モバマス太平記 (84)

・作者の初スレ立て、初SSです。
・拙い文章です。アドバイスを頂けると助かります。
・このSSは日本の南北朝時代を舞台にしていますが、史実とは異なる点が多々あります。ご了承ください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396429501

~事務所~

モバP「お~い仁美、ちょっと良いか。新しい仕事が入ったんだが」

丹羽仁美「何?プロデューサー」

P「今度お前に、大河ドラマ出演のオファーがあったんだ」

仁美「大河ドラマか。ってことは、お市さんとか…もしかして濃姫だったりして!」

P「いや、期待させて悪いんだけど、戦国時代じゃなくて南北朝時代なんだよ」

仁美「えー、南北朝時代か。アタシの専門外なんだけどなぁ。よくわかんないし」

P「お前の配役は、佐々木道誉(ささき どうよ)っていう武将らしいぞ」

仁美「佐々木道誉?聞いたことないなぁ。誰それ?」

P「俺もよく知らないんだけど、資料によれば『足利尊氏の天下統一に貢献した近江の武将。その奇行の数々から、“ばさら大名”と呼ばれた』だってさ」

仁美「“ばさら”…なんて良い響き!プロデューサー、アタシその役やるわ☆」

P「お前はそれで良いのか」

~近江・柏原城(かしわばらじょう)~

佐々木道誉(丹羽仁美)「まだ、六波羅の残党が関東に逃げ続けているね…」

忍(浜口あやめ)「申し上げます! 六波羅の北条仲時(ほうじょう なかとき)が近江の山中にて、一族もろとも自害したようです!」

仁美「おつかれ様。へぇ~そうなんだ。あれ?時信っちもいたはずだけど、どうなったのかな…心配だな」

あやめ「とりあえずは大丈夫ですよ、仁美さん。時信さんは仲時が自害したとの知らせをうけた後、足利軍に投降したみたいですから」

仁美「そうなんだ、それならひとまず安心ね」

あやめ「ところで仁美さん、これを見ていただけますか?」

仁美「何?その大きな包み」

あやめ「腰を抜かさないでくださいよ。剣に勾玉、それに鏡です」

仁美「これって三種の神器じゃん。こんなものどこから」

あやめ「じつは北条軍が京から敗走した混乱の中で、うまいことくすねてきたんですよ」

仁美「くすねてきたって…まあいい、これで足利っちに良い土産ができたね。流石あやめっち☆」

あやめ「このくらい朝飯前です!ニンッ!」

仁美「よ~し、亜子っち、すぐに軍勢をまとめてくれる?京に向けて出陣!」

吉田厳覚(よしだ げんかく:土屋亜子)「よしきた!必要な軍費もすぐ弾き出すから!」

~京・足利軍奉行所~

武士「それがしは○○の国の△△と申す者で…」

足利直義(あしかが ただよし:城ヶ崎莉嘉)「はい、参陣ありがとっ☆ 今後の働きに期待してるねっ☆」

武士「はっ! 粉骨砕身し、足利様のために働きます!」

莉嘉「はい次の人~…って、仁美さんじゃん」

仁美「久しぶり、莉嘉っち。鎌倉を出立して以来ね」

莉嘉「仁美さんがここまで来たってことは、お姉ちゃんに用があるんだよね。早速案内させるよ☆」

仁美「ありがとう。おねがいするね」

莉嘉の従者「どうぞこちらへ」

~足利高氏(あしかが たかうじ)の居室~

足利 高氏(城ヶ崎美嘉)「仁美、久しぶり~☆ 元気にしてた?」

仁美「久しぶり。六波羅を倒した祝いってことで、これ受け取ってもらえる?」

美嘉「え~お土産か、わざわざ悪いな。なにかな~」ゴソゴソ

美嘉「って、これ三種の神器じゃん。どうしたのこれ!北条仲時が逃げたときに紛失したと思ってあちこち探しまわったのに」

仁美「まあ、ある筋から手にいれたんだけどね」

美嘉「これ、アタシにくれるの? まあ、ただでくれるわけないか」

仁美「交換条件で悪いんだけど、これと引き換えにうちの時信っちを赦免して欲しくて」

美嘉「うんうん、加蓮は真面目だからね。側仕えしていた仲時に義理立てしてやむなく一緒に落ち延びたってことは、アタシもよくわかってるつもり」

仁美「話が早くて助かるっ☆」

美嘉「何言ってんの。鎌倉にいた時からの付き合いじゃん☆」

仁美「ふふ、ありがと」

~京・佐々木邸~

仁美「お加減はいかが?」

佐々木時信(ささき ときのぶ:北条加蓮)「話、聞いたよ。私を助けるために三種の神器を美嘉に渡したんでしょ?」

仁美「うん。アタシが持っててもしょうがないものだし」

加蓮「助けてもらっておいて、こんなこと言うのはなんだけど、三種の神器があれば帝を擁立することができたのに。他にもいろいろと…」

仁美「良いの。だってアタシなんか、所詮近江半国を領しているにすぎない小大名だし。それに時代の流れは足利に傾きつつある。そして何より、佐々木一門の惣領を助けるためなら安いものだし」

加蓮「うう…ごめん、私のためにそこまで…ゴホッゴホッ」

仁美「大丈夫?顔色悪いけど」

加蓮「うん、なんだか京に戻ってきてから調子が悪くて」

仁美「京ではすぐに大きな戦もないだろうから、ゆっくり休んで」

加蓮「ん?なんで戦がないってわかるの?」

仁美「いや、まあ、いろいろと」

加蓮「やっぱり仁美さんにはかなわないな。うん、今はゆっくり静養しとく」

仁美「うん、そうしたほうが良いと思う。じゃあ、アタシはこれで。何日かしたらまた見舞いに来るから」

~京・高橋屋(道誉の旅館)~

仁美「そんなにあっさり?」

あやめ「はい、確かな情報です。新田義貞(にった よしさだ)が鎌倉を陥としました。鎌倉幕府の北条一門は、そろって自害したようです。まあ、ごく一部は逃散したみたいですが」

あやめ「あ、それと、後醍醐(ごだいご)天皇の皇子である大塔宮護良(おおとうのみやもりよし)親王が美嘉さんに反撥し、信貴山(しきざん)に軍勢をまとめています」

仁美「やっぱりそうなるか。幕府が倒れたいま、天下の政(まつりごと)は朝廷が行うのか、それとも倒幕の中心となった足利一門が握るのか。お互い譲るはずないもんね。護良親王も、皇族でありながら野武士や溢れ者を集めて大和で奮戦したし、朝廷方の武士である楠木正成(くすのき まさしげ)も千早城(ちはやじょう)で幕府軍を一手に引き受けていたし」

あやめ「今後、私はどのように動けばよろしいのでしょうか?」

仁美「ひとつは護良親王近辺の動き、もうひとつは奥州かな」

あやめ「奥州ですか?なぜそんな辺境の地を…」

仁美「アタシもよく知らないんだけど、公家の北畠顕家(きたばたけ あきいえ)と言うひとが陸奥守(むつのかみ)として奥州に赴任するみたい。その一行は六の宮(ろくのみや)を擁立しているらしいよ」

あやめ「よくわからない人選ですね」

仁美「でしょ?怪しい匂いがプンプンする。奥州は遠国だから大変だけど、よろしくね」

あやめ「まかせてください。ニンッ!」

~京・雑訴決断所(ざっそけつだんじょ)~

仁美「あ~肩が凝る。面倒くさい仕事ばっかだな~。それにしても、みんな飽きもせずよく小競り合いするな。こんな小さな領地の奪い合いして、よっぽど暇人ね」

仁美「それにしても、なんでアタシにこんな仕事をおしつけるかな」

~回想~

美嘉「ねえ、仁美」

仁美「何?」

美嘉「あのさ、全国から武士が集まってくるのは良いんだけど、領地争いが絶えないんだよね。政は朝廷がするって言っても、武士の裁決はわたしがやんなきゃだめでしょ」

仁美「そうなんだ、大変ね。あ、そうだこの後高橋屋で連歌の会をする予定だったんだ。急いでかえらなきゃ」

美嘉「まあ、まってよ」ガシッ

仁美「え、いやな予感がするんだけど」

美嘉「あのさ、集まってきた武士の大半は、戦のことしか考えてない連中ばっかなんだよね。だから書類仕事とかできる人いないんだよ」

仁美「で、アタシになにをしろと?」

美嘉「武士の領地争いが絶えなくて、それを裁決するための役所を作ろうと思ってるんだ。だからシキケンに富む道誉さんにお願いしようと思って。それに朝廷の顔を立てるために、公家連中もその役所で働かせないといけないし。ここはやっぱり人当たりも良くて、教養のある仁美にやってもらわないと」

仁美「いやだぁ~。離して!」

美嘉「どうせ毎日毎日歌を詠んだり、笛を吹いたりしてるだけでしょ。暇でしょ」

仁美「猿楽を観たりもして忙しいんだってば~」

美嘉「つべこべ言うなー!」

~回想終わり~

仁美「トホホ……ん?」


訴人「これを差し上げますので、どうかよしなに…」

公家「そちも悪よのぅ」

訴人「ぐへへ、公家様ほどでは」



仁美「」カッチーン

ビシッ バシッ

訴人「グヘッ」

公家「ヒデブッ」

公家「な、なにをするのじゃぁ。麿を鞘ぐるみの太刀で打つとは…それに前から言おうと思っていたが、その直垂はなんじゃ。白地に花吹雪など」

仁美「だまらっしゃい!この直垂はアタシのお気に入りなの!」バシッ

公家「痛っ!だれか、だれかある!道誉殿が乱心じゃ!」

ザワザワ イッタイナンノサワギダ

高師直(こうの もろなお:渋谷凛)「ねえ仁美、なにやってんの?」

仁美「皆の者、耳あれば聞け!目あればしかと見よ!この者は公平なる裁定者としての責務を汚し、訴人から袖の下を受け取っていた。証拠もここにある!」

凛「事情はわかったよ、この公家は私が厳罰を与えるから。でも、役所内での乱暴狼藉はご法度だよ」

仁美「ならばそれがしも悪いとおっしゃるか?私は高氏様より雑訴決断所にて裁定の権限を任せられた身。本来ならば素っ首刎ね飛ばしていたところぞ! まさか足利家筆頭執事である高師直殿は、この腐れ公卿を助命されるとおっしゃるか!」

イイゾイイゾ サスガバサラモノダ ワイワイガヤガヤ

凛「首を刎ねるってのはやりすぎだよ。ここは私の顔を立てると思って勘弁してよ」

仁美「仕方ない。ここは手を引きましょう」

凛「うん、ありがと。あ、それとしばらくの間、自宅で謹慎しといてくれる?」

仁美「反省してま~っす」

~高橋屋~

仁美「いや~、今日も飯が美味い!」

亜子「あのさ、謹慎中やんな?」

仁美「え?そうだよ、あれ以来高橋屋から一歩も外に出てないよ」

亜子「いや、どうみても宴会してるようにしか見えんし」

仁美「昼間から食っちゃ寝できるってサイコー☆」

亜子「あ、もしかして公家をぶちのめしたのはこのためだったんじゃ」

仁美「え、そ、そんなことはナイデスヨ。だってわたしは高氏さまから…」

亜子「うわぁ、あきれた。さすがの私でも引くわ…ん?何やろ、表に誰か来たみたい」

凛「こんにちは。おとなしく謹慎…はしてないみたいだね」

仁美「い、いやぁ~おとなしくしてましたよ。おとなしく宴会とか連歌とか猿楽とかしてましたよ」

凛「まあ良いよ。ところでいまから奉行所に来て欲しいんだけど。美嘉が呼んでるから」

仁美「ついにアタシの処分が下されるのか…」

凛「ふふっ。そんなんじゃないよ。まあ、来ればわかるって」

~奉行所~

美嘉「謹慎中は元気にしてたみたいだね」

仁美「まあ、アタシにあんな面倒くさい仕事を押し付けた意趣返しってところね」

美嘉「やっぱり仁美のほうが一枚上手だな。で、せっかく奉行所に来てもらって悪いんだけど、ここには用事が無いんだよね」

仁美「え、じゃあどこに行けば良いの?」

美嘉「それが、この前の騒ぎが帝の耳に入っちゃってさ、帝が『久しぶりに道誉に会いたい』っておっしゃったから。そんなわけで、今から御所に来てくんないかな。帝とは面識あるよね」

仁美「うん。帝が隠岐(おき)に配流になったとき、護送したのはアタシだから」

美嘉「それじゃ、一緒にいこうか。あ、それと帝の側には正成や義貞もいるから。そっちは顔を合わせたことなかったよね」

~御所~

侍従「天皇陛下の御なり~」

後醍醐天皇(小早川紗枝)「ほんに久方ぶりですなぁ。堅苦しい挨拶は無しでよろしいですえ。直答をさし許します」

仁美「お久しぶりです、陛下。隠岐以来ですね」

紗枝「ところで、公家を打擲したとのはなし、御所にもきこえてます」

仁美「恐れ入りましてございます」

紗枝「なんでも鞘ぐるみの太刀で打ち、そして素っ首刎ね飛ばすと啖呵を切ったとか。“ばさらのふう”は健在と見える。まこと、小気味良いことです」

仁美「…申し訳ございません」

紗枝「まあ、そんなことよりも。今日は仁美さんに会わせたい人がおったんで、こうして御所にまできてもろうたんどす」

紗枝「こちらは楠木正成。そしてこちらは新田義貞。二人とも、倒幕に尽力してくれたんどす」

美嘉「……」

楠木正成(村上巴)「おう、ウチは河内(かわち)の楠木正成。今後とも、よろしゅうたのむ」

仁美「こちらこそ、よろしくお願いします」

新田義貞(輿水幸子)「ボクが新田義貞ですよ。あなたの噂は聞いてます。このカワイイボクと知己になれるなんてあなたはとっても幸せ者ですよ!」

仁美「よ、よろしくお願いします(うわぁ面倒くさそうな娘だなぁ)」

~奉行所~

美嘉「どう?今日の感想は」

仁美「まあ、陛下がお元気そうでなにより。後の二人は何というか、その、個性的…って言うのかな?それにしてもあの二人、ずいぶん帝のご寵愛を受けているように見えたけど」

美嘉「まあ、あの二人は倒幕の立役者だからね。あの二人は」

仁美「美嘉っち。何か言葉に棘がない?」

美嘉「そんなことないよ…でもさ、おかしいよね」

仁美「え、何が?」

美嘉「自分で言うのもなんだけどさ、倒幕で一番活躍したのってアタシだよね。実際、その恩賞として帝からは今度、帝の諱(いみな)である尊治(たかはる)から一字もらって、“尊”氏に改名するんだ」

美嘉「それに陛下からは直々に鎮守府将軍(ちんじゅふしょうぐん)に任命されたけどさ、それって武士による政…つまり幕府は認めないってことでしょ?征夷大将軍(せいいだいしょうぐん)じゃなきゃ幕府は作れないもんね」

仁美「…それなら、あまり気にしなくても良いんじゃない?」

美嘉「え、どゆこと?」

仁美「いま信貴山に拠ってる護良親王が、征夷大将軍の位を欲しているのは知ってるよね? これは政敵である美嘉っちに対抗するためだよね?」

美嘉「うんうん」

仁美「ところが、いつまでたっても帝は護良親王には大将軍の位を与えていない。だから拗ねて山を降りないってわけ」

美嘉「そんなことはわかってるよ。早く続き」

仁美「焦らないでよく聞いて。それで、近々播磨(はりま)の赤松円心(あかまつ えんしん)が護良親王の京への“凱旋”の先導をするために、信貴山に行こうとする動きがあるの。護良親王配下としては、赤松円心は最初に京入りを果たした武将だし」

仁美「もし護良親王が凱旋してきたら、朝廷としても位階を与えなければならない。そして美嘉っちが既に鎮守府将軍に任命されているから、残るは征夷大将軍しかないってわけ。朝廷も、美嘉っちに対抗できる人を用意しておかなくてはならないしね」

美嘉「でもさ、護良親王が征夷大将軍に就いたら、アタシは格下になるんだよ」

仁美「美嘉っち、足利家は源氏の嫡流である武門の名家でしょ。もし美嘉っちが護良親王と対立したとき、全国の武士はどちらに味方するかな?」

美嘉「なるほど、武力でならアタシがはるかに上回っている。しかもこの対決の構図は足利尊氏対帝ではなく、足利尊氏対護良親王ってことか」

仁美「そう。もし相手が帝なら、美嘉っちは逆賊になるけど、相手が護良親王ならそうはならない。しかも…」

美嘉「しかも、護良親王を追い落としたあとは、アタシが征夷大将軍になれる。すでに護良親王という“前例”があるから。護良親王という武力を失った朝廷は、アタシに従わざるをえない」

仁美「よく読めました☆」

美嘉「それにしても、赤松円心が信貴山に登るなんてこと、どうして知ってるの?」

仁美「それはアタシが、佐々木道誉だから☆」ドヤァ

~高橋屋~

仁美「くふふ、面白くなってきた面白くなってきた」

仁美「あの後、護良親王の軍勢は赤松円心を先陣として京へ“凱旋”した。そして征夷大将軍に任命された。そしてその後すぐに、美嘉っちと護良親王の政争がはじまった。」

仁美「帝の廷臣たちからすれば、戦功著しい護良親王は目障りでしかない。それに帝も現状は足利を筆頭とする武士に支えられているから、表立って護良親王を擁護することもできない。美嘉っちとの政争なんて、どっちが勝つか見えてるってもんよ」

仁美「それに御親政は全く上手くいってない。どだい、皇族や公家に武士を飼いならせるはずがないし。これで全国の武士の不満を吸収し、統率すれば美嘉っちの天下は磐石」




あやめ「仁美さん、よろしいでしょうか」

仁美「どうしたの?あやめっち」

あやめ「それが、つい今しがた北条の残党が、鎌倉を占拠したとの報せが入りました」

仁美「つくづく時代は美嘉っちに味方するみたいね」

あやめ「どういうことですか?」

仁美「みてればわかる☆」

~御所~

美嘉「陛下!陛下!」

紗枝「どないしたんどす?そないに慌てて」

美嘉「のんびりしている場合じゃないよ。ついさっき、鎌倉が北条の残党に占拠されたって知らせが入った」

紗枝「え、北条は滅びたってうちは聞きましたけど…?」

美嘉「私はすぐに鎌倉に出陣するから」

紗枝「ちょっとお待ち…」

美嘉「待てないよ、待てるもんか!いまこの時期に鎌倉を占拠するなんて、朝廷に弓引くこと。つまり逆賊ってわけ。まさか朝廷が、逆賊を討伐しなくて良いなんて言うはずないよね」

紗枝「そ、それは…あっ、行ってしもうた」

~足利軍陣所~

仁美「ついに動いたね」

美嘉「うん、つくづく自分の運の良さにびっくりするよ」

仁美「とかなんとか言っちゃって。本当は北条の残党を野放しにしていたのは、これを予期していたからでしょ? 既に護良親王は朝廷内での政争で美嘉っちに追い落とされて孤立してるし」

美嘉「まだ油断はできないよ。とはいえ、こうなる前に護良親王の征夷大将軍位が剥奪されてよかったけどね。それより、今回の出陣は仁美も来てくれるんだよね?」

仁美「だからこうして陣所まできたの。一張羅の赤の具足も出してきたし☆」

美嘉「そうこなくっちゃ☆」

~箱根山・山麓~

斥候「申し上げます!北条軍は箱根の山麓に布陣しています。その数、およそ2万!」

美嘉「2万か、北条もここが正念場だからね。かなりの大軍を繰り出してきたか…」

仁美「美嘉っち、ここはアタシに先鋒をまかせて欲しいんだけど」

美嘉「それは別にいいけど、仁美の率いてきた近江軍はどれくらいの兵数だっけ?」

仁美「3千ってとこかな。けどアタシだけで敵を蹴散らせる自信はあるけど」

美嘉「へぇ、自信満々だね。そこまで言うのなら、“ばさら大名”のお手並み拝見ってとこかな」

仁美「まかせなさい。鎧袖一触。あんな敵、一撃で蹴散らしてみせる☆」

~佐々木軍・本陣~

仁美「亜子っちは騎馬隊を率いて敵の両翼を攻撃してくれる?深く突っ込む必要はないから。敵を動かして、陣形を崩したいの」

亜子「なるほど、小うるさく敵の前を走り回って、騎馬隊を蹴散らしたくさせるわけやな」

仁美「それからアタシが…」

~足利軍・本陣~

凛「仁美の軍が動き始めたね」

美嘉「まずは両翼から攻めるのか、騎馬隊だけで。しかも中央の敵は放置する…いや、敵が動き始めた」

凛「どうするの?これまずいんじゃない?騎兵もすぐに逃げはじめたし、仁美が直率してる徒立ち(かちだち)の兵も逃げ出してるよ」

美嘉「まったく、なにが一撃で蹴散らす、だ。よーし仁美を助けに行こっか。凛、出撃の合図を…ってあれは…」

仁美「ものの見事に引っかかってくれたね。迎撃するときはしっかり陣を組んでいるけど、勝ちに乗じて追撃に入ると陣形が崩れて長細くなる」

仁美「今だ、吉田隊に合図を!」

旗本「はっ!」
カーンカーンカーン

亜子「よし、鉦の合図がでた! これより我らは中入り(なかいり:敵の前衛と後続の間に割って入る戦術)を行う。然る後に味方の主力と共に、敵前衛を挟撃する!かかれっ!」

仁美「よし、全軍反転!孤立した敵前衛を殲滅する!皆の者、我に続けぇっ!」

佐々木軍「ウオオオオッ!御大将を討たすな!」

凛「すごい、敵の前衛が瞬く間に打ち砕かれてる」

美嘉「しかも潰走する敵はわざと逃がしてから追撃してるね…おっ、敵の本陣も総崩れになってる。凛、全軍に追撃の下知を。この勢いで箱根を越えるよ!」

~鎌倉~

凛「どうやら北条時行(ほうじょう ときゆき)は逃げ出したようだね」

美嘉「まったく情けない。諏訪頼重(すわ よりしげ)は自害したってのに」

仁美「美嘉っち、それに渋谷っちも、お疲れ様。ようやく鎌倉に戻ってこれたね」

美嘉「仁美、箱根での戦いは見事だったよ。それにしても、これでアタシは朝敵ってわけか」

仁美「うん。最終的には美嘉っちを征夷大将軍に任命せざるをえないと思うけど」

凛「そんな先のことより、目の前の問題を解決しようよ。たぶん朝廷では私たちに向けて討伐軍が組織されると思う。それをどう迎え討つかだよ」

仁美「それについては二人に話しておこうと思ったんだけど」

美嘉「え?なになに?」

仁美「いま京には塩冶判官高貞(えんや はんがん たかさだ)という佐々木一門の者がいるの。たぶん高貞っちも討伐軍に加わることになると思う」

凛「あー、そういうことか」

美嘉「なるほどね。仁美もつくづく悪だね」

仁美「そんな言い方やめてよ~」

~水呑峠(みずのみとうげ)~

幸子「フッフーン。カワイイボクが朝廷に叛旗を翻した逆賊・尊氏を懲らしめにやってきましたよ!」

幸子「あ、そうこうしてるうちに逆賊が峠に姿を現しましたね。さあ、皆さん突撃です!尊氏の首を持ってきた人には、恩賞はおもいのままですよ!」

美嘉「幸子はほんとに単純だね。とりあえず迎撃しよっか。凛お願い」

凛「私たちは峠の高所を占めてしるから、迎撃には好都合だよね。まあ、敵をここまでおびき寄せただけなんだけど」

仁美「とりあえず戦況をみて、機が熟したら合図を出すね」

美嘉「うん、お願い。よし、その間に騎馬隊を前衛の後詰につかせるか…」

幸子「う~ん、攻めあぐねてますね。まあ、敵が高所に陣取ってまともに戦おうとしないからですね。きっとカワイイボクに恐れをなしているのでしょう。わかります」

ウオオー オリャー

幸子「あれ?なんで後ろから喚声が聞こえてくるのでしょう…ってあれは味方が味方を襲ってますね。ど、ど、どうしよう裏切りだーっ!」




美嘉「よし、高貞さんが裏切ってくれたおかげで敵陣が大混乱に陥ってる。このまま騎馬全軍突撃だー!逆落としをかけろー!」




幸子「今日はこれで勘弁してあげます。カワイイボクは謙虚なので。これが“謙譲の美徳”ってやつ…プギャー。み、皆さんとりあえず北陸に逃げ…転進しますよ~!」

美嘉「凛、この際だから新田軍を徹底的に追撃して。この勢いで京まで攻め込むよ☆」

凛「わかった、すぐに追撃軍の編成をするね。負傷者は後陣に運び込むから」

仁美「よ~し、アタシも京に…」

美嘉「いや、仁美はこのまま鎌倉にいてくれる? 後詰をお願いしたいんだけど」

仁美「そういうことならまかせて。そうだ、京に入るときは琵琶湖を通ったほうが速いよね。すぐに近江に早馬をだすから。琵琶湖の東岸に舟を集めさせておく」

美嘉「お~、気が利くね☆ ところでさ、高貞さんの裏切りってどうやって諜し合わせたの?」

仁美「そりゃ勿論、京を出発する前よ」

美嘉「うげ~。やっぱり仁美は油断ならないね」

仁美「だってアタシは、佐々木道誉だから☆」ドヤァ

~京・御所~

美嘉「ただいま戻りました、陛下」

紗枝「……」

美嘉「どうしてアタシが逆賊扱いされなきゃならないのかな?朝廷のために尽くしてきたこのアタシが」

紗枝「そ、それは」

美嘉「わかってるよ。陛下が悪いんじゃない。陛下の側にいる者たちが悪いんだよ。丁度良い機会だから、今のうちに君側の奸は排除しないと」






美嘉「皇子とはいえ容赦はしません。大塔宮護良親王殿下の身柄をお引渡し願います」

~鎌倉~

あやめ「申し上げます!」

仁美「京で何か動きが?」

あやめ「はい。美嘉さんが京にて護良親王を処刑し、朝廷を掌握。その知らせを受けた新田義貞、楠木正成の両名はそれぞれ北陸・河内和泉で挙兵しました。京に向かっています」

仁美「そう、ついに始まったか。武士と朝廷の決戦が」

あやめ「それから、もうひとつ。陸奥守・北畠顕家が奥州軍を率いて西上を開始しました。その数約5万」

仁美「確かに北畠は朝廷最大の勢力だけど、いかんせん京から遠すぎる。奥州から京まで普通に歩いて20日はかかるし。それに美嘉っちも奥州を警戒して、多賀国府の北部に足利家きっての名将・斯波家長(しば いえなが)を配置しているし、京までの道筋には石塔(いしどう)や今川(いまがわ)といった有力な大名を配置している。どれほど顕家卿が戦上手だとしても、最低一月はかかるね。一月もあれば、新田も楠木も追い散らせるし、奥州軍を迎撃する準備も充分整えられる」

草の者「申し上げます!あやめ様!」

あやめ「どうしたのですか」

草の者「それが、北畠顕家率いる奥州軍が斯波家長を撃破。その後立て続けに石塔・今川を撃破し、破竹の勢いで京に向かっております!」

あやめ「奥州軍はいまどこに?」

草の者「申し訳ございません。あまりにも進軍が速すぎて、我らでも捕捉できません」

仁美「うそ!? 伝令や斥候よりも速い進軍じゃん。なんとかして美嘉っちに知らせなきゃ」

~京・加茂(かも)河原~

美嘉「楠木も新田もしつこいけど脅威じゃないね。あとは力攻めするのみ!」

斥候「申し上げます!東に新手が現れました。その数約5万」

美嘉「え?5万?そんな大軍一体どこから…その軍の牙門旗(がもんき:総大将の旗)は?」

斥候「それが……白旗に丸印。そして『風林火山』です……」

北畠顕家(脇山珠美)「どうにか間に合ったみたいですね」
  
珠美「皆の者よく聞け!いまこそ逆賊足利尊氏を討つ時ぞ! 我ら奥州の武士(もののふ)の意地、坂東武者に思い知らせてくれよう! いざ、剣を抜け!槍を執れ!わが同胞(はらから)、兵(つわもの)共よ!」
  
奥州軍「ウオオオオオオオッ!!」



凛「美嘉、だめだ敵が強すぎる。ここは京を捨て、西に逃げよう」

美嘉「くそっ!あと一歩のところだったのに…それにしても最低一月はかかると思っていたのに、わずか16日で駆け通してくるなんて」

~鎌倉~

仁美「いま美嘉っちはどこにいるの?」

あやめ「どうやら丹波(たんば)の篠村(しのむら)にいるそうです」

仁美「そう、篠村は足利家ゆかりの地だからね。そこで募兵をするのかも。朝廷軍はどうなっているの?」

あやめ「はい、奥州軍と楠木軍はそれぞれの領地に帰還しようとしています。新田義貞は帝より尊氏追討の勅命を受け、追撃を開始しました」

仁美「美嘉っち、ほんとに大丈夫かな?」

あやめ「しかし、播磨の赤松円心が美嘉さんに同心したようです。新田軍の追撃を播磨で食い止める、とのことです」

仁美「赤松は朝廷方だと思っていたけど…あ、そうか、そういえば倒幕での戦功に比べて恩賞が不当に少なかったんだっけ。すでに円心の子の貞範(さだのり)も、朝廷を見限って美嘉っちの麾下に加わっているし」

あやめ「赤松殿は播磨北部に白旗城(しらはたじょう)を築き、そこに篭城するみたいです」

仁美「ふーん。で、赤松と新田の兵力差は?」

あやめ「はい、赤松が2~3千。新田が5~6万です」

仁美「二十倍以上の差があるじゃん。なるほどね、千早城で巴っちがやったような戦を、円心もやるつもりか。まああの時は楠木軍が1千、幕府軍が10万だったけど」

仁美「よし、そうときたら、あやめっち、すこしお使いを頼まれてくれる?」

あやめ「なんでしょう?」

仁美「美嘉っちにこの手紙を届けてほしいんだ」


     『持明院に院宣あり』

仁美「それからというもの、美嘉っちの捲土重来には瞠目するものがあった」

仁美「京の大覚寺(だいかくじ)統の朝廷と敵対している、持明院(じみょういん)統の光厳(こうごん)上皇と盟約を結んだ美嘉っちは、院宣を携えて九州に渡った。一方、播磨では赤松円心が鬼神の如き戦ぶりをしめし、50日にわたって新田軍を足止めした」

仁美「九州に渡った美嘉っちは、多々良ヶ浜(たたらがはま)にて菊池武敏(きくち たけとし)を撃破。その後、九州の押さえとして一色範氏(いっしき のりうじ)を九州探題に任命し、九州の武士たちを傘下に加え、東上を開始した」

仁美「新田軍は兵糧の欠乏、そして20万と言われる足利軍の侵攻に、なす術もなく敗走した」

仁美「それを見かねた巴っちは朝廷の反対を押し切り、楠木一族を率いて湊川(みなとがわ)へと出陣した」

~湊川~

巴「ここはもう支えきれん。輿水、さっさと逃げろ」

幸子「カ、カワイイボクが負けるはずないでしょう。こ、この湊川を足利軍の墓場にしてあげますよ」

巴「アホなこと言うなや。ほんまに尊氏を倒せると思っとんのか…まあええわ、ウチが追手を打ち払うから、お前はさっさと逃げろ」

幸子「……あの」

巴「なんや?」

幸子「絶対に死んじゃだめですよ」

巴「……わかっとるわい、こんな辺鄙な場所で死ねるか。ウチは死ぬときは故郷の河内で、床の上で死ぬと決めとるんじゃ」

幸子「わかりました。必ず戻ってきてくださいね。このボクが、京で待っていてあげますから」

巴「わかったから、さっさと行け」

郎党B「そうですよ。お嬢の行くところ、たとえ火の中水の中ってね」

巴「そろいもそろって馬鹿ばっかりじゃのう。まあ一人でも多くの敵を、地獄への道連れにすることしかできんやろな。万が一、尊氏の首を取れんとも限らんし…」

~鎌倉~

あやめ「仁美さん仁美さん!」

仁美「新しい情報?」

あやめ「はい。湊川にて足利軍は朝廷軍を撃破しました。新田義貞は北陸へ落ち延びるようです。一方、楠木正成は新田軍の殿となり、奮戦の末、最期は一族郎党すべて自害いたしました。美嘉さんは京へ入り、帝は叡山の山門に逃れたとのことです」

仁美「よし、これで幸子っちは二度と立ち上がれないだろうし、残るは奥州の北畠だけね」

亜子「お~い、仁美さん。京から使者が来たで」

仁美「要件は?」

亜子「京に戻ってこいってさ」

~京~

仁美「おかえり美嘉っち。少し痩せたんじゃない?」

美嘉「ただいま。そりゃ痩せもするよ。京から九州まで行ったり来たりしたんだから。それよりもさ、アタシが留守の間、鎌倉のことありがとね」

仁美「別に礼を言われるほどのことはしてないよ。留守中にちょっと能に凝ってただけだから」

美嘉「あのねぇ。礼を言ったアタシが馬鹿だった」

凛「たのしくおしゃべりをしてるところ悪いんだけど、ちょっと良いかな?」

仁美「渋谷っちお帰り」

凛「ただいま。早速なんだけど、奥州の北畠がまた西上をはじめたみたい」

美嘉「一回だけならともかく、二回も三回も負けてらんないし。なにか術を打っとかないとないと」

仁美「それなら、アタシに考えがあるんだけど」

美嘉「よし、じゃあ聞かせてもらおうか」

~美嘉の居室~

仁美「良い?前回の戦いでは巴っちがいたけど、今はもう亡い。つまり奥州軍だけ見てれば良いってわけ」

凛「まって、北陸にまだ幸子がいるよ。以前に比べて格段に勢力が落ちてるとはいえ、油断ならないと思う」

仁美「渋谷っち、最後まで聞いてくれる? あのね、前回奥州軍は畿内に入るときは近江から、琵琶湖の舟運を利用したの。別の道としては琵琶湖の南側、つまり伊勢路があるけどあそこは悪路だから、軍勢の移動には向かない。だから今回の西上も近江を通ると思う」

美嘉「けどさ、顕家卿は非凡な用兵家だよ。こっちの裏を掻いて迂回してくることも考えられるじゃん」

仁美「それもそうだけど、アタシが思うに近江に来るのはもうひとつの理由があるの」

凛「それは?」

仁美「それはね、近江にて新田軍と合流すること。いま、この国においては朝廷方の勢力といえば奥州と北陸しかいない。それならば兵数の多いこちらに対して、わざわざ兵力を分散させることは自殺行為に等しい。」

美嘉「なるほど。なら、どうにかして奥州軍を伊勢路に誘い込めば、こっちが有利になるってわけか」

仁美「その通り。そして奥州から京にかけて、長い罠を張っておくの。奥州の斯波家長さんは勿論のこと、駿河の石塔、遠江の今川、美濃の土岐(とき)。あとは要所要所に渋谷っちを筆頭とする高一族の軍勢。これでもかってくらい軍を並べていれば、さしもの顕家卿も突破できないはず」

凛「作戦の概略はわかった。けどね、一番の問題はどうやって近江に入らせないかだよ」

仁美「アタシに秘策があるんだけど、これはかなり賭けの要素が強いと思う。だから採用してくれなくても良いよ」

美嘉「じゃあその秘策ってやつを聞かせてもらうよ。それに、これしきの賭けに勝てないで、何の天下だよってカンジでしょ」

仁美「かっくぅいい~! よっ!日本一☆」

美嘉「なんたってアタシは、足利尊氏だし☆」ドヤァ

凛「はいはい」

~近江・柏原城~

仁美「亜子っち、いまこの城にどれだけの銭が蓄えられているの?」

亜子「う~んそやね。この近江国からあがる一年分の税収に匹敵するぐらいはあるかな」

仁美「そっか、それだけあれば充分ね。悪いけど、それ全部使わせてもらうから」

亜子「え~っ!そんなぁ。せっかくここまで貯めたのに。これを元手にさらに商売を広げようと思ったのに」

仁美「アタシたちには琵琶湖があるじゃない。琵琶湖の舟運を我が佐々木一門が握っている限り、
あとでまたいくらでも儲けられるでしょ」

亜子「そうやけど…それで、今度は何を企んでるんや?」

仁美「亜子っちにも手伝って欲しいな。まずはね、護良親王か、
顕家卿と面識のある野武士とか溢れ者を探し出して欲しいんだけど…」

あやめ「それなら私に任せてください!」

仁美「ならそっちはあやめっちに任せる。それじゃあ亜子っちは、
倉の銭をいつでもどこでも輸送できるようにしてくれる?」

仁美「顕家卿率いる奥州軍は、やはり想像を絶する強さと速さを兼ね備えていた」

仁美「まず、奥州にて顕家卿を阻害し続けていた斯波家長が奥州軍に敗北し、自害に追い込まれた。
その後、立て続けに石塔、今川を破った奥州軍は美濃に進軍。
美濃の大名・土岐頼遠(とき よりとお)を筆頭に、細川頼之(ほそかわ よりゆき)、そして高師冬(もろふゆ)・師泰(もろやす)らの
高一族の連合軍が美濃で奥州軍と激突。しかし、わずか二刻で防衛線は突破された」

仁美「アタシたち佐々木軍は、近江番場(ばんば)にて布陣。
そこは北陸路の新田軍や、美濃路の奥州軍を迎撃できる位置だった」

~奥州軍・陣屋~

珠美「よし、あと一日で近江に入れますね。待っていてください陛下。
この珠美が必ずや、逆賊尊氏を討ち、京を奪回してみせましょう!」

斥候「珠美様、近江国境の山に野武士や溢れ者たちが終結しているようです。
その数およそ3万」

珠美「3万?なぜそれほどの野武士が…
相手は、こちらの進撃に抵抗する構えをみせていますか?」

斥候「はい、我らが近寄ると矢を射かけてきました」

珠美「くっ。われらが六波羅と戦ったとき、
多くの野武士たちと轡を並べてともに戦ったと言うのに」

伝令「申し上げます。前方の山から、野武士の代表を名乗る者がやってまいりました」

珠美「わかりました。すぐにお通しするように」

老武士「お久しぶりです。珠美様」

珠美「老武士殿ではありませんか。息災でしたか?」

老武士「つつがなく。さっそくですが、本題に入らせていただきます」

珠美「どうぞ」

老武士「単刀直入に言います。近江には入らないでください」

珠美「何故です?私たちは決して、領内を荒らしまわったりしません。
   あなた方に危害を加えることもしません。ただ、逆賊尊氏を討つために西上してきました」

老武士「ええ、それはわかります。しかし、これ以上戦を続ける必要があるのですか?」

珠美「今更なにを。私たちは倒幕の折、ともに戦ったはず。
   しかし今、尊氏は鎌倉幕府になりかわり専横を振るっています。
   この国の政は古来より朝廷が執り行ってきました。
   それが本来のこの国の政のありかたなのです。
   武士である尊氏が権力を握れば、
   また鎌倉幕府と同じことが繰り返されるだけです!」

老武士「私はあなたと政治論を戦わせに来たのではありません。
    よろしいですか。私たちは倒幕のために死力を尽くしました。
    しかし、帝の御親政を見られよ。命をかけた我らに対し、不当に少ない恩賞。
    そして今も戦は武士にまかせ、自身は豪奢な館で暖衣飽食を貪っている公家ども。
    こんなやつらのために何故戦わなくてはならないのです!?」

珠美「……」

老武士「どうか奥州にお帰りください」

珠美「わかりました。それなら、私たちは伊勢路を通ります」

老武士「待ってください。伊勢路には足利の大軍が待ち構えていますぞ」

珠美「ご忠告ありがとう御座います。それでも私は、京を取り戻さなくてはならないのです」

老武士「珠美様!」

珠美「さらばです。お健やかに」

~近江山中~

老武士「本当に頂いてもよろしいのですか」

仁美「ご苦労様でした。約束どおり、倉の中の銭は全部さしあげますよ」

老武士「ありがとうございます。これで我らも飢えなくてすむ…
    ところで、ひとつ聞いてもよろしいですか?」

仁美「はい、なんなりと」

老武士「どうして道誉様は、そこまで尊氏殿に尽くすのですか?
    それほどの忠誠心はどこから?」

仁美「忠誠心などではありません。美嘉っ…尊氏様は、アタシの大切な親友です。
   親友を助けるのに、理由が必要ですか?」

老武士「なるほど、そういうことでしたか。しかしまことに惜しい」

仁美「何がです?」

老武士「顕家様のお側にも、道誉様のようなお方がいらっしゃれば、
    あの方も違う生き方ができたかもしれません」

仁美「…アタシも、顕家卿には何の恨みもありません。
   それでも敵対しているのは、我が友の覇道の前に立ちふさがったこと。それだけです」


老武士「そういうことですか。戦いたくない者たちが戦う。
    人の世というものは、本当に悲しいものですね…
    道誉様、この御恩は一生忘れません」

仁美「良いのです。気が向いたときは、いつでも柏原城に遊びにきてくださいね」

仁美「その後、京を目前にして転進した奥州軍は、伊勢路へと向かった。
   満を持して待ち構えていた渋谷っちの伏兵に迎撃され、
   奥州軍は敗走し伊勢へと逃げ込んだ」

仁美「伊勢にて態勢を整えた奥州軍は各地を転戦し、石津(いしづ)へと進出。
   渋谷っちも大軍をもってこれを迎え撃った」

~石津~

珠美「敵軍の数は?」

側近「はい、およそ8万です。総大将は高師直」

珠美「我らは2百足らず。しかし、一矢報いることぐらいできるでしょう。
   無理強いはしません。戦列を離れたい者がいれば、
   何がしら路銀になるようなものでも持たせましょう」

側近「逃げたい者はとっくに逃げています。
   ここに残ったのは珠美様と共に死ぬ覚悟をした者だけです」

珠美「そうですか。しかし、あなたには生き延びて頂かなくてはなりません」

側近「それは何故に?」

珠美「ひとつは六の宮様を陛下の元にお連れすること。
   そしてもうひとつは、この文を陛下に届けて頂きたいのです。
   どうぞ、中身を読んでもらってもかまいません」

側近「拝読いたします」


『一、諸国の租を三年間免除すること
 一、官爵を重んじること
 一、朝廷内に跋扈する雲客・僧侶への接し方を改めること
 一、遊幸を慎むこと
 一、法令を厳にすること
 一、愚直の廷臣を排除すること
        ・
        ・
        ・                  』

側近「これほど激烈な上奏文は見たことがありません」

珠美「ですが、それが私の想いを丈を綴った文です。
   私は老武士殿と話をして、いろいろと考えました。
   私はこの国を想って戦ってきましたが、それはいたずらに戦火を拡大し、
   民を苦しめるだけだったのではないかと」

側近「珠美様…」

珠美「六の宮様と上奏文のこと、しっかりと頼みましたよ。それでは行ってきます」

側近「御武運を」

~京~

美嘉「おかえり凛、お疲れ。そして仁美もお疲れ様」

凛「ただいま……ふぅ」

仁美「ただいま戻りました。あれ、渋谷っち元気ないね」

凛「見事だったよ、顕家卿の最期は。2百足らずの騎馬隊で、真正面から突撃してきた。
  顕家卿なんて、本陣から顔がはっきり見えるくらいのところまで突っ込んできたよ。
  まあ、数で押し包んで討ち取ったけど。
  ああいう戦はあまりしたくないな」

仁美「けど、これで南朝の有力な勢力はなくなったわけだし、
   あとは奥州の残党を討伐するだけだね」

美嘉「うん、仁美の賭けに勝ってよかったよ。
   もし賭けに負けてたら、今頃京は失っていただろうし、
   もしかしたらアタシの首も胴から離れていたかもしれないしね」

仁美「これで美嘉っちの天下統一も、現実のものとして見えてきたね」

凛「問題は色々とあるけど。たとえば、この天下に二つの朝廷があることとか」

美嘉「それなんだよね~。将来的にはどうにかしなきゃならないんだけど」

仁美「ま、今は内側を固める時期ってところかな」


それからややあって


~美嘉の居室~

従者「美嘉さま。お客様がお見えです」

美嘉「誰?」

従者「それが、一色範氏様です」

美嘉「何で卯月がここに来るの!九州にいなきゃなんないのに…」

一色範氏(島村卯月)「うう、ごめん美嘉ちゃん。九州を追い出されちゃったんだ…」

美嘉「追い出されたって、誰に?」

卯月「それが、後醍醐天皇に懐良(かねよし)親王っていう皇子がいることは知ってるよね?」

美嘉「うん。確か消息不明だって聞いたけど」

卯月「それが、じつは伊予(いよ)に潜んでて、いきなり九州に渡ってきたと思ったら、
   いつの間にか肥後(ひご)の菊池武光(きくち たけみつ)さんと手を組んでしまって。
   とにかくとんでもない勢いなの」

美嘉「菊池っていえば、アタシが多々良ヶ浜で撃破してから凋落したって聞いたけど」

卯月「それが、懐良親王は帝から征西大将軍(せいせいだいしょうぐん)に任命されていて、
   それを担いだ菊池には錦旗が、つまり大義があるってことなの。
   それで九州の武士の一部が向こうに靡いちゃって」

美嘉「続けて」

卯月「菊池武光さんはとんでもない戦上手だし、
   懐良親王も並の武将以上の軍略家だし。それで負けちゃった」

美嘉「それじゃあ、いま九州は菊池と懐良親王のものになっちゃってるわけ?」

卯月「いや、今は少弐頼尚(しょうに よりひさ)さんが
   大宰府を支えてくれてるんだけど、早くなんとかしないと」

美嘉「大体状況はわかった。ここに凛と仁美を呼ぶから、
   今の話をもう一度詳しく話してくれない?」

仁美「美嘉っちから呼び出されたとき、
   九州探題に任命されたはずの卯月っちがいたからびっくりしたけど、
   もっとびっくりしたのは卯月っちから聞かされた九州の状況だった」

仁美「懐良親王と菊池家が手を結び、
   いまはほぼ九州全土が征西府(懐良親王の陣営)のものとなっている。
   大友や島津や少弐もかなり圧迫されているらいい。
   しかも、征西府は高麗と独自に交易を行い、巨利を得ていることも判明した」

~深夜~

凛「いま、卯月はどうしてるの?」

美嘉「奥で休んでるよ。九州からここまで休み無く来たみたいだし」

仁美「それで美嘉っち。九州はどうするの?」

美嘉「当然叩き潰す」

凛「今すぐは無理だよ。河内和泉で楠木の残党が暴れだしたみたいだし。
  それに、まだ謀反を企んでいる大名は少なからずいるよ。
  美嘉を倒せば次に天下を握れるって思ってる人は必ずいる」

仁美「でも、このまま九州を放置するわけにはいかないし」

美嘉「楠木だろうが謀反だろうが、
   何があってもアタシは九州を討伐するよ」

凛「え?」

美嘉「アタシ、思ってたんだ。楠木正成も、北畠顕家卿も倒し、
   この天下にアタシの好敵手たる人はいなくなってしまったって」

仁美「……」

美嘉「でも、そんなアタシの前に再び強敵が現れた。
   こりゃあ戦うしかないっしょ☆
   それに、九州を治めなきゃ天下統一したって言えないし。
   つまりぶつかるのが、早くなるか遅くなるかの違いしかないってわけ」

凛「でも、征西府は恐らく今までで最強の敵だよ。
  美嘉自身が出陣するなんて危険すぎるよ」

仁美「良いじゃん。渋谷っち」

凛「仁美まで」

仁美「美嘉っちはこれまで、自分の手で世の中を動かしてきた。
   主役ってやつよ。だから今回だけ指を咥えて見てろってのもおかしいでしょ」

美嘉「おっ!さすが仁美。良いこというね~☆」

凛「まったく…しょうがないな。
  でもちゃんと後顧の憂いを断って、万全を期した上でないと」

美嘉「わかってるって。そんなことよりさ」

仁美「なになに?」

美嘉「二人とも、これからもアタシについて来てくれる?」

凛&仁美「「もちろん!」」


おわり

読んでくれた人いたのかな?
本当は、
・道誉の白河妙法院焼討→猿の皮
・正成死後の四条畷の戦い
・師直と直義の対立 その他

などの事件があるのですが、話が膨らみすぎると思い割愛させて頂きました。

3分の2過ぎたところで『あれ、改行したほうが良いんじゃね?』
と思ったのはご愛嬌。


HTML化依頼してきます。

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