モバマス・戦国公演 ~石山合戦~ (112)
・このSSは、戦国時代を舞台にした作品です。
・作者の滅茶苦茶な脚色が含まれます。ご注意下さい。
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~岐阜城・広間~
柴田勝家(桃井あずき)「あちゃあ、遅刻かな?」
丹羽長秀(藤原肇)「いえ、大丈夫ですよ」
あずき「それにしても、いきなり軍議だなんて、お館様は何を考えているのかな?」
肇「さあ? 思いついたら即行動というのは、いつものことではありませんか?」
あずき「それもそうだね」
「ふふふ……お二人とも、お待たせしました」
あずき「その声は!」
織田信長(矢口美羽)「すみません。お忙しいところお呼びして」
肇「お館様の命とあらば。それで、今日は何の軍議ですか?」
美羽「あのですね、つい先日、この稲葉山城を竹中何とかさんっていう人から譲り受け……」
肇「竹中半兵衛さんです」
美羽「そうそう、その人です!
それから、稲葉山なんて田舎臭い名前を、沢彦宗恩さんに改名してもらいましたよね」
あずき「そうだ、岐阜って名前に変わったんだった!
確か、周の故事に倣っているんだっけ?」
美羽「そうです。周の文王の故事に……」
肇「武王です……話が進みません。何の用事ですか?」
美羽「本拠地の名前を変えたんですから、心機一転して、
私の異名とかスローガンとか考えてみませんか?」
肇(また、宣教師に習った横文字を使いたがる……)
あずき「でも、そんなもの必要かな?」
美羽「必要ですよ! ほら、北条何とかさんの
“なんとか八幡”とか格好良いじゃないですか!」
肇「コホン。北条綱成さんの、“地黄八幡”のことでしょうか?」
美羽「それとか、徳川家康さんの旗印も格好良いですよね……
え~っと、“お前ら 喧嘩上等”でしたか?」
肇(はぁ……美羽ちゃんの知識はもうボロボロ……)
肇「“厭離穢土欣求浄土”ですよ」
美羽「そうそう。えっと、おんりえど、えんりえど……(わかんないや)」
美羽「とにかく、いろいろと考えてきたんですよ。
ですから、お二人にどれが良いか、意見がほしくて!」
あずき(ねえ、肇ちゃん……)ヒソヒソ
肇(考えてほしい、じゃなくて、選んでほしい、ですからね。
嫌な予感がします……)ヒソヒソ
美羽「というわけで、まずは私の異名から! 紙に書いておきました」ペラッ
あずき「どれどれ……」
【美羽の異名候補!】
・ポピー織田
・み右府さぎ
・第六天魔王
肇(これは……)
あずき(ひょっとして、ギャグで言ってるの!?)
美羽「お二人はどれが良いと思いますか? 私は、ポピー……」
肇「だ、第六天魔王なんて格好良いですねー」
あずき「そうだねー。天下を狙うなら、第六天魔王みたいな格好良い異名が
絶対必要だと思うよー」
美羽「えっ……」
肇「……」ジーッ
あずき「……」ジーッ
美羽(何故でしょう。お二人の眼光が強い……)
美羽「ぐ、偶然ですねー。私も第六天魔王が一番良いと思ってたんですよー」
肇「ですよねー。ポピーなんとかを選ぶ人なんていませんよー」
あずき「そうだよー。み右府さぎ、なんて駄洒落、朝廷に怒られちゃうよー」
美羽(そっか……ポピー織田も可愛いし、み右府さぎとか、
美羽と右府と兎がかかっていて面白いから、どちらかだと思ったんだけど)
美羽「わかりました、これからは第六天魔王と名乗るようにします」
美羽「じ、じゃあ、今度はスローガンを決めましょう!」
あずき(まだ続ける気だよ?)ヒソヒソ
肇(変な候補が出てきたら、さっきみたいに力でねじ伏せましょう)ヒソヒソ
美羽「スローガンも、いくつか考えてきたんですよ。こちらです」ペラッ
【美羽のスローガン候補!】
・SEKAI NO 尾張
・炎と森の幸若舞
・天下布武
美羽「私の一番の候補は、やっぱりSEKAI……」
あずき「天下布武が一番だと思うなー」
肇「ですよねー。SEKAI NO 尾張とか、炎と森の幸若舞なんて、
偉い人に怒られそうですよー」
美羽「えっ……」
美羽(どうしてだろう……私の考えた力作が、悉く否定される……
二人とも、一般的な感性が無いのかな?)
美羽「まあ、お二人がそうおっしゃるなら、天下布武を採用しましょうか」
肇「第六天魔王・織田信長、天下布武を掲げ、京を目指す。ですか……」
あずき(あれ……?)
肇(なかなか良い感じなのでは……?)
あずき「美羽ちゃん、とっても格好良いよ!」
美羽「えへへ。そうですかね?」
肇(何だかんだ言って、上手くいきそうじゃないですか)
肇「それで、天下統一を目指すとして、どこを攻め取るおつもりですか?」
美羽「とりあえず、京を目指そうと思います。あそこには朝廷と、幕府の将軍家がそろってますからね。
落ちぶれたとは言え、大義名分は強力な武器になると思います」
あずき(あれ、まともな戦略だ)
美羽「そのためにはまず、ここから京の道沿いの大名達を、
膝下(しっか)に降らせる必要があると思うんですよ」
肇(意外によく考えているじゃありませんか)
肇「では、基本戦略はそれでいくとして、こちらに靡かない大名達はどうするんですか?」
美羽「無論、斬り捨てる」
あずき「そっか、斬り捨てるのか……えっ、斬り捨てるって?」
美羽「我の言葉が聞こえなかったのか?
刃向かう者は、鏖殺しろと言っているのだ」ゴゴゴゴ
肇「お館様、どうされました?」
美羽「我は第六天魔王信長。天下を我が手に……」
あずき「鏖殺なんて、そんなことしちゃ、他の大名達を敵に回すことになっちゃうよ」
美羽「古来より、血を流さずして天下を統一した者はいない。今こそ変革の時だ!」
肇「……では、具体的に戦略を詰めていきましょう」
あずき「肇ちゃん。このままじゃまずいって!」
肇「お館様のおっしゃっていることは、別におかしくありません。
天下を目指す者として、当然では?」
あずき「でも……」
肇「……具体的な話をしましょう。手始めに、どこを攻めるおつもりですか?」
美羽「越前……朝倉……」
あずき「どうして越前を?」
美羽「かつて越前には、朝倉宗滴がいた。しかしかの名将も、もうこの世におらぬ。
周囲の大名の中で、一番与し易そうではないか」
あずき「確かに……でも、朝倉を攻める名分が無いよ?」
美羽「名分? そんなものは必要ない。当の宗滴もこう言ったそうではないか。
『武者は犬とも云へ、畜生とも云へ、勝つことが本にて候』……とな」
美羽「勝つために手段を選んではおれぬ。速やかに軍勢を整え、朝倉を覆滅すべし!」
あずき(さっき、大義名分を手に入れるって言ったばかりなのに)
あずき「でも、そんなやりかたで良いのかな?」
肇「あずきちゃん、お館様が天下を目指す以上、避けては通れぬ道です」
あずき(肇ちゃんまで、何だか冷酷になってるよ。でも!)
あずき「くよくよしてもダメだよね! よーし、天下統一大作戦、開始だよ!」
美羽「勝家よ、その意気や良し! 先鋒はそなたにまかせようぞ!」
あずき「うん。あずきにまかせて!」
~紀州・雑賀~
望月聖「ふう……やっと着いた……」
聖「のどかな土地……こんなところに……“あの人”はいるのかな?」
男「おや、お嬢ちゃん。見ない顔だね」
聖「あの……すみません。一つお聞きしても?」
男「何だい?」
聖「このあたりに……“雑賀孫市”という人が住んでいると聞いて、やって来たのですが……
道が分からなくて……」
男「おや、大将に用事かい? 随分物騒だな」
聖(物騒? やっぱり話……本当だったんだ……)
男「大将の屋敷は、あの丘の上に建ってる館が見えるだろ?
あれがそうだよ」
聖「そうなんですか……ありがとうございます。では早速……」
男「待ちな、お嬢ちゃん」
聖「ひっ! 何でしょうか……」
聖(私……もしかして……この男の人に……あわわ9
男「ほれ、これを持っていきな」
聖「えっと……これは……」
男「耳栓だよ。あの屋敷に行くなら、持ってたほうが良い」
聖「は、はい……ありがとうございます……」
聖(どうして耳栓なんて……)
男「気をつけてな! あの丘に近づいたら、必ず耳栓をつけるんだぞ!」
聖「わかりました……」
~半刻後~
聖「やっとついた……はあはあ……疲れた……丘……きつい……」
聖「いや、疲れてる場合じゃない……皆……待ってる……」
聖「すみませー……」
ダアアアアン!
聖「きゃあっ!」ステーン
聖「い、一体何……?」
「どうですか? 新作の具合は?」
?「うむ。なかなかの使い心地……それよりも」
「何か気になることでも?」
?「さっき、外で女の声がしたような……?」
「そうですか? 見てきます」
聖「びっくりした……それにしても……今の轟音……
それに、耳栓が必要っていうのは、このことだったんだ……」
従者「おい、お前、何者だ!」
聖「あ、あの……私、雑賀孫市っていう人に会いに来たんです」
従者「大将に? いいだろう。中に入れ」
聖「失礼します……」
~客間~
聖「初めまして……望月聖と言います……」
雑賀孫市(大和亜季)「私は、鈴木孫一と申します。以後、お見知りおきを」
聖「え……鈴木?」
亜季「ああ、戸惑うのも無理はありませんね。少しややこしいのですが、
世間では“雑賀”と呼ばれておりますが、まことの苗字は“鈴木”であります。
名も、“孫市”でも“孫一”でも、どちらでも結構であります」
聖「えっと……結局、どうお呼びすれば……?」
亜季「面倒なので、亜季とお呼びください。
こちらも、聖殿とお呼びすればよろしいですか?」
聖「はい……お願いします。亜季さん」
亜季「ところで、聖殿は遊行僧でありますか?」
聖「聖という名前ですが……そういうわけでは……」
※ 聖(ひじり)
・この時代、遊行や托鉢を行う僧のことを聖と呼んだ。
聖「聖……私の名前です……ふふっ、ややこしいのはお互い様ですね……」
亜季「これはしたり……して、本日はどのようなご用件で?」
聖「そうでした……亜季さんは、織田信長という人をご存知ですか?」
亜季「ええ。最近、旭日の勢いだとか」
聖「信長は……近頃“天下布武”を掲げ、各地に軍を発しています……
その狙いは上洛……天下への野心です……」
亜季「なるほど」
聖「まっとうな方法で天下を狙うならば……それはかまいません。
しかし信長は越前を急襲し……これを攻め滅ぼしてしまいました」
亜季「それはひどい。何の大義名分も無しに、そんなことをするとは」
聖「それだけじゃない……今信長が……何と名乗っているかご存知ですか……?」
亜季「第六天魔王……でしたか?」
聖「そうです。天魔……即ち仏敵。
信長は……石山の本願寺を攻め滅ぼそうとしているんです……」
亜季「……まさか聖殿は、一向宗徒でありますか?」
聖「ここからが本題です……私は、本願寺の顕如様の使者として参りました……
亜季さん……どうか私達に力を貸して下さい……
雑賀衆は、天下無双と聞いています……」
亜季「雑賀衆の、動員可能兵力は約三千。これに対し、信長は十万を越える大軍で攻めてくるでありましょうな。
とても勝ち目があるとは思われません」
聖「ですが……本願寺には信徒の軍勢が十万はいます……
これに、亜季さんの助力があれば……」
亜季「織田軍には、“鬼柴田”の柴田勝家に“鬼五郎左”の丹羽長秀の双璧。
その他にも、滝川一益、前田利家、森長可といった名将豪傑が綺羅星の如く揃っております。
いくら我ら雑賀衆が加勢したところで、戦の素人である一向宗徒が、
百戦錬磨の織田軍に勝てるとお思いか?」
聖「とにかく……一度石山へ来ていただけませんか? 顕如様のお話だけでも……」
亜季「勝ち目の無い戦に、一族郎党を放り込むわけには行かないのであります。
どうか、お引取りを」
雑賀兵「大将、それで良いのかい?」
亜季「あなた方は……」
従者「こんな田舎にも、信長の悪行の数々は聞こえてきます。
俺達は何のために種子島を揃え、日夜鍛錬に励んでいるのですか!?」
雑賀兵「そうだ! 俺達は、天下無敵の雑賀衆だぜ!
そこの可愛いお嬢ちゃんが、たった一人で遠路はるばる頼ってきたんだ。
これに応えてやるのが、雑賀衆の総大将の義ってもんじゃねえのか!」
亜季「皆さんは、それでよろしいのでありますか?
家族を残して、異郷の鬼となる覚悟はあるのですか?」
従者「覚悟はできています!」
雑賀兵「うちの女房なんて、俺がどっかに行ってくれたら清々するって、
いつも言ってんだぞ!」
従者「てめえ、何どさくさに紛れて惚気てるんだ!」
雑賀兵「んだと!?」
亜季「皆さん、落ち着くであります。皆さんの気持ちは、良くわかりました」
雑賀兵「ってことは!?」
亜季「皆の気持ち、そして聖殿に応えるのが義というもの。
聖殿、この雑賀孫市、三千の雑賀衆を率いて、石山へ参りましょう。
無論、三千挺の種子島も携えて」
聖「ありがとうございます……これも、神仏のお導きですね……」
亜季(ん? 感謝されているような、いないような……)
~石山・本願寺~
亜季「ほお~。これが本願寺でありますか。想像以上の要塞でありますな」
聖「仏の教えを守るために……寺も武装しなければなりません……
悲しいことです……」
亜季「それにしても、寺と言うからどれほど閑寂びているかと思えば……」
聖「亜季さん、こっちです……」
亜季「おっと失礼。この先に、顕如殿がいらっしゃるのでありますな?」
聖「はい……既に先触れは……」
亜季「う~ん……」
聖「どうかされました……?」
亜季「私、いま具足を身に着けていますが、この格好でよろしいのかと思いまして。
手持ちも、陣羽織や直垂しか持ち合わせがありません」
聖「大丈夫です……顕如様は、常識や格式、身分などにこだわるお人ではありません……」
亜季「なるほど。話の分かる御仁であれば良いのですが……」
聖「では……こちらへ……」
~本願寺・広間~
聖「この部屋に……顕如様がいらっしゃいます……」
亜季「うー。緊張しますな……」
聖「大丈夫ですって……」
亜季「ええい、ままよ!」
ガラッ
ズンチャ♪ ズンチャ♪ ズンチャ♪
本願寺顕如(ヘレン)「ヘーイ! 皆、ダンサブルを感じているかしら?」ダダダッ
信徒達「ヘーイ!!」ダダダッ
ヘレン「常識なんかにとらわれてはいけない!
ワールドワイドな信心を持つのよ!」ダダダッ
信徒達「イエーイ!」ダダダッ
亜季「」ピシャッ
亜季(今のは、一体……?)
聖「なにか……?」
亜季「どうやら、部屋を間違えたようであります」
聖「そんなことありません……早く中へ……」
亜季(今のは幻覚……今のは幻覚……)
ガラッ
亜季「失礼するであります!」
ヘレン「待っていたわ。貴方が雑賀孫市ね?」
亜季(あれ? 今の踊りはどこに?)
亜季「は、はい……雑賀孫市と申します。雑賀衆三千を率いて参りました」
ヘレン「助太刀感謝するわ。聖から、話は聞いてるわね」
亜季「はい。敵は信長であるとか」
ヘレン「ふふふ、貴方の不安は分かるわよ。
信長の大軍に、勝てるはずがないと思っているでしょう?」
亜季「正直なところ、勝つのは至難かと」
ヘレン「大丈夫よ。既に、“信長包囲網”は完成しつつあるわ」
亜季「信長包囲網ですと?」
ヘレン「信長は今、破竹の勢いで進撃している。
しかしそれは、各地に敵を作ることにもつながっている」
ヘレン「今、私達が正面から信長を引きつけている間に、
織田家周辺の武田、上杉、浅井、などの大名達が、着実に織田家を締め付けているわ」
亜季「なるほど。武田信玄、上杉謙信、浅井長政といった名だたる大名達から一斉に攻め込まれたら、
信長はひとたまりもありません」
ヘレン「でも、あまりにも大規模な作戦だから、諸将の足並みをそろえるのに時間がかかる。
だから、何としても私達が時間を稼がなくてはならない」
亜季「つまり織田軍に対し、本願寺の大要塞を囮にして、遅滞防御を行うということでありますな。
そしてこの篭城戦には、遠距離から攻撃できる種子島が有効であると?」
ヘレン「そういうことよ」
亜季「しかし、一つ欠点があります」
ヘレン「このパーフェクトな作戦に欠点が? 聞かせて貰おうかしら」
亜季「篭城するのは構いませんが、武器弾薬、兵糧などの類いはどうされるおつもりですか?
篭城戦における矢弾の消費量は、素人が想像する以上であります」
ヘレン「既に手は打ってあるわ。実は毛利も、私達に援助を申し出てきてくれたの」
亜季「なんと、あの毛利水軍が味方に? この世に、毛利水軍を凌ぐ水軍は存在しない。
海からの兵站線は、磐石でありますな」
ヘレン「そうでしょう? そうそう、言い忘れてたけど、
貴方には総大将として本願寺の信徒達も全て統率してもらうわ」
亜季「私のような部外者に、全軍の指揮を執らせると?」
ヘレン「この中で、一番戦を理解している者は貴方でしょう? 適材適所というものよ」
亜季「ヘレン殿、天下の織田軍に真っ向勝負ができる場を下さり、感謝いたします」
亜季「正直なところ、貴方をただの僧だと思っておりましたが、その英邁果断、実に見事。
僧にしておくのがもったいないであります」
ヘレン「フフフ、私を誰だと思っているの? 私は、三千世界レベルの教祖・ヘレンよ!」
亜季(さ、三千世界レベル!?)
~本願寺・軍営~
亜季「ふむふむ……」
聖「亜季さん……何を見て回っているのですか?」
亜季「信徒達が、どれくらい戦えるのかを見なければ、戦術の立てようがありませんので」
聖「なるほど……」
亜季「そこの貴方」
信徒「はい」
亜季「貴方も一向宗でありますな?」
信徒「その通りです」
亜季「この戦で死ぬ覚悟はできておりますか?」
信徒「御仏を守るための戦です。死んでも悔いはありません」
亜季「立派な覚悟です」
亜季「そこの貴方」
信徒「はい」
亜季「見慣れぬ格好をしておりますが、あなたも一向宗の信徒でありますか?」
信徒「いえ、私はキリスト教を信仰しております」
亜季「どうして別の宗教の信者が、ここにいるのでありますか」
聖「ヘレンさんは……寛大な心の持ち主です……
ここは一向宗の寺ですが……別の宗教を信仰する者も、たくさん……」
亜季「そんなことをして大丈夫でありますか?」
聖「ヘレンさんの求心力を、甘く見てはいけません。ほら……このように……」
信徒「あ、ダンサブルの時間だ」
信徒「イエーイ!」ズンチャ♪ ズンチャ♪
亜季「……なぜ踊り始めたのでありますか?」
聖「亜季さん……“踊念仏”をご存知ですか……?」
亜季「詳しくは知りませんが、踊り念仏は、時宗の一遍が始めたものだったはず。
なぜこの寺で踊念仏が?」
聖「実は……一向宗の一部の遊行僧が、全国に遊説するときに踊念仏を取り入れたといわれています……
ですから、本願寺と全く関係ないというわけでは……」
亜季「それにしても、別の宗教の信者が、わざわざ踊念仏をする必要も無いような気がいたしますが」
聖「それも一重に、ヘレンさんのワールドワイドな大器の為せる業でしょう……
それに、いまヘレンさんが広めているのは……
踊念仏を改良した、“ダンサブル念仏”です……」
亜季「だ、ダンサブル念仏ですと!?」
亜季(三千世界レベルにダンサブル念仏。
よくわかりませんが、やはりヘレン殿は稀にみる英主でありますな……)
亜季「ん? 貴方は?」
信徒?「」ウネウネ
亜季(あ、やっぱりやめておきましょう。何だか人間ではなさそうなので)
信徒?「私は、“空飛ぶスパゲッティ・モンスター教”の信者です」ウネウネ
亜季「空飛ぶ……何ですと?」
信徒?「この世は、偉大なる空飛ぶスパゲッティ・モンスターによって創造されたのです!
触手万歳!」ウネウネウネウネ
亜季「わ、分かりましたので、触手をウネウネさせるのはやめていただけませんか」
信徒?「もったいない。貴方は偉大な教義に触れる機会を失したのですぞ!」ウネウネ
亜季(人間以外の者すら取りこむとは……これが、三千世界レベルでありますか!)
※ 空飛ぶスパゲッティ・モンスター教
・実在する冗談宗教。
?「キャハッ☆」
亜季「あ、十七歳教は結構であります」
?「えっ」
伝令「雑賀様、雑賀様はいずこに!?」
亜季「どうしたでありますか?」
伝令「至急、広間にお戻り下さい。織田軍が、攻めてまいりました」
亜季「分かりました。すぐに戻ります」
聖「戦が……始まってしまう……」
亜季「ご安心を。私が聖殿をお守りするであります」
聖「はい……頼りにしています……」
~広間~
ヘレン「来たわね。亜季」
亜季「それで、現在の織田軍の情況は?」
ヘレン「織田軍の先鋒は、柴田と丹羽の双璧よ。
その両翼を、前田・滝川の二名が固めているわね」
亜季「なるほど。ここは打って出ましょう」
ヘレン「ふうん。篭城すると思ったのに、野戦を選ぶの?」
亜季「野戦は、相手の力量を正しく測ることができます。無論、味方の力量も」
ヘレン「良いでしょう。ならば、どこに布陣するのかしら?」
亜季「淀川堤が良いかと。あそこならば、いざというときに堤を楯にできますから」
ヘレン「分かったわ。采配はすべて亜季にまかせる。
行って来なさい。そして勝ちなさい」
亜季「おまかせを。雑賀衆の実力、お見せするであります」
~淀川堤・一向宗本陣~
亜季「良いか、皆の者! これは仏敵信長を滅ぼす戦い!
この淀川堤を、信長の墓場にするであります!」
信徒達「おー!」
亜季「まず、信徒の軍勢は一丸となって正面から織田軍へぶつかれ!
我ら雑賀衆が、側面から援護するであります!」
亜季「そして次に、雑賀衆の者共! 故郷を離れ、よくぞここまで来てくれた!」
亜季「雑賀は何かと田舎者扱いされますが、
この決戦こそ、我ら雑賀衆の武名を天下に轟かす好機!
敵は弱卒の尾張兵! 信長如き、何するものぞ!」
雑賀衆「おー!」
亜季「全軍、出撃!」
~織田軍・本陣~
ワーワー ヤーヤー
あずき「……一揆勢なんて戦の素人だと思ってたけど、想像以上に強いね」
肇「敵は、死を恐れぬ兵ですからね。斬っても突いても、命有る限り立ち上がってくる……」
あずき「あっ! あれを見て! 信徒軍の側面に、数千の軍が前進してきたよ」
肇「あの旗は……“八咫烏”ですか。雑賀党ですね」
あずき「知ってるの?」
肇「はい。紀州雑賀党は、八咫烏の旗印を使うと聞いたことがあります」
あずき「じゃあ、雑賀党が本願寺に味方したっていうのは、本当だったんだね。
また厄介な……」
肇「種子島は強力な武器ですからね……」
肇「あっ! 雑賀党が、射撃体勢に入りました!」
あずき「うそ! いま、両軍が入り乱れてるのに……もしかして、味方ごと撃つつもり!?」
亜季「構え!」
ガチャ ガチャ ガチャ
聖「あ、亜季さん……味方ごと撃つつもりですか……?」
亜季「我ら雑賀衆が、そんなへたくそな射撃をするとでも?
まあ、見ているであります」
聖(大丈夫かな……)
亜季「総員、よく狙え……撃てぇ!」
ダアアアン ダアアアン ダアアアン
織田兵「うがっ!」バタッ
織田兵「ぐへっ!」ドサッ
織田兵「げほっ!」グチャ
あずき「信じられない……」
肇「まさかあの乱戦のなかで、敵味方を識別して撃っているのですか?」
あずき「このままじゃまずいよ!
死を恐れない兵が楯になって、百発百中の雑賀党が好き放題に撃ってくる。
このままじゃ一方的にやられちゃう!」
肇「仕方ありません。私達の旗本で雑賀党を攻撃しましょう。銃兵は、白兵戦に弱いですから」
あずき「よーし、なら私が……」
聖「亜季さん……敵の本陣……動いた……」
亜季「あの旗は……“直違”に、“二つ雁金”でありますか……
たとえ織田家の双璧が相手でも、私は負けません!」
亜季「誰か、私の種子島を!」
従者「これを。既に玉込めしてあります」
亜季「かたじけない」
カチャ
亜季「覚悟!」
あずき「よーし、雑賀孫市の首、あずきが貰っちゃうよ!」
ダアアアン パキッ
あずき「きゃ!」
肇「大丈夫ですか!?」
あずき「大丈夫……だけど。あれ?」
肇「あずきちゃん! その兜、鍬形が折れています!」
あずき「そんな~! あの距離から撃ってきたってこと!?」
肇「あずきちゃんは下がってください。替わりに私が参りましょう……
誰か、私の槍を」
従者「どうぞ」スッ
肇「ありがとうございます」
ブンッ
肇「“槍の五郎左”と言われる所以、見せて差し上げます!」
ダアアアン バキッ
肇「あれ?」
あずき「肇ちゃん! 槍が!」
肇「あっ! 槍の穂先が折られてしまいました!
どうしましょう。お館様から頂いたものなのに……」
亜季「見たか者共! 織田家の双璧と言えども、所詮はあの程度であります!」
亜季「織田軍恐るるに足らず! このまま殲滅するであります!」
?「ちょっと待ったー!」
亜季「何奴!?」
前田利益(丹羽仁美)「耳あらば聞け! 眼あらば刮目せよ!」
仁美「我こそは、前田慶次利益! さながら、織田家に人無きが如きその高言、捨て置けぬ!」
亜季「少しは骨のありそうな奴が来ましたな。貴殿、槍が得物と見たが、如何に?」
仁美「この前田慶次を相手に、槍で勝負すると申すか! 我が槍はひりりと辛いぞ!」
亜季「ほざけ!」
ガキン!
亜季「口先だけではなさそうでありますな」
仁美「そっちこそ、種子島だけかと思えば、なかなかやる!」
前田利家「こらー! 慶次!」
仁美「げえっ! 叔父上!」
利家「松風がいなくなったと思ったら、やっぱりお前が持ち出しておったのか!」
仁美「だって、一度松風に乗って、駆けてみたいって思ってたし……」
利家「勝手に松風を持ち出した挙句、単騎駆けしたうえに一騎打ちだと。
将たる者の振る舞いではない!」
仁美「ごめんなさい……」
利家「ほら、帰るぞ」
松風「……」
亜季(あの松風とか言う馬、露骨に残念な人を見る目をしているであります)
利家「雑賀殿」
亜季「は、はい」
利家「姪がご迷惑をおかけしました。帰ってじゅうぶん言い聞かせますので、ご容赦を」
亜季「はあ……」
亜季(今のは何だったのでありますか?)
聖「亜季さん見て……織田軍が退いていく……」
亜季「何とか勝てましたな。全軍、勝鬨をあげよ!」
~織田軍・本陣~
美羽「……」
あずき「ごめんなさい……」
肇「面目ありません……」
美羽「そうか……鉄砲とはここまで強いのか」
あずき「言い訳にしか聞こえないと思うけど、あんなのに撃たれたら鎧も意味無いし」
肇「それを、三千もの達人が一斉に撃ってくるわけですからね。近づくことすらできません」
美羽「そうだ、石山への兵站線の寸断はどうなっている?
九鬼嘉隆に命じておいたはずだが?」
肇「それが……木津川の河口付近において、毛利水軍と激突。奮闘むなしく全滅したと……」
美羽「馬鹿な! 嘉隆には三百艘の関船(軍船)を与えておいたはずだ。
いくら毛利水軍が強敵だからといって、おめおめ敗北するはずは……」
あずき「敵は、毛利水軍だけじゃなかったみたい」
美羽「何だと?」
あずき「瀬戸内の、村上水軍もいたんだって」
美羽「あの海賊風情がッ!」ガリッ
美羽「しかし、終わったことは仕方ない……
ときに長秀よ、紀州の国人や地侍は、どれほど兵数か?」
肇「雑賀党が声をかければ、おそらく一万ほどは集まるのでしょう」
美羽「一万か……よし、本願寺の攻略は一度諦め、紀州を攻めるぞ」
あずき「なるほど。厄介な敵を各個撃破大作戦ってことだね?」
美羽「両名に命ずる。帰国の後、十万の軍を編成せよ。
大軍をもって、紀州を攻め滅ぼす」
肇「それだけの兵数があれば、雑賀衆に玉込めさせる暇を与えませんね」
美羽「そうだ。後は数で押しつぶすのみ」
美羽「厄介な雑賀衆を始末すれば、本願寺の信徒の軍勢など、どうにでもなる。
いまいましい包囲網を作り上げた顕如め、かならずや血祭りにしてくれる!」
あずき(ねえねえ、美羽ちゃんって更に魔王っぽくなったよね?)ヒソヒソ
肇(それが良いのか悪いのか、私にはわかりませんが。
まあ、以前より有能になりましたね)ヒソヒソ
~本願寺・広間~
ヘレン「……ふうん。さすがは雑賀衆。信長の鼻先をへし折ってやったわけね」
聖「亜季さん凄かったです……遠くから……どーん……って」
亜季「……申し訳ありませんが、私達はすぐに帰国するであります」
聖「そんな……戦は終わったばかりです……ゆっくりしては……?」
ヘレン「やはり信長は、紀州を攻めるつもりかしら?」
亜季「おそらくそうでしょう。この一戦で、雑賀衆の種子島の威力を信長に知られてしまいました。
なら、その本拠地の紀州を滅ぼそうと思うのは、当然の戦略であります」
亜季「まあ、こうなることは予測していたであります」
聖「でも……紀州単独で信長を迎え撃つのは……無謀……
ヘレンさん……私達のほうから援軍を……」
亜季「信徒の軍勢をみるに、それは不可能であります」
聖「どうして……?」
亜季「今回の戦で、信徒達は疲労困憊。
それに、信徒達は訓練された兵ではありませんので、遠征できるとは思えない。
そして、彼らはこの本願寺に根ざした信仰を持っているので、この地を離れようとはしないでしょうな」
ヘレン「こればっかりはどうにもならないわね。助けてもらったのに、力になれないなんて」
亜季「ヘレン殿、貴方に謝罪や弱音は似合いません。貴方は三千世界レベルの教祖であります。
もっとどっしり構えていただかなくては」
ヘレン「そうね……聖」
聖「はい」
ヘレン「貴方も一緒に行きなさい。本願寺と紀州の連絡役として、亜季を手伝うのよ」
聖「わかりました……」
亜季「ふふふ。どうしてお二人とも、雑賀衆が敗北する前提の話をしているのでありますか」
ヘレン「亜季。やはり貴方には、勝算があるのね?」
亜季「無論であります」
聖「す、凄い自信……」
亜季「まあ、見ているであります。
信長がどれほどの大軍を率いてこようが、雑賀衆に敗北などありえません」
ヘレン「こちらも、できるだけのことはしないとね。各地で一揆を扇動するわ。
とりあえず、伊勢長島方面でもフィーバーさせようかしら?」
亜季「かたじけない」
亜季(フィーバー……一揆のことでしょうか……?)
~雑賀川・織田軍本陣~
美羽「……それで、対岸の紀州軍の兵数はいかに?」
肇「予測どおり、一万ほどですね」
美羽「フン……充分大軍の利を生かせるな。しかし、ここは念のため、根来衆を前面に出せ。
根来衆は参戦しておるな?」
肇「はい。褒美はいくらでも出すと言ったら、素直に帰順してきました」
あずき「毒をもって毒を制すって言うもんね。鉄砲には鉄砲大作戦だね!」
美羽「雑賀衆と並んで、根来衆も鉄砲の上手。これは見ものであるな……」
美羽「よし、根来衆に出撃命令を出せ! 根来衆が渡河した後、我らも続くぞ!」
~雑賀川・紀州軍本陣~
聖「亜季さん……敵の先鋒……大量に鉄砲を持っています……」
亜季「恐らくそれは、根来衆でありましょう」
聖「根来衆は……雑賀衆と仲良しだったのでは……?」
亜季「おそらく、信長に篭絡されてしまったのでありましょう。
それに彼らも、鉄砲集団として天下に名を馳せたいという気持ちもあるはず」
聖「鉄砲対鉄砲の戦い……」
亜季「なに、心配無用であります。この戦い、織田軍を全く近づけずに終わらせてみせましょう」
聖「何か秘策が……?」
亜季「はい。とっておきの秘策が」
亜季「……雷霆隊、前へ」
ザッ ザッ ザッ
聖「彼らは……?」
亜季「雑賀衆の中でも、精鋭を集めた部隊であります。
彼らこそ、私の切り札の一つ」
聖「たったこれだけの人数で……あの大軍を……?」
亜季「今から、私のもう一つの切り札をお見せするであります……」
根来衆物頭「おかしい……」
肇「どうしました?」
物頭「いえ、雑賀衆が射撃体勢に入ったのですが、あまりにも早すぎると思いまして」
肇「確かに、この距離では届きませんね。狙いをつけているだけでは?」
物頭「いや……まさか……」
ダアアアン ダアアアン
根来兵「うわあ!」ドサッ
根来兵「馬鹿な……」ドサッ
物頭「あの噂は本当だったのか……」
肇「一体、何なのですかあれは? あんな距離から撃ってくるなんて」
物頭「これは我ら根来衆の手に負えません。どうか、退却の許可を!」
美羽「何をしている。敵の銃の射程が長いからといって、退却を許せるものか!」
肇「しかし、この威力は異常です。ここは一旦退いて、様子を窺うべきかと」
美羽「五月蝿い! 大軍に兵法なし! 数に物を言わせて押し包んでしまえ!」
聖「敵全軍が動きました……一気に渡渉するみたい……」
亜季「計算どおりであります。飛んで火に入る夏の虫とは、まさにこのこと」
亜季「容赦するな! 近づく者は皆殺しだ!」
ダアアアン ダアアアン ダアアアン
あずき「……もうやめようよ! さっきから全く近づけてないよ」
肇「お館様、やはり退きましょう! このままでは、兵が犬死です」
美羽「ぐぬぅ……下がれ! 下がれ!」
肇「……ところで貴方、さっき雑賀衆の発明とおっしゃっていましたね?
それは何です?」
物頭「それは……」
聖「敵が退いていく……」
亜季「思ったより、退却の決断が早かったでありますな。
さすがは信長といったところでしょうか」
聖「どうしてこの距離から射撃が……?
根来衆の玉……一発も届いていません……」
亜季「聖殿、この銃の銃口を覗いてみてください」
聖「だ、大丈夫ですか……?」
亜季「大丈夫です。玉は入っていませんので」
聖「では……」ジーッ
聖「……あれ? 中に、螺旋状の溝が……」
亜季「これが、我ら雑賀衆の秘密兵器……施条銃(ライフル)であります」
物頭「……施条銃とは、銃の内部に腔綫(ライフリング)が刻まれている銃のことです。
飛距離は滑腔銃、つまり種子島の約二倍ほどだとか」
肇「それなら、どうして世間に出回っている銃には、腔綫が無いのですか?」
物頭「原理は簡単ですが、その加工技術が確立されておりませんので」
あずき「でも、雑賀衆にはそれがあると。でも、あの射撃速度は異常じゃない?
玉込めから発射までの間隔が、とても短かったよ」
物頭「それは前装式(マズルローダー)ではなく、後装式(ブリーチローダー)だからでしょう。
私の見たところ、そもそもあの銃は火縄(マッチロック)ですらなく、燧石(フリントロック)だと思われます」
肇「えっと、よくわかりませんが……要するに、私達の銃では対抗できないと?」
物頭「数を恃んで突撃しても、的にしかなりません」
美羽「使い物にならん奴だ」
物頭「申し訳ございません」
美羽「敵が銃の性能を恃みとするならば、対抗策は簡単ではないか。
一手で覆せることよ。勝家、長秀。全軍を督励し、木や竹を伐採せよ」
肇「なるほど、それらを束にして楯にするのですね?」
美羽「そうだ。いくら奴らの銃の強力でも、木や竹の束を貫くことはできぬはず。
早速作業に取り掛かれ」
肇&あずき「「はい!」」
亜季「う~ん……どうやら、織田軍もすぐには攻めてこないようでありますな」
聖「凄いです……この銃と雷霆隊があれば……どんな大軍だって……」
聖「でも……こんな銃……見たことありません……」
亜季「完成したのはつい最近であります。ほら、聖殿が屋敷に来たときに」
聖「屋敷に来たとき……?」
ダアアアアン!
聖『きゃあっ!』ステーン
聖『い、一体何……?』
『どうですか? 新作の具合は?』
?『うむ。なかなの使い心地……それよりも』
『何か気になることでも?』
?『さっき、外で女の声がしたような……?』
『そうですか? 見てきます』
聖「あの時の……」
聖「でも……短期間でよく生産できましたね……」
亜季「おそらく、これからは銃が戦場の主役になっていくでありましょう。
そのため、他国よりも多く、質の良い銃の生産を急がねばと思いまして」
聖「亜季さんの努力が……結実した……ということでしょうか……」
亜季「しかし、問題は次の織田軍の攻撃であります」
聖「今度も……この銃で邀撃すれば……」
亜季「織田軍も馬鹿ではありません。次は防御策を練ってくるはず。
例えば、木や竹を束ねて楯にするとか」
聖「それじゃあ、どうすれば……」
亜季「現状で、私が思いついた策は一つだけであります」
聖「どんな策でしょうか……」
亜季「今晩仕掛けましょう。つまり……」
~夜半・織田軍~
美羽「……そうだ、次はそのあたりの竹を切り倒せ」
肇「お館様、ここは私達に任せて、少し休まれては?」
美羽「兵達が夜通し作業しているのだ。私だけ休んでいられるか」
肇「そうですか……」
聖「亜季さん……あの篝の近く……南蛮胴を身に着けている人……
あれが信長では……」
亜季「そのようでありますな」
聖「でも、夜に狙撃なんてできるんですか……? 亜季さんが、いくら夜目が効くといっても……」
亜季「ふっふっふ。月や星明りさえあれば、充分可能であります……
これがありますので」スッ
聖「それは南蛮渡来の……望遠鏡……でしたか? それを使えば、遠くでもよく見えると思いますが……
やっぱり夜に望遠鏡なんて使えない……」
亜季「ただの望遠鏡ではありません。これを銃に装着して、と」カチャ
聖「それは一体……?」
亜季「これは、暗視装置(ノクト・ヴィジョン・スコープ)であります」
聖「は、はあ……」
亜季「ちなみに、より厳密に言えば、
微光暗視装置(スターライト・スコープ)でありますが……」
聖(雑賀衆の技術力が高すぎる……)
亜季「それでは、始めるであります」スチャ
美羽「それで、柴田班の進捗具合はどうだ?」
あずき「もうちょっとで、あそこの林を全部切り倒せると思うよ」
亜季「ちょろいものであります」
美羽「そうか、では作業が終わり次第、兵達には休息を与えよ」
あずき「りょーかい!」
亜季「死ね、信長」
美羽「さて、次は前田班の進捗具合だが」
利家「申し訳ございません。
慶次に命じておいたのですが、また一人でどこかに行ってしまったようでして……」
美羽「松風だけではなく、姪の手綱もしっかり握っておけ」
亜季「そのキレイな顔を、フッ飛ばしてやるであります!」カチャ
ダアアアアン!
美羽「ぐあっ!」バタッ
肇「お館様!」
あずき「美羽ちゃん!」
利家「何者! ……あそこだ! あの雑木林の中で、閃光が見えたぞ!」
ゾロゾロ ワラワラ
亜季「さあ聖殿、逃げましょう!」
聖「は、はいっ!」
~翌朝・織田軍本陣~
美羽「う~ん……ここは?」
あずき「良かった! 美羽ちゃん気がついたんだね!」
美羽「あれ? 私、いつの間にか眠っちゃったんですかね?」
肇「昨夜、何者かに狙撃されたんですよ。幸い、兜に掠っただけで済みましたが」
美羽「そうでした! 視界の端で、一瞬何かが光ったと思ったんですけど、
その後どうなったか覚えてないんですよね」
あずき「でもびっくりしちゃったな。心臓が止まるかと思ったよ」
肇「ええ。これで一安心です」
美羽「どうもすみません……」
あずき「あー!」
美羽「どうしました?」
あずき「美羽ちゃん、口調が元に戻ってる!」
肇「言われてみれば、第六天魔王を名乗り始めた時の、邪悪な雰囲気が消えていますね」
あずき「やっぱり美羽ちゃんは、黙っていれば可愛い美羽ちゃんのままで居て欲しいな」
美羽(黙っていればって……それ、地味に傷つくんですけど……)
肇「お館様、ここは念のため一旦国に帰りましょう。
回復してから、また遠征でも何でもすれば良いんです」
美羽「そうしましょう。陣払いをお願いします」
あずき「そうだよ。休養大作戦しなきゃ!」
美羽「……やはり、銃は良いものだ」ゴゴゴゴ
肇「はい?」
美羽「ここは尾張へ引き上げるとしよう。その後は堺を押さえ、種子島の量産態勢に入るぞ!」
あずき「美羽ちゃん、元に戻ってな~い!」
美羽「勝家、長秀、二人とも何をしておる。次は武田攻めだ!
鉄砲を大量生産して、甲州騎馬軍団を蜂の巣にしてくれる!」
美羽「図体のでかい騎兵なんぞ、良い的にしかならぬということを教えてやる!
フハハハハ!!」
あずき(美羽ちゃん、まだ続ける気だよ?)ヒソヒソ
肇(仕方ありません。これがお館様と、私達の宿命なのでしょう……)ヒソヒソ
亜季「いかがでありますか、聖殿?」
聖「本当に……信長は……織田軍、陣払いしてる……」
亜季「いや、おそらく信長は死んでいないでしょう」
聖「でも……昨夜亜季さんが狙撃して……」
亜季「撃った瞬間、撃ち損ねたと感じました。なんとなく、手応えがなかったので。
無傷とは思いませんが……」
聖「また信長が攻めてきたら、どうするんですか……?
警戒して、二度と暗殺なんて……できない……」
亜季「これも、信長の星でありましょう。未来は天のみぞ知る、ということであります」
亜季「まあ、今回の戦は勝ちました。それで良しとしようではありませんか」
亜季「聖殿、この戦勝をヘレン殿に報告していただけませんか?
私は戦後処理がありますので、しばらく紀州を離れることができません」
聖「わかりました……そうなると……しばらくのお別れですね」
亜季「なに、また会えます。きっと」
聖「そうですよね……行ってきます」
亜季「道中、お気をつけて」
~本願寺・広間~
ヘレン「……そう、亜季は勝ったのね」
聖「亜季さんの狙撃……世界レベルでした……」
ヘレン「私の他にも世界レベルがいるなんて……
もしかして、亜季は私の好敵手になるのかしら?」
聖「まさか……亜季さんは味方です……それに……私達の親友です……」
ヘレン「それもそうね……あ、そうそう。帰ってきて早々に悪いけど、聖に話があるの」
聖「何でしょう……?」
ヘレン「奥州の、伊達政宗という人物を知ってるかしら?」
聖「はい……たしか、“冒険竜”と呼ばれている人ですよね……」
ヘレン「その伊達政宗が、今度エスパーニャ(スペイン)と通商を行うことになったそうなの。
そしてこの国からも、使節を派遣することが決まったのだけど」
聖「そうなんですか……でも、それと私にどんな関係が……?」
ヘレン「聖。貴方使節として、外国に行ってみたいと思わない?」
聖「私が……?」
ヘレン「そうよ。聖はまだまだこれからなんだから、
この国の外へ出てみるのは、良い経験になると思うわ」
聖「あ、ありがとうございます!」
ヘレン「滅多に無いことなのだから、ちゃんと視察してきなさい。
そして、世界に向けて大きく羽ばたきなさい!」
聖「私……一杯勉強してきます……そして、帰ったら……
外国で得た知識を……この国のために……」
ヘレン「期待してるわ。旅の餞別として、これを受け取りなさい」
ドサッ
聖「この分厚い書物は、一体……?」
ヘレン「我がダンサブル念仏の、全てを記した経典よ」
聖「あ、あの……」
ヘレン「外国の知識を吸収してくるだけじゃ、勿体無いでしょう?
行くついでに、南蛮人に布教してくるのよ!
そうすれば、私の教義は海の向こうにも広まり、名実共に世界レベルとなる!」
聖「あー……数日中に、亜季さんが来ると思います……
それからでも良いですか……?」
ヘレン「そうね。世界レベルになるためには、挨拶もしっかりしないとね」
聖「では、私はこれで……」トコトコ
ヘレン「……」
ヘレン「……逃げられたわね。誰かいるかしら?」
信徒「ここに」
ヘレン「一緒に来なさい! 聖を捕まえるわよ!」ドタドタ
信徒「かしこまりました。お待ちください! 聖殿!」ドタドタ
聖「もう勘弁してくださ~い!」ドタドタ
おわり
・戦国時代。天下統一を目指す織田信長は、石山本願寺を主軸とする一向宗勢力と約十年に渡って戦火を交えました。
これを“石山合戦”と言います。
・信長は当初、一向一揆を始め、各地の大名や雑賀衆の包囲網に苦しみましたが、
武田信玄の死により、戦況は織田有利に傾いていきます。
その後朝倉、浅井の滅亡、長篠の戦い、木津川口の海戦を経て、ついに本願寺は朝廷の仲立ちにより信長と講和。
本願寺は、石山を退去することになりました。ちなみに、本願寺跡地に、豊臣秀吉が大坂城を築城します。
・石山退去後、本願寺が移ったのは紀州でした。
また、石山退去後は本願寺内部での派閥争いが起こり、これが江戸時代における本願寺分裂の遠因となります。
以下は作者の過去作です。
歴史・古典ものですが、興味のある方はどうぞ。
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