【艦これ】武蔵がチャリで来た (63)

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【艦これ】武蔵がチャリで来た ←次回から無かったことになるお話
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【艦これ】出張!!艦娘専門店のようです
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エンド・オブ・オオアライのようです ※連載中のコラボ作品(◆vVnRDWXUNzh3作)


艦これ×天華百剣 編

川д川 ウホウホ!!鎮守府に颯爽と登場した貞子ゴリラ、トランスフォームウホ!!
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【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第一章【天華百剣】
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【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第二章【天華百剣】
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『艦天って略すとカロリー低い食材みたい』 幕間
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【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第三章【天華百剣】

【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第四章【天華百剣】
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【艦これ】『Last one week & Epilogue』【天華百剣】
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1652011145





叢雲「大型建造やるわよ」

( T)「……」



.




( T)「嫌ですけど……?」

叢雲「アンタ本当に提督?」



.





武蔵がチャリで来た ~チャリで来とらんやないかいサマータイムイェイイェイウォウウォウ~




.

『建造』とは。なんか箱の中に資材とかいっぱいぶち込んでちょっと待ったら艦娘が誕生するヤバいアレだ
投入量によってある程度の艦種は絞れるが、完全な指定は出来ない。故に艦娘の重複などの不確定な要素もある
この不確定要素が下手に射幸心を煽るらしく、提督の中には首が回らなくなるほど資材を費やしたり
リソースを回収するために無茶な遠征の強要、重複した艦娘への悪戯、放置、虐待等、建造に関わる問題は尽きない


( T)「そんなん言われてもウチもうカツカツ……」

叢雲「朧!!霰!!」


叢雲が手を叩くと、執務室の扉が勢いよく開く。我が家の財務大臣と、遠征隊長の登場だ。仕込んでたの?


朧「失礼します!!」

霰「んちゃ……」

( T)「言わんのとちゃうんか~~~~~~~~~~い!!!!!!!」ズコー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


最古参の二人も今じゃ頼りになる幹部だ。天龍も見習ってほしい。あいつ一応副司令艦補佐なんだけどそれらしい仕事してんの見たことない

( T)「よっこいしょ」ガタタ

朧「これを見てください」

( T)「はい」


資材帳簿を手渡され確認すると、具体的な数字は情報漏洩の観点から伏せるが早い話がまっくろくろすけだった


( T)「貯めたねぇ~~~~~~」

朧「皆の頑張りのお陰です朧、このお仕事任されて一度も頭痛に襲われたことないから」

( T)「良い事じゃん」

叢雲「ところがドッコイよ」

( T)「それリアルで言う奴初めて見た」

霰「遠征班の士気が落ちてる……これだけあるなら行く必要も無いだろって……」

( T)「あー……」


なるほど、余剰が在り過ぎてやる気の問題に繋がってくると

叢雲「そこで、パーッと使って緊張感を取り戻そうって魂胆なワケ。そのついでに戦力増強も出来れば言うことなしじゃない?」

( T)「それなら大本営に喧嘩売ってもいいじゃん?」

朧「何故味方撃ちの発想に到るの……?」

叢雲「それもいいけど」

朧「良くないよ……多分」

叢雲「冗談よ。アンタの不安もわかるけど、人手が来るのを待ってばかりじゃいられないでしょう?」

( T)「うむむ……」


『亡霊』の名で各鎮守府を混乱に陥れた戦闘狂のアホこと青葉の捕獲作戦での功績が認められ、我が鎮守府での建造は既に認可されている
だがウチに置かれている『箱』は初期ロットの不良品であり、建造の失敗、もしくは事故が起こる可能性が極めて高い
つまり俺らが頂戴したのは『ポンコツの使用許可』だ。直々に許可を言い渡してくださったクソ上官のほくそ笑んだ顔は今思い出しても腹立たしい。叢雲に止められなければ前歯抜いてた


霰「でも……金剛さんもまるゆもあきつ丸さんも出来てるんだから……杞憂だと思う……ます……」

( T)「まぁ今んとこ建造成功率十割やけども」

朧「三回しかしてませんからね」


不安はそれだけじゃない。建造を行うってことは上記の『重複』問題が付きまとう
朧も霰も、その煽りを受けてこの場所へと送られてしまったのだ。問題など何一つ起こしてないにも関わらず、『地獄』と呼ばれる鎮守府に


( T)「……ダブったらどうする?」


胸中を打ち明けると、『相棒』はあっけらかんと言い放った


叢雲「歓迎会でも開けばいいでしょうよ」

( T)「……クク」


その一言で腹は決まった


( T)「やるかぁ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」


深呼吸してヨッシャと気合を入れ、久しぶりの大仕事に取り掛かるため、ケツを偉そうな椅子から持ち上げた

―――――
―――



明石「大型建造……?どういう風の吹き回しで?」

( T)「ルドルフとイロイロアッテナ」


工廠に着くと、明石がなんか鍋から紫色のドロっとしたものを瓶に詰めていた。なんだよそれこわい毒物じゃん


叢雲「アンタ何作ってんのよ……」

明石「怪盗グルーのミニオン危機一髪で出てきた不味いジャムです。味見されます?」

( T)「マジ?」

朧「ちょっと興味あります……」

霰「気になる……」

叢雲「そこ、食いつかない」

明石「上手く再現できたのでUSJに売り込もうかと」

( T)「あそこ百味ビーンズ売ってんもんな。需要見込めるぞオイ」

叢雲「さっさと本題に入りなさい」

( T)「はい」

資材の件含めて諸々の説明を行うと、明石はエプロンとゴーグルを外して渋い顔をした。ジャム作りに目の保護いらんやろ何入っとるんやこれ


明石「うむむ……乗り気はしませんねぇ……正直、過去三回の建造だけで既に何処かしらにガタが来てるんですよ」

( T)「老朽化か?」

明石「過負荷です」

霰「ああああ……ひたは、しひれふ……」

朧「めちゃくちゃマズいねこれ……」

叢雲「直せないの?」

明石「初期ロットのパーツは既に生産終了していて、在庫もほぼ残ってないそうなんです。発注申請もしたんですが、返事は無いですね」

叢雲「ふーん……どう思う?」

( T)「完全に嫌がらせ。うわマジだクソマズいこのジャム。ハッピージャムジャム最低って感じ」 ※踊ろうよいつもの笑顔で


上の連中もこれ以上、越権待遇の鎮守府に力をつけさせたくは無いのだろう。寝首を掻かれない為の処置と見た
なら尚更優遇して恩を売っとくべきと思うのだが、プライドの塊みたいな連中にそんな高尚な真似出来るワケがねえ


朧「杉浦准将にお願い出来ないの?」

( T)「あんま期待できねーだろうぜ」

朧「どうして?」

叢雲「左遷で人員を送るのとはワケが違うのよ。新規建造目的でパーツをウチに回せば、嫌疑を盾に彼とウチを糾弾する連中が現れるわ。霰、スプーン押し付けてくんのやめて」

霰「ほよよ……」

( T)「イチャモン付けられて野郎だけじゃなくウチにまで制限を課せられかねない。出来ねえことはねえだろうが、リスクの方がデカい」

朧「とことん嫌われてるんですね……」

叢雲「マッズいわねこのジャム……」

明石「でもまぁ暇なんでやりますか」

叢雲「でしょうね」

( T)「乗り気じゃねーか」


明石は鍋に残ったジャムを廃油用のドラム缶に流し込んだ。中の油と反応して『エレレレレレ』と音が鳴る。待てお前これ舐めても大丈夫なやつか?


( T)「完全にハプニングを期待してるなお前な」

明石「爆発までなら許容範囲っすよ」

( T)「死ぬやつ」

朧「修繕費で破綻待ったなしです。多分」

( T)「死ぬやつ」

霰「霰……おっきな花火見たい……です」

( T)「死ぬやつ」

叢雲「普通の人間なら死ぬでしょうね」

( T)「死ぬやつ」


そうだ、遺書を書こう


ドラム缶<ハイーーーーーーーーーーーーーーーヤイフォーーーーーーーーーーーーセス


( T)「平沢進」


油とジャムがドラム缶の中でえれえもん産み出してた

というワケで大型建造。クソ大量の資材を使って狙うは超弩級戦艦『大和型』だ。そう、宇宙戦艦のやつ
『向こうの世界』では沈んでしまった艦だが、『此方の世界』では無事に生き残り記念艦として展示されている
あんなでけえもんが人間大に凝縮されるってんだからつくづく艦娘ってのは末恐ろしい存在だ。アホが多い事も含めて


( T)「なんぼぶち込めばええの?」

明石「燃料4000、弾薬6000、鋼材6000、ボーキ2000、水35L、炭素20㎏」

( T)「人体のレシピも混ざってんな」

叢雲「早く持って来て」

( T)「あのな、俺普通の人間」

叢雲「早く」

( T)「はい」

朧「手伝います」


大きな鎮守府だと自動供給機が標準装備されているらしいが、当然ウチにそんな気の利いたモンは無い。筋肉で運べ
優等生一等賞の朧ちゃんと一緒に材料保管庫からえれえ量の資材を引っ張り出し、箱の中にぶち込んでいく


ドラム缶<ハーーーーーーーーーーーーーーーーイヤーーーーーーーーーーーーハイオラ


朧「提督それ違います!!」

( T)「おっと」


間違えて平沢進(油とジャム)をぶち込んでしまいそうになるハプニングや


明石「もうちょい入れてください。2くらい」

( T)「2L?」

明石「2は2ですけど?」

( T)「だから」


資材量の曖昧な値に四苦八苦したりしたが


霰「霰、本で読んだ……クラシックが、胎教に良いって……」

叢雲「へぇー。ま、大和や武蔵は上官の食事中に軍楽隊が演奏してたって聞くし、案外相性は良いのかもね」

( T)「俺もガキの頃、車の中で『ムーンライト伝説』聴かされて育ったからハートは万華鏡だわ」

叢雲「あっそ」


なんとか準備を整えることが出来た

( T)「ええ運動になったな。そんでー……えー……」

明石「ボタンポチって下さい」

( T)「これ?」

明石「それですそれ」

叢雲「建造しなさ過ぎて簡単な操作すら忘れてるわね」

( T)「何でもそうだけどこういうの覚えるのって継続が大事なんよ」

明石「ボタン押すだけですけどね」

霰「霰押したい……」

( T)「バスの降車ボタンの押したがりじゃん」

霰「霰が押す霰が押す霰が押す……」

( T)「わかったわかったわかった」


やんわり駄々を踏む霰ちゃんをボタンがある位置まで抱き上げる。すごい軽い。天使の羽根か?※ランドセル


( T)「押しなー」

霰「ポチッとな……」ポチットナ

( T)「うわヤッターマンでしか聞いたことない台詞出た」


箱に油圧が掛かり、唸り声が工房内を震わせる。建造時刻を表すフリップがパタパタと数字を刻んでゆき―――――


朧「嘘……」


『07:59:56』。数秒を差し引いた『八時間』を表示した


叢雲「お見事。大当たりね」

霰「霰、凄い……?」

( T)「めっちゃすごい。まず爆発してないのがすごい」

ドラム缶<サァーーーーーーーーーーーーーーーーーイシュウヲハナチクーーーーーーーーーーール

( T)「パレードも行進するわそりゃ」







明石「ファイヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


( T)「え?」






.

明石が掛け声と共にブラックボックスへ向けて一直線に火炎を放射してた。嘘じゃん…………


(;T)そ「うおお何やってんだお前ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!??????」

明石「高速建造ですけど!!!!!!!???????」

(;T)「何ーーーーーーーーーーーー!!!!!!??????」


何もうワケわかんない。俺以外の連中が慌ててないのも意味わかんない


(;T)「何……何ーーーーーーーーーーー!!!!!?????」

朧「知らないの?」

(;T)「何!!!!!!?????」

叢雲「この前教えたでしょ?『高速建造材』。早い話が、アレで炙ると建造時間が短縮されんのよ」

(;T)「そういやなんか聞いた覚えが……どういう原理で!?」

叢雲「原理と言われても……ねぇ?」

霰「謎」

(;T)「原理もわかってねえのに火炎ぶっ放してんの!!!!!?????」


強火にしたら料理すぐ出来る理論かよ


(;T)「いやっ……でも、負荷掛けたらヤバいんじゃねえのか!?」

明石「一緒ですよこんなもん!!ゆっくりやったって負担は掛かるんですから!!」


そう言いながら明石は高速建造剤とやらの燃料缶を新しい物へと入れ替え、放射を再開する
黒い箱は熱で赤く染まり始め、フリップは忙しなく『0』に向かって数字を回す。炎が建物に燃え移らないのは、超技術故だろうか?とりあえず消火器の位置だけはしっかり確認しといた


(;T)「お前これどんだけ炙るの!?」

明石「十個使いますけど!?」

(;T)そ「十缶分の火炎放射すんの!!!!!!?????」

叢雲「そういうもんなのよ。受け入れなさい」

(;T)「いやでもお前これ中の奴大丈夫かよ!?バロットみたいなことになってない!?」

叢雲「アハハ」

(;T)そ「笑いごとじゃねーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

霰「バロットって……?」

朧「調べてみよっか。ええと……」

(;T)「やめとけ!!!!!!!」

迂闊な発言がトラウマを産む前に朧のスマホを取り押さえた時、建造機から『バガン!!』と明らかに故障めいた音が鳴り響いた


明石「」


頼れるメカニックは目が死んでる


(;T)「お、おい……これ途中で止めれねえのか?」

明石「ッスゥーーーーーーーーーーーーー……」

(;T)「や、やめろ!!覚悟決まりましたみたいな顔すんな!!」

霰「逃げる……?」

叢雲「逃げても無駄じゃない?最悪武器庫まで誘爆しそうだし」

明石「……よし!!」

(;T)そ「よしじゃねーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

明石「もうちょいなんで押し切りますよ!!」

(;T)「こいつはもうダメだ!!俺らだけでも逃げるぞ!!鎮守府全域に避難指示を出せ!!」

明石「逃がさんッ!!タルカス!!」ガシッ

(#T)そ「放せクソメカニックが!!!!!!!!!キングダムの完結まで死ねねえんだよ俺は!!!!!!!!」

霰「秦は滅ぶよ……」

(;T)「やだ史実がネタバレ!!!!!!!!」

明石「朧さん引き継いでもらって良いですか!?建造さえ終えてしまえば非常停止が出来ますんで!!」

朧「あ、あの……どっちの指示を優先すればいいんだろう?」

叢雲「専門家の言うこと聞いとけば良いんじゃない?」

朧「そっか、そうだね!!朧、やります!!」


なんで!?なんでこいつら変な方向にばかり思い切りがいいのよ!!

(;T)「クソが!!無事に済む根拠あっての続行なんだろうな!?」

明石「初期型って言っても耐久性はある程度確保出来てるんで大丈夫ですよぉ。ただ、大型建造に関しては拡張機能なんでそこまで考慮してるかは知らないですけど」

(#T)「ダメじゃねーーーーーーーーかーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


こいつには今一度『安全第一』の意味を叩き込まねばならないと思った


朧「これで……終わりっ!!」

明石「ありがとうございます!!そしてそぉい!!」


十個目の高速建造剤を使い果たし、明石はすぐさま『赤いボタン』を掌で押し叩く
ブレーカーが落ちたかのような『バツン』という音と共に、ブラックボックスは熱による蒸気を立たせながら出力を落としていった


明石「フゥー……久々にヒリつきましたね……」

(;T)「お前さぁ……」


結果何事も無く済んだから良いが、出力を上げるなら一言断ってからやって欲しかった
後でバチクソ折檻するのは確定として、今は結構な無茶を通して誕生したであろう大和型の安否が優先だ
通常ならブラックボックスの前面がこうシャッターみたいに開いて中から艦娘がひょっこりはんしてくるのだが、非常停止で電源が落ちたからか、出てくる気配は無い


霰「出てこないね……」

朧「そうだね……」

明石「ちょっと待ってくださいよー……ああ、ダメですね。主電源からオシャカになってます。やはり負担が大きすぎましたか」

( T)「どうすんだ?手で開くようなもんなのか?」

明石「提督なら……大丈夫でしょう……多分……ほら、エントリープラグに閉じ込められた綾波を助けるシンジくんみたいにすれば……」

( T)「エヴァ観た事無いから伝わり辛ぇんだよ……」

叢雲「アンタがいつもやってる事でしょ。伝わり辛いネタ」

( T)「いやお前、あの真っ赤っかになった箱の扉をウォールリフティングしろってか?」

明石「ガンバ☆」

( T)「」





明石「ぶつこと無いでしょ!!」




うるせえ

( T)「まぁやるっきゃ無いなら致し方ねえか……」

霰「やるんだ……」

( T)「エクストリームSASUKEと思えばどうって事はない」

朧「でも、焼けた鉄板を持ち上げるようなものですよ?耐えられないと思う。多分」

( T)「中で肉まん体験中のお嬢さんよりかはマシだろ。カラダもってくれよ……!!」


三べぇ界王拳で扉を押し開けようと歩き始めた瞬間、箱の内部から強烈な『打撃音』が工廠に響き渡った
分厚いであろう扉は余程の衝撃を受けたのか、鋼鉄の肌には拳の跡が浮かび上がっている。俺これカンフー・ハッスルで見た


明石「中から殴り開けようとしている……?」

叢雲「下がった方が良さそうね」


拳のスタンプは轟音と共に二つ、三つと増えて行き、箱の溶接部は少しづつ歪み始める
そして一際大きな五回目の衝突。遂に扉は限界を迎え、打ちのめされたボクサーのようにゆっくりと倒れた


(;T)そ「うおっ……!!」


熱気と共に飛来する細かな埃を腕で防護する。霰と朧は俺の背に身を隠した。可愛いから許す
『殻』の中は、いまだ白い蒸気で満たされ、内部を伺えない。だが確かに、息遣いは聞こえてくる


<デデンデンデデン♪


そして後ろの方から可愛らしい歌声で某州知事の出世作テーマ曲が歌われてくる


( T)「霰ちゃん?」

霰「臨場感が増すと思って……」

( T)「そっかぁ」


可愛いから好きにさせた

霰ちゃんの粋な計らいで臨場感マシマシのマシになった所で、スモークは徐々に晴れていき、動き出す孤独なsilhouette
褐色の肌にサラシを巻いた豪気な格好に、申し訳程度の知的さを演出する眼鏡。黄土色気味の銀髪をツインテールに結んでいる
そして背に負っているのは今まで見たことないレベルでクソデカい『艦砲』。大艦巨砲主義を擬人化したかのようなタッパのデカい女だった


「……」


明石「おお……武蔵さんですよ!!」


戦艦に疎い人でも、一度は耳にした事があるだろう。大日本帝国の誇る世界最強の戦艦、『大和型』の二番艦
出現率の低さ。そして建造、運用に膨大なコストが必要な為、雇用及び実戦配備している鎮守府も数える程しか無い
他所の連中からして見れば、ウチのような場末の鎮守府には勿体無いと口角から泡を吹き散らかすような、超火力、高耐久の持ち主が


武蔵「……」


堂々たる姿で、俺たちの目の前にいるではないか


( T)「痴女じゃん」

叢雲「一言目がそれ?」


もうちょい服なんとかならんかったのだろうか?

武蔵「……」


まぁ服装がどうあれ頼もしい戦力が増えたのは確かだ。出てきてから一言も喋んねえんだけど、ここは此方から気さくな挨拶をお見舞いするべきだろう。古事記にもそう書いてある


( T)「地獄の血m武蔵「ウ……」あっはい何??????」





武蔵「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」





( T)「」


また俺なんかやっちゃいました?

武蔵「ガァアッ!!!!!!」

(;T)そ「うおっ!?」


頭を刈り取らん勢いで迫った右手を、半ば驚きで腰を抜かしながら避ける。艤装込みなんで幾ら俺でも喰らったら「いったーい!!何すんのよこの凡骨決闘者!!」とツンデレ気味にキレざるを得ないくらい痛いだろう。一般人はザコなんで上半身が消し飛ぶ
当の本人は産まれたてで体幹のバランスが上手いこと取れないのか、振り抜いた勢いで脚が絡れ膝を着く。産まれたての子鹿にしては、随分と獰猛であった


武蔵「アァ……」

(;T)「なんだお前乱暴だな。ファースト・ブラッドじゃん」

叢雲「バカ言ってないでサッサと離れなさいよ!!」

(;T)「いやでもなんか様子がおかし……」


背後の叢雲へ一瞬だけ視線を向け、元に戻した瞬間、俺のケツは火がついたかのように浮かび上がった
武蔵の砲口が、『後ろの連中』に狙いを定めていたからだ―――――


(#T)「テメェッ!!」


言葉による制止より先に、『脚』が動いた。奴の顔面へ向けて手加減抜きの前蹴りを喰らわせる
身体は仰け反り、砲口の照準も僅かにブレる。噴火のように一気に頭に昇った血は


『カチン』


(;T)そ「ッ……!!」


という、引鉄の音で急速に冷めていった

武蔵「ウガ……」


砲口からは火を噴かず、武蔵は艤装ごと仰向けに倒れ込む。バグってようが彼女は艦娘だ。提督たる俺が許可しない限り、セーフティは掛けられたままだ
しかしそれでも、先程の行動には戦慄を覚えざるを得ない。驚愕と恐怖で一度動きを止めた心臓は、多量の冷や汗と共にバクバクと再起動した


明石「畳み掛けてください!!!!!!!」


理由も言い訳も後で幾らでも訊けば良い。明石の声に身体は忠実に従った
艦娘にとっては『弱者』であるヒトの蹴りでも多少は面は食らったようで、武蔵はまだ立ち上がらない。手近にあった大きめのレンチを手に取り、顎に向けて振り下ろす


(;T)「なっ……!?」


取手を通じて伝わってきたのは、肉と骨を殴った感触ではなく、『硬さ』だった


武蔵「ヴヴヴヴヴヴ……」


咄嗟の判断か、それとも本能か。いずれにせよ『レンチを噛みつきで受け止める』なんて防ぎ方は、正気の沙汰ではないだろう
ガチガチと鉄塊を噛み鳴らしながら、ボンヤリとしていた武蔵の目は力を取り戻す
それは決して俺たちにとって良い状況ではないと言うことを、割れたメガネから覗く血走った眼が物語っていた

武蔵「ウガァッ!!!!!!」

(;T)そ「うっ、おッ!?」


武蔵が首を大きく振るうと、俺の手からレンチが離れ、甲高い音を立てて床を転がった
バンと両手を強く着き、勢いをつけて立ち上がり、そのまま豊満な胸部を使って俺の身体を突き飛ばす
勿論、嬉しいハプニングなどではない。重てえ二つのゴム毬が、野球選手が投げる豪速球のようなスピードで飛んできたようなもんだった
多少背のある小娘の、たった一発の体当たりだけで、情けなくもレンチと同じように床を転がる羽目になった


(#T)「クソが代!!!!!!!!!」※出典 古今和歌集

叢雲「そのまま退がってなさい!!」


入れ替わって前に出たのは、大きなハンマーを手に持った叢雲だ。既に振りかぶりは済んでおり、武蔵は眼前に迫り来る鉄塊を防がんと両腕を交差させた
だが叢雲の狙いは上半身ではなく『下』に向けられていた。重りが落下した先は、武蔵の足。鋼鉄製のブーツに守られてはいるが、衝撃は通る


武蔵「ッ!!」


じんと骨身に沁みる麻痺れに、武蔵の顔は不快感に歪んだ。空振りに終わったガードは、目の前の『敵』を締め付けようと大きく広がる


叢雲「ヒヨッコが!!」


ここで手を止めるような『相棒』ではない。背丈こそ武蔵に遠く及ばないが、小さい者なりの戦い方を弁えている
ガラ空きの顎に向かって跳び上がり、アッパーをお見舞いする。舌を咬んだか、口から小さな血飛沫が噴き出た


叢雲「せえっ……」

(#T)「叢雲ッ!!」


俯瞰で見ると、当事者より状況は良くわかる。追撃に移ろうとした叢雲の襟首を掴んで引っ張った
仰け反りはしたが、視線は叢雲から切れていなかった。案の定、返しの頭突きが迫る
叢雲の足先をギリギリ掠った一撃は、思わず目を瞑ってしまいそうな鈍い音と共にコンクリートの床を粉砕した

(;T)「バケモンがよ……」


膂力もそうだが、耐久力も桁違いだ。これで産まれて数分も経ってねえんだから恐れ入る
生身じゃ抑え込むことも叶わねえ。小娘共が艤装を装着してようやく同じ土俵って所か。なら……


(;T)「艤装着けて戻ってくるまでどれくらい必要だ?」

叢雲「四十秒じゃキツいかしらね……後、私は勘定に入れない方が良いわ」

(;T)「何……っ」


武蔵の頭突きが掠った叢雲の右足首が、『明後日の方向』へと曲がっている。入渠すれば後遺症無く完治するが、戦闘復帰は無理だろう
彼女を入渠させるのに一人、助っ人を呼ぶのに一人、艤装を取って来るのに一人。時間を稼ぐのに一人
考えてる時間も惜しい。サッサと叢雲を任せて俺が身体張るのが一番手っ取り早いだろう


(;T)「おb 明石「目ぇ閉じといてください!!」 何て!!!!!?????」


武蔵が顔を上げたタイミングと同時に、『筒状の物体』が床を跳ねて転がる


(;T)そ「スタンッ……!!」


先ずは閃光、それから高音。幾ら超弩級戦艦の耐久力を持ってしても、スタングレネードによる視覚と聴覚の一時的な喪失は効果があるようで
うっかり目を塞ぐのが遅れた俺と同じように、真白に染まった視界と痛む鼓膜に悲鳴を上げた


武蔵「!!!!!!!!!?????????」

(;T)「目があああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


明石「!!!!!」


耳鳴りが酷く何言ってるのか聞き取れないが、身体を引っ張られていることから一時撤退ってのは伝わった
叢雲は朧か霰が引き受けてくれたらしく、俺は明石に腕を引かれながら工廠の出口へと駆け足で向痛い痛い台とかなんかが身体に当たってすごく痛い

(;T)「ああ、目が、目がああああああああああああああああ!!!!!!!!」


( T)「見える!!!!!!!!!!!!!」ドドッド!!!!!!!!!!



幸いにも、視覚は物の数秒で回復した。威力控えめでお子様にも安心設計だったらしい。安心じゃないが
工廠から脱出すると、明石はすぐさま携帯デバイスを操作し、工廠の防護壁を起動させる
外壁を覆うように迫り上がる鋼鉄製の壁は、本来砲撃を防ぐための物だが、今回は内にいる者を逃がさない『檻』として機能した


明石「これで僅かですが時間は稼げるでしょう」

朧「どうなってるの!?武蔵さんって元々あんな凶暴なの!?」

明石「初期型の建造機で発生した稀有なバグです。艦娘は誕生時から人格形成がされるんですが、その構築が上手くいかなかった場合ああなります」

(;T)「つまり、戦艦級の膂力を持った赤ん坊が癇癪起こしてるようなもんか」

明石「的確ですね。その通りです」

(;T)「普通に最悪のバブちゃん」

霰「治るの……?」

明石「勿論です。上手くいかなかった場合と言いましたが、人格自体は深層心理で眠っている状態にあります。なので、一度気を失わせるか、疲労で眠らせてしまえば、目を覚ました頃には元の武蔵さんに戻る筈です」


『畳み掛けろ』ってのはそういう事だったか。解決方法こそシンプルだが、相手が相手で、場所が場所だ


叢雲「……火力無しで、なんとかしないとならないわね」

明石「そう……ですね」

朧「え?や、でも、流石に実弾はダメでも、演習弾なら使っても良いんじゃ……」

叢雲「例え模擬弾でも鎮守府敷地内でぶっ放してみなさい。上になんて報告するのよ」

朧「あ……」


肩を貸す叢雲の言葉を聞いて、朧の顔色は青く染まっていく。青葉の獲得以来、辺境鎮守府の手に余る戦力を手ぐすね引いて狙っている連中は数多い
『大型建造事故で凶暴化した武蔵を無力化する為に已む無く発砲した』なんて馬鹿正直に報告を上げても、監督責任を問われて『元通り』になった彼女を連行されるのがオチだろう
勿論、旧友に頭を下げて(暴力の意)誤魔化して貰うことも出来るだろう。だが、禍根に残る要素は出来る限り排除して解決するに越したことはない

( T)「ここでくっちゃべってる時間も惜しい。朧、そのまま叢雲を入渠させてこい。明石は霰ちゃんと一緒にアナウンスを頼む。警鐘は鳴らすなよ?あれ即座に上にも伝わっちまうからな」

叢雲「アンタは?」

( T)「実はこう見えて猫ちゃんの動画を見るのと暴力が大好きなんだ」

叢雲「あのねぇ……」


『ドガン』と工廠の壁が殴りつけられる音が響く。外に出るのも時間の問題だろう
叢雲の不安もわかる。総大将が死んでしまえば我が鎮守府の存続は断たれるのだから。だが、こんな楽しいイベントを人任せにして堪るものか


( T)「わーってるよヤバくなったら退がる。それに、誰もタイマンで挑むなんて言ってねえやろがい」

叢雲「ハァ……言っても無駄よね。私がお風呂から上がる前に片付けること。良いわね?」

( T)「あいよ。そんじゃあ、行動開始だ!!行け!!」


四人がそれぞれ指示通りの場所へと向かったのを見送り、立て続けに放たれる衝撃音を聞きながらスマホを取り出す
工廠での騒ぎは、静かな田舎には大きすぎる騒音だ。既に何かしらの異常を感じ取っている事だろう
その中でも、確実に打撃を与えられ、かつ『騒ぎが大好き』な連中にお集まり頂こうでは無いか


( T)「えーと、艤装担いで工廠集合、火器は使わないから置いといていいよっと」


防御壁が打撃によって大きく歪む。招集より先に突破されるだろう。幸い、ここは外。幾らでも間合いが取れるし退路もある
弱小なたった一人のヒトだろうと、時間を稼ぐくらいなら幾らでも出来るはずだ。五時間くらい
LINEを打ち終えたスマホを尻ポケットに捩じ込み、変形していく壁を前に堂々と待つ。そう、これがマッスル鎮守府のLINE事情である



武蔵「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


一際大きな叫び声と共に分厚く大きな防御壁が、薄紙を貫いたかのように破かれる。砂埃と共に、口元から涎をダラダラと流しながら『美女な野獣』が姿を見せる。そう、俺はガストン。でも今は六十個食べて筋肉はモリモリ
野生味に溢れてはいるが、辺りを見回す知性はあるようで、たった一人残った俺を前に首を傾げた。怒った叢雲程じゃ無いが顔がこわい


( T)「……」

武蔵「……」


さて、それじゃあ


(#T)「オオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!」

武蔵「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!」


続きと行こうか!!

(#T)「くたっ……!!!!!!」


駆け出し、跳躍。怪物相手に放つには隙のあり過ぎる大技。しかしこれはヒットするという確信があった
彼女が開けた防御壁の穴は、確かに『身体』だけなら通り抜けるには十分な大きさだ。だが


武蔵「ァッ!?」


横に大きく広がる『艤装』までは考慮されていない。俺を迎え撃とうと前に出た武蔵は、穴の縁に大砲を引っかけ後方へとバランスを崩した


(#T)「ばれぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


すかさず顔面へとお見舞いするドロップキック。ここに艦娘人権団体がいたら俺のSNSアカウントは炎上を免れないだろう
常人、いや、駆逐艦娘でも艤装込みで吹っ飛ばせる威力を自負しているが


武蔵「ガァッ!!」

(#T)そ「ッ!?」


着地を待たず、上半身の反りを戻して押し返される。俺これカンフー・ハッスルで見たことあるかもしれない


(#T)「クソッ!!」


驚くべきことに、俺の身体は数秒間『宙を舞った』。オーバーヘッドキックの要領で脚を蹴り上げ、体勢を整えて着地する
バランスを崩した状態で『これ』だ。万全の攻撃をまともに喰らえば、おふざけ抜きでマジで死ぬ。久々に味わう命の危機感に、俺の中の流川と王騎は笑った

(#T)「呼ばなきゃ良かったぜ……」

武蔵「ガァッ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


鬱陶しそうに穴から抜け出した武蔵が、力士よろしく腰を落とす。メガネは既にどこかへと消えていた
突進が来る。艤装抜きなら、力比べに付き合ってやっても良いが―――――


武蔵「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

(#T)「チッ!!」


いや、いける!!要は『流れ』だ!!真正面から受け止め


武蔵「ガァッ!!!!!!!!!!!!」

(;T)「やっぱ無理!!!!!!!!!!」


やっぱ無理だった。低い姿勢で突っ込んできた武蔵に向かって砂を蹴り上げる。メガネを失ったのが仇となったな


武蔵「ギャッ!?」

( T)「あらよっと!!」


視界は一瞬奪えればいい。姿勢が低いのもグッドだ。足を引っかけて転ばせるか迷ったが、多分俺の脚が先に折れる
突進を跳躍で避け、踏み込みを兼ねて左肩を足裏で蹴り飛ばす。タダでさえ重たいもんを背負ってる上に、推進力は急には殺せない
そのまま顔面からうつ伏せにすっ転び、勢いそのまま地面を滑った


( T)「正解はこれだな」


認めたくはないが膂力で劣る以上、戦い方ってのは限られる。打撃は効かない、極め技は外される、投げは論外、カウンターは押し負ける
なら残っているのは、武蔵の『自爆』だ。今のように、艤装の自重を本人へのダメージへと変換するように『受け流せ』ば、僅かだろうと蓄積はされる

武蔵「ヴヴ……」


顔面を擦り剝いて相当痛かったのか、すぐに立ち上がる様子はない。ちょっと可哀想になってきた


(;T)「大丈夫?手ぇ貸そうか?」


転覆した『艦』は、自力で起き上がることはない。艦娘はその限りでは無いが、海上と比べて陸上でのリカバリーには時間を要する
それはこの大戦艦様も同じだろう。心配そうに近づいても、飛び掛かっては来なかった


武蔵「ガァッ!!!!!!!」

(#T)「何が『ガァ』だこのクソアマ!!!!!!!!!!!」


しかし抵抗の意志は残っていたのか、噛みつかんと牙を剥いたので思いっきり殴った


武蔵「ヴヴヴヴヴヴ!!!!!」

(#T)「痛いか!?そりゃあ申し訳ねぇことをしたな!!だがこれで済むと思うなよ!!テメェは俺の相棒に怪我を負わせた!!」


腕を付き、立ち上がろうとしたので髪を鷲掴んで頭を地面へ叩き付ける。まだ気絶しねえのかよこいつ


(#T)「泣き言も文句も受け付けねえぞ!!先に手ぇ出したのはお前だ!!抵抗するってのなら、心が折れるまで痛めつけて……」


頭を持ち上げたその時、俺の肝は急速に冷えた。彼女の表情は怒りでも怯えでもなく


武蔵「……」


『嗤っていた』

(;T)「ッ……!!」

武蔵「ガァッ!!」


『やべえ調子乗った』と後悔するよりも早く、武蔵は俺の手首を掴んだ。圧迫感と激痛が奔るが、艤装込みの力とは思えない。もしそうなら既に俺の右手は圧し千切れてる
それでも、行動を制限される程の力である事には変わりない。ズル、ズルとアーチ状態になった艤装から抜け出す彼女を前に、俺はなんの邪魔も出来なかった


武蔵「シィィィィィ……」

(;T)「なるほど、賢いね……」


早々に艤装が『枷』となると学習し、自ら外したか。艦娘は艤装が無くても、アスリートの数倍のフィジカルを持っている
それが『大戦艦』ときたら、建造したてでも俺すら圧倒するか。参ったね、ヤバくなったら退がると言ったが、進退儘ならねえと来た


武蔵「ガァッ!!」

(;T)そ「グッ!?」


お返しだと言わんばかりに頬を殴られたかと思うと、右腕をグイと引かれて再び身体が浮き上がる


武蔵「ガァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


身体が上下に入れ替わったと思うと、景色が急激に通り過ぎ、腕の関節が順にボコボコと外れる。手首が圧迫感から逃れると同時に、身体は『横』へと落下していく


(;T)・'.。゜「ゲパァッ!!!!!????」


飛翔した俺を、工廠の防御壁が受け止め、すぐさま重力に従って本来あるべき場所へと落ちる。強かに打ち付けた身体は、呼吸すらも拒んだ
無茶苦茶だ。体重百キロ越えの俺を片腕で投げ飛ばすとは、どんな筋肉してんだよ。羨ましくて涙が出るわ。だって男の子だもん


武蔵「ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

:(;T):「ぐ……」


野獣は舐めプなどしない。弱った獲物はすぐさま仕留めに掛かる。雄叫びを上げて迫りくる姿はまるで重機関車だ ※ジョナサン・ジョースター
弱ってる所に追撃するのやめて欲しい。顔に蹴りとかパンチとか入れたの根に持つのやめて欲しい。休憩する時間が欲しい

:(;T):「ヨイショォ!!!!!!」


ギリギリまで引き付け、身を捩って突進を躱す。背中に銅鑼を鳴らしたかのような轟音を受けながら、転がりながら距離を取るあっすごい腕が痛い


:(;T):「どうするどうするどうす……ん?」


追撃は来ない。振り返ると、なんと頭を抱えて蹲っている。今の衝突は相当『痛かった』らしい
そうだよ『艤装』を装着していないんだ。パワーだけじゃなく耐久力も格段に落ちている。つけ入る隙が出来たんじゃねえか


武蔵「ガァ……」

(;T)「……ッスゥーーーーーーーーーーー」


( T)「だっっっっっっせええええええええええええええええええ!!!!!!!!!自爆してやがんのーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!ガーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!」


煽らずにはいられなかった


武蔵「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


何こいつすぐ怒るじゃん煽り耐性ゼロかよ


(#T)「怒りてえのは俺だよクソがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


右腕がズタボロボンボンだが、ヒトよりちょっと強い程度の小娘の情に任せた直線的な突進など避けるに及ばない
いや、本当にズタボロボンボンなのだろうか?ちょっと一発ラリアットをかましても問題無いではなかろうか?


(#T)「喧嘩ボンb痛いわ!!!!!!!!!!!!!!!」


普通に腕上がんなかったので腹狙いの中段蹴りで迎え撃つ

武蔵「ギッ……」

(;T)「ッ!!」


艤装が外れて恩恵を受けるのは俺だけでは無かった。武蔵は重りを減らしたことで、文字通り身軽になった
真正面からの蹴りを、『急ブレーキ』で空振りにさせ、大きな隙を生み出した。ギチリと握りしめられた拳が、顔に向かって飛んでくる


(#T)「ッ……ソがよ!!」


だが一度当たらなかったからと言って『脚』は止めない。蹴り出した脚を接地させて軸足に切り替え、後ろ回し蹴りを放つ


(#T)そ「グアッ!?」


頬を穿たれ、脳と眼球がぐわんと歪む。体勢こそ大きく崩れたが、回転はまだ生きている
こめかみへと踵の一撃を加えた後、俺がダウンするのと同じく、武蔵もまた膝から崩れ落ちた


:(#T):「ぐ……決定打には……」

武蔵「ガァ……アアアアア……!!」


お互い、地に膝を着かずに踏ん張りで持ちこたえる。ブレる視界に吐き気を催したが、ゲロも弱音も吐いてる場合じゃねえ


:(#T):「まだ遠いよなぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

武蔵「ゴガガガガガァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


ここからが喧嘩の楽しい所だからなぁ!!!!!!!!!

武蔵「ガァ!!!!!!!!!!」

(#T)そ「!?」


振りかざした左拳は、目の前で炸裂した破裂音によって硬直した。思わぬ不意打ちに、瞼も強制的に落とされる


(#T)「猫……」


古典的、だが一定の効力を持つしょうもないが侮れない技。『猫だまし』を放った武蔵は、踵を返して『艤装』へと走っている
バチクソに殴り合う気だった俺とは違って、奴は確実にぶっ殺せる方法を選んだらしい


(#T)「逃げるな卑怯者ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!逃げるなァァァァ!!!!!!!!」


武蔵「……」


嘘……長男なのに止まってくれない!?


(#T)「いつだって俺は艤装みたいなドチャクソ強い装備もないのに戦ってるんだ!!生身の人間がだ!!傷だって入渠で簡単には塞がらない!!失った手足が第二改造で戻る事もない!!」

(#T)「逃げるな馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!お前なんかより煉獄さんの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!戦い抜いた!!守り抜いた!!」

(#T)「お前の負けだ!!煉獄さんの、勝ちだ!!うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


武蔵「……」


流行りのネタなのにびっくりするほど振り返ってくれなかった

(;T)「クソ、流石にアレ着けられちゃあ……でも逆にもっと楽しめるか!!よし!!」


身体痛いし座して待つことにした。すると


武蔵「ガァ!?」


側面から飛翔してきた『刃物』に進行方向を塞がれ、武蔵は跳躍による回避を余儀なくされる。そこに


「シッ!!!!!」


死角から突っ込んできた『神戸生まれ』のブローが脇腹に刺さる


武蔵「ガバァッ!!!!!!??????」


たっぷり十メートルくらい吹き飛んだ後、胃液を撒き散らしながらのた打ち回る武蔵を


「そら……よッ!!」


『刃物』の持ち主は情け容赦なく腹を蹴り上げた


武蔵「ッッッッ!!!!!?????」


(;T)「わァ……ァ……」


エグ過ぎて泣いちゃった……

「で……」


狂い悶える武蔵を余所に、地面に突き刺さった得物を引き抜いた『助っ人』は、クソつまらなそうに親指を差した


天龍「これが頭バグった武蔵か?」

(;T)「え?うん……そこまで伝えたっけ?」

天龍「オメーの連絡の直ぐ後に叢雲が詳細教えてくれたんだよ」

熊野「司令官が言葉足らずでどうするんですの……」


手首を慣らしながら、呼び出した内の一人である熊野も呆れ顔でやってくる
二人とも指示通り艤装を装着した上での一撃なので、武蔵の体内えらいこっちゃヨイヨイセブンかもしれない ※FF7


熊野「しかし、大和型とは驚きですわ。生身でも結構頑丈ではありませんの」

(;T)「バカクソ吹っ飛ばしといてよく言うぜ……不知火と青葉にも声を掛けたはずだが?」

天龍「不知火は……ああ、噂をすりゃあ」


救急箱を手に、息を切らして不知火もやってくる。嘘……俺の負傷を見越してわざわざ……優しっ……


不知火「はぁっ、司令、ご無事で?」

(;T)「あー、右腕がイカレちまった以外は概ね無事だよ」

不知火「宜しければ応急処置を」

(;T)「お願いするぜ」


おちんちんみたいにブランブランになった右腕を取ると、合図も無しに抜けた手首の関節を力づくではめ込んだ


(;T)そ「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

不知火「次は肘を」

(;T)そ「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

不知火「肩」

(;T)そ「肩……入った!!」

不知火「うむ、よし」


今日も俺の親友は絶好調だった

不知火「暫くは安静になさってください」

(;T)「筋トレは?」

不知火「ダメに決まっているでしょう」

:(;T):「わァ……ァ……」

不知火「泣いてもダメです」


俺は小さくて可愛い奴になれないらしい


(;T)「で、青葉は?」

天龍「風呂。ついでに時雨に言って奴のスマホどっかにやっとけっつっといた」

(;T)「なんでそんなことすんの……?」

天龍「お楽しみが減っちゃつまらねえからだよ。なぁ熊野?」

熊野「貴方のようなサディストと一緒にしないでくださる?」


誰があのアホ共の喧嘩の仲裁すると思ってんだこいつ。まぁええわなんとかなりそうやし
さっきの奇襲で既に満身創痍ではあるだろうが、熊野の評価通り結構頑丈だ。このまま三人で囲って良い感じになるまで説得(暴力)して貰えば……

( T)「あれ?」


『いない』。天龍に腹蹴りされて悶えていた場所から、武蔵の姿が無い
居場所はすぐに、それこそ目線を少しズラしただけで見つかった。一度パージした彼女の艤装の下に、身体を潜り込ませていた


(;T)「奴に艤装を着けさせるなァァァーーーーーーーーーッ!!!!!!!」


ヤバい全然元気だった。少なくとも追い込まれた吉良吉影より数倍元気だった。承太郎さんも康一くんもいないんで着けさせるなといってもどうしようもない
装着が完了したのか、艤装の重みを感じさせない足取りで立ち上がると、肩越しに此方を振り返り―――――


武蔵「ッ!!」


すぐさま前へと向き直って、走った。つまり


熊野「逃げましたの……?」

天龍「ハハッ、だっせえ」

(;T)「バカおめえ早く追え!!あっちには鎮守府がある!!あんなクソザコ木造建築で暴れられたらエラいことになるだろ!!」


三人は既にエラいことになってる工廠を見た。そこには無言の諦観があった。奇妙な友情があった―――――


(;T)「あれはもうしょうがない!!」

熊野「やれやれ、人使いの荒いこと」

天龍「他の連中に横取りされるのも癪だしな……」


二人は文句垂れながらも武蔵の後を追う。俺も続かんと立ちあがろうとしたが、脳震盪の余波が脚に響いて上手いこといかない
すると、背中と膝裏に腕を差し込まれ、そのまま掬い上げるように持ち上げられる。そう、お姫様だっこである


不知火「失礼を」

(*T) キュンコ……


ときめいた

(;T)「ちょっと大変かもしれないけど頼む!!熊野はともかく天龍のアホに好き勝手されると鎮守府が血で染まっちまう!!」

不知火「お任せを。しっかり掴まっててください」


何処を掴めばいいのかいまいちよく分からんまま不知火は走り出す。もう両腕は組むことにした。なんだこの絵面


不知火「叢雲さんから彼女の詳細を知らされましたが、少々勝手が違うようですね」

(;T)「ああ、俺も最初は夕立のように野生的な獰猛さだけと思ってたが、実際のところかなり頭使ってる」


艤装のパージによる緩急を使い分け、猫騙しといった小技を駆使し、勝算が薄ければ退くといった判断力を持ち得ている。ただ凶暴なだけなら、自爆も省みず暴れ回るだけだ


(;T)「『学習』してんだ。それも短時間で着々とな。あんまりグズグズしてたら凶暴かつ狡猾に成長して手が付けられなくなっちまう」

不知火「では、天龍さんは最悪の人選だったのでは?」

(;T)「そうなんだよなぁ!!!!!!!!」


あいつ超ベジータと一緒でセル第二形態を最終形態に進化させてもっと楽しもうっていうクチだからなぁ~~~~~~~~~~~~!!!!!!
でも人のこと言えないんだよな俺もなぁ~~~~~~~~~~~~!!!!!!後で叢雲に怒られるかなぁ~~~~~~~~~~~~!!

不知火「ですが、彼女とて後先を考えず行動する方……ですね……」

(;T)「思い出すよなぁ初めてお前と出会って青葉を捕まえに行った日」

不知火「ええ。ドン引きでした」


『亡霊』拿捕作戦については後日詳細を語ろう。今は野獣の無力化が最優先だ
デカい図体の割に走りは速いようで、俺たちは大きく遅れを取っていrお荷物でごベーーーーーーーーーーーん!!!!!!!
行先からは気合の入った雄叫びと共に金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。足止めは出来ているらしい。あの二人で事足りればそれで万事解決だが……


スピーカー<ピーーーーーーーーーーーーンポーーーーーーーーーーーーーンパーーーーーーーーーーーーーン…………


スピーカー<…………………


スピーカー<ポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


溜めが凄い


スピーカー<工作艦明石より緊急通達!!現在、工廠周辺にて弩級戦艦娘『武蔵』がb


アナウンスは、地響きと共に盛大に砕けた建造物の轟音によって遮られた
スピーカーからは、諦め混じりに大きく息を吐く音と、ボソボソと小さな霰の声が聞こえてくる


スピーカー<そういう事なんで、よっぽど腕に自信がある人以外はすぐに避難してください!!


とても簡潔だった


(;T)「やったでこれ……」

不知火「急ぎ確認を!!」

(;T)「頼む!!」

屋外運動場。旧校舎だったころの言い方をすれば『校庭』に出た俺達は、ようやく先行組の姿を捉えることが出来た


天龍「クソがよ!!!!!!!」


鎮守府に派手に突っ込んだのは天龍だったらしい。残骸を蹴り飛ばしながら立ち上がったのを見るに、大した怪我はしていない
一方熊野は、ステップイン・アウトを繰り返し、突かず離れずの距離で武蔵を翻弄している。純粋な格闘技(ボクシング)なら、青葉と並ぶ実力を持つ彼女だが――――


熊野「やりっ……辛いですわ!!」


リーチと耐久、膂力の差がそれ程まで大きいのだろうか。細かなジャブこそヒットしているが、一歩踏み込んだ大技は出せずにいる
深海棲艦を相手取る時は、熊野専用の手甲型武装(ベアークロー)を用いて急所を一刺しして終いだが、今回の目的はK・Oだ
ましてや武蔵は大型戦艦。ライト級が力士と対戦するようなものだろう


熊野「天龍!!早く復帰してくださる!?」

天龍「わかってらぁ!!」

(;T)「殺すんじゃねえぞ!!!!!」

天龍「うるせえ死ね!!!!!」


なんやあいつ


天龍「オオオオオオオオオオッッッ……」


刀と、大きめの木片を手に武蔵へと突撃する。熊野は選手交代とばかりに一歩下がった


天龍「ッルァア!!!!!!」


木片を眼前へと軽く投げ、刀の峰で思いっきりぶっ叩く。細かく砕かれた木製の礫が、武蔵の顔を目掛けて放たれた

武蔵「グゥウウウウウウウウウウ!!!!!!!!???????」


砲弾に比べれば些細なものだが、鬱陶しい小細工に武蔵は反射的に顔を腕で防護した


熊野「ここッ!!」


天龍が作り出した隙は、熊野に鋭く踏み込ませる好機を作り出した。懐に潜り込んだ彼女は―――――


熊野「シッ!!!!!!」

武蔵「ガッ……!!」


短い吐息と共に、本日二度目のブローを右わき腹へと突き刺した


武蔵「ッッッ……!!」


艤装を着けていなかった一度目とは違い、吹っ飛びこそしなかったが、衝撃による痛みと呼吸困難に腹部を抱えて蹲る
ワンダウン。ここにレフェリーがいるならカウントの一つでも取るだろうが、生憎これはリング上のスポーツでは無い


天龍「そらよもう一丁ッ!!」


『ちょうどいい位置』まで降りてきた脳天へと、木片を容易く粉々にした刀で『峰打ち』を振り下ろす


武蔵「!?!?!??!??!?」


スイカ割りでしか聞いたことない音と共に、武蔵の瞳がグルンと空を見上げ、そのまま地面へと伏せた。死んだんじゃ無いの……?


(;T)「死んだんじゃ無いのォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!?????????」 ※裏声


可哀想過ぎてコックカワサキになったわね……

天龍「もう一丁ッ!!!!!!!!!」


そしてトドメを刺そうと剣先を頚椎へと向けていた。あいつほんっ……クソがよ!!!!!!!!!!!!!!!


(#T)「殺すなっつってんだろが殺すぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

不知火「真っ先に説得力を殺さないでください」

天龍「やってみろや抱っこちゃんが!!!!!!!!!!!!」


そう言えば抱っこされたままだった。不知火のカッコいい姿はあのアホには勿体ないので記憶飛ぶまでぶん殴る事に決めた


不知火「落ち着いてください。武蔵さんの拘束と入渠を優先しなければ、取り返しのつかない事態となります」

(#T)「億理ある!!!!!!!!!おう待っとけやクソアマ武蔵の次はテメーだボケが!!!!!!!!!!」

天龍「ハァ!?今すぐぶっ殺してやるからかかって来いよザコ人間が!!!!!!!!!!!!!」

熊野「こればかりは貴方が悪いですわ。普通なら今ので致命傷でしょうし、不知火さんの言う通り……天龍?」

天龍「あ!!!!????」

熊野「貴方の刀……そんなに脆かった、かしら?」

天龍「は?」

天龍が刀を持ち上げると、全員が絶句した。武蔵の脳天をぶっ叩いた峰の一部分が、ベコリと凹んでいたからだ
嘘ぉ~……そんなことあるぅ……?艤装の一部だよこれ……?深海棲艦でチタタプしてもこんなんならんけどぉ〜……?


不知火「ッ!!天龍さん!!」


呆けから真っ先に解放されたのは、疲労とダメージの無い不知火だった
反応がワンテンポ遅れたが、彼女の短い警告の意味は全員が即座に理解した。刀の損傷の理由も含めてだ


武蔵「……」


『武蔵はまだ、意識を失っていない』と


天龍「ハハッ!!殺し甲斐があるじゃねえ……かッ!!」


振り向き様に、立ちあがろうとする武蔵の顔面へと柄頭を放つ。命中すれば顔面陥没は免れない一撃はーーーーー


天龍「ッ!?」


俺が振るったレンチと同じように、『噛みつき』によって防がれる

やはり正気ではない防御方法。それ故に、百戦錬磨を誇るウチの連中ですら驚愕の隙を見せてしまう


天龍「マジか……ッ!?」

熊野「天rぐぅっ!?」


プルートゥと出会う以前の鉄腕アトム1.5体分の馬力から放たれる掌底が天龍を、そしてカバーに入った熊野を巻き込んで突き飛ばす
『不味い』とでも言いたげに刀を吐き捨てた武蔵は、覚束ない足取りで立ち上がりながら狙いを俺と不知火へと定める
白目を剥き、頭から夥しく流血する姿は、ゾンビゲームのラスボスじみているではないか。TSしたタイラントか何かかもしれない


不知火「……司令、御気分は?」

(;T)「お陰様で絶好調だぜ」


腕の中から降ろしてもらい、地に足を着ける。休憩の甲斐あってか、しっかりと力が入るようになった
吹き飛ばされた二人だが、巻き込まれた熊野はともかく直撃したアホはヤバいかもしれねえ
あのアホの性格上、首がもげようが死ぬまで殺させろと喚くだろうが、それをされちまうと此方が困る


(;T)「熊野!!天龍連れて退がれ!!後は何とかする!!」

天龍「ッ、ゲボッ……ふ、ざけんな……てめえごとブチ殺さなきゃ気が済まねんだよ……!!」

( T)「俺に対する殺意高くね?」

熊野「当て身」

天龍「ゔっ」


この手に限る


熊野「本当に退がってよろしいんですのね!?」

( T)そ「いけrうおお!?」


腹部を狙った横なぎの虎爪を、お腹引っ込めつつ飛び退いて避ける。直撃したら腹筋ごと内臓を抉り出されちまう


熊野「本当に!?」

(;T)「うん……」


自信無くなってきた

不知火「ここまで削れば後は不知火と司令で十分です!!早く退避を!!」

熊野「あー、もう!!どうなっても知りませんわよ!!」


熊野はグッタリしたアホを艤装ごと担ぎ上げ、風呂場へと走る。武蔵は逃げていく二人に目もくれず、息を荒げて俺らを睨む
不知火の言った通り、熊野とアホが与えたダメージは甚大だ。頭部の外傷もそうだが、内臓の損傷を伝えるかのように、口からは赤色の泡が膨らんでは弾けていく
言うまでもないが、この状態が一番怖い。種族を問わず優位や余裕が無くなれば、油断に陥らない為に超集中状態へと移行する
手負の獣が恐ろしいと言われる所以だ。殺されない為に、死に物狂いで殺しに来る。それを、不知火と俺の二人で抑え込まねばならない


不知火「艦娘と戦うのは、青葉さん以来ですね」

( T)「ハハ。アレよりまだマシかもな」

不知火「そうだと良いのですが」


思えば艤装つけた艦娘と殴り合ったのはあの日が初めてだった。不知火がいなきゃ死んでた


武蔵「アヴァアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


互いに『死力』を求められる最終ラウンドのゴングは、武蔵から打ち鳴らした。怨霊めいた奇声を上げ、自爆覚悟で突っ込んでくる


( T)「『眩し』で行く。一息で落とすぞ」

不知火「仰せのままに」


不知火を背に隠すように前に出る。アホのやられっぷりを目の当たりにしてるので、このまま真正面から殴り合うなんて無茶はしない。このラウンドの主戦力は俺じゃあ無い


武蔵「オアアッ!!」

( T)「スゥー……」


威力こそあれど、やはり直線的な攻撃。フェイントも無い。避けるのは容易い
ビビって大きく退がるのではなく、軽く身を捩りスレスレで回避する。頬を撫でる拳圧と疾風に、ドッと冷や汗が溢れ出た

(#T)「シッ!!」

武蔵「ギィッ!?」


眉間を狙って脱力した裏拳を一発。目元を『はたく』一時的な目暗ましだ。この一瞬に乗じて


不知火「……」


不知火が武蔵の脇を通り抜け背後へと回る。死角への外敵に向かう矛先を


( T)「おっと」

武蔵「ゔぁっ!?」


今度は頬への平手打ちで妨害した


武蔵「バァアアアアアアアアア!!!!!!」


『叩く』行為そのものに破壊力はほぼ無いと言っていい。目的は面の衝撃と破裂音によるヘイト稼ぎだ
殴る蹴るといったダメージを与える攻撃と比べ、大きな予備動作を必要としない事と、フラッシュを浴びた時のように瞼を閉じてしまう事から『眩し』というパターン呼称を付けている
武蔵にとっちゃ文字通り羽虫が纏わりついているようなもんだろうが、一寸虫でも数千倍の大きさの生き物をイラつかせ、怒らせるくらいは出来る
勿論、虫だって命懸けだ。パンと両手打ちされたら俺の身体は水風船みてーに弾けるだろう。汚ねえ花火だ


武蔵「アァッ!!」

(;T)「ヒュッ……!!」


なんて嫌な想像してたらマジで両手打ちを放たれた。腰を落として避けると、脳天ギリッギリを掠めた掌が合わさり、明石製のスタンよりも強烈な爆音と共に空気と鼓膜を震わせる
キンと響く耳鳴りに眩暈がしたが、あともう一仕事しておきたい。身体を半回転させ背中を武蔵へと向ける。ウエイトに差はあるだろうが、重傷の今ならバランスくらい崩せる筈だ


(#T)「ちぇいやッ!!!!!!!」


踏み込みと同時に背中で放つインパクト。シェンムーでお馴染み八極拳奥義『鉄山靠』だ
近距離で放てる最高面積の体当たり……投げの一種だっけこれ……それっぽくやっただけなんでわからんわ……

武蔵「グ、オオ……!?」


もしも艤装を装着してなければ転ばせられただろうが、情けないことに一歩後退させただけだ
だが何度も言うように、このラウンドの主役は俺じゃない。既に『死角』の彼女は仕掛けている


不知火「失礼」


武蔵の艤装を素早く駆け上った不知火が、制服のリボンを引き抜いて『輪』を作り、頭から首へと通す。そして


不知火「沈めっ……!!」

武蔵「カッ……!!」


皮膚にめり込むほどキツく締め上げた後、全体重を後方へと傾けた
一仕事の甲斐あってか、足での踏ん張りは効かず、更に背中から倒れて不知火を潰そうとも、幅を取る艤装が先に接地して仰向けに倒れることを許さない


不知火「……」

武蔵「ァ……」


頸動脈の圧迫により脳への酸素供給が遮断され、立ち上がることも儘ならない筈だ
出来る抵抗と言えば、喉に食い込んだ紐を必死で爪で引っ掻くか、両足をバタつかせるくらいだ
頭カチ割っといてアレだがだいぶ危険な方法なんでこの手はできる限り使いたくなかったが仕方ない。不知火ならその辺の調整も上手いから大丈夫だろう。ちょっとくらいフラグ立ててもイケるやろ


( T)「やったか?」

不知火「まだです」


素で返されたわ……






リボン「こらアカンわ」ブチッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





( T)「あ」

不知火「あ」

不知火「っ……と」


その辺のパラコードより丈夫な艦娘の制服だが、流石に艤装の重みを長時間支えられるほどの強度は無かったらしい
不知火は武蔵の艤装から転がり降り、距離を置いて構えを取った。武蔵はと言うと、艤装にもたれ掛かって天を仰いだまま動かない


(;T)「……」

不知火「……」


彼女を挟んで、不知火と目を見合わせる。落とした自信が無いのか、渋い顔で首を横へ振った
これで失神したのなら、明石が言ったように目覚めた時には人格の形成が完了している。このまま動き出すまで観察すれば良いだけだ
しかし、これが『ブラフ』ではないとも言い切れない。戦いの中で学習した武蔵が、俺らを誘う為に『擬死』している可能性がある


( T)「……」


一先ず、特に幸せでもないけど手を叩いてみる


武蔵「」


反応は無い。二度、三度続けても同じだ。マジで気を失ってるか、この程度じゃ釣られないかのどっちかだな


( T)「……」


二本指で両目を指した後、武蔵へと向ける。『見とけ』のハンドシグナルを、不知火は無言で頷き了承した
さて、これにはどう反応する?むしろ反応するな。寝とけ。そろそろ晩飯の支度をさせろ


( T)「やったぁ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!倒したぁ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」ヴァンザーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

不知火「フッwwwwwww」


能天気を気取ってスキップで近づいていく。不知火が笑うのは想定外だった。一歩、二歩―――――








武蔵「ッ!!」






そら来た!!!!!!

(#T)「しぶてえなッ!!」


誘っていたのか、それとも浅い失神だったのか。いずれにせよ武蔵は迎え撃つように飛び起きた
目の焦点が定まってないことから、意識は混濁から回復していないと読み取れた。このまま畳み掛けて今度こそ確実に落とす


不知火「ッ!?伏せて!!」

(;T)・'.。゜「なnオボッホ!?」


完全に意識外だった側面からの飛翔物に身体を突き飛ばされる。武蔵はこの一瞬でサイコキネシスまで取得したのか?もう無理じゃん俺かくとうタイプだから手に負えんわ


(;T)「痛ってぇ……何?」


時雨「」


(;T)そ「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!???????」


飛翔物の正体は白目剥いたクソガキだった


青葉「司令官~……」


そしてクソガキをこんな目に遭わせた張本人が、寝間着につっかけの超絶ラフな服装で近づいてきた
風呂から上がってすぐに駆け付けたのか、髪はまだ乾ききっていない。艤装まで取りに行く暇は無かったらしい
そして苛立たしさを募らせるジトッとした視線が俺に突き刺さる。いやキレたいの俺だけど?何してくれてんのお前?


青葉「時雨さんに余計な指示したでしょぉ~……」

(;T)「は?」

青葉「しらばっくれてんじゃないですよ!!青葉のスマホ、もう少しで揚げ物になるところだったんですからね!!」


そう言って取り出したのはバッター液とパン粉でネッチャネチャのスマホだった


( T)「フッwwwwww」

不知火「フフッwwwwwww」

青葉「ぁに笑ってんですか!!!!!!!!」


いやほんと笑ってる場合じゃ無い時ほど笑っちゃうようなぁ

武蔵「ヴヴヴヴヴヴ……」


武蔵は新たに現れた乱入者に警戒を示して動きを止めている
不利になればすかさず逃げだしていたが、もうその体力も残っていないのだろう。もしくは、『あの程度』の相手なら今の状態でも殺せると踏んでいるかだ


青葉「ハァー……タイミングも悪いですよ……お風呂入ってる時に楽しそうなハプニング起こすのやめて貰っていいですか?」

( T)「任意で起こせるもんをハプニングなんて呼ばねえんだよ。やるのか?」

青葉「もうほぼ死にかけじゃないですか……こんなんじゃ満足できませんって」

( T)「じゃあ見とけよそこで。不知火、俺らだけで楽しもうぜ」

不知火「そうですね。青葉さん、お戻りになって結構です」

青葉「あーもー!!わかりましたよ!!残り物でもやれないよりマシですから!!」


ぶつくさ言いながら、構えも取らずにズカズカと武蔵へと近づいていく。俺と不知火は巻き込まれないように後ろへ下がった


時雨「」

不知火「司令、それ」

( T)「おっと」


忘れるところだった。時雨を拾いに戻ってる内に、『ズン』と地が揺れ、砂ぼこりが巻き起こった


( T)「よっこいしょ」


酷ぇツラで失神している時雨を脇に抱え上げてる内に、『パキョッ』と乾いた音が響いた


( T)「終わった?」


顔を上げた時にはもう


青葉「あー、はい」


ひっくり返って微動だにしない武蔵の上に腰かけた青葉が、不完全燃焼だと言いたげに頬杖を着いていた
強すぎるってのも考え物だ。見世物にもなんねえほど面白くないのだから

―――――
―――



幸いにも、と言うより、驚いたことに


明石「あそこまでボロボロにしといてまだ中破レベルのダメージとはねえ……」


武蔵を入渠させた時に視覚化された耐久値は、『黄色』を表していた。火器こそ使っていないが、頭部裂傷に内蔵の損傷
一時的な頸動脈の圧迫に加えて多数の打撲。トドメは『投げ』による背中の打ち身と顎への衝撃による顎関節の脱臼及び脳震盪
ここまでされてまだ抵抗出来る余力が残っていたのには恐れ入る


叢雲「これで本当に元通りになるんでしょうね?」

明石「回復しなかった前例は今の所ありませんし大丈夫でしょう」

叢雲「本当に大丈夫なのかしら……」


叢雲の不安は尤もだ。むしろ逆に回復すんなと願ってる奴が二人いるのが問題


朧「今回の支出、纏まりました」

霰「遠征シフトも組めた……」

( T)「はいよ、ご苦労さ……ワァ……アワァ……」

貯まった資材を消費して遠征班のやる気を刺激するという目的は、全体の三分の一を使って達成された
それでもまだ余裕があるのには変わりないが、こうも一気に減ると気も滅入る


(;T)「武蔵の治療に必要な資材も割や工廠の修復にもガッツリ持っていかれたもんなぁ……」

叢雲「またエラい大飯食らいが加入したものね……」


とは言え、食われる資材に見合った高耐久、高火力の戦力に代わりない。散々手こずって無力化したあの化け物も、味方であるなら頼もしい限りだ


朧「大丈夫!!資産がカツカツにならないように、朧がちゃんと管理するから!!」

霰「霰も遠征……頑張る……」


ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~もぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~めっちゃ良い子もぉ~~~~~~~~~~~~~~~おっちゃんが何でも買うたろやないか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!


( T)「お小遣いあげようね……」

朧「えっ」

霰「えっ」

叢雲「財布仕舞いなさい」


ママが許してくれなかった

財布の代わりに飴ちゃんを取り出した所で、卓上のデジタル時計が目に入る。入渠から数時間経っているのでそろそろ元気になっている頃だ
迎えに行くかと腰を上げた所で、執務室の扉が礼儀正しく三回ノックされた。ワンチャン悪霊の類の可能性もある。五回に一回くらい悪霊だったりする


不知火「失礼します」


あ良かったぬいぬいだぁ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!


( T)「終わった?」

不知火「はい。ですが……口で説明するのは難しいので、一度見て貰えれば」


歯切れが悪い。まだ何か問題が残ってるのか?一応、見張りには青葉を立たせてるので暴れられる心配はない筈だが


不知火「青葉さん、どうぞ」

青葉「……」


飼うつもりのない野良猫に懐かれたかのような困った表情を浮かべた青葉が、廊下からひょっこり顔を覗かせる ※宮下 聡


青葉「しれいかーん……」

(;T)「なになになに……」

青葉「これ、どうにかしてくださいよぉ~……」


動きづらそうに入室した青葉の腰には、件の大型戦艦が――――


武蔵「待ってくれ姐さん!!理由はわからんがアンタが一番強いのだろう!!どうかこの武蔵にも師事を願いたい!!今すぐ!!」


腰に抱き着いて何か狂ってた

叢雲「……明石、説明」

明石「ええ~……素の性格とかじゃないですか……?」

叢雲「それにしたって懐きすぎよ……アンタ、分かる?」

( T)「あー……刷り込み、とか」

叢雲「なるほど……」

明石「珍しく冴えてますね」


野生動物、特に鳥類に多く見られる、産まれたばかりに見た動く物体を親と思い込み追従する学習現象
今回のケースでは恐らく、戦った中で最も強かった青葉に強い尊敬の念を抱いたのだろう


青葉「冷静に分析してないで何とかしてくださいってば!!これから四六時中付き纏われたら堪ったもんじゃないんですって!!」

武蔵「四六時中!?良いな、胸が高鳴る!!一日でも早くその領域に達したいのだからな!!」

霰「面白……」

朧「そ、そうだね……多分、初めてのタイプ……」


まぁ……暴れられるより遥かにマシだし面白いのは確かなんだが……


( T)「不知火」

不知火「ええ……」


あれだけ必死こいて戦って、最後に美味しいとこ持っていった奴を一番慕うってのは


不知火「釈然としませんね」

( T)「だよなぁ……」


どうにも、モヤッとした気持ちになった

青葉「ええ!?青葉、功労者ですよ!?あんまりじゃないですか!?」

( T)「よし、ちょっと待ってろ」


紙とペンを取り出し、一文書いて青葉に見せる


( T)「読め」

青葉「えっと……『もう大型建造はコリゴリだよー』」

不知火「ンフッwwwwww」

叢雲「フッwwwwwwww」






青葉「オチをつけてんじゃないですよ!!!!!!!!!!」





お後がよろしいようで




おしまい

終わりです。お疲れさまでした

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