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※注意
・本作は「ダンガンロンパ」シリーズのコロシアイをシャニマスのアイドルで行うSSです。
その特性上アイドルがアイドルを殺害する描写などが登場します。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・キャラ崩壊・自己解釈要素が含まれます。
・ダンガンロンパシリーズのネタバレを一部含みます。
・舞台はニューダンガンロンパv3の才囚学園となっております。マップ・校則も原則共有しております。
・越境会話の呼称などにミスが含まれる場合は指摘いただけると助かります。修正いたします。
※過去シリーズ
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_____私はまだ、何者でもない。
これから、何者かになって、階段を駆け上がって、光を浴びて、
そこでようやっと名前をもらう。
他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。
でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……
私自身を飲み込んでいる。
「……え?」
______いつから、閉じ込められていた?
私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。
「な、なんで……?!」
壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……
バーン!
やっと、外に出た。
「……痛た」
突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。
このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
下手すれば、そこらの街中で紛れ込んでしまいそうな凡庸な見た目だけど……
【アイドルである】という大きな個性がなんとかそれを食い止めてくれている……
そんな、ごくごく普通とはちょっとだけ違う女子高生。
七草にちか、16歳……アイドル。
こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。
「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」
落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。
……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。
ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。
でも、なんで教室に?
近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日はダンスレッスンだし早く帰らなきゃなとか、昨日のバラエティで芸人さんのいじり酷かったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
うら若き乙女なんだし、多少警戒とかした方が良かったんだろうけど……安全に飼い慣らされていた私はそんなこともせず。
ただぼーっと、歩いていた。
そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら
「〜〜〜〜〜っ?!」
口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。
「はぁ……」
自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。
その時だった。
ガタガタッ
「……え?」
私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。
「や、やば……」
鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、
やがてその扉は開かれた。
ダンッ!
ロッカーから吐き出されたその人物には見覚えがあった。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
忘れたくても忘れられず、いつからか悪夢のように付き纏うようになって、視界にこびりついていた彼女。
「一体どうなってんだよ……痛た……」
【斑鳩ルカ】、美琴さんの元相方さんだ。
「……あ?」
痛みに悶えるのも束の間。顔を上げてすぐ、私の存在を認める女その表情を一変させた。
困惑に狼狽えていた口元はへの字に固く閉ざされ、扉を開けるための拳はより強くその指先を内側へと巻き込んだ。
そして吐き出される言葉はもちろん。
「オマエ……なんでこんなところにいやがる……!」
こんなところも何も、ここが何処だか知りたいんだけど。
◆
ルカ「オマエか、オマエがやったのか……?!」
にちか「は、はぁ……?! 常識で考えてくださいよ、そんなわけないじゃないですか!」
ルカ「じゃあ事務所で、事務所単位で嵌めたのか?!」
にちか「いやいや……ちょっと落ち着いてください。私も斑鳩さんと同じで……今目を覚ましたところなんですよ」
ルカ「あ……? じゃ、オマエも私と同じで拉致されてたってのか?」
にちか「普通考えたらそうでしょ……なんで同じ事務所のアイドルを拉致するんですか」
ルカ「……」
にちか「ほら、とりあえず深呼吸でもします? 異常事態でパニックになるのはわかりますけど……」
斑鳩さんは私の呼びかけに背を向けると、急に調査を始めた。
机を動かしてみたり、中を漁ってみたり……何か目的があるというよりは、私の言葉に耳を貸すのが嫌で、仕方なくといったところなのだろう。
随分と嫌われてしまっている。
ルカ「……ん、なんだこれ」
すると、机の棚に手を突っ込んだ斑鳩さんが何かを引っ張り出す。
ハガキ代ほどの大きさの紙にはデカデカと何か書かれているのが距離をとっていても確認できる。
近くに駆け寄り、肩の向こうから覗き見る。
にちか「『入学式のおしらせ』……?」
学校からの案内というにはあまりにもお粗末すぎる。
パンフレットというよりは子供の落書き。クレヨンで殴り書きしたかのような書体に、会場までの案内図は線がガタガタ。
かろうじてその会場が体育館であることだけが読み取れる程度の情報量。
あまりにも適当すぎる代物に、違和感を通り越して呆れすら覚えた。
ルカ「……!? 勝手に見てんじゃねえよッ!」
私が覗き見ていたことに気づいた斑鳩さんは、自分に宛てられたラブレターでもないのに、大袈裟なモーションと共にそれを隠した。
にちか「や、別に良くないです? 私だって今の状況知りたいんですよ」
ルカ「……」
にちか「ちょっと〜……」
こっちの言葉は聞く気なし。どこまでも非協力的な姿勢を貫きたいらしい。
普段なら、別に見逃していた。自分だって、この人の存在をできる限り視界に入れたくはないし、仕事をする上での厄介者同士だと思っている。
でも、今は状況が状況だ。
全てが未知と不可解で囲われた中で、唯一この人の存在が既知の存在。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなものと言ってもいい。
ここで決別なんかしたところで、お互いにメリットなんてないのは分かりきっているだろうに。
にちか「……あの、よく思われてないのは知ってるので。態度をどうとか言う気はないですけど、今の状況、協力しないとやばくないですか?」
ルカ「……」
にちか「ここが何処なにかも、いつから監禁されてるのかも、何の目的でこんなことになってるのかも何一つわからない。状況を一人で打開するの、めちゃくちゃきついと思いますけど」
斑鳩さんはそれでも顔をそっぽ向けたまま。
反抗期の子を持つ親とはこういう気持ちなのだろう。
いくら正論で説き伏せようとも、屈する気が微塵もないのでは甲斐がない。対話に応じない時点で暖簾に腕押しというやつだ。
にちか「……はぁ、もう」
それならもういっそ、無理矢理にでもこっちを向けてやるしかない。
幸い、そういう経験は事務所で何回も積んでいる。デスクワークにお熱なあの人に、世話を焼かせるたびに何でもやった常套手段。
ここでやらなきゃ、何処でやる……?!
にちか「むきむきにちか〜!」
ルカ「……」
斑鳩さんは確かにこっちを向いた。
注意関心を引くという一点に於いては作戦は見事成功。
その他のマイナス要素に目を瞑れば。
ルカ「オマエ、それ面白いと思ってやってるの?」
にちか「そ、そういうんじゃないんで……」
ルカ「……」
冬場の廊下みたいな冷ややかな視線で私を窘めると、斑鳩さんは分かりやすく大きなため息をついた。
侮蔑、落胆……いろんなものが透けて見えた。どうやら私はいろんなものをこの一瞬に失ってしまったらしい。
ルカ「……こいつじゃなきゃなぁ」
ぼそっと悪態をつきながらこちらに向き直る。
こっちだって願い下げだ。でも、こんな相方でも背に腹は変えられないのが今の状況だ。
ルカ「……とりあえず、ここから出るぞ。ここが学校にせよ、何にせよ。全貌を掴まないことには何もできないからね」
にちか「そうですね……さっきの紙に従うなら体育館に行ったほうがよさそうですけど」
ルカ「はぁ? ンなもん、罠に決まってんだろ」
にちか「……でも、こんなよくわかんない監禁をしてきた相手ですよ。下手に歯向かうと何されるか分からなくないです?」
ルカ「……チッ、じゃ、とりあえずは体育館目指すか」
斑鳩さんは私の誘導に一応納得してくれた様子。こちらに目を貸そうとはしないが、行動は共にしてくれるらしい。
斑鳩さんが先行して教室の扉を開け、廊下に出る。
_____その瞬間。
『グヘヘへへ! ミーが体育館まで直接案内してやるぜ!』
にちか「な、なにこれ……?!」
ルカ「メ、メカ……?!」
私たちの体躯の数倍はありそうな青の機体に、ガトリングやら破砕機並みのアームやらが取り付けられたロボットが、待ち構えていた。
ルカ「や、やばい……逃げるぞ!」
にちか「えっ、ちょっ……先行かないでくださいよ!」
私たちは思考するよりも先に足が動き出していた。とにかくこいつから逃げなくちゃ、そのことで思考がいっぱいになる。
私たちの靴音に裏拍を合わせるようにして地響きが鳴る。後ろを振り返れば、案の定さっきの機械の猛追。
立ち止まっている時間はない、とにかく急がないと……!
ルカ「おい! こっちだ!」
にちか「は、はい……!」
一心不乱にただ生き残ることだけを考えて走った。
『あら? こっちに逃げてきちゃダメよ〜?』
ルカ「マジか……くそ、一体だけじゃねーのかよ!」
にちか「斑鳩さん、道変えましょう! 道!」
途中敵の増援が現れ、逃げ惑う場面もあったけれど、なんとか命からがらその場所へと辿り着く。
スチール製のスライドドア。上下左右にどっしりと広く壁を構えた、ドーム式の形状。
幼少期よりよくよく見慣れたその造形で、一眼にこれが体育館であると理解する。
ルカ「はぁ……はぁ……クソ、ひとまずここに退避するぞ」
にちか「は、はい……早いとこ隠れましょう!」
流石に今回ばかりは仇敵に向けるはずの敵対心も忘れ、二人でいっせーのーでで息を合わせて扉を動かした。
重厚な音を立てながら扉は開き、その中へと私たち二人を誘った。
誘われた先で、待ち受けていたのは……
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【体育館】
「あれ? にちかちゃん、にちかちゃんだ! おーい! 大丈夫? 怪我はない!」
私の名前を呼び、大きく両手を振る少女。
仰々しい天井の光に照らされ、いつも以上にその金髪のツインテールが輝く笑顔には見覚えがあった。
にちか「あ、あれ……?! 八宮さん……?!」
同じ事務所に所属しているアイドルの、【八宮めぐる】その人だった。
ただ、私たちを待っていたのは彼女だけではなかった。
「……!」
「ほわっ……灯織ちゃん、どうしたの……?」
「う、うん……その、前に話した……」
ルカ「……おい、どういうことだよコイツは」
私の所属している事務所のアイドルたち、全26名のうち……私とルカさんを含めた16名がこの場に集まっていたのである。
その全員が口をまごつかせ、不安そうな表現を浮かべている。
おそらく全員が全員状況は同じ。ここに呼ばれた理由も、ここがどこなのかも分かってはいないのだろう。
夏葉「二人とも、早くこちらへ。あの機械たちはどうやらこの体育館の中には入ってこないようだから」
樹里「にちかとルカさんを入れて……これで16人か」
凛世「もうこれ以上……どなたも逃げてはこないのでしょうか……」
集められているメンバーはまちまちだ。
特に人選に明確な規則性は見当たらない。年齢もバラバラで、ユニットによっては全員が集まっていないところも見受けられる。
にちか「あ、あの……美琴さんを誰か見ませんでしたか?!」
そして、ユニットのメンバーが揃っていないのは私も同じことだ。
体育館を見渡してみても、あの頼り甲斐のある長身に、眉目秀麗な容姿を携えたパートナーの姿はない。
ロッカーに閉じ込められていたところから、体育館に逃げ込むまで。斑鳩さん以外の人間の姿は影も見ちゃいない。
救いを求めるように、みっともなく狼狽えた。
しかしながら、絶叫虚しく、芳しい返事は帰ってきはしなかった。
全員沈痛な表情を浮かべたまま、顔を伏せる。
にちか「……そんな」
夏葉「今は無事を祈るほかないわ……外に出ればあの機会が待ち受けている、今の私たちはここから出られないようだし」
にちか「で、でも……今こうしてる間にもあの機会に捕まってたりしたら……!」
思わず掴んだ両肘。
有栖川さんの両肘は震え、視線を落とせば指先が手のひらに食い込むほどに力が篭っていた。
夏葉「堪えてちょうだい。果穂と智代子の姿がなくて……私だって本当は探しに行きたいの」
夏葉「でもここで一人の判断で扉を開けて、万が一にでもあの機械がここに入ってくればそれこそ袋のネズミになってしまうわ」
にちか「……うぅ」
ルカ「……チッ」
有栖川さんだって、大切に思っていた年下たちの姿がない。
不安に思うのは当然だし、どうしようもないもどかしさを必死に抑えている。
誰しもが今、自分の中の衝動を殺すので精一杯なのだと理解した。
甜花「千雪さん……大丈夫、なのかな……」
甘奈「ダメ……携帯も繋がらない……それに、そもそも圏外になっちゃってる……」
あさひ「……あれ?」
愛依「どしたん、あさひちゃん?」
あさひ「……何か聞こえるっす。地響き? いや、これは……」
あさひ「上からっす!」
芹沢さんが叫んでから数秒と経たず、それは舞い降りた。
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】
ガシンガシンガシン!!
いや、そんな柔らかな着地ではないか。
猛烈な重量に、硬い触感が床にぶつかって、振動が私たちの体にまで伝播。
内臓を内側から揺さぶられるのは言いようもなく不快な感じがした。
『おう、全員集まっとるようやな!』
『集合時間が守れてみんなえらいなぁ。オイラなんか今朝24時間寝坊しちゃったよ』
『あら? 今朝は集合時間きっかりにきたじゃない』
『予定の日にちを一日間違えた上に、一日寝坊しちまってプラマイゼロってところか! 最高にロックだなッ!』
『……』
私たちの前に姿を表したのは、ついさっきまで校内で追い回してきたあの巨大なメカ。
しかもそれが5体も一度に現れ、立ち塞がったのである。
甜花「ひ、ひぃん……『勇者たちは逃げ出した…… しかし回り込まれてしまった』ってこと……?!」
恋鐘「ふぇ〜〜〜〜〜?! こ、こい体育館は安全じゃなかったと〜〜〜〜?!」
円香「全部筒抜けだったんでしょうね。あえてこの体育館に誘導していた……ここで一網打尽にするつもりでしょうか」
めぐる「そ、そんなことはさせない!」
甘奈「で、でもどうすればいいのかな……あんな、強そうなロボット……」
あさひ「武器も何もないっすね」
透「やば。休してるじゃん、万事」
樹里「クソッ、逃げ道もねーぞ……!」
動揺と不安の揺籠、天井と繋がっていた鎖は突然に切り落とされた。
漠然としていた恐怖が具現化し、再び私たちは生命の危機に瀕することとなったのだ。
『ん? キサマらどうしたの? そんなに揃いも揃って雑誌の袋とじを開けるの失敗しちゃった時みたいな顔して』
『きっとみんな緊張しちゃってるのよ。多感な時期のシャイガールばかりなのよ』
『ミーの圧倒的なカリスマ性に腰を抜かしちまってんのさッ!』
『アホか! ワイらがエグイサルに乗ったままやから警戒しとるんや! 段取りのこともあるしさっさと降りるで!』
『……』
ただ、死の象徴はそれすら嘲笑う。
目の前に突きつけられた命の危機の囀ることしかできない私たちを馬鹿にするような問答をスピーカーで垂れ流したかと思うと、
素っ頓狂なSEに素っ頓狂な演出と共に、
______素っ頓狂なマスコットたちが姿を現した。
モノタロウ「オイラの名前はモノタロウ! 赤色なんだ、赤ってすっごくすごいんだ」
モノファニー「アタイはモノファニー。モノクマーズの紅一点よ! ……あれ? アタイも赤?」
モノスケ「ワイはモノスケや。モノクマーズの頭脳であり司令塔。ワイがおらんと回らんことで有名やで」
モノキッド「ミーはモノキッド! キサマらに極上の地獄を提供してやるぜ!」
モノダム「モノダム……ダヨ。ミンナ、ヨロシク」
『5人揃ってモノクマーズ!』
あの巨大かつ殺意に満ちていたメカから降りてきたとは思えない、ずんぐりむっくり体型で間の抜けた5人組。
彼らは私たちの緊張と不安を他所に、間の抜けた言葉で混迷ばかりを引き起こす。
にちか「……は? いやいやいやいや……な、なにこれ……?」
並び立つ私たちは揃いも揃って口をぽかんと開けて唖然の表情。
現実がすぐには受け止めきれず、思わず頭を掻きむしった。
あさひ「すごい! 動くぬいぐるみだ〜!」
ルカ「なんの悪夢だコイツは……どうやって動いてんだこれ……」
モノスケ「ただのぬいぐるみやあらへんで。ワイらは最新鋭のありったけの技術をこれでもかと注ぎ込まれた新時代のニューウェーブやからな」
モノファニー「自分の力で考えて喋れるのよ。シンギュラリティを体現しているのよ」
甜花「すごい技術……デトロイトでも、こんなの中々ない……」
甘奈「この前お仕事で見させてもらったAIも凄かったけど……この子たちはちょっとレベルが違うよ……?!」
モノタロウ「えっへん! どうだ! すごいんだぞ!」
愛依「わ〜、でもなんか喋り方かわいいじゃん〜! 1個ぐらい持って帰りたいかも〜!」
モノスケ「あかん、あかんで。ワイらを家に招きたいんやったらそれ相応の用意が必要や」
モノスケ「まずユニットバスは絶対にNGや。そうじゃないとモノキッドが浴槽を汚して敵わんからな」
モノキッド「ヘルイェー! 浴槽だけで済むと思ったら大間違いだぜッ!」
モノスケ「それに加えて、子供部屋もとい自己研鑽部屋は必須やな。男にもプライバシーは必要なんや」
モノファニー「やあねぇ、こんなところで下ネタなんて。女の子を前にしてやることじゃないわ」
モノスケ「ハッ、女の子やから下ネタを言うんやろがい!」
モノタロウ「大変だ! モノスケの言動から加齢臭がひどいよ!」
初めこそ動揺に慌てふためいていた私たちだったが、モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちの問答を眺めているうちに徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
いつまで経っても会話を前に進めようともせずに、無意味極まる時間が過ぎていくことに苛立ちすら覚えた頃、樋口さんがその口火を切った。
円香「……ちょっと、いい加減にしてくれる? 私たちが今置かれている状況、説明してくれるんじゃないの?」
モノファニー「そんな眉間に皺を寄せちゃダメよ。若いうちから皺を寄せていると、歳をとった時酷いんだから」
モノタロウ「えっ! ひどいってどうなるの!? 死んじゃうの?!」
モノファニー「そんなことないわ。でも他の人よりもシワクチャのボロ雑巾みたいになる確率が五割増しらしいわ」
モノタロウ「な〜んだ良かった! 死なないんだったらモーマンタイだね! オイラ、ガンガン皺寄せちゃうもんね!」
円香「だから、そういう意味もないやりとりをやめて」
モノファニー「もう、言われちゃってるわよ。そろそろいい加減にお話を進めましょう?」
霧子「ぬいぐるみさん……あなたたちが、私たちをここに連れてきたんですか……?」
モノキッド「おう、ミーたちがキサマらをこの血塗られたパーティに招待してやったんだぜッ!」
モノスケ「クックックッ、こっからオモロイオモロイパーティの始まりなんや」
にちか「……パーティ?」
ぬいぐるみの口からこぼれた、聞き馴染みのある言葉が妙に耳についた。
私のよく知る意味合いでその言葉が用いられていないのが明白だったから、
そしてその裏にある意味合いがおおよそ私たちのとって良いモノでないことも透けて見えていたからだろうか。
モノタロウ「うん! ここにいる、顔も名前も知らない【初対面の人同士】でとびっきりエキサイティングなパーティをやっちゃうよ!」
灯織「……え?」
モノダム「……」
円香「顔も名前も知らない……そんなことはないけど」
樹里「おい、どういう意味だ! アタシたちは283プロダクションの所属アイドル……全く初対面なんかじゃねーぞ!」
モノスケ「おい、モノタロウ……キサマ、やったんとちゃうやろな」
モノタロウ「え? アレアレ? 今回も、記憶操作の係ってモノファニーじゃなかった?」
モノファニー「もう、モノタロウがやりたいってアタイから係を奪い取ったんでしょ? あの時のジャンケンを忘れたとは言わせないわ!」
愛依「なんか……段取りをミスしちゃってる系?」
夏葉「……一体、何の話をしてるのかしら」
モノキッド「道理でコイツら【華がありすぎる】と思ったんだ! ミーは今回、何の華もない陰キャラだけでヤるって聞いてたから違和感ビンビンだったぜッ!」
(……華が、ありすぎる?)
モノタロウ「もう、みんなして責めないでよ!」
モノスケ「ってことはキサマらは自分らに何の【才能】が当てがわれとるかも知らんってことか?」
にちか「才能? そんなの……そんなもの……」
(才能なんてものがないことは私が一番よく知ってる。そんなものがあれば、私はこんなにも苦しむこともなかったし……)
モノキッド「オイ! 誰でもいいから答えな! キサマらは何者だ!?」
恋鐘「な、なんね急に! うちらはアイドル! 283プロダクションのアイドルばい!」
モノスケ「あーあ、こりゃ完全にクロや。モノタロウ、大クロもんやで」
モノタロウ「うう……本当に記憶になかったんだよ……」
モノスケ「まあええ、お父やんにバレへんかったら問題はあらへんからな。さっさと手続きだけ進めてまうで」
夏葉「……! みんな、何か来るわ! 離れて!」
モノタロウ「大丈夫! 何か危害を加えるわけじゃないから!」
モノファニー「そう、ちょっと居眠りをしてもらうぐらいのものよ!」
モノスケ「まあ、寝とる間にキサマらはちょっと大事なものを色々と失ってしまうんやけど」
モノキッド「目が覚めればそれでもお釣りが来るぐらいに楽しい楽しい【コロシアイ】の世界だぜッ! ヘルイェー!」
にちか「は、はぁ?! こ、コロシアイ?!」
モノダム「ソレジャ、ミンナ、マタアトデ……ダヨ」
つらつらと並べられた理解不能な言葉の数々。
混迷の奔流に飲み込まれ、それでも必死に現状を理解しようと、何か明確な解答に縋ろうと、そんな弱々しい気持ちで右手を伸ばした。
その瞬間に、1秒もかからずに、私の視界は閃光に飲まれた。
目も開けていられないほどの眩く、白い、光。
指先から全身を一瞬にして光が飲み込んだかと思うと、その光は神経を這い回り、脳髄に到達。
ホワイトアウトしていく視界と共に、私の思考もまた白く、ボケていき……
……夢の中に、溶け出した。
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PROLOGUE
if(!ShinyColors)
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_____私はまだ、何者でもない。
ずっと、日陰の中で生きてきて、テレビの中の住人たちに身分不相応な憧れを抱いて、萎びていくばかりで、
名前なんて持っていない。
他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。
でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……
私自身を飲み込んでいる。
「……え?」
______いつから、閉じ込められていた?
私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。
「な、なんで……?!」
壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……
バーン!
やっと、外に出た。
「……痛た」
突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。
このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
ごくごく普通で、それ以外に表する言葉が何もない……ただの【一般人】。
テレビのインタビューなんかに捕まることすらなく、雑踏の一言で片付けられてしまう、
世界規模で言えば塵みたいに矮小な存在の七草にちか、16歳。
こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。
「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」
落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。
……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。
ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。
でも、なんで教室に?
近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日の宿題まだやってなかったなとか、昨日の数学の先生マジでうざかったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
まさか私なんぞに目をつけるような物好きもいないだろうし、この国の治安にすっかりを心も許していたし、その時の私は無警戒に尽きた。
ただぼーっと、歩いていた。
そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら
「〜〜〜〜〜っ?!」
口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。
「はぁ……」
自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。
その時だった。
ガタガタッ
「……え?」
私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。
「や、やば……」
鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、
やがてその扉は開かれた。
ダンッ!
ロッカーから吐き出された人物は、随分と目立つ見た目をしていた。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
私のように地味な生き方をしている人間とは、おおよそ交わりそうもない世界に生きているような女性。最初の印象はそんな感じだった。
「痛た……クソッ、一体なんなんだよ」
「だ、大丈夫ですか……?」
「ん? あ、おう……大丈夫だと……思う、怪我はないよ。ありがとな」
とっつきづらそうだという当初の印象とは裏腹に、屈託のない明るい笑顔を浮かべて私の言葉を受け取った。
差し出した私の掌を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。
「えっと……あんたは? ここは……教室?」
「あ、はい……多分、そうだと思います」
「多分?」
「あの、私も一緒なんです。あなたと同じくロッカーに閉じ込められてて、訳もわからず脱出したばかりで」
「あんたもか……」
おそらく私より少し年上なのだろう。
背の程は数センチほど高く、さっきまでとは違って既に冷静さを取り戻しているように視える。
私の言葉に耳を傾けながら周りを見定める佇まいに、頼り強さを感じさせる。
「私とあんた……じゃ会話もしづらいよな。自己紹介でもしようか」
「あ、はい! えっと……」
ひとまずの協力関係を築こうと、彼女が私に向かって右手を差し出す。私も迷わずその手を取ろうと、左手を伸ばした。
その瞬間
【おはっくま~~~~~!!!!!】
間の抜けた調子の声と共に、どこからともなく5体のクマのぬいぐるみが姿を表した。
にちか「わあああああああ?!?! な、何……?! 」
???「おはよう! 清々しい朝だね!」
???「まるで生まれ変わって別人になったみたいに、気持ちのいい目覚めだわ」
???「ヘルイェー! 調子はどうだ、ベイベー! さっきまでとは大違いだろ?!」
???「おう、何をいつまで鳩がヘッドショット食らったみたいな顔しとんねん。ワイらと会話をしてくれんと困るで! Z世代はこれだからあかんわ」
???「コミュニケーションコミュニケーション! オイラたちとお話ししてよ!」
???「おい……これはなんの冗談だよ……なんでぬいぐるみが喋ってんだ……?」
???「このトンチキな反応は成功なんじゃねえかッ?!」
???「ねえねえキサマら、オイラたちの名前わかる?」
にちか「は、はぁ? し、知らないよ……あなたたちみたいなクマの人形なんか見るのも聞くのも初めてだよ!」
???「じゃあキサマの隣にいる女の子の名前は分かるかしら?」
???「いや……知らない。今から自己紹介をするとこだったんだよ」
???「やったー! 今度こそ成功だね! ちゃっきーん!」
???「一時はどうなることかとヒヤヒヤしたぜ……だが、これでもう問題ないなッ! 始めちまっていいんだなッ?!」
???「せやな、まずはワイらも自己紹介から始めなあかんな。学生も社会人も後期高齢者も、初対面の時は自己紹介からと相場が決まっとるからな」
モノタロウ「あのね、オイラはモノタロウ! 体が赤いからモノタロウって覚えるといいよ!」
モノファニー「アタイはモノファニー。虫も殺せぬか弱い女の子よ。例外的にゴキブリだけは素手でも触れるわ!」
モノキッド「ミーはモノキッドだ。用を足すときは便座の上で仁王立ちのスタイルだぜッ!」
モノスケ「ワイはモノスケや。趣味はそろばん勘定。愛読書は計算ドリルや、よろしくな」
モノダム「モノダム、ダヨ。ミンナ、ヨロシク」
モノタロウ「オイラたち、5人合わせてモノクマーズだよ! しっかり覚えてね!」
一方的に押し付けられた自己紹介。
まるで一つの人格が備わっているかのような口ぶりに私たちはキョトンとするばかり。
コミュニケーションといった割に、こちらが理解できているか否かはもはや彼らは気にもとめていなかった。
モノタロウ「キサマらに今この状況のことを説明してあげなくちゃだね! キサマら、ポケットに手を突っ込んでみて!」
にちか「は? え、えっと……」
もはや抗う気も失せた。
言われるがままポケットに手を突っ込む。本来あるはずの空洞、指先が何かにぶつかった。
???「ンだこれ……タブレット?」
モノキッド「そいつは電子生徒手帳! この学園での暮らしをサポートするタブレットだ。個人情報も入ってるから落としちゃならねーぜ」
にちか「学園……ってことは、やっぱりここって学校なの?」
モノスケ「ここは才囚学園。キサマらのために作られた、【アイドル養成用の学校】なんや」
???「才囚学園……聞いたことねーな」
にちか「ん……ちょ、ちょっと待って! 今なんて言った……?! 【アイドル養成用の学校】……?!」
モノファニー「そうよ。キサマらはこれからの時代を引っ張る新時代の【アイドルの候補】として選ばれたのよ」
(は……!? ど、どういうこと……!?)
モノダム「電子生徒手帳ヲ、起動シテミテ」
アイドル、という甘言に導かれるままに私は指先で画面を叩いた。
すぐにタッチに反応してパッドは立ち上がり、画面上に私の名前と見慣れぬ文字列を映し出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の音楽通
七草にちか
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「超……研究生……級?」
モノスケ「早速【才能】に気づいたようやな。これはキサマらをアイドルとして売り出す際に、【どんな路線で売り出すべきか】をキサマらの来歴や潜在能力から導き出したものや」
モノファニー「緑色の髪をしたキサマは昔からレコードで音楽を聴くのが好きで、CDショップでアルバイトを続けているところからも選ばせてもらったわ」
研究生という言葉と共に自分の名前が並び、更には私には才能が備わっているとも言われた。
自覚こそまるでなかったが、褒められれば嫌な気持ちもしないし、不思議とどこか高揚してくる部分もあった。
拉致でもされていなければ、完全に心を許してすらいたかもしれない。
モノタロウ「他の人にも一人に一つずつ才能は割り振られているから、気になる人は聞いてみるといいよ!」
???「他の人って……私たちだけじゃないのか?」
モノダム「ウン、コノ学園ニハキサマラ以外ニモ、14人……計16人ノ研究生ガ集メラレテイルンダ」
モノキッド「おいッ! 勝手に喋ってんじゃねーッ! モノダムが喋るとガソリン臭くなっちまうだろうがッ!」
モノダム「……」
にちか「16人……結構な数ですね」
モノファニー「まだ始業式までには準備に時間がかかるから今のうちに自己紹介をしておくといいと思うわ。もうみんな目を覚ましてきっと校内を探索中よ」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちは、そのままどこへともなく姿を消してしまった。
私たちに一方的に疑問だけを抱かせ、答えは何も与えてはくれない。
探索と自己紹介を促すあたり、自分で見つけ出せということなのだろうか。どっちにしても、碌でもないやり口なことだけは確かだ。
???「……行っちまったな」
にちか「はい……なんだったんでしょう」
残された私たちにばつの悪い静寂が訪れる。
思えば、目を覚ましてから、訳の分からない展開続き。この人とも出会って数分と経っていないぐらいだ。
???「あいつらに従うみたいで癪だけど……まずは自己紹介、ってところか」
にちか「で、ですね……!」
ルカ「私の名前は斑鳩ルカ。今はアイドルの研究生をやってんだ。よろしく」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
超研究生級のカリスマ
斑鳩ルカ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルカ「なんか才能ってのは……『カリスマ』って書いてあるな。全くピンとこないけど」
にちか「か、カリスマ……」
本人はまるで心当たりがないと言った感じだが、私にはどこか納得ができた。
初めてその姿を見た時から目を奪われた艶やかな黒髪、その中に走る金髪がアクセントで、整った顔立ちも相待って目が離せなくなる。
それでいて少し荒っぽいながらも優しく、頼り甲斐のある口調には追随していきたくなるような魅力を感じていた。
ルカ「私は元々……ここにくる前からアイドルの研究生やってんだ」
にちか「え、そうなんですか?!」
ルカ「ああ、もう何年になるかな……まあ、ずっと燻ってんだけどよ。相棒みたいな奴がいてさ、そいつが辞めてくれねーから私も退けなくて……な」
にちか「道理で……なんだかキラキラしてるって思ってましたよ」
ルカ「ハッ……そんなことないよ。まあそう見えたんならきっと……そりゃ相棒のおかげだろうな」
ルカ「あいつが頑張る姿に憧れて、必死に後を追おうって踠いてるだけだから」
そういって笑って見せた斑鳩さん。
あまりに無邪気な表情から、よほどその相棒さんのことが好きなのだろうと読み取った。
全幅の信頼を抱いて、他の人に話すのに臆す様子もない。そんな存在、私にも欲しいものだ。
ルカ「それで、あんたは?」
にちか「あ、はい! えっと……七草にちか、高校一年生です! 超研究生級の……音楽通らしいです! 全然! いやもう全然! そんなことないですけど!」
ルカ「ああ、なんかさっきクマが言ってたな……レコード、好きなんだって?」
にちか「いや、もうホントちょっと齧ってるぐらいなんですけどね?! そんな、本物の音楽業界に生きてらっしゃる方の前で烏滸がましい……!」
ルカ「そんな謙遜することねーよ。私も音楽業界の端にいるかいないかみたいな存在だし、レコードのことなんかさっぱりだ」
にちか「レコードが好きっていうか……身近にあったんです。【八雲なみ】っていう……ちょっと前のアイドルのものなんですけど」
ルカ「……へぇ」
にちか「なみちゃんの歌い方がすごく好きで……これを聞いていると、私もどこまでも行けるような気がしてくるみたいで……」
にちか「プツ……プツ……っていうレコードならではの雑音も不思議と聞いていると落ち着くんですよね」
ルカ「なんだ、ちゃんと音楽通してんじゃん」
にちか「い、いやいや……!? こんなの大したことないですって!」
ルカ「音楽通って言っても別に知識が豊富であることだけが条件じゃないだろ? あんたが音楽が好きだってのは今の話だけでも十分伝わってくる」
ルカ「それに、CDショップでアルバイトってことは日常的に音楽を聞く生活をしてるってことだ。胸を張っていけよ」
にちか「い、斑鳩さん……」
私のようなひよっこに音楽通なんて仰々しい言葉を使われているというのに、嫌な顔一つせず、励ましてまでくれる。
やっぱりこの人はカリスマになるだけの資質があるんだと思う。
さっきまで気を張っていたのが嘘のように力が抜けて、私はすっかり斑鳩さんに気を許していた。
ルカ「さて、お互いのことも分かったことだしとりあえずは探索してみるか」
にちか「ですね! 私たち以外の14人……どんな人たちなんだろう」
ルカ「他の奴らもアイドルの研究生……なんだよな」
にちか「あ……斑鳩さんの相棒さんも?」
ルカ「どうだろうな。ここにはまともな方法で連れてこられてねーんだ。いてもいなくても、どっちがいいとも限らねーさ」
にちか「それは確かに……そうですね」
ルカ「そもそも、私たちだってこれからどうなることなのか。まあロクなことにはならねーだろうけどよ」
ルカ「ま、行くぞ。時間は有限だからな」
ルカさんは少々強引に私を引き連れて先へと導いた。
教室を出ると校舎内は異様な数の植物で満たされていた。
床や壁には蔦が絡み、足元から膝まではあろうかという高さの雑草がそこかしこから生えている。
学校という形状は保ちつつも、私たちの持っている認識からはどこかずれ込んだ不和を感じずにはいられない。
ルカ「さっきの電子生徒手帳にある程度の地図はあるみたいだな、これを見ながら探索するぞ」
にちか「はい! どこから見てみます?」
ルカ「おう、そうだな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、お久しぶりです。
毎度恒例の探索パートとなっています。
今回は今までのシリーズと違って初対面の方々との出会い、なんだか新鮮でございますね。
探索する場所はスポットでいくつか提示させていただきますので、どこにどなたがいるのか想像しながらお選びください。
今回も選択コンマの末尾を参照して、それに応じた数のメダルを獲得できる仕様になっています。
末尾が1なら1枚、末尾が9なら9枚、末尾が0なら10枚でございます。
それではあなたさまの学園生活に幸多からんことを……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【2F 才能研究教室-音楽通-】
【1F 食堂】
【1F 倉庫】
【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
------------------------------------------------
【2F才能研究教室-音楽通-】
マップ上で見慣れない表示のされ方をされているのがこの部屋だ。
他の部屋よりも比較的多くの面積を有しているけれど、その名前にあまり聞き馴染みがない。
学園の施設というよりはどこかの研究施設のような文字の並びに、思わず首を捻る。
???「うーん、開かないよー!」
その部屋の前にはノブを仕切に動かしては廊下中に響き渡るような声量で叫ぶ金髪のツインテールの女性。
そのスタイルの良さはどこか日本人離れしたものを感じさせる。
にちか「あ、あのー……」
???「へ? わー! わ、わたし以外にも人がいたんだね、こんにちは!」
ルカ「あんたもここに拉致られた口か?」
???「うん……学校帰りに車に押し込まれた記憶はあるんだけど……それ以降はサッパリ。ここがどこなのかも見当がつかないし……建物の中を探索してたところなんだ」
にちか「えっと……お名前伺ってもいいです?」
???「うん、もちろん!」
めぐる「わたしの名前は【八宮めぐる】! 超研究生級のスポタレ……スポーツタレントってことらしいよ! よろしくね!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
八宮めぐる
超研究生級のスポタレ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そう言って彼女は溌剌とした笑顔と共に右手を差し出した。
拒絶されることなんか一切考えていない、迷いのない手のひら。
不思議と惹きつけられて、私も思わず手に取る。
にちか「スポーツタレント……確かになんか運動できそうなオーラがめっっちゃありますね!」
めぐる「えへへ……そうかな?」
にちか「待ってください、当てます! ……バスケ部?」
めぐる「惜しい! あのね、わたしは色んな部活の助っ人をやってるんだ!」
ルカ「助っ人……?」
めぐる「うん、頼まれたらつい断れなくて……色んな部活で試合の数合わせなんかで参加することも多いんだよね」
にちか「すごいですね……わたし、運動とかからっきしなんで憧れちゃいます」
めぐる「ううん、全然! ただみんなと一緒に楽しくやってるっていうだけだから! 本気で全国行くぞー!って目指してる人たちとはまるで比べものにならないし……」
ルカ「だとしても色んなスポーツの経験があるってのはそれだけで強みだ。アイドルやるんだったら動きの引き出しは多いに越したこともないしな」
めぐる「あ、アイドル……」
にちか「あはは……やっぱりあのクマたちの言ってたことまるでピンとこないですよね」
めぐる「うん……わたしも、どこにでもいる普通の女子高生だから……」
(……このスタイルの良さと笑顔の溌剌さといい、到底普通の女の子とは思えないけど)
めぐる「でも……ここって本当にアイドルを育成する学校なのかな? もっとこうダンススタジオとか、ボイストレーニングのお部屋とか、そういう感じなのかと思ったら……案外普通の学校だよね?」
にちか「普通の学校……ではないですけど」
ルカ「アイドル向けの設備らしい設備が見当たらないのは違和感だな……」
めぐる「うーん、この部屋はそれっぽいと思ったんだけどなー」
にちか「才能研究室、ですもんね。才能って私たちにあてがわれてるこれのこと……ですよね?」
めぐる「うん! 私たちの才能って、アイドルとして活動をする時の方向性……みたいなことなんだよね? だったらこの研究室ならそれっぽい設備があるのかなーって!」
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノタロウ「いい推理だよ! うんうん、実にいい推理だよ!」
めぐる「わー! 突然出てきたー!」
モノキッド「ワー! 突然爆乳の女が現れたー!」
モノファニー「ダメよ、そんな直球のセクハラなんか」
モノスケ「キサマラにその教室について説明をせんといかんな」
モノタロウ「その教室は【才能研究室】。お察しの通りキサマラにあてがわれてる才能を伸ばすための設備がいっぱいいっぱいなんだ!」
にちか「ってことはボイトレとかダンスとか……?」
モノファニー「少し違うわ。キサマラの持ってる才能によって伸ばすべき能力は違うから、それに応じた設備になっているもの」
モノキッド「今キサマラが手をかけている部屋は【七草にちか】、キサマの才能研究室なんだぜ!」
にちか「わ、わたしの……?」
モノスケ「キサマの好きなアイドルもんのレコードを大量に収める予定や! 耳がすりごまになるぐらい聞きこんで後学にするんやで!」
モノダム「……」
モノタロウ「今はまだ入れないけどね! もう少ししたら扉の鍵も開けてあげるから楽しみにしててね!」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
めぐる「行っちゃった……」
にちか「わたしのための……部屋……」
ルカ「あの口ぶりだと、他の全員にも専用の部屋があるみたいだな」
めぐる「ってことはわたし向けに体をいっぱい動かせる部屋もあるってことだよね!」
めぐる「う〜ん! 楽しみになってきたぞ〜!」
(アイドルのレコードがいっぱい……か。こんな状況じゃなきゃ心から楽しむこともできたんだろうけど)
(……しばらくしたら、また来てみよう)
------------------------------------------------
【コンマ判定07】
【モノクマメダル7枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…7枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…2個】
------------------------------------------------
【1F 食堂】
【1F 倉庫】
【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
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【食堂】
学校の食堂といえばもっと萎びた場所のイメージだ。使い古された長机に、埃が溜まって足が不揃いになった丸椅子。
ガタガタと音を立てながら居心地の悪さを噛み締めながら嚥下する場所というイメージがある。
この学校の食堂はそのイメージからすると革新的。清潔感ある楕円形の机に、柔らかな背もたれの備わったパイプの椅子。
逆に、これまで人が使っていなかったのだろうと実感させるだけの子綺麗さに不気味さすら感じさせる。
そんな食堂にはすでに先客が2名。片方が腹をさすりながら、空腹を訴えている様子だ。
???「アイムハングリー」
???「……ノー、ドントタッチ」
???「えー……いいじゃん。缶だし、セーフセーフ」
???「毒でも注入されてたらどうするわけ?」
にちか「なんか……呑気な雰囲気ですね」
ルカ「ああ……だけどアイツら、口ぶり的に顔見知り同士なのか?」
斑鳩さんの指摘通り、目の前の二人の間には一定の関係値があるように見えた。
軽いやりとりをするのでも、必ず相手から返球があるとわかっている信頼……そんな感じだ。
にちか「あ、あの! こんにちは!」
???「あ、どーも」
ルカ「アンタらも拉致られてここまでやって来た口か? 自己紹介と洒落込もうじゃねーの」
???「だって。どうする?」
???「あー……」
透「浅倉透。アイムセブンティーン」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の映画通
浅倉透
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一言で言えば華がある人だなという印象だ。
顔立ちが整っていて、スタイルが抜群に良いことは勿論なのだけど、
ぼうっと黙って立っているだけでも他の人たちとは何か違うものを持っていることが透けて見えるのだ。
同じ星の元に生まれた存在とは思えない……いっそ宇宙人ですと言われた方がスッキリ飲み込めるような不思議なオーラがある女性だった。
透「なんか才能は映画通らしいです。よくわかんないけどさ」
ルカ「ふーん……詳しいのか?」
透「さあ? サブスクでたまに見ることぐらいはあるけど」
ルカ「適当だな……」
???「まあ、あの才能というのは随分と曖昧な概念のようですし気にしても仕方ないのでは?」
にちか「あ、あの……」
???「ああ、私……」
円香「樋口円香です。浅倉とは幼馴染です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のコメンテーター
樋口円香
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
浅倉さんと幼馴染という割に雰囲気は対照的な印象を受けた。
過ぎるほどに落ち着き払って、今置かれている状況にも一歩引いた立場から静観している。
だからこそ却って幼馴染として成立しているのかなとも思った。
彼女も浅倉さんに引けず劣らず、華を持った女性だ。
着飾ったような美しさではない、ありのままの美しさ。そういうものがあると感じさせる。
ルカ「幼馴染……オマエらは一緒に誘拐されてきたのか?」
透「え、どうだっけ」
円香「……いや、そうではなかったと思います。それぞれ別で、学校帰りに後ろから襲撃されたような記憶が」
透「だってさ」
にちか「じゃあ、ここにいるのは偶然の一致……なんですかね?」
円香「……さあ、犯人の目的もわからないうちは推測しかできないですし」
透「あ、そういえば二人は小糸ちゃんと雛菜見ませんでしたか?」
ルカ「ん? 誰だ……そいつら」
円香「……彼女たちも幼馴染なんです。私たちよりひと学年下なんですが、姿が近くになく」
(ルカさんと同じだ……近しい関係性の人が欠けている)
透「こんぐらいちっちゃな子と……えっと、なんかすごく元気で、クリーム色な子なんすけど」
ルカ「いや……悪い、見てない」
円香「……無事だといいけど」
冷静そうに見える樋口さんも、流石に言葉尻に不安を滲ませていた。
何もわからぬ今の状況なんだもん、当たり前だよね。
とにかく、この二人も悪い人じゃなさそうだ。
【コンマ判定 71】
【モノクマメダル1枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…8枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…4個】
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【1F 倉庫】
【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
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【倉庫】
よく週末お昼の情報番組なんかで、郊外にできた海外企業のスーパーマーケットを見ることがある。
壁も柱もとっぱらった、ドームみたいな佇まい。
見上げてもはるか先の天井に少しでも近づこうとせんばかりに堆く積み上げられた商品の数々。
一体どうやって取り出してカートに載せるんだってその時も思ってたけど、まさか学校で同じ感覚を味わうことになるとは。
いち学校の倉庫というにはあまりに壮大すぎる設備。
スポーツ用品、実験器具、生活雑貨……大型スーパーを名乗れるぐらいには所狭しと品が並ぶ。これも全て学校の備品の扱いなのだろうか。
にちか「フェンシングの防具とか生で見るの初めてですよ、わたし」
ルカ「私もだ……スケートのシューズとかもあるけど、学校にアイスリンクなんかねーだろ……」
もはや呆れに到達している私たち。
その存在に気づいたのか、倉庫の奥の方から誰かがこちらにやってくる。
タタタタ…
???「あれ、お姉さんたち誰っすか? この学校の人っすか?」
にちか「え? えっと……」
女の子は随分と鼻息を荒くしながら、こちらに質問を投げかけてきた。
ツヤツヤとした綺麗な髪色は銀髪ともブロンドともつかない、その中間のような色合いをしている。
ルカ「私たちは誘拐されてここにいる。オマエはどうなんだ?」
???「んー、そうっすね。わたしもここにどうやって来たのかよく分かってないんっすよね」
にちか「あなたも……状況は同じなんだね」
???「はいっす! それじゃあ自己紹介するっすよー!」
あさひ「わたし、芹沢あさひっす! 中学二年生っす、よろしくっすー!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
超研究生級の博士ちゃん
芹沢あさひ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
中学二年生と自称するだけあって、幼めな印象を受ける容姿をしていた。
背の程も私より少し小さく、着用している制服は少し袖を余らせている。
それでいて表情はあどけなく、感情を覆い隠す術を知らないように、純真無垢な視線を真っ直ぐにこちらに向けていた。
にちか「博士ちゃん……ってどういうことです?」
ルカ「バラエティとか見ないのか? 時々やってるよ、子供なのに一分野に特化して詳しい奴をそうやって褒めたりする番組」
にちか「うーん……彼女の場合は……多分、知識欲ってところなんじゃないですかね。あれ」
ルカ「……あ」
私たちに自己紹介をしたと思ったらすぐに少女は私たちの前から姿を消していた。
私たちに対する興味を失ったのか、それとももっと強い関心を寄せたのか。
私と斑鳩さんで話しているうちに少女は向こうに抜けて、今や棚の上に高くつまれたお菓子のようなものを取ろうと梯子をよじ登っている。
ルカ「ちょ、ちょっと待て……! 落ち着け! まだ話が終わってないだろ……!」
あさひ「んー……? あ、ごめんなさいっすー! お腹が空いちゃってたんでー!」
にちか「じ、自由奔放すぎる……」
私と斑鳩さんは芹沢あさひと名乗る少女をなんとか梯子から引き摺り下ろすと、彼女に自己紹介を加えた。
あさひ「ふーん、にちかちゃんに、斑鳩さんっすか! よろしくっす!」
にちか「わ、わたしはちゃん付けなんだ……」
ルカ「アハハ、まあ年も近いしいいだろ別に」
あさひ「なんかにちかちゃんはにちかちゃんって感じっす! 七草さんって感じがしないっす!」
にちか「な、何それー……」
ルカ「で、あさひ。オマエもあのクマたちから話は聞いたか?」
あさひ「あー、ここはアイドルを育てる学校なんっすよね? 話は聞いたっす」
あさひ「それよりあのモノクマーズ?! すごいっすよね! あんなふうに動くぬいぐるみ初めて見たっす!」
にちか「た、確かにものすごい技術だよね……」
あさひ「わたし、あんなの初めて見たっすよー! どうやって動いてるのか気になるなー!」
ルカ「あんまりアイツらに気を許すんじゃねーぞ。私たちを拉致した側の存在なのは間違いないんだからな」
あさひ「了解っす!」
(……めちゃくちゃいい返事。絶対聞く気ないでしょ)
ちょっと話しただけでわかる。この子は本当の意味で表裏がない子だ。
感情のまま、意思のまま、それを言動に移すことができる存在、できてしまう存在なんだ。
彼女の純真な表情には眩しさと共に危うさを感じる。そう思わずにはいられなかった。
【コンマ判定 48】
【モノクマメダル8枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…16枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…5個】
------------------------------------------------
【B1F 図書室】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
------------------------------------------------
【B1F 図書室】
学校の地下、やけに下るなと思ったけれど扉を開けた瞬間に納得した。これだけの蔵書なら、空間が必要なのだ。
私が二人縦に並んでもなおまだ収まりきらないだろうほどに高くつまれた本。
多くのものはかなり長い年月をかけて保管されているのだろう、部屋はカビたような時間が止まった匂いが充満している。
きっとここの本を全て読んでいたら人生が丸二周できてしまうんだろうな、とぼんやりと考える。
???「……!!」
そんな本の海の中に、一人の少女が立っていた。
黒く美しい長髪で、華奢な出立をしている。
???「だ、誰ですか?!」
少女は片手を胸元に当てて、半身引いてこちらを見据えた。
警戒している。目尻には力をこめて、奥歯を噛むような動作。
ルカ「多分あんたとおんなじだ、警戒しなくていい」
にちか「はい! 危害を加えたりとかはないです! 拉致されてここにやってきただけなので……」
両手を開いて呼びかけることでやっと心を許してくれたのか、少女はゆっくりと口を開き始めた。
???「……あなた方も?」
にちか「ですです! さっき目を覚ましたばかりで……ここがどこかもわかってないんですよ」
ルカ「状況もまるでわかってないんだ。情報共有をしたいんだけど……いいか?」
???「……わかりました」
灯織「……風野、灯織です。高校一年生です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の占い師
風野灯織
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私と同い年なんだ……
そう思わずにはいられないほど風野さんは大人びていた。
整った顔立ちに、口元の黒子が妖艶な魅力を醸しているところから抱く印象が大きいんだと思う。
灯織「お二人のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
ルカ「おう、私は斑鳩ルカ……二十歳だ」
にちか「七草にちかです! 風野さんとは同学年で……高校一年生です!」
灯織「斑鳩さん……七草さん……ありがとうございます」
(……ん? 手にわざわざメモした?)
灯織「……すみませんが、私もつい先ほど目を覚ましたばかりで情報という情報は」
ルカ「ああ、いや……気にしないでいい。それよりさっきの反応を見るに、自分以外の人間に会ったのは私たちが初めてか?」
灯織「ええ……まあ。もしかして、他にも?」
にちか「はい、だいたい同年代の女の子たちが集められてるみたいですー」
ルカ「アイドル候補として集められたとか何とか……意味わかんねーよな、ったく」
灯織「……アイドル? ああ、そういえばそんなことをあのクマたちも」
にちか「あ、聞きました?」
灯織「はい……でも、別に私アイドルなんて……なりたいとも、普段からそう聞いたりもしないですし」
ルカ「まあ……連中の言うことをどこまで信用していいかもわかんねーんだ。とりあえずは信頼できるもの同士で協力しようぜ」
不安がる風野さんを慮って、斑鳩さんは優しい言葉を投げかけた。
さすがは超研究生級のカリスマ、私に向けたのと同じように優しく温かい笑顔と共に、その手のひらを風野さんに差し出す。
この状況なんだもん、仲間は一人だって多い方がいい。
当然、風野さんも私たちを信頼してくれる……そう、思ったんだけど。
灯織「……どこまで信用していいか分からないのは、斑鳩さんと七草さんも同様です」
ルカ「……ん?」
灯織「私と状況は同じ……口で言うのは簡単ですが、実際のところがどうなのかは確かめようがないです」
灯織「すみません……まだ斑鳩さんの手を取る気には」
ルカ「え……あ……おう」
灯織「……私は自分の手でこの学校をもう少し調査します。それでは失礼します」
スタスタ…
にちか「……行っちゃいましたね」
斑鳩さんは宙ぶらりんになってしまった右手をバツ悪そうに頭の後ろに引っ込めた。ポリポリと後頭部を描く仕草が痛々しい。
ルカ「まあ……ああいう反応もあるよな、私は気にしてない」
にちか「斑鳩さん……」
ルカ「さ、次行くぞ次。まだ見てない部屋はあるんだからな」
(……風野さん、なんかあんまり感じ良くない人かも)
【コンマ判定 25】
【モノクマメダル5枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…21枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…6個】
------------------------------------------------
【選択肢が残り一つなので自動進行します】
【モノクマメダルの獲得枚数のコンマ判定を行います】
↓1
------------------------------------------------
【B1F ゲームルーム】
こんな教室が存在するのってフィクションの中でしかないと思っていた。
屋上での昼ごはん然り、権力の大きな生徒会然り。学校は勉強するところという味気なく退屈な固定概念に囚われた建造物だとばかり。
私たちの眼前に広がるのは「さあ遊んでください」と言わんばかりのゲーム機の数々。
惜しむらくはそのチョイスがイマイチだというところ。見るからにレトロゲームといった感じで私の趣味じゃない。
???「すごい、ダウトランにスパルタムX……これ、めっちゃレアなやつ……!」
___こういうのは、オタクが好きなやつだ。
ルカ「なあ、おい。アンタらちょっと話いいか?」
???「ひゃ、ひゃい?! だ、誰……?」
???「て、甜花ちゃん……こっち……」
にちか「え……ふ、双子……?」
レトロなゲーム機に鼻息を荒くしていた女の子の脇から、もう一人の女の子が姿を現したのだけど、見た瞬間に驚愕。
二人は全くの瓜二つなのだ。
身長に髪の長さ、瞳の色。
明確な違いは髪の分ける方向ぐらいだろうか。初対面の私からすればまるで区別がつかない。
???「あ、自己紹介……しなきゃ、だよね……?」
甜花「大崎、甜花……でしゅ……甜花の方が、お姉さん……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のストリーマー
大崎甜花
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
???「じゃあ次は甘奈が自己紹介するねー!」
甘奈「大崎甘奈です、甜花ちゃんとは双子で高校二年生! よろしくお願いします!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のファッションモデル
大崎甘奈
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「す、すご……本当にそっくりです……」
甘奈「えへへ、ありがと☆ よく言われるんだー!」
甜花「にへへ……甜花となーちゃんは生まれた時からずっと、一緒……!」
ルカ「……ここに拉致られんのも一緒、か」
甜花「ひぃん……」
にちか「でも、本当にそっくりですね……どっちがどっちかすぐ分からなくなっちゃいそう……」
甘奈「えへへ、大丈夫! すぐ簡単にわかる見分けかたがあるんだよ☆」
甜花「うん……これで、誰でも一発……!」
にちか「えー、なんです? クセとか、仕草とかですー?」
甘奈「めっちゃかわいいのが甜花ちゃん☆」
甜花「す、すごくかわいいのがなーちゃん……!」
ルカ「……なんとなく、言動で判別つけるか」
にちか「あはは……」
【コンマ判定 78】
【モノクマメダル8枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…29枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…8個】
ガララララ…!
私と斑鳩さんが探索を行っていると、遠くの方で大きな音がした。
シャッターが上がったような音……もしかして。
ルカ「玄関ホールに落ちてたシャッターが上がったのか……?」
にちか「さっきまでは鉄格子みたいなシャッターがあって通れなかったですもんね!」
ルカ「確か学校の正門……出入り口もあったはずだ。望みは薄いが、行ってみた方がいいだろーな」
にちか「行きましょう! ダッシュですー!」
私と斑鳩さんは走って玄関ホールへと向かった。
------------------------------------------------
【1F 玄関ホール】
にちか「あっ、やっぱり!」
つい先ほどに通りがかった時とは光景が違えていた。
鉄格子が降りていたために迂回を余儀なくされた空間は解き放たれ、自由に出入りができるようになっていた。
観音開きの大きな扉、その手すりにもいよいよ手が届く。
???「もし……お二人とは、はじめましてで……ございますよね……」
と、そこで、脱出を逸る私たちを背後から呼び止める声。
にちか「え、あ、はい……えっと……あなたは……」
ただでさえ理解不能な状況なのに、それに加えてタイムスリップでもしてしまったのかと思った。
令和社会の今日この頃。
街中を歩いていて、そうそう和装に身を包んだ女の子など見ることもない。せいぜい観光地の試着ぐらいだろう。
しかし目の前の女の子はそれが彼女にとっての日常であるかのように、違和感一切なく身に纏い、そしてそれに伴うだけの気品を備えていた。
彼女の放つ不思議な時間の流れに絡め取られる。
???「申し遅れました……」
凛世「杜野凛世にございます……お見知り置きくださいませ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の大和撫子
杜野凛世
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
才能に銘打たれるだけあってか、これまでに会ってきたどれとも違った雰囲気ある人だった。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そんな言葉を用いるべき人はこういう人のことを指すのだろう。
ルカ「……すごいなアンタ、もしやいい家柄のお嬢様か?」
凛世「いえ……特に……凛世の生まれはただ、田舎の離れということなだけ……」
凛世「ごくごく普通の……じぇいけいにございます……」
(じ、じぇいけいと来たかー……!)
凛世「お二人は、シャッターが上がる音を聞いて……?」
ルカ「ああ、さっきまでは通れなかった場所だからな……」
にちか「それに、ここって出入り口ですよね!? もしかして、脱出できるのかも!」
凛世「……凛世は、すでにその扉を一度開けてしまいました」
にちか「へ……」
凛世「止めは致しません……ただ、過ぎる希望は持たぬ方がよいものかと……」
にちか「な、なんですかそれ……」
ルカ「……とりあえず、開けてみよう。話はそれからだ」
杜野さんの意味ありげな言葉が引っ掛かりつつも、私は扉の引き手に手をかける。
妙な汗をかく。今私たちが陥っているこの状況に何か一つの回答が欲しい。そう逸る気持ちが指の間を伝った。
にちか「いけーーーー!」
空元気にも似た衝動を口から吐き出しながら、一思いに扉を引いた。
私たちを待ち受けていたのは、さっきまでの閉塞感ある校舎とは全く別のひらけた空。
ずっと遠くに青く澄み渡り、風に雲を流す、あの見慣れた空。
その空の合間を縫うようにして、
____鉄格子。
にちか「……は?」
思わず周りをぐるりと見渡した。鉄の梁は私たちの頭上をアーチ状に取り囲み、その根本は遥か遠く。
その事実は私たちはドームの形をした、極めて広大な面積の何かの内に閉じ込められていることに他ならなかった。
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノファニー「うーん、やっぱり太陽の光は気持ちいいわねー!」
モノキッド「ソーラーパワーでビンビンだぜッ!」
モノスケ「あかん! モノキッドのモノがキッドキドになっとる!」
にちか「ちょ、ちょっと……何これ!? どうなってんの?!」
モノタロウ「ど、どうしたの?! そんなに慌てて!」
にちか「慌てるも何もないって……! 学校の外……これどうなってるわけ?!」
モノスケ「どうなってるもこうなってるもあらへん。キサマラの今見とるのが全てや」
ルカ「あ?! 意味わかんねーよ!」
モノファニー「これ以上もこれ以下もないのよ。これがキサマラの世界のすべてなんだから」
モノダム「……」
(はぁ……? こんなのが、世界の全て……?)
足元がぐらぐらとしはじめた。はじめこそ地震かと思ったけど、これは私の膝から力が抜けていく感覚。
コレで脱出、そうウマい話なんかないだろうとは思っていたけど、待っていたのはもっと酷い現実だった。
モノクマーズたちが口にする言葉の意味を噛み砕こうとすればするほど、置かれている状況の異常さが色濃くなっていく。
私たちはただ拉致監禁されたんじゃない。
___私たちは世界を奪われたんだ。
モノタロウ「まあ安心してよ! 才囚学園は今も工事の真っ最中! どんどん拡張していく予定だからね!」
モノファニー「キサマラにとっても居心地のいい空間になっていくと思うわ!」
モノスケ「せやからそう肩を落とさんといてや! この学園での暮らしをレッツエンジョイやで!」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
ルカ「……大丈夫か?」
意識が遠のくほどの虚脱感に満たされている私の方にルカさんが手をかける。
そばに支えてくれる人がいてよかった、そうでもなければ私はここで膝から崩れ落ちているところだった。
ルカ「……どうやら、すぐに出れるような希望は今は持てないみたいだ」
にちか「……みたいですね」
ルカ「いま私たちにできるのは、この現実を見定めることだけだ。この学園の全貌をつかまない限りはどうしようもない」
にちか「で、ですよね……!」
ルカ「まだ話をしてないやつもいるみたいだしな。とりあえずはいろいろ巡ってみよう」
にちか「はい……!」
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【寄宿舎】
【藤棚】
【噴水?】
【プール前】
【裏庭】
上記より選択
↓1
【寄宿舎】
当面の寝泊まりはここでしろってことらしい。
校舎に向き合うような形で建てられた円柱状の建物には、その円周をなぞるようにして二階層にいくつも部屋が並んでいる。
部屋の扉の上には、それぞれの姿を模したドット絵がついているけど、表札がわりということなのだろうか。
???「ん? あれ、お初のヒトじゃね?」
にちか「こ、こんにちは……」
先客は、派手な髪色をした女性だった。
こんがりと日焼けしたような肌は天然由来のものなのかは分からないけど、ネイルやメイクの凝り具合からしてそうではないと見るのが正しそう。
少し前の言葉で言うのなら、彼女のことはギャルと称するのがいいんだろう。
……まあ、派手さで言うなら斑鳩さんも負けちゃいないんだけど。
???「よかった〜! こんな状況だもん、ちょっとでも仲間は多い方がいいもんね!」
にちか「で、ですね……」
???「うわっ、てかちょ〜カワイイ〜! めっちゃ目、クリンクリンじゃん!」
にちか「え、あ、どうも……」
???「てかお姉さんめっちゃかっこいい〜! すごい、なんかちょーパンクって感じ! それ、どこのブランドのか聞いてもいい系?」
ルカ「お、おう……そうだな」
(ルカさんが気圧されてる……ギャルのコミュ力恐るべし!)
にちか「あ、あの! 先に自己紹介してもらっても!」
???「え? あ、ごめんごめん! うち、つい嬉しくなっちゃって!」
愛依「うち、和泉愛依! 超研究生級の書道家……なんだって!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の書道家
和泉愛依
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これほどまでに才能と見てくれがチグハグな組み合わせもないと思った。
あまりにも開放的すぎる胸元は伝統文化の奥ゆかしさには不釣り合いだし、止まらない饒舌さは墨擦りの静謐さをあまりにも乱しすぎる。
愛依「あ、その目線……才能に書いてあるの、疑ってるカンジっしょ?」
にちか「え? あ、いやいや……そんなんじゃ……!」
愛依「いいっていいって、どう見えてるかはうちが一番わかってる!」
愛依「あんね、うち昔っからばあちゃんと一緒に住んでて……ちっちゃい時からよく習ってたんだ!」
愛依「それで時々賞とか出して……まあたまにいい奴貰ったり?」
ルカ「へー、すげえじゃんか」
愛依「アハハ、でもそんなショクギョーにするほどのもんでもないけどね!」
(人は見た目によらないなぁ……)
愛依「とりまよろしく! うち、あんま頼りになんないかもだけど……精一杯のことはするから!」
そういって愛依さんは私の手を握った。
ギャルってすごいな……と痛感させられた。
たったコレだけのやり取りなのに、この人は表裏のない人だとわかっちゃったんだもん。
【コンマ判定 46】
【モノクマメダル6枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…35枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…10個】
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【藤棚】
【噴水?】
【プール前】
【裏庭】
上記より選択
↓1
ちょっと思ったように進行できていないので、
今日は自レスでコンマ判定もやってとりあえずプロローグ終わらせるところまでやります。
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【藤棚】
校舎と寄宿舎の間の空間にはいくつかベンチが並んで、その上には庇のようなものがついている。
よく公園なんかで蔦が張り巡らされて天然の日除になっているそれだ。
おばあさんなんかが腰掛けてパンクズ振り撒いているよなーなんてことを思っていると、そんな和みとは正反対な容姿の女性に話しかけられた。
???「なあ、アンタたちもここに連れてこられた感じか?」
にちか「……! は、はい……!」
どことなく粗暴な口調に、陽光をぎらつかせる金髪。
瞬間脳内に走った言葉は……「ヤンキー」。
ルカ「そうだけど……アンタは?」
そんな私の緊張を感じ取ったのか、斑鳩さんが一歩前に出て、対話を引き受ける。
樹里「アタシは西城樹里。……そんなビビんないでくれ、別に取って食ったりなんかしねーよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のサポーター
西城樹里
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
西城さんは指でエクボをなぞるようにしながらはにかんだ。
樹里「まあ髪を染めちゃいるけどよ……何も悪い付き合いなんかはしてないから、安心してくれ」
どうやら私のように警戒をむき出しにするような反応には慣れっこらしく、途端に柔らかな雰囲気を醸し出してくれた。
ぱっと見の印象で反応をとってしまったことを少し恥じる。
にちか「す、すみませんつい……」
樹里「気にしなくていいよ、慣れっこだからな」
ルカ「アンタ、サポーターって?」
樹里「ああ、スポーツ観戦が趣味みたいなところあるから……そこからか?」
にちか「ふーん……野球とか、サッカーとかですか?」
樹里「ああ、野球は結構好きでチケットもたまに自分で取ったりしてるな」
ルカ「ふーん……」
にちか「西城さん、運動神経良さそうですけど自分ではやらないんですか?」
樹里「あー……前までは、バスケもやってたんだけど……」
にちか「今はやってないんです?」
樹里「まあ……色々な」
ルカ「……人には人の事情が色々あんだろ、詮索はやめとこう」
樹里「ははっ、ルカさん……だっけ? アンタも見た目に似合わず結構優しいんだな」
ルカ「ハッ、お互い様だね」
(おっ、もしかしてこの二人結構相性いいのかも?)
樹里「先行きのわからないこんな状況なんだ。何かあれば手貸すぜ」
【コンマ判定 14】
【モノクマメダル4枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…39枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…11個】
【広場】
校舎を出てまっすぐ進む。
空を覆うアーチ状の格子の根本を見たいと思ってのことなのかもしれないし、ひとまずこの世界とやらの全貌を見定めたかったのかもしれない。
当てのない歩みは、ある一定のところで行き詰まった。
にちか「ここ……広場、ですかね」
ルカ「……なんだか未開拓って感じだな」
斑鳩さんの指摘通り、辺りを見渡すとそこかしこで工事の作業風景が目に止まる。
瓦礫が積み上がっていたり、ドリルを掘り進めるような音が響いたり。いったいここで何が行われていると言うのだろう。
???「……あ、あの」
にちか「はぁ……そんなに新しいモノぽんぽん作って、私たちに何をさせたいんですかねー」
ルカ「マジで意図が読めねえな……何だってんだ」
???「す、すみません……っ」
にちか「何作られてもこっちは長居なんかする気ないんですけどねー」
???「あ、あの……っ!」
にちか「わ、わぁっ?!」
???「す、すみません……驚かせちゃいました……よね……?」
ルカ「え、えっと……アンタは?」
真乃「さ、櫻木真乃……超研究生級のブリーダー……だそうです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のブリーダー
櫻木真乃
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
工事作業の轟音の中私たちを呼び止めるために張り上げた大声は、よほど不慣れなことだったのだろう。
私たちが振り向いてなおその手は震えていた。
櫻木さんは肩を縮こまらせて、眉も寄せている。今の追い込まれている状況に相当萎縮している様子だ。
にちか「ご、ごめんなさい……私、気づかなくて!」
真乃「い、いえ……私こそ、すみません……っ」
ルカ「大丈夫か、随分と不安がってる様子だけど」
真乃「ありがとうございます……確かに、不安なんですけど、今ちょっと人探しをしてて……」
にちか「人探し……です? どなたかお知り合いでもいたんですか?」
真乃「あ、いや、その……正確には、人じゃなくて、鳥さん……なんですけど」
ルカ「……鳥?」
真乃「私のお友達で、ハトさんのピーちゃんって言うんです。確かあの時も一緒にいたと思うんですけど……」
にちか「ああ、ペットのハトを探してるんですね! いや、すみません、私もちょっと見てないですねー」
真乃「そ、そうですか……」
ルカ「……というか、この敷地内で鳥は見た覚えがないな。あの天井の檻のこともあるし……どうなんだろうな」
にちか「すみません、お力になれなくて……」
真乃「いえ……こんな状況で、惑わせるようなことを言ってしまってこちらこそすみませんでした……」
櫻木さんはすっかり肩を落とした様子。
確かにペットを持っている人からすれば誘拐された状況って不安で仕方ないだろう。
私だってそうだ。お姉ちゃんが今頃どれだけ慌てているか……それはちょっと滑稽かもしれないけど。
【コンマ判定 57】
【モノクマメダル7枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…46枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…12個】
【噴水?】
広場の中から唯一通じている道を通ると、屋内に設けられた噴水に行き当たる。
やたら筋肉質な人体に、モノクマーズたちによく似たクマの頭部が突き刺さったような不細工な彫刻から滝のように水が流れている。
……異質な空間だ。
???「こんにちは……」
にちか「あ、こんにちは……」
妙な空気感に満ちた空間で、消え入りそうなほどに淡く儚い雰囲気の女の子は却って目を引いた。
奇妙な存在感に惹きつけられるようにして、私たちは邂逅する。
???「あの、自己紹介……いいですか?」
ルカ「ん、いいよ。そっちから頼める?」
霧子「幽谷霧子です。よろしくお願いします……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のドクター
幽谷霧子
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
幽谷さんは白衣のような服を身に纏い、手足のあちらこちらに包帯や絆創膏をのぞかせている。
少し痛ましい姿に、言葉に詰まっていると、幽谷さんの方から申し出た。
霧子「ごめんね……怪我をしているわけじゃないの……これは……生きている証……だから……」
にちか「はぁ……」
ルカ「まあ、ファッションみたいなもんなんだろ。深く突っ込む必要もねーって」
にちか「まあ才能が『ドクター』なんですもんね……そのキャラ付けの一環みたいな感じです?」
霧子「えっと……時々、病院で子供たちのお相手をするお手伝いをしてて……」
霧子「お医者さんになる道に向けて勉強も頑張ってるんだ……」
にちか「え、医学部志望です?! めちゃくちゃ頭いいんじゃないですか!」
ルカ「おー……そうなるのか」
にちか「そうですよ! 斑鳩さんは高卒で養成学校行きだから分かんないかもしれないですけど!」
ルカ「……悪かったな」
霧子「全然、そんな……普通だよ……?」
にちか「いやいや! なんか幽谷さん知性ある感じしますもん! 納得だなー……」
ルカ「それより……霧子、アンタはここを調べてたんだよな。この噴水は何のためにあるんだ?」
霧子「ううん……ごめんね、私も今さっき見たところで……」
霧子「でも、他の部屋と違う雰囲気がしてて……この部屋は、これで終わるんじゃないと思う……かな」
にちか「これで終わりじゃない?」
霧子「うん……もっと別の何かが眠っている……そんな気がして」
幽谷さんが察知しているものの正体はわからないが、確かに言いようのない雰囲気が立ち込めているのは事実だ。
私たちのことを見定めようとしているような彫刻もそうだし、妙に整然と綺麗にまとまった内装もそうだ。
厳かさの裏には何か底知れぬ悪意のようなものを感じずにはいられない。
にちか「……なんか嫌な場所ですね」
ルカ「チッ……他のところ、行くか」
【コンマ判定 95】
【モノクマメダル5枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…51枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…13個】
------------------------------------------------
【裏庭】
校舎の裏をぐるりと回ると、鉄製の扉で閉じられた大きなボックス。
そこから校舎に向かって血管のようにパイプが伸びて接続している。校舎の空調設備の類なのであろうことはそこで予測がついた。
???「これだけ大きな設備……ランニングコストだけでも洒落にならないと思うけど……」
ボックスの中は案の定太いパイプがそこかしこに張り巡らされて、中央のボイラーが堂々と傲慢な表情をしていた。
その前で顎先に指を当てて、考え込む様子の女性。私よりも年の程は少し上のように見える。
ルカ「なあ、アンタ。今ちょっといいか?」
???「……あら、あなたたち……ごめんなさい、深く考え込んでいて気づかなかったみたい」
夏葉「有栖川夏葉よ。超研究生級の文武両道……だそうよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の文武両道
有栖川夏葉
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いよいよ才能に具体性が伴わなくなってきたけど、本人の放つ威厳がそれを補って余りある。
私たち二人を見定めるその視線には本人の自信と気迫が携り、凛とした佇まいには思わず見惚れてしまうような気品が滲んでいる。
ルカ「アンタ、随分と冷静なんだな。私たちと同じで誘拐されてここに来たんだろう?」
夏葉「ええ。冷静そうに見えるのなら、それはそう取り繕っているだけよ。私だってこんな状況、今にも逃げ出したいもの」
夏葉「でも、そんなことをしても何も変わらないじゃない? 今は自分のできる範囲で対策を練る……それが今は状況の分析というだけ」
ルカ「こいつは……頼りになりそうな女だ」
にちか「で、ですね……すごいちゃんとした方……!」
夏葉「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。ただ、私も条件は全て同じ……ここでは何も特別なものは持っていないわ」
夏葉「お互い協力してこの状況の打開を目指しましょうね」
にちか「はい! よろしくお願いします!」
ルカ「……ところでなんだが、アンタ随分と鍛えてんだな」
夏葉「あら、分かってしまうかしら」
ルカ「まあな、私はここに来る前からアイドルの研究生やってて……人の筋肉のつき具合なんかは割とぱっと見でわかる」
ルカ「アンタのはそれなりの時間かけて熟成された肉体美だろ」
夏葉「ええ……ええ! そうなの、そうなのよ、ルカ!」
ルカ「う、うおおおお?!」
夏葉「学業の傍ら、己の肉体を磨き上げることを抜かすことを信条としているの! 評価してもらえて嬉しいわ、ルカ!」
ルカ「ちょ、ちょっと……一回手離せ!」
夏葉「あら? そういうあなたもよく鍛え上げられているわね……一見細身に見えるけれど無駄のない肉付きで、入念なトレーニングの跡が見て取れるわ」
ルカ「そりゃアイドルの研究生やってるからだよ! ……ってか離せ!」
夏葉「ルカ、このあと時間があったら一緒にトレーニングはどうかしら。同じ筋肉道を歩むものとして、高めあいたいの」
(……斑鳩さん、ご愁傷様です)
どうやら有栖川さんには妙なツボがあるらしく、そこから暫く斑鳩さんにつきまとってトレーニングをせがんでいた。
さっきまでの品格ある姿とのギャップもまた、彼女の魅力なんだろうけど、トレーニングとは無縁の私からすれば圧倒されるばかりだった……
【コンマ判定 33】
【モノクマメダル3枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…54枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…14個】
------------------------------------------------
【プール前】
校舎に横付けになっているドーム上の建物。
通常なら体育館なのだろうけど、どうやらこの学校は事情が違うらしい。
にちか「屋内プール……ですか」
ルカ「どうやら長いこと使われてないみたいだけどな」
斑鳩さんの指摘通り、建物の中に入ろうとも、植物が入り口周辺を塞ぐほどに生い茂っているのでとてもじゃないが進めない。
それにガラス扉の向こう側も電気が灯っていないし、人の出入りがあったような気配もない。まるで廃墟のような様相だ。
???「初めましての人やね、自己紹介ばしてもよか〜?」
にちか「わっ、こ、こんにちは……!」
(す、すごい訛り……!)
恋鐘「うちは月岡恋鐘、超研究生級の料理研究家ばい!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の料理研究家
月岡恋鐘
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
突然に話しかけてきた月岡恋鐘と名乗る女性は、大人と子供のちょうど中間のような女性だった。
体つきや顔つきは私よりも幾分か成熟している様子だけど、声のトーンや、その話し方や立ち居振る舞いはあどけなさや幼さのようなものを感じさせる。
それに、きっと方言混じりの喋り方も加わって垢抜けていない印象を抱かせているのだろうと思った。
恋鐘「さっきからずっと歩いて人を探し回っとったんやけど、やっと出会えたば〜い! こいはどこ〜〜〜?!」
にちか「それが……私たちもサッパリで」
ルカ「うちらもアンタと一緒だよ。あのクマ連中から聞いた話以上の情報は持ってない」
恋鐘「うう……なんが起こっとるかサッパリばい……」
にちか「あの、月岡さんってこっち……東京の女じゃないですよね?」
恋鐘「うん! うちは長崎! 長崎で実家の小料理屋ば手伝うとるんよ!」
ルカ「長崎……随分と遠いんだな」
にちか「他の人は割と東日本に固まっている感はありますけど……なんで急に長崎なんでしょう」
恋鐘「そがんこと言われてもうちが一番知りたかよ! 急にアイドルになれって言われても困るばい!」
恋鐘「まあ、アイドルやること自体は悪い話ではなかけど……」
(あ、そこは割と受け入れてるんだ……)
【コンマ判定 53】
【モノクマメダル3枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…57枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…15個】
【キーンコーンカーンコーン……】
一通り敷地内の探索をし終えた頃、タイミングを狙い澄ましたかのように鳴り響くチャイム。
まるで平然と日常を綴るかのように、それは突然に始まった。
モノタロウ『お待たせ! 入学式の準備が整ったよ!』
モノキッド『最高にクールでブラッドでマッドネスな入学式がキサマラを待ってるぜッ!』
モノスケ『ここからが才囚学園の本域や! 覚悟しときや!』
モノファニー『押さず、走らず、喋らず。おはしで体育館までやってきてちょうだいね』
モノダム『……』
モノタロウ『待ってるよ~!』
プツン
ルカ「……何かが始まる、みてーだな」
にちか「い、斑鳩さん……どうしましょう」
ルカ「どうするもこうするも……行くしかないだろ。今の私たちはあいつらの手の中。争ったところでろくな展開は待っちゃいないだろうしな」
にちか「……そう、ですよね」
ルカ「……」
ルカ「あー! そう不安そうな顔すんなって! 大丈夫、私がついてる!」
にちか「斑鳩さん……」
ルカ「私の方がちょっと年上で……同じ部屋に拉致られてた縁もある。ここにいる間ぐらいは私のことも頼ってくれていいから」
ルカ「んな不安そうな面してんじゃねー、ほら。行くぞ」
斑鳩さんは照れくさそうに顔を背けて、私に右手を差し出した。
流石にこれをとって一緒に歩くほど私も幼くはないが、それでも流石は彼女の持つカリスマ性だ。
その背中は今は何よりも頼り強く、心強い存在として映っている。
きっと斑鳩さんがいなければ、私は今にも不安に潰されていただろうから。
その感謝の意を込めて、パンと私の手を重ね合わせた。
にちか「はい、行きましょう……ルカさん!」
ルカ「……ハッ」
------------------------------------------------
【体育館】
校舎の奥まったところにある体育館には、自己紹介を済ませて顔見知りになった面々がすでにあちこちに集まっていた。
ある程度のコミュニティはできつつあるらしい、数人単位で固まっているところが随所に見られる。
私とルカさんは二人で部屋の壁にもたれかかり、時間の経過を待った。
そして暫くしてから、一人の少女が声を上げた。
あさひ「……来る」
めぐる「どうしたの、あさひ?」
あさひ「何か……近づいてきてるっすよ。遠くから……ここに!」
初めは彼女だけが聞き取っていたそれは次第に他の人間にも感知され始める。
微細な音は振動となって実感に結びつき、そしてやがて自分たちの近くに影という予兆の存在を認める。
今ここに、頭上より、何かが降り注ぐ!
ドシーン!
凄まじい轟音と舞い上がる埃。
防衛本能から閉じた瞳をゆっくりと、細い水平線が開いていく中で、それを見る。
【おはっくま~~~~~!!!!!】
人の首を掴めばトマトのようにへしゃげてしまうだろうし、
ハンマーを振り下ろせば根本から折れてしまうだろうし、
どんな鉄製品も踏み潰せばただの鉄屑に還ってしまうだろう。
そんな見立てが即座に走るほどに、絶対的な暴力。
暴力を体現した悪魔とでも言うべき5体が私たちの前に降臨したのである。
『ねえねえビックリした? ビックリした?』
『ヘルイェー! この姿を見るのは、今のキサマラは初めてだもんな!』
『ワイら最強最悪の破壊兵器エグイサルや! どうや、思い知ったか!』
恋鐘「ふぇぇぇぇ?! な、なんねこれ?!」
夏葉「みんな、離れて! 距離をとりなさい! 何をしてくるかわからないわ!」
あさひ「すごいっすー! あんな機械、見たことないっすー!」
灯織「言った側から……! 芹沢さん、自分勝手な行動は控えて!」
エグイサルと呼ばれる重機は一歩一歩ジリジリとこちらに近づいてくる。
武器も持たない生身の私たちは自然と身を寄せ合う形に。
それでも対抗策は何一つない。
……万事休すだ。
『ぐへへへ……どいつからぶっ殺してやろうか……まずはその細い胴体を握りつぶして内臓をデロデロ吐き出させてやる……』
『ちょっと、アタシグロいのダメなのよ……もっと平和的に行きましょう?』
ルカ「て、テメェらの目的はなんなんだ……! なんのつもりだよ……!」
透「あー、死にたくないなー」
恋鐘「もういかんばい! お先真っ暗ば〜〜〜い!」
紛糾することしかできずにいた私たち。
一寸先に見える結末に怯え、絶叫する他なかった狂乱の渦中で。
海を割るように、その一言が鳴り響いた。
『民よ、争いはおやめなさい』
『こ、この声は……!』
『お、お父やん?!」
ほんのわずかな言葉なのに、耳に入った瞬間に全身を虫が這い回ったような不快感。
胃の底に溜まった澱みがせり上げてくるような言い知れぬ黒々とした感情が湧き上がってくる。
今まで私たちが直面してきた『最悪』、今まさに陥っている『最悪』、そんなものを鼻で笑い飛ばしてしまうような、
もっと強大で劣悪で、醜悪な『最悪』がすぐそこにまで迫っているという実感だった。
『争いは何も生みません……何かを生み出すことができるのは、生命と生命の尊き交わりのみなのですから……』
『く、来るわよ! キサマラも衝撃に備えなさい!』
樹里「お、おいおい! 何が起きるってんだ?!」
霧子「すごく……胸がざわざわします……」
全員が促されるままに体育館の奥、エグイサルの向こう側へと視線をやった。
この学校の校章とおぼしき垂れ幕が見下ろす先には校長が登壇するであろう台があった。
ただ一つ、理解不能なことがあるとすれば、その台はガタガタと音を立てて【蠢いている】こと。
真乃「来ます……っ!」
バビューン!!!
花火玉のように、黒い影をした何かが射出された。
ずんぐりむっくりした影は妙に緩やかに落下して、私たちに向けて首を傾げた。
「グッモーーーーーーーーニン! 超お久しぶりじゃん、オマエラ元気〜〜〜〜〜?!」
これまで私たちの前に何度と姿を表したモノクマーズ、それらの個体を一回り大きくしたような白黒ツートンカラーのぬいぐるみだった。
愛依「な、なにあれ……なんか増えたんだけど……」
円香「……最悪」
モノクマ「ボクの名前はモノクマ、この才囚学園の【学園長】なのだー!」
モノクマと名乗るぬいぐるみは傲慢なまでにふんぞり変えると、そのままとてとてとこちらに向かってくる。
エグイサルに登場していたモノクマーズも、彼に続く形で機体から降り、一つの隊列のようになった。
モノクマ「自己紹介が遅くなって申し訳ない……でも、その間にみんなはもう自己紹介は済んだんだよね?」
モノタロウ「うん! オイラたちもバッチリ顔見知りだよ!」
モノクマ「えらいね〜、相互理解はコミュニケーションの第一歩ですぞ!」
円香「異議あり。こっちは全然そっちのことを理解してない」
モノファニー「あれ? お名前はちゃんと伝えたわよね?」
凛世「逆に……お名前以外のことは全く存ぜず……」
灯織「どうして私たちを拉致監禁しているのか、その理由もはぐらかされたままです」
甜花「甜花たちを、ここから出して~……!」
モノキッド「おいおい! キサマラの耳が遠いのを棚に上げてミーたちを悪く言うつもりか?!」
モノスケ「才囚学園は一人前のアイドルを育成するための学校や。それ以上でもそれ以下でもないで」
ルカ「そこなんだよ。元から研究生やってる私はともかく……にちかとか、他の連中はなんでここに呼ばれてる」
モノクマ「オマエラには未来があるからだよ」
甘奈「み、未来……? たしかに、甘奈たちはまだまだ未来はあると思うけど……それはみんなおんなじじゃないの……?」
モノクマ「いいや違うね。オマエラの持つ未来と、その他有象無象の持つ未来。その意味と価値には雲泥の差があるんだ」
モノクマ「だからこそこの学園で育まれる未来は美しく、尊く、儚い」
樹里「要領を得ねーよ、もっと分かりやすく言ってくれ」
モノファニー「キサマらは選ばれたのよ! スカウトされたって言ってもいいわね!」
(す、スカウト……?! 私が?!)
モノキッド「そう、キサマラは才能の原石なんだ! この学園を出る頃には立派なダイヤモンドになっていることだろうぜッ!」
夏葉「……話が堂々巡りしていないかしら。あなたたちは結局私たちに何をさせたいの?」
甜花「そ、そう……アイドルになるって具体的には何をすれば……いいの?」
灯織「別にアイドルになることに賛同したつもりもないですが……」
モノクマ「よし、それじゃあこの才囚学園での【アイドル育成プログラム】についてご説明いたします! モノクマーズのみんな、準備はいいかな!」
【はーいくま~~~~~!!!!!】
モノタロウ「①キサマラにはこの才囚学園で共同生活を送ってもらいます。期限は【一生】! 長い時間を友達と一緒に過ごすことでその魅力は一層磨き上げられることでしょう!」
(……は?)
にちか「ちょ、ちょっと待ってよ……! 今何て……?」
モノクマ「ちょっと! うちの子が今発表してるところでしょうが! 邪魔しないでちょうだいよ!」
にちか「いや、だって……」
モノファニー「②学園生活内での活動に特に制限はありません。校内設備を自由に探索しても構いませんが、夜時間中の食堂と体育館は出入り禁止となります。また、現状では立入不可の区域もあります」
モノキッド「③才囚学園の学園長であるモノクマへの暴力はかたく禁じられています。校内設備に損害を与える行為も基本的には禁止です」
モノスケ「④校則に違反する行為を行なった生徒はエグイサルによって粛清されます。規則を守って、清く正しい学園生活を送りましょう」
モノダム「……」
モノタロウ「以上だよ!」
(……は? な、何言って……)
ルカ「ざけんな! 何が期限は一生だ……そんな道理が通用するかよ!」
夏葉「私たちには元々の生活があるし……親族だっている、そんな長期の共同生活など受け入れられないわ!」
モノクマ「よしよし、オマエラいい子だね〜! 一言も噛まずに全部言えたじゃないか〜!」ペロペロペロペロ
モノタロウ「うわ~! お父ちゃん恒例の愛のペロペロシャワーだ~!」
モノファニー「あんなところからこんなところまで舐め回されちゃうわ~!」
樹里「クソ、んだアイツ……こっちのことまるで聞いてねーぞ!」
モノクマ「ああ……舌ったらずでまだヨチヨチ歩きな我が子たちがこんなにも一生懸命になってボクのために頑張ってくれる……こんなにも幸せなことがあるだろうか……!!」ペロペロペロペロ
モノスケ「あかん! お父やん、そこはあかんで~!」
モノキッド「禁断のッ! 禁断の扉が開いちまうッ!」
モノダム「……」
モノクマ「そんな恨めしそうな眼をしなくてもいいんだよ! むしろ何もせずとも愛を受けられるモノダムのその幸運さが可愛らしい!」ペロペロペロペロ
樹里「おい、いい加減にしろ! さっさとここから出しやがれ!」
モノクマ「……もう、なんだよ。せっかく我が子との団欒を楽しんでたところなのに水を差しやがってさ」
甜花「団欒っていうか……舐め回してただけ……だけど」
モノクマ「何? 何が不満なわけ? オマエラみたいな没個性で何も持たない、この先世界の誰にも名前を覚えられることもなく消えていくはずだった存在を掬い上げてもらって、むしろ感謝の言葉はないの?」
(……!)
【没個性】……そんなことは何よりも自分が一番わかってる。
アイドルなんてテレビの向こう側の存在。煌びやかな芸能界なんて、私とは対極の場所。
自分だって理解しているし、人生とはそういうモノだと受け入れている。
そのはずなのに、こうも他人に面と向かって言われると腹立たしく感じるモノなのか。
モノクマ「オマエラという日常の奴隷に非日常をプレゼントしてやってるんだよ! アーッハッハッハッハ!」
にちか「うるさい……!」
ルカ「にちか……?」
にちか「あんたが人の価値を勝手に決めるな……! この先数十年ってある私たちの未来を勝手に値踏みして、こき下す権利なんてあんたにはないでしょ……!」
モノクマ「……ボク、さっき言ったよね?」
モノクマ「オマエラには未来があるって。確かに今は他の日常の奴隷と変わりないオマエラだけど……この学園で過ごすことでオマエラはその【輝かしい未来】を手にすることができるんだ」
モノクマ「よーし、それじゃあモノクマーズ! 次のステップのイントロダクションにいっちゃおー!」
【はーいくま~~~~~!!!!!】
モノタロウ「あのね! この学園生活の期限は一生なんだけど、途中で卒業をすることができる制度があるんだ!」
モノファニー「それは【学級裁判】! 他の生徒を殺害したクロとそれ以外の生徒のシロで学級裁判を行って、クロがシロを欺き通すことができれば見事卒業になるのよ!」
モノキッド「ヘルイェー! クロが卒業になった際にはそれ以外のシロ全員がおしおきになっちまうぜ!」
モノスケ「逆にクロとバレてしもうたらクロだけがおしおきで残った生徒で学園生活継続や」
モノダム「……」
にちか「……え?」
言葉の全てが宙をすり抜けた。
そんなの、テレビや小説、作り物の世界でしか聞いたこともないし、自分で口にしたこともない。
辞書での意味ぐらいは知っているけど、逆に言えばそれぐらいにしか実感がない言葉。
本当に、この世界に存在する概念なのかも疑わしいような言葉を、前提として持ち出されたことに頭がまだ追いついていなかった。
真乃「ちょ、ちょっと待ってください……っ! さ、殺害ってどういう意味ですか……?」
モノキッド「どういう意味もこういう意味もないぜッ! 文字通りキサマが他のキサマラの中の誰かをぶっ殺すって意味だ!」
モノスケ「包丁でブッ刺してもええし、縄で首を絞めたっていい。殺し方は問わへんで」
モノファニー「うぅ……グロい殺し方だけは勘弁ね。私グロいのダメなのよ……」
ルカ「……殺す殺されるもそうだけど、気になることを言ってたよな。学級裁判ってのはなんだ?」
モノタロウ「よくぞ聞いてくれました! この学級裁判が、このコロシアイ強化週間におけるキモだからね!」
モノファニー「あのね、キサマラの間で殺人事件が起きた場合、誰が殺害した犯人なのかを議論して話し合って決めてもらうの」
モノスケ「要は犯人当てっこやな! それに成功すればクロだけがおしおきで、失敗すればそれ以外全員がおしおきや!」
モノキッド「おしおきは平たく言えば処刑のことだ! 絞首に転落、釜茹で、刺殺、火葬になんでもござれだ!」
モノダム「……」
誘拐されるよりも、少し前。
私の日常の確かな記憶。
バイト終わりに、お姉ちゃんがまだ帰っていないアパートで、食事当番のためにシチューを煮込んでいた。
人参は細かく切らないと火が通らないよなーとか、たまにはいいお肉食べたいなーとか、そんなことを考えながら、なみちゃんの歌を鼻歌で誦じながらお玉を回して。
そういう日常と私が今いるここは同じ地続きなんだろうか。
本当の私はトラックに轢かれて病院のベットの上で昏睡状態とか、そんなことだったりしないだろうか。
そんな現実逃避をしないと、どうにかなってしまいそうな程に、狂っていた。
人の命をどこまでも軽んじて、ゲームとして興じて、嘲笑う。それを行なっているのは自分よりも小さなクマの人形たち。
それなのに、言葉に説得力と強制力を抱かせる要素の数々。エグイサルに広大な施設、そして確かに存在する誘拐された時の記憶。
にちか「……あはっ」
膝は砕け、手のひらでなんとか地面を受け止めた。
頭の中がぐるぐると洗濯機みたいに掻き乱されて、世界はどんどんと傾いて行く。
私の中の常識は今や、何の役にも立たない。
ルカ「……ざけんなッ、ざけんなよ……! 何がコロシアイだ、学級裁判だ……意味わかんねえ……!」
モノスケ「当然やけどキサマラに拒否権はあらへん。それに、キサマラは今日であったばかりの初対面同士。殺し殺されにも対して抵抗ないやろ?」
愛依「そんなわけないじゃん! うちらはみんな……ただの女の子なんだよ!?」
夏葉「人が人を殺めるなんて重罪よ……そんなこと、出来るはずがないわ」
モノクマ「ジューザイ? なにそれ、元気出していけばいいの?」
夏葉「はぁ……?」
モノクマ「あのね、オマエラが理由にしてる法律とか倫理とか、それって他の他人に定義された社会や世界の箱の中でしか通用しない概念なんだよ」
モノクマ「現代社会が成立するよりずっとずっと前……ムラ社会だった頃は略奪に殺害はつきものだったし、戦争ではたくさん殺した人間こそが英雄だったんだよ」
モノクマ「現代では誰しもが牙を抜かれてしまって、ありとあらゆる場面から暴力が退けられるようになってしまった」
モノクマ「でも、それって生物の営みからすれば退化に他ならないんだよね。今こそ人類は原始の時代に立ちかえるべきだとボクは思うね!」
霧子「歴史を理由にするのは……違うと思います……」
霧子「人は、たくさんある道のうち……何度も過ちながらでも……正しい道を選んで……今日まで来たと思うから……」
モノクマ「それにオマエラの目指す芸能界だってそうだよ! 他の人間を食ってかかる、蹴落としてやろうっていうバイタリティがないと生き残れない世界だからね!」
樹里「ちょっと待て! 問題はそこなんだ!」
モノクマ「はぬ?」
樹里「なんで……どこからアタシたちが【アイドルになる】なんて話が湧いてきたんだ? アタシたちが選ばれたとか何とか言ってたけど、そんなの身に覚えがないんだよ」
凛世「凛世も……アイドルのことはよく存ぜず……」
愛依「そりゃ憧れっちゃ憧れはあるけど……うちは、こんなだしさ……?」
モノスケ「なんやコイツら変なことを言うとるで」
モノファニー「本当ね、おかしな子達だわ」
モノキッド「クククッ、おかしすぎて笑えてくるぜッ!」
恋鐘「な、なんね?! 何を笑っとるとよ!?」
モノクマ「このコロシアイはオマエラじゃなきゃダメなんだよ……そしてオマエラもその理由も、意味もちゃんと知っている……」
モノクマ「それなのに、どうしてそんなことを言うのかな?」
(……は?)
(コロシアイをこのメンバーでやることの理由と、意味……?)
どこまでも心当たりのない問いを一方的にぶつけられて、私たちは全員立ち尽くす他なかった。
奥歯で憎悪と怒りを噛み潰しながら、コロシアイという言葉を振りかざすモノクマたちを睨みつけるしかなくて。
_____無力にも、この運命に身を委ねるしかないのだった。
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PROLOGUE
if(!ShinyColors)
END
残り生存者数16人
To be cotinued...
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というわけでプロローグまで投稿させていただきました。
早速進行がグダってしまってすみません。
どうかまたお付き合いただければと思います。
明日6/1(木)21:00前後よりまた1章を更新していこうと思います。
よろしくお願いいたします。
以下今回のコロシアイ参加者
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【超研究生級のブリーダー】櫻木真乃
【超研究生級の占い師】風野灯織
【超研究生級のスポタレ】八宮めぐる
【超研究生級の料理研究家】月岡恋鐘
【超研究生級のドクター】幽谷霧子
【超研究生級のギャル】大崎甘奈
【超研究生級のストリーマー】大崎甜花
【超研究生級の文武両道】有栖川夏葉
【超研究生級の大和撫子】杜野凛世
【超研究生級のサポーター】西城樹里
【超研究生級の博士ちゃん】芹沢あさひ
【超研究生級の書道家】和泉愛依
【超研究生級の映画通】浅倉透
【超研究生級のコメンテーター】樋口円香
【超研究生級の音楽通】七草にちか
【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ
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CHAPTER 01
ガールビフールフールガールズ
(非)日常編
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モノクマたちが姿を消してからも、私たちはその場に硬直していた。
コロシアイとやらを受け入れるつもりはない。
ただ、今の自分たちの前にはそこから逃れる術など何もなく、所在のない不安だけが胸を埋め尽くす。
その吐口を求めるように、互いを見つめ合うことしかできずにいた。
静寂が続くこと、数分。
一人が、口を開いて膠着を破った。
円香「……いつまで、こうしているおつもりですか?」
透「ん……樋口、どった」
円香「別に。このまま見つめあってても状況は好転しないし、どうしようもない」
円香「せめて自分たちの置かれている状況を改めて確認するぐらいした方がいいんじゃないかと思っただけ」
にちか「樋口さん……」
夏葉「そうね、円香の言う通りだわ。あんな要求に応じる必要はない。だけど出来るだけの対策はしておくべきね」
ルカ「……こうなったもんは仕方ねーな」
一人が動き出したことで、少しずつだが冷静さが戻ってきた。
何も追い込まれているのは一人じゃないんだ。自分でこの不安を抱えこみ続ける必要はない。
灯織「……待ってください」
だけど、その不安を誰かと共有する必要もない。
その誰かはまだ、信用に足るとも決まっていないのだから。
灯織「先ほどの話からすると……ここから出るために他のいずれかの殺害をすでに企んでいる方がいる可能性も捨てきれませんよね」
樹里「お、おい……そんなこと……」
灯織「でも、無いとは言い切れませんよね」
あさひ「わたしもそう思うっす。誰がどう思ってるかなんて、どうやってもわかんないっすから」
夏葉「待ちなさい、ただでさえこんな状況なのに自分勝手な行動をすればバラバラになってしまうわ!」
灯織「自分勝手な行動ではなく、自分を守るための行動です。すみません」
風野さんは私たちに最後まで猜疑の目を向けたまま、体育館を一人後にした。
残った私たちにも、彼女の行動は波紋を起こした。
一度結びかけた協力を改めて見つめ直し、
その強度を図りかねる者、もっと強く信用できる繋がりに逃れる者、どうすればいいのか分からず当惑して立ち尽くす者。
集まりは、空中分解の様相を呈していた。
甘奈「ごめんなさい……ちょっと、今は甜花ちゃんと二人にさせてもらうね……」
円香「浅倉、いくよ」
あさひ「ここでじっとしてても何も変わんないっすね」
凛世「少し、部屋で休ませていただきます……」
一人、また一人と体育館からは人が減っていき、残ったのははじめの半分ほどだろうか。
その残った人間も、信頼を向け合っているわけではなく、身の振り方に悩んでいるだけの段階だ。
霧子「これから……どうしようか……」
ルカ「ひとまず、改めて脱出する術がないか探索する……か。アイツらの言いなりにはなりたくない」
夏葉「……ええ、そうしましょう」
めぐる「わたしは、風野さんたちにも協力してもらえるように説得に行ってみる! きっと不安で仕方なくて、あんなことを口走っちゃってるだけだろうから……!」
ルカ「だとしたら一人よりも複数人で行った方がいいだろ……えっと、櫻木……」
真乃「櫻木真乃、です……!」
ルカ「あんたも一緒に行ってやってくれるか?」
真乃「は、はい……っ!」
なんだかんだでルカさんが指揮をとる流れになっているあたりは流石のカリスマ性だ。
本人にとってそれが自覚のあるものかどうかは分からないけど。
ルカ「にちか、オマエは私と一緒についてきてくれるか?」
にちか「え、いいですけど……」
ルカ「ここじゃ一番最初に出会ったのがオマエ……私からすれば一番信用できるのはオマエなんだよ」
(もう……そんな言い方をされると弱い)
にちか「分かりました! お供します!」
ルカ「よし、それじゃあ各自探索と説得。とりあえず今日のところはそれで行こう」
ルカさんの指示に従って私たちは散開した。
目立った反発もなく従ったのは、頭を働かせたくなかったから。
コロシアイを課せられている非現実、それを噛み砕いて自分の領域に入れることに抵抗を抱いていたから。
何か別のことをして気を紛らわしていたかった。
ただ、どれだけ探そうとも脱出の糸口などは見つからず。
私たちは靄の中を闇雲に歩き回るだけに終始した。
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【寄宿舎 にちかの部屋前】
ルカ「……お疲れ。今日のところは、とりあえず休もう。オマエも訳のわかんないことが連続してまだパニックだろ」
にちか「はい……正直、寝て起きたら全部夢であってほしいって思っちゃってます」
ルカ「ハハ……だよな」
にちか「……あの、ルカさん」
ルカ「……ん?」
にちか「ルカさんは私より年上で……他のみんなを引っ張ろうと、守ってしてくださってるんだと思うんですけど……」
にちか「あの、無茶はしないでくださいね! ここではルカさんも私たちと同じ立場の、仲間なんですから!」
私の申し出にルカさんは一瞬虚をつかれたようで、黒目がきゅっと小さくなった。
そしてすぐに頬をにへらと緩めて、右手で私の頭を撫でた。
ルカ「サンキュー。辛くなったらにちかを頼る」
にちか「え、えへへ……」
ルカさんの手は指が長くて、それでいて暖かくて、ずっと撫でられていたいような気がした。
目を覚ましてからずっと強張ってばかりだった私を初めて、ときほぐしてくれた接触に、足先から蕩けてしまいそうだった。
ルカ「じゃあな、ゆっくり休めよ」
にちか「はい、おやすみなさい!」
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【にちかの部屋】
モノキッド「ヘルイェー! 今のやりとり、マジでお笑いだな!」
にちか「う、うわああああああ?! な、なんでいるの?!」
モノキッド「何でも何もミーたちモノクマーズは学校の敷地内ならどこでも行けちまう権限持ちだからな!」
にちか「うーわ最悪……」
モノキッド「それよりキサマに朗報だ! クローゼットを見てみな!」
にちか「はぁ……?」
促されるまま、部屋の脇にあるクローゼットを開ける。
その瞬間、絶句。今私が着ている制服と全く同じものが何セットも取り揃えられているではないか。
モノキッド「これで着替えにも困らないな!」
にちか「どこで集めてきたの……気色悪……」
私の制服があるということは、本当に私は選ばれてここにいるということだ。
全国の女子高生を無作為に選んで誘拐したんじゃこうはいかない。
その意味と価値……あの時のモノクマの言葉が何度も頭に浮かび上がっては消えた。
にちか「ねえ……あなたたちは本当に何が目的なの? なんで私たちがコロシアイをしなくちゃいけないの……?」
モノキッド「……! おっと、そろそろ夜伽の時間だッ! 遅刻は厳禁、それじゃ失礼するぜッ!」
にちか「ちょ、ちょっと! 気色悪い理由で逃げんなー!」
にちか「……行っちゃった」
本当に文字通り神出鬼没だ。
どこから入り込んだのか、どこに消えたのかも分からないのはなかなかにこちらも神経を使う。
にちか「……はぁ」
でも、もうどうでもいい。
私は全てを投げ出してベットに倒れ込んだ。
目を覚ましてからあまりにも多くのことが起きすぎた。
これまでの人生の十数年、そのいずれよりも衝撃的で凄惨で、受け入れられない現実。
生きるか死ぬかなんて、ここ数十年は無縁の概念だと思っていたのに。
にちか「いや、意味わかんないし……」
眠気が湯水のように湧いてくる。
多分その源は諦観。いくら私が思考を張り巡らせたところで事態を好転させる手など思いつくはずもない。
時間が流れるのだけを待つのに、瞳を開けておくのは退屈すぎた。
シーツの匂いを嗅ぎながら、クッションに体がのまれていくのを感じながら
……ゆっくりと、意識を手放した。
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【School Life Day2】
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【にちかの部屋】
「夢……なわけないよね」
目を開けた瞬間待っていたのは自分の寝床からすれば上等すぎるつくりの天井。
ベッドだっていつもの数段ふかふか。
照明もボタンひとつで簡単につけたり消したりできる快適っぷり。
まあ……ここで私を待ち受けている運命には不快以外の何ものも存在してはいないんだけど。
ベッドからようやっと身を起こして鏡の前へ。
決して眠れなかったということはない。
頭も体も疲れ切って、睡眠も十分に取れているはずだ。
それなのに頬がこけて見えるのは、精神的なモノなのだろう。
いまも胸に何か冷たいものが突き刺さったようで、息苦しさを感じている。
【キーンコーンカーンコーン……】
モノタロウ『おはっくまー! 朝の放送だよ〜!』
モノスケ『キサマラ、ちゃんと起きとるか? こんな時こそちゃんとした生活習慣を維持せにゃいかんのやで』
モノファニー『気を抜いた瞬間に乙女はおばさんに変わっちゃうんだから! ぶくぶくぶよぶよになってから後悔しても遅いんだからね!』
モノキッド『ミーはちょっとくらいふっくらしてる方が好きだけどなゲヘヘヘ』
モノファニー『やーん、ちょっとまだカメラ回ってるでしょ? そういうのは後にして』
モノキッド『ちょっとくらいいいじゃねーかよ、ゲヘヘヘ』
モノダム『……』
プツン
朝からかなり最悪な放送を見させられた。
どうやら朝晩には決まってモノクマーズの放送があるらしい。
こんな空間でも規則正しい生活を、ということだろうか。
私たちから日常を奪っておいて、いいご身分だと思う。
嫌気を掻き出すように歯ブラシを口に突っ込んで、朝の支度をした。
ひとまず、この学校での生活からは逃れられないのだ。
適応する気こそないが、取り残されないように、人として最低限度の営みぐらいはやっておかないと。
ピンポーン
洗顔にヘアセットと一通りの朝の支度をし終えようかというタイミングでインターホンが鳴った。
にちか「は、はい!」
ルカ「おはよ、もう起きてたか?」
ルカさんは昨日の今日だというのに、気丈に笑顔を見せてくれた。
きっと私に不安を抱かせないためなんだと思う、どこかその口元にはぎこちなさを感じた。
ルカ「昨日は寝れたか? 環境も違って……落ち着かないだろ」
にちか「んー……そうですね、部屋自体は完全防音で、物音もしなくて静かなので寝ることは寝れました」
ルカ「そっか、そんならよかったけど」
にちか「ルカさんは?」
ルカ「私は……すぐには寝れなくてさ、あたりをぶらついてたよ」
ルカ「どっかに出れる場所がないかって、そんな期待しても無駄なのは分かってんのにさ」
にちか「ルカさん……」
そう言ってルカさんは自嘲して肩を窄めた。
ルカさんだって私と数えるほどしか年は変わらない。
彼女だって不安を抱いているはず、私にそれを見せないように取り繕っている。
そのことが余計に負荷になるのが、嫌だった。
にちか「ルカさん! 朝ごはん! 朝ごはん食べに行きましょう!」
ルカ「え? お、おう……どうした、急に」
にちか「もうお腹ぺこぺこなんですよー! 飢え死に寸前! さ、早く行きましょう!」
ルカさんの手を強引にとって駆け出した。
不意をつかれた手には一切の抵抗の力がこもっておらず、痩身のルカさんは私でも軽く引いて行けた。
掌から伝わってくるルカさんの冷えと震えを、強引に握り込んでいた。
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【食堂】
食堂には朝目覚めてから行き場もなく、ひとまずで行き着いたであろう他の人たちの姿もあった。
とはいえ、全員が全員ではない。
昨日の話の後に、保身のために別行動を選んだ人たちの姿はなく、他にも数名まだ目覚めていないのか、抜けている人員がある。
真乃「お、おはようございます……っ」
にちか「お、おはようございます……」
ルカ「よっす……流石に、全員じゃねーんだな」
樹里「まあ、昨日の今日だしな……これでも集まった方だと思うぜ?」
夏葉「……やはり心配ね、あの後単独行動をしていた人たちもちゃんと睡眠は取れたのかしら」
ルカ「ていうか朝飯は……自分で用意する感じか?」
霧子「ううん……モノクマたちが用意している献立もあるみたいではあるんだけど……」
霧子「朝になると、食糧庫に材料が追加されるみたいで……今は、恋鐘ちゃんが……」
ルカ「恋鐘……ああ、あの長崎の」
夏葉「彼女が全員分の朝食を作ってくれているみたいなの」
にちか「ぜ、全員の?! めっちゃ大変じゃないです?!」
めぐる「うん、わたしたちも手伝うよー!って言ったら、自分が好きでやってることだから気にしないで!って」
樹里「元々実家の小料理屋で厨房を手伝ってたらしくてさ、腕にも自信があるんだってよ」
夏葉「ええ、だから先に私たちで今この場にいない人たちを呼んでこようと思って」
にちか「ここにいないのって……」
真乃「風野さんに、杜野さん、大崎さんたちに、芹沢さん、和泉さん、浅倉さんと樋口さんだね……っ!」
樹里「そんじゃ分担して探すか。寄宿舎にいるとも限らねーだろうしな」
にちか「ルカさん、一緒に声かけに行きましょう!」
ルカ「ああ、いいけど……どいつにすんだ?」
にちか「えっとですね……」
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【親愛度が微増する選択肢です】
1.灯織
2.凛世
3.甘奈・甜花
4.あさひ
5.愛依
6.透・円香
↓1
4 あさひ選択
【図書室】
ルカ「……あ、いたぞ! やっと見つけた……」
にちか「はぁ……なんで朝からこんな埃っぽいとこにいるんですかね、この子……」
私とルカさんは二人で芹沢さんに声をかける係を引き受けた。
寄宿舎に呼びに行くだけの簡単な任務だと思いきや、インターホンを鳴らしても応答はなし。
そこからどこか校内をぶらついてるんだろうと軽い気持ちで探し始めて……数十分。
まさかと思って地下に来てみてやっとその姿を見つけた。
あさひ「……? あれ、どうしたんっすか? 二人とも」
芹沢さんは私たちに気づくとキョトンとした様子で首を傾げた。
にちか「どうしたもこうしたもないよ……今、みんなで朝ごはん食べようってことになってて、それで食堂に集まってない人に声かけてたとこなんだよ」
あさひ「ふーん、大変っすね」
にちか「ふーん……ってなんでそんな他人事みたいな言い方出来るんですかね……」
ルカ「おい、オマエも一緒に食うんだよ。早く着いてこい」
あさひ「えー……? わたし、別にいっすよ。適当に自分で食べるんで」
ルカ「わがまま言うな、こんな状況なんだから集団行動には応じてくれ」
あさひ「……」
ルカさんがすごんで見せると、少し気圧されたのか芹沢さんは渋々こちら側へと歩いてきてくれた。
一応は朝食会に参加してくれるらしい。
本人としてはあからさまに納得してないらしく、ずっと唇を尖らせて不服を示していた。
にちか「にしても芹沢さん、なんで図書室なんかにいたの?」
あさひ「んー……本が読みたかったからっすね!」
ルカ「本だぁ? そんな読書家なのか、テメェ」
あさひ「あはは、わたしこれでも【超研究生級の博士ちゃん】っすから」
……まあ、図書室にいたってんならそれぐらいしか理由はないよね。
そう納得した。納得したはずなんだけど……
私たちが彼女の姿を見つけた時、その手には何も本なんか持っていなかったし、彼女はじっと奥の本棚を見つめていただけだったような気がするんだよね。
……思い違い、なのかな。
【芹沢あさひの親愛度が上昇しました】
【現在の親愛度レベル…0.5】
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【食堂】
なんとか説得の甲斐あって、全員が食堂に一堂に会することはできた。
……とはいえ、単独行動していた人のほとんどは嫌々。席にも積極的に着こうとはしていない。
例外的なのは、ただ寝坊気味だった愛依さんだけだ。
夏葉「あなたはそこで……あなたはこっちに……それぞれ間に入るように座ってもらえるかしら」
灯織「……えっと」
甘奈「甜花ちゃん、こっち座ろう……いっしょに」
甜花「う、うん……」
円香「浅倉」
透「んー」
空気は重たい。
信頼という言葉がどこまでも空虚な空間で、心を開かせる言葉など見つかるはずもない。
全員が口をまごつかせる歯痒い時間ばかりが過ぎた。
恋鐘「みんな〜! ご飯ばできたけん配膳手伝って〜!」
月岡さんの言葉にみんな救われた様子で、すぐに厨房の方に集まった。
自然と一列に連なる形になり、月岡さんが一人一人にご飯をよそった。
あさひ「何も変なものは入ってないっすよね」
恋鐘「あさひは好き嫌いがあると?」
あさひ「いや、毒とか入ってたら全員恋鐘ちゃんに殺されちゃうっすよね?」
にちか「……っ!?」
恋鐘「そ、そんなことせんよ〜〜〜!! あさひ、なんてことを言い出すばい!」
あさひ「……そっすか! それなら安心っすね!」
(こ、この子……とんでもないことを言い出すな)
途中空気が凍る場面はあったけど、食事をいざ始めると少し緊張が解けた様子。
ぽつりぽつりと自己紹介や交流をし始める光景が目に入り、ホッと胸を撫で下ろす。
めぐる「ねえねえ、同い年だし……下の名前で呼んでもいい? わたしのこともめぐるって呼んでくれていいから!」
真乃「う、うん……わかった……えっと、めぐるちゃん……!」
灯織「……まだ、会って2日目だから」
めぐる「ご、ごめんね! 無理にそう呼ぶ必要はないから!」
灯織「……私のことは、好きに呼んでくれていいよ」
◆
樹里「……アンタ、昨日はちゃんと眠れたか?」
凛世「い、いえ……」
樹里「その……不安だし、寂しいだろうし……色々と心細いだろうけどさ、アタシでよければ相談とか乗るよ。寄宿舎の部屋もたまたま隣り合ってるしな」
凛世「……はい」
◆
愛依「あさひちゃん、あさひちゃん昨日はどうだった? ちゃんと眠れた?」
あさひ「ん? 寝たっすけど……それがどうかしたっすか?」
愛依「いや、うちさ~なんかムナサワギっつーのかな……中々寝付けんくてさ~、今日もちょいじり貧なんだよね」
あさひ「へー」
愛依「だからさ、あさひちゃんもキツかったら辛いよなーと思って。そうじゃないんなら大丈夫!」
あさひ「?」
夏葉「みんな、少しいいかしら」
緊張が解けつつある中で、有栖川さんが立ち上がり、周りの注目を集める。
夏葉「これからこの学園で生活を続けるにあたって、この朝食会は最低限義務づけるのはどうかしら」
夏葉「毎朝顔を突き合わせることで犯行の抑止にもなるし……交流は精神的にもプラスに働くはずよ」
めぐる「さんせーい! 毎朝他の誰かの顔を見れたら、それだけで安心するもんね!」
円香「……殺人事件が起きていないかの確認もできますし、異論はありません」
甜花「あ、あう……甜花、ちゃんと起きられるかが心配……」
愛依「アハハ……うちもちょい自信ないかも……」
樹里「決まった時間に食堂に来なかった人は、集まっている人で起こしに行く。今日と同じスタイルでいいだろ」
今の無秩序で満ちた状況で、彼女の提示した秩序は何よりも頼もしく見える。
全員で非武装をしようという有栖川さんの提案は特に抵抗なく受け入れられた。
あさひ「あ、そういえばなんっすけど」
愛依「ん? どったん、あさひちゃん」
あさひ「昨日、夜時間に学校を探索してたんっすけど裏庭で変なのを見たんっすよ」
霧子「あさひちゃん……夜に一人は、危ないよ……」
ルカ「それはさておいて……変なのってなんだ?」
あさひ「なんかマンホールのフタって言うのかな、下に通じる穴みたいなのがあったっす」
(……!)
真乃「そ、それって……もしかして脱出できるかもしれないってことですか……?」
甘奈「そ、そんな美味しい話……あるのかな」
透「下水道からの脱出ってスパイ物じゃ定石じゃんね」
灯織「ライフラインとして水道は必須ですし……外部と繋がっている可能性は大いにありますね」
談笑を俄かに割った芹沢さんの話は注目を集めた。
自分の身も危機にさらされている今、脱出の糸口というワードは何よりも関心を惹く。
あさひ「フタは重たくてわたしじゃとても開けられなかったんで、中がどうなってるかは知らないっすけど……ここにいる人たちで協力すれば開くんじゃないっすかね?」
樹里「ああ、スポーツ経験者も体を鍛えてる奴もいる……みんなで行けばマンホールのフタくらい訳ないだろ」
凛世「しかし、そのように脱出を試みても良い物なのでしょうか……コロシアイを強いているモノクマさまたちに見咎められは致しませんでしょうか……」
円香「その点は心配いらないんじゃない?」
霧子「校則でも学校の探索自体は禁止されてないし……きっと、問題ないよ……!」
夏葉「ええ、試してみる価値はありそうね。腕が鳴るわ!」
ルカ「よし、飯を食ったら各自裏庭に集合だ。そのマンホールのフタってのを開けてみるぞ」
にちか「は、はい……!」
マンホールという降って湧いた希望に私たちは露骨に食事を口に運ぶ速度が増した。
一人、また一人と食事を片付けて、足早に食堂を後にする。
(……あれ?)
あさひ「……」
ただ、そんな中でも……話題を持ち出した当の張本人だけ、食べる速度が変わらずにいたのがなぜか目についた。
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【裏庭】
めぐる「あさひ! 見つけたマンホールっていうのはどこかな?」
あさひ「えっと……生い茂ってる草で隠れてるんっすけど……こっちっすね」
食事を終えた私たちは高揚のままに裏庭に介する。
一人背丈の低めな少女を取り囲み、彼女の動向を見守った。
あさひ「あった……これっす!」
夏葉「なるほど……確かにマンホールね」
芹沢さんがしゃがみ込んだところには、植物で身を埋めるようにしているので分かりづらくはなっているが、確かに丸い鉄板があった。
年季も入っていて、結構な厚みと重量がありそうだ。
透「持ち上げんの? これ」
ルカ「フタの縁にいくつか窪みがあるな……何人かちょっと手を貸してくれ」
夏葉「ええ、勿論よ」
樹里「おっし……行くか」
めぐる「はいはい! わたしもやるよ!」
四人で窪みに指をかけ、いっせーのーでで力を込めた。
ガタ……
コンクリートが擦れる音が聞こえたかと思うと、ゆっくりとマンホールのフタは持ち上がり、真っ暗な洞穴がその姿を現した。
長く閉ざされていた黒からは、カビたような、ジメジメと苔むしたような臭いがする。
あまりいい臭いではない。
樹里「……開いたな」
あさひ「んー……上からじゃ、下がどうなってるのかはよく見えないっすね」
円香「壁伝いに上り下りができるように取っ手はついてるみたいですけど、どうします?」
樋口さんの呼びかけに、少しの沈黙が訪れた。
脱出の可能性という甘言に呼び寄せられこそしたものの、
いざ目にしてみるとその穴は底が見えぬほどに深く、闇は全てを飲み込んでしまいそうなほどに深淵の様相を呈している。
これに飛び込んでいけるほどの勇気は、そう簡単に持てるものでは無い。
ルカ「……私は降りてみる」
そんな中、ルカさんは一歩進み出た。
にちか「ルカさん……」
ルカ「このままコロシアイに応じるつもりなんか毛頭ない。それ以外の手段で外に出るための方法を模索しなきゃならないんだ。見えている可能性は一通り全部確かめなきゃだろ」
額に寄せた皺からしても緊張は明らか。
ここまで来て引き下がれないという面子から来る蛮勇なのかもしれない。
夏葉「ルカ、私もついていくわ。あなただけを危険な目に合わせるわけにはいかないもの」
恋鐘「うちも行くばい! 赤信号もみんなで渡れば怖くなか〜!」
めぐる「わたしもついていく! いっしょに行く人が多い方が危険を避けられる可能性も高くなるもんね!」
にちか「私も、行きます! ルカさん、お供させてください!」
それでも、彼女から目を離せなくなってしまうのはカリスマ性の為せる技なのだろうか。
彼女の気高さと儚さに、寄り添いという気持ちが私にも湧いてくる。
人を惹きつける魅力とはそういうことを指すんだろうと思った。
透「……マジか、どうする?」
円香「……行かない理由も、ないんじゃない」
透「んー……そっか」
円香「今のところは……目立つ行動はすべきじゃない。他の人たちに合わせておいた方がいいと思う」
透「うっす」
◆
灯織「……櫻木さんはどうするつもり?」
真乃「えっと……わ、私も……行ってみようかな……っ」
真乃「他の人が頑張っているのに黙って見ているのは……辛いよ」
灯織「……わかった、私もついていく」
真乃「灯織ちゃん……」
灯織「正直私は八宮さんみたいに即断もできないし、櫻木さんみたいに強くあろうとする気持ちも持てない」
灯織「この期に及んで怯えてる……だから、これはその自分を打ち破るための挑戦」
灯織「私は、私の意思で降りることにするよ」
真乃「灯織ちゃん……」
◆
愛依「あさひちゃん、うちが先に降りるからその次に降りておいで!」
あさひ「……? いいっすけど、なんでっすか?」
愛依「そしたらあさひちゃんが手滑らせてもうちらでどうにかなるかもじゃん?」
あさひ「……なんで、そんなにわたしのことを気にかけるんっすか? わたしとは昨日会ったばかりっすよね?」
愛依「え〜? なんでだろ……うち、弟とか妹がいるから……年も近いし?」
あさひ「よくわかんないっすけど、まあわたしは順番とか気にしないっすよ」
◆
甘奈「甜花ちゃん、無理はしなくていいからね! 危ないかもしれないし……甘奈だけで下は見てくるよ?」
甜花「ううん……なーちゃんだけに、危険な真似はさせられない……甜花は、お姉ちゃん……だから……!」
甘奈「甜花ちゃん……うん、いっしょに頑張ろう! 頑張って脱出してみせようね☆」
甜花「う、うん……ファイト……!」
◆
樹里「アンタ、着物だと降りづらいよな……大丈夫か?」
凛世「はい……足を踏み外さぬよう……注意いたします……」
樹里「や、無理してついてこなくてもいいって意味なんだけど……」
凛世「上で一人で待つ方が、凛世は怖いのです……」
樹里「……そか」
◆
カツンカツンという音を鳴らしながらマンホールを下っていった。ルカさんに続く形で結局全員、降りてきているみたいだ。
足を踏み外さないように、自分より前の人の手を踏んでしまわないように。
慎重に慎重に下ったので時間はかかったが、そう深いところではなかったように思う。
最終的に行き着いたのは、思っていたよりも広い空間だった。
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【裏庭 マンホール下 地下空間】
にちか「つ、着いた……」
真乃「マンホールの下に……こんな場所が……」
甜花「ひぃ……ひぃ……甜花、降りるだけで結構、疲れちゃった……」
霧子「慣れない運動をすると筋肉が張っちゃうから……揉んでマッサージ……してあげるね……」
昔社会科の授業で見たことがある。東京の地下に設けられた水害に備えて設けられたコンクリートの空洞の空間。
それによく似た部屋だ。体育館をゆうに凌ぐ広さと高さを備えた空間には、大樹のようなコンクリートの柱が連立している。
そしてその部屋にはチョロチョロと小川のように下水道が流れており、部屋に横付けになった穴へと向かっている。
ルカ「ビンゴ……あの穴から出ていけそうだな」
円香「……あそこ通るんですか? なんというか、悪臭がしそうなんですが」
夏葉「しかし外に通じている可能性が一番高いのは事実よ。避けては通れないわ」
円香「……はぁ」
あさひ「あはは、なんか探検みたいでワクワクしてきたっす!」
灯織「……大丈夫なのかな、何か仕掛けられたりとかしてないといいけど」
めぐる「大丈夫だよ! もし何かあったとしても、みんなで助け合えば乗り越えられるはず!」
恋鐘「うんうん、うちらの友情パワーで完全攻略しちゃろ〜!」
霧子「お、おー……!」
日常から真っ暗闇に突き落とされていた私たちの前に突然現れた、小さな希望の兆し。
私たちはそれに怯えながらも、どこか湧き立つ気持ちを抱きながら突き進むことになる。
脱出して、これまでを取り戻す。
今までと何一つ変わらない生活を送る。
淡い希望にのぼせながら、一歩一歩と突き進んだ。
その先には、より真っ黒な壁しか待っていないと知らずに。
____結果として、あれは罠だったんだと思う。
誰かがマンホールを発見して、私たちがそれに飛びつくことも織り込み済みの罠。
下水道を突き進む道中、落とし穴やせり出す壁、警備のドローンによるエアガンの掃射……
身体に外傷を負うようなことはしてこなかったものの、思うように進めないという感覚は少しずつ、また少しずつと私たちの精神を蝕んでいった。
失敗を繰り返すたびに、理性は正常を取り戻していく。
これだけ苦労して進んだところで、本当に脱出ができるのかの確証もないという気づかないようにしていた当たり前の事実にも気づき出す。
そうなれば、動いていたはずの手と足が止まるのも当然のことだった。
ルカ「……チクショウッ! またダメだった……! あとちょっと……あとちょっとなのに……」
ルカ「おい! 次行くぞ、次! 今度こそ……超えられるはずだ!」
凛世「……」
甜花「……」
ルカ「お、おい……どうしたんだよ、急に」
真乃「……ご、ごめんなさい。体が……もう限界で……」
霧子「少し、休んだ方がいいみたい……」
ルカ「な、何言ってんだ……あとちょっとのところまで来てるんだよ、これを逃したら機はもうないかもしれない……!」
灯織「斑鳩さん、お一人で挑戦してみては」
ルカ「……テメェ」
あさひ「他のみんなはもう限界っすよ。ルカさんはこれ以上みんなを振り回して、みんなの体を壊したいっすか?」
ルカ「はぁ? ち、違ェ……!」
夏葉「ルカ……一度冷静になりましょう。あなた、少し入れ込みすぎよ。今は個人でやっているわけじゃなくて、16人のチームで挑戦している」
樹里「……他のみんなの気持ちが折れちまってる、今のままじゃクリアできるもんもクリアできない」
にちか「ルカさん……」
ルカ「……で、でも」
???「やあやあ! みんなして楽しんでくれてるようで何より!」
にちか「こ、この声は……!?」
嫌な予感がした。下水道に仕掛けられている罠は、時々パターンを変えているような場面があった。
それはつまり、私たちの行動は全て筒抜け。
脱出を目指してここに挑んでいることさえも、その全てが黒幕の掌の上である。
それを証明せんとばかりに、私たちの背後に彼らは仁王立ちしていた。
ルカ「モ、モノクマ……!」
モノクマ「いやぁ、しかし2日目でこの絶望のデスロードの存在に気づくとは……優秀優秀!」
モノクマ「オマエラを信じた甲斐があったってもんだよ! これでみんなも喜んでくれるよね!」
あさひ「……?」
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノタロウ「キサマラお疲れさまー! 大丈夫? 腕とか脚とか腹とか胸とか背中とかパンパンになってない?」
モノスケ「やっぱ難易度が高すぎたんとちゃうか? 全然クリアできそうな気配がないで」
モノファニー「そうね、ずっと砂漠の緑化運動を眺めている気分だったわ」
モノスケ「植えたそばからラクダがむしゃ食いってことやな!」
モノキッド「努力が全部報われるばかりが人生じゃないッ! ミーはそれを知っているから努力をしないッ!」
円香「全てあなた方の想定のうち、だったということですか」
モノタロウ「ごめんね。そうなんだ。この脱出ルートはキサマラに僅かな希望を与えて、それをへし折るっていうお父ちゃんの斬新なアイデアで作られたモノなんだ」
モノクマ「うぷぷぷ……楽しんでもらえたかな? 」
愛依「ひどいじゃん!? どんだけ頑張っても出れないなんて……!?」
モノクマ「いや、それは誤解だよ。確かにゴールは明確に存在しているし、そこから脱出はできる。まあ、そこに辿り着くなんて、天文学的な確率を潜り抜けなきゃダメだろうけどね!」
油絵の具が壁に乱雑にぶっかけられた時のようだ。
でろりと大粒の雫が垂れ下がっていき、最終的に壁には一本の線が引かれてしまう。
それがあちこちから、どんどんと。
リーダーシップを発揮して、ここまで連れてきた人間に向けたはずの信頼。
築きかけていた絆。そういうものを改めて丁寧に分断するように、上塗りされた絶望が、線を引いていく。
モノクマ「それでも挑戦するってんなら止めはしないけどね! 他のやりたくない人も強引に引き連れてどうぞ!」
モノキッド「いのちぞんざいに! ガンガンいこうぜ!」
陰湿なやり口だ。
私たちの前に餌をぶらさげては、それをすんでのところで奪い去る。
残された私たちの虚無感と虚脱感は他の全ての一切を飲み込んでしまう。
モノクマ「まっ! それじゃせいぜい脱力感を噛み締めて! アデュオス!」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
真っ白になった私たちを見て満足したのか、モノクマはそのまま姿を消した。
苛立っていたルカさんだけが、汚い言葉をその去り際にぶつけていたが、うまく聞き取れなかった。
樹里「……そんなイライラしても仕方ねえよ、とりあえずのところは戻ろうぜ」
ルカ「……ああ、クソッ」
むしゃくしゃで肩を振るわせるルカさんを他の人たちは遠巻きに、なんだか冷めた視線を向けていた。
ついさっきまで一つになってゴールを目指していた集団とは思えないほどに、その温度には開きがある。
あさひ「ルカさん、気持ちはわかるっすけど個人の判断で何回も他の人を危険に晒すのはやめてほしいっす」
にちか「ちょ、そんな言い方……!」
そして、その重篤な温度差はルカさんの肌に亀裂を走らせる。
あさひ「一回挑んでダメだって分かっても……そこから無策に何度も突っ込んで……体力ない人だっているのに」
あさひ「わたしだってもうクタクタっすよ〜、今日は帰ってもう寝たいっす」
芹沢さんの無邪気さは、他の人たちが理性で押さえていた不満の堰を切ってしまう。
遠慮で口にするのを控えていた言葉が、徐々にところどころで漏れていく。
灯織「もっと……他の方法を探す時間に当てたほうがよかったのかな」
樹里「……おい、大丈夫か?」
凛世「鼻緒で少し……指の間を痛めてしまったようです……」
甜花「もう、甜花……体ボロボロ……帰るのも、しんどい……」
甘奈「甜花ちゃん……服も汚れちゃってるね……上に出たら洗濯してあげるね」
誰もルカさんのことを悪く言っているわけではない。みんな横並びで、責任も等分されて然りの筈だ。
それなのに、ただ殿を務めたというだけで、他のみんなのことを思って動いてしまったがために、ルカさんは針の筵の感覚を味わってしまった。
ルカ「……ッ!」
ダッ
にちか「あ、ル、ルカさん……!」
ルカさんは逃げるように一人でまた横穴に駆けていってしまった。
私たちの視線から逃れるように、自分の罪と向き合おうとするように、こちらには一瞥もくれなかった。
夏葉「……ルカも、次でダメだったら諦めて上がってくるでしょう。私たちはひと足先に撤退しましょう」
真乃「は、はい……」
恋鐘「みんなが疲れが溜まっとるばい、梯子登るのも大変やけん休み休み戻らんね」
ルカさんを残し、他の人たちはどんどんマンホールを登っていく。
その足取りには露骨に落胆の色が見え、会話が交わされる様子もない。あるのはせいぜいため息程度。
愛依「あり? にちかちゃんはまだ残るカンジ?」
にちか「あ……はい、ルカさんが戻ってからにしようかなって」
愛依「……そっか、だったらうちも____」
あさひ「愛依ちゃん、早く来るっすよー!」
愛依「あー……」
にちか「大丈夫です、先行っちゃってください! 私とルカさんの二人で戻るので!」
愛依「……うん、ごめんね。それじゃあルカちゃんにこれだけ伝えといて」
愛依「誰もルカちゃんが悪いとか思ってないから、気にしないで」
にちか「はい、もちろんです」
それから私は一人でルカさんが戻ってくるのを待ち続けた。
最後の愛依さんが梯子を登る音もしなくなってから、十数分と経った頃だろうか。
ようやっと横穴の方から靴でコンクリートを叩く音が聞こえてきた。
リズムが不揃いな音はフラフラとした足取りを想起させる。
そして実際姿を現したルカさんは、先ほど以上に疲弊し切った様子で、格好もボロボロ。
肌が露出している部分にはどこかで擦れたのか血が滲んでいる箇所もあった。
にちか「……ルカさん、無茶しすぎですよ。あれだけの人数いてクリアできなかったのに、一人で挑んだりして……」
ルカ「……ハァ……ハァ」
言葉も返せないほどに息が上がっているのか、息で返事をした。
手の甲で口元を拭ってから、キョロキョロと見回して、安堵した表情で座り込む。
ルカ「他の連中は……帰ったか」
にちか「です……みんな、諦めて」
ルカ「ん。それが賢明だよ」
達観したような表情には自嘲も覗かせた。
多分、最後の挑戦は半ばヤケクソだったんだろう。
失敗に悔しがる様子もない。
にちか「……ルカさん、どうしてそんなにもみんなを引っ張ろうとしてくれるんですか?」
ルカ「……あ? なんだよ、急に」
にちか「出会った時からそうじゃないですか、ルカさんは私たちの矢面に立ってモノクマと話したり、危険がありそうなところには真っ先に飛び込んだり」
にちか「私たちって昨日会ったばかりの初対面なんですよ? そんなルカさんが体張るような必要全然……」
ルカ「勘違いすんな」
にちか「え……」
ルカ「私は、私のためにやってるだけ。私はここにいる誰よりも元いた場所に帰りたいから、その一心で動いてるだけなんだよ」
にちか「それって……前に言ってた【相方さん】のことです?」
ルカ「……ああ、アイドルになること以外何も眼中にないって感じのやつでよ。三度の飯を食ってる暇があるならレッスンしたいって言い出すレベル」
にちか「す、すごい人ですね……」
ルカ「……【あいつ】の隣に立てるのは私しかいない。私じゃなきゃ、いけないんだ」
ルカ「今こうしてる間にもあいつに取り残されちまうかもしれない……そう思うと、一分一秒が惜しくてたまらなくなる」
ルカ「帰るために足掻けるなら、私は無限に足掻くよ」
危ういと思った。
相方さんへの執着を語るルカさんの瞳は目を背けたくなるほどにギラついていて、その想いには代償を伴うと思ったから。
他の何かを捨て去ってでも縋りたい。退廃的という言葉さえ当てはまってしまうような、そんな激しく燃え盛るような情動を感じてしまったから。
にちか「……っ!」
私は一瞬、言葉を失ってしまった。
ルカさんに気圧されてしまったから、それもあるけれどそれ以上に、この人についていけるほどに私は【強くない】と自覚してしまったから。
私という一人の人間の物語はこういうものだと定義して、諦めてしまっていた。
そんな型に押し込んだ日常に飼い慣らされている私が向き合うには、斑鳩ルカという人間はあまりにも大きすぎる。
ルカ「……つっても、当然コロシアイに乗じるつもりはないよ」
ルカ「ちょっと私も意固地になってたみたいだ……付き合わせて悪かったな、にちか」
そんな私のことに気づいてか、それとも熱くなりすぎた自分のことに気づいてか、ルカさんは少し小っ恥ずかしそうに弁解するのだった。
にちか「い、いえ……大丈夫です」
ルカ「……腹減ったな、上で飯でも食うか」
にちか「……はい」
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【食堂】
地上に戻ってからルカさんと二人で食堂に向かった。
随分と長い間地下にいたらしく、すでに日は半ば沈みかけていた。
といっても、ここでの生活に朝も夜もあったものでは無いような気もするけれど。
霧子「あ……斑鳩さんに、にちかちゃん……」
恋鐘「二人とも、大丈夫ばい?! あんまり遅いけん心配しとったとよ〜!」
ルカ「え? あ、おう……悪かった、大丈夫だよ……」
恋鐘「二人の分もご飯用意するけん、ちょっと待っとって! それまで霧子に診てもらうとよか!」
にちか「え? 診てもらうって……」
霧子「病院で少しお手伝いをさせてもらってるから……今日の脱出の挑戦で怪我してないかだけ、ちょっと診させてもらうね……」
他のみんなもそうしてもらったのだろうか、食堂の机の上には救急箱が置かれ、慣れた手つきで幽谷さんは私たちの体を診ていった。
特に怪我に覚えはなかったので、大した処置もされなかったけど、ルカさんは相当に痛めつけていたらしい。
幽谷さんに包帯をぐるぐる巻きにされていた。
骨折とかではないって笑ってたけど、その笑顔もなんだか痛々しかったな。
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【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノファニー『なんだか今日は疲れちゃったわ……手足がダル重……』
モノスケ『骨折り損のくたびれもうけってやつやな! ええこと一個もなしや』
モノスケ『あっ、でも骨を折ったら労災は下りるんとちゃうか? 金が湧いてくるんとちゃうか?』
モノスケ『おっしゃ、そうと決まったらガンガン骨を折るんや! ボッキボッキ、ガッポガッポでウッハウハや!』
プツン
結局のところ、今日はほとんど進展も何もなし。
体に疲労を溜め込んだばかりで、慣れない動きをしたことで筋肉痛も始まりつつある。
シャワーを浴びたら、そのままベッドに引き摺り込まれてしまった。
不思議なことに、体はクタクタでも目は冴えていた。
寝付くまでに何度も体勢を変えた。
右に左に体を向けたし、暗闇に目が慣れてきて家具の配置が透けて見えてきてしまった。
それは多分きっと、ルカさんの中にみた焔が原因なんだと思う。
あのルカさんにそれほどまでの強い執着を抱かせる相方さん……一体どんな人なんだろう。
想像したところでわかるはずもない。
私には程遠い全くの別世界のお話なんだから。
そう自分に何度も諦めるように促す言葉を投げかけ続けた。
……一体私が、何を諦めるというのだろう。
自分自身に投げかけた言葉の所在が分からなくて、息が詰まった。
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【School Life Day3】
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【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノタロウ『うぅ……モノスケ……痛々しくて見ていられないよ……』
モノキッド『モノスケのやつ……無茶しやがって……』
モノタロウ『ヤム……モノスケェーーーー!!』
モノファニー『だから言ったのよ……あんな化石みたいになっちゃって惨めでグロいわ……』
モノダム『……』
プツン
三日目の朝。昨日の下水道での挑戦が尾を引いているらしく、手足が普段よりも数倍重たく感じた。
まだまだ若々しい肉体だとは思っているし、多分これは睡眠の質の問題。
緊張の解けない状況に置かれて、慣れない寝台の上。
熟睡なんてできるはずもなく、疲労を満足に回復させるような睡眠はとれちゃいなかった。
「……とりあえず、食堂行かなきゃだよね」
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【食堂】
重たい鉄の棒みたいになっている足を引きずって食堂へ。
つい昨日取り決めたばかりの約束ということもあり、さすがに出席率は高く、風野さんや芹沢さんの姿もあった。
にちか「……肝心の有栖川さんがいないですけど」
樹里「あー……なんか、本当は朝に弱いとかなんとか言ってたな……」
円香「……あの方が毎朝集まろうと言い出したのでは?」
樹里「だよな……本人が寝坊してちゃ意味ねーっつーの……」
凛世「凛世が、起こして参ります……」
樹里「あ、アタシも行くよ!」
西城さんは何かと杜野さんを気にかけているみたい。
杜野さんが一人で出て行こうとするのを呼び止めて、続いて出て行った。
ルカ「にちか、こっち来いよ!」
にちか「あっ、はい!」
二人を横目に見送りながら、私はルカさんの隣の席についた。
ルカさんは昨日幽谷さんに巻いてもらった包帯を右手にしたまま。
食事に支障はないのかと聞くと、ただの打ち身だと笑った。
にちか「ルカさん、今日も昨日の下水道に行くんです?」
ルカ「いや……流石にな。他の連中も行くつもりはないんだろうし……わざわざ一人で行ったりはしねーよ」
にちか「よかった……ちょっと安心しましたよ」
ルカ「ハッ……そんなに向こう水な奴だって思われてたのか? 私は」
にちか「まあ……それなりに」
ルカ「とりあえずのところは今日は探索だな。まだ学校の全部も見てはないし、何かのヒントになるものがあるかもしれない」
にちか「ですね! まだ未開拓のところとかあるかもです!」
ルカ「オマエも私に無理に合わせなくて、好きなように行動していいからな。慕ってくれてんのは嬉しいけどよ」
にちか「あはは、ご忠告痛み入りますー」
暫くして、西城さんたちが寝ぼけ眼の有栖川さんを連れてきたことで朝食会がようやく始まった。
全員その顔には疲労の色が見える。やっぱり昨日の下水道でのことで、みんな無理をしていた部分はあるんだろう。
それを悟ってか、ルカさんはなんだか少し静かだ。
恋鐘「今日はどげんせんね? また昨日みたいに下水道ば挑戦すると?」
甜花「あ、あう……甜花、ちょっとパス……筋肉痛で、腕が動かない……」
めぐる「うーん、別の方法を考えてみるのもいいかも! ほら、他にも脱出できる場所はあるかもしれないし!」
円香「……というか、外の助けを待つんじゃダメなんですか? いい加減警察とかも動き出しそうな気がしますけど」
真乃「もうこれで丸三日……になるんだよね」
甘奈「そうだよ! パパとかママとか……学校だって、きっと心配してるって!」
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノスケ「ここでキサマラに残念なお知らせや」
モノキッド「警察自衛隊その他もろもろの救世主はここにはやって来ないんだぜッ!」
モノファニー「残念だけどそれが運命なのよ……受け入れるしかないのよ……」
樹里「出やがったなモノクマーズ……!」
甜花「あ、あれ……? 黄色いモノクマーズって骨折してたんじゃ……」
モノスケ「おう、心配してくれておおきに!」
モノスケ「でもよう考えたらワイらはぬいぐるみだもんで骨なんかなかったわ! そもそも折る骨がなかったっちゅーこったな!」
モノファニー「つまり純粋なくたびれもうけだったってことね!」
円香「……そんなのどうでもいいから」
透「来ないの? けーさつ」
モノタロウ「うん! 才囚学園に警察が来ることは100%あり得ないよ! オイラウソつかないもん!」
灯織「……随分と強く言い切るんですね」
モノスケ「そらそうや、ゼロに何をかけようがゼロのまま。どう足掻いても外からの助けなんて来る可能性はないんやで」
夏葉「……私たちが今拉致監禁されている才囚学園。その場所には確かに誰も心当たりはないわ」
夏葉「でも、だからといって可能性がゼロとは断言できないでしょう……? それにこれだけ大きな施設設備……そう簡単に隠匿できるものとも思えないのだけれど」
モノタロウ「ううん! 絶対に来ないよ! ごめんね!」
ルカ「頑なだな……」
モノスケ「余計な希望は持つなっちゅーことや。そないなことして傷つくのはキサマラの方なんや、ワイはむしろ菩薩のような心で諭してやっとるんやで」
あさひ「でも、確かにガラス越しにも空を飛行機が飛んだりしてるのは見たことないっす」
霧子「私たちの住んでいる国の中じゃない……とかなのかな……」
透「そもそもの前提が違うとか。うちらの知ってる世界じゃなくて、別の世界」
透「イセカイテンセーって奴」
円香「いや、ないでしょ」
モノタロウ「まあとにかくそういうことだから! 余計な希望は持たないほうがいいよ! オイラ嘘だけはつかないからね!」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
にちか「まーた言いたいことだけ吐いていきましたね……」
外からの助けは来ない。犯人側としては確かにそれを主張するだろうけど、随分な念の押しようだ。
一体何の確証があってあそこまで強く言えるというのだろう。
甘奈「甘奈たちがいなくなってること、みんな気づいてるよね……?」
樹里「あいつらの言うことなんか信用する必要ねーよ、この人数が一気に消えてるんだぞ。流石に全国的に話題になってんだろ」
めぐる「うん、大丈夫だよ! 大丈夫! 今は外の世界の人たちのことを信じよう!」
甜花「なーちゃん、大丈夫……! 甜花はそばにいるから……!」
甘奈「うん……ありがとう、ごめんね」
ルカ「とにかく、今はやれることをやるだけだ。外のことは分からないし、今はこの学園の謎を少しでも解き明かさないと」
灯織「そうですね……まだ材料が足りません。この学校のことも、私たちのことも」
夏葉「改めて探索ね、昨日の疲れもあるでしょうからそれぞれ無理をしないように」
モノクマーズたちの意味深な言葉が気にかかりつつも、前向きな締めくくりで朝食会は幕を下ろした。
私たちに立ち止まっている時間はない。
前に進むしかない……それ以外のことを考えている余裕も、ないんだ。
------------------------------------------------
【にちかの部屋】
とりあえずは自分の部屋に戻ってきたけど……どうしようかな。
学校の探索をしなきゃだけど、一人だと見落としとかあるかもしれないし……
他の誰かを手伝うほうが良さそうかな。
まだ他の人たちとも知り合って間もないし、お互いのことを知るいい機会かも。
______よし、そうしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
またまたお久しぶりです。
今回も自由行動パートのお時間がやってまいりました。
今まで同様、ご学友の皆様と交流を深めることで、学級裁判を有利に進めるためのスキルや、またそのスキルを購入するための希望のカケラを入手することができます。
親愛度の最高値は「12」となっており、最高に到達した際にスキルが獲得できます。
なお、最高値に到達してからも交流を続けることでその先に進めることも可能で……?
ぜひお試しください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…57枚】
【現在の希望のカケラ…15個】
↓1
2 選択
【購買】
一応この学校にも購買らしき部屋はあるみたいなんだけど、まさかリアルマネーを使う訳じゃないよね?
お財布も携帯も手元にない。現金はおろか電子マネーすら使えない無一文の状態の私たちに、何も使い物にならない施設を用意するとも思えないし……
チャリン
やっぱり、学校の探索中に見つけた【これ】を使うんだろうな。
購買の中にはやたらと目を引く【ガチャガチャマシーン】と、【自動販売機】の二つがあるみたい。
えーっと、なになに……?
□■□■□■□■□■□■□■□■
☆購買についてはこれまで通り、【ガチャガチャマシーン】と【自動販売機】の二つの設備を使用することが可能です。
【ガチャガチャマシーン】はモノクマメダルの消費枚数を指定すると、その数ぶんコンマの判定を行い、コンマの値と同じ番号に割り振られたプレゼントが手に入る仕組みです。本家V3のプレゼント番号01~100が排出されます。(101以降のものは省略)
【自動販売機】では学級裁判で役立つアイテムとスキルを購入することができます。アイテムの購入にはモノクマメダル、スキルの購入には希望のカケラがそれぞれ必要となります。
なお、自動販売機については後のに登場する予定のシステムの都合上商品を前シリーズより縮小しています。予めご了承ください。
□■□■□■□■□■□■□■□■
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【自動販売機】
≪消耗品≫
【ヒーリングタルト】…5枚
〔誰の口にも合いやすいマイルドな口当たりの優しい甘さ。裁判中に使用すると発言力を2回復できる〕
【ヒーリングフルーツタルト】…10枚
〔フルーツをトッピングして満足感アップ。裁判中に使用すると発言力を4回復できる〕
【プロデュース手帳】…15枚
〔これは彼と彼女たちが過ごしてきた美しき日々の証。誰よりも理解者たる彼は、いつだってそばで戦ってくれる。裁判中に使用するとノンストップ議論・偽証ミスディレクション・反論ショーダウンを無条件クリアする〕
≪希望のカケラで獲得できるスキル≫
【ノー・ライフ】希望のカケラ…15個
〔発言力の最大値が+2される〕
【私をときめかせて】希望のカケラ…20個
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕
【チョコ for Y♡U】希望のカケラ…15個
〔体力回復を行った際効果が増幅する(自動回復は除く)。〕
【UNCHARTE:D】希望のカケラ…15個
〔発掘イマジネーションの文字がある程度埋まった状態で始まるようになる〕
【浪漫キャメラ0号】希望のカケラ…20個
〔発言力の最大値が+3される〕
------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…57枚】
【現在の希望のカケラ…15個】
1.ガチャガチャマシーンを回す(枚数指定安価)
2.自動販売機を使う(購入する物品・スキル指定)
3.やっぱやめる
(1、2は同時指定可)
↓1
1 選択
【モノクマメダルを17枚使ってガチャガチャマシーンを回します】
【直下より17回連続でコンマを参照してその数値に応じたアイテムを獲得します】
↓1~17
セルフでコンマ判定進めますね
加速
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
ksk
らすと
【モノクマメダルを17枚消費しました】
【タピオカジュース】
【しょうが湯】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】
【以上のアイテムを手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
「うわぁ~……なにこれ、こんなのどう使えっての?」
ガチャマシーンから排出されたのはどれもみるからにガラクタだらけ。
使い道もまるで分らないけど……こんなものを喜んでくれる人はいるのかな……?
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】
↓1
1 愛依 選択
【超研究生級の音楽通の才能研究教室】
昨日の今日で体には疲れがたまっている。
今日の所はルカさんも下水道に無謀な挑戦はしないようだし、私も好きな音楽でも聞いて気を休めようかな……
ガラララ…
愛依「あ、あり? にちかちゃん? ア、アハハ……お邪魔してます」
にちか「愛依さん……どうしてここに?」
愛依「いや……なんか才能研究教室ってのどんなもんなんかな~と思って! ご、ごめんね! にちかちゃんのショーダクも得ないで勝手に入って」
にちか「いやいや! 別に私の研究教室だからってそんな遠慮とか要らないんで! そ、それより……何か聞いていかれます? せっかくなんで、私のオススメとか……言っちゃってもいいですか?」
愛依「……! マジで?! 聞きたい、聞く聞く! てか、聞かせて!」
にちか「はい~! 任せてください!」
愛依さんは他の人とも隔たりをまるで感じさせない人で、話しやすいな。
愛依さんと二人でレコードを聴いて過ごした……
-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?
現在の所持品
【タピオカジュース】
【しょうが湯】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】
↓1
【しょうが湯を渡した……】
愛依「あ、これカラダ温まる奴じゃん! うわ、なんかなつかし~! うちもビョーキした時によくばあちゃんが作ってくれたんだよね」
にちか「あはは、どこの家庭でもおなじみなんですね」
愛依「にちかちゃんちも看病してもらってた系?」
にちか「はい……うちの場合は姉ですけど」
愛依「そっかー、にちかちゃんにもお姉ちゃんがいるんだもんね。にちかちゃんによく似て綺麗なお姉さんなんだろうな~」
にちか「そ、そんなことないですよ……地蔵みたいなもんです!」
愛依「も~! そんな照れなくてもいいって!」
(まあ、普通に喜んでくれたかな)
【NORMAL COMMNICATION】
-------------------------------------------------
愛依さんと言えば、すこし話したかったことがある。
昨日の下水道からの脱出の挑戦、最後の最後まで私とルカさんのことを気にかけてくれたのは愛依さんだ。
そのことが、戻ってからもなおずっと気になっていた。
にちか「あの、愛依さん昨日は優しい言葉をありがとうございました」
愛依「え? 昨日? ……あー、もしかして、下水道の時の!? いや、別になんも変わったことはうちしてないし、てかトーゼンっしょ!」
にちか「正直昨日の失敗は結構険悪なムードになっちゃって、ルカさんもかなり追い詰められて……私も不安に当てられちゃってたんです。そんな中、愛依さんが気にかけてくれたのが嬉しくて」
愛依「アハハ……うち、ただ自分の気持ちを口にしただけだからさ……」
愛依さんは私の言葉に照れくさそうにえくぼの辺りを掻いた。
きっと本当に彼女の言う通り、あれは何か目的があって口にした言葉というよりも、勝手に口から飛び出したものだったんだろう。
愛依「やっぱ心配じゃん? ルカちゃんもセキニン感じちゃってたみたいだからさ……あんなの、全然誰も悪くないじゃんね?」
出会ってまだ数日と経ってもいないけど、愛依さんのこれまでの接し方を見ていると、その人となりは何となく掴めてきた。
愛依さんは心の底から誰かを思い、そして誰かと距離を詰めることに一切の抵抗がない人だ。
にちか「です……でも、やっぱりルカさんは自分が主導したと思ってたみたいで、ちょっと凹んだみたいですよ」
愛依「あらら……ルカちゃんマジすげーわ、こんな状況でもうちらのこと考えてくれてんだもんね。すごく強い姿ばっかり見せようとしてくれて……心の負担もエグイだろしなんかモーシ訳なくなってくる……」
にちか「それは愛依さんもですよ。こんな不安な状況なのに、私たちの事……特に芹沢さんのことをすごく気にかけてくれてるじゃないですか。愛依さんこそ、負担になってたりしないですか?」
愛依「ううん、それは全然! うち、年下の子の面倒見るのとかケッコー好きな感じでさ。今もコロシアイ?抜きにしたら結構楽しい状況なんだよ?」
愛依「ほら、あさひちゃんもにちかちゃんも……みんな可愛いじゃん?」
にちか「か、かわいい……ありがとうございます」
愛依「なんつーんかな、フセー?感じる的な感じ!」
にちか「多分逆だと思います……」
-------------------------------------------------
【親愛度が上昇しました!】
【現在の愛依の親愛度レベル…1.5】
【にちかの部屋】
愛依さんと別れて、自分の部屋へと戻ってきた。
ちょっと昨日ことで愛依さんにはお礼を言おうと思っていただけなのに、随分と話し込んじゃったな。
愛依さんにはなんにでも話したくなるというか、何を話しても受け止めてくれる信頼があるというか……
とにかく、あの明るさに宛てられていると時間があっという間だ。
さて、まだ今日は時間があるみたいだし、他の人とお話してみようかな?
【自由行動開始】
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】
↓1
すみません、今回のシリーズの登場キャラに千雪はいないので再安価にさせてください
人物指定再安価
↓1
1 ルカ選択
【倉庫】
ちょっと小腹が空いたし、お菓子でも調達しようかと思ってふらっと立ち寄った倉庫。
そこで私は、思わぬ人と出くわすこととなる。
ルカ「……! に、にちか……!」
にちか「ルカさん……? どうしたんですか? 今日はもう昨日のこともあるし部屋で休まれてるものかと思ってたんですけど」
ルカ「い、いや? なんでもねーよ?」
にちか「……? いま、ルカさん何か後ろに隠しました?」
ルカ「いや? そんなわけねーだろ! ほら、さっさと帰んな!」
にちか「じとー……怪しい……」
ルカ「ちょっ! 寄んなって……!」
_____
____
___
にちか「別に隠す必要なかったですよ? ルカさんが私より年上なのは分かってることですし」
ルカ「いや……でも、流石に未成年連中が山ほどいる中堂々と酒飲むわけにもいかねーだろ……」
にちか「そんな遠慮なんて要らないですって。うちでもお姉ちゃん私の事とかお構いなしに晩酌してますよ?」
ルカ「……まあ、今はとりあえずいいよ。また夜にでも飲む」
ルカさんはなんだか気恥ずかしそうにして、手に持っていた缶チューハイを棚へと戻した。
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プレゼントを渡しますか?
現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】
↓1
【がんじがらめブーツを渡した……】
ルカ「うおっ、なんだこれ……編み込みまで全部チェーンで出来てるブーツか……?!」
にちか「はい、私的にルカさんのイメージに合いそうなグッズを持ってこさせてもらいました~! ほら、ルカさんのアバンキッシュな感じというか、ちょっとこう擦れたイメージにぴったりだと思うんですよね!」
ルカ「褒めてんのか貶してんのかいまいちわかんねーな……」
ルカ「うーん……でも、案外悪くねえかもな。流石に履くのはないにしても、こんだけ頑丈なつくりをしてるなら傘立てとかにすんのもありか」
ルカ「いや……いっそこれぐらい派手なのを取り入れればパフォーマンスも新しいものに……」
(なんだかルカさん、物思いにふけり始めたぞ……)
【PERFECT COMMUNICATION】
【いつもより多めに親愛度が上昇します!】
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にちか「ルカさんルカさん! せっかくなので、ルカさんの研究生時代の話を教えてもらえないですか?」
ルカ「あ? どうしたよ、やけに興味津々って面じゃねーの」
にちか「いや、よくよく考えたらアイドルの研究生さんだなんて別世界の住人さんとこうやって一緒に過ごせるってすごい貴重じゃないですか! なんでいろんなこと聞いてみたいんですよ!」
ルカ「んー、つってもな……何が聞きて―の? 苦労話か? それともドロドロの止み営業の話か?」
にちか「え……そ、そんなブラックな話題しかないんですか」
ルカ「……アハハ、冗談だよ。そんな身構えるほど後ろ暗い話、持っちゃいねーよ」
ルカ「つっても華々しい話題がないってのは事実かもな。実際今は基本集団レッスンで歌とダンスやって、経験値は他の先輩アイドルたちのバックダンサーやりながら積んでる最中」
にちか「あ、やっぱりそんな感じなんですね……いわゆる下積み、です?」
ルカ「おうよ。テレビで見るようなトップアイドルたちの足元には無数の下積みたちが眠ってる。私もその中の一人に過ぎないんだ」
(これだけの魅力あふれるルカさんが下積みなのか……アイドル業界って底知れないな)
ルカ「研修生で仲いい奴と組んでユニットもやってるし、そっちでSNS活動とかミニライブ出演とかもやってなくはないけど……まあ、まだまだだな」
にちか「それって前仰ってた相方さんの事です?」
ルカ「おう、あいつはもともと北海道の出身でよ。夢を追うために上京してきて……他の連中なんか目じゃねーほどの熱量でやんの」
ルカ「今はあいつについていくのでいっぱいいっぱいだよ」
(ルカさんにそこまで言わせる相方さん、一体何者なんだろう)
ルカ「ていうか、こんなことでよかったのか? もっとなんか面白い話題とか……」
にちか「いえ、ありがとうございます。貴重なお話が聴けて私も満足です!」
ルカ「まあ、にちかがいいならそれでいいけど……」
ルカ「……ハッ、あんたも案外ここでの【研究生】ってのまんざらでもないのかもな。そんだけアイドルに興味津々でございますって顔されたらそう思っちまうよ」
にちか「……え?」
ルカ「じゃあな、研修生! これからもよろしく頼むよ」
にちか「あっ、ルカさん!」
ルカさんがいなくなってからも、なんとなく私は自分の心に起きた波紋を測りかねていた。
私がアイドルに憧れている? いや、そんなのって……流石に身の丈にあって無さすぎる。
だって私は日常の中に買い潰される宿命を背負った、ただの一般人なんだよ?
一般人のまま終わる……つまらない女子高生、なんだもん。
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【親愛度が上昇しました!】
【現在のルカの親愛度レベル…2.0】
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【寄宿舎前】
1日探索に当てたけど……目立った収穫はなし。
まあそれでも、他の人と一緒に過ごしたことで少しは親密になれたような気はするし、それを収穫としておこう。
探索からの帰り道、学校を出て自分の部屋へと戻ろうとしている時、遠くの方に人の姿が見えた。
背丈が同じくらいの三人……【櫻木さん、八宮さん、風野さん】だ。
風野さんの手をグイグイと八宮さんが引っ張っているのが目に入る。
めぐる「ねえ、灯織……今日は真乃と一緒に、お部屋でお話ししようと思ってるんだけど一緒にどうかな?」
灯織「え、ええ……?」
真乃「灯織ちゃんがよければ、なんだけど……今はこんな状況だけど、こうして知り合うことができて……」
真乃「お友達になれたら、嬉しいなって……めぐるちゃんと」
めぐる「わたしたち、同年代だし……灯織とわたしは同じ部屋に閉じ込められてた仲じゃない?」
どうやら櫻木さんと八宮さんが風野さんを誘っているらしい。
警戒心が強く、少し孤立気味だった風野さんを八宮さんはずっと気にかけている素振りを見せていたし、今のこれもその一つなんだろう。
八宮さんの呼びかけは純粋な善意だ。
誰しもが心細く、恐怖に打ち震えるこの学園生活で、少しでも身を寄り添える場所を作ろうというその一心なんだと思う。
その笑顔は、遠巻きに見ている私からしても眩しく映った。
灯織「いや……私はいいよ」
そう、あまりにも……【眩しく】。
灯織「八宮さんはもっと他人を疑った方がいいよ。こんな状況なんだし、いつ誰に足元を掬われるか分からないし……」
灯織「櫻木さんも……他の人に流されるんじゃなくて、自分がどうしたいかをもっと考えた方がいいんじゃないかな」
好意をそのまま呑み込めるような人ばかりじゃない。
それがコロシアイという猜疑心のジャングルの中なら尚更。
人が何を考えているのかなど、明け透けには分からないものだ。
天使の顔をして差し出しているその手を取ったが最後、地獄に引き摺り込まれないとも限らない。
風野さんはまだ、その【柵の中】にいた。
灯織「……! ご、ごめん……!」
思わず口から出てしまった冷徹な文句に風野さん自身少し驚いた様子。
キョトンとする二人に平謝りするような形で頭を下げ、そそくさと後にした。
にちか「あ、風野さん……!」
私の横をすり抜けて行ったのに、風野さんはそれに気づく様子もなかった。
めぐる「……行っちゃった」
真乃「灯織ちゃん……やっぱり、まだこの状況じゃ信じてもらえない……よね」
めぐる「ごめんね、真乃……悲しい思い、させちゃったよね」
真乃「ううん……大丈夫。私も、めぐるちゃんと気持ちは一緒……灯織ちゃんともっと仲良くなりたいと思ってるから」
真乃「また、めぐるちゃんの力にならせてもらってもいいかな……っ」
めぐる「うん、もちろんだよ!」
純粋に強いな、と思った。
私はあんなふうに拒絶されてなお、手を差し伸べようとは思えない。
櫻木さんと八宮さんが折れず、説得の意思を改めてしている様子を見ていると、胸がチクチクとするようだった。
それは、自分自身との残酷な対比に原因がある。
私は最後まで他の誰かに添い遂げる覚悟なんて持っていないし、反対に誰かの手を取る勇気も持っていない。
でも、普通そうじゃない?
高校生なんて年齢、これまでの人生、吹かれ流されしか経験してきてない。
この学園でも、私の近くには幸運にもルカさんという標がいてくれた。
だから私はなんとか両足で立っていられる。ただそれだけのことなんだ。
「……帰ろ」
櫻木さんと八宮さんが寄宿舎に戻ってくると、鉢合わせてしまう。
そうなる前に私も風野さんの後を追うように自分の部屋へと戻った。
------------------------------------------------
【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノキッド『おい! どこだ! どこに隠していやがる!』
モノファニー『アンタやめて、そんなに毎晩だったら体を壊しちゃうでしょ!』
モノキッド『うるせー! ミーはこの一家の大黒柱だぞッ! はちみつをいつ舐めようがどれだけ舐めようがミーの勝手だろうが!』
モノタロウ『わー! モノキッドのお決まりの禁断症状だよー!』
モノスケ『はち禁は2時間……記録更新やな』
モノキッド『さっさとはちみつ出さんかーい!』
モノダム『……』
プツン
部屋に帰る前に三人のやりとりを見たからだろうか、ベッドに横になってからも気が立っている感じがした。
多分、ルカさんにとって私はたまたま居合わせただけの存在で。外の世界に待っている相方さんの方がよっぽど大切な存在なんだ。
そんな当たり前で分かりきっている事実が何度も頭を巡っている自分が気色悪かった。
知りもしない人に嫉妬をしているのか?
身の丈に合ってない劣等感を抱いているのか?
いや、そんなんじゃない。
この学園に来てから出会った人たちがあまりにも自分より眩しくて。
そんな人たちが、自分と同じ『一般人』という呼称で定義されているのが苦しくて。
あの人たちが『一般人』なら私は何?
回答を得られるはずのない自問自答は無限に続いて、
_____有限の眠りに閉ざされる。
------------------------------------------------
【School Life Day4】
------------------------------------------------
【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
『…………』
『…………』
『…………』
(荒れたモノクマーズ基地で一人はちみつをしゃぶっているモノキッドが映っている)
プツン
この学園に来てから、自分らしくなく物思いに耽ることが増えた。
昨日もよくわからないことを考えているうちに眠ってしまっていたような気がする。
まあ、それは今までの人生がどれだけ頭空っぽに呆けていたかの証左に他ならないのだけど。
すっからかんの側頭部をコンコンと叩きながら眠気を削り落として、朝の支度をした。
……随分とうなされていたらしい。
何度か睡眠中に目を覚ました覚えもあったし、身を起こした時のベタつく感じは寝汗をかいていたことの証明だ。
今の季節がどうかは知らないけど、特段暑くも寒くもない環境下でこんなに跡がつくほどの汗は、やっぱり苦悶が滲み出たモノと言うほかない。
変色したシーツを撫でると、自分のものながら嫌悪の声が出た。
後でモノクマーズに呼びかけて交換をお願いした方が良さそうかな。
ピンポーン
……そんなタイミングでインターホンが鳴った。
ルカ「よう、にちか。……どうした、なんか昨日あんまり眠れなかった感じか?」
にちか「え? そ、そう見えますか……?」
ルカ「んまぁ……ちょっと目がとろーんとしてて、さっき起きたばっかなのかなって」
にちか「いや……大丈夫です。朝食会ですよね、急いで準備します!」
ルカ「ああ、別に急がなくていいけど……そうだ、朝食会の後なんだけど、【ちょっと時間あるか】?」
にちか「え? ああ……はい、大丈夫ですけど」
(……なんだろう? 周りをキョロキョロと見回して、私だけにしか聞かせたくない話とかなのかな)
ルカ「サンキュー。そんじゃ先に朝食会だ、準備できたら言ってくれよ」
ルカさんが私だけに、という言葉で少しだけ高揚するのをバレないように隠しながら朝の支度をした。
部屋の外で待っていてルカさんに声をかけてそのまま食堂へ。
朝ごはんの後、か……一体何の用事だろう?
------------------------------------------------
【食堂】
めぐる「あ、にちかちゃんだ! おはよー!」
にちか「あ、ども……」
めぐる「……あれ?」
昨日の夜のやりとりを盗み見てしまった気まずさからか、八宮さんの挨拶をおざなりに返してしまった。
少し違和感を持って受け取られたようだったけど、私は逃げるようにしてルカさんの隣に座った。ルカさんは私の混乱を意に介さず、平然としている。
甜花「今日で、四日目……まだ助け、来ないね……」
甘奈「そっか……もうそんなになるんだ……」
恋鐘「昨日モノクマーズが言うとったことが気になるばい……警察の人たちは本当に助けに来んとやろか?」
夏葉「連絡を取るための手段も取り上げられてしまっているし、外の状況もわからない……苦しい状況ね」
樹里「……いや、気を強く持て! 絶対に助けは来るって!」
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノスケ「性懲りも無く現実逃避に励んどるところ、お邪魔するでー!」
モノタロウ「現実から目を背けちゃダメだ! 今こそオイラたちは現実に向き合うべきなんだ!」
モノキッド「それこそがキサマラのユア・ストーリーなんだ!」
甜花「やだ……甜花はビアンカかフローラかで、ずっと悩んでいたい……!」
(……何の話?)
モノファニー「今日はキサマラにとっておきの情報があってやってきたのよ!」
モノスケ「アツアツドキドキのスペシャルなプレゼントや! 耳の穴ほじくり返してよう聞きや!」
にちか「とっておきの情報……?」
連中がほくそ笑みながら言い出している時点でどう考えても碌な情報でないことは明らかだ。
まあ、ぬいぐるみに表情の機微など無いのだけれど。
モノタロウ「さっきそこのお姉さんも言ってたけど、今日でキサマラが才囚学園に来てから丸四日になるんだよ! わーい!」
モノキッド「あのな……遅いんだよ! 遅すぎてあくびがでちまうぜッ!」
灯織「お、遅い……?」
モノキッド「さっさと一人でも二人でもぶっ殺しちまえってんだッ! せっかくのコロシアイなのに日和見すぎだぜッ!」
(……っ!)
ルカ「誰が……! 誰がコロシアイなんかしてたまるかよ!」
モノタロウ「わわわ! お、怒らないで! オイラたちは別にそのことで文句を言いに来たわけじゃないんだ!」
樹里「もう文句は言われたけどな……」
モノファニー「お父ちゃんが、そんなゆっくりスローペース50CCなキサマラのお尻を叩きにやってきてくれるのよ!」
真乃「それって……つまり……」
バビューン!!!
モノクマ「はいはい! 呼ばれて飛び出てジャバザハット〜〜〜!」
めぐる「わー! ま、またどこからともなくモノクマが現れたよー!」
モノクマ「話は聞かせてもらったよ! せっかくのコロシアイなのに、中々勇気が振り絞れない! 中々その一歩が踏み出せない! そんなお悩みですね?」
円香「誰もそんなこと言ってないし」
恋鐘「そっちが一方的にふっかけとるとやろ〜!」
モノクマ「そんな思春期のお悩み、ボクもよくわかります。最初の一歩を踏み出す時は、足がすくんだものでした」
モノクマ「だけど、一歩さえ踏み出せてしまえなあとは楽々! 坂道を駆け下りるようにどんどんコロシアイの連鎖に引き込まれちゃんます!」
灯織「それで、私たちに何の情報を渡すつもりなんですか?」
モノクマ「【動機】だよ」
にちか「ど、動機……?」
モノタロウ「過労死ラインの残業でもだんまりの役に立たない組織?」
モノスケ「それは労基や!」
モノファニー「じゃあ、営業が現場の状況を無視して取り付けてくる約束のことかしら?」
モノスケ「それは納期やっちゅーねん!」
モノクマ「そうだよね、オマエラはのこのこ温室育ちで人が人を殺すという現場に出会したこともないんだ。そりゃその一歩を踏み出すのも躊躇うってものだよね」
モノクマ「おっかしい! 地球の裏側では生まれて間もない子供が大人の仕掛けた爆弾で命を落としてるのに、まるで自分たちには生き死には関係ないですって顔してるんだもん!」
夏葉「……それは論点のすり替えよ」
霧子「そんな人たちが少しでも減ってほしいと、いつも私たちは願っています……」
モノクマ「まあそれはそれとして、オマエラが人を殺す上でハードルになっているものは何かをボクなりに考えてみました!」
モノクマ「それはずばり未知! 人を殺すってどうなんだろう? 学級裁判ってどうなんだろう? まだ経験したことがないことに飛び込むのは怖いもんね!」
モノクマ「なので、今回だけの特別サービス!」
モノクマ「ずばり、【コロシアイお試しキャンペーン】を開催します!」
モノクマ「これから最初に起きた殺人事件に関して、学級裁判でクロになった人はクロだとバレてしまった場合でも【おしおきを免除】されます!」
モノクマ「更に、もし学級裁判で他のシロを騙し抜くことに成功した場合は……そのまま【卒業もできちゃいます】!」
モノクマ「その場合でも他の【シロ全員のおしおきは免除】! クロもシロも傷つかない、まさに【学級裁判のチュートリアルモード】というわけなのです!」
モノクマ「ほら、このコロシアイって色々と工程があってめんどいじゃん? とりあえず一回通しでやってみれば要領もわかるようになるってもんだよ」
モノタロウ「習うより慣れろってやつだね! オイラこのことわざを知ってから全部説明書は破り捨てることにしてるんだ!」
モノスケ「保証書と領収書も併せてシュレッダーにかけとるで!」
夏葉「ふざけないでちょうだい!」
モノクマ「ん?」
夏葉「何が誰も傷つかない学級裁判よ……殺人事件が起きている時点でそんなの、矛盾しているじゃない!」
モノファニー「おっとこれは明確な矛盾を築かれてしまったわね、お父ちゃんはどう切り返すのかしら」
モノタロウ「お父ちゃん! キレキレの弁舌で切り返して見せてよ!」
モノクマ「あわわわわわわわわ」
モノファニー「大変! 泡を吹いてるわ!」
モノスケ「アカン、お父やんはレスバが弱すぎるんや! 毎度毎度飛行機を飛ばして対処しとるから、正面からの問答には向いてへんねや!」
モノクマ「……イワレテミタラソッ!」
バビューン!!
モノタロウ「わー! お父ちゃんが逃げたー!」
透「最後の捨て台詞何?」
ルカ「言われてみたらそう……どこまでも舐め腐ってんな」
モノスケ「まあそういうことや、コロシアイは今が始めどきってことやな」
モノキッド「スタートダッシュでライバルに差をつけろ!」
モノタロウ「今なら確定チケットももらえる!」
モノファニー「おしおきがなくなるならグロくならなくていいわ。ずっとこのままでいいのに」
モノダム「……」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
にちか「行っちゃいましたね……」
モノクマからの動機の提示。
コロシアイが発生しない膠着状態の私たちに刺激を与える意味で提示されたおしおき免除の条件。
確かに犯行に伴うリスクはこれで取っ払われるわけだけど……
凛世「少し、拍子抜け致しましたね……」
甘奈「だね〜、コロシアイをもっと強要するような方法で来るのかと思ったけどこれなら心配しなくて良さそう!」
樹里「どこまでもおちょくってやがんな……学級裁判のおしおきがなくなるだ? そんなもんでアタシたちが靡くと思ったら大間違いだよ」
愛依「そもそもで人を殺す……とかマジで無理だしね」
真乃「とりあえずは安心してよさそうですね……!」
モノクマの揺さぶりは私たちにはまるで通じていなかった。
大前提において自分で誰かを手にかけるということがあまりにも現実味がなさすぎるため、その先の学級裁判なんて頭にほとんどなかったくらいだ。
みんなモノクマが去った後はあっけらかんとした様子で談笑をしていたし、私も気を緩めていた。
ルカ「……」
ただ隣のルカさんだけは、考え込む動作をしていたのが気になったけど。
そのまま朝食会はいつも通りに進み、食べ終わった人から食道を後にした。私とルカさんは意図的にゆっくりに食べ進め、最後に残った。
二人だけになったのを確かめると、ルカさんは私の近くに寄った。
ルカ「……もう、あんまり余裕はないかもしれねえな」
にちか「……えっ?」
ルカ「膠着状態に向こうが痺れを切らし始めた……やばい兆候だよ」
にちか「それって動機のことです? いやでも、おしおきの免除とか、正直それだけで何か変わりはしないでしょって思いますけど」
ルカ「それだけなら、な」
にちか「……え?」
ルカ「これで終わりだとは思えないんだよ。オマエも見ただろ、あのバカでかいロボット」
ルカさんが言ってるのは多分エグイサルのことだ。
体育館で姿を見せて以降は学園の整備のためにずっと稼働しているようだけど、あれは元々武力兵器の触れ込みだったはず。
ルカ「あいつらは私たちを簡単に蹂躙するぐらいの力は持ってる。コロシアイが起きない状態が続けば、危険が身に及ぶ可能性だって十分にある」
にちか「そ、そんな……!」
ルカ「……今のうちに対抗手段は考えておくべきかもしれないな」
にちか「そ、そんなの無茶ですって! 私たちであんなロボットにどう立ち向かえばいいんですか!」
私がルカさんの裾を取って泣き縋るようにして叫ぶと、キョトンとした顔をされた。
目を丸くして私をしばらく見た後、吹き出して笑う。
ルカ「アハハ、ちげーよ。戦うわけじゃない。私たちの基本方針を忘れたか? 基本はここから安全に脱出すること、だろ?」
にちか「あ、あはは……そっか、そうですよね」
ルカ「そのためにはまず学園の謎を解くことだ。この学園の真相に近づく情報を少しでも集めたい……それで、【オマエに見せたいもの】があるんだ」
にちか「見せたいもの……ですか?」
ルカ「ああ……ついてこい」
------------------------------------------------
【1F 女子トイレ】
ルカさんに連れられてやってきたのは女子トイレ。
個室が三つ並んで、後は掃除用具入れと手洗い場のごくごく普通の女子トイレ。
ここに一体何の用事があるというのだろう。
ルカ「そんな警戒すんなよ」
……なんとなくルカさんの容姿でこの場所だと詰められそうな感じがする。
ルカ「にちか、オマエを信頼できる相手だと見込んでの話だ。ここから先のことは口外禁止で頼む」
にちか「は、はぁ……」
口外禁止という重い言葉を浅い覚悟で飲み下す。
私が一応は首を縦に振るのを認めると、ルカさんはそのまま、女子トイレの用具入れの壁に右手をついた。
すると、そのまま……
ズズズズ……
壁は扉のように動いて、真っ暗な空間が姿を現した。
にちか「え、えええっ?!」
ルカ「シッ! 大きい声出すな! まだ他の誰にも話しちゃねーんだ、落ち着いてくれ」
にちか「は、はい……」
ルカ「いくぞ……ついてきな」
少し屈みながら、突如として現れた空間の中へルカさんは突き進んでいく。
何が起きているのかわからず動転している私は、ただ彼女の後ろに続くしかなかった。
中の空間はわずかな照明が点るコンクリートの通路だった。窓も何もなく、ただのっぺりとした道が続く。
歩いた感触で唯一わかるのは、少しこの道には傾斜がついている。緩やかながら、少しずつ、少しずつ下っている。
道を何度か曲がるようにして、先の見えぬ闇を下っていくと、また開けたところに出た。
------------------------------------------------
【???】
にちか「こ、ここは……?」
明らかに異質だった。
立ち入れた瞬間に、本能が全身の毛を逆立たせるほどに充満している悪意。
だがそれは今まさに精製されているものではなく、嘗てここに在ったであろう何かないしは何者かの残滓だ。
ルカ「さあな、今は使われていない部屋みたいだけど……こいつをみればその持ち主がクソッタレだったことは窺い知れんだろ」
そう言ってルカさんは部屋の一角に備えられた巨大な機械のガラス部分を手の甲でコンコンと叩いた。
ガラスの中には何かが沈んでいる。中の照明が落ちているし、機械自体にも電源が入っておらず故障している様子だ。
にちか「そ、それって何です……?」
促されるまま、近づいていく。
一歩一歩踏みしめるごとに喉が締められるような閉塞感を感じながら。
にちか「いやまさかそんなわけ……」
黒と白が目に入る。
直感が脳髄をチクリと刺した。
にちか「……なん、で」
予感が現実に変わった時、膝から力が抜け落ちるようだった。
私たちにとっての絶望の象徴、【モノクマの巨大な頭部】が闇の中に沈んでいたのである。
にちか「な、なんなんですかこれ?!」
ルカ「……わからねえ」
肘を抱き寄せるようにしているルカさんは苦々しそうにそう返した。
ルカ「この部屋の正体も、こいつの正体も何もかもわからねえ。隅々まで探しては見たんだけど、何かに繋がる証拠もなかったよ」
ルカさんのいう通り。これほどの悪意を充満させていながらも、私が歩みを進めることができたのはその空虚さに由来する。
何かが並んでいたであろう棚はもぬけの殻だし、ゴミ箱を除けば得体の知れぬ砲丸が一つ転がるだけ。
後は喋りもしない、反応もしないモノクマの巨大な頭部の乗っかった機械が一つ。
ルカ「これを見つけたのはつい昨日のことだ。トイレで用を足してる時に偶然な」
ルカ「私が入った時にはもうこの状態……多分、私たちがこの学園に来る以前からこうだったんだと思う」
にちか「ですね……棚に埃が溜まってますし」
ルカ「だけど……私たちの前に姿を現してるモノクマたちとこれが無関係だとは流石に思えない」
ルカ「このデカいモノクマが……何か真実を握ってるんじゃないのか?」
にちか「これが……ルカさんが私に話したかったこと」
ルカ「ああ、それと……もう一つ」
にちか「もう一つ?」
ルカ「私は、このモノクマの入ってる機械を修理したいと思ってる」
にちか「……は?」
にちか「え、は、な、何言ってるんですか?! こんなの、どう考えても敵の道具ですよ?! それを直すって……」
ルカ「だからこそだよ、この機械はまず間違いなく私たちの知らない情報を握ってる。それが私たちにとって有利になるものか不利になるものかはわからないけどな」
にちか「いやでも、こんなの治し方もなにも分からないんじゃ……」
ルカ「その点は安心しろ。ほら……これ」
ルカさんは少し屈んで、配電盤を開いて見せた。
ルカ「他に目立った損傷はないけど……ここにあっただろう【五本のケーブル】だけ無くなっちまってる。この代替品が見つかれば多分電気が通るはずだ」
確かにこの部屋自体に電気は通っているし、ルカさんのいう通り目立った破損はない。
専門的な話は分からないが、ここに当てはまるケーブルを付け直すという方法が一つの解であるような気はする。
ルカ「ひとまず今は倉庫を漁ってるんだが、何しろあそこも膨大な数があるからさ。まだ全部は見れてないんだ」
にちか「それを……手伝えってことです?」
ルカ「ああ……悪いんだけど、頼めないか! にちか、オマエしかいないんだよ!」
にちか「……」
どうなんだろう。
私にはこのモノクマを起動することがパンドラの箱を開けることと同義にしか思えない。
でも、パンドラの箱を開けた結果に最後に残るのは小さな希望だ。
脱出という希望を掴むためなら、災厄の奔流に一度身をまかす必要もあるのかも知れない。
……生唾を一つ飲み込んだ。
にちか「……わかりました、やります。やりますよ」
ルカ「……ホントか!」
正直なところ、現実逃避できるところを探していたところはある。
この学校に来てから感じることになった身の危機や他の人と比べた時の劣等感。
そういうのに思考が堂々巡りになりがちな今、誰かのために時間と思考を捧げられるタスクは都合が良かった。
ルカさんは依存先の、とりあえずの依代としてちょうど良かったのである。
ルカ「サンキュー……にちか、オマエならそう言ってくれると思ってたよ」
にちか「アハハ、ルカさんにそう言われると弱いです!」
ルカ「おっし……それじゃあ必要になるのは【SHU-1ケーブル】【YM2ケーブル】【HR-MKケーブル】【K-Bケーブル】【SG-TMケーブル】の5種類だ。これを探すぞ」
にちか「了解です!」
ルカ「あ……忘れてた。それともう一つ。伝えとくことがあるんだが……」
にちか「ん? なんです?」
ルカさんはすくりと立ち上がるとそのままスタスタと部屋の反対へ。
モノクマの頭部に向き合うような形で部屋には扉が取り付けられていた。
ルカ「ここから外に出れるんだ」
にちか「外……ですか?」
ルカ「といっても流石に学園の中だ。まあ隠し通路みたいなもんとイメージしとけばいいさ」
にちか「はぁ……」
ルカさんは扉の横に取り付けられたボタンに手をかざす。
壁の向こうからゴゴゴゴと低く唸るような音がしたかと思うと、視界がだんだんと開けていった。
------------------------------------------------
【B1F 図書室】
にちか「こ、ここって……」
ルカ「ああ、地下の図書室だよ」
どうやら図書室の奥側の本棚の一角が動く仕掛けになっているらしく、裏の壁に隠された扉から出入りが可能みたいだ。
こんなの、初めに入った時はまるで気づかなかった。
ルカ「ったく隠し部屋なんてどこの魔法学校だって話だよな」
にちか「びびった……こんなん初めて見ましたよ」
私たちが扉から離れてしばらくすると、自動で本棚は閉まっていった。
これで普段はカモフラージュしているのだろう。
にちか「これ、図書室側から行くこともできるんですか?」
ルカ「あー……ちょっと待ってな」
ルカさんは動作した本棚に並んだ本をしばらく見比べてから、収められた辞典の一つを強く押し仕込んだ。
ゴゴゴゴ……
するとまた地響きのような音がして、本棚が動きだし、すぐに先ほどの扉が姿を現した。
にちか「……あれ?」
ただ、その扉には一つの違和感。
ルカ「そうなんだよ。こっち側から入るには【カードキーがいる】みたいなんだ」
先ほどの隠し部屋側ではボタンがあった位置に、今度はカードリーダーのような機械が取り付けられていたのである。
ルカ「当然私たちはこんなカードキーなんか持っちゃいない。こっちから入るのは不可能ってことだな」
にちか「一方通行の隠し通路……ですか」
ルカ「ああ、だから図書室側から入ることは基本的にないな」
どっち側からも行き来できたら何かに使えるかと思ったけど、これならあの隠し部屋に行く以外の用途はあまりなさそうだ。
私たちが扉から離れると、またしばらくして本棚が自動で動いて蓋がされた。
これでもう他の誰にも気づかれない。
ルカ「今の所ここに気付いてるのは私とにちかだけのはずだ……不用意に情報を振り撒くのも良くない気がするしな」
にちか「ですね……あのモノクマの頭とか……それを直そうとしてるとかってのは伏せた方が良さげです」
ルカ「にちか……急にこんなことを背負い込ませて悪いな」
にちか「い、いえ! むしろ私にだけ明かしてくれたのってなんかすごい嬉しいかもです! ルカさんが私を信頼してくれた証なのかなって思うと!」
やばい、急にルカさんに笑顔を向けられてテンパってしまった。
口から飛び出した不恰好な本心を慌てて両手で押さえ込む。
ルカ「いや、その通りだよ」
にちか「……!」
ルカ「正直さ……私、目が覚めてからずっと怖いんだよ。こんな訳のわからない状況で、コロシアイだのなんだの言われて……ずっと震えてるんだ」
にちか「ルカさん……」
ルカ「それでも前を向こうって思えたのは私を頼ってくれるオマエがいたからなんだよ」
ルカ「オマエの期待に応えてやりたい……それが今の原動力だ」
驚いた。
ルカさん自身の震えには気付いてはいたけど、そこまで私のことも思ってくれていたなんて。
私がルカさんのことを頼りにして、ようやっと立っている。
そんな一方的で無責任な思慕だとばかり思っていた。
でも、そうじゃなかった。
ルカさんだって等身大の女の子で、等身大に怯えて、等身大に震えている。
それでも私の前に立っているのは、私が後ろからルカさんのことを見続けているから。
ルカ「……なんてな」
ルカさんの口から、私という存在を必要とされていることが出たことが存外嬉しくて、私は思わず手を打った。
にちか「ルカさん……絶対、生きて帰りましょうね」
にちか「私も、ルカさんも……みんなも連れて!」
ルカ「ハッ……当たり前」
私とルカさんはそこで一旦別れて部屋に戻ることになった。
倉庫でケーブルを探すのは時間が空いたタイミングを見つけながらでいいと言っていた。
次の自由時間なんかで行ってみてもいいかもしれないな。
【にちかの部屋】
部屋に帰ってからも、口の中に押し込んだ秘密が溢れだしそうで、あたふたしていた。
ルカさんのためにケーブルを探す。その目的を得たのも一つ大きな収穫だった。
誰も存在を知らなかった隠し通路というだけで大興奮なのに、その秘密を共有しているのがあのルカさんなのだからしょうがないのだけど。
部屋に戻るなりすぐに蛇口をひねって、水道水を喉の奥に流し込んだ。
誰かに話してやりたいという衝動を飲み下して、一生懸命落ち着きを取り戻した。
さて、他の人に怪しまれないように日中は平然を過ごさなくちゃいけないよね。
まだ今日は朝ご飯を食べて少し経っただけ、今日という一日はまだ続くのだから。
どうしようかな……?
【自由行動開始】
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】
↓1
1愛依 選択
【中庭】
にちか「あ、愛依さん。こんなところで何してるんですか?」
愛依「あ、にちかちゃんじゃん。いや、何してるってわけでもないんだけどなんか落ち着かなくてさ……アハハ」
にちか「さっきの動機の話ですか?」
愛依「うん……いや、あんなの真に受けて行動する子なんていないとは思うんだけどさ……」
愛依「あの話聞いてると、うちらにコロシアイが要求されてるのはマジなんだなって認識するっていうか……」
にちか「……」
愛依「ご、ごめんね! こんなマイナスなこと口にしてもしゃーないもんね!?」
にちか「いや、大丈夫です。私も色々と溜まってるので、ここらでぶちまけあいましょうよ。そんですっきりしちゃいましょ!」
愛依「にちかちゃん……」
愛依さんと一緒にこのコロシアイにおける漠然とした不安を言葉にし合って過ごした……
-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?
現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】
↓1
【絵本作家ですのよを渡した……】
愛依「こ、これ……! マジ?! もらっていいの!?」
にちか「え、あ、はい……なんか起動するたび新しい絵本を自動で生成してくれる機械なんですけど……」
愛依「うわ~、めっちゃ助かるわ~! 毎晩夜の読み聞かせの時の絵本に困ってたんだよね! なんだかんだいっつも同じ絵本になっちゃいがちだし、コンマリ?打破できそうでいい感じ!」
にちか「マンネリのことですかね……」
愛依「マジサンキュー、にちかちゃん!」
【PERFECT COMMUNICATION】
【いつもより多めに親愛度が上昇します!】
------------------------------------------------
にちか「そういえば愛依さんって兄弟がいらっしゃるんですよね?」
愛依「うん、そーだよ? 上にお姉とお兄がいて、そんで下には弟と妹が一人ずつ!」
にちか「えっ、めっちゃ大家族じゃないですか?! すご!?」
愛依「にちかちゃんのとこは、お姉ちゃんが一人だっけ」
にちか「いや、はい……え、嫌じゃないですか? そんなに兄弟いるのって」
愛依「イヤ……?」
にちか「ほら、うちの姉とかめっちゃデリカシーもプライバシーもないんですよ! こっちが部屋で友達と話しててもお構いなしに扉開けて『晩御飯よ~』してくるし!」
にちか「私の選んで使ってるヘアコンディショナーとかも何の断りなしに使ってくるんですよ!? 家庭内の侵略者、ドメスティックインベーダーですよあんなの!」
愛依「アハハ、なんかにちかちゃんの家も賑やかそうだね~」
にちか「笑い事じゃないです!」
愛依「でもうちもおんなじ。ほら、うちってちょうど真ん中だからお兄とお姉は何かと頼みごとをしやすい相手だし、弟と妹はちょうどいい遊び相手だと思ってる」
愛依「それでいったら家にいるときの一人の時間なんてめっちゃ少ないかもね」
にちか「ほら~! しんどいじゃないですか~!」
愛依「でも、うちからすればその時間もかけがえのないもんだからさ」
愛依「だって、その人と一緒に過ごす時間ってここから先の未来でも得られるかわかんないじゃん? 今こうやって一緒にいるキセキがあるからこそのもんじゃん?」
愛依「だから、うちは家族と一緒に居られる今が……すごく大好きで、すごく大切なんだよね」
にちか「……この学校、出なくちゃですね」
愛依「うん! お互い家族たちが待ってるもんね!」
(……お互い、か)
------------------------------------------------
【親愛度が上昇しました!】
【愛依の現在の親愛度…3.5】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…16個】
【にちかの部屋】
愛依さん、本当に家族のことを大切に思ってるんだな。
ずっと話してる最中も笑顔を絶やさなかったし、一言も悪口なんて言わなかった。
それどころか私がお姉ちゃんの陰口をいってもニコニコしてて……
なんか、家族というものの理想像が愛依さんの中では確固たる明確なビジョンがあるんだろうな。
はぁ……私はそこまでまっすぐにお姉ちゃんのことを想えないよ。
【自由行動開始】
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…16個】
↓1
1 愛依 選択
【愛依の個室】
ピンポーン
愛依「あれ、にちかちゃんさっきぶりじゃん。今日はなんかよく会うね」
にちか「えへへ……すみません、お邪魔じゃなければ一緒にお菓子でも食べませんか?」
愛依「おっ、いいね~! ちょうどうちも小腹が空いてたとこだったんだよね」
にちか「やった~! 倉庫からなんとなく見繕ってきたんですけどこれ、どうですか?」
愛依「ん~……おっ、いいじゃんいいじゃん! 酢昆布にあたりめもあるんだ!」
(よかった……もしやと思ったけど、お菓子の好みも割とおばあちゃんテイストだったんだ)
愛依さんと二人でお菓子を食べて過ごした……
-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?
現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】
↓1
【お助けヤッチーくんを渡した……】
愛依「なんこれ……で、でっかいシャチ?」
にちか「なんか、困ったことを聞くとなんでも応えてくれる……らしいですよ?」
愛依「え? この子に……言えばいい系?」
にちか「た、多分……」
愛依「あー……こ、ここから出してくれませんか~?」
ヤッチー『……』
にちか「な、なんなのこいつ……なんも動かないじゃん」
愛依「あ、アハハ……なんか元ネタあんのかもしんないけど、うち分かんないわ!」
(なんかこのシャチ……どっかで見たことはあるんだけどな~……)
(まあ、普通に喜んではくれたかな)
【NORMAL COMMUNICATION】
-------------------------------------------------
愛依さんと一緒に過ごした時間もそれなりになったけど、やっぱりそのたびに違和感は拭えずにむしろ増していくばかりで……
この人の才能が、【超研究生級の書道部】であるという違和感。
そろそろ真正面からぶつけてみてもいいかな。
にちか「あ、あの……愛依さん……実際、その……書道ってどれくらいの腕前なんですか?」
愛依「え? あ~……もしかして、一緒に過ごすうちになんか自信なくなっちゃったカンジ? そりゃそうだよね~! うちでもぱっと見書道できそうな子には見えないと思うし!」
にちか「あ、いや、そういうわけじゃ……あの、すみません!」
愛依「いいって、いいって! そうだ、せっかくうちの部屋に来てくれてるんだしなんか書いたげるよ」
そう言うと愛依さんは慣れた手つきで部屋の床に下敷きと長半紙を広げ、硯に炭を落とした。デスクの棚からは、なにやら上等そうな筆まで飛び出してきた。
愛依「なんか好きな言葉とかある?」
にちか「す、好きな言葉ですか……? つ、【詰め放題】……?」
愛依「おっけ、任せといて!」
私の適当な言葉に首をブンと縦に振って承諾を表すと、そのままさらさらと筆を走らせてあっという間に一つ作品は出来上がってしまった。
愛依「うい! こんな感じ……どーよ!」
……すごい。
極めて俗的な言葉を書いてもらったはずなのに、力強くもその形を崩していない、繊細な筆さばきで描かれた文字は一つの作品として完成を見ていた。
趣味でやっている……なんて言葉に甘んじない、確かな経験と実力が作品の裏に滲み出ていた。
にちか「す、すごい……御見それしました。正直愛依さんの事、侮ってたかもです」
愛依「アハハ、まあしょうがないけどね~。でも、まあまあいけるっしょ? うちなりには上手く書けたと思ってるんだけど」
にちか「上手いです。少なくとも、うちのクラスの誰よりも。保証します」
愛依「えへへ、サンキュね」
にちか「ただ一つ惜しいのは……漢字が違います」
愛依「……え?」
にちか「これじゃ【詰め放題】じゃなくて【読め放題】になってます。電子書籍の期間限定キャンペーン広告みたいになってますんで」
愛依「やっば! マジはず!!!」
いつもと違う一面を見て驚嘆してしまったけど、このどこか抜けてる感じは私の良く知る愛依さんのままだな、と思った。
才能なんて言葉で人の魅力はひとくくりにできないよね。
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【親愛度が上昇しました!】
【愛依の現在の親愛度…5.0】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…17個】
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【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノキッド『ミーが、ミーが悪かったんだ……こんなはちみつなんかで自分を見失っちまって……』
モノファニー『いいのよ、アタイたちは家族じゃない。どんなにモノキッドが荒れてしまっても、アタイたちは支えあっていけるわ』
モノスケ『はちみつに含まれる化学物質は暴力衝動を3割増しにするって論文もあるからな。悪いのはモノキッドだけやない、この世界を作りたまいし主にも罪があるんや!』
モノタロウ『ねえねえ、オイラもはちみつ舐めてみてもいい~?』
モノダム『……』
プツン
なんか今日は色々なことが起きて疲れちゃったな。
モノクマの提示してきた動機……あれに今の状況を大きく変えるような効果はないだろうけど、ルカさんの言っていた懸念には納得がいく。
今はおしおきの免除で留まっていても、いつ別の手段を取ってくるか分からない。
何がきても立ち向かえるような対抗手段を持っていかないといけないんだ。
……私なんかが、そんなことできるのかな。
そして、そんな私の危惧は現実のものになる。
本日はここまで。
安価にご参加いただきありがとうございました。
今日で少しお話を進めることができましたね。
自由行動をあと少し挟んだらいよいよ事件発生です。
是非学級裁判までお付き合いください。
明日6月8日21時~更新予定です。
またよろしくお願いします。
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【School Life Day5】
------------------------------------------------
【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノタロウ『うぅ……頭がガンガンするよ……』
モノファニー『モノタロウにはモノキッドのはちみつは刺激が強すぎたのよ……』
モノスケ『モノキッドのは純度が高すぎるからな! 常人ならべろべろのぶちゃぶちゃになってまうで!』
モノキッド『ビンビンだぜッ!』
モノダム『……』
プツン
ピンポーン
モノクマーズの放送の直後、インターホンが鳴って慌てて飛び起きる。
昨日の今日だ、ルカさんから何か話があるのかも知れない。
急いで私は扉を開けて来客を出迎えた。
あさひ「おはようっす! にちかちゃん!」
にちか「……芹沢さん?」
そこにいたのは、意外な人物だった。
にちか「どうしたの、私に用事?」
あさひ「はいっす! にちかちゃんに一つ、聞きたいことがあるんっすけど、今いいっすか?」
にちか「え? うん……」
あさひ「昨日、朝ごはんの後……どこ行ってたんっすか?」
にちか「……え?」
あさひ「なんか昨日やけに食べるのが遅いなーって思ってたんっすけど、その後ルカさんと二人でどこかに行ってたっすよね?」
あさひ「女子トイレ……だったと思うんっすけど、その後見失っちゃったみたいで」
(尾行られてたのか……!)
瞬間、ルカさんと交わした口外禁止の約束が脳裏によぎる。
こんな揺さぶりでうっかり口を滑らせるわけにはいかない。
真っ白になりかける頭を努めて引き起こし、なんとか言い訳を考える。
にちか「あー……昨日はなんだかお腹の調子が悪くて、それでルカさんに介抱してもらってたんだ」
あさひ「ふーん……じゃあ、トイレの後は寄宿舎っすか!」
にちか「そ、そうそう! 私、食あたりしちゃったみたいなんだよね」
あさひ「今日は元気そうっすね!」
にちか「あ、うん。一日経ったら落ち着いた感じでね……」
慣れないでまかせに、つい表情がぎこちなくなっているのを感じる。
でも、ここは引けない、決壊するわけにはいかないんだ。
あさひ「……」
これが事実だ、これ以上のものはない。
そう念じながら芹沢さんの目をじっと見つめた。
あさひ「了解っす! 気になってたんで、分かってスッキリしたっす!」
あさひ「にちかちゃんもスッキリしたみたいでよかったっす!」
にちか「あ、あはは……あんまり言いふらさないでね……」
パタタタ……
にちか「い、行ったか……」
ふぅ、とりあえず凌げたみたい。
……秘密を抱えるのも楽じゃないな。
さて、とりあえずは朝食会だね。
改めて準備を整えたら、向かわないと。
あさひ「……本当のこと、話してくれなかったなー」
------------------------------------------------
【食堂】
にちか「お、おはようございます!」
凛世「にちかさん、おはようございます……」
凛世「……? 何か、お困りごとですか……?」
にちか「え、ナ、ナンデ? ソンナコトナイデスヨ?」
凛世「……は、はぁ」
秘密は秘密、鉄仮面でいるぞと意思を固めながら扉を開く。
一斉に向けられる視線に不必要な怯みを感じつつも、平然を装って席へ。
ルカ「……オマエ、もうちょっと上手くやりなよ」
にちか「うぅ……すみません」
ルカ「ま、いいけどよ」
隣に座るルカさんには小突かれてしまった。
そんなに顔に出ちゃってるかな……
あさひ「……」
◆
透「全員揃ってるね、いい感じじゃん」
霧子「うん……昨日の動機も、心配なかったみたい……」
めぐる「当たり前だよ! 何があっても、他の誰かを殺すなんて……ぜったいにダメだもん!」
恋鐘「状況はなんも変わらん! うちらはうちらで、ずっと仲良くしとけばよかともん!」
円香「状況が変わらない……助けが来ないのもそうですね」
甘奈「うーん……甘奈たちがいなくなったこと、ニュースにはなってる……よね」
甜花「最近、戦争とかのニュースも多いし……甜花たちのこと、埋もれちゃってたり……」
樹里「大丈夫だ、モノクマーズはあんなこと言ってたけどちゃんと警察も動いてるって」
真乃「……灯織ちゃん?」
灯織「いや……今私たちがいる、この才囚学園がたとえば国外だったら日本の警察は手の出しようもないなって」
恋鐘「か、海外〜〜〜?!」
灯織「可能性としてない訳じゃないですよね。国内だとしても地図にも載っていないような小さな島だったりとか……」
恋鐘「そ、そがん怖いことばっか言わんとって〜!」
灯織「あ、す、すみません……」
バビューン!!
【おはっくま~~~~~!!!!】
モノクマ「私はなぜここにいるのか……」
モノクマ「誰が私を産めと頼んだ……」
モノクマ「そりゃもう世界が頼んだに決まってるよね! ボクみたいな愛されキャラがいない世界なんて、トンカツ抜きのカツカレーだもん!」
愛依「ふつーにカレーはカレーでいいじゃん……?」
モノタロウ「ねえねえ! なんでオイラたちは産まれたの! お父ちゃん、教えてよ!」
モノクマ「おっと……ここから先は保健体育の授業になっちゃうね。スタンダップ! 男子はみんな別の部屋でビデオを見てもらうから、退室してね」
真乃「ここには女の子しかいません……っ!」
にちか「それより、何しにきたの!? 昨日動機の提示はしたばっかりでしょ?!」
モノクマ「うんうん、それなんだけどね?」
モノクマ「なんでオマエラあれだけの好条件を示されておきながら誰も行動に移せない訳?!」
モノクマ「令和世代のもじもじくんの集まりか! 青春の吹き溜まりの寄せ集めか!」
モノスケ「もう【お父やんの堪忍袋も尾が切れた】っちゅーことや」
(……こ、これってルカさんの言ってた通り)
ルカ「……ヤベェな」
モノクマ「もうね、あんまりチンタラやってるとこっちも危ういのでね。時を進めさせていただきますよ!」
モノクマ「コロシアイにタイムリミットを設けます!」
モノクマ「タイムリミットは【明日の夜時間】! それまでにコロシアイが起きなければ、殺し合いに参加させられている生徒は【全員殺処分】!」
モノクマ「モノクマーズの操るエグイサルを総動員してオマエラをスクラップにしちゃうよ〜!」
モノキッド「エグイサルで鷲掴みにして口から内臓をデロデロ吐かせてやるぜ!」
モノスケ「踏みつけて轢かれたカエルみたいにしてやってもええな!」
モノファニー「うぅ……想像しただけでグロいわ」
モノファニー「でろでろでろでろ……」
モノタロウ「わー! モノファニーが黄色のゲロを吐いた! 黄色のゲロは危険信号だよ!」
モノスケ「キサマラの身に危険が差し迫っっとるっちゅうことやな」
……最悪だ。
私たちは脱出への糸口もまだ何もつかめちゃいない。
ルカさんが昨日見せてくれた部屋だって、何の意味があるのかまだ何も見えていない。
それなのに、明日の夜までに誰かを殺さないと、私たち全員が死んでしまうだなんて……
こんなの、どうしようもないじゃん……!!
樹里「ざっけんな……! こんなのコロシアイの強要じゃねーか、話がちげーぞ!」
モノクマ「オマエラの自主性を信じていたんだけどね、ぼかぁ残念で仕方ないよ」
モノクマ「なんたって、コロシアイは新鮮さが命だからね! 一週間近くも何も起きないなんて鮮度が落ちちゃうでしょ!」
透「にしても明日かー」
愛依「やばいやばい……マジでどーすんのこれ」
モノクマ「殺るしかなくね?! てか殺るしかなくね?!」
モノスケ「一応言うとくけど、【昨日発表した動機は継続のまま】や」
モノスケ「一人殺してみんな仲良く生き延びるんがええか、誰も殺せず全員共倒れがええか。答えは火を見るより明らかってやつやな」
モノファニー「どっちみちグロイことには変わりないわ……でろでろでろでろ」
モノタロウ「モノファニーのゲロを見るより明らかだね!」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
連中がさった後、嫌な沈黙が訪れた。
恐れていた最悪の事態がついにやってきてしまった。
はじめの時のように、私たちはお互いに猜疑心の目を向けていた。
もはや自分の身を守るためには誰かを手にかけるほかない……それは間違いないのだから。
____みんながそう確信している中、ただ一人だけが違っていた。
ルカ「待てよ」
ルカ「なんて顔してやがんだ、テメェら……まさか今のモノクマの話を聞いて、誰かを殺さないといけないなんて思っちゃいないよな?」
にちか「ルカさん……?」
ルカ「断言してやる。そんな必要はない。コロシアイなんて……【やらせない】」
夏葉「ルカ……私だってそう思いたいわ。でもこの状況はもう闇雲に主張しているだけじゃどうにもならないのよ」
甜花「誰かが、動いてくれないと……みんな、死んじゃうよ……?」
ルカ「誰がノープランだっつったよ」
(……!)
(まさか、【あの隠し部屋】のこと……?)
ルカ「私にはこの状況を打開できる具体的な考えがある……誰も血を流さないで済むアイデアがな」
真乃「そ、そんなものがあるんですか……?」
めぐる「な、なになに?! どうすればいいの?! 教えて?!」
ルカ「……それは、ちょっと待ってくれ。こっちも準備がいるんだ」
円香「……なんですかそれ、今話せないなんて信用できるとでも?」
ルカ「変なことを言ってるのは重々承知だ。だけど、必ず私がオマエらを助けてやる……だから! 何があっても間違ったことを考えるんじゃねーぞ!」
ルカさんの並ならぬ気迫とその啖呵に、私たちは絶句するほかなかった。
さっきまで頭に纏わりついていた黒く澱んだものも吹き飛ばされてしまった。
今はむしろ頭が真っ白だ。
そんな真っ白な私たちを残して、ルカさんは部屋を出て行ってしまった。
残った私たちは、困惑に喚く。
甜花「ど、どうしよう……行っちゃった……けど」
甘奈「他の誰かを手にかけるなんて……想像できないし、そんなことやらないけど……ルカさんのことをどこまで信じていいのかな」
凛世「明日の夜が期限……猶予はありませんが、何かお考えがおありの様子……」
夏葉「……私は私で対策を練るわ」
樹里「つって、アンタもどうすんだよ。まさか誰かを殺すとか言い出すんじゃないよな?」
夏葉「当然よ、私たちはコロシアイには屈さない。そうなれば、エグイサルの殺戮に対抗する手段が必要になるわ」
愛依「そ、それ……【あいつらと戦う】ってこと?! いやいや、流石に無理じゃね?!」
霧子「そんな、危ないよ……大怪我じゃ済まないかもしれない……」
夏葉「無理を承知でよ。それに、抵抗しなければ待っているのは死……武器を取らず死ぬよりは、私は埃を守って戦うことを選ぶわ」
樹里「……マジか」
灯織「……私は身を隠せるところを探します。流石に戦うのはリスクが高すぎます」
真乃「ひ、灯織ちゃん……」
灯織「……私は一人になったとしても生き延びるから」
ルカさんの言葉に触発されてか、それぞれがそれぞれの方向に動き出す。
コロシアイという方向にベクトルを向けている人こそいないけど、その思惑はどれも平行線で、交わることはない。
私たちは、未曾有の危機を前にして、更にもう一度分離する形となってしまった。
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【にちかの部屋】
明日の夜までの命だって、そんな急に言われても現実味のかけらもないや。
自分の部屋に戻る足取りもなんだか妙にふわふわとしていて夢でも見ているようだった。
残りの時間、みんなはどう過ごすんだろう。
【自由行動開始】
【事件発生前最終日の自由行動です】
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…17個】
↓1
1 愛依 選択
【裏庭】
コロシアイのタイムリミットを宣告され、落ち着かない気持ちをどこにやることもできず。
ただソワソワするのを誤魔化すために、部屋の外を出てぶらついていた。
自然と足はあの、マンホールの脱出通路へと向かっていた。
何度挑戦してもクリアできそうにもなかった。
時間が経ったからどうという代物でもない。でも、コロシアイから逃げたいという弱い心が私をあの場所へと駆り立てていた。
愛依「あ、あれ……にちかちゃんも、まさかマンホールの奥にいくカンジ?」
そしてそれは、どうやら愛依さんも同じだったらしく。
にちか「あはは、すっごい奇遇……」
愛依「……やっぱ、不安だもんね。明日までって言われても実感ないし、何かやってないと気も休まらんしさ……」
にちか「……改めてこのマンホールに挑戦したところでこの先をクリアできるとは思ってないんですけどね」
愛依「それ正解だわー……はぁ、マジで萎えんね」
にちか「……下手な挑戦はよしときましょうか、体を痛めつけるだけですし」
私と愛依さんはマンホールへの挑戦を断念し、床に座り込んで話をして過ごした……
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プレゼントを渡しますか?
現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】
↓1
【ホームプラネットを渡した……】
愛依「これって室内用プラネタリウム……かな?」
にちか「みたいです。ガイドボイスはあの有名声優さんが務められてるとかで!」
愛依「有名声優って誰だろ……あ、この人うち知ってる! 弟の好きな……あの、鬼を狩る侍のアニメにも出てた人だ!」
にちか「さすが、弟さんの趣味の範囲は理解してるんですね!」
愛依「まーね、一緒によく見てるから。でも星、星かぁ~、うちあんま詳しくないんだよね」
愛依「まあちょうどいい勉強の機会かもしんないもんね! ありがと、にちかちゃん!」
(まあ、普通には喜んでくれたかな)
【NORMAL COMMUNICATION】
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愛依さんとこうして並んで話をしていると、嫌でも自覚させられることはある。
それは自らの地味さ加減。陽の光を眩いばかりに反射する艶やかな金髪、健康的な小麦色に日焼けした肌、そして何より溌溂であっけらかんとした喋り口。
曇りの日には姿が見えなくなってしまいそうな見た目をして、ネガティブとフラストレーションをないまぜにしたみたいな口調の私とはもはや対照的ともいえる。
にちか「あの、愛依さんっていつからそうなんですか?」
愛依「『そう』……? 何の話?」
にちか「いや、愛依さんっていっつも明るくて人を引き付ける空気があるっていうか……それに、ファッションとかにもかなり気を遣ってる感じじゃないですか」
にちか「まさにスクールカーストトップ、ピラミッドの先っちょみたいなイメージなんですけど……愛依さんは小さい頃からずっとそうだったんですか?」
愛依「え、そんなことないって! うちなんかどこにでもいる普通の女子高生だよ!? にちかちゃんとなんも変わらんって!」
(なんも変わらんってことはないでしょ……裏か表かぐらいには違うと思うけど)
愛依「それにうちって滅茶苦茶緊張しいだしさ……目立つのとかマジで苦手なんだよ?」
にちか「え……そうなんですか? めっちゃ意外です。もっとこう学園祭でバンドとかやったりしてるもんかと」
愛依「やんないやんない! うち、たくさんの人が見てる前でステージに上がるのとか無理系でさ~! 他の人の視線を感じるとうひゃ~!ってなってすぐ隠れたくなっちゃう」
多分嘘じゃないんだろう。
愛依さんの額にはうっすらと汗がにじんでいた。衆目を集める状況、それをイメージしただけでこれほどまでの緊張を抱いてしまうのだ。あがり症を自称するには十分すぎるほどの証拠だ。
愛依「だからアイドルの研究生とか言われちゃっても全然イメージ湧かないんだよね……むしろなんていうか……怖い?」
にちか「……怖い、ですか」
愛依「うん……ほら、アイドルになるって今まで出会ってきた人たちとは全く違う人たち。しかもこれまでとは比べ物にならないほどたくさんの人たちに見てもらうんだよ?」
愛依「したら、うちが今持ってるキンチョーの数倍、数十倍、いや数千倍はキンチョーしちゃうと思うんだよね」
愛依「そんなの……うち、一人じゃとても耐えられると思えなくてさ」
にちか「愛依さん……」
愛依「ま、アイドルになるなんてあり得ない話だけどね! どうせ今回モノクマーズが言ってるのもただのジョーダンに決まってるっしょ!」
にちか「あはは……そう、ですよね……はは……」
愛依さんは照れ隠しにわざとらしく声をあげて笑っていた。
でも、なんでだろう。愛依さんの口にした『もしも』の話がなんだか異様に寂しくて、胸に引っかかるように感じちゃったのは。
私は自分の胸のしこりに目を向けないようにして、愛想笑いを浮かべていた。
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【親愛度が上昇しました!】
【現在の愛依の親愛度…6.5】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…18個】
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【にちかの部屋】
愛依さんと別れてから一度自分の部屋に戻った。
……この学園生活の目指す先は、一応『アイドルになること』なんだよね。
その目標の指すところと重責、あんまり考えたこともなかったな。
それにしても愛依さんが上がり症、っていうのはちょっと意外だった。
愛依さんの普段の性格からすれば対照的にも感じたけど、何か理由とかあるのかな……
【自由行動開始】
【事件発生前最後の自由行動です】
1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く
3.休む(自由行動をスキップ)
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…18個】
↓1
1 愛依選択
【寄宿舎 愛依の個室】
ピンポーン
愛依「お、にちかちゃん! さっきは変な話しちゃってごめんね~?」
にちか「いえいえ! あの、むしろさっきの話……愛依さんが差し障りなければもっと詳しく伺いたいと思いまして」
愛依「え~? なんも面白い話とかないよ~?」
にちか「そんなことないです! この学園で一緒に過ごす間柄なので……相手のことが理解できるのなら、その……チャンスは逃したくないなって!」
愛依「にちかちゃん……あんがと! オッケー、それならうち腹決めて話すわ!」
愛依「とりあえず中入って! 煎茶でいい?」
にちか「え、あの、お構いなく!」
愛依「いいのいいの、気にしないで!」
愛依さんの部屋でお茶を淹れてもらった……
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プレゼントを渡しますか?
現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【占い用フラワー】
↓1
【生存フラッグを渡した……】
愛依『こ、ここまでか……なあ、悪いが俺の代わりにボスに伝えといてくれないか? こんな俺をここまで面倒見てくれてありがとう、って』
にちか「バーカ、自分の口で伝えろよ……って言いたくなりますね」
愛依「あ、これってそういうお決まりの展開的なやつ?」
にちか「ですね。いわゆる生存フラグってやつです。追い詰められてるやつが自分の死期を悟ってべらべら喋り出すとたいてい生き残りますよね~」
愛依「あー……言えてるかも」
愛依「じゃあこの旗はその願掛け的なやつなんかな……?」
にちか「ですかねー……」
(まあ、普通に喜んでくれたかな)
【NORMAL COMMUNICATION】
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愛依さんは私に湯飲みを手渡すと、どっしりと深くベッドに腰かけた。
一口お茶を口に運んでから、大きな息を吐く。
愛依「……まあ、予告した通り。なんも面白いことは無いんだけどね?」
そんな前ぶりから、愛依さんは過去を語ってくれた。
愛依「うち、小学校の時に劇やったんだ。魔法使いのおばあちゃんに着ているみすぼらしい服を綺麗なドレスに代えてもらうあの童話のやつ」
にちか「ああ……分かります」
愛依「そん時のクラスのみんながね、うちをスイセン?してくれて……うち、劇でちょ~大役任されちゃってさ。それこそ主演みたいな感じだったの」
多分愛依さんは幼少期から華々しかったんだろうし、推薦した子たちの気持ちはよくわかるな。
私だって同じクラスに愛依さんがいたら、大役は譲りたくなっちゃうと思う。
愛依「だから、うちめちゃくちゃ張り切って練習もして、家に帰ってからもお姉に読み合わせ手伝ってもらって、セリフも完璧に空で言えるようにしたんだ」
愛依「でも、いざ本番ってなったら……まるでダメだった」
にちか「え……」
愛依「うち、初めてだったんだよ。家族でもない、友達でもない……全く知らない大人たちに囲まれて何かをするっていうの。知らない大人って言っても友達のお母さんとか、地域のおばあさんとか、別の学年の先生とか、そんな人たちなんだけど」
愛依「でも、うちにはその……評価をしようって目が……怖かった」
愛依さんは肩を縮こまらせて、今まさに怯えているかのようにそう語った。
愛依「ちっちゃい頃の話をいつまで引き摺ってんだ~とはうちも思うんだけどね。なんつーかウマシカ?になっちゃってるみたいで……よくフラッシュバックすんだよね。あの時の景色」
にちか「……多分、トラウマだと思います」
私にも、愛依さんの気持ちはよくわかった。
私も小学校の演劇の時に似たようなことを感じたことがある。
それまでは自分自身がやりたいことをやって、自分が楽しければオッケーだったのに、急に他の誰かに値踏みをされるようになり、その見定めるようないやらしい温度の視線が鬱陶しく感じた。
愛依さんの場合はそれに加えて、周囲の期待があった。クラスのみんながめいさんなら大丈夫、愛依さんならやってくれると無責任に寄せた期待が両肩にのしかかり、結果としてそれを裏切ることになってしまったのも良くなかった。
誰よりも人のいい愛依さんからすれば、矢面に立って何かを為すことはその期待を裏切るトラウマが幾度となく呼び起こされてしまうのだろう。
愛依「ごめんね、やっぱあんま面白くない話だったっしょ?」
にちか「いえ、そんなことないです……聞けて良かったですよ」
愛依「またまた~、にちかちゃんは口が達者だね」
にちか「私も似たような経験ならありますし、その気持ちはよく分かります。愛依さんは……その、このトラウマを乗り越えたいって思ってるんですか?」
愛依「……」
私の問いかけに少し考えこむような動作をしてから、
愛依「わかんない!」
愛依さんはニッと笑った。
愛依「乗り越えないままに、なんとなく今日まで来ちゃったし……実際今どれぐらいの深さでトラウマなんかも分かんないしさ……」
愛依「なんか大きなきっかけでもあれば、違うとは思うんだけど」
(きっかけ……か)
でも、そうだよね。
自分の胸の痛みに向き合うのなんか、そうそうできることじゃない。
そんな『きっかけ』なんて、運命的な出会いでもなきゃ見当たらないものだ。
生憎私たちには……そんな運命は不足している。
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【親愛度が上昇しました!】
【現在の愛依の親愛度…8.0】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…19個】
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【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン…】
モノスケ『なんだかワイまでドキドキしてきたで。せっかちな性分っちゅうのはこんな時に損やな』
モノスケ『おい! 聞いとるんかザコども! キサマラがコロシアイをやらんとワイの不整脈が悪化してまうど!』
モノファニー『あぁ~! ストレスでモノキッドがまたはちみつに手を出しそうになってるわ!』
モノタロウ『画面の前のみんな! dボタンでモノキッドの飲蜜を止めるんだ!』
モノキッド『うぃ~、ひっく』
モノダム『……』
ブツン
自分の部屋に戻ってきて襲ってくる切迫感。
一分一秒と刻むたび自分の命も刻まれていく。
これまでに感じたことのない息苦しさが身を包んだ。
「……気が触れそう」
ピンポーン
そんな時にインターホンが鳴った。
(……ルカさん!)
閉塞感に風穴を開けてくれたようで、一瞬飛びつきかけたが、すぐにベッドの上に座り直した。
考えなしに開けてしまっていいのか?
命のタイムリミットが迫っているのは私だけじゃない、他のみんなだってそうなんだ。
それにモノクマに提示されているおしおき免除。
いつ誰が行動に起こしたっておかしくないんだ。
(ルカさん、なんだよね……?)
そんな私の思考を急かすようにインターホンが止むことなくなり続ける。
扉の向こうにいるのはきっとルカさんなんだろうと思うけど、そうじゃなかったら?
喉のあたりをぬるい汗が伝った。
(ええい、ままよ……!)
ガチャ
ルカ「おせーよ、もっと早く開けな。心配になんだろ」
にちか「ル、ルカさん……すみません」
ルカ「冗談だよ、こんな状況なんだし、即開けてる方がキレてた」
(どのみち嫌な顔はされてたのか……)
ルカ「にちか、夜時間だけどついてきてもらってもいいか? ちょっと……【例の場所】まで」
にちか「例の場所……」
(女子トイレ奥の隠し部屋ってことは、他の人に聞かれたくない話ってことだよね)
にちか「わ、わかりました」
ルカ「よし、それじゃあ静かにいくぞ。他の連中に見つからないように」
にちか「はい……」
私とルカさんは他の人たちの目を憚りながら、こっそりと動き出した。
------------------------------------------------
【寄宿舎前】
灯織「……! 七草さん、斑鳩さん……! どうして、こんな時間に……!?」
(し、しまった……!)
ルカ「いや、別に。ちょっと二人で夜風にあたろうと思ってよ」
灯織「……」
(いやいや……それは流石に誤魔化し方としても)
灯織「誰かに危害を加えようと言うのでなければいいです。私も夜時間外に行動している訳ですし……」
ルカ「そっちこそ何してんだよ、今日は最後の夜だぞ。しっかり寝た方がいいんじゃねーか?」
灯織「……私とて、今日を最後にするつもりはありません。私にもできることは何かあると思うので」
灯織「斑鳩さんとは違ったやり方で、私も生き延びてみせますよ」
風野さんはそれだけ言うと立ち去ってしまった。
お互い詮索するな、と言うことなんだろう。
結局あの人は最後まで他の人間と距離を取ったままだったな……
ルカ「……あいつは裏庭の方に行ったな。好都合だ。今のうちに女子トイレに行くぞ」
にちか「はい!」
------------------------------------------------
【女子トイレ奥 隠し部屋】
ルカさんに連れられて再び隠し部屋の中へ。
ここならば他の誰かに話を聞かれることもないし、介入されることもない。
秘密を共有するならこれ以上なくうってつけだ。
居心地の悪さだけを除けば。
ルカ「……」
ルカさんも横目に捉えたモノクマの頭部にはなんとなくバツの悪さを感じているようだったが、
今から口にしようと言う主題を前にすると、それも気にならなくなる様子。
私の顔をじっと見つめて、一度大きな呼吸をした。
にちか「あの、ルカさん……明日の期限までにどうにかするって言ってましたけど、それってこのモノクマを直すってことですか?」
にちか「もしかして、コードが見つかったとか……」
ルカ「……いや、そうじゃない。残念だけどコードは一本たりとて見つかっちゃいない」
にちか「……! それじゃ対抗手段って」
ルカ「ンなもんねーよ、ただあの場ではああ言っておかなきゃ、やな空気が蔓延しちまうところだったからな」
……やっぱりか。
私にもまるで心当たりがなかったし、やっぱりあの時のルカさんの啖呵はただのハッタリだったんだ。
要は結論の先送り。ただコロシアイという命題から目を背けただけなんだ。
表に出さないようにしていたつもりだったが、ルカさんは敏感に私の落胆を感じ取った。
首をぶんと横に振って、次なる言葉を拾い上げる。
ルカ「だけど、言ってしまった以上私は【責任】を取る」
にちか「責任、ですか?」
なんとなく嫌な予感がした。
子供ながらに、その言葉が付きまとうときは大抵リスクとニコイチであることを理解していたから。
ルカ「いや、元々その気……だったんだよ。私は、このコロシアイが始まってからずっとな」
にちか「ちょ、ちょっと……おっしゃる意味がわからないんですけど……」
ルカ「……前に、私の相棒の話をしたよな」
にちか「は、はい……! 研究生時代からの仲で、ユニットを組んでいて……息もピッタリだって」
ルカ「そいつは……【過去の話】だ」
にちか「……過去?」
ルカ「私とそいつはとっくに【解散してる】んだよ。私があいつについていけなかったせいでな」
にちか「……!」
伏目がちに話すその姿はなんとももの悲しげだった。
きっと彼女にとってその解散は不本意だったんだろう。
この前地下水道で私に見せた瞳の炎。その猛り具合からして、今もそれは尾を引いている。
いつかきっと戻ってみせる。
それはここを出ると言うことだけじゃなくて、ルカさんがアイドルとして実力を携えて、相棒さんの横に返り咲くと言う意味もこもっていたんだと理解した。
だけど、今のルカさんはその時とは対照的だ。ひんやりと冷え切ったようで、その瞳の奥に見えるのは……澱みばかりだ。
ルカ「もう、あいつの元には戻れない。私は」
にちか「そ、そんなのわからないじゃないですか! きっと相棒さんも待ってくれて____」
ルカ「ちげーんだよ! あいつは、あいつは……もう、事務所を移籍しちまった」
にちか「……えっ」
ルカ「もう、私が戻る場所なんて……どこにもないんだよ」
そこにあったのは初めカリスマという言葉に抱いていたイメージとはかけ離れた姿。
翼をもがれ、地面を這いつくばる鳥のように、哀れで、惨たらしい、夢の残骸。
ルカさんの表情はそれほどまでに、歪んでいた。
ルカ「悪い……こんな姿見せちまって」
にちか「……」
ルカ「だけど……これが本当の私なんだよ。カリスマなんて似合わない。未練ったらしく、醜く過去に縋るだけの弱者なんだ」
ルカ「……この学園から脱出したところで私に居場所なんてない」
にちか「そ、そんなこと……!」
ルカ「いや、そうなんだよ。私はあいつの隣にいたいからアイドルを続けてただけ……あいつとのコンビが解消になっても続けてるのはこの仕事が潰しが効かない仕事だから」
ルカ「アイドル以外の道が閉ざされてるから……続けてるだけなんだ」
にちか「……」
口をまるで挟み込めなかった。
ルカさんは私よりよっぽど大人で、よっぽど多くの経験も葛藤も味わってきている。
そんな相手に私が何を言えるというのだろう。
どうして物知り顔で誰にでも戻る場所はある、なんて言えるだろう。
こんななあなあで生きてきただけの私が、口出しする権利なんてない。
ルカ「でも、オマエたちは違う」
ルカ「オマエたちは……アイドルなんて泥濘にまだ足を踏み入れてない。まだ戻れる場所がある人間なんだよ」
ルカ「だから……こんなところで終わっちゃならねえ。こんなところで死んじゃいけねえんだ……!」
にちか「ル、ルカさん……?」
私の両肩をガシッとルカさんが掴んだ。
俯いて肩を振るわせる素振りには鬼気迫るものを感じさせる。
そんな姿を見ていると、なぜか背中を冷たいものが撫でるような気がした。
冷たくて、曲がっていて、その先端は鋭利で……
悪寒は、死神の鎌の形をしている。
「明日の夜時間までに私を殺してくれ」
「……っ?!」
鎌が背中を撫でたのは、死神がそれをルカさんに向かって振り上げたから。
私に殺してくれとせがむルカさんに、その標的が定められた。
にちか「な、何言ってるんですか?! 冗談きつすぎますってー!」
慌てて戯けるようなそぶりでそれをかき消そうとする。
でも、ルカさんは全く笑っちゃくれない。
影を落とした表情のまま、視線を合わそうともしない。
ルカ「私は……本気だよ。にちか、オマエに殺して欲しいと思ってる」
にちか「バ、バカ言わないでくださいよ! なんでそんなことを言うんですか?!」
ルカ「もうこれしか方法はないんだよ……!」
ルカ「この部屋のモノクマを直したところでどうなるかもわからない。こんなコロシアイを強制してくる首謀者と戦っても勝ち目なんかない」
ルカ「抗う術なんか、もう残っちゃねえんだよ……」
にちか「……」
ルカ「私が死ねば、全てが丸く収まる。戻る場所もない人間が、一人消えるだけで他の人間はみんな助かるんだ」
ルカ「それに、今はあの動機のことがあって学級裁判とやらで誰かが死ぬこともない」
ルカ「ノーリスクハイリターンなんだよ……」
にちか「なんで……なんで私なんですか」
ルカ「にちか……?」
にちか「ルカさんを殺すだけなら誰でもいいじゃないですか、なんで私をわざわざ……」
ルカ「違う……私は、【にちかを救いたい】んだよ」
にちか「私を……救う?」
ルカ「オマエは私を殺した上で学級裁判を勝ち抜け。そしてこの学園からさっさと出ていくんだよ、そのための協力なら惜しまない」
にちか「え? は……? ちょ……」
ルカ「……この学園に始めきた時からオマエは私のことを慕ってついてきてくれたよな」
にちか「は、はい……それはそうですけど」
ルカ「私だって人の子だ……自分のことを慕って、付き従ってくれるような相手には愛着も、情けも抱く」
ルカ「にちか……私にとって今のオマエの存在は支えで、希望なんだよ……」
にちか「……!」
私のことを、ルカさんが……?
取り柄も何もない。雑踏があればすぐに埋もれてしまう。
ミルクパズルの一ピースのように、没個性で何者でもない私の存在を、
誰よりも個性的で、他の人を惹きつけることに長けたカリスマであるルカさんが……?
ルカ「これはチャンスなんだ。自分の命と引き換えに一人だけ、コロシアイから救い出すことができるチャンス」
ルカさんからの背筋が凍るようなお願いを聞いたはずなのに、私の体は反対に火照り始めていた。
不謹慎極まりない自己肯定感が身を包み、鼓動が早くなる。
ルカ「それなら私は、にちかを選びたい。アイドルなんて泥沼に足を踏み入れていない、無垢なオマエを救ってやりたい」
でも、首を縦に振るわけには行かない。
こんな状況で、倒錯した興奮に振り回されれば、待っているのは破滅。
そんなことはわかりきっているから。
にちか「……ダメですよ、そんなの」
ルカ「……にちか、お願いだ」
______それなのに
ルカ「オマエしか、頼れないんだよ」
にちか「……っ」
「……はい」
その潤んだ瞳を前にして、言葉を飲み込むほかなかった。
私から漏れ出た返事に、ルカさんは表情をパァッと明るくする。自分の死が確定した瞬間とは思えないほどの眩さだ。
ルカ「ありがとう、これで全部解決だ。オマエラは日常へと解放される」
にちか「……」
返事をした。だけどまだ私は揺らいでいる最中だ。この話を本当に飲み込んでいいのかどうか、何度も足踏みをしている。
それでもお構いなしにルカさんは話を進めていく。
ルカ「じゃあ次は……どうやって私を殺すかの計画だけど、そっちも考えがあるんだ」
にちか「え……と」
ルカ「ここだよ。【この隠し通路を使う】んだ。ここの存在は今の所は私とにちかしか知らない。だからアリバイを確保するのに役立つはずだ」
ルカ「図書室で私を殺した後にちかが女子トイレまで逃げ込んで……それで他の奴らと合流すれば大丈夫なはずだ」
ルカ「まあ細かいところはまたじっくり詰めていこう。他の連中の動向も押さえておく必要があるからな」
にちか「……」
ルカ「にちか?」
にちか「……ああ、いえ。なんでもないです……」
ルカ「ハッ、しっかりしてくれよ。オマエが私を殺してくれなきゃ始まんないんだからな」
にちか「は……はは……」
引き攣った笑いを返しながら、私たちは来た道を引き返していく。
やっぱりこの隠し部屋は何かおかしい。底知れない悪意が渦巻いていて、私はそれに絡め取られたんだと思う。
そうでもなきゃ、飲み込める話じゃないんだから。
____あの、光の落ちたモノクマの瞳に私たちは魅入られていたんだ。
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【寄宿舎】
ルカ「それじゃ細かいのはまた明日。今日のところはしっかり休んどけ」
にちか「……」
どうして明日死ぬと決めたのに、そんなに気丈に振る舞えるのか。そう尋ねたいが言葉はぐっと飲み込んだ。
そんなの、ルカさんからの信頼を踏み躙る、冷や水をぶっかける行為だ。
にちか「はい……ルカさんも」
ルカ「ああ、これが最後の夜……だもんな。堪能するよ」
にちか「冗談になりませんって……」
ルカ「……悪いな、にちか」
にちか「いや……いいですから。おやすみなさい」
ルカ「おやすみ、にちか」
別れ際のルカさんの言葉が、耳にしばらく残響していた。
キィ……
???「……へぇ」
本日の所はここまで。
次回更新で事件発生、捜査パートへと移ります。
いよいよ物語が大きく動きますね。
次回更新は6/10(土)の21:00~を予定しています。
それではまたよろしくお願いします。
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【School Life Day6】
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【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノタロウ『キサマラおはよう! 絶望的な朝だね!』
モノファニー『キサマラおはよう! 今日の夜時間までがコロシアイのタイムリミットよ!』
モノスケ『キサマラおはようさんやで! モノキッドはもう手遅れになってもうた! キサマラのせいや!』
モノキッド『げへへ……みんな、みんなわかっちゃったもんね……』
モノキッド『このコロ■■イは二■■で前の■■残■が■加■■るんだ……げへへ』
モノタロウ『わー! ダメだよモノキッド!』
モノダム『……』
プツン
……この日が来てしまった。
コロシアイの最終期限の日。
今日の夜時間までにコロシアイが起きなければ、全員がモノクマによって殺されてしまう。
それを防ぐために、私がルカさんを殺す。
「……!」
ダダダッ
混みあげる嘔吐感にトイレに駆け込んだ。
でも、何も出てこない。
罪悪感も寂寥も、まだそれは実態を伴っていない不安でしかない。
吐き出したくても、吐き出せるものはまだ生まれてもいないのだから。
「はぁ……はぁ……」
私は、今日人を殺す。
その決心が自律神経を狂わせているのは明確だった。
「とりあえずは……行かなきゃ、だよね」
でも、崩れるわけには行かない。
ルカさんの覚悟と思い、信頼を私が踏み躙るわけには行かないんだから。
叫び出したくなる衝動を必死に無表情で塗り固めるようにして、私は食堂へと向かった。
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【食堂】
愛依「あっ、にちかちゃん! どう……眠れた?」
にちか「あー……いや、まずまずですかね……はは」
灯織「こんな状況で寝れるわけないですよ……」
甜花「甜花は夜通しゲームしてた……やり残しがないように、積みゲーをこの世に残さぬために……」
愛依「まあうちも流石に寝られなくてさ、なんか寝不足……眠たくもないんだけどさ」
他のみんなも目に見えた精神に支障をきたしていた。
目の下にはクマができ、どこかふらふらとした足取り。
自分の命にまとわりつく不安に飲み込まれて、震えている。
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノタロウ「あれ! みんななんだか元気がないよ!」
モノキッド「モノダムみたいにしけた顔してやがる! そんなに死が恐ろしいのか!?」
(……!)
樹里「恐ろしいに決まってるだろ! アタシたちにも生きてきた人生がある……それが今日終わるかもしれないって……!」
モノスケ「うーん、ザコどもはやっぱりどこまで行ってもザコども根性が染み付いとるようやな」
モノキッド「ジャスト・ビー・ハングリー! 生は自分の手で掴み取るモノなんだぜッ!」
甘奈「……それって他の誰かを殺せってことなんだよね? そんなの……出来っこないよ……」
にちか「……」
モノファニー「でもそうしてくれなきゃグロい死体を見ることになるのはアタシたちの方なのよ。こっちの身にもなって欲しいわ!」
モノタロウ「それに、キサマラがやってくれなきゃお父ちゃんに怒られちゃうんだよ!」
モノダム「……」
モノスケ「とにかく、タイムリミットは今日の夜時間までや。改めて言っておくから、肝に銘じておくんやで」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
霧子「念押し……なのかな……」
恋鐘「うちらになんとしてもコロシアイをさせたいって感じやね……そんな脅しには屈しんばい!」
恋鐘「だってうちらはエグイサルにも負けん! 【戦って打ち負かしちゃる】って決めたけんね!」
(……え?)
ルカ「そういや昨日言ってたな……本当にオマエラ、あのモノクマーズと戦う気なのかよ」
夏葉「ええ、そのつもりよ。私たちはチームを組んだ、複数人で立ち向かえば勝機はあるはず」
めぐる「それに、武器もちゃんと用意してるんだよ!」
凛世「武器、にございますか……?」
樹里「倉庫にあったスポーツ用具だよ。金属バットや砲丸、剣道の防具なんかもある。あれを使えば、抵抗ぐらいはできるはずだ」
(……)
(……そんなの、無茶だ!)
ルカ「そんなのでどうにかなる相手だと思ってんのかよ!」
円香「……同感です。あのエグイサルに人の力で抗えるとは、到底」
夏葉「だとしてもよ」
にちか「……!」
夏葉「どのみちエグイサルに虐殺されてしまうのなら、少しでも争って死にたい。争おうと立ち向かって、仲間と協力してその末に死にたい」
夏葉「たとえそれが犬死にでも……私たちは誇りあるうちに死にたいの」
恋鐘「ばってん、そうそう負けてやるつもりはなか! なんとかなるってうちは心から信じとるばい!」
ルカ「……チッ」
戦うと覚悟を決めたのは八宮さん、月岡さん、有栖川さん、西城さん、愛依さんの5人みたいだ。
私たちとは違う、覚悟を決めた表情で彼女たちは戦闘を高らかに宣言した。
樹里「それじゃあ、私たちは作戦の準備があるからよ」
夏葉「参加者は一人でも多い方がいいわ。もし私たちと共に戦う覚悟を決めてくれたら、いつでも声をかけてちょうだいね」
私たちはその背中を見送ると、ため息をつきながらお互いの顔を見合った。
残っているのは、生きるのも死ぬのもどっちつかずの人間か、死を受け入れて争うこともしない人間のいずれか。
空気が急に変わるのを肌で感じる。
甘奈「……甘奈は甜花ちゃんと一緒に、同じ部屋にいることにするよ」
甜花「うん……最後はやっぱり、なーちゃんと一緒がいい。なーちゃんを一人で死なせない……!」
透「樋口は?」
円香「別に……」
真乃「ど、どうしようかな……」
灯織「……」
霧子「どう終わるのか、私も考えなきゃだね……」
凛世「凛世も、少し整理が必要です……これまでの生き方と、その幕の下ろし方と……」
ルカ「……いくぞ」
にちか「あ、ルカさん……」
ルカさんが顎で食堂の外を指した。
昨日言っていた通り、殺害計画の大詰めをしたいんだろう。
私にそれを拒むことはできない。
ルカさんの背中を追って、私も食堂を出た。
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【女子トイレ奥 隠し部屋】
ルカ「なあ、にちか……嫌なら、断ってくれていいんだぞ」
にちか「……今更、断りませんよ」
ルカ「オマエを救いたいっていうのも、私の勝手な言い分だ。別に、オマエが嫌なら私は……」
にちか「……もう、うっさいですって! 私も決めたんです、ルカさんを殺すって!」
ルカ「……そっか」
◆
ルカ「それじゃあ、殺害計画を共有するぞ。昨日も言った通り、私を殺害した後の逃走経路にはここの隠し通路を使う」
ルカ「したがって、私を実際に殺すのは【図書室】だ。自動扉が開いている間のインターバルに包丁を私の腹に突き刺して、そのまま逃げ去れ」
ルカ「私が図書室にいた理由は……呼び出しがあったことにする。適当に手紙を偽造しておいた」
『コロシアイを終わらせる手がかりを掴んだ
誰にも伝えずに図書室に来い』
ルカ「まあ怪しいっちゃ怪しいけど……なんとかなんだろ」
ルカ「で、アリバイの確保だけど……私が聞いた限りだと、夜時間のタイムリミットを迎えるときには【モノクマと戦うグループ】と、【食堂で最後の晩餐をするグループ】と、【個室でそれぞれの時間を過ごすグループ】に分かれるみたいだ」
にちか「まあ……そんな感じでしたよね」
ルカ「にちかは【食堂組】に身を隠せ。食事の途中にトイレで抜けて、私を殺して戻ってくるんだよ」
にちか「な、なるほど……」
ルカ「隠し通路の存在は他に誰も気付いちゃいない。露見しなければアリバイが崩れることもないだろうぜ」
ルカ「凶器はこいつを使いな。昨日の夜時間の前に厨房から抜き取っておいた」
にちか「包丁……」
ルカ「まあ実行まではここに置いといていいよ。その方が安心だしな」
ルカさんは布に包んだ包丁を隠し部屋のテーブルの上に置いた。
数時間後にはあれを握って、私が突き立てる。
現実味がまるで感じられないや。
ルカ「まあ計画と言ってもこんなもんだ。学級裁判も形式上行われるがペナルティもないし、最悪バレちまってもいい」
ルカ「でも、騙し通せればオマエは晴れてこの学園から脱出できる。にちかにはそのチャンスを掴んでほしい」
そう言って、ルカさんは私の手を両手でガッチリと握った。
ルカ「……オマエ」
その瞬間、知られてしまった。
私は今この瞬間も震えている。まだ迷っている。
ルカさんの信頼の紐帯の上から、落ちないように必死にバランスを保っていることを。
にちか「ご、ごめんなさい……!」
咄嗟に謝罪の言葉が飛び出した。
ルカさんも自身を殺そうとしている相手が不安に駆られていたら不快だろう。
それに報いるためのお詫び。
ルカ「……」
私のその言葉を、ルカさんは少しじっとして噛み砕くと、頬を綻んでみせた。
ルカ「まあ……怖いよな。今までやったことがないことに飛び込むことになって、しかもそれはオマエ一人っきりでよ」
ルカ「だけど運命を切り開くのはいつもそういう無謀な挑戦だったりすんだ」
ルカ「自分の身の丈なんか気にしないでよ、遮二無二に、自分のことも顧みずにやってみるもんだ」
ルカ「それが報われることばかりじゃないかもしれないけど……少なくとも、前いた場所とは状況は変わってるはずだ」
ルカ「なんて……今から死ぬやつが言うことじゃないかもしれないけどな」
ルカさんはきっとそういう挑戦を何度も経て今ここにいるんだろう。
アイドルの研究生として夢を追い続けたこと。それを自嘲気味に話してくれたけど、私はそうじゃないと思う。
夢を追うこともせず、ただ憧れるだけで燻っていても、流れる時間には何もない。
空虚な時間の積み重なりの中で、降ってくるのは後悔ばかり。
たとえ平地から泥濘に足を踏み入れることになろうとも、私はその一歩に意味があると思いたい。
『意味がある』と言える人間になりたい。
ルカ「にちか……オマエならやれる」
にちか「……はい!」
私も、覚悟を決めなくちゃ。
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それから、夜時間のタイムリミットまではそれぞれに時間を過ごした。
やることは決まっている。
せいぜい他の人間の動向に目を配って図書室に近づけないことくらいだ。
とはいえ、元から人の出入りのほとんどない教室。
要らぬ心配だったようで、何も大きなことは起きることもなく、そのまま時間だけが過ぎていき、
あっという間に【その時】は来た。
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【食堂】
霧子「にちかちゃんは何が食べたい……?」
にちか「そ、そうですね……オムライス、とかでしょうか……」
透「こっち、モノクマの用意してるメニューもあるね。『悪天候で孫が来れなかったこどもの日風ちらし寿司』だってさ」
円香「悪趣味……なんでこんな日に気が沈んだ料理を口にしなきゃいけないの」
凛世「凛世で宜しければ、お作りいたします……」
円香「……いい、自分でやる」
霧子「あっ……でも、包丁がないみたい……」
透「そういや、戦う人たちが持ってったんだっけ」
円香「……はぁ」
最後の晩餐という割に和やかな雰囲気ではない。
関係性の構築もそれほど進んではいないんだ。
どこか殺伐とした雰囲気の中でそれぞれが人生最後のご飯を口に運ぶ。
透「んー、何してんだろ。ここにいない人たち」
円香「さあ? 戦ったり隠れたりするんじゃない? 意味ないと思うけど」
霧子「にちかちゃんは……ルカさんと一緒じゃないんだね……」
にちか「あ、はい……なんかルカさんは一人でやりたいことがあるって……」
凛世「このコロシアイを止める方法があると仰っておりましたが……」
円香「ハッタリじゃない? あの人、引っ込みがつかないところあるし」
透「……てか、もうちょいで死ぬんか」
にちか「実感ないですよねー……」
【コロシアイタイムリミットまであと1時間!】
食堂で話していると、突然に耳を劈くほどの音量で鳴り響くアナウンス。
聞いているだけで気分が悪くなりそうな、不穏な調子の音量が爆音で流れ出し、モニターには私たちにコロシアイを促すようなメッセージが流れ始めた。
円香「いよいよ、ですね」
霧子「終わっちゃうんだね……何もかも……」
凛世「……お姉さま」
(……)
そして、残り1時間となったこのタイミング……
私にとっては決行の狼煙が上がったも同義。
別行動をしているルカさんはすでに図書室に待っているはずだ。
……行くしかない。
凛世「……にちかさん?」
にちか「すみません、ちょっとお手洗い……なんだか緊張しちゃって」
霧子「うん……大丈夫? 手を貸した方がいいかな……?」
にちか「いや、大丈夫です。ちょっとそこまでなので!」
食堂からトイレまで。
早歩きをしたけどその靴音は学園中に鳴り響く音楽でかき消された。
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【女子トイレ奥 隠し部屋】
廊下には人気もなく、警戒もほとんど必要なくすんなりと入ることができた。
そのまま真っ直ぐ用具入れに進み、壁を押す。
べこっという音と共に壁は凹み、隠し通路が姿を現す。
大きく息をひとつ吐き出してから、その一歩を踏み出した。
「うぅ……」
中の薄暗さはなんとなく嫌な感じがするが、足を止めるわけにはいかない。
アリバイを確保し続けるためには、ことにそう長く時間をかけるわけにもいかないからだ。
やることをやったら即撤退。それが鉄則。
頭ではわかっているのに、足がすくむ思いだった。
今から私は人を殺す。
自分の手で、命を奪う。
そのことが何度も脳を行ったり来たりして、その度に吐いてしまいたくなる。
今すぐ壁に手をついて泣き崩れてしまいたい。
全部全部、自分の手で台無しにしてしまいたい。
でも、そんなこと許さない。
ルカさんが唯一希望を託してくれたのは私なのだから、私が諦めてしまうことはルカさんの希望を閉ざすことにも繋がる。
この一歩は、ルカさんのための一歩。
この命はルカさんのための命。
だから私は、無理やりに体を引きずりながら、机の上の包丁を手に取った。
その向こうで低く唸る音がした後、扉はゆっくりと開いた。
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【B1F 図書室】
「よお」
待ち構えていたルカさんは、退屈凌ぎに持っていた本を適当にその場に放ると、スタスタとこちらに歩いてくる。
「ほら」
両手を開いて、私を抱き込むような形をとった。
無防備に向けられた腹には、すでに包丁の先端が触れている。
「早く」
喉が揺れて、ぬるい息が漏れる。
脳の後ろが熱く、目が張った。
視界の先にある包丁の先端には神経が結集していくようで、柔肌に触れるそれから目が離せなくなる。
「にちか!」
______つぷ。
肌を引き裂く感触はそんな感じ。
パンパンに水を入れたポリ袋には鉛筆を刺してもそう簡単には弾けない。
多分それと同じなんだろう。包丁が破った腹から割って出ようとする血流を刃自身が受け止めて、音にならない水音がした。
「いいぞ……そのまま、もっと奥」
私は思考を隅にやった。
目の前で起きていることを認識して処理すればきっと止まってしまうだろうから。
心地の良いその指示に身を委ね、体重を預けた。
ずずと肉を裂き進む刃には左右からそれを押しつぶそうという力が加わった。
真っ直ぐに進もうとすると、その力で何度か詰まりかける。
「まだだ……まだ……!」
ずぶぶぶぶ……
肉を割く感触は大量の水をかき分けるような感触がする。
繊維と血液に押し戻されるのに抗いながら、奥へ奥へと突き進む。
親指が痛いと思ったら、自分の人差し指が食い込んでいた。
包丁の柄までを押し込んでしまおうと込める力が分散して、私自身の体にもその爪痕を残す。
「……ぷ」
異音がして顔を上げる。
私を抱き込むような体制をとっていたルカさんの顔は見違えたように血色が悪くなり、
その口元には赤黒い液体が溢れ出しそうになっている。
そこでやっと自我が帰ってきた。
「わ、わあああ……!!」
思わず包丁を手放して、後ずさった。
ゴンという音とともに本棚に後頭部を打ち付ける。
隠し通路から出てきてからまだ十数秒の出来事。
本棚は元の位置には戻っていない。
その鈍い痛みが、俄かに冷静さを引き戻してくれた。
「あ、あぐ……」
喘ぎ、身を捩りながら崩れ落ちていくルカさん。
その姿はこれまでの学園生活で見たどの姿よりも哀れで弱々しく、踏み潰せてしまいそうなほどだった。
「行け……! 早く……!」
雑巾みたいになったルカさんは、震える手で私の後ろを指差した。
脳がチカチカする。義務の前に自分の手で引き起こした事象が立ち塞がってショート寸前。
ここまで来てなお、足が動こうとはしなかった。
ああ、やばい。
終わる……ぜんぶ、ぜんぶ終わる……
私という人間のぜんぶ。
ルカさんに委ねられた希望のぜんぶ。
今までと、これからのぜんぶ。
「にちか!」
血反吐を吐きながらの絶叫は、金切り声に近かった。
「頼む!」
キィンと脳に響いた絶叫が、シナプスの中を乱反射して、やっと私を動かした。
遅すぎる覚悟を決めた私は踵を返して、扉をくぐる。
少し時間をかけた。早く戻ってアリバイを確保しなきゃ。
上がる呼吸が、自分の靴音を掻き消していた。
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【女子トイレ】
手に付着した血液を流し落とす最中、ふと鏡を見た。
ひどい顔をしている。
まるでマラソンを走り終えた時のような、もう出し切ったという表情。
気力というものがてんで抜けてしまっている。
手のひらに水を汲んで、ピシャリとそれを顔面に叩きつける。
冷ややかな水に、あの時の感触が混ざる。
気つけとしてはこれ以上ない。戒めとしては最悪。
あの時視界の隅に入れていた血溜まりを頭から被ったような気持ちになって、胸が苦しくなった。
罪と焦りをハンカチで拭いながら、女子トイレを後にした。
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【食堂】
円香「……おかえり、大丈夫?」
食堂に戻ると、心配そうな表情で樋口さんが迎えてくれた。
少し時間をかけ過ぎてしまったようだ。
にちか「やっぱり、ちょっと怖くて……緊張、なんですかね?」
適当な言い訳で誤魔化して、そのまま席についた。
大丈夫だ。何も失敗はしてない。
現場には私に通じる証拠は何も落としちゃいないし、ルカさんの血に塗れた手は綺麗に水で洗った。
誰も今の私を見て殺人犯だとは思わない……はず。
凛世「……」
霧子「……」
透「……」
そんなことは分かっているのに、心はお構いなしに騒ぎ出す。
もしかして、見落とした血が付着しているのではないか。
もしかして、変なことを口走ってしまったのではないか。
もしかして、ルカさんが本当は裏切ってはいないか。
考えても仕方がないことで脳が埋め尽くされ、胸も詰まる。
食事なんて全く喉を通らなかった。
円香「……あと30分、切ったみたいだけど」
時計を見ると、午後9時30分を過ぎていた。
まだ例のうるさい音楽は鳴り響き続けている。
どうやら、ただ殺すだけでは条件を満たしていないらしい。
死体が発見されるところまで含めた制限時間……なのだろうか。
(図書室に行くように促す……? いや、でもな……)
余計な発言をすれば裁判の時に疑われてしまうかもしれない。
中々行動に移せず、焦燥ばかりが募っていたその頃。
【ピンポンパンポーン……】
にちか「な、何?!」
霧子「あっ……モニター……何か出てきたよ……!」
幽谷さんが指差した先。
先程までコロシアイを促す悪趣味な映像が流れていたモニターには、モノクマだけが映っていた。
『来た! ついに来た! 死体が発見されましたよ〜!』
『いや〜、まさか本当にコロシアイが起きないんじゃないかとヤキモキしたけどオマエラを信じて正解だったよ〜!』
『死体発見現場の地下図書室までオマエラお集まりください! モノクマからお話がございます!』
……来た。
ついにルカさんの死体が見つかったんだ。
凛世「い、今のアナウンスは……」
透「起きちゃったんだ……コロシアイ」
円香「……こういう時、どういう反応をすればいいのやら」
霧子「円香ちゃん……?」
円香「誰かが死んだ……それによって私たちは生き永らえた……」
円香「……複雑ですね」
(……)
にちか「と、とりあえず……図書室に行ってみますか? モノクマの指示に従わないと何をされるかわからないですし……」
透「ん……そうしよっか」
私たちはそのまま食堂に居合わせたメンバーで図書室へと向かうことにした。
私以外のみんなは何が起きているのかわからないと言った様子だ。
怪しまれないように、心臓の鼓動を必死に右手で押さえつけた。
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【1F階段前廊下】
あさひ「あ、みんなも今のアナウンス聞いたっすか?」
にちか「せ、芹沢さん……」
地下へと降りる階段の手前で、教室からひょっこり芹沢さんが姿を表した。
死ぬまで後1時間だというのに、こんなところで一人でいたなんて、やっぱり変わった子だ。
円香「一緒に来る? 行くところはどうせ一緒でしょ」
あさひ「はいっす。事件が起きちゃったみたいっすからね」
凛世「……一体、どなたが亡くなられたのでしょう」
霧子「心配だね……」
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【地下】
階段を降りると、すでに図書室の扉が開け放たれているのが目に入った。
中から話し声も聞こえてくる。
すでに騒ぎは起きているようだ。
透「急ご……もう逃げられないんだし」
にちか「は、はい……」
あさひ「一体何が起きてるんっすかね……」
その答えを、私だけは知っている。
私自身が自分の手で引き起こしたのだから。
だから、その分かりきっている光景を演技を持って受け止めなければならない。
覚悟を決めろ。
ここから先は、進むも地獄、引くも地獄。
誰一人として味方はいないんだ。
にちか「行きましょう」
先陣を切って、図書室の中に踏み込んだ。
______ああ、やっぱり
【包丁が腹部に深々と突き刺さり、ルカさんは本棚にもたれかかるように息絶えていた】
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CHAPTER 01
ガールビフールフールガールズ
非日常編
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テレビで見る殺人事件の報道を、どこか別の世界の話としてみていた。
ドラマとか漫画とか、そういう作り物の世界と同じ次元に見て、犯人は何を考えてたのかなとか、どんな手口を使ったのかなとかむしろエンタメとしてみていた節すらある。
___それがまさか、自分が【犯人】として当事者になるなんて。
「……ルカさん」
口から溢れでる言葉を必死に篩にかける。
犯人として口にしていい言葉はなんだ。
事件に巻き込まれた、潔白な人間が口にすべき言葉とはなんだ。
疑われないための正しい答えはなんだ。
そんな考えたこともない無限の問いかけを、何度も何度も繰り返していた。
愛依「にちかちゃん……だいじょぶ?」
にちか「め、愛依さん……」
凛世「この中で一番ルカさんと行動を共にしていたのはにちかさんです……ご無理なさらないように……」
にちか「あ、ありがとうございます……」
まさか私が犯人ともつい知らず、他の人たちは私を労ってくれた。
彼女たちの言葉に甘える形で、離れたところに座り込む。
(……怖い)
体育座りで伏せる目。その先には赤に沈むルカさんの姿がある。
瞼は閉じているけれど、どんな瞳でこちらを見ているのだろうか。
【おはっくま~~~~~!!!!!】
モノタロウ「うわー! し、死んでるー!」
モノファニー「う、うう……でろでろでろでろでろでろ」
モノスケ「ついに始まりおったで……コロシアイが始まりおった……!」
モノキッド「血で血を洗う惨劇の幕が上がったなッ!」
モノダム「……」
モノクマ「うぷぷぷ……いや〜、ハラハラしたね! 制限時間ギリギリまで事件が起きないんだもん!」
モノクマ「オマエラ集団自殺志願者かよ! ヌートリアかってんだ!」
樹里「テメェ……」
モノスケ「それよりお父やん見てや! ちゃんとした死体が出たで! 血もドロドロ出とる!」
モノタロウ「お父ちゃん、こいつを見てくれ……こいつを、どう思う?」
モノクマ「すごく……グロいです……」
モノファニー「でろでろでろでろでろ」
めぐる「もう! 話が進まないよー!」
灯織「こうして殺人事件が起きたということは……あなた方の言っていた学級裁判が行われるということでいいんですね?」
モノクマ「うん、お弁当にパスタが欠かせないのと同じくらいコロシアイに学級裁判は不可欠だからね!」
甜花「ハンバーグの油を受け止めるぐらいの立ち位置なんだ……」
モノクマ「学級裁判ではオマエラの中に紛れた犯人、クロを探して議論をしてもらうわけだけど……」
モノクマ「正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき、不正解ならばそれ以外のシロ全員がおしおきで、クロは卒業してこの学園を出ていくことができるんだ!」
モノスケ「でも、今回の事件についてだけは動機によっておしおきの免除が決まっとるからな」
モノタロウ「あれ? そうだったっけ?」
モノファニー「そうよ、グロいパートがカットになるのよ!」
モノクマ「つまり、今回はオマエラ全員ノーリスクで学級裁判に挑めるってことだからさ!」
モノクマ「全然気軽に挑戦してくれちゃって大丈夫だから! ボクの胸を借りるつもりでおいでよ!」
モノキッド「羨ましいッ! ミーたちもお父ちゃんの頼り甲斐ある胸に抱かれたいッ!」
(ノーリスクの挑戦……そう、だからこそルカさんは私にこのチャンスを託してくれた)
(ここで騙し切れば、私は他の誰かの命を奪うこともなく学園から脱出できる)
(絶対に、バレるわけにはいかないんだ……!)
真乃「で、でも……そんな、犯人を当てるなんて……今までに経験もないですし……」
甘奈「うん……どうやってやればいいのかサッパリだよ……」
モノクマ「うんうん、そういうだろうと思ってたよ。なんだってスマホを叩けば情報が得られるこの時代に、足で情報を稼ぐなんて経験もないでしょう!」
モノクマ「ならば! 指だけで情報を得られる機会をご用意いたしました!」
モノファニー「はい、モノクマファイルを用意したわ。一人一個あるから押さず慌てず受け取ってちょうだいね」
モノファニーは一人一人に一枚のタブレットを手渡していった。
指を画面に沿わせるとすぐに起動して、仰々しいフォントで情報が並んだ。
『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』
モノタロウ「死体に触らなくてもいいように、オイラたちで検証した情報がまとめてあるんだよ!」
透「まあ、でも……見たまんま?」
甜花「あんまり、新しい情報はないかも……」
モノダム「……」
モノクマ「まあそれは始まりの証拠だからさ。冒険におけるひのきの棒、就活におけるリクルートシート!」
モノクマ「それを最初のステップにして捜査を進めてちょうだいね!」
(……捜査、か)
(本来なら犯人特定につながる証拠を探すのが目的なんだろうけど、私の場合は逆だな)
(私へと繋がりそうな証拠はいち早く私自身で見つけて、隠滅しないと……)
モノクマ「それじゃあ暫くしたらまたアナウンスをするので、それまで捜査頑張ってね〜!」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
モノクマたちが姿を消すと、私たちは互いに顔を見合わせた。
この中に犯人がいるという事実を受け止めるための時間もなく、学級裁判という未知に挑まねばならない。
これで不安にならないほうが無理な話だ。
愛依「これ、やんなきゃいけないん……だよね?」
円香「今回に限りは犯人の特定をせずとも、私たちが命を落とすことはなさそうですが」
夏葉「いえ……犯人はしっかりと見つけ出しましょう」
夏葉「私たちを欺き、裏切ろうとした人間の悪意に屈するわけにはいかないわ」
(……酷い言われようだな)
灯織「……実際、モノクマの言う通りだと思います」
灯織「今回のコロシアイはチュートリアル。クロにもシロにもリスクのない学級裁判……このシステムに慣れる上ではうってつけです」
灯織「今後のことを考えても、この学級裁判はしっかりと成功させておくべきだと思います」
恋鐘「ばってん、どがんすればよかやろ……?」
霧子「とにかく、捜査をしなくちゃいけないよね……このモノクマファイルだけじゃ、犯人はわからないから……」
樹里「だな……だとすると……二人組で行動するか?」
凛世「二人組、にございますか……?」
樹里「ああ、この中に犯人がいることは確かなんだ。だとしたら、その犯人は現場を荒らそうとするかもしれない」
(……)
透「それを防ぐための監視役ってわけか」
夏葉「ええ、そうしましょう」
(困ったな……不審な行動をすると怪しまれちゃうかも)
(いや、大丈夫……証拠らしい証拠なんて残ってないはずなんだから)
灯織「……七草さん、わたしと一緒に捜査してもらってもいいですか?」
にちか「……! か、風野さん?」
灯織「特に……組む相手がいないので」
(ああ……私にもルカさんがいないから声をかけたのか)
(……まあ、いいか)
にちか「分かりました、よろしくお願いします」
(風野さんには悪いけど……あなたを騙すことができれば、勝利に一歩繋がる)
(……協力はできないからね)
【捜査開始】
灯織「まずは改めてモノクマファイルの情報を確認しましょうか」
にちか「そうですね……」
『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』
にちか「本当についさっきの出来事だったんですね」
灯織「はい。コロシアイの期限まで1時間を切ったタイミングであの奇妙な音楽が鳴り始めて……そこから30分程度あとの出来事だったみたいです」
にちか「そして死因はお腹に刺さった包丁……」
灯織「だいぶ深くまで刺さってますね……出血量も多そうですし……」
灯織「でも、死因的に即死ではなかったはずですね。刺されてからもしばらく動く余地はあったかもしれません」
にちか「……」
灯織「……七草さん?」
にちか「あ、いえ……なんでも」
(ルカさん……私が刺した後もしばらく意識はあったんだよね……)
(何、思ってたんだろ……)
コトダマゲット!【モノクマファイル1】
〔『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』〕
にちか「どうします? 捜査……何をすべきですかねー?」
灯織「そうですね……手前味噌ですが、まずはアリバイの確認から行うべきかと。犯行時刻にはいくつかのグループに分かれて行動していたと記憶しています」
灯織「現場の図書館の捜査はやっぱり最低限必要ですね。斑鳩さんの死体付近だけでなく、満遍なく行いたいです」
灯織「あとは……凶器の出どころの確認でしょうか? あの包丁……おそらく厨房にあったモノだとは思いますが」
(下手に目の前で隠蔽工作なんてするわけにはいかない……)
(私以外がどんな情報をつかんだのかをしっかりと把握して、対抗策を考えるんだ……!)
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1.死体周辺を調べる
2.夏葉に聞き込み
3.円香に聞き込み
4.甘奈に聞き込み
5.あさひに聞き込み
6.本棚を調べる
↓1
3 選択
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【円香に聞き込み】
にちか「あの、樋口さん……私たちのアリバイについて風野さんに説明してあげてほしいんですけど」
灯織「七草さんと樋口さんは一緒に行動していらっしゃったんですか?」
円香「というより同じ場所に居合わせてた感じ。残り時間も僅かでやることもないし……最後の晩餐気分で食堂にいたの」
透「私と凛世ちゃん、霧子ちゃん、あと真乃ちゃんもいたよ」
にちか「ですです! 事件の時もだいたいずっと一緒でしたよね!」
円香「そうだね、にちかが一回トイレに離れたけど……それぐらいだし。それもそこまで長い時間じゃなかった気がする」
にちか「やっぱりタイムリミットが近くて緊張しちゃって……」
灯織「……なるほど」
透「他に目立った動きもなかったよね? 多分」
円香「だと思う。死体発見アナウンスが流れてからは食堂のメンツ全員揃って現場に行ったし」
灯織「ありがとうございます。整理できました」
灯織「ちなみに、その最後の晩餐っていうのは何を召し上がっていたんですか?」
円香「忘れた」
灯織「え?」
にちか「なんか悪趣味な名前でしたよね……」
【おはっくま~~!!】
モノタロウ「『悪天候で孫が来れなかったこどもの日風ちらし寿司』だよ!」
灯織「えぇ……?」
モノスケ「椎茸の萎び具合がおばあの気落ち具合を巧みに表現しとるんやで! よう塩気の効いたちらしずしやったろ!」
モノタロウ「オイラたちが腕によりをかけて作ったんだ! ねえねえ、美味しかった? 美味しかった?」
円香「……とても、味わう余裕なんてない状況だった」
モノタロウ「しょんぼり……」
モノスケ「ぼりしょん……」
【ばーいくま~~!!】
にちか「……らしいです」
灯織「よくわかりました……」
コトダマゲット!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。
うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。〕
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1.死体周辺を調べる
2.夏葉に聞き込み
3.甘奈に聞き込み
4.あさひに聞き込み
5.本棚を調べる
↓1
2 選択
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【夏葉に聞き込み】
にちか「あの、すみません……有栖川さん!」
夏葉「あら、どうしたの? 捜査は順調かしら」
灯織「いえ……まだおぼつかない事ばかりで」
にちか「事件当時のアリバイを聞きたいんですけど……モノクマに反抗を決めたグループって有栖川さんの他にはどなたがいたんですかね?」
夏葉「ええ、私、めぐる、恋鐘、樹里、愛依の五人ね。この五人で事件が起きた時も一緒に行動していたわ」
灯織「事件当時は……どこに?」
夏葉「この図書室の隣の【ゲームルーム】よ。あそこに武器を集めて決起集会をしていたの」
夏葉「確かあの音楽が鳴り始める少し前……8時半ぐらいから私は準備をし始めて」
夏葉「9時15分には他の四人も集まっていたはずよ」
灯織「事件が起きたより後に合流した方はいなかったんですね」
夏葉「ええ……そうなるわね」
夏葉「……いや、ちょっと待ってちょうだい。途中で【愛依はしばらく抜けていたタイミングがあった】はず」
にちか「……! 愛依さんが?」
夏葉「そう、確かあさひを一人にしておくのは忍びないから探してくると言って……でも、結局戻ってきた時も一人だったわね。どうやら見つけられなかったみたい」
灯織「それ、いつ頃の話だったかは分かりますか?」
夏葉「ええ……多分9時20分すぎぐらいから15分前後よ」
(事件の発生時刻と重なってる……)
(これは利用できるかもしれないな)
コトダマアップデート!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。
うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している
うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。〕
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1.死体周辺を調べる
2.甘奈に聞き込み
3.あさひに聞き込み
4.本棚を調べる
↓1
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【あさひに聞き込み】
他の人たちより一際目立って捜査に熱中している様子の少女が一人。
手には何やらインスタントカメラのようなものが握られて、現場を歩き回っては写真の撮影を繰り返している。
それについて回る愛依さんはあたふたしてばかり。
にちか「あ、あの……芹沢さん、ちょっといい?」
あさひ「……」
愛依「あさひちゃん、あさひちゃん! なんかお話あるみたいだけど?!」
あさひ「……? なんっすか?」
この子には個人的に聞きたいことがある。
この子も風野さんたちと同様に事件当時に単独行動をしていた人間ではあるが、私たちはその姿を死体発見の直前に目撃している。
死体発見アナウンスが鳴る直前、ひょっこり近くの教室から姿を現した彼女のことが、妙に気に掛かっていた。
にちか「今さ、みんなにアリバイを聞いて回ってるんだけど……事件が起きた時、芹沢さんは何してた?」
あさひ「何してた……っすか?」
あさひ「……」
あさひ「何してたんっすかね……?」
灯織「え……?」
あさひ「別に何かしようと思ってた訳じゃないんっすよ。ただ後1時間で時間切れだし、死んじゃうし……死んだ後ってどうなるのかなって考えてたんっすよ」
あさひ「だから、何にもしてないっす」
にちか「は、はぁ……」
愛依「ムツカシーこと考えてたんだね、あさひちゃん! ところで、それ……いつからどこで考えてた系?」
あさひ「えっと……あのうるさい音楽が流れてくるよりも前っすね。地下に降りる階段近くの教室で考えてたっす」
あさひ「しばらく考えてたら【廊下を夏葉さんたちが通って地下に行くのが見えた】っす」
愛依「え、そーなん? うちらの姿見てたカンジ?」
あさひ「そうっす。夏葉さん、樹里ちゃん、恋鐘ちゃん、めぐるちゃん、愛依ちゃんの姿は見たっすよ」
(モノクマと戦うことを選んだ人たちか……)
あさひ「それも気になったから、そこからはずっと廊下を見てたっすよ」
にちか「え? ずっと? 死体発見まで?」
あさひ「はいっす。まあ途中よそ見したとかはあったかもしれないっすけど……基本はずっと見てたと思うっす」
あさひ「でも【そこから他に通った人はいなかった】っすね。地下に行く人も、地下から出てきた人もいないっす」
灯織「なるほど……そうなると地下に行けたのはその五人に限られるんだ」
これは相当強い目撃証言だな……
芹沢さんが教室にいたこと自体は食堂組が裏付けている事実でもあるし、妥当性が高い。
この情報がかなりネックになるのかも……!
コトダマアップデート!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。
うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。
うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している。
うち単独行動をしていたグループは灯織、甘奈、甜花、あさひの四人。あさひは地下に向かう階段近くの教室にそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。〕
コトダマゲット!【あさひの証言】
〔あさひはコロシアイ促進BGMが流れ出す前から地下に向かう階段近くにおり、ずっと廊下の様子を見ていた。めぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依が階段を降りていく他には廊下を行き来する人は目撃していないらしい〕
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1.死体周辺を調べる
2.甘奈に聞き込み
3.本棚を調べる
↓1
2 選択
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【甘奈に聞き込み】
灯織「えっと……大崎……さん、ちょっといいですか?」
甘奈「あっ……えっと、お姉ちゃんが甜花ちゃんで、甘奈が妹の甘奈だよ。下の名前で呼んでくれて大丈夫!」
灯織「あっ……ええ……」
甘奈「灯織ちゃん……?」
灯織「……あ、甘奈……さん、事件当時のアリバイをお聞きしても」
甘奈「もー、さん付なんていらないって! 甘奈で呼んでくれていいんだよ?」
(眩しい人だな……)
甜花「な、なーちゃん……」
甘奈「あっ、そうだ……アリバイだよね? うーん……でも事件の時って確か……」
甜花「甜花となーちゃんはずっと……【なーちゃんの部屋で一緒にいた】だけだから……」
にちか「寄宿舎の個室の中です?」
甜花「うん……朝から、殆ど出てない……」
にちか「うーん……二人でいた、ですか」
甘奈「甜花ちゃんはお部屋から全く出てないよ! 甘奈が証人になれるし……!」
甜花「な、なーちゃんも一歩も出てない……!」
灯織「相互の証言があるならひとまず信用していいんですかね……?」
にちか「ですかねー……でも、姉妹だしなー、庇うとかあるかも……」
甘奈「そ、そんなんじゃないよ!」
(まあ、アリバイがあってもなくても……行き着くところは私が一番よく知ってるんだけどね)
にちか「そういえば、風野さんも事件当時のアリバイ聞いてもいいです?」
にちか「大崎さんたちと同じで、単独行動してたんですよね?」
灯織「あっ……はい……私はモノクマたちから身を隠そうと裏庭のマンホールの中にこもってました」
(何やってんだこの人……)
灯織「少しでも生き残れる可能性を増やそうとしてたんですが……梯子に捕まってる間に死体発見アナウンスが鳴って、慌てて駆けつけたんです」
にちか「まあ……アリバイはなしって事ですね」
灯織「う、うぅ……」
コトダマアップデート!【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。
うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。
うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している。
うち単独行動をしていたグループは灯織、甘奈、甜花、あさひの四人。甘奈と甜花は甘奈の個室、灯織は裏庭のマンホールにそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。あさひは地下に向かう階段近くの教室にそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。〕
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1.死体周辺を調べる
2.本棚を調べる
↓1
少しキリが悪いですが、死体周辺を調べ始めると少し長くなるので本日はここまでで。
いよいよ事件発生までお話を進めることができました。
また明日、捜査パートの続きから再開いたします。
それではありがとうございました。またよろしくお願いします。
1 選択
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【死体周辺を調べる】
……ルカさん。
最後に私が見た、殺す瞬間のあの時の姿のままに目の前に寝そべっている。
腹から漏れ出た血に頬をつけ、くの字に体を折り曲げている様子には、苦悶の言葉を用いざるを得ない。
灯織「相当……辛い思いをされたんでしょうね」
そうだと思う。
殴打や絞殺とは訳が違う。
体を刃が貫く痛みと、漏れ出る血液でどんどん体の循環が止まっていくその感覚を味わいながら死んでいく苦しみは想像を絶する。
それを与えたのは、私。
にちか「……」
灯織「あの、辛ければ私が代わりに調べます」
にちか「いや、大丈夫です……やります。私がやらなきゃ、ダメなんです」
灯織「七草さん……」
だからこそ、私は戦い抜かなくちゃいけない。
ルカさんの苦痛の先には、私を想う気持ちがあった。
私はなんとしてもそれに報いる義務があるんだ。
1.死体に刺さっている包丁を調べる
2.死体の持ち主を調べる
3.血痕を調べる
4.死体周辺の床を調べる
↓1
1 選択
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【包丁】
お腹に突き刺さっている包丁は、もともとルカさんが用意したものだ。
私に殺害を頼んできた時には、既に隠し部屋に置いてあった。
つまりは……【昨日の昼の間に】ルカさんが厨房から持ち出したものになるのだ。
灯織「確か、有栖川さんたちがモノクマと戦うために集めていた武器に包丁もありましたよね?」
にちか「ああ……そういえば……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
透「こっち、モノクマの用意してるメニューもあるね。『悪天候で孫が来れなかったこどもの日風ちらし寿司』だってさ」
円香「悪趣味……なんでこんな日に気が沈んだ料理を口にしなきゃいけないの」
凛世「凛世で宜しければ、お作りいたします……」
円香「……いい、自分でやる」
霧子「あっ……でも、包丁がないみたい……」
透「そういや、戦う人たちが持ってったんだっけ」
円香「……はぁ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
にちか「食堂から厨房が根こそぎ消えてましたねー」
灯織「犯人はその集めた包丁の中から凶器として用いたんでしょうか?」
にちか「……」
灯織「それとも、有栖川さんたちが集めるよりも先に包丁を持ち出していた……?」
(……これは私にとって不利な情報になり得るな)
(一度ちゃんと確認して、包丁がいつまで揃っていたのか把握している人間はいないか確かめておこう)
コトダマゲット!【凶器の包丁】
〔包丁は事件発生前日段階でルカが厨房から持ち出したもの〕
1.死体の持ち物を調べる
2.血痕を調べる
3.死体周辺の床を調べる
↓1
2 選択
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【血痕】
図書室の床に滲み出ている血液はルカさんの命の証。
殺害した瞬間にはそれどころじゃなくて気づいていなかったけど、かなりの出血量だ。
灯織「……凄惨ですね」
にちか「……」
流石に言葉が出てこない。
自分がこれをやったんだと言うことを思うと膝から崩れ落ちそうだ。
灯織「血痕は死体周辺で固まっていますし、死体を引きずったり移動した痕跡はないですね」
そりゃそうだ。私はルカさんを刺してすぐに逃走したんだから、そんな証拠はあるはずがない。
灯織「……おや?」
にちか「ど、どうかしましたか?」
灯織「ああいえ……気にするほどでもないのかもしれないんですが、犯人が刺した時に飛沫が立ったんでしょうか? この辺り……少し散っているような……」
風野さんが指差したあたりを見てみると、確かに指摘通り血溜まりとは別に血が点々としている部分がある。
刺した後、ちゃんと見ずに逃げたのでその時に見逃してしまっていたんだろう。
にちか「た、多分それですね……犯人が刺した瞬間の飛沫じゃないですか?!」
灯織「だとしたら犯人は返り血を浴びたことになりそうですね……」
(……大丈夫だよね? 私の服に着いてたりしないよね?)
灯織「……」
大丈夫だ……特に私にとって不利になる証拠ではないはず。
一応、反論できるように記憶だけしておこうかな。
コトダマゲット!【血飛沫の血痕】
〔死体周辺の血溜まりとは別に、飛沫が散ったような血痕がある〕
1.死体の持ち物を調べる
2.死体周辺の床を調べる
↓1
2 選択
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【死体周辺の床】
ルカさんが身を埋めている床には随分と埃が溜まっている。
生きた状態で寝そべっていたら、多分にこれを吸い込んでしまうことだろう。きっと肺にも良くない。
……ルカさんは息をしていないのでどうということはないだろうけど。
灯織「やはり建造物というものは人が利用するか否かでだいぶん表情が変わりますね」
にちか「扉の開け閉めで起きる気流ってだけでも変わるって言いますもんね」
にちか「もう廃墟かってレベルの埃ですよ……」
そんなことをぶつくさ言いながらあたりの床を見ていると、あることに気づいた。
ルカさんの死体がもたれかかっている周辺はまだしも、その手前。ちょうど隠し通路があったあたりの床は……【埃が少ない】。
(……これ!)
私とルカさんが何度か隠し通路を使って出入りを繰り返したからだ。
その度にこの辺りの埃が浮き上がって、避けられてしまったんだ。
灯織「はぁ……今度掃除道具でも持ってきましょうか……」
この情報は黙っておこう……。
表に出すべきじゃない。
コトダマゲット!【床の埃】
〔図書室は利用者が少なかった影響で全体的に床に埃が溜まっている。その一方で、ルカとにちかが出入りを繰り返した隠し通路周辺の埃は少なくなってしまっている〕
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【最後の選択肢になったので自動進行します】
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【死体の持ち物】
灯織「何か手掛かりになるようなものを持ってはいないでしょうか……」
そう言うと風野さんは徐にしゃがみ込み、ルカさんの懐を弄り始めた。
この人、人との距離感には慎重になるくせに、急に踏み込んだ真似をするところがあるな……
灯織「……あれ?」
にちか「何かありました?」
灯織「は、はい……何か紙を持っていたようで」
風野さんが私の前で広げた紙には既視感があった。
昨日隠し部屋でルカさんが得意げに見せていた、例の捏造の手紙だ。
『コロシアイを終わらせる手がかりを掴んだ
誰にも伝えずに図書室に来い』
灯織「これを見るに……斑鳩さんは何者かの呼び出しを受けていたようですね」
随分とお粗末な出来だと昨日も思ったけど、風野さんはまるで疑う様子もない。
そりゃそうか、こんな状況で出てくるものがまさか被害者本人の自作とは思うまい。
ここは乗っておくことにしよう。
にちか「あー! 道理で……! なんでルカさん図書室なんかに、って思ってたんですよ……!」
灯織「疑問が一つ解けましたね……この事件はどうやら計画的なものだったようです」
(よしよし……信じ込んでくれたみたいだ)
この手紙はルカさんが私のために残してくれた武器の一つ。
大切に使わないとね。
コトダマゲット!【ルカの持っていた手紙】
〔ルカが事件前に自作した手紙。ルカは事件当時、図書室に一人で来るように要求されていたことになっている。〕
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【最後の選択肢になったので自動進行します】
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【本棚を調べる】
図書室なんだから当然ではあるんだけども、こう見上げるほどの高さのものが私たちを取り囲むように並んでいると流石に圧巻だ。
私みたいに活字が苦手な人間からすれば、ここにいるだけで息が詰まりそう。
灯織「現場で何か気になるものはないか一応一通り見ておきましょうか」
にちか「……! そ、そうですね」
まずいかも。
下手に調べさせて、風野さんが隠し部屋への入り口を見つけるようなことがあれば一気に私にとって不利になっちゃう。
ここは私が奥側の本棚を自主的に調べることでなんとかバレないように取り繕っておくべきだ。
にちか「私、死体に近い奥側の本棚を見てみますから……風野さんは正面入り口に近いところの本棚見てもらってもいいです?」
灯織「え? ああ、はい……わかりました」
とにかく近づけさせない、それが鉄則だ。
それから暫く各々が本棚を調べる時間があって……
肩を落とした様子で風野さんが戻ってきた。
灯織「特に手掛かりになりそうなものはありませんでしたね……」
にちか「ですね……」
まあ、犯行外でもここの本棚は殆ど触ったことがない。
私に繋がるものなんて何も残っちゃいないだろう。
灯織「うーん……図書室の犯行に何か意味があるかと思ったんですが……」
にちか「……あれ?」
ただ、少しだけ私には【気になること】があった。
まあ別に何か変わったものがあるとか、誰かの私物があるとかそういう大きな手がかりではないし、さして大きな情報でもない。
私にとって不利に働くものでもないし共有しておこうかな。
にちか「あの……本棚の上に無数に積まれてる本。あれって誰かが整理してくれたんですかね」
灯織「え? ……言われてみれば、確かに」
初めの頃、この部屋に踏み入れた時、もっとこの部屋は雑然としていたはずだ。
棚の上に積み上がった本は今にも崩れ落ちそうなバランスで、いかにも放りましたと言わんばかりの置き方がしてあった。
それが今はしっかりと【角を揃えて積み上げられている】。
灯織「綺麗好きな方が整理してくださったとか……なんですかね?」
にちか「結構な大仕事っぽいですけどねー……」
……一体誰がやったんだろう。
コトダマゲット!【整理された本棚】
〔図書室の本棚の上の本はここ数日のうちに整理されたようだ。角を揃えて綺麗に積み上げられている〕
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灯織「……一通り図書室で見るべきものは見ましたかね?」
にちか「そう……ですね」
ひとまず事件現場の全貌は見ることができた。
私が犯人だと直接的に繋がる証拠はなかったし、隠し通路の存在は隠し通すことができた。
今のところうまくやれている、と思う。
にちか「まだ時間はあるみたいですし、他のところも見てみます?」
灯織「そうですね……さて、どうするか……」
風野さんと一緒に次の目的地を考え始めた……次の瞬間。
「灯織〜〜〜〜!! 伏せんね〜〜〜〜!!」
灯織「え、ええ?!」
ガシャーン!
突然絶叫が響いたかと思うと、鈍い音がして風野さんがその場に倒れ込む。
その額の上には……見慣れない飛行物体が降り立った。
恋鐘「あ、あちゃ〜……慣れん道具は捜査が難しかね〜……」
霧子「こ、恋鐘ちゃん……気をつけて……!」
灯織「い、痛た……な、なんなんですか……?」
にちか「これ、もしかして……【ドローン】です?」
4枚のプロペラでホバリング飛行しながら右往左往。
実際に機体を生で見るのは初めてだ。
恋鐘「ふふ〜ん、すごかやろ〜? 倉庫に誰も使っとらんのが眠っとったからうちが引っ張り出してきたばい!」
にちか「でも、急になんで……?」
霧子「あのね……この部屋はわたしたちよりも背の高い本棚がいっぱいあるでしょ……?」
霧子「それを全部調べて回るのは大変だから、【空中から写真を撮ろう】って恋鐘ちゃんが……」
恋鐘「これならわざわざ登らんでも棚ん上の状況がよう分かるばい!」
にちか「は、はぁ……」
(玩具を手にしてはしゃいでるようにしか見えないけど……)
灯織「でも、そのドローンで撮ったデータはどうやって共有するんですか?」
恋鐘「ふぇ?」
灯織「そのドローンで撮影したとて、それを外部に持ち出す手段がなければ他の方には共有できませんよね?」
恋鐘「そいは勿論……」
恋鐘「…………」
恋鐘「……………………」
恋鐘「霧子〜! どげんしたらよかね〜〜〜?!」
霧子「え、えっと……」
【おはっくま~!】
モノファニー「話は聞かせてもらったわ!」
恋鐘「ど、どっから出てきたばい!」
モノファニー「乙女は神出鬼没なものなのよ! それよりも、そのドローンで撮影したデータを共有したいって話だったけど……」
モノファニー「アタイに任せてよ! ドローンの写真データを現像してあげちゃうわ!」
にちか「え、そんなことできるの?」
モノファニー「そのぐらいできて当然! アタイだってIT生まれのZ世代なのよ!」
霧子「わ……すごい、助かっちゃうな……」
モノファニー「それだから、撮影が終わったらアタイに声をかけてちょうだいね!」
ドローンによる現場の空撮写真か……
俯瞰的な視点で現場を見ることで何か新しい発見があるかもしれない。
うーん……大丈夫……だよね?
恋鐘「うちと霧子で頑張って写真ば用意するけん、他の捜査はみんなに任せるたい!」
霧子「お願いします……」
(本格的にこの人ははしゃいでるだけだな……)
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にちか「あ、あの~……ドローンとぶつかって、大丈夫です?」
灯織「あ、はい……すみません、気を遣っていただいて……」
にちか「うわ~……なんか赤くなっちゃってますよ、痣とかにならなきゃいいですけど……」
にちか「こんなみんなてんやわんやのタイミングで慣れない道具持ち出して何考えてるんだろ……はぁ」
灯織「あ、あの……七草さん、私のことは大丈夫ですから、捜査を再開しましょう」
にちか「あ、はい……そうですね」
突然のハプニングで動転していたけど、今私は単身戦っている最中。
ちゃんと戦えるだけの武器をそろえておかなくちゃ。
真実を覆い隠すために必要なのは、真実までの道程のピースをちゃんと把握しておくこと。
把握したうえでそれを捻じ曲げることが、私にとって大きく勝利へとつながる。
そう考えると、行くべき場所は……事件当時、私たちがそれぞれ分かれていた場所である【ゲームルーム】と【食堂】になるだろう。
モノクマと戦うために有栖川さん達が結集していた【ゲームルーム】。
最後の晩餐として半ばあきらめ交じりに時間を過ごしていた【食堂】。
ここに、真実へのピースが眠っているはずだ。
私はそのピースを他の誰かが目覚めさせないように見張る役目があるんだ。
灯織「どこを調べに行きましょうか……?」
にちか「えっと、そうですね~……」
1.ゲームルーム
2.食堂
↓1
2 選択
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【食堂】
ルカさんの腹に突き刺さっていた凶器の包丁の出どころはここの厨房だ。
ルカさんが用意していた時点で、包丁は昨日の昼の間に持ち出されたものだと確定する。
ただ、そのことは伏せておくことで私にとっての武器になる。
変なことを口走らないように気をつけないと。
灯織「七草さんは事件当時はこちらに?」
にちか「ですです。他には櫻木さんと幽谷さん、杜野さん、樋口さんに浅倉さんがいましたんでお互いのアリバイは証言できると思いますよ!」
灯織「……」
(……ふぅ、本当のことを言うのでもなんだか緊張しちゃうな)
灯織「それでは食堂の捜査を開始しましょうか」
にちか「了解です!」
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【食堂のルール】
食堂にはこれ見よがしに壁に取り付けられたプレートがある。
この食堂を利用する上での注意点がまとめられたものなんだけど、そこまで変わったことは書いてない。
灯織「電子生徒手帳に記載してある学校規則と変わりはないですね」
にちか「あー、この部分です? 食堂と体育館は夜時間の間は閉鎖されるってやつ」
灯織「はい。昨日の夜時間に飲み物を取りにきたんですが、扉が施錠されていて開かなかったのはこのルールのせいだったんですね」
(昨日……ルカさんと一緒に行動していた時に出会したあれか)
灯織「つまり、犯人は夜時間の間は凶器の包丁を調達することはできなかったんですね」
にちか「……そうなりますね」
(風野さん……どこまで考えてるんだろう)
(ゲームルームに武器として集められていた事実と合わせると調達できる時間は自ずと限られてくるけど……)
(それを断定できる証拠はないはずだし……)
(うぅ……なんだか綱渡りをしてる気分だよ)
コトダマゲット!【食堂の利用規則】
〔校則にも規定されている通り、食堂は夜時間の間は閉鎖され、入室ができなくなる〕
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【厨房】
灯織「凶器の包丁の出所は間違いなくここですが……やっぱり、一本も残ってないですね」
にちか「モノクマと戦うためにかき集められた武器の一つですからねー」
確か……有栖川さんの話だと、包丁を持ち出したのは愛依さんだったはずだ。
愛依さんが包丁を集めた時に、一本少なくなっていることに気づいていたなら、それは私にとっての急所になりうる。
ここでハッキリさせておかないとダメだよね。
にちか「あの、愛依さん」
愛依「ん? にちかちゃん? どしたん? ……あー、あさひちゃん、そっちの方お鍋とかあるし危ないよ!」
にちか「今朝、有栖川さんの指揮のもとに武器を集めたじゃないですか。その時、愛依さんがこの厨房の武器を集めたって聞いたんですけど……」
愛依「あー! うんうん、そーだよ! いやー、もうめちゃくちゃにテンパってたからとりあえず片っ端から持って行って!」
愛依「食塩なんて使わない!って夏葉ちゃんに言われちゃったりして……」
にちか「あ、あはは……」
灯織「今回の事件で使われた包丁も持って行ったんですよね?」
愛依「え? あー、そーだけど……え?! うち、疑われてる?!」
にちか「い、いえいえ! 事実の確認です。その時、包丁を何本持って行ったとかって覚えてます?」
愛依「え? えーっと……どうだったかな……」
にちか「……」
愛依「……」
愛依「……ごめん! 覚えてない! うち、もう必死だったから!」
(……!)
にちか「い、いえ! 大丈夫です! 無理言っちゃってこっちこそごめんなさい!」
愛依「アハハ〜、力になれなくてごめんね……」
(いや、力になれないなんてそんなことはない)
(愛依さんのおかげで……私の防衛は盤石の構えになったんだ)
(戦える……いける!)
コトダマアップデート!【凶器の包丁】
〔包丁は事件発生前日段階でルカが厨房から持ち出したもの。今朝モノクマへの対抗策として武器をかき集めた際、愛依が厨房の武器を集めたが、その際に包丁の数はちゃんと確認していない〕
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灯織「この部屋で調べられるのはこれくらいでしょうか」
にちか「ですかね!」
(大丈夫……今の所こっちにも武器が揃ってきてる)
(学級裁判を戦える準備も進んでる)
灯織「まだ時間はあります、他のところを見に行きましょうか」
にちか「はい!」
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武器の包丁を持ち出した人間についての記述が順番が前後した都合でちょっとおかしくなっていますね…
愛依が包丁を集めた話はこのレスの記述が初出です、すみません
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【ゲームルーム】
事件当時、迫り来るタイムリミットに向けてモノクマへの武力抵抗の準備を整えていたらしい現場には、
どこから集めたのか物騒なものばかりが山積みになっていた。
灯織「これは凄いですね……」
凛世「灯織さんににちかさん……お疲れ様でございます……」
にちか「お疲れ様ですー。捜査、進んでますかねー」
樹里「いや、アタシはそういうの苦手だからよ……とりあえず現場の保全に徹してるよ」
にちか「保全……?」
樹里「ほら、この【山積みの武器】。これが不当に持ち出されたりしないように見張ってんだ」
槍投げの槍に砲丸、金属バットや包丁……学園のあちこちからかき集めたであろう武器はかなりの数がある。
樹里「……しっかしこうしてみると壮観だな。事件が終わった後片付けるのが大変だぞ」
凛世「これを夏葉さん、お一人で……?」
樹里「ああいや、それぞれが分担して集めたんじゃなかったっけな」
樹里「夏葉とアタシが倉庫、めぐると恋鐘が才能研究教室、愛依が厨房に行ってたはずだ」
(愛依さんが……厨房に……?)
(だったらその時に包丁の数を確認した上で回収したかどうか、はっきりさせておく必要があるな……)
灯織「事件の時に、これを持ち出した方は?」
樹里「いや、いないな。断言できるぜ。武器を取り囲むようにして話し合いをしてたし、そんなおかしな行動をしてたら誰かが絶対に気づいた」
樹里「事件の時に武器をここから持ち出すのは確実に不可能だった」
(……流石に5人のお互いの監視を掻い潜るのは不可能だろう)
(ここに突き崩す隙はなさそうかな……)
コトダマゲット!【ゲームルームの武器】
〔タイムリミットが来た時にモノクマに抗うため、夏葉たちが学園中から集めた武器。ゲームルームに集められた後は、5人で見張るようにしており、武器を持ち出した人間はいなかったらしい〕
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【凛世に聞き込み】
にちか「杜野さん、大丈夫……?」
凛世「ええ、はい……」
相当に堪えてる……事件の当事者じゃなくても、あんな死体を目にすればこんな反応になるのが当然だ。
杜野さんは華奢な体を震わせて、怯えた様子。
灯織「すみませんが、辛いところだとは思うけど話だけでも聞かせてもらえたら嬉しいです……」
凛世「でも、凛世は何も……」
にちか「まあ杜野さんは食堂組で、特に移動もしていないですからね……」
凛世「特に変わったものを目撃したとかも……」
凛世「あっ……」
樹里「どうした?! 何か気づいたことでもあるのか?!」
凛世「い、いえ……本当に些細なことなのですが……」
凛世「にちかさん……死体発見アナウンスが流れた後にご一緒して事件現場に向かいましたよね……?」
にちか「ええ、まあ……」
凛世「その時に、ひょっこりあさひさんが教室から出てくるのを見たはずです……」
にちか「ああ、地下階段の手前の教室で……!」
樹里「地下階段手前の……教室……?!」
灯織「そ、そこに何があるんですか……?!」
凛世「凛世と樹里さんが、はじめに閉じ込められていた教室が……そこなのです……」
にちか「……え?」
樹里「ほら、この学園生活の始まりってロッカーに押し込められるところから始まっただろ? アタシと凛世はあの地下階段前の教室のロッカーに閉じ込められてたんだよ」
凛世「あの時は慌てに慌て……普段から携帯していたおしろいもロッカーの中で紛失してしまう始末……」
凛世「数日前なのに、なんだか懐かしく感じます……」
にちか「……」
にちか「え? 思い出したことって……これです?」
凛世「す、すみません……」
(まあ、別にどうでもいい話だったかな……)
灯織「……」
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灯織「この部屋で調べられるのはこのぐらいでしょうか?」
にちか「ですかねー……他に目立つものもないですし」
灯織「でしたら、一応ではあるんですが奥の部屋も見てみてもいいですか? ゲームルームを通じてもう一つ行ける部屋があるんです」
(そういえば……AVルームがあるんだっけ)
にちか「奥の部屋に事件前後で行った人っているんです?」
樹里「いや、いなかったと思うけど……」
灯織「一応の確認ですから。図書室と同階の教室は少ないですし、調べておきたいんです」
樹里「ま、止めはしねーけどよ……」
風野さんがスタスタと奥の部屋に向かって行くのに、私もついて行った。
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【AVルーム】
巨大なスクリーンを中心に大量のDVDが収められたラックが並ぶ。
学校でいえば視聴覚室ってやつになるんだろう。
設備が上等なので、私の学校よりはだいびランクの高そうな部屋だ。
にちか「ここが事件と何か関係があるんですかねー……?」
灯織「分かりません……が現場に近い部屋の一つなんですから、見落としはないか一応確認しておきましょうか」
にちか「はいー……」
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【DVDラック】
私でも名前くらいは知っている名作が数多く並ぶDVDラック。全部見ていたらどれだけの時間がかかるんだろう。
にちか「……あれ?」
そんな中一つのDVDが目について思わず手に取った。タイトルからして、明らかに他の作品と雰囲気が違うDVD。
にちか「……」
パッケージには堂々と豊満な肉体の女性。
腰を煽情的にくねらせて、その脇にはピンクの大きな文字で惜しげもなく、下世話な言葉が並んでいる。
これは……そういうやつだ。
(見なかったことにしよう……)
触れてはいけないものに触れた後悔からため息をつきながらラックに戻しかけた時。
灯織「……七草さん? 何か証拠を見つけたんですか?」
にちか「えっ?」
灯織「今後ろに隠したそれ……なにか証拠なんじゃないですか?!」
にちか「い、いやいや! そんなんじゃないんで! まったく、まっったく!」
灯織「いえ、一人の目から見たら取るに足らない証拠でも、複数人で検討すれば新しい事実が見えてくるということもあります。私にも見せてください!」
にちか「いや、ちょ、ちょっと!」
急に強引に私の後ろに手を伸ばしてくる風野さんと、必死に争う私。
しばらくもみくちゃになった後、私の手からはDVDが剥ぎ取られ……
そのしばらく後には赤面して背を向け合う私たちの姿があった。
灯織「その……申し訳ありませんでした」
にちか「い、いや……こっちこそ紛らわしいことしてすみませんです」
灯織「……」
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【裏口の扉】
にちか「そういえばこの部屋って出入り口は一つじゃないんですね」
灯織「そういえば廊下側からも見えてましたね。ちょうど図書室の裏口と向き合う形でAVルームの裏口も付いているみたいです」
にちか「……」
灯織「ゲームルームを通過せずとも、AVルームに侵入すること自体はできそうですね」
(それってつまり……ゲームルームにいた人たちに気づかれずに潜伏することもできたってことだよね)
(……この可能性は武器になる!)
灯織「七草さん?」
にちか「あ、いや! ちょっと考え事です! このことも覚えておきましょう!」
コトダマゲット!【AVルーム裏口の扉】
〔AVルームにはゲームルームを通過する入り口の他に廊下から直通で入る扉があった。図書室の裏口とちょうど向き合う形になっている〕
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【モニター】
にちか「この部屋にもモニターがあるんですね。でっかいプロジェクターもあるんだし無用の長物って感じですけど」
灯織「学園中のどこにでもありますからね……例外はないんでしょう」
にちか「そういえば事件当時、このモニターからはあの音楽が流れてたんですよね」
灯織「ええ……はい! マンホールの中でぶら下がってた私でも聞こえるぐらい、爆音で」
にちか「コロシアイのタイムリミットまであと1時間、それを告知しコロシアイを促す音楽」
灯織「犯人はそれに急かされてことに及んでしまったのでしょうか……?」
(いや、そんなんじゃない)
(もっと前からルカさんは覚悟を決めていた……モノクマのそんな稚拙な策略に乗ったわけじゃないんだ)
コトダマゲット!【コロシアイ促進BGM】
〔コロシアイのタイムリミットまで1時間を切った午後9時から学園中に鳴り響いていた爆音の音楽と映像〕
【キーンコーンカーンコーン……】
『わっしょーーーーーーーーい!』
『祭だ! 祭りの時間だーーーーーーーー!』
『クロとシロの運命を分ける学級裁判の時間だよーーーーーーー!』
『まあ、今回に限っては運命を分けることもないんだけど……クロからすれば脱出の大チャンス!』
『シロからすれば足を引っ張って惨めに転ばせる大チャンス!』
『足を引っ張り引っ張られの引っ張り祭りの開催だよー!』
『オマエラ、中庭奥の裁きの祠までブリバリマックスで集まれー!』
灯織「どうやら……時間みたいですね」
ついに、きてしまった。
ルカさんから託されたものを背負い、他の人たちと真正面からぶつかり合う時が。
私以外の14人……これを騙し抜かないと、私はルカさんを裏切ることになる。
なんとしてもやり遂げるんだ、なんとしても勝ち抜くんだ!
にちか「行きましょう……風野さん、どうせもう逃げられないんだし」
灯織「はい……あの、七草さん」
にちか「……ん?」
灯織「頑張りましょうね……絶対、犯人を突き止めましょう」
(……)
にちか「当たり前じゃないですかー! 真実を掴み取ってみせますよー!」
灯織「……! はい!」
ああ、この胸の痛みをこれからどれほど味わうことになるんだろう。
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【中庭 裁きの祠】
赤い重厚な扉を開けると、荘厳な雰囲気にそれをぶち壊すモノクマの彫像。
それを取り囲むようにして、他のみんなが待っていた。
真乃「ついに……始まってしまうんですね……」
めぐる「もう、ここまできたらやるしかないよ! 学級裁判を……戦うしかない!」
透「あー、トイレ行っとこうかな」
円香「ちょっと……済ましときなよ」
あさひ「ちょうど噴水があるっすよ」
愛依「ちょいちょいあさひちゃん?! それはダメだって!」
甘奈「……甘奈たちに犯人、見つけられるのかな」
甜花「なーちゃん……大丈夫。みんなが、ついてるから……!」
夏葉「ええ、絶対に突き止めてみせるわ。そうでければ、私たちは前に進むことができないもの」
樹里「ルカを殺した犯人……ぜってーに許せねー」
凛世「鼓動が早まってまいりました……」
みんな姿の見えない犯人に怯え、怒り、憎しみを向けている。
その矛先が私に向いた瞬間のことを思うと、足がすくんでしまいそうだ。
だけど……私こそ、怯むわけにはいかない。
頬をピシャリと打って気を引き締めた。
灯織「そういえば月岡さん……ドローンでの撮影はうまく行ったんですか?」
恋鐘「あー……一応頑張って写真は全部撮ったとやけど、ばってん時間が来てしまったからモノファニーにデータを渡しとる段階ばい」
霧子「学級裁判の最中に現像が出来るようには頑張るって言ってくれてたよ……」
恋鐘「ごめん〜! 慣れん操作で思った以上に手こずったばい〜!」
灯織「ああ、いえ……大丈夫です」
(裁判の途中に証拠が増えるのか……)
(まあでも、写真は私に繋がる証拠にはなり得ないだろうし気にしなくても大丈夫かな)
甘奈「呼び出されてから時間が経つけど……どうしたのかな? 学級裁判ってここでやるのかな……」
円香「裁判という感じの趣ではないですが……」
あさひ「……聞こえる」
愛依「あさひちゃん?」
あさひ「今度は下からっすよ!」
ゴゴゴゴ
芹沢さんが叫んでから間も無く、私たちでもわかるほどの轟音。それと一緒に訪れたのは地響き。
それをもたらしていたのは他でもない、あの不格好なモノクマの彫像。
彫像がその手に持っていた水瓶を粉砕したかと思うと、そのまま噴水の中に姿を埋め……
チーン!
やがて、噴水の一角が割れて、巨大な扉が姿を現した。
格子状の扉の向こうには金属製の箱の姿が見える。
人を乗せて、空間を上下する巨大な箱。
真乃「え、エレベーター……?」
甘奈「これに乗れってこと……?」
樹里「それ以外に選択肢はねーな……行くぞ!」
私たちはゾロゾロとエレベーターに乗り込んで行き、最後の一人が足を踏み入れた瞬間。
ガタン!
音を立ててエレベーターは下降を始めた。
あさひ「わ! すごいすごい! どんどん降っていくっす!」
霧子「あさひちゃん……エレベーターの中で飛び跳ねると危ないよ……」
透「結構深くまで行くんだね。マントル?」
円香「深すぎ」
夏葉「みんな、気を引き締めて。ここから先はお遊びじゃない……私たちの中に潜むクロを見つけ出すための戦いなのよ」
にちか「……」
エレベーターが下っていく、その重力を感じながら、私はその下にあるもののことを考えていた。
もしも地獄というものが存在するのなら、きっとこのエレベーターよりももっともっと深いところ。
血の沼が煮え繰り返った地獄の中から、骸の手は今にも私の足の付け根を掴もうとしている。
ルカさんを殺すことで引き受けた罪の重みは少しでも気を強く持たないと、引き摺り込まれそうなほどに。
喉が渇く。心臓の鼓動が速くなる。
ここから先に待っているものの分からなさに、項垂れるほかなかった。
チーン!
そしてすぐにエレベーターは目的地に行き着いて。
モノタロウ「チンポーン! キサマラ、地下学級裁判場にようこそー!」
モノスケ「ザコども、遅すぎや! 待ちくたびれてモノキッドの禁断症状が再発してもうたやないか!」
モノキッド「ハチミツ……持ってるんだろ……くれよ……」
モノファニー「やあねえ、ヨダレたらたらでだらしないったらありゃしない」
モノファニー「そうだ! お願いされていた写真の現像は今進行中だから今少し待ってちょうだいね!」
モノダム「……」
モノクマ「学級裁判はボクとモノクマーズも同席でその行く末を見守らせてもらうからね!」
モノクマ「さあさ、自分の名前が書かれた台の上に立って! 学級裁判を始めるよー!」
灯織「地下にこんな空間が……」
甜花「あ、あぅぅ……ちびりそう……」
透「さっきしてくればよかったのに」
甘奈「透ちゃん、間に合ったの?」
透「うぃー、あさひちゃんナイスアイデア」
樹里「やったのかよ?!」
透「冗談だって、今も我慢してる」
夏葉「……透と甜花のためにも早いところ勝負を終わらせましょうか」
そして私たちは席についた。
円環を描くような配列の証言台では、お互いの顔がよく見える。見えてしまう。
私は今、どんな表情をしてるのかな。
平然を繕えているのかな。
ああ、怖い。
これから全員を騙し切って、この学園を脱出するんだ。
今から始まるのは一対十四の正々堂々のぶつかり合い。
私には一切の助けがないけど、相手には無数の協力がある。
私はそれを打ち砕く。
絆も、信頼も、可能性も、真実も。
全部この手で握り潰して、最後に開いた手のひらで掴み取るんだ。
__________生還という勝利を。
捜査パートが終わったところで本日はここまで。
次回更新より学級裁判パートに移ります。
学級裁判の仕様は前作シリーズと基本同じです。
発言力がゼロになると報酬のモノクマメダルが半減してしまう仕様ですので、お気を付けください。
次回更新は6/13(火)21:00~を予定しています。
本格的に安価やコンマを用いるようになりますので、是非ご参加のほどよろしくお願いします。
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【裁判前準備パート】
☆裁判を有利に進めるアイテムを獲得することができます
何か購入したいものがある場合は次回までにその旨を書き込んでください。
指定が多ければ多数決、特に購入指定が無ければ何も購入せず裁判を開始します。
≪消耗品≫
【ヒーリングタルト】…5枚
〔誰の口にも合いやすいマイルドな口当たりの優しい甘さ。裁判中に使用すると発言力を2回復できる〕
【ヒーリングフルーツタルト】…10枚
〔フルーツをトッピングして満足感アップ。裁判中に使用すると発言力を4回復できる〕
【プロデュース手帳】…15枚
〔これは彼と彼女たちが過ごしてきた美しき日々の証。誰よりも理解者たる彼は、いつだってそばで戦ってくれる。裁判中に使用するとノンストップ議論・偽証ミスディレクション・反論ショーダウンを無条件クリアする〕
≪希望のカケラで獲得できるスキル≫
【ノー・ライフ】希望のカケラ…15個
〔発言力の最大値が+2される〕
【私をときめかせて】希望のカケラ…20個
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕
【チョコ for Y♡U】希望のカケラ…15個
〔体力回復を行った際効果が増幅する(自動回復は除く)。〕
【UNCHARTE:D】希望のカケラ…15個
〔発掘イマジネーションの文字がある程度埋まった状態で始まるようになる〕
【浪漫キャメラ0号】希望のカケラ…20個
〔発言力の最大値が+3される〕
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‣にちかの現在の状況
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…19個】
特に裁判準備パートの指定はなしということで進めます
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【コトダマリスト】
‣【モノクマファイル1】
〔『被害者は【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ。死亡推定時刻は午後9時半ごろ。死因となったのは腹部に深く突き刺さった包丁による臓物損傷および失血死。他に目立つ外傷はない』〕
‣【事件当時のアリバイ】
〔事件当時、コロシアイ参加者たちは三つのグループに分かれていた。
うち食堂で食事をしていたグループは真乃、霧子、凛世、透、円香、にちかの六人で9時前から全員が集まっていた。一度にちかがトイレに抜けた以外は事件まで全員同じ場所にとどまっていた。
うちモノクマへの抵抗を試みようとしていた武装グループはめぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依の五人で9時15分には全員が地下のゲームルームに集まっていた。20分過ぎから愛依があさひを探しに15分前後離脱している。
うち単独行動をしていたグループは灯織、甘奈、甜花、あさひの四人。甘奈と甜花は甘奈の個室、灯織は裏庭のマンホールに、あさひは地下に向かう階段近くの教室にそれぞれ事件当時も篭りっぱなしだった。〕
‣【ルカの持っていた手紙】
〔ルカが事件前に自作した手紙。ルカは事件当時、図書室に一人で来るように要求されていたことになっている。〕
‣【血飛沫の血痕】
〔死体周辺の血溜まりとは別に、飛沫が散ったような血痕がある〕
‣【床の埃】
〔図書室は利用者が少なかった影響で全体的に床に埃が溜まっている。その一方で、ルカとにちかが出入りを繰り返した隠し通路周辺の埃は少なくなってしまっている〕
‣【あさひの証言】
〔あさひはコロシアイ促進BGMが流れ出す前から地下に向かう階段近くにおり、ずっと廊下の様子を見ていた。めぐる、恋鐘、夏葉、樹里、愛依が階段を降りていく他には廊下を行き来する人は目撃していないらしい〕
‣【整理された本棚】
〔図書室の本棚の上の本はここ数日のうちに整理されたようだ。角を揃えて綺麗に積み上げられている〕
‣【ゲームルームの武器】
〔タイムリミットが来た時にモノクマに抗うため、夏葉たちが学園中から集めた武器。ゲームルームに集められた後は、5人で見張るようにしており、武器を持ち出した人間はいなかったらしい〕
‣【AVルーム裏口の扉】
〔AVルームにはゲームルームを通過する入り口の他に廊下から直通で入る扉があった。図書室の裏口とちょうど向き合う形になっている〕
‣【コロシアイ促進BGM】
〔コロシアイのタイムリミットまで1時間を切った午後9時から学園中に鳴り響いていた爆音の音楽と映像〕
‣【食堂の利用規則】
〔校則にも規定されている通り、食堂は夜時間の間は閉鎖され、入室ができなくなる〕
‣【凶器の包丁】
〔包丁は事件発生前日段階でルカが厨房から持ち出したもの。今朝モノクマへの対抗策として武器をかき集めた際、愛依が厨房の武器を集めたが、その際に包丁の数はちゃんと確認していない〕
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【学級裁判 開廷!】
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モノクマ「これより学級裁判のルールの説明をいたします」
モノクマ「学級裁判では殺人の実行犯であるクロとそれ以外のシロとに分かれて、オマエラの中に潜むクロは誰か?を話し合ってもらいます」
モノクマ「無事クロの生徒を指摘できればクロだけがおしおき。もし間違った生徒をクロとしてしまった場合には……」
モノクマ「それ以外のシロ全員がおしおきになって、全員を欺いたクロはこの学園から卒業となります!」
モノクマ「まあ……今回の裁判にはおしおきがないんだけどさ。なーんでそんなこと言っちゃったかな……」
モノタロウ「お父ちゃん、後悔は何も生まないよ! 過去を振り返るなんてバカのすることだよ!」
モノクマ「いやさ……オマエラがコロシアイしてくれないからやむなく設けた条件だけどさ……ちょーっとやりすぎだよね……」
モノファニー「そんなことないわ! 学級裁判が必ずしもグロくある必要はないもの!」
モノクマ「はーあ……なんかこうパーっと盛り上がるようなこともないかね〜……」
モノキッド「それならモノダムをいじめるのはどうだ! 右乳首と左乳首を入れ替えてやりたいとずっと思ってたんだ!」
モノダム「……」
にちか「ねえ、いつまでそんなくっっだらない話してるの?」
夏葉「それよりも聞きたいことがあるわ。ルカの席に建てられたあれは……何かしら」
モノクマ「ああ、コロシアイで誰が死んだのか分からなくならないように、ボクが作っておいたんだよ」
モノクマ「オマエラの卒業文集からチョチョイと写真を拝借したんだ!」
円香「趣味が悪い……」
真乃「わたしたちで、クロを当てるための議論をしなくちゃいけないんですよね……」
めぐる「うーん、どこから話すのがいいかなー!」
凛世「定石はやはり、アリバイの精査からかと……」
愛依「子守唄……?」
樹里「それはララバイだ。アリバイってのは事件当時にどこで何をしていたかの証言だな」
樹里「ルカが刺された午後9時半前後。その間に犯行ができる人間がいたかどうか確かめよう」
(アリバイ……私は食堂で食事をしていたという確かなアリバイがある)
(女子トイレの隠し通路の存在が明らかにならない限り……このアリバイは崩れない!)
(議論を私に有利な方向に誘導するんだ!)
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【ノンストップ議論開始!】
発言力:♡×5
集中力:☆×5
コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【凶器の包丁】
甘奈「それじゃあみんなのアリバイを確認してみよう☆」
霧子「事件が起きた時はいくつかのグループに分かれて行動してたよね……」
夏葉「コロシアイに屈することなく、モノクマと戦うことを決めたグループは」
夏葉「【午後9時15分】には全員がゲームルームに集まっていたわ」
夏葉「お互いを見張っていたし、反抗に及ぶことは不可能ね」
円香「特に示し合わせたわけでもないけど、食堂にもそれなりの人数がいました」
透「チーム最後の晩餐は……あの音楽が鳴り出すより前からいたっけ」
真乃「【午後9時】には全員が揃ってました……!」
凛世「反対に、アリバイがないのは……」
凛世「灯織さん、甘奈さん、甜花さん、あさひさんの四人……」
恋鐘「じゃあこの四人の中に【犯人がおる】とやね!」
恋鐘「グループでおったみんなは【犯行をする時間なんてなか】やもん!」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「それは違くないですかー?」論破!
【BREAK!】
にちか「グループで集まっていたメンバーに反抗はできない……本当にそうですか?」
恋鐘「ふぇ? お互いの姿ば見とったら自由に動けんし、当たり前じゃなかね?」
にちか「本当に全員がずっと同じ場所にいたなら、ですけどね!」
にちか「愛依さんは【途中で抜けて、事件発生時刻よりも後に戻って来た】って聞きましたよ!」
愛依「え?! あ、あー……あさひちゃんを探しに行った時のことか!」
愛依「うん、9時20分ぐらいから15分ぐらい抜けてたけど……図書室には行ってない! 地上を探してたんだよ!」
樹里「ちょっと待てよ。それを言うならにちかもだろ」
樹里「食堂組の話だと、にちかも途中で女子トイレで抜けたって聞いた。その時に犯行に及んだんじゃねーのか?」
(……うっ)
円香「そうは思わないけど」
樹里「え?」
円香「にちかが行ったのは食堂の最寄りの女子トイレ。そこから現場の図書室まではかなり距離があるし……にちかはそんなに長い間抜けていたとも思わない」
霧子「うん……それよりも犯行現場が近い愛依ちゃんの方が気になるかな……」
夏葉「単純な距離で言えばそうなるわね……」
愛依「ちょいちょい、夏葉ちゃん?!」
夏葉「でも、そう簡単に決めていいものかしら。現場に残されていた【痕跡】も検討すべきよ」
灯織「痕跡、ですか?」
恋鐘「うんうん! 愛依をそう簡単には犯人にさせんけんね〜!」
------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】
発言力:♡×5
集中力:☆×5
コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【ゲームルームの武器】
‣【ルカの持っていた手紙】
愛依「うちはあさひちゃんを探すために抜け出しただけだって!」
愛依「事件現場の【図書室には行ってない】!」
真乃「にちかちゃんもトイレで抜ける場面はありましたけど……」
真乃「犯行現場の図書室まではかなり距離があります……っ!」
恋鐘「ルカの殺害に使われた包丁は」
恋鐘「【食堂の厨房にあった】もの!」
恋鐘「やけん、凶器として使うことができたのも」
恋鐘「【食堂におったメンバーだけ】やろ!?」
恋鐘「愛依が犯人にはならんはずばい!」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「それは違くないですかー?」論破!
【BREAK!】
にちか「凶器の包丁は確かに厨房にあったものですけど……それが使えたのは食堂にいた人だけじゃないはず!」
にちか「むしろ食堂にいた人間には使えなかったはずですよ!」
恋鐘「な、なんね〜? 包丁は料理する時に使うもんやろ!?」
愛依「恋鐘ちゃん恋鐘ちゃん、包丁は【うちらが集めた武器の中に含まれてた】んよ」
樹里「ああ、学園内の武器を一通り集めてゲームルームに置いてたけど……そん時に包丁も回収してたはずだ」
にちか「確かに私は食堂から抜けた瞬間はありましたけど……その時に包丁を持って出るのは不可能なんですよ!」
めぐる「でも、ちょっと待ってよ! わたしたちは確かに武器を集めてたけど……集めた後はそれを取り囲むようなかたちで会議をしてたんだよ」
めぐる「そこから包丁を抜き取るような人がいたら絶対に誰かが気づいたはずだよね!」
夏葉「当然、そんな人物はいなかったわ。取り扱いには慎重に慎重を重ねていたし、見落としはないわ」
甜花「そ、それじゃあ犯人はいつ包丁を手に入れたんだろう……」
あさひ「まあ、夏葉ちゃんたちが武器を集め始めるより先に回収していたとしか思えないっすよね」
あさひ「愛依ちゃん、包丁を回収する時に何本あったかは覚えてないんっすよね?」
愛依「うん……ごめん、ちゃんと見とけばよかった」
真乃「しょうがないよ……こんな状況なんだもん……」
灯織「……ん? 夏葉さんが回収するよりも前?」
灯織「七草さん……昨日、夜時間に私と学校の外で会ってましたよね?」
にちか「え……まあ、そうですけど」
灯織「あの時……斑鳩さんもご一緒だったはずです」
凛世「事件の前夜にお二人で……?」
円香「まあ二人は何かと一緒のことも多かったし変ではないけど」
灯織「少しお聞かせ願えますか? 昨晩の出来事について……!」
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【ノンストップ議論開始!】
発言力:♡×5
集中力:☆×5
コトダマ
‣【食堂の利用規則】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【血飛沫の血痕】
灯織「昨日の夜時間に寄宿舎を出たところで」
灯織「私は斑鳩さんと七草さんに【会ってる】んです」
夏葉「犯人は私たちが武器を回収するより先に」
夏葉「食堂の包丁を【回収していた】はずなのよね」
めぐる「あー! それなら灯織とにちかがあったタイミングなら条件に合うね!」
めぐる「昨日の【夜時間】の間に包丁を調達しておいて」
めぐる「事件の時に持ち出したんだ!」
甘奈「一晩じっくり寝かせた武器で一突きにしたんだね!」
樹里「そんなハンバーグのタネみたいに?!」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「それは違くないですかー?」論破!
【BREAK!】
にちか「ちょっと風野さん、しっかりしてくださいよ! 私と一緒に捜査をした時に確認したはずですよね!」
にちか「才囚学園の校則で【夜時間に食堂の侵入は禁止されてます】! 風野さんと会ってから包丁を持ち出すには不可能なんですよ!」
灯織「あ、いや……私はそのつもりじゃなくて……」
めぐる「ご、ごめんね……わたしがつい先走って話したせいで灯織が間違えちゃったみたいになっちゃった」
灯織「う、ううん……気にしないで」
(あれ……? なんか私が悪者みたいになってる……?)
灯織「私は純粋に、昨日の夜時間に七草さんと斑鳩さんが何をしていたのかが気になったんですが……」
灯織「私と別れてから校舎の中に入っていきましたよね?」
にちか「えっと……うん……」
モノファニー「キャー! 日が沈んでから女二人で人目を忍んで学校に行くなんて!」
モノキッド「ぐへへ……ハチミツの当てになりそうな話だぜ……蜜だけに……」
モノダム「……」
(これは……適当に言い訳しなくちゃダメだよね)
にちか「な、何も変わったことはしてないです。私と一緒に才能研究教室に行って……音楽を聴いてたんですよ」
にちか「ほら……私ってば腐っても超研究生級の音楽通なわけで……あの教室にいっぱいレコードがあるんですよ。ルカさんはそのおすすめを知りたいって!」
灯織「……」
(ど、どうだ……?)
灯織「なるほど……そうですか」
(凌いだ……かな)
透「けど、夜時間にいけなかったんだね。食堂」
透「あんま気にしてなかったし、今知ったわ」
霧子「そうなると……犯人が包丁を手に入れるタイミングはいつになるんだろう」
甜花「有栖川さんたちが今朝に武器を集めてて、夜時間は食堂にもいけないから……」
甘奈「昨日の日中になるのかな?」
めぐる「そんなの、誰でもできちゃうよー!」
(実際昨日の日中にルカさんが持ち出したわけだけど……)
(この状況、覆せば私にとってかなり有利なんじゃない……?)
(あの人は、ちゃんと包丁の残数を数えてなかったって言ってたし……今がそのチャンスかもしれない)
(やるぞ……どんな手段を用いても、議論の流れを掌握してみせるんだ!)
------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】
発言力:♡×5
集中力:☆×5
コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【食堂の利用規則】
‣【凶器の包丁】
樹里「ルカを刺した凶器の包丁は食堂の厨房から持ち出されたんだ」
甘奈「だけど、その入手の機会は限られてるんだよね!」
甜花「有栖川さんが武器を集めてる時に【食堂の包丁も回収された】から……」
甜花「それより前じゃないとおかしいよね……!」
真乃「でも、【夜時間に食堂に入ることはできない】し……」
真乃「もっと前になっちゃうんだよね……」
凛世「昨日の日中のいつか……」
凛世「そうなると最早【全員が包丁を持ち出すことが可能】になります……」
【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「この嘘で議論の流れを変えてやる!」偽証!
【BREAK!】
にちか「いや……そうでもないですよ。犯人が凶器を持ち出すチャンスはかなり限られています」
めぐる「えっ?! そ、そうなの?!」
にちか「はい……昨日私は夜時間が来る前に小腹が空いたので、【食堂に一度入ってる】んですよ」
夏葉「なんですって……そんなの初耳だわ」
にちか「あはは……食い意地が張ってると思われたくなくて」
にちか「それで、夜時間の直前だったんですけど……その時は、【厨房の包丁が全部揃ってるのを目撃してる】んですよ」
あさひ「……! それ、本当っすか?」
にちか「うん、本当だよ。私はちょくちょく厨房を覗いてたから、本数が減ってたら気づいたはずなんだ」
(……)
凛世「包丁の本数に関して、他に証言はないですが……」
にちか「信じてください! ちゃんとこの二つの目で見ましたから!」
樹里「……」
にちか「……」
樹里「わかった、そこまで言うんだから本当なんだろ」
(……よし!)
愛依「にちかちゃん、ありがと〜! うち、ちゃんと見てなかったからすごい助かった……!」
(う……そんな笑顔を向けないでほしいな……)
甘奈「でも、これで犯人が包丁を持ち出すための時間がグッと絞れるね☆」
甘奈「今朝から、夏葉ちゃんが武器を集め出すまでの間だ!」
夏葉「……それなのだけど」
夏葉「そんな猶予があったとは到底思えないのよ。私たちは今日は一日戦いに備えようと決めていたから、朝のアナウンスの直後から行動を開始していたの」
めぐる「うん! おはようからすぐに集まって、武器をずっと集めてたんだ!」
夏葉「愛依も今朝は早かったわよね?」
愛依「うん……キンチョーしてたし朝のアナウンスより早くに起きてた」
愛依「うちも武器を集め出したのは、アナウンスの直後からだよ」
甘奈「あ、あれ……?」
(私の嘘で犯人が包丁を持ち出せたのは【今朝の間だけ】ということになった……)
(こうなったら……あの人に罪をなすりつけるルートで行くぞ!)
(胸が痛むけど……ここで引くわけにはいかない!)
------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】
Q1.厨房の包丁はいつまで揃っていたことになっている?
a.昨日の夜時間より前 b.朝のアナウンス段階
Q2.犯人はいつ包丁を持ち出したと考えられる?
a.昨日の夜時間 b.朝のアナウンス直後 c.武器を集めていた時
Q3.厨房から包丁を持ち出したのは?
a.めぐる b.夏葉 c.恋鐘 d.愛依
【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】
↓1
【bcd】
発言力:♡×5→♡×4
(いや、今の私の噓の証言によって包丁が揃っていた時間は書き換えられた……)
(他の人たちが私の証言を本当だと信じている間は、推理もそれに準拠させて考えないと……!)
------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】
Q1.厨房の包丁はいつまで揃っていたことになっている?
a.昨日の夜時間より前 b.朝のアナウンス段階
Q2.犯人はいつ包丁を持ち出したと考えられる?
a.昨日の夜時間 b.朝のアナウンス直後 c.武器を集めていた時
Q3.厨房から包丁を持ち出したのは?
a.めぐる b.夏葉 c.恋鐘 d.愛依
【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】
↓1
【abd】
発言力:♡×4→♡×3
(いや……有栖川さん達が言っていた通り武器を集め始めたのは朝のアナウンスの直後だよね)
(だから、彼女たちの目を盗んで……ってのは多分難しかったはず)
(罪を擦り付ける標的はあの人に定めたんだ……だったら、包丁を持ち出すタイミングもおのずとあの時になる……!)
------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】
Q1.厨房の包丁はいつまで揃っていたことになっている?
a.昨日の夜時間より前 b.朝のアナウンス段階
Q2.犯人はいつ包丁を持ち出したと考えられる?
a.昨日の夜時間 b.朝のアナウンス直後 c.武器を集めていた時
Q3.厨房から包丁を持ち出したのは?
a.めぐる b.夏葉 c.恋鐘 d.愛依
【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】
↓1
少し早めですが正答が出たところで本日はここまで。
また明日の6/14(水)の21:00~続きから再開予定です。よろしくお願いします。
それではお疲れさまでした。
【acd】
にちか「推理はつながった!」
【COMPLETE!】
にちか「昨日の夜時間までは包丁は揃っていた、そして武器の調達は今朝のアナウンス直後から始まった」
にちか「そうなると……厨房の包丁を持ち出すタイミングは一つしかないです」
にちか「【武器の調達と同時】! 犯人は武器を集める時に、自分が凶器として使うための包丁も一本くすねてたんですよ!」
夏葉「な、なんですって?!」
めぐる「だ、大胆な犯人だね……」
霧子「でも、タイミングはその時しかないのかも……」
樹里「……ん? 厨房の武器を調達してたのって」
愛依「う、うち?!」
にちか「この中で凶器の包丁を持ち出すチャンスがあったのは【愛依さん】。あなたただ一人なんですよ」
にちか「集めた後の武器は5人の相互の監視のもとにあった。そこから抜き取るのも不可能ですからね!」
あさひ「どうなんっすか? 愛依ちゃん」
愛依「い、いやいや……うちは……やってないって」
愛依「マジで! 全く身に覚えがない系!」
甜花「でも……包丁を用意できたのは、和泉さんしか……いない……よね……?」
愛依「で、でも……違うんだって! マジで知らない……!」
円香「よかったですね、犯人が特定できました」
透「おー、やればできるじゃん」
愛依「えっ……」
円香「あなたがどう言おうと、事実は事実ですから。にちかの証言がある限り、あなたしか包丁を持ち出せなかったのは確かでしょう?」
愛依「そ、それは……そーかも……だけど」
(……)
愛依「で、でも違うんだって! うちはやってない!」
夏葉「愛依、少し落ち着きなさい」
愛依「……!」
夏葉「あなたが本当にクロでないというのなら、感情的に喚くのではなく、きちんと論理立てて反論をしてちょうだい」
愛依「ロンリ的に……?」
夏葉「いい? 学級裁判には私たち14人の命もかかっているの」
モノクマ「今回は違うけどね!」
夏葉「シロの人間が反論を満足にできず、それに周りが流されるようであれば、待っているのは破滅よ」
夏葉「ここにいる全員が、他の全員の命を預かっていると自覚して。そして……全力で向き合ってほしいの」
愛依「そんなん……言ったって」
夏葉「大丈夫、そのための手伝いなら私たちも頑張るわ」
愛依「夏葉ちゃん……!」
樹里「ああ、ここまで愛依が否定するんだ。きっと何か見落としがあるんじゃねーか?」
円香「……はぁ、楽に終わったと思ったのに」
あさひ「こんなすぐに終わっちゃうんじゃつまんないっすよ! もっといろいろ話したいっす!」
(ちっ……流石にこれだけじゃ押し切れないか……)
(でも、焦るな……今の所、こっちが優勢なんだ)
(欺き通す……そのファーストステップは確実に踏めてるぞ、七草にちか!)
------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】
発言力:♡×3
集中力:☆×5
コトダマ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【ルカの持っていた手紙】
‣【整理された本棚】
愛依「うちは犯人じゃないって!」
夏葉「愛依、論理的に反論するのよ」
夏葉「あなたが犯人じゃないと言う理由を話してちょうだい」
愛依「え、えっと……包丁を持ち出すタイミングは【武器の調達の時しかなかった】のかもしんないけど……」
愛依「うちは持ち出してない! 全部【ゲームルームに持ってった】よ!」
樹里「数を数えてはなかったから保証はできないんだよな……」
愛依「そ、それにうちはルカちゃんが図書室にいるのも【知らんかった】し!」
愛依「地下のゲームルームにいたのは夏葉ちゃんに呼ばれたからだよ!」
めぐる「モノクマと戦うって決めたメンバーはみんな夏葉さんに呼ばれて集まってたんだよ!」
あさひ「じゃあもしかすると夏葉さんが怪しいのかもしれないっすね」
夏葉「私には包丁を調達するタイミングが【ない】わ」
あさひ「あはは、冗談っすよ」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「それは違くないですかー!?」論破!
【BREAK!】
にちか「ルカさんが図書室にいるのを知らなかった……本当にそうですか?」
愛依「え?!」
にちか「ルカさんの持ち物の中に気になる紙があったんですよ」
灯織「どうやら犯人がルカさんに宛てたもので……ルカさんは【一人で図書室に来るように呼び出しを受けていた】ようなんです」
樹里「お、おいそれマジか?!」
『コロシアイを終わらせる手がかりを掴んだ
誰にも伝えずに図書室に来い』
あさひ「なんで図書室なんかに行ったのかと思ってたっすけど……そういうことだったんっすね」
甜花「これなら、呼び出した人は図書室に斑鳩さんがいるって分かってたんだね……」
にちか「この手紙を出したのが愛依さんなら……」
愛依「いやいやいや! 違う、違うって!」
愛依「うち、こんな漢字いっぱいの手紙難しくてよく書かないし!」
真乃「こ、これ中学校レベルの漢字しかないような気がするけど……」
樹里「愛依、何か他に反論する材料はないか?! 落ち着け、落ち着いて考えてみろ!」
愛依「え、えー……」
(ごめんなさい、愛依さん……私は手を抜くわけにはいかないんです……!)
霧子「……あれ?」
恋鐘「どがんしたと、霧子?」
霧子「えっと……ううん、なんでもない……」
夏葉「何か気になったことがあるのなら気にせず発言してちょうだい、霧子。ここは学級裁判、あらゆる可能性を精査する場所よ?」
霧子「あ……あのね……ルカさんのご遺体の状況を見て……ちょっと不思議に思ったことがあるんだけど……」
霧子「もしかすると……愛依ちゃんの容疑を晴らすことにも……つながるかも……」
愛依「え、そ、それマジなん?!」
(な、なんだって……?!)
樹里「霧子、頼む。その疑問……アタシたちにも聞かせてくれよ!」
霧子「う、うん……お話……させてもらうね……?」
(一体何が気になるっていうの……?)
(余計な発言を……なんとしても食い止めなくちゃ!)
------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】
発言力:♡×3
集中力:☆×5
コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【床の埃】
‣【凶器の包丁】
霧子「ルカさんのご遺体の状況を見て気になったことがあるんだ……」
愛依「霧子ちゃん、お願い!」
愛依「うちのヨーギを晴らして〜!」
霧子「あのね……ルカさんは【沢山の血】を流して死んじゃってるんだ……」
霧子「だけど、愛依ちゃんの服に【返り血がまるでついてない】んだ……」
円香「そんなの、着替えただけでは?」
夏葉「いえ、ゲームルームに集まった時に着替えを持ってきている様子はなかったわ」
霧子「あれだけ沢山の血を流しているルカさんを……」
霧子「返り血を浴びずに殺害するのは【不可能】なんじゃないかな……」
樹里「それじゃあ返り血を浴びてない愛依は無実だな!」
愛依「おっしゃ! 証明終了! E.T.C〜〜〜!!」
甜花「Q.E.D.……かな?」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「それは違くないですかー?!」論破!
【BREAK!】
にちか「ルカさんの死体は大量の血を流してましたけど、返り血を浴びてないからって愛依さんがクロじゃない理由にはなり得ないと思います!」
霧子「え……」
にちか「モノクマファイルを見てください。ルカさんの死因は刺殺なんですよ? しかも、致命傷になった刺し傷は一箇所だけ」
にちか「【刺し殺すだけなら返り血を浴びるほうが難しい】んですよ!」
霧子「そ、そっか……ごめんなさい……間違えちゃったみたい……」
(……私の言ってることは正しいはずだ)
(実際、ルカさんを刺した時に血が吹き出すようなことはなかったし……返り血はほとんど浴びてない)
(あの場に広がってた血痕は、ルカさんが悶え苦しんで広がったものなんだ)
愛依「う、うう……本当に、うちがやっちゃったんかな……」
樹里「お、おいおい……愛依はやってないんだろ?」
愛依「うん……ルカちゃんを殺しちゃったなんて……そんな記憶はないけど……」
愛依「これだけうちが犯人だって証拠が揃っちゃうと……うちが忘れちゃってるだけだったりして」
夏葉「冷静になりなさい、愛依。あなたがクロだという確定的な証拠は何もない」
夏葉「今は包丁を調達できたのは愛依だけという状況証拠だけなのよ」
(それも、私の嘘によって成り立っている脆弱なものだ)
めぐる「ねえ、本当に……包丁を手に入れるタイミングってわたしたちが武器を集め始める時しかなかったのかな?」
恋鐘「うちらは朝のアナウンスが聞こえてきてすぐにゲームルームに集まって、そのまま集めに行ったはずばい」
恋鐘「猶予はそうそうなかと思うばってん……」
あさひ「あれ? そうなんっすか?」
あさひ「わたしはてっきり朝のアナウンス直後って言うから本当に直後だと思ってたのに、結構時間が経ってからだったんっすね」
愛依「いやいや、ゆーて【ものの十数分】だと思うよ?」
あさひ「……? アナウンスが鳴る前から学校の中にいる人だったら、包丁を取って出るぐらいの時間は余裕であるっすよね?」
(え……!?)
夏葉「……確かに、それぐらいの余裕はあったかもしれない」
にちか「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! そんな急に本当は包丁を取れるだけの時間があったとか言われても」
樹里「さっき夏葉が言った通りだ! 学級裁判はどんなに些細な可能性でも、ちゃんと検討しなくちゃいけない!」
樹里「僅かにでも包丁を取れる時間があったのなら、それを検討するべきじゃねーのか!?」
愛依「み、みんな……」
(クソ……せっかく詰めかけたのに、余計なことを……)
(朝のアナウンス直後に回収したなんて、そんなの誰でもできるじゃん……!)
霧子「朝食堂に集まった時には既に大体武器は集め終わってたんだよね……?」
夏葉「ええ、そうね。ゲームルームにまとめて置いておいて、そこからは代わり代わりで武器の監視をしていたの」
甘奈「今朝最初に食堂にやってきたのは誰だったっけ?!」
甜花「お、覚えてない……」
円香「し、それが分かったところで意味はない」
透「まあ、だとしてもじゃん」
透「なんにせよ事件が起きた時に食堂にいたうちらは少なくともクロじゃないしさ」
透「モノクマコンバットか、ソロプレイのどっちかっしょ。クロは」
(そうだ……まだ焦らなくていい。私は食堂組でアリバイを確保してる限りは安全圏なんだ)
灯織「私は違います……マンホールの中にずっといたので……!」
甘奈「い、いやいや! 甘奈たちは違うよ?! ずっと甜花ちゃんと一緒だったし……」
あさひ「わたしも違うっすよ。教室でぼーっとしてたっす」
愛依「うち以外にも包丁を持ち出せたんでしょ?! じゃあヨーギシャはうちだけじゃない……!」
甘奈『甘奈たちはやってないよ!』
あさひ『わたしじゃないっす』
愛依『うち以外にも包丁は持ち出せたはずじゃん?!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おっと、議論が過熱してお三方が思い思いにしゃべり始めてしまいましたね。
ここから先の議論は今までの議論とほんの少しだけ様相が変わります。
【パニック議論】では、発言しようという思いが先走るあまりに、ほかの方の発言をかき消してしまうような大音量での発言をなさる方が現れることがあります。
そんなときに必要になるのがサイレンサーでございます。
サイレンサーはコンマの値を参照し、それに応じて議論の流れを正してくれます。
スキルによってサイレンサーの性能は向上させることができますので、こちらもぜひご検討ください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
------------------------------------------------
【パニック議論開始!】
サイレンサーLv.1:補正なし
発言力:♡×3
集中力:☆×5
コトダマ
‣【あさひの証言】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【AVルーム裏口の扉】
甘奈「甘奈と甜花ちゃんは昨日の夜からずっと一緒だったもん!」
あさひ「わたしが今朝食堂に行ったのはだいぶ後の方っす」
愛依「朝のアナウンスが鳴って一度ゲームルームに集まってから」
甜花「夜時間からずっと一緒に動いてた……から」
あさひ「包丁を取るタイミングなんかなかったっすよ」
愛依「武器は集め始めたんだよ!」
甜花「包丁を持ってたりしたら流石に、気づく……!」
あさひ「事件が起きた時もずっと教室にいたっすからね」
愛依「だから更にそれよりも前……」
灯織「私はアリバイを証明してくれる方はいませんが……」
あさひ「わたしが教室にいたこと自体は食堂組の人たちが証明してくれるっすよね?」
愛依「朝のアナウンスのマジ直後なら包丁をチョータツできたはず!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【Noise:30】愛依「どーよ! これがうちの反論!」【Noise:30】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
灯織「事件現場には近づいていません!」
凛世「はい……ひょっこりと顔を出されたあさひさんに、驚きました……」
夏葉「上等よ、愛依。可能性はバッチリ提示できたわ」
【サイレンサーでノイズ発言を鎮めろ!】
【コンマで30以上の数字を出すことでノイズ発言を鎮めることができます】
↓1
にちか「あー、もう! うるさーい!」
【EXCELLENT!】
【ノイズ発言を鎮めたのでウィークポイントが出現しました】
------------------------------------------------
【パニック議論開始!】
サイレンサーLv.1:補正なし
発言力:♡×3
集中力:☆×5
コトダマ
‣【あさひの証言】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【AVルーム裏口の扉】
甘奈「甘奈と甜花ちゃんは昨日の夜からずっと一緒だったもん!」
あさひ「わたしが今朝食堂に行ったのはだいぶ後の方っす」
愛依「朝のアナウンスが鳴って一度ゲームルームに集まってから」
甜花「夜時間からずっと一緒に動いてた……から」
あさひ「包丁を取るタイミングなんかなかったっすよ」
愛依「武器は集め始めたんだよ!」
甜花「包丁を持ってたりしたら流石に、気づく……!」
あさひ「事件が起きた時もずっと教室にいたっすからね」
愛依「だから更にそれよりも前……」
灯織「私はアリバイを証明してくれる方はいませんが……」
あさひ「わたしが教室にいたこと自体は食堂組の人たちが証明してくれるっすよね?」
愛依「朝のアナウンスのマジ直後なら包丁をチョータツできたはず!」
灯織「地下の図書室に行っていたら、その【道中で確実に目撃されます】よ!」
あさひ「死体発見アナウンスを聞いて、わたしも飛び出したんっすから」
【QUIET】
灯織「事件現場には近づいていません!」
凛世「はい……ひょっこりと顔を出されたあさひさんに、驚きました……」
夏葉「上等よ、愛依。可能性はバッチリ提示できたわ」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
【発言力:♡×3→2】
灯織「いえ、地下に行くルートはただの一つだけです。地下に降りてからのことは関係ありません」
灯織「地下の図書室に行くには必ずあの廊下を通らなくちゃいけなかった」
灯織「それなら確実に彼女に目撃されたはずなんです」
(しまった……別の発言をすればよかったな……)
(風野さんが言っている目撃って多分、あの人に見られるってことなんだろうけど……)
(あの人の発言自体、ちょっと疑問なんだよね。モヤモヤ同士ぶつけ合ってみるのもありなのかな)
------------------------------------------------
【パニック議論開始!】
サイレンサーLv.1:補正なし
発言力:♡×2
集中力:☆×5
コトダマ
‣【あさひの証言】
‣【事件当時のアリバイ】
‣【AVルーム裏口の扉】
甘奈「甘奈と甜花ちゃんは昨日の夜からずっと一緒だったもん!」
あさひ「わたしが今朝食堂に行ったのはだいぶ後の方っす」
愛依「朝のアナウンスが鳴って一度ゲームルームに集まってから」
甜花「夜時間からずっと一緒に動いてた……から」
あさひ「包丁を取るタイミングなんかなかったっすよ」
愛依「武器は集め始めたんだよ!」
甜花「包丁を持ってたりしたら流石に、気づく……!」
あさひ「事件が起きた時もずっと教室にいたっすからね」
愛依「だから更にそれよりも前……」
灯織「私はアリバイを証明してくれる方はいませんが……」
あさひ「わたしが教室にいたこと自体は食堂組の人たちが証明してくれるっすよね?」
愛依「朝のアナウンスのマジ直後なら包丁をチョータツできたはず!」
灯織「地下の図書室に行っていたら、その【道中で確実に目撃されます】よ!」
あさひ「死体発見アナウンスを聞いて、わたしも飛び出したんっすから」
【QUIET】
灯織「事件現場には近づいていません!」
凛世「はい……ひょっこりと顔を出されたあさひさんに、驚きました……」
夏葉「上等よ、愛依。可能性はバッチリ提示できたわ」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「聞こえた……!」論破!
【BREAK!】
にちか「単独行動をしていたメンバーが地下の図書室に向かっていたら、確実に他の誰かに目撃されてしまう。それって芹沢さんのことを言ってるんですよね?」
灯織「ええ……七草さんと一緒に捜査をした時に、彼女が言っていたことです」
灯織「コロシアイ促進BGMが流れ出すよりも前から教室にいて……モノクマと戦うことを決めたメンバーが地下に下っていくのを見てからは」
灯織「その動向が気になってずっと廊下を注視していたと」
にちか「そう、芹沢さんのこの証言があるなら単独行動組はもちろん事件に関与していないことになるんです」
甘奈「や、やった……!」
にちか「でも、そうじゃないんです……」
甜花「え……?」
にちか「愛依さんはずっと言ってましたよね? 【芹沢さんを探すために途中で離脱した】って」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「愛依さんは【途中で抜けて、事件発生時刻よりも後に戻って来た】って聞きましたよ!」
愛依「え?! あ、あー……あさひちゃんを探しに行った時のことか!」
愛依「うん、9時20分ぐらいから15分ぐらい抜けてたけど……図書室には行ってない! 地上を探してたんだよ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「芹沢さんがいたのは、あの教室のはずなんですよ? 図書室に行ったでもないなら、愛依さんは確実に教室の前を通ったはずです」
にちか「だけど、芹沢さんは【そんなこと一言も言ってない】! 誰も通ってないって断言までしてる!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あさひ「それも気になったから、そこからはずっと廊下を見てたっすよ」
にちか「え? ずっと? 死体発見まで?」
あさひ「はいっす。まあ途中よそ見したとかはあったかもしれないっすけど……基本はずっと見てたと思うっす」
あさひ「でも【そこから他に通った人はいなかった】っすね。地下に行く人も、地下から出てきた人もいないっす」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「それっておかしくないですか?! 証言が食い違ってるんですよ!」
甜花「た、確かに……和泉さんの姿を見てないのはおかしい……よね」
甘奈「というか愛依ちゃんはあさひちゃんのことを教室で見つけなかったの?」
愛依「えっと……」
あさひ「……」
夏葉「もしかして……何か隠してるのかしら?」
愛依「いやいや、隠し事なんて、ぜんぜん!」
にちか「どうなんですか?!」
愛依「……うぅ、そーなんよ。うち、あさひちゃんを探しに階段登ったけど……【教室では見つけられなくて】」
凛世「なんと……!」
にちか「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! それじゃあ芹沢さんは嘘の証言をしてたってことですか?!」
あさひ「んー……まあいいか。嘘とかじゃないんっすよ。教室にずっといても退屈だったんで、【ちょっと抜けてる時があった】んっすよ」
あさひ「廊下に何か面白いものないかなーって探しに行ってたんで。その時に愛依ちゃんがきたのかもしれないっすね」
めぐる「来たのかもしれないっすねー……ってそんな簡単に言っちゃってるけど、大きな変化だよ!」
めぐる「あさひが廊下を見てない時間があったんだったら……甘奈や灯織が地下に行くことだって可能だったタイミングがあるんじゃない?!」
甘奈「えっ……あ、甘奈たちも?!」
灯織「私もですか……!?」
甜花「あ、あぅ……」
真乃「あ、あの……あさひちゃんはどうなるのかな……?」
あさひ「わたしっすか?」
真乃「最初は凶器の調達ができないから容疑者から外れていたけど……今はそうでもないし」
真乃「事件当時のアリバイも、自分一人の証言しかないんだよね……?」
あさひ「あー、そうっすね! わたしも容疑者になると思うっすー!」
樹里「そんな気軽によく飲み込めんな……」
夏葉「あさひ……それは分かった上で言っているのかしら」
あさひ「なんのことっすか?」
夏葉「この状況、あさひだけは別。【あさひは容疑者にはなり得ない】のよ」
恋鐘「なして? 条件はみんな一緒やろ?」
夏葉「いい? 愛依があさひを迎え入れると言って出て行ったのが9時20分ごろ。そこから15分前後してから愛依は戻ってきた」
夏葉「愛依が図書室に行ったのではなく、証言通りに地上階を探しに行っていたのなら【この段階であさひは既に倉庫に向かっていた】ことになる」
甘奈「そっか……行きも帰りも愛依ちゃんがあさひちゃんを見つけてないから……」
夏葉「逆に愛依が犯人だった場合なら言わずもがな。あさひは関与していない……それだけのことよ」
霧子「そうとも限らないんじゃないかな……二人が行き違いになっていた場合とか……」
夏葉「私たちが死体を見つけたのが【9時35分で愛依と合流した直後】なの。あさひが犯人ならば必ず愛依とすれ違っているだろうし、行き違いは起こり得ないわ」
夏葉「地下を行き来する階段は一つしかないし、地下の階段前の教室はただ一つなんだもの」
あさひ「ふーん、そういうことになるんすね」
(愛依さんの証言で芹沢さんの不在が証明された)
(ただ、愛依さんは確実に帰ってきていて、道は一本道だから……結果的に芹沢さんのアリバイを証明することになるんだ)
透「じゃあ容疑者は4人だ」
円香「芹沢さんを探しに行くと言って離脱した時間のある愛依さん」
円香「それぞれ単独行動をしていた甘奈と甜花さんの姉妹」
円香「そしてマンホールにいた……? 灯織」
透「犯人はこの中にいる!ってね」
【甘奈「その推理は許せないかも!」】反論!
甘奈「ちょっと待ってよ! 確かに今の話を聞いているとあさひちゃんのアリバイは証明されちゃうのかもしれないけど……」
甘奈「それと同じ原理で、甘奈たちのアリバイも証明されるんじゃない?」
甘奈「容疑者に甘奈たちを入れるのは不適切なんじゃないかな!」
------------------------------------------------
【反論ショーダウン・真打 開始!】
発言力:♡×2
集中力:☆×5
コトノハ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【あさひの証言】
‣【AVルーム裏口の扉】
甘奈「あさひちゃんのアリバイが」
甘奈「地上に出た愛依ちゃんとすれ違っていないことで証明されるのなら」
甘奈「甘奈たちだってそうなるよ!」
甘奈「だって甘奈たちも」
甘奈「死体発見アナウンスまで誰とも一度も会ってないもん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
【発展!】
にちか「ええ、それはもちろん知ってますけど……」
にちか「それだから、お二人はアリバイがないって話なんじゃないですかー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
甘奈「今まではそれでアリバイなしになってたけど状況が違うんだよ!」
甘奈「あさひちゃんが倉庫に行っている間に地下に降りても」
甘奈「犯行を行った後、戻ってくる時に」
甘奈「絶対に愛依ちゃんかあさひちゃんに【会っちゃう】よね?」
甘奈「でも、二人とも甘奈たちの姿も見てないって言ってるし」
甘奈「地下には行ってない証拠になるよね☆」
【矛盾する発言を正しいコトノハでコンマ30以上で論破しろ!】
↓1
【発言力:♡×2→1】
甘奈「うん、あさひちゃんがいないタイミングがあったのは分かってるよ?」
甘奈「でも、それはそのタイミングで甘奈たちが地下に行くことはできても、戻ることができたことの証明にはなってないよ!」
甘奈「あさひちゃんは死体が見つかった後のタイミングでは教室に戻ってきてたんだよね?」
甘奈「甘奈たちが死体発見現場にやってきたのはあさひちゃんたちよりも後なんだよ!」
(うーん……ややこしいけど、芹沢さんは死体発見までには教室に戻ってきていて、かつ誰も目撃していないという証言なんだよね?)
(だったら、図書室に行くことはできても、戻ることはできないというのが甘奈さんの理屈だ)
(なら、図書室から戻る必要はなかったことを証明するのが打ち破るきっかけになるのかも……!)
------------------------------------------------
【反論ショーダウン・真打 開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトノハ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【あさひの証言】
‣【AVルーム裏口の扉】
甘奈「あさひちゃんのアリバイが」
甘奈「地上に出た愛依ちゃんとすれ違っていないことで証明されるのなら」
甘奈「甘奈たちだってそうなるよ!」
甘奈「だって甘奈たちも」
甘奈「死体発見アナウンスまで誰とも一度も会ってないもん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
【発展!】
にちか「ええ、それはもちろん知ってますけど……」
にちか「それだから、お二人はアリバイがないって話なんじゃないですかー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
甘奈「今まではそれでアリバイなしになってたけど状況が違うんだよ!」
甘奈「あさひちゃんが倉庫に行っている間に地下に降りても」
甘奈「犯行を行った後、戻ってくる時に」
甘奈「絶対に愛依ちゃんかあさひちゃんに【会っちゃう】よね?」
甘奈「でも、二人とも甘奈たちの姿も見てないって言ってるし」
甘奈「地下には行ってない証拠になるよね☆」
【矛盾する発言を正しいコトノハでコンマ30以上で論破しろ!】
↓1
にちか「その言葉、切らせてもらいますねー!」論破!
【BREAK!】
にちか「甘奈さんたちと芹沢さんの状況が違うのは……一つ大きな事実があるからなんです」
甘奈「事実……?」
にちか「私たち食堂組は死体発見アナウンスを受けて地下へと向かっている際に、実際に教室にいた芹沢さんに会っているんです」
にちか「つまり事件前後で芹沢さんが教室に戻ってきていた証明はできている」
甘奈「そうだよね? だからそのあさひちゃんに会ってない甘奈たちは……」
にちか「会う必要がないんです」
甜花「ひぃん?!」
にちか「地下には図書室とゲームルームの他にもう一つ部屋があるんです。それが【AVルーム】」
甜花「エー……ブイ……?」
にちか「ゲームルーム側から入る入り口ともう一つ、廊下に直結で用意されている入り口もあるんですよ」
にちか「つまり、ここから【AVルームに身を隠しておけば、あとは死体発見の騒ぎに乗じて姿を現すだけでいい】」
にちか「これなら芹沢さんと愛依さんの二人の目を掻い潜っての反抗が可能です!」
甘奈「そ、そんな……甘奈たち……行ってないし、やってないよ……!」
灯織「状況が混沌としてきましたね……容疑が今、いろんな方向に向けられていて……苦しい状況です」
円香「愛依さんが犯人だったら話もスッと終わって分かりやすかったんですが」
愛依「ご、ごめん……」
甜花「ちょ、ちょっと待って……!」
にちか「……? 甜花さん……?」
甜花「あ、あの……今の七草さんの推理は……無理があると思います……!」
樹里「ま、マジか? どこの話だ?」
甜花「AVルームの話……なんだけど……えっと……幽谷さん、おかしいと思ったよね……?」
霧子「う、うん……あそこの扉は、【開かない】はずだから……」
にちか「扉が、開かない……?」
甜花「前に甜花と幽谷さんで一緒に、あの部屋でアニマルビデオを見たことがあるんだけど……」
甜花「その時に、扉が開かなくて焦った記憶があるんだ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
甜花『あ、あれ……? 開かない……』
霧子『甜花ちゃん……? ちょっと代わってもらってもいいかな……?』
甜花『う、うん……』
霧子『よい、しょ……』
霧子『ダメみたい……どうやら、立て付けが悪い扉みたいだね……』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
霧子「どれだけ力を入れても動かなくて……レーンには埃も溜まっていたから……」
霧子「犯行の後に身を隠す場所には使えないと思うな……」
甘奈「て、甜花ちゃん……ありがとう! 甜花ちゃんは世界で一番頼りになるお姉ちゃんだよ!」
甜花「に、にへへ……これで、弁護できた……」
(AVルームが使えないから身を隠せない……)
(本当にそれだけの単純な話かな……)
(もっと容疑をふっかけて……議論を撹乱してやれる気がする)
にちか「いや、待ってください!」
灯織「ま、まだ……可能性があるんですか?」
にちか「はい……【地下に身を隠せる場所が他にもある】としたら……どうですか?」
甘奈「ほ、他にも身を隠せる場所……?」
(隠し通路の話をするのは論外として……)
(あの場所なら……可能性はあるかもしれない……!)
------------------------------------------------
【ひらめきアナグラム開始!】
き/つ/う/こ/う
【正しい順番に並べ替えろ!】
↓1
にちか「これだ!」
【解!】
にちか「図書室の角っこにあった【通気口】……あそこなら出入り出来るはずですよ!」
めぐる「つ、通気口ー?!」
円香「元は地下に貯蔵されている本の湿気を取るためのものなんでしょうね。あれだけの本が収められているだけあって、かなり立派な通気口があったと思います」
樹里「そういや……地下から降りる階段の天井にパイプが通してあったな。あれが多分通気口のパイプ……なんだよな?」
夏葉「まさかあのパイプの中を這って脱出したとでも言うつもり?!」
真乃「かなり大胆な脱出計画ですね……」
甜花「て、甜花……そんなことする体力ない……」
凛世「しかし、仰る通り人が一人通れるほどの隙間はあるものかと……」
にちか「これも検討の価値はありますよね?」
樹里「んあー! しょうがねえ、これも確かめてみるぞ!」
樹里「図書室に出入りする方法が他にもあったのかどうか! 検証だ!」
------------------------------------------------
【ノンストップ議論開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトダマ
‣【床の埃】
‣【整理された本棚】
‣【コロシアイ促進BGM】
真乃「あさひちゃんの監視の目を掻い潜って地下に行くことは可能です……っ」
真乃「戻ってくる愛依さんと、あさひさんに会わずに姿を隠す方法は……」
めぐる「【通気口を使った】んだよ!」
めぐる「図書室には地上とつながる大きな通気口があったからね!」
甜花「甜花、そんなとこよじ登れない……!」
透「書架用の梯子を使えば【誰でも登れる】高さだよ」
透「あーでもあの図書室ってさ」
透「めっちゃ雑じゃなかった? 配置とか」
凛世「本棚の上の本も雑然としており、とても人が行き来しやすいものではありませんでした……」
凛世「通気口を使おうとしても、【本がそれを阻む】ものかと……」
甜花「通気口を張って進むのも体力使うし……」
甜花「甜花には不可能なトリック……!」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「それは違くないですかー?」論破!
【BREAK!】
にちか「確かにあの図書室はきったないです。お姉ちゃんの仕事部屋みたいな汚さです」
真乃「そ、そうなんだ……」
あさひ「まさに足の踏み場もないってやつっすね!」
甘奈「そんな状況じゃ通気口を使うどころじゃないよね……?」
灯織「……そんな状況ではなかったってことなんですよ」
甘奈「ひ、灯織ちゃん?!」
灯織「私と七草さんは図書室の本棚を一通り調べてみたんですが……」
灯織「本棚の上に乱雑に置かれていたはずの本は【全て整頓して並べ直されていた】んです」
甜花「そ、そうなの……?」
灯織「あれならうっかり本を落として音を立ててしまうようなこともなく、通気口を使うことができたと思います」
(うぅ……そんな恨めしそうな目を私に向けないで……)
樹里「ってことは……ここまでの流れを整理するとだ」
樹里「あさひと愛依がいなくなったタイミングで地下に忍び込んだ犯人がルカを殺害」
樹里「そのあとは梯子を使って本棚の上に登り、通気口を通って地上へと向かった」
夏葉「あとは死体発見アナウンスのタイミングで、あさひがいなくなるのを確認してから教室の方の通気口から脱出する」
夏葉「何食わぬ顔で後から合流すれば条件は満たすわね」
甘奈「ち、違う……違うって……甘奈たちはやってないよ……!」
甘奈「そ、それに大体……通気口なんて使ったらパイプを通る時に大きな音がしちゃうよね?!」
甘奈「そんな大胆な方法、気づかれずに実行するなんて……」
にちか「いや、それは看破してますよ」
甘奈「ええっ?!」
(通気口を使う時になる大きな音。それを掻き消す方法なら、あれがあったはずだ)
【正しいコトダマを指摘しろ!】
>>374 >>375
↓1
にちか「これだー!」
【解!】
にちか「事件が起きる少し前、コロシアイのタイムリミットが1時間を切った頃から学園中にあの爆音が鳴り響いてましたよね?」
甘奈「爆音って……コロシアイ促進BGM?」
樹里「あー……あのモニターから流れてたやつか……どこ行っても流れてっからノイローゼになるかと思ったんだよな……」
にちか「あれだけ大きな音が流れている状況で、通気口を人が通って物音が立とうとも、誰も気にしません」
にちか「物音は、この方法を否定する理由にはならないですよねー!」
甘奈「そ、そんな……!」
灯織「……」
(よし……いいぞ、いいぞ……!)
(完全に流れは私のもの! もはや食堂組に疑いの目を向ける人は誰もいない!)
(このまま、単独行動をしてた人か、愛依さんあたりに罪を被せて……この学園を卒業する……!)
夏葉「だいぶ事件の全容が見えてきた様ね……容疑者も数が絞れてきた」
夏葉「地下に行って殺害が可能だったのは、愛依、甘奈、甜花、灯織の四人」
夏葉「この中からあとは犯人を見つけ出さないと……」
あさひ「あ、ちょっといいっすか?」
夏葉「どうしたの、あさひ? ここまでの推理で何かわからないことでもあったかしら」
あさひ「うーん、そうじゃないんっすけど……夏葉さん、一つ大きな見落としをしてるっすよ」
夏葉「見落とし? 何かしら、教えてちょうだい?」
あさひ「容疑者からにちかちゃんが抜けてるっす」
(……!?)
にちか「え、ちょっと急にやだなー……もしかして、途中でトイレに抜け出してたこと? でもちゃんとトイレに行ってからも私は食堂に戻ってきたしー……」
あさひ「いや、そうじゃないっす。そこはどうでもよくて」
あさひ「女子トイレから直通で図書室に行く隠し通路があるっすよね?」
にちか「……は?」
目の前の少女はあまりにも平然と、それが常識であるかの様に口にするので、私は言葉を失ってしまった。
私が裁判に挑むずっと前から存在を隠し続け、この舞台において心の拠り所にして戦っていた核を、彼女は悠々と全員の前で披露した。
子供が図工の時間に作った自信作を、食卓の上に置いた時の様に朗らかな笑顔で、微塵の邪気も滲ませることもなく。
灯織「隠し……通路……?」
あさひ「一回の女子トイレの用具入れっすね。その壁を押すと奥の空間が開いて、そのまま図書室まで行くことができるっすよ」
円香「ちょっと、急に何?」
円香「そんなフィクションみたいな話急に言われて信じられると思う?」
あさひ「いや、でも本当に隠し通路があるんっすよ!」
(何を急に言い出すのこの子……!?)
(だ、ダメ……なんとしてもこの子の発言は打ち砕かないと……!)
本日はここまで。
また明日21:00ごろより再開予定です。
それではお疲れさまでした。またよろしくお願いします。
灯織「女子トイレに隠し通路があるから、七草さんにも犯行は可能……とのことだけど」
灯織「流石に隠し通路がある、と言われても信用できない……その証拠がないんだから」
にちか「そ、そうだそうだ! 証拠を出せ証拠を!」
あさひ「証拠っすか? いいっすよ?」
にちか「なっ……!」
甘奈「証拠が、あるの……?!」
あさひ「あはは、そうじゃなきゃこんな話急にしないっすよ」
(もはや猶予はない……どんな手段を用いてもこの子は挫かないとダメだ……!)
------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトダマ
‣【事件当時のアリバイ】
‣【整理された本棚】
‣【ゲームルームの武器】
あさひ「にちかちゃんも容疑者なんっすよ」
あさひ「だって女子トイレには図書室と通ずる【隠し通路があった】っす!」
めぐる「そんなの初耳だよー!?」
凛世「隠し通路とはどのようなものなのですか……?」
あさひ「本棚の一部が【開いたり閉じたりする】っすよ!」
樹里「そんな大掛かりな仕掛け、誰かが気付きそうだけどな……」
めぐる「証拠だって今まで出てきてないよね……」
あさひ「少し前に通気口の議論になったじゃないっすか」
あさひ「あの時に本棚の上の本が整理されていたって話が出たっすけど」
あさひ「隠し通路がある本棚だけは【本が積まれてなかった】んっすよ」
灯織「積まれてない?」
あさひ「本棚が動いたら本が落ちちゃうからっすね」
あさひ「これが隠し通路があった証拠っす!」
【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「この嘘で真実を覆い隠す!」偽証!
【BREAK!】
にちか「本棚の上の本がなかった……? そんなわけない!」
にちか「私自身が図書室の本棚は一通り調べたけど、全部の本棚の上に本は積まれてたし、整理された状態で置いてあったよ!」
(もし芹沢さんの言う通り本棚の上の本がなくなっていたとしても……隠し通路があることの確定的な証拠にはならないはずだ……)
(この子がどこまで知っているのかはわからないけど……物理的な証拠がない限りは嘘で捻り潰せる……!)
夏葉「図書室の調査は行ったけど……本棚の上の本まで全ては見てないわね……」
霧子「あっ、恋鐘ちゃん……」
恋鐘「なんね、霧子? うちん顔になんかついとーと?」
霧子「ドローンで撮った写真だよ……! あれなら図書室を俯瞰で見た写真があるんじゃないかな……」
(やば……!)
恋鐘「そうばい! 写真があればあさひの証言の裏付けになるはずたい! モノファニー、現像はいまどがんね!?」
モノファニー『』
モノタロウ「あ、あれ!? モノファニー!? どこ行っちゃったの!?」
モノスケ「モノファニーは離席中や。アイツも何かと多感な時期やからな。ワイらで色々と察してやらなあかんで」
モノキッド「あっ、そうだ……空から見てるんだよ、ミーたちのことをみんなが」
モノダム「……」
霧子「どうやら……まだ出来ていないみたいだね……」
あさひ「その必要はないっすよ? だって【わたしが撮った写真がある】っすから」
にちか「は、はぁ……?」
あさひ「わたし、こんなこともあろうかと現場の写真をいっぱい撮っておいたっす!」
(そういえば……)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
他の人たちより一際目立って捜査に熱中している様子の少女が一人。
手には何やらインスタントカメラのようなものが握られて、現場を歩き回っては写真の撮影を繰り返している。
それについて回る愛依さんはあたふたしてばかり。
にちか「あ、あの……芹沢さん、ちょっといい?」
あさひ「……」
愛依「あさひちゃん、あさひちゃん! なんかお話あるみたいだけど?!」
あさひ「……? なんっすか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(芹沢さんは捜査の段階でインスタントカメラを持ち込んで写真をやたら撮り回っていた……!)
あさひ「みんなにはこの2枚の写真を見て欲しいっす!」
芹沢さんが私たちの前に提示した写真は、図書室奥の本棚を引きの画角で撮った写真。
あさひ「写真には右下に日付の時刻が自動で入るっすけど……」
あさひ「1枚目は昨日の夜時間っすね。この時は本棚の上にある本はそのままっす」
めぐる「バランスが悪い積み方がしてあって、すぐに崩れてきそうだね!」
透「他の本棚は綺麗に整理された後っぽいね」
あさひ「で、2枚目は事件が起きてから撮った写真っす。右下はルカさんの死体が映っちゃってるんで気をつけてくださいっす」
甜花「うぅ……本当だ……」
真乃「あっ! 【中央の本棚の上の本がなくなってる】!」
円香「床にいくつか散乱した様になっていますし……これは」
樹里「元から図書室は床に本が散乱してたからあんまり気に求めてなかったけど……これは怪しいな」
(こ、こんなのずるいよ……!)
(私の嘘を後出しで潰せる証拠を持ってたなんて……!)
(で、でも……これもまだ確定的じゃない……!)
にちか「確かにその写真で見ると、中央の本棚の本は落ちてるみたいですけど……!」
にちか「隠し通路の存在をそれで証明するには足りないですよね!?」
愛依「まあグーゼンに本が落ちることだってあるよね……? 実際、本の積み方はバランスが悪く積まれてたわけなんだしさ?」
あさひ「そうっすね! 偶然かもしれないっす!」
にちか「はぁ……?」
あさひ「あはは、なんだか楽しくなってきたっす! にちかちゃん、その調子でお願いするっすよ!」
あさひ「わたしと一緒に、戦ってくださいっす!」
(こ、この子は……何を言ってるの……?)
------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトダマ
‣【ルカの持っていた手紙】
‣【食堂の利用規則】
‣【床の埃】
あさひ「図書室奥の中央の本棚の上の本」
あさひ「あれが事件の前後で落ちちゃってるのは」
あさひ「隠し通路として【本棚が動いた】証拠っす!」
甘奈「偶然に本が落ちちゃっただけかもしれないよ?」
甘奈「地震があったとか……」
甘奈「誰かがぶつかったとか!」
灯織「本棚の上の本の有無で隠し通路の存在を議論するのはちょっと無理があるような気が……」
灯織「図書室に【他に事件前後で変わったところもない】ですし……」
円香「仮に本棚が動いたとして」
円香「それが【女子トイレにつながっている証拠もない】ですよね?」
愛依「あさひちゃん……どうなん?」
あさひ「あはは、楽しくなってきたっすね!」
【嘘のコトダマで利用できる発言に同意しろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「この嘘で真実を握りつぶす!」偽証
【BREAK!】
にちか「みなさん、芹沢さんの話に踊らされちゃダメですよ! そんな……隠し通路だなんて、そんなわけないじゃないですか!」
あさひ「……」
にちか「あの図書室は長く利用していた人もいなかった。埃も散々に溜まってましたよね?」
凛世「はい……わずかの時間立ち入っただけでも思わず咳き込んでしまうような……」
凛世「淀んだ空気に、止まってしまった時間を感じておりました……」
恋鐘「ふぇーーーーーーくしょん!」
にちか「でも、隠し通路がもしあったんだとしたら、その扉が開く時に床の埃も吹き飛んじゃいませんか?」
樹里「ん? ああ……そう、か……」
にちか「風野さん、一緒に捜査しましたけど床の埃はどうでしたか?」
(風野さんは床の埃の違いには気づいていなかった……ここは念押しをすれば乗ってくれるはずだ……!)
にちか「風野さん……」
灯織「え、ええ……【大変埃が溜まっていて】、正直、長居はしたくない場所でした」
(……よしっ!)
夏葉「でもちゃんと床の埃を目視したわけじゃないわ……もしかしたら一定の場所だけ埃が避けられた様になっていたかもしれないじゃない?」
にちか「いやいや、そんなことないですって! 私は見ましたよ、あの床は満遍なく埃まみれでした!」
あさひ「あはは、にちかちゃん、適当な嘘じゃダメっすよ〜」
にちか「……っ!?」
あさひ「さっきも言ったっすけど。わたしインスタントカメラで現場の写真をいっぱい撮ってたっす」
あさひ「それでこれは……【死体発見現場周辺の床の写真】っす」
そこに映っていたのは、埃に塗れた図書室のフローリング。
その埃が……あたかも放物線を描く様な形でよけられたような跡だった。
凛世「こ、これは……?」
あさひ「図書室の隠し通路は本棚が動いて、壁の扉が姿を現す仕掛けっす」
あさひ「だから、仕掛けを動かす際に本棚が床を擦って、そこにあった埃を動かしてこんな風に溜まったんっすね」
あさひ「さっきのにちかちゃんの嘘はこの写真で完全に瓦解するっすね!」
(な、何を言ってるの……この子は……)
まずい、まずいまずい。
ここまで積み重ねてきた嘘が、突き崩されている音がする。
私の立っているこの場所が、根本から折れかけている。
柱を食い破ろうとしているのは、無害だと思っていた小さな小さな鼠。そのひと噛みひと噛みが深く、深刻に、抉っていく。
円香「だ、だとしても……隠し通路が女子トイレと繋がっている証拠はないでしょ」
樹里「隠し通路の存在もまだ……確定じゃない。可能性が高くなってきてるのは事実だけど」
樹里「なあ、にちか……もっと詳しく聞かせてくれないか。今アンタがついた嘘のその意味も、合わせて」
にちか「意味……? 意味ってなんです……?」
にちか「そんなもんないですよ! この子が! 私を急に容疑者扱いするから……そこから逃れようとしただけです!」
愛依「に、にちかちゃん、落ち着いて! ほら、ロンリ的に反論すればダイジョーブだから!」
にちか「言われなくても……そうするつもりですよ!」
にちか「芹沢さん……あなたの勝手にはさせない」
あさひ「……」
にちか「私は負けないんだから!」
コトダマゲット!【女子トイレの隠し通路】
〔女子トイレに存在する隠し通路。図書室まで通じており、にちかはこれを利用してルカを殺害した〕
------------------------------------------------
【偽証ミスディレクション開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトダマ
‣【モノクマファイル1】
‣【コロシアイ促進BGM】
‣【女子トイレの隠し通路】
あさひ「女子トイレと図書室を繋ぐ隠し通路があったっす!」
あさひ「それを利用すればにちかちゃんにも犯行は可能っすね!」
夏葉「隠し通路の存在を示す根拠は二つ」
真乃「図書室奥中央の【本棚の上から崩れ落ちた本】と」
真乃「【放物線の形によけられた床の埃】ですね……っ!」
あさひ「どっちも写真があるっすよ!」
円香「だとしても隠し通路を示す確定的な証拠はない」
円香「ましてその隠し通路とやらが女子トイレと通じている証拠もね」
樹里「なあ、マジな話どうなんだ」
樹里「にちか……隠し通路を……【使った】のか?」
【嘘のコトダマで議論の流れを捻じ曲げろ!】
1.発言する(コトダマと撃ち込む先の発言を併せて指定安価)
2.集中力を使う(ロンパ候補の発言の数が減る)
↓1
にちか「この嘘を、貫き通す!」偽証!
【BREAK!】
にちか「はぁ〜……マジでわけわかんない、最悪。さいっっあく」
にちか「隠し通路? そんなの使ったわけないじゃないですか! ドラマの見すぎ、小説の見すぎ、ゲームのやりすぎですよ!」
にちか「断言しますけどね、私はそんな隠し通路の存在なんか知らないし、通ってない!」
にちか「女子トイレには行きましたけど、それっきり! 図書室には行ってないですから!」
愛依「あさひちゃん……にちかちゃんがここまで強く言ってるけど……どうなん?」
あさひ「……」
あさひ「にちかちゃんの反論は、それで終わりっすか?」
にちか「はぁ……はぁ……何?」
あさひ「うーん……もうちょっと楽しみたかったんっすけど。ネタ切れなら仕方ないっすね」
あさひ「これで終わりにするっす」
これまでに聞いたことのない様な低いトーンで、彼女はとても退屈そうに、懐からもう一枚写真を取り出した。
これまでと同じく、図書室の床を写した写真。
しかし、そこに混じる色彩には……【紫】があった。
めぐる「こ、この写真は……何……?」
真乃「図書室の床を撮った写真みたいだけど……こ、これって……っ!」
樹里「あ、足跡が浮かび上がってるじゃねーか!!」
(あ、足跡……?)
あさひ「事件現場となった周辺を、わたしが【ブラックライト】を使って照らして写真を撮ったっす」
樹里「ま、待て待て! ブラックライトで足跡ってわかるものなのか?!」
夏葉「いえ、そんなわけないわ。ブラックライトが反応するのは特定の物質のみ。蛍光物質を含むものが長く蓄光するので、反射で光る原理ね」
あさひ「そう、だから【犯人は蛍光物質を多く含むものを踏んでる】んっすよ」
にちか「はぁ……?」
あさひ「わたしは事件の前に、【衣類用洗剤を女子トイレの床に散布しておいた】んっすよ」
あさひ「衣類用洗剤には蛍光増白剤っていうブラックライトに反応する物質が含まれてるっすからね」
あさひ「だから、それを踏んだ人間が図書室に来ていたら足跡が残る原理っす」
にちか「で、でもそんなの死体発見現場に駆けつけたんだし残るのは当然……!」
あさひ「こんな【本棚から出てきたみたいな向きの足跡で】……っすか?」
にちか「……!」
甘奈「あさひちゃんの言う通りだよ……この足跡の持ち主はどうみても、壁から出てきて死体の方向に歩いてる」
甘奈「隠し通路から出てきて、犯行を行った様にしか見えない……」
あさひ「にちかちゃんの他に、事件の前後で一回の女子トイレに行った人はいないっすか?」
「……」
あさひ「なんならにちかちゃんの靴を、今このブラックライトで照らしてもいいっすけど」
あさひ「……どうするっすか?」
(……)
(…………)
(………………意味わかんない)
(何? 突然話をぶったぎってきて証拠の連続?)
(しかも、それが全部私が犯人だって結びつく確定的な証拠?)
(こんなの……もう、どうしようもないじゃん)
気がつけば、私は証言台の細い柱に縋る様にへたり込んでいた。
手のひらで握っても指が余るほどにか細い柱。私が積み重ねていた嘘とはこの程度のものだったんだろう。
必死に必死に重ねて、練り合わせて、なんとか柱と言い張れるぐらいの出来のものに乗っかって、不恰好な櫓で挑んでいた。
こんな簡単に根本から崩れ落ちるとも知らずに。
全てが終わったと悟った今、脳を占めるのは落胆というよりも自分自身への失望だった。
ルカさんが私にならこの犯行を任せられると言ってくれた信頼も、今際の際に託してくれた希望も、全て全て台無しだ。
私のような何も持たない、何もできない一般人が、身の丈に合わない夢を思い描いたせいで。
私はこんなところに立っている資格はない。
地べたにみすぼらしく、惨たらしく、這いつくばっているべき人間だったんだ。
愛依「に、にちかちゃん……だったん……?」
にちか「……」
円香「黙ってても何もわからない。答えはイエスかノーで」
円香「……で、あなたが殺したの?」
にちか「……」
にちか「……はい」
樹里「……ッ!? なんで……なんでだよ……ッ!」
樹里「あんなにも、にちかとルカは仲が良さそうだったじゃねーか……!」
樹里「それなのに……それなのに……」
にちか「……」
真乃「にちかちゃん……話してもらえないかな。私たちに」
めぐる「真乃……?」
真乃「どうして、ルカさんを殺しちゃったのか……ゆっくりでいいから、にちかちゃんの言葉で聞きたいんだ……」
もう……いい。
早く楽になりたい。
真実を一人で抱え込んで、戦い続けることにはもう疲れてしまった。
一度敗北を脳が認識してからの私は、自分でも驚くほどつらつらと真実を語った。
にちか「この殺害計画を持ちかけたのはルカさんの方だったんです」
恋鐘「ル、ルカん方からぁ?! なして被害者が?!」
霧子「恋鐘ちゃん……とりあえず、お話聞こう……?」
にちか「コロシアイのタイムリミット……それを過ぎてしまえば全員が殺されてしまう。その前にルカさんは自分が犠牲者になることで、クリアしようとしたんです」
愛依「じ、自分をギセーに……」
樹里「それってつまり……ルカはアタシたち全員を守ろうとしてたってことか……?」
モノクマ「本当タイムリミットギリギリで残念だったよね。せっかくボクも愛用の鼻毛にオイルを塗りまくってたところだったのに」
モノスケ「お、お父やん……まさかあの伝説の鼻毛真拳の継承者やったんか……?!」
モノタロウ「鼻毛真拳……? の正統継承者って誰誰誰ー誰・誰ー誰誰だっけ?」
にちか「そこに、今回の動機でクロは犯人と学級裁判で指摘されてもおしおきが免除されるって聞いて……ルカさんは私に自分を殺す様にお願いしてきたんです」
甜花「七草さんに……? 他の誰かじゃなくて……?」
甘奈「きっと……甘奈たちを守るだけじゃなくて、にちかちゃんを学園の外に出してあげようとしてたんだよ」
にちか「だから、私はそれに乗っただけ。ルカさんが用意した凶器を使って、ルカさんが見つけていた隠し通路を通った」
にちか「食堂からは女子トイレを口実にして抜け出して、急いで図書室に向かいました」
めぐる「私たちが集まっているすぐ隣に……にちかも来てたんだね」
夏葉「食い止められなかったのね……」
にちか「ルカさんを一突きにして、食堂に戻ってからはしっての通りです。さも事情も知らぬ人間のふりをして一緒に死体発見現場に向かって……」
にちか「今のいままで嘘を貫き通してました」
灯織「……完全に踊らされていました。一緒に捜査していたにも関わらず」
にちか「……ごめんなさい」
灯織「……」
心臓を貫くほどにひどく冷たい視線だ。
人を裏切ると言うのはこれだけの代償が伴うんだ。
真乃「でも……これで終わりましたね……なんとか、真相にたどり着くことができました……」
樹里「……だな。愛依や単独行動組は何度も疑っちまって悪かった!」
愛依「いやいや気にしなくていいし! ことがことだしさ!」
甘奈「……にちかちゃんは、甘奈たちに罪をなすりつけようとしてたんだよね?」
にちか「……」
甜花「なーちゃん……」
甘奈「ごめん……すぐには、にちかちゃんのことを許せそうにはないかも……」
透「……」
円香「……どうしたの? 柄でもなく考え込んじゃったりして」
透「あ、いや……えっと、どうすればいいのかな、こう言う時って」
円香「はぁ?」
透「ちょい待ち。えっと……あー……」
【透「それは違うよ」】反論!
(……え?!)
透「にちかちゃんがクロ……まあ多分それはマジ」
透「本人が言ってることだしさ」
透「だけど、ちょっと気になんだよね。付き合ってよ」
(こ、この後に及んで何……?)
(私の発言に何かおかしなところが……?)
------------------------------------------------
【反論ショーダウン・真打開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトノハ
‣【モノクマファイル1】
‣【凶器の包丁】
‣【血飛沫の血痕】
透「最後の晩餐の途中で抜け出して」
透「女子トイレの隠し通路通って」
透「図書室行って」
透「カリスマ殺して」
透「やば、めちゃくちゃユダじゃん」
透「かっくいー」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【発展!】
にちか「何が言いたいんです……?!」
にちか「私は全部認めましたよ……!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
透「知ってる知ってる」
透「犯人なのは変わらんて」
透「えっと……殺す時にさ」
透「刺したのは【一回】?」
透「一突きつったじゃん」
透「腹?」
【矛盾する発言を正しいコトノハでコンマ30以上で論破しろ!】
↓1
にちか「この矛盾って……!」論破!
【BREAK!】
にちか「あ、浅倉さん……これって?」
透「なんか途中から気になってたんだよね。喉にオーボエが引っかかったみたいな感じでさ」
円香「小骨。喉から管楽器聞こえてきてどうする」
にちか「さっき一度愛依さんに容疑がかかりかけた時の話を思い出して欲しいんですけど……」
愛依「え、うちん時……?」
にちか「幽谷さんが現場の夥しい血痕を見て返り血を浴びていないのはおかしいっていう風に反論してましたよね?」
霧子「う、うん……でも、刺すだけじゃ血は吹き出さないからこれは間違いで……」
にちか「そうなんですよ。刺すだけじゃ血は吹き出さないんです」
にちか「だったら、この【離れたところにある散った血痕】はどうなるんでしょうか」
真乃「こ、この血痕は……滴った感じでもないね……!」
めぐる「勢いよく飛び出したって感じの血痕だよー!」
夏葉「ど、どういうこと? にちか、あなたがルカを刺した時のものではないの?」
にちか「私はルカさんを刺した……それは確かなんですが、こんな噴き出したような血痕には心当たりはないんです」
霧子「包丁を突き刺すと……傷口を刃物自体が蓋しちゃうから……」
霧子「こんな風に噴き出すことは……ないみたい……」
(こ、これは……一体……?)
(この事件は私が犯人ってことで……終わるんじゃなかったの……?)
------------------------------------------------
【ブレインドライブ開始!】
Q1.にちかがルカを刺したのは?
a.1回 b.2回
Q2.死体から血が噴き出したのは?
a.包丁を刺す時 b.包丁を引き抜く時
Q3.最終的に包丁は?
a.現場に落ちていた b.持ち出されていた c.死体に刺さっていた
【正しい道筋を選んで推理を組み立てろ!】
↓1
【ABC】
にちか「推理はつながった!」
【COMPLETE!】
にちか「いや……やっぱりおかしいです! 死体から血が噴き出すなんて、【包丁を引き抜かない限り起こりません】よ!」
愛依「包丁を……引き抜く?」
にちか「さっき霧子さんが言った通りです。ただ刺すだけじゃ包丁自体が傷口の蓋をして血は滴るだけ」
にちか「それを勢いよく引き抜くことで、血飛沫が上がった様な痕がついたんですよ」
恋鐘「ばってん、ちょっと待たんね! ルカの死体には確かに包丁が刺さっとったはずばい!」
恋鐘「包丁を引き抜いた事実はなか!」
真乃「いや……そうじゃないのかもしれません……」
恋鐘「なして?!」
にちか「答えは単純な話ですよ……」
------------------------------------------------
・元から包丁は二本刺さっていた
・包丁は二度刺された
・包丁が生えてきた
【正しい選択肢を選べ!】
↓1
にちか「これだー!」
【解!】
にちか「私がルカさんを刺した一回。それとは別にもう一回……ルカさんの体には包丁が突き立てられていたんです!」
恋鐘「あ、あ、あ、あ……」
恋鐘「あっぱよ〜〜〜〜〜〜〜?!?!?!」
霧子「二回目……それはにちかちゃんがやったんじゃないんだよね……?」
めぐる「ど、どういうこと?! にちかが犯人なんじゃなかったの?!」
灯織「もしかして、【他に事件に介入した人間がいる】と言うおつもりですか?」
にちか「私は二回刺してなんかない。一回しか刺してないですよ!」
にちか「別に私は自分が犯人じゃないと言うつもりはないんです……ただ、この事件にはまだ、隠された謎がある!」
円香「検討するほどの謎? 刺した人間が犯人なのは明らかでしょ」
透「や、でも。違和感違和感」
灯織「私たちをこれほどまでに欺いていたんです。七草さんの推理には付き合いきれません」
真乃「で、でも現場が不自然なのは事実だから……!」
【ちょっと待ったー!】
モノクマ「おやおや? なんだか議論が白熱している様だけど……これはもしかすると、七草さんを犯人とすべきか、まだ検討すべき謎があるかで二分されてやいないかい?」
モノタロウ「二分されてたら……どうなるの?」
モノファニー「仲良くドッチボールができるわね!」
モノタロウ「あ、帰ってきた」
モノスケ「ワイは花一匁がやりたいで!」
モノキッド「勝って嬉しい花一匁……負けて悔しい花一匁……ハチミツが欲しい……モノダムは要らない……ゲヘヘヘ」
モノダム「……」
モノクマ「我が才囚学園が誇る変形裁判場が今こそ輝く時! さあ、議論スクラムの始まりだーーー!」
------------------------------------------------
【意見対立】
【議論スクラム開始!】
『七草にちかが犯人で裁判を終わりにする』vs【まだ裁判を続けるべきだ!】
円香「何よりも本人が自供しているんです。これ以上の議論は必要ありません」
あさひ「にちかちゃんが隠し通路を使った証拠もバッチリ揃ってるっすよ!」
甜花「えっと……死体の血はいっぱいだったから……ただちょっと散っちゃっただけだと思う……」
灯織「七草さんはずっと嘘をついていたんです。そんな彼女にまた誘導されているんじゃないですか?」
甘奈「本当はにちかちゃんが二回刺したんじゃないの……?」
恋鐘「大体二回刺したって……モノクマファイルと矛盾しとらん?」
樹里「にちか以外に誰がルカを刺したっつーんだよ!」
-------------------------------------------------
【意見スロット】
【容疑者】
【血痕】
【モノクマファイル】
【刺した】
【自供】
【クロ】
【証拠】
【嘘】
-------------------------------------------------
【意見スロットを正しい順番に並び替え、敵スクラムを向かい討て!】
↓1
すみません! 最後の発言が一つ抜けてたみたいです…
ここのスクラムはクリア判定にしておきますね
-------------------------------------------------
※正答
【自供】
【証拠】
【血痕】
【嘘】
【刺した】
【モノクマファイル】
【容疑者】
【クロ】
-------------------------------------------------
【CORRECT!】
【にちか「引くわけにはいかない!」】
円香「何よりも本人が自供しているんです。これ以上の議論は必要ありません」
【にちか「八宮さん!」
めぐる「にちかちゃんが認めた罪と血痕は別問題だよね!」】
あさひ「にちかちゃんが隠し通路を使った証拠もバッチリ揃ってるっすよ!」
【にちか「杜野さん!」
凛世「にちかさんがルカさんを刺した証拠があるのは事実ですが……二回刺した証拠はございません……」】
甜花「えっと……死体の血はいっぱいだったから……ただちょっと散っちゃっただけだと思う……」
【にちか「幽谷さん!」
霧子「ううん……やっぱり……あの散った血痕は包丁を引き抜かない限り……あり得ないよ……」】
灯織「七草さんはずっと嘘をついていたんです。そんな彼女にまた誘導されているんじゃないですか?」
【にちか「櫻木さん!」
真乃「血痕は紛れもない事実。嘘をつく余地はないよ……っ!」】
甘奈「本当はにちかちゃんが二回刺したんじゃないの……?」
【にちか「ここは私が!」
にちか「違う……私は一度しか刺してません! だって返り血も浴びてないんですよ!」】
恋鐘「大体二回刺したって……モノクマファイルと矛盾しとらん?」
【にちか「有栖川さん!」
夏葉「いいえ、モノクマファイルには死因以外の外傷がなしとしか書いていない。刺し傷が死因な時点で矛盾はないわ」】
樹里「にちか以外に誰がルカを刺したっつーんだよ!」
【にちか「浅倉さん!」
透「ヨーギシャは他にもいたはずだよね、色々」】
あさひ「結局クロはにちかちゃんで変わらないんっすよ」
【にちか「愛依さん!」
愛依「にちかちゃんが刺した後の……二回目でルカちゃんが死んじゃったかも知んないじゃん?!」】
【全論破】
「「「「「「「これが私たちの答えだ!」」」」」」
【BREAK!】
にちか「別に私だって罪を逃れようってわけじゃないんです。ただ……」
にちか「ルカさんの死に疑問を残したくない。……ってどの口が言ってんだって話ですけど」
透「あの現場に他の誰かがいた可能性は結構あるしさ」
透「あると思うよ。話してみる価値は」
円香「……はぁ、付き合うしかないか」
樹里「でもよ、その第三者はにちかが刺した後に図書館にやってきて、それでもう一度刺して逃げ出したんだろ?」
樹里「そんなの、どうやるんだ? あさひの監視に愛依の巡回もあった。それを掻い潜る方法なんて……」
真乃「そ、それって……もしかして、【通気口】……?」
灯織「私たちアリバイのない人間が利用したと目されていた……通気口ですか……?」
にちか「はい……あそこなら条件を満たすはずです。私がルカさんを刺した後に、他の誰かにバレることもなく侵入し、そして退却することもできる」
甘奈「い、いやでも……流石に通気口はないんじゃない?」
甘奈「人が通れるぐらいの大きさがあったとはいえ、それも結構ギリギリだよ?」
甘奈「無茶してわざわざそこを通る意味なんて_____」
モノファニー「お待たせしたわね! お待ちかねの写真は完成したわ!」
甜花「ひぃん!? きゅ、急に何……?」
モノファニー「そこのキサマに依頼されていたドローンで撮影した図書館の俯瞰写真、現像が完了したわよ」
モノタロウ「えらい! モノファニーなんとか裁判が終わるまでに間に合わせたね!」
モノスケ「締切さえ守ればええんや! それ以外はどうでもええ! たとえゲームの配信しとろうが、編集の悪口を書き込んどろうがなんでもええんや!」
モノファニー「人数分にコピーしておいたから、全員に一枚ずつ配っていくわね!」
突然に割って入ってきたモノファニー。
ここにきて増える証拠に戸惑いつつも、私はそれを手に取って……発見した。
にちか「こ、これって……!」
あさひ「……」
真乃「【通気口近くの本の上に、血が……落ちてます】!」
コトダマゲット!【ドローンで撮影した写真】
〔図書室をドローンで俯瞰的に撮影した写真。本棚の上から通気口まで、血が垂れた痕が残っている〕
樹里「血は本の上を滴っていって、そのまま通気口へとつながって行ってる。これはどうみても【ルカを刺した人間の逃走経路】だな」
夏葉「すごい……恋鐘、大手柄よ! あなたのドローンが真実を暴き出したのよ!」
灯織「はい! 私も額を負傷した甲斐がありました!」
恋鐘「ふふーん、もっと褒めてもよかよ〜?」
甜花「で、でも……これで、七草さん以外の人がもう一度斑鳩さんを刺したのって……確定、なの?」
甜花「七草さんが通気口から出ていった可能性は……」
凛世「それはございません。にちかさんは食堂に死体発見アナウンス以前に戻ってきておりますゆえ……」
甜花「そ、そっか……」
にちか「そうなるとまた私が犯人に確定する以前の話に戻ります」
にちか「風野さん、甘奈さん、甜花さん、芹沢さん! この四人の中に……【本当の犯人がいる】!」
愛依「……あれ? うちはもういいの?」
夏葉「あなたも私たちのグループに戻ってきていたでしょう。その時点で除外できるわ」
甘奈「違う……甘奈たちは本当に、一緒にいただけだから……」
灯織「私も、違うんです……信じてください……!」
あさひ「あはは、いい感じっす。楽しくなってきたっすね」
【甘奈「甘奈は何も知らないよ!」】
【灯織「私ではありません!」】
【あさひ「盛り上がってきたっすね!」】
というわけでパニック議論に再度突入したところで本日はここまで。
ここから先は区切れるところもなく、最後まで一気に行きたいので……
スクラムはミスしてすみませんでした!
次回の更新で裁判の終わりまで行けると思います。
それではお疲れさまでした。
次回更新は6/17(土)21:00~を予定しています。
またよろしくお願いします。
-------------------------------------------------
【パニック議論開始!】
甘奈「にちかちゃんが犯人なんじゃなかったの?!」
灯織「私にはアリバイがないですが……」
あさひ「にちかちゃんすごいっすね! あそこから盛り返すなんて!」
霧子「血飛沫はにちかちゃんが刺しただけじゃ飛ばないから……
灯織「な、なにより動機がありません!」
愛依「あさひちゃんもマジすごい! 隠し通路を証明しちゃうなんて!」
霧子「誰か第三者がいたのは間違いないよ……!」
円香「動機がないのはみんな一緒でしょ?」
恋鐘「ばってん、なして今まで隠し通路ん存在を隠しとったね?」
甜花「で、でも……第三者がいたのもあくまで、可能性……」
凛世「生き残りたい……それだけで十分な動機でございます……」
あさひ「だって、すぐにわかっちゃったらつまんないじゃないっすか」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【Noise:30】あさひ「みんなでもっといっぱいお話しするっすよ~!」【Noise:30】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【サイレンサーでノイズ発言を鎮めろ!】
【コンマで30以上の数字を出すことでノイズ発言を鎮めることができます】
↓1
にちか「あー、もう! うるさーい!」
【EXCELLENT!】
【ノイズ発言を鎮めたのでウィークポイントが出現しました】
-------------------------------------------------
【パニック議論開始!】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
コトダマ
‣【床の埃】
‣【凶器の包丁】
‣【ドローンで撮影した写真】
甘奈「にちかちゃんが犯人なんじゃなかったの?!」
灯織「私にはアリバイがないですが……」
あさひ「にちかちゃんすごいっすね! あそこから盛り返すなんて!」
霧子「血飛沫はにちかちゃんが刺しただけじゃ飛ばないから……
灯織「な、なにより動機がありません!」
愛依「あさひちゃんもマジすごい! 隠し通路を証明しちゃうなんて!」
霧子「誰か第三者がいたのは間違いないよ……!」
円香「動機がないのはみんな一緒でしょ?」
恋鐘「ばってん、なして今まで隠し通路ん存在を隠しとったね?」
甜花「で、でも……第三者がいたのもあくまで、可能性……」
凛世「生き残りたい……それだけで十分な動機でございます……」
あさひ「だって、すぐにわかっちゃったらつまんないじゃないっすか」
甘奈「通気口を通って脱出した第三者なんて【いるわけない】よ!」
灯織「えっと、その……違うんです! 私ではないんです!」
あさひ「みんなでもっといっぱいお話しするっすよ~!」
【正しいコトダマで矛盾する発言を論破しろ!】
↓1
にちか「聞こえた……!」論破!
【BREAK!】
にちか「ルカさんを刺した二人の犯人……その間には明確な相違点があるんですよ」
愛依「ソーイ点……なんが違うの?!」
にちか「さっきの月岡さんが提供してくれた写真をもう一度見てください」
恋鐘「おっ、うちん出番〜?」
にちか「これを見てわかる様に、通気口に逃げていったもう一人の犯人は、血を滴らせながら逃走しているんです」
にちか「つまり、【こっちの犯人は包丁を引き抜いた時に血を浴びていた】んですよ」
霧子「包丁を引き抜くのは真正面から力をかける必要があるから……」
霧子「血を浴びずに行くのは……無理だね……!」
にちか「しかもそんな状態で通気口を張って進むことになれば……着ている服は著しく汚れることになる」
にちか「隠し通路を歩いて逃走した私とは【衣服の状態が全く異なる】はずなんですよ!」
樹里「そっか! なら服が汚れてたやつが犯人……」
樹里「ってそんなやついないぞ!?」
円香「まあ普通に考えてみすみす疑われる材料を作る意味はないですからね」
円香「犯人は死体発見までの間に服の替えを用意したと考えるのが普通」
恋鐘「着替えとったと?」
夏葉「それぞれの個室のクローゼットには制服の替えが多く用意されていたわ。あれを用いて着替えたのでしょうね」
甘奈「でも、着替えたかどうかなんか分かりようがないよ!?」
甘奈「制服は全部同じ見た目だし……区別はつかないって!」
透「んー」
透「あのさ、その二人目の犯人。めちゃ器用じゃない?」
円香「は? また急に何?」
透「いや、だって着替えも持ってたし、それで人も刺したんでしょ?」
透「マルチタスク」
円香「いや同時並行じゃないし」
(……そうだ、ルカさんを刺した時、第二の犯人は逃走用の着替えを別で用意していたはず)
(それはもちろん……他の人間に見つからない場所に隠していた!)
にちか「あと少し……あと少しで見えてきそうです」
にちか「第二の犯人を明らかにするための方法が……」
あさひ「……」
あさひ「もうちょっとっすよ、にちかちゃん」
-------------------------------------------------
【発掘イマジネーション開始!】
第二の犯人は着替えを■■■■に隠していた!
一文字目:01~25
二文字目:26~50
三文字目:51~75
四文字目:76~00
【指定の範囲内のコンマを出して結論を掘り当てろ!】
↓1~8
【コンマ95 28 92 58 91 69 64 52】
カンカンカン……
【すべてを掘り切ることはできなかった……】
【規定回数以内に終わらなかったのでボーナスは発生しません】
-------------------------------------------------
【発掘イマジネーション開始!】
Q.犯人が着替えを隠していた場所は?
第二の犯人は着替えを■ッカーに隠していた!
【正しい文字を推測し、着替えを隠した場所を指摘しろ!】
↓1
-------------------------------------------------
第二の犯人は着替えをロッカーに隠していた!
-------------------------------------------------
にちか「そうか、わかりましたよ!」
【COMPLETE!】
にちか「第二の犯人は通気口を逃走経路にしていた。そうなると、着替えを用意する先も通気口に近いところにしておく必要がありますよね?」
真乃「うん……別の部屋とかに隠してたら、移動している間に見つかっちゃうかもしれないもんね……っ」
灯織「かといって通気口のすぐ側だと、自分が通気口を通っている間に別の誰かが見つけるかもしれない」
灯織「最低限他の人の目からは隠れた場所にしまっていたはずです」
めぐる「それってどこのことなのかなー?」
にちか「通気口は図書室と地上の教室を繋いでいた。この二つの空間で、その条件に該当し得るのは……ただ一つ」
凛世「もしかして、【ロッカー】にございますか……」
にちか「はい、教室に備え付けられていたロッカー。あの中に着替えをしまっておけばよかったんです」
にちか「あそこなら通気口を脱出してすぐに着替えを取り出せるし、脱いだ後の汚れた服もしまって隠しておける」
にちか「まさに一石二鳥の隠し場所なんですよ」
霧子「でも、そのロッカーが犯人を絞ることに繋がるの……?」
夏葉「……! なるほど、隠し場所がロッカーならそれが使えた人間は【ただ一人】ね」
にちか「はい……今回の事件、私の後にもう一度ルカさんを刺した第二の犯人がいました」
にちか「私の犯行を前提としながら、それを利用して本当の殺害を企てた……その犯人は!」
(あの人しか、いない……!)
-------------------------------------------------
【クロを指摘しろ!】
↓1
にちか「お前だー!」
【解!】
にちか「芹沢さん、あなただよね」
あさひ「……」
愛依「あ、あさひちゃんが……?! な、なんで……?!」
夏葉「単純なことよ。この中でアリバイが不安定な人間の一人であり、その大半の時間は教室で過ごしていたという」
夏葉「灯織や甘奈、甜花ではロッカーに着替えを仕込む余地がないのだから」
灯織「それが可能なのは彼女だけ……ということですか」
にちか「ど、どうなの……芹沢さん!」
あさひ「……」
あさひ「……あはは、にちかちゃん面白いっすね。一度は自分の罪を認めたのに、ここまで状況をひっくり返すなんて」
あさひ「わたしが期待してた以上っすよ、にちかちゃん」
にちか「ど、どういう意味……?」
あさひ「でもこれで終わりじゃないっすよね? だってまだにちかちゃんの推理には【証拠がない】っすよ」
あさひ「わたしがにちかちゃんをクロにしたのとおんなじで、証拠がなければ推理はただの推理っす」
甘奈「ロッカーにある汚れた制服を持ってこれれば一発だけど……」
モノクマ「学級裁判はトイレ以外での途中退席を認めてませーん!」
にちか「わたしはトイレですー!」
モノクマ「そんなあからさまな嘘は認めないから!」
(うーん……悔しいけど芹沢さんのいう通りだ。彼女を追い詰めるには証拠が足りていない)
(でも、そんな証拠なんてあるの……? 芹沢さんが通気口を通ったという証拠なんて……)
(……ダメだ、私じゃ思いつかない)
(でも、【私以外】なら……?)
(私じゃ掴めない証拠でも他の誰かの力を借りれば、証拠を得られるかもしれない)
にちか「……芹沢さん、勝負だよ」
あさひ「どうしたっすか、にちかちゃん。なんだか怒ったみたいな顔っす」
にちか「悪いけど、もう手加減はしない。私は……真実と向き合うって決めたから」
にちか「あなたが本当のクロだと証明してみせる!」
あさひ「あはは! いいっすよ! それじゃあ勝負っす!」
あさひ「わたしとにちかちゃん、どっちがルカさんを殺したクロか決めちゃうっすよ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さあ、学級裁判も最終局面になってまいりました。
七草さまと芹沢さまで雌雄を決する最後の戦いは理論武装となります。
理論武装はこれまでにやってきたパニックトークアクションをさらに発展させたミニゲームです。
テンポよく反論をする芹沢さまをこれまたテンポよく切り返す。
指定範囲内のコンマが規定回数内に出るまでコンマ判定を繰り返します。
規定回数の倍数を超過するたびに発言力にダメージを受けてしまいますのでご注意ください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
-------------------------------------------------
【理論武装開始】
発言力:♡×1
集中力:☆×5
あさひ「にちかちゃんが隠し通路を通って殺したっす!」
あさひ「女子トイレと図書室はつながってたっすよ!」
あさひ「ブラックライトで出てきた足跡が証拠っす!」
あさひ「ルカさんを刺して殺したクロはにちかちゃんっす!」
【コンマ値20~60を4レス以内に2回出せ!】
↓1~4
【コンマ07 32 15 18】
【コンマ20~60が出た回数 1】
【Miss…】
【発言力がゼロになりました】
【報酬が半減する代わりに発言力が最大まで回復します】
-------------------------------------------------
【理論武装開始】
発言力:♡×5
集中力:☆×5
あさひ「にちかちゃんが隠し通路を通って殺したっす!」
あさひ「女子トイレと図書室はつながってたっすよ!」
あさひ「ブラックライトで出てきた足跡が証拠っす!」
あさひ「ルカさんを刺して殺したクロはにちかちゃんっす!」
【コンマ値20~60を4レス以内に2回出せ!】
↓1~4
【コンマ23 14 93 32】
【NICE!】
【TEMPO UP】
あさひ「ルカさんを刺し直したら返り血がつくっす!」
あさひ「わたしの服には血はついてないっす」
あさひ「ロッカーに着替えをしまうのは誰でもできるっすよ」
あさひ「わたしはずっと教室にいたわけじゃないっすよ」
あさひ「わたしがクロだって証拠はないっすよ!」
【コンマ値20~60を5レス以内に3回出せ!】
↓1~5
【コンマ 91 47 46 35】
【GREAT!】
あさひ「……あははっ!」
【止めをさせ!】
あさひ「わたしが教室のロッカーに着替えを仕込んでた証拠なんかないっすよ!」
ろい/した/おし/凛世の/落と/
【正しい順番に並べ替えろ!】
↓1
にちか「これで終わりにしてやる!」
【BREAK!】
にちか「一つ……可能性があるんだ。もし第二の犯人が本当にあのロッカーの中に着替えを隠していたんだとしたら」
にちか「そのロッカーは、この学園生活が始まった時に杜野さんが監禁されていたロッカーってことになる」
樹里「凛世の……ああ、そういえば! 確かにそうだ! 凛世ははじめ、地下階段前の教室に監禁されてたんだ!」
凛世「はい……左様でございますが……それが一体……?」
にちか「捜査の時に言ってたよね? 杜野さんは監禁されていた時に携帯していたおしろいをロッカーの中に落としてしまっていたって」
あさひ「おしろい……っすか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
凛世「その時に、ひょっこりあさひさんが教室から出てくるのを見たはずです……」
にちか「ああ、地下階段の手前の教室で……!」
樹里「地下階段手前の……教室……?!」
灯織「そ、そこに何があるんですか……?!」
凛世「凛世と樹里さんが、はじめに閉じ込められていた教室が……そこなのです……」
にちか「……え?」
樹里「ほら、この学園生活の始まりってロッカーに押し込められるところから始まっただろ? アタシと凛世はあの地下階段前の教室のロッカーに閉じ込められてたんだよ」
凛世「あの時は慌てに慌て……普段から携帯していた【おしろいもロッカーの中で紛失してしまう】始末……」
凛世「数日前なのに、なんだか懐かしく感じます……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
甘奈「お化粧で使うファンデーションみたいなものだけど……そんなものを落としたら粉が舞い上がっちゃうよ!」
真乃「もしかして、あのロッカーの中には……凛世ちゃんのおしろいの粉が充満してたってことですか……?」
にちか「充満とまでは行かなくても、粉が壁や床に付着してた可能性は高いです。そして、そんなところに衣服を置いていたら……」
めぐる「服にもおしろいの粉がついちゃうよー!」
あさひ「……」
にちか「ねえ、芹沢さん。あなた確かブラックライトを持ってたはずだよね」
にちか「今度はそれで、自分の今着ている服を照射して見てもらえるかな」
にちか「もし私の推理が正しければ……制服に付着しているおしろいの粉の粒子が光を反射して、輝くはずだから」
あさひ「……」
あさひ「…………」
あさひ「……………………」
「あはは」
あさひ「あははははは! すごい、すごいっすね! おしろいなんてわたし、全く考えもよらなかったっす!」
あさひ「にちかちゃん、わたしの予想してないところから責めてきてびっくりしたっすよ!」
夏葉「その反応は……あなたは認めるの? ルカを刺し直した犯人だって」
あさひ「そうっすね。わたしがルカさんを刺した犯人っす」
愛依「そん、な……」
あさひ「にちかちゃんがルカさんを刺して、隠し通路から逃走するのを見届けて、ルカさんにとどめを刺したっす」
あさひ「バレないと思ったけど、まさかドローンで写真を撮られるとは思わなかったんで……わたしの負けっすね」
(本当に……芹沢さんが……私の後に、ルカさんをもう一度……?)
にちか「なんで……! なんでそんなことを……!」
あさひ「ああ、待ってくださいっす。そういう話は全部終わった後にしたいっす」
にちか「はぁ……?」
あさひ「とりあえず、犯人はわたしだって決まったし……一度事件をここまで整理して欲しいんっすよ」
あさひ「その上でクロを指摘して、裁判を終わらせる。動機とか、色々な話はその後にして欲しいっすよ」
あさひ「短い話じゃ、ないっすから」
にちか「……」
にちか「わかった……そうする、そうします。私が行ったルカさんの殺害、そして芹沢さんのやった本当の殺害」
にちか「その両方を今全部振り返って、全員に認めさせる。それでこの事件を終わりにするから!」
【クライマックス推理開始!】
【Act.1】
今回の事件、そのトリガーとなったのは【モノクマの提示した動機】だよ。
コロシアイのタイムリミット、二日後の夜時間までにコロシアイをしなければ参加者は全員死亡。
そんなとんでもない動機を前に私たちは1日は怯んで何もできなかったけど……その次の日にモノクマから追加で動機の提示があった。
それはおしおきの免除。
今回に限りコロシアイのクロは学級裁判で負けてもおしおきをされずに生き続けることができるし、シロが間違えてもそのペナルティはないというものだった。
それでも中々人を殺すなんて踏ん切りはつかないけど……ルカさんは違った。
むしろ自分の命と引き換えに他の全員を守るやり方を思いついてしまったんだ。
そんな中、ルカさんが自分を殺す役に抜擢したのは私、【七草にちか】。
学園生活で普段から一緒に過ごすことが多かったし、私はルカさんのいうことには従順だったので選ばれたんだと思う。
ルカさんは私を連れて女子トイレ奥の隠し部屋へ。そこで今回の凶器である包丁も確認したよ。
【Act.2】
そして決行当日。私とルカさんは図書室で落ち合う約束をしてそれぞれ別行動。
ルカさんは一人で図書室に行ったけど、私はアリバイの確保のために【食堂】で最後の晩餐を食べていたんだ。
他にはモノクマと戦うことを決めた有栖川さんのグループと、単独行動を決めた風野さん、甘奈さん、甜花さん……そして、今回の事件の犯人がいた。
しばらくすると学園中に【コロシアイ促進BGM】が鳴り響いた。
タイムリミットの夜時間まで1時間を切ったところで鳴り始めたこの音楽は、とてつもない爆音であらゆる物音をかき消してしまった。
今回の事件において、その役割はすごく大きい……犯人が暗躍できたのはこのBGMのおかげと言っても過言じゃないからだよ。
私は適当な言い訳をして一旦女子トイレへと抜け出すと、そのまま図書室へと向かう。
それとほぼ同時期に愛依さんがグループに引き入れるために犯人を探しに行ったけど、地上の教室はすでにもぬけのから。
犯人は既に【通気口】の中に入っていたんだと思う。通気口の中で図書室の中を伺っていた犯人は何かしらの手段で私とルカさんの計画を知っていたんだろうね。
【Act.3】
隠し通路を抜けて図書室に現れた私は、すぐにルカさんをその場で刺した。
隠し通路は出ることは容易でも、図書室から隠し部屋に入るにはカードキーが必要だったから、とにかく迅速な犯行が求められたんだ。
だから私は大した確認もせずにその場を後にしてしまう
まさか、本当の犯人がこの後に現れるとも知らずに……
犯人は私がいなくなったことを確認すると通気口から図書室へと降り立った。
私に刺されて弱り切ったルカさんから包丁を一度抜き取ると、【もう一度同じ場所に深く突き刺した】。
直接の死因になったのはこの時の傷のはずだよ。床に散っていた血痕もこの時に撥ねたものだ。
犯人はルカさんの死亡を確認すると、また同じように通気口を使って脱出して、教室へと戻った。
とはいえそのままの格好で合流するわけには行かない。なんたって包丁を引き抜いた時の返り血や、通気口のダクトの汚れで服がめちゃくちゃだったからね。そこでロッカーにあらかじめしまっておいた新品の制服に着替えたわけだけど……犯人にとって大きな盲点があった。
それは、このロッカーは【かつて杜野さんが監禁されていたロッカーだった】ということ。
杜野さんは監禁されていた時に携帯していたおしろいを落としていて、ロッカーの中にはその粉が散らかっていたんだ。
だから、犯人の制服は今もおしろいに塗れたまま。
ブラックライトで照らされれば一発で正体がわかるはずだよ。
そうだよね、【超研究生級の博士ちゃん】芹沢あさひ!
【COMPLETE!】
にちか「どうかな……これで全部証明できたと思うけど」
愛依「……マジなん? マジであさひちゃんが、犯人なん……?」
あさひ「……」
愛依「そんなん、嘘だって……うち、信じないから」
樹里「信じたい信じたくないより、ここは真実を優先する場所だ」
樹里「すべき行動は一つだと思うぜ」
愛依「……うぅ」
モノクマ「どうやら結論が出たみたいですね!」
モノクマ「それじゃあ行っちゃいましょうか、シロとクロの運命を分けるワックワクでドッキドキの……」
「「「「「「投票ターイム!!!!!」」」」」」
-------------------------------------------------
【VOTE】
〔あさひ〕〔あさひ〕〔あさひ〕
CONGRATULATIONS!!!!
パッパラー!!!
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【学級裁判 閉廷!】
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CHAPTER 01
ガールビフールフールガールズ
裁判終了
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モノクマ「というわけで大正解! 超研究生級のカリスマ・斑鳩ルカさんをぶっ殺した犯人は……」
モノクマ「まさに漁夫の利! 弱り切ったところにトドメを刺した超研究生級の博士ちゃん! 芹沢あさひさんなのでしたーーーーー!」
裁判場内にモノクマの声が響き渡るも、私たちは困惑に呑まれたままだった。
突如としてクロに浮上したこともそうだけど、何より彼女の犯行は齢14の少女が成したものにしては邪悪なものを感じさせた。
私の行った殺害計画をそのまま利用し、私という存在を隠れ蓑にして罪を逃れようとしていた。
悪意という言葉で一括りにするのでは足りないような、底知れない異様さがあった。
あさひ「あーあ、負けちゃった。でも楽しかったっすね!」
愛依「なんで……なんでそんなことしたん?! あさひちゃん?!」
にちか「聞かせてよ、あなたには聞きたいことが沢山あるんだから」
あさひ「いいっすよ! 何から聞きたいっすか?」
屈託のない笑顔。
裁判の前と後でその表情に何ら変わりないのが余計に不気味だ。
にちか「……あなたは私がルカさんを刺したことを知った上で裁判に挑んでいたんだよね? あの証拠の数々を途中まで見せなかったのは何故?」
樹里「そういやそうだよな……あの証拠を最初から公開していればにちかが犯人って話にはすぐ辿り着いていたはずだ」
あさひ「そんなの簡単な話っすよ。すぐに裁判が終わるんじゃ【つまんない】っすから」
甘奈「え……?」
あさひ「みんなで一緒に話し合って犯人を見つけ出す。それがこの学級裁判の醍醐味じゃないっすか」
(学級裁判を……楽しんでいる?)
(そ、そんなの……そんな思考ってまるで)
モノクマ「いや〜、芹沢さんはボクらにとってよき理解者だよね!」
真乃「り、理解者……?!」
モノクマ「だってそうでしょ? 彼女だけがこの学級裁判の本当の意味を理解している」
モノクマ「学級裁判はエンタメなんだ! 人の生死がかかったこれ以上ないエキサイティングなエンターテイメントリアリティーショーだよ!」
あさひ「せっかくなら、他のみんなはどんな風に推理をするのか。自分が犯人だと思い込んでるにちかちゃんがどんな言い逃れをするのか、観察してみたかったんっすよ」
にちか「か、観察って……それじゃあなたは私たちをあなたの【研究対象】として見てたってこと……?」
恋鐘「うちらは実験台ってことばい?!」
あさひ「にちかちゃんはその点すごく面白かったっすよ! 色んな嘘をついてみんなを騙そうとしてて、予想外なこともしてくれたっす!」
灯織「……私はこの裁判で、人の持つ二面性を嫌というほど理解しました」
灯織「七草さんは私を利用して、罪から逃れようとしていた。人を信じることの危うさを見にしみて感じましたよ」
甜花「か、風野さん……」
あさひ「私が犯人だって最終的に突き止めたのもにちかちゃんだったし、にちかちゃんは私にとっていい遊び相手になってくれそうっすね!」
にちか「……」
にちか「もう一つ、聞きたいことがあるんだ」
あさひ「なんっすか?」
にちか「あなたはいつから私とルカさんの犯行計画を知っていたの?」
めぐる「いつからって……通気口に潜んでたからじゃないの?」
真乃「ううん……あさひちゃんはもっと前から知ってたはずだよ」
真乃「そうじゃないと女子トイレに洗剤を散布したり、罠を仕掛けることなんて出来ないはずだから」
あさひ「……」
霧子「隠し通路の存在もそうだよね……」
霧子「いつからあさひちゃんは……知ってたのかな……」
にちか「どうなの、芹沢さん。私は……私とルカさんはいつからあなたに踊らされてたの?」
あさひ「……んーと、それはモノクマの方がよく知ってるっすよね」
にちか「え?」
モノクマ「……」
モノクマ「え?! ボク?!」
モノタロウ「な、なんでお父ちゃんが?!」
モノスケ「お父やん! あのメスガキとただならぬ関係なんか!?」
モノファニー「お父ちゃん、嘘よね! ペドでフェリアなアレじゃないのよね?!」
モノキッド「そうか、分かったぞ! この世界は全部電脳世界でみんな精密に再現されたデータだったんだ!」
あさひ「というよりも、モノクマの後ろにいる人っす。その人がぜーんぶ知ってるはずっすよ」
甜花「えっと、それって……どういう意味?」
あさひ「このコロシアイの黒幕っすよ」
にちか「……は?」
真乃「く、黒幕……?」
あさひ「みんなは疑問に思ってなかったんっすか? こんな大掛かりなコロシアイ、誰が仕掛けたことなんだろうって」
夏葉「当然疑問には思っていたわ……でも、それとどう繋がる話なの?」
あさひ「このコロシアイは16人も参加している大掛かりなデスゲームっす。武力があるとしても、下手に結託されてしまうと管理の手が追いつかないことだって考えられるっす」
あさひ「そうなると、コロシアイの参加者の中に黒幕と内通して、ある程度煽動する役割を担える人間がいた方が都合がいいはずっす」
あさひ「それに、例の動機っすよ」
凛世「コロシアイの時間制限のことでございますか……?」
あさひ「あの時にモノクマが言ってた文言を思い出して欲しいっす」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
モノクマ「コロシアイにタイムリミットを設けます!」
モノクマ「タイムリミットは明日の夜時間! それまでにコロシアイが起きなければ、殺し合いに参加させられている生徒は全員殺処分!」
モノクマ「モノクマーズの操るエグイサルを総動員してオマエラをスクラップにしちゃうよ〜!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あさひ「コロシアイに【参加させられている】生徒は全員殺処分。モノクマはなんでこんな回りくどい言い方をしたんっすかね?」
円香「……なるほど、コロシアイに自分から進んで参加した人間がいるから」
めぐる「そ、そんなのって……」
あさひ「そう、だからわたしは考えたっす。もしかしてわたしたちの中に黒幕の側の人間がいるんじゃないかって」
あさひ「で、見つけたんっすよ」
あさひ「このコロシアイの黒幕を」
にちか「……え?」
あさひ「よくよく思い返してみると、その人は変なことを時々言ってたんっすよね。コロシアイに参加させられた生徒とは思えない発言をしてたっす」
樹里「お、おい! ちょっと待てって! あさひ……今なんつった……?」
樹里「この【コロシアイの黒幕を突き止めた】……?」
あさひ「……? そうっすけど」
樹里「誰なんだよ! ソイツは! アタシたちをこのコロシアイに巻き込んだ黒幕って……!」
あさひ「やだなぁ、言うわけないじゃないっすか」
樹里「ああん?!」
あさひ「だって、そんなことしちゃったらつまんないじゃないっすか」
あさひ「せっかくこんな非日常に満ちたゲームが出来るんだから、もっと楽しまなきゃ勿体ないっすよ!」
私には、彼女がどこまでも理解ができなかった。
あさひ「で、話の続きなんっすけど。私は黒幕が分かっちゃったんで、その人に【直接聞いてみた】っす」
甘奈「ちょ、直接……?! そんな、危ないよ……!」
あさひ「大丈夫っすよ。コロシアイの参加者として黒幕も紛れている以上は勝手なことはできないはず。そんなことしちゃったらゲームとして成立しないっすもん」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あさひ「ねえ、あなたがこのコロシアイの黒幕なんっすよね」
『____________?』
あさひ「とぼけなくたっていいっすよ。あなたはこのコロシアイが始まった時から変なことを言ってたっすから」
あさひ「まあ、その違和感も別にそんなに大きなものじゃないっすけど……ここ最近はあなたの動きに注目してたんで」
『どうして__________』
あさひ「んー……まあ、これは交渉なんっすけど」
あさひ「わたしがあなたが黒幕だってみんなに言っちゃったらこのコロシアイは崩壊しちゃうっすよね。それってすごくつまらないっす」
あさひ「だから、あなたの正体を黙っておく代わりに……このゲームを【もっと楽しませてほしい】んっすよね」
『何を____________』
あさひ「わたしが面白くしてあげるっす」
『…………』
あさひ「一つお願いがあるっすよ。今回のコロシアイは処刑のペナルティを無しにして欲しいっす」
あさひ「わたしはこのコロシアイに乗るっす。だけど、流石にコロシアイの経験はまだ無いっすから。どんなものなのか一度試してみたいんっすよ」
あさひ「要はコロシアイのチュートリアルっすね。それをわたしにやらせてほしいっす」
『わかった____________』
あさひ「あはは、それじゃ頼んだっすよ! 約束っす!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
恋鐘「あん動機はあさひが出させたものだったばい?!」
モノタロウ「えー?! そうなの?! お父ちゃん、血迷ったかと思ったら!」
モノファニー「そんな! お父ちゃんが脅しに屈するなんて!」
モノスケ「ワイらが人質に取られてもビタ一文払わんって公言しとるお父やんが?!」
モノクマ「……」
あさひ「せっかくゲームをやるからには、長く、しっかり楽しみたいっすからね。勝手を理解した上で本気のゲームをしたいっす」
円香「それじゃあ今回の事件は、あさひにとって」
あさひ「予行演習みたいなものっすね。みんながどんな感じで事件に挑むのかよく分かったっす」
にちか「……っ!」
意識が追いついたのは、体が動いた後。
彼女の話を聞いていた私は、自分の中にこれまでに抱いたことのない熱を帯びていることに気がついた。
それは、私に向けられた、ルカさんの言葉を知っているからこそ走った衝動。
私に託された、ルカさんの気持ちが胸にまだ生き続けているからこその衝動。
目の前の人間が、それを踏み躙ったからこそ湧き立った激情。
奥歯を噛み砕かんばかりに力がこもり強張った身体は、理性を置いてけぼりにして、彼女の胸ぐらを掴み上げていた。
愛依「ちょ、ちょっと……にちかちゃん……!?」
にちか「許さない……あなただけは、絶対に……!」
あさひ「く、苦しいっすよ……にちかちゃん……」
にちか「ルカさんがどんな思いで自分を犠牲にしたのか……ルカさんがどれだけ私たちのことを思っていたのか……」
あさひ「あ……ぐ……」
にちか「あなたは、最低だよ! ルカさんの決意も覚悟も、予行演習なんかにされていいものじゃない!」
にちか「ルカさんの命は、いつだって本番だったんだ!」
樹里「にちか……ちょっと落ち着け!」
夏葉「仕方ない……にちかを引き剥がすわよ!」
すぐに私は他のみんなに取り押さえられ、芹沢さんは私の締め上げから解放された。
取り押さえられてなお、眼球が飛び出るぐらいに芹沢さんのことを睨みつけ、この歯でその首元を食いちぎろうとする勢いで暴れる私に、彼女はこう言った。
あさひ「ごめんなさいっす。別にルカさんのことを悪くいうつもりはなかったっすよ」
にちか「はぁ……?! 何を今更……!」
あさひ「予行演習ってのはあくまで私の目線でってことっす。ルカさんの気持ちを否定する気はないっす」
にちか「この……この……!」
あさひ「あ、そうだ。ルカさんを刺した時のことを、にちかちゃんに教えてあげるっすよ!」
にちか「……は?」
あさひ「にちかちゃんが刺した後、私が刺し直した時のことっす!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「行け! にちか!」
冷たい感触と対極に、ズキズキと焼けるような痛みがずっと腹部から頭へと競り上がっていた。
生命の危機に瀕しているという信号は、耳鳴りがするほどまでにうるさいものらしい。
ガンガンと響く頭に耐えかねて、私は思わず本棚に背を預け、ずるずるとへたり込んでいった。
「はぁ……アイツ……ちゃんと、行ったよな……」
出血量が多いのか、視界がどんどん霞んでいく。
最後に見たにちかの背中だけは確かだったはずだと、何度も自分に言い聞かせた。
「あぁ……クソ……痛ェ……」
私のやっていることは間違いなんだろうか。
学生時代に、何よりも重い罪は自らの命を擲つことだと教わった。
「やっぱ……これ、死ぬんだよな……」
自分と関わってきた全ての人にとって私という存在は相互に関わるものであり、
それを一方的に取り上げるのは、財産を強奪する行為にも等しいという理屈。
私はそんな綺麗事の道徳には賛同しない。
人の命には価値と、それを使うべきタイミングがあると思う。
私みたいに、何事も為さず、諦め悪く燻っているだけだった人間が、こうして一人の未来ある若者を生かすことができるのなら、それは本望じゃないだろうか。
資源にもならない廃棄物をリサイクルしたのだから、褒めてもらいたいぐらいだ。
「まあ、いいか……」
あぁ……なんだか息をするのもしんどくなってきた。
肺に穴は空いていないはずだけど、臓器を動かすための動力源が体外に溢れ出ているのだからそれもそうか。
持久走を走り終わった時みたいな動悸がどんどん早くなってきて、喉が焼けるようになってきた。
「これで、守れるん……だったら……」
そんな時、遠くにガコンという音が聞こえた。
本棚より小さくなってしまっている私にはその音の正体がわからない。
『……だ生き……っすか?』
それにもう耳はほとんど機能していない。ザーッという体が崩れていく音ばかりで、微細な音を聞き分けることはもう叶わない。
唯一感じられたのは、地面にくっついた手から伝わってくる振動。
赤べこみたいな可動域になった首をゆっくりと持ち上げる。
『よ……た! こ……で私……ロになれ……ね!』
目の前に黒い影が立っていた。死神だろうか。
『最……何か言い……ことはあ……っすか?』
「……何? 今……なん……つ……た……?」
死神はなんだかとても嬉しそうに、私に向かって手を伸ばしている。
『あー……も……ダ……か……』
その直後、慢性化していた腹部の鈍痛が、再び息を吹き返した。
ズキンという衝撃が全身に広がって、体が急速にそりかえる。
ああ、きっと死神に心臓を抜き取られたんだと思った。
『そ……じゃ……さよ……っす。ルカ……ん』
でも、そうじゃなかった。目の前の死神は、心臓でもなく、鎌でもなく、短い刃渡りの刃を握りしめて、笑っていた。
「ハッ……」
それが私の最後の記憶。
今際の際に見た、悪魔の顔だ。
「にちか……生きろよ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あさひ「最後、わたしの声もほとんど聞こえてなかったみたいっすけど。死ぬ直前にそう言ってたっすよ」
あさひ「にちかちゃんは生きろって。最後の最後までルカさんはにちかちゃんのことを思ってくれたんっすね!」
……私は泣いていた。
ルカさん自身から要求されたことだったとはいえ、私がこの手でルカさんを一度手にかけたんだ。
心変わりして恨まれていることだってあるかもしれない。
もっと他の手があったんじゃないか、私は甘えすぎていたんじゃないか。
この裁判中もずっとそんな罪の意識が付き纏っていた。
この意識は間違いなんかじゃない。
この先一生、ずっと背負っていかなくちゃいけないものなのは確かだ。
でも、それと同時に……私はかけがえのないものを胸に抱いて生きていくことが許されたんだ。
ルカさんから向けられた、私を思う気持ち。
それは一点の曇りもなく、胸を張って本物だと言える。
この涙も、この胸の暖かさも、全部全部本物だ。
めぐる「ルカさん……本当に、にちかちゃんのことを大切に思ってたんだね……」
夏葉「ルカ……あなたの犠牲は未来永劫に忘れないわ……」
甘奈「今甘奈たちが生きてるのも、ルカちゃんのおかげなんだもんね……」
霧子「ルカさんの想いは、ずっと胸の中で……トクン、トクンって……響き続けます……」
にちか「うっ……ううっ……ルカさん……」
ルカさんは自分のことをカリスマなんかじゃないって言ってたけど、そんなことない。
こんなにもたくさんの人に慕われて、その胸に存在が刻まれる人間なんだから。
私にとっては、ルカさんこそが一生の【カリスマ】なんだ……
モノクマ「あーあ、どうすっかなぁコレ」
モノクマ「芹沢さんの要求を飲んでおしおきを免除とか言っちゃったせいで、この湿っぽい空気を打破できる手立てに欠けてるんだよね〜」
モノファニー「たまにはこういうのもいいんじゃないかしら。ラブアンドピース! みんな平和が一番!」
モノタロウ「終わり! 閉廷! 裁判なんてもう辞めよう!」
モノスケ「いや……そういうわけにもいかん! やっぱりギスギスや! ギスギスがなければコロシアイは成り立たんからな!」
モノクマ「おぉ! 愛しのモノスケよ! そう、そうなんだよ! コロシアイにはいつだってギスギスが求められているんだ!」
モノクマ「他人の不幸、惨たらしい惨状……! それがあってこそのコロシアイなんだ!」
モノクマ「というわけで……芹沢さん、ちょっといい?」
あさひ「……? なんっすか?」
モノクマ「オマエさ、ボクの正体を黙る代わりに……って色々やってくれちゃったけどさ」
モノクマ「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」
モノクマ「まあ七草さんの犯行を横取りしたり、裁判を撹乱したりはよくやってくれたと思うんだけどさ」
モノクマ「この中に黒幕がいるだとか、動機の提供は自分がやらせただとか内部情報までリークしちゃうのはちょっと出しゃばりすぎだよね!」
モノタロウ「そうだそうだ! AIから仕事を奪うなー!」
モノキッド「やっぱりみんな■■品な■だ! 本■は他■いるんだ!」
恋鐘「ま、待たんね! 何をする気ばい! おしおきの免除はモノクマの口を通じて提示されたルールばい!」
恋鐘「そいを捻じ曲げるようじゃルール違反になるけんね!」
モノクマ「やだなぁ、そんなことはしないよ! 芹沢さんにもこのコロシアイにはまだまだ参加してもらうよ!」
モノクマ「ただちょっと……【ペナルティ】ぐらいは受けてもらおうかなって」
愛依「ぺ、ペナルティ……?」
甜花「な、なに……? 何が起きちゃうの……?」
モノクマ「モノクマーズ! 例のブツをここに持って参れ!」
「「「「「あいあいさー!」」」」」
モノクマが指示を出してから数秒。
モノクマーズが奥に引っ込んだかと思うとすぐに、それは姿を現した。
ヒューーーー
ドスン!
裁判上の遥か上から降ってきたそれは、まるでロケットみたいな形状をしていて、観音開きの扉の内側には……【無数の針のようなもの】が付いていた。
夏葉「こ、これは……【アイアンメイデン】?!」
愛依「ジャイアン皆伝……?」
円香「中世ヨーロッパの拷問器具です。ここに罪人や捕虜が閉じ込められ、ゆっくりと扉を閉じられていく。そうすることで針がどんどん肉体を突き破っていき……」
モノファニー「でろでろでろでろでろでろ……」
樹里「ま、まさかこれにあさひを入れるつもりじゃないだろな!」
モノクマ「そのまさかだよ! まあ心配しなくて大丈夫。これはオマエラが思ってるような物騒なモノじゃないからさ。ちゃんと見てみなよ!」
にちか「ちゃんと……?」
モノクマに促されるままにそれをじっくりと観察する。
よく見ると、モノクマのいう通りだ。
針のように見えたのは、ただの【電子ケーブル】。無数の電子ケーブルが、そのまわりの電子盤から伸びている。
モノクマ「これはとある大物ギャンブラー同士の対決で使われた代物なんだけどね。【死を体験できる装置】なんだ」
灯織「死を……体験……?」
モノクマ「うん、インプットされた死の体験データがケーブルを伝って電気信号となり脳に到達する」
モノクマ「電気信号を受けた脳はあたかもその肉体に死が訪れたように錯覚するって寸法なんだ」
あさひ「……」
霧子「そ、それってまさか……」
モノクマ「やっぱりおしおき無しなんてつまんないよね! 芹沢さんには死んでもらうわけにはいかないけどさ、これで【仮死体験をしてもらう】よ!」
透「……やばいね」
愛依「そ、そんなんマジでゴーモンじゃん! ル、ルール違反っしょ!」
モノクマ「何が? どこも矛盾してないよね? これはおしおきじゃないんだ、ただのペナルティだよ」
モノクマ「ボクに変わってこのゲームをかき乱そうとした分のね」
あさひ「……」
モノクマ「ま、せっかく超研究生級の博士ちゃんの才能に見合った処刑方法を用意してたんだから。それを腐らすのも勿体無いよねってことで!」
モノクマ「今から別のやつをそのおしおきにかけて、それと体験のデータを同期するから。これでおしおきを受けずにおしおきを受けることができる!」
モノクマ「いやぁ……ルールの穴をつくなんてボクってなんてスマートなクマ!」
夏葉「ちょ、ちょっと待ちなさい! 他の人間をおしおきにかけるって……」
にちか「もしかして……私?!」
モノクマ「違う違う、参加者は誰も死なさないよ! ほら、もっとうってつけな存在がいるでしょ?」
灯織「うってつけの存在……? な、なんのことですか……」
モノクマ「ま、やってみれば分かるよ! それじゃあ時間も押してきてますし、早速行きますか!」
あさひ「……」
愛依「あ、あさひちゃん!」
あさひ「……愛依ちゃん?」
愛依「ごめん……うち、守ってあげられなくて……こんな苦しい思いをさせちゃうことになるなんて、思ってもなかった……」
あさひ「なんで愛依ちゃんが謝るっすか? 愛依ちゃんは何もしてないっす」
愛依「何もしてないからだよ!」
あさひ「……!」
愛依「うちが……もっとあさひちゃんのために動けてたら、こんなことにはならなかったのかもしんないし……」
愛依「あさひちゃんを一人で戦わせたりなんかさせたくなかった……」
あさひ「……もう手遅れっす」
モノクマ「超研究生級の博士ちゃんである芹沢さんのために! スペシャルなおしおきを用意しました!」
モノファニー「い、一体誰が代わりにおしおきを受けるのかしら」
モノキッド「モノダムに決まってる! この世で一番価値のない存在だからなッ!」
モノキッド「まあそれはみんな一緒か! 所詮みんな■■タ! 紛■■の存■だしなッ!」
モノスケ「……往生せえや」
モノタロウ「ばいばい! モノキッド!」
モノダム「……」
モノクマ「それでは張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
あさひ「……死ってどんな感じがするんっすかね?」
-----------------------------------------------
GAME OVER
セリザワさんはおイタがすぎました。
おしおきをかそうたいけんしてもらいます。
-----------------------------------------------
アイアンメイデンに閉じ込められた芹沢さん。
その感覚は、少し離れたところにいるモノキッドとリンクさせられています。
モノキッドは全身を拘束され、身を捩っても身動き一つできずにいます。
そんなモノキッドの体を……ロケットが飲み込みました!
さあ、ここから先はモノキッドを通して芹沢さんも夢の宇宙の旅!
今こそあの空の果てへと旅立つのです!
-----------------------------------------------
ウルトラスーパー宇宙旅行DX
超研究生級の博士ちゃん 芹沢あさひ処刑執行
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芹沢さんを乗せたロケットにエンジン点火!
凄まじい勢いの炎で加速するロケットは急回転も伴ってどんどん学校を突き破っていきます!
屋上を超えて、空を超えて、成層圏を超えて。
あっという間に月にまでたどり着いたかと思うと……
まだエンジンの勢いは弱まることを知りません!
月にも風穴を開けて、火星も木星も土星も天王星も海王星も! 全部全部突き破って太陽系銀河の果てへ!
宇宙の旅はずっとずっと終わることなく……
やがてロケットは宇宙にできた不思議な穴に辿り着きました。
穴の向こうからは無数の輝きが溢れ出ており、ロケットはそこに吸い込まれていき……
_______ビッグバン。
全てを無に帰し、そして全てを始める創世の大爆発が起きました。
今も空の上から、彼女は私たちのことを見守ってくれていることでしょう。
芹沢銀河の一等星、アサヒの輝きは地球へと今も降り注いでいます。
モノクマ「おーいおいおい! モノキッド……モノキッド……!」
モノクマ「愛しき我が息子よ! どうしてボクを置いて先に逝ってしまったのか……!」
モノタロウ「モ、モノキッドが宇宙の塵になっちゃった……!」
モノファニー「塵というより藻屑……」
モノスケ「藻屑というよりカス……」
モノダム「……」
モノダム「モノキッドハオイラタチヲ繋グ星座ニナッタンダヨ」
モノタロウ「モ、モノダムが喋った!」
モノダム「オイラタチハ仲良クアルベキナンダ。モノキッドハ身ヲ持ッテソレヲ証明シテクレタネ」
モノスケ「アホか! ギスギスしとってこそのモノクマーズやろが!」
モノダム「……」
モノスケ「まあええ、モノキッドがおらんくなった分モノダムにもしっぽり働いてもらうからな」
私たちは、芹沢さんが味わっている死の体験をモニター越しに見ていた。
モノキッドとかいう人形が受けた苦しみがそのまま芹沢さんに置き換わった映像がモニターに流れていたのである。
宇宙の重力にかき乱される臓物に、気圧差で昏倒する様子。爆発に巻き込まれ、肉体を損傷し、酸素のない空間で窒息していく様。
惨たらしいなんて言葉じゃ足りない。
死というのはどこまでも残酷なのだと、嫌というほどに理解させられた。
全てが終わってなお、口を開こうとする者は誰一人としていなかった。
モノクマ「ま、これでボクも気が済んだかな。芹沢さんにもいいお灸が据えられたでしょ!」
モノクマ「お灸がちょっと熱すぎて廃人状態になってなければいいけど……うぷぷぷ」
【ばーいくま~~~~~!!!!!】
モノクマたちがいなくなってから、アイアンメイデンが音を立ててその扉を開いた。
中からは凄まじい蒸気が溢れ出し、力無く重力に任せるままになった芹沢さんの体がそこから転がり落ちた。
真っ先に駆け寄ったのは愛依さんだ。
愛依「あさひちゃん! あさひちゃん! 大丈夫!?」
必死の呼びかけに、芹沢さんは答えない。
霧子「ちょっと、いいかな……?」
すぐに幽谷さんが横から割って入り、その心音と呼吸を確かめる。
霧子「うん……心臓は動いてるし、息もしてるよ……」
霧子「でも、大丈夫では……ないかも」
それも当然だ。脳は完全に一度死を体験してしまっている。
肉体がどれほど無事であろうとも、脳が自らの死を認識してしまっている限りは、正常には戻るまい。
あさひ「……」
愛依「えぐ……えぐ……」
沈黙に付す芹沢さんを前に、愛依さんの啜り泣く声ばかりが響いた。
樹里「クソ……なんだってんだよ……マジで……!」
甘奈「甜花ちゃん……」
甜花「なーちゃん……大丈夫、甜花がついてるからね……」
私はというと、今や感情の向けるところが分からなくなっていた。
芹沢さんへの憎しみと怒りは間違いないものだ。
ゲームを楽しみたいなんて理由で、わたしたちを弄び、そしてルカさんの決意を踏み躙るような真似をした。
でも、そんな彼女は報いを受けて、もはやこちらの言葉が届かない人間になってしまった。
じゃあ、この握った拳はどこに振えばいい?
誰にこの感情をぶつければいい?
そして、手を汚したはずの私は報いを受けなくていいの?
この裁判場で今一番惨めで愚かしいのは自分だと思った。
円香「……ひとまず、地上に戻りませんか? ここでこうしていても仕方がありません」
夏葉「……そうね、これでコロシアイは終わりじゃない。まだ私たちの学園生活は続くのだから」
樹里「愛依……あさひを連れて帰るぞ。アタシも手伝うから」
愛依「……ひっく……ひっく」
そうして、一人一人とエレベーターに乗り込んでいく。
地上に戻って、私たちは元の生活に戻らなくちゃいけないんだ。
またあの、コロシアイと向き合う日々が始まる。
にちか「……」
私はそれでも、動けずにいた。
真乃「あ、あの……っ!」
にちか「……なんです?」
立ち尽くす私に話しかけてきたのは、櫻木さんだった。
真乃「えっと……正直、にちかちゃんがルカさんを……その……刺しちゃったのはまだびっくりしてて……」
真乃「許されることじゃないと、思う……けど……」
にちか「そんなの、言われなくたってわかってますよ」
真乃「で、でも!」
真乃「ルカさんがにちかちゃんに生きてほしいって……ずっとずっと思ってくれてたんだよね……?」
真乃「だとしたら、にちかちゃんはこれからを生きて……私たちと向き合ってほしいな……」
(……)
真乃「私は、にちかちゃんを信じてるよ……っ! 一緒に生きていける、【仲間】だって……っ!」
ふんわりとした羽で頬を撫でられたようなこそばゆさを感じた。
まさか凶行に走った自分にそんな言葉がかけられると思ってなかったから。
それだけの言葉をかけると、脱兎の如くかけていった櫻木さんの背中を見つめて、私は思わずため息が出た。
さっきまでの茫然としていた自分の情けなさに、辟易とした。
ルカさんがいれば、背中をバチンと叩かれていたところだ。
「……」
ダッサイ、マジでダッサイ。
自分を追い込めば追い込むだけ、それで許されると思ってる。
自分で自分につける傷が深ければ深いだけ、反省している証拠になると思ってる。
他人からすればそんなこと知ったこっちゃないんだ。
傷の痛みも、思いも、傍目にはわからない。
唯一わかるのは【言葉と行動】だけ。
「……よし、いくぞ」
今の私の信頼が地に落ちていることは知っている。
それでも、僅かにでもまだ見てくれようとする人がいるのなら……それを掴もうとしないのは生きることからの逃避だ。
今度こそ、ルカさんを裏切ることになる。
「すみません、私も乗せてください」
そんなこと、絶対にやっちゃダメだ。
私がここから先やるべきなのは、生きること。
「あの……返事はいらないんで、これだけ聞いてもらっていいですか」
生きて生きて……この学園から出ていくんだ。
「私……もう逃げません。戦いますんで」
この人たちと、一緒に。
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【???】
「……」
「…………」
「……………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………………………」
「ふわぁ〜……」
「あれ……ここ……わたしの部屋?」
「ああ……そっか、おしおきの追体験で意識を失って……」
「うぅ……まだ手足がピリピリする……なんか喉も痛い……」
「そっか……死ぬってあんな感じなんだ……」
「結構……」
「大したことないかも」
「あはは、こんなところで死んじゃいられないや。もっともっといろんなことを試したい」
「せっかくのゲームなんだからまだまだ楽しまなきゃ損だよね!」
「予行演習もできたし、ここからがコロシアイ学園生活の本番!」
「ワクワクの始まりだよね!」
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CHAPTER 01
ガールビフールフールガールズ
END
残り生存者数
15人
To be continued…
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【CHAPTER01をクリアしました!】
【クリア報酬としてモノクマメダル30枚を獲得しました!】
【アイテム:悔恨のロケットを手に入れました!】
〔ルカが生前大切にしていたロケット。ギュッと握りしめると心が安らぐような気がする〕
というわけで一章のお話はここまで。
今回のシリーズを書くにあたって、あさひを十神や狛枝のようにかき乱す枠として描きたいというのが最初にありました。
前シリーズではなんだかんだ彼女は大人しかったので、今回は存分に暴れてもらおうと思っています。
あさひに限らず、これまでのシリーズでは描き切れなかったアイドルたちの描きたい姿を今回のシリーズでは拾っていけたらな~というスタンスです。
さて、二章なのですが、実はもうあらかた書き終わっているので近日中にまた更新できるんじゃないかと思います。
一二週間は準備の時間を貰おうかとは思うのですが、また物語を始めました際は安価のご参加など是非よろしくお願いします。
それではお疲れさまでした。
またよろしくお願いします。
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GAME OVER
イカルガさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
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他の人から羨望の眼差しを受ける存在、そうそれこそがカリスマ!
ファンはもちろん、同じステージに立つものですらも魅了する彼女のカリスマ性はもはや神がかってすらいます。
ただ、生まれた時代が良くなかった。
人智を超えたような力は時として、他者からは畏れを持ってみられることがあるのです。
斑鳩さんはその槍玉に挙げられてしまいました。
長く、険しい坂の頂上で、今彼女は磔にされています。
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ロンリネスの槍
超研究生級のカリスマ 斑鳩ルカ処刑執行
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帝国の支配者モノクマが、兵士のモノクマーズに指示を出すと、一斉に5匹はその槍を構えました。
鏃には聖印が刻まれた、信仰の槍です。
それが“カミサマ”を貫こうとしているのだから皮肉なものですね。
ですが、彼女は悲嘆することも、みっともなく命乞いをすることもありませんでした。
彼女には強い芯があるわけではない、ただ一度悪路に外れたからには最後までその泥濘の中を進むと決めた意志がある。
頬を吊り上げ、目を細めてモノクマーズを見下ろしたかと思うと、その顔に向かって唾を吐きかけます。
そのことが誇り高き指導者モノクマの反感を買った!
モノクマが右手を下ろした瞬間、モノクマーズたちは槍を構えて突進!
磔になっている斑鳩さんは身動きを取ることもできず、その槍に四方八方から貫かれてしまいました。
ああ、カミサマ……
たくさんの人々に依存を受け、身勝手な投影を被り、救いをもたらさんとした……未来に息づくカミサマよ
私たちはそのお姿を見ることもなく、終わってしまうのですね。
と、その時!
近くの町内会でやっていたお祭りの神輿が処刑場に侵入!
参加しているクソガキどもはその神輿に神を乗せていることも、この馬鹿騒ぎも神へ捧ぐ興の一つだということもまるで理解せず、斑鳩さんの固定されている磔を倒して、踏みつけて、ズイズイと進んでいってしまいました。
____残ったのは、血に塗れてぐちゃぐちゃに踏み潰された哀れな人間の末路。
そこにカリスマらしい威光なんて、まるで見当たりませんでしたとさ。
……カチッ
???『_____これ、ちゃんと撮れてるか?』
ガタタ
???『あーあ、よし……いけてそうだな』
ガタ
ルカ『この映像を見てる私は今頃、何がなんだか訳分かんなくなってんだろうけど……安心しな。今の私は正真正銘のあんた、斑鳩ルカだ』
ルカ『この映像の記憶が今のあんたにはまるでないだろうけど……それは忘れちまってるからだ。それ以上でもそれ以下でもない』
ルカ『……っと、あんまり時間もないし用件だけ先に話させてもらうぞ』
ルカ『いいか? このコロシアイは避けられないコロシアイなんだ。これは私たちにとって決められていた道筋なんだ』
ルカ『だから逃げだそうだとか、抗おうだとか余計なことは考えるんじゃねーぞ』
ルカ『あんたが考えるべきなのはただ、このコロシアイを生き抜くということ』
ルカ『絶対に、死ぬんじゃねーぞ。死んだらあんたも……ほかの連中と【同じ】になっちまうからな』
___プツン
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CHAPTER 02
退紅色にこんがらがって
(非)日常編
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【夜時間 1F 女子トイレ】
ルカさんの事件の裁判が終わり、芹沢さんを寄宿舎の個室に戻した後。
私たちは学園内の女子トイレに集結していた。
灯織「七草さん、全てを詳らかにしていただきますよ」
にちか「……」
夏葉「あなたが隠し通路の存在を隠匿し、私たちを欺こうとしたことは変えようのない事実。あなたにはその説明の義務があるわ」
にちか「わかってます」
地上に上がってすぐに、私の自供した犯行内容の検証が行われた。
というのも、犯行における最も重要なピースである隠し通路は私とルカさん、そして芹沢さんしか知らなかった存在であり、
私たちが辿り着いた真相の意味を確認する上で、その立ち合いが必要だろうということになったのだ。
私は他の人が見守る中で、用具入れの壁を強く押した。
ゴゴゴゴ
すると、聞き慣れた音と共に壁は横にスライドしていき……
空洞が現れた。
真乃「ほわぁ……ほ、本当に隠し通路があったんですね……っ」
甜花「す、すごい……トイレの隠し部屋なんて、どこかの魔法学校みたい……!」
にちか「ここを進めば図書室に出られます。ついてきてください」
私に続いてゾロゾロと通路を進む。コンクリートで四方を囲われた空間は足音が過剰なほどに反響した。
ムカデのような足音が続くこと数十秒ののち、あの悪意の部屋へとたどり着く。
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【B1F 隠し部屋】
めぐる「……っ!」
円香「……何? ここ」
流石に初めて訪れた人たちは面食らった様子だった。
明らかにこの部屋は異質。前にいた人間の息吹が、残り続け、それが今にも自分たちの尋常を蝕もうとしてくるのだから。
にちか「そこの壁付の扉から図書室に出られます。扉からは一方通行で、向こうからは入れません」
霧子「図書室に行くためだけの隠し通路ってことなんだね……」
にちか「というより、向こうから入るにはカードキーが必要みたいで。そのキーは持ってないのでどうしようもないんですよね」
灯織「カードキー……」
私は粛々と説明に徹した。他の人からの視線には明らかに不信が混じっていることを悟っているからだ。
下手な作り笑顔なんかすれば反感を買うだけだ。
透「……ね、あれって聞いていいやつ?」
凛世「凛世も、足を踏み入れし時より……気になっておりました……」
そして、関心は当然【あれ】に惹きつけられていく。
異様だらけのこの部屋で、一際目立つ異様。もはや異常と言ってもいいかもしれない。
私たちにコロシアイを強いり、生と死とを嘲笑うモノクマの巨大な頭部。気にならないわけがない。
にちか「私にも、あれがなんなのかはわからないです。ただ、ルカさんはあれに手がかりがあるんじゃないかって言ってました」
にちか「今は故障してしまってるみたいですけど、内部のコードが引きちぎれちゃってるだけなので、それさえ補修すれば元通りになるかも……と」
恋鐘「ルカはこいを修理する気やったとね?! 」
樹里「おいおい……そんなことして大丈夫なのか? だって、モノクマだぞ?」
にちか「リスクがあることは承知の上。それでもこのモノクマが私たちの知らない何かを握っていること自体は確かですから」
円香「ちなみに、そのコードっていうのは?」
にちか「あ、そこの電子盤に書いてあるんですけど……」
円香「【SHU-1ケーブル】【YM2ケーブル】【HR-MKケーブル】【K-Bケーブル】【SG-TMケーブル】この5種類が必要なんだ」
甘奈「えっ?! ちょっと円香ちゃん、それ直すつもりなの?」
円香「……別に。興味本位で見てるだけ」
透「んー、でも直すのはありじゃん?」
樹里「はぁ? ナシだろナシ! こんなの敵の罠に決まってるって!」
夏葉「……いえ、そう断ずるのも早計だわ」
樹里「えっ?」
夏葉「今の私たちは少しでも情報が欲しい。自分自身が置かれている状況も、今何が起きているのかも何もわからないままだわ」
夏葉「それを知るためなら藁にもすがる思い。まさにこのモノクマの頭部はその藁になり得る材料だと思わない?」
愛依「毒をくらわば皿まで……ってことだね!」
樹里「それ使い方合ってるか?」
めぐる「わたしも賛成……! このモノクマを直したからすぐに襲われるってわけでもなさそうだし……やれることは全部やってみたいかな!」
にちか「……今の所、ケーブルは一つも見つけられてないです。本当にこの学園の中にあるのかもわからないんで、当てにはしすぎない方がいいと思います」
夏葉「……そうね、それぐらいのスタンスで行かせてもらおうかしら」
モノクマの頭部の修理は全体で仮で進める案件となった。
少しでもルカさんの遺志が残ってくれるのは、ありがたいかな。
------------------------------------------------
【にちかの部屋】
女子トイレと図書室を繋ぐ隠し通路の確認を終えると、私たちはそのまま解散することになった。
何も失うことのなかったはずの学級裁判で、信頼という大切なものを落としてしまった私たちに長く語らう意欲は残されていなかった。
今はただ、現実に向き合うだけの体力を取り戻したい。
それが総意だった。
「……帰って、きちゃった」
私は学級裁判で勝てなかった。
ルカさんとの約束を果たすことができなかった。
それどころか、私ははじめから芹沢さんに出し抜かれていて、惨めに踊らされただけだったんだ。
他の人を欺いたことに後悔がないとは言わない。
風野さんが私に向けた視線の冷たさに私は初めて軽蔑というものを知ったし、愛依さんの涙交じりに無実を訴える声は今も耳にこびりついている。
無力感と罪悪感は心臓を内側からずんずんと突き破ってきそうで、ベッドの上で何度も身を捩った。
その衝動に任せて、首を括りでもすれば楽になるんだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
真乃「ルカさんがにちかちゃんに生きてほしいって……ずっとずっと思ってくれてたんだよね……?」
真乃「だとしたら、にちかちゃんはこれからを生きて……私たちと向き合ってほしいな……」
真乃「私は、にちかちゃんを信じてるよ……っ! 一緒に生きていける、【仲間】だって……っ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
でも、そんな私のことをまだ信じると言ってくれた人がいた。
ただ、憎しむことができない不器用なだけな人なのかもしれない。私のように、口から出まかせを吐いただけかもしれない。そこに何の芯も通っていない空虚な信用かもしれない。
でも、その空洞は今からでも埋め尽くせることができる。贖罪なんて大層なものではない。約束一つ守れない人間が罪を注ぐことなんて不可能だ。
だからこれは、無謀な挑戦だ。今から信頼を取り戻すなんて絶対不可能な難題に、遮二無二に挑戦する。
たとえそれが叶わずとも、その挑戦の中で拓ける運命もあるかもしれないから。
そう盲信して突き進むしかない。
自分に何度も言い聞かせて、覚醒する瞳孔を何とか閉じさせた。
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【School Life Day7】
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【にちかの部屋】
【キーンコーンカーンコーン……】
モノダム『キサマラ、オハヨウ』
モノダム『健全ナ学校生活ハ気持チノイイ挨拶カラ始マルヨ』
モノダム『キサマラモ、友達ニ会ッタラ大キナ声デ自分カラ挨拶ヲスルトイイヨ』
モノダム『ミンナ仲良ク、ネ』
みんな仲良く、なんて私から最も程遠い概念だ。
モノクマーズの放送でいきなり気が沈みかけたが、何とか自分を叩き起こして、ベッドから立ち上がる。
私は今の自分と向き合うって決めたんだ。
少しでも甘えている時間はないぞ。
いつも以上に忙しなく朝の支度をすると、私は食堂へと向かった。
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【1F 食堂】
そして足を踏み入れた食堂で私は、予想だにしなかった光景を目にすることになる。
あさひ「あ、にちかちゃん。おはようっす!」
昨日学級裁判の終わりに、廃人状態に追い込まれたはずの芹沢さんが飄々と、いつも通りと言わんばかりに待ち構えていたのである。
にちか「せ、芹沢さん……?! ど、どうして……?!」
あさひ「どうしても何も……ルカさんは死んじゃったっすけど、朝食会は続けるっすよね? いっつもこの時間には集まってたし、来ただけっすけど」
樹里「な……っ!」
あさひ「にちかちゃん、昨日はわたしが負けちゃったっすけど……次は負けないっすよ!」
みんな何かを言ってやりたいが、うまくまとまらず口籠る。
体を気遣うような言葉は仲間の仇にかけるには優しすぎるし、排斥するような言葉は自分たちよりも年下の少女にかけるには気が咎める。
とにかく厄介な立ち位置にいる相手だ。
あさひ「びっくりしたっすよ。目が覚めたら自分の部屋だったんで、あの裁判は夢だったのかと思ったっす」
甜花「いっそ、夢だったらよかったのに……」
あさひ「えー、ダメっすよ。あんなに盛り上がったのに勿体無いじゃないっすか」
夏葉「……あさひ、あなたが昨日やったことの意味と重大さは理解しているのよね?」
あさひ「昨日やったこと……ああ、ルカさんを殺しちゃったことっすか?」
甘奈「そ、そんな軽々しく言うんだね……」
あさひ「でも、あれって元はルカさん自身が望んだことじゃないっすか」
にちか「……!」
あさひ「にちかちゃんにルカさんは自分を殺して欲しいって、そう言ったんっすよね? 自分の命を犠牲にして、わたしたちに生き延びてもらうのが元々ルカさんの希望だったはずっす」
あさひ「それで、わたしがルカさんを殺して何がダメなんっすか?」
その瞳はどこまでも真っ直ぐだった。
わたしがこの子に抱いていた第一印象は何一つ間違っていなかったんだと思う。
この場にいる誰よりも純真無垢。誰よりも等身大であり続ける彼女は、私たちの誰よりも早く、そして深くこの状況に適応してしまった。
彼女の白は、この学園に渦巻く悪意の色に染め上がっている。そのことに、彼女自身が違和感を抱くこともなく、疑問を持つこともなく。
あさひ「モノクマも言ってたっすけど、これはコロシアイのゲームなんっすよ? みんなはゲームに勝ちたくないんっすか?」
もはや生き死により先に、ゲームの勝敗が立つ。
彼女の底なしの好奇心は、歪な形に変えられてしまっていた。
円香「……」
霧子「……」
真乃「……」
私たちは彼女の瘴気に当てられたようで口を挟めずにいた。
彼女の発言は間違っている。必死に否定したい衝動は何度となく走るのだが、嫌なくらいに澄み渡った彼女の瞳がそれを許さない。
愛依「ちがう……ちがうよ、あさひちゃん」
……だけど、一人だけは違っていた。
愛依「こんなのゲームなんかじゃない、勝ち負けなんかないって!」
あさひ「愛依ちゃん? これはゲームっすよ? 他の人をいかに欺いて、自分だけが得をするかのゲームっす」
愛依「ちがう、ちがうって!」
あさひ「……ちがうって何がちがうんすか? ちゃんと教えて欲しいっす」
愛依「ちがう……何が、とかわかんないけど……今のあさひちゃんはずっと、間違ってるって!」
芹沢さんから向けられる、排他的な純真さを真正面から受け止めたその上で、怯むことなく手のひらを差し伸べ続けた。
口も立たない、理論もない。直向きに、ただ感情だけでぶつかっていった。
芹沢さんにはそれが響いているようには見えなかった。キョトンとした表情で、自分の方が正しいとまるで聞く耳も貸していなかった。
でも、傍目に見ていた私たちは違う。
和泉さんの無謀なその後ろ姿に、私たちは俄かに勢いづく。
恋鐘「自分の命も他人の命も、遊びなんかに使っていいもんじゃなか! もっとちゃんと……考えんね!」
夏葉「ルカが自分の命を賭したのはゲームに乗じたわけじゃない。あなたの独りよがりなプレーとは文脈を異にする覚悟よ」
真乃「あさひちゃん……お願い、今からでも考え直して……っ!」
あさひ「……あー、みんなはそういう感じなんっすね」
【おはっくま〜〜〜〜!!!!】
芹沢さんへの呼びかけで、勢いづき始めたところで、狙い澄ましたかのようにモノクマ達が割り込んできた。
私たちと芹沢さんの間に立つ連中。空気が読めないにも……いや、読めすぎているにも程がある。
モノクマ「うぷぷぷ……キミはやっぱり面白いよ。今までにも色んなヤツがいたけど、そこまでゲームに真摯に向き合ってくれる奴は珍しいよ」
モノクマ「きっと芹沢さんは長生きするだろうね。このゲームではキミのようなヤツが強いんだ」
あさひ「えへへ、ありがとうっす!」
モノクマ「それに引き換えオマエラと来たら……さっきからなんだいなんだい! 命の価値だとかゲームに乗らないだとか!」
モノクマ「くだらないくだらない! オマエラの命の価値なんて、砂粒一つなんかよりも軽いんだよ!」
樹里「はぁ? アンタ、この前はアタシ達には未来があるって言ってたじゃねーか」
モノクマ「うぷぷぷ……そうだね、オマエラには未来があった。それは間違いないよ」
モノクマ「でもそれと命の価値はまた別の話だよ。何も為していない今のオマエラなんて、誰も必要としてないんだ」
めぐる「そんなことない! 人はみんな必ず……誰かに必要とされてるんだよ!」
モノダム「ソウダヨ。誰モガ、生マレテキタ意味ガアルンダ」
(えっ……!?)
モノダム「人ト人ガ巡リ合ッテ絆ガ生マレル。ソウシテ、意味ト価値ハ育ッテイクンダヨ」
モノタロウ「モ、モノダム! ダメだよ! そんなお父ちゃんに歯向かうようなこと言ったら!」
モノクマ「……」プルプルプルプル
モノスケ「あ、あかん! お父やんが怒りで体が震えとるで!」
モノファニー「いやー! 地震と雷と火事が同時にやってくるみたいだわー!」
モノクマ「モノダム……オマエと来たら……」プルプルプルプル
モノクマ「なんて青臭くてかわいらしいんだ〜! 綺麗事を盲信して、厚顔無恥に演説するその姿!」ペロペロペロペロ
モノクマ「水彩画にしてリビングに飾りたいほどの愛らしさだよ〜!」ペロペロペロペロ
モノダム「ワァァァァ……」
(な、なんなの……? モノクマとモノクマーズは必ずしも意見が合致してるわけじゃないの?)
甘奈「ね、ねえ! 一体何しに来たの?! 今、甘奈たちは大切なお話をしてたんだけど……」
モノクマ「おっと、愛しの我が子の愛らしさに目的を見失うところだった!」
モノクマ「そう邪険にしないで欲しいな、今日はボクからオマエラに【プレゼント】があるんだ」
霧子「プレゼント、ですか……?」
モノタロウ「うん! キサマラの道を切り拓く、素敵なプレゼントだよ!」
モノスケ「この才囚学園がずっとエグイサルで工事をしとったのはキサマラもよく知るところだと思うんやが……」
モノファニー「ぱんぱかぱーん! ついに一部のエリアの工事が終わったのよ!」
モノダム「キサマラガ行ケル範囲ガ広ガッタンダ」
凛世「行動圏内にいくつか閉まったままの扉がありましたが、そちらが開いたということでしょうか……?」
モノタロウ「えっとね、そうじゃなくてね。今までただの壁だったところの幾つかをエグイサルで取っ払ったんだ!」
灯織「か、壁を壊した……?」
モノファニー「具体的にいうと、一階の体育館前の廊下の横壁を取り壊したわ! これで行けなかった部屋もいくつか開放されてるのよ!」
モノダム「【二階】や【三階】ニモ上ガレルカラ、探索シテミテネ」
夏葉「……なぜ?」
モノクマ「はぬ?」
夏葉「なぜ、そんなことをするの? 私たちの活動領域を増やして……何が狙いなの?」
モノクマ「狙いなんかないよ、これはただの労い! オマエラは越えるべき障害をちゃんと超えてくれたからね。ソレに見合うだけのご褒美を用意したってだけのことだよ」
樹里「ご褒美なんて言われても信用ならねーよ、何か罠を仕掛けてるんじゃないのか?」
モノタロウ「そんなことないよ! むしろキサマラにとってプラスになる【宝物】も用意されてるからね!」
あさひ「えっ! 宝物っすか!? すごい、見つけてみたい!」
霧子「宝物ってなんなのかな……?」
モノクマ「それは見てみてのお楽しみ! 損だけはさせないから安心してよね!」
愛依「や、全然安心はできないけど……」
(絶対ろくなもんじゃないでしょ……)
【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】
真乃「……行っちゃいましたね」
樹里「なんかとっちらけになっちまったな……あさひのことでだいぶヒートアップしてたんだが」
あさひ「……?」
透「とりあえずは新しく行けるようになったとこ。見といた方がいいんじゃん?」
甘奈「甘奈もそれに賛成かな……手がかりは少しでも多いに越したことないよ」
愛依「あさひちゃんのことは大丈夫! うちがつきっきりで見とくから!」
あさひ「えー? 愛依ちゃん、わたしのペースにちゃんとついてきてくれるっすか?」
愛依「が、がんばるから……! もう、目は離さないかんね……!」
夏葉「愛依……ありがとう。あなたの想い、よく伝わってくるわ」
円香「……当の本人にそこまで伝わってないようですけどね」
灯織「監視というのなら、七草さんにも必要なのでは?」
にちか「……!」
灯織「前回の裁判、結論としては犯人はあさひでしたが……事実上の犯人は七草さんです」
灯織「そして何より、七草さんは私たちを欺き、裏切った事実がある」
出会った時から、壁を感じる人だとは思っていたけど今はそれとは比にならない。
風野さんとの間にできてしまった隔たりは、断崖のように大きい。
それほどまでにその口調は冷たく、鋭いものだった。
真乃「だ、だったら……私がにちかちゃんにはついて行きます……っ」
灯織「さ、櫻木さん……?」
真乃「めぐるちゃん、今回は灯織ちゃんについていってあげてもらえるかな」
めぐる「う、うん……いいけど……」
(櫻木さん……この前の裁判の終わりから私に歩み寄ってくれてるけど、どうしたんだろう)
灯織「……なんで?」
誰も監視にはつきたがらないとでも思っていたのだろうか。
櫻木さんの申し出が余程予想外だったらしく、風野さんはしばらく面食らったような反応を見せていた。
まあ、それは私も同じこと。
櫻木さんのように、気が強いわけでもない、むしろ推しに弱いような女の子が殺人の前科がある私に寄り添おうとしているのかはよく分からない。
にちか「よ、よろしくお願いします……」
真乃「は、はい……こちらこそ……っ」
とはいえ、私には拒む権利もそんな気もない。
とにかく、自分に向けられたこの不信に挑み続けるとルカさんに誓ったのだから。
探索のメンバー分担が終わると、すぐに全員が食堂を出て散策へと向かった。
残ったのは私と櫻木さんのただ二人。
……先に口を開いたのは櫻木さんだった。
真乃「なんで私が、にちかちゃんの監視を申し出たのかって……不思議に思ってますよね……?」
にちか「それは、正直……はい。私のこと、怖くないんですか?」
真乃「怖い……気持ちもあるかもしれません。でも、私が思ってるのは裁判終わりに言ったこととずっと同じなんです……っ」
(裁判終わりって……)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
真乃「あ、あの……っ!」
にちか「……なんです?」
真乃「えっと……正直、にちかちゃんがルカさんを……その……刺しちゃったのはまだびっくりしてて……」
真乃「許されることじゃないと、思う……けど……」
にちか「そんなの、言われなくたってわかってますよ」
真乃「で、でも!」
真乃「ルカさんはにちかちゃんに生きてほしいって……ずっとずっと思ってくれてたんだよね……?」
真乃「だとしたら、にちかちゃんはこれからの生きて……私たちと向き合ってほしいな……」
(……)
真乃「私は、にちかちゃんを信じてるよ……っ! 一緒に生きていける、仲間だって……っ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
真乃「あの、嬉しかったの……にちかちゃんが、今日の朝もちゃんと朝食会に来てくれたのが……」
真乃「私たちと向き合ってくれるんだ……これからも私たちと生きてくれるんだ……」
真乃「私たちの仲間であり続けようとしてくれてるんだって、そう思えたから……っ」
櫻木さんの目は潤んでいて、言葉の一つ一つを口にするのにも肩を震わせていた。
その怯えは、殺人犯と接することに向けられたものではない。
自分との間にできた縁が途絶えてしまうこと、その手から真っ白な珠がこぼれ落ちてしまう事を惜しむ畏れだったのだ。
ほんの数日前に会っただけ。たまたま同じ状況に居合わせただけ。
それだけの関係性の相手をこれほどまでに慈しみ、尊ぶことができるなんて随分とできた人物だ。
にちか「私が櫻木さんが思ってくれてるほど、大層な決断を下したわけじゃないんです」
櫻木さんの太陽のような眩しさが、自分自身に影を落としているのを感じている。
私は、こんな風にはなれない。学級裁判で出し抜こうとした独善主義な人間が何を望むんだって話だし、憧れるのも烏滸がましい。
にちか「ルカさんが前に言ってたんです。不可能なことだとしても、挑み続けることで拓ける運命はあるかもしれないって」
だからせめて、彼女の邪魔にはならないようにしようと思った。
どれだけ騙されても他の人を信じ続けようとする、その不器用な実直さが歪められてしまうことがないように。
その軽やかな足取りが、段差に蹴つまずいてしまうことがないように。
にちか「私が殺人に手を染めた事実は変わらないですし、失った信頼はもう取り返せないかもしれない。それでも……誰かと歩んでいくことだけは諦めずに、挑み続けていたいんです」
___私はせめて、彼女の成功体験の一つでありたいとそう思った。
にちか「な、なんて! すみません、なんか長々と! 変なこと言っちゃいましたかね!? 言っちゃいましたよね?!」
真乃「にちかちゃん……ありがとう、嬉しいなぁ……っ」
(ああ、ずるいなぁ……そんな風に笑える人、本当に羨ましい)
ひとまず本日は2章を始めるところまで。
なんだかんだレインコードの発売や我儘なままの開催があり、再開が遅くなりました……すみません。
ただ、その分3章までの書き溜めも進んだので……何卒
明日辺りから行動の指定を取りつつ進めていけたらなと思っています。
これからまたよろしくお願いします。
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真乃「そろそろ私たちも探索に向かおうか」
にちか「そうですね、とりあえずマップを見てみますね……」
にちか「新しく行けるようになったのは……」
〔校内〕
【1F 超研究生級の占い師の才能研究教室】
【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】
【2F 超研究生級のドクターの才能研究教室】
〔校外〕
【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】
真乃「ほわっ……一気に行けるところが広がったね……!」
にちか「基本は才能研究教室の類っぽいですけど、学校設備で開放されたものもあるみたいです。こりゃ見て回ると結構かかるぞー……」
真乃「が、頑張ろうね……っ!」
(さて、どこから回ろうかな……?)
【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】
↓1
【コンマ41】
【モノクマメダル1枚を手に入れた!】
【現在のモノクマメダル枚数71枚】
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【1F 超研究生級の占い師の才能研究教室】
体育館前の廊下の壁の突き崩された先に、袋小路のような形で設置された部屋。
扉には怪しげな紋様が描かれていて、他の教室とも雰囲気が少し異なる。
ちょっとだけ緊張しながら、その扉を開けた。
(こ、これは占い師の才能研究教室か……!)
部屋の中央にこれみよがしに置かれた水晶玉やタロットカード。
壁にはドリームキャッチャーや卜占術の表がくっついていて、エキゾチックな空間といった感じ。
なんとなくいるだけで、踵が浮くような感覚がする部屋だ。
めぐる「ねえ灯織! 灯織はここの道具を使って占いができるの?」
灯織「うーん……知識として、なんとなく知ってはいる範疇だけど……自信はないかな」
(……風野さん!)
……まずったな。
この部屋の持ち主と早速出会してしまった。
向こうも視界の隅に私の存在を捉えたらしく、バツ悪そうに視線を逸らしてきた。
にちか「さ、櫻木さんこの部屋はもう見終わったってことで……」
風野さんの醸す敵対的な雰囲気にのされ、思わず及び腰な態度をとってしまう。
櫻木さんはそんな私の手を取って、静かに首を横に振った。
真乃「にちかちゃん……ルカさんの言葉、覚えてるよね」
にちか「ルカさんの言葉……」
真乃「灯織ちゃんともう一度仲良く……それは難しいかもしれないけど、そのことに挑み続ける価値はある」
真乃「大丈夫……私たちと向き合うって決めてくれたにちかちゃんなら……運命を切り開けるはずだよ……っ!」
にちか「……」
もう、勝手なことを言ってくれちゃうな。
一度啖呵を切った手前、引っ込みがつかなくなってしまっているのを見越してなのか、無自覚なのか。私の逃げ道を綺麗に櫻木さんは潰してしまった。
……いいよ、元からその気だ。
どれだけみっともなくても、どれだけ哀れでも、このスカスカの信頼に縋って生きていくと決めたんだから。
にちか「風野さん!」
灯織「……なんですか?」
にちか「ずっとずっと騙していて……ごめんなさい! 一番近くで、私のことを信じて、捜査を手伝ってくれていた風野さんにあまつさえ罪をなすりつけるような真似……」
にちか「どれだけ謝っても足りないのはわかってます! ですけど……私もこうして生き永らえてしまったからには……精一杯他のみんなのために出来ることをやるつもりなので!」
灯織「……それはなし崩し的な結論ですよね。学級裁判に負けてしまったから、この学園からの脱出に失敗したから。妥協の選択なだけです」
灯織「七草さんの言葉に信用もできません。なので、私はあなたの手を取ることも、あなたに手を差し伸べることもできないです」
めぐる「灯織……」
真乃「……」ギュッ
櫻木さんも八宮さんも言葉を挟まない。
これは当事者間の話だ、誰かに促されてその結論を歪めうるものではないし、そんなことは望まれない。
にちか「それでもいいです! 他の誰かから助けてもらう権利はとっくに失ってるのは理解してます」
にちか「一緒に歩むことが難しいのなら、その後ろをついて行かせて欲しいんです」
にちか「せめて、同じ道を行く存在ぐらいでは……いさせてもらえないですかね……?」
私に望めるのはこれくらいだ。仲間としての承認なんて高望みがすぎる。
下げた頭だって、風野さんの瞳には空っぽに映っているんだろうから。
灯織「……八宮さん、行こう」
めぐる「えっ!? う、うん……」
風野さんは傍に控えていた八宮さんに呼びかけた。
灯織「……勝手にしてください。七草さんがこれからどうするのか、それを止める権利は私にもないですから」
小走り気味に出ていくその背中を見ることは叶わなかった。
音が遠くに消えたのを確かめて、やっと顔を持ち上げる。
真乃「にちかちゃん……頑張ったね……っ」
にちか「頑張れた……んですかね、よくわかんないです」
真乃「きっと、今ので拓けた運命はあるよ。光も、音もしないけど……そんな気がしたんだ」
にちか「……ありがとうございます」
身に余る慰めを、胸にギュッと手繰り寄せた。
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〔校内〕
【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】
【2F 超研究生級のドクターの才能研究教室】
〔校外〕
【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】
【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】
↓1
【コンマ80】
【モノクマメダル10枚を獲得しました!】
【現在のモノクマメダル枚数81枚】
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【2F 超研究生級のドクターの才能研究教室】
よくドラマとかで見る診察室ってこんな感じだ。
レントゲン写真を白板に貼り付けて、微妙に薄暗い電灯の下、丸い椅子に座って深刻な表情。
ただ完全にそれと言い切れないのは、周りに人体模型やら骨格標本やら、はては正体不明のホルマリン漬けまでが並んでいることに起因する。
どこかの遊園地のお化け屋敷にこんな感じの内装もあったな〜と思う。
恋鐘「な、なんか幽霊とか出そうな雰囲気ばい……」
霧子「恋鐘ちゃん、怖らがらなくていいよ……この子たちはみんな、おやすみ中だから……」
恋鐘「今後目を覚ます可能性があるばい?!」
霧子「ううん……そうじゃなくて……みんな、未来に向けて……過去の中に眠ってるんだ……」
恋鐘「タイムカプセルみたいなもんやね! 霧子は賢かねぇ〜」
……とはいえ、そんな不気味さは騒がしい二人組でかき消されていた。
真乃「霧子ちゃん……この部屋の設備はどう?」
霧子「うん……私も専門的なことはそこまで分からないんだけど……簡単なケガの処置なら問題なくできると思うな……」
霧子「一般的な市販薬も一通り揃ってるから、病気も問題ないと思う……」
にちか「そう長居する気もないですけどケガの処置が出来るのは助かりますね!」
(……っ!)
自分で言葉を発した瞬間あの時の光景がフラッシュバックした。
私の手に握る包丁がルカさんの腹を貫いた、あの赤と熱で満ちた光景。
肌にいまだ生きている実感と恐怖が、頭から足先に突き抜けた。
霧子「にちかちゃん……ゆっくり深呼吸だよ……」
にちか「へ、え……?」
真乃「にちかちゃん、大丈夫……! 私たちがそばにいるよ……っ!」
櫻木さんにギュッと両手を握られて、その時初めて自分の体の震えに気がついた。
恋鐘「にちかにとっても、辛い経験だったはずたい……焦らず、ゆっくり向き合えばよかよ」
にちか「あ……」
霧子「大丈夫、一人じゃないから……」
真乃「にちかちゃん、大丈夫……大丈夫……」
私を囲んで、大丈夫と何度も声をかけてくれた。
澄み切ったその声が浸透していくごとに、心臓は少しずつ落ち着きを取り戻していき、やがて私の焦点はやっとブレずに静止した。
にちか「す、すみません……ご心配をおかけしちゃいました」
真乃「ううん……仕方ないよ、みんなにとってショッキングなことなんだもん……当事者ににちかちゃんは尚更だよ」
霧子「自分のことを大切にしてあげて欲しいな……必要以上に責めちゃうと、にちかちゃんの中のにちかちゃんも弱り切っちゃうから……」
にちか「……はい」
そうは言われても、早々自分を赦せるようになるとは思えない。
未だルカさんの言葉を飲み込んで手にかけた自分が正しかったのか、間違っていたのか。
その答えが私の中で出ていないから。
……長く苦しみ続けよう。
そうじゃなきゃ、嘘だ。
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〔校内〕
【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】
〔校外〕
【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】
【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】
↓1
【コンマ77】
【モノクマメダル7枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…81枚】
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【2F 超研究生級のブリーダーの才能研究教室】
扉を開けた瞬間に鼻を撫でる獣の匂い。
ペットショップというよりは動物園の方が近いかもしれない。
動物が長くいる空間ってどうしてこう匂いが充満するんだろう。
犬や猫の類はいないけど、壁に埋め込まれているケージの数々には文鳥やインコがたくさん入っている。
真乃「ほわぁ……! 鳥さんがいっぱい……!」
にちか「櫻木さん、鳥が好きなんです?」
真乃「うん……! 休みの日には花鳥園に行くこともあるし、私自身仲良しの鳩さんもいるんだ……っ!」
真乃「セキセイインコさんにオウムさん、文鳥さん……! ハクセキレイさんにキジバトさん、シマエナガさんもいる……っ!」
(す、すごいはしゃぎようだ……)
夏葉「やはり動物との交流は癒しを与えてくれるわね。失ってしまった日常を少し思い出せるわ」
樹里「アンタ、ペット飼ってたのか?」
夏葉「ええ、カトレアという大型犬を飼っているの。人懐っこくて、そして気品ある子なのよ」
樹里「ふーん……」
有栖川さんに西城さん……ルカさんの裁判を受けて、かなり憤慨していた二人だ。
このコロシアイに屈してしまった私のこともよく思っていないだろうな……
夏葉「……あら? 真乃とにちかもこの部屋に来ていたのね」
にちか「ど、どうも……」
樹里「おいおい……そんな怯えなくてもいいって」
にちか「い、いやでも私はつい昨日の裁判で皆さんを裏切った人間で、そのことに大分お怒りなのでは……?」
夏葉「ええ、憤りはいまだに治まることはないわね。たとえルカ本人が望んだことであろうとも、あなたは人を殺めるという最もあってはならない罪を犯した」
夏葉「でもあなたはその罪に正面から向き合うと決めたのでしょう?」
にちか「……!」
樹里「にちかは逃げずに今日の朝食会にもやってきて、そしてルカのことであさひにも怒りをぶつけてくれたじゃねーか」
樹里「裏切ったことと、そのことはまた別だ」
夏葉「ええ、あなたは信頼を全て失ってしまったと思っているかもしれないけれど、私はこれからあなたという人間を見定めていくつもりよ」
にちか「有栖川さん……」
樹里「あさひに比べれば、にちかはちゃんと反省してる分まだマシだかんな……」
真乃「あさひちゃん……このコロシアイに乗り気な様子でしたけど……」
夏葉「これ以上の横暴は例えあさひのような少女だとしても看過できない……対策は考えておくべきね」
樹里「お、おい……手荒な真似をする気じゃないだろな……」
夏葉「そこまでのことは考えていないわ。少なくとも、愛依が見張ってくれている今のうちは……ね」
芹沢さんにどう対処するのか、目下の一番の課題だろうな。
それにしても、私のことを受け入れようとしてくれる人が櫻木さん以外にもいてくれることが分かったのはちょっと嬉しいかも。
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〔校外〕
【プール】
【カジノエリア】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】
【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】
↓1
【コンマ87】
【モノクマメダル7枚を獲得しました!】
【現在のモノクマメダル枚数…88枚】
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【カジノエリア】
学校の真正面に存在するやたら高い塀で区切られたエリア。
ずっと城門みたいな扉は固く閉ざされていたんだけど、今回の開放に伴ってここも行けるようになったみたい。
意を決して飛び込んでみると、もはや別世界。
ハリウッドのセレブが歩くような華やかな道の向こうに、これまた巨大な建造物。
金ピカで巨大なそれを、四方八方からギラギラとしたライトが照らしている。
真乃「ほ、ほわぁ……」
(櫻木さんが思わず言葉を失っている……)
甘奈「す、すごいよね……完全に、テレビで見る世界だよ……」
甜花「これ、もしかして……あの、大人の夢と希望で溢れている……テーマパーク的な、それ……!?」
【おはっくま〜〜〜〜!!!!】
モノタロウ「キサマラ、カジノへようこそ!」
甜花「や、やっぱり……!」
にちか「か、カジノ?! カジノってあの……お金とかを賭ける?!」
モノファニー「そう! ギャンブルと物欲のメッカ、カジノ!」
モノスケ「狂気の沙汰ほど面白いことでよく知られるカジノや!」
モノダム「デモ、ココハオ金ヲ賭ケル訳ジャナインダ」
にちか「……え?」
モノタロウ「ほら、学園の中でお父ちゃんの顔が描かれたメダルがいくつも見つかったでしょ?」
真乃「そういえば……私も何枚か拾いました!」
モノスケ「このカジノではそのメダルを専用のコインに換金してゲームに挑戦してもらうんや」
モノダム「ココデシカ手ニ入ラナイ道具ヤスキルモアルカラ、チェックシテミテネ」
カジノか……運にそこまで自信はないけど、メダルに余裕があるんだったらやってみてもいいかもしれないな。
また自由時間にでも空いた時があれば見にきてみよう。
甜花「なーちゃん、甜花に……全部預けて! 絶対、何十倍にもしてみせるから……!」
甘奈「て、甜花ちゃんすごい自信……!」
甜花「大丈夫……! この手のゲームは慣れてるから……」
甜花「ギャンブルには、必勝法があるんだ……!」
……甜花さんはのめり込みすぎなきゃいいけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カジノエリアではモノクマメダルをカジノコインへと変換してゲームで遊ぶことができます。
ゲームは全部で三種類。
・スロットゲーム
スレ主と参加者それぞれ連続で三つのコンマを参照し、その合計値でスレ主との勝負を行う
・ここ掘れ!モノリス
裁判中の発掘イマジネーションと同様のシステムで規定回数で指定域内のコンマを出せるかに挑戦する
・じゃんけんゲーム
名前欄に!jyankenを入力することで表示される手で勝負する
このカジノコインでしか入手できないアイテム、スキルもございますのでぜひ自由行動の際にお試しください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
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〔校外〕
【プール】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】
【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】
↓1
【コンマ80】
【モノクマメダル10枚を獲得しました!】
【現在のモノクマメダル枚数…98枚】
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【プール】
校舎に隣接する形で建てられていた屋内プール。
前に見ていた時は中が見えないほどに蔦が生い茂っていて、ほとんど廃墟みたいになっていたけど、今は中の照明も灯り、新品同然に清掃もされている。
これをモノクマーズたちがやったのかな?
だとしたらまあまあ重労働な気がする……。
あさひ「すごい! 飛び込み台高いっすね! あそこからジャンプしたらすごい水飛沫が上がりそうっす!」
愛依「ひゃ〜〜〜! こわ! あさひちゃん、やる時はみんなに相談してからにしよ?」
あさひ「えー、いちいち面倒っすよ〜」
(……っ!)
(芹沢……さん……っ!)
ダメだ、彼女の存在に気づいた瞬間に心臓の鼓動が激しくなる。
血は沸騰したようで、手には血管が浮き上がり、奥歯同士が擦れ合う。
掴み掛かりそうになる衝動を抑えるので必死だ。
真乃「に、にちかちゃん……」
櫻木さんの存在がストッパーになっている。
努めて息を整え、狭窄する始解の中央の少女をじっと睨みつけた。