【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第36位【アラフォーマーズ】 (1000)

・京太郎主人公

・安価スレ

・某掲示板ネタ

・原作本編の10年後前後。京太郎はプロになってる(いた)

・基本ギャグ仕立て時々しんみりシリアス

・でも腹パンとか川落ちとか関係ない

・異名は「オカルトスレイヤー」。堅実な技術を持つオールラウンダー。闘牌時は非常に獰猛

・同じ大学(T大)なのは、江崎仁美・辻垣内智葉・弘世菫・小瀬川白望(2年上級生)
 鹿倉胡桃(浪人)・臼沢塞(浪人)・荒川憩(1年上級生)、原村和・新子憧(同級生)

・オカルトスレイヤーの愛称は、出演ドラマから
 超能力ヒーロー学園ものドラマ。超能力者に対抗する、唯一の魔法使い(物理)

・男友達は残念・不遇(古市孝之、花村陽介、シン・アスカ)

・ムエタイの達人。パルクール(フリーラン)を習得。ハンドボールやってたから多少はね?

・カピバラとは死別。死因は細菌性の消化器潰瘍。ピロリ菌。ゴキブリ殺す

・高校時代の最終成績は男子インターハイ個人戦2位

・チームメイトは、小走やえ・弘世菫・南浦数絵・清水谷竜華である(あった)




    須賀 京太郎 日[ ● ]本

   24歳 ♂ 184cm 76Kg
  『M.A.R.S.ランキング』 1位
    M.O.手術〝技術昇華型″
    ━オカルトスレイヤー━


※有志の方のありがたいまとめwiki

http://www54.atwiki.jp/ocltslyrkyo/pages/1.html

※ネタ拾って気軽に編集してくれると嬉しい所存


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416742376

※前スレ
【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 - SSまとめ速報
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391513849/)

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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1394111086/)
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396274421/)
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399901443/)
【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第34位【アラフォーマーズ】 【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第34位【アラフォーマーズ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401981633/)
【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第35位【アラフォーマーズ】 【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第35位【アラフォーマーズ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409065243/)

・安価を出して、安価先の内容を基に、
 そういう「そういう事があった」「そういうトピックのスレッドが立ってる」としてそれに絡めた話を書きます
 例えば安価先が【小鍛治健夜結婚】なら


引用元:【リアルババ抜き】 小鍛治健夜、結婚 【ターンエンド】

1 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
ソースはブログ。すこやんが男の手料理を食べたとかなんとか

2 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
すこやんみたいな干物が手料理をごちそうになる……これは結婚ですなぁ

3 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
やっとすこやんにも春が来たんだね……遅すぎるとしても

4 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
釣りかと思ったらマジだった

5 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
【悲報】ついに人柱がささげられる

6 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
勇者ありがとう。お似合いだよ……どんな人かはしらんけど

7 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
おめでとうすこやん!これで俺も安心できる

8 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
なんだこれは……たまげたなぁ

9 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
しつぼうしました。うえのさんのふぁんになります

10 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
ん、でもこれさ……この背景……スッガが出てる料理番組じゃないか……?

11 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
糸冬 了

12 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
やっぱりそんな都合がいい話がすこやんにあるはずがなかった


・と言う感じで、これならその番組ですこやんで絡んだシーンとか

・開始時の人間関係はフラットです。安価で人間関係が決まります

・安価についても、明示された部分以外にはキュゥべえ理論展開されたり

安価でお題を3つくらい募集
お題については以下

①いつもの掲示板形式
②掲示板によらない京太郎のオフの日の話
③高校・大学時代の話とか、作中で触れられたけどキンクリされた話(桃子のバスケ、やえタッグ)とか


一応のルールとか

【見出し系】
・基本、恋愛&マイナス結果確定系はNG
 状況なら確定系は可。
 例えば、『須賀プロ、○○プロと路上で口論』。
 但し、『須賀プロ、○○プロと路上で口論。その後、暴行』はNG
 同様に『○○プロ、須賀プロと共演。須賀プロを激怒させる』

・状況確定系でも恋愛関係確定はNG
 『恋人の○○と~』は駄目。
 『恋人と噂される○○と~』はギリOK
 あんまり恋人と噂が多いとなんか悪いこと起こるかもね

・順位確定系もアウト
 『須賀京太郎、M.A.R.S.ランキング2位に』みたいのは駄目

・暴行&下衆&鬱&エログロネタはNG
 AVデビューとかいじめ、強姦被害とか自殺とか薬物中毒とか元風俗嬢など。
 不良に絡まれたとかならまあよし

【ファンスレッド系】
・「○○プロ応援スレ」など
・一般人についてはNG

【質問、目撃スレ】
・「スッガと話したけど質問ある?」のような
・恋愛関係確定系はNG(彼女・元彼女など)


これ+同一IDの連続取得については再安価とします
なお、ズレて取得になった場合もこれにカウント
多重投稿の際は最も低いコンマを適用し、その投稿の数だけ範囲や安価先を下にズラします

好感度

★13+4★
大星淡:やたら絡んでくるアホの子ライバル。麻雀人生をやってもいいよ。甘いものやるから笑えよ。いや、お前なら判ってくれるかなって……

★13★
ハギヨシ:師匠にして友人にして悪友にして戦友。この人抜きじゃ生きていけない。大丈夫です! ハギヨシさんのためなら……俺……!
宮永照:強大な目標。勝負事では頼りになる人。なんか放っとけない。次こそは、勝つ……! なんですか、照おねーちゃんって……?

★12
辻垣内智葉:姐さん、一生ついてきます! 姐さんがいたからあの大学に……! あんまり苛めないで下さい
弘世菫:菫さんは最高です! 菫さんのおかげで戦えるんです! 菫さんを目標に大学決めました! 弘世先輩は最高です!

★11
宮永咲:気のおけない幼馴染み。絶対の目標にして憧憬を覚えさせた存在。タッグ戦、負けねーからな!

★9
松実玄:おっきくてやわらかい。軽く残念な人。中々、結婚したいんだけどな……
松実宥:なんでも共演。寒がり大変そう。正直おもちあるし結婚したい。玄さんにはお義兄ちゃん呼びでもいいかな
赤土晴絵:師匠! 師匠がいなかったら俺は……。負けませんよ、師匠
天江衣:ころたんいえーい。駄目です、そっちの道は! その……ハギヨシさんのことを労ってあげて下さい
新子憧:高校大学と、本当に世話になった女友達。いい女。何年後かで、フリーなら結婚したい。ファン1号

★7
小走やえ:頼りになる小走先輩だけど、やっぱ相棒としてやえさんのフォローもしないと……。だいぶ打ち解けたよなぁ
高鴨穏乃:元恋人。ありがとう……穏乃、本当にありがとう……。お前以外と付き合ってたら、多分俺はこうはなれなかったよ。ファン2号。かわいい
国広一:一さんといると落ち着くんだよなぁ……僕っ娘いいよな。あ、終わったら遊園地行きませんか?
姉帯豊音:大きな小動物可愛い。大天使豊音。酔うとやばいよこの人。今回ばかりは、負けない

★6
鶴田姫子:立てばセクハラ、座ればビッチ。歩く姿は猥褻物。付き合ったら痴女じゃなく……ならないよな、うん
鷺森灼:天の道を往き、総てを灼きつくす女。色々かわいい。今度は――俺が護るッ!
竹井久:部長がくれたあの言葉――俺は覚えてます。……悪癖も貰っちゃったけど。絶対このコンビはマズイ……

★5
三尋木咏:流石の火力っすね……三尋木プロは。ごめんなさい、俺もやりすぎました。いや、俺は全然オッケーですけど
エイスリン・ウィッシュアート:ニンジャは実在しない。いいね? もしかして俺、宮守の全員と知り合ったんですか?
小瀬川白望:思えば昔は色々あったよなぁ。あの、先輩……背中にのしかかられるのはちょっと……

★4
東横桃子:消えても追える。俺たち、バスケなら世界狙えたんじゃねーの? お前の場所判るからって、全力で急所狙ってくるなよ……
江口セーラ:ギャップにやられるかも知れない
清水谷竜華:おもちもちもち。頼りになるチームメイト。その眼はヤバイ。結婚したい。ナチュラル辛辣
荒川憩:先輩のおかげで、俺、かなり体もいいとこまで行きました! 先輩笑顔可愛い、癒される! 実際ナース服エロい
原村和:初恋……だったんだ。まあ、いい思い出って奴だよなぁ。フラグはない……? アッハイ

好感度その2

★3
池田華菜:KMG(華菜ちゃんマジゴッド)。正直男前過ぎて今すぐ告白したい。あ、あれから全部1位……ハハハ
龍門渕透華:すっげえスポンサー。結構めんどくさ可愛いし、いい人。あのー……智紀さんからの提示連絡とレポートって一体……
沢村智紀:巨乳メイドマネージャー。でもなんか寒気がする……。その、なんの……レポート……?
花田煌:聖人。デートの約束ですよね? ……あ、照さんとのコンビっすか
南浦数絵:一緒に戦う仲間。大丈夫だって、前に言ったよな? その辛辣キャラは……。お祖父さんに言い付けるのは……
片岡優希:いい女になったな。大丈夫か? M.A.R.S.ランカー相手はキツいぞ?
渋谷尭深:大学時代紹介されたし、おもちあるしおしとやかでタイプ……なのになんだか寒気する
鹿倉胡桃:かわいい真面目な先輩。先輩、充電って……アッハイ
臼沢塞:頼りになるお姉さん先輩。臼沢先輩、今度はどこへ遊びに行きます?

★2
亦野誠子:お互い大変っすよねー……今度、海釣り行きましょうよ!
対木もこ:小動物可愛い
夢乃マホ:可愛い可愛い後輩。何かあったら、今度こそは俺が止める
江崎仁美:先輩の適当さに、結構俺って癒されてたんですよ? 政界、おめでとうございます!
愛宕洋榎:当意即妙。いや、流石にお笑いはやりませんから……
瑞原はやり:なんか目がマジな話怖い。光がないんだもん
小鍛治健夜:アハハ……ハハ……
野依理沙:怒って……ませんよね……?
戒能良子:JOS(実際・おもち・凄い)。解説でのフォローありがとうございます……。うちの部長が……
上重漫:JOS(実際・おもち・凄い)。その節はどうもお世話に……
佐々野いちご:うおっ、本物のちゃちゃのんだ!? ドラマの際は大変お世話になりました

★1
愛宕絹恵
染谷まこ
加治木ゆみ
新免那岐
福路美穂子
白水哩
薄墨初美
石戸霞
滝見春
狩宿巴
井上純
園城寺怜
船久保浩子


/     ,     /   /   / /             |   |  :.   .   :.
    /     /   /    '    |   |     |   |  i|   |    .
  イ        '   /|    /|  l   |   |     |   |  l|   |    |
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 ' 〃         |   |  | |   ト,  :     /| /| /|    '  ∧|
/ / .'   ,:  ' Ⅵ |_'. |  | |   | l   |     ' }/ }/ :  /  .イ `\     ┌ 、_____________
{/ /   / /  / {  |  Ⅵ≧!、,|   | 、 |   _/ム斗七    /:. / }'       ノ                       ヽ
 '   ,イ / | { 从 | イ  {::しメ∧   l  Ⅵ   イ {::し刈 `ヽ'  ' }/       <  ――祈れよ、せめて人間らしくな   |
'  / /イ Ⅵ :.  Ⅵ    Vzり \  、 }  /  Vzり   }/  /         ヘ________________ノ
/        | 从   |            \ ∨/        ,  /
       _∨∧ :.             ` \           ,:_ノ> 、_
 ,  <.:.:.:.:.:.:.:.:{/{{`∧         、              /  }}.:.:.:.:.:.:.:> 、
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                                           |     須 賀  京 太 郎  | ● |      |
                                           |                     ̄ ̄      |
                                           |    25歳 ♂  184cm 76kg         .|
                                           !                           .|
                                           |     『マーズ・ランキング』元1位      .|
                                           |   M・O手術  “ 技術昇華+不運 ”   .. |
                                           |     ━ オカルトスレイヤー ━       |
                                           \_________________/



☆スキル
>『爽やかな笑顔』
>女性キャラと(ゲーム的には初登場)遭遇時の判定について
>内容や判定に正の補正が加わります

>『プロ並のシュートセンス』
>スポーツや運動関連の判定について
>内容や判定への正の補正が加わります

>『愚行権』
>彼は本当の意味での凡人だ
>運があろうが実力があろうが、とにかく分かりやすい華はない
>因縁めいた偶然なんて存在しない
>物語の補正なんてのは、ない
>だからこそ、普通と違う誰かには、もの珍しく映ったり……
>【……思考が常識離れしている相手の好感度に影響】

>『反響定位』
>舌打ち音の反響により、無視界でも通常通りの活動が可能
>音感関連の判定や『反響定位』が活用可能な判定について
>内容や判定への正の補正が加わります

>『マッハ!!!!!』
>大学時代限度ギリギリまで打ち込んだ古式ムエタイの成果
>立っている人間の肩を足場に走れる、肘でヘルメットを割れる等々……
>タイってスゲー。仏像や象さんに手を出すのはやめよう
>格闘やアクション判定について
>内容や判定に正の補正が加わります

>『舌使いが上手い』
>種を残して食べたサクランボを舌で結べる程度には舌の使い方が上手く、繊細で精密
>味覚を用いた判定や舌を使用する判定について
>内容や判定への正の補正が加わります

2位 「闇を裂く雷神」 宮永 照
ベーススタイル:『技術昇華+運+オカルト』

攻撃力:30+?/60 防御力:30+?/60 速度:30+?/60
技術:45/60 幸運:30+?/60 気力:60/60

・『レーダー:照魔鏡(0)』
・『闇を裂く雷神(0)』
・『レイン・ハード(10)』
・『闇を裂く雷神(20)』


3位 「赤き腕を持つ帝王」 荒川 憩
ベーススタイル:『技術昇華+オカルト』

攻撃力:50/60 防御力:60/60 速度:35/60 
技術:45/60 幸運:50/60 気力:60/60
※(35+45)/2+50=90 コンマ10以上にて聴牌
※50×(50+45/2)=3650 これをコンマ一桁倍

・『赤き腕を持つ帝王(0)』
・『赤き腕を持つ帝王(5)』
・『赤き腕を持つ帝王(10)』


5位「爆ぜる報仇の女王」 宮永咲
ベーススタイル:『技術昇華+運+オカルト』

攻撃力:55/60 防御力:40/60 速度:40/60
技術:40/60 幸運:50/60 気力:60/60
※(40+40)/2+50=90 コンマ10以上でテンパイ
※55×(50+40/2)=3850 これをコンマ一桁倍

・『爆ぜる報仇の女王(0)』
・『爆ぜる報仇の女王(5)』
・『怒れる大天使の鉄槌(10)』
・『???』


7位「退くことなき双剣の騎士」 小走 やえ
ベーススタイル:『技術昇華+運+不運』

攻撃力:45/60 防御力:45/60 速度:40/60
技術:55/60 幸運:35/60 気力:60/60
※(40+55)/2+35=83 コンマ17以上で聴牌
※45×(35+55/2)=2835 これをコンマ一桁倍

・『退くことなき双剣の騎士(0)』
・『退くことなき双剣の騎士(10)』


8位「神眼の拳闘家」 清水谷 竜華
ベーススタイル:『技術昇華+運』

攻撃力:60/60 防御力:45/60 速度:35/60
技術:55/60 幸運:40/60 気力:60/60
※(35+55)/2+40=85 コンマ15以上にて聴牌
※60×(40+55/2)=4050 これをコンマ一桁倍

・『神眼の拳闘家(0)』
・『神眼の拳闘家(10)』
・『神眼の拳闘家(15)』


9位 「悪魔の天敵」 辻垣内 智葉
ベーススタイル:『技術昇華+運』

攻撃力:40/60 防御力:40/60 速度:60/60
技術:50/60 幸運:40/60 気力:60/60
※(60+50)/2+40=95 コンマ5以上にて聴牌
※40×(40+50/2)=2600 これをコンマ一桁倍

・『悪魔の天敵(15)』
・『神速(0)』

10位「夢を盗む天使」 エイスリン・ウィッシュアート
ベーススタイル:『技術昇華+オカルト』

攻撃力:30/50 防御力:35/50 速度:35/50
技術:40/50 幸運:40/50 気力:60/60
※(35+40)/2+45=78 コンマ22以上にて聴牌
※30×(45+40/2)=1950 これをコンマ一桁倍

・『夢を盗む天使(0)』
・『夢を盗む天使(10)』


12位「天上の荒武者」 弘世 菫
ベーススタイル:『技術昇華+運』

攻撃力:30/50 防御力:40/50 速度:40/50
技術:50/50 幸運:40/50 気力:60/60
※(40+50)/2+40=85 コンマ15以上にて聴牌
※30×(40+50/2)=1950 これをコンマ一桁倍

・『天上の荒武者(0)』
・『シャープシュート Mk.Ⅱ改 トランジスタ・スライダーICBM(5)』


15位「視えざる空の支配者」 南浦 数絵
スタイル:『技術昇華+オカルト』

攻撃力:40/50 防御力:40/50 速度:30/50
技術:50/50 幸運:40/50 気力:60/60
※(30+50)/2+40=80 コンマ20以上にて聴牌
※40×(40+50/2)=2600 これをコンマ一桁倍

・『視えざる空の支配者(0)』
・『視えざる空の支配者(10)』


44位「蒼い血の死神」 大星淡
ベーススタイル:『技術昇華+運+オカルト』

攻撃力:45/60 防御力:30/60 速度:40/60
技術:40/60 幸運:45/60 気力:60/60
※(40+40)/2+45=85 コンマ15以上にて聴牌
※45×(40+40/2)=2700 これをコンマ一桁倍

・『蒼い血の死神(0)』
・『蒼い血の死神(5)』
・『蒼い血の死神(10)』
・『???』

Majan Atomosphere and Realm Suitability Ranking (麻雀の場と状況に於ける対応力ランキング)

第1位:“人類の到達点”
第2位:“闇を裂く雷神”宮永照
第3位:“紅き腕を持つ皇帝”荒川憩
第3位(同率):“武神”
第5位:“爆ぜる報仇の女王”宮永咲
第6位:“国産戦闘鬼”天江衣
第7位:“退くこと無き双剣の騎士”小走やえ
第8位:“神眼の拳闘家”清水谷竜華
第9位:“悪魔の天敵”辻垣内智葉
第10位:“夢を盗む天使”エイスリン・ウィッシュアート
第11位:“”
第12位:“天上の荒武者”弘世菫
第13位:“”
第14位:“”
第15位:“視えざる空の支配者”南浦数絵
第44位:“蒼い血の死神”大星淡




【プロになったはいいけれど……】


 


引用:【麻雀】ちょっとお前らに聞きたいんだけどさ【プロ】

1 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
須賀プロって覚えてる?やめちゃったけど

2 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
誰?

3 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
アクション俳優だっけ?

4 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
そんな奴刹那で忘れちゃった

5 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
おい、あんた……ふざけたこと言ってるんじゃ

6 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
やめろ、>>5っちゃん!

7 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
実際だれ?

8 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
プロも次から次へと出てくるからな。よっぽど成績よくないと覚えてらんないよ

9 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
プロになったはいいけれど、そっから辞めて消えてった人ってどうなるんだろうな

10 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
稼ぐだけ稼いでいなくなるんじゃねーの?

11 名前:名無しさんリーチ 投日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
死んでなきゃいいな……

12 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
そんなことよりあわあわの話しようぜ

13 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
今度結婚だっけ?一般人男性と

14 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
宮永世代も次々結婚してくな

15 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
いえーい、すこはや見てるー?

16 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
宮永世代結婚って言うのに、肝心の宮永姉妹が未婚って言うのも複雑だな

17 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
すこはやコース待ったなし!

18 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
あ、iPSがあるから……

 



 そんな掲示板から同時か、或いは前後して……。

 ――東京都、練馬区。


「お待たせしました、エスプレッソです」


 気配を感じさせぬ足取りの青年が、静かにコーヒーカップをオーク製のテーブル上へと差し出した。

 刈り上げ頭の中年男性は無言で会釈しそれを受けとると、磨かれたスプーンを摘まんで黒い水面に波紋を立てる。

 その間に、青年はその場を離れていた。軽やかな足取り。

 滑らかに色を沈める黒色のカマーベスト。染み一つ無い白色のウィングカラーシャツの首許からは、くすんだ赤色のタイが逆扇形に胸元まで垂れる。

 黒いズボンのウェイターの出で立ち。銀盤を抱えたその姿は、しなやかな手足の長身と合わせて実に様になっていた。

 だというのにも余りにも――気配が薄い。

 店名が冠した西洋骨董家具を思わせる格調のある、しかし決して嫌味過ぎない店内の色に実に合っている。それこそ絵や背景の一部だ。

 良く見れば断じて自己主張に乏しき平凡な外見などではなく、整っていると言っていい目鼻立ちであるのだが……。

 ある意味では、見事に喫茶店の店員をしていると言える。


「店長、買い出しに行ってきます」


 目の細まった、人の良さそうな笑顔の初老の男性――店長に笑いかける青年。頭を下げて、静かに店を後にする。

 その後ろ姿を眺めていた黒髪の同僚は、青年の名を呟いて店長である白髪の老人に問い掛けた。

 客足がある程度落ち着いたが故に、ふと手持ち無沙汰になったのである。 


「ずっとアルバイトをしてるんですか?」

「いや、社会人をしていたけど……身体を壊しちゃったようだね」

「身体を……」


 再び呟く。

 読書家のその店員は、改めて青年を思い返し値踏みする。これが小説ならば彼はどんな形容詞で語られるだろう。

 月並みであるが――「猫科の猛獣のような」であろうか。

 人間には二足歩行特有の淀みや溜めがあるというのにまるで重力を感じさせない、しなやかな同僚店員の足運びを思い返しながら青年と呼ぶにはまだ年若い風情の少年は首を捻った。

 同僚の金髪の青年が、身体を何処か庇っている風には見えなかったのだ。

 ただ、あの柔和な笑みの向こう側には何かしらの苦悩があったのだろう。自分のそれと同じように。

 黒髪の少年は、眼帯越しに瞳を押さえた。




 段々と秋模様から、冬へと様相を変える街路樹の元を忙しなく人々が行き交う。

 並木で整えられた街角はしかし、大型の液晶ディスプレイや蛍光色の看板や電光掲示板や雑居ビル等と合間って、何とも奇妙な外観を整える。

 その一角で、ある店のウィンドウを前に足を止める人影があった。


「あらら、ここも禁煙か」

「よ、シゲさん」


 シゲと呼ばれた白髪の老人が青年を視界に収め、煙草を片手に困った風に眉を寄せた。


「今日日はどこも吸えないな」

「そりゃまあ、麻雀界も長らくイメージアップを図ってますからね。煙草だの酒だのからは、離れたいんじゃないですか?」


 街頭の大型ヴィジョンに映される、衣装を身綺麗に纏めた女性麻雀プロを片目に青年は苦笑した。

 街のあちこちの美化が叫ばれた今日では、それこそ喫煙者は肩身が狭い。

 青年も嘗ては小洒落た煙管などを片手にしていたものだが、職を辞すにあたって全て処分ずみ。紫煙なんてのは、喫茶店の客のものしか目にしない。


「美化もいいが、足りないな」

「足りない……ですか?」


 聞き返す青年の言葉に、老人は仄暗い緊張感と、えも云えぬ棘棘(おどろおどろ)しさの混じった幽鬼の微笑。


「懸けているという感覚が……! ひりつくスリルが……博打が足りないっ……!」


 危うさを孕んだ喜悦の収まる老人の哄笑。

 好好爺という風情ながらも、醸し出される雰囲気には只者ではない――――人智を超えた闇の領分が覗く。

 しかし対する青年にも慌てた様子はなく、ただ意味深なその目線を書き消すが如く顔の前で手を振った。


「いや、そう言われても……俺、麻雀は打てないんで」

「ほう」

「医者から、身体に悪いから止めろって言われたんスよね」


 真実とも冗談とも取りかねる口調で青年が笑えば、老人も愉快そうに喉を鳴らす。


「そうだったな、京ちゃん」

「はい。……人気種目だから、残念ですけどね」

「あァ、残念だな……俺好みではあったんだけどな」

「……」


 老人のその声色は心底惜しむ響きあり、青年もまた無言で応じた。



「あぁ、そういえば……」

「どうしたんすか?」

「“魔法”を喰う奴が出たらしいな。裏でも話題になってる」

「……“魔法”?」

「麻雀の“魔法”だ」


 かつてのハイファンタジーや映像での魔法使いは、実に万能で普遍的な存在であった。

 別段の術理や方程式なく、思うがままに超常の結果を引き起こした。

 ところが昨今ではそこには因果があり、法則がある。細かい規定や規制もある――――というのを、麻雀での超常に当て嵌めて揶揄した様である。


「“魔法”なんて、そんなオカルト有り得ませんよ」

「オカルトか……ククク、そういえばそうも呼ぶな」

「……」

「……まぁ、麻雀を打たない京ちゃんには関係ないか」


 ――今度フグでも食いに行こうや。

 そう言い残して背中越しに手をあげると、咥えた煙草を所在なさげに指に挟んで老人は去っていく。

 残された青年は、暫しその老人の背中を見詰めた後にやおら顔を上げた。

 視線のその向こうは、先ほど一瞥した大画面の街頭ヴィジョン。


「……勝ったのか、咲」


 小さな呟きは誰に聞かれるまでもなく雑踏に消える。彼の持つ存在感に等しかった。



(……ん?)


 ふと、視界の端に映ったものに、青年は顔を向けた。

 彼と同じように、スクリーンを見やる小さな影。未だ年若い少女。

 年の頃は、中学生か小学生か。少なくとも高校生とは思えない。……何事にも例外はあるが。

 藍色の毛先が肩にかかるかかからないか程のショートヘアー。耳や眉が隠れるほどの長さはある。

 上野のアメ横ででも売ってそうな虎の刺繍の入ったジャンパー。ショートパンツの殆どは、余ったジャンパーの丈に隠されていた。

 突っ掛けた薄汚れた白黒のスニーカーからは、どことなく少女の家庭事情が窺える風である。

 ――何よりも。


「……」


 医療用の眼帯で片目を被っているのが、やけに痛々しい。

 暫く流れる映像を見送った後に、その少女はまたどこかへと足を向け歩き去っていった。

 青年は思案顔の後、


「……げ、買い出し途中だった」


 同僚の少年が着けている眼帯に似た少女のそれから、仕事と自分が抱えた荷物を思い出すと、スクーターに跨がった。

 この青年の名を、須賀京太郎と云った。かつての日本男子麻雀プロである。




 ◇ ◆ ◇


「……ただいま、と」


 される事もない返事を理解しながら、青年は電灯のスイッチを倒した。

 十畳一間。

 キッチンはなく、風呂場とトイレに繋がる向かい合ったドアから玄関を正面にした手前側、廊下の半ばに調理場所がある。コンロは二つしかない。

 居間の隅に畳まれた布団と、段ボールから顔を出す幾ばくの本。

 家具と言ったらあとは部屋の中央に置かれた小さな茶色の四角いテーブルと黒いメッシュカバーの座椅子。パソコンもテレビもない。

 こじんまりと纏まった部屋。他には、維持費が掛かるのでバイクも処分した。


「あいつ、来てたのか」


 ベランダに出て洗濯物を取り込みつつ、空になった銀のトレーを見て笑う。

 初めて出会ったときはやけに警戒心が強い奴だったが、餌を食べるぐらいには打ち解けてくれたらしい――と、今この場にはいない短毛の奇妙な知り合いを思い返して京太郎は笑った。

 布団を敷いて、冷蔵庫のタッパー――作りおきされた炒めものを暖め直し手を合わせる。

 箸の音の他には、時々隣家の喧騒が聞こえる程度に静寂に充ちた部屋。


「御馳走様……と」


 手を合わせて、タッパーをシンクに並べる。

 代わり映えのない、無味乾燥な一日。今日と明日の違いなど殆ど存在せず、植物が過ごす時間の様に変化のない毎日。

 それでもこの生活は、平穏だった。

 軽くストレッチを済ませて布団に潜るまでには午後二十三時を回っていたが、それでもこれまでに比べたら随分早い就寝だ。


「麻雀、か……」


 虚空へと伸ばした指先が霞む。

 離れて幾ばくか。それは、あまりにも遠く隔たってしまっていた。

 暫し寝転がって開いた右手を見つめていたが、いつの間にか指先は丸まり、畳まれた肘。

 伸びを一つ、欠伸をして布団を被る。


「……ああ。今度、父さんと母さんの墓参りにも行かなきゃな」


 果たして休みは貰えるかと呟きながら、須賀京太郎は蛍光灯を落とした。



 カーテンから漏れる、僅かな薄明かりに照らされる室内。遠雷が如く、鉄道の音が時折宵闇の静寂に咲く。

 二十四時間働き続ける自動販売機と、夕暮れから上番する街灯。あとは時偶通り掛かる車以外の明かりは、外にはない。

 幾ら東京と言っても、住宅街ならこんなものだ。

 しかし彼の故郷の長野と異なるのは――東京は、その土地自体が明るい。だから夜の闇だって、どこか白ずんでいる。

 そんな、星と虫以外が作り上げる静かで煩くて柔らかな夜を前に、京太郎も僅かに瞼を上げた。

 それから、半眼で眉を寄せ虚空を睨む。


(魔法喰い――あの言い方からすると多分、原理は判らないけどマホみたいに相手のオカルトを奪うタイプか)


 どのタイミングで奪うのか。局の途中か、勝ってからか、はたまた一度でも見れば可能か。

 奪った技の組み合わせは可能なのか。一度使った技を二度使えるのか。

 そこまで考えて、京太郎は首を振った。


(……意味ないだろ、こんなの)


 もう、以前の様には打てない。

 次に目に何かあったのなら――その時は本当に失明を免れないと、医者から何度も釘を刺されていた。

 魔法は解けた。人間が怪物相手に踏みとどまれていた、最後の砦は失われたのだ。


(眼精疲労ってのも馬鹿にならないんだな)


 事実を突き付けられたとき、京太郎はその様に何処か他人事の様に呟いた。

 二度と麻雀が打てなくなるというのは、それほどまでに彼にとっては遠い世界の出来事だった。

 そこから引き継ぎを終わらせて、彼は舞台を去った。それから舞台の登場人物たちと、顔を合わせてはいない。

 幾人かは彼を案じた申し出もあったが、全て断った。須賀京太郎は、文字通り舞台を降りたのである。

 それまでの生活に関わるものからは遠ざかった。

 何故そうしたのかは彼自身判らないが、結果訪れた日々は思いの外平穏な毎日であった。


 ――それでも、一つだけ残ったとしたら。


 彼は僅かに目を閉じ、


(咲、お前が俺の……最後の希望だ)


 小さく微笑んだ。


 画面越しに眺めた、皆から囲まれて声援を受けて何とも困った様に身を固くするあの幼馴染みの姿が思い出されれば、胸が暖かくなる。

 そんな彼女と一時は並んで立っていたという事実が、一度は全力、全身全霊で戦ったという事実が何とも誇らしい。

 その想い出だけで、十分過ぎるほどお釣りがくる。

 だからもう、須賀京太郎は麻雀から離れられた。そこには何の因縁なんて、存在していないのだ。

 幕は下ろされた。須賀京太郎の物語は、これで終わったのだ。




 ……そう。麻雀プロとしての、彼の物語はこれで終わった。

 ここからの奇跡の復活も、運命の大逆転も存在しない。

 素敵な劇の様に、散りばめられた伏線は回収されない。努力が必ずは報われない。

 運命は彼に何も与えない。

 ただ一つ、運命から須賀京太郎に役割が与えられていたとするならば――。

 彼女を、宮永咲を、あの日あの場所で麻雀部に連れていき、再び麻雀の世界に送り出す事だけだった。

 それから先、運命は彼を不要とした。役割を終えた役者に許されたのは、精々が賑やかしの背景代わりだけ。

 故に、運命が与えた彼の物語は終わりだ。否、初めから終わっていたのだ。

 運命は歯車を廻さない。舞台は彼抜きでも廻り続ける。

 因縁なんて存在しない。

 誰も彼に、宿命なんて与えない。

 唯一あるとしたら、舞台を降りた平穏だけ。

 プロになったはいいけれど、その物語もこれで閉幕。


 ――――運命はただ、平穏だけを彼に授けた。



                                 ――了
















 ――だからこれは、蛇足である。


 




 ――そう、運命は彼に何も与えない。

 ――彼もまた、運命などは必要としない。


 いつだってそうだった。運命は彼を助けなかった。運命は彼を救わなかった。

 彼は、いつだって自分の手で掴みとって来たのだ。


 だから――


(因縁があるかないとか、そんなの関係ない)


 そう、だから――


(そこに泣いてる奴がいるなら――どうしたんだよ、運命なんて)


 だからこそ――


「――ここからは、俺のステージだ」


 ――運命が作らないなら、自分で作ればいい。

以上本編全体エンディング

以下、TRUEルートかつ新子憧エピローグ




【東京雀種 : re】


 



  ◇ ◆ ◇



 彼は誰よりも真剣だった。彼は誰よりも麻雀を愛していた。たとえ運命の女神に愛されなくとも。


                                               ――――麻雀プロ 弘世菫(28)、インタビューより


  ◇ ◆ ◇


 ――東京都、練馬区。

 季節が秋から冬へと移り変わる証として、日差しは嘗ての強さを失う。

 しかし未だに本格的な冬仕度には早く、ともすれば晴天の日などは薄着でも背に汗を滲ませるほど。

 透明度の薄れた秋も終わりの空、店名に冠した西洋骨董家具を如実に表したほの暗く落ち着いた雰囲気の店内から、金髪の青年が窓外を見上げた。

 整った目鼻立ちに滲むのは明朗さと柔和な人の良さ。

 身綺麗に纏められた背格好からは、社交性が後ろに見える。

 身に纏うは、滑らかに色を沈める黒色のカマーベスト。染み一つ無い白色のウィングカラーシャツの首許からは、くすんだ赤色のタイが逆扇形に胸元まで垂れる。

 黒いズボンのウェイターの出で立ち。銀盤を抱えたその姿は、しなやかな手足の長身と合わせてなるほど実に様になっていた。


「須賀さん、どうかしたんですか?」

「ん、いやーこれが秋晴れってのかなって」


 もう冬に近いけどな、と笑う青年に同僚の眼帯の少年は同じく苦笑で応じた。

 店内の人影は疎ら。

 店員の数と客の数がおおよそ等しいほどしかいない。

 働いているのは青年と少年。

 他には善人然と目を細めた白髪頭の喫茶店の店長と、団子鼻の洒落っ気に充ちた青年、人を寄せ付けぬ雰囲気で黙々と豆を挽くセミロングの黒髪の少女。

 足運びに合わせてそれとなく利用者に目を配る青年は、カップの空き具合などと共に其々の客の関係性を伺う。

 誠実そうな眼鏡の青年と両目の下にいくつも続いた泣き黒子が特徴的な少女――会話から察するに教師と生徒。

 胸部が豊満な美人と中性的を通り越して女性的な少年――話を鑑みれば叔母と甥。

 癖の強い黒髪に黒縁眼鏡の男性と理知的そうな少年――こちらは伯父と甥。

 たかが喫茶店の客一つとっても人間模様というのは様々で、なるほど確かに人を見守るという意味でこの仕事はというのは実に向いているのかも知れない。

 などと心中で嘯きかけた青年は、続く新たな来客を知らせるベルにドアへと顔を向け、


「いらっしゃいませ――、……え」


 にこやかな表情のまま、硬直した。


「禁煙席。一人」


 店内に足を踏み入れたのは、眼鏡をかけた怜悧な美人。肩ほどでカールした栗毛。

 見た者は、彼女に対して隙のない硬質の精密機器のような印象を抱くであろう。

 その所作と佇まいからは機能美が滲み出る。鉄の女、という評価なら強ち外れてはいない。

 レンズの奥の不機嫌そうな半眼も眉間の皺も、却ってその優秀さを際立たせていた。

 そんな彼女の視線は、店員の青年を見るとき更に尖る。

 浮気して別れた元伴侶に、怒りも冷めやらぬ内に中々納められない養育費を取り立てに行くとするならば――女はきっとこんな目線を送るであろう。

 そんな、ある種の手本めいた厳めしい双眸。

 やがて注文のコーヒーを運んで行く際も、店員は何処と無く居心地が悪そうであった。


「……船久保さん、あの、どっからここを」

「記者が情報知らんで、誰が知ってはるんやろうなァ」

「……」


 女性客――船久保浩子の冷たい呟きに、店員の青年は尚更萎縮した。

 普段余り見られない青年のそんな態度に、同僚たちは俄に注意を向ける。

 立つ瀬がないとでも言わんばかりに落ち着きをなくした青年と、彼にあまり目を合わせずに振る舞う女性。

 事件と言うには大袈裟過ぎるが、受け流すには重過ぎる。


「お久しぶりさんです、須賀元プロ」

「えっと……その……お久しぶりですね、船久保さん」

「……浩子でええってゆーてますやろ」


 声には若干の呆れとも諦めともつかぬ色が混じったが、それでも依然として固いまま。

 差し出されたコーヒーカップに目を落としたまま、船久保浩子はぼそりと漏らした。



「まさかかつての日本一が、こんなとこで働いとるなんてなぁ」

「いい店っすよ、ここ」

「……そりゃまあ、見りゃあ判ります」


 軽く店内を見回した船久保浩子は、深い息を漏らしながらもコーヒーに口を付ける。静寂を、嚥下の音が濁らせた。

 対する須賀京太郎は、直立のまま所在なさげに視線を漂わせる他ない。


「えっと……船久保さん……?」

「浩子でええ、ゆーてはりますやろ。須賀……あー、元プロ」

「じゃあ、俺の事も元プロって呼ばないで下さいよ」

「あー、そりゃすまんこって」


 そこで会話が途切れる。

 口にしたは良いものの、互いに相手をなんと呼んだら良いのか図りかねている風でもあった。

 それとなく、青年が視線を外す。他の席に何かないのか、窺う風に――そこへ。

 やおら、女性は切り出した。


「……ホンマにもう、こっちの業界に戻るつもりはないみたいですなぁ」

「あー、俺だともう厳しいよなって」


 後頭部に手をやる青年を、改めて女性は見据えた。

 レンズ越しの目が細まる。軽い口調で答えた青年の真意を問いただすべく――、或いは彼の中に潜められているかもしれない燻ぶる残り火の陽炎を攫うように。

 しかし、女性の目線を受けても青年はたじろぐだけだ。

 職業柄人間観察に自負がある女性をもってしても、感慨や乃至は自嘲や自虐など、少なくとも彼には見受けられなかった。

 冷静に事実だけを口にした。なるたけ不穏な響きを含まぬよう、空気を冷やさぬよう――そんな感じだ。


「なら、メソッド本でも出してみるつもりはないんですかね。須賀プロの勝利の方程式……みたいなの」

「いや、俺には本とか向いてないんじゃ……結局プロやめちゃってますから、俺」


 流石にそれは恥ずかしいし、何よりも説得力がないだろう――彼はそう言いたげである。

 なるほど確かに一面だけを見れば青年の言葉は事実であろう。

 少なくとも手放しに世に出せるものではないし、今更何をと冷ややかな目を向けられる事だってあり得る。

 そういう意味では彼が二の足を踏み、或いは乗り気でないのも理解できた。元より女性自身、そこまで本気で言い出した訳でもない。

 だが――、それは物事の一面でしかない。

 彼の言葉は事実であるが、それだけでも語れないものがあるのもまた真実だった。



「小鍛冶健夜、宮永照、宮永咲、大星淡に勝っといてよー言いはりますわ」

「照さんに勝ったって言っても……あれは小鍛冶プロも居て、それに俺は結局二位確和了で小鍛冶プロが一位ですよ」


 謙遜か、或いは本音か。

 彼女は青年の言葉がどちらを意味するのか量りかね、次いで口を開く。


「でも、あのタイトル戦でその小鍛冶健夜に勝ったのは?」

「俺一人の力じゃないですよ。大星と、咲が居たから勝てたようなもんで……」

「それを利用できるから一位、なんやと思いますけどね」

「一位、って……」

「これ。結局ボツりましたけど」


 船久保浩子が差し出したのは、印刷された一枚の紙。

 そこには――こう書かれている。


『M.A.R.S.ランキング1位:“人類の到達点”須賀京太郎

 プレイスタイルに縛りはなく、麻雀における人の研いた技術全てを用い、更には卓上の他者の癖も加味して変幻自在に立ち回る。

 己一人の力ではなく、外部の力の象徴を剣として戦うその様は、正しく四人でゲームを行う麻雀そのものと言っても過言ではない。

 連帯率は六割強。技術が三割と言われる麻雀において、その三割を堅実に広い集めているという結果である。

 度々大きな失点や逆転以前に勝負の場に立てないなどといった不運に泣かされる事もあり、13位という順位に甘んじていたが、
 この度の、国内無敗の小鍛冶健夜・宮永照両名に土を付けたという快挙から、第1位としてランキングが更新された。

 プロデビュー初年度以降、成績がほぼ停滞し順位が固定されてしまう傾向にあるM.A.R.S.ランキングの上位陣においてのこれは快挙であり、今後の活躍が期待される』


「……こんな記事、いつの間に書いたんですか?」


 困惑気味な口調の京太郎。

 問いかけつつも彼はしかし、第一位という一文については一切の否定の言葉を挟まなかった。


「協会がランク更新するって話を先んじて手に入れて、スクープやなって……原稿書いとったんですわ」

「あー」

「あのあと、まー色々ネットで言われとったから忘れたいと思ってもしょうがないですけどね」


 そう呟く船久保浩子の顔は苦い。同じく須賀京太郎も、無言で目線を落とした。

 互いに触れるは未だしも掘り下げるべきではないと、同意しているようであった。


「あれは……俺より小鍛冶プロに申し訳ないです」


 途切れがちになりつつも答えた彼の言葉も、前後の沈黙に滲んで消える。

 他の席の客の話し声、或いは通りを行き交う音の波と窓から射し込む白光に、二人は塗り潰された。

 暫しの静寂は、浩子から打ち切られた。



「……まぁ、元気にしとるようで何よりです、ホンマ」


 ごちそうさん、と領収証を片手に店を去る船久保浩子の背中を見詰めた後、京太郎は手元に残された記事をもう一度眺めた。


 『宮永照はこの戦いを終始トップのまま走り抜けたが、南三局にて小鍛冶プロにより背中を刺され、僅差に。

  更には続く南四局で、小鍛冶プロを警戒するあまり須賀プロからの直撃逆転を受ける。

  この際宮永プロは小鍛冶プロの当り牌を掴んでおり、更には須賀プロの和了牌も手にしていた。

  どちらを切っても逆転を免れず、手段としては手を崩して和了するしかなかったが、小鍛冶プロが和了した場合は連荘からの逆転があり得、勝負するしかない状況であった。

  結果として須賀プロの和了は小鍛冶プロの和了よりも安かったため、二者択一ならばそちらの方が多少は安かった。無論、ベタ降りで逆転されるのが最小限であるが。

  須賀プロはこの戦いを逆転2位、小鍛冶プロは1位で終了となる。この戦いの結果を踏まえてか、続く蜂王タイトル戦は須賀プロにとっても因縁のリベンジマッチとなる――』


「……」


 『M.A.R.S.ランキング第2位:“闇を裂く雷神”宮永照』

 続く文章に移ろうとしていた京太郎の目は、同僚の少年の呼び掛けに停止した。

 仕事中である事を失念していたと、頭を掻きながらカップを下げる彼に同僚からの問いかけ。


「あの人、知り合い……ですか?」

「元恋人……って奴かな?」


 団子鼻の気っ風が良さそうな青年がそう後を追う。

 勘繰られるようなものは何もないのだ。京太郎には理由が判らないが、彼女からは何故か辛辣に接されていた。

 いや、理由は言われたかも知れないが――兎に角、ああも辛く当たられると何処と無く苦手意識を抱いてしまうのもまた事実。


「ん、いや……昔の仕事の付き合いだけど」

「そうは見えなかったけどな。ねえ、店長?」


 笑いを意味深に噛み含んだ言葉に、しかし店長は求められた同意に答えずに細めた目で返すだけ。

 代わりに黒髪の少女が、冷淡に呟き漏らす。


「それか離婚した奥さんか、浮気したせいでフラれた元カノってとこかもな」

「……なあなんか酷くねー?」


 俺の同僚がこんなにも辛辣な訳がない。

 世は正にマッポー、大後悔時代の幕開けである。

 尤も京太郎が悔やんだところで、元々彼に止められるようなものは何もなかったのだが。

 等と同僚からのイビりを受けつつカップを戻した彼に追い打ち。

 美叔母がその甥にたった今の出来事を解説していた。男女関係の一例とばかりに。無論悪い意味での。

 なんたる時代か。どうやら仏は寝ているらしい。正にマッポー、大後悔時代は本当に幕開けしていた。




 一方、店外。街頭の群れ、人波に逆らって歩くのは船久保浩子。


「プロになったはいいけれど……今は喫茶店のアルバイト、か」


 後輩からそんな事実――かつての麻雀プロ、かつての第一位が現在そうして過ごしている。

 そんな言葉を聞いたとき、矢も楯もなく逢おうと思った。

 店の場所を聞き出して、だがそれからしばし置いて冷静になり、外回りで近くに足を運ぶ機会があったのなら店に出向いてみようと思った。

 そうして、再び――自分たちの前から姿を消したあの金髪の青年と出会って、そして彼に色々と口を挟み押し付け、店を後にした。


「……なにがしたかったんやろなぁ、自分」


 呟きつつもコートの襟を正す船久保浩子は、溜め息を一つ漏らしてまた歩き出した。



 ◇ ◆ ◇



  ◇ ◆ ◇



  何が言いたいのよ。知ってたから見捨てて逃げたって言いたいの? それとも相棒の癖に知らなかったって?

  面白半分で、私と相棒の関係に口を挟んでんじゃない!

                                             ――麻雀プロ 小走やえ、移籍決定後「須賀プロの事は知っていたのですか」と聞かれて



  ◇ ◆ ◇



「にしてもこれ……べた褒めしすぎだろ」


 箸を口元まで運びながら、京太郎は口角が吊り上がるのを隠せなかった。

 膝元に置いた先ほどのゲラからは、己がその時考えていた事を――ともすれば自分自身より詳しく解説し、そして評価する言葉。

 それだけの期待を掛けられていたものを不意にしてしまった事には勿論申し訳なさも滲むが、それ以上に、純粋に嬉しい。

 こうして他者が自分を褒め下すというのに、誇らしく思わぬ訳がない。

 部屋の中で一人、静かに拳を握りたくもなる――が堪えた。

 これはあくまで過去の栄光、かつての須賀京太郎の功績であって今の彼を飾る言葉ではない。


 いつぞやある麻雀プロに、「高校卒業してこの道に来たらこうも特殊になるのか」――などと評した事があったが、今ではそれは彼に当てはまる。

 麻雀プロ時代に作った人脈もあるが、それは今では生かせない。

 麻雀の解説なら可能かも知れないが、プロのハイレベルに適応できるのかという問題もある。

 スポーツばかりは門徒が狭くどうにもならないし、何よりもやはり一流アスリートと戦えるほどのフィジカルセンスは存在しない。

 掛けた努力の差は、最後に顕著に表れるだろう。

 俳優やタレントという道がなかった訳でもないが、あくまで彼はプロの雀士だ。そのような仕事もしていたにしても、プロ活動の一環であったから。

 その物自体が好ましい訳でもなく、ましてや自分自身がやりたい仕事でもないのにそれに就くというのは、些か考えにくいところがある。



「さて、んじゃやりますか」


 食器を片付けたテーブルに置かれた教科書の束。実家から引きずり出してきた中学と高校の教程。

 所々にされた、不自然な髭面や或いは額に超人プロレスラーの証の文字を付けた作者近影を眺めつつ、京太郎は顔を綻ばせた。

 こんな落書き一つで、ふと思い出される記憶もある。


『……ねえ、須賀君』

『おう、どうしたんだ……宮永?』

『あの……ね、お願いがあるんだけど……その……』

『おう』

『須賀君、って……いつまでも呼びにくいし……あの……』

『……』

『きょ、京ちゃんって読んじゃ駄目かな?』

『……』

『えっと、あの……その……』

『……』

『す、須賀君……?』

『……』

『あの……』

『「京ちゃん」、だろ? そこはさ』

『う、うん!』

『じゃあ俺も宮永じゃなくって、咲って呼ぶぜ。なんか今更だけどな』


 その後、国語の教師が後ろに来ている事に気づかず、おまけに教科書の落書きを見咎められてちょっとした大目玉(なんか変な言い方だが)だった――。

 などと、京太郎はしみじみと思い返した。


「しかし、あの頃は咲がこんな風になるとは思ってなかったよなぁ」

 そう漏らして京太郎は、左手側を見た。船久保浩子から受け取ったゲラの下から直角三角形に覗く見出し。

 記事は、麻雀プロ特集。

 彼女との会話の後、帰宅の折にふと売店で購入してしまっていた。

 そこには、宮永咲と大星淡の因縁の対決――などと書かれている。

 高校時代からの因縁であると踊る文字。

 彼女らの順位を軽く眺め、いかんいかんと頭を振る。


「それよりも勉強しねーと」



 やがて――。

 一人の少女の影が見えた。小さく、縮こまった肩を震わせる赤毛の少女。肩ほどで切り揃えられた髪が、その度に揺れる。

 京太郎が近付くに連れて、その少女は成長する。しかし変わらず背中を丸めて、泣いたまま。


「なあ、どうしたんだ?」


 直ぐその後ろに着いた京太郎は、肩を叩く。

 そして、呼吸が止まった。

 振り向いた少女の――女性の瞳に京太郎は呑まれた。

 驚愕、悲哀、憤怒、衝撃――自らを支えていた物が非常に不本意な形で奪われ、裏切られたという――何もかもが入り交じって綯い混ぜとなった、唖然と評するしか出来ない表情。

 何よりも雄弁で、同時に無言な声。

 思わず、声を上げていた。

 仰け反った京太郎の腕に、教科書が押しやられ――


「……あれ?」


 床と教科書が織り成す不協和音に須賀京太郎の意識は覚醒した。

 頭を振るう……どうやら勉強中に眠ってしまったらしい。長針は、午前二時に差し掛かったあたり。

 眉間の皺を解して、欠伸を一つ。


(……照さん)


 あんな記事を読んだからだろうかと、彼は首を捻った。

 夢に見たのは、彼が宮永照を上回ったとされる一戦――京太郎の狙撃を受けた瞬間の宮永照の表情そのもの。


 あの戦い、終始須賀京太郎は道化でしかなかった。

 小鍛冶健夜と宮永照の新旧頂上対決に介入できず、ひたすら堪えるしかなかった。

 ただ、全力を以て振り落とされないだけで精一杯。

 そしてじっと機を待って――否、機を伺うと云うよりは死力を尽くして致命傷をただ避け続けた。

 常に全開で、全霊で――――否、限界を超えて。

 そうして巡り得た逆転の秋(とき)に、鋭く研いた一撃を繰り出した京太郎であったが……。

 それは、鋭くはなかった。研かれてもいなかった。一撃ですらなかった。

 彼が自分自身手に入れたと考えていた攻撃は、全てが小鍛冶健夜の手のひらの上。

 彼は、宮永照を幾重にも攻め立てる石塊の一つでしかなかったのだ。



 完敗だった。

 京太郎は負けた。ただ負けた。小鍛冶健夜の能力の片鱗すら掴めず負けた。

 ただ圧倒的――。

 本気の小鍛冶健夜と相対したものは二度と麻雀が打てなくなるほどに恐ろしい打ち筋――という噂に違わず、彼我の絶望的な差しか知れなかった。

 何かの特性としか思えぬが、あまりに多才過ぎて万能過ぎて輪郭すらも知れない脅威であったのだ。小鍛冶健夜は。

 共通点はただ一つ――“小鍛冶健夜の本気には心が折られる”それだけであった。

 正確に云うのなら、“自分の麻雀を信じられなくなる”と言ったところか。

 とはいえ結局は、船久保浩子の言うように須賀京太郎は雪辱を果たしたのだから、過ぎた話。

 それよりもここに来て彼の心に障ったのは、


(……元気にしてるのか、照さん)


 宮永照が今どうしているのかというところだ。

 あの一瞬覗かせた顔は、今までかつて触れた事のない激情だった。

 放っておけず思わず彼もその背中を追いかけたが、果たして諦めた。

 京太郎は二位。形からすれば勝者が敗者に情けをかけるも同じである。

 敗者を想像すれば余りにも憚られるそれに、足を止めて見送った。

 結局それから、一言も言葉を交わせず終いで須賀京太郎はプロを引退した。

 未だに気掛かりだが、


(ま、あの人はチャンピオンだし……大丈夫だよな)


 結局、だからどう出来るという話でもなければどうしたいという話でもない。

 彼に可能なのは精々、宮永照の強さと人間の強さを信じる事だけであろう。

 それより、他人の事より自分の事。


「……寝るか」


 首を鳴らして、敷いた布団に潜る。

 どうやら今日は、あの短毛の来訪者は都合が合わなかったらしい。

 銀のトレーは、埋まっていた。



 ◇ ◆ ◇




   ……師匠より先に居なくなるって、馬鹿弟子ねー。

   あはは、そう思わない? ねえ? ははは……ほんっとバカよねー、須賀君。……馬鹿だなぁ。



                             ――アナウンサー 竹井久、須賀プロ引退についてコメントを求められて



 ◇ ◆ ◇



『……ちょっと。あのさ、京太郎……聞いてるの?』

「ん、ああ、悪い悪い」


 どこか上の空の須賀京太郎を咎めるように、電話先の声が鋭く尖る。

 愛敬や親しみやすさを残した響きはどこか艶やかであり、電話の向こうの人物の瀟洒さと明朗さが窺い知れる。

 嫌味のない媚びと言おうか、清明な色気と言おうか。

 新子憧――京太郎とはもう十年を超える付き合いであった。

 初めて彼と彼女が出会ったのが高校一年の冬であったので、もう直に十一年目に及ぼうか。

 大学では同学部で、殆どの行動を共にした。下宿先も隣部屋であり、同じ食卓を囲む事もしばしば。

 それこそ下手な恋人以上に付き合いがある異性だと彼は自認していた。また彼に限った話であるなら、恋人と一年以上続いた経験がないのだが。


『それで、今度そっちに行くって話だけど……』

「それはいいけど……俺のとこは一間しかないけど、どうすんだ?」

『でも、ホテルってのも高いし……』


 京太郎の問いかけに、憧は言葉を濁した。

 新子憧は奈良は吉野――かつての己の母校で教鞭を執っていた。もう四年になろうか。あと半年もせずに五年目に突入する。

 確かに、奈良から上京する費用も馬鹿にならない。

 ましてやホテルに宿泊するというのは――特に女性ならビジネスホテルやカプセルホテル等といくまい――中々の出費だ。

 彼女がこうも躊躇いがちになるのも頷ける……と、ここで京太郎の脳裏には名案が。


「あ、そうだ。だったら松実プロのとこならどうだ? 憧の事も知ってるし丁度良くないか?」


 少々厚かましいかも知れないが、同郷の士と旧交を暖めるというのは良いのではないか。

 もしも互いの意見が合えば、であるが……悪くはない筈だ。

 我ながら妙案ではないかと自信を持って提案した京太郎であったが、


『……はぁ』


 彼に返されたのは、そんな呆れ混じりの溜め息。


「え?」

『なんでもないわよ。なんでも』

「……?」


 そうは言っても露骨に声が明るさを失っている。

 流石にこれを聞いて額面通りに受けとるほど、京太郎も無神経ではない。


 ふむ、と空を仰ぎ――それから口を開く。


「じゃあ、……そうだな。俺のとこに泊まるか?」

『へっ!?』

「憧……?」


 見事に予想だにしなかった。青天の霹靂である。瓢箪から駒。絵に描いた餅は食えない。

 ――最後のは関係ないが、兎に角電話口の声は驚きを露にしていた。

 なるほど、憧にとっての京太郎はこんなときにそう提案しない男なのだろう。

 流石にそれは違うぞ、と彼も内心苦笑を溢す。

 そこまで向こう見ずでも恩知らずでもない。


『い、いいの? え? それ本当だよね? 今更嘘とか言っても許さないんだから!』

「いや……憧が狭くてもいいならだけどな」

『あ、あたしは全然平気! むしろ望むところよ!』

「あ、ああ」


 (望むところ……?) 一体何がだという疑問を、京太郎は噛み殺した。


『その……京太郎? お風呂も狭い?』

「広くはないけど……」


 うーん、と目線を空に預け思案。

 単純な容量で言えば一人分が精々だが、詰めれば二人或いは三人は入る。快適な使用には程遠いし、態々詰める意味もないが。

 大きさを気にするなら正確に言うべきだろう、と京太郎は案じた。女性は風呂など水回りに気を使うと言うし。


「キツキツなら二人入るくらいか?」

『ふきゅ!?』

「……憧?」

『なんでもないっ、あ、あと壁は?』

「壁? 耳があるとか目があるとか?」

『あるのは耳だけ。目は障子でしょ』

「流石だな。新子先生は伊達じゃないな」

『……』

「……憧先生?」

『……っっ』

「……憧?」

『な、何が!?』


 いやお前が何が、である。口にはしないが。



「で、壁がどうしたんだ?」

『いや、その……壁が薄かったりしないのかなーって思ったのよ』

「ああ……」


 確かに生活音というのは気になる。寝入り端に隣室の物音など立てられて、苛立つ事など誰もが経験するだろう。

 それなりに温厚な方であると評される京太郎とて、流石に夜中の三時に大音量でバラエティ番組を流されながら掃除機を掛けられた日には、本気で怒鳴り込もうかと考えたくらいだ。

 意外と新子憧にはちゃっかりしながらも潔癖なきらいがあるし、そこらへんは素直に答える事にした。


「たまに声とか聞こえてくるな。大声とかよっぽどの笑い声、とかじゃないと大丈夫なんじゃないか?」

『そっ。……うーん、そっか』

「まあ気にしなきゃ平気なぐらいだけどな」

『いや…………まぁ、うん。なら……多分大丈夫……かなあ?』

「憧、そういうの気にするタイプなのか? なら大学時代とか、結構悪いことだったりしないか」

『え……あー、それはー、うん、まあ何て言うの? 御互い様って言うか……』

「御互い様っつっても、俺の方には全然聞こえなかったぞ?」

『……よし』

「よし?」

『あ、相手から聞こえるのもそうだけどこっちのが聞こえる方が困るでしょ?』

「……そうかなのか?」

『いやそこは気にしなさいよ!?』


 まあ、女性ならそう感じるのかも知れない。

 男で言うところの、ホモが隣の部屋で聞き耳を立てているようなものだろうか。

 いや、聞き耳を立てていなくても……自分が相手の対象になり得る存在なら、確かにいい気はしないのかも知れない。

 この辺りは男である自分には今一良く判らん感覚だな、と彼は思考を打ち切った。


「それじゃ、そろそろ仕事に戻るな」

『頑張りなさいよ、フリーター』

「頑張りますよ、正社員様」

『あはは、じゃーね♪』


 ふむ、と通話を打ち切って頭を上げる。

 頭を上げたはいいけど、どうにも自分は彼女に頭が上がらないだろうな――と京太郎は息を漏らした。

 そのまま彼は首を鳴らし、伸びをひとつ。


「……ま、その間は俺がどっか泊まればいいよなぁ。呼んでるんだし」


 それにしても――。

 家探しされて困るものは何も置いてないが、何となく女性に部屋の鍵を明け渡すというのは尻の辺りが落ち着かないなと、京太郎は頬を書いた。

とりあえず、前スレに貼った分まで
合間に適当にコメント挟んでいくスタイルにした方がそれっぽいので、誰のコメント聞きたいか(業界人)とか書いといてくれると嬉しいでー


んじゃあちょっと時間明けて再会します。ほななー

逆襲のシズ……?
雷ちゃんに母性を求めればいいのかな?(すっとぼけ)

照はね、テラフォ本編でジョセフが人類技術特化って判明した時点で2位のドイツ産まじめウナギになるって決まってしまったんだ
ドブ川産エロクソウナギも本を読んでればストレス解消できるタイプだから仕方ないね

さて始めるでー




「ちーっす、京太郎ー」

「泉ぁ!」

「ひっ」


 電話から戻った京太郎は、軽く手を上げる客を前に声を荒げた。

 とはいっても本気で怒っている訳ではない。ただ、なんとなくこう接すると面白いのだ。ある意味嗜虐心かも知れない。

 極めて温厚である――或いは物腰柔らかな態度を示す彼からしたら、このような場面は似合わないし、実際彼も好むところではないが――。

 ただ、なんとなく彼女に対してはこうして接していたりする。時々。


「泉ぁ!」

「ひっ」

「……うん」

「いや、なんやねん!?」


 僅かに日に焼けて色が薄れた黒髪。

 癖が強く纏まりなく方々に伸びるそれは、目に掛かるか耳に掛かるかというほどに前髪は長いのに、後ろだけは襟に掛からぬほどに短く整えられる。

 勝気そうな瞳であるが、気負いすぎて予想外の事への弱さ――が浮かんでいる風である。

 ズビシ、と腕が京太郎の胸元に突き出される。

 動きやすいようにか灰色のパーカーの袖を捲りあげて七分袖にして、その下には白いシャツが覗く。首元のシルバーはワンポイントだろうか。


「お前、それ寒くねーの」

「高校ん時はノースリーブ臍だしやったし、別になんとも」

「……痴女」

「誰が痴女!?」

「いや……それを俺に言わせるか?」

「なんやの!? 当たり強ないか!?」

「まーなー」


 胸に手を当てて考えてみろ、と呟きそうになった京太郎であったが、なんとなく残念な胸部を眺めて溜め息を漏らした。

 ここでそう言うのは、酷というものであろう。実際平坦だった。



「なんか今私のことごっつう馬鹿にしてへんかった?」

「心当たりがあるならなー」

「いや……心当たりか……うーん」

 黙り込む泉を尻目に、同じくテーブルについていた女性が彼に頭を下げた。

 肩のあたりで折り返され、後頭部にバレッタで止められた薄紫色の長髪が揺れる。髪と同じ色の瞳は、冷静さを湛えながらもそれは冷淡さにも繋がりそうなもの。

 白のブラウスと紺のロングスカート。ストッキングではなく、黒のレギンスを履いた足を汲みながらも静かに二人のやりとりを見やってコーヒーを啜る。

 名を、末原恭子と言った。


「どーも、第一位さん」

「その呼び方やめて貰えませんかね……? あ、お疲れさまです末原さん」

「なんか私と対応違わへん!?」

「泉、うるさいぞ」

「泉、うっさいで」

「なんやねん!? 虐め!?」


 酷い、と泣き出しそうになる泉に冷淡な目線を向ける恭子は、彼女の同僚だった。

 年齢からしたら二つ上――二条泉は京太郎と同年代――であるため、本来なら先輩にあたるのだろうが、生憎と末原は大学出。泉は高卒。

 形からしたら、末原恭子が泉の後輩となる。……尤も、泉の性格故にそのような振る舞いとは至っていないが。


「あ、こないだのアドバイスどーもです」

「いや、俺が役に立てたなら何よりっすよ!」

「そんな奴より一応は先輩の私に聞いて貰ってもええんですよ?」

「そうだな、泉」

「そうやな、泉」

「あんま酷い事言われてへんけどこれ虐めェ!?」


 生暖かい目を向けられて、二条泉は大げさに頭を振った。

 その間も京太郎は、周囲の客に目をやり溜飲を下げる。

 彼の知り合い――仮にも店員の――が騒いでいるせいで店の雰囲気を壊したとあっては、申し開きができないからだ。

 幸いにして、周りは周りでそれぞれの事に興じていた。……。


(死、ネ)


 黒髪の女性店員が、京太郎を睨みながら首に親指で横一文字を付ける。騒がしい人間は、嫌いなタイプであったのだ。

 努めて見なかった事に、京太郎は目を擦る。擦るだけに狡い真似だが、実際視力は以前ほどでなくなっているので……まぁ、有効活用。嘘も方便だ。

 ……後々の事は置いておこう。


 何事もなかったかのように、京太郎は話題を切り出す。

 残り少ない休み時間、彼がこうしてテーブルに着いたのは何も交友を温めるためだけではない。

 別に判っても分からなくてもどっちでもいいのであるが……。


「昨日、船久保さんが来たんだけどさ……」

「あー、早かったなぁ。そういや船久保先輩にここに須賀が居った事この間話たんやけど」

「……やっぱりな」

「……え、何? どしたん?」

「うるさい泉」

「ホンマやで泉」

「さっきからなんやねん!?」


 俺の対応は間違っていなかった――と、京太郎は頷いた。

 別に船久保浩子が嫌いという訳では決してないが、ああも当たりが強いと気疲れするというのもまた事実。

 彼の前では常に不機嫌そうな顔をしている。実際、その言動も決して機嫌が良いものとは言えない。

 なら、どうして自分に話しかけるのか――――は須賀京太郎にも判らないところであるが、おそらくは知り合いである以上二三言ばかり言いたい事が生まれてくるのだろう。

 ……いや二三言では済まされないのであるが。

 分析を得意としているのだし、そのようなプレイングをしている京太郎の事が――前身として――見ておけないというのか。

 この間訪れたのは、そんな以前の関係の延長上だったのかも知れないな、と彼は顎を俄かに動かした。

 と、そんな風に疑問が解消されたと頷く彼を見て、末原恭子が低い声で漏らした。


「なあ、一応聞いときたいねんけど……」

「何ですか?」

「オカルトスレイヤー……あんた、打ってへんよな?」


 窺うような目線と、何とも不穏さを伴った響き。

 思わず京太郎も、声を潜める。



「いや、もう大体一年半は牌に触れてないですけど……どうしたんですか?」

「いや、ならええんやけど。……オカルト喰いって噂が流れとってな」

「オカルト喰い……?」


 その言葉に僅かな引っかかり。

 以前、シゲという老人が口にしていた“魔法喰い”――その関連かと、京太郎は目を細める。

 二条泉、末原恭子共に実業団で麻雀を打っている。彼が見たところ、――二条泉は兎も角――末原恭子の耳にまで、それも深刻な形でその噂は届いているらしい。

 どうやら単に、裏の世界に留まる事ではなくなっているのだろうか。

 とすればよくある実しやかな都市伝説というよりは、裏付けとなる事実が存在していると考えた方が自然か……京太郎は思索にふけりそうになる。

 が、


「え、あのオカルトスレイヤー!? ホンマ!? え、須賀!? あとオカルト喰いって!?」

「泉、静かにしてろ」

「ホンマやで、泉」

「なんなん!? ちょっとぉ!?」


 二条泉の声に遮られ、彼は思考を手放した。

 というよりも、半ば驚愕であった。おおよそ一年近くに及ぶ付き合いであり、麻雀の業界に身を置く二条泉に自分の事が分からないとは。

 須賀京太郎=オカルトスレイヤー=M.A.R.S.ランキング第1位というのは、それほどまでに無名だったのか。

 仮にも一位なのに。仮にも人類の到達点と言われたのに。仮にも地上最強の男と言われたのに。

 尤もそれは真実三日天下でしかなかったが――。なかったが、こう……あまりにも酷くないだろうか。仮にも一位で空気って。

 これはもう、今頃世間的にも忘れられているかも知れないと、未練がないつもりでは居ながらも割り切れない釈然とした思いを抱えて、京太郎は肩を落とした。


「ま、これからも相談に乗って貰うんで……なんかどっかでお返しするで」

「お返しとか、そんなのいいですよ。……あ、泉は別な」

「結構売り上げに貢献しとらん!?」

「コーヒー一杯でずっといる客はちょっと……」


 おそらく負けた後だろうかは知らないが、日がな一日窓の外を眺めて暗いオーラを撒き散らしている二条泉の事を振り返りながら、京太郎は苦笑を漏らすのだった。

 喫茶店としては上等であるが、客としてそれが快い人間かと言われたらまた話は別だ。

 こうして、午後の日は緩やかに進んでいく。



  ◇ ◆ ◇




   ……必要ないです。こっちも覚える気ないので。


                             ――麻雀プロ 宮永照、須賀プロ引退後彼との牌譜について



  ◇ ◆ ◇




引用:【悲報】須賀プロ、麻雀やめるってよ【第一位退場】

1 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
なんか視力が限界らしい

2 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
すこやんの呪いか……

3 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
だってあれ途中で放送が凄い遠巻きになって顔写さんようになってたもんな

4 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
血涙流してたよな……

5 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
おい、あんた……ふざけたこと言ってるんじゃ

6 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
やめろ、>>5っちゃん!

7 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
マジかよ……

8 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
しかもさ、なんか須賀プロの両親なくなったらしい。倒れた須賀プロのところに長野から急いでる途中に。交通事故で

9 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
なんだよそれ……

10 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
運命よ、これ以上彼から何を奪うというのか……

11 名前:名無しさんリーチ 投日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
おい! おい……
俺、須賀プロに憧れて麻雀始めたんだぞ……! ふざけんなよ……! 嘘だろ……!?

12 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
嘘だと言ってよバーニィ

13 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
麻雀も奪われ、家族も奪われるって……

14 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
すこやんの呪いぱねぇ……

15 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
最後の希望が絶望に呑まれるとか……

16 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
ニュース見てすぐきた。マジなんだな……

17 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
これからだったじゃねーかよ!まだプロ三年目始まったばっかなんだぞ!?

18 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
それでも信じてる。須賀プロは希望だって。絶対にどこかで立ち上がってくれるって





 眼鏡に反射する青いライト。

 視界を覆いそうになる黒髪を手で払って、長髪の女性は小さく溜め息を漏らした。

 印象からするなら深海生物か或いは植物か。とことん無駄なく動かないその様は、精密機械というよりはむしろ置物を思わせた。


「ともきー、またそれ?」


 扉のあたりから人声。気付かぬ間に、ドアが開かれていたらしい。

 頭の後ろで手を組んだメイド――左頬にハートの2のプリントシールを張り付けて、耳が隠れるほどの黒髪を後頭部で結んだ女性。

 パソコンを覗き込む沢村智紀とは対照的に、そのスタイルは実に貧相であるが、それが返って親しみのある魅力や清潔な色気にも繋がっていた。


「……」

「……それはともきーの所為じゃないよ。京太郎くんだって、きっとそう思ってるって」

「……分かってる。ただ、振り返っただけ」


 何の為に、と一が首を傾げる。智紀は素早くマウスを操作して、別のタブを開いた。


「もう、何事もなかったみたいに。……須賀プロなんて人はいなくなったみたいに」

「……実際、プロじゃなくなったけどね」


 そういう事ではないと、智紀は一を見据え――それから目を反らした。

 この龍門渕の中で、当時一番狼狽していたのは国広一だったのである。高校時代から親しくしていただけに――須賀京太郎の事に感じ入ってしまったか。

 それとも、親と離れるという事に一自身が良い思い出がないか。どちらかは知らない。

 或いは、借金か。

 須賀京太郎の両親は、自動車の損害保険に――任意保険に加入していなかった。それがたまたまなのか。それとも、今後は車を運転してどこかへ行く機会がないかと考えたのかは知らない。

 そして、先ほどまでのタブに記された文章の通りに、麻雀競技後倒れて入院した息子の元へと急いで事故に遭った。

 過失分では、彼らが加害者という形になった。運悪く、相手方にもかなりの障害を与えてしまった。

 その請求は――相続人である須賀京太郎の元へと向かった。無論相続放棄も可能であったが、同時にそれは両親の持っている資産のあらゆる破棄を意味する。

 両親との思い出を、かつて暮らした我が家を京太郎は捨てる事が出来なかった。それ以上に或いは、両親が犯してしまった罪を清算せずに逃げ延びる事を良しとしなかったか。

 そして彼は、それまでの貯金のほとんどを切り崩して賠償金に当てた。


「でも、ボクはこれでよかったと思うよ……京太郎くんの事を、面白おかしく騒がれるよりはさ」

「……それはそう」


 だけど――。



「何をしているのですか?」

「げっ、萩原さん」


 音もなく気配もなく、廊下に立って同じく部屋を覗き込む人影。

 黒髪の長身、燕尾服。俳優のように整ったその顔は、まさに完璧で瀟洒な執事――どことなくだからこそ、摩訶不思議な雰囲気を醸し出す。完成され過ぎて返って怪しいように。

 年齢不詳。おそらくは三十台に達しているだろうが、未だに二十代半ばと言っても通じるほどの美貌の貴公子……執事だ。

 そんな萩原は二人を眺め、小さく漏らす。


「……休憩時間とおやつ、どちらがよろしいですか?」

「い、いやー勤労って尊いなー。ともきーもそう思うよね?」

「勤労は実際尊い。ブッダもそう言ってる、いいね?」

「……いやそこまでは言ってないと思うよ、ともきー」


 いそいそと支度をする智紀と、どうしたもんかなと頭を掻く一、アルカイックスマイルでそれを見守る萩原。

 スリープモードにしたパソコンが前傾になるのに従い、部屋の光度が閉ざされていく。完全に閉じられるが早いか、智紀は部屋を後にする。

 そんな智紀が立ち去るのからやや置いて、おもむろに国広一が口を開いた。


「……あのさ、萩原さん。やっぱり京太郎くんをうちで雇うのって」

「それは、彼から辞退されたはずですよ」

「でもさ……」


 須賀京太郎は明るい。基本的に言動は落ち着いていて物腰柔らかで、柔和。いつも朗らかな様子ながらも、軽薄な面も覗く。

 かと思えば以外に激情家であり、理想家であり、ストイックであり、思い悩むタイプである。

 それまで平然そうに笑っていても――どこか次の瞬間で、居なくなってしまいそうな腰の据わらなさがある。儚さと言うのか薄さと言うかはともかく。

 ましてや、両親がああなってしまって、自分自身もそれまで努力していた麻雀の道が閉ざされてしまっているのだ。

 きっと彼ならまた笑顔を取り戻しているとは思うが、それでも……。


「心配、ですか」

「……萩原さんはどうなのさ」

「……。否定はしません」


 どこかで、いつの間にか消えてしまいそうな雰囲気があった。徐々に舞台から下ろされていくように――そのまま忘れられていくように――。

 今この瞬間にも、もしかしたらもう彼はいないのかもしれない……などと、そんな想像さえ一の脳裏には浮かぶ。



「だったらさ、やっぱり……こっちに呼んで……!」

「両親が居ない家に、暮らしてもらう――ですか?」

「……っ」


 言葉に詰まった。

 萩原の静かな目。激情も無ければ、悲哀も悲嘆も無く、閉口する様子も無い。

 ただ、それはもう考えたのだと――。考えた上で踏み込まなかったのだと、告げている気がした。

 京太郎の事を、萩原が案じぬ訳がない。ともすれば、今国広一がしたような主張もとっくのとうに想定済みだろう。

 それでも萩原は、須賀京太郎を強くは誘わなかったのだ。

 しかしそれでも、一は食い下がった。


「うちで住み込みってのも、ある事はあるよね」

「……無理やり四六時中誰かと一緒の環境に入れる、ですか。それこそ落ち着く暇もないと思いますが」

「それはそうだけど……でも……」

「彼から求められないと言う事は、そうして欲しいと言う事だと思います」

「……でもさ。あれで京太郎くんは格好つけとか遠慮しいだから、言い出さないなんて事も」

「あり得ますね。ですが、やはり彼から言い出さないと言う事は彼がそれを望んでいると言う事です……それが正しいのかどうかは判りませんが」

「なら、なんでさ。変に抱え込んで……また、蹲ってるかも知れないよね」

「だとしても、それは彼の人生です。生きていれば、どこかで避けられない事です」


 そこから何を選ぶのか、どうするのは京太郎の権利であり義務である――。

 これを冷たいと見るのか。自分はどちらにすべきなのか。どうすべきなのか、一は迷った。

 どんな形でもいいから、彼の助けになってやりたい。極々自然な感情で、それがましてや長年の友人であるなら当然だ。

 だけれども、果たして何が正解なのか……一には判らない。


「ただ彼は、我々がここで悩む事を望んではいない。それだけは確かです。きっと誰が悩んだって、誰もが同じように答えに窮する問題でしょうから、これは」

「……そっか。ま、連絡を取ってみて本当に大丈夫そうか確かめてみる……くらいなのかな、ボクに出来る事」

「ええ、彼もきっと喜びますよ」


 それとも、本当に嬉しいのはどちらなのか――。

 なんて、洒落っ気が僅かに滲んだ。茶化すような目線を、一は手で払う。

 いつの間にか萩原がこんな面を出してくるようになったのだが、正直これは悪い変化だと思う。


「……ま。友人だしね。友人だから、その辺聞いてみてもいいよね」

「ええ……。あと、もし可能であれば『実家の方の保全は十分です』とお伝え下さい」

「へ」

「合鍵、実は受け取っています。『もしも本当に迷惑じゃないのなら』と、時々の掃除も頼まれて」

「ちょっと、それボク聞いてないよ!?」



  ◇ ◆ ◇




   ……ちょ、通して! どいて! 京太郎のとこに行かんと!


                             ――麻雀プロ 清水谷竜華、取材中須賀プロ緊急搬送を聞いて



  ◇ ◆ ◇

はい、ここまで

ライダースレと同じぐらい熱血王道になるから大丈夫や

むしろ咲ちゃんが生存してるだけレア

2位:両親死亡、実験台。妻は浮気。托卵。顔面に火傷
3位:娘と孫が重病
3位:幼馴染死亡。自分殺人犯
5位:父親死亡。化け物として人と関わりの少ない人生を歩む
6位:両親いない。助けたかった幼馴染死亡
7位:両親テロにより死亡。妻とその胎児が重病
8位:両親死亡。両目網膜剥離。童貞
9位:(おそらく)両親死亡。幸せになって欲しかった幼馴染死亡
10位:肉親(姉)死亡
12位:(おそらく)両親死亡。幼馴染死亡
13位:肉片
15位:両親離婚。親から借金を背負わされる


オマージュ元からしたらまだ普通の範囲内だから……
それじゃちょっと進めようか。ちょっとね




 ――一方の須賀京太郎と言えば。


「やっべ。憧の飯、どうすんだ」


 眉間に深い皺を刻んで、スーパーの前で立ち止まっていた。

 日常的に料理をする習慣がなくなって久しい。一人分なら惣菜で済ませた方が安上がりであると言うのもある。

 昔のように日常的に体を酷使する必要がなくなってからというもの、栄養のバランスにも気を使わなくなっていた。あと野菜が高い。

 学生時代によく行ったセット時にサラダバー無料であったハンバーグステーキ屋がドリンクバー無料に変わっていた事も、無理がないと思う。

 一体世の中の主婦はどうしているのか。とてもじゃないが一汁三菜、タンパク質である肉と栄養素の為の野菜を合わせるなんて無理だ。

 財布に気を使わなければならなくなったと言うのもあるが――そういう意味で自分は恵まれていたのだな、と彼は振り返る。


 閑話休題。

 兎に角、以前のように派手な料理は行わない。なるだけ手間がかからぬように、煮物などが多い。翌日の晩も同じメニュー。朝食は喰わない。

 夕飯と言えば、ウェイト増量の為には朝に多く喰えというのが定説であるが……最近違うトレーニング法というのも生まれてきた。

 極力日中には炭水化物を取らず、トレーニング後の夕食時にタンパク質と纏めて取るという方法。

 朝食を取れ、と言われるのはその時が最もエネルギーの吸収効率が良いからなのだか――つまり、逆に言えば脂肪にもなりやすいと言う事。

 此処を敢えて抜いてインシュリンの分泌を司る酵素を刺激せずに、あえて――。

 通常効率が悪いと言われている夕食後のタイミングで取る事で、筋肉以外にも余分なエネルギーが向かう事を防ぎ、的確に筋肉だけを成長させると言うのがあるらしい。

 また、炭水化物を脂肪に変えずに筋中のグリコーゲンに変える効率も良くなるとか。

 以前、アメリカ発の論文にそんなものが乗っていた……などと思い返しながら、京太郎は頭を振る。


 また話が逸れていた。

 今は単純に朝飯を食べている余裕がないと言う奴だ。いや、元々朝飯はそこまで積極的ではなかった。夕飯の残りと、昼飯のおかずの余りもの。

 残りといえば、煮物などをするがいいが夏場はよく痛む。実際のところ彼としても、それで一二度失敗した事もある。

 そのあたりもあって、夏となったら素麺だの饂飩が増えた。後は雑炊。冷凍したご飯と卵と適当な出汁ともずくで作れる。万能。

 まあ、それは良いとしよう。大した話ではない。

 目下の問題は泊まりに来た新子憧の夕食――である。



 材料を買って自分で作ってくれ――なんてのは論外。流石に酷い。

 ならば材料は買っておくので好きに使ってくれ、というのがいいかと言えば……どうなのだろう、呼びつけた相手にそれをするのは。

 じゃあ、材料を買って彼が作るかと聞かれたら、わざわざ別にホテルに泊まるのに自宅で夕食をただ作る意味が判らない。

 なら、全部外食なんてが一番丁度いいだろうが……新子憧のあの言葉の濁しようからしたら、不意の出費は喜ばれない事は明白。

 何が正解なのか。


「……ああ、でも憧のカレーとかまた喰いたいな」


 バーニャカウダとか、シーザーサラダとか。よく判らないが御洒落(なのかは知らない)ものを新子憧は好んでいた。

 それなのかは知らないが、彼女が作るカレーはなんだか普通のそれとは違っていた。

 入れた野菜がひたすら形がなくなるレベルに煮込まれてルーと一体化した――後に調べたところによると英国式カレーらしい――ものだ。

 すげえ、メシマズもここまで来たか。ついには原型がなくなりやがった。

 なんて、冗談で呟いた(新子憧の料理の腕は年々強化の傾向にあるので断じてメシマズではない)彼も、スプーンを往復させる内には黙り込んだ。

 一体何が入っていたのか知らないが、やけに美味くて心に残るな……と思ったのだ。正直に。


(――)


 不意に、熱くなった目頭を京太郎は押さえた。

 新子憧の味を想像して――そしてそれから、思い出したのだ。

 自分が食べたいと思ったカレーを、二度と食べる事は出来ないというのを思い出してしまった。もう二度と。

 あれから再現しようとしても、記憶の内にあるどの味にもならない。その事が、彼を料理から遠ざける遠因であったりする。

 せめて、何が入っているのか聞いておけばよかった。或いはもう少し家事の手伝いをしておけばよかったと悔やんでも――もう、遅い。

 下に向けられた顎。数瞬ののち、位置を取り戻す。


「……よし、ビタミンとっとくか」


 細かい事は新子憧に聞いてみてから。それからでも遅くない。

 とりあえず果物でも買って帰ろうかと、足取り軽くスーパー目掛けて彼は歩き出した。



 紙袋一杯に詰められたオレンジを抱えて、表を歩く。

 なんだかこれって映画みたいだな――なんて考える彼の歩調は、明るさを取り戻していた。

 どうして海外の映画はああも紙袋に果物を積めるのか、しかもそれを抱えて歩くのかよく判らない。

 ただ、今の自分はそれと同様に……或いは少し劣っていても絵になっているかな、などと考える当たりやはり根はお調子者だ。

 と……。


「うおっ」


 積まれたオレンジの一つが、袋の口から転がり出した。

 咄嗟にサッカーよろしくリフティングを試み、――これ食い物だぞ口に入るんだぞ――、やはり諦め、――いや洗えばいいだろ――、動き出そうとしたが通行人に阻まれまた停止。

 そんな隙に、主の手を離れたオレンジはタイルの歪みという名の自由を謳歌して、路地裏へと逃走を図った。

 どうせ汚れるなら、地面じゃなくて靴の側面の方がマシだったと……開いた片手で頭を掻きながら、やれやれと彼も追跡に入る。

 逃走犯を幇助するものが居なければ、すぐさま拘束できる筈だ――なんて緩やかに歩を進める。


「……お」


 そして犯人は敢え無く再逮捕――、善良なる一般市民にその道を阻まれて。

 よかったよかったとオレンジに向けた目線を上げて、協力者たる靴の持ち主を眺める。

 まず目についたのは、眼帯だった。医療用のそれが、痛々しく右目を覆う。

 思わず息を止めそうになるのを――それも失礼かと考え、努めて平静に笑いかける。


「悪い、悪い、サンキュ」


 しかしそんな彼の笑みを向けられても、対する少女は無言。

 戸惑っている風でもなければ、怒っている風にも見えない。興味がない――という態度も表にしてはいない。ただ、自分が当事者ではない風に真っ直ぐと瞳を向けている。

 その瞳も、決して明るいとは言えない。どこか一点を注視する風でもなく、同じく何か目的がある風にも見えない。

 前を見ながら全体を俯瞰しているような――そんな透明の視線。



「……」


 何か、と京太郎を問いかける素振りもない。ただ其処に居るだけの、文字通り通行人の如き風情。

 壁に寄りかかるその身は――年の頃は――、京太郎より少なくとも十は下ほど。

 藍色の毛先が肩にかかるかかからないか程のショートヘアー。耳や眉が隠れるほどの長さはあり、片方で軽く括っている。

 それも、ヘアゴムなどではない。ただの輪ゴム。藍色の毛を輪の捻じりに巻き込んでしまっていて、なんとも痛々しい。

 纏っているのは上野のアメ横ででも売ってそうな虎の刺繍の入ったジャンパー。小豆色のショートパンツの殆どは、余ったジャンパーの丈に隠されていた。

 突っ掛けた薄汚れた白黒のスニーカー。輪ゴムのそれと合わさって――何となく、少女の家庭環境が想像できる風である。

 これ以上止まるのも不自然か。いや、だが何か引っかかる――。

 何某かの単語が頭を掠めつつも、京太郎はオレンジを優先した。思春期の少女に、いつまでも不躾な態度を取るのはよろしくない。

 そのまま背を向け――、脚を止める。


「これ」


 少女の鼻先が上を向いて、それからまた下に。放物線を描いた橙色の球体が、その胸のあたりに納まった。

 俄かに感じる、疑問が滲んだ表情。憤慨の様子はない。

 自分の行動は、少女への侮辱や侮蔑に当たらないのだろうと――やはり透明な目を見つめて、彼は肩を撫で下ろした。


「よかったら、貰っちゃってよ。な?」


 人懐っこい彼の笑顔も、やはり無言で返される。

 その後、今度は京太郎も、振り返らずに路地裏を後にした。





『……え、なんて』

「だからさ、今度カレー作ってよ。なんか無性に食べたいんだって」

『……そ、そう? いやあたしは別に全然かまわないけどね。うん、全然かまわない』

「よっしゃ、サンキュー憧」


 夜半。路地裏への逃走犯の外衣を取り除きながら。

 無論、丹念に洗ってあるのは言うまでもない。暮らし始めてそこそこだが、練馬区の路上は汚い気がする。同列に語るなら新宿区とかと同じくらい。

 特に池袋駅周辺。なんか、路上そのものが臭い。本当に臭い。生ごみの汁でも沁み込んでんのかってぐらいに。


「あと聞いときたいんだけど」

『何?』

「あのカレーってなんか入ってるのか?」


 返答はしばしの沈黙。


『……なーにー? 毒かなんかでも入ってるとかそーゆー失礼な事言いたいのかなぁー?』

「い、いや! 違うって! 違うからな!?」

『なら何よ』

「いや……なんかこう、今日ふとこう……憧のカレーが食べたいなーとか思ってさ。なーんか記憶に残ってんだけど、隠し味とかあるのか……と思って」


 大学時代、それから社会人と――。

 独り身の気軽さを満喫しながら、孤独のグルメと相成った京太郎。

 なんとなくある店の物が食べたくなって、それから口の中がそれでいっぱいになってすっかりその気分――なんて事は多いが。

 店で出されるものではなく、誰かが作った料理でそうなるというのは稀な経験である。


『そ、そりゃ勿論あ――』

「あ?」

『あ……、ぁぃ……ょぅ』

「え? 『あ……』なんだって?」

『……、……。……あたしが教えるわけないでしょ、よ。隠し味を教えたら隠し味にならないでしょーが』

「ええー」

『……うん、よし』

「なにがだよ!? 俺に教えないのがそんなに嬉しいのか!?」



 電話の向こうで何かを握った音がする。思わずガッツポーズ、のような。

 そこまでなのか、と彼は思わず声を上げた。どれだけのドSかという話である。人の訊いてきた事を答えずに喜ぶなんてとんだサディストだ。

 だが、思えば学生のうちは京太郎が料理ではリードしていた。執事からの教授は伊達ではない。

 その関係で色々と調子に乗って茶化してしまった事というのもあり、ひょっとしたらこうして隠し味を問われると言うのに多少なりとも優越感を憶えたのだろうか。

 何とも複雑な気分に、京太郎は口を波立たせた。

 あの頃は、負ける気がしない、俺の成長は光よりも早い、光の速さで明日へダッシュさ、女子力でぶっちぎりだ……などと嘯いてみたものの。

 こうして負けると、それはそれで一抹の悔しさがある。いや、男子厨房に入るべからずという言葉からすればこれは正しいのだろうが。


「……あ」

『なに、どしたの?』

「まさか、汗とかか? あれかなり煮込んでたよな?」


 ちょっと話題を振ってみようとしたら、話しかけるなと言われた覚えがある。

 相当な時間――野菜が煮崩れるまでだから当然だ――煮込んでいたので、必然的にそりゃあ新子憧はものすごい有様になっていた。

 そう言えば、汗で下着が透けてるとか言ったら凄まじい剣幕で怒鳴られたな……なんて思いながら、


『………………、あんたそれで満足?』

「いや、悪い今のオフレコで」


 新子憧の冷ややかな声に、京太郎は冷静さを取り戻した。

 我ながら今のはない。ちょっとあり得ない。そんな趣味もないし、カレーに異物混入とか色々洒落にならない。もう事件は風化しているが。

 だが、女性の汗は異物なのか? ちょっと胸が物足りないといっても新子憧は美少女である。

 いや、でも他人の汗とか生理的にあれじゃないか? なんか改めてそう言われたら流石に拒否感が出てくる。

 そんな事言ったら、真夏のラーメン屋。あれは美少女ですらもない頭に手ぬぐい巻いたおっさんの汁にならないか?

 ……。

 ……とりあえず彼は、それ以上深く考える事を止めた。ここから話を進めて行ったら、あらゆるものへの食欲を無くしそうであったのだ。



『まぁ、それぐらい気に入ってたなら作ってあげちゃおうかな。あの頃散々人の事色々言ってくれてたよねー?』

「……げ、やっぱり憶えてるの?」

『そりゃあ、ドヤって顔で「俺の方が女子力高いな」とか言われたら忘れる訳ないわよ』

「……えーっと、俺そんな事言った?」

『なるほどなるほど、京太郎は忘れっぽい……と。じゃああたしもリクエストの事忘れちゃおっかなー?』

「ごめんなさい嘘ですあの頃は申し訳ありません反省してますカレー久々に食べたいです」


 一人暮らしで家カレー、これほどまでに不可能なものはあるまい。

 時点でビーフシチュー。クリームシチューもろもろ。

 おでんは意外と冬場なのでどうにかなるし、スープがそこまで栄養素多くないので簡単には(カレーに比べて)傷まない。

 あと、やはりカレーは具材を多く入れた方がエキスが出て美味い。となれば量もそれなりになる。そうなったら……まあ、駄目になりやすい。たとえ冬が近くても。

 つまり、京太郎は――彼はカレーに飢えていたのである。なんちゃって。


『でもさ、そんなにカレーが食べたいならどっかのお店に入ったらいいんじゃないの?』

「それもそうだけど……なんて言うか、店のカレーってなんか違うんだよな」


 醤油っぽさがないと言うか。それともソースが足りないと言うか。

 或いは、採算の関係だろうか。京太郎はフランス料理に使われるフォン・ド・ボゥ等を入れて味の調節を図っていたりするが、料理店なら簡単にはいくまい。

 とはいっても確か神保町の方に、そんな(よく言えば)家庭的な、雑多な味のカレーを出す店があったと彼も記憶しているが……。

 流石に、練馬区の職場からわざわざ昼飯に出向くのは手間である。


『ま、だったら楽しみにしてなさいよ。あたしのカレーなしじゃいられないようにしてあげるから』

「麻薬かよ」


 隠し味、白い粉というのは流石に洒落にならない。というかカレーに白い粉を入れるのは洒落にならない。事件は風化しつつあるが。二度目だが。


『じゃ、頑張りなさいよ。ちゃんと勉強する事!』

「憧にそれ言われると、なんか本当に先生に言われてるみたいだよな」

『いやあたし教師だからね?』



  ◇ ◆ ◇




   さあー? やめる人の事なんて、考えた事もないですよー?

   ……。それじゃあ、次の試合があるんで失礼しますね!


                             ――麻雀プロ 大星淡、須賀プロ引退について



  ◇ ◆ ◇

という訳でここまで

アコチャーは愛しか入れてません!

乙です
カレーだから咲日和のアレ入れるのかと思った

>>99(訂正)
×
 無論、丹念に洗ってあるのは言うまでもない。暮らし始めてそこそこだが、練馬区の路上は汚い気がする。同列に語るなら新宿区とかと同じくらい。


 無論、丹念に洗ってあるのは言うまでもない。暮らし始めてそこそこだが、練馬区の路上は汚い気がする。同列に語るなら新宿区とか豊島区とかと同じくらい。

なお、大学時代は間接キスを気にしてふきゅって一々味見のスプーンを洗ってた思春期アコチャー

>>108
「こんなところまでしずに勝てないよぉ……」と曇るアコチャーが見たいと申すか

>>99(訂正)
×
 特に池袋駅周辺。なんか、路上そのものが臭い。本当に臭い。生ごみの汁でも沁み込んでんのかってぐらいに。


 上石神井駅はヤバイ。新宿駅もマジにヤバイ。でも特に池袋駅周辺。なんか、路上そのものが臭い。本当に臭い。生ごみの汁でも沁み込んでんのかってぐらいに。

実際池袋ってやたら臭い。千代田区はそれほどでもないのに不思議

>>214
書いた後に気付いて修正したけど遅かった。深夜に寝惚けかけてやるもんじゃねーな


2100か2200からまた始まるんじゃないっすかね。再びブッダファックな連勤地獄に叩き込まれる前に進めたい

あととりあえずスレ跨いじゃったので

・淡エンド(何度目や)
・咲ちゃん正妻エンド
・一ちゃんと一緒

あたりはできたらやりたいね。できたら
ただここまでガッツリは書かれへんけど。ライダーもあるし地獄の仕事もあるし次の職の勉強もあるし

まあ来年なんだけど転職。とりあえず今のところでスキル貰えるだけ貰って円満にやめる
ライダーは555編遅くなるので申し訳ない。早くクロチャーボコボコにしたい


照はね、救いはあるよ。アドルフさんの息子が手術受けてMO移植されたら照エンドもできるよ

まあ正直

・京太郎に倒されるまでは(京太郎が自分を超えてくれるまでは)誰にも負けないつもりだった
・京太郎が自分を超えてくれたら全てを打ち明けて嘘を吐かないで生きようと思ってた
・しかしすこやんの策略により、二択を迫られて京太郎から狙撃される
・本人の意図しない形で京太郎に負ける
・その後京太郎はプロ引退。二度と対局の機会はない

って要素が揃って心が折れてないだけ救いやから……


始めるでー



「――カン」


 少女が、口角を釣り上げる。どこまでも獰猛な笑み。

 これは挑発ではなく、捕食である。風神の牙を以って、己の眼前に立つ有象無象を区別なく食い破るのだ。

 翻されたのは、東が四枚。嶺上牌をその二本の指に収めると同じく捲られたのは北――つまりはこれでドラが四つ。

 現在の手配は十四牌。


 一二三萬 ②②②③筒 567索 東東東東


 ここに、嶺上牌を引いて来れば――少女の勝利は確定する。すなわち、場風自風嶺上開花ツモドラ4。

 親の倍満。東一局で叩き込むのは余りにも十分すぎる一撃である。先制打撃としては申し分ない。

 無論、彼女の力はこれだけではない。己の持つ素質を、特性にまで高める努力をした。

 自分が今までかつて出逢った中での最強の人間に倣って――自分の持つ麻雀への負の印象と、絶望を振り払ってくれた希望の魔法使いのように。

 素質を磨いてこその人間。麻雀を打たされるのではなく、打つ。異能に使われるのではなく、異能を使う。

 それこそが人間であると、彼女は識った。

 彼こそはまさに人類の到達点。人間の限界点。

 人間が持てるだけのあらゆる技能を努力で身に付け、人間の持つ欠点をあらゆる努力で修復した。

 異能などというものがない生身でも、魔物と打ち合う事が出来る人類最強の男。

 そう――彼に、須賀京太郎に己の強さを示すために。彼が救ってくれた事を、彼が行った事は確かに自分の生き方に届いたのだと証明する為に。

 少女は、能力を発展させた。


「――嶺上開花、ツモ。8000オール」


 しかし、それにしてもまずは小手調べ。

 己の力を鍛えると言うのは、決して己の持つ異能を否定する事ではない。これが最強の鉾ならば、迷う事なく使うのだ。

 少女――龍田早苗は、好戦的な眼差しを湛えたまま、眼前の敵を見やった。

 宮永咲。M.A.R.S.ランキングに於いて、己の信ずる最強の男を遥かに上回る順位に居る若手プロ。

 勝つのだ。彼女に。



 続く東一局二本場も、龍田早苗は24300点の和了を決めた。

 己の――早苗の特性は一つ。「風牌を使用した倍満和了」である。

 これにはいくつかの特徴がある。一つは、この倍満というのは「自風場風とドラ4」が基本として構成される事。

 その際のドラは、必ず風牌である。つまりは、ドラ表示牌がドラの乗る風牌の一つ前の風牌となる。

 能力の条件上、「自風」と「場風」が揃わなくてはならない。

 故に、己の風牌か場風牌がドラ表示牌になる状況での和了は不可能である。例えば場風:東で自風:南であるとか、場風:東で自風:南であるとか。

 しかしそうでなければ無双。東場の親である限り、際限なく倍満能力を叩き込み続けられるのである。連想を続けて。


(……でも、この程度じゃ終わらないでしょ?)


 既に原点に48300点を上乗せした早苗は耳に掛かる金髪を掻き上げて場を睨む。

 本当に眼前の女が、M.A.R.S.ランカーであるなら――。

 彼よりも上位であるなら――。

 魔物級なら――。

 この程度の攻撃で終わる筈がない。実際、現に須賀京太郎からはそう聞いていた。上位ランカーならば、京太郎のように苦戦せずに勝つと。

 或いはそれはただの謙遜だったのかもしれない。だが、そうだとしてもその言葉を否定したいのも事実。

 自分にとってのヒーローは彼だ。

 強い事は罪で、弱い事は正しくて、手を取れないのは普通で、仲間や友人なんていなくて、麻雀はただの作業。

 そう思ってた彼女を、救ってくれた。絶望を希望に変えた。

 そんな彼の強さを信じたかった。彼の強さと、人間の強さを。

 だから簡単にはやられはすまい。須賀京太郎は強かったんだって――そう証明する為にも、自分は粘り切らなければならない。


(……って、何弱気になってんのよ。須賀プロならきっと、勝つって言う)


 そう、粘るのじゃない。自分たちで決めるのだ。

 彼が目覚めさせてくれた強さは、あの日から時計を進める事が許された自分たちは強くて――そしてそんな自分たちに勝った彼は猶更なのだと。



 だが……。

 東の出親は龍田早苗。下家に宮永咲が並び、その隣――つまり対面――には早苗のタッグである九頭竜琉生。上家にはアナウンサーの竹井久。

 早苗の弱点の一つであるのは、手が遅いと言う事。

 誰か他人に風牌を渡さぬ為に、予め風牌が手中に収められるのである。決めるその時まで槓子は温存されるため、牌効率は低下する。

 しかしそれでも、同年代で彼女を超える引きを持つものはいなかったし……。

 何よりも、それに備えてのもう一つの牙がある。


(……って言っても、流石に一度見られてるからやってはくんないだろーけどさ)


 しかしこちらの牙は、そう幾度も使えるものではない。言わば初見殺しに近い。

 早苗に先行して敵が聴牌した場合――そしてリーチをした場合――その後方から迫り寄り、早苗も真っ直ぐに聴牌して攻撃を必ず叩き込むというもの。

 大星淡などのプロとやりあった場合、どちらが優先されるのかは分からない。

 彼女が和了するのか。それとも、後発で追いつきリーチ一発を叩き込むのか。

 正直に言ってしまえば、早苗は負ける気がしない。支配率だのとよく判らない話があるが――早苗がリーチを掛けるまでに大星淡が和了しなければ、早苗が勝つと確信している。

 要するに麻雀に於ける異能の支配率というのは、「それぞれが矛盾した場合どちらが優先されるか」であり、矛盾さえしなければいいのだ。

 つまり最低五巡目まで耐えて、そこからリーチを掛けさえすれば、早苗の方程式が適用される筈だ。

 ……まあ。

 そんな事を考えてもどうしようもない。結局このもう一つというのは、彼女自身が分析したように初見殺し。

 手の内を見られてしまったら決まりようがないのだ。

 だが……。


「リーチ」


 あり得ないその言葉に、思わず早苗は振り返った。頭の右側で結ばれたポニーテールが、まさに馬の尾のように震えて視界を遮る。

 発生は、早苗の下家。南家である、宮永咲からである。

 銀のフレームの眼鏡をかけて、隙なく卓上を見やる宮永咲。茶髪のショートカット、小さな背中。スタイルなら早苗が勝っていると自信がある。

 しかし、その彼女が。確かに須賀京太郎が早苗に勝利した場に居合わせたはずの宮永咲が――リーチを掛けたのである。

 何故、とも考えた。だがそれより体は早く動いた。呼応するように、早苗は有効牌を引き当てたのである。手が進む。宮永咲に動く様子はない。

 先行でリーチを掛けるものがいるなら、早苗は勝つ。そういう異能であった。


「――カン! そんで、リーチよ!」


 嶺上牌は7索。

 それを加えた手牌はこの形となる――――四五五六六七萬 5677索 東東東東。

BGM:https://www.youtube.com/watch?v=CufwmDWcD5U



(どれだけの逆転手か知らないけど……!)


 ――――龍田早苗は知る由もないが、宮永咲の手は。

 ――――それは。


(よし……そのアンタのツモで、終わり!)


 宮永咲は下家。否応なく、龍田がリーチをした直後に攻撃される。振り込まざるを得ない。

 その牌が、宮永咲の有効牌となるルールはない。必ず不要牌であり、そして龍田の和了牌だ。

 舞台に上がってしまった宮永咲目掛けて、逃れられない一撃が迫る――。


 ――――それは、先ほどまではただの一役手であった。

 ツモや裏ドラが乗れば、というのは余りにも幻想が過ぎてプロの打牌とは呼べないもの。勢いづいている相手に繰り出すのは無謀の極みである。

 で、あった。

 だが――


「――カン」

 ■■■■■■■■■■■ [4444]索


 龍田早苗はそれを見た。

 “それ”は、自分の和了牌であった。

 誰かが先行しているなら、その背を追い、猛烈なる勢いと膂力で叩き潰すのが龍田早苗の特性。

 先行すれば嶺上開花ツモ自風場風ドラ4という手段で、後発ならばリーチ一発自風場風ドラ4という一撃を以って、相対する相手を捻り殺すのが“彼女(じぶん)”の“特性(のうりょく)”――。

 だが、これは、何だ。

 確かに手ごたえはあった。

 追いつき、その肩口に手を置き、これから絞め挟み殺すというヴィジョンは見えていた。

 宮永咲も例外なく、龍田早苗の当たり牌を掴んだはずなのに――。



「――もいっこ、カン」

 ■■■■■■■ [②②②②]筒 [4444]索


 更に裏返る宮永咲の手牌。両脇だけ反された、四枚の同一牌。

 そして、動じぬ山目掛けて宮永咲の手のひらが差し出された。細くて白い手首だが――。

早苗には、それが宛ら山を切り崩さんばかりの力が漲る、巨大に変形した腕に見えた。


「――リーチ、嶺上開花、ツモ」


 土俵に乗って、技を受けたその上で上回ったのだ。宮永咲は。

 さながらプロレスのように。

 そして、龍田早苗の驚きは終わらない。


「60符の3役は――3900・2000の二本場、4100・2200です」

 一二三萬 ③④⑤⑤筒 [②②②②]筒 [4444]索 ツモ:⑤筒


 元々はドラも絡まぬ1役手だった。

 それがこうも容易く、宛ら爆発が如く膨れ上がり爆ぜた。花火が如く鮮やかに、打点を爆発させたのだ。

 宮永咲が、攻撃を爆発させた。繰り出したその時に兆候はなく、叩き込まれてからその後に。


 ――ここで、符と役と点数の関係について論じるとしよう。

 役が一つ増えたのならば、点数はおおよそ倍になる。30符1役は1000点、30符2役は2000点、30符3役は3900点……という具合に。

 そしてまた、符が倍となったのなら点数はまた倍となる。20符2役は1300点、40符2役は2600点……という具合に。

 ならば、符が元の倍となったのならそれは――1役増えている事と同義だ。

 中張牌の明刻子は2符。暗刻子は4符。明槓子は8符。暗槓子は16符。

 一方のヤオチュウ牌の明刻子は4符。暗刻子は8符。明槓子は16符。暗槓子は32符。

 つまり、元々が30符の手でヤオチュウの暗槓子を加えると言うのは、一役を加えているのに等しい。

 今回の宮永咲はそうでなかったが、中張牌の暗槓子二つはヤオチュウの暗槓子と同義。


 大元は平凡なる一撃だった。一見それだけでは致命打になるとは思えない一撃だった。

 だが、違う。宮永咲は違う。

 繰り出したときは40符1役だった手を、60符3役――つまりは30符4役まで跳ねあげたのだ。爆発的に。

 嶺上開花を自在に使用できるというのはつまり符の支配であり――――すなわち、火力だ。


「親、交代だね」


 これが宮永咲。

 これが、M.A.R.S.ランキング――5位。



    ─────────────────────────────────────────

         5位「爆ぜる報仇の女王」 宮永咲
         ベーススタイル:『技術昇華+運+オカルト』

         攻撃力:55/60 防御力:40/60 速度:40/60
         技術:40/60 幸運:50/60 気力:60/60
         ※(40+40)/2+50=90 コンマ10以上でテンパイ
         ※55×(50+40/2)=3850 これをコンマ一桁倍

         ・『爆ぜる報仇の女王(0)』
          槓子や嶺上開花を操るということは、符を自在に変化させるということ。
          自身和了、打点判定時に、コンマの十の位または一の位の任意の方を用いる。
          また、任意で、本来の打点以下の打点の和了に変更可能。

         ・『爆ぜる報仇の女王(5)』
          自分自身が直接相手に叩き込むのだけが彼女の爆発にあらず。
          カンによりドラが乗れば、直接ではない爆撃が可能。
          他家一人の打点の基礎値を、自身のそれで代用する。

         ・『怒れる大天使の鉄槌(10)』
          獰猛さとは、爆発するように襲いかかり嵐のように立ち去ること。
          嶺上牌の利用。大明槓からの続くカンによる待ちの変化、一副露からの急激な聴牌・加速。
          それまでは危険牌や和了牌でなかったものが、突如として変化するという突然の攻撃。
          速度と技術と幸運とコンマ値を、自身の攻撃で代用して、聴牌判定・和了判定・打点判定を行う。

          ※(聴牌判定値)=(55+55)/2+55+55=165
          ※打点=55×(55+55/2)=4565  これをコンマ一桁倍

    ─────────────────────────────────────────




 ◇ ◆ ◇


M.A.R.S.ランキング 【名詞】 Majan Atomosphere and Realm Suitability Ranking (麻雀の場と状況に於ける対応力ランキング)の略。
                  プロたちが高校生当時行っていた、喰いタンアリ後付アリ赤牌アリの運の要素が高い麻雀ルールで行うランキング。
                  運の要素が高く、つまり様々な多様な場面に置いての勝率や安定性を基準としたランキングである。
                  それ以外にもその功績などにより、ランキングは変化する。
                  打ちなれたルールで行うため、これは若年の麻雀プロに導入され、また、このルールのプロ試合が別枠で行われる。

M.O. 【名詞】 Method Originalityの略。麻雀プロ個人個人が持つツキや打ち筋の偏り、好みなどが織りなすスタイルの事。



 ◇ ◆ ◇


 




「……ふぁ」

「どうしたんですか、須賀さん?」

「ん、ああ……いやー」


 客がいないタイミングを見計らって、首を反らしつつ欠伸を零した京太郎を同僚の青年が目ざとく見やった。

 問いかけられた京太郎は、軽く頭を掻いて――その後、どう説明したものかと悩む。

 まず、前職について今の職場で打ち明けてはいなかった。

 というのも彼は有名人らしい華々しさがない。

 これまでのいくつかのバイトに於いて――それこそ店長などに履歴書を通して知らされる事となるのであるが、大概の人間が信じようとしない。

 同姓同名の別人と思われる……というよりも、彼とプロ雀士であった須賀京太郎を結びつけて連想する人間がいなかった。

 そこには、あの元一位が今はこうしてアルバイトして面接に来ている――なんて誰もが想像しない、というところがある。

 あるのだと思いたい。思いたかった。

 時には冗談と見做され、時には証明を求められる。サインよりも先に――といっても所詮はプロ三年目での引退者なのでサインを欲しがるかは疑問だが――、それだ。

 いい加減、相手から聞かれない限りは打ち明けないもの……というところになっていた。彼の中で。

 そして残念ながら、ひょっとしてプロ雀士の須賀京太郎さんですか?と聞かれた事はない。これまで一度も。


「夢見が……悪かった、のか……多分?」

「はぁ……」


 歯切れの悪い彼の答えに、同僚の少年も納得した様子がないが深くは追及してこなかった。

 そうして、客が来たところで中断。京太郎も彼も仕事に戻る。

 夢とは記憶の整理であると言うが、少なくとも京太郎には昨日一日の事と昨晩の夢の関連性が浮かばなかった。

 内容は、かつて彼が麻雀プロであった頃のプロとアマチュア合同での全国コンビ麻雀大会のもの。

 その中でも、一度は須賀京太郎を窮地に追い詰めた魔物級の異能の打ち手であった小学生二人と、京太郎の幼馴染宮永咲と京太郎の師匠の竹井久の対局。

 現実でも見ていた場を、再び見る夢――であったのだが、微妙に毛色が違った。

 なんというか、宮永咲がヤバかった。イメージ画像なのかもしれないが額から蟻の触角を生やし、両腕前腕部を蟻の頭部の如く肥大させて、素手喧嘩を行っていたのである。

 殴るたびに、爆発が起こる。その他に、手足の関節部にロケットでもつけているのか、独楽が如く回転しながら殴りつけてくる。奇妙な勢いで。

 麻雀に於いてのプレイスタイルと合致している分、何とも複雑な夢だった。というか怖い。



 更には彼の師匠であった竹井久が、宮永咲を隠れ蓑に/或いは見せ者に毒を出すものだから性質が悪い。

 京太郎の対人技術の内の、思考を惑わせ狂わせる毒というのも竹井久譲りであった。


(もうあのタッグ戦から……一年半以上か。時間が経つのって本当に早いよなー)


 小学生二人と出会ってからで言うのなら、二年は経とうか。

 当時小学六年生であったので、もう中学二年生だ。というか更に何か月かおけば、中学三年生。

 小学生であった少女たちがいつの間にか中学校最終学年になると言うのは、なんだか本当に感慨深い。

 というかこれが社会人と学生の差か。一年と言う時間の重さが、あまりにも大きい。その割に社会人の一年は恐ろしく早く流れる気がする。

 と言うか、二十を過ぎてから加速しているような。更に二十二を過ぎてからは劇的だ。あっという間に三十路の壁を突破するのではないだろうか。

 彼としてはそろそろ結婚でもしたいと言うのが本音であるが、生憎定職についていない。流石にフリーター、妻を娶るは洒落にならない。

 というかそもそも相手がいない。

 プロのときに付き合っていた人間関係の殆どは、離職と同時に清算されてしまった為――結婚しようにもいい人が見つからないというのが現実。

 どこかに、黒髪でおしとやかで巨乳で家庭的で趣味が合って明るくておまけに職も恵んでくれる美人はいないものかと、京太郎は頭を捻らせた。

 しかし悲しきかな。流石に女性から職まで恵んでもらうと言うのは、彼の中のなけなしのプライドが邪魔をするのだった。

 ……と言っても、現状殆ど似たようなものであるが。


 それにしても、何故今更に麻雀プロ時代の夢を見るのだろうか。しかもこれ見よがしに宮永咲の夢を。

 眉間に皺を寄せて――京太郎は気付いた。

 昨日出逢ったあの眼帯の少女、以前見かけていたのだ。宮永咲が街頭テレビに映し出されるのを見た、その時に。

 加えて、オカルト喰い――麻雀関係の言葉が、彼の脳裏を刺激したという訳か。

 そして、記憶が正しいのであれば少女の格好は以前見かけたときと同じ。

 また、思い返せばという程度だが――あの少女。ひょっとしたら、空腹だったのではないだろうか。

 あの気だるげに壁に寄りかかりたくなる感覚には覚えはあるのだ、京太郎にも。


(……で、そうだったとしても。それを知ったからって、なぁ)


 考えた所で、己に何が出来るわけでもない。店にでも来てくれれば多少の心付けは可能であるが、彼女は到底喫茶店に縁がある風になど見えない。

 或いは腹を空かせているなら、ちょっと奢るくらいならできそうだが――――そうそう何度も見掛けるなどとは思えないのだ。

 そう切り捨てて、仕事に意識を向ける。あと少ししたら、休憩時間である。それを励みに、捌くしかない。




「じゃ、休憩入ってきます」


 そう言い残して、京太郎は店を後にした。

 昼食は作っていない。夢見が悪く寝過ごしそうになった為というのもある。あの狭いキッチンで料理をする気が起きないというのもある。

 その辺り、新子憧が来たらどうしようか――などと顎に手を当てつつ、彼は立ち止った。


「よっ! 買いすぎちゃったんだけど、タコス喰うか?」


 努めて親しみを前面に押し出して、紙袋を片手に。

 京太郎は、公園のベンチに佇む少女に笑いかけた。少女の格好は、昨日と同じであった。

 左側だけが結ばれた藍色の髪。輪ゴムの位置さえ、変わっていない。


「……」


 京太郎が大口を上げて頬張る間も、少女はタコスを宝物か何かの如く両手で押さえて口に運ぶ。

 小さな口で、勿体ぶるほどにゆっくりと咀嚼。ジャンパーの襟から覗き出た白い首が、別の生物の如く蠢く。

 ふとペットボトルの水を――オレンジ果汁入りを差し出せば無言で受け取って、少女は食を進める。

 その体のどこに入るのか。結局、三つほどタコスを平らげてしまった。

 買いすぎたという口実で四つほど購入していた京太郎もこれには驚いた。二つは自分で食べようかなと思っていたのである。

 そして、おもむろに最後の欠片を飲み込んだ少女はやや置いて、


「……何も訊かないの?」


 そう、問いかけてきた。

 少なくとも彼への不信感はない。京太郎にはそう感じられた。あれほどタコスを頬張っていて今更であるが。

 それとも、そんな事に構わないほどに空腹であったのだろうか。

 また、よく見れば少女の袖口の中には、包帯がある。左手。そういうお年頃の病気にかかっているのでも無ければ、大事である。

 それでも京太郎は――努めて平静に、言った。


「ん、ああ……そうだな。じゃあ、ひとついいか?」

「……何?」


 俄かに、少女の身体に警戒が滲む。

 彼はそれに気付いたか、或いは気付いてはいないのか……やはり極めて平坦な声色。日常会話でもするかの如き気軽さ。

 いや、実際のところそれは単なる日常会話でしかなかった。


「パンと米ならどっちが好きだ?」

「――」


 少女が、停止。目をしばたたかせて、京太郎の言葉の意味を反芻する。

 暫しの沈黙。沈黙を通り越して、それは思考停止の間にも近かった。

 秋も終わりかけて、冬支度を整え始める公園の木々。紅葉には過ぎてしまった枝目掛けて、木枯らしが吹く。

 それから、


「ん? いや、米とパンってどっちが好きなんだ?」


 それとも好みとかないのか、と。

 その事が非常に悩ましげな問題でるように半ば困った風に眉を止せる京太郎へと、少女が柳眉を下げた。


「何それ、お兄さん」

「ん、いや……何となくだよ。何となく」


 相手の手を取ってとびっきり格好を付けた口説き文句を美人にぶつけてみたが、まるで意にも介さずに袖にされてしまった――。

 そんな感じのバツの悪さを醸し出す京太郎に、知らず少女の躰からは力が抜けていた。


「ご飯」


 あと、と言葉を区切って。


「……タコス」


 そっか、分かったと満面の笑みを浮かべる京太郎。それきり彼は少女に背を向けて、元来た道へと歩き出す。

 少女はその不思議な来訪者の背中を、消えていくまで見つめていた。




 ……一方その頃、件の須賀京太郎の「正直結婚したい理想像」に当てはまる松実玄はと言えば。


「……どうしよう」


 悩んでいた。それはそれは非常に悩んでいた。

 黒髪巨乳。旅館の女将で言うまでもなく家庭的且つ職の提供も可能。

 更に京太郎より一つ年上。姉さん女房というには彼女自体に姉がいる為に若干頼りないものであるが、年上の女房は金の草鞋をなんとやら。おまけに趣味も一緒である。

 ただしその趣味は巨乳好き。男なら兎も角、女性に付けるとしたらこの趣味それだけで正統派美少女が色物アホの子になってしまう魔の代物だ。

 そんな魔の趣味を持つ松実玄は、悩んでいた。

 それというのもつまりは、須賀京太郎の事である。


「どうしたらいいんだろう……?」


 元々彼女と須賀京太郎は、プロ時代に出会った。京太郎がプロ一年目の夏の出来事だ。

 あまりに忙しすぎて。そして麻雀での不調と、麻雀以外での仕事の多忙さに疲れ切った須賀京太郎は息抜きに奈良を訪れた。倒れた。熱中症で。

 その介抱をしたのが松実玄であり、付き合いはそれなりに長い。

 なお彼女の姉はそれ以前に須賀京太郎と仕事で共演していた。どうでもいい話だが。

 それ以降、京太郎とはプライベートで連絡を取り合い趣味について語り合って、他には番組の取材や収録などで共に行動し、親交を深めた。

 彼女にとっては、おそらくもっとも親しい異性である。女子高育ちで、それからすぐに実家を継いだという問題もある。

 そんな親しい異性の須賀京太郎に、連絡を取ろうかどうか松実玄は悩んでいた。須賀京太郎がプロを止めてからずっと。つまりは一年半以上。



「どうしたらいいのかなぁ、おねーちゃん……」


 聞いても返答は帰らない。当然だ。姉はプロ雀士となって家にはいないのだ。たまに帰ってきて炬燵の猫になるが。猫というかカメというかナマケモノというか。

 基本的にしっかりしていると言われるのは、妹である玄の方であるが、肝心なところで腹が据わっているのは姉の松実宥だ。長女は伊達じゃない。

 姉より優れた妹なぞいねえ。おもち――胸部兵装も姉の方が大きい。玄もかなりだが、姉と比べているのか余り意識してはいない。

 たとえるならエベレストとK2なのである。どちらも大きい。ただ玄は己が大きいと(あんまり)思ってないのだ。

 しかし自分基準で考えるのか、それとも姉と言うエベレストで見るのかは知らないが一般的に中々のサイズを見ても「おもち力たったの5だね」とドヤ顔をする。殴りたい。

 閑話休題。

 ちなみに宮永家では姉は妹に負けていた。代わりにウエストの細さで姉は勝っていた。妹が寸胴とも言う。

 なお、実際に高校生の自分にそれを言った須賀京太郎は二三日口を利いて貰えず、読書感想文の手伝いをしてもらえなかった。また話が逸れた。


「うーん……京太郎くんに、なんて言おうかな」


 松実玄は、悩んでいた。

 最初は、須賀京太郎を励ますべきかそうでないのか。

 麻雀プロの道を諦めた――というのは彼にとっては大きな事態だ。高校一年生からひたすらに打ち込み続け、およそ十年にも近い歳月を費やした努力の道。それが一晩にして、瓦解した。

 その心中を察して余りある。いや、玄からは想像もできない。

 言ってみるなら、人間をサラブレッドに変えるほどの情熱を用いたのである。何ら、麻雀に於ける異能を持たず、天運の限りも持たない須賀京太郎。

 ただ只管に人間が習得可能な麻雀の技能を磨きあげ、そして不運と言う欠点を努力と技術と思考で塗り潰した。そんな覚悟の道。

 それを唐突に奪われた人間に――一体、なんと声を掛けられるのか。

 しかも加えて、彼は奪われた。大切な両親を。一度に二人も、失った。

 玄にも、母がいない。彼女が幼少の頃に亡くなっている。だから、失う悲しみというのは――別れる辛さというのは、知っている。

 しかし玄はそれは子供の頃で、あまりにも昔の事。整理する時間も、折り合いを付ける期間も十分に貰った。母の手料理などを食べる事は出来ないのだ、という事を除けば寂しさもない。

 何故なら、彼女の人生はそれよりも長いから。母が生きていた時間よりも、その後の方が玄にとっては多く積み重なった年月だ。



 だが、京太郎は?

 唐突に失ったのだ。己が懸けていた夢も、己が愛していた家族も同じくして。それまでの生活の大部分を失った。

 きっと、誰かを抱きしめてやりたいと思ったのは――異性にそう思ったのは、それが初めてだった。

 しかし距離は開きすぎていた。奈良と東京はあまりにも遠い。

 そして、同じだけ――彼にも整理の時間が必要だと思った。失った悲しみを、別れた辛さを消化するには十分な時間が必要であると。

 整理が出来たら、話を持って行ってみよう。色々な、話を。

 そう思って……。

 思って……、


「どうしよう、おねーちゃん」


 いつの間にか一年半が経っていた。とんだすっとこどっこいである。


 タイミングを外したら、今度はなんと切り出していいのか迷い始めた。

 更に付け加えるなら、彼との大学生までの同級生であった新子憧から、京太郎が両親の分の借金を――交通事故の賠償金を――背負う事となったと聞いていた。

 勇気を出して、「借金ごとおまかせあれ!」と言ってみようかとも思った。ただ、同時に京太郎は遠慮するんじゃないかと思った。玄の知っている京太郎なら、そうする。

 それにこう、借金までバッチコイとか……もうそれ殆どプロポーズしてるのと同じではないだろうか。それはちょっと恥ずかしい。

 確かに玄も結婚願望がある。

 優しくて、温和で、気が利いて、自分の事を守ってくれるような人で、趣味も合ってて、明るくて、楽しくて、出来たらかっこいい人だと嬉しい。他には清潔感あるとか、スポーツマンだとかも思い浮かぶがそれはいい。

 幸せな家庭を築けたらそれが一番いいなぁ……なんて夢想する。

 で、件の京太郎と言えば――嬉しい事か悲しい事か、かなり玄の理想に近い。趣味も同じだし。番組の収録で、まるでヒーローみたいに庇ってくれたりお姫様抱っこしてくれたりしたし。

 ただ……まあ、その、結婚となると……こう……もう少しお互いを知ってからでいいというか。ちょっと早くないかとか。まだ深く知ってないというか。もっと親しくなりたいというか。色んな事したいなえへへとか。

 あとはこう、なんというか玄と同じ趣味なので……まあその結婚についてのイロイロアレコレで「おもち力たったの5め」とか言われたらちょっとショック。

 加えるなら、こう、切り出してみたは良いものの「すみません、玄さんとそういう関係になるのはちょっと……」とか言われたらショック。もう穴が在ったら埋めてまた掘り起こしたいぐらい錯乱する。

 いかんせんメールのやりとりしかできてないので、その辺り脈があるのか解らないのだ。女子高出身だし。

 そうこうしていたら冬が近くなり、「もし彼女さんが居たら浮気って疑われちゃったり……それで大変な事になったり……」としり込みをし、

 今度は春が近くなって実家がやたらと多忙になり――桜のシーズンの吉野は伊達じゃない――落ち着いて連絡を取ろうと考える事が出来ず、

 そうしたらいつの間にか一年近く経っていて今更感が漂い出して、でもどうしようと悩んでいる間に季節はすっかり冬に近くなってしまった。無念である。迂闊である。


 せめて、


「……阿知賀に、来てくれたらなぁ」


 ……なお彼女は知る由もないが。

 彼女の後輩の高鴨穏乃は須賀京太郎の高校時代の恋人であり、彼女の同級生の鷺森灼は須賀京太郎が大学時代一時期男女の仲だった人間である。

 おまけに京太郎と大学同級生の新子憧も、松実玄の後輩であったりする。

 地雷原阿知賀。都落ちの地、吉野というのは伊達ではない。やはり古都はパワースポットなのだろうか。実際怖い。


「どうしよう……かなぁ」


 そうしたまたいつものように、松実玄は首を捻る。

 未だに彼女は残念だった。




  ◇ ◆ ◇




   ……二人も、チームメイトがいなくなるなんて。それに……、こんなに早く。


                             ――麻雀プロ 南浦数絵、須賀プロ引退及び小走プロ移籍時に



  ◇ ◆ ◇

未成年を餌付けする元プロ。これは事案ですね
あとクロチャーは京太郎が辞める事になったときに近くに居れば抱きしめてゴールインやったで


今日はここまででー

>>150(訂正)
×
 なお、実際に高校生の自分にそれを言った須賀京太郎は二三日口を利いて貰えず、読書感想文の手伝いをしてもらえなかった。また話が逸れた。


 なお、実際に高校生の時分にそれを言った須賀京太郎は二三日口を利いて貰えず、読書感想文の手伝いをしてもらえなかった。また話が逸れた。

 自分→時分

・高校時代の彼女
・大学時代の彼女
・結婚するなら理想のタイプである旅館の跡取り娘
・その姉の小動物(変温動物系)巨乳麻雀プロ

アコチャーの未来はどっちだ

喧嘩する→京太郎出てく→頭が冷える→ひょっとして玄とかのとこにいったんじゃ……→劣等感とか危機感とか→劣等感マシマシ仲直りこ滅セ

アコチャー実に面倒くさい


すこやんVSや照VSのお題がなかったら普通に日々の対局で視力が限界を迎えてプロやめて居たのでそういう意味だと1位までランクアップしてから辞められた分幸せやで
照はどのみちエンディングに入ってこれないからね。出番がある分まだね


あ、今日はないです。多分次は日曜っすかね……多分……連勤……
そのあとは……また……

これ(すばら先輩を100位にするしか)ねえな

ほい、ちょっとだけ



 何が本当に正しかったのか、今でも考える。

 しかしこんな問題はきっと、いくら考えても答えの出ぬ問題である。何が正解で何が失敗なのか、恐らく単純には割り切れない話。

 ただ、一つの指標としては――そこに納得や後悔があるのかというものだろう。

 だったらきっとこれは、“失敗”だ。

 理解は出来た。

 だけれども、納得は出来ない。後悔も勿論ある。許容なんて不可能だった。


「悪いな、勝ち逃げだな。これ」


 そう笑う青年の顔はやけに爽やかだった。

 拠る辺を無くし、家族を無くし、努力や覚悟を諸々不意にした人間のそれとは思えないほど。

 きっと彼はまだ総てを失った訳ではないのだろう。聞けば、有名な大学を出ているらしいし、出演番組等を見るに実に多芸だ。

 麻雀に懸ける情熱は本物だが、それ以外にも生きていく道は多く、活かせる道も多いのだろう。

 羨ましくもあり、妬ましくもある。

 恵まれた人間の手慰みとして麻雀を利用されていた事への、思う所が無いわけでもない。

 ただ、予想に反して――人類最強の男は姿を消した。影も形もなくなった。表舞台から、去ったのだ。総てを捨てて。

 それがあの、“勝ち逃げ”という言葉に集約されていた。

 実に――実に、腹立たしい。


「宮永咲プロとは、因縁の対決との事ですが、お気持ちは?」

「そうですね。いつも通り、やるだけですよー」


 記者の質問に笑顔で返す。

 正しくその通り、自分と彼女の対決は因縁じみている。十年前から始まって、今の今まで続く。

 無論、それだけではない。

 直接的な勝敗以上の感覚があるのだ。

 宮永咲は宮永照の妹。

 宮永照は自分の憧れの人物にして、大いなる目標。以前から宮永照の後継者と呼ばれてきたが、いずれは宮永照が自分な前身だったのだと呼ばれるよう――そんな打倒目標。

 それと同じだけ情景し、尊敬に値する人物。

 そして高校時代から宮永咲とは幾多の勝負を共にした。プロとなってからはランキング順位の関係で直接的な闘牌は少ないが、それでも幾度鉾を交えた。

 タイトル戦を争ったりもした。――している。



「そういえばこの戦いは以前、須賀プロも――」

「おい、馬鹿」

「あっ」


 途端に塞がれる口。

 須賀京太郎――――かつての麻雀プロ。かつての第一位。かつての人類の到達点。かつての地上最強の男。

 その名は今、タブーとなっていた。

 須賀京太郎が電撃的な逆転と偉業の末に第一位となった。それから彼は多大なる不幸に見舞われ、若くしてプロの道を去った。最強のまま、消えた。

 或いは何らかの報道規制か。それとも彼の境遇を不憫と考えたか、或いは不気味と思ったのか――とにかく暗黙の了解か其処らで、須賀京太郎の名は表には出されなくなった。

 故意に風化を望んでいると思えるほど――しかも当人自身も――その名は潜められて久しい。

 それとも、単に本人に華がないので日々華々しくうつろう麻雀業界では既に過去として流されていくのかも知れない。

 兎も角、誰かが須賀京太郎について問い掛ける事はないし、また彼女も須賀京太郎について語り出す事もない。


「それじゃあ、試合なんで失礼しますねー」


 だからと言って、思う処がないというのは大間違い。

 寧ろ彼女は――、大星淡は――、自分は――、思う処しかない。


 宮永照を超えるのは自分だと考えていた。――だけど先を越された。

 異能を持たないたたの人間だと思った。――でも負けた。

 好敵手だと信じていた。――しかし逃げられた。

 どこかでまた顔を合わせるのかと感じていた。――ところが姿を消した。

 最初はただのタレントかと思ったが、ちゃんとした麻雀プロで。

 それでも自分の敵じゃないと思ったら、逆転の一撃を叩き込まれて。

 何かの異能かと思ったら、ただ鍛えただけの人間で。

 次は必ず勝つと決めたけど、またもや上を行かれて。

 それでもまだ戦いな続くと思ったら、もうそれっきりで。

 挙げ句の果てに――――いなくなって、そこでお仕舞いだなんて。



(ふざけんな)


 ふざけるな、須賀京太郎。

 戦った相手は数多。倒した相手は幾多。

 その中でも大星淡に土を着けた奴は少ないと言うのに。更にその中で、ただ人間が人間の技能を鍛えただけの奴なんて居ないのに。須賀京太郎しか居ないのに。

 ライバルだと、好敵手だと誓った筈なのに――。

 何の力も持たない人間で、でも弱さを誇らないで、強さを咎めない男で――認めた唯一なのに。


(ふざけんな)


 許せない。本当に許せない。

 勝手に一人で終わらせて、勝手に一人で納得して、勝手に一人で居なくなって――。

 挙げ句の果てに、あんなに清々しそうに“勝ち逃げだ”なんて――。


(ふざけんな)


 本当に許せない。

 須賀京太郎だけは許せない。絶対に絶対に、この先何があっても。

 だから、奪う。だから、貰う。

 須賀京太郎の残したものは全部貰う。

 彼の残した成績も、彼が勝ち取ったタイトルも、彼が勝ち得たその称号も――――何もかもきっと。きっといつか。

 きっといつか、あいつの手に入れた総てを上書きして塗り潰して埋め立てて――そうしたら、そうしたらきっと――――。


(ふざけんな、須賀京太郎)



 碧眼が細まった。

 大星淡が、眼前の敵を睨む。因縁の相手、宮永咲。

 茶髪のショートカット。一房だけ髪の毛が癖で固まり、あたかも何かの触角のよう。誰に倣ったのだか知らない眼鏡。ただしこちらは銀色のフレーム。

 淡の、緩くウェーブを抱いた金髪が鎌首を擡げる。恰かも主人の闘志に呼応したかの如く、腰ほどまでの長髪が波打ち逆立つ。

 須賀京太郎亡き今、彼が手にしていたタイトルの一つ――にして唯一――を持つのがこの宮永咲。

 奪う。

 筋違いだとしても、こいつから奪う。

 何もかもを奪って、須賀京太郎がプロとしてこの世にいた痕跡を総て自分が埋め尽くしたなら――。きっとそうしたら――。


 ――なんで。


(うっさい)


 ――どうして。


(うっさい)


 ――やだよ。


(もう、一年以上前に終わったんだ)


 ――教えてよ。


(うっさい、須賀なんて許さない……! あんな奴、居ない……!)


 ――どうして、きょーたろー。


(殺してやる……! あんたがここにいた、その証なんて全部)


 きっと何もかもを上から潰して仕舞えたら、この胸の渇きも埋められるだろう。

 きっと――。きっとそうしたら――。


(殺してやる……!)

以上

病 ん だ

>>40(訂正)
×「……そうかなのか?」
○「……そうなのか?」


>>104(訂正)
×
 時点でビーフシチュー。クリームシチューもろもろ。


 次点でビーフシチュー。クリームシチューもろもろ。


>>186(訂正)
×
 それでもまだ戦いな続くと思ったら、もうそれっきりで。


 それでもまだ戦いは続くんだろうなと思ったら、もうそれっきりで。

誤字大杉実際問題。訂正重点な
これはちゃちゃのんのケジメ案件では?

実際どうとって貰っても構わぬよ>一般人男性
須賀京太郎は半ばタブー→元プロ表現なしでもいいし、一般人のAドルフ・Rインハルト(仮名)さんでも
淡エンドはな、書けたら書くからどっちでも取れるようにな

眼精疲労には生卵がいいとか

年末で18時間勤務だオラァ!
来月から頻度さがるから何とか進めたいから進めますぞオラァ!

実際アコチャー結婚後はお互い気が気じゃない感じになるんじゃないっすかね
方や元カノ元カノ自分よりスタイルいい先輩がいる、方や元カノは奥さんの親友・元カノは奥さんの先輩やからね
そりゃ気まずさヤバいっすよ




  ◇ ◆ ◇




   一緒に日本一になれるように頑張りますーぅ。タッグは無理でもチームの方は。


                             ――麻雀プロ 荒川憩、小走プロが移籍加入について



  ◇ ◆ ◇





「よ、これ。ご飯にしてみた」


 平穏、冬に差し掛かった午後。

 あの公園に見えるのは二つの影。銀杏の絨毯が避けたそのベンチは、そこだけが空白地帯とばかり。

 遊具の殆どは撤去されている。

 地面に埋め込まれた金属パイプの基礎。私用禁止、立ち入り禁止の紙が踊る鉄の骨組み。

 残るのは山とトンネルと鎌倉が一体化したような鼠色の滑り台と、すっかり錆び付いた発条の上に鎮座する色の剥げた馬と牛。

 二つ並んだブランコは物悲しく、風が吹く度に軋んだ音を立てる。

 そんなうらびれた雰囲気の中、場違いに並べられた新聞紙とアルミホイルの重装甲から躍り出たタッパー。


「……」

「食おうぜ。冷めちまうしなー……、……ってもう冷めてるけどな」


 能天気な声を上げて、青年――須賀京太郎が少女へと割り箸とタッパーを差し出す。

 彼の心配ごとといったら目下、米が寄りすぎてたりおかずが乗り上げて混ざりあって居ないかだ。

 これが春や夏先ならば、絶好のピクニック日和だったのにな……と京太郎は伸びを一つ。

 隣に座る少女は湯呑みの茶を飲むような動作のまま、もくもくとタッパーの中身を口に運ぶ。

 しかし、生野菜が巧みに箸から避けられている。どうやら生野菜は苦手らしい。

 なら今度は茹でてみるかな――と、思案顔の京太郎に、


「一つ、聞いていい?」


 見上げた少女の目線が合わさった。

 余程熱中して食べているのか、口の箸にソースがついているのが何とも微笑ましい。


「ん、どうしたんだ?」


 ハンカチを取り出す京太郎に一礼をして口を拭った少女は、やおら口を開く。


 変わらず、透明な瞳。その瞳孔に彼の微笑みが反射する。

 片方は覆い隠され窺えない。だがその分、左目は熱心に世界を捉えようとしているのか――などという感想すら懐く。

 純粋なのか、それともその奥に何かがあるのかは、神ならぬ彼には判らないが……少なくとも今この瞬間、少女は須賀京太郎だけを視界に映していた。

 が、


「お兄さん、働いてないの……?」


 次の瞬間飛び出したのはそんな爆弾発言である。

 言葉のボディブローならぬリバーブロー。

 なまじっか物静かで純真そうなだけに効果倍増。冷徹の徹は徹すの徹。心臓に直接冷凍パンチを叩き込まんばかりの衝撃である。リバー(肝臓)だけに肝が冷えるとはこの事か。

 漸く何か訊いてきたと思ったら、まさかの職の確認である。

 なんだろう、あれか、職務質問なのか。須賀京太郎は不審者とでも言いたいのか。

 ……いや、確かに端から見たら危ない光景だけど。児童なんちゃらとか青少年なんちゃらとかで。

 抑揚がない口調と平坦な視線。合わさると、子供が純粋な質問をぶつけて来ている風な錯覚さえ懐くほど。


「いや制服着てるよな!? 喫茶店で働いてるからな!」


 流石の京太郎もこれには苦笑い、どころか全力で否定。二十代中盤無職認定というのは精神的にあまりにも大きな打撃である。


「……フリーターなんだ」

「いや、それは……その、なんというか……」


 言外に込められた「いい年して定職に就いてない」――というのが須賀京太郎の胸を静かに抉る。

 会社員になろうか、それとも教師になろうかは京太郎とて考えた。

 しかしながら、僅かに新人とは言い難い年齢ではエントリーシートで弾かれ、また、新卒でもなくツテもなかった京太郎では教師は難しい。

 幾ばくかの私立校の教員募集に応募を試みたものの……現実の前に挫折した。

 過去あれほどまでに覚えた事を、忘れていたのだ。使わなくなった記憶は直ぐに薄れるとはこの事か。

 これでは到底誰かに物を教えるというのは難しいな――と、結局京太郎から一時断念。

 現在は勉強中。新子憧と頻繁に連絡をとっているのも、実際の教師の観点から何が必要なのかを窺う為である。

 今度の予定は最終確認。それで保証されたのであれば、各都県の教育委員会や私立高校への就職を考えようとしていた。

 断じてニートではない。

 繰り返すが、断じてニートではない。断じて。


「……またね、ニートのお兄さん」

「……ニートじゃないですから」


 ニートじゃねーよ、と声を大にしそうになったのを彼は何とか堪えた。

 そんな風に、しかし一方、(それともやっぱり俺ぐらいの歳なら定職じゃないとニート同然なのか?)と肩を落として歩く京太郎の背中を、少女はいつまでも見詰めていた。

 少女の手元に残されたハンカチが、くしゃと揺れた。





 小さく呼吸。相手は拍を取る。

 対する京太郎は膝を軽く曲げ、腰を僅かに落とした状態。指には軽く力を込め、恰かも鉤爪の如く曲がる。左を前にした左主体。

 拍は取らない。相手の目の辺りを見遣りつつ、しかし注目せず。

 赤の短髪。上下される髪。堀の深い顔。鋭い目。上唇の辺りに古傷。小さく呼吸と共に震える下唇。

 それらの情報が、認識されながらも――遠ざかる。

 総ての情報を同時に掌握し、そして同時に忘却し、同時に理解して、同時に無視する。奇妙な感覚。

 時間が圧縮されて濃密なものへと変化しつつも、矢のような目まぐるしさを懐く。音が即座に脳裏を過りながらも刻まれる事なく、しかし同じくして片隅で残響する。

 意識を複数に分割したかの如く、視界に対する主体性を失う。己が感じ取りながらも、己以外の誰かや何かにもたらされている感覚。

 脳の複数が同時に矛盾した処理を行い、しかしそれが統合され無理なく成り立つ体感。

 何かに酔いながらも、同じだけの正確さを持った機能が働いているのだと――漠然と認識/同時に忘却。


 呼吸が苦しい。実感を抱きつつも、頭の芯は冷えている。そこは京太郎であって、京太郎ではない。

 視覚/視角そのものが京太郎だった。

 脳での思考を手放している意識。己の体勢などの触覚や相手の呼吸音などの聴覚――果ては思考までもが、見えない情報となりながらも視界に投影され認識する超然的な意識。

 そのまま視覚が取捨選択する。匂いや暑さなどは当に手放された。恐らく味も。

 ふと、もし視覚を失ったらこの感覚はどうなるのだと考えたそのとき――、


「――」


 相手が動いた。

 左のジャブ――京太郎が反射じみた動きを取り始めたそこに。

 間合いが半歩詰まる/突き出された左手が視界を削る/外を向いた右足/右肩が後退/首に角度が付く/顎が左へ――――左ミドル!


 距離を詰めて勢いを殺すか?

 ――相手の左手が邪魔/詰まった距離+着弾の硬直に痺れる右腕=隙に次撃が飛ぶ。


 背後に引くか?

 ――相手の左手に生まれた死角=間合いの掩蔽/誤れば最大威力が襲いかかる。


 その場で身を硬めて耐えるか?

 ――だが相手は左ミドル/スタンスに開いた体の内への攻撃/使える防御は右=疲労の蓄積による利き腕潰し。


 果たして、京太郎は足を引いた。



 そして、彼の動きには京太郎以外の全てが瞠目した。

 京太郎の身体に蹴りが命中したその瞬間には、放った側が弾き飛ばされて居たのだから。

 倒れ呻く攻撃者。それを余所に、勢いを失った左足を緩やかに引き戻す片足立ちの須賀京太郎。

 あの瞬間、彼が行ったのは構えのスイッチング。右を残したまま左足を引き、構えの左右を入れ換えたのである。

 そうして迫りくる右ミドルを曲げた右の腕と体外側面で受け、その勢いも加えた上での半回転。半時計回り。

 駒の如く回る身体から一直線に突き出された左の踵。回転状態で前方目掛けて放たれる後ろ蹴り。

 人体でも特に強度を持つ、背筋・大臀筋・大腿筋が背筋を弓なりに引き絞るその力と、作用点である踵の硬度と面積。その気で使うのならば、最も破壊力がある攻撃である。

 それが、左ミドルを放つ敵の脇腹と背筋の間に突き刺さった。更には放った相手自身の力も加算されて――である。


「悪い、大丈夫か!?」


 攻撃を行った当の本人の須賀京太郎自身が、誰よりも汗を浮かべて相手に駆け寄る。

 無論全力や死力での一撃ではないが、咄嗟に繰り出したそれには上手く加減が乗らないというのも事実。壊すつもりで蹴り刺してはいないが、想像以上に力が乗った。

 同時にそれだけ、相手が強者であった証である。

一方の相手は、京太郎の腕に頼りながら起き上がり、


「いや、これ……かなりっすね。驚きました」


 そう、笑った。額には軽く脂汗。

 それを見て漸く彼も肩の力を抜く。


「悪い、なんか遣り過ぎて……」

「いや、いいスパーになりました……これ以上の攻撃とか、多分ないでしょうし」


 心底驚いたと、赤いパンツの選手は笑う。


「今度、俺のスパーにも付き合って下さいよ」

「いや、俺にも。須賀さんぱねえ」

「須賀さん、勿体ないからエクササイズとか言わずに上目指しましょうよ。いい蹴りっすよ」


 リングの方々から歓声が上がるのを、京太郎は苦笑で応じる。面映ゆいといった面持ち。

 実際こうして喜ばれるのは、彼としても悪い気がしない。


「俺、須賀さんになら抱かれてもいい」

「須賀さんがその気なら孕む自信あるわ」

「須賀さん十割バッター?」

「え、須賀さんデキ婚?」

「式には呼んで欲しいっす」

「ご祝儀アイスティーでいいっすか?」

「誰もそんな話してないよな!?」


 いややっぱりなし。そっちのケはないのである。

 というか弄りにシフトしていた。体育会系特有の悪乗りである。

>>238(訂正)
×
 そうして迫りくる右ミドルを曲げた右の腕と体外側面で受け、その勢いも加えた上での半回転。半時計回り。


 そうして迫りくる左ミドルを曲げた右の腕と体外側面で受け、その勢いも加えた上での半回転。半時計回り。


×
 駒の如く回る身体から一直線に突き出された左の踵。回転状態で前方目掛けて放たれる後ろ蹴り。


 独楽の如く回る身体から一直線に突き出された左の踵。回転状態で前方目掛けて放たれる後ろ蹴り。




「……まだまだ動くもんだなぁ」


 帰り道、すっかりと冷えきった夜の空気にはしかし、まだ人の生暖かい熱気が残っている。むしろ街は、これからが本番と言わんばかりに。

 黒をベースにした、枯れ草系統の色で立てられた冬物向きの色彩のマフラーを寄せて、京太郎は吐息を滲ませる。

 一週間に一度、或いは二週間に一度。こうして立ち技系のジムに顔を出すのが彼の習慣だった。

 殆どただ身体を動かし、サンドバッグを蹴り付ける。それだけなのだが今回ばかりはスパーリングを頼まれていた。京太郎の蹴りを見たジム員が、どうしても一度と頼んだのだ。

 彼自身、ある種の気晴らしになった。以前に比べて、こうして派手に集中する事や動作を行う事が少ない生活であったから。

 しかしああも褒められると、プロというのも悪い気はしないな――と京太郎は目尻を下げた。

 実際それで生活出来るかとか、或いは身体の問題などはさておき。


「お、憧からか?」


 ソーシャルネットワークに、メッセージが入る。どうやら電話をしたのに出なかったのだが、忙しかったのか聞きたいらしい。

 やや置いて、文面を考える。

 僅かに滲む悪戯心。ある程度したしい相手ともなると、彼は妙な茶目っ気を出す。例えばお姫様扱いだったり、ぞんざいな対応をしたり。


「『ちょっと裸だった』……と」


 正しくは上半身裸であり、全裸ではないのだが嘘は言ってない。


「……既読スルーかよ」


 既読マークは付きながらも、返事が来ない。

 何となく彼には、画面の向こうで呆れ顔で溜め息を漏らして無言になる新子憧が幻視された。なお事実は別である。憧はふきゅっと鳴いた。

 手厳しいな、と頭を書く。確かに彼自身振り返るなら、これはあまり面白いネタではなかった。


 



「よ、京ちゃん」


 そこへと――声がかかる。

 後ろ髪の辺りへと意識が拡張し、視界が吊り上がる。自然と膝が余裕を持ち、両肩の力が籠められながら抜けた。

 そこまでして、京太郎は苦笑。激しく鎬を削った直後だったからか、彼自身が思う以上に神経が鋭敏になっているらしい。

 暗がりから顔を覗かせたのは、鋭角的な輪郭を持った銀髪の老人。好好爺という風情であらる。


「あんま驚かさないでくれよ、シゲさん」


 京太郎が顔を苦くした。

 普段ならばそんな事はないのだが、格闘直後にこの老人の持つ死線にも似た幽鬼の雰囲気には、自然と身体が迎撃の用意を整えてしまう。

 根っから格闘を志したり、闘争心を抱いたり、或いは常に用心を怠らない戦士とは程遠い京太郎であるが、半ばこれは身体の反射に近かった。


「いや、京ちゃんが愉しそうだったから……つい、な」

「スッキリはしたけど、それ以上に痛かったですけどね」

「生きてるスリルだな」


 小さく溢して煙草を取り出す老人に、京太郎は無言で路上を指差した。剥げかかった禁止表示が、平面の中で歩き出そうとする。

 シゲは、残念そうに煙草を挟み込んだまま肩を竦めた。彼とて幾度となくこのやり取りを行い重々承知している筈なのだが――癖のようなものかと、京太郎も肩を竦めて返す。

 それにしても何の用件かと京太郎が考えると同時に、老人は笑う。


「悪いな、夕飯は食っちまった。だからまた今度だ」

「いや、それは別にいいですけど……」


 この老人の正体を、京太郎も詳しくは知らない。

 ただ、時々顔を合わせては何事か会話を交わす関係。それ以外に彼が知るのは、相手が麻雀を打つというのとただならぬ雰囲気を持つという事。

 裏についても知っている以上――真っ当な打ち手ではないな、というのは何となく想像が付くが。

 それから、老人が口を開いた。世間話でもするような気軽さ。


「魔法喰いの奴、いくつか賭場を荒らし回ってるらしいな」

「……」

「そこそこ名の知れた大打ちも喰われてる。魔法ごとな」


 そいつの魔法はちっぽけなもんだが――と、シゲは嗤った。


「……それを、どうして俺に?」

「京ちゃんが狙われたりするかもってな」

「まさか。俺、麻雀出来ないし喰うとことかないですよ」


 事実である。

 彼自身の言葉のように、須賀京太郎は異能を持たない。いくら魔法喰いと言っても、無いものばかりは食べようがない。

 それに、京太郎は今は一般人。付け加えるなら京太郎自身嘆きたくなるほど華がない。一目見て彼を元麻雀プロ須賀京太郎だと思える人間は稀である。

 一部(特に子供)には出演作をとってヒーローだとか、アクション俳優だと思われているのがなお悲しい。しかもそっちなら軽く気付かれるあたり余計に。


「……ま、京ちゃんがそうでも相手はそうは思わないかもな。何せあの、運の制圧のM.A.R.S.ランキングだ」

「……」

「……闘うときになったら立会人を呼んでやるから心配するなよ、京ちゃん」


 それじゃあまた、とシゲの背中は闇に紛れて路地へと呑まれる。

 見送る京太郎の身体からは、すっかりと先ほどまでの熱が散ってしまっていた。




  ◇ ◆ ◇




   一度でも一位になったんだ。私も負けられない。……それだけだな。


                             ――麻雀プロ 辻垣内智葉、須賀京太郎プロ引退について



  ◇ ◆ ◇


>>240(訂正)
×
 手厳しいな、と頭を書く。確かに彼自身振り返るなら、これはあまり面白いネタではなかった。


 手厳しいな、と頭を掻く。確かに彼自身振り返るなら、これはあまり面白いネタではなかった。


>>245(訂正)
×
「そこそこ名の知れた大打ちも喰われてる。魔法ごとな」


「そこそこ名の知れた代打ちも喰われてる。魔法ごとな」

今日はここまで

「殺してやる」とか思われてる反面、当人は未成年を餌付けするメニューに悩んでいるとかいう不具合


ちょっと安価出したいんやけど人はおるかね

夢乃マホ
1~20:マホ、留年です……
21~40:マホ、就職失敗です
41~70:京太郎先輩、一緒に清澄に!
71~99:マホ、プロになりました!
ゾロ目:1位継承

↓3


松実宥
1~20:交流なし
21~40:玄の相談を通して
41~70:喫茶店にたまに
71~99:???
ゾロ目:「あったかいの……だめ……?」

↓5


園城寺怜
1~20:緊急搬送受付
21~40:代わりに事実説明
41~70:今でも相談
71~99:食事とかしたり
ゾロ目:「激流を制するのは流水や……!」

↓7

就職失敗したマホ
喫茶店にたまにくる宥姉
相談してる怜


宥姉これ狙っとりますやん……(アカン)

それじゃあ寝ま諏訪湖

大体今半分ぐらい(半分過ぎぐらい)やねん
明日出来たら明日なー

ドーモ、ドクシャ=サン。マケグミ・サラリマンです。休日殺されるべし慈悲はない。
実際夕飯取らんザムとか土曜日取らんザムとか土日取らんザムとか多すぎて実際アシュラめいた笑いを浮かべそうです

という訳で平日の更新はな……キツいんや……
何とか可能なら土曜日か日曜日にでも投下したいんで待ってて下さい


あ、雑談からネタ拾ったりするから雑談大歓迎ですわ。スレ埋まらないなら
ただしてるてるが報われるネタは拾えないけどな

>分厚い脂肪

照「…………」

照「…………」 ペタペタ

照「…………」

煌「…………」 ペタペタ

照「…………」

煌「…………」


土曜になったら少し進めるでー。早くアコチャーのバーニングラブ書きたい

ちょっと君たちに聞きたいやけど、NTRデンキウナギのヒロイン度が上がるのと極悪プロレスラーニキの正妻度が上がるのどっちがいい?

なおてるてるは報われないし京咲アコチャーエンドだけど

20:00~21:00あたりに始められるんじゃないっすかね

(忙しくてヤンジャン以外)読めてねえ
画像はよ。はよ

始めます。ネタバレやけどアコチャーふきゅります

あまりに大きくなりすぎてくと筆が乗らなくなってくるからキツいねんりつべ先生ェ……
改造すると胸が大きくなるって理由で金剛改二にせずに使っとるんやぞ僕

それじゃあ始めます。今回はほのぼのパートです




 オカルト喰いという言葉に、京太郎の脳裏を過るのは一人の後輩。

 夢乃マホ。

 彼が高校三年生時の新一年。弟子というのは、彼女の後にも先にもいない。数年打っているのに初心者で、当時の須賀京太郎にも教える余地があったのは夢乃マホだけであったのだ。

 自分が教わった事を噛み砕いて、相手に判る風に伝えるのが、自分の色を乗せて伝えるのが何と楽しい事か。

 相手の疑問が解消された瞬間の、あの輝く顔が彼は好きだった。だからこそ、今もこうして再び教師を志しているのかも知れない。

 初心者同然の少女――だったが、一つだけ大きく異なる点があった。

 それはその異能。

 “何かに憧れる事で、それを模倣する”――それが異能であっても、打ち筋であっても変わらない。そういう特技を彼女は持っていたのだ。

 模倣が出来るという事は、能力の発動条件とその帰結が判る――つまりは分析も出来るという事。

 単純なるコピーも然る事ながら、初遭遇ではその特性上ただの偶然なのか果たして異能なのかの判別がし難いオカルトとの戦いに於いては分析は何よりのアドバンテージ。

 伸ばせば――より洗練させれば間違いなく頂点を目指せる人間であり、彼らの次を担わせるにはこれ以上ない人材だった。

 同じだけ、彼女にも勝ちを楽しんで欲しいと思った。

 故に彼は、その少女がしがちだった初心者特有のミスの矯正を行い、特性の活用に努めたのだ。


 ――結論から言うなら、それは間違いだった。


 異能というのは、本人の境遇や趣味嗜好、想いや精神状態にも大きく依存する例もある。であるが故に他人のそれを搭載するなどというのは――。

 兆候はあったのかも知れないが、少なくとも彼には判らなかった。

 異変が発露したのは彼の卒業から二年後。指導を行ってから三年後。

 彼の後輩は、己の主たる人格を殆ど失っていた。複製を行った特性のベースの人格に、引っ張られていたのだ。

 彼には知るよしもなかったが、少女の犯すミスであったり幼い動作であったりは――それが彼女のアイデンティティーだった。己が己だと証明する証であった。

 結果、京太郎の指導によりミスを修正した少女は異能に飲まれ、“己一人分の人格”を削る事と引き換えに異なる持ち主の異能を二重積載する事を可能とした。

 二人分の人格を搭載した少女の言動は、傍目から見て異常であった。

 その事を後輩から知った須賀京太郎は、夢乃マホを取り戻す為に彼女と戦い――――惨敗。

 対する相手は組み合わせれば万を超える異能の打ち手。

 彼にはまだ順位はなかった。ただの生身だった。少々鍛えただけの運が平凡な青年だった。

 つまりは、土台無理な勝負である。

 その折に京太郎のペットのカピバラが死んだ。ただの愛玩動物かも知れないが、彼にとっては昔から家を空けがちだった両親に代わって共に過ごしてきた家族が死んだ。

 京太郎自身も、一時的に光を失った。疲労とストレスから来る失明だった。

 結局その後、少女の異変は落ち着きを見せたが……理由は判らない。再発の危険があるかも知れない。

 彼としては、次こそは止めてやると決意して心の片隅に置きながら、プロの道に進んだ。

 ――まさか、またしても。



「……いや、マホに限ってそんな」


 呟きつつも、俄に汗が滲む手のひらを隠せない。

 震える指先で、ソーシャルネットワークを起動。後輩へと、メッセージを送る。


『なあ、マホ。なんか大変な事とかなってないよな?』


 杞憂であれば良いと画面を睨み付ける彼に返ってきたのは、


『マホ、大ピンチです! 大変です! 泣きそうです!』


 焦り混じりのそんな文句。

 瞬間、血液が沸騰し並んで即座に冷却されたかなごとき悪寒。背筋を、冷気の皺が撫でる。

 思わず取り落としそうになった電話を、砕かんばかりの勢いで握り締めて身を乗り出して画面に食い付く。

 いつの間にか背を伝う冷たい汗。果たして――


『マホ、就職失敗です……どうしましょう……』


 そんな文字の直後に踊るデフォルメされたキャラクター。涙を流して、膝を衝く少女のスタンプ。

 やれやれと鼻から息を漏らして、彼は胸を撫で下ろした。

 以前はその技量から少女を止める事が出来なかったが、今度ばかりは身体的な問題が付き纏うのだ。ある意味では、以前より一層困難だろう。

 倒せば必ず解決するかは知らないが、勝利や強敵との戦いの果てにそうなったのならば、麻雀で解決するのが最も自然であるとしか――というより彼には他に道が思い付かなかった。

 それが是が非かは今となっては知るよしもないし、彼自身、それを知る事が出来るような状況になって欲しくないという思いの方が強い。


『なら一緒に勉強するか? 教師の』


 教育学部に通っているこの後輩と同じ職場に進むのも悪くはないかな、と彼は目尻を下げる。

 尤も、母校がある長野を選択したとしても、都合良く二人ともが――どころか一人でも――母校に辿り着けるかは、判らないが。


(プロ……ってのは、選ばせたくないよな……やっぱり。俺にそんな権利があるかもだけど)


 ――なお、何故夢乃マホが回復したのか。

 ――そして彼の推測は的中していたのだが、果たして誰がそれを行ったのか。

 神ならぬ彼には知り得ない。だからこそ、警戒は未だに拭えない。

 かつて、後輩を取り戻してくれた、赤毛の麻雀プロの存在を。

 ――彼は知らない。



 ところは変わって、奈良県吉野郡。

 スーツ姿のまま、ベッドに身体を投げ出す女性。赤みがかった腰までの長髪を、頭の左右それぞれで一房結び止める。

 勝気さが滲む猫の如き瞳からは、矜持と気前の良さと知性が覗く。

 計算の高さや或いは処世術の巧みさといったものも窺えるあたり、彼女を見たなら誰もが「出来るいい女」と考えるであろう。

 なお実際のところ、アラサー彼氏いない歴=年齢。当人の意識ではファーストキスもまだである。実際のところは酔った拍子に済ませてたりする。ああ無情。


 仰向けに倒れて、ワイシャツの前を肌蹴る。下着が覗くのも、どうせ誰かに見られてる訳じゃないからいいやと黙殺。

 そのまま上着をベッド脇に投げ捨て、身を起こしながらもベッドに腰かけたまま背をそらしてスカートを抜き取り、やはり投げる。ぬいぐるみが倒れた。

 外見の割には――少女趣味というより、可愛らしい部屋だった。

 彼女は無類の動物好きである。以前に比べれば数を減らしたが、未だに猫や犬や鰻のぬいぐるみが生息している。


「あーもー、なんで先生ってこんなに忙しいのよぉ……」


 休日出勤上等、残業上等の職場への愚痴を漏らしながらも女性は枕に顔を埋める。

 学生の頃は全く知らなかったが、授業以外の業務の多い事多い事。これでいて私立校でまだ学生数が少ないから良いものの、そうでなければどうなっていたか。

 昔は気付かなかった色々というものが、まさかこうも重いものとは……。


「ハルエがあんなんだったからもーちょっとゆるいと思ってたのに……」


 それとも時流というものなのだろうか。

 なんだか時代とか社会に年々余裕がなくなってきている気がする。心霊話とかUFOとかを大の大人が議論する番組もトンと見なくなったし……。

 いつからか、と言われると断言できないけど。なんとなく。

 それともこれが大人になるという事なのか。

 小学生の頃は中学生は大人だったし、高校生は遥か先。中学生になれば大学生はきっと……なんて思って、高校生になったら大人はもっと凄いと思ってた。

 だけど別に自分が変わったか、なんて自覚はなくて。それでもうあれから十年は経つなんて。



 十年。十年である。

 高校生の頃、十年先にはきっと結婚して幸せな家庭でも築いていると思ったのに。子供とかもいたりして。

 なのに彼女の現実はもう年齢のクリスマスケーキを超えて、アラウンドなサーティの仲間入りだ。ゴルゴもビックリ。あっちはサーティンだけど。

 サーティワン食べたい。ダッツでもいい。冷蔵庫に有ったかも知れない。


「結婚……かぁ……」


 しかし、相手は……。

 新子憧は眉間を押さえて溜め息を漏らした。

 何故、我ながらこんな難儀なんだろうか。もっと要領良く行くと思ってたのに。

 中学生に上がってから、お洒落に気を使うようになった。同年代は餓鬼っぽくて馬鹿みたいだから歳上なんかと、交際するのかなと。

 それなんだけど結局――こう、それまでと変わって自分に向けられる目線に苦手意識を抱き始めた。

 どちらかと言えば小学生の頃は外で遊ぶ元気なタイプであり、男勝りとも言えなくはない。だからこそ余計にそうだったのかも知れない。

 まあ、高校上がってからでいいか。そうそうまだ早いまだ早い――なんて思ってたら、何の因果か高校は女子校。しかもお嬢様学校。

 そりゃあ、無理という話である。

 だが多分、そんなのも大学生になったら変わるだろうと思っていたら……変わらなかったのだ。近くにあの男が居たから。

 前述の通り、何となく苦手意識があった。おまけに克服しないまま女子校。……で、大学には同じ学部に男の知り合いがいた。恋の相談に乗ってやったりした奴の。

 そいつなら自分の方に変な気を起こさないから安心というのもあるし、散々情けないところを見せられたので、男というより“そいつ”個人という意識が強かった。

 で、まぁ、大学生特有の感じで笑顔の下にギラギラしたものを隠した奴らが寄ってくる度に、どうにもそいつの影に隠れた。

 そうしたら――しかも同じ部活で行動を共にしていた――絡みが来なくなった。

 まぁそれはいい。

 いや、今は良くないと思う。アラサー未婚未経験彼氏居た事ナシは洒落にならない。どんどん二の足を踏んでしまうから。

 で、そいつは――こう、親友の元恋人だというのに――顔を合わせて居る内になんとなくそいつの事が気になり出してしまった。

 気の迷いである。不覚である。迂闊である。

 あとはこう、何となく常に意識してた。意識し始めたら止まらなくなり、こう……まぁ、他の男とか見えなくなった。



「はぁ……あたし、なにやってんだろ」


 で。気付いたら、そいつしか居なかったのである、まる。

 それまでが結構気を置けない感じでそのヘタレ男の背中を押していたから、どうにも照れ隠しにも言葉が強くなり。

 妙に意識するから余計につっかかって売り言葉に買い言葉となり、それが尚更イライラして何かと刺々しくなってしまい、彼女自身から異性として認識されないルートをひた走る。

 普通にどこかで素直に告白でもしていたらきっと今頃すんなりと結果は迎えたというのに――なんの因果か、意地が邪魔をしてしまった。


「どーしてあんなどうしようもない奴の事なんて……」


 まず鈍感。次に鈍感。おまけに鈍感。

 鈍感というか、ズレてる。気が利くのに利かないというか。肝心なとこですっぽかすというか、デリカシーがないと言うか。

 というか、あれは一度印象を決めたらそうとしか扱わないタイプだ。

 悔しいが、鈍感というよりつまり彼には新子憧はその手の対象として見られてないのである。腹立たしい。

 恐らく、憧よりももっとスタイルが良かったりおしとやかだったり美人だったりしたら――きっと見逃さないだろう。例えば松実玄とかなんからアプローチされたら即座に入籍しそう。

 決して自分がヴィジュアル的に負けてるなんて思いたくないけど、あの巨乳には後塵を拝せざるを得ない。

 これでも一般的には十分なサイズかそれより上まで育てたというのに。忌々しい。忌々しいぞ。忌々しい巨乳好きめ。

 で、その癖歳上にはやたらデレデレする。巨乳と歳上にデレデレする。あと年下に頼られてもにこやか。なんか腹立つ。本当に腹立つ。


「……普通よりはあるのになぁ」


 俯せのまま、軽くサイズを確認してみる。

 沿わせた手で隠せるような大きさではない。腕を使ったら……まぁ、その、あれだ。完全には隠せない程度はある。問題ない。あと隠そうとしたら谷間ができる。

 しかし、まるで意識されないとは。一体何だと思われてるのか。ファッキンブッダ。なお新子家はシントー・シュラインである。何も問題ない。



「はぁ、なんであんな奴に……」


 顔はまぁ、悪くない。

 一時期麻雀路線よりも、女性層獲得の為にタレントの真似事をさせられる程度には整っている。あとあんま男男ゴツくない。どっちかというと軽い感じ。

 性格は……基本は誠実なのか、丁寧なのか。几帳面だとは思う。あと多分爽やか。気が利かない訳ではない……一般的な事では。

 でも格好付け。あとお調子者。変に真面目で意地っ張り。微妙に熱血。多分ここらへんは体育会系に居た名残り。だから少し残念系。誘い受けの三枚目みたいな。

 頭は悪くない。
 回転は早く、機転は聞く。そうじゃなきゃ、なんのオカルトもない癖にオカルト持ちとはやりあえない。

 で、スポーツ。中学時代ハンドボール部で県決勝まで行ったらしく、まあそれ相応に身は軽い。更にはプロになってからノースタントとかをやった所為で、センス抜群。

 ついでに強い。大学時代に格闘技を始めたせいで――恐らくハンドボールなんて激しいスポーツをやっていて下地があったのもあるだろうが――強い。

 実際、たちの悪い連中に憧絡まれた時なんなに、颯爽と助け出してくれた。あれは流石にときめかざるを得ない。不覚にも。

 身長、高い。百八〇センチ超え。高校生の頃より多少は身長が伸びた憧からでさえ、二十五センチ以上高い。

 で、家事は一通りできる。そこら辺は知り合いの豪邸の執事に仕込まれたらしい。つまりはお屋敷の使用人クラスの雑務力はある。

 で、性格明るくて軽い割りには身持ちは固い方。


 ……。

 ……いや。

 でも……その……こう……。

 こう……なんていうか……どうしようもない奴なのである。それでもそうなのである。そうったらそうなのである。


「うー……うー」


 でも、こう……その、所謂……好きという奴なのである。奴なのだ。好きというか気になるというか支えたいというか他に考えられないというかなんというか。

 まさか二十を半ばも過ぎて、今更惚れた腫れたで悩むなんて高校生の頃は全く想像していなかった。今更というか大学生からずっとそうだ。

 随分と長い。我ながら馬鹿らしい。いつまで思春期だと言うのだ。殺した少年の翼とかあるのに。ゼロは答えてくれない。


「はぁ……何してるのかな、京太郎」


 ちょっと電話を掛けてみる。出ない。何か忙しいのだろうか。

 少し声でも聞きたいと思ったのに、ままならないものだと憧は肩を落とす。

 まぁ、どうせすぐに顔を見れるのだ。焦る事はない。いや焦りたいけど。すぐに会いたいけど。

 会ったら、会ったら――。


「……今度こそは、きっと。がんばれあたし!」


 ――なおこの数十分後、『ちょっと裸だった』という言い訳を貰って彼女が慌てるのは別の話である。

 ふきゅった。




  ◇ ◆ ◇




   えっ? えっ……? 嘘、だよね……?


                             ――麻雀プロ 姉帯豊音、須賀京太郎プロ引退について



  ◇ ◆ ◇





 木枯らしの声だけが響く公園。無言のまま、青年と少女は箸を動かす。

 
「あ、そうだ」


 途端、思い付いた風に京太郎は少女を見た。対する少女も、透明の瞳で見つめ返す。

 段々と彼にも、この少女の仕草が読める風になってきていた。今のは、驚いたり疑問を持ったりした証である。

 しかし京太郎は答えずに、黙ったまま己の首元に手をやった。その後ぐるりと回して、今度は立ち上がり少女を見下ろしつつも同じ事を逆動作で行う。

 むずがるように、少女は肩を震わせるが、


「いいから気にすんなよ、ほら」

「うぅ」


 構わず笑いでそれを殺し、作業を続行。少女の首筋を、綿毛が滲むフェルト地が覆い尽くした。

 どうしたらいいのか、困惑気味な少女を尻目に京太郎は満足顔。

 妙な押しの強さがあった。特にはこのように、自己主張が控え目な相手に対しての。


「うん、これでよし。似合ってるぞ」


 頷きつつも、京太郎は振り返る。なんとなく、この長いとは言えない少女との付き合いで思っていた事があった。

 外見は決して似ているとは思えないし、きっと性格も違うであろう。だけれどもどこかで、そうとしか思えない部分が覗く。

 そう、昔から知っているような――。

 
(何となく、昔の咲に似てるんだ。この子)


 具体的には言えないし、宮永咲が引っ込み思案なのに対してこの少女は単に感情に乏しい風であるが、ふとした拍子にそう思う。

 少女との邂逅を通して、彼自身過去を省みている部分があるのだ。

 それから暫しマフラーを押さえて鼻先を埋めていた少女が、緩やかに瞳を上げた。


「……ねえお兄さん、一つ聞いていい?」

「おう、どうした?」


 一つ聞いていいか、というのは京太郎と少女の合い言葉のようなものだった。

 一度会ったら、その時はどちらかが一つだけ何かを聞ける。――何となく、そんなルールになっていた。

 大概その権利を行使するのは京太郎であり、少女が京太郎に何かを聞いてくるというのはあまりない。

 ピクルスは好きか、牛と鳥はどっちが好きか、牛乳は嫌いか、明日の天気をどう思う――――そんな他愛もないやり取り。

 今度は自分の番かと、半ば踊る気持ちで微笑みかけた須賀京太郎の心は、


「――お兄さん、麻雀はする?」


 次の瞬間、冷や水をかけられたかの如く強張った。


「いや……なんかツイてなくて、向いてないんだよなー。麻雀」

「……そっ、か」

「おー」


 それきり互いに無言に戻り、本日の食事は終わりを告げた。

すまんな。今日はここまでで

>>326(訂正)
×
 瞬間、血液が沸騰し並んで即座に冷却されたかなごとき悪寒。背筋を、冷気の皺が撫でる。


 瞬間、血液が沸騰し並んで即座に冷却されたかのごとき悪寒。背筋を、冷気の皺が撫でる。



>>330(訂正)
×
 回転は早く、機転は聞く。そうじゃなきゃ、なんのオカルトもない癖にオカルト持ちとはやりあえない。


 回転は早く、機転は利く。そうじゃなきゃ、なんのオカルトもない癖にオカルト持ちとはやりあえない。


×
 実際、たちの悪い連中に憧絡まれた時なんなに、颯爽と助け出してくれた。あれは流石にときめかざるを得ない。不覚にも


 実際、たちの悪い連中に憧が絡まれた時なんかに、颯爽と助け出してくれた。あれは流石にときめかざるを得ない。不覚にも

訂正大杉実際問題。これはあわあわのケジメ案件ですね。テルー不幸にします

てるてるの偉業

・照を苛めてる奴に「たかがゲームで人を差別すんな!」とオカスレの基本方針を京太郎が叫ぶ理由に
・「ねーちゃんより強くなったらねーちゃんを守ってやる」という言葉を胸に、それまでは誰にも負けないように勝ち続ける
・マホ暴走を終息させる。京太郎は知らない
・京太郎を強くする為の壁(実際平坦な胸的な意味ではなく)となる
・京太郎と共にアラフォーマーのボスと戦い、削り切るも敗れる
・無敗の照とすこやんを超えたという実績から京太郎は一位になる
・(思い出)NTRデンキウナギ。レーダー生物

あらすごい

ちょっとだけな。ちょっとだけやで




 何とも言えない首の辺りの据わらなさを感じて、京太郎は街を歩く。

 いつしか、冬模様を帯び始めていると感じた街並みにはすっかりと寒さが差し迫っており、街行く人々も衣装をより厚いものに変えている。

 だからこそ余計に寒々しさが増す。といっても彼がそう感じるのは風景だけではなく、何よりも彼の心が重く変わっているから。

 ベルが鳴らす喫茶店。扉を開いて見れば、見慣れた顔が二つ。


「……ぁ。こんにちはぁ……」

「こんにちはっす、宥さん」

「うちもおるでー……バスはでへんでー」

「……バスってなんですか、バスって」


 どう見ても、どれだけ控え目に言っても、どんなに頑張っても不審者としか表現出来ない女性と、儚げながらもにこやかに笑いかける女性。

 それぞれ名を、松実宥・園城寺怜と言った。

 職業は麻雀プロと救急医療関係。あまり馴染みはない組み合わせである。麻雀プロは救急医療を基本必要としないからだ(ただし京太郎を除く。ノースタントの撮影で初中後搬送された)。

 松実宥は、足首までのロングコートに長靴染みたブーツ。

 更には透けるような金髪の上からマフラーを幾重にも巻き付け、おまけにその下にはネックウォーマー。

 睫毛が長い碧眼を、サングラスの奥に。おまけに花粉用のマスク二枚重ね。完全にどう好意的に見ても不審者である。これから汚染地域にでも向かうのかという武装。

 言うなれば、羽毛に閉じ籠った青い鳥。その下の実際豊満な胸部も、冬近くというのを差し引いても並外れた厚着に起伏が隠される。


 関西弁の園城寺怜は、活動的な様相。

 こちらも線が細くとも、身体には静かな気迫が溢れている。死の臭いにも似たそれは、翻って命を留め置く戦士の風情。

 セミロングの茶髪に、垂れ目がちの碧目――恰かも妖魔の真実を暴く水晶がごとき瞳。

 灰色のパーカーの上にノースリーブの焦げ茶色のダウンジャケット。青のデニム地のホットパンツの下に覗くは黒のレギンスに、エンジニアブーツ。

 二人とも顔立ちは同じ系統なのにこうも対照的な格好だと、何とも笑いが零れそうになる。



 いや、一部分が大きく違う。そりゃあ園城寺怜もあるにはあるが、やはり松実宥のそれと比べると天と地の差――


「せっかっこー!」

「うわらばっ」

 そんな空が落ちてきた。

 いや、地面に上へと押し上げられたのかも知れない。どちらにしても迷走神経の集中している箇所を突くのは反則である。因みにショック死とは迷走神経反射である。

 YOUはショックを日本語訳すると貴方は迷走神経反射である。語感が悪い。

 なお宥は京太郎のこの世の物とは思えない顔にショックを受けていた。このイカれた時代にようこそしていた。

 あやうく京太郎のおもち愛で空が落ちてくるところだった。いや、正しくは落ちるのは地獄で昇るのが空である。


「せめて痛みを知らずに安らかに眠るんやな」

「いやこれ死ぬほど痛いんですけど」

「なあ京太郎、私のアダ名知っとるっけ?」

「さあ……なんですか?」

「アダ名は“おかんいらず”なんてな」


 トマトの渾名が医者要らずというのは知っている京太郎であったが、流石の彼でもおかん要らずは知らない。

 何なのだろうか、おかん要らず。例えば上京した人間が高熱で倒れたとして、わざわざ実家から母親が出てくるまでもなく回復させるんだろうか。

 因みに猫要らずを猫が食べると猫居なくなるになる。余談である。

 首を捻る彼に対して、指を一本立てて得意気に微笑を浮かべる園城寺怜。


「死体が跡形も残らんからお棺要らず、ってな」

「……」

「破壊者と掛けて墓医者。なんちゃって」

「……ブラックジョーク過ぎませんか?」

「職場がホワイトなハウスやからええやん。血塗れで赤くなるけどな」

「……。もうどっから突っ込んだらいいのか」

「ほら、うち病弱やから本番はなしでな。作っても産めんよ」

「誰もそんな話してませんよ」

「うち病弱やから……」

「園城寺さんみたいな元気な病人いません」

「そら医者が病人とか、誰が匙投げるんや……って話やもんなぁ」

「匙投げるの前提なんですか……?」


 などと漫才コンビじみたやり取りをする二人。

 というか実際漫才コンビだった。病院内限定で。京太郎が通院するときに限り。

 名前は聖飢魔II。白衣のエンジェルなのにデーモンとはとんだ皮肉だ。


 松実宥はただただ二人の小気味良いやり取りを眺めて、目を白黒させるしかない。なお彼女の妹が件の松実玄である。

 あと拍手していた。


「……というか、園城寺さんと宥さんは知り合いなんですか?」

「京太郎を巡る恋のライバル……ってとこかな」

「えぇ……!?」

「え、それ本気にしますよ?」

「育てへんけどな」

「産んではくれるんですね」

「えぇ……?」


 苦笑にも似た力ない笑いと、心底困った風に寄せられた眉。

 冗談とは判っていながらも、もう少し突っ込んで聞いて確認してもいいのではと思うあたり、京太郎は彼もまた男であった。漢と書いて男と読まないタイプの。

 どちらも美人である。年頃の京太郎としては期待しないでもない。

 尚女性陣は二人ともそろそろ三十路にリーチを掛けており、あと何巡かで二十代が流局である。

 京太郎が言い出したら、ここぞとばかりにハイテイツモと受け入れられた可能性も高い。何だかんだ物件としては悪くないし、試しにお付き合いが始まる程度には。

 果たしてそんな天の声を掻き消して塗り潰したのは、奈良県吉野郡の神社の娘の悲痛な叫びだったとかそうじゃないとか。

 あたしずっと好きだったのよ有料物件だとか手近にいたとかお試しで付き合ってみようかとかそーゆーのじゃない!と、叫んだかは判らないが……よっぽど感極まってテンパったら言うかも知れない。

 それにしてもリーチだのハイテイツモだのテンパイだの、全くこの話は麻雀用語が多い。白兵戦描写と同じぐらいに。不思議な話だ。

という訳でここまで
闘牌はな、ちゃんと頑張るでーバスがでるでー

(土曜を)取らんザム!


あ、何とか日曜日に更新できたらやります

ごめん日曜日も仕事入った

120%ってか、120時間なんやけどな。HAHAHA

週やで
基本勤務56時間、残業・休日出勤他が64時間かな。一ヶ月なら256時間残業

楽しいよ、おいで!

ヒント:名目上労働時間
ヒント:“自主的な”休日返上

間違えた。基本労働時間が40時間や……つい一週間丸々で計算してた
だから+80時間やね
残業代とかあるわけないじゃないか


という訳でまあ、更新は待っててね

コイツ本当すぐ脱ぐな……>ジョセフ

今週(先週?)の咲を読めましたがアコチャーの台詞によっしゃ
回避しつつガンガン攻めるインファイトがお好みならオカスレは完全に問題ないね。ファン1号でも仕方ないね
ハンドボール設定といい原作から追い風来てますね。1の心には風が吹いてるけど

今日は早く終わりそう
2200になったら更新します

艦これクリスマスボイスらしいけど一切聞けてねえ……

始めようか
ほのぼのするでー



「で、なんで知り合いかって……昔インターハイで闘ってな。直接やないけど」

「私は次鋒で、園城寺さんは先鋒だったから……」

「あー、俺が一年のときのインハイかぁ」


 もう十年も昔の話だ。

 ただし、彼女たちはその後連絡を取り合っていた訳ではなく、この店で偶々再会して旧交を暖めていたらしい。

 尤も、松実宥は麻雀プロとなり有名人である為に、園城寺怜は謀らずも宥のその後を知ってはいただろうが。


「……そう考えると不思議ですよね。お二人はともかく、十年前の俺なら縁がある風には思えないし」

「それでも、縁ならきっとあったと思うで」

「えっ?」

「裁判とかで」

「……」

「まさかあんな粗末なもの見せられるなんて……って」

「俺犯罪者前提!? しかも露出狂ですか!?」


 というか粗末じゃない。断じてない。絶対に違う。なんなら賭けてもいいし、見せてもいい。

 そう憤りそうになった京太郎であったが、見せたら犯罪者だ。それこそマジもんの露出狂である。

 多分そんな事を言い出したら、園城寺怜は鬼の首を獲ったように嬲ってくるのだろうなぁ……と京太郎は微妙な笑い顔を浮かべた。

 が、違った。


「いや、京太郎がな。そんな変質者に怯える私の事助けてくれてな……」

「えっ」

「ああこれ王子様やんお礼しなきゃって言い出したら凄く爽やかな笑顔で返してな」

「おおっ……!」

「『それよりもお姉さん服持ってないっすか』って……」

「結局裸には変わりないじゃないですかソレェ」

「全裸なだけに余計に不味いで」


 もうやだこの人、と肩を落とす京太郎を見る宥が小さく笑う。

 それだけで救われた気持ちになった。というかむしろ感謝しか生まれない。

 実にちょろい男であった。完全に目尻が下がっている。実際赤子の手に間接技を決めるぐらい容易い。

 というかこの言葉、地味に恐ろしい。

 誰かが試してみたのだろうか、この諺。きっと精神異常者に違いない。



「あ、宥さん。今度憧が来るんですよ」

「へぇ、憧ちゃんが……」

「へー。でも奈良から東京とか馬鹿にならへんなぁ……宿泊費とか交通費とか」

「あ、その辺は大丈夫なんですよ。俺の家に泊まるんで」


 京太郎がそうはにかんだ瞬間に、二人の動きが止まった。

 片方は「え、なに平然とこいつ惚気けてるんや? 病気?」という目であり、もう片方はストーブに蟹鍋の置かれたサウナに入ったと思ったら実は雪だるまが微笑むかまくらだったという顔。

 いきなりのお泊まり宣言である。

 脈絡が無さすぎて突拍子もない。無論、照れた様子すらも。

 余りにも当然とした態度の須賀京太郎には、カップル殺すべし慈悲はない流石のバカップルスレイヤーも居るならブッダめいた微笑みでアイサツなく殴りかかるだろう。


「え、ぁ……そ、そう……なんだぁ……」

「そ、そか。よかったな、うん」

「まあその間、俺がどこ泊まるかって話なんですけどね」


 なんて漏らした京太郎へと向けられたのは、呆然を通り越した慈悲の瞳。

 ただただ気の毒な人を見る目であった。それはもう。

 なまじっか顔が整っているばかりにその残念さが強調される。兎に角、残念なイケメンである。


「……京太郎の悪くしたのって頭やったっけ?」

「目って自分で言ってませんでした?」

「そっか前立腺か」

「……だから下ネタはやめて下さい。宥さんが固まります」

「えっと……不束ものですが……?」

「……固まるってより混乱しとるな」

「……」

「……京太郎?」

「幸せな家庭を築かねーと」

「あかん、混乱しとるんこっちやん」


 暫しの歓談の後、京太郎は仕事に戻った。

 その後同僚に「やけに女性の知り合いが多いが前職はレディーススポーツクラブのコーチ何かか?」と勘繰られたのは言うまでもない。

 なお別の同僚が「俺も昔は魔猿と……」と呟き、それを華麗に受け流しながらもまた別の同僚が「前はヒモ?」と蔑んだ目を向けたのは別の話である。




 秋の日は釣瓶落とし。

 そうは言っても、釣瓶落としの速さに馴染みがない京太郎としては良く分からない。

 ただ、住宅街を抜けるときに小学生が帰宅する時間が早まっている――風に思えるだけ。

 自分にもあんな時期があったのだと、実にというかたかがというか四半世紀を過ぎた人生を振り返る。

 その手の内で転がるのは、外国語がプリントされた印鑑ほどの薬。青いキャップの下には、見るからに専門用語とおぼしき見慣れない文字列が並ぶ。

 園城寺怜が京太郎の職場に顔を出したのも、この為だった。

 彼女自身のコネと独自のルートから、京太郎は貴重な薬を譲り受けている。


「……寒いよなぁ」


 背を丸めて、灰色のネックウォーマーを引き上げる。

 見てくれが、良く週刊少年誌の後ろに乗っているクリニックの広告に近似する。

 しかし、少年漫画にあの広告は必要なのだろうか。到底、その意味を理解する子供は少ないし――ましてや実際に頼ろうとするものなど居る筈がない。

 事実京太郎も、中学に上がってから漸くあのタートルネックの意味を知ったのだ。

 ……まあ、きっと出版社が言うところの少年とは中学生や高校生なのだろう。それでもその病院にお世話になるとは思えないが。


「あー……新しいマフラー買うかね、こりゃ」


 ネックウォーマーも随分と暖かいが、やはりマフラーに比べて心許ないのは何故だろう。

 松実宥とか両方使ってたし。

 いやいやそれより松実宥と一つのマフラーを二人で使ってデートしてーなー、そろそろ本当に結婚とか考えないとなー……なんて冷え始めた空気に靴音を響かせる。


「もーちっと、懐温かくなんねーかな」


 どうにも一人暮らしが過ぎると独り言が多くなる。

 そんな風に彼自身自嘲がちに、冷気に赤めく鼻を鳴らしながらも、誰も待つ事ない我が家を目指す。

 今日は、あの猫が来てくれていたらいいな――と。



 ――。

 ――。

 ――。


 



 病室。

 清潔なオフホワイトの壁紙。焦げ茶色の手摺。

 緑色のリノリウムの床を鳴らして、覚束ない足元で手摺に寄りかかりながら青年は歩く。響くスリッパの音。

 青年の頭部――両の瞼を上から圧し、後頭部を通って一周する包帯。時折立ち止まっては、犬が臭いを嗅ぐように辺りを見回す青年。

 彼の脳裏には、先ほどの病室でのやり取りが反響する。


『結論とそこまで、どっちが聞きたい? ……あ、結論ならバッドニュースとワーストニュースなんやけど』

『……最初からお願いします』

『ん、なら最初から話したるけど……血涙の原因はこんな――、って読めんか。話すな』


 涙というのはそもそもが血液が濾過されたものである。成分は殆ど変わらず、効果としては角膜に潤いを与え防護する事。

 しかし今回は激しい眼球の使用を行い角膜などの保護に流れる涙の生産が追い付かず、結果として血液がそのまま流れでてしまった――これが血涙。

 失明についてであるが、これは恐らくは過度の緊張や瞬間的な眼圧上昇などのストレス由来の一時的なものであり、時間の経過と共に回復する見込み。


 ただ、問題がある。

 眼圧の上昇は、酷使された角膜へと栄養を運ぶ眼液の多量分泌に因るもの。

 この眼液により、普段起こるそれよりも短時間で大幅に眼圧が上昇した為にそれがストレスとなり一時的な失明に繋がった。

 あくまで一時的なものであるが――眼圧上昇により圧迫され死滅した視神経は、二度と回復しない。全てが死滅すれば、一時的ではない完全な失明を免れない。

 そして今後、眼圧は上昇しやすくなるし、放置したのならば取り返しの付かない事になるだろう。


『……京太郎、もう麻雀は打たれへん。打たへんでも、視力が回復する事はない。……そんなとこや』


『……そっすか。折角一位になったのになんつーか、うん……まあ……眼精疲労ってのも馬鹿にならないんだな』


 一位になれただけ、良かった――なんて総てに納得は出来ないけれども。

 それでも多分、怜の説明の通りなら、眼球を酷使する己のプレイスタイルからして遅かれ早かれこのような結末になっていたのだろう。

 そう思うなら――彼としても幾らか溜飲は下がった。

 太く短く生きたい訳ではないが、最後だとしても――普通にそうしていたなら恵まれなかった一位という幸運に見舞われたのだ。


『……それで、悪い方のニュースは?』


 同卓していた宮永咲や大星淡、小鍛冶健夜に何か影響が――目の前で血涙でも流されれば無理もない――とまで考えた彼の思考は、


『今のが悪いニュースの方や』


 そんな言葉に、中断を余儀なくされた。

 落ち着いて聞いてくれ――と、彼に向けられた言葉に続いたのは、両親の訃報だった。

 視界が閉ざされた中、青年は一心不乱に歩く。

 すがり付こうとする医者や看護師を押し退けて、ただただ進もうとする。

 そして、そこから先の正確な記憶は彼にもない。
 どの道にしても様々な事があって、きっと後の処理を坦々とこなしていった。それは確かだろう。

 唯一記憶にあるのは、全てが終わった後に実家の冷蔵庫を片付けていて――もう二度と母親の作った料理を食べる事がないのだと――。

 己を無条件で受け入れてくれる存在が二つも同時に居なくなって、そして二度と戻る事はないのだと――。

 不意にその事を自覚した瞬間、崩れ落ちるように泣いた事だけ。

 半開きの冷蔵庫から来る風は、冷たかった。

 夏だというのに、場違いに。

 この、冬の寒さよりも。




  ◇ ◆ ◇




   あー、リベンジしたかったのに舞台に立てずかぁー! 来年は負けへんで!


                             ――麻雀プロ 江口セーラ、蜂王タイトル戦後



  ◇ ◆ ◇




「……なんだ、なんで、俺の」


 皺の滲む男性の顔が歪む。

 オールバックの髪が乱れ、茫然とした面持ちで手牌を見る。

 対する少女は無言。左右の色が異なる碧眼で――片方は藍に近い青、もう片方は黄緑色――男を黙って見詰める。

 見ようによっては急かしている風でもある。


「なんで……なんで……クソ、こんな……クズ手…………クズ手にしか……なんで……」


 譫言めいたものを呟きつつ、しかし男は牌を倒した。四つ揃った一萬――男は、暗槓を宣言する。

 縋るような眼差しで嶺上牌が掴みとられて、表示牌が翻される。皺の刻まれた指先が震えていた。


「……ぁ」


 男の小さな呻き。ドラ表示は――⑨筒。

 眼が見開かれ、絶望に染まる。小さく首を振る男の顔には、苦悶と苦渋が滲む。

 口を開いては言葉もなく閉じられ、その繰り返し。

 対する少女は――


「――カン」


 至極冷静に、そう宣言した。

 男のそれに追従するかの如き暗槓。七萬。そしてドラの表示は――六萬。

 途端、幾度目かの男の悲鳴。彼の表情はいよいよ極まって、歪む。焦り、怨み、嘆き、怒り――種々の感情が海練となって皺を作る。

 その視線の先に――少女の背後に恰かも己の亡霊と某かの憧憬でも覗いたかの如き、幽鬼めいた顔を作った男は崩れ落ちる。

 少女はただ至って冷ややかに、


「ツモ。中ドラ四――14400は4800オール」


 そうとだけ告げて、手牌を崩した。




「てめえ、なんだあの様は」


 しかし、少女を待ち受けていたのはそんな叱責だった。

 薄暗い部屋に仁王立ちで声を荒げるのは黒目がちで肌の浅黒い、スキンヘッドの男。体育会系やそれに類するグループに有りがちな、原始的な顔立ち。

 眉を吊り上げ眉間を縮めさせて、憮然と少女を睨め下ろす。


「……」


 少女の無言に構わず、男はその分厚い胸板を怒らせて二の句を紡いだ。


「もっと圧倒的にやってよぉ、心を折ってやれよ」

「でも……」


 あれ以上手札を切らなくても、対戦者は折れていた――。

 そう反論しようとする少女へと怒号が飛ぶ。


「でも、じゃねえだろうが! でも、じゃ!」


 同時に、肩を突き飛ばされた。

 背後の壁に背中を打ち付け、華奢な体躯が折れ曲がる。何度も咳き込む少女を、男は実に忌々しそうに眺めた。

 それから、ふと愉悦混じりの嘲笑。


「にしても、あの面見たか? リーチのみのクズ手にしかならねーとしてもてめえは大丈夫だと思ってたところにアレ……見物だったよな」

「……」

「ああ、わざと嬲ってたんだろ? まさかアイツも途中で盗られるたぁ思ってねえよなぁ」


 人が悪いぜと下劣な笑みを浮かべる男に向かう、少女の瞳が俄に力を増す。

 本来ならば彼女も遣り過ごしていただろうが、彼女自身己の中でそれを認識し――同時にそんな事はないと振り払いたいたかっただけに無意識で感情が籠められた。

 それが、良くなかった。

 犬か何かをそうする風に、躾と称した爪先が少女に飛ぶ。

 巧妙に人目につく場所を避けた一撃は、少女の腹部にめり込んだ。嘔吐く少女の足が空転し、スニーカーが床と音を立てる。



「へっ」

 ホットパンツの下の、少女の素足を見る男の目線に意味深なものが混じった。

 事実、そこに行き着くのは自然だ。本来なら少女もそうされていたし、そうなって居たかも知れない。

 ただ偏に、彼女の身の安全が――これ以上の汚泥に塗れずに呼吸をしていられるのは、彼女自身の特異な才能によるところが多い。

 それ故に幾多の負にまみえる事になるとしても――それが現在の彼女の境遇に繋がるとしても、得体が知れないという要素故に彼女は一線を超えられずに済んでいる。

 何かの大きな精神的な節目に応じて、能力が変質――とりわけ使用不可能――も有り得ない話と言い切れない。

 何せ、人智の及ばない不気味な才能だ。

 そうでなければ、今頃はより下の地獄を味わっていたであろう。


「おらよ、取り分だ」


 僅かに身を固くした少女を見る男の目線から劣情の色が消え、代わりに改めて優越感と嗜虐心が顔を覗かせた。

 ぶっきらぼうにジャンパーのポケットから取り出した金銭を、床に投げ出す男。

 少女へと抱いたそれを負い目と思っているのか、或いはばつが悪いと感じたのか……兎に角男は余計に横柄になった。

 そして派手な足音を立て、男の背中が遠ざかる。その間も少女は、腹を掻き抱いて蹲っていた。


 男が居なくなった部屋。

 投げ捨てられた小銭と千円札を、少女は沈黙で映した。稼いだ対価としては余りにも少なすぎるそれだが――男の弁によるなら、十分だそうだ。

 最低賃金分は労働時間に応じて出している――ただし半額は返済という形で、それ以外はマネージメント料金として男を潤わせる。

 己がやり取りした額の実に数十分以下しか少女の手元には残らない。

 しかしそれすらもまた酒代として消えるとなると――、考えるだけで閉塞感が少女の心を覆う。

 何もかもから逃げ出したいとはいかないが――ただ、ここに居るだけの理由がないのとまた事実。

 実際、少女が踏みとどまれているのはある一点に尽きる。



(……おにーさん)


 あの青年は、優しい。ご飯をくれる。何も聞かない。殴らない。ただ傍で笑って居てくれる。怒らない。

 助けてと――彼に縋り付きそうになる。

 だが、どうしよう。それで彼に拒絶されたら。途端に優しくなくなったら。

 きっと大丈夫だと信じたいけど、それ以上に怖かった。今のこの時間を失うのが。唯一自分を人間にしてくれるあの時間が。

 だから、言えない。

 言ったら悪い事が起きるかも知れない。でも、言わなかったら壊れない。また明日もああして、彼に会える。

それに、彼に助けを求めたら彼も酷い目に遭う。自分ももっと酷い目に遭うだろう。だから、駄目だ。悪い事しかならない。

 彼に言っても、どうしようもない。

 散々自分自身が考えた問題だ。

 結論は――どうにもならない。考えようとすると胸を虫食いにされて、外の見えない雲の箱に閉じ込められたかのような気分になるだけ。だから考えない。

 考えたら、考え続けたら心がもたない。

 だから考えない。ただ、こなす。そうして居れば、今は前よりは悪くならない。

 彼には言えない。言ったら、駄目だ。

 だから、彼は好きだ。何も聞かないで居てくれる。何も聞かないで居てくれるから、平和なのだ。

 誰かの異能を奪う度に少しずつ心が陵辱されていく気がする。平穏から、最も遠い悍しい感覚。

 ある意味では、男から与えられる暴力よりも恐ろしい。

 ただ、淡々と言われた事をこなすだけならどれだけいいか。自分自身がそうして否応ない――どうしようもない理不尽に強要されているだけと言えたらどれだけいいか。

 彼女自身の異能により、己の拠り所となる“特性(のうりょく)”を奪われた人間の顔を見るとき――。

 誰かが生まれ持ち、育み、磨いてきた異能を簒奪して行使する度――。

 少女自身の内に、仄かな愉悦が滲む。昏い衝動が、心の虚が頬を吊り上げる。

 彼女にはあの瞬間に、ある種の征服欲を――、



(……違う)


 首を振って、頭を畳に横たえる。あの青年の笑顔を思い浮かべると、胸の疼きが消えた。

 きっと彼は、そんな薄暗い感情を持たない。日の当たるところで生きてきた、暖かい優しさがある。そんな人生を過ごしてきたに違いない。

 彼は日溜まりだ。

 また明日も会えるだろうか。

 せめて名前ぐらいは知りたいのだけれど――そうしたら自分も言わなければならなくなるから、聞けない。

 ただ、あの金髪の青年は優しい。

 取り上げられないようにジャンパーの下に隠したマフラーを取り出し顔を埋めて、少女は横たわった。

 夜は嫌だ。早く終わって、朝になればいい。

 日が当たっている間だけは、少女は人間になれるのだ。人間である事が許されるのだ。


(……)


 それまで息を潜めていた父親が闇の中小銭を拾い集める音を聞きながら、少女は心の監獄と同じく瞼を閉じた。

 早く朝が来てくれればいい。

 夢や希望はない。

 夢に縋る弱さなど、この場所には置き場がない。明日を生きて迎えたいと思うなら――全てを諦めるしかないのだ。

 誰かの力を奪う度に心へと溜まる澱も、疼くような痛みも、飄々と鳴る風の音も――目を閉じて遣り過ごすしかない。

 夜明けは来ない。ヒーローなど、居ない。

 救いなど、ない。もう何も、判らない。

という訳でここまでやでー

あー休み欲しい。明日のお仕事ぶっちしたい

>>420(訂正)
×
 何もかもから逃げ出したいとはいかないが――ただ、ここに居るだけの理由がないのとまた事実。


 何もかもから逃げ出したいとはいかないが――ただ、ここに居るだけの理由がないのもまた事実。


相変わらずの誤字
こ淡ケ。てるー不幸にします

能力ストック

・相手をリーチのみ手にする
・カンをすればドラが乗る

エゴサしてたらまるで別のところで名前が上がり、挙げ句ライダーや寺生まれや神牌と同列に戦闘能力者として語られていることへの衝撃
麻雀プロなんですが……?
バトル系TRPGにスキルが取り入れられる麻雀プロとは……

あ、今週末(来週末)まで待ってなー
そろそろエンド近いから。現時点で半分過ぎた

あ、あと先に謝っとくけど今回闘牌描写よりも白兵戦描写の方が回数が多くなります。すまんね
嘘喰いのようなもんだと思って下さい

ごめんな、クリスマス予定あるんだ……ごめんな

とりあえず淡の誕生日が近いから殺しとこっか

まずクリスマスまでに何とか完結させたいが……完結させて余裕あったらな。クリスマスネタ書くからな。イブは過ぎるけど

①VS アラフォーマーズ(肉体バトル)
②咲「しっぺい京太郎?」(妖怪中二病剣劇アクション少年漫画)
③憧「大学が共学か!?」京太郎「残念カルテット featuring.ふきゅ」(大学生のクリスマス あのスレ再開はよ)
④新子憧の憂鬱inクリスマス(それまでに完結したら。その後)
⑤【Hard days/Holinight】(それまでに完結したら。おう淡エンドはよ)
⑥【Amazing Break】(それまでに完結したら。咲ちゃんエンドはよ)


えらべえ

①……2票
②……6票
③……5票?
④……2票?
⑤……14票?
⑥……4票

アコチャー「おかしい。こんなことは許されない」


どこにこんなに居たんだ……どれだけ淡が見たいんだ……

淡が独走なのはまあいいとしても、二番目がクトゥルー×呪文詠唱×サイバーパンク×変身ヒーロー×魔法少女×SAN値直葬の熱血少年王道漫画ってほのぼのギャグスレとして何かがおかしい

まあ無事終了したら淡エンド(人生が)終了しなかったら、件の正統派熱血王道少年漫画で行きます
熱血王道週刊少年漫画で


なお

①……このスレのエンドの一つ。人生を振り返りつつアラフォーマーズの大群にMO手術で戦う京太郎
③……大学生の頃の残念な男友達とふきゅデレアコチャーのクリスマス
④……アコチャーその後。めっっっっちゃツンデレデレデレ
⑥……咲ちゃんエンド

でした

咲ちゃんは……いや……まあ……ね……
そりゃ……ねえ……うん…………

③と④以外死ぬよ

だって幼なじみじゃん? ヒロインじゃん?
公式で京ちゃんと話してる時の咲ちゃんが一番表情豊かじゃん? ヒロインじゃん?
咲ちゃんサラダうどんコミュ障なのに「京ちゃん」呼びじゃん? ヒロインじゃん?
ハンドボール部アウトドア系とインナー方向オンチぽんこつ文学少女じゃん? 少女漫画かよってヒロインじゃん?
つまり咲ちゃんはヒロインじゃん? 大正義京咲じゃん?
で、こりゃどっちかが死ぬのが似合ってるし、このスレは京ちゃん主人公じゃん?

じゃあ咲ちゃん死ぬしかないやん

燈の幼なじみ死んでるし
艦長の幼なじみ死んでるし
マルコスの幼なじみ死んでるし
そら幼なじみは死ぬもんやろ。オマージュ元的に考えて

咲ちゃんが生き残るなら京ちゃんは死ぬし京ちゃんが生き残るなら咲ちゃんは死ぬよ
1は京咲書き手やからね。何書いても京咲純愛にしかならないんだ

今までのギャグ描写のせいでシリアスに戦闘シーン書くと相手が一撃で死ぬんだけどどうすればいいんだ……
誰だよコイツにムエタイ使わせたの……簡単に骨砕いたり内臓壊すぞ……

今夜はやるでー
2300からやでー

始めるでー

あ、今回は流血描写はありません。いつも通りの平和です




  ◇ ◆ ◇




   ……いつかは、戻って来てくれると信じましょう。どんな形でも。どこかで。


                             ――麻雀プロ 花田煌、「月曜嫌でしょうもういいでしょう」収録にて



  ◇ ◆ ◇



 いつも通りの公園。季節は冬に移り変わった。

 俵型のおにぎりを黙々と口に運ぶ少女を見ながら、京太郎は考えた。頭を巡るのは以前彼が少女から投げ掛けられた質問。

 ――麻雀をやるのか。

 その質問を、一度は否定した。しかしそれが少女が求めていた答えなのか。果たして。

 ひょっとしたら、彼女なりのコミュニケーションの手段ではないのだろうか、麻雀とは。

 得てして麻雀が得意な人間は、コミュニケーションが乏しかったりする。一部であるが、他の競技に比べれば多い気がするものだ。

 彼の知り合いだけでも、顔面表情筋が機能してない文学少女に、やたら方向オンチで内弁慶な文学少女、中二病を拗らせたような傲岸不遜な文学少女――。

 ……。

 ……ひょっとしたらコミュ障を生むのは文学なのではないだろうか。服毒、割腹、入水と作者もアレ揃いであるし。

 ……ひとまず置いておこう。

 兎に角この少女も、実は麻雀を使ったコミュニケーションが得意な輩に位置するのではないか。彼はそう当たりを付けた。

 ならば、あの「いや俺麻雀とかツイてないから無理っすわ。あとアイツら暗いよね。犬の匂いしそうハハハ」――とも聞こえない返答はよろしくないのではないか。

 寡黙なりに、勇気を振り絞ったとも言えなくもない。

 であれば、もしそういう意図ならば打つと言うのも悪くないのではないか。

 視力の関係から以前がごとき闘牌は不可能であるが、手慰みとあればそんな気負いは必要ないだろう。

 ならば、どういうつもりだったのか訊いてみるのも悪くないかな――と、京太郎は一人頷く。


「なあ、聞きたいんだけど――」


 そこで、彼の言葉は区切られた。

 少女の目。恐慌と絶望が混じった目線に、京太郎もその先を負う。



「返せ……俺の……返せ…………!」


 公園への闖入者。

 見開かれたまま、止まる少女の眼差しに――或いはそれを認識しながら、京太郎は立ち上がった。


「あんた、それ……」


 京太郎も同じく、驚愕を隠せなかった。

 オールバックの男のその手には、刃渡りが十センチを軽く超えるナイフが握られていたのである。

 彼としても、臍を噛む思いだった。

 自分一人ならば、迷わず走って逃げた。フィクションの――撮影の中ならいざ知らず、ナイフなど相手にした事がない。

 正直逃げ出したい気持ちでいっぱいになりながらも――後ろに誰かが控えている状況で、京太郎は退ける男ではなかった。

 故に、こう笑う。


「大丈夫だ、いい子で待ってろよな」


 少女の頭に手を乗せて、京太郎は鷹揚に零して前を見据えた。


「一応言っとくけど……それ本物なのか? ……だったら、ここらで止めといた方がお互いいいんじゃねーのかな、うん」

「俺の“特性”……返せよ……! クソガキが……バラバラにしてやる……!」


 聞く耳持たず。

 武器は捨てず、歩み寄る男。

 京太郎は舌打ち一つ。奥歯を噛み締める。

 その瞬間に、彼の全てが加速した――。

 視界が広がり、遠ざかり、視界そのものが京太郎と化す。

 意は必要なし。意より先に肉体が反応する。潜り、浸り、酔いながらも俯瞰を行う超然的な感覚。


 武道に於いて“心・技・体”がその肝要として語られるのは理由がある。

 大事なのはこの順番。とりわけ、心が重要視される。

 一つの意味としては、得てして武を修めた人間というのは乱暴になるから。己の研いた拳を、足を、肉体を――その技を試し何かを破壊したいという欲求を懐くようになるから。

 故に戒める。故に歯止めかける。

 武という牙を持った獣を野に解き放たぬ為に、その心に鎖を付けるのである。

 しかし、真は異なる。そんな、聞こえ良く利他的な道徳ではない。

 武が道に変わる以前の術でも心が重視されたのは、とりわけ戦闘の為。勝利の為。生存の為である。

 軍隊に於いての徒手格闘の主とは、素手で相手を破壊し無力化し制圧する事などではなく――“全ての武器を失ってもまだ自分には戦う手段がある”と安心させ、それを冷静さに繋げる為。

 武の言う心は、技と体を支配する。

 恐怖を感じ腰が引けば、反応は遅れ、威力の乗らない一撃となる。

 気持ちが急いて前のめりになれば、術理は無視され、攻撃の隙が大きくなる。間合いを測り間違える。

 近代での武道が、武器を相手にしないのはこれが所以。

 鍛え上げた肉体なら殺傷に至らずとも相手の無力化は十分に可能。痛みを味わわず一切の鍛練を経ない素人の肉体など、どの攻撃でも制圧できる。

 相手はその手に握った刃物だけが必殺の武器であるが、武芸者はその全身が必倒の兵器である。手数からもコンビネーションからも、有利なのは武芸者。

 だが、練習と実戦は違う。

 それに加えて刃物という、明確なる害意と傷害の化身である。これを目の前に“心”が崩れぬ事はなく、その僅かな隙さえも致命に変えるのが武器であるから――まず徒手で得物相手はしない。


 だが――“心”が満ちたなら?


(――)


 没頭する。あらゆる事に没頭しない状態へと没頭する。

 瞬時に認識し、瞬時に理解し、瞬時に分析し、瞬時に思考する――そして意識を超えて繰り出される攻撃とそれを可能にする修練。

 呼気を一つ。相手が一歩。須賀京太郎の思考が沈む。

 沈黙を一つ。踏み出された左の足。距離が詰まる。京太郎の両手がアップサイドに動き始める。

 吸気を一つ。いよいよ相互は一歩と同時に攻撃の場所へ入る距離=間合い。京太郎の両肩が持ち上がる。


 ――瞬間。


「――」

 腰だめに構えられたナイフ。血走らせた目。白くなった指先。直進する肉体。乱れたオールバック。

 京太郎の右足が外を向いた。軸足、膝が伸びる。全く同時に回転する腰。放たれた左回し蹴り。

 直撃の瞬間、膝が曲がる。落ちる重心に従い、鞭の如くしなる左足に体重が乗る。相手の右大腿で弾けた。

 しかし止まらない。

 膝を曲げたのは次撃の為。この蹴りはムエタイの蹴りではない。ムエタイの蹴りは膝を伸ばして軸として撃ち抜く蹴り。

 大腿の筋繊維を破断させる感触と、人体でも有数の筋組織集中箇所を蹴り付けた反動が合わさりつつも、既に応力で京太郎の足は準備を整える。

 痛みに――衝撃に、無意識の内に丸まる相手の身体を認識しつつ――京太郎の考える視界は判断を下した。

 これで、ナイフが隠れた。

 無防備に開かれた体と、均衡を失った肩口――――目掛けて左の一撃。直撃。引き戻して更にステップ=軸足をそのまま、突き入れるかのごとき左の横蹴り。

 縮まった胸骨目掛けて叩き込まれる左の踵。足首が引き絞られ、さながら三日月を描く左足が無慈悲に男の肉体を弾き飛ばした。

 骨に直接響く破砕音。

 初めからそうなる事が運命づけられていたかの如く響く、乾きつつも湿り気と質量を感じさせる異音に――視界が脳と化した京太郎は片隅で男の骨を砕いた事を知った。

 胸を開いて、天を仰ぐ男。受け身も取れず、後頭部を強打した。


(――って! やべっ、これッ)


 途端に、京太郎の頭が冷えた。雑念が脳を支配し、集中が途切れる。



 打撃そのものによって、例えば重機や弾丸めいて人体を破断させる事は極めて難しい。衝撃力が拳銃弾に並ぶほどの殴打だとしても、直接人体が千切れ飛ぶ事はない。

 だが、人は素手で死ぬ。素手で殺せる。

 そんな凄まじい威力の超一級のプロの拳を持たずとも、ただの素人の揉み合いですら人は死ぬ。

 これは外傷が積み重なる事による内出血過多での出血性ショック死もその内に含まれるが――一番の理由は頭部。

 頭部打撲による骨折や、頸椎損傷によるものが素手の大きな死因である。

 他の動物に比べて卓越した頭脳を持つが故に、そしてそれを外から守る為に発達した脳と頭蓋骨の重量は凄まじく――。

 倒れた際はこれらに遠心力が加えられ、更には梃子の原理宜しく加重される頭部は、そのものの防壁や頸椎へと多大な衝撃を与える。

 或いは外は無事でも、内部だけに響く。急ブレーキを掛けた電車とその乗客がごとく。

 つまりは戦闘に於いては無防備な転倒こそ避けるべきもの。攻撃する側もされる側もそうだ。

 だからこそ、まず受け身が重点される。


 京太郎の背筋に冷や汗が満ちた。

 打ち所が悪ければ、死亡しても不思議ではない。それ位、人体は脆い。

 相手は刃物を持っていたから急迫した不正な侵害であるが――――そんな理屈ではない。

 彼は恐怖した。冷血漢でもなければ異常者でもない。罰の如何に関わらず、人間は元より同族殺しに向いた生物ではない。本能的な警告が、脳の大半を占拠する。

 しかし、


「ブッ……殺してやる……クソガキ……!」


 痛みもない。正気もない。京太郎も眼中にない。

 どこまでも狂気に染まった膝立ちの男が、ゆらりと身体を起こす。

 血走った目は黄に染まり、無精髭には雲脂が散り、口角には泡が満ちる。尋常ではない。

 薄ら寒いなどと言うものではない。これほどまでの異常な執念を前にするのは、京太郎も初めてであった。


「マジ……?」


 それはプロの舞台での、ある種清涼感ある決闘に掛ける覚悟ではない。ただの妄執。自分の破滅を考えない、まるで動物的ではない――人間のみが持ちうる漆黒の狂気。

 たじろいだ。

 その石火の間、男の体が視界一杯に広がる。横薙ぎにされたナイフ――京太郎の顔面目掛けて襲いかかる。



 ――だかしかし。

 どんなに狂った相手を前にしても、変わらない。何が男の背後にあったとしても、止める。人に刃を向けるような危険人物は無力化する他ない。

 一瞬で切り替わる意識。

 いや、一瞬であったから良かった。余計を考える余地なく、京太郎の肉体は応戦した。

 京太郎の目玉に向けて閃く白刃。視界の右から左に奔る剣閃。重傷を避け得ぬ斬撃。

 だが、京太郎の肉体は冷静だった。

 常人ならば言うまでも閉じてしまう瞼を閉じず、僅かに口から吐息。それに先んじてか並んでか――行われる左前方へのステップ。

 刃が振るわれるより先に、逃げた京太郎目掛けて照準を修正しようと開いた男の体へ、痛烈な右ミドルが叩き込まれた。

 男の背筋が、不自然に伸びた。

 それを尻目に足を引き戻し、バックステップ。両手をハイアップにした構えへと戻る京太郎。


 京太郎は止まった。だが、男は止まらない。

 男の右手のナイフが、再度、力を込められて襲いかかる。京太郎の心臓を目指す直突――だが貫けず。

 勝ったのは頭部への左の肘打ち。腰を勢い良く回転させて力を伝えた肘――ティー・ソーク・トロンが男の後頭部で炸裂した。

 行ったのは単純。

 ナイフが突き出されると同時に左前方へステップ。左足が前に位置する半身の、彼の右腕の甲側がナイフを持つ腕を側面から弾いた。

 そのまま開けた後頭部に左肘が打ち込まれる。だが命中の感覚を得ても京太郎は止まらない。

 手の甲を晒していた右腕が翻る。即座に男の右手首をホールドし、上方へと引き上げる。

 まるで同時、右回転。

 腰と連動して足が一歩外へ開き下がる。

 攻撃から構えに戻ろうとした左腕が再度加速。彼の頭を跨がせた男の右腕の付け根、脇を潜り通り、右と同じく男の腕を担ぎ上げる一員に。

 そこで――勢いよく、男の腕を己の右肩に叩き付けた。

 掌を空に向けた形に腕を取られていた男の、肘が極められた。

 逆間接。靭帯と筋繊維が不自然に伸び、肘間接が反らされる。繋がる男の右肩も苦痛に前のめりとなり、腰が釣られた。

 開いた指に、ナイフが零れ落ちた。それを認識した京太郎は――咄嗟、男の腕を手放し、前方へと潜るように跳んだ。

 視界が迫る。近寄る地面に、両手のハンドスプリング。空中で身体を捻り付け、両足を前後反転。そのまま着地。

 飛び込み前転からの空中半捻りで着地した彼の――その背中のシャツが破れて、肌が露出した。


「……バトル漫画かよ、これ」


 冗談じゃねーぞと、小さく呟く彼の顔色は渋い。

 右腕を極めて制圧を試みるそのときに、相手は痛みに構わず隠し持っていたダガーナイフを突き出したのだ。

 間一髪、薄皮に触れたそれに気付いた京太郎は回避した。そうして、このような運びとなる。



 尋常な肉体ならば、更に間接への攻めを強ればナイフなど使う余裕などなくなる。でなければ技として――特に成立からして戦場から生まれたそれなら――片手落ち。

 だが、男は――恐らくは薬物などの影響だろう――痛覚が鈍い。彼は、それよりも確実な回避を重視したのである。


「やりにくすぎだって……!」


 ナイフ、それ自体も面倒である。面倒であるが、腹さえ据えてしまえば問題はない。

 しかし、ここで相手が碌に鍛えていない素人というのが災いした。京太郎の本気の攻撃を与えれば、間違いなく致死するのである。

 だが本来なら、殺すつもりの攻撃でなくとも制圧には十分。彼の前蹴り一つで、大方は痛みに踞り沈黙する。

 そこで主となるのが――このタフさだ。

 薬によって痛覚が鈍化した相手では、その安全な一撃が通用しないのだ。


「……お気に入りだったんだけどな、これ」


 吐息を一つ。

 力を込めてコートを抜いてシャツを引き裂き上半身を肌蹴る。

 露になる、ギリシア彫刻のごとき肉体美。いや、それには劣るが搾られ引き締まった闘士の肉体。数多の古傷が目立つ、戦士の身体。(……なおスタントを用いない撮影による)

 呼吸。

 左に握ったダガーナイフを右肩近くに掲げあげて直進する男目掛けて、放るように投げ付けられた上衣。冬の寒空に、オフホワイトの花が咲く。

 視界が遮られ俄に動きの鈍った男の人中を――コート越しに打ち抜く京太郎の左拳。

 稼働部の多い首が、頭部への打撃に釣られた。

 顎が首に触れ、頸椎の後部が伸びる。さながら助走を付けて固定された棒に激突したのに同じ。

 頸椎の駆動に脊椎が流され、腕が前に投げ出され指先が力を失う。ナイフを持つ左手が游いだ。

 京太郎は待たない。

 反動も加味されて引き戻された左拳が開き、男の首を掌握。

 同時に繰り出された右手が、ナイフを持つ男の左腕を跨いで左肩から首裏へ。


 そして――


「噴――ッ」


 ――ゴッ・コー・ティーカウ!



 所謂膝蹴り。首を掴んで行うそれだ。

 最早、ここに来て――痛覚が鈍いというのは何のアドバンテージにもならなかった。

 爆裂する膝。男からしたら、腹部で鉛の爆弾が弾けるに等しい衝撃であった。

 引き寄せ、寄りかかり、掴み寄りながら打ち込まれる京太郎の右膝。男の筋肉を打ち抜き、内臓を貫き、脊椎まで直進する衝撃の杭。

 痛みがなくとも、男は生きていた。生きる以上、酸素は必要であった。

 ――だが、それを奪われる。

 曲がる上体、縮まる腹筋。突き出された顎と顔に位置した血走った両目が飛び出さんばかりに漲った。

 歪んだ上半身に圧迫される肺腑は空気を搾りだし、挙げ句骨髄を粉砕し筋肉を断裂し内臓を圧殺せんばかりの圧力が加わったなら――痛みの遺憾に関わらず、酸素を失い動きが止まるのは必然。

 そのまま、ナイフが力を取り戻すよりも早く。


「寝てろよ。な」


 身体を反転させられた男の首に、須賀京太郎の腕が巻き付いた。

 外せない。外せる筈がない。一切を間に挟まぬ、文字通りの裸絞めであった。


「……ふう」


 二秒後、男の視界は暗転する。



「寒っ、これ寒過ぎだろ!」


 確かに寒いが、それよりも気掛かりな事態がある。

 色々と刺激が強すぎる映像を、少女に見せてしまった。その他にも幾つか――と、少女が座る筈のベンチに顔を向けた彼は、


「……あれ?」


 そんな視線の行き場を失い、顔に乾いた笑みを張り付けた。虚しい空笑い。

 そのまま京太郎は、引き裂かれた上着を手に警察が来るまで呆然と立ち尽くした。

 駆けつけた警官に不審者と間違えられ拘束されそうになり、更には女刑事に「この男に押し倒されたら生むことになる」とか思われたとか思われていないとか。

 結局老刑事に「オカルトスレイヤー、うちの娘がファンだったんだよ!」とサインを求められて解放された頃には、夜半となっていた。

 夜風は冷たかった。

という訳で以上

内出血は流血に含まれません!
あとなんでこいつバトルしとるんやろ……なんでや……ほのぼの麻雀プロスレだったのに

>>528(訂正)
×
 逆間接。靭帯と筋繊維が不自然に伸び、肘間接が反らされる。繋がる男の右肩も苦痛に前のめりとなり、腰が釣られた。


 逆関節。靭帯と筋繊維が不自然に伸び、肘関節が反らされる。繋がる男の右肩も苦痛に前のめりとなり、腰が釣られた。


>>530(訂正)
×
 尋常な肉体ならば、更に間接への攻めを強ればナイフなど使う余裕などなくなる。でなければ技として――特に成立からして戦場から生まれたそれなら――片手落ち。


 尋常な肉体ならば、更に関節への攻めを強ればナイフなど使う余裕などなくなる。でなければ技として――特に成立からして戦場から生まれたそれなら――片手落ち。

間接→関節

1としてはライトノベルのつもりで書いてるんだけどどう見られてるのか不安だ

今日もあるでー


柔和な笑みの似合う青年、須賀京太郎は穏やかな日々を過ごしていた
以前の生活を思わせるもの全てから遠ざかり日常を送る京太郎の耳に飛び込んだのはかつての同業者からの不穏な噂
そんな中、彼は一人の少女と出会う。そして少女を狙う追跡者からの襲撃を受ける
二度と握らぬと誓った拳を胸に、京太郎は今少女を救わんと単身悪に立ち向かう――
業界最高峰と謳われた男の怒りが、今悪に突き立てられる!


あらすじライトノベルやん

だってこんな比率で女の子出とるんよ……ラノベ以外の何者でもないやん……


始めるでー



「……なんだったんだ、あれ」


 流石に上半身裸で返すのは不味いという事で受け取った白いコートを羽織ながら、京太郎は眉を顰めた。

 思い返すのは、先ほどの襲撃者。ナイフを振り回したあの男。

 薬物反応が出た為、それが落ち着いてからの取り調べとなるが――おそらくそれより先に医療刑務所に送られるだろうと、刑事は苦く漏らした。

 熊にでも襲われたのかと向けられる冷たい目に、ただただ彼としても申し訳なさそうにするしかなかった。

 ただし、相手が重度の薬物中毒であり、さらには凶器も所持していたと言う事でそれ以上の咎めだてはなし。

 取り調べに時間は掛かったものの、彼も無罪放免でお役御免だ。

 殺しや破壊が前提の古式ムエタイの技こそ使用には至らなかったが、刃物相手で痛覚がないという事で京太郎としてもギリギリの戦いになった。

 手加減の余裕はなかったので――死ななかっただけ、御の字である。心底、肝が冷える思いだった。


 ……それにしても、と。


「……」


 あの尋常ではない男の様子。明らかに狂っていた。

 何よりも、あの男は京太郎を眼中に入れずに襲い掛かってきた。

 しかし、ただの通り魔というには――戦闘の高揚と緊張に拙い記憶を思い返せば、言動にいくつか引っかかりがある。

 重度の薬物中毒、襲撃者の言動、いつの間にか居なくなった少女――。


「よ、京ちゃん」


 突然物陰から掛けられた声に、戦闘態勢を取った京太郎は――やれやれと胸を撫で下ろしつつ、構えを解いた。

 シゲと呼ばれる老人が、口角を吊り上げた不敵な笑みで佇んでいたのである。口には咥え煙草。

 もう幾度目になろうかと、路上喫煙禁止を伝えつつ京太郎は疲れを零した。


「珍しいところから出てくるなんて思わなかったぜ」

「……それ、俺の台詞です。幽霊みたいに出てこないでくれよ」


 その気配からして死線にほど近いシゲの雰囲気は、彼としてもどうにも慣れない。

 日中ならば然程でもないが、夜間に……ましてやこんな風にいきなり姿を現されて、嬉しいという事はない。



「随分楽しそうな事をしてたみたいじゃないか」

「……裸コートが楽しい訳ないですからね」


 脱げばすぐ下には、数多の傷が刻まれた精悍な肉体。

 流石に、冬の気温には向いていない。レイヤーなんて概念はない裸レイヤー。オカルトスレイヤーがオカルト裸レイヤーとか洒落にならない。

 ……どこかで「ふきゅ」という声が聞こえた気がしたが、まあおそらくは空耳であろう。

 また別に日本の南の方の暴力と暴力団とロケット弾とアサルトライフルが渦巻く修羅の国から、「裸コート!?」と睫毛が長い小悪魔系レズ痴女の声が聞こえた気がした。

 ……きっと空耳だ。

 脳で残響する骨に直接伝わるような相手の骨髄の破砕音を、彼が聞き間違えたのであろう。


「……」


 しばしの沈黙。思案顔。

 やがて、京太郎は正面からシゲを見据える。

 彼はシゲについて詳しい事を知らない。ただ、麻雀を打つであろうという事とそちらの業界――とりわけ裏――に精通しているだろうという事。

 そして、この亡霊じみた気配。然るに命のやり取りが一つや二つではきかない位の経歴の持ち主であろうと言う事。

 それぐらいだ。


「なあ、シゲさん。……オカルト喰いについて、なんか知らないか?」


 深刻さを孕む京太郎の口調に、シゲは笑いを零した。

 嘲笑めいてもあり、喜色ばんでも居る――そんな吐息であった。


「京ちゃんから麻雀の話か。……明日は雨か?」


 ああいや、この寒さなら雪かも知れない――なんて囁きを零すシゲに向けられた京太郎の双眸は厳しい。


「茶化さないでくれよ。……何か知ってたら、教えて下さい」


 外見とか、経歴とか――そんな重要な事でなくとも構わない。

 兎に角、彼の内で高まりつつある疑念を殺せる材料ならば、それでよかった。



「情報か……そうだな、その魔法喰いってのは――まあ大方のオカルト関連と同じで、女だ」


 すっ、と――彼の顔面から血の気が引いた。

 寒いのは、この夜空の所為だけではあるまい。


「次に……ああ、そいつは餓鬼だってな。成人もしていないような」


 徐々に、胸が早鐘を打つ。

 こうも冷えると言うのに、何故背中に汗が滲むのだろうか。


「それで……まあ、人様の心の底に根付いた魔法を喰ってるんだ。恨まれてはいるだろうな」


 京太郎の掌が湿り始めた。

 それを認識すると並んで、首筋と胸元を覆う焦燥感。肩に力が入った。

 やはりという思いと、同じだけ湧き上がるまさかという願い。

 彼の視界が徐々に閉じ始めているのはきっと、その身に抱えた爆弾が理由ではないだろう。


「それで……そいつの両目に魅入られた奴は、魔法を喰われるって話だ。――こんなところだ、京ちゃん」

「……両、目?」

「どうかしたのか?」

「いや……両目なんだな!? なんだよな!?」


 思わず襟首を掴まん勢いで詰め寄る京太郎に、シゲは両手を泳がせる事で抵抗した。

 健全な成人男子であり、しかも格闘技を十二分に修める京太郎の膂力で締め上げられたら、このか細い首など折れかねない――。

 そんな風にアピールをするシゲの様子に冷静さを取り戻した京太郎は、両手を膝に当てて息を吐いた。


「……いや、悪い、シゲさん。ちょっと慌てちゃっててさ」

「それならいいが……聞きたかったのはこれで全部か?」

「ああ……。……、いや、もう少し詳しく訊けたらもっとよかったんだけど」


 未だ解には至らず、歯切れの悪いものを残す京太郎。シゲは、やれやれと肩を竦めた。

 ややあって、口が開かれた。


「被害に遭った賭場の場所だけなら、教えられるけどな……」


 無論、彼がそんな言葉に飛びついたのは言うまでもないだろう。

 少しでも、情報が欲しかった。どんな形でも――どんな形だとしても。

 この時の京太郎は、焦燥に平常心を失ってしまっていた。




 ――故に。


「おら、何モンなんだてめえ!」

「……だから、ただ、噂を……耳に、した……だ、け……だって」

「まだ言うってのか?」


 おい、と男が顎を向けた。

 その途端に、京太郎の脇に立つ男が――彼の金髪を乱暴に掴んで、押し下げた。

 広がる気泡。揺れるドラム缶の起こす不協和音。必死にもがこうとする両手を、それぞれ二人係で抑え込む黒服の男達。

 幾度目になろうか。京太郎の顔は、再び張られた水へと潜った。既に前髪は濡れてへばり付く。

 尋問――というよりこれは拷問であろうか。


 古来から伝わる、所謂水責めであった。

 リーダー格の、頭部の片側だけを借り上げた黒服の男。その隣に並んだ角刈りの男が、己の左手の銀時計を見やる。

 どちらも――いや、この場の誰もかも――京太郎以外は、サングラスを着用している。

 物置場か、或いは地下の倉庫。

 数々の包などが置かれた、心もとない鉄製の棚。柵で囲まれた、羽虫の影を映す黄ばんだ蛍光灯。

 コンクリートが打たれたそのままの、隅には埃と蜘蛛の巣のある部屋。そう広くはないそこに、男たちは肩を並べていた。

 バカ正直に問いかけに行ったのが悪かったのか。それとも、それほど急いて気が回らずに居たのか。

 シゲから聞いた賭場に足を運んだ京太郎は今、このように拘束されていた。

 賭場らしく、地下にあるのかと――そう階段を下りた京太郎に襲い掛かったのはスタンバトンとスタンガン。

 咄嗟の回避でやり過ごした京太郎もしかし、暗がりから飛び出たテーザーガンを回避できずに捕えられた。

 それから――こうして、男たちから尋問を受けている。



 乱暴に掴み上げられた金髪が、男の手の内で雫を垂らした。

 京太郎の顔は歪んでいる。

 当然ながら、このような経験はない。たとえ撮影で、たとえそれがノースタントだとしても、全力で誰かに頭を押さえられ沈められる事がある筈もない。

 どれが涙なのか、水なのか、涎なのか――。判別が付かぬほど、その顔は水に浸されていた。

 縮まった瞼と赤褐色の瞳が、力なく前方に向けられる。


「もう一度聞くぞ? てめえ、どこの組のモンだ? 何のつもりで来やがった?」

「だか、ら……俺は……ただ、話……聞きに……」

「……。やれ」


 クソ、と歯噛みする間もなく潜行を開始する京太郎の頭部。潜行と言うよりは轟沈だろうか。

 口から酸素が吐き出される度に、京太郎の意識が灰色に抜け落ちる。

 十から先は、覚えていない。僅かな呼吸と受け答えを残して、ほとんどが水中である。いつしか音も遠ざかり、視界も震え出していた。

 ドラム缶の反響音が、京太郎の脳裏に鈍く木霊する。それが自分の手足が立てる音なのか、それとも男たちの怒声なのかの区別もつかない。

 沈む。上がる。沈む。上がる。沈む――。

 呼吸の仕方を忘れたようで居て、それでもまだ肉体は貪欲だった。咽るたびに口腔と鼻腔から迸る飛沫に、また咽た。

 いつからか辺りの感覚は消えて、ぼんやりとした男の影と眩暈の度に流れ動く蛍光灯の灯りだけが彼と現世を繋ぐ頼りになっていた。

 その中で――。


(……憧、悪い)


 京太郎の思考に蘇ったのは、新子憧の笑顔である。

 一度だけ、一度だけ彼女が心の底から恐怖し驚愕した顔を見た事がある。

 それを見てしまった時に――それから頭が冷えた後に、彼の脳を埋め尽くしたのは猛烈な後悔であった。

 もう二度と、そんな顔はさせたくないと思ったのに――。

 それが今では、このざまだった。

ちょい中断します

やっぱ主人公のピンチって必要だから多少はね

待たせたな

咲は美少女麻雀漫画なんだから戦闘ガチ勢がいる訳ないだろいい加減にしろ!



 ――やがて、それすらもなくなる。


 京太郎の思考はただ、雑音に埋め尽くされた。数多のノイズ。生命維持に関わる本能がアラートを。思考の余地はない。

 不断の、連続した反射の連なり。ただ喘ぎ、たた咽び、たた吐き、ただ吸う。そこに思惟は介在しない。どこまでも正直な欲求しかない。

 鳴り止まぬ、肉体から発せられる警報音。警鐘が響き、意味ある、長い文などなくなる。

 苦、溺――。髪、音、水――。鼻。空気。酸素。酸素。呼吸。死。溺れ。死。呼吸。水――。飛沫。男。

 死、憧、助、憧、会――麻雀、呼吸、辞、目、酸素。少女、目、死、水――死、息、空気、息、息、息、酸素、空気、息、水、溺、沈、息、水、明、息。

 音、息、空気、欲、死、このまま、水、死、潜、頭、息、助、死――。空気、息、息、息、息、酸素、空気、息、呼吸、水、吸、飲、息、水、息、溺――。

 そこが地上なのか水中なのか、最早彼には判別できなかった。

 ドラム缶に顔を浸けられながら呼吸を試みようとし、地上で息を止めようとする。或いは顔が持ち上げられ吸おうとした瞬間に、再び水へ。

 咳き込むのか、吸うのか、喘ぐのか、咽るのか、京太郎自身にも把握が付かなかった。


「おい、もう一度聞くぞ。てめえは、どこの組からのモンで、何しに来やがった?」


 銅鑼を打ち鳴らしたかの如く撓んで唸る男の声に、京太郎は瞼を起こす。

 それから自分が、地面に投げ出されていたのだと知った。終わってしまえば――思い返す事もできない、濃密で一瞬の苦痛の時間。

 脳が醒めない。茫洋とした意識のまま、首だけ動かした。

 仰向けに倒れた彼の髪が、床に黒い溜まりを作る。


「おい、いいか? 答えろよ」


 視界が動いた事で、ようやくそこで彼は蹴られたのだと知った。

 無様に幾度も転がりつつ、再び仰向けになる。全身の感覚はない。指先すら、動かせないのか――それとも動かしたつもりなのか動かそうともしていないのか解らない。

 首を横に傾けると、口腔から躍り出た液体が床に沁み痕を残す。


「こいつ、気でも違ってんじゃないっすか?」

「なら、気付けでもしてやるか」


 葉巻を口にそう呟くリーダー格の、その傍に佇む男が火を取り出した。

 紫煙が漂う。全員が、うんざりするようでいて――それでありながらも昏い嗜虐を湛える笑みを浮かべる。


「おい、聞こえるか? 言わなきゃ、てめえをあのガキみたいに眼帯なしじゃいられないようにしてやる」



「俺は……ぁ……俺、は……」

「そうだ。てめーだ。てめーの話をしてるんだ。聞こえるか?」

「四百二十六……よんひゃく、じゅう、きゅう」

「あ?」


 打ち込まれる、蹴り。京太郎の躰が勢いよく横転し、戸棚にぶつかる。

 グレーのスチール製のラックが軋み、埃が舞い落ちる。そうされてもやはり京太郎は力なく横たわるだけ。

 舌打ちをした男たちが、手近にあった角材を握る。リーダー格の男は葉巻を吹かしながら、京太郎へと歩み寄る。響く靴音。

 電撃に、酸欠の影響。京太郎の精神も肉体も、既に正常の体を為してはいない。


「おめーの探してる糞ガキの所為で、俺たちのとこは大損だよ。舐めやがって」

「ガ、キ……?」

「そうだ。見せしめが必要なんだ、判るか? なあ、おにーちゃん」


 実際この理論は、まるで見当違いも甚だしい。

 男としてもそれを理解しつつあるし、目の前で倒れる金髪の青年を見せしめとしたところでそれを晒す場がない事は十二分に承知。

 ただ、この意識の大半を奪われた男に噛み含んで伝えて、話を出来る状態に戻そうとしていただけである。


 ――――ところで。


「判るか? 答えなきゃ、おにぃちゃんも目ン玉潰されて……あのガキみてーに眼帯なしじゃ暮らせなくなるぜ?」


 凄む男が、灰を地面に零した。靴裏で踏みにじり、京太郎を顎でしゃくる。

 角材や鉄パイプを持った男たちが素早く応じる。京太郎を、脇から抱え上げようと言う算段である。

 対する京太郎は――


「は、ハハハ、ハハハ、はははははははははは」


 笑った。

 大声で、心底おかしそうに。地面に倒れ伏したまま、背中を反らして。

 男たちの動きが止まった。瞳に、忌避感が強まる。異物に向けるそれと同じ目線であった。

 舌打ちを堪えるような顔のまま、気だるげに男は首を振る。


 ――――意識というならば、スポーツ選手やある種の競技者には、意識の切り替えのスイッチというのがある。




「お前は次に……『イカレやがったか、コイツ』――――」


「――イカレやがったか、コイツ」


「――――――と言う」


「…………はっ!?」




 ――――痛みに関する、ある研究があった。



「ハハハハ、マジかよ、ハハハハハハハハハハハハハハハ、マジなのかよ!」

「な、なんだ……コイツ、なんだ……ッ!?」

「はは、ははは、クソッ、ははははは、マジかよ……アハハハハハ!」

「な、なんなんだテメエッ!」


 突如として腹を抱えて笑いまわる須賀京太郎に、男たちは気色ばんだ。

 さっきのさっきまでの、あの呆然とした態度はどこへ行ったと言うのか。

 自分自身をあれほどまでに痛めつけられて、何故こうも笑顔になれるのだ。笑い続けるのだ。

 まったく理解できないそれに、不気味に思った一人は駆け寄りつつも鉄パイプを大きく頭上に掲げて――、


「……っし、治った!」


 上体の重心が後方へと移動したそこに回転する足払いを受け、大きく転倒した。

 対する京太郎は、単純。両手を跳び箱に付くように――しかしそうしながらも絶えず両手が位置を変える。カポエイラと言おうか。

 そんな動きのまま、回転の勢いに乗せて上体を捻り起した。ブリッジが如く、その場で跳んで立ち上がる。

 目を見開く男たちに浮かぶ感情は――目の前の男が、人間であるか疑うようなそれ。



 ――――オックスフォード大学社会文化人類学研究所によれば。

 ――――腹式呼吸を伴う、息を吸わずに連続して息を吐く笑いを行う人間の疼痛閾値は、行わない人間のそれよりも大きくなると証明されている。



 息を吐かせぬ間で、京太郎の左前蹴りが角材を持った男の膝を跳ねる。咄嗟に彼目掛けて右の蹴りを放とうとしたその脚を、更に蹴り込んだのである。

 倒れかかった男の、その顔面の軌道に設置された――設置されたように繰り出された肘が、前歯を叩き折る。

 これは――奇しくも、微笑みの国として称されるタイに伝わる武術の技。

 

 ――――心の底からの笑いによって、人間の脳内にはモルヒネの実に六倍もの鎮痛作用があるエンドルフィンが放出されるのである。

 ――――笑いというのは人間がこれまで高度な発展を遂げる上でも、必要不可欠な存在であったのだ。

 ――「笑いと疼痛閾値の上昇の関連性(原題:Social laughter is correlated with an elevated pain threshold.)」より。



「な……お、おま――」


 呟こうとした男の喉へ、踏込と共にショートアッパー。同じく古式ムエタイ。

 糸を巻くように回転する京太郎の両手が、再び構えを取る。



「ふ――――ぅぅぅ」


 そして京太郎は、急激に脱力した。

 一時的に痛みの閾値を引き揚げ、さらにはある種の精神的スイッチともなるルーチンワークで平常を取り戻したとしても。

 肉体そのものに蓄積された疲労が、一切合財消えてなくなる訳ではない。

 そんな中彼は、目を閉じた。


 ――ところで、こんな経験はないだろうか。

 ――残業が続く、或いはついつい楽しみな記事を見かけて徹夜が過ぎてしまって。

 ――翌日の通勤や通学で、当然座席が埋まり尽くしてしまった電車の吊革に揺られながら、微睡んでしまった事は。


 脱力の幅が大きいほど、後に力を生み出す時の行動の緩急というのは凄まじいものとなる。

 ならば、究極の緩急とは――究極の脱力から生まれる。

 どんな姿勢で居ても基本的に二本の足で立つ事を止めない人間が、唯一その機能すらも捨てるというのは――。

 すなわち――。


「――――ッッッ」


 睡眠、或いは気絶。

 与え続けられた苦痛と疲労に一度意識を手放した京太郎の躰が、重力に従い崩れ落ちる――その瞬間に点火。

 かつてないほどの虚脱と共に、両足に漲る力は、一瞬でその速度をゼロから最大まで引き上げた。

 敏捷性というのは、この緩急。加速力に関わっている。走り続けるスポーツカーを目で追うのが容易くとも、飛び立つ蠅を見失ってしまうのはこれが所以。

 それは側転に似ていた。側転をしながら、斜め前方に飛び込むのと同じであった。

 空中で天地が回転する京太郎のその右足が、男の首を刈った――マーディットカローク。訳するなら、ヤシの実を蹴る馬。

 余りの加速に、反応が遅れた男――巻き込まれるように、後頭部から転倒。胸を開いて、仰向けに手折れる。力なく上下する胸。

 奇策である。本来なら相手の攻めを捌くか受けるか殺し、更に距離を作り、衝撃に硬直する相手目掛けて叩き込まれる技。

 着弾の直後に両手を付いた京太郎は体勢を立て直し、残る二人へと拳を向ける。


 流石の彼も、必死であった。

 その顔に浮かぶ鬼気迫る表情と獰猛な笑みに――リーダー格の男と、その付き人らしき男は硬直する。

 ――――これは、一体、なんだ。

 自分たちは一体、夢でも見ているのだろうか。こんな銀幕の中のような動きを行う人間と戦う事になるなど、何かが間違っているのではないか。



 ボタンを千切ったコートを脱ぎ捨てる京太郎。そのまま、丸めたそれを頭上目掛けて蹴り上げた。

 破裂音。蛍光灯が覆い隠されるその瞬間に、リーダー格の男は咄嗟に横に跳んだ。付き人は同じく、逆側へ。

 途中、ドラム缶を弾き飛ばした。暗闇で見えぬが、ラックに激突したドラム缶は盛大な音を立てて横倒しとなった。溢れる水。

 無様な着地となるが、構わない。暗闇となってしまったのならサングラスである自分たちは不利である――そう考えたから。

 だからこそ、


「いぎぃ」


 逆側からそんな呻き声が聞こえたときは、背筋が凍った。

 男には理解が出来なかった。蛍光灯を叩き割ったのはコートの、金属製のそのボタンである事はいいとしよう。

 だが、何故暗闇で追撃を行えるのだ。移動していると言うのに。

 サングラスを外しつつ、そこで男は耳にする――京太郎が、彼が発する舌打ちの音を。


「俺には分かるんだよ。……撮影だの息抜きだの、色々回りくどい事をしたおかげって奴だけど」

「お前……」

「質問にだけ答えてくれ。……オカルト喰いは、眼帯をしてたんだな」

「あ、ああ……」


 頷きつつ、男は懐に手を伸ばす。テーザーガン。

 大体の声の位置から、金髪の青年目掛けて打ち込んでしまえばいいし――何よりも、床に撒かれた水がある。

 それが果たして伝導体の役割を果たすかは不明であるが、もしその範囲に青年が居たのならば外してしまってもまだやりようがあるというもの。

 そして、暗闇でも状況が把握できるというのなら――、そうだとしても攻めてこないのは、疲労の回復を待っているかテーザーガンを警戒していると言う事。

 すなわちいくらかは、その水に濡れてしまっているという可能性があるという訳だ。

 限界の緊張を味わいながらも、内心ほくそ笑むそこに――、


「見つけたぞ、須賀」

「……辻垣内、せんぱい?」


 地下室への扉が開かれ、外の世界の灯りが射し込まれた。

 満月を逆光に背負って立つその女については――男としても、よく知る人物の者であった。

ほい、ここまで

本当はガイトさん救援やったーな展開にするつもりだったのだが何故かバトルが増えた
あと2回(3回)の投下で終わる……と良いなぁ……(※闘牌を除く)


あ、今回のも全部人間に出来る事だけど良い子は真似しないでねー

>>578(訂正)
×
 息を吐かせぬ間で、京太郎の左前蹴りが角材を持った男の膝を跳ねる。咄嗟に彼目掛けて右の蹴りを放とうとしたその脚を、更に蹴り込んだのである。


 息を吐かせぬ間で、京太郎の右前蹴りが角材を持った男の膝を跳ねて押し込む。咄嗟に彼目掛けて右の蹴りを放とうとしたその脚を、更に蹴り込んだのである。


>>579(訂正)
×
 空中で天地が回転する京太郎のその右足が、男の首を刈った――マーディットカローク。訳するなら、ヤシの実を蹴る馬。


 空中で天地が回転する京太郎のその左足が、男の首を刈った――マーディットカローク。訳するなら、ヤシの実を蹴る馬。

・下段蹴り(空手)
・中段蹴り(空手)
・横蹴り
・胴体へのテッ(ムエタイ)
・ティー・ソーク・トロン(ムエタイ)
・アームブリーカー(プロレス)
・飛び込み前転
・ゴッ・コー・ティーカウ(ムエタイ)
・笑いによる疼痛閾値の上昇
・プリショットルーティーン(のようなもの)
・ウィルホッカッ(訳:倒れる増上天。古式ムエタイ)
・ハヌマンタワイウェン(訳:指輪を捧げるハヌマン。古式ムエタイ)
・瞬間睡眠
・マーディットカローク(訳:ヤシの実を蹴る馬。古式ムエタイ)
・反響定位

一応使用技とか
全部人間にできる事だから。化物じゃないから

今夜もあるでー

経験上自然とやってることにこれ意味あるのかなって調べてみただけやで>知識
痛い時自然と笑ったりするやろ


始めるでー



「先輩……?」


 どうしてここに、と伺おうとした京太郎の肩に羽織が投げ掛けられる。裏地には脚高蜘蛛の刺繍。

 辻垣内智葉――背中ほどの黒髪を垂らした、怜悧な瞳の美貌。触れれば斬られる刃の風情。

 実際のところ彼女は知ら鞘を手に、冬だと言うのに雪駄。右肩を肌蹴た着物と、僅かに覗く晒しの横胸。

 当惑気味の京太郎に構わず踵を返すと、付いて来いとばかりに鼻先を路上に向けた。

 状況が飲めぬまま、京太郎は構えを解いた。ストンプで打ち抜いた男の水月から足を外す。

 京太郎と入れ替わりに、白いスーツと赤いジャンパーの男が地下室へと降り立つ。扉の閉じられた地下は、きっと暗い。


「……」

「えっと……」


 路上。智葉から受け取った羽織のままでは、流石に冷える。だがそれは智葉も同じ。

 片肌を抜いた着物のまま、無言で京太郎に背を向ける。その顎の先には、月。

 なんと声を掛けたらいいものか、智葉に釣られて京太郎も空を仰ぐ。大きな満月。都会の中でも珍しく、冬の大気に青く冴える。

 雲が疎らな空。電線が檻となり、景観を切り分けている。


「――無事だった、みたいだな」


 月を眺める京太郎は、それが自分に向けられた言葉だと認識するのに時間を要した。

 変わらず智葉は、彼の方を見ない。月だけを睨んでいるのだろう。

 肩ひとつほども低いこの先輩であるが――果たして、ここまで小さな背中だっただろうか。


「……おかげさまで、何とか無事です」

「そう、か……どちらかと言えば私が助けたのは相手の方だったのかもな」


 小さく溜め息。智葉としても、京太郎の実力は知っていた。

 並みの極道など相手にもならず、その道の人間であろうとも――素手で相対したのならば、限りなく勝率は低い。尋常な身体能力だけなら軍人も蹴散らすほど。

 成長期にハンドボールで培った空中センスとバネに、何の因果か上乗せされた古式ムエタイと、冗談めいたノースタントノーワイヤーアクションが生んだ人間凶器。

 撮影やそれに伴う鍛錬から抜けて一年以上ともなるが、未だにバネとセンスと経験は錆びついていないのだ。

 ……これが麻雀プロの普通だと思われたら困る。人間の普通だと思われても困る。ちょっと特殊だ。



「あのー、辻垣内先輩……それは……?」

「ん、ああ……見るか?」


 白鞘を掲げて笑う智葉に、京太郎は猛烈に首を振った。お察しという奴である。

 藪を突いて蛇を出すという諺があるが、ヤクザを突いてヤッパを出すのは洒落にならない。ちなみに刃物と書いてヤッパと読む。業界用語だ。

 流石に彼としても、明らかな犯罪の片棒を担ぐのは御免蒙った。知らなければ、それが模造刀とも思える。というか思い込みたい。

 明らかに人を殺すつもりの武器とか本当に勘弁願いたかった。

 そして――、


(俺の事……助けに来てくれたんだよな、辻垣内先輩)


 京太郎は再び、口を噤んだ。智葉の格好を見れば、それは一目瞭然であったのだ。

 ただ、言うには憚られた。

 智葉は一度たりとも直接的に、須賀京太郎を助けに来たとは言っていない。おそらくはそれが彼女の美学。

 何故、この場所が判ったのか。どうして自分にそこまでしてくれるのか。何ゆえに、須賀京太郎が捕えられたと知ったのか。

 聞きたい事は山ほどあったが、彼女の美学を重んじて結局は踏み込む事ができない。

 彼女とて、名が知られた麻雀プロだ。M.A.R.S.ランキング9位――実家こそ極道ではあるものの、彼女は表の世界に並び立つ住人。

 それが、こうして京太郎の為に刃物を片手に討ち入りに馳せ参じた。その事だけで、随分と救われる思いだ。

 大学時代の麻雀の師というだけで、己に怪物と戦うための武器を授けてくれたというだけで大恩があると言うのに――本当に自分は恵まれている。良い先輩だ。

 そんな風に、彼は目の前の背中を見やる。

 ふと、


「――オカルト喰い、か?」

「……なんでそれを?」


 智葉が、肩を揺らした。



「ここの賭場は――まあ、直参じゃないと言ってもうちの縁故だ。下の奴、そいつと少し関わりがあった」

「ああ……」


 合点が言ったと、首を動かす京太郎。

 なるほど確かにそれなら、智葉が場所を知っているのも道理だ。

 おそらくはあの錯乱した男も、そちら絡みなのであろう。


「……先輩」

「なんだ、須賀」

「謝るのとか、ケジメとか……なしにしてくださいよ。俺は何ともないですから」


 結果論だが、それで十分だった。というかむしろ、彼と相対した連中の方が被害が凄まじいだろう。

 京太郎としても決死であった為、容赦なく古式ムエタイの技を使用した。

 気を付けたが……それでも脳震盪は言うに及ばず、骨折や鞭打ち程度の怪我は生まれていても不思議ではない。

 なのでまあ、殺されかけたのはお相子という話にしたい。というか彼としても、これ以上はその事について触れたくなかった。

 やはり智葉は京太郎を振り返らず、「……そうか」とだけ漏らした。

 ……なお、京太郎のこの言葉で見知らぬ誰かのケジメ案件が避けられたというのは余談であろう。ミラーシェードさんは実際ブッダスマイルを得た。


「……一年ぶりに見たと思えば、こうなってるなんてな」

「俺もっす。一年以上ぶりで、会った先輩の生肩見るなんて思ってないですよ」

「……、その下も見たいか?」

「いや……ごめんなさい、調子に乗りました」


 やはり大げさに首を振る京太郎に、智葉は小さく肩を竦める。

 軽口めいたやりとり。相応に落ち着きを取り戻し、場も温まってきたらしい。……未だ夜風は寒いが。

 というか、一日に二度も上半身裸になるとは何事か。ここはムエタイのリングや番組の撮影や火星ではないのである。あとアンデス上空ぐらいの酸素なら火星もきっと寒い。


「それで、その賭場の代打ちが……余所から薬を大量に買い込んだという報告を受けてな。シケ張りさせてたら――」

「……俺と揉め事になった、と」

「“金髪の滅法強い奴に警察送りに”――ああ、いや、病院送りにだったか忘れたが……そんな風に訊いて」

「あー、……、……両方です」

「金髪の男が、この賭場に来るのを見た……と」

「……なるほど。だから俺、あそこまで尋問されたんですね。……“だから”なのかちょっと納得いかないっすけど」


 フン、と肩鼻を押さえて息を漏らす。勢いよく、水が出てきそうである。

 あの水どこから調達したのだろう。まさか風呂桶の水とかそういうのじゃないよな。……というかあのドラム缶ってなんのために在ったんだ。

 ……なんて、恐ろしい思考を打ち切る。とりあえず無事に返れた、それだけでいい。

 などと上の空に思索に耽る彼へと、唐突に浴びせられる声。


「須賀、手を引け」


 辻垣内智葉が、正面から京太郎を見据えていた。左手に納まった白鞘は腰元へ。

 まさか抜刀、ましてや斬撃などは行われるはずないだろうが――それでも自然と身が固くなる。

 彼の返答を待たずして、智葉は二の句を紡いだ。


「オカルト喰いについての大まかは聞いてる。どこかの三下に囲われているのも、そいつの指示で賭場を荒しているのも」

「……」

「ただな、これは極道の案件だ。筋が通らないなら通すのは私たち筋者だ」


 静かに、噛み砕くように告げられる言葉。その声は、どこまでも優しい。

 辻垣内智葉は、須賀京太郎が存在すると厄介だと言うよりは――純粋に京太郎の身を案じているのだと、彼にも十分察しはついた。

 故に真摯に、京太郎と目線を交わす。反らす事なく、真っ直ぐに視線をやっている。


「どうしてお前がこの件に一枚噛む事になったのかは知らないが……」

「……」

「……手は出すな。堅気だからじゃない。お前が須賀京太郎で、元麻雀プロになってしまったからだ」


 理由は分かるなと、智葉が瞼を閉じた。

 それは京太郎とて十二分に承知している。そして智葉の思いやりも分かっている。

 だとしても――はいそうですかと頷けるほど、京太郎も容易い気持ちでこの場に足を運んだ訳ではなかった。

 でなければ温厚な彼が、その拳を誰かに振るう筈がない。


「……相手は、オカルトを喰うって言います。もし先輩がやるとしても――いや、辻垣内先輩は“麻雀プロ”だ。猶更、こんな事に――」

「……他の人間に任せられない。それが理由で十分じゃないのか」

「俺にはそうは思えません」


 そして、京太郎自身にもこの件に踏み込むに足る理由は十分にあった。

 いや、智葉の話を聞いて尚更にそれが強まったと言ってもいい。ただ巻き込まれただけだとしても、だからこそ尚の事ここで降りるつもりはなくなっていた。

 とは言っても、


「具体的に、お前にどう出来るのか……あるのか、解決策が?」

「……」

「……なら、決まりだな」



 牙を抜かれたかのごとく黙り込む彼の、しかし未だに火は消えきらぬという口元を眺めつつ――智葉は溜め息を漏らした。

 そして、努めて冷静に振舞う。そんな風な、京太郎の素振りに気付かぬ風に。

 本音でいうなら、彼女としても具体的な解決策がある訳ではない。

 ただ、速やかにその男の身柄を拘束して――裏で手ぐすねを引くものがいるなら炙り出し、この件に決着を付ける。

 オカルト喰いそれ自体は直接見た事がない為、どんな終わりにするかという話であるが……少なくとも話だけ聞くなら、咎めるほどでもない。

 ただし、遺恨は残るだろう。幾人もの代打ちはその“特性”を奪われている。

 智葉たちに罰する気がなくとも、今後もまた襲撃がされないと言う話でもない。いや、むしろそれが起きるのも自然と見るべきか。

 そして、京太郎のような相手が武器を持っていようが容易く制圧できる手駒は多くはない。

 そんな一部の利もない少女に、護衛を付けてやれるほどに義理がある話でもない。


 とはいっても――寝覚めが悪い。

 智葉が確保に乗り出しているのも、そこだ。智葉たちの組はそんな悪辣な方法で他の賭場を潰し、縄張りを奪い取る事はしない。

 だが、他は別だ。

 ともすれば少女はその飼い主を変えただけで、末永く奴隷として扱われる可能性もあった。

 スポーツで言うなら野球に相当するほど麻雀がこうも人気競技であり、そして野球に比べて場所も設備も必要としない競技である弊害。

 プロとなり表を歩くなら兎も角、裏には裏で人材が迎え入れられるのである。


「……久しぶりに、お前の顔を見れてよかったよ」

「先輩……」

「身体に気を付けろ。……いつか先輩として、お前が居た場所も獲る」


 ――だからお前は、元の生活に戻れ。

 智葉そう告げて、背中を見せる。遅れて地下室から、二人の男が彼女の影に付き従う。

 智葉の背に声がかかる事はなかった。



  ◇ ◆ ◇




   ……衣、悪い事しちゃったのかな。


                             ――麻雀プロ 天江衣、インタビューにて。(なおこれが初インタビューとなる)



  ◇ ◆ ◇

原作:美少女青春麻雀ストーリー


気持ちなんだか掲載誌が変わってる気もするけど、このスレ少年漫画王道だから元々掲載誌違った
ちょい中断やでー

始めるよー

このスレほのぼの麻雀サクセスストーリーで熱血少年漫画王道ジュブナイルやからなー




「……どうかしたのかい、須賀君?」


 カップを拭う京太郎の手元が止まる。ゆっくりと顔を向ければ、人のよさそうな笑みを浮かべる老人。

 西洋骨董家具を冠した店名。その店長。

 仕事中、今日は人の入りが少ない。だから彼も、集中力を欠いてしまっていたのかもしれない。

 それにしても、他人からそれを見咎められるなどと――。

 不意に京太郎は、店長の老人に問いかける。


「……そんな風に、見えましたか?」

「最初にこの店に来た時に、そっくりだったよ」

「ああ……、もう一年以上前ですよね」


 あれはたしか雨の日であった――と、京太郎は振り返る。

 大学時代から聞いてはいたこの店に足を運んだその時、彼は決してこの店で働くつもりなどなかった。

 ただ、一杯のコーヒーを求めた。それだけであった。


「……ちょっと、悩んでるんです。なんていうか最近の事と、これからの事と」


 笑う京太郎には力がない。

 一晩考えて――その内に、熱も冷めた。戦闘の興奮も、己を突き動かす衝動も。

 あの公園に足を運んでみても、少女の影はなかった。書き置き一つない。それっきり、彼と彼女を繋ぐ糸は断ち切られた。

 同じく、彼としても途切れた糸に再び手を伸ばすだけの覚悟が、生まれなかった。



「時間があるなら、ゆっくり考えて答えを出すといいけど……」

「……」

「……そうだね。私からは……恥ずかしいけどこれまで生きていて、君の為になるようなアドバイスは思い浮かばないけど」


 老人の顎が、僅かに沈んだ。

 その後、目の細い店長は恥ずかしそうに後頭部へと手をやった。


「恥ずかしながらこの歳になってから麻雀を始めてみようと思ってね」

「……麻雀、ですか」

「不均等だからこそ公平で……そう思うと、少し気になってね。調べてみたけど、ルールが少し複雑で――」

「ああ、そうですよね。俺も初めは――役の数とか、点数計算とか、待ちとかに苦労しましたし」


 思えばそんな時期もあったと、京太郎は追憶に浸る。

 部の全員が経験者。

 インターミドル優勝者に、実家が雀荘の副部長に、とにかく人を喰ったように心理戦が美味い部長に、集中力の続かない高打点の逃げ馬。

 おまけに、部長から頼まれた人数合わせの一貫として――ただ出来るというだけで何気なく誘った幼馴染は、トンデモナイ実力者。

 それでいて彼は役も碌に覚えきっていない素人。苦労と言うより、ただ場違いと言った方が正しいかもしれない。

 夏のインターハイが終わって、――京太郎は初戦敗退――、引退する事となった元部長から手ほどきを受けた。

 漸くそうして、雀士の道に一歩を踏み出したのだ。


「だから……君が良かったらだけれども、麻雀を教えてくれないかな」

「……今からですか?」


 流石に道具もないのにそれは難しいと、京太郎はあたりを見回した。

 それにしたってまだ開店時間だ。まさか大体的に麻雀卓をセットして、牌を並べて説明に――なんて運ぶ事は出来まい。

 そんな風に考えていると、ふと笑う声。


「須賀君は、麻雀の事となると良い顔になるね」

「……そうですか?」

「だから――今じゃなくていいよ。君の悩みが片付いたら、教えて欲しい」

「……判りました」



 ああそうだと、店長が窓の外へと目を向けた。

 天気は曇り。気温の上下は少なくなるが、さりとて朝から温度も上がらずにどことなく暗澹となる空。

 何事かと伺う京太郎に、再び顔を合わせて一言。


「今日は客足もこのままだろうから、上がっていいよ」


 ただし――と、付け加えられた。


「前に持ってきたアレ……そのまま、持って帰ってくれるかな」

「ああ……。アレ、ここに置きっぱなしにしてましたっけ」


 やれやれと、京太郎は頭を掻いた。

 以前もそう言ったように、須賀京太郎は華が少ない。プロとしての活動をしていたと言っても、それを疑われるほど。

 であるからこそ、彼はしばしばその証明にプロ時代の小物を持ち出していた。

 ……この店に置いてあるのは、そんな一品。

 今思えば、どうしてそれを選んで持ってきたのか彼自身としても不思議がるような小道具だった。


「あの時は……ああ、通り魔騒動とかあったねぇ」

「ああ、あのやたらめったら常人離れした凄い動きの……懐かしいですね、本当に」


 あれは何だったんだろうと、かつて拳を合わせた京太郎は首を捻った。


「それじゃあ店長、上がらせて貰いますね」

「気を付けなさい、須賀君」

「……はい」




 袋を背負って、自室への階段を上る京太郎の頭にはある言葉がリフレインしていた。

 昼休み公園へと向かったその帰り道、またしてもシゲと出会ったのだ。


『よ、京ちゃん』

『……シゲさん』

『“魔法喰い”はいよいよ駄目だな。そいつは兎も角、連れてる方がやり過ぎた』

『……』

『ククク……ここからやるとしたら一発逆転、大博打しかないだろうな。今のままじゃ、あいつは角を立てすぎるだけだ』

『……どうして、それを俺に』

『訊きたくなかったのかい?』

『……。俺は、麻雀が出来ないんだって』

『そうかい? ……ああ、そうだったな』

『……』

『じゃあな。フグはまた、今度にしようや』


 飄々と笑い去るその背中を、彼はただ見つめる事しかできなかった。

 頭の中では、さまざまな事が渦巻いていた。そしてそれに結論を出すよりも先に、京太郎は歩き出していた。

 いや、結論なんて決まっていた。そんなものは一つしかなかった。それこそが最も『納得』が行く道であった――。

 智葉の言葉を受けて、自分なりに考えたその果て。その為の道筋も想定した。襲い掛かる困難も、これからの苦難も想像した。

 ただ一つ、それでもただ一つ――。

 彼には、未だに足りないものがあった。

 それが定まらぬまま歩き出し、歩み進め、歩み続けて自宅までこうして辿り着こうとしていても――。

 その大切な一つだけが、手の内にない。


 歩を進める足が鈍った。

 速度を失っていくそれが、緩やかに階段を上る。自宅へ続くフロアーへと、最後の一歩を踏み出した。

 そこで――




「――なんて顔してんのよ、京太郎!」


 聞こえると思っていなかった声を、聞いた。



 

というところで、以上!


(闘牌を除けば)次で終わります。終わる予定です。終わらせねばならぬのです

こっからはアコチャーのハイパーヒロインタイムの始まりだ!!

>>603(訂正)
×
 実際のところ彼女は知ら鞘を手に、冬だと言うのに雪駄。右肩を肌蹴た着物と、僅かに覗く晒しの横胸。


 実際のところ彼女は白鞘を手に、冬だと言うのに雪駄。右肩を肌蹴た着物と、僅かに覗くサラシの横胸。

自サイト晒すのどーなんって話だけど、「オカルトスレイヤー 京太郎」でググってくれて上から三番目のサイトに過去作まとめてあるよ

ちなみに入水ってのは1が咲安価スレを書くきっかけになったスレの人がやってたお家芸であってほのぼの大好きな1にはなんの関係もない
腹パンも、決して1が書きたかった訳ではなく安価の結果たまたま書く事になってしまっただけであって
このほのぼの1のほのぼの力からしたら、書いた作品の内の1/100程度の分量の文章であってあくまで1はほのぼの書き手、いいね?

待ってほしい。今まで流血も殺人も書いた事ないから
ないから

グロテスク表現だって一切ないし、なんか風評だけが独り歩きしてるんだよなぁ……

今夜もやるでー
(闘牌を除いて)最終回予定やでー

2100あたりから開始予定

書いてる内にてるてる八面六臂すぎて真エンドにするんならそもそもオカルトスレイヤーの理念のスタートだった大正義幼馴染みおねーちゃんな気がしてきた



けどNTRデンキウナギネキだから報われなくても仕方ないね
アドルフさんも大活躍だったけどああなったから仕方ないね


解説:腹パンされる。意識不明になる。京太郎に殴られる
ライダー:死んでる


解説:チョコをゴミ箱にぽいー
ライダー:コンマを操作する大正義メインヒロイン


解説:拘束されて顔パン連打
ライダー:モブ

アコチャー
解説:玄に彼氏寝取られる。穏乃へのヤンデレズビッチになる
ライダー:敵の策略で心停止。敵に身体を乗っ取られて秘めたる思いを彼女持ち男に告白


一番悲惨なのは……ね?

これの百倍はほのぼの書いてるし、基本僕って熱血書き手って言われてるんだよなぁ……


始めるでー
てるてるの功績とアドルフさんの功績並べてみたい



「憧……お前、どうしてここに……」

「いやー、代休付けて貰っちゃって……一日前だけどね」

「それにしたって連絡ぐらい……」

「したけど?」


 口を尖らせる憧に促されて、京太郎は携帯電話を見た。

 電源が切れていた。そう言えば昨晩のあの騒動を受けて、充電する事がすっかり頭の外に行っていた。

 どうやら余程に衝撃的な展開で、混乱も冷めていなかったらしい――と彼は天を仰いだ。

 だが、食材の用意は済んでいるし、片づけると言っても元々私物が碌にない部屋だ。急な来訪になってしまっていても然程問題はない。

 ポケットから、日本刀のキーホルダーが付いた部屋鍵を取り出し、やれやれと残る足を階段から引き上げる。

 そのまま鍵を手で弄びながら、ドアを開けようとしたが、


「……憧?」


 新子憧が、そんな風に扉へと手を伸ばした京太郎を遮った。

 京太郎よりも頭一つ分以上に小さな新子憧。彼女の顔は殆ど、京太郎の胸に埋まるだろう。

 そんな憧が、下から京太郎を睨め上げる。勝気そうな赤い瞳が、どこまでも引き絞られた。思わずたじろぐ京太郎に、更に憧が一歩。

 腰ほどまでの赤味を帯びた茶髪が揺れる。明確に怒っている――そうとしか京太郎には思えなかった。


「な、なんだよ……」

「あんた、なんでそんなに情けない顔してんのよ」

「……元々?」


 なんて恍けた風におどける京太郎に向けられる目から険は消えない。

 判っているぞ――などと言いたげなほどの力強い目。どこまでも問いただす迫力がある。


「……仕事でちょっとミスしたんだよ」

「へー、その仕事って麻雀?」

「いや、喫茶店」


 自然な返し。そう、京太郎は思った。



 だからこそ、


「――オカルト喰い」


 新子憧からそんな言葉が飛び出したとき、彼の息は止まった。

 最早、ここからの誤魔化しなど利く筈もない。誰に対してもそうであるし、それが憧が相手ともなれば猶更だ。

 背筋が自然と伸びた。同時に浮かぶ数々の疑念。

 手のひらを見せての、憧の溜息。


「宥姉からね。ひょっとしたらひょっとするかもしれないから注意して、って」

「……そっちか」

「で……その分だと図星も図星、しかもあんたガチで首突っ込んでるってとこ?」


 そこまで言われたら、目を伏せるしかない。いや、伏せようとしたらどうしても新子憧と視線が克ち合う。

 仕方なく天井を見た。視界いっぱいに移される、棘のような突起の目立つ天井。所々、塗にムラがある。

 どうしたものかと、深い息を零すしかない。


「その分だとさ……うん、やっぱ」

「……?」

「どうしても戦おう――なんて考えてるんなら文句の一つでも言ってやろうかと思ってたんだけどさ」


 ――あんた、戦おうとかって思ってないでしょ。


「――」

「それも図星? ……まー、当然よね。あんた目が悪いし」

「……なにが言いたいんだよ、憧」


 新子憧の意図が、彼には読めなかった。

 京太郎の事を叱りに来たのか、呆れに来たのか、怒りに来たのか、止めに来たのか判らない。

 ただ、京太郎の事情を――失明の危険を知っているのならば、当然ながら彼が麻雀をしようというのならそれを断念させにかかるだろう。

 だけれども、何だこの態度は。


「ぶっちゃけ、今のあんたダサい。見てらんない。興ざめよ、興ざめ」



 心底うんざりだと告げる新子憧。下手をすればこのまま、奈良まで引き返そうというものがある。

 ――だが、何故。

 京太郎が麻雀を行わないと言うのなら、事情を知る者からしたらそれは願ったりの筈だ。

 むしろきっと、実際彼女自身がそう言うように……彼がそんな決意でもしたのならば、間違いなく喧騒は避けられないものとなる。


「しかもそれ……麻雀なしで解決するって話じゃないんでしょ?」

「……」


 正直のところ、京太郎は脱帽する思いであった。

 何も答えていないというのに、どうしてそこまで言い切れるというのだろう。これが教師の力か。

 正直なところ名探偵の方が向いているのではないかとすら思える。


「そりゃあ……何年の付き合いだと思ってるのよ、あんたと」


 そんな風に言われたら、さもありなんというところか。

 しかし、京太郎には憧の僅かな返答の仕草から何かを見抜く事など出来ない。女性は嘘に敏感だという話があるが、それが所以なのか。

 そんな風に頭を押さえる京太郎に、憧は半眼で返す。


「本当にそれ、打たなきゃいけないのよね」

「……ああ」

「ま、あんたがそこらへん考えない訳ないか……うん」


 そう、京太郎はあれから――辻垣内智葉に言われてから、彼なりの答えを探した。

 まず、その少女は借金を負っている。そしてどこかのヤクザの手駒として扱われている――そこが新たな情報。

 この解決策は正しく、辻垣内智葉に任せる他ない。京太郎が下手に介入するよりも、その道の智葉が余程上手く解決するだろう。

 下手に京太郎が踏み込むべきではない。お節介と不必要な助力というのは、時に妨害に匹敵する――座して待つべきである。

 そう、ここだけならば。ここだけならば京太郎は必要ないのだ。


 だが――あの少女。智葉に保護をされてから、それからどうなる?

 きっと、そんな人権をないもののように扱われたりはしない。平和に日常に戻れるだろう。智葉は、その辺りの線引きを考えている人間だ。

 しかし、戻っても……ある問題が付き纏う。少女の人生に、いつまでも暗い影を落とし続ける。絶望の闇を齎す。

 実際に京太郎も遭遇した――――あの、オカルトを奪われた人間からの報復である。



 智葉は解放するだろう。

 また、その借金についても――彼女の組の管理下となり、他の組が手を出す事は困難となる。

 だが、少女のその後まではどうだ?

 ヤクザ同士の抗争でも、刃物を使ったそれが行われたら――被害は恐ろしい事となるだろう。その備えと言うのも、常に万全に供給はできない限りあるものとなる。

 それを果たして、一般人の少女に貸すか?

 少女が組にとって有用なら、行う筈。それは同時に、またしても少女は“オカルト喰い”として使われる事に他ならない。飼い主を変えただけだ。

 智葉はきっと許さない。代打ちとして、強力な切り札として少女を使用する事は絶対にありえない。

 そう、その意味で少女は平穏だが――そちらを立てたら、逆側が立たない。少女を守るものは居なくなるのだ。

 誰も好き好んで一銭の得にもならぬ少女の為に体を晒さないし、また、智葉もそんな感傷めいた我儘を組員には申し付けないだろう。

 その辺りの線引きも、同時に厳しいのが智葉。

 ならば――誰が少女を守る? 誰が彼女をその報復から防ぐ?


「最初は……俺が護ろうかって思ったけどな、無理だ。誰か一人の命を背負いきれるほど、安くはないんだ」

「いや……いきなり命とか言われても話が全然見えないけど……うん、それで?」

「だから――俺はその元を絶とうと思った」


 ならば答えは一つ。その喰ったオカルトを全て、持ち主に返すしかない。

 そうすれば遺恨は残るが、己の手に再び拠り所となる武器が戻ってくるのだ――あのような無茶をするものも早々はおるまい。

 故に、少女が他人から奪い取った“異能”を返還する。それしか方法はないのだ。

 だが一体どうやってという話だが――京太郎はそれにも、解を得た。


「……で、あんたが打つの?」

「ああ……、そうなるんだけどな」



 歯切れの悪い京太郎の、その腹に拳が打ち込まれた。

 新子憧からの正拳突きである。右の拳が、綺麗に鳩尾にめり込んだ。

 思わず踏鞴を踏んで目尻に涙を浮かべる京太郎を――毅然と、いや、どこか平然と見る新子憧。


「なら、ちゃっちゃとやっちゃいなさい。あんたなら、勝つに決まってるから」

「お前……なんでそんな風に言い切れるんだよ……」

「判るに決まってるでしょ。これまであんたの戦いをずっと見てたのはあたしなんだから……ファン一号はあ・た・し」


 言いながら、顔を顰めて掌を動かす新子憧。

 大学時代、散々ばら京太郎に拳を叩き込んだ憧であったが、プロを経て強靭に鍛錬された京太郎の肉体は予想以上のものであったらしい。

 何度か拳を開いて閉じる憧を見やりつつ、やはり京太郎の顔色は優れない。

 実際のところ――勝敗の判断で言うのならば、彼は勝つ事を不安がっている訳でもなければ、負ける事を恐れている訳でもなかった。

 彼が二の足を踏んでいる理由は、別にある。

 勝敗ではない。少女を無事に救い出せるかという算段でもなければ、己の立てた方程式が正しいのか――という話でもなかった。
 

「あー、もー、まどろっこしいなぁ!」


 未だに煮え切らぬ須賀京太郎に、とうとう新子憧は叫びを上げた。

 何かと目で窺う京太郎に、憧は視線を逸らしながら口を尖らせる。


「本当はもっと時間と場所弁えたりとか、ムードとタイミングとかそーゆーのあるっていうのに本当にこの男は……!」

「……憧?」

「京太郎、目ぇ閉じなさい」

「憧?」

「いいから! 早くする!」

「アッハイ」



 言われるがままに瞼を落とす京太郎に、近づく憧の靴音。

 何が行われるのかと、身を固くする。これは古式ムエタイをやっていようがノースタントノーワイヤーだろうが変わらない。

 ただ、動転するほかない。


「京太郎がさ、あんたが……誰かの希望になりたいって言うなら……」


 ゆっくりと、声が迫ってくる。


「それなのにその勇気が出ないっていうなら……踏み出せないっていうなら……」


 足音が止まった。

 手の平に触れた冷たい感触に思わず振り払いそうに肩を動かすが、やがて彼はそれが新子憧のものだと気付いた。

 そのまま、手が腹のあたりまで引き上げられる。新子憧なら、胸元に相当しようか。

 京太郎の手を撫でつける憧の指は滑らかで、涼しい。

 手の甲が、天井に向けて晒される。


「だったらあたしの希望を分けてあげる。あたしがあんたの、希望って奴になってあげる」


 そんな言葉と共に――


「目、開けていいわよ」


 新子憧に促されるがまま目を向けると、京太郎の左手。

 その薬指に――指輪。


「憧、これ……」

「見れば判るでしょ? っていうか流石にこのムードもタイミングもへったくれもないのに加えてボケたらマジぶっとばすわよ?」

「あ、ああ……」


 これは所謂、結婚指輪という奴であった。

はいちょっと中断


 ケ ・ ッ ・ コ ・ ン ・ カ ・ ッ ・ コ ・ ガ ・ チ

お待たせやでー

まだまだアコチャーのターン



「……というかさ、これいきなり過ぎない?」

「茶化すな!」

「理不尽!?」


 足の甲目掛けて落とされるヒールを、すんでで回避する。

 流石にいくら須賀京太郎と言ってもそれは洒落にならない。ひょっとしたら折れたりするかもしれない。流石に憧がそこまで力は入れないだろうが。

 距離を取る京太郎に、「うー」と唸りを上げる憧。心なしか顔が紅潮しているのは、まさか今の運動の所為ではないだろう。

 そんな彼女がまた歩み寄ろうとしたとき、京太郎は思わず身を固くしてしまった。

 彼自身も動転していて何を言い出すのか、彼女から何をされるのか解らないのだ。


「こっから先は……独り言なんだけど」


 憧が、足を止めた。ヒールがかつりと音を立てる。


「やっぱりあんた、絶対に麻雀を怖がってる……。当然だよね、だって……あれだけ奪われたら……そうならない方が変だし」

「……」

「だから……だからさ」


 言葉を区切る憧に、無言の京太郎。


「だから……もしも麻雀なんかがあんたから奪うっていうんなら、あたしがあんたに上げればいい。十奪うんだったら、百上げればいい」

「……スケールでかいな」


 十に対して十一や二十で返さないところが――流石というかなんというか。

 なんて、京太郎は息を飲んだ。


「だから……あんたが家族取られちゃったんだったら……あたしがそれを上げればいいって思っただけ! 家族になろうと思ったの! なんか悪い!?」


 「なんか文句あるか!」と、後半が殆ど早口になって殆どやけっぱちに等しい勢いで喰いかかる憧に、開いた口が塞がらない。

 そして、嘆息。

 自然と彼からも、吐息が零れて笑いが落ちた。



「えっと……今のは、独り言でいいんだよな?」

「う……、ま、まあ……」

「ならいいんだけどな。うん」


 何が、と眉を寄せる憧に向けて彼は指を立てた。

 まずは一本。右手の指が、天井を向く。


「いきなり答えも聞かないで結婚指輪ハメるなよ」

「うっ」

「あと今のが独り言じゃなくてプロポーズとかだとしたらビックリすぎるだろ」

「ううっ」

「というかキスもまだなのに、結婚申し込むか普通」

「うううっ」


 三本指を立てた時点で、新子憧の顔は真っ赤だった。

 若干目が潤んで、涙が滲みそうですらある。かなり追い詰められていた。彼女自身、冷静になってみれば自分が相当先走っていると理解したのだろう。

 普段はちゃっかりと要領が良いくせに不器用で、計算高い癖に肝心なところで勢いで走って、冷静そうでいながら情に厚い新子憧らしい。

 そんな彼女の様子を眺めながら――彼は静かに、目尻を下げた。


「それに……こういうの、男の方から言わせろよな」


 若干バツが悪そうに顔を背けて後頭部を掻く彼を、見やる憧の目が大きくなる。

 そのまま瞬き。二度三度、三度四度繰り返される。


「え……」

「あれから考えてたんだよ。流石にどう考えたって……まー、その、男の部屋に泊まりにくるなんて……なぁ」


 昔はよくやったけど、あれは部屋が多かったし、何よりも隣同士で……それもそのまま寝てしまうみたいな形が多かった。

 世話を焼かれているときだって――おそらくはその延長線上だなんて思って、そのままの優しさだと深く考えぬようにした。

 だけど、この歳になって。それに、一間の家にわざわざ新子憧が泊まりに来るなんて。いくらなんでも、世話を焼くにしては長すぎるし面倒見がよすぎるなんて。

 それだって、ひょっとしたらの域を出ないものであったけど――




「俺でよければ――――結婚してくれ。家族になってくれ、憧」


 



 きっぱりと言い切った京太郎に向けられた目線は驚愕。

 頬が熱いのを認識しつつも、それを誤魔化すように京太郎は笑う。


「い、いいの……?」

「指輪用意してないけどな」


 あまりにも急すぎた話で面食らったと言うのは事実。

 ひょっとしたら交際とか、そういう真摯な対応が必要になるかもしれない――なんて考えてはいたが。

 それにしたって、普通は一足飛びで結婚話が出るなんて思わない。

 いつの間にレベルが99になっているというのだ。まだその為の任務消化をしたつもりもない――なんて提督めいた戯言はさておき、やはりプロポーズは突飛だ。

 実際京太郎だって、「いや、それでこっちの勘違いだったら最高にダサくないか?」という気持ちも強かった。

 だから、努めてそういう方面から意識を外して、新子憧に他意はないと思い込もうとしている一面すらあったのだ。

 だけど――尋問にあって、分かった。

 呼吸を奪われ、絶体絶命の危機に――そんなときに浮かんだ顔が自分の中で何を意味するのかなんて、いくら彼でも判った。


「あのさ」

「おう」

「あ、あんたがその……今まで麻雀の方にばっかり向いてたっていうのも分かるし……これからまた麻雀しなきゃいけないってのも分かるけどさ」


 彼自身の矜持の為に。誰かと交わした約束の為に。それが生活に掛かってるから。勝負事だから。生き方だから。

 だから――京太郎は、麻雀ばかりを見据えてきた。その目が限界になるその瞬間まで、見続けた。

 ここから先は、限界の更に先。そんな状況だとしても深淵の縁に立ち、暗黒に目を凝らさねばならない時間。

 それでも――と、憧は言う。


「今度は麻雀なんかじゃなくてあたしに夢中にさせてあげるから……目を離したら、ダメなんだから」


 それでも返って来いと、憧は言った。

>>677(訂正)
×
 それでも返って来いと、憧は言った。


 それでも還ってこいと、憧は言った。



「……お前さぁ」

「うううううううううるさいってば! 判ってるって! 判ってるわよ! ええ判りますぅー! 判ってるからなによもう別にいいでしょ笑うなコラ!」


 きしゃーと牙を剥く新子憧に、京太郎は破顔するしかない。

 これはひょっとしたら判断を早まってしまったのかも知れないが――いや、むしろこれが良い。

 何とも、本当に可愛らしいというか微笑ましいというか。

 今となってはというものだが……これまでの悪態の裏返しに全てこんな照れ隠しがあったなんてすると、もう本当に彼としてもどんな顔をしていいのか解らない。

 ……とりあえず、痴女という評価は改めておこう。あれは酒の勢いでまかり間違ったアプローチだったのだろう。

 流石に新妻が酔ったら誰彼構わずアピールする人間だとは京太郎も思いたくない。そんな動物みたいな事して欲しくない。


「ううー、最悪……なんでこんな風にプロポーズする事になっちゃうのよぉ……」

「したの俺だけどなー」

「うるさい! だから茶化すなって言ってるでしょ、京太郎!」


 時間と場所もだけど、ムードとタイミングも――という憧の言葉が反芻される。

 つまり本当は彼女としても、こんな形というのは不本意だったと言う事。

 だけど不本意でも決めたのは――偏に、須賀京太郎の背中を押すため。

 須賀京太郎が須賀京太郎として、オカルトスレイヤーとして、誰かの涙を拭う為の一歩を踏み出す切っ掛けを与える為。

 全ては、道筋も彼自身が作り上げたというのに、それを実行する最後の一欠片を嵌め込む事が出来なかった彼の為。


「京太郎」

「ん、どうした?」

「あたしにここまでさせたんだから……判ってるでしょ?」


 須賀京太郎の、須賀京太郎の麻雀のファン一号と新子憧は言った。

 ならば彼が須賀京太郎に求めている事はただ一つだ。たった一つのシンプルな事だ。





 須賀京太郎は考える。


 例えば運命という名の物語があったとするのならば、自分の役目は終わっているものだと。

 大会の参加規定人数には一人だけが足りない、個性豊かな麻雀部。京太郎以外は経験者。

 そして、京太郎の幼馴染み。飛びきり麻雀が強くて、そして、インターハイに参加するに足る願いを抱える少女。

 彼女を麻雀部に導いた時に、須賀京太郎に与えられた役割というのは終わっていた。宮永咲を主役にした物語はそこから始まって、京太郎はお役御免。

 だから、華がない。咲とその周りの因縁と戦うには、あまりにも天運が足りない。

 何故ならば、主役はきっと彼女たちで――京太郎は端役だから。


 だけれども、許せなかった。

 ある麻雀大会で、幼馴染みの少女に向けられた心無い一言が。彼女を含めた周囲の持てる人間を、恰かもヒトとは異なる存在と切り捨てるその言葉が。

 京太郎も、彼自身も麻雀が好きだった。であればこそ、確かにそんな“異能”との隔たりは感じる。不公平を覚える。不平不満を抱いた。

 それまで宮永咲という幼馴染みの、麻雀という一面に依らないものを知っているのに――――そんな一言で切り捨てられ、あまつさえ言い返せなかった自分が許せなかった。

 何処かでその言葉に同意してしまった自分が許せなかった。


 始まりはそこ。運命からはまるで計算の外で始まった、些細な一コマ。

 だけれども――だ。それが全てではない。そんな一言の為に戦い続けられるほど、彼は強くない。

 後は――習慣であったり約束であったり願望であったり適性であったり、京太郎自身も判らない様々な土台で麻雀の道を歩き出した。歩き続けようとした。

 でも、終わった。もう、そんな割り込み行為は終わった筈なのに。

 それでも――こうしてまた、関わってしまうあたりには何か因縁がある気がしてならない。


「……」


 ……いや、一つ訂正がある。

 正しく言おう。須賀京太郎と麻雀――そこにはきっと、因縁なんてものは無い。

 因縁だのなんだのと理屈を付けて、ただ自分が特別だと想いたかった。思いたいだけの凡人だった。



(だけど――)


 因縁なんて無くても。宿命なんて無くても。運命なんて無くても――。

 理由なんて無くても。原因なんて無くても。前提なんて無くても――。

 能力なんて無くても。才能なんて無くても。豪運なんて無くても――。

 誰かが泣いてるのを見て悲しさを覚え、そしてそれを和らげて遣りたいと思うのは――


「……ああ、そうだよな」


 ――きっとただ、当然の事だ。人間なら誰でも持ってる、普通の優しさだ。


 ヒーローに為りたいと思ったなら、為ればいい。為せばいい。

 愛と勇気は誰しもの標準装備で、夢と希望は一見様お断りの限定品じゃない。

 誰かの涙を拭うのに、特別な事情や才能なんて必要ない。

 一歩を踏み出す勇気と、理不尽を許せないという覚悟だけが在ればいい。


「俺は――オカルトスレイヤーだ」


 不条理を齎すオカルトがあるなら、ただそれを殺すだけだ。

 それこそが須賀京太郎が持つ唯一の力であり、唯一の理念だ。

 力に意思はない。生まれ持った者に咎はない。高々麻雀なんてちっぽけなものの所為で、その人の人格が悪し様に扱われて、人としての平凡を取り上げられて良い筈がない。

 それが許されるのならば――。それの口実となるならば――。それを行う奴がいるというならば――。


 ――――オカルト殺すべし。慈悲はない。



「……カレー、煮込むのに時間かかっちゃうから」

「だったよなぁ」

「冷めたりなんかしないから、ちゃんと帰って来なさいよね」

「……猫舌だけどな」

「それも込みで言ってるんだってば」


 そう呟く憧を、京太郎は静かに見た。

 彼女は断片しか知らない。京太郎がこれから真に何をしようとしているのか、どこに行こうとしているのか知らない。

 でもこうして――何も聞かない。ただ、京太郎の背中を押した。

 いい女だ。いい女だと思う。これまでも随分と苦労を掛けたと思うし、ひょっとしたらこれからだってそうだろう。

 彼は至らぬ身だけど――――それでも、それでもせめて。

 全てを取り戻し、少女を救い、涙を拭い――この日常へ。この日常へ。この日常へと、還ろう。

 そうしたらきっと――きっとそうしたら――――。


「……それじゃ、行ってくるぜ」


 余計な言葉など、もう必要ない。

 ここから先の事は、彼の仕事である。彼が為さねばならない、仕事である。

 包みを担いで、元来た道へと引き返そうとする。階段へと、一歩を踏み出す。そのまま段を降りる。

 ――と、気付いた。

 格好よく踏み出したつもりで、一つ忘れていた。部屋の鍵を渡さなければ、新子憧はこの寒空、廊下でひたすら待つ事になるではないか。

 いけないいけないと、振り向いたその時――


「……幸運の女神さまには、足りないかもしれないけど」

「いや、充分だろ」


 受ける、口づけ。

 階段のおかげで、二人の身長差は失われて――正面からお互いを見つめる形となっていた。




 階段を駆け下りて、街並みを直走る京太郎。

 彼の内を駆けるのは――昨夜の記憶。


 昨晩、彼は切り出した。

 須賀京太郎のウィークポイントであり、暗部。暴かれるべきではない過去の汚点。迂闊に触れ得ぬ禁忌。

 それは終わった。ひとまずの鎮静を見せた。

 ならば――触れるべきでないと思った。互いに苦い経験であるというのもあるし、忌み数のように……言霊が宿って、再び噴出する事を恐れたのだ。

 だけれども、踏み込む。踏破する。

 前に進むためには、そうするしかないのだ。いつまでも心を過去に囚われる訳にはいかない。


『なあ、マホ』

『どうしたんですか、京太郎先輩』

『マホが昔暴走したときに――結局、どうやって治ったんだ?』


 彼の知らぬ真相。

 己が関わり、そして解決できなかったその命題はどのような結末に――どのようにして結末に帰結したのか。

 今まで、敢えて触れなかった解法。触れる事を恐れていた解法。

 ついにそれが、明かされた。


『……宮永プロです』

『咲が!?』


 彼は驚愕した。

 彼の知る幼馴染とはあれから幾度か顔を合わせているというのに、まるでそんな素振りを見せてはいなかったから。

 だけれども、それは真に非ず。彼は余計に唖然とする事となった。



『……違います。マホの事を直してくれたのは、咲先輩じゃないです』

『じゃあ、誰が……!』

『宮永照さんが、マホの事を倒して……止めてくれたんです』

『……!』




 そんな言葉と同時に思い返される事――それはあの一戦。


『嘘……』

『協力してあげた……ダメージ1ってとこか』


 小鍛冶健夜への止めの一撃。その為に練り上げた攻撃。

 その最後の一押しとなったのは――以前の対局で宮永照が与えた攻撃であった。


 宮永照は、彼女独自の理論で運を操る。決して万能ではなく、そこには照自身にも如何ともし難い制約が付きまとうが――それでも強力無比。

 他人の運の偏りから、さながら電磁定位が如くその“特性”や“異能”を探知する。

 コイルで発電するように運を徐々に練り上げる。

 或いは電磁加速装置が如く神速の一撃を叩き込み、また或いは強烈な落雷を誘発する。

 そして、独自の理論で他人の運を揺るがせて――後々までの不調を誘発する。一撃それ自体による表面的な損害よりも、内に響き内部から苛む攻撃。

 そんな照の一撃が、噴出したのだ。最後の場面で。


 小鍛冶健夜の“特性”は“神明が如く冴え渡る閃き”と“神憑り的な強運”。

 その閃きに従い、他人の特性や異能を看破し――――豪運がその打破を可能とする。

 雀士が衝撃を受ける事態としては、“己の判断が悉く裏目に出る”事がある。

 実際のところ京太郎も「引くべきと手を崩した結果直撃する」「その次順でツモだった」「二択での押しで危険を感じた逆側で放銃」「逃げたと思ったら他家に振り込んだ」など、

 その恐怖を十全に味わった。

 宮永咲には目の前で嶺上牌を奪い取り嶺上開花、大星淡には暗槓槍槓国士無双など――正に“解決法として思い付いても実行できない攻撃”を浴びせかける。

 言わば小鍛冶健夜は、豪運を備えた“完全版”オカルトスレイヤーであったのだ。異能の僅かな綻びを、思い通りの理論と強運で蹂躙出来る。

 しかし、宮永照が独自の理論で与えた運への雷撃が――小鍛冶健夜の完全を崩した。表で気付けぬ内部への致命傷を与えていたのだ。


 “闇を裂く雷神”の名はまさに、彼女にこそ相応しい。

 京太郎に襲いかかる絶望の雲と諦観の闇も晴らしてくれたのだから。

 これまでも――そして、これからの事も――。




 少女のオカルト喰いがどの域まで及ぶのか、京太郎は知らない。

 だが仮に夢乃マホと同等の規模で行われるならば――それは“異能”だけでなく“特性”にも及ぶと考えるのが自然。

 明確な“理論的や確率的に有り得ない事を必然として恣意的に行使する”のが“異能(オカルト)”ならば、“特性(のうりょく)”は違う。

 “特性”はその人の運や技術、経験や嗜好から導き出された最も自然であるスタイル。そんな打ち筋。それを“異能”に匹敵するまで昇華した戦闘理論。

 宮永咲・天江衣・大星淡・松実宥は前者、辻垣内智葉・小走やえ・小鍛冶健夜は後者に属する。宮永照は両方である。


 そこで――。


「待ってろ……! 必ず……必ず、助ける……!」


 奪われる“特性(のうりょく)”を持たず、それでいて複数操られる“異能(オカルト)”に対抗できる人間は――――ただ一人しかいない。

 そう、彼――須賀京太郎。


 曰く――人類の到達点。

 曰く――地上最強の男。

 曰く――M.A.R.S.ランキング第一位。


 ――――オカルトスレイヤーを於いて、他ならない。



「あ、そうだ。今のうちに――っと」


 包みを担いで疾風が如く駆ける京太郎の手が、スマートフォンを取り出した。

 靡く風に誘われて、金糸が曇天に翻る。

 それは宛ら、陽光に似ていた。




  ◇ ◆ ◇




   ……私、京ちゃんの分も負けないから。絶対に、負けないから。


                             ――麻雀プロ 宮永咲、須賀プロ引退について



  ◇ ◆ ◇



 表通りから一本と奥まった場所に位置する、裏路地。

 そこを医療用眼帯の少女と――、そしてその飼い主である浅黒い肌のスキンヘッドの男。

 目指す先はある一点。

 やり過ぎたのだと、少女は男から暴力を受けた。派手に目立ちすぎて、損ねてはならぬ者の機嫌を損ねたと。

 それを命じたのは男であるはずなのに、何ともおかしな話である。

 だから――と男は言う。

 “だからこそ、有用性を証明しなければならない”と。

 “そうでなければ、俺もお前も地獄行きだ”と。


 生きる事にはもう、興味はなかった。たった一つ、彼女を人間にしてくれる場というのも自分自身の因果が原因で失われてしまっていた。

 だから地獄行きでも、少女は既に彼女の中では地獄に居るのも等しかった。

 ただ一つ――。

 ただ一つ――それでも気がかりがあった。


 あの青年は、無事なのだろうか。

 もうきっと顔を合わせる事はないだろうし、彼も関わりたくはないだろう。少女としてもどんな顔をしていいのか判らない。

 でもせめて、せめて最後に――彼の無事を確かめたかった。

 あの後、彼はどうなってしまったのだろう。

 ただ怖くて、ただ恐ろしくて、ただあの平穏に普段の地獄が舞い込んだ事に戸惑って――。

 自分さえいなくなれば彼は助かると逃げ出してしまったあの場に居た、あの青年はどうなったのだろう。

 その生死を、無事を確かめる事すら今の少女にはままならない。

 こうして、敢えて騒ぎになっても人目に付きそうな場所を進む以外は――それだって目的の為以外には――出歩く事が、許されないのだから。

 男と共に、ある場所に匿われていた。匿われるというよりは、殆ど軟禁に近い。

 そんな状態では、彼の無事を確かめる事もできない。だから男の言う“地獄行き”に興味なんかなくても――少女は動き出した。

 ある麻雀雑誌に載っていた、その記事を頼りに。

 男と少女の有用性を示す事となる、切り札に向かって――――そして。


 そう、そこで、


「こっから先は通行止めだぜ。ドレスコードは夢と希望、ってな」


 少女は、太陽に出会った。




 弾む息を整えながら、須賀京太郎は鷹揚に笑う。

 彼の立てた推論は単純。シゲという男の言葉に従うのなら――少女とその債権者である男は唯一絶対の価値を求めている。

 麻雀に於ける唯一絶対。彼らが処分させず、そして何物にも替えがたい地位を手に入れるものはただ一つ。

 麻雀プロの――M.A.R.S.ランカーの特性を奪い取る事。

 言うまでもなく、M.A.R.S.ランキングは麻雀に於ける最高峰である。

 運の要素が強いルールでの勝率などを競ったそのランカーは、麻雀に於ける制圧力ランキングと揶揄されるほど絶対的。

 その幹を為す幹部クラスとあっては――凡百の打ち手が叶う筈がない。イカサマを使用しても、問題なくそれを叩き潰す火星における超上の戦闘者。


 だが、まさかM.A.R.S.ランキングに素人が殴り込む訳にはいかない。そんな事をしたら、それこそ門前払いだ。

 となれば対戦の機会というのは限られる。

 プロとアマチュア合同で行う大会。もしくは――そう、麻雀教室。

 或いはそのプロと打てるという触れ込みの、彼女たちが属する団体の所持する雀荘か。

 京太郎はそれらを、以前戯れに購入した麻雀雑誌を片手に調べていた。居たが、それにしたって特定はできないのだが……ある程度は絞り込めた。

 それは彼らが逃亡者であると言う事。

 無論、あまり大体的に人目に付く場所の移動はできない。しかし、人通りが疎らな場所も選択できない。どちらにしても補足からの拉致があり得るからだ。

 そうして地図と日程を頼りに数を絞った京太郎であったが、それでも完全とは言い切れない。


 そして、最後の欠片は――宮永咲。

 あの日、少女が向けていた目線。街頭のヴィジョンに映った咲へと向けられていた感情に、全てを賭けた。

 分の悪い賭けとなってしまったのは師匠である竹井久譲りだが、どうやら勝利する事が出来たらしい。

 そう、奪わせない。

 宮永咲の進む道を――、彼女が手に入れた経歴を――、彼女が磨き上げた特性と異能を――奪わせない。

 京太郎は固く決意した。最後のピースは受け入れられた。ホープという名の、彼の指輪が。


 故に、笑う。どこまでも鷹揚に――どこまでも大胆不敵に。

 麻雀プロ、宮永咲という希望を守る希望になっていい。

 少女の希望を守る、希望になっていい。



「なんだテメーは……!」


 肩を怒らせる、浅黒い肌のスキンヘッド。黒目がちなその様は、顔立ちも相俟ってどことなく原人に似ている。

 それを尻目に京太郎は、包装を解いた。

 露わになる――身の丈ほどの大剣。無論、これは精巧に作られただけの小道具であり、刃など持たないが――その切っ先を男に向けて、京太郎は眦を吊り上げた。

 その剣の銘は――“聖ジョージの剣”。

 イギリスに於ける守護聖人の名を冠した、オカルトスレイヤー最後の武器。物語の途中から使用された“ウスランガの仮面”という忍者刀と並んだ、必殺の剣。

 無論それはお話の中で、こんなのものを振り回す意思は須賀京太郎にはないが。

 それでも縁起担ぎだと、彼は持ち出した。

 オカルトスレイヤーが最後の戦いに使用した最強の剣であり、そうして彼は戦いに勝利したのだから。


「受けて貰うぜ、勝負をな」

「勝負……?」

「俺とその子が戦って、俺が勝ったならその子を解放してもらう。そっちが勝ったなら好きにしたらいい……単純だよな?」


 無論断られるのもあり得るが――。

 そうなったなら腕づくでそれを許さないだけの力が京太郎にはあった。男もそれを十二分に理解したのだろう。僅かにその立ち振る舞いに、格闘技経験者のそれがある。

 どちらにしても彼は選択せざるを得ない。

 彼らとしても時間がないのだ。京太郎にこのまま阻まれ続けたのなら――或いは大事となったのならば、本懐を遂げる事ができないと。

 だが、男に変わって少女が応えた。


「……夢とか希望とか」


 ――そんなものは自分にはない。必要ない。

 そう告げる、少女の瞳。どこまでも乾ききって、擦り切れて歪んだ目。

 虚無の瞳だ。何もかもを奪われて、痛みに打ち据えられて、ついには一歩を踏み出す事さえも考え付かなくなった澱んだ瞳。

 余りにも痛々しい少女の表情に京太郎も沈痛な面持ちと変わりそうであったが、努めて不敵に笑う。 


「じゃあ……そうだな」


 こういう時に言える事なんて、彼には一つしかないのだ。出来る事なんて、ひとつしかない。


「俺が君の――最後の希望だ」


 次があるのかないのかは知らない。

 ただ、今を全力で生きるしかない。

 プロになったはいいけれど……結局碌に手元には残らなかった。

 記録にも記憶にも残らずに、いつしか流されて埋もれていくとしても――。


「――さあ、ショータイムだ」


 ――今日ここで涙を止めたいと思うこの気持ちは、きっと嘘ではないだろう。

という訳で最終回アコチャーエンド、以上!

バトル(闘牌)はね、ちゃんとプロットもあるし書く準備もあるけどね。うん、明日ちょっと更新無理だからここが一番綺麗な感じなんや
余裕あったら闘牌書きたいけど、ライダーの方もプロット練ってかなり書いておいてあるからね。待ってね


なんか質問とかあったら書いといてね
それじゃあお休みー

はい、クリスマスは予定なんで今日の更新はない
このスレ内に収めたいからあんま来ても困るんだけど

①はよ闘牌。オカルトスレイヤーの活躍みせてーな
②一応終わったからあわあわエンドはよ(なお2~5レス)
③その後のアコチャーとの生活とかはよう。はよう
④しっぺい太郎! しっぺい太郎!

アコチャー

で決まりっぽいっすかね

せやな、ラノベやもんな
書くか。りょーかい

可愛いアコチャー先(闘牌後の世界)とオカルトスレイヤー最後の戦いとならどっちが先がいいのかね
5票先決で

らじゃ

残りレス数的にオカスレ→アコチャーで終わりかなこのスレも

淡殺した事ないだろいい加減にしろ!

あ、やりますかい。ちょっとスピードオソメデ




【AMAZING BREAK 絶望を踏破する者たち】


 



「なんなんだてめえ……さっきから」

「――オカルトスレイヤー」


 言葉に合わせて京太郎は、聖ジョージの剣を肩に担ぐ。

 刃紋の変わりに回路がごとき溝が彫られた、近未来的な両刃の大剣。十字架を思わせるその外観。

 柄元に輝くのは宝石じみた集積回路。曰く人類の最高傑作と呼ばれる超高周波振動刃の制御素子。

 無論それは京太郎がかつて出演したドラマ作中での設定であり、この小道具は単に起動させれば幾ばくかの発光と振動を起こす以外の何物でもない撮影道具。

 ただ、ノースタントの動きに合わせるとあってその耐久力は折り紙付きだ。


「それとも、『M.A.R.S.ランキング第一位だった』……こう言った方が判りやすいかもな?」


 柄を握る右手に力が入る。

 剣を預けた肩とは反対側の、左手で挑発するように指を動かす京太郎。

 既に半ば彼の意識は切り替わっている。

 芝居がかった仕種は、彼とオカルトスレイヤーを近似に到らせる。プロ時代の二つ名としてのオカルトスレイヤーではなく、その元となった出演作品のそれに。

 超能力蔓延る学園都市で、超能力者が巻き起こす悲劇と絶望を防ぎ止めた最後の希望。最強の人間――、

 ――――指輪の魔法使い:オカルトスレイヤー。

 なお、魔法とは全て人類の叡知の元に行使される化学と物理と武術である。人類は伊達ではない。人間は未だ人間に到ってはいないのだ。


「……須賀、京太郎」


 男の呟きに、京太郎は御明察とばかりに片目を瞑る。だがしかしその身に漲る雰囲気に一切の気安さはない。

 決して嘲りや侮りがある訳でも、慢心や油断がある訳でもない。ただしなやかに、気負いを見せない爽快さを著すのみ。

 正に戦士の風情である。

 故に――次いで、


「場所はどこでもいい。したいならイカサマでもなんでもすればいい。何人連れて来ても構わない」


 男に向けられたのは、どこまでも獰猛な笑み。

 ただし、笑顔そのものに感情が籠められてはいない。

 怒りも憎しみも、苛立ちも腹立たしさもない。ただ、スポーツ選手がゴールを睨むようなそれに等しい。

 だけれどもそれは、猟犬が獲物を見定めるのと同義。いや、一切の害意なく悪意の闇と絶望を暴き断つ金色の日照に等しい。


「――それでも俺の方だぜ、勝つのはな」


 そこには――『やる』と言ったら『やる』、その凄味があった。

>>758(訂正)
×
 だけれどもそれは、猟犬が獲物を見定めるのと同義。いや、一切の害意なく悪意の闇と絶望を暴き断つ金色の日照に等しい。


 だけれどもそれは、猟犬が獲物を見定めるのと同義。いや、一切の害意なく悪意の闇と絶望を暴き断つ金色の日照に同じ。



 どこまでも不敵に微笑む須賀京太郎を前に、男は考える。

 ――この勝負は受けるべきではない。

 一文の得もない。こんな場所でこの男に引き留められて一体、何の利益があるのだろうか。

 自分たちは速やかにプロを倒しその能力を手に入れなければならない。それしか生き延びる道はないのである。

 そして、男が追い詰められていると知って――今まで静観していた連中が、動き出した。今の今まで男の為す事を小馬鹿にしていたというのに……、それが有効だと知れた途端にそれだ。

 なんとも図々しい奴等だ。自分で実行する事なく、その有用性を認めてから上前を横取りにかかるとは。

 壊滅させた賭場の他に、落ち目の男からオカルト喰いを奪おうとする連中がいる――、……時間がなかった。

 そこに来てこれだ。

 一発逆転の名案を思い付いた所にこうも妨害をされるなど、タイミングが悪いにも程があろう。絞め殺して遣りたくなる。


 ……いや。


「何でもするって言ったよなぁ……」

「好きにしろ、とは言ったけどな」

「じゃあ、お前にも賭けて貰うぜ?」


 くつくつと、男は頬を歪めた。

 “タイミングが悪い?”――否、これは僥倖である。最後まで諦める事なかったから、幸運が舞い降りたのだ。

 プロのいる場に向かうなど、開いている場に向かうなど……そんなリスクを犯す必要はない。

 そう――。

 “同卓しさえすればオカルトを喰える”オカルト喰いにとっての肝要は、如何にしてその卓を成り立たせるという事に尽きたが……。

 今回は、向こうから整えてくれた。

 この時点で、勝負にさえ乗れば損はない。勝とうが負けようが、元M.A.R.S.ランキング1位の異能か特性をものに出来るのである。

 それだけで、有用性の証明は成り立つ。後はそれから考えればいい。手札を得ればどうとでも出来る。

中断。遅くなります

あと女の子に腹パンするなんてどうかしてるぞ! 死にたいって事でいいのかなぁ……!

君たちネタバレに容赦ないよね

始めるでー


 負けたとしてもそれは口約束であるし、支払う確約などない。

 そして――如何に凄まじい身体能力を持とうとも、所詮は人間である。彼としてもそれへの対策となるものを用意している。

 確かにこの場で不利なのは男の方であるが、勝負を持ちかけているのは須賀京太郎の方。

 なればこそ、いくらでも遣りようがある。

 それに、奴は所詮手負いで麻雀を諦めたもの。人数も集め放題、イカサマもし放題、おまけにオカルト喰いという切り札があって――負ける要素の方が少ない。

 つまり、損がない戦い。


「なら、人一人賭けようって言うんだ……同じだけは必要だよな?」

「……何が言いたいんだよ」

「お前を――お前の経歴と、人間関係と、能力を全部貰うぞ」


 男が醜悪に笑う。その瞳の先に輝くのは須賀京太郎の薬指に嵌められた結婚指輪。

 どんな女かは知らないが――とにかく、ここで水を注してくれた礼だ。京太郎を構成する全ての物を奪って、あざ笑ってやろう。

 ただでさえ、この持てる人間という態度が気に食わない。

 顔も良く、身体も優れ、日の当たる場所で生きて、称賛を浴びて、幸福を味わったこの男に――罰を与えてやるのだ。

 既に奪われて不幸を気取って、その裏返しかは知らないがこんな物語のヒーローじみた洒落た振る舞いをする須賀京太郎に。

 人間の深淵を教えてやる。そう、これは増長した須賀京太郎への天罰であると。


「……」


 考え込むように黙る須賀京太郎を尻目に男はほくそ笑んだ。

 それだけで十分に勝った気分になる。夢だの希望だのと、そんな光り輝くものをこれ見よがしに身に纏った罰だ。

 そんな事すらも想像できなかった須賀京太郎への優越感が強まる。所詮は、その程度の存在なのだと溜飲が下がる。

 どんな答えをしてもいい。

 これで断れば、所詮はその程度の覚悟で進んできたという事。尻尾を巻いて逃げ出す様を嘲笑すればいい。

 受けたのなら、そんなくだらない気負いの所為で全てを滅ぼすのだと教えてやればいい。屈辱の谷底を藻掻かせてやる。

 どちらにしても、男は精神的に優位に立つ。



 しかし――、


「はっ」


 そんな男の提案を、京太郎は噴飯ものだと鼻で笑い飛ばした。

 獰猛な笑みを崩さず。

 明らかに男に目掛けて向けられる――哄笑。どこまでも不遜な様子を崩さない、麻雀プロの落伍者。


「『俺の経歴と、人間関係と、能力を全部貰う』――か」

「あ?」

「んな事させねーよ。こっからするのは粛清だ」


 炎天下の太陽に近い、ただ漫然と降り注ぐだけでそこに一切の情は混じらぬ笑いが。

 明らかに――敵意が満ちた。否、それは敵意というよりは、絶対的な決定にして必然の意思。

 王が手ずから裁定を下すと決断したに等しい、毅然とした瞳。

 最早、それは天の理にして地の自明であると告げるような冷笑であった。

 静かに熱を強める純粋なる殺意。


「――覚悟はいいよな?」


 だらりと、腕が足らされる。

 男としてもそれが真剣でないと理解しているが……理解してても背筋に悪寒が走るほど。

 さながら断頭台。処刑台に振り下ろされる刃が如く、須賀京太郎とその手の聖ジョージの剣が輝いた。


 でも、男は嗤う。

 いくら強がろうが、関係ない。

 どちらにしても須賀京太郎の運命は決定されているのだから、むしろこんな態度はただ滑稽である。滑稽を通り越して憐憫すら抱く。

 一位と言ってもそれは過去の話。

 今の須賀京太郎は一般人で、健康を理由に麻雀プロを諦めた手負いで、口以外強がる事の出来ぬ、哀れな自己陶酔に浸るただの男にしか過ぎない。

 ならば、今は言わせておけばいい。いくらでも後で味わわせられるのだから。


「いいぜ、たった一人で出来るんなら……やってみろよ、元一位」





「ところがぎっちょん、一人やない――んやな!」


 



「……泉」

「あ、礼はいらへんで!」

「空気読め」

「えっ」


 肩息を吐く京太郎。先ほどまでの、息苦しいほどの神々しさにも似た雰囲気は霧消してしまっていた。

 溜め息と共に、再度剣を担ぎ直す。彼のその背中は、どことなく小さい。

 それから……露骨な半眼。若干、真に迫っている。本気で疎ましいとすら思っていそうな感情を湛えた双眸。


「……ども、一位さん」

「末原さんも……。あの、どうしてここに……?」

「店の方に行ったらしくてな」

「誰が……って、ああ、訊くまでもないよなぁ」


 確実に船久保浩子であろう。

 須賀京太郎が店に顔を出していない事から類推した――としても、余りにも凄まじすぎる判断力だ。精密機械でもこうはいかない。妖怪データ啜りは伊達じゃない。

 裏の世界での出来事の筈なのに――末原恭子の耳に“オカルト喰い”が入っており、加えて、以前の邂逅で二条泉にも“オカルト喰い”の話が行った。

 泉が浩子にうっかり話をしたのか、それとも浩子が自分で調査したのかは京太郎には知る事が出来ぬが……そのどちらか、或いは別か。

 そこから須賀京太郎が事件に首を突っ込んでいる事をどのように知ったのかというのは謎でしかないが、案外店長が零したのかも知れない。


 しかし、だ。

 何故この二人がここに居るのか――どのような手段で彼のいるこの場は判明したが、別の意味での“何故二人がここに”が解決しない。

 正直な話――だ。

 二人がこの場に居る事で出来る事なんてない。これは、表の戦いではない。麻雀プロが介在する話ではない。


「こないだのお礼にな……一緒に戦ったろうかと思って」

「せやせや、一人っきりで闘うだなんて水臭いで!」


 そう意気込む二人を前に京太郎は、


「……ありがとうございます」


 そう笑い――、


「でも、帰って下さい。気持ちだけで十分ですから」


 そのまま平然と断った。



 申し出は正直なところ、京太郎にとっても有難いものであった。

 イカサマを行われたのなら逆手に取れる。京太郎に対してイカサマを用いると言うのは即ち、自殺とさして変わらない。

 敵が纏めて襲い掛かってくる方が遣りやすい。意図が明白であるから、遡って読みやすい。

 だとしても、プロほどの強者が味方に付くのとどちらが上かと言われたら――無論、後者。

 まず、彼女たちは二人とも京太郎と同じタイプ。“特性”や“異能”ではなく、分析を主として戦う闘牌者。

 加えて、“特性”や“異能”を持たずにプロの土俵で戦えるほどの実力者である。

 正直、ある程度の算段もあって傲岸不遜に――彼の知る麻雀の強者の如く――振る舞ってみたものの、内心苦いものを覚えたのも確か。

 そこに来ての助力はまさに百人力であるが。


 それでも――


(……これは、今は一般人の俺だからいい話なんだ)


 表の人間が裏に関わると言うのは、それだけで弱点を晒すに等しい。

 後々、如何なる脅迫が迫るとも判らない。裏の戦いの場に表の人間が立つという時点で、相手に一つ優位を保証してしまうのに同じ。

 名声に関わりなく、風評を構わない。

 実力にものを言わせても払い除けられる須賀京太郎こそが、この場に立つのに相応しいのである。

 故に二人は必要ない。如何に傲慢な態度となろうと冷淡になろうと、今すぐにこの場を立ち去らせるべきであるのだが――。


「ああ、そこらへんは安心や」

「……安心?」

「シゲルってお爺さんから伝言で――『ククク、闘うんなら……前に言ったように立会人を用意してやるぜ、京ちゃん』やって」

「立会人……?」


 疑問に感じた須賀京太郎は、その背筋に電撃が走るのを感じた。

 いつの間に。それとも最初からか――彼らの程近くに、黒服スーツの男が立っていたのである。

 その身の熟しと漂う気配だけで十分。明らかに、暴力の世界に身を置き――生き残る強者。

 拳を交わし合って己が最後に立つイメージが付かないほどの、戦闘者である。


「あの爺さん、裏にもかなり顔が利くらしくて……立会人を立てた以上、『そこで付けた約束は絶対に守らせる』――そうやで」

「……漫画かよ」



 苦笑する京太郎。

 流石の彼としても、これはもう頬を引き攣らせるしかない。

 都合が良過ぎるとすら思える。何かの夢かとも。

 今までの人生でこんな風に――まるでヒーローものか何かのように、こうも折よく事が運ぶ事などなかった。

 本気で単身、それこそ麻雀で勝利したのちにも襲い掛かる並み居る邪魔者を蹴散らして逃げる算段であっただけに、予想外だった。


 ……いや。

 たとえプロになって、それを辞めてしまったとしても――繋いだ絆は無にはなっていないという事か。

 己の歩いた道程は決して無駄ではなかったという証明であった。

 というより、それぐらい周りには優しい人間が集まったという事か。誰も彼もお人好しが過ぎる。

 自分には過ぎる――と、彼は嘆息した。


「……ま、つーことだ」


 そして、改めて切っ先をスキンヘッドに。

 途中、泉が小さく悲鳴を上げて飛び退いたのを彼は努めて無視。

 先ほどまでの空気はどこへやら。緊張感が余りに解かれるのも考えもの。というかその一点だけで正直、泉帰ってくれてもいい。シリアス的に非常に邪魔。

 そんな風に決めきれない辺り、彼としてもやはり自分は三枚目なのかなと若干頭が痛くなる気分であった。


「どうする、尻尾を巻いて逃げ出してもいいんだぜ?」


 それならそれで逃がしはしないがな――と、彼は高笑いを浮かべた。



(ほええ……ホンマに須賀ってオカルトスレイヤーなんやなぁ)


 二条泉の回想する――末原恭子の語る知る限りの麻雀プロ須賀京太郎についての“噂”。


 曰く、料理の腕は正にプロ顔負け。三ツ星シェフが土下座したほど。

 曰く、須賀京太郎に足場という概念がない。何故なら全ての物体が当然足場だから区別の必要がない。海も走る。空も。

 曰く、全盛期の須賀京太郎は撮影で車に跳ねられた直後にトラックに跳ねられて鉄骨に押し潰されて戦艦に砲撃されて爆発に巻き込まれても平然としていた。

 曰く、須賀京太郎にとって粉砕骨折は常人にとっての突き指レベルの怪我。


 曰く、日本代表ゴールキーパーでも止められないシュートを放つキック力とフィジカルセンスを持つ。

 曰く、芸能人体力選手権の記録全てを塗り替えて優勝。当人は汗一つ書いていない。

 曰く、須賀京太郎は中学時代“拳願阿修羅”の異名を持っていた。キーパー時のパンチングの速度があまりにも速すぎて腕が六本に見えたから。

 曰く、彼の一族は有史以前から究極の人間を造り出そうと交配を繰り返した忍者の末裔である。壁を足場にする事も勿論、オフの日に気配を消して歩けるのもそれが理由。


 曰く、ヤマタノオロチが酒に酔い潰れたのはスサノオの子孫として未来で須賀京太郎という存在が産まれると知った自棄酒。

 曰く、あまりのハードスケジュールに立ちながら寝る事は当然、歩きながら寝る事や数秒だけ寝る事、体の一部分だけ寝る体質を備え始める。

 曰く、陸海空で最強の存在は須賀京太郎。その気になれば神様も殺せる為に運命や勝利や麻雀の女神から疎まれている。

 曰く、須賀京太郎にとっては視力を封じられるのはハンデにならない。


 曰く、彼には黒髪の美女のスタンドがいる。

 曰く、あまりの肉体美に彼自身は愚か彼の周辺の服も存在価値を自ら否定して、近付く女は皆痴女になり彼自身は半裸になる。

 曰く、須賀京太郎は巨乳好きであるがそのイケメン力はタイプ以外に発揮されるため、貧乳ほど危ない。

 曰く、須賀京太郎は麻雀のプロフェッショナルではなく人間のプロフェッショナル。人間を極めた“人間の中の人間”。


 曰く、須賀京太郎の素手の殺害率は200%。一撃で相手を殺し、その余波で迎えにきた死神を殺す。

 曰く、須賀京太郎のオカルト殺害率は200%。まずオカルトを殺し、次にオカルトに関わる絶望を殺す。

 曰く、須賀京太郎に押し倒されたら排卵する覚悟をしなければならない。本能レベルで敗北を理解する。

 曰く、彼はマジックも得意としているが、それが技術なのか力業なのかの判別が困難。


 曰く、あまりの舌の速度と精密さに空間が削り取られる。

 曰く、須賀京太郎と戦う時は手を出してはならない。その勢いを加えられて返り討ちにされるから。

 曰く、須賀京太郎と戦う時は黙っていてはならない。手を出さなければ古式ムエタイ技で即死させられるから。

 曰く、彼には悪魔の知り合いがいる。執事をしているらしい。


 曰く、須賀京太郎は妖怪に大人気。人間である事を極めつつも諦めず、立場が弱い存在には優しく常に正々堂々としているから。

 曰く、須賀京太郎の友人には超能力者・悪魔憑き・エースパイロットがおり、彼と友人が集まれば世界中の軍隊が泣いて逃げ出す。

 曰く、寒空でショーウィンドウの中のトランペットを眺める飢えている子供の為にオカルトを殺すのが須賀京太郎。

 曰く、麻雀に於いて異能や特性を持たず「全ての技術を兼ね備え」「向上させている」のが須賀京太郎。



(チャック・ノリスかい……)


 二条泉は表情を硬くした。

 流石に悪乗りが過ぎる話であり、どれも根も歯もない与太話――度が過ぎた“麻雀プロ:須賀京太郎”という都市伝説だ。

 正直、何の参考にもならない。

 実際、泉自身が――視聴者として――プロ時代の須賀京太郎を知っているから、これは面白がった単なる冗談と理解している。


 だが――、


『曰く、須賀京太郎は非公式の野良試合で初見の魔物級打ち手に勝利した』

『曰く、須賀京太郎は大会でイカサマを使用したプロをイカサマをさせたまま粛清した』

『曰く、須賀京太郎の技術は全ての麻雀プロの中でも最上位』


 これらの噂にだけは、僅かながらそれが真と思わせるものがあるのだ。全くの勘でしかないが。

 それ故に摩訶不思議な“オカルト喰い”などという超常の打ち手と相対する事に、泉はそれほど気負いはなかった。

 身体的な原因――視力――でプロを引退したと聞いていたが、こうしてまた麻雀に触れるあたり……その問題は解決したのだろうと泉は判断した。


(まぁ、うちは邪魔せんとこーか)


 というか正直、彼女は半ば末原恭子に同行する形でこの場に来ている。イマイチ事情が受け入れられていない。

 とりあえずドラマの撮影か何かかと思った。なにしろ須賀京太郎の言動が大仰で芝居がかっており、おまけにあの大剣だ。間違いあるまい。

 なんだかよく判らないが、とりあえず俳優として復帰するのかも知れない。

 ……なんて考えられるほど、殆ど肩肘を張らずにこの状況を受け入れていた。


 が、


「俺が勝ったんなら……さっきも言ったようにその子を開放して貰う。いいな?」


 芝居が廃された、真剣な表情の須賀京太郎のそれに――


(えええ……!? え、なんなん!? これ結構ヤバイ場面やないか!?)


 彼女のそんな浮ついた気持ちは、一撃で取り除かれた。

以上

ハイパーヤンジャン対戦

ちょっとだけな
立会人が出た事を平然と受け止めるこのスレが怖い。あとジョージ剣へのツッコミがない事も




「俺が勝った時は――さっきも言った通りだ」


 そう告げるスキンヘッドの男からは、昏い愉悦の色が消えない。

 無論、心底楽しいのもあるだろうが――きっとこれは威圧や示威の為であると、泉は考える。

 何故、こんな胃が痛くなるような場に巻き込まれてしまったのか。もう少し、考えてから動けばよかったと思った。


「……で、やるのはタッグ戦か? それともこの二人は見学者にして、やっぱりそっちから残りの人間を出すか?」

「いや、そうだな……そこの二人とも参加していいぜ。ただし、そっちの二人が勝った時はノーゲームだ」

「……ノーゲーム、か」


 男が顎をしゃくるのに従い、須賀京太郎も二人の女性を見た。

 末原恭子は眉一つ動かさず、頷いた。

 一方の二条泉は――


(やっぱうち打つん!? しかもこれ相当重要なポジションやないか!?)


 内心、酷く動揺していた。彼女としては、何故末原恭子がそうも平然としていられるのかが分からない。責任重大過ぎる。

 というか、頼むから今からタッグ戦にして欲しい。タッグ戦で、末原恭子に参加してほしい。それでチーム勝利にして欲しい。

 なんといっても、須賀京太郎はかつてタッグ戦で日本一になっていた。

 実際、彼ほどの――“敵に対しても脅威の読みを行う男”ならば、相互に喰い合う戦いでなく初めから協力する念頭で進む味方の援護など容易い。

 間違いなく適性上それが向いている。頼むから考え直して、ルールを変更してほしい。

 というか確かにタッグ戦に比べたら、こちらから二人送り込めるのは有利である。有利であるので、何故あのスキンヘッドがそんな事を言いだしたのか疑うほど。

 ただ――ノーゲームでは実質二人は戦闘に参加できない。闘いを決めるのは京太郎と少女。

 その状態で、恭子と泉が京太郎の援護に向かうのと――タッグ戦で彼が仲間の援護を行うのでどちらが勝率が高いかと言われたら、後者。

 それほどまでに、須賀京太郎との間に技術的な開きがあった。

 当時十三位と言っても――その後最終的にはランキング一位、元より上位ランカーは伊達ではない。


(……って、だから一見有利な風に押しつけといて勝ち目削ったんか。このハゲ頭……!)


 泉が、キッと瞳に力を込めた。

 ――が、それが良くなかったのか。それを闘志の表れとして取ってしまったのか。


「ああ、構わないぜ」


 須賀京太郎は満面の笑みで、首肯する。どこか満足げであった。

 いや、今のは違うからそういう意味じゃないからちょっとあんた何考えとるんややっぱり目ぇ腐っとるんやないかこのボケそんなんで打てへんやろ――。

 なんて言いだそうにも、言い出せる空気ではなかった。泉以外の三人(立会人を含めたら四人)がシリアスな顔をしてるからどうしようもない。


(須賀あぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――! あんたんなんやから女心に気付かない風な奴なんやでコラァ!)


 泉の主張は口の中で反響して消えた。悲しきかな、その声を拾うものはいなかった。



「じゃあ、1位を取った人間が勝利者として……。ルールはM.A.R.S.ランキングでやるか――それともナシナシ赤ナシとかでもいい。好きに決めてくれていいぜ」


 そんな京太郎の言葉。どことなく、強者の余裕が滲み出る。

 それは心底、己が勝つと疑わない事から来るのだろうか。それとも交渉事を優位に進める為の虚勢なのか。

 後者とは思うが……思いたいが正直、泉は須賀京太郎を信じきれない。


「そっちもやりやすい方で……ああ、M.A.R.S.ランキング用で許してやるよ」

「ハッ、後悔するなよ?」


 互いに不遜。互いに傲慢。

 きっと交渉というのはこんな風に――ある種のポーカーフェイスで行うものなのだろう。

 かつて足を運んだ映画の中で行われていた、マフィア同士が互いの組への挑発を織り交ぜながら行うというのに等しい。

 つまりは、その裏では何か企んでいる。

 相手の冷静を見出し、己が精神的に優位と錯覚させ、そして“要点”を己の位置に引き込もうというのである。

 だが果たして、この戦いの肝要とはなんだろうと……泉は、表情に出ないほどに注意を払いながら頭を働かせる。

 それは既に明らかになり決定されたのか、それともこれからなのか。


 そこで、京太郎が切り出した。


「じゃあ、勝負は半荘は三回で二本――」

「――一回だ。ここまで通してやったんだから、一回こっきりに決まってるよなぁ」


 素気無く、言葉の最中で切り込んだ男。

 須賀京太郎が、対戦相手のその情報を細かく分析して戦う男――というのは公に知られている。

 それはプロ時代、彼の一日を取材した番組から容易く導かれるし、彼について語る記事にしても然りである。

 故に男は知っている。決して須賀プロに二度を打たせる愚行を侵してはならないと。それだけは避けるべきであると。

 体裁として男が須賀京太郎に譲歩して、或いは京太郎にとっての有利に事を進めていた――無論そんな事はまるでないと二人とも気付いているが――のは、全てこの為。

 逆に京太郎がこれまで異論を挟まなかったのも、この試合の規定についての交渉で「ノー」と言える空気を作らない為であろうが。

 男は構わない。そんなのには乗らず、取り付く島もない様子で否定した。



「……」


 対する、京太郎は無言。そんな、男と視線を交わす京太郎の手の内で鈍く光る“薬”――。

 とは言っても、別に怪しげなものではない。服用すればその人間の体細胞を破壊し、別の生物のものに作りかえる等という特性は持たない。

 至って一般的な医療薬品である。

 そして、回想する。この薬を受け取ったときのやり取りを――。


『何もしなくても眼圧は上昇しやすくなる。そのまま放っとけば、いずれは視神経が全部死ぬ』

『……』

『ま、とは言っても不治の病やない。いや――不治には不治なんやけど――元に戻らないだけであって、悪くなるんは防げるんよ』


 iPS細胞を使えば失った視神経を取り戻せるかもしれへんけど、未だラットでの実験の域を出ていない――と園城寺怜は続ける。

 或いはその臨床実験への協力というのもある話ではあると聞いたが、京太郎は辞退した。

 兎に角、一度弾みが付いてしまった眼球というのは異常を来たす方向へ進む。普通に生活していてもそうなる。

 ただ、服薬――点眼でもあるが、それを続けていれば眼圧を正常値には戻せるものであり、臨界さえ越えなければ速やかに全視力を失う訳ではない。

 不治ではあるが、付き合い方次第――それが彼女の言葉。


『で、この薬……どうしてもっちゅーときに使えば、強烈に眼圧を下げれる。上がり過ぎてどーしようもない時には使えばええからな』


 まだ未認可である、という話も聞いた。当然ながら眼圧を急激に低下させる薬などというのは危険極まりないからだ。

 しかしながらやはり、どこかで需要はあった。あるらしい――と彼は聞いた。

 故に試験薬として、その薬が存在している事。そしてそれをちょっとしたツテで園城寺怜は入手したのだという事。

 そして、本当に万が一の備えとして京太郎にそれが手渡されたというのは、確かな事であった。


『使わないで済むんなら、まーそのまま海の底やけどな。……ひょっとしたらひょっとしたで、お守りみたいなもんやと思っとってな』


 渡されたとき須賀京太郎は、そんなものかと思った。きっと使う事などないのだろうと。

 だけれども、それにこうして出番が来るとは。

 この薬があればその間は――須賀京太郎は須賀京太郎になれる。

 受けてしまった傷を回復させ、心が砕けぬ限りは何度でも死ぬ事なく立ち上がれる戦士となれる。


「……分かった。一回の方が、判りやすくていい」


 その薬を握りしめて、京太郎は静かに男を睨んだ。




「それでは……よろしいですね?」

「……ああ」

「へっ」


 須賀京太郎と男の間に確約されたルールを、立会人の青年は再確認する。


 一つ、『この勝負の最中にあらゆる暴力行為と脅迫を行わぬ事』。

 一つ、『須賀京太郎が勝利した場合、男は少女を開放し、その借金等についても不問とする事』。

 一つ、『少女が勝利した場合、須賀京太郎は男の管理下に入り、その技能・人間関係・経歴あらゆるものを男の自由に投げ渡す事』。

 一つ、『どちらも一位でなかった場合は、試合の賭けについては無効とする』。

 一つ、『試合は半荘一回で行われるものとする』。

 一つ、『麻雀のルールはM.A.R.S.ランキングで行われるそれに準ずる』。

 一つ、『参加者・観戦者はこの闘牌内容について外部には口外しない事』。


 それらを告げ終わり――二人を眺める立会人は、


(……この条件、『須賀プロは決して勝てない』)


 風変わりな、一世代前の不良のような髪型の下で、百戦錬磨の頭脳を働かせて口角を釣り上げた。

 プレイヤーでこそないが、岡目八目――下手に場に立つよりもよほど場馴れしていてこその立会人。

 今まで幾多の戦闘を見た。今まで数多の賭博を見た。今まで繁多の勝敗を見た。

 であるが故に彼には分かる。そこから導き出される経験則というものがある。

 人は幾重もの仮面を被った道化師である。賭けの内容が等しくとも、その賭けに携わる人間の組み合わせは無数であり、一つとして同じ状況はない。

 それでも、通じるものがある。勝者と敗者の内に繋がる、確かな糸というものはある。

 その彼の持つ勘に従うのならば、これまでのやり取りにて須賀京太郎の勝利というのは九割方否定されているものであった。


(ここからどう運ぶのか……)


 不謹慎ながら零れそうになる笑いを、立会人は努めて噛み殺した。


 そして、この場の誰もが気付かない。

 不敵な笑みを浮かべて、倒すべき悪を睨む須賀京太郎にも――。

 目の前に現れた、厄介だが薬としても使える青年を見るスキンヘッドにも――。

 ただただ黙して、どこまでも鎮められた表情のまま場の趨勢を睨む末原恭子にも――。

 己の内に湧き上がる不安感と焦燥感を、隠そうとしつつも額に僅かに滲ませてしまった二条泉にも――。

 公正の大原則の名のもとに従いつつも、その内で己なりの喜悦を満たそうと観戦を心待ちにする立会人にも――。


 誰一人として、気付かない。

 オカルト喰いと呼ばれる少女がまさに、深淵がごとき双眸を湛えている事に――気付けない。

 そして勝負は場を整えて、火蓋が落とされる刻限が――迫る。

という訳でここまで

泉ちゃんがすっかりとネタキャラと化しておる

>>792は全習性で




「それでは……よろしいですね?」

「……ああ」

「へっ」


 須賀京太郎と男の間に確約されたルールを、立会人の青年は再確認する。


 一つ、『この勝負の最中に、直接間接に関わらずあらゆる暴力行為と脅迫を行わぬ事』。

 一つ、『須賀京太郎が勝利した場合、男は少女を解放し、その借金等についても不問とする事』。

 一つ、『少女が勝利した場合、須賀京太郎は男の管理下に入り、その技能・人間関係・経歴・資格あらゆるものを男の自由に投げ渡し行使させる事』。

 一つ、『どちらも一位でなかった場合は、試合の賭けについては全て無効とする事』。

 一つ、『試合は半荘一回で行われるものとする事』。

 一つ、『麻雀のルールはM.A.R.S.ランキングで行われるそれに準ずる事』。

 一つ、『参加者・観戦者はこの闘牌内容について外部には口外しない事』。

 一つ、『この勝負の結果をあらゆる方法を用いて、変更或いは破棄しない事』。


 それらを告げ終わり――二人を眺める立会人は、


(……この条件、『須賀プロが決して勝つ事はない』)


 風変わりな、一世代前の不良のような髪型の下で、百戦錬磨の頭脳を働かせて口角を釣り上げた。

 プレイヤーでこそないが、岡目八目――下手に場に立つよりもよほど場馴れしていてこその立会人。

 今まで幾多の戦闘を見た。今まで数多の賭博を見た。今まで繁多の勝敗を見た。

 であるが故に彼には分かる。そこから導き出される経験則というものがある。

 人は幾重もの仮面を被った道化師である。賭けの内容が等しくとも、その賭けに携わる人間の組み合わせは無数であり、一つとして同じ状況はない。

 それでも、通じるものがある。勝者と敗者の内に繋がる、確かな糸というものはある。

 その彼の持つ勘に従うのならば、これまでのやり取りにて須賀京太郎の勝利というのは九割方否定されているものであった。

 その直感を裏切ってくれるかは、ある意味で楽しみでもある。それもまた、立会人の静かな愉悦となる――そう彼は感じていた。

 果たして、


(ここからどう運ぶのか……)


 不謹慎ながら零れそうになる笑いを、立会人は努めて噛み殺した。


 そして、この場の誰もが気付かない。

 不敵な笑みを浮かべて、倒すべき悪を睨む須賀京太郎にも――。

 目の前に現れた、厄介だが薬としても使える青年を見るスキンヘッドにも――。

 ただただ黙して、どこまでも鎮められた表情のまま場の趨勢を睨む末原恭子にも――。

 己の内に湧き上がる不安感と焦燥感を、隠そうとしつつも額に僅かに滲ませてしまった二条泉にも――。

 公正の大原則の名のもとに従いつつも、その内で己なりの喜悦を満たそうと観戦を心待ちにする立会人にも――。


 誰一人として、気付かない。

 オカルト喰いと呼ばれる少女がまさに、深淵がごとき双眸を湛えている事に――気付けない。

 そして勝負は場を整えて、火蓋が落とされる刻限が――迫る。

2100から始めます

ところで、二って「じ」とも読むよね? 条はまんま「じょう」だよね
つまり二条泉はテラフォーマーだったんだよ!

始めます



(今回のルール……)


 立会人の青年は、やや肩を落とす。

 勝負内容が決されておらず、ただ『賭けによって決定する』とだけ定められているのなら――彼からゲームやルールの提案は可能であったが……。

 今回は、ルールというのは明らかになっている。然るに、彼がするのはその中でもルール違反を取り締まる事と、結果を確実に取り立てる事。

 それ以上の介入というのは不可能。それが立会人。

 その事は、正直に言うのなら残念である。残念であるが……別に楽しみもある。

 彼とて聞き及んでいる、表の麻雀に於いての最高峰――最高峰であった須賀京太郎の闘牌を直接見れる。

 表と裏のどちらが強いかと言われたら、言うまでもなく麻雀に於いては表。

 確かに裏には裏の真剣や空気、そのセンスというものがあるが――純粋に競技としての技量は、人の多い面の方が水準が高い。

 そして、水準が高い空間で日常日夜闘牌している人間と、そうでない裏を比べたのならば――言うまでもなく表の方が強い。

 特にM.A.R.S.ランキング上位ランカーともなると、“相手にイカサマを許したまま平然と叩き潰す”と言われるほどの人外の檻。既に人間の枠を超えた打ち手。

 しかしそれが真実なのか、確かめる手段はない。決して交じわらぬからこその表と裏。

 その勝敗には――勝負には、どこかしら幻想が付き纏うのは最早道理。

 子供が戯れに“スタローンとヴァンダムが殺し合ったらどちらが強いか”と語る域を出ない話。既に出揃ったそれぞれの情報を基に、ただ推測するしかない“もしも”。


 そんな火星の名を冠するランキングの、かつては一位。

 更に、本当に麻雀などと言うインナー競技者なのかと疑わしいほどの身体能力は、プレイヤーというよりはむしろ立会人に向いている。或いは掃除人か。

 そんな、無比の知と暴を兼ね備えた男の戦いとあっては、心が躍らぬ訳がない。

 その男が引退して未だに健在なのか。それとも、裏という慣れぬ場に翻弄されてしまうのか――興味は尽きない。

 ただし、あのルールを決定する際に潜まされた毒――幾多の勝負事に居合わせた立会人だから気付ける僅かな空気からの推論に従うなら、須賀京太郎の勝利はないという結論に至るが。

 それでも、だ。

 その過程をつぶさに眺めたくなるのは必然。直感から導き出された結論は、ただの直感でしかなく、結論でしかないのだ。



 麻雀ルールは以下――。


 一、『25000点配りの30000点返し』

 一、『喰いタンアリ。後付アリ』。

 一、『カンドラアリ、裏ドラアリ』。

 一、『赤ドラは四枚(五萬、⑤筒二枚、5索)』。

 一、『多家和ナシ。頭ハネ』。

 一、『役満は複合せず。数え役満あり』。

 一、『九種九牌流し。流し満貫アリ』。

 一、『全員ノーテンは場流れ。ただしオーラスを除く。形式テンパイは続行』

 一、『オーラス和了やめアリ』。

 一、『全員の持ち点が3万点に至らない場合、西入り』。

 一、『祝儀なし。ウマオカなし』。

 一、『喰い変えナシ。ツモ平和形は平和にせず』。

 一、『チョンボは罰符。多牌・少牌はアガリ放棄。見せ牌アガリ放棄。フリテンは続行』。

 一、『責任払いアリ。大明槓の嶺上開花は責任払い』。

 一、『待ちの変化する槓はフリテン扱い』。

 一、『八連荘は役満にならず』。

 一、『国士無双に限り、暗槓への槍槓が可能』。



 五人が向かったその賭場。マンションの一室。狭いワンルームで、屋上にほど近い最上階。

 インターホンをスキンヘッドの男が鳴らす事で漸く訪れる事が出来た、マンション賭場である。

 フローリングの床を鳴らし、通された先には誰も居ない。

 人払いは済んだという事であるが――同時に、何かしらが仕掛けられているとも限らない魔窟である。

 そして、卓は立った。


(……露骨さも、ここまで来るとなぁ)


 二条泉は、場を眺めながら長嘆息。

 場は今、泉が親。席順としては二条泉を基点として、半時計回りに末原恭子・少女・須賀京太郎となる。

 出親は泉、今は正に東一局の一打目。

 須賀京太郎の上家に例の少女を配置して――上家から彼への援護をさせまいとするのは、露骨すぎて最早妨害とも呼べないあからさまなもの。

 席順も、スキンヘッドが指定した。

 泉としては、ざけんなというものだが――須賀京太郎は呑んだ。但し全てをではなく“須賀京太郎の上家に少女を配置するという点”のみだが。

 故にまず京太郎が席決めを行い、その後に少女の位置が決定され、そして泉と恭子が座る。

 席順を決め、賽を振った結果が、東一局――東家:二条泉。上家が須賀京太郎。下家が末原恭子。対面が例のオカルト喰い。


 オカルト喰い――話しか聞いていないが、他人の異能を喰らうらしい。喰らい、それを使用するとか。

 オカルトなんてなんやねんという気持であるが、現実として彼女はその存在を知っている。嫌というほど身に染みて。

 つい最近、泉も個人としてM.A.R.S.ランキングの方へのエントリーを行ったが――結果は察して欲しい。

 だからこそ、想像が付く。同時にまるで想像が付かない。

 上位ランカーの凄まじさというのは理解しているが――それで、目の前の須賀京太郎がかつて一位だったという事に実感が湧かない。


(んで、配牌がこれか……うーん)


 二条泉・配牌:一一五萬 ②④⑥⑥⑦筒 3334 西 ツモ:西

 ドラ:7索(表示牌6索)



 ヤオチュウ対子、客風対子、リャンカンチャン、ドラ乗らず――マイナスはそこ。

 ただし、対子が三つに暗刻が一つ。伸ばせば伸びる手。

 それこそ四暗刻まで届くかも知れない――のだが、


(私が決めてもなぁ……意味あらへんし)


 東一局で親役満を決めてしまったら、残り全員の点数は9000点。一方の泉は73000点。

 もう、ここから逆転とか考えられないお話になってしまう。

 いきなりノーゲーム確定。ノーゲーム爆笑党。やったら須賀京太郎に多分殺される。

 というかこの場合は、須賀京太郎に任せてなるべく戦わないのが正解か。あとは、京太郎が聴牌せずに少女が聴牌した場合に流す事。

 他には――須賀京太郎に美味いところ援護を回せば、彼の上家にいる少女の手番を飛ばせる。結構それはいい。


(……ま、アシストに専念か)


 あとは、少女から直撃を受けてはならないという点。つまりは防御が重視されるのである。

 となると、この西なんかは温存。端牌である一萬なんかもいい。

 初めからベタオリ決意なんてのはプロとしてあまり嬉しくないものではあるが――それでも、逃げを見込んで打つ方がいい。

 とりあえずは順当に手を勧めつつも逃げ道を確保する。そして相手の傾向によって適時修正する。

 それが正しい打ち筋だろうか。

 二条泉は、後に適宜修正する大まかな方針だけを打ち出した。


 ――なお、この時それぞれの手牌は。


 南家・末原恭子:一二六八萬 ①①⑧⑧⑧筒 45索 北発


 西家・オカルト喰い:六七萬 ③筒 16888索 東東東 中中


 北家・須賀京太郎:三四五萬 ⑦筒 1123 99索 南白中



 そうしているうちに――。

 東一局、八順目。


(……あかん、張ってもーた)


 二条泉・手牌:一一萬 ④⑤⑥⑥⑦筒 2334索 西西西


 とりあえず行けるところまでは真っ直ぐにという考えの元進む泉の手が、意外にも臨戦態勢を整えてしまった。

 しかし、当初から望ましいと思った形ではない。リーチのみでそれで終わり。ドラも絡まない。

 なんというか、酷い捨て牌であった。要らないと思って切ったものがいくつも後から増える。そうでなければ今頃、四暗刻が成り立っていた。

 泉は、彼女自身が勝ってはならないと無論認識しておるが――それでも嘆きたくなるほど。


(おまけにアガリ牌捨てられとるし……)



 二条泉・捨て牌: 五萬、 (北)、 (北)、 ②筒、 (北)、 (【五】萬)、 3索


 末原恭子・捨て牌: 北、 (9索)、 発、 【⑤】筒、 (2索)、 (【⑤】筒)、 ②筒


 オカルト喰い・捨て牌: 1索、 (二萬)、 (西)、 (9筒)、 (2索)、 ③筒、 (②筒)


 須賀京太郎・捨て牌: 南、 中、 (①筒)、 白、 (①筒)、 (南)、 (南)

 ※(ツモ切り)、[副露]


(赤ってこんなガンガン手牌に入らんもんやっけ……?)


 



 流石に珍しい形の河並びである。

 東一局であるから、まあこんなもんだという話である。

 それともこれが、オカルト喰いの能力なのだろうか。詳しくは判らないが……。


(ここで攻めても……いや、あかんやろ攻めるのは。須賀の舞台な訳やし)


 沈黙する二条泉。この戦いに下手に参画しては仕方がない。

 だけれどもその、当のオカルトスレイヤー様は碌に動いていない。ツモ切りが続いている。

 というか彼も、恐ろしく切る牌が並んでいる。それはオカルトスレイヤー本人の“特性”なのか、それとも――。

 泉も同等の並びになっている。だが、末原恭子はそれほどでもない。というのは考え過ぎか。


(『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』って言っても――、……味方の“特性”も分からへんとどうしようもないやん。孔子のバカ)


 その己というのは自軍という意味であり、いわんや味方も“己”の兵の内として数えられる。

 ついでに言うなら、孔子ではなく孫子であった。馬鹿は二条泉の方である。この絶妙の残念さ、M.A.R.S.ランキング97位は伊達ではなかった。

 とは言っても実力がないが故というよりは、実業団の試合がM.A.R.S.ランキングのレーティングに副っているものではない為。

 ランキングが上がらないのは必然である。あるが……。


(……あー)


 とりあえず形式テンパイとして、二条泉は場を収めた。

 だからこそ、彼女は次に驚愕する。


「――リーチ」


 彼女の下家、末原恭子からそんな宣言が入ったのだから。

 末原恭子――打ち筋としてはやはり二条泉と同系統。相手の能力が“あるもの”として対策を立てて戦うアナログプレイヤー。

 彼女自身に何かの“特性”があるかは知れない。しかし、強烈なオカルトを受けた際にそれを理解する程度の感受性はあるらしい。

 そんな彼女が……おそらくは泉よりも場を理解している末原恭子が、リーチを掛けた。

 泉としても、その意図を察せぬほど愚鈍ではない。



(これは……そうか、色んな状況を試して須賀に分析の機会を与える! って事か)


 須賀京太郎、M.A.R.S.ランキング一位――。

 彼が如何なる“特性”の持ち主であるか、やはり泉は知らぬが……。

 彼の打ち筋から判明している戦法というのはいくつか。


 一つ、『特定相手を狙い撃ちにする』。

 一つ、『誰かを自分の代わりに走らせる』。

 一つ、『不利な体勢からでも副露で加速して和了する。手数が多い』。

 一つ、『徹底的に回避する。回避しながら可能な限り攻撃を行い続ける』。

 一つ、『心理戦に長けている』。

 一つ、『事故以外でのラス率が低い』。

 一つ、『オーラスでの逆転が多い』。

 加えて――それらを総合して行う心理戦に長けているという話だ。

 恭子へのアドバイスなど、或いは船久保浩子の寸評に従うのなら彼もまた分析して戦う人間。

 ならば、ああ……確かに、半荘という僅かな間に少しでも分析材料を整えさせるべきであった。


(引き気味で行くって……そりゃ確かにそうやけど、あんま消極的でもあかんかったんやないか……!)


 泉は僅かに後悔を滲ませた。

 確かに彼女は、直接的に賭けに関わってこそいないが――同卓者としてこの場に参戦しているのである。

 ならば、決して軽い気持ちで戦って良い筈がなかった。



 そして結局――。



「聴牌や」

「テンパイ」

「……テンパイ」

「ノーテン」


 須賀京太郎を除くすべての人間が、手牌を晒す。

 その形は――


 二条泉: 一一萬 ④⑤⑥⑥⑦筒 234索 西西西

 末原恭子: 一二三六七八萬 ①①⑧⑧⑧筒 45索

 オカルト喰い: 五六七萬 66888索 東東東 中中


(……)


 一人だけ手牌を晒さず、3000点の罰符を払った須賀京太郎は静かに河を眺める。

 末原恭子がリーチ宣言の次巡目に切った『中』。

 少女が空切りをした『8索』。

 そして、並べられた牌を崩して中央の奈落に落とすその一瞬に――猛禽類が如き瞳で睨んだ、王牌。

 並びは――上が「一萬」「③筒」「6索」「7索」「白」「白」「白」。

 一方の下側が、「二萬」「発」「八萬」「八萬」「中」「八萬」「発」。


(……最低三つか、オカルト)


 あくまで現時点の推論でしかない――と、彼は瞳を閉じた。




 そして――オカルト喰いの少女、石見伊吹も同じく場を眺める。

 彼女がこれまで簒奪して積み上げた能力は『十』。

 その全てを組み合わせる事も、任意のいくつかのみを引き出す事も十二分に可能。

 今回用いたのはその内の『四つ』。仕様準備まで整えこそすれ、実際に行使しなかったものはまた別にある。

 彼女の能力の本質は『簒奪』と『分析』――。

 奪い取るべき相手の能力を理解したうえで、それを鹵獲し己のものとして自在に振り回す――それが彼女の“異能”。


 であるが故に、この局にて須賀京太郎の“特性”を彼女が分析するのは必然。

 そして、彼の持つ特性とは――“一割の確率で不要牌”を掴む事。

 最早こんなただの不運を、簒奪する必要はあるまい。行使の切欠は不必要。奪い、有利とするのも戦略の観点からはまるで無意味。

 しかしそれ以上に……。

 こんな能力を分析して、彼女が思った事は一つ。


(――嘘を、吐いてたんだ)


 須賀京太郎が告げたM.A.R.S.ランキング一位という言葉――かつては麻雀界の頂点に立ったという言葉。

 こんな、不運と呼ぶには特徴なく、幸運と呼ぶには差しさわりのある“特性”を抱えて頂きに至ったという事実。

 其処に存在しているのは、彼がよほどの努力を要したという事。或いは幸運に恵まれたか。

 どちらにしても彼は……最低、それらを手に入れるだけの――巡り合えるだけの、内なる情熱を持って麻雀に臨んでいたのだ。

 そう、彼は麻雀を愛していた。愛していたのだろう。

 だから違う。だから違う。だから違う。

 だから彼は自分とは違う。だから彼が自分に告げた言葉は違う。だから彼の人生は自分と違う。

 そう、だから――あの顔も。今までのも、自分が“知った”と思っていた彼は違うかも知れない。


 ――判らない。

 ――判らない。

 ――判らない。

 何もかも、判らない。



 故に彼女は躊躇った。

 東一局から能力の使用は可能であったし、実際使用していたが――攻撃するのを躊躇った。

 彼女の内では混乱が勝っていたのである。

 須賀京太郎が、あの禿げ頭に――天目譲司に突きつけた言葉、すなわち彼女を解放しろというその主張。

 そんな言葉が何故飛び出したのかも不明であるし、同じく、何故彼が己に手を差し伸べてくれようというのかも心当たりがない。

 そしてそんな挑発的な発言を天目譲司にしても許されるのも――恐ろしすぎて、考えたくない。

 一連の遣り取り、何もかもが少女の理解を超えてしまっていた。

 おとなしく救いの手を取るには、症状は虐げられ過ぎてしまっていたのだ。


 故に彼女は、須賀京太郎と戦う。

 この戦いが始まる前に、天目譲司に告げられた。“負けたらどうなるのか判ってンよな”――という言葉。

 知りもしない。どうなろうと構わない。ただ、あの耳障りな声でそう言われた瞬間に、心は従う事を選んでいた。

 それでも何とか一局。彼女は、力を使い切らなかった。

 それが後々何を呼ぶかを知りつつも――彼女は己の内の戸惑いに従って、力を振るい京太郎へと叩きつける事を躊躇した。

 だけれども、一局を打つうちに――打ち終わるうちに、今起きているこれが決して夢や幻ではないと、頭のどこかで理解する。

 並んで生まれたのは、諦観。

 何もかもが、己の手の及ばぬ処で始まっている。いつだってそうであるが、やはり彼女の運命はどこかの誰かの都合で齎される。

 今までそれは無力感であったのかも知れない。或いは、反骨心であったり、不幸を恨む心であったりしたのかも知れない。

 しかし最早、それすらもなかった。

 ただ実感したのだ。自分の人生の決定権は自分にはないと。自分が信じた事は、自分の理解を超えて押し寄せるのだと。結局は無意味なのだと。


(ああ……)


 そして、彼女の内に――彼女自身も気付かぬ内に芽生えた感情があった。

 それは、鷹揚に笑う須賀京太郎に対するものであった。

 それは、彼の元に駆けつけた彼の仲間に対するものであった。

 それは、彼女に理不尽と痛苦を与える天目譲司に対するものであった。

 それは、彼女自身についてであった。

 それは、運命についてであった。


(……)


 少女の――伊吹の目が、沈む。

 瞳に湛えられたのは泥。光の届かぬ、遥か海底の汚泥。

 心の内にへばり付き、こびり付き、決して拭い切る事の出来ない――深淵の沼。

という訳でここまで

流石にいつまでも少女や男では面倒なので、オカルト喰いは「石見伊吹」。スキンヘッドは「天目譲司」となりました
名前の由来が分かったらハワイにご招待するぜ!

>>810(訂正)
×
 他には――須賀京太郎に美味いところ援護を回せば、彼の上家にいる少女の手番を飛ばせる。結構それはいい。


 他には――須賀京太郎に美味いところ援護を回せば、彼の上家にいる少女の手番を飛ばせる。結構それはいい。


>>818(訂正)
×
 おとなしく救いの手を取るには、症状は虐げられ過ぎてしまっていたのだ。


 おとなしく救いの手を取るには、少女は余りに虐げられ過ぎてしまっていたのだ。

月480時間バイトしよう。そうすればきっと判る
というか賃金が500円だよこれ。ファックですね

ぼちぼち始めます。あと>>810の修正間違えてた




東一局


二条泉: 25000 +1000          =26000

末原恭子: 25000 -1000 +1000  =25000

石見伊吹: 25000 +1000        =26000

須賀京太郎: 25000 -3000      =22000


※供託:1000点




 東一局――一本場。ドラ:8索(表示牌:7索)。

 さっそく起こした兵牌を眺める二条泉は、


(……なんなんコレェ)


 肩を落とした。

 決め打ちをする訳ではないが、牌が配られた時点で「その手牌から目指せるベストは何か」――それを考えるのは無論する。

 それが、一局目と同じくあまり嬉しいものではない。

 いや、あまりなどという話ではなかった。


 東家・二条泉: 一一一七八萬 ③⑤⑦筒 499索 西中  ツモ:九萬


 やはり手成りで進めたら、リーチのみ手。刻子があるため裏ドラが乗ってさえくれたら大きくなるが……。

 それ以外は何の特徴もない手。ドラは乗らない。絡む対子があるのはまだ救いだろうか。

 そのまま、上目遣いで他の闘牌者を眺めるが――言うまでもなく皆、ポーカーフェイス。判別が付く筈がない。


(これがオカルト喰いのオカルト……言うなれば、『真っ直ぐ行ったらリーチのみ手にする』ってとこか……)


 勘弁してくれと、内心眉を寄せる二条泉。

 そんな彼女を一瞥、さらには他の卓に並ぶものを一瞥しただけの須賀京太郎は――


(『相手の役を「リーチのみ」にする』……そんな能力だな、これ)


 二条泉と同じ結論に至っていた。

 ただし彼はそれよりも、深い。より深度の上の部分までの把握をする。


(言うまでもなく、俺たち三人にそれが掛かってて――――オカルト喰いは他に『自分の手牌を決定する能力』も持ってるっぽいな)


 僅かな視線の移動から察する。相手は刻子・対子などの並んだ牌を所持しているという事実。

 更にそれは必然、役牌であるという事。


(衣さんも最初から役牌を持ってる事が多かったけど……同じだな)


 ただし、少女の場合は『牌の支配の一環』ではなく――それ自体が鹵獲した能力の一つかも知れないが。

 どちらにしても須賀京太郎は、二つの能力を看破していた。



 一つ目――。

 『同卓した他家の手をリーチのみ手にさせる事』。

 ドラも赤ドラも使用できない。タンヤオもチャンタも平和も役牌も三色も一気通貫も成立しない。

 おそらくは未確認であるが――ツモも不可能。相手からの出和了のみに絞られてしまう筈。

 無論、裏ドラも乗らない。乗る筈がない。

 京太郎の推測が正しければ、張り替えてタンヤオに寄せるなどという事も不可能――。

 副露すれば他の手に進める可能性は残されているが、今回の須賀京太郎に於いては殆ど可能性が低い。上家を抑えられているのだから。


 そして第二の能力――。

 これは実に単純。配牌時点で、役牌を既に刻子として己の手の内に所持している事である。

 その種類までは、現時点の彼を以ってしても推測は不可能であるが……。


(……で、俺の手牌がこれか)


 須賀京太郎・手牌:一二萬 ①①②⑧⑧筒 56索 南南西白


 やはりどう眺めたところで、ここから目指せる手というのは限られる。

 7索を引けば、ドラ側への張り替えも不可能ではないが……。

 それはある理由から否定された。


 石見伊吹・手牌: 三六九萬 ③⑤筒 777索 東東発発発


 そう、第三者から見れば一目瞭然である。7索は、ドラ表示牌と合わせて既に四枚――枯れていた。



(んで……能力候補が、あと2つか。ただの偶然かもしんねーけど)


 しかし――偶然などはない。

 地球に神はいるかも知れない。だが、“火星(M.A.R.S.)”に神はいない。

 そこに異能という必然があるのならば、偶然などというものの介在の余地は消え去るものであり――。

 勝負である以上、偶然というものの方向性というものは限られる。

 故に、祈らない。祈る事は思考を停止させる事と同義であった。


(……末原さんは)


 末原恭子・手牌: 四六八萬 ①②④⑨⑨⑨筒 112索 北  ツモ:⑥筒


 やはり同じく、ドラも他の役も絡まぬ手。

 直後に行われた打:北。その淀みない動作に託された意図を、京太郎は受け継いだ。

 即ち――毒見役としての末原恭子。相手の異能に逆らわぬ事で、それがどこまで及ぶのかを判別させるというもの。

 須賀京太郎に託す事を前提とした戦法。


(……)


 次、オカルト喰いの少女の手から切り出されたのは九萬――。手牌の内に何かが加わり、そして打ち出された。

 彼女の目線を読む京太郎は、「かなり向聴数が少ないもの」――と当たりを付けた。

 兵牌を眺める少女の目線、その内でまるで無頓着に受け流される部分が多い――「テンパイに近い」「完成した刻子が多い」の裏返し。どちらか、或いは両方。

 他には、と――。

 他人に“京太郎が観察している事”が判らぬように全体を視界に収めつつ、視野の個別自称それぞれを同時に掌握する周辺視。

 カメラ眼である人間の瞳を、敢えてピントを合わせず使う事で「複数対象」の「ただ何かが動いた事」だけを認知し認識する――そんな複眼的使用法。

 しかし……


(……痛ッ)


 彼の肉体から上がる警鐘。

 そんな技術を使う事は決して許さないという警告。

 須賀京太郎がプロの道を捨てる事になった直接原因。



 手元にある薬は二つ。

 須賀京太郎が、プロ時代に使用した技を使える回数は二回。

 火星に於ける戦いに参戦するに相応しいように肉体を整えられる回数はたったの二回である。

 切り時を間違えたのならば間違いなく――彼は敗北する。そんな二回だけのジョーカーカード。

 いや、ジョーカーカードというよりは……。

 平常なる人間であれば、それは使って漸く土俵に立てるだけというか細い武器であった。


(……んで、ツモはこっちか。ペンチャンが埋まったな)


 ツモ牌は三萬。

 打:西と進めて――手番が再び親である二条泉に戻る。

 その様を眺めつつ京太郎は、この場にいない存在を思った。

 言うまでもなく、こちら側の戦力として最も上とされているのは須賀京太郎。この戦いの要訣であるのは須賀京太郎。

 思えば今までそんな事は、なかった。

 あるとしたら――彼の直接の引退に繋がった、宮永咲・大星淡・小鍛治健夜との蜂王タイトル戦のみ。

 それも、初めから京太郎を頼りに戦った訳ではない。京太郎はあの時点では第一位ではない。

 全員が全員己の為に戦って、そして小鍛治健夜を倒さなければならない最大の敵として認識して、それを行うに足る適性を持ったのが須賀京太郎であったという話。

 彼だけが、あの“麻雀界を統べる群の王”を切り裂く武器を持っていたというだけの話。

 故にこうして、初めから最大戦力として戦う事はなかった。

 彼はいつも見上げて、それに追いつこうとしていたから。追いつこうと必死になっているだけだったから。

 決して負けられぬと誓うのはいつもの事であるが、それに第一位という栄冠が付くのなら――


(……照さん、あなたはずっとこんな気持ちだったのか?)


 どうしても考えるのは、彼が打ち勝つまで頂点で在り続けた女性の事。

 国内無敗。M.A.R.S.ランキングトップランカー。若手最強。破り得ぬ鉄壁。闇を裂く雷神。

 彼女が背負っていたものが、同じ立場を経る事でやっと実感として彼の内に芽生えていた。

 ……とはいっても彼はもう、元麻雀プロだが。

 どちらにしても負けられない――いや、人一人の人生以上のものが掛かっている以上、プロのその時よりも尚負けられない戦いだ。



 七順目まで経過――。


 二条泉・捨て牌: 西、 (白)、 中、 (北)、 (北)、 (1索)、 (北)

 末原恭子・捨て牌: 北、 (白)、 (9索)、 ①筒、 2索、 (【5】索)、 ⑥筒

 石見伊吹・捨て牌: 九萬、 (9索)、 (3索)、 (中)、 ⑤筒、 (④筒)、 ③筒

 須賀京太郎・捨て牌: 西、 (八萬)、 白、 (中)、 (1索)、 ⑧筒、 (九萬)


 ――そして迎えた八順目。


(何なんやこれ……ってとこに、このツモって)


 碌に手の内に牌が入らない状況からの、掴んだ赤ドラ【五】萬。

 うんざりする気持ちが強かった。場に萬子が高い。誰かしらの手牌の内で育って居ると考えていいが――。


(“オカルト喰い”の、結果から見たら一面子落とし――そうじゃなくてもあの⑤筒から切った嵌張落としが不安ってレベルやない)


 嵌張搭子を落とすという事は言うまでもなく、それよりも上位の――言うまでもなく優先度が高い搭子が存在するという事。

 それはリャンメン。或いはドラ絡み。或いは手役絡み。或いは繋がりやすい複合系。

 しかも、⑤筒からの打牌――つまり搭子は十分、面子の確定もほぼ行える。③筒と⑤筒は邪魔。

 邪魔なものを処分するなら、⑤筒という他家にとって活かしやすい(待ちにしやすい)ところからでなくて……という事。

 そうなると、碌に切られていない萬子は怖すぎる。


 二条泉・手牌: 一一一七八九萬 ③⑤⑥⑦筒 499索  ツモ:【五】萬


(――こんなんで勝負できるわけないやんかボケェ!)



 泉は憮然として、4索を叩きつけた。少女が手牌に3索を入れず、また逡巡なく切った事からそう判断したのだ。

 少なくとも、3索の周辺は安全であると――。

 果たして、


 石見伊吹・手牌: 三四五六七萬 777索 東東発発発


 ――実際のところそれは正解していた。


 二条泉も腐っても麻雀プロ。それも、典型的なアナログタイプ。他の仕草からの判断を行うのはそう難しい。

 問題はそこにオカルトが付き纏って来る事。

 であるからこそ、単純な読みが出来る程度で相手を上回る事は難しくなるのである。

 そしてその下家、末原恭子が山から牌を摘み取る。中指人差し指と、親指に掴まれた牌。

 泉と同じ4索が――河に叩きつけられた。


(……って、ツモ切り!? 今度はもうさっき張っとったんか……!?)


 驚愕の表情で恭子を見る泉であるが――当の恭子は至って涼しい顔。

 流石現役時代、あの激戦区の南大阪の――代表校となる姫松高校の大将を張っていただけある。

 プロとなってもその分析能力、またオールラウンダーな力は――言うなればポスト・オカルトスレイヤー。

 ……とは言っても正確には、恭子の方がその打ち方は長い。後発なのは須賀京太郎の方。

 尤も、単純に“豪運”や“異能”を持たない人間に至れて生きていける道はそれしかないのだが。


 そんな末原恭子の手牌は――


 末原恭子・手牌: 三四五六七八萬 ②④⑨⑨⑨筒 11索


 というもの。


 だがしかし、泉の驚愕はこれで収まらない。



「――カン」


 少女の発声。

 手の内に納まるとともに翻ったのは『発』。役牌の四枚目が、少女の手の内で輝きを放った。

 だが、それならばまだ泉は耐えられた。きっと耐えられた。

 これが平常な場なら、「リーチしとる奴がいるのにカンするとか何考えとるんや」と言っただろう。

 四枚目の役牌なら、それは相手が国士無双でも行っていない限りは完全なる安牌である。更に、場に北が枯れている。

 故に国士無双は不可能であり、発は完全安牌。

 リーチ者に対してのこのカンは何ら正当性も必然性もない打ち方。そう、常識で考えたのなら――余程の素人でない限りは行わない打ち方。

 だから――。

 そう、だから――。


 それが明確に異常だからこそ、泉は驚愕した。

 半ば予感は存在していた。明らかなる直感が、彼女の背筋を電撃の如く駆け巡った。

 そんな悪寒には覚えがある。これは――


 ドラ表示牌――白。

 ドラ――発。


(か、カンドラもろ乗りッ!?)


 そして、直後の少女の手によって彼女が憶えた虫の知らせは、確定する。

 誰がどう見ても明らかである。明らかであった。


「――リーチ」


 こちらも末原恭子と同じくツモ切りでリーチしたとあっては――。

 つまりは、『その前巡でテンパイして置きながら“敢えて”リーチを温存した』というのなら――。

 それは――、


(……これがコイツのオカルト!?)



 最低、リーチ役牌ドラ4にて跳満が確定。

 裏ドラ次第では、それ以上に跳ね上がる。

 これがオカルト喰い。

 『同卓した他家の手をリーチのみ手に』、一方の自分は『役牌を初めから囲い込み』、『カンドラをモロ乗せする』事で高打点を確保。

 正に、異能を持たぬ身からしたらイカサマでしかない。イカサマと言いたくなる。イカサマ以外の何なのだろう。

 これが人間と怪物の差。

 どこまでも埋められない――あまりにも大きすぎる差。

 常に実感していた。いつだって知っていた。心のどこかに根付いていた。

 だけど、こうも――誰かの命に等しいものが懸かっている状態で襲い来る異能は、なんと絶望的なのだろう。

 少女がその手で叩きつけた6索は宛ら、檻であった。柵であった。網であった。


(い、12000点でもデカイのに……もしこれが16000とかなったら……)


 さながら押し寄せる群。

 オカルト一つでさえも、異能を持たぬ身からしたら押し寄せる万の大群に等しいというのに――。

 それを複数持ち、さらには自在に組み合わせて、自由に振りかざせるというのは――。


(そんなん、リーチのみ手やと……リーチのみ手しか作れん状況で……逆転なんて――)


 ――まさに億に等しい。それほどまでの戦力差。


「……ふぃー」


 だが、忘れてはならない。

 その大群が常に戦い続ける、“軍神(マーズ)”の名を冠する戦場があった事を。

 そして、その中には――順列があったという事を。


「――俺が居るって事、忘れてないか?」


 そう――――その百に至る、幾多の軍勢が争う中の頂点が居たという事を。



「……ま、仕方ないよな」


 須賀京太郎・手牌: 一二三萬 ①②③【⑤】⑧筒 56索 南南南  ツモ:【⑤】筒


 奥歯を噛み締めている――その時には、須賀京太郎の眼球が小刻みに動き出していた。

 彼の内、作り変えられていた意識。

 己の肉体へと与えられる過負荷。特にその眼球への限度までの負担。神経が警告を鳴らし続ける/高らかに鳴らし上げる。

 合わせて自然と心拍数が跳ね上がり、鼓動の回数が調整される。鼓動に合わせて京太郎の思考が加速――――。

 眼球の筋肉が酷使される。コンマ数秒にも至らぬ間に全体視と注視を切り替えが繰り返され、相手の手元を睨む眼が絶え間なく動く。

 瞬きすらも惜しいと開かれた瞳。それは忙しなく小刻みに振動していた。超高速震動。

 全員――――そう、彼自身の手牌も含めて全員の兵牌とその仕種を寸断し/分解し/切断する思考の“大剣”。

 さながらサイエンス・フィクションに登場するタキオンの如く――血流が/電流が/思考が、加速する――――“擬似神経加速”。


 可能性――①:末原恭子が掴んでしまう牌。

 対策――副露による手番の変更/或いは一つ。

 現状――対処不能。

 回答――、


「……って事は、これか」


 ――切り出された③筒。

 一瞥したのち、末原恭子は静かに牌を倒す。彼女としても、リーチ。それは和了しなければならない牌。

 途中、槓を挟んでしまった為に一発が消えたその点数はリーチのみ――50符1役は1600点。一本場で1900点。

 削られたのは、須賀京太郎=オカルトスレイヤー。



===============
 東一局一本場
===============

二条泉: 26000 ±0             =26000

末原恭子: 25000 +1900 +1000  =27900

石見伊吹: 26000 -1000         =25000

須賀京太郎: 22000 -1900       =20100


※供託:1000点



(これで……残り一発か)


 局が終わり、牌が奈落に呑まれるその間に――京太郎は薬を使用した。

 こんな事なら、冷却ジェルのあるシートの類いでも持って来ればよかったなと嘆息。

 二回しか使えない切り札を、東一局で使用。

 結果は失点。

 リーチのみしか使えない場に於いての1600点はそれなりの傷――少なくとも一度は和了してもマイナスを取り戻す以上の意味がないのだから。

 ただし、


(今のでいくつか分かった……って思えば、あんま悪くはないよな)


 彼の表情はそう、昏くはない。少なくとも敗北を確信してはおらず、勝利を断念してはいない。

 乱暴に倒された兵牌が中央の奈落に呑まれた。一瞬交わされた視線。末原恭子と、二条泉。

 特に泉は――彼女は、まさに絶望の淵のような表情をしている。

 末原恭子は読めない。少なくとも彼女は、このオカルトの攻勢を前には諦めてはいないのだ。ならばまだ、京太郎にもやりようはある。


 なお――スポーツをするものが、例えば一瞬のボールの動きや相手の拳を見切るような極限の集中に至った京太郎は、抜け目なく王牌を見た。

 京太郎、彼自身が便宜上“擬似神経加速”などという大層な名を付けているが――(なお命名は彼の大学時代からの先輩でありチームメイト。12位)――。

 行っている事は、スポーツ選手や将棋の棋士、或いは事故に遭って走馬灯が巡るという――それとさして違いはない。

 故に、彼は一瞬を見逃さない。


 並びは――上が「6索」「6索」「7索」「白」「2索」「西」「南」。

 同じくその下は、「8索」「九萬」「2索」「中」「西」「2索」「⑧筒」。


(……ああ、大丈夫だよな。負けるかよ、オカルトに)


 待ってろ、憧――そう、小さく彼は微笑んだ。

超長い……これホンマにこのスレで終わるんやろうか
尚アコチャーは不安を押し殺しながら「おいしくなーれ」とお鍋を掻きまわしている模様

おやすみー

点数間違えた。末原さんごめんね
こ淡ケ。テルー不幸にします


>>839(訂正)
===============
 東一局一本場
===============

二条泉: 26000 ±0             =26000

末原恭子: 25000 +1900 +2000  =28900

石見伊吹: 26000 -1000         =25000

須賀京太郎: 22000 -1900       =20100

>>810(訂正)
×
 他には――須賀京太郎に美味いところ援護を回せば、彼の上家にいる少女の手番を飛ばせる。結構それはいい。


 他には――須賀京太郎に上手いところ援護を回せば、彼の上家にいる少女の手番を飛ばせる。結構それはいい。


>>813(訂正)
×
 ついでに言うなら、孔子ではなく孫子であった。馬鹿は二条泉の方である。この絶妙の残念さ、M.A.R.S.ランキング97位は伊達ではなかった。


 ついでに言うなら、孔子ではなく孫子であった。馬鹿は二条泉の方である。この絶妙の残念さ、M.A.R.S.ランキング98位は伊達ではなかった。


>>833(訂正)
×
 他人に“京太郎が観察している事”が判らぬように全体を視界に収めつつ、視野の個別自称それぞれを同時に掌握する周辺視。


 他人に“京太郎が観察している事”が判らぬように全体を視界に収めつつ、視野の個別事象それぞれを同時に掌握する周辺視。


実際訂正重点な
こ淡ケ

>>836(訂正・追記)
×
 そしてその下家、末原恭子が山から牌を摘み取る。中指人差し指と、親指に掴まれた牌。

 泉と同じ4索が――河に叩きつけられた。


(……って、ツモ切り!? 今度はもうさっき張っとったんか……!?)




 そしてその下家、末原恭子が山から牌を摘み取る。中指人差し指と、親指に掴まれた牌。

 泉と同じ4索が――河に叩きつけられた。


「リーチ」


(――って、ツモ切り!? 今度はもうさっき張っとったんか……!?)

こんな時間からだけど始めます

あー、三が日までに終わる気せぇへん

まあ、ここ2局で大体もう整ったからな。あとは早い
すまんな、今日はお休みで……書く側がタキオンエミュレートして山を並べなきゃあかんからな




 続く、東二局。

 そこで――二条泉の瞳に再び、翳りが挿した。


「――ポン」


 泉が捨てた、中。それを少女が副露した。


(――な、鳴けるんか!?)


 少女の持つ能力への対抗策として思いついたのは、無論副露。

 どうしたってリーチのみ手にしか至れない――それが三者全員というのならば、或いは副露してそれの順番を逸らしてみたのならば――。

 そう考えて、泉としても狙おうとしていた。機会があるなら、試してみるべきだと思っていた。

 だが、それを――能力の使用者から行うという事は、


(……鳴いてズラしても、どーしようもないっちゅう事か?)


 即ち、対策は不可能という事ではないだろうか。もしそれが弱点足り得るならば、己から実行する筈がない。

 だが、それもブラフではないのか。本当は弱点であるのに、敢えて己から切り込む事で『弱点ではない』と思わせる作戦ではないのか。

 しかし、そんな必要はあるのか。相手はオカルト喰い――強力なオカルト使いである。そこまで行うのか。

 だが、強力でないのなら。強力でないならそれを試す可能性も……。


(……って、こんな風に捕えられるのがアカン。アカン奴や)


 心の内で、頭を振って頭を冷やす。

 余計に悩んでも、そもそもからして情報を得られていないのだから判別が付かないのである。

 ならば結果を見定めてから結論を出すべき――それが最も正しい道筋。そう、改めて気持ちを切り替えに掛かる。



 そこでまた、入った。少女――オカルト喰いからの副露。


「――カン」


 大明槓――翻ったのは②筒。

 少女の手の内から、躍り出た②筒の刻子。泉の河を掬い上げる――。

 短くなった手牌。七枚。右側に寄せられた副露牌は、それぞれ真ん中だけが横倒しにされている。

 嶺上開花はならず。それも完備されてしまったら、何物も寄せ付けないほどの強度を手に入れてしまうだろう。

 泉にはその一瞬だけ、末原恭子の眉が細まった風に感じられた。


 そしてその二巡後――七巡目。


「――ツモ。東中ドラ4。3000・6000」


 南家・石見伊吹:七八萬 ④④筒 東東東  副露:中[中]中 ②②[②]②筒  ツモ:九萬

 石見息吹の和了。12000点の高火力。



===========
  東二局
===========

二条泉: 26000 -3000          =23000

末原恭子: 28900 -6000         =22900

石見伊吹: 25000 +12000        =37000

須賀京太郎: 20100 -3000       =17100





「どうしたぁ~~~、追い詰められてきたなぁ……?」


 醜悪な笑みを浮かべる、天目譲司。

 喜色満面。先ほどまで少女の背後で憮然としていた様からは想像できないほどの破顔。三日月形に口端を釣り上げて、歯を覗かせる。

 須賀京太郎と少女の点差、二万点。直撃だけを続けても、最低あと十回。それほどの攻撃を叩き込まなければならない。

 残りは六局。須賀京太郎の親番を二回残しているとしても、常識では考えられない数の和了を積み重ねる必要がある。

 麻雀の和了はおおよそ四回に一度できれば良い方と言われているのにも関わらず――だ。

 あの能力の本質はそこ。

 いわば匹夫の勇。たった一人で、大群に挑みかかるほどに途方もない闘い。果てが見えぬ、膨大過ぎる数との戦い。


「どうした、なぁ?」


 誰もが無言。少女も口を噤み、須賀京太郎はただ場を眺める。末原恭子に至っては一瞥すらしない。

 泉は正直、黙れと思った。戦いにすら参加していないのに、一人だけこうも得意げに振舞うとは――虫唾が走る。

 優勢に立ったとなった瞬間これだ。

 他人の力を笠に着るゴキブリ男――あの浅黒くテカった禿頭に、原人そっくりの顔。黒目がちの瞳は、見ようによっては正にゴキブリと思えなくもない。

 相手の能力に活路が見出せぬが故、なおそんな気に障る言動に対し彼女としても必要以上に苛立ってしまっていた。

 頼りの須賀京太郎は、沈黙を保つ。


 ――――夜が、来る。


(さて……このまま行けば予想が的中する形)


 先ほどのあの電光石火の振り込み――正確に言うなら差し込みであるが……。

 あれを見ても尚、立会人は彼の予想を覆さない。むしろより一層、己の予感への確信を高めていた。

 須賀京太郎しか、あれほど他人の手牌まで把握できる男しかいない。明らかにプレイヤーとしての格が違う。

 彼と同等の事は他に出来ない。故に勝率は大きく削られる。

 或いは彼のかつてのタッグパートナー――小走やえがこの場にさえいれば変わったかも知れないが、そんな未来はない。

ここまで

麻雀に入ってない【東京雀種 : re】のとこだけで二百ウン十KB行ってて吹いた
改行分削るとしても大体ラノベ1冊くらいですかね。たまげたなぁ……

2000あたりから始めます
もうこのスレに収める事を諦めつつある

お待たせ

wikiをまとめ直してて思ったけど、連綿と積み重なったアコチャーのヒロインオーラしゅごい




 ――東三局。


 例えば、の話である。

 例えば、切り札を持っていたとして――その切り札を切る場面はどこであろうか。

 一つは、『切らなければ負けてしまう場面』。

 一つは、『切らなければ勝てない場面』。

 そして残る一つは――『そのタイミングでの使用が最も適切な場面』。


 麻雀には親番がある。

 親番に掴む事が出来る点数は、おおよそ子の時点での五割増し。打撃力は上昇する。

 対して、親番では誰かがツモ和了した場合の支払いが倍になる。そんなリスクがある。

 そして、親番なら勝利し続ける限りいくらでも続ける事が出来る。

 麻雀の半荘は八局であるというのに、その時計の針を進める事なく、終末への導火線を縮める事なく戦い続ける事が出来る。

 ならば――。

 もしも、オカルト喰いの能力が未だに控えているとしたのなら。するのならば。

 先ほどまでの場面というのは言わば小手調べや準備運動であって、本番になるのは彼女の親番を於いて他ならない。

 これまでの攻撃というのはあくまでも、威力偵察以上の意味を持たないのではないだろうか。


(……一体、今までどんだけ“奪って”きたんや、コイツ)


 二条泉は体を固くした。

 彼女の推測が的中しているのなら――ここからは闇の時間だ。

 魍魎が跋扈し、魑魅が咲き乱れる逢魔ヶ刻。夜明けまでは遥かに遠い、耐え凌ぐ事しかできない闇の帳。

 そう――絶望の闇が訪れる。


「……」


 ――――夜が、来る。



 ドラ:西(表示牌)


 石見伊吹・手牌: 一四七萬 ⑤⑦⑨ 西 発発白白中中   ツモ:⑧筒

 打、一萬。


「……」


 同じ頃、伊吹は考えていた。

 そもそも――ここで京太郎や泉、恭子に思い違いがあるとしたら。

 今まで少女は、全力で能力を使用した事がなかったという事。

 それは強者故の余裕――――などではなかった。

 単純に彼女が心優しく、それ以上に他者を蹂躙する事に――それに伴って己の心の内で膨れ上がる暗部を恐れていたから。

 故に少女は、その全ての異能を同時に使用した事はない。

 だから、彼女自身もそれを行うとどうなるのか、知らなかった。


 だけれども、今。


(……早く、終わらせよう)


 少女は、ある考えに取り憑かれていた。

 それはある種は優しさであったのかも知れない。

 対戦者の苦痛を長引かせぬ為に、速やかに決着を付けようとしたのかも知れない。

 それはある種の傲慢であったのかも知れない。

 彼女の気持ち一つで痛苦を和らげる事も他人の命を奪い去る事も出来る全能感は、ただの傲慢であったのかも知れない。

 それはある種の自己保身だったのかも知れない。

 これ以上この戦いを続けて会話が行われて、天目の機嫌を損なう事があったのならその後どうなるのか判らない。

 彼女に出来るのはただ静かに、出来る限り男の顔色を窺いつつも付けいれられる隙を持たぬ事。


 しかしそれ以上には――やはり諦観。

 もう何もかもから目を背けたいというそんな気持ち。

 これ以上、こんな風に戦いを続ける事自体に少女が耐えられなかったから。



 少女は――複数の能力を発動させた。

 今までかつて、使用した事がない規模の軍勢。全力を以って、獲物を殺害に至る幾重もの戦陣。


「おいおい、いつまで優しくやってんだ? なあ」


 ――煩い。

 伊吹は、唇を噛んだ。ゴキブリの羽音のように耳障りなその声に、心の中で眦を吊り上げた。

 言われなくて、やっている。


「さっさと踏みにじってやれよ。そいつの武器を使ってよぉ」


 ――煩い。

 伊吹は歯を噛み締めた。何も知らない癖にいい気になって指令を下す男に虫唾が走る。

 須賀京太郎に武器なんてない。ただの人間で、そして、奪ったところでどうにもならないだけの“特性”がある。

 寧ろそれを奪ったなら、須賀京太郎を有利にしてしまうだけの枷。


「魔法喰い、だったよな。……確か別の名前」


 そんな中、須賀京太郎が呟くように漏らした。

 世間話をするように実に気軽に、清涼とした声を響かせた。

 彼には何の重荷も障害も無いように――ただ只管に、緊張のない声色。

 顔にも自然とした笑顔が浮かんでいる。それは、あの公園で伊吹に向けていたものと遜色ないもの。


 ――――だからこそ。


「どういう原理で食べてるのか解らないけど……もう一個、喰って貰うぜ」


 ――――だからこそ、それは。


「俺の魔法もな」


 本当に、タコスでも差し出すみたいに実に自然に笑う。何の衒いもなく、普通の笑顔で。

 それは余りにも不釣り合いで。この場には合ってなくて。

 そこには――少女が彼から与えられていた“人間で居られる時間”と、こんな風に人扱いされずに一つの道具として見做される時間の区切りも無くて。


「魔法?」

「ああ」


 天目譲司の問いかけに、やはり彼は快濶とした笑みで応じる。

 その姿には、何の翳りもない。与えられている危機など、ものともしないように。

 その後、彼は口を開いた。


「――笑顔の魔法だ」


 ――――そう。

 ――――だからこそ、不快だった。



 ギリ、と歯を食い縛る。

 少女の内の照準が、須賀京太郎に向けられる。


「はは、確かにな。俺をこうして笑顔にしてくれたもんな」

「てめーじゃねえよ。……息が臭いんだよ。喋るな、ゴキブリ野郎」


 冷酷な侮蔑を孕んだ京太郎の目に、天目は眉を上げた。

 唇が、無意識に震えるそれは天目が癇癪を起す兆候である。

 知ってか知らずか、彼は挑発している。天目譲司を怒らせているのだ。

 ――五月蠅い。

 うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。


(……)


 能力が切り替わった。

 分かりやすい攻撃ではない。察知されてしまう攻撃ではない。

 実に単純に――殺しにかかる一撃。


「……」


 石見伊吹・手牌: 四七萬 ⑤⑦⑧⑨筒 西 発発白白中中  ツモ:⑥筒  打:西


「……」


 石見伊吹・手牌: 四七萬 ⑤⑥⑦⑧⑨筒 発発白白中中  ツモ:⑤筒  打:⑤筒(空切り)


「……」


 石見伊吹・手牌: 四七萬 ⑤⑥⑦⑧⑨筒 発発白白中中  ツモ:発  打:七萬



 ――能力:『他家の手を役が不成立な牌の構成にする』。

 ――能力:『三元牌の対子を手中に居れる』。

 ――能力:『絶一門にする事で以後のツモを一色に絞る』。

 ――能力:『最終形を多面待ちにする』。

 ――能力:『他家の手牌と次ツモの内から不要牌を察知する』。

 ――能力:『他家に客風を三巡目押し付ける』。

>>869(訂正)
×
 ――能力:『他家に客風を三巡目押し付ける』。


 ――能力:『他家に客風を三巡押し付ける』。



 伊吹は不要牌を察知する能力と――『他家が聴牌したときに聴牌する能力』を同時に使用。

 それによって、己以外が未だにテンパイに至らぬ事を知る。

 故に狙う。須賀京太郎は、未だ勝利には程遠い。


「……」


 だが、誰かが聴牌したからどうだというのだろうか。

 彼女は知っている。

 『他家の手を役が不成立な牌の構成にする』という事は要するに、リーチを掛けなければ和了できない手にするという事である。

 つまり、どうしようもないのだ。ダマテンで彼女を殺す事は不可能。そもそもダマテンなどというものがないのだから。

 故に、リーチを掛けてないこの状況――能力などなくても、誰もが彼女を攻撃する事が不可能と識るのは必然。

 そうして、これまでの撒き餌。

 ――『槓をしたその牌がドラとなる』能力。

 逆に言うなら、少女がカンをするまでは安全である――と他家に思わせる事となる。

 そして作り出した高打点はそれ。そんなドラ爆に役牌を絡めただけで、攻撃した。

 他に役が作れないと思わせるには、あまりにも十分。


 そんな間に練りあがったのは――


 石見伊吹・手牌:⑤⑥⑦⑧⑨筒 発発発白白白中中


 ――混一色・小三元・発・白。


(これで……18000点)


 多面待ちとなる能力は途中で打ち切った。フリテンとなってしまって須賀京太郎を狙えぬ事こそが恐ろしい。

 あとは静かにこの攻撃で、ただ息の根を止めるだけ。

 そうして彼女は静かに――これまでと同じく、感情を殺した目で須賀京太郎を見る。

 ④筒は不要牌。彼としてもそれを切るというのは――分かっている。



 だが――


(④筒、切らない……!?)


 須賀京太郎はその手牌の内にて、少女の和了牌を買い殺していた。


 須賀京太郎・手牌:一一七八九萬 ④⑥⑦⑧筒 2399索  ツモ:9索 打:9索


 そのまま少女も、何の役にも立たないツモ切りを続けた。

 不敵に笑うのは須賀京太郎。どこまでも余裕に満ち溢れたその笑顔が、少女を苛立たせる。

 その笑みに安心を抱いていた。だからこそ――こんな場面で、少女が人間で居られる場面以外で、不釣り合いな場面でされると何故だか心が騒ぐ。

 しかし、気にしない。どこまでも彼はただ、平然としている。


「孫子に曰く――」


 石見伊吹・捨て牌: 一萬、 西、 ⑤筒、 四萬、 (東)、 七萬、 (7索)、 (①筒)、 (三萬)、 (8索)

 須賀京太郎・捨て牌: 北、 6索、 西、 (南)、 (中)、 (【五】萬)、 (②筒)、 (東)、 八萬、 9索

 二条泉・捨て牌: 9索、 南、 北、 (西)、 (⑧筒)、 7索、 (中)、 (東)、 (⑥筒)、 八萬

 末原恭子: 南、 西、 三萬、 (北)、 (東)、 (【5索】)、 ②筒、 (九萬)、 ⑨筒

 
「――『怒らせてこれを乱せ』ってな」


 口角を吊り上げる須賀京太郎に呼応するように、少女の感覚がある危険を知らせた。

 二条泉が――テンパイしたのである。

 となれば近いうち、誰かから彼女の和了牌が零れ出る。それがルール。

 彼女自身は決してツモる事は出来ないが、誰かしらから零れ落ちる手はずになっているが……だが、


「……」


 二条泉・手牌:二二四五六九九萬 ①①①②筒 34索  ツモ:二萬


 だがしかし、彼女はテンパイしてもリーチを掛けなかった。

 そのまま、河に②筒を並べて静観する。




 少女の和了を潰すのは単純。誰かが和了すればいい。

 やられたという思いがあったが――しかし、一先ずは繋ぎ止められた。リーチをしなければ和了ができないから。

 だとしても、何故という思いが勝る。

 何故、リーチを掛けなかったのだ。


「なるほど、確かに完璧な能力って奴だな……これ」


 続く末原恭子。

 彼女も遅れながら――泉に続いて聴牌。少女の内に取り込んだ能力が、警鐘を鳴らす。

 『誰かが聴牌したのならば聴牌する』――今回はまさに不要であったが、このように危険察知としても使える。

 事実それを利用して少女は――相手の引いた牌や或いはその手の内の牌を――『不要牌を知る能力』を以って、一発攻撃を上乗せする――――。

 そんな攻撃をも、有していた。

 攻撃にも、加速にも、防御にも使える能力――であるからこそ他の能力と組み合わさり、少女からの直撃は殆ど不可能となる。

 だけれども、


「……どうした? 親の番やで?」


 末原恭子・手牌: 六七八萬 ②③④⑦⑧⑨筒 1188索


 ツモ1索からの打、2索と繋げた彼女がリーチ宣言を行わないのはまた、不可解であった。

 伊吹もツモ。③筒。舌打ちを押し殺して、⑨筒を落とした。嵌張④筒への張り替えである。

 未だに彼女は――可能な範囲に於いて――絶一門状態から同色を集める特性を有している。

 最早絶一門どころか、絶二門――というより単色と字牌しか所持しない状態ではあるが、退いてこれるのならば張り替えてツモに向かえばいい。

 そんな少女を尻目に須賀京太郎は、掴んできた2索を落とした。無論、リーチしていない泉がそれに反応する故もない。


 そして、泉のツモ――聴牌しているが為、それが彼女の手の内に入る筈がないというのは知れている。

 加えて少女の能力。『不要牌察知』によればそれは――1索。

 その牌が静かに、彼女の内に眠った。張り替えられて、4索が河に躍り出る。

>>874(訂正)
×
「孫子に曰く――」


 石見伊吹・捨て牌: 一萬、 西、 ⑤筒、 四萬、 (東)、 七萬、 (7索)、 (①筒)、 (三萬)、 (8索)

 須賀京太郎・捨て牌: 北、 6索、 西、 (南)、 (中)、 (【五】萬)、 (②筒)、 (東)、 八萬、 9索

 二条泉・捨て牌: 9索、 南、 北、 (西)、 (⑧筒)、 7索、 (中)、 (東)、 (⑥筒)、 八萬

 末原恭子: 南、 西、 三萬、 (北)、 (東)、 (【5索】)、 ②筒、 (九萬)、 ⑨筒

 
「――『怒らせてこれを乱せ』ってな」




「孫子に曰く――」


 石見伊吹・捨て牌: 一萬、 西、 ⑤筒、 四萬、 (東)、 七萬、 (7索)、 (①筒)、 (三萬)、 (8索)

 須賀京太郎・捨て牌: 北、 6索、 西、 (南)、 (中)、 (【五】萬)、 (②筒)、 (東)、 八萬、 9索

 二条泉・捨て牌: 9索、 南、 北、 (西)、 (⑧筒)、 7索、 (中)、 (東)、 (⑥筒)

 末原恭子・捨て牌: 南、 西、 三萬、 (北)、 (東)、 (【5索】)、 ②筒、 (九萬)、 ⑨筒

 
「――『怒らせてこれを乱せ』ってな」





 末原恭子のツモは2索。そのままツモ切り。

 無論、泉からの和了の声は上がらず。上がる筈がなかった。リーチをしなければ和了できないのだから必然。

 ――そして、十二巡目。


 石見伊吹・手牌: ⑤⑥⑦⑧⑨筒 発発発白白白中中  ツモ:北

 石見伊吹・捨て牌: 一萬、 西、 ⑤筒、 四萬、 (東)、 七萬、 (7索)、 (①筒)、 (三萬)、 (8索)、 ⑨筒


 須賀京太郎・手牌: 一一七八九萬 ④⑥⑦⑧筒 2399索

 須賀京太郎・捨て牌: 北、 6索、 西、 (南)、 (中)、 (【五】萬)、 (②筒)、 (東)、 八萬、 9索、 (2索)


 二条泉・手牌: 二二二四五六九九萬 ①①①筒 13索

 二条泉・捨て牌: 9索、 南、 北、 (西)、 (⑧筒)、 7索、 (中)、 (東)、 (⑥筒)、 ②筒、 4索


 末原恭子・手牌: 六七八萬 ②③④⑦⑧⑨筒 1188索

 末原恭子・捨て牌: 南、 西、 三萬、 (北)、 (東)、 (【5索】)、 ②筒、 (九萬)、 ⑨筒、 2索、 (2索)


(……ッ)


 舌打ちを殺しつつの打牌。ツモ切りの北。

 続く須賀京太郎は、手出しの9索。伊吹の感覚が告げる須賀京太郎の不要牌は――『④筒』と『9索』。

 9索を捨ててなければ彼は聴牌していたという意味。つまりは、④筒が明らかなる危険牌と見切っての打牌である。

 須賀京太郎からの直撃を狙うのは不可能と考えた方が、もう良いだろう。

 続く二条泉は、【⑤】筒を切り落とした。

 ドラも赤ドラも裏ドラも使用不可能となる、伊吹の持つ特性――それに由来した無駄ヅモ。

 末原恭子も、ツモ切りの⑨筒。巡目は十三巡目へと突入する。

 そう――十三巡目へと。



 伊吹のツモは③筒。

 逡巡した――――これで打⑤筒や打⑧筒として張り替えた場合、山に眠る牌はどうなるか。

 神ならぬ彼女が知るのは、④筒が一枚須賀京太郎の手牌に入っている事と、場に中が枯れている事。

 ③筒に張り替えたなら、和了牌は最大二枚。大三元にはならない、片側のシャンポン待ち。

 しかしこのままなら、嵌④筒で――最大三枚。果たして、どちらを優先すべきか。

 だが、今なら――同色を引いてくる特性があるのならば。ツモ和了でもいいならば……。

 打:⑧筒からの、シャンポン③筒待ちで……三暗刻も上乗せして、差を圧倒的にするべきではないのか。


(……なら、こっち)


 少女は――オカルトを鹵獲し、それを組み合わせ改修し、自在に使役する少女はここにきて悩んだ。

 ある意味それは、麻雀を打たされるのではなく打つ行為であったかも知れない。

 局の途中でも他人の異能を奪える分、少女は特に勝利の必要がなかった。麻雀の腕は必要なかった。己で最大限思考する必要はなかった。

 強力な異能や強力な特性を奪い、あとは混乱する相手を尻目に平然としていればいいのだから。

 であるが故に彼女は悩み……そして、判断を下した。彼女は、嵌④筒を優先した。

 彼女から知れている和了数が多い。それだけでよかった。

 それは――まだ彼女が持つ、鹵獲したオカルトに由来するのかもしれない。


 そして、驚愕した。


(――不要牌が、なくなった)


 須賀京太郎の内から、不要牌の気配が消えたのである。

 それが意味する事は、ただの一つしかない。

 並んで、繰り出された9索。刻子落としである三枚目。能力など使わなくても、彼が望む手に張り返したと判る打牌。



 それに続く、驚愕。

 彼女は知らない。人間の強さを――――。


「そやな、んならこっちかな。――んでリーチ」


 切り出されたのは1索。少女の内に浮かんだのは――『不要牌:【⑤】筒』と『不要牌:3索』。

 尚も彼女を驚かせたのは、泉がリーチ宣言をした事である。

 余りにも臭う――あまりにも強烈に少女の感覚を打つブラフ。偽のリーチ。

 リーチというのは言わば警鐘である。迂闊にそのまま進めば危険である、或いは近付きたくないと思わせる警告。

 二条泉は、手牌を倒して――――打つものが見れば一目で理解できるような、そんな臭うリーチを行ったのである。この場に於いて。

 当然、裏の麻雀にある程度腰を据えていた天目譲司は、


「お、おい!」


 そう、気色ばんだ。

 だけれども、泉はどこ吹く風と笑う。


「なんやねん。まさか、局の途中で手牌晒せってか? そらいくらなんでも無理な相談やんか」


 歯ぎしりをする天目が、立会人を見る。

 顎に手を当てる、時代遅れな不良めいた立会人はうっすらと片頬を上げているが、


「……失礼、しかしチョンボの罰則しか用意されてませんので」


 局が終われば、そこで分かるだろうと冷笑で返す。事実彼の言うとおり、『ノーテンリーチをしてはならない』『チョンボをしてはならない』という罰則はない。

 まさか、そんな事を――つい以前までプロで打っていた連中や或いはプロの人間が行うとは天目も考えていなかった。

 寧ろ、彼が同卓するとしたら……彼自身が使う事の方があり得るが故に、その部分は見逃していたのだ。

 となれば、立会人の胸三寸。ルールに記載されていない事を如何に判断するかは、そのジャッジに託されている。

 そして天目には不運な事に――


(さて……)


 この立会人は、立会人の領分を侵さぬ範囲での愉しみを探す男であった。


 そう、これで誰も和了しなければ、二条泉がチョンボを晒すだけ。

 その横たえられた1索が、彼女の待遇と同じくなる。打ち抜かれた鳥の如く、内臓をブチ撒けるだけ。

 泉は98位である。

 豪運を持たない。異能を持たない。ただの哺乳類である。
 
 しかし――彼女は、麻雀プロだった。

 だからこそ、だけれども彼女は決断した。ただ一つの事を決断した。それは決して勝算がない事ではなかった。


(はは……なんか、リー棒差し出す手があっつぅ)


 自然と引き攣ってしまう頬と、どこまでも熱い指先。

 その先に見えるのは――――人類の到達点、須賀京太郎。


「ああ、その鳥……倒さんでもええで。一発消しか、これ」


 その間、横合いから射し込まれた声。末原恭子が、倒れる鳥を抱き上げた。

 手牌から踊り出る二匹の鳥。代わりに河へと放たれたのは――閉じられた門がごとき、8索。

 少女が知った不要牌は――ナシ。わざわざただ、聴牌を崩しての副露。和了する見込みが消えるだけの副露。

 続く彼女のツモは、白。

 槓をしたところでドラが乗る筈がないと……理解している、無意味な白である。

 そして果たして――


「……お待たせ、ってな」


 続く須賀京太郎が、リーチ宣言。

 切られたのは7索。一房だけが赤い竹は、その下との区別を表している風である。

 そう――宛ら、突き刺さり岩に埋められた聖剣の柄の如く。

 



 十四巡目――。



 石見伊吹・手牌: ⑤⑥⑦⑧⑨筒 発発発白白白中中

 石見伊吹・捨て牌: 一萬、 西、 ⑤筒、 四萬、 (東)、 七萬、 (7索)、 (①筒)、 (三萬)、 (8索)、 ⑨筒、 (北)、 ③筒、 (白)


 須賀京太郎・手牌: 一一一七八九萬 ④④⑥⑦⑧筒 23索

 須賀京太郎・捨て牌: 北、 6索、 西、 (南)、 (中)、 (【五】萬)、 (②筒)、 (東)、 八萬、 9索、 (2索)、 9索、 9索、 《7索》


 二条泉・手牌: 二二二四五六九九萬 ①①①【⑤】筒 3索

 二条泉・捨て牌: 9索、 南、 北、 (西)、 (⑧筒)、 7索、 (中)、 (東)、 (⑥筒)、 ②筒、 4索、 (【⑤】筒)、 [《1索》]


 末原恭子・手牌: 六七八萬 ②③④⑦⑧⑨筒 8索   副露:[1]11索

 末原恭子・捨て牌: 南、 西、 三萬、 (北)、 (東)、 (【5索】)、 ②筒、 (九萬)、 ⑨筒、 2索、 (2索)、 ⑨筒、 8索


 ※(ツモ切り)、[副露]、《リーチ》



 時にオカルト使いというのは、幻視する。

 自分自身のオカルトの帰結であったり、或いは他人のオカルトの影響であったり――。

 あたかもガンマンが如く、互いの手に銃を携えて一歩一歩距離を詰める幻影であったり――。

 或いは、己の身に溜めこんだ力を爆発しようとしているその時に、導火線を切られたり――。

 そんな、イメージを抱く。

 故に、少女も見た。ある幻影を――。


 一役でしか取り返せぬ状況に対する高火力――点差は、宛ら幾多数多の大群。

 対する人間はただ一人。

 何の異能も纏わぬが故の生身。ただ、その場におもむろに立ちすくむだけの青年。

 そこへと迫る、影。

 掴み取った危険牌は、瀕死への攻撃。一撃でさえ受けたのなら、容易く人体を破断しその命を奪う――必殺の拳。

 青年は、それを掴んだ。

 その瞬間は言うなら、即死の一歩手前。抹殺せしめんと暴力滾る拳が、青年の頬に触れて――。


 ――――だがしかし、回避された。


 あまつさえそれを利用した青年が、攻め手を切り刻む。身の丈ほどの大剣が、抜き取られた聖剣が仇敵を断つ。

 そのままでは、終わらぬ。

 時に流し、時に裁き、時に躱し――襲い掛かる数多の軍勢に、その影を踏ませる事すら許さない。

 寛容な笑い。窮地を窮地とも思わぬほどの微笑で、時に攻めあぐねる――或いは攻め寄せる群の内でも、その身はしなやかに仁王立ち。

 そして、跳んだ。

 振りかざされた高周波の剣が――人類に許された、人類固有の武器が――、


「――――そのカン、必要ないぜ」


 ――一人では到底倒しきれぬほどの群れを、蹴散らした。


「リーチ一発槍槓――40符3役は5200」




===========
  東三局
===========

二条泉: 23000 -1000          =22000

末原恭子: 22900 -5200         =17700

石見伊吹: 37000 ±0            =37000

須賀京太郎: 17100 +6200       =23300

ほい、という訳でここまで
きっとこのスレで終わるというか終わらなかったら次スレ行くからもうしゃーない

今のところ明らかになってるオカルトは以下


①『他家の手を役が不成立な牌の構成にする』(ドラも使用不可能)。
②『三元牌の対子を手中に居れる』。
③『絶一門にする事で以後のツモを一色に絞る』。
④『最終形を多面待ちにする』。
⑤『他家の手牌と次ツモの内から不要牌を察知する』。
⑥『他家が聴牌したときに聴牌する』(上と組み合わせてリーチ一発ロンをする)。
⑦『他家に客風を三巡目押し付ける』。
⑧『槓をした牌が次の槓ドラとなる』。
⑨『必ず配牌で手牌に役牌が入る』。
⑩???

おやすみー

おはよ大星

ちょっとだけ進めます。切り良く東場が終わればね




 須賀京太郎が、1索を明槓した末原恭子に一発を叩き込んだ後の東四局。

 須賀京太郎の親番。半荘一度の勝負の――言わば半分。


(……ふう、心理戦の経験は薄いか?)


 それとも或いはこの状況が、今まで少女が体験した事のない状況であるからかも知れない。

 能力の複数限界使用。或いは、明らかに激昂する取立人。或いは、手を差し伸べる人間。或いは――。

 兎に角彼としても、細かくは知りようがない。

 だとしても、少女の心の振れ幅をある程度は認識が可能となっていた。

 ひょっとしたらそれは、彼がこれまで人間関係で培ったが故なのかもしれない。

 無表情そうに見えて、内心色々考えている人間は居た。

 であるが故に京太郎は、感じ取ったそれを突いた。少女を的確に怒らせた。


 能力が強力な人間というのは、得てしてそんな兆候にある。何故なら――強いが故に、ポーカーフェイスなどという技術を磨く必要がないのだ。

 ましてやそれがプロでないなら猶更。

 プロの人間は年間何百何千と局を渡るが故に――その内で無敗の人間が極めていない故に――どうしても、己を高めようと自然とそれらを学ぶ。

 だが、少女は素人だ。

 確かに透明の瞳を持っていると京太郎が彼自身以前評したが――それだって、今までと違う色さえ入れてしまえばいい。


(おかげで“目”は温存できたけどな……さて)


 先ほどの、少女が必要とする牌を囲い殺したのはそれに由来した。

 京太郎へと向けられた殺意の瞳――――それもある程度の確信を抱いた必殺の目は、必然としてある結論を導き出した。

 須賀京太郎が、“ある牌を切ると知っていたから”――だからこそ“必殺”を決意したのである。

 翻ればそれは、普通ならば切る牌。切らぬ牌を切れば、やり過ごせる攻撃であった。

 そこから張り直したのは、偶然ではない。彼の中での計算に基づく核心であった。その後の攻撃も含めて。


(それにしたって、なんだこの数のオカルト……多過ぎだろっ)


 先ほどの一局で、その概要だけの把握となるが――繰り出された数多くの“異能”。

 どこまでが一つの能力で、どこからが別の能力なのかの想像もつかない複数の攻撃。同時多発的に襲い掛かる追撃の嵐。

 夢乃マホでさえも二つの組み合わせであった為、その恐ろしさは察して然るべき――尤も、彼女は組み合わせる一つ一つが余計に凶悪であったが。

 ……話が逸れた。


(まぁ、まだ慌てる時間じゃない。……人間、ナメんなよ)


 布石は打った、と京太郎は目を細めたが――。


 ――――直ぐには終わらぬからこそ、夜。



「……ッ」


 須賀京太郎・手牌: 二四五七萬 ①②④筒 123999索


(おいおい、マジかよ……っ)


 須賀京太郎・捨て牌: (⑨筒)、 (北)、 (西)、 (東)、 (一萬)、 (発)、 (⑧筒)、 (南)、 (【5】索)


 一切が動かぬ――ただ繰り返されるだけのツモ切り。

 圧迫感や閉塞感としては、M.A.R.S.ランキング第六位“国産戦闘鬼”天江衣の『一向聴地獄』に並ぶ。

 確実なる異常事態。尋常ではない超常現象。

 奥歯を噛み締めようとしたそこで、停止。残りの使用回数は一回。ここで使うべきではない。

 そして彼は、場を改めて流れる。瞬時瞬時に把握はしているが――それでも。


「……っ」


 二条泉・捨て牌: (8索)、 (北)、 (東)、 (西)、 (南)、 (7索)、 (発)、 (8索)


「……」


 末原恭子・捨て牌: (南)、 (北)、 (西)、 (9索)、 (発)、 (1索)、 (東)、 (1索)


 凪と呼ぶべきか。

 一切に動きがないこの状況をなんと表現すればよいのだろうか。兎も角――ただの偶然では、言い表せない。明確なほどの呪縛。

 これが、隠し持っていた“異能”。未だに尽きぬ彼女の手札の内の、“封じ札”。

 締め上げる触腕が如く、あらゆる行動を封殺する“異能”。


(……)


 ――――アキレスと亀という話がある。

 アキレスという足の速い人間が、丁度亀に追いつく事は可能かという思考実験。

 その亀は等速で動き続けるとして、アキレスが亀の後部を狙って足を踏み出すその時に、アキレスが追いつくまでに亀は僅かながらに進む。

 そうして開いた隙間を埋めようとしても、その間に亀は僅かながらに移動しており、再び――――という繰り返しで“アキレスは永遠に亀に追いつく事ができない”。

 そのような実験。

 これはあくまでもただの命題であり、現実ならば一笑に臥される問題であるが――


 石見伊吹・捨て牌: 九萬、 (二萬)、 九萬、 (8索)、 (7索)、 四萬、 8索、 (九萬)


 ――まさに現実として、この場で発現していた。



(何だこの、オカルト……衣さんや、大星でもここまで異常じゃない……ッ)


 ところで亀と言えば、ある獣が居る。

 その名が闇と等しき色を表す。その色は、老荘思想に於いては空間・時間を超越し、天地万象の根源を意味する言葉と同じ。

 そんな色を冠し、そして今の彼女が座すその位置を守護する聖獣――。

 まさしくその獣の躰に蛇が絡み付くように、或いは亀が手足を閉ざして蹲るかの如く――締め上げられて動けない。

 そこからは――、


 二条泉・手牌:一一【五】八八八萬 ②④⑥⑦筒 224索


 末原恭子・手牌:二四六八九萬 ①①【⑤】⑨⑨筒 346索


 ――副露による脱出すら、不可能であった。

 無論ながら、ドラの西が手中に納まる筈がない。


 それが動く事があるとしたら――


「――ポン」


 石見伊吹・手牌: ②②③③③③④⑥⑧筒 25索    副露:白[白]白


 ――その力の持ち主が、動いたその時だけ。


 そこから、京太郎たちは追いつけない。さながらアキレスの如く。

 少女の行う副露に翻弄される。一人だけが、進み続ける。

 その間に行われた白のカン――ドラが四つ。破壊力が倍増し、


「――ツモ。混一色、白、ドラ4。3000・6000」

 
 宛ら広範囲を焼き払う業火――――その被害を最も蒙ったのは、言うまでもなく親である須賀京太郎。





 ――第十の能力。


 ――能力:『自分以外の手牌の進み具合の最大を、自分と同等にする』。

 ――つまり、向聴数が同じ人間にとっては続く無駄ヅモ地獄。




===========
  東四局
===========

二条泉: 22000 -3000          =19000

末原恭子: 17700 -3000         =14700

石見伊吹: 37000 +12000        =49000

須賀京太郎: 23300 -6000       =17300


という訳で東四局まで。全能力開示で、前半戦終了。点差は31700


能力①:『他家の手を役が不成立な牌の構成にする』。
能力②:『必ず配牌で手牌に役牌が入る』。
能力③:『三元牌の対子を手中に入れる』。
能力④:『絶一門にする事で以後のツモを一色に絞る』。
能力⑤:『最終形を多面待ちにする』。
能力⑥:『他家の手牌と次ツモの内から不要牌を察知する』。
能力⑦:『他家が聴牌したときに聴牌する』。
能力⑧:『他家に客風を三巡分押し付ける』。
能力⑨:『槓をした牌が次の槓ドラとなる』。
能力⑩:『自分以外の手牌の進み具合の最大を、自分と同等にする』。

以上が能力

また夜になー

え、なに、お望み?

年越しパスタ作り終わったら始めます

嫁はちょっとイギリスからの帰国子女やから……
あとこんなタイミングでもないと料理する機会ないしな

あー、曙かわいい。クソ提督ってエンドレスで言われたい


始めるでー




 ――これは英雄の物語ではない。


 ――何故なら彼は万能の知性も、最強の武器も持たないから。


 ――運命は彼に味方しない。彼は物語の主人公ではない。故に決して、神々は味方しない。


 ――だからこそ、己の手で勝ち取るしかない。


 ――そしてもしこの物語に必然があるとしたら。


 ――それがこの後の勝敗に帰結する。


 ――初めから、決定されていた。その結果は決定されていた。


 ――そう。


 ――須賀京太郎は敗北する。


 ――これ以上ないほどに、惨めに敗北する。


 ――それは必然であった。




「……オラ、どうしたオカルトスレイヤー様よぉ!」


 破顔絶笑。

 抱腹絶倒とばかりに響く、呵呵とした男の笑い声。

 天目譲司は確信していた。ここからの逆転など不可能。たとえ一位が相手でも、それは変わらない。

 譲司の腕に嵌めた金時計が光る。同じく蛍光灯の灯りを反射する、京太郎の左手の薬指に輝く指輪を見て舌なめずりをした。

 ここからだ。

 何もかも奪って、屈辱と絶望の渦に放り込んでやるのだ、この男を。


「たとえ1位様でもなんでも……てめえがブッ倒れるのを見物して、てめーの持つモン全部奪って、後は俺たちが返り咲いてやるだけだなァ」


 擦りあわされる蟲の羽音か、或いは断末魔か。

 誰しもが顔を顰めるような不快な声色で嗤う。醜悪に、卑俗に、下劣に嗤う。

 譲司以外の一切は口を閉ざしたまま。

 立会人は元より静観。少女は沈黙を保ち、末原恭子は冷徹な表情。二条泉は悔しげに拳を震わせた。

 当の須賀京太郎は――、


「なるほど、完璧な作戦だな」


 静かにそうとだけ、呟いた。

 そして、自動卓により競り上がる牌の山。親の泉のボタン一つで、切込みが生まれる。

 だけれども、結局は同じ――“異能”は不確定を支配する。如何なる超常か、洗牌の時点で――積み上げられた時点で。

 その山の中身というのは、決まっているのだ。


「“実現不可能”ってとこに目を瞑れば――――だけどな」


 配られた牌を眺めて、須賀京太郎はそう呟いた。


「あ?」


 天目が問い返す中、須賀京太郎はただ――目を閉じた。


須賀京太郎・手牌::二七八九萬 ②④⑦筒 1117索 南南




 須賀京太郎は、眠るように両目を落とした。

 いや……実際その瞬間、数秒たりと言えども睡眠していたのかもしれない。ただ、あらゆる脱力を行ったのは確か。

 脳に蓄積した疲労に身を預け、彼は意識を半ば手放しかけている。

 極度の精神的疲労状態にある彼が――呼吸と共に、一瞬で緊張を解いた。

 その呼吸は、深呼吸でもなければ平常の呼吸でもない。ある特殊な呼吸法であった。

 その瞬間、待ちわびた交感神経と副交感神経が交代する。無意識にほど近い領域で、ある現象が発現した。


 ――これは何も、異常な現象ではない。

 例えば、疲労困憊してたった十数分しか存在しない電車での移動の内――駅から駅への移動の間に、ごく短時間の睡眠を繰り返した事は?

 睡眠中、人間の体内で行われる事は大まかに三つ。

 一つが体内の疲労物質の除去・回復。一つが成長ホルモンの分泌による破損個所の修復・再生。一つが蓄えられた記憶の整理・修正。

 生命活動を行う上で不可欠なこれらを、どうしても得られない場合――人間の脳は、“微小睡眠(マイクロスリープ)”という極々短時間の睡眠にて実行する。

 多くの場合その兆候として、微小睡眠に落ちる瞬間に“睡眠時と同じ呼吸をしている”というものが現れるというのが、研究によって明らかになっている。

 ならば、意図的にその呼吸にして脱力してしまえば――。


「………………、――――!」


 直後、再び開かれる瞳。

 外界のあらゆる情報を遮断し、短期間の回復を行った大脳新皮質が覚醒と同時に――最大出力への助走を開始。

 脱力からの緊張が、運動に於いては最大限の効果を生むと言ったが……。

 しかしある一点に於いては、それは悪戯に己の命を追い込む事に繋がっていた――――が!

 だが、それがいい。



(《“擬似(タキオン)――――)


 能力①:「リーチにしか至れない」

 能力②:「役牌を抱え込む」

 能力③:「他家が聴牌した時、聴牌する」

 能力④:「他家がリーチして追いかけた場合一発でロン和了する」

 能力⑤:「カンしたその牌がカンドラとなる」


 条件①:「ツモで和了牌を掴む事は不可能=自分で和了牌を引けない/必ず他者の和了牌を抱える」

 条件②:「手牌は必ず順子+刻子複合系」

 条件③:「ヤオチュウ+中張牌の複合系」

 条件④:「ドラの使用が不可能。赤ドラも裏ドラも乗らない」

 条件⑤:「他役の複合が不可能=三色同順/一気通貫/タンヤオ/平和/イーペーコー/三暗刻/チャンタ/混一色/清一色になる形にはならず」


(――――――――――神経加速(エミュレート)”》!)



 鼓動を最大限/血圧を最高限/緊張を限界点/神経を臨界点/閾値を極限点=走馬灯を強制――加速/加速/加速/加速/加速/加速――――加速!


 肉体を苛む以上の精神的な苦痛は既にその分水嶺を超え生命維持への警告を与えると共に擬似的な臨死体験に至り人生を振り返り加速に至る。


 かつて行われた非人道な実験人間は思い込みによって火傷を行い思い込みによって人は死ぬ決してこれはあり得ない話ではない実際に起こり得る。


 サリンなどの神経ガスが阻害するのはアセチルコリンの制御を行う受容体であり分泌が抑えられなくなったアセチルコリンの影響により人間は死に至る。


 つまりは人間自身が脳内に自分自身を破滅させるに足る毒物を抱え込み翻れば人間の脳は自壊や自損に足るほどの物質を内包している。


 脳内の反応でどこかの受容体が損なわれば人間は容易く死に至る外傷なく人間は死亡するそれが例え思い込みであっても人は死ぬ。


 故に――どこまでも深くどこまでも遠くどこまでも高く自分自身を追い詰める/追い詰められる/人間にはそれが出来る――――加速しろ!


 死にたくなければ加速しろ生きるために加速しろ勝つために加速しろどこまでも加速しろただ人が人であるために加速しろ――加速しろ!


 絶望を許すな/不条理を許すな/無慈悲を許すな/理不尽を許すな/残酷を許すな/惨劇を許すな/涙を許すな――――そのために速く! もっと速くッ!




(――――――――――――――ッ)


 仮定①:「タンヤオにならない=ヤオチュウ牌の面子と中張牌の面子の張り替えが不可能」

 ――――京太郎はさ、やっぱり笑ってる方が似合うよ。私が保証する!


 仮定②:「現在の刻子の数+引く筈の刻子=三以下/三暗刻不可能」

 ――――何があったか知らないけど……いつまでも仏頂面してるとおゆはんが不味くなると思……。


 仮定③:「混一色にならない=同色+字牌での張替えが不可能」

 ――――あんたと日本一になった事、忘れない。私の相棒はあんただけよ……京太郎。


 仮定④:「一気通貫にならない=同じ色の牌を八つ引く事は不可能」

 ――――ねえ、嘘だよね……きょーたろー? 引退とか……さ。だってまだ、まだ私リベンジしてないよ?


 仮定⑤:「七対子にならない=引いてくる+手牌で対子が六つ来ることはない」

 ――――いーい、須賀君? 『LESSON1』よ! 私の事は師匠と呼びなさい!


 仮定⑥:「少女の手牌=三暗刻以上不成立/重なる牌を決して引かない」

 ――――ええ、そうは言っても私も完全に眼だけに頼ってる訳じゃないんだけど……。


 仮定⑦:「誰もドラを使えない=ドラ周辺牌が少女によって囲い込まれる/刻子二つ確定」

 ――――予め言っておくが、私のは異能じゃなく『技術』だ!


 仮定⑧:「少女の手牌=混一色不成立/刻子二つ+搭子にならないその色」

 ――――心理戦か……まあ、ついででいいなら教えてやる。弘世がうるさいしな。


 仮定⑨:「赤ドラを誰も使えない=赤ドラはバラバラ/その周辺を引けない/搭子にならない」

 ――――須賀君、牌の効率が一番ですが効率というのは状況によって……。


 仮定⑩:「三元牌を使えない=一部を除き全員のところにバラバラに配られる」

 ――――うち、清水谷竜華。一応は8位……よろしくな!


 仮定⑪:「裏ドラを誰も使えない=完成形の手牌に存在しない牌が裏ドラ/王牌に眠る」

 ――――南浦数絵です。ええ……はい、南場での追い上げは任せてください。


 仮定⑫:「及び切らぬ支配=王牌に向かう皺寄せ」

 ――――京ちゃん、京ちゃんの分も私戦うから……。京ちゃんの分も、麻雀続けるから……!


 仮定⑬:「誰か一人に客風を三つ押し付ける=無駄ヅモ三巡」

 ――――お姉ちゃんの方が年上だから、京ちゃんのことを守るのはお姉ちゃんだから。



 ――――今度は麻雀なんかじゃなくてあたしに夢中にさせてあげるから……目を離したら、ダメなんだから。




(――――――――――――――――――――――ッッッ)


 己自身の脳内物質により死亡に直近くなるその思考は走馬灯を飲み込み、須臾を超えた。

 彼は――瞬息を凌駕し/弾指を踏破し/刹那を突破し/六徳を卓越し/虚空を超過し――――清浄を振り切り、置き去りにする!

 一万分の一秒など静止に同じ。

 百万分の一秒、百億分の一秒でさえも牛歩が如く感じる彼の加速は半生を振り返り、そして余った空白で幾兆幾京の可能性から、あり得ない条件をただ刻み落とす。

 思考と演算という――人類が持てる、人類のための、人類固有の“大剣”が。

 あらゆる事象と時空を裁断し/寸断し/割断し――――そして、一に至る。


 最終形:四五六萬 ①①⑨⑨⑨筒 56789索――――二萬、四萬、九萬、北、北、北、中、発、【⑤】筒、【⑤】筒、⑧筒、④筒、②筒、3索。

 最終形:一一一八八萬 ③④⑤筒 78999索――――①筒、東、⑦筒、一萬、②筒、③筒、二萬、南、九萬、中、白、発、【五】萬、3索。

 最終形:⑥⑥⑥⑧⑧⑧筒 56索 東東東白白――――8索、二萬、3索、四萬、六萬、④筒、⑨筒、①筒、七萬、⑦筒、三萬、西、北、中、九萬。

 最終形:二三七八九萬 ②③④筒 111索 南南――――中、三萬、7索、③筒、⑤筒、七萬、五萬、西、白、7索、【5】索、8索、⑦筒。


 王牌上段=4索、4索、⑥筒、⑦筒、南、2索、発。

 王牌下段=6索、6索、1索、2索、西、2索、2索。


 エラー/エラー/エラー――残り:三萬、四萬、五萬、六萬、六萬、七萬、八萬、②筒、3索、4索、5索――組み込み条件不成立=能力は完全ではない!


 実証①:東一局一本場に於ける赤牌の例外的な使用可能=張り替え。

 実証②:東三局に於ける他対子への対子の張り替え=対子合計数が6つに至らなければ対子自体は引きえる。

 実証③:東三局に於ける槍槓という“和了の瞬間にしか決定できない和了”の可能。


 回答――能力の破壊は可能!


(――――――――――――――――――――――――――ォオっしゃ、『読めた』ッ!)



「――ッ、ポン!」


 少女はその時、見た。

 掴みかかる黒い手を、群れを、異能を――切り刻む須賀京太郎を。

 右肩の上、地面と平行に掲げられた剣。

 上段から振り下ろされた拳の鎚を、剣の中腹でなぞって左に受け流し袈裟懸けに両断。

 そのまま止まらぬ、須賀京太郎。地面に剣先を突き刺し、空中で前転――両踵を前方の化け物目掛けて叩きつける。

 拉げる頭に構わず、その胸を蹴って跳んだ。剣を支点に後転し、そのまま止まらず、一切の足場を使わずに宙で三回転。地面から引き抜かれた剣。

 それが巻き上げる土が落ちるよりも早く、回る京太郎目掛けて振るわれる棍棒を――その両足で受け止め、勢いを乗せて再加速。


「ポン!」


 そのまま、群れの中ほどに突入。

 円転を続けるその身体と、両手に握りしめられた柄尻に追従する刀身が、立ち並ぶ異形を両断。

 廻転が止まる。繰り出された両足が運動エネルギーを全て相手に叩きつけて粉砕。その体は、平常に。

 男は嗤う。三日月よりもなお鋭く、酷薄とした――それでも神々しい笑みを浮かべた。


「……ッ、カン!」


 動き出す群の牙。遠間から男を刺殺せんと奔るが――、しかし及ばず。

 容易く剣の腹で逸らされて、それはただ群れを撃つ。

 その瞬間、彼の躰が沈んだ。足払い。走り寄る群れを跳ねあげて、構えなおした剣で切断。

 他を寄せ付けぬ。ただ圧倒的。

 群を為す“異能”を――――思考という剣で――――斬る/斬る/斬る/斬る/斬る/斬る/斬る/斬る!


 そして――、


「……ロンッ」


 須賀京太郎ごと、全てを焼き払う一撃が投下された。




「――――リーチ一発メンホンチートイ赤2裏2」


 二条泉・手牌:①①②④④【⑤】【⑤】⑨⑨筒 北北中中  ロン:②筒




===========
  東四局
===========

二条泉: 19000 +36000         =55000

末原恭子: 14700 ±0            =14700

石見伊吹: 49000 ±0            =49000

須賀京太郎: 17300 -36000      =-19300

>>916 ミスった




「――――リーチ一発メンホンチートイ赤2裏2」


 二条泉・手牌:①①②④④【⑤】【⑤】⑨⑨筒 北北中中  ロン:②筒




===========
  南一局
===========

二条泉: 19000 +36000         =55000

末原恭子: 14700 ±0            =14700

石見伊吹: 49000 ±0            =49000

須賀京太郎: 17300 -36000      =-19300



「……は?」


 天目譲司が、呆然とした目線を向ける。

 その視線の先である須賀京太郎は、額に汗を浮かべて片息を漏らす。

 まさしく今、怪物たちと切り結んでいたような――いや、事実“異能者”と“運命の女神”を相手に、切り合っていたのだが。

 心拍数は運動に並ぶほどに増大し、その血流に乗せる酸素を運ばんと呼吸は激しく繰り返される。


「ノー、ゲーム……?」


 その呟きに応えるものはいない。

 京太郎は素知らぬ顔で服薬を済ませた。強烈なまでに眼圧の上昇が行われているのだから、当然。

 同じく目を剥いたのは少女。彼女の理解を超えていた。

 その異能を把握したのもさておき――結果が、自爆に等しい結末など想像していない。


「あんたそれ、いい時計だな」


 唇を持ち上げて、男に流し目を向ける京太郎。

 意味深な笑み。含む者しかない――決して、たった今敗北を決定された風には見えぬ余裕。

 まるで勝者は自分だとでも言いたげなほどに。


「今何分経った?」


 おもむろに須賀京太郎が、携帯電話を取り出した。

 接続されたのは外付けの充電器。ランプが灯っていないのを確認しつつ、コードを引き抜いた。

 やれやれと、電話をポケットに仕舞い直す京太郎。


「あ?」

「答えてくれよ。今聞いとかなきゃ、聞けないからさ。……これからグシャグシャになって、文字盤なんて読めなくなるんだ」


 彼が湛えたのは、明らかな冷笑。


「あんたの顔面の方がな」


「……は?」

「――辻垣内智葉。俺の師匠で、大学の先輩なんだよ」


 その瞬間、天目の表情は冷や水をかけられたかの如く強張り――。

 直後、両目を剥きだしに歯を剥いた。紛れもない絶望と、それに対する激昂。


「てめえ……初めから、時間稼ぎが目的だったのか……!? 勝つつもりなんて、一切なしで……!」


 二人の遣り取りを眺めつつも、立会人はほくそ笑んだ。

 須賀京太郎の他に――末原恭子は不明だが――立会人の彼を於いて他ならない。

 この結末は、初めから用意されていたのだ。まぎれもなくそれは、須賀京太郎自身によって仕掛けられた。

 あのルール決定の遣り取りの際、いくらかの心理戦が繰り返された。

 即ち『譲歩』と『強硬』。そして――『隠蔽』だ。

 須賀京太郎は、天目譲司が言い出した条件を飲んで、そして後々で『その時まで譲らせたのだから』と自分に有利な条件を入れようとした。

 一方の天目譲司は、京太郎のそんな思考を知っていて敢えてそれに乗り――そしてあの上で譲歩に食い込み、さらには強行した。

 天目譲司も須賀京太郎も、その焦点を『勝負の回数』に絞っていた。

 ――そう、思わせた。


 須賀京太郎はただ、逸らしていただけだ。彼が本当に重要視する判断を、素通りさせるために。それ以外に目を向けさせて。

 さながらミスディレクション。手品師が利用する思考誘導と同じ。

 あくまでもさりげなく、どこまでも平然と――――実に自然に『1位を取った人間が勝利者』という条件を捻じ込んだ。

 直接の勝負を求めるのなら、点数の過多にすればいい。なのにそうはしなかった。

 それが須賀京太郎の企み。彼がこの勝負に求めた条件は全てがそこに帰結した。


(その理由は――)



 天目譲司の憤怒もまさに計算の内とでも言わんばかりの態度で、京太郎は受け流す。

 彼の目に、敗北の色はない。

 そもそもが――ここまでが彼の導き出した方程式なのだから。

 運命などという容易い言葉では片付けられない、人間が作り上げた道筋。


「一つ違うって言っとくぜ? ……いや、悪い。二つだった」


 須賀京太郎が、二本の指を立てた。

 人差し指と中指が、場違いに天を突く。ゆっくりと両方が畳まれる。その瞳にはただ、ある種の悪戯っぽさが含まれる。


「一つ、よく見たらその時計は全然いい時計じゃなかったって事……」


 浮ついた笑いが消えた。

 瞳に、真剣の光が宿る。ただ一点だけを打ち抜き貫く、人間の持つ集中の眼光。


「二つ目、これで終わらせねーよ。受けて貰うぜ、次の勝負を――」


 明らかな敵対宣言であった。

 これまでの芝居がかっていたそれはない。その心の奥底には、怒りの焔が灯る。

 ふざけた態度も何もかも、ただこの結論を導き出すため。

 初めから、『何局も戦いをする条件を受け入れられる筈がない』と理解していたからこそ、『一発勝負』の名の元に、相手が全力を出すように誘導し――。

 そしてその一発を捨石にして、観察を済ませた。


「そんで――」


 言うまでもなく、追い詰める為。

 先ほどまでのような優越感を、天目譲司が抱ける筈がない。

 何故なら、追われている彼がこの場を切り抜ける方法など……須賀京太郎の持つ人間関係を得て、彼を通して辻垣内智葉を退かせるしかないから。

 そうでなければ、待っているのは破滅。

 薄ら笑いを浮かべる暇などないほどの絶体絶命。彼は、相手を死地に叩き込んだ。


「これからお前のふざけた態度も余裕も、ソルベになるまでブッた斬る。その趣味の悪い時計よりも、悲惨なくらいにな!」




 立会人の青年は、笑みが零れるのを隠し切れなかった。

 ここからが本当の勝負。彼としても見たかった、真剣での戦い。

 そして――そう、彼は須賀京太郎の意図を読んでいた。その終末も理解していた。

 しかし、その解に至るためには――あれほどまでに強力だとは思わなかった“異能”が何よりの障害になるのだが――。

 如何にして、須賀京太郎がそれを切り開くか。そこに尽きた。

 その結果は予想以上であった。オカルトスレイヤーの名は、伊達ではない。


「さっきからその緊張感のない態度……その手の倫理観のない奴は、『自分が殺されるかも知れない』って覚悟が足りない」


 聖ジョージの剣、その切っ先が天目譲司を指して輝いた。

 須賀京太郎にとっては――いや、誰にとってもここからが本当の戦いとなる。

 賭けるのに有利なのは、京太郎。

 彼は究極、この勝負を蹴ってしまっても構わない。そのまま件の先輩――辻垣内智葉の到着を待てばよい。

 故に、負い目があるのは天目譲司。彼の方は、如何なる条件を飲んでも須賀京太郎に勝負を受けて貰わなければならないのだから。


「そんな想像力のないあんたに、判りやすく言ってやる。――いいか?」


 そして、京太郎が望むのは一つ。

 直接叩き潰す事。

 この戦いの元凶となった男に、その刃を叩き付ける事。


「賭けて貰うぜ。お前を……お前自身を……!」


 その上で彼は――――オカルト喰いを敗北させ、彼女を解き放つ事を望むのだ。

 たった今1位を奪われた――言い様によっては敗北しても尚、顔色を変えぬオカルト喰い――。

 門外漢である立会人の彼には“オカルト喰い”とか“オカルト”とか、その“異能の解除の条件”などは判らないが――。

 おそらく……極道の先輩に任せずに、彼がこうも麻雀での決着に拘るという事はその勝敗が関連するという事。


(不謹慎ながら……)


 ここからは、ノーゲーム狙いなどではない。

 そのデータも集めた上での、本気のオカルトスレイヤー。そんな彼の、尋常なる立会。

 笑いを堪えられるはずが、なかった。





 ――そして、戦いの合間となった時間。


「……はは、すまんけど。ここまででええかな」


 二条泉が、背もたれに身を預けて力を失う。

 先ほどの対局、彼女なりに須賀京太郎の闘牌をなぞった。それまで彼が行っていた事を、何とか読んで行った。

 副露によって行われる援護が、誰に対して“決め手”を求めたものかなんてのを察せぬほど、泉は愚かではない。

 だからこそ、こうして死力と気力を振り絞ってそれに応じた。

 結果は上々だが、正直腰が抜けていた。


「ああ。こっからは俺に任せとけよ」

「……私もおるけどな」

「……せめて格好つけさせて下さいよ、末原さん」


 「さっきも結果から見れば最下位だったんだし……」と、苦笑いを浮かべる京太郎に。

 「……既婚者が余所の女の前で格好つけるもんやないで」と、冷たく返す恭子。


「……ほんま、頼んだで。オカルトスレイヤー」

「ああ、任せとけ。俺がお前の、最後の希望って奴だ」

「気障いわホンマ……既婚者やなかったら惚れとるやん、こんなん」

「……悪い泉はちょっとノーセンキュー」

「そこは嘘でも『嬉しい』言えやコラ!」


 緊張感から解き放たれたような遣り取り。

 その内で須賀京太郎は、瞳に走る痛みを押し殺していた。

ごめんちょっと腹痛中断
年が変わったら残り行きます。今日中(明日中に)終わりますね

あー、年内完結させたかった……

あ、一ちゃんに関してはごめんなさいです。何もかも某星淡さんが悪い

沈めます

「預かっててくれ」って戦い終わった後に嵌めるつもりで指輪を渡して、襲撃で鎮守府壊滅して
遠方から帰ってきた曙に「自分で……自分で、嵌めなさいよ……クソ提督……っ」って捜索されたい

(足立区の方言であけましておめでとうございます)



よっしゃあ、始めるでーというか終わらせるでー



「……はは、最後の希望か」


 嘲りの滲む声。

 京太郎も泉も恭子も、一斉にそちらに顔を向けた。

 壁に寄りかかって、憔悴状態にある天目譲司。瞳からは正気の色が喪われつつある、追い詰められた悪党の風情。

 事実、天目譲司は袋の鼠も同じだった。或いは、罠に掛かったゴキブリだろうか。


「よく言うぜ。……誰よりも麻雀に奪われた男がよぉ!」


 その瞬間に――弾かれたように少女が顔を上げた。

 それまでの何もかもに無関心で、ただ受け流すばかりであった少女の手に力が籠る。

 眼差しにも、初めて色が付いた。

 先ほどまでの諦観から来る無色の光ではない。諦観と拒絶に基づいた殺意ではない。

 驚きの影が、零れだしていた。


「両親が死んで両目も使い物にならなくなって……おまけに借金まで負って。何が最後の希望だ! 笑わせるぜ、疫病神が!」


 恭子が、眉に皺を寄せた。

 身を乗り出す、泉。その身に憤怒を滾らせて、今にも喰いかからんばかりで反論せんと口を開くが――


「……いいんだ」


 当の須賀京太郎に、制された。掲げた左腕が、彼女の進路を押し留める。

 彼の双眸に、負はない。負い目も怒りも悲しみも嘆きもなく――ただ一点を見やる。

 その先は、石見伊吹。僅かに瞳孔が開いた少女に、あたかも説き伏せるかの如く優しき眼差しを向ける。

 徐に口を開いた。


「ああ、確かに……他人から見たらさ、俺って同情する境遇なのかも知んないな」


 それは本意ではないという口調の京太郎。

 しかし「他人など関係ない。自分が幸せだと思ってれば大丈夫」という論調を語るとも思えぬ響き。

 綺麗ごとで、誰かの不安を取り除こうとは思っていない真摯な瞳。



「君は不安か? 麻雀の所為で、今の自分があるって思うか?」


 騒ぎ立てる天目に構わず、京太郎は少女を正面から見据える。

 教師と生徒という感じではない。人生の先達とそうでないものか――或いは対等な人間同士か。

 どれにしても、反応を返さない少女の視線から僅かな心を掬い上げようと、彼は穏やかに前を向く。

 
「……安心してくれ。“麻雀(コイツ)”で不幸になんてならない。“麻雀(コイツ)”にそんな力なんてない」

「はは、取り繕うなよ……疫病神が!」

「なるって言うんなら――――だったら俺が否定してやる。何度でも否定してやる」


 その穏やかさに、力強さが宿る。

 後悔はない。悲哀はない。衒いもない。伊達や酔狂でもない。

 本気である。信念を携えた、熱い剥き出しの想いであった。

 これは――昨日までがどれだけ苦しい一日だったとしても、また笑って前を進める人間の強さ。


「もしもこいつが不幸を呼ぶなら――そんなの違うって、俺が言うさ。そんな安っぽい不幸なんて、俺が蹴り飛ばしてやる。『違う』ってな」

「てめえが身の程知らずに小鍛治健夜を倒そうなんてしたから、お前の両親は死んだんだよ!」

「うるせえ! 俺の父さんと母さんの命は、高々こんなちっぽけなものに左右されるほど安くねえ!」


 真っ向からの怒り。恨みの炎がない正当で純粋なる怒り。

 決して強がりではない。決して思い込みではない。決してお為ごかしや言い訳ではない。

 上っ面から来る見せかけや取り繕いではない。表面だけを誤魔化したり、表向きを整えただけの虚勢であったりはない。

 どこまでも熱い、須賀京太郎の本音。彼がこの場に立つに足る、“信念(おもい)”。


「……だから、安心してくれよ」



 丸まる指先。作り上げられた左拳が、更に力を籠められてその先――細胞の一片までも信念を湛える。

 信念を、遊底に番える。

 あとはそれを発露させるだけ。闘志として爆発させて解き放つだけ。


「“第一位(おれ)”は――――」


 そんな、信念を貫き通すための発火剤を――――、


「“最強の男(おれ)”は――――」


 燃え上がらんとする信念を貫く撃針を――――、


「“人類の到達点(おれ)”は――――」


 人はそれを――――――――――“覚悟”と呼ぶ。


「俺は――――君の、味方だ!」


 既に覚悟は完了した。須賀京太郎は、あらゆる絶望への迎撃の用意を整えた。

 握り拳が、尚も熱気に満ちて握りしめられる拳が、彼自身の左胸に打ち込まれる。

 真っ直ぐな瞳。覚悟を決めたものが出来る、黄金の旋風を纏った太陽の面持ち。


「俺が君の――――最後の希望だ。俺が、最後の希望になってやる!」

BGM:「AMAZING BREAK」 https://www.youtube.com/watch?v=Uvy1_GHGdA4



「クソッタレ……なんで俺が……クソッタレ……!」


 揺らがぬ信念に、勝ちはないと判断したのか。意気も消沈して、項垂れる天目譲司。

 それでもこの期に及んで天目譲司は、どこまでも往生際が悪かった。

 舌打ちを零し、身体を揺すり、毒づいて――卓について尚、独り語散て不平を漏らす。


「いい加減、覚悟を決めろよ。……あんたも」


 少女は既に、卓に付いた。その目は冷眼。静かな迫力を以って、卓上での今後を想う。

 彼女は――信じた。須賀京太郎の熱き信念を、その剥き出しの闘志を信じた。

 だからこそ、己に振りかかる理不尽と何かを間違えてしまった人生を――――その起点ともなった異能を、須賀京太郎に破壊を頼もうと――。

 全ての異能を振りかざして、その一切合財を否定されて、ようやく人としての生に戻れると――全力を漲らせた。

 だが、


「うるせえ! こいつを見つけたのは俺なんだ! 絶対に認めさせてやるんだよ、全員に! 何がワリィ! 俺は間違ってないって!」


 その瞬間、天目譲司が発した暴言に。

 ぷつん、と――。何かが切れる音を京太郎は聞いた。


「判った……もういいから、喋るな。話が噛み合わない」


 彼自身驚くほど、低く冷たい声色。裏の遣り取りに深く浸った天目譲司が、息を飲むほど。

 味方である背後で見守る二条泉ですら同じ。

 かろうじて彼は、京太郎目掛けて怒声を放った。殆んど声は震えて、口角から泡を飛ばして、半ば金切り声じみたものを上げて。


「うるせえ! 俺はな、これで手に入れるんだよ! 欲しいもの全部!」


 京太郎には――――理解が出来なかった。

 確かに自分は彼に比べたら恵まれているだろう。

 家は決して貧乏ではなく、運動も人並み以上にでき、勉強も苦手ではない。容姿も恵まれている側であるし、交遊関係も広い。

 その後何があったとしても、須賀京太郎はきっと恵まれて生まれた側の人間だった。

 だが――――何故、何故努力しない?

 出来ないなら判る。やろうと思ってやろうと思って、努力して努力して――それでも不可能があるというのは京太郎も知っている。幾度も味わった。

 だが、埋める事は出来る。頂に至れないとしても、頂点に届かないとしても、最高にはなれないとしても――努力次第で欠点を補う事は不可能ではない。

 全てを己一人の努力で手に入れた訳ではない。廻り合わせもあるだろう。人の縁や時の運もあるだろう。

 だけれども、最初の一歩を踏み出したのはいつだって自分の意思であり、歩み続けて来たのはいつだって自分の覚悟だ。

 ――それすらもしない人間が、手に入れるだと? 全てを?


「二度も言わせんな。ンな事、俺がさせねーよ。こっからすんのは粛清だ」


 そんな人として誰もが持つものも用意せず、何も踏み出そうとせず――。

 己の本質は一歩も変わってはいないというのに、手に入れた他人の力を憚りもなく振りかざし、都合良く扱い、得意気に振舞う。

 自己の限界に至ってもいないのに……他人を妬み、羨み、呪い、その尊厳を侮辱して支配に至ろうとする。

 そんなもの――


(ふざけんなよ……!)


 ――それこそ、人間ではない。

 そう、これが人間の所業などとは思えない。断じて肯んじられない。須賀京太郎が須賀京太郎である以上、全く許容できない。

 オカルトは確かに京太郎にとっては戦うべき相手だ。だが、敵ではない。

 彼女たちは望む望まないに関わらず、人間を超えた力を持って生まれた。そして力に飲まれるか、力を楽しむか、力を乗り越えるか――皆が皆、自分の力で人生を生きた。


 だが、何だ、これは。

 許せる訳がない。許せる筈がない。断じて許せない。

 挙句そんな力を持つ人間に不幸を与え、我がものとして意のままに操り――それを振りかざして悦に浸るだと。

 最早、人間ではない。こんなドス黒い邪悪を到底許容できない。全く以って人間などとは考えられない。

 それでも人間と言い張るなら。

 ああ、それでも人間と言い張るなら――。ならば、お前がすべき事はただ一つだ。ただ一つの人間的な事だ。

 だったら――


「――――祈れよ、せめて人間らしくな」


 運命の女神が雀卓にいないとしても。

 火星の名を冠する闘争の場に存在しないとしても。

 人間の名を持つのならば、それがただ一つだけ許される唯一の人間的な事だ。

 あとは――全て、貴様にはない。


「行くぞ……逃げんな、ゴキブリ野郎ッ!」




    ────────────────────────────────────────────────────────

       第1位「人類の到達点(オカルトスレイヤー)」 須賀 京太郎

       ベーススタイル:『技術昇華+不運』

       攻撃力:40/40 防御力:40/40 速度:40/40
       技術:60/60 幸運:10/10 気力:80/80
       ※(40+60)/2+10=60 コンマ40以上にて聴牌
       ※40×(10+60/2)=1600 これをコンマ一桁倍

       ★麻雀スキル
       ・『オカルトスレイヤー(0)』
        相手が強力な能力の持ち主ならそれを逆手に取り、それ以下ならば純粋な技術により討ち取る。
        運にしても同様に計算式の一部とし、己に足りない攻撃力は外付けの“剣”として他者の能力や打ち筋を利用して立ち回る。
        運や能力に比肩せんと技術を研いた結果――――皮肉にも、麻雀は単なる確率へと帰結するに至った。

        このプレイヤーが存在するゲームのルールを強制変更する。
        新たなルールには、それに対応した能力しか適応出来ない。
        如何なる“無効化されない”“常時発動する”“テキスト変更されない”という記述も関係ない。
        ゲームのルール自体が変更されている為、そもそも意味を為さない。
        100面ダイスの出目を丁度四分割し割り当て、100面ダイスを振ることによって麻雀の勝敗自体を決定する。
        このテキストは全ての能力に先だって適用され、あらゆる他の記述は対抗不可能。

       ・『人類の到達点(0)』
        オカルトに由らない、人類の編み出した純粋な技術全てを修得した証。
        それが技術に依ることならば、努力で修める事は決して不可能はない。
        対戦相手と須賀京太郎の技術を比べ、対戦相手が須賀京太郎未満の技術である場合、
        麻雀の“技術による三割”を予め全体から差し引いてプレイヤーに割り当て、その残りを四分割して割合を決定。
        その後、勝敗を決めるダイスロールを行う。

    ────────────────────────────────────────────────────────



という訳でここまで。残りは明日かね。ようやっと主人公のスキルを出す事が出来ました

戦闘は兎も角、この話のエピローグとかアコチャーとかはもう多分収まらんっぽいし
そうなったら次スレ立てるの考えてるので気にせずレスしてください。お気遣いありがとうね

おつ
これは第一位の風格ですわ…あとやっぱ王道って素敵だな

【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第37位【アラフォーマーズ】
【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第37位【アラフォーマーズ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420069750/)

ほい、次スレです。念のために


曙に「ドMなの?」って言われるよりも「この変態クソ提督」とか「さ、触んなこのロリコンクソ提督」とか言われたい

前よく被ったよねID
これはアワイ=サンのケジメ案件では? テルー不幸にします

残りはまあ闘牌やって、次スレで闘牌エピローグとアコチャーっすかね

17やで……(ゲッソリ


淡「ひーまー」

淡「そう、これは所謂……」

淡「手持ちぶたさん!」 ババーン

京太郎「……手持ち無沙汰だからな?」


というフレーズが降りてきたので書きたくはある

2000から始めます

最終回なんかね、一応

ほいお待たせ



「ふー――――」


 絞り出される肺腑の気体。並んで、思考を鎮める。

 既に検証は済んだ。例え、魔物級が――それの群であっても、問題はない。

 薬は使い切ったとしても、なんら支障はない。そもそもからして、彼にはもう不必要な代物だったから。

 ただ一つ、心が折れさえしなければいいのだ。

 たとえ目玉を潰されるに等しい事となっても、たとえ全身を吹き飛ばされるに等しい事となっても――立ち上がればいい。

 心さえ折れなければ、いくらだって傷は治る。与えられた負傷など、再生する。


(流石に……数、多かったけどな)


 それについては、京太郎としても予想外であった。

 やり過ぎたと警告を受けるほどではあった為、彼としても相応の数の異能を“奪った”ものとして想定していたが、まさかここまで多いとは。

 そういう意味では、備えとして薬を持ち込んだのは正解だった。

 京太郎が、数多の演算の果てに見抜いた能力の数は『十』。

 その内のいくらかは“異能”と呼ぶにはあまりにも細やかであるが、いくつかは強烈な代物。

 その能力単体でM.A.R.S.ランカーと戦ったのならどちらが勝つのかなど言うまでもないが――ネックとなるのが“オカルト喰い”。

 おそらくはきっと、相手が何であっても奪う。そんな類の反則的な異能。

 そして、異能を持たぬものが相手にするには、些か無謀が過ぎるという力の集まり。なるほど確かに、完全無欠だ。

 ただし――オカルトスレイヤーという男を除けばの話だ。


 さきほど京太郎自身も否定した。また、やはり彼は運命などというものはないと思っている。自分に役割はないと。

 だが、この出会いに意味はあった。

 ここまで須賀京太郎が人としての力を練り上げた事はこの日の為――などとは到底言うまいが。

 しかし、彼が諦めぬからこそこの日があった。

 あと一問を。あと一手を。あと一歩を――――努力に溺れず、しかし結果を盲信せずに進んできたからこそのこの日があった。

 いつか、何かのインタビューで見た。とあるアスリートが、どうしてそうもトレーニングを続けるかと言う記事。

 彼は言った。

 “努力する事それだけが大事なのではない。しかし、努力をしたからこそ、それがどこかで最後の支えになるのだ”と。

 “あり得るかも知れないしあり得ないかもしれない。それでも最後のほんの少しを分ける事に繋がるのだ”と。

 勝利に腕を届かせる為の台座に。或いは、己の足元を崩れさせぬが為の基盤に。

 それが、努力の意味であると。


 ネットに当たって弾かれたボールの行方を――、それが明暗を分けるほどまでの接戦となるための土台として――。

 その為に努力があるのだと。


 そう――。

 これまでの戦いは無駄ではなかった。

 流した血と、汗と、涙が――――その何もかもが。

 この日の、少女の涙を止める為の腕として繋がった。

 ほんのちょっぴり、“もう少しだ”と踏ん張った――――その積み重ねが、今日この日、京太郎が手を差し伸べる事に繋がった。

 ここからは、そんな話だ。


(さて……もう、目は使えないか。憧の顔、見なきゃだもんな)


 これまでの須賀京太郎の戦いは、ある一点の因子に満ちている。

 彼の戦闘方法は、一からの計算に基づく。

 ひたすらに観察し、ひたすらに推理し、ひたすらに計算し――――それが故に勝利した。

 ならば、目を奪われたのは敗北に繋がるのか?

 ――答えは否。


(……ま、いいよな)


 もう二度と闘いで目が使えなくなっても構わぬと、振り返った半生の中で追体験した戦い。限界までの神経回路の使用。

 その結果――これまでの京太郎の経験が、発露する。

 ――勝負勘。

 彼はそれを信じなかった。信じられなかった。故にどこまでも演算する。故にどこまでも思考する。

 言うなればそれはコンピューターと似ていた。

 膨大な可能性の中からあり得ないものを切り捨てて、それぞれの条件を見比べて、その内で最適となる解を判断する。

 その内には複数の推測や推論が両立し、時には概念の場合分けが行われる。

 コンピューターと似ているとは言ったが、土台コンピューターには不可能な作業である。人間の脳が柔軟であるが故の精密作業。

 熟練の職人の手先が機械でも作り得ぬ繊細さを形作るように、彼のそれは人間固有のものであった。

 しかし、不十分。


 ――――プロ棋士が、将棋の盤面を見たときの脳波を観測した結果、常人には見られない特徴があったという実験結果がある。
 


 ――――観測の結果。

 ――――プロ棋士の脳波、つまり脳の活動では……。

 ――――常人とは異なり、大脳基底核の一部である尾状核頭部の内背側部に反応があるというものが導き出された。


(目がもう、使えなくなったからかわかんねーけど……)


 ――――この、大脳基底核は。


(だからこそ……“視える”)


 ――――人間の習慣記憶に関わっていると言われている。


(君の涙も……何もかも……ああ、“視える”)


 筋力トレーニングは、実際に行う行動と同等の形式の物を行うのが効率が良いとされている。

 これは、単にその使う筋肉を鍛錬するという意味だけではなく――。

 その一連の行動を行う上で、最も身体に負担の少ない……つまりは、自然な行動である事を理解し――。

 シナプスを整理してニューロンネットワークを形成する――つまりは、記憶して学習するために行われる。

 その動きに間違いはないのだと、身体に覚えさせるのである。


(待ってろ……必ず、必ず俺が助ける……!)


 最後の“読み”はその為にあった。

 最後の“攻撃”はその為にあった。

 己の計算が正しく――それよりも先んじて為される“推理”が正しく、導き出された“回答”と“結果”が正解であると――。

 研いてきた技術と、行ってきた鍛錬と、培ってきた経験が正当なるものであると証明する為にあった。

 人間が、人間になるためにあった。


 目を手放したからこそ、京太郎は疑うことなく己の信念に従う事が出来る。

 視力を失った動物の他の感覚器官が発達し、失くしたものを補おうとするように――。

 これまで考えながらも従う事が出来なかった“勝負勘”に身を任せる事が出来る。

 膨大な異能との戦闘を積み重ねたが故に、人が手にした最後の“武器”。

 敢えて差し出したからこそ、彼はそれを手にした。



(これもやっぱり……『LESSON5』か。なんつーか)


 ――し、しず! ちょちょちょ、危ないわよ! 何そいつ!?

 ――あ、えっと、あの、その、ごめんなさい……いや、あの、ごめんなさい。

 ――相談……いや、女性目線聞きたいってのは分かるけど。

 ――あ、あんたもこの大学だったんだ。へー。

 ――ごめん、やっぱちょっと怖いから…………って、何笑ってんのよ! このヘタレ男!

 ――ばーか。……でもありがと。

 ――な、なにこれ!? かわいい! カピバラ!? え、それってかなりレアじゃない! 連れてって! あんたん家!


(俺にとっての近道は……遠回りだった)


 ――京太郎。大丈夫……?

 ――……いいって。家が隣だし。同級生だし。

 ――そっか。今日の試合は勝ったんだ。あたしもスポーツしてみよっかな。

 ――今日? カレー。具材がなくなったんじゃなくて、そういう料理!

 ――京太郎、あんた……シズとの約束はどうしたのよ!


(廻り道こそが、最短の道だった)


 ――ごめん、もうちょっとこうしてて……。……助けてくれて、ありがと。

 ――古式ムエタイって……いや、うん、あれ冗談じゃなかったんだ。

 ――反響定位って……いや、うん、それ人間?

 ――ま、持ち直したならいーけど。…………心配したんだから。

 ――貴方の憧ちゃんでーす! 酔ってないでーす!


(俺の人生……そんな事ばっかりだな、本当。プロになったはいいけれど……結局はって奴だし)


 ――ねー、やっぱり誰かに教えるって言うの楽しいよね。

 ――あたしは阿知賀に教育実習だけど、あんたは清澄だっけ。

 ――どうするの? 結局、清澄に努めるの?

 ――プロ、受かったんだ……! 凄いって、それ! 凄いわよ!

 ――じゃあ、あたしがあんたのファン一号。これだけは譲らないから!


(だけど……これまでの俺の戦いは――『LESSON5』はこの為に……!)


 ――だから、その上で改めて言うわよ。京太郎、あんたは格好いいのよ。

 ――確かに、あんたには色々あった。追い詰められたときもあった。でもあんたは、立ち上がった。

 ――借りたとしても、立ち上がろうと思わなきゃ相手を引きずり倒して終わりよ。

 ――だから、その上で言う。あんたの相棒でも先輩でも恋人でもないけど――ファン一号として、言うわよ。

 ――もっと、格好つけなさいよ! 何がなんでも、格好つけて!


(ああ、こっからは俺のステージだ!)


 ――――これまでの行動から導き出された能力とその結果。



 ――能力:『他家の手を役が不成立な牌の構成にする』。

 ドラが絡まない。つまり、最終待ちになる搭子にならない(ドラの周辺牌を引けない)し対子にもならない。

 赤ドラが使えない。赤ドラの周辺牌や張り替え、手牌との入れ替えが出来る人間は赤ドラを引けない。

 裏ドラが乗らない。つまり裏ドラの表示牌は、“誰の手牌にも使用されていない牌”の一つ前。


 ――能力:『必ず配牌で手牌に役牌が入る』。

 ただし他の役との複合は不可能となり、ドラを除いて一役以上はつかない。


 ――能力:『三元牌の対子を手中に入れる』。

 三元牌全ての対子引きと役牌引き能力の両立は不可能。混一色が成立してしまう為。


 ――能力:『絶一門にする事で以後のツモを一色に絞る』。

 聴牌するまで有効。その後も、引きやすくなる。


 ――能力:『最終形を多面待ちにする』。

 三面待ち以上。


 ――能力:『他家の手牌と次ツモの内から不要牌を察知する』。

 ――能力:『他家が聴牌したときに聴牌する』。

 組み合わせる事で相手の後からリーチを掛け、一発でロンをする事が可能。


 ――能力:『他家に客風を三巡分押し付ける』。

 最低、三巡は無駄ヅモが続く事となる。赤ドラとドラを合わせれば5回無駄ヅモをさせる。


 ――能力:『槓をした牌が次の槓ドラとなる』。

 代わりに赤ドラ・裏ドラの使用は不可能となる。副露状態でもこの能力の使用は可能。


 ――能力:『自分以外の手牌の進み具合の最大を、自分と同等にする』。

 つまり、向聴数が同じ人間にとっては続く無駄ヅモ地獄。

 しかし、向聴数を下げれば変わらない。



「さあ――フィナーレだ」


 打点の問題がある。決して、石見伊吹の第一の能力が使用される以上は解決しないと思われる問題が。

 だが、解法はあった。

 他の赤ドラに於いてはそうでないが、筒子の赤ドラ――⑤筒に関しては二枚存在する。

 実際に、東一局一本場で彼は試した。聴牌した状態から敢えて⑧筒を落とし、⑤筒に頭を張り替えられるのか。

 それは果たして、是であった。

 であるが故にそれを理解した二条泉が、南一局にてそれを実行したのだ。

 そして、最終搭子としての赤絡みが利用できないかという問題であるが……これも「基本的に不可能であるが可能な局面もある」と分かった。

 両面待ちのように、隣合う牌が来る事はない。しかしながら、嵌張待ちのような形は可能である。

 東一局一本場の、二条泉の手牌にしてもそう。八萬と九萬を見切れば、赤の使用はできた。

 既にある面子を崩してしまえば、その成立は可能。


 他にこの力の弊害――それは。

 ツモが付かないという事は、誰かのアガリ牌は必ず誰かが引く牌であり、そしてそれは『不要牌』であるという事。

 カンは本来不要牌


 また、ドラの使用が不可能という点。

 この場合ドラを生かせなくするには――赤と同じく、皆に一枚だけ配ってそれと結びつく形が存在しない事である。

 或いは、オカルト喰いがそうするように……ドラと結びつく牌の片方を彼女の手札に刻子として囲い、もう片方を山に収めるか。

 もしくは、東一局のように数牌の両側を抑えてしまうかだ。

 裏ドラについても同じ。

 であるが故に、王牌には裏ドラやドラを使用させないがために牌が集中する事となる。

 これを逆手にとれば、読む事はそう難しい話ではない。



 ドラ表示が数牌である場合、少女の手牌の内に必ずその片側は存在する。

 一二三や七八九で、一二や八九などの辺張の面子を形成する場合は、その三や七などの起点を潰す。

 これは東一局一本場や南一局の王牌と少女の手牌により導き出される。

 字牌の場合、全員と王牌にそれが飛び散って使用が不可能となる。

 そして少女は三暗刻や四暗刻が使えない。故に彼女の待ちがシャンポンになる事はなく――翻って彼女は、同じ牌を山から引かない。


 さらにこの能力は完全ではない。

 能力によって十五巡目あたりまでは「引いて手牌を組み替えようとしても『リーチのみにしかならない』」という形が可能であるが、

 それ以上ではどうしても「引く筈の牌を総合したら『三暗刻』が成立する」「引く筈の牌を総合したら順子が揃い平和が成り立つ」など、

 如何ともし難い無理が生まれるのである。

 これは能力が強力過ぎるが故の弊害であり、本来の能力に“オカルト喰いが他に手に入れてしまった能力”を組み合わせたが故の問題。

 それ単体ならば、全員に役牌をバラバラに配って無駄ヅモを増やすなどで、回避できたのだから。

 だから、副露で牌の並びがズレたのならば、容易くその軛は取り除ける。

 元々揃える事も出来て、最後の一押しさえあれば結末は形を変える。


 そして、他に障害となる妨害能力であるが――――この対策もまた、並ぶ。

 少女の向聴数と並んでしまっている場合、少女が進めるまではただ無駄ヅモを繰り返す事となる。

 だが、それはただ真っ直ぐに進むからそうなる。

 敢えて手牌を崩してしまえばその限りではない。向聴数を上げてしまってもいいのだ。

 そう、ここには――その対策として行われる技から容易に繰り出せる次の手。

 誰かのところに『刻子や対子が集中しない』からこそ、他人から切り出される事が増えて――そして副露して“攻撃に向かいながらも向聴数を上げる”事が出来る。

 寧ろ、この能力が故に少女もおいそれと手を進める事が出来なくなる。

 事実、だからこそ彼女は聴牌に時間がかかった。自分が整えて、そして副露で急激に加速しようとした。それが東四局。

 その間には――手を崩して作り直すのなら――その時間は、少女だけではなく張り直す人間にとっても有利な間となる。

 張替えしている間に、誰かが和了しなくなるのだから。


 不要牌にしても同じ事。

 不要であるからこそ、察知される。不要でないなら察知されない。これは道理。

 例えば単騎待ちになった場合、現在手牌で余っているのは一牌。だが、これは当然ながら不要牌ではない。

 ここで次巡目に、違う牌を引いてしまうとしても……だ。

 それは確かに不要牌かもしれないが、その牌と入れ替えて待ちを違う形に出来る。向聴数は進まないが、決して手牌で活かせぬ事はない。

 ならば――これは一概に、役に立たない牌とは言い切れない。


 そう、回答法は奇しくも――彼の相棒が得意とした技と同じ。

 張り替えが容易で、いざという時には向聴数が上がろうと対々和に向かえる。

 例え相手と待ちが被って破壊されても、すぐに次の刃を作り出せる。

 その役の特性が故に、聴牌しているのか否かという気配が判りづらく、遠間から襲いかかる――。

       チ  ー  ト  イ  ツ
 ――“途絶えることのない大顎の刃”。



(……ま、ここまでやってやっと五分ってとこだけどな)


 しかし、五分なら麻雀は平常なる確率に収束したも同じ。

 そうなったのなら、あとは対人経験。

 心理戦・表情変化・目線移動・勝負勘などの世界。

 もう、全てを見通そうとする目と観察はいらない。必要がないほどに、無意識野にそれを察知できるほどの経験が彼にはあるのだから。


 これで、異能との間に区別はない。

 あとはただ、尋常なる勝負。なんの勝ち目も負い目もなく、麻雀を打つだけ。

 その能力が故に“特別”だと、差別をされる必要がない時間。

 決まりきってしまったと諦観する必要がない時間。未来が定まらず不明だからこそ、そこには『祈り』や『希望』が訪れる。

 少女は全力で、全ての異能と特性を須賀京太郎にぶつければいい。そうする事は、間違いではない。ズルではない。有利ではない。

 人間が、並べばいい。並んだのなら、そこに不公平など感じなくてもいい。

 彼女は――己がそうなって欲しいと願う未来へと、『祈れ』ばいい。


 オカルト使いに無いのはその『祈り』。

 結果が分かってしまっているからこそ、彼女たちは麻雀に於いて祈らない。

 そしてオカルトが彼女たちの精神状態と深く関わる以上、協力であればあるほど『祈れ』ない。

 ネットにぶつかって弾かれたボールの行方を、『祈る』――――。

 そんな、誰しもが行える――辛くて、不安で、面白くて、悔しくて、楽しい――――人間にとっての当たり前の『祈り』を。

 人間ならば誰でも出来る当たり前の事を出来るように、届ければいい。


「じゃあ――――麻雀、楽しもうぜ」


 ――オカルトスレイヤーの剣は、そのためにある。




 ――――聖ジョージの剣。



 ――――ジョージという名前はそもそも、ゲオルギオスという名に由来する。


 ――――ゲオルギオスとは、悪しき竜を討ち倒し、姫を救った人間。


 ――――どこまでも気高く、己の持つ信念を曲げなかった人間。


 ――――化け物を倒した人間。



 ――――このゲオルギオスは、


 ――――神へと『祈り』を捧げる事を旨とする、



「言ったろ? 俺が、証明してやるって」



 ――――――――――キリスト教の守護聖人である。




                                                  ――――了

>>977(訂正)
×
 そしてオカルトが彼女たちの精神状態と深く関わる以上、協力であればあるほど『祈れ』ない。


 そしてオカルトが彼女たちの精神状態と深く関わる以上、強力であればあるほど『祈れ』ない。

つーわけで以上です、闘牌

オカルトスレイヤーの物語はこれで終わりって感じですね
……うんまだその後の話あるけど、ここでヒーローの物語はおしまい


アコチャーその後編は次スレで行います
ここまでなんだか特殊能力なしでうっだうだ読んでる方も頭を使う物語にお付き合い感謝です

なんか質問とかあったら書いてください。残りは次スレで

んじゃ、あっちで最後のお話するでー

あ、こっち埋めちゃってなー

なんとか物語が完結して良かったです

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