私の世界を壊すキス (130)

百合
唐突に終わったらごめん





艶やかな黒。
彼女は綺麗な瞳をしていた。
思わず、人差し指で突刺してしまいそうになるくらい。
実際、このタイミングで突刺しておけば良かったのかもしれない。

「えっ……」

「ごめんなさい」

頭を下げた。
このクラスメイトにそんなことをされる覚えはなかった。
長くふわりとした髪がはらはらと重力に従った。
なんで謝るの?
と理由を尋ねる前に、彼女は私の唇を奪った。
周りにいた同級生が叫んだ。
えー! とか、うそー! とか。
いやいや、それこっちの台詞だから!
教室の後ろで花の水の入れ替えをしていた私は、思わず花瓶を落としてしまったのだった。

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「ねえ、今どんな気持ち?」

お昼休み。
中庭で膝に顔を埋める私に、この騒動の主犯が言った。

「……」

私は沈黙した。

「面白くない」

横腹を軽く殴られた。
空気がせり上がってきて、せき込んだ。

「江梨香、転校生面白いよ? バカなくらい言うこと聞いてくれた。あんたは、最後まで聞かなかったのにね」

頭を二度程叩く。
足音が徐々に遠ざかっていった。
この人間以下のくそ女。
ボキャブラリーが乏し過ぎて、上手く貶せない自分に腹が立つ。
膝に向かって心の中で思いつく限りの悪態を吐いた。
馬鹿。
阿保。
害悪。
豚。
気持ち悪い。
気持ち悪い言葉を考えると、自分も気持ち悪くなった。

首筋がひやりとしてきて、私は漸く顔を上げた。
周りには誰もいなかった。
立ち上がる。
教室に戻りたくない。
あの転校生が、くそ女の指示に従って仕方なくあんなことをしたのだとしても、
こんな最悪な状況を作った二人が非常に憎い。
憎しみで人を病院送りにできたらいいのに。

授業をサボりたいけれど、サボる方がよっぽど勇気がいる。
高校の正門をくぐり抜けることなんて自分にはできない。
あのくそ女に仕返しすることも。
言い返すことも。
自分にはできない。

戻ってきて教室の扉を開くと、やはり数人の女子はこちらをちらちらと盗み見てきた。
その視線を避けるように背中を丸めて、私は席に座った。
転校生――杉原ゆうは自席でうつ伏せになって縮こまっている――と思ったのに、
あろうことかあのくそ女――南合と同じグループでへらへら笑っていた。

なぜ!
どうして?!
私は全く理解できずに、かと言ってそちらに視線を送って気づかれていちゃもんをつけられるのも嫌なので、
机に突っ伏して、脳内で叫んだ。
杉原さんは、もしかして被害者ではなく加害者なの?
彼女の可愛らしい笑い声が聞こえて、思わず拳を握る。
無理矢理南合に命令されて、クラスのみんなが見ている中キスしたんじゃないかって思ったのに。
それでも許せないのに。
さらに上をいくの?
転校生の罪、滅茶苦茶重い。
裁きたい。
そんな勇気ないけれど!

とは言っても、今週はあと数回は覚悟しなくてはいけない。
今月に入ってこのいじめのルールも分かってきていた。
月に何回か、ランダムで対象を選ぶ。そして、南合は自分の思いついた遊びを選出したクラスメイトにさせるのだ。
命令に背いた者は、される側に回る。それが1週間は続く。
今週は先月転校してきた杉原さんと私が選ばれたというわけだ。

杉原さんは、でも、完全に私の敵。
同情の余地なし。
だからと言って、彼女に報復できるわけではないけど。
周りのクラスメイトも南合が怖くて何も言えない。
庇って欲しいと思ったこともあったけど。
自分だって、やろうと思ってもできないから期待はしなかった。

転校生が目をつけられたのは、たぶん、ちょっと可愛いからだと思う。
だって、南合はブスには一切興味ないのか、話しかけすらしないのだ。
なので、南合のグループの女子は南合の気に入った女子しかいない。
南合マジで病院送りにしたい。

放課後。適当に入ったバスケ部をお腹が痛いのでと断ってズル休みした。
精神的にはけっこうお腹が痛くなってもおかしくないのに。
なぜか健康優良な体が激しく憎い。
私を病院送りにしたい。

家に帰る前に、いつものゲーセンに立ち寄った。
メダルとかシューティングとか色々古臭いのもあるけど、
やるのはただ一つだけ。
名前は知らないけど、瞬発力を測るゲーム。
100個くらいあるボタンが光るので、光った所を素早く手で押していくのだ。
一番最初は、仲の良かったクラスメイトと来ていたけど、
南合の最初の標的にされた私の唯一の友人は家に引きこもってしまった。
だから、今は一人でこれで遊んでいる。
最初は60代の瞬発力だったけど、今では30代に上がった。
そのうち、動いている蜂を捕まえることが出きるやもしれぬ。

これのコツは、光ったと感じた瞬間にそっちの方向を見ずに直感で手をさっと出すこと。
そう説明した時、友人は理解不能だと表情で語られた。
だからね、こう、さっとね、と繰り返しても友人の結果は80代から変わらなかった。
二人で対戦するモードもある。
それは、けっこう楽しかった。
もう、やってない。
というか、できない。
このゲーム、20円でできるんだけどね。
経済的だし、健康的でいいゲームなんだけどね。
ばしばし、と今日もソロゲー。
なんか最高記録出そうな予感。
あ、ダメダメ余計なことは考えるな。
指先に集中し――。

「え、江梨香さん」

「ん?」

私はつい振り返ってしまった。

振り返った5秒後くらいに、ブザーが空しく鳴った。

「あ」

目の前に杉原さんがいたことより、最高得点を逃したことがショックで、
その場にへたり込んだ。なんてこと。
今日の得点は40代だった。

「ごめんなさい……」

見上げる。
教室で謝った時のように、腰をかくんと曲げていた。

「あ、別にいいよ」

いいわけあるか。
これに人生かけてるんだから!

「20円だし……」

「あの、払うよ」

20円払って何とかなるって思うなんて。
どうかしてる。

「いいよ。それより、何か用?」

「江梨香さんが入って行くの見えたから……それで、つい」

「南合のグループの奴らに見られたらさ、また何かされるよ」

私はもう少し続けたい気持ちを抑えて、鞄を掴んだ。
正直、今日はこの子と話す気分じゃない。
というか、よく話しかけてこれるなあ。
自分がいじめられてるって自覚ないのだろうか。

「きょ、今日の、あの、その」

彼女はまだ私を引き止めたいらしい。

「今日の?」

まさか、謝りに来たのか。

「喜んでもらえた?」

ううん?
ちょっと、今、このお嬢さんなんて言ったのよ。

私が呆気にとられていると、また、ごめんなさいと謝った。

「喜ぶって、キスのこと、言ってる?」

私は自分の言葉を疑わし気に吐いた。

「うん」

うん、じゃないよ。うん、じゃ。
え、じゃ、なに?
あれは、私が喜ぶと思ってやったの?
南合の命令とかではなくて?

「南合さんが、そしたら友だちになってくれるよーって……」

「え、バカ? バカなの?」

「ち、違った?」

急に慌てた様子。
待って、これじゃあ私が悪いみたい。
なんで、そんな恥ずかしそうな顔を、今さらする?

「おかしいでしょ? 普通に考えて、あり得ないでしょ?」

「そ、そうだね」

嘘臭いへらへら笑いをした。
こいつは、本気で信じていた口だ。

「地域によって、友だちの作り方違うのかなって……思って」

「あんたは、アマゾンの奥地からの帰国子女なの?」

彼女は素早く首を振った。

「そんなんじゃないけど」

頭がスポンジできているのかな。
関わるとろくなことにならなさそう。

「あの、悪いけど、私あなたと友だちになる予定はないです……」

申し訳なさそうなのが伝わるようにか細い声で言った。
こんな変な人と友だちになりたくない。
あと、いじめ反対。

「じゃ」

「江梨香さんっ」

まだ何か言いたそうだった空気を読まずに、私は逃げるようにゲーセンを後にした。
良い子なんだろう。
180度振り切った感じの。
家に帰って、思い出したように私は顔を洗った。
夕食後は、引きこもった友だちのツイッターを確認。
『生きてる』。
とかって、危うい呟きを毎晩一回だけこいつはしていた。
ツイッターのアカウント名は、『ひきた天功』。
なら、さっさとそこから出て来いと言いたい。
友の生存確認を終え、ベッドへどさりと転がった。

そういえば、あの子、私と友だちになりたかったの?
まさかね。

たぶん『友だち』って言う呼称の別の何かと勘違いしてるんだ。
自分でも何言ってるのか分からないけど。
きっとそう。
あー、明日も憂鬱。
帰りにゲーセン寄ろう。
いや、部活行かないと怒られる。
やっぱり、部活。
でも、バレー部の南合が隣のコートにいるのは憂鬱。
視界に入れないように気をつけよう。

「ああー……」

高校ってこんな狭苦しいとこだったかなあ。
別にここで生きてるわけじゃないけど。
綺麗な空気を吸いたい。

翌日。キスはなかった。
代わりに、私の隣の席に杉原さんが座っていた。
そこは南合の席だったはずだけど。
私は数秒程杉原さんの顔を凝視していた。

「あの、教科書忘れて」

杉原さんが、へらへらと言った。
杉原さんの席を見た。
南合が座っていた。
あの、一体何を企んでるの?
と、言うこともできない。
私は溜息を小さく吐いて、教科書を広げた。
南合の笑い声が背中を舐めた。
何がおかしいの。
先生には聞こえないのか、授業が続く。
杉原さんを横目で確認。
こっちを見ていた。
目が合った。
へらへら笑っていた。
グーパンしたかった。

授業後に、南合に捕まった。
女子トイレ。
個室に入る前に、捕まった。
トイレに行かせて欲しかった。

「……」

相変わらず、私は無言。

「教科書見せてあげるなんて優しいね」

まあ。

「うちの親が言ってたんだけどさ、あの子のお父さん人刺してるんだって」

うん。
何、刺身?
私は俯いたまま――いや、驚いて顔を上げてしまった。

言葉の意味が時間差で理解される。

「やっと顔上げた」

南合の釣り目が視界に入った。
今日は視界に入れないDayにしたかったのに。最悪。

「うちのお父さんと悠のお父さん、同級生らしくって。ほんと、偶然らしいけど。一回さ捕まってるんだって。怖くない? しかも、女関係の恨みとからしいよ」

「へ、へえ」

さすがに動揺した。
南合は私の反応に満足したようで、にやりと笑った。

「だからさ、転校してきたんだよあの子。仲良くしてあげないと、後ろから刺されるかもよ」

それは確実に私ではなく、お前だよ。

「気をつける……」

「お父さんが犯罪者だってばらされたくなかったら、私の友だちになってって言ったら、悠さ、すぐにうんって言ってくれたの」

何が言いたいのか。

「江梨香も早く素直になってよね」

早く奴隷になれってことかな。

「あのさっ」

私は、やっと南合の話に割って入ることに成功した。
南合と顔を合わせることができず、鏡を横目で見た。
南合は私の前頭部辺りを見ている。

「トイレ、行きたいから」

尻すぼみになっていく言葉。
どうして堂々と言えないんだろう。

「ああ、ごめんごめん」

南合は私の腕を離して、スカートを翻した。

彼女がいなくなってから、奥の個室で水が流れた。
さっきの会話聞かれただろうか。
まあ、どうでもいい。
私には関係ない。
どうでも――。
個室の扉が開いた。
出て来たのは、杉原さんだった。

「あ」

私は狼狽えた。
罪悪感。
待て、私は聞いただけで、何もしてない。
勘違いだ。
普通通りでオッケ。

「聞こえた?」

なんで確認しちゃってるの私。

「うん」

ごめん、と言うのも違う。
何も言うべきじゃない。
何も分からないのだから。
私は、真実かどうかも不明なことを聞いただけ。
曖昧なもの。

「ごめんなさい」

杉原さんが腰を90度にして謝った。

「え、なんで」

「友だち……って、あの」

「脅されてしたんでしょ」

そんなことだと思った。
酷い理由だけど。
彼女は恐る恐る顔を上げた。
いつもよりもへらってないけど、笑っていた。
どういう神経してんの。

「分かってたし」

杉原さんの横を通り抜けて、個室に入った。
携帯を素早く出して、友だちのツイッターを見た。
『生きてる』。
それをチャイムが鳴るまでずっと眺めていた。

今日一日、杉原さんはずっと私の隣にいた。
南合の目のない所で、私はこっそりと尋ねた。

「あのさ、今日もしかして一日中隣にいろって言われてるの?」

杉原さんは音もなく頷いた。
おーおー。
あの女。
無茶苦茶言って。
お昼ご飯はいつも中庭に行って食べる私は、彼女に尋ねた。

「弁当? 購買?」

彼女はお弁当をそっと取り出し、へらっと笑った。
外に出て、いつものベンチに腰掛けた。
特に喋ることもないので、自然無言。

「……」

気まずい。
外の陽気も淀みそうな気まずさ。

仲良くなりたいわけじゃない。
とりあえず、社交辞令として喋る言葉を探した。
その間に、

「江梨香さん、私のお父さん……あれ、本当のことなの」

と補足説明をしてくれた。

「あ、そ、そう」

「でも、刺さないから、私」

「う、うん」

声はわずかに震えていたように思う。
太陽も逃げ出したくなる淀みが漂っていた。

「あ、でも、南合は全然オッケーていうか……」

私は口を抑えた。
杉原さんは目を少し見開いて、箸で掴んでいたブロッコリーを落下させていた。

杉原さんと多少話している内に、彼女のことが何となくわかってきた。
私と同じで気弱な性格みたい。
孤立するのが怖くて、南合に引っ付いてみたものの、
逆に利用されてしまい、困惑しているらしい。
おまけに脅される始末。
つくづく、この子は運がないなと話を聞いていて思った。
南合は何を考えているのか、杉原さんをいつまでも放置していた。
私自身は杉原さんのことを段々と憎めなくなっていたけれど、慣れただけかな。

いつまでも一緒にいたい訳ではなかった。
なにせ、いつ南合の遊戯のダシに使われるか分かったものではないから。
仲良くなって、仲違いさせられたら嫌だし。
だから、私は彼女にある程度距離を置いて話すよう意識した。
杉原さんはそれに気づいていないようだったけど。
あえて言うこともない。

その日は部活にちゃんと出て、汗だくになった体でゲーセンに向かった。
100円を10円に両替して、お気に入りのゲームに20円を入れた。
深呼吸して、ボタンに向かって何も考えずに直感で手を伸ばしていく。
久しぶりにやるけど、思考がだんだんクリアになっていく。
これは、高得点が狙えそう。
ラスト2秒。1秒。
そして、最後のラッキータイム。
得点は――過去最高!

「っしゃ」

パチパチ、と拍手。
え。

「すごい……。この間、私80代だった」

「杉原さん」

「あ、ごめんなさい」

また、謝ってる。

「もしかして、着けてきた?」

「う、うん」

「なんで」

「私、江梨香さんの友だちになりたくて」

「それさ、一応忠告しておくけど、南合の思うつぼだよ? 仲良くなって、後でまた壊されたりしたらたまんないでしょ」

「その時は私が……」

私が?

「ううん……」

言いかけて止める。
どうしたんだろう。

いったん抜けます

「あ、刺すの?」

「違うよっ」

頭を犬みたいに左右に振った。

「私が、なんとかそうならないように頑張る」

「それは、頑張ってください……」

我ながら他人任せ。
私が納得してないと分かったのだろう。
彼女は切り口を変えて、

「じゃあ、ここでだけでいい、から」

「ゲーセン?」

「うん」

私の聖域で、誰かと一緒にいるって苦痛なんだけど。
うんともすんとも。
でも、正直に言わないと今後困るのは自分だ。

「ここでってのは無理」

杉原さんは明らかにショックを受けた顔をした。

「杉原さん家」

「え」

「杉原さんの家限定、でどう?」

「気にしてないの?」

「何を?」

「あ…ううん。それでいいなら」

何とかプライバシーを保護できた。

急にやってきて、いじめの対象になって、お友だちごっこをしたがる杉原さん。
ちょっと辟易。
私は今のままでも良かった。
ツイッターでたまに生存報告する友だちがいればそれで。
杉原さんの家に行かなければ、今まで通りの生活を送れる。
そ、行かなければいい。

ゲーセンの帰りに、彼女に誘われたけど、今日は用があるからと断った。
それからも何度か誘われたけど、私は拒み続けた。
また、壊されたりしたらたまんないでしょ。

いったんここまで
おやすみー

杉原さんの誘いを断り続けた結果。
何が起こったかと言うと、南合がしゃしゃり出てきた。

「ね、江梨香、ゆうの誘い断り続けてるんだって?」

「……」

私は何も言わず首を縦に小さく動かした。
それが、どうした。

「ひっどーい。ゆうは、江梨香の友だちになりたいって言ってるのにさ。あんた、刺されるよ?」

南合は教室中に聞こえるように、わざと大声で言った。
私とゆうどちらも支配しようとしているのが見え見えだっつーの。

「あ、あの南合さん、私そんなに気にしてないよ……」

ゆうが遠慮がちに笑った。

「えー、気にしてないって顔じゃないじゃん?」

「そう、かな……」

「そうだよー。傷ついたなら、ちゃんと言わなきゃさ」

目の前で行われる茶番をひっくり返せたらどんなに気持ちが良かったか。
そんなどんでん返しができる訳もなく、

「……今日、空いてるから」

私は、低い声で唸った。

少し肌寒くなってきた帰り道。
まるで、後ろから南合に監視されているような圧迫感。
不快。
振り返っても、誰もいないと知っているけど。

「杉原さんさ」

「あ、ゆうでいいよ」

「……ゆうはさ、腹立ったりしないの」

「南合さん?」

「うん」

良かった。
南合って通じた。

「……そういうのはないけど」

ないの?
驚いた。

「前のとこよりもだいぶマシだから……いいかなって」

「前って、前の高校?」

「うん、それも含めて」

「へえ……」

地雷踏んだ。
重苦しい。

と、感じているのは私だけだろうか。
なにせ、彼女は一切迷惑そうな顔をしていないのだ。
ただ、前に何があったか深くは聞けなかった。
まあ、それで良かったと思う。
彼女に感情移入したくないし。

「ここ、お家」

木造平屋。
同じような家がいくつか並んでいる。
ポストだけは、やたらオシャレ。
ヨーロッパとかにありそうなの。
玄関を開けると、靴が無かったので、誰もいないのかと思ったけど奥の方から足音。

「ただいま」

「おかえり、ゆう」

母親かな。
白髪交じりで、60代後半くらい。
少し背中が丸くなってる。
右ひざが痛いのか、歩きずらそうに引きずっていた。

「ただいま、おばあちゃん」

あ、おばあちゃんね。
やたら老けてると思った。

「どなた?」

おばあちゃんが尋ねた。

「同じクラスの江梨香さん」

「そうかい、ゆう、冷蔵庫の奥にケーキあるから切って出してあげなさい」

「うん」

ゆうは、私の足元にスリッパを出して、パタパタと奥へ向かった。
姿が消えてから、

「あ、玄関の右側私の部屋だからね」

と声が聞こえた。

「お邪魔します」

言って、靴を脱ぎかけた所で、おばあちゃんが私の両肩に手を置いた。

「悪いことは、言わん。帰り」

「え」

「ゆうには上手く言っておくから、はよ帰り」

ぐいぐいと体を押された。

「ちょ、ちょっと、あの」

こっちだって来たくて来たわけじゃない。
だからって、この対応は想定外。

「離してください、なんでですか」

帰れと言うならそれはもう喜んで帰るけどさ。
やれ行け、やれ来い、さあ帰れとなるとさすがにやり切れない。

「あの子に、友だちはいらん」

「友だちとかじゃなくて、ただのクラスメイトです」

「同じことよ」

同じじゃないし。
その間の壁は厚い。

「だから」

「何か企んどるんやろ」

「はい?」

「あの子の連れてくる子は、ろくなのがおらん。目が腐っとる」

失礼なばあさんだな。

向きになって、ばあさんの言うことを否定する理由はない。
が、ばあさんの言葉にささくれ立っている自分もいる。

「おばあちゃん、ケーキ切れたよ」

ケーキを二つ、それと紅茶を二つ盆に乗せたゆうが言った。

「ああ、はいはい」

ばあさんが返事する。

「お邪魔します」

私はばあさんの横を通り、ゆうの部屋の扉を開けてやる。

「ありがとう、江梨香さん」

ゆうの後に続いて、私は彼女の部屋に滑り込んだ。

眠いのでここまで

ばあさんの怪訝そうな顔を肩越しに見やって、素早く扉を閉めた。

「どうしたの?」

ゆうが首を傾げた。

「変なばあさん」

「おばあちゃん? ちょっと、頑固な所あるけど優しいよ」

ショートケーキを私の前に差し出しながら、ゆうは言った。

「ろくなのじゃない、目が腐ってるって言われた」

確かに超絶美人ってわけではないけど、
初対面でそこまでボロクソに言われたことはない。

「ええっ……また」

「また?」

「家に誰か連れてくると、だいたいそうやって……門前払いされた子もいて」

「あんたのことが大切なんでしょーよ」

「私は、大丈夫だって思ってお家に来てもらってるんだけど、なかなか信じてもらえなくて」

「ゆうさ、学校でのことちゃんと話してるの?」

「それは、話してないけど」

「じゃあ、いつまでも心配し続けるだけかもね」

こんなに騙され易いんだから、おばあさんの態度にも頷けてしまう。

「すれ違ってるなって感じるけど、私は騙されたなんて思ったことないよ」

「思わないようにしてるだけじゃないの?」

そんなの、悪意に向き合いたくなくて、逃げてるんじゃない。

「南合さんは……こんな私にも話しかけてくれる、傍にいてくれる。それだけでありがたいことだもん……それだけで。戸惑うこともあるけど、些細なことだから。お父さんが家にいられなくなってしまった時より、私……すごく居心地いい」

あの状況を居心地がいいなんて。
頷けずに、言い返す言葉もなく、私は紅茶を一口飲んだ。
でも、それってこの家庭の、この子の問題。
何も迷っていないならいいじゃない。
そもそも、私は干渉するつもりはなかったし、
私自身そんな余裕は――ない。

「ねえねえ」

「なに」

「江梨香さんは、どうして南合さんのこと避けるようになったの?」

普通の人は、あの女に近づきたいって思わないんだって。

「私は……」

ゆうが私の顔をじっと見ていた。

「大切な友だちを壊されたから……」

携帯を握りしめる。
みしりと音を立てた。

「前も、言ってたよね? 壊すって?」

「聞いたって胸くそ悪いだけよ」

「私にも教えて欲しい」

「やだ」

「お願い」

「そこはさ、言いたくないことならいいよって遠慮する所じゃない?」

「遠慮しないのが、私の良い所なんだ」

「自分で言うかな」

「えへへ」

水に浸かったトイレットペーパーみたいな顔で憎たらしい微笑みを見せる。
言うくらいはタダか。
はあ。

「聞いた後で、同情くさい言葉を言ったら殴るから」

「うん」

同情を買うために話すわけではない。
でも今のそういうフリみたいになってたら嫌だな。

「南合とさ、私の最初の友だち――天子って言うんだけど、二人は付き合ってたの」

天子(てんこ)。
あんたの話するけど、どうせ出てこないから関係ないでしょ。

「南合はもともと女王様気質な所があって、天子は性格的に下僕っぽい感じだったから、噛み合ったんでしょうね。付き合い始めた時は不安しかなかったけど、二人の話を聞いてる内に、ちゃんと青春してるんだって思うようになった。女子高だし、女同士でって珍しい話ではないから、周りもそれほど囃し立てたりはしなかった。順調に仲を深めてる、そう私も思ってた」

ゆうはいつの間にか、正座していた。

「でも、南合がある日急に取り巻きを作るようになって、天子もその一員だとかって言い始めた。南合はさ、一人じゃ満足できなかったんだよ。天子は南合だけだったのに。天子は南合に愛想を尽かすことはなかったけど、距離を取った。それがいけなかった。南合は天子に嫌われたと思ったのか、天子を徹底的に叩いた。天子はもともと南合に逆らえるタイプじゃなかったし、教室に入れなくなるまでそう時間はかからなかったよ。今じゃ、私の友だちは立派に引きこもってるってわけ。そういうのもあって、南合と話をするのも同じ部屋にいるのも正直嫌だし、南合と一緒にいるあんたも嫌」

ゆうは小さく頷いた。

「天子には早く学校に戻って来てほしいけど、南合を消すくらいしないとね。そうそう、南合を刺して欲しいって言うの、あれ本当だから」

私は言い終えて、ケーキを一口食べた。
いちごが甘酸っぱい。

「これ、美味しい」



「南合が消えれば、あの教室には平和が訪れるって信じてる。友達は毎晩自分のツイッターに生存報告するの。天子はこのままずっとそんな生活を送るのかなって考えたら――」

考えたら、やっぱり殺意しか沸かないよね。

「――考え始めたら、南合のこと考えてたらヤバいことばっかり思いついてさ。だから、関わらないように、考えないようにしてる。南合からしたら、下僕の友だちは下僕みたいな感覚かもしんない。でも、私、下手したら……いつヤッちゃってもおかしくない」

生クリームを飲み込んだ。
喉がやたら乾く。
紅茶をまたすすった。
こんなこと、吐き出して。
ビビっただろうか。

「こういう思考って、きっと誰だって持ってるんだろうね。あんたの親と比較しちゃ悪いけど。それを取り出すきっかけがあるかないかだけで、魔が差すってことは普通の女子高生にだって訪れる」

目の前の少女の瞳が揺らぐ。

「さて、ここで問題です。そんな私が、南合の取り巻きのあんたと今一緒にいて、どんな気持ちが湧いてるでしょうか? えー、1に殺意。2に殺意。3に殺意」

と、そこで目の前の彼女の呼吸が乱れた。
私は胸中で笑ってやった。

「冗談だよ……」

ゆうは軽く目元をこすった。

「何泣いてるの」

「涙が、勝手に……」

「同情は――」

「そんなのじゃないっ」

ゆうは拳を机に叩きつけた。
なに。
怒ってる?

「あ、ごめんなさい……」

細い髪の毛の束に軽く触れて、

「許せなくて……」

「南合が?」

「ううん、そういう状態になっちゃったことが……」

「それって何に対して恨んでるの?」

「分からないよ……」

形のないものに、果たして怒りをぶつけられるんだろうか。
なんて、考えてもしょうのないことをふと思った。

私の話はそこまでにして、あとはケーキを口に運ぶ作業を続けた。
ゆうが転校する前にいた学校でのことも少し聞いた。
まあ、ある程度想像できる内容だった。
ただ、学校を変わったとしても、人が変ったとしても、
結局の所、自分が変わらなければ何も変わらない。
辛いことやしんどいことは、自分が生み出しているだけなのだから。
と、ゆうはたどり着いた真実かのように、噛みしめながら話していた。

初めて家に行って語り合う内容じゃないな、と思う。
私は手のひらに少し汗がにじんでいるのに気づき、ある程度時間が経ってからお手洗いを借りた。
杉原家を出る時、ばあさんが奥から出てきてこちらに手を振ってくれた。
表情は、硬いままではあった。

夜。
ツイッターを見て、安心する。
『生きてる』。
これ以上変えれない日常。
現状維持がベスト。
ゆうの泣いてる顔がふいに脳裏に浮かんだ。
ごめん、天子のこと色々話しちゃった。

自分の伝えた悪意が、肩の辺りに圧し掛かっている。
言うんじゃなかったと。
後悔。
さあ、これでゆうは私に近づかなくなるだろうか。
それとも。
ううん。
考えるな。
期待するな。
明日も似たような毎日があるだけなんだから。

数日が経ち、いじめの対象が変わった。
相変わらず、キスは定番なのか、教室の真ん中でさせられているクラスメイト。
笑う人、見ているだけの人、背中を向けている人。
ここはなんて汚れた場所だろう。
ショベルカーで、この区間を削り取って欲しい!
永遠と続く我がクラスのルーティン。
南合は、きっと、いつまでも満足しないだろう。
そもそも、どうやったら満足できるか、彼女だって分かっちゃいないんだろうね。
厄介。
実に。
はあ。

そして、相変わらず、南合はゆうを私の隣に来させた。

「断ってよ」

と私は言った。
隣の席に来たゆうと教室でお昼ごはんを一緒に食べていた。
南合は学食かどこか別の場所に行ったみたい。

「あのね、このままだと――」

白米を飲み込む。

「このままだと?」

ゆうが聞き返す。

「犬だって、何度か触ってたら情くらい移るでしょ?」

私は言った。

「う、うん」

ゆうは小さく頷いた。

「それと同じ事が起きるかもってこと」

「え、ええっと……つまり?」

察してよ。

「だから、万が一に、私があんたに友だちになりたいって思うかもしれないじゃない……」

「それって、もう……」

弁当のウインナーを箸で掴んで、ゆうの口に放り込んだ。

「うるさい。困るの。私の友だちは、天子一人で十分っ」

ああ、くそ。
すでに、これをこの子に伝えるのが苦痛になってきてる。
だから、近づきたくなかったのに。

「……江梨香さん」

ウインナーをゆうが噛んでいる。
私の世界の中に、ゆうがちょっとずつ入り込んで来て、
南合の悦楽に歪む顔が容易に想像できて、
リズムが崩れていく。

慣れていくごとに、彼女に触れやすくなる。
触れてしまう。
ささいな会話をしてしまう。
友だちなんてそれの積み重ねで。

「あの、私、考えたの」

ゆうがお弁当を仕舞いつつ言った。

「江梨香さんて、思い詰め過ぎる。そこまで、自分を窮屈にしなくていいんじゃないかな。人が一人で考えて、できることなんて本当は1つか2つしかないんだから、後は中途半端になっちゃう時もあるよ。私たちの関係だって、中途半端になってもいいよ」

「そうは言うけど」

「本当に大切な人って、たくさんいないよね。それに、それっていつでも上書きできちゃうものだもん。子どもが親の側を離れて、好きな人と結婚するみたいに、大好きな人がいても満足できなかったりとかね」

すらすらと悲しくて、もっともな解釈を彼女は述べた。
ね、江梨香さん。小声で彼女は言った。

「始まりはあんな感じだったけどね、江梨香さんと仲良くなりたいって思ったの。だから、絶対にそれは諦めたくない……」

「どうして……」

「後悔したくないし、して欲しくないからかな……」

ゆうはゆっくりと私の手を握った。
その手は思ったよりも温かく、力強かった。

いったんここまで

おつ

1の文章好きだわ

>>49
>>50
ありがと

「あと1年くらいの付き合いだよ。高校なんてあっという間。大げさすぎない?」

私は雑に笑った。

「そうかな……」

ゆうは言った。ゆうの温もりから逃れるように、箸を動かす。

「勉強さえしておけばいいじゃない。余計なこと考えるから問題が起こるんだって。今じゃなくても良くない?」

どんなに人前で優しくしても、この教室じゃ何の役にも立たない。
ゆうが過去を塗り変えたいと思っている気持ちも無駄。
人の結びつきなんて、最初から解けることを想定して縛ってるだけ。
だから結び目を固くしようとする。
必死になる。

「江梨香さん、だから友だちいないんだよ」

ゆうの軽口に、

「はいはい。あんたもね」

と、私は返した。
一人、いるし。
余計なお世話だって。
こっちがダメ人間て分かった途端、強気になる女って嫌い。

やっぱり、最初のキスの時に目つぶししておけば良かった。
そうしたら、たぶん私に近づこうとしなかったはずだ。

お昼休みが終わり、私は放課後になぜか担任に呼ばれた。
職員室に入ると、周りの先生達の視線を浴びた。
睨み返す。

「おい」

頭に何か乗せられた。

「なにメンチ切ってんの」

分厚いファイルがみしりと圧し掛かった。

「やめてよ……てか、メンチって何? カツ?」

「知らねえのか……おじさんショック」

「?」

「まあいい。こっち」

奥の部屋に案内される。
扉を閉められて、ソファに座るよう促した後、担任は立ったまま切り出した。

「江梨香さ、天子と連絡とってる?」

「一応」

「そっか。悪いんだけどさ」

「いや」

「まだ何も言ってないんですけど」

「いや」

担任は嘆息した。

「お前、教室で浮いてるんだろ? 天子がいた方が楽しいじゃん」

あんたはどこのチャラ男なんだ。
と私は喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

「一人でいる方が好きなんで」

「そうなのか? 南合がお前が寂しがってるからって相談してきたんだぞ?」

「南合が?」

聞き間違いかと思った。

「おう」

ではないようだ。
あいつ何考えてんの。

「お前ら、3人最初よくつるんでたしさ、心配してんじゃないの。ええ子やん」

担任の鼻っ柱に机の上に置いてある花瓶を叩きつけたい。

「天子は……ッ」

連絡?
あれで取ってるなんて言えるのかな。
私一人がずっと監視してるみたい。
引きこもりをストーカーしてるだけ。
南合、今さら天子が惜しくなったの。
ふざけやがって。

「南合のことなんて、もう友だちとも思ってませんから」

私は立ち上がって、勢いでパイプ椅子を倒した。

「お、おい」

担任の制止する声を無視して、私は職員室を飛び出た。

無邪気に笑いながらすれ違う下級生にすら苛立ちながら、下駄箱へ向かった。
鞄を教室へ忘れたことに気付いた。

「……ああ、もう」

持って帰るのすら億劫。
外履きを脱ごうとしたとき、

「江梨香さん」

ゆるい笑顔で、ゆうが鞄を二つひっさげていた。

「……ありがと」

受け取って、もう一度靴を履き直す。
彼女と距離を取ろうとしたら、

「警戒してる?」

と探るような視線を送ってきた。

「うん」

「それでもいいから、一緒に帰りたいな」

「まだ、南合の命令で動いてた方がマシだったし」

「え」

「……ゆう、あんたも何か隠してるんでしょ。私に、何をさせたいの?」

「だから、友だちに」

「まだ言うの? じゃあ、私が先に教えてあげる。私が天子を学校へ誘わずに、ずっとツイッター覗いてるだけなのはね、南合とまた付き合わせないようにするため、他の友だちを作らせないため、私だけの天子でいさせるため……あの子が閉じこもってることで誰にも会わないことで、私が安心したいんだよ」

ゆうの肩を押して、ロッカーに押し付ける。
ガタタン、とロッカーが揺れた。

「ゆう、あんたも何か見返りを求めてるんでしょ? 言ってみたらどうなの?」

皮肉たっぷりに私は唇を引き延ばした。

「ご、ごめんなさい……」

彼女は質問に答えずに謝った。
芯は弱い人だったから、びびったのだろうか。
目尻に涙を溜めている。

「同じ根暗なら、何もしないと思ったの?」

ゆうは黙ってしまった。
傷つけばいいの。

「あんたは、周りは変わらないって言ったよね? 自分が変らないとって。でも、それ、根本的には自分に責任がなかったか真剣に考えてないだけだから。最初にそれ考えなきゃいけないんじゃないの? あんた、お父さんが不倫相手刺すまで何も知らなかった? お母さんの様子は? 何か役立とうとした? 気づかなかった? 違うよね。気づこうとしなかったんだよね」

天子が南合と付き合って、一番傷ついた人間がいたとしたら、それは私。
早く別れればいいといつも願っていた。
デートの約束を入れられる前に、遊ぶ約束を取り付けた。
二人の話を真剣に聞いたことなどなかった。
天子からの南合の性格についての相談も、適当にアドバイスして。

忘れてない。
本当に、二人は好き合っていたこと。
それを応援しなかった自分を。
痛いくらい苦しかったこと。
目の奥からじわじわと熱が溢れてきた。

「江梨香さん……?」

泣くな、泣くな。
友だちでもなんでもない子の前で。
中途半端な関係の人の前で。




泣くのは、天子の前だけって決めてたのに。
袖口でさっと目元を拭った。
ゆうがこちらを見上げていた。
互いに同じような顔をしていたかもしれない。

「私も……見返りを求めてた」

「なによ……それ」

「言ったら嫌いになる」

「好きでもないのに嫌いになるわけないから」

彼女は、だから友だちいないって、視線を送ってきて、

「私は……江梨香さんと仲良くなって、裏切って欲しかったの。大好きな相手に裏切られる気持ちを知りたかったから……」

私は鼻で笑ってやった。

「なにそれ」

「裏切られても許してあげられるなら……私、両親とは違う人間だって証明できるって思ったから」

「超理論じゃん」

「江梨香さんもだよね……でも、江梨香さん変わってて、普通に接しても友だちになんかなってもらえないって思ったの。まず、江梨香さんの抱えてることから解決しないとなって」

「で、それは解決できそう?」

ゆうから体を離した。
無意識に落としていた鞄を拾い上げる。
互いにめんどくさい過程を経ようとして、行き詰って。
結局一つに絞っても、何も得られない時があるってこと。

「大変そう」

「でしょうね」

「私……」

彼女は、私の鞄を掴む。

「確かに、今までの自分に非は無かったか考えてこなかったの。全部悪いのはお父さんとお母さんで。お母さんを許してあげれなかったお父さんのせいで。お父さんを追いつめたお母さんのせいで……そして、それはそれまで二人が過ごしてきた環境が運が悪かった……でも、」

俯いたまま、ゆうは言った。

「あの時、少しでも二人の仲介役になってたらああはならなかったかもって……自分のことでいっぱいいっぱいになってる時は気づけなかったけど」

「今さら気づいても遅い話」

「うん」

彼女は頷いた。

「自分のことばかりになると、こんなに気づけないものなんだなって思ったよ」

ゆうは顔を上げた。
黒い大きな瞳が食い入るようにこちらを覗く。
見透かされているようで嫌。
私は顔を背けた。

「えへへ……」

また、笑ってる。

「ありがとう……こんなにグサグサ言ってくれる人、初めて」

感謝の言葉をもらうようなこと言ってないんだけど。

「頭おかしいんじゃない」

「江梨香さんも……」

薄暗い廊下に、静けさが戻る。
玄関から中庭に電灯が灯り始めるのが見えた。
天子。
おかしな女がクラスに転校してきた。
今まで天子にすら言わなかったことを、話す羽目になった。
自爆ってやつ?
へらへらと笑う姿は、あんたに似てる。
ムカつくくらい似てる。

すがりついて、慰めて欲しい衝動が。
頭を撫でて優しい言葉をかけて欲しい甘えが。
嫌と言うほど私の身体を追い越そうとして。

「……え、江梨香さん」

ゆうが腰をすとんと降とした。

「どうしたの」

「腰抜けちゃった」

「なんで」

「怖かった……から?」

「よわっ」

意識して彼女を見ると、わずかに震えていた。

指なんてぷるぷるしてるし。
まるで私が脅したみたい。

「え、江梨香さん……」

両手を広げて、

「え? 手伝わないと起きられないの?」

「お願いします……」

「あんた、絶対長生きできないタイプ」

彼女に手を貸さず、そそくさと玄関へ。

「ま、待ってえ……」

「はあっ」

踵を返す。

「ん」

鞄を目の前にぶら下げた。
ゆうが掴む。

「せーのっ……ンっ……おも」

びくともしない。

「ごめんなさい」

「時間の無駄だわ。もう、乗っていいよ」

私はしゃがんで、背中を向けた。

ゆうを背負って、私は家まで行ってやった。
薄暗くて、人目もそこまで気にならなかった。
家のポストの前まで来て、

「ばあさんいるの?」

「今日は、夜近所の会合があるからいないよ」

「そ」

「鍵、これ」

「はいはい……って、ゆうさ、そろそろ歩けるんじゃないの?」

「え」

私は手を離す。

「きゃっ」

肩越しに見やる。
普通に二本足で立っていた。
ゆうを睨むと、申し訳なそうに笑っていた。

ゆうがお茶くらい出すと言うので、私も相当体力を消耗していたし、お邪魔することにした。
ゆうの部屋で、じんじんと痺れてきた足をさする。

「まさか、江梨香さん、ここまで背負ってくれるなんて思わなかったよ」

「私の責任もなくはないし。でも、もう動けないわ」

そういや、またバスケ部無断で休んだ。
怒られるかもなあ。
ただ、明日になったら確実に筋肉痛でしょこれ。
行きたくない。

「ちょっと、カッコいいって思っちゃった……えへへ」

「照れながら言わないでよ。こっちが恥ずかしい」

こっちは必死だったし、
息も荒かったし、
何もカッコいい要素はなかったと思うけど。
ゆうは、壁にもたれてだれきった私の前に移動して、ちょこんと座った。

「ねえ、天子さんてどんな人だったの?」

「肩、揉んでくれたら話す」

「うん」

ゆうは後ろに回って、私の肩に手を置いた。

「ホントにするんかい」

「言ったのに」

こいつ、調子に乗りやがって。

「しゃーなしよ」

「わーい」

「天子は、小っちゃくてマメ柴みたいな子。呼べば来るし、かまってなかったら自分から勝手に来る。いじったら悦ぶし、特に南合からいじられた時なんかすごく喜んでた」

「可愛い子だね」

「私からしたら、ただのマゾなんだけど」

「マゾ……」

「ちっさいけど、体を動かすのが好きで一緒にバスケ部に入ってたの。私はヒマだったから入っただけだけど。放課後は部活か、ゲーセンかカラオケ行ったりして、声もでかくてうるさい奴だった。そんな感じ」

「笑ってる」

ゆうが言った。

「誰が」

「江梨香さん」

私は急いで眉間に皺を寄せた。

「ゆう、手が止まってる」

「あ、はい」

「弱い。もうちょっと強く」

「こ、このくらい?」

「それくらいっ」

誰が笑ってるって。
全く。
どこ見てんの。
天子の話をして天子に会いたくなって。
けれど、会ってくれなくて。
私はきっともう必要とされてないんだと思うと、苦しい。

「大丈夫?」

「もうちょっと強くても」

「そっちじゃなくて……」

ああ。

「あんたが天子の話させるからでしょ」

感の鋭い女だ。

背中に柔らかい感触。
首元に腕がにゅっと伸びる。
ゆうが私を後ろから抱きしめていた。

「天子さんのこと好きだったんだね」

「……そうよ」

「今も?」

「今は、よく分からないわ。思い出したら辛いことの方が勝ってるし」

「でも、そこまで思ってくれる人がいるなんて、天子さんは幸せ者だと思う。天子さんにその気持ちが届かないのは悔しいよ」

「慰めてるの?」

「そう」

「弱い……」

小声で言ったので、聞き返されてしまう。

「え」

「もっと強く」

ゆうの返事はなかった。
ややあって意図を理解したらしい。
私の身体に押し当てられていたゆうの体の全てが、より深く重なった。

私はその日、天子のツイッターを見なかった。
その夜を更けさせたのは、ゆうに抱きしめられた余韻だった。
翌週。
月曜日。
南合に捕まった。
ブルーマンデーかって。

「ゆう、どう?」

「どうって」

「可愛いでしょ」

「まあ」

気の抜けた返事を返す。

「ゆうをあげるから、天子を家から出して」

また、変なことを言い出した。

「無理」

「無理でもして」

私は、目を伏せた。
江梨香は悲劇のヒロインを演じるように、

「天子の代わりはやっぱりいない。私には天子が必要だった」

今さら、天子がその言葉で動くと思うのか。
どこまでも自分本意。

「私が行っても家から出て来てくれないの。出てこないと話しにもならない。きっと、私が怒ってると思ってる」

「あんたっ」

爆発して、殴る寸前で、

「ゆうのお父さんが前科持ちだってバラされたくなかったら、行って」

「バレようが別に」

「ホントに?」

南合は私にもう一度言った。

「ホントに?」

>>67
誤:江梨香は悲劇のヒロイン 正:南合は悲劇のヒロイン

この女の支配下に置かれるのはうんざりだ。
ゆうに近づきたくなかったのも、全ては彼女の思う通りに事が運んで行ってしまうと知っていたから。

「わかった……行けばいいんでしょ」

「良かった。向こうの学校でも孤立してこっちでも孤立したら、あの子生きてく場所無くなっちゃうじゃんねえ」

「でも、私が行った所で天子が出る保証なんてないけど」

南合は首を傾げた。

「出てくるまで行けよ」

と、真顔で言った。
この汚い世界の女王は、恐ろしい。
この一言と共に放たれる雰囲気が、体を強張らせる。
彼女の前じゃなければ、いくらでも悪態を吐けるのに。
テリトリーの中では、身動きすら敵わない。

その日の放課後。相変わらずバスケ部を無断欠勤して、ゆうを連れて天子の家に向かった。
途中、何か買って行こうか、とふと思い、私は隣にいるゆうの袖を引っ張った。

「どしたの? 江梨香さん」

「お菓子買ってく。何がいい?」

「シュークリームかな」

「即答じゃん」

「お昼くらいから、食べたかったんだあ」

「好きなの?」

「うん」

ゆうはシュークリーム好きなんだ。
って、いやいや、覚えなくてもいいでしょ。
近所のケーキ屋に行って、それを3個買った。

「出て来てくれるかな?」

紙袋を覗き込み、ゆうは言った。
天照大神の話が脳裏に一瞬過って、こんなんじゃ無理だろうなあとすでに諦めの境地で、

「だといいけど」

と、空を仰いだ。

学校から徒歩およそ20分くらいの所に彼女の住んでいるマンションはあった。
付近の道を何度も通った。
ただ、インターホンを押したのは、もう何ヵ月も前の話。

「呼び出さないの?」

とエントランスホールでゆうが尋ねる。

「うん、どうせ出ないから。部屋に直接行く」

管理人はすでに退出しており、あとは、誰かがセキュリティを解除してくれるのを待つだけ。

「いいのかな」

「バレなきゃいいの」

バレたら脅されてやったとでも言えばいい。
そうこうしている内に、マンションの住人が降りてきて、扉を開けてくれた。

「行くよ」

住人を装って、私たちは天子の部屋へ向かった。

「ここ」

と、立ち止まって指差した。
果たして一度で出てくれるか。
あいつも頑固な所あるからなあ。

「そう言えば、どうして私を誘ってくれたの?」

ゆうが今さらな問いをする。

「知り合いが来るより知らない人が来た方が出ると思って」

たぶんね。

「え、じゃあ」

「はい、お願い。設定はクラス委員でお見舞いを持ってきたで」

「う、え、あ」

ゆうは2、3度私を振り返って挙動不審になりながら、恐る恐るインターホンを押した。
私は、中から見えない位置に潜んで様子を伺う。
母親が出たのか、こんにちは~、とぎこちなく挨拶していた。

ゆうはもう少し人を疑った方がいいわ。

「あのー、私、同じクラスの杉原なんですが……」

二言三言交わして、ぺこぺことお辞儀をする。
数分後、交渉が終わったのか、すっと姿勢を正した。

「どう?」

小声で聞いた。

「あの、一応部屋の前まで来てもらっていいって。出ないと思うけど、ありがとうって」

天子のお母さんには数回しか会ってなかったけど、物腰の柔らかそうな人だった。
ゆうはそわそわと視線を移す。
ロックが外された音。
扉が開く。

「あの、ごめんなさいね。杉原さんて方、知らないって、てんちゃんが言うんだけど」

「わ、私先月転校してきて、それでご存じないのかも……」

わたわたとゆうが言った。

「ああ、それで……」

「あの、それと」

ゆうがこちらをちらちらと見ていたので、さすがに母親も気が付いたようだ。

「あら、江梨香ちゃん?」

「こんにちは」

覚えてくれていたことに軽い感動。
出遅れ感のある中、私は挨拶した。
その時、愛想笑いを作ったのだけれど、上手く出来ていなかったのか、天子の母親が気遣うように、

「来てくれて、ありがとう」

と、優しく微笑んでくれた。

「はい……」

ほっと胸を撫で下ろす。
娘をこんな風にしたあの学校を友人を恨んでいるんじゃないかって。
私は、それで多少身構えていて。
ゆうを先に生贄に捧げた。
酷いやつ。

「江梨香さん?」

機微に鋭いゆうが私の手を引っ張った。
また心配そうにしている。

「どうぞ」

おばさんに促されるまま、私たちは中へ入った。

天子の部屋には鍵がついていなかった。
なので、入ろうと思えば無理やり突入することもできた。
おばさんはそれを理解していながらも、私とゆうだけ残して、奥に引っ込んでしまった。

「天子……?」

呼ぶ。
応答、ナシ。
ドアをノックする。
応答、ナシ。
本当にいるのか。
それとも、私たちの様子をどこか物陰で窺っているとか。
と、思い周囲を見渡すと、ゆうが訝し気にしていた。

「出てこないね……」

「すぐに出てくれるとは思ってなかったから、いいんだけどさ」

「一日や二日なら軽いけど、1ヶ月も2ヶ月も外と遮断されちゃうと、やっぱり何もかも億劫になっちゃうよね」

「ゆう、それ経験談?」

「私のじゃなくて、妹のだけど」

なぜか、ここで妹の話を聞くことに。
妹は学校に行けなくなってリスカを何度かした後引きこもってなんとか更生した、となんともあっさりと話してくれた。

「妹はどうやって出て来たの?」

「あの子の場合、周期があって。頑張らないといけないって思う時と、やっぱり何もしたくないって時と、その中間みたいな時とがあったの。それは、じっくりと話を聞き続けたから分かったんだけど。一日中ネガティブなままとかポジティブなままとか、同じ気持ちでいる人って、いないよね? だから、気持ちが前向きになってる時に、外に出かけようって言ったの」

「へえ」

心理カウンセラーみたいなことを言う。

「一度だけじゃだめで、それの繰り返しだった……かな」

ここぞという時に、ゆうが頼もしく感じられるのは、やはり経験があるからなんだろうか。
ゆうに頼ってどうするんだって話しだけど。
だって、これはゆうには関係のない、私達の話なのに。

暫くゆうの話を聞いて、合間に何度か天子を呼んだ。
1時間ほど待ったけれど、出てこないので、その日は諦めることにした。

「天子、今日は帰る。また、気分が乗ったら出てきてよね」

「あの、シュークリーム良かったら食べてください」

ドアノブに袋を引っかけて、私たちはおばさんに挨拶して部屋を後にした。



陽が落ちるのも早くなった。完全に水平線に沈んだ太陽の残滓が西の空をわずかに染めている。
風もひんやりとしていた。夏服の上にカーディガンを羽織っていたけど、あまり意味がなかった。
カーディガンすら羽織っていないゆうが寒そうに肌をさすっていた。

「こんな時間まで付き合わせて悪かったわね」

「え、いいよ」

「なんか奢る」

「シュークリーム一個もらったよ?」

「一個じゃ割に合わないでしょ」

「そんなことないよ。私、江梨香さんのことが知れて良かったし」

「裏切る裏切らないとか言ってたくせに?」

「そ、その作戦は失敗に終わりました……」

しどろもどろにゆうは言った。
違う違う。
困らせたいわけじゃないの。
皮肉しか言えないの?
素直に言えばいいでしょ。
ついて来てくれて、嬉しかった。安心した。怖かったのって。

「ゆう、その……私」

「あ、一番星」

ぴょんと飛び跳ねて彼女は空を指さした。
私もつられて顔を上げる。


「輝いてるねえ」

前を行く彼女。
少し早い。

「ゆう、待って」

「なあに?」

呼ぶと、とたとたとすぐそばに来てくれる。

「今日は……ありがとう」

暗くて良かった。
うっすら表情が見えるくらいで。
視線を合わせなくて済む。

「ホントは、会うの怖くて……恨まれてたらどうしようって思って、一人では行けなかった」

「うん」

ゆうは頷いただけだった。
何もしなかった自分を責める権利が、天子にはある。
でも責められたくない。
嫌われたくない。
会って何か言わなきゃって。
けれど、会えなかった。会うことすら話すことすらできなかった。

「考えすぎて、なかなか会えなかったけど……良い機会だったのかも」

「うん……」

ゆうはまた頷いた。
脅された結果だとしても。
いつかは行かなくてはいけなかったことを、後回しにしてしまっていた。

「失ったのかそうじゃないのか……まだ分からないけど」

それでも、また来ると言うことができたから。

「江梨香さん……」

ゆうが両手を広げた。
私より少し背の低い彼女に、頭を抱かれる。

彼女の懐に、私の嗚咽と涙が吸い込まれていった。
優しい香りがした。
今まで、気が付かなかった。
ずっと、この優しさだけ吸って生きていけたらいいのに。

「もう、離して……ゆう」

「やだ」

ゆうは耳元で小さく呟いた。
静かに呼吸する音が耳をくすぐる。

「この体制しんどいんですけど」

「もっと、がばっとどーんと来ていいのに」

「どういう状態よ、それ」

意味が分からなくて、笑ってしまった。

「江梨香さん、まだ私といるの嫌……?」

「そんなの」

私、この子にたくさん酷い事言ってきた。

「分かるでしょ……」

「分からないもん」

「嫌よ、嫌に決まってるでしょ」

口から出るのはそんなことばかり。
これじゃあ、天子を説得することすら無理でしょ。

「そう言うと思ったよ」

ゆうはやっと私を解放した。

「前より、ずっと……ショックだあ」

ふやけた笑顔。
ゆうは手を組んで、自分の顔を隠した。

「今の段階でこんな風になるなら、好きな人に裏切られるのって、私、絶対耐えれないや」

2歩3歩後ずさっていく。
危なっかしい足どりで。

「ゆう……私、天子を守らなくちゃいけないの」

「うん、天子ちゃんが一番大切な友だちだよね」

ひりひりした顔が風にさらされる。
さっきまで、私を抱いていた胸が遠ざかる。

「そうよ、そう決めた……」

大切なもの。
それは、交換できないし、捨てることもできない。
いつまで続くかわからないけど。

「友だちのままじゃ、あんたと上手くやっていけない」

私――繋ぎ止めようとしてる。
どうにか辻褄を合わせて。
彼女に一緒にいて欲しいと伝えたいんだ。
なんて遠回り。
がんじがらめに繋がる世界の隙間を探って。
どうやったら彼女に伝わるんだろう。

どうやったら、私達は繋がったままでいれる?
彼女とのたった数歩はどうやったら埋めれる?

「江梨香さん……」

「ゆう……」

分からない。
南合の影がどうしてもちらつく。
天子のメッセージが瞼の裏に浮かぶ。
私の世界に、どうやってゆうを招いたらいい。

「あんたのこと……どうしたらいいか分かんないんだけど」

すがる様にゆうに視線を送った。

「見つめられても……私にも」

この存在は一体何。
寒かったはずの外気。
今は、じっとりと汗をかいていた。
何なのこの緊張感は!

叫びたい。
あんたは私の何なのって。
深呼吸した。

「ちょっと、待ちなさいよ……」

「う、うん」

恐らく相当不審な状態だったのだろう。

「君達、そこで何してるの?」

警官に補導された。

友だちの見舞いに行った帰りなんですー、と説明したのにも関わらず、明るい所まで送っていくと言われて、結局何の決着もつけれずに家に帰ってきた。
ベッドに頭を突っ伏する。どっと疲れが押し寄せた。

「があああ……」

頭がパンクしそう。
なんで嫌って言った。
ばか江梨香。
暗がりで分かりにくかったけど、確実に傷つけた。
ついこの間までそんなこと気にすることもなかったのに。
顔が熱い。
ゆうに抱きしめられた時のことを思い出す。
血が逆流するような。
あれは――。

「はあ……」

足をバタバタと布団に叩きつけた。
寝転がって携帯を開く。
天子のツイッターを無意識に確認した。

『生きてる』ツイートが更新されてない。
今日の訪問が影響してるのか。

いつもだったら、もっと焦るのに。
今日の私はどうしたことか。
落ち着いている。
ちゃんと、言葉で伝えることができたからか。
それよりもっと心をかき乱される事案が発生しているからか。

「天子……私、変」

聞こえるわけもないけど。
相談相手は天子くらいしかいない。
溜息。
ゆうに触れていたい。
その気持ちの連続。
そう言えば、私、あの子とキスをしたことが――。
思い出して恥ずかしくなり、拳を枕に叩きつけた。

今日はここまで

友だちと長電話して夜更かしとか、カラオケで一日中歌って寝てないとか、
そういう青春臭いこととは縁遠いと思っていた。
途切れなかった昨日の延長線で、頭痛がし始めて、時計を見た。

「うそでしょ……」

ゆうのことを考えていて眠れなかったなんて、自分が一番信じられない。
カーテンのわずかな隙間からこぼれる朝日に目を細めた。
瞼を閉じると、まどろみが襲ってきて、眠い。
携帯のアラームが遅ればせながら鳴り響いたので、画面をスライドして止めた。

休みたい。
そう思ったのも初めてだ。
親を困らせたくはないから、何が起こってもそういう発想にはならなかった。
のろのろと立ち上がって、制服に手をかけてみる。

「う」

立ちくらみ。

ついで、欠伸が出てきて、それを噛み殺す。
何も考えたくない。
天子もきっとこういう気だるさの中にいるのかも。
一緒にしちゃダメか。
休もうか。
気を抜いて考えると、後はもう崩れる。
勉強はつまらないし。
女王に鞭で叩かれるのも辛い。
気を遣う相手がいるのも疲れる。
淀みが一気に胸から流れ出した。

意識飛ぶのでここまで

結局、なんとか自分を奮い立たせ学校に足を運んだものの、慣れない寝不足のせいで酷い頭痛に襲われた。
傍から見ても体調が悪そうに見えたのか、最初の授業の後に先生に心配されて保健室で休むことに。

「はあ……」

一眠りすれば元に戻るんだと思う。
保健の先生には当たり障りなく症状を伝えた。
疲労とか貧血で来る子は多いのよ、と適当に診断が下りた。
自業自得なだけではあるけど。

目を閉じる。
教室から出る時に見たゆうの心配そうな表情。
違う違う。
ただの寝不足だから。
そう言いたかったのに、周囲で見ているクラスメイトに仲が良いなんて思われたくもなくて。
彼女に何も言わなかった。
さすがに笑ってなかったな。
ああいう顔もするんだ。

思い出そうとしている自分が恥ずかしくなって、思考を中断。
にも関わらず、むかつく笑い方をするゆうがひょいと現れる。
頼むから、寝かせて。
それから何時間か経って、養護教諭はいつの間にか部屋を出てもうすぐお昼。
横になるだけでも多少は頭痛が軽くなってはいた。

あかんまた明日にでも


無理せず休んでええんよ

>>96
ありがと

落ち着いてくると、今度こそ睡魔が襲ってきた。
部屋の隅で声が聞こえたような気がした。
いつまでも休んでいるわけにはいかない。
こうしている間にも授業が進んでしまうわけで、それを取り返す時間を新たに作らないといけないわけで。
そんなの面倒くさいでしょ。
天子がいれば、ノートを写させてもらえた。
でも今は――。
頼る相手はいないのに。
いないと思いたいのに。


寝てしまったと気付いた頃には、お昼休みに入っていた。
スカートを履き直して、締め切られていたカーテンを開ける。
蛍光灯が視界を滲ませた。

「ありがとうございました」

「もう、大丈夫?」

「たぶん」

「お腹空いた?」

薄いピンクの唇をからかうように引き伸ばして言った。

「ちょっとは」

「クラスの子が、持ってきてくれてるわよ」

彼女が指差した先に、私の鞄があった。

「ここで食べてもいいけど、どうする?」

提案されて、私は首を振った。
長く居れば居る程、体は甘えてしまう。
一礼して、保健室を後にした。

鞄を持ってきてくれるようなクラスメイトが一人しか思い浮かばない。
教室に戻って姿を探したけどいなかった。
どこにいるんだろう。
もしかしたら、南合と一緒にいるのかも。
あのグループにいつまでいる気なんだろう。
へらへら笑って。
命令に従って、私の隣にいるだけの存在だったのに。
それなりに顔を突き合わせていれば、甘えてしまうわけで。

「杉原さん探してる?」

「え」

突然声をかけられて、びくりとする。

「外のベンチで見たよ?」

そう言えば、最近はあの子に合わせて教室でご飯を食べることが多かった。
いつも一人寂しくそこでお弁当を広げていたっけ。
私がそこに行くと考えたのか、それとも単純に一人の時間を過ごしたいだけか。

「あの、いつも大変だよね」

その言葉に、私は不特定多数のような存在のクラスメイトを見た。
その子が同情の目を向けていることに驚いた。

「何が?」

「南合さんに標的にされてるし。杉原さんと一緒にさせられるし。あの子、ちょっと変わってるよね。話しかけても、笑うばっかりで。気遣ってるんだろうけど、逆に疲れる」

気を遣ってるかはさておき。
私は不愉快な気持ちになった。

「そうだね」

と、それだけ述べた。

「頑張ってね」

背中にかけられた言葉は無視して、私は足早に中庭に向かった。

果たして、いつものベンチに彼女はいた。
文庫本らしきものを手に取り、一心に読んでいる。
本なんて読むんだ。
そのたたずまいは、どこか不憫。
こちらの憐みを誘うよう。
詰まる所、一人ぼっちの人間は周りからこんな印象を受けるってこと。
声をかけ、隣に座り、お弁当を食べに来たとふてぶてしく言えばいいのに。
躊躇している自分。
ゆうは全く気付く様子はない。

昨晩のことを思い出して、不安になった。
引かれてないかとか。
嫌われてないかとか。
気にしてるのは自分ばかりなのか。
行け。
とにかく、なんか話しかけろ。

「ゆ、ゆう」

言った後に、石につまづいた。

「あ」

つんのめりながらゆうの前に躍り出る。
恥ずかしいことこの上ない。

「鞄、ありがと」

「ううん、お昼今からだよね? 一緒に座ろ」

自然に隣に誘導された。

「何読んでるの」

覗き込むと、観覧車の挿絵が見えた。

「恋愛小説……」

照れ笑いしながら、背表紙を見せてくれた。

「へー、意外」

「けっこう好きなの」

本をぺたんと閉じる。
私はお弁当を広げつつ、

「好きな人でもできた?」

聞いた。
良かった。
普通に話してる。
ああ、でも、今まで普通に話そうともしてなかったのに。
普通に話すことに安堵してるなんて。
おかしな話。

「うん」

「へえ……ん?」

思わず聞き返してしまった。

「って、言ったら……江梨香さん、驚く?」

目を細めるゆう。

「そりゃ、まあね」

心臓がぐるんと一回転するような錯覚。

「なんで?」

「なんでって……普通は驚くでしょ」

その質問の意図を覗かないように、私は箸を掴む。
胸が苦しい。
肉団子に箸を刺したはいいけど、喉を通らないような気がしたので箸をおいた。
食欲が急に薄れていく。
ゆうがこちらを見ている。
視線が痛い。
ゆうが私の手を握ってきた。

「昨日ね、考えたの」

手、なんとかして。

「江梨香さん、私の事嫌いなのかなって。江梨香さん、すっごく分かりにくいし天邪鬼だから……」

「悪かったわね」

妹みたいに分析していたのだろうか。

「だから思ったの。たぶん、何回も伝えたら……江梨香さんも何か答えを見つけられるんじゃないかなって」

何を伝えるって。

「あの、私……」

「待って」

私は言葉をさえぎった。

深呼吸して、身体の中でほとばしる焦りを逃がす。
どうして、この子は、こんなにも自分の気持ちに素直になろうとするの。
そんな純粋なものをぶつけようとするの。
いつもみたいに、遠慮がちにへらへら笑ってくれない。

「江梨香さん……待ってもいいことないよ」

ゆうが私の肩を掴んで、

「ゆ……ッ」

いきなり顔が迫って来た。
優しい香りを吸った瞬間、呼吸は止まった。
彼女の香りが私の身体の動きを鈍らせる。
キスされる、と思って後ろにのけ反った。
お弁当を倒してしまうと思い、ベンチから緩慢にずり落ちる。

「やめ……」

上から押し倒される。
見上げた。
蒼穹が広がる。
少し上気した赤い頬がやたら煽情的に見えた。
はらはらと髪が落ちて。
私は唇を噛んだ。

目を瞑る。

「そんなに、嫌……?」

動きが止まった。
そっと目を開く。
ゆうが私の胸に額を寄せていた。

「だって、こんな急に」

「江梨香さんが言ったんだよ。友だちにはなれないって。あれ、どういう意味だったの」

「それは……」

「待ってって、言ったのは……私のこと、ちょっとでも考えてくれたからだよね。嬉しかったよ。だって、ずっと天子さん天子さんて……聞いてるうちに、どんどん自分が我慢できなくなってね、辛かったの」

天子を裏切れない。
だから、一番を譲れない。
でも、天子からの応答はない。
今、私の傍にいるのはゆうだ。

「私やっぱりお父さんの娘なんだって……好きになったら縛りつけちゃうみたい」

腕が私の首に伸びる。
へらへらと笑うその姿は、死を運ぶ天使のようにも見えた。
もしくは頭のおかしい死刑執行人。
歯止めが効かなくなる。
そんな感情が、抑えつけられた首元から伝わって。

「やめっ……」

ゆうは涙を目に溜めて、

「江梨香さんがもっと突き放してくれたら、こんな気持ちに気付くことなんてなかったのに」

「う、ゆうっ……」

首を絞めながら、ゆうは私にキスをした。
唇に何度も吸い付かれた。

「好きな人がいるくせに、どうして優しくするのかなあ?」

小鳥のように首を傾げた。雫が私の肌に染み込んだ。
振り払うことはきっと簡単だった。
突き飛ばしてしまえば良かった。
なのに、あの日されたゆうのキスに体が興奮を覚えていた。
友だちのキスよりももっと強く異常な刺激だった。
それでも、この子を離せないと思えてしまったから。

「んっ……」

首の圧迫はいつの間にか消えていた。
ただ、互いの呼気を求めるようにキスをし続けた。
彼女の方がやや優勢なキス。
手を絡み合わせて、汗をこすりつけて。

「はあっ……んっ」

遠く、チャイムが鳴った。
ゆうが漸く顔を離した。
口の周りがべたついている。
それをぺろりと舐めて、私と目が合った途端、両手を口元に当てていた。

「ごめ、ごめんなさいっ……」

私の上で座り込んで、彼女は先ほどより目からたくさんの涙を流して謝った。

「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ」

謝って、謝り続けて。
会った時から、よく謝るなあと思っていた。
私はゆうのことを知らなかった。
何を思っているかなんて知ろうともしなかった。

この子は、悪魔かもしれない。

「ごめん……なさいっ」

同じ人間なのに、悪魔かもしれない。

「異常でしょ……」

「っ……ごめんなさい」

怖かった。殺されるかと。
でも、それ以上にこの異常な女の子を愛しいと感じてしまった。
歪んだ愛を受けいれてあげなくてはと思ってしまった。

「死ぬかと思ったんですけど……」

ゆうはすすり泣いた。
もし、私がもう一度天子の家にいったら、この子はどんな反応をするんだろう。
それを見てみたい気もしたし、見たくない気もした。
今度はもっと壊れてしまうの?
だらしない顔で笑って、ゆっくり壊れていくの?
この子は、そんな子なのか。
今度刺されるのは、南合ではなく、私か。

手足が痺れてきて、私は体を起こした。
いつまでもここにいれない。

「ゆう、荷物片づけて」

「え」

「行くよ」

「教室……?」

その問いに首を振った。

「そんなんで行ける?」

「ううん……」

「ゲーセン」

ゆうは呆然として、へらっと笑った。

人生で初めて、私は私のルールを破った。
学校をサボるなんて、不良がすることじゃん。
真っ当に生きて真っ当に死にたかったのに。
信念なんて、くだらないのかも。

制服でゲーセンに行って補導されるのも嫌なので、いったん私の家に向かった。
そこでゆうに私の服を渡した。
戸惑いながら、袖を通す。
着なくなったワンピース。
よく似合っていた。

「いくよ」

手をひいて、自転車の後ろにゆうを乗せた。

「腰、ちゃんと掴んでなさいよ」

「うん……」

ゲーセンまで会話はしなかった。
お互い、変に興奮していて、まともな思考回路じゃなかっただろう。
ただ、どこかに匿って欲しかった。
逃げ場所が欲しかった。
私たちの世界では受け止めきれない異常を薄めてくれればどこでもいい。

学校は休校になりました。
そんな表情を顔に貼り付けて、私とゆうはゲーセンの入り口をくぐる。
平日の昼間は、中年のおばさんやヤンキーっぽい男の人が数える程しかいなかった。

「いつもの?」

と、ゆうが聞いた。

「ううん」

私は財布に入っていた5000円を全部両替機に突っ込んだ。
ゆうに半分握らせる。

「全部するの」

「江梨香さん……」

「するの」

「……これじゃ、足りないよ」

ゆうも鞄から財布を取り出した。
お札を全て両替機に食わせる。
小口にジャラジャラと小銭が降ってきた。
ゆうはそれを両手に抱えた。

「あーあ、いいの?」

「うん」

私たちは近くにあったシューティングゲームから取り掛かった。

他のゲームなんてしたことなかったから、どれもこれも下手くそだった。
お金の無駄にしかならなかった。
クレーンゲームも3000円つぎ込んで、何も取れなかった。
だんだん現実味が薄れてきて、バカなことをしている自分たちが可笑しくなって。
互いに体を揺らしながら笑った。
店員に睨まれて、それでも笑いながら。
生まれてきて、こんなに可笑しい気持ちになったのは初めてだった。

「ね、いつものしよ? 私、日曜にちょっと練習した」

「まじで……どのくらいいったの?」

「70歳」

「ばあちゃんじゃん」

「難しいもん」

「いい? あ、光ったって思ってそっち見たら遅いの。見るんじゃなくて押すの。こうね、見る前に」

「見ないと、どこにあるか分からないよ?」

「感じるの」

「えー?」

天子と同じような反応が返って来た。
やっぱり私の説明が下手くそだったのかな。

「二人対戦でしよっか」

40円入れて、有無を言わせず腕を引っ張り隣に並ばせた。

ランプが半分になる。
ゲームスタートの合図とともに、もともとついていたランプを手で消していく。
隣のゆうがひいひい言っていた。
ランダムに複数個現れるランプに翻弄されて。

「早いよー……江梨香さんっ」

「経験の差よ」

単純な運動神経を測るゲーム。
ゆうが隣にいるだけで、楽しい。
凄く楽しい。
私の聖域なんて言って。
本当は一人は嫌だった。
ゆうの表情がどんどん明るくなっていくのが嬉しい。

カーン!
とゲーム終了の鐘が鳴る。

「あら、60代になったの? やったじゃない」

「つ、疲れたよぉ……」

膝に手をついて、ゆうは肩で息を整えていた。

「だらしないなあ。もうひとゲームいくよ」

「待って、待って! 休ませて!」

「だめー」

ゆうの言葉は無視して小銭を入れた。
それから、お金が無くなるまで、私たちはずっと遊び続けた。
何も考えずに。
遊ぶために生きてるみたいに。
二人だけで。
疲れ果てて、ゲーセンの端っこにあるベンチにぐたりと座った。
互いに体を預け合った。

親にバレたらって考えると肝が冷えた。
それをゆうに言うと、ゆうもおばあちゃん怒るだろうなあ、と呟いていた。

大丈夫なんて、無謀な自信があった。
ゆうとなら大丈夫なんて。

「ゆう」

「うん……?」

疲れて眠くなってきたのか、ゆうがぼんやり答えた。
小さなあくびを一つ。
なによ、こいつ。
可愛いじゃん。
知ってたけど。

「付き合おっか」

ゆうの体が跳ねた。

「江梨香さん……」

「あんたが好きよ」

ゆうが抱き着いてきた。
頭を撫でてやる。
ガヤガヤとうるさいゲーセンの中では、ムードも何もあったもんじゃないけど。
もう、色々と考えたり気にしたり疲れてしまった。
私は誰の人生を生きてるんだろうか。
私の身体は何に従って動く?
それは、もちろん、私自身だった。

南合に従ったり、天子に遠慮したり。
私が私でなくなるまで、そんなことを続けるって言うの?
いやいや、あり得ない。
いじめにあったと親に言えば、救われるか?
鍵のついてない扉を開ければ、自由になれる?

それは全部希望とか夢とかに近くて。
曖昧なもので。
今すぐどうこうできるものでもなく。
とにかく、私を悩ませる。
一人でうじうじと。
でも、もうそれだけじゃない。
触れることのできる確かな存在ができた。

「ゆう……こっち向いて」

「江梨香さ……んっ」

ふわりと唇を重ねた。
誰かが見ていたかもしれない。
でも、いい。

「はあっ……あの、江梨香さん」

私の窮屈な世界を壊すキス。
私はこれを待っていたんだ。

その日から、私の世界が劇的に変るなんてことはないけど。
私は天子のツイッターを削除した。
バスケ部には退部届を出して、ゆうと園芸部に入った。
南合の脅しは徹底的に無視した。
ゆうには南合になんて言われていたかを話した。
ゆうは覚悟を決めて、南合に何を言われてもいいと言ってくれた。
私ももちろんゆうを守ると決めた。
そうやって、私の世界のくだらないルーティンを無くしていった。

ゆうは相変わらず嫉妬深いけど、まあそこは愛嬌かな。
彼女がへらへら気を遣って笑わなくていいように、私は堂々と前を向くことにした。
ゆうがいると自信が湧くと言うか、勇気が出るから不思議。

今日もクラスの中で、誰かが選ばれてキスをさせられる。
南合のお遊びに付き合わされる。
南合は私たちを完全に無視するようになった。
クラスの子も話しかけてはこなくなった。
先生は私がクラスで浮いてることを引き合いに出さなくなった。
それでも、このお遊びは続く。
それをゆうと眺める。

「ゆう、外でご飯食べよ」

「うん」

いつか、私は後ろ指差されるかもしれない。
それでも、背中からナイフで刺されるよりはよっぽどマシなの。
そのいつかの時のために、ゆうの手をずっと握っておこうと思う。




おわり

これにて終わり。
ありがとうございました。

ゆうが江梨香をさん付けで呼ばなくなるのはいつだろうと思ってたら終わってた

>>117
ゆうには個人的に、ずっとさんづけで読んで欲しいのでずっとこのままです

乙ヤーデ。面白かった


結局天子はこもりっぱなん?

>>119
ありがと

>>120
以下、妄想

天子は高校ではずっと籠ります。
高校は中退して、通信制の学校で高卒資格を取得。
天子は親元を離れて、アルバイトをしながら一人暮らしを始めます。
が、天子は人間関係が完全に苦手になってしまって、他のアルバイトにびびって止めてしまいます。
家からの仕送りがあって、それで生活する日々。
家にバイトを止めたということも告げず、また引きこもりのような生活を繰り返します。

南合はそんな天子をずっと見ていて、ストーカーのような行為をずっと続けていました。
南合は良い所のお嬢さんで、ある日天子を自分の家で雇おうという考えに至ります。
ある日、南合が天子の家に訪ねると、天子は栄養失調な上風邪を引いていて肺炎になりかけていました、薬も病院もお金が無くていけないということ。
南合はすぐに病院に連れて行きます。
体調も良くなり、しっかりと栄養も取らせて、天子は元気になります。
親身に看病してくれていた南合に天子は徐々に心を開いていきます。
南合は天子に自分の身の回りの世話をしてもらう代わりに、給料を払うと言います。
天子は内心南合に関わりたくなかったのですが、このままでは死んでしまうし親に頼るわけにもいかないので、南合の世話をすることに。
南合も精神的に落ち着いており、前のようなひどいいじめもなくなっていましたが、天子へ好意を寄せていて、お金の力で体の関係も迫ってきました。
天子と南合の関係が徐々に修復されていたところだったのですが、天子は人に気持ちが分からない南合に怒って家を出ました。
南合も後を追いかけて……。

みたいな所もまで想像した。

>>1

俺は天子が既に死んでいた事にしてホラー風サスペンスなんて妄想した

>>122
うわあ、ドロドロになりそう
そうなるとお母様の復讐劇が始まり、南合VSお母様の泥試合百合あるいは、真犯人はお母様かもしれない狂気ssになりかねない

ありがとう
嫉妬好きよ

(幼馴染百合がほしいです)

>>126
幼馴染みの末路 
幼馴染の末路 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451922278/)

4まであるよ


>>127
5がほしいんです

>>128
残念だけど5を作り出す力がないです
そしてこれから別の幼馴染ssを書きます
良ければ

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