うづりん
百合
卯月「あの……お二人とも、風も出てきましたし、夜も遅いですし、もう帰りませんか?」
未央「いーや。しぶりん、ちょっとそこの公園行くよ」
グイ
凛「ちょ、ちょっと未央」
卯月「え、ええっと」オロオロ
未央「しまむー、ちょっと長い話になるから先に帰ってていいよ」
卯月「でも、女の子二人で夜の公園は危ないと思うんです……」
未央「あー、それもそっか。よし、ファミレスに移動だ」
凛「意味が分かんないだけど」
未央「いいから」
卯月「う、ううんと?」
未央「じゃ、また明日!」
卯月「は、はあ」
凛「……」
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ファミレス
未央「あ、お冷二つで」
店員「畏まりました」
凛「……」
未央「あ、なんかいった?」
凛「いらないよ。要件は何? 卯月には聞かれたくないこと?」
未央「まあそうだけど。聞かれたくないのは私じゃなくて、しぶりんの方だと思って」
凛「未央、時々あんたに着いていけないんだけど」
未央「あー、つまりね。さっきのことを言ってるの」
凛「さっきって」
未央「卯月の来月のソロライブが決まったじゃん。それ自体は珍しいことじゃないけど、でも良いことじゃん? 私らにとっても嬉しいことじゃん? お祝い事じゃん? だから、私なんかは感極まって卯月に抱き着いちゃったりすんだけど」
凛「……未央に手招きされないと、私にはそういうのができないって言いたいわけだ」
未央「凛ちゃん、賢い」
凛「そういう性格なんだから仕方ないだろ」
未央「……卯月は、きっとしぶりんにもぎゅってして欲しいと思うけどねえ」
凛「そうかな」
未央「そうだよ」
凛「でも、卯月は何も言ってこないし」
未央「……」
店員「お冷になります」
コト
未央「……はー」
ガシっ
グイっ
未央「ゴクっ……ぷはっ」
凛「……」
未央「飲んで」
凛「喉乾いてな「飲んで」
凛「はいはい……」
カランっ
凛「ごくっ……」
コトンっ
未央「じゃあ、その冷めた頭で思い出して。舞踏会の前にあったクリスマスライブでさ、卯月が手を伸ばしてたじゃんか。泣きながら、『凛ちゃああん』って言ってたっしょ?」
凛「そんなに気持ち悪い言い方じゃないよ」
未央「シャラップ!」
凛「……」
未央「あの時、私ピンと来たんだよ。卯月は自分から求めるタイプの人間じゃないのに、あんただけには縋るんだなって」
凛「いや、他にもそういうことあったんじゃないの? 私らが知らないだけで」
未央「もし無かったら?」
凛「無くて困ることもないし」
未央「あのさ、抱きしめるタイミングも知らないなんて、困るのは凛だからね」
凛「……抱きしめるタイミング?」
未央「うん」
凛「未央が呼んだら行けばいいんじゃん」
未央「来週私、しまむーのライブの時いないけど」
凛「え」
未央「何固まってんの」
凛「や、別に」
未央「ソロライブ後に、しっかりハグしてやんなよ」
凛「……分かってるよ」
未央「本当かなー」
凛「練習しとくから」
未央「……」
凛「なにさ」
未央「や、しぶりんて変に真面目だよね。ギャルのくせに」
凛「ギャルじゃないから」
次の日
レッスン中
凛「……」
タンタンタンッ
凛「……」
タンタンタンッ
凛「……」
加蓮「どしたの」
凛「え」
菜緒「また、ニュージェネ?」
凛「またって」
加蓮「だって、そんな顔するのってだいたいそうでしょ」
菜緒「うん」
凛「……実は」
―――
――
加蓮「確かに、凛ってあの子に対してスキンシップ少ないよね」
凛「それは、年上だし」
菜緒「そうは思ってなさそうだけど」
凛「……」
加蓮「図星かーい」
菜緒「恥ずかしいならしなくていいんじゃないかな」
凛「だよね……」パア
加蓮・菜緒「……」
凛「無理にする必要はないと思うんだ」
加蓮「……あ、でもさ、ライブ後はやっぱりハグしてくれるとほっと一息つけるんだよねー。じゃない?」
菜緒「あ、あー、そうだねー。確かに、そうだー」
凛「そうなんだ……」
加蓮「簡単、簡単。畏まらなくていいんだって……こうやって」
ギュ
菜緒「……うわッ」
加蓮「するだけだって」
加蓮「練習してみる?」
凛「そこまで言うなら」
菜緒(そんなに、押しては無いけど……)
加蓮「はい、じゃあ菜緒に抱き着いて」
スッ
菜緒「え、私」
凛「……こ、こう」
ギュ
菜緒「ふぐッ」
加蓮「あー、それだと首ロックしちゃってるんだけど」
凛「あ、ごめん」
菜緒「ごほッ」
加蓮「シチュエーションあった方がいいのかな。じゃあ、ソロライブ終了後っぽく」
菜緒「え、私?」
加蓮「早く。練習時間が短くなっちゃう」
菜緒「……」
凛「……」チラ
菜緒(なんで、乗ってきた)
菜緒「……仕方ないなあ。……ふー、お疲れ様ですー。島村卯月、今日も頑張りましたあ!」
凛「……」チラ
加蓮「言いたいことは分かるけど、代役だから勘弁して」
菜緒「こら」
凛「……う、卯月お疲れ」
菜緒「凛ちゃん、お疲れー。今日は来てくれてありがとう! 嬉しい!」
凛「卯月らしい、笑顔に囲まれたライブだった」モジ
菜緒「じゃあ、私、次のステージに移るから」
凛「あ、うん。頑張って」
菜緒「うん! 頑張ります!」
加蓮「カット! カット! 終わっちゃったら駄目だよ」
いったんここまで
奈緒、奈緒の模様
>>11
あ
奈緒「いや、卯月の真似って私のキャラじゃないから恥ずかしいんだって」
凛「ごめん、ありがと」
奈緒「い、いいんだけどさ」
加蓮「似てる人にやってもらった方がいいのかもね」
奈緒「それがいいって」
凛「えっと、そこまではいいかなと」
加蓮「卯月、喜ばせたくないの?」
凛「未央は、ああ言ってくれたけど、縋るとかってそう言うのとは違うと思う。どういうことかって言われても困るけど。でも、卯月は私一人じゃない。それに、嘘の私は卯月にも悪いから……」
加蓮「ふーん。凛がいいなら」
奈緒「結局、二人の問題だしな」
凛「付き合わせちゃって悪いね」
加蓮「いいって。いつでも相談乗るよ」
奈緒「でも、ニュージェネのこと以外で、凛の相談って乗ったことないな」
凛「そ、そう?」
加蓮「確かに……ふふ」
夜
卯月ソロライブ練習後
スタッフ「お疲れさまでしたー」
卯月「お疲れさまでしたー!」
スタッフ「これ、差し入れです」
卯月「ありがとうございます……え、誰からですか?」
スタッフ「未央ちゃんからですよ」
卯月「わああ」パア
ガサ
卯月「……?」
卯月「これは何でしょうか……」
卯月「手紙が」
ガサガサ
卯月「……」
卯月「未央ちゃんボイス……?」
卯月「凛ちゃんと会ったら、録音されている1番目を再生すること……?」
卯月「な、なんでしょうか」
フキフキ
卯月「……よく分からないけど、聞いてみましょうか」
カチッ
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
ピッ
卯月「?」
カチッ
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
卯月「凛ちゃんに向けたメッセージでしょうか。応援メッセージ? もしかして、渡す人を間違えてるんじゃ……あ、でも、凛ちゃんに会ったらって」
ガサガサ
卯月「う、うーん」
事務所
卯月「……」
テクテク
ドン!
卯月「きゃあ?!」
どさッ
凛「ご、ごめん……あ」
卯月「凛ちゃん!」
凛「大丈夫?」
卯月「ごめんね。ぼーっとしてました……」
凛「疲れてる?」
卯月「あ、じゃなくてッ、今日、未央ちゃんにもらったもののことを考えてて」
凛「未央に? 何もらったのッ……?」ジッ
卯月(あれ……)
凛「ねえ、何?」
卯月(も、もしかして、今は、タイミングじゃなかった?)
凛「卯月、ちょっとそれ見せてもらえる」
ガシッ
卯月「り、凛ちゃん近いです……ッ」
凛「ねえ」
卯月「見せますうう」
ゴソゴソ
卯月「これ、なんですけど」
ピッ
凛「?」
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
凛「なッ」
カチッ
卯月「凛ちゃんにあったら聞かせるようにって、手紙に書いてあって。凛ちゃん、何か知ってる?」
凛「知らない」
卯月「え、そうなんですか……?」
凛「こともない」
卯月「えー、もおどっちですか……ふふ」
ピッ
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
凛「あんまり、再生しないで欲しいんだ」
卯月「これって、何の合図なんでしょうか」
凛「……ど、どうして合図だって分かったの!」
ガシッ
卯月「え、で、でも合図以外に何が……」
凛「はッ……うん。そう、合図、合図だよ」
卯月「あの、何の合図なんでしょうか」
凛「そ、それは」
卯月「?」キョトン
凛「その……」
卯月(凛ちゃん、困ってる?)
卯月「言いにくかったら、大丈夫ですよ?」
凛「卯月を、抱きしめるタイミングの……ごにょごにょ」カア
卯月「私を……抱きしめる?」キョトン
凛「や、忘れて。うん、ごめん、なんでもない。あいつ、からかってるんだよ」
卯月「そ、そうなんですか」
卯月(凛ちゃん、何か困ってるのかもしれない……スキンシップとか、苦手ですし……)
卯月「私、抱きしめられるの好きですよ」ニコ
スッ
卯月「ほら」
凛「え」ドキ
卯月「来て大丈夫ですよ?」ニコニコ
凛「こ、こんな人前で」
卯月「それなら、非常階段の方へ行きましょうか」
グイ
凛「ちょ、ちょっと卯月」
卯月「凛ちゃん」
テクテク
凛「なに」
卯月「困ってること、言ってくださいね。私、何でもしますよ」
凛「何でもって、そんな軽く言っちゃだめだって」
卯月「えへへ、私にできることだけですけど……」
凛(お姉さんぶってる……。違う、私が情けない姿を晒してるせいだ。ソロの練習で疲れてるのに)
ガチャ
卯月「ほら、凛ちゃん」
凛「……」
非常階段
卯月「ここなら、思う存分ハグできますよ!」
スッ
卯月「……はい!」キラキラ
凛「あの、無理」
卯月「ええッ」
カチッ
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
凛「ッ……そ、それナシで」
ピッ
卯月「未央ちゃん、きっと凛ちゃんが何かにぶつかってるって感じたから、これを私に預けたんだと思うんです。それが、私にしか私たちにしかできないことだから」
凛(間違いではないけど……)
卯月「だから」
凛「こ、こういうのってさ、構えられると難しいというか、逆に求められるとやりずらい」
卯月「そうなんですか。じゃあ、どうしたら」
凛「や、真剣に考えなくていいでしょ」
卯月「あ、そうだ。良いこと思いついちゃいました」
凛「人の話を聞いて」
卯月「逆のことをすればいいんじゃないでしょうか」
凛「逆?」
卯月「求めない相手にならやりやすいかも」
凛「どういう……」
卯月「例えば、嫌がってる相手にするとか」
凛「……」
凛(卯月の思考回路ってどうなってるんだろ)
卯月「ちょっと、私嫌がってみますね!」
凛「あ、はあ」
卯月「……」
凛「……」
卯月「嫌がるのってどうしたらいいんでしょう」
凛「……」ガク
凛「やめて、とか、来ないで、とか……じゃ」
凛(じゃなくて、いい加減止めさせよう)
凛「う、うづ」
スッ
卯月「や、やだ……来ないで凛ちゃんッ」ビク
凛「……ッ」グサ
卯月「あっち、行って……触らないでくださいッ」
パシッ
凛「……ッ」ズキズキイイ
卯月「……ど、どうでしょう」
凛「すごい破壊力だった……」ゲソ
卯月「なんだか、上手くいかないですね。凛ちゃん、私にやってもらっていいですか?」
凛「や、もう止めようよ」
卯月「もう少しで、何か掴めそうな気がするんです」
凛「……はあ」
卯月「お願いします」
凛(なんで、こんなにどいつもこいつも……お節介なんだろ)
凛「じゃあ、最後だからね」
卯月「はい」
卯月「凛ちゃーん」
ガバッ
凛「来ないで、触らないで」
卯月「……」
ピタッ
凛「そういうの無理だから」
パシッ
卯月「……」
凛「……どう、何か分かった?」
卯月「……うッ」ジワ
凛「どうしたのッ」
卯月「私、なんて酷いことを……」
凛「お芝居でしょうが……」
卯月「おじばいでも……凛ちゃんにこんな酷いこと……ぐずッ」
凛「や、やだちょっと泣かないでよ」
ガチャ
武内P「……」
凛・卯月「……」
武内P「……お疲れさまでした」
ガチャ
バタン
凛(……ああッ)
卯月「……グスッ」
カチッ
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
凛「押さないのッ」
卯月「だって……」チラ
凛「別に、私は本気で卯月がイヤなわけじゃないし……あんたも分かってるでしょ」
卯月「はい……ッ」ニコ
凛「とにかく、こんな暗い所で二人でいたら怪しまれるから出よ」
卯月「凛ちゃんが私をいじめてるって勘違いしちゃいますよね……」
凛「その逆かもね」
卯月「えー、私しませんよ」
凛「そう?」
卯月「酷い、凛ちゃん」
ぽかぽか
凛「やめなって」
卯月「もお、私凛ちゃんのこと大好きですからね」
ギュッ
凛「あ」
卯月「だから、凛ちゃんも大好きな気持ちを表せるようになると良いですね」ニコ
凛「……う、うん」ドキ
卯月「出ましょうか」
パッ
凛「卯月……」
卯月「はい」
凛「……」
トンッ
卯月「きゃ」
凛が卯月を壁に軽く押し付ける。
卯月「か、壁ドンというものでしょうか……」ビク
凛「抱きしめたいって思うときって、卯月ならどんなとき?」
卯月「私は……心がポカポカしたり、相手の心をポカポカさせたいなって思った時、です……」
凛「じゃあ、私……やっぱり、違うんだ」
卯月「何がですか?」
凛「そんな気持ちで抱きたいなんて思ったことないから」
ジッ
卯月「凛ちゃん……?」
凛「卯月にはある? 相手の困った顔が見たいとか、言う通りにさせたい従わせたいって……そう言う欲求で、抱きしめること」
卯月「えーっと……」
凛「ないよね。でも、ごめん。私にはある……こうやって」
凛は、卯月の細い腕を壁に押し付けた。
卯月「いたッ」
凛「抑えつけたいって」
卯月「お、男の子みたいですね……?」ビク
凛「そうだね、うん」
卯月「で、でもそういう凛ちゃんもクールでカッコイイと思います……たぶん」
凛「嫌がる相手を抱きしめるのも、あながち嫌いじゃないのかもね」
卯月「私、嫌がってなんか」
凛「でも、怖いって思ったでしょ」
卯月「……」
凛「卯月、さっき大好きな気持ちを表すためにって言ってくれたけど……こんな捻くれたのも入ってるの?」
卯月「わ、分からないです」
凛「……だよね」
卯月「凛ちゃんは……」
凛「いいよ、うん、ごめん」
フイッ
凛「……ごめん」
卯月「誰かに、辛い片想いをされてるんですね」
凛(……そう来るのか)
卯月「それで、未央ちゃん……これを私にくれたんだ」
凛「は?」
卯月「ごめんなさい。私、軽々しく……経験もないのに」
凛「違うから、私は」
卯月「私、凛ちゃんのこと応援するから」ニコ
凛「……」
卯月「頑張りましょう!」ニコ
凛「……」
凛(なんで、そうなるんだ)
凛「あのさ、めんどくさいからもう言うけど」
卯月「は、はい」
凛「私が好きなの、卯月だから……」
卯月「ありがとうございます!」
凛(つ、う、じ、てない?」
卯月「私も凛ちゃん好きですよ……て、え、え、あれ?」
凛「……」
卯月「あ、え、凛ちゃん、今、私のこと好きって」
凛「言ったけど」
卯月「……」
凛「返事とかいらないから」
卯月「あ、お返事……」
凛「うん」
卯月は口元に手を寄せる。
卯月「あの……あの」
凛「そんなに、動揺しなくても。地味に傷つく」
卯月「ごめんなさい……」
凛「一緒にいるだけでいいの。そばで、あんたの笑顔が見れたら私は満足だから」
卯月「待って! 返事がいらないなんて……嘘、ついちゃだめですよ、ね」
凛「……」ズキ
卯月「自分の気持ちを外に出すことって、怖いですよね……すごく分かる。未央ちゃんみたいに、伝えれたらって私も思います」
凛「卯月……」
卯月「外に出しちゃったら、もう、何も守るものがないですから……けど、それだけ大事に育ててきた気持ちじゃないですか……そんな大切な気持ちをもらって、お返事しないなんてできません……」
凛「大げさでしょ……」
卯月「大切な凛ちゃんのことですもんッ。大げさにだってなります!」
凛(……なんで、あんた、いつもそうなのかな)ドキ
卯月「とりあえず、未央ちゃんに相談を」
凛「わああ! ダメ、絶対、ダメ」
卯月「は、はい」
凛「て言うか考えなくてもさ、女同士じゃん私ら……対象外って話でしょ?」
卯月「何のですか」
凛「だから恋愛の対象外」
卯月「そんなことないですよ?」
凛「え」
卯月「凛ちゃんみたいな彼氏が欲しいなって、思ったこともありましたよ」
凛「そ、それって……」ドキドキ
凛(いや、でも結局彼氏ってことは)シュン
卯月「未央ちゃんにも、そう思いましたし」
凛(そのフォローはいらない)
卯月「あの、提案があるんです」
凛「なに」
卯月「来週のソロライブまで、お付き合いしてみて、凛ちゃんのしたいことをして欲しいんです……やってみないと分からないことってあると思うんです……」
凛(冒険に感化されたのかな……)
凛「いいの?」
卯月「基本的に、凛ちゃんに何をされても嫌ではないので大丈夫かと……島村卯月、頑張ります!」
凛「……」
凛(え、つまり、卯月に認められれば、晴れて付き合えるってこと?)
凛(……展開の速さについていけない)
卯月「どーんと、ぶつかってきてくださいね」
凛「う、うん」
次の日
凛(とは言ったものの、何が変わるんだろう)
キュッ
凛「……」
タタンッ
キュッ
タタン
キュッ
タタン
キュッ
加蓮「また、ポンコツに」
奈緒「ほんとだ」
凛(卯月にして欲しいこと……笑って欲しい)
凛(抱きしめて欲しい)
凛(手をつないで欲しい)
凛(そばにいて欲しい)
凛(優しくして欲しい)
凛(……あれ、いつもしていることのような)
凛「はあ……ッ」
タタン
キュッキュキュッ――
奈緒「回りすぎだろ」
昼休憩
未央「しっまむー!」
ガバッ
卯月「きゃあ!」
ドベシャッ
美穂「だ、大丈夫ですか?!」
卯月「未央ちゃん……苦しい」
未央「めんごめんご」
美穂「お疲れ様ですー」
未央「お疲れ様!」
卯月「み、未央ちゃん良い所に……!」
未央「私も、探してた所! ごめん、ちょっとしまむー借りていくよ!」
美穂「はい」ニコ
卯月「あわわわ」
ずるずるッ
女子トイレ
未央「昨日、しぶりんと会った?」
卯月「はい」
未央「で、ハグした?」
卯月「い、いいえ?」
未央「えー」
卯月「でも、お付き合いすることになりました」
未央「ええええ?!」
卯月「と言っても、来週のソロライブまでですけど……」
未央「そっか、やはり未央ちゃんボイスの力は凄まじい」
卯月「……」
未央「どうしたの?」
卯月「私……酷いことを言ってしまいました」
未央「……なに」
卯月「びっくりして……どうして、私なんだろうって」
未央「うん……」
卯月「凛ちゃんはセンスもあるし、もっと上にきっと凛ちゃんと対等に釣り合う、それ以上に高めてくれるような……そんな男性がいると思うんです」
未央「……」
卯月「なのに、私……凛ちゃんの気持ちが離れるのが嫌で……でも、付き合うことなんて考えたこともないのに……嘘を吐いて……しまいました」
未央「……それは」
卯月「凛ちゃんのして欲しいこと言ってくださいって……ソロライブまでに答えをだしますって……私、昨日……練習が全然上手くいかなくて……凄く落ち込んでたんです……だから、凛ちゃんの気持ちが嬉しくて……離したくなくて……こんなこと」
未央「酷いやつだ……」
卯月「……はい」ジワ
未央「しまむー……そんな気持ちを抱えてたのを言わなかったことに対して、言ってるの」
卯月「え」
未央「タイミング悪かったね、ごめん」
卯月「未央ちゃんが謝ることなんて何もないですッ」
未央「こうなってしまった責任の一端は私なんだよ……ほんと、ごめん。これで、卯月のソロライブが上手くいかなかったら、私……」
卯月「ら、ライブは……自分のことだから、気にしないでください。ライブ、頑張りますッ」
未央「ほんと? また、頑張るマシーンになってない?」
卯月「え」
未央「あ、ううん」
卯月「……」
未央「私、今から……凛に言って、やっぱりもうちょっと待ってもらうように」
卯月「だ、ダメッ。凛ちゃんも大きなライブを控えてる大事な時期だから……負担をかけたくないよッ」
未央「しまむー……もしかして、凛と付き合うつもりで言ったの?」
卯月「……え」
未央「そうでしょ? だって、凛の負担にならないようにって、そういうことでしょ」
卯月「……」
未央「どうして……それこそダメじゃん」
卯月「あの……」
未央「自分のためだけじゃないよね……凛の気持ちを傷つけたくなかったんだよね」
卯月「ち、違います。私、凛ちゃんに悪く思われたくなくて……」
未央「なんで悪い人ぶるのさ……。同情で付き合おうとしてるなんて、知られたくないからでしょ……。流されちゃダメだよしまむー……凛が知ったら、そっちの方が傷つくよ……あ」
卯月「……そう、ですよね」ポロポロ
未央(しまった……言いすぎた)
卯月「私、やっぱり、自分のことばかり……で。みんなのこと全然考えられてないです……」ポロポロ
未央「う、卯月……ッ」
卯月「ごめんなさいッ……屋上で頭を冷やしてきます」
タタタタッ
未央「卯月!」
未央(……はあ、こんなつもりじゃなかったのに)
未央(どうする、私)
未央(……でも、卯月のことがだんだん見えてきた。前なら、絶対言わなかったようなこと、言ってくれるようになった)
未央(なんて、喜んでる場合じゃないか)
未央(私がいくとかき回しちゃいそうだな)
未央「……」
ピポパポ
未央「あ、もしもしプロデューサー、あの……」
屋上
卯月「はあッ……はッ」
卯月「……」ゴシゴシ
卯月「……けほッ」
卯月「凛ちゃん……ごめん」
武内P「何か、してしまったんですか?」
卯月「はい……え!?」ビクッ
武内P「お隣、よろしいでしょうか」
卯月「え、う、はい」ゴシゴシ
卯月は手元を顔へ寄せる。
武内P「何か、渋谷さんを困らせることをされたのです?」
卯月「……まだ、してないです。これから……してしまうかもです」
武内P「そうですか。では、あなたは、まだ起こってもいないことに悔やんでいらっしゃるということなんですね……」
卯月「それが、正しくない選択だって、分かってるんです……」
武内P「正しくないとは」
卯月「誰かを傷つけてしまう選択です」
武内P「誰かと言うのは、いつ傷つかれたのです?」
卯月「まだ……」
武内P「では、それはまだ正しくない選択ではありませんよね。それは、まだ正しい選択ですよ」
卯月「そうでしょうか……」
武内P「真の答えを導き出すのが、一通りの選択肢だけだとしたら、最初から答えは出ているのかもしれませんね……」
卯月「え……」
武内P「では、どうして答えではないと思うのでしょう」
卯月「……」
武内P「まだ、答えを掴み取るために何かできると、ご自分で分かっているから……ではないでしょうか。いいえ、まだ残された選択肢があるのですね、きっと……あなたはそれに気が付いていないだけなのかも……しれません」
卯月「……でも、私……何が残っているか、思いつきません」
武内P「一人で出ないなら、二人で、二人で出ないなら三人で……そうやって、歩いてきたのでしょう。それを信じてみてください」
卯月「……あ」
屋上の入り口で、未央が罰の悪そうな顔で手を振っている。
卯月「……はい」
夜
渋谷家前
凛「……」
卯月「……あ、このピンクの小さなお花可愛いです」ニコ
凛「それ、この辺りには咲いてなくて、取り寄せたものなんだ」
卯月「そうなんですか? お母さんに、買って帰ろうかな……」
凛「あの」
卯月「あ、でも……今日は」クル
凛「?」
卯月「お泊りしてもいいですか」
凛「……」
卯月「凛ちゃん、して欲しいこと決まりました?」
凛「ううん……まだ」
凛(たくさんありすぎて)
卯月「凛ちゃん、もしかしたら……そうなんじゃないかって……でも、私も少しでも凛ちゃんのこと知りたいなって……思ったんです」
凛「今日、家に誰もいないけど……いいの?」
卯月「え? 構いませんよ?」
凛(卯月って、なんでこんなに無防備なんだろ……心配だ)
卯月「あ、でも着替えとか色々……持ってきてなかった」
凛「それは、貸すけどさ……」
卯月「ありがとう、凛ちゃん」
ギュッ
凛(そして、ナチュラルに抱き着いてくる……恐ろしい)
凛「暖かい……」ぽつり
卯月「ちょっと寒くなってきましたしね」
凛「中、入って」
ガチャ
卯月「お邪魔します」
凛(動悸がしてきた)ドドドッ
卯月「どうしました?」
凛「いや、お風呂にお湯溜めてくるから、あっちの部屋行ってて」
卯月「はい……あ、ハナコだー」
タタタタッ
ハナコ「はッ…はッ……はッ」ペロペロ
卯月「や、くすぐったいですッ」
凛「ハナコ、こら」
卯月「だ、大丈夫ですよ」
凛(私だって、したことないのに、まったく)
卯月「ほらほら」
コショコショ
ハナコ「くううんッ」
ゴロゴロ
凛「……可愛い」ぼそ
凛(ずっと見てたいなあ)
トタトタッ
凛「……泊まるのか」
凛(え、マジで)
凛(ちょっと、待って)
凛(何も準備してない)
凛(ううん、準備するものはない)
ハナコー――
アハハハ――
凛「……」ビク
凛「なに、考えてんのほんとに……」
ドバババ
凛(……どうしよ。誰もいない家にお泊りってことは、オッケーってこと。いや、何がオッケーだ)
凛(でも、意識して触れるのはかなり……ハードルが高い)
凛(あ、寝てるときに……って、変態か)
トタタ――
卯月「凛ちゃん」
凛「どうしたの?」
卯月「一緒にお風呂入ってもいい?」
凛「……」クラッ
ガタン
卯月「だ、大丈夫?」
凛「だめ。分かってる? 私、あんたのこと好きなんだよ?」
卯月「わ、分かってる」
凛「ううん。分かってるつもりになってるだけ。仮に、私が男だったら、いきなり一緒に入る?」
卯月「それは……」
凛「いい? 私は……ッ言わせないで、もお」プイ
凛「……まさか、未央がまた」
卯月「……えっと」
凛「あいつか……」
卯月「違うの、もっと凛ちゃんに近づくにはどうしたらいいのかって相談したら……裸の付き合いが一番だ! って」
凛「古臭いのよ……発想が」
卯月「え、へへ」
凛「私は、あんたの裸を見て絶対ムラッとする……あ」
卯月「……ッ」プシュー
凛「聞かなかったことにして」
卯月「む、無理です……」
凛(勢いに任せて、とんでんでもないことを口走ってしまった)
凛(平常心、平常心)
凛「卯月」
卯月「……り、凛ちゃん痛い」
凛「?」
凛は自分の腕が、卯月の手首に伸びていることに気が付いた。
凛「私、いつ握ったんだろう……」
卯月「つい、さっきですが」
凛(自分が怖い……)
凛「卯月、あまり私に近寄らないで」
卯月「え……」
凛「卯月に何をするかわからないから」
卯月「で、でも私……凛ちゃんがしたいことして欲しいんです」
ぎゅッ
凛「できないよ」
卯月「……してください」
凛「卯月、卯月はまだ……私のこと、仲間の一人だって認識なんでしょ。だったら、そんな状態の卯月に……」
卯月「でも、今のままじゃ何も変わらないんです……私、見てみたいんです。凛ちゃんと一緒の未来……まだ、分からないけれど……知りたいの……そしたら、私、来週のソロライブ……何か違ったキラキラが見れるような気がするんです……」
凛「卯月……、もしかしてまた何か悩んでたの?」
卯月「あ……」
凛「変わらなくてもいいのに……私が余計なこと言ったせいだね」
卯月「凛ちゃん違うの」
凛「でも……私は、卯月を変えたくて付き合うわけじゃない。卯月は、自分なりに付き合う方法を考えてくれたのかもしれない。だけど、そんなのは違う気がする」
卯月「り、凛ちゃん」
凛「卯月は甘すぎるんだよ……」じわ
卯月「あの……凛ちゃ」
凛「ごめん、今日はやっぱり帰って」ぽとぽと
次の日
朝
凛「……」むく
凛「……だる」
凛「……はあ」
凛「なんで、あんなこと……」
凛「卯月、傷ついてたし……」
ワシワシ
凛「……でも、可愛かった……」
凛「はあああ……」
レッスン中
凛「……」
ズベッ
ゴロン
ムク
凛「……」
タタタン
タン
タン
加蓮「あれ、今何事もなく踊ってるけど、こけたよね? こけたよね?」
奈緒「あ、ああ」
凛「……」
ダン
ダダダダン
キュッ
ズベッ
ゴロゴロゴロ
ムク
凛「……」
加蓮「だんだん酷くなってる」
奈緒「り、凛、あんまり無理するなって」
凛「え」
奈緒「さっきから、二回もこけたぞ」
凛「うそ、知らない」
加蓮「重症ね」
奈緒「……またか」
凛「ごめん……」
加蓮「タイム! 審判タイム!」
奈緒「審判とかいねーよ」
加蓮「10分休憩」
奈緒「しょうがないなあ」
凛「……」
―――
―
加蓮「へえ、それで帰しちゃったんだ」
奈緒「卯月って、案外大胆」
凛「うーん、あれはたぶんどこかのお猿の浅知恵的な……」
加蓮「恋愛ってさ、よく恋したほうが負けって言うじゃん」
奈緒「うん」
加蓮「でも二人の場合、違うよね。卯月は、凛がやりたいことをして欲しいって……凛を凄く優先してる。だから、自分なりに凛の幸せを考えてるんだよ」
奈緒「確かに、普通……好きになった方が、相手を好きになってもらうために……なんやかんや頑張るんだよな」
加蓮「そう、なのに、それが逆なわけ。でも、凛は自分からぐいぐい行くタイプじゃないし……まるで、童貞みたいな女よね」
奈緒「ぶッ……こらこら」
凛「私も、卯月に何かしないといけないとは思う。でも、何をしたらいいのか……」
加蓮「人から言われたことより、卯月を見て自然にやってあげたいと思ったことをしたほうがいいよ。それか、自分がして欲しいと思ってることだね。以上、どうでしょうか」
凛「ありがとう……参考にさせていただきます」
奈緒「加蓮に惚れるなよ?」
加蓮「やー、何言ってんの!」
バシッ
奈緒「あいたッ」
昼
美穂「卯月ちゃん」
卯月「……なんですか?」
美穂「そろそろ、リハーサルの時間じゃ」
卯月「え、あ、ほんとですッ」
ガタタ
美穂「だ、大丈夫?」
卯月「えへへ、行ってきますね」
タタタッ
美穂「……」
ソロライブ
リハーサル中
卯月「さ、さっきの所、もう一度お願いしますッ」
スタッフ「これで、今日は最後にしよ」
卯月「な、納得できるまでもう少し……」
スタッフ「うーん、じゃああと3回だけね。疲れてるから、笑顔無くなってきてるよ」
卯月「あ……」ビク
スタッフ「?」
卯月「は、はい。頑張りますッ」
スタッフ「あ、うん?」
―――
――
卯月「はあッ……はあッ」
スタッフ「じゃ、今日はこれで。焦らなくても、大丈夫だから。今、凄く良い感じに仕上がってるからね」
卯月「はい、ありがとうございましたッ」ぺこ
ガヤガヤ
卯月「……」
クルッ
タタタタッ
レッスンスタジオ
ガチャ
卯月「……」
ドサッ
卯月「……よしッ」
卯月「……」
タンタン
タタン
タン
キュッ
キュッ
タン
卯月「違う……」
キュッ
キュキュッ
タンッ
・
・
・
・
・
卯月(……あ、もうこんな時間……凛ちゃん、そろそろ終わる頃ですよね……)
フキフキ
ガサガサ
卯月「……よいしょ」
卯月が立ち上がった瞬間、
踵に痛みが走る。
卯月「……ッ」
ヌギッ
卯月(何か刺さったのかな?)
卯月「……?」
テクテク
卯月「いた……」
卯月(……動きすぎたんでしょうか……そんなに痛くはないから、大丈夫ですよね……)
テクテク
卯月「お疲れ様です」
武内P「お疲れ様です。あ、島村さん、今、ちょっとかまいませんか」
卯月「あ」チラ
卯月(まだ、大丈夫かな)
武内P「もし、お時間がなければ大丈夫です」
卯月「大丈夫ですよ」ニコ
武内P「ちょっと、ソロライブの件で、立ち話もなんですのでこちらへ」
卯月「はい」
テクテク
ズキッ
ズキッ
卯月(……いたッ)
事務所
ガチャ
武内P「おかけください」
卯月「はい」
武内P「単刀直入に申し上げますが、ソロライブ、不安ですか?」
卯月「それは……」
武内P「正直に仰ってください。ライブ決定から、今の間に思ったことは?」
卯月「不安……不安しかないです」
武内P「……」
卯月「でも、それを言ってしまうと本当にダメになっちゃうような気がして……ダメ、ですよね。私、また、溜めこんじゃって……練習、いっぱいしたら……何とかなるって……」
武内P「ダメなんかじゃありません。それは、あなたの個性なんですから……。それを、否定したいわけではありません」
卯月「私、頑張りますね……」
武内P「……あなたは、十分頑張っていますよ」
卯月「……」
武内P「あなたの努力は必ず報われると信じていますし、そうなるように私もサポートしていきたい」
卯月「でも、まだ不十分なことだらけで……」
武内P「何が一番不安ですか」
卯月「……ソロデビューもしていないのに、ソロコンサートになってしまったのが……一番不安です」
武内P「それは……けれど、会場は、満員御礼ですよ。それは、あなたの価値を、笑顔を評価してくれたファンが、あなたのソロを楽しみにしている証拠です」
卯月「そうですよね……本当に、ありがたいことだと思うんです。だから、なんでしょうか……」
武内P「?」
卯月「私を認めてくれる皆さんに……失望されたくなくて……あ、いえ……ごめんなさいッ……私、変なこと……」
武内P「いいえ、大事なことです。あなたの声をしっかり聞かせてください」
卯月「……う」
武内P「さあ」
卯月「二時間も、一人で……私、できるかなって……自分のダンスのスキルが不安で……疲れてきて、笑顔じゃなくなったら、不安で……ファンの皆さんは、ずっと私を見てくれてるのに……もっと、前向きでいたいのに……2時間後に、ちゃんとできてる自分を想像できなくて……スタッフの方は、大丈夫って言ってくださるんですけど……怖いんです」
武内P「……」
卯月「いつも、未央ちゃんや、凛ちゃんがいてくれて……他のみんなが支えてくれて……。でも、いないんですよね……当たり前のことなんですけど……私、みんながいたから、キラキラできてたんだって……気づいたんです……凛ちゃんや未央ちゃんがいたから……キラキラ輝けていた……」
武内P「あなただって、できるんですよ。自分の輝きで、誰かを輝かせることが」
卯月「……はい。私も、そう思いたいです……だから、練習、頑張りますね……最後の最後まで、輝ける星になれるように……あの、凛ちゃんを迎えに行きたいので、もう、いいでしょうか……」
武内P「あ、遅くまですいません……また、何かあれば」
卯月「はいッ。ありがとうございます」ペコ
武内P「……」
ガチャ
バタン
武内P「……」
サスッ
帰り道
凛「別に、待ってくれなくても良かったのに」
卯月「今日は、凛ちゃんと一緒に帰りたくて……ダメでしたか?」
凛「……それは、ダメじゃないけど。卯月、怒ってないの?」
卯月「え?」
凛「だって、昨日、私酷いこと言ったし……」
卯月「そんなことないですよ……私、酷いことなんて全然思ってませんよ」
凛「卯月って、凄いよね」
卯月「え」
凛「私なら、喧嘩になる」
卯月「私、凛ちゃんと喧嘩したら、勝てる気がしません……」
凛「負ける気はないけど、する気もないよ。……卯月って、怒ったこととかないの?」
卯月「ないです、たぶん」
凛「へえ」
卯月「でも、私の周りの人……みんな良い人ばかりで、怒られた記憶があんまりないんです。あ、ダンスのレッスンの時は、別ですよッ」
凛「あははッ……」
卯月「レッスン以外で一番記憶に残ってるのは……」チラ
凛「?」
卯月「凛ちゃんに、叱られちゃった時……くらいかも」
凛「あ、あー……」カア
卯月「……えへへ」
凛「わ、忘れて」
卯月「ううん、私嬉しかったんです……あの時は、ただ怖くて情けなくて……叱られて、私漸く自分の気持ちがちゃんと分かった気がしました」
凛「叱るのも労力いるからね」
卯月「ごめんね。もう、叱られないように頑張ります!」
凛「や、そこは頼ってよ」
卯月「え」
凛「私、卯月を叱れるのって、私か未央かだと思ってる……あー、うーん、最近の未央は、どっちかと言うと諭す感じだけど」
卯月「……」
凛「そうしたいって言うか、そうでありたい……我が儘だね。私、卯月を一人占めしたいんだ……」カア
卯月「凛ちゃん……」
凛「……言っておかないと、伝わらないし」
卯月「……凛ちゃん、私のこと好きなんですね」
凛「や、改めて言わないでよ……」
卯月「今の凛ちゃん、凄く可愛い……キラキラしてます」
凛「可愛いとか言わないでって」
卯月「ほんとに、ほんとに可愛い……」
凛「卯月ッ!」
卯月「……えへへ……ッ……ひッ……くッ」ズズッ
凛「……え、ちょ、なんで泣いてるの」
卯月「ご、ごめんなさい」
凛「ご、ごめん怒鳴って悪かったって。可愛いって言われなれてないから、照れ臭くて……」
卯月「そ、そうじゃなくて……違うんです……ッう」
凛「……ッ」オロオロ
卯月「嬉しくて……」
凛「へ?」
卯月「私、凛ちゃんをキラキラさせることができてるって思ったら、嬉しくて……」
凛「……そ、そんなんで泣いたの?」
卯月「最近、涙腺が緩くてえ……歳かなあ……ッ」
凛「何言ってんの……」
凛(しまった……今、もしかして……タイミングって奴なんじゃ……)
凛(私がして欲しいこと、してあげたいこと……)
卯月「……もお、私、最近泣いてばかりですね」ゴシゴシ
凛「卯月」
卯月「ハイ……」ゴシゴシ
凛「……あの」
卯月「?」ゴシ
凛「あんまり、こすると腫れるよ」
卯月「あ、そうですよねッ……」
ゴソゴソ
フキフキ
凛(……て、そうじゃないだろ)
卯月「……?」
凛「上、向いて」
卯月「はい……」スッ
凛「星、綺麗」
卯月「ほんとですね」
凛「光がたくさんあって、街の方はあんまり星が見えないけど……少し離れて見ると、綺麗な星がまだたくさんあったことがわかる」
卯月「……」
凛「ほら、あれ……こっち寄って」
クイ
卯月「……」ドキ
凛「卯月のいた所からは見えないけど、私のいる所からは見えるんだ」
卯月「一等星……でしょうか」
凛「かもね。けど、星は自分がいくら輝いても、どれだけ輝いたかなんて分からない。その輝きが人を導いてること、勇気をくれていること……知らないんだ。見ている人だけが、それを知っているんだと思う……」
卯月「……」
凛「星は一人でも輝けるよ。私は、信じてる。焦らなくてもゆっくりと進んでる。私の中で、一番輝いている星は、きっと……そうなんだ」カア
卯月「……凛ちゃん」
凛「無理しないで、いいんだよ。卯月……本当の所、未央とプロデューサーに聞いてたから……それで」
卯月「……」ブワ
凛「ハンカチ、ハンカチッ」
フキフキ
卯月「うッ……泣かせたあ……凛ちゃんが、私のこと……泣かせたあッ……」
凛「人聞きの悪いこと言わないでよッ」
卯月「みんな……大好きですッ……大好きッ……ひッ……りん、ちゃあんッ」
卯月が手を伸ばす。
凛「……」
その手を掴んだ。
卯月「……えッぐ……凛ちゃん、凛ちゃ……」ポロポロ
凛「大きな声で泣くなって……」
卯月「凛ちゃ……足」
凛「え?」
卯月「足が……痛いッ……ひッ……」
凛「え、えええッ」
救急病院
医者「疲労骨折だねえ、ま、無理のないように。え? ダンス? まあ本当は安静なんだけど……トレーナーとかいるでしょ。その人にテーピングしてもらって。そのライブとやらが終わったら安静にしないともっと酷くなるから気を付けて」
卯月「はい……」
―――
――
凛「……卯月」
卯月「凛ちゃん……」
凛「でも、気が付いて良かったよ」
卯月「……大丈夫だと思ってたんです」
凛「私に言って正解だった。プロデューサーにも連絡はしておいたから。めちゃくちゃ動揺して、片言だったよ」
卯月「ありがとうございます。いつも、凛ちゃんには助けてもらってばかりですね……」
凛「いいの。卯月のそういう人間になりたいんだから」
卯月「……かっこいい」
凛「ま、可愛いよりはいいかな」
卯月「……付き合っても、付き合わなくても……変わらないんですね」ボソ
凛「うん?」
卯月「あ、ううん……」ニコ
凛「……」ドキ
そして、ソロライブ――終了後
ワアアアア!!!
パチパチパチッ
卯月「ありがとうございました!!」ペコ
ワアアアア!
パチパチパチ!
卯月「……ッ」ニコ
卯月「……」ウルッ
卯月「……」ポロポロ
卯月「……」ニコ
・
・
・
・
・
・
舞台裏
スタッフ「足、大丈夫?」
卯月「は、はいなんとか」
スタッフ「アイシングしてて。あ、そこ椅子用意してあるから。帰りまで、絶対安静。お疲れ! 最高だったよ!」
ポンッ
卯月「ありがとうざいますっ……!」
ゴソゴソ
ヌギヌギ
卯月「……赤くなってる」
ピトッ
ヒヤ
卯月「……ッ」
カタン
武内P「島村さん、お疲れ様です」
卯月「プロデューサー!」
ガタタ
武内P「ああッ、そのままで大丈夫ですからッ。座っていてください」
卯月「す、すいません……」
武内P「思わず、ガッツポーズしてしまったくらい……良い、ライブでしたよ」
卯月「え、そうなんですかッ……ふふッ……想像できませんね……ふふッ」
武内P「これ、荷物持ってきましたので……痛みが酷かったら、遠慮なく言ってください」
卯月「……はい」
武内P「……」
卯月「私……最後まで、笑顔でしたか……?」
武内P「……いいえ」
卯月「……ッあ」
武内P「笑顔を超えた、最高の顔を、あなたは手に入れていましたよ」
卯月「……ッ」ジワ
武内P「では、私はこれで」
卯月「はッ……いッ……ひッ……うう」ポタポタ
凛「お疲れ様でーす」
スタッフ「お疲れさまです。あ、島村さんなら、そこですよ」
凛「え、あ、どうも」
凛(なんで、わかったんだろ)
トタトタ
凛「卯月、良かった……よ」
卯月「ッ……うッ……りんひゃ……ひッ……りんひゃ……ん」ポタポタ
凛「すっごい顔……」
卯月「……うッ……ひど……です……ッ」
ゴソゴソ
ゴソゴソ
凛「……でも、良い顔だ」
卯月「えへッ……あいがッ……とございま……」
カチッ
凛「ん?」
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
卯月「ぐずッ……あのッ……凛ちゃん」チラ
凛「……」ドキ
卯月「してください……ッ」
カチッ
『ザザ――ほら、凛! 今だよ、今!』
終わり
おしまいです
ありがとなのん
次は、もっとイチャイチャさせたいなあ
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