瑞鶴「シャッフルクエスト」 (86)
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エンド・オブ・ジャパンのようです ※連載中のコラボ作品(◆vVnRDWXUNzh3作)
エンド・オブ・ジャパンのようです - SSまとめ速報
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艦これ×天華百剣 編
川д川 ウホウホ!!鎮守府に颯爽と登場した貞子ゴリラ、トランスフォームウホ!!
川д川 ウホウホ!!鎮守府に颯爽と登場した貞子ゴリラ、トランスフォームウホ!! - SSまとめ速報
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【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第一章【天華百剣】
【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第一章【天華百剣】 - SSまとめ速報
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【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第二章【天華百剣】
【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第二章【天華百剣】 - SSまとめ速報
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『艦天って略すとカロリー低い食材みたい』 幕間
『艦天って略すとカロリー低い食材みたい』 幕間 - SSまとめ速報
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【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第三章【天華百剣】
【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第四章【天華百剣】
【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第四章【天華百剣】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1552399367/)
【艦これ】『Last one week & Epilogue』【天華百剣】
【艦これ】『Last one week & Epilogue』【天華百剣】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1554717008/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1719671124
ジャンルの好みは分かれるにしても、ゲームが嫌いって奴ぁ見たことがねえ
ゲーム機を持っていなくても、スマホ一つありゃ基本無料で幾らでも楽しむことが出来る
( T)「うわ全然水着シロコでねえわ」
ガチャってのはつくづくアコギな商売だ。下手すりゃゲーム機買った方が安いまである。なーにがちょっと時間もらうねだちょっとどころじゃ無い量の石が持ってかれとるんじゃこっちは
瑞鶴「提督さん!!こんなの出てきたんだけど!!」
( T)「瑞鶴ちゃん水着シロコが出てこないんだけど」
今しがた扉蹴飛ばして入室した五航戦の瑞鶴なんかゲーム好きの筆頭だ。ずっとイカばっかしてる。トライストリンガー使うのは早々に諦めていた
さて、『こんなの』と勇んで持ち込んだのは、ヤニに染まったスーファミみてーな色したヘルメット型ゴーグルデバイスだ
今はVRだのなんだのと没入型のゲーム機が台頭しているが、それにしては少々古臭く感じる
( T)「何それ?バーチャルボーイ?」
瑞鶴「バーチャル……?」
( T)「世界初の立体ゲーム機だけど?」
瑞鶴「へぇ~、おじさんはそういう認識になるんだ」
( T)「お前は?」
瑞鶴「ナーヴギアかな」
( T)「ナーヴ……?」
瑞鶴「SAOだけど?」
( T)「竿……?」
瑞鶴「オタクの癖にソードアートオンライン未履修なの?」
( T)「ああ……なんか、名前だけ聞いたことあるわ」
瑞鶴「オタクの癖に……」
オタクが何でもかんでもアニメ観てると思うな
しかしバーチャルボーイと言ってみたものの、形状は似て非なるものだ
ナーヴ某とやらがどんな見た目なのかは知らんが、わかりやすく例えるならば地球防衛軍のヘルメットと言ったところか
瑞鶴「これが四つ出てきたんだ」
( T)「そんなに」
受け取ってみると、安っぽいプラの質感に反してズシリとくる重みを感じる
軽く観察してみたが、ソフトなどの挿入口は見当たらないものの、電源ケーブルの挿入口はある
ゴーグル部はVR機器と同じくヘッドマウントディスプレイとなっており、耳元にはスピーカーが内蔵されている
映像を視聴するだけなら十分な機能だが、ゲームをするにはもう一つ必要なものが足りていない
( T)「コントローラーは?」
瑞鶴「それがさぁ、いっくら探しても見つかんなかったんだよね」
( T)「ふーん……」
まぁ、廃村になってしばらく経った場所だ。こういうジャンク品の一つや二つ珍しくはない
大抵はゴミだが、稀にお宝や曰く付きの品が出て来ては一騒動巻き起こす
『こんなの』も、その類であるかもしれない。何かヒントというか、安全な物である確信が欲しい
瑞鶴「あ、でも説明書はあったよ」
( T)「それをはよ出せや」
瑞鶴「表紙だけ」
( T)「中身????????え????????」
瑞鶴が取り出した小汚い紙切れを受け取ると、英字のタイトルと、製造年らしき『since 1988』の文字
( T)「えー、『Dr.Wondertainment…………」
( T)「捨てよう」
瑞鶴「即決!?」
ダメなやつだこれ
【瑞鶴「シャッフルクエスト」】
( T)「燃えないゴミに出す」
瑞鶴「待ってってば!!こんな面白そうなオモチャを一回も遊ばないで捨てようっての!?」
( T)「うん」
瑞鶴「うん!?」
( T)「ええか瑞鶴。世の中にはな、手ぇ出したらアカンもんが三つある。一つ目はヤミ金、二つ目はクスリ、三つ目がワンダーテインメント博士製のオモチャや」
瑞鶴「ヤクザのシノギに並ぶほどヤバいオモチャなの……?」
( T)「大阪のマル暴が手ぇ出されへん分余計にヤバい。と言うわけで捨てます」
瑞鶴「待ってぇ~~~~~~…………」
プルートゥ戦前のアトム1.6倍の力(体感)でTシャツの襟を引っ張られる。縫い目が耐えきれずビリビリ破けておっぱい丸出しになった
(#T)「やめろや!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「一回だけ!!一回だけ遊ばせてよぉ~!!」
(#T)「そうやってクスリから抜け出せなくなるって保健の授業で習うやろが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「ゲームなら健康被害ないでしょ!?提督さんだってタバコ吸ってんじゃん!!」
(#T)「健康被害だけで済むんならヤクザ案件に並べねえんだよ!!!!!!!Dクラス職員になりてえのか!!!!!!?????」
瑞鶴「何それ!?」
(#T)「使い捨ての消耗品軍団(エクスペンダブルズ)だよ!!!!!!!!!」
遂にベルトまで掴み始めた。バックルがぶっ壊れてズボンが破かれパンツ丸出しになった
(#T)「やめろや!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「じゃあ考え直してよ!!オバケが関わってんなら提督さんが何とかしてくれるでしょ!?」
(#T)「そんな単純に済むんだったら財団で管理なんてしてねーんだよ!!!!!!!!!オブジェクトクラスKeterだったらどうすんだよ!!!!!!!!!」
瑞鶴「それが何なのかわかんないけど筋肉で解決してよ!!!!!!」
(#T)「だかっ……パンツはやめろ!!!!!!!!!!!!」
このままだと執務室でスッポンポンどころか最終的に皮も筋肉も剥がれされて内臓ボロンしてしまう
既にもう手遅れな気がしないでもないが、とりあえず一旦落ち着いて話をしよう
( T)「ハァ……あのな、お前もここに来て長いだろ?ここがどういう場所かもちゃんとわかってるだろ?」
瑞鶴「わかってるわかってる」
( T)「こういう得体の知れないモンってのは得てして、トラブルを、巻き起こす、原因に、なる。わかるかねミス・グレンジャー?」
瑞鶴「スネイプ先生?」
( T)「ゲームならSwitchプレステハイエンドPC、なんならVR機器まで揃ってるだろうが」
瑞鶴「ありがとうございまーす」
( T)「捨てて良いな?」
瑞鶴「ダメ」
この子はホンマにもぉ~……
瑞鶴「せっかく見つけたんだからせめて起動するかくらい確かめようよぉ~!!」
(;T)「触らぬ神に祟りなしっつーだろうが……タダでさえイフリート入り七輪やら物語に引き込む生きた本やらエイリアン化する10センチ砲ちゃんやらパズズ像やら総理大臣やら厄介セールスクソ女やら貞子やら巫剣やらが舞い込んでくるのに、わざわざトラブルの種を芽吹かせんでもよぉ……」
自分で言っててなんか可笑しくない?って思っちゃうくらい色々あった。世界ふしぎ発見の可能性がある
瑞鶴「たまには我儘叶えさせてよぉ~……この前だって霰に付き合ってあげたんでしょぉ~……」
それを言われると弱い
(;T)「……」
いやでもSCP常連のオモチャかぁ~…………
瑞鶴「お願い!!この通り!!」
パンと両手を合わせ拝まれるが、幾らなんでもリスクがデカい
そりゃ、過去には熊野と秋月を裏世界に連れてったこともあるが、『対処法』ってのをちゃんと用意した上での同行だった
過去の事件だって、問題が起こってしまったので仕方なく対応したに過ぎない
だが今回は、『わざわざ薮を突きにいく』ようなものだ。そこから飛び出すのが必ずしも蛇だけとは限らない
勿論、何も起こらない可能性だってある。この場所でそう考えるのは、楽観が過ぎるがな
瑞鶴「……」
(;T)「……あー、わーったわーった!!一回だけだぞ!!」
結局、オヤツを前にじっと堪える子犬みてーな目に当てられて根負けしてしまった
いつか身を滅ぼすと知っていても、どうしても甘やかすのをやめらんねえんだ。すまねえ叢雲、あと頼む
瑞鶴「やりぃ!!さっすが提督さん!!話がわかるぅ!!」
(;T)「遺書だけ……書いとけ……」
瑞鶴「わかった!!」
さっきから何もわかってねえよこいつ
瑞鶴「じゃあ後でね!!五十鈴と初月も呼んでおくから!!」
(;T)そ「おいちょっ待て!!!!!!!!!!人数増えるのは聞いてn」
~お夜~ デンデン!!!!!!!!!!!!
場所は娯楽室。ド田舎にあるこの場所で退屈しないように大枚叩いて色々と遊び道具を揃えてある
どうして経費で落とせないんだろう。福利厚生だろ。ダーツライブの筐体くらいポンと買うてくれや
遺書を書きながら待ってたら、寝巻き姿の五十鈴と初月がお菓子と飲み物を手に訪れた
( T)「……話、聞いてる?」
五十鈴「テンションひっく」
初月「面白そうなオモチャを見つけたとしか聞いてないが」
( T)「もう一つ質問いいかな?ワンダーテインメント博士って知ってる?」
五十鈴「いいえ。初月、アンタは?」
初月「僕も知らないな」
ダメだ危機意識を煽れない
( T)「なんかあったら……ごめん……」
五十鈴「やだ何怖いんだけど……」
初月「ゲームをやるんだろう?そんな不安がるような代物なのか?」
( T)「うん……」
初月「どうする五十鈴?最悪、瑞鶴をシバくのも視野に入れとくべきと思うが」
五十鈴「そうね。きっとそこのゲロ甘おじ様は押し切られたんでしょうし、いざとなったらシバきましょうか」
悪い方に思い切りの良いメンバーじゃなくて本当に助かる
( T)「一応……遺書だけ書いてくれる?」
五十鈴「ゲームするのにそこまで覚悟求められるの初めてよ……」
初月「お前はどうして危険なのをわかってて断固として止めないんだ?」
( T)「止めたもん……」
初月「頼りがないなぁ」
何も言い返せねえ。涙出てきた
瑞鶴「お待たせみんなァゲームをやるぞォォ!!世界経済をォォぶっ壊ァァ~す!!!!!!!」
件のゲームギアを引っ提げ、主役が遅れて登場する。テンション上がりすぎて大きな赤ちゃん(商人)みたいになってた
( T)「フフッ」
笑っちゃった
五十鈴「あのね瑞k 瑞鶴「はいこれ被って!!」
付け入る隙もない。有無をも言わさずギアを被せられる俺たち。流れる汗もそのままにする可能性がある
五十鈴「何すん……あら凄いじゃないこれ」
解像度の低いヘッドマウントディスプレイには、ドット調のタイトルが映し出され、耳元のヘッドホンからはなんか壮大な感じの……ドラゴンのクエストっぽい……BGMが流れる
4Kディスプレイ越しのゲームとはまた違ったレトロかつ新鮮な体験に、五十鈴の出鼻はすぐさま挫かれてしまった。俺が言うのもなんだけどチョロすぎんか???????
初月「なんだ。どんな拷問器具かと思ったら、本当にただの面白そうなオモチャじゃないか」
(;T)「グ、グムー……」
グムーが出た ※超人だから
しかし杞憂で終わるならそれに越した事は無いのも事実。今のところ、なんか妖気的なサムシングも感じないし、ワンダーテインメント博士を騙るジョークグッズである可能性の方が遥かに高い筈だ。そうであれ。頼む
五十鈴「『シャッフルクエスト』……ふーん。聞いたことないタイトルね」
瑞鶴「ねー。どんなゲームなんだろね」
初月「瑞鶴、コントローラーは無いのか?」
瑞鶴「無いよ?」
初月「なら何も出来ないじゃないか……」
( T)「……あれ?」
ちょっと待てなんかおかしくないか?このデバイス、『どこから電源を引いている?』
いやまぁ、プラグ繋がなくても乾電池や何やらで動くゲーム機かもしれんし……
( T)「瑞鶴、お前これ充電とかした?」
瑞鶴「え?コードなんか見あたんなかったけど?ジプシーデンジャーと同じ原理で動いてんじゃないの?」
( T)「アカン」
原子力発電を搭載してるヘルメット被るくらいなら怪異の方が遥かにマシだが、異常は確定した。すぐにでもゴミ箱にぶち込むか地層処分しなければならない
ヘルメットに手をかけた瞬間、顎下から頸にかけてバンドの様なものが勢い良く巻き付き、固定されてしまった
(;T)「ああ……」
ダメだこれは今回もガッツリ巻き込まれる奴や。抵抗を止め、しんどくない体勢で次の展開を待つことにした。あったかいカフェオレとか飲みたい
五十鈴「嘘でしょ脱げないじゃない!!瑞鶴!!どうなってんのよ!!」
瑞鶴「わかんない!!説明書無かったし!!」
初月「説明書が無い物をぶっつけ本番で試そうとしたのか!?」
おーおー小娘共が慌てとるわ
( T)「……あれ?」
ちょっと待てなんかおかしくないか?このデバイス、『どこから電源を引いている?』
いやまぁ、プラグ繋がなくても乾電池や何やらで動くゲーム機かもしれんし……
( T)「瑞鶴、お前これ充電とかした?」
瑞鶴「え?コードなんか見あたんなかったけど?ジプシーデンジャーと同じ原理で動いてんじゃないの?」
( T)「アカン」
原子力発電を搭載してるヘルメット被るくらいなら怪異の方が遥かにマシだが、異常は確定した。すぐにでもゴミ箱にぶち込むか地層処分しなければならない
ヘルメットに手をかけた瞬間、顎下から頸にかけてバンドの様なものが勢い良く巻き付き、固定されてしまった
(;T)「ああ……」
ダメだこれは今回もガッツリ巻き込まれる奴や。抵抗を止め、しんどくない体勢で次の展開を待つことにした。あったかいカフェオレとか飲みたい
五十鈴「嘘でしょ脱げないじゃない!!瑞鶴!!どうなってんのよ!!」
瑞鶴「わかんない!!説明書無かったし!!」
初月「説明書が無い物をぶっつけ本番で試そうとしたのか!?」
おーおー小娘共が慌てとるわ
( T)「んー?」
ゲーム画面は独りでにタイトル画面からキャラクター選択画面へと移る
『ブレイブ』『グラディエーター』『ハンター』『ウィザード』の四種類。前衛後衛それぞれ2体ずつと見た
しかし操作手段が無いのにこの画面を見せられても手の出しようが無い。これ一生脱げないかもしれない。ちょっと涙出てきた。だって女の子だもん
( T)そ「あれ!?」
なんて絶望していたら、なんと一気に三つの枠が埋まった。いつの間にかギャーギャーうるさかった小娘の声が聞こえなくなってる
静かになったというより、耳に届く音がゲーム音に限定されたかのように、『その他』の雑音が完全にシャットアウトされている
残った一枠もすぐさま埋まった。手足の感覚が無い。立っているのか座っているのかすら定かで無い
呼吸の方法が思い出せない。声の出し方がわからない。瞼を閉じても暗闇に逃げられない
ゲーム画面は、コーヒーにクリームを入れてかき混ぜたかのように、グルグルと渦巻きを描き出し
「」
俺の意識は、渦中へと吸い込まれていった―――――
―――――
―――
―
「おっきてー!!起きるぴょん!!」
腹の上で小動物か何かが跳ねて喚いている。語尾にぴょんなんて付ける奴はウチじゃ一人しかいない
瞼を開いて先ず目に付いたのは、随分と開けっぴろげな天井から覗く青空
隕石でも落ちた直後なのだろうか。大小様々な木片がパラパラと降ってくる
「起きた!?」
「うおっ!?」
このワンアクションで大きなショックが三つあった。一つは、子犬サイズにまで縮んだ卯月が、腹から顔面に向かって飛びついてきた事。いやこれホンマに卯月やろか?
変わったのは身長だけではない。頭上に伸びる二つの長い耳。全身はフカフカの体毛で覆われ、そして何故かタキシードを着用している。何て呼ぶのこれ……獣化?とにかく、ウサギ人間って感じになってる。ムカデとか武器とかセイウチとかじゃなくて良かった
二つは、ちょっと寝てる間に娯楽室から知らん廃墟に移動してた事。先程まで視界を塞いでたヘルメットはどこへやら。天井から吹き抜ける風や傷んだ床の質感は、夢にしちゃヤケにハッキリと感じられる
そしてこの二つがぶっ飛ぶほど驚いたのが三つ目
「なん……なん……???????」
三十越えたオッサンから発せられるモノじゃ断じてない中性的な声
身体は細く小さく縮んでいるが、胸や尻は控えめに『主張』をしている。そしてチンチンが無い。え!!!!!!!?????チンチンが無い!!!!!!!!???????
「あ、うわ……」
顔に触れると、いつものマスクの代わりに、火傷どころか小さなニキビすらない滑らかな肌の感触
そのまま手を頭に移動させると、犬の耳のように跳ね返った髪に触れた
「嘘だろオイ……」
辺りを見まわし、テメーの姿を確認できる物が無いかを探す。すると卯月(兎)は
「どーぞ!!生まれ変わった姿をご覧あれぴょん!!」
肩に下げるピンク色のポシェットから、どこでもドアくらいの質量の姿鏡を取り出し、設置した。鏡に写し出された『今の俺』は―――――
初月「」
めちゃくちゃ可愛くなってた
初月「マジかよオイ……」
声も顔もスタイルも、そっくりそのまま初月だ。違う点は『中身』と、見慣れない黒いローブととんがり帽子を身につけてる所か
すぐ側には、身の丈ほどある『杖』が落ちている。直径5センチ程度の太さで、樫のような硬さとズシリとくる重みがある。鈍器として優秀かもしれない
初月「あん……ところでウサギの嬢ちゃん?」
「……」
卯月(兎)は、先程とは打って変わって無表情で穴の空いた天井を見上げている
なんか嫌な予感がしたんで大きく二歩下がった。すると、間も無く頭上から『火の玉』が三つ、手持ち花火のような燃焼音を伴って落ちてくる
初月「まさか……」
そのうちの一つは結構デカかった
「プレイヤー様の御来訪だぴょん!!」
初月「こんな……なんかプリコネの入りみたいな感じで降ってくんの……?」
ならコッコロちゃんを派遣して欲しかった。火の玉は、恐らく俺が空けたであろう穴から廃墟内に着弾
(;T)「うう……」
五十鈴「ぐ……」
瑞鶴「っ~……」
初月「うわ客観的に自分見るのキチィ!!!!!!!!!!!」
「おっきてー!!起きるぴょん!!」
俺の困惑を他所に、卯月(兎)はそれぞれの腹で腹ンポリンを始める
「オラァ!!!!!!!」
俺の身体の時だけ顔面に蹴りを入れてた。それってぇ!!!!!!!!男性蔑視ですよねぇ!!!!!!!!
(;T)「いっっっっっったぁ……あれ?」
五十鈴「何が起こっ……え?」
瑞鶴「何なの一体……は?」
起こされた三人は目を丸くしてそれぞれの姿を見て、そして姿鏡で自身の姿を確認し
「「「入れ替わってるーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!??????」」」
なんか前前前世から誰か探してるみたいな叫び声を上げた
―――――
―――
―
初月「こうだな」
五十鈴→瑞鶴
初月→五十鈴
俺→初月
瑞鶴→俺
『シャッフルクエスト』。互いの人格を入れ替え、別人となってファンタジー世界を冒険する『超没入型RPG』らしい
クリア条件は、ラスボスにあたる魔王的存在の撃破。クリアするまで現実世界には戻れない
加えて、致命傷を三回受けるとゲームオーバーとなり、永遠にこのゲーム世界を彷徨い続ける事となる。エグ過ぎ
「そんじゃー!!張り切っていってらっしゃーい!!」
そこまで早口で捲し立てた卯月(畜生)は、文字通り脱兎の如くどっか行った。何の質問にも答えてくれなかった
初月(乳首)「早い話がジュマンジってワケ」
五十鈴(初月)「なるほどな……つまり、グリードアイランドに入ったようなモノか」
瑞鶴(五十鈴)「あるいは、.hackのThe Worldかしら」
(;T)(瑞鶴)「こんなSAOやだ……戻して……戻してよぉ……」
全員違うタイトルで喩えてんじゃねーか
初月「せやから言うたやろ瑞鶴。危ないもんには触れずに捨ててたらお前もオッサンの姿にならんで済んだんや」
(;T)「だってこんなんなるとは思わないじゃん!!私ゲームしたかっただけなのに、なんでこんな仕打ち受けないとダメなの!?」
初月「お前のその発言で誰よりも深く傷ついてる奴がいるって自覚ある??????」
瑞鶴「シュールな光景ね……」
五十鈴「五十鈴のこれ……凄いな……」
瑞鶴「胸で遊ばないでもらえる?」
宇宙最強部隊である地獄の血みどろマッスル鎮守府ことギニュー特戦隊の面々と言えども、所詮は小娘だ。行ってらっしゃいと言われて即座によっしゃほな一発かましたろかとはならない
卯月(畜生)はマジ最低限の説明しかしなかったので、どこに向かえばいいのか、どうやって攻略すればいいのかは、これから手探りで見つけて行くしかない
初月「とりあえず、ステータスの把握……」
目の前にホログラムなウインドウが勝手に開いた。よく見るやつ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!
初月「都合が良くて助かる」
瑞鶴「展開が巻きね」
初月「巻きとか言うな」
五十鈴「僕は巻きなら納豆巻がいいな」
初月「好き勝手に喋るのやめて?????」
ステータス画面には、『ウィザード』という職業名と、ライフ残数を表すハートマークが三つ。MPは青色のバーで表示されている
下部には使える魔法一覧と、服や杖など、身につけている装備品の名前が並ぶ
初月「わかりやすい」
五十鈴「レベルなんかの数値は一切無いんだな。となると、レベリングは不要なゲームなのかも知れない」
瑞鶴「そうね。使える魔法もある程度は揃ってるみたいだし、ロールプレイがメインなんでしょ」
ゲーマーは考察が早いな
初月「他になんか情報はっと……」
試しに『ウィザード』の職業名をタップしてみる。すると、新しいタブが開き、具体的な説明が映し出された
初月「ウィザード。魔法を駆使する後衛職業。攻撃、防御、強化、弱体など、多種多様の活躍が可能。状況に応じて、最適格な判断を下せるプレイヤー向けのタイプ……」
瑞鶴「叢雲呼んでくるべきだったわね……」
初月「あのな、俺これでも提……でも初月もオッサンより叢雲に入られた方が良かったか……」
五十鈴「い、いや、気にしてないし気にするな。お前なら変な事しないってわかってるから」
初月「正気か??????」
五十鈴「信頼を疑う方がどうかしてるぞ?」
初月「ごめんね……」
瑞鶴「私は正直おじさまに身体乗っ取られるのイヤだからめちゃくちゃ安心してるけどね」
初月「それわざわざ言う必要あったか????????え???????」
信頼も不気味だし正直も傷つくし人生って儘ならんって感じだった
瑞鶴「考えてもみなさいよ。身体を中年異性に乗っ取られるより、同性の同僚に任せた方が安心じゃない?それに、乗り移ったのが頑丈なおじさまなら、多少無茶して大怪我しても罪悪感なんて湧かないワケだし、一番の当たりは瑞鶴かもよ?」
初月「おじさんだって一生懸命生きてんだぞ」
(;T)「じゃあ代わって!!」
瑞鶴「絶っっっっっっっっっっ対にイヤ」
初月「よし、もう入れ替わりについて言及するのは止そう。今のでお前以外が傷ついた。特に俺が」
一理あるが、最後ので台無しだった
それぞれの職業はこんな感じだ
五十鈴(初月) 職業:ブレイブ 武器:ソード 特殊スキル:必殺技
剣技と必殺技を駆使する万能型の前衛
必殺技の瞬間火力はトップクラス。逆境を覆し道を切り開く
いす……初月の姿も、寝巻き姿からRPGの勇者のような出立ちに変化している
宝石をあしらった額当てに、革で作られた肩当てとベルト。そして腰には勇者の剣だ
ただ、胸元と脚の露出が気持ち多めだ。でもまぁいつもとあんま変わらんか…………
瑞鶴(五十鈴) 職業:ハンター 武器:コンポジット・ボウ 特殊スキル:イーグルアイ
弓による遠距離攻撃、鳥類との視野共有で索敵を得意とする後衛
状況把握や援護射撃など、サポート能力に優れる
ハンターと言うだけあって、華やかさよりも迷彩性能を重視した深緑色の外套に身を包んでいる
装備に至っては空母艦娘ならお馴染みの弓と、腰の矢筒に収まった矢だ。これで中身が本人のままだったなら、現実と遜色無いほどの活躍が出来ただろうがーーーーー
( T)(瑞鶴) 職業:グラディエーター 武器:無し 特殊スキル:無し
マッスル!!!!!!!!!!!!タフ!!!!!!!!!!!そして脳筋!!!!!!!!!
一切合切を暴力でぶち壊す暴れん坊!!!!!!!!!敵にしても味方にしても厄介なオッサン!!!!!!!!!!早々にかつ出来る限り無惨に死ね!!!!!!!!!
元の身体の持ち主も、現実よりゲーム世界の方が厳しいとは夢にも思わなかったであろう
弓に明るい瑞鶴は今、拳一つで渡り歩けと無茶な要求をされたのだから
(;T)そ「私の説明だけ雑な上に装備もスキルも無いしそのうえ無惨に死ねとか書かれてんだけど!!!!!!!!???????」
初月「なんでゲームにすら厄介おじさん扱いされなきゃならないの?」
五十鈴「ううん……少々、酷ではあるな……」
瑞鶴「捨てようとか言ってたからじゃないの?」
チクショウ身に覚えがあり過ぎる
瑞鶴「確認も済んだし、サッサと移動しましょ。弓矢を試してみないと」
初月「俺も魔法がどういうモンか見てみてえ。なんかいい的ねえかな」
五十鈴「ほら提t……瑞鶴。不貞腐れてないで行くぞ。元気を出せ」
(;T)「ううう……良いわよねアンタらは……私、殴る蹴るしか出来ないんだから……」
初月「格闘の成績がクソほど悪いんだからゲームの世界でくらい殴る蹴るしたらどうだ?」
(#T)「キィイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
テメーの姿でヒスられんのマジでキチィ……
五十鈴(瑞鶴の姿)に続いて、初月(五十鈴の姿)と俺(初月の姿)の二人がかりで不貞腐れた瑞鶴(オッサンの姿)を廃墟から引きずり出す。ややこしい
なんで膨れっ面の自分を宥めながら引っ張らなアカンのやろか。拷問では?
初月「重てえなクソ……ん?」
外に出ると、そこは草原の真っ只中。所々に木々がポツポツと立ち、遠くでは豚に羽が生えたような生き物が草を食んでいる。ハッピーがたくさんブゥって感じ
そして俺らより先に外に出た五十鈴は―――――
「ヒャッハー!!上モノが三人もいやがるぜ!!」
「ヒィーヒヒヒ!!大人しくしてりゃあ可愛がってやるからよぉ!!」
「オッサンは臭いからぶっ殺しちまえ!!」
あからさまなチンピラと対峙していた。臭いってなんだ殺すぞ
五十鈴「瑞……五十鈴、そいつらは?」
瑞鶴「さぁ?チュートリアル用のザコなんじゃない?会話しようとしてもずっとこんな調子だし」
ひーふーみー……十人くらい?まぁまぁ多いな
顔は……北斗の某に出てきそうなモヒカン顔で統一されているが、装備品はそれぞれ違う
剣や槍は勿論、弓や魔法の杖を持ってる連中も見受けられる。三回致命傷を喰らえばお陀仏な設定で、この人数差は結構ピンチでは?
瑞鶴「それじゃあ早速、腕試しと……」
初月「ボンバーダァァァァアアアアーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「え?」
アイサツ無しのアンブッシュは一回までなら有効。古事記にもそう書いてある
杖先から放出された爆破魔法は、チンピラを五人くらいまとめて吹き飛ばした
「「「「「グワーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」」
爆発四散せずに遠くに飛んでいったのを見るに、お子様でも安心して遊べそうだ
瑞鶴「ちょっと提督!!私の初陣の邪魔しないで!!」
初月「わり」
( T)「ドス効いた大声出す初月やだなぁ…………」
五十鈴「呪文を叫ぶ必要があるのか?」
初月「薩摩が出ちゃった」
瑞鶴「さぁ、仕切り直し……」
初月「ボンバーダァアアアアアアァアァアアアアアアッッッッッッッッッッイ!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「ちょっとぉ!?」
「「「「「グワーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!??????」」」」」
どデカい爆発エフェクトと共に残りのチンピラも空へと消えていった。バイバイキンである
初月「へへ、魔法っておもしろ」
瑞鶴「な、ん、で!!一人で全員やっつけちゃうのよぉ!!」
初月「つい」
瑞鶴「可愛くなったからって好き勝手し過ぎじゃない!?」
初月「せやろか」
( T)「そのおじさん元からそんな感じだよ……」
五十鈴「魔力消費はどうだ?あれだけの威力だ。相応に減ってるんじゃないか?」
初月「どれどれ」
ステータス画面を開いて確認すると、青色のバーが半分程度まで減っていた
初月「めちゃくちゃ減ってんじゃねーか!!!!!!!!」
五十鈴「燃費が悪いな……魔法はここぞって時まで温存すべきだな」
瑞鶴「それと、MP回復は時間経過なのかアイテム消費方式なのかも気になるところね。身体に変化はないの?」
初月「特にねえな。つーかわざわざステータス画面開かなきゃ確認出来ねえのかよめんどくせえなクソUIじゃねーか」
( T)「言葉遣い汚い初月やだなぁ…………」
初月「俺も内股で座り込んでメソメソするテメーの姿見るのやだよ」
五十鈴「しかし提督。最初のNPCを全員吹き飛ばしたのはマズかったんじゃないか?」
瑞鶴「そーよ!!とっ捕まえて色々吐かせられたかもしれないじゃない!!」
初月「でもぉ……」
瑞鶴「くっ……ガワが良いから怒るに怒れない……」
可愛いって得だな
( T)「ねぇみんな!!アレ!!」
瑞鶴が指差す先には、鞍を載せたカバのような生き物が二頭、砂煙を上げながらやって来る
蹄の音は無く、代わりにエンジンとモーター音が聞こえてくる
初月「車……?いや、生き物か……?」
鼻息荒く近づいてきた動物は、脚の代わりにタイヤが四つ。四足歩行動物ならぬ、四輪走行動物とでも言おうか。車輪カバはゆっくりと速度を落とし、俺らの目の前で停止した
瑞鶴「何この冒涜的な動物……?」
五十鈴「さっきの盗賊はこれに乗ってきたのだろうか?」
体長は4メートル、体高は俺の身長より頭一つ小さいくらいか。鞍はそれぞれ五人分用意されており、生き物の頸には手綱の代わりにバイクハンドルが備わっている
初月「ご親切にアッシーと……」
腹部に備え付けられてるバッグを漁ると、金属音を鳴らす汚く小さい革袋と、巻かれた古い紙が出てきた
初月「小遣いに地図か。至れり尽くせりだな」
( T)「こっちには薬品の瓶が入ってたよ。提督さん、飲む?」
初月「今回その役割お前だが??????」
(;T)「ハズレ過ぎるこの身体……」
地図を広げると、上下でコントラストが明暗に別れていた
大陸の上半分は黒を基調とした『陰界』。下半分は明るい『陽界』と、わざわざ日本語で明記してある。異世界語とかじゃなくてよかった
その陽界の左下辺りに、赤いマーカーが点滅している。どうやら、現在地を表しているようだ
初月「何々~……『ハジマリハジマリ平原』……」
瑞鶴「何言ってんの?」
初月「この辺の地方がそんな名前らしい」
( T)「バリオモロ島と同じレベルじゃない」
初月「なんそれ?」
( T)「メイドインワリオ」
初月「へぇ……フフッ、おもろい名前。とりあえず、一番近い……あー……『メスガキ王国』にぃ……」
五十鈴「メスガキ王国」
瑞鶴「ホントにそんな名前なんでしょうね……?」
初月「本当にそう書いてあるもんほら!!」
地図を受け取った五十鈴はマジマジと見つめ、一度目を擦り、再度見つめて―――――
瑞鶴「うん……ここが一番手っ取り早いのなら、仕方ないんじゃない……?」
憔悴した様子で地図を丸めた
( T)「良いじゃんメスガキ!!そういうの好きだよ!!」
瑞鶴「知らないわよ……」
五十鈴「急に元気になったな」
初月「ハァー……ま、名前だけかもしれんし、行って必要な情報だけパッと集めようぜ」
瑞鶴「そうね……ところで、これ誰が運転する?」
カバ車輪は大きく欠伸をして、『早くしろ』と言いたげに身体を振った
( T)「やりたいやりたい!!提督さん、いいでしょ!?」
初月「好きにせぇや……」
瑞鶴「じゃ、私は初月とこっちに乗るから」
初月「えっ」
五十鈴と初月はカバ車に颯爽と乗り込み、スムーズに発進させた
( T)「提督さーん、何してんの?早く行くよー!!」
初月「あ、ああ……」
( T)「えーっと、アクセルは……」
30秒後、俺はハズレくじを押し付けられたと身をもって思い知った
―――――
―――
―
五十鈴「だ、大丈夫か?」
初月「…………」
瑞鶴「ごめん……そこまで酷い運転するとは思ってなくて……」
前後上下左右に激しく揺られるカバ体にしがみついて三十分。高い城壁に囲われた『メスガキ王国』とやらに到着した
いくら舗装されていない道とはいえ、どうやったら車輪走行であんな異次元の揺れ方するんだよ
( T)「三半規管器官弱いんじゃない?」
初月「スゾ…………」
五十鈴「杖を下ろすんだ提督。魔力が無駄になるし恐らく死なないぞ」
瑞鶴「瑞鶴、アンタもう運転禁止」
当の運転手はケロッとしているのがまた腹立たしい
そういやこいつゲーム好きだけど上手くはねえんだ。レースゲームも壊滅的なんだわ
( T)「さ、早く入国しようよ!!楽しみだなぁ。可愛い女の子がいっぱいいる国!!」
瑞鶴「ちょっと待ちなさいよ!!勝手に行かないでくれる!?」
流石に盗賊の乗り物で王国まで近づくのは誤解を招く恐れがある為、カバ車とは泣く泣く別れを告げた
瑞鶴が乗り回したカバ車のグッタリした様子を思い出すだけで心苦しい。それなのにどうしてあいつだけあんな元気なんだ
初月「俺に構うな……行くぞ……」
五十鈴「無理するな。少し休んでからでも……」
初月「一刻も早くクリアしてこのクソゲーとあいつの背骨をバキ折ってやる……」
瑞鶴「瑞鶴!!!!!!早く謝らないと戻ってから酷いわよ!!!!!!!」
<ごめーん!!
謝ってもやる
「え~?入国には一人99999G必要なのしらないのぉ~?」
「キャハハ!!田舎者ってだっさーい!!」
名は体を表すと言うが、国名になってるだけあって、出迎えた門番から早速メスガキ節を頂戴した
ただし、瑞鶴が期待したような小さくて可愛い女の子ではなく
(;T)「は……話と違うじゃん!!!!!!」
甲冑に身を包む、汚い髭面のオッサンの口から発せられたモノだったが
初月「名前がメスガキってだけで、メスガキで構成された国とは書いてねえからなぁ」
(;T)「チクショウ!!ゲームの中でくらい夢見せてくれたっていいじゃん!!」
咽び泣きながら地面を拳で叩く瑞鶴。俺の姿で無様を晒さないでほしい
五十鈴「気味が悪いな……本当に入らなきゃダメか?」
瑞鶴「そもそも、これっぽっちで全員入れるの?」
五十鈴はなんか小さい革袋略してちいかわを手で弾ませる。悲しくなるほどささやかな金属音が鳴った
よほど食い詰めていたのか。それとも稼いだ先から使ってしまうのか。入ってたのは小汚い銅貨がたったの四枚だ。シケてんな
「「ざぁこざぁこ❤経済弱者❤お財布スカスカ❤」」
んなカンストしたみてーな金額どうやって稼げってんだよ
初月「入れなくても良い気がしてきた……」
瑞鶴「一度引くわよ。金策も視野に入れて作戦会議しないと」
五十鈴「本当にお金払ってまで入らなきゃダメなのか……?」
メスガキおじさん兵士の煽りを背に受けながら、ちょっと離れた所まで戻る。タチの悪い悪夢を見た気分だ
(;T)「艤装が使えたらあそこに爆撃してやるのに……」
初月「何でもかんでも艦載機で解決しようとするな」
五十鈴「五十鈴、金策のアテはあるのか?」
瑞鶴「バカね。あんな連中に払うお金なんて一銭もないに決まってるじゃない」
五十鈴は人差し指を空へと向けた。俺らの頭上では、鳥の番がクルクルと旋回している
瑞鶴「あの子達の目を借りて城壁周りを探ってたら、裏口らしき場所を見つけたの。行って確かめてみない?」
初月「視界共有か。便利なもんだな」
( T)「私だって普段は偵察機使って索敵出来るし……」
五十鈴「いつもありがとう。瑞鶴」
(*T)「なにもうやだ照れるじゃない!!」
拗ねたり照れたり忙しい奴だな。俺の姿でクネクネするな
城門を右手に三十分ほど歩き、五十鈴が見つけた裏口とやらの場所に辿り着く
そこには入口となる門も扉もなく、ただ石造りの城壁が聳え立っているだけのように見えるが―――――
瑞鶴「うん、やっぱりここだけ材質が違う」
五十鈴「本当だ。色は似てるがこれは……木材だな」
初月に続いて城壁に触れてみると、滑らかな石壁とは明らかに違う、ささくれ立った木の感触がする。ここで間違いないだろう
問題は、これをどうしたら裏口として機能するのかだ。開けゴマとでも唱えろってか?
( T)「なんだっけあれ……アリババと数万人の盗賊だっけ?なんか呪文あったよね?」
初月「数万もいたらそりゃもう桓騎軍だろ……」
( T)そ「あっ、そうそう。ピリカピリララ ポポリナペペルト」
初月「おジャ魔女な」
瑞鶴「マハリクマハリタ?」
初月「ヤンバラヤンヤンヤンじゃなくてな」
五十鈴「テクマクマヤコンテクマクマヤコン……」
初月「ひみつのアッコちゃんでも無くて」
( T) 瑞鶴 五十鈴「「「おお~」」」
初月「試すのやめな??????」
そう言えば、おジャ魔女で思い出したが、使えそうな魔法があったはずだ
ステータス画面を開き、魔法一覧を確認する。二つほど候補が見つかった
初月「『解錠』か『看破』だな」
( T)「提督ばっかり活躍してズルくない?」
初月「はいはいズルいズルい。開けゴラァ!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「ゴラァて」
気合い入れて解錠魔法を城壁に向けて放つと
初月「ウッ」
間髪入れずに跳ね返って来た魔法が腹に直撃し、もんどり打った
五十鈴「提督!!大丈夫か!?」
初月「カッハッ……イキデキナイ……」
視界がグルグルと回る中、頭上に『ライフゲージ』が出現する
三つあるハートの内、一つが消失した。今ので一回死んだらしい。死亡判定厳しくね?
初月「ッ、ゲホッゴホッ……ハァッ!!クソが……」
消失と同時に、体調も元に戻る。リスポーンってこんな感じなのか
瑞鶴「セキュリティはしっかりしてるみたいね……」
( T)「魔法だからってなんでもかんでもまかり通るワケじゃないんだねー」
初月「良い勉強になったよ。そんじゃ、城門に戻るか」
( T)「え?お金どうすんの?」
初月「馬鹿だなぁ瑞鶴。これから滅ぶ国に金が必要か?」
( T)そ「はちゃめちゃにキレてる!?」
五十鈴「落ち着け。それだと瑞鶴と同レベルだぞ」
( T)「初月?私のこと馬鹿にしてない?」
瑞鶴「ちょっとアンタたち。こっち来て」
( T)「ねぇ五十鈴、私あんな野蛮じゃないよねぇ?」
瑞鶴「知んないわよそんな事。それよりこれ」
魔法に反応してか、それともゲームからの計らいか。壁には先程まで無かった文章が浮き上がっていた
『この先、偉大な魔法使いの秘密の部屋。言の葉を炎の杯へと捧げよ。さすれば道は開かれん』
瑞鶴「で、わかる人?」
( T)「わかんない」
瑞鶴「考えるそぶりくらい見せてほしいわ……」
五十鈴「炎の杯……何かの揶揄だろうか?それらしい物は見かけなかったが……」
初月「ゴキブリゴソゴソ豆板!!」
五十鈴「提督?」
壁<やるじゃん
五十鈴「え?」
『カチャン』と鍵の開く音と共に、木製の扉が現れる。簡単なクイズだったな
初月「よし。行くぞ」
(;T)「待って待って解説してよ。何その悍ましい合言葉?」
初月「あー?『秘密の部屋』と炎の杯……『炎のゴブレット』でハリポタ。偉大な魔法使いはダンブルドア。偉大な魔法使いの部屋。つまりホグワーツ校長室の合言葉がキーワード。最初はレモンキャンディかと思ったが、『炎の杯に捧げよ』って指定があることから、優先度は炎のゴブレットでの校長室の合言葉。つまり『ゴキブリゴソゴソ豆板』だ。簡単だろ?」
瑞鶴「難解よ」
(;T)「そんなのほぼ勘じゃない!!」
五十鈴「求められる知識が限定的過ぎやしないか……?」
文句はゲーム製作者に言って
初月「さーて、鬼が出るか蛇が出……」
扉を慎重に開けて、中を覗き込むと
「動くな……」
鼻先に、槍の穂先が突きつけられた
初月「……」
「小娘だ……」
「めちゃくちゃ可愛いぞ……」
「男であって欲しい」
「ヘヘッ、直接確かめてみたらいいじゃねえか」
「黙ってろ馬鹿共!!」
ランタンの乏しい光源が照らす倉庫のような部屋に、無精髭を生やした荒くれ者が六人。内一人は性癖マイノリティだった。ポリコレに配慮してる昨今のディズニーか??????ストレンジワールドに出演したらどうだ??????
初月「……」
初月「お邪魔しました」
俺は扉をそっと閉じて見なかった事にしようとしたが
「入って」
ここには居ないはずの聞き覚えのある女の声と、背中に押し当てられた刃物の感触が、後退を許さなかった
声の出所と髪を揺らす吐息の位置からして、そこそこタッパがある。初月の身体も小柄では無いので、女性にしては高身長だ
女のツラを見たであろう槍男は、控えめに一礼した。女首領か。気苦労が多そう
「おかえりなさいませ、ボス」
「退いて」
「失礼を」
初月の目線だと余計にデカく見える荒くれ者は、槍を収めて大きく退がる
刃物で奥へと進むように促され、ゆっくりと足を踏み入れた
教室ほどの広さがある室内。壁際には樽が並び、隅には干からびた死体が転がっている。成仏してクレメンス
初月「出来ればツレも一緒に連れて来て欲しいんだがね」
「心配しなくてもまとめて始末してあげるわよ」
初月「恐いねえ……」
漏れなく全員、背後を取られたらしい。そうだよな秘密の裏口を余所者が使ったら口封じするわな
誰も気配を感じなかったのは、ゲーム特有のスポーンからか。流石に無から突然現れちゃ気づきようもねえわ
瑞鶴「ごめん、迂闊だったわ」
「誰が口を開けと言ったァ!?」
瑞鶴「ッ!?」
(;T)「五十鈴!!」
ゴッと鈍い打撃音が響き、荒くれ者共がやんやと囃し立てる。五十鈴は不幸にも、とびきり手の早いクズに捕まっちまったらしい
「貴女」
初月「あ?」
「腕に覚えがありそうね?」
初月「確かめてみるか?ここにいる全員、瞬く間に皆殺しにしてみせるぜ」
始末するならとっとと殺ってるはずだ。裏口を見つけた余所者を生かしておく必要が無い
『慰み者』扱いするにしても、『余計な大男』まで生かしておく必要も同じく無い
それに、『魔法使いから杖を取り上げない』のは、致命的なミスだ。この世界の住人なら、プレイヤーである俺らよりも魔法に造詣が深いはず
後ろを取られようとも、振り返りもせず反撃に出れる。魔法はそれほどに、理不尽で利便性のある手段だ
「おーおー、大きく出るじゃねえかおチビちゃん!!」
「是非ともシゴいてもらいたいもんだなぁ!!えぇ!?」
囃し立てる荒くれ者共にそこまでの知性があるようには見えない。女を「ボス」と呼んだ槍男だけは、どこか緊張した面持ちで佇んでいる
槍男はアイコンタクトでボスと通じ合ったのか、荒くれ者に気付かれぬよう、小さく首を縦に振る
ボスはローブの襟を掴み、グイと引き寄せる。そして耳元で囁いた
「光源、最大出力」
ご要望とあらば
初月「ルーモスマキシマァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
薩摩が出た
煤だらけのランタン頼りの薄暗い部屋を、杖先から放たれる強烈な閃光が容赦なく照らす
「目がぁぁぁあああああ!!!!」
初月「くたばれーーーーーーーーーー!!!!!!」
「ボッ……!!」
目眩しをモロに浴びて悶絶する男のこめかみを杖で殴り
「ガキがァ!!」
初月「あぶなっ。くたばれーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
「ゲッ!?」
激昂した別の野郎が振り下ろしてきた斧を軽く躱して、ゴルフスイングの要領で顎下を殴り上げる
艦娘の膂力なら艤装なしでも大の男程度なら素手で完封できるが、この世界の住人は少々頑丈に作られているらしく、ノックアウトまで到らない。なら郷に従うか
初月「くたばれザケルーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
立て直す間も与えず放つ電撃魔法。二人は全身の汚い毛を逆立たせ、ガクガクと痙攣した後、煙を上げて事切れる。臭い
瑞鶴「このっ、さっきはっ、よくも!!」
五十鈴「たぁッ!!」
ド近接の戦闘に慣れた二人も、合図無しの目眩しに対応して背後のゴミ共を片付ける
先程どつかれた五十鈴は執拗に腹を蹴っていた。ゲロ吐くまで蹴ろ
(;T)「うわああああああああ!!!!!目があああああああああ!!!!!!」
あの子はホンマにもぉ~……
「クソ!!裏切りやがったなァ!!」
(;T)そ「わぁぁ!?助けて初月!!」
五十鈴「瑞鶴!!」
荒くれ者の一人は瑞鶴を羽交い締めにして首筋にナイフを押し当てる。遅れを取りすぎやろ
「動くんじゃねえ!!このデカブツをぶっ殺すぞ!!」
瑞鶴「そんな小さい刃物じゃ死なないんじゃない?」
(;T)そ「なんで煽んの!!!!!!?????」
初月「なんで煽んの????????」
しかし幸運なことに俺らの残機は三つもあるのだ
初月「頑張って耐えろボンバーダァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
(;T)そ「ちょっ……ガハァ!!!!!?????」
「グギャッ!?」
構わず爆破魔法でぶっ飛ばした
瑞鶴「あーあー……」
五十鈴「少しは躊躇え!!」
初月「自分の身体なんだからいいだろ別に」
五十鈴「自分を大切にしろ!!」
瑞鶴「今は瑞鶴の心配をしてやんなさいよ」
初月「オメーが言うな」
樽を粉砕し、埃を派手に舞い上げた二人だったが、立ち上がったのは
(;T)「っ~~~~~~~~~……ゴホッ、ゴホッ!!」
やはり俺の強靭な身体の宿主だけだった
初月「残機減ってなくね?やったじゃん」
(;T)「良くない!!!!!!!内臓バラバラになったかと思ったんだからね!!!!!!」
しかしタフを売りにしてるだけあって、現実の俺より頑丈になっているみたいだ。砲撃受けても死なない身体になりたい
これなら、滅多な事ではライフは減らないんじゃないだろうか。格闘オンチの瑞鶴に俺の身体は向いてないと思ったが、『鎧』としては十分に機能している
(;T)「はぁ……ところでさ、ここ……」
「待って」
外套に目元を隠すマスク姿の女は、分が悪いと察して逃げ出した荒くれ者の背に向けて斧を投げる
回転しながら飛翔する斧は後頭部へと突き刺さり、荒くれ者は顔を地面で大いに削って動かなくなった
「先ずは非礼を詫びさせて頂戴。それと、自己紹介を」
マスクと外套のフードを下ろした女は、酷くやつれてはいるが、やはり見覚えがあった
「メスガキ王国第二皇女、ビスマルクと申す者よ」
その名の通り、ウチにいるドイツ艦娘と瓜二つなのだから
(;T)「え?ビス子もやってたの?どのタイミングで?」
「貴様!!無礼であるぞ!!」
(;T)そ「ハァ!?何なのこのオッサン!?」
瑞鶴「そーよ無礼よ」
五十鈴「少しは空気を読め」
(;T)「四面楚歌!?」
さしずめ槍の男は、忠実な従者と言ったところか。話の展開が読めて来たな。荒くれと一緒にいた理由まではわからんが
そしてこのパターン。過去に一度経験した覚えがある。あの時はひでぇ格好をさせられたもんだ
初月「お許しください皇女殿下。この者はドジで空気読めず言葉遣いも儘ならない可哀想な子なのです」
瑞鶴「それに不器用でガサツ」
五十鈴「オマケに意地っ張りで短気」
( T)「えっ泣くよ普通に?いいの?提督さんの姿で泣き喚くよ?」
異次元の脅しをされた
ビスマルク「フフ、楽にしてもらって結構よ。皇女なんて今の王国にとっては肩書き以上の効力を持たないもの」
「殿下、それは……」
ビスマルク「この国の現状を見せるわ。此方へ」
ランタンを手にとった『ビスマルク皇女』と従者に続き、倉庫を後にする。殺風景な廊下を少し歩き、螺旋階段を登った先は、バーカウンターに続いていた
酒場のようだが客は一人もおらず、足の折れた椅子や丸テーブルが転がり、床を踏み締める度に割れたガラスの音が鳴る。窓と扉は全て板張りで塞がれているが、所々から光が漏れ出していた
瑞鶴「ダクソ並みに暗い場所ね……」
ビスマルク「百聞は一見にしかずよ。覗いてみて」
初月「昔、ゲームセンターとかにこういう映像観るゴーグル型の筐体が置いてあってだな」
ビスマルク「早くして」
なんか嫌な予感がしたので平成初期の懐かしい筐体でお茶を濁そうとしたが、ピシャリと急かされたので代表して隙間から覗き込む
案の定と言うか、想定以上と言うか。外に広がっていた景色は酷いもんだった
<ざぁこざぁこ
<ざぁこざぁこ
陰鬱とした街並みで、ボロを纏った国民が俯きながら作業をしている
その様子を、同じ顔をしたメスガキおじさんトルーパーが、独特の鳴き声を上げながら監視していた
その格好は国民より酷い。腹を露出したピチピチTシャツに、サスペンダー付きのミニスカート
何考えてるのか知らんが、へそピまで開けてやがる。こんなん見るくらいならアリ・アスターの監督作品一気見した方がマシだ。マシだろうか?マシじゃないわ
初月「目が腐った……次、五十鈴どうぞ」
瑞鶴「口頭で説明だけして」
ビスマルク「二年も前の話よ。突如、あの珍妙な兵隊を率いて現れた『最悪の魔女』が、全土の王国領内を支配したのは」
確かに趣味は最悪かもしれん
ビスマルク「当時、私は隊を率いて遠征中だった。報せを聞いて急いで戻った時には既に手遅れだったわ。残存兵や傭兵をかき集めて反撃に出たけれど、焼石に水。這う這うの体で敗走して、コソ泥の真似事で食い繋いできたわ」
五十鈴「心中、察するに余りあるな……」
初月「……」
没落して過酷な日々を過ごして来たってのは、確かに気の毒だ。それを加味しても、仲間の切り捨てが早すぎる。しかもこの女、まるで最初からそんな連中いなかったかのように話すじゃねえか
ウンザリするほどのカス共だったのかもしれないが、明確に裏切ったワケでも魔女と内通してたワケでもねえだろうし、初対面の俺らよりかは多少の情はあって然るべきだ
( T)「え?それがなんで同士討ちに繋がんの?」
初月「おめえよぉ」
そんなストレートに訊くことちゃうねん
瑞鶴「このノンデリバカ!!」
五十鈴「少しは考えてから発言しろ!!」
(;T)「えっ何マズかった!?」
初月「ホルガ村なら最初の方に殺されてるレベル」
ビスマルク「いいのよ。当然の疑問だわ」
人が出来てて良かった……
ビスマルク「と言っても、釈明出来るほどの大層な理由なんてないわ。私、盗賊崩れのクズが大嫌いなの。それだけ」
(;T)「ええ……?」
あっけらかんとしたものだ。元から仲間への情など無かったらしい
初月「生き残るために渋々徒党を組んでいたが、俺らの登場で利用価値が無くなったから切り捨てたってことか?」
ビスマルク「凡そは。それに、悪人なんて王国復興の邪魔にしかならないじゃない?悪性の腫瘍は取り除くべきってのが、代々受け継がれてきた教えなのよ」
なんか滅ぶべくして滅んだ王族の典型例みたいな奴だな
瑞鶴「それで、私たちに何をして貰いたいワケ?」
五十鈴が上手く話を本筋に戻した。ゲームのキャラクターの人格問答などしていても仕方ない
求めているのはゲームクリアへの案内人だ。誰を裏切ろうが、俺らに危害が無ければそれで構わない
ビスマルク「ご説明してあげて」
「畏まりました。移動する。ついてこい」
従者に導かれ、別室へと移動する
初月「ん……?」
( T)「……」
瑞鶴はすぐに動き出すことはせず、俺が先程覗いた隙間から外の光景を見ていた
初月「瑞鶴、行くぞ」
( T)「んー」
キモいキモいと騒ぐかと思いきや、大人しくその場を離れた
( T)「あのさ……」
初月「後でな」
( T)「……わかった」
―――――
―――
―
ビスマルク「兵力の差を古代兵器で埋めるわ」
俺らが請け負った『クエスト』は、大陸に眠る巨大兵器の発見だ
テーブルに広げられた地図には三つのポイントが印されている。かつて魔族の侵攻を押し留めた伝説の兵器の起動キーの隠し場所だそうだ
「伝承の研究の結果、おおよその『あたり』はこの地点に絞られた。一つ目、ラビットホール洞」
死ぬまでピュアピュアやってそう
「二つ目、モザイクロール火山」
傷口から漏れ出す液を愛と形容しそう
「そして三つ目、ヴァンパイア城」
最低最高ずっと行き来してそう
( T)「あのさぁ」
初月「抑えろ」
全て地名である。どれも聴き馴染みあるのは偶然の一致だと思いたい
瑞鶴「何がいて、何を持ってくれば良いの?」
「黙って聞いてろ。順に説明する」
ぶっきらボーイなオッサンの態度に、五十鈴は肩をすくめた。思春期の照れ隠しの可能性がある
「各地に鍵となる宝玉が保管されているが、それぞれに番人が付いている。回避は難しいだろう」
五十鈴「鍵の番人なら、味方では無いのか?」
「あくまで中立の存在だ。魔族だろうが人類だろうが、平等に追い返す」
初月「悪さ防止の為か」
ビスマルク「その通りよ。特定の誰かの手に渡れば、国家転覆なんて容易いわ」
現実と同じく、人類も一枚岩ではないって事か
にしたってもうちょい手軽に動かせたなら支配もされんかったろうに
( T)「いざって時に使えないから国を乗っ取られたんじゃないnウッ」
五十鈴が腹に肘を入れて黙らせた
ビスマルク「これはあくまで伝承なのよ。最初から頼りに出来るような代物じゃなかったの」
初月「そうやぞ。徳川埋蔵金アテにするようなもんや」
瑞鶴「初月の姿で可愛くない関西弁やめて」
ビスマルク「上手い喩えね。続けるわよ」
番人の他にも、過酷な環境や張り巡らされた罠などに妨害され、宝玉の確保は困難を極めたらしい
その上、タダでさえ少ない兵力を、悪戯に消費するのは如何なものかと、仲間内でも意見が割れているそうだ
そこで白羽の矢が経ったのが、パッと見で腕が立ちそうな俺たちプレイヤーパーティーだ
ビスマルク「勿論、見返りは用意するわ。王国を取り返せた暁には、望む物をなんでも与えるわ」
初月「ハイパーインフレーションアニメ化」
瑞鶴「『なんでも』の拡大解釈やめて」
「各地点の環境や敵の情報は、ライブラリに追記してある。突入前に確認するように」
( T)「ライブ……?」
五十鈴「ステータス画面じゃないか?」
( T)そ「そっかこれゲームだった!!」
メタルギアのチュートリアルみたいだな
初月「金玉を三つ集めたらどこに向かえばいいんだ?」
瑞鶴「提督アンタもう初月の間は喋んないで」
ビスマルク「もう一度ここに戻ってきて頂戴。最後に向かうのは、メスガキ王国地下のカタコンベよ」
『カタコンベ』。地下空洞に作られた共同墓地だ。骨とかいっぱい積み上がってるのをテレビで見たことがある。アリウススクワッドもそこから侵入してきてた
王国から割と遠くに鍵を置いている割に、本体はすぐ足下に隠しているのを鑑みるに、古代兵器とやらは動かしづらい物ではあるらしい。やめてね核とか。メタルギアREXとか
五十鈴「だけど、移動だけで時間を食ってしまいそうだな……」
ビスマルク「心配ご無用よ。ちゃんと移動手段も用意しているから。外に出ましょうか」
隠し通路を戻り、荒くれ者がたむろしてた隠し部屋を抜けて外に出る。しばき回した連中はいつの間にか居なくなっていた。容量の関係で自動消滅したのかもしれない
空は茜色に染まりかけている。現実よりも時間の流れが早いのもゲームらしい仕様だ。皇女は胸元から取り出した小さな笛を高らかに吹き鳴らすと、共鳴するように遠くの空から甲高い鳴き声が聴こえてきた
<アギャアス
( T)「ミライドンかも」
瑞鶴「確かに四人乗れるわね」
初月「任天堂法務部が黙ってないだろ……」
とは言え、1988年に作られたゲームにしてはどうも……いや、怪異であるなら辻褄など、どうにでもなる
ビスマルク「来たわよ」
頭上からスッと影が差したかと思えば、大きな羽ばたきで風を巻き起こしながら、赤い『竜』がゆっくりと下降してきた
ファンタジーRPGお馴染みのドラゴン。その荘厳たる姿は、俺たちから容易く感嘆を引き出した
ビスマルク「サラマンダーよ。飛行速度なら大陸でも屈指を誇るわ」
ちゃんとふーしそう
ビスマルク「人を乗せ慣れてるから、操縦は容易い筈よ。逆鱗には触れないで頂戴。呼び出す時はこの笛を吹いて」
初月「ああ、どうも……瑞鶴お前先頭に乗るな」
(;T)「上手くやるから!!今度は上手くやるから!!」
初月「しばくぞ」
皇女から笛を受け取り、三人がかりで瑞鶴をサラマンダーから引きずり落として鞍の先頭に乗った
珍妙なカバ車とは違い、革の手綱で操るようだ。全員が乗り込むと、サラマンダーは身体を起こして翼を広げた
瑞鶴「運転出来そう?」
初月「大丈夫、ガキの頃何度も模擬操縦してっから」
瑞鶴「コナンくんだってサラマンダーの経験はないんじゃない?」
なんで26年前のネタが通じるんだよ
「我々も残った戦力を掻き集めて決戦に備える。出来る限り速やかに回収を終えて戻ってこい」
( T)「簡単に言ってくれるじゃない……」
ビスマルク「それだけ信頼してるってことよ。幸運を祈ってるわ」
初月「ありがたく。よし、行くぞォ!!!!!!」
サラマンダーの脇腹を踵で軽く蹴ると、助走をつけて飛び立った。羽ばたきをする度にガクンガクンと身体が揺れたが、一度風を掴むと安定して飛ぶようになった
手綱を操って皇女と従者の頭上を旋回し、一つ目の目的地、『ラビットホール洞』へと針路を向けた
―――――
―――
―
今や『空』は、人間にとって最も快適な旅路だ。地球の裏側にだって(多少の乗り継ぎはあるものの)、2~3日もあれば到着する
俺たちはこの『空の旅』で、飛行機の素晴らしさを再認識していた
瑞鶴「寒い!!!!!!!!」
安全なフライトに、客室乗務員によるサービス。映画や音楽を視聴できるエンタメまで完備した飛行機と比べ、生身の身体での飛行はなんと過酷なことか
「サラマンダーより、ずっとはやい!!」なんて有名なセリフがあるが、これ以上のスピードで飛ばれては身が保たない
初月「眠たくなってくるからなんか話してくれ!!」
五十鈴「こんな状況でか!?」
初月「バイクかっ飛ばしてる時でも眠くなんのが人間のバグってるとこだよ!!」
( T)「ねぇ!!皇女ってビスマルク本人じゃないの!?」
初月「ありゃ見た目が一緒の別人だよ!!前にこういう巻き込み型怪異に遭遇した時ぁ、ウチの連中の見た目した演者を用意してやがった!!多分、記憶やらなんやらから読み取ってるんだろうぜ!!」
身を切り裂くような風の音に負けないように声を張り上げる。太陽は落ち、空には三つ並んだ月が浮かんでいた
ラビットホール洞に到着するまでの間、眠気覚ましついでに俺たちは認識の擦り合わせを行う事にした。先ずはビスマルクの姿をしたNPCの話題だ
初月「最初のウサギも卯月の声してただろ!?恐らく、番人や最悪の魔女もウチの奴らの姿をしてるんじゃねえかな!!」
瑞鶴「ねぇ!!それって強さまで模してたりしないわよね!?青葉やら天龍やらが出てきたら詰みよ!?」
初月「は???????負けないが????????」
(;T)「理解らされるフラグじゃん!!」
初月「瑞鶴!!加賀が出てきたらどうする!?」
( T)「は????????負けないけど????????」
五十鈴「とにかく、見た目に惑わされないようにしよう!!」
初月がいい感じにまとめてくれた
五十鈴「そもそも、皇女は信用していいのか!?」
初月「大いに疑ってかかるべきだろうぜ!!」
瑞鶴「根拠はあるの!?」
初月「まず最初の違和感は皇女に切り捨てられたクズ共だ!!奴らは今の俺の姿を見て、『男であって欲しい』とか抜かしてやがった!!」
瑞鶴「何の話!?」
( T)「気持ちはわからなくもないけどー!?」
五十鈴「瑞鶴?」
ここが現実世界であれば、ただの瑞鶴と同レベルの気持ち悪い野朗で済んだが、今の俺たちは中身が『入れ替わっている』
初月「『男であって欲しい』ってのは、身体じゃなく人格の方を指してたのかもしれねえ!!だとすると、『入れ替わり』について把握してたってこったよ!!」
瑞鶴「どちらにせよ相当気持ち悪いわね!!」
五十鈴「どうしてそれが疑う根拠になるんだ!?」
初月「連中も元『プレイヤー』だったかもしれねえってこった!!最初に卯月(畜生)が説明したろ!!ライフがゼロになりゃあ、永遠にこの世界を彷徨うってよ!!」
シャッフルクエストに巻き込まれたのが、俺らが初とは限らない。当事者であれば、入れ替わりを把握していてもなんらおかしくは無い
ゲームに永遠に囚われた奴らが膝を寄せ合うコミュニティ。『皇女』を名乗るあいつは、そのリーダーなのかもしれない
五十鈴「なら、皇女はどうして仲間を切り捨てるような真似を!?僕らの信用を得たいからか!?」
( T)「それもあるだろうけど、『人数』!!」
五十鈴「人数……あっ!!」
珍しく瑞鶴の察しが良い。他にもなんか見抜いてたみたいだし
初月「瑞鶴!!お前、気づいた事あったんじゃねえのか!?」
( T)「そうそう!!今の話の補完になるんだけど……」
初月「ごめん着いたっぽいわ!!」
(;T)そ「ええーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ええ言われてもサラマンダーが下降し始めたんだから仕方あらへんがな
地上には、『洞』と呼ぶには広すぎる、直径数百メートルはあろう大穴が、宝玉を求めに訪れた冒険者を呑み込まんと待ち受けている
夜という事もあり、内部は真っ暗闇で底が見えない。異様な迫力と不気味さに、思わず唾を飲んだ。上昇負荷とかないだろうな……
初月「疑いはあるが、結局ゲームをクリアする必要があんのも確かだ!!サクッと終わらせて元に戻るぞ!!」
( T)「うん!!!!!!!!!!!!!!!!」
初月「うわぁ返事力強ッ!!そんな嫌か俺の身体!?」
( T)「良いわけなくない!!!!!!!!!!????????」
お前が蒔いた種やけど???????
手綱を手繰り寄せ、サラマンダーをゆっくりと洞の辺へと着地させる。素直でええ子やホンマ。連れて帰りたい
洞の内部からは、『ゴオオ』と低い音が聞こえてくる。風か、もしくは水が流れる音が反響しているのだろう
<パリラ
(;T)「今なんか合いの手みたいなの聴こえなかった?」
初月「聴こえなかった」
断固として聴こえなかった
五十鈴「ええと……ライブラリによると……」
『ラビットホール洞』。獣人の一種である兎人(ウビト)が産まれたとされる巨大な洞
深さはおよそ200メートル程で、宝玉は最深部の地底湖に保管されている
主な出現エネミーは『兎人』『ケイブフロッグ』『アングラーゾンビ』等
ステージギミックとして『感覚遮断落とし穴』『墓穴ホール』『服だけ溶かす粘液』『やたら柄が長く縦横無尽にグネるキノコ』がある
番人は、地底湖の主、水龍『リヴァイアサン』。高圧水流のブレスが強力であり、撃破するには湖から引き摺り出す必要があるとの事…………
五十鈴「だって」
初月「……」
( T)「……」
五十鈴「どうした?」
初月「ちょっと確認するか」
( T)「そうだね」
初月の口頭説明が間違ってるだけかもしれないので、ライブラリを開いて直接確認する
初月「ステージギミックとして『感覚遮断落とし穴』『墓穴ホール』『服だけ溶かす粘液』『やたら柄が長く縦横無尽にグネるキノコ』がある……」
( T)「ワァ……」
終わってるし罠カード混じってる
瑞鶴「何かマズイの?」
( T)「感覚遮断落とし穴の原作はかなりマズかったよ」
瑞鶴「具体的に説明しなさいよ。ちっともピンとこないんだけど?」
(;T)「出来るかァ!!!!!!」
瑞鶴「本当に何なの!?」
R指定になっちゃうのである ※Creepy Nutsではない
初月「えーと、他には……魔力に反応する『ヒカリゴケ』の群生地。洞内部の貴重な光源……こいつか」
足下に生えている湿り気のある苔に触れると、徐々に青白い光を放ち出す。足下を照らすには十分な灯りだ
魔力云々の意識をせず、触れるだけで光ったので、MPの消費はあまり気にしないで良さそうだ
五十鈴「いよいよダンジョン突入か。気を引き締めて行こう」
( T)「あ!!あそこに看板立ってる!!行ってみよ……」
先走った瑞鶴が駆け出した瞬間
( T)「う」
地面の岩場が脆くなっていたのか、踏み出した場所にボコっと穴が空き
<よぉぉおおおおおおおおおおおおお…………
そのまま悲鳴を上げながら落ちていった。言った側からあの子はホンマにもぉ~……
初月「瑞、フッ……瑞鶴ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!アハハハハ!!!!!!」
五十鈴「笑うな!!」
瑞鶴「いやっ……面白すぎる……クフッ、フッ……!!」
五十鈴「五十鈴、お前も……マズい、ここも崩れる!!」
瑞鶴が落ちた穴から、ピシピシとヒビが広がっていく。笑いが引っ込む間も待たず、足下がグラリと崩れて浮遊感に襲われた
五十鈴「うわわっ!?」
瑞鶴「ちょっ……」
初月「ダーーーーーーーッハッハッハッハッ!!!!!!!!」
瑞鶴「初月の姿で下品な笑い方やめて」
暗闇の中の落下は、水面への着水ですぐさま終わりを告げる。まさかここが最深部の地底湖ではないだろう
身を刺すような冷たい水。これは長くは浸かっていられない。流れが無いのが唯一の救いか
初月「ブハッ……ルーモス!!」
水中から頭を出し、灯台の代わりに杖から光源魔法を放つ。一緒に落ちた二人も、続けて俺の側に浮かび上がる
初月「無事か?」
瑞鶴「まだわかんないわよ!!」
五十鈴「瑞鶴……瑞鶴がいない!!」
あいつが落ちてそう経っていない。いくらドジっ子の瑞鶴でも、泳ぎができないほどボンクラじゃない
洞内を照らしながら、どこかに変化が無いか見渡してみる。すると、少し先で大きなあぶくが浮き上がった
初月「あぶくが浮き上がったッ!!左後ろだァーーーーーーーーーーッ!!!!!」
五十鈴「僕が行く!!二人は待っていてくれ!!」
初月は大きく息を吸い込んで潜水した。ここで俺が行ってしまえば、『光』という導を失って逸れてしまう
彼女の判断は間違っていないが、先陣を斬れないというのはやはりもどかしい
瑞鶴「……」
初月「……」
暫しの静寂の後、再び泡が激しく浮き上がる。やや遅れて、水面が『緑色』に染まり始めた
瑞鶴「うわっなにこれ……提督の身体の血?」
初月「俺の血は何色だーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
南斗水鳥拳が出たふざけてる場合じゃない。助太刀に行くべきか迷っている間に、濁った水面が膨れ上がり―――――
五十鈴「ブハッ!!」
(;T)「オゲェーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
二人が浮上した。鳴き声汚っ……
初月「大丈b 五十鈴「今すぐ逃げるぞ!!!!!!!」
問題は継続中らしい。水中を覗いてみると、底から何か『大きなもの』が迫ってきていた
初月「全員、瑞鶴にしがみつけ!!」
瑞鶴「どうする気!?」
初月「黙ってろ舌噛むぞ!!」
説明する時間はない。杖の先端を、足先へ迫る『大きなもの』へと向ける。一か八かだ。上手くいってくれ
初月「ボンバーダァァァアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」
水中で『爆破魔法』を放つ。これまでとは違って、使用者と魔法の着弾点の間には『水』という質量が存在する
つまり爆破の影響として、水に大きな運動エネルギーが発生する。それを利用して―――――
(;T)そ「ホゲェーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
水面から宙へと飛び立った。ホゲーて
(;T)そ「ヘブッ!?」
瑞鶴「あいたっ!!」
五十鈴「グッ……!!」
初月「よいしょ!!」
落下した先は、硬い岩肌だった。上手いこと岸辺へと投げ出されたか
俺らが先ほどまでいた水面には、顔が半分潰れた巨大な『ナマズ』が、緑色の血を吹き撒いて身悶えしている。初見殺しが過ぎるだろバイオ4じゃねんだぞ
五十鈴「こ、ここ、怖かった……」
(;T)「は、はは、半分食べられた……」
初月には強烈なトラウマ。瑞鶴に到ってはライフを一つ持っていかれてしまった。幸先の良いスタートとは言えない
瑞鶴「ゲホッ、結構……焦ったわね……」
初月「叢雲の方が向いてたか?」
瑞鶴「前言撤回するわ……こういう反射的な判断は、提督の方に軍配が上がるわね……」
初月「あいつならもっと上手いことやってるよ」
瑞鶴「認められたいのかそうじゃないのかどっちなのよ……」
瑞鶴「とにかく、二人が落ち着くまで休憩しましょうよ……」
初月「そうしてえのは山々の山なんだがな……」
瑞鶴「何?」
初月「多分、ゲームの方は一休みもさせたくねえようだぜ」
爆破魔法を使った影響か、群生するヒカリゴケが徐々に辺りを照らし始める
ドーム状に広がる岩肌には、くり抜かれたような穴が幾つも存在し、そこからは生き物の荒い息遣いが聴こえてくる
大きさの次は数で攻める気か。このゲームは俺らに休む暇を与えない気らしい
初月「お疲れのところ悪いが、逃げる準備しろ。奥に進んでいけば目的地に着くだろ」
五十鈴「りょ、了解……瑞鶴、立て……走……提督どうしよう瑞鶴の下半身丸出し!!!!!」
初月「え!!!!!!!?????」
( T)「え……」
(;T)そ「ウギャーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
そう、瑞鶴は『半分食べられた』。半分ってのは下半身を指してたのだろう
ライフ一つと引き換えに身体は元に戻ったが、服まではサービスに含まれていなかったらしく、俺の身体の下半分がスッポンポンの丸出しになっていた
初月「なんで……なんで……」
初月「入れ替わった時まで辱められなきゃならんの……?」
自分の人生の不憫さに膝が崩れ落ちて涙まで出てきた。だって今は女の子だもん
瑞鶴「フッ……ほ、フフッ、フッ……ほら立っ……フフフ……」
初月「笑ってんじゃねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
(;T)「お嫁にいけなーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!」
五十鈴「瑞鶴!!一人で先走るな!!せめて股間を隠せ!!」
瑞鶴「バブフン!!!!!!!!」
瑞鶴が羞恥に耐えかね、内股の女の子走りで洞窟の奥へ向かって走り出すと
ついに五十鈴(人でなし)が耐えきれずに大きく噴き出した。他人事ならどれほど良かったでしょう
初月「ああもうそのまま追え!!また変なのに引っ掛かったら堪ったもんじゃねえ!!」
五十鈴「わ、わかった!!でも僕じゃ止められないかもしれない!!」
初月「感覚遮断落とし穴って言えば勝手に止まる!!」
五十鈴「だから何なんだその落とし穴!?」
原作では別に落とし穴に感覚遮断の能力があるわけでは無い
初月「オラ行くぞ五十鈴!!」
瑞鶴「……」
初月「オイ急に何を呆けてやが……」
さっきまでの爆笑が一点し、青ざめた顔で穴を見上げている五十鈴
正直なところ、あの巨大ナマズ以上のショックは番人に到達するまでは無いとタカを括っていた
しかし思い返してみて欲しい。この洞の名は『ラビットホール』。兎人生誕の地と呼ばれている場所だ
つまり、あのナマズですら先鋒に過ぎず、真の脅威はここからだったのだ
初月「うわ……」
ヒカリゴケが『巣穴』を照らす。そこには、ギッチギチに身を寄せ合った『兎人』が
「「「「「死ぬまでピュアピュアやってんのん!!!!!!!!??????????」」」」」
ピンク色のバニーの衣装に身を包んだ中年太りのオッサン集団が、ニチャついた笑顔で俺らを見下ろしていた
初月「にっ、逃げ……」
「「「「「ダァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」」
初月「逃げるんだよォォォーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
堰を切ったように穴という穴から飛び出してくるバニーおじさんの大群。一人だけならおふざけで済んでも、数百はくだらない人数となれば悪夢に等しい。なんだその股の食い込みは
それに今はこの俺だって初月の姿だ。捕まれば何されるかわかったもんじゃない。借りた物は綺麗なまま返すのが人としての礼儀ってもんだ。R指定には決してさせない ※Creepy Nutsではない
「「「「「パリラ!!!!!!!!」」」」」
瑞鶴「思ってたのと全然違うんだけど!!」
初月「俺だってこんなパワータイプたぁ思わなかったよ!!初月ィ!!全力で走れェ!!」
五十鈴「どうし……うわああああああああああああ!!!!????」
凛々しさが自慢の初月ですら目ん玉ひん剥いてダッシュするレベルだ。如何に恐ろしいかおわかり頂けただろう
先頭を走る瑞鶴は内股の女の子走りの分際で、足場の悪い岩のトンネルをグングンと突き進んでいく。なんで??????
「ぐわぁ!!」
「兄弟!?」
「マズいぞ!!感覚遮断落とし穴だ!!」
「ぐわぁ!!」
「兄弟!?」
「マズいぞ!!服だけ溶かす粘液だ!!」
「ぐわぁ!!」
「兄弟!?」
「マズいぞ!!キノコという名目の触手だ!!」
「ぐわぁ!!」
「兄弟!?」
「マズいぞ!!手札、墓地のモンスター効果を無効にされてLPに2000のダメージだ!!」
瑞鶴「な、なんか自滅していってない?」
初月「そりゃ結構じゃねえか!!絵面がグロいのを除けば最高だ!!」
(;T)そ「ぐわぁ!!」
五十鈴「瑞鶴!?」
(;T)「ヤバい穴に落ちた!!下半身の感覚がないよぉ!!」
男(身体性別)だけを的確に狙ってねえか???????
初月「瑞鶴ゴリ押せ!!エロトラップ如きで参る俺の肉体じゃねえ!!」
(;T)そ「具体的には!?」
初月「ジタバタしろ!!五十鈴!!時間を稼……」
「ぐわぁ!!」
「兄弟!?」
「マズいぞ!!ケイブフロッグの大群だ!!」
何処からともなく、恐らく保護色で岩肌に擬態していたクソデカカエルが、兎人をモリモリ食い荒らしていた
SNSで兎人食べ食べカエルのハンドルネームで映画レビューしてる可能性がある
初月「ああ……ゆっくり抜け出せばいいよ……」
瑞鶴「こいつら、よくこの場所を棲家に出来たわね……」
何もしてないのに阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。数が多いってのは即ち、食物連鎖の下の方だ。バクバク喰われるのも頷ける。見た感じオッサンしかいないけど繁殖については深く考えないようにしよう
<ぎゃあああああああああ!!!!!
<ひぎぃいいいいいいいい!!!!!!
<お゛!? お゛ぉ゛!?
変な夢見そう
瑞鶴「瑞鶴ー?抜け出せたー?」
五十鈴「五十鈴助けて!!抜け出すどころかドンドン飲み込まれていく!!」
瑞鶴「何やってんのy……ヤバい頭まで持ってかれてる!!!!!!!」
初月「え????????」
瑞鶴の方へと向き直ると、既に腕だけ残して穴の中へと引き摺り込まれているではないか。もう終盤じゃんこんな……親指立ててんじゃねえ!!!!!!!
初月も懸命に腕を掴んで引っこ抜こうとするが、抵抗虚しくズルズルと飲み込まれていく
五十鈴「うわっ!?」
瑞鶴「初月!!」
助け出す間もなく、穴は瑞鶴と初月を一息に飲み込んでしまった
瑞鶴「クソッ!!提督、どうする!?」
初月「待て!!」
瑞鶴「ハァ!?」
1秒、2秒。変化も応答もない。つまり―――――
初月「死んでねえ!!まだ生きてる!!」
瑞鶴「根拠は!?」
初月「リスポンまでの時間だ!!いっぺん死んだから感覚でわかる!!それに……」
<下半身の感覚がNight……
初月「穴にハマった兎人はまだ全身飲み込まれちゃいねぇ!!ひょっとしたら瑞鶴は当たりを引いたかもしれねえぞ!!」
瑞鶴「だったらやる事は一つよね!?」
初月「その通りだ!!」
飲み込まれた二人に続いて、俺たちも穴へと飛び込む。虎穴に入らずんば何とやらだ
穴の中はパイプ状の滑り台になっており、ウォータースライダーのように勢いよく滑り落ちていく。何が下半身の感覚が無いだ
何度かのカーブと、フリッジのような螺旋を味わった後―――――
初月「うおっとぉ!?」
淡い光に照らされた広い空間へと到着した
初月「もう一回やりてえな」
瑞鶴「ウサギのおじさん集団に追われるのは御免よ」
透き通った湖が中央に鎮座する、ドーナツ状の地形。そうやら一息に最深部の地底湖まで辿り着けたようだ
育ちやすい環境なのか、光源を出す必要が無いほどにヒカリゴケが生い茂っている。アクアリウムみたいでステキじゃない……
瑞鶴「瑞鶴様様ね」
当のラッキーガール(ガイ)はと言うと
(;T)「ウウ……プラネタリウムみたい……チルい……ゲロ吐きそう……」
五十鈴「しっかりしろ瑞鶴。ほら、提督と五十鈴も来たぞ」
下半身丸出しで酔って初月に背中を摩られていた。なんで自分のクソ情けない姿を俯瞰で見なきゃならないんだろうか?
(;T)「うう……提督さん、酔い覚ましの魔法かけて……」
初月「三半規管弱いんじゃねえのかバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瑞鶴「ここぞとばかりにこのおじ様は……」
(#T)「酷くない!?」
五十鈴「お前も全く同じ事言ったんだぞ……因果応報だ」
(#T)「バカとは言ってないじゃん!!!!!!!!!!」
五十鈴「ダメだ埒があかない」
瑞鶴「大人げない喧嘩してる場合?」
その時、湖からザバと波立つ音が聞こえ、瑞鶴を除いた全員が咄嗟に身構えた
五十鈴「ボス戦……かな」
瑞鶴「そうみたいね」
初月は剣を抜き、五十鈴は弓に矢をつがえる。一方瑞鶴は下半身を隠せるものを探していた
水面からぬるっと大きな背鰭が覗き、湖を弧を描くように遊泳する。そして再び潜水し、辺りは束の間の静寂に包まれる
初月「……来るぞ!!」
膨れ上がる水の膜を突き破り、土砂降りのような水飛沫と共に、番人『リヴァイアサン』が姿を現した
ガノトトス「オギャーーーーーーーーーーース!!!!!!!」
待って
初月「ガノトトスじゃねーか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガノトトス「うん」
初月「返事すんじゃねえ!!!!!!!!!!!!」
そう、最近のMHシリーズではめっきり見なくなった水竜ガノトトスである
瑞鶴「ああ、昔のモンハンの……」
五十鈴「もっとカッコイイ竜を想像してた」
なんでちょっとガッカリしてんだこいつら
ガノトトス「え、あ……そ……ごめ……」
初月「ガノトトスくん落ち込んじゃったじゃん!!!!!!!!」
五十鈴「そのナリで打たれ弱いの致命的だぞ」
瑞鶴「所詮中ボスクラスのモンスターね」
初月「おめえらさぁ」
なんでもっと深く抉りにいったんだよ女子こえーよ
ガノトトス「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
流石に不憫と言わざるを得ないガノトトスは、涙をキラリ光らせて首を大きくのけ反らせた
初月「ブレス来るぞ!!」
やべえどっちだ!?
ガノトトス「縦!!と見せかけて横!!!!!!!!!!!!」
全部言うじゃんこいつ
初月「伏せろ!!」
口内から放たれる横一文字の高水圧ブレス。ごんぶとのウォーターカッターが頭上を通り抜けた
(;T)そ「ウギャーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
あの子はホンマにもぉ~……
五十鈴「瑞鶴!?」
(;T)「いったぁ~~~~~~~!!!!!!お尻が真横に割れたかと思ったぁ!!」 ※ドッキリドッキリDONDON!!お尻が真横に割れたらど~~~~~~~~~~~~しよ!?(ど~する?)
五十鈴「ずっと敵に背中を向けていたのか!?」
瑞鶴「アンタ本当に軍属!?」
(;T)「五航戦だもん!!呉鎮守府にだって所属してたもん!!」
初月「ライフは!?」
(;T)「え!?あ!!耐えてる!!提督さん頑丈すぎ!!」
初月「現実なら普通に真っ二つだよ少しは気ぃつけろや!!!!!!!!」
ガノトトス「カァーーーーーーー……」
瑞鶴「二発目来るわよ!!」
立て続けにブレスの予備動作が入る。痰なのこれ?????
俺のボディが一発耐えたとは言え、何度も喰らえばケツが四等分の花嫁になってしまうだろう。五月の分ねーから
初月「ガノトトスのウィークポイントは……」
PSPでモンハンをやってた世代なら、奴の『引きずり出し方』は頭に入っている。『釣りカエル』を使って釣りをするか、あるいは…………
初月「高周波!!オラ耳塞げお嬢ちゃん共!!」
ボンバーダの爆発音では『高さ』が足りない。『高音を出す魔法』も、確かリストには入ってなかった
だが、『拡声』の魔法なら使える。四方を石壁に囲まれた地底湖なら、あの現象を引き起こせる筈だ
初月「ワッ!!!!!!」
杖をマイクに見立て、声を張り上げる。音は壁に反響し、杖が再び拾う。すると―――――
(;T)「いっ……!!」
思わず顔を顰めてしまう、『キーン』と甲高い音が発生する。カラオケボックスでよく起こる現象、『ハウリング』だ。上手くいって良かった
ガノトトス「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーーーッス!!!!!!」
原作でも『音爆弾』を苦手とするガノトトスは、堪らず水面から飛び上がり、岸へと身を乗り出した
初月「ボコれーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
(#T)「よっしゃーーーーーーーーーーー!!!!!」
瑞鶴「ちょっ……勢いで突撃しないでよ!!」
後はライブ感でどうにかしたれ
ガノトトス「ガァーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
初月「グワーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
(;T)そ「はがーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
しかし熱烈な亜空間タックルでお出迎えされ、元の位置まで弾き飛ばされた
瑞鶴「ボーボボのテンポ感でやられてんじゃないわよ!!」
(;T)「うう……当たり判定まで再現されてるなんて……」
初月「申し訳ないんだけどしばらく動けんわこれ」
瑞鶴「あーもう!!初月、やるわよ!!」
五十鈴「ああ、任せておけ!!」
しっかりした二人がおってよかった。矢が風を斬り、剣が鱗を叩く音を尻目に、這う這うの体で邪魔にならない場所まで移動する
すると、壁際にうっすらと四角い孤独なシルエットが浮かび上がっているのに気づいた。その場所だけヒカリゴケが乏しく、意図的に見つけづらくさせているように感じる
( T)「あれ、宝箱じゃない?」
初月「マジ?」
年月と湿気にやられて腐りかけの木材と、定額サビ放題の鉄枠で作られた箱だ。宝じゃなくてゴミ箱じゃねえの??????
しかしスズメの里のお土産は、小さなつづらに金銀財宝が詰め込まれていた。見た目で判断するのは早計だ
罠である可能性も十分考慮するべきだろう。1000年生きてる分際で全く学ばない魔法使いは頭から食われてた
( T)「よっこいしょ」
初月「おま」
瑞鶴のアホは何の警戒心もなく宝箱を開けた。フリーレンだってもう少し観察すんぞ
<初月!!回り込んで!!
<ブレス来るぞ!!
頑張ってんなぁ
( T)「提督さん、灯りくれない?」
初月「ほい」
弱めのルーモスで宝箱の中を照らしてやる。ミミックでは無かったようでまずは一安心だ
中身は煌びやかな宝物……では当然無く、丁寧丁寧丁寧に折り畳まれた衣服が鎮座していた
( T)「……」
初月「……」
バニーの衣装だった
( T)「うん……」
瑞鶴はそっ閉じしたが、いまだに下半身はスッポンポンのポンポンだ。そう、着る物が現状この箱の中しか無い
ゲームからの粋な計らいか、それとも悪意しかない嫌がらせか。十中八九後者だが、究極の二択を強いられていた
( T)「……」
初月「……き、着たら?」
( T)「でも提督さんがキツいんじゃない……?」
初月「でももだってもおめえ……背に腹はなぁ……」
( T)「そもそもこういうのって女性専用装備でしょ?」
初月「さっきまで何のバケモンに追われてたんだよ」
( T)「あー……」
宝箱「フリーサイズだよ」
(;T)そ「うわぁ宝箱が喋った!?」
初月「なんでも喋るなこのゲーム」
<喰らえ!!
<五十鈴には丸見えよ!!
<痛いよーーーーーーー!!!!!!痛いぃーーーーーーーー!!!!!!
向こうは盛り上がってんなぁ
( T)「提督さんこの素材伸びる!!フリーザ軍の戦闘服と同じ素材使ってるかもしんない!!」
初月「ほな大猿になっても大丈夫か……」
( T)「じゃあちょっと着替えてくるから……覗かないでよ!!」
初月「うん……うん?」
一言物申したかったけど些末な事なんでやめた
<どうした!?番人の名が泣くぞ!!
<もう少し足掻いてみなさいよ!!
<もうやめてよーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
初月「その辺にしといたれーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
流石に居た堪れないわ
瑞鶴「楽勝だったわね」
五十鈴「ああ、物足りないくらいだ」
横たわってスンスンと泣いてるガノトトスを前に、蛮族二人は拳を突き合わせた。いくらモンスターでも泣いたら止めろや
初月「お前らにはそろそろ引き際を教えないといけないかもしれない」
瑞鶴「どの口で?」
初月「グ、グムー……」
こいつらに容赦ない暴力の振るい方を教えたのも俺だった
ガノトトス「ゲロッパ……」 ※主演:西田敏行
ガノトトスは口からなんか汚い物を出した
五十鈴「なんだ?宝玉か?」
瑞鶴「ガノトトスから宝玉ってドロップするの?」
初月「しないんじゃね?」
五十鈴「古代兵器の鍵。忘れたのか?」
初月はハンドボールほどある大きさの玉に触れると、青い光を放って浮き上がった後
ひとりでに起動したウインドウの中へと吸い込まれた。ステータス確認だけじゃなくアイテムボックス機能も搭載しているらしい
瑞鶴「これで一つ目ね。サクサク済みそうで何よりだわ」
( T)「やー、着れた着れた。どう?終わった?」
瑞鶴「アンタどこでフッ、クッ……ダメ耐えられないフフフフフ……」
パッツンパッツンのバニーの衣装に身を包んだ瑞鶴(俺の姿)が暗がりからヌッと現れる
まさか網タイツ穿いてウサ耳カチューシャ付けたテメーの姿を第三者視点から見ることになるとは思ってなかった
服はともかくカチューシャは着けんでええやろ。なんでバカに拍車をかけるんだ
五十鈴「ず、瑞鶴……わっ、笑わせるな……!!」
( T)「見てこれ。尻尾もついてんの」
瑞鶴はもう開き直ってるようで、尻にポンと付いている丸くフワフワした尻尾を揺らして見せたなんだそのケツの食い込みは!!!!!!!!!!!!
瑞鶴「アハハハハハハ!!!!!!」
五十鈴「す、すまない……提督、フフフ……アハッ、たっ、耐えられなっ、ハハハハハ!!」
初月「存分に笑うといいよ…………」
デカい筋肉おじさんがバニー服着てんの見て笑うなって言う方が酷やわ……
( T)「でさ、これ着た時にステータスに変化起こったんだよね、見てくれる?」
瑞鶴は自身のステータス画面を開く。職業欄のグラディエーター以外、武器やスキルは無かった筈だが
( T)(瑞鶴) 職業:グラディエーター 装備:兎人の抜け殻 特殊スキル:ラビットダンス
汚いオッサンが脱いだバニー衣装を着た頑丈さだけが取り柄の汚く臭いオッサン
幾ら着るものが無いからってその選択します普通?もしかして辱められるのが趣味の方なんですかね^^;
あ、ポールの前に立つと腰振りダンス出来ますよ。クソの役にも立ちませんけどね(笑)
:( T):「わたっ、私、なんか気に障ることしたかなぁ……?」
初月「泣くなや……」
泣きたいのは俺の方さこんなもん呼んだ覚えはなyeahルララルッラルララルッラアアン二人分の泣き声遠く
しかしここで俺まで泣いちゃうと爆笑と号泣の割合が丁度2:2になってバランスが取れてしまう。あれ?バランス取れるならええのか?ほんなら泣いちゃうかだって今は女の子なんだもん
初月「ん……?」
涙で滲む視界の端に、ガノトトスの側に現れた奇妙なオブジェクト捉えた
ヒカリゴケとはまた別種の、煌々としたブルーライトに光るそれは、俺らのステータス画面と同種のホログラムウインドウだった
【何を望む?】
短い文章の下には、『叡智』『武力』の二択。RPGじゃお馴染みのテキストボックスだ
番人突破クリアボーナスだろうか。武力ってのは新武器かなんかだと思うが、叡智ってのはなんだ?ロマンチック触覚おじさんか?
瑞鶴「叡智でいいんじゃない?攻略情報とかかもしれないし」
( T)「エッチ!!エッチ!!」
初月「黙れ変態女装おじさん。それじゃあ叡智で」
『ピコン』という電子音が鳴り、全員のステータス画面が立ち上がる。新たに『鑑定』という項目が追加されていた
( T)「エッチじゃない……」
初月「どうやって使うんやろか。全体的に説明不足じゃねこのゲーム」
( T)「無視はつらい」
五十鈴「そう言えば……」
初月は懐に収めていた薬の瓶と、硬貨が入ったちいかわ(小さくて汚い革袋)を取り出し、鑑定画面へと近づける
画面へと触れた瞬間、宝玉と同様にウィンドウの中へと吸い込まれた
五十鈴「この中に入れてしまえば自動で鑑定してくれるみたいだ」
アイテムの名前と画像に、レアリティを示すであろう『R』『SR』の文字。使用時の効果が羅列される
【ポーション】 R
使用可能ジョブ ALL
使用効果 えらい元気になる
【4thコイン】 SR
使用可能ジョブ ALL
使用効果 ❤︎♠︎♦︎♣︎のマーク毎に異なる効果を発揮する
❤︎ライフを1回復する
♠技の威力が二倍になる
♦︎売却時に10000G、もしくは通行料が必要な場所を通過できる
♣︎幸運補正を付与する
初月「心に剣……」
瑞鶴「輝く勇気……」
こいつアラサーか??????
五十鈴「ポーションはともかく、コインの効果は強力だな。特にライフ回復は大きいぞ」
( T)「私か提督さん、どっちか使っちゃう?」
初月「まだ一回しか死んでねえんだし焦って使う必要もねえだろ」
しかし序盤に手に入るアイテムにしちゃあ破格の性能だ。鑑定を手に入れてなければただの小銭として使っちゃってたかもしれない
五十鈴「そのバニー服も鑑定してみるのはどうだ?」
(;T)「また脱ぐの!?これ結構着るの面倒だったんだよ!?」
初月「自分で言うのもなんだが全裸の方がマシだ。ヒカリゴケとかも鑑定してくれんのかな」
(;T)「エッチ!!変態!!露出狂おじさん!!」
初月「あのさぁ」
頭いたなってきたわ
瑞鶴「変態おじさん同士戯れあってるとこ悪いんだけど、帰り道が開いたみたいよ」
(;T)「本体は美少女だもん!!」
初月「その前置き必要か?なぁ?」
尊厳の陵辱という多大なダメージを伴ったが、これにてラビットホール洞クリアである
―――――
―――
―
『行きは良い良い帰りは怖い』。古い童歌にこんな歌詞があるが、ゲームの帰り道は簡略化されている物が多い
長いダンジョンの最奥にいるボスを撃破し、また長い道のりを戻るのは面倒でストレスが溜まる。なので帰りは『抜け穴』を使って一瞬で戻るシステムが大半を占める
『このゲーム』も多分に漏れず、帰還用の『ポータル』が出現し、ラビットホール洞の入口まで戻る事が出来た。良かったマジであの悍ましいオッサンの集団相手せんで
<ギャアアアアアアアアア!!
<ウワアアアアアアアア!!!!
<下半身の感覚がNight……
洞の奥ではまだ断末魔が響いていた
初月「かぁいそ」
瑞鶴「一ミリも同情する気無いのなら言わない方がマシなのよ……」
五十鈴「次はモザイクロール火山か。段々と陰界に近づいて行くな」
初月が広げた地図には、次の目的地がポイントされている。現在地のラビットホール洞より更に北上した先、陽界と陰界の境界線上だ
三つ目の目的地に至っては、そこから更に北西に進んだ、陰界の中腹に位置している。なんせ、城の名前が『ヴァンパイア』。とすれば当然、暗い場所に建って然るべきだろう。日当たりバチクソに良いヴァンパイア城嫌だろ
( T)「さ、サクサク行こう!!乗って乗って!!」
目を離した隙に、運転ゴミカス野郎は待機してたサラマンダーの運転席に乗り込んでいた
瑞鶴「アンタねぇ……」
初月「いいよ運転させとけ。順番だ順番」
瑞鶴「一番酷い目に遭ったの提督じゃない」
初月「少しでも暴走する素振りを見せたらライフ一個消せば良いんだし」
五十鈴「恐ろしいことを言うな……」
ぐちぐちと駄々を捏ねられるより、サッサと嫌なことを済ませた方がお互いにとっても良いだろう。ウザいし
( T)「よーっし、みんな乗った!?」
五十鈴「あ、ああ……安全運転で、頼む……」
瑞鶴「いい!?ゆっくりよ!!ゆっくり飛ばしなさいよ!!五十鈴と初月も乗ってるんだから!!」
初月「俺は??????????」
( T)「だーいじょうぶだって!!さぁ、行ってサラマンダー!!」
『なんも大丈夫じゃねんだろうな』。サラマンダーが飛び立って数秒も経たず、俺の諦念は間違ってないと思い知った
―――――
―――
―
往年の名作3Dシューティング、『スターフォックス』をプレイしたことのある方ならご存知だろう
機体を横に高速回転させて敵の攻撃を弾く『ローリング』というアクションを。それがどうしたって?
初月「ハァー、ハァー……」
瑞鶴「ハァー、ハァー……」
(;T)「ごべんばざい……もう、殴ばばいべぐだばい……」
五十鈴「そ、そこまでにしてやれ……な?提督の身体でもあるんだし……」
詳細は省くがエラい目に遭ったのはおわかり頂けただろうか
初月「お前ホンm……マジお前……お前よ……」
瑞鶴「殺すわよ……」
五十鈴「落ち着け二人とも」
(;T)「だずげで……ばづづぎ……」
五十鈴「お前はどうして酷い目に遭うってわかっているのに調子に……ハァ……」
初月に免じてライフは勘弁してやった
初月「ところで……」
『モザイクロール火山』。火山ってんだから俺ぁてっきりロード・オブ・ザ・リング終盤か地獄谷のような風景を思い描いていたが
到着した俺らを出迎えたのは煌々としたネオンの灯りと、景気良く流れ出る金ピカコインの音色
ダイヤカットが施されたドーム状の建築物にはルーレットを模した看板が掲げられ、そこにはハッキリとこう書いてあった。『カジノ・モザイクロール』と
初月「ここで合ってる??????」
五十鈴「地図だと間違いなくこの地点だな」
瑞鶴「随分とまぁ俗っぽい場所に来ちゃったわね……」
常時ハリケーンミキサー状態のまま飛んでいた為、サラマンダーくんが真っ直ぐ目的地に飛ばなかった可能性があったが
地図上のポインターは狂い一つなく二つ目の目的地である『モザイクロール火山』を指している
サラマンダー「……」
グッタリしてて可哀想……
瑞鶴「何々……元は温泉街だった場所が、大規模改修で街一帯がカジノになったみたい。ホテルやショッピングエリアも充実してて、人気の観光地だそうよ」
初月「ダンジョンっつーよりベガスだな……」
一足先にライブラリを閲覧していた五十鈴に続いて、俺も詳細を確かめてみる
『モザイクロール火山』。その麓の温泉街を改装した大陸一のカジノ・リゾート。カジノだけでなくホテル、ショッピング、スパも充実しており、多くの観光客で賑わっている
初月「……これだけ?」
瑞鶴「みたいね」
五十鈴「宝玉の在処どころか、エネミーやトラップ、番人の情報すら無いのか」
初月「あのオッサン吹かしやがったわ……」
各ダンジョンの情報はライブラリに追記してると偉そうにほざきやがってこの始末かよ。戻ったら上唇から頭皮まで剥いでやろうか
瑞鶴「……ねぇ、瑞鶴居なくない?」
五十鈴「本当だ。どうりで静かだと思った」
初月「あの子はホンマにもぉ~……」
そろそろハーネスでも付けるべきだろうか
<ワァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
カジノの方からオッサンの汚い叫び声。これは「テーマパークに来たみたいだぜテンション上がるなぁ」のワーではなく
「助けて初月ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」のワーだ。瑞鶴検定3級の問題だ。基礎中の基礎だ
五十鈴「どうしてあいつは物の数秒でトラブルに巻き込まれるんだ……」
瑞鶴「トラブルとは限らないんじゃない?ラビットホールでも『当たり』を引いてるんだし、今回もその類でしょ」
初月「便利なアホだ」
瑞鶴「アホのダウジングマシンね」
五十鈴「本人の前では言うんじゃないぞ……」
金ピカのガーゴイルが両脇に佇むゲートを抜け、照明が強すぎて内部が見えないカジノ内へと入っていく
眩しさを堪えながら進んでいくと、徐々に目が灯りに慣れていく。すると突然―――――
「レディィィィイイイイイイスアアアアアアアアアアアンド!!!!!!!!!ジェントルメエエエエエエエエエエエエン!!!!!!!!!!」
拡声器による大音声が俺達を出迎えてきた
瑞鶴「うるさっ!?何!?」
五十鈴「賭場……には見えないな……」
辿り着いたのは、野球ドームのような巨大な広間。俺らを見下すようにグルリと大勢の観客が取り囲んでいる
入口の正面には巨大なスクリーンと、燕尾服を着た人間サイズのペンギンがマイクを握って観客を盛り上げていた
そして、天井からは檻が吊り下げられており
(;T)「助けてーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
その中にマヌケが入っていた
「モザイクロールで最もスリリング&エキサイティング!!『トリプル・スレット』の時間だァ!!!!!!」
観客がワッと沸き立つと、入口が堅牢な鉄柵で閉ざされる
退路を絶たれてしまえば、獣であろうと流石に気づく。『誘い込まれた』と
「報酬を得るか無様に死ぬか!!命懸けの戦いに挑むのはァァァァ!!!!!!!!!!」
まるで『剣闘士』の如く、観客達の賭けの対象として扱われる為に
「目麗しい美少女パーティの三人組だァァァァーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
初月「……」
歓声と、Fワードらしき下品で野次を全身に浴びながら、俺は再び頭上の檻を見上げた
(;T)「なんで私だけこんな目にぃぃぃ~……」
初月「……」
瑞鶴「なんか……」
五十鈴「言うな」
瑞鶴「やり甲斐……無いわね……」
五十鈴「言うな……」
どうしてこの場に一番馴染む奴が捕まってんだろうか
(;T)そ「あれ!!!!!????私、お姫様ポジ!!!!!!????そういう扱い心得てってコト!!!!!?????」
盛り上がる場とは裏腹に、やる気がどんどん冷めていくのを感じるのであった
後編へ続く
オマケ
( T)そ「アアーーーーーーーーーー!!!!!!!!???????」ズボァ
夕張「かかったわねアホが!!!!!!!!!稲妻十字空烈穴(サンダークロススプリットホール)!!!!!!!!」シュバァ
【結構深めの落とし穴のようです】
(;T)「この穴……深いッ!!」
夕張「胸元までズッポリね!!」
(;T)「しかも抜けな……テメェどういう了見だバリィ!!!!!!!」
夕張「どう森でお馴染みの『おとしあなのタネ』を作ったから、性能を試してたのよ!!」
(;T)「クソッ!!被害に遭ってなけりゃ素直にワクワク出来たってのに!!」
夕張「実用化の前のテストは基本中の基本でしょ?ケガしたら大変じゃない」
(#T)「じゃあコッソリ仕掛けてんじゃねーーーーーーーーーーよ!!!!!!!!!!!!悪意あんだろコレ!!!!!!!!!」
夕張「けど、今のテストで問題点を一つ洗い出せたわ!!」
(#T)「問題なのはオメーの倫理観だ!!!!!!!!!」
夕張「この落とし穴に嵌ったら、提督でも容易に抜け出せないってことが!!」
(#T)「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」※マジギレ
夕張「わかったわかった。すぐ出してあげるからそう怒んないで」
(#T)「なんでお前が『やれやれ仕方ないな』ってツラしてんだよ……」
夕張「腕引っ張るよ。せーのっ……ンググググ……!!」
(;T)そ「ウワアアアアアアアアア肩抜けるウワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」※艦娘の膂力は艤装無しでもアスリートの数倍
夕張「嘘……ホントに抜けない……」
(;T)「お、おい……急なマジトーンやめろよ……」
夕張「そうだ!!こんな時こそ明石のクレーンの出番よね!!待ってて!!すぐ呼んでくるからー!!」
(;T)そ「待てオイ!!こんな往来で身動き取れない俺を一人にするな!!バリィ行くな!!私を置いて行くなアアアア!!!!!!!!!!」
( T) 往来で ポツンと一人 ハルウララ
( T)「一句読んでる場合じゃねえ。見つからないのは多分不可能だから、いつでも抜け出してぶっ殺せるぞっていう気概を見せとかないと何されるかわからないからな」
_人人人人人人人人人人人_
> ( T) 溢れ出る気概 < コロスゾーーーーーー!!!!!!!!!
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
( T)
( T)
( T)
( T)<ええ天気や
~5分後~
夕張「はーい、お待たせ!!」
明石「うわっ、本当にズッポリハマってるじゃないですか。ウケる」プゲラッチョ
( T)「スゥーーーーーーーーーー…………」
(#T)「誰も!!!!!!!!!!!!!!通らんのかい!!!!!!!!!!!!」
夕張「イタズラされなくて良かったじゃない」
(#T)「そっ……それはそうなん……アアッ!!!!!!!!」
明石「撮れ高に飢えてますねぇ……」
その後、無事救出された
おわり
終わりですお疲れさまでした
7月7日より放送のキン肉マン完璧超人始祖編をよろしくお願いします
乙
昔から長くやってる作者が健在だと嬉しくなる
末永く活動して欲しい
ずっと楽しみにしてる
続きが読めて嬉しい
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