夜更けの影送り百合ver

百合ちーちゃんとかよちゃんが大人になってからの話
書き溜めたり構想を練るのが苦手ですので、のろのろ更新予定

1作目「昼下がりの中学生百合ver」
2作目マネージャー「うっ……やば、おえっ」後輩「ちょ、ちょっとだめえ！！」
3作目「夜更けの影送り百合ver」

※上記2作を読まないと話がよくわからないのん

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425740634

Beautiful dreamer, wake unto me,
Starlight and dewdrops are waiting for thee;
Sounds of the rude world, heard in the day,
Lull'd by the moonlight have all pass'd away!
Beautiful dreamer, queen of my song,
List while I woo thee with soft melody;
Gone are the cares of life's busy throng,
Beautiful dreamer, awake unto me!
Beautiful dreamer, awake unto me!

美しき夢見る人よ、私のために目覚めておくれ
星の光と露の雫があなたを待っている
粗暴な俗世の喧騒は
月の光に優しく照らされ、すべては過ぎ去った
我が歌の女王、美しき夢見る人よ
あなたへの愛の調べを聴いておくれ
わずらわしい浮世の苦悩も消え去るだろう
美しき夢見る人よ、私のために目覚めておくれ
美しき夢見る人よ、私のために目覚めておくれ

（Beautiful dreamer／Stephen Foster）

耳が痛い。
首が締まっている。
コードだ。
明るい。眩しい。
部屋の電気を消さずに寝たんだ。
体がきしむ。背骨や骨盤が歪んでいるような気がする。
痛い。

「っ……ん」

光を浴びないように、頭から布団を被り直した。
いや、これはスーツの上着だ。
確か、一度脱いで――。
さっきまで良い夢を見ていた気がする。
隣に、誰かいた。
誰だっけ。
手を握ってくれた。
私よりも背の高い人。
暖かい人。

半眼で、ボール型の電波時計を見た。
まだ、朝の4時だ。
夢の内容が朝明けの街灯のように掻き消えていく。
そんなこと現実にはない。
あってたまるか。
分かっている。
夢は、けれど、あまりにも幸せに満ちていた。

頭を上げる。
らんらんと目の前のノートパソコンが光っている。
報告書は書き終わっていた。
手探りでシャットダウンする。

そして、もう一度目を閉じた。

今日は眠いのでここまでです
続きはまた明日くらいです

今日は妙にしゃっきりしない。昨日、夜バスの練習に行ってないからか。
それとも、朝食を抜いたからか。纏わりつくような気だるさが集中力を削り、目の前の処理を遅らせている。
何より夕方から他店舗視察のための出張がある。
これのせいだ。
明らかに。

「マネージャー……」

「……」

「あのぉ」

「……」

「有馬マネージャー」

「……」

「有馬ちさとマネージャーっ」

「ん？」

私は掴んでいたマウスから手を離し、目の前の後輩を見た。
会議の時に配布する資料を5枚一組でホッチキス留めしていた後輩――花房ゆきが頬を少し赤くして、息を荒げていた。

「え、なに興奮してんの。こわ」

「してませんっ。全部カチカチしましたよ」

「ん、ありがと」

わき目に、ひしゃげたホッチキスの芯がいくつか落ちていた。

「へったくそか」

「す、すいません……」

「どうしたらこんな形になる」

ゆきは隠すように、
私の目の前で両手を躍らせた。

「遊んでないで、終わったら次こっち7枚一組。資料ぽしゃらせんなよ」

「は、はいっ」

「そう言えば、ゆき」

「はいっ」

「手伝ってくれるのはいいんだけどさ、自分の準備はできてるの？」

「あ」

「おい……。5分で帰ってこい」

「じゅ、15分くらい……」

「3分」

私は言った。

「は、はい！」

転がるように、印刷室から飛び出していく。
どうせ、15分はかかるだろう。
相変わらず、どこか抜けている。

「……はあ」

今回の視察先の店舗は、初期はうなぎ登りで、現在は右肩下がり。
よくある話し。今までは、真新しさがあった。
まあ、それに胡坐をかいていたのだろう。

場所は、瀬戸内海を挟んだ向こう側だ。
本社のある福岡から船が出ている。
一度だけ行ったことがある。
この会社に就職する前。
まだ、長崎の実家にいた時。

最愛の人の幸せを祈って。
祝福をしに。
あの時は、おばあと一緒にいったっけ。
船と共に飛行するウミネコに、恐る恐るポップコーンを投げつけた。
懐かしい記憶が蘇る。
今は、おばあは向こうで暮らしている。

のんびりして居心地の良い街だった。
車を持っていないあの人にとって、
地方を結ぶ鉄道や路面電車は便利だったかもしれない。
長崎に少し似ていた。
同じ島国だからか。
だから、彼女は不安を口にすることなく行ってしまったのか。
穏やかな春の陽気に包まれながら。
友人や親類の拍手を浴びながら。

私の最愛の人――かやは、ちょうど2年前の春に結婚して長崎の街を出て行った。

続きは夕方か夜に

かやは私の4つ上だった。
お隣さんで、昔から仕事で家を空けがちな母の代わりにお世話をしてくれていた。
当時、中学生だった私は、大学生の彼女の手をよく焼かせていた。

結婚したのは、確か、彼女が27。
相手は同じ会社の営業マン。
私も就職して、福岡に引っ越ししたばかりだった。
彼の話は、私が大阪の専門学校にいた頃から何度か聞いていた。
自慢話とか、惚気とかそういうものではなく、
どちらかというと悩んでいた印象だった。
誕生日に何かと物をもらうとか。
食事によく誘われるとか。
どうしたらいいか。
そう言って、たまに大阪に会いに来てくれた時など、困り顔で笑っていた。

『ご飯くらい行ってあげなよ』

と、言ったのは私だった。
なにせ、私とかやはその頃、まだ恋人というカテゴリーに分類される関係で、
まさか、一度の食事がきっかけで何かが起こるなんて思わなかった。
私はかやを信じていたし、かやだって――。
まあ、全てそれは当時の話でしかない。
今思えば、女同士の恋愛など、しょせん男の代わりでしかなかったのだ。
友達や幼馴染の延長。

彼を紹介された時の、私の中の裏切られたという気持ちも、おままごとでしかなかったのだ。

かやのことは今でも好きだ。愛している。
けれど、失恋なんて日にち薬だ。
時が経てば忘れる。そんなものに気を取られている間に、
目の前のチャンスを逃してしまうかもしれない。

かやを恨んでもしかたない。
そう自分に言い聞かせる。
言い聞かせるだけで、実際、一日中恨んでいる時もある。
一日中彼女のことだけを考えていた時もある。
くそったれ、と彼女のくれた服やネックレスを、
ぐちゃぐちゃに引きちぎったりもした。
初期は、自分を抑えるのにどれだけ彼女との思い出の品を
ぼろ屑にしたか数えきれない。

付き合っていた時、将来二人で暮らすにはどうしたらいいか考えたことがあった。
女性二人でどこまでできるか。
まずはシェアハウスして、余裕ができたら、家かマンションか買って。
家族にも話さないといけないし。
私はけっこうノリノリでよく話題に出していた。
でも、今考えると、かやの方から、そういった話を
してくれたことはほとんどなかったように思う。

その頃、おばあも腰が痛いと言って、ベッドの上にいる時間が長くなっていた。
私もたまに伊藤家に転がり込んで、おばあの歩行機能が落ちてしまわないように、
一緒にリハビリがてら犬の散歩なんかに出掛けていた。

おばあは、

『孫が二人もいると、楽でいいねえ。ひ孫もはよう見たい』

なんてぼやいていた。
ひ孫は難しいけど、純白ドレスなら見せてあげられると思うんだけどと、
私は冗談交じりで言って、かやがやや焦って私の口を抑えていたのが、
つい最近のことのようだ。

そのせいで、余計な感情の起伏を助長してしまっている。
忘れたいのに。
いつまでも、悔しさと悲しみと、怒りが付きまとう。

「マネージャー、準備できました！」

肩で息をしながら、ゆきがドアにもたれかかっていた。

「じゃ、さっきの続き。半までに終わらせて」

「了解です！」

まあ、会うことはないだろう。
行くという連絡はしていない。
かやは月に一回くらい私に近況を報告してくれる。
それが楽しみでもあるし、苦しい時もある。
向こうは、知り合いもいないから寂しいとか。
かやちゃんが、隣に住んでたら安心とか。
ほんと、やめて欲しい。

>>14
訂正→かやちゃんが、隣に住んでたら安心とか。
→ちーちゃんが、隣に――。

今日はここまでです。
メンタルに注意して、覚悟して読んでもらえたらと思います。

この間送られてきたメールには、窓から撮ったであろう虹の写真が映っていた。
少しブレていたけれど、街の上にかかる七色の橋は綺麗だった。
見たことのないベランダ。窓枠からの景色。
山の上にあるお城。その先の海辺。
端に映る洗濯物。

彼女の目に映っていた何もかもに、
嫉妬した。

「マネージャー、今日温泉入るんですか？」

「どっちでもいいけど」

「有名な所じゃなくていいので、行きたいです」

「勝手に行ってこい」

「えー……一人ではちょっと」

「私は足湯にでも浸かってるから」

「マネージャーが足湯なら、私も足湯にします」

「はいはい」

そんな話を、目の前のゆきに酔った勢いで話したのが一昨日のことだった。
言わなくても良かったことまで言ってしまって、やはりお酒なんてクソッタレの代物だということが、
再確認できた。

ゆき、ありがとう、なんて言えば、
惚れちゃいますよなどと返された。
上手になった、色々。
そんな風に、口からするすると言葉が出るのは、
大体課長のせいだと思うけれど。

「楽しみですね。私、初めてなんです」

「観光じゃないけど」

「わかってますよ」

口元をにやつかせながら言われても。
どうせ、旅行雑誌かなんかでお土産も何にするか決めているのだろう。
夕方は空いているし、私も何か買うか。
何がある。
みかんか。

と、携帯が着信を知らせる。
課長だった。

「はい、もしもし有馬ですが」

『おみやげね、老舗のお菓子屋さんでなんか買ってきて』

「……労いの言葉の前にそれですか」

『あ、いってらっしゃい』

「遅いわっ」

『期待してるわよ。来年は競合店が市内にできる予定だし、新規をもっていかれる前に対策を打って。あなたなら絶対やれるから』

「はい」

『じゃ、お菓子よろしくー』

電話が切れる。
結局、用件はそれか。
めんどくさい。
もうお土産は全部一六タルトでいっか。

と、そう言えば。

「ゆき」

「はい？」

「船、朝の5時着」

「あ」

顔が一瞬曇る、

「足湯は明日の夜だから」

「はい！」

次の瞬間には満面の笑みで頷いていた。
分かりやすい。
そこは気に入っている。

ゆきは人懐っこい性格だった。
初対面には多少人見知りすることもあるが、
最近は仕事とプライベートを――たぶん分けることができていると思う。

ゆきが私の下につくようになったのは、
私との相性がいいから、という理由らしい。

同僚から『きつい』と言われていた頃、
くそがつく程真面目に働いていた頃。
研修中でさえ、労働基準法などなかったかのような法外な業務を強いられ、
入社仕立ての頃は理不尽な程時間がない中で新規開拓あるいは挨拶周りに連れて行かれ。
当時、男性社員に混じって不平不満を近所の深夜スナックでぶちまけていたのは、
今となっては良い思い出だ。そこのスナックも、夜に挨拶周りに行った際の店の一つだった。
社長や専務に言わしめれば、『挑戦』とは『休日も働け』ということなのだ。

こんなブラックいつか絶対辞めてやる。
法外な業務をバカみたいに死に物狂いでやっている内に、気がついた。
周りで汗水垂らしていた奴らがいなくなっていたことに。
いるのはのほほんとした事務職の女子ばかり。
同期の男性社員らと3人で休日出勤した時、どうしようもないくらい暑い日だった。
残業代も出ない日々が続いていた。
三位一体で行動していた奴の一人が吐き気を訴えた。
トイレに連れて行ってやると、意味がわからない勢いで吐いた。
私ともう一人は最初、心配して外でずっと黙って待っていた。
一向に出てくる気配がない。
30分程経って、男子トイレを覗くとまだ吐いていた。
あの時、私らは、こいつこのまま死ぬんじゃないかと思った。
やばいだろ。
こいつ。
死ぬ？

泣きながら吐いていた男も、『もうダメ……』とか言っていた。
でも、急にそれが可笑しくてたまらなくなった。
死にそうな彼の横で、私らも何かの我慢が切れて、
笑いがこみ上げて、近所の公園の男子トイレで爆笑した。

今考えても、その時の心理状況は計り知れない。

そして、吐いていた男も一緒に笑っていた男も今はもういない。
あんな日々はもうこない。
あれがあったから、この会社の今があるのかもしれないが。
二度とごめんだ。
けれど、その頃培った自慢にもならないタフさが、女子社員をビビらせていた。
定時でさっさと上がるのは個人の自由。
ただし、今日やるべきことを残して上がるのは許せなかった。
どうせ明日に回ってくるだけだと言うのに。

悔しくないのか。
今日終わるはずだった仕事は翌日に残して。
その点では、ゆきとは旨があったのだった。

その日の夜。
一日にたった1便しか出ない愛媛行きのフェリーへ向かう途中のこと。

「デートみたいですね」

皮膚にべたつく海風に身体を震わせ、フェリーまでの連絡通路で急にゆきが振り返った。
嬉しそうにしている所、

「いや、違うから」

特に申し訳ない気持ちも湧かず、私はぶった切る。
多少唇を尖らせたが、彼女は私の隣に並んで、そんなー、と腕を引っ張っていた。
恋人のように、からかい混じりに腕を絡めてくるゆきはとても打たれ強い。
そんな彼女は嫌いではなかった。
諦めが悪い自分と重なって。
報われない。
互いに。

客室に荷物を放り込んで、いったんお風呂へ入り、
私たちは冷えるのを覚悟して甲板へ向かった。
男女のカップルが端の方で抱き合っていたが、
気にせずに二人で手すりへ肘をついて、離れていく小倉の港を眺めていた。

「綺麗ですね……」

ぽつりとゆきが言った。
独り言だと判断して無視すると、身体をぶつけられた。

「痛いんですけど」

「何か言ってくださいよっ」

「あー、キレイキレイ」

こちらを見上げるゆきの方を横目で見て、私は言った。
最初から期待なんてしてなかったと言うように、
彼女は鼻を鳴らしたのだった。

明朝。仕掛けていたアラームより早めに目が覚めた。
ゆきも物音に気がついて、もそもそと起き上がる。
寝る寸前までなんとなく気になっていた船のエンジン音が、
再び腹の底に響いていた。

あくびを噛み殺すゆきより先に支度を済ませて、
スーツの襟を正した。
トイレに行って、髪をといて化粧をして。
後からとぼとぼと目をこすりながらやってきたゆきの尻を叩いてやる。
彼女は飛び起きて、洗面台に手をついてお尻をさすっていた。

「朝ごはん買ってあるから」

「え、あ、ありがとうございます！？」

私は通路へ出て、窓の外から見える朝靄に目を細めた。
彼女の住む街の入口が見えた。

港のタクシー乗り場まで来ると、声をかけられた。

「あの、有馬さん……ですか？」

後ろからだったため、先にゆきが返事をした。

「斎藤さんですか？」

「はい。あ、花房さん？」

「そうです」

「あ、今日は来てくださってありがとうございます」

同じくらいの年代のパンツスーツがよく似合う、
青年のような顔立ちの女性――斎藤さんは軽い感じでそう言った。
私は事前に得ていた情報を頭の中でカタカタと打ち出していた。
斎藤さんは通称――サボリの斎藤と言われていた。
表立ってはやる気もあるし、対人スキルも悪くない、それなりに経験と技術もある。
が、プライベートと仕事を区別しない人間だった。
もちろん、区別そのものに善し悪しはない。
しかし、それも状況による。
元々は本社勤務だったが、全く上昇志向のない斎藤さんにしびれを切らした上が、
地方に飛ばして武者修行させているというのがもっぱらの噂であった。

「あそこの赤いので来てるので、乗ってください」

赤。
チャラい。
それが、私の第一印象だった。

「たばこ、吸っていい？」

街へと通じる幅の狭い生活道を運転しながら、彼女は言った。

「どうぞ」

「大丈夫です」

私とゆきは同時に答えた。
斉藤さんが手探りでスイッチを押す。
助手席に乗った私は、少しだけ顔を背けた。
後ろのゆきが多少座席を移動したのが気配で分かった。
朝から吸うなよ。
臭いんですけど。
マジで勘弁して。

「早朝から、ありがとうございます」

やや年代を感じる塗装の剥がれた倉庫が横を通り過ぎていった。

「いいよ、かまわない」

車外に息を吐きながら言った。

「若い力が必要だったから」

自分も同じくらいじゃないか。

「私、何歳に見える？」

訝しげな視線に気がついたのか、彼女がこちらを向く。
いや、前見て運転しろ。

「27くらい……ですかね」

何かあるのかと思い、遠慮なく多少上乗せして言ってみる。

「39だよ」

後ろの席のゆきが、ええ？！　と叫んだ。

「ゆきっ」

「あ、す、すいませんっ」

このどこか精悍な顔つきは、年齢によるものだったのかと私は妙に納得した。

「この歳になるとさ、色々しんどくなっちゃうから」

じゃあ、辞めればいいのに。
と、心の中で呟く。
けれど、辞めない。
それはなぜか。
会社への情か。
自分への甘えか。
こうやって、自分よりも年齢の下の人間が視察に来ることに、
何の抵抗もないのか。悔しくはないのか。

当たり障りのない会話で、私の何を知りたいのか。
この女を理解しないと、今回の視察は無駄に終わってしまうような気がした。

斎藤マネージャー。
彼女は営業所に行くまでの間に、自分のことをつらつらと話してくれた。
もともと、福岡で農業組合に勤めていた彼女は農家とのパイプもあった。
組合を3年ほどで辞めて、培った営業の能力もあったため、採用されてからすぐに健康食品の営業主任となった。
そして3年ほど経って、成績が停滞してきた頃に、飛ばされた。

彼女は笑いながら、また白い煙を放った。

県内の中央本店に到着し、全体の場で軽く挨拶を済ませた。
所長の無駄に長い話を聞いてから、残りの3つの支店へ移動した。

「本店の所長は話が長いでしょ」

「ええ。もう少し短くするだけで、帰る時間が30分は早くなります」

斎藤が笑う。

「本店は、まず挨拶からやり直した方がいいんじゃないですか。あれじゃ、お客さんの貴重な時間がもったいない」

斎藤は声を出して笑っていた。

「オーケー。伝えておくよ。他には？」

他にあった方がいいのだろうか。
期待するような声に、私は多少イラついた。
それを、どうにかするのが私であり、
斎藤マネージャーだというのに。
その――他に、気づいているんじゃないかと疑ってしまう。

「いえ、まだ、なんとも」

街中から少し離れた所に、大学があった。その横を通り過ぎていく。
昔、技術協力を要請したことがあったらしいが、
県や市の公認あるいは委託事業以外との提携はできないと言われた。
ただし、求人のチラシを置くのは大丈夫だったらしい。
学生、主に院生を中心に、専門分野で培われた能力を
遺憾無く発揮してくれる学生を募集した。

部長が当時、採用担当として企業説明会に行った時の話をされたのがついこの間。
私はというと、福岡での会社説明会の際に、事務職で働くより、営業の方が向いてる。
営業なら枠が空いている。
などと胡散臭いことを部長に言われて、この会社に入社した。
思い出すと腹が立ってくる。
部長にそれを言おうとすると、決まって酒を注ぎながらはぐらかしてくるのだからたまったものではない。

その後、全ての営業所での視察を終え、時刻は昼の2時に差し掛かろうとしていた。
街からかなり離れていた。

「昼ご飯、何か目ぼしい所ありますか？」

「あー、ゆき」

「はいっ」

やや眠そうにしていた彼女に声をかける。

「どこ行きたい？」

おおかた、この辺も調べているだろうと見当をつけて聞いた。

「ええっと……」

惜しみなく悩み始める。
私はふと、町並みを見下ろした。
遠くの城山が黄砂か何かで霞んで見えた。
その先に、蜃気楼のような海。

「……」

「あ、可愛いカフェがあります！」

「へー。斎藤さんはどうですか？」

「私もそこで」

「すいませんが、お願いします」

「はいよー」

声に出さずに、ゆきが喜んでいるのが分かった。
車が発進する。
かすかに音がしたような気がした。
携帯についているカメラのシャッター音だった。
ゆきが窓に張り付いていた。
私の視線に気がついて、彼女は言った。

「あ、なんだか哀愁ある風景だなって」

私はもう一度外を見た。
見えたのは、家屋にかかっていた不動産屋の広告だけだった。

今日はここまでです
のろのろですいません

ゆきが可愛いと言ったカフェは、

「え、こわ」

「酷いですッ」

可愛さの欠片もなかった。
動物園をモチーフにしてあるのか、一見サファリパークのような外観ではある。
入口のドアはブリキの玩具にくっついているようなネジがいくつも刺さっていた。

ウエイトレスに窓辺の席へ案内される。
こういう奇抜なの店が好きなのかこいつ。
という目でゆきを見た。
当の本人は、お土産コーナーの方で、『サバンナの草原にて身をかがめるブリキのライオン』を食い入る様に見ていた。
時々見かける田舎町のカフェというのは、やたら現実離れしているように思う。

ちなみに、内装は普通だった。
食欲がさほどあったわけではないが、ランチメニューのパスタセットを頼んだ。
昼時というのもあり、店内はすぐに混み合ってきて、私たちは早々に食事を終えた。
その後は斎藤さんに街のビジネスホテルまで送ってもらった。
夕方の会議までに報告書をまとめなければならないので、私とゆきは早々に作業に取り掛かった。

本社には競合相手とやり合うために、業種別にA～Eまでパターン化されたシナリオが存在する。
それに現在の店舗の数字を当てはめていき、シナリオを選択する。
しかし、筋書き通りにいくことは滅多にない。なぜか現場で設定する日々の目標が追えず、ズレが生じてしまう。
そのズレの原因は何か。今回、私たちが視察するポイントはそこだった。
本社や、本社統括の店舗で当たり前に行われている戦略・戦術の握り合いや挨拶、掃除などは徹底できているか。
社員のやる気は引き出せているか。
客の顔は見えているか。
なんのために仕事をしているのか、全員がそれを共通の認識としているか。
そういったことをおさらいする。
何年も同じことをしていると、仕事が作業になりがちだ。
まるで新入社員向けのセミナーだが、成功事例の紹介もすれば、これが意外と社員の士気を上げる。
何せ、全て自分達でもできそうなことを徹底するだけだからだ。スタッフは若い人が多い。
自分にもできそうかも。そう思わすことで、妄信的に勢いづく。
問題は、いかに相手の腹に落ちるように伝えるか。
こういったことは、課長の方が得意なのに。

とにかく。
ゆきを相手に何度も練習していくしかないか。
首をならす。
ぽきぽきと、音が鳴った。

肩に手が置かれる。

「なに？」

ゆきが肩もみを始めた。

「あ、凝ってるのかなって」

「今、さらに凝った」

「えー」

残念そうに、今度は肩たたきをし始めた。

「ゆき、プレゼン資料はもう終わった？」

「はい」

早いな。
彼女の手から、レジュメを受け取る。
先ほど、こちらが指示した通りだ。
上出来。丁寧な言葉遣いと色使い。

「オッケ。ちょっと、休憩がてら街でお土産用のタルト6つ買ってきて」

鞄から財布を取り出して、ゆきに放り投げた。
不細工な動きで、彼女はそれをキャッチする。

「なんか一つおごるわ」

「わーいッ」

女子高生のような声で、弾むように部屋を出て行った。
軽い女だな、ゆき。

眠くて進まないので、また明日です

扉が締まってから、私は鞄から音楽プレーヤーを取り出す。
蛇のように本体に絡んだコードを解いて、右耳だけにイヤホンを押し込んだ。

「……Beautiful dreamer, wake unto me」

雑音交じりに曲が始まり、老爺の声が加わる。
実家の近くの喫茶店でバイトをしていた時、そこの店長に教えてもらった歌。
かやにも聞かせてあげたくて、でもCDは買わず店長のひしゃげた野太い声を携帯に録音した。
それをパソコンに取り入れて、プレーヤーに入れてくれたのはかやだった。
かやは英語の勉強になるから、という理由でそうしてくれただけだった。
私はかやが入れてくれたからいつも聞いていた。

80年以上の歳月を乗り越えてきた彼の歌は、過ぎ去った歴史に触れているような心地になる。
歌の途中に、アイルランドの酒場で、現地の民謡をハーモニカで拭きながら飲み明かした話が雄弁に語られている。
私には父と祖父の思い出が、家にも体のどこにもない。
もし、いたとしたらこういう感じだったかもしれない。
それを感じたくて、私は中学生の頃何かあればあの喫茶店へ足を運んでいたのだろうか。

キーボードを打つ手を止める。
報告書はほぼ完成した。
大きく伸びをする。
口ずさんだ歌に酔う。
聞いてくれる人間はいない。
目覚めさせたい人は、昼下がりに中学生が見た夢の中にしかいない。
眠っているのは私の方だ。

帰ってきたゆきとお土産を山分けして、プレゼン内容を確認し合った。
それから夕方までは、練習と質疑や応答のための資料作成にあたった。

「スフレ美味しいです……」

見ただけで口の中で一瞬に溶けてしまいそうだと判断できるチーズスフレをうっとり咀嚼するゆき。
何か一つと言われ、迷いに迷って選んだ一品が思った通りの味だったようだ。

「はい」

「ん……」

それを半分押し付けられる。
さっきランチセットでデザートにチーズケーキを食べたのを思い出す。
あれは美味しかった。食べて損はない。
一日に必要な食事量以外のものを食べると、いつも夜のバスケで体が重たく感じる。
まあ、今日と明日はないけれど。
色々理由づけして、仕方なさを装いながら一口食べる。

「食べ方可愛いですね……へへ」

酸味と控えめな甘さ、バーナーで直に焼いた表面の香ばしさに気を取られ、
一度全て飲み込んでからゆきの頭を鋭い手刀で小突いた。
へへってなんやねん。
最近私を見る目が変わってきているような気がする。
楽しみ方を変えた、と何か月か前に言っていたのを思い出した。

「食べた後、唇の下をこうやって噛むんですよね。それって、なんでかなって最近思ってたんです」

「あのさ、そんなどうでもいいこと考えてたわけ？」

呆れながら私は言った。

「はい。今日のランチの時も」

「……」

ゆきは笑いながら、

「美味しいもの食べた時に、顔に出るのが恥ずかしいんですね！」

人差し指を私に向けた。

「だから、こう、力を入れてごまかしてるんです！それって、か」

続けざまに言おうとした言葉をさえぎって、
私は残ったスフレをゆきの口に突っ込んだ。
イメージとかあるし。
硬派な自分を割と気に入ってるし。
一瞬、口を大きく開けて、盛大に笑う自分を想像した。
ないな。

夕方。ブラインドの隙間から西日がわずかに差し込んでいた。
会議の時間になった。本店に集まった支部長らへ一通り挨拶を済ます。
斎藤マネージャーとゆきに資料の配布を手伝ってもらいながら、
私は一人一人の顔を眺める。
男性、女性入り混じる。
20半ば～40代くらいか。
人当たりの良さそうな顔のつくり。
表情も笑顔を崩さない。
昔は、部活のキャプテンをしていてとか、生徒会役員でとか、
そんなお利口さは私の最も嫌いとする所だ。
教室の席についてじっとしているのが我慢ならない派である。
時間に縛られるのが嫌だった。
ルールに則って決められたことをするのが苦痛だった。
言われたことだけをするなんて、面白くもなんともない。
人に使役されるなんてごめんだ。

鼻で息を吸い込む。
そういう人間は協調性に欠けるだろう。

「では、改めて、私から今回の視察の目的を簡単にご説明しますが、その前にみなさんなんでそんなに笑顔なんですか？」

会議室にどよめきが走ったのは、数秒してからだった。

その後、会議は休憩を1度挟み、きっかり2時間で終わった。
録音していた会議の内容を3倍速で改めて聞いて、間違った内容を言っていないか確認し、課長に報告し、
夜、斎藤さんと一緒に湯の街へ向かったのだった。

目の前の斎藤さんが足湯に浸かりつつ、思い出し笑いをし始めたり、
ゆきがスマホを湯船に落としたりとハプニングもあったが、
足先から痺れるような温もりを味わいながら、
漸く1日が終わったのを実感した。

湯の街からビジネスホテルまで、ゆきと二人で歩いて帰った。
ピンクのネオンの下にいるスカウトマンに、何度か声をかけられたが無視した。
股の許そうな女に見えたのか。ゆきにそれを言うと、

「たぶん、その、美人だからかと……」

ゆきはこういう所を歩くのに慣れていないのか、
私の腕に寄り添って顔を下に向けてぼそぼそとフォローしてくれた。

夜の底を路面電車が走る。
寝る直前まで耳に残りそうな、車輪の摩擦音。
滑走する電車が車と交錯するように大通りをすり抜けていった。

「ゆき」

「はい」

「いつまで腕組んでるの」

彼女が立ち止まる。

「……すいません」

温もりが離れていく。
わきにやたら風が吹いてきて、少し寒かった。
足一歩分程遅れながら彼女が歩き出す。

「今日はお疲れ様」

自由になった左手で、ゆきの後頭部を二回叩いた。
街頭に照らし出された表情はむずがゆそうだ。

「ごほうびのチューは」

「ない」

私は即答した。

一日に一便しかない帰りの船で、私は懐かしい人物に再会した。
最後に会ったのは、二年程前だ。
その歳月は、若者にとっては成長の二年だが、老人にとっては老いの二年だった。

「おばあ！」

私は駆け寄って、抱きすくめる。
線香みたいな辛気臭い匂い。
おばあの匂いだ。

「ちーちゃん、変わらないねえ」

「おばあ、なんかちっさくなってない？」

腰がややお辞儀してしまっているというか。

「おさぼりしよる間に、ねえ」

しわがれた皮膚が幾重にも線を作る。
申し訳なさそうに、笑う。
そして、私を支えのようにして両腕を掴んでくる。

「ちゃんと歩いてって言ったじゃん」

「なかなかねえ。静人さんが危ない言うんで、迷惑もかけられんし」

のどが詰まる。
その名をまた耳にする時が来るなんて。
シズト――かやの夫の名。
不快にしかならなかった。

「あの」

ゆきがおずおずと口を開いた。

「あ、ごめん。実家の近所に住んでるおばあちゃん」

「そうなんですね」

「かやちゃんが、お世話になってます」

さらに深くお辞儀する。
後頭部が見えた。
真っ白い針金みたいな髪の生え際が、少しだけ薄くなっている。

「おばあ、お世話してるの私ね」

「あら、偉くなったんねえ」

「偉いわけじゃないけど」

「頑張って」

ゆきの手をガサガサの手で掴んで、ぎゅうっと握った。
おにぎりでも握る様に。

ミス「かやちゃんが、お世話になってます」
→「ちーちゃんが――」

ゆきは小刻みに頭を上下に振った。

「おばあ、かやは？」

「おらんよ」

「え、一人？」

「そうよ。かやも静人さんも仕事が忙しくてねえ。でも、お彼岸にはじいと和也と正美を洗ってやらんと。お茶も替えてやらんといかんし、つつじも手入れしてあげんといかん、それから」

「ま、待って待って。かやはいいって？」

「黙って来とるから、内緒な？」

私はおばあの行動力に驚かされた。
横目でゆきを見る。ひょっとこみたいな顔をしていた。
私も心境はそんな感じだった。

「書き置きしてきとるから大丈夫」

私とゆきの焦りを余所に、おばあは私の両手を握って、
『大丈夫』の所で、音頭を取る様に上下に二回振った。

まさかこんな形で、おばあと再会することになるとは。
まるで家出少女を見ているような気分だった。
昔の私を見ているような。
状況が全然違うけれど。

おばあがかやには内緒にして、と言うからその日は連絡を取らなかった。
しかし、すぐにあちらの方からかかってくるような気もしていた。
案の定、翌朝にかやからメールがあった。
仕事中のようで、電話はかけられないらしい。
メールに素早く返信する。
すぐにかやの安堵のこもった文章が送られてきた。
何度かやり取りしながら、私ははたと気が付く。

「おばあ、今日どこに泊まるの？」

おばあの住んでいた家はすでに売り払ってしまっている。

「ホテルに泊まろうかと思ってな」

どこまでアクティブなんだ。
さすが、女手一つでかやを育ててきただけある。

「うちの家に泊まんなよ。合鍵貸すから」

おばあは多少渋ったが、最終的に押し切られて承諾した。
かやは今日の夜の便でそちらに迎えに行くから、と提案してきたが、
どうせ明後日に私も愛媛に行くからその時に一緒に連れて行く、と返した。

「おばあ、後のことは任せて。帰りも送ってくから、ゆっくりお墓参りしなよ」

「ありがとうねえ」

と礼を言うものの、なんだかまた一人で帰ってしまいそうな気がした。

その日は、おばあをマンションに残して少し遅めに出社した。
夕方までには帰ってくる。それから一緒にお墓参りに行く、という約束をした。
久しぶりに食べるおばあの朝ごはんは、野菜がふんだんに使われていた。
量も多く、一人では食べきれなかったのでお昼の弁当ももたされた。

実のところ、夢でも見ているのではと思ったが、みそ汁に入っていた煮干しの骨が喉に当たって痛かったので、
それはないという結論に至った。出汁を取りふやけた煮干し入り味噌汁を最初に食べさせてもらったのは小学校の時だったっけ。
オフィスで喉元をさすりながら、昔だったら煮干しだけ残していたなあとぼんやり思い出していた。

と、思い出に浸っている場合ではない。
さっさと仕事を片付けないと、夕方までに帰れない。
待ちくたびれたおばあが家を抜け出して、一人徘徊し始めて――帰らぬ人に。
という所まで想像してぞっとして、斎藤マネージャーがメールに添付してくれた昨日の出席者全員の報告書に目を通していく。
昼休憩も挟まずにぶっ通しで業務を終え、暇そうな課長に飲みに行こうとかふざけたことを言われて邪魔されながら帰宅した。

ドアを開けると、イキイキとした顔でおばあがクレンザーを片手に台所を磨いていた。

「な、何してんの？」

「タダで泊めてもらっとるからね。ちょっと綺麗にしといたよ。ああ、物はなんちゃ動かしてないから安心し。さ、ご飯にしようか」

もはや勝手知ったる他人の家を地でいくおばあに、私は可笑しくて小さく笑った。

「ああ、帰ってからで大丈夫。先に長崎に行こう。日が暮れちゃうし」

「お腹空いてないのかい？」

「まだ大丈夫だから」

「そうか、そんなら、行こうかね」

「うん」

割烹着みたいな服に身を包んだおばあは、おおよそマンションの近代的な部屋のイメージと会わず、
そのちぐはぐさが、ああ、本当におあばなんだなと現実味を帯びていて。
正月ぶりに帰る故郷の河川敷の景色とか、実家の窓から見た隣家の庭に寝そべったクマ似の犬とか。
かやとおばあとで囲んだ食卓とか。
そういうのが脳裏に流れてきて。
今は、お祭りや年中行事などといったものとは縁もなくなり、
地に馴染んだ風習はこの辺りの新興住宅地ではもはや影すらない。
時折、小奇麗に陳列されたマンションの一室で、淡い寂寥に長崎の地が恋しくなることもある。
そんな時は決まって、かやのことを思い出して打ちひしがれていた。
情けない。
誰が知っているだろう。
薄皮一枚剥ぐだけで、未練たらしい醜悪な女が顔を出す。
爆竹の音が耳の奥で弾けた。

福岡からだと、実家までは電車で約二時間かかる。近いようで遠い。
昔はどうしていたのか、とおばあに聞くと、ひいおじいさんの時は歩いていたという返答が帰ってきたので、やや気が遠くなった。
いつの時代まで遡ってくれたのだろうか。
帰宅ラッシュの夕刻。グリーン車のチケットを購入する。
人もまばらで、朝から動き詰めだった私は漸く腰を深く下ろした。

「ちーちゃん」

肩を揺すぶられる。
ぼんやりと声が聞こえた。

「……ッ」

いつの間に目を閉じていたのか。
起きたら長崎に着いていた。
沼におぼれるように眠っていたようだった。
目をこする。

「かやかと思った」

「もうすぐ80の婆さん捕まえて何を言ってるのかねえ」

ばしばしと背中を叩かれる。

「いたッ、痛いって」

意外と力が強い。
嬉しかったのか。

「ちーちゃん、メール来たかい？」

「いや」

かやからのメールは来なくなっていた。
彼女のことだから、夜も送ってくると思っていたのに。
何かあったのか。仕事が立て込んでいるだけか。
おばあのことが心配ではないのだろうか。まさか。そんなことあるわけがない。
胸中の心配を薙ぐ自分がいる。
私の焦りは、結局のところ、そう言った現実の内容を期待しておらず、
ただ、かやから『また、会いたい』と言ってくれるのを待ち焦がれているに過ぎない。
この機に乗じて、獲物を仕留めるチャンスを窺う狐のように。
そんな自分を許せない。
彼女の家庭を壊してしまうようなどす黒い欲望。
そんな自分に逆らえない。

おばあの穏やかな横顔を見ながら、
かやの傍に寄り添う静人を必死にイメージしないようにしていた。

今日はここまでです。
読んでくださってありがとう

乙乙！

自分も同じ経験したから読んでて辛いなあ
ていうかムカツク！ｗｗ

>>50
ありがと

>>51
よくわかります

けれど、いくら私が喉を掻きむしりたくなるような執着心を持とうが、それはかやや静人には全く関係のない話し。
人間に踏みつぶされそうになったアリが、憎しみを抱いたところで、世の中は何も変わらない。
なのに、どうしていつまでも引きずるのか。
それは、まだ、私がやり残したことがあるからなのか。
私は私に何かを期待している。私なら、手に入れれるんじゃないか。
欲しいものを。
本当は、かやはまだ私のことが好きで、静人との夫婦仲はよろしくなくて、
私の所へ戻りたくてたまらない。
なんて、酷く単純で利己的な筋書きだろうか。
そんなに好きなら、どうにかしてやろう、なんて。
神様が言ってくれるのを待っているわけではない。
待っているわけではないのに――。

目的の駅に着いたところで、

「おばあ……」

「なんだい？」

「かやと……」

聞いてどうするのか。

「かやと静人は仲良くやってる？」

「そうだねえ」

おばあが頷く。

「4人で仲良くやってるよ。でも、かやは寂しがりだから、弱音を吐いたら聞いておくれ」

「うん……」

もはや、かやが他の男の手で幸せだというだけで、息苦しい。重症だ。
駅に着いて、人込みの中、おばあの水分の抜けた手を引いて歩いていた。

「ありがとうなあ」

待て。
今、なんかおかしくなかった。

「いや……え？ 4人？」

まさかもう子どもが。
魂が口から抜け出しそうになった瞬間、

「静人さんのお母さんも一緒に暮らしよるんよ」

「あ、そうなんだ。へー……え？」

私はまた聞き返していた。

バスに乗り込み、揺られること数分で霊園のそばのゴルフ場前の駅に着いた。
長崎市の中心に近接する小江原の高台にその霊園はあった。
緑が生い茂り、日暮れに燃ゆる梅の花が入り口一面を色鮮やかにし、生者も死者も快く迎え入れているかのようだった。

「ねえねえ、さっきの続きなんだけどさ、いつから4人？」

「去年の暮れに、静人さんが呼んだんやったか。お母さんは鳥取の方で暮らしとった言よったねえ」

おばあは慣れた足取りで、石段を登っていく。
腰は大丈夫だろうか。

「杖、受付にあったけどいる？」

「いらんいらん。静人さんのお母さんもな、よく心配してくれるんよ……。なんともないのにねえ」

「まあ、おばあなら転んでもただでは起きないだろうけど……」

「ちーちゃん、何言っとんッ……あっはっは！」

とは言うものの、ふんぞり返って笑うおばあの後ろ姿はやはりどこか危なっかしいものではあった。

「そうなるとさ、色々気も遣うんじゃないの、大変じゃない」

「……家族って言うのは、最初は気を遣うし、大変なもんさね」

「おばあも、何かあったら言って。相談に乗るし、いつでも駆けつけるから」

「ちーちゃん、おばあのことは気にせんでええ。そんなことより自分の心配せないかんよ。彼はおるかい？」

「いないけど、てか、いらない」

「いらんのか」

「うん」

おばあは、困った顔も見せずに、にこりと笑った。

「かやもちーちゃんのこと心配しよったよ」

すいません寝ます

保守

>>58
保守ありがと。
モチベが停滞気味ですが、完結させる予定です。

↓停滞中に書いていたssを読みながらお待ちください。

【安価】海未「色々な百合カップルがどうとかホアア！？」ことり「着いていく」

基本安価物は読んでなかった
読んでくる

>>60
【安価】絵里「色々な百合カップルの聖夜を邪魔しに行く」希「それを見守る」

【安価】花陽「色々な百合カップルの食卓を邪魔する」凛「ご馳走になる」

【安価】穂乃果「色々な百合カップルの朝チュンを邪魔する」にこ「応援する」

【安価】海未「色々な百合カップルがどうとかホアア！？」ことり「着いていく」

という順番で読むといいかもです。
どこから読んでもあまり支障はないです。
題名通り、色々な百合カプの短編集です。
宣伝です。

>>61
サンクス
URL貼ってくれると助かるかも
タイトルでググればいいだけだけどw

>>62
【安価】絵里「色々な百合カップルの聖夜を邪魔しに行く」希「それを見守る」
【安価】絵里「色々な百合カップルの聖夜を邪魔しに行く」希「それを見守る」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419426514/)

【安価】花陽「色々な百合カップルの食卓を邪魔する」凛「ご馳走になる」
【安価】花陽「色々な百合カップルの食卓を邪魔する」凛「ご馳走になる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421761133/)

【安価】穂乃果「色々な百合カップルの朝チュンを邪魔する」にこ「応援する」
【安価】穂乃果「色々な百合カップルの朝チュンを邪魔する」にこ「応援する」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423401512/l50)

【安価】海未「色々な百合カップルがどうとかホアア！？」ことり「着いていく」
【安価】海未「色々な百合カップルがどうとかホアア！？」ことり「着いていく」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428244042/)

まとめの方が見やすいかもね

保守ありがと。ぼちぼち続けていきます

「心配って……なに？まさか、結婚とかそういう？」

「そうさね」

息を吐き出すようにおばあ。
かやにそんな心配される言われはない。
私を裏切った彼女に、なぜ人生の心配をされなければならない。

「あー、ないない。私が結婚して男に養ってもらうような玉に見える？」

「養ってもらうんがいいんよ。女の体はいつまでも働らくようにはできちゃいないんでなあ」

「やだし……」

ぶっきらぼうに言うと、

「まあ、色んな生き方があるさな。今は、女の人も働くし、バンコン言うのもあるし」

晩婚は、別に人生の一つの選択肢というような意味合いではないが、それは口に出さずに、

「そうそう」

と、この話題を終わらそうと適当に相槌を打った。

これでも男に交じって働くぐらいの体力と性能はあると思ってる。
養う側にだってなれるとさえ思っている。
世間からしたら、甘い考えと言われるのか。
嫁ぐことは尊いことなのか。
女達はそこにどんな希望を見出しているのか。

「おばあ、ちょっと水汲んでくるから待ってて」

「ああ、かまんかまん」

「うちんとこのじーさんとばーさんの分もあるから」

砂利を蹴りながら、先々月くらいに招かれた専門学校時代の同級生の結婚式を思い出す。
すでに1歳くらいの子どもがいた。久しぶりに見た彼女は、すでに母親の風格があった。
子どもの顔は、どちらかと言うと旦那に似て、鷲のような鼻をしていたっけ。

蛇口を捻り水を出す。
桶にどぼどぼと水が溜まっていく。
飛沫が跳ねる。

「……冷た」

私が、女として未成熟なのだろうか。
女になる権利はあるが、その義務はないじゃないか。
愛する人と歩む未来を想像できない人間が、生きていけないわけではない。
私の母親だって、海の向こうにいるらしい父親に期待していたわけではないんだ。

おばあの言った言葉達にざわつく胸。
溜息を吐いた。

「Beautiful dreamer, wake unto me……」

突然、聞き覚えのあるフレーズが耳に入ってきて、私は思わず振り返る。

「……？」

少し離れた所、向こうはこちらには気づいていない。
首からハーモニカをぶら下げて、墓に水をやっている。
体躯はがっしりとした老人――。
真っ白の髪は、どこか日本人離れして見える。
その隣に60代くらいの女性。
彼女が老人に何か言うと、歌はぴたりと止んでしまった。

人の目を気にしてだったのか。
確かにその歌は墓前で口ずさむには寂し過ぎた。
それから見た目に反し、足取りも危うく、女性に支えられながらその場を離れていく。

私は急いで駆け寄った。

「店長」

彼らが私に気づいて、顔を上げる。
女性が怪訝そうな視線を送る。

「おお！かやちゃん！」

目を見開いて、大きく両腕を上げる。
大げさな驚き方をされて、私はやや後ずさった。
案の定、がっしりと抱き着かれた。

「久しぶりじゃのー！元気しとったか！」

「苦しいって……！」

「お父さん、困ってるわ……」

女性――娘に諭されて店長が私を解放する。

「おお、すまんすまん」

「お元気そうで」

就職して以来会っていなかったな。
何歳だっけ。もう90歳越していてもおかしくないよな。

「かやちゃんは、仕事は頑張りよるか？」

色々言いたいことはあったが、まず言っておかなければならないことがあった。

「ていうか、私ちさとの方なんだけど」

「あ、やだ、お父さん……若い方の方よ、後から入ったバイトさんがかやちゃん」

あの頃、かやも喫茶店で臨時バイトをすると言い出して。
もっぱら私の監視役だったけど。勉強とバイトを両立できるようにって。
何回か娘さんに会って話したことは会った。名前までは知らないけれど。

「おお！すまんかったな！歳を取ると頭が……」

人差し指をくるりと一回転させ、最後にぱっと手のひらを開いた。

「結構前のことだし、気にしないで」

「やー、最近喫茶店に来てくれんから……忘れておったわい！」

「酷いじゃん。私は分かったよ、すぐに」

「お父さん……喫茶店、もう閉まってるでしょ。ごめんなさい、お父さんこの間から忘れっぽくなってるの……」

「え……そうなんですか」

「先月倒れてね、入院してる間に進んじゃったみたいで」

本人は気にした風もなく、

「向こうにおる人はスミヱさんじゃありませんか？」

と、どこか紳士的な口調で私に尋ねてきた。

おばあともご近所の付き合いもあって顔見知りだった。

「スミヱさん！」

片手を上げて、おばあに手を振る店長。
肩越しに振り返ると、おばあが両手を揃えて頭を小さく垂れた。
その佇まいは愛らしい少女のようでもあった。

「スミヱさんは、いつ見ても可憐じゃの」

「は？」

何を言ったのかと思い、私は思わず聞き返す。
おばあがゆっくりとこちらに近づいて、
店長と昔話をし始めたので深くは突っ込めなかった。

戦時中まで遡りつつある老人らの立ち話が長くなりそうだったので、
娘さんが気を利かして喫茶店と呼ばれていた場所――店長の家に寄ることになった。
そこで初めて知った事実だったが、二人は同級生だったようだ。

ややあって、

「スミヱさんはな実は……」

と、切り出したのは店長。
学生時代の話の流れ。
元喫茶店のカウンターに立って、
3人の客にコーヒーを淹れていた。

「勝成さん……いやだね」

おばあが照れている。
貴重な表情だった。

「わしの初恋の人でな」

「へー……」

おばあと店長を交互に見る。

「え？！」

驚いてコーヒーを溢しそうになる。

「マジか……」

「初めての恋人だった」

豆を煎るような表情で、店長。

「お互いにねえ」

見つめあう二人。
娘さんがまたかって顔をしている。
何、この件は前にもあったわけ？
挙動不審に娘さんに状況を確認する。

「青春時代を懐かしんでるだけだから……」

苦笑い。

「初恋は実らないってオチだから」

何度も聞かされたのか、小声で教えてくれる。
聞きたくないオチだわ。

今日はここまで
待ってくださっていた方ありがとうございます。
「イメージプレイ百合ver」もそうでしたが、少し重たい話になります。
メンタルに気を付けて

男が絡まないなら読みます

>>79
男はストーリー上それなりに絡みますが、百合endです

性的にですか？

>>81
性的に絡む話はありません

バッドエンドを聞かされる前に、話の腰を折ってやろうかとも思ったけれど、
台本でもあるみたいに次から次へと昔話を繰り出す店長に口を挟むこともできず、
私はコーヒーカップの中が空になるまでじっと耳を傾けていた。

相槌を打つのはもっぱら娘さんかおばあで、
よく考えると、昔も今も私という人間は、人の話をじっくりと傾聴するのが苦手だった。

「ちょっとお手洗い借りまーす」

米軍の駐屯地に呼ばれた店長が、米軍が捨てた食料を盗もうとした地元住民を身をていして庇ったという武勇伝がやっと終わり、
私は立ち上がる。もはや、店長が聞かせたいのはおばあ一人じゃないかとさえ思えてきたが、それは胸にしまっておいた。
トイレから戻ると、コーヒーカップが無くなっており、代わりにワインが置いてあった。

「……」

それに特に突っ込まず、無言でカウンターへ戻る。

「ちーちゃん、グラスを持っておきなさい」

「へ、あー、私あんまり飲める方じゃないよ」

差し出されたワイングラスを受け取る。
その丁寧口調まだ続いてたのか。

「いいからいいから。これが、さっきの駐屯地で出されたワインじゃ」

何がいいからなんだ。
おばあが、

「飲めんのならええんよ？」

店長の方を見ながら、やんわりと助け舟を出す。
断りたい所だったが、老い先短い人間のお酌を無下にするのも気兼ねしたので、
少しだけ、とグラスを傾けた。

赤ワインの香りを確かめる。酔いそうな匂いだ。ぐいと飲み干す。
店長が満足そうにまた注いでくる。三度目はさすがに娘さんが止めてきた。
ただ、まるで自分の息子が初めてお酒を飲めるようになった時の父親のような、
そんな店長を喜ばせるのも悪くはないかなと思った。
頬はすでに熱くなっていた。

店長はお酒は医者に止められているらしい。
娘さんの前では飲めない、とぼやいて叱られていた。
私はそのやり取りをおばあと笑いながら眺めていた。

こんな風にお茶目な一面があったことを知らなかった。
アルコールのせいもあってか、私は久しぶりによく笑った。

「お父さん、そろそろ病院の予約の時間だわ」

「なに、本当か」

腕時計を確認する。

「私たちも、長居してしまって」

おばあが頭を下げた。

「そんなことないですよ。楽しかったです」

店長が慌てて時計から目を離す。

「勝成さんと呼んでくれるのももうスミヱさんくらいで、昔に戻ったような心地でした」

「みーんな、どんどんおらんなりよりますからねえ。私もいつまでこうやって帰れるか分かりません」

「せっかくなので、次の行き先はスミヱさんと同じ所がいーですなあ」

「あら、奥さんに怒られますよ」

「家内には内緒にしといてください。はっはっは！！」

天国で不倫する約束を交わしながら、
おばあと私は元喫茶店を後にした。

携帯でタクシーを呼んで、おばあと共に私の家へと向かった。
タクシーの運転手は見覚えのない顔だった。
町並みもどこか変わっていて、川が埋め立てられていたり、
潰れやすい交差点の角の貸店舗のたこ焼き屋がラーメン屋になっていたり、
夜の街とはいえ、どこか知らない道を走っているような気がした。

感傷的な気分になるのは、酒のせいだろう。
きっと。

「有馬家着いたよ」

「ありがとおなあ」

おばあの体調を考えて、今日は実家の方に泊まってもらうことにした。
家に入るとき、おばあが一瞬だけ隣の空家を盗み見たのが分かった。

「売ってから、ずっと空家だね」

「貰い手が決まってないからねえ」

「じゃあ、私と同じか」

笑いながら言った。

「売らんでも良かったのになあ……ここでも十分だったのに」

「え？」

「ああ、ごめんごめん、独り言独り言」

かやは腰の悪いおばあをここに一人残していくわけにはいかないと言っていた。
おばあに苦労をかけたくない。恩を返したい。
これからはおばあと一緒に幸せを見つけていきたい。
今まで育ててくれたおばあのためにも。

おばあちゃんっ子だったから、仕方がないのかもしれない。
今さらとやかく言う気はないけど、それは本当に二人のためだったのだろうか。

なんでもっと自分のことを考えてやらないのか。
もっともっと自分の幸せを祈ってあげないのか。

「冷えるね、入ろうおばあ」

「そうだねえ」

酒のせいで、体は熱かった。ただ、いつまでも見ていたくはなかった。
明かりの消えた家屋から、もう笑い声が聞こえてくることはないのだ。
私を見送る彼女もいない。
有馬家の玄関は鍵が掛かっていた。
母が帰っていないのだ。
連絡は一応いれたが、返信はなかった。

「勝手知ったる我が家と……」

玄関の電気をつける。
廊下にゴミ袋が置いてある。
プラスチックゴミだろうか。

「おばあ、奥の部屋に布団しいておくよ」

「ありがとお」

「冷蔵庫のものは適当に飲んでいいから」

とは言ってもおばあは遠慮するだろうから、後で水でも買ってくるか。
冷蔵庫の中身を確認する。実際、ろくなものが入ってなかった。
冷蔵庫の扉に貼ってあるゴミ出しカレンダーには、プラゴミが明日収集の日になっている。
あれもついでに出しておくか。

私はおばあをリビングに案内し、お風呂沸かして外に出かけた。

携帯を見ると、母親から着信とメール。
メールに冷凍庫にピザが入っているから食べたかったら食べて、と書いてあったので、
たぶん電話もそれのことだろうと解釈した。

かやからも着信が入っていた。
プラスチックゴミを出して、近くの自動販売機でペットボトルに入った水を購入する。
二本買って、一本をキリリと開け、水を一口口に含んだ。
酔ってはいない。
ただ、いつもよりも勢いに任せてなんでもできそうな、そんな気分だ。
人はそれを酔っているというかもしれない。
だが、酔ってない。
大丈夫。
認知機能が少し低下しているかもしれないけれど。

寂しい時に、いつも隣にいる後輩がいないせいだろう。
着信履歴からかやの番号を選択する。
二回目の発信確認ボタンを押せば、後は電話が繋がる。
簡単に、声が聞けてしまう。
今まで我慢して我慢して我慢して、
自分から掛けることなどしなかったというのに。

事情があるから仕方がない。
悩むより慣れろ。
いや、何を言っているんだ。

慣れたいわけじゃない。
受け入れたくないものは誰だってある。

親指をいざ画面に目がけて、と言うところで着信が入った。
かやだった。

「……」

もやっとした頭で考えることは少なく、
先ほどの言い訳や御託など忘れて、
ただ声が聞きたいということだけに支配されて、
私は画面に触れた。

『もしもし、ちーちゃん？』

「お疲れ様……なに？」

『ありがと……あの、おばあ具合は大丈夫そう？』

「うん、大丈夫。とりあえず、今日は私の家に泊めてるから」

『そっか……良かった。お世話になってごめんね』

「いいって。久しぶりにおばあに会えたし」

今日はここまで

ごめん、保守ありがと
モチベ停滞中につきもう少しおまちください

待ってます

応援してるぞのんびりやってくれ

>>99
>>100

待たせてごめん。停滞中に書いてた百合ss（完結済み）など見てお待ちください。

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生存報告です。
停滞中につきしばしお待ちを。

ハードボイルドに目覚めてしまったので、
それを終わらせてからこっちに来たいです
待ってるかたすまん

生存報告です。
停滞中につきしばしお待ちを。

生存報告です。ごめんなさい。
しばし、うづりんなどを読んでお待ちください

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凛「UZUKI？」
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446651448/)

【デレマス】凛「卯月崩壊」
【デレマス】凛「卯月崩壊」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447000266/)

生存報告です
待ってる方ありがとう
エタらせるつもりはないので
お待ちください

生存報告です

ごめん。A Rabbit's Life （オリジナル百合）が完結したらこっちに戻ります。

もう少しお待ちください
…ここも新天地に移されそうですね

小学生百合に目覚めてしまったのでもう少しお待ちください

すまん自己解決した
R覗くの忘れてた。あっちも常駐板にしないとｗｗ

>>145
このスレとうさぎ百合は移動してないけど、
今後、百合ssは全てRの方に投下します

保守
あと現行や最近のssのURL貰えると有りがたいです

期待せずにお待ちください

現行進行中スレ
妹「姉が必ず風呂場にいます」
妹「姉が必ず風呂場にいます」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471918837/)

もう一つの長編が終わったらこちらの続きを書いていきます。たぶん年内には終わるはずです。忘れた頃にまた覗きに来て下さい

A Rabbit's Life （オリジナル百合）が終われば書きたい。ちなみに、夜更けの影送り待ちながら、
A Rabbit's Life も待ってる方もすまん

待つよ

>>160～163
来年の1月中に再開予定です

一月...

>>168
今週の土日でA Rabbit's Life （オリジナル百合）を完成させる予定ですので、
書くとしたら日曜の夜くらいです。たぶん。

1年半も待って下さっていた皆さん、本当にありがとうございます。皆さんがいなかったら、とっくの昔に落ちていました。
浮気ssを全て消化しました。書き溜めないスタイルなので亀更新です。主に夜と日・祝に更新予定です。
遅筆のため、1レスにかかる時間はレスが短かろうが長かろうが、だいたい10～30分以上です。目安にしてください。

引き続きよろしくお願いしますー。

お酒を飲むと心臓がバクバクと破裂しそうになる時がある。
疲れた時とか、久しぶりに飲んだ時とか。
これもその類なんだと思いたい。

「でも、まさか一人で来てるなんてびっくりした。家出かと思った」

『家出って、ちーちゃんじゃあるまいし』

「……ちょっと、いつの話？」

『覚えてないのー？』

からかうような声。
そんな風に私の事を覚えていたことが嬉しくて、つい嘘をついてしまう。

「忘れた」

馬鹿じゃないか。
この人の前では、中学生もいいとこ。

『こっちは心配したんだからね……』

恨みがましい声音。
ごめんって。

私は素っ気ない返事を返す。

『でも……実際、家出みたいなものなのかな』

「え？」

『あ、ううん。なんでもないの』

何かあったのか。
他所の家庭のことだ。
他人が口を出すものじゃない。
私は、言及したくなる衝動を抑えて、かやに合わせた。

「それより、どう？　結婚生活は？」

聞きたくもないことをよくもまあ聞けるものだ。

『うん、慣れてきたよ』

「尻に敷いてるんじゃないの」

『しませんっ。私よりも、料理上手だし、お裁縫とかもできるし、色々凄い人なんだから』

惚気をいくつか聞かされ、自分の立場が無いという愚痴も一緒に吐かれた。

「かやにはもったいないね、やっぱり」

『強調して言わないでよー』

「幸せそうでなにより」

『ありがとう。あ、ごめんなさい静人さんが帰ってきたみたい。いったん、切るね』

「分かった」

『また、かけるから。おばあのことごめんだけど、よろしくね』

「うん」

任せとけ任せとけ。
こうなったら、おばあを私の味方につけてやる。
ゲスな顔で、携帯を切ってポケットに滑り込ませる。
そして、どっと疲れたことに気が付いた。
同じ姿勢のまま携帯を握っていた腕が固まって痛い。
腕を回す。

「はあ」

自動販売機の前のベンチに腰掛けた。
人物は老けるけど、思い出は奇麗なまま歳をとらない。
電話の向こうのかやに対して、大学生の頃の姿を思い浮かべてしまっていた。
声は、昔に比べたら落ち着いていたし、1トーン高くなった気がする。
まさか、久しぶりの電話で向こうも嬉しかったとか。
ないない。
そういう、想像で物を言うのはダメだ。
ポジティブなのは仕事だけにしとけ。

「帰ろ……」

ペットボトルの水をぐびぐび飲んで、飲み干して、
お腹をちゃぽちゃぽ言わせて帰宅した。

おばあはそれから無事愛媛に帰った。
平行線だった日常に吹いた小さな嵐はすぐに止んだ。
はずだった。
それから数日経った会社のお昼休みでのこと。

「聞いたわよ」

「は？」

課長が、久しぶりに連れいってあげると言われて来たパスタ屋で、家政婦の女のような顔で言った。

「何を？」

「元カノのおばあちゃんが帰ってきたって」

「ぶふぉっ」

「ちょっと、止めてよ！」

鼻からパスタが出そうになった。

「げほっ、げほっ」

「あら、本当だったの？」

嫌がらせか。

「あの、それどこで聞いたんですか？」

「ゆきちゃん」

「あいつ……」

いや、待てよ、そんなこと言ってない。

「から聞いてないわよ、ちょっと小耳に挟んだから、昔、あなたに聞かされた愚痴から推測しただけ」

「課長……」

今日はここまで

鼻の奥から数日前のふやけた麺が出てきた事がある

>>176
なにそれきちゃないｗ

そもそも愚痴なんて課長に吐いた記憶すらない。

「なーに、その記憶にございませんって顔は」

課長はフォークで私の顔を指す。

「酔っぱらって、さんざん泣き喚いてたくせに……あー、あの時のマネージャーったら、威厳もくそもなくって、あ、写メあるけど見る？」

「ええ、スマホ貸してください」

「何するの」

「トイレに流してきます」

「詰まるでしょお！？」

「冗談ですって。で、私が課長に何を話したって？」

と、念のためどこまで情報が漏れたのか聞き出しておかなければ。
彼女はスマホを鞄の奥にしまい込みながら、私のよく知る女性の名前を口にした。
かや。私の幼馴染みで、家庭教師で、元彼女。
凄く美人だとか、人目を惹くオーラがあるとか、そういうのとは無縁の普通の女性だった。
普通じゃないと言えば、中学生に襲われて喜んでいた事だろうか。
今思えば、ロリコン。年齢の差に多少壁を壁を感じなくなった現在、余計にそう思う。

「で、あんた最後に……中学生じゃないから興味無くなったんだって、言ってたのよ？」

「うわあ」

「私じゃなくて、言ったのちさとよ」

ちょっと眠気に勝てないので寝ます

続き乙です
楽しみにしてます

>>181～183
ありがとうございます。
色々と迷走すると思いますが良ければどうぞ。

課長は笑いながらお冷を飲み干して、

「でね、枕をこうぎゅっと抱き寄せて……中学生に戻りたいって……待って、だから言ったのあんただからね！？　怖い顔しないでよ！」

「すみませんね。元々こういう顔なんです」

「そんなんだから、いつまでも男に縁がないのよ。ほら、この間来てたイケメン支部長とかさ、あ、あんた顔じゃなかったっけ？」

「別に男に全く興味がない訳じゃないですけど、今はそういうのいいですから」

「今時、幼稚園児だって恋愛してるわよ」

いい加減イライラしてきたので、

「黙れ」

と仮にも上司に向かってドスを効かせるも、

「自己愛も程々にしないと、婚期逃すぞー？」

と軽く流された。課長はやっと自分のパスタに手をつけ始める。
パスタソースはやや乾いていた。
励ましているつもりなのか。
課長の表情を盗み見る。
分からない。
分からないけれど、とにかく、私は会社でさえ動揺を隠し切れていないということが分かった。

翌月になり、本社である福岡で各店舗の店長と営業所の所長、エリアマネージャーとの合同会議が行われた。
単なる数字上のすり合わせにしか過ぎないもので、あまり実のないまま終了。
会議終了後に、久しぶりに会った斎藤マネージャーが肩を叩いて私を呼び止めた。

「先月ぶりだね」

「そうですね」

一言そう返す。

「どうしたの？　前より、威勢が無いじゃん」

「そうですか？　いつも通りですけど」

「前の有馬マネージャーなら、あの会議の内容なら時間の無駄ですとか言いそうだけど」

「いや、いくら私でも……」

過去の記憶をたどる。
ああ、言いそうな気もする。
それより、自分もそう感じたなら何か打開策でも出せば良かったのに。
人の事は言えないが。

「それより、今日はゆきちゃんは？」

「オフィスにいますよ。何か？」

「や、挨拶だけでもと思って」

「いいですよ。気を遣わなくても」

「いやあ」

斎藤マネージャーの声が少し踊る。

「可愛いから、一目見てから帰ろうと思って」

何言ってんだこのアラフォー。

「いいよね？」

童顔の甘え上手な顔で聞かれた。
まさか、ゆきのことを気に入ったのか。

「構いませんよ」

「良かった。有馬さんに懐いてるからてっきり嫉妬されるかと」

「ただの後輩ですから、気にしてませんよ」

嫉妬はないが、胡散臭いこの斎藤マネージャーをゆきに近づけさせるのはやや心配ではある。
あの世間知らずをからかってやりたい気持ちも分かるっちゃ分かる。
今までも下心ありきで近づく男性社員は何人か目撃していた。
とは言え、斎藤マネージャーは良い歳した女性なのだ。
何が起こるとも思えない。
思えないけれど、男に比べ女は何を考えているか分からないから怖い。
牽制の意味を込めて、私は彼女に笑いかけた。

「こちらです」

背中を丸くしつつ、パソコンの画面と睨み合うゆきが見えた。

「ゆき」

私が呼ぶと、犬のようにパタパタと駆け寄って来た。
隣にいた斎藤さんに気付くと、ぺこりと頭を下げる。

「こんにちは。斎藤さんも会議に出席されてたんですね」

「めったにこっちは呼ばれないけどね。今回は視察もあったし特別」

「じゃ、私戻りますね」

斎藤さんに軽く手をあげる。

「うん、ありがとう。有馬さん」

ゆきと斎藤さんを背に、私は自分の持ち場へ戻る。
斎藤さんに慣れていないゆきがこちらを横目で追いかけたのが分かった。
知らんわ。適当にあしらって帰ってもらえ。
私は小さく首を振って、席に着いた。

昼からは社外の施設で資格試験の面接官が風邪を引いたとかで代役を頼まれていた。
お昼は移動中の車内で済ませた。試験会場に向かう途中で、ゆきからラインが入っていた。
内容は、斎藤さんから今夜ディナーに誘われたので、一緒に行ってもらえないかというものだった。
どうしてわざわざ私の許可が必要なのかと返した。
すると、ふてくされたようなスタンプが返って来た。
駐車場でしばらくゆきの返信を待った。
と、電話がかかってきた。
めんどくさい。

「もしも……」

『マネージャー……っ』

頼りなさそうな声。

「なに」

『二人きりになるの苦手なんです……』

「カウンターがあって、よく喋る店員がいる店あるじゃん。そこ行きなって」

『いいんですか、それで』

「いいよ、別に」

『私は良くないですぅ……』

「大人なんだから、自分でなんとかしなよ。これから、誰かに誘われるたびに私がついていかなきゃいけない？　いやあ、ないわ」

数秒、無言。
怒ったか。
分かりました、と小声。
電話が切られる。
ラインのメッセージに、マネージャーのバカと浮かび上がった。
失礼な奴。
仮に、斎藤さんが良い人だったら。
ゆきのいい相談役になってくれるかもしれないじゃん。
良い人だったらの話だけど。
とぼけた顔で、何か企んでいるのか。
いや、関係ない。
自分で種を撒いておいて、後ろめたいって？
そんなことはない。
酷い人間だということくらいよく分かっている。

夜はいつも通り、社会人バスケの練習に向かった。
とにかく体を動かして汗をかく。そしてシャワーを浴びる。
それだけで、今日一日がリセットされるようだった。
流れてもまた同じように汗をかくだけだとしても。

先月から、携帯の画面を見る回数が増えていた。
見ないようにしても、つい着信はないかと考えてしまっていた。
ソファに座り、イヤホンを耳に当て、目を瞑る。
店長の声は、凄く落ち着く。
この間会った時は驚いた。
人は数年であんなに老け込んでしまうものなのか。
恰好つけてコーヒーを淹れる彼を見ることはきっともうできないのだろう。
そう思うと寂しい。
でも、相変わらずハーモニカを弾いている。
それには安心した。
こうやって、きっとしがみつくものを探しているのだ。
私を置いていくことのない何かを――。

海の向こうに消えてしまわないように。
小一時間ほどうたた寝してしまった。
インターホンの音でびくりと体を揺らす。
壁掛けの時計は夜9時を回っていた。
携帯にはゆきからの着信が入っていた。
恐らくゆきだろう。

「はいはい……」

扉を開けてやる。

「どーも」

斎藤さんと、その背にゆきが背負われていた。

「近かったから送ってきたけど……一緒に住んでたの？」

「いや、ここは私の部屋で、ゆきは別の階に住んでます」

ゆきがもぞもぞと背中を降りた。

「ちさとさん……」

自重を支えきれなかったのか、かくんと足を折った。
斎藤さんと私とで、とっさにゆきを支えた。

「はあ、じゃあいったんお預かりします」

「あ、ああ」

「安心してください。何もありませんから」

さすがに斎藤さんは笑っていなかった。

「健気だね」

と言い残して去った。
もっと食いついてくるかと思った。
あっさりとしたものだ。

「ゆき、立って。自分で歩け」

玄関で行き倒れる彼女の尻を引っ叩く。
きゃうんと小さく鳴いていた。
靴を脱がせて、とりあえず廊下の中央まで引きずる。
斎藤さんは案外力があるんだな。
ここまで、背負ってくるなんて。

「死ぬほど飲まされた？」

部屋で何かするつもりだったのか。

「斎藤さんの……間違って飲んじゃった……強いやつ」

「バカじゃないの」

「はい……そうです。バカです」

「廊下でのたれ死ぬのはいいけど、バカでも風邪ひくよ」

「ちさとさんに……移してから死にます」

「……キンチョールどこだっけ」

自室に戻って探していると、

「起きます……起きますから」

と、背後で涙声が聞こえた。

「何か飲む？」

「ぎゅうにゅう……」

赤ちゃんかお前。

「温かいの？」

「温かいのです」

私が先ほどまで座っていたソファにうつ伏せで寄りかかっている。
ごそごそと手を動かして、イヤホンを耳に差し込んでいた。
酔うと何するか分からんやつ。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、二つのコップへ注ぎハチミツをちょっとだけ入れて電子レンジへ。
１分弱程で良い香りが漂ってきた。

「はい、ちょっと熱いよ」

マグカップを机に置いてやる。
のそりとこちらを向いた。
首を揺らしながら、にこりと笑う。

「良い香りがします」

赤い顔は、先ほどよりも少し薄まったみたいだ。
両手で持って、一口飲んで、口の周りを白くさせていた。

「それ飲んだら帰れ。私は風呂入ってくる」

一気に飲み干し、唇をぺろりと舐めた。
バスタオルを掴んで立ち上がる。
返事はなかった。
脱衣所で服を脱いでいると、ペタペタと足音がした。
振り返る前に腰に抱きつかれてしまう。

「風呂入るから、邪魔」

「なんで何も聞かないんですか」

聞けるような状態か？
と言いたくなった。

「興味ない」

「……そうですか」

上半身裸のため、ゆきの体温が温かった。

「嫌な気持ちとか沸きませんでした？」

少し震える腕が、私の胸の下に吸い付くように巻き付いている。

「私を嫉妬させるために、着いて行ったの？」

「そうですよ」

「相手は女の人だけど」

「でも、ちさとさんが好きになる人は女の人ですよね」

彼女吐息が背中を撫でる。
産毛が逆立った。

胸の所まで伸びた手の平を掴んだ。
体勢を変え、ゆきの体を壁に押し付け、

「いいや、私は私が一番好きだよ」

ゆきの唇にキスをする。
熱を帯びてとても熱い。
さっき飲んだハチミツ入りの牛乳の味がする。
きっと互いにそう思ったに違いない。

「満足？」

こうやって、私はいつも調子に乗って人を傷つける。
自覚はある。
ゆきは壁伝いに廊下に座り込んだ。

「ごめんなさい」

可愛い後輩だよ、お前は。
でもそれ以上にならない。
そうならないから、簡単にキスができてしまう。

「あの時みたいに一緒に入る？」

ゆきはそれには首を振った。
私の表情を確認するように、顔を上げる。
可哀想なやつ。
どこか他人事のようにそう思った。
いや、そう思わなければやってられなかっただけだった。

次の視察の時期が課長から伝えられたのは、次の日の事だった。
早くて今月中旬ということだ。
次の視察の同行者は、自己推薦もありとのお達しが出ていた。
が、自分の仕事を増やそうとする人間は少ない。
結局、課長がまたゆきを推薦した。

彼女がどう思っているかは分からないが、仕事だと割り切って着いてくるだろうか。
腹の内を探れぬまま数日が過ぎた。
知らなければどうと言うことはない。
憶測で物を考えて負担を増やす必要もない。
言わないなら、ないのと同じ。
共感性の欠如って奴だろうか。
最近読んだ自己愛に関する本に載っていた。
そういうこともある。
それだけだ。

「まだ仲直りしてないの？」

視察にあたり、社長から有難いお言葉を頂くためエレベーターに課長と乗り合わせた時のこと。

「別に喧嘩したわけじゃありませんよ」

「ゆきちゃん、ちょっとメンタル弱いでしょ？　ちゃんと見てあげてね」

「子どもじゃないんだから」

「でも、前の事件のこともあって、入社してからまだ間もないのに色々気が張ってると思うのよねえ。てなわけで、はいこれ」

スーツのポケットに温泉宿のチケットをねじ込んだ。

「二人で行ってきたら。次の日休みだし」

はあ？

「あ、今、はあ？　って思ったでしょ」

「そりゃそうでしょ」

「なに、なんか後ろめたいの？　分かった、じゃあ、こうしよう。もう一枚あるから」

もう一枚を反対ポケットにねじ込んでくる。

「元カノ誘いなさい。それで白黒つけておいで」

今度こそ私の心の声は漏れたのだった。

今日はここまで。
ありがと。

社長室を出て、熱いコーヒーを一口飲んだ後、課長から譲り受けたチケットを片手にラウンジのソファに腰掛けた。
このくらいの時間帯になると、たまに休憩にくる人物がいる。ゆきのことだ。
案の定、コーヒーを買いに来たゆきと鉢合わせた。
昨夜の事を恨んでいるせいか、一言も話そうとせず缶コーヒーを買って、私から離れたソファにどすんと座った。
後頭部だけ、ソファの背からのぞかせて。

「お疲れ様」

彼女に背を向けて私は言った。

「お疲れ様です」

プルタブをこじ開ける音。
あれを飲み干すのに、2分くらいかかるだろうか。
そんなつまらないことを考えた。
どうして私が気遣わなくていけないんだ。
こういった、めんどくさいことは嫌いだ。
人と関わると、どうやったって優しくしなきゃ回らない時がある。
死ぬわけでもないのに、しなくたっていいのに。
まあ、でも。
これはほとんど自分のためでもある。

「ゆき」

返事はない。

「次の視察の翌日空けといて」

私はそれだけ言って、缶をゴミ箱に放り込んだ。

さて、もう一枚は。
小休止を終え、パソコンの前で作業しつつ頭の片隅で考える。
なぜか斎藤さんの顔が浮かんだ。
そういう手もあるか。
となると、またゆきに怒られるな。
しかし、課長の目論見通りにするのは癪に障る。
違う自分は、かやを誘えばいいと言う。
ずっと会いたいと思っていたんだろう。
会えばいいじゃないか。
白黒つけて、傷ついて、途方に暮れて、ゆきに慰めてもらえばいい。
都合の良い後輩を連れていけばいいじゃないか。

マウスをクリックしていた指が止まる。
視線を感じた。
ゆきの方を見た。
下を向いて作業している。
気のせいか。

そんな簡単にケリがつけれるものでもない。
もしかしたら、一度に二人の人間の信頼を失うかもしれない。
その方がいいんだろうか。
わざと見限られるのはどうだ。
情けない人間という烙印を押してもらえばいいじゃないか。
そうしたら、もう近づくことも近づかせることもない。
しがみついて一緒に海の底に沈む前に。
一つの選択肢だ。
実践するかは、分からない。
私の頭の中だけに存在するパラレルに過ぎない。
その日は、やたら肩が凝った。

寝ます。

少しお待ち下さい。

大変申し訳ありませんトラブルがあったので、VIPのスレで書くことが難しくなりました。
楽しみにしてくださっていた方、そのうち改めてどこかで続編を書けたらと思ってます。
今後、VIPへの書き込みはしません。ありがとうございました。

お久しぶりです。このssの今後の展開をダイジェストでブログに載せました。
このスレはHTML申請しますので、読んで下さっていた方は、良ければ下記から入って補完してもらえたら嬉しいです。

http://blog.livedoor.jp/kusakayosituki/archives/1669204.html

感想や質問などあれば良ければブログのコメントにご記入ください。
今後、私のssは全て上記のブログに書かせて頂きます。
良ければ、見に来てください。
ありがとうございました。

夜更けの影送り百合ver

夜更けの影送り百合ver (209)

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