モバマス竹取物語 (52)

・このSSは、「竹取物語」をベースにした作品です。

・作者独自の解釈、脚色が含まれます。ご了承下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410021421


昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
二人には子がおらず、竹細工を売るなどして細々と暮らしています。

そんなある日、お爺さんが山へ竹を取りに行くと、
一本の竹が光っているではありませんか。

翁「なんじゃこの竹は。ためしに切ってみよう」


コツン コツン


「おぎゃあ おぎゃあ」

爺「おお、何と! 竹の中から赤ん坊が出てきたぞ。
  帰って婆さんに知らせないと!」

お爺さんは家に帰り、お婆さんに山での出来事を話しました。
子供のいなかった二人は喜び、その赤ん坊を「菜々」と名づけて大事に育てました。


それからというもの、お爺さんが山で竹を切るたびに、
中から砂金が溢れてくるではありませんか。
二人は、瞬く間に近隣一の大富豪となりました。


そして菜々はわずか三ヶ月で美しい女に育ち、「かぐや姫」と呼ばれるようになりました。

その神々しいまでの美しさは、後光が差しているようにも見え、
荒ぶる人の心を落ち着かせます。


婆「どうして浮気なんてするのですか! 年を考えてくださいよ!」

爺「今まで貧乏な生活をしとったんじゃ。
  少しくらい大目に見てくれてもかまわんじゃろ!」

菜々「まあまあ二人とも落ち着いてください」

婆「でも……」

菜々「お婆さん。お爺さんは最近、お婆さんが構ってくれなくて寂しかったんですよ」

婆「……」

菜々「それにお爺さん。町行く美女に少し鼻の下を伸ばしたくらいで
   お婆さんがこんなに嫉妬するということは、それだけお爺さんのことを愛しているということですよ。
   ですが、今後は慎むように」

爺「はい……」

菜々「とにかく、喧嘩は良くありません! 二人とも、せーの!」

三人「ミミミン ミミミン ウーサミン!」

爺「ははは! いままで腹が立っていたのに、
  なぜかそんな気分も吹き飛んでしまったわい!」

婆「私もですよ」

菜々「仲直りしてくれてよかったです!」

かぐや姫の美しさは世間に知れ渡り、かぐや姫の下には様々な縁談が舞い込んできました。
しかし、かぐや姫は誰とも結婚しようとはしません。


屋敷の周囲にたむろしていた男達も、
かぐや姫に相手にされないと知ると、諦めてかえって行きます。


それでもなお、五人の男達がかぐや姫との結婚を熱望するのでした。

爺「菜々や、わしらも齢(よわい)七十を越え、いつ死んでもおかしくない。
  どうかわしらの生きている間に、結婚してわしらを安心させてくれんか?」

菜々「ごめんなさい、お爺さん。私は人間ではなく、ウサミン星人なのです。
   人間とは結婚できないのです」

爺「また訳のわからんことを言いおって。
  ではわしらが死んだ後、どうするつもりじゃ。
  今までお前を大事に育ててきたが、それゆえお前は世間知らずじゃ。
  どうやって一人で生きていくつもりだい?」

菜々「……お爺さんがそこまでおっしゃるなら、考えなくもありません」

爺「おお、そうか!」

菜々「ただし結婚するのは、菜々が今から言う秘宝を持ってきてくださった方です。
   どれも入手困難なものですから、そこまで労力をかけて下さった方は、
   それほどまでに深い愛情を持っていると判断します」

爺「わかった。して、その秘宝とは?」

菜々「それは……」


求婚者一人目。
石作(いしつくり)の皇子は、「仏の御石の鉢」を要求されました。

要領の良い彼は、天竺(インド)まで行ったと見せかけて三年間隠れ、
大和の国のとある山寺の仏像の前におかれていた鉢を袋に入れて、
かぐや姫の下へやってきました。

かぐや姫が袋を開けてみると、鉢と一緒にこんな歌が入っています。


『海山の 路に心を尽くし果て ないしの鉢の 涙流れき』

(海や山を越えて、血の涙を流すような思いで石の鉢を探しましたよ)



菜々「あれ? でも本物なら、光り輝いているはずなんですけどね……」

かぐや姫は、


『おく露の 光をだにも やどさましを 小倉の山にて 何もとめけむ』

(露に宿るくらいの光さえあればよかったものを、
小倉(小暗)という山から偽物を持ってきたのですね)


こんな歌を添えて、鉢をつき返しました。

うちひしがれた皇子は、鉢を屋敷の前に捨てると、


『白山に あへば光の 失するかと 鉢をすてても たのまるるかな』

(小倉山とは反対に輝いている貴女に出会ったので、この鉢の光が失われてしまったのでしょう。
やっぱりあなたのことが諦められません)


こんな返歌をしました。

しかし、かぐや姫からは何の返事も無かったので、皇子は諦めて帰っていきました。

偽の鉢を捨ててからも姫に言い寄ったことから、あつかましい態度のことを


『恥(鉢)を捨つ』


と言うようになったそうです。


求婚者の二人目は、庫持(くらもち)の皇子です。
彼は蓬莱にあるという、「玉の枝」を要求されました。

しかし彼は強かな計略家であり、蓬莱などという伝説上の土地を目指そうとはしません。
全財産をはたいて全国から職人を呼び寄せ、内密に精巧な玉の枝を作らせたのです。


それからしばらくして、皇子は玉の枝を箱に入れ、旅装のままかぐや姫の屋敷へやってきました。

かぐや姫が箱を開けてみると、玉の枝とともに文が入っています。


『いたづらに 身はなしつとも 玉の枝を 手折らでさらに 帰らざらまし』

(死ぬような目に遭ったとしても、玉の枝を手に入れるまで帰れないと思いました)


あまりにも精巧な出来だったので、かぐや姫は文句を言えません。
皇子もお爺さんもお婆さんも、これで結婚は決まりだという顔をしました。

しかし、屋敷の玄関から誰かの声が聞こえます。


爺「どちら様ですか?」

職人「すみません。こちらに庫持の皇子って人が来てませんかね?」


お爺さんが玄関の方へ行くと、そこには職人達がいました。
聞けば、玉の枝の制作費が未払いであるとのこと。

それを聞いたかぐや姫は上機嫌になり、
皇子に玉の枝をつき返すとともに返歌をしました。


『まことかと 聞きて見つれば 言の葉を 飾れる玉の 枝にぞありける』

(本物の玉の枝と思ったら、どうやら
“言の葉”で飾り立てた枝だったようですね)

かぐや姫は訴え出た職人達を呼び、沢山の褒美を取らせました。


しかし職人達が帰ろうとすると、路上で待ち構えていた皇子に散々に暴力を振るわれ、
せっかく貰った褒美を全て奪われてしまいました。


その後皇子は、かぐや姫に玉の枝が偽物であると暴露されたことを恥じ、
どこかへと消え去ったそうな。

それ以来、このように姿をくらましてしまうことを


『魂離る(たまさかる)』


と言うようになりました。


求婚者の三人目。
右大臣阿部御主人(うだいじん あべのみうし)は、
「火鼠の皮衣」を要求されました。


彼は資産家であったため、比較的まともな手段を講じました。
腹心の家来に大金を持たせて天竺に派遣し、火鼠の皮衣を取り寄せたのです。

数ヵ月後、大臣はようやく手に入れた皮衣の美しさを見て大層喜び、
皮衣を収めた箱を持ってかぐや姫の屋敷に向かいました。

これまでの求婚者達と同じように、歌も添えて……


『限りなき 思ひに焼けぬ 皮衣 袂乾きて 今日こそは着め』

(貴女への愛情の火にも焼けない皮衣を手に入れ、涙にぬれている袂もすっかり乾きました。
今日は晴れ晴れとした思いで、皮衣を着られますよ)

かぐや姫が蓋を開けると、とても美しい皮衣が入っているではありませんか。


菜々「うわー、こういう毛皮ってバブル期にみんなよく着てましたよね……
   おっと、菜々はバブルなんて知りませんよ!? リアルJKなので!」

菜々「って、そんなことはどうでも良いんです!
   これが本物なら、火鉢に入れても燃えないはず……うーどっかーん☆」

メラメラメラ

爺「……」

婆「……」

菜々「燃えましたね……」

大臣「な、ななな……」




かぐや姫は返歌とともに、大臣に箱をつき返しました。


『なごりなく 燃ゆと知りせば 皮衣 おもひの外に おきて見ましも』

(こんなにあっさり焼けてしまうとわかっていたなら、
火から離して鑑賞しましたのに。残念でしたね)

大臣はかぐや姫を手に入れることができなかったので、
目的を達成できずに失望することを


『あへなし(阿部無し)』


と言うようになったそうな。

求婚者の四人目は、大伴御行(おおとものみゆき)の大納言です。
彼は、竜の首についている玉を要求されました。


大納言は家来に向かって

「竜の玉を持って帰った者には、好きなだけ褒美を取らせるぞ」

と言いましたが、それを真に受ける家来はいません。
結局、家来達は旅に出る振りをして、
与えられた路銀を分配してどこかへ逃げてしまいました。

数ヶ月経っても家来が帰ってこないので、大納言自ら港へ向かったのですが、


「竜退治に行った船? そんなもの知らないよ」

「竜? そんなものこの世にいるわけないでしょう?」


などと、港の人々から馬鹿にされる始末。

激怒した大納言は、自ら竜退治にでかけましたが、台風や落雷に翻弄され続けて船は大破。
気がつけば、兵庫の浜に打ち上げられていました。

泣きっ面に蜂とはこういうことでしょうか。
大納言は心身ともに痛めつけられてしまい、顔が李(すもも)のように膨れ上がってしまったのです。

以後、言うこととやることがまるで違う場合を、


『あな食べ難』
(あんな李は食べられない)


と言い、さらに大納言の腫れあがった顔を見た人が、


『あな堪え難』
(おかしくて我慢できない)


と言ったそうな。

求婚者の五人目は、中納言石上麻呂足(ちゅうなごん いそかみのまろたり)。
彼は「燕の子安貝」を要求されました。

家臣によれば、


「燕の子安貝とは、燕が卵を産むときに腹にかかえるといわれるものです。
 人間が少しでも見てしまうと、消えてしまいます。
 どこぞの猫箱のようなものですよ」


とのことでしたので、子安貝の採取には細心の注意が必要です。

ある日、屋敷の柱に燕の巣が出来たという知らせが入ったので、
中納言は家来にはしごを持たせて燕の巣を見に行きました。


はしごを掛け、中納言自ら巣を覗きます。
しかしそのとき、はしごが揺れて中納言はものすごい音を立てて地面に落ちてしまいました。


中納言は手に何かをつかみましたが、見てみるとそれは燕の糞です。
それに、落下した拍子に腰の骨を折ってしまい、散々な結果に終わったのでした。

この事件から、期待はずれな物事を


『貝無し(甲斐無し)』


と言うようになったそうな。

ある日、病床で苦しむ中納言の下に、かぐや姫から見舞いの歌が送られてきました。


『年を経て 波立ち寄らぬ 住の江の まつかひなしと 聞くはまことか』

(長い間屋敷にいらっしゃいませんが、まるで波が寄せない住の江の松のようではありませんか。
子安貝が取れずに“甲斐なし”という噂は本当ですか)

これを聞いた中納言は


『かひはかく ありけるものを わび果てて 死ぬる命を すくひやはせぬ』

(貝はありませんでしたが、貴女から見舞いの歌が届き、どうやら甲斐はあったようです。
どうか私の命を、匙ですくうように助けてくれませんか)


という返歌を詠み、息絶えてしまいました。

これを聞いたかぐや姫は可哀相に思ったので、少しうれしいことを


『貝有り(甲斐有り)』


と言うようになりました。


五人の求婚者が悉く返り討ちに遭ったという噂は、
都の帝の下にも聞こえてきました。
帝は何としても妃に迎えたいと切望しましたが、
かぐや姫は首を横に振るばかり。


それに最近のかぐや姫は、夜な夜な月を見上げて泣いています。

心配したお爺さんが、月を見ながら泣いている訳を聞くと


菜々「今まで何度も言いましたが、菜々は人間ではありません。
   ウサミン星で罪を犯したため、その償いとしてこの世に流されたのです。
   八月十五日には、ウサミン星に帰らなくてはならないのです」

これを聞いたお爺さんはひどく驚き、帝へ報告しました。

帝はそれならばと、信頼する武官に兵をあずけ、
かぐや姫の屋敷の防備を固めました。

そして、八月十五日の夜。


天から光が降り注ぎ、あたりは昼間のように明るくなりました。

屋敷に詰めていた武士達は矢を番えようとしたものの、目が潰れて何もできません。
誰も身動きが取れないなか、
天から牛車と不思議な衣装をまとった人々が舞い降りてきました。

天人「さあ、かぐや姫。はやくこちらに来なさい」

菜々「ちひろさん……」

爺「待ってくだされ! 菜々はわしらが大事に育てた娘なんじゃ。
  どうかこのまま一緒に暮らすことはできぬのですか?」

ちひろ「お爺さん。あなたがなぜ、今まで裕福な暮らしができたかご存知ですよね?」

爺「どういうことです?」

ちひろ「おや、かぐや姫から話を聞いていませんでしたか」

菜々「……」

ちひろ「あなたは昔から貧しい暮らしをしながらも、
    生活費の中からなんとかガチャのための資金を遣り繰りしてきました。
    たとえ、お目当てのアイドルを引けなかったとしても……」

ちひろ「私はその心構えに敬意を表し、無料配布のチケットでSRを引けるように調整してあげたのです」

ちひろ「しかし、あなたは富豪となった我が身に甘んじ、初心を忘れてしまったようですね。
    課金してガチャを引かぬ者に、アイドルをお迎えできません」

爺「そんな……」

ちひろ「さあかぐや姫。地上で汚い物を食べたはずです。このドリンクを飲みなさい」

菜々「……」

ちひろ「どうしたのです。早く飲みなさい」

菜々「わ、わかりました」ゴクッ

ちひろ「これであなたの体は清められました。行きますよ」

菜々「えっと、少し待ってもらっても良いですか? 陛下に手紙を書かないと」

ちひろ「しかたありませんね……わかりました。なるべく速く済ますように」

かぐや姫は帝に宛てて歌を詠み、自身が舐めたドリンクとともに屋敷に残しました。

そして、天人から衣を着せられたかぐや姫はこの世の存在ではなくなり、
地上での記憶を全て失って、空飛ぶ牛車に乗り込みました。

かぐや姫との別れを嘆き悲しんだお爺さんとお婆さんは、
かぐや姫が残した歌とドリンクを帝の下へ届けました。


『いまはとて 天の羽衣 着る折ぞ 君をあはれと 思ひ出でける』

(これまでと思って天の羽衣を着るのですが、いまになって陛下をお慕いする気持ちが湧いてきました)


この歌を読んだ帝はとても悲しみ、かぐや姫の残したドリンクと歌を武官に預け、
天に届くようにとの意味を込めて、この国で一番大きな山の頂で焼くように命じました。

このとき、武官は大勢の武士を率いて山に登ったので、その山は
“士”に“富む”山ということで、“富士山”と呼ばれるようになりました。


そして今もなお、薬は燃え続けて雲を生み出しているそうです。




おわり

・読んでくださった方、ありがとうございます。

・「竹取物語」は、作者と成立時期不明の作品です。
 日本最古の物語らしいですが。
 
・月に関する信仰や慣習は、世界各地にあります。

  日本…月見(中秋の名月)。
  北欧…女性が月を見てはいけない。
  西洋…満月の日に人狼が狼に変身。魔女がサバトを開く。
  英語…「lunatic(精神異常者)」はラテン語の「luna(月)」の派生語。
  パラオ…国旗の意匠が満月。
  ブラジル…生まれたての赤ちゃんを月光から隠す。

 などなど。調べれば他にも出てきそうですね。

かぐや姫が送ったのが不老不死の薬で、帝は姫のいない世界で不老不死になっても意味がいないとその薬を大きな山の麓に埋めた
不死の山→富士山って話を聞いたことがあるんだけどあれは嘘だったのか

>>50

士に富む山→富士山とする説は、
不死の薬を供えた→不死山→富士山とする説よりも古く、竹取物語の本文中に記述されています。

また、竹取物語よりも成立が古い(と思われる)「万葉集」には、
「不尽(噴煙が尽きない)」という記述がありますので、
不尽→富士が富士山の語源であると思われます。

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