オール安価でまどか☆マギカ 25 (461)

このスレは、安価で決めた主人公・時系列・前提設定で進める長編多めの安価SSです。
各編で話につながりはありませんので、途中参加は大歓迎です。
全体的にシリアス傾向が強いけど実は作者は安価スレらしいカオス展開も大好きです。

【現行】あすみ編派生『かずみ』  :[24]>>849
・・・あすみの盗んだトランクに入ってたかずみが主人公の、見滝原周辺の外伝が全部入り混じった大変カオスな話。
・・・あすみ編の世界観および出来事、あすみのキャラ設定を引き継いでいるので、そちらについては下を参照。

【完結した話】
オリジナル主人公編(桐野巴編)【完結?】
・・・キリカとその幼馴染というだけのモブの物語。
・・・話の本筋と関係ないギャルゲのようななにかと、シリアスかつバッドエンドの現在二周。
・・・話の性質上、オリキャラと恋愛要素とかが苦手な人は閲覧注意になります。
・『キリカルート』[22]>>820~[23]>>828
・『メインルート』[24]>>11>>530
あすみ編  :[21]>>465~[22]>>680
・・・呪いから生まれた異端な魔法少女の話。
・・・願いにより復讐を遂げたあすみが見滝原の事情を引っ掻き回していく。
・『補完後日談』[23]>>847>>959
・『続編』[24]>>594>>748
キリカ編2  :[14]>>719~[15]>>182,[17]>>927~[21]>>426
・・・未契約キリカが黒猫と謎の少女に出会い、不思議な運命を知る話。
・・・前半はミステリー風シリアス、後半はほのぼの系。“トゥルーエンド”みたいなものを目指しました。
・『統合後(後篇)』 [18]>>846
杏子編  :[15]>>197~[17]>>918
・・・マミの“先輩”な杏子のifストーリー。
・・・マミと仲直りしたり、色んな人と仲良くなったりする比較的ほのぼのなストーリー。
・After『マミさんじゅうごさい』:[17]>>436
なぎさ編  :[12]>>717~[14]>>616
・・・謎の神様によって魔女化から助けられたなぎさが見滝原で奮闘する話。
・After『あすみ参入』:[13]>>953
メガほむ編 :[9]>>181~[12]>>666
・・・非情になれないほむらの4ループ目、織莉子たちとの戦い。
・After『夜明け後の一週間』[12]>>93
アマネ編  :[7]>>807>>963,[8]>>5>>130(GiveUp)
・・・抗争に破れて見滝原に来た最弱主人公の野望の話。  ※オリ主※
キリカ編  :[7]>>309>>704,[8]>>475~[9]>>151
・・・本編時間軸で織莉子が既にいない世界のキリカの話。話はほぼまどマギ本編寄り。
恭介編   :[6]>>815~[7]>>240(BadEnd+)
・・・恭介の病院での日々と、退院してからの話。
Charlotte編 :[7]>>264>>285
・・・チーズを求めるCharlotteの小話。
ユウリ編様 :[5]>>954~[6]>>792(BadEnd)
・・・契約したばかりのユウリが目的を達成するためにマミの後輩になる話。
QB編   :[2]>>198~[4]>>502
・・・感情の芽生えたQBの話。
中沢編   :[練習]>>164~[2]>>150
・・・まだ試運転。中沢が安価の導きにより魔法少女たちと関わっていく話。
さやか編   :[練習]>>8>>154
・・・マミの死後、さやかが魔法少女になって張り切ったり悩んだりする話
・・・試験作。かなりあっさりしてます。

【未完結の話】
Homulilly編 :[4]>>535>>686
・・・生まれたばかりの魔女Homulillyが時空を旅する話。
かずみ編  :[4]>>982~[5]>>879
・・・ユウリのドジで見滝原に運ばれたかずみが織莉子とともに救世をめざす話。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1534003266


【注意】
*安価の内容について
★無効安価は自己判断で安価下。明らかに無効になりそうな内容は、その下に別の安価をしてくれるとスムーズに運びます。
★自由安価は基本的に主人公から起こす内容のみ。主人公以外の視点に移っている時はその場にいる人の言動まで可。
★『相談したい事がある』『話したいことがある』のみの安価は不採用とします。必ず話す内容まで書いてください。

*安価の取り方について
★基本的に連続で安価を取っても構いません。連投は1レスとして考えます。
★多数決は連続・連投無しです。
★多数決で同数に意見が割れた場合は指定内の最後のレス内容を採用。
★主レスは安価先を指定する数字に含まない。
★「下2レス」と書いた時には1時間以内に2レス目がこなければ「下1レス」に変更します。
 投下時間外は下2レス目があればそっちを優先。

*このスレの話について
★まどマギのほかに、おりマギ本編・かずマギ・漫画版まどマギ・TDS・PSP・劇場版のネタを含みます。
 それ以外からのネタは出さないか考慮しませんが、知ってるとより楽しめるネタはあるかもしれません。


・前スレ

『まどかマギカで安価練習』 :まどかマギカで安価練習 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369643424/)
『オール安価でまどか☆マギカ 2』:オール安価でまどか☆マギカ 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370979872/)
『オール安価でまどか☆マギカ 3』:オール安価でまどか☆マギカ 3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371835671/)
『オール安価でまどか☆マギカ 4』:オール安価でまどか☆マギカ 4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372909496/)
『オール安価でまどか☆マギカ 5』:オール安価でまどか☆マギカ 5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373645366/)
『オール安価でまどか☆マギカ 6』:オール安価でまどか☆マギカ 6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377690974/)
『オール安価でまどか☆マギカ 7』:オール安価でまどか☆マギカ 7 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 8』:オール安価でまどか☆マギカ 8 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 9』:オール安価でまどか☆マギカ 9 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 10』:オール安価でまどか☆マギカ 10 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 11』:オール安価でまどか☆マギカ 11 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 12』:オール安価でまどか☆マギカ 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430323957/)
『オール安価でまどか☆マギカ 13』:オール安価でまどか☆マギカ 13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439045180/)
『オール安価でまどか☆マギカ 14』:オール安価でまどか☆マギカ 14 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448012780/)
『オール安価でまどか☆マギカ 15』:オール安価でまどか☆マギカ 15 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 16』:オール安価でまどか☆マギカ 16 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 17』:オール安価でまどか☆マギカ 17 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483717207/)
『オール安価でまどか☆マギカ 18』:オール安価でまどか☆マギカ 18 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491232637/)
『オール安価でまどか☆マギカ 19』:オール安価でまどか☆マギカ 19 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497797899/)
『オール安価でまどか☆マギカ 20』:オール安価でまどか☆マギカ 20 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504964306/)
『オール安価でまどか☆マギカ 21』:オール安価でまどか☆マギカ 21 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511090204/)
『オール安価でまどか☆マギカ 22』:オール安価でまどか☆マギカ 22 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516880466/)
『オール安価でまどか☆マギカ 23』:オール安価でまどか☆マギカ 23 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523754962/)
『オール安価でまどか☆マギカ 24』:オール安価でまどか☆マギカ 24 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527599223/)

※『オール安価でまどか☆マギカ 21.5避難所』:オール安価でまどか☆マギカ 22 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516811060/)
 脇道逸れた小話を書いたり本スレで出来ない安価募集をしたりする場所。次スレが見当たらないよ!という時にも覗いてみると情報があるかも。


☆随時募集

*安価で魔女を作ろうぜ*


 主に風見野や見滝原外などで登場するオリジナル魔女を募集中です。

 登場の機会があれば色んな物語に出させます。

 被りは一部再安価か統合。


・名前:【安価内容】の魔女(思い浮かんだものがあれば魔女名も)

・攻撃方法/見た目/特徴/性質/弱点/使い魔 など



かずみ「……何を言ってるのかはわたしには理解できない。でも、あすみちゃんはキュゥべえのことを殺したんだよね」

あすみ「そうだね。あ、私は謝る気はないから。私のことを改心させるとか、くだらない仲直りごっこなんて期待しないでね」


 そう言うと、あすみは軽い足取りで私たちに背を向けてドアに手をかける。


あすみ「巴マミ。本当は話し合いなんてする気はなかったんでしょ? アンタは最初から私を追い出すか殺す気でここに来たんだ」

マミ「……それも悪い人が相手なら仕方のないことだと思った。私の大事なものを守るために」

あすみ「ねえかずみ。巴マミみたいなやさしー人が、いつでも優しくて正しいと思う?」

あすみ「ああいう表面上常識人ぶった『いい人』ほど、つつけばどうなるかわかんないもんだよ」

あすみ「アンタのことも、アンタが自分に従順なイイコだから喜んでるとか」

かずみ「そんなことないよ! マミはわたしに居場所を与えてくれて、訓練までしてくれたのに……そんなこと言わないでよ」


 あすみは意地悪く言う。わたしはその言葉に反感を抱いた。

 なんでそんなことを言うんだろう。

 でも、勝手かもしれなくても私はあすみにも恩を感じることはあったから、やっぱり出来ればいがみ合うのを見るのは嫌だなとも思った。


あすみ「……――――あっそう。それと、気を付けて帰ってね?」


 あすみは扉を開くと、一言心配するような言葉を言ってからその中に消えていく。


 ……扉が閉まる音がする。それからすぐに鍵もかかる。


 わたしはさっきの言葉も含めて、その意味を考えていた。

 わたしが何も知らないのは当然。でももしかしたら、あすみはマミが知らない何か、知ってることでもあるの?
 



マミ「私たちも帰りましょう。ティータイム、できなくてごめんなさいね」

かずみ「しかたないよ。こんな時なんだもん……」


 千歳家から離れていくと、マミのマンションに向かって歩き始めた。

 昨日別れるときには行く場所は決まってないようだった。あれからなにがあったんだろう。


 いつのまにか帰り道はすっかり暗くなっていた。

 ……さっき言われた言葉の意味を嫌でも感じ始めたのはすぐ、その途中だった。


*「おっとゴメン!」

マミ「!」


 いきなり自転車で後ろから走ってきた人が、横からぶつかって通りぬけていった。

 あきらかにわざとだった。荷物をひったくろうとしたみたいだけど、狙った通りにならなかったらしい。

 何も取られなかったかわりにマミは横に手をついて倒れていた。


かずみ「マミ、大丈夫?」

マミ「え、ええ。大丈夫だけど……」



 あれだけ意地の悪いことを言っていたのに、最後に取ってつけたような言葉。

 …………これも偶然、だったのかな。


――――
――――――



キリカ「……何猫かぶってんのさ。今更『さん』付けなんてしらじらしい」

織莉子「巴マミはこの地を仕切る魔法少女。周辺じゃ一番でしょう」

織莉子「彼女に目を付けられるのは得策ではないわ。貴女も気をつけなさい、“キリカ”」

キリカ「キュゥべえのことはこれから話そうと思ってた。でも、どうすんの? キュゥべえもいないのに魔法少女続けるなんて!」

織莉子「別に、どうもしないわ。何も変わりはしない」


織莉子「それより、あの『小さいほう』ね。あれは少し厄介だわ」



――――――
前日夜 風見野



杏子「――――……それとも、他人の空似だって言うつもりか? 双子でもいたとか?」

QB「君の考えはおおよそ当たっているよ。でも、『当たらずとも遠からず』だ」


QB「……少なくとも、近い存在ではあるかな」




――――――
――――

----------次回は14日(火)夜からの予定です

翌日



かずみ「――――マミッ! 朝ごはんできたよ」


 マミを呼ぶと、出来立ての料理を運んでテーブルにつく。

 器の中からはホカホカの湯気が立っている。今日の朝食はわたしが全部作っていた。


 マミが起きたのはさっきだった。昨日よりは支度もいくらかスローペースだ。


かずみ「どうかな?」

マミ「すごくおいしいわ。朝からありがとう」


 ……やっぱりキュゥべえの事でまだ元気がないのかな。

 静かに微笑むマミの顔を見る。



1今日は放課後どうする?
2自由安価

 下2レス

1



かずみ「今日は放課後どうする?」


 マミも本調子じゃないかもしれないし、そんな気分じゃないかもしれない。

 そう思うと少し心配になった。


マミ「あ、そうね。また訓練もしないとね……」

かずみ「べ、別に無理にじゃなくてもいいよ! こんなときこそ、その……~~おいしいものを食べに行くとか!」


 でも、そう言うと笑われてしまう。なにかおかしいこと言ったかな?


マミ「おいしいものなら食べてるわよ。……あなたがいてくれてよかったわ。じゃないと私、今一人だったらどうしてるかわからなかった」

マミ「こんなときこそ、訓練しましょうよ。かずみさんはそのために来たんでしょう? それに、もっと息を合わせて戦えるように」

かずみ「う、うん! そうだね、がんばるよ」


 ……笑われても、マミが笑顔になったならいいや。でもその笑顔はやっぱり少し寂しそうで。

 わたしには、ずっとマミの傍に居たキュゥべえの代わりには完全になれることはないんだろうな。

 やっぱりそう感じてしまった。


 ――そんな笑顔を見ながら、昨日と同じ時間になるとマミを外に見送った。

 わたしはまた家で一人になる。


かずみ「んー…………」



 この時間はやっぱりちょっと退屈だ。

 自分のいない間まで部屋を貸してくれて、もうこれ以上ないほど贅沢なんて言えないけど……――


かずみ(もっと息を合わせて戦えるように、か)


 マミに会うまでは切羽詰まったような考えをしなくちゃいけないことばっかりだったから、

 そういうふうに考えて訓練するなら、なんかいいな……って思った。


かずみ(マミと行く前にちょっと自主練してこよう! 少しの間なら、大丈夫だよね…………)

----------------次回は15日(水)夜からの予定です


――――

――――


 お昼を食べてから、戸締りをして家を出る。

 まだ見滝原の景色は見覚えがないところばっかり。こうして一人で歩いてると軽く探検気分だ。


 ……訓練場所に向かう途中、ふと昨日も行った場所へと足を延ばした。

 『千歳』さんの家。外から眺めてみてもどこにも明かりはついてない。

 宣言どおり、本当にこの街を出て行ったんだろう。


かずみ(……あの『キュゥべえ』にまた会えることがあるの?)

かずみ(だとしたら、マミは……――――)


 ――だとしたら、マミはあすみを許せるのか。

 その場を見たわけじゃないし、なにがあったか詳しいことはわからない。

 ただ、あの時風見野に行くって言って別れてからキュゥべえを見ていないことは事実だった。


――――

土手



かずみ「――――えいっ!」


 訓練場所に着くと、マミに見てもらった時のことを思い出しながら杖をそれらしく振り回してみた。

 これでも格闘の訓練になってるんだろうか?

 最初より少しは手に馴染んできた気がする。


かずみ「はっ! やっ!」


 その時視界の隅で何かが動く気配を感じ、瞬時にその姿を捉える。

 うん、今のわたしに死角はない。


かずみ「猫ちゃんよ……こっちにきて!」

「にゃー」


 杖を片手にポーズをとる。

 ……しかし、猫は気まぐれにどこかへ行ってしまった。ため息をつく。


かずみ「魔法でなんでも思い通りにはいかないものだなぁー――」


かずみ「よしっ、そろそろ迎えに行ってみようか。見滝原中学校だよね?」

かずみ「――って、どこ!? そういえば場所知らないよ。マミが帰って、わたしがいなかったら心配するかも……」


 連絡を取る手段も、調べる手段も、今のわたしにはないことに気づく。


かずみ「お巡りさんか誰かに聞いたらわかるかなぁ……」


 ひとまず、土手から通りの方に出て歩き出した。

 でも知ってる道だけだ。一人であまり知らないところに踏み込んだら迷子になってしまう。


 その途中で、見覚えのある姿を見つける。


かずみ「ん?」


かずみ(あれは…………)

------------次回は16日(木)夜からの予定です



 その格好はマミと同じ『見滝原中学』の制服だった。

 思わずすごく助かった気持ちになって傍へと駆け寄っていく。


かずみ「キリカ!」

キリカ「…………昨日の。マミと一緒に居た子か」


 かたや、相手の反応は薄かった。


かずみ「ねえ、学校に居た人ってもう帰っちゃったかな!? マミを迎えに行きたいの!」

キリカ「案内してほしいってこと?」

かずみ「……報酬なら、払うよ」


 やっぱりタダじゃ嫌なのかと思って、昨日倒した魔女のグリーフシードを差し出してみる。

 しかし、キリカはそれを突き返した。


キリカ「いいよ、そんなのしまって。そんなの受け取ったの知られたらまずいし」

かずみ「え、どうして……?」

キリカ「とにかく、マミならさっき会ったよ。もう帰るとこだった。……ていうか、一個も持ってないのに無理するなよ」

かずみ「う」


 ……手の中のグリーフシードには既に黒いよどみが見えている。

 これは昨日使った分の残りだ。これじゃ交渉すらできないのかな。


かずみ「やっぱり手遅れかぁ、どうしよ~っ」

キリカ「今から行ってみれば間に合わないことはないかもよ」

かずみ「ホント!? じゃあ急がなきゃ!」


 ペコリとおじぎをして行こうとする。

 ……すると、キリカはこっちをまるで不思議なものでも見るようにしながら言った。


キリカ「……よっぽど好きなんだね」

かずみ「マミ? うん! だっていっぱい面倒見てくれてるし!」



1キリカも今度一緒に訓練してみたらいいんじゃないかな?
2自由安価

 下2レス


かずみ「キリカも今度一緒に訓練してみたらいいんじゃないかな? せっかくキリカはずっと同じ縄張りにいるんだから」

キリカ「あー、そっか……キミは少ししたらここからいなくなるんだっけ?」

かずみ「うん。わたしはいつかあすなろに帰らないといけないから」

キリカ「……訓練はやめとくよ。それより早く行ったら?」

かずみ「うん、ありがとう! またね!」


 挨拶をすると、道を駆けていく。その途中で気になるものが目に入った。

 そして再び走って戻ってくる。


かずみ「はい! これお礼に!」


 近くで売っていた屋台のたい焼きを差し出すと、キリカは驚いてこっちを振り返る。

 キリカはおずおずと手を伸ばして、宙に手を浮かせたまま動きを止めた。


キリカ「お礼? 私なんもしてないよ」

かずみ「情報提供料、です!」

キリカ「……じゃ、そういうことならもらう! 今度からもグリーフシードよりそっちをお願いするよ」


 キリカはたい焼きを受け取って、上機嫌でかぶりつく。

 その様子を見るとわたしもちょっとうれしくなった。


かずみ「また今度、今度ね! 食べ物が好きな人に悪い人はいないよ!」

キリカ「その理屈はよくわかんないけど。……別にそんなに良い人じゃないよ、私は」

かずみ「悪人は自分で悪人ですなんて言わないよ。言うのは謙遜か、悪いことしてるって負い目がある人だけ」


 そう言うと、キリカは一旦食べる手を止めた。口の端にあんこをつけたまま。

 この人がどっちかなんてことは今探る気はない。


キリカ「じゃあ、悪い人は良い人のふりをして近づいてくる?」

かずみ「悪い人は食べ物を粗末にするの! 物語の中じゃ、その人は生きてエンドロールを迎えられないよ」

キリカ「なにそれ」


 キリカは言葉通りに複雑な顔をする。――なんだったかな。なにか覚えてる気はするんだけど。


 今度こそお別れの挨拶をすると、マミの家のほうに駆けていく。

 ……キリカはその姿を遠巻きに見ながら再びたい焼きにかぶりついた。



キリカ「……へえ、楽しそう。私もあっち側のほうがよかったかな」




 マンションに向かっていると、ちょうど土手との中間くらいのところでマミと鉢合わせた。

 ――道の途中でマミの呼ぶ声が聞こえる。


マミ「かずみさん!」


 マミも息を切らして走っていた。わたしが思わず心配になるほどに。


かずみ「あれ? マミ、どうしてそっちから?」

マミ「家にはいなかったから、訓練場所や心当たりのある場所に行ってみようって思って……」


 マミはこっちに駆け寄ると、その場で息を整えて安心した表情を見せた。

 でもまだ心配がぬぐいきれないのか、それからわたしの両手を握って詰め寄ってくる。


マミ「……よかった。もしかずみさんまでいなくなっちゃったらどうしようって思った」

マミ「誰かに襲われたわけでも、嫌になったわけでもないのよね?」

かずみ「う、うん。大丈夫」

かずみ「ちょっとだけ先に訓練しようって思ってたんだけど、熱が入ったら遅くなっちゃって……」

かずみ「学校に直接行こうかとも思ったけど場所知らないし、心配かけちゃったね。ごめん」

マミ「それならいいの。……じゃあ、さっそく訓練に行きましょうか」


 二人で並んで訓練場所へと歩き出そうとして、マミの姿を改めて見てみる。

 今日はまだ制服のまま。その服や靴がところどころ汚れたり擦り切れているのが目に入った。


かずみ「……マミ、ここに来るまでにどうかしたの?」

マミ「あぁ、これは転んだだけ」


 マミは軽く言う。

 でもやっぱりわたしは、昨日からどっか『嫌な違和感』を感じていた。

――――

――――



 かずみとマミが歩く通りのすぐ隣の通り、そこには人々の通る道の端に、ひっそりとした人の姿があった。



ユウリ「…………くっ。 一体なにがどうなってる? あれから魔法少女の情報すらなし、収穫ナシだ」

ユウリ「“アイツ”からの連絡も届かない――」

ユウリ「やることなすこと、まるで何かに妨害されてるみたいだ」


 人々の通る道の端で、その影はゆっくりと動き続ける。


 ……ずるりと何かを引きずるように歩いていた。


――――

――――
土手



マミ「そう、もっと身体全体を使って! 重心を意識すれば動きやすいし威力も増すはずよ」

かずみ「わ、わかった!」


 ――土手に着くと、昨日と同じ通りマミは熱心に指導してくれていた。

 傍で見てくれて、相手もやってくれて、マミがいるのといないのじゃ全然違う。


 訓練に一区切りつけて休憩に入ると、芝生の上に座って身体を伸ばす。


かずみ「やっぱ一人でやってるよりずっとやりやすいよ! 上達できてるって感じする!」

マミ「お疲れ様。かずみさんは色んなことを素直に吸収してくれるから、私としても教えやすいわ」



1魔女狩りに行こう
2昨日からの違和感について
3自由安価

 下2レス


かずみ「……ねえ、マミはなにか違和感ない?」

マミ「違和感?」


 今日のパトロールに出発する前に、ふと気になっていたことを聞いてみる。

 ……マミは気づいてないのかな?


かずみ「なんていうか、昨日からなんか変な感じ。言ってみると、偶然とは思えない嫌なことが起きてる……みたいな」

マミ「もしかして、この怪我のこと? ……きっと考えすぎよ。心配してくれてありがとう」


 そういうマミは、強がってるみたいにも見えた。

 もしかしたら気づいてはいるのかもしれない。でもきっと、わたしに心配をかけさせたくないんだ。



 休憩を終わりにして土手を出発すると、またマミと一緒に街を歩きだす。



かずみ「ところで、キリカや織莉子とは訓練いっしょにやらないの?」

マミ「あの二人と?」

かずみ「うん。キリカには今度どうかなって誘ってみたんだけど」

マミ「……あまり考えたことはないわね。そういうのを望む人ばかりでもないだろうし」


 それからすぐ、魔女の反応を感じ取ったマミが結界を探り当てる。


 ――わたしはまたその反応を感じ取ることができなかった。

―お菓子の魔女結界



かずみ「わぁ、お菓子がいっぱいある」

マミ「油断しちゃダメよ。病院に現れる魔女は放っておいたらそれだけ被害も大きいんだから」


 大きなお菓子と病院の薬剤、奇妙な組み合わせが混ざり合って非現実的な世界を作り上げている。

 これはマミがグリーフシードの状態で見つけたものだ。出来たての結界を進む。

 こういうのは、結界からはぐれた使い魔がグリーフシードになったか、誰かが濁ったグリーフシードを意図的に捨ててしまったものらしい。


かずみ「使い魔が少ないね」

マミ「孵化したてだからでしょうね。それならそれで、このまますぐに決着をつけてしまいましょう」


 結界の中の扉をくぐっていくと、最深部には魔女の寝床がある。

 そこを囲むように使い魔が行列を作っていた。



マミ「まずは使い魔を!」

かずみ「うん!」



かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:1個
・ヘヴィメタ[70/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


仲間:
マミ 状態:正常


敵:魔女Charlotte
  使い魔Pyotr×10 <-攻撃対象デフォルト

1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技

 下1レス



かずみ(まずはこの前戦った時みたいに、数で対抗する!)


 結界の中にあるものから姿を変えて分身を作り出す。

 次々とお菓子が“わたし”になっていく!


マミ「これは……!」

かずみ「驚いた? これもわたしの魔法の応用だよっ!」

マミ「ええ、驚いたわ。考えたわね」

かずみ「んー、でも……わたしが考えたわけじゃないの」

マミ「え?」

かずみ「わかんないけど、記憶の中にあった気がするような……――」


 戦いの最中に考えていると、マミが手をひく。


マミ「さあ、行くわよ。まだ魔女が残ってる」

かずみ「うん!」


 そうだ。迫ってくる使い魔は片づけたと思ったけど、まだ魔女がいるんだった。

 けど全然暴れてる感じがしない。寝坊助なのかな? 最深部の中心に近づいてみると、拍子抜けする姿のぬいぐるみが落ちていた。



かずみ「これが魔女……?」

マミ「恐らくね。魔力からしたって間違いないでしょう。気を抜いたら危ない。手を抜かず、速攻で倒すっ!」


 マミが小さな魔女の頭部に向けて発砲し、念入りに拘束する。

 さらにそこに向けて数発。まだ結界が崩れる気配がないのを見て、さらに大技で確実に仕留めようとする。


マミ「ティロ・フィナーレ!」


 大砲の口からは魔力の塊が放たれる。

 しかし魔女は――――ぼろぼろになった小さなぬいぐるみは、その中から人一人を飲み込むほどの“正体”を現した。



 マミはその瞬間、完全に放心していた。



かずみ「マミッ!」




かずみ 魔力[90/100]  状態:正常
GS:1個
・ヘヴィメタ[70/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


仲間:
マミ 状態:正常


敵:魔女Charlotte <-攻撃対象デフォルト
  使い魔Pyotr×3[近]
  使い魔Pyotr×5[攻撃圏外]
  使い魔【特殊】Pyotr×1[攻撃圏外]


1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技

 下2レス



 ――――戦いの運命に約束された勝利はない。

 不安定な天秤は些細なことでたやすくひっくり返り、敗者の命を奪っていく。


 マミにとってはここで、この状態でこの魔女が現れたこと自体が不幸の塊だった。

 それでも、“隣”に彼女が居たことは運より強い味方で、その出会いはなにより奇特な幸運の証だった。




 死に直結するほどの不幸ではない。

 それでもわたしには、ついにあの“違和感”そのものが……『死神の鎌』のようなものが振り下ろされた瞬間のように思えていた。



かずみ「っ!」


 杖を構え、その先から短く魔力のビームを散らして照射する。

 魔女は進行方向を捻じ曲げられ、狙いを変えた。


かずみ「こっちを向け! お前の相手はわたしだぁーっ!」



 魔女の横を回り込み、黒い胴体に杖を叩きつける。

 視界の端で魔女の動きを追いながら浅い突きを入れると、一旦距離を取った。


 そこに正面から魔女はかぶりつこうと突進する。


かずみ「よし――狙いはもうわかってる!」


 飛び上がって地面に魔女を突き倒すと、胴体の皮が破裂して新しい本体が出てきた。

 後ろを取ってもう一度素早く杖を突きだす。この時にも訓練の時にマミに言われたことは注意していた。


 もうこっちには向かせない。戦いのペースも掴んできた。


かずみ(なんだろう、この感じ……)

かずみ(身体が覚えてる)


 失った記憶。でも、戦いの感触は奥底に刻まれた本能のようにたしかに残っている。

 それを今はっきりと感じた。


かずみ「――今だ」


 静かに呟き、杖を振り上げる。

 その時、“何か恐ろしいもの”が脳裏をよぎって見えた。この前も見た片鱗――それを前よりもはっきりと。


かずみ(えっ……)


 少女たちの死体、何人もが倒れる血だまり。振り上げた杖が記憶と重なる。



 杖は魔力を放出することも振り下ろされることもなく、代わりに黄金の銃弾が魔女の皮を破った。

 ここで大技を使ってもまだ戦いは続いていたんだ。


マミ「待って、これは思ったよりも慎重に、そして素早く追い込んだほうがよさそうよ」

マミ「隙なら私が作り出す! かずみさんは確実に叩き込める時を狙って!」

かずみ「う、うん!」


 マミと二手に分かれて魔女を囲み、誘導しながら攻撃を当てていく。

 出てきたそばから交互に攻撃を打ち込み、次々に破る。

 大技の隙だって二人もいれば埋められる!


マミ「無限の魔弾よ、私に道を拓いて――!」

かずみ「――――リーミティ・エステールニ!」


 降り注ぐ銃弾とぶつけられる強力な魔力。

 魔女の動きを完全に塞いで、その存在を跡形もなく滅する。


 やがて魔力の鎮まった結界の中で、倒しきったことを確認するとやっと二人で安心した。


かずみ「やった、倒せたよ!」

マミ「ええ! 必殺技、息ピッタリだった! 私たち、すごく相性のいいコンビよ」


 しばらくはしゃいでいたけど、それからマミは突然その場に崩れるように座り込んだ。

 マミの手元にあるソウルジェムが、これまで見たことのない暗い色に濁っているのに気づく。


マミ「……ごめんなさい、気を抜くなって言っておいた本人がこれなんて。気を抜いてたのは私のほうね」

マミ「あなたがいなかったら私、あのままやられてたわ。――でも、それでもいいかって。あの時ね、本当は少しだけ思っちゃった」

かずみ「マミ、そんな状態で戦ってたなんて! いざって時に魔法使えなくなったら大変だよ!」


 慌ててさっきの魔女のグリーフシードを拾う。

 わたしも座り込んで、ソウルジェムごとぎゅっとマミの手元を両手で握り込んだ。


かずみ「……よくないよ。マミがそんなこと思ったら、死んだ人も悲しむよ。わたしもマミとやりたいことまだまだいっぱいあるんだよ」

マミ「ええ、そうね。もし元のかずみさんに戻って街が離れても、師弟以外で私ともコンビやってくれる?」

かずみ「うん。わたしはマミの弟子だけど、その前に友達だし相棒だから」


 ……そう答えつつ、あのさっき過った“記憶の断片”が心に残っていた。

 いつか記憶が戻って、『元のわたし』になって――もしそれがマミの許せないような人だったらどうしよう?


 そんな不安が生まれる。それはまだ言えなかった。




マミ「本当に、あなたがいてくれてよかった」


――――

-----------次回は19日(日)夕方~夜から開始予定です

------------ちょっと思ったより予定が長引いたので本日中止。
次回は20日(月)夜からの予定です

――――

――――


織莉子「……いらっしゃい、キリカさん。来るなら事前に連絡が欲しかったわね」

キリカ「したよ。メール」

織莉子「そう? 私が見ていなかっただけかしら……」


 豪奢な玄関を通され、中に足を踏み入れる。

 キリカはその雰囲気に“どこか覚えのある”作られたような違和感を感じていた。


織莉子『相手に認識されなければ意思が届いたことにはならないわ。返信も待てないの?』


 冷たい部分は空気の奥底に隠し、テレパシーで伝える。

 キリカはむすっとした顔をしたが、反論はせずに自分の“用件”を言った。 


キリカ「……巴マミから伝言。『この縄張りでの活動を控えろ。もし美国さんにも会ったら伝えておけ』だってさ」

キリカ「どうすんのこれから。てゆーか、言われるまでもなく“ゴミ箱”がいないんじゃ活動も控えざるを得なくなるのに」

織莉子「それならその通りにするしかないでしょう。私は彼女に目を付けられたくはないわ」

織莉子「でも、“回収係”なら心配しなくていいわよ。一応この前も言ったでしょう?」




 意味深な言葉を言う織莉子に、何を言ってるのかわからないとばかりに不審がるキリカ。

 織莉子はこの場の誰もいない場所に向かって声をかけた。


織莉子「キュゥべえ。まだ話は終わっていないわ。ほら、キリカさんも用事があるかもしれないし――」

織莉子「ところで貴方、マミさんの前にはいつ姿を見せるの? 彼女、落ち込んでいるんじゃないかしら?」

キリカ「は?」


 思わず聞き返す声が上がるが、そこには変わりのない姿があった。


QB「……用はあるかい?キリカ。使い切ったグリーフシードがあるなら今もらうよ」

キリカ「いや、だって! あの時目の前で……!」

織莉子「私は一足先に視えていたのよ、“この力”で」

織莉子「幸い、キュゥべえには代わりがいくらでもいる。記憶も意識もそのままだわ。これで安心してくれたかしら?」




織莉子『どこに行くの? 勝手な行動はやめなさいね』

織莉子『……これは命令よ。私が見込んだのは貴女の“そんなところ”じゃない』


織莉子『次に行くところは決まったわ』


――――


QB「家を知るくらいにまでなっていたとは。ずいぶんキリカと仲良くなったんだね」

織莉子「……――――そうかしらね。招かれざる客なら、教えた覚えもないのに外にたくさん来ているけど」

QB「……そんなに有名なのかい? 君の家は」


――――
――――



マミ「かずみさん、ケーキが出来たわよ。テーブルに運んで」

かずみ「どれどれ? わあ、めっちゃうまそう! 食べてもいい? 食べてもいい?」

マミ「ええ。召し上がれ」


 マミの家に帰ってくると、昨日の宣言通りマミがケーキを焼いてくれた。

 魔女狩りの時にはまだ本調子じゃなさそうだったから心配したけど、マミは張り切った様子だった。


 紅茶とケーキがテーブルに揃って『お茶会』がはじまる。


かずみ「マミ、もう大丈夫なの?」

マミ「やっぱりキュゥべえのことはまだ悲しいし、ずっと忘れられないと思うけれどね……」

マミ「でもなんていうか、『お祝い』とか『感謝』とかの気持ちを込めてこういうのをやりたかったのよ」

かずみ「ありがとう。甘くてふわふわで美味しいよ!」


 フォークを突き刺して、クリームたっぷりのケーキをほおばる。

 期待した通り、マミのお菓子作りの腕は確かだった。


マミ「……ねえ、明日は帰る前に少し買い物して行かない? かずみさん、朝起きてから寝るまでずっとそれを着ているでしょう?」

かずみ「え、でも……」


 わたしの持ってるお金は汚いのだけ。……マミが知ったら、やっぱり嫌がるかな。

 わたしもあの時最低限のものは買い揃えたけど、それ以上自分のために使うのは抵抗があった。


マミ「お金なら私が出すわ。必要なものでしょうし」

かずみ「で、でもそんなにしてもらうわけにはいかないよっ!ただでさえもうマミにはいっぱいお世話になってるのに」

マミ「でも、いくら魔法で変えられるっていっても大変じゃない?」

かずみ「うーん……それなら、明日はわたしがお菓子作るよ。またお茶会しよう!」

マミ「いいわね、それ。それなら明日も楽しみにしておくわ」


 わたしはお菓子作りはどのくらいできるんだろう。

 わたしも今から楽しみになってきた。



1そういえばキリカとは何を話したの?
2マミって帰国子女なの?
3自由安価

 下2レス

----------ここまで。次回は22日(水)夜からの予定です


かずみ「――あ! マミって帰国子女なの?」

マミ「どうして?」

かずみ「だって必殺技がイタリア語だったし……『最後の射撃』、でしょー?」

マミ「もしかしたら、かずみさんのほうがそうなんじゃないかしら?」

かずみ「えっ、わたしが?」

マミ「だから直感的にわかるし、そう思ったの」


 そう言われるとたしかに納得して、うんうんと頷いた。

 わたしは帰国子女かぁ。


 そしたら、マミがこそっと内緒話でもするように近づいてきた。


マミ「……ちなみに、リーミティ――って、どういう意味?」

かずみ「えっ」



 ――――……お茶会は一旦中断。

 マミの家にあった辞書を一緒に見ていると、マミはどこか恥ずかしそうにしていた。


マミ「……ごめんなさい。このとおり、私は帰国子女でもなんでもないから」

かずみ「別にいいよ。わたしもなんか、ちょっとだけ自分の正体に近づけた気がしたし」


 本をしまって、カップに残ってた紅茶を口に含む。

 でも、わたしの正体ってまだまだ謎が多い。

 今日の戦いのときのことを考えると、知った方がいいのか――なんて疑問も心の隅にわきはじめていた。


かずみ「そういえば、キリカとは何を話したの? 訓練の前マミに会ったって」

マミ「……ああ、呉さんと話したことね」


 聞いてみると、マミはなぜか少しだけ話しにくそうにした。


マミ「この縄張りから出て行ってもらうように話をしたの」

かずみ「……あすみちゃんのことがあったから?」

マミ「そうね。家もこっちにあるみたいだし、引っ越せとまでは言わないわ。でも活動を許すかどうかは縄張りを仕切る私次第」

マミ「やっぱり、ああいうことがあると……これからははっきりさせたほうがいいと思った」

マミ「グリーフシードを優先する魔法少女とは一緒にはいられない」



 マミはいたって真剣な様子だった。

 大切な人を殺されたんだ。あんなことがあれば慎重になるのはわかる。


マミ「美国さんとも、話が合いそうなら受け入れてもいいと思ってるけど今は……」

かずみ「でも、キリカはグリーフシードより甘いものを優先してたよ?」

マミ「……えっ?」

かずみ「織莉子のことも、素性のわからない魔法少女だから怖いんだよね。良い人そうなら受け入れる?」

マミ「それはまあ、私と考えが合うのなら」

かずみ「でも本当に悪い人は、良い人のふりをして縄張りを握るマミに近づいてくるかも」

マミ「……それはそうね。神名さんだって礼儀は守ってきた。でも、そんなこと言ってたら誰も信じられなくなっちゃうわ」

マミ「だから…………こんなこと言ってるのかも」

かずみ「とりあえず、どっちも一度一緒にやってみればいいんじゃないかな? 訓練」

かずみ「キリカなら訓練のあとお茶会するって話せば乗って来ると思うよ! とても良い顔して食べるから素は悪い人じゃないと思うな」


 マミはきょとんとしてわたしの話を聞いていた。


マミ「善悪の基準、そこなの?」

かずみ「うん」

マミ「とても良い顔をして食べる悪人は?」

かずみ「~~そういうケースは居るだろうけど例外なの!」


 そう言うとマミは苦笑いをして、それから……

 ――どこか遠い表情をした。



1夕飯は何がいい?
2自由安価

 下2レス


かずみ「ごちそうさま! 夜はまたわたしが作るよ! 夕飯は何がいい?」

マミ「まだお腹はすいてないわ。おやつもあったから少めでいいと思うけど……」

かずみ「えーっ? 」

マミ「わ、私のは、ね! かずみさんのはいっぱい作っていいから!」


 マミから許しをもらってキッチンに立つ。

 貸してもらったゴムを口にくわえて、手で長い髪を後ろに結うようにまとめる。ここから先は料理の戦闘モードだ。


かずみ「ティロ・フィナーレってカッコいいよね! マミの全てが詰ってるって感じだし」

かずみ「『ティロる、ティロるとき、ティロるなら、ティロフィナーレ!!』ってやつだね!」

マミ「そ、そうかしら……? そんなに褒められると照れるわ」

かずみ「えへへ」

マミ「そういえばあの分身の魔法はなんていうの?」

かずみ「あれは……――」

マミ「ないなら私がつけてあげる。『ネーロ・ファンタズマ』……でどうかしら?」


 その時、わたしは思わずマミの肩を両手でつかんで詰め寄っていた。 

 なんていうんだろう、わたしの中で何かが噛み合ったような感覚があった。


かずみ「そうなの! あれは……そうなの」

マミ「そ、そう。気に入ってくれたなら嬉しいわ」


 ……でも、何かが違うような。この感じはなんだろう?


かずみ(――――きっと、私が考えた技じゃないからだ)


 わたしの技は、誰かの使っていた技。わからないけどそんな気はする。

 ――……そう考えると、不思議と少しだけ納得ができた。



―4日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[20/100]
・お菓子[10/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

――――
見滝原中学校



マミ「呉さん、魔法少女のことで話があるのだけど」

キリカ「縄張りの事? あれから狩ってないよ」

マミ「一度、一緒に訓練をしてみたらどうかって」

キリカ「それ、かずみって子から?」

マミ「ええ」

キリカ「いや、悪いけど私はそういうのは……――」



マミ「……終わった後はお茶会をやるわよ? かずみさんがお菓子を作ってくれるんですって」

キリカ「!」


――――

――――…………

放課後



マミ「…………というわけで、お菓子のことを話したらあっさりついてきてくれました」

かずみ「やっぱり思ったとおり!」

キリカ「なんか、安い人だと思われてる?」


 マミが帰るのを待っていると、今日はキリカを連れたマミがインターホン越しに現れた。

 それからいつもの土手に来て訓練に入ろうとするんだけど……――


キリカ「ま、それだけの得がなきゃ来ないよ」

キリカ「こんなメンドくさいことするんだから、たっぷり美味しいもの食べさせてよねー」


 わたしと二人だった昨日までとは明らかに雰囲気は違う。

 キリカは気にしてない様子で準備運動のように軽く身体を捻っている。


 こっそりとマミと二人で話す。


かずみ「……やっぱりマミには合わなそうだと思う?」

マミ「露骨に現金すぎて心配になってきたわ」



 マミは昼に話した『続き』を再び思い出す。


――……


キリカ「どういう風の吹き回し? かずみのことは置いといてね、君には『嫌われたものだな』って思ってた」

キリカ「理由はわからないことはないよ。私と君は違うから」

マミ「ええ……そうね」


――――
――――


キリカ「……で、訓練ってなにすんの?」

マミ「まずはあなたの戦闘スタイルを見てからじゃないと」

キリカ「あ、そっか」



1キリカは魔法少女長いの?
2わたしとやろう!
3自由安価

 下2レス

--------------次回は23日(木)夜からの予定です


かずみ「キリカは魔法少女長いの?」

キリカ「いや短いよ」

かずみ「じゃ、わたしとやろう! わたしも一応初心者だから」

キリカ「『一応』?」

かずみ「戦ってたことはあるみたいで、戦ってると感覚は覚えてて……――」


 一言で説明できることじゃない。考えてるとわけわかんなくなってきた。

 衣装に変身する。やっぱりわたしは考えるよりやるほう!


かずみ「とにかく、やってればわかるよ!遠慮しないでいいからね」

キリカ「手加減してよ、全力なんて出してやらないから!」


 相手も変身したのを確認して、杖を突きだす。

 キリカの武器は魔力で出来た暗い色の爪だ。キリカが私の攻撃を避け、黒色同士が重なり合う。


マミ「頑張ってー!」


 マミは声援だけ。でも、たまに鋭いアドバイスをくれたりする。

 今はキリカの戦闘スタイルを見るのが目的らしい。


かずみ「動きが甘いよ!見切ったかも!」

キリカ「――こうなったら!」


 キリカが何か力を込めるように足元に爪を振り下ろす。

 ――その瞬間、キリカが目の前から消えたように見えた。




かずみ「えっ……」

キリカ「あー……髪、しばっとけばよかったねえ。 ごめんよ? 悪気はないんだ」



 少し硬く広がった髪の一房、わたしの一部だったものがパラパラと散った。

 地面に長い黒髪が落ちている。


 ……キリカはいつのまにかわたしの斜め後ろへと移動していた。


マミ「なるほどね、かずみさんはもう見切った気でいたでしょう? でもペースをつかんだと思ったらいきなり乱して隙を突いてきたの」

マミ「チェンジ・オブ・ペース。錐のように鋭い一撃。かずみさんの目には見切れなかったわけだわ」

キリカ「いや、そこまで考えてたわけじゃ……」

かずみ「すごいよ今の! 今の、名前は?」

キリカ「えっ!? 名前?」

かずみ「必殺技の名前だよ。ないの?」


 わたしが上機嫌で詰め寄っていくと、キリカは予想外のことが起こったみたいに慌てて目を逸らした。


キリカ「……名前? ないよそんなの。遊びでやってるんじゃないんだぞ!」

マミ「あら、それは私たちが遊びでやっているということ?」

キリカ「別にそうは言ってないじゃん! でも私はあんた達みたいのとは違う! ……あんたたちみたいに、好きでやってるわけじゃない」



 その言葉で、一旦この場の空気は静まった。

 どういう意味かわからなくてマミと顔を見合わせる。キリカは俯いてしまった。


かずみ「ないならわたしがつけてあげる。じゃあわたしと同じ『黒【ネーロ】』で……――」

キリカ「いらないし。ていうか、私が勝ったんだよね?」

マミ「正確にはさっきのは試合ではないし、おためしみたいなもの。これから細かいところまで指導してあげるわ」

キリカ「……試合の方がまだ楽だ」

――――

――――


 ―――キリカはぼやきながらも訓練につきあってくれた。

 そうしていると、なんだかんだで少しずつ上達は見えてくる。それは本人も自覚しているようだった。


マミ「――……お疲れ様。呉さんも割と言ったことを素直に吸収してくれるからやりやすかったわよ」

マミ「ちゃんと訓練すればもっと伸びると思う。……問題はあなたの態度次第ね」

キリカ「はいはい……。わざわざありがとう、ちょっとだけ楽しかったよ。もうやらないけど」

かずみ「またお菓子があったら?」

キリカ「うーん……」

マミ「そこは迷うの?」

キリカ「お菓子の量と質次第!」


 キリカのこと、今日一日一緒にやってみてマミはどう思っただろうか。

 やる気なさそうに見えるのは事実。やっぱり変わらないかな。



 ――帰り道、お茶会の前に今日はショッピングをする約束の日だ。

 お菓子はちょっとの間お預けになるけど、キリカも終わるまで我慢してくれるらしい。

 ここまで付き合ってお菓子ももらえないんじゃ骨折り損だとか。


かずみ「あ、そうだ。別に隠してるわけじゃないから言うけど、わたし、記憶喪失なんだ」

キリカ「……へえ。じゃあ私と同じだ」

かずみ「え? でもキリカは学校にも通ってるんだよね?」

キリカ「自分がどこの誰かまで全部忘れたわけじゃないよ。別に私も隠してるわけじゃないから言ったけど」

キリカ「キミは契約した理由も覚えてないのに魔法少女なんてやりたいの?」

かずみ「それでもわたしはこの力で人を救えるなら救いたいと思う! わたしがわかってることって、それくらいしかないし」

かずみ「それがなくなったらなんにもなくなっちゃうよ」

キリカ「ふーん、君にも色々と事情はあるんだね」

キリカ「…………ごめん、同じなんて言って」


 ……お店を探すまでの間に少しだけ話をしてみていた。

 けど、余計に気まずくなっちゃったかも。


 それからはあまり雑談はなかったけど、服が囲む場所に到着するとやっぱりテンションは上がった。


マミ「かずみさん、いいのあった?」

かずみ「えーとね、悩んでるとこ」

マミ「これなんて似合うかも」

かずみ「えぇ、これじゃ園児服みたいだよ」


 ……こっちをちらっと見たキリカがくすっと噴き出した。

 ちょっとだけむっとしたけれど、少し考えてみる。


 わたしとマミがはしゃぎながら服を見るなか、キリカはずっと違う方向を眺めていた。

 服は見てるみたいだけど、キリカは楽しくはないのかな。


かずみ「――はい! キリカ、これとか似合うと思う」

キリカ「え?」



1(どんな服を提示した?)
2自由安価

 下2レス



 洋服を目の前に見せてみる。

 するとキリカがこっちに振り返った。


キリカ「……可愛い」


 チェリーピンクのゆったりとしたダーリンニットのワンピースを見てキリカはつぶやいた。

 とりあえず、興味がなかったんじゃないことがわかって安心した。

 わたしが選んだのがキリカの好みから逸れてはいないことも。


キリカ「どこにあったの? 値段は……そんなに高くはないね」

かずみ「気に入ったなら試着してみてよ! わたしも候補がこれだけあるから」


 わたしも手元にはマミと選んでいた服がどっさりとキープしてあった。


かずみ「ねえ、キリカはどうしたらいいと思う? わたしもやっぱり、もうちょっと大人っぽく見られてもいいと思うんだよね」

かずみ「やっぱりこうオトナの色気っていうか……」

キリカ「衣装はいっぱい肌見えてたよ。色気があるかはわかんなかったけど」

かずみ「え?可愛いじゃん、わたしの衣装!」

キリカ「まあ本人がいいなら」

かずみ「キリカも“オトナの色気”にこだわるなら他にも見たら? このワンピース、肩だしのバージョンもあるの」

キリカ「こっちのがいいよ。これ、気に入ったから買うかも」


 わたしが持ってきたのは襟元がVネックになっている。

 ……キリカはしばらく服を見ていたが、それからわたしのほうを見た。


キリカ「……私の切ったところが不自然だね」

かずみ「髪のことは本当にいいよ! 切るから」

キリカ「え?」

かずみ「思い切って切っちゃおうと思ってさ。たしかに邪魔だったもん」

――――

――――


かずみ「じゃ、ちょっとだけ待っててねー。二人とも」

キリカ「それどのくらいかかるの?」

かずみ「心配ご無用。実は家出る前に下準備はしてきたからあとはひと手間だよ」


 用事を済ませてマミの家に戻ると、わたしはさっそくキッチンに向かう。

 あの長かった髪は、今はもう肩につかないくらいまで短くなっていた。


 わたしは新しいこの髪型を気に入っていた。動きやすいし、長い時よりも綺麗にまとまるから“こっち”って気がする。


 今日はもともと買い物の予定だったし、キリカもいるから魔女狩りはしていない。

 大きな紙袋に入った戦利品もあるし、今日は存分に外出を楽しんでいた。

 時間もそれの代わりと思えばちょうどいいくらい。



かずみの作っているもの(お菓子)
・自由安価

 下2レス



かずみ「生地は先に用意しておいたし、あとは……――――」


 ホールのケーキの生地の上にクリームを絞って盛り付けていく。

 ピンク色のクリームが渦を巻く。クリームは甘いベリーの香りだ。

 今日はとっておきにするつもりだった。


 それから完成間際になると、マミを呼んだ。


かずみ「ねえ、マミ。せっかくなら少し手伝ってほしいことがあるの」

マミ「あら、何?」


――――……


キリカ「わあ、待ちくたびれた! いい匂いするね!」

かずみ「わたしとマミの“とっておき”だから」

マミ「まさかそういうものを作ろうとしてたなんてね」

キリカ「え? 何? ケーキとアイス?」

かずみ「これをこうする」

キリカ「わーっ!」


 ……思わずキリカが声を上げた。

 ポットからその中身を垂らし、濃い紅茶の海にバニラを『溺れ』させていく。

スタバのエスプレッソアフォガート旨かった


かずみ「『アフォガート』っていうスイーツだよ。アイスの蕩けた感じと紅茶の香りが美味しいの」

かずみ「――っていっても、わたしは未体験。記憶にないからね。わたしも今から楽しみなんだ」


 テーブルについてスプーンを持つ。

 実はアフォガート用のポットは二つ用意してあった。


マミ「どうぞ。コーヒーも用意してくれたわよ。呉さんはこっちのほうが好きなのかと思って」

キリカ「え? なん……あ、そうか」


 キリカは何かに心当たりがあるらしく、納得したように言う。

 差し出されたエスプレッソをかけてキリカが一口スプーンですくって口に運ぶ。


キリカ「ちょっとほろ苦いけど美味しいよ! これだったら、紅茶のほうも食べてみたいかも」

かずみ「それじゃ、ケーキも分けよっか」

マミ「ベリーモンブラン? 良い匂い。見た目も綺麗だわ」


 ケーキにナイフを入れようとする。――……すると、玄関のチャイムが鳴った。


かずみ「んもー、こんなときに!」



マミ「見てくるわね」


 マミが席を立つ。

 しかし、わたしはその前に室内のインターホンに映った姿を見てしまった。

 それは見覚えのある姿。


かずみ「杏子!」

マミ「……あなたたちはちょっと待ってて」



 そう言うと、マミ一人が玄関の方に行ってしまった。

 あくまで縄張りの仕切る魔法少女同士の話なんだろうか。

 ……溶けきらないうちにアイスをすくいながら、キリカが待ち遠しそうにこっちを見ている。


 そりゃわたしだって待ち遠しい。これから『いただきます』って時に。

 自分で完璧に作ったものを、人に食べさせるより先に自分で崩してしまうほどむなしいことはない。


1先食べてる?
2自由安価

 下2レス

-----------次回は26日(日)夕方からの予定です


かずみ「キリカ、ちょっと待ってて!」

キリカ「えー、結局お預けなの」

かずみ「多分、すぐ戻るから!」


 わたしも席を立って玄関のほうへと向かう。

 難しい話はわかんないけど、客が増えたならみんなで食べればいい話だ!


 話しているところに駆けていくと、二人はこっちに気づいて振り向いた。


かずみ「ちょっとお二人さん! 話しこんでないで今は美味しく食べようよ! ケーキならいっぱいあるから!」

杏子「!」


――――

――――



 ……『ケーキ』の話を出した途端、杏子は強引に話を切り上げてこっちに乗ってきた。

 食器を出す前に手づかみでケーキを食べはじめて、杏子は幸せそうだ。



杏子「かずみ、アンタいいところに来たな。ちょーどアンタとも話したかったんだよ」

マミ「あのね……偽物のグリーフシードについての情報交換なら歓迎するわ。でも私の相棒に変なこと吹き込むのはやめてくれる?」

杏子「ハイハイ、随分新しい相棒さんに御執心なようですねマミ先輩は!」

杏子「けど聞いといたほうがいんじゃないのか? そいつとこれから一緒にいるんならな」



かずみ「何のこと!? 杏子、もしかしてわたしのこと知ってるの!?」


 思わず身を乗り出す。

 ……テーブルの向かいでは、キリカが杏子を見て少し不機嫌そうな顔をしていた。


キリカ「…………誰?」

マミ「風見野の魔法少女よ。この周辺なら経験は長いほうになるわね」

キリカ「聞いてない! 取り分が少なくなるんだけど!」

杏子「お前こそ誰だよ。アンタも新しいマミの取り巻きか?」

キリカ「違う。私はお菓子がもらえるっていうからついてきただけ」


 その二人のやりとりを見て、マミは呆れたように言う。


マミ「似たような人たちね……」

杏子「一緒にするな、あたしは食いにきたわけじゃねえ! せっかく情報を持ってきてやったんだ」

杏子「……かずみ、単刀直入に聞く。アンタとミチルの関係は何だ?」

かずみ「ミチル……?」

杏子「ああ。『和紗ミチル』、あたしが前に魔女を追ってあすなろに攻め込んだ時に、一度だけ共闘した相手だ」

杏子「“食べ物が好きな奴に悪い人はいない”なんてふざけた理由で、グリーフシードを譲ってまで一緒に倒そうって言ってきた」

マミ「それは……まるでかずみさんそのものね」

杏子「だがミチルは死んだ。キュゥべえから聞いた。じゃあアンタは何者だ? キュゥべえからは近い存在としか聞けなかった」

杏子「アンタとミチルはよく似てる……髪を切ったら尚更だ」


 初めて聞いた名前。でも、それがわたしの“正体”に深くかかわっているなら。

 その話を聞いたら、『ミチル』という人がただの他人とは思えなかった。

 ……もしかしたら、それがわたしなんじゃないかとすら思ったほどに。


かずみ「わからない。でもわたし、記憶喪失なの」


杏子「自分のことなのに何もわからないのか? だからあの時も」

かずみ「でも、ミチル……その人がわたしのことを知る手がかりになりそうだね」


 こんな時キュゥべえがいてくれれば。

 キュゥべえはなにかわたしの知らないことを知っている。それは確かだった。


杏子「とりあえず、マミを嵌めてこのあたりの縄張りをどうにかしようってわけじゃないならいーよ」

杏子「グリーフシードモドキのことは進展なしか。まあまたこっちでも見かけたら報告するよ」


 ……その時、『ん』と二人の声が同時に重なった。

 ケーキの一切れに杏子が手を伸ばし、その上にキリカがフォークを突き刺している。


キリカ「……その手をどけてよ。人の肉なんて食べるの趣味じゃないからさ?」

杏子「そっちがどければいいだろ。あたしのほうが下にあるんだからあたしのモンだろ」

キリカ「大体なんで手掴みなんだよ汚いな! キミには美的センスってものがないの? 猿でも道具は使えるよ」

杏子「は? 目で飯が食えるわけないだろ! 口にいれればうまいかだけなんだよ」

かずみ「け、喧嘩しないで!」



1杏子にありがとうと言う
2半分こしよう
3自由安価

 下2レス


かずみ「……今日はキリカにご馳走するって話して来てもらってたの」

かずみ「二人ともケーキが好きなのはわかったけど、そのケーキはキリカに譲ってあげてくれないかな?」

かずみ「代わりといってはなんだけど、杏子にはケーキの代わりにご飯作ってあげるから」

杏子「…………ふん。そもそもなんのために仲間でもない魔法少女なんて連れ込んできてんだか」

杏子「聞いたら飯で釣ったみたいなもんみたいじゃないか。ナメられたって知らないぞ?」


 杏子が渋々手をどけて、そこについたクリームを舐めとる。

 結局ケーキはキリカが取っていったけど、キリカは杏子の手形がついたケーキをまだ機嫌悪そうに眺めていた。


かずみ「キリカには次にまたお菓子作ってあげるから! マミとキリカもそれでいい?」

キリカ「…………次、か。許してあげるよ。食い意地の汚い“犬”にでも噛み付かれたと思ってね」

杏子「それと、先輩への態度も躾けとけよ」


 まだ二人の間の雰囲気は刺々しそうだ。


マミ「わ、私は別にいいけれど……とりあえず今日はかずみさんにとっても有益な情報を持ってきたみたいだしね」

杏子「別に。あたしは『縄張り』が心配だっただけだよ」

かずみ「杏子、今日はありがとう」

マミ「あ、それとキュゥべえのことなんだけど…………佐倉さんはもう知っているかしら?」


杏子「何がだ?」

マミ「キュゥべえが死んだって」

杏子「……なんだと? そんな重大ニュース、なんで先に言わないんだよ!」

マミ「もう聞いているかと思ったの。あれから数日は経っているから」

マミ「殺されたわ。少し前に来て、ついこの前まで見滝原に居た神名あすみという魔法少女に……」


 マミが下を向いてぎゅっとスカートを握る。

 やっと落ち着いてきたところだったけど、この話をするときのマミはやっぱり悲しそうで、悔しそうだった。


杏子「ま、あいつも因果応報なんじゃねーの? こんな契約なんかさせて、恨むヤツならいるだろ」

マミ「あなた、なんてこと言うの! 死んだ人に向かって!」

かずみ「け、喧嘩しないで……」


 ケーキを巡った戦いが終わったと思ったら、こっちまで。

 慌てて止めに入る。けどさっきと違って、簡単に仲裁できるような雰囲気じゃない。


 するとその時、さっきまで黙々とケーキを食べていたキリカが立ち上がった。


キリカ「あの……!」

マミ「え?」


 しかし、キリカは不自然に口をつぐむ。


キリカ「…………いや、なんでもないよ」



マミ「……佐倉さん、あなたの事情は知ってるし、気持ちはわかっているつもりよ。でも、私の前では二度とそういうことは言わないで頂戴」

マミ「あなたの最近の風見野での活躍ぶり、聞いているわよ。グリーフシード目当てに魔法少女を襲って、まるで賊じゃない」

マミ「本当に変わったわね…………昔のあなたとは」


 杏子はじろりとマミを睨む。

 それと同時に、キリカも重々しく口を閉ざしていた。……まるで、自分にも何か心当たりがあるように。


キリカ「…………」

マミ「あらごめんなさい、呉さん。あなたのことを言ったわけじゃないの。でも同じようなものなのよね、あなたも」

杏子「アンタなんかに簡単にあたしの気持ちがわかってたまるかよ。アンタこそ、そういう話二度とあたしの前でするんじゃない」

杏子「飯! 早く、用意してくれるんだろ!」

かずみ「う、うん……」



 ……二人の間になにがあったのかな。心配になりながらみんなを見る。

 今日は楽しくお茶会をするはずだったのに。



キリカ「……ごちそうさま。目当てが終わったからそろそろ私は帰るよ」



 キリカが自分の分のケーキを食べ終わって立ち上がる。



1こんな空気になっちゃってごめんね、謝っておく
2自由安価

 下2レス


かずみ「こんな空気になっちゃってごめんね……」


 ひとまずキリカを玄関まで送りに行く。

 しかしその帰り際、そこでもキリカは少し躊躇ったようにしていた。


かずみ「それと、何か言いたいことがあるなら話してほしいな。私達ってまだ信用出来ないのかな?」

キリカ「信用とか、そういうことじゃないんだよ。……ごめん」

かずみ「だったらなんで謝るの? さっきの話も、もし悪いことしてるんだったら……本当は自分で後ろめたいと思ってるんじゃないの?」


 前にたい焼きを食べながらした話を思い出した。

 ……悪人は自分で悪人ですなんて言わない。言うのは謙遜か、悪いことしてるって負い目がある人だけ。


かずみ「……次のお茶会は何か食べたいお菓子はある?」

キリカ「次も行っていいの?」

かずみ「だって、さっきそういう話もしたし……」

キリカ「キミはそうかもしれないけど、マミは私を歓迎しないと思うよ。私だって空気くらい読むよ?そこは」

キリカ「まあ、今日は思ってたより楽しかったよ。じゃあね」


 キリカはそう言って、手を振って去って行った。 

 ……マミ。マミは今日のことどう思ってるんだろう。やっぱり一緒にいるの嫌だったのかな。



 でもキリカのことは、『一部』でも私と同じ記憶喪失って聞いちゃったから、余計に心配に思っていた。

 人のこと心配してる場合じゃないって言われちゃうかな。

 でも、わたしとは少し違っても、それってすごく辛いことだってわかるから。


マミ「かずみさん、呉さんは?」

かずみ「帰ったよ。ご飯、あんまり待たせないようにささっと作るよ」

杏子「で、何作ってくれるんだ?」

かずみ「厚切りベーコンとしめじのペペロンチーノ」

杏子「おお、いーじゃねえの!」



 材料を確認してキッチンに立つ。

 杏子も料理の話になると、さっきの空気を感じさせないような上機嫌に戻っていた。


 麺を茹で、ソースを作って炒めていく。



かずみ「はい、おまちどうー」

杏子「サンキュサンキュ、記憶はないのに料理はうまいんだな」

かずみ「身体が覚えてたっていうのかな? 料理はできたの」

マミ「まあ、記憶喪失になっても日常生活で必要なことは忘れないっていうものね……」

かずみ「どこの知識?」

マミ「一般的な話よ」



1料理の話
2二人のことについて
3自由安価

 下2レス

----------------次回は28日(火)夜からの予定です



 オリーブオイルとニンニク、それにきのこの香りがたっぷり絡まったパスタをフォークで掬い上げる。

 マミは綺麗に食べているけど、杏子はずーっと啜って食べている。

 ま、おいしいなら食べ方は気にしないでいいか。


かずみ「ねえ杏子、『和紗ミチル』について教えて! あと、ほかにもあすなろの魔法少女のこと知ってたら!」

杏子「……教えてって言われてもな。本当に印象はアンタと被るよ。本人に言われてるような気分になる」


 杏子はわたしをじっと見つめてから言った。

 そんなにわたしとミチルは似てたんだ。…………でも、もう死んでしまった。会いたかったな。


杏子「なあ、もしかしてミチルは本当はなんかの形で生きてて、それがアンタってことはないか?」

杏子「それか姉妹か……、でもそこまで似た人間って、姉妹だってありえないと思うけど?」


 わたしがミチル。……もしそうなら、わたしの正体が少しだけ判明したってことになる。

 けど、今のままじゃなんともいえないか。わたしは自分のこともミチルのこともなんにも知らない。

 どんな人だったんだろう?


かずみ「……ミチルのこと知ってる人っていないかな?」

杏子「あとはあすなろでミチルのほかにあたしが会ったのは、『ユウリ』くらいだな」

かずみ「ユウリって、あの私を浚って街の人を魔女にしてた人……!?」

杏子「いや、多分違う。名前が被ってるだけだ。あいつはそんなことしねーよ。馬鹿みたいなお人好しだった」

かずみ「じゃあ、そのユウリに会えれば!」


杏子「ま、そっからはアンタが勝手にやることだね。あたしは今何してるかは知らないよ」


 それ以上面倒を見てやる義理はないとでも言いたそうだ。


 杏子が最後の一本まで麺を吸い取って、皿を置く。

 ……わたしとほぼ同時に完食した。まだ半分以上皿の中身が残っているマミが、びっくりした目でわたしたちを見ていた。


マミ「……早いわね」

かずみ「あっ、ゆっくり食べてていいよ!」

杏子「あー、うまかった! じゃあそろそろ帰るわ」

かずみ「もう行っちゃうの?」

杏子「飯食ったら眠くなってきた。遅くならないうちに今夜の宿を探すことにするよ」


 杏子は気楽な様子で玄関に向かって歩いていく。


マミ「宿って、まさかその辺で寝る気?」

杏子「なわけないって」

マミ「じゃあホテル? 中学生一人で泊まれるの? お金は?」

杏子「しょーがないだろ家がないんだから! 野宿で心配すんなら口出すなよな!」

かずみ「…………」


 マミはやっぱり、そんな杏子の答えに良い印象を抱かないようだった。

 ……でも行く当てがないって、その気持ちはよくわかる。


 杏子も心配すら突っ返してしまうのかな。マミが前言ってたのは、もしかして――。


かずみ「……ねえ、前言ってた一人で生きている人って、杏子にも当てはまるよね」

かずみ「杏子には何があったの?」


 乱暴に玄関の扉が閉まる音がする。――杏子が出て行ってからマミに聞いてみた。


マミ「あの子はね……元々は家族で教会をやってて、お父様のために『みんなが話を聞くようになってほしい』って契約した子だった」

マミ「一年ほど前のことだったわね。それから私と会って、一時期は今のかずみさんとみたいに師弟関係を結んでたこともあるんだけど」

マミ「悲劇が襲った。佐倉さんが魔法少女になったことが家族にバレてしまったの」

かずみ「バレたらまずいの? 杏子はお父さんのために願い事を叶えたのに!」

マミ「叶えてもらった本人が望まなかったのよ。その末に一家心中。佐倉さんだけが生き残った」

マミ「今でも後悔しているんでしょうね。その時から私との師弟関係も解消して、自分のためだけに魔法を使うようになってしまった」


 それが『前の杏子』から変わってしまった理由。

 そう思うと胸が痛んだ。今は悪いことするかもしれないけど、本当はいい人だったのに。


マミ「……本当は前みたいに戻れたらいいんだけどね。無理みたい」


 マミは悲しそうに言った。そんなの、一緒に居たマミだって辛くないわけない。


かずみ「今日の訓練はどうだった?」

マミ「少し、疲れちゃったわ。途中で佐倉さんも来たし……」

かずみ「二人とも、魔法少女を襲ったりしてたんだよね?」

マミ「ええ、佐倉さんのことは風の噂だけど、あの様子だと事実でしょう」

マミ「呉さんのことは神名あすみが私のもとまで連れてきた。返り討ちにしたんだそうよ」


かずみ「キリカも悩んでるから悪いことしたり、ああいう面倒くさそうな態度をとったりするんじゃないかな?」

かずみ「記憶がないのってやっぱり辛いよ。私にはマミが側にいてくれてるけど、キリカにはそんな人がいないんだよ」

マミ「そうね。でも、理由があったら悪いことをしてもいいの?」

かずみ「それは、そういうわけじゃないけど……」

マミ「あなたはそんな風には考えなかった。それはあなたの元々持つ強さよ」

マミ「もちろん、全員がそうはなれないのは仕方ないのでしょうけどね……」


 わかってはいるけど許せない。

 ――許すわけにはいかない。マミは見滝原を仕切る魔法少女だから。


 でも、そんなに難しく考えなくちゃいけないのかな。そもそもわたしは、やっぱり考えるのがニガテだよ。


かずみ「でも、杏子がわたしのこと教えてくれたからちょっとだけ前に進めた。それは本当に感謝しなくちゃ」

かずみ「ミチルとユウリ、かぁ。 ユウリにはどうやって会えばいいんだろう? もしかしたら今もあすなろで探してくれてたりするのかな?」

かずみ「本当にキュゥべえさえいてくれてたら……」


 叶うはずのない“もしも”にため息をつく。

 ――しかし、すると、もう見るはずのないと思ってた姿がこの場にひょっこりと出てきた。


「やあ、“僕”がどうかしたのかい?」


 …………その声に顔を上げる。


かずみ「きゅ、きゅきゅきゅキュゥべえ!? えっ、本物!?」

QB「うん、僕は正真正銘本物のキュゥべえさ」

マミ「そんな、どうして……生きていたの? ならなんで今まで姿を見せなかったのよ!」

QB「僕があすみに殺されたのは本当のことだよ。たしかに、厳密にいえば僕は『違う』のかもしれない」

QB「代わりがいるんだ。もちろん意識も記憶も前のままだ」


 マミはそれを聞き終わる前に、キュゥべえのその小さな姿を抱きしめた。

 うれし泣きの涙を流している。マミは私の前ではずっとお姉さんだったけど、こうしていると等身大の姿を見た気分だ。


QB「苦しいよ、マミ」

マミ「ごめんなさい。 今まで隠れていたのね? これからはもうあんなことがないようにするわ」

かずみ「あ、そういえばあすみちゃんに連絡しないと……」


 あすみちゃんは知ってたのかな。知っていてあんなことを言った……?


マミ「たしかにキュゥべえはまたこうして私の前に来てくれたけど、無事じゃない。殺されたのは事実だったのよ」

マミ「やっぱり、またあんなことがあったら……」

かずみ「そういえば、今日は怪我もしてないし何も悪いこと起きてないね……?」

マミ「そんなのもうどうでもいいわ。キュゥべえが帰ってきてくれたことがなによりの良いことよ」



1キュゥべえに今日のことを聞く
2マミの不幸について
3自由安価

 下2レス

----------次回は29日(水)夜からの予定です


かずみ「そうだけど……やっぱりなんかおかしいような……」


 あれをただの偶然だと思っていいのかな。今になって不幸が減った意味は?

 ……マミの腕に抱かれているキュゥべえを見た。


かずみ「ねえ、キュゥべえ。話したいことがあるの」

かずみ「わたしの……――ミチルのこと。それから、『ユウリ』って人について。今日、杏子から聞いたの」


 すると、キュゥべえがぴょこんと床に降りる。


かずみ「……わたしはミチルなの? そうじゃないなら、どんな関係があるの?」

QB「杏子からも聞いたと思うけど、和紗ミチルは死んだ。君はあくまで別人ということらしいよ」

QB「君を“造った”人たちによるとね」


 キュゥべえの言葉に、私は考えが止まってそれ以上の言葉が出てこなくなった。


かずみ「つく……った……――?」


 何を言っているのかわからない。その言い方じゃまるで。

 わたしが作り物みたいな――――。


QB「それと、ユウリというのはこの前君を襲った人のことかい? そうでないなら、彼女もすでに死んでしまっているよ」

かずみ「……待ってよ! 私を“造った”ってどういうこと!? その人たちってなんなの!?」

QB「【プレイアデス聖団】。――――あすなろに行って、彼女たちに会えばきっとすべてわかるだろう」


 わたしのとなりで、マミも同じように驚いたまま固まっていた。

 キュゥべえに聞いたらわかると思ってた。全部わからなくても、手がかりはつかめると思ってた。


 ……でも余計にわからなくなった。

 ミチルでもない? 他の人でもない? 私は何? その人たちは、どうしてそんなことを――。


 マミは慰めるように言う。


マミ「かずみさん……焦らなくてもいいわよ。もしあなたが望むなら、ずっとここにいたって……」

かずみ「でもそれじゃ、わたしが何なのかずっとわかんない!」


 『あすなろに行けばすべてがわかる』。

 キュゥべえはそう言ったけれど、本当にそれでわたしが納得できる答えが得られるのかはわからなかった。



―5日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[20/100]
・お菓子[10/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

翌日


かずみ「…………」


 マミが出て行ってから、私はひとりでソファに腰掛けていた。

 視線の先にあるのはあの時あすみが書き残したメモ紙。

 わたしのことは考えてもわからないから、まずはこっちのことを考えることにしていた。


 見滝原から出ていったあすみは、気づかれないように風見野や周りの街を転々としてたってキュゥべえが言ってた。

 まだ完全に移り住むことはしていないそうだ。――それは、近いうちにわたしたちが連絡するってわかってたから。


かずみ(やっぱりあすみちゃんは知ってたんだ。キュゥべえに代わりがいるって……)

かずみ(でもそれって、前にも殺したことがあるってこと? それとも、死んだのを見たの?)


 わたしはその場にいたわけじゃないから詳しい状況はわからない。

 でも、キリカももう知ってた? じゃあなんで昨日教えるのをためらったの?


かずみ「―――あー、お腹すいた……」


 ……両手を広げて、仰向けに寝転ぶように深くもたれかかる。

 やっぱり、あすみのことはマミが許すにしても許さないにしても一回話したほうがいいと思うな。


――――
――――



あすみ「――……お久しぶりだね、お二人さん。いたいけな私をこんなとこに呼び出すなんて。この前のドリア美味しかったんだけどなあ」

マミ「今日は真面目に話をするつもりであなたを呼んだの。ふざけた態度はやめてもらえるかしら?」


 放課後、マミとも話してメモにあった番号にかけてみると、すぐにあすみの携帯に繋がった。

 待ち合わせの場所は人のいない街外れ。この場所を選んだのは、話を聞かれたくないという以上に何が起きても知られない場所という意味を感じた。

 あすみは相変わらず飄々としていて、対してマミは毅然とした態度を貫いている。


あすみ「出てきてくれたの?あいつ。思ったより時間かかったね」

マミ「あなたから隠れていたからでしょう? それで、これからどうするかよ。それを改めて話しに来たの」

あすみ「違うよ」

マミ「……え?」

あすみ「あいつ、あれからすぐに私のところには来てたよ。いつのまにか死体が消えてた。本当に私から隠れたいならそんな痕跡残すと思う?」

あすみ「もっと深く考えなよ」

マミ「何が言いたいの……!?」

かずみ「……あすみちゃん、どういうこと?」


 マミと同時に、わたしも聞き返す。

 あすみは悪い事はしてても、とんちんかんなことは言わない気がしていた。


 ――その時、あすみが私たちの“うしろ”に視線を向ける。



――――――

――――――
4日目 美国邸


織莉子『……次に行くところは決まったわ』

キリカ『どこ?』

織莉子『あすなろよ。ただ、私は気づかれないようにする。そこでまた前のようにグリーフシードを調達して、魔法少女がいたら襲ってきて』

織莉子『私達が組んでいることはもう感付かれたでしょう。風見野での活動は巴マミの耳に入る』


――――
――――



キリカ(あすなろ、か。かずみのいたところもここだって言ってたけど)

キリカ(……この街にはあいつのこと知ってる人もいるのかな)


 慣れない街を一人で歩く。あすなろという街自体には覚えはあるが、駅前と大通りを過ぎればほぼしらない街並みだった。

 軽く携帯の地図を見ながら歩いていると、目の前に立ちはだかった存在に気づいてキリカは足を止める。


キリカ「……織莉子?」

織莉子「調子はどうかしら?」

キリカ「どうもなにも、来たばっかりだよ」

織莉子「提案があって来たの。命令よ」

織莉子「この街を私たちの本拠地にしましょう、キリカ。そのためにあすなろの魔法少女チームを襲うの」

織莉子「……――倒すべき敵は『プレイアデス聖団』。この6人を狙って!」



キリカ「プレイアデス聖団……?」

織莉子「ええ。頼んだわよ」


 それから織莉子は踵を返して歩き出す。

 ……話が終わって一人になると、キリカもまたぶらぶらと歩きはじめた。


キリカ「もう、すぐ行っちゃうしさぁ……本当にあいつ…………――ん?」


 するとその時、手に持っていた宝石が光りはじめる。

 その光が強くなるほうへ向かって魔女結界へ入り込んでいく。



 ――――そして、もうすぐ魔女を倒し終わるという時になって、現れた気配に気づいた。

 力を込めた攻撃で魔女にトドメを刺して、その姿を正面から捉える。



キリカ「……アンタが『プレイアデス聖団』?」

「ううん、違うよ。その子たちのことは知ってるけど教えてあげなーい」

キリカ「それとも、ママとはぐれちゃったのかな? お嬢ちゃん」

「そういうオトボケ、好きくないなあ」

キリカ「ああそうかい。うーん、まあ、でも――いっか。ここの魔法少女だったらどうせ同じだもんね」


 キリカは軽く唇の下に指を当て、戦闘態勢に入ろうとする。

 ――その時少女は、うっとりとした声で言った。


「綺麗な宝石」

キリカ「は?」

「透き通った青紫色。あなたのって一段と綺麗。今まで集めてきたのって薄汚れたのばっかりなのよね」


「――――……ねえ、それちょうだい?」


――――――
――――――



 ――――街外れの空き地に砂利を踏みしめる音が響き、わたしたちも背後を振り返る。

 そこにはあの私を浚った魔法少女、『ユウリ』の姿があった。


かずみ「ユウリ……!」

ユウリ「やっと見つけた……たっと辿りついた。ねえ、見てよこれ」


 ユウリは最初に見た時と変わらない姿をしていた。そのように見えた。

 しかし、次の瞬間にはその認識は覆る。


 魔法が解けたようにそこに現れたのは、腕や足があらぬ方向へ曲がってだらんと垂れ落ち、内臓が露出し、片目を失い、満身創痍となった姿だった。

 その長い金髪でかろうじて面影は残っている。しかし、これではまるでゾンビのような――――


ユウリ「……これが今のアタシの姿だよ。お前たちのせいでこうなった。お前に辿りつくために何度も死んだ」

ユウリ「だがこの程度で諦めてたまるもんか!こうなったのも全部お前たちのせいだ……全部、お前たちのせいだあああッ!」

------------次回は1日(土)夕方からの予定です



 思わず手で口を押さえる。マミもわたしと同じ反応をしていた。

 あまりの凄惨さに言葉を失う。……目の前でかろうじて生きているのを不思議に思わざるを得ない。


かずみ「……なにがあったの? どうしてそんなことに」

あすみ「随分とまあえらい目にあったねぇ。そんなんなってまでここまで来るなんて初めてだよ」


 マミに降りかかっていた『不幸』の正体。前にユウリを倒した時の違和感、嫌な予感。

 それらは元をたどればすべて同じものだった。

 マミのはまだ軽い怪我をする程度の不運で済んでいたほうだった。でもこれは正真正銘の『呪い』。

 もしかしたら、何かが違えばマミだって――――。


 この場に狂った笑い声が響いた。


ユウリ「アハハハハハハハハ、あははははハハハ!!」

ユウリ「ユウリを……“ユウリの姿”をこんなに傷つけやがってえぇぇえ!」

ユウリ「よかったなお前ら! 今のアタシにもう戦う力はないよ! けど、どオせ地獄から戻ってきた身だ……」



 その瞬間、目の前が真っ白に眩み、衝撃に吹き飛ばされそうになる。

 大きな魔方陣がわたしたちを取り囲んでいた。


マミ「避けて!」

かずみ「!」


 咄嗟にマミがリボンを目の前に張る。マミが呼びかけてくれなかったら今頃どうなっていただろう。

 それでも、みんな体勢を崩したまま。地面に手をついて、ユウリの姿を見上げる。


ユウリ「――地獄の底から道連れにしてやる!! アハハハハハハハハハ」


 がらんどうのお腹の上についたソウルジェムは真っ黒だった。

 ――――そこから、何かが『生まれる』。



ユウリ「…………お前を造った『プレイアデス』によろしく、かずみィ――――ほら、“お前と同じ”だ」


マミ「な……――――!」

かずみ「どうなってるの!? なんでソウルジェムの中から魔女が出てくるの!?」


 響き渡っていた笑い声も消え、ユウリはもう動かない。

 ソウルジェムが自然に砕け、目の前に居るのは醜い心臓のような形をした『魔女』だった。


 そこに鎖と打撃の音が響いて、魔女が血を流す。


あすみ「イキがってんじゃないよ、ただの魔女に堕ちた奴が。私を殺せるとでも?」

あすみ「……何ボーっとしてんの? やらなきゃやられちゃうよ?」


 あすみは普段と変わらない様子で魔女と戦っていた。

 でも目の前で起きたことにわたしたちの心はついていけていない。



かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[20/100]
・お菓子[10/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


仲間:
マミ 状態:【恐慌】
あすみ 状態:正常


敵:魔女Nie Blühen Herzen


1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ【ネーロ・ファンタズマ】(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技
5なにもしない
6自由安価

 下2レス



かずみ「マ、マミ……!」

マミ「え、ええ、戦わなきゃね。……けど、思うようにいかないのよ!こんなの見せられたら!」


 マミも動揺してる。わたしもみんなと一緒に戦わなくちゃ。

 手中に作り出した杖を強く握って意を決する。


かずみ「大丈夫だよ、わたしも戦うから!――――『ネーロ・ファンタズマ』!」


 魔法を使い、わたしも分身とともに突撃する。

 半分は先に魔女を攻撃しているあすみの援護。もう半分はマミのことを守るために。


 鉄球と杖を振りかざしながら二人で飛び回り、魔女を追い詰めていく。

 すると、今度こそマミも狂いなくしっかりと魔女を狙って銃を向けた。


マミ「……ユウリさん、私もあなたを許すわけにはいかない。これも見滝原の平和を守るため」

マミ「――――……悪趣味で醜悪な『魔女』」


 銃声が響く。魔力の弾を撃ち込み、トドメに大砲を発射する。

 魔女を倒す。――――しかし、ユウリのソウルジェムが戻ることはなかった。


 結界が消え、その後には紛うことないグリーフシードが残る。



あすみ「さすがに『倒す』となったら手際がいいね? 見滝原の管理者さん」

あすみ「別にあんなの私一人でも十分だったんだけど……――」


 あすみがそのグリーフシードを拾う。

 それは魔女の落としたグリーフシード。でも、元はユウリのソウルジェム。


かずみ「貸してっ!」


 わたしがそれを手から奪う。

 割れた破片とともに魔力を込めてみた。グリーフシードが元通りのソウルジェムになって、ホッと息をつく。

 ……しかしすぐにソウルジェムは表面から剥がれ、中身の黒さが露出して元の形に戻ってしまう。


 見かねたあすみがわたしの手からグリーフシードを奪い返す。


あすみ「無理だって、無理やり変えようとしたって。一度そうなったもん魔法ごときで戻せないよ」

かずみ「あすみちゃん……知ってたの……? 魔法少女が魔女になるって!」

マミ「嘘よ、これもあの魔法少女の魔法でしょう!? 冗談ばっかり言わないで!」

マミ「その魔法少女は街の人を魔女にしてた!でも私たちがみんなこうなるなんて……」

あすみ「あすみがいつ冗談を言ったって? 魔法少女のことで冗談言ったことなんてひとつもないよ」

あすみ「ちゃんとソウルジェムがグリーフシードになるとこを見たはずでしょう? いつまで現実逃避してんのさ」


マミ「そんなはずがないわ! 人が魔女になんてなるはずない! それじゃあ私は……私は一体なんのために戦ってたの…………」

あすみ「だからぁ……私らは『人』じゃないって」


 その時この場にどこからか声が響く。――……後ろ。わたしたちの足元だ。


QB「見た通りだよ。ソウルジェムが濁りきると魔女が生まれ、グリーフシードになる」

QB「大雑把に説明するならそれで合っているよ」

マミ「そんな……私を騙したの? 一体どうしてよ! ずっと一緒にいて、心が通じ合ってると思ってた! 信じてたのに!」


 いつもの平坦な口調。キュゥべえは変わらない様子で言う。

 マミの悲痛な叫びにもキュゥべえは呆れたような反応しかしなかった。


あすみ「キュゥべえはね――――巴マミ、アンタを“悲しませたかった”んだ」

あすみ「だから姿を隠してた。そうすればソウルジェムに呪いを生んで魔女に成ってもらえるかもしれないから」

あすみ「今になって出てきたのはその兆しがないから諦めたんでしょ」

マミ「あ……ぁ、……――ぁ」


 声にならない声をあげてマミが崩れ落ちる。

 ……今まで信じてきたものすべてが打ちのめされてしまったように。


かずみ「マミ……」

あすみ「その程度の絶望で魔女になるならなれば? そいつに騙されたまま哀れに死にたいならね」

あすみ「そのほうが私の取り分は増える」

マミ「……!」


 あすみはこの場から去ろうとくるりと背を向ける。

 その瞬間、発砲音が響く。



 ……――――その背に向けてマミが銃を撃ちこんでいた。



――――――
――――――

――――――




キリカ「ッ!!」


 ――本当は自ら仕掛けるつもりだった。

 しかし、予想外の相手の言動に隙が出来てしまった。攻撃を間一髪で避けるが、完全に相手のペースだった。


「見てこの純白のドレス。お城にはぴったりでしょう?」

キリカ「随分と大がかりな攻撃をしてくるんだね。少女趣味拗らせて馬鹿じゃないの。でも、似合わないよアンタには」

「ひどいこと言うなぁ。私の名前は双樹あやせ。お近づきの印にいいもの見せてあげるねっ」


 あやせがソウルジェムの敷き詰められた箱を開く。

 しかし意に介することなくそこにキリカは爪を振るった。


「きゃっ、なにするのよ。こわーい、“大量殺人鬼”!」

キリカ「そんな石ころコレクションを壊されそうになったくらいで、なにが殺人鬼だよ! 悪趣味なアンタには言われたくない!」

「……あら、知らないの?」


 キリカは不意に飛んでくる炎を避けながら、大きな城の中をちょこまかと走り回るあやせを追う。

 接近戦に持ち込めればいい。しかし複雑な構造、しかも完全に相手に地の利を奪われての戦い。キリカにとっては苦手な相手だった。


 ――それとは別に、キリカの頭の中には思い悩むこともあった。……あやせのさっきの言葉。

 苛立ったような表情のままキリカは戦う。


キリカ「くっ……!」

「アヴィーソ・デルスティオーネ……ねえ、宝石が汚くならないうちに早く渡して?」

キリカ「そんなに欲しいならくれてやるよ、こんなもの! でもアンタの態度が気にいらない!」


「意地悪するなら無理やり剥がして取ってくね! 身体のほうは別にどうなってもいいよ!」

キリカ「やれるもんなら……やってみろ!」


 キリカが離れた位置から爪を飛ばし、狙い込んだ攻撃を放つ。

 しかし、それもすぐに炎に迎え撃たれてしまう。


「あなたって、スピード任せな攻撃ばかりで手数そのものは少ないみたい。距離さえ保てば完封できる」

キリカ「きゃっ、あついっ! ……――っ、こんなことなら前から真面目に訓練しとけばよかったかな…………」


 キリカが燃え移った炎をはたいて腕を押さえる。焦がされそうな熱の痛さに涙が滲む。

 腕が使えなくなれば一気に攻撃手段を失ってしまう。熱や火傷によって長期戦で体力を奪われるのはまずい。


 追い詰められた状況の中、周囲を見て活路を探す。

 相手の攻撃パターン。動き。どうすれば攻撃を届かせられるのか。


 痛みを我慢してキッと睨む。


キリカ「でも、そっちだってその炎の攻撃ばっかだ。大して手数があるわけじゃない!」

「そうかしら? でもあなた相手なら“奥の手”使わなくてもよさそうかも」


 ――今の自分に足りないもの。確実に貫けるリーチと威力があれば。

 その思いを込めて、キリカは攻撃を繰り出す。



 あやせの目の前を取り囲むように黒色の刃を連ねた鞭が舞い、その身体に幾筋の傷を刻んでいく。

 足止めされたあやせはいくつもの炎の塊を周囲に纏う。


「セコンダ――」


 ――――それが放たれる前に、一直線に伸びた黒い刃があやせの胸を突いた。


キリカ「はぁっ、はぁっ……」


 それは骨や内臓にまで達するほど深い攻撃じゃない。ちょうどソウルジェムを突き壊すくらいの深さだった。

 キリカは変身が解けて横たわったあやせを見下ろす。


キリカ「…………」


 戦いが終わったわずかな安堵と、罪悪感。

 あやせの言葉と今の状況は、今まで信じていなかった織莉子に教えられた真実の『答え合わせ』にもなっていた。


 キリカはそこに近づいて手を触れようとする。


「汚い手で触れるな」


 ――その時、あやせの目がカッと開いた。


キリカ「はは……っ、そうだよね。でももう魔法は使えなくしたんだ。降参しなよ」

「魔法を使えなくした? ソウルジェムの価値をまだその程度のものだと思っているとは……――笑止」


 その瞬間、“あやせ”はさきほどとは打って変わった黒い衣装に身を包む。


「わが名は双樹ルカ。あやせに非ず。私の大切なあやせを殺した罰を与えます。――――殺人鬼さん」



キリカ「……何!?」


 キリカの腹には大きな剣が刺さっていた。

 込み上げた血液を口から吐き、キリカはうずくまるように地面に倒れ込んでルカを見上げる。


キリカ「―――がっ……」

ルカ「ソウルジェムは生命の輝き。だからこそ美しい。あなたのソウルジェムがあればきっとあやせも喜んだだろうに……」

ルカ「せめて仇をとって捧げることにしましょう」

キリカ「……ソウルジェムを取られた魔法少女たちは生きてるのか?」

ルカ「身体との接続が切れれば魔力がなくなって死ぬ。距離にすればどのくらいだったかな」

キリカ「わかっててやってたんだな、外道! それも何人分もあった! そっちのほうが殺人鬼じゃないか!」

ルカ「別に殺すために摘んでいるわけじゃありませんから。まあ、結果として死にはしますがね」

キリカ「ひとつの身体に、二つ――……多重人格の魔法少女だって……?」

キリカ「…………なんて奴ら……こんな奴らに……――――」


 こいつに“背”を見せるのはまずい。そんなことはわかりきってるのに、動けなかった。

 キリカのソウルジェムは背中側の腰にある。


 こんなやつに負けたくない。


 ――そこに手を伸ばされる直前、どこからか揃った掛け声が聞こえた。

 そして、迸る魔力の轟音。



「……間一髪ってとこか」


 この場に現れた少女たちは、またしても不思議な呪文とともにルカのソウルジェムを取っていく。


キリカ「……君たちは?」

「私たちは『プレイアデス聖団』。まずはその怪我を治すのが先か。そうしたら、少し聞きたいことがある」


 “6人”のうちの一人が近づいて魔法を使うと、刺し貫かれた傷がたちまち癒える。

 もとはといえば自分が狙っていたはずの魔法少女チーム。しかし、皮肉にも彼女たちに助けてもらう形になってしまった。


キリカ「あ、ありがとう」

「奴のソウルジェムは私たちが管理する。それから……そのソウルジェムも代わりに私たちが預かっていよう」

キリカ「―――……ッ!」



 …………キリカは魔法を使って脱兎のごとくこの場から離脱する。


 『チェンジ・オブ・ペース。錐のように鋭い一撃。かずみさんの目には見切れなかったわけだわ』

 ――訓練の時のマミの言葉が脳裏に浮かんだ。








「…………あ、逃げちゃった」

「表現が直接的すぎるから。そりゃあれの後だもん」

プレイアデス、まだ6人いるのか
聞きたかったのはかずみの事かな?キリカが面識あるのは知らないだろうけど
それにしても双樹姉妹あっさり退場だったなぁ

――――――
――――――
マミの家 深夜



かずみ「……マミ、何も食べないの? それに寝ないと明日動けなくなっちゃう」

マミ「悪いけど、今は気分じゃないの。このままで居させてちょうだい」


 マミは家に帰ってきてから、ずっと部屋のベッドに座り込んでいた。

 会話もほとんど交わさない。ご飯も食べず、眠るでもなく何もせずにこの体勢のまま目を開いている。

 ……まるで抜け殻になっちゃったみたい。


 ――――あの時マミの撃った弾丸は当たらなかった。わたしがマミにしがみついたからだ。

 マミは自分が魔女になることすら利益として考えたあすみの言葉が許せなかったんだろう。

 わたしもそんなの想像なんてしたくない。


マミ「……醜い魔女。私が今まで倒してきたもの。……私たちもあんなふうになるのよね」

マミ「そう考えたら、なにもする気が起きなくなってきちゃった。かずみさんは怖くないの?」

かずみ「怖いよ。そりゃ怖いけど……」

かずみ「今は休もう。何かするのは、もっと色んなこと考えられるようになってからでいいよ」


 部屋の明かりを消す。

 ……マミはそのまま動かなかった。



1おやすみ
2自由安価

 下2レス



 わたしは布団に入ったまま横に座るマミに語りかける。


かずみ「……ねぇマミ、私達は生きてるんだよ。だから、心まで殺しちゃったら本当に人じゃなくなっちゃうよ?」

かずみ「今の私達みたいに魔女になることを知って絶望して魔女になった人、何も知らないままま魔女になった人――」

かずみ「中にはマミみたいに魔法少女として誇りを持って戦っていた人もいたと思う」

マミ「みんな、私たちと同じ魔法少女だったのよね…………」

かずみ「うん……みんな魔女になって誰かを傷つけたりしたかった訳じゃないと思うよ」

かずみ「だからさ、これから魔女と戦う時は、そんな人達が安らかに眠れるように私達が送ってあげようよ」

かずみ「それは理由を知ってる私達にしか出来ないことなんだからさ」


かずみ「おやすみ、マミ」

マミ「…………ええ、おやすみなさい」


 それから、マミの返事を聞いて目をつむった。

――――

――――


 ――――マミにとって、もう時間の感覚はわからない。どれほどそうしていただろうか。

 少しだけ外から明るさが見えてきた頃になって、マミはゆっくりと立ち上がった。


 長いこと動かしていなかった足を動かしてリビングへ向かう。

 テーブルの上にはラップのしてあるご飯とメッセージがあった。


 『おなかがすいたら食べてね。それはマミが生きたいって思ってるってことだから。 かずみ』


マミ「かずみさん……」


 ラップを開けてスプーンをすくってみる。

 口当たりの柔らかいリゾットは、冷めているが食べやすかった。



 ……マミは部屋に戻ると、少し変な体勢で寝ているかずみの顔を見ながら言う。



マミ「…………ありがとう」




―6日目終了―


かずみ 魔力[90/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[20/100]
・お菓子[10/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

-------次回は2日(日)夕方からの予定です



 翌朝目を覚ますと、マミはまだ隣のベッドで横になって眠っていた。

 ……あれからちゃんと寝てたんだ。その寝顔を見て安心する。


かずみ(……朝ご飯作ってこようっと)


 マミを起こさないようにそっとベッドから出てキッチンに向かう。昨日作り置きしておいたご飯はなくなってた。

 この数日一緒にいて、マミの好みも少しずつわかってきた。


 今朝も食べてくれるかはわからないけど、せっかくだからマミの好きそうなものを作ってみることにした。


――――


かずみ「おはよう、マミ。今朝はごはん食べられる?」

マミ「食べられる分だけ。余ってもかずみさんはたくさん食べるでしょう?」

かずみ「うん。ところで今日は学校は?」

マミ「行くわ。それに、パトロールにも出かけないと。かずみさんもまだ手持ちのグリーフシード少ないでしょう?」

かずみ「そうだけど……マミ、もう大丈夫なの?」

マミ「このまま立ち止まってたら本当に魔女になってしまいそうよ。そうなるくらいなら自分で始末をつける」

マミ「……でも、それもやっぱりまだ嫌だって思ったから」


 マミの言葉を聞くとわたしもはっとした。

 わたしが居ることでマミを元気づけられたと思うと、わたしも勇気をもらえるようだった。


かずみ「うん! 放課後は一緒にいこっか」

マミ「ええ」


 二人で朝食を食べる。

 ――――……それから、いつもの時間になるとマミは今日も学校に行った。



 わたしだけになる家。


 今の暮らしは楽しいし、マミともせっかく仲良くなった。わたしがマミのことを支えてあげられてる部分だってある。

 けど、わたしはいつまでここにいるんだろう?


かずみ(今までまだ危険だから……って思ってたけど、わたしを狙ってたユウリももういなくなっちゃった)

かずみ(『あすなろに行けば全部わかる』)

かずみ(…………行けない理由はもうない)


 部屋の隅にいる存在に気づく。

 生きてたって時はあんなに再会を喜んでいたのに、あれからマミとも話してはいなかった。

 見かけてもマミがすぐに追い払っていた。そこにわたしは語りかける。


かずみ「――……キュゥべえ。昨日のこと、ユウリが魔女になる直前に言った事」

かずみ「私と『同じだ』って、どういうこと?」


 わたしが『造られた』ってことはユウリも言ってた。


QB「それは君が『魔女から生まれた』存在だからだろう」

QB「プレイアデス聖団は魔女の肉からかずみを造り出したんだ」



 もう耳に入って、手遅れになってからやっぱり聞いたことを後悔した。


 『前のわたし』なんていなかった。戦いの中に感じた感覚は“破壊”と“殺戮”の本能。記憶。

 わずかな記憶に残された『本当のわたし』は、魔法少女よりもっとおぞましい――。


かずみ「じゃあ、わたしは…………魔女に“なる”どころか、魔法少女ですらないんだね」


 『醜悪な魔女』――――こんな時、よりによってマミの言葉が浮かんだ。

 マミがわたしのことを全部知ったらどう思うだろう。『そんなことない』って言ってくれる?

 知られたくはなかった。マミだって落ち込んでて、やっと元気になったって時に。


 心配かけさせたくはないから。


 ……わたしはその気持ちと知ってしまった真実に、蓋をした。

――――
――――
見滝原駅前 放課後



かずみ「マミ、今日はどこから探すの?」

マミ「下調べをしてきたわ。ここから進んだ通りに事故が多発している場所があった」

マミ「これが魔女の仕業ならビンゴってところかしらね」


 マミの学校が終わると、人通りの多い駅前にまでやってきた。

 今日は最初からパトロールだ。マミの言う通りに道を進んでいくと、ソウルジェムが光り出す。


かずみ「お、光ったよ!」

マミ「ええ。乗り込みましょうか」



 結界の入り口を探して最深部を目指して進んでいく。

 その奥にたどり着くと、ヘルメットを被った魔女と使い魔の姿があった。



―穴掘りの魔女結界



 穴だらけの地面を駆けて魔女に近づいていく。


マミ「こっちの使い魔は捕えておいた!」

かずみ「おっけー! こっちもいけるよ!」



かずみ 魔力[90/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[20/100]
・お菓子[10/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


仲間:
マミ 状態:正常


敵:魔女Yumbo <-攻撃対象デフォルト
  作業員×5
  誘導員×3

1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ【ネーロ・ファンタズマ】(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技

 下1レス



かずみ「『ネーロ・ファンタズマ』!」


 その辺にある岩や土の塊から分身を作り出す。この戦い方はもう慣れてきたパターンだった。


 分身を先に行かせて道を確保してから、わたしも魔女に杖を突きだして追い打ちをかける。

 やられた分身は元の土に戻っていくだけだ。


かずみ「遅い、こっちっ!」


 魔女が大きなショベルを叩きつけた。わたしはその大ぶりな動作の隙にまわりこむ。

 戦いは順調にいっている。このままいけば倒せる。


 ――でもその最中にふと午前中キュゥべえから聞いたことを思い出した。


マミ「ティロ・ボレー」


 マミの銃弾の連撃が見えて、一瞬それた意識が戻る。

 マミが援護してくれていた。


かずみ「……っ!」


 振りあげた杖を思い切り下ろす。

 ……すると、魔女はグリーフシードを残して消えていった。



マミ「お疲れ様。今の分はかずみさんが持っていて」

かずみ「あ、うん」


 地面に落ちた黒い宝石を拾い上げる。

 ……魔法少女はソウルジェムが濁りきったら魔女になる。それなら元が魔女のわたしは?


 戦いの中にたしかにわたしの記憶はある。

 その真実を知ると、戦っているうちにいつか魔女の本能に飲まれてしまうんじゃないかって心配になった。


マミ「今日はまだ時間があるし次の場所に行きましょうか。 かずみさんは大丈夫? 疲れてない?」

かずみ「大丈夫だよ。行こう」


 大きな通りを後にして道を戻っていく。駅に近づくにつれて人通りも増える。

 すると、その中に見覚えのある姿を見かけた。


織莉子「……あら、マミさんとかずみさん――でしたかしら?」

マミ「美国さん。その、縄張りの話だけど…………」

織莉子「その話はこちらにも伝わっていますわ。今はこの街では活動は控えております」



 織莉子はまだ制服を着ていた。

 わたしの知ってる見滝原中学校の制服とは違う制服だ。


マミ「それはもういいの。……私たちは今パトロールをしているところよ。よければ一緒にどうかしら?」

かずみ「マミ……いいの?」

マミ「一度話してみないとどんな人かわからないんでしょう? 私ももう何が一番正しいとは言えなくなっちゃった」


 マミはそう提案した時の織莉子の反応も見ているようだった。

 それに対して、織莉子は上品な笑みを浮かべて答える。


織莉子「そちらが良いのなら是非。私も契約したてですし、一人では不安なところでしたから」

マミ「それなら行きましょうか」


 わたしたちは一人加えてまた歩き出す。

 わたしは織莉子のことを見上げて見ていた。上品で物腰は柔らかい。マミとは似た雰囲気にも思えるけど、ちょっと違うような。


 織莉子がこっちの視線に気づく。


織莉子「……何か気になることが?」



1マミとは違う学校?
2自由安価

 下2レス


かずみ「マミとは違う学校?」

織莉子「白羽女学院という学校に通っているわ。家はこの近くだけれどね、ここからは少し離れた学校よ」

マミ「良いところに通っているわね……私もたまに制服は見るけど、噂くらいでしか聞いたことがないわ。頑張ったんでしょう」

マミ「私は普通に近くの見滝原中学校よ」

織莉子「私にはそういう環境があった、それだけですよ。私からすればあなたたちのほうがうらやましい」

織莉子「……いえ、かずみさんはその言い方だと、マミさんとも違う学校に通っているのかしら?」

かずみ「わたしは……あすなろの学校だよ」


 それが私のつける精一杯の嘘だった。

 ……本当は学校なんて通ってなかったんだ。いけない、こんなこと考えたら暗くなっちゃうな。


織莉子「でしたら、あすなろの縄張りで何か問題が?」

かずみ「うーん……まあそんな感じ……」

マミ「かずみさんは悪い魔法少女に狙われてたから。それで、私と一緒に行動することになったの」

マミ「そしたら仲良くなって。もうその魔法少女は倒したんだけどね」


 マミがフォローに入る。この問題はそんなに簡単に話せることじゃない。

 昨日知った魔法少女の真実も、やっぱり誰にも話すことはできない。



1ねえ、この後お茶会は?
2自由安価

 下2レス

---------次回は4日(火)夜からの予定です

おーぷん避難スレでの採用内容抜粋

209 :名無しさん@おーぷん :2018/10/08(月)22:18:15 ID:TuC ×
1+織莉子と雑談するうちにふと笑顔に疑問を抱く

なんだろ…この人の笑顔は何か違う気がする
なんていうか無理して笑ってるような、悪い言い方をすれば『笑顔を作ってる』ような気がする
上品だけどなんか冷たい感じがする

次回は16日(火)夜からの予定です

今日はちょっと時間とれなさそうですね…
多分明日に。


織莉子「そうでしたのね。……私はてっきり小学校のほうなのかと」

かずみ「もー、それどういうこと!?」


 頬を膨らませて怒る。けど私はなんにも知らないから完全に否定はできないや。

 ミチルはどんな人だったんだろう。どんな生活を送っていた? そう考えたけどやめた。……ミチルはわたしじゃない。


かずみ「ねえ、この後お茶会は?」

マミ「ええ、そうね。美国さんさえよければ。せっかく話せたんだし」

かずみ「マミはいつもパトロールや訓練のあと、お茶会をやってるんだよ!織莉子もどう?」

織莉子「そういうことなら是非。私も今日はこうしてマミさんやかずみさんと話す機会をいただけて嬉しいわ」

織莉子「もちろん私も、魔法少女になったからには一人でも多くの人を救えるよう尽力いたします」


 その時、マミは足を止める。

 一瞬織莉子の言ったことへの反応かとも思ったけど、どうやら違った。


織莉子「……どうなさいましたの?」

マミ「使い魔が近くに居るみたいよ」

織莉子「そう、使い魔が……?」

かずみ「ホントだ、光ってるよ! はやく倒しにいこう!」

マミ「そうね、美国さんもそれでいいかしら?」


 ソウルジェムを見てみると、確かに反応があった。

 ……やっぱりわたし、まだ魔女はこれ以外で察知できないみたい。


織莉子「……ええ。私はお二人についていきます」


 織莉子も賛同してくれたけど、少し不思議そうにしていた。

 話を聞いているとマミと合う部分もありそうなんだけど、やっぱり使い魔を倒すのは普通じゃないことなのかな?

 グリーフシードを落とさないから……?


 もう一度織莉子の顔を見上げてみる。


織莉子「……何か?」

かずみ「ううん、でもちょっとだけ――――嘘くさいなって」


 ――……誰も見ていなかったけれど、織莉子はその瞬間険しい眼差しをしていた。さっきまで笑ってたのに。

 いや、笑ってたけど無理してるような……ちょっと冷たい感じ?

 わたしは気を取り直して、気にしないようにマミの進もうとしていた方向へ駆けていく。


織莉子「!?」

かずみ「いこ!」


――――


―ハコの魔女結界


かずみ「えいっ!」

マミ「そっちのはお願いね!」


 結界があったのは少し入り組んだところにある薄暗い小道だった。

 いつもどおりわたしとマミで使い魔を分担して、さらにわたしの後ろには織莉子もいた。


 織莉子は広範囲に放った光る水晶のようなものを当てて使い魔を倒している。


 ――やがて使い魔が片付くと、じっくりと織莉子の姿を見てみた。

 まるでドレスのような露出の少ないひらひらの白い衣装。変身前とは違う髪型。頭には変わった形の帽子……。


織莉子「片付きましたね」

マミ「ええ、さすがに三人もいると早くて助かるわ」

織莉子「そうですわね。ところで、かずみさんは何か私のことが気になるのかしら……?」


かずみ(……バケツ?)



 狭い路地から出る前にみんな元の姿に戻る。私も合わせて変身を解いた。


かずみ「あっ、ううん!今日のお茶会のおやつはなにかなって!……たとえばバケツ――――に入ったプリンとか!」

マミ「プリン?作れないことはないけど、バケツいっぱいって相当な量になるわね」

織莉子「……本当に食いしん坊なのね」

かずみ「え?みんなはおいしいプリンをめいっぱい食べてみたくなることってない?素敵だと思うけどな」


 言ってみたら本当に食べたくなってきちゃった、プリン。

 パトロールが終わったあとのお楽しみにとっておこう。


織莉子「使い魔がいたってことは、魔女もどこかに潜んでいるのかしら?」

マミ「そうね、まだ残党がいないかチェックしましょう」


 ソウルジェムを見る。

 今のところわたしが反応を計れるのはこれしかない。



かずみ「――――残りの使い魔はいたものの、あの辺には魔女はいなかったね」

マミ「遠くから流れてきたのか、誰かが倒してくれたのかも」

織莉子「それはなによりだわ」

マミ「じゃあ、少し回り道しながら帰りましょうか。うちにはあまり大きい容器はないけど、プリンの材料も買い足しておきましょう」

かずみ「やったあー、プリン!」

マミ「私もかずみさんの話を聞いたら食べたくなっちゃったの」


 意気揚々と帰り道を歩き出す。

 マミ、昨日は食欲がなかったみたいだけど、こうして変わらずにパトロールをすることで前向きになれるならよかった。


 ――でもその途中で、手の中の宝石が光り出した。


かずみ「あっ、魔力反応! プリンのためにも早く倒して帰るよ!」



 魔女か使い魔か、結界を探して入っていく。

 このしっかりとした結界の感じ……


かずみ「……――これは多分魔女だね」

マミ「ええ。心してかかるわよ」


 って、準備をしたはいいけど、最深部に来てみるとどこにも魔女の姿がないよ!

 どうしよう?


かずみ「え? マミ、これどういうことなの?」

マミ「待って、魔女は隠れているのかも。うかつに動くのは危険よ。……気配を読み取るの。必ず動きはあるはずよ」


 そうしてる間にも、使い魔が襲い掛かってくる。

 まずはこれをどうにかしないと。



かずみ 魔力[75/100]  状態:正常
GS:3個
・ヘヴィメタ[20/100]
・お菓子[10/100]
・穴掘り[100/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


仲間:
マミ 状態:正常
織莉子 状態:正常


敵:使い魔Anja×7

1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ【ネーロ・ファンタズマ】(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技

 下1レス

1

------次回は21日(日)夜の予定です



かずみ「うん、まずはこっちだ……!」


 すばしっこく飛び回る小さな使い魔を散らすように杖を振るう。わたしが外したやつをマミの銃が仕留める。

 織莉子の水晶玉も見えたけど、わたしたちより一歩引いたところから放っているようだ。


織莉子「私には素早い動きの相手は得意ではありませんから……私が魔女に動きがないか見ています」

かずみ「うん、大丈夫!こっちはわたしたちだけでいけるよ!」

マミ「お願いするわね!私も気配には気を配っておくから!」


 杖の殴打で仕留めきれなかった使い魔を突き、数を減らしていく。

 それならわたしはこっちを倒すのに専念しよう――!


 そうしてしばらく使い魔と戦っていると、マミが声を上げた。


マミ「あ、あれ!」


 物陰で何かが動く。クレヨンのようなものを持って、地面に何かを描いているようだ。



かずみ「魔女だ……!」


 大きく不気味な子供のような姿。絵の描かれた床から使い魔が浮き出てきている。

 でも、今ならそっちに気が向いているから倒せるかも。


かずみ「気づいてないみたい。今のうちに縛っちゃえ!」

マミ「言われなくても!」


 魔女をマミのリボンが縛る。

 それからほぼ間髪入れずに織莉子の水晶玉がいくつかぶつけられ、魔女の頭を貫き落としていった。


 頭を失った魔女は声を出すこともできずに縛られたまま暴れ出す。――残った身体にはわたしがトドメを刺した。

 ……なんだか、魔女とはいえその痛々しい姿が見てられなかったから。



織莉子「……」


 水晶を放ったままの前に手を翳したポーズのまま、織莉子は冷静な表情で前を見据えていた。


マミ「はい、どうぞ」


 マミが拾ったグリーフシードを織莉子に差し出す。

 でもマミだってさっきもわたしにグリーフシードをくれたし、そんなに余裕があるわけでもないのに。

 今までは何も知らなかったけど、魔法少女はグリーフシードがないと死んでしまう。いや、それよりもっと恐ろしいことになってしまう。


かずみ「マミ……いいの?」

マミ「ええ。ついてきてくれたお礼よ」


 ……それから、テレパシーが聞こえた。


マミ『……魔女になることを考えると本当は怖い。グリーフシードもないといけないけど、やっぱり私はこの活動をグリーフシードを目当てにはしたくないわ』

マミ『魔力が尽きるほど余裕がないわけじゃないし、絶望なんてしないから』



かずみ「マミ……」


 思わずつぶやく。

 マミの気持ちを思うと複雑な気分。


織莉子「……いいの? ありがとう」

マミ「ええ、どういたしまして」

かずみ「じゃ、早く帰ってプリンだ!」



 魔女を倒して再び帰路を歩き出す。

 途中で寄ったスーパーでプリンの材料を買うと、買い物袋を持って三人でマミの家に戻った。



マミ「……――――あとは冷えて固まるのを待つだけ。先に紅茶を淹れてくるわね」

織莉子「……すごい。お菓子作りって魔法みたいね」

かずみ「お菓子作りに関しては特にマミはわたしより上かもってくらいだからね」

織莉子「かずみさんも料理が得意なの?」

マミ「ええ。こう見えて特に洋食じゃ料理からお菓子までなんでもござれなのよ?毎日がレストランみたい」

かずみ「こう見えてって何よー!」


 プリンを準備してテーブルにつくと、マミの淹れてくれた紅茶に口をつけた。

 相変わらず優しい味だった。


織莉子「紅茶、よく飲まれるんですか?」

マミ「ええ。ティータイムがあるとほっと一息つけるの」


 織莉子も気に入ってくれるかな。

 ……マミはうまくやれてるみたい。私がちょっと気になってたのは、使い魔を倒すって時の反応だった。



1自由安価
2織莉子は家だとお手伝いさんがやってくれるとか?
3織莉子を見つめてみる

 下2レス


マミ「美国さんも紅茶はよくお飲みに?」

織莉子「そうね、私も……一息つける時間だったかもしれない」


かずみ(だった……――?)


 そう言って織莉子が見せたのは、さっきの笑顔とも違う過去を懐かしむような苦笑。

 何かはあるようなきがして。でも『今は違うの?』とも聞けなくて。


 気づいたら、織莉子のことを見つめていた。


かずみ「じーーー…………」

織莉子「あの、かずみさんっ? やっぱりなにか私、かずみさんから嫌われているのでは……」


 織莉子は気まずそうにわたしから目を逸らす。


かずみ「えっ!そんなことないよ! ただちょっと……考えてたの」

織莉子「考えていた?」


かずみ「ね、織莉子はどーしたらオトナっぽくなれると思う? 考えてみたらわたしと織莉子の衣装って真逆」

かずみ「織莉子のは白くて露出がなくて。キリカはわたしの衣装セクシーかもって言ってくれたけど、織莉子はオトナっぽいでしょ?」

織莉子「そ、そうねえ……かずみさんは少し落ち着きを見せるといいんじゃないかしら?」

かずみ「落ち着きがないって言われたっ!」ガーン


 そんな話をして、マミは笑っている。


 ――って、そんなこと考えてたのは本当に半分。

 でもやっぱ今のもすこし気になった。また冷たい表情したんだもん。


かずみ「……そっかあ。織莉子も、無理はしないでね」

かずみ「なにかイヤなことがあったら言っていいんだよ? わたしたち、仲間なんだから!」

織莉子「…………」

かずみ「使い魔と戦う時、ちょっと嫌な顔したでしょ? 本当は戦いたくなかったんじゃなかったのかなって」

マミ「そうだったの? ごめんなさい、美国さんはああ言ってくれたし私は気づかなくて」

織莉子「……いえ、私は戦い方のせいかいつもあまり魔力がなくて。本当は少し渋ってしまったの」

織莉子「やっぱりあなたって鋭いわ。あなたはそのままでいいわよ」



 織莉子も笑う。……でも、まだ心の奥が笑ってないよ。

 ――――そのとき、セットしていたタイマーがけたたましく音を鳴らした。


かずみ「わあっ、プリンの合図だ!」

かずみ「織莉子もプリン食べて元気になろ!織莉子はもっとはしゃいだっていいよ!」


 さっそく冷蔵庫を見に行った。

 冷蔵庫の中で特大の容器が冷えている。バケツほどじゃないけど、ボウルいっぱいのプリンも素晴らしい。




マミ「……たしかに少し落ち着きがあってもいいかもしれないわねぇ」

マミ「そうだ、美国さん。戦い方が気になるなら今度は私たちと訓練はどう?連絡先交換しましょう」

織莉子「ありがたい話ですわね。それならお言葉に甘えて……明日にでもお時間取れますか?」

織莉子「その前に少しお話したいこともあるのですけど」

マミ「今じゃ話せないこと?」

織莉子「縄張りのことですので、二人だと嬉しいですわね」




 大きなプリンをスプーンですくって口いっぱいに頬張る。

 織莉子はそんなに食べられないって小さめの容器にしていたけど……

 たくさんある上に味もおいしかった。これならいくらでも食べられそう。


かずみ「おいしい! これ大成功だよー」

マミ「子供の頃から一度は挑戦してみたくなる夢よね。食べてもなかなか減らないし、満足するまで食べられるわ」

かずみ「えー、まだまだ食べられるよ」

織莉子「本当に食いしん坊ね……」

かずみ「えー、織莉子はそれだけで足りるの?」

織莉子「私はこれで十分ですわよ? とても美味しいです」

マミ「口に合うようでよかった。かずみさん、これからは美国さんも一緒に訓練するって」

かずみ「そっか、じゃあこれからよろしくだね」

織莉子「ええ、よろしくおねがいしますわ」



 ティータイムが終わって、遅くならないうちに見送る。

 織莉子は今一人で暮らしてるらしい。そこにもなにか事情があるのかもしれない。


 織莉子が帰ったあとお茶会の後片付けをしながら、あたまに引っ掛かったことを考えていた。

 ――とっさに浮かんだバケツプリン。なにか知ってることがあるようなないような……?


かずみ「マミ! ちょっと調べものしてもいい?」

マミ「ええ、どうぞ」


 マミにパソコンを借りて操作してみる。すると、やっぱり気になるものが出てきた。


かずみ「あった!」

マミ「何が?」

かずみ「あすなろのお店だよ。期間限定だけど、バケツプリンやってたんだって」

かずみ「ねえ、今度あすなろ行くときはこれ行こう!」


 今日の特大容器をさらに上回る特大のプリン。

 マミも驚いてたけど反応は良さそうだった。それ以外のメニューもおいしそう。


 …………そうやって楽しみがあれば、少し明るい気持ちであすなろに帰れるかな。

――――
――――


織莉子「……鋭い子だ。子供みたいに純粋で、厄介で、うるさくて落ち着きがないところも、その容姿も……――」

織莉子「本当に、貴女のような人は嫌いだわ」


 活発な言動はキリカとも少し似ているようで、性格は少し違うと思った。

 もっと純粋で馬鹿みたいに曇りがなくて、簡単に言いくるめられたりはしないだろう。


織莉子「でも、巴マミとの交流は予想外のチャンスだった。彼女は使えるわ。――彼女もすでに真実を識っている」


 暗くなった空。家への帰り道を歩く。『お帰りなさいませ』なんて言って待っていてくれる使用人なんかいない。

 一族からも切り離された私の家族は、世間で思われているほど上流階級なんかじゃなかった。

 私が小さい頃は家事に四苦八苦する私を見かねたお父様が雇ってくれたこともあったけれど、すぐにそれもやめさせた。

 私が説得したのだ。全て私がやると。赤の他人に全てやってもらうなど屈辱でしかない。私は絶対的に頼られる人にならなくてはいけなかった。


 ――何もできない子供なんかじゃなく、お母様の代わりになるために。


 私はキリカとも違う。かずみとも違う。他の子どもたちの誰とも違う。


織莉子(マミと一緒の魔女狩りは無駄も多いからあまり共にはしたくないけれど、今日はグリーフシードも手に入ったことだし計画は順調)

織莉子(……なのにこの胸騒ぎは何?)


 家の前に立つ人影に足を止める。――――知らない人物に前を立ちはだかられ、顔を上げた。

-----ここまで。次回は22日(月)夜からの予定です



織莉子「……どなたです? ここで何をしているの?」

「…………」

織莉子「ここは私の家です。どいてもらえますか?」


 目の前に立つ人物は喋らない。

 あまり歳のいっていない女のように見えるが、パーカーのフードを深くかぶり、顔が分からなかった。

 ――見るからに怪しい。またいつもの不審者か?


織莉子「あまり付き纏うようなら警察への通報も考えます」


 うんざりしつつ携帯を取り出す。こういった不審者には毅然と接してやるのがいい。逮捕までされる覚悟のない人が大多数なのだ。

 ――そう思ったのだけど、今回は違った。


「……お前の企みは全部知ってるぞ」

織莉子「!」

「美国織莉子」


 影に隠れた顔で、意地悪く歪む口元が印象的だった。

 見透かしたような言葉。そんな私の反応まで楽しむように歪んだ口元は釣りあがる。

 でも何故?目的がばれるようなことはしていない。まさかカマをかけているのか?


織莉子「なっ、何を言っているの!?」



「あぁ、いいね。自分で自分を優秀だと思ってる奴のそういう顔ってなかなか見ものじゃないか?」

織莉子「いいから質問に答えて――」


 女は焦らすようになかなか答えようとしない。ふつふつ怒りや焦りが湧き上がってくるのを抑え、次の言葉を待った。

 まだこいつの真意などわからないのだ。早まってここで動いたほうが負けだ。


 私から言わない限りは――――


「お前らよりも先にまどかを手に入れる」

織莉子「……!」


 思わず私は言葉を失って目を見開いていた。

 たったその一言が、一番知られてはいけない核心をズバリと言い当てていた。


 今までの私の考えはただの楽観だった。その場で固まる私にまだ意地の悪い笑みを浮かべながら、女は横を抜けて去ろうとする。

 この女は本当に全て知っている。ならばここで消さなければならない。私の前に姿を見せた今しかない。


 変身し、滾らせた殺意を水晶を撃ち込む魔力に変えて向けた。…………はずだった。


織莉子「何故、魔法が使えない……?」

「そこでそうしてなよ。私はまだ君に危害を加える気はないんだからさ」

「Have a good night.」


 魔力がせき止められたかのように、私の思惑は何一つ顕現しない。

 女は手をフリフリ、何をすることもなく私の横を通り抜けて行った。


 ――扉を開けて、荒れた家の中を進んでいく。


織莉子「あああああぁッ!」


 叩き付けた花瓶が割れた。これはなんだったっけ。

 たしか、この前の英文スピーチのコンテストでもらった花束を飾っていた花瓶だったか。


 そんなことはどうでもいい。


織莉子「あいつは何者なの!なにがしたいの!」

織莉子「全部を知られている……?」



 ふと思い立って、握りしめていた携帯の連絡帳を開く。

 その中からある番号に電話をかけた。――その相手は数コール後に電話に出た。


織莉子「キリカ、貴女今何してるの!?」

キリカ『なにって、今は家だよ。こんな時間に呼びつけたりしないでよね』

織莉子「あれから私の知らない人と関わったりはしていないわね?」

キリカ『……』

織莉子「どうなの!」

キリカ『プレイアデス聖団になら会った。あと他の魔法少女とも』

キリカ『襲えって言ったのそっちでしょ? ……そのことはまた今度話しに行くから、もう今はほっといてよ』


 こっちの返事を待たずに電話が切れた。長く話したくないとでもいうようだ。

 ……いつもは勝手に切ったりしなかったのに。


織莉子「は…………?」

織莉子「“プレイアデス星団”……って、何?」


 キリカが当然のように言った言葉が、私にとってはまるで覚えがなかったのだ。


 額から汗が垂れ、荒くなった息づかいが響いていた。

 絶対に知られてはいけなかったことを、自分の知らないところで知らない女に知られていた。


 『お前らよりも先にまどかを手に入れる』


 その言い方からして相手の狙いは鹿目まどか。でも殺すのではない。

 あの女は私に協力はしないだろう。それどころか私の計画とは――。


織莉子「私はなんで……そんな大事なことを予知できなかったの…………」


 初めて自分の力を呪った。不必要なことを予知し、必要なことを予知しない。前々から無駄が多いとは思っていた。

 ……恐らくはこの前から視えた、私を妨害する“守護者”ともまた違う立場の敵。


織莉子(このままだとまずい)

織莉子(この世界の未来があいつに奪われてしまう――――)




―7日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[0/100]
・お菓子[5/100]
・穴掘り[100/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

織莉子
[???]

――――――


 ――ある夜中、私の意識は暗闇の中で金縛りにでもあったように身体がうごかなかった。

 ドクンと鼓動が響く音が聴こえる。耳につけた鈴のイヤリングからじくじくと疼くように黒いものが広がってくる。


 それに飲み込まれたら私は私ではなくなってしまう、と、このとき私の意識はわかっていた。

 隣にはマミが寝ている。そうなってしまったらきっとマミさえも傷つけてしまうだろう。


かずみ(だから動いて、わたしの思い通りに動いてよ!)

かずみ(でも、わたしの身体は人間じゃないんだ、最初から――――)


 わたしは本当は魔女だから。わたしなんて人は本当はいなくて、ただの幻。

 景色が変わっていく。沸きだした血溜まりの中に倒れているのは、誰かはわからない人間たちの死体だった。


 これが本当のわたしで、これがわたしがやったこと。


 私は寝ているマミを――――。



かずみ「うわあああっ!?」


 布団から飛び起きると、その時部屋の扉が開いた。

 窓からは朝日が差し込んでいた。扉の奥にはもう制服に着替えたマミの姿。


マミ「おはよう、かずみさん。ぐっすり寝ているようだったから起こさなかったんだけど、朝食ならテーブルの上にあるから早めに食べてね」

マミ「なんて、言わなくたってかずみさんは食べると思うけど」

かずみ「も、もちろんだよ!ありがとう、でも家事はわたしの仕事だったのに……」

マミ「いいのよ。じゃ、行ってくるわね」


 今日はそんな時間まで寝てたんだ。

 布団を握りしめたまま考え込む。……夢だった。でも妙にリアルに感じられて、あの内容をまだ引きずっていた。

 わたしが魔女から作られたっていうのが本当な以上、あれもただの妄想じゃすまない。


かずみ「…………」

マミ「かずみさん?」

かずみ「あ、ううん! いってらっしゃい!」



 マミを送り出してまた布団に俯く。

 いつもなら大好きな一日のスタートなはずの朝食も、今はなんだかあまり食べる気がしなかった。


かずみ「普段通りにしようって思ったのに、なんであんな夢みちゃうのかな……」


 気にしちゃいけないってわかってるのに。

 マミだってせっかく元気になって、今日は織莉子も訓練するって言ってくれて。

 あの真実をなかったことにすれば今まで通りに過ごせるって思ってた。


 でも、わたしは本当にわたしの正体を隠したままマミのそばにいていいの?

 あの夢みたいにいつかマミを襲ってしまったら? 罪もない人をたくさん殺してしまったら?


 ……考えなくたって不安は消えなくて、それが夢にまで現れた。

---ここまで。次回は24日(水)夜からの予定です

---すみませんが今日はむりそうです…次回25日(木)夜20時くらいからの予定

――――
――――
放課後


 学校が終わると二人はカフェで待ち合わせていた。

 先に来ていたマミが紅茶に口をつける。どちらも席につくとさっそく話が始まった。


マミ「それで、話って?」

マミ「今日は縄張りのことだから二人で、というのはわかるけど、ああ見えてかずみさんは私なんかよりずっとしっかり者よ」

織莉子「そうなの?」

マミ「ええ。何度も助けてもらっているもの」

織莉子「……でも、この話をあの子にするのはどうかしらね。実は至急協力してほしい事態があるのです」

マミ「協力してほしい事態?」

織莉子「マミさん、貴女は魔法少女が魔女に成ることを既に識っている」


 織莉子の表情の真剣さに、マミはごくりと唾を飲む。

 その言葉にマミは表情を変えて反応した。


マミ「……美国さんももう知ってたのね」

織莉子「ええ。私は契約してすぐに識りました。けれど、そういう人ばかりじゃないでしょう?」

織莉子「貴女はそれを識っても変わらず魔女を倒し続けるの?」

マミ「ええ、約束したから。本当は恐い。でも私が魔女を倒せば救える人は居るもの。……魔女に成ってしまった人たちのことも」

織莉子「なるほど。魔女に成ってしまった人に対しては、せめて人を襲わないように殺してあげることが救いだと」

マミ「本当は誰かを襲いたいわけじゃないはずよ。もしかしたら、なにもかも嫌になって世間に恨みを抱いている人もいるのかもしれないけれど……」

マミ「それしかないのなら、私はそれも尊厳を守ることになると思ってる。……もしいつか私が魔女になったなら、迷わずそうしてほしいわ」


 マミの話を聞きながら、織莉子は静かに頷いた。

 マミにとってはその真実を受け入れることは簡単じゃなかった。それなのに、契約ばかりの新人である織莉子のほうは既に覚悟をしたような顔をしていたのだ。

 ――それも、契約してすぐに知っていたからだろうか?


織莉子「そうね。その考えは正しいのかもしれない。それなら……――」

織莉子「これから世界すら滅ぼす魔女と成る素体には、どう対処する?」


マミ「それは、もしもの話?」

織莉子「ええ。でも、変わらないでしょう? みんな何も知らずに魔法少女に、そして魔女に成る」

織莉子「人殺しはしたくないわ。けれどその規模が桁違いで、確実に絶望の運命を辿るとわかっているのならば」

織莉子「悲劇が起こる前に死んだ方が――或は、殺した方が。そう思うのかしら」

マミ「私なら……」


 マミが考えを浮かべていく。

 説得する、見張る、そんなもので解決できるのだろうか。――それとも殺す?

 最後に浮かんだのは一番直接的で短絡的な手段。いや、最初から考えてはいたが敢えて意識では最後に持ってきた。


マミ「……美国さんは、そんな思いを抱えて今までやってきたの?」


 マミは答える前に織莉子にそう問いかける。

 織莉子はわざと表情を変えないようにまっすぐにマミを見つめていた。

――――


かずみ(マミ、遅いな……)


 いつのまにか少し遅めになってしまった昼を簡単に済ませると、二人がここにくるのを待っていた。

 こんなことってはじめてだ。いつもなら時間にならなくたってお腹はすいてたのに。……でもどうせわたし一人だったから。


 今日は少し用を済ませてから訓練にするって言ってた。

 マミが帰ってきてから一緒に出掛ける予定だ。


かずみ(……今日は織莉子もいるんだよね)

かずみ(わたしは今日はお休みさせてもらおうかな。やっぱそんな気分じゃないかも)



 リビングのテーブルに書置きを残して、外に飛び出していった。

 とくにあてもなくどこかへ歩いて、一人になれそうな場所で座り込んでみる。





キリカ「――――……“魔法少女の魂はソウルジェムで、それさえ壊されない限り死ぬことはない”?」

キリカ「“ソウルジェムが濁り切った時に魔女が生まれる”。あれが本当ならこっちも」

キリカ「あいつからとっくに聞かされてたはずなんだけど、実際に思い知らされるとなんか…………嫌になるな」

キリカ「私も……そうなんだ」


  人の気配から離れたところにぽつんと一人で座り込んでいた。

 手元には自身のソウルジェムを握り、それをただ見つめている。


 記憶や内面なんて不確かなものだけじゃなく、もはや人間としての根底の部分まで。

 以前とは決定的に変わってしまった。前の自分とも他の人たちとも違う存在になってしまっていた。自分も何も知らないうちに。


キリカ「前の私はそんなことする人じゃなかったかなぁ……」


 どこへでもなく呟く。

 ぼんやりと視線を遠くに飛ばして、それから“隣”の存在に気づいた。



 離れたところに座り込んでいた二人が『ン』、と声を上げて顔を向き合わせる。


かずみ「キリカ! どうしてここにいるの?」

キリカ「いやキミこそ。また訓練?」

かずみ「えっ、いやぁ今日はそういうわけじゃあー……」

かずみ「キリカは? ソウルジェムなんて持って何かむずかしそうな顔してたから」


 訓練って言葉に心当たりを感じて、咄嗟にごまかしちゃった。

 大きな声を出さなくても雑談できるくらいにまで近寄っていくと、キリカはどこか自虐的な雰囲気で話し始める。


キリカ「なんていうかさ、私って……なんなんだろうなって」

かずみ「記憶のこと?」

キリカ「『前と違う自分になる』って、それが私の契約した願いだって。だからか知らないけど、私はなんにも知らないんだ」

キリカ「魔法少女のことも、自分のことすらぽっかり穴が空いてるみたいで」

キリカ「正直最初は新手の詐欺にでもあってるのかと思ったよ。でもこんな力までもらっちゃって、さすがに信じないわけにもいかないじゃん?」

かずみ「…………そっかぁ」


 キリカの記憶喪失って、そういうことだったんだ。キリカも色々悩んでるのかな。


キリカ「……前の私と違うなら、私は所詮願いで生まれた偽物なのかな」

キリカ「どうせ変わるんなら、私はかずみみたいになりたかったよ。明るくてまっすぐで誰かを恨んだりもしない、そんな人になってたらよかったのに」


キリカ「……君も早く自分のこと思い出せるといいね」


 キリカの言ったことにわたしは返事をかえせなかった。

 わたしの様子のおかしさにキリカが不思議そうにこっちを見る。


キリカ「んん?」


 ――そして、わたしはキリカの膝に泣きついた。


かずみ「うえぇ~~ん! うわぁ~~ん!!」

キリカ「ええっ!?」ビクッ


かずみ「わたしだって、前のわたしがいると思ってた!なのにわたしは……ぐすっ」

かずみ「本当のわたしなんていなかった! 家族もいない、あすなろには友達もいない! 本当のわたしは、いつか誰か殺しちゃうかもしれない危ない魔女なんだよ!」

かずみ「そんなの隠したままみんなのそばになんていられないよ! こんなことならわたしのことなんて知りたくなんてなかった!」


 キリカはびっくりして扱いに困ったようにおろおろしながらも、突き放したりはしなかった。

 キリカがああ言ってくれたのはうれしかった。でもわたしもそんなに立派じゃないよ。


キリカ「えーと、と、とりあえず落ち着いてよ……なんか言っちゃったなら謝るから!」


 盛大におなかの音が鳴る。やっぱお昼、簡単に済ませすぎた……。


かずみ「うわぁん、おなかすいたよー!」

キリカ「……」


 キリカは困ったと同時に呆れたって顔してた。



キリカ「もう、しょうがないなあ。これ秘蔵のお菓子なんだぞ」

かずみ「ありがと、おいしい……」


 キリカは鞄の中を何か漁ったと思うと、箱入りのお菓子を渡してくれた。

 まだ涙は止まらないけど、やっぱりおいしいものって元気が出る。チョコレートとビスケットの甘さが優しい。


 ……キリカはじっとこっちを見ている。

 聞きたいことはあるけどまた泣き出さないか心配って感じなのかも。



1なにがあったか聞かないの?
2自由安価

 下2レス

-----ここまで。次回は27日(土)18時くらいからを予定しております

---避難所のほう投下しておりますのでよければ


かずみ「……なにがあったか聞かないの?」

キリカ「聞いてほしくないかと思った。話したいなら話していいよ」


 そう言われるとちょっと困って、押し黙ってしまう。

 やっぱり自分のことはあんまり話す気がしないけど。


かずみ「キリカの心はきっと偽物なんかじゃないよ。だって、好きなように作れるんだったら悩んだりしないはずだもん」

かずみ「その願いがキリカが言ったみたいな言葉通りに叶ってるなら、ホントーに何にも悩まない性格……になってるんじゃないかな?」

かずみ「でもそんなのっておかしいよ。悩んでることに気づいてないだけだもん。それじゃ心が壊れちゃうよ」


 わたしだって悩む。こうやって何もできなくなっちゃうことはあるから。



キリカ「だったら、今ここにいるかずみも『本当』なんじゃないかな? ……事情はよくわかんないけど」


 その言葉を聞くと、うるっときて涙が目からあふれた。

 キリカがまた慌てはじめる。


かずみ「……ぐすっ」

キリカ「!?」


 『ミチル』じゃなくても、元が魔女でも、わたしは本物。


かずみ「おかし……」

キリカ「はいはい、おかわりならあるよ……」



――――



 マミの家のチャイムが鳴る。

 下で呼び出された時にも気になってはいたが、マミが気になったのは呼び出した人よりその後ろだった。


かずみ「くかー……すぴー」

キリカ「はい、お届け」

マミ「呉さん、それはどうしたの?」

キリカ「さあ? 早く受け取ってよ。小さいとはいえ一人背負うの重いんだから」


 前別れた時はあまり良い空気ではなかったが、これではマミも開けないわけにはいかなかった。

 マミがかずみを抱えて受け取ると、その時にかずみが目を覚ます。


かずみ「ふあ……? おうち?」

キリカ「おはよ、じゃあもう行くね」

マミ「待って! もう少しくらい話をしても……」


 しかし去り際、キリカの目には廊下の奥にいる織莉子の姿も目に入った。

 互いにその存在を確認して、ちょうど視線が交わる。



1そういえば織莉子も来てるの?
2自由安価

 下2レス


かずみ「訓練終わったんだ……? そういえば織莉子も来てるんだっけ」

マミ「ええ。でも、いきなり書置きしてあったから驚いたのよ」

かずみ「ごめん……」

マミ「なにもないならいいけど、何かあるなら言ってほしいわ。これからまだ寝る?」

かずみ「いや、織莉子が来てるってことはこれはお茶会の予感! キリカもきてよ! さっきのお礼はここでするから!」


 キリカの手を取ってダッシュする。


キリカ「ま、待ってよ!まだ行くって言ったわけじゃ……」


 予感は的中で、テーブルには大きなシフォンケーキがあった。

 それを二人で切り分けて食べている。


かずみ「生クリームたっぷりのシフォンケーキだよ!」

マミ「かずみさんの分ももちろんあるわよ。」


 キリカがごくりと唾を飲んだのがわかった。

 けどキリカは、まだ乗り気じゃなさそうな反応をする。


キリカ「いや、悪いけどもう帰るよ。私の分は考えてないでしょ?」

かずみ「えぇ、でも……」


織莉子「私のことでしたら、キリカさんも遠慮なさらず。みんなで分け合えばいいじゃない」

織莉子「用事があるのでしたら無理にとは言いませんけど……」

かずみ「ほら、織莉子もこう言ってるんだし!」


 先客の織莉子の提案に、キリカはしばらく考えこんだのちに返事を返す。


キリカ「…………わかった。マミがいいならいいよ」


 キリカがテーブルの前に座ると、マミはケーキをさらに切り分ける。

 でもやっぱりキリカはどこか、遠慮とも違う、なにか気になることがあるような顔をしていた。


かずみ「これすっごくおいしいよ!」

キリカ「おいしいね」

マミ「よかった。かずみさんもまた今度、一緒に訓練しましょうね」

かずみ「うん、それはもちろん。今度は参加するよ……」



1今日はどうだったの?
2自由安価

 下2レス


かずみ「今日はどうだったの?」

マミ「魔力のコントロールを特訓したわ。美国さん、使いすぎてしまうところがあると言っていたから」

キリカ「魔力のコントロール? そんなの練習して何になるのさ」

マミ「特訓をおろそかにしてはダメよ。契約する前は馴染みのない感覚だから、使わないと慣れないでしょう?」

織莉子「意識してみると難しいのよ。なんとなくで使っていたけど、まだ無駄は多いみたい」


 魔力を使いすぎることがなくなったら、一人でも使い魔も積極的に狩れるようになるかな?


かずみ「で、どうだった? マミ師匠から見て、織莉子の筋は」

マミ「そうね…………悪くはないんじゃないかしら」

織莉子「……」

キリカ「えっ、今の間なに? 本当はダメダメなんじゃないの?」

マミ「そんなことはないわよ」


 今朝やお昼はあんまり食べる気がしなかったけど、やっぱりおなかはすいて、

 キリカのくれたお菓子やマミの作るケーキはおいしくて。

 今だったらまた前みたいに食事も楽しめるって思った。……いつかわたしの恐ろしい本性が表に出て暴走してしまうかもしれなくても。


 ……でも。



 ――――ケーキを食べ終わるとまた眠気が襲ってきて、わたしは途中でベッドに行ってしまった。

 昨日眠りが浅かったからかな。まだ疲れてる気がして眠り足りなかった。


 二人もお茶会が終わったら帰って行ったみたい。

 でもここに来てからのキリカには、その雰囲気に違和感を感じたんだ。


かずみ(なんか…………怒ってるみたいだった?)


マミ「……美国さん、制御は悪くないのだけどね」

マミ「それよりもっと根底の部分でどこか不安定なところがある気がするの」

かずみ「不安定なところ……?」


 わたしも織莉子には“何か”がある気がしてる。わたしたちが見てるのはまだ表面で、本当の織莉子を見ていない。

 今日悩んでたキリカも、わたしも、きっとみんな何か隠したいようなイヤな部分は抱えているけど……。


 マミには心当たりはあるみたいだった。


マミ(……やっぱりみんなが知らない真実を知ってたから? その意識の違いは大きい)

マミ(でも本当に“あの話”って、それだけでいいのかしら……?)


――――
――――

----ここまで。次回は28日(日)昼くらいにちょっとだけ。

織莉子は基本的に「名前+さん」(別編で敵意や嫌悪なく出会った時にはかなり年下のゆまにもさん付け)なので、
キリカを呼び捨てで呼んでるほうが違和感持つと思います。(その理由まではさすがにわからないので仲がいいのかなくらいでしょうが)



マミ「……私はそれを知った時、もう魔女になるために生きていたくなんてないとも思った。でも私は今を諦めたくないからこうしている」

マミ「きっとそれが『誰か』でも変わらない。その人だってそう思ってるんじゃないかしら」


 でもそれは『気持ち』を考えた話。

 実際に対処するなら話は変わってしまうだろう。綺麗事だけじゃ解決はできないから。


織莉子「同じことを直前にまで思っていられる?」

マミ「それは……わからないわ」

織莉子「そのきっかけはそれぞれ。魔力を失った時、自分の末路を識って最期に絶望するの」

織莉子「さあ、訓練に行きましょうか?」

マミ「ええ、そうね……」


――――



マミ(美国さん、どうして貴女はそれを識って平気でいられるの……?)


――――
――――


キリカ(泣き疲れてお菓子たべたら寝ちゃって、またお菓子食べて寝ちゃって……子供かっ)

キリカ(かんべんしてほしいよ。私も誰かの世話なんて得意じゃない)

キリカ(……でもまあ私も少し元気もらった気がするし)


 とりあえずあれから寝顔は元気そうだから安心した。

 横を歩く姿に目を向ける。マミの家を出てから今まで会話はなかった。


織莉子「今日は何があったの?」

キリカ「……別に。偶然会っただけ」

キリカ「あんたはかずみのことは知ってるの? 自分はいつか誰か殺すかもしれない魔女だって」

織莉子「魔女……?」

キリカ「どういう意味かわからないから聞いてるんだよ。知らないならいい」

キリカ「あ、それともまた『貴女は知らなくていい』ってこと?」

織莉子「……それはまた考えるわ。それより、今度話すと言っていたわね?」

キリカ「…………」



 念入りに気配に注意を払って豪奢な家に足を踏み入れ、いつも使っている部屋に入る。

 二人とも険しく真剣な顔つきだった。


キリカ「――……あすなろのことは失敗したよ」

織莉子「負けたの? 誰に? 私の事は話してないでしょうね?」


 キリカごときが知っていることを洗いざらい話したとしても大した情報にはならない。

 見滝原であすみに倒された時も、そのために核心に迫る内容は何一つ教えていなかったのだ。


 でもそのつながりから主人のほうまで疑念を持たれることはある。

 織莉子は自身が探られて目的にまで辿りつかれたのだとしても、そのきっかけはキリカにあると考えていた。


キリカ「話してない。逃げたし」

織莉子「それならその後は何をしているの? 貴女にはあすなろに行くように頼んだはずよ」

キリカ「うるさい! こっちは殺されかけたんだぞ!」


キリカ「あすなろの魔法少女狩り。勝手な理由で魔法少女のソウルジェムを奪って集める二重人格の魔法少女だった」

キリカ「プレイアデス聖団が来なかったらその場で死んでたよ。でもそいつらにもソウルジェム奪われそうになった!」

織莉子「だからその“プレイアデス星団”とは何なの? 先に説明して頂戴」

キリカ「そっちが言ったんだろ!あすなろのプレイアデス聖団を襲って縄張りを奪えって!」


 織莉子は言葉を失って茫然とした。

 織莉子の考えは外れていた。キリカはきっかけなどではなく、すでに利用されていただけだったのだ。


織莉子「貴女……それは……」

キリカ「え……まさか」

織莉子「私はそんな事を言ってない。貴女は誰と話していたの?」


キリカ「……し、しらないよ。あの時は確かに織莉子だと思った」

織莉子「あすなろでの活動はあくまでグリーフシードの確保と陽動。私はここを離れるつもりはないわ」

織莉子「なのに貴女は偽物なんかに騙されて、敵の思うままに動こうとしてたのね」

織莉子「結局貴女はなにひとつ私の言ったことを果たせていない」


 織莉子はため息まじりにキリカを責めるように言う。

 そんな織莉子を見ると、キリカは言葉には出さなかったが怒りにこめかみを震わせた。


織莉子「大体、魔法少女狩りなんてもの今更何を恐れることがあるの? 本当なら私と戦った時に貴女は死んでいたはずでしょう?」

織莉子「貴女にはこれから更に私の目的のために動いてもらう必要がある。人殺しくらいで怯んでいたら困るのよ」

キリカ「人殺しくらいだって? あの話聞いて何も思わなかったの?」

織莉子「貴女も人を襲うわりに、随分恐れているのね。私が見込んだのは貴女の“そんなところ”じゃない」



 ――――その時、ついにキリカの雰囲気が変わった。

 険悪な空気に更に亀裂が走る。


キリカ「あんたに私の何がわかる?」

キリカ「あんた、私に人殺しでもさせたいの?」

織莉子「……見込みが違ったのなら、私のために、私が望むように変わりなさい」

織莉子「そうでなければ私の駒は務まらない。……貴女の考えや価値観なんてどうでもいい」

キリカ「否定しないんだ…………まあさっきから薄々感付いてはいたんだよね」

キリカ「自分の都合で人の命すらなんとも思わない人ばっかり……」

キリカ「このドクズ! みんなクズだ。もう誰かに利用されるのなんてまっぴらだよ! 私は都合のいい人形でも、駒でもない!」


 織莉子を強く睨みつけ、ソウルジェムに意識を向ける。――どうにかしてやろうか。そう考えもしたのだが人殺しとまともに戦うのも嫌だ。

 織莉子もすぐに戦闘態勢が取れるように『未来』に意識を向けていた。


キリカ「……二度と私に顔を見せるな」


 しかし、キリカはそのまま織莉子の家を出て行った。

----ここまで。次回は29日(月)20時くらいからの予定です



織莉子「…………」


 一人になった織莉子はしばらく茫然と開け放たれた扉を見ながら立ち尽くしていた。


織莉子「……どうして離れていくの?」


 苛立ちを覚えていた。予想すらしなかった謎の人物に宣戦布告された時から余裕をなくしている。

 そしてその苛立ちをきっかけに、また予想しなかった事態悪化への苛立ちへと。


 ……本当はあれほど責めたてるつもりではなかった。失敗を責める前に考えるべき策はいくらでもあった。

 しかしそのことに冷静さをなくした今の織莉子は気付けない。


 相手以上の力を見せつけ、絶対的な関係のもと獲得した駒。

 もしその関係を覆そうというのなら――――その時は命を奪うか、もう一度痛みを刻んでわからせるか。だがあの様子じゃ簡単に降伏はしないだろう。


織莉子「……前までならば迷わずそうしていたわね」

織莉子「今は味方が惜しい。尚更巴マミに協力してもらわないわけにはいかなくなった」



 そして、『謎の人物』にとって他の魔法少女が敵となるか、味方となるか――。



―8日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[0/100]
・お菓子[5/100]
・穴掘り[100/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

織莉子
[???]

---ちょっと先の話の書き溜めを書いていたらこんな時間に…
次回は1日(木)夜からの予定です

――――――
――――――


ミチル「――――今のすごい魔法! 分身いっぱいですぐに倒しちゃった!」

ミチル「ねえ、それなんていうの?」

杏子「は? なにが?」

ミチル「必殺技の名前!」


 名前なんてない、そう言おうとして杏子は考える。

 ……頭の中に、たしかに思い浮かぶものはあったのだ。


杏子「…………『ロッソファンタズマ』、かな?」

ミチル「『赤い幽霊』、だね! かっこいいよ!」


杏子(でも、マミさん以外にそんなこと言う人がいるなんてな)


ユウリ「お疲れさま、ちょっと身構えないで。すぐによくなるよ」

ミチル「ユウリは戦い以外でも怪我や病気に苦しむ人をこうやって治したりしてるの!」


 “ユウリ”と呼ばれた少女は大きい注射を構える。そこに魔力を込めると眩い光が溢れだした。


ユウリ「……怪我してたから。無理しすぎない方がいいよ」


杏子「ねえ、二人はなんであたしに協力してくれたんだ? ここはもうあんたたちの縄張りなのに」

ミチル「杏子がパンをくわえて結界に入るのを見たから」

杏子「?? ……それは見苦しいところを?」

ミチル「ううん、魔女を見つけてあせってても食べ物は粗末にしないんでしょ?」

ミチル「食べ物が好きなひとに悪い人はいないよ!」

杏子「なんだそりゃ……まあ協力してくれたのは嬉しいんだけどさ」

ミチル「あ、そうだ! あなたの名前を教えて。わたしはミチル。和紗ミチル」

杏子「佐倉杏子だ」



――――――

風見野 翌日



QB「あすなろから来ていたユウリだけど、もういなくなったよ。“倒された”みたいなんだ」

杏子「……そうか」

杏子「まー人に喧嘩売り歩いてたんだから、やり返されても仕方ないわな」

杏子「それよりアンタが結局生きてたってことのほうが理解できないんだけど?」

QB「説明はしたはずだよ。あすみに殺されたけれど、僕には記憶を共有した仲間がたくさんいる。君たちにとっては差支えないだろう」

杏子「そう言われてもだな……」


 納得できなさそうな顔でキュゥべえを見ている。

 この前から、杏子の機嫌は悪かった。


QB「マミには会わないのかい?」

杏子「はっ? なんであいつのとこなんかに。それよりあたしは神名あすみのほうが気になるね」

杏子「そいつ、なんかいろいろと知ってそうじゃん? ユウリ倒したのもそいつが噛んでるんでしょ?」

QB「あすみもまた見滝原に戻ってきているよ。マミとはまだ口をきいていないようだけど……」

杏子「そのほうが都合がいい。なんか面白いコト考えてるならあたしも乗ってみちゃおうかなー」


 縄張りを奪う気でもあるようにニヤリと笑んでみせる。――けど、そんなことは本当は微塵も考えてはいなかった。


杏子「……何考えてんのかくらいはちょっと聞きに行ってもいいかもな」

-----少ないですがここまで。次回は4日(日)夕方からの予定です

----ちょっと体調が優れないのでまたあした…次回は5日(月)20時くらいからの予定です

――――
――――


かずみ「ん~~っ……」


 朝、目を覚まして伸びをする。

 あれからは悪夢を見ることもなく寝られた。横を見るとマミがまだ寝ている。


かずみ(いつもよりも少し早い時間! 朝ごはん作りにいこう!)



――――


マミ「おはよう。今日も朝から豪華ね」

かずみ「うん。食べないと力でないからね」


 昨日は結局おなかすいちゃったし。


 ごはんを食べながら考える。もうわたしを狙う魔法少女はいないんだよね?

 あすなろにもわたしの帰る場所はなかった。いつかは行くべきなのかもしれないけど……。



1千歳家に行ってみる
2風見野に行ってみる
3自由安価

 下2レス



 まだ今はこの街を見て回りたいな。


かずみ「ごちそうさま! あーおいしかった!」

マミ「ごちそうさま。じゃあ、行ってくるわね」


 マミを送って、わたしも見滝原の街をぶらぶらと歩いてみる。

 ……今日も天気がいいな。鳥が鳴いてる。


 とくに目的なく歩いていて、ある家の前で足を止めた。


かずみ「あ……」


 『千歳』の表札。

 あすみがいた家だ。前まではホテルを転々としてたみたいだったけど、今どうしてるのかは知らない。


 ――マミがあすみの言葉に怒って撃とうとしたあの時。

 あれから会っていなかった。



かずみ「……よし!」


 はりきって買い物に行く。

 目当ては食材だ。家があるならコンロだってあるはず!



 やっぱ、仲直りするにもおいしいものが一番だもんね。



作るもの
・自由安価

 下2レス

カルボナーラ、小海老のサラダ
デザートにマチェドニア



 パスタと小エビと、フルーツもたくさん買っていこう。

 荷物を抱えてまた千歳の家に戻ってきた。


かずみ「ごめーんくださーい」


 チャイムを押す。すると、少しして扉が開いた。


あすみ「……何しにきたの? それ」

かずみ「料理だよ! 前作るって言ったよね? 仲直りにと思って!」


 あすみは表情を変えない。

 それから何も言わず行ってしまう素振りが見えて不安になった。


 あすみは後ろを向いて廊下の奥へと進もうとする。


あすみ「……入れば?」



 一応通されたから、きょろきょろ見渡しながら入っていく。

 中にはあすみ一人みたいだった。


かずみ「あすみちゃんって、苗字は千歳だっけ?」

あすみ「違う」

かずみ「あ、そっか。前に来た時も『千歳さんはお留守』だって言ってたもんね」


 荷物を置いて食材を出していく。

 養子かなにか? それともまさか……


あすみ「ここの家の奴から奪ったのさ」


 あすみはわたしの考えを言い当てたように言う。


かずみ「……奪った?」

あすみ「うん。あんまり深入りしないほうがいーよー」


 ……それってこれ以上聞かないほうがいいってこと?



1あすみちゃんは普段料理とかするの?
2自由安価

 下2レス



かずみ(まあ、深入りするなって釘刺されちゃったしなぁ)

かずみ(今は料理を作ることに集中しなきゃ!今度こそあすみちゃんに美味しいって言わせてみせる!)


 キッチンに入っていく。

 綺麗で立派なキッチンだ。でもあんまり使われてないような。


かずみ「ちょっと冷蔵庫見るよー」


 開けてみると、変わったものはないけどそこそこ食材は入っていた。

 卵もあるしパスタはカルボナーラでいいかな。準備を始める。


かずみ「ねえ、あすみちゃんは普段料理とかするの?」

あすみ「簡単なものならね。外食なんて無駄に金かかるだけだよ」

かずみ「へえ。あすみちゃんって意外と……庶民的だね!」

あすみ「はあ?」

かずみ「あ、いや、家庭的っていみ!」

-----ここまで。次回は7日(水)20時くらいからの予定です



 ――ほぼ同時に出来た料理から運んでいくと、テーブルに二人分の食事が並ぶ。

 あすみはその間も掃除したり、家事をしていたようだった。わたしのことは気にしてないみたいに。


あすみ「ん、できたの? なんだかシャレたの作ってるわね」

かずみ「カルボナーラと小エビのサラダ、それからデザートにマチェドニア。色合いもいいでしょ?」

あすみ「まー私には馴染みのない料理だけど。タオルから作ったサラダよりはいいんじゃない」

かずみ「あはは、あれは失敗だったから……」


 絶妙に半熟に火の通ったカルボナーラにフォークを絡める。

 うん、今日の料理もおいしい。そう自分で納得して、それからあすみの反応もうかがってみた。


あすみ「で、あんたの魔法って物を作り変えるとかでいいの?」

かずみ「たぶん。わたしがわかってる分にはそうかな……?」


 あすみが最初にしてきた話は魔法のことだった。

 ちょっと警戒されてる? こっちの正体を探ってるような――。

 そんなまなざしを感じた。



1堅苦しいのはなしにしようよ
2自由安価

 下2レス



かずみ「とりあえず、魔法少女の話はあとにしようよ」

かずみ「今日の料理はあすみちゃんの為に作ったんだから食べて食べて!」

あすみ「食べるよもちろん。どんなものでも食べ物は無駄にはしないさ」


 そう言ってあすみもパスタを口に運ぶ。

 うまく掬えないままフォークを持ち上げて苦戦してるのが珍しい光景に見えた。こういうの、あんまり食べることないのかな?


かずみ「じゃああすみちゃんもホントは悪い人じゃないね」

かずみ「本当は美味しいって言ってほしかったけど! ねえ、どう?」

あすみ「食費浮いたのは助かったかもね」

かずみ「きびしい!」ガーン


 ……素直じゃない、んだよね?


 ごちそうさまして食事を終える。

 あすみも綺麗に食べていた。



あすみ「……あんたの考え当ててみよっか? マミと拗れたままなのがイヤだ、仲直りしてほしいってことでしょ。違う?」


 あすみはまたしてもエスパーみたいにわたしの考えを言い当てる。

 料理のことも前言ってたからっていうのはあるけど、本当の目的はそれだった。


かずみ「そ、そうだよっ! せっかく同じ縄張りにいてあのままなんて良くないよ」

あすみ「最低限ルールは守るよ。でも媚を売る気はないから。むしろ、今から顔つき合わせたほうが関係悪化するんじゃない?」

かずみ「媚とかじゃなくて、ちゃんと話せば……って」

かずみ「マミだってすごくいい人なんだよ! 魔女のこと知った時は落ち込んでたけど、今は乗り越えて頑張ってるし!」

あすみ「私も巴マミみたいな『いい人』って人種に見える?」


 あすみは薄く笑う。

 たしかにマミみたいなタイプじゃない。でもいい人とか悪い人とかって、そんなに表面的なものなのかな?

 杏子だって本当は家族のために契約してた。みんなを救おうと戦ってたのに。


かずみ「……キリカにも言ったけど、悪人は自分で悪人ですなんて言わないよ。言うのは謙遜か負い目がある人だけ」



 あすみは呆れたようにため息を漏らした。


あすみ「アンタはもっと警戒心持ったほうがいいんじゃない。襲われてんのに」

あすみ「そんなんじゃあっという間に貞操失くしちゃうぞ」

かずみ「……て、ていそう?」

あすみ「でもね、私はあんたの素性のほうが気になる」


 そう言われるとわたしは反応する。

 わたしの素性――――わたしは全部知ってしまった。でもそれは簡単に話せることじゃない。


あすみ「少しは思い出したの? 自分のこと」

かずみ「う、ううん、なにも」

あすみ「利用されてくれるってんなら、精々私に利用されなよ。この時間ならたまに家にいるよ」

かずみ「!」


 それってまた来てもいいってこと?

 ……わたしだけでも関わることができれば少しはマミとの関係もよくできるかもしれない。



1またリベンジしにくるよ
2自由安価

 下2レス


あすみにキリカのことも聞く

さっきキリカの名前出したけど誰って言わなかったね
あすみちゃんはキリカのと知り合いなの?

>>281については>>121であすみがキリカを倒してマミのもとに連れてきたことが話されています。
知った上であえてあすみにも聞く?それとも別の切り口にする?↓



 けどホテルで初めて目を覚ました時のことも思い出す。

 さすがにわたしだってそこまで危機感まったくないってわけじゃない!


かずみ「り、利用されるってどういう意味……?」

かずみ「道具とか駒みたいな扱いはあんまりだと思うけど、何か困ってるときの手助けとかなら! 私が出来る範囲でだけど……」

あすみ「わざわざ飯作りに来たのは利用されてると思わないの?」

かずみ「あ……なんだ、そういうことならいいの! わたしが来たかったから来たんだから!」


 恐る恐る聞いてみたけど、ホッとした。


あすみ「ま、必要な時は捨て駒にもするかもね」

かずみ「ちょっ!それはひどいよ!?」


 けど直後にあすみは恐ろしいことを言う。

 ……まあでも、本気なら堂々と捨て駒にしてやるなんて言わないだろうし。



かずみ「……料理ならあすみちゃんが『美味しい』って言ってくれるまでリベンジするから!」

あすみ「美味しいって言ったら来なくなるなら言わないでおくけど」

かずみ「う、美味しいって言ってくれても作りに行くよ! 次はここの食材で何か作るから、リクエストがあれば考えておいて」


 あすみも料理しないわけじゃないみたいだから、冷蔵庫には何か料理を作れるくらいの食材はあるだろう。

 また買って行って留守だったらもったいない。

 むしろ、今日見てみたらその食材のバランスの良さに驚いたほどだった。


 ――そろそろマミの学校の終わる時間だ。

 席を立ちあがって、帰り際に話を振ってみる。



かずみ「あすみちゃんは他の魔法少女とはどうなの? キリカとは戦ったんだよね。マミから聞いた」

かずみ「……キリカはなんで襲ってきたの? 今も仲は悪いの?」

あすみ「あー、あの猫? なんか不満あったんだって」

あすみ「あの程度の奴まともに敵視するほどじゃないよ。ただの新人」


かずみ(ね、猫?)


 あすみは軽くあしらうように言った。

 ……少なくとも、あすみはキリカを嫌ってるわけじゃなさそうかな。


 杏子は他の魔法少女を襲ってるって言ってた。キリカも『同じようなもの』って。

 杏子はグリーフシードのためらしかった。でも、キリカはやっぱり違ったんだ。


かずみ(不満…………この前の契約の話かな)


かずみ「じゃ、じゃあ織莉子とは?」

あすみ「あ、美国のことももう知ってんだ? 大した関わりないよ。今のところはね」



 しかし、あすみはそう言った後どこか考えるように間を空けた。


あすみ「あんな賊猫より気を付けた方がいい奴なんて他にいるんじゃない? 大体、アンタなんであの痴女に拉致られて襲われたかわかってんの?」

かずみ「ユウリのこと? それは……そういえば。わかんないや」

あすみ「だから素性が気になるって言ってるの。あんた自体にはなんとも思ってないけど、あんたがなんか厄介運んできやしないかって」

あすみ「忠告。もしかしたら何かまた襲ってくる――――かもよ?」



 そういえば、わたしの本当の正体っていうのがショックで考えたことがなかった。

 私を浚ったユウリが記憶を奪ったんだってずっと思ってた。そうじゃなかったなら、一体ユウリの目的はなんだったんだろう?


 …………そんな気になる助言を聞いて、『千歳家』を後にした。

-----ここまで。次回は9日(金)20時くらいからの予定です

うーんこの20時から開始のあてにならなさ…(もうちょっとだけおまちください)



あすみ「――――だからぁ、なんっでここにくんの。みんなしてあすみといえば千歳の家って情報漏れすぎじゃない?」


 それから少し後の同じくした場所。

 あすみの前には杏子の姿が立っていた。


杏子「キュゥべえの野郎から聞いたんでな。結果もビンゴだったってわけだ」

あすみ「あんまりホイホイ近づかれると困るんだよね。これからゆっくりしようと思ったところなのにプライベートもありゃしない」

杏子「で、なんで他人の家にいんの? ここに引っ越すために見滝原来たってわけじゃないんだろ」

杏子「誰かから奪ったか?」

あすみ「……」


 あすみは意味ありげに沈黙する。

 『読ませない表情』。それはいつものうすにやけたと評される顔だった。


あすみ「そーだよ? ここの家の奴ブッ殺して奪ったの」

あすみ「巴マミに告げ口とかはしないでほしいなっ。貴女もアイツに媚売るようなタイプじゃないでしょう?」



 悪びれずに言ってのけるあすみに杏子はやや引いていた。

 さすがに同じように扱われるのは抵抗があった。杏子は積極的に、それも無関係な人間を殺したりしたことはない。

 冗談か腹を探ってるのかとも思ったが、背景がどうあれ言葉通りに受け取ったほうが納得できる部分は多かった。


杏子「そーか、来て早々にダイタンなことすんだな?」

杏子「まー告げ口はしないでやるよ。あたしも一々風紀委員みたいにねちねち報告したりする義理はないしさ」

あすみ「そのほうがいいよ。私は今の生活を気に入ってるんだ。乱されないためならなんだってする」


 あすみは瞬時に威圧感を感じさせるオーラを纏う。今度は脅しつけるかのような強い意思を含んだ言葉を放った。

 ……これは牽制だ。杏子はそれ以上踏み込むことはせず、本来しようと思っていた話に筋を戻す。


杏子「あたしは今日は挨拶に来たんだよ。どうやらアンタ、ベテランのあたしやマミより色んなこと知ってるみたいじゃん?」

杏子「片付いたらしいが、見滝原で何があったのかってのもちょっとだけ聞いておきたいと思ってな」

あすみ「そう。突然の訪問は困るけど、挨拶とは殊勝な心がけね」



 あすみは杏子のことを中に招き入れようとはしない。終始、話は玄関先で行われた。

 ――杏子が帰ろうとしたその時、小さい子供の声と姿をその奥に見たような気がした。



 かずみと杏子、続けやってきた二人の訪問者が去った後、あすみは玄関の扉の内側で思案していた。

 そして、あることを決める。


あすみ(…………思ったよりこの場所が魔法少女に明らかになってしまった)

あすみ(インキュベーターにもバレてる以上もう少しも関わらせないことは難しいのかもね)

あすみ(キリカが来た後はゴタゴタ続きで機会がなかったけど、そろそろ話してやってもいいかな、一度くらいは)


あすみ(――――――乗ってやるよ。美国、アンタの提案に)



――――
――――


 杏子はキュゥべえからあすみの居場所を聞いた後、一通り街の中を見回してからそこに来ていた。

 ……千歳家からの帰り道、その中に違和感のある姿を発見していたことを思い出す。


杏子(“あいつ”、誰と話してたんだ?)


 人通りの少ない広い通り、そこは一見見つかりづらい場所だが高台から見下ろせば十分に目立った。

 そこに二人の人影が立っていた。


 それは白い魔法少女と黒い魔法少女の姿。

-----短いですがキリいいのでここまで。次回は11日(日)夕方からの予定です。

――――
土手



かずみ「――――えいっ!」


 振りかざした杖で宙を貫く。

 マミの家に帰ってからみんなでここに来て訓練をはじめると、準備運動がてら基本の素振りをやってみていた。


織莉子「小さな体とは思えない力強さね」

かずみ「へへん、要は身体の使い方だよ! マミに教わったんだ! これでも瞬発力には自信があるからね!」


 わたしにとっては織莉子と一緒の初めての訓練だ。

 織莉子は身体を動かした素振りなどはしていない。その代わり、心を落ち着かせるようにゆっくりとストレッチをしていた。

 課題はやっぱり魔力のコントロールなのかな? マミはわたしたちを微笑んで見守っている。



マミ「美国さんもさっそく昨日の続きする? 訓練によさそうなことを考えてみたのよ」

マミ「私が銃を扱いはじめた時していた訓練なんだけど、私の銃って一度に一発しか撃てないでしょ? 攻撃を厚くするには銃の技術以外にも魔力でのコントロールが……――」

織莉子「まあ、ためになりますわ。本当にマミさんは努力家なのね」


 ……マミと織莉子はいくらか打ち解けた雰囲気だ。

 織莉子はキリカやあすみ、杏子みたいに目に見えて悪い事もしてないし、わたしたちのやり方を肯定してついてきてくれるから話しやすい。

 この前から一緒に行動するメンバーは決まってきていた。


かずみ(……そういえば、さっきはせっかく来て空気を悪くしたくなかったから聞けなかったけど、『奪った』ってどういうことだろう)

かずみ(やっぱり、言葉通りのこと?)

かずみ(あすみのことも誰かに相談したほうがいいんだろうけど、でもマミに話したりしたら余計に悪化するだろうし)


 杏子やキリカみたいな事情がある人はいる。わたしは悪いことしてるからって簡単に切り捨てたくはなかった。

 悪いことしてるなら説得してやめてもらうのが一番だ。でも取り返しつかないことしてたら?


 訓練に一区切りつけて、気付いたら織莉子のことを見上げていた。

 織莉子がそんなわたしに気づく。


織莉子「かずみさんもコントロールやる? 動いてばかりじゃ疲れたでしょう」

かずみ「あっ、うん。それはいいんだけど……ちょっとだけ後で話せないかな? お茶会のときでいいから」

織莉子「……?」


 少し不思議そうな顔をしたけど、またいつもみたいに穏やかに頷いた。


織莉子「ええ、構いませんわ」



 ――――それから今日の訓練を終えるとマミの家でお茶会を開く。

 いつも紅茶の用意はマミがやってくれている。

 テーブルの前に二人で腰掛け、マミがお茶を淹れに行っている間に織莉子に訓練中に思い浮かんだ話をした。



かずみ「……あのね、織莉子。相談なんだけど」

織莉子「相談? 私になんて珍しいけど、もしかしてマミさんには話せないこと?」

かずみ「うん、まあ……マミと仲の悪い人のことで、ちょっと他の人の意見を聞いてみたくて」


 そう言うと織莉子もその相談を自分にする理由はわかってくれたみたいだった。

 少し真剣な表情でわたしを見ている。


かずみ「織莉子はわたしたち以外の魔法少女ってどのくらい知ってる? キリカとは会ってたよね」

織莉子「……ええ。キリカさんとは魔女を狩っている最中に偶然知り合ってね」

織莉子「他の魔法少女のことは少しだけ聞いたことはあるけど話したことはないわ」


かずみ「わたしとマミは他にも知ってる人が居るんだ。でもその子は誰にも頼らずに一人で生きてて、生きるために悪いことしてるの」

かずみ「その子にはこの街に帰る家もなくて、でも今日聞いたら『奪った』、って言ってた。どういう意味だと思う?」

織莉子「それは……言葉通りに考えるなら住んでいる人を力で除いたのでしょうね。その人たちが無事ならまだマシ。褒められた行動ではないでしょう」

かずみ「やっぱりそっかぁ……」

織莉子「かずみさんはその子のことをどう思ってるの? そんな子を庇いたいの?」

かずみ「悪いことは許せないよ。でも同じ街に居るんだよ? だったらわたしたちだけじゃなくて、本当はみんなで仲間になりたいなって」

かずみ「でも……――ねえ、織莉子は悪いことしてる魔法少女に対してどうしたらいいと思う?」

かずみ「マミはこの縄張りを背負ってるんでしょ? このままだとまた争いが起きそうでそれはイヤなんだ」


 わたしが訴えると、織莉子は考える表情をする。


織莉子「マミさんはこの街を良くしたいって思っている。長い事一人でやってきたなら、それを見知らぬ他人に乱されるのは許せないでしょうね」

織莉子「どんな理由があったって受け入れられるかは別だわ」

かずみ「じゃあ仲直りできないのかな?」

織莉子「それはどうでしょうね」

織莉子「一致団結しなければいけない時が来れば、自然とそうせざるを得なくなるかもしれない」

かずみ「それって、どういう……」


マミ「紅茶、できたわよー」

かずみ「!」


 一致団結しなきゃいけない時?

 織莉子の言葉を疑問に思ったけど、それを聞く前にティーセットを持ったマミがやってくる。


織莉子「いい香り」

かずみ「うん、そうだね」

マミ「この前とは違う茶葉にしてみたの。わかるかしら?」

織莉子「ええ。いつものより甘い香りね。ミルクティにしても合いそう」

マミ「いいわね、今度やってみようかしら」


かずみ(甘い香り? わたしにはあんまりわかんないけど――)


 砂糖入れてないのに。

 そんなことを思いながら紅茶に砂糖を足していく。マミと織莉子は紅茶談義に花を咲かせていた。


 今日のおやつであるクッキーをお皿からつまむ。

 手作りもいいけどお気に入りのお店を見つけるのも楽しい。帰りにみんなで選んだものだった。



1紅茶詳しいんだね?
2自由安価

 下2レス

スレ主寝落ち?


かずみ「紅茶詳しいんだね?」


 対してわたしは、美味しいものは好きだけど、そこまで紅茶に詳しいわけでもこだわりがあるわけでもなかった。

 踏み込んだ話をされるとそこは完敗だって思っちゃう。


織莉子「私は触れる機会も多かったから知識があるってだけね。マミさんのほうが生き生きと語っているわよ?」


 そう言われてマミを見ると、たしかにマミは楽しそうに笑っていた。

 ……じゃあ織莉子は違うの? マミとあんなに話してたのに?


マミ「そうかしら。でも私は美国さんと話せてよかったわ」

織莉子「……そう言ってくれるのなら嬉しいわね」



かずみ「ねぇ、織莉子はあすなろに行ったことある?」

織莉子「あすなろ? そこまで離れているわけじゃありませんし、たまに行くことはありますが」

かずみ「今度マミと美味しいもの食べに一緒に行こうって話してるんだ! よかったら織莉子もどうかなって思って」

織莉子「お誘いは嬉しいけれど……なぜあすなろまで? かずみさんの縄張りのことで何か?」


 そういえば『あすなろの学校に通ってた』って話はしてたっけ。嘘ついちゃったけど……。

 関係ない人まで私の事情に巻き込むわけじゃない。その前に、ただマミや織莉子とも楽しい思い出を作りたかったってだけだった。

 でも、あすみに言われたことをはっと思い出す。――もしまだ私を狙う魔法少女がいたら?


織莉子「……何かあったの? あすなろの街で」


 わたしの考えてることが顔に出てたのか、いつしか織莉子のほうが真剣な顔してた。


かずみ「ううん、でもやっぱり何があるかわからないかも」

かずみ「織莉子もなにかあすなろのことで聞いたことがあったら教えてほしいな。行くのはもっと先でもかまわないから――――」


 わたしのせいで二人を危ない目に遭わせるわけにはいかないからそう答える。

 けどそれは、二人の胸に別の不安も生んでいた。


――――


織莉子(無理にあの街に攻め込ませるのはどうやら本格的に失敗策だったようね)

織莉子(あすなろからは――――どのみち撤退せざるを得なかった)


――――
――――



織莉子「なぜこんなところに居るの。私の命令はどうなったの?」

織莉子「頼んだでしょう? 貴女が狙うのはプレイアデス聖団よ」



 放課後、学校から帰ろうとするキリカを織莉子が呼び止めていた。

 織莉子はいつかと同じように冷たく命令を下すが、とっくに見破られた嘘を目の前にキリカは白けた目を送っていた。



キリカ「…………あんた誰?」

織莉子「アレ、馬鹿そーな駒だと思ってたけどさすがに気づいてたか」

織莉子「おっ死ぬ前に『ユウリ』の魔法をちょっと拝借。代わりにあいつから駒を奪ってまたプレイアデスへ嫌がらせしてやろうかと思ったのに」


 バレたとわかると目の前の織莉子は大げさにポーズをつけて言う。

 コミカルにくるっと回って舌を出す、本人ならば絶対にしないだろう言動。


 それもキリカは更に白けた思いで見ているだけだった。



キリカ「誰だか知らないけど、その姿でその台詞は違和感しかないよ?」

織莉子「お前なんかに本当の姿見せてやるかよ! あ、こいつお嬢様学校とかに通ってるんだっけ? おまけに渦中の汚職議員の残された娘とか」

織莉子「この姿で恥っずかしいコトでもしたらすっごい話題になるかもね。今度裸で街でも出歩いてみようかな。しょうもない万引きでもやらかすのもグッド」


 偽物はケラケラと笑う。しかし、一瞬だけシリアスに表情を暗くすると冷たくぼそっと呟いた。


織莉子「――…………いや、私に本当の姿なんてないんだな」


 キリカにはその意味はわからない。

 でも、一つだけわかっていることがあった。


キリカ「……どうぞご勝手に。織莉子が困ろうが私の知ったことじゃないし」

キリカ「見た目のギャップはひどいし何言ってるのかわかんないけど、でもやっぱアンタすごく似てるよ」

キリカ「私はもうあいつの駒でもなくなったから」



 そう言ってキリカは意に介さず去っていく。……偽物はその背をつまらなさそうに睨んでいた。




―8日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:2個
・ヘヴィメタ[0/100]
・お菓子[5/100]
・穴掘り[100/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [★格闘Lv2→4]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5] [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

織莉子
[魔力コントロールLv3] [体術Lv3]

-------ここまで。>>305 …はい、はじめたばっかりだってのに途中で寝落ちてました。
次回は13日(火)20時くらいからの予定です

――――――



 放課後の時間になるとわたしとマミはいつも通りに活動を始める。

 その内容は大体が訓練かパトロールかだ。今日は織莉子が遅れて来るらしく、先にパトロールをしていたけれど……。


かずみ「思ったより魔女って見つからないんだね……」

マミ「そうね。最近は魔法少女も増えたし仕方ないのかも。でも使い魔は倒したのだからパトロールは順調かしらね」


 本当は、わたしたちもあまり余裕がないからグリーフシードがほしいとは思っていた。

 けどこういうのは運だし、なにより使い魔をほっとくわけにはいかない。


 決めていたルートを一通り回ってから訓練場所へと向かっていく。


 ――そこには思いもしなかった姿があった。



あすみ「おひさしぶり、マミ先輩♪」


 織莉子の隣にはあすみが立っていた。

 驚きを隠せないわたしたちに対して、あすみはいたずらっぽく笑っている。


 織莉子は『大丈夫』と言うように穏やかにこっちを見ている。

 ……相談してからたった一日、まさかこの場に連れてきてくれるとは思ってなかった。


マミ「……神名さん、もしかして美国さんに何か言ったの?」

織莉子「いえ、ちょうどあすみさんが私に挨拶がしたいと言ってくれただけです。誘ってみたのは私」

マミ「でもその子は私達とは……」

織莉子「思想や行動が反するのはわかりますが、あくまで敵意は抱いていないようですわよ?」

織莉子「でしたら近くに住む者同士、いざという時もあるかもしれませんし、交流を深めておくことは悪いことではないのではないかしら」

マミ「でも……」

あすみ「お邪魔虫なら帰ろうか?」


 そう言われても、マミはやっぱり納得しがたいところはあるようだ。

 そんな態度を見かねてか、あすみはさっきの作ったふざけた顔をやめて冷めた声で言った。



1あすみによろしくね、とちょっと強引にも挨拶
2口を挟まないで見守る
3自由安価

 下2レス



かずみ「よろしくね、あすみちゃん!」


 前に出て強引に手を取って挨拶する。


かずみ「……マミの気持ちもわかるけど、せっかく来てくれたんだから一緒に訓練しようよ」

かずみ「あすみちゃんも魔法少女としては筋を通すみたいだから、こっちからも歩み寄ってみなきゃ。マミは見滝原の管理者、なんでしょ?」

マミ「そうだけど……本当に私たちとやる気があるの?」

あすみ「何よ、せっかく来てやったのに信じられないってわけ?」

マミ「また妙なことをすればいつでも行動を禁止することは出来るのよ。大体、私はあなたを信用してない」

あすみ「その妙なこと、あんたの勘違いだったけどね?」


 あすみもあすみで煽るようなことを言うから心配になる。


織莉子「まあまあ、あまり閉鎖的にしても仕方ないじゃありませんか」

マミ「美国さんとかずみさんがそう言うなら……」



 マミも渋々ながらも受け入れてくれて、みんなで訓練に移っていく。

 相変わらずマミはあすみのことをたまに疑うような目で見ているのがわかる。


 三人だけの時と違って、一人増えたこの場にはどこか警戒するような雰囲気が漂っていた。

 ――組手の最後、鎖に絡め取られてしりもちをつく。


かずみ「いててっ」

マミ「かずみさん、大丈夫?」

あすみ「転んだだけでしょ? まだまだだよ」

かずみ「マミは心配しすぎだよ。あすみちゃん結構マジメに付き合ってくれてるし、なによりわたしとしては接近戦の仲間がいるのはすごくうれしいから」

かずみ「訓練でちゃんと格闘の相手をしてくれたことなんて……――」


 そう言いかけて思い出した。この空気、前にも少し覚えがあったんだ。

 ……キリカが訓練に来てくれた時。あの時はたしか、キリカのほうが遠慮して来なくなっちゃったんだ。



かずみ「ねえ、あすみちゃん呼ぶならキリカもまた呼んでみない?」

かずみ「そうだ、織莉子はキリカとは仲良いの? 連絡先とか知ってたり……」

織莉子「いいえ……私も仲がいいとは」

かずみ「そっか……」


 織莉子にキリカのことを聞いてみると、何故か少し言いづらそうにした。

 もしかして喧嘩でもした?


かずみ「……よし、あすみちゃん、まだまだ負けないから!」

あすみ「はいはい!」


 話してるうちに完全に疲れが回復した。

 立ち上がって杖を構えてあすみと向き合う。



かずみ「ねえ、あすみちゃん呼ぶならキリカもまた呼んでみない?」

かずみ「そうだ、織莉子はキリカとは仲良いの? 連絡先とか知ってたり……」

織莉子「いいえ……私も仲がいいとは」

かずみ「そっか……」


 織莉子にキリカのことを聞いてみると、何故か少し言いづらそうにした。

 もしかして喧嘩でもした?


かずみ「……よし、あすみちゃん、まだまだ負けないから!」

あすみ「はいはい!」


 話してるうちに完全に疲れが回復した。

 立ち上がって杖を構えてあすみと向き合う。

----すまん、コピペミス!



 その戦いの様子をマミが眺めていた。


マミ(……魔女との戦いや普段の口ぶりからベテランかと思ったけど、意外とかずみさんと互角に見えるわね)

マミ(出会った頃からかずみさんがどんどん成長しているっていうのもあるけど)


かずみ「えいっ! どうだっ!」

あすみ「……ふーん、意外とやるじゃない」


マミ(手を抜いているの? それとも――)


織莉子「マミさん、少しこっちに付き合ってくれる?」

マミ「え、ええ!」


――――
――――



 何度か接近戦をやって、織莉子のほうを覗いてみて、訓練の時間を過ごしていく。

 マミは……やっぱり考えの合わない人とやるのはイヤだったのかな?

 でも避けてたら溝が広がっていっちゃう。あすみはせっかく応じてくれたんだし。



織莉子「今日はお茶会は?」

マミ「ごめんなさい、そこまではさすがに……」

あすみ「いいよー、早く帰りたいしメンドクサイ」


かずみ(……さすがにキリカや杏子みたいに甘いものでは釣れないか)



1また来るよね?
2自由安価

 下2レス

---------ここまで
次回は15日(木)20時くらいからの予定です



 でも甘いものがないことで一番ガッカリしてたのはわたしだった。

 どっちかっていうと釣るより釣られるほうだよね、わたし。わたしだってご飯の前に甘いもの食べたい。


かずみ「お茶会ないの?」

マミ「かずみさんは家に帰ったら一息つくついでにお菓子も用意するわ」

かずみ「ホント!? じゃあ帰り道に何か簡単に食べられるもの買おうよ!」

マミ「ええ」


 マミが笑いかける。やっとマミが楽しそうにしたことに安心する。

 それから、あすみのほうも見てみた。


かずみ「あ、えーと……あすみちゃんも何か食べたいものある?」

あすみ「お菓子ィ? そんな無駄遣いするなら食費に回すよ」

かずみ「生活困ってるの?」

あすみ「は? そんなわけないでしょ。興味がないんだよ」

あすみ「いざとなったら手に入れる手段も奪う手段もいくらでもあるでしょ? アンタなら知ってると思うけど」


かずみ「!」

織莉子「あすみさん……」


 意地の悪い言い方にマミは厳しい顔つきであすみを見る。

 少し困ったように織莉子がなだめようとした。


あすみ「あははっ、ごめんごめーん! マミ先輩、怖いカオでこっち見ないで?」

あすみ「冗談だよ冗談? そんなことしてないって。私ってばすっごくいい子なんだからぁ」

マミ「……その発言が本当とは思えないのだけどね」

あすみ「ま、とにかくこれからよろしくやってくんだからさ」


 あすみはにこっと笑って手を差し出す。

 マミが手を取らないのを見るとわたしのほうに手を伸ばしてきた。


かずみ「仕方ないのかもしれないけど……悪いことしてたらそれは許せないと思うよ」

かずみ「そういうのはやっぱりやめてほしいな……」


 わたしはあすみと握手しながらそう言った。わたしの言葉がどれだけ届いてくれるのかはわからない。

 あすみは変わらず笑みを浮かべている。――その笑顔は嘲りの意味でしかないのか。


あすみ「……あんただって余裕なかったくせに、良いカモ見つけられてよかったね?」

かずみ「カモだなんてそんな!」

あすみ「だってそれ、アンタの金じゃないでしょ?」

かずみ「! だけど、でもそんなつもりじゃ……」

かずみ「ごめんねマミ、迷惑じゃない?」


 負担をかけてるなんて思ってなくてハッとした。

 わたしはいつのまにか頼ることが当たり前になってたんだ――。


マミ「かずみさんのことは、私がそうしたいからそうしているの」

マミ「あなたとは違うわ」


 でも、わたしが謝るとマミはきっぱりと言い放った。

 あすみもそれ以上言うことはなかった。





織莉子「――――では、お気をつけて」

かずみ「あすみちゃんもまた来るんだよね?」

あすみ「うん、またね~」


 訓練を終わりにして土手を離れると、それぞれの家路へと帰っていった。

 わたしとマミだけがまだ土手に残っている。


 マミはまだどっか考えたような表情だ。


かずみ「帰ろう。美味しいもの食べたらきっと元気出るよ」

マミ「ええ、そうね……」



1今日の訓練はどうだった?
2自由安価

 下2レス


かずみ「今日の訓練はどうだった?」

マミ「……魔法少女の付き合いっていうのはあっても、やっぱり『同じ』仲間は私達以外いないのかなって」

マミ「そうまでして付き合う必要があるのかも私にはわからなくなっちゃった」

マミ「キュゥべえのことがわかる前だけど、一人はもう縄張りから追い出してるんだものね」

かずみ「キリカのことはずっとそのままなの?」

マミ「…………」


 マミは答えなかった。マミの受け入れがたいって気持ちもわかる。やっぱり友達同士って雰囲気は変わっちゃうから。

 あせっても答えは出ないのかも。代わりに話を少しだけ変えていく。


かずみ「ねえ、今日のわたしの戦いぶりは? マミこっちのほうも見てたよね」

マミ「ええ、そうね。かずみさんはとても上達していると思う」

かずみ「マミの教え方が上手だからだよ。ほかは気になったことはある?」

マミ「あとは、神名あすみのほうね」

マミ「こういう言い方をするとアレだけど……――――思ったより、強くないのかなって」


かずみ「強くない?」

マミ「別に、だからって油断はしないわ。あの子は私の知らないことを知っていた」

かずみ「……手加減してくれてたのかな?」

マミ「本気を出さなかった可能性はある。少し違和感を感じたのよ」


 マミの感じた違和感。その正体についてはわからない。

 でも、わたしはこれまでにあすみの力の一片を垣間見たから、格闘だけで強さは測れないのはわかる。


 少し訓練のことを話してから、わたしたちもやっと荷物を持って人の居る道へと出た。


マミ「さっきのことだけど、本当に気にしなくていいのよ? かずみさんはいっぱい私を助けてくれてるから」

かずみ「そうかな、ありがとう」

マミ「ええ。それに美味しい食材をさらに美味しくしてくれるんだもの! お菓子くらいねだったってバチは当たらないわ。私も食べたいしね」

かずみ「じゃあ、買い物は駅前の屋台の方に行ってみない? わたし気になってたんだ!」

マミ「いいわね。行きましょうか」


 行く場所が決まる。見滝原で一番賑やかな場所。見滝原の駅前だ。

 人の行き交うその場所では、ちょうど空も暗くなり始めてみんなおなかがすく頃合いのようで、

 いたるところから食欲をそそる匂いが漂ってきていた。


かずみ「クレープ!」

かずみ「チュロス!」

かずみ「唐揚げ! たこ焼き!」


 甘いものからお惣菜まであらゆるものが空腹を刺激する。

 どれもおいしそうに見えてよだれが出そうになる。


マミ「どれにする? 紅茶に合うお菓子なら甘いものだけど、欲しいなら他のも買ってもいいのよ」

かずみ「わぁ、悩むなあー、悩むなあー!」

マミ「どれもおいしそうね」


 駅前や繁華街の大きな通りを見て回っていると、人混みの中植え込みの隅にぽつんと座り込む姿が目につく。

 大きなアイスのカップを膝に抱えていた。


かずみ「それ、スペシャルだね!」

キリカ「わっ……!」


 知ってる人だって気づいて覗きこんだ。

 すると、その人はこっちをカップを守るようにしてこっちを見る。



キリカ「あげないぞ!」

かずみ「えっ、と、とらないよ?」

キリカ「昨日はあの犬女にも取られそうになったんだから」

かずみ「いぬ?」


 そう言われて思い浮かべてみる。

 ……思い浮かぶのはキリカと杏子が来た時のお茶会のことと、この前あすみから聞いたキリカの話だった。


かずみ(あすみちゃんには猫って言われてたけどね……)


マミ「ここで何をしてるの?」

キリカ「は? なんでもいいでしょ」

かずみ「食べてるんだよね? わたしたちも食べに来たの!」

キリカ「そうだよ。見たらわかるじゃん」


1今日の訓練について話す
2杏子もこっちに来てるの?
3自由安価

 下2レス

-------ここまで
次回は18日(日)夕方からの予定です


かずみ「杏子もこっちに来てるの?」

キリカ「さあ、私も詳しいことは知らないけど」


 杏子の話が出るとわたしの隣に立つマミも興味を示すように反応する。

 難しい表情で考え込んでいた。


マミ「佐倉さん……なにをしにきたのかしら。まさか縄張りを荒らす気じゃあ」

かずみ「こ、こっちの人と仲良くしたかっただけかもしれないよ?」

キリカ「仲良くしたい人にタカろうとするの?」

マミ「どうかしらね。半分は当たっているかもしれないわよ。『誰か』と結託してこっちに攻め入る仲間を増やそうとした、とか」

キリカ「そんなつもりないよ。私があいつと手を組むわけないじゃん」

マミ「あなたが受け入れるかは置いといての話よ」


 キリカはかちんときたらしく、マミの言葉に言い返した。


 この前別れてから、マミと杏子の仲は険悪なようだった。

 それにまだキリカのことも信用してないみたいで、そんなマミにキリカも冷たい態度で返している。



かずみ(……どうにかみんなトゲトゲしないでくれたらいいんだけど)


 でも、今のキリカはわたしから見てもここでただ食べてるだけには見えなかった。

 だって、こんなにたくさんの甘いものを目の前にしてるのにあんまり幸せそうな顔してないんだもん。


キリカ「んーっ、冷たい。頭痛くなってきたよ」

マミ「そんなに冷たいもの一気に食べるからでしょ……」

キリカ「……もうそろそろ帰ろ」

かずみ「あ、待って!」


 パーティサイズのアイスを食べきって立ち上がったキリカを呼び止める。


かずみ「わたしたちはこれから買うとこなんだ。この間はくれたんだから今日はわたしのも半分あげるよ!」

キリカ「お礼なら返してもらったよ。……くれるんならもらうけど」

マミ「そうよ、この前は結局何があったの?」

かずみ「……!」


 まだマミに言ってない秘密。キリカにも全部は話してない。

 ずっと知られるのが怖かった。



キリカ「詳しいことは私も知らないよ。ただ寝ちゃったから運んだだけ」


 ……わたしがキリカのほうを見ると、キリカは何か気まずい事情を察したのかごまかすように言った。


マミ「ほ、本当にそれだけ?」

キリカ「それだけ。それとくれるならもらうけど、同席するのは遠慮しとくよ」


 少し伏せるような視線の先。キリカが見ているのはやっぱりマミの方だ。

 訓練も同じ理由で来なくなっていた。……そこでわたしは今日のことを思い出す。


かずみ「……そうだ、今日はみんなで訓練したんだよ。織莉子があすみちゃんをつれてきて、これからも来るって言ってた」

かずみ「もうマミだけじゃないし、もしよかったらキリカも今度は――――」


 誘ってみると、キリカは思いがけないところで拒否感を示す。


キリカ「……織莉子? 織莉子と一緒にやってるの?」

かずみ「え?」


キリカ「悪い事言わないからあいつを仲間とは思わないほうがいいよ」

キリカ「腹の底じゃどうせ君たちのことどう利用してやろうかとしか考えてないんだから」

マミ「どうしてそんなことを言うの? 美国さんは私の大切な仲間よ。あなたみたいな人に悪く言われる筋合いない!」


 そういえば、織莉子にキリカの事を聞いた時も反応がよくなかったことを思い出す。

 でも、キリカが人のことをここまで悪く言うのははじめてだったから驚いた。

 杏子のことは愚痴っぽく言ってたけど、根拠もなく疑ったりはしなかったのに。


かずみ「喧嘩したんだっけ……?」

キリカ「喧嘩……? そんなもんじゃないよ。私は利用されてたんだから!」

マミ「そんなのあなたが逆恨みしてるだけじゃないの? いい加減にしてほしいわ。美国さんのなにを知ってるというのよ」

キリカ「あぁそう? じゃあ勝手にすればいいじゃん! でも私は君たちよりはあいつのこと知ってるよ!」


 キリカが怒鳴る。

 街中で発生した言い合いに、周りの人々はわたしたちを避けて通っていく。



キリカ「ていうか、織莉子があすみを連れてきたっていうけど、もしかして何か手を組んで企んでるんじゃない?」

キリカ「利益でも提示されなきゃ動かないタイプだよ、あすみも」



 キリカはそう残すと、空のカップを力強く放り捨てて去っていく。

 これまでにないほど苛立った様子だった。


 ……やっぱりただここで食べていただけじゃない。何も考えずに頭が痛くなるほど冷たいアイスをかっこみたくなる衝動。

 わたしの頭の中に『ヤケ食い』の文字が浮かんだ。


マミ「……そんなはずないわよね?」


 マミが問いかける。言葉では強く否定していても、もしかしたらという疑念は生まれる。

 わたしだってキリカの言うことが全部だとは思いたくない。詳しい話を聞くまではなにがあったのかなんてわからない。


 せっかく仲良くなれそうなのに疑ったりなんてしたくない――――……。


――――
――――



 帰り道。


 あすみの脳裏には昔聞いたなんてことない会話が浮かんでいた。

 ……そこに手を握るかずみの姿が被った。


*『――――じゃあ、帰り道に買ってこうよ!』

*『あれさ、新しい味出たんだって!』

*『あたしおまけ集めてるんだよねー。――ちゃん、もうレア持ってるんだよ』


あすみ『…………』


 周りでこういう話が出るとあすみはいつも我慢していた。

 断ってばかりじゃ付き合い悪いみたいだから、話を振られないようにそっと席を立つ。


あすみ(お母さんがんばってるのに、おやつを買うお小遣いがほしいなんて我儘言えないからね)


 他の人より我慢することがあったって構わない。物がなくても、慎ましく暮らしていれば幸せになれる。

 ……そんな考えが敗者の縋る幻想だったと思い知らされたのはそれから遠い事ではなかった。


 世の中所詮、正直者は馬鹿を見る。

 馬鹿を見ない正直者というのは勝ち組だけなのだ。でもそいつらは絶対に自分が恵まれていることには気づかない。



 そんな人間を――――あすみは心底憎んでいた。




織莉子「――――あなたも巴マミの前では対立を生みかねない言動は避けたほうがいいわよ」

織莉子「私があなたに『魔女』の情報を提供する。巴マミたちには使い魔しか渡さない」

織莉子「あなたはただ戦ってその報酬を受け取ればいい。悪い話じゃないでしょう?」

あすみ「そうだね。マミはともかくかずみは私の肩持ってるし」

あすみ「……そうやってすぐ他人を信じて利用されるなんて、馬鹿なヤツ」


 その話を持ち掛けたのは、放課後、あすみが織莉子の元を訪ねた時だった。

 あすみはもともと織莉子に用事があった。織莉子にとっても仲間を増やしたかった今は渡りに船だったのだ。


あすみ「でも、そうは言ってもさ。私が簡単に素直になったらそれこそ怪しまれるよ?」

織莉子「……そうね」


 あすみは織莉子を見透かすようにその姿を見る。

 背の高い織莉子の顔を見るには見上げないと覗けない。



あすみ(巴マミに味方するフリしてグリーフシードを横取り、そうやって縄張りを乗っ取る魂胆か?)


 もともとあすみが好むのは善悪や感情論ではなく有益と有能。あすみが自分を指すなら『悪人』だと言うだろう。それは彼女自身の経験がそうさせていた。

 そんなあすみの評価としては、それは悪くない手段だと思っていた。

 少なくとも何の芸もなく打ち負かして手に入れた駒を派手に暴れさせるよりは理解も出来るし、合理的だ。


 しかし、織莉子はあすみが読むまでもなく自分の考えを漏らす。


織莉子「マミはまだ本当の意味で自分たちの運命を自覚していないのよ」

織莉子「だから真実を知っても今までと変わらない方法で『パトロール』なんて続けられるの」

織莉子「余裕がなくなればそうは言っていられない。考えも変わるはず」

あすみ「……なーるほーどねえ」


 織莉子が考えていることは、あすみの考えとは少し違った。

 そうまでしてマミをどうしたいのか。あすみは疑問を抱く。織莉子の考えでは、変える以前に壊しかねない嫌がらせだ。


織莉子「ねえ、人間の心って脆いものでしょう?」

織莉子「私には時間が無い」




 織莉子はこの先に視えた未来を心配していた。

 未来の中で自分が幾度となく敗北してきた相手。その存在は相変わらず障害だが、同時に今となっては頼みの綱でもあった。


 だがもう視えてしまった。


 ――――あの正体不明の女がやってきたが最後、『守護者』は負ける。

 元より自分のことなど相手にすらされていなかった。あの女にとっては、その気になれば今にでも実行出来ることなのだ。


 些細な抵抗、無駄な足掻きだと嘲笑されてもいい。

 最後に世界が望む結末になれば…………!


――――
――――


 キリカが行っちゃった後、マミと二人で買い物を済ませてからそのへんで買ったものを食べていた。

 わたしはマミの元気な顔が見たくてここにきたのに。

 マミとキリカの仲は悪いままだ。それどころか、今日のことでさらに溝が出来てしまった。


かずみ「……マミ、そろそろ帰ろうか?」

マミ「ええ、そうね。紅茶のお供も買えたし、続きは帰ってからにしましょう」

マミ「なんだか今日は疲れちゃった」


 今日は訓練の時からいつもと違ってマミはずっと硬い雰囲気だった。

 わたしはもう少し織莉子やキリカに話を聞きたいけど、もし本当に織莉子が私達を利用しようとしてるんだとしたら、マミはどう思うんだろう?

 ……それだけマミには『仲間』が少なかった。


かずみ(ううん、わたしたちと一緒にいた織莉子が全部演技なわけない。あんなに紅茶に詳しい織莉子だって、絶対悪い人じゃないもん!)

かずみ(織莉子は冷静な人だから、いろんなこと考えてるんだろうし)



 わたしたちは賑やかな場所を離れて、マンションの立ち並ぶ住宅街のほうへと戻っていった――。



―10日目終了―


かずみ 魔力[90/100]  状態:正常
GS:1個
・ヘヴィメタ[0/100]
・お菓子[0/100]
・穴掘り[100/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv4]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5] [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

織莉子
[魔力コントロールLv3] [体術Lv3]

------ここまで。次回は21日(水)20時くらいからの予定です。
【訂正】>>309は9日目でした

マミの家 朝


 マミの学校が休みに入って、今朝はいつもよりゆったりした時間を過ごしていた。

 休日でもパトロールに訓練、同じメンバーでやることは相変わらずだった。

 朝食のあと、マミは家の中のことを片づけながら、スマホを手に取るとこんなことを話す。


マミ「神名さん、今日は来ないって美国さんから連絡が。休日は付き合えないんですって」

かずみ「そっか。せっかくの休みだもんね……やりたいことでもあるのかも」

マミ「私たちも明日は訓練じゃなくてもいいわよ」

かずみ「マミはなにかやりたいことある?」

マミ「前言ってたあすなろに行くのはどうかしら?」


 その言葉が出ると、やっぱり思わず身構えてしまう。

 でも、前言ってたみたいに美味しいものを食べに行くっていう目的もあるんだ。


かずみ「うん、そうだね……考えてみる」

かずみ「今日はまた三人かぁ」

マミ「私はそのほうが気は楽だと思うけど……」



マミ「そういえば、前に少し美国さんには話したんだけど、実は私の通う学校にもう一人魔法少女がいるの」

マミ「その人のことももう少し知りたいって言ってたわ」

かずみ「へえ、じゃあその人も訓練に誘えないかな?」

マミ「あまり乗ってくれるとは思えないけど」

かずみ「お菓子は?」

マミ「お菓子で釣れはしないと思うわ……」


 苦笑いされる。

 でも、実際に釣れる人はいたんだもん。


かずみ(やっぱお菓子で釣れる人ばっかりじゃないか……)



(話したい事、出発前にやりたいこと、パトロールのついでに行きたい場所とか)
1マミはあすなろは久しぶりなんだっけ?
2魔力は足りてるか?
2自由安価

 下2レス



かずみ「織莉子はこの街の魔法少女のことをよく考えてるんだね」

マミ「ええ……私の見ていないものを見ているんだろうな、って思う時があるわ」

マミ「……今まで私は正しいと思うことをやってきたけれど、もしかしたら私はわがままなのかもしれないわね」

かずみ「そ、そんなことないよ! わたしはできればみんなにギスギスしないでほしいけど、マミの考えもわかるし……」

マミ「ありがとう」


 マミは今訓練ではわたしたちに合わせてくれているけど、考えまではそう簡単に変えられない。

 一緒に訓練していても、ずっとこのまま監視するような関係のままなのかな……?


かずみ「織莉子は魔力を上手に使えるようにしたくて訓練してるんだよね」

マミ「そう言ってたわ。いつも使いすぎてしまってあまり余裕がないんだって」

マミ「だから一人だと使い魔まで気を回せないのよね……」


 訓練のときのことはわたしも見ていた。

 格闘の動きをメインでやってるわたしの横で、二人は難しそうな顔をして集中していた。

 武器の水晶とか、そこに魔力を纏わせるような訓練だったかな? 織莉子の戦い方はわたしとは全く違う。


 マミは複雑な顔をしている。

 今はわたしたちもあんまり魔力に余裕があるとはいえない状況だった。それでもマミは使い魔を見逃す選択は考えたくないようだった。



かずみ「ところで、今日もパトロールだけどマミは魔力はある?」

マミ「魔女を倒す分くらいはあるわよ。仲間もいるし、十分だわ」


 マミはまだ大丈夫だとほほ笑む。

 グリーフシードは目的じゃない。魔女を倒せる分があれば。


 そう納得しつつもなぜだかわたしは……――ちょっぴり不安を感じていた。



かずみ「――――ごめん、ちょっと出かけてきていい?」



 まだ時間の早いうちに、簡単に荷物をまとめて外へ行こうとする。


マミ「どこへ? 一人で行くの?」

かずみ「散歩。大丈夫だよ、すぐ戻ってくるから」

マミ「そう、いいものがあったらお土産よろしくね」

かずみ「……なんでおやつ買いにいくことバレてるの?」

マミ「だってそうそう何もなしに散歩なんて行かないじゃない」

かずみ「えへへ」



・どこへいく?
1繁華街
2廃工場
3公園
4自由安価(知ってる場所)

 下2レス



 家を出ると、とくにあてもなく歩き出した。


 ……おやつもいいんだけど、今はちょっと違った。


 これからみんなでパトロールだ。でも、さっきの話を考えたらいてもたってもいられなくなって。

 マミやみんなのために何かしたかった。


かずみ「っていっても、なにができるわけじゃないしなぁ」


 とりあえず昨日帰りに寄った繁華街のほうへ歩いてみる。

 昨日と違ってまだ明るいけど、ここはやっぱり人で賑わっていた。



遭遇判定
下1レスコンマ判定
0~20

---ここまで。次回は23日(金)夕方くらいからの予定です


かずみ「……ん?」


 広い通りを見回してみると、ふと目に入った姿が気になった。

 鮮やかな長い赤い髪。――よく見てみるとやっぱり知っている人だった。


かずみ「杏子!」

杏子「おう、かずみじゃん。一人か? うるさいマミがいなくてよかったよかった」

かずみ「やっぱりこっち来てたんだ」

杏子「やっぱり?」

かずみ「あ、この前キリカと会ったって聞いて」

杏子「ちょっと気になったことがあったから様子見に来た。それだけだよ」

杏子「それに風見野よりここのほうが遊べるとこも多いからな」


 杏子は片手にドーナツを持って食べながら歩いていた。

 その袋の中から杏子がわたしにドーナツをひとつとって差し出す。


杏子「食うかい?」

かずみ「もらう! ありがとう!」


 ……チョコレートのかかったドーナツにかぶりつきながら、この前のことを思い出した。


かずみ「キリカにもこのくらいすれば仲良くなれるのに」

杏子「あいつにはイヤだね。この前の礼を返してもらってない」

杏子「先にイイもんでもくれれば許してやってもいいよ。あたしも鬼じゃないし?」


 こんなの聞いたらキリカはまた反発しそうだ。そんなことを思いながらチョコレートの味を味わう。

 杏子は譲る気はないらしい。


杏子「そっちはどうよ。進展はあったか?」

かずみ「えっと、まあ少し……」


 曖昧にごまかすような言い方をすると、杏子は珍しいものでも見るような顔をする。

 でもそれ以上は聞いてくることはなく、違う話題を話し始めた。


杏子「……そうか。しっかしさぁ、ここも随分あたしの知らないヤツが増えてるな」

杏子「キリカといいあすみといい、あとまだいるんだろ?」

かずみ「織莉子?」

杏子「名前は聞いてねーけど、あすなろの厄介者の件は片付いたからいいとして受け入れるほうもほうだよな」

杏子「あたしだったらテキトーにいびって追い出すね」

かずみ「そ、そっか、厳しいんだ……」


 改めてわたしがいるのが優しいマミの元でよかったと思った。

 でもマミを紹介してくれたのも杏子だ。



かずみ「でも、マミも警戒はしてるみたいで。わたしはもっとみんな平和に仲良くしてほしいと思ってるんだけど……」

かずみ「っていうと、杏子にも『甘い』って怒られちゃうのかな」

杏子「甘いな。あたしは今のやり方を変える気はないね」

杏子「あいつもあたしみたいなのが大嫌いだから。力ずくで追い出さないってだけで、誰でも喜んで受け入れるってわけじゃないだろうよ」


 杏子は愚痴を吐き捨てるように言う。

 でも、杏子もマミのことが気になるからこうやってたまに様子を見にきてるんじゃないのかな?


杏子「……ま、それだけ増えりゃ絶対なんかやらかすヤツは出てくるね」

杏子「マミはうざいけど、損しないこと考えるなら用心はしといたほうがいいかもしれないぜ」


 杏子はそう言うと、次の食べ物を求めてほかの店のほうへ歩いて行った。

 ドーナツはもう食べ終わったらしい。空の袋はその辺に捨てていっている。

 わたしは袋のごみを拾い上げてその背中を見る。


かずみ(……そういえばマミにもお土産買ってくって言ってたんだった)


 その前に、ソウルジェムを卵型に具現して観察する。

 光に変化がないことを確かめながら、周りのお店を見てから少し寄り道して帰ることにした。



QB「一人でパトロールか。珍しいね」

かずみ「パトロールじゃないよ、それはこれからするし……。おやつ買いに来ただけ」

QB「それならもっと家に近い道を通るんじゃないかい?」


 帰り道は久しぶりにキュゥべえがついてきた。あれからすっかりキュゥべえはマミの家に姿を見せなくなった。

 とりあえず使えなくなったグリーフシードを食べさせる。


 繁華街の通りから出て少し家路から逸れた方向に進んでいった場所で、まるで私を待ってたみたいに立っている人の影が目に入った。


かずみ「あなたは……?」

?「…………」


 私の前に現れた人影。二つに結んだ眩しい金の髪。

 その口元が笑みの形を描いた。


?「今度こそ質問だ、かずみ。アタシを覚えてるか?」


 忘れもしないその姿は…………。


かずみ「どうしてっ!? あの時魔女になったはず……!」



かずみ「――――ユウリ!」


ユウリ「You've “HIT” it!」


 その瞬間、わたしの身体に何かが絡みつく。

 予想しなかったことに固まっていた身体がさらに身動きが取れなくなる。


 なんで……? どうして……? 本当は魔女になってなかったの?

 ユウリはそんなわたしの疑問に答えるように独り言を呟いた。


ユウリ「……だが、間違いなんだな。私は『偽物』の『ニセモノ』」


 絡み付いたケーブルのようなものを力強く引っ張られて身体ごと持っていかれる。

 ユウリの手元には透明な瓶と、あの時の歪んだグリーフシードモドキが握られていた。


ユウリ「巴マミがずっとくっついててうっとうしかったんだ」

ユウリ「この私が負けるわけないだろうけど、ユウリのこともある。さすがにベテランは相手にしたくないからね」

ユウリ「かずみにはあんな奴は相応しくない。もっと私たちにぴったりな世界に連れて行ってあげるよ」



 この人はユウリじゃない? でもあれを持ってるってことは無関係なんかじゃない。

 あすみの忠告を思い出す。……そっか。ユウリの仲間はまだいたんだ。


 まだあの問題は片付いてなんていなかった。一人で出ていかずに予定通りマミや織莉子と一緒にいれば――――。


 どうしてわたしを浚おうとするんだろう。マミがふさわしくないってどういうこと?

 今この瞬間はっきりとわかったこと。

 それは、このままだとマミのもとには、今までの生活には二度と戻れなくなってしまうってことだった。


かずみ(そんな……――――そんなのイヤだよ!)


 その時、突如として割り込むように突き出された大きな刃によってわたしの身体を縛るものが切断された。

 地面に投げ出された私を割り込んできた手が掴む。



かずみ「杏子! なんでここに!?」

杏子「そんなことは今はいいだろ!逃げるぞ!」


 杏子はわたしを抱えて走り去ろうとする。

 しかし簡単に諦めてくれるわけもなく、ユウリはものすごい形相でこっちを振り返る。


ユウリ「は? 何だお前は! 逃がすわけないだろ!」

かずみ「危ない! その鞭みたいなの……!」


 ユウリがさっき切断されたはずの鞭を伸ばして杏子に襲い掛かる。

 杏子は咄嗟に反応してなんとかそれを弾いてみせた。


杏子「ッ……!」

ユウリ「こっちにゃまだまだ手駒はあるんだ。お前も魔女になるか?」


 でも完全に隙が出来なかったわけじゃない。

 金の瞳をギラつかせ、ユウリが杏子にグリーフシードモドキを放った。


ユウリ「往来の真ん中で殺戮ショーでも演じてればいい!」

かずみ「そんなのさせない! 『ネーロ・ファンタズマ』!」


 駅前からは外れたけどここは通りの中だ。材料になるものはいっぱいある。分身を作りだして塞ぐ。

 さっきとは逆に、わたしは杏子の手を引いて必死に駆けていった――――。



かずみ「はぁ、はぁ――――」


 まずはとにかく遠くに離れることを目指して、それから人混みのなかに紛れてその隅に膝をついた。

 どこに行こうとは考えてなかったけど、無意識のうちによく知っている道を選んでいた。

 幸い家からはそう遠い場所ではなかった。


杏子「かずみ、お前…………髪どうした?」

かずみ「え? ……あれっ? ホントだ」


 この前短く切ったはずの髪が腰まで伸びていることに気づく。

 さっきまで変化はなかったのに。


杏子「それにこの距離、どう考えてもこの時間じゃ来られないはずだ」


 わたしはただ必死に走ってた。

 でも、どんなに速く走ったってここまで来るのにこんなに早く辿りつける距離じゃない。


杏子「……まあいい。それよりユウリだ。なんであいつがここにいる?」

杏子「しかもなんであんなことを……まさか偽物か?」

かずみ「わかんない。わたしもユウリ最期は見届けたんだ。あいつは『偽物のニセモノ』だって」



杏子「ひとついいか。アンタの言う『ユウリ』ってさっきの奴のことか?」


 杏子はわたしの言葉に眉をひそめた。

 話が噛み合わない――いや、噛み合ったらオカシイ。


QB「あれはユウリの魔法だ。正確にはあいりという。あいりはユウリになることを望んで契約したんだ」

QB「ユウリを殺したプレイアデス聖団への復讐のためにね」


 一部始終を見ていたキュゥべえが代わりに答えた。

 いつの間についてきたんだろう。それとも別の『代わり』とやらか。

 プレイアデス聖団はユウリを殺した?


杏子「だから偽物の偽物……か」


 わたしは前に杏子が話していたユウリの話も覚えている。


かずみ「本当のユウリはそんなことする人じゃなかったんだね」

杏子「復讐だかなんだか知らないがふざけてるな。直接ぶっ潰しに行ってるわけでもないし意図が見えない」



かずみ「じゃあ、さっきの人はもしかしてユウリ以外にも色んな魔法が使えるの?」

QB「そう思っていい。あのグリーフシードモドキも恐らくは彼女が作ったものだろう」

かずみ「キュゥべえはあの人の正体も全部知ってるの? だったら――――……」


 キュゥべえに詰め寄ろうとする。

 わたしが特別すぎる例なだけで、みんな契約したのはキュゥべえなんだ。

 キュゥべえはわたしのこともあの人のことも、どんなことをやってきたかくらい知ってるはず。


 しかし、その時いきなり杏子が苦しみだした。


杏子「う……っ!」

かずみ「杏子、大丈夫!?」

杏子「怪我はしてない。さっきの奴の変な魔法のせいか……?」

かずみ「ソウルジェムを見せて!」

杏子「ソウルジェムが濁ってやがるだと?」


 杏子の赤いソウルジェムのほとんどが黒で覆われていた。

 これでもうストックはなくなる。一瞬ためらったものの、持っていたグリーフシードを杏子のソウルジェムに当てる。



杏子「いいのか?」

かずみ「うん。わたしたちはこれからまたパトロールに行くし、助けてもらったから……」

杏子「……返さないからな」


 ……とにかく急いでいた。ためらったことで後悔するほうが怖かった。

 さっきキュゥべえがいた場所をもう一度見てみると、忽然とその姿がなくなっていた。


かずみ「……キュゥべえ」

杏子「逃げたか。どうやらさっきのヤツのことはあいつにとっちゃ話したくない情報らしいな」



1家に誘ってみる
2魔女探しのコツを聞いてみる
3自由安価

 下2レス

------ここまで
ちなみに場所選択は廃工場なら織莉子、公園ならあすみが、その他や判定外れはマミが一緒に戦う予定でした。
次回は24日(土)夜からの予定です



かずみ「ユウリやさっきの人、どうしてわたしを狙うのかわからないけど、マミにも敵意を持ってるみたいだった」

かずみ「杏子も、巻き込んじゃってごめんね……」

杏子「あたしはたまたま魔力の反応見つけて追ってきただけだし」

杏子「あいつらが何したいのか知らないけど、近くで飛び回られて思い通りにされるのは気に食わねえ。よそでやれってんだ」

杏子「ま、謝るなら今回は特別にさっきのグリーフシードでチャラにしてやってもいいけど?」

かずみ「うん、ありがとう。ねえ、せっかくだったらマミの家にも寄っていかない?」

かずみ「もう近所だし、さっきのこと話せばマミだってきっと杏子のことわかってくれるよ! わたしを助けてくれたんだから!」


 家に帰ったらさっきのことを話さないといけない。マミと杏子の仲を直すにはこれしかないと思った。

 しかし、マミの名前を出した途端に杏子の反応が悪くなる。


杏子「あ? あいつと話すのはパス。大体なんであいつにわかってもらわなきゃいけねーんだ」

かずみ「だって、このまま勘違いされたままなんてよくないよ! 杏子もいいところはいっぱいあるのに」

かずみ「今はもう縄張りから追い出されたキリカだって……」


 思わず口を滑らした。

 杏子はそれを聞くと、しらけたような表情で『ふーん』と聞き返すような相槌を打った。



杏子「ふーん? あいつついに追い出されたのか。マミ様の機嫌損ねたら追い出されるなんて怖い正義だねえ」

かずみ「あ、あの時はマミも友達が殺されて不安定になってて……」

杏子「でもあたしらみたいなのならあいつが今更許すわけない。それならあの態度も納得だよ」

杏子「あいつ今縄張りないんじゃない? ベテランじゃなきゃそれだと食いっぱぐれるな」


 そう言われてはっとした。

 キリカのことも、このままが続いたらやっぱりまずい。……でも、キリカの態度はそれだけじゃなかったんだ。


かずみ「キリカのことは織莉子とも何かあったみたいで、利用されたとか、まだよくわかんないしどっちも疑いたくないけど……」

杏子「あたしはそいつのことは知らないね。とにかくさっきのことはあれでチャラだ」

杏子「それとも、あれ以上に何をくれんの?」

かずみ「ええ……っと……」


 グリーフシードはもうない。いまのわたしがあげられるもの。

 頭の中を必死に探すけど思い浮かぶものはなかった。



杏子「何もないだろ? そもそもあたしみたいのになんでも簡単に差し出すもんじゃない」

かずみ「今はグリーフシードがないから」

かずみ「ところで、杏子もベテランなんだよね? 魔女探しのコツって知らない?」

杏子「マミから教わんなかったか? 人の集まる場所や逆に寂れた場所、人の負の感情が集まりやすいトコを重点的に探すんだよ」

かずみ「そういえばそんな話を聞いた気がする」


 実際にマミは杏子が言ったような場所に絞ってパトロールをしていた。

 わたしは大まかな方向は提案しても細かいことはマミに任せてる。杏子の言った方法はもう実践してたんだ。


杏子「……つっても、見滝原はマミの馬鹿が使い魔のうちに狩り回ってるから見つかりづらいだろうな」

杏子「つまり、卵産む前の鶏シメてるってことだぜ? だからあんなのやめろって言ったのに」

かずみ「じゃあもともと見つけにくいのは仕方ないってこと?」

杏子「そうだな。その上今は他の奴までいるんだ。ただでさえ少ない報酬の競争は激しくなるぜ」

杏子「他のやつもさぞマミのやり方には迷惑してるだろうねえ」

かずみ「迷惑……」


 魔女も使い魔も関係なく人を襲う。わたしたちなら使い魔は難なく倒せるけど、戦えない人が襲われたら死んでしまう。

 使い魔を倒すことで助けられる人がいるならグリーフシードなんて関係ない。わたしはマミの考えに賛同して尊敬していた。

 魔法少女の真実を知った今だってそう思う。


 ……それなのに。それって魔法少女にとっては迷惑なの?責められなきゃいけないの?


かずみ「…………そんなのおかしいよ」


 その言葉は使い魔を狩ることを否定する杏子に向けて言ったわけじゃない。

 そんな不条理なシステム。そんなものを生み出したキュゥべえに怒ってるんだ。



杏子「そういやさっきの魔法、アンタ分身の魔法を使うのか?」

かずみ「うん、そうみたいだけど……」

杏子「どうせマミがつけたんだろ? 趣味の悪い事するよな。元弟子につけた魔法の名前つけるなんて」

杏子「上手くいかなかったあたしのことは忘れて新しく記憶を塗り替えでもするつもりか」


 あの必殺技の名前はマミがつけてくれた。

 でも違うよ。杏子が思ってるような意味でつけられたんじゃないはずなんだ。


 ――――意識の奥に映像と言葉の切れ端が映った。


  『今のすごい魔法! 分身いっぱいですぐに倒しちゃった!』


 これはいつのこと? 誰の記憶?


  『瓦礫から――なんて――――』

  『――――分身魔法だね! だったらいい名前があるよ。わたしを――――人が――――』



『ロッソ・ファンタズマ、でどうかな?』



杏子「……――い、おい! なんだよいきなりぼーっとして」

かずみ「あ……ごめん」


かずみ(……あの魔法も、わたしは元から知ってたんだ)



かずみ「えっと、さっきの魔法少女のこと、マミ以外にもみんなに注意するように伝えたほうがいいかな?」

杏子「そうだな。グリーフシードモドキってやつ、噂には聞いてたがたちが悪い。ソウルジェムに影響する魔法なんて初耳だよ」

かずみ「うん、じゃあ出来るだけみんなに伝えておこうと思う」


 家の近くの路地で杏子と別れる。


 ――――かずみがマミの家の方向に去っていった後も、杏子はまだその場を立ち去らなかった。

 杏子にはまだ気になることがあった。



杏子「……織莉子って、あの時のあいつか? はぐらかされたけど」

杏子「それより、あれが『人を魔女にする魔法』ならなんであたしのソウルジェムが濁ったんだ?」


 浄化したばかりのソウルジェム。今はどこにも異常はない。

 しかしあのとき感じた嫌な予感が心に残っていた。考えるよりも先に本能で感じた悪寒。


QB「それは君の知らないソウルジェムの仕組みに関係があるよ。それをこの街の魔法少女は知っている」

杏子「……やっぱりまだいたんだな、キュゥべえ。それならもったいぶるな。話しに出てきたんだろ」

QB「君たち魔法少女はソウルジェムが濁りきると魔女になるからさ」


 杏子の頬に冷や汗が伝った。

 頭に浮かぶのはそんな運命を思わせないさっきのかずみの顔だった。

 いや、困ってはいたはずだった。だから自分にああして相談までした。


杏子「かずみもマミも知ってたのか?」

杏子「もう残りもないんだろ? そこまでして、それ知っててなんで人にやるんだよ」


杏子「…………本当に、馬鹿じゃねぇのか」


――――
――――

マミの家



 家に帰るとマミが驚いた顔で私を出迎えた。

 それから襲われたことを話して、ユウリの件がまだ片付いていないことを伝える。


マミ「……そんなことがあったのね」

かずみ「うん。でも、杏子が助けてくれたから」

マミ「今日はパトロールはどうする?」

かずみ「織莉子が来たらまた話そうと思う。パトロールはしないと」

マミ「これからは出来るだけ私も一緒にいる。かずみさんもあまり一人でいないようにしないと」

かずみ「これからはそうする……。あすなろにはまだ近づかない方がいいのかな?」


 本当は明日にでも行くつもりだった。

 でも、敵はわたしの近くにいるマミのことも狙ってるんだ。


 ……特に今は魔力がなかった。さっきだってわたしは魔法を使っている。

 マミは魔女を倒せるくらいの魔力はあるって言ってたけど、こんな時にまた襲われたりしたら……。


マミ「……行くときは万全の態勢を整えてから向かいましょう」

かずみ「そうだね」



 少しして織莉子も家に来る。

 本当は待ち合わせる予定だったけど、最初に今日のことを話しあうために連絡して来てもらった。


マミ「ごめんなさいね、急にここまで呼び出したりして」

織莉子「いいのよ。大事な話があるんでしょう? とりあえず何があったかはもうマミさんから聞いているわ」

かずみ「うん。あすなろから来た魔法少女がまだいて、浚われそうになって……」

マミ「その魔法少女、『ユウリ』の姿で現れたと言っていたけど、他にも魔法を使えるのよね」


 マミが話した時、織莉子は厳しい表情をしていた。

 どこか青ざめているようにも見える。


マミ「……美国さん、大丈夫?」

織莉子「ええ。他には何か見た?」

かずみ「わたしを襲ったユウリが使ってた、人を魔女にするグリーフシードモドキもそいつの魔法だろうって」

織莉子「でも狙いは何? かずみさんを浚って何をしたいの?」

かずみ「わかんない……でも、わたしも自分のできることについてわかったことがあるかも。余裕があったら試したいことがあるんだ」


 長く伸びた髪を束にして指先ですくう。

 二人ともこれを見た時は不思議がっていた。わたしもいまだに不思議だけど、これはきっとわたしの力と正体の手掛かりになる。


かずみ「わたしの魔法は『ものを作り直す魔法』じゃないかもしれない」



 断片的に過った記憶。それは本当はわたしの記憶じゃない。

 ものを作り直す魔法もそれを応用した分身も本当は『誰か』のものだった。

 わたしの魔法はすべてが借り物で、まだ眠っている力があるということ――――そしたら、敵の底知れない力にも対抗できるかもしれない。


マミ「どういうこと?」

かずみ「みんなに黙っててごめん。わたしは本当は記憶喪失じゃないんだ」

マミ「え……!?」

織莉子「本当は記憶があるの?」

かずみ「ううん、ない。わたしは魔法で造られた存在だから」

かずみ「あるのはわたしの中に断片的に遺った“誰かの生きた証”だけ」


 二人は言葉を失った。なんて声をかけていいかわからないというように。


 じゃあ本当の正体は何か?

 ――――それはまだ言えなかった。本当の正体なんてわたしにもわからない。


 それでもわたしは『かずみ』だ。それだけは誰にも否定できない事実だって胸を張っていたかった。

------ここまで。次回は25日(日)夕方~夜からの予定です。


かずみ「この髪は、とにかく『速く』離れなきゃって必死に逃げてたらこうなったんだ」

かずみ「そしたら本当に考えられない距離を移動してた」

マミ「……じゃあ、本当に誰かに造られたんだとしたら、それもその『証』の一つだというの?」

かずみ「うん……まだわたしははっきり自覚してるってわけじゃないけど、たぶんそんな気がする」


 ネーロ・ファンタズマは本当はマミが杏子につけた名前。

 マミはわたしを見て黒とつけたけど、杏子ならきっと【赤い幽霊】かな。


 その名前をミチルも知って、誰かに与えてまたわたしに巡ってきた。

 ……杏子はああ言ってたけど、そう考えたら素敵じゃないかな。

 わたしが今までこの技を使うたびに断片的に垣間見た既視感に、わたしは自分の中でそう理由をつける。


織莉子「……あすなろ市から狙いに来る魔法少女のことはかずみさんを造った人と関係してるの?」

かずみ「多分そうなのかも……」

織莉子「それならいつか、貴女の造られた場所に戻る時が来るのかもしれない」

かずみ「でも、無理矢理つれていこうとする人についていきたくないよ! わたしはわたしだから!」



マミ「かずみさん、前にも言ったけど焦らなくていいのよ。あなたがどんな事情で造られたんであれ、今どうしたいか決めるのはあなた自身なんだから」

かずみ「うん……織莉子も気を付けてね。あのグリーフシードモドキ、ソウルジェムにも影響させるような力を持ってるから」

織莉子「ええ、そうね……わかったわ」

マミ「さあ、そろそろ出発しましょうか。それが終わったらまた訓練の時間も取りたいわね」



 一通り織莉子にもさっきのことを話すと、外に出て、最初に決めた場所にパトロールへと向かっていく。

 ……マミは昨日までと同じようにしている。わたしも今は、みんなで歩きながら織莉子のほうを気にして見ていた。



1キリカと何かあったの?
2自由安価

 下2レス



かずみ(……織莉子もいつもどおりに見えるよ。でも本当は悩んでたりするのかな?)


 キリカはやけ食いみたいにしてたけど、織莉子のほうは気になる素振りは見えなかった。


かずみ(キリカと織莉子との間に何があったのかは聞きたい)

かずみ(あの織莉子が誰かと喧嘩なんて想像つかないけど、すれ違いがあったなら仲良くしてほしいし……)


 織莉子はわたしたちともあすみとも、大抵の人とは上手く付き合えている。

 基本的にはわたしたちの側にいるけど、冷静で自己主張が強くないところがそうさせているのかもしれない。

 キリカともそうだった……ように見えた。


 そんなところもまたわたしには心配に思える。何も思ってないなんてこと本当はない。



織莉子「予定していたところには反応なしね。ここからはどちらに行く?」

マミ「ええと、そうね……」

かずみ「あ! 今日はわたしが決めてもいい? この街のことも大分わかってきたし、杏子にコツ聞いてきたから!」

マミ「コツ?」

かずみ「っていってもマミがいつもしてることだけどね。織莉子も知ってる?魔女は人ごみか寂れた場所にいるんだって」

織莉子「いいえ、初めて知ったわ。みんな物知りなのね」


 この場で問いただしたらどうなるのかな?

 どっちが悪いとかは思いたくない。でもマミはまたキリカのことを苦手に思うかもしれない。

 片方の言い分だけじゃ全部はわからないかもしれないけど、マミは織莉子を信じてるから。


かずみ「じゃあ次はこっち!」



・行先(自由安価)

 下2レス



 わたしが先頭に立って、指さした方向に進んでみる。

 たしかこっちには工場群があったはず。近づくとその建物が見えてきた。


マミ「ここには今は使われていない建物もあるわね。確かにこのあたりはよく注意したほうがいい場所かも」

かずみ「反応は?」

織莉子「魔力の反応は見当たりませんわね」

かずみ「む、そっか~、こっちが怪しいって思ったんだけどな~」

マミ「場所の選び方は正しいわよ。自信をもって」

織莉子「次の場所に行きましょうか。次もかずみさんが選ぶ?」

かずみ「途中であすみのところにも寄って、さっきのこと話したほうがいいかな? 危ないかもって」

マミ「かずみさんのことが狙いなら、すぐに危険はないんじゃないかしら? 確か今日は予定があると言っていたのよね」

織莉子「『休日まで付き合っていられない』……だったかしら。単に気分の問題かもしれないけれど」

マミ「ユウリの件には関わっていたし一応連絡はしておきましょうか」


 この先は工場ばっかだ。方向を変えてまた歩いていく。

 その途中であすみからもらっていた連絡先に電話をかけて、さっきのことを伝えておいた。



 ……そろそろお昼というにはギリギリの時間になる。

 今日は思ってたより帰るのも遅くなっちゃったから、お昼も食べる前に織莉子が来てそのまま話し合いとパトロールに行ってしまった。


マミ「今度はどこに向かっているの?」

織莉子「これはもしかして……」

かずみ「もうムリー! お腹ぺこぺこで歩けない!」


 レストランの前で行き倒れる。限界と同時にここに向かってたのは奇跡的で、本能みたいなものだった。


マミ「そういえば美国さんは何か食べてきてる?」

織莉子「私は出る前に家で済ませてきました。お二人がまだならもちろん付き合いますが?」

マミ「じゃあお言葉に甘えてランチにしましょうか」

マミ「ほら、店の中まで歩けば食べられるわよ! あとちょっとの我慢!」

かずみ「ごはんごはん……」


 ごはんの匂いにつられるようにふらふらと店の中に入っていく。

 お店の中は段々と人のはけていく時間だった。



 レストランといっても、ここはいつもあまり目に止めることのない場所だった。

 住宅街の中の店だ。さすがにさっき襲われた場所に近い駅の方は避けていた。


 ご飯が無事にテーブルに並んでくると一気に元気が戻ってくる。手を合わせてから料理を食べ始めた。


かずみ「あー、生き返るっ! やっぱり食べてる時がいちばん幸せ!」

マミ「私もそれはわかるわ。たまには外食もいいわね。普段食べないようなものを食べられて」


 この店は和食を中心に色んなものがあった。

 わたしやマミが作ると洋食やイタリアンばかりになっちゃうから、マミの言う通りこういうのもたまにはいいかも。

 美味しい料理を口に運びながら、杏子のことも考える。


かずみ「……杏子にもまたなにかごちそうしたいな。グリーフシードはもうないからあげられないけど、そういうのなら喜ぶと思うし」

かずみ「本当は優しいよね? 杏子。厳しいこと言うし悪いこともするけど、心のそこから悪人なら私を助けてくれなかったよ」

かずみ「損得勘定だけで動くなら、わたしの拘束を解かないで偽物さんに不意討ちかければよかったんだから」

マミ「そうね……それはわかってるわ。本当は根は悪い人じゃないのよ」


 寂しそうに言うマミ。組んでたことがあるマミが一番よく知っていた。

 それだけに今の杏子の行いを考えれば心が痛むんだろう。

 杏子は『昔の自分』とは違うって言ってたけど、本当は変わってないはずなんだ。根っこまでなんて変えられるわけがない。


かずみ「織莉子もどうだっ! さっきから見てたでしょ?」

かずみ「これすごくおいしいんだから! ここでまでお茶だけなんてもったないよ!」

織莉子「なら、少しもらっておくわ。あなたが随分と美味しそうに食べるものだからつい」


 一口分差し出すと、織莉子は穏やかにほほ笑む。……この笑顔も嘘なのかな。


織莉子「ついでにデザートとかも頼んでおこうかしらね……」

かずみ「デザートわたしも食べる!」

マミ「何があるの? 私も頼むからみんなで少しずつ交換しましょう」


 一旦パトロールのことは忘れてわいわいと食事の時間を楽しむ。

 戦いづめも疲れるけど、魔女を探して歩きっぱなしになるのも別の部分で辛くなるし、やっぱり心配は募った。


――――
――――

-----ここまで。次回は28日(水)20時くらいからの予定です



マミ「…………そろそろ日が暮れてきたわね。今日は終わりにしましょうか?」

織莉子「ええ。お疲れ様」


 あれから私たちは戦ったのは、一回使い魔を見つけた時だけだった。

 織莉子もわたしたちと一緒に使い魔と戦ってくれてる。

 はじめて一緒にパトロールした時は、余裕がないから一人だとためらってしまうって言ってたっけ。織莉子はグリーフシード大丈夫なのかな……?


マミ「今日も使い魔が一度いただけね……」

織莉子「まあ、こうして街の平和を守れているわけですし」

マミ「ええ、そうね」


 マミは少しだけ何かを気にしたような様子で、織莉子の言葉に返事を返す。


 そうはいっても、魔法少女にとってグリーフシードはなくなったら生きていけない。

 マミは絶対にそれを言葉に出さなかった。


 『つっても、見滝原はマミの馬鹿が使い魔のうちに狩り回ってるから見つかりづらいだろうな』

 『その上今は他の奴までいるんだ。ただでさえ少ない報酬の競争は激しくなるぜ』

 ――――杏子の言葉が浮かんだ。使い魔を倒すならしかたない。



かずみ(でも、本当にそれだけ……)



 本当はマミも、焦りを感じてきてるんじゃないのかな……?



マミ「ねえ、かずみさん。この後はどうする?」

かずみ「この後?」



・この後
1訓練がしたい
2お茶会がしたい
3早めに帰りたい
4自由安価

 下2レス



かずみ「まだパトロール続けない?」

マミ「もう大体回ったと思うわよ?」

かずみ「うーん、まあそうだけど……」

マミ「まあ街を隅々まで見たわけじゃないしね。明日はお休みの予定だから、もう少し頑張ってもいいかも」


 そう言うと、またみんなで行先を決めて歩き出す。

 さっきは回らなかった場所に気を回していく。


かずみ「もう魔女はいないのかな? それとも、誰かが先に倒しちゃったのかも……」

マミ「それなら仕方ないわよ。この縄張りは私達だけじゃないもの」

マミ「でも、周りの人がどうしていようと私たちの目的は……」


 グリーフシードがほしいために他の魔法少女を縄張りから追い出す。

 そういうことはやっぱりマミはしたくないようだった。

 あすみや杏子のことを良く思わないのも、キリカに対して縄張りを追い出したのもそれが理由ではなかった。


 原因がこの街の魔法少女の『誰か』にある可能性もマミは感付いている。

 それでもマミは、他の人みたいにグリーフシードを理由にしてはいけないと思っているのかもしれない。



織莉子「ええ、街の平和を守ること。ですわよね」

織莉子「でもたとえば誰かが過剰にグリーフシードを独占しようとしていたとして……もしそうならマミさんはどうするの?」


 他の魔法少女は使い魔は狩らない。

 その使い魔を代わりに倒すのは私達だ。でももしそれをやめたら…………


マミ「どうもしないわ。卑怯な手段でも使わない限りはね」

マミ「確実にすべての魔女を私たちより先に倒すことなんてできないのだし……結局は運よ」

織莉子「本当にそう言えるかしら?」


 底知れない魔法の使い手ならつい今日会ったばかりだ。

 まさかこれもあっちが絡んでる――?


マミ「いえ…………それもかずみさんを襲う人たちの仕業だというなら説明もつくわね」


 マミも同じことを考えたようだった。

 まだ決まったわけじゃない。考えたところでどうにもならないから、いったんは考えるのをやめてパトロールに専念する。



かずみ「マミ! 魔力の反応が!」

マミ「ええ、使い魔ね。さっき取り逃がしていた残りかしら……」

織莉子「倒しにいきましょう」


 織莉子が言う。しかしマミはためらったようにその場を動かなかった。


 使い魔を狩るのをやめれば魔女が育って、グリーフシードが手に入る確率が高くなる。

 そんなことはわかっていた。


織莉子「…………倒さないの?」

マミ「いえ、もちろん行くわよ!」



 使い魔の住み着く場所へと乗り込んでいく。三人もいれば決着はすぐにつく。

 織莉子が全体に放った水晶で動きを封じて、そこにわたしが踏み込む。距離の離れた使い魔はマミが仕留める。


 魔力の消費だって決して多くはない。――――でもそれは確実に次が手に入るという余裕がある時の話だった。



 さすがに時間も遅くなって、今日はこのまま解散になる。

 帰り道も途中まで三人で歩く。そういえば、織莉子はよくマミの家に来てくれるけど、わたしたちは織莉子の家を知らなかった。


かずみ「……織莉子、今日訓練出来なくてごめんね。この前見て欲しいって言ってたのに」

織莉子「少しだけ操作のコツが掴めてきた気がしたから。でもいいのよ。使い魔相手とはいえ実戦で出来る事もあるもの」

織莉子「それよりかずみさんも言っていたでしょう? 余裕があったら訓練がしたいって」

かずみ「今はあんまり余裕ないから……。織莉子は器用だよね。魔力の操作も一通りはこなせそうな感じ!」

織莉子「それはかずみさんには言われたくないかもしれませんわよ? かずみさんはまだまだ知らない力を秘めているみたいですし」

かずみ「わたしの力……かぁ」


 今日見えた新しい魔法の片鱗。そのことを思い返していた。切る前と同じくらいに伸びた長い髪が今も残っている。

 わたしにしかできないこと。使えない力。たとえそれがすべて借り物だったとしても……。


マミ「美国さん、家はそっち?」

織莉子「ええ。ではまた今度」

織莉子「今度、うちにも機会があればいらしてくださいな」


 帰り道の別れ際、織莉子は手を振る。

 その言葉にマミは快く返事を返して別れた。


かずみ「……髪、明日にでもまた切ろうかな」

マミ「訓練したらまたいきなり伸びたりしてね」


 二人だけになって、さらに家に向かってまっすぐに歩いていく。


かずみ「みんなその人にしかできないことってあると思う」

かずみ「わたしにはリボンも水晶も出せないし、二人みたいに器用なことできないもん」

マミ「そうね。私も契約したてのころは上手く扱えなくて悩んだりもしたけれど、今は自分にしかできないことがあるって思いたいわ」

マミ「この活動だって……」


 いつもだったら胸を張って言えるはずのことなのに、マミは今は少し迷いがあるようだった。

 もしこのままグリーフシードが手に入らずに魔力が減っていったら……そう思うと、今まで感じたことのない恐怖を感じていた。

マミの家 夜



 いつもどおり夕食を食べ終わった後、食後をリビングで過ごす。

 明日も休みだからか、今日はすぐに寝る支度はしないようだった。


マミ「……かずみさん、今グリーフシード一つも持っていないって言ってたわよね」

かずみ「あ、うん。今日襲われた時に使っちゃったから」


 マミも譲れる分は持ってはいなかった。

 前からマミは魔女を倒した時、わたしに優先して回してくれていた。記憶もなくグリーフシードを一つも持ってなかったわたしを気遣ってくれてたんだ。


マミ「とりあえず今日の分はこれで浄化して」

かずみ「え? でも、そしたらマミのがなくなっちゃうんじゃ」

マミ「今日は私はそこまで使ってないわ。私も綺麗なのがなくて悪いけど……」


 マミからグリーフシードを一つ受け取って浄化する。

 でも、これで二人とも本当に今ある分しかなくなってしまった。


マミ「明日はなにがしたいかって決まってる?」

かずみ「うーん……」


 本当はあすなろに行くって話だった。でも、今の状態じゃ万全とは言い難い。

 悩んだ末、わたしはこう答えを返す。


かずみ「明日決めようかな」

マミ「そうね」


 マミはリビングのソファから立ち上がると部屋に向かっていく。

 ……その表情は、何かを決心するような重たい表情をしているように見えた。




―11日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:1個
・[20/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv4]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5] [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

織莉子
[魔力コントロールLv3] [体術Lv3]

-------ここまで。次回は29日(木)20時くらいからの予定です

――――――



 ――――翌日、今日は休日二日目の日曜だ。



かずみ「ごちそーさま! 今日はこれからどうしようかな」

マミ「やりたいことは決まった?」


 朝ごはんを食べ終わると、わたしは鏡の前で軽く髪をとかして身支度を整えていた。

 まずはやりたいことをひとつ決めていた。


かずみ「今度はマミにこれ切ってほしいなって」

マミ「え……私そんなのやったことないわよ? 変になっちゃうかも」

かずみ「変でも大丈夫! また伸ばせるよ」


 『そういう問題かしら?』 とマミは控えめに笑う。

 魔法がなくたって髪なんていつかは伸びる。またその時もマミが一緒に居てくれればいいな……――なんて少し考える。


 鏡の前に、マミがハサミを手にして近づく。


マミ「……そういうことなら、やってみるわよ? 本当にいいのね?」

かずみ「うん。よろしくね」



 シュキン、と髪を切る音が部屋に響いていく。

 クセのある長い黒い髪が落ちて、肩が軽くなっていくのを感じる。


 ……少しずつ短く形が整っていって、マミはその途中で手を止めた。


かずみ「……マミ?」

マミ「私じゃ前切った時とまったく同じには出来ないから、今度はこのくらいでもいいかと思ってね」

マミ「こういうのはどう? 気に入らないならもっと切ってもいいのだけど……」


 鏡を見つめた。今のわたしの髪は肩につくくらいの長さがある。

 杏子から聞いた“ミチル”はこの前までと同じような短かい髪をしていたらしい。

 わたしも昨日からこの前までと同じように短くするのしか考えてなかったけど、こういうわたし――。


かずみ「うん! いいと思う」

かずみ「じゃあそれから、それから……――――」


 わたしもマミが切ってくれた髪を気に入って、新しくなった髪型を誰かにお披露目したい気分になった。

 これからはなにをしよう?

 昨日のことがあったから、外に出るならマミにも一緒にいてもらわないといけない。せっかく今日は休みで一緒にいるんだし。


かずみ「……うーん、でも今日はホントにパトロール行かなくていいのかな?」

マミ「魔法少女のことは今は一旦忘れてもいいのよ? 魔法を使わないなら魔力も気にすることないんだから」

マミ「昨日もかなり回ったし使い魔も倒しておいたんだから、すぐには出てこないと思うわ」

かずみ「そっか、そうだね」



1どこかに行く(万全ではないので、あすなろ以外)
2織莉子に連絡してみる
3誰かを家に誘ってみる(※連絡先を持っている織莉子かあすみだけ)
4家で料理の研究
5自由安価

 下2レス



かずみ「あーっ! そういえば昨日はあの偽物さんに買い物邪魔されたんだった!」

かずみ「今度こそ美味しいもの食べたいな。駅前のほう行かない?」


 あれから昨日は避けていた場所。

 とはいっても、また同じ場所で会うとは限らないだろう。……どこで会うかわからないからこそ怖い。


マミ「いいわね、行きましょうか」


 でもマミがいるから安心できる。

 あの偽物はマミのとこよりも自分といるべきだって言ってたけど、そんなのわたしが決めることだ。

 わたしはやっぱり今のままのこの街で暮らしていたかった。


 もし叶うなら、あすなろには帰らずにずっと――――。

繁華街


かずみ「わぁ! 見て見て、これすごいおいしそう!」

マミ「本当。一人だと我慢して素通りしちゃうことも多いけど、こうして見ると美味しそうなものがたくさんあるわね」


 そろそろ朝からお昼の時間に近づいてきて、みんなお腹が空いてくる頃。

 少し見回すだけで食欲を煽るものがたくさん目に入って、通りがかるといい香りが嗅覚を刺激する。

 それに、友人や家族、もしくは一人で美味しそうに食べ歩く人たち。


かずみ「あれ買ってきていい?」

マミ「いいけど……って、先にいっちゃった」

かずみ「マミもはーやくー! 二つ買うから!」




買うもの
・自由安価

 下1レス

---ここまで。次回は1日(土)夕方からの予定です


マミ「クレープかぁ……いいかも」

かずみ「すいません! 納豆コーヒーゼリー生クリームクレープ一つ!」

マミ「えっ!」

かずみ「あ、マミも同じの食べる?」

マミ「いやぁ……えっと、そんなのあるの?」

かずみ「あるよ。さっき注文してた人もそれ頼んでたんだから」


 若干引き気味な顔をしているマミがベンチでクレープを食べている人たちに目を移す。


かずみ「これは期待できると思って。面白いものがあるんだねぇ」

マミ「期待していいのかしら……」

*「はいっ、うちの目玉ですよ!騙されたと思って!」グッb


 店員さんが自信満々の笑顔で言う。


かずみ「ねっ」グッb


 その迫力に押され、マミも同じものを頼むことに。



マミ「……意外と普通にコーヒーゼリーの香りがするわね。あ、でも糸引いてる。納豆が出てきたわ」

かずみ「納豆ってこういう食べ方があるんだねえ」デローン


 変わったクレープを受け取って早速かぶりついてみると、中からは濃厚な生クリームとコーヒーゼリー、少し遅れて納豆が主張を始める。

 ベンチも人がいっぱいなので、食べながら適当に移動していた。


かずみ「やっぱり一緒に食べるのはいいね!」

マミ「私も一人だったらこういうのは挑戦できなかったと思うわ」

かずみ「次はなに食べよっか~?」



 食べ歩きながら次に食べたいものにも目を付けておく。

 そうしていくつか食べ物を買い歩いて、それから喉の渇きを潤すために喫茶店に入った。



 お店でもマミはいつものように紅茶を飲んでいる。

 わたしもマミが勧めるので同じものを頼んでいた。たしかにおいしい。


マミ「ここのお茶は気に入っていてね、参考にしているのよ」

かずみ「言われてみればマミの家で飲むのと少し香りが似てるかも。わたしはマミや織莉子みたいに紅茶のことは詳しくないけど……」

マミ「大体めぼしいものは食べ尽くしたかしら? このあたりはよく通るけどこんなに食べ歩きしたのははじめてよ」

マミ「次はどうする? なにか買いたいものはある?」

かずみ「ショッピングもいいけど、なんかもっと遊んだりしたいな」


 お店の窓から見える反対の通りを指さす。

 ぴかぴかとした色彩が派手に光る、繁華街の中でもひときわ賑やかなゲームセンターだった。


マミ「ゲームセンター?」

かずみ「プリクラとかとってみたいなって! 思い出を残したいんだ」


 まだマミとは一度も写真を撮っていない。

 それどころか、わたしは今まで誰かと写真を撮ったことがなかった。


 思い出。……それを求めてしまうのは、いつまでもはここにいられないことをわかっているからだろうか。





 ――――帰り道、マミと写ったプリクラと戦利品のお菓子を抱えて、

 わたしたちいは賑やかな通りから家のある住宅街へと戻っていた。


かずみ「今日は楽しかったね! たくさんお菓子が手に入ったし!」

マミ「ええ。私もこうして遊ぶのはどのくらいぶりかしら……」

かずみ「前は友達と?」

マミ「友達……か」


 何気なく聞いてみると、マミは少し言葉を詰まらせる。


マミ「違うかもね。昔組んでた頃の佐倉さんとよ」

かずみ「違うの? 今はそうかもしれないけど、昔は友達だったんでしょ?」

マミ「相手はそうは思ってなかったかも。あくまで師匠と弟子だったから」

かずみ「……師匠と弟子でもわたしたちは友達だよ」

かずみ「明日からはまたパトロールとか訓練とかするんだよね。それってやっぱりキリカも参加させてあげることできないかな」

かずみ「杏子が言ってたんだけど、縄張りがなくなったら新人じゃむずかしいって。わたしたちも余裕ないけどキリカはもっと余裕ないんじゃないかな?」

かずみ「このままだと魔女になっちゃうかも……」



マミ「どうかしら。魔法を使わなければ魔力も減らないわよ。だってあの子やりたくないんでしょう?」

マミ「もしかしたらむしろ、本当は今もここで狩ってるってこともあるかも。そうやって腹いせに私達に魔女が回らないように……」

かずみ「そ、そんな……」


 わたしだって魔女を見つけられない理由は考えたりした。今は魔女が少ないのかもしれないけどそれだけなのかって。

 あすなろの魔法少女のこともあるし、織莉子とキリカの間にあったすれ違いのこともある。

 でも、あまり誰が悪いんじゃないかって疑心暗鬼になるのはよくない気がする。


かずみ「……でも、魔法を使わなくても『呪いを生む』ことはあるかも」


 前に会った時からキリカは荒れていた。

 魔法少女は心が落ちこみすぎたらソウルジェムに呪いを生むことがあるって。……それを思い出した。


マミ「本人がやる気がないのに私たちにはどうにもできないでしょう。美国さんのことも悪く言ってたしね」

マミ「たとえ魔女が見つかって一つグリーフシードが手に入ったとしても、分けてあげられる分なんてないわ」


 私達と織莉子、あすみも入れたら五人分。

 魔女を倒すのに使う分の魔力もある。みんなで分けるには心許ない。――そして、その中には私達よりも魔女を倒している人がいるという疑念。


 ……でも、仕方ないとはいえそんなことを言うのはやっぱりマミらしくないって思った。




 わたしが初めて目を覚ました日に見たものを思い出す。

 風見野のホテルで会った時、引き出しいっぱいに入っていたグリーフシードの山。


かずみ(あすみちゃんだったらいっぱい持ってるかも)

かずみ(簡単に人に譲ってくれないとは思うけど、ダメ元で頼んでみたら…………)


 同時に、私達が余裕がないのはあすみにも原因があることも思い浮かんだ。

 あすみは他人のことを考慮して魔女を狩ったりはしないタイプだろう。あのグリーフシードの山もそうして手に入れたものなの?


 でもそれは考え方の違いだ。マミの話では魔法少女の中では私達みたいな考え方のほうが特殊らしかった。

 キリカから聞いた話も一瞬頭を過ぎった。


 『――利益でも提示されなきゃ動かないタイプだよ、あすみも』


 頭に浮かんだそれを否定する。

 織莉子もあすみもキリカも、やっぱり私は誰のことも疑いたくない――――。



―12日目終了―


かずみ 魔力[100/100]  状態:正常
GS:1個
・[20/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv4]


・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5] [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

織莉子
[魔力コントロールLv3] [体術Lv3]

――――――


 朝、ごはんを食べ終わるとマミは学校に行く前に準備を整え始める。

 その横で身支度をはじめるわたしを見てマミが尋ねてきた。


マミ「かずみさんもどこかへ行くの?」

かずみ「今日はわたしも途中までついていこうかなって」

マミ「……本当に大丈夫なの? あまり一人で出歩くのはよくないわ」

かずみ「大丈夫、行先にも魔法少女がいるから。パトロールはじまる時間になったら一緒にいくよ」


 マミは行先について思い当たったようで、心配そうな顔をする。


マミ「神名さんのところ?」

かずみ「この前も行ったことあるから」



 支度を終えて二人で家を出る。

 それから通学路の途中でマミと別れていった。



マミ「気を付けてね」

かずみ「うん!」


――――
――――

千歳の家



 ……玄関のチャイムを鳴らすとあすみが出てくる。今日も一人のようだった。



あすみ「おー? いらっしゃい、また飯作りに来たの? それにしては早いと思うけど?」

かずみ「おはよう、あすみちゃん。ご飯も作るけど、今日はちょっと頼みたいことがあって……」


 内容が内容だけにいきなり言うのも気が引ける。

 言い方によっては即『帰れ』って言われかねない。


あすみ「何? 訓練かパトロールのこと?」

かずみ「……まあ、そうなるのかな。パトロールしてるんだけど、最近全然魔女を見つけられなくて」

かずみ「この前のあすなろの魔法少女とか、使い魔とも戦ってて魔力が余裕がないの」

あすみ「…………」


 あすみは探るように静かにただその先のわたしの言葉を待つ。


かずみ「それでお願いなんだけど……ご飯じゃ代わりにならないかもしれないけど、出来る事なんでもするからっ!」

かずみ「グリーフシード分けてくれないかな?」



 頭を下げる。

 あすみはいつもみたいに薄い笑みを浮かべていた。


あすみ「ふーん? 今なんでもするって言った?」

かずみ「で、出来る事なら! 頑張るよ!」

あすみ「じゃあ服を脱げ」


 どことなく嫌な予感を感じながらもそう言うと、耳を疑う発言が飛び出してきた。

 いや、やっぱりといえばやっぱりって思ったけど……。


かずみ「…………えっ?」

あすみ「なーにー?そのくらいのことも出来ないの?なんでもするって言ったじゃん!」

かずみ「や、やるから! 女の子同士だし恥ずかしくないもんね」


かずみ「って、中に入ってからだよね?」

あすみ「なに甘えたこと抜かしてんだこら!初対面裸だったくせに!ほら早くそこに四つん這いンなるんだよォ!」

かずみ「ええええ!?」

あすみ「ばっちり撮ってやるからさぁ」


 スマホのカメラを構えるあすみ。

 もしかしてわたし、完全に遊ばれてる?


あすみ「――よし、じゃあ次は三回まわってワンと鳴いてね?」

かずみ「わ、わんわんっ!?」

あすみ「お手」

あすみ「お座り」

あすみ「おかわり」



 …………解放されたのは散々な目にあってからだった。



あすみ「はいお駄賃。そんなに欲しいなら一つだけくれてやるから感謝しな?」

かずみ「あ、ありがとう……」


 グリーフシードを放り投げられる。

 ……こうして無茶ぶりの代わりに一つのグリーフシードを手に入れたのだった。


かずみ(まあでもこれで、あすみちゃんが満足してくれたなら……)


あすみ「待て」

かずみ「わんっ!?」

あすみ「……よし」

かずみ「……くぅーん」


かずみ(最後まで気を抜けない……)



あすみ「てかさぁ、グリーフシード無いなら使い魔倒すのやめれば?」


 あすみは無茶なことを言ってたさっきまではニヤニヤしてたのに、今は冷ややかにわたしを見下ろしていた。

 まるで、『そこまでする?』とでも言いたげに。


 あすみからすればこの宝石一つにそこまでプライドを折る価値はない。


かずみ「だけど……でも、街の平和を守るためのパトロールなんだし」

あすみ「大体『パトロール』ってなにそれ。魔女を倒すのは私達にとっちゃただの『狩り』に過ぎないんだよ?」

あすみ「ソレがなくなったら魔女になって死ぬってのに。だから今もここまで必死こいてたんでしょ?」

あすみ「やってること的外れすぎてウケる」


 あすみは冷笑を浮かべて、それからなんともなかったようにリビングのほうに向かってソファに腰掛ける。

 わたしもそれを追って廊下の奥へ入っていく。



1今日のパトロールについて
2自由安価

 下2レス


かずみ「……あすみちゃん、今日のパトロールもついてきてくれるんだよね?」

あすみ「ついてくだけついていってもいわよ。でも使い魔は他の人たちだけでやってくれる?」

かずみ「あ、うん。それは無理にとはいわないけど」

かずみ「……わたしたちが使い魔を倒すのって、どう思ってる? 迷惑だって思ってる?」

あすみ「余計なことを、とは思ってるよ。でもそれが巴マミのやり方なわけじゃん」


 あすみはうんざりといったように話す。

 やっぱり良くは思ってないようだったけど、あすみはこう見えて争いを起こさないためのルールは守る人だ。


かずみ「それで……今日は何か食べたいものある?」

あすみ「別に何でもいい。またなんかよくわかんない洒落たの作るんでしょ?」

かずみ「なんでもいいならわたしが決めるけど、冷蔵庫には何があるのかな……?」


 あすみのいるソファの横を過ぎて、キッチンに向かう。

 カウンターの奥のほうに回りながらその姿を見ていた。


 ……ずっと見滝原にいた、ベテランのマミの力がそれだけ強いってことなのかもしれない。

 もちろんわたしとしても争いになるのはやめてほしい。――でも。


かずみ(――でも今はわたしたちもまた何度も使い魔と戦ってたら持たない。考え方の違いで済ませていいの?)

かずみ(あすみちゃんにも協力してもらえればって思うけどムリそうか)



 一旦思考を切り替えようと、目の前の冷蔵庫の中身を見回していく。

 前にも思ったけど、変わったものはないけど食材はそこそこ入っていた。


 そんな時、リビングのほうからチャイムが聞こえて、あすみが立ち上がる。


あすみ「……あーごめん、やっぱ今日いいわ」

かずみ「えっ!?」


 後ろを振り返る。

 あすみが廊下に戻ってくると、その後ろには……キリカもいた。制服姿だ。

 手には制服に似合わない買い物袋も持っている。


キリカ「なんでいるんだよ」

かずみ「キリカこそ! 学校は!?」

あすみ「おさぼりらしいよ? いけないコだね」

あすみ「まあ許すわ! 今日は約束を果たしにきたようだからね」

キリカ「なんで君に許されなきゃいけないことになってるのか」



 キリカはソファの隣に鞄を置いてこっちのほうに向かってくる。

 キッチンの前で向かい合って立ち止まった。


かずみ「何を作るの?」

キリカ「生姜焼き」

あすみ「さあアンタは帰った帰った」

かずみ「えぇー」

キリカ「別に材料はあるんだからいいんじゃない? 一人増えても変わんないよ」

あすみ「アンタねぇ、こいつが普通の一人分で済むと思ってるの?」

かずみ「ちょっとは押さえるよ!? そこは!」



かずみ(……この二人って何かあったのかな?)


 面識があるのは知ってたけど、それ以上はあんまり想像がつかなかった。

 とりあえずキッチンから出て、すれ違いに入っていった二人の様子を眺めていた。



かずみ「約束ってなんなの? 生姜焼き作るのが約束?」

キリカ「この前いろいろあって料理本あげたんだけど、失敗したっていうから」

あすみ「そんな人聞きの悪いこと言ってないでしょー? ちょっと理想通りじゃなかっただけ」

キリカ「それ何が違うのさ」

かずみ「あすみちゃんもやっぱ料理するんだね。みんなで見てようか」

あすみ「……じゃーまあ勝手にしたら」


 キッチンにあんまりいても邪魔になっちゃうから、カウンターから身を乗り出して覗いてみる。

 あすみが料理するのはわかってたけど、それよりキリカもするんだってことにちょっと関心を持った。


かずみ(生姜焼きかぁ……。そういうののほうがいいのかな?)


 二人は何度か作りながら味を見ている。

 あすみがかなり厳しく注文を付けてるみたい。 




かずみ「わたしにも味見させてよ! おなかすいてきた!」

あすみ「なんのための味見かわかってるー? まだ出来てないからね。そっちのなら食べててもいいよ」


 調理をしている横で先に置いてある皿を手渡される。

 まだ温かくていい匂い。これは完成じゃないんだろうか?


かずみ「十分美味しそうなのに。まだ何か足りないの?」


 そう思ってキッチンを見てふと気づく。もしかして、使っている材料がかなり少ない?


 キッチンの周りに置いてある調味料は、しょうゆと砂糖、それからチューブの生姜だけ。

 和風の味付けの基本っていわれるとそんなに詳しくないけど、これだけで作れるのかな?

 イタリアンじゃオリーブオイルとニンニクと鷹の爪が三種の神器になるように、料理ごとに基本になる味付けはある。



キリカ「……やっぱ料理酒すらないんじゃ難しいって」

あすみ「仕方ないから買い足してくるか? それ入れたからって理想に近づくとは限らないんだけどなぁ」

かずみ「どんなのを作りたいの?」


 わたしにお昼を聞いた時はなんでもいいって言ってたけど、生姜焼きには相当こだわりがあるようだった。

 美味しいものが食べたいなら調味料を買い足してくればいい。でもそれだけじゃないらしい。


あすみ「……前食べた味、とだけ言っておく」

あすみ「でも家にあるもので作らなかったらもったいないじゃん。使うかもわからないし。『さしすせそ』っていうじゃない?」

かずみ「砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそ?」

キリカ「別にあっても困ることないって」

あすみ「そーいえばそこになんかの酒が入ってたわね。使うなら使ってもいいよ」

キリカ「本当にそれ使って大丈夫……?」

かずみ「食べていいやつあったらわたしがどんどん食べるよ!」


――――
――――



 それから試行錯誤したのちに、みんなで少し遅くなった昼食を食べていた。

 わたしは大分早くから食べてるけど、最後に完成したのは『理想の味』に出来たのかな。


かずみ「美味しい生姜焼きだね。材料あれだけでも上手く作れるって知らなかったよ!」

あすみ「まあ今日のことに関してはあいつを褒めてやったら」

キリカ「次からは君が作るんでしょ。美味しいって言ってもらえるといいね」

かずみ「誰かに作るの?」


 しかし、聞いてみるとあすみは良くない反応を返す。

 まるで隠したいものに触れられそうになったみたいな……。


あすみ「……猫、喋りすぎ。鳴きすぎよ」

キリカ「鳴きすぎってなんだよ!」

あすみ「あ、そういえば今日はかずみが犬になったんだった! あれもっかいやってよ」

かずみ「わ、わんっ!?」

キリカ「犬……?」


 ……条件反射で鳴いてしまった。

 そういえばキリカ、杏子のこと犬って呼んでたっけな。



かずみ「~~そうだった、キリカは魔力まだ大丈夫?」

キリカ「魔力? ……別に、まだそこまで使ってないし」

あすみ「アンタならそうだね、裸ネコミミにでもなって猫の集会にでも混じってくればグリーフシード恵んでやってもいいよ」

キリカ「いるか!」


 あすみは茶化したように言う。


かずみ「……マミはああ言ってたけど、わたしにとってはキリカも大切な友達だから」

かずみ「わたしはキリカが悩んでることも知ってるし」

キリカ「かずみ……」

かずみ「だからキリカにはわたしみたいな思いは……! うぅっ、そんなふうに汚れさせるわけにはいかないよ!」

キリカ「な、なにをされたんだろう……ていうかやらないから」

あすみ「猫のはもう写真に収めてあるんだけどね」

キリカ「」ビクッ



1あすなろの魔法少女について
2自由安価

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--------ここまで。次回は5日(水)夜からの予定です

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