【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.1 (996)

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※注意

・本作は「ダンガンロンパ」シリーズのコロシアイをシャニマスのアイドルで行うSSです。
その特性上アイドルがアイドルを殺害する描写などが登場します。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・キャラ崩壊・自己解釈要素が含まれます。
・ダンガンロンパシリーズのネタバレを一部含みます。
・舞台はニューダンガンロンパv3の才囚学園となっております。マップ・校則も原則共有しております。
・越境会話の呼称などにミスが含まれる場合は指摘いただけると助かります。修正いたします。

※過去シリーズ
【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】
【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1613563407/)
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1616846296/)
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1622871300/)
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】 - SSまとめ速報
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【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】
【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 - SSまとめ速報
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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.2
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.2 - SSまとめ速報
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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3 - SSまとめ速報
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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.4
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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.5
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以上のほどよろしくお願いいたします。

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_____私はまだ、何者でもない。






これから、何者かになって、階段を駆け上がって、光を浴びて、

そこでようやっと名前をもらう。

他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。

だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。

でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……




私自身を飲み込んでいる。




「……え?」



______いつから、閉じ込められていた?




私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。

「な、なんで……?!」

壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……


バーン!


やっと、外に出た。


「……痛た」

突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。

このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
下手すれば、そこらの街中で紛れ込んでしまいそうな凡庸な見た目だけど……
【アイドルである】という大きな個性がなんとかそれを食い止めてくれている……
そんな、ごくごく普通とはちょっとだけ違う女子高生。



七草にちか、16歳……アイドル。



こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。


「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」

落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。

……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。

ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。

でも、なんで教室に?

近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日はダンスレッスンだし早く帰らなきゃなとか、昨日のバラエティで芸人さんのいじり酷かったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
うら若き乙女なんだし、多少警戒とかした方が良かったんだろうけど……安全に飼い慣らされていた私はそんなこともせず。

ただぼーっと、歩いていた。

そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら

「〜〜〜〜〜っ?!」

口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。

「はぁ……」

自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。



その時だった。



ガタガタッ

「……え?」

私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。

「や、やば……」

鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、



やがてその扉は開かれた。


ダンッ!

ロッカーから吐き出されたその人物には見覚えがあった。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
忘れたくても忘れられず、いつからか悪夢のように付き纏うようになって、視界にこびりついていた彼女。

「一体どうなってんだよ……痛た……」

【斑鳩ルカ】、美琴さんの元相方さんだ。

「……あ?」

痛みに悶えるのも束の間。顔を上げてすぐ、私の存在を認める女その表情を一変させた。
困惑に狼狽えていた口元はへの字に固く閉ざされ、扉を開けるための拳はより強くその指先を内側へと巻き込んだ。
そして吐き出される言葉はもちろん。

「オマエ……なんでこんなところにいやがる……!」

こんなところも何も、ここが何処だか知りたいんだけど。



ルカ「オマエか、オマエがやったのか……?!」

にちか「は、はぁ……?! 常識で考えてくださいよ、そんなわけないじゃないですか!」

ルカ「じゃあ事務所で、事務所単位で嵌めたのか?!」

にちか「いやいや……ちょっと落ち着いてください。私も斑鳩さんと同じで……今目を覚ましたところなんですよ」

ルカ「あ……? じゃ、オマエも私と同じで拉致されてたってのか?」

にちか「普通考えたらそうでしょ……なんで同じ事務所のアイドルを拉致するんですか」

ルカ「……」

にちか「ほら、とりあえず深呼吸でもします? 異常事態でパニックになるのはわかりますけど……」

斑鳩さんは私の呼びかけに背を向けると、急に調査を始めた。
机を動かしてみたり、中を漁ってみたり……何か目的があるというよりは、私の言葉に耳を貸すのが嫌で、仕方なくといったところなのだろう。
随分と嫌われてしまっている。


ルカ「……ん、なんだこれ」

すると、机の棚に手を突っ込んだ斑鳩さんが何かを引っ張り出す。
ハガキ代ほどの大きさの紙にはデカデカと何か書かれているのが距離をとっていても確認できる。
近くに駆け寄り、肩の向こうから覗き見る。

にちか「『入学式のおしらせ』……?」

学校からの案内というにはあまりにもお粗末すぎる。
パンフレットというよりは子供の落書き。クレヨンで殴り書きしたかのような書体に、会場までの案内図は線がガタガタ。
かろうじてその会場が体育館であることだけが読み取れる程度の情報量。
あまりにも適当すぎる代物に、違和感を通り越して呆れすら覚えた。

ルカ「……!? 勝手に見てんじゃねえよッ!」

私が覗き見ていたことに気づいた斑鳩さんは、自分に宛てられたラブレターでもないのに、大袈裟なモーションと共にそれを隠した。


にちか「や、別に良くないです? 私だって今の状況知りたいんですよ」

ルカ「……」

にちか「ちょっと〜……」

こっちの言葉は聞く気なし。どこまでも非協力的な姿勢を貫きたいらしい。
普段なら、別に見逃していた。自分だって、この人の存在をできる限り視界に入れたくはないし、仕事をする上での厄介者同士だと思っている。

でも、今は状況が状況だ。
全てが未知と不可解で囲われた中で、唯一この人の存在が既知の存在。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなものと言ってもいい。
ここで決別なんかしたところで、お互いにメリットなんてないのは分かりきっているだろうに。

にちか「……あの、よく思われてないのは知ってるので。態度をどうとか言う気はないですけど、今の状況、協力しないとやばくないですか?」

ルカ「……」

にちか「ここが何処なにかも、いつから監禁されてるのかも、何の目的でこんなことになってるのかも何一つわからない。状況を一人で打開するの、めちゃくちゃきついと思いますけど」

斑鳩さんはそれでも顔をそっぽ向けたまま。
反抗期の子を持つ親とはこういう気持ちなのだろう。
いくら正論で説き伏せようとも、屈する気が微塵もないのでは甲斐がない。対話に応じない時点で暖簾に腕押しというやつだ。


にちか「……はぁ、もう」

それならもういっそ、無理矢理にでもこっちを向けてやるしかない。
幸い、そういう経験は事務所で何回も積んでいる。デスクワークにお熱なあの人に、世話を焼かせるたびに何でもやった常套手段。
ここでやらなきゃ、何処でやる……?!

にちか「むきむきにちか〜!」

ルカ「……」

斑鳩さんは確かにこっちを向いた。
注意関心を引くという一点に於いては作戦は見事成功。
その他のマイナス要素に目を瞑れば。

ルカ「オマエ、それ面白いと思ってやってるの?」

にちか「そ、そういうんじゃないんで……」

ルカ「……」

冬場の廊下みたいな冷ややかな視線で私を窘めると、斑鳩さんは分かりやすく大きなため息をついた。
侮蔑、落胆……いろんなものが透けて見えた。どうやら私はいろんなものをこの一瞬に失ってしまったらしい。

ルカ「……こいつじゃなきゃなぁ」

ぼそっと悪態をつきながらこちらに向き直る。
こっちだって願い下げだ。でも、こんな相方でも背に腹は変えられないのが今の状況だ。


ルカ「……とりあえず、ここから出るぞ。ここが学校にせよ、何にせよ。全貌を掴まないことには何もできないからね」

にちか「そうですね……さっきの紙に従うなら体育館に行ったほうがよさそうですけど」

ルカ「はぁ? ンなもん、罠に決まってんだろ」

にちか「……でも、こんなよくわかんない監禁をしてきた相手ですよ。下手に歯向かうと何されるか分からなくないです?」

ルカ「……チッ、じゃ、とりあえずは体育館目指すか」

斑鳩さんは私の誘導に一応納得してくれた様子。こちらに目を貸そうとはしないが、行動は共にしてくれるらしい。
斑鳩さんが先行して教室の扉を開け、廊下に出る。



_____その瞬間。




『グヘヘへへ! ミーが体育館まで直接案内してやるぜ!』


にちか「な、なにこれ……?!」

ルカ「メ、メカ……?!」

私たちの体躯の数倍はありそうな青の機体に、ガトリングやら破砕機並みのアームやらが取り付けられたロボットが、待ち構えていた。

ルカ「や、やばい……逃げるぞ!」

にちか「えっ、ちょっ……先行かないでくださいよ!」

私たちは思考するよりも先に足が動き出していた。とにかくこいつから逃げなくちゃ、そのことで思考がいっぱいになる。
私たちの靴音に裏拍を合わせるようにして地響きが鳴る。後ろを振り返れば、案の定さっきの機械の猛追。
立ち止まっている時間はない、とにかく急がないと……!

ルカ「おい! こっちだ!」

にちか「は、はい……!」

一心不乱にただ生き残ることだけを考えて走った。


『あら? こっちに逃げてきちゃダメよ〜?』

ルカ「マジか……くそ、一体だけじゃねーのかよ!」

にちか「斑鳩さん、道変えましょう! 道!」

途中敵の増援が現れ、逃げ惑う場面もあったけれど、なんとか命からがらその場所へと辿り着く。
スチール製のスライドドア。上下左右にどっしりと広く壁を構えた、ドーム式の形状。
幼少期よりよくよく見慣れたその造形で、一眼にこれが体育館であると理解する。

ルカ「はぁ……はぁ……クソ、ひとまずここに退避するぞ」

にちか「は、はい……早いとこ隠れましょう!」

流石に今回ばかりは仇敵に向けるはずの敵対心も忘れ、二人でいっせーのーでで息を合わせて扉を動かした。
重厚な音を立てながら扉は開き、その中へと私たち二人を誘った。

誘われた先で、待ち受けていたのは……

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【体育館】

「あれ? にちかちゃん、にちかちゃんだ! おーい! 大丈夫? 怪我はない!」

私の名前を呼び、大きく両手を振る少女。
仰々しい天井の光に照らされ、いつも以上にその金髪のツインテールが輝く笑顔には見覚えがあった。

にちか「あ、あれ……?! 八宮さん……?!」

同じ事務所に所属しているアイドルの、【八宮めぐる】その人だった。
ただ、私たちを待っていたのは彼女だけではなかった。

「……!」
「ほわっ……灯織ちゃん、どうしたの……?」
「う、うん……その、前に話した……」

ルカ「……おい、どういうことだよコイツは」

私の所属している事務所のアイドルたち、全26名のうち……私とルカさんを含めた16名がこの場に集まっていたのである。
その全員が口をまごつかせ、不安そうな表現を浮かべている。
おそらく全員が全員状況は同じ。ここに呼ばれた理由も、ここがどこなのかも分かってはいないのだろう。


夏葉「二人とも、早くこちらへ。あの機械たちはどうやらこの体育館の中には入ってこないようだから」

樹里「にちかとルカさんを入れて……これで16人か」

凛世「もうこれ以上……どなたも逃げてはこないのでしょうか……」

集められているメンバーはまちまちだ。
特に人選に明確な規則性は見当たらない。年齢もバラバラで、ユニットによっては全員が集まっていないところも見受けられる。

にちか「あ、あの……美琴さんを誰か見ませんでしたか?!」

そして、ユニットのメンバーが揃っていないのは私も同じことだ。
体育館を見渡してみても、あの頼り甲斐のある長身に、眉目秀麗な容姿を携えたパートナーの姿はない。
ロッカーに閉じ込められていたところから、体育館に逃げ込むまで。斑鳩さん以外の人間の姿は影も見ちゃいない。
救いを求めるように、みっともなく狼狽えた。

しかしながら、絶叫虚しく、芳しい返事は帰ってきはしなかった。
全員沈痛な表情を浮かべたまま、顔を伏せる。


にちか「……そんな」

夏葉「今は無事を祈るほかないわ……外に出ればあの機会が待ち受けている、今の私たちはここから出られないようだし」

にちか「で、でも……今こうしてる間にもあの機会に捕まってたりしたら……!」

思わず掴んだ両肘。
有栖川さんの両肘は震え、視線を落とせば指先が手のひらに食い込むほどに力が篭っていた。

夏葉「堪えてちょうだい。果穂と智代子の姿がなくて……私だって本当は探しに行きたいの」

夏葉「でもここで一人の判断で扉を開けて、万が一にでもあの機械がここに入ってくればそれこそ袋のネズミになってしまうわ」

にちか「……うぅ」

ルカ「……チッ」

有栖川さんだって、大切に思っていた年下たちの姿がない。
不安に思うのは当然だし、どうしようもないもどかしさを必死に抑えている。
誰しもが今、自分の中の衝動を殺すので精一杯なのだと理解した。


甜花「千雪さん……大丈夫、なのかな……」

甘奈「ダメ……携帯も繋がらない……それに、そもそも圏外になっちゃってる……」

あさひ「……あれ?」

愛依「どしたん、あさひちゃん?」

あさひ「……何か聞こえるっす。地響き? いや、これは……」

あさひ「上からっす!」

芹沢さんが叫んでから数秒と経たず、それは舞い降りた。



【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】



ガシンガシンガシン!!

いや、そんな柔らかな着地ではないか。
猛烈な重量に、硬い触感が床にぶつかって、振動が私たちの体にまで伝播。
内臓を内側から揺さぶられるのは言いようもなく不快な感じがした。


『おう、全員集まっとるようやな!』

『集合時間が守れてみんなえらいなぁ。オイラなんか今朝24時間寝坊しちゃったよ』

『あら? 今朝は集合時間きっかりにきたじゃない』

『予定の日にちを一日間違えた上に、一日寝坊しちまってプラマイゼロってところか! 最高にロックだなッ!』

『……』

私たちの前に姿を表したのは、ついさっきまで校内で追い回してきたあの巨大なメカ。
しかもそれが5体も一度に現れ、立ち塞がったのである。

甜花「ひ、ひぃん……『勇者たちは逃げ出した…… しかし回り込まれてしまった』ってこと……?!」

恋鐘「ふぇ〜〜〜〜〜?! こ、こい体育館は安全じゃなかったと〜〜〜〜?!」

円香「全部筒抜けだったんでしょうね。あえてこの体育館に誘導していた……ここで一網打尽にするつもりでしょうか」

めぐる「そ、そんなことはさせない!」

甘奈「で、でもどうすればいいのかな……あんな、強そうなロボット……」

あさひ「武器も何もないっすね」

透「やば。休してるじゃん、万事」

樹里「クソッ、逃げ道もねーぞ……!」

動揺と不安の揺籠、天井と繋がっていた鎖は突然に切り落とされた。
漠然としていた恐怖が具現化し、再び私たちは生命の危機に瀕することとなったのだ。


『ん? キサマらどうしたの? そんなに揃いも揃って雑誌の袋とじを開けるの失敗しちゃった時みたいな顔して』

『きっとみんな緊張しちゃってるのよ。多感な時期のシャイガールばかりなのよ』

『ミーの圧倒的なカリスマ性に腰を抜かしちまってんのさッ!』

『アホか! ワイらがエグイサルに乗ったままやから警戒しとるんや! 段取りのこともあるしさっさと降りるで!』

『……』

ただ、死の象徴はそれすら嘲笑う。
目の前に突きつけられた命の危機の囀ることしかできない私たちを馬鹿にするような問答をスピーカーで垂れ流したかと思うと、
素っ頓狂なSEに素っ頓狂な演出と共に、



______素っ頓狂なマスコットたちが姿を現した。




モノタロウ「オイラの名前はモノタロウ! 赤色なんだ、赤ってすっごくすごいんだ」

モノファニー「アタイはモノファニー。モノクマーズの紅一点よ! ……あれ? アタイも赤?」

モノスケ「ワイはモノスケや。モノクマーズの頭脳であり司令塔。ワイがおらんと回らんことで有名やで」

モノキッド「ミーはモノキッド! キサマらに極上の地獄を提供してやるぜ!」

モノダム「モノダム……ダヨ。ミンナ、ヨロシク」


『5人揃ってモノクマーズ!』


あの巨大かつ殺意に満ちていたメカから降りてきたとは思えない、ずんぐりむっくり体型で間の抜けた5人組。
彼らは私たちの緊張と不安を他所に、間の抜けた言葉で混迷ばかりを引き起こす。


にちか「……は? いやいやいやいや……な、なにこれ……?」

並び立つ私たちは揃いも揃って口をぽかんと開けて唖然の表情。
現実がすぐには受け止めきれず、思わず頭を掻きむしった。

あさひ「すごい! 動くぬいぐるみだ〜!」

ルカ「なんの悪夢だコイツは……どうやって動いてんだこれ……」

モノスケ「ただのぬいぐるみやあらへんで。ワイらは最新鋭のありったけの技術をこれでもかと注ぎ込まれた新時代のニューウェーブやからな」

モノファニー「自分の力で考えて喋れるのよ。シンギュラリティを体現しているのよ」

甜花「すごい技術……デトロイトでも、こんなの中々ない……」

甘奈「この前お仕事で見させてもらったAIも凄かったけど……この子たちはちょっとレベルが違うよ……?!」

モノタロウ「えっへん! どうだ! すごいんだぞ!」

愛依「わ〜、でもなんか喋り方かわいいじゃん〜! 1個ぐらい持って帰りたいかも〜!」

モノスケ「あかん、あかんで。ワイらを家に招きたいんやったらそれ相応の用意が必要や」

モノスケ「まずユニットバスは絶対にNGや。そうじゃないとモノキッドが浴槽を汚して敵わんからな」

モノキッド「ヘルイェー! 浴槽だけで済むと思ったら大間違いだぜッ!」

モノスケ「それに加えて、子供部屋もとい自己研鑽部屋は必須やな。男にもプライバシーは必要なんや」

モノファニー「やあねぇ、こんなところで下ネタなんて。女の子を前にしてやることじゃないわ」

モノスケ「ハッ、女の子やから下ネタを言うんやろがい!」

モノタロウ「大変だ! モノスケの言動から加齢臭がひどいよ!」


初めこそ動揺に慌てふためいていた私たちだったが、モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちの問答を眺めているうちに徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
いつまで経っても会話を前に進めようともせずに、無意味極まる時間が過ぎていくことに苛立ちすら覚えた頃、樋口さんがその口火を切った。

円香「……ちょっと、いい加減にしてくれる? 私たちが今置かれている状況、説明してくれるんじゃないの?」

モノファニー「そんな眉間に皺を寄せちゃダメよ。若いうちから皺を寄せていると、歳をとった時酷いんだから」

モノタロウ「えっ! ひどいってどうなるの!? 死んじゃうの?!」

モノファニー「そんなことないわ。でも他の人よりもシワクチャのボロ雑巾みたいになる確率が五割増しらしいわ」

モノタロウ「な〜んだ良かった! 死なないんだったらモーマンタイだね! オイラ、ガンガン皺寄せちゃうもんね!」

円香「だから、そういう意味もないやりとりをやめて」

モノファニー「もう、言われちゃってるわよ。そろそろいい加減にお話を進めましょう?」

霧子「ぬいぐるみさん……あなたたちが、私たちをここに連れてきたんですか……?」

モノキッド「おう、ミーたちがキサマらをこの血塗られたパーティに招待してやったんだぜッ!」

モノスケ「クックックッ、こっからオモロイオモロイパーティの始まりなんや」

にちか「……パーティ?」

ぬいぐるみの口からこぼれた、聞き馴染みのある言葉が妙に耳についた。
私のよく知る意味合いでその言葉が用いられていないのが明白だったから、
そしてその裏にある意味合いがおおよそ私たちのとって良いモノでないことも透けて見えていたからだろうか。





モノタロウ「うん! ここにいる、顔も名前も知らない【初対面の人同士】でとびっきりエキサイティングなパーティをやっちゃうよ!」

灯織「……え?」




モノダム「……」

円香「顔も名前も知らない……そんなことはないけど」

樹里「おい、どういう意味だ! アタシたちは283プロダクションの所属アイドル……全く初対面なんかじゃねーぞ!」

モノスケ「おい、モノタロウ……キサマ、やったんとちゃうやろな」

モノタロウ「え? アレアレ? 今回も、記憶操作の係ってモノファニーじゃなかった?」

モノファニー「もう、モノタロウがやりたいってアタイから係を奪い取ったんでしょ? あの時のジャンケンを忘れたとは言わせないわ!」

愛依「なんか……段取りをミスしちゃってる系?」

夏葉「……一体、何の話をしてるのかしら」

モノキッド「道理でコイツら【華がありすぎる】と思ったんだ! ミーは今回、何の華もない陰キャラだけでヤるって聞いてたから違和感ビンビンだったぜッ!」

(……華が、ありすぎる?)


モノタロウ「もう、みんなして責めないでよ!」

モノスケ「ってことはキサマらは自分らに何の【才能】が当てがわれとるかも知らんってことか?」

にちか「才能? そんなの……そんなもの……」

(才能なんてものがないことは私が一番よく知ってる。そんなものがあれば、私はこんなにも苦しむこともなかったし……)

モノキッド「オイ! 誰でもいいから答えな! キサマらは何者だ!?」

恋鐘「な、なんね急に! うちらはアイドル! 283プロダクションのアイドルばい!」

モノスケ「あーあ、こりゃ完全にクロや。モノタロウ、大クロもんやで」

モノタロウ「うう……本当に記憶になかったんだよ……」

モノスケ「まあええ、お父やんにバレへんかったら問題はあらへんからな。さっさと手続きだけ進めてまうで」

夏葉「……! みんな、何か来るわ! 離れて!」

モノタロウ「大丈夫! 何か危害を加えるわけじゃないから!」

モノファニー「そう、ちょっと居眠りをしてもらうぐらいのものよ!」

モノスケ「まあ、寝とる間にキサマらはちょっと大事なものを色々と失ってしまうんやけど」

モノキッド「目が覚めればそれでもお釣りが来るぐらいに楽しい楽しい【コロシアイ】の世界だぜッ! ヘルイェー!」

にちか「は、はぁ?! こ、コロシアイ?!」

モノダム「ソレジャ、ミンナ、マタアトデ……ダヨ」


つらつらと並べられた理解不能な言葉の数々。
混迷の奔流に飲み込まれ、それでも必死に現状を理解しようと、何か明確な解答に縋ろうと、そんな弱々しい気持ちで右手を伸ばした。

その瞬間に、1秒もかからずに、私の視界は閃光に飲まれた。
目も開けていられないほどの眩く、白い、光。
指先から全身を一瞬にして光が飲み込んだかと思うと、その光は神経を這い回り、脳髄に到達。
ホワイトアウトしていく視界と共に、私の思考もまた白く、ボケていき……






……夢の中に、溶け出した。





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PROLOGUE

if(!ShinyColors)



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_____私はまだ、何者でもない。






ずっと、日陰の中で生きてきて、テレビの中の住人たちに身分不相応な憧れを抱いて、萎びていくばかりで、

名前なんて持っていない。

他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。

でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……



私自身を飲み込んでいる。




「……え?」




______いつから、閉じ込められていた?



私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。

「な、なんで……?!」

壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……


バーン!


やっと、外に出た。


「……痛た」

突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。

このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
ごくごく普通で、それ以外に表する言葉が何もない……ただの【一般人】。
テレビのインタビューなんかに捕まることすらなく、雑踏の一言で片付けられてしまう、



世界規模で言えば塵みたいに矮小な存在の七草にちか、16歳。




こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。


「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」

落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。

……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。

ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。

でも、なんで教室に?

近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日の宿題まだやってなかったなとか、昨日の数学の先生マジでうざかったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
まさか私なんぞに目をつけるような物好きもいないだろうし、この国の治安にすっかりを心も許していたし、その時の私は無警戒に尽きた。

ただぼーっと、歩いていた。

そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら

「〜〜〜〜〜っ?!」

口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。

「はぁ……」

自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。



その時だった。



ガタガタッ

「……え?」

私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。

「や、やば……」

鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、



やがてその扉は開かれた。


ダンッ!

ロッカーから吐き出された人物は、随分と目立つ見た目をしていた。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
私のように地味な生き方をしている人間とは、おおよそ交わりそうもない世界に生きているような女性。最初の印象はそんな感じだった。

「痛た……クソッ、一体なんなんだよ」
「だ、大丈夫ですか……?」
「ん? あ、おう……大丈夫だと……思う、怪我はないよ。ありがとな」

とっつきづらそうだという当初の印象とは裏腹に、屈託のない明るい笑顔を浮かべて私の言葉を受け取った。
差し出した私の掌を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。


「えっと……あんたは? ここは……教室?」
「あ、はい……多分、そうだと思います」
「多分?」
「あの、私も一緒なんです。あなたと同じくロッカーに閉じ込められてて、訳もわからず脱出したばかりで」
「あんたもか……」

おそらく私より少し年上なのだろう。
背の程は数センチほど高く、さっきまでとは違って既に冷静さを取り戻しているように視える。
私の言葉に耳を傾けながら周りを見定める佇まいに、頼り強さを感じさせる。

「私とあんた……じゃ会話もしづらいよな。自己紹介でもしようか」
「あ、はい! えっと……」

ひとまずの協力関係を築こうと、彼女が私に向かって右手を差し出す。私も迷わずその手を取ろうと、左手を伸ばした。

その瞬間



【おはっくま~~~~~!!!!!】



間の抜けた調子の声と共に、どこからともなく5体のクマのぬいぐるみが姿を表した。


にちか「わあああああああ?!?! な、何……?! 」

???「おはよう! 清々しい朝だね!」

???「まるで生まれ変わって別人になったみたいに、気持ちのいい目覚めだわ」

???「ヘルイェー! 調子はどうだ、ベイベー! さっきまでとは大違いだろ?!」

???「おう、何をいつまで鳩がヘッドショット食らったみたいな顔しとんねん。ワイらと会話をしてくれんと困るで! Z世代はこれだからあかんわ」

???「コミュニケーションコミュニケーション! オイラたちとお話ししてよ!」

???「おい……これはなんの冗談だよ……なんでぬいぐるみが喋ってんだ……?」

???「このトンチキな反応は成功なんじゃねえかッ?!」

???「ねえねえキサマら、オイラたちの名前わかる?」

にちか「は、はぁ? し、知らないよ……あなたたちみたいなクマの人形なんか見るのも聞くのも初めてだよ!」

???「じゃあキサマの隣にいる女の子の名前は分かるかしら?」

???「いや……知らない。今から自己紹介をするとこだったんだよ」

???「やったー! 今度こそ成功だね! ちゃっきーん!」

???「一時はどうなることかとヒヤヒヤしたぜ……だが、これでもう問題ないなッ! 始めちまっていいんだなッ?!」

???「せやな、まずはワイらも自己紹介から始めなあかんな。学生も社会人も後期高齢者も、初対面の時は自己紹介からと相場が決まっとるからな」


モノタロウ「あのね、オイラはモノタロウ! 体が赤いからモノタロウって覚えるといいよ!」

モノファニー「アタイはモノファニー。虫も殺せぬか弱い女の子よ。例外的にゴキブリだけは素手でも触れるわ!」

モノキッド「ミーはモノキッドだ。用を足すときは便座の上で仁王立ちのスタイルだぜッ!」

モノスケ「ワイはモノスケや。趣味はそろばん勘定。愛読書は計算ドリルや、よろしくな」

モノダム「モノダム、ダヨ。ミンナ、ヨロシク」

モノタロウ「オイラたち、5人合わせてモノクマーズだよ! しっかり覚えてね!」

一方的に押し付けられた自己紹介。
まるで一つの人格が備わっているかのような口ぶりに私たちはキョトンとするばかり。
コミュニケーションといった割に、こちらが理解できているか否かはもはや彼らは気にもとめていなかった。


モノタロウ「キサマらに今この状況のことを説明してあげなくちゃだね! キサマら、ポケットに手を突っ込んでみて!」

にちか「は? え、えっと……」

もはや抗う気も失せた。
言われるがままポケットに手を突っ込む。本来あるはずの空洞、指先が何かにぶつかった。

???「ンだこれ……タブレット?」

モノキッド「そいつは電子生徒手帳! この学園での暮らしをサポートするタブレットだ。個人情報も入ってるから落としちゃならねーぜ」

にちか「学園……ってことは、やっぱりここって学校なの?」

モノスケ「ここは才囚学園。キサマらのために作られた、【アイドル養成用の学校】なんや」

???「才囚学園……聞いたことねーな」

にちか「ん……ちょ、ちょっと待って! 今なんて言った……?! 【アイドル養成用の学校】……?!」

モノファニー「そうよ。キサマらはこれからの時代を引っ張る新時代の【アイドルの候補】として選ばれたのよ」

(は……!? ど、どういうこと……!?)


モノダム「電子生徒手帳ヲ、起動シテミテ」

アイドル、という甘言に導かれるままに私は指先で画面を叩いた。
すぐにタッチに反応してパッドは立ち上がり、画面上に私の名前と見慣れぬ文字列を映し出す。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の音楽通

七草にちか



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「超……研究生……級?」

モノスケ「早速【才能】に気づいたようやな。これはキサマらをアイドルとして売り出す際に、【どんな路線で売り出すべきか】をキサマらの来歴や潜在能力から導き出したものや」

モノファニー「緑色の髪をしたキサマは昔からレコードで音楽を聴くのが好きで、CDショップでアルバイトを続けているところからも選ばせてもらったわ」

研究生という言葉と共に自分の名前が並び、更には私には才能が備わっているとも言われた。
自覚こそまるでなかったが、褒められれば嫌な気持ちもしないし、不思議とどこか高揚してくる部分もあった。
拉致でもされていなければ、完全に心を許してすらいたかもしれない。


モノタロウ「他の人にも一人に一つずつ才能は割り振られているから、気になる人は聞いてみるといいよ!」

???「他の人って……私たちだけじゃないのか?」

モノダム「ウン、コノ学園ニハキサマラ以外ニモ、14人……計16人ノ研究生ガ集メラレテイルンダ」

モノキッド「おいッ! 勝手に喋ってんじゃねーッ! モノダムが喋るとガソリン臭くなっちまうだろうがッ!」

モノダム「……」

にちか「16人……結構な数ですね」

モノファニー「まだ始業式までには準備に時間がかかるから今のうちに自己紹介をしておくといいと思うわ。もうみんな目を覚ましてきっと校内を探索中よ」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちは、そのままどこへともなく姿を消してしまった。
私たちに一方的に疑問だけを抱かせ、答えは何も与えてはくれない。
探索と自己紹介を促すあたり、自分で見つけ出せということなのだろうか。どっちにしても、碌でもないやり口なことだけは確かだ。


???「……行っちまったな」

にちか「はい……なんだったんでしょう」

残された私たちにばつの悪い静寂が訪れる。
思えば、目を覚ましてから、訳の分からない展開続き。この人とも出会って数分と経っていないぐらいだ。

???「あいつらに従うみたいで癪だけど……まずは自己紹介、ってところか」

にちか「で、ですね……!」

ルカ「私の名前は斑鳩ルカ。今はアイドルの研究生をやってんだ。よろしく」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



超研究生級のカリスマ

斑鳩ルカ



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ルカ「なんか才能ってのは……『カリスマ』って書いてあるな。全くピンとこないけど」

にちか「か、カリスマ……」

本人はまるで心当たりがないと言った感じだが、私にはどこか納得ができた。
初めてその姿を見た時から目を奪われた艶やかな黒髪、その中に走る金髪がアクセントで、整った顔立ちも相待って目が離せなくなる。
それでいて少し荒っぽいながらも優しく、頼り甲斐のある口調には追随していきたくなるような魅力を感じていた。


ルカ「私は元々……ここにくる前からアイドルの研究生やってんだ」

にちか「え、そうなんですか?!」

ルカ「ああ、もう何年になるかな……まあ、ずっと燻ってんだけどよ。相棒みたいな奴がいてさ、そいつが辞めてくれねーから私も退けなくて……な」

にちか「道理で……なんだかキラキラしてるって思ってましたよ」

ルカ「ハッ……そんなことないよ。まあそう見えたんならきっと……そりゃ相棒のおかげだろうな」

ルカ「あいつが頑張る姿に憧れて、必死に後を追おうって踠いてるだけだから」

そういって笑って見せた斑鳩さん。
あまりに無邪気な表情から、よほどその相棒さんのことが好きなのだろうと読み取った。
全幅の信頼を抱いて、他の人に話すのに臆す様子もない。そんな存在、私にも欲しいものだ。


ルカ「それで、あんたは?」

にちか「あ、はい! えっと……七草にちか、高校一年生です! 超研究生級の……音楽通らしいです! 全然! いやもう全然! そんなことないですけど!」

ルカ「ああ、なんかさっきクマが言ってたな……レコード、好きなんだって?」

にちか「いや、もうホントちょっと齧ってるぐらいなんですけどね?! そんな、本物の音楽業界に生きてらっしゃる方の前で烏滸がましい……!」

ルカ「そんな謙遜することねーよ。私も音楽業界の端にいるかいないかみたいな存在だし、レコードのことなんかさっぱりだ」

にちか「レコードが好きっていうか……身近にあったんです。【八雲なみ】っていう……ちょっと前のアイドルのものなんですけど」

ルカ「……へぇ」

にちか「なみちゃんの歌い方がすごく好きで……これを聞いていると、私もどこまでも行けるような気がしてくるみたいで……」

にちか「プツ……プツ……っていうレコードならではの雑音も不思議と聞いていると落ち着くんですよね」

ルカ「なんだ、ちゃんと音楽通してんじゃん」

にちか「い、いやいや……!? こんなの大したことないですって!」

ルカ「音楽通って言っても別に知識が豊富であることだけが条件じゃないだろ? あんたが音楽が好きだってのは今の話だけでも十分伝わってくる」

ルカ「それに、CDショップでアルバイトってことは日常的に音楽を聞く生活をしてるってことだ。胸を張っていけよ」

にちか「い、斑鳩さん……」

私のようなひよっこに音楽通なんて仰々しい言葉を使われているというのに、嫌な顔一つせず、励ましてまでくれる。
やっぱりこの人はカリスマになるだけの資質があるんだと思う。
さっきまで気を張っていたのが嘘のように力が抜けて、私はすっかり斑鳩さんに気を許していた。


ルカ「さて、お互いのことも分かったことだしとりあえずは探索してみるか」

にちか「ですね! 私たち以外の14人……どんな人たちなんだろう」

ルカ「他の奴らもアイドルの研究生……なんだよな」

にちか「あ……斑鳩さんの相棒さんも?」

ルカ「どうだろうな。ここにはまともな方法で連れてこられてねーんだ。いてもいなくても、どっちがいいとも限らねーさ」

にちか「それは確かに……そうですね」

ルカ「そもそも、私たちだってこれからどうなることなのか。まあロクなことにはならねーだろうけどよ」

ルカ「ま、行くぞ。時間は有限だからな」

ルカさんは少々強引に私を引き連れて先へと導いた。

教室を出ると校舎内は異様な数の植物で満たされていた。
床や壁には蔦が絡み、足元から膝まではあろうかという高さの雑草がそこかしこから生えている。
学校という形状は保ちつつも、私たちの持っている認識からはどこかずれ込んだ不和を感じずにはいられない。


ルカ「さっきの電子生徒手帳にある程度の地図はあるみたいだな、これを見ながら探索するぞ」

にちか「はい! どこから見てみます?」

ルカ「おう、そうだな……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

さて、お久しぶりです。
毎度恒例の探索パートとなっています。
今回は今までのシリーズと違って初対面の方々との出会い、なんだか新鮮でございますね。
探索する場所はスポットでいくつか提示させていただきますので、どこにどなたがいるのか想像しながらお選びください。
今回も選択コンマの末尾を参照して、それに応じた数のメダルを獲得できる仕様になっています。
末尾が1なら1枚、末尾が9なら9枚、末尾が0なら10枚でございます。

それではあなたさまの学園生活に幸多からんことを……

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【2F 才能研究教室-音楽通-】

【1F 食堂】
【1F 倉庫】

【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】

上記から選択

↓1

------------------------------------------------
【2F才能研究教室-音楽通-】

マップ上で見慣れない表示のされ方をされているのがこの部屋だ。
他の部屋よりも比較的多くの面積を有しているけれど、その名前にあまり聞き馴染みがない。
学園の施設というよりはどこかの研究施設のような文字の並びに、思わず首を捻る。

???「うーん、開かないよー!」

その部屋の前にはノブを仕切に動かしては廊下中に響き渡るような声量で叫ぶ金髪のツインテールの女性。
そのスタイルの良さはどこか日本人離れしたものを感じさせる。

にちか「あ、あのー……」

???「へ? わー! わ、わたし以外にも人がいたんだね、こんにちは!」

ルカ「あんたもここに拉致られた口か?」

???「うん……学校帰りに車に押し込まれた記憶はあるんだけど……それ以降はサッパリ。ここがどこなのかも見当がつかないし……建物の中を探索してたところなんだ」

にちか「えっと……お名前伺ってもいいです?」

???「うん、もちろん!」

めぐる「わたしの名前は【八宮めぐる】! 超研究生級のスポタレ……スポーツタレントってことらしいよ! よろしくね!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



八宮めぐる

超研究生級のスポタレ



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そう言って彼女は溌剌とした笑顔と共に右手を差し出した。
拒絶されることなんか一切考えていない、迷いのない手のひら。
不思議と惹きつけられて、私も思わず手に取る。


にちか「スポーツタレント……確かになんか運動できそうなオーラがめっっちゃありますね!」

めぐる「えへへ……そうかな?」

にちか「待ってください、当てます! ……バスケ部?」

めぐる「惜しい! あのね、わたしは色んな部活の助っ人をやってるんだ!」

ルカ「助っ人……?」

めぐる「うん、頼まれたらつい断れなくて……色んな部活で試合の数合わせなんかで参加することも多いんだよね」

にちか「すごいですね……わたし、運動とかからっきしなんで憧れちゃいます」

めぐる「ううん、全然! ただみんなと一緒に楽しくやってるっていうだけだから! 本気で全国行くぞー!って目指してる人たちとはまるで比べものにならないし……」

ルカ「だとしても色んなスポーツの経験があるってのはそれだけで強みだ。アイドルやるんだったら動きの引き出しは多いに越したこともないしな」

めぐる「あ、アイドル……」

にちか「あはは……やっぱりあのクマたちの言ってたことまるでピンとこないですよね」

めぐる「うん……わたしも、どこにでもいる普通の女子高生だから……」

(……このスタイルの良さと笑顔の溌剌さといい、到底普通の女の子とは思えないけど)


めぐる「でも……ここって本当にアイドルを育成する学校なのかな? もっとこうダンススタジオとか、ボイストレーニングのお部屋とか、そういう感じなのかと思ったら……案外普通の学校だよね?」

にちか「普通の学校……ではないですけど」

ルカ「アイドル向けの設備らしい設備が見当たらないのは違和感だな……」

めぐる「うーん、この部屋はそれっぽいと思ったんだけどなー」

にちか「才能研究室、ですもんね。才能って私たちにあてがわれてるこれのこと……ですよね?」

めぐる「うん! 私たちの才能って、アイドルとして活動をする時の方向性……みたいなことなんだよね? だったらこの研究室ならそれっぽい設備があるのかなーって!」



【おはっくま~~~~~!!!!!】



モノタロウ「いい推理だよ! うんうん、実にいい推理だよ!」

めぐる「わー! 突然出てきたー!」

モノキッド「ワー! 突然爆乳の女が現れたー!」

モノファニー「ダメよ、そんな直球のセクハラなんか」


モノスケ「キサマラにその教室について説明をせんといかんな」

モノタロウ「その教室は【才能研究室】。お察しの通りキサマラにあてがわれてる才能を伸ばすための設備がいっぱいいっぱいなんだ!」

にちか「ってことはボイトレとかダンスとか……?」

モノファニー「少し違うわ。キサマラの持ってる才能によって伸ばすべき能力は違うから、それに応じた設備になっているもの」

モノキッド「今キサマラが手をかけている部屋は【七草にちか】、キサマの才能研究室なんだぜ!」

にちか「わ、わたしの……?」

モノスケ「キサマの好きなアイドルもんのレコードを大量に収める予定や! 耳がすりごまになるぐらい聞きこんで後学にするんやで!」

モノダム「……」

モノタロウ「今はまだ入れないけどね! もう少ししたら扉の鍵も開けてあげるから楽しみにしててね!」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


めぐる「行っちゃった……」

にちか「わたしのための……部屋……」

ルカ「あの口ぶりだと、他の全員にも専用の部屋があるみたいだな」

めぐる「ってことはわたし向けに体をいっぱい動かせる部屋もあるってことだよね!」

めぐる「う〜ん! 楽しみになってきたぞ〜!」

(アイドルのレコードがいっぱい……か。こんな状況じゃなきゃ心から楽しむこともできたんだろうけど)

(……しばらくしたら、また来てみよう)

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【コンマ判定07】

【モノクマメダル7枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…7枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…2個】
------------------------------------------------

【1F 食堂】
【1F 倉庫】

【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】

上記から選択

↓1

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【食堂】

学校の食堂といえばもっと萎びた場所のイメージだ。使い古された長机に、埃が溜まって足が不揃いになった丸椅子。
ガタガタと音を立てながら居心地の悪さを噛み締めながら嚥下する場所というイメージがある。
この学校の食堂はそのイメージからすると革新的。清潔感ある楕円形の机に、柔らかな背もたれの備わったパイプの椅子。
逆に、これまで人が使っていなかったのだろうと実感させるだけの子綺麗さに不気味さすら感じさせる。
そんな食堂にはすでに先客が2名。片方が腹をさすりながら、空腹を訴えている様子だ。

???「アイムハングリー」

???「……ノー、ドントタッチ」

???「えー……いいじゃん。缶だし、セーフセーフ」

???「毒でも注入されてたらどうするわけ?」

にちか「なんか……呑気な雰囲気ですね」

ルカ「ああ……だけどアイツら、口ぶり的に顔見知り同士なのか?」

斑鳩さんの指摘通り、目の前の二人の間には一定の関係値があるように見えた。
軽いやりとりをするのでも、必ず相手から返球があるとわかっている信頼……そんな感じだ。


にちか「あ、あの! こんにちは!」

???「あ、どーも」

ルカ「アンタらも拉致られてここまでやって来た口か? 自己紹介と洒落込もうじゃねーの」

???「だって。どうする?」

???「あー……」

透「浅倉透。アイムセブンティーン」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の映画通

浅倉透



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

一言で言えば華がある人だなという印象だ。
顔立ちが整っていて、スタイルが抜群に良いことは勿論なのだけど、
ぼうっと黙って立っているだけでも他の人たちとは何か違うものを持っていることが透けて見えるのだ。
同じ星の元に生まれた存在とは思えない……いっそ宇宙人ですと言われた方がスッキリ飲み込めるような不思議なオーラがある女性だった。

透「なんか才能は映画通らしいです。よくわかんないけどさ」

ルカ「ふーん……詳しいのか?」

透「さあ? サブスクでたまに見ることぐらいはあるけど」

ルカ「適当だな……」


???「まあ、あの才能というのは随分と曖昧な概念のようですし気にしても仕方ないのでは?」

にちか「あ、あの……」

???「ああ、私……」

円香「樋口円香です。浅倉とは幼馴染です」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級のコメンテーター

樋口円香




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

浅倉さんと幼馴染という割に雰囲気は対照的な印象を受けた。
過ぎるほどに落ち着き払って、今置かれている状況にも一歩引いた立場から静観している。
だからこそ却って幼馴染として成立しているのかなとも思った。
彼女も浅倉さんに引けず劣らず、華を持った女性だ。
着飾ったような美しさではない、ありのままの美しさ。そういうものがあると感じさせる。

ルカ「幼馴染……オマエらは一緒に誘拐されてきたのか?」

透「え、どうだっけ」

円香「……いや、そうではなかったと思います。それぞれ別で、学校帰りに後ろから襲撃されたような記憶が」

透「だってさ」

にちか「じゃあ、ここにいるのは偶然の一致……なんですかね?」

円香「……さあ、犯人の目的もわからないうちは推測しかできないですし」


透「あ、そういえば二人は小糸ちゃんと雛菜見ませんでしたか?」

ルカ「ん? 誰だ……そいつら」

円香「……彼女たちも幼馴染なんです。私たちよりひと学年下なんですが、姿が近くになく」

(ルカさんと同じだ……近しい関係性の人が欠けている)

透「こんぐらいちっちゃな子と……えっと、なんかすごく元気で、クリーム色な子なんすけど」

ルカ「いや……悪い、見てない」

円香「……無事だといいけど」

冷静そうに見える樋口さんも、流石に言葉尻に不安を滲ませていた。
何もわからぬ今の状況なんだもん、当たり前だよね。
とにかく、この二人も悪い人じゃなさそうだ。

【コンマ判定 71】

【モノクマメダル1枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…8枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…4個】
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【1F 倉庫】

【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】

上記から選択

↓1

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【倉庫】

よく週末お昼の情報番組なんかで、郊外にできた海外企業のスーパーマーケットを見ることがある。
壁も柱もとっぱらった、ドームみたいな佇まい。
見上げてもはるか先の天井に少しでも近づこうとせんばかりに堆く積み上げられた商品の数々。
一体どうやって取り出してカートに載せるんだってその時も思ってたけど、まさか学校で同じ感覚を味わうことになるとは。
いち学校の倉庫というにはあまりに壮大すぎる設備。
スポーツ用品、実験器具、生活雑貨……大型スーパーを名乗れるぐらいには所狭しと品が並ぶ。これも全て学校の備品の扱いなのだろうか。

にちか「フェンシングの防具とか生で見るの初めてですよ、わたし」

ルカ「私もだ……スケートのシューズとかもあるけど、学校にアイスリンクなんかねーだろ……」

もはや呆れに到達している私たち。
その存在に気づいたのか、倉庫の奥の方から誰かがこちらにやってくる。

タタタタ…

???「あれ、お姉さんたち誰っすか? この学校の人っすか?」

にちか「え? えっと……」

女の子は随分と鼻息を荒くしながら、こちらに質問を投げかけてきた。
ツヤツヤとした綺麗な髪色は銀髪ともブロンドともつかない、その中間のような色合いをしている。

ルカ「私たちは誘拐されてここにいる。オマエはどうなんだ?」

???「んー、そうっすね。わたしもここにどうやって来たのかよく分かってないんっすよね」

にちか「あなたも……状況は同じなんだね」

???「はいっす! それじゃあ自己紹介するっすよー!」

あさひ「わたし、芹沢あさひっす! 中学二年生っす、よろしくっすー!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



超研究生級の博士ちゃん

芹沢あさひ




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


中学二年生と自称するだけあって、幼めな印象を受ける容姿をしていた。
背の程も私より少し小さく、着用している制服は少し袖を余らせている。
それでいて表情はあどけなく、感情を覆い隠す術を知らないように、純真無垢な視線を真っ直ぐにこちらに向けていた。

にちか「博士ちゃん……ってどういうことです?」

ルカ「バラエティとか見ないのか? 時々やってるよ、子供なのに一分野に特化して詳しい奴をそうやって褒めたりする番組」

にちか「うーん……彼女の場合は……多分、知識欲ってところなんじゃないですかね。あれ」

ルカ「……あ」

私たちに自己紹介をしたと思ったらすぐに少女は私たちの前から姿を消していた。
私たちに対する興味を失ったのか、それとももっと強い関心を寄せたのか。
私と斑鳩さんで話しているうちに少女は向こうに抜けて、今や棚の上に高くつまれたお菓子のようなものを取ろうと梯子をよじ登っている。

ルカ「ちょ、ちょっと待て……! 落ち着け! まだ話が終わってないだろ……!」

あさひ「んー……? あ、ごめんなさいっすー! お腹が空いちゃってたんでー!」

にちか「じ、自由奔放すぎる……」

私と斑鳩さんは芹沢あさひと名乗る少女をなんとか梯子から引き摺り下ろすと、彼女に自己紹介を加えた。

あさひ「ふーん、にちかちゃんに、斑鳩さんっすか! よろしくっす!」

にちか「わ、わたしはちゃん付けなんだ……」

ルカ「アハハ、まあ年も近いしいいだろ別に」

あさひ「なんかにちかちゃんはにちかちゃんって感じっす! 七草さんって感じがしないっす!」

にちか「な、何それー……」


ルカ「で、あさひ。オマエもあのクマたちから話は聞いたか?」

あさひ「あー、ここはアイドルを育てる学校なんっすよね? 話は聞いたっす」

あさひ「それよりあのモノクマーズ?! すごいっすよね! あんなふうに動くぬいぐるみ初めて見たっす!」

にちか「た、確かにものすごい技術だよね……」

あさひ「わたし、あんなの初めて見たっすよー! どうやって動いてるのか気になるなー!」

ルカ「あんまりアイツらに気を許すんじゃねーぞ。私たちを拉致した側の存在なのは間違いないんだからな」

あさひ「了解っす!」

(……めちゃくちゃいい返事。絶対聞く気ないでしょ)

ちょっと話しただけでわかる。この子は本当の意味で表裏がない子だ。
感情のまま、意思のまま、それを言動に移すことができる存在、できてしまう存在なんだ。
彼女の純真な表情には眩しさと共に危うさを感じる。そう思わずにはいられなかった。

【コンマ判定 48】

【モノクマメダル8枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…16枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…5個】
------------------------------------------------

【B1F 図書室】
【B1F ゲームルーム】

上記から選択

↓1

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【B1F 図書室】

学校の地下、やけに下るなと思ったけれど扉を開けた瞬間に納得した。これだけの蔵書なら、空間が必要なのだ。
私が二人縦に並んでもなおまだ収まりきらないだろうほどに高くつまれた本。
多くのものはかなり長い年月をかけて保管されているのだろう、部屋はカビたような時間が止まった匂いが充満している。
きっとここの本を全て読んでいたら人生が丸二周できてしまうんだろうな、とぼんやりと考える。

???「……!!」

そんな本の海の中に、一人の少女が立っていた。
黒く美しい長髪で、華奢な出立をしている。

???「だ、誰ですか?!」

少女は片手を胸元に当てて、半身引いてこちらを見据えた。
警戒している。目尻には力をこめて、奥歯を噛むような動作。

ルカ「多分あんたとおんなじだ、警戒しなくていい」

にちか「はい! 危害を加えたりとかはないです! 拉致されてここにやってきただけなので……」

両手を開いて呼びかけることでやっと心を許してくれたのか、少女はゆっくりと口を開き始めた。

???「……あなた方も?」

にちか「ですです! さっき目を覚ましたばかりで……ここがどこかもわかってないんですよ」

ルカ「状況もまるでわかってないんだ。情報共有をしたいんだけど……いいか?」

???「……わかりました」

灯織「……風野、灯織です。高校一年生です」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の占い師

風野灯織



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

私と同い年なんだ……
そう思わずにはいられないほど風野さんは大人びていた。
整った顔立ちに、口元の黒子が妖艶な魅力を醸しているところから抱く印象が大きいんだと思う。


灯織「お二人のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

ルカ「おう、私は斑鳩ルカ……二十歳だ」

にちか「七草にちかです! 風野さんとは同学年で……高校一年生です!」

灯織「斑鳩さん……七草さん……ありがとうございます」

(……ん? 手にわざわざメモした?)

灯織「……すみませんが、私もつい先ほど目を覚ましたばかりで情報という情報は」

ルカ「ああ、いや……気にしないでいい。それよりさっきの反応を見るに、自分以外の人間に会ったのは私たちが初めてか?」

灯織「ええ……まあ。もしかして、他にも?」

にちか「はい、だいたい同年代の女の子たちが集められてるみたいですー」

ルカ「アイドル候補として集められたとか何とか……意味わかんねーよな、ったく」

灯織「……アイドル? ああ、そういえばそんなことをあのクマたちも」

にちか「あ、聞きました?」

灯織「はい……でも、別に私アイドルなんて……なりたいとも、普段からそう聞いたりもしないですし」

ルカ「まあ……連中の言うことをどこまで信用していいかもわかんねーんだ。とりあえずは信頼できるもの同士で協力しようぜ」

不安がる風野さんを慮って、斑鳩さんは優しい言葉を投げかけた。
さすがは超研究生級のカリスマ、私に向けたのと同じように優しく温かい笑顔と共に、その手のひらを風野さんに差し出す。
この状況なんだもん、仲間は一人だって多い方がいい。


当然、風野さんも私たちを信頼してくれる……そう、思ったんだけど。

灯織「……どこまで信用していいか分からないのは、斑鳩さんと七草さんも同様です」

ルカ「……ん?」

灯織「私と状況は同じ……口で言うのは簡単ですが、実際のところがどうなのかは確かめようがないです」

灯織「すみません……まだ斑鳩さんの手を取る気には」

ルカ「え……あ……おう」

灯織「……私は自分の手でこの学校をもう少し調査します。それでは失礼します」


スタスタ…



にちか「……行っちゃいましたね」

斑鳩さんは宙ぶらりんになってしまった右手をバツ悪そうに頭の後ろに引っ込めた。ポリポリと後頭部を描く仕草が痛々しい。

ルカ「まあ……ああいう反応もあるよな、私は気にしてない」

にちか「斑鳩さん……」

ルカ「さ、次行くぞ次。まだ見てない部屋はあるんだからな」

(……風野さん、なんかあんまり感じ良くない人かも)

【コンマ判定 25】

【モノクマメダル5枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…21枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…6個】
------------------------------------------------

【選択肢が残り一つなので自動進行します】

【モノクマメダルの獲得枚数のコンマ判定を行います】

↓1

------------------------------------------------
【B1F ゲームルーム】

こんな教室が存在するのってフィクションの中でしかないと思っていた。
屋上での昼ごはん然り、権力の大きな生徒会然り。学校は勉強するところという味気なく退屈な固定概念に囚われた建造物だとばかり。
私たちの眼前に広がるのは「さあ遊んでください」と言わんばかりのゲーム機の数々。
惜しむらくはそのチョイスがイマイチだというところ。見るからにレトロゲームといった感じで私の趣味じゃない。

???「すごい、ダウトランにスパルタムX……これ、めっちゃレアなやつ……!」

___こういうのは、オタクが好きなやつだ。

ルカ「なあ、おい。アンタらちょっと話いいか?」

???「ひゃ、ひゃい?! だ、誰……?」

???「て、甜花ちゃん……こっち……」

にちか「え……ふ、双子……?」

レトロなゲーム機に鼻息を荒くしていた女の子の脇から、もう一人の女の子が姿を現したのだけど、見た瞬間に驚愕。
二人は全くの瓜二つなのだ。
身長に髪の長さ、瞳の色。
明確な違いは髪の分ける方向ぐらいだろうか。初対面の私からすればまるで区別がつかない。

???「あ、自己紹介……しなきゃ、だよね……?」

甜花「大崎、甜花……でしゅ……甜花の方が、お姉さん……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級のストリーマー

大崎甜花



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



???「じゃあ次は甘奈が自己紹介するねー!」

甘奈「大崎甘奈です、甜花ちゃんとは双子で高校二年生! よろしくお願いします!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




超研究生級のファッションモデル

大崎甘奈




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「す、すご……本当にそっくりです……」

甘奈「えへへ、ありがと☆ よく言われるんだー!」

甜花「にへへ……甜花となーちゃんは生まれた時からずっと、一緒……!」

ルカ「……ここに拉致られんのも一緒、か」

甜花「ひぃん……」

にちか「でも、本当にそっくりですね……どっちがどっちかすぐ分からなくなっちゃいそう……」

甘奈「えへへ、大丈夫! すぐ簡単にわかる見分けかたがあるんだよ☆」

甜花「うん……これで、誰でも一発……!」

にちか「えー、なんです? クセとか、仕草とかですー?」

甘奈「めっちゃかわいいのが甜花ちゃん☆」

甜花「す、すごくかわいいのがなーちゃん……!」

ルカ「……なんとなく、言動で判別つけるか」

にちか「あはは……」


【コンマ判定 78】

【モノクマメダル8枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…29枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…8個】


ガララララ…!

私と斑鳩さんが探索を行っていると、遠くの方で大きな音がした。
シャッターが上がったような音……もしかして。

ルカ「玄関ホールに落ちてたシャッターが上がったのか……?」

にちか「さっきまでは鉄格子みたいなシャッターがあって通れなかったですもんね!」

ルカ「確か学校の正門……出入り口もあったはずだ。望みは薄いが、行ってみた方がいいだろーな」

にちか「行きましょう! ダッシュですー!」

私と斑鳩さんは走って玄関ホールへと向かった。

------------------------------------------------
【1F 玄関ホール】

にちか「あっ、やっぱり!」

つい先ほどに通りがかった時とは光景が違えていた。
鉄格子が降りていたために迂回を余儀なくされた空間は解き放たれ、自由に出入りができるようになっていた。
観音開きの大きな扉、その手すりにもいよいよ手が届く。

???「もし……お二人とは、はじめましてで……ございますよね……」

と、そこで、脱出を逸る私たちを背後から呼び止める声。

にちか「え、あ、はい……えっと……あなたは……」

ただでさえ理解不能な状況なのに、それに加えてタイムスリップでもしてしまったのかと思った。

令和社会の今日この頃。
街中を歩いていて、そうそう和装に身を包んだ女の子など見ることもない。せいぜい観光地の試着ぐらいだろう。
しかし目の前の女の子はそれが彼女にとっての日常であるかのように、違和感一切なく身に纏い、そしてそれに伴うだけの気品を備えていた。
彼女の放つ不思議な時間の流れに絡め取られる。

???「申し遅れました……」

凛世「杜野凛世にございます……お見知り置きくださいませ……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の大和撫子

杜野凛世



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

才能に銘打たれるだけあってか、これまでに会ってきたどれとも違った雰囲気ある人だった。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そんな言葉を用いるべき人はこういう人のことを指すのだろう。

ルカ「……すごいなアンタ、もしやいい家柄のお嬢様か?」

凛世「いえ……特に……凛世の生まれはただ、田舎の離れということなだけ……」

凛世「ごくごく普通の……じぇいけいにございます……」

(じ、じぇいけいと来たかー……!)


凛世「お二人は、シャッターが上がる音を聞いて……?」

ルカ「ああ、さっきまでは通れなかった場所だからな……」

にちか「それに、ここって出入り口ですよね!? もしかして、脱出できるのかも!」

凛世「……凛世は、すでにその扉を一度開けてしまいました」

にちか「へ……」

凛世「止めは致しません……ただ、過ぎる希望は持たぬ方がよいものかと……」

にちか「な、なんですかそれ……」

ルカ「……とりあえず、開けてみよう。話はそれからだ」

杜野さんの意味ありげな言葉が引っ掛かりつつも、私は扉の引き手に手をかける。
妙な汗をかく。今私たちが陥っているこの状況に何か一つの回答が欲しい。そう逸る気持ちが指の間を伝った。

にちか「いけーーーー!」

空元気にも似た衝動を口から吐き出しながら、一思いに扉を引いた。

私たちを待ち受けていたのは、さっきまでの閉塞感ある校舎とは全く別のひらけた空。
ずっと遠くに青く澄み渡り、風に雲を流す、あの見慣れた空。

その空の合間を縫うようにして、






____鉄格子。






にちか「……は?」

思わず周りをぐるりと見渡した。鉄の梁は私たちの頭上をアーチ状に取り囲み、その根本は遥か遠く。
その事実は私たちはドームの形をした、極めて広大な面積の何かの内に閉じ込められていることに他ならなかった。


【おはっくま~~~~~!!!!!】


モノファニー「うーん、やっぱり太陽の光は気持ちいいわねー!」

モノキッド「ソーラーパワーでビンビンだぜッ!」

モノスケ「あかん! モノキッドのモノがキッドキドになっとる!」

にちか「ちょ、ちょっと……何これ!? どうなってんの?!」

モノタロウ「ど、どうしたの?! そんなに慌てて!」

にちか「慌てるも何もないって……! 学校の外……これどうなってるわけ?!」

モノスケ「どうなってるもこうなってるもあらへん。キサマラの今見とるのが全てや」

ルカ「あ?! 意味わかんねーよ!」

モノファニー「これ以上もこれ以下もないのよ。これがキサマラの世界のすべてなんだから」

モノダム「……」

(はぁ……? こんなのが、世界の全て……?)

足元がぐらぐらとしはじめた。はじめこそ地震かと思ったけど、これは私の膝から力が抜けていく感覚。
コレで脱出、そうウマい話なんかないだろうとは思っていたけど、待っていたのはもっと酷い現実だった。
モノクマーズたちが口にする言葉の意味を噛み砕こうとすればするほど、置かれている状況の異常さが色濃くなっていく。
私たちはただ拉致監禁されたんじゃない。


___私たちは世界を奪われたんだ。


モノタロウ「まあ安心してよ! 才囚学園は今も工事の真っ最中! どんどん拡張していく予定だからね!」

モノファニー「キサマラにとっても居心地のいい空間になっていくと思うわ!」

モノスケ「せやからそう肩を落とさんといてや! この学園での暮らしをレッツエンジョイやで!」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


ルカ「……大丈夫か?」

意識が遠のくほどの虚脱感に満たされている私の方にルカさんが手をかける。
そばに支えてくれる人がいてよかった、そうでもなければ私はここで膝から崩れ落ちているところだった。

ルカ「……どうやら、すぐに出れるような希望は今は持てないみたいだ」

にちか「……みたいですね」

ルカ「いま私たちにできるのは、この現実を見定めることだけだ。この学園の全貌をつかまない限りはどうしようもない」

にちか「で、ですよね……!」

ルカ「まだ話をしてないやつもいるみたいだしな。とりあえずはいろいろ巡ってみよう」

にちか「はい……!」

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【寄宿舎】
【藤棚】
【噴水?】
【プール前】
【裏庭】

上記より選択

↓1

【寄宿舎】

当面の寝泊まりはここでしろってことらしい。
校舎に向き合うような形で建てられた円柱状の建物には、その円周をなぞるようにして二階層にいくつも部屋が並んでいる。
部屋の扉の上には、それぞれの姿を模したドット絵がついているけど、表札がわりということなのだろうか。

???「ん? あれ、お初のヒトじゃね?」

にちか「こ、こんにちは……」

先客は、派手な髪色をした女性だった。
こんがりと日焼けしたような肌は天然由来のものなのかは分からないけど、ネイルやメイクの凝り具合からしてそうではないと見るのが正しそう。
少し前の言葉で言うのなら、彼女のことはギャルと称するのがいいんだろう。

……まあ、派手さで言うなら斑鳩さんも負けちゃいないんだけど。

???「よかった〜! こんな状況だもん、ちょっとでも仲間は多い方がいいもんね!」

にちか「で、ですね……」

???「うわっ、てかちょ〜カワイイ〜! めっちゃ目、クリンクリンじゃん!」

にちか「え、あ、どうも……」

???「てかお姉さんめっちゃかっこいい〜! すごい、なんかちょーパンクって感じ! それ、どこのブランドのか聞いてもいい系?」

ルカ「お、おう……そうだな」

(ルカさんが気圧されてる……ギャルのコミュ力恐るべし!)


にちか「あ、あの! 先に自己紹介してもらっても!」

???「え? あ、ごめんごめん! うち、つい嬉しくなっちゃって!」

愛依「うち、和泉愛依! 超研究生級の書道家……なんだって!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の書道家

和泉愛依



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

これほどまでに才能と見てくれがチグハグな組み合わせもないと思った。
あまりにも開放的すぎる胸元は伝統文化の奥ゆかしさには不釣り合いだし、止まらない饒舌さは墨擦りの静謐さをあまりにも乱しすぎる。

愛依「あ、その目線……才能に書いてあるの、疑ってるカンジっしょ?」

にちか「え? あ、いやいや……そんなんじゃ……!」

愛依「いいっていいって、どう見えてるかはうちが一番わかってる!」

愛依「あんね、うち昔っからばあちゃんと一緒に住んでて……ちっちゃい時からよく習ってたんだ!」

愛依「それで時々賞とか出して……まあたまにいい奴貰ったり?」

ルカ「へー、すげえじゃんか」

愛依「アハハ、でもそんなショクギョーにするほどのもんでもないけどね!」

(人は見た目によらないなぁ……)

愛依「とりまよろしく! うち、あんま頼りになんないかもだけど……精一杯のことはするから!」

そういって愛依さんは私の手を握った。
ギャルってすごいな……と痛感させられた。
たったコレだけのやり取りなのに、この人は表裏のない人だとわかっちゃったんだもん。

【コンマ判定 46】

【モノクマメダル6枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…35枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…10個】
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【藤棚】
【噴水?】
【プール前】
【裏庭】

上記より選択

↓1

ちょっと思ったように進行できていないので、
今日は自レスでコンマ判定もやってとりあえずプロローグ終わらせるところまでやります。
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【藤棚】

校舎と寄宿舎の間の空間にはいくつかベンチが並んで、その上には庇のようなものがついている。
よく公園なんかで蔦が張り巡らされて天然の日除になっているそれだ。
おばあさんなんかが腰掛けてパンクズ振り撒いているよなーなんてことを思っていると、そんな和みとは正反対な容姿の女性に話しかけられた。

???「なあ、アンタたちもここに連れてこられた感じか?」

にちか「……! は、はい……!」

どことなく粗暴な口調に、陽光をぎらつかせる金髪。
瞬間脳内に走った言葉は……「ヤンキー」。

ルカ「そうだけど……アンタは?」

そんな私の緊張を感じ取ったのか、斑鳩さんが一歩前に出て、対話を引き受ける。

樹里「アタシは西城樹里。……そんなビビんないでくれ、別に取って食ったりなんかしねーよ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




超研究生級のサポーター

西城樹里



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

西城さんは指でエクボをなぞるようにしながらはにかんだ。

樹里「まあ髪を染めちゃいるけどよ……何も悪い付き合いなんかはしてないから、安心してくれ」

どうやら私のように警戒をむき出しにするような反応には慣れっこらしく、途端に柔らかな雰囲気を醸し出してくれた。
ぱっと見の印象で反応をとってしまったことを少し恥じる。


にちか「す、すみませんつい……」

樹里「気にしなくていいよ、慣れっこだからな」

ルカ「アンタ、サポーターって?」

樹里「ああ、スポーツ観戦が趣味みたいなところあるから……そこからか?」

にちか「ふーん……野球とか、サッカーとかですか?」

樹里「ああ、野球は結構好きでチケットもたまに自分で取ったりしてるな」

ルカ「ふーん……」

にちか「西城さん、運動神経良さそうですけど自分ではやらないんですか?」

樹里「あー……前までは、バスケもやってたんだけど……」

にちか「今はやってないんです?」

樹里「まあ……色々な」

ルカ「……人には人の事情が色々あんだろ、詮索はやめとこう」

樹里「ははっ、ルカさん……だっけ? アンタも見た目に似合わず結構優しいんだな」

ルカ「ハッ、お互い様だね」

(おっ、もしかしてこの二人結構相性いいのかも?)

樹里「先行きのわからないこんな状況なんだ。何かあれば手貸すぜ」


【コンマ判定 14】

【モノクマメダル4枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…39枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…11個】


【広場】

校舎を出てまっすぐ進む。
空を覆うアーチ状の格子の根本を見たいと思ってのことなのかもしれないし、ひとまずこの世界とやらの全貌を見定めたかったのかもしれない。
当てのない歩みは、ある一定のところで行き詰まった。

にちか「ここ……広場、ですかね」

ルカ「……なんだか未開拓って感じだな」

斑鳩さんの指摘通り、辺りを見渡すとそこかしこで工事の作業風景が目に止まる。
瓦礫が積み上がっていたり、ドリルを掘り進めるような音が響いたり。いったいここで何が行われていると言うのだろう。

???「……あ、あの」

にちか「はぁ……そんなに新しいモノぽんぽん作って、私たちに何をさせたいんですかねー」

ルカ「マジで意図が読めねえな……何だってんだ」

???「す、すみません……っ」

にちか「何作られてもこっちは長居なんかする気ないんですけどねー」

???「あ、あの……っ!」

にちか「わ、わぁっ?!」

???「す、すみません……驚かせちゃいました……よね……?」

ルカ「え、えっと……アンタは?」

真乃「さ、櫻木真乃……超研究生級のブリーダー……だそうです」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級のブリーダー

櫻木真乃



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


工事作業の轟音の中私たちを呼び止めるために張り上げた大声は、よほど不慣れなことだったのだろう。
私たちが振り向いてなおその手は震えていた。
櫻木さんは肩を縮こまらせて、眉も寄せている。今の追い込まれている状況に相当萎縮している様子だ。

にちか「ご、ごめんなさい……私、気づかなくて!」

真乃「い、いえ……私こそ、すみません……っ」

ルカ「大丈夫か、随分と不安がってる様子だけど」

真乃「ありがとうございます……確かに、不安なんですけど、今ちょっと人探しをしてて……」

にちか「人探し……です? どなたかお知り合いでもいたんですか?」

真乃「あ、いや、その……正確には、人じゃなくて、鳥さん……なんですけど」

ルカ「……鳥?」

真乃「私のお友達で、ハトさんのピーちゃんって言うんです。確かあの時も一緒にいたと思うんですけど……」

にちか「ああ、ペットのハトを探してるんですね! いや、すみません、私もちょっと見てないですねー」

真乃「そ、そうですか……」

ルカ「……というか、この敷地内で鳥は見た覚えがないな。あの天井の檻のこともあるし……どうなんだろうな」

にちか「すみません、お力になれなくて……」

真乃「いえ……こんな状況で、惑わせるようなことを言ってしまってこちらこそすみませんでした……」

櫻木さんはすっかり肩を落とした様子。
確かにペットを持っている人からすれば誘拐された状況って不安で仕方ないだろう。
私だってそうだ。お姉ちゃんが今頃どれだけ慌てているか……それはちょっと滑稽かもしれないけど。


【コンマ判定 57】

【モノクマメダル7枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…46枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…12個】

【噴水?】

広場の中から唯一通じている道を通ると、屋内に設けられた噴水に行き当たる。
やたら筋肉質な人体に、モノクマーズたちによく似たクマの頭部が突き刺さったような不細工な彫刻から滝のように水が流れている。
……異質な空間だ。

???「こんにちは……」

にちか「あ、こんにちは……」

妙な空気感に満ちた空間で、消え入りそうなほどに淡く儚い雰囲気の女の子は却って目を引いた。
奇妙な存在感に惹きつけられるようにして、私たちは邂逅する。

???「あの、自己紹介……いいですか?」

ルカ「ん、いいよ。そっちから頼める?」

霧子「幽谷霧子です。よろしくお願いします……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級のドクター

幽谷霧子




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

幽谷さんは白衣のような服を身に纏い、手足のあちらこちらに包帯や絆創膏をのぞかせている。
少し痛ましい姿に、言葉に詰まっていると、幽谷さんの方から申し出た。

霧子「ごめんね……怪我をしているわけじゃないの……これは……生きている証……だから……」

にちか「はぁ……」


ルカ「まあ、ファッションみたいなもんなんだろ。深く突っ込む必要もねーって」

にちか「まあ才能が『ドクター』なんですもんね……そのキャラ付けの一環みたいな感じです?」

霧子「えっと……時々、病院で子供たちのお相手をするお手伝いをしてて……」

霧子「お医者さんになる道に向けて勉強も頑張ってるんだ……」

にちか「え、医学部志望です?! めちゃくちゃ頭いいんじゃないですか!」

ルカ「おー……そうなるのか」

にちか「そうですよ! 斑鳩さんは高卒で養成学校行きだから分かんないかもしれないですけど!」

ルカ「……悪かったな」

霧子「全然、そんな……普通だよ……?」

にちか「いやいや! なんか幽谷さん知性ある感じしますもん! 納得だなー……」

ルカ「それより……霧子、アンタはここを調べてたんだよな。この噴水は何のためにあるんだ?」

霧子「ううん……ごめんね、私も今さっき見たところで……」

霧子「でも、他の部屋と違う雰囲気がしてて……この部屋は、これで終わるんじゃないと思う……かな」

にちか「これで終わりじゃない?」

霧子「うん……もっと別の何かが眠っている……そんな気がして」

幽谷さんが察知しているものの正体はわからないが、確かに言いようのない雰囲気が立ち込めているのは事実だ。
私たちのことを見定めようとしているような彫刻もそうだし、妙に整然と綺麗にまとまった内装もそうだ。
厳かさの裏には何か底知れぬ悪意のようなものを感じずにはいられない。

にちか「……なんか嫌な場所ですね」

ルカ「チッ……他のところ、行くか」


【コンマ判定 95】

【モノクマメダル5枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…51枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…13個】

------------------------------------------------
【裏庭】

校舎の裏をぐるりと回ると、鉄製の扉で閉じられた大きなボックス。
そこから校舎に向かって血管のようにパイプが伸びて接続している。校舎の空調設備の類なのであろうことはそこで予測がついた。

???「これだけ大きな設備……ランニングコストだけでも洒落にならないと思うけど……」

ボックスの中は案の定太いパイプがそこかしこに張り巡らされて、中央のボイラーが堂々と傲慢な表情をしていた。
その前で顎先に指を当てて、考え込む様子の女性。私よりも年の程は少し上のように見える。

ルカ「なあ、アンタ。今ちょっといいか?」

???「……あら、あなたたち……ごめんなさい、深く考え込んでいて気づかなかったみたい」

夏葉「有栖川夏葉よ。超研究生級の文武両道……だそうよ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の文武両道

有栖川夏葉




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

いよいよ才能に具体性が伴わなくなってきたけど、本人の放つ威厳がそれを補って余りある。
私たち二人を見定めるその視線には本人の自信と気迫が携り、凛とした佇まいには思わず見惚れてしまうような気品が滲んでいる。

ルカ「アンタ、随分と冷静なんだな。私たちと同じで誘拐されてここに来たんだろう?」

夏葉「ええ。冷静そうに見えるのなら、それはそう取り繕っているだけよ。私だってこんな状況、今にも逃げ出したいもの」

夏葉「でも、そんなことをしても何も変わらないじゃない? 今は自分のできる範囲で対策を練る……それが今は状況の分析というだけ」

ルカ「こいつは……頼りになりそうな女だ」

にちか「で、ですね……すごいちゃんとした方……!」

夏葉「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。ただ、私も条件は全て同じ……ここでは何も特別なものは持っていないわ」

夏葉「お互い協力してこの状況の打開を目指しましょうね」

にちか「はい! よろしくお願いします!」


ルカ「……ところでなんだが、アンタ随分と鍛えてんだな」

夏葉「あら、分かってしまうかしら」

ルカ「まあな、私はここに来る前からアイドルの研究生やってて……人の筋肉のつき具合なんかは割とぱっと見でわかる」

ルカ「アンタのはそれなりの時間かけて熟成された肉体美だろ」

夏葉「ええ……ええ! そうなの、そうなのよ、ルカ!」

ルカ「う、うおおおお?!」

夏葉「学業の傍ら、己の肉体を磨き上げることを抜かすことを信条としているの! 評価してもらえて嬉しいわ、ルカ!」

ルカ「ちょ、ちょっと……一回手離せ!」

夏葉「あら? そういうあなたもよく鍛え上げられているわね……一見細身に見えるけれど無駄のない肉付きで、入念なトレーニングの跡が見て取れるわ」

ルカ「そりゃアイドルの研究生やってるからだよ! ……ってか離せ!」

夏葉「ルカ、このあと時間があったら一緒にトレーニングはどうかしら。同じ筋肉道を歩むものとして、高めあいたいの」

(……斑鳩さん、ご愁傷様です)

どうやら有栖川さんには妙なツボがあるらしく、そこから暫く斑鳩さんにつきまとってトレーニングをせがんでいた。
さっきまでの品格ある姿とのギャップもまた、彼女の魅力なんだろうけど、トレーニングとは無縁の私からすれば圧倒されるばかりだった……


【コンマ判定 33】

【モノクマメダル3枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…54枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…14個】

------------------------------------------------
【プール前】

校舎に横付けになっているドーム上の建物。
通常なら体育館なのだろうけど、どうやらこの学校は事情が違うらしい。

にちか「屋内プール……ですか」

ルカ「どうやら長いこと使われてないみたいだけどな」

斑鳩さんの指摘通り、建物の中に入ろうとも、植物が入り口周辺を塞ぐほどに生い茂っているのでとてもじゃないが進めない。
それにガラス扉の向こう側も電気が灯っていないし、人の出入りがあったような気配もない。まるで廃墟のような様相だ。

???「初めましての人やね、自己紹介ばしてもよか〜?」

にちか「わっ、こ、こんにちは……!」

(す、すごい訛り……!)

恋鐘「うちは月岡恋鐘、超研究生級の料理研究家ばい!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



超研究生級の料理研究家

月岡恋鐘




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

突然に話しかけてきた月岡恋鐘と名乗る女性は、大人と子供のちょうど中間のような女性だった。
体つきや顔つきは私よりも幾分か成熟している様子だけど、声のトーンや、その話し方や立ち居振る舞いはあどけなさや幼さのようなものを感じさせる。
それに、きっと方言混じりの喋り方も加わって垢抜けていない印象を抱かせているのだろうと思った。

恋鐘「さっきからずっと歩いて人を探し回っとったんやけど、やっと出会えたば〜い! こいはどこ〜〜〜?!」

にちか「それが……私たちもサッパリで」

ルカ「うちらもアンタと一緒だよ。あのクマ連中から聞いた話以上の情報は持ってない」

恋鐘「うう……なんが起こっとるかサッパリばい……」

にちか「あの、月岡さんってこっち……東京の女じゃないですよね?」

恋鐘「うん! うちは長崎! 長崎で実家の小料理屋ば手伝うとるんよ!」

ルカ「長崎……随分と遠いんだな」

にちか「他の人は割と東日本に固まっている感はありますけど……なんで急に長崎なんでしょう」

恋鐘「そがんこと言われてもうちが一番知りたかよ! 急にアイドルになれって言われても困るばい!」

恋鐘「まあ、アイドルやること自体は悪い話ではなかけど……」

(あ、そこは割と受け入れてるんだ……)


【コンマ判定 53】

【モノクマメダル3枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…57枚】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…15個】




【キーンコーンカーンコーン……】



一通り敷地内の探索をし終えた頃、タイミングを狙い澄ましたかのように鳴り響くチャイム。
まるで平然と日常を綴るかのように、それは突然に始まった。

モノタロウ『お待たせ! 入学式の準備が整ったよ!』

モノキッド『最高にクールでブラッドでマッドネスな入学式がキサマラを待ってるぜッ!』

モノスケ『ここからが才囚学園の本域や! 覚悟しときや!』

モノファニー『押さず、走らず、喋らず。おはしで体育館までやってきてちょうだいね』

モノダム『……』

モノタロウ『待ってるよ~!』

プツン


ルカ「……何かが始まる、みてーだな」

にちか「い、斑鳩さん……どうしましょう」

ルカ「どうするもこうするも……行くしかないだろ。今の私たちはあいつらの手の中。争ったところでろくな展開は待っちゃいないだろうしな」

にちか「……そう、ですよね」

ルカ「……」

ルカ「あー! そう不安そうな顔すんなって! 大丈夫、私がついてる!」

にちか「斑鳩さん……」

ルカ「私の方がちょっと年上で……同じ部屋に拉致られてた縁もある。ここにいる間ぐらいは私のことも頼ってくれていいから」

ルカ「んな不安そうな面してんじゃねー、ほら。行くぞ」

斑鳩さんは照れくさそうに顔を背けて、私に右手を差し出した。
流石にこれをとって一緒に歩くほど私も幼くはないが、それでも流石は彼女の持つカリスマ性だ。
その背中は今は何よりも頼り強く、心強い存在として映っている。
きっと斑鳩さんがいなければ、私は今にも不安に潰されていただろうから。
その感謝の意を込めて、パンと私の手を重ね合わせた。

にちか「はい、行きましょう……ルカさん!」

ルカ「……ハッ」

------------------------------------------------
【体育館】

校舎の奥まったところにある体育館には、自己紹介を済ませて顔見知りになった面々がすでにあちこちに集まっていた。
ある程度のコミュニティはできつつあるらしい、数人単位で固まっているところが随所に見られる。
私とルカさんは二人で部屋の壁にもたれかかり、時間の経過を待った。
そして暫くしてから、一人の少女が声を上げた。

あさひ「……来る」

めぐる「どうしたの、あさひ?」

あさひ「何か……近づいてきてるっすよ。遠くから……ここに!」

初めは彼女だけが聞き取っていたそれは次第に他の人間にも感知され始める。
微細な音は振動となって実感に結びつき、そしてやがて自分たちの近くに影という予兆の存在を認める。
今ここに、頭上より、何かが降り注ぐ!



ドシーン!



凄まじい轟音と舞い上がる埃。
防衛本能から閉じた瞳をゆっくりと、細い水平線が開いていく中で、それを見る。



【おはっくま~~~~~!!!!!】


人の首を掴めばトマトのようにへしゃげてしまうだろうし、
ハンマーを振り下ろせば根本から折れてしまうだろうし、
どんな鉄製品も踏み潰せばただの鉄屑に還ってしまうだろう。

そんな見立てが即座に走るほどに、絶対的な暴力。
暴力を体現した悪魔とでも言うべき5体が私たちの前に降臨したのである。

『ねえねえビックリした? ビックリした?』

『ヘルイェー! この姿を見るのは、今のキサマラは初めてだもんな!』

『ワイら最強最悪の破壊兵器エグイサルや! どうや、思い知ったか!』

恋鐘「ふぇぇぇぇ?! な、なんねこれ?!」

夏葉「みんな、離れて! 距離をとりなさい! 何をしてくるかわからないわ!」

あさひ「すごいっすー! あんな機械、見たことないっすー!」

灯織「言った側から……! 芹沢さん、自分勝手な行動は控えて!」

エグイサルと呼ばれる重機は一歩一歩ジリジリとこちらに近づいてくる。
武器も持たない生身の私たちは自然と身を寄せ合う形に。
それでも対抗策は何一つない。

……万事休すだ。


『ぐへへへ……どいつからぶっ殺してやろうか……まずはその細い胴体を握りつぶして内臓をデロデロ吐き出させてやる……』

『ちょっと、アタシグロいのダメなのよ……もっと平和的に行きましょう?』

ルカ「て、テメェらの目的はなんなんだ……! なんのつもりだよ……!」

透「あー、死にたくないなー」

恋鐘「もういかんばい! お先真っ暗ば〜〜〜い!」

紛糾することしかできずにいた私たち。
一寸先に見える結末に怯え、絶叫する他なかった狂乱の渦中で。
海を割るように、その一言が鳴り響いた。




『民よ、争いはおやめなさい』




『こ、この声は……!』
『お、お父やん?!」

ほんのわずかな言葉なのに、耳に入った瞬間に全身を虫が這い回ったような不快感。
胃の底に溜まった澱みがせり上げてくるような言い知れぬ黒々とした感情が湧き上がってくる。
今まで私たちが直面してきた『最悪』、今まさに陥っている『最悪』、そんなものを鼻で笑い飛ばしてしまうような、
もっと強大で劣悪で、醜悪な『最悪』がすぐそこにまで迫っているという実感だった。


『争いは何も生みません……何かを生み出すことができるのは、生命と生命の尊き交わりのみなのですから……』

『く、来るわよ! キサマラも衝撃に備えなさい!』

樹里「お、おいおい! 何が起きるってんだ?!」

霧子「すごく……胸がざわざわします……」

全員が促されるままに体育館の奥、エグイサルの向こう側へと視線をやった。
この学校の校章とおぼしき垂れ幕が見下ろす先には校長が登壇するであろう台があった。
ただ一つ、理解不能なことがあるとすれば、その台はガタガタと音を立てて【蠢いている】こと。

真乃「来ます……っ!」



バビューン!!!




花火玉のように、黒い影をした何かが射出された。
ずんぐりむっくりした影は妙に緩やかに落下して、私たちに向けて首を傾げた。






「グッモーーーーーーーーニン! 超お久しぶりじゃん、オマエラ元気〜〜〜〜〜?!」






これまで私たちの前に何度と姿を表したモノクマーズ、それらの個体を一回り大きくしたような白黒ツートンカラーのぬいぐるみだった。

愛依「な、なにあれ……なんか増えたんだけど……」

円香「……最悪」

モノクマ「ボクの名前はモノクマ、この才囚学園の【学園長】なのだー!」

モノクマと名乗るぬいぐるみは傲慢なまでにふんぞり変えると、そのままとてとてとこちらに向かってくる。
エグイサルに登場していたモノクマーズも、彼に続く形で機体から降り、一つの隊列のようになった。

モノクマ「自己紹介が遅くなって申し訳ない……でも、その間にみんなはもう自己紹介は済んだんだよね?」

モノタロウ「うん! オイラたちもバッチリ顔見知りだよ!」

モノクマ「えらいね〜、相互理解はコミュニケーションの第一歩ですぞ!」

円香「異議あり。こっちは全然そっちのことを理解してない」

モノファニー「あれ? お名前はちゃんと伝えたわよね?」

凛世「逆に……お名前以外のことは全く存ぜず……」

灯織「どうして私たちを拉致監禁しているのか、その理由もはぐらかされたままです」

甜花「甜花たちを、ここから出して~……!」

モノキッド「おいおい! キサマラの耳が遠いのを棚に上げてミーたちを悪く言うつもりか?!」

モノスケ「才囚学園は一人前のアイドルを育成するための学校や。それ以上でもそれ以下でもないで」

ルカ「そこなんだよ。元から研究生やってる私はともかく……にちかとか、他の連中はなんでここに呼ばれてる」






モノクマ「オマエラには未来があるからだよ」






甘奈「み、未来……? たしかに、甘奈たちはまだまだ未来はあると思うけど……それはみんなおんなじじゃないの……?」

モノクマ「いいや違うね。オマエラの持つ未来と、その他有象無象の持つ未来。その意味と価値には雲泥の差があるんだ」

モノクマ「だからこそこの学園で育まれる未来は美しく、尊く、儚い」

樹里「要領を得ねーよ、もっと分かりやすく言ってくれ」

モノファニー「キサマらは選ばれたのよ! スカウトされたって言ってもいいわね!」

(す、スカウト……?! 私が?!)

モノキッド「そう、キサマラは才能の原石なんだ! この学園を出る頃には立派なダイヤモンドになっていることだろうぜッ!」

夏葉「……話が堂々巡りしていないかしら。あなたたちは結局私たちに何をさせたいの?」

甜花「そ、そう……アイドルになるって具体的には何をすれば……いいの?」

灯織「別にアイドルになることに賛同したつもりもないですが……」

モノクマ「よし、それじゃあこの才囚学園での【アイドル育成プログラム】についてご説明いたします! モノクマーズのみんな、準備はいいかな!」


【はーいくま~~~~~!!!!!】




モノタロウ「①キサマラにはこの才囚学園で共同生活を送ってもらいます。期限は【一生】! 長い時間を友達と一緒に過ごすことでその魅力は一層磨き上げられることでしょう!」



(……は?)

にちか「ちょ、ちょっと待ってよ……! 今何て……?」

モノクマ「ちょっと! うちの子が今発表してるところでしょうが! 邪魔しないでちょうだいよ!」

にちか「いや、だって……」

モノファニー「②学園生活内での活動に特に制限はありません。校内設備を自由に探索しても構いませんが、夜時間中の食堂と体育館は出入り禁止となります。また、現状では立入不可の区域もあります」

モノキッド「③才囚学園の学園長であるモノクマへの暴力はかたく禁じられています。校内設備に損害を与える行為も基本的には禁止です」

モノスケ「④校則に違反する行為を行なった生徒はエグイサルによって粛清されます。規則を守って、清く正しい学園生活を送りましょう」

モノダム「……」

モノタロウ「以上だよ!」


(……は? な、何言って……)

ルカ「ざけんな! 何が期限は一生だ……そんな道理が通用するかよ!」

夏葉「私たちには元々の生活があるし……親族だっている、そんな長期の共同生活など受け入れられないわ!」


モノクマ「よしよし、オマエラいい子だね〜! 一言も噛まずに全部言えたじゃないか〜!」ペロペロペロペロ

モノタロウ「うわ~! お父ちゃん恒例の愛のペロペロシャワーだ~!」

モノファニー「あんなところからこんなところまで舐め回されちゃうわ~!」


樹里「クソ、んだアイツ……こっちのことまるで聞いてねーぞ!」


モノクマ「ああ……舌ったらずでまだヨチヨチ歩きな我が子たちがこんなにも一生懸命になってボクのために頑張ってくれる……こんなにも幸せなことがあるだろうか……!!」ペロペロペロペロ

モノスケ「あかん! お父やん、そこはあかんで~!」

モノキッド「禁断のッ! 禁断の扉が開いちまうッ!」

モノダム「……」

モノクマ「そんな恨めしそうな眼をしなくてもいいんだよ! むしろ何もせずとも愛を受けられるモノダムのその幸運さが可愛らしい!」ペロペロペロペロ


樹里「おい、いい加減にしろ! さっさとここから出しやがれ!」


モノクマ「……もう、なんだよ。せっかく我が子との団欒を楽しんでたところなのに水を差しやがってさ」

甜花「団欒っていうか……舐め回してただけ……だけど」

モノクマ「何? 何が不満なわけ? オマエラみたいな没個性で何も持たない、この先世界の誰にも名前を覚えられることもなく消えていくはずだった存在を掬い上げてもらって、むしろ感謝の言葉はないの?」

(……!)

【没個性】……そんなことは何よりも自分が一番わかってる。
アイドルなんてテレビの向こう側の存在。煌びやかな芸能界なんて、私とは対極の場所。
自分だって理解しているし、人生とはそういうモノだと受け入れている。
そのはずなのに、こうも他人に面と向かって言われると腹立たしく感じるモノなのか。

モノクマ「オマエラという日常の奴隷に非日常をプレゼントしてやってるんだよ! アーッハッハッハッハ!」

にちか「うるさい……!」

ルカ「にちか……?」

にちか「あんたが人の価値を勝手に決めるな……! この先数十年ってある私たちの未来を勝手に値踏みして、こき下す権利なんてあんたにはないでしょ……!」

モノクマ「……ボク、さっき言ったよね?」

モノクマ「オマエラには未来があるって。確かに今は他の日常の奴隷と変わりないオマエラだけど……この学園で過ごすことでオマエラはその【輝かしい未来】を手にすることができるんだ」

モノクマ「よーし、それじゃあモノクマーズ! 次のステップのイントロダクションにいっちゃおー!」


【はーいくま~~~~~!!!!!】



モノタロウ「あのね! この学園生活の期限は一生なんだけど、途中で卒業をすることができる制度があるんだ!」


モノファニー「それは【学級裁判】! 他の生徒を殺害したクロとそれ以外の生徒のシロで学級裁判を行って、クロがシロを欺き通すことができれば見事卒業になるのよ!」


モノキッド「ヘルイェー! クロが卒業になった際にはそれ以外のシロ全員がおしおきになっちまうぜ!」


モノスケ「逆にクロとバレてしもうたらクロだけがおしおきで残った生徒で学園生活継続や」


モノダム「……」






にちか「……え?」




言葉の全てが宙をすり抜けた。
そんなの、テレビや小説、作り物の世界でしか聞いたこともないし、自分で口にしたこともない。
辞書での意味ぐらいは知っているけど、逆に言えばそれぐらいにしか実感がない言葉。
本当に、この世界に存在する概念なのかも疑わしいような言葉を、前提として持ち出されたことに頭がまだ追いついていなかった。


真乃「ちょ、ちょっと待ってください……っ! さ、殺害ってどういう意味ですか……?」

モノキッド「どういう意味もこういう意味もないぜッ! 文字通りキサマが他のキサマラの中の誰かをぶっ殺すって意味だ!」

モノスケ「包丁でブッ刺してもええし、縄で首を絞めたっていい。殺し方は問わへんで」

モノファニー「うぅ……グロい殺し方だけは勘弁ね。私グロいのダメなのよ……」

ルカ「……殺す殺されるもそうだけど、気になることを言ってたよな。学級裁判ってのはなんだ?」

モノタロウ「よくぞ聞いてくれました! この学級裁判が、このコロシアイ強化週間におけるキモだからね!」

モノファニー「あのね、キサマラの間で殺人事件が起きた場合、誰が殺害した犯人なのかを議論して話し合って決めてもらうの」

モノスケ「要は犯人当てっこやな! それに成功すればクロだけがおしおきで、失敗すればそれ以外全員がおしおきや!」

モノキッド「おしおきは平たく言えば処刑のことだ! 絞首に転落、釜茹で、刺殺、火葬になんでもござれだ!」

モノダム「……」


誘拐されるよりも、少し前。
私の日常の確かな記憶。
バイト終わりに、お姉ちゃんがまだ帰っていないアパートで、食事当番のためにシチューを煮込んでいた。
人参は細かく切らないと火が通らないよなーとか、たまにはいいお肉食べたいなーとか、そんなことを考えながら、なみちゃんの歌を鼻歌で誦じながらお玉を回して。

そういう日常と私が今いるここは同じ地続きなんだろうか。
本当の私はトラックに轢かれて病院のベットの上で昏睡状態とか、そんなことだったりしないだろうか。
そんな現実逃避をしないと、どうにかなってしまいそうな程に、狂っていた。

人の命をどこまでも軽んじて、ゲームとして興じて、嘲笑う。それを行なっているのは自分よりも小さなクマの人形たち。
それなのに、言葉に説得力と強制力を抱かせる要素の数々。エグイサルに広大な施設、そして確かに存在する誘拐された時の記憶。

にちか「……あはっ」

膝は砕け、手のひらでなんとか地面を受け止めた。
頭の中がぐるぐると洗濯機みたいに掻き乱されて、世界はどんどんと傾いて行く。
私の中の常識は今や、何の役にも立たない。


ルカ「……ざけんなッ、ざけんなよ……! 何がコロシアイだ、学級裁判だ……意味わかんねえ……!」

モノスケ「当然やけどキサマラに拒否権はあらへん。それに、キサマラは今日であったばかりの初対面同士。殺し殺されにも対して抵抗ないやろ?」

愛依「そんなわけないじゃん! うちらはみんな……ただの女の子なんだよ!?」

夏葉「人が人を殺めるなんて重罪よ……そんなこと、出来るはずがないわ」

モノクマ「ジューザイ? なにそれ、元気出していけばいいの?」

夏葉「はぁ……?」

モノクマ「あのね、オマエラが理由にしてる法律とか倫理とか、それって他の他人に定義された社会や世界の箱の中でしか通用しない概念なんだよ」

モノクマ「現代社会が成立するよりずっとずっと前……ムラ社会だった頃は略奪に殺害はつきものだったし、戦争ではたくさん殺した人間こそが英雄だったんだよ」

モノクマ「現代では誰しもが牙を抜かれてしまって、ありとあらゆる場面から暴力が退けられるようになってしまった」

モノクマ「でも、それって生物の営みからすれば退化に他ならないんだよね。今こそ人類は原始の時代に立ちかえるべきだとボクは思うね!」

霧子「歴史を理由にするのは……違うと思います……」

霧子「人は、たくさんある道のうち……何度も過ちながらでも……正しい道を選んで……今日まで来たと思うから……」


モノクマ「それにオマエラの目指す芸能界だってそうだよ! 他の人間を食ってかかる、蹴落としてやろうっていうバイタリティがないと生き残れない世界だからね!」

樹里「ちょっと待て! 問題はそこなんだ!」

モノクマ「はぬ?」

樹里「なんで……どこからアタシたちが【アイドルになる】なんて話が湧いてきたんだ? アタシたちが選ばれたとか何とか言ってたけど、そんなの身に覚えがないんだよ」

凛世「凛世も……アイドルのことはよく存ぜず……」

愛依「そりゃ憧れっちゃ憧れはあるけど……うちは、こんなだしさ……?」

モノスケ「なんやコイツら変なことを言うとるで」

モノファニー「本当ね、おかしな子達だわ」

モノキッド「クククッ、おかしすぎて笑えてくるぜッ!」

恋鐘「な、なんね?! 何を笑っとるとよ!?」

モノクマ「このコロシアイはオマエラじゃなきゃダメなんだよ……そしてオマエラもその理由も、意味もちゃんと知っている……」


モノクマ「それなのに、どうしてそんなことを言うのかな?」


(……は?)

(コロシアイをこのメンバーでやることの理由と、意味……?)

どこまでも心当たりのない問いを一方的にぶつけられて、私たちは全員立ち尽くす他なかった。
奥歯で憎悪と怒りを噛み潰しながら、コロシアイという言葉を振りかざすモノクマたちを睨みつけるしかなくて。







_____無力にも、この運命に身を委ねるしかないのだった。





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PROLOGUE

if(!ShinyColors)

END


残り生存者数16人

To be cotinued...



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というわけでプロローグまで投稿させていただきました。
早速進行がグダってしまってすみません。
どうかまたお付き合いただければと思います。

明日6/1(木)21:00前後よりまた1章を更新していこうと思います。
よろしくお願いいたします。

以下今回のコロシアイ参加者
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【超研究生級のブリーダー】櫻木真乃
【超研究生級の占い師】風野灯織
【超研究生級のスポタレ】八宮めぐる
【超研究生級の料理研究家】月岡恋鐘
【超研究生級のドクター】幽谷霧子
【超研究生級のギャル】大崎甘奈
【超研究生級のストリーマー】大崎甜花
【超研究生級の文武両道】有栖川夏葉
【超研究生級の大和撫子】杜野凛世
【超研究生級のサポーター】西城樹里
【超研究生級の博士ちゃん】芹沢あさひ
【超研究生級の書道家】和泉愛依
【超研究生級の映画通】浅倉透
【超研究生級のコメンテーター】樋口円香
【超研究生級の音楽通】七草にちか
【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ

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CHAPTER 01

ガールビフールフールガールズ

(非)日常編




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モノクマたちが姿を消してからも、私たちはその場に硬直していた。
コロシアイとやらを受け入れるつもりはない。
ただ、今の自分たちの前にはそこから逃れる術など何もなく、所在のない不安だけが胸を埋め尽くす。
その吐口を求めるように、互いを見つめ合うことしかできずにいた。
静寂が続くこと、数分。
一人が、口を開いて膠着を破った。

円香「……いつまで、こうしているおつもりですか?」

透「ん……樋口、どった」

円香「別に。このまま見つめあってても状況は好転しないし、どうしようもない」

円香「せめて自分たちの置かれている状況を改めて確認するぐらいした方がいいんじゃないかと思っただけ」

にちか「樋口さん……」

夏葉「そうね、円香の言う通りだわ。あんな要求に応じる必要はない。だけど出来るだけの対策はしておくべきね」

ルカ「……こうなったもんは仕方ねーな」

一人が動き出したことで、少しずつだが冷静さが戻ってきた。
何も追い込まれているのは一人じゃないんだ。自分でこの不安を抱えこみ続ける必要はない。




灯織「……待ってください」



だけど、その不安を誰かと共有する必要もない。
その誰かはまだ、信用に足るとも決まっていないのだから。

灯織「先ほどの話からすると……ここから出るために他のいずれかの殺害をすでに企んでいる方がいる可能性も捨てきれませんよね」

樹里「お、おい……そんなこと……」

灯織「でも、無いとは言い切れませんよね」

あさひ「わたしもそう思うっす。誰がどう思ってるかなんて、どうやってもわかんないっすから」

夏葉「待ちなさい、ただでさえこんな状況なのに自分勝手な行動をすればバラバラになってしまうわ!」

灯織「自分勝手な行動ではなく、自分を守るための行動です。すみません」

風野さんは私たちに最後まで猜疑の目を向けたまま、体育館を一人後にした。


残った私たちにも、彼女の行動は波紋を起こした。
一度結びかけた協力を改めて見つめ直し、
その強度を図りかねる者、もっと強く信用できる繋がりに逃れる者、どうすればいいのか分からず当惑して立ち尽くす者。
集まりは、空中分解の様相を呈していた。

甘奈「ごめんなさい……ちょっと、今は甜花ちゃんと二人にさせてもらうね……」

円香「浅倉、いくよ」


あさひ「ここでじっとしてても何も変わんないっすね」


凛世「少し、部屋で休ませていただきます……」


一人、また一人と体育館からは人が減っていき、残ったのははじめの半分ほどだろうか。
その残った人間も、信頼を向け合っているわけではなく、身の振り方に悩んでいるだけの段階だ。


霧子「これから……どうしようか……」

ルカ「ひとまず、改めて脱出する術がないか探索する……か。アイツらの言いなりにはなりたくない」

夏葉「……ええ、そうしましょう」

めぐる「わたしは、風野さんたちにも協力してもらえるように説得に行ってみる! きっと不安で仕方なくて、あんなことを口走っちゃってるだけだろうから……!」

ルカ「だとしたら一人よりも複数人で行った方がいいだろ……えっと、櫻木……」

真乃「櫻木真乃、です……!」

ルカ「あんたも一緒に行ってやってくれるか?」

真乃「は、はい……っ!」

なんだかんだでルカさんが指揮をとる流れになっているあたりは流石のカリスマ性だ。
本人にとってそれが自覚のあるものかどうかは分からないけど。

ルカ「にちか、オマエは私と一緒についてきてくれるか?」

にちか「え、いいですけど……」

ルカ「ここじゃ一番最初に出会ったのがオマエ……私からすれば一番信用できるのはオマエなんだよ」

(もう……そんな言い方をされると弱い)

にちか「分かりました! お供します!」

ルカ「よし、それじゃあ各自探索と説得。とりあえず今日のところはそれで行こう」

ルカさんの指示に従って私たちは散開した。
目立った反発もなく従ったのは、頭を働かせたくなかったから。
コロシアイを課せられている非現実、それを噛み砕いて自分の領域に入れることに抵抗を抱いていたから。
何か別のことをして気を紛らわしていたかった。

ただ、どれだけ探そうとも脱出の糸口などは見つからず。
私たちは靄の中を闇雲に歩き回るだけに終始した。

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【寄宿舎 にちかの部屋前】

ルカ「……お疲れ。今日のところは、とりあえず休もう。オマエも訳のわかんないことが連続してまだパニックだろ」

にちか「はい……正直、寝て起きたら全部夢であってほしいって思っちゃってます」

ルカ「ハハ……だよな」

にちか「……あの、ルカさん」

ルカ「……ん?」

にちか「ルカさんは私より年上で……他のみんなを引っ張ろうと、守ってしてくださってるんだと思うんですけど……」

にちか「あの、無茶はしないでくださいね! ここではルカさんも私たちと同じ立場の、仲間なんですから!」

私の申し出にルカさんは一瞬虚をつかれたようで、黒目がきゅっと小さくなった。
そしてすぐに頬をにへらと緩めて、右手で私の頭を撫でた。

ルカ「サンキュー。辛くなったらにちかを頼る」

にちか「え、えへへ……」

ルカさんの手は指が長くて、それでいて暖かくて、ずっと撫でられていたいような気がした。
目を覚ましてからずっと強張ってばかりだった私を初めて、ときほぐしてくれた接触に、足先から蕩けてしまいそうだった。

ルカ「じゃあな、ゆっくり休めよ」

にちか「はい、おやすみなさい!」

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【にちかの部屋】

モノキッド「ヘルイェー! 今のやりとり、マジでお笑いだな!」

にちか「う、うわああああああ?! な、なんでいるの?!」

モノキッド「何でも何もミーたちモノクマーズは学校の敷地内ならどこでも行けちまう権限持ちだからな!」

にちか「うーわ最悪……」

モノキッド「それよりキサマに朗報だ! クローゼットを見てみな!」

にちか「はぁ……?」

促されるまま、部屋の脇にあるクローゼットを開ける。
その瞬間、絶句。今私が着ている制服と全く同じものが何セットも取り揃えられているではないか。

モノキッド「これで着替えにも困らないな!」

にちか「どこで集めてきたの……気色悪……」

私の制服があるということは、本当に私は選ばれてここにいるということだ。
全国の女子高生を無作為に選んで誘拐したんじゃこうはいかない。
その意味と価値……あの時のモノクマの言葉が何度も頭に浮かび上がっては消えた。


にちか「ねえ……あなたたちは本当に何が目的なの? なんで私たちがコロシアイをしなくちゃいけないの……?」

モノキッド「……! おっと、そろそろ夜伽の時間だッ! 遅刻は厳禁、それじゃ失礼するぜッ!」

にちか「ちょ、ちょっと! 気色悪い理由で逃げんなー!」

にちか「……行っちゃった」

本当に文字通り神出鬼没だ。
どこから入り込んだのか、どこに消えたのかも分からないのはなかなかにこちらも神経を使う。

にちか「……はぁ」

でも、もうどうでもいい。
私は全てを投げ出してベットに倒れ込んだ。
目を覚ましてからあまりにも多くのことが起きすぎた。
これまでの人生の十数年、そのいずれよりも衝撃的で凄惨で、受け入れられない現実。
生きるか死ぬかなんて、ここ数十年は無縁の概念だと思っていたのに。

にちか「いや、意味わかんないし……」

眠気が湯水のように湧いてくる。
多分その源は諦観。いくら私が思考を張り巡らせたところで事態を好転させる手など思いつくはずもない。
時間が流れるのだけを待つのに、瞳を開けておくのは退屈すぎた。
シーツの匂いを嗅ぎながら、クッションに体がのまれていくのを感じながら



……ゆっくりと、意識を手放した。


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【School Life Day2】
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【にちかの部屋】

「夢……なわけないよね」

目を開けた瞬間待っていたのは自分の寝床からすれば上等すぎるつくりの天井。
ベッドだっていつもの数段ふかふか。
照明もボタンひとつで簡単につけたり消したりできる快適っぷり。

まあ……ここで私を待ち受けている運命には不快以外の何ものも存在してはいないんだけど。
ベッドからようやっと身を起こして鏡の前へ。

決して眠れなかったということはない。
頭も体も疲れ切って、睡眠も十分に取れているはずだ。
それなのに頬がこけて見えるのは、精神的なモノなのだろう。
いまも胸に何か冷たいものが突き刺さったようで、息苦しさを感じている。


【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『おはっくまー! 朝の放送だよ〜!』

モノスケ『キサマラ、ちゃんと起きとるか? こんな時こそちゃんとした生活習慣を維持せにゃいかんのやで』

モノファニー『気を抜いた瞬間に乙女はおばさんに変わっちゃうんだから! ぶくぶくぶよぶよになってから後悔しても遅いんだからね!』

モノキッド『ミーはちょっとくらいふっくらしてる方が好きだけどなゲヘヘヘ』

モノファニー『やーん、ちょっとまだカメラ回ってるでしょ? そういうのは後にして』

モノキッド『ちょっとくらいいいじゃねーかよ、ゲヘヘヘ』

モノダム『……』

プツン


朝からかなり最悪な放送を見させられた。
どうやら朝晩には決まってモノクマーズの放送があるらしい。
こんな空間でも規則正しい生活を、ということだろうか。
私たちから日常を奪っておいて、いいご身分だと思う。
嫌気を掻き出すように歯ブラシを口に突っ込んで、朝の支度をした。

ひとまず、この学校での生活からは逃れられないのだ。
適応する気こそないが、取り残されないように、人として最低限度の営みぐらいはやっておかないと。


ピンポーン

洗顔にヘアセットと一通りの朝の支度をし終えようかというタイミングでインターホンが鳴った。

にちか「は、はい!」

ルカ「おはよ、もう起きてたか?」

ルカさんは昨日の今日だというのに、気丈に笑顔を見せてくれた。
きっと私に不安を抱かせないためなんだと思う、どこかその口元にはぎこちなさを感じた。

ルカ「昨日は寝れたか? 環境も違って……落ち着かないだろ」

にちか「んー……そうですね、部屋自体は完全防音で、物音もしなくて静かなので寝ることは寝れました」

ルカ「そっか、そんならよかったけど」

にちか「ルカさんは?」

ルカ「私は……すぐには寝れなくてさ、あたりをぶらついてたよ」

ルカ「どっかに出れる場所がないかって、そんな期待しても無駄なのは分かってんのにさ」

にちか「ルカさん……」

そう言ってルカさんは自嘲して肩を窄めた。
ルカさんだって私と数えるほどしか年は変わらない。
彼女だって不安を抱いているはず、私にそれを見せないように取り繕っている。
そのことが余計に負荷になるのが、嫌だった。

にちか「ルカさん! 朝ごはん! 朝ごはん食べに行きましょう!」

ルカ「え? お、おう……どうした、急に」

にちか「もうお腹ぺこぺこなんですよー! 飢え死に寸前! さ、早く行きましょう!」

ルカさんの手を強引にとって駆け出した。
不意をつかれた手には一切の抵抗の力がこもっておらず、痩身のルカさんは私でも軽く引いて行けた。
掌から伝わってくるルカさんの冷えと震えを、強引に握り込んでいた。

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【食堂】

食堂には朝目覚めてから行き場もなく、ひとまずで行き着いたであろう他の人たちの姿もあった。
とはいえ、全員が全員ではない。
昨日の話の後に、保身のために別行動を選んだ人たちの姿はなく、他にも数名まだ目覚めていないのか、抜けている人員がある。

真乃「お、おはようございます……っ」

にちか「お、おはようございます……」

ルカ「よっす……流石に、全員じゃねーんだな」

樹里「まあ、昨日の今日だしな……これでも集まった方だと思うぜ?」

夏葉「……やはり心配ね、あの後単独行動をしていた人たちもちゃんと睡眠は取れたのかしら」

ルカ「ていうか朝飯は……自分で用意する感じか?」

霧子「ううん……モノクマたちが用意している献立もあるみたいではあるんだけど……」

霧子「朝になると、食糧庫に材料が追加されるみたいで……今は、恋鐘ちゃんが……」

ルカ「恋鐘……ああ、あの長崎の」


夏葉「彼女が全員分の朝食を作ってくれているみたいなの」

にちか「ぜ、全員の?! めっちゃ大変じゃないです?!」

めぐる「うん、わたしたちも手伝うよー!って言ったら、自分が好きでやってることだから気にしないで!って」

樹里「元々実家の小料理屋で厨房を手伝ってたらしくてさ、腕にも自信があるんだってよ」

夏葉「ええ、だから先に私たちで今この場にいない人たちを呼んでこようと思って」

にちか「ここにいないのって……」

真乃「風野さんに、杜野さん、大崎さんたちに、芹沢さん、和泉さん、浅倉さんと樋口さんだね……っ!」

樹里「そんじゃ分担して探すか。寄宿舎にいるとも限らねーだろうしな」

にちか「ルカさん、一緒に声かけに行きましょう!」

ルカ「ああ、いいけど……どいつにすんだ?」

にちか「えっとですね……」

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【親愛度が微増する選択肢です】

1.灯織
2.凛世
3.甘奈・甜花
4.あさひ
5.愛依
6.透・円香

↓1

4 あさひ選択

【図書室】

ルカ「……あ、いたぞ! やっと見つけた……」

にちか「はぁ……なんで朝からこんな埃っぽいとこにいるんですかね、この子……」

私とルカさんは二人で芹沢さんに声をかける係を引き受けた。
寄宿舎に呼びに行くだけの簡単な任務だと思いきや、インターホンを鳴らしても応答はなし。
そこからどこか校内をぶらついてるんだろうと軽い気持ちで探し始めて……数十分。
まさかと思って地下に来てみてやっとその姿を見つけた。

あさひ「……? あれ、どうしたんっすか? 二人とも」

芹沢さんは私たちに気づくとキョトンとした様子で首を傾げた。

にちか「どうしたもこうしたもないよ……今、みんなで朝ごはん食べようってことになってて、それで食堂に集まってない人に声かけてたとこなんだよ」

あさひ「ふーん、大変っすね」

にちか「ふーん……ってなんでそんな他人事みたいな言い方出来るんですかね……」

ルカ「おい、オマエも一緒に食うんだよ。早く着いてこい」

あさひ「えー……? わたし、別にいっすよ。適当に自分で食べるんで」

ルカ「わがまま言うな、こんな状況なんだから集団行動には応じてくれ」

あさひ「……」

ルカさんがすごんで見せると、少し気圧されたのか芹沢さんは渋々こちら側へと歩いてきてくれた。
一応は朝食会に参加してくれるらしい。
本人としてはあからさまに納得してないらしく、ずっと唇を尖らせて不服を示していた。

にちか「にしても芹沢さん、なんで図書室なんかにいたの?」

あさひ「んー……本が読みたかったからっすね!」

ルカ「本だぁ? そんな読書家なのか、テメェ」

あさひ「あはは、わたしこれでも【超研究生級の博士ちゃん】っすから」

……まあ、図書室にいたってんならそれぐらいしか理由はないよね。
そう納得した。納得したはずなんだけど……

私たちが彼女の姿を見つけた時、その手には何も本なんか持っていなかったし、彼女はじっと奥の本棚を見つめていただけだったような気がするんだよね。

……思い違い、なのかな。

【芹沢あさひの親愛度が上昇しました】

【現在の親愛度レベル…0.5】

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【食堂】

なんとか説得の甲斐あって、全員が食堂に一堂に会することはできた。
……とはいえ、単独行動していた人のほとんどは嫌々。席にも積極的に着こうとはしていない。
例外的なのは、ただ寝坊気味だった愛依さんだけだ。

夏葉「あなたはそこで……あなたはこっちに……それぞれ間に入るように座ってもらえるかしら」

灯織「……えっと」

甘奈「甜花ちゃん、こっち座ろう……いっしょに」

甜花「う、うん……」

円香「浅倉」

透「んー」

空気は重たい。
信頼という言葉がどこまでも空虚な空間で、心を開かせる言葉など見つかるはずもない。
全員が口をまごつかせる歯痒い時間ばかりが過ぎた。

恋鐘「みんな〜! ご飯ばできたけん配膳手伝って〜!」

月岡さんの言葉にみんな救われた様子で、すぐに厨房の方に集まった。
自然と一列に連なる形になり、月岡さんが一人一人にご飯をよそった。


あさひ「何も変なものは入ってないっすよね」

恋鐘「あさひは好き嫌いがあると?」

あさひ「いや、毒とか入ってたら全員恋鐘ちゃんに殺されちゃうっすよね?」

にちか「……っ!?」

恋鐘「そ、そんなことせんよ〜〜〜!! あさひ、なんてことを言い出すばい!」

あさひ「……そっすか! それなら安心っすね!」

(こ、この子……とんでもないことを言い出すな)

途中空気が凍る場面はあったけど、食事をいざ始めると少し緊張が解けた様子。
ぽつりぽつりと自己紹介や交流をし始める光景が目に入り、ホッと胸を撫で下ろす。


めぐる「ねえねえ、同い年だし……下の名前で呼んでもいい? わたしのこともめぐるって呼んでくれていいから!」

真乃「う、うん……わかった……えっと、めぐるちゃん……!」

灯織「……まだ、会って2日目だから」

めぐる「ご、ごめんね! 無理にそう呼ぶ必要はないから!」

灯織「……私のことは、好きに呼んでくれていいよ」



樹里「……アンタ、昨日はちゃんと眠れたか?」

凛世「い、いえ……」

樹里「その……不安だし、寂しいだろうし……色々と心細いだろうけどさ、アタシでよければ相談とか乗るよ。寄宿舎の部屋もたまたま隣り合ってるしな」

凛世「……はい」



愛依「あさひちゃん、あさひちゃん昨日はどうだった? ちゃんと眠れた?」

あさひ「ん? 寝たっすけど……それがどうかしたっすか?」

愛依「いや、うちさ~なんかムナサワギっつーのかな……中々寝付けんくてさ~、今日もちょいじり貧なんだよね」

あさひ「へー」

愛依「だからさ、あさひちゃんもキツかったら辛いよなーと思って。そうじゃないんなら大丈夫!」

あさひ「?」


夏葉「みんな、少しいいかしら」

緊張が解けつつある中で、有栖川さんが立ち上がり、周りの注目を集める。

夏葉「これからこの学園で生活を続けるにあたって、この朝食会は最低限義務づけるのはどうかしら」

夏葉「毎朝顔を突き合わせることで犯行の抑止にもなるし……交流は精神的にもプラスに働くはずよ」

めぐる「さんせーい! 毎朝他の誰かの顔を見れたら、それだけで安心するもんね!」

円香「……殺人事件が起きていないかの確認もできますし、異論はありません」

甜花「あ、あう……甜花、ちゃんと起きられるかが心配……」

愛依「アハハ……うちもちょい自信ないかも……」

樹里「決まった時間に食堂に来なかった人は、集まっている人で起こしに行く。今日と同じスタイルでいいだろ」

今の無秩序で満ちた状況で、彼女の提示した秩序は何よりも頼もしく見える。
全員で非武装をしようという有栖川さんの提案は特に抵抗なく受け入れられた。


あさひ「あ、そういえばなんっすけど」

愛依「ん? どったん、あさひちゃん」

あさひ「昨日、夜時間に学校を探索してたんっすけど裏庭で変なのを見たんっすよ」

霧子「あさひちゃん……夜に一人は、危ないよ……」

ルカ「それはさておいて……変なのってなんだ?」

あさひ「なんかマンホールのフタって言うのかな、下に通じる穴みたいなのがあったっす」

(……!)

真乃「そ、それって……もしかして脱出できるかもしれないってことですか……?」

甘奈「そ、そんな美味しい話……あるのかな」

透「下水道からの脱出ってスパイ物じゃ定石じゃんね」

灯織「ライフラインとして水道は必須ですし……外部と繋がっている可能性は大いにありますね」

談笑を俄かに割った芹沢さんの話は注目を集めた。
自分の身も危機にさらされている今、脱出の糸口というワードは何よりも関心を惹く。


あさひ「フタは重たくてわたしじゃとても開けられなかったんで、中がどうなってるかは知らないっすけど……ここにいる人たちで協力すれば開くんじゃないっすかね?」

樹里「ああ、スポーツ経験者も体を鍛えてる奴もいる……みんなで行けばマンホールのフタくらい訳ないだろ」

凛世「しかし、そのように脱出を試みても良い物なのでしょうか……コロシアイを強いているモノクマさまたちに見咎められは致しませんでしょうか……」

円香「その点は心配いらないんじゃない?」

霧子「校則でも学校の探索自体は禁止されてないし……きっと、問題ないよ……!」

夏葉「ええ、試してみる価値はありそうね。腕が鳴るわ!」

ルカ「よし、飯を食ったら各自裏庭に集合だ。そのマンホールのフタってのを開けてみるぞ」

にちか「は、はい……!」

マンホールという降って湧いた希望に私たちは露骨に食事を口に運ぶ速度が増した。
一人、また一人と食事を片付けて、足早に食堂を後にする。

(……あれ?)



あさひ「……」



ただ、そんな中でも……話題を持ち出した当の張本人だけ、食べる速度が変わらずにいたのがなぜか目についた。

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【裏庭】

めぐる「あさひ! 見つけたマンホールっていうのはどこかな?」

あさひ「えっと……生い茂ってる草で隠れてるんっすけど……こっちっすね」

食事を終えた私たちは高揚のままに裏庭に介する。
一人背丈の低めな少女を取り囲み、彼女の動向を見守った。

あさひ「あった……これっす!」

夏葉「なるほど……確かにマンホールね」

芹沢さんがしゃがみ込んだところには、植物で身を埋めるようにしているので分かりづらくはなっているが、確かに丸い鉄板があった。
年季も入っていて、結構な厚みと重量がありそうだ。

透「持ち上げんの? これ」

ルカ「フタの縁にいくつか窪みがあるな……何人かちょっと手を貸してくれ」

夏葉「ええ、勿論よ」

樹里「おっし……行くか」

めぐる「はいはい! わたしもやるよ!」

四人で窪みに指をかけ、いっせーのーでで力を込めた。


ガタ……


コンクリートが擦れる音が聞こえたかと思うと、ゆっくりとマンホールのフタは持ち上がり、真っ暗な洞穴がその姿を現した。
長く閉ざされていた黒からは、カビたような、ジメジメと苔むしたような臭いがする。
あまりいい臭いではない。


樹里「……開いたな」

あさひ「んー……上からじゃ、下がどうなってるのかはよく見えないっすね」

円香「壁伝いに上り下りができるように取っ手はついてるみたいですけど、どうします?」

樋口さんの呼びかけに、少しの沈黙が訪れた。
脱出の可能性という甘言に呼び寄せられこそしたものの、
いざ目にしてみるとその穴は底が見えぬほどに深く、闇は全てを飲み込んでしまいそうなほどに深淵の様相を呈している。
これに飛び込んでいけるほどの勇気は、そう簡単に持てるものでは無い。


ルカ「……私は降りてみる」


そんな中、ルカさんは一歩進み出た。

にちか「ルカさん……」

ルカ「このままコロシアイに応じるつもりなんか毛頭ない。それ以外の手段で外に出るための方法を模索しなきゃならないんだ。見えている可能性は一通り全部確かめなきゃだろ」

額に寄せた皺からしても緊張は明らか。
ここまで来て引き下がれないという面子から来る蛮勇なのかもしれない。

夏葉「ルカ、私もついていくわ。あなただけを危険な目に合わせるわけにはいかないもの」

恋鐘「うちも行くばい! 赤信号もみんなで渡れば怖くなか〜!」

めぐる「わたしもついていく! いっしょに行く人が多い方が危険を避けられる可能性も高くなるもんね!」

にちか「私も、行きます! ルカさん、お供させてください!」

それでも、彼女から目を離せなくなってしまうのはカリスマ性の為せる技なのだろうか。
彼女の気高さと儚さに、寄り添いという気持ちが私にも湧いてくる。
人を惹きつける魅力とはそういうことを指すんだろうと思った。


透「……マジか、どうする?」

円香「……行かない理由も、ないんじゃない」

透「んー……そっか」

円香「今のところは……目立つ行動はすべきじゃない。他の人たちに合わせておいた方がいいと思う」

透「うっす」



灯織「……櫻木さんはどうするつもり?」

真乃「えっと……わ、私も……行ってみようかな……っ」

真乃「他の人が頑張っているのに黙って見ているのは……辛いよ」

灯織「……わかった、私もついていく」

真乃「灯織ちゃん……」

灯織「正直私は八宮さんみたいに即断もできないし、櫻木さんみたいに強くあろうとする気持ちも持てない」

灯織「この期に及んで怯えてる……だから、これはその自分を打ち破るための挑戦」

灯織「私は、私の意思で降りることにするよ」

真乃「灯織ちゃん……」



愛依「あさひちゃん、うちが先に降りるからその次に降りておいで!」

あさひ「……? いいっすけど、なんでっすか?」

愛依「そしたらあさひちゃんが手滑らせてもうちらでどうにかなるかもじゃん?」

あさひ「……なんで、そんなにわたしのことを気にかけるんっすか? わたしとは昨日会ったばかりっすよね?」

愛依「え〜? なんでだろ……うち、弟とか妹がいるから……年も近いし?」

あさひ「よくわかんないっすけど、まあわたしは順番とか気にしないっすよ」



甘奈「甜花ちゃん、無理はしなくていいからね! 危ないかもしれないし……甘奈だけで下は見てくるよ?」

甜花「ううん……なーちゃんだけに、危険な真似はさせられない……甜花は、お姉ちゃん……だから……!」

甘奈「甜花ちゃん……うん、いっしょに頑張ろう! 頑張って脱出してみせようね☆」

甜花「う、うん……ファイト……!」


樹里「アンタ、着物だと降りづらいよな……大丈夫か?」

凛世「はい……足を踏み外さぬよう……注意いたします……」

樹里「や、無理してついてこなくてもいいって意味なんだけど……」

凛世「上で一人で待つ方が、凛世は怖いのです……」

樹里「……そか」



カツンカツンという音を鳴らしながらマンホールを下っていった。ルカさんに続く形で結局全員、降りてきているみたいだ。
足を踏み外さないように、自分より前の人の手を踏んでしまわないように。
慎重に慎重に下ったので時間はかかったが、そう深いところではなかったように思う。
最終的に行き着いたのは、思っていたよりも広い空間だった。

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【裏庭 マンホール下 地下空間】

にちか「つ、着いた……」

真乃「マンホールの下に……こんな場所が……」

甜花「ひぃ……ひぃ……甜花、降りるだけで結構、疲れちゃった……」

霧子「慣れない運動をすると筋肉が張っちゃうから……揉んでマッサージ……してあげるね……」

昔社会科の授業で見たことがある。東京の地下に設けられた水害に備えて設けられたコンクリートの空洞の空間。
それによく似た部屋だ。体育館をゆうに凌ぐ広さと高さを備えた空間には、大樹のようなコンクリートの柱が連立している。
そしてその部屋にはチョロチョロと小川のように下水道が流れており、部屋に横付けになった穴へと向かっている。

ルカ「ビンゴ……あの穴から出ていけそうだな」

円香「……あそこ通るんですか? なんというか、悪臭がしそうなんですが」

夏葉「しかし外に通じている可能性が一番高いのは事実よ。避けては通れないわ」

円香「……はぁ」

あさひ「あはは、なんか探検みたいでワクワクしてきたっす!」

灯織「……大丈夫なのかな、何か仕掛けられたりとかしてないといいけど」

めぐる「大丈夫だよ! もし何かあったとしても、みんなで助け合えば乗り越えられるはず!」

恋鐘「うんうん、うちらの友情パワーで完全攻略しちゃろ〜!」

霧子「お、おー……!」

日常から真っ暗闇に突き落とされていた私たちの前に突然現れた、小さな希望の兆し。
私たちはそれに怯えながらも、どこか湧き立つ気持ちを抱きながら突き進むことになる。

脱出して、これまでを取り戻す。
今までと何一つ変わらない生活を送る。
淡い希望にのぼせながら、一歩一歩と突き進んだ。






その先には、より真っ黒な壁しか待っていないと知らずに。






____結果として、あれは罠だったんだと思う。
誰かがマンホールを発見して、私たちがそれに飛びつくことも織り込み済みの罠。

下水道を突き進む道中、落とし穴やせり出す壁、警備のドローンによるエアガンの掃射……
身体に外傷を負うようなことはしてこなかったものの、思うように進めないという感覚は少しずつ、また少しずつと私たちの精神を蝕んでいった。

失敗を繰り返すたびに、理性は正常を取り戻していく。
これだけ苦労して進んだところで、本当に脱出ができるのかの確証もないという気づかないようにしていた当たり前の事実にも気づき出す。
そうなれば、動いていたはずの手と足が止まるのも当然のことだった。

ルカ「……チクショウッ! またダメだった……! あとちょっと……あとちょっとなのに……」

ルカ「おい! 次行くぞ、次! 今度こそ……超えられるはずだ!」


凛世「……」

甜花「……」

ルカ「お、おい……どうしたんだよ、急に」


真乃「……ご、ごめんなさい。体が……もう限界で……」

霧子「少し、休んだ方がいいみたい……」

ルカ「な、何言ってんだ……あとちょっとのところまで来てるんだよ、これを逃したら機はもうないかもしれない……!」

灯織「斑鳩さん、お一人で挑戦してみては」

ルカ「……テメェ」

あさひ「他のみんなはもう限界っすよ。ルカさんはこれ以上みんなを振り回して、みんなの体を壊したいっすか?」

ルカ「はぁ? ち、違ェ……!」

夏葉「ルカ……一度冷静になりましょう。あなた、少し入れ込みすぎよ。今は個人でやっているわけじゃなくて、16人のチームで挑戦している」

樹里「……他のみんなの気持ちが折れちまってる、今のままじゃクリアできるもんもクリアできない」

にちか「ルカさん……」

ルカ「……で、でも」

???「やあやあ! みんなして楽しんでくれてるようで何より!」

にちか「こ、この声は……!?」

嫌な予感がした。下水道に仕掛けられている罠は、時々パターンを変えているような場面があった。
それはつまり、私たちの行動は全て筒抜け。
脱出を目指してここに挑んでいることさえも、その全てが黒幕の掌の上である。
それを証明せんとばかりに、私たちの背後に彼らは仁王立ちしていた。

ルカ「モ、モノクマ……!」


モノクマ「いやぁ、しかし2日目でこの絶望のデスロードの存在に気づくとは……優秀優秀!」

モノクマ「オマエラを信じた甲斐があったってもんだよ! これでみんなも喜んでくれるよね!」

あさひ「……?」


【おはっくま~~~~~!!!!!】


モノタロウ「キサマラお疲れさまー! 大丈夫? 腕とか脚とか腹とか胸とか背中とかパンパンになってない?」

モノスケ「やっぱ難易度が高すぎたんとちゃうか? 全然クリアできそうな気配がないで」

モノファニー「そうね、ずっと砂漠の緑化運動を眺めている気分だったわ」

モノスケ「植えたそばからラクダがむしゃ食いってことやな!」

モノキッド「努力が全部報われるばかりが人生じゃないッ! ミーはそれを知っているから努力をしないッ!」

円香「全てあなた方の想定のうち、だったということですか」

モノタロウ「ごめんね。そうなんだ。この脱出ルートはキサマラに僅かな希望を与えて、それをへし折るっていうお父ちゃんの斬新なアイデアで作られたモノなんだ」

モノクマ「うぷぷぷ……楽しんでもらえたかな? 」

愛依「ひどいじゃん!? どんだけ頑張っても出れないなんて……!?」

モノクマ「いや、それは誤解だよ。確かにゴールは明確に存在しているし、そこから脱出はできる。まあ、そこに辿り着くなんて、天文学的な確率を潜り抜けなきゃダメだろうけどね!」


油絵の具が壁に乱雑にぶっかけられた時のようだ。
でろりと大粒の雫が垂れ下がっていき、最終的に壁には一本の線が引かれてしまう。
それがあちこちから、どんどんと。

リーダーシップを発揮して、ここまで連れてきた人間に向けたはずの信頼。
築きかけていた絆。そういうものを改めて丁寧に分断するように、上塗りされた絶望が、線を引いていく。

モノクマ「それでも挑戦するってんなら止めはしないけどね! 他のやりたくない人も強引に引き連れてどうぞ!」

モノキッド「いのちぞんざいに! ガンガンいこうぜ!」

陰湿なやり口だ。
私たちの前に餌をぶらさげては、それをすんでのところで奪い去る。
残された私たちの虚無感と虚脱感は他の全ての一切を飲み込んでしまう。

モノクマ「まっ! それじゃせいぜい脱力感を噛み締めて! アデュオス!」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


真っ白になった私たちを見て満足したのか、モノクマはそのまま姿を消した。
苛立っていたルカさんだけが、汚い言葉をその去り際にぶつけていたが、うまく聞き取れなかった。


樹里「……そんなイライラしても仕方ねえよ、とりあえずのところは戻ろうぜ」

ルカ「……ああ、クソッ」

むしゃくしゃで肩を振るわせるルカさんを他の人たちは遠巻きに、なんだか冷めた視線を向けていた。
ついさっきまで一つになってゴールを目指していた集団とは思えないほどに、その温度には開きがある。



あさひ「ルカさん、気持ちはわかるっすけど個人の判断で何回も他の人を危険に晒すのはやめてほしいっす」



にちか「ちょ、そんな言い方……!」

そして、その重篤な温度差はルカさんの肌に亀裂を走らせる。

あさひ「一回挑んでダメだって分かっても……そこから無策に何度も突っ込んで……体力ない人だっているのに」

あさひ「わたしだってもうクタクタっすよ〜、今日は帰ってもう寝たいっす」

芹沢さんの無邪気さは、他の人たちが理性で押さえていた不満の堰を切ってしまう。
遠慮で口にするのを控えていた言葉が、徐々にところどころで漏れていく。


灯織「もっと……他の方法を探す時間に当てたほうがよかったのかな」

樹里「……おい、大丈夫か?」

凛世「鼻緒で少し……指の間を痛めてしまったようです……」

甜花「もう、甜花……体ボロボロ……帰るのも、しんどい……」

甘奈「甜花ちゃん……服も汚れちゃってるね……上に出たら洗濯してあげるね」

誰もルカさんのことを悪く言っているわけではない。みんな横並びで、責任も等分されて然りの筈だ。
それなのに、ただ殿を務めたというだけで、他のみんなのことを思って動いてしまったがために、ルカさんは針の筵の感覚を味わってしまった。

ルカ「……ッ!」

ダッ

にちか「あ、ル、ルカさん……!」

ルカさんは逃げるように一人でまた横穴に駆けていってしまった。
私たちの視線から逃れるように、自分の罪と向き合おうとするように、こちらには一瞥もくれなかった。


夏葉「……ルカも、次でダメだったら諦めて上がってくるでしょう。私たちはひと足先に撤退しましょう」

真乃「は、はい……」

恋鐘「みんなが疲れが溜まっとるばい、梯子登るのも大変やけん休み休み戻らんね」

ルカさんを残し、他の人たちはどんどんマンホールを登っていく。
その足取りには露骨に落胆の色が見え、会話が交わされる様子もない。あるのはせいぜいため息程度。

愛依「あり? にちかちゃんはまだ残るカンジ?」

にちか「あ……はい、ルカさんが戻ってからにしようかなって」

愛依「……そっか、だったらうちも____」

あさひ「愛依ちゃん、早く来るっすよー!」

愛依「あー……」

にちか「大丈夫です、先行っちゃってください! 私とルカさんの二人で戻るので!」

愛依「……うん、ごめんね。それじゃあルカちゃんにこれだけ伝えといて」

愛依「誰もルカちゃんが悪いとか思ってないから、気にしないで」

にちか「はい、もちろんです」


それから私は一人でルカさんが戻ってくるのを待ち続けた。
最後の愛依さんが梯子を登る音もしなくなってから、十数分と経った頃だろうか。
ようやっと横穴の方から靴でコンクリートを叩く音が聞こえてきた。
リズムが不揃いな音はフラフラとした足取りを想起させる。
そして実際姿を現したルカさんは、先ほど以上に疲弊し切った様子で、格好もボロボロ。
肌が露出している部分にはどこかで擦れたのか血が滲んでいる箇所もあった。

にちか「……ルカさん、無茶しすぎですよ。あれだけの人数いてクリアできなかったのに、一人で挑んだりして……」

ルカ「……ハァ……ハァ」

言葉も返せないほどに息が上がっているのか、息で返事をした。
手の甲で口元を拭ってから、キョロキョロと見回して、安堵した表情で座り込む。

ルカ「他の連中は……帰ったか」

にちか「です……みんな、諦めて」

ルカ「ん。それが賢明だよ」

達観したような表情には自嘲も覗かせた。
多分、最後の挑戦は半ばヤケクソだったんだろう。
失敗に悔しがる様子もない。


にちか「……ルカさん、どうしてそんなにもみんなを引っ張ろうとしてくれるんですか?」

ルカ「……あ? なんだよ、急に」

にちか「出会った時からそうじゃないですか、ルカさんは私たちの矢面に立ってモノクマと話したり、危険がありそうなところには真っ先に飛び込んだり」

にちか「私たちって昨日会ったばかりの初対面なんですよ? そんなルカさんが体張るような必要全然……」


ルカ「勘違いすんな」


にちか「え……」

ルカ「私は、私のためにやってるだけ。私はここにいる誰よりも元いた場所に帰りたいから、その一心で動いてるだけなんだよ」

にちか「それって……前に言ってた【相方さん】のことです?」

ルカ「……ああ、アイドルになること以外何も眼中にないって感じのやつでよ。三度の飯を食ってる暇があるならレッスンしたいって言い出すレベル」

にちか「す、すごい人ですね……」

ルカ「……【あいつ】の隣に立てるのは私しかいない。私じゃなきゃ、いけないんだ」

ルカ「今こうしてる間にもあいつに取り残されちまうかもしれない……そう思うと、一分一秒が惜しくてたまらなくなる」

ルカ「帰るために足掻けるなら、私は無限に足掻くよ」


危ういと思った。
相方さんへの執着を語るルカさんの瞳は目を背けたくなるほどにギラついていて、その想いには代償を伴うと思ったから。
他の何かを捨て去ってでも縋りたい。退廃的という言葉さえ当てはまってしまうような、そんな激しく燃え盛るような情動を感じてしまったから。

にちか「……っ!」

私は一瞬、言葉を失ってしまった。
ルカさんに気圧されてしまったから、それもあるけれどそれ以上に、この人についていけるほどに私は【強くない】と自覚してしまったから。
私という一人の人間の物語はこういうものだと定義して、諦めてしまっていた。
そんな型に押し込んだ日常に飼い慣らされている私が向き合うには、斑鳩ルカという人間はあまりにも大きすぎる。

ルカ「……つっても、当然コロシアイに乗じるつもりはないよ」

ルカ「ちょっと私も意固地になってたみたいだ……付き合わせて悪かったな、にちか」

そんな私のことに気づいてか、それとも熱くなりすぎた自分のことに気づいてか、ルカさんは少し小っ恥ずかしそうに弁解するのだった。

にちか「い、いえ……大丈夫です」

ルカ「……腹減ったな、上で飯でも食うか」

にちか「……はい」

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【食堂】

地上に戻ってからルカさんと二人で食堂に向かった。
随分と長い間地下にいたらしく、すでに日は半ば沈みかけていた。
といっても、ここでの生活に朝も夜もあったものでは無いような気もするけれど。

霧子「あ……斑鳩さんに、にちかちゃん……」

恋鐘「二人とも、大丈夫ばい?! あんまり遅いけん心配しとったとよ〜!」

ルカ「え? あ、おう……悪かった、大丈夫だよ……」

恋鐘「二人の分もご飯用意するけん、ちょっと待っとって! それまで霧子に診てもらうとよか!」

にちか「え? 診てもらうって……」

霧子「病院で少しお手伝いをさせてもらってるから……今日の脱出の挑戦で怪我してないかだけ、ちょっと診させてもらうね……」

他のみんなもそうしてもらったのだろうか、食堂の机の上には救急箱が置かれ、慣れた手つきで幽谷さんは私たちの体を診ていった。
特に怪我に覚えはなかったので、大した処置もされなかったけど、ルカさんは相当に痛めつけていたらしい。
幽谷さんに包帯をぐるぐる巻きにされていた。
骨折とかではないって笑ってたけど、その笑顔もなんだか痛々しかったな。

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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノファニー『なんだか今日は疲れちゃったわ……手足がダル重……』

モノスケ『骨折り損のくたびれもうけってやつやな! ええこと一個もなしや』

モノスケ『あっ、でも骨を折ったら労災は下りるんとちゃうか? 金が湧いてくるんとちゃうか?』

モノスケ『おっしゃ、そうと決まったらガンガン骨を折るんや! ボッキボッキ、ガッポガッポでウッハウハや!』

プツン

結局のところ、今日はほとんど進展も何もなし。
体に疲労を溜め込んだばかりで、慣れない動きをしたことで筋肉痛も始まりつつある。
シャワーを浴びたら、そのままベッドに引き摺り込まれてしまった。

不思議なことに、体はクタクタでも目は冴えていた。
寝付くまでに何度も体勢を変えた。
右に左に体を向けたし、暗闇に目が慣れてきて家具の配置が透けて見えてきてしまった。

それは多分きっと、ルカさんの中にみた焔が原因なんだと思う。
あのルカさんにそれほどまでの強い執着を抱かせる相方さん……一体どんな人なんだろう。
想像したところでわかるはずもない。
私には程遠い全くの別世界のお話なんだから。
そう自分に何度も諦めるように促す言葉を投げかけ続けた。

……一体私が、何を諦めるというのだろう。
自分自身に投げかけた言葉の所在が分からなくて、息が詰まった。


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【School Life Day3】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『うぅ……モノスケ……痛々しくて見ていられないよ……』

モノキッド『モノスケのやつ……無茶しやがって……』

モノタロウ『ヤム……モノスケェーーーー!!』

モノファニー『だから言ったのよ……あんな化石みたいになっちゃって惨めでグロいわ……』

モノダム『……』

プツン

三日目の朝。昨日の下水道での挑戦が尾を引いているらしく、手足が普段よりも数倍重たく感じた。
まだまだ若々しい肉体だとは思っているし、多分これは睡眠の質の問題。
緊張の解けない状況に置かれて、慣れない寝台の上。
熟睡なんてできるはずもなく、疲労を満足に回復させるような睡眠はとれちゃいなかった。

「……とりあえず、食堂行かなきゃだよね」

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【食堂】

重たい鉄の棒みたいになっている足を引きずって食堂へ。
つい昨日取り決めたばかりの約束ということもあり、さすがに出席率は高く、風野さんや芹沢さんの姿もあった。

にちか「……肝心の有栖川さんがいないですけど」

樹里「あー……なんか、本当は朝に弱いとかなんとか言ってたな……」

円香「……あの方が毎朝集まろうと言い出したのでは?」

樹里「だよな……本人が寝坊してちゃ意味ねーっつーの……」

凛世「凛世が、起こして参ります……」

樹里「あ、アタシも行くよ!」

西城さんは何かと杜野さんを気にかけているみたい。
杜野さんが一人で出て行こうとするのを呼び止めて、続いて出て行った。

ルカ「にちか、こっち来いよ!」

にちか「あっ、はい!」

二人を横目に見送りながら、私はルカさんの隣の席についた。
ルカさんは昨日幽谷さんに巻いてもらった包帯を右手にしたまま。
食事に支障はないのかと聞くと、ただの打ち身だと笑った。


にちか「ルカさん、今日も昨日の下水道に行くんです?」

ルカ「いや……流石にな。他の連中も行くつもりはないんだろうし……わざわざ一人で行ったりはしねーよ」

にちか「よかった……ちょっと安心しましたよ」

ルカ「ハッ……そんなに向こう水な奴だって思われてたのか? 私は」

にちか「まあ……それなりに」

ルカ「とりあえずのところは今日は探索だな。まだ学校の全部も見てはないし、何かのヒントになるものがあるかもしれない」

にちか「ですね! まだ未開拓のところとかあるかもです!」

ルカ「オマエも私に無理に合わせなくて、好きなように行動していいからな。慕ってくれてんのは嬉しいけどよ」

にちか「あはは、ご忠告痛み入りますー」

暫くして、西城さんたちが寝ぼけ眼の有栖川さんを連れてきたことで朝食会がようやく始まった。
全員その顔には疲労の色が見える。やっぱり昨日の下水道でのことで、みんな無理をしていた部分はあるんだろう。
それを悟ってか、ルカさんはなんだか少し静かだ。


恋鐘「今日はどげんせんね? また昨日みたいに下水道ば挑戦すると?」

甜花「あ、あう……甜花、ちょっとパス……筋肉痛で、腕が動かない……」

めぐる「うーん、別の方法を考えてみるのもいいかも! ほら、他にも脱出できる場所はあるかもしれないし!」

円香「……というか、外の助けを待つんじゃダメなんですか? いい加減警察とかも動き出しそうな気がしますけど」

真乃「もうこれで丸三日……になるんだよね」

甘奈「そうだよ! パパとかママとか……学校だって、きっと心配してるって!」


【おはっくま~~~~~!!!!!】


モノスケ「ここでキサマラに残念なお知らせや」

モノキッド「警察自衛隊その他もろもろの救世主はここにはやって来ないんだぜッ!」

モノファニー「残念だけどそれが運命なのよ……受け入れるしかないのよ……」

樹里「出やがったなモノクマーズ……!」


甜花「あ、あれ……? 黄色いモノクマーズって骨折してたんじゃ……」

モノスケ「おう、心配してくれておおきに!」

モノスケ「でもよう考えたらワイらはぬいぐるみだもんで骨なんかなかったわ! そもそも折る骨がなかったっちゅーこったな!」

モノファニー「つまり純粋なくたびれもうけだったってことね!」

円香「……そんなのどうでもいいから」

透「来ないの? けーさつ」

モノタロウ「うん! 才囚学園に警察が来ることは100%あり得ないよ! オイラウソつかないもん!」

灯織「……随分と強く言い切るんですね」

モノスケ「そらそうや、ゼロに何をかけようがゼロのまま。どう足掻いても外からの助けなんて来る可能性はないんやで」

夏葉「……私たちが今拉致監禁されている才囚学園。その場所には確かに誰も心当たりはないわ」

夏葉「でも、だからといって可能性がゼロとは断言できないでしょう……? それにこれだけ大きな施設設備……そう簡単に隠匿できるものとも思えないのだけれど」

モノタロウ「ううん! 絶対に来ないよ! ごめんね!」

ルカ「頑なだな……」


モノスケ「余計な希望は持つなっちゅーことや。そないなことして傷つくのはキサマラの方なんや、ワイはむしろ菩薩のような心で諭してやっとるんやで」

あさひ「でも、確かにガラス越しにも空を飛行機が飛んだりしてるのは見たことないっす」

霧子「私たちの住んでいる国の中じゃない……とかなのかな……」

透「そもそもの前提が違うとか。うちらの知ってる世界じゃなくて、別の世界」

透「イセカイテンセーって奴」

円香「いや、ないでしょ」

モノタロウ「まあとにかくそういうことだから! 余計な希望は持たないほうがいいよ! オイラ嘘だけはつかないからね!」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


にちか「まーた言いたいことだけ吐いていきましたね……」

外からの助けは来ない。犯人側としては確かにそれを主張するだろうけど、随分な念の押しようだ。
一体何の確証があってあそこまで強く言えるというのだろう。

甘奈「甘奈たちがいなくなってること、みんな気づいてるよね……?」

樹里「あいつらの言うことなんか信用する必要ねーよ、この人数が一気に消えてるんだぞ。流石に全国的に話題になってんだろ」

めぐる「うん、大丈夫だよ! 大丈夫! 今は外の世界の人たちのことを信じよう!」

甜花「なーちゃん、大丈夫……! 甜花はそばにいるから……!」

甘奈「うん……ありがとう、ごめんね」

ルカ「とにかく、今はやれることをやるだけだ。外のことは分からないし、今はこの学園の謎を少しでも解き明かさないと」

灯織「そうですね……まだ材料が足りません。この学校のことも、私たちのことも」

夏葉「改めて探索ね、昨日の疲れもあるでしょうからそれぞれ無理をしないように」

モノクマーズたちの意味深な言葉が気にかかりつつも、前向きな締めくくりで朝食会は幕を下ろした。
私たちに立ち止まっている時間はない。

前に進むしかない……それ以外のことを考えている余裕も、ないんだ。

------------------------------------------------
【にちかの部屋】

とりあえずは自分の部屋に戻ってきたけど……どうしようかな。
学校の探索をしなきゃだけど、一人だと見落としとかあるかもしれないし……
他の誰かを手伝うほうが良さそうかな。
まだ他の人たちとも知り合って間もないし、お互いのことを知るいい機会かも。

______よし、そうしよう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
またまたお久しぶりです。
今回も自由行動パートのお時間がやってまいりました。
今まで同様、ご学友の皆様と交流を深めることで、学級裁判を有利に進めるためのスキルや、またそのスキルを購入するための希望のカケラを入手することができます。
親愛度の最高値は「12」となっており、最高に到達した際にスキルが獲得できます。
なお、最高値に到達してからも交流を続けることでその先に進めることも可能で……?
ぜひお試しください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…57枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1

2 選択
【購買】

一応この学校にも購買らしき部屋はあるみたいなんだけど、まさかリアルマネーを使う訳じゃないよね?
お財布も携帯も手元にない。現金はおろか電子マネーすら使えない無一文の状態の私たちに、何も使い物にならない施設を用意するとも思えないし……

チャリン

やっぱり、学校の探索中に見つけた【これ】を使うんだろうな。

購買の中にはやたらと目を引く【ガチャガチャマシーン】と、【自動販売機】の二つがあるみたい。
えーっと、なになに……?

□■□■□■□■□■□■□■□■
☆購買についてはこれまで通り、【ガチャガチャマシーン】と【自動販売機】の二つの設備を使用することが可能です。
【ガチャガチャマシーン】はモノクマメダルの消費枚数を指定すると、その数ぶんコンマの判定を行い、コンマの値と同じ番号に割り振られたプレゼントが手に入る仕組みです。本家V3のプレゼント番号01~100が排出されます。(101以降のものは省略)
【自動販売機】では学級裁判で役立つアイテムとスキルを購入することができます。アイテムの購入にはモノクマメダル、スキルの購入には希望のカケラがそれぞれ必要となります。
なお、自動販売機については後のに登場する予定のシステムの都合上商品を前シリーズより縮小しています。予めご了承ください。
□■□■□■□■□■□■□■□■
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【自動販売機】
≪消耗品≫
【ヒーリングタルト】…5枚
〔誰の口にも合いやすいマイルドな口当たりの優しい甘さ。裁判中に使用すると発言力を2回復できる〕

【ヒーリングフルーツタルト】…10枚
〔フルーツをトッピングして満足感アップ。裁判中に使用すると発言力を4回復できる〕

【プロデュース手帳】…15枚
〔これは彼と彼女たちが過ごしてきた美しき日々の証。誰よりも理解者たる彼は、いつだってそばで戦ってくれる。裁判中に使用するとノンストップ議論・偽証ミスディレクション・反論ショーダウンを無条件クリアする〕

≪希望のカケラで獲得できるスキル≫
【ノー・ライフ】希望のカケラ…15個
〔発言力の最大値が+2される〕

【私をときめかせて】希望のカケラ…20個
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕

【チョコ for Y♡U】希望のカケラ…15個
〔体力回復を行った際効果が増幅する(自動回復は除く)。〕

【UNCHARTE:D】希望のカケラ…15個
〔発掘イマジネーションの文字がある程度埋まった状態で始まるようになる〕

【浪漫キャメラ0号】希望のカケラ…20個
〔発言力の最大値が+3される〕

------------------------------------------------

【現在のモノクマメダル枚数…57枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

1.ガチャガチャマシーンを回す(枚数指定安価)
2.自動販売機を使う(購入する物品・スキル指定)
3.やっぱやめる
(1、2は同時指定可)

↓1

1 選択

【モノクマメダルを17枚使ってガチャガチャマシーンを回します】

【直下より17回連続でコンマを参照してその数値に応じたアイテムを獲得します】

↓1~17

セルフでコンマ判定進めますね

加速

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

ksk

らすと


【モノクマメダルを17枚消費しました】

【タピオカジュース】
【しょうが湯】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

【以上のアイテムを手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】

「うわぁ~……なにこれ、こんなのどう使えっての?」

ガチャマシーンから排出されたのはどれもみるからにガラクタだらけ。
使い道もまるで分らないけど……こんなものを喜んでくれる人はいるのかな……?


1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1

1 愛依 選択

【超研究生級の音楽通の才能研究教室】

昨日の今日で体には疲れがたまっている。
今日の所はルカさんも下水道に無謀な挑戦はしないようだし、私も好きな音楽でも聞いて気を休めようかな……

ガラララ…

愛依「あ、あり? にちかちゃん? ア、アハハ……お邪魔してます」

にちか「愛依さん……どうしてここに?」

愛依「いや……なんか才能研究教室ってのどんなもんなんかな~と思って! ご、ごめんね! にちかちゃんのショーダクも得ないで勝手に入って」

にちか「いやいや! 別に私の研究教室だからってそんな遠慮とか要らないんで! そ、それより……何か聞いていかれます? せっかくなんで、私のオススメとか……言っちゃってもいいですか?」

愛依「……! マジで?! 聞きたい、聞く聞く! てか、聞かせて!」

にちか「はい~! 任せてください!」

愛依さんは他の人とも隔たりをまるで感じさせない人で、話しやすいな。
愛依さんと二人でレコードを聴いて過ごした……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【しょうが湯】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1

【しょうが湯を渡した……】

愛依「あ、これカラダ温まる奴じゃん! うわ、なんかなつかし~! うちもビョーキした時によくばあちゃんが作ってくれたんだよね」

にちか「あはは、どこの家庭でもおなじみなんですね」

愛依「にちかちゃんちも看病してもらってた系?」

にちか「はい……うちの場合は姉ですけど」

愛依「そっかー、にちかちゃんにもお姉ちゃんがいるんだもんね。にちかちゃんによく似て綺麗なお姉さんなんだろうな~」

にちか「そ、そんなことないですよ……地蔵みたいなもんです!」

愛依「も~! そんな照れなくてもいいって!」

(まあ、普通に喜んでくれたかな)

【NORMAL COMMNICATION】

-------------------------------------------------

愛依さんと言えば、すこし話したかったことがある。
昨日の下水道からの脱出の挑戦、最後の最後まで私とルカさんのことを気にかけてくれたのは愛依さんだ。
そのことが、戻ってからもなおずっと気になっていた。

にちか「あの、愛依さん昨日は優しい言葉をありがとうございました」

愛依「え? 昨日? ……あー、もしかして、下水道の時の!? いや、別になんも変わったことはうちしてないし、てかトーゼンっしょ!」

にちか「正直昨日の失敗は結構険悪なムードになっちゃって、ルカさんもかなり追い詰められて……私も不安に当てられちゃってたんです。そんな中、愛依さんが気にかけてくれたのが嬉しくて」

愛依「アハハ……うち、ただ自分の気持ちを口にしただけだからさ……」

愛依さんは私の言葉に照れくさそうにえくぼの辺りを掻いた。
きっと本当に彼女の言う通り、あれは何か目的があって口にした言葉というよりも、勝手に口から飛び出したものだったんだろう。

愛依「やっぱ心配じゃん? ルカちゃんもセキニン感じちゃってたみたいだからさ……あんなの、全然誰も悪くないじゃんね?」

出会ってまだ数日と経ってもいないけど、愛依さんのこれまでの接し方を見ていると、その人となりは何となく掴めてきた。
愛依さんは心の底から誰かを思い、そして誰かと距離を詰めることに一切の抵抗がない人だ。

にちか「です……でも、やっぱりルカさんは自分が主導したと思ってたみたいで、ちょっと凹んだみたいですよ」

愛依「あらら……ルカちゃんマジすげーわ、こんな状況でもうちらのこと考えてくれてんだもんね。すごく強い姿ばっかり見せようとしてくれて……心の負担もエグイだろしなんかモーシ訳なくなってくる……」

にちか「それは愛依さんもですよ。こんな不安な状況なのに、私たちの事……特に芹沢さんのことをすごく気にかけてくれてるじゃないですか。愛依さんこそ、負担になってたりしないですか?」

愛依「ううん、それは全然! うち、年下の子の面倒見るのとかケッコー好きな感じでさ。今もコロシアイ?抜きにしたら結構楽しい状況なんだよ?」

愛依「ほら、あさひちゃんもにちかちゃんも……みんな可愛いじゃん?」

にちか「か、かわいい……ありがとうございます」

愛依「なんつーんかな、フセー?感じる的な感じ!」

にちか「多分逆だと思います……」

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【現在の愛依の親愛度レベル…1.5】

【にちかの部屋】

愛依さんと別れて、自分の部屋へと戻ってきた。
ちょっと昨日ことで愛依さんにはお礼を言おうと思っていただけなのに、随分と話し込んじゃったな。
愛依さんにはなんにでも話したくなるというか、何を話しても受け止めてくれる信頼があるというか……

とにかく、あの明るさに宛てられていると時間があっという間だ。

さて、まだ今日は時間があるみたいだし、他の人とお話してみようかな?

【自由行動開始】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1

すみません、今回のシリーズの登場キャラに千雪はいないので再安価にさせてください

人物指定再安価

↓1

1 ルカ選択

【倉庫】

ちょっと小腹が空いたし、お菓子でも調達しようかと思ってふらっと立ち寄った倉庫。
そこで私は、思わぬ人と出くわすこととなる。

ルカ「……! に、にちか……!」

にちか「ルカさん……? どうしたんですか? 今日はもう昨日のこともあるし部屋で休まれてるものかと思ってたんですけど」

ルカ「い、いや? なんでもねーよ?」

にちか「……? いま、ルカさん何か後ろに隠しました?」

ルカ「いや? そんなわけねーだろ! ほら、さっさと帰んな!」

にちか「じとー……怪しい……」

ルカ「ちょっ! 寄んなって……!」

_____
____
___

にちか「別に隠す必要なかったですよ? ルカさんが私より年上なのは分かってることですし」

ルカ「いや……でも、流石に未成年連中が山ほどいる中堂々と酒飲むわけにもいかねーだろ……」

にちか「そんな遠慮なんて要らないですって。うちでもお姉ちゃん私の事とかお構いなしに晩酌してますよ?」

ルカ「……まあ、今はとりあえずいいよ。また夜にでも飲む」

ルカさんはなんだか気恥ずかしそうにして、手に持っていた缶チューハイを棚へと戻した。

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1

【がんじがらめブーツを渡した……】

ルカ「うおっ、なんだこれ……編み込みまで全部チェーンで出来てるブーツか……?!」

にちか「はい、私的にルカさんのイメージに合いそうなグッズを持ってこさせてもらいました~! ほら、ルカさんのアバンキッシュな感じというか、ちょっとこう擦れたイメージにぴったりだと思うんですよね!」

ルカ「褒めてんのか貶してんのかいまいちわかんねーな……」

ルカ「うーん……でも、案外悪くねえかもな。流石に履くのはないにしても、こんだけ頑丈なつくりをしてるなら傘立てとかにすんのもありか」

ルカ「いや……いっそこれぐらい派手なのを取り入れればパフォーマンスも新しいものに……」

(なんだかルカさん、物思いにふけり始めたぞ……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

-------------------------------------------------

にちか「ルカさんルカさん! せっかくなので、ルカさんの研究生時代の話を教えてもらえないですか?」

ルカ「あ? どうしたよ、やけに興味津々って面じゃねーの」

にちか「いや、よくよく考えたらアイドルの研究生さんだなんて別世界の住人さんとこうやって一緒に過ごせるってすごい貴重じゃないですか! なんでいろんなこと聞いてみたいんですよ!」

ルカ「んー、つってもな……何が聞きて―の? 苦労話か? それともドロドロの止み営業の話か?」

にちか「え……そ、そんなブラックな話題しかないんですか」

ルカ「……アハハ、冗談だよ。そんな身構えるほど後ろ暗い話、持っちゃいねーよ」

ルカ「つっても華々しい話題がないってのは事実かもな。実際今は基本集団レッスンで歌とダンスやって、経験値は他の先輩アイドルたちのバックダンサーやりながら積んでる最中」

にちか「あ、やっぱりそんな感じなんですね……いわゆる下積み、です?」

ルカ「おうよ。テレビで見るようなトップアイドルたちの足元には無数の下積みたちが眠ってる。私もその中の一人に過ぎないんだ」

(これだけの魅力あふれるルカさんが下積みなのか……アイドル業界って底知れないな)

ルカ「研修生で仲いい奴と組んでユニットもやってるし、そっちでSNS活動とかミニライブ出演とかもやってなくはないけど……まあ、まだまだだな」

にちか「それって前仰ってた相方さんの事です?」

ルカ「おう、あいつはもともと北海道の出身でよ。夢を追うために上京してきて……他の連中なんか目じゃねーほどの熱量でやんの」

ルカ「今はあいつについていくのでいっぱいいっぱいだよ」

(ルカさんにそこまで言わせる相方さん、一体何者なんだろう)

ルカ「ていうか、こんなことでよかったのか? もっとなんか面白い話題とか……」

にちか「いえ、ありがとうございます。貴重なお話が聴けて私も満足です!」

ルカ「まあ、にちかがいいならそれでいいけど……」

ルカ「……ハッ、あんたも案外ここでの【研究生】ってのまんざらでもないのかもな。そんだけアイドルに興味津々でございますって顔されたらそう思っちまうよ」

にちか「……え?」

ルカ「じゃあな、研修生! これからもよろしく頼むよ」

にちか「あっ、ルカさん!」

ルカさんがいなくなってからも、なんとなく私は自分の心に起きた波紋を測りかねていた。
私がアイドルに憧れている? いや、そんなのって……流石に身の丈にあって無さすぎる。
だって私は日常の中に買い潰される宿命を背負った、ただの一般人なんだよ?

一般人のまま終わる……つまらない女子高生、なんだもん。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【現在のルカの親愛度レベル…2.0】

------------------------------------------------
【寄宿舎前】

1日探索に当てたけど……目立った収穫はなし。
まあそれでも、他の人と一緒に過ごしたことで少しは親密になれたような気はするし、それを収穫としておこう。
探索からの帰り道、学校を出て自分の部屋へと戻ろうとしている時、遠くの方に人の姿が見えた。

背丈が同じくらいの三人……【櫻木さん、八宮さん、風野さん】だ。
風野さんの手をグイグイと八宮さんが引っ張っているのが目に入る。

めぐる「ねえ、灯織……今日は真乃と一緒に、お部屋でお話ししようと思ってるんだけど一緒にどうかな?」

灯織「え、ええ……?」

真乃「灯織ちゃんがよければ、なんだけど……今はこんな状況だけど、こうして知り合うことができて……」

真乃「お友達になれたら、嬉しいなって……めぐるちゃんと」

めぐる「わたしたち、同年代だし……灯織とわたしは同じ部屋に閉じ込められてた仲じゃない?」

どうやら櫻木さんと八宮さんが風野さんを誘っているらしい。
警戒心が強く、少し孤立気味だった風野さんを八宮さんはずっと気にかけている素振りを見せていたし、今のこれもその一つなんだろう。


八宮さんの呼びかけは純粋な善意だ。
誰しもが心細く、恐怖に打ち震えるこの学園生活で、少しでも身を寄り添える場所を作ろうというその一心なんだと思う。
その笑顔は、遠巻きに見ている私からしても眩しく映った。

灯織「いや……私はいいよ」

そう、あまりにも……【眩しく】。

灯織「八宮さんはもっと他人を疑った方がいいよ。こんな状況なんだし、いつ誰に足元を掬われるか分からないし……」

灯織「櫻木さんも……他の人に流されるんじゃなくて、自分がどうしたいかをもっと考えた方がいいんじゃないかな」

好意をそのまま呑み込めるような人ばかりじゃない。
それがコロシアイという猜疑心のジャングルの中なら尚更。
人が何を考えているのかなど、明け透けには分からないものだ。
天使の顔をして差し出しているその手を取ったが最後、地獄に引き摺り込まれないとも限らない。

風野さんはまだ、その【柵の中】にいた。

灯織「……! ご、ごめん……!」

思わず口から出てしまった冷徹な文句に風野さん自身少し驚いた様子。
キョトンとする二人に平謝りするような形で頭を下げ、そそくさと後にした。

にちか「あ、風野さん……!」

私の横をすり抜けて行ったのに、風野さんはそれに気づく様子もなかった。


めぐる「……行っちゃった」

真乃「灯織ちゃん……やっぱり、まだこの状況じゃ信じてもらえない……よね」

めぐる「ごめんね、真乃……悲しい思い、させちゃったよね」

真乃「ううん……大丈夫。私も、めぐるちゃんと気持ちは一緒……灯織ちゃんともっと仲良くなりたいと思ってるから」

真乃「また、めぐるちゃんの力にならせてもらってもいいかな……っ」

めぐる「うん、もちろんだよ!」

純粋に強いな、と思った。
私はあんなふうに拒絶されてなお、手を差し伸べようとは思えない。
櫻木さんと八宮さんが折れず、説得の意思を改めてしている様子を見ていると、胸がチクチクとするようだった。

それは、自分自身との残酷な対比に原因がある。
私は最後まで他の誰かに添い遂げる覚悟なんて持っていないし、反対に誰かの手を取る勇気も持っていない。

でも、普通そうじゃない?
高校生なんて年齢、これまでの人生、吹かれ流されしか経験してきてない。
この学園でも、私の近くには幸運にもルカさんという標がいてくれた。
だから私はなんとか両足で立っていられる。ただそれだけのことなんだ。

「……帰ろ」

櫻木さんと八宮さんが寄宿舎に戻ってくると、鉢合わせてしまう。
そうなる前に私も風野さんの後を追うように自分の部屋へと戻った。

------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノキッド『おい! どこだ! どこに隠していやがる!』

モノファニー『アンタやめて、そんなに毎晩だったら体を壊しちゃうでしょ!』

モノキッド『うるせー! ミーはこの一家の大黒柱だぞッ! はちみつをいつ舐めようがどれだけ舐めようがミーの勝手だろうが!』

モノタロウ『わー! モノキッドのお決まりの禁断症状だよー!』

モノスケ『はち禁は2時間……記録更新やな』

モノキッド『さっさとはちみつ出さんかーい!』

モノダム『……』

プツン


部屋に帰る前に三人のやりとりを見たからだろうか、ベッドに横になってからも気が立っている感じがした。

多分、ルカさんにとって私はたまたま居合わせただけの存在で。外の世界に待っている相方さんの方がよっぽど大切な存在なんだ。
そんな当たり前で分かりきっている事実が何度も頭を巡っている自分が気色悪かった。

知りもしない人に嫉妬をしているのか?
身の丈に合ってない劣等感を抱いているのか?

いや、そんなんじゃない。
この学園に来てから出会った人たちがあまりにも自分より眩しくて。
そんな人たちが、自分と同じ『一般人』という呼称で定義されているのが苦しくて。
あの人たちが『一般人』なら私は何?

回答を得られるはずのない自問自答は無限に続いて、


_____有限の眠りに閉ざされる。


------------------------------------------------
【School Life Day4】
------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

『…………』

『…………』

『…………』

(荒れたモノクマーズ基地で一人はちみつをしゃぶっているモノキッドが映っている)

プツン

この学園に来てから、自分らしくなく物思いに耽ることが増えた。
昨日もよくわからないことを考えているうちに眠ってしまっていたような気がする。
まあ、それは今までの人生がどれだけ頭空っぽに呆けていたかの証左に他ならないのだけど。
すっからかんの側頭部をコンコンと叩きながら眠気を削り落として、朝の支度をした。


……随分とうなされていたらしい。
何度か睡眠中に目を覚ました覚えもあったし、身を起こした時のベタつく感じは寝汗をかいていたことの証明だ。
今の季節がどうかは知らないけど、特段暑くも寒くもない環境下でこんなに跡がつくほどの汗は、やっぱり苦悶が滲み出たモノと言うほかない。
変色したシーツを撫でると、自分のものながら嫌悪の声が出た。
後でモノクマーズに呼びかけて交換をお願いした方が良さそうかな。

ピンポーン

……そんなタイミングでインターホンが鳴った。

ルカ「よう、にちか。……どうした、なんか昨日あんまり眠れなかった感じか?」

にちか「え? そ、そう見えますか……?」

ルカ「んまぁ……ちょっと目がとろーんとしてて、さっき起きたばっかなのかなって」

にちか「いや……大丈夫です。朝食会ですよね、急いで準備します!」

ルカ「ああ、別に急がなくていいけど……そうだ、朝食会の後なんだけど、【ちょっと時間あるか】?」

にちか「え? ああ……はい、大丈夫ですけど」

(……なんだろう? 周りをキョロキョロと見回して、私だけにしか聞かせたくない話とかなのかな)

ルカ「サンキュー。そんじゃ先に朝食会だ、準備できたら言ってくれよ」

ルカさんが私だけに、という言葉で少しだけ高揚するのをバレないように隠しながら朝の支度をした。
部屋の外で待っていてルカさんに声をかけてそのまま食堂へ。

朝ごはんの後、か……一体何の用事だろう?

------------------------------------------------
【食堂】

めぐる「あ、にちかちゃんだ! おはよー!」

にちか「あ、ども……」

めぐる「……あれ?」

昨日の夜のやりとりを盗み見てしまった気まずさからか、八宮さんの挨拶をおざなりに返してしまった。
少し違和感を持って受け取られたようだったけど、私は逃げるようにしてルカさんの隣に座った。ルカさんは私の混乱を意に介さず、平然としている。

甜花「今日で、四日目……まだ助け、来ないね……」

甘奈「そっか……もうそんなになるんだ……」

恋鐘「昨日モノクマーズが言うとったことが気になるばい……警察の人たちは本当に助けに来んとやろか?」

夏葉「連絡を取るための手段も取り上げられてしまっているし、外の状況もわからない……苦しい状況ね」

樹里「……いや、気を強く持て! 絶対に助けは来るって!」


【おはっくま~~~~~!!!!!】


モノスケ「性懲りも無く現実逃避に励んどるところ、お邪魔するでー!」

モノタロウ「現実から目を背けちゃダメだ! 今こそオイラたちは現実に向き合うべきなんだ!」

モノキッド「それこそがキサマラのユア・ストーリーなんだ!」

甜花「やだ……甜花はビアンカかフローラかで、ずっと悩んでいたい……!」

(……何の話?)

モノファニー「今日はキサマラにとっておきの情報があってやってきたのよ!」

モノスケ「アツアツドキドキのスペシャルなプレゼントや! 耳の穴ほじくり返してよう聞きや!」

にちか「とっておきの情報……?」

連中がほくそ笑みながら言い出している時点でどう考えても碌な情報でないことは明らかだ。
まあ、ぬいぐるみに表情の機微など無いのだけれど。


モノタロウ「さっきそこのお姉さんも言ってたけど、今日でキサマラが才囚学園に来てから丸四日になるんだよ! わーい!」

モノキッド「あのな……遅いんだよ! 遅すぎてあくびがでちまうぜッ!」

灯織「お、遅い……?」

モノキッド「さっさと一人でも二人でもぶっ殺しちまえってんだッ! せっかくのコロシアイなのに日和見すぎだぜッ!」

(……っ!)

ルカ「誰が……! 誰がコロシアイなんかしてたまるかよ!」

モノタロウ「わわわ! お、怒らないで! オイラたちは別にそのことで文句を言いに来たわけじゃないんだ!」

樹里「もう文句は言われたけどな……」

モノファニー「お父ちゃんが、そんなゆっくりスローペース50CCなキサマラのお尻を叩きにやってきてくれるのよ!」

真乃「それって……つまり……」


バビューン!!!


モノクマ「はいはい! 呼ばれて飛び出てジャバザハット〜〜〜!」

めぐる「わー! ま、またどこからともなくモノクマが現れたよー!」


モノクマ「話は聞かせてもらったよ! せっかくのコロシアイなのに、中々勇気が振り絞れない! 中々その一歩が踏み出せない! そんなお悩みですね?」

円香「誰もそんなこと言ってないし」

恋鐘「そっちが一方的にふっかけとるとやろ〜!」

モノクマ「そんな思春期のお悩み、ボクもよくわかります。最初の一歩を踏み出す時は、足がすくんだものでした」

モノクマ「だけど、一歩さえ踏み出せてしまえなあとは楽々! 坂道を駆け下りるようにどんどんコロシアイの連鎖に引き込まれちゃんます!」

灯織「それで、私たちに何の情報を渡すつもりなんですか?」

モノクマ「【動機】だよ」

にちか「ど、動機……?」

モノタロウ「過労死ラインの残業でもだんまりの役に立たない組織?」

モノスケ「それは労基や!」

モノファニー「じゃあ、営業が現場の状況を無視して取り付けてくる約束のことかしら?」

モノスケ「それは納期やっちゅーねん!」


モノクマ「そうだよね、オマエラはのこのこ温室育ちで人が人を殺すという現場に出会したこともないんだ。そりゃその一歩を踏み出すのも躊躇うってものだよね」

モノクマ「おっかしい! 地球の裏側では生まれて間もない子供が大人の仕掛けた爆弾で命を落としてるのに、まるで自分たちには生き死には関係ないですって顔してるんだもん!」

夏葉「……それは論点のすり替えよ」

霧子「そんな人たちが少しでも減ってほしいと、いつも私たちは願っています……」

モノクマ「まあそれはそれとして、オマエラが人を殺す上でハードルになっているものは何かをボクなりに考えてみました!」

モノクマ「それはずばり未知! 人を殺すってどうなんだろう? 学級裁判ってどうなんだろう? まだ経験したことがないことに飛び込むのは怖いもんね!」

モノクマ「なので、今回だけの特別サービス!」

モノクマ「ずばり、【コロシアイお試しキャンペーン】を開催します!」


モノクマ「これから最初に起きた殺人事件に関して、学級裁判でクロになった人はクロだとバレてしまった場合でも【おしおきを免除】されます!」


モノクマ「更に、もし学級裁判で他のシロを騙し抜くことに成功した場合は……そのまま【卒業もできちゃいます】!」


モノクマ「その場合でも他の【シロ全員のおしおきは免除】! クロもシロも傷つかない、まさに【学級裁判のチュートリアルモード】というわけなのです!」


モノクマ「ほら、このコロシアイって色々と工程があってめんどいじゃん? とりあえず一回通しでやってみれば要領もわかるようになるってもんだよ」

モノタロウ「習うより慣れろってやつだね! オイラこのことわざを知ってから全部説明書は破り捨てることにしてるんだ!」

モノスケ「保証書と領収書も併せてシュレッダーにかけとるで!」

夏葉「ふざけないでちょうだい!」

モノクマ「ん?」

夏葉「何が誰も傷つかない学級裁判よ……殺人事件が起きている時点でそんなの、矛盾しているじゃない!」

モノファニー「おっとこれは明確な矛盾を築かれてしまったわね、お父ちゃんはどう切り返すのかしら」

モノタロウ「お父ちゃん! キレキレの弁舌で切り返して見せてよ!」

モノクマ「あわわわわわわわわ」

モノファニー「大変! 泡を吹いてるわ!」

モノスケ「アカン、お父やんはレスバが弱すぎるんや! 毎度毎度飛行機を飛ばして対処しとるから、正面からの問答には向いてへんねや!」

モノクマ「……イワレテミタラソッ!」

バビューン!!

モノタロウ「わー! お父ちゃんが逃げたー!」


透「最後の捨て台詞何?」

ルカ「言われてみたらそう……どこまでも舐め腐ってんな」

モノスケ「まあそういうことや、コロシアイは今が始めどきってことやな」

モノキッド「スタートダッシュでライバルに差をつけろ!」

モノタロウ「今なら確定チケットももらえる!」

モノファニー「おしおきがなくなるならグロくならなくていいわ。ずっとこのままでいいのに」

モノダム「……」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


にちか「行っちゃいましたね……」

モノクマからの動機の提示。
コロシアイが発生しない膠着状態の私たちに刺激を与える意味で提示されたおしおき免除の条件。
確かに犯行に伴うリスクはこれで取っ払われるわけだけど……


凛世「少し、拍子抜け致しましたね……」

甘奈「だね〜、コロシアイをもっと強要するような方法で来るのかと思ったけどこれなら心配しなくて良さそう!」

樹里「どこまでもおちょくってやがんな……学級裁判のおしおきがなくなるだ? そんなもんでアタシたちが靡くと思ったら大間違いだよ」

愛依「そもそもで人を殺す……とかマジで無理だしね」

真乃「とりあえずは安心してよさそうですね……!」

モノクマの揺さぶりは私たちにはまるで通じていなかった。
大前提において自分で誰かを手にかけるということがあまりにも現実味がなさすぎるため、その先の学級裁判なんて頭にほとんどなかったくらいだ。
みんなモノクマが去った後はあっけらかんとした様子で談笑をしていたし、私も気を緩めていた。

ルカ「……」

ただ隣のルカさんだけは、考え込む動作をしていたのが気になったけど。


そのまま朝食会はいつも通りに進み、食べ終わった人から食道を後にした。私とルカさんは意図的にゆっくりに食べ進め、最後に残った。
二人だけになったのを確かめると、ルカさんは私の近くに寄った。

ルカ「……もう、あんまり余裕はないかもしれねえな」

にちか「……えっ?」

ルカ「膠着状態に向こうが痺れを切らし始めた……やばい兆候だよ」

にちか「それって動機のことです? いやでも、おしおきの免除とか、正直それだけで何か変わりはしないでしょって思いますけど」

ルカ「それだけなら、な」

にちか「……え?」

ルカ「これで終わりだとは思えないんだよ。オマエも見ただろ、あのバカでかいロボット」

ルカさんが言ってるのは多分エグイサルのことだ。
体育館で姿を見せて以降は学園の整備のためにずっと稼働しているようだけど、あれは元々武力兵器の触れ込みだったはず。


ルカ「あいつらは私たちを簡単に蹂躙するぐらいの力は持ってる。コロシアイが起きない状態が続けば、危険が身に及ぶ可能性だって十分にある」

にちか「そ、そんな……!」

ルカ「……今のうちに対抗手段は考えておくべきかもしれないな」

にちか「そ、そんなの無茶ですって! 私たちであんなロボットにどう立ち向かえばいいんですか!」

私がルカさんの裾を取って泣き縋るようにして叫ぶと、キョトンとした顔をされた。
目を丸くして私をしばらく見た後、吹き出して笑う。

ルカ「アハハ、ちげーよ。戦うわけじゃない。私たちの基本方針を忘れたか? 基本はここから安全に脱出すること、だろ?」

にちか「あ、あはは……そっか、そうですよね」

ルカ「そのためにはまず学園の謎を解くことだ。この学園の真相に近づく情報を少しでも集めたい……それで、【オマエに見せたいもの】があるんだ」

にちか「見せたいもの……ですか?」

ルカ「ああ……ついてこい」

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【1F 女子トイレ】

ルカさんに連れられてやってきたのは女子トイレ。
個室が三つ並んで、後は掃除用具入れと手洗い場のごくごく普通の女子トイレ。
ここに一体何の用事があるというのだろう。

ルカ「そんな警戒すんなよ」

……なんとなくルカさんの容姿でこの場所だと詰められそうな感じがする。

ルカ「にちか、オマエを信頼できる相手だと見込んでの話だ。ここから先のことは口外禁止で頼む」

にちか「は、はぁ……」

口外禁止という重い言葉を浅い覚悟で飲み下す。
私が一応は首を縦に振るのを認めると、ルカさんはそのまま、女子トイレの用具入れの壁に右手をついた。
すると、そのまま……



ズズズズ……



壁は扉のように動いて、真っ暗な空間が姿を現した。

にちか「え、えええっ?!」

ルカ「シッ! 大きい声出すな! まだ他の誰にも話しちゃねーんだ、落ち着いてくれ」

にちか「は、はい……」

ルカ「いくぞ……ついてきな」

少し屈みながら、突如として現れた空間の中へルカさんは突き進んでいく。
何が起きているのかわからず動転している私は、ただ彼女の後ろに続くしかなかった。

中の空間はわずかな照明が点るコンクリートの通路だった。窓も何もなく、ただのっぺりとした道が続く。
歩いた感触で唯一わかるのは、少しこの道には傾斜がついている。緩やかながら、少しずつ、少しずつ下っている。
道を何度か曲がるようにして、先の見えぬ闇を下っていくと、また開けたところに出た。


------------------------------------------------
【???】

にちか「こ、ここは……?」

明らかに異質だった。
立ち入れた瞬間に、本能が全身の毛を逆立たせるほどに充満している悪意。
だがそれは今まさに精製されているものではなく、嘗てここに在ったであろう何かないしは何者かの残滓だ。

ルカ「さあな、今は使われていない部屋みたいだけど……こいつをみればその持ち主がクソッタレだったことは窺い知れんだろ」

そう言ってルカさんは部屋の一角に備えられた巨大な機械のガラス部分を手の甲でコンコンと叩いた。
ガラスの中には何かが沈んでいる。中の照明が落ちているし、機械自体にも電源が入っておらず故障している様子だ。

にちか「そ、それって何です……?」

促されるまま、近づいていく。
一歩一歩踏みしめるごとに喉が締められるような閉塞感を感じながら。

にちか「いやまさかそんなわけ……」

黒と白が目に入る。
直感が脳髄をチクリと刺した。



にちか「……なん、で」



予感が現実に変わった時、膝から力が抜け落ちるようだった。
私たちにとっての絶望の象徴、【モノクマの巨大な頭部】が闇の中に沈んでいたのである。


にちか「な、なんなんですかこれ?!」

ルカ「……わからねえ」

肘を抱き寄せるようにしているルカさんは苦々しそうにそう返した。

ルカ「この部屋の正体も、こいつの正体も何もかもわからねえ。隅々まで探しては見たんだけど、何かに繋がる証拠もなかったよ」

ルカさんのいう通り。これほどの悪意を充満させていながらも、私が歩みを進めることができたのはその空虚さに由来する。
何かが並んでいたであろう棚はもぬけの殻だし、ゴミ箱を除けば得体の知れぬ砲丸が一つ転がるだけ。
後は喋りもしない、反応もしないモノクマの巨大な頭部の乗っかった機械が一つ。

ルカ「これを見つけたのはつい昨日のことだ。トイレで用を足してる時に偶然な」

ルカ「私が入った時にはもうこの状態……多分、私たちがこの学園に来る以前からこうだったんだと思う」

にちか「ですね……棚に埃が溜まってますし」

ルカ「だけど……私たちの前に姿を現してるモノクマたちとこれが無関係だとは流石に思えない」

ルカ「このデカいモノクマが……何か真実を握ってるんじゃないのか?」

にちか「これが……ルカさんが私に話したかったこと」

ルカ「ああ、それと……もう一つ」

にちか「もう一つ?」






ルカ「私は、このモノクマの入ってる機械を修理したいと思ってる」





にちか「……は?」


にちか「え、は、な、何言ってるんですか?! こんなの、どう考えても敵の道具ですよ?! それを直すって……」

ルカ「だからこそだよ、この機械はまず間違いなく私たちの知らない情報を握ってる。それが私たちにとって有利になるものか不利になるものかはわからないけどな」

にちか「いやでも、こんなの治し方もなにも分からないんじゃ……」

ルカ「その点は安心しろ。ほら……これ」

ルカさんは少し屈んで、配電盤を開いて見せた。

ルカ「他に目立った損傷はないけど……ここにあっただろう【五本のケーブル】だけ無くなっちまってる。この代替品が見つかれば多分電気が通るはずだ」

確かにこの部屋自体に電気は通っているし、ルカさんのいう通り目立った破損はない。
専門的な話は分からないが、ここに当てはまるケーブルを付け直すという方法が一つの解であるような気はする。


ルカ「ひとまず今は倉庫を漁ってるんだが、何しろあそこも膨大な数があるからさ。まだ全部は見れてないんだ」

にちか「それを……手伝えってことです?」

ルカ「ああ……悪いんだけど、頼めないか! にちか、オマエしかいないんだよ!」

にちか「……」

どうなんだろう。
私にはこのモノクマを起動することがパンドラの箱を開けることと同義にしか思えない。
でも、パンドラの箱を開けた結果に最後に残るのは小さな希望だ。
脱出という希望を掴むためなら、災厄の奔流に一度身をまかす必要もあるのかも知れない。


……生唾を一つ飲み込んだ。


にちか「……わかりました、やります。やりますよ」

ルカ「……ホントか!」

正直なところ、現実逃避できるところを探していたところはある。
この学校に来てから感じることになった身の危機や他の人と比べた時の劣等感。
そういうのに思考が堂々巡りになりがちな今、誰かのために時間と思考を捧げられるタスクは都合が良かった。
ルカさんは依存先の、とりあえずの依代としてちょうど良かったのである。


ルカ「サンキュー……にちか、オマエならそう言ってくれると思ってたよ」

にちか「アハハ、ルカさんにそう言われると弱いです!」

ルカ「おっし……それじゃあ必要になるのは【SHU-1ケーブル】【YM2ケーブル】【HR-MKケーブル】【K-Bケーブル】【SG-TMケーブル】の5種類だ。これを探すぞ」

にちか「了解です!」

ルカ「あ……忘れてた。それともう一つ。伝えとくことがあるんだが……」

にちか「ん? なんです?」

ルカさんはすくりと立ち上がるとそのままスタスタと部屋の反対へ。
モノクマの頭部に向き合うような形で部屋には扉が取り付けられていた。

ルカ「ここから外に出れるんだ」

にちか「外……ですか?」

ルカ「といっても流石に学園の中だ。まあ隠し通路みたいなもんとイメージしとけばいいさ」

にちか「はぁ……」

ルカさんは扉の横に取り付けられたボタンに手をかざす。
壁の向こうからゴゴゴゴと低く唸るような音がしたかと思うと、視界がだんだんと開けていった。


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【B1F 図書室】

にちか「こ、ここって……」

ルカ「ああ、地下の図書室だよ」

どうやら図書室の奥側の本棚の一角が動く仕掛けになっているらしく、裏の壁に隠された扉から出入りが可能みたいだ。
こんなの、初めに入った時はまるで気づかなかった。

ルカ「ったく隠し部屋なんてどこの魔法学校だって話だよな」

にちか「びびった……こんなん初めて見ましたよ」

私たちが扉から離れてしばらくすると、自動で本棚は閉まっていった。
これで普段はカモフラージュしているのだろう。

にちか「これ、図書室側から行くこともできるんですか?」

ルカ「あー……ちょっと待ってな」

ルカさんは動作した本棚に並んだ本をしばらく見比べてから、収められた辞典の一つを強く押し仕込んだ。

ゴゴゴゴ……

するとまた地響きのような音がして、本棚が動きだし、すぐに先ほどの扉が姿を現した。


にちか「……あれ?」

ただ、その扉には一つの違和感。

ルカ「そうなんだよ。こっち側から入るには【カードキーがいる】みたいなんだ」

先ほどの隠し部屋側ではボタンがあった位置に、今度はカードリーダーのような機械が取り付けられていたのである。

ルカ「当然私たちはこんなカードキーなんか持っちゃいない。こっちから入るのは不可能ってことだな」

にちか「一方通行の隠し通路……ですか」

ルカ「ああ、だから図書室側から入ることは基本的にないな」

どっち側からも行き来できたら何かに使えるかと思ったけど、これならあの隠し部屋に行く以外の用途はあまりなさそうだ。
私たちが扉から離れると、またしばらくして本棚が自動で動いて蓋がされた。
これでもう他の誰にも気づかれない。

ルカ「今の所ここに気付いてるのは私とにちかだけのはずだ……不用意に情報を振り撒くのも良くない気がするしな」

にちか「ですね……あのモノクマの頭とか……それを直そうとしてるとかってのは伏せた方が良さげです」


ルカ「にちか……急にこんなことを背負い込ませて悪いな」

にちか「い、いえ! むしろ私にだけ明かしてくれたのってなんかすごい嬉しいかもです! ルカさんが私を信頼してくれた証なのかなって思うと!」

やばい、急にルカさんに笑顔を向けられてテンパってしまった。
口から飛び出した不恰好な本心を慌てて両手で押さえ込む。

ルカ「いや、その通りだよ」

にちか「……!」

ルカ「正直さ……私、目が覚めてからずっと怖いんだよ。こんな訳のわからない状況で、コロシアイだのなんだの言われて……ずっと震えてるんだ」

にちか「ルカさん……」

ルカ「それでも前を向こうって思えたのは私を頼ってくれるオマエがいたからなんだよ」


ルカ「オマエの期待に応えてやりたい……それが今の原動力だ」


驚いた。
ルカさん自身の震えには気付いてはいたけど、そこまで私のことも思ってくれていたなんて。
私がルカさんのことを頼りにして、ようやっと立っている。
そんな一方的で無責任な思慕だとばかり思っていた。

でも、そうじゃなかった。
ルカさんだって等身大の女の子で、等身大に怯えて、等身大に震えている。
それでも私の前に立っているのは、私が後ろからルカさんのことを見続けているから。

ルカ「……なんてな」

ルカさんの口から、私という存在を必要とされていることが出たことが存外嬉しくて、私は思わず手を打った。

にちか「ルカさん……絶対、生きて帰りましょうね」

にちか「私も、ルカさんも……みんなも連れて!」

ルカ「ハッ……当たり前」

私とルカさんはそこで一旦別れて部屋に戻ることになった。
倉庫でケーブルを探すのは時間が空いたタイミングを見つけながらでいいと言っていた。
次の自由時間なんかで行ってみてもいいかもしれないな。

【にちかの部屋】

部屋に帰ってからも、口の中に押し込んだ秘密が溢れだしそうで、あたふたしていた。
ルカさんのためにケーブルを探す。その目的を得たのも一つ大きな収穫だった。
誰も存在を知らなかった隠し通路というだけで大興奮なのに、その秘密を共有しているのがあのルカさんなのだからしょうがないのだけど。

部屋に戻るなりすぐに蛇口をひねって、水道水を喉の奥に流し込んだ。
誰かに話してやりたいという衝動を飲み下して、一生懸命落ち着きを取り戻した。

さて、他の人に怪しまれないように日中は平然を過ごさなくちゃいけないよね。
まだ今日は朝ご飯を食べて少し経っただけ、今日という一日はまだ続くのだから。

どうしようかな……?

【自由行動開始】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1

1愛依 選択

【中庭】

にちか「あ、愛依さん。こんなところで何してるんですか?」

愛依「あ、にちかちゃんじゃん。いや、何してるってわけでもないんだけどなんか落ち着かなくてさ……アハハ」

にちか「さっきの動機の話ですか?」

愛依「うん……いや、あんなの真に受けて行動する子なんていないとは思うんだけどさ……」

愛依「あの話聞いてると、うちらにコロシアイが要求されてるのはマジなんだなって認識するっていうか……」

にちか「……」

愛依「ご、ごめんね! こんなマイナスなこと口にしてもしゃーないもんね!?」

にちか「いや、大丈夫です。私も色々と溜まってるので、ここらでぶちまけあいましょうよ。そんですっきりしちゃいましょ!」

愛依「にちかちゃん……」

愛依さんと一緒にこのコロシアイにおける漠然とした不安を言葉にし合って過ごした……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1


【絵本作家ですのよを渡した……】

愛依「こ、これ……! マジ?! もらっていいの!?」

にちか「え、あ、はい……なんか起動するたび新しい絵本を自動で生成してくれる機械なんですけど……」

愛依「うわ~、めっちゃ助かるわ~! 毎晩夜の読み聞かせの時の絵本に困ってたんだよね! なんだかんだいっつも同じ絵本になっちゃいがちだし、コンマリ?打破できそうでいい感じ!」

にちか「マンネリのことですかね……」

愛依「マジサンキュー、にちかちゃん!」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

------------------------------------------------
にちか「そういえば愛依さんって兄弟がいらっしゃるんですよね?」

愛依「うん、そーだよ? 上にお姉とお兄がいて、そんで下には弟と妹が一人ずつ!」

にちか「えっ、めっちゃ大家族じゃないですか?! すご!?」

愛依「にちかちゃんのとこは、お姉ちゃんが一人だっけ」

にちか「いや、はい……え、嫌じゃないですか? そんなに兄弟いるのって」

愛依「イヤ……?」

にちか「ほら、うちの姉とかめっちゃデリカシーもプライバシーもないんですよ! こっちが部屋で友達と話しててもお構いなしに扉開けて『晩御飯よ~』してくるし!」

にちか「私の選んで使ってるヘアコンディショナーとかも何の断りなしに使ってくるんですよ!? 家庭内の侵略者、ドメスティックインベーダーですよあんなの!」

愛依「アハハ、なんかにちかちゃんの家も賑やかそうだね~」

にちか「笑い事じゃないです!」

愛依「でもうちもおんなじ。ほら、うちってちょうど真ん中だからお兄とお姉は何かと頼みごとをしやすい相手だし、弟と妹はちょうどいい遊び相手だと思ってる」

愛依「それでいったら家にいるときの一人の時間なんてめっちゃ少ないかもね」

にちか「ほら~! しんどいじゃないですか~!」

愛依「でも、うちからすればその時間もかけがえのないもんだからさ」

愛依「だって、その人と一緒に過ごす時間ってここから先の未来でも得られるかわかんないじゃん? 今こうやって一緒にいるキセキがあるからこそのもんじゃん?」

愛依「だから、うちは家族と一緒に居られる今が……すごく大好きで、すごく大切なんだよね」

にちか「……この学校、出なくちゃですね」

愛依「うん! お互い家族たちが待ってるもんね!」

(……お互い、か)

------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【愛依の現在の親愛度…3.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…16個】

【にちかの部屋】

愛依さん、本当に家族のことを大切に思ってるんだな。
ずっと話してる最中も笑顔を絶やさなかったし、一言も悪口なんて言わなかった。
それどころか私がお姉ちゃんの陰口をいってもニコニコしてて……

なんか、家族というものの理想像が愛依さんの中では確固たる明確なビジョンがあるんだろうな。

はぁ……私はそこまでまっすぐにお姉ちゃんのことを想えないよ。

【自由行動開始】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…16個】

↓1

1 愛依 選択

【愛依の個室】

ピンポーン

愛依「あれ、にちかちゃんさっきぶりじゃん。今日はなんかよく会うね」

にちか「えへへ……すみません、お邪魔じゃなければ一緒にお菓子でも食べませんか?」

愛依「おっ、いいね~! ちょうどうちも小腹が空いてたとこだったんだよね」

にちか「やった~! 倉庫からなんとなく見繕ってきたんですけどこれ、どうですか?」

愛依「ん~……おっ、いいじゃんいいじゃん! 酢昆布にあたりめもあるんだ!」

(よかった……もしやと思ったけど、お菓子の好みも割とおばあちゃんテイストだったんだ)

愛依さんと二人でお菓子を食べて過ごした……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1

【お助けヤッチーくんを渡した……】

愛依「なんこれ……で、でっかいシャチ?」

にちか「なんか、困ったことを聞くとなんでも応えてくれる……らしいですよ?」

愛依「え? この子に……言えばいい系?」

にちか「た、多分……」

愛依「あー……こ、ここから出してくれませんか~?」

ヤッチー『……』

にちか「な、なんなのこいつ……なんも動かないじゃん」

愛依「あ、アハハ……なんか元ネタあんのかもしんないけど、うち分かんないわ!」

(なんかこのシャチ……どっかで見たことはあるんだけどな~……)

(まあ、普通に喜んではくれたかな)

【NORMAL COMMUNICATION】

-------------------------------------------------

愛依さんと一緒に過ごした時間もそれなりになったけど、やっぱりそのたびに違和感は拭えずにむしろ増していくばかりで……
この人の才能が、【超研究生級の書道部】であるという違和感。
そろそろ真正面からぶつけてみてもいいかな。

にちか「あ、あの……愛依さん……実際、その……書道ってどれくらいの腕前なんですか?」

愛依「え? あ~……もしかして、一緒に過ごすうちになんか自信なくなっちゃったカンジ? そりゃそうだよね~! うちでもぱっと見書道できそうな子には見えないと思うし!」

にちか「あ、いや、そういうわけじゃ……あの、すみません!」

愛依「いいって、いいって! そうだ、せっかくうちの部屋に来てくれてるんだしなんか書いたげるよ」

そう言うと愛依さんは慣れた手つきで部屋の床に下敷きと長半紙を広げ、硯に炭を落とした。デスクの棚からは、なにやら上等そうな筆まで飛び出してきた。

愛依「なんか好きな言葉とかある?」

にちか「す、好きな言葉ですか……? つ、【詰め放題】……?」

愛依「おっけ、任せといて!」

私の適当な言葉に首をブンと縦に振って承諾を表すと、そのままさらさらと筆を走らせてあっという間に一つ作品は出来上がってしまった。

愛依「うい! こんな感じ……どーよ!」

……すごい。
極めて俗的な言葉を書いてもらったはずなのに、力強くもその形を崩していない、繊細な筆さばきで描かれた文字は一つの作品として完成を見ていた。
趣味でやっている……なんて言葉に甘んじない、確かな経験と実力が作品の裏に滲み出ていた。

にちか「す、すごい……御見それしました。正直愛依さんの事、侮ってたかもです」

愛依「アハハ、まあしょうがないけどね~。でも、まあまあいけるっしょ? うちなりには上手く書けたと思ってるんだけど」

にちか「上手いです。少なくとも、うちのクラスの誰よりも。保証します」

愛依「えへへ、サンキュね」

にちか「ただ一つ惜しいのは……漢字が違います」

愛依「……え?」

にちか「これじゃ【詰め放題】じゃなくて【読め放題】になってます。電子書籍の期間限定キャンペーン広告みたいになってますんで」

愛依「やっば! マジはず!!!」

いつもと違う一面を見て驚嘆してしまったけど、このどこか抜けてる感じは私の良く知る愛依さんのままだな、と思った。
才能なんて言葉で人の魅力はひとくくりにできないよね。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【愛依の現在の親愛度…5.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…17個】

------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノキッド『ミーが、ミーが悪かったんだ……こんなはちみつなんかで自分を見失っちまって……』

モノファニー『いいのよ、アタイたちは家族じゃない。どんなにモノキッドが荒れてしまっても、アタイたちは支えあっていけるわ』

モノスケ『はちみつに含まれる化学物質は暴力衝動を3割増しにするって論文もあるからな。悪いのはモノキッドだけやない、この世界を作りたまいし主にも罪があるんや!』

モノタロウ『ねえねえ、オイラもはちみつ舐めてみてもいい~?』

モノダム『……』

プツン

なんか今日は色々なことが起きて疲れちゃったな。
モノクマの提示してきた動機……あれに今の状況を大きく変えるような効果はないだろうけど、ルカさんの言っていた懸念には納得がいく。
今はおしおきの免除で留まっていても、いつ別の手段を取ってくるか分からない。
何がきても立ち向かえるような対抗手段を持っていかないといけないんだ。

……私なんかが、そんなことできるのかな。







そして、そんな私の危惧は現実のものになる。






本日はここまで。
安価にご参加いただきありがとうございました。
今日で少しお話を進めることができましたね。

自由行動をあと少し挟んだらいよいよ事件発生です。
是非学級裁判までお付き合いください。

明日6月8日21時~更新予定です。
またよろしくお願いします。

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【School Life Day5】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『うぅ……頭がガンガンするよ……』

モノファニー『モノタロウにはモノキッドのはちみつは刺激が強すぎたのよ……』

モノスケ『モノキッドのは純度が高すぎるからな! 常人ならべろべろのぶちゃぶちゃになってまうで!』

モノキッド『ビンビンだぜッ!』

モノダム『……』

プツン

ピンポーン

モノクマーズの放送の直後、インターホンが鳴って慌てて飛び起きる。
昨日の今日だ、ルカさんから何か話があるのかも知れない。
急いで私は扉を開けて来客を出迎えた。



あさひ「おはようっす! にちかちゃん!」



にちか「……芹沢さん?」


そこにいたのは、意外な人物だった。

にちか「どうしたの、私に用事?」

あさひ「はいっす! にちかちゃんに一つ、聞きたいことがあるんっすけど、今いいっすか?」

にちか「え? うん……」





あさひ「昨日、朝ごはんの後……どこ行ってたんっすか?」





にちか「……え?」

あさひ「なんか昨日やけに食べるのが遅いなーって思ってたんっすけど、その後ルカさんと二人でどこかに行ってたっすよね?」

あさひ「女子トイレ……だったと思うんっすけど、その後見失っちゃったみたいで」

(尾行られてたのか……!)

瞬間、ルカさんと交わした口外禁止の約束が脳裏によぎる。
こんな揺さぶりでうっかり口を滑らせるわけにはいかない。
真っ白になりかける頭を努めて引き起こし、なんとか言い訳を考える。


にちか「あー……昨日はなんだかお腹の調子が悪くて、それでルカさんに介抱してもらってたんだ」

あさひ「ふーん……じゃあ、トイレの後は寄宿舎っすか!」

にちか「そ、そうそう! 私、食あたりしちゃったみたいなんだよね」

あさひ「今日は元気そうっすね!」

にちか「あ、うん。一日経ったら落ち着いた感じでね……」

慣れないでまかせに、つい表情がぎこちなくなっているのを感じる。
でも、ここは引けない、決壊するわけにはいかないんだ。

あさひ「……」

これが事実だ、これ以上のものはない。
そう念じながら芹沢さんの目をじっと見つめた。

あさひ「了解っす! 気になってたんで、分かってスッキリしたっす!」

あさひ「にちかちゃんもスッキリしたみたいでよかったっす!」

にちか「あ、あはは……あんまり言いふらさないでね……」

パタタタ……

にちか「い、行ったか……」

ふぅ、とりあえず凌げたみたい。
……秘密を抱えるのも楽じゃないな。

さて、とりあえずは朝食会だね。
改めて準備を整えたら、向かわないと。






あさひ「……本当のこと、話してくれなかったなー」




------------------------------------------------
【食堂】

にちか「お、おはようございます!」

凛世「にちかさん、おはようございます……」

凛世「……? 何か、お困りごとですか……?」

にちか「え、ナ、ナンデ? ソンナコトナイデスヨ?」

凛世「……は、はぁ」

秘密は秘密、鉄仮面でいるぞと意思を固めながら扉を開く。
一斉に向けられる視線に不必要な怯みを感じつつも、平然を装って席へ。

ルカ「……オマエ、もうちょっと上手くやりなよ」

にちか「うぅ……すみません」

ルカ「ま、いいけどよ」

隣に座るルカさんには小突かれてしまった。
そんなに顔に出ちゃってるかな……

あさひ「……」



透「全員揃ってるね、いい感じじゃん」

霧子「うん……昨日の動機も、心配なかったみたい……」

めぐる「当たり前だよ! 何があっても、他の誰かを殺すなんて……ぜったいにダメだもん!」

恋鐘「状況はなんも変わらん! うちらはうちらで、ずっと仲良くしとけばよかともん!」

円香「状況が変わらない……助けが来ないのもそうですね」

甘奈「うーん……甘奈たちがいなくなったこと、ニュースにはなってる……よね」

甜花「最近、戦争とかのニュースも多いし……甜花たちのこと、埋もれちゃってたり……」

樹里「大丈夫だ、モノクマーズはあんなこと言ってたけどちゃんと警察も動いてるって」

真乃「……灯織ちゃん?」

灯織「いや……今私たちがいる、この才囚学園がたとえば国外だったら日本の警察は手の出しようもないなって」

恋鐘「か、海外〜〜〜?!」

灯織「可能性としてない訳じゃないですよね。国内だとしても地図にも載っていないような小さな島だったりとか……」

恋鐘「そ、そがん怖いことばっか言わんとって〜!」

灯織「あ、す、すみません……」


バビューン!!
【おはっくま~~~~~!!!!】



モノクマ「私はなぜここにいるのか……」

モノクマ「誰が私を産めと頼んだ……」

モノクマ「そりゃもう世界が頼んだに決まってるよね! ボクみたいな愛されキャラがいない世界なんて、トンカツ抜きのカツカレーだもん!」

愛依「ふつーにカレーはカレーでいいじゃん……?」

モノタロウ「ねえねえ! なんでオイラたちは産まれたの! お父ちゃん、教えてよ!」

モノクマ「おっと……ここから先は保健体育の授業になっちゃうね。スタンダップ! 男子はみんな別の部屋でビデオを見てもらうから、退室してね」

真乃「ここには女の子しかいません……っ!」

にちか「それより、何しにきたの!? 昨日動機の提示はしたばっかりでしょ?!」

モノクマ「うんうん、それなんだけどね?」

モノクマ「なんでオマエラあれだけの好条件を示されておきながら誰も行動に移せない訳?!」

モノクマ「令和世代のもじもじくんの集まりか! 青春の吹き溜まりの寄せ集めか!」

モノスケ「もう【お父やんの堪忍袋も尾が切れた】っちゅーことや」

(……こ、これってルカさんの言ってた通り)

ルカ「……ヤベェな」

モノクマ「もうね、あんまりチンタラやってるとこっちも危ういのでね。時を進めさせていただきますよ!」




モノクマ「コロシアイにタイムリミットを設けます!」


モノクマ「タイムリミットは【明日の夜時間】! それまでにコロシアイが起きなければ、殺し合いに参加させられている生徒は【全員殺処分】!」


モノクマ「モノクマーズの操るエグイサルを総動員してオマエラをスクラップにしちゃうよ〜!」




モノキッド「エグイサルで鷲掴みにして口から内臓をデロデロ吐かせてやるぜ!」

モノスケ「踏みつけて轢かれたカエルみたいにしてやってもええな!」

モノファニー「うぅ……想像しただけでグロいわ」

モノファニー「でろでろでろでろ……」

モノタロウ「わー! モノファニーが黄色のゲロを吐いた! 黄色のゲロは危険信号だよ!」

モノスケ「キサマラの身に危険が差し迫っっとるっちゅうことやな」

……最悪だ。
私たちは脱出への糸口もまだ何もつかめちゃいない。
ルカさんが昨日見せてくれた部屋だって、何の意味があるのかまだ何も見えていない。
それなのに、明日の夜までに誰かを殺さないと、私たち全員が死んでしまうだなんて……



こんなの、どうしようもないじゃん……!!



樹里「ざっけんな……! こんなのコロシアイの強要じゃねーか、話がちげーぞ!」

モノクマ「オマエラの自主性を信じていたんだけどね、ぼかぁ残念で仕方ないよ」

モノクマ「なんたって、コロシアイは新鮮さが命だからね! 一週間近くも何も起きないなんて鮮度が落ちちゃうでしょ!」

透「にしても明日かー」

愛依「やばいやばい……マジでどーすんのこれ」

モノクマ「殺るしかなくね?! てか殺るしかなくね?!」

モノスケ「一応言うとくけど、【昨日発表した動機は継続のまま】や」

モノスケ「一人殺してみんな仲良く生き延びるんがええか、誰も殺せず全員共倒れがええか。答えは火を見るより明らかってやつやな」

モノファニー「どっちみちグロイことには変わりないわ……でろでろでろでろ」

モノタロウ「モノファニーのゲロを見るより明らかだね!」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


連中がさった後、嫌な沈黙が訪れた。
恐れていた最悪の事態がついにやってきてしまった。
はじめの時のように、私たちはお互いに猜疑心の目を向けていた。
もはや自分の身を守るためには誰かを手にかけるほかない……それは間違いないのだから。

____みんながそう確信している中、ただ一人だけが違っていた。




ルカ「待てよ」



ルカ「なんて顔してやがんだ、テメェら……まさか今のモノクマの話を聞いて、誰かを殺さないといけないなんて思っちゃいないよな?」

にちか「ルカさん……?」

ルカ「断言してやる。そんな必要はない。コロシアイなんて……【やらせない】」

夏葉「ルカ……私だってそう思いたいわ。でもこの状況はもう闇雲に主張しているだけじゃどうにもならないのよ」

甜花「誰かが、動いてくれないと……みんな、死んじゃうよ……?」

ルカ「誰がノープランだっつったよ」

(……!)

(まさか、【あの隠し部屋】のこと……?)


ルカ「私にはこの状況を打開できる具体的な考えがある……誰も血を流さないで済むアイデアがな」

真乃「そ、そんなものがあるんですか……?」

めぐる「な、なになに?! どうすればいいの?! 教えて?!」

ルカ「……それは、ちょっと待ってくれ。こっちも準備がいるんだ」

円香「……なんですかそれ、今話せないなんて信用できるとでも?」

ルカ「変なことを言ってるのは重々承知だ。だけど、必ず私がオマエらを助けてやる……だから! 何があっても間違ったことを考えるんじゃねーぞ!」

ルカさんの並ならぬ気迫とその啖呵に、私たちは絶句するほかなかった。
さっきまで頭に纏わりついていた黒く澱んだものも吹き飛ばされてしまった。
今はむしろ頭が真っ白だ。
そんな真っ白な私たちを残して、ルカさんは部屋を出て行ってしまった。

残った私たちは、困惑に喚く。


甜花「ど、どうしよう……行っちゃった……けど」

甘奈「他の誰かを手にかけるなんて……想像できないし、そんなことやらないけど……ルカさんのことをどこまで信じていいのかな」

凛世「明日の夜が期限……猶予はありませんが、何かお考えがおありの様子……」

夏葉「……私は私で対策を練るわ」

樹里「つって、アンタもどうすんだよ。まさか誰かを殺すとか言い出すんじゃないよな?」

夏葉「当然よ、私たちはコロシアイには屈さない。そうなれば、エグイサルの殺戮に対抗する手段が必要になるわ」

愛依「そ、それ……【あいつらと戦う】ってこと?! いやいや、流石に無理じゃね?!」

霧子「そんな、危ないよ……大怪我じゃ済まないかもしれない……」

夏葉「無理を承知でよ。それに、抵抗しなければ待っているのは死……武器を取らず死ぬよりは、私は埃を守って戦うことを選ぶわ」

樹里「……マジか」

灯織「……私は身を隠せるところを探します。流石に戦うのはリスクが高すぎます」

真乃「ひ、灯織ちゃん……」

灯織「……私は一人になったとしても生き延びるから」

ルカさんの言葉に触発されてか、それぞれがそれぞれの方向に動き出す。
コロシアイという方向にベクトルを向けている人こそいないけど、その思惑はどれも平行線で、交わることはない。
私たちは、未曾有の危機を前にして、更にもう一度分離する形となってしまった。

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【にちかの部屋】

明日の夜までの命だって、そんな急に言われても現実味のかけらもないや。
自分の部屋に戻る足取りもなんだか妙にふわふわとしていて夢でも見ているようだった。
残りの時間、みんなはどう過ごすんだろう。

【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…17個】

↓1

1 愛依 選択

【裏庭】

コロシアイのタイムリミットを宣告され、落ち着かない気持ちをどこにやることもできず。
ただソワソワするのを誤魔化すために、部屋の外を出てぶらついていた。
自然と足はあの、マンホールの脱出通路へと向かっていた。
何度挑戦してもクリアできそうにもなかった。
時間が経ったからどうという代物でもない。でも、コロシアイから逃げたいという弱い心が私をあの場所へと駆り立てていた。

愛依「あ、あれ……にちかちゃんも、まさかマンホールの奥にいくカンジ?」

そしてそれは、どうやら愛依さんも同じだったらしく。

にちか「あはは、すっごい奇遇……」

愛依「……やっぱ、不安だもんね。明日までって言われても実感ないし、何かやってないと気も休まらんしさ……」

にちか「……改めてこのマンホールに挑戦したところでこの先をクリアできるとは思ってないんですけどね」

愛依「それ正解だわー……はぁ、マジで萎えんね」

にちか「……下手な挑戦はよしときましょうか、体を痛めつけるだけですし」

私と愛依さんはマンホールへの挑戦を断念し、床に座り込んで話をして過ごした……

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プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1

【ホームプラネットを渡した……】

愛依「これって室内用プラネタリウム……かな?」

にちか「みたいです。ガイドボイスはあの有名声優さんが務められてるとかで!」

愛依「有名声優って誰だろ……あ、この人うち知ってる! 弟の好きな……あの、鬼を狩る侍のアニメにも出てた人だ!」

にちか「さすが、弟さんの趣味の範囲は理解してるんですね!」

愛依「まーね、一緒によく見てるから。でも星、星かぁ~、うちあんま詳しくないんだよね」

愛依「まあちょうどいい勉強の機会かもしんないもんね! ありがと、にちかちゃん!」

(まあ、普通には喜んでくれたかな)

【NORMAL COMMUNICATION】

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愛依さんとこうして並んで話をしていると、嫌でも自覚させられることはある。
それは自らの地味さ加減。陽の光を眩いばかりに反射する艶やかな金髪、健康的な小麦色に日焼けした肌、そして何より溌溂であっけらかんとした喋り口。
曇りの日には姿が見えなくなってしまいそうな見た目をして、ネガティブとフラストレーションをないまぜにしたみたいな口調の私とはもはや対照的ともいえる。

にちか「あの、愛依さんっていつからそうなんですか?」

愛依「『そう』……? 何の話?」

にちか「いや、愛依さんっていっつも明るくて人を引き付ける空気があるっていうか……それに、ファッションとかにもかなり気を遣ってる感じじゃないですか」

にちか「まさにスクールカーストトップ、ピラミッドの先っちょみたいなイメージなんですけど……愛依さんは小さい頃からずっとそうだったんですか?」

愛依「え、そんなことないって! うちなんかどこにでもいる普通の女子高生だよ!? にちかちゃんとなんも変わらんって!」

(なんも変わらんってことはないでしょ……裏か表かぐらいには違うと思うけど)

愛依「それにうちって滅茶苦茶緊張しいだしさ……目立つのとかマジで苦手なんだよ?」

にちか「え……そうなんですか? めっちゃ意外です。もっとこう学園祭でバンドとかやったりしてるもんかと」

愛依「やんないやんない! うち、たくさんの人が見てる前でステージに上がるのとか無理系でさ~! 他の人の視線を感じるとうひゃ~!ってなってすぐ隠れたくなっちゃう」

多分嘘じゃないんだろう。
愛依さんの額にはうっすらと汗がにじんでいた。衆目を集める状況、それをイメージしただけでこれほどまでの緊張を抱いてしまうのだ。あがり症を自称するには十分すぎるほどの証拠だ。

愛依「だからアイドルの研究生とか言われちゃっても全然イメージ湧かないんだよね……むしろなんていうか……怖い?」

にちか「……怖い、ですか」

愛依「うん……ほら、アイドルになるって今まで出会ってきた人たちとは全く違う人たち。しかもこれまでとは比べ物にならないほどたくさんの人たちに見てもらうんだよ?」

愛依「したら、うちが今持ってるキンチョーの数倍、数十倍、いや数千倍はキンチョーしちゃうと思うんだよね」

愛依「そんなの……うち、一人じゃとても耐えられると思えなくてさ」

にちか「愛依さん……」

愛依「ま、アイドルになるなんてあり得ない話だけどね! どうせ今回モノクマーズが言ってるのもただのジョーダンに決まってるっしょ!」

にちか「あはは……そう、ですよね……はは……」

愛依さんは照れ隠しにわざとらしく声をあげて笑っていた。
でも、なんでだろう。愛依さんの口にした『もしも』の話がなんだか異様に寂しくて、胸に引っかかるように感じちゃったのは。
私は自分の胸のしこりに目を向けないようにして、愛想笑いを浮かべていた。

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【親愛度が上昇しました!】

【現在の愛依の親愛度…6.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…18個】

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【にちかの部屋】

愛依さんと別れてから一度自分の部屋に戻った。

……この学園生活の目指す先は、一応『アイドルになること』なんだよね。
その目標の指すところと重責、あんまり考えたこともなかったな。

それにしても愛依さんが上がり症、っていうのはちょっと意外だった。
愛依さんの普段の性格からすれば対照的にも感じたけど、何か理由とかあるのかな……

【自由行動開始】

【事件発生前最後の自由行動です】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…18個】

↓1

1 愛依選択

【寄宿舎 愛依の個室】

ピンポーン

愛依「お、にちかちゃん! さっきは変な話しちゃってごめんね~?」

にちか「いえいえ! あの、むしろさっきの話……愛依さんが差し障りなければもっと詳しく伺いたいと思いまして」

愛依「え~? なんも面白い話とかないよ~?」

にちか「そんなことないです! この学園で一緒に過ごす間柄なので……相手のことが理解できるのなら、その……チャンスは逃したくないなって!」

愛依「にちかちゃん……あんがと! オッケー、それならうち腹決めて話すわ!」

愛依「とりあえず中入って! 煎茶でいい?」

にちか「え、あの、お構いなく!」

愛依「いいのいいの、気にしないで!」

愛依さんの部屋でお茶を淹れてもらった……

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プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【占い用フラワー】

↓1

【生存フラッグを渡した……】

愛依『こ、ここまでか……なあ、悪いが俺の代わりにボスに伝えといてくれないか? こんな俺をここまで面倒見てくれてありがとう、って』

にちか「バーカ、自分の口で伝えろよ……って言いたくなりますね」

愛依「あ、これってそういうお決まりの展開的なやつ?」

にちか「ですね。いわゆる生存フラグってやつです。追い詰められてるやつが自分の死期を悟ってべらべら喋り出すとたいてい生き残りますよね~」

愛依「あー……言えてるかも」

愛依「じゃあこの旗はその願掛け的なやつなんかな……?」

にちか「ですかねー……」

(まあ、普通に喜んでくれたかな)

【NORMAL COMMUNICATION】

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愛依さんは私に湯飲みを手渡すと、どっしりと深くベッドに腰かけた。
一口お茶を口に運んでから、大きな息を吐く。

愛依「……まあ、予告した通り。なんも面白いことは無いんだけどね?」

そんな前ぶりから、愛依さんは過去を語ってくれた。

愛依「うち、小学校の時に劇やったんだ。魔法使いのおばあちゃんに着ているみすぼらしい服を綺麗なドレスに代えてもらうあの童話のやつ」

にちか「ああ……分かります」

愛依「そん時のクラスのみんながね、うちをスイセン?してくれて……うち、劇でちょ~大役任されちゃってさ。それこそ主演みたいな感じだったの」

多分愛依さんは幼少期から華々しかったんだろうし、推薦した子たちの気持ちはよくわかるな。
私だって同じクラスに愛依さんがいたら、大役は譲りたくなっちゃうと思う。

愛依「だから、うちめちゃくちゃ張り切って練習もして、家に帰ってからもお姉に読み合わせ手伝ってもらって、セリフも完璧に空で言えるようにしたんだ」

愛依「でも、いざ本番ってなったら……まるでダメだった」

にちか「え……」


愛依「うち、初めてだったんだよ。家族でもない、友達でもない……全く知らない大人たちに囲まれて何かをするっていうの。知らない大人って言っても友達のお母さんとか、地域のおばあさんとか、別の学年の先生とか、そんな人たちなんだけど」

愛依「でも、うちにはその……評価をしようって目が……怖かった」

愛依さんは肩を縮こまらせて、今まさに怯えているかのようにそう語った。

愛依「ちっちゃい頃の話をいつまで引き摺ってんだ~とはうちも思うんだけどね。なんつーかウマシカ?になっちゃってるみたいで……よくフラッシュバックすんだよね。あの時の景色」

にちか「……多分、トラウマだと思います」

私にも、愛依さんの気持ちはよくわかった。
私も小学校の演劇の時に似たようなことを感じたことがある。
それまでは自分自身がやりたいことをやって、自分が楽しければオッケーだったのに、急に他の誰かに値踏みをされるようになり、その見定めるようないやらしい温度の視線が鬱陶しく感じた。
愛依さんの場合はそれに加えて、周囲の期待があった。クラスのみんながめいさんなら大丈夫、愛依さんならやってくれると無責任に寄せた期待が両肩にのしかかり、結果としてそれを裏切ることになってしまったのも良くなかった。
誰よりも人のいい愛依さんからすれば、矢面に立って何かを為すことはその期待を裏切るトラウマが幾度となく呼び起こされてしまうのだろう。

愛依「ごめんね、やっぱあんま面白くない話だったっしょ?」

にちか「いえ、そんなことないです……聞けて良かったですよ」

愛依「またまた~、にちかちゃんは口が達者だね」

にちか「私も似たような経験ならありますし、その気持ちはよく分かります。愛依さんは……その、このトラウマを乗り越えたいって思ってるんですか?」

愛依「……」

私の問いかけに少し考えこむような動作をしてから、

愛依「わかんない!」

愛依さんはニッと笑った。

愛依「乗り越えないままに、なんとなく今日まで来ちゃったし……実際今どれぐらいの深さでトラウマなんかも分かんないしさ……」

愛依「なんか大きなきっかけでもあれば、違うとは思うんだけど」

(きっかけ……か)

でも、そうだよね。
自分の胸の痛みに向き合うのなんか、そうそうできることじゃない。
そんな『きっかけ』なんて、運命的な出会いでもなきゃ見当たらないものだ。

生憎私たちには……そんな運命は不足している。

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【親愛度が上昇しました!】

【現在の愛依の親愛度…8.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…19個】

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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン…】

モノスケ『なんだかワイまでドキドキしてきたで。せっかちな性分っちゅうのはこんな時に損やな』

モノスケ『おい! 聞いとるんかザコども! キサマラがコロシアイをやらんとワイの不整脈が悪化してまうど!』

モノファニー『あぁ~! ストレスでモノキッドがまたはちみつに手を出しそうになってるわ!』

モノタロウ『画面の前のみんな! dボタンでモノキッドの飲蜜を止めるんだ!』

モノキッド『うぃ~、ひっく』

モノダム『……』

ブツン

自分の部屋に戻ってきて襲ってくる切迫感。
一分一秒と刻むたび自分の命も刻まれていく。
これまでに感じたことのない息苦しさが身を包んだ。

「……気が触れそう」

ピンポーン

そんな時にインターホンが鳴った。


(……ルカさん!)

閉塞感に風穴を開けてくれたようで、一瞬飛びつきかけたが、すぐにベッドの上に座り直した。
考えなしに開けてしまっていいのか?
命のタイムリミットが迫っているのは私だけじゃない、他のみんなだってそうなんだ。
それにモノクマに提示されているおしおき免除。
いつ誰が行動に起こしたっておかしくないんだ。

(ルカさん、なんだよね……?)

そんな私の思考を急かすようにインターホンが止むことなくなり続ける。
扉の向こうにいるのはきっとルカさんなんだろうと思うけど、そうじゃなかったら?
喉のあたりをぬるい汗が伝った。

(ええい、ままよ……!)

ガチャ

ルカ「おせーよ、もっと早く開けな。心配になんだろ」

にちか「ル、ルカさん……すみません」

ルカ「冗談だよ、こんな状況なんだし、即開けてる方がキレてた」

(どのみち嫌な顔はされてたのか……)

ルカ「にちか、夜時間だけどついてきてもらってもいいか? ちょっと……【例の場所】まで」

にちか「例の場所……」

(女子トイレ奥の隠し部屋ってことは、他の人に聞かれたくない話ってことだよね)

にちか「わ、わかりました」

ルカ「よし、それじゃあ静かにいくぞ。他の連中に見つからないように」

にちか「はい……」

私とルカさんは他の人たちの目を憚りながら、こっそりと動き出した。


------------------------------------------------
【寄宿舎前】

灯織「……! 七草さん、斑鳩さん……! どうして、こんな時間に……!?」

(し、しまった……!)

ルカ「いや、別に。ちょっと二人で夜風にあたろうと思ってよ」

灯織「……」

(いやいや……それは流石に誤魔化し方としても)

灯織「誰かに危害を加えようと言うのでなければいいです。私も夜時間外に行動している訳ですし……」

ルカ「そっちこそ何してんだよ、今日は最後の夜だぞ。しっかり寝た方がいいんじゃねーか?」

灯織「……私とて、今日を最後にするつもりはありません。私にもできることは何かあると思うので」

灯織「斑鳩さんとは違ったやり方で、私も生き延びてみせますよ」

風野さんはそれだけ言うと立ち去ってしまった。
お互い詮索するな、と言うことなんだろう。
結局あの人は最後まで他の人間と距離を取ったままだったな……

ルカ「……あいつは裏庭の方に行ったな。好都合だ。今のうちに女子トイレに行くぞ」

にちか「はい!」

------------------------------------------------
【女子トイレ奥 隠し部屋】

ルカさんに連れられて再び隠し部屋の中へ。
ここならば他の誰かに話を聞かれることもないし、介入されることもない。
秘密を共有するならこれ以上なくうってつけだ。
居心地の悪さだけを除けば。

ルカ「……」

ルカさんも横目に捉えたモノクマの頭部にはなんとなくバツの悪さを感じているようだったが、
今から口にしようと言う主題を前にすると、それも気にならなくなる様子。
私の顔をじっと見つめて、一度大きな呼吸をした。

にちか「あの、ルカさん……明日の期限までにどうにかするって言ってましたけど、それってこのモノクマを直すってことですか?」

にちか「もしかして、コードが見つかったとか……」

ルカ「……いや、そうじゃない。残念だけどコードは一本たりとて見つかっちゃいない」

にちか「……! それじゃ対抗手段って」

ルカ「ンなもんねーよ、ただあの場ではああ言っておかなきゃ、やな空気が蔓延しちまうところだったからな」

……やっぱりか。
私にもまるで心当たりがなかったし、やっぱりあの時のルカさんの啖呵はただのハッタリだったんだ。


要は結論の先送り。ただコロシアイという命題から目を背けただけなんだ。
表に出さないようにしていたつもりだったが、ルカさんは敏感に私の落胆を感じ取った。
首をぶんと横に振って、次なる言葉を拾い上げる。

ルカ「だけど、言ってしまった以上私は【責任】を取る」

にちか「責任、ですか?」

なんとなく嫌な予感がした。
子供ながらに、その言葉が付きまとうときは大抵リスクとニコイチであることを理解していたから。

ルカ「いや、元々その気……だったんだよ。私は、このコロシアイが始まってからずっとな」

にちか「ちょ、ちょっと……おっしゃる意味がわからないんですけど……」

ルカ「……前に、私の相棒の話をしたよな」

にちか「は、はい……! 研究生時代からの仲で、ユニットを組んでいて……息もピッタリだって」


ルカ「そいつは……【過去の話】だ」


にちか「……過去?」

ルカ「私とそいつはとっくに【解散してる】んだよ。私があいつについていけなかったせいでな」

にちか「……!」

伏目がちに話すその姿はなんとももの悲しげだった。
きっと彼女にとってその解散は不本意だったんだろう。
この前地下水道で私に見せた瞳の炎。その猛り具合からして、今もそれは尾を引いている。


いつかきっと戻ってみせる。
それはここを出ると言うことだけじゃなくて、ルカさんがアイドルとして実力を携えて、相棒さんの横に返り咲くと言う意味もこもっていたんだと理解した。
だけど、今のルカさんはその時とは対照的だ。ひんやりと冷え切ったようで、その瞳の奥に見えるのは……澱みばかりだ。

ルカ「もう、あいつの元には戻れない。私は」

にちか「そ、そんなのわからないじゃないですか! きっと相棒さんも待ってくれて____」


ルカ「ちげーんだよ! あいつは、あいつは……もう、事務所を移籍しちまった」


にちか「……えっ」

ルカ「もう、私が戻る場所なんて……どこにもないんだよ」

そこにあったのは初めカリスマという言葉に抱いていたイメージとはかけ離れた姿。
翼をもがれ、地面を這いつくばる鳥のように、哀れで、惨たらしい、夢の残骸。
ルカさんの表情はそれほどまでに、歪んでいた。


ルカ「悪い……こんな姿見せちまって」

にちか「……」

ルカ「だけど……これが本当の私なんだよ。カリスマなんて似合わない。未練ったらしく、醜く過去に縋るだけの弱者なんだ」

ルカ「……この学園から脱出したところで私に居場所なんてない」

にちか「そ、そんなこと……!」

ルカ「いや、そうなんだよ。私はあいつの隣にいたいからアイドルを続けてただけ……あいつとのコンビが解消になっても続けてるのはこの仕事が潰しが効かない仕事だから」

ルカ「アイドル以外の道が閉ざされてるから……続けてるだけなんだ」

にちか「……」

口をまるで挟み込めなかった。
ルカさんは私よりよっぽど大人で、よっぽど多くの経験も葛藤も味わってきている。
そんな相手に私が何を言えるというのだろう。
どうして物知り顔で誰にでも戻る場所はある、なんて言えるだろう。
こんななあなあで生きてきただけの私が、口出しする権利なんてない。


ルカ「でも、オマエたちは違う」

ルカ「オマエたちは……アイドルなんて泥濘にまだ足を踏み入れてない。まだ戻れる場所がある人間なんだよ」

ルカ「だから……こんなところで終わっちゃならねえ。こんなところで死んじゃいけねえんだ……!」

にちか「ル、ルカさん……?」

私の両肩をガシッとルカさんが掴んだ。
俯いて肩を振るわせる素振りには鬼気迫るものを感じさせる。
そんな姿を見ていると、なぜか背中を冷たいものが撫でるような気がした。
冷たくて、曲がっていて、その先端は鋭利で……



悪寒は、死神の鎌の形をしている。









「明日の夜時間までに私を殺してくれ」






「……っ?!」

鎌が背中を撫でたのは、死神がそれをルカさんに向かって振り上げたから。
私に殺してくれとせがむルカさんに、その標的が定められた。

にちか「な、何言ってるんですか?! 冗談きつすぎますってー!」

慌てて戯けるようなそぶりでそれをかき消そうとする。
でも、ルカさんは全く笑っちゃくれない。
影を落とした表情のまま、視線を合わそうともしない。

ルカ「私は……本気だよ。にちか、オマエに殺して欲しいと思ってる」

にちか「バ、バカ言わないでくださいよ! なんでそんなことを言うんですか?!」

ルカ「もうこれしか方法はないんだよ……!」

ルカ「この部屋のモノクマを直したところでどうなるかもわからない。こんなコロシアイを強制してくる首謀者と戦っても勝ち目なんかない」

ルカ「抗う術なんか、もう残っちゃねえんだよ……」

にちか「……」

ルカ「私が死ねば、全てが丸く収まる。戻る場所もない人間が、一人消えるだけで他の人間はみんな助かるんだ」

ルカ「それに、今はあの動機のことがあって学級裁判とやらで誰かが死ぬこともない」

ルカ「ノーリスクハイリターンなんだよ……」


にちか「なんで……なんで私なんですか」

ルカ「にちか……?」

にちか「ルカさんを殺すだけなら誰でもいいじゃないですか、なんで私をわざわざ……」

ルカ「違う……私は、【にちかを救いたい】んだよ」

にちか「私を……救う?」



ルカ「オマエは私を殺した上で学級裁判を勝ち抜け。そしてこの学園からさっさと出ていくんだよ、そのための協力なら惜しまない」



にちか「え? は……? ちょ……」

ルカ「……この学園に始めきた時からオマエは私のことを慕ってついてきてくれたよな」

にちか「は、はい……それはそうですけど」

ルカ「私だって人の子だ……自分のことを慕って、付き従ってくれるような相手には愛着も、情けも抱く」

ルカ「にちか……私にとって今のオマエの存在は支えで、希望なんだよ……」

にちか「……!」

私のことを、ルカさんが……?
取り柄も何もない。雑踏があればすぐに埋もれてしまう。
ミルクパズルの一ピースのように、没個性で何者でもない私の存在を、

誰よりも個性的で、他の人を惹きつけることに長けたカリスマであるルカさんが……?


ルカ「これはチャンスなんだ。自分の命と引き換えに一人だけ、コロシアイから救い出すことができるチャンス」

ルカさんからの背筋が凍るようなお願いを聞いたはずなのに、私の体は反対に火照り始めていた。
不謹慎極まりない自己肯定感が身を包み、鼓動が早くなる。

ルカ「それなら私は、にちかを選びたい。アイドルなんて泥沼に足を踏み入れていない、無垢なオマエを救ってやりたい」

でも、首を縦に振るわけには行かない。
こんな状況で、倒錯した興奮に振り回されれば、待っているのは破滅。
そんなことはわかりきっているから。

にちか「……ダメですよ、そんなの」

ルカ「……にちか、お願いだ」


______それなのに




ルカ「オマエしか、頼れないんだよ」



にちか「……っ」






「……はい」





その潤んだ瞳を前にして、言葉を飲み込むほかなかった。
私から漏れ出た返事に、ルカさんは表情をパァッと明るくする。自分の死が確定した瞬間とは思えないほどの眩さだ。

ルカ「ありがとう、これで全部解決だ。オマエラは日常へと解放される」

にちか「……」

返事をした。だけどまだ私は揺らいでいる最中だ。この話を本当に飲み込んでいいのかどうか、何度も足踏みをしている。
それでもお構いなしにルカさんは話を進めていく。

ルカ「じゃあ次は……どうやって私を殺すかの計画だけど、そっちも考えがあるんだ」

にちか「え……と」

ルカ「ここだよ。【この隠し通路を使う】んだ。ここの存在は今の所は私とにちかしか知らない。だからアリバイを確保するのに役立つはずだ」

ルカ「図書室で私を殺した後にちかが女子トイレまで逃げ込んで……それで他の奴らと合流すれば大丈夫なはずだ」

ルカ「まあ細かいところはまたじっくり詰めていこう。他の連中の動向も押さえておく必要があるからな」

にちか「……」

ルカ「にちか?」

にちか「……ああ、いえ。なんでもないです……」

ルカ「ハッ、しっかりしてくれよ。オマエが私を殺してくれなきゃ始まんないんだからな」

にちか「は……はは……」

引き攣った笑いを返しながら、私たちは来た道を引き返していく。
やっぱりこの隠し部屋は何かおかしい。底知れない悪意が渦巻いていて、私はそれに絡め取られたんだと思う。
そうでもなきゃ、飲み込める話じゃないんだから。

____あの、光の落ちたモノクマの瞳に私たちは魅入られていたんだ。


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【寄宿舎】

ルカ「それじゃ細かいのはまた明日。今日のところはしっかり休んどけ」

にちか「……」

どうして明日死ぬと決めたのに、そんなに気丈に振る舞えるのか。そう尋ねたいが言葉はぐっと飲み込んだ。
そんなの、ルカさんからの信頼を踏み躙る、冷や水をぶっかける行為だ。

にちか「はい……ルカさんも」

ルカ「ああ、これが最後の夜……だもんな。堪能するよ」

にちか「冗談になりませんって……」

ルカ「……悪いな、にちか」

にちか「いや……いいですから。おやすみなさい」

ルカ「おやすみ、にちか」

別れ際のルカさんの言葉が、耳にしばらく残響していた。






キィ……

???「……へぇ」





本日の所はここまで。
次回更新で事件発生、捜査パートへと移ります。
いよいよ物語が大きく動きますね。

次回更新は6/10(土)の21:00~を予定しています。
それではまたよろしくお願いします。

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【School Life Day6】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『キサマラおはよう! 絶望的な朝だね!』

モノファニー『キサマラおはよう! 今日の夜時間までがコロシアイのタイムリミットよ!』

モノスケ『キサマラおはようさんやで! モノキッドはもう手遅れになってもうた! キサマラのせいや!』

モノキッド『げへへ……みんな、みんなわかっちゃったもんね……』

モノキッド『このコロ■■イは二■■で前の■■残■が■加■■るんだ……げへへ』

モノタロウ『わー! ダメだよモノキッド!』

モノダム『……』

プツン

……この日が来てしまった。
コロシアイの最終期限の日。
今日の夜時間までにコロシアイが起きなければ、全員がモノクマによって殺されてしまう。
それを防ぐために、私がルカさんを殺す。

「……!」

ダダダッ

混みあげる嘔吐感にトイレに駆け込んだ。
でも、何も出てこない。
罪悪感も寂寥も、まだそれは実態を伴っていない不安でしかない。
吐き出したくても、吐き出せるものはまだ生まれてもいないのだから。

「はぁ……はぁ……」

私は、今日人を殺す。
その決心が自律神経を狂わせているのは明確だった。

「とりあえずは……行かなきゃ、だよね」

でも、崩れるわけには行かない。
ルカさんの覚悟と思い、信頼を私が踏み躙るわけには行かないんだから。
叫び出したくなる衝動を必死に無表情で塗り固めるようにして、私は食堂へと向かった。

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【食堂】

愛依「あっ、にちかちゃん! どう……眠れた?」

にちか「あー……いや、まずまずですかね……はは」

灯織「こんな状況で寝れるわけないですよ……」

甜花「甜花は夜通しゲームしてた……やり残しがないように、積みゲーをこの世に残さぬために……」

愛依「まあうちも流石に寝られなくてさ、なんか寝不足……眠たくもないんだけどさ」

他のみんなも目に見えた精神に支障をきたしていた。
目の下にはクマができ、どこかふらふらとした足取り。
自分の命にまとわりつく不安に飲み込まれて、震えている。


【おはっくま~~~~~!!!!!】


モノタロウ「あれ! みんななんだか元気がないよ!」

モノキッド「モノダムみたいにしけた顔してやがる! そんなに死が恐ろしいのか!?」

(……!)


樹里「恐ろしいに決まってるだろ! アタシたちにも生きてきた人生がある……それが今日終わるかもしれないって……!」

モノスケ「うーん、ザコどもはやっぱりどこまで行ってもザコども根性が染み付いとるようやな」

モノキッド「ジャスト・ビー・ハングリー! 生は自分の手で掴み取るモノなんだぜッ!」

甘奈「……それって他の誰かを殺せってことなんだよね? そんなの……出来っこないよ……」

にちか「……」

モノファニー「でもそうしてくれなきゃグロい死体を見ることになるのはアタシたちの方なのよ。こっちの身にもなって欲しいわ!」

モノタロウ「それに、キサマラがやってくれなきゃお父ちゃんに怒られちゃうんだよ!」

モノダム「……」

モノスケ「とにかく、タイムリミットは今日の夜時間までや。改めて言っておくから、肝に銘じておくんやで」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】


霧子「念押し……なのかな……」

恋鐘「うちらになんとしてもコロシアイをさせたいって感じやね……そんな脅しには屈しんばい!」

恋鐘「だってうちらはエグイサルにも負けん! 【戦って打ち負かしちゃる】って決めたけんね!」

(……え?)


ルカ「そういや昨日言ってたな……本当にオマエラ、あのモノクマーズと戦う気なのかよ」

夏葉「ええ、そのつもりよ。私たちはチームを組んだ、複数人で立ち向かえば勝機はあるはず」

めぐる「それに、武器もちゃんと用意してるんだよ!」

凛世「武器、にございますか……?」

樹里「倉庫にあったスポーツ用具だよ。金属バットや砲丸、剣道の防具なんかもある。あれを使えば、抵抗ぐらいはできるはずだ」

(……)

(……そんなの、無茶だ!)

ルカ「そんなのでどうにかなる相手だと思ってんのかよ!」

円香「……同感です。あのエグイサルに人の力で抗えるとは、到底」

夏葉「だとしてもよ」

にちか「……!」


夏葉「どのみちエグイサルに虐殺されてしまうのなら、少しでも争って死にたい。争おうと立ち向かって、仲間と協力してその末に死にたい」

夏葉「たとえそれが犬死にでも……私たちは誇りあるうちに死にたいの」

恋鐘「ばってん、そうそう負けてやるつもりはなか! なんとかなるってうちは心から信じとるばい!」

ルカ「……チッ」

戦うと覚悟を決めたのは八宮さん、月岡さん、有栖川さん、西城さん、愛依さんの5人みたいだ。
私たちとは違う、覚悟を決めた表情で彼女たちは戦闘を高らかに宣言した。

樹里「それじゃあ、私たちは作戦の準備があるからよ」

夏葉「参加者は一人でも多い方がいいわ。もし私たちと共に戦う覚悟を決めてくれたら、いつでも声をかけてちょうだいね」

私たちはその背中を見送ると、ため息をつきながらお互いの顔を見合った。
残っているのは、生きるのも死ぬのもどっちつかずの人間か、死を受け入れて争うこともしない人間のいずれか。
空気が急に変わるのを肌で感じる。


甘奈「……甘奈は甜花ちゃんと一緒に、同じ部屋にいることにするよ」

甜花「うん……最後はやっぱり、なーちゃんと一緒がいい。なーちゃんを一人で死なせない……!」

透「樋口は?」

円香「別に……」

真乃「ど、どうしようかな……」

灯織「……」

霧子「どう終わるのか、私も考えなきゃだね……」

凛世「凛世も、少し整理が必要です……これまでの生き方と、その幕の下ろし方と……」

ルカ「……いくぞ」

にちか「あ、ルカさん……」

ルカさんが顎で食堂の外を指した。
昨日言っていた通り、殺害計画の大詰めをしたいんだろう。
私にそれを拒むことはできない。
ルカさんの背中を追って、私も食堂を出た。

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【女子トイレ奥 隠し部屋】

ルカ「なあ、にちか……嫌なら、断ってくれていいんだぞ」

にちか「……今更、断りませんよ」

ルカ「オマエを救いたいっていうのも、私の勝手な言い分だ。別に、オマエが嫌なら私は……」

にちか「……もう、うっさいですって! 私も決めたんです、ルカさんを殺すって!」

ルカ「……そっか」



ルカ「それじゃあ、殺害計画を共有するぞ。昨日も言った通り、私を殺害した後の逃走経路にはここの隠し通路を使う」

ルカ「したがって、私を実際に殺すのは【図書室】だ。自動扉が開いている間のインターバルに包丁を私の腹に突き刺して、そのまま逃げ去れ」

ルカ「私が図書室にいた理由は……呼び出しがあったことにする。適当に手紙を偽造しておいた」

『コロシアイを終わらせる手がかりを掴んだ
誰にも伝えずに図書室に来い』

ルカ「まあ怪しいっちゃ怪しいけど……なんとかなんだろ」


ルカ「で、アリバイの確保だけど……私が聞いた限りだと、夜時間のタイムリミットを迎えるときには【モノクマと戦うグループ】と、【食堂で最後の晩餐をするグループ】と、【個室でそれぞれの時間を過ごすグループ】に分かれるみたいだ」

にちか「まあ……そんな感じでしたよね」

ルカ「にちかは【食堂組】に身を隠せ。食事の途中にトイレで抜けて、私を殺して戻ってくるんだよ」

にちか「な、なるほど……」

ルカ「隠し通路の存在は他に誰も気付いちゃいない。露見しなければアリバイが崩れることもないだろうぜ」

ルカ「凶器はこいつを使いな。昨日の夜時間の前に厨房から抜き取っておいた」

にちか「包丁……」

ルカ「まあ実行まではここに置いといていいよ。その方が安心だしな」

ルカさんは布に包んだ包丁を隠し部屋のテーブルの上に置いた。
数時間後にはあれを握って、私が突き立てる。
現実味がまるで感じられないや。

ルカ「まあ計画と言ってもこんなもんだ。学級裁判も形式上行われるがペナルティもないし、最悪バレちまってもいい」

ルカ「でも、騙し通せればオマエは晴れてこの学園から脱出できる。にちかにはそのチャンスを掴んでほしい」

そう言って、ルカさんは私の手を両手でガッチリと握った。


ルカ「……オマエ」

その瞬間、知られてしまった。
私は今この瞬間も震えている。まだ迷っている。
ルカさんの信頼の紐帯の上から、落ちないように必死にバランスを保っていることを。

にちか「ご、ごめんなさい……!」

咄嗟に謝罪の言葉が飛び出した。
ルカさんも自身を殺そうとしている相手が不安に駆られていたら不快だろう。
それに報いるためのお詫び。

ルカ「……」

私のその言葉を、ルカさんは少しじっとして噛み砕くと、頬を綻んでみせた。


ルカ「まあ……怖いよな。今までやったことがないことに飛び込むことになって、しかもそれはオマエ一人っきりでよ」


ルカ「だけど運命を切り開くのはいつもそういう無謀な挑戦だったりすんだ」


ルカ「自分の身の丈なんか気にしないでよ、遮二無二に、自分のことも顧みずにやってみるもんだ」


ルカ「それが報われることばかりじゃないかもしれないけど……少なくとも、前いた場所とは状況は変わってるはずだ」


ルカ「なんて……今から死ぬやつが言うことじゃないかもしれないけどな」


ルカさんはきっとそういう挑戦を何度も経て今ここにいるんだろう。
アイドルの研究生として夢を追い続けたこと。それを自嘲気味に話してくれたけど、私はそうじゃないと思う。
夢を追うこともせず、ただ憧れるだけで燻っていても、流れる時間には何もない。
空虚な時間の積み重なりの中で、降ってくるのは後悔ばかり。
たとえ平地から泥濘に足を踏み入れることになろうとも、私はその一歩に意味があると思いたい。
『意味がある』と言える人間になりたい。




ルカ「にちか……オマエならやれる」

にちか「……はい!」


私も、覚悟を決めなくちゃ。


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それから、夜時間のタイムリミットまではそれぞれに時間を過ごした。
やることは決まっている。
せいぜい他の人間の動向に目を配って図書室に近づけないことくらいだ。

とはいえ、元から人の出入りのほとんどない教室。
要らぬ心配だったようで、何も大きなことは起きることもなく、そのまま時間だけが過ぎていき、
あっという間に【その時】は来た。
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【食堂】

霧子「にちかちゃんは何が食べたい……?」

にちか「そ、そうですね……オムライス、とかでしょうか……」

透「こっち、モノクマの用意してるメニューもあるね。『悪天候で孫が来れなかったこどもの日風ちらし寿司』だってさ」

円香「悪趣味……なんでこんな日に気が沈んだ料理を口にしなきゃいけないの」

凛世「凛世で宜しければ、お作りいたします……」

円香「……いい、自分でやる」

霧子「あっ……でも、包丁がないみたい……」

透「そういや、戦う人たちが持ってったんだっけ」

円香「……はぁ」

最後の晩餐という割に和やかな雰囲気ではない。
関係性の構築もそれほど進んではいないんだ。
どこか殺伐とした雰囲気の中でそれぞれが人生最後のご飯を口に運ぶ。


透「んー、何してんだろ。ここにいない人たち」

円香「さあ? 戦ったり隠れたりするんじゃない? 意味ないと思うけど」

霧子「にちかちゃんは……ルカさんと一緒じゃないんだね……」

にちか「あ、はい……なんかルカさんは一人でやりたいことがあるって……」

凛世「このコロシアイを止める方法があると仰っておりましたが……」

円香「ハッタリじゃない? あの人、引っ込みがつかないところあるし」

透「……てか、もうちょいで死ぬんか」

にちか「実感ないですよねー……」






【コロシアイタイムリミットまであと1時間!】





食堂で話していると、突然に耳を劈くほどの音量で鳴り響くアナウンス。
聞いているだけで気分が悪くなりそうな、不穏な調子の音量が爆音で流れ出し、モニターには私たちにコロシアイを促すようなメッセージが流れ始めた。

円香「いよいよ、ですね」

霧子「終わっちゃうんだね……何もかも……」

凛世「……お姉さま」

(……)

そして、残り1時間となったこのタイミング……
私にとっては決行の狼煙が上がったも同義。
別行動をしているルカさんはすでに図書室に待っているはずだ。

……行くしかない。

凛世「……にちかさん?」

にちか「すみません、ちょっとお手洗い……なんだか緊張しちゃって」

霧子「うん……大丈夫? 手を貸した方がいいかな……?」

にちか「いや、大丈夫です。ちょっとそこまでなので!」

食堂からトイレまで。
早歩きをしたけどその靴音は学園中に鳴り響く音楽でかき消された。

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【女子トイレ奥 隠し部屋】

廊下には人気もなく、警戒もほとんど必要なくすんなりと入ることができた。
そのまま真っ直ぐ用具入れに進み、壁を押す。
べこっという音と共に壁は凹み、隠し通路が姿を現す。
大きく息をひとつ吐き出してから、その一歩を踏み出した。

「うぅ……」

中の薄暗さはなんとなく嫌な感じがするが、足を止めるわけにはいかない。
アリバイを確保し続けるためには、ことにそう長く時間をかけるわけにもいかないからだ。

やることをやったら即撤退。それが鉄則。
頭ではわかっているのに、足がすくむ思いだった。


今から私は人を殺す。
自分の手で、命を奪う。


そのことが何度も脳を行ったり来たりして、その度に吐いてしまいたくなる。
今すぐ壁に手をついて泣き崩れてしまいたい。
全部全部、自分の手で台無しにしてしまいたい。

でも、そんなこと許さない。
ルカさんが唯一希望を託してくれたのは私なのだから、私が諦めてしまうことはルカさんの希望を閉ざすことにも繋がる。
この一歩は、ルカさんのための一歩。
この命はルカさんのための命。

だから私は、無理やりに体を引きずりながら、机の上の包丁を手に取った。

その向こうで低く唸る音がした後、扉はゆっくりと開いた。

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【B1F 図書室】

「よお」

待ち構えていたルカさんは、退屈凌ぎに持っていた本を適当にその場に放ると、スタスタとこちらに歩いてくる。

「ほら」

両手を開いて、私を抱き込むような形をとった。
無防備に向けられた腹には、すでに包丁の先端が触れている。

「早く」

喉が揺れて、ぬるい息が漏れる。
脳の後ろが熱く、目が張った。
視界の先にある包丁の先端には神経が結集していくようで、柔肌に触れるそれから目が離せなくなる。



「にちか!」







______つぷ。





肌を引き裂く感触はそんな感じ。
パンパンに水を入れたポリ袋には鉛筆を刺してもそう簡単には弾けない。
多分それと同じなんだろう。包丁が破った腹から割って出ようとする血流を刃自身が受け止めて、音にならない水音がした。

「いいぞ……そのまま、もっと奥」

私は思考を隅にやった。
目の前で起きていることを認識して処理すればきっと止まってしまうだろうから。
心地の良いその指示に身を委ね、体重を預けた。
ずずと肉を裂き進む刃には左右からそれを押しつぶそうという力が加わった。
真っ直ぐに進もうとすると、その力で何度か詰まりかける。

「まだだ……まだ……!」

ずぶぶぶぶ……

肉を割く感触は大量の水をかき分けるような感触がする。
繊維と血液に押し戻されるのに抗いながら、奥へ奥へと突き進む。


親指が痛いと思ったら、自分の人差し指が食い込んでいた。
包丁の柄までを押し込んでしまおうと込める力が分散して、私自身の体にもその爪痕を残す。

「……ぷ」

異音がして顔を上げる。
私を抱き込むような体制をとっていたルカさんの顔は見違えたように血色が悪くなり、
その口元には赤黒い液体が溢れ出しそうになっている。

そこでやっと自我が帰ってきた。

「わ、わあああ……!!」

思わず包丁を手放して、後ずさった。
ゴンという音とともに本棚に後頭部を打ち付ける。
隠し通路から出てきてからまだ十数秒の出来事。
本棚は元の位置には戻っていない。
その鈍い痛みが、俄かに冷静さを引き戻してくれた。


「あ、あぐ……」

喘ぎ、身を捩りながら崩れ落ちていくルカさん。
その姿はこれまでの学園生活で見たどの姿よりも哀れで弱々しく、踏み潰せてしまいそうなほどだった。

「行け……! 早く……!」

雑巾みたいになったルカさんは、震える手で私の後ろを指差した。
脳がチカチカする。義務の前に自分の手で引き起こした事象が立ち塞がってショート寸前。
ここまで来てなお、足が動こうとはしなかった。


ああ、やばい。
終わる……ぜんぶ、ぜんぶ終わる……


私という人間のぜんぶ。
ルカさんに委ねられた希望のぜんぶ。
今までと、これからのぜんぶ。




「にちか!」



血反吐を吐きながらの絶叫は、金切り声に近かった。

「頼む!」

キィンと脳に響いた絶叫が、シナプスの中を乱反射して、やっと私を動かした。

遅すぎる覚悟を決めた私は踵を返して、扉をくぐる。
少し時間をかけた。早く戻ってアリバイを確保しなきゃ。
上がる呼吸が、自分の靴音を掻き消していた。

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【女子トイレ】

手に付着した血液を流し落とす最中、ふと鏡を見た。

ひどい顔をしている。
まるでマラソンを走り終えた時のような、もう出し切ったという表情。
気力というものがてんで抜けてしまっている。
手のひらに水を汲んで、ピシャリとそれを顔面に叩きつける。

冷ややかな水に、あの時の感触が混ざる。
気つけとしてはこれ以上ない。戒めとしては最悪。
あの時視界の隅に入れていた血溜まりを頭から被ったような気持ちになって、胸が苦しくなった。
罪と焦りをハンカチで拭いながら、女子トイレを後にした。

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【食堂】

円香「……おかえり、大丈夫?」

食堂に戻ると、心配そうな表情で樋口さんが迎えてくれた。
少し時間をかけ過ぎてしまったようだ。

にちか「やっぱり、ちょっと怖くて……緊張、なんですかね?」

適当な言い訳で誤魔化して、そのまま席についた。
大丈夫だ。何も失敗はしてない。
現場には私に通じる証拠は何も落としちゃいないし、ルカさんの血に塗れた手は綺麗に水で洗った。
誰も今の私を見て殺人犯だとは思わない……はず。

凛世「……」

霧子「……」

透「……」


そんなことは分かっているのに、心はお構いなしに騒ぎ出す。

もしかして、見落とした血が付着しているのではないか。
もしかして、変なことを口走ってしまったのではないか。
もしかして、ルカさんが本当は裏切ってはいないか。

考えても仕方がないことで脳が埋め尽くされ、胸も詰まる。
食事なんて全く喉を通らなかった。

円香「……あと30分、切ったみたいだけど」

時計を見ると、午後9時30分を過ぎていた。
まだ例のうるさい音楽は鳴り響き続けている。
どうやら、ただ殺すだけでは条件を満たしていないらしい。
死体が発見されるところまで含めた制限時間……なのだろうか。

(図書室に行くように促す……? いや、でもな……)

余計な発言をすれば裁判の時に疑われてしまうかもしれない。
中々行動に移せず、焦燥ばかりが募っていたその頃。






【ピンポンパンポーン……】





にちか「な、何?!」

霧子「あっ……モニター……何か出てきたよ……!」

幽谷さんが指差した先。
先程までコロシアイを促す悪趣味な映像が流れていたモニターには、モノクマだけが映っていた。


『来た! ついに来た! 死体が発見されましたよ〜!』

『いや〜、まさか本当にコロシアイが起きないんじゃないかとヤキモキしたけどオマエラを信じて正解だったよ〜!』

『死体発見現場の地下図書室までオマエラお集まりください! モノクマからお話がございます!』


……来た。
ついにルカさんの死体が見つかったんだ。



凛世「い、今のアナウンスは……」

透「起きちゃったんだ……コロシアイ」

円香「……こういう時、どういう反応をすればいいのやら」

霧子「円香ちゃん……?」

円香「誰かが死んだ……それによって私たちは生き永らえた……」

円香「……複雑ですね」

(……)

にちか「と、とりあえず……図書室に行ってみますか? モノクマの指示に従わないと何をされるかわからないですし……」

透「ん……そうしよっか」

私たちはそのまま食堂に居合わせたメンバーで図書室へと向かうことにした。
私以外のみんなは何が起きているのかわからないと言った様子だ。
怪しまれないように、心臓の鼓動を必死に右手で押さえつけた。

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【1F階段前廊下】

あさひ「あ、みんなも今のアナウンス聞いたっすか?」

にちか「せ、芹沢さん……」

地下へと降りる階段の手前で、教室からひょっこり芹沢さんが姿を表した。
死ぬまで後1時間だというのに、こんなところで一人でいたなんて、やっぱり変わった子だ。

円香「一緒に来る? 行くところはどうせ一緒でしょ」

あさひ「はいっす。事件が起きちゃったみたいっすからね」

凛世「……一体、どなたが亡くなられたのでしょう」

霧子「心配だね……」


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【地下】

階段を降りると、すでに図書室の扉が開け放たれているのが目に入った。
中から話し声も聞こえてくる。
すでに騒ぎは起きているようだ。

透「急ご……もう逃げられないんだし」

にちか「は、はい……」

あさひ「一体何が起きてるんっすかね……」

その答えを、私だけは知っている。
私自身が自分の手で引き起こしたのだから。
だから、その分かりきっている光景を演技を持って受け止めなければならない。

覚悟を決めろ。
ここから先は、進むも地獄、引くも地獄。
誰一人として味方はいないんだ。

にちか「行きましょう」

先陣を切って、図書室の中に踏み込んだ。





______ああ、やっぱり


【包丁が腹部に深々と突き刺さり、ルカさんは本棚にもたれかかるように息絶えていた】





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CHAPTER 01

ガールビフールフールガールズ

非日常編




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テレビで見る殺人事件の報道を、どこか別の世界の話としてみていた。
ドラマとか漫画とか、そういう作り物の世界と同じ次元に見て、犯人は何を考えてたのかなとか、どんな手口を使ったのかなとかむしろエンタメとしてみていた節すらある。

___それがまさか、自分が【犯人】として当事者になるなんて。

「……ルカさん」

口から溢れでる言葉を必死に篩にかける。

犯人として口にしていい言葉はなんだ。
事件に巻き込まれた、潔白な人間が口にすべき言葉とはなんだ。
疑われないための正しい答えはなんだ。

そんな考えたこともない無限の問いかけを、何度も何度も繰り返していた。


愛依「にちかちゃん……だいじょぶ?」

にちか「め、愛依さん……」

凛世「この中で一番ルカさんと行動を共にしていたのはにちかさんです……ご無理なさらないように……」

にちか「あ、ありがとうございます……」

まさか私が犯人ともつい知らず、他の人たちは私を労ってくれた。
彼女たちの言葉に甘える形で、離れたところに座り込む。

(……怖い)

体育座りで伏せる目。その先には赤に沈むルカさんの姿がある。
瞼は閉じているけれど、どんな瞳でこちらを見ているのだろうか。


【おはっくま~~~~~!!!!!】


モノタロウ「うわー! し、死んでるー!」

モノファニー「う、うう……でろでろでろでろでろでろ」

モノスケ「ついに始まりおったで……コロシアイが始まりおった……!」

モノキッド「血で血を洗う惨劇の幕が上がったなッ!」

モノダム「……」


モノクマ「うぷぷぷ……いや〜、ハラハラしたね! 制限時間ギリギリまで事件が起きないんだもん!」

モノクマ「オマエラ集団自殺志願者かよ! ヌートリアかってんだ!」

樹里「テメェ……」

モノスケ「それよりお父やん見てや! ちゃんとした死体が出たで! 血もドロドロ出とる!」

モノタロウ「お父ちゃん、こいつを見てくれ……こいつを、どう思う?」

モノクマ「すごく……グロいです……」

モノファニー「でろでろでろでろでろ」

めぐる「もう! 話が進まないよー!」

灯織「こうして殺人事件が起きたということは……あなた方の言っていた学級裁判が行われるということでいいんですね?」

モノクマ「うん、お弁当にパスタが欠かせないのと同じくらいコロシアイに学級裁判は不可欠だからね!」

甜花「ハンバーグの油を受け止めるぐらいの立ち位置なんだ……」


モノクマ「学級裁判ではオマエラの中に紛れた犯人、クロを探して議論をしてもらうわけだけど……」

モノクマ「正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき、不正解ならばそれ以外のシロ全員がおしおきで、クロは卒業してこの学園を出ていくことができるんだ!」

モノスケ「でも、今回の事件についてだけは動機によっておしおきの免除が決まっとるからな」

モノタロウ「あれ? そうだったっけ?」

モノファニー「そうよ、グロいパートがカットになるのよ!」

モノクマ「つまり、今回はオマエラ全員ノーリスクで学級裁判に挑めるってことだからさ!」

モノクマ「全然気軽に挑戦してくれちゃって大丈夫だから! ボクの胸を借りるつもりでおいでよ!」

モノキッド「羨ましいッ! ミーたちもお父ちゃんの頼り甲斐ある胸に抱かれたいッ!」

(ノーリスクの挑戦……そう、だからこそルカさんは私にこのチャンスを託してくれた)

(ここで騙し切れば、私は他の誰かの命を奪うこともなく学園から脱出できる)

(絶対に、バレるわけにはいかないんだ……!)


真乃「で、でも……そんな、犯人を当てるなんて……今までに経験もないですし……」

甘奈「うん……どうやってやればいいのかサッパリだよ……」

モノクマ「うんうん、そういうだろうと思ってたよ。なんだってスマホを叩けば情報が得られるこの時代に、足で情報を稼ぐなんて経験もないでしょう!」

モノクマ「ならば! 指だけで情報を得られる機会をご用意いたしました!」

モノファニー「はい、モノクマファイルを用意したわ。一人一個あるから押さず慌てず受け取ってちょうだいね」

モノファニーは一人一人に一枚のタブレットを手渡していった。
指を画面に沿わせるとすぐに起動して、仰々しいフォントで情報が並んだ。

『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』

モノタロウ「死体に触らなくてもいいように、オイラたちで検証した情報がまとめてあるんだよ!」

透「まあ、でも……見たまんま?」

甜花「あんまり、新しい情報はないかも……」

モノダム「……」

モノクマ「まあそれは始まりの証拠だからさ。冒険におけるひのきの棒、就活におけるリクルートシート!」

モノクマ「それを最初のステップにして捜査を進めてちょうだいね!」

(……捜査、か)

(本来なら犯人特定につながる証拠を探すのが目的なんだろうけど、私の場合は逆だな)

(私へと繋がりそうな証拠はいち早く私自身で見つけて、隠滅しないと……)

モノクマ「それじゃあ暫くしたらまたアナウンスをするので、それまで捜査頑張ってね〜!」


【ばーいくま~~~~~!!!!!】



モノクマたちが姿を消すと、私たちは互いに顔を見合わせた。
この中に犯人がいるという事実を受け止めるための時間もなく、学級裁判という未知に挑まねばならない。
これで不安にならないほうが無理な話だ。

愛依「これ、やんなきゃいけないん……だよね?」

円香「今回に限りは犯人の特定をせずとも、私たちが命を落とすことはなさそうですが」

夏葉「いえ……犯人はしっかりと見つけ出しましょう」

夏葉「私たちを欺き、裏切ろうとした人間の悪意に屈するわけにはいかないわ」

(……酷い言われようだな)

灯織「……実際、モノクマの言う通りだと思います」

灯織「今回のコロシアイはチュートリアル。クロにもシロにもリスクのない学級裁判……このシステムに慣れる上ではうってつけです」

灯織「今後のことを考えても、この学級裁判はしっかりと成功させておくべきだと思います」

恋鐘「ばってん、どがんすればよかやろ……?」

霧子「とにかく、捜査をしなくちゃいけないよね……このモノクマファイルだけじゃ、犯人はわからないから……」

樹里「だな……だとすると……二人組で行動するか?」

凛世「二人組、にございますか……?」

樹里「ああ、この中に犯人がいることは確かなんだ。だとしたら、その犯人は現場を荒らそうとするかもしれない」

(……)

透「それを防ぐための監視役ってわけか」

夏葉「ええ、そうしましょう」


(困ったな……不審な行動をすると怪しまれちゃうかも)

(いや、大丈夫……証拠らしい証拠なんて残ってないはずなんだから)


灯織「……七草さん、わたしと一緒に捜査してもらってもいいですか?」


にちか「……! か、風野さん?」

灯織「特に……組む相手がいないので」

(ああ……私にもルカさんがいないから声をかけたのか)

(……まあ、いいか)

にちか「分かりました、よろしくお願いします」

(風野さんには悪いけど……あなたを騙すことができれば、勝利に一歩繋がる)

(……協力はできないからね)



【捜査開始】



灯織「まずは改めてモノクマファイルの情報を確認しましょうか」

にちか「そうですね……」

『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』

にちか「本当についさっきの出来事だったんですね」

灯織「はい。コロシアイの期限まで1時間を切ったタイミングであの奇妙な音楽が鳴り始めて……そこから30分程度あとの出来事だったみたいです」

にちか「そして死因はお腹に刺さった包丁……」

灯織「だいぶ深くまで刺さってますね……出血量も多そうですし……」

灯織「でも、死因的に即死ではなかったはずですね。刺されてからもしばらく動く余地はあったかもしれません」

にちか「……」

灯織「……七草さん?」

にちか「あ、いえ……なんでも」

(ルカさん……私が刺した後もしばらく意識はあったんだよね……)

(何、思ってたんだろ……)

コトダマゲット!【モノクマファイル1】
〔『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』〕


にちか「どうします? 捜査……何をすべきですかねー?」

灯織「そうですね……手前味噌ですが、まずはアリバイの確認から行うべきかと。犯行時刻にはいくつかのグループに分かれて行動していたと記憶しています」

灯織「現場の図書館の捜査はやっぱり最低限必要ですね。斑鳩さんの死体付近だけでなく、満遍なく行いたいです」

灯織「あとは……凶器の出どころの確認でしょうか? あの包丁……おそらく厨房にあったモノだとは思いますが」

(下手に目の前で隠蔽工作なんてするわけにはいかない……)

(私以外がどんな情報をつかんだのかをしっかりと把握して、対抗策を考えるんだ……!)

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1.死体周辺を調べる
2.夏葉に聞き込み
3.円香に聞き込み
4.甘奈に聞き込み
5.あさひに聞き込み
6.本棚を調べる

↓1

3 選択
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【円香に聞き込み】

にちか「あの、樋口さん……私たちのアリバイについて風野さんに説明してあげてほしいんですけど」

灯織「七草さんと樋口さんは一緒に行動していらっしゃったんですか?」

円香「というより同じ場所に居合わせてた感じ。残り時間も僅かでやることもないし……最後の晩餐気分で食堂にいたの」

透「私と凛世ちゃん、霧子ちゃん、あと真乃ちゃんもいたよ」

にちか「ですです! 事件の時もだいたいずっと一緒でしたよね!」

円香「そうだね、にちかが一回トイレに離れたけど……それぐらいだし。それもそこまで長い時間じゃなかった気がする」

にちか「やっぱりタイムリミットが近くて緊張しちゃって……」

灯織「……なるほど」

透「他に目立った動きもなかったよね? 多分」

円香「だと思う。死体発見アナウンスが流れてからは食堂のメンツ全員揃って現場に行ったし」

灯織「ありがとうございます。整理できました」


灯織「ちなみに、その最後の晩餐っていうのは何を召し上がっていたんですか?」

円香「忘れた」

灯織「え?」

にちか「なんか悪趣味な名前でしたよね……」


【おはっくま~~!!】


モノタロウ「『悪天候で孫が来れなかったこどもの日風ちらし寿司』だよ!」

灯織「えぇ……?」

モノスケ「椎茸の萎び具合がおばあの気落ち具合を巧みに表現しとるんやで! よう塩気の効いたちらしずしやったろ!」

モノタロウ「オイラたちが腕によりをかけて作ったんだ! ねえねえ、美味しかった? 美味しかった?」

円香「……とても、味わう余裕なんてない状況だった」

モノタロウ「しょんぼり……」

モノスケ「ぼりしょん……」


【ばーいくま~~!!】


にちか「……らしいです」

灯織「よくわかりました……」

コトダマゲット!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。

うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。〕

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1.死体周辺を調べる
2.夏葉に聞き込み
3.甘奈に聞き込み
4.あさひに聞き込み
5.本棚を調べる

↓1

2 選択
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【夏葉に聞き込み】

にちか「あの、すみません……有栖川さん!」

夏葉「あら、どうしたの? 捜査は順調かしら」

灯織「いえ……まだおぼつかない事ばかりで」

にちか「事件当時のアリバイを聞きたいんですけど……モノクマに反抗を決めたグループって有栖川さんの他にはどなたがいたんですかね?」

夏葉「ええ、私、めぐる、恋鐘、樹里、愛依の五人ね。この五人で事件が起きた時も一緒に行動していたわ」

灯織「事件当時は……どこに?」

夏葉「この図書室の隣の【ゲームルーム】よ。あそこに武器を集めて決起集会をしていたの」

夏葉「確かあの音楽が鳴り始める少し前……8時半ぐらいから私は準備をし始めて」

夏葉「9時15分には他の四人も集まっていたはずよ」

灯織「事件が起きたより後に合流した方はいなかったんですね」

夏葉「ええ……そうなるわね」


夏葉「……いや、ちょっと待ってちょうだい。途中で【愛依はしばらく抜けていたタイミングがあった】はず」

にちか「……! 愛依さんが?」

夏葉「そう、確かあさひを一人にしておくのは忍びないから探してくると言って……でも、結局戻ってきた時も一人だったわね。どうやら見つけられなかったみたい」

灯織「それ、いつ頃の話だったかは分かりますか?」

夏葉「ええ……多分9時20分すぎぐらいから15分前後よ」

(事件の発生時刻と重なってる……)

(これは利用できるかもしれないな)

コトダマアップデート!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。

うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している

うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。〕

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1.死体周辺を調べる
2.甘奈に聞き込み
3.あさひに聞き込み
4.本棚を調べる

↓1

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【あさひに聞き込み】

他の人たちより一際目立って捜査に熱中している様子の少女が一人。
手には何やらインスタントカメラのようなものが握られて、現場を歩き回っては写真の撮影を繰り返している。
それについて回る愛依さんはあたふたしてばかり。

にちか「あ、あの……芹沢さん、ちょっといい?」

あさひ「……」

愛依「あさひちゃん、あさひちゃん! なんかお話あるみたいだけど?!」

あさひ「……? なんっすか?」

この子には個人的に聞きたいことがある。
この子も風野さんたちと同様に事件当時に単独行動をしていた人間ではあるが、私たちはその姿を死体発見の直前に目撃している。
死体発見アナウンスが鳴る直前、ひょっこり近くの教室から姿を現した彼女のことが、妙に気に掛かっていた。

にちか「今さ、みんなにアリバイを聞いて回ってるんだけど……事件が起きた時、芹沢さんは何してた?」

あさひ「何してた……っすか?」

あさひ「……」

あさひ「何してたんっすかね……?」

灯織「え……?」


あさひ「別に何かしようと思ってた訳じゃないんっすよ。ただ後1時間で時間切れだし、死んじゃうし……死んだ後ってどうなるのかなって考えてたんっすよ」

あさひ「だから、何にもしてないっす」

にちか「は、はぁ……」

愛依「ムツカシーこと考えてたんだね、あさひちゃん! ところで、それ……いつからどこで考えてた系?」

あさひ「えっと……あのうるさい音楽が流れてくるよりも前っすね。地下に降りる階段近くの教室で考えてたっす」

あさひ「しばらく考えてたら【廊下を夏葉さんたちが通って地下に行くのが見えた】っす」

愛依「え、そーなん? うちらの姿見てたカンジ?」

あさひ「そうっす。夏葉さん、樹里ちゃん、恋鐘ちゃん、めぐるちゃん、愛依ちゃんの姿は見たっすよ」

(モノクマと戦うことを選んだ人たちか……)


あさひ「それも気になったから、そこからはずっと廊下を見てたっすよ」

にちか「え? ずっと? 死体発見まで?」

あさひ「はいっす。まあ途中よそ見したとかはあったかもしれないっすけど……基本はずっと見てたと思うっす」

あさひ「でも【そこから他に通った人はいなかった】っすね。地下に行く人も、地下から出てきた人もいないっす」

灯織「なるほど……そうなると地下に行けたのはその五人に限られるんだ」

これは相当強い目撃証言だな……
芹沢さんが教室にいたこと自体は食堂組が裏付けている事実でもあるし、妥当性が高い。
この情報がかなりネックになるのかも……!

コトダマアップデート!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。

うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。

うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している。

うち単独行動をしていたグループは灯織、甘奈、甜花、あさひの四人。あさひは地下に向かう階段近くの教室にそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。〕


コトダマゲット!【あさひの証言】
〔あさひはコロシアイ促進BGMが流れ出す前から地下に向かう階段近くにおり、ずっと廊下の様子を見ていた。めぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依が階段を降りていく他には廊下を行き来する人は目撃していないらしい〕

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1.死体周辺を調べる
2.甘奈に聞き込み
3.本棚を調べる

↓1

2 選択
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【甘奈に聞き込み】

灯織「えっと……大崎……さん、ちょっといいですか?」

甘奈「あっ……えっと、お姉ちゃんが甜花ちゃんで、甘奈が妹の甘奈だよ。下の名前で呼んでくれて大丈夫!」

灯織「あっ……ええ……」

甘奈「灯織ちゃん……?」

灯織「……あ、甘奈……さん、事件当時のアリバイをお聞きしても」

甘奈「もー、さん付なんていらないって! 甘奈で呼んでくれていいんだよ?」

(眩しい人だな……)

甜花「な、なーちゃん……」

甘奈「あっ、そうだ……アリバイだよね? うーん……でも事件の時って確か……」

甜花「甜花となーちゃんはずっと……【なーちゃんの部屋で一緒にいた】だけだから……」

にちか「寄宿舎の個室の中です?」

甜花「うん……朝から、殆ど出てない……」

にちか「うーん……二人でいた、ですか」

甘奈「甜花ちゃんはお部屋から全く出てないよ! 甘奈が証人になれるし……!」

甜花「な、なーちゃんも一歩も出てない……!」


灯織「相互の証言があるならひとまず信用していいんですかね……?」

にちか「ですかねー……でも、姉妹だしなー、庇うとかあるかも……」

甘奈「そ、そんなんじゃないよ!」

(まあ、アリバイがあってもなくても……行き着くところは私が一番よく知ってるんだけどね)

にちか「そういえば、風野さんも事件当時のアリバイ聞いてもいいです?」

にちか「大崎さんたちと同じで、単独行動してたんですよね?」

灯織「あっ……はい……私はモノクマたちから身を隠そうと裏庭のマンホールの中にこもってました」

(何やってんだこの人……)

灯織「少しでも生き残れる可能性を増やそうとしてたんですが……梯子に捕まってる間に死体発見アナウンスが鳴って、慌てて駆けつけたんです」

にちか「まあ……アリバイはなしって事ですね」

灯織「う、うぅ……」

コトダマアップデート!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。

うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。

うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している。

うち単独行動をしていたグループは灯織、甘奈、甜花、あさひの四人。甘奈と甜花は甘奈の個室、灯織は裏庭のマンホールにそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。あさひは地下に向かう階段近くの教室にそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。〕

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1.死体周辺を調べる
2.本棚を調べる

↓1


少しキリが悪いですが、死体周辺を調べ始めると少し長くなるので本日はここまでで。
いよいよ事件発生までお話を進めることができました。

また明日、捜査パートの続きから再開いたします。
それではありがとうございました。またよろしくお願いします。


1 選択
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【死体周辺を調べる】

……ルカさん。
最後に私が見た、殺す瞬間のあの時の姿のままに目の前に寝そべっている。
腹から漏れ出た血に頬をつけ、くの字に体を折り曲げている様子には、苦悶の言葉を用いざるを得ない。

灯織「相当……辛い思いをされたんでしょうね」

そうだと思う。
殴打や絞殺とは訳が違う。
体を刃が貫く痛みと、漏れ出る血液でどんどん体の循環が止まっていくその感覚を味わいながら死んでいく苦しみは想像を絶する。
それを与えたのは、私。

にちか「……」

灯織「あの、辛ければ私が代わりに調べます」

にちか「いや、大丈夫です……やります。私がやらなきゃ、ダメなんです」

灯織「七草さん……」

だからこそ、私は戦い抜かなくちゃいけない。
ルカさんの苦痛の先には、私を想う気持ちがあった。
私はなんとしてもそれに報いる義務があるんだ。

1.死体に刺さっている包丁を調べる
2.死体の持ち主を調べる
3.血痕を調べる
4.死体周辺の床を調べる

↓1

1 選択
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【包丁】

お腹に突き刺さっている包丁は、もともとルカさんが用意したものだ。
私に殺害を頼んできた時には、既に隠し部屋に置いてあった。
つまりは……【昨日の昼の間に】ルカさんが厨房から持ち出したものになるのだ。

灯織「確か、有栖川さんたちがモノクマと戦うために集めていた武器に包丁もありましたよね?」

にちか「ああ……そういえば……」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

透「こっち、モノクマの用意してるメニューもあるね。『悪天候で孫が来れなかったこどもの日風ちらし寿司』だってさ」

円香「悪趣味……なんでこんな日に気が沈んだ料理を口にしなきゃいけないの」

凛世「凛世で宜しければ、お作りいたします……」

円香「……いい、自分でやる」

霧子「あっ……でも、包丁がないみたい……」

透「そういや、戦う人たちが持ってったんだっけ」

円香「……はぁ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

にちか「食堂から厨房が根こそぎ消えてましたねー」

灯織「犯人はその集めた包丁の中から凶器として用いたんでしょうか?」

にちか「……」

灯織「それとも、有栖川さんたちが集めるよりも先に包丁を持ち出していた……?」

(……これは私にとって不利な情報になり得るな)

(一度ちゃんと確認して、包丁がいつまで揃っていたのか把握している人間はいないか確かめておこう)

コトダマゲット!【凶器の包丁】
〔包丁は事件発生前日段階でルカが厨房から持ち出したもの〕

1.死体の持ち物を調べる
2.血痕を調べる
3.死体周辺の床を調べる

↓1

2 選択
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【血痕】

図書室の床に滲み出ている血液はルカさんの命の証。
殺害した瞬間にはそれどころじゃなくて気づいていなかったけど、かなりの出血量だ。

灯織「……凄惨ですね」

にちか「……」

流石に言葉が出てこない。
自分がこれをやったんだと言うことを思うと膝から崩れ落ちそうだ。

灯織「血痕は死体周辺で固まっていますし、死体を引きずったり移動した痕跡はないですね」

そりゃそうだ。私はルカさんを刺してすぐに逃走したんだから、そんな証拠はあるはずがない。

灯織「……おや?」

にちか「ど、どうかしましたか?」

灯織「ああいえ……気にするほどでもないのかもしれないんですが、犯人が刺した時に飛沫が立ったんでしょうか? この辺り……少し散っているような……」

風野さんが指差したあたりを見てみると、確かに指摘通り血溜まりとは別に血が点々としている部分がある。
刺した後、ちゃんと見ずに逃げたのでその時に見逃してしまっていたんだろう。

にちか「た、多分それですね……犯人が刺した瞬間の飛沫じゃないですか?!」

灯織「だとしたら犯人は返り血を浴びたことになりそうですね……」

(……大丈夫だよね? 私の服に着いてたりしないよね?)

灯織「……」

大丈夫だ……特に私にとって不利になる証拠ではないはず。
一応、反論できるように記憶だけしておこうかな。

コトダマゲット!【血飛沫の血痕】
〔死体周辺の血溜まりとは別に、飛沫が散ったような血痕がある〕

1.死体の持ち物を調べる
2.死体周辺の床を調べる

↓1

2 選択
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【死体周辺の床】

ルカさんが身を埋めている床には随分と埃が溜まっている。
生きた状態で寝そべっていたら、多分にこれを吸い込んでしまうことだろう。きっと肺にも良くない。
……ルカさんは息をしていないのでどうということはないだろうけど。

灯織「やはり建造物というものは人が利用するか否かでだいぶん表情が変わりますね」

にちか「扉の開け閉めで起きる気流ってだけでも変わるって言いますもんね」

にちか「もう廃墟かってレベルの埃ですよ……」

そんなことをぶつくさ言いながらあたりの床を見ていると、あることに気づいた。
ルカさんの死体がもたれかかっている周辺はまだしも、その手前。ちょうど隠し通路があったあたりの床は……【埃が少ない】。

(……これ!)

私とルカさんが何度か隠し通路を使って出入りを繰り返したからだ。
その度にこの辺りの埃が浮き上がって、避けられてしまったんだ。

灯織「はぁ……今度掃除道具でも持ってきましょうか……」

この情報は黙っておこう……。
表に出すべきじゃない。

コトダマゲット!【床の埃】
〔図書室は利用者が少なかった影響で全体的に床に埃が溜まっている。その一方で、ルカとにちかが出入りを繰り返した隠し通路周辺の埃は少なくなってしまっている〕
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【最後の選択肢になったので自動進行します】

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【死体の持ち物】

灯織「何か手掛かりになるようなものを持ってはいないでしょうか……」

そう言うと風野さんは徐にしゃがみ込み、ルカさんの懐を弄り始めた。
この人、人との距離感には慎重になるくせに、急に踏み込んだ真似をするところがあるな……

灯織「……あれ?」

にちか「何かありました?」

灯織「は、はい……何か紙を持っていたようで」

風野さんが私の前で広げた紙には既視感があった。
昨日隠し部屋でルカさんが得意げに見せていた、例の捏造の手紙だ。

『コロシアイを終わらせる手がかりを掴んだ
誰にも伝えずに図書室に来い』

灯織「これを見るに……斑鳩さんは何者かの呼び出しを受けていたようですね」

随分とお粗末な出来だと昨日も思ったけど、風野さんはまるで疑う様子もない。
そりゃそうか、こんな状況で出てくるものがまさか被害者本人の自作とは思うまい。
ここは乗っておくことにしよう。

にちか「あー! 道理で……! なんでルカさん図書室なんかに、って思ってたんですよ……!」

灯織「疑問が一つ解けましたね……この事件はどうやら計画的なものだったようです」

(よしよし……信じ込んでくれたみたいだ)

この手紙はルカさんが私のために残してくれた武器の一つ。
大切に使わないとね。

コトダマゲット!【ルカの持っていた手紙】
〔ルカが事件前に自作した手紙。ルカは事件当時、図書室に一人で来るように要求されていたことになっている。〕

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【最後の選択肢になったので自動進行します】

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【本棚を調べる】

図書室なんだから当然ではあるんだけども、こう見上げるほどの高さのものが私たちを取り囲むように並んでいると流石に圧巻だ。
私みたいに活字が苦手な人間からすれば、ここにいるだけで息が詰まりそう。

灯織「現場で何か気になるものはないか一応一通り見ておきましょうか」

にちか「……! そ、そうですね」

まずいかも。
下手に調べさせて、風野さんが隠し部屋への入り口を見つけるようなことがあれば一気に私にとって不利になっちゃう。
ここは私が奥側の本棚を自主的に調べることでなんとかバレないように取り繕っておくべきだ。

にちか「私、死体に近い奥側の本棚を見てみますから……風野さんは正面入り口に近いところの本棚見てもらってもいいです?」

灯織「え? ああ、はい……わかりました」

とにかく近づけさせない、それが鉄則だ。


それから暫く各々が本棚を調べる時間があって……


肩を落とした様子で風野さんが戻ってきた。


灯織「特に手掛かりになりそうなものはありませんでしたね……」

にちか「ですね……」

まあ、犯行外でもここの本棚は殆ど触ったことがない。
私に繋がるものなんて何も残っちゃいないだろう。

灯織「うーん……図書室の犯行に何か意味があるかと思ったんですが……」

にちか「……あれ?」

ただ、少しだけ私には【気になること】があった。
まあ別に何か変わったものがあるとか、誰かの私物があるとかそういう大きな手がかりではないし、さして大きな情報でもない。
私にとって不利に働くものでもないし共有しておこうかな。

にちか「あの……本棚の上に無数に積まれてる本。あれって誰かが整理してくれたんですかね」

灯織「え? ……言われてみれば、確かに」

初めの頃、この部屋に踏み入れた時、もっとこの部屋は雑然としていたはずだ。
棚の上に積み上がった本は今にも崩れ落ちそうなバランスで、いかにも放りましたと言わんばかりの置き方がしてあった。
それが今はしっかりと【角を揃えて積み上げられている】。

灯織「綺麗好きな方が整理してくださったとか……なんですかね?」

にちか「結構な大仕事っぽいですけどねー……」

……一体誰がやったんだろう。

コトダマゲット!【整理された本棚】
〔図書室の本棚の上の本はここ数日のうちに整理されたようだ。角を揃えて綺麗に積み上げられている〕

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灯織「……一通り図書室で見るべきものは見ましたかね?」

にちか「そう……ですね」

ひとまず事件現場の全貌は見ることができた。
私が犯人だと直接的に繋がる証拠はなかったし、隠し通路の存在は隠し通すことができた。
今のところうまくやれている、と思う。

にちか「まだ時間はあるみたいですし、他のところも見てみます?」

灯織「そうですね……さて、どうするか……」

風野さんと一緒に次の目的地を考え始めた……次の瞬間。



「灯織〜〜〜〜!! 伏せんね〜〜〜〜!!」



灯織「え、ええ?!」

ガシャーン!


突然絶叫が響いたかと思うと、鈍い音がして風野さんがその場に倒れ込む。
その額の上には……見慣れない飛行物体が降り立った。

恋鐘「あ、あちゃ〜……慣れん道具は捜査が難しかね〜……」

霧子「こ、恋鐘ちゃん……気をつけて……!」

灯織「い、痛た……な、なんなんですか……?」

にちか「これ、もしかして……【ドローン】です?」

4枚のプロペラでホバリング飛行しながら右往左往。
実際に機体を生で見るのは初めてだ。

恋鐘「ふふ〜ん、すごかやろ〜? 倉庫に誰も使っとらんのが眠っとったからうちが引っ張り出してきたばい!」

にちか「でも、急になんで……?」

霧子「あのね……この部屋はわたしたちよりも背の高い本棚がいっぱいあるでしょ……?」

霧子「それを全部調べて回るのは大変だから、【空中から写真を撮ろう】って恋鐘ちゃんが……」

恋鐘「これならわざわざ登らんでも棚ん上の状況がよう分かるばい!」

にちか「は、はぁ……」

(玩具を手にしてはしゃいでるようにしか見えないけど……)


灯織「でも、そのドローンで撮ったデータはどうやって共有するんですか?」

恋鐘「ふぇ?」

灯織「そのドローンで撮影したとて、それを外部に持ち出す手段がなければ他の方には共有できませんよね?」

恋鐘「そいは勿論……」


恋鐘「…………」


恋鐘「……………………」



恋鐘「霧子〜! どげんしたらよかね〜〜〜?!」



霧子「え、えっと……」


【おはっくま~!】


モノファニー「話は聞かせてもらったわ!」

恋鐘「ど、どっから出てきたばい!」

モノファニー「乙女は神出鬼没なものなのよ! それよりも、そのドローンで撮影したデータを共有したいって話だったけど……」

モノファニー「アタイに任せてよ! ドローンの写真データを現像してあげちゃうわ!」

にちか「え、そんなことできるの?」

モノファニー「そのぐらいできて当然! アタイだってIT生まれのZ世代なのよ!」

霧子「わ……すごい、助かっちゃうな……」

モノファニー「それだから、撮影が終わったらアタイに声をかけてちょうだいね!」

ドローンによる現場の空撮写真か……
俯瞰的な視点で現場を見ることで何か新しい発見があるかもしれない。
うーん……大丈夫……だよね?

恋鐘「うちと霧子で頑張って写真ば用意するけん、他の捜査はみんなに任せるたい!」

霧子「お願いします……」

(本格的にこの人ははしゃいでるだけだな……)

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にちか「あ、あの~……ドローンとぶつかって、大丈夫です?」

灯織「あ、はい……すみません、気を遣っていただいて……」

にちか「うわ~……なんか赤くなっちゃってますよ、痣とかにならなきゃいいですけど……」

にちか「こんなみんなてんやわんやのタイミングで慣れない道具持ち出して何考えてるんだろ……はぁ」

灯織「あ、あの……七草さん、私のことは大丈夫ですから、捜査を再開しましょう」

にちか「あ、はい……そうですね」

突然のハプニングで動転していたけど、今私は単身戦っている最中。
ちゃんと戦えるだけの武器をそろえておかなくちゃ。
真実を覆い隠すために必要なのは、真実までの道程のピースをちゃんと把握しておくこと。
把握したうえでそれを捻じ曲げることが、私にとって大きく勝利へとつながる。

そう考えると、行くべき場所は……事件当時、私たちがそれぞれ分かれていた場所である【ゲームルーム】と【食堂】になるだろう。
モノクマと戦うために有栖川さん達が結集していた【ゲームルーム】。
最後の晩餐として半ばあきらめ交じりに時間を過ごしていた【食堂】。
ここに、真実へのピースが眠っているはずだ。

私はそのピースを他の誰かが目覚めさせないように見張る役目があるんだ。

灯織「どこを調べに行きましょうか……?」

にちか「えっと、そうですね~……」

1.ゲームルーム
2.食堂

↓1

2 選択
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【食堂】

ルカさんの腹に突き刺さっていた凶器の包丁の出どころはここの厨房だ。
ルカさんが用意していた時点で、包丁は昨日の昼の間に持ち出されたものだと確定する。
ただ、そのことは伏せておくことで私にとっての武器になる。
変なことを口走らないように気をつけないと。

灯織「七草さんは事件当時はこちらに?」

にちか「ですです。他には櫻木さんと幽谷さん、杜野さん、樋口さんに浅倉さんがいましたんでお互いのアリバイは証言できると思いますよ!」

灯織「……」

(……ふぅ、本当のことを言うのでもなんだか緊張しちゃうな)

灯織「それでは食堂の捜査を開始しましょうか」

にちか「了解です!」

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【食堂のルール】

食堂にはこれ見よがしに壁に取り付けられたプレートがある。
この食堂を利用する上での注意点がまとめられたものなんだけど、そこまで変わったことは書いてない。

灯織「電子生徒手帳に記載してある学校規則と変わりはないですね」

にちか「あー、この部分です? 食堂と体育館は夜時間の間は閉鎖されるってやつ」

灯織「はい。昨日の夜時間に飲み物を取りにきたんですが、扉が施錠されていて開かなかったのはこのルールのせいだったんですね」

(昨日……ルカさんと一緒に行動していた時に出会したあれか)

灯織「つまり、犯人は夜時間の間は凶器の包丁を調達することはできなかったんですね」

にちか「……そうなりますね」

(風野さん……どこまで考えてるんだろう)

(ゲームルームに武器として集められていた事実と合わせると調達できる時間は自ずと限られてくるけど……)

(それを断定できる証拠はないはずだし……)

(うぅ……なんだか綱渡りをしてる気分だよ)

コトダマゲット!【食堂の利用規則】
〔校則にも規定されている通り、食堂は夜時間の間は閉鎖され、入室ができなくなる〕

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【厨房】

灯織「凶器の包丁の出所は間違いなくここですが……やっぱり、一本も残ってないですね」

にちか「モノクマと戦うためにかき集められた武器の一つですからねー」

確か……有栖川さんの話だと、包丁を持ち出したのは愛依さんだったはずだ。
愛依さんが包丁を集めた時に、一本少なくなっていることに気づいていたなら、それは私にとっての急所になりうる。
ここでハッキリさせておかないとダメだよね。

にちか「あの、愛依さん」

愛依「ん? にちかちゃん? どしたん? ……あー、あさひちゃん、そっちの方お鍋とかあるし危ないよ!」

にちか「今朝、有栖川さんの指揮のもとに武器を集めたじゃないですか。その時、愛依さんがこの厨房の武器を集めたって聞いたんですけど……」

愛依「あー! うんうん、そーだよ! いやー、もうめちゃくちゃにテンパってたからとりあえず片っ端から持って行って!」

愛依「食塩なんて使わない!って夏葉ちゃんに言われちゃったりして……」

にちか「あ、あはは……」


灯織「今回の事件で使われた包丁も持って行ったんですよね?」

愛依「え? あー、そーだけど……え?! うち、疑われてる?!」

にちか「い、いえいえ! 事実の確認です。その時、包丁を何本持って行ったとかって覚えてます?」

愛依「え? えーっと……どうだったかな……」

にちか「……」

愛依「……」


愛依「……ごめん! 覚えてない! うち、もう必死だったから!」


(……!)

にちか「い、いえ! 大丈夫です! 無理言っちゃってこっちこそごめんなさい!」

愛依「アハハ〜、力になれなくてごめんね……」

(いや、力になれないなんてそんなことはない)

(愛依さんのおかげで……私の防衛は盤石の構えになったんだ)

(戦える……いける!)

コトダマアップデート!【凶器の包丁】
〔包丁は事件発生前日段階でルカが厨房から持ち出したもの。今朝モノクマへの対抗策として武器をかき集めた際、愛依が厨房の武器を集めたが、その際に包丁の数はちゃんと確認していない〕

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灯織「この部屋で調べられるのはこれくらいでしょうか」

にちか「ですかね!」

(大丈夫……今の所こっちにも武器が揃ってきてる)

(学級裁判を戦える準備も進んでる)

灯織「まだ時間はあります、他のところを見に行きましょうか」

にちか「はい!」

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武器の包丁を持ち出した人間についての記述が順番が前後した都合でちょっとおかしくなっていますね…
愛依が包丁を集めた話はこのレスの記述が初出です、すみません

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【ゲームルーム】

事件当時、迫り来るタイムリミットに向けてモノクマへの武力抵抗の準備を整えていたらしい現場には、
どこから集めたのか物騒なものばかりが山積みになっていた。

灯織「これは凄いですね……」

凛世「灯織さんににちかさん……お疲れ様でございます……」

にちか「お疲れ様ですー。捜査、進んでますかねー」

樹里「いや、アタシはそういうの苦手だからよ……とりあえず現場の保全に徹してるよ」

にちか「保全……?」

樹里「ほら、この【山積みの武器】。これが不当に持ち出されたりしないように見張ってんだ」

槍投げの槍に砲丸、金属バットや包丁……学園のあちこちからかき集めたであろう武器はかなりの数がある。

樹里「……しっかしこうしてみると壮観だな。事件が終わった後片付けるのが大変だぞ」

凛世「これを夏葉さん、お一人で……?」

樹里「ああいや、それぞれが分担して集めたんじゃなかったっけな」

樹里「夏葉とアタシが倉庫、めぐると恋鐘が才能研究教室、愛依が厨房に行ってたはずだ」

(愛依さんが……厨房に……?)

(だったらその時に包丁の数を確認した上で回収したかどうか、はっきりさせておく必要があるな……)

灯織「事件の時に、これを持ち出した方は?」

樹里「いや、いないな。断言できるぜ。武器を取り囲むようにして話し合いをしてたし、そんなおかしな行動をしてたら誰かが絶対に気づいた」

樹里「事件の時に武器をここから持ち出すのは確実に不可能だった」

(……流石に5人のお互いの監視を掻い潜るのは不可能だろう)

(ここに突き崩す隙はなさそうかな……)

コトダマゲット!【ゲームルームの武器】
〔タイムリミットが来た時にモノクマに抗うため、夏葉たちが学園中から集めた武器。ゲームルームに集められた後は、5人で見張るようにしており、武器を持ち出した人間はいなかったらしい〕

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【凛世に聞き込み】

にちか「杜野さん、大丈夫……?」

凛世「ええ、はい……」

相当に堪えてる……事件の当事者じゃなくても、あんな死体を目にすればこんな反応になるのが当然だ。
杜野さんは華奢な体を震わせて、怯えた様子。

灯織「すみませんが、辛いところだとは思うけど話だけでも聞かせてもらえたら嬉しいです……」

凛世「でも、凛世は何も……」

にちか「まあ杜野さんは食堂組で、特に移動もしていないですからね……」

凛世「特に変わったものを目撃したとかも……」

凛世「あっ……」

樹里「どうした?! 何か気づいたことでもあるのか?!」

凛世「い、いえ……本当に些細なことなのですが……」

凛世「にちかさん……死体発見アナウンスが流れた後にご一緒して事件現場に向かいましたよね……?」

にちか「ええ、まあ……」


凛世「その時に、ひょっこりあさひさんが教室から出てくるのを見たはずです……」

にちか「ああ、地下階段の手前の教室で……!」

樹里「地下階段手前の……教室……?!」

灯織「そ、そこに何があるんですか……?!」

凛世「凛世と樹里さんが、はじめに閉じ込められていた教室が……そこなのです……」

にちか「……え?」

樹里「ほら、この学園生活の始まりってロッカーに押し込められるところから始まっただろ? アタシと凛世はあの地下階段前の教室のロッカーに閉じ込められてたんだよ」

凛世「あの時は慌てに慌て……普段から携帯していたおしろいもロッカーの中で紛失してしまう始末……」

凛世「数日前なのに、なんだか懐かしく感じます……」

にちか「……」

にちか「え? 思い出したことって……これです?」

凛世「す、すみません……」

(まあ、別にどうでもいい話だったかな……)

灯織「……」

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灯織「この部屋で調べられるのはこのぐらいでしょうか?」

にちか「ですかねー……他に目立つものもないですし」

灯織「でしたら、一応ではあるんですが奥の部屋も見てみてもいいですか? ゲームルームを通じてもう一つ行ける部屋があるんです」

(そういえば……AVルームがあるんだっけ)

にちか「奥の部屋に事件前後で行った人っているんです?」

樹里「いや、いなかったと思うけど……」

灯織「一応の確認ですから。図書室と同階の教室は少ないですし、調べておきたいんです」

樹里「ま、止めはしねーけどよ……」

風野さんがスタスタと奥の部屋に向かって行くのに、私もついて行った。

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【AVルーム】

巨大なスクリーンを中心に大量のDVDが収められたラックが並ぶ。
学校でいえば視聴覚室ってやつになるんだろう。
設備が上等なので、私の学校よりはだいびランクの高そうな部屋だ。

にちか「ここが事件と何か関係があるんですかねー……?」

灯織「分かりません……が現場に近い部屋の一つなんですから、見落としはないか一応確認しておきましょうか」

にちか「はいー……」

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【DVDラック】

私でも名前くらいは知っている名作が数多く並ぶDVDラック。全部見ていたらどれだけの時間がかかるんだろう。

にちか「……あれ?」

そんな中一つのDVDが目について思わず手に取った。タイトルからして、明らかに他の作品と雰囲気が違うDVD。

にちか「……」

パッケージには堂々と豊満な肉体の女性。
腰を煽情的にくねらせて、その脇にはピンクの大きな文字で惜しげもなく、下世話な言葉が並んでいる。
これは……そういうやつだ。

(見なかったことにしよう……)

触れてはいけないものに触れた後悔からため息をつきながらラックに戻しかけた時。

灯織「……七草さん? 何か証拠を見つけたんですか?」

にちか「えっ?」

灯織「今後ろに隠したそれ……なにか証拠なんじゃないですか?!」

にちか「い、いやいや! そんなんじゃないんで! まったく、まっったく!」

灯織「いえ、一人の目から見たら取るに足らない証拠でも、複数人で検討すれば新しい事実が見えてくるということもあります。私にも見せてください!」

にちか「いや、ちょ、ちょっと!」

急に強引に私の後ろに手を伸ばしてくる風野さんと、必死に争う私。
しばらくもみくちゃになった後、私の手からはDVDが剥ぎ取られ……


そのしばらく後には赤面して背を向け合う私たちの姿があった。


灯織「その……申し訳ありませんでした」

にちか「い、いや……こっちこそ紛らわしいことしてすみませんです」

灯織「……」

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【裏口の扉】

にちか「そういえばこの部屋って出入り口は一つじゃないんですね」

灯織「そういえば廊下側からも見えてましたね。ちょうど図書室の裏口と向き合う形でAVルームの裏口も付いているみたいです」

にちか「……」

灯織「ゲームルームを通過せずとも、AVルームに侵入すること自体はできそうですね」

(それってつまり……ゲームルームにいた人たちに気づかれずに潜伏することもできたってことだよね)

(……この可能性は武器になる!)

灯織「七草さん?」

にちか「あ、いや! ちょっと考え事です! このことも覚えておきましょう!」

コトダマゲット!【AVルーム裏口の扉】
〔AVルームにはゲームルームを通過する入り口の他に廊下から直通で入る扉があった。図書室の裏口とちょうど向き合う形になっている〕

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【モニター】

にちか「この部屋にもモニターがあるんですね。でっかいプロジェクターもあるんだし無用の長物って感じですけど」

灯織「学園中のどこにでもありますからね……例外はないんでしょう」

にちか「そういえば事件当時、このモニターからはあの音楽が流れてたんですよね」

灯織「ええ……はい! マンホールの中でぶら下がってた私でも聞こえるぐらい、爆音で」

にちか「コロシアイのタイムリミットまであと1時間、それを告知しコロシアイを促す音楽」

灯織「犯人はそれに急かされてことに及んでしまったのでしょうか……?」

(いや、そんなんじゃない)

(もっと前からルカさんは覚悟を決めていた……モノクマのそんな稚拙な策略に乗ったわけじゃないんだ)

コトダマゲット!【コロシアイ促進BGM】
〔コロシアイのタイムリミットまで1時間を切った午後9時から学園中に鳴り響いていた爆音の音楽と映像〕


【キーンコーンカーンコーン……】


『わっしょーーーーーーーーい!』


『祭だ! 祭りの時間だーーーーーーーー!』


『クロとシロの運命を分ける学級裁判の時間だよーーーーーーー!』


『まあ、今回に限っては運命を分けることもないんだけど……クロからすれば脱出の大チャンス!』


『シロからすれば足を引っ張って惨めに転ばせる大チャンス!』


『足を引っ張り引っ張られの引っ張り祭りの開催だよー!』


『オマエラ、中庭奥の裁きの祠までブリバリマックスで集まれー!』


灯織「どうやら……時間みたいですね」

ついに、きてしまった。
ルカさんから託されたものを背負い、他の人たちと真正面からぶつかり合う時が。
私以外の14人……これを騙し抜かないと、私はルカさんを裏切ることになる。
なんとしてもやり遂げるんだ、なんとしても勝ち抜くんだ!

にちか「行きましょう……風野さん、どうせもう逃げられないんだし」

灯織「はい……あの、七草さん」

にちか「……ん?」

灯織「頑張りましょうね……絶対、犯人を突き止めましょう」

(……)

にちか「当たり前じゃないですかー! 真実を掴み取ってみせますよー!」

灯織「……! はい!」

ああ、この胸の痛みをこれからどれほど味わうことになるんだろう。

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【中庭 裁きの祠】

赤い重厚な扉を開けると、荘厳な雰囲気にそれをぶち壊すモノクマの彫像。
それを取り囲むようにして、他のみんなが待っていた。

真乃「ついに……始まってしまうんですね……」

めぐる「もう、ここまできたらやるしかないよ! 学級裁判を……戦うしかない!」

透「あー、トイレ行っとこうかな」

円香「ちょっと……済ましときなよ」

あさひ「ちょうど噴水があるっすよ」

愛依「ちょいちょいあさひちゃん?! それはダメだって!」

甘奈「……甘奈たちに犯人、見つけられるのかな」

甜花「なーちゃん……大丈夫。みんなが、ついてるから……!」

夏葉「ええ、絶対に突き止めてみせるわ。そうでければ、私たちは前に進むことができないもの」

樹里「ルカを殺した犯人……ぜってーに許せねー」

凛世「鼓動が早まってまいりました……」

みんな姿の見えない犯人に怯え、怒り、憎しみを向けている。
その矛先が私に向いた瞬間のことを思うと、足がすくんでしまいそうだ。

だけど……私こそ、怯むわけにはいかない。
頬をピシャリと打って気を引き締めた。


灯織「そういえば月岡さん……ドローンでの撮影はうまく行ったんですか?」

恋鐘「あー……一応頑張って写真は全部撮ったとやけど、ばってん時間が来てしまったからモノファニーにデータを渡しとる段階ばい」

霧子「学級裁判の最中に現像が出来るようには頑張るって言ってくれてたよ……」

恋鐘「ごめん〜! 慣れん操作で思った以上に手こずったばい〜!」

灯織「ああ、いえ……大丈夫です」

(裁判の途中に証拠が増えるのか……)

(まあでも、写真は私に繋がる証拠にはなり得ないだろうし気にしなくても大丈夫かな)


甘奈「呼び出されてから時間が経つけど……どうしたのかな? 学級裁判ってここでやるのかな……」

円香「裁判という感じの趣ではないですが……」

あさひ「……聞こえる」

愛依「あさひちゃん?」

あさひ「今度は下からっすよ!」

ゴゴゴゴ

芹沢さんが叫んでから間も無く、私たちでもわかるほどの轟音。それと一緒に訪れたのは地響き。
それをもたらしていたのは他でもない、あの不格好なモノクマの彫像。
彫像がその手に持っていた水瓶を粉砕したかと思うと、そのまま噴水の中に姿を埋め……

チーン!

やがて、噴水の一角が割れて、巨大な扉が姿を現した。
格子状の扉の向こうには金属製の箱の姿が見える。
人を乗せて、空間を上下する巨大な箱。

真乃「え、エレベーター……?」

甘奈「これに乗れってこと……?」

樹里「それ以外に選択肢はねーな……行くぞ!」

私たちはゾロゾロとエレベーターに乗り込んで行き、最後の一人が足を踏み入れた瞬間。

ガタン!

音を立ててエレベーターは下降を始めた。


あさひ「わ! すごいすごい! どんどん降っていくっす!」

霧子「あさひちゃん……エレベーターの中で飛び跳ねると危ないよ……」

透「結構深くまで行くんだね。マントル?」

円香「深すぎ」

夏葉「みんな、気を引き締めて。ここから先はお遊びじゃない……私たちの中に潜むクロを見つけ出すための戦いなのよ」

にちか「……」

エレベーターが下っていく、その重力を感じながら、私はその下にあるもののことを考えていた。
もしも地獄というものが存在するのなら、きっとこのエレベーターよりももっともっと深いところ。
血の沼が煮え繰り返った地獄の中から、骸の手は今にも私の足の付け根を掴もうとしている。
ルカさんを殺すことで引き受けた罪の重みは少しでも気を強く持たないと、引き摺り込まれそうなほどに。
喉が渇く。心臓の鼓動が速くなる。
ここから先に待っているものの分からなさに、項垂れるほかなかった。

チーン!

そしてすぐにエレベーターは目的地に行き着いて。


モノタロウ「チンポーン! キサマラ、地下学級裁判場にようこそー!」

モノスケ「ザコども、遅すぎや! 待ちくたびれてモノキッドの禁断症状が再発してもうたやないか!」

モノキッド「ハチミツ……持ってるんだろ……くれよ……」

モノファニー「やあねえ、ヨダレたらたらでだらしないったらありゃしない」

モノファニー「そうだ! お願いされていた写真の現像は今進行中だから今少し待ってちょうだいね!」

モノダム「……」

モノクマ「学級裁判はボクとモノクマーズも同席でその行く末を見守らせてもらうからね!」

モノクマ「さあさ、自分の名前が書かれた台の上に立って! 学級裁判を始めるよー!」

灯織「地下にこんな空間が……」

甜花「あ、あぅぅ……ちびりそう……」

透「さっきしてくればよかったのに」

甘奈「透ちゃん、間に合ったの?」

透「うぃー、あさひちゃんナイスアイデア」

樹里「やったのかよ?!」

透「冗談だって、今も我慢してる」

夏葉「……透と甜花のためにも早いところ勝負を終わらせましょうか」





そして私たちは席についた。
円環を描くような配列の証言台では、お互いの顔がよく見える。見えてしまう。
私は今、どんな表情をしてるのかな。
平然を繕えているのかな。

ああ、怖い。
これから全員を騙し切って、この学園を脱出するんだ。

今から始まるのは一対十四の正々堂々のぶつかり合い。
私には一切の助けがないけど、相手には無数の協力がある。

私はそれを打ち砕く。
絆も、信頼も、可能性も、真実も。
全部この手で握り潰して、最後に開いた手のひらで掴み取るんだ。






__________生還という勝利を。




捜査パートが終わったところで本日はここまで。
次回更新より学級裁判パートに移ります。
学級裁判の仕様は前作シリーズと基本同じです。
発言力がゼロになると報酬のモノクマメダルが半減してしまう仕様ですので、お気を付けください。

次回更新は6/13(火)21:00~を予定しています。
本格的に安価やコンマを用いるようになりますので、是非ご参加のほどよろしくお願いします。

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【裁判前準備パート】
☆裁判を有利に進めるアイテムを獲得することができます
 何か購入したいものがある場合は次回までにその旨を書き込んでください。
 指定が多ければ多数決、特に購入指定が無ければ何も購入せず裁判を開始します。

≪消耗品≫
【ヒーリングタルト】…5枚
〔誰の口にも合いやすいマイルドな口当たりの優しい甘さ。裁判中に使用すると発言力を2回復できる〕

【ヒーリングフルーツタルト】…10枚
〔フルーツをトッピングして満足感アップ。裁判中に使用すると発言力を4回復できる〕

【プロデュース手帳】…15枚
〔これは彼と彼女たちが過ごしてきた美しき日々の証。誰よりも理解者たる彼は、いつだってそばで戦ってくれる。裁判中に使用するとノンストップ議論・偽証ミスディレクション・反論ショーダウンを無条件クリアする〕

≪希望のカケラで獲得できるスキル≫
【ノー・ライフ】希望のカケラ…15個
〔発言力の最大値が+2される〕

【私をときめかせて】希望のカケラ…20個
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕

【チョコ for Y♡U】希望のカケラ…15個
〔体力回復を行った際効果が増幅する(自動回復は除く)。〕

【UNCHARTE:D】希望のカケラ…15個
〔発掘イマジネーションの文字がある程度埋まった状態で始まるようになる〕

【浪漫キャメラ0号】希望のカケラ…20個
〔発言力の最大値が+3される〕

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‣にちかの現在の状況
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…19個】

特に裁判準備パートの指定はなしということで進めます
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【コトダマリスト】

‣【モノクマファイル1】
〔『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』〕

‣【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。

うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。

うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している。

うち単独行動をしていたグループは灯織、甘奈、甜花、あさひの四人。甘奈と甜花は甘奈の個室、灯織は裏庭のマンホールに、あさひは地下に向かう階段近くの教室にそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。〕

‣【ルカの持っていた手紙】
〔ルカが事件前に自作した手紙。ルカは事件当時、図書室に一人で来るように要求されていたことになっている。〕

‣【血飛沫の血痕】
〔死体周辺の血溜まりとは別に、飛沫が散ったような血痕がある〕

‣【床の埃】
〔図書室は利用者が少なかった影響で全体的に床に埃が溜まっている。その一方で、ルカとにちかが出入りを繰り返した隠し通路周辺の埃は少なくなってしまっている〕

‣【あさひの証言】
〔あさひはコロシアイ促進BGMが流れ出す前から地下に向かう階段近くにおり、ずっと廊下の様子を見ていた。めぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依が階段を降りていく他には廊下を行き来する人は目撃していないらしい〕

‣【整理された本棚】
〔図書室の本棚の上の本はここ数日のうちに整理されたようだ。角を揃えて綺麗に積み上げられている〕

‣【ゲームルームの武器】
〔タイムリミットが来た時にモノクマに抗うため、夏葉たちが学園中から集めた武器。ゲームルームに集められた後は、5人で見張るようにしており、武器を持ち出した人間はいなかったらしい〕

‣【AVルーム裏口の扉】
〔AVルームにはゲームルームを通過する入り口の他に廊下から直通で入る扉があった。図書室の裏口とちょうど向き合う形になっている〕

‣【コロシアイ促進BGM】
〔コロシアイのタイムリミットまで1時間を切った午後9時から学園中に鳴り響いていた爆音の音楽と映像〕

‣【食堂の利用規則】
〔校則にも規定されている通り、食堂は夜時間の間は閉鎖され、入室ができなくなる〕

‣【凶器の包丁】
〔包丁は事件発生前日段階でルカが厨房から持ち出したもの。今朝モノクマへの対抗策として武器をかき集めた際、愛依が厨房の武器を集めたが、その際に包丁の数はちゃんと確認していない〕

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【学級裁判 開廷!】




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モノクマ「これより学級裁判のルールの説明をいたします」

モノクマ「学級裁判では殺人の実行犯であるクロとそれ以外のシロとに分かれて、オマエラの中に潜むクロは誰か?を話し合ってもらいます」

モノクマ「無事クロの生徒を指摘できればクロだけがおしおき。もし間違った生徒をクロとしてしまった場合には……」

モノクマ「それ以外のシロ全員がおしおきになって、全員を欺いたクロはこの学園から卒業となります!」

モノクマ「まあ……今回の裁判にはおしおきがないんだけどさ。なーんでそんなこと言っちゃったかな……」

モノタロウ「お父ちゃん、後悔は何も生まないよ! 過去を振り返るなんてバカのすることだよ!」

モノクマ「いやさ……オマエラがコロシアイしてくれないからやむなく設けた条件だけどさ……ちょーっとやりすぎだよね……」

モノファニー「そんなことないわ! 学級裁判が必ずしもグロくある必要はないもの!」

モノクマ「はーあ……なんかこうパーっと盛り上がるようなこともないかね〜……」

モノキッド「それならモノダムをいじめるのはどうだ! 右乳首と左乳首を入れ替えてやりたいとずっと思ってたんだ!」

モノダム「……」


にちか「ねえ、いつまでそんなくっっだらない話してるの?」

夏葉「それよりも聞きたいことがあるわ。ルカの席に建てられたあれは……何かしら」

モノクマ「ああ、コロシアイで誰が死んだのか分からなくならないように、ボクが作っておいたんだよ」

モノクマ「オマエラの卒業文集からチョチョイと写真を拝借したんだ!」

円香「趣味が悪い……」

真乃「わたしたちで、クロを当てるための議論をしなくちゃいけないんですよね……」

めぐる「うーん、どこから話すのがいいかなー!」

凛世「定石はやはり、アリバイの精査からかと……」

愛依「子守唄……?」

樹里「それはララバイだ。アリバイってのは事件当時にどこで何をしていたかの証言だな」

樹里「ルカが刺された午後9時半前後。その間に犯行ができる人間がいたかどうか確かめよう」

(アリバイ……私は食堂で食事をしていたという確かなアリバイがある)

(女子トイレの隠し通路の存在が明らかにならない限り……このアリバイは崩れない!)

(議論を私に有利な方向に誘導するんだ!)

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【ノンストップ議論開始!】

発言力:♡×5
集中力:☆×5

コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【凶器の包丁】

甘奈「それじゃあみんなのアリバイを確認してみよう☆」

霧子「事件が起きた時はいくつかのグループに分かれて行動してたよね……」

夏葉「コロシアイに屈することなく、モノクマと戦うことを決めたグループは」

夏葉「【午後9時15分】には全員がゲームルームに集まっていたわ」

夏葉「お互いを見張っていたし、反抗に及ぶことは不可能ね」

円香「特に示し合わせたわけでもないけど、食堂にもそれなりの人数がいました」

透「チーム最後の晩餐は……あの音楽が鳴り出すより前からいたっけ」

真乃「【午後9時】には全員が揃ってました……!」

凛世「反対に、アリバイがないのは……」

凛世「灯織さん、甘奈さん、甜花さん、あさひさんの四人……」

恋鐘「じゃあこの四人の中に【犯人がおる】とやね!」

恋鐘「グループでおったみんなは【犯行をする時間なんてなか】やもん!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「それは違くないですかー?」論破!

【BREAK!】

にちか「グループで集まっていたメンバーに反抗はできない……本当にそうですか?」

恋鐘「ふぇ? お互いの姿ば見とったら自由に動けんし、当たり前じゃなかね?」

にちか「本当に全員がずっと同じ場所にいたなら、ですけどね!」

にちか「愛依さんは【途中で抜けて、事件発生時刻よりも後に戻って来た】って聞きましたよ!」

愛依「え?! あ、あー……あさひちゃんを探しに行った時のことか!」

愛依「うん、9時20分ぐらいから15分ぐらい抜けてたけど……図書室には行ってない! 地上を探してたんだよ!」

樹里「ちょっと待てよ。それを言うならにちかもだろ」

樹里「食堂組の話だと、にちかも途中で女子トイレで抜けたって聞いた。その時に犯行に及んだんじゃねーのか?」

(……うっ)


円香「そうは思わないけど」

樹里「え?」

円香「にちかが行ったのは食堂の最寄りの女子トイレ。そこから現場の図書室まではかなり距離があるし……にちかはそんなに長い間抜けていたとも思わない」

霧子「うん……それよりも犯行現場が近い愛依ちゃんの方が気になるかな……」

夏葉「単純な距離で言えばそうなるわね……」

愛依「ちょいちょい、夏葉ちゃん?!」

夏葉「でも、そう簡単に決めていいものかしら。現場に残されていた【痕跡】も検討すべきよ」

灯織「痕跡、ですか?」

恋鐘「うんうん! 愛依をそう簡単には犯人にさせんけんね〜!」

------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

発言力:♡×5
集中力:☆×5

コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【ゲームルームの武器】
‣【ルカの持っていた手紙】

愛依「うちはあさひちゃんを探すために抜け出しただけだって!」

愛依「事件現場の【図書室には行ってない】!」

真乃「にちかちゃんもトイレで抜ける場面はありましたけど……」

真乃「犯行現場の図書室まではかなり距離があります……っ!」

恋鐘「ルカの殺害に使われた包丁は」

恋鐘「【食堂の厨房にあった】もの!」

恋鐘「やけん、凶器として使うことができたのも」

恋鐘「【食堂におったメンバーだけ】やろ!?」

恋鐘「愛依が犯人にはならんはずばい!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「それは違くないですかー?」論破!

【BREAK!】

にちか「凶器の包丁は確かに厨房にあったものですけど……それが使えたのは食堂にいた人だけじゃないはず!」

にちか「むしろ食堂にいた人間には使えなかったはずですよ!」

恋鐘「な、なんね〜? 包丁は料理する時に使うもんやろ!?」

愛依「恋鐘ちゃん恋鐘ちゃん、包丁は【うちらが集めた武器の中に含まれてた】んよ」

樹里「ああ、学園内の武器を一通り集めてゲームルームに置いてたけど……そん時に包丁も回収してたはずだ」

にちか「確かに私は食堂から抜けた瞬間はありましたけど……その時に包丁を持って出るのは不可能なんですよ!」

めぐる「でも、ちょっと待ってよ! わたしたちは確かに武器を集めてたけど……集めた後はそれを取り囲むようなかたちで会議をしてたんだよ」

めぐる「そこから包丁を抜き取るような人がいたら絶対に誰かが気づいたはずだよね!」

夏葉「当然、そんな人物はいなかったわ。取り扱いには慎重に慎重を重ねていたし、見落としはないわ」


甜花「そ、それじゃあ犯人はいつ包丁を手に入れたんだろう……」

あさひ「まあ、夏葉ちゃんたちが武器を集め始めるより先に回収していたとしか思えないっすよね」

あさひ「愛依ちゃん、包丁を回収する時に何本あったかは覚えてないんっすよね?」

愛依「うん……ごめん、ちゃんと見とけばよかった」

真乃「しょうがないよ……こんな状況なんだもん……」

灯織「……ん? 夏葉さんが回収するよりも前?」

灯織「七草さん……昨日、夜時間に私と学校の外で会ってましたよね?」

にちか「え……まあ、そうですけど」

灯織「あの時……斑鳩さんもご一緒だったはずです」

凛世「事件の前夜にお二人で……?」

円香「まあ二人は何かと一緒のことも多かったし変ではないけど」

灯織「少しお聞かせ願えますか? 昨晩の出来事について……!」

------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

発言力:♡×5
集中力:☆×5

コトダマ
‣【食堂の利用規則】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【血飛沫の血痕】

灯織「昨日の夜時間に寄宿舎を出たところで」

灯織「私は斑鳩さんと七草さんに【会ってる】んです」

夏葉「犯人は私たちが武器を回収するより先に」

夏葉「食堂の包丁を【回収していた】はずなのよね」

めぐる「あー! それなら灯織とにちかがあったタイミングなら条件に合うね!」

めぐる「昨日の【夜時間】の間に包丁を調達しておいて」

めぐる「事件の時に持ち出したんだ!」

甘奈「一晩じっくり寝かせた武器で一突きにしたんだね!」

樹里「そんなハンバーグのタネみたいに?!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「それは違くないですかー?」論破!

【BREAK!】

にちか「ちょっと風野さん、しっかりしてくださいよ! 私と一緒に捜査をした時に確認したはずですよね!」

にちか「才囚学園の校則で【夜時間に食堂の侵入は禁止されてます】! 風野さんと会ってから包丁を持ち出すには不可能なんですよ!」

灯織「あ、いや……私はそのつもりじゃなくて……」

めぐる「ご、ごめんね……わたしがつい先走って話したせいで灯織が間違えちゃったみたいになっちゃった」

灯織「う、ううん……気にしないで」

(あれ……? なんか私が悪者みたいになってる……?)

灯織「私は純粋に、昨日の夜時間に七草さんと斑鳩さんが何をしていたのかが気になったんですが……」

灯織「私と別れてから校舎の中に入っていきましたよね?」

にちか「えっと……うん……」

モノファニー「キャー! 日が沈んでから女二人で人目を忍んで学校に行くなんて!」

モノキッド「ぐへへ……ハチミツの当てになりそうな話だぜ……蜜だけに……」

モノダム「……」

(これは……適当に言い訳しなくちゃダメだよね)


にちか「な、何も変わったことはしてないです。私と一緒に才能研究教室に行って……音楽を聴いてたんですよ」

にちか「ほら……私ってば腐っても超研究生級の音楽通なわけで……あの教室にいっぱいレコードがあるんですよ。ルカさんはそのおすすめを知りたいって!」

灯織「……」

(ど、どうだ……?)

灯織「なるほど……そうですか」

(凌いだ……かな)

透「けど、夜時間にいけなかったんだね。食堂」

透「あんま気にしてなかったし、今知ったわ」

霧子「そうなると……犯人が包丁を手に入れるタイミングはいつになるんだろう」

甜花「有栖川さんたちが今朝に武器を集めてて、夜時間は食堂にもいけないから……」

甘奈「昨日の日中になるのかな?」

めぐる「そんなの、誰でもできちゃうよー!」

(実際昨日の日中にルカさんが持ち出したわけだけど……)

(この状況、覆せば私にとってかなり有利なんじゃない……?)

(あの人は、ちゃんと包丁の残数を数えてなかったって言ってたし……今がそのチャンスかもしれない)

(やるぞ……どんな手段を用いても、議論の流れを掌握してみせるんだ!)

------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

発言力:♡×5
集中力:☆×5

コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【食堂の利用規則】
‣【凶器の包丁】

樹里「ルカを刺した凶器の包丁は食堂の厨房から持ち出されたんだ」

甘奈「だけど、その入手の機会は限られてるんだよね!」

甜花「有栖川さんが武器を集めてる時に【食堂の包丁も回収された】から……」

甜花「それより前じゃないとおかしいよね……!」

真乃「でも、【夜時間に食堂に入ることはできない】し……」

真乃「もっと前になっちゃうんだよね……」

凛世「昨日の日中のいつか……」

凛世「そうなると最早【全員が包丁を持ち出すことが可能】になります……」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「この嘘で議論の流れを変えてやる!」偽証!

【BREAK!】

にちか「いや……そうでもないですよ。犯人が凶器を持ち出すチャンスはかなり限られています」

めぐる「えっ?! そ、そうなの?!」

にちか「はい……昨日私は夜時間が来る前に小腹が空いたので、【食堂に一度入ってる】んですよ」

夏葉「なんですって……そんなの初耳だわ」

にちか「あはは……食い意地が張ってると思われたくなくて」

にちか「それで、夜時間の直前だったんですけど……その時は、【厨房の包丁が全部揃ってるのを目撃してる】んですよ」

あさひ「……! それ、本当っすか?」

にちか「うん、本当だよ。私はちょくちょく厨房を覗いてたから、本数が減ってたら気づいたはずなんだ」

(……)

凛世「包丁の本数に関して、他に証言はないですが……」

にちか「信じてください! ちゃんとこの二つの目で見ましたから!」


樹里「……」

にちか「……」

樹里「わかった、そこまで言うんだから本当なんだろ」

(……よし!)

愛依「にちかちゃん、ありがと〜! うち、ちゃんと見てなかったからすごい助かった……!」

(う……そんな笑顔を向けないでほしいな……)

甘奈「でも、これで犯人が包丁を持ち出すための時間がグッと絞れるね☆」

甘奈「今朝から、夏葉ちゃんが武器を集め出すまでの間だ!」

夏葉「……それなのだけど」

夏葉「そんな猶予があったとは到底思えないのよ。私たちは今日は一日戦いに備えようと決めていたから、朝のアナウンスの直後から行動を開始していたの」

めぐる「うん! おはようからすぐに集まって、武器をずっと集めてたんだ!」

夏葉「愛依も今朝は早かったわよね?」

愛依「うん……キンチョーしてたし朝のアナウンスより早くに起きてた」

愛依「うちも武器を集め出したのは、アナウンスの直後からだよ」

甘奈「あ、あれ……?」

(私の嘘で犯人が包丁を持ち出せたのは【今朝の間だけ】ということになった……)

(こうなったら……あの人に罪をなすりつけるルートで行くぞ!)

(胸が痛むけど……ここで引くわけにはいかない!)

------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.厨房の包丁はいつまで揃っていたことになっている?
a.昨日の夜時間より前 b.朝のアナウンス段階

Q2.犯人はいつ包丁を持ち出したと考えられる?
a.昨日の夜時間 b.朝のアナウンス直後 c.武器を集めていた時

Q3.厨房から包丁を持ち出したのは?
a.めぐる b.夏葉 c.恋鐘 d.愛依

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1

【bcd】

発言力:♡×5→♡×4

(いや、今の私の噓の証言によって包丁が揃っていた時間は書き換えられた……)

(他の人たちが私の証言を本当だと信じている間は、推理もそれに準拠させて考えないと……!)

------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.厨房の包丁はいつまで揃っていたことになっている?
a.昨日の夜時間より前 b.朝のアナウンス段階

Q2.犯人はいつ包丁を持ち出したと考えられる?
a.昨日の夜時間 b.朝のアナウンス直後 c.武器を集めていた時

Q3.厨房から包丁を持ち出したのは?
a.めぐる b.夏葉 c.恋鐘 d.愛依

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1

【abd】

発言力:♡×4→♡×3

(いや……有栖川さん達が言っていた通り武器を集め始めたのは朝のアナウンスの直後だよね)

(だから、彼女たちの目を盗んで……ってのは多分難しかったはず)

(罪を擦り付ける標的はあの人に定めたんだ……だったら、包丁を持ち出すタイミングもおのずとあの時になる……!)

------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.厨房の包丁はいつまで揃っていたことになっている?
a.昨日の夜時間より前 b.朝のアナウンス段階

Q2.犯人はいつ包丁を持ち出したと考えられる?
a.昨日の夜時間 b.朝のアナウンス直後 c.武器を集めていた時

Q3.厨房から包丁を持ち出したのは?
a.めぐる b.夏葉 c.恋鐘 d.愛依

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1

少し早めですが正答が出たところで本日はここまで。
また明日の6/14(水)の21:00~続きから再開予定です。よろしくお願いします。

それではお疲れさまでした。

【acd】

にちか「推理はつながった!」

【COMPLETE!】

にちか「昨日の夜時間までは包丁は揃っていた、そして武器の調達は今朝のアナウンス直後から始まった」

にちか「そうなると……厨房の包丁を持ち出すタイミングは一つしかないです」

にちか「【武器の調達と同時】! 犯人は武器を集める時に、自分が凶器として使うための包丁も一本くすねてたんですよ!」

夏葉「な、なんですって?!」

めぐる「だ、大胆な犯人だね……」

霧子「でも、タイミングはその時しかないのかも……」

樹里「……ん? 厨房の武器を調達してたのって」

愛依「う、うち?!」

にちか「この中で凶器の包丁を持ち出すチャンスがあったのは【愛依さん】。あなたただ一人なんですよ」

にちか「集めた後の武器は5人の相互の監視のもとにあった。そこから抜き取るのも不可能ですからね!」


あさひ「どうなんっすか? 愛依ちゃん」

愛依「い、いやいや……うちは……やってないって」

愛依「マジで! 全く身に覚えがない系!」

甜花「でも……包丁を用意できたのは、和泉さんしか……いない……よね……?」

愛依「で、でも……違うんだって! マジで知らない……!」

円香「よかったですね、犯人が特定できました」

透「おー、やればできるじゃん」

愛依「えっ……」

円香「あなたがどう言おうと、事実は事実ですから。にちかの証言がある限り、あなたしか包丁を持ち出せなかったのは確かでしょう?」

愛依「そ、それは……そーかも……だけど」

(……)

愛依「で、でも違うんだって! うちはやってない!」

夏葉「愛依、少し落ち着きなさい」

愛依「……!」


夏葉「あなたが本当にクロでないというのなら、感情的に喚くのではなく、きちんと論理立てて反論をしてちょうだい」

愛依「ロンリ的に……?」

夏葉「いい? 学級裁判には私たち14人の命もかかっているの」

モノクマ「今回は違うけどね!」

夏葉「シロの人間が反論を満足にできず、それに周りが流されるようであれば、待っているのは破滅よ」

夏葉「ここにいる全員が、他の全員の命を預かっていると自覚して。そして……全力で向き合ってほしいの」

愛依「そんなん……言ったって」

夏葉「大丈夫、そのための手伝いなら私たちも頑張るわ」

愛依「夏葉ちゃん……!」

樹里「ああ、ここまで愛依が否定するんだ。きっと何か見落としがあるんじゃねーか?」

円香「……はぁ、楽に終わったと思ったのに」

あさひ「こんなすぐに終わっちゃうんじゃつまんないっすよ! もっといろいろ話したいっす!」

(ちっ……流石にこれだけじゃ押し切れないか……)

(でも、焦るな……今の所、こっちが優勢なんだ)

(欺き通す……そのファーストステップは確実に踏めてるぞ、七草にちか!)

------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

発言力:♡×3
集中力:☆×5

コトダマ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【ルカの持っていた手紙】
‣【整理された本棚】

愛依「うちは犯人じゃないって!」

夏葉「愛依、論理的に反論するのよ」

夏葉「あなたが犯人じゃないと言う理由を話してちょうだい」

愛依「え、えっと……包丁を持ち出すタイミングは【武器の調達の時しかなかった】のかもしんないけど……」

愛依「うちは持ち出してない! 全部【ゲームルームに持ってった】よ!」

樹里「数を数えてはなかったから保証はできないんだよな……」

愛依「そ、それにうちはルカちゃんが図書室にいるのも【知らんかった】し!」

愛依「地下のゲームルームにいたのは夏葉ちゃんに呼ばれたからだよ!」

めぐる「モノクマと戦うって決めたメンバーはみんな夏葉さんに呼ばれて集まってたんだよ!」

あさひ「じゃあもしかすると夏葉さんが怪しいのかもしれないっすね」

夏葉「私には包丁を調達するタイミングが【ない】わ」

あさひ「あはは、冗談っすよ」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「それは違くないですかー!?」論破!

【BREAK!】

にちか「ルカさんが図書室にいるのを知らなかった……本当にそうですか?」

愛依「え?!」

にちか「ルカさんの持ち物の中に気になる紙があったんですよ」

灯織「どうやら犯人がルカさんに宛てたもので……ルカさんは【一人で図書室に来るように呼び出しを受けていた】ようなんです」

樹里「お、おいそれマジか?!」

『コロシアイを終わらせる手がかりを掴んだ
誰にも伝えずに図書室に来い』

あさひ「なんで図書室なんかに行ったのかと思ってたっすけど……そういうことだったんっすね」

甜花「これなら、呼び出した人は図書室に斑鳩さんがいるって分かってたんだね……」

にちか「この手紙を出したのが愛依さんなら……」

愛依「いやいやいや! 違う、違うって!」

愛依「うち、こんな漢字いっぱいの手紙難しくてよく書かないし!」

真乃「こ、これ中学校レベルの漢字しかないような気がするけど……」


樹里「愛依、何か他に反論する材料はないか?! 落ち着け、落ち着いて考えてみろ!」

愛依「え、えー……」

(ごめんなさい、愛依さん……私は手を抜くわけにはいかないんです……!)

霧子「……あれ?」

恋鐘「どがんしたと、霧子?」

霧子「えっと……ううん、なんでもない……」

夏葉「何か気になったことがあるのなら気にせず発言してちょうだい、霧子。ここは学級裁判、あらゆる可能性を精査する場所よ?」

霧子「あ……あのね……ルカさんのご遺体の状況を見て……ちょっと不思議に思ったことがあるんだけど……」

霧子「もしかすると……愛依ちゃんの容疑を晴らすことにも……つながるかも……」

愛依「え、そ、それマジなん?!」

(な、なんだって……?!)

樹里「霧子、頼む。その疑問……アタシたちにも聞かせてくれよ!」

霧子「う、うん……お話……させてもらうね……?」

(一体何が気になるっていうの……?)

(余計な発言を……なんとしても食い止めなくちゃ!)

------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

発言力:♡×3
集中力:☆×5

コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【床の埃】
‣【凶器の包丁】

霧子「ルカさんのご遺体の状況を見て気になったことがあるんだ……」

愛依「霧子ちゃん、お願い!」

愛依「うちのヨーギを晴らして〜!」

霧子「あのね……ルカさんは【沢山の血】を流して死んじゃってるんだ……」

霧子「だけど、愛依ちゃんの服に【返り血がまるでついてない】んだ……」

円香「そんなの、着替えただけでは?」

夏葉「いえ、ゲームルームに集まった時に着替えを持ってきている様子はなかったわ」

霧子「あれだけ沢山の血を流しているルカさんを……」

霧子「返り血を浴びずに殺害するのは【不可能】なんじゃないかな……」

樹里「それじゃあ返り血を浴びてない愛依は無実だな!」

愛依「おっしゃ! 証明終了! E.T.C〜〜〜!!」

甜花「Q.E.D.……かな?」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「ルカさんの死体は大量の血を流してましたけど、返り血を浴びてないからって愛依さんがクロじゃない理由にはなり得ないと思います!」

霧子「え……」

にちか「モノクマファイルを見てください。ルカさんの死因は刺殺なんですよ? しかも、致命傷になった刺し傷は一箇所だけ」

にちか「【刺し殺すだけなら返り血を浴びるほうが難しい】んですよ!」

霧子「そ、そっか……ごめんなさい……間違えちゃったみたい……」

(……私の言ってることは正しいはずだ)

(実際、ルカさんを刺した時に血が吹き出すようなことはなかったし……返り血はほとんど浴びてない)

(あの場に広がってた血痕は、ルカさんが悶え苦しんで広がったものなんだ)


愛依「う、うう……本当に、うちがやっちゃったんかな……」

樹里「お、おいおい……愛依はやってないんだろ?」

愛依「うん……ルカちゃんを殺しちゃったなんて……そんな記憶はないけど……」

愛依「これだけうちが犯人だって証拠が揃っちゃうと……うちが忘れちゃってるだけだったりして」

夏葉「冷静になりなさい、愛依。あなたがクロだという確定的な証拠は何もない」

夏葉「今は包丁を調達できたのは愛依だけという状況証拠だけなのよ」

(それも、私の嘘によって成り立っている脆弱なものだ)

めぐる「ねえ、本当に……包丁を手に入れるタイミングってわたしたちが武器を集め始める時しかなかったのかな?」

恋鐘「うちらは朝のアナウンスが聞こえてきてすぐにゲームルームに集まって、そのまま集めに行ったはずばい」

恋鐘「猶予はそうそうなかと思うばってん……」

あさひ「あれ? そうなんっすか?」

あさひ「わたしはてっきり朝のアナウンス直後って言うから本当に直後だと思ってたのに、結構時間が経ってからだったんっすね」


愛依「いやいや、ゆーて【ものの十数分】だと思うよ?」


あさひ「……? アナウンスが鳴る前から学校の中にいる人だったら、包丁を取って出るぐらいの時間は余裕であるっすよね?」

(え……!?)


夏葉「……確かに、それぐらいの余裕はあったかもしれない」

にちか「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! そんな急に本当は包丁を取れるだけの時間があったとか言われても」

樹里「さっき夏葉が言った通りだ! 学級裁判はどんなに些細な可能性でも、ちゃんと検討しなくちゃいけない!」

樹里「僅かにでも包丁を取れる時間があったのなら、それを検討するべきじゃねーのか!?」

愛依「み、みんな……」

(クソ……せっかく詰めかけたのに、余計なことを……)

(朝のアナウンス直後に回収したなんて、そんなの誰でもできるじゃん……!)

霧子「朝食堂に集まった時には既に大体武器は集め終わってたんだよね……?」

夏葉「ええ、そうね。ゲームルームにまとめて置いておいて、そこからは代わり代わりで武器の監視をしていたの」

甘奈「今朝最初に食堂にやってきたのは誰だったっけ?!」

甜花「お、覚えてない……」

円香「し、それが分かったところで意味はない」

透「まあ、だとしてもじゃん」

透「なんにせよ事件が起きた時に食堂にいたうちらは少なくともクロじゃないしさ」

透「モノクマコンバットか、ソロプレイのどっちかっしょ。クロは」

(そうだ……まだ焦らなくていい。私は食堂組でアリバイを確保してる限りは安全圏なんだ)


灯織「私は違います……マンホールの中にずっといたので……!」

甘奈「い、いやいや! 甘奈たちは違うよ?! ずっと甜花ちゃんと一緒だったし……」

あさひ「わたしも違うっすよ。教室でぼーっとしてたっす」

愛依「うち以外にも包丁を持ち出せたんでしょ?! じゃあヨーギシャはうちだけじゃない……!」


甘奈『甘奈たちはやってないよ!』
あさひ『わたしじゃないっす』
愛依『うち以外にも包丁は持ち出せたはずじゃん?!』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

おっと、議論が過熱してお三方が思い思いにしゃべり始めてしまいましたね。
ここから先の議論は今までの議論とほんの少しだけ様相が変わります。
【パニック議論】では、発言しようという思いが先走るあまりに、ほかの方の発言をかき消してしまうような大音量での発言をなさる方が現れることがあります。
そんなときに必要になるのがサイレンサーでございます。
サイレンサーはコンマの値を参照し、それに応じて議論の流れを正してくれます。
スキルによってサイレンサーの性能は向上させることができますので、こちらもぜひご検討ください。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

------------------------------------------------
【パニック議論開始!】

サイレンサーLv.1:補正なし

発言力:♡×3
集中力:☆×5
コトダマ
‣【あさひの証言】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【AVルーム裏口の扉】

甘奈「甘奈と甜花ちゃんは昨日の夜からずっと一緒だったもん!」
あさひ「わたしが今朝食堂に行ったのはだいぶ後の方っす」
愛依「朝のアナウンスが鳴って一度ゲームルームに集まってから」

甜花「夜時間からずっと一緒に動いてた……から」
あさひ「包丁を取るタイミングなんかなかったっすよ」
愛依「武器は集め始めたんだよ!」

甜花「包丁を持ってたりしたら流石に、気づく……!」
あさひ「事件が起きた時もずっと教室にいたっすからね」
愛依「だから更にそれよりも前……」

灯織「私はアリバイを証明してくれる方はいませんが……」
あさひ「わたしが教室にいたこと自体は食堂組の人たちが証明してくれるっすよね?」
愛依「朝のアナウンスのマジ直後なら包丁をチョータツできたはず!」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【Noise:30】愛依「どーよ! これがうちの反論!」【Noise:30】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

灯織「事件現場には近づいていません!」
凛世「はい……ひょっこりと顔を出されたあさひさんに、驚きました……」
夏葉「上等よ、愛依。可能性はバッチリ提示できたわ」

【サイレンサーでノイズ発言を鎮めろ!】

【コンマで30以上の数字を出すことでノイズ発言を鎮めることができます】

↓1


にちか「あー、もう! うるさーい!」

【EXCELLENT!】

【ノイズ発言を鎮めたのでウィークポイントが出現しました】

------------------------------------------------
【パニック議論開始!】

サイレンサーLv.1:補正なし

発言力:♡×3
集中力:☆×5
コトダマ
‣【あさひの証言】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【AVルーム裏口の扉】

甘奈「甘奈と甜花ちゃんは昨日の夜からずっと一緒だったもん!」
あさひ「わたしが今朝食堂に行ったのはだいぶ後の方っす」
愛依「朝のアナウンスが鳴って一度ゲームルームに集まってから」

甜花「夜時間からずっと一緒に動いてた……から」
あさひ「包丁を取るタイミングなんかなかったっすよ」
愛依「武器は集め始めたんだよ!」

甜花「包丁を持ってたりしたら流石に、気づく……!」
あさひ「事件が起きた時もずっと教室にいたっすからね」
愛依「だから更にそれよりも前……」

灯織「私はアリバイを証明してくれる方はいませんが……」
あさひ「わたしが教室にいたこと自体は食堂組の人たちが証明してくれるっすよね?」
愛依「朝のアナウンスのマジ直後なら包丁をチョータツできたはず!」

灯織「地下の図書室に行っていたら、その【道中で確実に目撃されます】よ!」
あさひ「死体発見アナウンスを聞いて、わたしも飛び出したんっすから」
【QUIET】

灯織「事件現場には近づいていません!」
凛世「はい……ひょっこりと顔を出されたあさひさんに、驚きました……」
夏葉「上等よ、愛依。可能性はバッチリ提示できたわ」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


【発言力:♡×3→2】

灯織「いえ、地下に行くルートはただの一つだけです。地下に降りてからのことは関係ありません」

灯織「地下の図書室に行くには必ずあの廊下を通らなくちゃいけなかった」

灯織「それなら確実に彼女に目撃されたはずなんです」

(しまった……別の発言をすればよかったな……)

(風野さんが言っている目撃って多分、あの人に見られるってことなんだろうけど……)

(あの人の発言自体、ちょっと疑問なんだよね。モヤモヤ同士ぶつけ合ってみるのもありなのかな)

------------------------------------------------
【パニック議論開始!】

サイレンサーLv.1:補正なし

発言力:♡×2
集中力:☆×5

コトダマ
‣【あさひの証言】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【AVルーム裏口の扉】

甘奈「甘奈と甜花ちゃんは昨日の夜からずっと一緒だったもん!」
あさひ「わたしが今朝食堂に行ったのはだいぶ後の方っす」
愛依「朝のアナウンスが鳴って一度ゲームルームに集まってから」

甜花「夜時間からずっと一緒に動いてた……から」
あさひ「包丁を取るタイミングなんかなかったっすよ」
愛依「武器は集め始めたんだよ!」

甜花「包丁を持ってたりしたら流石に、気づく……!」
あさひ「事件が起きた時もずっと教室にいたっすからね」
愛依「だから更にそれよりも前……」

灯織「私はアリバイを証明してくれる方はいませんが……」
あさひ「わたしが教室にいたこと自体は食堂組の人たちが証明してくれるっすよね?」
愛依「朝のアナウンスのマジ直後なら包丁をチョータツできたはず!」

灯織「地下の図書室に行っていたら、その【道中で確実に目撃されます】よ!」
あさひ「死体発見アナウンスを聞いて、わたしも飛び出したんっすから」
【QUIET】

灯織「事件現場には近づいていません!」
凛世「はい……ひょっこりと顔を出されたあさひさんに、驚きました……」
夏葉「上等よ、愛依。可能性はバッチリ提示できたわ」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「聞こえた……!」論破!

【BREAK!】

にちか「単独行動をしていたメンバーが地下の図書室に向かっていたら、確実に他の誰かに目撃されてしまう。それって芹沢さんのことを言ってるんですよね?」

灯織「ええ……七草さんと一緒に捜査をした時に、彼女が言っていたことです」

灯織「コロシアイ促進BGMが流れ出すよりも前から教室にいて……モノクマと戦うことを決めたメンバーが地下に下っていくのを見てからは」

灯織「その動向が気になってずっと廊下を注視していたと」

にちか「そう、芹沢さんのこの証言があるなら単独行動組はもちろん事件に関与していないことになるんです」

甘奈「や、やった……!」

にちか「でも、そうじゃないんです……」

甜花「え……?」

にちか「愛依さんはずっと言ってましたよね? 【芹沢さんを探すために途中で離脱した】って」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「愛依さんは【途中で抜けて、事件発生時刻よりも後に戻って来た】って聞きましたよ!」

愛依「え?! あ、あー……あさひちゃんを探しに行った時のことか!」

愛依「うん、9時20分ぐらいから15分ぐらい抜けてたけど……図書室には行ってない! 地上を探してたんだよ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「芹沢さんがいたのは、あの教室のはずなんですよ? 図書室に行ったでもないなら、愛依さんは確実に教室の前を通ったはずです」


にちか「だけど、芹沢さんは【そんなこと一言も言ってない】! 誰も通ってないって断言までしてる!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あさひ「それも気になったから、そこからはずっと廊下を見てたっすよ」

にちか「え? ずっと? 死体発見まで?」

あさひ「はいっす。まあ途中よそ見したとかはあったかもしれないっすけど……基本はずっと見てたと思うっす」

あさひ「でも【そこから他に通った人はいなかった】っすね。地下に行く人も、地下から出てきた人もいないっす」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「それっておかしくないですか?! 証言が食い違ってるんですよ!」

甜花「た、確かに……和泉さんの姿を見てないのはおかしい……よね」

甘奈「というか愛依ちゃんはあさひちゃんのことを教室で見つけなかったの?」

愛依「えっと……」

あさひ「……」

夏葉「もしかして……何か隠してるのかしら?」

愛依「いやいや、隠し事なんて、ぜんぜん!」

にちか「どうなんですか?!」


愛依「……うぅ、そーなんよ。うち、あさひちゃんを探しに階段登ったけど……【教室では見つけられなくて】」

凛世「なんと……!」

にちか「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! それじゃあ芹沢さんは嘘の証言をしてたってことですか?!」

あさひ「んー……まあいいか。嘘とかじゃないんっすよ。教室にずっといても退屈だったんで、【ちょっと抜けてる時があった】んっすよ」

あさひ「廊下に何か面白いものないかなーって探しに行ってたんで。その時に愛依ちゃんがきたのかもしれないっすね」

めぐる「来たのかもしれないっすねー……ってそんな簡単に言っちゃってるけど、大きな変化だよ!」

めぐる「あさひが廊下を見てない時間があったんだったら……甘奈や灯織が地下に行くことだって可能だったタイミングがあるんじゃない?!」

甘奈「えっ……あ、甘奈たちも?!」

灯織「私もですか……!?」

甜花「あ、あぅ……」


真乃「あ、あの……あさひちゃんはどうなるのかな……?」

あさひ「わたしっすか?」

真乃「最初は凶器の調達ができないから容疑者から外れていたけど……今はそうでもないし」

真乃「事件当時のアリバイも、自分一人の証言しかないんだよね……?」

あさひ「あー、そうっすね! わたしも容疑者になると思うっすー!」

樹里「そんな気軽によく飲み込めんな……」

夏葉「あさひ……それは分かった上で言っているのかしら」

あさひ「なんのことっすか?」

夏葉「この状況、あさひだけは別。【あさひは容疑者にはなり得ない】のよ」

恋鐘「なして? 条件はみんな一緒やろ?」


夏葉「いい? 愛依があさひを迎え入れると言って出て行ったのが9時20分ごろ。そこから15分前後してから愛依は戻ってきた」

夏葉「愛依が図書室に行ったのではなく、証言通りに地上階を探しに行っていたのなら【この段階であさひは既に倉庫に向かっていた】ことになる」

甘奈「そっか……行きも帰りも愛依ちゃんがあさひちゃんを見つけてないから……」

夏葉「逆に愛依が犯人だった場合なら言わずもがな。あさひは関与していない……それだけのことよ」

霧子「そうとも限らないんじゃないかな……二人が行き違いになっていた場合とか……」

夏葉「私たちが死体を見つけたのが【9時35分で愛依と合流した直後】なの。あさひが犯人ならば必ず愛依とすれ違っているだろうし、行き違いは起こり得ないわ」

夏葉「地下を行き来する階段は一つしかないし、地下の階段前の教室はただ一つなんだもの」

あさひ「ふーん、そういうことになるんすね」

(愛依さんの証言で芹沢さんの不在が証明された)

(ただ、愛依さんは確実に帰ってきていて、道は一本道だから……結果的に芹沢さんのアリバイを証明することになるんだ)

透「じゃあ容疑者は4人だ」

円香「芹沢さんを探しに行くと言って離脱した時間のある愛依さん」

円香「それぞれ単独行動をしていた甘奈と甜花さんの姉妹」

円香「そしてマンホールにいた……? 灯織」

透「犯人はこの中にいる!ってね」


【甘奈「その推理は許せないかも!」】反論!


甘奈「ちょっと待ってよ! 確かに今の話を聞いているとあさひちゃんのアリバイは証明されちゃうのかもしれないけど……」

甘奈「それと同じ原理で、甘奈たちのアリバイも証明されるんじゃない?」

甘奈「容疑者に甘奈たちを入れるのは不適切なんじゃないかな!」

------------------------------------------------
【反論ショーダウン・真打 開始!】

発言力:♡×2
集中力:☆×5

コトノハ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【あさひの証言】
‣【AVルーム裏口の扉】

甘奈「あさひちゃんのアリバイが」

甘奈「地上に出た愛依ちゃんとすれ違っていないことで証明されるのなら」

甘奈「甘奈たちだってそうなるよ!」

甘奈「だって甘奈たちも」

甘奈「死体発見アナウンスまで誰とも一度も会ってないもん!」

◇◆◇◆◇◆◇◆

【発展!】

にちか「ええ、それはもちろん知ってますけど……」

にちか「それだから、お二人はアリバイがないって話なんじゃないですかー!」

◇◆◇◆◇◆◇◆

甘奈「今まではそれでアリバイなしになってたけど状況が違うんだよ!」

甘奈「あさひちゃんが倉庫に行っている間に地下に降りても」

甘奈「犯行を行った後、戻ってくる時に」

甘奈「絶対に愛依ちゃんかあさひちゃんに【会っちゃう】よね?」

甘奈「でも、二人とも甘奈たちの姿も見てないって言ってるし」

甘奈「地下には行ってない証拠になるよね☆」

【矛盾する発言を正しいコトノハでコンマ30以上で論破しろ!】

↓1


【発言力:♡×2→1】

甘奈「うん、あさひちゃんがいないタイミングがあったのは分かってるよ?」

甘奈「でも、それはそのタイミングで甘奈たちが地下に行くことはできても、戻ることができたことの証明にはなってないよ!」

甘奈「あさひちゃんは死体が見つかった後のタイミングでは教室に戻ってきてたんだよね?」

甘奈「甘奈たちが死体発見現場にやってきたのはあさひちゃんたちよりも後なんだよ!」

(うーん……ややこしいけど、芹沢さんは死体発見までには教室に戻ってきていて、かつ誰も目撃していないという証言なんだよね?)

(だったら、図書室に行くことはできても、戻ることはできないというのが甘奈さんの理屈だ)

(なら、図書室から戻る必要はなかったことを証明するのが打ち破るきっかけになるのかも……!)

------------------------------------------------
【反論ショーダウン・真打 開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトノハ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【あさひの証言】
‣【AVルーム裏口の扉】

甘奈「あさひちゃんのアリバイが」

甘奈「地上に出た愛依ちゃんとすれ違っていないことで証明されるのなら」

甘奈「甘奈たちだってそうなるよ!」

甘奈「だって甘奈たちも」

甘奈「死体発見アナウンスまで誰とも一度も会ってないもん!」

◇◆◇◆◇◆◇◆

【発展!】

にちか「ええ、それはもちろん知ってますけど……」

にちか「それだから、お二人はアリバイがないって話なんじゃないですかー!」

◇◆◇◆◇◆◇◆

甘奈「今まではそれでアリバイなしになってたけど状況が違うんだよ!」

甘奈「あさひちゃんが倉庫に行っている間に地下に降りても」

甘奈「犯行を行った後、戻ってくる時に」

甘奈「絶対に愛依ちゃんかあさひちゃんに【会っちゃう】よね?」

甘奈「でも、二人とも甘奈たちの姿も見てないって言ってるし」

甘奈「地下には行ってない証拠になるよね☆」

【矛盾する発言を正しいコトノハでコンマ30以上で論破しろ!】

↓1


にちか「その言葉、切らせてもらいますねー!」論破!

【BREAK!】

にちか「甘奈さんたちと芹沢さんの状況が違うのは……一つ大きな事実があるからなんです」

甘奈「事実……?」

にちか「私たち食堂組は死体発見アナウンスを受けて地下へと向かっている際に、実際に教室にいた芹沢さんに会っているんです」

にちか「つまり事件前後で芹沢さんが教室に戻ってきていた証明はできている」

甘奈「そうだよね? だからそのあさひちゃんに会ってない甘奈たちは……」

にちか「会う必要がないんです」

甜花「ひぃん?!」

にちか「地下には図書室とゲームルームの他にもう一つ部屋があるんです。それが【AVルーム】」

甜花「エー……ブイ……?」

にちか「ゲームルーム側から入る入り口ともう一つ、廊下に直結で用意されている入り口もあるんですよ」

にちか「つまり、ここから【AVルームに身を隠しておけば、あとは死体発見の騒ぎに乗じて姿を現すだけでいい】」

にちか「これなら芹沢さんと愛依さんの二人の目を掻い潜っての反抗が可能です!」

甘奈「そ、そんな……甘奈たち……行ってないし、やってないよ……!」

灯織「状況が混沌としてきましたね……容疑が今、いろんな方向に向けられていて……苦しい状況です」

円香「愛依さんが犯人だったら話もスッと終わって分かりやすかったんですが」

愛依「ご、ごめん……」


甜花「ちょ、ちょっと待って……!」

にちか「……? 甜花さん……?」

甜花「あ、あの……今の七草さんの推理は……無理があると思います……!」

樹里「ま、マジか? どこの話だ?」

甜花「AVルームの話……なんだけど……えっと……幽谷さん、おかしいと思ったよね……?」

霧子「う、うん……あそこの扉は、【開かない】はずだから……」

にちか「扉が、開かない……?」

甜花「前に甜花と幽谷さんで一緒に、あの部屋でアニマルビデオを見たことがあるんだけど……」

甜花「その時に、扉が開かなくて焦った記憶があるんだ……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

甜花『あ、あれ……? 開かない……』

霧子『甜花ちゃん……? ちょっと代わってもらってもいいかな……?』

甜花『う、うん……』

霧子『よい、しょ……』

霧子『ダメみたい……どうやら、立て付けが悪い扉みたいだね……』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

霧子「どれだけ力を入れても動かなくて……レーンには埃も溜まっていたから……」

霧子「犯行の後に身を隠す場所には使えないと思うな……」

甘奈「て、甜花ちゃん……ありがとう! 甜花ちゃんは世界で一番頼りになるお姉ちゃんだよ!」

甜花「に、にへへ……これで、弁護できた……」


(AVルームが使えないから身を隠せない……)

(本当にそれだけの単純な話かな……)

(もっと容疑をふっかけて……議論を撹乱してやれる気がする)

にちか「いや、待ってください!」

灯織「ま、まだ……可能性があるんですか?」

にちか「はい……【地下に身を隠せる場所が他にもある】としたら……どうですか?」

甘奈「ほ、他にも身を隠せる場所……?」

(隠し通路の話をするのは論外として……)

(あの場所なら……可能性はあるかもしれない……!)

------------------------------------------------
【ひらめきアナグラム開始!】


き/つ/う/こ/う


【正しい順番に並べ替えろ!】

↓1


にちか「これだ!」

【解!】

にちか「図書室の角っこにあった【通気口】……あそこなら出入り出来るはずですよ!」

めぐる「つ、通気口ー?!」

円香「元は地下に貯蔵されている本の湿気を取るためのものなんでしょうね。あれだけの本が収められているだけあって、かなり立派な通気口があったと思います」

樹里「そういや……地下から降りる階段の天井にパイプが通してあったな。あれが多分通気口のパイプ……なんだよな?」

夏葉「まさかあのパイプの中を這って脱出したとでも言うつもり?!」

真乃「かなり大胆な脱出計画ですね……」

甜花「て、甜花……そんなことする体力ない……」

凛世「しかし、仰る通り人が一人通れるほどの隙間はあるものかと……」

にちか「これも検討の価値はありますよね?」

樹里「んあー! しょうがねえ、これも確かめてみるぞ!」

樹里「図書室に出入りする方法が他にもあったのかどうか! 検証だ!」

------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトダマ
‣【床の埃】
‣【整理された本棚】
‣【コロシアイ促進BGM】

真乃「あさひちゃんの監視の目を掻い潜って地下に行くことは可能です……っ」

真乃「戻ってくる愛依さんと、あさひさんに会わずに姿を隠す方法は……」

めぐる「【通気口を使った】んだよ!」

めぐる「図書室には地上とつながる大きな通気口があったからね!」

甜花「甜花、そんなとこよじ登れない……!」

透「書架用の梯子を使えば【誰でも登れる】高さだよ」

透「あーでもあの図書室ってさ」

透「めっちゃ雑じゃなかった? 配置とか」

凛世「本棚の上の本も雑然としており、とても人が行き来しやすいものではありませんでした……」

凛世「通気口を使おうとしても、【本がそれを阻む】ものかと……」

甜花「通気口を張って進むのも体力使うし……」

甜花「甜花には不可能なトリック……!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「それは違くないですかー?」論破!

【BREAK!】

にちか「確かにあの図書室はきったないです。お姉ちゃんの仕事部屋みたいな汚さです」

真乃「そ、そうなんだ……」

あさひ「まさに足の踏み場もないってやつっすね!」

甘奈「そんな状況じゃ通気口を使うどころじゃないよね……?」

灯織「……そんな状況ではなかったってことなんですよ」

甘奈「ひ、灯織ちゃん?!」

灯織「私と七草さんは図書室の本棚を一通り調べてみたんですが……」

灯織「本棚の上に乱雑に置かれていたはずの本は【全て整頓して並べ直されていた】んです」

甜花「そ、そうなの……?」

灯織「あれならうっかり本を落として音を立ててしまうようなこともなく、通気口を使うことができたと思います」

(うぅ……そんな恨めしそうな目を私に向けないで……)

樹里「ってことは……ここまでの流れを整理するとだ」


樹里「あさひと愛依がいなくなったタイミングで地下に忍び込んだ犯人がルカを殺害」

樹里「そのあとは梯子を使って本棚の上に登り、通気口を通って地上へと向かった」

夏葉「あとは死体発見アナウンスのタイミングで、あさひがいなくなるのを確認してから教室の方の通気口から脱出する」

夏葉「何食わぬ顔で後から合流すれば条件は満たすわね」

甘奈「ち、違う……違うって……甘奈たちはやってないよ……!」

甘奈「そ、それに大体……通気口なんて使ったらパイプを通る時に大きな音がしちゃうよね?!」

甘奈「そんな大胆な方法、気づかれずに実行するなんて……」

にちか「いや、それは看破してますよ」

甘奈「ええっ?!」

(通気口を使う時になる大きな音。それを掻き消す方法なら、あれがあったはずだ)

【正しいコトダマを指摘しろ!】

>>374 >>375

↓1


にちか「これだー!」

【解!】

にちか「事件が起きる少し前、コロシアイのタイムリミットが1時間を切った頃から学園中にあの爆音が鳴り響いてましたよね?」

甘奈「爆音って……コロシアイ促進BGM?」

樹里「あー……あのモニターから流れてたやつか……どこ行っても流れてっからノイローゼになるかと思ったんだよな……」

にちか「あれだけ大きな音が流れている状況で、通気口を人が通って物音が立とうとも、誰も気にしません」

にちか「物音は、この方法を否定する理由にはならないですよねー!」

甘奈「そ、そんな……!」

灯織「……」

(よし……いいぞ、いいぞ……!)

(完全に流れは私のもの! もはや食堂組に疑いの目を向ける人は誰もいない!)

(このまま、単独行動をしてた人か、愛依さんあたりに罪を被せて……この学園を卒業する……!)

夏葉「だいぶ事件の全容が見えてきた様ね……容疑者も数が絞れてきた」

夏葉「地下に行って殺害が可能だったのは、愛依、甘奈、甜花、灯織の四人」

夏葉「この中からあとは犯人を見つけ出さないと……」






あさひ「あ、ちょっといいっすか?」






夏葉「どうしたの、あさひ? ここまでの推理で何かわからないことでもあったかしら」

あさひ「うーん、そうじゃないんっすけど……夏葉さん、一つ大きな見落としをしてるっすよ」

夏葉「見落とし? 何かしら、教えてちょうだい?」




あさひ「容疑者からにちかちゃんが抜けてるっす」




(……!?)

にちか「え、ちょっと急にやだなー……もしかして、途中でトイレに抜け出してたこと? でもちゃんとトイレに行ってからも私は食堂に戻ってきたしー……」

あさひ「いや、そうじゃないっす。そこはどうでもよくて」






あさひ「女子トイレから直通で図書室に行く隠し通路があるっすよね?」






にちか「……は?」

目の前の少女はあまりにも平然と、それが常識であるかの様に口にするので、私は言葉を失ってしまった。
私が裁判に挑むずっと前から存在を隠し続け、この舞台において心の拠り所にして戦っていた核を、彼女は悠々と全員の前で披露した。
子供が図工の時間に作った自信作を、食卓の上に置いた時の様に朗らかな笑顔で、微塵の邪気も滲ませることもなく。

灯織「隠し……通路……?」

あさひ「一回の女子トイレの用具入れっすね。その壁を押すと奥の空間が開いて、そのまま図書室まで行くことができるっすよ」

円香「ちょっと、急に何?」

円香「そんなフィクションみたいな話急に言われて信じられると思う?」

あさひ「いや、でも本当に隠し通路があるんっすよ!」

(何を急に言い出すのこの子……!?)

(だ、ダメ……なんとしてもこの子の発言は打ち砕かないと……!)


本日はここまで。
また明日21:00ごろより再開予定です。
それではお疲れさまでした。またよろしくお願いします。


灯織「女子トイレに隠し通路があるから、七草さんにも犯行は可能……とのことだけど」

灯織「流石に隠し通路がある、と言われても信用できない……その証拠がないんだから」

にちか「そ、そうだそうだ! 証拠を出せ証拠を!」

あさひ「証拠っすか? いいっすよ?」

にちか「なっ……!」

甘奈「証拠が、あるの……?!」

あさひ「あはは、そうじゃなきゃこんな話急にしないっすよ」

(もはや猶予はない……どんな手段を用いてもこの子は挫かないとダメだ……!)

------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトダマ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【整理された本棚】
‣【ゲームルームの武器】

あさひ「にちかちゃんも容疑者なんっすよ」

あさひ「だって女子トイレには図書室と通ずる【隠し通路があった】っす!」

めぐる「そんなの初耳だよー!?」

凛世「隠し通路とはどのようなものなのですか……?」

あさひ「本棚の一部が【開いたり閉じたりする】っすよ!」

樹里「そんな大掛かりな仕掛け、誰かが気付きそうだけどな……」

めぐる「証拠だって今まで出てきてないよね……」

あさひ「少し前に通気口の議論になったじゃないっすか」

あさひ「あの時に本棚の上の本が整理されていたって話が出たっすけど」

あさひ「隠し通路がある本棚だけは【本が積まれてなかった】んっすよ」

灯織「積まれてない?」

あさひ「本棚が動いたら本が落ちちゃうからっすね」

あさひ「これが隠し通路があった証拠っす!」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「この嘘で真実を覆い隠す!」偽証!

【BREAK!】

にちか「本棚の上の本がなかった……? そんなわけない!」

にちか「私自身が図書室の本棚は一通り調べたけど、全部の本棚の上に本は積まれてたし、整理された状態で置いてあったよ!」

(もし芹沢さんの言う通り本棚の上の本がなくなっていたとしても……隠し通路があることの確定的な証拠にはならないはずだ……)

(この子がどこまで知っているのかはわからないけど……物理的な証拠がない限りは嘘で捻り潰せる……!)

夏葉「図書室の調査は行ったけど……本棚の上の本まで全ては見てないわね……」

霧子「あっ、恋鐘ちゃん……」

恋鐘「なんね、霧子? うちん顔になんかついとーと?」

霧子「ドローンで撮った写真だよ……! あれなら図書室を俯瞰で見た写真があるんじゃないかな……」

(やば……!)

恋鐘「そうばい! 写真があればあさひの証言の裏付けになるはずたい! モノファニー、現像はいまどがんね!?」


モノファニー『』


モノタロウ「あ、あれ!? モノファニー!? どこ行っちゃったの!?」


モノスケ「モノファニーは離席中や。アイツも何かと多感な時期やからな。ワイらで色々と察してやらなあかんで」

モノキッド「あっ、そうだ……空から見てるんだよ、ミーたちのことをみんなが」

モノダム「……」

霧子「どうやら……まだ出来ていないみたいだね……」

あさひ「その必要はないっすよ? だって【わたしが撮った写真がある】っすから」

にちか「は、はぁ……?」

あさひ「わたし、こんなこともあろうかと現場の写真をいっぱい撮っておいたっす!」

(そういえば……)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

他の人たちより一際目立って捜査に熱中している様子の少女が一人。
手には何やらインスタントカメラのようなものが握られて、現場を歩き回っては写真の撮影を繰り返している。
それについて回る愛依さんはあたふたしてばかり。

にちか「あ、あの……芹沢さん、ちょっといい?」

あさひ「……」

愛依「あさひちゃん、あさひちゃん! なんかお話あるみたいだけど?!」

あさひ「……? なんっすか?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(芹沢さんは捜査の段階でインスタントカメラを持ち込んで写真をやたら撮り回っていた……!)

あさひ「みんなにはこの2枚の写真を見て欲しいっす!」


芹沢さんが私たちの前に提示した写真は、図書室奥の本棚を引きの画角で撮った写真。

あさひ「写真には右下に日付の時刻が自動で入るっすけど……」

あさひ「1枚目は昨日の夜時間っすね。この時は本棚の上にある本はそのままっす」

めぐる「バランスが悪い積み方がしてあって、すぐに崩れてきそうだね!」

透「他の本棚は綺麗に整理された後っぽいね」

あさひ「で、2枚目は事件が起きてから撮った写真っす。右下はルカさんの死体が映っちゃってるんで気をつけてくださいっす」

甜花「うぅ……本当だ……」

真乃「あっ! 【中央の本棚の上の本がなくなってる】!」

円香「床にいくつか散乱した様になっていますし……これは」

樹里「元から図書室は床に本が散乱してたからあんまり気に求めてなかったけど……これは怪しいな」

(こ、こんなのずるいよ……!)

(私の嘘を後出しで潰せる証拠を持ってたなんて……!)


(で、でも……これもまだ確定的じゃない……!)

にちか「確かにその写真で見ると、中央の本棚の本は落ちてるみたいですけど……!」

にちか「隠し通路の存在をそれで証明するには足りないですよね!?」

愛依「まあグーゼンに本が落ちることだってあるよね……? 実際、本の積み方はバランスが悪く積まれてたわけなんだしさ?」

あさひ「そうっすね! 偶然かもしれないっす!」

にちか「はぁ……?」

あさひ「あはは、なんだか楽しくなってきたっす! にちかちゃん、その調子でお願いするっすよ!」

あさひ「わたしと一緒に、戦ってくださいっす!」

(こ、この子は……何を言ってるの……?)

------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトダマ
‣【ルカの持っていた手紙】
‣【食堂の利用規則】
‣【床の埃】

あさひ「図書室奥の中央の本棚の上の本」

あさひ「あれが事件の前後で落ちちゃってるのは」

あさひ「隠し通路として【本棚が動いた】証拠っす!」

甘奈「偶然に本が落ちちゃっただけかもしれないよ?」

甘奈「地震があったとか……」

甘奈「誰かがぶつかったとか!」

灯織「本棚の上の本の有無で隠し通路の存在を議論するのはちょっと無理があるような気が……」

灯織「図書室に【他に事件前後で変わったところもない】ですし……」

円香「仮に本棚が動いたとして」

円香「それが【女子トイレにつながっている証拠もない】ですよね?」

愛依「あさひちゃん……どうなん?」

あさひ「あはは、楽しくなってきたっすね!」

【嘘のコトダマで利用できる発言に同意しろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「この嘘で真実を握りつぶす!」偽証

【BREAK!】

にちか「みなさん、芹沢さんの話に踊らされちゃダメですよ! そんな……隠し通路だなんて、そんなわけないじゃないですか!」

あさひ「……」

にちか「あの図書室は長く利用していた人もいなかった。埃も散々に溜まってましたよね?」

凛世「はい……わずかの時間立ち入っただけでも思わず咳き込んでしまうような……」

凛世「淀んだ空気に、止まってしまった時間を感じておりました……」

恋鐘「ふぇーーーーーーくしょん!」

にちか「でも、隠し通路がもしあったんだとしたら、その扉が開く時に床の埃も吹き飛んじゃいませんか?」

樹里「ん? ああ……そう、か……」

にちか「風野さん、一緒に捜査しましたけど床の埃はどうでしたか?」

(風野さんは床の埃の違いには気づいていなかった……ここは念押しをすれば乗ってくれるはずだ……!)


にちか「風野さん……」

灯織「え、ええ……【大変埃が溜まっていて】、正直、長居はしたくない場所でした」

(……よしっ!)

夏葉「でもちゃんと床の埃を目視したわけじゃないわ……もしかしたら一定の場所だけ埃が避けられた様になっていたかもしれないじゃない?」

にちか「いやいや、そんなことないですって! 私は見ましたよ、あの床は満遍なく埃まみれでした!」



あさひ「あはは、にちかちゃん、適当な嘘じゃダメっすよ〜」



にちか「……っ!?」

あさひ「さっきも言ったっすけど。わたしインスタントカメラで現場の写真をいっぱい撮ってたっす」

あさひ「それでこれは……【死体発見現場周辺の床の写真】っす」

そこに映っていたのは、埃に塗れた図書室のフローリング。
その埃が……あたかも放物線を描く様な形でよけられたような跡だった。


凛世「こ、これは……?」

あさひ「図書室の隠し通路は本棚が動いて、壁の扉が姿を現す仕掛けっす」

あさひ「だから、仕掛けを動かす際に本棚が床を擦って、そこにあった埃を動かしてこんな風に溜まったんっすね」

あさひ「さっきのにちかちゃんの嘘はこの写真で完全に瓦解するっすね!」

(な、何を言ってるの……この子は……)

まずい、まずいまずい。
ここまで積み重ねてきた嘘が、突き崩されている音がする。
私の立っているこの場所が、根本から折れかけている。
柱を食い破ろうとしているのは、無害だと思っていた小さな小さな鼠。そのひと噛みひと噛みが深く、深刻に、抉っていく。

円香「だ、だとしても……隠し通路が女子トイレと繋がっている証拠はないでしょ」

樹里「隠し通路の存在もまだ……確定じゃない。可能性が高くなってきてるのは事実だけど」

樹里「なあ、にちか……もっと詳しく聞かせてくれないか。今アンタがついた嘘のその意味も、合わせて」

にちか「意味……? 意味ってなんです……?」

にちか「そんなもんないですよ! この子が! 私を急に容疑者扱いするから……そこから逃れようとしただけです!」

愛依「に、にちかちゃん、落ち着いて! ほら、ロンリ的に反論すればダイジョーブだから!」

にちか「言われなくても……そうするつもりですよ!」

にちか「芹沢さん……あなたの勝手にはさせない」

あさひ「……」

にちか「私は負けないんだから!」

コトダマゲット!【女子トイレの隠し通路】
〔女子トイレに存在する隠し通路。図書室まで通じており、にちかはこれを利用してルカを殺害した〕

------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【コロシアイ促進BGM】
‣【女子トイレの隠し通路】

あさひ「女子トイレと図書室を繋ぐ隠し通路があったっす!」

あさひ「それを利用すればにちかちゃんにも犯行は可能っすね!」

夏葉「隠し通路の存在を示す根拠は二つ」

真乃「図書室奥中央の【本棚の上から崩れ落ちた本】と」

真乃「【放物線の形によけられた床の埃】ですね……っ!」

あさひ「どっちも写真があるっすよ!」

円香「だとしても隠し通路を示す確定的な証拠はない」

円香「ましてその隠し通路とやらが女子トイレと通じている証拠もね」

樹里「なあ、マジな話どうなんだ」

樹里「にちか……隠し通路を……【使った】のか?」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)

↓1


にちか「この嘘を、貫き通す!」偽証!

【BREAK!】

にちか「はぁ〜……マジでわけわかんない、最悪。さいっっあく」

にちか「隠し通路? そんなの使ったわけないじゃないですか! ドラマの見すぎ、小説の見すぎ、ゲームのやりすぎですよ!」

にちか「断言しますけどね、私はそんな隠し通路の存在なんか知らないし、通ってない!」

にちか「女子トイレには行きましたけど、それっきり! 図書室には行ってないですから!」

愛依「あさひちゃん……にちかちゃんがここまで強く言ってるけど……どうなん?」

あさひ「……」

あさひ「にちかちゃんの反論は、それで終わりっすか?」

にちか「はぁ……はぁ……何?」

あさひ「うーん……もうちょっと楽しみたかったんっすけど。ネタ切れなら仕方ないっすね」

あさひ「これで終わりにするっす」

これまでに聞いたことのない様な低いトーンで、彼女はとても退屈そうに、懐からもう一枚写真を取り出した。
これまでと同じく、図書室の床を写した写真。
しかし、そこに混じる色彩には……【紫】があった。


めぐる「こ、この写真は……何……?」

真乃「図書室の床を撮った写真みたいだけど……こ、これって……っ!」

樹里「あ、足跡が浮かび上がってるじゃねーか!!」

(あ、足跡……?)

あさひ「事件現場となった周辺を、わたしが【ブラックライト】を使って照らして写真を撮ったっす」

樹里「ま、待て待て! ブラックライトで足跡ってわかるものなのか?!」

夏葉「いえ、そんなわけないわ。ブラックライトが反応するのは特定の物質のみ。蛍光物質を含むものが長く蓄光するので、反射で光る原理ね」

あさひ「そう、だから【犯人は蛍光物質を多く含むものを踏んでる】んっすよ」

にちか「はぁ……?」



あさひ「わたしは事件の前に、【衣類用洗剤を女子トイレの床に散布しておいた】んっすよ」



あさひ「衣類用洗剤には蛍光増白剤っていうブラックライトに反応する物質が含まれてるっすからね」

あさひ「だから、それを踏んだ人間が図書室に来ていたら足跡が残る原理っす」

にちか「で、でもそんなの死体発見現場に駆けつけたんだし残るのは当然……!」

あさひ「こんな【本棚から出てきたみたいな向きの足跡で】……っすか?」

にちか「……!」

甘奈「あさひちゃんの言う通りだよ……この足跡の持ち主はどうみても、壁から出てきて死体の方向に歩いてる」

甘奈「隠し通路から出てきて、犯行を行った様にしか見えない……」

あさひ「にちかちゃんの他に、事件の前後で一回の女子トイレに行った人はいないっすか?」


「……」


あさひ「なんならにちかちゃんの靴を、今このブラックライトで照らしてもいいっすけど」

あさひ「……どうするっすか?」


(……)


(…………)


(………………意味わかんない)


(何? 突然話をぶったぎってきて証拠の連続?)

(しかも、それが全部私が犯人だって結びつく確定的な証拠?)

(こんなの……もう、どうしようもないじゃん)

気がつけば、私は証言台の細い柱に縋る様にへたり込んでいた。
手のひらで握っても指が余るほどにか細い柱。私が積み重ねていた嘘とはこの程度のものだったんだろう。
必死に必死に重ねて、練り合わせて、なんとか柱と言い張れるぐらいの出来のものに乗っかって、不恰好な櫓で挑んでいた。
こんな簡単に根本から崩れ落ちるとも知らずに。


全てが終わったと悟った今、脳を占めるのは落胆というよりも自分自身への失望だった。
ルカさんが私にならこの犯行を任せられると言ってくれた信頼も、今際の際に託してくれた希望も、全て全て台無しだ。
私のような何も持たない、何もできない一般人が、身の丈に合わない夢を思い描いたせいで。

私はこんなところに立っている資格はない。
地べたにみすぼらしく、惨たらしく、這いつくばっているべき人間だったんだ。

愛依「に、にちかちゃん……だったん……?」

にちか「……」

円香「黙ってても何もわからない。答えはイエスかノーで」

円香「……で、あなたが殺したの?」

にちか「……」



にちか「……はい」



樹里「……ッ!? なんで……なんでだよ……ッ!」


樹里「あんなにも、にちかとルカは仲が良さそうだったじゃねーか……!」

樹里「それなのに……それなのに……」

にちか「……」

真乃「にちかちゃん……話してもらえないかな。私たちに」

めぐる「真乃……?」

真乃「どうして、ルカさんを殺しちゃったのか……ゆっくりでいいから、にちかちゃんの言葉で聞きたいんだ……」

もう……いい。
早く楽になりたい。
真実を一人で抱え込んで、戦い続けることにはもう疲れてしまった。
一度敗北を脳が認識してからの私は、自分でも驚くほどつらつらと真実を語った。


にちか「この殺害計画を持ちかけたのはルカさんの方だったんです」

恋鐘「ル、ルカん方からぁ?! なして被害者が?!」

霧子「恋鐘ちゃん……とりあえず、お話聞こう……?」

にちか「コロシアイのタイムリミット……それを過ぎてしまえば全員が殺されてしまう。その前にルカさんは自分が犠牲者になることで、クリアしようとしたんです」

愛依「じ、自分をギセーに……」

樹里「それってつまり……ルカはアタシたち全員を守ろうとしてたってことか……?」

モノクマ「本当タイムリミットギリギリで残念だったよね。せっかくボクも愛用の鼻毛にオイルを塗りまくってたところだったのに」

モノスケ「お、お父やん……まさかあの伝説の鼻毛真拳の継承者やったんか……?!」

モノタロウ「鼻毛真拳……? の正統継承者って誰誰誰ー誰・誰ー誰誰だっけ?」

にちか「そこに、今回の動機でクロは犯人と学級裁判で指摘されてもおしおきが免除されるって聞いて……ルカさんは私に自分を殺す様にお願いしてきたんです」

甜花「七草さんに……? 他の誰かじゃなくて……?」

甘奈「きっと……甘奈たちを守るだけじゃなくて、にちかちゃんを学園の外に出してあげようとしてたんだよ」

にちか「だから、私はそれに乗っただけ。ルカさんが用意した凶器を使って、ルカさんが見つけていた隠し通路を通った」

にちか「食堂からは女子トイレを口実にして抜け出して、急いで図書室に向かいました」

めぐる「私たちが集まっているすぐ隣に……にちかも来てたんだね」

夏葉「食い止められなかったのね……」

にちか「ルカさんを一突きにして、食堂に戻ってからはしっての通りです。さも事情も知らぬ人間のふりをして一緒に死体発見現場に向かって……」

にちか「今のいままで嘘を貫き通してました」

灯織「……完全に踊らされていました。一緒に捜査していたにも関わらず」

にちか「……ごめんなさい」


灯織「……」

心臓を貫くほどにひどく冷たい視線だ。
人を裏切ると言うのはこれだけの代償が伴うんだ。

真乃「でも……これで終わりましたね……なんとか、真相にたどり着くことができました……」

樹里「……だな。愛依や単独行動組は何度も疑っちまって悪かった!」

愛依「いやいや気にしなくていいし! ことがことだしさ!」

甘奈「……にちかちゃんは、甘奈たちに罪をなすりつけようとしてたんだよね?」

にちか「……」

甜花「なーちゃん……」

甘奈「ごめん……すぐには、にちかちゃんのことを許せそうにはないかも……」

透「……」

円香「……どうしたの? 柄でもなく考え込んじゃったりして」

透「あ、いや……えっと、どうすればいいのかな、こう言う時って」

円香「はぁ?」

透「ちょい待ち。えっと……あー……」



【透「それは違うよ」】反論!


(……え?!)

透「にちかちゃんがクロ……まあ多分それはマジ」

透「本人が言ってることだしさ」

透「だけど、ちょっと気になんだよね。付き合ってよ」

(こ、この後に及んで何……?)

(私の発言に何かおかしなところが……?)

------------------------------------------------

【反論ショーダウン・真打開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトノハ
‣【モノクマファイル1】
‣【凶器の包丁】
‣【血飛沫の血痕】

透「最後の晩餐の途中で抜け出して」

透「女子トイレの隠し通路通って」

透「図書室行って」

透「カリスマ殺して」

透「やば、めちゃくちゃユダじゃん」

透「かっくいー」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【発展!】

にちか「何が言いたいんです……?!」

にちか「私は全部認めましたよ……!?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

透「知ってる知ってる」

透「犯人なのは変わらんて」

透「えっと……殺す時にさ」

透「刺したのは【一回】?」

透「一突きつったじゃん」

透「腹?」

【矛盾する発言を正しいコトノハでコンマ30以上で論破しろ!】

↓1


にちか「この矛盾って……!」論破!

【BREAK!】

にちか「あ、浅倉さん……これって?」

透「なんか途中から気になってたんだよね。喉にオーボエが引っかかったみたいな感じでさ」

円香「小骨。喉から管楽器聞こえてきてどうする」

にちか「さっき一度愛依さんに容疑がかかりかけた時の話を思い出して欲しいんですけど……」

愛依「え、うちん時……?」

にちか「幽谷さんが現場の夥しい血痕を見て返り血を浴びていないのはおかしいっていう風に反論してましたよね?」

霧子「う、うん……でも、刺すだけじゃ血は吹き出さないからこれは間違いで……」

にちか「そうなんですよ。刺すだけじゃ血は吹き出さないんです」

にちか「だったら、この【離れたところにある散った血痕】はどうなるんでしょうか」

真乃「こ、この血痕は……滴った感じでもないね……!」

めぐる「勢いよく飛び出したって感じの血痕だよー!」

夏葉「ど、どういうこと? にちか、あなたがルカを刺した時のものではないの?」

にちか「私はルカさんを刺した……それは確かなんですが、こんな噴き出したような血痕には心当たりはないんです」

霧子「包丁を突き刺すと……傷口を刃物自体が蓋しちゃうから……」

霧子「こんな風に噴き出すことは……ないみたい……」

(こ、これは……一体……?)

(この事件は私が犯人ってことで……終わるんじゃなかったの……?)

------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.にちかがルカを刺したのは?
a.1回 b.2回

Q2.死体から血が噴き出したのは?
a.包丁を刺す時 b.包丁を引き抜く時

Q3.最終的に包丁は?
a.現場に落ちていた b.持ち出されていた c.死体に刺さっていた

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1

【ABC】

にちか「推理はつながった!」

【COMPLETE!】

にちか「いや……やっぱりおかしいです! 死体から血が噴き出すなんて、【包丁を引き抜かない限り起こりません】よ!」

愛依「包丁を……引き抜く?」

にちか「さっき霧子さんが言った通りです。ただ刺すだけじゃ包丁自体が傷口の蓋をして血は滴るだけ」

にちか「それを勢いよく引き抜くことで、血飛沫が上がった様な痕がついたんですよ」

恋鐘「ばってん、ちょっと待たんね! ルカの死体には確かに包丁が刺さっとったはずばい!」

恋鐘「包丁を引き抜いた事実はなか!」

真乃「いや……そうじゃないのかもしれません……」

恋鐘「なして?!」

にちか「答えは単純な話ですよ……」

------------------------------------------------

・元から包丁は二本刺さっていた
・包丁は二度刺された
・包丁が生えてきた

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


にちか「これだー!」

【解!】

にちか「私がルカさんを刺した一回。それとは別にもう一回……ルカさんの体には包丁が突き立てられていたんです!」

恋鐘「あ、あ、あ、あ……」

恋鐘「あっぱよ〜〜〜〜〜〜〜?!?!?!」

霧子「二回目……それはにちかちゃんがやったんじゃないんだよね……?」

めぐる「ど、どういうこと?! にちかが犯人なんじゃなかったの?!」

灯織「もしかして、【他に事件に介入した人間がいる】と言うおつもりですか?」

にちか「私は二回刺してなんかない。一回しか刺してないですよ!」

にちか「別に私は自分が犯人じゃないと言うつもりはないんです……ただ、この事件にはまだ、隠された謎がある!」

円香「検討するほどの謎? 刺した人間が犯人なのは明らかでしょ」

透「や、でも。違和感違和感」

灯織「私たちをこれほどまでに欺いていたんです。七草さんの推理には付き合いきれません」

真乃「で、でも現場が不自然なのは事実だから……!」


【ちょっと待ったー!】


モノクマ「おやおや? なんだか議論が白熱している様だけど……これはもしかすると、七草さんを犯人とすべきか、まだ検討すべき謎があるかで二分されてやいないかい?」

モノタロウ「二分されてたら……どうなるの?」

モノファニー「仲良くドッチボールができるわね!」

モノタロウ「あ、帰ってきた」

モノスケ「ワイは花一匁がやりたいで!」

モノキッド「勝って嬉しい花一匁……負けて悔しい花一匁……ハチミツが欲しい……モノダムは要らない……ゲヘヘヘ」

モノダム「……」

モノクマ「我が才囚学園が誇る変形裁判場が今こそ輝く時! さあ、議論スクラムの始まりだーーー!」

------------------------------------------------
【意見対立】
【議論スクラム開始!】

『七草にちかが犯人で裁判を終わりにする』vs【まだ裁判を続けるべきだ!】

円香「何よりも本人が自供しているんです。これ以上の議論は必要ありません」

あさひ「にちかちゃんが隠し通路を使った証拠もバッチリ揃ってるっすよ!」

甜花「えっと……死体の血はいっぱいだったから……ただちょっと散っちゃっただけだと思う……」

灯織「七草さんはずっと嘘をついていたんです。そんな彼女にまた誘導されているんじゃないですか?」

甘奈「本当はにちかちゃんが二回刺したんじゃないの……?」

恋鐘「大体二回刺したって……モノクマファイルと矛盾しとらん?」

樹里「にちか以外に誰がルカを刺したっつーんだよ!」

-------------------------------------------------
【意見スロット】

【容疑者】
【血痕】
【モノクマファイル】
【刺した】
【自供】
【クロ】
【証拠】
【嘘】

-------------------------------------------------

【意見スロットを正しい順番に並び替え、敵スクラムを向かい討て!】

↓1

すみません! 最後の発言が一つ抜けてたみたいです…
ここのスクラムはクリア判定にしておきますね
-------------------------------------------------
※正答

【自供】
【証拠】
【血痕】
【嘘】
【刺した】
【モノクマファイル】
【容疑者】
【クロ】
-------------------------------------------------

【CORRECT!】

【にちか「引くわけにはいかない!」】

円香「何よりも本人が自供しているんです。これ以上の議論は必要ありません」
【にちか「八宮さん!」
めぐる「にちかちゃんが認めた罪と血痕は別問題だよね!」】

あさひ「にちかちゃんが隠し通路を使った証拠もバッチリ揃ってるっすよ!」
【にちか「杜野さん!」
凛世「にちかさんがルカさんを刺した証拠があるのは事実ですが……二回刺した証拠はございません……」】

甜花「えっと……死体の血はいっぱいだったから……ただちょっと散っちゃっただけだと思う……」
【にちか「幽谷さん!」
霧子「ううん……やっぱり……あの散った血痕は包丁を引き抜かない限り……あり得ないよ……」】

灯織「七草さんはずっと嘘をついていたんです。そんな彼女にまた誘導されているんじゃないですか?」
【にちか「櫻木さん!」
真乃「血痕は紛れもない事実。嘘をつく余地はないよ……っ!」】

甘奈「本当はにちかちゃんが二回刺したんじゃないの……?」
【にちか「ここは私が!」
にちか「違う……私は一度しか刺してません! だって返り血も浴びてないんですよ!」】

恋鐘「大体二回刺したって……モノクマファイルと矛盾しとらん?」
【にちか「有栖川さん!」
夏葉「いいえ、モノクマファイルには死因以外の外傷がなしとしか書いていない。刺し傷が死因な時点で矛盾はないわ」】

樹里「にちか以外に誰がルカを刺したっつーんだよ!」
【にちか「浅倉さん!」
透「ヨーギシャは他にもいたはずだよね、色々」】

あさひ「結局クロはにちかちゃんで変わらないんっすよ」
【にちか「愛依さん!」
愛依「にちかちゃんが刺した後の……二回目でルカちゃんが死んじゃったかも知んないじゃん?!」】


【全論破】

「「「「「「「これが私たちの答えだ!」」」」」」

【BREAK!】

にちか「別に私だって罪を逃れようってわけじゃないんです。ただ……」

にちか「ルカさんの死に疑問を残したくない。……ってどの口が言ってんだって話ですけど」

透「あの現場に他の誰かがいた可能性は結構あるしさ」

透「あると思うよ。話してみる価値は」

円香「……はぁ、付き合うしかないか」

樹里「でもよ、その第三者はにちかが刺した後に図書館にやってきて、それでもう一度刺して逃げ出したんだろ?」

樹里「そんなの、どうやるんだ? あさひの監視に愛依の巡回もあった。それを掻い潜る方法なんて……」

真乃「そ、それって……もしかして、【通気口】……?」

灯織「私たちアリバイのない人間が利用したと目されていた……通気口ですか……?」

にちか「はい……あそこなら条件を満たすはずです。私がルカさんを刺した後に、他の誰かにバレることもなく侵入し、そして退却することもできる」

甘奈「い、いやでも……流石に通気口はないんじゃない?」

甘奈「人が通れるぐらいの大きさがあったとはいえ、それも結構ギリギリだよ?」

甘奈「無茶してわざわざそこを通る意味なんて_____」






モノファニー「お待たせしたわね! お待ちかねの写真は完成したわ!」





甜花「ひぃん!? きゅ、急に何……?」

モノファニー「そこのキサマに依頼されていたドローンで撮影した図書館の俯瞰写真、現像が完了したわよ」

モノタロウ「えらい! モノファニーなんとか裁判が終わるまでに間に合わせたね!」

モノスケ「締切さえ守ればええんや! それ以外はどうでもええ! たとえゲームの配信しとろうが、編集の悪口を書き込んどろうがなんでもええんや!」

モノファニー「人数分にコピーしておいたから、全員に一枚ずつ配っていくわね!」

突然に割って入ってきたモノファニー。
ここにきて増える証拠に戸惑いつつも、私はそれを手に取って……発見した。

にちか「こ、これって……!」

あさひ「……」

真乃「【通気口近くの本の上に、血が……落ちてます】!」


コトダマゲット!【ドローンで撮影した写真】
〔図書室をドローンで俯瞰的に撮影した写真。本棚の上から通気口まで、血が垂れた痕が残っている〕


樹里「血は本の上を滴っていって、そのまま通気口へとつながって行ってる。これはどうみても【ルカを刺した人間の逃走経路】だな」

夏葉「すごい……恋鐘、大手柄よ! あなたのドローンが真実を暴き出したのよ!」

灯織「はい! 私も額を負傷した甲斐がありました!」

恋鐘「ふふーん、もっと褒めてもよかよ〜?」

甜花「で、でも……これで、七草さん以外の人がもう一度斑鳩さんを刺したのって……確定、なの?」

甜花「七草さんが通気口から出ていった可能性は……」

凛世「それはございません。にちかさんは食堂に死体発見アナウンス以前に戻ってきておりますゆえ……」

甜花「そ、そっか……」

にちか「そうなるとまた私が犯人に確定する以前の話に戻ります」

にちか「風野さん、甘奈さん、甜花さん、芹沢さん! この四人の中に……【本当の犯人がいる】!」

愛依「……あれ? うちはもういいの?」

夏葉「あなたも私たちのグループに戻ってきていたでしょう。その時点で除外できるわ」

甘奈「違う……甘奈たちは本当に、一緒にいただけだから……」

灯織「私も、違うんです……信じてください……!」

あさひ「あはは、いい感じっす。楽しくなってきたっすね」


【甘奈「甘奈は何も知らないよ!」】
【灯織「私ではありません!」】
【あさひ「盛り上がってきたっすね!」】


というわけでパニック議論に再度突入したところで本日はここまで。
ここから先は区切れるところもなく、最後まで一気に行きたいので……

スクラムはミスしてすみませんでした!
次回の更新で裁判の終わりまで行けると思います。

それではお疲れさまでした。
次回更新は6/17(土)21:00~を予定しています。
またよろしくお願いします。

-------------------------------------------------
【パニック議論開始!】

甘奈「にちかちゃんが犯人なんじゃなかったの?!」
灯織「私にはアリバイがないですが……」
あさひ「にちかちゃんすごいっすね! あそこから盛り返すなんて!」

霧子「血飛沫はにちかちゃんが刺しただけじゃ飛ばないから……
灯織「な、なにより動機がありません!」
愛依「あさひちゃんもマジすごい! 隠し通路を証明しちゃうなんて!」

霧子「誰か第三者がいたのは間違いないよ……!」
円香「動機がないのはみんな一緒でしょ?」
恋鐘「ばってん、なして今まで隠し通路ん存在を隠しとったね?」

甜花「で、でも……第三者がいたのもあくまで、可能性……」
凛世「生き残りたい……それだけで十分な動機でございます……」
あさひ「だって、すぐにわかっちゃったらつまんないじゃないっすか」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【Noise:30】あさひ「みんなでもっといっぱいお話しするっすよ~!」【Noise:30】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

【サイレンサーでノイズ発言を鎮めろ!】

【コンマで30以上の数字を出すことでノイズ発言を鎮めることができます】

↓1


にちか「あー、もう! うるさーい!」

【EXCELLENT!】

【ノイズ発言を鎮めたのでウィークポイントが出現しました】

-------------------------------------------------
【パニック議論開始!】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

コトダマ
‣【床の埃】
‣【凶器の包丁】
‣【ドローンで撮影した写真】

甘奈「にちかちゃんが犯人なんじゃなかったの?!」
灯織「私にはアリバイがないですが……」
あさひ「にちかちゃんすごいっすね! あそこから盛り返すなんて!」

霧子「血飛沫はにちかちゃんが刺しただけじゃ飛ばないから……
灯織「な、なにより動機がありません!」
愛依「あさひちゃんもマジすごい! 隠し通路を証明しちゃうなんて!」

霧子「誰か第三者がいたのは間違いないよ……!」
円香「動機がないのはみんな一緒でしょ?」
恋鐘「ばってん、なして今まで隠し通路ん存在を隠しとったね?」

甜花「で、でも……第三者がいたのもあくまで、可能性……」
凛世「生き残りたい……それだけで十分な動機でございます……」
あさひ「だって、すぐにわかっちゃったらつまんないじゃないっすか」

甘奈「通気口を通って脱出した第三者なんて【いるわけない】よ!」
灯織「えっと、その……違うんです! 私ではないんです!」
あさひ「みんなでもっといっぱいお話しするっすよ~!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「聞こえた……!」論破!

【BREAK!】

にちか「ルカさんを刺した二人の犯人……その間には明確な相違点があるんですよ」

愛依「ソーイ点……なんが違うの?!」

にちか「さっきの月岡さんが提供してくれた写真をもう一度見てください」

恋鐘「おっ、うちん出番〜?」

にちか「これを見てわかる様に、通気口に逃げていったもう一人の犯人は、血を滴らせながら逃走しているんです」

にちか「つまり、【こっちの犯人は包丁を引き抜いた時に血を浴びていた】んですよ」

霧子「包丁を引き抜くのは真正面から力をかける必要があるから……」

霧子「血を浴びずに行くのは……無理だね……!」

にちか「しかもそんな状態で通気口を張って進むことになれば……着ている服は著しく汚れることになる」

にちか「隠し通路を歩いて逃走した私とは【衣服の状態が全く異なる】はずなんですよ!」

樹里「そっか! なら服が汚れてたやつが犯人……」

樹里「ってそんなやついないぞ!?」


円香「まあ普通に考えてみすみす疑われる材料を作る意味はないですからね」

円香「犯人は死体発見までの間に服の替えを用意したと考えるのが普通」

恋鐘「着替えとったと?」

夏葉「それぞれの個室のクローゼットには制服の替えが多く用意されていたわ。あれを用いて着替えたのでしょうね」

甘奈「でも、着替えたかどうかなんか分かりようがないよ!?」

甘奈「制服は全部同じ見た目だし……区別はつかないって!」

透「んー」

透「あのさ、その二人目の犯人。めちゃ器用じゃない?」

円香「は? また急に何?」

透「いや、だって着替えも持ってたし、それで人も刺したんでしょ?」

透「マルチタスク」

円香「いや同時並行じゃないし」

(……そうだ、ルカさんを刺した時、第二の犯人は逃走用の着替えを別で用意していたはず)

(それはもちろん……他の人間に見つからない場所に隠していた!)

にちか「あと少し……あと少しで見えてきそうです」

にちか「第二の犯人を明らかにするための方法が……」

あさひ「……」

あさひ「もうちょっとっすよ、にちかちゃん」

-------------------------------------------------
【発掘イマジネーション開始!】


第二の犯人は着替えを■■■■に隠していた!


一文字目:01~25
二文字目:26~50
三文字目:51~75
四文字目:76~00

【指定の範囲内のコンマを出して結論を掘り当てろ!】

↓1~8


【コンマ95 28 92 58 91 69 64 52】

カンカンカン……

【すべてを掘り切ることはできなかった……】

【規定回数以内に終わらなかったのでボーナスは発生しません】

-------------------------------------------------
【発掘イマジネーション開始!】

Q.犯人が着替えを隠していた場所は?

第二の犯人は着替えを■ッカーに隠していた!

【正しい文字を推測し、着替えを隠した場所を指摘しろ!】

↓1

-------------------------------------------------

第二の犯人は着替えをロッカーに隠していた!

-------------------------------------------------

にちか「そうか、わかりましたよ!」

【COMPLETE!】

にちか「第二の犯人は通気口を逃走経路にしていた。そうなると、着替えを用意する先も通気口に近いところにしておく必要がありますよね?」

真乃「うん……別の部屋とかに隠してたら、移動している間に見つかっちゃうかもしれないもんね……っ」

灯織「かといって通気口のすぐ側だと、自分が通気口を通っている間に別の誰かが見つけるかもしれない」

灯織「最低限他の人の目からは隠れた場所にしまっていたはずです」

めぐる「それってどこのことなのかなー?」

にちか「通気口は図書室と地上の教室を繋いでいた。この二つの空間で、その条件に該当し得るのは……ただ一つ」

凛世「もしかして、【ロッカー】にございますか……」

にちか「はい、教室に備え付けられていたロッカー。あの中に着替えをしまっておけばよかったんです」


にちか「あそこなら通気口を脱出してすぐに着替えを取り出せるし、脱いだ後の汚れた服もしまって隠しておける」

にちか「まさに一石二鳥の隠し場所なんですよ」

霧子「でも、そのロッカーが犯人を絞ることに繋がるの……?」

夏葉「……! なるほど、隠し場所がロッカーならそれが使えた人間は【ただ一人】ね」

にちか「はい……今回の事件、私の後にもう一度ルカさんを刺した第二の犯人がいました」

にちか「私の犯行を前提としながら、それを利用して本当の殺害を企てた……その犯人は!」

(あの人しか、いない……!)

-------------------------------------------------

【クロを指摘しろ!】

↓1


にちか「お前だー!」

【解!】

にちか「芹沢さん、あなただよね」

あさひ「……」

愛依「あ、あさひちゃんが……?! な、なんで……?!」

夏葉「単純なことよ。この中でアリバイが不安定な人間の一人であり、その大半の時間は教室で過ごしていたという」

夏葉「灯織や甘奈、甜花ではロッカーに着替えを仕込む余地がないのだから」

灯織「それが可能なのは彼女だけ……ということですか」

にちか「ど、どうなの……芹沢さん!」

あさひ「……」

あさひ「……あはは、にちかちゃん面白いっすね。一度は自分の罪を認めたのに、ここまで状況をひっくり返すなんて」

あさひ「わたしが期待してた以上っすよ、にちかちゃん」

にちか「ど、どういう意味……?」


あさひ「でもこれで終わりじゃないっすよね? だってまだにちかちゃんの推理には【証拠がない】っすよ」

あさひ「わたしがにちかちゃんをクロにしたのとおんなじで、証拠がなければ推理はただの推理っす」

甘奈「ロッカーにある汚れた制服を持ってこれれば一発だけど……」

モノクマ「学級裁判はトイレ以外での途中退席を認めてませーん!」

にちか「わたしはトイレですー!」

モノクマ「そんなあからさまな嘘は認めないから!」

(うーん……悔しいけど芹沢さんのいう通りだ。彼女を追い詰めるには証拠が足りていない)

(でも、そんな証拠なんてあるの……? 芹沢さんが通気口を通ったという証拠なんて……)

(……ダメだ、私じゃ思いつかない)


(でも、【私以外】なら……?)


(私じゃ掴めない証拠でも他の誰かの力を借りれば、証拠を得られるかもしれない)


にちか「……芹沢さん、勝負だよ」

あさひ「どうしたっすか、にちかちゃん。なんだか怒ったみたいな顔っす」

にちか「悪いけど、もう手加減はしない。私は……真実と向き合うって決めたから」

にちか「あなたが本当のクロだと証明してみせる!」

あさひ「あはは! いいっすよ! それじゃあ勝負っす!」

あさひ「わたしとにちかちゃん、どっちがルカさんを殺したクロか決めちゃうっすよ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

さあ、学級裁判も最終局面になってまいりました。
七草さまと芹沢さまで雌雄を決する最後の戦いは理論武装となります。
理論武装はこれまでにやってきたパニックトークアクションをさらに発展させたミニゲームです。
テンポよく反論をする芹沢さまをこれまたテンポよく切り返す。
指定範囲内のコンマが規定回数内に出るまでコンマ判定を繰り返します。
規定回数の倍数を超過するたびに発言力にダメージを受けてしまいますのでご注意ください。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

-------------------------------------------------

【理論武装開始】

発言力:♡×1
集中力:☆×5

あさひ「にちかちゃんが隠し通路を通って殺したっす!」
あさひ「女子トイレと図書室はつながってたっすよ!」
あさひ「ブラックライトで出てきた足跡が証拠っす!」
あさひ「ルカさんを刺して殺したクロはにちかちゃんっす!」

【コンマ値20~60を4レス以内に2回出せ!】

↓1~4


【コンマ07 32 15 18】

【コンマ20~60が出た回数 1】

【Miss…】

【発言力がゼロになりました】

【報酬が半減する代わりに発言力が最大まで回復します】

-------------------------------------------------

【理論武装開始】

発言力:♡×5
集中力:☆×5

あさひ「にちかちゃんが隠し通路を通って殺したっす!」
あさひ「女子トイレと図書室はつながってたっすよ!」
あさひ「ブラックライトで出てきた足跡が証拠っす!」
あさひ「ルカさんを刺して殺したクロはにちかちゃんっす!」

【コンマ値20~60を4レス以内に2回出せ!】

↓1~4


【コンマ23 14 93 32】

【NICE!】

【TEMPO UP】

あさひ「ルカさんを刺し直したら返り血がつくっす!」
あさひ「わたしの服には血はついてないっす」
あさひ「ロッカーに着替えをしまうのは誰でもできるっすよ」
あさひ「わたしはずっと教室にいたわけじゃないっすよ」
あさひ「わたしがクロだって証拠はないっすよ!」

【コンマ値20~60を5レス以内に3回出せ!】

↓1~5


【コンマ 91 47 46 35】

【GREAT!】

あさひ「……あははっ!」

【止めをさせ!】


あさひ「わたしが教室のロッカーに着替えを仕込んでた証拠なんかないっすよ!」


ろい/した/おし/凛世の/落と/


【正しい順番に並べ替えろ!】

↓1


にちか「これで終わりにしてやる!」

【BREAK!】

にちか「一つ……可能性があるんだ。もし第二の犯人が本当にあのロッカーの中に着替えを隠していたんだとしたら」

にちか「そのロッカーは、この学園生活が始まった時に杜野さんが監禁されていたロッカーってことになる」

樹里「凛世の……ああ、そういえば! 確かにそうだ! 凛世ははじめ、地下階段前の教室に監禁されてたんだ!」

凛世「はい……左様でございますが……それが一体……?」

にちか「捜査の時に言ってたよね? 杜野さんは監禁されていた時に携帯していたおしろいをロッカーの中に落としてしまっていたって」

あさひ「おしろい……っすか?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

凛世「その時に、ひょっこりあさひさんが教室から出てくるのを見たはずです……」

にちか「ああ、地下階段の手前の教室で……!」

樹里「地下階段手前の……教室……?!」

灯織「そ、そこに何があるんですか……?!」

凛世「凛世と樹里さんが、はじめに閉じ込められていた教室が……そこなのです……」

にちか「……え?」

樹里「ほら、この学園生活の始まりってロッカーに押し込められるところから始まっただろ? アタシと凛世はあの地下階段前の教室のロッカーに閉じ込められてたんだよ」

凛世「あの時は慌てに慌て……普段から携帯していた【おしろいもロッカーの中で紛失してしまう】始末……」

凛世「数日前なのに、なんだか懐かしく感じます……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


甘奈「お化粧で使うファンデーションみたいなものだけど……そんなものを落としたら粉が舞い上がっちゃうよ!」

真乃「もしかして、あのロッカーの中には……凛世ちゃんのおしろいの粉が充満してたってことですか……?」

にちか「充満とまでは行かなくても、粉が壁や床に付着してた可能性は高いです。そして、そんなところに衣服を置いていたら……」

めぐる「服にもおしろいの粉がついちゃうよー!」

あさひ「……」

にちか「ねえ、芹沢さん。あなた確かブラックライトを持ってたはずだよね」

にちか「今度はそれで、自分の今着ている服を照射して見てもらえるかな」

にちか「もし私の推理が正しければ……制服に付着しているおしろいの粉の粒子が光を反射して、輝くはずだから」


あさひ「……」


あさひ「…………」


あさひ「……………………」






「あはは」





あさひ「あははははは! すごい、すごいっすね! おしろいなんてわたし、全く考えもよらなかったっす!」

あさひ「にちかちゃん、わたしの予想してないところから責めてきてびっくりしたっすよ!」

夏葉「その反応は……あなたは認めるの? ルカを刺し直した犯人だって」

あさひ「そうっすね。わたしがルカさんを刺した犯人っす」

愛依「そん、な……」

あさひ「にちかちゃんがルカさんを刺して、隠し通路から逃走するのを見届けて、ルカさんにとどめを刺したっす」

あさひ「バレないと思ったけど、まさかドローンで写真を撮られるとは思わなかったんで……わたしの負けっすね」

(本当に……芹沢さんが……私の後に、ルカさんをもう一度……?)

にちか「なんで……! なんでそんなことを……!」

あさひ「ああ、待ってくださいっす。そういう話は全部終わった後にしたいっす」

にちか「はぁ……?」

あさひ「とりあえず、犯人はわたしだって決まったし……一度事件をここまで整理して欲しいんっすよ」

あさひ「その上でクロを指摘して、裁判を終わらせる。動機とか、色々な話はその後にして欲しいっすよ」

あさひ「短い話じゃ、ないっすから」

にちか「……」

にちか「わかった……そうする、そうします。私が行ったルカさんの殺害、そして芹沢さんのやった本当の殺害」

にちか「その両方を今全部振り返って、全員に認めさせる。それでこの事件を終わりにするから!」


【クライマックス推理開始!】

【Act.1】

今回の事件、そのトリガーとなったのは【モノクマの提示した動機】だよ。
コロシアイのタイムリミット、二日後の夜時間までにコロシアイをしなければ参加者は全員死亡。
そんなとんでもない動機を前に私たちは1日は怯んで何もできなかったけど……その次の日にモノクマから追加で動機の提示があった。

それはおしおきの免除。
今回に限りコロシアイのクロは学級裁判で負けてもおしおきをされずに生き続けることができるし、シロが間違えてもそのペナルティはないというものだった。
それでも中々人を殺すなんて踏ん切りはつかないけど……ルカさんは違った。
むしろ自分の命と引き換えに他の全員を守るやり方を思いついてしまったんだ。

そんな中、ルカさんが自分を殺す役に抜擢したのは私、【七草にちか】。
学園生活で普段から一緒に過ごすことが多かったし、私はルカさんのいうことには従順だったので選ばれたんだと思う。
ルカさんは私を連れて女子トイレ奥の隠し部屋へ。そこで今回の凶器である包丁も確認したよ。


【Act.2】

そして決行当日。私とルカさんは図書室で落ち合う約束をしてそれぞれ別行動。
ルカさんは一人で図書室に行ったけど、私はアリバイの確保のために【食堂】で最後の晩餐を食べていたんだ。
他にはモノクマと戦うことを決めた有栖川さんのグループと、単独行動を決めた風野さん、甘奈さん、甜花さん……そして、今回の事件の犯人がいた。

しばらくすると学園中に【コロシアイ促進BGM】が鳴り響いた。
タイムリミットの夜時間まで1時間を切ったところで鳴り始めたこの音楽は、とてつもない爆音であらゆる物音をかき消してしまった。
今回の事件において、その役割はすごく大きい……犯人が暗躍できたのはこのBGMのおかげと言っても過言じゃないからだよ。

私は適当な言い訳をして一旦女子トイレへと抜け出すと、そのまま図書室へと向かう。
それとほぼ同時期に愛依さんがグループに引き入れるために犯人を探しに行ったけど、地上の教室はすでにもぬけのから。
犯人は既に【通気口】の中に入っていたんだと思う。通気口の中で図書室の中を伺っていた犯人は何かしらの手段で私とルカさんの計画を知っていたんだろうね。


【Act.3】

隠し通路を抜けて図書室に現れた私は、すぐにルカさんをその場で刺した。
隠し通路は出ることは容易でも、図書室から隠し部屋に入るにはカードキーが必要だったから、とにかく迅速な犯行が求められたんだ。
だから私は大した確認もせずにその場を後にしてしまう

まさか、本当の犯人がこの後に現れるとも知らずに……

犯人は私がいなくなったことを確認すると通気口から図書室へと降り立った。
私に刺されて弱り切ったルカさんから包丁を一度抜き取ると、【もう一度同じ場所に深く突き刺した】。
直接の死因になったのはこの時の傷のはずだよ。床に散っていた血痕もこの時に撥ねたものだ。

犯人はルカさんの死亡を確認すると、また同じように通気口を使って脱出して、教室へと戻った。
とはいえそのままの格好で合流するわけには行かない。なんたって包丁を引き抜いた時の返り血や、通気口のダクトの汚れで服がめちゃくちゃだったからね。そこでロッカーにあらかじめしまっておいた新品の制服に着替えたわけだけど……犯人にとって大きな盲点があった。

それは、このロッカーは【かつて杜野さんが監禁されていたロッカーだった】ということ。
杜野さんは監禁されていた時に携帯していたおしろいを落としていて、ロッカーの中にはその粉が散らかっていたんだ。

だから、犯人の制服は今もおしろいに塗れたまま。
ブラックライトで照らされれば一発で正体がわかるはずだよ。



そうだよね、【超研究生級の博士ちゃん】芹沢あさひ!



【COMPLETE!】



にちか「どうかな……これで全部証明できたと思うけど」

愛依「……マジなん? マジであさひちゃんが、犯人なん……?」

あさひ「……」

愛依「そんなん、嘘だって……うち、信じないから」

樹里「信じたい信じたくないより、ここは真実を優先する場所だ」

樹里「すべき行動は一つだと思うぜ」

愛依「……うぅ」

モノクマ「どうやら結論が出たみたいですね!」

モノクマ「それじゃあ行っちゃいましょうか、シロとクロの運命を分けるワックワクでドッキドキの……」


「「「「「「投票ターイム!!!!!」」」」」」


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    【VOTE】
〔あさひ〕〔あさひ〕〔あさひ〕

 CONGRATULATIONS!!!!

   パッパラー!!!


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【学級裁判 閉廷!】





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CHAPTER 01

ガールビフールフールガールズ

裁判終了




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モノクマ「というわけで大正解! 超研究生級のカリスマ・斑鳩ルカさんをぶっ殺した犯人は……」

モノクマ「まさに漁夫の利! 弱り切ったところにトドメを刺した超研究生級の博士ちゃん! 芹沢あさひさんなのでしたーーーーー!」

裁判場内にモノクマの声が響き渡るも、私たちは困惑に呑まれたままだった。
突如としてクロに浮上したこともそうだけど、何より彼女の犯行は齢14の少女が成したものにしては邪悪なものを感じさせた。
私の行った殺害計画をそのまま利用し、私という存在を隠れ蓑にして罪を逃れようとしていた。
悪意という言葉で一括りにするのでは足りないような、底知れない異様さがあった。

あさひ「あーあ、負けちゃった。でも楽しかったっすね!」

愛依「なんで……なんでそんなことしたん?! あさひちゃん?!」

にちか「聞かせてよ、あなたには聞きたいことが沢山あるんだから」

あさひ「いいっすよ! 何から聞きたいっすか?」

屈託のない笑顔。
裁判の前と後でその表情に何ら変わりないのが余計に不気味だ。


にちか「……あなたは私がルカさんを刺したことを知った上で裁判に挑んでいたんだよね? あの証拠の数々を途中まで見せなかったのは何故?」

樹里「そういやそうだよな……あの証拠を最初から公開していればにちかが犯人って話にはすぐ辿り着いていたはずだ」

あさひ「そんなの簡単な話っすよ。すぐに裁判が終わるんじゃ【つまんない】っすから」

甘奈「え……?」

あさひ「みんなで一緒に話し合って犯人を見つけ出す。それがこの学級裁判の醍醐味じゃないっすか」

(学級裁判を……楽しんでいる?)

(そ、そんなの……そんな思考ってまるで)

モノクマ「いや〜、芹沢さんはボクらにとってよき理解者だよね!」

真乃「り、理解者……?!」


モノクマ「だってそうでしょ? 彼女だけがこの学級裁判の本当の意味を理解している」

モノクマ「学級裁判はエンタメなんだ! 人の生死がかかったこれ以上ないエキサイティングなエンターテイメントリアリティーショーだよ!」

あさひ「せっかくなら、他のみんなはどんな風に推理をするのか。自分が犯人だと思い込んでるにちかちゃんがどんな言い逃れをするのか、観察してみたかったんっすよ」

にちか「か、観察って……それじゃあなたは私たちをあなたの【研究対象】として見てたってこと……?」

恋鐘「うちらは実験台ってことばい?!」

あさひ「にちかちゃんはその点すごく面白かったっすよ! 色んな嘘をついてみんなを騙そうとしてて、予想外なこともしてくれたっす!」

灯織「……私はこの裁判で、人の持つ二面性を嫌というほど理解しました」

灯織「七草さんは私を利用して、罪から逃れようとしていた。人を信じることの危うさを見にしみて感じましたよ」

甜花「か、風野さん……」

あさひ「私が犯人だって最終的に突き止めたのもにちかちゃんだったし、にちかちゃんは私にとっていい遊び相手になってくれそうっすね!」

にちか「……」


にちか「もう一つ、聞きたいことがあるんだ」

あさひ「なんっすか?」

にちか「あなたはいつから私とルカさんの犯行計画を知っていたの?」

めぐる「いつからって……通気口に潜んでたからじゃないの?」

真乃「ううん……あさひちゃんはもっと前から知ってたはずだよ」

真乃「そうじゃないと女子トイレに洗剤を散布したり、罠を仕掛けることなんて出来ないはずだから」

あさひ「……」

霧子「隠し通路の存在もそうだよね……」

霧子「いつからあさひちゃんは……知ってたのかな……」

にちか「どうなの、芹沢さん。私は……私とルカさんはいつからあなたに踊らされてたの?」

あさひ「……んーと、それはモノクマの方がよく知ってるっすよね」

にちか「え?」

モノクマ「……」

モノクマ「え?! ボク?!」

モノタロウ「な、なんでお父ちゃんが?!」

モノスケ「お父やん! あのメスガキとただならぬ関係なんか!?」

モノファニー「お父ちゃん、嘘よね! ペドでフェリアなアレじゃないのよね?!」

モノキッド「そうか、分かったぞ! この世界は全部電脳世界でみんな精密に再現されたデータだったんだ!」

あさひ「というよりも、モノクマの後ろにいる人っす。その人がぜーんぶ知ってるはずっすよ」

甜花「えっと、それって……どういう意味?」





あさひ「このコロシアイの黒幕っすよ」




にちか「……は?」

真乃「く、黒幕……?」

あさひ「みんなは疑問に思ってなかったんっすか? こんな大掛かりなコロシアイ、誰が仕掛けたことなんだろうって」

夏葉「当然疑問には思っていたわ……でも、それとどう繋がる話なの?」

あさひ「このコロシアイは16人も参加している大掛かりなデスゲームっす。武力があるとしても、下手に結託されてしまうと管理の手が追いつかないことだって考えられるっす」

あさひ「そうなると、コロシアイの参加者の中に黒幕と内通して、ある程度煽動する役割を担える人間がいた方が都合がいいはずっす」

あさひ「それに、例の動機っすよ」

凛世「コロシアイの時間制限のことでございますか……?」

あさひ「あの時にモノクマが言ってた文言を思い出して欲しいっす」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

モノクマ「コロシアイにタイムリミットを設けます!」

モノクマ「タイムリミットは明日の夜時間! それまでにコロシアイが起きなければ、殺し合いに参加させられている生徒は全員殺処分!」

モノクマ「モノクマーズの操るエグイサルを総動員してオマエラをスクラップにしちゃうよ〜!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あさひ「コロシアイに【参加させられている】生徒は全員殺処分。モノクマはなんでこんな回りくどい言い方をしたんっすかね?」

円香「……なるほど、コロシアイに自分から進んで参加した人間がいるから」

めぐる「そ、そんなのって……」

あさひ「そう、だからわたしは考えたっす。もしかしてわたしたちの中に黒幕の側の人間がいるんじゃないかって」

あさひ「で、見つけたんっすよ」






あさひ「このコロシアイの黒幕を」





にちか「……え?」

あさひ「よくよく思い返してみると、その人は変なことを時々言ってたんっすよね。コロシアイに参加させられた生徒とは思えない発言をしてたっす」

樹里「お、おい! ちょっと待てって! あさひ……今なんつった……?」

樹里「この【コロシアイの黒幕を突き止めた】……?」

あさひ「……? そうっすけど」

樹里「誰なんだよ! ソイツは! アタシたちをこのコロシアイに巻き込んだ黒幕って……!」


あさひ「やだなぁ、言うわけないじゃないっすか」


樹里「ああん?!」

あさひ「だって、そんなことしちゃったらつまんないじゃないっすか」

あさひ「せっかくこんな非日常に満ちたゲームが出来るんだから、もっと楽しまなきゃ勿体ないっすよ!」

私には、彼女がどこまでも理解ができなかった。

あさひ「で、話の続きなんっすけど。私は黒幕が分かっちゃったんで、その人に【直接聞いてみた】っす」

甘奈「ちょ、直接……?! そんな、危ないよ……!」

あさひ「大丈夫っすよ。コロシアイの参加者として黒幕も紛れている以上は勝手なことはできないはず。そんなことしちゃったらゲームとして成立しないっすもん」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あさひ「ねえ、あなたがこのコロシアイの黒幕なんっすよね」

『____________?』

あさひ「とぼけなくたっていいっすよ。あなたはこのコロシアイが始まった時から変なことを言ってたっすから」

あさひ「まあ、その違和感も別にそんなに大きなものじゃないっすけど……ここ最近はあなたの動きに注目してたんで」

『どうして__________』

あさひ「んー……まあ、これは交渉なんっすけど」

あさひ「わたしがあなたが黒幕だってみんなに言っちゃったらこのコロシアイは崩壊しちゃうっすよね。それってすごくつまらないっす」

あさひ「だから、あなたの正体を黙っておく代わりに……このゲームを【もっと楽しませてほしい】んっすよね」

『何を____________』

あさひ「わたしが面白くしてあげるっす」

『…………』

あさひ「一つお願いがあるっすよ。今回のコロシアイは処刑のペナルティを無しにして欲しいっす」

あさひ「わたしはこのコロシアイに乗るっす。だけど、流石にコロシアイの経験はまだ無いっすから。どんなものなのか一度試してみたいんっすよ」

あさひ「要はコロシアイのチュートリアルっすね。それをわたしにやらせてほしいっす」

『わかった____________』

あさひ「あはは、それじゃ頼んだっすよ! 約束っす!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


恋鐘「あん動機はあさひが出させたものだったばい?!」

モノタロウ「えー?! そうなの?! お父ちゃん、血迷ったかと思ったら!」

モノファニー「そんな! お父ちゃんが脅しに屈するなんて!」

モノスケ「ワイらが人質に取られてもビタ一文払わんって公言しとるお父やんが?!」

モノクマ「……」

あさひ「せっかくゲームをやるからには、長く、しっかり楽しみたいっすからね。勝手を理解した上で本気のゲームをしたいっす」

円香「それじゃあ今回の事件は、あさひにとって」

あさひ「予行演習みたいなものっすね。みんながどんな感じで事件に挑むのかよく分かったっす」

にちか「……っ!」

意識が追いついたのは、体が動いた後。
彼女の話を聞いていた私は、自分の中にこれまでに抱いたことのない熱を帯びていることに気がついた。

それは、私に向けられた、ルカさんの言葉を知っているからこそ走った衝動。
私に託された、ルカさんの気持ちが胸にまだ生き続けているからこその衝動。
目の前の人間が、それを踏み躙ったからこそ湧き立った激情。

奥歯を噛み砕かんばかりに力がこもり強張った身体は、理性を置いてけぼりにして、彼女の胸ぐらを掴み上げていた。


愛依「ちょ、ちょっと……にちかちゃん……!?」

にちか「許さない……あなただけは、絶対に……!」

あさひ「く、苦しいっすよ……にちかちゃん……」

にちか「ルカさんがどんな思いで自分を犠牲にしたのか……ルカさんがどれだけ私たちのことを思っていたのか……」

あさひ「あ……ぐ……」

にちか「あなたは、最低だよ! ルカさんの決意も覚悟も、予行演習なんかにされていいものじゃない!」

にちか「ルカさんの命は、いつだって本番だったんだ!」

樹里「にちか……ちょっと落ち着け!」

夏葉「仕方ない……にちかを引き剥がすわよ!」

すぐに私は他のみんなに取り押さえられ、芹沢さんは私の締め上げから解放された。
取り押さえられてなお、眼球が飛び出るぐらいに芹沢さんのことを睨みつけ、この歯でその首元を食いちぎろうとする勢いで暴れる私に、彼女はこう言った。


あさひ「ごめんなさいっす。別にルカさんのことを悪くいうつもりはなかったっすよ」

にちか「はぁ……?! 何を今更……!」

あさひ「予行演習ってのはあくまで私の目線でってことっす。ルカさんの気持ちを否定する気はないっす」

にちか「この……この……!」

あさひ「あ、そうだ。ルカさんを刺した時のことを、にちかちゃんに教えてあげるっすよ!」

にちか「……は?」

あさひ「にちかちゃんが刺した後、私が刺し直した時のことっす!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「行け! にちか!」

冷たい感触と対極に、ズキズキと焼けるような痛みがずっと腹部から頭へと競り上がっていた。
生命の危機に瀕しているという信号は、耳鳴りがするほどまでにうるさいものらしい。
ガンガンと響く頭に耐えかねて、私は思わず本棚に背を預け、ずるずるとへたり込んでいった。

「はぁ……アイツ……ちゃんと、行ったよな……」

出血量が多いのか、視界がどんどん霞んでいく。
最後に見たにちかの背中だけは確かだったはずだと、何度も自分に言い聞かせた。

「あぁ……クソ……痛ェ……」

私のやっていることは間違いなんだろうか。
学生時代に、何よりも重い罪は自らの命を擲つことだと教わった。

「やっぱ……これ、死ぬんだよな……」

自分と関わってきた全ての人にとって私という存在は相互に関わるものであり、
それを一方的に取り上げるのは、財産を強奪する行為にも等しいという理屈。

私はそんな綺麗事の道徳には賛同しない。
人の命には価値と、それを使うべきタイミングがあると思う。
私みたいに、何事も為さず、諦め悪く燻っているだけだった人間が、こうして一人の未来ある若者を生かすことができるのなら、それは本望じゃないだろうか。
資源にもならない廃棄物をリサイクルしたのだから、褒めてもらいたいぐらいだ。


「まあ、いいか……」

あぁ……なんだか息をするのもしんどくなってきた。
肺に穴は空いていないはずだけど、臓器を動かすための動力源が体外に溢れ出ているのだからそれもそうか。
持久走を走り終わった時みたいな動悸がどんどん早くなってきて、喉が焼けるようになってきた。

「これで、守れるん……だったら……」

そんな時、遠くにガコンという音が聞こえた。
本棚より小さくなってしまっている私にはその音の正体がわからない。

『……だ生き……っすか?』

それにもう耳はほとんど機能していない。ザーッという体が崩れていく音ばかりで、微細な音を聞き分けることはもう叶わない。
唯一感じられたのは、地面にくっついた手から伝わってくる振動。
赤べこみたいな可動域になった首をゆっくりと持ち上げる。

『よ……た! こ……で私……ロになれ……ね!』

目の前に黒い影が立っていた。死神だろうか。

『最……何か言い……ことはあ……っすか?』
「……何? 今……なん……つ……た……?」

死神はなんだかとても嬉しそうに、私に向かって手を伸ばしている。

『あー……も……ダ……か……』

その直後、慢性化していた腹部の鈍痛が、再び息を吹き返した。
ズキンという衝撃が全身に広がって、体が急速にそりかえる。
ああ、きっと死神に心臓を抜き取られたんだと思った。

『そ……じゃ……さよ……っす。ルカ……ん』

でも、そうじゃなかった。目の前の死神は、心臓でもなく、鎌でもなく、短い刃渡りの刃を握りしめて、笑っていた。

「ハッ……」

それが私の最後の記憶。
今際の際に見た、悪魔の顔だ。






「にちか……生きろよ……」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


あさひ「最後、わたしの声もほとんど聞こえてなかったみたいっすけど。死ぬ直前にそう言ってたっすよ」

あさひ「にちかちゃんは生きろって。最後の最後までルカさんはにちかちゃんのことを思ってくれたんっすね!」

……私は泣いていた。
ルカさん自身から要求されたことだったとはいえ、私がこの手でルカさんを一度手にかけたんだ。

心変わりして恨まれていることだってあるかもしれない。
もっと他の手があったんじゃないか、私は甘えすぎていたんじゃないか。
この裁判中もずっとそんな罪の意識が付き纏っていた。

この意識は間違いなんかじゃない。
この先一生、ずっと背負っていかなくちゃいけないものなのは確かだ。

でも、それと同時に……私はかけがえのないものを胸に抱いて生きていくことが許されたんだ。
ルカさんから向けられた、私を思う気持ち。

それは一点の曇りもなく、胸を張って本物だと言える。
この涙も、この胸の暖かさも、全部全部本物だ。


めぐる「ルカさん……本当に、にちかちゃんのことを大切に思ってたんだね……」

夏葉「ルカ……あなたの犠牲は未来永劫に忘れないわ……」

甘奈「今甘奈たちが生きてるのも、ルカちゃんのおかげなんだもんね……」

霧子「ルカさんの想いは、ずっと胸の中で……トクン、トクンって……響き続けます……」

にちか「うっ……ううっ……ルカさん……」

ルカさんは自分のことをカリスマなんかじゃないって言ってたけど、そんなことない。
こんなにもたくさんの人に慕われて、その胸に存在が刻まれる人間なんだから。



私にとっては、ルカさんこそが一生の【カリスマ】なんだ……



モノクマ「あーあ、どうすっかなぁコレ」

モノクマ「芹沢さんの要求を飲んでおしおきを免除とか言っちゃったせいで、この湿っぽい空気を打破できる手立てに欠けてるんだよね〜」

モノファニー「たまにはこういうのもいいんじゃないかしら。ラブアンドピース! みんな平和が一番!」

モノタロウ「終わり! 閉廷! 裁判なんてもう辞めよう!」

モノスケ「いや……そういうわけにもいかん! やっぱりギスギスや! ギスギスがなければコロシアイは成り立たんからな!」

モノクマ「おぉ! 愛しのモノスケよ! そう、そうなんだよ! コロシアイにはいつだってギスギスが求められているんだ!」

モノクマ「他人の不幸、惨たらしい惨状……! それがあってこそのコロシアイなんだ!」

モノクマ「というわけで……芹沢さん、ちょっといい?」

あさひ「……? なんっすか?」

モノクマ「オマエさ、ボクの正体を黙る代わりに……って色々やってくれちゃったけどさ」



モノクマ「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」



モノクマ「まあ七草さんの犯行を横取りしたり、裁判を撹乱したりはよくやってくれたと思うんだけどさ」

モノクマ「この中に黒幕がいるだとか、動機の提供は自分がやらせただとか内部情報までリークしちゃうのはちょっと出しゃばりすぎだよね!」

モノタロウ「そうだそうだ! AIから仕事を奪うなー!」

モノキッド「やっぱりみんな■■品な■だ! 本■は他■いるんだ!」

恋鐘「ま、待たんね! 何をする気ばい! おしおきの免除はモノクマの口を通じて提示されたルールばい!」

恋鐘「そいを捻じ曲げるようじゃルール違反になるけんね!」

モノクマ「やだなぁ、そんなことはしないよ! 芹沢さんにもこのコロシアイにはまだまだ参加してもらうよ!」

モノクマ「ただちょっと……【ペナルティ】ぐらいは受けてもらおうかなって」

愛依「ぺ、ペナルティ……?」

甜花「な、なに……? 何が起きちゃうの……?」

モノクマ「モノクマーズ! 例のブツをここに持って参れ!」

「「「「「あいあいさー!」」」」」


モノクマが指示を出してから数秒。
モノクマーズが奥に引っ込んだかと思うとすぐに、それは姿を現した。

ヒューーーー

ドスン!

裁判上の遥か上から降ってきたそれは、まるでロケットみたいな形状をしていて、観音開きの扉の内側には……【無数の針のようなもの】が付いていた。

夏葉「こ、これは……【アイアンメイデン】?!」

愛依「ジャイアン皆伝……?」

円香「中世ヨーロッパの拷問器具です。ここに罪人や捕虜が閉じ込められ、ゆっくりと扉を閉じられていく。そうすることで針がどんどん肉体を突き破っていき……」

モノファニー「でろでろでろでろでろでろ……」

樹里「ま、まさかこれにあさひを入れるつもりじゃないだろな!」

モノクマ「そのまさかだよ! まあ心配しなくて大丈夫。これはオマエラが思ってるような物騒なモノじゃないからさ。ちゃんと見てみなよ!」

にちか「ちゃんと……?」

モノクマに促されるままにそれをじっくりと観察する。
よく見ると、モノクマのいう通りだ。
針のように見えたのは、ただの【電子ケーブル】。無数の電子ケーブルが、そのまわりの電子盤から伸びている。


モノクマ「これはとある大物ギャンブラー同士の対決で使われた代物なんだけどね。【死を体験できる装置】なんだ」

灯織「死を……体験……?」

モノクマ「うん、インプットされた死の体験データがケーブルを伝って電気信号となり脳に到達する」

モノクマ「電気信号を受けた脳はあたかもその肉体に死が訪れたように錯覚するって寸法なんだ」

あさひ「……」

霧子「そ、それってまさか……」

モノクマ「やっぱりおしおき無しなんてつまんないよね! 芹沢さんには死んでもらうわけにはいかないけどさ、これで【仮死体験をしてもらう】よ!」

透「……やばいね」

愛依「そ、そんなんマジでゴーモンじゃん! ル、ルール違反っしょ!」

モノクマ「何が? どこも矛盾してないよね? これはおしおきじゃないんだ、ただのペナルティだよ」

モノクマ「ボクに変わってこのゲームをかき乱そうとした分のね」

あさひ「……」


モノクマ「ま、せっかく超研究生級の博士ちゃんの才能に見合った処刑方法を用意してたんだから。それを腐らすのも勿体無いよねってことで!」

モノクマ「今から別のやつをそのおしおきにかけて、それと体験のデータを同期するから。これでおしおきを受けずにおしおきを受けることができる!」

モノクマ「いやぁ……ルールの穴をつくなんてボクってなんてスマートなクマ!」

夏葉「ちょ、ちょっと待ちなさい! 他の人間をおしおきにかけるって……」

にちか「もしかして……私?!」

モノクマ「違う違う、参加者は誰も死なさないよ! ほら、もっとうってつけな存在がいるでしょ?」

灯織「うってつけの存在……? な、なんのことですか……」

モノクマ「ま、やってみれば分かるよ! それじゃあ時間も押してきてますし、早速行きますか!」

あさひ「……」


愛依「あ、あさひちゃん!」

あさひ「……愛依ちゃん?」

愛依「ごめん……うち、守ってあげられなくて……こんな苦しい思いをさせちゃうことになるなんて、思ってもなかった……」

あさひ「なんで愛依ちゃんが謝るっすか? 愛依ちゃんは何もしてないっす」

愛依「何もしてないからだよ!」

あさひ「……!」

愛依「うちが……もっとあさひちゃんのために動けてたら、こんなことにはならなかったのかもしんないし……」

愛依「あさひちゃんを一人で戦わせたりなんかさせたくなかった……」

あさひ「……もう手遅れっす」


モノクマ「超研究生級の博士ちゃんである芹沢さんのために! スペシャルなおしおきを用意しました!」

モノファニー「い、一体誰が代わりにおしおきを受けるのかしら」

モノキッド「モノダムに決まってる! この世で一番価値のない存在だからなッ!」

モノキッド「まあそれはみんな一緒か! 所詮みんな■■タ! 紛■■の存■だしなッ!」

モノスケ「……往生せえや」

モノタロウ「ばいばい! モノキッド!」

モノダム「……」

モノクマ「それでは張り切っていきましょう! おしおきターイム!」



あさひ「……死ってどんな感じがするんっすかね?」


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GAME OVER

セリザワさんはおイタがすぎました。

おしおきをかそうたいけんしてもらいます。



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アイアンメイデンに閉じ込められた芹沢さん。
その感覚は、少し離れたところにいるモノキッドとリンクさせられています。
モノキッドは全身を拘束され、身を捩っても身動き一つできずにいます。
そんなモノキッドの体を……ロケットが飲み込みました!

さあ、ここから先はモノキッドを通して芹沢さんも夢の宇宙の旅!
今こそあの空の果てへと旅立つのです!

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ウルトラスーパー宇宙旅行DX

超研究生級の博士ちゃん 芹沢あさひ処刑執行


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芹沢さんを乗せたロケットにエンジン点火!
凄まじい勢いの炎で加速するロケットは急回転も伴ってどんどん学校を突き破っていきます!
屋上を超えて、空を超えて、成層圏を超えて。

あっという間に月にまでたどり着いたかと思うと……

まだエンジンの勢いは弱まることを知りません!
月にも風穴を開けて、火星も木星も土星も天王星も海王星も! 全部全部突き破って太陽系銀河の果てへ!

宇宙の旅はずっとずっと終わることなく……

やがてロケットは宇宙にできた不思議な穴に辿り着きました。
穴の向こうからは無数の輝きが溢れ出ており、ロケットはそこに吸い込まれていき……


_______ビッグバン。


全てを無に帰し、そして全てを始める創世の大爆発が起きました。
今も空の上から、彼女は私たちのことを見守ってくれていることでしょう。
芹沢銀河の一等星、アサヒの輝きは地球へと今も降り注いでいます。


モノクマ「おーいおいおい! モノキッド……モノキッド……!」

モノクマ「愛しき我が息子よ! どうしてボクを置いて先に逝ってしまったのか……!」

モノタロウ「モ、モノキッドが宇宙の塵になっちゃった……!」

モノファニー「塵というより藻屑……」

モノスケ「藻屑というよりカス……」

モノダム「……」

モノダム「モノキッドハオイラタチヲ繋グ星座ニナッタンダヨ」

モノタロウ「モ、モノダムが喋った!」

モノダム「オイラタチハ仲良クアルベキナンダ。モノキッドハ身ヲ持ッテソレヲ証明シテクレタネ」

モノスケ「アホか! ギスギスしとってこそのモノクマーズやろが!」

モノダム「……」

モノスケ「まあええ、モノキッドがおらんくなった分モノダムにもしっぽり働いてもらうからな」

私たちは、芹沢さんが味わっている死の体験をモニター越しに見ていた。
モノキッドとかいう人形が受けた苦しみがそのまま芹沢さんに置き換わった映像がモニターに流れていたのである。
宇宙の重力にかき乱される臓物に、気圧差で昏倒する様子。爆発に巻き込まれ、肉体を損傷し、酸素のない空間で窒息していく様。
惨たらしいなんて言葉じゃ足りない。
死というのはどこまでも残酷なのだと、嫌というほどに理解させられた。

全てが終わってなお、口を開こうとする者は誰一人としていなかった。


モノクマ「ま、これでボクも気が済んだかな。芹沢さんにもいいお灸が据えられたでしょ!」

モノクマ「お灸がちょっと熱すぎて廃人状態になってなければいいけど……うぷぷぷ」

【ばーいくま~~~~~!!!!!】

モノクマたちがいなくなってから、アイアンメイデンが音を立ててその扉を開いた。
中からは凄まじい蒸気が溢れ出し、力無く重力に任せるままになった芹沢さんの体がそこから転がり落ちた。
真っ先に駆け寄ったのは愛依さんだ。

愛依「あさひちゃん! あさひちゃん! 大丈夫!?」

必死の呼びかけに、芹沢さんは答えない。

霧子「ちょっと、いいかな……?」

すぐに幽谷さんが横から割って入り、その心音と呼吸を確かめる。

霧子「うん……心臓は動いてるし、息もしてるよ……」

霧子「でも、大丈夫では……ないかも」

それも当然だ。脳は完全に一度死を体験してしまっている。
肉体がどれほど無事であろうとも、脳が自らの死を認識してしまっている限りは、正常には戻るまい。

あさひ「……」

愛依「えぐ……えぐ……」

沈黙に付す芹沢さんを前に、愛依さんの啜り泣く声ばかりが響いた。


樹里「クソ……なんだってんだよ……マジで……!」

甘奈「甜花ちゃん……」

甜花「なーちゃん……大丈夫、甜花がついてるからね……」

私はというと、今や感情の向けるところが分からなくなっていた。

芹沢さんへの憎しみと怒りは間違いないものだ。
ゲームを楽しみたいなんて理由で、わたしたちを弄び、そしてルカさんの決意を踏み躙るような真似をした。
でも、そんな彼女は報いを受けて、もはやこちらの言葉が届かない人間になってしまった。

じゃあ、この握った拳はどこに振えばいい?
誰にこの感情をぶつければいい?
そして、手を汚したはずの私は報いを受けなくていいの?

この裁判場で今一番惨めで愚かしいのは自分だと思った。


円香「……ひとまず、地上に戻りませんか? ここでこうしていても仕方がありません」

夏葉「……そうね、これでコロシアイは終わりじゃない。まだ私たちの学園生活は続くのだから」

樹里「愛依……あさひを連れて帰るぞ。アタシも手伝うから」

愛依「……ひっく……ひっく」

そうして、一人一人とエレベーターに乗り込んでいく。
地上に戻って、私たちは元の生活に戻らなくちゃいけないんだ。
またあの、コロシアイと向き合う日々が始まる。


にちか「……」


私はそれでも、動けずにいた。


真乃「あ、あの……っ!」

にちか「……なんです?」

立ち尽くす私に話しかけてきたのは、櫻木さんだった。

真乃「えっと……正直、にちかちゃんがルカさんを……その……刺しちゃったのはまだびっくりしてて……」

真乃「許されることじゃないと、思う……けど……」

にちか「そんなの、言われなくたってわかってますよ」

真乃「で、でも!」

真乃「ルカさんがにちかちゃんに生きてほしいって……ずっとずっと思ってくれてたんだよね……?」

真乃「だとしたら、にちかちゃんはこれからを生きて……私たちと向き合ってほしいな……」

(……)

真乃「私は、にちかちゃんを信じてるよ……っ! 一緒に生きていける、【仲間】だって……っ!」

ふんわりとした羽で頬を撫でられたようなこそばゆさを感じた。
まさか凶行に走った自分にそんな言葉がかけられると思ってなかったから。
それだけの言葉をかけると、脱兎の如くかけていった櫻木さんの背中を見つめて、私は思わずため息が出た。


さっきまでの茫然としていた自分の情けなさに、辟易とした。
ルカさんがいれば、背中をバチンと叩かれていたところだ。

「……」

ダッサイ、マジでダッサイ。
自分を追い込めば追い込むだけ、それで許されると思ってる。
自分で自分につける傷が深ければ深いだけ、反省している証拠になると思ってる。
他人からすればそんなこと知ったこっちゃないんだ。
傷の痛みも、思いも、傍目にはわからない。
唯一わかるのは【言葉と行動】だけ。

「……よし、いくぞ」

今の私の信頼が地に落ちていることは知っている。
それでも、僅かにでもまだ見てくれようとする人がいるのなら……それを掴もうとしないのは生きることからの逃避だ。
今度こそ、ルカさんを裏切ることになる。

「すみません、私も乗せてください」

そんなこと、絶対にやっちゃダメだ。
私がここから先やるべきなのは、生きること。

「あの……返事はいらないんで、これだけ聞いてもらっていいですか」



生きて生きて……この学園から出ていくんだ。



「私……もう逃げません。戦いますんで」



この人たちと、一緒に。

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【???】


「……」


「…………」


「……………………」


「………………………………………………」


「………………………………………………………………」




「ふわぁ〜……」



「あれ……ここ……わたしの部屋?」

「ああ……そっか、おしおきの追体験で意識を失って……」

「うぅ……まだ手足がピリピリする……なんか喉も痛い……」

「そっか……死ぬってあんな感じなんだ……」


「結構……」






「大したことないかも」







「あはは、こんなところで死んじゃいられないや。もっともっといろんなことを試したい」


「せっかくのゲームなんだからまだまだ楽しまなきゃ損だよね!」


「予行演習もできたし、ここからがコロシアイ学園生活の本番!」


「ワクワクの始まりだよね!」

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CHAPTER 01

ガールビフールフールガールズ

END

残り生存者数
15人

To be continued…



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【CHAPTER01をクリアしました!】


【クリア報酬としてモノクマメダル30枚を獲得しました!】


【アイテム:悔恨のロケットを手に入れました!】
〔ルカが生前大切にしていたロケット。ギュッと握りしめると心が安らぐような気がする〕


というわけで一章のお話はここまで。
今回のシリーズを書くにあたって、あさひを十神や狛枝のようにかき乱す枠として描きたいというのが最初にありました。
前シリーズではなんだかんだ彼女は大人しかったので、今回は存分に暴れてもらおうと思っています。
あさひに限らず、これまでのシリーズでは描き切れなかったアイドルたちの描きたい姿を今回のシリーズでは拾っていけたらな~というスタンスです。

さて、二章なのですが、実はもうあらかた書き終わっているので近日中にまた更新できるんじゃないかと思います。
一二週間は準備の時間を貰おうかとは思うのですが、また物語を始めました際は安価のご参加など是非よろしくお願いします。

それではお疲れさまでした。
またよろしくお願いします。

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   GAME OVER

イカルガさんがクロにきまりました。
  おしおきをかいしします。



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他の人から羨望の眼差しを受ける存在、そうそれこそがカリスマ!
ファンはもちろん、同じステージに立つものですらも魅了する彼女のカリスマ性はもはや神がかってすらいます。
ただ、生まれた時代が良くなかった。
人智を超えたような力は時として、他者からは畏れを持ってみられることがあるのです。

斑鳩さんはその槍玉に挙げられてしまいました。
長く、険しい坂の頂上で、今彼女は磔にされています。


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      ロンリネスの槍

 超研究生級のカリスマ 斑鳩ルカ処刑執行





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帝国の支配者モノクマが、兵士のモノクマーズに指示を出すと、一斉に5匹はその槍を構えました。
鏃には聖印が刻まれた、信仰の槍です。
それが“カミサマ”を貫こうとしているのだから皮肉なものですね。

ですが、彼女は悲嘆することも、みっともなく命乞いをすることもありませんでした。
彼女には強い芯があるわけではない、ただ一度悪路に外れたからには最後までその泥濘の中を進むと決めた意志がある。
頬を吊り上げ、目を細めてモノクマーズを見下ろしたかと思うと、その顔に向かって唾を吐きかけます。

そのことが誇り高き指導者モノクマの反感を買った!
モノクマが右手を下ろした瞬間、モノクマーズたちは槍を構えて突進!
磔になっている斑鳩さんは身動きを取ることもできず、その槍に四方八方から貫かれてしまいました。

ああ、カミサマ……
たくさんの人々に依存を受け、身勝手な投影を被り、救いをもたらさんとした……未来に息づくカミサマよ
私たちはそのお姿を見ることもなく、終わってしまうのですね。




と、その時!
近くの町内会でやっていたお祭りの神輿が処刑場に侵入!
参加しているクソガキどもはその神輿に神を乗せていることも、この馬鹿騒ぎも神へ捧ぐ興の一つだということもまるで理解せず、斑鳩さんの固定されている磔を倒して、踏みつけて、ズイズイと進んでいってしまいました。

____残ったのは、血に塗れてぐちゃぐちゃに踏み潰された哀れな人間の末路。
そこにカリスマらしい威光なんて、まるで見当たりませんでしたとさ。




……カチッ

???『_____これ、ちゃんと撮れてるか?』




ガタタ

???『あーあ、よし……いけてそうだな』

ガタ

ルカ『この映像を見てる私は今頃、何がなんだか訳分かんなくなってんだろうけど……安心しな。今の私は正真正銘のあんた、斑鳩ルカだ』


ルカ『この映像の記憶が今のあんたにはまるでないだろうけど……それは忘れちまってるからだ。それ以上でもそれ以下でもない』


ルカ『……っと、あんまり時間もないし用件だけ先に話させてもらうぞ』


ルカ『いいか? このコロシアイは避けられないコロシアイなんだ。これは私たちにとって決められていた道筋なんだ』


ルカ『だから逃げだそうだとか、抗おうだとか余計なことは考えるんじゃねーぞ』


ルカ『あんたが考えるべきなのはただ、このコロシアイを生き抜くということ』


ルカ『絶対に、死ぬんじゃねーぞ。死んだらあんたも……ほかの連中と【同じ】になっちまうからな』



___プツン

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    CHAPTER 02

 退紅色にこんがらがって

  (非)日常編




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【夜時間 1F 女子トイレ】

ルカさんの事件の裁判が終わり、芹沢さんを寄宿舎の個室に戻した後。
私たちは学園内の女子トイレに集結していた。

灯織「七草さん、全てを詳らかにしていただきますよ」

にちか「……」

夏葉「あなたが隠し通路の存在を隠匿し、私たちを欺こうとしたことは変えようのない事実。あなたにはその説明の義務があるわ」

にちか「わかってます」

地上に上がってすぐに、私の自供した犯行内容の検証が行われた。
というのも、犯行における最も重要なピースである隠し通路は私とルカさん、そして芹沢さんしか知らなかった存在であり、
私たちが辿り着いた真相の意味を確認する上で、その立ち合いが必要だろうということになったのだ。
私は他の人が見守る中で、用具入れの壁を強く押した。

ゴゴゴゴ

すると、聞き慣れた音と共に壁は横にスライドしていき……
空洞が現れた。

真乃「ほわぁ……ほ、本当に隠し通路があったんですね……っ」

甜花「す、すごい……トイレの隠し部屋なんて、どこかの魔法学校みたい……!」

にちか「ここを進めば図書室に出られます。ついてきてください」

私に続いてゾロゾロと通路を進む。コンクリートで四方を囲われた空間は足音が過剰なほどに反響した。
ムカデのような足音が続くこと数十秒ののち、あの悪意の部屋へとたどり着く。

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【B1F 隠し部屋】

めぐる「……っ!」

円香「……何? ここ」

流石に初めて訪れた人たちは面食らった様子だった。
明らかにこの部屋は異質。前にいた人間の息吹が、残り続け、それが今にも自分たちの尋常を蝕もうとしてくるのだから。

にちか「そこの壁付の扉から図書室に出られます。扉からは一方通行で、向こうからは入れません」

霧子「図書室に行くためだけの隠し通路ってことなんだね……」

にちか「というより、向こうから入るにはカードキーが必要みたいで。そのキーは持ってないのでどうしようもないんですよね」

灯織「カードキー……」

私は粛々と説明に徹した。他の人からの視線には明らかに不信が混じっていることを悟っているからだ。
下手な作り笑顔なんかすれば反感を買うだけだ。


透「……ね、あれって聞いていいやつ?」

凛世「凛世も、足を踏み入れし時より……気になっておりました……」

そして、関心は当然【あれ】に惹きつけられていく。
異様だらけのこの部屋で、一際目立つ異様。もはや異常と言ってもいいかもしれない。
私たちにコロシアイを強いり、生と死とを嘲笑うモノクマの巨大な頭部。気にならないわけがない。

にちか「私にも、あれがなんなのかはわからないです。ただ、ルカさんはあれに手がかりがあるんじゃないかって言ってました」

にちか「今は故障してしまってるみたいですけど、内部のコードが引きちぎれちゃってるだけなので、それさえ補修すれば元通りになるかも……と」

恋鐘「ルカはこいを修理する気やったとね?! 」

樹里「おいおい……そんなことして大丈夫なのか? だって、モノクマだぞ?」

にちか「リスクがあることは承知の上。それでもこのモノクマが私たちの知らない何かを握っていること自体は確かですから」

円香「ちなみに、そのコードっていうのは?」

にちか「あ、そこの電子盤に書いてあるんですけど……」

円香「【SHU-1ケーブル】【YM2ケーブル】【HR-MKケーブル】【K-Bケーブル】【SG-TMケーブル】この5種類が必要なんだ」

甘奈「えっ?! ちょっと円香ちゃん、それ直すつもりなの?」


円香「……別に。興味本位で見てるだけ」

透「んー、でも直すのはありじゃん?」

樹里「はぁ? ナシだろナシ! こんなの敵の罠に決まってるって!」

夏葉「……いえ、そう断ずるのも早計だわ」

樹里「えっ?」

夏葉「今の私たちは少しでも情報が欲しい。自分自身が置かれている状況も、今何が起きているのかも何もわからないままだわ」

夏葉「それを知るためなら藁にもすがる思い。まさにこのモノクマの頭部はその藁になり得る材料だと思わない?」

愛依「毒をくらわば皿まで……ってことだね!」

樹里「それ使い方合ってるか?」

めぐる「わたしも賛成……! このモノクマを直したからすぐに襲われるってわけでもなさそうだし……やれることは全部やってみたいかな!」

にちか「……今の所、ケーブルは一つも見つけられてないです。本当にこの学園の中にあるのかもわからないんで、当てにはしすぎない方がいいと思います」

夏葉「……そうね、それぐらいのスタンスで行かせてもらおうかしら」

モノクマの頭部の修理は全体で仮で進める案件となった。
少しでもルカさんの遺志が残ってくれるのは、ありがたいかな。

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【にちかの部屋】

女子トイレと図書室を繋ぐ隠し通路の確認を終えると、私たちはそのまま解散することになった。
何も失うことのなかったはずの学級裁判で、信頼という大切なものを落としてしまった私たちに長く語らう意欲は残されていなかった。
今はただ、現実に向き合うだけの体力を取り戻したい。
それが総意だった。

「……帰って、きちゃった」

私は学級裁判で勝てなかった。
ルカさんとの約束を果たすことができなかった。
それどころか、私ははじめから芹沢さんに出し抜かれていて、惨めに踊らされただけだったんだ。

他の人を欺いたことに後悔がないとは言わない。
風野さんが私に向けた視線の冷たさに私は初めて軽蔑というものを知ったし、愛依さんの涙交じりに無実を訴える声は今も耳にこびりついている。


無力感と罪悪感は心臓を内側からずんずんと突き破ってきそうで、ベッドの上で何度も身を捩った。
その衝動に任せて、首を括りでもすれば楽になるんだろう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

真乃「ルカさんがにちかちゃんに生きてほしいって……ずっとずっと思ってくれてたんだよね……?」

真乃「だとしたら、にちかちゃんはこれからを生きて……私たちと向き合ってほしいな……」

真乃「私は、にちかちゃんを信じてるよ……っ! 一緒に生きていける、【仲間】だって……っ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

でも、そんな私のことをまだ信じると言ってくれた人がいた。

ただ、憎しむことができない不器用なだけな人なのかもしれない。私のように、口から出まかせを吐いただけかもしれない。そこに何の芯も通っていない空虚な信用かもしれない。

でも、その空洞は今からでも埋め尽くせることができる。贖罪なんて大層なものではない。約束一つ守れない人間が罪を注ぐことなんて不可能だ。
だからこれは、無謀な挑戦だ。今から信頼を取り戻すなんて絶対不可能な難題に、遮二無二に挑戦する。
たとえそれが叶わずとも、その挑戦の中で拓ける運命もあるかもしれないから。
そう盲信して突き進むしかない。
自分に何度も言い聞かせて、覚醒する瞳孔を何とか閉じさせた。

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【School Life Day7】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】


モノダム『キサマラ、オハヨウ』

モノダム『健全ナ学校生活ハ気持チノイイ挨拶カラ始マルヨ』

モノダム『キサマラモ、友達ニ会ッタラ大キナ声デ自分カラ挨拶ヲスルトイイヨ』

モノダム『ミンナ仲良ク、ネ』


みんな仲良く、なんて私から最も程遠い概念だ。
モノクマーズの放送でいきなり気が沈みかけたが、何とか自分を叩き起こして、ベッドから立ち上がる。
私は今の自分と向き合うって決めたんだ。
少しでも甘えている時間はないぞ。

いつも以上に忙しなく朝の支度をすると、私は食堂へと向かった。

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【1F 食堂】

そして足を踏み入れた食堂で私は、予想だにしなかった光景を目にすることになる。





あさひ「あ、にちかちゃん。おはようっす!」





昨日学級裁判の終わりに、廃人状態に追い込まれたはずの芹沢さんが飄々と、いつも通りと言わんばかりに待ち構えていたのである。


にちか「せ、芹沢さん……?! ど、どうして……?!」

あさひ「どうしても何も……ルカさんは死んじゃったっすけど、朝食会は続けるっすよね? いっつもこの時間には集まってたし、来ただけっすけど」

樹里「な……っ!」

あさひ「にちかちゃん、昨日はわたしが負けちゃったっすけど……次は負けないっすよ!」

みんな何かを言ってやりたいが、うまくまとまらず口籠る。
体を気遣うような言葉は仲間の仇にかけるには優しすぎるし、排斥するような言葉は自分たちよりも年下の少女にかけるには気が咎める。
とにかく厄介な立ち位置にいる相手だ。

あさひ「びっくりしたっすよ。目が覚めたら自分の部屋だったんで、あの裁判は夢だったのかと思ったっす」

甜花「いっそ、夢だったらよかったのに……」

あさひ「えー、ダメっすよ。あんなに盛り上がったのに勿体無いじゃないっすか」

夏葉「……あさひ、あなたが昨日やったことの意味と重大さは理解しているのよね?」

あさひ「昨日やったこと……ああ、ルカさんを殺しちゃったことっすか?」

甘奈「そ、そんな軽々しく言うんだね……」



あさひ「でも、あれって元はルカさん自身が望んだことじゃないっすか」



にちか「……!」


あさひ「にちかちゃんにルカさんは自分を殺して欲しいって、そう言ったんっすよね? 自分の命を犠牲にして、わたしたちに生き延びてもらうのが元々ルカさんの希望だったはずっす」

あさひ「それで、わたしがルカさんを殺して何がダメなんっすか?」

その瞳はどこまでも真っ直ぐだった。
わたしがこの子に抱いていた第一印象は何一つ間違っていなかったんだと思う。
この場にいる誰よりも純真無垢。誰よりも等身大であり続ける彼女は、私たちの誰よりも早く、そして深くこの状況に適応してしまった。
彼女の白は、この学園に渦巻く悪意の色に染め上がっている。そのことに、彼女自身が違和感を抱くこともなく、疑問を持つこともなく。

あさひ「モノクマも言ってたっすけど、これはコロシアイのゲームなんっすよ? みんなはゲームに勝ちたくないんっすか?」

もはや生き死により先に、ゲームの勝敗が立つ。
彼女の底なしの好奇心は、歪な形に変えられてしまっていた。

円香「……」

霧子「……」

真乃「……」

私たちは彼女の瘴気に当てられたようで口を挟めずにいた。
彼女の発言は間違っている。必死に否定したい衝動は何度となく走るのだが、嫌なくらいに澄み渡った彼女の瞳がそれを許さない。






愛依「ちがう……ちがうよ、あさひちゃん」





……だけど、一人だけは違っていた。


愛依「こんなのゲームなんかじゃない、勝ち負けなんかないって!」

あさひ「愛依ちゃん? これはゲームっすよ? 他の人をいかに欺いて、自分だけが得をするかのゲームっす」

愛依「ちがう、ちがうって!」

あさひ「……ちがうって何がちがうんすか? ちゃんと教えて欲しいっす」

愛依「ちがう……何が、とかわかんないけど……今のあさひちゃんはずっと、間違ってるって!」

芹沢さんから向けられる、排他的な純真さを真正面から受け止めたその上で、怯むことなく手のひらを差し伸べ続けた。
口も立たない、理論もない。直向きに、ただ感情だけでぶつかっていった。
芹沢さんにはそれが響いているようには見えなかった。キョトンとした表情で、自分の方が正しいとまるで聞く耳も貸していなかった。

でも、傍目に見ていた私たちは違う。
和泉さんの無謀なその後ろ姿に、私たちは俄かに勢いづく。

恋鐘「自分の命も他人の命も、遊びなんかに使っていいもんじゃなか! もっとちゃんと……考えんね!」

夏葉「ルカが自分の命を賭したのはゲームに乗じたわけじゃない。あなたの独りよがりなプレーとは文脈を異にする覚悟よ」

真乃「あさひちゃん……お願い、今からでも考え直して……っ!」

あさひ「……あー、みんなはそういう感じなんっすね」



【おはっくま〜〜〜〜!!!!】



芹沢さんへの呼びかけで、勢いづき始めたところで、狙い澄ましたかのようにモノクマ達が割り込んできた。
私たちと芹沢さんの間に立つ連中。空気が読めないにも……いや、読めすぎているにも程がある。


モノクマ「うぷぷぷ……キミはやっぱり面白いよ。今までにも色んなヤツがいたけど、そこまでゲームに真摯に向き合ってくれる奴は珍しいよ」

モノクマ「きっと芹沢さんは長生きするだろうね。このゲームではキミのようなヤツが強いんだ」

あさひ「えへへ、ありがとうっす!」

モノクマ「それに引き換えオマエラと来たら……さっきからなんだいなんだい! 命の価値だとかゲームに乗らないだとか!」

モノクマ「くだらないくだらない! オマエラの命の価値なんて、砂粒一つなんかよりも軽いんだよ!」

樹里「はぁ? アンタ、この前はアタシ達には未来があるって言ってたじゃねーか」

モノクマ「うぷぷぷ……そうだね、オマエラには未来があった。それは間違いないよ」

モノクマ「でもそれと命の価値はまた別の話だよ。何も為していない今のオマエラなんて、誰も必要としてないんだ」

めぐる「そんなことない! 人はみんな必ず……誰かに必要とされてるんだよ!」

モノダム「ソウダヨ。誰モガ、生マレテキタ意味ガアルンダ」

(えっ……!?)

モノダム「人ト人ガ巡リ合ッテ絆ガ生マレル。ソウシテ、意味ト価値ハ育ッテイクンダヨ」

モノタロウ「モ、モノダム! ダメだよ! そんなお父ちゃんに歯向かうようなこと言ったら!」

モノクマ「……」プルプルプルプル

モノスケ「あ、あかん! お父やんが怒りで体が震えとるで!」

モノファニー「いやー! 地震と雷と火事が同時にやってくるみたいだわー!」

モノクマ「モノダム……オマエと来たら……」プルプルプルプル



モノクマ「なんて青臭くてかわいらしいんだ〜! 綺麗事を盲信して、厚顔無恥に演説するその姿!」ペロペロペロペロ

モノクマ「水彩画にしてリビングに飾りたいほどの愛らしさだよ〜!」ペロペロペロペロ

モノダム「ワァァァァ……」


(な、なんなの……? モノクマとモノクマーズは必ずしも意見が合致してるわけじゃないの?)

甘奈「ね、ねえ! 一体何しに来たの?! 今、甘奈たちは大切なお話をしてたんだけど……」

モノクマ「おっと、愛しの我が子の愛らしさに目的を見失うところだった!」

モノクマ「そう邪険にしないで欲しいな、今日はボクからオマエラに【プレゼント】があるんだ」

霧子「プレゼント、ですか……?」

モノタロウ「うん! キサマラの道を切り拓く、素敵なプレゼントだよ!」


モノスケ「この才囚学園がずっとエグイサルで工事をしとったのはキサマラもよく知るところだと思うんやが……」

モノファニー「ぱんぱかぱーん! ついに一部のエリアの工事が終わったのよ!」

モノダム「キサマラガ行ケル範囲ガ広ガッタンダ」

凛世「行動圏内にいくつか閉まったままの扉がありましたが、そちらが開いたということでしょうか……?」

モノタロウ「えっとね、そうじゃなくてね。今までただの壁だったところの幾つかをエグイサルで取っ払ったんだ!」

灯織「か、壁を壊した……?」

モノファニー「具体的にいうと、一階の体育館前の廊下の横壁を取り壊したわ! これで行けなかった部屋もいくつか開放されてるのよ!」

モノダム「【二階】や【三階】ニモ上ガレルカラ、探索シテミテネ」

夏葉「……なぜ?」

モノクマ「はぬ?」

夏葉「なぜ、そんなことをするの? 私たちの活動領域を増やして……何が狙いなの?」

モノクマ「狙いなんかないよ、これはただの労い! オマエラは越えるべき障害をちゃんと超えてくれたからね。ソレに見合うだけのご褒美を用意したってだけのことだよ」

樹里「ご褒美なんて言われても信用ならねーよ、何か罠を仕掛けてるんじゃないのか?」

モノタロウ「そんなことないよ! むしろキサマラにとってプラスになる【宝物】も用意されてるからね!」

あさひ「えっ! 宝物っすか!? すごい、見つけてみたい!」

霧子「宝物ってなんなのかな……?」

モノクマ「それは見てみてのお楽しみ! 損だけはさせないから安心してよね!」

愛依「や、全然安心はできないけど……」

(絶対ろくなもんじゃないでしょ……)


【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】


真乃「……行っちゃいましたね」


樹里「なんかとっちらけになっちまったな……あさひのことでだいぶヒートアップしてたんだが」

あさひ「……?」

透「とりあえずは新しく行けるようになったとこ。見といた方がいいんじゃん?」

甘奈「甘奈もそれに賛成かな……手がかりは少しでも多いに越したことないよ」

愛依「あさひちゃんのことは大丈夫! うちがつきっきりで見とくから!」

あさひ「えー? 愛依ちゃん、わたしのペースにちゃんとついてきてくれるっすか?」

愛依「が、がんばるから……! もう、目は離さないかんね……!」

夏葉「愛依……ありがとう。あなたの想い、よく伝わってくるわ」

円香「……当の本人にそこまで伝わってないようですけどね」

灯織「監視というのなら、七草さんにも必要なのでは?」

にちか「……!」

灯織「前回の裁判、結論としては犯人はあさひでしたが……事実上の犯人は七草さんです」

灯織「そして何より、七草さんは私たちを欺き、裏切った事実がある」

出会った時から、壁を感じる人だとは思っていたけど今はそれとは比にならない。
風野さんとの間にできてしまった隔たりは、断崖のように大きい。
それほどまでにその口調は冷たく、鋭いものだった。


真乃「だ、だったら……私がにちかちゃんにはついて行きます……っ」

灯織「さ、櫻木さん……?」

真乃「めぐるちゃん、今回は灯織ちゃんについていってあげてもらえるかな」

めぐる「う、うん……いいけど……」

(櫻木さん……この前の裁判の終わりから私に歩み寄ってくれてるけど、どうしたんだろう)

灯織「……なんで?」

誰も監視にはつきたがらないとでも思っていたのだろうか。
櫻木さんの申し出が余程予想外だったらしく、風野さんはしばらく面食らったような反応を見せていた。

まあ、それは私も同じこと。
櫻木さんのように、気が強いわけでもない、むしろ推しに弱いような女の子が殺人の前科がある私に寄り添おうとしているのかはよく分からない。

にちか「よ、よろしくお願いします……」

真乃「は、はい……こちらこそ……っ」

とはいえ、私には拒む権利もそんな気もない。
とにかく、自分に向けられたこの不信に挑み続けるとルカさんに誓ったのだから。


探索のメンバー分担が終わると、すぐに全員が食堂を出て散策へと向かった。
残ったのは私と櫻木さんのただ二人。
……先に口を開いたのは櫻木さんだった。

真乃「なんで私が、にちかちゃんの監視を申し出たのかって……不思議に思ってますよね……?」

にちか「それは、正直……はい。私のこと、怖くないんですか?」

真乃「怖い……気持ちもあるかもしれません。でも、私が思ってるのは裁判終わりに言ったこととずっと同じなんです……っ」

(裁判終わりって……)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

真乃「あ、あの……っ!」

にちか「……なんです?」

真乃「えっと……正直、にちかちゃんがルカさんを……その……刺しちゃったのはまだびっくりしてて……」

真乃「許されることじゃないと、思う……けど……」

にちか「そんなの、言われなくたってわかってますよ」

真乃「で、でも!」

真乃「ルカさんはにちかちゃんに生きてほしいって……ずっとずっと思ってくれてたんだよね……?」

真乃「だとしたら、にちかちゃんはこれからの生きて……私たちと向き合ってほしいな……」

(……)

真乃「私は、にちかちゃんを信じてるよ……っ! 一緒に生きていける、仲間だって……っ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

真乃「あの、嬉しかったの……にちかちゃんが、今日の朝もちゃんと朝食会に来てくれたのが……」

真乃「私たちと向き合ってくれるんだ……これからも私たちと生きてくれるんだ……」

真乃「私たちの仲間であり続けようとしてくれてるんだって、そう思えたから……っ」

櫻木さんの目は潤んでいて、言葉の一つ一つを口にするのにも肩を震わせていた。
その怯えは、殺人犯と接することに向けられたものではない。
自分との間にできた縁が途絶えてしまうこと、その手から真っ白な珠がこぼれ落ちてしまう事を惜しむ畏れだったのだ。

ほんの数日前に会っただけ。たまたま同じ状況に居合わせただけ。
それだけの関係性の相手をこれほどまでに慈しみ、尊ぶことができるなんて随分とできた人物だ。


にちか「私が櫻木さんが思ってくれてるほど、大層な決断を下したわけじゃないんです」

櫻木さんの太陽のような眩しさが、自分自身に影を落としているのを感じている。
私は、こんな風にはなれない。学級裁判で出し抜こうとした独善主義な人間が何を望むんだって話だし、憧れるのも烏滸がましい。

にちか「ルカさんが前に言ってたんです。不可能なことだとしても、挑み続けることで拓ける運命はあるかもしれないって」

だからせめて、彼女の邪魔にはならないようにしようと思った。
どれだけ騙されても他の人を信じ続けようとする、その不器用な実直さが歪められてしまうことがないように。
その軽やかな足取りが、段差に蹴つまずいてしまうことがないように。



にちか「私が殺人に手を染めた事実は変わらないですし、失った信頼はもう取り返せないかもしれない。それでも……誰かと歩んでいくことだけは諦めずに、挑み続けていたいんです」


___私はせめて、彼女の成功体験の一つでありたいとそう思った。



にちか「な、なんて! すみません、なんか長々と! 変なこと言っちゃいましたかね!? 言っちゃいましたよね?!」

真乃「にちかちゃん……ありがとう、嬉しいなぁ……っ」

(ああ、ずるいなぁ……そんな風に笑える人、本当に羨ましい)


ひとまず本日は2章を始めるところまで。
なんだかんだレインコードの発売や我儘なままの開催があり、再開が遅くなりました……すみません。
ただ、その分3章までの書き溜めも進んだので……何卒

明日辺りから行動の指定を取りつつ進めていけたらなと思っています。
これからまたよろしくお願いします。

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真乃「そろそろ私たちも探索に向かおうか」

にちか「そうですね、とりあえずマップを見てみますね……」

にちか「新しく行けるようになったのは……」

〔校内〕

【1F 超研究生級の占い師の才能研究教室】
【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】
【2F 超研究生級のドクターの才能研究教室】

〔校外〕

【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】

真乃「ほわっ……一気に行けるところが広がったね……!」

にちか「基本は才能研究教室の類っぽいですけど、学校設備で開放されたものもあるみたいです。こりゃ見て回ると結構かかるぞー……」

真乃「が、頑張ろうね……っ!」

(さて、どこから回ろうかな……?)

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ41】

【モノクマメダル1枚を手に入れた!】

【現在のモノクマメダル枚数71枚】

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【1F 超研究生級の占い師の才能研究教室】

体育館前の廊下の壁の突き崩された先に、袋小路のような形で設置された部屋。
扉には怪しげな紋様が描かれていて、他の教室とも雰囲気が少し異なる。
ちょっとだけ緊張しながら、その扉を開けた。

(こ、これは占い師の才能研究教室か……!)

部屋の中央にこれみよがしに置かれた水晶玉やタロットカード。
壁にはドリームキャッチャーや卜占術の表がくっついていて、エキゾチックな空間といった感じ。
なんとなくいるだけで、踵が浮くような感覚がする部屋だ。

めぐる「ねえ灯織! 灯織はここの道具を使って占いができるの?」

灯織「うーん……知識として、なんとなく知ってはいる範疇だけど……自信はないかな」

(……風野さん!)

……まずったな。
この部屋の持ち主と早速出会してしまった。
向こうも視界の隅に私の存在を捉えたらしく、バツ悪そうに視線を逸らしてきた。


にちか「さ、櫻木さんこの部屋はもう見終わったってことで……」

風野さんの醸す敵対的な雰囲気にのされ、思わず及び腰な態度をとってしまう。
櫻木さんはそんな私の手を取って、静かに首を横に振った。

真乃「にちかちゃん……ルカさんの言葉、覚えてるよね」

にちか「ルカさんの言葉……」

真乃「灯織ちゃんともう一度仲良く……それは難しいかもしれないけど、そのことに挑み続ける価値はある」

真乃「大丈夫……私たちと向き合うって決めてくれたにちかちゃんなら……運命を切り開けるはずだよ……っ!」

にちか「……」

もう、勝手なことを言ってくれちゃうな。
一度啖呵を切った手前、引っ込みがつかなくなってしまっているのを見越してなのか、無自覚なのか。私の逃げ道を綺麗に櫻木さんは潰してしまった。

……いいよ、元からその気だ。
どれだけみっともなくても、どれだけ哀れでも、このスカスカの信頼に縋って生きていくと決めたんだから。


にちか「風野さん!」

灯織「……なんですか?」

にちか「ずっとずっと騙していて……ごめんなさい! 一番近くで、私のことを信じて、捜査を手伝ってくれていた風野さんにあまつさえ罪をなすりつけるような真似……」

にちか「どれだけ謝っても足りないのはわかってます! ですけど……私もこうして生き永らえてしまったからには……精一杯他のみんなのために出来ることをやるつもりなので!」

灯織「……それはなし崩し的な結論ですよね。学級裁判に負けてしまったから、この学園からの脱出に失敗したから。妥協の選択なだけです」

灯織「七草さんの言葉に信用もできません。なので、私はあなたの手を取ることも、あなたに手を差し伸べることもできないです」

めぐる「灯織……」

真乃「……」ギュッ

櫻木さんも八宮さんも言葉を挟まない。
これは当事者間の話だ、誰かに促されてその結論を歪めうるものではないし、そんなことは望まれない。


にちか「それでもいいです! 他の誰かから助けてもらう権利はとっくに失ってるのは理解してます」

にちか「一緒に歩むことが難しいのなら、その後ろをついて行かせて欲しいんです」

にちか「せめて、同じ道を行く存在ぐらいでは……いさせてもらえないですかね……?」

私に望めるのはこれくらいだ。仲間としての承認なんて高望みがすぎる。
下げた頭だって、風野さんの瞳には空っぽに映っているんだろうから。

灯織「……八宮さん、行こう」

めぐる「えっ!? う、うん……」

風野さんは傍に控えていた八宮さんに呼びかけた。

灯織「……勝手にしてください。七草さんがこれからどうするのか、それを止める権利は私にもないですから」

小走り気味に出ていくその背中を見ることは叶わなかった。
音が遠くに消えたのを確かめて、やっと顔を持ち上げる。

真乃「にちかちゃん……頑張ったね……っ」

にちか「頑張れた……んですかね、よくわかんないです」

真乃「きっと、今ので拓けた運命はあるよ。光も、音もしないけど……そんな気がしたんだ」

にちか「……ありがとうございます」

身に余る慰めを、胸にギュッと手繰り寄せた。

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〔校内〕

【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】
【2F 超研究生級のドクターの才能研究教室】

〔校外〕

【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ80】

【モノクマメダル10枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数81枚】

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【2F 超研究生級のドクターの才能研究教室】

よくドラマとかで見る診察室ってこんな感じだ。
レントゲン写真を白板に貼り付けて、微妙に薄暗い電灯の下、丸い椅子に座って深刻な表情。
ただ完全にそれと言い切れないのは、周りに人体模型やら骨格標本やら、はては正体不明のホルマリン漬けまでが並んでいることに起因する。
どこかの遊園地のお化け屋敷にこんな感じの内装もあったな〜と思う。

恋鐘「な、なんか幽霊とか出そうな雰囲気ばい……」

霧子「恋鐘ちゃん、怖らがらなくていいよ……この子たちはみんな、おやすみ中だから……」

恋鐘「今後目を覚ます可能性があるばい?!」

霧子「ううん……そうじゃなくて……みんな、未来に向けて……過去の中に眠ってるんだ……」

恋鐘「タイムカプセルみたいなもんやね! 霧子は賢かねぇ〜」

……とはいえ、そんな不気味さは騒がしい二人組でかき消されていた。


真乃「霧子ちゃん……この部屋の設備はどう?」

霧子「うん……私も専門的なことはそこまで分からないんだけど……簡単なケガの処置なら問題なくできると思うな……」

霧子「一般的な市販薬も一通り揃ってるから、病気も問題ないと思う……」

にちか「そう長居する気もないですけどケガの処置が出来るのは助かりますね!」

(……っ!)

自分で言葉を発した瞬間あの時の光景がフラッシュバックした。
私の手に握る包丁がルカさんの腹を貫いた、あの赤と熱で満ちた光景。
肌にいまだ生きている実感と恐怖が、頭から足先に突き抜けた。

霧子「にちかちゃん……ゆっくり深呼吸だよ……」

にちか「へ、え……?」

真乃「にちかちゃん、大丈夫……! 私たちがそばにいるよ……っ!」

櫻木さんにギュッと両手を握られて、その時初めて自分の体の震えに気がついた。


恋鐘「にちかにとっても、辛い経験だったはずたい……焦らず、ゆっくり向き合えばよかよ」

にちか「あ……」

霧子「大丈夫、一人じゃないから……」

真乃「にちかちゃん、大丈夫……大丈夫……」

私を囲んで、大丈夫と何度も声をかけてくれた。
澄み切ったその声が浸透していくごとに、心臓は少しずつ落ち着きを取り戻していき、やがて私の焦点はやっとブレずに静止した。

にちか「す、すみません……ご心配をおかけしちゃいました」

真乃「ううん……仕方ないよ、みんなにとってショッキングなことなんだもん……当事者ににちかちゃんは尚更だよ」

霧子「自分のことを大切にしてあげて欲しいな……必要以上に責めちゃうと、にちかちゃんの中のにちかちゃんも弱り切っちゃうから……」

にちか「……はい」

そうは言われても、早々自分を赦せるようになるとは思えない。
未だルカさんの言葉を飲み込んで手にかけた自分が正しかったのか、間違っていたのか。
その答えが私の中で出ていないから。

……長く苦しみ続けよう。
そうじゃなきゃ、嘘だ。

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〔校内〕

【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】

〔校外〕

【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ77】

【モノクマメダル7枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…81枚】

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【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】

扉を開けた瞬間に鼻を撫でる獣の匂い。
ペットショップというよりは動物園の方が近いかもしれない。
動物が長くいる空間ってどうしてこう匂いが充満するんだろう。
犬や猫の類はいないけど、壁に埋め込まれているケージの数々には文鳥やインコがたくさん入っている。

真乃「ほわぁ……! 鳥さんがいっぱい……!」

にちか「櫻木さん、鳥が好きなんです?」

真乃「うん……! 休みの日には花鳥園に行くこともあるし、私自身仲良しの鳩さんもいるんだ……っ!」

真乃「セキセイインコさんにオウムさん、文鳥さん……! ハクセキレイさんにキジバトさん、シマエナガさんもいる……っ!」

(す、すごいはしゃぎようだ……)

夏葉「やはり動物との交流は癒しを与えてくれるわね。失ってしまった日常を少し思い出せるわ」

樹里「アンタ、ペット飼ってたのか?」

夏葉「ええ、カトレアという大型犬を飼っているの。人懐っこくて、そして気品ある子なのよ」

樹里「ふーん……」

有栖川さんに西城さん……ルカさんの裁判を受けて、かなり憤慨していた二人だ。
このコロシアイに屈してしまった私のこともよく思っていないだろうな……


夏葉「……あら? 真乃とにちかもこの部屋に来ていたのね」

にちか「ど、どうも……」

樹里「おいおい……そんな怯えなくてもいいって」

にちか「い、いやでも私はつい昨日の裁判で皆さんを裏切った人間で、そのことに大分お怒りなのでは……?」

夏葉「ええ、憤りはいまだに治まることはないわね。たとえルカ本人が望んだことであろうとも、あなたは人を殺めるという最もあってはならない罪を犯した」

夏葉「でもあなたはその罪に正面から向き合うと決めたのでしょう?」

にちか「……!」

樹里「にちかは逃げずに今日の朝食会にもやってきて、そしてルカのことであさひにも怒りをぶつけてくれたじゃねーか」

樹里「裏切ったことと、そのことはまた別だ」

夏葉「ええ、あなたは信頼を全て失ってしまったと思っているかもしれないけれど、私はこれからあなたという人間を見定めていくつもりよ」

にちか「有栖川さん……」

樹里「あさひに比べれば、にちかはちゃんと反省してる分まだマシだかんな……」

真乃「あさひちゃん……このコロシアイに乗り気な様子でしたけど……」

夏葉「これ以上の横暴は例えあさひのような少女だとしても看過できない……対策は考えておくべきね」

樹里「お、おい……手荒な真似をする気じゃないだろな……」

夏葉「そこまでのことは考えていないわ。少なくとも、愛依が見張ってくれている今のうちは……ね」

芹沢さんにどう対処するのか、目下の一番の課題だろうな。
それにしても、私のことを受け入れようとしてくれる人が櫻木さん以外にもいてくれることが分かったのはちょっと嬉しいかも。

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〔校外〕

【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ87】

【モノクマメダル7枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…88枚】

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【カジノエリア】

学校の真正面に存在するやたら高い塀で区切られたエリア。
ずっと城門みたいな扉は固く閉ざされていたんだけど、今回の開放に伴ってここも行けるようになったみたい。
意を決して飛び込んでみると、もはや別世界。
ハリウッドのセレブが歩くような華やかな道の向こうに、これまた巨大な建造物。
金ピカで巨大なそれを、四方八方からギラギラとしたライトが照らしている。

真乃「ほ、ほわぁ……」

(櫻木さんが思わず言葉を失っている……)

甘奈「す、すごいよね……完全に、テレビで見る世界だよ……」

甜花「これ、もしかして……あの、大人の夢と希望で溢れている……テーマパーク的な、それ……!?」


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】


モノタロウ「キサマラ、カジノへようこそ!」

甜花「や、やっぱり……!」


にちか「か、カジノ?! カジノってあの……お金とかを賭ける?!」

モノファニー「そう! ギャンブルと物欲のメッカ、カジノ!」

モノスケ「狂気の沙汰ほど面白いことでよく知られるカジノや!」

モノダム「デモ、ココハオ金ヲ賭ケル訳ジャナインダ」

にちか「……え?」

モノタロウ「ほら、学園の中でお父ちゃんの顔が描かれたメダルがいくつも見つかったでしょ?」

真乃「そういえば……私も何枚か拾いました!」

モノスケ「このカジノではそのメダルを専用のコインに換金してゲームに挑戦してもらうんや」

モノダム「ココデシカ手ニ入ラナイ道具ヤスキルモアルカラ、チェックシテミテネ」

カジノか……運にそこまで自信はないけど、メダルに余裕があるんだったらやってみてもいいかもしれないな。
また自由時間にでも空いた時があれば見にきてみよう。


甜花「なーちゃん、甜花に……全部預けて! 絶対、何十倍にもしてみせるから……!」

甘奈「て、甜花ちゃんすごい自信……!」

甜花「大丈夫……! この手のゲームは慣れてるから……」

甜花「ギャンブルには、必勝法があるんだ……!」

……甜花さんはのめり込みすぎなきゃいいけど。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カジノエリアではモノクマメダルをカジノコインへと変換してゲームで遊ぶことができます。
ゲームは全部で三種類。
・スロットゲーム
スレ主と参加者それぞれ連続で三つのコンマを参照し、その合計値でスレ主との勝負を行う

・ここ掘れ!モノリス
裁判中の発掘イマジネーションと同様のシステムで規定回数で指定域内のコンマを出せるかに挑戦する

・じゃんけんゲーム
名前欄に!jyankenを入力することで表示される手で勝負する

このカジノコインでしか入手できないアイテム、スキルもございますのでぜひ自由行動の際にお試しください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

------------------------------------------------
〔校外〕

【プール】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ80】

【モノクマメダル10枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…98枚】

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【プール】

校舎に隣接する形で建てられていた屋内プール。
前に見ていた時は中が見えないほどに蔦が生い茂っていて、ほとんど廃墟みたいになっていたけど、今は中の照明も灯り、新品同然に清掃もされている。
これをモノクマーズたちがやったのかな?
だとしたらまあまあ重労働な気がする……。

あさひ「すごい! 飛び込み台高いっすね! あそこからジャンプしたらすごい水飛沫が上がりそうっす!」

愛依「ひゃ〜〜〜! こわ! あさひちゃん、やる時はみんなに相談してからにしよ?」

あさひ「えー、いちいち面倒っすよ〜」

(……っ!)

(芹沢……さん……っ!)

ダメだ、彼女の存在に気づいた瞬間に心臓の鼓動が激しくなる。
血は沸騰したようで、手には血管が浮き上がり、奥歯同士が擦れ合う。
掴み掛かりそうになる衝動を抑えるので必死だ。

真乃「に、にちかちゃん……」

櫻木さんの存在がストッパーになっている。
努めて息を整え、狭窄する始解の中央の少女をじっと睨みつけた。


あさひ「あ、にちかちゃん。どうっすか? だいぶ行ける範囲は広がったみたいっすけど」

にちか「……」

あさひ「これだけ色んなものがあるとまたゲームが面白くなりそうっすよね!」

真乃「ゲーム……あさひちゃんは、まだこのコロシアイに乗る気なの?」

あさひ「はいっす! 当たり前じゃないっすか! こんな非日常の体験、普通じゃできないっすもん」

あさひ「せっかくなら、わたしはこのゲームを誰よりも楽しんで、そして勝ってみたいんっすよ!」

やっぱりこの子には何を言っても効かない。
一度死を体験したにも関わらず、他人の生死を何とも思わないままの相手に、説得なんて効くわけがないんだ。

愛依「……あさひちゃんはまた、うちらの誰かを殺す気なん?」

あさひ「んー……今はまだその気はないっすね。ちゃんと勝てる準備を整えてからじゃないと」

あさひ「ほら、にちかちゃんは強敵っすから!」

(……っ!)

にちか「私は、このゲームに乗る気なんかない……! あなたと勝負なんかする気はないよ!」

あさひ「えー、つれないっすね。にちかちゃんとの勝負は面白かったのに」





愛依「それじゃあさひちゃん、うちと勝負しよ」




にちか「え……?」

真乃「ほわっ……!?」

あさひ「愛依ちゃんと? うーん、このゲームで愛依ちゃんはそんなに強いわけじゃなさそうっすけど」

愛依「ううん、うちとあさひちゃんの勝負はこのコロシアイじゃなくて……」



愛依「うちがあさひちゃんを止められるかどうか」



(愛依さん……!)


愛依さんの強張った表情には緊張以上の覚悟が見えた。
思えば愛依さんはこの学園に来た時からずっと最年少の芹沢さんのことを気にかけて、面倒を見ていた。
そんな相手を止めることができなかった後悔と責任が今の愛依さんを突き動かしているんだろう。
その全てを推し量れはしないけど、私が芹沢さんに感じている怒りと同じぐらいの出力の感情がひしひしと伝わってくる。
そんな愛依さんをまじまじと見つめた後、芹沢さんはまた無邪気に笑った。

あさひ「あはは、愛依ちゃんにできるっすか?」

愛依「あんま舐めない方がいいよ。うち弟とのチャンバラは百戦錬磨だかんね」



あさひ「……ふーん、それじゃちょっと期待しとくっす」

そういうと芹沢さんは奥の倉庫に引っ込んでしまった。
姿が見えなくなると、緊張の糸が切れたように愛依さんは息を吐き出した。

愛依「あさひちゃん、すごいプレッシャー……はー、なんかベツジンみたい」

真乃「愛依さん……だ、大丈夫ですか?」

愛依「うん、ダイジョーブ! 一度吐いた唾はうち、飲み込まないから!」

にちか「そ、それ使い方合ってます……?」

愛依さんに駆け寄り、その肩を支える私と櫻木さん。
愛依さんだって昨日の今日でだいぶ参っている。
それなのにここまで背負い込むこともないのに。


にちか「あ、あの……無理だけはダメです! 芹沢さんは最重要警戒人物ですんで、あの可愛さに油断しちゃダメですからね!」

愛依「にちかちゃん……あんがと。でもさ、これはうちが決めたことだから」

愛依「これ以上あさひちゃんに辛い思いはさせらんない」

真乃「辛い思い……ですか?」

愛依「うん、あさひちゃん自身は気づいてないかも知んないけどさ。他の人の命を奪って、何も思わないはずがないって」

愛依「あさひちゃんの中の何かがカクジツに、すり減ってるような……そんな気がするんだよね」

私たちはルカさんのことで、その憎しみをぶつけるばかりだったが、愛依さんだけは違った。
愛依さんははじめから今に至るまで、ずっと芹沢さんという一人の人間に向き合い続けている。
私たちの手を愛依さんは振り解くと、そのまま芹沢さんを追って倉庫の方へ。

愛依「二人とも、サンキュね! うちだけで抱えきれなくなったら……みんなの力も借りるから!」

(愛依さん……)

その背中を見守りながら、自分の胸の中に燻る何かを探していた。



真乃「プールの調査は私たちもちゃんとやっておこう……!」

にちか「はい! 結構深くてでかいプールですよね……プールサイドから手を伸ばしても水面に手が届かないくらい」


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】


モノダム「キサマラ、プールニ入ル時ハチャント水着ニ着替エテカラ、ダヨ」

モノファニー「制服のままプールなんて、清涼飲料水のCMみたいな青春は許さないんだから!」

モノタロウ「透け透けの制服なんて第二次性微もまだのオイラには刺激が強すぎるんだよ〜!」

にちか「別に私たちはプールに入ろうとしてたわけじゃないよ。どんなもんか確かめようとしただけで」

モノスケ「ほーん。まあええわ。そこの【利用規則】にも書いてあることやから気をつけるんやで」

真乃「ほわっ……利用規則……ですか?」


モノタロウ「うん! キサマラに安全にこのプールで遊んでもらうために定めたルールがあるんだ。よく読んでおいてね!」

『プールを使う時のルール!
①プールで泳ぐ時は水着に着替えてからにしてください
②夜時間のプールの利用は禁止です。敷地内に入ることは可能です。
③入念にストレッチをした上で泳ぐごと!』

にちか「まあ……ごく一般的なルールですね。気にした方がいいのは夜時間に使えないってのぐらい?」

モノタロウ「夜に水に浸かると良くないからね! 親の死に目に会えなくなるって言うから!」

モノスケ「その点ワイらのお父やんが死ぬことはあらへんから安心やな! 夜でもジャブジャブや!」

モノダム「……」

モノスケ「じょ、冗談やて……ワイもルールは守る。プールは夜は使わん」

モノファニー「夜はどうしても暗いから水難事故が発生しやすいでしょう? それを防ぐためのものなのよ」

(殺しあえとか言っておきながら、事故の防止だとか曰うダブスタはなんか腹立つな……)

真乃「でも、これはみんなに共有しておいた方がいいかもしれないね。万が一があっちゃいけないから……っ!」

にちか「まあ、そうですね。情報として持ち帰っときますか」



にちか「このプール、ちょうど校舎と体育館の間なんですね」

天井の方を見ると、プール側に向けられた窓が両サイドに見つかる。校舎側は三階だろうか、かなりの高さのところにあるみたい。

真乃「高校でプールが学校の中にあるって珍しいね……!」

にちか「あー、言われてみればそうですね。櫻木さんの学校はどうでした?」

真乃「私は中学校から、近くの市民プールで授業はやってたかな……今の学校にもプールはないはずだよ……っ」

にちか「ああ言うのって結構地域性ありそうですよね!」

(そういえばみんなって共学……なのかな)

(だとしたらプールの授業、男子の視線を集めそうな人が何人か……)

(うーわ、なんかおじさんくさいこと考えちゃったな。我ながらキモすぎ)



プールの奥には重厚なスライド式の扉で区切られた空間がある。プールで使うための道具が収められた倉庫みたいだ。

真乃「さっきあさひちゃんも入っていった倉庫だね。浮き輪が沢山……競泳用のレーンの浮きもある……」

にちか「これは空気入れですかね? 色んな使い方ができるプールみたいですね」

にちか「……芹沢さんが変なもの持ち出したりしてないといいけど」

真乃「愛依ちゃんが見てくれてたし大丈夫だと思うよ……?」

そうして中を漁ること数分。

にちか「……あれ? 櫻木さん、ちょっとこれ」

真乃「どうしたの、にちかちゃん? ……ほわっ、これって」

私は、浮き輪の一つに不自然な筋のようなものが通っているのを発見した。
明らかに後で入れられたような、不細工なやり方のテープで誤魔化してある。

にちか「中のもの、取り出してみますね!」

私はその場で浮き輪のゴムを引きちぎってみた。
すると中から出てきたのは……ケーブルだ。

真乃「みたことがない形式のケーブルだね……」

にちか「ですです……えっと、【SG-TMケーブル】って書いてあります」

真乃「そ、それって……!」

(これ、隠し部屋の巨大なモノクマの頭の修理に使うケーブルの一つだ!)

にちか「これ、持ち帰って皆さんに共有しましょう! もしかしたら大きな手掛かりになるのかも!」

真乃「う、うん……!」

まだ五つあるうちの一つ目だけど……大きな進歩だ。
ルカさんの遺志を果たす一歩を踏み出すことができたんだ……!

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【選択肢が残り一つになったので自動進行します】

【直下コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ67】

【モノクマメダル7枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…105枚】

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【超研究生級の文武両道の才能研究教室】

エグイサルによる整備はどうやら建造だけでなく、敷地内の草刈りや舗装なんかもやっているらしい。
中庭の方に来てみると、これまで雑草が生い茂っていたところが借り尽くされ、日本式の道場のような建物が姿を現していた。

真乃「これは、超研究生級の文武両道の才能研究教室みたいだね……」

にちか「っていうと有栖川さんのか……行ってみよう」

こんな道場に足を踏み入れるなんてほとんど経験ないし、心の中で「頼もう!」なんて唱えちゃったりして。
そんなちょっと浮かれ気分で扉を開けたら、



「わあああああああああ!?!?」


ドシーン!


急に人が飛んできた。



凛世「にちかさんに、真乃さん……!? 申し訳ありません、お怪我は……!?」

にちか「だ、大丈夫です……こ、これは……!?」

夏葉「痛た……やるわね、凛世……」

私の足元からすくりと立ち上がったのは有栖川さん。
正面に構えている杜野さんと揃って二人は道着を着ている。

樹里「ったく……なーにやってんだ。だらしねーぞ、夏葉!」

夏葉「やるわね、凛世……まさかここまでの使い手だとは思っていなかったわ」

凛世「ふふ……今のが凛世の持つ全てだと思われたのならば……まだ甘いと言わざるを得ません……」

何やら不気味な気を放つ杜野さんと少年漫画的な雰囲気を醸し出す有栖川さんの横をすり抜けて、壁にもたれかかって座っている西城さんの元へ。
どうやらここは安全圏らしい。

真乃「二人は、何をしてるんですか……?」

樹里「もともとここはアタシたちの3人で調べてたんだけどよ。夏葉のやつが道着を見つけてきて」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

夏葉『樹里、凛世! あなたたち、日本武道の心得はあるかしら』

樹里『は? 急にどうしたんだよ』

夏葉『いや……これをみてちょうだい。どうやらこの教室には人数分の道着が揃えられているようなのよ』

夏葉『私は幼少期から色んな学問やスポーツを収めてきたのだけど、その中に日本武道も含まれているの』

夏葉『ふふっ、久しぶりにこの道場と道着を見ていたら昂ってしまったのよ!』

樹里『昂ってしまったのよ! と言われてもな……アタシは体育でも剣道選択だったし、柔道とか空手とかは……』

凛世『夏葉さん……ご存じかどうか……』

凛世『山陰は平家の落人が身を隠し、芸を磨いた武道の聖地……』

凛世『合気の心得なら、凛世も少々……』

樹里『な、マジか……!?』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


樹里「ってな流れであーなってる」

夏葉「一本、いただくわ!」

凛世「させません……!」

にちか「そ、それは災難でしたね……」

樹里「熱くなったらどっちも聞かなくてよ……収まるまでここで待ってるってわけだ」

真乃「ほわ……いつから二人は組み合ってるんですか……?」

樹里「あー、かれこれ1時間近くは」

にちか「ま、マジです?」

樹里「マジだよ。ほら、二人ともそろそろ水分補給しとけ。無茶すんなよー」

樹里「ほら、にちか、真乃。ここはアタシに任せて別の所に行きな。ここにいるといつアンタらまで巻き込まれるかもわからねーから」

にちか「さ、櫻木さん……」

真乃「う、うん……っ!」

私と櫻木さんはそそくさと研究教室を後にした……


にちか「これで一通り、一階と二階までは見終わりましたねー」

真乃「次はいよいよ三階に上がるんだね……?」

(三階、か……外観だけ見ているともっと高さはありそうな校舎だけど……)

(上の階では何が私たちを待ち受けているんだろう……?)

【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】
【3F 超研究生級のコメンテーターの才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ32】

【モノクマメダル2枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…107枚】

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【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】

他の教室に比べると随分と広い空間だと思ったけど、研究対象の才能の都合上致し方ないのだろう。
ゲームをするには十分な広さのテニスコートに、野球のピッチング練習もできるようなマウンド、サッカーのストラックアウトのようなものも見える。
雑多な種類のスポーツが集められている感じが、ゴールデン帯のスポーツバラエティといった感じだ。

めぐる「うーん、ここなら色んなスポーツができそうだよ! 体を思いっきり動かせる場所がちょうど欲しかったんだ!」

灯織「八宮さんは色んな部活の手伝いをしてたんだっけ」

めぐる「うんうん! 灯織はどう? 好きなスポーツってある?」

灯織「私は……スポーツにはあんまり詳しくないから」

(……!)

し、しまった……そりゃそうだよね。
八宮さんと一緒に行動してるんだからここには風野さんも来ているはずだ。
さっきの今のこともあって、お互いなんとなく気まずいぞ……


めぐる「……! 灯織、あっちシャワールームになってるみたいだからちょっと見てきてもらってもいい?」

灯織「え? いいけど……八宮さんは?」

めぐる「ちょっとお話! ごめんね!」

八宮さんは適当に理由をつけると風野さんを奥の別の部屋に差し向けてから、私たちの方に駆け寄ってきた。

めぐる「お疲れ様! 調査はどんな感じかな?」

真乃「う、うん……あのね、私も才能研究教室が見つかって……鳥さんと一緒に過ごせそうなんだ……」

めぐる「わー! よかったね、真乃ー!」

にちか「あー……えっと、その……」

めぐる「あ、そうだったそうだった! ちょっとにちかちゃんと灯織のことでお話がしたくて……」

にちか「な、なんでしょう……」

めぐる「灯織も、本当は分かってると思うんだ。にちかちゃんが昨日のことを全力で反省してて、自分のやったことに向き合おうとしてるって」

めぐる「それでもそれが中々受け入れられずにいるのは……灯織の中の【壁】の問題だと思うんだ」

にちか「壁……ですか」

めぐる「灯織は私たちと接する時も、少し引いた目線で話そうとして、深いところに踏み込むのに躊躇してる。それは灯織がすごく優しいからだと思うんだけど、それと同時に灯織は摩擦のある接し方に抵抗があるんだと思うんだ」

八宮さんの見立てにはすんなりと同調できた。
風野さんは私たちに対して、言葉を慎重に選んで話している節がある。
適切な距離感をずっと測っているというか、常に安全な膜の向こう側にいようとする感じだ。


にちか「傷つくのを恐れてる……ってことです?」

めぐる「うーん、どうなんだろう……ハッキリとは私も分からないや」

めぐる「でもね、そうだとしても灯織はそこから逃げるような女の子じゃないよ。そうだったらとっくにわたしたちからも距離を置かれちゃってる……かも、えへへ」

めぐる「少し時間はかかるかもしれないけど……さっきのにちかの言葉だって灯織に届く日はきっと来ると思うんだ!」

こちか「八宮さん……」

めぐる「わたしに出来るのは側で応援することぐらいだけど……灯織とにちかの二人ならきっと仲直りできるってそう思うな!」

めぐる「あ、急に下の名前で読んじゃってごめん……つい」

にちか「い、いや大丈夫です……けど」

少し驚いた。
八宮さんはもっとパーソナルスペースとか気にせずグイグイ踏み込んだり引っ張ったりする人だと思っていたから、
状況を静観するような姿勢は予想していなかった。
この歩み寄りはすごく有難い……かな。

めぐる「わたしも、少しずつだけど灯織とお話ししてみようと思ってる。もちろんにちかのことを勝手に話したりはしないから安心して!」

めぐる「でも、今の二人がすれ違ったままで終わってほしくはないから……」

にちか「……どうもです」


キィ

灯織「……終わった?」

ちょうど八宮さんの話が終わったタイミングでシャワー室から風野さんが顔を出した。
しばらく出るタイミングを窺っていたのだろう、なんとなくバツ悪そうな顔をしている。

めぐる「うんうん、ありがとー! どうだった?」

灯織「えっと……シャワーの個室が三つ併設であったのと……窓が付いてて、そこからはプールが見渡せるみたい」

(ああ、そういえばここの三階はプールを挟んで体育館と隣接している構造なんだ)

灯織「それ以外は特に気になったものはないかな。運動終わりに八宮さんも使ってみるといいと思う」

めぐる「わかった! そうするね!」

灯織「……では、失礼します」

風野さんは私と視線を合わせることなくそのまますごすごと出ていった。
今はまだ、この蟠りはどうしようもないけど周りで支えてくれる他の人たちの存在があれば、いつかは。
そんなことを願ってしまうな。

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【選択肢が残り一つになったので自動進行します】

【直下コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1


【コンマ31】

【モノクマメダル1枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…108枚】

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【超研究生級のコメンテーターの才能研究教室】

三階で新しく解放されているのはもう一部屋。
これまた結構大きなスペースを陣取っている才能研究教室なのだけど……
その持ち主は、不機嫌そうな表情で扉の前に陣取っていた。

円香「……入室禁止」

にちか「え、ええ……?」

真乃「円香ちゃん、そこって円香ちゃんの才能研究教室なんだよね? 何かあったの……?」

円香「なんにもない」

にちか「や、だったら……」

円香「ナン・ニモ・ナイ」

(うぅ……とりつく島もない)


透「あー、ダメだよ。私も入れてくんないから」

にちか「浅倉さん……これって?」

透「分かんない。先に部屋に入った樋口が、そっから血相変えて」

透「ここには誰も入れないの一点張りよ」

真乃「ほわ……何か、見られたくないものがあったんでしょうか……」

円香「悪いけど、微塵たりとも譲歩するつもりはないから。他を当たって」

透「ってさ」

(うーん、これはテコを使っても動きそうにないぞ……)

透「あ、そういや別件いいすか」

にちか「別件? なんですか?」

透「じゃじゃーん、なんとかライト〜」

浅倉さんがこれみよがしに出してきたのはどこかの国民的アニメで出てきそうな、ポップな色合いの懐中電灯。
だけどその周辺には見慣れないコードのようなものがいくつかくっついている。

透「これ、そこの宝箱に入ってたんだよね。あれじゃん? モノクマーズの言ってたプレゼントっての」

真乃「で、でもただのライトじゃないのかな……?」

透「んー、わっかんない。とりあえず後で食堂に持ってくから。そこで色々試してみよ」

正体不明の懐中電灯……?
ただのライトじゃないの……?
捜査が終わったら食堂に行ってみるか……

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【食堂】

一通り新しく解放されたエリアの探索を終えた私たちは、浅倉さんの持ち帰ったライトの検証をするために食堂へと集まっていた。

夏葉「ふぅ……いい汗をかいたわね、凛世!」

凛世「はい……ここまで、本意気の凛世を出せたのは久方ぶり……まだ血が沸いております……」

樹里「おいおい、まだやる気かよ……」

甜花「甜花も、今から血が沸きたってる……これは勝負師としての、カン……!」

甘奈「甜花ちゃんに甘奈はオールベットだよ☆」

(結局甘奈さんは甜花さんに全部メダルあげるんだ……)

愛依「あれ、肝心の透ちゃんはまだなん?」

あさひ「透ちゃんの見つけたライト? 気になるっす〜!」

灯織「私たちにとってプラスになるものとモノクマーズは言っていましたけど、実際のところはどうなのでしょうか……」

浅倉さんは、私たちの集合から少し遅れてやってきた。
どうやら樋口さんの説得に手こずったらしい。
苦い表情をした彼女を見るに、渋々合流をしているらしい。


円香「ちょっと……私はあそこを離れたくなかったんだけど」

透「まあまあ、みんなに共有しとかなきゃなことだからさ。仲間はずれも良くないし」

円香「……」

あさひ「透ちゃん! 見つけたライトってなんなんすか?!」

透「おー、これなんだけどさ」

恋鐘「見たところ、普通の懐中電灯ばい。こいがモノクマーズの言うとった宝物?」


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】


モノタロウ「おっ! ちゃんと発見できたんだね! チパチパチパ〜!」

モノスケ「手の甲で拍手しとるで……器用なもんやな」

モノファニー「それがアタイたちとお父ちゃんで用意した宝物の【思い出しライト】よ!」

にちか「お、【思い出しライト】……?」

ライトの前についている聞き馴染みのないフレーズに思わず反芻する。


モノクマ「思い出しライトはその名の通り、オマエラの失った記憶を取り戻させてくれるライトなんだ」

モノダム「今ノキサマラハ、アル時カラノ記憶ガナイ記憶喪失状態ナンダケド……」

モノダム「コレハ、ソノ【記憶ノ一部】ヲ呼ビ覚マス効果ガアルンダヨ」

愛依「記憶ソーシツ……?」

霧子「誘拐されて、この学園にやってくるまでの記憶のことかな……」

霧子「みんな、どうしてこの学園にいるのか。ここまでどうやってきたのか覚えていなかったよね……?」

私たちは思わず顔を見合わせた。
そういえば、この学園生活が始まった時、ルカさんも同じことを言っていた。
私たちは全員、どうしてここに居るのか、どうして私たちが選ばれたのかが分からない。
外の世界が今どうなっているのかも、今が最後の記憶からどれほど経った時なのかも、全てが真相不明の闇の中に眠っている。


樹里「このライトを使えば、そのヒントがもらえるってのか……?」

モノクマ「そういうこと! みんなで仲良くこのライトを浴びてくれればそれでOK!」

モノクマ「このライトから照射される光線は視神経を通って脳の視床下部の分泌系に作用して……」

モノクマ「まあ細え理屈はどうでもいいよね! 浴びれば分かるさ、浴びねば分からぬさ、それだけの理屈!」

(……どうなんだろう)

(確かに今の私たちの記憶はどこか抜き取られたようにがらんどうになっているけど……)

(モノクマの言うことを信用して、このライトを浴びてもいいのかな)

(そもそも、ライトの光を浴びたぐらいで記憶が戻るなんてことが______)

みんなきっとそんなことを考えていたんだと思う。
この最悪だらけの学園で見つかる、新しい未知に身構えない道理がない。

だから、みんな彼女の行動に、一歩遅れてしまった。


あさひ「みんな、これ使わないんっすか?」ヒョイッ

透「あ、やば。取られた」

愛依「ちょ、あさひちゃん! 待って! みんなでもーちょい話し合ってから_____」

あさひ「使わないんじゃ意味ないっすよ」

カチッ

芹沢さんは私達が制止の手を伸ばすよりも先に、そのライトのボタンを押してしまった。
ライトから飛び出た光はそのまま私たちの目の中に飛び込んでいき、そのまま脳にまで一気に突き抜けていって……



______白い世界の中に、それを見た。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ガッシャーン!


学生A「なあ、お前なら持ってんだろ? お前んとこの親父は……県議会の議員なんだからよ」

学生B「ち、ちがう、僕も持ってないんだ……て、テレビで見ただろう? あれは公平にランダムで選ばれた人だけに配られるモノで……」

学生A「そんな訳ねえ! 俺はネットで見たんだよ! 優先的に権力者の親族に配られてるってな!」

学生B「そんなのでまかせだって! ただの陰謀論だよ!」

学生A「うるせえ! さっさと出しやがれ!」

ガッシャーン!

学生C「おい! トイレにはいなかったぞ!」

学生D「探せ探せ! あいつは開業医の一人娘だぞ……絶対持ってるに違いない」

学生E「ぶっ殺してでも奪い取れ! じゃなきゃ俺たちにチャンスなんか一生回ってこない!」

ガッシャーン!

にちか「……最悪最悪最悪」

にちか「もう授業どころじゃない……先生だって頼りにならない……」

にちか「もう、学校なんか来るんじゃなかった……」

ガッシャーン!

学生F「おい! まさか俺たちに隠し持ってるやつなんかはいねーよな!」

にちか「……ひぃ!」

にちか「し、知らない知らない……私は何も知らないから……!」

学生F「あ、テメェ……逃げやがったな! おいコラ、待ちやがれ!」

にちか「い、いや……来ないで、来ないでよ……!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(……は?)

(何? 今の記憶)

モノクマ「うぷぷぷ……どうやらオマエラはみんな思い出したみたいだね」

モノクマ「オマエラの中に眠ってる最悪の記憶の一端を」

最悪、どころじゃない。
私が思い出したのは、自分の通っていた学校の荒れ果てた姿。
そこら中でいじめと暴行が横行して、窓ガラスもが破られるのも日常茶飯事。先生も役に立たずにろくに授業なんかも行われない。
学校としての機能が完全に終わった施設の中で逃げ惑う自分自身の姿だった。

恋鐘「な、なんね……今の記憶……」

灯織「私の学校が……あんな、荒れ果てたことになっていた……?」

樹里「お、おい……まさか、【同じ】なのか……?」

(……え?)


凛世「今しがた凛世が思い出した記憶は……凛世の通っていた高校の惨状……」

凛世「いじめと暴力で、学校崩壊を迎えていた光景にございます……」

甘奈「お、同じだよ……! そんな状態で、甘奈は甜花ちゃんと一緒に逃げるしかなくて……」

めぐる「う、うん……! 他の子達に見つかると、自分も襲われちゃうからって必死に逃げてたんだ……!」

モノクマ「うぷぷぷ……これはこれは、妙なことになりましたね」

モノタロウ「ど、どういうこと?! なんでみんな同じ記憶を思い出してるの!?」

モノスケ「簡単な話や。これでキサマラがここに集まった【共通点】が見つかったっちゅうことやな」

(共通、点……?)

あさひ「ねえ、モノクマ。これは最悪の記憶の一端って言ってたっすけど……」

あさひ「それってつまりこの記憶には続きがあるってことっすよね?」

モノクマ「うん! もちろんだよ。この思い出しライトはオマエラの記憶をいくつかに等分して切り離した一欠片なんだ」

モノクマ「すべてのライトを集めた時、初めてオマエラは理解するんだ。ここにいる意味と」






モノクマ「_____オマエラ自身の【罪】をね」

にちか「は? つ、罪……?」






樹里「なんだそれ! どういう意味なんだよ?!」

モノクマ「分からないことがあればすぐに質問! 新卒社会人としては見上げた姿勢ですが、コロシアイ参加者としては下の下ですね!」

モノクマ「モノクマからのことば……! なぞはじぶんのあしでかいけつするものだ……!」

バビューン!


【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】


樹里「クソッ……逃げやがったな」

愛依「な、なんなん……この記憶……うち、なんで友達のみんなから逃げるように……?」

透「……記憶って、すごいんだね」

円香「……」

透「ただ風景を思い出すだけじゃなくて、音とか感触とか……その時に感じてた恐怖まで蘇ってきた」

透「なんかさ、震えてんだよね。さっきから」


確かにモノクマの言う通り、あのライトには失われた記憶を取り戻す作用があった。
だけど、取り戻した記憶は、私たちの中に波紋を生むきっかけに過ぎず。
私たちを取り巻く状況の謎がより深まる結果となってしまった。
それどころか、自分がこれまで抱いていた『戻りたい日常』に疑いの目すら向けなくてはいけなくなってしまった。

あさひ「……」

流石に今回ばかりは芹沢さんも困惑しているようで、何度も深く考え込むような素振りが見てとれた。

にちか「あ、あの……!」

そんな深く沈みかけた状況を打開すべく、私は声を上げて、櫻木さんにアイコンタクトした。
すぐにその意図を解してくれたようで、櫻木さんも私に続いて声を上げる。

真乃「今は少し頭がパニックだと思うんですけど……私とにちかちゃんから発見があるんです……っ!」

円香「……発見?」

灯織「……」

にちか「私と櫻木さんでプールの倉庫を探索してたら、浮き輪の中にコレが入ってて……」

甜花「これって、ケーブル……? 見たことない端子、なんのやつだろ……」

真乃「書いてあるアルファベットを見てみてください……っ!」

甘奈「【SG-TMケーブル】……? あれ、これってどこかで見たような……」

めぐる「あー! 隠し部屋のモノクマの!」

にちか「そうなんです。あのモノクマの修理に必要な五つのケーブルのうち一つを見つけたんですよ!」

樹里「マジか……! じゃああと四つ見つけることができれば……!」

凛世「もしかすると、残りのケーブルも学園内の未開拓の場所に存在するやもしれません……」

愛依「すご! 二人ちょ〜大発見じゃん!」





灯織「……それ、喜ぶことなんですか?」

(……え?)




灯織「いや、隠し部屋のモノクマに関して一応修理する方針にはなりましたが……本当に、大丈夫なのかは分からないですよね」

灯織「直してしまったことでこちらに害があるかもしれない。その可能性は全然ある訳ですし」

樹里「お、おいその話をまた蒸し返すのか……?」

灯織「私はまだ直すことに賛同していません」

めぐる「灯織……」

風野さんは明らかに冷静さを欠いていた。
多分、さっきの思い出しライトによる混乱もあったんだろうし、私への不信が理性よりも先走っていた。

真乃「灯織ちゃん……」

そんな彼女は、私の横で寂しそうな表情をする櫻木さんを見て、ハッとした様子。
自分の口から出た言葉をどうにかしようと足掻いて、口に手を当てがったが、もう遅い。
私たちの中に漂うこの凍りついた空気は、風野さん自身を蒼白とさせた。

灯織「……! す、すみません……私、空気を乱すような発言を」

樹里「あ、おい! 灯織!」

そのまま彼女はパタパタと足音を立てて逃げ去るように食堂を出ていってしまった。


夏葉「……困ったものね」

(うう、そんな目で見られても……こんなの、どうしろっていうの)

めぐる「わたし、灯織の後を追ってくるね」

甘奈「う、うん……気をつけて!」

めぐる「真乃、にちか……ありがとう。みんなのためにケーブルを見つけてくれたその気持ち、伝わってるからね!」

真乃「めぐるちゃん……」

めぐる「それじゃ、いってきます!」

八宮さんもいなくなり、手持ち無沙汰なケーブルだけが残された。

夏葉「ひとまず、そのケーブルは隠し部屋に置いておくことにしましょう。まだケーブルが揃っているわけでもないし、使うかどうかはその時に考えればいいわ」

霧子「うん……焦る必要はないから……」

にちか「分かりました。後で行ってきます」


樹里「よし、それじゃあ今日のところはこんなもんでいいか。新しいエリアを見て回るので結構疲れただろ」

甜花「うん……学園が広くなって、甜花もうクタクタ……」

あさひ「え? まだわたし見れてないところがあるっすよ」

円香「……愛依さん、彼女の監視をお願いします」

愛依「え、うん……やっぱ円香ちゃんの才能研究室は入っちゃダメなん?」

円香「お願いします」

(樋口さん……この後もまた才能研究教室に戻るつもりなのかな)

夏葉「それじゃあ今日のところは解散にしましょう。夜時間になる前に食堂から退散ね」

新しく解放されたエリアの探索を終えて私たちは解散となった。
それぞれの個室にみんなが戻っていく中、私と櫻木さんは二人でケーブルを置きに隠し部屋に向かった。

---------------------------------------------
【B1F 隠し部屋】

にちか「……これでいいですかね」

真乃「うん……机の上ならすぐに分かるし、大丈夫だと思う」

にちか「すみません、櫻木さん。ずっと同行してもらっちゃって」

真乃「ううん、大丈夫。私が一緒に行動していることで、にちかちゃんがみんなの信頼を得ることにも繋がるから……」

にちか「あはは……そうですね」

本当に櫻木さんの存在には今日一日助けられた。
私の言葉をみんなが聞いてくれたのも、櫻木さんを通して共有してくれたところが大きいだろうし、
探索の時にも気兼ねなく相談できる相手がいたのは気が楽だった。
ルカさんを殺めたことで直面することになった課題と真正面からぶつかるという決意が少し鈍ってしまうぐらいには彼女の存在は緩衝剤になっていた。


にちか「……あの、櫻木さん」

真乃「にちかちゃん……?」

にちか「本当に、ありがとうございました!」

真乃「わ、わわ……! 頭なんて下げないで……っ! 私は何もしてないから……っ!」

にちか「いえ……私の覚悟を支えてくれたのは他でもない櫻木さんなので! 一緒にいてくれた、それだけで今日はすごくすっっごく! 助けられたんです!」

真乃「……嬉しいな。私の言葉で、行動で誰かを勇気付けることができるのって」

にちか「櫻木さん?」

真乃「ううん、なんでもない。私こそ、今日一日ありがとう! にちかちゃんと一緒に学園を見て回れて楽しかったよ!」

にちか「は、はいー!」

なんていうか、本当に恵まれすぎてる。
これがルカさんの言ってたことなのかな。
どれだけ不可能に見えることでも、遮二無二に挑めば開ける運命がある。
少なくとも今私が歩んでいる運命は、昨日の私が思っていたよりもずっといい運命だ。

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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『キサマラハ今日一日ヲ過ゴシテドウ思ッタカナ?』

モノダム『思イ出シタ記憶ノオカゲデ仲良シノ重要性ヲ再確認デキタンジャナイカナ』

モノスケ『ケッ、仲良し仲良しって胃もたれがするで』

モノダム『……』

モノスケ『な、なんや……ワイはビビらんで、モノクマーズはギスギスあってこそなんや!』

モノスケ『歪み合いの中でこそワイらは輝ける!』

モノダム『……モノスケノ意見ヲ否定ハシナイヨ』

モノダム『寛容デアルコトモ、仲良シノ第一歩ダカラネ』

プツン

(なんなの……? あの緑のモノクマーズ、ずっと他のモノクマーズと意見主張が違うみたいだけど)

部屋に戻ってからも、私は櫻木さんとの会話を何度も思い返していた。
本当に彼女の存在は温かくて、今のその笑顔が目に焼き付いているよう。
櫻木さんはこんな私のことを、私と一緒に歩む未来のことを信じてくれている。
だとしたら、私からも信じないとだめだよね。
一緒に歩むと決めた仲間たちのことを、どこまでも信じて、信じ抜いて……

あさひ『……』

灯織『……』

……ううっ、まだ順風満帆とは行かないか。
それでも、信じようという歩み寄りを辞めちゃいけない。
蟠りの解消を諦めちゃいけない。
何度だって挑んで挑んで、その度に砕けて立ち上がって……不格好でも運命を切り開くんだ。


でも、この時の私はまだ気づいちゃいなかった。
不可能に挑み続けることで開ける運命もあれば、



____閉ざされる運命もあるってことに。



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【3F 超研究生級のコメンテーターの才能研究教室前】

あさひ「……本当にいる」

円香「……愛依さんは?」

あさひ「寝ちゃったっすよ? わたしが寝たふりしたら、安心してそのまま寝ちゃったんで出てきたっす」

円香「……」

あさひ「ねえ、円香ちゃんはどうしてそこまでその部屋の中を見られたくないんっすか?」

円香「……」

あさひ「円香ちゃんの才能には何か秘密があるんっすか?」

円香「……」

あさひ「もしかして、わたしと似たもの同士だったりするんっすか?」

円香「……どういう意味?」





あさひ「昨日の裁判でも明かした通り、わたしはルカさんをこの手で殺したっす」

円香「……」

あさひ「円香ちゃんも……そうなんじゃないっすか?」

円香「……!」




あさひ「円香ちゃんからはわたしとよく似た匂いがするっす」

円香「……勘違い」

あさひ「じゃあ退いてほしいっす。ただのコメンテーターの才能研究教室なら隠す必要もないっすよね」

円香「嫌だ」

あさひ「強情っすね」

円香「あんたもね」

あさひ「……まあいいや、円香ちゃんも人間だからいつかはここに立てないタイミングもくるっすよね。その時を待つことにするっす!」

円香「……好きにすれば」

あさひ「じゃあまた明日っす! ばいば~い!」

パタタタタ…

円香「……いやに鋭いんだから」

円香「明日から……透にも頼るか」

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【School Life Day8】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『今日ハミンナノタメニ、オラガ朝ゴハンヲ作ッタンダ』

モノタロウ『わーい! モノダムの手料理なんていつ以来だろう!』

モノダム『4枚切リノ厚メノ食パンヲ、苺ミルクニ一晩浸シテ置イタモノヲオーブンデ焼イテ』

モノダム『ソノ上ニマーガリンヲ塗リタクッタ、贅沢スイートトーストダヨ』

モノスケ『こりゃあたまらんで! 幸福度と血糖値が朝から鰻登りや!』

モノファニー『残念だけど、これはモノダムがアタイたちのためだけに作ってくれた朝食だからキサマラの分はないわ!』

モノタロウ『キサマラは貧相なシリアルを牛乳なしに頬張ってお口ズタズタになっちゃえばいいんだーい!』

プツン

(なにあれ……あんな糖尿病一直線のトースト食べたくなると思ってんの?)

昨日は学園中を歩き回った疲れからか割とすんなりと寝ることができた。
気がかりなことはいくつかあるけど、それよりも体力の回復が重要だもんね。
睡眠は取れるうちに取っておかないと。

さあ、今日も食堂に行くところから頑張るぞ!

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【食堂】

……と意気込んで食堂に飛び込むと、私を出迎えたのは何か揉め事が起きているであろう大喧騒だった。

恋鐘「あさひ……そいは食べたらいかん! そいは円香の分の朝ごはんばい!」

あさひ「どうせ円香ちゃん来ないんだからいいじゃないっすか〜! わたし、恋鐘ちゃんの料理美味しくて大好きなんっすよ〜!」

恋鐘「え……あさひそがんにうちの料理のことを思うてくれとったと……?」

樹里「おい! 懐柔されんな! チョロすぎるだろ?!」

にちか「え、えーっと……これは……?」

真乃「あ、にちかちゃん……えっと、昨日から円香ちゃんが自分の才能研究教室を封鎖してるのは知ってるよね」

にちか「はい……」

真乃「どうやら夜通しで全く扉の前を離れないらしくて、ご飯も食べてないみたいなんだ……」

にちか「え……」


真乃「だから、恋鐘ちゃんが今別で用意してあげてたんだけど……」

樹里「それを食い意地のはったあさひが食べようとしてるんだ……! おい、もう自分の分は食べただろ!」

あさひ「えー、足りないっすよ! それに恋鐘ちゃんの作る料理だったらいくらでも無限に食べれるっす!」

恋鐘「も〜、そげん誉めてもうちからは何も出んよ〜」

樹里「デレデレじゃねーか!」

透「とりあえず、樹里ちゃんが抑えている今のうちに持ってくわ。サンキュ」

樹里「おう、円香によろしくな!」

あさひ「あー、わたしの朝ごはん〜!」

(あ、朝から騒々しいな……)

とりあえずは浅倉さんが持って行って物理的に取り上げることで解決。
芹沢さんは結局愛依さんのご飯をちょっと分けてもらったみたい。


甜花「樋口さん、ずっとあそこにいるけど……そんなに秘密にしたいことがあるのかな……?」

甘奈「才能は超研究生級のコメンテーター……だったよね? そんなにおかしなものがあるとも思えないけど……」

めぐる「うーん、人には人の事情があるんだろうしあんまり詮索するのも良くないよね……」

あさひ「……」

夏葉「あさひ、気になるのは分かるけど不要な探りを入れるのは控えてちょうだいね」

あさひ「はいっす」

(……信用ならないなぁ)

愛依「にしても昨日から円香ちゃん寝てないんよね。大丈夫なんかな……?」

霧子「少しでも、休んでもらわないとダメだけど……」

霧子「その前に私たちは誰も覗かないって信じてもらわなきゃだから……」

信じてもらう、か。
私たちは信頼という行為のリスクと、その行為の信憑性の希薄さを身に染みて理解してしまっている。
樋口さんがそう易々と会って間もない私たちの言葉に耳を貸すとも思えない。

どうしたものかと首を捻っていると……

キィ……

円香「……ご心配をおかけしています。その件は解決しましたので」

凛世「円香さん……? お部屋は離れても良いのですか……」

円香「代役を立てたので。浅倉に任せて、私はしばらく寝させてもらいます」

(ああ、浅倉さんとは元々幼馴染なんだっけ……)

(でも、あの人だいぶ適当そうだけどいいのかな……)

樋口さんはそのままフラフラとした足取りで食堂を後にし、寄宿舎へと向かっていった。
徹夜で監視していたんだろうし、当分は休憩するのかな。

私たちも朝食を終えると、それぞれの部屋へと戻ることにした。

---------------------------------------------
【にちかの部屋】

さて、今日の行動からが重要な意味を持つぞ。
私がみんなとどんな交流をしてどんな言葉を交わすのか、それによって私を見る目は大きく変わってくるはずだ。
ルカさんに誇れるくらいの成果を挙げて見せなきゃね。

【自由行動開始】

◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在のにちかの状態

・親愛度
【超研究生級のブリーダー】櫻木真乃…0.0
【超研究生級の占い師】風野灯織…0.0
【超研究生級のスポタレ】八宮めぐる…0.0
【超研究生級の料理研究家】月岡恋鐘…0.0
【超研究生級のドクター】幽谷霧子…0.0
【超研究生級のギャル】大崎甘奈…0.0
【超研究生級のストリーマー】大崎甜花…0.0
【超研究生級の文武両道】有栖川夏葉…0.0
【超研究生級の大和撫子】杜野凛世…0.0
【超研究生級のサポーター】西城樹里…0.0
【超研究生級の博士ちゃん】芹沢あさひ…0.5
【超研究生級の書道家】和泉愛依…8.0
【超研究生級の映画通】浅倉透…0.0
【超研究生級のコメンテーター】樋口円香…0.0
【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ…2.0【DEAD】

・交換用アイテム
【現在のモノクマメダル枚数…108枚】
【現在の希望のカケラ…19個】

・所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【占い用フラワー】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆

1.交流する【交流相手の名前指定】※灯織と円香は選択不可
2.購買に行く
3.カジノに行く
4.休む(自由行動をスキップ)

↓1

一か月近くスレを空けてしまってすみません……

過去2シリーズと同じぐらいに安価をやるつもりではいたんですが、あまり今作では捌くことが出来ず、
なんとなくモチベーションがなくなって放置してしまいました。

とはいえ、一度始めた話を完結させることなく放置するのは私としても望むところではないので、
(非)日常編の交流パートを今作では暫くカットして、学級裁判パートで安価進行を取り入れる形で再開しようと思います。
このシリーズではコンマの緩和などをスキルという要素で担っていたのですが、その獲得も見込めない形となるので、裁判のミニゲームなども簡略化を考えています。
物語は完結まで続けるつもりではありますので、どうかよろしくお願いいたします。

---------------------------------------------
【寄宿舎前】

一通りの交流を終えて、そろそろ夜時間を迎えようかという頃。
自分の部屋に戻ろうとしていたとき、ある人に呼び止められた。

樹里「おっ、にちか。ちょうど良かった。ちょっと話がしたいんだけど……今時間いいか?」

にちか「え? は、はい……なんです?」

樹里「いや……アタシが口出すのも違うのかも知れねーけど、灯織とのことだよ」

(……!)

にちか「すみません……やっぱり気になりますよね」

樹里「んまぁ……気になるっつーか、なんつーか……しょうがないところもあるとは思うけどな」

にちか「はい……私はそれだけのことをしたので」

樹里「にちかが本気で反省してること、あいつだって本当は知ってるとは思うんだ。だけど、裏切られたことのショックでそれをなかなか認められない」

樹里「今の灯織に言葉を届けるのは、簡単なことじゃないと思うんだ」

にちか「……」

樹里「……あのさ、つい昨日の夏葉と凛世の組み手。にちかも見てたよな」

にちか「……? え、はい……」

樹里「あれってただ夏葉がけしかけただけの話じゃねーんだよ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

夏葉『凛世……やっぱり裁判のことでだいぶ堪えているみたいね』

樹里『え? あー……おう、そうだな。凛世はいつも以上に慣れない環境だし、ショックも大きいみたいで』

夏葉『……何か、私たちで出来ることはないかしら』

樹里『……』

夏葉『あの子……会って間もないけれど、どうも気にかかるの。私自身箱入り娘のようなところがあるからかしらね』

樹里『ははっ……アンタ、結構気回るんだな』

樹里『そうだな……私は悩んだり落ち込んだりしたときは汗を流すかな。バッセン行ったり走ったり……』

樹里『嫌なことも全部汗と一緒に流す! 時間が経てば嫌な記憶も思い出に変わるもんだからさ』

夏葉『なるほど……体を動かすことは精神的な快楽をもたらすホルモンを分泌する作用もあるものね』

夏葉『ありがとう、樹里。参考にさせてもらうわね』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

樹里「まあ、流石に組み手って形はアタシも想定してなかったけどな……はは」

樹里「でもアレで、凛世も結構助かったみたいなんだぜ? 前よりも笑顔を見せてくれる回数も増えたしな」

にちか「いや、でも私に武道の心得はてんでないので……」

樹里「いや、そういうことじゃねーよ! あー、その……なんだ。蟠りを解消するのは説得とか奉仕だけが手段じゃないって、そういうことが言いたかったんだ」

にちか「アドバイス、ありがとうございます。自分でもちょっと考えてみますね」

樹里「おう! 相談ならアタシも乗るからさ」

西城さんは少し照れくさそうに自分の部屋へと戻って行った。
この学園には不思議とお節介な人が多く集まってるんだな。
何かと気にかけてもらってるし、私からもちゃんと解決に向けて動かなきゃ。

-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『えっと……今日はオイラだけでこの放送をお送りするよ!』

モノタロウ『なんだかみんな忙しいみたいでオイラしか出られないんだよね。あ、これって言っていいんだっけ?』

モノタロウ『なんでもないんだよ! 本当に!』

モノタロウ『たまにはオイラだけでやってみたいなーってそう思っただけだから!』

モノタロウ『あれ? この放送って何言えばいいんだっけ?』

モノタロウ『えーっと……』

モノタロウ『上は大火事、下は洪水。これな〜んだ!』

モノタロウ『あれ? なんか変だな』

モノタロウ『あっ、間違えた! 答えはお風呂だから上としたが逆なんだ!』

モノタロウ『上は洪水、下は大火事。これな〜んだ!』

モノタロウ『答えがわかったら明日オイラだけにこっそり教えてね!』

プツン

(何今の……答えはっきり言っちゃってたし)

ベッドに横になって、西城さんの言葉を考える。
私が風野さんとの蟠りを解消するのに今求められていることはなんなんだろう。
きっと西城さんは同じ時間を共有することの意味を説いてくれたんだろうけど、それも簡単なことじゃないよね……

うーん、集団行動が苦手な人間じゃないけど、クラスのカースト最上位みたいな人たちとはちょっと距離を置いてた身からすると、あんまりアイデアが浮かばないな。

うんうんと唸りながら、何をすべきかを考えていると、自然と私の意識は夜の中に溶け出していた。

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「……大丈夫? ちゃんと寝てる?」

「すっかりグースカピーや。アホ面晒してよう寝とるで!」

「よーし、それじゃあ今のうちに歯ブラシを探して……」

「アホか! んなもんする前にちゃんとやることすませんかい!」

「ちょっと! 大騒ぎしたら目を覚ましちゃうじゃない!」

「モノタロウ、用意シテキタモノヲ早ク置イテ」

「う、うん……ちょっと待ってね、暗くてよく見えないんだ」

「早よせんかい! この夜のうちに15人分配らなあかんのやで!」

「わー、急かさないでよー!」

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【School Days 9】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『キサマラおはよう! 一仕事終えた後の朝は清々しいね!』

モノファニー『キサマラ、顔を洗ったらそれぞれの個室の机の上を見てちょうだい!』

モノスケ『ワイらからのとっておきのプレゼントがあるで!』

モノダム『ソレゾレニ一ツズツ、キサマラニ合ワセタモノガ置カレテイルヨ』

モノスケ『それを生かすも殺すもキサマラ次第や! 大事にするんやで!』

『ばーいくま〜〜〜〜!!!!』

プツン

(……プレゼント?)

そういえば昨日の夜の放送でもモノタロウが妙なことを口走っていたけど、今の放送とも関係があるのかな?
寝ぼけ眼を擦りながら、ベッドから身を引き起こすと……あった。
机の上に置かれているのは液晶タッチパッド。
すでに配られている電子生徒手帳とは違って、派手な装飾がついてある。

「……何? これ」

プレゼントと呼ばれていたこともあってか、私はさほど警戒せずにそれを手に取り、横についた電源ボタンをそのままに押してしまった。






【☆櫻木真乃の動機ビデオ☆】


「……え?」






『さーて、大好評につき復活した動機ビデオの時間だよ! オマエラにとって大切な存在は今、どんな生活をしているのかな? それでは始まり始まり……』

真乃母『真乃ちゃん、こんにちは。今、どうしてる? 元気に過ごせてるかな』

真乃父『お父さんたちも元気にしてるよ。はは、お父さんはこう見えて体が結構頑丈みたいだ』

真乃父『……けほっ、こほっ!』

真乃母『お、お父さん……』

真乃父『いや、何……さっき飲んだお茶が気管に入っただけなんだ』

真乃父『真乃の大切にしていたピーちゃんも健康そのものだよ。ほら』

ピーちゃん『ぽるっぽー』

真乃母『だから、お母さんたちのことは心配いらないからね。真乃ちゃんは真乃ちゃんで、元気に楽しく過ごしてくれればいいんだからね』

『いやはや……櫻木さんによく似たほんわかしていて優しそうな親御さんですね。メッセージからも愛情がよく伝わってきます』




……ザザッ、ガッ




「……は?」

『しかしながら! そんな食物連鎖のピラミッド最下層インパラ家族の身に何かがあったようです!』

『おやおや……? お家は荒れ果てて、お二人と一羽の姿がありませんね?』

『一体彼らに何があったのか……!?』

『ま、それは卒業してからのお楽しみってことで。気になる人はサクッと他の人を殺してみるといいよー』



プツン


「……な、なにこれ!?」

映像を見終わった私は思わず絶叫してしまっていた。
当然だ、自分の家族のことでなくても、こんなのを見せられて冷静じゃいられない。
映像に映っていた家の荒れ具合は並のものじゃない。家具はズタズタ、窓は破られ、観葉植物は根本から折られていた。
どう考えても家族の身にも危険が及んでいる。

「は、早く櫻木さんに伝えなきゃ……!」

気がつけば私は部屋を飛び出して食堂へと向かっていた。

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【食堂】

食堂に入ると、他の人たちも私と同じように焦燥した表情で口をパクパクとさせていた。
どうやら状況はみんな同じらしい。
映像を見てすぐに居ても立っても居られなくなったんだろう。

愛依「あ、あの映像はなんなん?! あれって……マジなん?!」

めぐる「作り物って感じじゃなかったよね……」

にちか「や、やっぱりみんな動機ビデオを見せられてたんですね?!」

凛世「はい……朝からとんでもないモノを見てしまいました……」

恋鐘「あん家族の身に何が起きたとね!? うちらが思い出しライトで思い出した記憶となんか関係があるばい?!」

みんなが狼狽える中で、私の目に櫻木さんの存在が目に留まる。

(そうだ……櫻木さんに早く教えてあげなきゃ!)

そう思い、動き出したその瞬間。



夏葉「待って。一旦、落ち着きましょう」

にちか「……!」


夏葉「みんなの動揺は分かる。私も同じだもの。だけどそれに踊らされているようじゃモノクマたちの狙い通りよ」

甘奈「そ、そうだよね……深呼吸深呼吸……」

甜花「ひ、ひ、ひぃん……」

樹里「独特な深呼吸だな……」

夏葉「状況を一旦整理しましょう。ここにいる全員が動機ビデオを受け取っているのよね?」

ここにいる全員とは、樋口さんを除いた全員のことだ。
みんな有栖川さんの問いかけに黙って頷いた。

夏葉「そしてその中身も確認した。そこでその中身について確認しておきたいのだけど……」

夏葉「その映像は自分に当てられたものではなかったのではないかしら?」

(……!)

甘奈「う、うん! ちがった……甘奈のは、別の人の映像だったよ……!」

凛世「はい、凛世がいただいた動機ビデオを凛世のものではなく________」

夏葉「待って。それを開示するのはやめておくべきではないかしら」


あさひ「えー? どうしてっすか。みんな自分のビデオが見たいはずっすよー」

夏葉「だからこそよ。自分の映像でないものでこれほどの混乱が起きている。もし自分に当てられた映像を見てしまったらどうなると思う?」

真乃「今以上の混乱が起きてしまいます……っ」

灯織「あの動機ビデオ、明らかにコロシアイを促すためのものでした。自分に当てられたものを見てしまうと、鵜呑みにして行動に移してしまう恐れもあるってことですね?」

夏葉「ええ。だからあの動機ビデオに関してはこれ以上触れるべきでないし、詮索もするべきじゃないと思うの」

有栖川さんの提案で、私たちはにわかに冷静さを取り戻していった。
危ないところだった、私も櫻木さんへの共有を急いていたし、自分の映像を持っている人は誰か問いただそうという考えが頭の中によぎっていた。
その先にどんな展開が待っているのか予想できないわけでもないのに。

樹里「しかし陰湿なことしてきやがるな。こっちの心情を手玉に取るような真似しやがって……」

めぐる「うん、的確にわたしたちの知りたいっていう気持ちを突いてきてる……厄介な手段だよね!」

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「そ、そ、そ、そうだよ! オイラたちの狙い通りなんだよ!」

モノスケ「は、は、は、はなからそのつもりやったんや! バラバラに置くことで混乱を引き起こす!」

モノファニー「さ、さ、さ、さすがねモノタロウ! ナイスアイデアだわ!」

モノダム「……」


にちか「な、なにこの反応……」

甜花「もしかして……映像の取り違えって、想定外……?」

モノタロウ「ギクゥ!?」

モノスケ「ギギクゥ!?」

愛依「本来は映像はちゃんと持ち主に渡す予定だった系 ?」

モノファニー「ギギギクゥ!?」

モノダム「……」

モノタロウ「お、お願いだよう! お父ちゃんにはこのことは黙っておいて! こんな失敗、バレたらお尻ぺんぺんじゃ済まないかもしれないんだ!」

モノスケ「お尻ペンペンどころじゃのうてお尻ゲンゲン、果てはお尻ゾンゾンまで行くかもしれん! 堪忍や!」

灯織「それはどんな懲罰なんですか……」

甘奈「擬音からじゃまるで想像できないね……」


モノダム「ミンナ、焦ル必要ハナイヨ。サッキノザコドモヲ見ル限リ、別々ニ配ッテモ十分混乱ハ引キ起コセタミタイダカラ」

モノタロウ「モノダム……」

モノダム「オ父チャンモ許シテクレルハズダヨ」

モノファニー「そ、そうよね……お父ちゃんの好物の蜂の巣のしぐれ煮も一緒に献上すればまだワンチャンあるわ」

モノスケ「重箱の下に小判を敷き詰めればモーマンタイや!」

モノタロウ「よかった……これでオイラのお尻は守られたんだね」

【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】

灯織「どうやら、動機ビデオは取り違えだったみたいですね……」

夏葉「騒々しかったけど……やることはさっきと変わりないわ。私たちはこれ以上は動機ビデオにはノータッチ。それでいいわね?」

有栖川さんの提案に全員が同意。
私たちはそれぞれの動機ビデオを自分の部屋に持ち帰って、それぞれに保管することになった。


あさひ「……つまんないなぁ」


……もちろん、それは表面上の合意。
納得のいっていない人間は明確に約1名いたみたいだけど。

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【にちかの部屋】

「……よし」

デスクの引き出しの中に動機ビデオをしまい込むと、頬をピシャリと叩いた。
もう忘れちゃおう。いくら気にしたってこんなの仕方がないんだから。
私の動機ビデオも気になるんだけど、それを詮索するのはそれこそ裏切りになる。
今の私が絶対避けるべき行為だよね。

それよりも今は、他の人との親交を深めること。
時間が許す限り、同じ時間を過ごすように努めなきゃ。

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【寄宿舎前】

今日も交流を終えて、夜時間が近づく中自分の部屋に戻ろうとしていたところ……

真乃「あっ、にちかちゃん……ちょうど探してたんだ……!」

にちか「櫻木さん……どうしたんです? 私に何か用ですかねー?」

真乃「うん、あのね……! ちょっとめぐるちゃんと話してたところなんだけど……」

めぐる「にちかも一緒に相談に乗ってもらえないかな!」

にちか「……ってことはもしかして風野さんのことです?」

めぐる「ですですー!」

この二人は私とも同年代で、風野さんとの距離も近い。
本人に直接訴えかけるやり方が通用しないのなら、この二人の力を借りるのがやっぱりキーになりそう。
それに、昨日西城さんから聞いた正攻法でないやり方の知見もある。
私たちで何かできないか相談をすることにした。


真乃「灯織ちゃん、あれから私たちともちょっと距離を置きがちなんだ……」

めぐる「他の人を信じることにちょっと恐怖感を抱くようになっちゃったみたいで……」

にちか「……」

めぐる「ご、ごめんね! にちかを攻めるつもりじゃないんだけど……」

にちか「いや、いいです。その責任はもちろん取る気なので。それよりも、風野さんに私たちを受け入れてもらうための方法なんですけど……」

にちか「何かみんなで一緒にできることはないですか? タスクっていうか、レクリエーションっていうか……」

にちか「とにかく夢中になって一緒に何かをする時間があれば、心も開きやすくなるのかなーって」

真乃「ほわっ……【レクリエーション】……?」

めぐる「うーん、みんなで一緒に遊ぶってことかな。何がいいんだろー……」

(西城さんのアドバイスを参考にするならそれこそスポーツとかだけど……)


めぐる「あっ! ちょうどわたしの才能研究教室のスポーツ用の道具がいっぱい揃ってるからあれを使うのはどうかな!」

にちか「あ……確かに球技とかなら、複数人で一緒にできますもんね」

めぐる「うんうん、たくさんの人数で同時にプレーできるなら灯織も参加しやすくなるんじゃないかな!」

真乃「わ、私みんなについていけるかな……」

めぐる「大丈夫大丈夫! みんなのペースに合わせるよー!」

にちか「じゃあずばり、才囚学園体育祭の開催ってことですね!」

めぐる「うん! それで行こう! 明日の朝食会でみんなにも相談してみようよ!」

めぐる「そうと決まったらなんだか燃えてきたー! ちょっと今から才能研究教室見てくる! みんなで何ができるか考えておくねー!」

シュバババババ……

にちか「は、八宮さん!? 早……もう行っちゃった」

真乃「ふふ……すごく嬉しそうだったね」

にちか「風野さん、参加してくれるといいですけど」

真乃「きっと参加してくれるよ。大丈夫」

私と櫻木さんはそれから体育祭の構想について話しながら寄宿舎へと戻っていった。
ぼんやりと何かみんなで出来たらいいなとは思っていたけど、ここまでとんとん拍子で進んだのは二人の存在あってこそだったな。

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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノファニー『え、えっと……今日はアタイだけで放送をお届けするわね……』

モノファニー『そ、そう……今モノタロウとモノスケとモノダムはお父ちゃんにお尻ゾンゾンされてるところなの』

モノファニー『アタイは女の子だから、免除されてるけど……3人とも、げっそりとしちゃってたわ』

モノファニー『キサマラはお尻を大事にしてあげてね』

モノファニー『お尻は唯一絶対の生涯のお友達だから……』

プツン

(な、なんなの……結局お尻ゾンゾンって……)

今頃八宮さんは才能研究教室でスポーツを見繕っているところなんだろうか。
私はスポーツ経験が豊富なわけではないから、彼女にそこはお任せしたいな。
それよりも大事なのは何より風野さんを引き入れること。
招待を断られることのないように、失礼がないようにしないと。

うぅ……なんだかソワソワしちゃうな。
妙に昂る気持ちを必死に押さえつけて、目を瞑った。

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【School Days 10】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『才囚学園放送部から朝のお知らせだよ……』

モノスケ『朝8時になったで……キサマラ、目を覚まさんかい……!』

モノダム『今日モ一日張リ切ッテ行コウネ……』

モノファニー『う、うぅ……見ていられないわ……』

モノタロウ『ど、どうしたのモノファニー……?』

モノファニー『みんなお尻をそんな抑えながらの放送なんて、痛々しくてアタイ見ていられないのよ!』

モノスケ『もはやワイらのお尻はスゴスゴのガスガスなんや……堪忍してくれや……』

モノダム『ア、アァ……』

プツン

(何あれ……めちゃくちゃ最悪なんだけど……)

悪化していく朝の放送にため息をつきながらの起床。
せっかく昨日櫻木さんと八宮さんと相談して決起したところだったのに、しょうもないことで出鼻をくじかないで欲しいな。
今日は他の人たちも巻き込んでの体育祭の立案を行う日。
張り切って朝食会に赴かなくちゃね!

私は足早に支度を終えると、すぐに食堂へと向かった。

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【食堂】

めぐる「おっはよー! にちか!」

食堂に入ると八宮さんのいつも以上に溌剌とした笑顔。
夜時間の後、研究教室での作業はかなり順調だったとみえる。
清々しい挨拶に、思わず私も笑顔で返事をした。

灯織「……?」

肝心の風野さんはというとやけにテンションの高い八宮さんを怪訝そうな表情で見つめていた。

夏葉「みんなおはよう、今日も揃ってるわね」

透「あ、樋口は……」

夏葉「ええ、大丈夫。把握してるわ。無理強いはしないから安心してちょうだい」

(樋口さん、ホント頑なに離れようとしないな……)

恋鐘「今日はなんかめぐるから話があるって聞いたけど、一体なんね?」

めぐる「うん、あのね! せっかくこうして15人が出会えたんだから……みんなで親交を深める取り組みがやりたいなって……真乃とにちかと!」

灯織「……! 櫻木さんと、七草さんと?」

めぐる「うん!」

(……し、視線を感じる)


にちか「あの、もしよければでいいので……みなさんで一緒に汗を流しちゃったりしませんか?!」

にちか「私が言えたことじゃないかもしれないですけど……みんなで一緒に何かをするって、すごく大事な……貴重な体験だと思うんです!」

真乃「才囚学園体育祭として、3人で企画してみたんです。大きな体育館もありますし……めぐるちゃんの才能研究教室もあります……っ!」

めぐる「色んなスポーツをみんなでやる一日にするの! どうかな?」

私たちの提案から間が開くこと数瞬。
このコロシアイ学園生活という非日常で、常に肌のひりつくような感覚にさらされていた中で急に平和ボケしたワードが持ち出されたことで少しショートしている様子だったみんなの顔は、



樹里「おー! めちゃくちゃいいじゃねーか、それ!」



______すぐに笑顔でいっぱいになった。


夏葉「素晴らしい提案だわ! これだけの設備を持て余しているのを勿体無いとずっと思っていたところだったのよ!」

甘奈「うん! なんだか体が鈍っちゃってる気がしてたところだったんだよね!」

愛依「めっちゃ楽しそうじゃん! ここのみんな運動できそーな感じするもんね!」

どうやらこの学園生活で溜め込んでちょうどみんな溜め込んでいるところだったらしく、
一度誰かが賛同の意を示すとあちこちで和気藹々とした声が上がり始めた。

甜花「あ、あうぅ……甜花、運動ちょっと苦手……」

めぐる「大丈夫! 運動が苦手な人もいるだろうから、色んな種類のスポーツを用意するよ!」

真乃「めぐるちゃんの教室に、玉入れなんかもあったよね?」

甜花「玉入れ……! ちょっと、やってみたい……かも」

こんなにも多くの人たちが一つの形に纏まろうとしているのは、この学園生活始まって以来初めてと言っていいほどかもしれない。


あさひ「みんなで一緒に遊ぶの楽しみっす〜! ワクワクしてきたっす!」

霧子「ふふ……あさひちゃんも、体を動かすのは好き……?」

あさひ「はいっす! 学校の授業も体育の授業は毎回楽しみにしてるっすよ!」

(芹沢さんもなんだか普通の女の子に戻ったみたいに見えるな……)

思えば出会ったその日から私たちはコロシアイを要求され、常に猜疑心の目を向け合っていた。
そんな生活の中で同年代、同じ性別、同じ言語の間柄の相手に本来寄せるべき感情を見失いかけていたけれど、
今ようやく、それを拾い上げることができそうだ。

恋鐘「灯織は得意なスポーツとかあるばい?」

灯織「わ、私ですか……? えっと、そうですね……テレビでたまに観戦はしますが、自分でプレーしたりだとかは……」

恋鐘「だったらせっかくの機会だし、色々試してみんとね! 灯織の中ん潜在能力うちらで見つけ出しちゃるけん!」

灯織「ふ、ふふ……大袈裟ですよ、月岡さん」

そして、それは私にとって一番のターゲットである風野さんもまた同じこと。
周りをキョロキョロと見渡してしばらく様子を見ていた彼女も、気がつけば私たちの輪の中に抱き込まれ始めていた。



めぐる「それじゃあ体育祭の開催は明日! 今日はその準備に当てようと思います!」

甘奈「うん! せっかくだから思い出に残る、楽しい会にしようね☆」

にちか「準備って何すればいいですかね?」

夏葉「そうね……そうはいっても、設備自体は十分整っているものね。やりたい種目の洗い出しや、飲食物の準備、スポーツ用品の搬入などになるかしら」

霧子「応急処置の準備もやっておくね……」

夏葉「おっと、いちばん大切なことが抜けていたわね。ありがとう霧子」

霧子「ふふ……♪ おまかせあれ……♪」

愛依「そんぐらいの準備なら、一日がかりでやらなくても十分明日に間に合いそうなカンジがすんね」

真乃「そうですね。夕方くらいから、少しずつ準備を進めて行きましょうか……っ」

夏葉「透、一応円香にも声はかけてみてもらえるかしら。せっかくだから、親睦を全員で深められたらと思うの」

透「あー……うん、了解」

夕方からの準備を約束し、私たちは一旦は解散することになった。
樋口さん、それに浅倉さんは参加するかどうか分からないけど……それ以外のみんなは参加してくれそう。
昨日声をかけてくれた八宮さんには頭が上がらないな。

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【にちかの部屋】

「そろそろみんな準備に動き出す頃かな?」

時計に目をやると短針は5の少し先を指していた。
立案者のうちの一人として、私が動かないわけにはいかないよね。
うんと伸びを一つしてから、私は校舎の方へと歩いて向かった。

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【1F 体育館】

明日の体育祭は基本この体育館の中で行う予定。
バスケットボールのコートがまるまる2面入るぐらい大きな敷地に、私が何人も縦に積み上がるぐらい高い天井。
体を動かすにはもってこいの会場だ。
既に何人か集まって、準備のために動き出しているみたい。

にちか「すみません! 言い出しっぺなのに遅くなっちゃったみたいで……!」

真乃「ううん、今さっき始めたところだから大丈夫だよ」

櫻木さんは私の謝罪をやんわりと諌めると、すぐに向こうにいる八宮さんを呼び寄せた。
八宮さんは小型犬みたいな笑顔と共にこっちに駆け寄ってくる。

めぐる「あっ、にちか! 来てくれたんだね! えへへ、一緒に準備頑張ろうねー!」

にちか「はい……よろしくお願いします。えっと、何からやりますかねー」

めぐる「えっとね……さっき夏葉さんとも話をしたんだけど、私たちはスポーツ用品の搬入を行おうかなって」

にちか「ってことは八宮さんの才能研究教室とここの往復ってことですかね?」

(うっ……いちばんの重労働……)

めぐる「あはは……3人で一緒に持ち運びすればそんなにたくさん往復する必要はないと思うから、頑張ろう!」

(まあ元は私たちが言い出したことだしな……しょうがないか)

真乃「他の食べ物や飲み物、会場のセッティングは残りのみんなでやってくれるみたいだから頑張ろうね……にちかちゃん!」

真乃「ファイトだよ! むんっ!」

(む、むん……?)

そこから私たちは八宮さんの才能研究教室に3人で向かって作業を開始した。

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【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】

教室には既にいくつか荷物の積み込まれた袋が積まれていて、すぐに持ち出せるようになっていた。
本当に昨日の晩に八宮さんは一人で黙々と準備をしていたらしい。
なんだかちょっと申し訳ないな……

めぐる「使いそうなラケットとかボールとかは昨日の晩にちょっとまとめておいたから、持てそうな分だけ持ってみて!」

真乃「う、うん……この袋のことかな?」

めぐる「そうそう! 気をつけて持ってね!」

にちか「あ、櫻木さん! そっちのやつは私持ちますよ!」

八宮さんの指示に従って、順番に荷物を持ち出していく。
15人がプレーする分の荷物となると、結構な重量で嵩張る代物だ。
一度に全部持っていくことはできないだろう。

真乃「うんしょ……うんしょ……」

にちか「はぁ……はぁ……」

めぐる「頑張ろう! まだまだ始まったばかりだよ!」

両手に荷物を抱えては体育館まで持って降りて。
荷物を下ろしたら今度はまた三階まで取りに戻る。

真乃「結構……大変だね……っ!」

にちか「で、ですね……明日筋肉痛になんなきゃいいけど……」

めぐる「あはは、本番は明日なんだよー?」

階段の上り下りってだけで大変なのに、両手で大きな荷物を抱え込んでいる。
二、三回運んだ後には既に汗だく状態になっていた。

……そんな状態だから、気が漫ろになってしまっていたんだと思う。


真乃「めぐるちゃん、次はこれかな……?」

めぐる「うん、ゆっくりでいいからね。体を痛めないことがいちばん大事だよ!」

にちか「ふぅ……あっついなぁ……」

真乃「よいしょ……それじゃあ持っていくね……っ!」

めぐる「うん……あっ、真乃! ちょっと待って!」

真乃「え? ……わ、わわっ!?」

制服の襟元を指で掴んでパタパタと風を仰ぐのに必死になっていた私は、すぐ後ろに近づいていた櫻木さんの存在に気づいていなかった。
櫻木さん自身も、抱き抱えている荷物のせいで前が見えておらず……

衝突は避けられようがなかった。



ガッシャーン!




床に荷物がぶつかって立てる音が部屋に響き渡った。
轟音が耳を突き抜けて、頭の中を反響するのがうざったくて眉間に皺を寄せてから、数秒。
そこでやっと自分自身の右腕からの痛みの信号に気がついた。

にちか「痛っ……」

真乃「に、にちかちゃん! ごめんなさい……だ、大丈夫……?」

どうやら袋のファスナーが半開きになっていたらしく、そこから飛び出したバドミントンのラケットが私の右手に強くぶつかったらしい。
私の右腕は軽い内出血を起こしたようで、出来立てほやほやの痣が浮かび上がっていた。

にちか「あー、なんかちょっと打っちゃったみたいです」

めぐる「だ、大丈夫?! ちゃんと動く?!」

見た目ほど深刻な怪我じゃない。
手で押してみるとちょっと痛むけど、それぐらい。
普通に動かす分には問題ないし、荷物だって持てる。


真乃「ごめん、ごめんね……にちかちゃん……っ」

にちか「いやいや、そんな謝ってもらうほどの怪我じゃないんで……頭上げてください」

さっき遅刻の謝罪をしていた時とは態度が逆転。
必要以上の謝罪を繰り返す櫻木さんを私が諌める構図になった。

めぐる「大した事故にならなくてよかったけど……今日はこれぐらいにしておいた方が良さそうだね」

とはいえ、流石に衝突があった後で作業を続けるわけにもいかず。八宮さんの方からストップがかかってしまった。

めぐる「二人とも、疲れが溜まってるよね? 殆どは運び終えたんだし、続きは明日の朝にやろうよ」

真乃「め、めぐるちゃんはまだ元気そうだね……」

にちか「ここは……八宮さんの言うことに従っておきましょうか」

真乃「う、うん……」

しゅんとしてしまった櫻木さんを私と八宮さんで励ましながら、寄宿舎へと戻った。

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【寄宿舎前】

真乃「今日はごめんなさい……せっかくにちかちゃんも張り切って準備をしてくれてたのに、それを邪魔するような真似をして」

にちか「いや、だからもういいですって! 大体不注意の責任は私にもありますので!」

夜時間までの時間もそう残っていない。
檻越しに見える空もオレンジ色に染まってきた。
私たち3人は明日の体育祭のことを話しながら、ゆっくり寄宿舎へと向かっていた。
すると、丁度道の合流地点あたりに華奢なシルエットが見える。

遠目でも分かった。あの警戒した足取りは、風野さんだ。

灯織「……こんばんは」

近づいてくる私たちに逃げられないと悟ると、低い声で風野さんは挨拶をした。

めぐる「灯織〜! こんばんは! お散歩中?」

灯織「えっと……その……」

八宮さんはそれを知ってか知らずか、いつもと変わらぬ調子で距離を詰める。
たじろいだ風野さんの右手からはカサッとビニールが擦れるような音がした。


にちか「……? それって……」

めぐる「何持ってるの? 灯織?」

灯織「えっと、その、これは……」

真乃「……!」

真乃「違ったらごめんね……っ! もしかすると、灯織ちゃんが手に持ってるそれ……明日の体育祭のお弁当だったりしないかな」

櫻木さんの推測に、風野さんは口をあんぐりと開いた。

灯織「……当たり」

どうやらご明察だったらしい。
私たちはずっと道具の搬入をしていたけど、明日の準備は他の人たちも動いてくれていた。
体育館のセッティングが飲食物の用意。
風野さんも、裏でそのために動いていてくれたらしいのだ。
今朝は場の雰囲気に流されて渋々といった様子だったけど、風野さん自身も乗り気でいてくれたのかなと俄かに嬉しくなる。



にちか「風野さん……明日の体育祭に参加してくださるんですね」

思わず、そんな言葉が口から出た。
返事なんて返ってこないこと、分かっていた。



灯織「……はい」



(……! 今、私の問いかけに言葉を返してくれた……!?)

______はずなのに。

私のみならず、櫻木さんと八宮さんもこれには驚いた様子。
3人の反応を悟った風野さんは伏し目がちに、辿々しく言葉を紡ぐ。


灯織「……ずっと、ずっと悩んでるんです」

灯織「この数日間、私が見てきた七草さんは直向きで、全力に……私たちに向き合っていて、そこに裏なんて何も見えない」

灯織「私たちを欺いて、出し抜こうとした裁判の時の七草さんとは違って見えるんです」

灯織「でも、だからってそれを認めてしまっていいものか……と。私はまた騙されているんじゃないかって」

それは、私が彼女を抉った爪痕。
彼女の純真無垢だった心に、私は消えない引っ掻き傷を作った。
自身で作り出した壁の中に篭りがちだった彼女が、極限状態の中意を決して飛び出したところに私がした仕打ちは、
トラウマとして残るには十分なものだったらしい。

灯織「私にはもう……自信がないんです。誰かを信じ抜く自信が。他の誰かを信じようとする度に、また裏切られるんじゃないかって考えが頭をよぎってしまう」

灯織「今はただ……他の人の領域に踏み込んでいくのが……怖くて」

裁判で与えてしまったトラウマは色濃く。
肩を振るわせ、色を失った瞳は虚を見つめる。
血の気の引いた顔は、見ているこちらもくらりと倒れてしまいそうなほど。



めぐる「わたしは灯織のことを信じてるよ」




そんな彼女の手を、迷いなく八宮さんは握った。


灯織「……えっ?」

めぐる「あのね、信じるってことは……その人に全部を委ねるって言うこととはちょっと違うと思うんだ」

柔らかく温かい手のひらからはじんわりと熱が伝わっていく。
それは八宮さん自身の思いやりであり、感情であり、そして、言葉だ。

めぐる「この人と一緒にいたい、一緒に笑いたい、一緒に歩いて行きたい……そういう気持ちが信じるってことなんじゃないかな」

めぐる「もちろん、そう思った相手が自分の思ってたのと違う面を見せることだってあるかもしれない。裏切られたーって感じる時だってあるかもしれない」

めぐる「でも、だからといって灯織がその人のことを信じたことが間違いだったわけじゃない。信じたことを間違いだって決めつけちゃうのは、その時の灯織の気持ちを否定しちゃうことになるんだよ」

めぐる「人を信じたいって思うのはその時の素直な気持ち……そこには責任もしがらみも、無いんじゃないかな」

そう、私たちは始めから思い違いをしていた。
誰かを信じたからには、運命を共にする義務があると思っていた。
必ずしもそれは間違いじゃないのかもしれない。
だとしても、共に歩む友人、仲間に向ける信頼はもっと軽率で、安易で、単純なものでいい。
この人を手放したくないという気持ちを仲介するものこそが信頼なのだと八宮さんは説いた。


灯織「……」

風野さんを取り囲む壁越しの、八宮さんの説得。
壁は分厚く、高く、よじ登ることは難しい。
外から中に入ることなど、出来ないのかもしれない。

めぐる「もしよかったら、なんだけど……灯織は今、どう思ってるのか聞かせてもらえたら嬉しいかな」

ただ、壁の向こうから聞こえてきたその溌剌とした声は……

灯織「私、は_______」



_____壁の中の少女を、外の世界へと誘った。




「私のことをこんなにも大切に思ってくれる人がいる」

「私のことを友達だって言ってくれた人がいる」

「何度拒絶されても、私に向き合おうとしてくれる人がいる」

「そんなみんなと、一緒に生きていきたい」


(……!)

風野さんの笑顔を、初めて見た。
星の輝きのように、見るものを惹きつけるような、澄んで美しい表情。
ずっとこのコロシアイの闇世の中に飲まれていたその光が、やっと雲の合間をぬって出た。
私たちの元に届いたその純な光が、胸を打った。


灯織「……そっか、私は自分自身の感情にすら、向き合えてなかったんだね」

灯織「教えてもらえなきゃ、ずっと気づけなかったかもしれないな」

灯織「ありがとう、【めぐる】」

めぐる「ひ、灯織……今、わたしのこと……!?」


外の世界へと踏み出した少女の足取りは、軽やかで、そして勇ましい。


灯織「それに、ずっと私のことを気遣ってくれてありがとう。【真乃】」

真乃「ほ、ほわっ……」


一歩一歩着実に踏みしめて、私たちの元へと歩み寄る。


灯織「素直に気持ちを受け止めることができなくて、ごめんなさい。辛い思いを何度もさせたと思う」


そしてその足跡は、



灯織「これからは、私もあなたに向き合うつもりだから……いいかな、【にちか】」



私の元へと続いてくれた。


にちか「は、はい……! もちろん、喜んで……!」

風野さんが私へと差し伸べた手のひら。
私はそれを寸分の悩みもなく、握りしめた。
風野さんの体温は低く、私の熱がどんどんと吸われているような気すらした。
でも、それと同時にこちらに返ってくるものがある。
風野さんが私に向けてくれる信頼、一緒に歩みたいと思ってくれたその心が、確かな実感として伝わってくる。
そのことが、これ以上になく心地よかった。

めぐる「灯織……なんだか、本当の意味で今友達になれた気がするよ……!」

灯織「うん……ありがとう、めぐる。あと少しで私は大切なものを取り逃すところだった」

真乃「ううん、遅すぎるなんてことはないと思う……これからしっかりと、一緒に歩いていこうね……っ!」

にちか「よかったです……風野さん。私、もう風野さんには一生認めてもらえないんじゃないかって思ってたので」

灯織「……」


灯織「ねえ、真乃、めぐる。私、今結構勇気出して一歩を踏み出したんだけど……この中に一人、まだ安全圏にいる人がいる気がするんだ」

にちか「え? な、なんです……?」

めぐる「おやおや〜、それは誰のことなのかな〜? 真乃、灯織、誰のこと〜?」

真乃「ふふ……一体誰のことなんだろうね、灯織ちゃん、めぐるちゃん!」

(……うっ、3人からの視線を感じる)

(これは……逃げられない、腹を括るしかないみたいだ)

にちか「分かった、分かりましたよ……これからは私も下の名前で呼ばせてもらいますから!」


にちか「あ〜、もう! これからよろしく! 【真乃ちゃん、灯織ちゃん、めぐるちゃん】!」


めぐる「こちらこそだよ〜〜〜!!」

にちか「わっ、ちょっと! 急に抱きしめないで!」

灯織「め、めぐる……苦しい……!!」

ようやく、辿り着けた。
ずっと果ての見えない過酷な道を歩き続けていた。
必死に必死にもがき続けて、結果を望むことは傲慢だと思って、足掻くことが責務だと思って闇雲に遮二無二になっていた。
その結果、ルカさんのいう通り、開けた運命があった。
掴み取れた運命があった。
この悪路を進んでいなければ、この今はなかっただろうと思う。


______本当に、諦めなくてよかった。


灯織「ごめんね、3人の手伝いに行ければよかったんだけど」

にちか「いや、気にしないで大丈夫! 明日の朝にちゃちゃっとやっちゃえば終わるはずだから!」

真乃「うん、灯織ちゃんは今日はお弁当を作ってくれてたんだよね? 明日食べられるのが楽しみだなぁ……」

めぐる「明日がすごい楽しみになってきた……どうしよう、今日寝られないかもしれない!」

灯織「もう……明日に体力を残しておかなくちゃでしょ? 今日はしっかり休もう」

にちか「ほんと、すでにくったくただから……今日は早いとこ寝とこ〜……」

真乃「お疲れ様、にちかちゃん」

私たちは胸にこれ以上ない充実感を抱きながら、それぞれの個室へと戻っていった。

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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『今日ハ夜食ニピッタリナメニューヲ紹介スルヨ』

モノスケ『全国の受験生、それに受験生をお持ちの親御さん必見や!』

モノファニー『メモ用紙を持ってモニターの前に集まってちょうだいね!』

モノダム『マズ、国産牛ノサーロインステーキヲミディアムレアマデジックリ焼クンダ』

モノダム『ステーキガ仕上ガッタラソノママノ勢イデ唐揚ゲ粉ノ中ニダイブ』

モノダム『ソノママ250℃の油デ揚ゲチャオウネ』

モノタロウ『ステーキの唐揚げなんて超贅沢! 涎が止まらないよ〜!』

モノダム『ゴ飯ニ乗セテマヨネーズヲカケレバ完成ダヨ』

モノスケ『うんこの香りや〜! たまらん、たまらんでぇ!』

モノファニー『例の如く、これはアタイたちだけの夜食だからね!』

モノタロウ『キサマラはひもじくおにぎりでも食べてればいいんだよ!』

『ばーいくま〜〜〜〜!!!!』

プツン

(うぅ……何あれ、見てるだけで胃もたれというか……吐き気までしてくる)

相変わらず最悪な中身の放送は見なかったことにして、ベッドの上にゴロリと転がり込む。
この学園に来て初めての感覚だ。
まだ体がなんだかフワフワしてる。
信頼を勝ち取ると言うことがこれほどまでに充実感と自己肯定感が得られるモノだとは知らなかった。
お互いを下の名前で呼び合う仲なんて、久しく構築していなかったし、特別な存在だって相互に認識できたのは素直に嬉しい。

始まる前から成功体験を得られて浮き足立つのを、必死にベッドに縛りつけた。
もうこれだけのものが得られたのだから、明日の体育祭は最高の経験になるはずだよね!


……私は本気でそんなとぼけたことを思っていた。
自分は今日常の中にいない。
コロシアイという非日常の中にいるってことを完全に失念していた。
私は嫌というほどに知っていたはずなのに。



期待というのは、簡単に裏切られるものだということを忘れていた。



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【???】

灯織「失礼します……」

灯織「……あの、どうしたんですか? 明日の体育祭のことで、何か……?」

灯織「……誰もいないのかな」

灯織「呼び出し場所は、ここで間違いないはずだけど……」

???「……」

灯織「……っ?! 誰っ?!」



ガンッ


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【School Days 11】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『おはっくまー! 何やらキサマラ、今日は楽しそうなことをやるみたいだね!』

モノダム『ミンナデ仲良ク体育祭、イイナァ……』

モノファニー『アタイも一緒に混ざってやりたいわ! 汗をかくのは老廃物を流してくれるし美容にもいいもの』

モノスケ『ケッ、くだらんくだらん。そないなことしてもビタ一文の儲けにもならへんやないか』

モノダム『……』

モノスケ『大体ワイらはギスギスあってこそのモノクマーズや! ザコどもに感化されたりしたらなんかあかん!』

モノスケ『キサマラもその体育祭とやらですっ転んで怪我してしまえばいいんや!』

モノスケ『擦りむいた膝小僧に砂利が入り込んで消毒液が染み込んじまえ!』

モノダム『……』

プツン

うーん、いい目覚め。
昨日の夜、かけがえのないものを得た私はいつも以上にすんなりと眠りに入ることができた。
体の疲れもちゃんと取れてる、かつてないほどのベストコンディション!
これなら今日は一日目一杯楽しめそうかな。

私はいつもより早足で朝の支度を終えると、靴もつっかけで履いて、バタバタと体育館へと向かった。

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【体育館】

にちか「おはようございますー! あ、真乃ちゃん……もう来てたんだね」

真乃「にちかちゃん、おはよう。昨日はよく眠れたみたいだね!」

にちか「そりゃもう! おかげで元気満タン! ムキムキにちかだよ!」

真乃「ふふ……にちかちゃん、すごく楽しそう……!」


体育館には既に多くの人が集まっていた。


恋鐘「昨日のうちにいっぱい灯織と凛世と一緒にお弁当作っといたからね! 今日はた〜んと食べてもらうばい!」

凛世「ちゃんと冷蔵庫にも入れておきましたので……衛生面も万全にございます……」


昨日のうちからお弁当の用意をしてくれていた月岡さんに杜野さん。


霧子「絆創膏に包帯、湿布、消毒液……怪我をしたり、しんどくなったりしたらいつでも声をかけてね……」

甘奈「倉庫から扇風機も持ってきたから、汗をかいたら涼むのに使ってね☆」


みんなの体のことを気遣って、無理をしないように注意を促してくれてる幽谷さんと甘奈さん。


樹里「うっし……今日はとにかく体を動かして楽しむかんな!」

愛依「うっひゃ〜、燃えてきた〜! うち、マジの全力見せちゃうかんね!」

あさひ「あはは、負けないっすよ! 二人とも!」


これから始まる激闘を間近に、昂りを隠せずにいる西城さん、愛依さん、芹沢さん。


真乃「ふふ……みんな、楽しみにしてくれてたんだね!」


そして、ずっと一緒に準備をしてきた大切な友達の真乃ちゃん。


にちか「……あれ? なんか……少なくない?」


体育館には私を含めたこの【9人しか】、姿がなかった。


真乃「円香ちゃんと透ちゃんは……参加は難しかったのかな?」

あさひ「その二人はまあなんとなくわかるっすけど……夏葉さんとかもいないっすね」

樹里「ったく、相変わらず朝に弱いんだから……どうせ寝坊してんだろ?」

甘奈「甜花ちゃんは昨日は参加するって言ってたからいずれ来ると思うけど……」

恋鐘「灯織も準備手伝うてくれたし、来てくれるはずばい」

真乃「にちかちゃん、めぐるちゃんはもしかすると……才能研究教室にいるのかもしれないよ」

にちか「あー……そういえば、昨日の作業がまだ途中だったもんね。めぐるちゃんだけ先に行って作業をしてるのかも」

甘奈「あれ、二人はめぐるちゃんの居場所に心当たりがあるの?」

真乃「うん……ちょっと呼んでくるね」

甘奈「だったら甘奈も一緒に行くよ! 荷物運びだったら人手が必要でしょ?」

にちか「ありがとうございます、甘奈さん!」

樹里「じゃ、アタシは寄宿舎に戻って夏葉と甜花を呼んでくるよ。どうせ二人とも寝てるんだろうしさ」

恋鐘「灯織は食堂に行ったとやろか……うち、ちょっと様子見てくるばい」

凛世「では、凛世も随伴いたします……」

愛依「おっけー! それじゃうちらは体育館で待機しとくね!」

霧子「気をつけて、行ってきてね……」

まあまだ朝のアナウンスが鳴って間もないし、全員が集まってなくてもおかしくはない。
私たちは三手に分かれて、それぞれまだ来てない人たちを呼びに行くことにした。


体育館から3階までは結構距離があるので、その道中は呑気に雑談をしていた。
同年代の女子らしく、小突きあいながら、戯れ合いながら、これから始まる楽しいひとときに思いを馳せていた。
階段を一段一段登るたびに、気持ちも弾んでいく。
上がるテンション、早まる鼓動。
早く早くと急かす心から溢れ出すワクワクとドキドキに、すっかり緩み切っていた。

甘奈「せっかくだから円香ちゃんにも声をかけてみようか。3階の上がりついでに!」

真乃「うん……一緒に遊べたら、嬉しいけど……」

にちか「いやー……どうだろう……樋口さん、だいぶ頑なだしなー……」

甘奈「……あれ? そういえばにちかちゃんって前から真乃ちゃんのこと下の名前で呼んでたっけ?」

にちか「え。あ、あー……あはは、ちょっと昨日から、流れで」

甘奈「えー、いいなー! ずるいよ、甘奈も下の名前で呼んでほしい!」

にちか「甘奈さんは元から下の名前で呼んでますよ?」

甘奈「甘奈さんじゃなくて、甘奈がいいの。せっかくこうして出会えたんだから、みんなと仲良くなった証明が欲しいんだ〜」

甘奈「年上だからって遠慮とかいらないから……ね?」

にちか「えー……じゃあ、甘奈ちゃん……?」

甘奈「やったー☆」

真乃「ふふっ……それじゃあ私も甘奈ちゃんって呼んじゃってもいいかな?」

甘奈「もちろんだよ〜!」


にちか「よいしょ……着いたね、二人とも」

真乃「物音は……しないね。ここじゃなかったのかな?」

甘奈「奥の方で作業をしてるのかも? とりあえず覗いてみようよ」

にちか「そうだね……とりあえず扉、開けますね」

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【超研究生級のスポタレの才能研究教室】

甘奈「めぐるちゃん……いないね」

真乃「ほわ……どこに行っちゃったんだろう」

部屋に入ってみたけどめぐるちゃんの姿はそこにはない。
昨日作業が中断されたスポーツバッグの山もそのままになっている。

にちか「めぐるちゃーん? いないのー?」

とはいえ、めぐるちゃんが他に行きそうなところも思いつかないしな。
どこかに隠れたりでもしてるんじゃないだろうか。
そんな能天気なことを考えながら、呼びかける声を上げながら、部屋の中を歩き回って、

シャワールームの中を見た。






______見てしまった。










【シャワールームの壁にもたれかかるようにして頭から血を流して息絶えているめぐるちゃんの姿を、目撃してしまった】




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CHAPTER 02

退紅色にこんがらがって

非日常編



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かなり間延びさせてしまいましたが、ここまでで2章の事件発生までの一区切りです。
先述の通り、ココから先は安価の領域を縮小して更新していきます。
捜査パートにおいても、安価は取らずに自動進行で進めることとします。
また明日以降、合間を見つけて書き込みにまいります。


【ピンポンパンポーン……】

『死体が発見されました! 死体発見現場は3階の超研究生級のスポタレの研究教室ですよ〜!』

『ハリアップ! みんな現場まで集まってくださ〜い!』


「う……そ……」

全身を包み込む虚脱感に、思わず膝から崩れ落ちる。
つい昨日の私は、こんな予想なんてしていなかった。
今日という未来には、希望しか待っていないと本気で信じて、期待に胸を膨らませていた。
期待が泡と消えた今となっては、そんなのはただの伽藍堂だ。
ぽっかりと空いてしまった空虚な胸の内に、喪失感が絶望を埋め尽くしていく。

「やっと……友達になれた……友達だって認められたばっかりだったのに……」

落下して地面にぶつかった時の衝撃は、より高いところから落ちたときの方が大きい。
昨日のことがあった手前、私を打ちのめさんとする衝撃は筆舌に尽くし難いものがあった。



しばらくして、アナウンスを聞いたみんながやって来た。

恋鐘「い、今のアナウンスはなんね?! し、死体ってそげなことあるわけが……」

恋鐘「ふぇぇぇぇ?! め、めぐるが頭から血流しとる?!?!」

愛依「う、嘘だよね……?! めぐるちゃん……?!」

樹里「なっ……ま、マジかよ……」

霧子「そんな……」

凛世「また、起きてしまったのですか……」

円香「……」

部屋に入った瞬間全員が言葉を失う。
当然だ、こんなの予想なんかしてない。
あっちゃならない。
よりにもよって、私たちを笑顔へと導いてくれるはずの彼女がこんなところで血に沈んでいいはずがないんだから。

……そんな状況でも、彼女は違った。
いや、彼女だからこそ違ったんだ。
私たちが絶句し、悲しみにその肩を振るわせる中で、ただ一人だけが……ほくそ笑んでいた。



あさひ「……あははっ、ついに始まったっすね」



にちか「芹沢さん……」

彼女は意気揚々とした様子でめぐるちゃんの亡骸へと近づいていく。
新しい玩具を見つけた時のように、首を小さく傾げながら、自重にもたげる顔を覗き込んだ。

あさひ「二人目はめぐるちゃんっすか……意外なところで来たっすね」

樹里「あさひ……やめろ、もうやめてくれよ……なんでそんな嬉しそうな表情ができるんだよ」

あさひ「……? 別にわたしだってめぐるちゃんが死んで嬉しいわけじゃないっすよ?」

あさひ「でも、また学級裁判ができるっす! 犯人とわたしたちの真剣勝負……どっちがこのゲームに勝てるかの騙し合いが始まるっすから」

あさひ「気合を入れていかないと、負けちゃうっすよ! 樹里ちゃん!」

芹沢さんはどこまでも私たちの言葉を意に介そうとしない。
彼女は純粋に、学級裁判をゲームとして楽しんでいる。
自分自身がゲームに勝つこと、それしか彼女の頭にはないんだ。

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「わー! 大変だ! またしても犠牲者が出ちゃったよ〜!」

モノファニー「うそ……もしかして、その子死んじゃってるの……?」

モノダム「ホント、ダヨ」

モノファニー「でろでろでろでろでろでろ……」


モノスケ「おもろなってきたやん! ずっと日常系アニメ未満の起伏のないストーリーを見せられて、こちとらイライラしてきとったところなんや!」

モノスケ「やっぱり血みどろにドロドロの騙し合いあってこその学園生活やな!」

モノクマ「うんうん、青春とはこうじゃなくっちゃね! 麗しき友情と別れ!」

モノクマ「うぷぷぷ……友と友が分たれる時のカタルシスこそが青春の醍醐味だよね」

モノスケ「流石お父やんや……歪んだ認知が最高にイカしとるで」

しばらくして、私たちの雰囲気に一切配慮をしない騒々しいやり方でモノクマとモノクマーズも姿を現した。
私たちをどこまでもおちょくるような態度が腹立たしい。

霧子「モノクマさん……あなたがこうやってまた出てきたということは……」

霧子「また、学級裁判をやるんですか……?」

モノクマ「もっちもち! 芹沢さんもやりたくてウズウズしてるよね?」

あさひ「あはは、そうっすね!」

愛依「また……あれが始まるん……? うちら同士で疑い合う、犯人当てが……」

透「マジかー……きっつ」

……まだ前回の学級裁判からは一週間も経ってない。
私の体はまだあの時の感覚を覚えている。
他の人たちを騙すために、必死に裏を掻こうとする焦燥感。
常に他人の目が自分に向けられているのではないかと気にしてしまう不安感。
そして何より、自分自身が生きるか死ぬかの瀬戸際に立っているという恐怖感。
あの時と変わらない、いやむしろまた同じことを繰り返してしまったという後悔はより一層その嫌な感情の波に拍車をかけてすらいる。
ゾワゾワという言葉で足りないぐらいの悪寒が私を襲った。


あさひ「それじゃ早速、モノクマファイルを貰えるっすか?」

真乃「……やらなくちゃ、いけないんだね。また、捜査から……」

モノクマ「……」

モノタロウ「あ、あれ……? お父ちゃん? 聞こえてる?」

樹里「……あ? 何出し渋ってんだよ。そっちからこのコロシアイは仕掛けてきてるんだろ。だったら最低限ちゃんと運営ぐらいしろって」

モノクマ「……」

甘奈「な、なんか様子がおかしいね……?」

モノクマ「うぷぷぷ……オマエラ、どうして疑問に思ってないの?」

(……え?)

モノクマ「さっきのアナウンス、斑鳩さん殺しの時と【違った】よね?」

(ルカさんの時と、アナウンスが違う……?)

◆◇◆◇◆◇◆◇

【ピンポンパンポーン……】

にちか「な、何?!」

霧子「あっ……モニター……何か出てきたよ……!」

『来た! ついに来た! 死体が発見されましたよ〜!』

『いや〜、まさか本当にコロシアイが起きないんじゃないかとヤキモキしたけどオマエラを信じて正解だったよ〜!』

『死体発見現場の地下図書室までオマエラ【全員】お集まりください! モノクマからお話がございます!』

◆◇◆◇◆◇◆◇

【ピンポンパンポーン……】

『死体が発見されました! 死体発見現場は3階の超研究生級のスポタレの研究教室ですよ〜!』

『ハリアップ! みんな現場まで集まってくださ〜い!』

にちか「う……そ……」

◆◇◆◇◆◇◆◇


(……それってもしかして)

にちか「【全員に】集まれって言ってない……?!」

愛依「え、ええ?! そ、それどーいうことなん?! なんか変わんの?!」

あさひ「あっ、そういう意味っすか。まだみんな揃ってないのにモノクマたちが出てきておかしいなって思ったけど」




あさひ「____他の人たちは自分の意思でここに来れない状況にあるってことっすね?」




霧子「そ、それってどういう意味……?」

恋鐘「今ここにおらんのは灯織、甜花、夏葉の3人ばい?」

甘奈「そういえば、樹里ちゃんたちもみんなを呼びに行ってたよね? あれはどうなったの?」

樹里「いや……それが寄宿舎のインターホンを鳴らしても反応がねーんだよ。甜花も、夏葉も」

甘奈「甜花ちゃんも?!」

恋鐘「食堂に灯織もおらんかったし、先に3階にきとるもんだとばかり思うとったけど……」

真乃「モ、モノクマさん教えてください! どこに灯織ちゃんはいるんですか……?!」

モノクマ「うぷぷぷ……さあね、ボクからは言えないなぁ。彼女たちの居場所も」






モノクマ「生きてるのかどうかも」





にちか「……は?」

真乃「な、何言ってるんですか……?」

にちか「い、言ってる意味がわかんないんですけど……」

モノクマ「うぷぷぷ……目は口ほどに物を言うと言うじゃない」

モノクマ「ボクの今の言葉の意味を知りたいのなら、オマエラは自分の目で確かめるべきだろうね!」

額を汗が伝っていた。
皮脂を吸いあげ降ろす玉のような滴は、拭き取る指先にべったりとくっついて、嫌な感触がした。
纏わり付くようなざわつきが襲いくる。

樹里「……もう一度、学園中を探し回ろう! 絶対どこかにいるはずだ」

樹里「大丈夫! 絶対に……無事だ、無事じゃなきゃいけないんだ……!」

恋鐘「また別れて捜索せんね! 分担はどがんするのがよかね?」


円香「その前に、【監視】をつけた方がいいんじゃないですか?」

にちか「監視……ですか?」

円香「……学級裁判はどのみち避けられないんです。この発見現場の保全をしておく必要はあると思いますが」

凛世「でしたら、凛世がお引き受けいたします……」

霧子「現場の保全は二人以上必要だよね……私もここに残るよ……」

にちか「じゃあ残りで分担して3人を探しましょう! 学園を隅々まで探し尽くさなきゃ……!」

甘奈「三階から順繰りに探していくのがいいかな?」

樹里「そうだな……手際よくやらないとな。

あさひ「それじゃあわたしは三階を探すっす!」

愛依「じゃあうちも三階……ここの教室以外に見落としがないか見るね!」

円香「いえ、愛依さんは他に回ってください。この階は私が引き受けます」

愛依「え? わ、分かった……それじゃああさひちゃんをよろしく頼むね!」

(……芹沢さんが才能研究教室に行かないかどうか見張るつもりだな)


透「じゃあ、うちは二階行きます。同行者募集」

恋鐘「そいやったらうちも二階に行くばい! 一階はさっきうちも一度見とるし……他の人が行った方がよかやろ?」

甘奈「それじゃあ甘奈は一階を探すよ! さっきはすぐに三階に来ちゃったし……」

にちか「私も着いていきます! 一階は広いから人手が必要ですよね」

真乃「それじゃあ私も行くね……!」

樹里「アタシも行こう。さっき寄宿舎は一度調べたんだ、学校をアタシも見てまわりたい」

愛依「えっと……そんじゃうちは地下を見てくる! 地下は教室も少ないし、スペースもそんな無いから……多分うち一人でも見れると思う!」

樹里「よし……そんじゃとりあえずはこれで決まりだな。各階、何か発見があったらすぐに声を上げて教えてくれ!」

私たちは決めた分担の通り、すぐに分かれて行動を開始した。
とにかく焦っていた。
最悪を否定したくて、学園内を駆けずり回った。

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【才囚学園 1F】

樹里「1Fはかなり広い……さらに細分化して見て回ろう」

甘奈「そうだね……甘奈は倉庫とか食堂、購買の方を見に行ってみる!」

にちか「それじゃあ私は体育館の方に行ってみます!」

真乃「えっと……それじゃあ灯織ちゃんの才能研究教室の方を見てきます……っ!」

樹里「おし、そんじゃアタシは地下階段近くの教室を見てくるよ!」

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【1F 体育館】

人数が揃っていないと話題になってから、愛依さんや芹沢さん、幽谷さんが待機していた場所だし、
まさか体育館で入れ違いになってはいないだろう……とは思うけど、念のため。
私は垂れ幕のぶら下がっているステージの上へと上がり込んだ。

「こういう舞台袖とかに隠れてたり……しないか」

ステージの上手と下手、その裏側まで丁寧に見て回ったが、誰かが隠れられそうな空間はない。
垂れ幕のバトンを上下させるための調整室なんかも覗いては見たけど誰かが出入りしたような痕跡も残っちゃいない。

……うん、やっぱり体育館には居そうにないかな。

ことは一刻を争うんだ。
不必要に同じ場所に留まる理由もない。
ステージの上、ちょっとした段差から飛び降りて、駆け出そうとした時……【奇妙なもの】がステージの上から目についた。

「……なんだろ、アレ」

体育祭で使う予定だった道具はひとまとめにして壁の方に寄せてあるはずだ。
あんなふうに、ポツンと一つだけ落ちているのはおかしいし……何よりその形状がおかしいのだ。

「これ、ホッケーのスティック……?」

パックを勢いよく弾いて飛ばすためには、真っ直ぐに芯が通ったスティックが欠かせないはずだ。
それなのに私が手に取ったスティックはちょうどその真ん中ぐらいでくの字にひん曲がっていて、とても競技に即したものには見えない。





「ちょい! みんな! 早く地下に来てくんない!? キンキュー事態なんだけど?!」





ちょうどそんな時だった。
学園中に響き渡るぐらいに大きな声が聞こえてきたのは。

「今のは……愛依さん!?」

愛依さんと言えば一人で地下に向かったはずだ。

(きっと3人を地下で見つけてくれたんだ……!)

私はすぐに手に持っていたものを投げ出して、考えるよりも先に走り出した。

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【B1F】

「はぁ……はぁ……いったい、どこで……!?」

地下への階段を駆け降りると、ゲームルームの扉が開けっぱなしになっているのが目に入った。
遠くの方から、誰かの話し声も聞こえてくる。
きっと愛依さんの言う『キンキュー事態』はこの奥で起きているに違いない。

「急げ……! 大丈夫だ、まだ間に合う……!」

自分にそうやって言い聞かせながら、私は部屋へと飛び込んでいった。



……飛び込んで、いった。





「〜〜〜!! 〜〜〜!!」



にちか「ちょっ、大丈夫!? 灯織ちゃん……!? それに、甜花さん……!?」

急ぎ踏み込んだのはゲームルームのさらに奥。
AVルームの中で二人は両手に両足を拘束され、さらには目隠しや耳栓までされた状態で見つかったのだ。

愛依「あっ、にちかちゃん! ごめん……二人を助けるのちょっと手伝ってくんない!?」

にちか「は、はい! もちろんです!」



私は愛依さんに求められるままに二人の拘束を解いた。
私が触った限りでは、かなり入念に縛り付けられており、自力での脱出は難しいと思う。
実際私が解くのでもかなり手こずったし、その間に愛依さんの声を聞いて駆けつけた人たちが何人もいたぐらいだ。
長くこの状態で放置されていたら、危なかっただろうな。

甜花「あうぅ……手と足の首がまだ痛い……」

愛依「だいぶキツく結んであったもんね……大丈夫? 痺れたりしてない?」

真乃「灯織ちゃん……よかった、無事だったんだね……」

灯織「真乃……うん、なんとか。にちかもありがとう」

にちか「うん……」

透「二人とも、いつから?」

甜花「えっと、いつだっけ……確か、呼び出しを受けたからその時の紙が……」

甜花「あ、あれ……? 持ってきてた、はずなんだけど……」

灯織「任せてください甜花さん、私はポケットにちゃんとしまい込んで……」

灯織「あ、あれ……? すみません、私も……なくしてしまったみたいです……」

(……やれやれ)


愛依さんの呼びかけを聞いて集まってきたのは私、真乃ちゃん、浅倉さん、月岡さんの4人。
地下階から割と近い位置にいた面々がすんなりと集まった形だろう。

甜花「えと……他の人たちは?」

(……!)

灯織「他の皆さんは……無事なんですよね?」

真乃「えっと、その……」

ばつ悪そうな表情。誰も進んで自ら言おうとしない。
そりゃそうだ。こんなこと、自分の口から通達なんて……お願いされてもしたくない。
言葉にしてしまったら、その事実を認めてしまったようで、きっと今以上にもっと辛くなる。
だからこそ、私がそれを伝えなくちゃ。


にちか「……めぐるちゃんが、死んでた」

灯織「……え? う、嘘……だよね?」

にちか「嘘じゃないよ……本当に、死んでた。間違いない」


見る見るうちに灯織ちゃんの顔からは血の気が引いていき、そして、



バターン!!



ふっと意識を失って、その場に倒れてしまった。



愛依「息はしてる……多分、ショックを受けてちょっと気絶しちゃっただけだと思うから……意識はちゃんと戻ると思うよ」

愛依「念のため、後で霧子ちゃんに診てもらお。うちが連れてくから!」

(……酷なことをしてしまったんだろうな)

(ただでさえ、拘束状態で体力を削られていたのにトドメを指すような真似を……)

甜花「八宮さんが、死んじゃった……本当、なんだね……?」

真乃「はい……頭から血を流していて……相当強い力で殴りつけられたみたいなんです……」

甜花「そ、か……そう、なんだ……」

恋鐘「それにしても他のみんなは中々集まらんね。愛依の声が聞こえとらんばい?」

にちか「うーん……全体のアナウンスがあった訳でもないですし、仕方ないかもしれないですね。流石に一階から三階までは声も届きにくいでしょうし」

恋鐘「そいやったらうちがひとっ走りして伝えてくるとよ! 特に甘奈はすぐにでも甜花の無事を知りたかはずやけん!」

透「……でも、どうする? まだ終わってないよね?」

真乃「夏葉さん……だよね」

(……!)


愛依「そっか……そうじゃん! まだ夏葉ちゃんが見つかってないんだもんね」

恋鐘「愛依以外に誰かの声は聞いとらんし、まだ見つかっとらんばい……? こげんみんなで探しとるのに……?」

真乃「もしかしたら、学校の中じゃないのかもしれません……中庭とか、裏庭とか……校外はまだ見てないですよね……?」

にちか「そうだ……! これだけ校舎を入念に見てるのに見つからないってことはそうに決まってるよ!」

透「あー、でも……どうする? 探しにいきたいのはわかるけど。ここも一応保全とかしといたほうがよくない?」

にちか「そっか……そうですよね」

愛依「だったらうちは残るよ。灯織ちゃんの様子が気になるしさ……」

透「じゃ、私もステイしよ」

にちか「浅倉さん?」

透「真乃ちゃんとにちかちゃん、動きたくて仕方ないって顔してるから。譲るよ」

(……この人、面倒くさがってない?)

真乃「にちかちゃん、急ごう……っ! 私たちが頑張るしかないよ……!」

にちか「そ、そうですね……!」

甜花「あ、あの……甜花も、動いていいかな……?」

甜花「何が起きてるか、甜花も知りたい……有栖川さんを探すの、手伝う……!」

愛依「甜花ちゃんは体とか大丈夫なん……? 無理してない?」

甜花「うん……大丈夫、ちょっと腰が痛いけど……」

にちか「それじゃあ私と真乃ちゃんと甜花さんの3人で外を見てきますね」

透「うす。頼んだ」

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【校外】

にちか「また分担して捜索しましょうか……どう分けます?」

甜花「えと……中庭の方は建物がちょっと多いし、人手がいるかも……」

真乃「そうですね……にちかちゃん、一緒に行ってもらえるかな」

にちか「わかった。甜花さん、裏庭をお願いしてもいいです?」

甜花「う、うん……わかった、頑張るね……」

私たちは二手に分かれて有栖川さんの捜索を開始。



彼女の才能研究教室、裁判場へと向かう裁きの祠……草の根を掻き分けて捜索をしたけど、その姿はどこにも見当たらなかった。

にちか「中庭の方じゃないのかな……一回甜花さんと合流しに行く?」

真乃「そうだね……こっちにいないのなら、裏庭の方にいるのかも……」



真乃ちゃんと二人で校舎の前へとちょうど戻ってきた頃。
校舎の左手、食堂側の方から息を切らしながらこちらに走ってくる甜花さんの姿が目に入った。

甜花「ひぃ……ひぃ……二人とも、こっち……来て!」

にちか「て、甜花さん? どうしたんですか? な、なにが……」

甜花「あ、有栖川さんが……有栖川さんが……大変なの……!!」

(……!)

思わず私と真乃ちゃんは顔を見合わせた。
甜花さんの声からは並ならぬものを感じる。
裏庭の中で甜花さんが見たもの……それを今すぐにでも確かめないと。

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【校舎裏 裏庭の扉前】

「七草さん、ここ……この中で……!」

甜花さんに促されるままに手をドアノブにかける。
ボイラー室も兼ねている裏庭の扉は鉄製の重厚な作りの扉だ。
ただ、今回私が感じている重量はそれだけの話じゃない。
単純な質量以上の『圧』を、扉を隔てた先から感じていた。
それは予感と言ってもいいかもしれない。
この扉を開けた先で待っているものが、私たちにとって、打ちひしがれるほどに甚大で、深刻で、惨憺たるものであるという予感。

「にちかちゃん、行こう……」

私は必要以上に大きく首を縦に振った。
さっきまで頭の中を埋め尽くしていた予感を、振り落とそうとしたのかもしれない。
扉を開けるのに、助走が必要だったのかもしれない。
とにかく私は、その勢いのままに、一思いに扉を開けた。



その先で、見たのは……



見て、しまったのは……






【まるでめぐるちゃんの死因をなぞるかのように頭から血を流して事切れている有栖川さんの姿だった】






【ピンポンパンポーン……】

『死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』

『うぷぷぷ……やっぱり、こうなったね。こうなっちゃったね』

『コロシアイは一度はじまり出したら止まらない! オマエラはもうこの連鎖から逃げられないんだよー!』

『アーッハッハッハッハ!』

『……あ、忘れてた。死体発見現場は裏庭だよ。可及的速やかにお集まりくださいね!』


モノクマのアナウンスにより、すぐに【全員】が裏庭へと集まった。
一回目のアナウンスの時には集まれなかった全員がこうして集まったということは、事件の終末を意味することになる。
血で飾られた、デッドエンドの終末に辿り着いてしまったのである。

樹里「……んで、なんで夏葉が死んでんだよッ!」

凛世「樹里さん……」

樹里「こいつはアタシたちの中でも一番仲間のことを考えて、全員生還を本気で目指してたのに……なんで殺されなくちゃいけなかったんだよ!」

西城さんの慟哭が虚しく響いた。
誰もそれに言葉を返すことなどできない。
有栖川さんの在り方も、それが死によってふみにじられたことも、そしてそれに対する怒りも全員が同じだからだ。


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノファニー「一日に2回も死体を見ることになるなんて……グロいわ、グロのキャパオーバーだわ……」

モノファニー「でろでろでろでろ……」

モノスケ「ハンッ、1回目の事件は物足りへんかったからな。今回はその分期待ができそうや」

モノスケ「この事件の犯人からはドロドロに淀んだ悪意が透けて見えるで……!」

モノクマ「うぷぷぷ……まさかこんなに早い段階でこの二人が退場するなんて、みんなも予想外だったよね!」

にちか「誰であろうと予想外だよ……みんな、死ぬなんて思ってなかった」

モノクマ「うぷぷぷ……まあオマエラはそう言うよね」

にちか「はぁ……?」

あさひ「ねえモノクマ、これでやっと捜査に移れるんだよね? これ以上のことはもうないんだよね?」

モノクマ「そうだね。もう今から死者が増えることはないと思われるよ。今回の裁判については八宮さんと有栖川さんの二つの死体について議論をしてもらうかたちになります」


あさひ「ふむふむ……一つ聞いておきたいんっすけど、今回の二つの事件。犯人はそれぞれ別々なんっすか?」

霧子「犯人が別……? 二人の命を奪ったのは、それぞれ別な人なのかな……?」

あさひ「その可能性は結構あると思うんっすよね。時間と距離も結構空いてるし……こういう時ってどう考えればいいのかなって」

モノクマ「うーん、そうだね。この手のお悩み相談は毎回恒例のことなんですけれど、今回のコロシアイ学園生活については」

モノクマ「どちらの事件についても【そのクロは学級裁判の対象となります】!」

モノクマ「仮に八宮さんと有栖川さんを殺害したクロが別だったとしても、シロ側の生徒にはその【両方を特定する義務】が課せられるわけだね」

あさひ「ふーん……その場合は投票も2回するんっすか?」

モノクマ「そうなるね、それぞれのクロについて投票を行い、それぞれの結果によって判定が行われるよ」

あさひ「たとえば、片方のクロを当てることに成功して、もう片方のクロを当てるのに失敗した場合は?」

モノクマ「その場合は当てられたクロと、シロ全員がおしおきだね。シロを欺いたクロのただ一人だけが卒業することになる」

あさひ「……了解っす! 大体把握できたっす」


モノファニー「ちょっと複雑な構造にはなるから、気になったらアタイたちに聞いてちょうだいね」

モノタロウ「一生懸命マニュアルを読み上げさせてもらうからね!」

モノクマ「それじゃあ学級裁判についての説明も終わったし、オマエラには捜査に移ってもらおうと思うんだけど……」

モノクマ「……やる気ある?」

にちか「……は?」

モノクマ「現実が受け入れられないって顔だよね。まあ気持ちは察してやるけどさ、オマエラの感傷にそうそう付き合ってやる時間もないんだよ」

モノクマ「いつまでも物語が進まないとほら、退屈しちゃうでしょ?」

甘奈「た、退屈って……! 甘奈たちは大切なお友達を失ってるんだよ……?! そう簡単に切り替えられるわけが……」

樹里「いや、だからこそだ」

(……西城さん)

樹里「大切な友達を失った今だからこそ、私たちはすぐに頭を切り替えて、この現実に立ち向かわなくちゃいけない」

樹里「そうじゃなきゃ、こいつらの死はモノクマたちに弄ばれて終わっちまう……そうだろ?」

有栖川さんの一番近くにいたのは、彼女だった。
有栖川さんとは度々衝突をしながらも、彼女の持つ志や信念に共通するものを見出し、いつしか彼女たちは戦友のような間柄となっていた。
だからこそ彼女は戦旗を掲げることができたんだろう。
最後まで私たちを先導してくれようとしていた、有栖川さんの遺志を引き継いで、西城さんは焼け野原に立つ。


あさひ「樹里ちゃんのいうとおりっすよ。せっかくのゲームなんだからみんなが真面目にやってくれなきゃ面白くないっす」

樹里「アタシはあさひに同調してるわけじゃない……ただ、ここで現実を解き明かすことはアタシたちが生き続けること、そして歩み続けることに不可欠なステップなんだ」

樹里「みんなも力を貸してくれ」

私は昨日の晩のことを思い出していた。
灯織ちゃんとずっとすれ違う私のことを気にかけてくれためぐるちゃんが、踏み出し、繋いでくれたあの晩。
私たちの間には確かな絆が生まれていた。
めぐるちゃんがぎゅっとひとまとまりに抱きしめた私たちがお互いに感じていた温かさ。
これを刹那の記憶の中に忘れるわけにはいかない。

にちか「真乃ちゃん、灯織ちゃん……やろう」

私たちは、この裁判を生き抜いて……めぐるちゃんから貰ったものをずっと胸に刻んで生きていかなくちゃいけないんだ。

真乃「うん……にちかちゃん、頑張ろう……っ」

灯織「当然だよ……今回のクロは絶対に解き明かす。私たちの力でね」

あさひ「……あはは、今回の裁判も面白くなりそうっすね!」

にちか「芹沢さん、あなたがこの裁判にどう挑もうと勝手だけど……」

にちか「_____私たちも、絶対に負けないから」



【捜査開始】


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モノダム「ソレジャア早速、モノクマファイルヲ配布サセテモラウヨ」

モノスケ「今回は2回分のファイルがあるから間違えんように注意して読むんやで!」

私たちは2回の事件についてそれぞれ別のタブレットを手渡された。
あくまでまだそれぞれ別の単一の事件とみなして考えるべきだということなのかもしれない。

一つ目のモノクマファイルを起動する。

『被害者となったのは超研究生級のスポタレ、八宮めぐる。死亡推定時刻は午前8時前後。死因となったのは前頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない』

灯織「めぐるの死体……後で私も見に行かせてもらってもいいかな」

にちか「うん、当たり前だよ。めぐるちゃんのことも調べなくちゃいけないし……お別れも、灯織ちゃんの口から伝えてあげて」

灯織「うん……そうする」

真乃「……」

コトダマゲット!【モノクマファイル2】
〔被害者となったのは超研究生級のスポタレ、八宮めぐる。死亡推定時刻は午前8時前後。死因となったのは前頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない〕

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そして二つ目のモノクマファイル。

『被害者となったのは超研究生級の文武両道、有栖川夏葉。死亡推定時刻は午前8時30分前後。死因となったのは後頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない』

にちか「有栖川さんの死亡推定時刻……めぐるちゃんよりも明確に後なんだね」

真乃「私たちがめぐるちゃんを3階で発見していた頃にはまだ夏葉さんは生きていたことになるね……」

にちか「ちょうどあの後殺されたわけだ……」

灯織「私と甜花さんが解放してもらえたのとどっちが先なんだろうね……」

にちか「うーん、夏葉さんの方が後だと思うな。ちゃんと時計を見ていたわけではないけど……」

(似たような死因で、順番に殺されている二人)

(こうしてみると連続殺人のように思えるけど……)

コトダマゲット!【モノクマファイル3】
〔被害者となったのは超研究生級の文武両道、有栖川夏葉。死亡推定時刻は午前8時30分前後。死因となったのは後頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない〕

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灯織「今回捜査はどう進めようか……にちか、この前の事件と同じで私も一緒にやってもいい?」

にちか「うん、それはこちらからもお願い。私だけだと多分見落としめっちゃ出るし……」

真乃「あの……わ、私もいっしょにいいかな……?」

にちか「真乃ちゃん……」

(そっか、前はめぐるちゃんと一緒にやってたけど……彼女が死んでしまったから)

にちか「うん、3人でやろう。3人よれば文殊の知恵って言うしね」

灯織「よし……それじゃ頑張ろう。えっと……どこを調べるのがいいかな」

にちか「まずは有栖川さんの死体発見現場であるこの裏庭をくまなく調べよう」

真乃「その後は、めぐるの死体発見現場である校舎3階の【超研究生級のスポタレの才能研究教室】だね……!」

灯織「私と甜花さんが拘束されていた地下階の【AVルーム】も見に行ったほうがいいかな」

にちか「あ、そうそう……灯織ちゃんと甜花さんを探してる時に気になったものがあったから【体育館】にも行ってみてもいい?」

灯織「うん、時間が許す限りは全部を見ておこう」

今回は前回と違って私は謎を解き明かすシロの視点での捜査になるし、二人の犠牲者の謎を解き明かす必要がある。
気合を入れていかないといけないぞ……よし!

(まずは裏庭の捜査からだよね……どこから調べよう)

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【真乃と話す】

今回の事件は死体が二つも見つかっているし、事件はリアルタイムに起きたものだ。
私はともかく、灯織ちゃんは途中まで離脱していたわけだし、改めて整理しておいた方がいいかもしれないな。

にちか「ねえ、真乃ちゃん。事件をはじめから振り返ってみるのを手伝ってもらってもいい? 灯織ちゃんへの説明も兼ねて」

灯織「にちか……そうだね、私からもお願い。この事件の顛末を私も知っておきたいかな」

真乃「う、うん……! それじゃあ私の目線での事件を整理していくね……っ」

真乃「まず最初に私、にちかちゃん、恋鐘ちゃん、霧子ちゃん、樹里ちゃん、凛世ちゃん、甘奈ちゃん、愛依ちゃん、あさひちゃんが体育館に集まったの」

にちか「体育祭に参加するためだね。朝のアナウンスと同じぐらいに動き出す約束にはしていたから……」

真乃「それで、めぐるちゃん、灯織ちゃん、甜花ちゃん、夏葉さんの姿がないってことが話題になって……」

灯織「樋口さんと浅倉さんは?」

にちか「不参加だろうってことで片付けた。なんだかのっぴきならない事情って感じだし、踏み込みづらいんだよね」


真乃「だから、私とにちかちゃん、甘奈ちゃんの3人で三階のめぐるちゃんの才能教室を」

真乃「恋鐘ちゃん、凛世ちゃんの2人で食堂を」

真乃「樹里ちゃんが1人で寄宿舎にそれぞれを呼びに行ったの。残った3人はあさひちゃんの様子をみる意味合いも兼ねて待機」

にちか「そこで私たちがめぐるちゃんの死体を最初に発見したんだよね」

にちか「ここで灯織ちゃん、甜花さん、有栖川さん以外の全員が集まったから逆に3人には何か集まれない異常事態が起きてるんだってことになって……」

にちか「三階を芹沢さんと樋口さん、二階を浅倉さんと月岡さん、一階を私と真乃ちゃんと甘奈ちゃんと西城さん、地下を愛依さんで探すことになったんだ」

真乃「凛世ちゃんと霧子ちゃんにはめぐるちゃんの死体発見現場の保全をお願いしたんだ……!」


灯織「それで、愛依さんが私たちを見つけてくれた……愛依さんの呼びかけに応じて集まったのはにちか、真乃、浅倉さんの3人だったんだっけ」

にちか「そう、ここで最後の有栖川さんを探すために私と真乃ちゃんと甜花さんで動き出して……」

真乃「裏庭に向かった甜花さんが夏葉さんの死体を発見したんだね……っ」

にちか「うう……なんだか長い事件だったな」

灯織「それぞれ現場が学校のあちこちに点在してるから……場所と分担は覚えておかないと忘れちゃいそうだよね」

(探した場所とその分担か……)

(一応、覚えているところはしっかりと押さえておこうかな)

コトダマゲット!【事件の経緯】
〔めぐると夏葉の死体を発見するまでの経緯は以下の通り。
①体育館に集まった真乃、恋鐘、霧子、樹里、凛世、甘奈、あさひ、愛依、にちかが異常に気づく。
真乃、にちか、甘奈が3階の才能研究教室、恋鐘、凛世が1階の食堂、樹里が寄宿舎の捜索を担当。
②3階の才能研究教室にてめぐるの死体を発見。残る行方不明の灯織、甜花、夏葉の捜索を開始。
あさひと円香で3階、透と恋鐘で2階、真乃とにちかと樹里と甘奈で1階、愛依で地下を探索。
③愛依が地下で灯織と甜花を発見。
残る夏葉の捜索に真乃とにちかと甜花が行動開始。
真乃とにちかが中庭、甜花が裏庭を担当。
④裏庭で甜花が夏葉の死体を発見〕

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【死体の周辺】

有栖川さんの亡骸は、ボイラーの装置にもたれかかるようにして眠っている。頭から滴る血液が、下の鉄板に血溜まりを作っているのが何とも痛ましい。

真乃「めぐるちゃんの死体と、本当にそっくりだね……」

灯織「めぐるもこんな風に殴られて命を落としたんだよね……何か関係あるのかな」

にちか「うーん……ちょっと見てみよっか」

有栖川さんの死体に近づいてペタペタと触ってみる。
とはいえ、私に専門的なことは何も分からない。
モノクマファイル以上の情報は手に入らないかもな……

あさひ「にちかちゃん、そんな調べ方じゃダメっすよ!」

にちか「わっ!? 芹沢さん?!」

あさひ「モノクマファイルに書いてあることをなぞっても新しい発見はないっす。注目するのならモノクマファイルに書いてないところ……っす!」

芹沢さんは私の傍から突然に姿を現したかと思うと、その勢いのままに有栖川さんの死体に近づいて、その右手を持ち上げてじっと見つめ始めた。


真乃「あさひちゃん……? 夏葉さんが何か持ってるの?」

あさひ「ううん、その逆っす。何も持ってないけど……何かを持とうとした痕跡があるっすよ。ほら」

灯織「ん……? あ、あれ? 爪が……割れてる?」

芹沢さんが私たちに示した有栖川さんの指先は、爪がパキパキと割れてしまっていた。
しかもこの割れ方からして、何かを落としたとかではなさそうだ。

あさひ「なんなんすかねこれ」

芹沢さんはそう言いながら、手を自分の方へと近づけると……

あさひ「くんくん……」

鼻を近づけて指の匂いを嗅ぎ始めた。

にちか「な、なにやってんの芹沢さん?!」

あさひ「爪の間になんか灰色の粒々が見えるんで、何かなって……舐めないだけ大目に見て欲しいっす」

(いや、よくも抵抗なく嗅げるな……)

あさひ「……夏葉さんの指の爪、なんか鉄みたいな匂いがするっすよ」

真乃「鉄……? 血の匂いも鉄っぽいって言うけどそれとは違うの……?」

あさひ「そうっすね。公園のジャングルジム、メッキが剥がれた時みたいな匂いがするっす」

(鉄の匂いがする、割れた指の爪……か)

(何か有栖川さんは鉄製のものを引っ掻いていたってことなのかな……?)

コトダマゲット!【夏葉の割れた指の爪】
〔夏葉の死体の手指の爪は割れていた。あさひ曰く、爪からは鉄の匂いがするらしく、鉄製のものを引っ掻いて割れたのではないかと推測できる〕

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あさひ「まあこんな感じっすね。死体に抵抗があるのはわかるっすけど、ちゃんと調べなきゃ手がかりは手に入らないっすよ」

芹沢さんは私たちにそう言うとまたどこかに引っ込んでしまった。
相当私たちの拙い捜査っぷりが彼女には目に余ったんだろう。
こうして一緒に捜査をしている限りでは芹沢さんは悪い人間ではないのにな……

灯織「あさひが犯人となっていない限りは協力はしてくれるはずだよ。素直に証拠の類も受け入れていいと思う」

にちか「灯織ちゃん……バレてた?」

灯織「まあ……私がにちかにずっと向けてた視線にそっくりだったから」

(それは、相当だな……)

だとすると、私がいつか芹沢さんのことを信じる時、信じたいと思える時も来るんだろうか。
それはなんだか、想像ができなかった。

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【鉄パイプ】

死体の近くに落ちている鉄パイプだ。
先端の部分にはベッタリと有栖川さんの血が付着している。

樹里「この部屋で使われているパイプの同じものの廃材みたいだな」

西城さんのいうとおり、これ以外にも使われていないパイプが向こうのほうにいくらか積まれているのが見て取れる。
犯人はパイプの山から一本を抜き取って凶器として使ったんだろう。

灯織「相当強い力で殴りつけたんだね……ちょっと曲がっちゃってるし……」

真乃「このパイプが凶器になったのは間違いなさそうだね……っ」

樹里「重さとしても手頃なぐらいだしな。これを使えば誰でも難なく撲殺できたはずだ」

にちか「……」

樹里「……あ? なんだよその視線」

にちか「いや……西城さん、そのパイプをこう肩に担ぐ感じで持つのすごい様になるなって」

樹里「……」

西城さんは不機嫌そうにパイプをそこに放った。
床の鉄板とパイプが奏でる物悲しい金属音がそこら中に響き渡った……

コトダマゲット!【凶器の鉄パイプ】
〔夏葉の命を奪った凶器の鉄パイプ。裏には廃材の鉄パイプがいくつか積まれており、犯人はそのうちの一つを使ったものと思われる〕

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【ボンベ】

有栖川さんの死体の側には見慣れないパッケージのボンベのようなものが落ちている。

霧子「これ……私の才能研究教室から持ち出されたお薬みたい……」

灯織「幽谷さんの……? ということは医療用の薬ですか……?」

霧子「うん……これは医療用の【麻酔薬】だよ……」

にちか「へー、これが麻酔なんですね! 私初めて見ましたよー!」

にちか「これに入ってるものを飲んじゃえば意識を失っちゃうわけなんですね!」

霧子「えっと……医療用麻酔には大きく分けて四つの種類があるの……」

霧子「意識を失うと同時に痛みを感じなくして、手術の進行を円滑にする全身麻酔……」

霧子「脊椎の痛みを伝達する硬膜外腔に作用して、痛みの信号をブロックする硬膜外腔麻酔……」

霧子「硬膜外腔とよく似ているんだけど、より強力な効果を持つ脊椎麻酔……」

霧子「そして、治療部位の痛みだけをシャットアウトする局所麻酔の四つ……もっと詳しく分けることもできるんだけど……」

にちか「?????」

霧子「こ、今回はそれは省略するね……」

(幽谷さんに露骨に気を使わせてしまった……)


霧子「それで、大事なのはこのお薬が全身麻酔用ってことなんだけど……」

霧子「にちかちゃんが言ってくれたように、飲んで使うお薬ではないの……」

灯織「というと注射……ですか?」

霧子「ううん、そうでもなくて……このお薬は濃度の高い『亜酸化窒素』と酸素の化合物……【吸引性の麻酔】なんだ」

にちか「それってつまり、吸っちゃうと意識を失っちゃう薬ってことですか?」

霧子「うん、簡単に言えばそうなるかな……意識を失っている時間の調整に、本当は配合も慎重にしなくちゃいけないし専門の資格も必要なんだけど……」

霧子「多分、これはそんな扱い方はされてないよね……」

幽谷さんはひどくつらそうな表情をしている。
医療の道に近い存在の彼女だからこそ、人の命を救うための技術が悪用されたことに胸を痛めているんだろう。

霧子「ボンベの蓋も開けっぱなしになっているから、この部屋はこのガスで充満していたはずだよ……」

霧子「もし夏葉さんもここに監禁されていたのなら……意識を自力で取り戻すことは不可能だっただろうね……」

真乃「わ、私たちはここにいても大丈夫なんでしょうか……」

霧子「扉を開け放した状態にしてあるからもう大丈夫だと思うよ……」

霧子「ちょっとでも吸ってしまったら指先に麻痺が起きたりするはずだから……」

灯織「よかった、ちゃんとトノサマガエルも作れます」

(死体発見現場は気化した麻酔で充満していた……か)

(有栖川さんが朝から行方知らずになっていた理由がだんだんと見えてきた気がするな)

コトダマゲット!【気化麻酔】
〔夏葉の死体発見現場には医療用気化麻酔が充満していた。監禁状態にあった夏葉が意識を取り戻すことは困難だったと思われる〕

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【隅に落ちているハンカチ】

雑草が繁茂している裏庭の一角で、その草むらの中に姿を隠すようにしているハンカチを見つけた。
桃色の布で、ワンポイント可愛らしい刺繍が入っている。

真乃「ふふ……誰かの落とし物かな? 裏庭をお散歩してたら、ついうっかり落としちゃったのかも」

灯織「いや、これは犯人の手がかりなんじゃない? 有栖川さんを殺害して動転した犯人がついうっかり落としてしまった証拠なんだよ」

(二人の間でこのハンカチの第一印象の落差がすごいな……)

凛世「にちかさん……少しそちらのハンカチを見させていただいても……?」

にちか「え? は、はい……」

凛世「……」

凛世「まだ今は朝の放送があってからそれほど時間はたっておりません……朝起きて、自分の部屋を出てからすでにこのハンカチの落とし主はお手洗いに一度行かれたのでしょうか……?」

にちか「え……? あ、確かにこのハンカチ、折り目と畳み方がちょっと違うね……」

真乃「個室のトイレを使う時は備え付けのタオルを使うのが普通……だよね」

灯織「もしかすると落とし主は頻尿なのかもしれませんね。若くても精神的なストレスなどから頻尿の悩みを抱えている人はいると聞きます」

灯織「この極限状態の学園生活の中で、悩み、思い、患ってしまった可能性もあるのでは……?」

(……流石に頻尿ってことはないだろう)

凛世「通常、ハンカチは毎日変えるものです……朝のこの時間に使った痕跡が既にあるのは少し違和感を感じます……」

杜野さんの指摘はごもっともだと思う。
ハンカチの使い道はただお手洗いの後に手を拭くだけじゃない。
もっと他の何かで使った可能性だってあるはずだ。

にちか「ですね! ハンカチは普通毎日変えるもんですもん!」

そう言って杜野さんに同調しながら、スカートのポケットに入れたまんまのハンカチを奥の方に押し込んだ。

コトダマゲット!【現場に落ちていたハンカチ】
〔裏庭の隅に落ちていたハンカチ。今日になって既に使われた痕跡がある。落とし主は不明〕

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【モニター】

今回はこのモニターにだいぶ弄ばれた気がする。
ルカさんの事件の時とのアナウンスの違いから学園中を駆け回ることになったわけだし、実際その裏には私たちの知らない惨劇が隠されていた。
画面は今はなにも映さずにダンマリだけど、モノクマの残影を見ているようで、画面の前にいるだけでイライラしてくるようだった。

愛依「モノクマの笑い声、今も頭に残っててめっちゃ腹立つわ……マジ、なにが楽しいわけ?」

灯織「愛依さん……その怒りはよく分かります。モノクマの態度はどこまでも私たちを逆撫でしていますよね」

にちか「今も私たちのことをどこかで監視してるんだろうな……はー、うざ」

真乃「そういえば、今回も、前回のルカさんの事件でも鳴ってましたけど……死体を発見するとアナウンスが流れるんですね」

愛依「そーだね……モノクマファイルを配ったり色々あるからみんなを集める必要があるんじゃん?」

真乃「少し疑問なんですけど……あれってどういう基準で鳴らしているんんでしょうか……?」

灯織「基準……? 単純に誰かが死体を見つけた時、じゃなくて?」

真乃「うん……それだったら、今回の事件だと夏葉さんの死体で鳴るアナウンスはもっと前になるはずなんだ……」

(……そうだ!)


◆◇◆◇◆◇◆◇

甜花「ひぃ……ひぃ……二人とも、こっち……来て!」

にちか「て、甜花さん? どうしたんですか? な、なにが……」

甜花「あ、有栖川さんが……有栖川さんが……大変なの……!!」

(……!)

◆◇◆◇◆◇◆◇

(今回の事件では、甜花さんが私たちよりも先に死体を発見している)

(でも、その時にアナウンスは鳴っていない……!)

(私と真乃ちゃんの二人で同時に踏み込んだ時に初めてアナウンスが鳴った……)

(もしかして、何か死体発見アナウンスが鳴ることには真乃ちゃんの言うとおり別な条件があるの……?)

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノスケ「やるやん、なかなか目ざとくて感心したで。キサマラもただ息して飯食って排泄して寝とるだけやないんやな!」

モノタロウ「そう、キサマラの予測しているとおり死体発見アナウンスが鳴るのには条件があるんだよ!」

愛依「マジ?! なんなの、その条件って?!」


モノダム「……」

灯織「そう簡単には教えてくれない……ですよね」

灯織「モノクマたちの考えそうなことです。断片的なことだけ教えて肝心のことは伏せる!」

灯織「そうして悩む私たちのことを嘲笑うつもりなんです!」

モノファニー「殺害したクロを除いた【シロ三人以上】が死体を発見することが条件よ!」

灯織「あ、あれ……?」

モノタロウ「オイラたち、こんなことも教えてくれないぐらい冷たいと思われてたの?! 心外だなぁ」

モノスケ「そもそもこの条件については【キサマラにも一度質問を受けとる】ことやしな」

(……え?)

モノスケ「ま……ソイツは他の連中と共有をする気もなさそうやし、キサマラで改めて共有しておいてや」

モノタロウ「情報は水だよ! 独占しちゃいけないんだ!」

【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】

真乃「い、行っちゃいましたね……」

死体発見アナウンスには条件があった。
ただ死体が見つかるだけでなく、クロ以外のシロ3人による目撃が必要になる。
これって要は死体の発見時の3人は確実にクロではなくなるってことだよね……これは情報としてめちゃくちゃでかいんじゃない?!

そしてもう一つ大きな情報は……
この死体発見アナウンスの情報については既に知っている人物がいたということ。
しかもそれは誰にも共有されることなく今この瞬間までその人物によって独占された情報だったと言う事実。
明らかに意図的だ。

このことは、裁判まで覚えておいた方がいいに違いない……!

コトダマゲット!【死体発見アナウンス】
〔殺害犯であるクロ以外のシロの生徒3人以上が死体を発見した際に、現場を周知するために鳴らされるアナウンス。その条件については既にモノクマーズに尋ねた生徒がいるらしい〕

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にちか「裏庭で調べられるのはこれぐらいかな……」

真乃「それじゃあ次は……めぐるちゃんの現場だね」

灯織「……」

にちか「二人とも、大丈夫? ……辛かったら」

真乃「大丈夫……私もいっしょに立ち向かうって決めたから……っ」

灯織「私も同じだよ。めぐるは私に勇気をくれた人だから……彼女の死に向き合う勇気がなくちゃ、嘘になる」

にちか「……よし、行くよ」

私たちは3人でめぐるちゃんの死体発見現場へと走り出した。


一旦ここまでで区切ります。
今回捜査パートが長めなので分割してまた書き込みます。

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【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室奥 シャワールーム】

めぐるちゃんの死体は時間が止まってしまったかのように、発見当時そのままの姿が残されていた。
有栖川さんの死で僅かの間忘れることができていた喪失感が再び私たちを襲う。
気を抜けば今すぐにでもその亡骸に縋り泣き叫びたくなる衝動を、必死に飲み込んでしたいと向き合った。

灯織「めぐる……今までありがとう。あなたのおかげで私は大切なものを手にできたし、この現実に向き合う勇気を得た」

灯織「絶対に仇は私が討つから」

(……私たちも同じ気持ちだよ)

めぐるちゃんの死体に手を合わせ、そうつぶやく灯織ちゃんを二人でじっと見つめていた。

灯織「……さ、二人とも。どこから調べようか」

にちか「そうだね……ここも色々と調べたいところはあるから、手早く調べないとね」

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【めぐるの死体】

めぐるちゃんは昨日までの元気溌剌さが嘘のように静かに押し黙っている。
もう彼女の口から誰かを励ますような言葉も聞こえてはこないし、もうこちらの声に反応を返してくることもないのだ。

にちか「めぐるちゃん……私が今こうやって二人と協力できているのも全部あなたのおかげだよ。ちゃんとお礼……したかったな」

真乃「にちかちゃん……」

彼女と話をしたのは昨晩が最後。
彼女にギュッと抱きしめられて、それが照れ臭くてそそくさと自分の部屋に戻ったのが今になって惜しくなる。
その時の感触を思い出したくなったのか、私の手は無意識に自分自身の右腕を強く握り込んでいた。
瞬間、思い出す。

にちか「____痛ッ?!」

◆◇◆◇◆◇◆◇

真乃「めぐるちゃん、次はこれかな……?」

めぐる「うん、ゆっくりでいいからね。体を痛めないことがいちばん大事だよ!」

にちか「ふぅ……あっついなぁ……」

真乃「よいしょ……それじゃあ持っていくね……っ!」

めぐる「うん……あっ、真乃! ちょっと待って!」

真乃「え? ……わ、わわっ!?」

ガッシャーン!

にちか「痛っ……」

真乃「に、にちかちゃん! ごめんなさい……だ、大丈夫……?」

◆◇◆◇◆◇◆◇


真乃「……にちかちゃん?」

にちか「あ、いや……な、なんでもない……」

そういえば一気にいろんなことが起きすぎていてすっかり忘れていた。
そもそも昨日やっておくべき準備が今朝にまでもつれ込んだのは私と真乃ちゃんによる接触事故があったから。
あれがなければ、今日の朝のアナウンスと同時に体育祭は始まっていたのだろうか?
少なくとも、めぐるちゃんが一人で先に才能研究教室に行くことはなかっただろう。

(……)

(……え? そ、それって)

真乃「……にちかちゃん? さっきから様子がおかしいけど、どうしたの?」

ダメだ。気づいちゃいけないことに気づいてしまったかもしれない。
このことは絶対に、誰にも言えない。
特に、真乃ちゃんだけには……

昨日私と真乃ちゃんの事故がなければ、めぐるちゃんは死なずに済んだのかも、なんて


コトダマゲット!【にちかの打ち身】
〔昨晩の体育祭の準備の際にうっかり真乃とにちかがぶつかったことでにちかは右腕に打ち身を負ってしまっている。そのせいで準備は昨晩中断され、今朝にスポーツ用品の搬入がもつれ込んだ〕

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【シャワールームの窓】

めぐるちゃんの死体がもたれかかっている壁には窓が取り付けられていて、そこから外を見ることができる。
ちょうど窓に真正面から向き合っているのが体育館の窓。
両方の窓の間にある空間にはプールの建物が鎮座している。

灯織「この窓、いつから開いてたの? 最初に死体を見つけた時にはもう開いてたの?」

にちか「えっと……確かそのはず、そうだったよね?」

真乃「う、うん……」

灯織「普段から開けっぱなしの窓ってわけでもないよね……めぐるが開けたのかな」

そう呟きながら灯織ちゃんは窓に近づいていき、窓の隙間から下を覗き込んだ。

灯織「この真下はプール……遊泳ゾーンなんだ」

真乃「うん……そうだね。ここは三階だから飛び込み台よりももっと高い場所になるね……」

にちか「うへー……下手な着地をしたらただですまなそー……」

灯織「……ねえ、二人とも。二人は朝、体育館に集まってたんだよね?」

真乃「う、うん……私とにちかちゃんは体育館に集まってから、ここに来たんだけど……それがどうかしたの?」

灯織「ここの向かい……あの体育館の窓も開いてるんだけどあれは誰が?」

にちか「……え? ちょ、ちょっと見せて……?」

(ホントだ……! ここの窓と同様に体育館側の窓も開いてる……!)

灯織「体育祭をやるんだったら風通しをよくしておくことはあるだろうし、別に変わったことでもないような気はするけど……確認しておきたくて」

(……)

向かい合う位置関係にあって、共に開け放たれていた二つの窓か……何か意味を感じずにはいられないな。
これは改めて、あとでもう一回体育館にも調査に行ったほうがいいだろうな。

コトダマゲット!【シャワールームの窓】
〔めぐるの殺害現場である才能研究教室奥のシャワールームの窓は死体発見当時から開け放たれていた〕

---------------------------------------------
窓の位置関係を把握した私たちは一度窓から離れた。
後退りして、遠目に窓を見直したその時。
窓の外周に、違和感を感じた。
ガラスの窓をはめ込むアルミサッシのフレーム、その柱の部分に、何か黒い線のようなものが走っているのである。

にちか「ねえ二人とも、これなんだと思う?」

真乃「これは……引っ掻き傷、かな……?」

灯織「何か硬くて細いものが上下してついた後みたい。絞殺死体につきがちな柵状痕によく似てるかも」

真乃「ほ、ほわ……っ?!」

灯織「ひ、比喩だから! 違うの、ドラマでそういうのを見たことがあるってだけで……」

灯織ちゃんの例えは物騒だけど、的外れでもないような気がする。
こんな痕のつきかたは、ただ擦れただけじゃつかないもの。
硬くて細いものを、くくり付けでもしない限りはつかないはずだ。

そんな条件を満たすもの……どんなものが考えられるんだろうか?

コトダマゲット!【シャワールームの窓のフレーム】
〔めぐるの殺害現場となった才能研究教室奥のシャワールームの窓のフレームには細くて固いものをくくり付けたような擦れた痕跡が残っていた〕

---------------------------------------------
【金属バット】

めぐるちゃんの死体の近くに落ちているこれが直接の凶器だ。
高速で投げられる硬球に負けることがないように頑丈に作られたその芯で、頭蓋骨を強く殴られればひとたまりもない。
きっと即死だったんだろうなと素人でも感じるぐらいには、硬くて、太くて、恐ろしい凶器だ。

樹里「バットはこんなことに使うために作られたもんじゃねーのによ……」

にちか「……」

樹里「おい、さっきと同じことまたアタシで考えてるんじゃねーだろうな」

にちか「いや、バットはこんなこと〜のセリフも相まって親和性バチバチでお見それしてます」

樹里「お前なぁ……」

西城さんは呆れた顔をした後、気にすることなくバットをあちこちいろんな角度から眺めて調べ始めた。
それにしてもよく似合う。金髪ショートの女の子に何の武器を持たせるかの街頭アンケートをとれば文句なしの一位だ。

灯織「犯人はどちらも凶器を現場で調達しているんですね」

真乃「裏庭の鉄パイプ、才能研究教室の金属バットだもんね……っ」

にちか「凶器を使い分けたことに何か理由はあるのかな?」

灯織「単純に証拠品を持った状態で移動して見つかるのを恐れたから……?」

灯織「それかもしかすると、犯人は別だから……とか」

どちらにしても決めつけるのは危険かな。
とはいえ、凶器がそれぞれ違うことは押さえておくのは重要かもしれない。

コトダマアップデート!【凶器の鉄パイプ】→【二人を殺害した凶器】
〔めぐるを殺害したのは才能研究教室の金属バットで、夏葉を殺害したのは裏庭の鉄パイプでそれぞれ命を奪った凶器が異なる。犯人は現場にあったものを使って犯行を行ったようだ〕

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【ボンベ】

夏葉さんの現場でも見たのと同じパッケージのボンベが床に転がっている。
こちらも蓋が開けられていて、中の気体が放出された後の空き容器みたいだ。

恋鐘「こいが霧子の言うとった『キカマスイ』たいね! こいがあったけん、めぐるも夏葉も逃げ出すことができんかったばい!」

灯織「……よかった、ちゃんと影絵でうさぎが作れた」

灯織「この部屋も危険な気体は既に換気されて無くなってるみたいだよ」

真乃「ふふ……よかったね、灯織ちゃん」

(二つの現場で共通する気化麻酔……か)

(幽谷さんの才能研究教室から持ち出した、出所も同じだろう)

(犯人はどうして二人の意識を麻酔で奪う必要があったのかは気になるところだな)

コトダマアップデート!【気化麻酔】
〔夏葉とめぐるの死体発見現場には医療用気化麻酔が充満していた。監禁状態にあった二人が意識を取り戻すことは困難だったと思われる〕

---------------------------------------------

にちか「……よし、めぐるちゃんの才能研究教室で調べたいのもこれくらいになるかな」

灯織「どちらの現場も見ることはできたね……これからどうしようか」

にちか「さっき窓から覗き込んで気になったからプールと体育館はどっちも一回見ておきたいよね……」

真乃「それに、灯織ちゃんと甜花ちゃんが監禁されてたAVルームにも行っておきたいよね……」

灯織「よし、急ごう。あんまり時間は残ってないよ」

そうして才能研究教室を後にして、下の階へと向かおうとした時。


「え〜! 何か証拠があるかもしれないじゃないっすか〜!」


廊下に響き渡って聞こえてきたのは、あの子が駄々をこねる声。
その声を発した主は、向こう端で揉め事を起こしていると見えた。

にちか「……ちょっと様子見に行こうか」

真乃「う、うん……!」

---------------------------------------------
【超研究生級のコメンテーターの才能研究教室前】

円香「しつこい。何回言えばいいの? ここを退く気はないから」

あさひ「円香ちゃん、ちょっとぐらい捜査したほうがいいっすよ〜! ずっとここにいても何も分からなくないっすか〜?」

円香「じゃああんたもここに入る理由はないね」

あさひ「む〜」

円香「捜査は浅倉に任せてる。裁判になったらちゃんと協力するから」

あまりにも想定通りの二人の問答だった。
この期に及んで侵入を試みようとする芹沢さんに、断固として譲らない樋口さん。
裁判を目前に控えていると言うのにこの二人のスタンスは全く変わらないな。

あさひ「あっ、にちかちゃん、真乃ちゃん、灯織ちゃん! みんなもお願いして欲しいっす! この部屋の中に手がかりがあるかもしれないっすよ!?」

(手がかり……ねぇ?)


にちか「樋口さん、この部屋が開放されてからずっとここに居るんですよね?」

円香「そうだね。浅倉と交代で、どっちかは基本ずっといるようにしてる」

にちか「……」

(実際樋口さんと浅倉さんがここをまんじりとも動かず見張っている様子は何度も目撃している)

(この教室も、この二人も事件に関与している可能性はかなり低いと思うけど……どうしたもんかな)

にちか「それだけずっとここにいたら怪しい人影とか、物音とかは?」

円香「それも別に。事件が起きたのは同じ階みたいだけど生憎私は何も知らないから」

にちか「……」

(うぅ、暖簾に腕押しって感じかも)

灯織「……あさひ、この教室に手がかりはないよ。別を当たろう」

あさひ「えー! みんなはこの部屋みたくないんっすか?」

にちか「そりゃ気になるけど……これだけ拒絶されたら引き下がるしかないでしょ」


あさひ「よくわかんないっすね、みんな。わたしの方がゲームに全力になって、引いてはみんなが生き残る方にプラスな存在のはずなのに、非協力的な円香ちゃんの方の方を持つんっすか?」

真乃「そ、それは……」

にちか「ちがう……まだ、この段階じゃあなたがゲームに勝とうとしてることが私たちにプラスになるかどうかわからないでしょ」

あさひ「……あ、それも確かにそうっすね」

あさひ「あはは、それじゃ仕方ないっすね!」

にちか「あっ、ちょっ、急に逃げんな!」

芹沢さんはこれ以上は居座っても意味がないと観念したのか、くるっと背を向けて走り去ってしまった。
言いたいことだけ言って、本当に自分勝手。
残った私は大きなため息を一つ。

円香「……ありがとう。追い払ってくれて」

それを見かねてか、樋口さんがお礼の言葉をくれた。

にちか「いや、別に何もしてないんで……」


円香「……ごめん。いつか、説明したいとは思ってるんだけど今はまだ」

にちか「え? あ、ああ……」

本音を言えば、この期に及んで妥協すら見せない樋口さんに少し苛立っていた部分はあった。
人の生き死によりも優先すべき自分の秘密なんてもの、想像もできないし、計りかねる。
だから現実味がないし、樋口さんも折れてくれればいいのになと軽く思っていた。

(……)

ただ、その安易な考えは、樋口さんが袖に寄せた皺と同じようにグシャグシャになった。
樋口さんの伏せた視線から感じるのは、私たちに向けた申し訳なさ。そして彼女の抱える秘密の重みだ。
私たちがただの好奇心で開けていい扉ではないことが、すぐにわかった。

にちか「了解です。樋口さんはここで見てくれてて大丈夫ですから」

円香「……助かる」

にちか「それじゃ、行きますね……」

円香「……あ、ちょっと待って」

灯織「どうかしましたか?」



円香「……ひとつ、証言をさせてもらってもいい?」



真乃「ほわ……証言、ですか……?」

円香「うん。私と浅倉でここを監視してたことに関係する話なんだけど」

円香「基本はずっとここに二人のどちらかがいたんだけど……一瞬だけ誰もいなくなっているタイミングがあった」

円香「これが何かの手掛かりになるかはわからないけど、伝えとく」

にちか「え、そ、それっていつですか?!」

円香「……今朝の朝6時。私と浅倉が交代したタイミング」

円香「夜通しで見てくれてた浅倉と本来私の方から寄宿舎から合流して交代するはずだったんだけど、浅倉がそれを失念して」

円香「直接寄宿舎の私の部屋にまで来てた。それが朝6時」

(……樋口さんも浅倉さんもいない時間が一瞬だけだけど存在していた)

(この事実は何か大きな意味を持つかも知れないぞ……!)

コトダマゲット!【円香の証言】
〔円香と透は部屋が解禁されて以来、ずっと3階の超研究生級のコメンテーターの部屋に誰も入らないように監視をしている。しかし、事件の起きた当日の朝6時は透が直接寄宿舎に行って交代をしてしまったため、僅かに誰もいない瞬間があった〕

---------------------------------------------

円香「……ここを離れていないから事件の全貌はわからないけど、同じ階で起きたことだから」

円香「他にもここにいたままで出来ることがあったら言えばいい。協力はするつもりだから」

にちか「はい……ありがとうございました!」

灯織「思わぬところで証言が得られたね」

真乃「うん……朝の6時、アナウンスよりもちょっと前だね」

(今回の事件の犯人の足取り、ちょっと見えてきたかもしれないな)

灯織「それじゃあ改めて捜査を始めようか。えっと……見に行く必要があるのは体育館、AVルーム、プールの三箇所だっけ」

にちか「そうだね、早いとこ行っちゃおう!」

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【体育館】

本来は今朝から全員揃っての体育祭が行われるはずだった空間。
部屋の壁に寄せられたドリンクやお弁当、スポーツ用品なんかがもの寂しく映る。

真乃「……めぐるちゃん、本当に楽しみにしてたのにね」

私だってそうだった。昨日の晩からだらしない笑顔を晒して、年柄でもなく浮き足立っていた。
悲しみだらけのこの学園で、やっと楽しい、嬉しいと思える瞬間が来るのだと本気で信じていた。

灯織「……めぐる」

虚しさだけが残ったこの空間は、やけに広く感じてしまうな。

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【曲がったホッケースティック】

真乃「ほわっ……これ、なんのスポーツで使う道具なのかな……あんまり授業とかで見たこともないけど……」

灯織「これは多分、ホッケーだね。室内でできるレクリエーション的な種目もあったはずだから、多分そのためにめぐるが用意してくれてたんだと思う」

めぐるちゃんの死体を見つけてから間も無く。
それぞれ別の方向にバラけて残りの消息不明の3人を探していた時に私が一度目をつけたものだ。
他に並んでいるスティックとは明らかに違う形状をしていて、しかもこれは通常の使い方で曲げられたものではない。
明らかに、何か強い力を作為的にかけられて曲げられたものだ。

樹里「しかしこいつは……どうなってんだ?」

樹里「鉄パイプや金属バットの時みたく血がついちゃいねーけど、なんでこんな曲げられちまってんだよ」

にちか「……」

樹里「おい、にちか……もういい! もういいからな! とにかく私と長手物の武器を合わせたら似合うとか考えるのはもういいから!」


にちか「なんかお姉ちゃんが呼んでた漫画であったんですよね……学校の何でも屋みたいなギャグ漫画」

にちか「そこの武闘派担当の女の子がちょうどホッケーのスティック使いでした」

樹里「もうなんでもありだな……髪染めた方が早いか」

西城さんが乱暴に手放したスティックを私も手に取った。
それなりの硬さ、重さはあるけど凶器となった二つに比べると『それなり』に止まる。
これで人を殴っても直接死には至らないだろうし、形状としてもそれには不向きだ。

にちか「……ん?」

それに、折れ曲がっていることに加えて奇妙な痕跡が残っている。
何か細いものが擦れたような……これは火傷の痕?
表面のメッキ部分が焼け落ちたような跡がついていた。

灯織「これはなんの痕だろう……」

真乃「普通に使ってつく痕跡じゃ、ないよね……」

にちか「犯人が何かに使ったのは間違いなさそうだよ。ちゃんと覚えておこう」

コトダマゲット!【折れ曲がったホッケースティック】
〔体育館の中に落ちていたホッケースティック。中央部分で折れ曲げられており、細いものが擦れてメッキ部分が焼けこげたような痕が残っている〕

---------------------------------------------
【体育館の窓】

灯織「やっぱり……めぐるの才能研究教室から見たのと同じだ。体育館側の窓も開けられてるね」

灯織ちゃんの指摘通り。
私たちの背丈の倍ほどの高さに取り付けられている窓は、開放されていた。

にちか「ほんとだ……けど、どうなんだろう。これぐらい普通にありそうなことな気もするけど」

真乃「昨日、体育館の設備の確認や準備をしてくれてたのは……」

甘奈「夏葉ちゃんだね。遅くまで残って夜のアナウンスギリギリまで準備してくれてたはずだよ」

灯織「夜のアナウンスギリギリ?」

甘奈「ああ、体育館も食堂と同じで夜時間は封鎖されるから______」

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「夜の体育館はやばいんだよ! すっごく怖くて……奴が出るんだ!」

モノスケ「インターハイ出場も期待されとったのに、その直前になって大怪我してもうて諦めざる得なくなったバスケ部員の怨霊」

モノファニー「夜な夜な彼女が得点板をめくっているとかいないとか……」

灯織「あ、引退後の行動を繰り返してるんだ……」


モノダム「夜ニスポーツヲスルノハ危ナイカラネ。自然光がガ沢山入ル中デスポーツハヤロウネ」

(夜時間に侵入できなかった体育館……)

(ってことは窓が開けられたのはその前か後ってことになる……)

にちか「甘奈ちゃん、私より先に体育館に今朝は集まってたけど一番早く来てたのは誰かわかる?」

甘奈「一番早く来てた子……? うーん……樹里ちゃんかな? でも恋鐘ちゃんも早く来て、その痕食堂に戻ったりあったし……」

真乃「うーん……入れ替わりが激しかったから最初に誰が来たのかは分からないね……」

(最初に来た人はわからない……けど、入れ替わりがそれだけ激しかったのなら窓を開けるタイミングもあったってことになる)

灯織「それよりにちか、窓を調べるんだったらこの脚立を使う?」

にちか「あ、ありがとう灯織ちゃん。その梯子、使わせてもらうね!」

灯織「……梯子? これは自立して使うから脚立だよ?」

にちか「どっちも手足をかける道具でしょ? 使用用途に違いはないんだしどっちでもいいって」

にちか「もっと本質を見ようよ、灯織ちゃん」

灯織「……」

灯織ちゃんに用意してもらった梯子によじ登って窓を見た。

にちか「……やっぱり」

この窓からは才能研究教室の窓は見上げるような位置関係にあり、そして、この窓のフレームにも同様に細く固い何かが擦れた痕が残っている。
犯人が二つの窓を使って何かをしたのはもはや間違いないんだ。

コトダマゲット!【体育館の窓】
〔才能研究教室の窓を見上げるような位置にある体育館の窓は事件前後で開けられていた。体育館は夜時間の間は封鎖されるため、開くにはその前後に立ち入る必要がある〕

---------------------------------------------
【プール】

才能研究教室と体育館をつなぐ間の空間。
体育祭ではプールで泳ぐ活動を取り入れるつもりはなかったけど、まさかこんな捜査目的で足を踏み入れることになるとも思ってはいなかったな。

真乃「灯織ちゃん、にちかちゃん! あれ……!」

にちか「うん……やっぱり二つの窓がこのプールの下から見渡されるね。何かを掴む手がかりがこのプールにもきっとあるはずだよ」

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「キ、キサマラ何考えてるの!? こんな時に!?」

にちか「……は、はぁ?」

モノファニー「捜査の時間は貴重なのよ、青春のスイミングに当てるには惜しいと思わない?」

真乃「べ、別に泳ぎに来たわけじゃないですよ……っ!」

モノスケ「なんや違うんかい……カメラを持ってきて損したで。せっかくボロ儲けのチャンスやと思うたんやけどな」

モノダム「……」

(最悪の動機でモノクマーズたちがやってきた……けどちょうどいい。モノクマーズに聞いておきたいこともあったからね)

(逃げないうちに聞いておくべきことは聞いておこう)

---------------------------------------------
【ワイヤー】

プールサイドに落ちている金属製の長いヒモ。
コースを仕切るために使うブイの類かと思ったけど、よく見ると違う。
浮かび上がる目的のものにしては、金属質だし、手で触れた時にうっかり肌を切ってしまいそうなざらざらとした感触があった。

灯織「これは……ワイヤーだね。しかもかなり頑丈なもの」

モノタロウ「あっ、これってワイヤーだったんだ! でっかいでっかいハリガネムシなのかと思っちゃった!」

モノファニー「やだ……巨大なカマキリの腹からウニョウニョ出てくるの想像しちゃったじゃない……グロいわ……」

真乃「でも、なんでプールにワイヤーなんかがあるのかな……金属製だし、錆びちゃったら良くないと思うけど……」

(確かにそうだ……剥き出しのワイヤーがこんなところにあるのは違和感しかない)

(何かの都合で、誰かに持ち込まれたものと考えるのが自然なんじゃないかな……?)

コトダマゲット!【ワイヤー】
〔プールサイドに落ちていたワイヤー。もともとプールの設備だったものではなく、どこかから持ち込まれたモノだと思われる。丈夫でかなり長い〕

---------------------------------------------
【ワイヤー】

プールサイドに落ちている金属製の長いヒモ。
コースを仕切るために使うブイの類かと思ったけど、よく見ると違う。
浮かび上がる目的のものにしては、金属質だし、手で触れた時にうっかり肌を切ってしまいそうなざらざらとした感触があった。

灯織「これは……ワイヤーだね。しかもかなり頑丈なもの」

モノタロウ「あっ、これってワイヤーだったんだ! でっかいでっかいハリガネムシなのかと思っちゃったわ!」

モノファニー「やだ……巨大なカマキリの腹からウニョウニョ出てくるの想像しちゃったじゃない……グロいわ……」

真乃「でも、なんでプールにワイヤーなんかがあるのかな……金属製だし、錆びちゃったら良くないと思うけど……」

(確かにそうだ……剥き出しのワイヤーがこんなところにあるのは違和感しかない)

(何かの都合で、誰かに持ち込まれたものと考えるのが自然なんじゃないかな……?)

コトダマゲット!【ワイヤー】
〔プールサイドに落ちていたワイヤー。もともとプールの設備だったものではなく、どこかから持ち込まれたモノだと思われる。丈夫でかなり長い〕

---------------------------------------------
【プールの利用規則】

私は改めてプールの壁に取り付けられた看板をじっくりと見直した。

『プールを使う時のルール!
①プールで泳ぐ時は水着に着替えてからにしてください
②夜時間のプールの利用は禁止です。敷地内に入ることは可能です。
③入念にストレッチをした上で泳ぐごと!』

モノスケ「プールに入る時はちゃんと水着に着替えなあかん! 制服のまま言うフェチの親父もおるけど……やっぱり出すもんは出しとるのが一番や!」

にちか「最悪すぎる……」

真乃「プールで泳ぐってあるけど……ちょっと入るぐらいでもダメなんですか?」

モノダム「ダメダヨ。制服ヲ着タ状態デ水ニ浸カッテイルノヲ感知シタラスグニアラートガ鳴ッチャウネ」

灯織「そうなると、早着替えの達人でもない限り犯行に取り入れるのは難しそうですね……」

にちか「まあ髪を乾かしたりとかもあるし、難しいとは思うかな……」

真乃「体育館と同じで夜時間には使用禁止なんですね」

モノタロウ「ま、まさかこのプールにも悪霊が……?」

モノスケ「かつてオリンピック強化指定選手に選ばれ、将来を期待された競泳選手がおった……」

モノスケ「そんな彼女は競泳記録大会の最中、ある事故を起こしてしまう……」

モノスケ「飛び込みの勢いで水着が捲れてしもうたんやな……」

モノスケ「そのことがショックとなり彼女は競泳を引退。以来誰もいない夜のプールでは、誰かが飛び込む音ばかりが響くと言う……」

にちか「多分その女の子関係ない案件だよね……それ」

モノファニー「プールの中に入ることはできないけれど、プールサイドを歩くとかは問題なくできるわ」

灯織「建物自体が使用禁止になるわけではないんですね」

(夜時間にもこの建物自体は使うことができた……)

(犯人の犯行計画に組み込むことは可能だったんだろうな)

コトダマゲット!【プールの利用規則】
〔『プールを使う時のルール!
①プールで泳ぐ時は水着に着替えてからにしてください
②夜時間のプールの利用は禁止です。敷地内に入ることは可能です。
③入念にストレッチをした上で泳ぐごと!』〕

---------------------------------------------
【モノクマーズに聞き込み】

にちか「ちょうどよかった。あなたたちに聞きたいことがあったんだよね」

モノスケ「な、なんや! ワイらは何も知らんで!」

モノファニー「そうよ! 加担しすぎたら後でお父ちゃんに怒られちゃうんだから!」

モノタロウ「怒られてボコられてモコられるんだよー!」

モノクマーズに聞きたいことというのは、今回の動機のことだ。
事件の数日前各人に配布されたあの動機ビデオ。
明らかに内容と配る相手がチグハグになっていた。
誰のもとに誰が配られたかを明らかにはしなかったけど、実際のところどうなったのか聞いておいた方がいいかもしれない。

にちか「ねえ、モノクマーズ。今回の動機のビデオなんだけど……シャッフルして配られていたけど、あなたたちはどれが誰に配られたのか把握してるの?」

モノスケ「あ、あ、当たり前やろ! せやないと何のために配ったのかもわからんやんけ!」


にちか「じゃあ私の元に配ったのは?」

モノスケ「……」

(どうやら、モノクマーズも誰にどれを配ったのかは把握してないみたいだね)

真乃「動機ビデオは全員に行き届くことは行き届いたんですよね?」

モノファニー「ええ、それは間違いないわ。用意していた分のビデオは全部なくなっていたし、一人に一つずつちゃんと用意したはずよ」

灯織「……なるほど、その中身を他の人が見ることは?」

モノダム「現状ハキサマラ同士デ見セ合ウ以外ノ方法ハナイヨ」

モノスケ「なぁ、堪忍や……またその話題になるとお父ちゃんの機嫌が悪くなってまうんや」

モノスケ「もうワイのお尻は限界なんや! 頼むで!」

【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】

よほど失態を触れられたくないらしく、モノクマーズは話題に出すや否やすぐにその姿を消してしまった。
今回の事件のきっかけとなったのもほぼ間違いなく奴らの用意した動機なはずだ。
その動機について、誰のものが誰に渡っていたのかわかれば大きく一歩進みそうな気がしたんだけど……流石にそううまくはいかないか。

---------------------------------------------
【AVルーム】

地下の中でも奥まったところにあるこの部屋に灯織ちゃんと甜花さんの二人は閉じ込められていた。
すでにかなり体力を消耗していた様子だったし、愛依さんが見つけてくれなかったら危なかったところだろうと思う。

にちか「灯織ちゃんはこの部屋にいつ来たの?」

灯織「いや……私が自分でここに来たんじゃなくて、呼び出しを受けたのはもともと図書室だったんだよね」

真乃「ほわっ……お隣の部屋なの?」

灯織「うん、図書室に明け方に呼び出しを受けて」

にちか「そ、そんな早い時間に一人で出向いたの……?!」

灯織「うん……呼び出された内容が内容だったから。『隠し部屋に入るカードキーを見つけた』……これって黒幕に繋がる大きな手がかりだと思ったから」

にちか「でも、実際はそんなことはなかった……」

灯織「うん、いつのまにか後ろに立っていた犯人に襲われて、そのまま意識を失っちゃったんだ」

(そして私たちが発見するまで拘束状態だった……か)

あの時の拘束について、愛依さんと甜花さんとも話をすり合わせておく必要はありそうだな。

---------------------------------------------
【愛依と甜花に聞き込み】

にちか「あの、お二人とも今いいです?」

愛依「うん、オッケー! 何でもじゃんじゃん聞いて!」

甜花「な、七草さん……さっきはどうも……」

灯織ちゃんと甜花さんを最初に見つけたのは愛依さんだ。その呼びかけに最初に答えた私が部屋に到着して、二人の拘束を解いた。
そうしているうちに何人か集まってきたんだったかな。

にちか「愛依さんが発見した時のことを聞かせてもらってもいいですか?」

愛依「うん……まず、うちが丁度地下に降りたタイミングでガララララ……パタンって【扉が閉じる音】が聞こえてきたの」

灯織「音……ですか?」

真乃「灯織ちゃんは聞いてなかったの?」

甜花「甜花も風野さんも耳栓をさせられてたから、何も聞くことはできなかったんだ……」


愛依「だから誰かいんのかなって思ってゲームルームを覗いたの」

愛依「ほら、図書室はどっちの扉も引き戸だけど、ゲームルームはスライドドアだからさ」

にちか「なるほど……」

愛依「でも、ゲームルームには誰もいなくて……で、よく見たらAVルームの扉もスライドドアだったんだよね!」

愛依「だから誰かが逃げ込んだのかなと思って急いでAVルームを覗いたわけ!」

愛依「したら二人が縛られてたからヤバい焦ったよね! スグに大きな声をだしてにちかちゃん呼んでさ〜!」

(それじゃああれは愛依さんが地下に降りてスグのことだったのか……)

真乃「二人はどんな状態で縛られてたんですか?」

愛依「手と足の首を縛られて……目隠しと耳栓、それになんつーのかな、タルカツラ……?」

灯織「……猿轡をかまされてたの」

つまり、二人はずっと五感が封じられた状態だったわけだ。
実際二人ともめぐるちゃんの死体発見アナウンスのことは知らなかったみたいだし、
私が解いた限りでも拘束されている本人一人でどうにかできる代物じゃなかった。


愛依「二人ともあれから大丈夫? 体に何かエイキョーとか出てたり……」

甜花「う、うん……大丈夫。なーちゃんにはかなり心配されたけど……」

灯織「私も今は大丈夫です。気絶した時はご迷惑をおかけしました……」

愛依「ううん、気にしないで! 今が元気なら全然オッケーだから!」

二人の様子にも怪しいところはない……
けど、この二人とめぐるちゃん、夏葉さんの命を奪われた二人との違いは一体何なんだろう。
どうしてこの二人は……標的にはならなかったのかな。

にちか「……」

_____考えすぎ、なのかな。

コトダマゲット!【灯織と甜花の拘束】
〔灯織と甜花はAVルームで目隠しに耳栓、猿轡までされた上で手足を拘束されていた。捕まっている本人でどうにかできるような拘束ではない、入念なモノだった〕

---------------------------------------------
【裏口の扉】

AVルームには二つの入り口がある。
前回の裁判でもそれが争点となって、私はこの扉の立て付けの悪さの苦渋を飲むことになったんだけど……

にちか「あれ?」

今度はその扉がすんなりと開いた。
しゃがんで見てみると、埃の溜まっていたであろうレーンは見違えるほどに綺麗に掃除がされていて、油を刺されたような跡も垣間見えた。

愛依「あ、その裏口はこの前凛世ちゃんが直してるの見たよ〜?」

にちか「杜野さんが?」

愛依「裁判の終わった次の日だったっけな? 頻繁に出入りする部屋で、壊れたままなのも都合が悪いだろうから……って」

愛依「すごい気が効くよね、気遣いの鬼ってカンジ〜!」

私は普段地下室に近づくことがなかったから全然気づいていなかったけど……みんなは知っていたのかな。
少なくとも、前回の事件では使えなかった扉が今回の事件では使えるようになっていたという事実は覚えておいた方がいいのかも。

コトダマゲット!【AVルーム裏口の扉】
〔AVルームの裏口の扉は前回の裁判の後に凛世が修理をして使えるようにしたらしい。今もスライド式のドアは自由に使える状態である〕

---------------------------------------------

【キーンコーンカーンコーン……】

『はい、お時間になりました。ヌルヌルテカテカ隅々まで捜査じっくりコースは以上になります』

『ご延長なさりますか? 追加料金が発生いたしますが……以上で? はい、了解しました』

『本日は当モノクマラバーズクラブ、クマ娘をご利用いただきありがとうございました! こちら次回使えるクーポン券になりますのでぜひお使いくださいね』

『それではお客様、中庭の赤い扉裁きの祠にてご退店の方よろしくお願いします』

『また次回、ハチミツまみれコースで待ってます♡』

プツン

……時間が来たみたいだ。
今回の裁判に私は初めてシロとして挑む。
この裁判でクロを見つけられないと、終わる。
仲間たちと一緒に死んでしまう。
その初めての緊張感を感じて、さすがに背筋がいつもより伸びた。


灯織「にちか、大丈夫だよ。私たちがついてる」

にちか「灯織ちゃん……」

真乃「頑張ろうね、にちかちゃん……っ!」

にちか「真乃ちゃん……」

でも私は一人じゃない。
共に戦う仲間がいる。
前回の裁判と大きく違うのは、そこだ。
一緒にいたいと思える仲間と同じ目的に向かって、戦うことができる。
これだけでどれほど心強いことか。

にちか「うん、絶対に……生きて帰ろう」

私たちは揃って、その第一歩を踏み出した。

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【中庭 裁きの祠】

中庭にはすでに私たちを待ち受けている他の人たちの姿があった。
不安げな表情を浮かべる人、まだ困惑の中にいる人、そして好戦的な笑みを浮かべ昂る人。
この裁判に挑む姿勢はまちまちだ。
でも、目的は同じ。全員が、この裁判から生きて戻ることを目指してここに集っている。

あさひ「あ、にちかちゃん! どうっすか? 犯人は分かったっすか?」

にちか「……それはこれから先の裁判で明らかにすることでしょ」

あさひ「あはは、そうっすね。まあにちかちゃんがこのゲームに協力的でよかったっす」

あさひ「いっしょにゲームを楽しんでくれる人がいないと、どんなに面白いゲームでも退屈っすから」

愛依「……あさひちゃん」

樹里「おい、それより透と円香はまだなのかよ。アナウンス鳴ってからもう結構経ってるぞ?」

甜花「あ、そういえば……来てない……」

甘奈「捜査中も円香ちゃんは自分の才能研究教室の前にいたと思うけど……」

しばらく私たちが二人の噂をしていると、祠の扉が開いた。
モノクマーズに背中を強引に押されながら、渋々といった感じで二人の重役出勤だ。


モノタロウ「もう! 学級裁判に参加しないとおしおきされちゃうんだよ!? 困るのはキサマラなんだよ?!」

透「お、ついたついた。ご苦労」

モノスケ「ご苦労やあらへんねん! ワイらはキサマラのホームヘルパーさんとちゃうねんぞ!」

円香「次は椅子に乗せて運んでくれると助かる」

モノスケ「そんなん神輿やないねんから!」

凛世「お二人とも……今の今まで、樋口さんの才能研究教室に……?」

透「や、うちは捜査してたよ。ちゃんと」

円香「来る途中に浅倉から話は聞いてます。大丈夫、裁判自体は真面目に参加するので」

恋鐘「そいならよか! な〜んも知らんと裁判に参加しても、訳わからんっちゃんね! 前回のうちみたいに!」

樹里「恋鐘……アンタ前回の裁判勘で参加してたのか……」

そして私たちが揃ったタイミングを見越したかのように、石像が動き出した。
手に持っていた水瓶を砕くと、そのまま噴水の中に姿が消え、滝が割れてエレベーターが姿を現す。

モノファニー「ほら、キサマラは裁判場に急ぎなさい! お父ちゃんはとっくに待ちくたびれてるわよ!」

モノダム「キサマラ、頑張ッテネ」

モノクマーズに促されるままに私たちはエレベーターへと乗り込んでいく。
そして全員が乗り込むと、ガコンと音を立ててから、下降が始まった。



霧子「なんだか……寂しくなっちゃったね……」

前回の裁判の時にエレベーターに乗り込んだのはルカさんを除いた15人。それが更にめぐるちゃんと夏葉さんの分も抜けた13人となった。
人数が減るとそれだけ空間が広くなる。
元は誰かがいた空間、そこに漂う残香のようなものが、どことなく切なく胸を刺した。

あさひ「でも、帰る頃には更にもう一人減るっすよ?」

あさひ「いや、もしかしたら二人……かもしれないっすけど」

認めたくはないが芹沢さんの言うとおりだ。
私たちがこの切なさを感じているのは生き延びているからに他ならず、そしてまた生き延びるためには更なる犠牲を出さねばならない。
今こうして感じている寂しさは、まだその前段階に過ぎないと言うことを戒めるような芹沢さんの言葉に、誰も口を挟み込みはしなかった。

みんな、覚悟を決めている最中だった。
これから自分たちは仲間のうちの『誰か』を切り捨てることになる。

その『誰か』にどうやって向き合うのか。
その『誰か』にどんな言葉をぶつけるのか。
その『誰か』にどんな想いを抱くのか。
自分がどんな反応を抱くことになるのかもわからないままに、そんな曖昧な覚悟だけを必死に抱こうとしていた。


チーン!


でも、そんな覚悟が定まるほどの時間もないままに、エレベーターは目的地へと辿り着いてしまう。



モノクマ「おっせ! おせおせおせおせ! おっせーの!」

モノクマ「何をぐだぐだやってんのさ! こちとら学級裁判がやりたくてやりたくて……待ち遠しくて待ち遠しくて……」

モノクマ「千羽鶴を着払いで児童病院に送りつけちゃったよ!」

モノタロウ「うわー! SNSで本格的な炎上をしちゃうよ!」

モノファニー「厚意の押し付けと顰蹙を買う一方で拒絶しない病院サイドにも問題があると議論になってより炎上が加速するインターネット永遠の沸騰の話題になってしまうわ!」

樹里「なあ、みんな。裁判が始まる前にこれだけ、言っておきたいんだけど……いいか?」

凛世「樹里さん……?」

樹里「さっきあさひの言ってた通り、アタシたちはこの裁判でも仲間のうちの誰かを確実に犠牲にすることになる」

樹里「でも、だからって……怖がって進むのを辞めちゃダメだ。どれだけ残酷な結末が待ってても、どれだけ認めたくない真実が待ってても」

樹里「その先にしか、私たちが生き残る未来はなんだからな」


あさひ「そうっすよ、みんなが諦めちゃったらゲームに勝てなくなるっす」

あさひ「ちゃんとゲームに勝ちたいなら、最後まで頑張るっすよ!」

愛依「うん……そーだよね! やっぱそうだよね! うち……なんか震えてたけど、今の樹里ちゃんの言葉聞いていけそう!」

甘奈「甘奈も……勇気をもらえた!」

霧子「とくんとくんって……鼓動が早くなって……」

恋鐘「やる気十分ばい〜〜〜〜〜!!」

私たちは西城さんの発破を受けて、すぐにそれぞれの席へとついた。
あの西城さんの言葉は、きっと夏葉さんが私たちに見せ続けていた姿に基づくものだったんだろうと思う。


超研究生級の文武両道、有栖川夏葉さん。
ルカさん亡き後に私たちを引っ張り続けてくれていたリーダー格の人物で、
その勇敢に真実に向き合い続け、仲間を鼓舞しようとする姿には何度も力をもらっていた。


そして超研究生級のスポタレ、八宮めぐるちゃん。
彼女には私は大切なものをいくつももらったし、今こうしてこの場に立つための力をくれたのも彼女だ。
返し尽くせないぐらいの恩をもらっていたところに、その恩を返す機会をとりあげられた。


私たちを照らし続けた太陽のような二人を殺した人間が、私たちの中に……いる。
それは何者なのか、その人物が何を腹に抱えているのか。
まだ全ては闇の中にある。
真実への道筋はまだ見えないし、そこにどんな障害が待ち受けているのかもわからない。
でも、そうだとしても私たちは遮二無二に進み続けることしかできない。
寸分先も見えない真っ暗闇の中を突き進んで突き進んだ先にしか、真実は待っていないのだから。

やるしか、ないんだ。







____私たちが生きて帰る、その運命を切り開くために。






2章非日常編までを早足ですが進めさせていただきました。
ここからの学級裁判パートでは、出来る限りこれまで通り安価での進行をしたいと考えていますので、よろしければ参加をご検討ください。
交流パートカットに伴うスキル入手機会の喪失もあるので、コンマなどは緩和もしくは廃止となると思います。

学級裁判パートの開始は9/6(水)の21:00~を予定しております。
よろしくお願いします。

更新ありがとうございます。
大好きなシリーズなので、ゆっくりでもいいので続けてくれると嬉しいです!

>>814
ありがとうございます。大変励みになります! 
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コトダマ
‣【モノクマファイル2】
〔被害者となったのは超研究生級のスポタレ、八宮めぐる。死亡推定時刻は午前8時前後。死因となったのは前頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない〕

‣【モノクマファイル3】
〔被害者となったのは超研究生級の文武両道、有栖川夏葉。死亡推定時刻は午前8時30分前後。死因となったのは後頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない〕

‣【事件の経緯】
〔めぐると夏葉の死体を発見するまでの経緯は以下の通り。
①体育館に集まった真乃、恋鐘、霧子、樹里、凛世、甘奈、あさひ、愛依、にちかが異常に気づく。
真乃、にちか、甘奈が3階の才能研究教室、恋鐘、凛世が1階の食堂、樹里が寄宿舎の捜索を担当。
②3階の才能研究教室にてめぐるの死体を発見。残る行方不明の灯織、甜花、夏葉の捜索を開始。
あさひと円香で3階、透と恋鐘で2階、真乃とにちかと樹里と甘奈で1階、愛依で地下を探索。
③愛依が地下で灯織と甜花を発見。
残る夏葉の捜索に真乃とにちかと甜花が行動開始。
真乃とにちかが中庭、甜花が裏庭を担当。
④裏庭で甜花が夏葉の死体を発見〕


‣【夏葉の割れた指の爪】
〔夏葉の死体の手指の爪は割れていた。あさひ曰く、爪からは鉄の匂いがするらしく、鉄製のものを引っ掻いて割れたのではないかと推測できる〕

‣【二人を殺害した凶器】
〔めぐるを殺害したのは才能研究教室の金属バットで、夏葉を殺害したのは裏庭の鉄パイプでそれぞれ命を奪った凶器が異なる。犯人は現場にあったものを使って犯行を行ったようだ〕

‣【気化麻酔】
〔夏葉とめぐるの死体発見現場には医療用気化麻酔が充満していた。監禁状態にあった二人が意識を取り戻すことは困難だったと思われる〕

‣【現場に落ちていたハンカチ】
〔裏庭の隅に落ちていたハンカチ。今日になって既に使われた痕跡がある。落とし主は不明〕

‣【死体発見アナウンス】
〔殺害犯であるクロ以外のシロの生徒3人以上が死体を発見した際に、現場を周知するために鳴らされるアナウンス。その条件については既にモノクマーズに尋ねた生徒がいるらしい〕

‣【にちかの打ち身】
〔昨晩の体育祭の準備の際にうっかり真乃とにちかがぶつかったことでにちかは右腕に打ち身を負ってしまっている。そのせいで準備は昨晩中断され、今朝にスポーツ用品の搬入がもつれ込んだ〕

‣【シャワールームの窓】
〔めぐるの殺害現場である才能研究教室奥のシャワールームの窓は死体発見当時から開け放たれていた〕

‣【シャワールームの窓のフレーム】
〔めぐるの殺害現場となった才能研究教室奥のシャワールームの窓のフレームには細くて固いものをくくり付けたような擦れた痕跡が残っていた〕


‣【円香の証言】
〔円香と透は部屋が解禁されて以来、ずっと3階の超研究生級のコメンテーターの部屋に誰も入らないように監視をしている。しかし、事件の起きた当日の朝6時は透が直接寄宿舎に行って交代をしてしまったため、僅かに誰もいない瞬間があった〕

‣【折れ曲がったホッケースティック】
〔体育館の中に落ちていたホッケースティック。中央部分で折れ曲げられており、細いものが擦れてメッキ部分が焼けこげたような痕が残っている〕

‣【体育館の窓】
〔才能研究教室の窓を見上げるような位置にある体育館の窓は事件前後で開けられていた。体育館は夜時間の間は封鎖されるため、開くにはその前後に立ち入る必要がある〕

‣【ワイヤー】
〔プールサイドに落ちていたワイヤー。もともとプールの設備だったものではなく、どこかから持ち込まれたモノだと思われる。丈夫でかなり長い〕

‣【プールの利用規則】
〔『プールを使う時のルール!
①プールで泳ぐ時は水着に着替えてからにしてください
②夜時間のプールの利用は禁止です。敷地内に入ることは可能です。
③入念にストレッチをした上で泳ぐごと!』〕

‣【灯織と甜花の拘束】
〔灯織と甜花はAVルームで目隠しに耳栓、猿轡までされた上で手足を拘束されていた。捕まっている本人でどうにかできるような拘束ではない、入念なモノだった〕

‣【AVルーム裏口の扉】
〔AVルームの裏口の扉は前回の裁判の後に凛世が修理をして使えるようにしたらしい。今もスライド式のドアは自由に使える状態である〕

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【学級裁判 開廷!】




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モノクマ「これより学級裁判のルールの説明をいたします」

モノクマ「学級裁判では殺人の実行犯であるクロとそれ以外のシロとに分かれて、オマエラの中に潜むクロは誰か?を話し合ってもらいます」

モノクマ「無事クロの生徒を指摘できればクロだけがおしおき。もし間違った生徒をクロとしてしまった場合には……」

モノクマ「それ以外のシロ全員がおしおきになって、全員を欺いたクロはこの学園から卒業となります!」

モノクマ「ちなみに今回は被害者が二人いるわけだけど……この学級裁判の中でその両方のクロを推理してもらうからね!」

モノクマ「死体が先に見つかった方だけとかそういう死者の尊厳を軽んじるローカルルールとかは良くないんだからね!」

樹里「前回以上にしんどい戦いになるな……一回の学級裁判で両方のクロを当てなくちゃならねーなんてな……」

愛依「ねえ、それなんだけどさ……」

愛依「今回の事件ってクロはそれぞれ別なの?」

愛依「事件が起きたのって両方今日の朝の話だしさ……うちには同一犯に見えるんだけど」

甘奈「今回の事件は甘奈たちの目の前で連続して起こったんだもんね……」

甘奈「直接的に犯人を見ていたわけじゃないけど……一人のクロが暗躍してたみたいな印象を受けるよ」

凛世「では、今回の議論はその点から話し合うことといたしましょう……」

凛世「めぐるさんと夏葉さん……二人を殺めたクロはただの一人だったのか」

凛世「それとも複数人のクロによる別々の事件だったのか……」

(今回の事件が連続殺人だったのかどうか……)

(判断が難しいところだけど……二つの事件において唯一はっきりしている違いがあったはずだよね)

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【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【モノクマファイル3】
‣【にちかの打ち身】
‣【折れ曲がったホッケースティック】
‣【二人を殺害した凶器】

恋鐘「今回の裁判は被害者が二人ばい!」

恋鐘「めぐるに夏葉……」

恋鐘「どっちも頭をごちーんと【殴られて死んどった】ばい!」

甜花「死亡推定時刻は八宮さんが朝8時……」

甜花「有栖川さんが朝8時半……」

甜花「先に八宮さんの方が襲われた、みたい……?」

愛依「やっぱ【単独犯】による連続殺人なんじゃん?」

愛依「どっちも撲殺されて死んでるし」

愛依「【凶器だっておんなじ】じゃん?!」

愛依「一人のクロが二人を殺して回ったんだよ!」

樹里「白昼堂々二人を殺して回るだなんて」

樹里「随分肝が据わった犯人もいたもんだぜ!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「確かにこの事件は私たちの目の前でリアルタイムに二人の命が奪われました……」

にちか「同一犯の事件のようにも見えるんですが……二つの事件には明確な違いがあったはずです!」

愛依「え……そうなん?」

にちか「二人の命を奪った凶器ですよ! めぐるちゃんを殺したのは彼女の才能研究教室にあった金属バット!」

にちか「その一方で有栖川さんを殺したのは裏庭にあった鉄パイプの廃材なんです」

にちか「犯人はその場その場で現場にあったモノで殺害をしたことになるんです!」

灯織「もちろんこれは同一犯の犯行を否定するものではないですが……わざわざ凶器を使い分けたことには何か理由があるのかもしれません」

灯織「二つの事件を同一に見てしまうのは何か見落としが生じるリスクがあるかもしれない。にちかが言いたいのはそういうことだと思います」

(おっ、灯織ちゃんナイスサポート!)

甘奈「そっか……それじゃあ二つの事件について、一つ一つ丁寧に見て行ったほうがいいかもしれないね☆」

円香「それなら時系列順に辿って考えるのが良さそうですね」

円香「私と浅倉のように、その場にいなかった人間にとって情報の整理にもなりますから」

透「おなしゃーす」

甜花「そうだね……! 甜花もそうしてくれたら、嬉しい……!」

樹里「つーと、まずはめぐるの事件からだな」

樹里「そんじゃあアタシたちが知ってる情報を整理するところから始めるぞ! 準備はいいな?」

霧子「うん……お願いします……」

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【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【モノクマファイル2】
‣【体育館の窓】
‣【灯織と甜花の拘束】
‣【夏葉の割れた指の爪】

真乃「めぐるちゃんは自分の才能研究教室で亡くなっていました……」

真乃「めぐるちゃんは体育祭の立案者の一人で、準備も精力的だったので……」

真乃「その【最中に襲われた】んだと思います……っ!」

恋鐘「体育祭の準備は昨日から始まっとったばい!」

恋鐘「うちもお弁当を昨日のうちにいっぱいつくっとったけんね!」

恋鐘「振る舞う機会がなくなってしまって残念ばい……」

霧子「めぐるちゃんは【その前の日にも準備をしてた】んだよね……」

霧子「働き者のアリさんみたいだね……」

樹里「めぐるは昨日の【夜時間の準備中に】ぶん殴られたってわけか……」

樹里「めぐるが準備をしてたのはみんな知ってるし……」

樹里「アリバイから絞り込むのは難しいかもしれねーな」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1

上記コトダマにないため再安価↓1


にちか「それは違くないですかー?!」

【BREAK!】

にちか「ちょっと待ってください! めぐるちゃんは夜中にも準備をしてたみたいですけど……死亡したのは夜の話じゃないですよ!」

にちか「モノクマファイルにはっきりと死亡推定時刻は書いてあります! 今日の朝、アナウンスとほぼ同時刻に撲殺されたんです!」

樹里「え? ああ……そうか、そうだったな。悪い、間違えちまった」

真乃「めぐるちゃんは私とにちかちゃんと3人で昨晩も夜時間まで準備をしてたんですけど……」

真乃「準備が間に合わなくて、それで朝早くにめぐるちゃんが先に一人で行って準備をしてくれたみたいなんです」

恋鐘「そん時に殴られて殺されたってことやね。めぐるの厚意を利用して、狡猾か犯人たい」

霧子「めぐるちゃんの頭から流れてた血もまだ乾いてなくて新しかったから……」

霧子「私たちが発見するすぐ前に死んじゃったのは間違いないと思います……」

あさひ「ふーん……それならだいぶ犯人は簡単に絞れそうっすね」

愛依「え? そ、そーなん!?」


あさひ「だって、その時間には多くの人にアリバイがあるじゃないっすか」

あさひ「犯人は円香ちゃんか透ちゃん、この二人になるっすね」

円香「……は?」

透「おー」

樹里「……おいおい!? 結論が早すぎねーか?」

あさひ「でもそうじゃないっすか? 体育館にあの時集まっていた9人に殺害はできない」

あさひ「そして灯織ちゃんと甜花ちゃんはAVルームに監禁されていて自由が効かない」

あさひ「ほら、残るのは円香ちゃんと透ちゃんの二人しかいないっす!」

(……確かにアリバイの上ではそうなる)

(だけど、それだけの単純な話なのかな?)

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【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【事件の経緯】
‣【現場に落ちていたハンカチ】
‣【シャワールームの窓】
‣【円香の証言】

あさひ「今回の犯人は透ちゃんか円香ちゃん!」

あさひ「このどっちかっすよ〜!」

愛依「他のみんなには【アリバイがある】もんね……」

愛依「みんな体育館に揃ってた系!」

甜花「風野さんと甜花は【捕まってて動けなかった】し……」

甜花「自由に動けたのは、その二人だけ……?」

恋鐘「殺害方法も撲殺ときとる!」

恋鐘「現場におらんと不可能な方法やけんね!」

円香「違う……私は【自分の才能研究教室の前にいた】だけ」

円香「そこからは一歩も動いてない……!」

甘奈「円香ちゃんのその証言も本当なのかな?」

甘奈「同じ階にいたんだもん、自分が犯人じゃないって主張するなら」

甘奈「怪しい人物を見たって普通【証言するはず】だよね?」

真乃「それがないってことは……!」

円香「……」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違わないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「待って、甘奈ちゃん! 確かに樋口さんの才能研究教室は今回の事件現場と同じ階にあるけど……だからって不審な人物を目撃した証言をしていない樋口さんが怪しい道理にはならないよ!」

甘奈「え? どうして?円香ちゃんが犯人じゃないなら、怪しい人物を目撃するはずだよね?」

にちか「3階の地図を思い出してみてよ。3階の中でも二人の才能研究教室は玄関ホールを挟んでそれぞれ別の島にあるんだ」

にちか「樋口さんが自分の才能研究教室の前にいたとして、めぐるちゃんの才能研究教室の方が見えていなかったとしてもなんの不自然もないんだよ」

凛世「更に事件が起きたのは今朝の未明……学園内も自然光ではまだ薄明かりの時間にございます……」

樹里「見落としがあったとしてもおかしくはねーってことか……」

樹里「いや、だとしても……アリバイの件は無視できねーだろ。実際事実として円香と透の二人だけがアリバイがないんだからな」

甜花「体育祭に参加してればこうはならなかったのにね……!」

円香「……」ジト…

甜花「ひぃん……」


恋鐘「とにかく二人が犯人の最有力容疑者なのは間違いなかよ! うちは二人に証言ば要求するばい!」

透「あー、反論。やんなきゃダメっぽいな」

透「いける? 樋口」

円香「……まあ」

あさひ「よーし、それじゃあ二人には自分が犯人じゃないって主張してもらうっすよ!」

あさひ「にちかちゃん、どっちが本当のことを言ってるかちゃんと聞き分けてほしいっす!」

あさひ「この二人のどっちかが犯人なんっすからね!」

(……芹沢さんの言動なんか気になるな)

(やたらとこの二人が犯人って念押ししてくるけど……この子は本気でそう思ってる?)

真乃「にちかちゃん、落ち着いて二人の言葉を聞いてね……!」

灯織「大丈夫、私たちもついてるから」

にちか「二人とも……ありがとう! 頑張ってみる!」


円香『……』
透『反論、反論かぁ』

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【パニック議論開始!】

コトダマ
‣【事件の経緯】
‣【円香の証言】
‣【ワイヤー】
‣【シャワールームの窓】

円香「とにかく私は才能研究教室から動いていないんです」
透「事件があったのって朝のアナウンスの時だっけ」

円香「朝のアナウンスを聞いたのも、才能研究教室の前」
透「そん時……そん時……」

円香「死体発見アナウンスが聞こえてくるまで怪しい人影も物音も私は【聞いていません】よ」
透「商店街。あそこをお相撲さんの肩に乗って歩いてた」

樹里「1階から3階まで行くルートは【一つだけ】だったよな?」
恋鐘「ふぇ????」

樹里「でもにちかたちが朝の放送から死体を発見するまでの道中は不審な人物に誰にも出会していない」
透「お相撲さんめっちゃ肩でかいの。5メートルぐらいあってさ」

樹里「逃げるとしたら【円香の才能研究教室の方向しかない】と思うけどな」
透「びびったね。四股踏んだらビルもぶっ壊れてた」

円香「さあ? 私はそんな人影は見ていません」
恋鐘「こ、これ何の話〜〜〜???」

円香「そして、私は犯人でないとも口添えておきます」
透「あ、ごめん。その時間【寝てた】から」

円香「そして、浅倉も無実です」
透「夢の話」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「壁に耳あり障子に目ありです!」

【BREAK!】

にちか「真乃ちゃんと甘奈ちゃんと階段を登って、才能研究教室に向かう最中。私たちは誰ともすれ違いませんでした」

甘奈「そうだよね。雑談しながらではあったけど、道は一通りしかないはずだから……」

甘奈「犯人が逃げようとしていたなら、どこかですれ違うはずだと思うけど」

にちか「いや、そうじゃないよ。犯人が逃走に使えたルートは一通りじゃない」

真乃「ほわっ……?!」

にちか「死体発見現場、シャワールームの窓だよ。真乃ちゃんと灯織ちゃんと捜査した時にも確認をしたでしょ?」

にちか「あそこからなら階段を経由しなくても直接一階にまで降りることができたはずだよ!」

樹里「シャ、シャワールームの窓ぉ?!」

恋鐘「あっこの窓は丁度プールと繋がった場所にあったはずやね。確かに逃走経路としてはこれ以上なか!」


霧子「確かに、窓からなら誰とも出会わずに脱出ができるね……」

甜花「壁を隔ててるから、樋口さんに音を聞かれることもない……」

甜花「すごい……スパイのテクニックみたい……!」

あさひ「……」

あさひ「でも、これって別に円香ちゃんのアリバイを証明することにはならないっすよね?」

にちか「いや、そうとも限らないんじゃないかなー?」

にちか「もし、ここから犯人が脱出したんだと確定させることができたなら、犯人は私たちが死体を発見した時に一階相当の高さにいたことになるよね?」

にちか「そしたら死体発見からすぐにやってきた樋口さんは物理的に、時間的に無理って話にならない?」

円香「……!」

あさひ「へー! なるほど、それは面白いっすね!」

あさひ「それじゃ次はにちかちゃんの言う、窓からの脱出方法について検討するってことなんっすね!」

(……この子、分かった上で楽しんでるな)

(いいよ、乗ってやる。あなたはゲームに勝つためか知らないけど、私たちは生き残るためなんだもん)

(目的のためなら手段は選んでいられない……!)

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【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【事件の経緯】
‣【シャワールームの窓】
‣【プールの利用規則】
‣【二人を殺害した凶器】

あさひ「犯人が窓から逃走したのが本当なら」

あさひ「円香ちゃんは【犯人にはならない】かもしれないっすね!」

甘奈「甘奈たちがめぐるちゃんを発見するまでには」

甘奈「【誰ともすれ違わなかった】よ!」

恋鐘「犯人はシャワールームの窓から」

恋鐘「【プールに向かってダイブ】したばい!」

恋鐘「シャワールームは高いけど、これなら衝撃も分散するけんね!」

愛依「はー、プールがクッションの代わりになったんだ」

愛依「犯人も頭いいね〜、うち全然思いつかんかったわ!」

樹里「犯人に感心してんじゃねーよ!」


【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「いやいや、確かに窓からの脱出を言い出したのは私ですけど……プールに着水はあり得ないですって」

恋鐘「な、なんねにちか! 人がせっかく味方してあがとるのに梯子を外すような真似してせからしか!」

にちか「い、いや……窓から出たこと自体を否定したわけじゃなくですね……?」

にちか「プールに着水するのは不可能なんですよ。あのプールには水着以外で入っちゃいけないって決まりがあるんです」

モノタロウ「ねえねえ、水着以外で入っちゃったらどうなるの?」

モノスケ「そりゃもうどえらいおしおきを受けることになるわな!」

モノスケ「エグイサルにザルを持たせて人間どじょうすくいの罰や!」

モノタロウ「うわ〜! 具体的な実害がいまいちピンとこないよう〜!」


真乃「他にも、プールには夜時間の侵入禁止ってルールもあるみたいです……っ」

樹里「つーか、そもそもあの窓の高さから飛び込んだら流石に水といえど無事じゃ済まねーんじゃねーか?」

凛世「プールの深さは一般的なものと対して変わりませんので……」

凛世「着水の勢いのまま、底にぶつかってしまうやもしれません……」

恋鐘「そいやったら犯人はどがんしてシャワールームから脱出したばい?」

恋鐘「まさか犯人に羽が生えとったわけじゃなかよね?」

甜花「犯人は直前に魔剤を飲んでいた……!」

甜花「翼を、授けられてたんだよ……!」

(犯人があの窓を脱出に使った可能性はかなり高いと思う)

(でも、飛び降りたわけじゃない。もっと安全で確実な方法が確かに存在したはずだ……!)

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【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【事件の経緯】
‣【体育館の窓】
‣【死体発見アナウンス】
‣【AVルーム裏口の扉】

凛世「シャワールームの窓から脱出したとて……」

凛世「プールを使うことは不可能です……」

霧子「そもそも水の上でもあの高さから落ちたら……」

霧子「なかなか無事じゃいられないかな……」

樹里「でも、あの【窓から繋がってるのはプールだけ】だ」

樹里「他のどこに脱出するってんだよ?」

愛依「もしかしてまた≪隠し通路的≫な?!」

愛依「どっかの女子トイレにつながる道があったりして!」

甘奈「ま、また女子トイレなんだ……」

あさひ「プールに制服で入るのは校則違反なんで……」

あさひ「犯人は≪水着だった≫のかもしれないっす!」

あさひ「返り血も洗い流せて一石二鳥っすよ」

甜花「スクール水着の殺人犯……」

甜花「にへへ、どことなく同人ゲームっぽい……」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破か正しい発言に同意しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「灯織ちゃん、あの窓から外を見た時……何が見えたか言ってもらってもいい?」

灯織「え? えっと確か……プール、と……」

灯織「……向かいの体育館の窓?」

円香「それってつまり、体育館とプールを挟んで向かい合っていると言うことですか?」

真乃「はい……! 実はシャワールームの窓と体育館の窓は丁度同じくらいの高さ……ちょっとシャワールームの方が気持ち高めくらいなんです……っ」

にちか「今までの話ではプールしか出てきませんでしたけど、あの窓から届いたのは体育館の窓も同じ!」

にちか「プールに着水することはできずとも、窓から窓に経由して脱出すること自体は可能だったはずです!」


【甜花「その推理はハードモード……!」】反論!


---------------------------------------------


甜花「あ、あれ……おかしいな……甜花が、聞き間違えちゃったのかな……」

甜花「犯人が窓から窓に脱出って言ったので……合ってる……?」

にちか「は、はい……そうですけど……」

甜花「えと……それって変じゃない……?」

甜花「ご、ごめんね……その推理は多分、間違ってると思うから……」

甜花「甜花と対戦……よろしくお願いしましゅ!」
---------------------------------------------
【反論ショーダウン・真打開始!】
コトノハ
‣【シャワールームの窓】
‣【体育館の窓】
‣【ワイヤー】
‣【プールの利用規則】

甜花「事件現場のシャワールーム……」

甜花「その窓は開いてたけど脱出に使うのは難しいんじゃないかな……」

甜花「プールは制服じゃ入れないし……」

甜花「結構窓は高さあるから……」

甜花「スペランカーじゃなくても大怪我しちゃう……!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【発展!】

にちか「確かに高さこそありますけど……」

にちか「犯人には安全に脱出する方法があったはずです!」

にちか「体育館を経由する方法が!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

甜花「それなんだけど、おかしいよね……?」

甜花「だって、シャワールームと体育館の両方の窓の間には」

甜花「結構距離ある……よ?」

甜花「犯人は【その間を飛び越えた】の……?」

甜花「並の運動神経じゃできない……」

甜花「普通の人には不可能じゃない……?」


↓1


にちか「その言葉切っちゃいます!」

【BREAK!】

にちか「窓と窓の間には大きな距離が空いている! だから犯人は脱出には使えない! そう仰いたいわけですね?」

甜花「は、はい……その通りでしゅ……!」

にちか「なら、その間を繋ぐ何かがあれば解決! これを見てください!」

透「うおー、デカ太ワイヤー」

モノクマ「え?! そのワイヤーがなんだって?! 浅倉さん、なんだって?!」

透「デカくて……ぶっといね」

モノクマ「その調子でもう一回行ってみようか!」

透「デカくて……ぶっっっとい」

円香「……」

(……最悪すぎる)


甘奈「人一人を支えられるぐらいには丈夫そうなワイヤーだね」

にちか「ですです、こんだけゴン太なものがあれば、二つの窓を繋ぐことだって出来たと思うんです」

恋鐘「ん〜……? そんワイヤーって体育館に落ちとったもんなんやったよね?」

恋鐘「だったら、あくまでこいは体育館の設備であって……逃走に使うかどうかはまた別の話になるんじゃなか?」

あさひ「にちかちゃん、このワイヤーが犯人の逃走に使われた証拠……残ってないんっすか?」

(犯人がワイヤーを使って逃走した証拠か……)

(それは現場に残されていたあの痕跡のことだ……)

【正しいコトダマを選べ!】

>>815>>817
↓1


にちか「これだー!」

【解!】

にちか「シャワールームの窓のサッシ。その柱の部分に引っ掻き傷みたいなのがついてたんです」

真乃「紐状のものを括り付けたみたいな傷で、このワイヤーなら条件を満たすと思います……っ!」

凛世「他に現場に条件を満たすようなものは見当たりません……」

凛世「ワイヤーを使ったと言うのは納得はできます、しかし……」

愛依「マジな話そのワイヤーでどうやって脱出すんの?」

(……へ?)

樹里「ワイヤーを二つの窓に通すだけじゃ脱出なんてできない。まさか綱渡をしたわけじゃないだろうしな」

恋鐘「万が一にでも落ちたら大怪我をしてしまうばい!」

円香「まさかそんなリスキーな真似をするわけはないでしょうし……ワイヤーは一つの要素に過ぎないのでは?」

円香「何か大掛かりな仕掛けの、舞台装置の一つ」

(大掛かりな仕掛け……か)

(あの二つの窓は少し傾斜がついた位置関係になっている。そこにワイヤーを通したとして……)

(どうやったら二つの窓を移動することができるのかな……?)

---------------------------------------------
【ひらめきアナグラム開始!】


プッンイジラ


【正しい順番に並べ替えろ!】

↓1


にちか「そうか、分かりましたよ!」

【COMPLETE!】

にちか「閃いた、閃いちゃいましたよ! 二つの窓を利用して、移動した方法!」

愛依「ま、マジで?! にちかちゃん、すご! ひらめきの天才じゃん!」

甘奈「教えて! どうやってワイヤーを活用して移動するの?」

にちか「ジップラインですよ!」

樹里「ジップ……な、なんだ?」

透「あー、体にくくりつけるターザンロープみたいな」

にちか「ですです! ロープウェイと似た仕組みではあるんですけど……斜めったワイヤーの上を滑車とかの装置のついた別のワイヤーで体をくくりつけることで滑る仕組みなんです」

恋鐘「うちん地元の遊園地にばり大きかジップラインがあるとよ! 園の池の上を滑るのは気持ちよかね〜」

あさひ「にちかちゃん、それはおかしいっすよね? ジップラインの要領で脱出したって言うのなら……」

あさひ「ワイヤーを滑り落ちるための使った道具もないと成立しないっすよ」

あさひ「にちかちゃんはそれも見つけてるんっすか?」

にちか「……あるよ」

(犯人がワイヤーを滑り落ちる時に使った道具……)

(それはきっとアレのことだ……!)

【正しいコトダマを選べ!】

>>815>>817

↓1


にちか「これだー!」

【解!】

にちか「ワイヤーと同じで体育館に落ちていたんですけど、このホッケースティックに心当たりがある人はいますか?」

透「ホッケー? それってあれじゃないの」

透「ホンジャマカ」

樹里「それはエアホッケーだ。てか世代でもないだろ」

灯織「もともとスポーツとしてのホッケーはこのようなスティックでパックを弾いて相手のゴールに入れるスポーツなんです」

灯織「ハンドボールやサッカーのようなルールをイメージすると分かりやすいと思います」

霧子「でもそのスティックは折れ曲がってるから使えそうにないね……」

甜花「それを使って脱出、するの……?」

愛依「そっか! 誰かにスティックで打って飛ばしてもらったんだ!」

モノスケ「どこのど根性野球やねん!」

モノスケ「はっ、つい雑なボケに関西の血が騒いで差し出がましく突っ込んでしもうたで!」

真乃「このスティックが半分になってることに意味があるんだね……?」

にちか「うん、そうなんだ。ちょうどこの俺曲がってるところにワイヤーを掛けると……ほら!」

樹里「なるほど、両端を掴んで滑り落ちることができるわけか!」

甜花「あっ! パラセーリングみたいな形……!」



にちか「犯人はこの方法でシャワールームから脱出した後、ワイヤーとスティックを体育館に投げ込んでプールを経由して外に出たんじゃないですかね!」

あさひ「ふーん……現場の証拠からしてもその方法で脱出したのは間違いなさそうっすね」

あさひ「それじゃあみんなで透ちゃんに投票するっすよ! モノクマ、投票タイムでお願いっす!」

(……えっ?!)

モノクマ「あいさー! それではオマエラ、お手元のスイッチで______」

樹里「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 何勝手に進めてんだ!」

あさひ「勝手って……なんっすか?」

モノクマ「おや? まだ投票タイムには行かないの?」

樹里「行かねえ! ちょっと黙って見てろ!」

モノクマ「はーい! 分かりましたー!」

モノタロウ「びっくりした……もう裁判が終わっちゃうのかと思ったよ!」

モノファニー「こんなに早く終わられたら時間外手当が出ないから困るわ!」

モノスケ「表を開いたり閉じたりして時間を稼いで定時をはみ出さんとな!」

モノダム「裁判ハ真面目ニオ願イネ」

あさひ「えー、これ以上の議論は無駄っすよ? だって、他のみんなにはアリバイがあって、この脱出方法は円香ちゃんには不可能っす」

あさひ「そうなると透ちゃんしか候補はいなくなるっすよ」

透「うおー、私か」

円香「ちょっと、まともに反論しなよ」

透「あー、えー……ヤバ。思いつかん」

円香「……はぁ」

恋鐘「ばってん、あさひの言う通りかもしれんたい……実際、他のみんなにはこんなトリックやる余裕がなかよね?」

霧子「体育館に来ていたみんなはお互いを見合っているから……お互いにアリバイの証人だもんね……」

(消去法で考えると浅倉さんがどうしても候補になってしまう……)

(でも、本当にそれでいいの……?)

透「……殺してないよ、私は」

(浅倉さんが、二人を……?)

------------------------------------------------

【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【円香の証言】
‣【シャワールームの窓】
‣【AVルーム裏口の扉】
‣【事件の経緯】

あさひ「体育館に集まっていたみんな」

あさひ「AVルームに拘束されていた二人」

あさひ「才能研究教室の前にいた円香ちゃん」

あさひ「透ちゃん以外にはジップラインでの【脱出はできない】っすよ!」

霧子「透ちゃん……事件当時のアリバイはないのかな……?」

透「【寄宿舎で寝てた】から……」

透「証人になってくれるのは、ハワイ出身のトゲトゲ力士ぐらい?」

凛世「にほんごであそぶ夢をご覧になられていたのですか……?」

甘奈「寄宿舎で寝てたなんて、【アリバイを証明することはできない】もんね……」

甘奈「やっぱり、透ちゃんが犯人になっちゃうのかな」

円香「真面目に反論しなよ」

透「あー、えっと」

透「潔白です」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「浅倉さんのアリバイ……証明できるかもしれません」

透「え、マジ?」

にちか「浅倉さん、しっかりしてくださいよ! あなたは昨日の夜は徹夜で樋口さんの才能研究教室を見張ってたんですよね?」

愛依「え、そうなん? 大丈夫? 今眠くないん?」

透「ギリ耐えてる」

霧子「ギリギリではあるんだね……」

甜花「あれ……? でも、事件の時見張りについてたのは樋口さんだったよね……?」

にちか「そう、浅倉さんと樋口さんは事件の前に入れ替わっているんです。しかも、直接浅倉さんが樋口さんの個室を訪れる形で」

円香「だったね。……ったく、呼ばれなくても私が自分で行ったのに」

透「眠気が限界だったから。ごめんて」

にちか「その際のことを樋口さんはこう証言しているんです」

にちか「浅倉さんが個室に入るのを確認してから3階に向かったって」

にちか「これって浅倉さんの証言の裏付けになりませんか?」


真乃「円香ちゃん、それっていつ頃のことだったかはわかる?」

円香「朝の6時……だったはず」

霧子「アナウンスの2時間前……事件が起きる2時間前だね」

にちか「朝の8時にはみんな体育館に集まっていましたし、それまでの間に浅倉さんの姿を見ていない人がいないのなら部屋で寝ていたと言う証言の信憑性はかなり強くなると思います!」

愛依「うーん……これって、どうなん……?」

あさひ「弱いっすね!」

にちか「えっ……?」

あさひ「透ちゃんの寝顔をずっと事件の瞬間まで見守ってたとかならまだしも、個室に入る姿を見たってだけっすよね?」

あさひ「円香ちゃんが才能研究教室に行った後すぐに透ちゃんが個室を出た可能性もあるじゃないっすか」

にちか「……うぐっ!」

円香「浅倉は本気で眠そうだった。嘘はついてないと思うけど」

あさひ「そんなの主観っすよ、信頼のできる証言とは言えないっすね!」

(くっ……どうなんだ……今の樋口さんの証言じゃ証明するには足りないのか……)

透「ふわぁ……」

(それとも、浅倉さんは本当に……?)

透「ねみー」

(あー、もう! 人が必死になって考えてるのに何あの人?!)


灯織「にちか、落ち着いて」

にちか「灯織ちゃん……?」

灯織「浅倉さんのアリバイは確かに不完全だと思う。だったら視点を切り替えて見たらどう?」

にちか「視点を……? それってどう言う意味?」

灯織「例えば……今の樋口さんの証言で……何か浮上した可能性はない?」

(新しい……可能性……?)

真乃「にちかちゃんは透ちゃんを信じたいと思ったから、円香ちゃんの証言を持ってきたんだよね……?」

真乃「だったら、その気持ちに応える何かが……その証言にはあったんだよ……っ!」

(樋口さんの証言で浮上する新しい可能性か……)

(考えろ……考えるんだ……!)

(その可能性が、私たちの活路を開く手掛かりになる……!)

---------------------------------------------
【検討プロセッシング開始!】

樋口さんは事件が起きる前、自分の才能研究教室が開放されてからずっと見張りについていた。
そこには何かのっぴきならぬ事情があるんだろうけど、今はそれは置いとこう。
とにかく、今重要なのはその見張りのせいで浅倉さんと樋口さんのアリバイが宙に浮いていると言うこと。
この二人は単独行動をしていたのでアリバイを証明するのは難しいだろう。
それなら、さっきの樋口さんの証言で生まれる可能性を提示するんだ……!

樋口さんの証言が出る以前から樋口さんと浅倉さんが交代交代で見張りを代わっていたのはみんな知っていたところ。
もしかすると、その交代の隙をついて犯行に利用することは可能だったかもしれない……

今回二人の交代は朝6時に浅倉さんが直接樋口さんの部屋を訪れることで行われた。
この交代で重要なのはどのポイントだろう?

・朝6時以前は透が監視をしていたこと
・透が円香の部屋を直接訪れたこと
・朝6時以降は円香が監視をしていたこと

【正しい選択肢を選べ!】

↓1

------------------------------------------------
・透が円香の部屋を直接訪れたこと
------------------------------------------------

【CORRECT!】

そう。この交代は樋口さんと浅倉さんが直接寄宿舎で顔を合わせて行なったんだ。
つまりその瞬間、学校の校舎内には二人の姿はなかったことになる。
これこそが犯人にとっては重要な『隙』になるんだ。
じゃあこの『隙』を犯人はなんのために利用したんだろう……?

・誰にも見つからずに犯行現場に向かうため
・円香の才能研究教室に忍び込むため
・誰にも見つからずに犯行現場から脱出するため
・透を襲撃するため

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


うーん……樋口さんの才能研究教室に忍び込むため、なのかな……?
事件自体にこの部屋が関与しているかどうかは不透明だし、何より忍びこんだ後には出ていくのに都合が悪すぎる。
見張りには今度は樋口さんが経っているんだから、犯人は逃走は勿論反抗も不可能になっちゃうよ……!



そう。この交代は樋口さんと浅倉さんが直接寄宿舎で顔を合わせて行なったんだ。
つまりその瞬間、学校の校舎内には二人の姿はなかったことになる。
これこそが犯人にとっては重要な『隙』になるんだ。
じゃあこの『隙』を犯人はなんのために利用したんだろう……?

・誰にも見つからずに犯行現場に向かうため
・円香の才能研究教室に忍び込むため
・誰にも見つからずに犯行現場から脱出するため
・透を襲撃するため

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


【CORRECT!】

3階に上がるまでのルートは一通りしかない。
うっかり交代の最中にそのルートを歩いてしまうと樋口さんか浅倉さんに目撃されちゃうんだ。
二人の交代のタイミングを把握していたのだとしたら、それを意図的に狙って3階に身を潜めた可能性がある!
あとはめぐるちゃんが準備のためにやってくるのを待っていれば、その場で襲えばいいんだ!

樋口さんの証言は、【交代のタイミングで誰かが犯行現場に忍び込んだ可能性】を提示していたんだ……!

【FORGING!】
【円香の証言】→【円香と透の交代】
〔円香の才能研究教室の監視は事件当日は透が朝6時に直接円香の個室を訪れることで交代した。犯人は校舎内に誰もいなくなった隙を見計らって犯行現場の一つであるめぐるの才能研究教室に忍び込んだ可能性がある〕

---------------------------------------------


にちか「見えた……見えましたよ! 樋口さんの証言によって明らかになった隙が!」

円香「隙……?」

にちか「浅倉さんと樋口さんは、寄宿舎の相方の部屋に直接行って交代を行なっています。つまり、そのタイミングのわずかな時間なら3階から人がいなくなるんですよね」

にちか「その隙に3階まで上がれば、樋口さんに見つかることなく犯行現場に忍び込むことが可能になるんです!」

恋鐘「えーっと……?」

真乃「3階に上がるまでの道は一通りしかないので、交代のタイミングを測り損ねるとその道中で入れ替わる二人に出会してしまう可能性があるんです……っ」

真乃「円香ちゃんの才能研究教室か、寄宿舎に向かっているか。そのどちらかでルート上を歩いている二人に不審な動きをしているのを見つかっちゃうんです」

円香「私と浅倉が交代するタイミングは基本的にいつもこの時間、朝の6時にしてたから」

円香「私たちのことをずっと観察していた人間ならそれを加味して計画することは可能かもね」

あさひ「むー、そのことにもっと早く気づいてたら円香ちゃんの才能研究教室に忍び込めたのにな〜」

凛世「つまり、犯人は灯織さんと甜花さんを襲って監禁した後……」

凛世「円香さんと透さんが入れ替わる隙をついてめぐるさんの才能研究教室に身を隠したということでございますか……?」

にちか「はい、そうだと思います!」


灯織「めぐるが準備のために才能研究教室に向かうことは容易に想像できたはずなので、そこで犯人はめぐるがやってくるのを狙いすましたんでしょうね」

恋鐘「めぐるが部屋に入ってきたのを狙ってごちーんとやったばい?」

甘奈「えっと……多分犯人がその場でやったのは意識を奪うことぐらいじゃないかな」

甘奈「ほらだって、めぐるちゃんの死亡推定時刻は午前8時でしょ?」

樹里「そういえばそうだったよな……なんで犯人はその場で殺さなかったんだ?」

(犯人の狙いはきっと……多分そういうことなんだと思う)

・めぐるを殺すのにてこずったため
・犯行をリアルタイムで起こすため
・手ごろな凶器が見つからなかったため

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


にちか「これだ!」

【解!】

にちか「犯行をリアルタイムで起こすため、じゃないでしょうか?」

樹里「リアルタイムで……?」

にちか「実際今回の事件は私たちの行動の先をいくように展開して、めぐるちゃんと有栖川さんの命が順番に奪われました」

にちか「多分犯人には、この現在進行形で事件が展開する仕組みが重要だったのではないか……とそう考えられます!」

愛依「でも、そんなことしてなんになんの? むしろ犯人にとってはマイナスじゃね?」

愛依「ほら、だってうちらの目の前で事件が進んじゃってるせいでアリバイのない人が絞られちゃってバレやすくなってるんじゃん」

にちか「だったら、逆なんですよ」

愛依「ギャク……?」

にちか「アリバイのない人を絞ることで、その人に罪をなすりつけようとした……その可能性もあるんじゃないですか?!」

透「そのターゲットがうちらってこと?」

円香「単独行動をしがちだったし、標的には最適かもね」


あさひ「うーん、面白い推理っすけど……それはちょっと難しいかもしれないっすね」

あさひ「今回の事件、被害者はどっちも撲殺されてるっす。しかもその凶器は手に持つタイプのもので、どちらも判明している」

あさひ「犯人がその場にいないとできない犯行っすよね?」

(……そうだ。アリバイがない二人が容疑者になっている大きな原因はそこなんだ)

(撲殺という特性上、絶対に犯人がその場にいないと命を奪うことはできない)

(トリックでどうこうできるものじゃないんだよね……)

あさひ「やっぱり、この問題がある以上はアリバイのない二人。中でも死体発見のタイミングで来るのが遅かった透ちゃんが犯人で確定するっすね!」

透「うげー、またこうなんの」



真乃「にちかちゃん……諦めないで!」



にちか「真乃ちゃん?」


真乃「にちかちゃんが正しいと思って進んだ道なんだよね? だったら私もそれを信じてついていくよ……っ!」

真乃「まだ先が見えない道でも、進み続ければ見える景色があるかもしれないよ……」

真乃「先が見えないと思っているだけで、本当は見えているのかもしれないし……」

(本当は、見えている……?)

(……)

(もしかして、前提を覆すってこと……?)

(でも、それって……)

真乃「……」

灯織「……」

(……いや、悩むな。一度進むと決めた以上は突き進み続けるんだ!)

---------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

コトダマ
‣【事件の経緯】
【シャワールームの窓】
‣【モノクマファイル2】
‣【灯織と甜花の拘束】

あさひ「犯人が被害者を撲殺するには」

あさひ「現場で直接【殴りつける以外の方法はない】っすよ」

あさひ「つまりこの事件においてアリバイは絶対なんっすよ!」

真乃「体育館に集まっていたのは」

真乃「私、にちかちゃん、恋鐘ちゃん、霧子ちゃん」

真乃「樹里ちゃん、凛世ちゃん、甘奈ちゃん、あさひちゃん、愛依ちゃん」

真乃「この8人には【動かぬアリバイ】があります……!」

灯織「その頃私と甜花さんはAVルームで拘束されていたので」

灯織「私たちにも【犯行は不可能】ですね」

円香「私は自分の才能研究教室の前にいたし」

透「私は部屋で寝てた」

あさひ「ちゃんとしたアリバイがないのは【円香ちゃんと透ちゃんだけ】!」

あさひ「状況証拠からしても」

あさひ「やっぱり透ちゃんが犯人っすね!」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

↓1


(だ、ダメ……事件の流れ自体は既に議論の流れで確認をしている……)

(ここに嘘をついても、すぐに露呈しちゃうよ……!)

(まだ議論に昇ってない情報で、私の口先でゆがめられるものは何かないか……!?)

---------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】
コトダマ
‣【事件の経緯】
【シャワールームの窓】
‣【モノクマファイル2】
‣【灯織と甜花の拘束】

あさひ「犯人が被害者を撲殺するには」

あさひ「現場で直接【殴りつける以外の方法はない】っすよ」

あさひ「つまりこの事件においてアリバイは絶対なんっすよ!」

真乃「体育館に集まっていたのは」

真乃「私、にちかちゃん、恋鐘ちゃん、霧子ちゃん」

真乃「樹里ちゃん、凛世ちゃん、甘奈ちゃん、あさひちゃん、愛依ちゃん」

真乃「この8人には【動かぬアリバイ】があります……!」

灯織「その頃私と甜花さんはAVルームで拘束されていたので」

灯織「私たちにも【犯行は不可能】ですね」

円香「私は自分の才能研究教室の前にいたし」

透「私は部屋で寝てた」

あさひ「ちゃんとしたアリバイがないのは【円香ちゃんと透ちゃんだけ】!」

あさひ「状況証拠からしても」

あさひ「やっぱり透ちゃんが犯人っすね!」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

↓1


偽証成功で本日はここまで。
ペナルティもないのでがんがん答えてくれて大丈夫です。
明日は同じ時間の更新は厳しいと思うので、明後日以降になると思います。
それではお疲れさまでした…


にちか「この嘘は、前に進むためのもの」偽証!

【BREAK!】

(ごめん……灯織ちゃん)

(私もこの嘘でどんな未来が開けるのかはわからないんだ)

(でも、今はこのアリバイに誘導されているような気がする……それを打破するために、今一度私は)

(あなたのことを裏切るよ……!)

にちか「あの……愛依さん、灯織ちゃんと甜花さんを発見した時のことなんですけど」

愛依「え? どしたん、急に」

にちか「あの二人の拘束のされ方……なんだか変な結び方をされてませんでした?」

灯織「……え?」

甜花「へ……?」

愛依「え、いやぁ〜……どうだったっけ? あんまちゃんと覚えてないけど……」

にちか「私、実は前に本で読んだことがあるんです。マジシャンが縄抜けのマジックとかに使うやり方なんですけど……スリップノットっていうのを利用した結び方なんです」

にちか「ほら、縄跳びを縛ったり、スーパーで氷を持って帰る時とかに使う一方向に引っ張ったら解ける結び方ですよ」

愛依「うーん……そんなだった、ような……」

にちか「だったんですよ! 二人の手足の結び方って!」

樹里「ちょ、ちょっと待て! 急になんだよ!」

にちか「おかしいなってずっと思ってたんです……アリバイがみんなあまりにもちゃんと成立しすぎてるって」

にちか「まるで樋口さんと浅倉さんに疑いが向くように誘導されているような……そこで思い返してみたら、灯織ちゃんと甜花さんの拘束に違和感を覚えたことを思い出したんです」

灯織「……にちか」

(ごめん、灯織ちゃん……本気で私もあなたが犯人だと思ってるわけじゃない)

(けど、ここは推し進む……!)

にちか「あの二人のアリバイは完全ではないんです。私たちは監禁されていたという事実だけに目を奪われて、あの二人のアリバイが成立していると思い込んでいたけど」

にちか「それは不十分! あの二人は自力で脱出可能だったんですから!」


透「ってことは……あの二人が、めぐるちゃんを殴り殺した後に自分で自分を縛り直した」

透「そういうこと?」

甘奈「そ、そんなの……あり得ないよ! 甜花ちゃんが誰かを殺すはずない!」

にちか「あの二人、あるいはその一方の校則が狂言だった可能性はあると思います」

にちか「私たちがめぐるちゃんの死体を見つけてから二人を地下で見つけるまでにはそれなりに時間がありましたし」

にちか「シャワールームから脱出してその足でAVルームに向かった可能性もあります!」

甘奈「そ、そんなのただの推測だよね……?!」

にちか「確かにこれは一つの可能性です。でも、この可能性を後押しする証言もあるんだよ」

甘奈「しょ、証言……?」

(拘束のやり方自体は真っ赤な嘘だけど……あの監禁に違和感を感じたこと自体は本当だ)

(あの人のあの証言が……ずっと気になってるんだよね)

---------------------------------------------

【怪しい人物を指摘しろ!】

↓1


にちか「お前だー!」

【解!】

にちか「愛依さん、二人を発見した時のことをもう一度証言してもらってもいいですか?」

愛依「え? う、うち……? や、でもどんなふうに縛られてたかはやっぱあんま覚えてなくて……」

にちか「いや、そこじゃなくて今度はどうして二人を見つけられたのか……です!」

樹里「え? 何か手掛かりがあって愛依は二人を発見したのか?」

愛依「……あー! あれのこと!? 扉が閉まる音じゃんね?!」

甜花「と、扉が閉まる音……?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「愛依さんが発見した時のことを聞かせてもらってもいいですか?」

愛依「うん……まず、うちが丁度地下に降りたタイミングでガララララ……パタンって扉が閉じる音が聞こえてきたの」

灯織「音……ですか?」

真乃「灯織ちゃんは聞いてなかったの?」

甜花「甜花も風野さんも耳栓をさせられてたから、何も聞くことはできなかったんだ……」

愛依「だから誰かいんのかなって思ってゲームルームを覗いたの」

愛依「ほら、図書室はどっちの扉も引き戸だけど、ゲームルームはスライドドアだからさ」

にちか「なるほど……」

愛依「でも、ゲームルームには誰もいなくて……で、よく見たらAVルームの扉もスライドドアだったんだよね!」

愛依「だから誰かが逃げ込んだのかなと思って急いでAVルームを覗いたわけ!」

愛依「したら二人が縛られてたからヤバい焦ったよね! スグに大きな声をだしてにちかちゃん呼んでさ〜!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

愛依「そーそー! うちが地下にちょうど降りたタイミングでガララララ……パタン!って扉の音がしたの!」

円香「その音からして、スライド式の扉みたいですね」

恋鐘「地下にある教室でスライド式の扉なのは図書室じゃなくてゲームルームの方ばい!」

愛依「うん、だからうちはゲームルーム、AVルームって覗いて二人を発見できたわけ!」

愛依「でも……これのどこが気になんの?」

(愛依さんの証言で気になるのは……ここだ)

---------------------------------------------

【スポットセレクト】

・覗き込む部屋がおかしい
・灯織たちが音を聞いてないのがおかしい
・そもそも音が聞こえるのがおかしい

【怪しい点を指摘しろ!】

↓1


にちか「これだ!」

【解!】

にちか「私が気になってるのは、どうして愛依さんがその音を聞くことができたのか……です」

愛依「え?! いや、うちなんもしてないよ?! マジでただ地下に降りただけで……」

にちか「あ、言い方が悪かったんですけど……もし二人の拘束が本当なんだとしたらそもそも扉が閉まる音なんかしようがなくないです?」

にちか「だって愛依さんが降りてくるより【ずっと前から二人は捕まってた】はずなんですから」

真乃「た、たしかに……! 犯人が閉じ込めるにしても、扉の開け閉めはとっくの前に終わってるはずだよね……っ!」

恋鐘「ふ、二人ともどがんね?! そい音については何かわからんと?!」

灯織「いえ、すみません……私も甜花さんもアイマスクに耳栓をされていたのでその音も聞いていないんです」

甜花「う、うん……知らない……」

あさひ「ま、そういうしかないっすよね」


あさひ「たとえ自分がその音を立てた狂言監禁の犯人だとしても」



樹里「そうか……愛依が聞いた扉の音ってのは犯人がAVルームに逃げ込んだ音だった可能性があんのか……!」

甘奈「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな扉の音だけで甜花ちゃんをクロにするつもりなの?!」

甘奈「愛依ちゃんしかその音は聞いてないんだよね?!」

愛依「うちも……なんか自信無くなってきたわ。ちゃんと聞いたと思ってたんだけど……うちの証言にそんなに責任がのしかかってくると……」

灯織「……」

(灯織ちゃん……ごめんね、またしても容疑をなすりつけるような真似をして)



灯織「にちか、気にしないで」



(え……?)


灯織「私は気づいてるよ。あなたがこの議論にもつれ込むまでにしてた表情の変化に」

灯織「悩んだ末の苦渋の決断だったんだよね?」

灯織「大丈夫。私はにちかのことを信じてるから、今は真実に辿り着くための道程なんでしょ?」

灯織「だったら私は声を荒げたりしない。にちかの進もうとする道を私もついていく」

灯織「一緒に戦うよ」

(灯織ちゃん……!)

(……心強いな)

(一人じゃなくて、一緒に戦ってくれる存在がいるってわかっただけでこんなにも気持ちが楽になるんだ)

(これを思うと、ルカさんの裁判の時がどれほど辛いものだったか……)

(大丈夫、いける……! 私たちなら真実にきっと辿り着ける……!)


真乃「地下のAVルームで監禁されていた二人のアリバイは不十分だった可能性があります……」

真乃「お互いに目隠しと耳栓をしていたので、体育館にいた人たちと違って相互の見張りも成立しません……っ!」

愛依「キーになってんのはうちが聞いた扉の音……」

愛依「あれは二人のどっちかがAVルームに逃げ込む音だったっぽいんだよね」

甜花「あ、あうぅ……そんなの、知らないのに……」

灯織「私も心当たりがないと証言しておきます」

あさひ「本来ならアリバイがないのは透ちゃんだけだったっすけどにちかちゃんの主張で二人のアリバイが揺らいだ今」

あさひ「容疑者はかなり増えたっすね!」

樹里「透と灯織と甜花……この3人か」

(灯織ちゃんは私を信頼して議論の流れに身を委ねてくれた……)

(だったら私は彼女のための突き進み続けるだけだ……!)

(ただ一つの真実に向けて……この歩みを止めるわけにはいかない……!)

透「しゃーない、反論しますか」

灯織「私ではありません! 私は本当に監禁されていただけなんです!」

甜花「て、甜花も違う……よ?」


透『アイム・イノセント』
灯織『私はやってません!』
甜花『甜花は……無実……!』

-------------------------------------------------
【パニック議論開始!】
コトダマ
‣【死体発見アナウンス】
‣【事件の経緯】
‣【円香と透の交代】
‣【気化麻酔】

透「寄宿舎の個室のベッドさ」
灯織「私は図書館に呼び出しを受けてから」
甜花「甜花はずっと捕まってたんだよ……?」

透「枕がちょっと低いんだよね」
灯織「背後から襲われて意識を失い」
甜花「三階に行くなんて、無理……!」

透「ほら、うちのやつもうちょい高いの」
灯織「ずっと拘束されたままだったんです」
甘奈「甜花ちゃんはめっちゃ優しいの」

透「そんで昨日倉庫から新しいの持ってきて」
霧子「愛依ちゃんの言う【扉の音も聞いてない】んだよね……?」
甘奈「甘奈が熱を出した時だって一生懸命看病してくれたし……」

透「したら寝れた。めっちゃ」
灯織「はい、私も甜花さんも耳栓をしていたので」
甘奈「そんな甜花ちゃんが【二人を殺すはずない】よ!」

透「だからずっと寝てた」
灯織「愛依さんとにちかが助けてくれるその時まで」
甜花「にへへ……なーちゃん、ありがと……」

樹里「いやだから透はちゃんと反論をしろよ?!」
灯織「私は【なんの物音も聞いてない】んです」
甜花「甜花は清廉潔白……!」

【正しいコトダマで正しい発言に同意しろ!】

↓1


にちか「それに賛成ですー!」同意!

【BREAK!】

にちか「今有力な容疑者に挙がっている3人……そのうちの一人は犯人候補から外してもいいかもしれません」

透「ナイス、にちかちゃん。信じてたよ」

にちか「……い、いや浅倉さんじゃなくて甜花さんなんですけど!」

甜花「て、甜花……?! や、やった……!」

真乃「にちかちゃん、他の二人と甜花ちゃんは何が違うの?」

にちか「甜花さんは二人と違って死体の第一発見者なんだよ」

にちか「思い出して欲しいんですけど、私たちが死体を発見した時にモノクマがアナウンスをしてるじゃないですか。あれって実は条件があるらしいんです」

愛依「ジョーケン……?」

にちか「殺害したクロを除いた生徒3人が死体を目撃すること。つまり死体発見アナウンスがなったタイミングで【現場に居合わせていた人たちは容疑者から外していい】んです」

真乃「確かに……夏葉さんの死体を最初に発見したのは甜花ちゃんだったね……!」

モノクマ「死体発見アナウンスはあくまでコロシアイの円滑な進行のためのシステムだから基本的に推理の一要素として組み込むのはよしとしてないんだけど……」

モノクマ「今回の事件は死体発見アナウンスが結構大きなピースになっているみたいだからね。ここはモノクマ、静観に徹します」


にちか「ちょうど私と真乃ちゃんが死体を見に行ったタイミングで死体発見アナウンスが鳴ったので、甜花さんを含めてちょうど三人」

にちか「他に名乗り出る人がいなければ甜花さんはシロだと見ていいと思います」


「……」


甘奈「やったね甜花ちゃん☆ これで無実が証明されたよ!」

甜花「にへへ……甜花、大勝利……!」

灯織「こうなると……残るのは私か浅倉さん……ですか」

(うぅ……どうして……)

(真実に近づこうともがけばもがくほど……灯織ちゃんの容疑が濃くなっていく……)


恋鐘「ずっと容疑者のまんまの透がうちにはどうしても怪しく映るばい……」

凛世「ですが……愛依さんが地下で聞いた音のことも気になります……」

樹里「アリバイはどっちも成立してるとは言い難いもんな……」

(……私には、まだ犯人はわからない)

(でも灯織ちゃんはクロじゃないって、そう思う。そう信じたい)

灯織「……」

(……この気持ちは、本物だ)

(誰かを信じるっていうのは、その人と一緒に歩んでいきたい。生きていたいって言う気持ちの現れ……)

(この学級裁判が自分たちの生を掴み取るための戦いだと言うのなら……)

(守りたいものを守らなきゃ、それは本当の意味で裁判で戦っているとは言えない……!)

------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

コトダマ
‣【死体発見アナウンス】
‣【事件の経緯】
‣【にちかの打ち身】
‣【円香と透の交代】

樹里「アリバイがないのは灯織と透」

樹里「クロになれるのはこの二人だけだ!」

甘奈「【甜花ちゃんは夏葉さんの死体を見つけてる】から」

甘奈「クロにはならないよ!」

あさひ「円香ちゃんと透ちゃんの見張りの交代があったのは【朝6時】」

あさひ「【その時を狙って】めぐるちゃんの才能研究教室に行って」

あさひ「やってきためぐるちゃんを襲ったんっすね!」

恋鐘「そいをやったんはどっちやろ?」

霧子「何か絞れる方法は……ないかな……?」

愛依「こうなったらいっせーのーでで投票しちゃう!?」

愛依「多数決で多かった方がクロってことで!」

樹里「そういうわけにもいかねーだろ……」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

↓1


あさひ「にちかちゃんたちは昨日の夜時間にめぐるちゃんと一緒に作業をしてたんっすよね?」

あさひ「だったら狙うタイミングは円香ちゃんと透ちゃんの見張りの交代のタイミングしか無くないっすか?」

(うっ……この事実自体は動かすことは出来なさそうだ……)

(どうにかして灯織ちゃんの容疑を晴らしたい……)

(何か、私たちと灯織ちゃんとの間だけで共有している情報で彼女を救えないかな……)

------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】

コトダマ
‣【死体発見アナウンス】
‣【事件の経緯】
‣【にちかの打ち身】
‣【円香と透の交代】

樹里「アリバイがないのは灯織と透」

樹里「クロになれるのはこの二人だけだ!」

甘奈「【甜花ちゃんは夏葉さんの死体を見つけてる】から」

甘奈「クロにはならないよ!」

あさひ「円香ちゃんと透ちゃんの見張りの交代があったのは【朝6時】」

あさひ「【その時を狙って】めぐるちゃんの才能研究教室に行って」

あさひ「やってきためぐるちゃんを襲ったんっすね!」

恋鐘「そいをやったんはどっちやろ?」

霧子「何か絞れる方法は……ないかな……?」

愛依「こうなったらいっせーのーでで投票しちゃう!?」

愛依「多数決で多かった方がクロってことで!」

樹里「そういうわけにもいかねーだろ……」

【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】

↓1


にちか「この嘘で、守ってみせる!」偽証!

【BREAK!】

私は真乃ちゃんに向かって目配せをした。
それに気づくと、真乃ちゃんも黙って頷いて見せた。
二人で思いは同じだ。私たちは灯織ちゃんの無実を信じてる。灯織ちゃんを守りたいと思っている。
だったら、やることはただ一つ。
この二人で真実に立ち向かってみせる。
私たちだけが持っている武器で、運命を切り開く。
灯織ちゃんを救えるのは、私たちだけなんだ……!

にちか「ここで一度、今回の犯人の足取りを振り返りたいんですけど……お付き合いいただいてもいいです?」

あさひ「……? 何考えてるっすか?」

樹里「そりゃ別にいいけど……どこからだ?」

真乃「はじめのはじめからです! 全てが起きる、その時から」

灯織「にちか、真乃……? 何を考えてるの……?」


甘奈「えっと……犯人が今回やったのは、灯織ちゃんと甜花ちゃんの監禁、めぐるちゃんと夏葉さんの殺害だよね?」

甘奈「犯人はまず、円香ちゃんと透ちゃんの交代のタイミングを狙ってめぐるちゃんの才能研究教室に行った……」

円香「浅倉が私の部屋に来たのが朝の6時。つまりそのタイミングで犯人が3階に行ったことになる」

円香「一応改めて証言しておくと、私はこの時に浅倉が自分の部屋に入るのを見ています」

にちか「ってことは……犯人がめぐるちゃんの才能研究教室に隠れたのも朝の6時ってことになりますよね?」

あさひ「そうっすね。そこしかタイミングはないっすから」

にちか「……おかしいですね、灯織ちゃんにその時間に忍び込むのは不可能なはずなんですけど」

灯織「……え?」

樹里「は、はあああああ?! 急に何言い出してんだ?!」

あさひ「にちかちゃん、どういうつもりっすか? ここまでにまだ出てない証拠や証言があるとでも言うつもりっすか?」

にちか「……うん、これを見て欲しいの」

そう言うと、私は自分の右腕を持ち上げて、他のみんなに見せつけた。

愛依「なっ……だ、大丈夫?! すごいアザになってんじゃん?!」


にちか「ああ、心配しなくて大丈夫です。ただの内出血なんで、見た目ほど酷い怪我ではないんで!」

にちか「でも、問題はこの【怪我をしちゃったタイミング】なんですよ」

真乃「ほわっ……に、にちかちゃん……その怪我、昨日おやすみなさいをした時にはなかったよね……?」

(ナイス、真乃ちゃん! その通り……!)

にちか「そうなんだ……この怪我をしたのは、今朝の出来事だから」

にちか「ほら、私ってルカさんの裁判の一件でかなり風野さんに嫌われちゃってたじゃないですか。なのに今朝、才囚学園体育祭をやるからその前に蟠りを解消したいって理由で詰め寄っちゃって」

にちか「その時に揉みくちゃになってできちゃった怪我なんですよねー」

灯織「……!」

にちか「それが確か朝の6時半ぐらいの出来事だったと思うんです」

(灯織ちゃんも甜花さんも図書室に呼び出された時の時間についてはまだ証言も証拠も出ていない……)

(というか実際、二人ともかなりあやふやな様子だった。多分ちゃんと把握はしてないんだ)

(それなら、めぐるちゃんの才能研究教室に忍び込んだ犯人の行動との前後関係は嘘である程度操作できる……!)


円香「ちょっと、急に何? 今までそんな話一度もしてなかったでしょ」

にちか「いやすみません……前回の裁判のことがあるのに、自分の身もわきまえない行動をしちゃったことをあんまり言いたくなくて……」

樹里「灯織、今のにちかの話は本当なのか?」

灯織「……えっと」

にちか「灯織ちゃん……!」

灯織「……」




灯織「……は、はい」




愛依「マ、マジなん……?! せめてどっちかだけでも証言してくれてたら、こんなに悩む必要もなかったのに……!」

灯織「……すみません、私の手で怪我をさせたと言うことを認めたくなくて」

真乃「ごめんね、灯織ちゃん……」

(ま、真乃ちゃん……すごい申し訳なさそうにしてる……)

(優しいんだけど……嘘がバレる弱点になりそうだからやめてほしいなー……)

あさひ「……ほんとっすかぁ?」

(ほらー! 芹沢さんめっちゃ疑ってるー!)

にちか「ほんとだよ! どう見てもこのアザは本物でしょ!?」

霧子「あれ……でも、めぐるちゃんの部屋に忍び込んだのより、灯織ちゃんたちが襲われたのが後なんだとしたら……」

霧子「辻褄が合わなくなるんじゃないかな……?」

樹里「確かに……犯人がシャワールームにいながらに図書室に来た二人を襲うことなんてできないもんな」

にちか「いや、そうとも限らないですよ」

甘奈「え……? 3階と地下1階だよ? 行き来なんてどうやってもできないよね?」

にちか「それなら、行き来をしなければいいんです!」

凛世「頓知でございましょうか……?」

(犯人がシャワールームに潜みながら図書室を訪れた二人を襲った方法……それはきっと……!)

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【ひらめきアナグラム開始!】

はくうんふす

【正しい順番に並べ替えろ!】

↓1


にちか「そうか、分かりましたよ!」

【COMPLETE!】

にちか「シャワールームに潜んでめぐるちゃんを殺した犯人、図書室で灯織ちゃんと甜花さんを襲った犯人」

にちか「それが必ずしも同一である必要はないはずです!」

甘奈「え……?! それって、犯人は複数いたってこと……?!」

にちか「はい……さっきもちょっと触れたことではあるんですけど」

にちか「今回の事件ってわざわざ被害者を気絶させて私たちの行動を待ってから殺害したりで」

にちか「リアルタイムであることにすごい拘りがあるみたいなんです」

にちか「まるで一人の人間による連続殺人だと印象付けるのに必死になっているようじゃないですか?」

あさひ「さっきも言ってたっすよね。アリバイが確保されている人間が多すぎて、アリバイのない人間が不自然なぐらいに浮いてるって」

透「私とか樋口とかがデコイに使われてるんだよね」

にちか「それに、一人の人間による犯行じゃないと仮定したら……アリバイの問題だって解決するんですよ」

にちか「すべての事件について、アリバイが成立していなかったとしても……全体を通して成立をしていない人間を盾にして雲隠れできるんですから」


凛世「間違えれば命はない、そんな状況の学級裁判なら尚更です……」

凛世「容疑がより濃い方へ……安牌へと流れてしまうのは自然の理です……」

樹里「いや……でもどうなんだ? めぐるの殺害の時にはアリバイがあって、夏葉の時にはアリバイがない……そんな奴って」

真乃「沢山います……!」

甜花「た、たくさん……?!」

真乃「めぐるちゃんの死体を発見してから、残りの行方不明の三人を捜索する時……」

真乃「私たちは大まかに階数だけを決めて、あとは個人で探してました。見つけたら大きな声をあげるって約束だけをして……」

にちか「その口約束しかしておらず、お互いの姿も見ていない……」

にちか「そして実際、灯織ちゃんと甜花さんが見つかった時にも全員は集まってないですよね?」

愛依「うちの呼びかけに答えて集まってきてくれたのは確か真乃ちゃん、にちかちゃん、透ちゃんの三人だった……よね?」

透「うすうす」

にちか「めぐるちゃんの死体発見現場の保存を行っていた幽谷さんと杜野さんは互いに見合っているので除外してもいいとしても」

にちか「残りの月岡さん、西城さん、甘奈ちゃん、芹沢さん、樋口さんのアリバイは有栖川さんの殺害時には浮いてます!」

恋鐘「う、うちも〜〜〜〜〜?!」

甘奈「あ、甘奈も……?!」

樹里「マジかよ……?!」

あさひ「あはは、わたしも容疑者っすか?」

円香「……」

にちか「二人の人間が共謀して、互いにアリバイを確保する形で事件を起こした可能性……否定できないんじゃないでしょうか!」

(今回の犯人はアリバイというものを自分の犯行のために利用している……)

(だったら、そのアリバイの穴をとことん暴き出してやる!)

(さあ、やるぞやるぞやるぞーーーー!!)


少し早いですが本日はここまで。
次回9/11(月)21:00~ノンストップ議論より再開予定です。
それではお疲れさまでした。

---------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【にちかの打ち身】
‣【円香と透の交代】
‣【モノクマファイル3】
‣【灯織と甜花の拘束】

真乃「今回の事件は複数犯による別々の事件だった可能性があります……っ!」

真乃「灯織ちゃんがにちかちゃんに間違って怪我をさせたのは【朝6時半】のこと」

真乃「朝の6時に円香ちゃんと透ちゃんは監視を交代して」

真乃「めぐるちゃんを殺した犯人はその時に現場に忍び込んでいたんです!」

灯織「私と甜花さんが襲われたのは【6時半から8時までの間】ということになりますね……」

灯織「これは犯人が二人以上じゃないと成立させるのは不可能です!」

樹里「でも今回の事件は【手口が両方一緒】だろ?」

樹里「凶器こそ違うけど先に気絶させといて後で撲殺するって方法も同じ」

樹里「【死因が同じ】なあたり単独犯っぽく見えるけど……」

円香「めぐるの事件の時にアリバイがない浅倉も」

円香「灯織と甜花の発見の時には現場に居合わせて」

円香「現場の保全をやっていたと聞きました」

円香「単独犯だと主張するなら浅倉に夏葉さんの殺害は不可能では?」

恋鐘「あ〜! こんがらがってきたばい!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「めぐるちゃんも夏葉さんも死因が同じ……確かに死体の状況だけ見ればそう見えますけど、実際はそうじゃないんです」

樹里「なっ……いや、どっちも撲殺だっただろ?! 凶器だって金属製の長いもので共通してるし、現場で発見されてるじゃねーか!」

真乃「死因が違うって言うのは致命傷を受けた箇所の違いだよね?」

愛依「えっ? 二人とも頭から血を流して死んじゃってたよ?」

にちか「同じ頭でも前頭部と後頭部で違うんですよ! ほら、モノクマファイルに書いてあるでしょ?」

霧子「本当だね……夏葉さんのモノクマファイルにははっきり後頭部の打撃が致命傷って書いてある……」

にちか「西城さんが言った通り、今回の事件はやり口は共通してるんです。先に麻酔で意識を奪った後にタイミングを見計らっての撲殺」

にちか「それなのに、頭に受けた打撃の場所が違う。これって同じ人物がやったことならおかしくないですか?」

凛世「ただ同じ犯行を繰り返したのではなく……」

凛世「それぞれ別の人間が頭を殴りつけての撲殺という手段だけ共有して事件を起こした……」

凛世「そんな印象を受けます……」

恋鐘「そんなんただの偶然かもしれんばい!」

恋鐘「たまたま殴りつける時に手が滑ったとか……」

愛依「あ〜! もううちも分かんなくなってきた!」

愛依「この事件の犯人って一人なの?! 何人もいるの?!」



【真実は二つに一つ!】



モノクマ「思えば長い旅でした……この裁判が始まった時からずっとアリバイがあるだのアリバイがないだの……」

モノクマ「あれ? ずっとオマエラ、アリバイの話しかしてなくない?」

モノタロウ「なんかオイラ、アリバイって四文字が栗タルト崩壊しちゃったよ」

モノファニー「モノタロウ、タルトに乗せる具材が違うわよ」

モノスケ「タルトに乗せるのは栗やのうてゲシュやゲシュ!」

モノスケ「ってゲシュってなんやねん!」

モノダム「ソロソロコノ足踏ミモ終ワリニシヨウ」

モノダム「コノ事件ガ単独犯ニヨル物ナノカ、複数犯ニヨルモノナノカ」

モノダム「今コソ決着ヲツケヨウネ」

------------------------------------------------
【意見対立】
【議論スクラム開始!】

「この事件は単独犯によるものだ!」vs【この事件は複数犯によるものだ!】

恋鐘「めぐるも夏葉も殴られて死んどる! 死因が一緒なら連続殺人じゃなか!?」

樹里「めぐるの殺害のときのアリバイが透と灯織以外の全員には成立してるんだぞ!」

あさひ「円香ちゃんだってめぐるちゃんの殺害は可能っすよ」

甜花「甜花は有栖川さんの死体の第一発見者……クロにはなり得ない、よ……!」

愛依「単独犯じゃなくて複数犯だったら投票はどうすればいいの?!」

甘奈「灯織ちゃんの拘束は自分で解けた……狂言の監禁だったんじゃないかな」

あさひ「にちかちゃんが言ってるだけっすよ? 本当に腕の怪我は灯織ちゃんがつけたものなんすか?」

-------------------------------------------------
【意見スロット】

【死体の発見】
【腕の怪我】
【アリバイ】 
【死因】
【投票】
【窓】
【監禁】
-------------------------------------------------

【意見スロットを正しい順番に並び替え、敵スクラムを向かい討て!】

↓1


【CORRECT!】

【にちか「運命を切り開いて見せます!」】

恋鐘「めぐるも夏葉も殴られて死んどる! 死因が一緒なら連続殺人じゃなか!?」
【にちか「幽谷さん!」
霧子「死因となった一撃を受けたのは、前頭部と後頭部で位置が違うんだ……」】

樹里「めぐるの殺害のときのアリバイが透と灯織以外の全員には成立してるんだぞ!」
【にちか「樋口さん!」
円香「夏葉さんの殺害の時にはアリバイは不透明な人がたくさんいるはずだけど」】

あさひ「円香ちゃんだってめぐるちゃんの殺害は可能っすよ」
【にちか「浅倉さん!」
透「でも、あの窓から脱出したのは確かじゃん。樋口があれやる意味なくないですか」】

甜花「甜花は有栖川さんの死体の第一発見者……クロにはなり得ない、よ……!」
【にちか「杜野さん!」
凛世「夏葉さんの事件の時にはシロでも、めぐるさんの時の嫌疑は未だ腫れておりません……」】

愛依「単独犯じゃなくて複数犯だったら投票はどうすればいいの?!」
【にちか「灯織ちゃん!」
灯織「落ち着いて投票すれば大丈夫です。それぞれの犯人を見つけ出すんです!」】

甘奈「灯織ちゃんの拘束は自分で解けた……狂言の監禁だったんじゃないかな」
【にちか「ここは私が!」
にちか「だとしても灯織ちゃんは6時半に私と会ってる……めぐるちゃんの殺害のクロにはなれないんだよ!」】

あさひ「にちかちゃんが言ってるだけっすよ? 本当に腕の怪我は灯織ちゃんがつけたものなんすか?」
【にちか「真乃ちゃん!」
真乃「私が証言するよ……にちかちゃんの怪我は昨日の夜にはありませんでした……っ!」】

-------------------------------------------------

【ALL BREAK!】

「「「「「「「これが私たちの答えだ!」」」」」」」」


にちか「アリバイが確かに成立している人は多いですが、それは事件を通してずっとではない。ちょっと複雑ではありますけど、それぞれについては犯行が可能だった人が別にいるはずなんです」

にちか「それを一つ一つ紐解いていきましょう。足取りはだいぶ見えてきているんです、あとはその輪郭をくっきりとなぞるだけ!」

あさひ「夏葉さんの犯行に関しての議論はまだ進んでないっすもんね」

あさひ「そっちを話してみたら見えてくるかもしれないっす!」

樹里「だー……マジか……マジで犯人は複数人なのかよ……」

灯織「にちか……やったね」

にちか「うん、でもまだ灯織ちゃんの容疑を晴らせたわけじゃない。議論の流れをなんとか引き寄せられてる……今のうちに詰めていかないと」

真乃「がんばろう、後少しだよ……っ!」

霧子「それなら……死因の違いがずっと気になっているんだけど……」

恋鐘「死因が違うからって犯人が違うってにちかは言うとったね……」

恋鐘「どがんしてこん違いは生まれたばい?」

(前頭部と後頭部の致命傷の位置の違いか……)

(それは撲殺された瞬間のことを想定してみると分かるかもしれないな……)

透「じゃ、次は致命傷の位置がなぜ違ったのかについて」

透「よーい、スタート」

円香「あんたが仕切んの?」

-------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【事件の経緯】
‣【気化麻酔】
‣【死体発見アナウンス】
‣【夏葉の割れた指の爪】

恋鐘「なんで二人の致命傷は前頭部と後頭部で場所が違ったばい?」

凛世「犯人はめぐるさんと夏葉さん共に……」

凛世「気化麻酔を用いて【意識を奪った上で】撲殺をいたしました……」

凛世「同じ人物が犯人なら、狙い損じることはそうそうないものかと……」

甘奈「【動いていない】標的を殴るだけだもんね」

甘奈「慣れてなくても普通は当たるはずだよ☆」

霧子「もしかして犯人は腕に怪我をしてたのかも……」

霧子「その痛みで狙い損ねたとか……」

あさひ「おっ、にちかちゃんも容疑者に急浮上っすね!」

真乃「に、にちかちゃんはどっちの事件にも【アリバイがあります】から……!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「致命傷の位置の違い……その原因は意識があったかどうかですよ!」

霧子「えっ……? でも、現場にはお薬のボンベが残ってたよね……?」

にちか「はい、幽谷さんの才能研究教室にあった気化麻酔です」

霧子「あの気体は濃度に調整が必須で……ボンベに溜まっているものを直に吸引すると、意識を自力で取り戻すのは困難だと思う……」

にちか「私もそうだとは思うんです……でも、夏葉さんの死体に残された手がかりはそうじゃない、意識はあったってそう訴えかけてくるんです!」

あさひ「夏葉ちゃんの手の爪っすよ!」

甜花「つ、つめ……?」

あさひ「何か鉄製のものを力一杯引っ掻いたみたいなんすよね。爪はパキッと割れちゃっててそこからは鉄の匂いがしたっす」

樹里「か、嗅いだのか?! 死体の指の爪を?!」

あさひ「……? うなじの匂いを嗅いだんじゃないからいいじゃないっすか」

(何その価値基準……)


にちか「と、とにかく……あの爪は自分の力じゃないと割れないんですよ。事件の瞬間に意識があった証拠です!」

愛依「で、でもそんなん無理なんっしょ? 麻酔薬めちゃくちゃ強いやつなんでしょ、霧子ちゃん?」

霧子「うん……インドゾウさんでも気絶しちゃうぐらいだと思う……」

モノクマ「タチサレ……タチサレ……」

モノタロウ「うわー! 幽霊の話はやめてよー! オイラ幽霊の話と住民税の話だけは怖くて怖くてたまらないんだー!」

モノファニー「ここは人形をピッピッと投げつけて退散しましょう!」

恋鐘「そがんに強い麻酔吸って意識があった夏葉……なにもんばい!」

恋鐘「常識的に考えてあり得なかよ!」

灯織「……常識的に考えたらいけないのかもしれない」

真乃「灯織ちゃん……?」

灯織「いや、正直馬鹿げてるとは思うんだけど……夏葉さんって超研究生級の文武両道だったよね?」

灯織「その、体とかも鍛えてらしたし……精神力も並じゃなかったというか……」

樹里「お、おいおい! 根性で目を覚ましたとでも言うつもりかよ!?」


にちか「意識を取り戻した方法は分からないです、それこそボンベの中の麻酔が漏れ出ていたとかの可能性もありますし……」

にちか「ただ、夏葉さんは意識があったことは確かなんです! そして、これによって明らかになる【事実】もあるんです!」

真乃「意識があったことで浮かび上がる事実……?」

あさひ「みんなにヒントを出してあげるっす! 夏葉さんは何を引っ掻いて爪を割ったと思うっすか?」

にちか「は? ちょ、ちょっと急になに、芹沢さん?」

あさひ「ほらほら、にちかちゃんも考えるっすよ! ウンウン頭を捻って考えて欲しいっす!」

(夏葉さんが何を引っ掻いて爪を割ったか……?)

(……夏葉さんが命を落としたときの現場の状況、思い返してみよっか)

---------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.撲殺された時の夏葉の意識は?
a.意識があった b.意識がなかった

Q2.意識を取り戻した夏葉は何をした?
a.犯人に説得を試みた
b.脱出を試みた
c.犯人につかみかかった
d.ダイイングメッセージを書いた

Q3.夏葉が爪を割る原因になった物とは?
a.裏庭のマンホール
b.凶器の鉄パイプ
c.気化麻酔のボンベ
d.裏庭の扉

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1


(うーん……どうだろう。犯人に撲殺されるときに有栖川さんに意識があったのは間違いないだろうけど……)

(それに、必死に逃げ出すなら……扉をひっかくというよりもドアノブを必死に捻るんじゃないかな……)

---------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.撲殺された時の夏葉の意識は?
a.意識があった b.意識がなかった

Q2.意識を取り戻した夏葉は何をした?
a.犯人に説得を試みた
b.脱出を試みた
c.犯人につかみかかった
d.ダイイングメッセージを書いた

Q3.夏葉が爪を割る原因になった物とは?
a.裏庭のマンホール
b.凶器の鉄パイプ
c.気化麻酔のボンベ
d.裏庭の扉

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1


にちか「推理はつながった!」

【COMPLETE!】

にちか「そっか、意識を取り戻した夏葉さんが起こしたアクション、それに爪を割った理由があるんだ!」

恋鐘「そいはそうやろうけど……そんなことがわかるばい?」

あさひ「現場に残った痕跡を思い出して欲しいっす。あの現場には何が残ってたっすか?」

樹里「何って……気化麻酔のボンベと、凶器の鉄パイプだろ?」

真乃「これを引っ掻いて爪を割ったってことなんだよね……?」

にちか「そう、そしてもう一つのポイントは意識を取り戻したタイミングなんだよ」

灯織「撲殺された瞬間に、夏葉さんは意識があったんだよね? ってことは……夏葉さんは犯人と相対していたことになる」

あさひ「いっそ、犯人が凶器を振り上げているところで目を覚ましたのかもしれないっすね!」

甘奈「えっ?! それじゃあ夏葉さんは間一髪のところで助かったの?!」

にちか「助かった……というか抵抗をしたんだと思う。頭に鉄パイプを振り下ろされそうになってるのに気づいて、【犯人につかみかかった】んだよ」

樹里「夏葉はアタシたちの中じゃ背丈も高いし力も強い。意識を取り戻して間もないとはいえ十分に抵抗はできただろうな」

にちか「犯人との攻防の最中、力がこもってつい鉄パイプを引っ掻いてしまって、それで爪が割れちゃったんじゃないですかね」


あさひ「うんうん、そうっすね。じゃあ次のクイズっす!」

円香「……まだ続くの?」

あさひ「じゃあ夏葉さんは犯人と押し合いになってる時にどうやって死んだんっすかね?」

愛依「ま、また死因の話? それは撲殺で……」

にちか「そっか! そうだったんだ……! 致命傷の位置の違いは……その違いを物語ってたんだ!」

透「違いって……めぐるちゃんの時とは他にも違うところがあるの?」

にちか「はい……しかもめっちゃ重大な違いです。この事件について根っこの部分になる大きな大きな違いなんです……!」

甜花「な、何が違うの……?」

(間違いない……)

(めぐるちゃんの殺害現場にはなくて、夏葉さんの殺害現場には存在した物)

(アレが存在していたかどうかで、事態は大きく動く……!)

---------------------------------------------

【にっちー危機一髪 スタート!】

夏葉の殺害現場には■■■■■が存在していた!

ん ま だ し や
う い さ つ ち

【正しいワードで推理をぶちかませ!】

↓1


昨日は途中で抜けてしまってすみませんでした。
新規システムを特に解説もせずにぶん投げてすみません。
既にやっていただいている通り、レインコードに出てきた死神ちゃん危機一髪を踏襲した設問です。
並んでいる文字列から適切な文字だけを抜き取って配置するシステムとなっています。

そして、今になって気が付いたのですが出題時の文字数を誤っていました。すみません。
想定解は「だいさんしゃ」だったのですが、■が5つになっていましたし、だましうちでも意味として通るところなのでここは正答でクリアにします。

今日は所用のため更新はできませんが、次回更新時はこの続きより開始します。

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夏葉の殺害現場には騙し討ちが存在していた!
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にちか「閃いた!」

【解!】

にちか「さっきの話の続きです! 意識を取り戻した夏葉さんと犯人は鉄パイプ越しに押し合いになっていた……」

にちか「西城さんが言ってた通り、夏葉さんは私たちの中でも身体能力が高い方でした。そんな人に押し合いに持ち込まれたら、犯人に勝ち目はあったでしょうか?」

凛世「麻酔の影響があり、意識が曖昧だった可能性はあるやもしれませんが……」

凛世「夏葉さんの方がやはり、有利になるのではないでしょうか……?」

にちか「私もそうだと思います。でも思い出してください! 夏葉さんの致命傷ってどこに受けてましたっけ!?」

甜花「後頭部……頭の後ろ、だね……」

あさひ「押し合いにも負けそうな犯人がどうやってそんなところ殴るっすかね?」

灯織「不可能、ですね……」

にちか「そう、できないんだよ。力で負けている犯人には、決してね」

透「え。じゃあどうすんの」

透「まさか……生きてる?」

樹里「いやいやいやいや! 流石にそれはねーって!」


あさひ「不可能なのは、押し合いになってる犯人が殴り殺すことっすよ?」

あさひ「【他の誰か】なら撲殺はできたっす」

恋鐘「ほ、他の誰か……?! そ、それってつまりあの現場には三人の人間がおったってことになると?!」

にちか「やっぱりこの事件は複数犯による物だったんです! アリバイの確保、二人の監禁、事件現場の潜伏……」

にちか「それを可能にしたのはこの濃密な協力体制があったからなんです!」

円香「なんとなく犯人像が見えてきたかもね」

円香「今回の犯人は並大抵の信頼関係で結ばれた物じゃない」

円香「損とか利益とかそんなレベルじゃない結束」


樹里「それって透と円香もそうだろ?」

樹里「アンタらは幼馴染、アタシたちの中では一緒にいる時間がかなり長い二人のはずだ」

透「でも私は夏葉さんの殺害現場には行けない」

透「ね、愛依ちゃん」

愛依「う、うん……! そーだよ、死体発見アナウンスまで一緒にいたもん!」

透「樋口はめぐるちゃんの殺害はできない。窓から逃走してた時間がないからね」

円香「……そういうこと」

(そう、今回の事件の犯人は夏葉さんの殺害の時に現場に居合わせることができた二人組)

(めぐるちゃんの時にも不完全ながら一応のアリバイは確保していたし、私の嘘がなくちゃそれも突き崩されてはいなかっただろう)

(複数犯による犯行だったと明らかになった今、それが可能なのはあの二人しかいない……!)

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【クロを指摘しろ!】

※二人同時指摘

↓1


にちか「犯人は……あなたです!」

【解!】

にちか「甘奈ちゃん、甜花さん……あなたたちなんですよね。今回の事件を仕掛けたのは」

甘奈「えっ……?!」

甜花「ひぃん……!」

甘奈「ちょ、ちょっと待ってよ! なんでそうなるの?!」

にちか「今回の事件の犯人は夏葉さんの殺害現場に居合わせることができた二人組。そのタイミングでアリバイが浮いているのはあなたたち二人なんですよ」

甜花「ほ、他にも月岡さんとか……西城さんとか……いるよ……?」

あさひ「めぐるちゃんの事件も忘れちゃいけないっすよ。シャワールームの窓からの脱出ができた人間は透ちゃん、灯織ちゃん、甜花ちゃんの三人だけ」

あさひ「そのうち夏葉さんの現場に行くこともできるのは甜花ちゃんだけっす」

甜花「ひぃん……?!」


甘奈「で、でも……そう! 死体発見アナウンス! さっきにちかちゃんも言ってたけどあれってシロの3人が死体を発見しないと鳴らないんだよね?!」

甘奈「甘奈も甜花ちゃんも、死体発見アナウンスが鳴った時の三人に含まれてるよ!?」

真乃「うん……だから甘奈ちゃんはめぐるちゃんの殺害に関してはシロ、甜花ちゃんは夏葉さんの殺害には関してはシロになるよ……」

真乃「でも、事件を通してのシロじゃないの……ごめんね……」

灯織「むしろ、その死体発見アナウンスを利用したのかもしれません。ほら、モノクマーズが言ってたよね?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

モノタロウ「オイラたち、こんなことも教えてくれないぐらい冷たいと思われてたの?! 心外だなぁ」

モノスケ「そもそもこの条件については【キサマラにも一度質問を受けとる】ことやしな」

(……え?)

モノスケ「ま……ソイツは他の連中と共有をする気もなさそうやし、キサマラで改めて共有しておいてや」

モノタロウ「情報は水だよ! 独占しちゃいけないんだ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

灯織「今回の事件で、死体発見アナウンスの条件について私たちよりも先に質問した人がいるって」

灯織「二人は死体発見アナウンスがなった時のメンバーにそれぞれを忍び込ませることで無実を印象付けようとしてたのかもしれません」


モノクマ「ちょっと! オマエたち、そんな重要なことを教えちゃったの?!」

モノタロウ「ご、ごめんなさいー!」

モノスケ「モノダムのやつが知識は水だとか抜かすからあかんのや! ワイらは隠し通すつもりやったんや!」

モノダム「……」

にちか「むしろ、二人は犯人だからこそ死体発見アナウンスを鳴らす三人のうちに滑り込めたんじゃないですか?」

にちか「死体のある場所をそれぞれ知っていたから……!」

甘奈「い、言いがかりだよ! そんなの……証拠もないって!」

(うぅ……胸が痛い)

(甘奈ちゃんとは今朝、仲がさらにもう一段階前に進んだ感触があったから……そんな日にすぐにクロと指摘する指先を突きつけなくちゃいけなくなるなんて)

(でも……これが守りたいものを守るために戦い続けて……たどり着いた真実なんだ)

(ここから退くわけには……いかない!)


愛依「えっと……二人が犯人なんだとしたら、めぐるちゃんを殺害したのが甜花ちゃんで」

愛依「夏葉ちゃんを殺害したのが甘奈ちゃんなんだよね?」

凛世「はい……そうなります……」

凛世「ですので……シャワールームより脱出するジップラインを使用なされたのも甜花さんということに……」

甜花「て、甜花インドア派だから……そんなのできない、よ……?」

にちか「落ちないように掴むだけです! 甜花さんのスポーツテストがEランクでも不可能じゃないですよ!」

甘奈「むー! 失礼な! 甜花ちゃんはかなりE寄りのDだよ!」

円香「運動神経悪くはあるんだ」

甜花「えと……えと……」

甜花「あっ! あ、あの……反論、あります……!」

甘奈「……! 甜花ちゃん?」

甜花「七草さんの推理だと、甜花が八宮さんを殺して……その後でAVルームに行って、風野さんと一緒に監禁されたフリをしたことになるんだよね……?」

甜花「シャワールームからプールに出て、そこから地下に行く……」

甜花「で、でも甜花にはそれ……できない、から……」

(……え?)

甜花「なーちゃん、任せて……甜花が守ってみせるから……!」

甜花「なーちゃんを犯人なんかにはさせない……!」

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【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【プールの利用規則】
‣【シャワールームの窓のフレーム】
‣【灯織と甜花の拘束】
‣【AVルーム裏口の扉】

甜花「八宮さんを殴ってシャワールームからジップラインで脱出……」

甜花「プールに降りたら、そのまま地下に行く……」

甜花「あとは【自分で目隠しと耳栓をして、手足を縛る】……?」

甜花「甜花には……これはできないんだ……」

甜花「だって、【そんな時間はない】から……」

甜花「和泉さんの証言を思い出してみて……!」

甜花「甜花たちを発見したのって、【扉を閉まる音を聞いたから】……だよね?」

甜花「それってつまり【犯人が逃げ込んだ】時に和泉さんが居合わせたから……!」

甜花「甜花、手先が不器用だから……そんな音を聞かれてからじゃ縛るの間に合わない……!」

樹里「そんな威張って言うことか……?」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「それは違くないですかー?!」論破!

【BREAK!】

にちか「地下にある教室でスライド式の扉なのはゲームルームとAVルームの二つ。だから愛依さんが聞いた音は犯人が逃げ込んだ音になる」

甜花「そう、だから……そんな直後に手足を結ぶなんてできない……!」

にちか「そうじゃないんですよ。地下にはもう一つスライド式の扉があるんですから」

甜花「うん……それは知ってるよ……」

甜花「AVルームの裏口の扉……だよね? でも、前に幽谷さんと使った時に確認したけどあの扉は建て付けが悪くて開かなかったはず……」

凛世「甜花さん……裏口の扉は、凛世が直させていただきました……」

凛世「図書室で読んだ書籍の映像化した作品を見たくなった際に、逐一迂回するのは手間でしたので……」

凛世「油を差したり、扉を外したり……色々と試させていただきました……」

(杜野さん、見かけによらず結構アクティブだよね……)

にちか「そう、裏口が事件当時も使えたんですよ。だとすると、愛依さんが聞いた音は必ずしもAVルームに逃げ込む音じゃなくて……」

にちか「その逆、AVルームから出ていく音だった可能性もあるんですよ!」


恋鐘「ど、どういうことばい? 甜花がAVルームで見つかったのは事実やろ?」

にちか「そう、甜花さんの今の反論自体は間違ってないんです。あの音がしてからセルフで体を縛るのは現実的じゃない」

にちか「だから、そうじゃなくて甜花さんは別の人に縛ってもらったんです」

甘奈「……!」

真乃「あっ、だからAVルームから出ていく音なんだね……!」

真乃「甘奈ちゃんが甜花ちゃんのことを縛って、それから出て行った音……!」

愛依「そっか……それなら間に合うんじゃん!」

甘奈「ううん……間に合わないよ」

甜花「なーちゃん……?」

甘奈「甜花ちゃん……守ってくれてありがとう。でも甘奈も一緒に戦わせて」

甘奈「甘奈も甜花ちゃんをクロになんかさせたくないんだ……!」


【甘奈「甘奈もここは譲れない!」】決闘!

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【舌戦デュエルマッチ開始!】

甘奈「にちかちゃん、思い出して」

甘奈「甘奈はめぐるちゃんの死体を発見した後は」

甘奈「一階の食堂方面でみんなを探してたんだよ?」

甘奈「愛依ちゃんよりも先回りして地下に行って」

甘奈「甜花ちゃんを縛って出ていくなんて」

甘奈「どう考えても間に合わないよ!」

(……確かに甘奈ちゃんと愛依さんがみんなを探した階数はチグハグだ)

(だけど、そのチグハグさを解消するための答えがある……!)

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甘奈は■■■■■■を利用した!

ろ る し う に
け か よ く つ

【正しいワードで推理をぶちかませ!】

↓1

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甘奈は隠し通路を利用した!
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にちか「切り伏せる!」

【SLASH!】

にちか「逆だよ! 甘奈ちゃんは食堂エリアに行ったからこそ先回りして甜花さんを縛ることができたんだ」

甘奈「ど、どういう意味……?」

にちか「私も使った方法だよ。食堂近くの女子トイレの用具入れ、あそこにあった隠し通路……まさか知らないとは言わないよね」

甘奈「……!」

にちか「前回の裁判が終わった後、私はここにいる全員を連れて隠し通路を見せに行った。どこに隠し通路があって、どこに通じているのかも確認したはずだよ」

透「隠し通路を通ってAVルームで、甜花ちゃんと待ち合わせ」

透「そんで縛った後は……」

あさひ「それも前回の事件と同じじゃないっすかね。わたしが使った方法っすよ!」

(……)

にちか「通気口。あそこからなら愛依さんと鉢合わせることなく脱出できたはずだよ」


モノクマ「いやー、大崎さんちの妹さんは勤勉でございますなぁ! コロシアイの復習をしっかりやってるんだから!」

モノタロウ「あっ! これコロシアイゼミでやった問題だ!」

モノファニー「えらいわモノタロウ。後でオレンジジュースを持ってきてあげましょうね」

にちか「さあ、これで甜花さんの脱出ルートも実現可能なことが証明できましたよ」

にちか「まだ反論はありますか!」

甘奈「むむむむ……」

甜花「えっと……えっと……!」

真乃「にちかちゃん……あとひと押しだよ。もう事件の全貌は見えてるから」

灯織「にちか、最後に事件を最初から全部振り返ってみて……それで二人に突きつけてみよう」

灯織「それでなお反論がなければ……きっとそれが真実なんだと思う」

にちか「真乃ちゃん、灯織ちゃん……」

にちか「うん……任せて! これでこの長かった事件も終わりにする」

にちか「真実を私の手で明らかにするよ!」

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【クライマックス推理開始!】

【act.1】

「今回の事件はかなり複雑……二つの事件が一つに結びついてできているものだったんです。なので、順を追って一つずつ説明しますねー!」

「最初に襲われたのは……多分夏葉さんだと思います。私たちはめぐるちゃんの発案で才囚学園体育祭の開催をすることになって、その前日から準備をしていました。夏葉さんは中でも遅くまで体育館に残って準備をしてくれてました。でも、多分今回はその厚意が裏目に出てしまったんだと思います」

「だって今回の事件において重要な脱出トリックは体育館の窓を使用したものだったんですから。長く体育館に残っていた夏葉さんの存在は犯人たちにとって目の上のたんこぶ。犯人たちは夏葉さんを襲うと気化麻酔を使ってその意識を奪いました……」

「夏葉さんが気絶した後は工作の時間。体育館の窓をよる時間が始まる前に開けておいて、そのフレームにワイヤーを結びつけました。ワイヤーの端はプール側に垂らして、プールから回収できるようにして……です」


【act.2】

「夏葉さんを裏庭にまで連れて行き、気化麻酔がボンベから溢れ出る状態にして扉を閉めたら犯人たちはもう一つの事件に向けての準備に移りました。といってもだいぶ間の時間は空いたと思いますけどね」

「朝の6時、樋口さんと浅倉さんが才能研究教室の見張りを交代するタイミングを知っていた犯人たちは、一方をそのタイミングでめぐるちゃんの才能研究教室に忍び込ませました。このタイミングでなら校舎内に人はいなくなり、見つかるリスクもなくなるからです。後は朝の準備のタイミングでやってくるめぐるちゃんを待つだけ。その時に備えて金属バットを脇に構えました」

「もう一人の犯人は自分への容疑を薄くするための狂言監禁の準備に取り掛かりました。灯織ちゃんを図書館に呼び寄せると、そこで襲撃。手足と目、耳を封じるとAVルームに閉じ込めたんです。後に灯織ちゃんと一緒に自分もそこで同じ状態になることで、被害者一団を装おうとしたんですね」

【act.3】

「そして、朝が来た。昨晩のうちの準備に決着がついていなかったのでめぐるちゃんはアナウンスと同時かそれより少し早いぐらいに才能研究教室に向かってしまった……自分の命が狙われているとも知らずに……」

「とはいえ、すぐに犯人は命を奪ったわけではありません。今回の事件はリアルタイムに進行し、その間のアリバイを有耶無耶にすることが目的だったのでまずは意識を気化麻酔で奪うだけにしました」

「一方その頃体育館に集まっていた私たちは、めぐるちゃんと灯織ちゃんと夏葉さん、そして犯人の一人が集まっていないことに気づく。そのまま3人の捜索に移ることになるのですが、この時から誘導されていたのかもしれませんね。だって、めぐるちゃんの死体発見アナウンスの条件であるシロ3人の目撃に、犯人は割り込んできたんですから」

「私たちがめぐるちゃんの死体を発見しにくるタイミングを狙って犯人の一人はシャワールームからの脱出を開始。あらかじめ通しておいたワイヤーを折れたホッケースティックを使ってジップラインの要領で滑走。プールに降り立った犯人はAVルームに急ぎます」

「めぐるちゃんの死体を発見した後の私たちは残りの3人の捜索を再開。この時に犯人は自然な形で1階の食堂の捜索を申し出ています。それは食堂付近の女子トイレ、その中の隠し通路を利用するため。隠し通路を利用して愛依さんより先に地下に辿り着いた犯人は、もう一人の犯人をその場で縛り上げ、あたかも灯織ちゃんと同様にずっと監禁されていたかのように装ったんです」


【act.4】

「偽装の拘束を終え、通気口を介して地上に出た犯人はそのまま裏庭へ。そこで今度は夏葉さんを撲殺しました。これによって犯人二人、それぞれの犯行が終了。連立する二つの事件が成功したんです」

「後は私と愛依さんによって拘束を解かれた犯人が夏葉さんの死体を発見することで事件は完結する。犯人二人が、自分の事件ではない事件についてアリバイを確保し、死体発見アナウンスによりシロの証明をもらうことで雲隠れを狙った……その目論見を完遂したんですよ!」

「こんな複雑な事件を実現できたのは、波ならぬ信頼関係で結ばれた二人だからこそ!」


「甘奈ちゃん、甜花さん……そうですよね?」


【COMPLETE!】
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にちか「……どうです? 事件を一通り振り返りましたけど、これに反論はありますか?」

甘奈「うぅ……」

甜花「……」

にちか「ない、みたいですね……」

樹里「終わった……のか……なんか、すげー長い戦いだった気がするよ」

愛依「うち一生分の頭使った気がする……もうこんがらがってしゃーないわ……」

真乃「アリバイにトリック、いろんな要素が絡んで……難しい事件でした……」

真乃「そんな中でも真実を見つけられたのはみんなが諦めずに立ち向かったからだよ……っ」

(……終わった)

(やっと、真実に辿り着けたんだ)

(ルカさん……私、なんとかやれてます)

(必死に足掻いて、運命をなんとか切り開いて……今こうして立ってる。立っていられてる)

(なんとか、生きられてる)

甘奈「甜花ちゃん、終わっちゃったね……」

甜花「……」

甘奈「えへへ……ごめんね、甘奈……負けちゃった」

甜花「なーちゃん……」





あさひ「あはは、甘奈ちゃんも甜花ちゃんも嘘つくのが上手いっすね」




甘奈「……え?」

にちか「……は?」

あさひ「全部終わったって諦めたみたいに言ってるっすけど……」

あさひ「本当は自分たちの狙い通りになったって喜んでるんじゃないっすか?」

にちか「な、何言ってるの?! これ以上はもう何もない! 今の推理だって全部通ってるし、間違いなんかない!」

にちか「今のが真実なんだよ?!」

あさひ「……本気でそう思ってるんっすか?」

にちか「……え?」


あさひ「改めて言うんすけど、このコロシアイはゲームなんっす。自分たちの生きるか死ぬかがかかった真剣勝負」

あさひ「クロとシロが自分の持つ全部、自分が出せる最高をぶつけあうゲームっす」

あさひ「ゲームに勝つためならなんだってする、それは当然のことなんっすよ」

あさひ「だから_______」



あさひ「まだまだゲームはここからっす! だってにちかちゃんの推理には一つ大きな【矛盾】があるっすからね!」



(私の推理の抱える、矛盾……?)

(そ、そんなの……どこに……?)

あさひ「甘奈ちゃん、甜花ちゃん。わたし楽しいっすよ……まさか二人がここまでやってくれると思ってなかったっす」

あさひ「でも負けないっすよ! わたしはこのゲームに本気で勝つつもりっす!」

あさひ「だからみんな……わたしについてきてほしいっす!」

甘奈「……」

甜花「……」

樹里「い、いったい何が始まるってんだよ?! まだ……アタシたちの気付いてない事実があるってのか?!」

---------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【灯織と甜花の拘束】
‣【二人を殺害した凶器】
‣【夏葉の割れた指の爪】
‣【モノクマファイル2】

あさひ「にちかちゃんの推理にはすっごく大きな矛盾があるっすよ!」

あさひ「甜花ちゃんが【めぐるちゃんを殺して】」

あさひ「シャワールームから脱出して」

あさひ「AVルームで甘奈ちゃんに縛ってもらって」

あさひ「甘奈ちゃんが裏庭で【夏葉さんを殺した】」

あさひ「ほら、矛盾してるっすよね?」

恋鐘「な、なに〜〜〜?! あさひはなんのことを言うとると〜〜〜?!」

霧子「ここまでの道のりに、分かれ道はなかったと思うけど……」

霧子「何か、見落としたものがあったのかな……」

真乃「にちかちゃん……真実を見失わないで」

灯織「にちか……見るべきものを見出そう」

あさひ「やっぱり学級裁判は面白いゲームっすね!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


あさひ「甘奈ちゃんが甜花ちゃんを縛って、そのまま夏葉さんも撲殺した」

あさひ「その死体を発見したのが甜花ちゃんっす。このことはにちかちゃん自身も目撃した事実っすよね?」

あさひ「わたしが言いたいのは、この事実との間に生じている矛盾っすよ」

(どういうこと……? 事実と証拠品に何か食い違いでもあるっていうの……?)

---------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【灯織と甜花の拘束】
‣【二人を殺害した凶器】
‣【夏葉の割れた指の爪】
‣【モノクマファイル2】

あさひ「にちかちゃんの推理にはすっごく大きな矛盾があるっすよ!」

あさひ「甜花ちゃんが【めぐるちゃんを殺して】」

あさひ「シャワールームから脱出して」

あさひ「AVルームで甘奈ちゃんに縛ってもらって」

あさひ「甘奈ちゃんが裏庭で【夏葉さんを殺した】」

あさひ「ほら、矛盾してるっすよね?」

恋鐘「な、なに〜〜〜?! あさひはなんのことを言うとると〜〜〜?!」

霧子「ここまでの道のりに、分かれ道はなかったと思うけど……」

霧子「何か、見落としたものがあったのかな……」

真乃「にちかちゃん……真実を見失わないで」

灯織「にちか……見るべきものを見出そう」

あさひ「やっぱり学級裁判は面白いゲームっすね!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


あさひ「二人の命を奪った金属バットと鉄パイプ、それぞれに何かおかしいところがあるんっすか?」

あさひ「指紋でも取れたら話は別かもしれないっすけど……ここじゃそんなのできないっすよ」

(これでもないか……だとしたら、矛盾って何……?)

(甜花さんがめぐるちゃんを、甘奈ちゃんが夏葉さんを順当に殺した場合……今手元にある証拠がおかしかったりするのかな)

(存在するはずがない証拠……とか?)

---------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】

コトダマ
‣【灯織と甜花の拘束】
‣【二人を殺害した凶器】
‣【夏葉の割れた指の爪】
‣【モノクマファイル2】

あさひ「にちかちゃんの推理にはすっごく大きな矛盾があるっすよ!」

あさひ「甜花ちゃんが【めぐるちゃんを殺して】」

あさひ「シャワールームから脱出して」

あさひ「AVルームで甘奈ちゃんに縛ってもらって」

あさひ「甘奈ちゃんが裏庭で【夏葉さんを殺した】」

あさひ「ほら、矛盾してるっすよね?」

恋鐘「な、なに〜〜〜?! あさひはなんのことを言うとると〜〜〜?!」

霧子「ここまでの道のりに、分かれ道はなかったと思うけど……」

霧子「何か、見落としたものがあったのかな……」

真乃「にちかちゃん……真実を見失わないで」

灯織「にちか……見るべきものを見出そう」

あさひ「やっぱり学級裁判は面白いゲームっすね!」

【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】

↓1


にちか「そういうこと……!?」論破!

【BREAK!】

にちか「そうだ……芹沢さんの言う通りだ……! 私ってば、めちゃくちゃ大きな矛盾を見落としちゃってた……!」

真乃「にちかちゃん、分かったんだね……っ!」

にちか「うん……甘奈ちゃんが夏葉さんを殺した……これって、そんなわけがないんだよ」

愛依「え? は? な、なんで……?!」

にちか「思い返してみてください。夏葉さんが撲殺された時の状況を、もう一度」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

灯織「撲殺された瞬間に、夏葉さんは意識があったんだよね? ってことは……夏葉さんは犯人と相対していたことになる」

あさひ「いっそ、犯人が凶器を振り上げているところで目を覚ましたのかもしれないっすね!」

甘奈「えっ?! それじゃあ夏葉さんは間一髪のところで助かったの?!」

にちか「助かった……というか【抵抗をした】んだと思う。頭に鉄パイプを振り下ろされそうになってるのに気づいて、犯人につかみかかったんだよ」

樹里「夏葉はアタシたちの中じゃ背丈も高いし力も強い。意識を取り戻して間もないとはいえ十分に抵抗はできただろうな」

にちか「犯人との攻防の最中、力がこもってつい鉄パイプを引っ掻いてしまって、それで爪が割れちゃったんじゃないですかね」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にちか「夏葉さんは気化麻酔を吸った後に意識を取り戻した。犯人に襲われる直前で」

霧子「あ……!」

にちか「そう、本来ここで夏葉さんを撲殺するはずだったのは甘奈ちゃん。だけど……夏葉さん自身の抵抗にあってそれは【失敗している】はずなんだよ」

透「それは後頭部の致命傷が証明してるんだよね」

透「あんな血は流れない……後ろからじゃないと、ね」


灯織「そして現場に3人の人間が存在したこともすでに証明済み。そこにいたのが甜花さんなのだとしたら……」

にちか「本当に夏葉さんを撲殺したのは、【甜花さんの方だった】ことになります!」

甜花「……!!」

甘奈「て、甜花ちゃん……」

愛依「え……そんじゃまさか、今回の事件って本当は甜花ちゃんが犯人の……【連続殺人】ってことになんの?!」

円香「……待ってください。それはおかしくないですか?」

円香「甜花による連続殺人も何も……彼女は夏葉さんの死体の【第一発見者】だったはずです」

霧子「死体発見アナウンスの条件であるシロ3人……その中に甜花ちゃんは含まれてたはずだよね……?」

霧子「だとしたら、甜花ちゃんが夏葉さんを殺すことは……あり得ないんじゃないかな……」

にちか「……」

(甜花さんは死体の第一発見者だった……)

(でも、状況的に甜花さんが夏葉さんを撲殺したことは間違いない……)

(この致命的な矛盾を解決する方法って……)


あさひ「にちかちゃん、どうっすか? 最高にワクワクしてこないっすか?」

にちか「はぁ? ちょ、ちょっと今考えてるから話しかけないでよ……」

あさひ「そんな邪険にしないでほしいっす。わたしはにちかちゃんの味方っすよ?」

にちか「うっさいなぁ……! あなたのせいでみんな頭がこんがらがってるって言うのに……」

あさひ「みんな考えすぎなんっすよ。もっと簡単に考えればいいっす」

あさひ「矛盾の謎を解くのが難しければ……」





あさひ「矛盾自体がなかったものとして捉えればいいっす」





にちか「は……? な、なにそれ……?」

あさひ「後はにちかちゃんが自分自身で答えを見つけるっすよ〜!」

(何この子……本当勝手すぎ……!)

(矛盾自体がなかったものとして捉える……? 意味わかんないって……!)

(……考えろ、考えるの。七草にちか)

(ここを乗り越えなきゃ、明日はないぞ……!)

---------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.めぐるを撲殺したのは?
a.甘奈 b.甜花

Q2.夏葉を撲殺したのは?
a.甘奈 b.甜花

Q3.夏葉の死体の第一発見者は?
a.甘奈 b.甜花

Q4.この矛盾を解消するための答えは?
a.偽証 b.なりすまし

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1


(この二人の目論見は見抜けた……あとは事実関係を正しく抑えることが大事だ)

(私の目視上で起きたことを、ありのままに辿ろう)

(そうじゃないと、矛盾を正しく指摘できない……)

---------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.めぐるを撲殺したのは?
a.甘奈 b.甜花

Q2.夏葉を撲殺したのは?
a.甘奈 b.甜花

Q3.夏葉の死体の第一発見者は?
a.甘奈 b.甜花

Q4.この矛盾を解消するための答えは?
a.偽証 b.なりすまし

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1


(いや……そうじゃない……)

(有栖川さんの死体を見つけたのは、あの人だったんだ……)

(そして、この矛盾を解消する答えはあれで間違いない!)

---------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】

Q1.めぐるを撲殺したのは?
a.甘奈 b.甜花

Q2.夏葉を撲殺したのは?
a.甘奈 b.甜花

Q3.夏葉の死体の第一発見者は?
a.甘奈 b.甜花

Q4.この矛盾を解消するための答えは?
a.偽証 b.なりすまし

【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】

↓1


にちか「そんなことって……!」

【COMPLETE!】

(……そ、そんなことあり得るの?)

(でも、これならこの矛盾を根底から否定できる)

(アリバイとか死体発見アナウンスとかそんなの目じゃない……けど、流石に現実的じゃない気が)

(……いや、現実的じゃないからこそ……だ)

(こんなトリックが出来るのは彼女たちが【超研究生級の双子】だからこそなんだ……!)

にちか「私たちは、最初から間違えていたのかもしれないです」

にちか「目に見えているものだけが正しい。自分の主観で観測してるものが真実だって、ずっと思い込んでいた」

にちか「目の前にいる人物が、大崎甘奈だ。大崎甜花だって……疑うこともなく受け入れちゃってたんですよ!」

灯織「え……?! そ、そんなこと……あり得るの?!」

真乃「それって……双子でお互いになりすましてたってこと……?!」

樹里「はあああああああああああ?!」


円香「そ、そんなの……いくら双子とはいえ、出来っこない……!」

甘奈「そ、そうだよ〜! にちかちゃん、流石に突飛すぎるって〜」

にちか「じゃあ甜花さんが夏葉さんの殺害犯でありながら死体の第一発見者でもある事実をどうやって説明づけるんですか?」

甜花「あ、あ、ああ……」

にちか「あれは二人の計画に生じたイレギュラー。全く予期してない出来事だったがために生じてしまった矛盾だったはずです……」

愛依「じゃあ……マジなん? マジに二人は、お互いになりすましてたってワケ……?」

あさひ「あははははははは! すごい、すごいっすね! この二人じゃなきゃ出来ない大胆なトリックっすよ!」

凛世「しかし……お二人はいつから入れ替わられていたのでしょうか……?」

凛世「凛世たちが言葉を交わす限りでは目立った違和感はなかったですが……」

(焦点はそこになるよね……)

(二人を見掛けの特徴や話し方から見分けるのは難しい……ここまでの推理の中でどちらがどっちだったのかを見分けなくちゃいけないんだ)

(鍵になるのは、夏葉さんの殺害現場におけるアクシデント……抵抗されるのはまず間違いなく予想外だったはず)

(逆に言えば……そこまでの計画は狙い通りだったことになるんだよね)

にちか「甘奈ちゃん、甜花さん……私は負けない……絶対に真実を暴いて見せるから!」

甘奈「……」

甜花「……」

---------------------------------------------
【検討プロセッシング開始!】

甘奈ちゃんと甜花さんの間に起きた入れ替わり……そのタイミングを見極めるヒントは夏葉さん殺害時のアクシデント。
あれによって、本来殺害する予定だった側とは逆の人間が夏葉さんを撲殺することになってしまったはずなんだ。
そう、それまでは計画は予定通りに進んでいたはずなんだ。

じゃあその計画における一番の狙いってなんなんだろう?
入れ替わることで二人は何を狙っていたんだろうか?

・目撃証言の妥当性を下げる
・それぞれの事件についてクロを逆転させる
・同じ人物の目撃証言を複数獲得する

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


【CORRECT!】

そうだ! 双子で入れ替わってなりすましていれば、自分が起こした事件について自分が死体発見アナウンスの条件を満たすシロになることができる……!
つまり、投票の時に正しい犯人に投票したとしてもそれが誤答になる逆転の目が生まれるってことなんだ。
夏葉さん殺害のときまで計画は順調に進んでいたはず……つまりめぐるちゃんの殺害は本来の計画通りの犯人が殺害を行ったことになる。
あの時、死体発見アナウンスの条件に入って確定のシロ認定をされていたのは……

・甘奈
・甜花

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


【CORRECT!】

そう、甘奈ちゃんだ。
つまり、あの時私たちと一緒に行動を共にしていた甘奈ちゃんは本当は甜花さんで、めぐるちゃんを殺害したのこそが甘奈ちゃんと言うことになる。

そうなると、甘奈ちゃんこそが地下のAVルームに逃げ込んだことになって、その後を追ったのが甜花さんになる。

えーっと……二人の狙いは自分が起こした事件においてシロ認定を貰うことにあるわけで、二人が協力してるってことはそれぞれの事件で犯人は別になる予定だったわけで……

そうなると、夏葉さんを元々殺害する予定だったのはどっちだろう?

・甘奈
・甜花

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


【CORRECT!】

うん、そうだよね……元々は甜花さんが夏葉さんを殺害するはずだった……
だから、AVルームでの二人も入れ替わりが生じていたはず。
愛依さんが発見した甜花さんは甘奈ちゃんで、通気口を抜けて裏庭に向かった甘奈ちゃんが甜花さんだったんだ。

そして、甜花さんが夏葉さんを殺害しようとした時抵抗にあって……

最終的に夏葉さんを殺害したのは……

・甜花
・甘奈

【正しい選択肢を選べ!】

↓1


うん、間違いない。
夏葉さんを殺害したのも……甘奈ちゃんになるはずだ。
二つの事件について、そのクロはどちらも甘奈ちゃんだったんだ……!

夏葉さんの死体発見アナウンスが鳴った時の3人に甜花さんが含まれていた。
ということはあの時の甜花さんは本物だったことになる。

今までの話を総合するとこうだ。
【二人は最初から入れ替わっていたが、夏葉さん殺害の際にアクシデントが起き、そこで入れ替わりを解消した】

こういうことだよね……!

【COMPLETE!】


にちか「……っぷはぁぁぁ!」

にちか「はぁ……はぁ……考えすぎで息止まるかと思った……しんど」

霧子「にちかちゃん……大丈夫……? 突然静かになるから何があったのかと思って……」

にちか「すみません……色々と整理してたら、喋るどころじゃなくて。でも、おかげで全部分かりましたよ!」

甜花「ぜ、全部……?」

にちか「そもそも双子で入れ替わるメリットっていうのは、自分が起こした事件でシロ認定を貰えるってところにあるんです」

にちか「甜花さんが起こした事件に、甘奈ちゃんがなりすましてる甜花さんが目撃者になる……みたいな。これをすることで、私たちの認識は逆になって、クロの投票が誤答になるわけです」

円香「なるほど……事件を起こした時の正体の如何によって正誤が左右されると」

恋鐘「ん、んん……?」

にちか「で、もう一個重要なのが夏葉さんの殺害まで計画は全部順調に進んでたってことです」

真乃「目立ったミスはなく、イレギュラーな事態もなかったもんね……」

にちか「だから、めぐるちゃんの殺害は狙い通り。甘奈ちゃんが死体発見アナウンスでシロになってるってことは裏を返せば」

灯織「甜花さんが甘奈になり変わって死体を発見したということ……!」

霧子「じゃあ本当にめぐるちゃんを殺害しちゃったのは、甘奈ちゃんになるんだね……!」

にちか「ですです。で、同じやり方で今度は甜花さんが夏葉さんを殺害しに行く……」

あさひ「でも、そこで予想外に夏葉ちゃんの抵抗を受けた」

凛世「甜花さんは殺害に失敗、夏葉さんと押し合いになっているところを……」

凛世「甘奈さんが、撲殺……?!」

にちか「……そういうことです。この事件は双子によるそれぞれ別の事件となるはずだったのが、夏葉さんの抵抗によって」

にちか「【甘奈ちゃん一人による連続殺人になっちゃった】んですよ!」

甘奈「……」


透「ってことは……二人が入れ替わってたのって最初から夏葉さんが死ぬまでの間?」

にちか「そうです……二人は初めから入れ替わっていたのを、夏葉さん殺害の時に逆に解消してたんですよ!」

あさひ「流石にわたしも予想してなかったんで、すごくワクワクしたっす。これで夏葉さんの抵抗がなければ完全犯罪が成立してたかもしれないっすね!」

(……芹沢さんのいう通りだ)

(もし夏葉さんが意識を取り戻すことなく、予定通り甜花さんに撲殺されていたのなら私たちは二人の入れ替わりに気づくことなく投票に行っていた)

(完全に、終わりかけてた……私たちの負けで、バッドエンド)

(夏葉さんの執念が、私たちの生を守り抜いてくれたんだ……)

にちか「でも、これで終わりです。甘奈ちゃんと甜花さん……二人の仕掛けたトリックは全部見破りましたから」

甘奈「……」

甜花「……」

にちか「モノクマ……投票タイムに行こうよ。この学級裁判を終わりにするんだ」

モノクマ「あいさー! それではオマエラの結論も出たようなので……」

モノクマ「オマエラ! お手元のスイッチでクロだと思う生徒に投ひょ






あさひ「そうはいかないっすよ」






(え……?!)

あさひ「なんだ、にちかちゃん気づいてなかったんすか? てっきり最後まで分かってるもんだと思ってたっす」

にちか「何……? 何か私の推理に間違いでもある?!」

あさひ「にちかちゃんの推理が合ってるとか間違ってるとかそういう次元じゃなくて、まだこの事件は終わってないんっすよ」

にちか「は……? なに言ってんの? 意味わかんないんだけど!」

あさひ「だから、さっきにちかちゃんが言った通りっすよ」




あさひ「なんで今目の前にいる二人を、【二人が言う通りの人物だ】って信じてるんっすか?」




にちか「なっ……」


あさひ「今わたしたちの目の前にいる二人……甘奈ちゃんの席にいる『甘奈ちゃん』」

あさひ「甜花ちゃんの席にいる『甜花ちゃん』、それはそっくりそのまんまなんすかね?」

モノクマ「うぷぷぷ……うぷぷぷぷぷ……」

モノクマ「あぁ……たまんないな、ボクはこの瞬間が見たくて見たくてこの裁判中ずっとウズウズしてたんだよ」

モノファニー「お父ちゃんのウズウズから成る貧乏ゆすりが激しすぎて軽く脳震盪を起こしかけてたわ!」

モノクマ「本当に面白いことを考えるよね、事件だけじゃなくて裁判中にまで入れ替わりトリックを活用しようだなんて!」

モノクマ「……ま、実際入れ替わってるかどうかは言えないけどね!」

愛依「うっそ……今も入れ替わってるんだとしたら、さっきのまま投票してたらうちら……不正解になってたの……?」

透「うーん、普通に正解になってたかもしんないよね」

円香「議論せずに投票してたらニコイチの賭けになってた。危なかったのは確かだね」

甜花?「まだ……まだ……」

甜花?「まだ甘奈たちは負けてないよ!」


甘奈?「甘奈たちのどっちが本物の甘奈なのか、みんなには分からないよね?」

甜花?「捜査時間中、ずっと甘奈たちのことを監視してた人はいる? いないよね?」

甘奈?「実は、捜査中に入れ替わってたり……」

甜花?「でも、入れ替わるの……大変だから……そのままかもしれない……」

甘奈?「見極めることなんてできないよね?」

甜花?「区別することなんてできないよね?」



甘奈?「どっちが甜花かなんてわからないよね?」
甜花?「どっちが甘奈かなんてわからないよね?」



にちか「うっ……うっ……」

にちか「うわああああああああああああああ?!?!」

(こんなの……一体、どうすればいいの……?!)

(二人を見極めるなんて不可能だよ! だって二人のなりすましのレベルは破茶滅茶に高い)

(今日、裁判に至るまで二人のなりすましに気づいた人なんて一人もいなかったんだから)

(それを今この場で突き止めろって……?!)

(そんなの、そんなの……不可能すぎる……!!)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…………」

「まあ……怖いよな。今までやったことがないことに飛び込むことになって、しかもそれはオマエ一人っきりでよ」

「だけど運命を切り開くのはいつもそういう無謀な挑戦だったりすんだ」

「自分の身の丈なんか気にしないでよ、遮二無二に、自分のことも顧みずにやってみるもんだ」

「それが報われることばかりじゃないかもしれないけど……少なくとも、前いた場所とは状況は変わってるはずだ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(……!!)

(そうだ、そうだよ……何やってんだ、私)

(不可能だから何? やったことない、誰もできなかったことだから何?)

(そんなの、諦める理由にはなんないでしょ……!)

(ルカさんの裁判を戦い尽くしたあの日から、私は決めたんだ)

(どんなに苦しくても、どんなに絶望的な状況でも醜く、みっともなく、なりふり構わず遮二無二に足掻き尽くすって)

(だったら……今だってそう!)

にちか「……諦めないよ」

にちか「私は絶対に諦めない。今この場で二人の正体を見抜いてみせる」

にちか「最後まで、戦い抜いてみせるんだから……!!」


甜花?「やっぱり……そうなる気はしてたんだ」
甘奈?「にちかちゃんとは正面から勝負しなくちゃいけない時が来るって……裁判が始まった時からそんな予感があったんだ」

甜花?「だったら、甘奈たちも逃げない」
甘奈?「甜花たちも戦う」

甜花?「それが八宮さんと有栖川さんの命を奪った責任だから……!
甘奈?「それが甜花たちの背負い込んだ宿命だから……!」

真乃「にちかちゃん……答えは絶対どこかにあるはずだよ……っ!」

灯織「ここまでのにちかの推理は全部正しかった……だったら、その推理のおかげで浮かび上がってくるものもあるんじゃないかな」

真乃「まだ検討していないものが何か残ってたりしないかな……!」

にちか「真乃ちゃん、灯織ちゃん……」

にちか「分かった、二人ともありがとう。自分を信じて、やってみるよ」

真乃「ファイトだよ……! むんっ!」

灯織「うん、頑張って!」

(これが正真正銘、最後の戦いだ……!)

(どうやって二人に勝つのか、そのビジョンはまだ見えないけど……)

(……やるしかない!)

-------------------------------------------------
【理論武装開始】

甘奈?「甘奈たちの入れ替わりは完璧だよ☆」
甜花?「にへへ……誰にも見破られなかった……!」

甘奈?「最後に正体がはっきりしてるのは有栖川さん殺害の時……」
甜花?「裁判まではかなり時間があったから、入れ替わる余裕はあったはずだよね?」

甘奈?「そう言っておいて入れ替わってない可能性もあるけどね!」
甜花?「でもやっぱり入れ替わるのが……安牌?」

【TEMPO UP!】

甘奈?「甜花たちを見分ける方法は……ゼロ……!」
甜花?「パパとママなら分かったかもしれないけど……」

甘奈?「見た目にも違いはないし……」
甜花?「話し方だってカンペキ☆」

甘奈?「絶対に……譲らない……!」
甜花?「絶対に……負けない……!」

甘奈?「なーちゃんを殺させなんてしないよ……!」
甜花?「なーちゃんを殺させなんてしないよ……!」

【トドメを刺せ!】

甘奈?「甘奈たちを見分ける方法なんてないよ!」
甜花?「甜花たちを見分ける方法なんてないよ!」

-------------------------------------------------

ていた/ハンカチ/に落ち/現場

【正しい順番に並べ替えろ!】

↓1

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現場に落ちていたハンカチ
-------------------------------------------------

【BREAK!】

にちか「……あの、二人に聞きたいんですけど。夏葉さんの殺害の時に、意識を取り戻した瞬間ってやっぱ相当焦りました?」

甘奈?「……」

にちか「まあ、そりゃ焦りますよね。今から殺すって相手が抵抗してきて、しかも相手の方が身長もあるし力もある」

にちか「咄嗟に押さえつけるんだったら、両手を使わなくちゃいけなかったはずです。片手間に対処できる相手じゃないですから」

甜花?「……」

にちか「口を抑えてたハンカチを【手放さなくちゃいけなかった】んですよね……甜花さん」

甘奈?「……!!」
甜花?「……!!」

恋鐘「ハ、ハンカチって……裏庭に落ちてたあの落としもんのこと……?」

透「そういえば……あったね。持ち主不明」

樹里「あれは甜花が犯行の時に使ってたものだったのか……でも、ハンカチなんか何のために?」

霧子「気化麻酔を吸い込まないようにするためだね……」

愛依「あっ……!」


にちか「そうです。夏葉さんの意識を奪い続けるためにボンベから流しっぱなしにしてた気化麻酔、あれを犯人が吸い込んじゃったら元も子もないですから」

にちか「甜花さんが裏庭にやってきた時、口にハンカチを当てて気化麻酔を吸わないようにしてたはずなんですよ」

灯織「でも、夏葉さんの反撃にあったことでハンカチを手放してしまった……」

あさひ「甜花ちゃんはその時に気化麻酔をちょっと吸っちゃったんっすね」

にちか「幽谷さん……あの麻酔は相当キツいんでしたよね?」

にちか「ちょっと吸っただけでも……手指に痺れが出るぐらいに」

霧子「うん……吸ったその瞬間に効果は出なくても……時間が経ってから影響が出てくることも考えられるかな……」

真乃「それじゃあ、今手の指に痺れがある方が……甜花ちゃんになるんだね……!?」

にちか「……灯織ちゃん、捜査中何度か手遊びをしてたけど今何か一つ教えてもらってもいいかな」

にちか「トノサマガエルでも影絵のウサギでも……なんでもいいから、二人にやってもらおうよ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

霧子「ちょっとでも吸ってしまったら指先に麻痺が起きたりするはずだから……」

灯織「よかった、ちゃんとトノサマガエルも作れます」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

灯織「……よかった、ちゃんと影絵でうさぎが作れた」

灯織「この部屋も危険な気体は既に換気されて無くなってるみたいだよ」

真乃「ふふ……よかったね、灯織ちゃん」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

甘奈?「あ……ああ……」
甜花?「ダメ……ダメ……」


灯織「……分かった。私の手の動きを真似て、やってみてもらえますか?」

甘奈?「いや……いやだよ……やりたくない……!」
甜花?「できない……それだけは……できないって……!」

灯織「これはフィンガーダンスの一種なんですが……滑らかな指の動きが求められるんです」

甘奈?「やめて……もう、やめて……!」
甜花?「お願い、お願いだから……!」

灯織「……指に痺れがあれば、出来ないものかと」




「いやあああああああああああああああ!!!」





裁判場に“彼女”の絶叫が響き渡ってから数秒、静寂が訪れた。
私たちは”彼女“をじっと見つめ、面を上げる時を静かに待った。
やがて、ゆっくりと首は持ち上がり、そこに私たちは真実を見た。



「……もう、いいよ」

「甜花ちゃんにこれ以上嘘はつかせられないよ」

「甜花ちゃんは優しいね……甘奈のことを庇ったりしたら、死んじゃうのは甜花ちゃんなんだよ?」

「そんな甜花ちゃんにずっと甘えて……ああ、甘奈、ダメな子だなぁ……」

その頬を伝う、涙を見た。

樹里「……そう、だったんだな。甘奈に甜花……二人は、この裁判中ずっと……」

樹里「自分じゃない方を、演じてたんだな……」

涙を流しているのは、『大崎甘奈』。
大崎甜花の席に立って、つい先ほどまで自分の姉の演技をしていた少女だった。

甘奈「うん……甜花ちゃんのフリしちゃってました。ごめんなさい」

甘奈「でも、そっくりだったよね? みんな、分かってなかったよね?」

愛依「う、うん……マジで気づかんかった……」

甘奈「えへへ、甘奈……甜花ちゃんのことがめっちゃ大好きだからどんな話し方をするのか、何を考えてるのかも、何を思ってるのかも全部わかっちゃうんだ」


甘奈「だから、あのね……?」

甘奈「今甜花ちゃんがすごく辛いのも……分かっちゃうの」

甜花「なーちゃん、ごめんね……なーちゃんのことを守ってあげられない弱いお姉ちゃんで、ごめんね……」

甘奈「ううん、そんなことない。こんなに一緒に戦ってくれる強いお姉ちゃんなんて、地球のどこを探したっていないよ」

甘奈「甘奈にとって甜花ちゃんは、最強で最高の……ただ一人のお姉ちゃんだよ」

甜花「うぅ……ひっく……ひっく……」

モノクマ「さて! これで全部解決ですね!」

モノクマ「えー、本日何回目かもわかりませんが今度こそ本番! 投票タイムに移りたいと思います!」

モノクマ「オマエラはこの事件のクロだと思う人一名に投票をしてください! ちなみに投票するのはその人宛ではなく、証言台宛ですのでお間違えなく!」

恋鐘「えっと……そいやったらつまりは……」

円香「甜花の席に投票すればいいと思います。そこに立っているのが、甘奈ですから」

甘奈「うん……そうだね……」

モノクマ「それじゃあ行ってみましょうか! クロとシロの運命を分けるドッキドキでワックワクの」



「「「「投票ターイム!!!!」」」」」


-------------------------------------------------



   【VOTE】
〔甜花〕〔甜花〕〔甜花〕

 CONGRATULATIONS!!!!

   パッパラー!!!



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【学級裁判 閉廷!】






というわけでなんとかスレ中に2章学級裁判を終わらせられました…
裁判終了からは次スレで行いますね。
スレ立てを今日明日のうちにやっておきます。

それではお疲れさまでした…

とりあえずスレ立てをしました。

次はこちらで進めていきます。
明日も大体21時ごろから更新予定です。
【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.2
【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1694697582/)

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