えた存在のように見えた)


P(改めて、Cuプロのリーダーの恐ろしさを感じてしまう。だが今は)


久美子「井村ちゃんが精いっぱいやってくれたから、雪乃さんが私に伴奏を委ねてくれたから」

久美子「音葉ちゃんと桃華ちゃんが私の背中を支えてくれたから・・・P君が側にいてくれたから」

久美子「私は輝ける。そんな気がするんだ」


P(彼女の輝きの方が上だ)


雪乃「クミちゃん、準備はよろしいですか?」

久美子「もちろん、雪乃さんには負けないよ」




P(いよいよ、雪乃さんらの撮影になった)



「次の曲は○○プロの相原雪乃さんがお贈りする『やさしい両手』です」

「今回はピアノを特技とする同じく○○プロのアイドル、松山久美子さんとなんと“Cuプロ”からバイオリンが趣味という涼宮星花さんが伴奏をするオリジナルバージョンです!」



P(ん!?!?)

Pipipi...

CuP『ごめん☆強引にいれちった♪てへぺろ♪』

P(メールからは悪意しか感じられなかった。でもまぁいいか、話題性はあがる)



雪乃「涼宮さん・・・!」

涼宮星花「ふふっ、相原さん。今日は共闘といきましょう」

雪乃「なぜですか?」

星花「CuPさんに聞きました。松山さんのお母様は今、絶望の淵にいると」

星花「わたくしも音楽を嗜む者として音楽で不幸になるなんて放ってはおけませんわ」

久美子「・・・涼宮さん、ありがとう」

星花「当然予習済み、心配はいりませんわ!」

雪乃「涼宮さん、本当にありがとう」

星花「もちろん、P様のポイント稼ぎでもありますけどね♪」

雪乃「むっ・・・今度会った時は」

星花「容赦なく戦いましょう」

2人「ふふふっ♪」

久美子(な、なんかすごい電気が走ってる・・・!)

雪乃「とにかく話題性をあげましょう。3人で歌う場所を・・・」




「それではお願いします」



P(ステージ上での足元にはスモークがたかれている。衣装とピアノ、そしてステージ全体が白を基調とし、幻想的なイメージになる)

P(まっちゃんは当然ピアノの前に座り、雪乃さんはまっちゃんに用意されたピアノ用としては大きいイスに背中合わせに座る)

P(星花さんは雪乃さんをまっちゃんと挟み込むような位置に立つ。若干、段差があって、2人とは僅かに高い位置にいるのがより特徴的にさせる)




P(曲が始まった。物悲しげなピアノイントロから入っていく)



雪乃「冷たい手に引き寄せられ 流れて逝く時を過ごし」


雪乃「遠くを見たその瞳に 何が映っているのだろう」


雪乃「月が照らす冷たい指にこぼれたの冷たい涙」


雪乃「見上げた空 いつかの夢が 遠くで見つめている」


雪乃「暗闇に手を差し伸べて ここからもう戻れない」


雪乃「気が付けば記憶の中に 閉ざされた私が見えた」



『信じていたい 貴方が来るのを 何時の日かここで巡り合うまで』


『感じていたい 時が止まるまで』


『暖かい手で私にふれて』



P(突然の3人による合唱、そして間奏の時に行われる星花と久美子の合奏)

P(俺の想像以上だった。オリジナルを超えられるのではと錯覚するぐらい皆が世界を作りあげていた)



星花「冷たい手に引き寄せられ 流れて逝く時を過ごし」


久美子「遠くを見たその瞳に 何が映っているのだろう」


雪乃「何が映っているのだろう・・・」



P(曲が終わった。元々あった雪乃さんの神聖なイメージだけじゃない、皆の力が重なりあって信じられないくらいの爆発力を見せてくれた)


P「・・・なんかウルっと来るのは曲のせいだけじゃないよな・・・」

P「泣いてる場合じゃない、ここからは俺の仕事だ」


P(SNSに投稿する用に写真を何枚か撮った。Cuプロとのコラボレーションとして今日の撮影は題して、集まった3人と井村さんの4人での集合写真は特に複数枚撮った)

P(ちひろさんに頼んで○○プロのホームページには新人アイドル松山久美子!と広告を作ってもらった)

P(テレビ放映用の編集は特に気を配った。雪乃さんの歌う歌というのを消さずに演奏してくれた2人を映すのは脳みそがねじ切れそうであった)

P(そこはかとなーく松山ピアノ教室の事を宣伝しておくのを忘れない)



P(そして・・・テレビ放映の日)



 ─ ○○プロ事務所・事務室 ─




『冷たい手に引き寄せられ♪』


並木芽衣子「へー、秘密裏に育ててたアイドルねー」

小松伊吹「知ってたのは雪乃さんと音葉と桃華、それとアタシぐらい?」

芽衣子「すっごいキレイな人だね、これは負けてられないかなー♪」

伊吹「母親もすごい美人なんだよ、ちょっと前までは心に爆弾抱えてたみたいだけど、アタシのおかげですっかり」

芽衣子「ホントかなー?」

伊吹「うっ、調子に乗りました。ほとんどは桃華と音葉のおかげです・・・」


朋「むー」

伊吹「どうしたの朋」

朋「あたし、ほとんど道化だった」

伊吹「何言ってんの?」

朋「クミちゃん先輩がなんで苦しんでいたのかを理解せずにPを怒鳴り散らしてたり、勝手に泣いてたり・・・なんでPはクミちゃんの涙の理由が察せたのよ・・・」

伊吹「まー、Pは時たま達観してるからねー・・・超能力者かって♪」

朋「挙句の果てにはPと仲直りできてないし・・・」

朋「どうしたらいいのよ・・・」

伊吹「時間が直すってか、別にPは朋の事嫌ってないし怒ってないでしょ」

朋「・・・・・・」

芽衣子「従兄妹ってかほぼ兄妹なんだしねー、素直に謝ろうっ!」

朋「・・・うん」

伊吹「ほら、メールで今日、家行くねーとでも連絡しておきなよ」

朋「うん」

芽衣子「私も一緒に行く?」

伊吹「それは色々とマズい」



 ─ 松山家 ─


久美子「お父さん!そんなにお酒飲まないでよ!!」

松山父「嫌だー!お酒飲むー!久美子の成長を祝うんじゃー!!」

久美子「そんなに飲んだら次の分が無くなっちゃうよ!ただでさえ節約しなきゃいけないんだから!」

松山父「ほら、お母さんも飲め飲め」

久美子「お母さん、お父さんを止めてよ!ダメってば!」

松山父「節約は明日から全力だー!」

久美子「今からやってよ!・・・ふふっ」




・ ・ ・ ・ ・ 。



 ─ ピアノ教室 ─


P(テレビ放映の次の日。ほぼ1ヶ月ぶりにあのピアノ教室にやってきた)

P「ずいぶんと様変わりしたなぁ」

桃華「ふふっ、ここ気に入りましたの。これから松山ピアノ教室は櫻井グループの傘下として名を連ねて頂きました」

P(いつの間にかピアノ教室がかなりのリフォームがされていた。桃華が『松山さんはこの程度で収まるべきではありませんわ!』とスタッフを付けたり、同じ櫻井グループの警備会社を付けたりとかなりお気に召した様子)

P(でも実際、櫻井の目があるなら安心だ。もう二度と詐欺に遭う事もないだろうし、アイドルの親だからと言って変な人が来る事もないだろう)


久美子「P君」

P「まっちゃん、お疲れ様。どうかな、お母さんの様子は?」

久美子「うん、かなり良いよ。さっそく生徒の応募があってね、隣の市からわざわざ来てくれた女の子がいたんだ」

久美子「私みたいになりたい、だって。ピアノ弾きながら歌ったのが印象的だったみたい」

P「そうか、良かった」

久美子「お母さんも緊張してたよ。伊吹ちゃんに教えていたとはいえ、初めて教師になった時に戻ったみたい、だってさ」

久美子「私も休みの時はお母さんのお手伝いする事にするんだ。音葉ちゃんもたまに来てくれるってさ」

P「そっか、桃華にも音葉にも伊吹にもお世話になったな・・・何でお返ししようかな」

久美子「あとさ」

P「ん?」

久美子「お母さんさ、櫻井グループの人と話し合ってこのピアノ教室を櫻井グループのモノにしたんだよ」

P「それは桃華から聞いた」

久美子「それでね、次の夢は全国に松山ピアノ教室作るんだーだって。もっと日本中の子供たちにピアノを教えたいんだって」

久美子「ちょっと前まで虚ろだった人のセリフじゃないよ、ふふっ」

P「櫻井と繋がりが出来たなら、意外とすぐかもな・・・」


P「そうだ、例の詐欺師だけど2ヶ月前に捕まってた」

久美子「え、本当?」

P「この件でCuプロと一緒に仕事したせいでPaプロのプロデューサーに『俺も仲間にいれろ』なんて言われてね、Paプロの片桐早苗さんの伝手で調べてもらった」

P「長崎でも同じような事をしてたらしい、だけど何を間違えたのか検事を詐欺にかけようとしてたんまり絞られたらしい」

久美子「そうだったんだ・・・」

P「取られたお金、いくらか返ってくるって。だから俺と桃華から借りたお金もすぐ返せるだろう」

久美子「そうだね。あ、でも借金なくなったらアイドル辞めさせられるなんてことは・・・」

P「大丈夫、しばらくは候補生組だけどね」

久美子「そうなの?まぁ・・・でもホント、あの時アイドルになるって決めて良かったよ」

久美子「お母さんにもお父さんにも笑顔が戻ってさ」

久美子「みんな幸せで・・・みんなが夢に向かって歩ける」

P「そうだね、俺もまっちゃんのようなアイドルをプロデュースできて良かったよ」


久美子「・・・久美子って呼んで」

P「え?どうしたの急に」

久美子「みんなの事、名前で呼んでるよね。私だけまっちゃんって嫌だな」

P「一応、愛称のつもりなんだけどな・・・特別扱い、って感じもあったし・・・」

久美子「じゃあ、クミちゃんでいいよ。呼んで?」

P「え・・・あ・・・クミ・・・ちゃん」

久美子「はっきり」

P「・・・クミちゃん」

久美子「ふふっ♪じゃあ、あの時言えなかった言葉・・・今、言うね」

P「?」



久美子「ありがとう、P君」チュッ



P「ちょっ!?まっちゃん!?」

久美子「あー、クミちゃんでしょー?」

P「え、あ、ってか、あーっ!!」

久美子「うふふっ、これからもよろしくね」


松山ピアノ教室。

とある商店街の一角にあった寂れた場所。

でも今では生徒である子供と迎えに来る親で大変賑わっていた。

屠所の羊だと非難する声もない。怪しい人を見る目もない。



誰もが夢に向かって進める、そんな空間に生まれ変わっていた・・・。





終わり

以上です。今回はここまでです。
読んでくれた方はありがとうございます。

今回は劇中にも出ていた「やさしい両手」という曲に合わせて作ってみました。
素敵な曲ですよね、これ。今回のお話を書いている時はずっとこの曲を聞いてました。

「屠所の羊(としょのひつじ)」とは死が近づいてる人の事。または、不幸や死が目の前にあり気力を失った人のたとえです。
今回は後者ですね、決していい意味ではないのですが、お話自体はいい感じに出来たと思います。

さて、次回は

・櫻井桃華「李下に冠を正さず」

その次に

・宮本フレデリカ「明日は明日の風が吹く」

になります。

ではまた。

チラ裏

お話中に登場した曲がYoutubeにあったのでリンクを貼っておきます。
「やさしい両手」自体は四条貴音のカバーバージョンがあるのでもしかしたら知ってる人がいるかもしれませんね。
(直接リンクは切ってあります。最初に h を付けてくださいね)

・やさしい両手
ttps://www.youtube.com/watch?v=8ex_0ovtp7Q

四条貴音Ver
ttps://www.youtube.com/watch?v=7vw2zsIommY

曲を聴いた後にもう一度読むとなんとなく、なんとなーく曲に合わせて作ってあるのが分かる・・・と思います(汗)

大切な事でもないのに二回も送信してもうた…
すまぬ…すまぬ…

雪乃さんがアイドルしてる…!

皆さん読んでくれてありがとうございます。
このPは間違いなく胃ガンで死ぬ()

>>79
ええんやで(寛容)
楓さんとかありすちゃんとか乃々ちゃんとか(Coばっかじゃないか!)他のSSで人気所のキャラはこちらで設定した背景と合わせるの大変で出しにくいんですよね・・・。
反対にあまりSS界で脚色されてないキャラは出しやすいです。例えば雪菜ちゃんとか加奈ちゃんとか。

>>81
い、一応○○プロのリーダーだからね!
・・・今までの描写をひどく書いた作者の責任だ。だが私は謝らない。


あれ、おかしいな・・・
ライラちゃんと比奈ちゃんのSR+が全部あるぞ・・・?

>>83
いつもありがとうございます

HTML化までに間に合うかな・・・?
次の話に向けてのアンケートです。

キーワードをもとにキャラクターを選択してください。

キーワード:虎


1.若林智香

2.杉坂海

3.イヴ・サンタクロース

4.成宮由愛

5.西島櫂

6.全員



次の話の犠s・・・目立つ子になるのでお気に入りの子があれば入れてくださいな。
なお全員が多かった場合、用意する予定のおまけがBADENDになります。ご了承ください。

この調子だと櫂ちゃんになりそうですね。
今絶賛書いてる最中です。この3連休中にはあげられそうです。

チラ裏ではありますが現在やってるアイドルLIVEロワイヤルでは

http://i.imgur.com/0FS3ZAi.png

http://i.imgur.com/P5sxqpG.png

のどちらかを守備フロントに設定しています。
当たったらよろしくお願いします。

どうやら、無条件でBADENDを見ることができなさそうで残念です。
できればBADENDも見たいな~って……

>>96
余裕があればやります、うん。
まずは本編書き上げないと

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