オール安価でまどか☆マギカ 24 (1000)
このスレは、安価で決めた主人公・時系列・前提設定で進める長編多めの安価SSです。
各編で話につながりはありませんので、途中参加は大歓迎です。
全体的にシリアス傾向が強いけど実は作者は安価スレらしいカオス展開も大好きです。
【現行】オリジナル主人公編(桐野巴編) :[22]>>820~[23]>>828 【完結?】
・・・キリカとその幼馴染というだけのモブの物語。ギャルゲのようななにか。
・・・現在メインストーリーに関わらない部分のルートを攻略したが、これからこの世界観がどうなるかはわからない。
・・・力を持たない男子生徒が物語に関わり、その絶望の運命を変えていけるのか?
【完結した話】
あすみ編 :[21]>>465~[22]>>680
・・・呪いから生まれた異端な魔法少女の話。
・・・願いにより復讐を遂げたあすみが見滝原の事情を引っ掻き回していく。
・『補完後日談』[23]>>847~>>959
キリカ編2 :[14]>>719~[15]>>182,[17]>>927~[21]>>426
・・・未契約キリカが黒猫と謎の少女に出会い、不思議な運命を知る話。
・・・前半はミステリー風シリアス、後半はほのぼの系。“トゥルーエンド”みたいなものを目指しました。
・『統合後(後篇)』 [18]>>846~
杏子編 :[15]>>197~[17]>>918
・・・マミの“先輩”な杏子のifストーリー。
・・・マミと仲直りしたり、色んな人と仲良くなったりする比較的ほのぼのなストーリー。
・After『マミさんじゅうごさい』:[17]>>436
なぎさ編 :[12]>>717~[14]>>616
・・・謎の神様によって魔女化から助けられたなぎさが見滝原で奮闘する話。
・After『あすみ参入』:[13]>>953~
メガほむ編 :[9]>>181~[12]>>666
・・・非情になれないほむらの4ループ目、織莉子たちとの戦い。
・After『夜明け後の一週間』[12]>>93~
アマネ編 :[7]>>807~>>963,[8]>>5~>>130(GiveUp)
・・・抗争に破れて見滝原に来た最弱主人公の野望の話。 ※オリ主※
キリカ編 :[7]>>309~>>704,[8]>>475~[9]>>151
・・・本編時間軸で織莉子が既にいない世界のキリカの話。話はほぼまどマギ本編寄り。
恭介編 :[6]>>815~[7]>>240(BadEnd+)
・・・恭介の病院での日々と、退院してからの話。
Charlotte編 :[7]>>264~>>285
・・・チーズを求めるCharlotteの小話。
ユウリ編様 :[5]>>954~[6]>>792(BadEnd)
・・・契約したばかりのユウリが目的を達成するためにマミの後輩になる話。
QB編 :[2]>>198~[4]>>502
・・・感情の芽生えたQBの話。
中沢編 :[練習]>>164~[2]>>150
・・・まだ試運転。中沢が安価の導きにより魔法少女たちと関わっていく話。
さやか編 :[練習]>>8~>>154
・・・マミの死後、さやかが魔法少女になって張り切ったり悩んだりする話
・・・試験作。かなりあっさりしてます。
【未完結の話】
Homulilly編 :[4]>>535~>>686
・・・生まれたばかりの魔女Homulillyが時空を旅する話。
かずみ編 :[4]>>982~[5]>>879
・・・ユウリのドジで見滝原に運ばれたかずみが織莉子とともに救世をめざす話。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1527599223
【注意】
*安価の内容について
★無効安価は自己判断で安価下。明らかに無効になりそうな内容は、その下に別の安価をしてくれるとスムーズに運びます。
★自由安価は基本的に主人公から起こす内容のみ。主人公以外の視点に移っている時はその場にいる人の言動まで可。
★『相談したい事がある』『話したいことがある』のみの安価は不採用とします。必ず話す内容まで書いてください。
*安価の取り方について
★基本的に連続で安価を取っても構いません。連投は1レスとして考えます。
★多数決は連続・連投無しです。
★多数決で同数に意見が割れた場合は指定内の最後のレス内容を採用。
★主レスは安価先を指定する数字に含まない。
★「下2レス」と書いた時にはその1時間以内に2レス目がこなければ「下1レス」に変更します。
*このスレの話について
★まどマギのほかに、おりマギ本編・かずマギ・漫画版まどマギ・TDS・PSP・劇場版のネタを含みます。
それ以外からのネタは出さないか考慮しませんが、知ってるとより楽しめるネタはあるかもしれません。
・前スレ
『まどかマギカで安価練習』 :まどかマギカで安価練習 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369643424/)
『オール安価でまどか☆マギカ 2』:オール安価でまどか☆マギカ 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370979872/)
『オール安価でまどか☆マギカ 3』:オール安価でまどか☆マギカ 3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371835671/)
『オール安価でまどか☆マギカ 4』:オール安価でまどか☆マギカ 4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372909496/)
『オール安価でまどか☆マギカ 5』:オール安価でまどか☆マギカ 5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373645366/)
『オール安価でまどか☆マギカ 6』:オール安価でまどか☆マギカ 6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377690974/)
『オール安価でまどか☆マギカ 7』:オール安価でまどか☆マギカ 7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385884667/)
『オール安価でまどか☆マギカ 8』:オール安価でまどか☆マギカ 8 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1397729077/)
『オール安価でまどか☆マギカ 9』:オール安価でまどか☆マギカ 9 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409071003/)
『オール安価でまどか☆マギカ 10』:オール安価でまどか☆マギカ 10 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417014605/)
『オール安価でまどか☆マギカ 11』:オール安価でまどか☆マギカ 11 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424792933/)
『オール安価でまどか☆マギカ 12』:オール安価でまどか☆マギカ 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430323957/)
『オール安価でまどか☆マギカ 13』:オール安価でまどか☆マギカ 13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439045180/)
『オール安価でまどか☆マギカ 14』:オール安価でまどか☆マギカ 14 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448012780/)
『オール安価でまどか☆マギカ 15』:オール安価でまどか☆マギカ 15 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461427177/)
『オール安価でまどか☆マギカ 16』:オール安価でまどか☆マギカ 16 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475061935/)
『オール安価でまどか☆マギカ 17』:オール安価でまどか☆マギカ 17 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483717207/)
『オール安価でまどか☆マギカ 18』:オール安価でまどか☆マギカ 18 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491232637/)
『オール安価でまどか☆マギカ 19』:オール安価でまどか☆マギカ 19 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497797899/)
『オール安価でまどか☆マギカ 20』:オール安価でまどか☆マギカ 20 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504964306/)
『オール安価でまどか☆マギカ 21』:オール安価でまどか☆マギカ 21 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511090204/)
『オール安価でまどか☆マギカ 22』:オール安価でまどか☆マギカ 22 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516880466/)
『オール安価でまどか☆マギカ 23』:オール安価でまどか☆マギカ 23 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523754962/)
※『オール安価でまどか☆マギカ 21.5避難所』:オール安価でまどか☆マギカ 22 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516811060/)
脇道逸れた小話を書いたり本スレで出来ない安価募集をしたりする場所。次スレが見当たらないよ!という時にも覗いてみると情報があるかも。
☆随時募集
*安価で魔女を作ろうぜ*
主に風見野や見滝原外などで登場するオリジナル魔女を募集中です。
登場の機会があれば色んな物語に出させます。
被りは一部再安価か統合。
・名前:【安価内容】の魔女(思い浮かんだものがあれば魔女名も)
・攻撃方法/見た目/特徴/性質/弱点/使い魔 など
……ふと洗面台のある脱衣所に立ち寄ってみると、シャワーの音が聞こえた。
シャワールームと脱衣所、半透明のすりガラスの扉一枚を隔てて何も身に着けていないキリカが居る。
そう思うと、さっきとは少し違うように胸が高鳴る。
するとその時シャワーの音が止まって、いきなり扉が半分開いた。
桐野「!?」
キリカ「この辺に……置いた気がするんだけど……」
キリカは腕だけを外に出していた。目をつむっているのか、もどかしくなにもない場所を手が掠める。
扉の隙間から覗くようにすれば簡単に見えてしまう。……今だったら多分気づかれない。
キリカ「誰かいるのっ? タオル取ってっ!」
タオルを探すキリカの手にそっと置いてあげると、結局覗くだけの勇気もないまま扉は閉まる。
キリカ「ありがとう!」
桐野(――事故みたいには見たくないって……言ったもんな…………)
桐野「あのさ……キリカ」
キリカ「え? ……きりのん?」
桐野「なんでもないよ。ゆっくりしてね」
それだけ言うと、目的を済ませて脱衣所を後にして、キリカが出てくるのを待つことにした。
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↑
前スレに投下するはずだった誤爆。気になる人は前スレをどうぞ。
次回は30日(水)20時くらいからの予定です
アフター、スレ縦乙
新しい男主人公にしろ魔法少女にしろ楽しみ
これからどうするか決めます。
桐野で違うキャラとくっつくのに抵抗があるとか、こいつらはこのまま幸せになっててくれって人は
世界観や攻略状況をある程度引きついだまま別キャラで別の話にチャレンジもできます。(その際どこまでやりなおすかは未定)
非戦闘キャラを想定していますが、別に新しくキャラメイクしなくても望みがあれば既存の登場キャラを動かすのでも大丈夫です。
リスタートは完全に物語のはじめから別の行動を試行するパターンです。
主人公の行動によっては見える世界が違ったり、気になるあの子も全然違う未来を辿るかもしれません。
ただしすでに決まった世界観での行動になるので、全く違う世界観でやりたい場合は「新しい物語」のほうになります。
経験済みエンド
【HappyEND】…物語の主軸となるヒロインを幸せにできた証。
▼つづきから
▽単発小話
▽はじめから
・同じ主人公でリスタート
・新しい主人公(裏話ルート)
▼べつのおはなし
○セーブデータ
※こっちも完結した物語の小話は受け付けてます。
【未完結】
・かずみ編 【6日(水)朝 ヒュアデスの学校襲撃を翌日に予知】
・Homulilly編【二周目の世界】
【続編開始/指定場所からロード】
・ほむら編 【続編:After1後から再開。新展開】 [獲得補正:(料理)Lv2中級者 アルティメット炒め物]
・キリカ編1【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】
・QB編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 ※暫定END
・中沢編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 [獲得補正:成績関係の結果+18]
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・キリカ編2【続編:小話・ワルプル後新展開】
・あすみ編【続編:小話・ワルプル後新展開】
○新しい物語
・まどか☆マギカ登場キャラ
・おりこ☆マギカ登場キャラ
・かずみ☆マギカ登場キャラ
・上記作品中のモブ
・オリキャラ
・百江なぎさ
・神名あすみ
↑のキャラから一人選択。
同キャラ2回以上選択も可能。
下4レス中までで多数決
安価7 今度はマミさんを攻略したい
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それでは、同主人公でのリスタートとなります。
そろそろコミュ力ある主人公のほう動かしたほうが、とか
飽きられるかとも思ったけど意外に受け入れられているようで幸いです。
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――――――
――――――
見滝原中学校 教室
――――……中学三年生の春。
そろそろ慣れてきた三年生の授業を終えて、机の上に顔を伏せる。
……周りではみんなが楽しそうに話している。
そんな中で、まだこの教室の中で話せる友達ができずにいた。
桐野(…………まずいな)
友達が少ないのは元々だ。1,2年で一緒だった友達と離れたのが大分痛い。
……そんなことを考えながら、僕は扉の奥を通った姿に目を移す。
――呉キリカ。僕の幼馴染だった。
小学生時代、家が近いこともあり、よく遊んでいたのが彼女だった。
しかし、いつからかだろうか。今では彼女と話すことはほとんどなくなっていた。
たまにこうして姿を見かけるくらいだ。
…………暫く見ていると、彼女もこっちに気づいて目が合った。
しかし少しして、キリカは早足で去っていく。
桐野「…………」
その空気感に少しの悲しみを感じる。
――――僕は昔からずっと変わらなかった。彼女が変わったんだ。彼女のことを昔から知る僕の目にはそう見えた。
その様子を心配に思いながらも、結局僕は今までずっと何もしてこなかった。
いつのまにか午後の授業開始のチャイムが鳴る。
……僕の頭には、久しぶりに見た去って行った姿がまだずっと残っていた。
――――――
――――――
――――午後の授業もなんとかこなし、学校での一日を終えて校舎から出ようとする。
……すると、どこからか呼びかける声が聞こえた。
「巴さん!」
自分の名前を呼ばれて反応して、僕はビクッと肩を揺らした。
女の子の声。……まあ、僕にそんなに親しげに話しかけてくれる女の子なんていないか。
桐野(……違う人か)
――――……くやしいが、何処に行っても目立たない存在の僕は、やっぱりモテるほうじゃない。
彼女の名前は『巴マミ』。
同じ学年で、偶然にも自分と同じ名前だったのですぐに顔と名前は覚えてしまった。
同じクラスになった時は、それを話題にいくらか話したりもしたっけ。
『共通点』と言えばそのくらい。名前が被ってるとか似てるとかいう些細なこと。
そんな小さな出来事に、久しぶりに幼馴染との思い出も頭に浮かべる。
自己紹介をした後、『女の子みたいな名前だね!』と今の僕がひそかに気にしていることをズバッと言ってのけられたのが最初の会話だった。
『わたしと名前が似てる』と言いたかったらしい。それから、彼女は自分の名前を『キリカ』と誇らしげに名乗った。
苗字だよ、とそう言うにも、名前も似たような響きだからあまり気休めにはならないけど――――
そんな一部始終を今でも覚えていた。
そういえば、キリカにも似たような友達が他に居たと思うがどうなったんだろう?
「――おーい、巴ちゃん」
……と、考え事をしていたら絡まれた。これは今度こそ僕だ。
桐野「……なんだよ。だからその呼び方やめろって」
「久しぶりにアキバでも行こうぜってことになってるんだけど、どうよ? お前の好きなラノベも今新作出てるだろ!」
桐野「あ、あれは別にそんなに好きってわけじゃ……」
とまあ、数少ない“話せる奴”も似たり寄ったりだ。……けど、似たような奴とだったら少しは遠慮なく話せる。
――はずだったが、いつのまにかあまり話したことのない人が増えていることに戸惑いを感じた。
同じ“目立たない人たち”の中だって、行動力のある奴は行動力がある。主に自分の趣味の方向に一直線に。
桐野「……それに、今はあんまりそういう気分じゃないんだよな」
「そうか? まったく、連れないなぁ。ていうかさ、それより、今思いっきり巴『さん』のことガン見してたろ。わかりやすいんだよ、お前」
「ああいうのが好みかぁ、まあ悪くないよな。折角なら話しかけて来いよ!」
桐野「はあ?」
『さん』付けで呼ぶのはマミさんのほう。
僕は『巴さん』と呼ぶのも違和感があるから名前で呼ぶことを提案してみたら、なんとマミさんは許可してくれた。
……『わざわざ聞くなんて律儀ね』、と笑いながら。その笑顔が印象深い。
――彼は言いたいだけ言うと、とくに気にした様子なく隣の人と話をしながら去っていった。
話題はもちろんマミさんの話題だ。
桐野(あいつら、ホント言いたいだけ言ってくな……)
こういうところがなかなか馴染めないところなんだろうか?
…………しかし、もう遅い。
本当は僕も話を合わせておけばよかったのだろうか。
1マミに声をかける
2帰り道に出る
下2レス
そんなこんなで立ち止まっていた校門付近から外に出て、僕も一人帰路について歩き出す。
……学校から離れて家が近づくと、その途中でキリカの姿を見つけた。
家は近所だ。偶然見かけることは珍しいことじゃない。
しかし、家に帰る途中というわけではないようだった。方向が違う。
桐野(どこに行くんだろう?)
少しだけ僕も気になって、その姿を追ってみる。
桐野(…………つけ回しているようで悪いかな)
声をかければ済むこと、と言われればそうなんだけど。
――すると、キリカは僕の思っていた以上に長い距離を歩いていく。
街を外れ、人の歩く道すら消えていく。この先には見滝原と風見野を結ぶ大きな線路だけが一直線に通っている。
隣町にでも向かおうとしているのか? わざわざこんな場所を歩いて?
どうしてこんな場所に……。
そう思いながら、僕はこれ以上追うべきか悩み始めていた。
その疑問からやっぱり心配にも思えてきたし、危険なことに出会う前にとめておきたい。
声をかけるべきか。でもどうやって――?
…………そんなことを考えているうちに、その姿を見失った。
桐野(あれ……――?)
心のなかで疑問の声をあげつつ、足を止めて辺りを見回す。
町外れの寂れた景色のなかで、まるで一人取り残されたような気分だ。
そうしていると、後ろから声をかけられる。
キリカ「こんなところで何してんの?」
桐野「!?」
――――どうしてそこから現れた!?
桐野「あ、あっちから来たはずじゃ……!」
キリカ「なんでそんなこと知ってるの!? もしかしてストーカーさん?」
桐野「違う!」
いや、確かにつけ回すことになっていたのは事実だけど…………
そんな久しぶりの会話にしては大分最悪なやりとりをしていると、それから彼女はなにか考え込むようにする。
キリカ「あー……、キミそうか。久しぶりだよね?」
桐野「う、うん! ほら、幼稚園から一緒で家の近かった!」
キリカ「うん、思い出した。まあ、私の事なんかどうでもいいからさ、こういう変なトコはあんまし行かないほうがいいと思うよ?」
キリカ「私がこっちから来たカラクリはね……この先にはね、ちょっとした空間が歪む呪いがあったのさ」
桐野「!?」
キリカ「今はもうないよ? 探し回らないでね」
――困惑した。
それと同時に、キリカを追ってここまで来た僕としては違和感を抱いた。……なんで僕が心配されているんだろう?
そんなこんなで、街外れから抜けて、二人で僕らの家のあるほうへと帰っていく。
……久しぶりのキリカとの会話は、どこかぎこちないながらも少し懐かしかった。
結局、キリカがここで『何をしていたか』というのはわからなかった。聞いてもごまかされてしまった。
今のキリカがどう過ごしているのか、僕にはまだわからない。
―1日目終了―
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基本的には主人公以外の取る行動は同じにしてます。
あと、話の関係で主にキリカとの会話など前回と被るイベントは描写を省略するようにしています。
なのでまったく同じルートに入ってしまうことはないかとは思われます。
出来るだけ他キャラにスポットライトを当てたいとは思いますが、
その反面で前回ではハッピーエンドを迎えたキリカがどうなるかについても主人公の行動次第です。
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見滝原中学校 昼
――……翌日になると、学校ではまた変わらない一日を過ごす。
昼休みの時間になってもやっぱり僕は教室で一人のままだった。
頭の中で昨日のことは気になっている。
……これからどうしたらいいだろうか。
1廊下に出る
2自分の席で過ごす
3自由安価
下2レス
とりあえず、包みを持って廊下に出てみる。
……昨日は流れとはいえ、お菓子の話をして今度作って持ってくるって言ってしまった。
律儀に自分で言って持ってきてしまった以上、ちゃんと渡さなくては。
そう思ってきょろきょろと廊下を歩きながらその姿を探していると、その途中でまた変な奴に絡まれた。
「巴ちゃん!」
桐野「!?」
「なんだよその包みは! まさか手作り?ひょっとして誰かからの貰い物か!?」
桐野「い、いや。……作ったのはオレだ。これから渡しに行くんだよ」
昨日話した中にいた、僕が話すことのできる太めのほう。暑苦しい腕が肩に回される。
昨日の続きか何かで囃し立てに来たのだろう。
桐野(嫌な奴に見られたなぁ……)
伊集院「マジかよ!よし、女子に渡すんだろ? こうなったら怖気づかないように俺がついてってやるよ!」
桐野「おいやめろって」
ガッシリと肩を組まれたまま歩き出す。こんなんで現れたらキリカもドン引きしてしまう。
けど、どこに向かっているんだ?
伊集院「……で、実際誰に渡すんだ?」
桐野「…………女子だよ」
キリカのことをうまく説明できる気もしなくてそれだけ言った。
すると、伊集院は大げさに驚いたようにする。
伊集院「本当に女子相手なのかよ……こちとら冗談で言ったんだぞ。それなりに絡みのある俺のことも差し置いて!?」
桐野「悪いけど一人分しかないから」
彼はしばらく重い腕を乗せたままその場で愕然としていたのだが、なにか意を決したようにまたどこかへ歩き出した。
伊集院「……わかった。まさか巴さんのことがマジだったとはな」
伊集院「こうなったら全力で見守っといてやる! はい、連行!」
桐野「違うし……聞いてないし――」
……マミさんか。まあ、あっちともクラスが離れてもいつかまた話せればとは思ってはいたところだ。
桐野「…………まあいいか」
――勘違いされた理由は、同じクラスだった時から、僕が話しかけられる女子がマミさんくらいしかいなかったからだ。
そもそも性別関係なく色んな人と話すほうじゃない。異性となればなおさらだ。
僕の周りに居た地味な男たち(主に伊集院)にはひそかに応援されていたのも知っている。 ……いや、今の感じを見る限りあいつはひそかでもないな。
桐野(まあでも、男友達と話すよりもマミさんと話すほうがいいこともあるんだよな。変な話とかしないし)
桐野(マミさんは頭もいいし、立ち振る舞いもどこか上品な感じがする)
桐野(……かといって下心があるかといえば、それは別かな)
伊集院は絡み方はうざいけど一応善意のつもりなんだろう。
廊下から教室の中に姿を見つけると、伊集院はグッと親指を上に立てて僕を送り出した。
マミ「……あら、桐野君?」
桐野「ああ……ひさしぶり」
マミ「ええ、久しぶりね」
近づいていくと、彼女のほうから気づいて声をかけてくれた。
学年が上がって経っても、やっぱり変わらない姿だ。
桐野「……そう、久しぶりに会いたいと思ってたんだ。あと、和菓子を作ってきたから……どう?」
マミ「ありがとう、いただくわね」
包みを渡すと、無事に受け取ってくれた。
ひとまずそれにほっとする。
1三年生になってから元気?
2こっちのクラスはどう?
3自由安価
下2レス
桐野「マミさんは三年生になってから元気? こっちのクラスはどう?」
マミ「ええ。少しずつ慣れてきたところよ」
やっぱり、普通はそうなんだろうなぁ。改めて自分が後れを取っていることに肩を落とす。
マミ「このお菓子、宝石みたいで綺麗ね。それに美味しい」
桐野「琥珀糖っていって、寒天とグラニュー糖で作れる和菓子なんだ」
マミ「桐野君はお菓子作り得意なの?」
桐野「おばあちゃんの影響かな……」
マミさんはレモンの琥珀糖をつまんで言った。
やっぱり、こうやって喜んでもらえる瞬間が一番うれしい時だ。
すると、それからマミさんが何かに気づいたようにガラス張りの壁の外に視線を移す。
マミ「ところで、外……」
桐野「げ、あいつ」
……そこにはまだなんともいえないにやけた表情でこっちを見る伊集院の姿があった。
マミ「伊集院君だったかしら」
桐野「ああ……」
マミ「あまり話したことはなかったけど、今度久しぶりに話してみたいわね」
あっちまで声は届いてないだろうけど、こんなことを言っていたと知ったら本人は気持ち悪いくらいに喜ぶだろう。
…………あいつには黙っておこう。
----------------------------------
ここまで まだただの学園もの
次回は31日(木)20時くらいからの予定です
他の子と関わるのもいいけどキリカ放置したらまずいことにならね?
また>>1は虫と格闘中かな?
――――今日も午後の授業を終えて、あとは帰るだけになる。
特にこれからやることもないのだが、やっぱり昨日のことは頭の隅で気になっていた。
……鞄を持って廊下に出る。
1昨日の場所に再び行ってみる
2デパートに画材を買いに行く
3帰宅
4自由安価
下2レス
……キリカは今日はどうするんだろう? 帰る前に廊下を一周するように回る。
桐野(もう帰ったのか……――)
僕も含め、廊下はどこかへ歩くか楽しそうに雑談している人であふれていた。
そんな中、なにもせず一人で佇む生徒の姿があった。
誰かを待っているのだろう。特に気にすることもないのだが、長い黒髪と整った冷たい視線が印象的に見えた。
桐野(見たことないけど、同じ学年かな?)
……すると、一瞬、こっちを見た気がした。僕が視線を送ったからかもしれない。
1昨日の場所に再び行ってみる
2デパートに画材を買いに行く
3帰宅
4自由安価
下2レス
しばらく周りを見回しながらゆっくりと歩いていたが、途中で方向を変える。
廊下を通って階段を下りていく。
桐野(それなら今は手がかりなんて一つしかない。また昨日のところに行ってみよう)
桐野(なにかわかるかもしれないし――)
学校を出て、人通りのない街外れの方へ。
見滝原と風見野を結ぶ大きな線路の見えるその場所に辿りつくと、その周辺を歩いてみる。
なにもない。強いて目に留まったのは今は運営してなさそうな古い教会のような建物くらいだ。
「おい、ここでなにしてんだい?」
足を休めるようにその場で立ち止まると、声をかけられた。
……女の子だ。
1あなたは何してるんですか?
2散歩だとごまかす
3空間の歪みについて話してみる
4自由安価
下2レス
桐野「あなたは……ここで何してるんですか?」
「……ちょっと縁のある場所だっただけだ。あたしがここに居るのはいいんだよ」
向こうから聞いてきたのに、こっちが聞き返すと少しバツの悪そうな態度だ。
……ここの関係者なんだろうか。
「まあ、ここを荒らす気がないならいい。最近は変な輩までうろついてやがる。早く帰んな」
桐野「変な輩……?」
「不良っていうの? 関わり合いたくないだろ?」
そう言われて、周りに散らかるお菓子の袋や煙草、空き缶などのゴミに目を向けた。“不良のたまり場”。
ただでさえ寂れているのに、それらのせいで更に不健全な雰囲気が増している。
キリカは何か訳知り顔だった。――それと昨日のことが関係あるかはわからないけど。
桐野「…………でも、昨日このあたりに来てた人がいるんだ。何しに来たのかはわからないけど」
「知り合い? あいつらの仲間じゃないことを祈るがね」
桐野「違う!オレの知り合いの女の子なんだ。空間の歪みとか言ってたかな……よくわからない話だけど……」
僕の話に彼女は少し眉をひそめるような、訝しむような顔をした。
……そりゃそうだ。あの場を見ていなければそんな反応にもなる。
桐野「やっぱり危険なところなら、心配なんだ。その子のことも……君のことも」
桐野「君も……危険なはずなのに、その人たちに踏み荒らされたくないからここに居るんだろう?」
彼女はさらに露骨に疑問符の浮かぶような顔をした。
「……あたしがか?」
桐野「違うんですか?」
「いや…………そうかもな。そういうことにしといてやるよ」
そう言うと、彼女はため息をついてから地面に落ちている空き缶を手に取った。
そして、それを片手でぐしゃっと握りつぶす。
「まったく、この場で鉢合わせた時にはどうとでもしてやれるんだけどな」
桐野「どうとでもって、そんな……一人でどうにかしようなんて危険だよ」
「ほら見ろ、握力には自信ある」
その缶を僕の前に見せてきた。……見事だ。
桐野「……そういう問題かなぁ」
1一緒にゴミを片づける
2自由安価
下2レス
僕もしゃがんでゴミを拾っていく。
あんな話を聞いて、やっぱり目の前で見ているだけにはできない。
桐野「僕も手伝います」
……なおさら不良たちのこともどうにかしてあげたくなったけど、腕っぷしもない僕じゃ無理なのかな。
でも、考えればきっと、なにもできないって決まったわけじゃない。
教会の中と外に散乱していたゴミをあらかた拾うと、教会の外の芝生に二人で腰を下ろした。
ひとまずあらかた一か所に集めることができた。それだけでも見違えるようだ。
「……悪いな、手伝わせて」
桐野「本当はここも良い景色してるんですね……自然が見えて綺麗だ」
「ああ」
桐野「それにしても、近くにゴミ箱がないからって酷いな……どうにかできないかな」
「ぶっ飛ばすしかないだろ? でもどうやら、夜中に来てるようなんだ」
桐野「なるほど……」
夜中にここまで見回りをしてもらえれば一番いいけど、大人に相談して動いてくれるかはわからない。
……それに、冗談だと思うけど、彼女なら本当にやってしまいかねないから心配だ。
「……はあ、とりあえず動いたら腹減ってきたな。あたしはそろそろこれ持って街まで出るよ」
桐野「待って。どうせだから僕も半分持ちます」
「じゃあ任せるよ。……いい奴だな、アンタ」
桐野(いいやつ……)
そう言われると照れた。わざわざそんなふうに言ってもらえることだってなかなかない。
物言いはサバサバとしていて態度はきついように感じるけど、彼女も悪い人じゃなさそうだ。
桐野「あ、名前名乗ってないですよね……桐野巴っていいます。またここ、来るかもしれないから」
「佐倉杏子だ。……まあ、そこまで言うなら勝手にしな」
途中まで同じ道を通って、二人で街へと歩いて行った。
けど、彼女は風見野のほうに帰っていったみたいだ。
少しでもここが綺麗になって、危険じゃなくなれば僕も安心できる。
けど、本当に「危険なもの」は不良たちだけなんだろうか。一人になった後の帰り道でそんなことをぽつりと思った。
―2日目終了―
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ここまで
次回は1日(金)20時くらいからの予定です
>>43 あいつの話はするな!…いや、しないでください。
>>41 太目のモテない男児「よし、それなら俺が代わりに主人公やって他のヒロイン攻略してもいいんだぞ!」
…実際相当難しいバランス。一周目がフラグバキバキすぎた。
見滝原中学校 昼
この前は久しぶりにマミさんと話すことができた。昨日も、新しく知り合った人がいる。
少し前までに比べたら日々は明るくなった気がするけど、教室では相変わらずだった。
――……いつのまにか午前の授業の終わるチャイムの音が聴こえている。
自分の席で弁当を取り出そうして鞄の中を見てみると、そこには弁当のほかにもお菓子が入っている。
一応また作ってきてはいた。
1マミをお昼に誘ってみる
2キリカを探しに行ってみる
3放課後までとっておく
4自由安価
下2レス
桐野(……もし一緒に食べようって言ったら、マミさんは受け入れてくれるかな?)
桐野(でもマミさんはどうしてるんだろう? ほかの人と食べてたら?)
小心者だから、たったひとつ行動をするのにもあれこれ考えて悩んでしまう。
前はどうだったっけ。……一緒に食べる人は出来ただろうか。
桐野(……――この前も話せたし、誘ったりしてもおかしい仲じゃない……よな)
暫く自分の席で悶々としたのち、意を決して立ち上がる。
……だって、誰とも馴染めずに一人で食べているよりはそのほうがマシだろう。
マミさんが教室の中の自分の席に一人で居ることを確認すると、中に入って声をかけにいった。
マミさんは一人でランチセットを広げて食べようとしていた。
桐野「マミさん」
マミ「あら、どうしたの?」
桐野「一緒に食べようかと思って……隣座ってもいい?」
マミ「いいわよ。桐野君から誘ってくれるのって珍しいわね」
マミさんが受け入れてくれて、緊張していた気持ちが一気にホッとする。
勇気を出してみて良かったと思った。
桐野「……なんていうか、誘ってもいいのかなってさ」
マミ「私は大体暇してるから、来てくれたら歓迎するわよ?」
隣の席に腰掛けると、僕も鞄から弁当箱を取り出していく。
そのついでに作ってきたお菓子をマミさんに手渡す。
桐野「あと、これ……お菓子作ってきたから食べてほしいんだ。食後にでもどうぞ」
マミ「ありがとう。 どら焼き? この前もだけど、手作りなんてすごいわね」
……弁当を食べ進めながらマミさんの様子もうかがうが、マミさんのランチセットは華やかだ。
綺麗に四角く切られたサンドイッチが詰められている。 付け合わせの卵やサラダ、それにサンドイッチの中に至るまで色とりどりで美しい。
桐野「サンドイッチ? 前見た時も思ったけど、いつもマミさんの弁当美味しそうだよね。手作り?」
マミ「ええ、朝に少し早く起きて作ってるわ。桐野君のも豪華だけど、それはご家族が?」
桐野「これは母さんだけど、たまにおばあちゃんが作ってくれることもあるかな」
1料理上手なんだね、と話す
2自由安価
下2レス
マミさんは僕のことをほめてくれたけど、僕はマミさんのほうがすごいと思った。
僕は料理なんてほとんどやらないから。
桐野「マミさんは料理上手なんだね。オレは和菓子は作るけど、料理は小学校の修学旅行で作ったカレーくらいしか作れないよ」
マミ「小学校の修学旅行かぁ……なつかしいわね。和菓子に対しての情熱は伝わったし、料理も作れるなら十分立派だと思うわよ。何のカレーを作るの?」
桐野「箱の裏通りの普通のやつだよ」
それは、うちの家族がみんな、あまりアレンジを利かせた凝ったものよりも、
昔ながらの素朴なもののほうが好みだからというのもあった。
……少し早くに食べていたマミさんが先に食べ終わって、それから僕も食べ終わる。
その間に、『食後のデザート』を食べるマミさんの反応をドキドキしながら見ていた。
――喜んでくれたみたいだ。
桐野「……マミさん、あの、もしよかったらだけど…………」
マミ「何? いきなり改まって」
桐野「マミさんのこと、と――友達って言ってもいいかな? ていうか、友達になってほしいっていうか……」
焦って、どもって、何を言ってるかわからなくなる。
……本当に何を言ってるんだろう。これで引かれたらどうしよう?
さっそく言わなきゃよかったと後悔し始めた時、マミさんの笑い声が聞こえた。
桐野「えっ?」
マミ「……そんなの聞かなくていいわよ。面白いことを言うのね」
桐野「でも、『友達』っていうのは一緒に遊びにいったり、ずっと一緒にいたりするんだろ?」
そんなイメージがあるのも僕に友達がいないからなのか?
僕にとって『話せる人』は話せる人であって、『友達』とはちょっと違うものだと思ってた。
……勝手にそう思うのはずうずうしいような気がしてたんだ。――でも、考えてみたらそうやって壁を作ってたのは僕のほうだ。
マミ「じゃあ、桐野君が私のことを友達と思ってるなら、私も友達だと思うことにするわ」
マミ「あまり一緒に遊びに行ったり、ずっと一緒に居たりは出来ないと思うけど、このままでいいなら」
マミ「そんなにハードルを上げて考えてたら……私だって友達なんかいなくなっちゃうわ」
マミさんは少し寂しそうにそう言った。
桐野「マミさん……ありがとう!」
マミ「どういたしまして」
昼休みも終わりが近づいて、マミさんと別れる。
上機嫌だった。マミさんの言葉に励まされた気分だった。自分だけじゃないんだって。
――しかし、自分の教室に帰る途中、ふと立ち止まる。
ガラス張りの壁の奥に見えた教室の中で、キリカは友達に囲まれて楽しそうに話していた。
それを見ると、安心しながらも少し遠い存在になってしまったような気持ちになった。
――――小学校の修学旅行のことを思い出してみる。あの時は、キリカとはもう段々と話さなくなっていた頃だった。
いや、僕とはまだ話していたほうだった。
みんながわいわいと旅行を楽しむ中、その後ろから一人暗い表情でみんなのことを眺めていたキリカの姿をいやに覚えている。
前はよく話していた人たちなのに、大人びてきたから昔と変わったのだろうか?
今考えれば、あの頃キリカは元気がなかった。
……けど、今は馴染めているのなら。
桐野(早く戻らないと。 あの中に関わることはできないな……)
――……それと同時に、一昨日あの教会のある街外れで見かけた時のことも頭に思い浮かんだ。
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ここまで
明日午前おきてたらやります。昼まで寝てたら日曜夕方から。
放課後
午後の授業も終えて放課後になると、教室内は雑談にざわめき出す。
そんな中、僕は鞄を取って立ち上がった。
1街外れの教会に寄ってみる
2帰宅
3自由安価
下2レス
廊下に出て階段側に向っていく。
すると、その途中でキリカの姿が目に入った。……ちょうど友達と別れたところみたいだった。
桐野「――――あ、えーと……」
でもどう話しかけていいかわからなくて言葉に詰まった。
……作ってきたお菓子はマミさんに渡しちゃったし、話しかける材料がないことに気づく。
キリカ「……ン??」
すると、相手も少しだけ足を止めてくれたが、困惑したようにこっちを見た。
……もうキリカも帰るところだろうか。
1もう帰るところ?
2今度お菓子渡すよ
3自由安価
下2レス
桐野「……もう帰るところ?」
キリカ「……そうだよ」
一言話してみても、すぐに返事が返ってきて会話が終わってしまう。
この空気が気まずかった。
桐野「お、お菓子……今度作るから」
キリカ「あー、うん。ありがとう」
桐野「明日! ……お昼に渡すから、廊下で待ってて」
キリカ「え、別にそんなに気にしなくてもいいよ」
僕は言ったからには約束した気になっていたけど、キリカには社交辞令の一種だと思われていたのだろうか。
……考えすぎていただけ。そういう空回りは今までにもあった。それとも僕の話し方が悪いのか。
帰り道のほうに目を移して、そろそろ歩き出そうとする。帰るなら道はほとんど同じだ。
桐野「……今日はまっすぐ家に帰るの?」
キリカ「ちょっと用事があるから別のほう行くよ」
キリカは少し言いにくそうに目を逸らした。
また心配されると思ったんだろう。それを突っぱねるように、面倒くさそうに言った。
キリカ「……別に危なくなんかないよ。キミに関係ないじゃん」
桐野「そ、そうだけど…… そうだ。この前君が行ったところ、近くに古い教会があったんだ」
桐野「不良がたむろしてるって困ってて……キリカは知ってた?」
キリカ「またあっちに行ったの? 探し回らないでって言ったのに」
桐野「ごめん。でも……不良のことを除けば、悪いところじゃないよ。空気もきれいだし、少し寄り道したくなる気持ちはわかる気がする」
1教会に向かう
2自由安価
下2レス
……キリカは訝しむようにこっちを見ていた。
キリカ「……そう?」
桐野「うん、そう思うけどな……」
キリカはそうは思わなかったのだろうか。
途中でキリカはこの前とは違う方向に歩いて行った。
それから僕もどうしようか少し考える。このまま帰るか、また寄り道していこうか。
……昨日の子はまた居るだろうか。
桐野「……よし」
一旦家に帰っておやつを作っていくことにする。
ついでに、絵を描く道具も持っていくことにした。
作るお菓子
・自由安価
下2レス
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コンペイトウ調べたんですけど、完成までにえらい時間かかる(数日~2週間)上にでっかい窯とかないと家庭で作れないっぽいです
すみませんが安価下で
――――
――――
…………今日も街外れの教会に行ってみると、またいくらかゴミが落ちていた。
でも、昨日よりはマシだ。
それらを拾い集めて袋に入れてから芝生の上に腰掛ける。
――何もない景色を遠くまで見渡していると、昨日の女の子もそこにやってきた。
杏子「……アンタ、こんな何もないとこに本当にまた来てたんだな」
桐野「こんなに自然が見られる場所って少ないし、ここは綺麗だから」
杏子「都会育ちか」
桐野「そうですね。あんまり見滝原の周りから出たことないし……」
それから杏子は、鞄の隣に置いた袋を見やる。
杏子「ゴミ、拾ってくれてたんだ」
桐野「綺麗な場所だから、僕もここが汚れるのは嫌だと思って……」
絵のセットを出して準備する。
そろそろ絵のコンクールも迫ってきているところだ。こういう場所があれば、描くにはちょうどいいとも思っていた。
桐野「……ここ、スケッチしててもいいかな?」
杏子「絵を描くのか。まあ、好きにしたら?」
桐野「ありがとう」
お礼の代わりに一つおやつを差し出してみる。
家にあったりんごをそのまま持ってきてもよかったけど、ひと手間加えることでりんご飴にして持ってきていた。
こうすることで、生とは違う表面だけ焼いたパリパリの食感や甘い味を楽しめる。
杏子「りんご飴? ……いいものくれるじゃん。お礼といっちゃなんだけどこれやるよ」
桐野「あ、ああ、ありがとう」
……代わりにパーカーのポケットから出てきたお菓子を受け取った。駄菓子屋に売ってるチョコレートのようだ。
来ないなら来ないで一人でおやつにしようと思ってたけど、一緒に食べられるのもそれはそれで良い気持ちになった。
1それどうかな、手作りなんだけど
2不良のことはどうしようか
3自由安価
下2レス
桐野「それどうかな、手作りなんだけど……」
杏子「手作り? アンタの家ってお祭り屋だったのか」
桐野「りんごと水と砂糖さえあれば意外と簡単に作れるよ。ていうか、お祭り屋……?」
杏子「祭りの食い物とか大体高いもんな。でも行くたびに憧れだったよ、りんご飴」
杏子「自分でも作れるんだな。あたしはやらないけどさ」
回して眺めるようにしてから豪快にかぶりついて食べていた。
赤い髪や瞳と合わさって、彼女が持っているとなんとなく雰囲気が似合って見える。
杏子「……絵うまいじゃん」
桐野「一応、画家になるのが夢だから。小さいころから景色とか描くの好きだったんだ。……今度、杏子さんのことも描こうか?」
杏子「あたしはやめとくよ。モデルなんて出来るような格好でもねえ」
1不良のことはどうしようか
2自由安価
下2レス
桐野「……そうかな。杏子さん、容姿は悪くないと思うけどな」
杏子「そ、そういう意味じゃねえよ! ……アンタ、意外とそういうこと平気で言うんだな」
杏子「じゃなくて、こんなボロ着た奴描いたってさ、つまんないだろ。あと単にそういうの好きじゃない」
桐野「……そっか」
僕としては率直な感想のつもりだった。芸術家の卵として、一応美的センスはあるはずだから。
……なんて、自分のことを差し置いて人を測るものじゃないな。
桐野「不良のことはどうしようか」
杏子「とりあえず、鉢合わせた時にどうにかするしかないな」
桐野「なにか暴力以外の方法で解決したいんだ。あ、でも、もちろん……危険なことになったら僕が戦うから!」
杏子「は? カッコつけてるつもりかそれ。アンタみたいのに守ってもらうほどか弱くねぇよ」
少しヘコんだ。……やっぱキツいなぁと思った。
性格的にも肉体的にも、僕がもっと頼れる人だったら違ったんだろうか。
桐野「でも、大分雰囲気は明るくなったし、不良も寄りつかなくなるんじゃないかな……?」
杏子「そうだといいけどねぇ。ま、ゴミを捨てにくる奴とかは少なくなったかもな」
桐野「いっそのこと、ゴミ箱を設置したらどうだろう? 捨てる場所があるならその辺には捨てなくなるかもしれない。管理がされてるって証にもなる」
桐野「とりあえず、市や警察に連絡してみるのはどうだろう?」
杏子「いや……それはどうだろうな」
杏子「そもそもの原因はこの“廃墟”だ。まず一番いい解決方法は、街が動いてここを『撤去する』ことだろうよ」
桐野「あ…………」
そこまで考えていなかった。
彼女にとって大切な場所でも、街にとってはここはただの廃墟……犯罪や治安悪化の温床でしかない。
杏子「……けど、どうしてアンタがそこまでするのさ?」
桐野「さっきも言ったけど、ここは綺麗な場所だし、気に入ったから」
桐野「ここにいると落ち着くんです。今日は誰かと話したけど失敗したな……とか、一日のことを振り返ったりして」
杏子「あたしもいるけど」
桐野「あっ……杏子さんは別だよ? もともとここに縁のある人なんだし。 ただ……僕の家は大家族だし、あんまり一人で落ち着ける場所ってないから」
――そう話すと、杏子さんは少し複雑そうな顔をした。
杏子「……そうか。そういうこともあるんだな」
桐野「それに、絵ものびのびと描けますし」
杏子「ま、あたしがやるのはごめんだけど、こんな場所でよければ好きにモデルにしてやってくれ」
桐野「……ありがとう」
お言葉に甘えてスケッチを続けていく。
…………それから、日が傾く前に今日はいったんやめにして帰ろうとする。
暗くなったら景色が変わってしまう。それに、僕たちだって危ない。
桐野「今日はこのくらいにしようかな……」
杏子「完成したら見させてよ」
桐野「……うん、もちろんです」
約束をして、今日はこの場を後にした。
僕も誰かに見てもらえたら嬉しい。彼女は言葉がキツいから、もしかしたらボロクソ言われるかもしれないけど……
それでも自分の作ったものが誰かの目に留まることは嬉しかった。
――……帰り道を歩いているうちに少しずつ暗くなってくる。
考えるのはこれからのことだった。そろそろ絵具も少なくなってきたから買い出しに行かないと続きが描けないな、とか。
しかし、街を歩く途中、僕はとんでもないものを見た。
----------------------
ここまで
次回は3日(日)18時くらいからの予定です
ほむらはともかくマミにそんな設定あったっけ?
あと織莉子は?正直キリカのほうが外見も内面もいいと思うけどww
僕がさっき絵に描いていたような自然とは正反対の、“創られた景色”――。
もう教会や街外れからも出て、自分の知る場所に出たはずだった。
それなのに、目の前に広がるのは、辺り一面に筆が走らされたような想像を超える世界だ。
僕が考えるどんな景色よりも衝撃的な――――その“作品”の中に僕は居る。
桐野(……誰か居る?)
……その奥に目を凝らした。
あっちに行ったら何がある?
しかし。その次の瞬間に、僕の意識は現実に引き戻された。
周りを見ればそんな非現実的な“景色”などはやはり存在しなかった。
…………僕は、空想にでも取りつかれていたのかもしれない。
けれど、さっき見た『誰か』の姿は確かにそこにあった。
あの時は一瞬すぎてわからなかったけど、今はその輪郭がはっきりとわかる。
景色は何事もなかったように戻ったけど、さっきまではいなかったはずのその存在と姿が非現実の痕跡としてこの場に残っていた。
――……キリカから聞いた言葉が頭の中に浮かぶ。彼女に起きたのと同じ現象。
桐野(空間が歪む呪い……?)
その背後に、どこからかもう一つ『誰か』の影が立った。
桐野(……危ない!)
1踏み出す
2逃げる
下2レス
――――『誰か』は何かを呟く。
そして、大きく鋭い何かを振りかぶるために腕を突き出した。
その人物の顔がわかったのは、それが僕の身体に当たる瞬間だった。
桐野「……っ……――! う、ぐ…………」
僕は咄嗟に踏み出していた。
痛みに声も出ず、その次に喉から引き攣った唸りが出た。
……今までで一番大怪我したのっていつだっけ? 思えば今までスポーツだって碌にしてこなかったもんなあ。
斬りつけられた腕から血がごぽごぽと噴き出していて、見るだけで背筋が凍る思いをした。
僕が突き飛ばしたその姿は、驚いた顔をしてこっちを見ている。状況はわからない。
とりあえず、この人と自分が安全にこの場から逃れること。
僕が『生き残るため』に取る行動は、もがいてでも逃げることしかない。
…………たとえ、その相手が自分の良く知る――知っていたはずの人だったとしても。
桐野「逃、げ……――――」
「……――こっちよ!」
傷ついてないほうの肩で肩を貸してもらって、その場から精一杯に走り去る。
追ってきていないことを確認すると、二人でその場に座り込んだ。
――――『誰か』は何かを呟く。
そして、大きく鋭い何かを振りかぶるために腕を突き出した。
その人物の顔がわかったのは、それが僕の身体に当たる瞬間だった。
桐野「……っ……――! う、ぐ…………」
僕は咄嗟に踏み出していた。痛みに声も出ず、その次に喉から引き攣った唸りが出た。
……今までで一番大怪我したのっていつだっけ? 思えば今までスポーツだって碌にしてこなかったもんなあ。
斬りつけられた腕から血がごぽごぽと噴き出していて、見るだけで背筋が凍る思いをした。
僕が突き飛ばしたその姿は、驚いた顔をしてこっちを見ている。状況はわからない。
とりあえず、この人と自分が安全にこの場から逃れること。
僕が『生き残るため』に取る行動は、もがいてでも逃げることしかない。
…………たとえ、その相手が自分の良く知る――知っていたはずの人だったとしても。
桐野「逃、げ……――――」
「……――こっちよ!」
傷ついてないほうの肩で肩を貸してもらって、その場から精一杯に走り去る。
追ってきていないことを確認すると、二人でその場に座り込んだ。
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改行エラーで駄目って出たと思った内容が書きこめている…?
二重投稿になってしまってすみません
「……ひとまず止血はしておいたわ。これで大丈夫」
桐野「あ、ありがとうございます……」
「こちらこそ危ないところを助けていただいて……貴方が来てくれなかったらどうなっていたかわかりませんもの」
「病院にも行ったほうがいいわね。連絡しましょうか?」
桐野「ま、待ってください」
携帯を取り出した彼女の手を止める。
桐野「あの……さっきの人、知ってる人なんです。出来れば、警察沙汰にはしたくないっていうか」
桐野「あ、知り合いが……なんであんなことをしたのかはわからないけど、迷惑をかけてしまって……」
あの景色も、『空間の歪む呪い』についてもさっぱり事情はわからなかった。
いつのまにかさっき見た衣装も違うものになっているが、今はっきりしているのは一つ。
『あのキリカが武器を持って人を傷つけた』ことだった。
「それなら、気にしないで。彼女にもなにか事情があったのかもしれないわ」
桐野「でも、いいんですか!? あんなことされそうになったのに許してくれるなんて……」
「私はなにもされていないわ。貴方が代わりに庇ってくれたから。……被害者の貴方がいいと言うのに、私が何をできるの?」
そう言われると何も言えなくなってしまった。
僕は半分パニックになりかけているというのに、彼女の物腰は至って冷静で柔らかかった。でも……なんて出来た人だろう。
――止血してもらった腕を見る。巻いてもらったハンカチは高価そうなものだった。
「でも、貴方は本当に大丈夫?」
桐野「あ…………はい。大丈夫です」
沈んだ表情を見られてしまった。
1お名前は?
2自由安価
下2レス
桐野「あの……お名前は? 連絡先教えてくれれば、このハンカチはクリーニングしてから返すか弁償するから!」
「私の名前は“美国織莉子”。……弁償なんていいわ。あげるつもりだったもの。貴方が無事だったというだけで十分」
桐野「そ、そんな……」
「私はただの通りすがりの魔法少女。――私の使命は人を救うことだものね」
そう言うと、彼女――美国さんは、まるで人形のように整った顔に静かな笑みを浮かべた。
肩を貸してもらった時は間近で見ていたけれど、あれだけ余裕のない時でも一目でわかるくらい、本当にそこらへんには居ないような造形をしていた。
それに、性格も立ち振る舞いも。多分僕らの住む世界の人間ではない。
ああいうのを高嶺の花というんだろうな。そんなことをぽつりと思った。
「貴方もまた、『結界』に巻き込まれないように……」
……彼女は意味深な言葉を残して去っていった。
桐野「……『魔法少女』?」
ただその響きが疑問で、あの人に似つかわしくないように思えた。
でもあの人がそれの当事者ならば、恐らくキリカも。
それより今しなければいけないことを思い出す。……そうだ、キリカにも会ってこないと。
――でも、もしまた彼女に襲われたらどうしよう?
桐野「っ………、」
手当てはしてもらったけど、腕はまだ痛む。
指先を動かそうとすると鋭い痛みが腕全体から肩のほうにまで走った気がした。
病院には行かない。……病院に行ったら、このままにするより早く治るんだろうか?
さっきの場所まで戻ってみる。――――しかし、そこにはもうキリカの姿はなくなっていた。
―――
暗くなった空の下、雑踏から離れた場所に靴の音が響く。
自分のほうへ影が近づくと、キリカは顔を上げる。それと同時に織莉子はその肩にそっと手を置いた。
織莉子「さっきの話だけど……仕切り直して勝負をしてもいいわよ」
キリカ「……なんで? もういいよ」
織莉子「それなら貴女は何故あんなことをしたの?」
キリカ「そうだね……ただの八つ当たりかな」
キリカ「意味なんてないよ。契約してから上手くいかなくて、気に入らなかっただけ。ごめんね」
織莉子「そう…………私は気にしてないのだけど、でもさっきの彼、致命傷にならなくてよかったじゃない」
織莉子「“私達と違って”、『身体』が傷ついただけで致命傷にになるのだものね」
キリカ「どういう意味……?」
織莉子はキリカの疑うような視線を軽く躱わし、もったいぶるように次の言葉を焦らす。
織莉子「私は少しも気にしてないのだけどねえ――――もしかしたら彼の利き手、もう以前のようには戻らないかもね」
キリカ「…………!」
織莉子「……ねえ? もう戦う気もないのなら、私の駒にならない?」
その言葉は『提案』のようで、有無を言わせなかった。
断ればすぐにでも戦いに発展する。――そんな気迫を漂わせていた。
織莉子「どうせ目的もないんでしょう。代わりに、貴女にも魔法少女の真実を教えてあげる」
――……織莉子は一人になってから呟く。
織莉子「……驚いた表情をしていたのは『知り合い』だったから、ね」
織莉子「もし彼が来なくても、避けられなかったことはないでしょう。いいえ、“私自身”が傷つかなければ避ける必要すら本来無い」
――――――
――――――
―3日目終了―
――昨日家に帰ると、家族にはやっぱりすごく心配された。
何があったのかと言われたが、少し遊んでいて怪我をしてしまったのだと言っておくことにして包帯を巻いておいた。
気を紛らわせるためにしたお菓子作りは失敗したかもしれない。
……作っている間に考えていたことはキリカのことだった。あれから結局見つけられなかったけど、今日は学校に来てくれるだろうか。
けれど。……やっぱり彼女のことを思うと、複雑な気持ちになった。
マミ「桐野君、おはよう」
桐野「……ああ、おはよう」
――朝の登校時間、学校に入ろうとしたところで声をかけられて振り返った。
考え事をしていたから反応が少し遅れてしまった。
桐野「珍しいね、朝会うなんて……」
マミ「そうかしら? それより、その怪我はどうしたの?」
桐野「これは……ちょっと昨日外で遊んでたら怪我しちゃって。普段インドアなのに、慣れないことするもんじゃないね」
家族にもした嘘をついて笑っておいた。すると、マミさんも心配してくれた。
マミ「……桐野君って意外とヤンチャな一面があるのね? お大事に」
桐野「うん、ありがとう……」
マミ「今日は少し渡したいものがあって。今でもいいのだけど、お昼のほうがゆっくりできるかしらね」
桐野「お昼? 昼は…………」
マミ「駄目かしら? ……まあ、ちょっとしたものよ。この前のお礼にと思ってマドレーヌを焼いてきたから、一緒にどうかと思って」
桐野「あ、ありがとう」
……さらっと言うけど、マミさんってお菓子作りも出来たんだ。
それなら作ってきたお菓子、交換でマミさんに渡しちゃおうかな。お礼にもなるし。
でも、今日のは失敗してるんだっけ……?
1マミさんと昼一緒にする
2昼の予定は空けて今もらっておく
3ひっそりと自分で処理
4自由安価
下2レス
1
安価下
2
……いや、マミさんに失敗したお菓子を渡すわけにはいかない。
桐野「ごめん、昼は少し用事があるから。今もらってもいいかな?」
マミ「ええ。はい、どうぞ」
桐野「……ありがとう。またオレもお菓子作ってくるから、よければ交換しよう」
マミ「いいわね。じゃあ、私はこっちだから。今日も授業頑張って」
桐野「うん……そっちもね」
お菓子をもらって、マミさんと廊下で別れる。
自分の席に戻ってからはずっと一人でぼーっとしていた。
――――
――――
――昼休みが始まってから廊下を回りながら待ってたけど、キリカは来なかった。
元々昨日話した時も遠慮されてたし、迷惑に思われてたのかな。
桐野「…………こないか」
ていうか、キリカがもしもここに来たら……これを渡すんだろうか。
キリカには失敗したお菓子でもいいってこと? でも、それしか話すきっかけがないじゃないか。
それとも、一言目から昨日のことを問い詰める――――本当はそうしてもいいくらいの事態にはなっている。
…………このままだと弁当を食べないまま昼が終わってしまう。
1マミの教室に行く
2このまま待ち続ける
3自由安価
下2レス
1
桐野「……食べるか」
大分遅くなったけど、やっぱりマミさんの教室に向かった。
僕が行く頃には、マミさんはもう昼食を食べ終わってノートを広げていた。……次の授業のだろうか。
マミ「……あら、桐野君用事が終わったの?」
桐野「ええっと……隣いいかな?」
マミ「どうぞ」
マミさんの隣に腰掛けて弁当を開ける。
マミ「お昼もまだだったのね?」
桐野「ああ、うん…………」
……僕にはもう、嘘を言うのもこれくらいが精一杯だった。
1マミさんは勉強?
2自由安価
下2レス
マミ「元気がないの、もしかしてその傷のことと関係あるの?」
桐野「そりゃ…………怪我したんだからヘコむよ。利き手使えないとペンも持てないんだから」
マミ「それはそうね……傷、結構重いの?」
それは紛れもなく本音だった。けど、あの事で嘘以外になにを言えばいい?
『久しぶりに会った幼馴染が武器で人を襲おうとしてて庇ったら腕を斬られた』……多少わけのわからないことがあれど、それが全容だ。
そんなことは誰にも言いたくない。まだ大事にはしたくなかった。
なら黙ってるしかないのか? ……元々話すことなんて苦手だ。
――昨日のことを一人で考えていると、マミさんが横から手を伸ばしてきていることに気づく。
桐野「!」
咄嗟に振り払ってしまった。その拍子に食べかけの弁当が床に散らかる。
マミ「ご、ごめんなさい! そういうつもりじゃなかったんだけど」
桐野「わ、悪いけど、触れないでくれない……かな。まだ傷が痛むんだ」
マミ「そうね……」
桐野「……ごちそうさま」
散らかった弁当を片づけると、マミさんの教室から出て行く。もう授業が始まってしまう。
去り際、マミさんが心配そうに声をかけた。
マミ「……怪我、早く良くなるといいわね」
放課後になると、何をしたらいいかもわからないまま廊下を通って学校を出ようとしていた。
あの場所に行ったって、絵も当分は描けない。
自分の部屋に戻っても『今は出来ないこと』があって悲しくなるだけだ。
1街外れの教会に行く
2帰宅
3自由安価
下2レス
3マミさんと一緒に帰る
マミさんと別れたら教会に行く
……校門までの道で偶然マミさんの姿を見かける。
桐野「あ、マミさん……」
マミ「桐野君、お疲れ様。また明日ね」
桐野「あの、もしよかったら帰り一緒に――」
マミ「ごめんなさい、用事があるから。そっちからは帰れないわ」
声をかけてみたが、マミさんはきっぱりと返事をして早足で去っていく。
……友達云々の話をした時も『このままでいいなら』って言ってたっけ。
マミさんは学校では話してくれるけど、驚くほどプライベートには踏み込ませてはくれない気がする。
――結局、町外れの教会のあるところに行って、ぼんやりと一人で座っていた。
……今日は反省することだらけだ。
桐野(…………今日は杏子さん来ないのかな)
ここに来てからかなりの時間が経っている気がしたが、今日は姿を見せる気配がなかった。
なにをするでもなく一人で居ることにするが、遅くなってからは危ない。
……けど、最近はいろんな人と話していたから、たまにはこんな過ごし方も悪くない気がしていた。
―4日目終了―
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ここまで
前スレ書きこんでくれてる人いますが、今回は展開安価とか募集してないです…残り3レスで何か書けるかなぁ
次回は4日(月)20時くらいからの予定です
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ああ見えてガード堅いのでマミを恋愛攻略するのは至難の技だと思います。
せめて主人公がガッツリ事情に入らないと「ただの学校の知り合い」を脱せません。個別ルート確定するとしたらかなり先でしょうか。
あと前回キリカ攻略済みといっても今回は何一つ受け継がれてないです。前にも書いたように一番手遅れになりやすいのがキリカです…(多分もう手遅れ)
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大分遅くなってしまいすみません…今日は少ししか時間取れなそうなのでまた明日とさせていただきます。
次回は5日(火)20時くらいからの予定です
次の日も学校では相変わらず上の空だった。ノートも取れないし、プリントの問題も書けない。
――ペンが転がる音が響く。
思い立って左手でなんとかやってみようとしたが、やっぱりまだ上手くいかなかった。それが更に悲しくなった。
先生はやらなくていいと言ってくれているけど、そういう問題じゃなかった。
今諦めるわけにはいかない。練習すればきっと……
桐野(『描けない』ってわけじゃないもんな。世の中には、手が使えなくなったってめげずに足や口で絵を描く画家だっているんだ……)
……でも、右腕が使えなくなったことは変わらない。
桐野(――いや、右腕だって治らないって決まったわけじゃないんだ)
チャイムが鳴ると、机の上に出していたものを中に押し込んだ。
……結局今日もなにひとつできていなかった。
誰かの教室に行く/廊下に出る/他
・自由安価
下2レス
何の授業も頭に入らず、何もできないならここに居る意味があるんだろうか。
驚くほど普段通りの、馴染めない教室で。
――――特にやりたいことがあるわけでもなく、宛てもなく教室を出た。
やることを考えはじめたのは廊下に出て色んな人やものが目に入ってからだ。
休憩時間の雑然とした廊下。キリカはきっとここには来ないだろう。昨日の約束も、本人は約束したと思っていないかもしれない。
しかし、この前彼女を見た教室にも今は姿はなかった。
……いよいよ目的を失って足を止める。
1自分の教室に戻る
2早退する
3別の場所で食べる
4自由安価
下2レス
4 居ないなら仕方ない昼休みはマミさんと一諸に食べる
ただ一度、一度話をしたかった。
何故あんなことをしたのか。……自分のしたことをどう思っているのか。
桐野(…………もし会ったら、責めてしまうかな)
腕の包帯をじっと見る。まだ傷口は痛んだままだった。
――――
――――
桐野「………………」
結局教室に留まる気も起きなくて、荷物だけ取りに行くと今日もマミさんの教室を訪ねた。
……『友達』だからって思ったけど、友達ってこういうものだっけ?
会話がなく、マミさんは少し居心地悪そうにこっちを見ている。楽しく会話する気分じゃないんだよなぁ。
ただ、その嫌な気持ちをマミさんにまで移してしまっていないか。それが心配だった。
マミ「あの……大丈夫?」
桐野「……うん。あ、昨日のマドレーヌ、美味しかったよ」
マミ「それならよかったわ」
放課後、杏子さんが来たら渡してもいいかと思ってたけど、最後まで来なかったので一人で食べていた。
美味しかったのは本当だった。
でも、『大丈夫?』なんて聞かれたら大丈夫としか答えられない。
――昼休みが終わる少し前に教室を出ると、また少し廊下を歩く。
帰りがけに再びキリカの教室を覗いてみる。大体自分のクラスに戻っている生徒も多い中、まだキリカは教室にはいなかった。
1自分の教室に戻る
2早退して家に帰る
3早退してどこかに行く
下2レス
今、荷物は手に持っている。
……ふと、それなら僕も抜け出してもいいんじゃないかなって気になった。
学校を出ると、家に帰る時とは違う方向に歩いて行った。
どこに行くか
1町外れの教会
2繁華街
3自由安価
下2レス
桐野(……この時間だとさすがにいつもより人が少ない)
駅前の繁華街を歩きながら周りの店の様子を見回してみる。
学校を抜け出してこの時間にこんなとこに居るのがバレたら立派に不良生徒だ。
内心では誰かにバレるのをビクビクしていた。……警察の人に捕まったらまずい。
でもこの怪我があるから、遊びに来たとは思われないかも。
この近くには病院もあるし……
――別に、本当に遊びに来たわけでもなかった。
そこまでの勇気があるわけでもなかったし、そんなの僕にとってそれほど魅力にも思えなかった。
…………普段はこの時間に行けない繁華街の雰囲気だけを楽しんだところで、また違う通りのほうに出て行く。
すると、見たことのある人物とばったり会った。
こんな時間に。
桐野「……美国さん」
織莉子「ええ、ごきげんよう」
呼んでみると、彼女も挨拶を返してくれた。
……浮世離れした雰囲気は相変わらずなのに、この人には似つかわしくない場所に思えた。
どうしてこんなところにいるんだろう。まさか美国さんも学校を抜け出したのか――?
織莉子「ふふ……」
そんなことを考えていると、美国さんが口に手を当てて小さく笑った。
織莉子「別に学校をサボって出てきた、なんてやましい理由でここにいるわけではないのよ?」
桐野「あっ、そ、そうですよね」
……まるで見透かされたみたいだ。
1もしかしてそっちの学校は休み…?
2自由安価
下2レス
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ここまで
次回は7日(木)20時くらいからの予定です
桐野「あれからどうですか……? あ、あの襲ってきた娘――、キリカは?」
織莉子「大丈夫よ、あれからは危ないことは何もないわ」
桐野「そ、そうか。よかった」
『よかった』……そう言いつつ、本心では僕はそれを純粋に喜びきれなかった。まだ気がかりなことがある。
それが顔にも出ていたのを見ていた彼女は僕に問いかけた。
織莉子「彼女のことが気になるの?」
桐野「この前から疑問に思う行動はあったんだ。今だって、どこで何をしてるのか……」
織莉子「……そう」
1もしかしてそっちの学校は休み…?
2自由安価
下2レス
彼女はまだこちらの様子をように、その薄い蒼色の瞳でまっすぐにこっちを見ていた。
……心配してくれているのだろうか。
桐野「……こんなこと、美国さんに言っても仕方ないね。僕もまだ探してみることにするよ」
織莉子「そうですか。お気をつけて」
桐野「はい……あ、美国さんは、もしかしてそっちの学校は休み……?」
織莉子「いいえ。ただ――」
美国さんは、遠くを眺めるように僕を見つめていた視線を移す。
織莉子「少しペットが体調を崩してしまいまして。それで今は必要になったものを揃えに来ているだけですわ」
桐野「ペットを心配して学校を休むなんて、優しいんですね。うちも最近猫を飼いはじめたところなんですけど……」
……それから、少しだけそんな曖昧な雑談を交わしてから美国さんとは別れた。
なんとなくで学校を抜け出してここまで来たけど、どうせやりたいこともないのならキリカのことを探しに行こうか。
目的を改めて再び街を歩き回る。
――――しかし、その姿を見つけることは出来なかった。最後に僕の近所にある彼女の家にも行ってみたけど、そこにも居なかった。
―――
織莉子「誰か来ていたの?」
織莉子はその場に足を踏み入れるとそう問いかけたが、それに対する返事は返されない。
織莉子「……そういえば、貴女がこの前斬りつけた人、貴女のことを探してたみたいよ」
鋭く息を飲む音が聞こえる。言葉にならない声しかその場には聞こえなかった。
織莉子が床に散乱した紙に目を移して拾い上げる。
かろうじて返ってきたのは悲鳴に近い言葉だった。
……その蒼とも碧ともとれる瞳は、酷く冷たい色をしていた。
――――
――――
―5日目終了―
桐野「そう……ですか」
*「うん、わざわざ来てくれたのにごめんね」
朝、学校に行く前にもキリカの家に寄ってみたのだが、まだ帰っていないとのことだった。
携帯への連絡もスルーされているらしい。もしくは届いていないのか……
一応、僕も連絡先は教えてもらったけれど。
桐野(まあ、通じない……だろうな)
僕がいつも通る通学路の交差点が見えてくる。
一人で学校に向かう道を歩き出す。
今朝は…
1このまま学校に向かう
2今日もどこかへ行ってみる
3自由安価
下2レス
――――……一応学校には行ったのだが、結局今日も昼になったら抜け出してきてしまった。
昨日と同じようにぶらぶらと街を歩く。……こうしていると、すっかり道を踏み外してしまったみたいだ。
まさかいつも何に対してもそこそこ真面目に地味に取り組んできた僕が。自分でもそう思う。
それでも今は、学校に居る気分じゃなかったんだ。
もちろん、姿を眩ましたキリカのことも見つけられたら、とも考えてはいるけど――。
今の自分の心境と照らし合わせて、ふと考える。
……キリカも道を踏み外してしまったのだろうか。
桐野(でも、だとしたらオレはそもそも、キリカがあんなことをしたからだ)
ふと責める気持ちも滲んだ。今の僕は、彼女と会ったとしたらどう接していいのかわからなかった。
――そんな考え事をしている時、小さな少女がどこかからこっちに向かって走ってきた。
「わっ!」
すぐ目の前、下のほうから驚いた声が上がる。
小さな身体がぶつかりそうになって、僕は足を止めた。なんとか二人とも無事に済んだみたいだ。
小さな少女は手に何か市販のお菓子を持っている。
「こら、気をつけろ。前見ないと危ないだろ」
奥から聞きなれた声がした。
……杏子さんだ。
桐野「……杏子さん?」
杏子「お? 奇遇だな。アンタも見かけによらずおサボりかよ」
桐野「それは……まあ……――」
僕は腕の包帯に目を移す。杏子さんもそれを見て何かを察したようだった。
杏子「……今用事がないなら、ちょっといつもの場所に寄ってかないかい?」
杏子「ちょうどいいお菓子もあることだしさ」
……杏子さんがそう言うと、小さな少女は手に持ったお菓子を誇らしげに見せた。
――――
――――
杏子「そうか……怪我とは災難だな。あたしもあの絵はそこそこ気に入ってたのに」
三人で街外れの教会の近くで芝生に腰掛けていた。
赤いパッケージの中の包装を開けて、お菓子を摘みながら話す。
杏子「人生ってのは何があるかわからないもんな。ふとそれまで描いていた未来が消えちまうことってのはあるもんさ」
杏子「……なんて、あたしみたいのが悟ったようなこと言いすぎたか?」
桐野「いや……ホントにそう思うよ」
怪我の理由はみんなについた嘘を言っておいた。
小さい少女――【ゆま】が心配そうにこっちを見ている。
桐野「ところでこの子は? 妹か何か?」
杏子「……みたいなもん、かな」
ゆま「ゆまはキョーコの『あいぼう』だよ!」
桐野「相棒?」
杏子「でも、ゆまが“そんなこと”する必要ないんだけどな……」
少し事情のつかめない話に、どう反応したものか困惑する。
……その時、杏子さんは僕の後ろのほうへ振り向いた。それを見て僕もその方向に振り向く。
見てみると、僕たちよりも年上の男の集団が大きな声で話しながらこっちに近づいてきていた。
髪を染め、ガタイも良く、いかにもガラの悪そうな風貌をしている。手には酒かジュースと思われる缶とつまみの入った袋を持っている。
その男たちは先に居た僕たちのことも気にしない様子でこの場に居座ると、煙草に火をつけ始めた。
杏子「あいつら……!」
杏子さんが立ち上がった。
杏子「やっと会えたな……なら話は早い」
このままじゃなにをしでかすかわからない。喧嘩でも売りかねない雰囲気だ。
苛立ちを露わにする杏子さんを制止して、その前に僕が前に出た。
……すると、やっと不良たちは話をやめてこっちを見た。
桐野「……ちょっと! それどうするつもりですか!」
*「……あ? なんだお前」
不良の一人がドスのきいた声で言う。そして、手に持っていた煙草を放り捨てて靴で踏みにじった。
桐野「ここに集まって楽しく話すこと自体は別にいいです……オレもこの場所は好きで来てるから」
桐野「でも、汚すのだけはやめてくれませんか? この場所を大切に思う人がいるから」
*「ぶはは! 何言ってんの、このガキ!」
*「女の前でカッコつけてるつもりかぁ? 片腕吊ってる怪我人クンが?」
不良たちが馬鹿にしたように騒がしく笑う。
……そして、集団の中のリーダー格らしき一人がこっちに近づくと試すように一発拳を振るった。
しかし、僕はそれよりも少し先に動き出していた。
*「ッ……こいつ!」
捨て身の体当たりが当たる。
確かに利き手の右腕は使えないが、その分もう僕には捨てるものもなかった。
最早どうなってもいい覚悟で暴れる。
桐野「その気持ちを分かろうともしない、そんな人たちがここに来る資格はない!」
――しかし、相手も油断してたのは最初だけ。
喧嘩の経験もなく身体も強いとはいえない僕がいくら足掻こうと、自分よりも体格の良い、しかもこの人数相手に敵うはずもなかった。
*「右腕だけじゃなく全身動けなくしてやるよ! 女の前で醜態さらしとけ!」
*「――ギャア!?」
その時、どこからか声が上がる。
杏子「もう下がってろ! ……ゆまのこと頼む!」
杏子さんがそう言った次の瞬間、僕の前に居た不良が横になぎ倒された。
……杏子さんは手慣れた動きと、圧倒的な力を持って不良の集団を次々に相手していく。
僕はよろめきながらその様子を見て、それから後ろにいるゆまちゃんのほうも見た。
ここは彼女に任せて下がるしかない。
すると、ゆまちゃんは僕の手を握る。
ゆま「……だいじょうぶだよ」
桐野「……え?」
ゆま「キョーコならだいじょうぶだから」
ゆまちゃんは言う。
確かに僕もこんな光景を見せられたらそう思うしかないが、ゆまちゃんは杏子さんのことを信じ切っているようだった。
桐野(――あれ?)
そして、違和感を感じたのはそれと同時だった。
桐野(傷が痛くない?)
杏子「――――ちゃんとゴミは拾って帰れよ。そのために落とさないように気を付けたんだからさ」
杏子「で、何を持ってきたんだ?」
……僕が目を離している隙にも、いつのまにか喧嘩は終わっていたようだった。
杏子さんが不良たちが持ってきた袋に入っていたお菓子を物色していく。
杏子「いいもの持ってるじゃん。もーらい。……あー、こっちはいらないな。ほら、これ自分たちで持って帰れ」
欲しいものだけ取ると残りを投げつける。
不良たちは最早悔しがるのを通り越して混乱状態だ。
*「く……クソぉ! どうなってんだよ……」
彼らはぼやきながらも自分の捨てた煙草の吸殻とその他のゴミを拾って、袋を持ってどこかへ逃げて行った。
混乱しているのは僕も同じだった。
喧嘩のこともそうだけど、傷のことが一番だった。
さっきの喧嘩の傷も、包帯を巻いた腕も……不思議なほどに痛みがなくなっていた。
痣と擦り傷は消え、腕が動く。
桐野「二人は…………一体?」
杏子「まったく、意外と無茶をするな……アンタは」
桐野「杏子さんに無茶をさせたくなかったから……杏子さんがあんなに強いって思ってなかったし」
杏子「……そうだな。まあでも、ああ言ってくれたのは嬉しかったよ。大人しい奴かと思ったら、こう見えて度胸あるんだな」
杏子「あたしは全然醜態なんて思ってない……ちょっと、かっこいいと思ったよ」
桐野「え……」
そんなこと言われたのがはじめてで少し声に出して聞き返すと、杏子さんがそっぽを向く。
……少し頬が赤くなっていた。
杏子「あー、今のナシ!」
桐野「はあ……」
そう言われたのは嬉しかったから、折角ならナシにしないでほしいな。
そんなことを思いながら、腕の包帯をほどいてみた。そこには傷一つない腕があった。動きも感覚も正常だ。
ゆま「……ゆまたち、『魔法少女』なんだよ! だから、『魔法』が使えるの!」
杏子「あ、おい、ゆま……。 まあ…………そうだな。あたしもあれだけ暴れちゃった後だしな」
杏子「でもそれは『ヒミツ』だろ? 人に知られちゃいけないんだ」
ゆま「はーい!」
二人が話す中、僕はその言葉に強い心当たりと衝撃を受けていた。
桐野「『魔法少女』って! ……織莉子さんと同じ!?」
僕がそう言うと、杏子さんは顔色を変える。
杏子「……“織莉子”だと?」
何か難しい、険しい表情をしているようだ。
桐野「美国さんのこと、何かあるの?」
杏子「ミクニ……ってのはそいつの苗字か? あたしらはな、少しそいつに“借り”があるんだ」
杏子「ゆまが魔法少女になったの、そいつのせいだからな」
桐野「え……?」
どうやら、悪い意味での借りがあるらしい。
……あの美国さんに?
桐野(勘違いやすれ違いの類だと思いたいけど……)
1キリカのことを知らないか?
2自由安価
下2レス
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ここまで
次回は9日(土)18時くらいからの予定です
桐野「……じゃあ、キリカのことは?」
杏子「誰だ? そいつも魔法少女か?」
そう聞かれると、それを肯定するのに少し躊躇った。
『魔法』とか、『魔法少女』とか、聞いたことはあっても何一つ理解してるわけじゃないし、心の底から信じたわけでもない。
……でも、これだけは確実だった。
桐野「君たちが言うのと同じものになら……多分。幼馴染だよ」
僕がわかるのはそれだけ。今の彼女のことなんてわからなかった。
桐野「…………あの腕の怪我、その人に斬られたんだ」
杏子「なんだと?」
桐野「それから会ってなくて。探してるんだけどさ……」
そう言うと、杏子さんはしばらくまた難しそうな顔をしていたが、それから僕に詰め寄った。
杏子「なあ、よければ『織莉子』のこと教えてくれないか? あたしたちはそのために見滝原に来たんだ」
桐野「えっ、そ、そんなにオレも知ってるわけじゃないよ。 美国織莉子って人で、えっと、怪我をしたオレに手当をしてくれて……」
僕は慌てて美国さんの情報を頭の中でかき集める。
しかしその途中でやっぱり僕の中ですっきりしない点があった。僕が話せることなんてそうないけど、このまま話したくはなかった。
桐野「……ていうか、その、『魔法少女』のこととかも、こっちもよく事情がわかってなくて」
杏子「そうか……もしかすれば会えるかもって思ったんだけどな」
桐野「呼び出すのは無理だ、そんな……連絡先とか聞けるほど親密な関係でもないし」
もらったハンカチが浮かぶ。……あの時も、僕が返すと言っても断られてしまった。
けど、わざわざ呼び出さなくても偶然会わないわけじゃない。制服もわかるから、本気で会いに行こうとすれば会えないことだって――
桐野「……杏子さんは、会ったらどうする気なんですか?」
杏子「さあな。……それこそアンタに話す世界のことじゃない」
杏子「恩を感じてるのはわかったよ。……でも、あんまりそいつのこと、信用しすぎないほうがいいかもしれないぞ」
杏子さんは忠告するように言った。
……杏子さんの言うような事情とは僕のことをきっぱりと遠ざけながら。
杏子「不良のことはありがとうな。おかげで当分は悩まされずに済みそうだよ」
桐野「いや、解決したのはオレの力じゃないよ……」
桐野「……でも本当は暴力なんかで解決する気じゃなかったのに。あの時はガムシャラだったから」
杏子「まあ、あいつら以外にもたまにゴミを捨てにくる奴はいるみたいだからな。こうやって綺麗になってれば、多少は汚されにくくもなるだろう」
あの不良たちが去ってから、この場所にはゴミ一つ落ちていなかった。
自然に囲まれた街外れには見晴らしの良い景色が広がっていた。……この絵をまた描くことが出来るんだ。
杏子「じゃ、あたしらはそろそろ行くよ。『織莉子』のことを他の奴にもあたってくる」
杏子「アンタの幼馴染のことも……一応何かわかったら伝えるよ」
桐野「うん、ありがとう」
……僕はすっかり治ってしまった腕を見下ろした。
今でも信じられない気持ちだった。怪我を負ったのも突然のこととはいえ、そんな上手い話があっていいのだろうか?
――――『都合の良いオカルトは嘘だと思え』。それは僕がずっと教えられて信じてきたことだ。
桐野「ゆまちゃんも……ありがとう。治してくれて」
ゆま「うん!」
ゆまちゃんはにこっと笑っておじぎをする。
……二人と別れてから、僕は一人でさっきの話を考えていた。
桐野(もしかして……オレは想像以上にヤバいことに関わってしまったんじゃないか?)
一目見てわかるような、さっきの不良たちなんかよりもずっと。
圧倒的な動きと力をもって、杏子さんは男たちを軽々と倒していった。
……怪我を一瞬で治すような奇跡を起こすのも魔法だけど、そんな怪我を一瞬で作るのも『魔法』なんだろう。
『私の使命は人を救うことだものね』――彼女の言った言葉は戦いの使命を意味するもの。ただし、その通りに受け取っていいかはわからなかった。
桐野(……キリカのことも探さないと)
だとしたらキリカだって。……いつからそんな世界に?
昨日から、家族も探しているみたいだった。
キリカはあの家の一人娘だ。おじさんもおばさんもさぞ心配していることだろう。
――――そんなことを考えながら再び街に探しに出たが、連絡があったのはその日の夜だった。
―6日目終了―
腕が治った翌日、早速僕は何事もなかったように包帯を外して、ペンを持って授業を受けていた。
もう昨日までの暗い気持ちはない。怪我が治ったのと一緒に吹き飛んでしまった。
元々周りには怪我の具合については話していなかった。
いきなり包帯を外して普段通りに動いていても、『ああもう治ったんだ、よかった』とかそのくらいにしか思われなかった。
桐野(――まあ、そのほうが好都合かな)
……もちろん魔法だなんて非現実的なものは信じたくはなかった。けど、僕が見てきたものも事実なのはわかっている。
僕はいまいち実感の沸かないままに、今この身や周りで起きていることを受け入れることにしていた。
午前の授業が終わるチャイムが鳴ると、ペンをしまい、授業で使う道具を片づける。
腕は治り、キリカは家に帰ってきた。
……ただ、一つまた気がかりはなことはあった。
1キリカのクラスに行く
2マミさんのクラスに行く
3自由安価
下2レス
キリカといえば……――――いちど家に帰ってきたということで連絡をくれて安心したのだが、それからまた家を出ていってしまったらしい。
鞄と制服だけ持って。……むしろ、それを取りに来たんじゃないかというくらいだ。
それはもう当分は家に帰る気がないという意思のようにも思えた。
桐野(少しクラスを覗きに行こうか)
そう決めて自分の席を立つ。
……しかしそこにたどり着く前に、廊下に出たところで彼女と鉢合わせた。
キリカ「――……あ、居た! 桐野――だったっけ?」
桐野「あ、あぁ、慌ててるみたいだけどどうしたの……?」
勢いよくこっちに向かって走ってきたキリカの姿を見て、僕は慌ててその場に立ち止まった。
キリカはあまり気にしていなさそうだ。
キリカ「んー? そーいえばお菓子もらえるって約束してたなぁ、って思って」
桐野「お菓子……? 今日は作ってきてないけど」
キリカ「なんだ」
その一言だけ言うと、興味なさそうに反対方向へ歩いていく。
桐野「ちょ、ちょっと待って」
キリカ「なに?」
……なんて聞くべきか、すぐに言葉が出てこなかった。でもまだ話さないといけない事ならいっぱいあるんだ。
ちゃんと向き合って話す場が欲しいくらいに。
桐野「あ、あの、少し落ち着いて話せないかな?」
……キリカはきょとんとしていた。
見滝原中学校 屋上
僕が話す場所を提案して屋上に行くと、着いた時には数人の先客が居た。
出来るだけその子たちから離れた場所を取ることにして話し始める。
キリカ「――……で、なんだい? 話したいことって」
キリカが屋上の柵に背を向けて凭れる。……少し面倒臭そうに、視線を外して外のほうを見ていた。
その態度を見ると、僕は心配してた気持ちも失せて苛立ちが募った。そりゃ、結果的にはもう治ったけど。なかったことにはできなかった。
桐野「…………あの時の、腕のこととかさ」
キリカ「ごめんなさい」
桐野「え……」
キリカ「あの時はごめんなさい。もうしないよ」
追及すると、キリカはあっさりと謝った。
外していた視線をこっちに向け直して、キリカが僕の腕に手を触れた。ちょうど斬りつけられた箇所だ。
……その感触に心臓がドクンと跳ねる。
心配して探してた時も、もし会ったらどうなるかと思うと怖くないわけじゃなかった。
だって、昔がどうであれキリカがやったことは事実だ。もしあれが当たったのが腕じゃなかったら、本当は僕を容易く殺せるくらいの力はある。
キリカ「でももう治ったんだね。だったら、そこまで引きずらなくてもいいじゃん」
桐野「……!」
その手を振り払う。……キリカはまだ僕のことをじっと見ている。
キリカが何を思ってるのかはわからない。けど、僕はこの時怒っていた。
1家に帰る気はないの?
2それで済むと思ってるのか?
3自由安価
下2レス
矛盾しているけどどう捌くんだろう?
>>236に変更したりするのかな?
桐野「……それで済むと思ってるのか?」
キリカ「じゃあどうすればいい? これ以上私にやれることないじゃん。だったら……」
キリカは身体の向きを変えると、柵に手をついて下を見下ろす。
……その時、ゴウッと一際強い風が吹いた。
キリカ「私がここから飛び降りれば許してくれる? 君は私のせいで夢を失いかけたんだもんねぇ……」
桐野「よ、よせってば!」
今度は僕がキリカの腕を掴んだ。
その発言と行動にあまりに迷いがなさすぎて怖くなった。……止めなければ本当にやってしまうんじゃないかと思った。
キリカ「だって、謝るくらいじゃ釣り合わないんでしょ?」
桐野「だからって、誰がそんなことしろって言ったんだよ!」
キリカ「そう? じゃあやめる」
しかし、僕が止めるとキリカはあっさりと下がった。
……もしかしてからかわれてるのか?
桐野「……オレを斬りつけたことはもう許すよ。だから君も真実を、『理由』を話してほしい」
キリカ「…………」
怒ってはいた。……けど、だからといって死なれたら困る。
――そういう問題じゃない。心の中に不信感を抱えつつも、不本意ながらそう言うしかなかった。
桐野「君は……魔法少女、なんだよね」
キリカ「やっぱりそこまで知ってたんだ」
桐野「あんなことをした理由は?」
キリカ「なんでそんなこと話さなきゃいけないの? 君には関係ないって言ったよね」
桐野「……関係なくなんかない。オレはあの場に居たんだ」
キリカ「またその話。話ループするのっておじいちゃんみたいだよ?」
……キリカはまた面倒臭そうに柵に腰掛けていた。
そんな様子を見ると、今度は苛立ちよりも失望のほうが先立った。
桐野「心配……してたんだよ、オレは。 お願いだから聞かせてよ…今のキリカの身に何が起こっているのか……」
桐野「じゃないとオレは君のことが本当に嫌いになってしまう」
キリカ「君には関係ない」
キリカはきっぱりと言い放つ。
桐野「……家には帰らないの? 帰らないならどこに居るんだ?」
キリカ「帰る予定はないね。でも、どこに居たって私の勝手でしょ」
そして、彼女はそう言うと屋上から一人去ろうとしていた。
……僕も一人でここに残る理由はない。追うように踏み出すと、キリカが振り返って一言言った。
キリカ「あ、結局お菓子はくれないの?」
呼びかけてやる言葉もない。
この状況を、僕はなんてキリカの家族に説明すればいいんだろう。
呼びかけてやる言葉もない、が…
1別れる
2発言安価(一言程度)
下2レス
桐野「……じゃあこれをあげるよ。だから、話す気がないなら頼みぐらいは聞いてよ。放課後は――」
鞄を漁って、昨日杏子さんが倒した不良から奪ったお菓子の一つ見つけた。
今渡せるのはこのくらいだ。離れようとするキリカをせめてつなぎとめておけるもの。
しかし、キリカは僕が言い終わる前に不敵に笑う。
キリカ「放課後は忙しいんだ。そのやっすい菓子の対価――いや、この前負わせた怪我の対価と考えても返事は『死んだほうがマシ』、かな」
キリカ「君にもそのお菓子にもそんなに価値はないよ」
桐野「……そうか。なら勝手にしてくれ」
持ってたお菓子を投げつける。もともとこんなの僕のものじゃない。
すると、キリカはそれを拾って去って行った。
――僕は失望と悔しさで暫く動けなかった。
すると、すれ違いざまに誰かの声が聞こえた。僕に向けたものなのだろうか。その確証はない。僕の知らない人で、心当たりもないんだから。
俯いていた視界に風になびく黒い髪が入る。
「……ごめんなさい」
屋上の隅のほうに居た中の一人だ。……けれど、前にも廊下で見かけた気はする。
その淡々とした声がどこかさっきのキリカの言葉と被る。
……僕は何を言うこともできずにその後ろ姿を眺めていた。
――――
――――
――――昼休みが終わって午後の授業が始まると、そこからは驚くほどあっけなく時間は経つ。
今日は順調なつもりだったけど、あれからどこかぼんやりと考えてしまって上手くいかなかった。
1マミさんのクラスに行く
2キリカのクラスに行く
3街外れの教会に行く
4自由安価
下2レス
廊下からキリカのクラスを覗いてみる。
その扉の外のほうには、前見た時と同じようにクラスの女子たちと笑い合うキリカの姿があった。
――眺めていると、途中でキリカもこっちに気づいて目が合った。
しかし、キリカは気にしていない様子で話を続けてまた視線を戻す。
桐野(気まずいな……)
『放課後は忙しい』……何をしに行く気なんだ?
やがてキリカは友人たちと別れて廊下を歩く。
僕はその後をついていった。
-------------------------
ここまで
次回は10日(日)午前か夕方
キリカは街に出ると、行き当たりばったりに途中でふと方向転換もしながら歩いていた。
どこか目当ての場所があるようではなさそうだ。
桐野(あの時も、教会のことなんて知らなくて、ただ単に変な場所を探して回っていただけなのか……?)
だとしたら何のために。……『戦う』ため?
そう思った矢先に、キリカはどこか薄暗い廃屋の前で足を止める。
僕は気づかれないように近くの物陰に隠れて様子を窺った。
……キリカは建物の裏に回り込むように踏み出していく。しかし、それからしばらく出てこなかった。その場から姿を消してしまったようだ。
見失ってしまったのだろうか? もしかして気づかれて逃げられたとか。
でもこういうこと、前にもあったような……。
そっと建物の裏を覗こうとすると、僕は思わず目を見張って息を飲んだ。
――――キリカはその手を血に染めて出てきた。
魔法少女にとっての戦いというのがどんなものかはわからない。でも、それを見れば何をしたかは最悪の想像すら出来てしまった。
桐野「…………!」
声を出さないように口に手を当てる。
あの時と『同じこと』を……しかし、まさかとは思うが――。
軽く辺りを見回して、僕は気づかれないように固まった足を動かす。
桐野(バレてない……よな)
見えなくなるまでゆっくりと離れていく。
……もうその場に居られなかった。
――――
――――
――……キリカから逃げると、僕は街外れの教会に来ていた。
なんだかんだでここが一番落ち着けるし、『魔法少女』のことだってあの二人に聞けばまだ安心できる。
桐野(…………あ、でもどうせなら絵の道具も持ってくればよかったな)
景色を眺めながらぽぼんやりと考えていると、芝生を踏みしめる音が近づいてくる。
杏子「よう。また一人で黄昏かい? せっかく腕も治ったってのに顔色が悪いね」
何も返事を返さないでいると、杏子さんとゆまちゃんが僕の隣に腰掛けた。
そして、僕が今一番気にしていることを言う。
杏子「幼馴染は見つかったか?」
桐野「……君たちにとっての戦いってなんなんだ? 人を傷つけること? 人を助けること?」
桐野「オレには何もわからないけど、傷つけるのが正しい使い方とは絶対に思えないんだ」
杏子「“人を襲うカイブツ”をやっつけて人を助けるのさ」
話していいのか、杏子さんは少し迷うようにしながらも僕にそう言った。
しかし、その後にまだ言葉は続く。
杏子「……ってのが表向きだけど、実際のところはそんなもんじゃないね。魔法を使うため、その力で望みを叶えるため……色々あるだろう」
その言葉の意味を考える。……しかし、考えるほどにわからなくなった。
ゆま「ゆまはキョーコをたすけるため!」
杏子さんの隣で、ゆまちゃんは胸を張る。杏子さんも少し照れながらもまんざらではなさそうだった。この二人を見ているとどこか安心する。
けれど、二人はいつ、どうして知り合ったのだろうか?
最初は妹かとも思ったけど、ゆまちゃんの様子を見ているとやっぱりどこか違う気がした。
1その子とは何があったか
2そっちはどうですか?
3自由安価
下2レス
桐野「……そっちはどうですか?」
杏子「美国織莉子のことならまだ進展はなしだ。昔の仲間に聞いてもわからなかったしな」
桐野「そうですか……」
杏子「でもまあ、一応調べてくるって話だったよ。それから……――お前の幼馴染の事だけどな」
杏子さんが少し言いにくそうに言葉を溜める。
その様子からも、キリカの事という事からも、何か悪いことを言われるのは覚悟していた。
杏子「……この街で魔法少女と一般人が死んだ。他にもまた最近増えた新人を中心に殺された奴がいるらしい。『魔法少女狩り』とかなんとか噂になってる」
杏子「ソイツ、ろくでもないことしてるってことは覚悟しといたほうがいいよ」
桐野「…………知ってる」
この前から見てきた行動や今日の言動とすべてが繋がる。けど、そんなのとっくに予想がついていたことだった。
キリカが魔法少女たちを襲って回っているかもしれないということを……。
だからやるせなかったんだ。――どうしてって。
あの場所でキリカに斬りつけられた時、キリカがどんな顔をしていたか見る余裕がなかった。
キリカとは幼い頃から一緒で、ただ普通に暮らしてきただけだったはずなのに。いつからそんな……。
杏子「まあ、こっちの世界なんてそんなもんだよ。魔法少女同士で争うのなんて珍しいことじゃない」
杏子「……そいつの事は仲間にも伝えておいた。まだ断定するわけじゃないが――もしそうなら対峙したら殺すことになるかもしれない。いいな?」
杏子さんは冷たく言う。杏子さんはきっと、もう昨日から僕の話を聞いて察しはついていたんだ。それでも言わなかったのは僕のため。
……これ以上被害は増やせない。それはわかっているけど、僕は言えるのはこれだけだった。
桐野「そんな世界になんていってほしくなかった」
だって、そんなことをする人じゃなかったんだ。
――――
――――
―――
???
キリカ「やっぱあの『桐野』ってやつ、佐倉杏子たちとつながってるみたいだよ」
織莉子「……それはどうしてわかったの?」
キリカ「今日話してきた。怪我治ってたよ、あんなに心配したのにさー。あいつらのどっちかの魔法だろうね」
織莉子「そう。千歳ゆまのほうね」
織莉子は軽く返事をする。……それからキリカの顔に手を伸ばし、顎を掴んだ。
織莉子「――余計な事は言っていないわね?」
キリカ「~~……たぶん、大丈夫っ!」
織莉子「……だと良いけれど。あまりこちらに突っ込んでくるようならば――――」
キリカ「殺す?」
織莉子「それでもいいけれど最終手段ね。目立った動きをし過ぎればどこから感付かれるか理解らない」
……織莉子はキリカを見送ると、ため息をついた。
キリカは何かを考えながら外に出て行く。
キリカ(……私が『言う』『言わない』以前に、織莉子はあいつらにも桐野にも関わってるしもう存在はバレてる)
キリカ(もう時間の問題、のような気もするな)
キリカ(終焉はもう見えた)
しかし敢えて気づかない振りをする。そうしていれば本当にその『愛』以外、頭からは何一つなくなるからだ。
――すると、不意に肩を叩かれる。
キリカの斜め後ろには誰かが居た。
―――
…………あれから、一応美国さんのことも知ってることだけ話しておいた。
杏子さんたちは白女に聞き込みに行くと言っていたが、ここから先は関わらないほうがいいと帰されてしまった。
――もし本人が居て、戦いになったら危ないから。
そっちの事情はよくわからない。僕が話したことも正しい選択だったのかはわからない。
けど一つ確かなものは、僕の中で固まった『魔法少女』というものについての疑念だった。
このままだと、キリカは何もわからないまま争って殺されてしまうかもしれない。……もしくは、逆の事だって十分にあり得るのだ。
杏子さんが、ゆまちゃんが。その仲間が――キリカの手によって殺されてしまうということが。
―7日目終了―
-------------------------
夕方まで休憩
見滝原中学校校門前 朝
マミ「――――桐野君、包帯がなくなってるけど怪我は順調なの?」
桐野「ああ、うん。もう動かせるし、ほとんどなんともないよ」
朝、学校の前でばったり会って話をする。思えばマミさんとこうして話すのも久しぶりだ。
……でも、その問いにはごまかすように答えていた。本当は『ほとんど』どころか完全になんともなかった。
桐野「あの時はごめん……ちょっと気持ちが塞いでて」
前に話した時のことを思い出す。……手を伸ばされた時は大げさに振り払っちゃったし、暗いばかりできっとつまらなかったよな。
とりあえず一言謝ると、マミさんは小さなラッピングを目の前に差し出してきた。
マミ「はい、じゃあこれ。前に作った残りで悪いけど、お祝いのクッキー」
桐野「えっ、いいの?」
マミ「また桐野君が来なかったら一人で食べようかと思ってたけど、それじゃつまらないものね」
桐野「ありがとう……嬉しいよ」
1後でお昼に一緒にどうかな?
2自由安価
下2レス
桐野「それなら、後でお昼に一緒にどうかな?」
久しぶりに楽しく話をしてみたい。
……そう思って提案したのだが、マミさんはどこか表情を曇らせた。
桐野「……駄目、かな」
マミ「ごめんなさい、お昼はちょっと」
マミさんははっきりと用事については言わなかった。
マミ「……また感想聞かせてね」
桐野「あ、もちろん! じゃあ、また今度……」
校舎に入って階段を上がると、廊下で別れる。
桐野(用事か……なんだろう?)
……マミさんがくれたお祝いのクッキー、自分で食べた後はいくらか残しておくつもりだった。
本当は僕よりも食べさせたい人が居た。あの怪我を治してくれた、杏子さんとゆまちゃんだ。
――けど、さっきマミさんの言った用事のことも少し気になっていた。
――――
――――
昼休み、今日もキリカのクラスを覗いてみる。
しかし、昨日なら友人たちとでも居そうに思えた姿はそこにはいなかった。
そもそも、キリカはあのメンバーで仲良くしはじめたのはいつからなんだろう? 三年生になってから?
表面を見れば、今のキリカは僕なんかよりも順調に過ごしているように見えた。
けど、きっと『何か』はあったんだ。小さな悩みやきっかけから今に至る何かが。
……いつの日か離れていってしまったキリカに対して、僕がもっと積極的になれたら気づけたかもしれなかったのに。
キリカと一緒に居た女子たちは、キリカがいなくても変わらずに楽しそうに話している。
桐野「…………」
それからまた少し廊下を歩く。今度はマミさんのクラスの前に立つと、その中にはマミさんが一人で居た。
特に何かをやっている様子はない。
桐野(あれ、用事があるようなことを言ってたのに……)
声をかけてみようかどうか迷っていると、いつのまにか後ろに誰かが立っていた。
近くを歩く生徒からはその容姿を賛辞するような声が聞こえる。本当に綺麗なものを見て思わず漏れてしまうような話し声だ。
「――声をかけないの?」
振り向くと、少し背の低い――女子生徒の姿だとわかる。長い黒髪をストレートに下ろしたその姿は、前にも見たことがある。
……教室の出入り口で立ち止まって、邪魔だっただろうか。
いや、そんなことよりも聞きたいことはあった。
桐野「昨日屋上で会った時、君は話したこともないはずのオレに謝った…………君は一体何者なんだ?」
問いかけると、彼女は冷静な表情を崩さないままに言う。
「魔法少女よ」
桐野「!」
「その反応……やっぱり知っているのね。関わる気がないのなら関わらないことをお勧めする、けれど……――」
1何か知っているのか?
2自由安価
下2レス
桐野「何か知っているのか? あのタイミングで謝った理由は!?」
「……ここでは目立つわ。私はこれ以上“巴マミ”に目を付けられたくもない。知りたい事があるのなら場所を移しましょう」
――――
――――
屋上
そう言って提案されたのは昨日と同じ、屋上だ。
――――移動の最中、少女は『暁美ほむら』と自分の名前を名乗った。
桐野「さっきの話……マミさんにも何か関係があるの――、あるのですか?」
その場所に着いてから自分から話を切り出したのだが、慣れない雰囲気に思わず噛んで妙な言葉遣いになってしまった。
重要な話をしようとしたところなのに恥ずかしい。
ほむら「……無理な敬語や緊張はしなくていい。私は貴方の後輩」
桐野「そう……、そう、なんだ」
正直、話しにくさはある。話し相手としては得意なタイプじゃない。けどそんなことも言ってられなかった。
気を取り直して話しはじめた。
桐野「……マミさんのことも知ってるようだったけど、何か関係が?」
ほむら「何故貴方の事を遠ざけはじめたか?」
朝の言葉とさっきのことを照らし合わせると、確かにそれは思い当たる。
本当は用事なんてなかった。……ただ単に僕が避けられていただけ? でもどうして。
ほむら「後ろめたいことでもあったんじゃないかしら…… 例えば、貴方の“幼馴染”を殺さざるを得なくなったとか」
それを聞くと衝撃が走った。
桐野「マミさんが杏子さんの仲間の魔法少女だって……言うの?」
ほむら「別に信じたくないなら信じなくてもいい」
それならこの人もその仲間か? そう思ったけれど、さっきの発言からするにあまり関係は良くないことが察せられる。
この人はどういう立ち位置で、何故それを知っているのだろう。
桐野「……何故君はあの時僕に謝ったんだ。こんなことになったことについて、君はどんな謝ることがあるんだ?」
ほむら「そうね………… この際だから話しましょう。――私が未来から来たからよ」
彼女は語る。また荒唐無稽なことを……『魔法』なんかがなければありえないことだ。
長い黒髪が風に靡いた。大きく分けたら同じ『黒』に分類される色でもキリカの髪とは色合いの違う、暗く青みがかったようにも見える黒だ。
――――そして彼女は語り続ける。
ほむら「美国織莉子の狙いはこの学校に居る一人の生徒だった」
ほむら「……私は過去で守りたいものを守れなかった。ただ一つ、外の何にも目を向けずにずっと傍で守っていたはずなのに、守り切れなかった」
ほむらがばらしたのはなに理由なのか?
ほむら「前回のことで失敗の原因はわかった。そうすればもう対処は簡単だと思っていた。……でも、その予想を裏切るように彼女を捕まえることが出来なかった」
ほむら「この街で起きていたことについて、私が何も知ろうとしなかったから。思えば相手の魔法や本当の目的すら知らないままだったの」
彼女の話を一つずつ飲み込んでいく。美国さんの狙いはこの学校に居る一人の生徒……それが彼女の行動の理由にも関わっているのだろう。
しかし、僕にはまだ何が言いたいかがわからなかった。
ほむら「呉キリカは前回ああはならなかった人よ。少なくとも敵対はしなかった」
桐野「!」
ほむら「あの過去があるから現在がある……それをかけがえのないものだと貴方は言ったわ」
ほむら「貴方はやり直したくなんかなかったのにね。私は別の可能性を求めた。……だからもう一度別の過去をやり直した。――その結果がこの世界よ」
……暁美さんはこの世界を『別の可能性』と言った。
だとすれば、今の僕はどこで間違えたのだろう。
ほむら「何かを選ぶことは何かを捨てる事よ。それは知らず知らずのうちにでも、何かが少し違うだけでも未来は変わる」
ほむら「貴方も、これ以上大事なものを捨てたくなかったら優先順位を間違えないことね」
暁美さんは『ある一人』のことを守るためと言っていたけど、暁美さん自身も救われたかったんだ。
僕にとっては、その世界と同じようにはもういかないかもしれない。……けど、今の僕の大事なものは?
1今の話は他の人には?
2自由安価
下2レス
桐野「……今の話は他の人には?」
暁美さんは首を横に振る。
ほむら「こんな話、すぐに信じてくれると思う? 貴方と違って、魔法少女同士敵対すればただでは済まない」
ほむら「いいえ、それだけじゃない……少し問題が多すぎるのよ」
……僕にはやっぱりそっちの世界のことはよくわからないけど、そんなものなのだろうか。
桐野「……前回での呉さんはどうだったんだ? まだあいつにとって最悪の結末が決まったわけじゃない」
ほむら「私は詳しいことは知らないわ。でも……貴方とはとても仲が良かったのでしょうね」
桐野「君がやり直した原因は?」
ほむら「さっきの話で察しがつかない?」
薄々わかってはいた。
暁美さんが守りたかった『ある一人』はその世界では……。
ほむら「美国織莉子が……まどかを殺したからよ」
ほむら「あれは集団下校中でのことだった。どんなに一人だけに目を向けていたって隙は生まれる。いや、一人だけに目を向けて守るなんて到底無理だった」
ほむら「私は……あの子を守ることに固執するあまり優先順位を間違えていたの」
ほむら「状況を正しく把握しなくては、かえって危険に晒すことがある。……もしくは、大事なものは守れても他のものは捨てなければいけない」
ほむら「……それに関してはもう覚悟できていたつもりなのだけど」
話をあらかた聞き終えて、廊下に戻ろうとする。
――――時刻はもう昼休みをあと10分ほど残したところを指していた。
予鈴まではあと5分。
桐野「…………話してくれてありがとう」
ほむら「これからどうするの?」
桐野「マミさんとも少し話してくる」
それから、屋上から出る前に振り返って一つ聞いた。
桐野「――――……それと、美国さん……美国織莉子が狙っている『一人』って、誰なんだ?」
ほむら「鹿目まどか。……私のクラスメイトの二年生よ」
それを聞ければもう十分だった。三年の廊下に戻って、再びマミさんのクラスの中に入っていく。
桐野「…………マミさん!」
マミ「桐野君……どうしたの?」
桐野「この街の『魔法少女』の事で、今わかってることについて話してほしい」
僕がいきなり教室に押しかけていくと、マミさんは戸惑っているようだった。
桐野「……呉さんのことはもう聞いたんだ。……別にもうどんな結果になったってマミさんのことを恨んだりはしないよ」
桐野「でも、これ以上後悔だけはしたくないんだよ。キリカのことも、マミさんのことも、誰のことだって」
マミ「……誰から? 佐倉さんから聞いたの?」
桐野「呉さんとはどうなった? 美国のことは?」
今ここで暁美さんのことを言っていいのかわからなくて、敢えてその問いを無視する。
……問い詰めると、マミさんは答えた。
マミ「美国織莉子のことはその苗字に心当たりがあって、調べたら素性は出てきたわ」
マミ「呉キリカ、さんとは……戦ったわ。 呉キリカは美国織莉子と繋がっている」
それを聞いてハッとした。何か怪しいところはあれど、今までキリカの件に関しては単なる被害者……だと思っていた。
でも、キリカがあんなふうになったのに少しでも関係しているとなれば。
いや、今になっては、少なくとも後戻り出来ない状況を作ったのは彼女なんじゃないかと思えた。
桐野「……こっちも美国織莉子の目的がわかったんだ。この学校の、鹿目まどかという生徒だって」
桐野「まだ理由はわからない」
……昼休みが終わるまで、ここで出来る限りの情報を交換して、
それからもう一度クッキーのことをお礼を言ってからマミさんと別れて授業に戻った。
-----------------------------
ここまで
次回は11日(月)20時くらいからの予定です
目の前で行われている授業の話を聞きながら、無事に動くようになった手ではペンを力強く握っている。
本当なら僕が関わるような世界じゃない。力も持たない僕が出来ることなんて限られてる。それでも、僕に出来ることを必死に考えた。
――――帰りのHRが終わると、ざわついたままの教室を抜けて廊下の隅で携帯を取り出した。
桐野「……呉さんのおばさん、まだ呉さんは帰ってきてませんか?」
桐野「――――えっ?」
携帯の向こうから聞こえる声に驚いた。
それから、帰路のほうへと足を速めた。
桐野「……今から行きます!」
マミさんは『戦った』と言っていた。正直、もう死んでしまっていてもおかしくないとは思っていた。
今のキリカはみんなやこの街にとっても敵でしかないのかもしれない。
……それでも、やっぱり生きていたことが嬉しかったんだ。
だって、戦えない僕がこれから先の未来に少しでも影響を与えられるとしたら……キリカくらいしかいないよ。
そして、やっぱりそれは僕の役目だったんだ。
――――
――――
呉家
桐野「――……呉さん」
…………電話によると、キリカは昨日の夜になって帰ってきたのだということだった。
今日は学校には行っていない。家に帰ってきてからは部屋に篭もりきりらしかった。
階段を上った先の扉を開ける。呼びかけると、キリカは顔を上げた。
部屋は昔来た時と同じ位置。忘れるわけもなかった。
キリカ「……何しにきた?」
桐野「決着を……つけに来たんだよ」
キリカ「決着? 私と?」
キリカは意味が分からないというようにとぼけた顔をする。
キリカ「なんの話かわかんないな。キョーミもないし。それにあの時キミも『勝手にしろ』って言ったはずでしょ?」
桐野「確かにあの時はそう言ったけどさ……やっぱりそんなふうには出来ないよ」
桐野「マミさんと戦ったんだってね。…………無事でよかった」
――僕がそう言うと、キリカはとぼけた顔から眉を曲げた。
それから盛大にため息をつくように大げさに口を開ける。
キリカ「……はぁーーー? なんで!? キミはあっちの味方でしょ。そこまで聞いてるなら私には死んでほしい側だと思うんだけど?」
キリカ「それとも、何も知らない? ……それならそれでいいや。うん、私は無事だよ。よかったね」
桐野「知ってるよ! でもそういう問題じゃないんだ!」
桐野「――そっちこそ、なんで簡単にそういうふうに思えるんだよ! ……最近は離れてしまっていたけど、オレたちは小さい頃から一緒に居たのに」
桐野「それに、まだオレがなにも決着をつけてないからだ。このまま見捨てて終わらせることなんか出来ないんだよ」
――昔の思い出が浮かんだ。僕たちがまだ小さかった頃。
正直、今のキリカはむしろ、暁美さんみたいなタイプなんかよりもずっと僕の苦手なタイプに思えた。
それだけじゃなくて、開いてしまった時間に離れてしまった距離を埋めることなんて簡単には出来ない。
実際に、屋上で話した時はそう感じた。
けれど、やっぱりそう簡単に根底は変わらないはずなのに。
キリカ「昔の話なんか知らない」
しかし、キリカはまだとぼけた。
桐野「キリカがあんなことしたのも、そうなったのも、『原因』があるはずだろ?」
桐野「だからまずは……気づけなかったことを、――ごめん」
キリカ「……意味わかんないな。なにそれ」
1美国織莉子のことを話に出す
2自由安価
下2レス
1+君は彼女に利用されてるだけだ、昔のキリカに戻って欲しい
安価↑ そのまま
↑追加でキリカにどんな願いで契約したのか聞く
キリカは何のために魔法少女になったんだい?
何の願いで魔法少女になったんだ?
他人を傷つけて、そんな自棄みたいになるのがキリカのねがいだったのかい?
------------------------------------------------------
同一IDなので>>301は>>299と統合して1レスとカウント
採用安価は>>302になります
桐野「マミさんから、美国織莉子と関わりがあることを聞いたんだ。……本人の目的も聞いた」
キリカ「!」
――しかし、キリカは僕がそれを口に出すと途端に表情を鋭くする。
桐野「オレは美国さんとはほんの少ししか話してない。出会った時は恩も感じてたし、素敵な人だと思ったよ。――でも、彼女がやろうとしていることは間違ってる!」
桐野「何より、オレはキリカに……これ以上罪を犯して欲しくない」
キリカ「それ以上私の前で織莉子の悪口を言うな」
首元スレスレにどこからか出現した真っ黒い刃状のものが当てられる。……あの時僕の右腕を切り裂いたものだ。
キリカが手に持った、青紫の色をした宝石のようなものを始点としてそれはこっちに伸びていた。
キリカ「……運がよかったね、君。もうちょっと頭にキテたらざっくりいってたところだったよ?」
キリカ「素敵な人っていうのは正解だからその分かな。ならなんで『間違ってる』なんて言うんだい?」
キリカ「所詮君も織莉子を傷つける周りのくだらない連中と同じ……織莉子の表面しか見てなかったからだ。 まあ、私以外に理解出来る人なんて必要ないんだけど」
その様子は豹変した。
陶酔したように大げさに話した。――それを見て僕は確信した。今まで憎み切れなかった気持ちが吹っ切れた。
桐野「……キリカは何のためにあんな、魔法少女の世界になんて足を踏み入れたんだ?」
桐野「他人を傷つけて、そんな自棄みたいになるのが望みだったのか!?」
キリカ「そうだよ。別に私は望んじゃいない。けど、彼女がそれを望むならそれが私の望みになる。私は織莉子のために魔法少女になったんだから!」
そんなの絶対にありえない。
桐野「それなら前言撤回するよ! 美国織莉子……彼女には恩なんてない。……あんな奴、最低の詐欺師だ」
刃を具現した宝石を持つキリカが大きく手を振りかぶる。
キリカ「ッ、……――!」
――その時、カーペットの上に何か小さなものが転がる音がして、キリカはその場にうずくまるようにして崩れた。
いつのまにか刃は消えていた。
桐野「ど、どうしたんだよ……!?」
僕はキリカに近づいて屈み、その身体を支えるように抱く。
……キッと睨む視線がこちらに向けられた。
キリカ「なん……でも、いいじゃん……なんで私のことなんて心配するの?」
桐野「それはキリカが大切な幼馴染だからだよ。……どんなことになったって、やっぱりそれは変わらなかったから」
キリカ「……そんなの知らない。私には関係ない」
桐野「美国織莉子のために魔法少女になったのなら、あの時彼女を襲おうとしたのはどうして?」
桐野「……本当はあの後何かあったんじゃないのか? キリカは何かあって、心の隙をあいつにつけこまれたんだ」
あの時、美国織莉子を庇った僕をキリカが斬りつけて、僕が彼女と一緒に逃げた後。
キリカはあの時から何かを抱えていたからあんな行動を起こした。けれど、あの時はまだ違ったはずだ。
これってキリカのソウルジェムが傷ついてるんじゃ…
キリカ「なんで君がそんなこと言うんだよ……何も知らないくせに。魔法少女ですらないくせに」
桐野「ああ、オレは知らないよ。知らないからこうして聞いてるんだ。 でもキリカはわかってる。……わからないふりをしているだけだ」
キリカ「……何言ってるかわかんない。聞こえない。わけわからないこと言うな。これ以上――……私の『愛』と織莉子を侮辱したら」
キリカの言葉を遮って僕ははっきりと言う。
桐野「関係ないって、そう思い込もうとしてるだけだ」
桐野「……オレが怒ったのはキリカを利用したからだよ。こんな最悪の形で……自分の都合の良いように歪めて、壊して!」
僕の言葉が通じるかはわからない。けど、まずは一方的でもいいから伝えておきたかった。
――すると、キリカは再び口を開いて小さく話し始めた。
キリカ「…………何怒ってるの? もしかして私のため? よくわからない。君の言う私なんてもう居やしないってのに」
キリカ「……あ、もしかして君、私のことが好きなの? 悪いけど、私の『愛』はもう予約済みなんだ。君なんて価値はないよ。私は本当に愛するべきものの本質を知ったからね」
桐野「…………」
キリカ「昔の友達に裏切られたとか馬鹿みたいなことでふさぎ込んでさ……でもまたくだらない世間にわざわざ溶け込んで、『フツウ』の仲間入りをしたかったから契約したんだって」
キリカ「馬鹿なことを考える奴だ……私は全然理解できなかったよ――――……でも、あれ? 私も何考えてるのかわからないな……本当は違ったんだって、そんな過去」
記憶が混濁しているのだろうか。キリカは呟くように、さっきとは違うことを喋っていた。
キリカ「――……そうだ。あの人はきっかけに過ぎなかったんだ。でも私は契約してからそんなことすらもう忘れ去っていた」
キリカ「……腕のことはごめん。大事な夢を傷つけて、将来まで奪いかけて…………でももう合わせる顔なんかないよ」
桐野「……もういいよ、それは許すから。謝る相手や償うことがあるならオレも一緒にするから……だからもう戻ろう!」
キリカは僕の腕の中で顔を伏せた。
鼻を啜る音が聞こえる。その顔は見えないけど、涙が溢れて伝う濡れた感覚がした。
キリカ「……自分にも織莉子にも騙されたまま考えなければ楽だったのに、君は優しいふりしてそんな道すらなくすんだね」
キリカ「私はこのまま安らかに絶望したかった……私は利用されてることに気づかなかったわけじゃない。それを望んでたんだよ。そのほうが幸せだった」
キリカ「やっとそれが私の中で『本当』になったのに」
桐野「でもそれじゃいけないんだ。そんなのは本当の幸せなんかじゃない」
キリカ「…………もうわかったよ、ありがとう……でも手遅れだよ。今からじゃどんなことしたって償えない。もう汚れすぎちゃった」
キリカはそう言うと、僕の後ろへとその腕を回す。
キリカ「……そういえば昔、タイムカプセル埋めたの覚えてる? 子供の頃……たしか君の庭に埋めたっけ」
キリカ「きりのん――――あの頃は大好きだったよ。もう少し早くにきみのことに気づけたらよかったな」
キリカは体重を預けるようにしなだれかかってきた。それと同時に、何かが割れる音が響いた。
桐野「キリ―――――……」
抱き留めているキリカの身体からは一切の力が抜けていた。
------------------------------
ここまで
次回は12日(火)20時くらいからの予定です
桐野「キリカ!? 」
そっと肩を押し返し、キリカの身体を起こして見てみる。
意識のない人間の身体だ。瞼が閉じられ、すぐ近くで感じていた息遣いはもう聞こえない。
……手には宝石が握られ、割れた破片で指が切れて血が垂れていた。
それを見て悟る。僕らとの異質で決定的なその生命の違いを。――いや、キリカだって本当はずっと僕と同じだったはずなのに。
そこで、さっきキリカの言っていた『契約』という言葉を思い出した。
桐野(――――『魔法少女』って、まさか……この宝石が……)
もう一度キリカを見て、その身体に向けて僕は語りかける。
桐野「……どうして、こうなってしまったんだろうな」
桐野「小さい頃からよく知ってた……ずっと近くには居たはずなのに」
……キリカはその直前、小さく震えた声でまた『ごめんなさい』と謝った。この前の謝罪とは違う重みのある言葉だ。
もう声は届かない。でも、慰めようとしたってきっとキリカは突っぱねるだろう。
『気づかないほうが幸せだった』……そんなキリカの言葉が頭に浮かんだ。
僕が来たことでキリカの未来が変わったのは確かだった。
でも、これで良い結末に出来たといえるのだろうか。……ずっと考えていたが、わからなかった。
―8日目終了―
――昨日はあれからキリカの死を確認し、病院や警察にも連絡がいった。
当然ながらそれは学校にも知らされ、今朝には痛ましい話として先生の口から話された。
僕はどこか遠くで起きていることのように思いながらも、それを悲しむだけで精一杯だった。
最近の不審な行動や行方不明も記録に残っているから、警察や世間に何があったのか怪しまれたのだろう。しかし、彼らが真実に辿りつくことはない。
チャイムが鳴り、午前の授業が終わる。
1屋上に行く
3廊下に出る
下2レス
―――
マミ(“この学校の『鹿目まどか』という生徒”……同学年には居なかったから、恐らく下級生ね)
マミ(でも、何故美国織莉子はその子を?)
二年生の廊下を一通り回ってその教室の中を覗くと、マミは一旦自分の教室へ戻ろうとする。
その途中で見知った顔とすれ違う。同じ学校、この学年で唯一の同業の知り合い――暁美ほむらだった。
どこかへ行こうとしているらしい。マミは彼女と一緒に居る少女たちにも目を向けた。
しかし、ほむらはその視線から隠れるようにして、マミを見ると警戒するような表情を向けた。
ほむら「……話があるのなら後にして」
マミ(あの子もよくわからない子ね……)
――――教室を出て廊下を歩いていると、そこでマミさんと鉢合わせた。
マミ「!」
桐野「マミさん」
マミさんはどこか真剣な表情をしていた。
普段柔和なイメージのある、学校で見るのとは違う雰囲気。――やっぱりマミさんにもそんなものがあることを少しだけ感じ取った。
マミ「ところで、呉キリカが死んだって話……」
マミさんは昨日、キリカと『戦った』と言った。その場で仕留めたわけじゃなかったのは逃がしたと思ったのだろうか。それとも。
……少し言いにくそうにはしたが、驚くほどその声は淡々としていた。
本当は、更に大きな被害を生んだ可能性もあったんだ。そしてあのままいつか、その末に使い潰されて。
桐野「…………決着を、つけてきたんだ」
これで良い結果だとは思えない。
……でも一応、何もわからないまま終わることだけは避けられたから。
1マミさんはなんで『契約』したの?
2美国織莉子のことは?
3自由安価
下2レス
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ここまで
次回は13日(水)20時くらいからの予定です
えー、327はメンタル的にもアレだし無効の方向で。まあ前回からデジャブだしね。
桐野「マミさんはなんで『契約』したの?」
マミ「え?」
桐野「『契約』……したんだよね? 魔法少女になるために」
マミ「……ええ。私達は願いを叶えてもらうのと引き換えに魔法少女して魔女と戦う使命を受け入れる」
マミ「私は…………一年生の時よ。家族で出かけた時の交通事故。あの時に自分が生き残るために契約したの」
その話は僕も聞いていた。その時にマミさんは両親を失い、今は一人で暮らしているんだ。
……でも、まさかそんなことがあったなんて知るわけもなかった。
桐野「……そうか」
キリカが話していたみたいに、みんな、何かのきっかけや望みがあってその世界に足を踏み入れたんだ。
けど、だからこそ僕は納得がいかなかった。――そんな、『契約』なんてさせた奴のことが許せない。
桐野「キリカのこと、納得がいかないんだ。どうしてこうなってしまったのか……オレはただ、キリカが幸せに生きて欲しかったのに……」
マミ「桐野君……私もあの子とは話したわ。でももう」
マミさんは諭すように言いかける。
償えないほど悪いことをしたから。マミさんはあんなふうになったキリカしか知らない。
街を守るために敵対してたんだから、甘いことは言ってられない。割り切るしかないのはわかる。――でも僕は違う。
桐野「……キリカは、最期に僕の知ってる幼なじみに戻ってくれたよ」
桐野「美国織莉子はキリカをあんなふうに壊した元凶だった。じゃあ、一体そんな力を与えてるのは誰なんだ?」
桐野「戦うためだけに、人とは違う身体に作り変えられてまでそんな使命を背負わなきゃいけないなんて!」
憤りを言葉にしてぶつける。
……しかし、それを聞いてかマミさんは、どこか悲しそうな顔をしている気がした。
1屋上に行く
2教室に戻る
3さらに追及
4自由安価
下2レス
桐野「……ごめん、マミさん。君を責めてるつもりじゃないんだ」
桐野「でもこれだけは聞かせてくれ。――――キリカやマミさんは誰に誘われて契約した?」
視線を逃がさないようにはっきりと捉えて、もう一度それを問いかける。
すると、答えは返ってきた。
マミ「…………私たちが契約するのは、『キュゥべえ』という魔法の使者よ」
桐野「オレが会うことは?」
マミ「それは出来ないわ。キュゥべえのことは私達や素質のある子にしか認識できないから」
マミ「そのことで恨む気持ちは仕方ないとは思う。でも別に、私は後悔してるわけじゃない!」
マミさんはそいつを庇っているのだろうか?
それからマミさんは僕に聞いてきた。
マミ「……ねえ、私からも一つだけいいかしら。契約して作り変えられるというのは、この力のこと?」
桐野「あの宝石のことだよ」
――――キリカとの別れとなった光景を思い出してしまい、僕はそれだけ答えてその場を去る。
やっぱり今日は食べる気分じゃない。
……マミのほうも、その姿が背に消えた後も表情は変わらないままだった。
1屋上に行く
2教室に戻る
3二年生の廊下に行く
4自由安価
下2レス
屋上に行くと、そこには今日もランチを楽しんでいる女子生徒たちがいた。
その中には暁美さんも居る。……恐らく、あの中の一人が『鹿目まどか』だ。
……暁美さんは僕が来たことに気づくとこっちを見遣った。
それから暫くすると、他の人たちと別れて一人屋上に残り、外を眺める僕のほうにいつのまにか来ていた。
ほむら「呉キリカのことで来たの?」
桐野「! 君はいつもいきなり後ろにいるね……」
昨日と同じように、真後ろに立つ彼女。
まるで気配を消したように現れるのがミステリアスさを増す。それも戦いの世界で身に着いたスキルなんだろうか?
ほむら「ごめんなさい、話しかけるタイミングがわからなくて。存在感がないとはよく言われるの……」
桐野「そ、それはオレもよくあるかな…… でも、癖なのかと思った。魔法少女の世界の生きる術、的な」
ほむら「いいえ、別に。そんなことはないわ」
……しかし、彼女は僕の想像を否定するようにきっぱりと言い切った。
そう言われると妙な親近感を感じてしまう。思い返せば僕もそんなことはあった。
桐野「……昨日キリカと会ってきたよ」
ほむら「そう」
桐野「一番近くで最期を見た」
僕は言うと、彼女はいつもの冷静な表情をわずかに変化させる。
……相変わらず感情は読み取れない。
ほむら「……“私たちの真実”を見たの?」
桐野「頼みごとがあるんだ。もしまた時間を繰り返す事になったら、自分宛の手紙を預かって渡してもらいたい」
桐野「手紙は明日までには書いてくるよ。だから……」
ほむら「縁起でもない事を言わないで頂戴」
桐野「あ、そうだよね……暁美さんはまだこれからなんだから」
ほむら「……けれど、今の世界は『失敗した』と思う?」
問われればわからなくなる。
今までやってきたこと全てが間違いだったとは思わない。……なかったことにしたらそれらは? 今のこれからはどうなるんだろう?
桐野「……どうなんだろう。ただ、みんなが幸せな未来になったらいいとは思うよ」
ほむら「そうね」
暁美さんも本当はそうは思っているんだ。
誰か一人だけを守っていたって、みんなのことを少しも考えていないわけじゃない。
ほむら「それと、昨日は話さなかったけれどね。前回の呉キリカは、貴方の――――」
桐野「――――!」
――――屋上から去る頃には、長い昼休みが終わろうとしていた。
目を見開いた。……しかしそれも、今となっては終わってしまったことでしかなかった。
-----------------------------
ここまで
次回は14日(木)20時くらいからの予定です
――――
――――
――――放課後になると、僕はあの街外れにまで来ていた。
絵は描いていない。そんな気にもなれなかった。その景色をただ眺めている。
……その横では杏子さんが僕が手をつけなかった昼の弁当を食べていた。
杏子「うまいじゃんか、これ。 ……食欲ないのか? こんなの丸々残したらバチが当たるよ」
残して帰るのも母さんに悪いし、ちょうどもらい手がほしかったところだった。
杏子さんは母さんの手作り弁当を喜んでくれているようだった。
桐野「……わかってるけど、今日はそんな気分じゃなくて。そうだ、よかったらこれも二人も食べてよ」
杏子「お! これは……」
マミさんからもらったクッキーが鞄に入っていたことも思い出した。
綺麗なラッピングを鞄から取り出すと、ついでにその中から一枚摘んでみる。
チョコレートのペンでデコレーションされたハート型のクッキーだ。……杏子さんはそれを見ると、見覚えがあるような反応をした。
ゆま「クッキーだ!」
ゆまちゃんがはしゃぐ。
これは元々二人にも食べてもらいたいと思っていたものだった。
桐野「怪我の回復祝いにもらったんだ。ゆまちゃんの……二人のおかげだから」
杏子「懐かしいな、昔ティータイムに食べたやつそっくりだ。こういうの好きな奴がいて、よく作ってきたんだ……今は『一時的な協定』ってとこだけどな」
杏子「アンタ、もしかしてアイツの知り合いか?」
……それを聞くと本当にマミさんが『魔法少女』で、杏子さんの仲間だったんだと改めて思った。
サクサクとした食感と甘い味に、キリカもこういうの好きだろうな、なんてふと思い浮かぶ。
キリカが最期に話した、小さい頃に庭に埋めたというタイムカプセル……それを今掘り起こす勇気はなかった。
なんというか、今見たら立ち直れなくなってしまう気がして。
1マミの話について
2杏子の『仲間』の話について
3自由安価
下2レス
桐野「マミさんと何かあったの?」
その名前を出すと、杏子さんが反応する。
杏子「……半分は冗談のつもりだったんだけどな。でも、やっぱそうか。そういえば同じ学校だもんな」
杏子さんがもう一枚クッキーを口に運ぶ。
……何があったのかは話してくれなかった、けど。
桐野「……杏子さん、誰かとの縁は大事にするべきだよ」
桐野「オレはキリカを助けられなかった。小さい頃はいつも一緒にいた大切な幼馴染をね」
桐野「すぐ近くにいたはずなのにいつのまにか疎遠になって、取り返しのつかない事になってしまったんだ」
桐野「オレがもう少し彼女に気をかけていたら……いや、会って声だけでも掛けてればあんな結果にはならなかった」
桐野「キリカとは最期にお互いに解りあえたと思ってる。でもそこで終わってしまった。もうどうする事もできない。永遠に止まってしまったんだ」
桐野「杏子さんにはオレ達みたいになってほしくはないんだ……二人に何があったかは知らないけど後悔はしてほしくはないかな」
杏子「……そうか。アンタは『見つかった』か」
……僕はゆっくりと頷く。あの時僕は、確かにキリカを見つけることはできた。
杏子「……にしてもアイツ、遅いな。放課後はここで待ち合わせる予定だったんだけど」
桐野「マミさん……? 帰りは見てないよ。行く場所が同じなら途中で会ってもおかしくなさそうだけど」
ゆま「――あ、マミだよ!」
ちょうど話をしていたところで、ゆまちゃんがあっちのほうを指さした。
珍しい私服姿のマミさんが歩いてくる。
桐野(一旦家に帰ってたから遅くなったのかな……?)
マミ「…………お待たせ」
杏子「おせーぞ」
マミ「ごめんなさい……あら、桐野君もここに居たの? いきなり魔法少女の話をされた時には驚いたけど、まさか二人が知り合ってたなんてね」
桐野「あ、ああ、この場所は少し気に入ってて……」
杏子「あたしもだ。まったく驚いたよ。弁当うまかったぜ。ごちそーさんな」
桐野「こちらこそありがとう」
杏子「あたしらはそろそろ行くが、アンタはどうするんだ?」
桐野「そうだな……まだもう少しここに居ることにするよ」
マミさんが来て、二人も芝生から立ち上がる。
……僕がついていけるのはここくらいまでだ。戦わない決着だけ。
『魔法少女』の世界での決着は魔法少女に任せるしかない。
しかし、杏子さんは去る前に何か頭に引っ掛かったことがあるように足をとめた。
杏子「……いきなり話をされたって言ったけど、アンタからマミにあたしたちのことを話したのか?」
『あたしはマミの話なんてしていない』……そう言いたいようだった。
1違う人から聞いたんだ(ほむらの名前を伏せる)
2暁美さんから聞いたんだ
3自由安価
下2レス
桐野「そ、それは違う人から聞いたんだ。といっても、美国織莉子とかみんなと敵対してる人じゃなくて……」
杏子「……そうか」
少しの間何かを思案したようだったが、杏子さんはやがてそう返事を返す。
それからまた前を向いて歩き出そうとする。――しかし、マミさんはそれに気づいていないように、動き出そうとしなかった。
杏子「どうした? 行くぞ。今日も作戦練って行くんだろ」
マミ「えっ、ええ……そうね――――」
…………それから二人がいなくなると、ここには僕一人になる。
怪我も治してもらって、せっかく絵も描けるようになったのに。
今はなにをするでもなく、ぼーっとしながら大きな空を見上げてため息をついていた。
―――
―――
マミ「……まずは今日の報告だけど、呉キリカが死んだそうよ。桐野君が決着をつけてきたって」
杏子「幼馴染だもんな。……まあ、あたしたちが戦うよりもよかったのかもしれないな。これであとは織莉子だけになったわけだ」
マミ「…………」
マミは少し前の過去に意識を向ける。
―――
約1時間前
マミは一人の部屋に帰ると、ソファの上に荷物を置いた。
普段だったら学校の帰りに街に直行しているところだったが、今日は少し心持が違った。
“一人”、いや、“二人きり”になりたかったのだろうか。
マミは独り言のように語りかける。――その相手は透明なテーブルの上にちょこんと乗る獣だった。
マミ「……ねえ、キュゥべえ。桐野君は呉キリカの最期に何を目の当たりにしたの?」
QB「どうして僕にそれを聞くんだい?」
マミ「だって、それは私達に関わることなんでしょう? 私たちの…………――『ソウルジェム』がどうかするの?」
QB「…………」
――――
――――
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ここまで
次回は17日(日)18時くらいからの予定です
……僕は、杏子さんたちと別れてから、どのくらいそうしていただろうか。
青色から明るさが失われ、紺に染まりつつある空の色が大体の時刻を知らせている。
――何もしなくても空は変わっていく。手首の腕時計に目をやると正確な時刻がわかった。
桐野(7時……か……)
芝生の上から舗装された道路の上を歩き、街外れを道なりに戻っていく。
すると、見滝原と風見野を結ぶ大きな道路が見えたところで、遠くから誰かがこっちに歩いてくるのが見えた。
その輪郭や顔がはっきりと見えると、その姿は薄暗くなった景色に光る街並みを背にして僕の前で止まる。
織莉子「……ごきげんよう」
普段聞きなれない上品すぎる挨拶。しかし、この人だったら日常的に使うことがあってもおかしいとは思わない。
美国織莉子は感情の見えない表情をしている。変わらない姿だが、前会った時と違い、取り繕ったような気品や柔和な雰囲気がなくなっていた。
……わずかに息を飲んで身構える。
織莉子「あらあら、どうしてそんな怖い顔をしているの?」
ここでこうして会ったのが偶然になんて思えないからだ。
なら、わざわざ僕に会いに来る目的があるとしたら――。
桐野「……オレを始末でもしにきたのか?」
しかし、そう言うと美国織莉子は笑った。
口に手を当てるような上品な笑いじゃない。
織莉子「どうして私が貴方を殺さなきゃいけないの?」
桐野「だって……それは! オレは杏子さんたちと一緒に居るし、キリカとも……」
織莉子「思い上がらないで頂戴。それだけの価値があるとでも? 私に敵意を向けているのは貴方のほうではなくて?」
彼女の口調は言葉こそ丁寧だが吐き捨てるようで、酷い冷たさのみが感じられた。
これが取り繕うことをやめた姿なのだろうか。……そうでなければ、どこか自棄でもなっているような。
織莉子「…………貴方のせいで私は独りになった」
――それを聞くと、サッと怒りが込み上げた。そんなことは初めてだった。
僕が最後に見たキリカの姿。……美国織莉子のその言い分はあまりに勝手に思えた。
桐野「……あんなので友達でも気取ってたつもりだったのか?」
織莉子「友達? いいえ、“ただの駒”だったのよ」
・自由安価
下2レス
桐野「……ただの駒っていうくせに、自分は独りになっただって?」
しかし、それが頂点に達すると、心は逆に冷めていくようだ。
桐野「駒っていうのは道具だろ? 道具が一つなくなっただけで独りになったとか随分自意識過剰なんだな」
桐野「それとも、その“駒”とやらに何かしら思い入れがなければ、そんな態度はとらないよな……?」
織莉子「ええ……“駒”なんて関係はもう壊れたの。駒は破れ、私はあの子の求める主ではなくなった。それでも、あの子なら私を受け入れてくれたかもしれない」
――拳を握った。今すぐ詰め寄りたい気持ちを抑えて、その場で叫ぶ。
桐野「それに対して怒ってるって言ってるんだ!」
桐野「キリカは最期を迎える前、随分あんたの事を賛美するようなことしか言ってなかった」
桐野「そうするようにあんたが仕向けたんだろ? 自分を賛美しかしないイエスマンを傍に置く事で精神的安定がほしかったのか?」
桐野「だったら精神科にでも行けばよかったんだ! とんだメンヘラお嬢様だ。現実逃避したいならせめて周りに迷惑かけないでやってもらいたいな」
その時、表情の見えなかった彼女の顔にも、その瞳に鋭い怒りが灯ったのが見て取れた。
……こっちの発言次第ではなにをしでかすかわからない空気だ。さっきまで見せていたような表面的な言動ほど冷静な人じゃない。
思っていたよりも感情で動いているのかもしれない。
桐野「怒ったのかよ! そこまでする価値はないとか言ってたくせに」
前に踏み出す。魔法少女とか一般人とか、『世界』なんて関係ない。
キリカが死んだ。僕の友達が命を懸けて戦っている。これは十分『僕の世界』で起きていることだ。
杏子さんやマミさんが戦いに出ている間、相手が見逃してくれるからっておめおめとただ逃がすわけにはいかなかった。
僕は命乞いもご機嫌取りも、まっぴらだ。
相手は女とはいえ、絶対的な武器を持っているようなもの。でも、それ以外がどれだけ強くてももう弱点はわかっている。
――――『宝石』の嵌まった指輪のある手元。最初から狙いはそこ一点だった。
桐野(不意を突けた……っ!)
しかし、僕の手がそこに触れた瞬間に視界は横転する。腕を掴まれ、身体ごと地面に引き倒されたのだ。
織莉子「……わかったことを言うな! あまり調子に乗らないで。治してもらった腕をまた壊して欲しいの!?」
織莉子「私にとって『価値』はないだけ。貴方にとっては、何とかできるとしたら今のうちね。……でもここで私を殺すことが出来るのかしら」
桐野「放せよっ、この……! お前は人の心だけじゃなくて恥じらいもないのか!」
立っている時にはちょうど同じくらいの高さだった顔が、覆い被せられ上から覗きこまれるように近づけられる。前は綺麗だと思った蒼い瞳は血走っていた。
伸ばしていた右腕を抱きこまれ、関節が軋む。……汗がにじんだ。見ようによっては美味しい状態かもしれないが、全然嬉しくはなかった。
ただ、キリカの仇であり敵である女に、何もすることが出来ずにくっつかれていることが不快だった。
織莉子「貴方……あの子《わたし》みたいなこと言うのね」
織莉子「でも貴方のことは殺せるわ。《私》じゃないから。このままがお望みならそれでも構わないけれど」
あの子……? その言葉にさっき駒として話していたキリカのことが浮かんだが、そうではない気がする。
だが、返す言葉も行動も、もう決まっていた。
桐野「……そんなの、まっひらだ!」
腕のことも構わず勢いよく身体を捻り、地面から抜け出す。
その拍子に頭同士をぶつけ、視界が一瞬眩む。無理に引き抜いた右腕がだらんとしていた。……恐らく脱臼だろう。
――僕が荒く息をついていると、美国織莉子は冷徹な表情に戻っていた。
しかしその気迫は異質なほどのものを纏っている。その正体は剥き出しの感情。対面するだけで圧迫感を感じるものだ。
自分とそう歳も変わらないだろう女にどうしたらそんなものが出せるのだろう。
1お前は何をしようと考えてる?
2自由安価
下2レス
桐野「……お前は何をしようと考えてる?」
織莉子「何をしようと考えているか?」
桐野「ああ……。わざわざオレに話しに来たのだって、馬鹿にしにきただけじゃないんだろ」
織莉子「忠告、かしら。自分が“悪役”だなんてことはこれでもわかっているのよ? その上で受け入れてくれる人を求めていた。……それは否定はしない」
織莉子「精々足掻いてご覧なさい。これ以上『お友達』を失わないようにね」
美国織莉子の態度はもう開き直ったようだった。そしてまだ言葉を続ける。
織莉子「……でも、わからない? キリカのことは、私はあの子を『助けた』だけよ」
織莉子「あの子は私のせいで死んだんじゃない。そうしなければもっと早くに“絶望して”死んでいただけ」
織莉子「貴方の腕を傷つけてから、戦うことに関して不安定になっていたようでね……でも、戦えなければ死ぬでしょう? それの荒療治かしら」
織莉子「でもその挙句にあの子は交戦した魔法少女と一般人を殺した。……それに耐えきれなかったのよ」
桐野「そんな命令を出したのもどうせお前だろ?」
桐野「……たしかアンタは前、人を救うことが魔法少女の使命だとか言ってたっけ」
桐野「どこまで本気かわからないけど、あんたからはそんな想いは感じられない。そこまでの覚悟がだ」
桐野「あんたから匂ってくるのは自分の言う事を信じない他人を見下す傲慢さと拒絶、卑しさだけさ」
織莉子「……貴方のことも救おうとしてあげてるのに、これ以上何が不満なの? 私は世界すら救おうとしているのに!」
大げさに手を広げて言う姿には狂気すら感じる。
こいつに洗脳されてたキリカとも少し違うが、自己陶酔でもしているようだ。
織莉子「思えば、私にそんな義理はなかったの。それでも私は…………ありのままの私を受け入れて欲しかった」
織莉子「忠告は終わりよ。私は私に視えた未来を回収しに行くだけ」
桐野「……未来?」
随分と余裕なことに、美国織莉子は言いたいだけ言うとこの場を後にしようとした。
僕は聞き返しながら、背中を見せた彼女に何かしようと考える。武器になりそうなものは筆箱に入ってるペンくらいだ。
しかし、背を向けたまま彼女は言う。
織莉子「ええ、私は貴方の考えなんて見通せるの。……貴方程度じゃ私の不意など突けないわ」
桐野「…………そうか。お前が持ってるのは洗脳の魔法かとでも思ったよ」
だからこいつは、こうして無防備に背など向けられるのだ。
桐野「いくら重度のメンヘラでも、これだけは覚えておけ。自分のことを賛美しかしないように仕向けた相手がどれだけ受け入れてくれたって、そんなのまやかしだ」
桐野「相手を自分以下に落としてまで従わせなくちゃ、誰も着いてきてくれなかったからだろ? なんでその時点で改めようとも思わなかった?」
桐野「お前の言うありのままの自分なんて、そんなちっぽけなものなんだ」
背に向けて、全力で鞄を投げつける。しかし、宣言した通りに彼女はそれを避けてみせた。
同時に、自分はそうはならないようにしようと思った。
……僕はずっと人と馴染めないことに悩んでいた。本当の友達が欲しかったら、自分から変わらなきゃいけないんだ。
桐野「くそ…………っ!」
左で拳を作って自分の膝のあたりを叩く。
――悔しかった。僕は目の前に現れた美国織莉子を倒すことが出来なかった。そして、抱きこまれた右腕もこのざまだ。
なんとか自力で肩を嵌めようとすると、骨の動く鈍い音が鳴る。
…………美国織莉子の魔法は予知。それがあいつの標的や、さっきの言動とも被っている。
それが意味するものはなんだ?
1『絶望して死ぬ?』
2美国織莉子が見た未来?
3その他行動など
下2レス
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ここまで
次回は18日(月)20時くらいからの予定です
桐野(……『絶望して死ぬ』?)
僕が一番に気になったのはそこだった。美国織莉子は確かにそう言っていた。
絶望の末に死ぬ。自ら命を絶つ。……そう置き換えて考えることもできるが、『魔法少女』の命の仕組みが普通とは違うことを知っている。
それなら、その文字通りに『絶望に“よって”死ぬ』と考えたってありえなくはない。
桐野(それが美国織莉子の見た未来……か…………?)
……わからないながらに考えていると、暁美さんの姿が浮かんだ。まず彼女と話したいと思った。
しかし、そのためには明日を待つしかなかった。
帰路の続きを歩いていく。
それから家に着くと、玄関の扉を開ける前に庭を見て心の中で決意した。
立ち直れなくなりそうで掘り起こせなかった。守れなかったキリカの思いに向き合うのが怖かった。
それでも、今週の土曜――最後にその姿と別れる時までには、きっと……向き合うから。
―9日目終了―
―――
織莉子「……どうしてあの時トドメを刺さなかったの? 貴女ならもう知っていたはずでしょう?」
マミ「!」
街はすでに夜の闇の中。
ずっと一人だったはずの部屋に人の声がすると、マミは咄嗟に構える。
織莉子「それとも、“一緒に居る仲間”には知られたくなかった? それで逃げられては本末転倒よ」
マミ「……何をしに来たの?」
マミはすぐに戦闘にも移れる体勢を取っていた。しかし、織莉子は違った。
織莉子「――――……ねえ、私の目的を聞きたい?」
――――
――――――
見滝原中学校屋上 昼
ほむら「……そう。無事だったのはなによりだけど、右腕は?」
桐野「今のところはなんともないよ。それに、怖気づいてられないって思ったんだ」
昨日美国織莉子とやりあったことを話すと、暁美さんは何か引っかかるように考え込んでいた。
あいつの言っていたことと僕の考えは言ってみた。すると、暁美さんは暫く思案してから僕の問いに答えてくれた。
ほむら「魔法少女が“絶望して死ぬ”のは事実よ。正確には、絶望とともに“ソウルジェム”が汚れきって砕け散る」
ほむら「そうすると、魂から魔女が孵化するの」
その話を聞くとぞっとした。想像は出来ない。けれど何かおぞましいことが起こるのは事実だろう。
……『絶望』と言う言葉はその前にキリカからも聞いたような気がする。確かあの時は――。
桐野「その、“ソウルジェム”っていうのが……」
ほむら「これよ」
暁美さんは指輪のある手を掲げる。
……そうか、やっぱりそれのことだったのか。
ほむら「……美国織莉子は、まどかの素質を知って抹殺を目論んだのでしょうね」
ほむら「けれど…………」
……暁美さんはまた難しい顔をする。どこか納得いかないようだ。
1まだ何かある?
2自由安価
下2レス
桐野「まだ何かある?」
ほむら「……いいえ。それだけでここまでするか、と思っただけ」
それを言われれば確かにそうだ。それだけにしては手段が不自然なところはある。
けれどそれは、昨日実際に話したことでなんとなくわかってはいた。
桐野「…………確かにあいつはそれを目標にはしていたかもしれない。でも、信念や真意がそこにあるようには思えなかったな」
桐野「もしくは二重人格……とかもあるのかも……」
ほむら「……だとしたら救いようはあるの?」
ほむら「私は私の邪魔する者を排除するだけ。よりによってまどかを狙うならその存在を許すわけにはいかない」
暁美さんは一気に凍てつくような雰囲気を纏う。
僕にはそれを見せなかったのは、単に『同業者』じゃないからだろう。……争う心配がないからこそ、ある程度心を許してくれていたんだ。
……僕だってもちろんあいつのやったことを許す気はないし、抱いている怒りは変わらなかった。
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ここまで
次回は20日(水)20時くらいからの予定です
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すみませんが、今日はあまり時間が取れそうにないので中止にさせていただきます。
次回は21日(木)20時くらいからの予定です
ほむら「……話してくれてありがとう。もちろんこっちも警戒はする」
桐野「あ、ああ。うん。気を付けて」
一通り話し終わると、暁美さんは長い黒髪を靡かせて後ろを向く。
もうこの場を立ち去るのだろうか?
1まだ屋上に居る
2もう下に戻る
3これから放課後は何しようかな?
4自由安価
下2レス
……この場から動かないでいたら、暁美さんが足を止めてこちらに振り返った。
ほむら「……戻らないの?」
桐野「いや……。 そういえば、その鹿目まどかさんにはこれからどうするの?」
桐野「あと、出来ればマミさんたちとも仲良くしたほうがいいんじゃないかな……」
そう言うと彼女はさらに難しい表情をつくる。
交友関係に関わる部分にはあまり触れてほしくはなさそうだ。きっと、彼女は彼女なりに考えがあるんだろう。
しかし、この街の魔法少女仲間のことはうまくいっていないらしい。
ほむら「――――……出来ればね。もし何かあれば力を貸そうとは思っているわ」
ほむら「まどかのこともこのまま守り抜く。……一応、今回はみんなも協力はしてくれているもの」
桐野「でも、何も知らないんだよね……」
ほむら「……ええ。別に、知らなくていいわ」
……僕が何か手伝えればと思ったが、下手なことを言ったらさらに怪しまれてしまいそうだ。
――そうしていると、その時、開け放たれた屋上の扉の奥で何かが動いた気がした。
いつも昼の時間にここにいる女子たちだ。
暁美さんもそれに気づいて、向こうからは『わっ』と甲高い声があがる。
ほむら「……あなたたち、なにしてるの?」
「いや、帰ろうと思ったんだけどさ? うん、なんか少し? 別に覗いてたわけじゃあ……」
鮮やかな空色の髪をした少女がひょこりと顔を出す。続いてその後ろから残りの二人が顔を出した。
「ごめんね、わたしは帰ろうって言ったんだけど……」
「お邪魔してしまったでしょうか?」
ほむら「……いいえ。行きましょう」
「お話終わったの?」
桐野(あれが鹿目まどかさん、かな…………?)
青髪の少女を見て思う。
こうして見ていると、取り巻きの女子たちはそのへんの生徒そのものだ。
どこか怖い雰囲気を感じていた暁美さんにもあんな友達がいるんだな、なんて思ってしまった。
戻る/何か言う/その他
1話しかけてみる
2下に戻る
3自由安価
下2レス
安価424
桐野「ど、どうも……」
どうしてたらいいかわからなくて、とりあえず小さく頭を下げて挨拶してみた。
向こうからもばらばらとぎこちない返事が返ってくる。
桐野「あなたが鹿目さん……?」
「え、あたしは違いますけど」
そして疑問をそのまま言葉にしてみるものの、あっさりと否定された。
桐野(……あれ?)
それならば、と残りの二人のほうを見る。
すると、暁美さんが急いだように足を早める。
桐野(やっぱり自分のことは知られたくない……のか)
…………しかし、三人はこっちをまだ気にしていたようだった。
――――
――――
二年教室内
――――……それから、教室に戻った後も三人は一緒だった。
前のほうに居るほむらを横目に見ながら、青髪の少女がこっそりとさっきの話を切り出す。
「うーん、なんだかあんまりわかんなかったぞ? 『魔法少女』? がどうとか……?」
「アニメかなにかの話でしょうか……?」
「とりあえず、色恋沙汰の話じゃなさそうだね。ぜったい、あれは怪しいと思ってたんだけどなー」
「……それはまだわかりませんわよ?」
突然一人の男子生徒と周りを遠ざけるようにして話すことの多くなった、ほむらについての噂だった。
もう一人の少女も、最初は盗み聞きを止めようとした側だったものの、なんだかんだで興味がある様子だ。
……その横で、桃髪の少女は何か引っ掛かることがあるように思い悩んでいた。その原因は明白だ。
「何か、わたしのこと言ってた?」
「……ああ、言ってたね」
「実はまどかさんのことで相談していたとか!」
「えぇっ? でもわたし、あの人のこと全然しらないよ」
しかしもちろん、それもみんな本気で思っているわけではなかった。
「また『転校生ほむらの謎』入りかぁ」
「暁美さん、学校で話さないわけじゃないのに少し不思議なところがありますからね……」
――――
三年廊下
…………屋上に誰もいなくなると、僕は階段を下りて自分の教室のある三年生の廊下を歩いていた。
今日は教室を出る前に昼食もしっかりと食べてきた。
また昨日みたいなことがあったら、悲しいからってふらふらになってはいられない。僕も少しは力をつけないと。
廊下を戻っていく途中、ある教室の前で足を止めてガラス張りの壁から中の様子を探る。
桐野(マミさんがいない……?)
もともとあの話はこの件に関わるみんなに話すつもりだった。
また杏子さんたちと待ち合わせをしているのなら話すのは揃ってからでもいいが、その予定だけでも聞いておきたかった。
……この場では何もせず、再び足を動かして教室に戻っていく。
それから放課後、チャイムが鳴ってすぐにもう一度教室を見に行ってみてもその姿はなかった。
もう帰ってしまったのだろうか。
ありえなくはないけれど、昼にもいなかったというのが気になっていた。
昨日と行先が同じなら、今からいつもの教会に向かえば会えるかもしれない。
それが駄目なら…………
失った人と、昨日の美国織莉子との会話。嫌なものが過ぎってそれを掻き消した。
桐野(…………まずはいつもの教会に行ってみよう)
そうしたら杏子さんやマミさん、誰かには会えるかもしれない。
そう考えて下駄箱のほうに降りると、校門を出て目的の場所に向かって行った。
杏子「――……そうか。よくやったじゃないか」
教会に着いて二人にも美国織莉子と会ったことを話すと、杏子さんは僕のことをそう褒めてくれた。
杏子「やっぱアンタ度胸あるよ」
桐野「そうかな……?」
少し照れる。そんなふうに言ってもらうことなかったから。
でもそう言われるのは僕からすれば少し違和感があった。
桐野「でも、昨日のは度胸だけじゃないよ。怒りとか悲しみとか、そんな『許せない』感情があったからなんだ」
桐野「この先なにをしても、美国織莉子の事はその気持ちはずっと変わらないと思う。……杏子さんたちも気を付けて」
杏子「……まあ、織莉子のことならもう大丈夫だ。こっちで片付いたからな」
桐野「え……そうなの?」
杏子「ああ」
杏子さんとゆまちゃんは教会の表でお菓子を食べていいた。
拍子抜けするほどくつろいだ光景だ。その理由は今やっとわかった。
杏子「あいつはもう“この世にはいない”よ」
――でも、これで本当にすべてが終わったのか。……あの後?
1最期を見たの?
2自由安価
下2レス
1+もしかして倒したのはマミさんなの?
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ここまで
次回は24日(日)18時くらいからの予定です
桐野「……最期を見たの? マミさんと一緒に?」
杏子「マミと一緒にあいつの家まで押しかけて、その場で戦いを仕掛けた。何があったのかは知らないけど荒れた状態だったよ」
杏子「二人がかりでの奇襲となれば勝負はすぐだ。あたしが腹を貫いて、勝負がついたところにマミに頭を撃ち抜かせて終わり。……確かにトドメを刺したのを見届けたよ」
杏子さんの話を聞くと、僕は暫く頭の中でその内容をかみ砕きながら考えていた。
ソウルジェムが魔法少女の生命の源。その“最期”は、宝石が砕ける瞬間。
――だから、杏子さんのその言い方には違和感を覚えたんだ。
杏子さんはそんな僕の反応を見て心配したのだろうか。相変わらず態度は突き放すようだけど。
杏子「嫌になったか? こんな世界の話。……けど、当然の報いだとは思うけどな」
キリカが死んだとき、持っていた宝石は割れて砕けていたが魔女は生まれなかった。
その違いは孵化して割れるか、その前に割るかだ。それ以外の魔法少女の最期がどうかなんて僕は知らない。でも、この違和感は?
…………わざわざトドメを刺す場所を“頭”と言ったことだ。
・自由安価
下2レス
桐野「……本当に死んだのか? 死んだのを確認した?」
杏子「さっきの話聞いてたなら、それで生きてる人間なんかいないだろ? それとも化かされてないかって?……いくらなんでも用心深すぎないか」
杏子さんはさっきまでの心配から、僕の追及を訝しむように表情を変える。
美国織莉子が使えるのは予知の魔法。幻覚みたいなものまで警戒するのはやりすぎだ。
……とはいえ、あいつに関しては僕はそのぐらい慎重に疑ってもいいくらいには思っていた。
桐野「美国織莉子は……さっきも話した通り予知の魔法を持ってる。それに狡猾な女だ。そもそもそんなに簡単に奇襲なんてできるのか?」
杏子「予知だって完璧なものとは限らないんじゃないか……? それとも他にまだ仲間でも居たとか?」
桐野「いや…………オレは“幻覚”についてはそこまで疑ってるわけじゃないんだ」
今の時点ではまだ違和感にしかならない。僕が思いつける程度の疑問なんて、杏子さんが考えないわけはないとは思う。
……なら、事実を確かめる決定的な証拠になるものは?
1場所
2時間
3ソウルジェムの仕組み
4マミ
下3レス ※1つ選択
桐野「だって……ソウルジェムを壊してないなら死んでるとは思えないよ」
杏子「トドメを刺さなかったらな。回復されるかもしれない。けど、頭撃ったら即死だろ?」
杏子さんはあたりまえのようにそう言った。
ソウルジェムを狙わなくても、それ以上に撃ち抜きやすい急所があれば……その判断はおかしくないことだろうか。
桐野「そうか…………」
僕にはわからない。けど、杏子さんがそう言うのなら。
杏子「……不安は解消できたか?」
桐野「ああ。でもちょっと、『魔法少女』の基本的なことから確認させてほしいんだけど……」
杏子「魔法少女の基本的なところ?」
周りの木々が風にざっと揺れる。
――――話している最中、物陰から姿が現れた。
杏子「…………アンタ、何しにきた?」
一人分増えた気配に、いち早く杏子さんは反応していた。
風になびく長い黒髪は屋上で見る時と一緒だ。
ほむら「様子を見に来ただけよ」
杏子「そうか。でももう問題も片付いたんだ。……悪趣味な偵察は控えてくれない?」
暁美さんはいつから居たのだろう。
やはりこの二人が顔を合わせるとあまり良い雰囲気とは言えなかった。
ほむら「……貴女達が追っていたこの街の問題は片付いたのね?」
ほむら「それなら、もう貴方は魔法少女のことにはあまり関わるべきじゃない。……桐野巴君」
名前を呼ばれてはっとする。
……もうあれも別世界のことなのか?
ほむら「貴方には貴方の生活があるはずよ」
確かに、僕には人生をかけて追っている『夢』がある。
……コンクールも近い。今までそのための行動をしてきたはずだった。
桐野「…………絵の道具を取ってくるよ」
そう言うと、暁美さんは静かに頷いて僕を見ていた。
……反対に、杏子さんはどこかこっちから目を逸らしたようだった。
来た方向を戻っていく。すると、後ろから暁美さんも歩いてきていた。
桐野「杏子さんたちとは協力していたんじゃないの?」
ほむら「……彼女の言う通り、偵察しにきたのは正解よ。それと忠告をしにきただけ」
桐野「……聞いてたんだ、さっきのこと」
こうでもしないと話し合うことすらできないからだろうか。もしくは、このほうが早いから。
その気持ちは話すことが苦手な僕には少しわかる気がしたけれど。
……暁美さんは決意を固めるように言った。
ほむら「……これ以上はもう誰かに頼るわけにはいかない。貴方も今までありがとう」
桐野「えっ……いいよ、そんな。別に話せなくなるってわけじゃないし……」
ほむら「魔法少女の事以外で私が貴方に何を話せばいいの?」
桐野「それは…………」
そう言われるとすぐには何も言えなかった。
自宅への道の途中で、暁美さんは僕に別れを告げる。まるでこれから別の未来を歩むことを示しているように。
――――絵の道具を鞄に詰めて、ふと足りなくなっていたものに気づく。
桐野(そうだ、絵具を買い足さないと続きが描けないんだった)
教会に戻る前にデパートに行こう。
そんなことを考えるのが本当に久しぶりだったことに気づく。
……非日常に晒されても、大事な人を失っても、これが僕の送るべき生活……か。
――――
――――――
ほむら(前回、集団下校を実施したのは近くで大規模な『行方不明』が起きたから……)
ほむら(それを戦いとするなら、“この状況”はあまりに似ている)
ほむら(美国織莉子は確実にまたまどかを狙いに来る)
ほむら「…………今度こそ守り抜いてみせる。あいつの思い通りにはさせない」
―10日目終了―
――――
美国邸 【9日目】
『……あなたが今やめたらこの世界に生きる人はどうなるの?』
『辛くても、間違っていても、逃げては駄目でしょう?』
『あなたがもしそれが出来ないのなら――――……』
――――……一人しか居なかった広い部屋の中、その平穏が突如として破られる未来が蒼色の瞳の中に映る。
いや、あちこちに散乱する物、荒れた部屋の中はやはり“平穏”とは言えないかもしれない。
少し前の、その心の中と同様に。
目の奥の世界で、銀の振り子を揺らす豪奢な時計は午後5時前を差していた。――それは桐野が彼女と話すよりも2時間以上前のことだった。
織莉子「……それがどうしたというの?」
この力は、その光景の前に自分の“望む未来”を引きだしてくれた。
空虚と過ちに気づき、荒れ果てて逃げようとした私をまるで慰めてくれているかのように。
……そして、それは単なる妄想じゃない。実現可能な現実だったのだ。たとえその人がこれから私を殺しに来るとしても。
ガラスの突き壊される音とともに静寂が破られる。振り子の時計が時間を差した。
織莉子「それなら私は動きましょう…………この未来を回収するために」
…………再び静寂を取り戻した部屋で、二人が壁に向けて追い詰めるように立っていた。
それに対し、その部屋の主は大きく刺し貫かれた腹から血を流して壁に凭れて倒れていた。
杏子「――……これで一件落着か。念のためにトドメも刺しておけよ」
マミは右手に持っていた銃の狙いをわずかに彷徨わせる。
銃口の先は床だった。……正確にはその宝石のある指だ。
杏子「どうした?」
マミ「……なんでもないわ」
少しの間ためらってから引き金を引く。
マミは突きつけた銃を床から頭に移動させて撃ち抜いた。
――――――
――――――
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ここまで
次回は26日(火)20時くらいからの予定です
【11日目】
丸いテーブルにティーカップを運ぶ。二人は織莉子の家の建物の外のテラスに居た。
豪華な庭だが、薔薇の庭は瑞々しさを失い枯れかけている。
その光景は優雅なティータイムのようにも見えるが、どちらも表情はティータイムを楽しんでいるような穏やかな顔つきではなかった。
織莉子「まさか今日はそちらから訪ねてきてくれるなんてね」
織莉子「本当に、私と一緒に……やってくれるの?」
マミがティーカップに口をつける。それからゆっくりとした動作でカップをソーサーに戻した。
薄い紅色をした水面が揺れる。
マミ「……何を言っているの? 私はあなたのことを許したりしない。正しいなんて思ってるわけじゃない」
マミ「あなたは身も心も人間ですらない屑よ。契約しなくてもよかった人を契約させ、たくさんの命を奪った。あなたのやり方は間違っている」
織莉子「…………」
織莉子は考える。――初めから、私が協力者として選ぶべきは“こういう人”だったのかもしれない。
それがわかっていればあんな駒なんかに手を出すことはなかった。……こんなふうに、誰の得にもならない暴走をして傷つくことも。
マミ「けれど、『やるべきこと』は変わらないのよ」
マミは真剣な表情を織莉子に向ける。
マミ「……あなたが今やめたらこの世界に生きる人はどうなるの?」
マミ「辛くても、間違っていても、逃げては駄目でしょう? そのために私は一緒に居てあげる」
その瞬間織莉子は顔を上げた。
それは一度耳にした『未来』だった。ついにその瞬間がやってきたのだ。
マミ「あなたがもしそれが出来ないのなら――――……」
…………ティーセットを片づけると、二人は席を立った。
マミ「――――もうこの庭も見納めね」
――――――――
……休日の午前中。黒い喪服に混じって、僕はいつもの制服を着て普段は来ないような場所に来ていた。
今日は土曜、キリカの葬式だった。キリカの親族やうちの家族のほかに、同級生と思われる人もいくらか来ている。
桐野「あの……これも、一緒にお願いできませんか」
差し出したのは、例の『タイムカプセル』に入っていたものだった。
思い出としてずっととっておきたいものは別の場所にとっておいたが、キリカに持っていてもらいたいものもあった。
その内容は昔描いた絵、オモチャ、と…………。
*「……ええ」
おばさんは静かに返事をして、それらを受け取った。
いつも明るい人だって印象だったけど、今日ばかりは元気がない様子だった。おじさんもだ。
間もなく一番最後の別れの時が来る。
……あとは見守るしかない。僕にはこれくらいしかできなかった。
――――葬式が終わった後、帰りの車の中で僕はぼんやりと外を眺めていた。
*「……巴は一緒に居たのよね。目の前で見たのは辛かったわよね」
桐野「…………」
大人たちは何も知らない。いや、本当に限られた人しか事情なんて何も知らなかった。
でももうすべてが終わったんだ。
……これも過去のことにして良いのだろうか。どんな決着をつけたってこの気持ちはすぐにおさまることはないだろうけど。
桐野(全てを関係ない世界のことにして、見なかったふりをして?)
桐野(……でも、そうするしかないんだもんな)
暁美さんの冷たい声が浮かぶ。
それを知る前と、みんなとの関係まで変える必要はない。ただ、少し前に戻るだけだ。
…………家に帰ると、キャンバスに向き合った。
絵を描くことに没頭していれば少しは気持ちが落ち着く気がした。けど、こういう時は感情が筆にまで出てしまいそうだった。
桐野(新しい画でも……描こうかな)
1どこかスケッチしに行く(安価で場所指定・指定しない)
2誰かの人物画
下2レス
紙に柔らかい鉛筆を走らせていく。僕の脳裏に浮かんだままのキリカの姿がそこに形作られていった。
思い描いたのは現実に感情が混じったもの。――せめて絵でくらい。せっかくキリカの絵を描くんだったら、明るい絵を描きたいのに。
……最後に見た姿は、傷もなく死後綺麗に薄く化粧で彩られたキリカの寝ている姿だった。
静かすぎる。そんなんじゃない。キリカはもっと活発に動くし笑う子だったんだ。…………でも、思えばそんな表情をもう何年も見ていなかった。
筆を取って、絵具を混ぜていく。
どんな色を付けようか? ……そこが涙で滲んだ。
桐野「……く……っ――……」
せめて今のキリカの笑顔が頭に残っていれば。
もう少し違った絵になったのかもしれない――――。
……細部まで彩りを付けたキャンバスと向き合う。完成には夜までかかった。
これはコンクールに出す予定の絵とはまったく別だ。この絵は誰にも見せるつもりはなかった。
でも、もしかしたら今まで描いていた絵よりも上手に描けているかもしれない。
僕にとっては、そんな妙なリアリティのある絵に感じられた。記憶と感情の思い起こされるような絵だ。
人物画なんて、普段ほとんど描かないのに。
桐野「…………」
ゼンマイが切れたように力が抜けて、ベッドに寝転ぶ。
僕はこれからどうすればいいだろう?
……扉の向こうから食卓に呼ぶ声が聞こえて、再びのろのろと身体を起こした。
桐野(……『今まで』どおりって言われたって、すぐに戻れるわけないもんな)
桐野(少しずつ向き合っていくしかないか…………)
―11日目終了―
――――あれからまた学校の始まる日になる。
いつもの通学路を歩いて、見慣れた校舎の中に入っていく。
各フロアに通じる階段を上って行った。
行く先は…
1マミに会いに行く
2ほむらに会いに行く
3自分のクラスに行く
4自由安価
下2レス
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ここまで
次回は27日(水)20時くらいからの予定です
行く先はいつもの三年のフロアだ。でも、自分の教室じゃなかった。
桐野「……マミさん、おはよう」
マミ「あら、桐野君。おはよう」
今日は来ているようだ。
マミ「朝から珍しいわね」
桐野「ああ、なんとなくね……。金曜は会えなかったから、どうしてるかなと思って」
マミ「もしかして、私に何か用事でもあった?」
桐野「いや、そういうわけじゃないけどさ。 ……あ、そうだ。今度、絵のモデルにでもなってよ」
マミ「絵の?」
桐野「うん、言ってなかったっけ。趣味で描いてるんだ。人物はあんまり描かないんだけどね」
なんとなく、土曜に描いた絵のことが浮かんでそう言った。
あの絵はまだ僕の部屋のすぐ見えるところにある。同じ人物画でも、あれは見て描いたものとは少し違う。僕の頭の中から描いたものだ。
今家にあるまともに描いた“人物画”はあれだけなのか……。
マミ「……ええ、今度、ね」
マミさんが返事を返す。『今度』というのがいつになるのか、もしくはただの社交辞令なのかはわからないけど。
…………ひとまず、今はマミさんの無事な姿が見られたことに安心した。
1自分の教室に戻る
2自由安価
下2レス
桐野「今日は、昼休みは?」
マミ「昼休み?」
桐野「弁当を一緒に食べようかと思って」
考えてみたら久しぶりだし、また断られたらどうしよう。
……そう思ったけど、少し考えるように間を空けたのち、マミさんは快く承諾してくれた。
マミ「……いいわよ。またこの教室でいい?」
桐野「うん。昼になったら行くよ」
こういう会話をしていると、やっと形だけでも日常を取り戻せる気がする。
でも、それでいいのかはわからない。そのうちにあんな世界があったことも、キリカのことも、全部忘れ去ってしまったら……。
いつも通り綺麗にきっちりと巻かれた髪を何の気なしに見ていると、マミさんがこっちに気づく。
マミ「なにか気になることでもある?」
桐野「こういう言い方でいいのかわからないけど、マミさんって変わった髪型してるな……ってさ」
マミ「……“そういう言い方”じゃなかったらどうなるの?」
桐野「あ、悪い意味じゃないよ。綺麗とか、似合ってるとか、そんな感じ……かなぁ」
……言いながら照れてきた。貶したわけじゃないしそう思われるのは嫌だけど、褒めるのは勇気がいる。
桐野「でも毎朝大変そうだよね、それ。絵にしてみたらどうなるだろう」
マミ「あぁ……そのことね。本当に私がモデルでいいの?」
桐野「他に頼める人がいないんだよ。佐倉さんには断られちゃったし」
思えば、この髪型にもマミさんの性格は出ている。
言い方を変えれば完璧主義者ともいうのだろうか。手間をかけてでもやりたいことを完璧にこなす感じ。
オシャレのことはわからないけど、すごいとは思う。……その感じは見習いたい。
桐野「……いや、でも仕方なくとかってわけじゃないから」
マミ「そう。ありがとうね、そう言ってくれて」
――――教室にも人が増えてくると、チャイムが鳴る前に別れていく。
……それ以上の話は、それからまた昼にとっておいた。
――――
――――
屋上 昼
まどか「ほむらちゃん、今日は何かあったの?」
ほむら「いいえ、特に何もないけど……どうして?」
さやか「そりゃあだって、今日はいつもよりうちらのとこに来てよく話してるから」
仁美「あっ、もしかしてこの前の殿方と何かあったのでは……」
まどか「そ、そういうことってあんまり言っちゃダメなんじゃ……」
少女たちは好き好きに語り合う。
ほむらはこの日もいつもの屋上で、友達たちと昼をともにしていた。
ほむら「……まあでも、あの人とこれから話すことはないでしょうね」
仁美「!」
ほむら「帰り、今日は一緒に帰ってもいいかしら?」
まどか「もちろんだよ。もしよかったら、一緒にお店とか寄っていこ!」
さやか「そういえばほむらって家どこなの?」
ほむら「駅のほうよ。あまり貴女達とも遠いわけじゃないわ」
仁美「そうでしたの。初めて知りましたわ。暁美さん、いつもお忙しそうにしていましたから……」
ほむら「これからは一緒に帰れる日が増えると思うわ」
……そこで、三人のうちの一人がある疑問に気づいた。
さやか「……あれ? なんであたしたちの家知ってんだ?」
――――
桐野「マミさんって、そういえば放課後はいつもなにしてるの?」
マミ「大体は魔法少女の活動よ。街に魔女がいないか見て回ったり、気になるニュースがあれば足を運んだりしてるいわ」
桐野「へえー……」
忙しそうにしてるとは思ってたけど、それも責任感を感じてやっているのだろうか。
さすがにそんなことは今まで思いつかなかった。……それに、そんな話をこうして日常の中でしているのがどこか面白かった。
1毎日?
2自由安価
下2レス
桐野「毎日?」
マミ「ええ、ほぼ毎日ね。忙しいときは違う時間にずらしたりするけど、魔女を放置したら犠牲が出てしまうでしょう?」
桐野「……そっか」
マミさんはサンドイッチを口に運びながら微笑を浮かべた。
マミさんの今日の昼ご飯は、いつか見た時と同じくサンドイッチだ。それにサラダや果物などが添えてある。
桐野「ちなみに、最近は何か変わったことある?」
マミ「“あの事”以外で?」
桐野「……うん」
……マミさんの言いたいことはわかった。
でもあれはもう終わったことで、マミさんもあえて触れないようにしているのも察せられた。
僕も杏子さんから聞いたことで一応納得はしてる。
マミ「そうね……駅前のデパートの1フロアが新装オープンしてたことかな」
桐野「どこか変わったの?」
マミ「さあね、あまりじっくり見てないからわからないわ。新しいお店でも入ったんじゃないかしら」
桐野「パトロールをしていると、そうやって街のことを知ることができるんだね……」
1教室に戻る
2今度一緒に見に行こうよ
3自由安価
下2レス
僕がこの前デパートに行った時には気付かなかった。
買いたいものが決まっていたから、そのあたりは通らなかったんだろう。
桐野「じゃあ、今度僕も一緒に見に行っていい? その時に絵も描くから」
マミ「…………ええ。今度ね」
桐野(……あれ?)
――――なぜだろう。その時、僕はふと違和感を覚えた。
一瞬、さっきと同じように笑みを浮かべるマミさんの表情がどこか表面的なものに見えて、『今度』という曖昧な約束がずっと来ないような気がした。
マミ「どうかしたの?」
桐野「……いや」
そんなのただの気のせい、考えすぎだ。そう思おうとする。
桐野「なんでもないよ。午後の授業も頑張ってね」
食べ終えた弁当を片づける。
……昼休みが終わる少し前の時間になると、鞄を持って教室を去っていった。
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ここまで
次回は29日(金)20時くらいからの予定です
――――
――――
帰りのHRが終わった後の時間、ほむらは今日はいつもの友達たちと一緒に居た。
ほむら(今のところは異常なし。休みの間もなにもなかった。美国織莉子らしき怪しい人物は現れてない……何かあるとしたらこの後ね)
ほむら(前回は私が目を離したせいで“まどかが殺された”)
ほむら(今度こそ離れたりしない。もしまた奴が現れるのなら、すぐにこの手で――)
ともに居る三人の楽しそうな雰囲気とは反対に、ほむらは厳しい顔つきをしていた。
その時、いつもの友達たちと居るほむらのもとに見慣れた姿が現れる。
マミ「暁美さん……ちょっといいかしら。今後のことで少し話があるの」
ほむら「…………ごめんなさい、少し待ってて」
マミに声をかけられ、ほむらは三人にそう告げて教室を離れていく。
それから二人は廊下を歩き、階段を上っていた。その途中で、マミが向かおうとしている先が屋上だということにほむらは気づく。
ほむら「……それで、話って何」
マミ「まあ、着いてからにしましょう?」
ほむら「今日はあまり時間はとれないわ。人と帰る約束をしているの」
マミ「そう」
マミは簡素に一言だけの返事を返す。考慮してくれる気なのか、わかった上で流すつもりなのかはどちらの意味にもとれる。
他の人に聞かれたくない話といえば、魔法少女関連の話であることは確かだろうと推測はつく。
単純に、ほむらにとってはそれ以外に話すこともないのだ。同じ縄張りに居る魔法少女。今の二人の関係はその程度だった。
だがその言葉には続きがあった。少し間が開いて、屋上に向かう階段を上りきってからマミは言う。
マミ「これからのことよ。すぐに終わるわ」
ほむら「そう。それならいいのだけど――――」
誰もいない屋上に出て、それから数歩。マミは突然振り返った。
それと同時に足元から伸びるリボンに、ほむらは対応しきれない。それは少なくともマミのことは信用していたからだった。
ほむら「……これは何のつもり? 巴マミ!」
リボンはほむらの全身にきつく絡み付く。
その感覚と状況に、ほむらはある過去の記憶を思い出した。……それはろくでもない記憶だ。
マミ「ごめんなさい、少しだけそうしていて頂戴。すぐに終わるわ」
ほむら「待ちなさい!」
マミがその場から去っていく。最初からこれだけが狙いだったのだ。ならば目的は?
ほむらは自分の記憶をたどる。やはり今までの行動が不審を買って、彼女の逆鱗に触れたのか。もしくはそのようなことを吹き込まれた。
しかし、それだけでこんなだまし討ちなど仕掛けてくるだろうか?
杏子早く来てくれ
ほむら(駄目、自力でほどけるようなものじゃない。巴マミの魔法はそんな柔なものじゃ……)
ほむら(私を殺そうとしたわけじゃない……なら、まさか)
なんとか拘束を解こうともがいていたほむらだったが、巻き付いたリボンがその細い身体に軋むばかりだった。
ほむらは美国織莉子だけを警戒していた。しかし、予想もしない人物が“敵”に回ることは今回もあったのだ。
そのなかでも、巴マミは――彼女の性格や思想を考えればあり得ないことはないと思えた。
こうしている場合ではない。巴マミは“邪魔者”を除けるためにこうしたのだ。
ほむらは体力を消耗するだけの抵抗をやめ、違う手段に頼る。
――――
――――僕は思わず振り向いた。
しかし、周りにその声の主はいない。みんな興味なさげに通り過ぎていくだけだ。
桐野「……暁美さんの声が聞こえた?」
当然暁美さんの姿も見えない。僕はすぐにこれも『魔法』だと気づいた。
幻聴でないのははっきりしていたから。
『まどかを守って!』
学校も終わって、ちょうど帰宅しようと階段を下っていた頃だった。
“鹿目まどか”は暁美さんのクラスメイト。学年は二年だと言っていた。たった今、彼女を脅かすものが迫っているというのだろうか。
気を引き締めて、二年のフロアで廊下に出る。駆けながらそこに並ぶ教室を見ていくが、しかしその中には姿は見当たらなかった。
――――見つけたのは、誰もいない突き当たりまで廊下を進んだ先だった。
桐野「マミ…………さん?」
マミ「……桐野君。どうしてこんな場所に来たの?」
二年の廊下の奥は普段使われないような教室が並び、普段から人はほとんど寄らない場所だった。
そのため、掃除が行き届いてなく埃が溜まっている。
そんな場所に……マミさんと、その傍に“誰か一人”が倒れていた。
マミ「桐野君には『こんなとこ』、見せないで終わりにしたかったのになあ」
見覚えがあった。暁美さんと一緒にいた中の、桃髪の…………。
その身体の下は赤く染まり、血溜まりが出来ている。
桐野「……気でも狂ったのか? なにやってるんだよ! どうして!」
桐野「まさか美国織莉子に……――」
マミ「悪いけど、私は至って冷静よ。狂ったわけでも、篭絡されたわけでもない。自分の判断でこうすることを選んだの」
マミ「……私だって、魔法少女が魔女に成るなんて知っていればあんなことしなかった。魔女は人を殺すの。放っておけば犠牲者が出る」
マミ「最初から、美国織莉子の計画を知っていれば――――」
マミさんは恨めしそうに言った。それを聞いて僕ははっとする。
マミさんはソウルジェムが魔女を生むことを知らなかったのか?
魔法少女なんだから、当人なんだから当然のように知っているものだと思っていた。いや、そうでなければいけないはずなのに何故マミさんが知らないんだ!?
桐野「まさか、美国織莉子と戦ったとき頭を撃ったっていうのも?」
桐野「……本当は死なないのか? 身体が死ぬような攻撃を受けても、ソウルジェムさえ壊れなければ……」
マミ「そうよ。でもあの時は決してわざとやったわけじゃなかった。……怖かったのよ。それを“認める”のも、“知られる”のも」
杏子さんも知らなかったんだ。だからあの時気付けなかった。
桐野(…………契約した時に話されなかったのか)
今考えればおかしい部分がないわけではなかった。
杏子さんは『カイブツを倒して人を助ける』のが魔法少女だと言っていた。それなのに、それを生み出しているのも彼女たちなんて。
マミ「でももう、彼女もこれから長く生きる気はないでしょう」
マミ「敵討ちにはならないけど、少しは安心できるかしら?」
マミさんは淡々と話す。マミさんが『自分の意思で』こんなことをしたというのが僕には受け入れられなかった。
ほとんど学校でしか話してないけど、『友達』だって言ってくれたのに。
1マミさんもこのまま死のうとしているの?
2まどかに駆け寄って見てみる
3自由安価
下2レス
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ここまで
次回は30日(土)18時くらいからの予定です
マミ「……無駄よ。もう死んでいるわ」
地面に横たわる“鹿目まどか”に駆け寄ろうとした僕を止めるようにマミさんが呼びかけた。
近くで見てみるが、確かに息はなかった。頭を撃ち抜かれている。……同時に、これで死ぬのは“魔法少女ではないから”だとも過ぎった。
桐野「そんな……」
マミ「失望したかしら? 『こんなのマミさんらしくない』って」
マミ「でもね、私の目指していた『正義』なんてものは最初からなかった。私が最後に出来ることがこれだったのよ」
桐野「マミさんもこのまま死のうとしているの?」
桐野「魔女になるのなんか“いつか”の話だ。今じゃない! この子だってそうだったし、マミさんだって……」
桐野「マミさんの家族はきっと、マミさんには生きて欲しいって天国で思ってるはずだよ。せっかくマミさんは生きてるんだから!」
マミ「……甘いわ。桐野君は考えが甘すぎるのよ。今契約していなくても、それを見過ごす理由にはならない。『いつか』の滅びは今防がなくてはいけなかった」
マミ「あなたには受け入れがたいかもしれないけれど、それだけのことよ。あなただって死にたくはないでしょう?……この世界に生きる『全て』を巻き込んで」
マミさんは穏やかな口調で僕を諭す。……どこまでも冷静に語る彼女に、“決定的な違い”を感じた。
それは日常に生きてきた僕と、戦いの世界で生きる彼女の意識の違いだ。僕が魔法少女に関わってから端々には感じていたもの。
確かに、僕の考えは甘いのかもしれない。でも、僕はただただこの場で起きていることが悲しかった。……悔しかった。
桐野「で、でも……今日だって、いつも通りに過ごしてたじゃないか」
マミ「ごめんなさい。最後まで、綺麗な『理想のままの私』で居たかったの。――いつもの生活。いつもの日課。……正義のために戦う『いつも通り』の私で」
――――次の瞬間に、マミさんも冷静な無表情を崩した。
マミ「…………私だけが生き残ったんだものね。ずっと後悔していたわ。こんな風になってまで生きていたくはなかった」
マミ「二年前、みんなと一緒に死んでいればきっとそれが一番幸せだったのよ」
桐野「……オレはそうは思わないよ。マミさんがオレのことをどう思っているかはわからないけど、オレはマミさんと友達になれてよかったって思ってるから」
マミ「今でも?」
桐野「今でもだよ。だからマミさんにも死んでほしくない。身勝手なことかもしれないけど、もうオレは誰も失いたくない」
桐野「世界は滅ばなくなったんだろ? ……じゃあマミさんも生きようよ。どうしようもないことなら、もう責めたりはしないから」
マミ「そんなことを言っては駄目よ。……そう言ってくれるのは、あなたが優しいからね」
マミ「あなたと話せたことはよかったかもしれない。でも、ずっとそれに甘えてはいられないから」
マミさんの前の前に、まだらに茶色の濁りが混じった金色の宝石が浮かぶ。
マミさんはそこにそっと指先を触れると、その手の中に銃を形作って先端を宝石の表面に突きつけた。
マミ「私はこれで、もう今まで私を縛っていたものから全て解放されるの。――あぁ、身体が軽くなったみたいよ」
桐野「駄目だ!」
マミさんの行動に気づくと僕はすぐに駆け出す。しかし、引き金は引かれていた。
至近距離から撃たれた宝石が瞬時に砕け散る。
…………その表情には、責任と運命から解放された喜びが表されていた。
確かな喜び。しかし最期の一瞬、マミは頭の中に言葉を浮かべた。
マミ(でも、叶うことなら“普通”のままでいたかったなぁ)
マミ(本当は、家族みんなで『幸せ』に――)
…………そんな、ささやかな望みだった。叶わない妄想に浸りながら最期の一瞬を過ごし、幕を閉じる。
やがて表情は消え去り、無表情へと変わる。
桐野「マミさん!」
僕は精一杯叫んだ。
……忘れることなんかしてはいけなかったんだ。あの死と騙し合いの世界に居る人なら、まだ目の前に居た。
それなのに、僕は結局、表向きの綺麗なところしか見ようとしなかった。
何とかできるとしたら今のうち――――あのとき美国織莉子の言ったそんな言葉が響いた気がした。
……今更ながらにその意味を悟る。
ほむら「巴マミはマミは抜け目のない人よ。“私の知る過去”でその真実を知った時にも、酷く動揺しながらも戦いの上では冷静さを欠くことはなかった」
その時、背後から声がした。いつのまにか暁美さんがその場に立っていた。
ほむら「……状況を正しく把握し、合理的な判断を下すことが出来る人だった」
ほむら「それは彼女の性格に加えて、長きにわたる戦いの経験のおかげでもあるんでしょう」
二人の亡骸を前にして、彼女は淡々と語る。
俯いていてその表情は見えない。……ただ、全てを諦めてしまったように力なく見えた。
彼女はまた“別の可能性”へと旅立つのだろうか。
桐野「…………明日、手紙を書いてくるから」
ほむら「ええ」
どうしようもない喪失感が心の中を大きく抉って、今は何も話す気力がわかない。
……ただ、彼女がここから“離れてしまう”前にそれだけ言葉を交わした。
――――――
――――――
――――翌日。 学校が終わってから、僕らはいつもの屋上に来ていた。
鞄から手紙を取り出して手渡す。その内容は昨日一日中悩んで書いたものだ。
ほむら「……私が読んだら困るかしら?」
それを受け取ると、彼女は聞いていた。
特に封はしていない。見ようと思えばすぐに中身を見られるようにしてあった。
桐野「いいよ。でも、暁美さんに言いたいことはここで全部言うから」
桐野「……どうか、君にも幸せになってほしい」
1本当にまた過去をやり直すの?
2今までありがとう
3自由安価
下2レス
桐野「最後まで君には世話になりっぱなしだった。だけど、僕は君には何も役に立てなかった。マミさんの件も……」
ほむら「いいえ。本来ならば関わりのない貴方になんとかしてもらおうなんて思っていないわ。私はもう誰にも頼らないって決めたから」
ほむら「単に私の注意が足りなかっただけ。私がまた失敗をしてしまっただけ……」
桐野「……それでも、昨日暁美さんは僕を呼んでくれたのに」
僕が駆けつけた時にはもう間に合わなかった。それに、間に合っていれば止めることが出来たのかもわからなかった。
暁美さんの守ろうとした鹿目まどかが、この世界を滅ぼす死神となる。
そうならないで無事に生きていてもらうことが勿論一番良いことではあるけれど、それが甘い考えなのも事実かもしれない。
それを放っておくのが本当に正しいことかということも……今の僕にはわからなかった。
桐野「ほかの世界の僕がこの手紙を見て、本当に信じるかわからないけど、今回みたいに間違えた道を進んでほしくないんだ」
桐野「……今までありがとう」
ほむら「……そんなふうに言ってもらえたのはこれがはじめてよ」
今までの気持ちを込めて感謝の言葉を口にする。
…………暁美さんは最後に少しだけ笑顔を見せた。
―――――その放課後、僕はまた街外れの教会で絵を描いていた。
横には杏子さんとゆまちゃんが居る。
……悲しみと喪失感を代償に、全ての“問題”が片付いた。
これですっかり街には平和に戻ったように思えたが、実はこの後に“大災害”が起こることを二人はまだ知らない。
本当だったら、暁美さんが話して倒すのに協力してもらうつもりだったらしいけれど…………。
杏子「そうか」
桐野「……うん」
杏子「あたしたちは魔女になるのか」
杏子さんは無感情に、ただ事実を確認するように言った。
マミさんの死んだ経緯はすべて話した。――二人が知らなかった魔法少女の真実も。
ゆま「でもそれは今すぐじゃないよ」
ゆま「人はみんないつか死ぬから」
杏子さんがゆまちゃんの髪を撫でるようにそっと手を置く。
杏子「……そうだな。あたしらはこれからもこうやって生きてくだけだ」
ゆま「うん!」
1二人は強いね
2自由安価
下2レス
桐野「二人は強いね」
それは決して、その事実を重く受け止めたマミさんが“弱い”って言いたいわけじゃない。
……二人の考え方や生き方は随分違ったと思うから。
それに関しては“所詮部外者”である僕がどうこう言えることじゃない。
杏子「……けど、心残りなのはマミのことだな。結局、あのまま終わっちまった」
少し悲しげな杏子さんの声を聞きながら、僕は目の前のキャンバスに筆を乗せていく。
感情なんかない、見たままに広がる自然の風景を。
そうしていると、受け止められないほどの感情を抱えた心も少しは落ち着いていく気がした。
……なんとしてでも、これは完成させたかった。
最後の一筆を描いて、全体を眺める。
それから真っ先にゆまちゃんに語りかけた。
桐野「ゆまちゃん、腕を治してくれてありがとう。こうして完成させられたのは君のおかげだよ」
ゆま「わあ、おかし!」
今日のために和菓子を作ってきた。
前に渡したのはマミさんの作ったクッキーだったから、自分で作ったものも渡したかったんだ。
マミさんが死んで、そんな気分じゃないとは思った。けど、やれる時にやらないと後悔することもあるから。
手紙の事も、絵のことも、ただ無気力になっている場合じゃないと思った。
杏子「お、完成したのか?」
桐野「うん」
杏子さんもキャンバスを覗き込んでくる。
これはもともとコンクールのために描いてきた絵だった。締め切りももう近い。
杏子「この風景まんまだ」
桐野「杏子さん。……これは君にあげようと思う」
……でも、本当に僕にとって思い入れがあるのはこの絵じゃなかった。
杏子「……え?」
桐野「それとも、かさばるだけでこんなのいらないかな……?」
杏子「もらえるならありがたくもらっとくよ。古びた教会でも飾っておけば、少しは綺麗にも見えるだろ」
杏子「むしろ、もったいない気もするけどな」
ここ最近―――僕が杏子さんに出会ってから、いろんなことがあった。
そのほとんどは辛いことや悲しいことだ。
でも、本当に僕にとって思い入れのある絵を描くならこれからな気がした。
――――
――……あの手紙を受け取った僕はどんな行動を取るのだろうか。
信じてくれるだろうか。
……大事な過去を、手遅れにならないうちに思い出してくれるだろうか?
ほむら(……本来なら関わらないのが一番。私がなんとかすることよ)
ほむら(貴方がこの世界に関わるということは、すでに悲劇は起きているということなんだから)
ほむら(…………でも、ありがとう。本当に困った時には少しだけ頼らせてもらうわ)
その祈りが届いたか、この世界を過ごす僕には確かめる術はない。
今あるものたちとともに、これからを出来るだけ幸せに生きていく。……それが僕がこれからするべきことだ。
―END―
END - 本ルート『NormalBadEND』
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○キャラごとの好感度・進展表
・キリカ:【死亡】 複雑/面倒臭い→負い目 『…昔は大好きだったよ』
主人公の幼馴染。中学入学から長らく話さなくなっていたが、ある日気になるところを目撃する。
その後見かけた時には、通り魔のように誰かを武器で襲おうとし、それを庇った主人公は利き手を潰される。
現在なにをやっているかは不明だったが、杏子から『魔法少女狩り』の話を聞き、その一部始終も見てしまう。
織莉子との関わりが判明し、最期には正気に戻ってもらえるよう説得するが、キリカはその重すぎる罪を後悔ながら自らSGを砕いて命を絶った。
・マミ:【死亡】 友人
同じクラスになったことがあり、名前が被ることから話すようになった知りあい。『マミさん』と呼んでいる。
学校でのみ話す相手だったが、ほむらから魔法少女であることを聞き、杏子の仲間であることも知った。
普段通り過ごしていたように見えたが、真実と織莉子の目的を教えられたマミはそれを受け入れる。
それを自ら実行してから死んだが、織莉子の行いを認めてはいない。あくまでマミ自身の考えで決断したようである。
・ほむら:【遡行】 信頼できる人/信頼してくれる人
廊下から主人公を見ていた黒髪の少女。それから度々気になる言動があり、素性に突っ込む。
それ以降も屋上で魔法少女のことで話すことがあった。
まどかが殺された後に主人公から手紙を受け取って次の世界へと旅立って行った。
・杏子:【 】 友人
街外れの教会で出会った少女。今は廃墟となったその場所に縁があるらしく、不良が居つきゴミを捨てていかれることに悩んでる。
主人公もゴミ拾いを手伝い、その場所を気に入ってスケッチしていた。
不良と喧嘩した時、ゆまに怪我を治してもらったことから主人公は魔法少女の世界に関わっていく。
コンクール用に描いていた絵は教会に飾られており、その後も良き友人となっている。
・ゆま 友人
杏子と一緒にいる小さな魔法少女。怪我を治してもらった恩人。
・美国織莉子 よく出来た人→キリカの仇/知人→敵対
襲ってきたキリカから庇って一緒に逃げた。
外見・性格ともに概ね好印象を持っていたが、杏子と話したその『行い』と本性を知ると…。
二周目
・1周目を基準にして合わせるためにきつきつスケジュールになった。多分本来はこんなにきつきつじゃないです。
・キリカはずっと行動拘束してるくらいじゃないとすぐ危ないことして手遅れフラグを立てる。でもそうすると1周目と同じルートになるので他を優先するなら必要な犠牲といえる。
・優先順位をうまいことやれば全員無事で攻略可能だろうか…?(キリカのフラグはまったく立てないことは無理)安価スレとしては恐らく非常に高難易度である。
・前回があんな感じだったのは本当にイチャつく以外にやることがなかった。
1日目 放課後変な場所に行くキリカを見つけ、お菓子をあげて連れ戻す。
キリカの「空間が歪む呪い」の発言。主人公はまだなんのことかわからない。(※1,2周同じ)
2日目 昼休み、キリカと約束したからに渡したほうがいいかと思っていたが、結局マミに渡すことに。
放課後、キリカの昨日いた町外れの教会に行ってみる。そこで杏子と会う。
3日目 帰り道にキリカを見つけて話すが、突き放すようにどこかへ行ってしまう。放課後は教会に行って、杏子と林檎飴食べたりスケッチしたりしてた。
その帰り道に結界に遭遇、襲われそうになってる人を庇って利き手を切り裂かれるが、その相手はまさかのキリカだった。
主人公は織莉子とともに逃げたが、その後キリカは自分の行動で幼馴染の夢を潰した負い目を背負ったまま織莉子の手駒にされた。
4日目 マミが和菓子のお礼にマドレーヌを作って持ってきてくれて昼に誘われるが、昼はキリカが来てくれるかもしれないと思い用事があると断った。
しかし待っていても現れなかったため、マミの教室に行って弁当を食べる。放課後は教会に行ったが、杏子は来なかった。
同日放課後、キリカは最初の「魔法少女狩り」被害を出してしまっていた。その後はショックを受けて織莉子の家に居た。【放課後最初の行動までが猶予】
5日目 主人公が腕のことで落ち込んで早退。繁華街に行くと、魔女狩り中の織莉子と偶然出会う。
その間、キリカの元に織莉子の同級生が来る。【織莉子が家に帰るまでが一応の猶予】
裏で織莉子がささと手を組んで魔法少女軍団襲ったり(ただしここではささは同日中に死亡)、その夜織莉子がそそのかしてゆまが契約したり。
6日目 昼から教会に行って不良と喧嘩し、ゆまに怪我を治してもらう。主人公が魔法少女のことを知り、織莉子のこととキリカのことを杏子に話す。
杏子はその話からキリカのことを魔法少女狩りと結び付け、放課後マミと会った時にはキリカの事を話していた。織莉子のことも相談。
マミはその苗字からニュースで話題の議員を連想し、まさかと思いつつ名前を調べていた。
(原作より特定が大分早い。中でも原作以上に織莉子がゆまと直接話したのが大きいボロとなっている)
7日目 キリカが学校に来る。昼休みに話すが、キリカの自分勝手な態度から愛想をつかして決別。(マミもキリカのことは聞いていたのですぐに探り出した)
放課後こっそり後をつけていくと、結界に入って魔法少女を惨殺して帰ってくる一部始終を見てしまう。その場から逃げだし、教会に行って杏子たちと話す。
杏子から魔法少女狩りのことを聞く。一方キリカは魔法少女を狩った後織莉子の家に行き、桐野のことを織莉子に話していた。
その後、マミがキリカを発見して交戦。キリカはソウルジェムを負傷して織莉子に救出され、駒としての失敗を嘆いていた。
キリカはあくまで駒以外の関係や許しを拒否し、自宅に帰って引き籠る。それが結果的に織莉子の精神も追い詰めることになる。
8日目 マミからお祝いのクッキーをもらうが、マミは主人公によそよそしい態度をとる。昼、ほむらからマミが魔法少女だということと1周目のことを聞く。
マミと話し、織莉子とキリカが繋がっていることを知る。マミにもまどかのことを話す。
放課後キリカが帰ってきていることを知って家に行くが、キリカは自分を思ってくれる主人公の言葉に正気に返り、後悔して絶望し自らSGを砕いて死んだ。
主人公が「魔法少女はソウルジェムが割れたら死ぬ」ことに気づく。
9日目 マミはまどかのことを探っていた。更に昼に桐野と話して、マミがソウルジェムに関して重大な秘密があることに気づく。
時系列は「マミと杏子が美国邸を襲撃(5時前)」→「織莉子が桐野に会いに行く(7時)」→「織莉子がマミの家に押しかける」の順。
【三択、2『美国織莉子が見た未来?』で「なんとかできるとしたら今のうち」「これ以上『お友達』を失わないように」「未来の回収」から、
現時点で唯一主人公の“友達”と言ったマミに思い至り、9日目の行動を続行可能。ただし、同時選択された場合は内容によっては他が優先されて無効化】
10日目 一周目では省略された幻の日数。ここから一周とはカウントがずれる。昼にほむらに昨日のことを話し、まどかたちとも初対面。マミはこの日は学校休み。
放課後は教会に行くが、杏子たちはもう織莉子を倒したと言う。違和感を覚える主人公だが…
【四択、2「時間」で時系列の矛盾が発覚。主人公が織莉子と話した時間には既に織莉子が生きているわけがなかった。
SGの仕組みは「SGが割れたら死ぬ」ことはわかっているが、SGが割れなくても死ぬかについては知らないため、主人公からすれば断言できず証拠にならない。
マミが怪しいも同じく断言できる証拠がない。場所は完全なダミー。明確にわかるものが織莉子と話す直前に確認した時間のみ】
11日目 土曜日。キリカの葬儀。マミと織莉子が美国邸のテラスで最後のティータイム。その後二人はマミの家へ戻った。
日曜日。多分省略。これでカウントは戻る…はず。
12日目 マミは普通に登校してくる。しかし、織莉子の代わりに自然に近づいてまどかを殺そうと画策していた。【放課後までが猶予】
【魔法少女が魔女になるならどうして魔女を倒すのか、とか魔法少女システムの根幹への疑問をぶつけたらマミも動揺するかもしれない】
13日目 屋上でほむらに手紙を渡す。街外れの教会で杏子に絵を渡す。ほむらはその後ループ。
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次なんですが、三周目とかやると完全にネタが尽きるので新しい舞台を考えています。
どうしてもこの主人公視点だと関わりづらいキャラが出てきますしね。
あとはおまけの裏ルートとか。
とりあえず次回何やるか決めます。
次回は1日(日)18時くらいからです。
書き溜めていたキリカルートのほうのおまけ話3レス分を投下↓
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*桐野編1周目 おまけ②*
夏に入って気温が上がると、今年もプールの季節がやってくる。
去年仕舞い込んだプールセットを出して準備をしていた。すると、母さんが話しかけてきた。
*「そういえば巴、どのくらい泳げるようになったの?」
桐野「え? そんなすごいことは出来ないけど、別に普通くらいだよ」
*「アレからよく『普通』になれたわね。昔は夏になっても水泳なんてやりたがらなかったでしょう」
桐野「それは……昔の話だろ?」
*「たしか昔、キリカちゃんと顔を水につけるとこから特訓してたんだったわね」
……そう聞くと、久しぶりに懐かしい話を思い出した。
今はそうでもないけど、昔はプールが始まってから夏休みに入るまでのこの季節が苦手だったんだ。
――――5年前
キリカ「大丈夫、ぜっったいだいじょーぶだから!」
家の洗面所で、水を張った洗面器を前にしてその水面とにらめっこする。
プールなんて行こうものなら、うきわかビート版なしでは水に入る気すら起きなかった。
桐野「ムリだよ! だって、水に顔つけたら目もあけられないし息も出来ないんだぞ!」
キリカ「もう……わたしはきりのんに頼まれたからきたのに! しらない!」
桐野「待ってよ、キリカ」
キリカ「ずっとそこでそーしてれば」
……情けないことに、当時小学4年のぼくは涙目になっていた。
なんとかキリカに認めてもらいたくて、必死に洗面器に顔をつけたのを覚えている。
でもそうしたらそれがきっかけで水にも慣れたし、中で目を開けることも出来るようになったんだ。
――――やっとそこまでできても泳ぎ方なんて知らないしできなかったけど、
ついにキリカと特訓しに近くの市民プールに行った時は初めて楽しいと思えた。
身体の動かし方はホントに下手くそだったけど、最初は手の先を支えて持ってもらってフォームを見てもらって。
キリカ「そうだよ、この体勢のまま腕をそーやって動かせばいいの。もう私いなくてもいい?」
桐野「えっ、待って! それはこまるよ!」
キリカ「きゃっ……いきなり顔上げないでよ! ほら体勢くずした!」
……でも、キリカは泳げるけど水の中で目を開けられなくて、僕は反対に水の中で目を開けられるようにはなったけど泳げなかったんだ。
桐野「でも、もうなれちゃえば水の中でも目を開けられるよ!」
キリカ「やぁーっ、鼻の中に“エンソ”入った!」
両方が出来ないことを持っていたことがわかってその時は安心したっけな。そこは僕の方が見てあげたりして……――
そんな話を久しぶりに思い出す。
中学になってからはプールも完全に男女別で、姿を見ることがたまにあるくらいだった。
夏の体育館での授業の最中、プールの見える窓辺に人が集まって、誰が発育良いだの悪いだのとよく下品な話題をしている。
……その中ではキリカもよく噂されてるのを聞いたことがあった。
あの時数回見た記憶から今のキリカの水着姿を思い出す。小さい頃からデザインは大して変わらない、いかにも学生らしい紺のスクール水着の姿。
*「今度、キリカちゃんをプールにでも誘ったら?」
桐野「えっ?」
*「久しぶりにどのくらい上達したかも気になるだろうし、今なら普通に楽しめるんじゃない?」
桐野「あぁ……それもいいかもなあ」
今度は一緒に水着でも選びにいくのもいいかもしれない。いつもとは違う姿も見られるし。
授業に必要なものの準備を終えて部屋に戻っていく。
今年の夏を思い描いているといつの年よりも心は弾んだ。
――……その後で両親は成長した子供のことについて語る。
*「いいのか? わざわざあんなことを提案して」
*「仲が良いのは良いことだと思うけどね」
*「あの二人の『仲が良い』ももう子供の頃とは違う意味になってきただろう。しかも水着となれば……」
*「そういう経験もあって大人になるものじゃないかしら?
無理に抑えようとしても思い通りにはいかないものよ。その代わり、私たちは二人を信じて見守っていてあげましょう」
*「……そういうものかな」
―つづく?―
経験済みエンド
【HappyEND】…物語の主軸となるヒロインを幸せにできた証。
【NormalBadEND】…メインストーリールートをバッドエンドでクリア。
▼つづきから
▽おまけ
・桐野編裏ルート:“一周目”でも“二周目”でもない世界。1周目をベースにし、『あの端役』を主人公として描いた話。
▽はじめから
・新しい主人公を作り、新しい舞台に移ります。
▼べつのおはなし
○セーブデータ
※こっちも完結した物語の小話は受け付けてます。
【未完結】
・かずみ編 【6日(水)朝 ヒュアデスの学校襲撃を翌日に予知】
・Homulilly編【二周目の世界】
【続編開始/指定場所からロード】
・ほむら編 【続編:After1後から再開。新展開】 [獲得補正:(料理)Lv2中級者 アルティメット炒め物]
・キリカ編1【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】
・QB編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 ※暫定END
・中沢編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 [獲得補正:成績関係の結果+18]
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・あすみ編【続編:ワルプル語から再開】
○新しい物語
・まどか☆マギカ登場キャラ
・おりこ☆マギカ登場キャラ
・かずみ☆マギカ登場キャラ
・上記作品中のモブ
・オリキャラ
・百江なぎさ
・神名あすみ
↑のキャラから一人選択。
同キャラ2回以上選択も可能。
下4レス中までで多数決
*桐野編1周目 おまけ③*
桐野「こことかどうかな」
キリカ「もうすっかりプールのシーズンだね」
プールに遊びに行く前の準備として、僕らは学校の帰りにいつもの駅前のデパートに来ていた。
水着や水泳用のグッズの売っているコーナーを探して辿りつくと、僕はまずその一番目立つところにあるマネキンを眺める。
桐野(これ、キリカが着たらどうなるかな……?)
キリカも店内で気になるものを探しているみたいだった。
その姿をじっと見つめる。……すると、キリカがこっちに気づいた。
キリカ「ん、なんか欲しいのあった?」
桐野「いや、オレのはまだ探してないけど……そういえば、キリカはどのくらい水着持ってる?」
キリカ「えー……? あんまり持ってないと思うよ。家にあるの大分小さかった。授業で使うのは持ってるけど」
キリカ「だからどうせなら今日欲しいなと思ってさ。遊びに行くのにスクール水着っていうのも変でしょ?」
桐野「いや、変っていうか……」
キリカ「……そっちのほうがいいならそれでもいいけど?」
それじゃあせっかくの目的を果たせなくなってしまう。
桐野「せっかくなら、オレが良いの選んであげたいなって。キリカの好みとかあるなら優先はするけど……」
キリカ「うん! じゃあ任せるよ。……あんまり恥ずかしいのはナシね」
・どんなの選ぼうか?(形とか色とか)
下2レス
-------------------------------
OK
試着用にもう一個採用します↓
キリカから任されると俄然気合いが入った。
まずは、さっそくさっき見ていたマネキンの着けている水着を差す。
“この夏の流行り”だとかはわからないけど、オシャレなデザインだ。
桐野「じゃあ、あれは?」
キリカ「マネキンのやつね。試着してこようか?」
桐野「うん。こっちでその間に違うのも見てるよ」
それと同じやつを手に取ると、キリカが試着室のほうに向かう。
そのほかにも店内を眺めていると、キリカに合いそうだと思うものはいくつか見つけられた。
その中から候補を絞る。
桐野「……キリカ、着替え終わった?」
キリカ「ちょっと待って、少し直してるところ。……よし、いいよ」
試着室のカーテンが少し控え目に開くと、黒色のビキニを着けたキリカの姿があった。
胸元はひらひらとしていてふんわりとした印象だが、下はすっきりとしたデザインだ。
面積の少ない黒い布地と、さらけ出された白い素肌がよく映える。
……思っていたよりも大胆だ。マネキンが着ていた時はそんなふうには思わなかったのに。
キリカ「……どう?」
他の人に見られるのが恥ずかしいのか、キリカはカーテンの端を持って周りを気にした様子で聞いてくる。
僕もあまり見せたくはない。
……大胆、という印象を抱いたのは露出もそうだけど色かな。肌を際立たせるはっきりとした色。
桐野「き、綺麗だと思う」
キリカ「じゃあ候補かな。他には?」
桐野「これとかどうかな? さっき見てたんだけど」
さっき選んだ白色の水着を渡す。同じようなビキニでも下に長いスカートのようなものがつけられる水着だ。
今試着しているのとはかなり印象が違うだろうから、また違う期待が出来る。……キリカはこういうののほうが似合うだろうか?
桐野「……キリカはどういうのがいいとかある? パレオがついてるほうがいいとか、ないほうがいいとか」
キリカ「うーん……日焼けは気になるかな」
桐野「そうか。また色々見てみるよ」
キリカ「うん」
さっき見たのも参考にしながら同じように売り場を一周して、試着が終わるのを待つ。
キリカ「今度のはどう?」
桐野「いいね。可愛い」
キリカ「ほんと? 嬉しい」
キリカが頬を朱に染めながら笑う。
肌を包む色は白色。ひらひらとしたパレオのおかげで、さっきのよりもふんわりとした印象だった。
キリカ「まだ見る?」
桐野「うーん、そうだなぁ……」
――――……それからキリカと一緒に悩んだ末、選んだのはごく短い丈でスカートのついたワンピース水着だった。
紺色に入る白のラインがはっきりとした印象をつけている。
それまでに見ていたのと比べて足元が心許ないという理由で、追加でパレオも買って行ったが、水に入る時にはどうせ外してしまう。
……色や形は体育館から覗き見ていたスクール水着にも似ているように見える。
やっとキリカの水着を選び終わると、キリカは水着売り場の隣にあるカラフルな浮き輪を差した。
キリカ「浮き輪とかも買ってく?」
桐野「もう自分でも泳げるよ」
キリカ「でも、遊びに来たって雰囲気でるじゃん。泳ぐより楽だし」
桐野「じゃあ、買っていこっか」
キリカ「あ、ていうかきりのんは授業用以外の水着持ってるの?」
桐野「いや……考えてみたら持ってないなぁ。あんまりプールとか出かけなかったし」
キリカ「よーし、じゃあ私が選んであげる!」
そう言うキリカはなんだか楽しそうにしていた。
……立場が逆転する。
――――
――――
桐野「今日はいっぱい見てつかれたなぁ。でも、キリカの色んな姿が見られたのは楽しかったな」
桐野「良いものも選べたし。……選んでもらえたし」
買い物が終わる頃には思ったより遅い時間になっていた。
家に帰って夕飯を食べて、次の日に備える。
…………プールの当日を楽しみにしながら、その日はぐっすりと眠った。
――――――
キリカ「あっ、あっちチョコバナナあるよ」
桐野「……まだ食べるの?」
……約束していた当日、プールサイドに出ると、まず売店に目をつけたキリカが甘いものを買いあさっていた。
『最初に糖分補給と腹ごしらえ』だそうだ。
見滝原からは少し離れた場所にある大きなプール。平日とはいえ夏休み中の今日は、家族連れにカップル、友達などで混み合っていた。
キリカ「うん。かき氷もおいしいんだよ!」
桐野「水に入る前に冷たいもの食べてお腹壊さないようにね。……でも、一口欲しいかな」
キリカ「えっ?」
桐野「い、イヤならいいよ! キリカが買ったんだし!」
キリカは別に嫌そうな返事をしたというわけではなかった。
甘いものへの執着はすごいが、そんなにせせこましい人ではないことも知っている。
キリカ「……こっち向いて」
言われるままにキリカのほうを向くと、キリカはプラスチックのスプーンを差し出していた。
そこにはシロップの苺のピンクと練乳のかかったかき氷が載っている。甘そうなかき氷だ。
……こんなこと、前まではなんともなかったことなのに。
桐野「ありがとう。美味しい」
そう言うと、キリカは恥ずかしそうにくすっと笑って、その後に『そうでしょ』と自信満々に笑った。
それから日蔭のベンチに座って一息つく。キリカはまだパレオを着けたままだ。
キリカ「結構混み合ってるね」
桐野「そうだね。でも平日にしてよかったよ。休日だったらもっと混んでたかも……」
子供の頃キリカと来てたのは小さな市民プールだ。こんなとこ来たことない。
……楽しそうにはしゃぐ人たちと、キラキラと揺れる水面を眺めていると、キリカも同じほうを見ていた。
1昔の話
2泳ごう!
3自由安価
下2レス
桐野「そろそろ入ろうか。浮き輪持って行って水の上でのんびりしよう」
キリカ「うん」
腰に巻いていたパレオを外し、キリカの太ももから下が露わになる。
ビーチサンダルも脱いで、足先まで見えている。そこまで見ることなんてそうそうない。それらが僕の目に眩しく映った。
キリカ「水、気持ちいいね」
桐野「こういうふうに楽しめるならプールも悪くないかもな」
プールに入ると、浮き輪の上で座りながら水の上に浮かんでいる。
水に手でぱしゃりと触れて、その感触と冷たさを確かめるように遊んでみる。
キリカ「……そういえば、きりのん水嫌いだったっけ? 克服できた?」
桐野「ああ。キリカのおかげで」
キリカ「一人で泳げるの?」
桐野「出来るよ。やってみようか」
浮き輪から降りて、水の中へと浸かる。
……といっても、僕の出来ることは授業で習ったクロールくらいだ。それも大したものではないけれど。
桐野「どう?」
キリカ「わぁ、すごい!」
桐野「そ、そうかな……?」
キリカ「私が教えてた時からすればね。大進歩だよ」
褒められて少し照れたけど、やっぱりそういう意味かと思うと納得する。
桐野「キリカは?」
キリカ「今? ……わかんない。でもきりのんよりは出来ると思うよ?」
桐野「キリカはこのくらい、子供の頃にも出来てたもんなぁ……目を開けるのは?」
キリカ「それは相変わらず苦手。出来るけど、あんまりやりたくない」
そんな話をして二人で笑い合う。
……それからはまたのんびりとしていた。
――暫くしてから、またプールサイドに上がった。
キリカ「身体が冷えてきたね。何かあったかいものが食べたいな」
桐野「さっきはもらったから、今度はオレが一口あげるよ」
キリカ「……またあーんやるの?」
桐野「お返しお返し」
やるほうもやられるほうも恥ずかしいんだから。でも、悪い気分じゃない。
来てすぐに買ったようなデザートとは違う、温かいものを買って二人で食べる。
……お腹を満たし、身体を温めて一段落ついたあと、キリカは日焼け止めを塗りなおしていた。
キリカ「ちょっと後ろ塗って」
桐野「うん」
後ろからキリカのうなじが見える。
露出は少なめの水着だ。うなじから背中の開いている部分に手を這わせる。
1キリカと一緒に来られてよかったよ
2自由安価
下2レス
桐野「キリカと一緒に来られてよかったよ」
キリカ「私も。きりのんと来られてよかった! 絶対、こんな楽しいの初めてだと思う」
桐野「キリカとこうして恋人になって遊ぶなんてさ……まるで夢のようだよ」
薄くついた肉。襟足の短く切り揃えられた黒髪の下から覗く肌は、眩しいくらいに白く柔らかい。
しかし、前と比べると少しその違いに気づく。
桐野「……髪、伸びてきた?」
キリカ「あぁ、そうだね。切ってなかったから」
桐野「伸ばすの?」
キリカ「んー、別にそういうわけじゃないけど……どっちのほうが好き?」
キリカといえば昔から短いイメージだった。
髪を伸ばしたキリカも少し見てみたいと思わないことはない。けど、本心からの答えを言うなら。
『どっちのキリカもオレの大好きなキリカに変わりないよ』
……さすがにそんなことは言えなかった。
桐野「ど、どっちもいいとは思うよ……見てみたい気もする」
キリカ「本当? じゃー、考えとこ」
クサくても、恥ずかしくても、言えばよかったかなぁ。
そんなことを考える。
桐野「……水着、似合ってる。今日のこと、後で絵に描いてもいい?」
キリカ「んー……完成したら見せてね。でも、他の人に見せるのは禁止だから」
塗り拡げた日焼け止めは馴染んで見えない。
その代わりに、薄く柑橘類のような匂いがただよっている。
桐野「じゃ、せっかくだし今日は目いっぱい楽しもうか。キリカ、あのスライダーとかどう?」
キリカ「ええぇ、本当にあれやるの?」
桐野「このプールの目玉みたいだから、やっておいたほうが思い出になるかなってさ」
キリカ「あーもう、こうなったらやってやる!」
……水に顔をつけるのすら怖がっていた臆病な子供の頃からじゃ、きっと想像もできないだろうな。
キリカの手を引きながら考える。キリカと出会ってから、僕は自分になかった勇気をたくさんもらえたんだ。
変わることが出来たのはやっぱりキリカのおかげだった。
次は何をしようか。これからどんな楽しいことが待っているだろう。
とりあえず、来年のこの季節になったらまたこうして遊びたい。僕の中で夏がそんな特別なものになっていた。
―END―
--------------------------------
ここまで
次回は3日(火)20時くらいからの予定です
経験済みエンド
【HappyEND】…物語の主軸となるヒロインを幸せにできた証。
【NormalBadEND】…メインストーリールートをバッドエンドでクリア。
▼つづきから
▽おまけ
・桐野編裏ルート:“一周目”でも“二周目”でもない世界。1周目をベースにし、『あの端役』を主人公として描くもう一つの結末。桐野編の番外であり続編にあたる話。
▽はじめから
・新しい主人公を作り、新しい舞台に移ります。
▼べつのおはなし
○セーブデータ
※こっちも完結した物語の小話は受け付けてます。
【未完結】
・かずみ編 【6日(水)朝 ヒュアデスの学校襲撃を翌日に予知】
・Homulilly編【二周目の世界】
【続編開始/指定場所からロード】
・ほむら編 【続編:After1後から再開。新展開】 [獲得補正:(料理)Lv2中級者 アルティメット炒め物]
・キリカ編1【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】
・QB編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 ※暫定END
・中沢編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 [獲得補正:成績関係の結果+18]
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・あすみ編【続編:ワルプル後から再開】
○新しい物語
・まどか☆マギカ登場キャラ
・おりこ☆マギカ登場キャラ
・かずみ☆マギカ登場キャラ
・上記作品中のモブ
・オリキャラ
・百江なぎさ
・神名あすみ
↑のキャラから一人選択。
同キャラ2回以上選択も可能。
下4レス中までで多数決
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ではあすみ編続きでー
>汚い織莉子
原作での性格を無視した行動を取らせ続ける・そうなるに至った経歴自体を変更してしまうということはできなくはないですが、
あからさまにそれをやると「織莉子と名のついた何か」になるので、少し原作に対して皮肉的な内容になるとは思います
色んなものの影響を受けて人の行動は変わることがあります。しかし、自分で自分を変えることは難しいです
あすみ編 続編
---------------------------
ゆま「いってきます!」
あすみ「いってらっしゃい」
朝、玄関から出て行くゆまの姿を見送る。
これが再び当たり前の光景になったのは一、二週間ほど前からだった。
――――大災害であり超弩級の魔女、『ワルプルギスの夜』を倒してからどのくらいが経っただろうか。
今では部屋の中に電気もついている。ゆまの学校も再開したらしい。その爪痕は着実に薄くなっていっているようだ。
私はあの時死に、魔女になった。
そうして、そのまま生きている。
あすみ「さぁてと、今日はこれからどうするかねぇ……。ゆまが学校はじまっちゃったから暇になったわ」
テーブルの前で肘をつきながら、リビングのテレビを眺める。
今は以前ほど『魔女狩り』や魔法少女としての活動もしていない。
わざわざグリーフシードで回復せずとも魔力が体力とともに回復するからだ。今の私は魂と身体が一体となっている。
その代わり魔力を極端に使いすぎると調子は悪くなる。とはいえ、あまりそこまで使い込んだことはないが――――。
あすみ「……ん」
玄関のチャイムが鳴る。インターホンの映像には見送ったままの姿が映っていた。
再び戻ってきたゆまを迎え入れると、その事情を聞く。
あすみ「どうした?」
ゆま「忘れ物しちゃったの!きゅーしょくぶくろ!」
あすみ「あぁ、そういえば当番って言ってたね。もうない? 気を付けてよ?」
ゆま「うん!いってきます!」
……ゆまが慌ただしく駆けて行った。
微笑ましくも思うが、少し心配だ。遅刻にならないだろうか。急ぐあまり危ないことにならないだろうか。
あすみ「……ちょっと追いかけてみよ」
ゆまを追って玄関を出る。私も今日はゆまと一緒に登校することにした。
通学路にゆまを見つけて声をかける。
ゆま「おねえちゃん!?」
あすみ「どうせなら私もついてこうと思ってさ」
横に並んで、その小さい手をとる。
……いつもより少し早いペースでゆまと歩いていると、途中で知り合いの姿を見つけた。
・現在見滝原に居る知り合い誰か
下2レス
このルートの桐野君
-------------------------------
ここまで
次回は5日(木)20時くらいからの予定です
>>598は知り合いの前提に外れるので下です
あんまり公式にない設定でキリカの設定を後付するのも気が引けますし
基本的には桐野編のみの登場としますが、もしかしたらどこかでゲスト的にそれっぽいキャラとかは出すことはあるかもしれません
まどか「あすみちゃん、久しぶり」
あすみ「……あぁ、久しぶりだね」
手をふりふり、こっちに挨拶してきた。
鹿目まどか。こいつとは避難所で別れたきりだ。
さやか「へえ、偶然」
仁美「お久しぶりですわ」
それにイレギュラーの取り巻きたちも一緒に居る。みんなで登校中のようだ。
……ただ、この場にはまだほむらはいなかった。
1ほむらとは連絡はとってるか
2あれからどう?
3自由安価
下2レス
あすみ「……ほむらとは連絡は取ってるの?」
まどか「よくお話はしてるよ!」
あすみ「あぁ、そうなの? 私にはまったく連絡くれないから」
私のところには未だなんの連絡も来ていない。どのくらいで戻ってくるかも今のところまったく不明のままだった。
まあ、手を組んでいたのも一時的な協定だ。所詮他人は他人。
この縄張りに魔法少女が一人、増えるか増えないかというくらいの問題でしかないが……。
さやか「ほむら、こっちに戻れるように親にも頼んでるんだって。学校もはじまったし、またすぐに来るんじゃないかな」
仁美「ご家族の判断次第でしょうか……」
話を聞く限りでは、まだ詳細な日程は決まっていないようだ。
この街はまだパワーバランスがはっきりしていない。
『魔法少女』自体は大量に居るから攻め込まれることもないだろうが、結局のところ“巴マミの後釜”と呼べるような人がいないのが現状だ。
あすみ「それで、あなたたちはあれからどう?」
まどか「わたしたちは元気だよ。こうして学校のみんなとも会えるし」
まどかはにっこりと笑って言う。
……その答えとリアクションに、私は少しうんざりとした気持ちになった。
あすみ(……そういうことじゃないんだけどな)
ワルプルギスの夜との戦いで契約されることは回避した。
しかし、こいつが居る限り根本的な悩みの種は解消されたわけではない。これから何年……もしくは、何十年?
私の心配はただひとつだ。――――『契約するようなことが起きないこと。』魔法少女に関わらないこと。
とはいえ、この場には今事情を知らない奴まで居る。あからさまにその話をぶつけるわけにもいかなかった。
あすみ『まどかサン。あなたの持つ“力”のことは話したでしょ?』
あすみ『……もし契約したら、その時は願いを叶える代償に自分で命を絶つ時だと思って。そうでなければ私が殺るよ』
あすみ「ねえねえ。あなたたちは中学生ってことは、『ぶかつ』とかもあるんでしょ? なにかやってるの?」
脅しつけるテレパシーとともに、表面上の笑顔を振り撒く。
……まどかはビビっているようだった。
仁美「部活ですか。私はやっていませんわ。小さい頃からやっている習い事が多くて……」
さやか「まどかはやってるよね」
まどか「えっ!?」
さやか「部活」
まどか「あぁ、うん……そうだね。手芸部やってるよ」
あすみ「手芸部? ゲイ……手品でもするのかなぁ」
まどか「裁縫とかで、自分の好きなものを作ったりするの」
聞いてはみたが、こいつのことにそこまで興味があるわけではなかった。
しかしふと想像をしてみる。
あすみ「……ねえ、ゆまは中学生になったら何かやりたいことある?」
ゆま「ええと、ゆまは……」
聞いてみると、ゆまが『うーんうーん』と考え込む。
ゆまにはこの話、少し早かったかな?
ゆま「“りょうり”ができるようになりたい、かな。ゆまが『お姉さん』になったら、おねえちゃんのこともいっぱいたすけられるようになるの!」
あすみ「ゆまがお姉さんになったら……かあ」
ゆま「だって、いつもりょうりタイヘンそうだよ」
あすみ「その時は私はもっと『お姉さん』になってるよ! だから大丈夫」
小さい頭に手をやる。……ふわふわの髪。最初に触れた時はもっとゴワついていたっけ。
別に料理はいつも大変にしてるわけじゃないんだけど。
あすみ「……ゆまはゆまのやりたいことやんな」
その時にはどーなってるかわかんないくらい大分先なんだから。
でも、そんな想像をしてみるのも楽しい。
ゆま「――おねえちゃん、いってきます!」
あすみ「うん、学校頑張っておいで」
まどかたちと別れ、ゆまとも学校の前で別れた。
中学に入ったら、自分だったらなにをしたかっただろう? そんな妄想を頭の中に繰り広げる。
……すると、私も昔のことを思い出した。それがさっきのゆまと被る。
あすみ(……なんて、無駄なこと)
ゆまを学校に送りに行ってから、一人になるとある場所へ向かう。
そこは私が最近“訓練場所”としているところだった。
街並みから外れた瓦礫が多少除けられただけの外れた空き地に着くと、今日もやっぱりソイツはそこに来ていた。
洗練された一突き。
その動きひとつひとつはまるで真に迫るように鋭い。
あすみ「『あんたレベル』の人がよく飽きもせずやるね」
杏子「……ちょうどいいとこに来たじゃねーか。少し相手になるか?」
こっちに気づくと、その鋭さは私の方にも向けられる。
前みたいなふざけたような態度じゃなかった。あれからやっぱり、少しは関係は変わったみたいだ。
……それしかやることがないのだろうか。
前に言った“私を倒す”という宣言通り、杏子はひたすら自分の腕を磨き続けていた。
1いいよ
2私はパス
3自由安価
下2レス
あすみ「いいよ」
衣装を身に纏い、武器を利き手に持つ。
――まあ私からしても、こいつとの訓練のおかげで役立っているところはある。
あすみ「ふっ!」
鎖鉄球を伸ばして振るう。
今の一撃は『理想』からすれば少しズレている。その原因は力の加減か? 腕を振るう角度か?
そんなことを分析できるようになった。
杏子「どうした、そんなもんか?」
あすみ「様子見だよ!」
杏子はさっきの攻撃に素早く対処し、こっちに攻撃を繰り出した。
今の私じゃ奇跡でも起きない限り勝てない。だが、少しでもその一撃を『奇跡の一撃』に近づけるために。
……『訓練』ののち、この場所には二人の息遣いだけが聞こえていた。
あすみ「……あんたさー。今のままじゃー、勝てないと思うよ?」
杏子「言ってろ、お前なんか余裕で倒せるようになるんだよ」
そう言う杏子を横目に見る。
それにしては随分と余裕のないような態度。確かに『技』は洗練されているが、杏子は何かに焦っているように見えた。
あすみ(……前みたいに心が読めればな)
前使っていた読心の魔法は、もともと『悪意を察知する』ことから派生したものでしかなかった。
その性質がなくなった今、せいぜい頑張ったとしても出来るのは感情を読み取るくらいだろう。
あすみ「あんたって結局さ、どこの魔法少女なの?」
杏子「“一応”、二つ分だろ」
杏子はもともと風見野を仕切っていた魔法少女だった。
それもあってか、実力でいえば一番のこいつが見滝原に積極的に手を出す気はなさそうだ。
……まあ、一度出て行こうとすらしてた身だ。単にマミの問題が片付いて興味をなくしただけというのが一番なのだろうが。
小巻ともあまり会わなくなった。妹にも素質があるとか言ってたから、活動を抑えているのだろうか。
それに加え、あいつ自身の行動範囲が結構広いらしい。見滝原もその中のついで程度だというわけだ。
他、見滝原に住む魔法少女は多数居るが。
杏子「そういうアンタはあれから随分大人しくやってるらしいじゃんか。マミの後釜狙ってたんじゃないのかよ?」
確かに前まではそうだった。その座を取られまいと闘志を燃やしていたのだ。でも今は事情が違う。
あすみ「……だって、私はこの街の『魔法少女』じゃないから」
あすみ「見てるだけでいいよ。もう魔法少女同士の争いからは抜けたの」
……そんなことより、空腹のほうが気になった。それさえ満たせば私はいくらか回復するんだから。
どうせ他の魔法少女もまだ学校。
1どっかいく?
2家に戻って何か料理
3自由安価
下2レス
安価↓
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ここまで
次回は7日(土)夕方~夜くらいにはじめます
あすみ「それより、昼食べる? 私のお手製」
杏子「お手製……? 変なもんじゃないだろうな」
あすみ「野菜炒めカレー、精進中」
一応昼飯に杏子も自宅に誘ってみて、様子を窺う。
……しかし、杏子はやや硬めな表情を変えないままだった。
杏子「……その辺で食ってくるよ」
杏子はそう言ってこの場を去っていく。そこまで深く関わりたくないのか、私の料理の腕を信用してないのか。
巴マミについての確執を除いても、もともとそこまで仲が良いわけじゃない。
半分は同じ縄張りの、元一時的な仲間。杏子との関係はそんなものだった。安易にそれ以上近づきたくもないんだろう。
あすみ(あちゃ、やっぱり逃げられたか)
――――
――――
あすみ「ただいまー」
――――気を取り直して、昼食の準備。
独り言の挨拶とともに帰宅してキッチンに立つと、冷蔵庫から材料を取り出していく。
具材を切ってフライパンで炒めて、そこにカレールーを割りいれる。
キリカにもこの前見てもらったからやり方は覚えている。
あすみ「こんなん、慣れてしまえばこっちのものよ。難しいこともない!」
フライパンを片手に具材の煮立つ様子を見る。
やり方さえわかれば案外早く作れるものだ。
99~65 『こんなもんよ!』
64~30 『こんなもんかな』
1~29 『こんなはずでは』
下1レスコンマ判定
あすみ「……こんなもんかな」
火を止めてほかほか湯気の立つフライパンの中を覗きこむ。
上手く出来た方だ。でもあいつにやってもらった時よりは手間取った。……あの猫と私の何が違うのか。
あすみ「あーもう、このキッチン高すぎ! 全部それがいけないのよ。私がもう少し成長したら変わるんだから」
フライパンの中にご飯を入れてそのまま食べる。
昨日炊いた分の余りご飯だ。昼の時間が一人になってからはまたこんな感じに戻っていた。
あすみ「うん、いけるじゃん。十分合格でしょこれ」
フライパンの中身をさっと平らげると、洗い物を済ませて一休みする。
それから、ゆまが帰ってくる前にまた出かけることにした。
……向かう場所は、さっきと同じ空き地だ。
あすみ「よし、今日もちゃんと集まったね」
あすみ「ここに居るみんなは私のレッスンから逃げ出さないだけ偉いじゃないか。ほめてあげるよ」
この前からこうして名前も知らなかった新人たちに声をかけて面倒を見ているのだが、いつのまにか逃げ出してしまった者も居た。
こんな訓練ごときで音を上げるようじゃ、きっとすぐに魔女の餌になるか私達の餌にでもなるだろう。
すると、その中から抗議の声が上がる。
「お前さすがに生意気が過ぎるぞ! みんなよりチビのくせに、魔法少女の先輩ってのがそんなに偉い?」
あすみ「……千花、アンタこれから“模擬戦闘”しよっか。10回は決着つくまでだから。それから走り込み5周追加ね」
「な、なんでだよ! さては図星だな? 気にしてること突かれてムキになってるんだ!」
あすみ「文句は私に勝てるようになってから言うこと!」
「だって、ゼッタイあの反則技つかうじゃん。あんなの卑怯だよ」
あすみ「ってゆーけどー、みんなどう思う? ……みんなも模擬戦闘したいならそれでも構わないけど」
午前の訓練から休んで魔力も回復した。もうほぼ万全の状態で戦えるだろう。
それにこいつらもまだ新人。魔法を使わずとも負ける気はしない。
みんなが委縮した様子を見せる。そのなかで、さっきの新人の横に居た魔法少女が心配そうに小さく新人の袖を引っ張った。
「千花ちゃん、やめようよ……あすみ“さん”は私たちに戦い方を教えてくれてるわけだし……」
あすみ「じゃ、各自ペアになって格闘訓練にあたること!」
全体がビシっと敬礼をする。それを見て口の端を上げた。
揃った動きは見ていて気持ちの良いものだ。
あすみ「ほんと、あの子も反抗的で困るわねー」
杏子「まるで軍隊だ。上官に逆らうからだな。でも、あんたが上官ならあたしはもっと偉いと思うんだけど?」
あすみ「実力主義だよ。杏子はまだ私に勝ってはいないでしょ」
昼を済ませ、午後になって再び戻ってきた杏子に話しかける。こいつももっぱらコーチ役をしていた。
新人の面倒なんて好かない性格だとは思うが、自分の鍛錬のためでもあるんだろう。そして、“約束”を果たすためでもあった。
……そうしていると千花がこっちを見ていた。正確には“杏子のほうを”だ。前にいびられたのをまだ根に持っているらしい。
千花だと?おりマギに出て来たキャラか
袖引いたのが原作だとキリカに殺されたひかりって子かな?
あすみ「あいつらにはたるんだ気持ちでやられても困るからね」
みんなの様子を見ながら歩いていって、さっそくこっちも模擬戦闘にかかる。
――――あいつは適当にボコしておいた。
それから、みんなと同じように訓練をしているキリカに声をかける。
キリカはみんなより少し契約が早いが、途中のブランクも大きいから『魔法少女』としての戦歴は他と同じくらいだ。
しかしその中では、戦いの姿勢も含めて総合的に見れば優秀なほうか。今日も杏子が見てやっていた。
あすみ「お、頑張ってるみたいじゃん」
キリカ「訓練中に気を散らすようなこと言わないでよ?」
あすみ「ひどいなぁ、せっかく見に来てやったのに」
杏子「次、あんたもやるか?」
ここでやっているのは傷がつかないくらいに威力を抑えての組手だ。
最初のうちはその加減すら上手くやることは難しい。怪我人は何人も出たが、幸いこれだけ居れば治療の得意な魔法少女も足りていた。
怪我をすることやさせることを恐れて尻込みしていては訓練にもならないし、大事な場面で事故が起こることもある。
この世界には絶対的な『不幸』も『幸運』も本来ないのだから。それをなくすためにも、“戦って慣れる”しかないのだ。
1じゃあやってみようか
2自由安価
下2レス
----------------------------------
ここまで
次回は8日(日)18時くらいからの予定です
>>628
ここでは杏子にいびられて引き籠ったくらいで済みました。
千花はその復讐のために出てきましたが、あっさりやられてます。
あすみ「じゃあやってみようか」
キリカ「ぎゃっ! だから邪魔するなってば!」
再び武器を手に出してちょっかいを出す。するとあっさりペースが乱れた。
……キリカは尻餅をついて不服そうにしていた。
キリカ「キミが途中で手を出してこなければ……」
あすみ「杏子に勝てた?」
キリカ「勝てたかはわからないけど」
杏子「あたしに勝とうなんてあと5年は早い」
あすみ「いつでも1対1が約束されてるのは訓練くらいだよ。次、こっちでやるよー」
キリカが構える。今私が手にしているのも訓練用に棘をなくしたフレイルだ。
もちろん、重量は変わらないから当たれば相当痛い。
しかし、これは純粋な格闘技術だけを見た訓練だが、魔法を使えばまた違ってくるだろう。
特にこいつの魔法は技術のみでの限界の壁をいくらか超えることができる。今は敵わずとも、十分に成長すれば……
あすみ「へえ、前より戦えるようになってきたね。杏子の特訓のおかげってわけ」
キリカ「当然だよ。これだけ見てもらってるんだから上達してなきゃ困る!」
キリカが誇らしげに言う。私も最近は一緒に訓練しているが、確かにベテランから教えてもらえるのは近道にはなるだろう。
……余裕の表情を保ってはいるけど、そろそろ気を抜けなくなってくるのを感じる。
私じゃこいつと杏子ほどの実力差はない。
いくらか格闘の応酬を続けて、キリカはにやりと笑った。
キリカ「もらった!」
フレイルを振るった後の隙を狙い、キリカは一点に向けて手を突き出しにかかってきた。
それを出来るだけ小さい動作で身体を捻って躱わし、一直線に伸ばされた腕を掴む。
キリカ「あっ、いたい!いたいから!」
あすみ「はい、残念。狙いが分かれば一点集中の攻撃は反撃のチャンスにされるよ。表情に出やすすぎだよね」
……威力が関係なくなる組手では素早い方が場を制しやすい。
私の扱う鉄球は威力の代わりに小回りの素早さを犠牲にした重量武器だ。
そろそろ、組手で格闘の出来る魔法少女相手にこの武器を使い続けるのも考えるべきかもしれない。
キリカ「むう……二人とも力強いんだから手加減してよ。腕ちぎれるー」
あすみ「手加減してるよ、これでも」
さっきの得意げな顔は一瞬にして消え、涙目になっているキリカ。
それを放って杏子に声をかけた。
あすみ「ちょっと他の子も誘って棒術の訓練でもしよっかな。こまきちって今日来てたでしょ」
杏子「棒術?」
あすみ「……けどさ、アンタもあと五年も持つかはわからないかもよ? その頃には一年二年の差なんてわずかなものになる」
あすみ「最終的に決定的になるのは、魔法と個人の才能の差なんじゃないかな」
ふんぞり返ってられるのも今のうち。そんなことは理解していた。
杏子がぴくりと反応する。……私も別にこいつに才能がないとは思わない。
杏子の戦い方は経験の差を引いても並以上のセンスを感じるし、参考になるものだ。しかし他に魔法らしいものを見たことがない。
……それが気になっていた。本人も気にしているのかもしれないが。
1あんたはどう思う?
2自由安価
下2レス
あすみ「別にアンタが才能がないなんて思ってないよ? “武器の扱いだけ”でそこまで強くなるなんてさ」
あすみ「努力だけじゃなくて近接のセンスと才能も高かったんじゃないの」
杏子「……やけに褒めてくれるな。どうした?」
あすみ「で、魔法は使わないの? 使えないの?」
杏子はこれだけ極めても、伸び悩んでいるのを自覚したのか自分を追い込むように訓練していた。
すぐ傍に私という倒す目標が出来て焦っているからだろうか。
杏子「魔法を使う才能がなかったんだよ」
杏子から返ってきた言葉に、私は頭を捻った。
あすみ(……魔法を使うのに才能なんて必要か?)
魔力の性質自体に強い弱いはあれど、使うだけなら誰でもできる。当然、それは使える能力があればの話だが。
私はこうなるまで勝手に使用されていたくらいだ。
杏子「おう、こいつが棒術やるってさ」
小巻「え? アンタ、今日はいつものおっかない鉄球じゃないの?」
あすみ「おっかない? こまきちの斧のほうがおっかないと思うけどなぁー」
訓練をしていた小巻を見つけて声をかける。
小巻も今は盾を分離して使用し、棒だけの状態にして戦っていた。
小巻「気を抜いてるとおっかない鉄球が降ってくるって評判よ」
まあ組手ならこの状態のほうがいいだろう。防御を上手く使い、わりと善戦しているようだった。
私たちが来ると、相手は礼をして逃げるように去って行こうとする。
あすみ「あ、今キリカが手空いてるから相手してやってよ。わかる? 黒髪の子猫」
*「こねこ!?」
あすみ「口が滑った。“黒髪の子”ね」
手の空いた新人に指示を出してから小巻との訓練をはじめる。
こちらもフレイルの鉄球をなくし、杖のような状態にしてから構える。
いざとなれば使えないこともないが、あまり使いたくはない状態だ。慣れていないからだった。けど、同じような武器を使う者同士で訓練すれば覚えやすくなる。
あすみ(少し変形させて、槍のようにして使うのもアリかもしれないわね)
あすみ(あまりかけ離れた武器は作れないから応用としてはそのくらいが妥当か?)
鉄球の重みがなくなったこの状態でも素のパワーは活かせる。
三人で棒術の訓練をすると、次に魔力の扱いと射撃の訓練を全体に呼びかけた。
私たちもあと少ししたらはじめるとしようか。
1杏子って魔力の扱いはできるんだっけ?
2周りの観察
3自由安価
下2レス
……アドバイスや反省を兼ねての少しの休憩時間。二人のことも考えながら、周りの様子を観察する。
全身を火だるまみたいにしてる奴に、地面から数センチ浮かんでいる奴。変な動きでやたら俊敏に動いてる奴。
目立つ魔法を使う奴だけざっと見ても、こうして見るとまるで雑技団だ。
あすみ「……杏子って魔力の扱いはできるんだっけ?」
杏子「ナメてんのか?」
あすみ「ごめんごめん、確認してみただけだよ。じゃああいつらのことも見てあげて」
杏子がしぶしぶといった様子で引き受ける。
直接自分の鍛練に結びつかないからか、乗り気じゃなさそうだ。
あすみ「よし、猫だけ猫ってのも可哀想だからアンタ達にもあだ名をつけてあげよう。杏子は犬、こまきちは亀でどうかな?」
小巻「盾があるから?」
あすみ「遅くて堅いから」
小巻「アンタに遅いとか言われたくないわよ。ていうかその前にその妙なあだ名をなんとかしろ!」
あすみ「私は動ける場所なら戦いようあるもん」
何が気になったのか、向こうを見に行こうとしていた杏子が足を止める。
杏子「……なんであたしが犬なんだ?」
あすみ「なんでって?」
杏子「いや、あたしのどこを見て犬なんだよ」
あすみ「なんとなく」
小巻「こいつの発言全部真に受けてたら持たないわよ」
……杏子は腑に落ちなさそうな顔で去って行った。
――――
――――
--------------------------
ここまで
次回は9日(月)20時くらいからの予定です
水着キリカの絵が見たいです
魔力を使う訓練の様子も一通り見て回ってつついていった。
杏子も結構アドバイスを出していたようだった。もしかしたら魔女と化した私よりも、杏子の指導の方が役立つかもしれない。
さすがにそこらへんはベテランだ。
あすみ(……だったら、尚更『魔法を使う才能』はないわけないな)
あすみ(まあともかく、コンプレックスに思ってるのは本当みたいだ)
時刻は夕暮れ前。解散の前に、仲の良いグループが何人かで固まって話している。
魔法少女たちのなかでも、基本的にいつも一緒に行動するメンバーはいくつかに分かれていた。
大体が契約する前からの友達や知り合い同士だが、キリカや小巻も同業者の中で少しずつ交友関係を伸ばしていっているみたいだ。
……そんなみんなを眺めながら考える。私のほかに、杏子も一歩離れた位置に居た。
杏子「解散にしないのか? あたしそろそろ遊びに行きたいんだけど」
あすみ「するよ? その前にちょっと考えててね」
杏子「何を?」
あすみ「今のパワーバランス。この中で誰が一番強いと思う?」
杏子「そうだな……強いっていうならあいつじゃないの。あっちの茶髪も魔法の奇抜さじゃ負けてない。けど、主導って意味なら話は変わるぞ」
あすみ「うん。これだけの人数、統率がとれなくちゃグリーフシードも渡らないだろうしね」
今は私が代わりになっているようなもの。それがなくなればどうなるだろうか。
独占するために争うというならそれも悪くはない。この世界じゃよくあることだ。
けど、今はそういう雰囲気ではなかった。
1まあまた後で考えるか
2アンタやんない?
3自由安価
下2レス
あすみ「……ねえ、面倒くさいからアンタやんない?」
杏子「あたしはパス。前の見滝原ならともかく、こいつらの面倒なんか見てられない。風見野だけでたくさんだ」
あすみ「ふうん、だろうねぇ」
そりゃ元から期待してたわけじゃない。こいつは『別枠』だ。
考え方も合わないだろうな。こいつのやり方は昔の私と同じ……これだけの魔法少女を抱えてまとめるようなリーダーにはなれない。
なら、それが務まる人がこの中にいるだろうか?
あすみ「ねこー、かめー、ちょっとおいで?」
小巻「さっそくそれか……」
他の人と雑談してた二人が話を中断してこっちに来る。
この呼び方は嫌がってはいたもののなんだかんだで反応していた。
キリカ「なに? きび団子でももらえるの?」
あすみ「それは犬とキジと猿。猫から猿にしてもいいよ?」
キリカ「え、そっちのほうがヤなんだけど……ていうか猫でもないけど」
あすみ「そんなことはどうでもいいよ。それより、そろそろはっきり自覚を持ってもらおうかと」
一応気になってるのか、杏子が横目にこっちを見ている。
……あ、そういえば犬は居たな。犬は犬でも、忠犬には程遠い野良犬だが。
1あんたリーダーやる気ない?
2自由安価
下2レス
あすみ「あんたたちリーダーやる気ない?」
キリカ「……は?」
小巻「あたしたちが? 教官はアンタじゃないの?」
あすみ「そう。私は教官だからまた『別枠』なの」
あすみ「なんだかんだ、あんたみたいな人が引っ張るほうがここには合ってるんだろうなと思ってさ」
私が二人に持ちかけたのはそれが理由だった。
さきほど杏子が言った二人は確かに戦いには向いているが、戦う上での意思が定まっているように感じなかった。
だから杏子も『主導には向かない』と言ったのだろう。
小巻「よくわかんないけど、さすがに身内びいきじゃないの?」
あすみ「思い上がるなよ?贔屓なんてする義理ないから。アンタなら他の新人よりいくらか経験も長いし、強いほうじゃん」
小巻も少し戸惑っていたが、キリカは納得のいかなさそうな顔をしていた。
今まで自分が先頭に立つことがなかったからか、自分がそういう立場に向かないと思っている。考えたことがなかったのだろう。
キリカ「……それはわかるよ。でも、どうして私まで?」
あすみ「そろそろアンタも引っ張る側に回ってもいいんじゃない?」
あすみ「ま、考えといてよ」
……最後にそう締めて全体に解散を言い渡す。
杏子はこっちに意見してくることはなかったが、何かを思案するような顔つきをしていた。
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ここまで
次回は11日(水)20時くらいからの予定です
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すみませんが、今日は時間がとれなさそうなので中止にします。
次回は12日(木)20時くらいからの予定です
訓練場所を抜けると、今日はもう寄るところもない。まっすぐ家に帰る。
ゆま「――おねえちゃんだ!」
あすみ「ただいま、ゆま。帰ってきたよ」
玄関を開けると、パッと明るいゆまの声が響く。
……グリーフシードを必要としない私は、本来もうパトロールに行かなくても良い。
この街の魔法少女たちと『別枠』というのも、その宿命を背負った者とすでに“仕組み”が違うからだ。
別にもうそこまでの力も求めない。
新人の面倒を見るのは現状を把握するためというのもあるが、暇つぶしの一つのつもりだった。
今の立ち位置は嫌いじゃない。とりあえず、私がいなくても良くなるまで。
でも、ゆまにまた寂しい思いをさせていないかが心配だった。
あすみ「学校がはじまったけど、どう? また変なことされてない?」
ゆま「うん。いじわるな人たちはおねえちゃんがやっつけてくれたから」
あすみ「……そっか」
ワルプルギスの夜が来る前、私はゆまをいじめた子供たちを『呪った』。
あれから街が変わり果て、そいつらはどうなっただろうか。ワルプルギスを倒した私がそいつらの命も救ったのか――――それとも。
ひとまずゆまが無事に過ごせていることに安堵した。
ゆま「ねえ、今日の夜ごはんはなあに?」
ゆまが抱きついたまま見上げてくる。
“野菜炒めカレー”は精進中だが、新しく作れるようになったものはある。
あすみ「今日はね、生姜焼きやるよ!」
ゆま「わあい、やった!」
キリカと一緒にレシピを探してもらってから、こっちは得意料理の一つになっていた。あれから何度も作っている。
……けど、そろそろ違うものも作ろうかな? 思い返してみれば、他にも思い出の料理はたくさんあった。
1明日以降ほかに食べたいものはないか聞いてみる
2自由安価
下2レス
あすみ「明日からはほかに食べたいものある?」
ゆま「ほかー?」
ゆまが『うーん』と考えこむ。
ゆま「オムライス!あと、ハンバーグ!」
あすみ「オムライスとハンバーグかぁ」
一般的に子供が喜びそうなものをあげるゆま。それはどちらも一度は食卓に出したことのあるものだった。
ハンバーグはゆまと出会った日に。オムライスも何度か作っていた、
キッチンは私が来るまでろくに使われた痕がなかった。そもそもゆまの中にあるレパートリーも少ないのだろう。
あすみ「わかった。今度作るよ」
ゆま「うん!」
約束したメニューのことを考えつつ、ふと今自分が作れるレパートリーを考えてみる。
……そろそろ何か増やそうか? あの生姜焼きみたいにレシピを作ってまとめていくのもいいかもしれない。
――――
――――
――――それから、夕飯のあとゆまも寝てしまうと私はまた外に出ていた。
日中温かくなってきた気温もこの時間になると冷めてくる。夕涼みには丁度いい。
夜の闇に一つため息が溶けていく。
ワルプルギスの後、人自体が減った気がする。遅くに出歩く人も少なくなったのか、辺りには物音ひとつ聞こえなかった。
電気は大分復旧したもののまだ場所によっては真っ暗のところもある。用事でもなければ歩こうとは思わないだろう。
あすみ(まあ私は結構こういう“くらーい”の、好きだったりするけどね)
その時、足音が近づくのを聞いて振り返る。
……こいつも『夕涼み』だろうか。
あすみ「こんな夜中に何の用事?」
ちょうど、奥から走ってきた車のライトに照らされて横顔がはっきりと見えた。
鉢合わせた人
1小巻
2キリカ
3杏子
下2レス
あすみ「ただでさえ数に余裕がないんだから、出来るだけグリーフシードは残しといてほしいなぁ」
杏子「別に、そういうんじゃない」
あすみ「ならいいけど」
……だったら尚更、こんな時間にこんな場所でなにをしてるのか。
いつも通り何も持たず、いつもの格好で。
1帰らないの?
2自由安価
下2レス
あすみ「帰らないの?」
杏子「……どこにだ」
当たり前のように尋ねたが、その返事を聞いて悟る。昼から外を出歩いている時点で薄々わかってはいたが。
……あぁ、こいつも私と同じような人だったか。
杏子「ホテルは埋まっちまったし。まあどうにかなるだろ」
あすみ「ふーん、そう」
こちらも軽く返事を返す。自分も含め、こういう奴は確実に“何かあった”奴だ。
お互い深入りしないのがいいだろう。私だって探られたくはない。――だが。
あすみ「アンタは今なんか悩んでるの? 巴マミのこと以外で」
杏子「今日の宿のこともなし? あたしにとっちゃ目前に迫った問題だぞ」
あすみ「……だって、あれからピリピリ訓練しちゃって、すっごいつまんなそー」
『私を倒す』ために鍛錬を続ける杏子。しかし調子が良いようには見えなかった。
杏子にはもう十分な経験がある。それ故に、新人の頃とは違って徐々に伸び代は少なくなる。
――自分の戦い方での“限界”が見えてきたんだ。それがコンプレックスにもなっていた。
杏子「それしかやることがないんだよ」
あすみ「そのせいで無駄にイライラしてる気がするんだけど?」
誰も通らない道の信号の前で足を止める。
赤く光る信号機。杏子は一度も立ち止まることなく渡ろうとしていた。
あすみ「じゃああの新人たちの面倒は?」
杏子「あたしにとっちゃどうでもいいよ。それもやることがないだけだ。アンタこそ随分と気にかけてるじゃん?」
あすみ「まあね、私も暇つぶしついでだよ。……でも先に魔女になった先輩から忠告しとくと、あんまり過去になんか縛られるもんじゃないよ」
あすみ「さっさと自分の人生見つけちゃったほうが楽しいの」
杏子「あたしが魔女になったら死ぬだけじゃねーか」
あすみ「ま、大抵の魔法少女はそうなんだけどね」
杏子は一人進んでいく。そして、振り返らずに言った。
杏子「……力もすぐには身につくもんじゃない。それだけだ」
『人生を見つける』とはいっても、そんな簡単なものじゃないこともわかってはいた。
私の場合はたまたま、“運”が良かったからだ。思いも寄らなかったきっかけから今の自分がある。
杏子の姿は遠くの方に小さくなる。
……私はそれを追うことはなく道を引き返した。
あすみ「…………この街の事情もまだまだ厄介なもんは厄介ね」
それから住宅街を進むと、ある家の前に立つ。
あすみ『おーい』
カーテンは閉じられていた。明かりも恐らく消えている。
何度かテレパシーで呼びつけると、二階のほうのカーテンが薄く開いてその中から顔が覗く。
キリカ『……なにさ、こんな時間に』
あすみ『ちょっと出てかない?』
キリカ『もう寝ようとしてたんだけど……なにするの?』
あすみ『夕涼み』
私がそう言うとキリカは呆れたような顔をする。
しかし、否定の返事はしなかった。
キリカ『明日授業中寝てたら君のせいね』
1明日は訓練来るの?
2ご飯のレパートリーの話
3自由安価
下2レス
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ここまで
次は15日(日)夕方くらいにやると思います
キリカは少ししてから玄関からそーっと出てきた。
薄いシャツにショートパンツを合わせたラフな格好だ。寝間着だろうか。
ぶらぶらと夜道を歩き出す。このあたりならまだ道のわきについた街灯が薄く照らしていて明るい。
あすみ「あー、来た来た。そんなの、魔法でなんとかすればいいじゃん?」
キリカ「ああ、そういえばそういう使い方も出来るか」
あすみ「怪我治したんでしょ。やり方はわかると思うけど……」
あれからキリカは問題なく動いているように見える。
実際のところはどのくらい完璧に治っているのだろうか。
私の見た限りでは、あまり治癒能力が高いほうとは言えなさそうだ。
あすみ「アンタに対しては世話を焼いてやるよ。一応アンタの身体を傷物にした責任もあるわけだしさ」
キリカ「その言い方は……仮にも恩人に対してそんなふうには思わないよ」
あすみ「『恩人』! 素直ね、その響き気に入ったわ。まーあのウシ乳痩せ狼が諸悪の根源ね。うん、あいつが悪い」
キリカ「牛なのか狼なのかはっきりしろよ……」
あすみ「あと、また料理も相談乗ってよ。そろそろなにかまたレパートリー追加しようと思うから」
こいつからもらった本もいくらか見てみた。けれど、こればっかりはこいつ本人に聞くのが一番確実だ。
その代わり戦いについては教えてるんだからバランスは取れている。
……前はそんなふうに誰かを頼ることすら許せなかったっけな。
キリカ「わかったよ。どんなもの作りたいかくらいは考えといてね」
あすみ「オッケー」
キリカ「……ところで、織莉子のことは」
あすみ「あいつは死んだよ。ワルプルギスの夜の前、やましいこと企んでるのがバレてポイされた」
そういえば、こいつのことやこの街で起きていたことも少しずつ話すつもりではあったっけ。
私の中ではもう随分昔のこととなった美国の死を話すと、キリカはわずかに曇った表情をする。
自分も殺されかかった相手だというのに、そんな相手の死でも同情するのだろうか。
あすみ「ま、所詮人を道具としか見なかった無能の末路なんてそんなものだよ。悲しいの?」
キリカ「別に。納得はできるよ。けど、実際にそういう話を聞いたら良い話ではないでしょ」
キリカ「私だって脅すくらいはした。そりゃ口に出したことはあったけど……」
躊躇いもなく『やれる奴』なら、それが本気じゃないのくらい見破れる。
殺意がなければ脅しにも響かずあしらわれるだけだ。
あすみ「……そんなんだからナメられるんだよ。で、明日は訓練来るの? 来るなら、終わってからまたちょっと散歩しようよ」
キリカ「行くけど、散歩?」
あすみ「うん、魔女狩りだよ。考え込んでることがあるなら、頼りになるあすみさんにはなしてごらん?」
一旦足を止める。キリカはまだ話したいことがまとまっていないのか、なかなか喋ろうとはしなかった。
あすみ「…………その時にでも」
途中で小さな公園に寄って、そこの柵に腰掛ける。
しんとした空間の中で耳を傾けると、辺りにはもう夏の虫が鳴きはじめていた。
ゆまともよく訪れる場所だ。しかし、夜闇の中の公園は昼の景色とはまったく違って見えた。
……小さく町を一周してからキリカの家の前へと戻る。
あすみ「じゃ、私は寝るからアンタもたっぷり眠りなよ。今度またゆまとも遊んであげてよ」
キリカ「おやすみ」
キリカを見送ると、今度こそ夜の道を戻っていく。
家に帰る頃には程よく眠気が襲ってきていた。
――――
――――
――――……翌日の午前、ゆまを見送って一人になると私は本を眺めていた。
見ているのはもちろん例の料理本だ。
あすみ「んー……と。そろそろ次に作りたいものも目星つけておこうかな……」
ページをめくりながら気になったものに付箋をつけていく。
……いつかこれを全部マスターするときが来るのだろうか。
1外に出る
2作りたい物(自由安価)
3自由安価
下2レス
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ここまで
次回は16日(月)夕方あたりからの予定です
あすみ「回鍋肉かぁ……」
本格中華。さすがにあまり食べたことも作ったこともない料理だ。
野菜が存在感がある。しかし、野菜炒めカレーのように味付け次第では美味しく食べられたりしないだろうか?
あすみ「煮込みハンバーグ……これもゆまハンバーグ好きだしいいかもね」
ペラペラと次のページを開く。
……それから本を閉じた。多く挙げすぎてもいっぺんには作れない。
あすみ「まずは第一版を作ってみるか。買い物いってこよっと」
食材を補充するために、財布と鞄を持って外に出る。
街も少しずつ回復はしてきたものの相変わらず買い物は遠い。
それだけでも時間と体力を使うから一仕事だった。
大きい駅のほうまで行って、料理や生活に必要なものを買い揃えてきた。
このあたりはどれも品薄で安売りも少ないが、場所が遠いから少し多めに買いだめしておくことになる。
財布の状況的にも困ったことだった。まあ、いざとなればいくらでも手段はあるが。
――帰り際にふと病院の建物が見えた。
前にキリカが入院してた病院だ。……そして、あの上条とかいう男が入院している場所。
契約は踏みとどまったが、さやかはまだ納得はしていない様子だった。今あいつはどうしてるだろう。
あすみ「ひかり……あいつ確か治癒得意だったよね」
魔女になってから、私も治癒能力は大分上がった。平均くらいにはなっただろう。
大抵の怪我は治せるだろうけどあんまり複雑なものを治すのは難しいか。
世の中に平等なんてない。どうにもならないことはいくらでもある。
だから人に甘えて嘆いているのが気に食わなかった。奇跡なんてない。あんな奴ずっとあのまま不幸でいればいい。
そう思うのは意地だろうか。
今でもそれは変わらないはずだが――――。
ひとまず今はその場を後にして別の場所へと歩いていった。
どんどん駅の方から遠ざかっていくと、あの空き地が見える。
あすみ「……今日もやってるんだ」
そこにはやっぱり自己鍛錬している杏子の姿があった。
声をかけると、杏子はこっちを見ずに言う。
杏子「アンタもやるか?」
あすみ「見てのとーり荷物があるから私はパス。ちょっとどうしてるか気になっただけ」
手に持った大きな買い物を掲げて見せると、杏子は一度だけこっちを見て、それからすぐに前を向きなおした。
今はちょっとした寄り道のつもりだった。
杏子は私を誘ったが、杏子がやっているのはいつもの格闘の動きじゃなかったように見えた。
何か違うことを考えて、実行しようとしている。……今まで見たこともないようなことを。
何か新しい戦い方でも思いついたのだろうか? しかし、それが順調にいってるようには思えなかった。
杏子の横顔はいつも以上に苦々しい。
あすみ「アンタ、なにしようとしてるの? 新技?」
杏子「…………ああ。でもやっぱ無理みたいだ」
会話はそれきりで途切れ、暫くその様子を見守る。すると、杏子がぽつりと呟くように言った。
杏子「実は昔は使えてたんだけどな」
魔力にはそれぞれの性質がある。合わない魔法を使おうとしたって無理だ。
前は苦手だった回復魔法みたいに無駄に魔力を削られるだけ。
誰かを傷つける呪いの結果で誰かを幸せになどできない。自分すら。
杏子「今はもう使いたくもない」
――しかし、昔使えてたことがあるというなら、どうして使えなくなってしまったんだろう?
けどこれだけは聞いただけでわかる。使いたくもないものを使おうとして、満足な結果が得られるはずもない。
あすみ「……過去に戻れないなら、新しく変えるしかないよ」
杏子「変えた結果がこれなんだぞ」
あすみ「それは元から持ってたポテンシャルを引きだしただけじゃん。今使ってる槍も鎖も」
昔のこいつの戦いがどうだったかなんて知らない。
これから杏子はどうするのだろう。…………苦々しい横顔を眺めながら、この空き地に背を向けていった。
――――
――――
第一版の回鍋肉は形にはできたが少し手間取ってしまった。
遅めになった昼を終えてから慌てて出て行くと、昼前の時とは変わって空き地は新人たちの集まる賑やかな訓練場となる。
私は格闘訓練の組手にいそしむみんなを見て回っていた。
……よし、今日は数は減ってない。様子を観察しながら、新人の中の一人に声をかける。
あすみ「……ねえ、ちょっとアンタ」
*「は、はいっ!?」
あすみ「治癒魔法が得意だったよね。これ終わったら、この人と話してきてくれるかな。見滝原の病院の前に呼び出しておくから」
*「えっと……いいですけど、この人は? 怪我人ですか?」
あすみ「この街に居る候補者。ただし、あんまり私の名前は出さないでよ」
話していると、隣のほうで訓練してた奴が気づいてこっちに来る。
*「あっ、いじめてないだろーな!」
あすみ「いじめてないよー。そんなこと言ってたら指導になんないでしょ。アンタは自分の訓練戻れ。ちょっと見てやるから」
いつも一緒に居る友達らしいが、気にかけすぎている節がある。よく噛み付いてくるから困ったものだ。
連絡帳の画面を開いたままの携帯をしまう。
さすがにお節介が過ぎたか。
あすみ「…………まあ、この街のためだからな」
――――今日の訓練を終えて、この場に居た魔法少女たちに解散を知らせる。
訓練自体はいつもどおりだった。格闘や射撃、魔力の扱いを見て口を出す。新人たちも日々少しずつだけど上達している。
それは私が前から知っているこの二人も同じだった。
……少しの間見ていると、小巻はそそくさと帰ろうとしていた。
あすみ「小巻、昨日の話はどう?」
小巻「リーダーの話? 別にどうでもいいけど、あたししかいないんだったらやってもいいわよ。ただこれ以上時間は割けないから」
あすみ「ん、それならそれで十分」
お嬢様だからか知らないが、忙しいとはよく聞く。それに妹のことも気にしてるのだろう。
まずは一人その気になってくれる奴が居れば十分ではあるけど……。
あすみ「……ほら、そろそろ行くよ」
キリカ「あぁ、うん」
昨日約束したように、キリカを誘って魔女狩りに出発する。
――さっきのひかりももう美樹さやかに会いに行ったようだ。
あすみ「……そんでアンタは、言いたいこと決まった?」
キリカ「言いたい事?」
あすみ「悩みがあるなら相談してって話だよ。さっきのリーダーの話とか」
なにもない空き地を出て半壊した街の中を歩きはじめる。魔女や使い魔の魔力に気を配りながら辺りを見回す。
魔女になってからは、探知する能力も普通の魔法少女以上に優れるようになった。……同族のようなものだからだろうか。
キリカ「もう小巻がいるからいいんじゃないの。あの人のほうが向いてると思うよ」
あすみ「んー、あいつは確かに何でも心に決めたら『やってやる!』って感じだからねぇ……」
ワルプルギスの夜の前の鹿目まどかのことも然り――
あいつは結構豪胆な性格だ。あの根性は認めてもいいかもしれない。
あすみ「でもあいつ忙しそうだし、どうせアンタ暇してんでしょ。放課後はお菓子買い漁るくらいしかしてないし」
キリカ「う。まぁそうだけど……大体リーダーってなにやんのさ」
あすみ「リーダーっていうか、いざとなった時にみんなをまとめられる『自覚』を持ってほしいんだよね」
あすみ「私だっていつまでも時間割きたくないの」
キリカ「自分が楽しようとしてるんじゃん」
あすみ「私はもうこの街の『魔法少女』じゃない。魔法少女をまとめるのはアンタたちがやらなきゃ」
魔力の気配を見つけて方向を変えて進んでいく。
魔女よりも存在の軽微な、使い魔の魔力だ。普通だったらこんなの倒しに行かないが、今ならもう消耗は考えなくてもいい。
問題は……使い魔が育つことで手に入る全体のグリーフシードが少なくなることか。けど、これがこいつらのやり方だから。
あすみ「ぐいぐい引っ張ってくのだけがリーダーじゃないよ」
あすみ「アンタだって、このままいけばもっと経験積んだら杏子にも勝てるようになるって」
あすみ「……まあ、ヤバそうなことが起きたら私や杏子サンというベテランがなんとかするさ」
……キリカは予想もしてなかったみたいな表情をした。
キリカ「どこ行くの?」
あすみ「こっち。結界あるよ」
キリカを結界まで引っ張っていって、二人で使い魔を蹴散らす。戦うのは私がメインで、こいつはほぼ魔力を使わないサポートだ。
――――全部片づけたところでひと息ついた。
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ここまで
次回は18日(水)20時くらいからの予定です
>>648 水着のキリカ
http://i.imgur.com/8fFry9u.png
スタイルがいいからシンプルなのが似合いそうではある
水着キリカ良いですね
お時間が取れたら白ビキニ+パレオの方もお願いします
あすみ「怪我はない?」
キリカ「え? さっきのただの使い魔だし、多分大丈夫だと思うけど――――」
訓練や戦闘中、動き自体は問題ないように見えてはいた。
瓦礫の上に腰掛けているキリカに近づくと、その胸を鷲掴む。……すると、キリカがぎょっとして声をあげた。
キリカ「ぎゃっ!?」
あすみ「同性だからセーフ。人いないからちょっと見せてみてよ」
キリカ「は!? なに言ってんの……」
あすみ「……今ついた傷はなくても、あの時の傷痕が完璧には治せてないんじゃないかと思って」
あすみ「ほっといても消えるだろうけど、今なら多分アンタよりは治癒得意だし私でも治せるよ」
今は治癒の得意な新人には向こうに行かせている。
駄目だったらあいつに頼るしかないが、元々人より再生能力のある魔法少女の損傷なら治しやすい。
……ケチケチしたって意味ないんだ。だったらいっぱい使ったほうが早く感覚を覚えられて良い。
あすみ「この私が気前よくやってやろうって言うんだからね」
回復の魔翌力を流していくと、目の前が仄かに光る。
……――そして、光が収まってからキリカが手を当てて軽く俯く。確認は帰ってからでも大丈夫だろう。
キリカ「……見せる必要はあったのかい?」
あすみ「さあ?喜ぶ人はいるかもしれないけど」
キリカ「あー!そういえばまだあの時の写真……」
あすみ「これから変なことしなきゃきちんと私が預かっとくだけにしといてあげるよ」
例の半べそ写真、懐かしいなぁ。そういえばこいつと出会った時にはそんなこともあった。
1リーダーの件はまた考えといてよ
2自由安価
下2レス
あすみ「リーダーの件はまた考えといてよ。そんなに難しく考えなくていいから」
あすみ「アンタも吹っ切れたなら、そろそろそういうのやってみたっていいんじゃないの」
もう十分休息は取っただろう。休憩を終わりにして、揚々と次の場所を探しに歩き出す。
すると、キリカも私の後ろをついてきた。
キリカ「え……――あっ、待ってよ!」
横に並ぶ。面倒を見るくらいのつもりだったが、こいつももうもう仲間として肩を並べるには十分な存在にはなっていた。
それに、こっちも纏っていた呪いの武装が消えて、今まで気づけなかった本当の実力に気づかされてしまったところだった。
当然、それでも私はすぐに奇跡なんかなくたって誰よりも強くいられるようになってみせる。
もう魔女を狩る必要はないが、大事なものを守るためにはいざという時に力が必要なことだってあるのだ。……もう自爆はできないから。
あすみ「――――……たーだいまー!」
ゆま「おねえちゃん、おかえり! キリカも」
――――魔女狩りを終えると家に帰ってくる。キリカも一緒だ。
少し前からゆまも学校がはじまったし、キリカも家に来る機会は減っていた。
前に来た時も料理を見てもらった時だったっけ。ともかく、キリカが来るとうちの食卓は豪華になる。ゆまにはどういうふうに見えてるだろう。
キリカ「久しぶり。元気だった?」
ゆま「うん!」
あすみ「なにしてたの? お絵かき? ……それにしても、動いたらお腹すいたなぁ」
ゆま「また何かつくってくれるの?」
キリカ「あぁ、今日は……回鍋肉だっけ?」
あすみ「それは昼作ったやつ。それもまたやるけど、今は違うやつね」
料理本に付箋をつけた煮込みハンバーグのページを開いて見せる。
二人で覗き込んでいると、ゆまが一枚の紙を持ってきた。
ゆま「見て! これおねえちゃん!」
あすみ「おー、うれしいね! どう思う? 天才でしょ、うちの妹は」
キリカ「いいじゃん。羨ましいな、そういうのは」
そう言ってから考えた。妹――。妹でいいんだろうか。
この街の魔法少女でゆまのことを知る人には、相変わらず疑いもなくそう思われている。
この家に親がいないことすら知っている人はいない。『察している』人ならいるかもしれないが。
あすみ「それじゃ、私がメインでやるからさ。なんか付け合わせ作ってよ」
キリカ「しょーがないなぁ」
本を持ってキッチンに移動していく。……ゆまもこっちを気にしてカウンターから覗いていた。
1そういえばアンタは兄弟とかいないの?
2ゆま、こっちが気になる?
3自由安価
下2レス
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ここまで
次回は19日(木)夜からの予定です
あすみ「ゆま、こっちが気になる?」
ゆま「ゆまもいつか、おねえちゃんたちみたいにお料理できるようになるかな?」
それを聞くと、昨日話してたことも思い出した。“私を助けるため”って。
もちろんそんなこと考えなくてもいいようにならなくちゃいけないとも思ったけど――
……純粋に憧れられてるなら、ちょっと嬉しいと思った。
あすみ「今度一緒に出来るとこからやってみようか。でもまだ一人でやっちゃダメだよ」
隣では付け合わせを任せたキリカが冷蔵庫を見て悩んでいた。
何を作るつもりなんだろう?
キリカ「……ゆま、一緒にサラダ作ってみる?」
ゆま「うん!やる!」
あすみ「あー、いいとこ取ってかれた。けどゆまにサラダ食べさせるのは難しいよ?」
キリカ「だから大丈夫そうなのを一緒に作ろうかと思って」
ゆまが呼ばれてカウンターの外からこっちに来る。キリカはどこか張り切っているように見えた。
あすみ「そういえばアンタは兄弟とかいないの?」
キリカ「いないよ。居たらまた違ったかもしんないけど」
あすみ「あー、そうだろうねぇ……」
人に世話を焼いたり、面倒見てあげる機会もそうそうないから張り切っているんだろう。
私もゆまと会うまではそんなことしたこともなかったけど――。
あすみ「……ゆま、あとでキリカの絵も描いてあげたら?」
ゆま「よろこぶかな?」
あすみ「うん、絶対喜ぶ」
ゆまの傍まで寄って、キリカに聞こえないようにこっそりと提案する。
誰かから慕われることや、もしくは畏怖されることだって……案外楽しいものだ。
……こいつも便宜上でも『リーダー』になればわかるかもしれない。
そんな資質がないわけじゃないとは思うけど。
――――夕飯が出来上がる頃には、ゆまはソファのほうに居た。
テレビを見ていたかと思ったら、いつのまにかうとうとしている。
ゆま「ハンバーグだ!」
あすみ「特製和風煮込みハンバーグ。さあ、テーブルの上も片づけておいて」
キリカも見て味を調えてくれたから今日のは大丈夫だろう。あとは焼き加減を忘れないうちにマスター……か。
料理を皿によそって運んでいきながら、テーブルの上を見てみる。そこには新しい絵があった。
ゆま「あっ、そうだ! これ、キリカにも」
キリカ「え? なになに?」
ゆま「いつもあそんでくれたり、おいしいのつくってくれてありがとう!」
キリカ「私にも描いてくれたんだ! うれしいなあ」
あすみ「……今度泊まってきなよ。私も料理楽できるし、ゆまも喜ぶだろうから」
キリカ「んー、そこまで言われたら仕方ないな。まあ今度考えておくよ」
キリカは気分良さそうにサラダを皿に取り分けている。
さっきは羨ましがってたから。……前からこいつ、結構調子には乗せやすい。
1ゆまのことを自慢する
2自由安価
下2レス
----------次回は21日(土)夕方くらいを予定-------------
あすみ「描いてもらえてよかったね。ゆまはホントーにいい子なんだから。羨ましがるのもわかるけど?」
キリカ「いい子すぎて君とは正反対に思えるけど、ねぇ」
あすみ「ちょっと、それはどういう意味よ」
褒められたゆまも上機嫌だ。
『いただきます』と手を合わせると、一口目にハンバーグをほおばった。
あすみ「どう? 美味しい?」
ゆま「うん!いつものハンバーグとちがうけど、おいしい!」
それを聞いてひとまず安心する。
小鉢に取り分けられてたサラダは普段ゆまが喜びそうにはないが、ゆで卵やチーズなどがメインとして上に乗っている。
嫌いじゃなくても興味を示してもらえないことが多いサラダだが、今日のはゆまの好きそうなもので味をマイルドにしてあった。
あすみ「ゆま、今日はサラダも食べてるね。これゆまも作ったの?」
ゆま「レタスちぎったり、ゆでたまごつぶしたりしたよ!」
あすみ「えらいえらい」
キリカ「本当は野菜も食べられるんじゃないのー?」
ゆま「きょうのはへーき!」
あすみ「…………ふーん?」
…………食後にキリカが帰る支度をしはじめると、ゆまがそっちに気を向ける。
ゆまは寝る支度を進めていたところだ。
ゆま「もういっちゃうの?」
キリカ「また今度、休みにでも来るよ」
あすみ「お、懐かれたね」
関われる人は極端に少ないが、ゆまだって、本当はそんなに人見知りする子じゃない。
こうして見ていると、本当は人懐っこくて元気な子なんだとは思う。
学校には再び通い始めたが、ゆまの世界は未だ狭く閉じている。傷つけられるよりはそのほうがいいと思っていた。
家を出る前に、少しキリカを呼び止めて話をする。
あすみ「……ゆまに食べてもらえるサラダを作るって、あれはどんな魔法を使えばいいわけ」
キリカ「単純に、ゆまの好きなものとか乗せれば豪華な付け合わせになると思って。私も野菜だけのサラダあんまり好きじゃなかったし」
キリカ「あと、自分で作ったものなら積極的に食べたくなるんじゃないかなってさ」
あすみ「なるほどねえ……」
今度からゆまと一緒に作ったりしてみようか。
そんなことを考えながら見送る。
ゆま「キリカ、またね!」
あすみ「まー気を付けて帰ってよ。この辺夜は真っ暗だから」
キリカ「うん」
――キリカは軽く手を振って帰っていった。
――――――
自宅 午前
あすみ「ゆま、今日はどこか行きたいとことかある?」
ゆま「おひる食べたら公園にいきたい!」
あすみ「公園か。久しぶりだもんね」
いつもより遅めに起床してゆまと過ごす。今日は久しぶりに一日中ゆまと居られる日だった。
最近は杏子との訓練や新人の面倒もあったし、平日はゆまは朝から学校でなかなかのんびりできなかった。
新人たちのことも、たまには私がいなくてもいいかな、と考える。
やっと小巻がやる気を見せて、みんなもリーダーとして受け入れはじめたところだったのだ。そっちを頼らせるのも悪くない。
……そんな素敵な午後の計画を練っていると、不意にインターホンが鳴る。
あすみ(……誰だ?)
カメラを確認するまでは休日に来ると言っていたキリカかとも思ったが、姿を見てみると頭を捻る。
初老の男女二人。モニターの前で固まっていると、ゆまが隣に来る。……『もしかして』とは思った。
あすみ「誰? ゆま知ってる?」
ゆま「……うん。おじいちゃんとおばあちゃんだよ」
ゆまは少しだけ答えにくそうにして言う。
最初は、もし父親が帰ってきたら殺してしまう予定だった。いつかは身内や近所が訪ねてくることもあるだろうとは思っていたんだ。
しかし今の今まで誰も関係者が来なかったから、もう長いこと意識から外していたところだった。
――こいつら、今更なにをしに来たんだ。
出るべきか? 出ないべきか?
1無視する
2出る
3ゆまに聞いてみる
4自由安価
下2レス
あすみ「……ゆま、この人たちは乱暴とかした人?」
ゆま「ううん、いじわるはされてない」
あすみ「会って話したい?」
私だけじゃ判断出来なかったから、一応ゆまに聞いてみる。
するとゆまは曖昧な反応をしたのち、首を横に振った。
あすみ「……そっか」
ゆま「だって、ゆまにはおねえちゃんがいるから」
……そういえば、ゆまもたまに会うくらいだと言っていたっけ。
今の現状を知られたらこのままではいられなくなる。それは確かに私も嫌だけど。
1無視する
2自由安価
下2レス
もう一度インターホンが鳴る。
ゆまがぎゅっと私の服を掴んだ。ゆまが怖がっているのはこの人たちに対してじゃない。この生活を暴かれて壊されてしまうことに対してだ。
ゆま「おねえちゃん、『まほう』つかってもいいよ」
あすみ「始末する? それとも追い返す?」
ゆま「……ゆまをまもって。ゆまはここにはいないから」
『守って』――そう言われたって、どうすればいいのだろう。
考えていると、そのうち諦めたのか二人は去っていった。
それがわかってやっと肩の力が抜ける。……これでよかったのだろうか。これで問題を解決できたのか?
そののちに、私がここに来てから長いことまともに使っていなかった電話機が喋り出した。
『留守電』だ。
『――そっちで災害があったって見たけど、みんなご無事? 休みだから会えるかもと思ったんだけど……まだお仕事忙しいのかい?』
『無事なら連絡くらいするんだよ。私たちも、ひさしぶりに眞子さんやゆまちゃんにも会いたいと思ってるから』
今まで電話はすべて無視していたが、もしかしたらあの二人からの着信もあったのかもしれない。
……それは縋るような言葉だった。ワルプルギスの夜で街が壊滅したことを聞いて、無事を確認するために来たんだ。
外に出て行った親父がどうしているかは知らない。しかし、この家から連絡が入ることはこれからさき一生ないだろう。
この家の人間は“大災害”によって滅んでしまった。もしかしたら、父親だけはここにいなかったから『助かった』となるかもしれないが。
――やがて二人が辿りつくのはそんな展開だ。
それなら、ある意味解決したと言える。これがゆまが最後に聞くことになる二人の言葉だった。
---------次回は22日(日)午前から開始予定です------------
あすみ「……いつか、大きくなった時にでも会いに行ったら?」
ゆま「いつか?」
提案すると同時に、暗く現実的な考えも思い浮かんだ。
あすみ(……まあ、その時まで生きてればの話だけど)
お母さんだって、あんなに早くにいなくなるなんて少しも思ってなかったんだ。
……それはゆまには言わない。
昼時を過ぎてから公園に向かった。
最初に来た時以来行くことのなかった、大きい公園のほうだ。休日の公園は前に来た時と同じく賑わっていた。
もう邪魔者はいないから。
あすみ「やっぱ混んでるね。これじゃ好きなの使えないかも。いつもの公園にする?」
ゆま「うーん……」
*「はい!」
ゆまが悩んでいると、その視線の先にあったブランコが一つ空く。
その子の母親らしい女の人が『偉いね』と言って褒めていた。笑う母と子供。私達には無い、幸せな家族の光景だ。
あすみ「ゆま、お礼言わなくちゃ」
ゆま「ありがとー」
*「どーいたしまして!」
あすみ「行こっか。また押してあげるよ」
ゆま「うん! 」
……けど変わっていても、普通とはすでに違っていても、これが私達が手に入れた日常だ。
今度こそ、ずっとこうして続いていけるだろう。昔には戻れなくても十分幸せだった。
――――
――――
ひとしきり遊んでから昼より人の少なくなってきた公園を出ようとする。
小さい方の公園と違って好きなものを独占は出来ない。最初はゆまより小さい子もたくさんいたが、今は私と同じくらいの歳の子も増えていた。
……魔法少女は大体みんな年上だし、同じくらいの歳なんて久しぶりに会ったな。
夕方を知らせるチャイムは鳴ったが、まだ日は差している。
ふと今日も訓練してる魔法少女たちのことが気になった。
あすみ「ゆま、帰りに少しだけ寄り道してもいい? 疲れるだろうしおぶっていくから」
ゆま「やった、おんぶー! どこいくの?」
あすみ「ちょっと、知り合いの集まってる空き地だよ」
――帰りがけにいつもの訓練場所に向かう。
あの空き地までは距離が長く、足場も悪い。ゆまを歩かせるには大変な道だ。
ゆまは遊び疲れたのか私の背中ですやすや眠っていた。
あすみ「みんな、ちゃんとやってるー? サボってないでしょうね」
*「げっ、今日来るなんて聞いてないぞ!」
あすみ「……ホントーにサボってないでしょうね?」
空き地に着くと、まだみんな集まっていた。
人がごっそり消えてたりすることがなかったのは安心していいだろうか。
キリカ「大丈夫だよ。ちゃんとやってたから」
あすみ「かめきちさんは? 最近リーダーぶってるんでしょ。一応杏子除けば一番のベテランだし」
キリカ「小巻? ……は指示だけ出してさっさと帰ったよ。用事あるって」
キリカ「ていうか、最早ペットみたいになってて原型留めてないなそれ……」
あいつは責任感はあるみたいだから任せておいても心配なさそうだ。
キリカも見ているわけだから問題は起こらないだろう。……いや、問題を未然に防ぐだけの威光があるかは微妙かもしれないが。
1今日はどうしてた?
2そういえば、傷の痕は治ってた?
3自由安価
下2レス
あすみ「そういえば、傷の痕は治ってた?」
キリカ「うん。なにもなかったみたいに消えてたよ」
あすみ「よしよし、これで今年の夏を満喫できるじゃん。予定があるのかしらないけど」
浮いた話は幸いまだないようだけど、友達とでも水着でも着てはしゃぎに行くのかな?
そんな想像をすると少しだけ遠く思えた。こっちも今年はゆまと出かけてみようか。私のほうも隠したい傷痕は消えたことだし……。
あすみ「で、今日はどうしてた?」
キリカ「とりあえずいつも通りに組手と魔力の扱い。それから、時間があったから適当に分かれて魔女狩りにも行ってたよ」
杏子「今日はキリカも見て回ってたぞ」
杏子も自分の訓練が一通り済んだのかこっちへやってくる。
あすみ「へえ、キリカも一丁前にそういうのやってるんだ?」
キリカ「『いっちょまえ』ってなんだよ。この前はべた褒めしてくれたじゃん。このままなら杏子も越すかもしれないって」
キリカ「小巻には勝つことあるし!」
あすみ「まあそのくらいだとちょっとの差だからね。人によって色々あるんだから実戦経験とは直結しないし……――」
そう言って思い出す。前の街に居た頃の私は戦いがすべてだった。
だからいくら新人でも、他の生活と両立しながらぬくぬくやってる奴に負ける気はしなかったのだ。……それ以上に、例の【呪い】もあったし。
……杏子もきっと年月以上に実戦経験のあるタイプだ。そうじゃなきゃ武器の一本だけであれだけの戦いをこなすことなんてできない。
とはいっても、本人が危機を感じている通り、ずっと“このまま”じゃあいつかは――――
杏子「誰が“このまま”だって? ナメないでほしいね。新人に簡単に抜かれちゃ困るからな」
あすみ「ん、昔の魔法を使える目処が立ったの?」
杏子「いや、そういうわけじゃないが……」
あすみ「なんだ、聞いて損した」
杏子「昔の魔法はそのままは使えないし、やっぱり使いたくもないんだ。だから、その『残骸』を今のあたしの生き方に合わせることにしたんだよ」
杏子「自分の魔法そのものを突っぱねてたってしょうがない。……なんだかんだで力は必要だからな」
あすみ「それで、杏子の生き方って?」
杏子「とりあえず、誰よりも強くなることだ」
あすみ「えー、相変わらずつまんなそう」
杏子「しょうがないだろ、そのくらいしかすることがないんだから」
杏子「けど、それまでの間にこいつらを横で見てんもの面白い気がしてきたよ。見てるだけで、まとめたりとかはしないけどな」
結局前と変わらないように思えるが、何か少しは意識は変わったのだろうか。
まとめるのも馴れ合いも拒むのに口だけは出すのだから嫌な先輩だこと。
あすみ「まー、食ってる栄養が頭にいってないアンタが小難しく考えても無意味だからね」
あすみ「魔法を無理に取り戻すとは考えないほうが良いんじゃないの。一度原点に帰ってやってみたら?」
杏子を上から下までじろっと見回す。
あすみ「あれ? ……でも食ってる栄養、頭にいってなかったらどこにいってるんだろうね」
あすみ「大して身体にもいってるように見えないし」
杏子「うるっせー、変な目で見んなシメるぞ」
あすみ「ゆまが起きちゃうでしょ。対戦は受け付けてもいいけど妹がいるので今はお断りします」
純粋に浮かんだ疑問でちょっとからかうと、杏子は思い切り不愉快そうに言った。
こいつはこう見えて頭が堅いんだった。
そんなやりとりをしてると、新人が駆けてきた。
*「キリカ、ちょっと見てよ! 新しい技考えたから! その名も『無駄に洗練された無駄のない無駄な残像分身』!」
キリカ「見たい!」
*「いいよ、でもアレやると気持ち悪くなるからちょっとだけね」
……高速移動が出来るだけで本人の平衡感覚と動体視力が追いつかないんじゃ無駄じゃないのか?
キリカの速度低下のがよほど役立つ魔法に思えてくるが、そこそこ仲は良くやれてるようだ。
*「それよりどうしよう! こっちは魔力の操作に失敗して竜巻が! みんなで鎮めようとしたら更におっきくなっちゃって!」
キリカ「えっ!? そっちは杏子が見てきたほうがいいんじゃないかな?」
杏子「はあ? しょーがないな、ちょっと全員歯食いしばっとけ」
キリカ「って何する気だよ!」
あすみ「全員気絶させて無理矢理魔力を解除させるのか、乱暴な解決方法。私が“奇跡”で止めてくるからゆまのことお願い」
寝ているゆまを下ろそうとすると、その前に背中でもぞりと動いた。
起きちゃったらしい。……これだけ騒がしかったらしょうがないかな。
あすみ「アンタも意外と頼られてるじゃない」
キリカ「ふふん、何か困ったことがあったら私に言ってね。一応この中じゃ年上だから」
杏子「キリカが先輩風吹かそうとしてるな」
キリカ「あ、でも自分で言っといてだけど、あんまりプレッシャーかかるのは好きじゃないけどなあ……」
ゆま「……あれ? ここどこ?」
あすみ「私の知り合いの集まってる空き地だよ。ちょっとだけ待ってて」
こうして見ていると、キリカも威光はないけど上手いことやれそうだ。その分親しみやすさがあるのだろうか。
縄張りを仕切っていた巴マミはいなくなったが、結局のところ似たような雰囲気に落ち着いていた。
醜い争いがなく使い魔のいない、平和な街。
…………そう思えば少しは報われたと思わないか? 心の中で問いかけながら杏子のほうを一目見た。
もしかしたら杏子も、あんな生活をしているが、その雰囲気を感じ取ったからこいつらを見守る気になったのかもしれない。
あとはほむらだ。ここにあいつが戻ってきたらどうなるだろう。
あすみ(……いや、案外何も変わらなさそうだな)
もう私がこいつらをまとめてやらなくても良いだろう。見滝原の縄張りもこれでやっと落ち着いてきたといえる。
けどあと少しだけ、『教官』として私はこいつらの面倒を見ることにした。
―END
『新編成見滝原』―
===【あとがき・設定類】====================================
>現時点でのステータス
あすみ [100/100]
◆ステータス
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv10]
自【回復:B】 他人【回復:B】
回復は平均程度になったと言っているものの十分得意なレベル。
『奇跡を叶える~』魔法使用で格闘レベルは杏子と同じくらいとしています。
上条やさやか関連のことについては、あすみの視点でやることではないかなと思ったので割愛しました。
今後機会があれば出番のなかったほむらやそっちをメインに据えた話をおまけ程度で書くかもしれません。
変身能力については考えていませんが、
あまりに攻撃を受けすぎたり魔力を使いすぎると一旦グリーフシードに戻ってしまうという裏設定は考えていたり。
他のメンバーは杏子[格闘Lv21]>>小巻[格闘Lv8]≧キリカ[格闘Lv6]≦≧他の新人くらい。
名無し新人の中には素質はまちまちですがそこそこセンスある人もいたり。
射撃系のキャラが有名キャラで居ないので少しアンバランスです。
あすみ、MP切れると【一旦】GSになるのか……
その状態で喋ったらシュールだw
射撃系だと一応千花がいますね
漫画で描かれてるし名前ありだから一応有名キャラのはず……な気がする、多分
>>752
ここでも名前は出してるけど「*」と空白だからなぁ…
あんまり細かい描写されてないから下手に出しすぎると扱いが困るのよ…
キャラごとの好感度・進展表
・呉キリカ
本人にやる気が出たので、他の新人たちと一緒に面倒を見ている。
料理を教わったり比較的よく家にも上がったり仲の良いほう。
・千歳ゆま
野菜嫌いは根本的には治せないが、少しずつ解決策を講じているところ。
ちなみにこの話のゆまは原作や他の話と比べると結構特殊です。その経歴から『アレ?』って思うところもあるかもしれません。
・佐倉杏子
一度縄張りも手放そうとし、生きる目的を失いひたすら強さを求める漢女と化した。
あすみ相手にもふざけた態度を見せることが減り、余裕がなくなったのか喋り方も堅めの口調が多くなっている。
キリカとは仲が良いそう。最終的にマミの生き方にも似た見滝原の魔法少女たちを見守ることに居場所を見出した。
・浅古小巻
魔女狩りや訓練には出席するが、妹に心配をかけないように家庭内の一緒に居る時間を大切にしている。
お姉ちゃん気質ではっきりとものを言うため、みんながリーダーと認識しはじめている。
・呉キリカ
神名あすみ:怒らせられない+信頼
千歳ゆま:可愛い子供→年下の友達
暁美ほむら:他人+格上の相手
佐倉杏子:友人
浅古小巻:知人
・千歳ゆま
神名あすみ:依存
呉キリカ:優しいお姉ちゃん
暁美ほむら:顔見知り+いじわるしないで!
佐倉杏子:顔見知り
浅古小巻:顔見知り+いじわるしないで!
・佐倉杏子
神名あすみ:マミの仇→ライバル・仲間
呉キリカ:友人
千歳ゆま:顔見知り
暁美ほむら:縄張りの仲間
浅古小巻:めんどくせー奴+知人
・浅古小巻
神名あすみ:軽蔑→一応信頼
呉キリカ:知人+
千歳ゆま:顔見知り
暁美ほむら:軽蔑+一時的な仲間
佐倉杏子:困った奴だけど一応仲間
------------夜に少しだけ再開するかも?-------------
次やる話
【未完結】
・かずみ編 【6日(水)朝 ヒュアデスの学校襲撃を翌日に予知】
・Homulilly編【二周目の世界】
【続編開始/指定場所からロード】
・ほむら編 【続編:After1後から再開。新展開】 [獲得補正:(料理)Lv2中級者 アルティメット炒め物]
・キリカ編1【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】
・QB編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 ※暫定END
・中沢編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 [獲得補正:成績関係の結果+18]
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・あすみ編【続編:新編成後(おまけ)】
・桐野編【裏ルート/新しい主人公】
○新しい物語
・まどか☆マギカ登場キャラ
・おりこ☆マギカ登場キャラ
・かずみ☆マギカ登場キャラ
・上記作品中のモブ
・オリキャラ
・百江なぎさ
・神名あすみ
↑のキャラから一人選択。
同キャラ2回以上選択も可能。
下4レス中までで多数決
*こばなしエイミー*
吾輩の名はエイミー。名前はまだない。
さきほどの自己紹介を聞いて、何を言っているのかわからない人もいると思う。自分で『エイミー』と名乗っているではないか。
もちろんそんなツッコミは承知の上だ。だが、正確にはまだ【その時点】で名前をつけてもらっていなかったのである。
それなら一体わたしはなんなのか? ……いや、そんなことは気にしたことはない。 だってただの猫だもの。
……ただの猫のはずなのだが、最近になってよくわからない“力”が身についた。
猫はすべてを理解し考えている。
――――きっと、人間が思っているよりもね。 そんなこと、彼女たちは知らないだろう。
「…………」
ある日、散歩をしていたわたしを、長い黒髪の少女はまるでやり慣れた作業のように道の隅へとしっしと追い払う。
顔は鋭く感情の乗らない怖い表情。言葉は発さない。……けど、わたしはこの人の声を聞いたことがある気がした。
日課を邪魔されたわたしはしかたなくルートを変更する。
その横を車が勢いよく通って行った。車というのは、人間が作り出した騒音と悪臭を放つ危ない物だ。
乗っている人間は案外快適らしい。しかしわたしたちが乗ることがあるとすれば、それは二度と帰ることの出来ない場所へと連れられる恐怖の象徴となるだろう。
わたしたちの仲間を浚っては、車の中へと運んでいく人間が居るのを見たことがある。浚われた仲間はそれ以降二度と姿を見せることはなかった。
――ともかく、それらが行き交う道の横をわたしは歩いていく。
考えると途端に怖くなった。それはいけない。わたしは今の生活が気に入っているし、ましてや死にたくはない。
どこへいこうか?
1通学路
2カフェ
3コンビニ
4駅
5自由安価
下2レス
散歩の途中でたどり着いた先は、ガラス張りの高い建物の一番下にある広い空洞のスペースだった。
風が吹き抜けていく。ここには車がたくさんあるが動かない。ひとまずそこで寝ることにした。
ここなら誰にも見つからないはずだ。そう思って身体を丸めると、その矢先に人間が近づいてくる。
この車の持ち主らしかった。慌てて違う来る前の下へと抜けていく。
…………ふう、危ない。
今の生活は気に入ってるけど、やっぱりもうちょっと安心できそうな場所がほしいかな。そんなことを考える。
1一眠り
2通学路
3カフェ
4コンビニ
5駅
6自由安価
下2レス
>>766 【訂正】来る前→車
-------------------------------
結局落ち着けなくなって違う場所へと散歩にいく。
お腹もすいたころだった。食べ物のありそうな場所を探って、匂いをかぎつけて歩いていく。
辿りついたのはコンビニの『駐車場』。ここにはたまに食べ物が置いてあるんだけど……
今日置いてあるのは人間の食べかけのようだった。
「あぁ駄目だ。お前、そんなとこに放置されてる物なんか何が入ってるかわかったもんじゃないぞ」
「にゃ」
近づこうとすると、後ろから人間の手で遮られる。
思わず声を上げるけれど、食べ物の入った容器を取り上げられてしまう。
なんてことをするんだろう。しょぼんと心が沈んで、少しの怒りまで沸いてくる。
しかし、その“手”はわたしの前に別のものを差し出した。
……甘酸っぱそうで爽やかな匂いがする。りんごだ。
「こんなんでも食べるか? 猫用の餌とか持ってないからな」
「にゃ」
しゃくしゃくと食べ始める。なんだかわからない人間の食べ物よりはこっちのほうがいいかな。
「……よし」
頭を撫でられた。
手の主の姿を振り返って見た。りんごと同じ赤い髪と目。この人、意外といい人だ。
この人はこれから何をするんだろう?
食べながら様子を窺っていると、コンビニの中へと入っていった。
……ここに用事があってきたのかな?
しばらくしたら出てきたけど、手に袋を持って出てくると、どこかへ歩いていってしまう。
別の場所に移動・その他
1さっきの人についていく
2通学路
3駅
4自由安価
下2レス
-----------ここまで。次回は25日(水)夜からの予定です-------------
>>704 パレオつき白ビキニのキリカ(全身絵)
http://i.imgur.com/4Q4PeaI.png
行き交う人々はみんないそがしそう。この辺は硬いアスファルトと角ばった建物ばかりで息がつまってしまう。
さっきは邪魔されてしまったけど、わたしもそろそろあの道に戻ってみよう。
あの場所には前に頭を撫でてご飯をくれた人がいた。……今日はどうだろう?
――――
――――
あの道に来ると、茂みの中を覗いてみる。
あの人とおなじ制服を着た人たちは今はもう少なくなりはじめていた。
そこには前見た時にはなかったお皿と、美味しそうな匂いのお魚のご飯が盛られていた。どうやら空けたばかりのようだ。
りんごもいいけど、やっぱりちゃんとしたご飯も食べたい。
だって猫は肉食ですもの。
……これもあの人がくれたのかな?
まだ見ぬ人に感謝しながら食べていると、道の隅に朝に見た印象的な姿が目に入って、皿に突っ込んでいた顔を上げる。
わたしを追い払ったいじわるな人。立ち止まってどこかを見ているようだった。
一体どこを?
するとその視線の先、道の奥のほうから『同じ格好』の三人組がこっちに向かってくる。
その中にこのまえの人もいた。
「……このあたりだよ。今日はお留守だったけど、ご飯あげてきたの」
「わあ、ホントだ!」
「可愛いですね」
突然話題の中心に立たされて驚いてしまう。
けどやっぱり、この人がくれたんだ。ほかの二人はお友達かな。
1甘える
2朝の人のほうに行ってみる
3自由安価
下2レス
ご飯を食べ終わると、差し出された手に頭をすりつける。
「へー、人懐っこいなあ」
「そうなの。わたしもすぐ仲良くなれちゃった」
人に懐くのは嫌いじゃない。そうするとその相手も笑顔になってくれるからだ。
でも、懐く相手くらいは選んでいる。
「お二人とも、気持ちはわかりますけどそろそろ行かないと。遅くなってしまいますわ」
「あ……そうだね」
「えー、もうちょっと」
「だめだよ、また来よう」
三人は、来たと思ったら嵐のように去っていった。
それと同時に朝の少女も姿を消す。まるでもうここには興味がなくなったみたいに。
……もしかして、あの三人を追っている?
考えたけどわからなかった。その場で身体を伸ばしてあくびをする。
わたしが考えすぎたって、わからないものはわからないな。
だってわたしは人間とはちがうもの。
ほどよく暖かな茂みで暫く寝ていると、耳がピクンと動いた。
わたしの耳やひげは人が近づく気配には敏感だ。目を開けると、こっちを覗きこんでじっと見つめている目があった。
格好はあの三人と一緒。でもいつからこうしているんだろう?
わたしが目を覚まして足元に寄っていくと、その人もしゃがんで撫でてくれた。
そしておもむろに鞄からなにかを取り出した。いい匂いのするおやつだ。
手に乗せられた煮干しを舐めとって食べる。
少女が微笑んだ。確か前もこうしておやつをくれたっけな。
……しかしあることに気づく。
「にゃ」
ねえ、行かなくていいの?
さっきの同じ格好の三人、遅くなるって言ってたよ。あなたも行かないと“遅くなる”んじゃないの?
わたしがどれだけ喋っても、よしよしと撫でられるだけで聞いてはくれなかった。
……どうしよう。
1さっきの人たちが行った方向に行ってみる
2あきらめてモフられる
3テレパシー
4自由安価
下2レス
-------------次回は28日(土)夕方か夜からの開始予定です
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira154584.png
文字なし
https://i.imgur.com/1mRhnJw.png
時間空きましたが水着イラスト2
遊びに行った雰囲気が伝わればと思います。
元々最初ビキニのリク用に描いてたやつが上手くいかなくて手直しに時間がかかってたんだ
急ごしらえですがワンピ+パレオの差分も描いてみました。好きなほうのキリカとお遊びください。
http://i.imgur.com/A9KzR0u.png
『――ねえ! 遅れちゃうよ』
心の底から精一杯の言葉をぶつけようとする。
すると、それが通じたのか少女は立ち上がって後ろを向いた。
それは偶然だろうか。奇跡だろうか。
そうだ、人に話しかけるならまずは名乗らなければ。
『…………我輩はエイミー、名前はまだない』
でもそう考えてから気付いた。まだ名前はないんだ。
それなのになぜ名乗ろうとしたんだろう? なぜか咄嗟に名乗るための言葉が頭に思い浮かんだ。
少女はきょろきょろとあたりを見回す。
……それからまたこっちを向いてしゃがんでしまった。
もしかして、行きたくないのかな? あの人たちと同じ場所に。
1さっきの人たちが行った方向に行ってみる
2気が済むまでモフられる
3テレパシー
4自由安価
下2レス
再び手がわたしの背中に触れる。
撫でられるのは悪い気分じゃない。
『……聞こえた? 目の前のわたしだよ』
『わたしは名乗った。今度はあなたの名前も――――』
ゆっくりと手のひらが背中のラインをなぞって撫でている。
聞こえているのかいないのか、琥珀色の瞳がまっすぐにこっちに向けられた。
それは以前見た水面に映るわたしの姿と同じ色をしていた。
少女は手を止めると独り言のように喋りだす。
「私は……学校なんて行きたいのかな? あんなとこ、どうでもいい人ばっかなのに」
「私にとっても向こうにとっても……どうせ価値なんてない」
近くにいるわたしにしか聞こえないくらいの声だ。でもわたしに言ってるのかはわからなかった。
ただこっちもその琥珀色に目を向けて聞いていた。
「……また後でね」
少女は今度こそわたしにそう言うと、他の同じ格好の人たちと同じ方向へと歩いて行った。
わたしは離れていく背中を目で追って、身体を伸ばして地面に伏せる。
1昼寝の続き
2自由安価
下2レス
……さっきの人は『学校』は価値がないって言ってた。
それが本当なら、あの格好をしてる他の人もそうだ。人間はなんで行きたくないとこに行くんだろ?
それがわからなくて、わたしもさっきの少女や他の同じ格好の人たちと同じほうに行ってみた。
――――
――――
みんなが歩いていったあの道の先には、ガラスだらけの大きな建物があった。
でも、中がどうなってるのかはわからなかった。
……不思議な場所だ。
その近くを歩いていると、朝のいじわるな人が居るのを見た。
こいつは他の人たちと同じ服は着ていない。なにしに来たんだろう?
「にゃ」
近くまで行って、声とともに見上げてみる。
すると少し鬱陶しそうに、またあの無感情な目が向けられた。
「また朝の……」
「にゃ」
「あっちへ行きなさい」
少女はこっちに気づくと、またわたしを追い払う。
……もしかして嫌われているのかな。たまにわたしを見ただけで鬱陶しそうにする人間はいる。
わたしが猫だから?
1さっきの場所に戻る
2引かない
下2レス
けど、今度は怯まなかった。
少女の顔をしっかりと見上げてもう一度声を上げる。
「なんで行かないのよ……」
すると諦めてくれたのかうんざりとした声。
しばらく同じ状態が続いたが、いじわるな少女はわたしの身体を持ち上げた。
1抜け出す
2そのまま
下2レス
1
安価↓
「にゃっ」
腕を蹴って抜け出す。
着地して距離をとってから、少女のほうを振り返る。相変わらず無表情だったが少し不満そうな顔をしていた。
少女は何も言わずにこっちを見ている。
また捕まったらたまったものじゃない。結局その場から逃げ出すことになってしまった。
……こいつ、やっぱ危険!
1散歩に出る
2自由安価
下2レス
しょうがなくまた散歩に出る。
――街を歩き回り、賑やかな場所に疲れたわたしは心と体を休めに、またあの道の茂みへと戻ってきて昼寝に入る。
そろそろまたおなかもすいてきた。さっきはいろんなところを見てきたがなにももらえなかった。
静かな道で眠っていると、段々と人通りが増えてくる気配で目を覚ます。
例の同じ格好の人たちだ。そのなかにはあの少女もいた。
少女が近づいてくる。『後でね』と言っていたのを思い出したけど、言葉どおり来てくれたみたい。
めいっぱい甘えにいくと、期待したとおり煮干しをもらえた。……煮干しもいいけど、そろそろご飯もほしいな。
それに、それまで沈んだ表情をしていても、この人はこれで笑ってくれるのだ。
そういえば、『学校』に行ってどうなったんだろう? 嫌なことがあったから浮かない顔をしていたのかな。
「待ってたの?」
「にゃ」
私が返事を返すと、少女は静かにわたしを眺めながら背中を撫でる。
別に言葉通りに肯定したわけではない。
「ありがと……くろまる」
「にゃ?」
……思わず聞き返したけど、少女はうんうんと満足そうにしていた。
でも、わたしは違うのに。なぜだかわからないけど、そう思った。――違う名前を『名乗った』のに。
ともかく、この人の中でくろまるにされてしまった。もう名前がないとは言えないかな。
1もっとねだる
2自由安価
下2レス
---------------次回は29日(日)夕方からの予定です
「にゃお」
「ん? もっとほしいの?」
少女の膝に爪を内側に丸めた手をのせて、ちょいちょいとアピールする。
とりあえず、今はおいしいおやつだ。
……でも、ごはんも食べたいな。
「あ……そうだよね。何か買ってこようか」
するとそんな気持ちが通じたように少女は小さくつぶやく。
……しかし、それからしばらくこっちを見つめながら何かを考えこんでいた。
「…………どうせうちの親、飼うの反対するだろうなあ」
そこまで考えを巡らせていたんだ。でも、わたしは『飼われる』というのがどういうことか知らない。
――――そんな道端の様子を、通りがかった同じ格好の人間が少女にも聞こえる声で揶揄していった。
「なにあれ、猫と話してる」
「猫しか友達いないんだよきっと。あの人何考えてるのかわかんなくて怖いよ」
その瞬間に少女の表情が険しくなる。
わたしは少女をなぐさめるように鳴いた。
……悲しい気持ちになっちゃったかな。わたしのせいで変なふうに思われてしまった。
少女が立ち上がる。
「……よし、何か買ってこよう! お店見てくる」
心配していた反面、そんな意外なくらい元気な言葉が聞こえてきた。
別にわたし相手に取り繕ってるわけではない。けど、ああ見えて本当は心の底は明るくて強い人なんだろう。
1その間にお散歩
2まだここにいる
3自由安価
下2レス
少女に付いて行く
あの人が行ったのは賑やかな街のあるほうだった。
わたしも途中まで後ろをついていったが、やがて少女は建物の中に入って行った。
その間に再び街の中をぶらぶらと歩いてみることにした。
このあたりは騒がしい。人の声と人工的な騒音が途切れることなく続いている。
人の通る道の隅を歩いていると、反対側の道に知っている姿を見た。ご飯をくれた人だ。今はなにも持ってないのかな?
目の前は、人が通っている細い道とは違う色をした大きな道に隔てられている。
あっちが気になってそこを渡ろうとする。
――いつもしてるみたいに、きちんとタイミングは見たつもりだった。しかし、大きな人工音が迫ってくるのが聞こえて驚く。
見ていなかった道からすぐそこに『車』が来ていた。
――――――
――――それから、何が起きたのかはわからない。
気づいたらわたしは誰かの腕の中に居た。
「……だから変なところをうろつかないでと言ったのに」
声が聞こえて顔を上げる。
わたしにいじわるをした、あの黒い髪の少女だった。
少女の手のひらがわたしの頭から背を撫でる。
まさかこの人がわたしを助けてくれたのだろうか? でも、あれからどうやって?
やっぱりわからない。……直感的にわかったのは、この人が“少し特別な人間”なのだということだった。
もしわたしが人間だったら、そんなことは素直に考えられないかもしれない。
「私はもう嫌われてしまっているみたいだし……」
「にゃ」
「いいえ、こんな猫なんかに言ったって聞いてはくれないわね」
少女がわたしを道の隅に下ろす。
……もしかしたら、この人はわたしが思ってたような“いじわる”ではないのかもしれない。
聞こえてるよって意思を示すように、もう一度鳴く。
朝は何も喋らなかったけれど、聞いた声は思っていたのと同じ声をしていた。
『ありがとう』
そう心に伝えると、少女は去ろうとした足を一度止めた。
それからわたしはさっきまでいたあの茂みに戻って行った。
――――
翌日になると、わたしのお気に入りの茂みには少しだけ物が増えていた。
最初にご飯をくれた人が持ってきたお皿のほかに、タオルまで敷いてある。
柔らかくて寝やすいのでそれは良いのだが、お皿には今日はまだ何も入ってないのが残念だった。
でも、きっとまた持ってきてくれるかな。
待っていると、今日も同じ格好の人たちが向こう側へと歩いていく。
「くろまる」
……昨日と同じようにやってきた少女は、わたしにつけた名前を呼ぶ。
今日もあまり気分がよさそうではなかった。すると、少女はその原因らしい事のひとつを話し始める。
「やっぱ飼うの駄目って言われた……わからずや。どうして大人ってこう頭堅いんだろうね。よく聞きもしないですぐ否定する」
「にゃ」
「ここが秘密基地だね。でもこんなんでいいのかな。私にはこのくらいしかできないなぁ……」
「……じゃあ、そろそろ行かないと。くろまる、またね」
少女は愚痴をこぼすと、お皿にご飯をあけて立ちあがった。
今日はあっさりと行ってしまうらしい。あの同じ格好の人たちが集まる建物に。……昨日みたいに嫌な人もいるのに。
1なんで行くのか聞いてみる
2自由安価
下2レス
『なんで行くの?』
聞いてみると、少女は立ち止まった。
『嫌な人がいるのに、“価値”がないのに』
「……なんでだろうね」
少女はわたしの言葉に反応するように言う。
この人は本当にわたしのことをわかって話してくれているの?
『わたしと話してたらまた嫌なこと言われちゃうかもよ』
「本当に猫と心が通じ合う特技があったんでも、自問自答でももういいや」
「行かなきゃいけないからじゃないかな。それ以外に理由なんてあるのかな?」
少女の後ろでは今も『学校』に行く人たちが通り抜けている。
こっちを気にして見る人もいれば、気づかない人もいる。その人たちも理由があるから行くのだろうか。
「……嫌なこと言われるのは嫌だ。私にとって価値がない、なんてやっぱ強がりの嘘なんだ」
少女はそう言って歩いていく。
やっぱりわたしにはわからなかった。けど、そこに行かなくちゃいけないらしい。
茂みを出て後姿を追うと、いつもたまにご飯をくれる人もここを通りがかる。
――その人は一目こっちを見てからさっきの少女と同じ方向に歩いて行った。
-----------------次回は30日(月)夜からやる予定です
それからまた少女や同じ制服の人たちについていってみると、
今日もあの不思議な少女はそこにいた。
「……また来たの」
「にゃ」
もう思ったより怖くないってわかったから。近づいて甘えるように足元に寄ってみる。
すると少女はわたしの背中を一撫でする。
「せいぜい気を付なさい。私だってそう何度も助けてあげられないわ。特にこのあたりをうろつくのなら――」
「……さあ、そろそろ行って。この場所は危険じゃないけど、人が増えるわよ」
少女は諦めたように言うと、またしっしと追い払うようにする。
でも、最初に見た時よりは少し優しく見えた。
少女の横で草むらにちょこんと丸まって、あくびをする。
人の気配には慣れたけど、騒がれるのは好きじゃない。こっちに人が増えるまでの少しの間だけ、この少女の行動を見守ることにした。
少女はずっと何かを気にしている。
この場を動かずに、たまに色んな場所へと視線を移しながら。
……そのなかで、わたしが少女のほうを見上げると、一瞬だけこっちに視線を返してくれていた。
――――
――――
『学校』から人間たちが出てくる時間になると、わたしはいつもの茂みのある道のほうに戻っていた。
地面の上に敷かれたタオルの上で寝ている。
すると、たまに遊んでくれたりご飯をくれたりする少女が顔を覗かせた。
「猫ちゃん」
またご飯をくれるのだろうか? 撫でてくれるのだろうか? 昨日は結局この人のもとに辿りつけなかった。
少女はわたしのことをなんとも無難な呼び方をした。わたしはそれを、個人ではなくわたしたち全体を指す言葉だとなんとなくわかっていた。
それはそれでいいようのない違和感があった。
わたしに名前はまだない。……この人の中では。
「タオル、誰かが持ってきてくれたのかな……?」
少女はわたしの頭を撫で、それからひょいと抱き上げた。
思わず驚きの声を上げる。
「ママとパパに話したら、見てみたいって。うちで飼ってもいいって言ってくれたから」
「……エイミー。あなたの名前はエイミーでどうかな?」
もう一度声を出す。
心の奥にひっかかってたものにしっくりきた気分だった。――わたしはエイミー。……名前はエイミー。
…………かくしてわたしは『エイミー』に、さらに飼い猫になったのだった。
「いってきます! じゃ、またね。エイミー」
わたしの飼い主『まどか』は、朝起きてあの格好に着替えると、決まった時間に家の外へと出て行く。
わたしもそろそろ散歩に行こう。まどかのあとをついていく。
「あれ? エイミーもいっしょにくる?」
「ふにゃ」
返事をして、並ぶように歩く。こうしているのが珍しいのか、道行く人の視線が集まる。
わたしが前によく居た道を通っていた。お気に入りの昼寝スポットの茂みが見えてくる。
あの場所にあったタオルは、今では寝床に移されていた。でも、まどかの家に寝床が出来ても“お気に入り”はやっぱり今も変わらない。
――まどかと一緒に歩いていると、見覚えのある同じ格好の少女が横を通って行った。
少女は一度通り過ぎようとしてから、こっちを振り返る。
『にゃ』と鳴くと少女がこっちに小さく手を振った。
「あ……もしかして、エイミーとお友達なんですか?」
「くろまる……いや、なんでもない」
まどかが聞くと、少女はもごもごと喋る。
けど耳の良いわたしにはちゃんと聞こえていた。
わたしはエイミー。……名前はエイミー。
「あの場所、ご飯あげてる人いるのはわかったし、タオルも置いてあったから」
「また今度話しましょう。時間が空いてたら部活のときにでも」
少女はしばらく虚を突かれたような顔をしていたが、慌てて返事を返した。
「あ……うん!」
――その時同時に、いつも外から『学校』を見ていた不思議な人間が通っていくのにも気づいていた。
今日はまどかたちと同じ格好をしている。
まどかは気づいていなかったけれど、彼女はじっとこっちを見つめていた。
小川の前まで道を進んでいくと、まどかと待ち合わせをしている二人が待っている。
「まどか、おはよう。あ、猫! エイミーだっけ」
「うん。朝出る時についてきちゃった」
「そこまで懐かれているなんて、羨ましいですわね」
三人で会話をしながら歩いていく。
わたしはその後ろをついていって、学校の前で別れた。
「じゃあ今度こそまたね、エイミー」
「にゃ」
猫はまた散歩に歩き出す。
――――これから起こる『何か』の予感を感じながら。
―END―
---------------------------------------------------------------------
なんともいえない終わり方ですが、息抜きならこんな感じかなということで
こういうのが見たいというのがあれば続きはやるかもしれないです。
次回は1日(水)夜からの予定です
ガッツリ続きやってもいいのですが、エイミー自身が関与できる部分は少ない気がする
とりあえず次なにやるかきめましょう
【未完結】
・かずみ編 【6日(水)朝 ヒュアデスの学校襲撃を翌日に予知】
・Homulilly編【二周目の世界】
【続編開始/指定場所からロード】
・ほむら編 【続編:After1後から再開。新展開】 [獲得補正:(料理)Lv2中級者 アルティメット炒め物]
・キリカ編1【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】
・QB編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 ※暫定END
・中沢編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 [獲得補正:成績関係の結果+18]
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・あすみ編【続編:新編成後(おまけ)】
・桐野編【裏ルート/新しい主人公】
・エイミー本編版
○新しい物語
・まどか☆マギカ登場キャラ
・おりこ☆マギカ登場キャラ
・かずみ☆マギカ登場キャラ
・上記作品中のモブ
・オリキャラ
・百江なぎさ
・神名あすみ
↑のキャラから一人選択。
同キャラ2回以上選択も可能。
下4レス中までで多数決
エイミー取り消して安価↑
トランク開けたら美少女(全裸)が入ってた
あすみに喰われるんじゃね、これ
-------------------------------------
あすみ編の世界観を継いだ派生みたいな感じかな?
それじゃはじめていきますー
-------------------------------------
――――私の願いは復讐だった。
幸せすら奪われた私を更に不幸にした人への、『当然の報い』であった。
母が死に、父の知り合いという男の家に行ったことが私の不幸の始まりだった。
居場所も心も全てを暴かれ、虐げられ、誰かと接する気力もなくなった私を周囲は更に追い詰めた。
もう誰も信じられない。友達<お飾り>としての役割をやめた途端に手の平を返した周りの人も、みんなあの男と同じように見えたから。
このままじゃ死んでしまう。そんな時。
キュゥべえに持ち掛けられた契約、そこで願った『呪い』を、“自分”が生きるための希望とした。
最初はちょっと、小気味よかったんだけど……なぁ。
人を呪っても幸せにはなれないらしいことに気づいたのは契約してからすぐだった。
何も知らない振りをして潜み、ただただ静観する振りをしていた。
ついにあの家は荒れ果てた。
あの男はそのうち死ぬかもしれないし、生きている限り不幸に付き纏われ続けるのも復讐としては悪くない。
見切りをつけてその場所を後にした。……大切な人などいなくなったあの街に、もう未練はない。
QB「……次の街はここにするのかい? 見滝原に移るなら、一応ここの縄張りについて忠告をしておくよ」
QB「この街は、巴マミというベテランがずっとこの街を守っている」
――――幼き訪問者は不敵に笑う。
あすみ「…………」
――――――――
―――――
……何かの物音が聞こえる。
真っ暗闇。狭いスペースに無理矢理折りたたまれた身体が軋む。
閉じ込められてる?
なに? なんなの!? ここから出して。ここから――
かずみ「―……出せーっ!」
「……は?」
かずみ「わたしを閉じ込めていた誘拐犯はお前かーっ!」
わたしを閉じ込めていた箱から抜け出すと、目の前には小さい女の子がいた。
といっても、わたしも背丈は高くないことに気づく。
……こうしてみると目線は同じくらい。わたしと同じくらいか、もう少し小さいかな?
でもなんでそんなこと忘れてるの? 自分のことなのに、自分のことが何もわからない?
妙にひややかな反応にも構うことなく詰め寄ると、女の子はけらけらと笑いだした。
「いや、なんで裸の美少女が入ってんの? ……そういうシュミ? アンタこそなにさ、誘拐でもされたの?」
かずみ「だ、だから誘拐犯はお前かって……あなたじゃないんだね? うーん、ていうか……わたしって誰!?」
「へえ、記憶まで誘拐されちゃったの?」
かずみ「うう……どうしよう、なにも覚えてないよ。わたしは『かずみ』……でもそれ以外思い出せない!」
「それはお気の毒に。大変だね。まあ私はさすがに人間は頼んでないから、お帰りはあちらで」
何も着てないってことすら言われてから気が付いた。
女の子は一目見てわかるほど適当に相槌を打った後、部屋の扉を指す。
……そういえばここはどこなんだろう? やけに綺麗だ。住み処にしては物がなさすぎる。
かずみ「えっ……こんな格好で出られないよ」
「裸の美少女をなんの生活の役に立てろって。いや……飯代を稼ぐことくらいならできるな。ちょっとついてきてみ?」
かずみ「めし……おなかへったよ」
大きなおなかの音が鳴る。女の子はそんなわたしの手を引こうとする。
「だから私が稼ぎ方教えてやるって、働かざるもの食うべからずだよ。ここを出た通りの裏のほうにそっと佇むんだ、それから……」
かずみ「待って! わたし、お金は稼げないけど料理ならできるよ!」
「どこにそんな食材があるんだよ。今出来るのなんて女体盛りくらいだろ」
かずみ「ていうかここどこ?」
「ホテル」
かずみ(なんかこの女の子怖いよう……)
……とりあえずこのままだと裸でほっぽり出されてしまいそうです。
どうしよう?
1美少女のかずみは役立つ魔法をひらめいた
2こんな時は他の人が助けてくれる
3そんな奇跡はない。現実は非常である。女体盛りしましょう。
4自由安価
下2レス
「しょーっがないなぁ、今から料理取ってきてやるから」
かずみ「ホント!? って一人で行っちゃうの? ここで頼めないの?」
「あー、無理。ここにあるもの勝手に使うなよ。それじゃ、静かに待ってなさい」
そう言うと女の子は部屋を出て行った。……パタンと扉の閉まる音がする。
部屋に備え付けの電話を見てみる。
ルームサービスのメニューを見ているとよだれが出てくる。
それなのに、頼むのは無理、ここにあるものを勝手に使うなってどういうことだろう?
なんか嫌な予感がしたけど……わたしにはここで待ってるしかなかった。
それからはずっと時計とにらめっこ。かなり時間が経ってから女の子が部屋に戻ってきた。
かずみ「もう待ちくたびれたよ! 先に食べてきてたの? 持ってきてくれたのは嬉しいけど……」
「そりゃ私は普通に食べるほうがいいからね。身体に盛りつけるなんてばっちいし温くなるし、でもそれがいいって人はいるからね」
かずみ「……うん?」
「ちゃんと人集めといたよ!これで飯代稼げるね!まあちょっとはつまみ食いしたって許してくれるって(笑)」
……奇跡などなかった。現実は非情である。
もうお嫁にいけないので、心機一転路地裏でお金を稼ぐ人生がスタートしました。
―BAD END?―
いきなりBADENDか
最速じゃないか、これ?
その夜、空のトランクを覗きこみ怒りを露わにする者がいた。
???「――――……あいつだ! あの時のガキ!」
―――――
―――――
後日 あすなろ某所
「かずみをどこへやった!?」
???「ああ、お前らの大切なかずみならな……ここから離れた風見野の街でフーゾク堕ちしたぞ! これがアタシの復讐だ!」
「そんな!」
「あのかずみちゃんが……」
「そんなの認めるない!認めるもんか!かずみをかえせええーーっ!」
そして、あすなろでは大変な悲鳴が響き渡ったという……
---------------------------------------------------------
これはひどい
現実は非情なことに、様々な事情が絡んでその通りにはならない場合があるので基本的に主人公から起こす内容のみとしてるのです…
ちなみにルームサービスを頼むのが「無理」な理由は忍び込んだ部屋だから。
あとかずみのトランクについては、ここでは生活に必要そうなものを盗むためにあすみがわざと空のトランクとすり替わるように仕組みました。
次回は4日夕方からの予定です
---------------------------------------------------------
「そんなの認めない!認めるもんか!」(選択肢からやりなおし)
【未完結】
・かずみ編 【6日(水)朝 ヒュアデスの学校襲撃を翌日に予知】
・Homulilly編【二周目の世界】
【続編開始/指定場所からロード】
・ほむら編 【続編:After1後から再開。新展開】 [獲得補正:(料理)Lv2中級者 アルティメット炒め物]
・キリカ編1【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】
・QB編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 ※暫定END
・中沢編【続編:ワルプル後から再開。翌日へ】 [獲得補正:成績関係の結果+18]
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・あすみ編【続編:新編成後(おまけ)】
・桐野編【裏ルート/新しい主人公】
・エイミー本編版
○新しい物語
・まどか☆マギカ登場キャラ
・おりこ☆マギカ登場キャラ
・かずみ☆マギカ登場キャラ
・上記作品中のモブ
・オリキャラ
・百江なぎさ
・神名あすみ
↑のキャラから一人選択。
同キャラ2回以上選択も可能。
下4レス中までで多数決
----------------------------------------------------------
採用するかどうかもなにも下4レス中多数決なので採用は860,861,683,864、選択肢からの再スタートとなります。
>>856 おふざけ選択肢だったんですが、多分あれが一番早いと思います。
あと採用枠外ですが、おそらくsage sagaの人は同一人物だと思うけど
ID変わってからの追加変更は受け付けられませんのでご了承を
…まあ生えてたら、本人は記憶喪失だし自他ともに男だと思われるんじゃないかね
プレイアデスとしてはほかの奇形化した失敗作同様に廃棄対象だろうから、もし拉致されて失敗したとわかったら野放しにされるかも
あすみはトランク開けた途端に忌み嫌いそうだなぁ
----------------------------------------------------------
かずみ(なんかこの女の子怖いよう……)
……とりあえずこのままだと裸でほっぽり出されてしまいそうです。
どうしよう?
1美少女のかずみは役立つ魔法をひらめいた
2こんな時は他の人が助けてくれる
3自由安価
下2レス
「ねえ、どうするの?」
女の子は、人を食ったような、不気味ににやけた表情で小首をかしげる。
わたしはその横を抜け、片っ端から引き出しや押し入れを開け、バスルームの扉まで見ていった。
「なにやってんの? ……ちょっと!」
かずみ「食材なら――――」
ここで生活しているとは思えないほど物はない。かろうじてあったものをかき集めていく。
そして、そこにあった浴衣を取って羽織った。
かずみ「ここにある!」
――――鈴の音が鳴る。
わたしの目の前にあるのはたしかに緑や赤の色をした『野菜』だった。
女の子はわずかだけど顔色を変える。驚いたよう、というよりはまるで警戒するよう。
「……そんなの、さっきはなかった」
かずみ「さっきも言ったけど、わたし料理結構作れることは覚えてるんだ!」
かずみ「わたしはかずみ――記憶喪失のかずみ! あなたの名前も教えてよ!」
――それから、『あすみ』と名乗った女の子とわたしはテーブルの前で二人で座っていた。
わたしが即席で作ったサラダを食べている。
あすみ「もう着られるものが見つかったなら、わざわざ私に料理作らなくてもいいのに」
かずみ「折角だから食べてもらいたくて。これくらいしか作れなかったけど……」
あすみ「……これ、どこから出した? 本当に食べても大丈夫なんでしょうね」
最初は軽い調子だった様子だった女の子は、今は鋭い表情をしている。
……味は素材そのまま、ちょっとパサパサする気がする。
かずみ「わかんない、でも思ったらできたんだ。わたし、魔法が使えるみたい」
あすみ「ていうか薄味。これで料理って言われてもねー」
かずみ「ほ、ほかにも食材があれば……――ねえ、ところであれって何?」
わたしは開いたままの引き出しを指す。段の一つに黒い宝石みたいのがいっぱいに入っていた。
それらは今も変わらずそこに入っている。
なんだかわからなかったけど、なんとなくそれには触れちゃダメな気がした。
あすみ「……わかんないならいいんじゃない?」
指摘すると、あすみは意味深な言葉を残す。
1わたし、今日はここにいてもいいんだよね?
2自由安価
下2レス
かずみ「今回のサラダはダメダメだなぁ……でも、次こそは! 次こそはあすみちゃんに美味しいって言われる料理作るよ」
あすみ「次ィ?」
かずみ「あ……ていうか、わたし、今日はここにいてもいいんだよね?」
かずみ「じゃないと困る! だって、帰るとこも寝るとこもないよ! 着るものはあったけど靴もないしお金もないし~……」
あすみ「……魔法使えるんでしょ。何でもやりたい放題なのに、なにが困るっての?」
一人慌ててるわたしをよそにあすみは冷静だ。
この部屋を物色して思った。ここがホテルにしても、私物すらまるでなにもなかったのが不自然だった。
……この子はどうしてここに泊りに来たんだろう? 他の家族は?
残りのサラダを口に詰めてあすみが立ち上がる。
かずみ「どこ行くの?」
あすみ「外のバイキング行ってくる。アンタも来たいなら好きにすれば? ……私は朝ここを出る」
それって、今日はここに居てもいいという許しがでたのかな?
かずみ「あっ、いくよ!」
あすみ「あと、アンタもこの部屋の備品勝手に使ったんだから今日は共犯者ね」
かずみ「それは…………い、いつか弁償するよ」
―――――
―――――
その夜、空のトランクを覗きこみ怒りを露わにする者がいた。
???「――――……あいつだ! あの時のガキ!」
―――――
――――
――――
――
……翌日目を覚ますと、部屋の中はわたし一人になっていた。
この扉の外に出たらたくさんの部屋の並ぶ廊下がある。途中から感づいていたとおり、ここはホテルの一室だった。
朝出るとは言ってたけど、いきなりいなくなるとは思ってなかった。棚に入っていた宝石もなくなっている。
かずみ(あれ……? でも、まだチェックアウトはしてないんだよね?)
部屋の中に鍵は見当たらない。チェックアウトするなら、さすがに起こしてくれるだろうし。
しばらくぽつんと待っていると扉が開いた。
*「なっ、なんだね君は?」
でも、知らない人だった。
かずみ「あ、あすみちゃんのお父さんですか? わたしはその、ちょっと昨日からあすみちゃんにお世話になっていて……」
*「あすみ? 部屋を間違えてるんじゃないか? 私は今この部屋に来たんだ」
かずみ「え……」
そう言うと、男の人は鍵を見せた。ここの部屋番号のついた鍵だ。
かずみ「しっ、失礼しました!」
部屋出て廊下を歩く。
とりあえず階段を下ってロビーのほうを目指す。
かずみ(どういうことだろう? 部屋は間違ってない。ホテルの人も来なかった……)
途中でホテルの制服を着た人とすれ違いそうになって身構える。
またしても鈴の音が鳴り、身にまとっていた服は一瞬で変わる。
従業員は気にしない様子で素通りしていく……
『……魔法使えるんでしょ。何でもやりたい放題なのに、なにが困るっての?』
わたしは昨日あすみが言ってた言葉を思い出した。
かずみ(わたしは魔法を使える。悪いことだってなんでもできてしまう……)
でも、そんなふうにはやっぱりなりたくなかった。
……ロビーのある一階に着くと、一抹の罪悪感を覚えつつもなにもせず建物の外に出て行った。
目の前には、わたしの知らない、見たことのない街並みが広がっていた。
まるで異世界にでも置いてけぼりにされてしまったかのような心細さを感じる。
人々の進行方向に流されながら歩いていくと、どこかの駅に着いた。
かずみ「かざみの……」
そこに書いてあった駅名を読み上げる。
近くの商店街は賑わっている。大きな駅とはいえないけど、人は多い。
これからどうしよう? ここを通る人はみんな目的をもって歩いている。でもわたしには行くあてもない。
……おなかの音が鳴る。またおなかもすいてきた。近くには美味しそうな店もたくさんあるのに。
近くの植え込みに座り込む。裸足のままの足が痛む。
すると、どこかに意識が“引っ張られる”ような感覚がした。
かずみ(なに、今の……?)
ハッとして立ち上がる。その感覚の引っ張られるほうへ足を進めていく。
――すると、駅前に人が集まっていた。
*「……なんでうちの健康弁当よりコンビニやファストフードにばかり人が集まるのよ!あんな不健康な店があるからいけないんだわ!」
さっきから駅前で弁当を売っていたお姉さんだ。まだその“面影”は残っていた。
お姉さんが叫び、うずくまる。すると、みるみるうちにその姿が変わっていった。
*「なんだなんだ? 大道芸か?」
*「なかなかリアルだな」
道行く人は興味につられ、危機感もなく立ち止まる。
そこにお姉さんだった怪物の手刀が向けられる。
かずみ「ダメッ!」
わたしは咄嗟に割って入って、怪物を突き飛ばした。
しかしすぐに起き上がってこっちにかかってくる。
*「邪魔スルナァッ!」
かずみ「きゃ、きゃああっ!?」
―――その時、目の前を何かが横切り、何かが怪物に突き刺さる。
「どいてな」
誰かの声がして、突き刺さったものを勢いよく引き抜く。
すると怪物の姿は消える。“誰か”は何かを屈んで拾い上げた。――それは、昨日見た黒い宝石によく似ていた。
「結界を持たない魔女……? いや、違うな」
少女は独り言のようにつぶやき、宝石を眺める。少女の手元で赤色の光が煌めいた気がした。
駅前にいた人たちはすでに逃げたか、離れたところから眺めているかがほとんどだ。
いつのまにか、怪物はお姉さんに戻っていた。お姉さんが目を覚ます。
かずみ「だ、大丈夫ですか?」
*「あなたは……さっきはごめんなさい。最近うまくいかなくて少しイライラしていたの」
*「……これ、もしよかったら。おなかすいてるんでしょう?」
かずみ「くれるの? わーっ、ありがとう!」
……またおなかの音が鳴ったのが聞こえちゃった。
いただきますをしてから弁当をいただく。
かずみ「お姉さんはみんなのことを考えてこの弁当を作ったんだよね」
かずみ「いいと思うよ、健康弁当! わたしの昨日作ったサラダよりおいしい!」
*「そう言ってくれると頑張ろうって気になるわ」
かずみ「あ……ずうずうしいかもしれないけど、もうひとつもらってもいい? もう一人、渡したい人がいるんだ」
――――
――わたしはあの姿を追って駆けていった。
さっきの少女は人ごみに紛れて立っていた。
かずみ「いたいた、そこのおねえさん! さっきは助けてくれてありがとう」
「……何しに来た?」
かずみ「これ、さっきのお姉さんから」
もらった弁当を渡すと受け取ってくれた。ひとまずそれに安堵する。
お礼を言いたかった。……それだけじゃなくて、やっと仲間を見つけたような気分になれたから。
かずみ「実はわたしも魔法つかえるんだ」
しかし、そう言った途端に少女の表情はまるで疑うように険しくなる。
かずみ「ほ、ほんとだよっ! お姉さんも……さっきのは魔法だよね? 槍みたいなのを出して戦って、最後には消してた」
「あんなのにも負けそうになるよわっちい魔法少女が何か用か? あたしはアンタのこと知らないんだけど?」
かずみ「えーと、わたしはお礼と挨拶がしたくて……」
「新人なんて邪魔なだけなんだよね。それとも、縄張りの外から来たなら帰れ」
少女の言葉は突き放すようだ。
しかし、最後に『だが』と付け足すと、少女はさっきの黒い宝石をわたしの目の前に差し出した。
「……だが、その前にひとつ聞いておく。コレとさっきの奴のことで知ってることはないか?」
かずみ「……多分、見たことはあるよ。さっきのはわかんない。いきなりお姉さんが怪物になっちゃったの」
「本当か? これはなんだ? グリーフシードかと思ったが、浄化もできなかった」
かずみ「そ、それはわかんないけど……」
「後でキュゥべえにも聞いてみるか。――もしかしたら、またどっかから魔法少女が来てるのかもしれないな」
1グリーフシードってなに?
2わたしはどこへ行けばいいの?
3自由安価
下2レス
かずみ「え、えーっと……グリーフシードってなに!? さっきから初めて聞く言葉が多くてよくわかんないよ!」
かずみ「誰かわかんないけど、“きゅうべえ”っていうのは物知りなの?」
話についていけず混乱する頭を抱える。
すると、少女はわずかに目を見開いた。……わたしからしたら、この人だって物知りだ。
「……へぇー、驚いた。どうやって契約したらこんな何も知らない魔法少女が出来上がんの?」
「それもキュゥべえに教えてもらいな。あたしはお世話係なんてまっぴらだ。あいつが一番よく知ってる。なんたって妖精サンだからな」
「アンタがその力を手に入れるために契約した、“白いぬいぐるみ”野郎だよ」
かずみ「わたしが、この力を手に入れるために“契約した”……」
少女の言葉を、つぶやきながら反芻する。
今のわたしは覚えてないけど、わたしもキュゥべえと契約して魔法が使えるようになったのかな?
かずみ「教えてくれてありがとう! わたしはかずみ。あなたは?」
「佐倉杏子だ。覚えておきな、ここの縄張りはあたしのもんだ」
キュゥべえやこの力のことを追っていけば、失われた過去が少しだけわかるんじゃないかって気がした。
そう思うと少しだけ希望が見えた。
「……ところでアンタ、なんで裸足?」
かずみ「えっ! これは……」
あの時は慌てて出てきてしまった。
事情も話すに話せずにいると、杏子はあまり気にしない様子で話した。
「新人なら隣の見滝原でも行っとけ。“アイツ”なら面倒くさい新人だろうと受け入れてくれるかもしんないぞ」
かずみ「ど、どっち?」
「あっちに向かって歩いてればじきに着くよ。その足でそこまで歩ければだけど……靴買う金もないのかアンタ?」
指された方向を見る。
どのくらい歩けば着くんだろう。魔法少女にとっては、縄張りっていうのが大切なものなのかな……?
かずみ「ありがとう! ……あっ、キュゥべえってどこにいるの?」
「そんなのあたしがしるか。あいつはいてほしくない時にはいて、いてほしい時にはすぐいなくなる」
お礼を言って歩き出そうとした矢先、杏子はポケットに手を突っ込むとこっちに何かをバラまいた。
――それは何枚ものお札、お金だ。
「金ないならやるよ、ほら」
かずみ「ええ!? さすがにこんなにもらえないよ」
「いいからもらっとけ」
親切すぎ、もしくは相当な金持ち?
……しかし、その意図はそんなものじゃない。そんな印象はすぐに打ち砕かれる。
杏子は嘲るように言った。わたしはそれが“綺麗”なお金じゃないことを悟った。
「…………馬鹿だよねぇ。これからこんなのいくらでも手に入れられるってのに」
---------次回は5日(日)午前からの予定です
――言われたとおりに歩き続ける。
わたしの足には新品の靴があり、浴衣だった一枚布のワンピースの中に身に付けているものも増えていた。
これを機に最低限必要な衣類は買いそろえた。
杏子からもらったのは、魔法を使ってズルをして稼いだお金だ。でも何も持っていないわたしはそれにも縋るしかなかった。
かずみ(いつまでもこんなんじゃいけない……けど、わたしの“帰る場所”がわかるまではしょうがない)
かずみ(……見滝原に行けばいいって言ってくれたけど、どこに行けばいいんだろ?)
駅から離れると次第に建物が減り、だだっ広い土地が増えてくる。
ほとんど道路だけが通る道を進んでいくと再び街が見えてきた。
丘のような自然むき出しの地面を越えるには、裸足じゃ厳しかっただろう。
街の中を歩くと、その中に文字を発見する。ここが見滝原。
街を越えたことを実感してしみじみとしていると、誰かがわたしの“足元から”声をかけてきた。
「やあ、今日は随分と“珍しいところ”に居るんだね。……『かずみ』」
それは、ずいぶんと背の低い……白色をしたイタチのようなうさぎのような、変わった生き物だった。
かずみ(『妖精さん』、『白い』、『ぬいぐるみ』……)
かずみ「キュゥべえだ!」
QB「そうだよ。僕もやっと君と話せてうれしいよ」
ってことは、キュゥべえもわたしを探してくれていた……のかな?
でもキュゥべえの声のトーンは一定で、喜んでるのかわからない。
かずみ「じゃあキュゥべえはわたしのこと知ってるんだね!」
かずみ「あのね、キュゥべえ。色々教えてほしいの。この力のことと……それと、わたしはどこから来たの?」
QB「ここから少し離れてるけど、あすなろという街でよく見たよ」
かずみ「あすなろ……」
今まで私は見滝原を目指して歩いていた。
でも、本当の帰る場所があるならそっちに行ったほうがいいってことになる。
QB「今からそこに戻る気かい? おすすめはしないけどね」
かずみ「どうして?」
QB「君を狙っている人がいるからだ」
かずみ「あっ、そうだ……わたしを誘拐して記憶を奪った真犯人!」
QB「魔法のことすら記憶にない君が一人で乗り込んで行って、勝てる見込みがあるとは思えない。少し落ち着くまで待ったほうがいい」
かずみ「そっか……」
相手も魔法少女だったら、帰るにも準備をしないと今の私じゃ勝てない。
勝てなかったら今度は記憶だけじゃすまないかもしれない。
かずみ「じゃあまずは私の力のことを知らないとね! さっき杏子って人から聞いたんだけど、グリーフシードってなんなの?」
QB「『魔女』を倒した時に手に入るものだよ。魔法少女は魔女を倒すんだ」
QB「魔女の卵みたいなものだけど、その状態なら魔力を回復するのに役に立つ。その代わり、魔法少女のうちでの競争も激しいから注意してくれ」
あすみが持っていたものを思い出す。
わたしがホテルで見たのは多分それ。じゃあさっきのは?
かずみ「ふーん……じゃあ、グリーフシードに似たようなものってある? さっき、『魔女』になったお姉さんを倒したら落としていったの」
QB「グリーフシードと似たようなもの、か」
キュゥべえはわずかに間を空けて考え込む。
QB「聞いたことがないね。きっとそれは魔女じゃない。とりあえず、見せてくれないかい?」
かずみ「杏子が持ってる。杏子も後でキュゥべえと話したいって言ってた」
QB「わかった。じゃあそっちにも行ってみるよ」
かずみ「その前に待って、もう少しわたしのことを教えてよ。どうしてわたしは魔法少女になったの?」
QB「悪いけど、僕も君のことは見ていただけで、話したのははじめてだよ」
かずみ「わたしはあなたと契約してないの?」
QB「うん。僕は君と契約してはいない」
1わたしが契約した相手を教えて
2杏子が言ってたアイツって誰かな?
3自由安価
下2レス
かずみ「じゃあわたしが契約した相手を教えて」
QB「それは多分、後であすなろに行ったらわかるんじゃないかな」
かずみ「そっか……わかった! まずは見滝原に行ったほうがよさそうだね」
かずみ「ところで、杏子が言ってた“アイツ”って誰かな?その人なら私のことを受け入れてくれるかもしれないって」
QB「【巴マミ】のことだろう。この街は長らくマミが一人で管理してきた。今は少々、他の問題も起きているんだけどね」
かずみ「問題……? 他の魔法少女も来ているかもしれないってこと?」
QB「そうだね。さっき話した通り、グリーフシードの競争で魔法少女を襲うような人もいるんだ」
QB「それに、この街にも新人や他から移ってきた人が増えた。彼女らをマミがどう扱うかはわからないけど、もうマミ一人の街ではないよ」
やっぱり、魔法少女同士の縄張りは厳しいんだ。
……それでもわたしを受け入れてくれるかもしれないって言ってた人なら。
かずみ「わたし、マミに会ってみたい」
QB「そろそろ家にいる頃かな。途中まで案内しよう」
かずみ「ところで、あすみって子は? あの子とも約束したんだった」
QB「よそからここに移ってきた魔法少女の一人だ。どこにいるかはわからないよ。まだ生活の拠点も決まってないみたいだからね」
かずみ「そっか。いろいろありがとう」
キュゥべえにお礼を言って一緒に歩き出す。
わたしは風見野よりも数段都会じみた街並みを感じてきょろきょろと見ていた。すると、その途中でキュゥべえは忠告してくれた。
QB「……あと、これも言っておかなければいけないね」
QB「魔女は結界を持って隠れ潜む。近づいた時にはソウルジェム――君の“魔力の源となる宝石”が光るはずだ。もし見かけたら気を付けてくれ」
かずみ「魔力の源となる宝石?」
それがなにを指しているのかは直感で分かった。耳に手をやる。
服もなにも身に着けてなかったわたしが唯一身に着けていたもの。
魔法を使うたびに音が鳴る鈴のようなイヤリング。
するとその刹那、また“引っ張られる”感覚がした。
かずみ「これが魔女の反応なの!?」
QB「いや、似ているようで少し違う。魔法少女でも魔女でもない、でもこれは魔力の反応だ!」
―――
―――
――夕暮れの空の下、ある少女はビルの上から街を眺める。
「……さて、あとはどこを探ってみようかな」
「騒ぎを起こして人を集めることは出来る。……もしアイツが魔法少女ならビンゴってとこだ。それにかずみも!」
その手元には黒い宝石がいっぱいにあった。
――――――
――――――
「まったく、よく襲われるわね……! といっても、こんな“民間人<ババア>”にまで襲われるとは思わなかったけど!」
「まーた知らないうちに問題増えてんじゃないの? 一体どうなってんだこの街は」
駆けて行ったさきには、あすみと昼前に見たような怪物が対峙していた。
わたしが入る間もなくあすみは素手で怪物の頭を掴んで地面に勢いよく張り倒すと、手をはたいて体勢を直した。
かずみ「あすみちゃん!」
名前を呼ぶとあすみはこっちを振り向く。
しかしその矢先、その後ろから別の姿が迫っていた。今度は“怪物”なんかじゃない。派手な格好をした少女だ。
「――……見ィつけた。二人もいっぺんに捕まえられるなんて運がいいな、アタシは!」
少女は両手から銃を構える。
――それはあすみを狙ってのものだった。
かずみ「……えいっ!」
『なんとかしないと』と思った。
記憶はないけど、わたしは“戦う方法”を覚えていた。
鈴のイヤリングを指で弾き、手にした杖で銃を薙ぎ払おうとする。
「あはは、弱すぎっ! こんなのでアタシを止められるとでも?」
かずみ「あなたは誰? わたしのこと知ってるんでしょ! あなたは真犯人なの? どうして街の人を魔女にするの!?」
「質問ばっかでうるさいなァ」
かずみ「っ!」
軽い銃声とともにズキンと痛み、血が噴き出した。その隙に逆に払われてしまう。
力じゃ敵わない。撃たれた肩を押さえて一歩下がる。
かずみ 魔力[90/100] 状態:正常
GS:0個
◆ステータス
[格闘Lv1]
敵:謎の少女
1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技
下1レス
あ、スレ主に質問なんですが3再生成で傷を治すこと(肉体再生)は可能なんでしょうか?
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一旦ここまで 夜戻ってくるかも
>>913 可能です。というかかずみは大体目的さえ合えばなんでもアリっちゃアリなんですよねぇ…
いろいろあって時間とれなかった
次回は6日(月)夜からの予定で
かずみ(力で敵わないなら、『技』を――――)
かずみ「お願い、私の“魔法”……力を貸して!」
鈴の音が鳴る。
それとともに、この道端の隅、そこかしこから“私”の姿が敵に襲いにかかる!
「かずみが増えた……!? ――ハッ、なぁんてね」
派手な服を着た少女は、一瞬驚いた表情を浮かべたものの、深くかぶった帽子の下から三日月に釣り上げた口を覗かせる。
そして、周りにいくつもの銃を召喚し、右に持った銃の銃口を一点に向けた。
攻撃が届く前に次々と分身たちが空中に浮いた銃の掃射で撃ち落とされていく。
「全部片づけてしまえば無問題! それに、随分狙ってほしそうなのがいるじゃないか?」
一点に狙われたのは“血を流したままの私”だ。
凄まじい速さで穴が開いていく。そして、その穴を通って雁字搦めに紐ようなものが纏わりついていった。
「――いや、待てよ? なんかおかしいな」
かずみ「分身を作る前に怪我は直した! 一体だけ囮を混ぜたんだ!」
相手は銃使い。力で敵わないなら、狙いを分散させられれば。
――そう思ったけど、銃を空中に増やして広範囲に応戦できるとは予想していなかった。
銃弾をやりすごすだけでも無傷とはいかなかった。
突き出した杖と少女が振り向きざまに構えた銃がぶつかる。最初の時より確かな手ごたえがあった。
拳銃が手から離れ、少女が咄嗟に後退る。
「小賢しい真似をッ! あんな小細工でアタシを倒せるとでも」
また振り出しに戻ってしまう。
しかもこっちは、さっきみたいにすればすぐ治せるとはいえ、怪我もある。
かずみ(それでも諦めて捕まるわけには!)
心の中で意気込むと同時に、“鎖”の音が響いた。
身をかわした少女の大きな帽子が破れて落ち、後ろの壁が砕ける音がする。
あすみ「勝手に話進んでるけど、アンタ、私にも何か用みたいだったね?」
「……そっちのチビは怖気づいたんじゃなかったのか。アタシと戦いたいの?」
あすみ「で、誰?」
「アタシはユウリ。――ユウリ様だ! ていっても、その名前知らないだろうねぇ、アンタたちじゃ」
「……でも、この顔を見ても欠片も思い出さないわけ?」
あすみ「ごめーん、会ったことあったかな? さほど重要でもない通行人の顔なんて、いちいち覚えてられないよ」
「やる側はいつもそうだ。だから復讐者の存在にも気づかない」
「お前のちっぽけな悪事のせいでアタシは今ここにいる。お前のせいで計画が狂った。お前のせいで……」
少女――ユウリと名乗った彼女は怒りをあらわに声を震わせた。
その様子には、何か凄まじい執念でも感じてしまう。
「だが、今かずみを回収できればまだいい。お前と会ったのは不運だが、アタシはツイてるからな」
あすみ「へえ? 今のアンタがツイてるって?」
あすみ「痴女さん、こっからはもうアイサツじゃないからね。とことん追い詰めさせてもらう」
そう言うとあすみは手に持った武器――鉄球付のフレイルをびゅんびゅんと遊ぶように振る。
その瞬間、この場が凍り付いた気がした。
あすみ「……たとえ気づかなくても排除できる。『ツイてる』のはとっくに終わってるんだよ」
あすみが武器を振るい、それと同時にユウリもいくつもの銃を向ける。
鉄球と銃弾。どちらも攻撃をぶつけあった。どちらが速くに届くかといえば、普通に考えれば決まっている。
「!」
――しかしその時、少女の真後ろから大きな影が伸びていた。
さきほど壁の砕けた建物から、その上に乗っていた資材の山が降り注いだ。
わたしはその光景を唖然と見ていることしかできなかった。
…………今のは偶然? 最初の攻撃で狙ってやったとしても、そんなにうまくいくもの?
かずみ「い、今の死んじゃったのかな……?」
あすみ「さぁ? さっさとズラかるよ」
あすみ「おーい、生きてるー? わざわざトドメは刺さないでおいてあげるよ。これでも一応お詫びの印にね」
あすみ「でもね、私を狙う限りその“呪い”が貴女を蝕むから」
寄り道していった路地を後にする。そういえば、わたしはマミに会いに行くところだったんだ。
少し離れたところで見守っていたキュゥべえもついてきた。
集中が解けると、服が元に戻る。あすみのも最初に見た格好に戻っていた。
QB「どうにか無事にすんだみたいだね」
かずみ「うん、本当にびっくりした。ユウリがわたしを浚って記憶を奪った真犯人なんだね。それと、街の人を魔女にした……」
あすみ「何考えてんのかはさっぱりわかんなかったわね。痴女の上にレズとは救えねぇなあー」
かずみ「え、えーと、助けてくれてありがとう。これでもう襲ってこないのかな……?」
――――
人の去った路地、重なった資材の下が動き出す。
「……コルノ・フォルテ」
『ブモー』と間の抜けた声とともに大きな牛が資材を蹴散らす。
手と派手な色をした袖が外に飛び出し、ユウリは資材の下から這い出て牛の上に跨った。
「“あいつら”に復讐する前に復讐する相手が増えた……かずみの奪還は絶対条件。それを万全に遂げるためにも!」
「あのガキ、絶対に許さない……――――!」
――――
――――
かずみ「……わたし、これからマミに会いに行かなくちゃ」
あすみ「巴マミに?それまたどうして」
かずみ「やっぱりまだ魔法のことわかんないし、さっきみたいなことがあったら一人じゃ戦えないから」
ユウリを倒しても、わたしの記憶はまだ戻らない。
そんな状態でまた一人で過ごすのも不安だった。
かずみ「少しだけ自信がついて、落ち着いたら帰るよ。その前に、戦い方とかもマミに少し教えてもらってからにしたいんだ」
あすみ「……主が巴マミじゃなかったらこの場で武器向けられてるわね」
かずみ「じゃあそれだけマミはいい人ってことだよね?」
あすみ「まあ、そう取れなくもないかもねえ」
1さっきの服かわいかったね!
2短い間だけど、これからよろしくお願いします
3自由安価
下2レス
--------------次回は8日(水)夜からの予定です
かずみ「ていうか、さっきの服かわいかったね!」
あすみ「はあ? いきなり何を言い出すかと思えば」
かずみ「さっきは必死だったから、言う機会なくて」
あの時は気付いたら服が変わってた。あすみはわたしのことを珍しい生き物でも見るような目で見ている。
あすみのことはまだよくわかんない。言うことは下品で、口が汚くて少し怖い。
この子もきっと、杏子みたいな『魔法少女』なんだろう。……でも、同じ見滝原にいるなら、少しでも知ってる人がいるのは心強かった。
それに、さっきは助けてくれたんだから。
……ひと段落ついたら、またおなかから音が鳴った。
かずみ「あ、また燃料が切れそう……」
あたりはそろそろ暗くなる。今日の泊まるところはどうしようか?
昨日のあすみみたいに、私も周りの人を騙して忍び込むしかないの? ――希望は見えたはずなのに、これからのことを考えると暗くなった。
かずみ「とりあえずご飯食べたいな。助けてくれたお礼もあるし、キッチンさえあれば今度こそちゃんとした料理も……」
あすみ「で、どこにキッチンなんてものがあんの」
かずみ「あすみちゃんはまたどこかのホテルに忍び込むの……?」
わたしの言葉に否定的な意味を感じたのか、あすみは少しだけ表情を鋭くした。
あすみ「私はこれから散歩がてら適当な場所探すよ。アンタはどうすんの? 清純ぶっても野宿はつらいねぇ」
あすみ「……なんか勘違いしてるようだけど、私は自分の身にかかる火の粉を振り払っただけ。どうしててもいいけど、私にはついてくるなよ」
そう言うと、あすみは颯爽と去っていく。
あすみだってなにかがあるんだ。そうしなければいけない事情が。じゃなきゃ、わたしよりも小さな子があんなふうな暮らしをするわけない。
出来れば悪い事をしなくて済むようにしてあげたいけど、わたしもそれを他人事と思えるような立場じゃなかった。
……この場に残ったのは二人だけ。キュゥべえが足元から話しかけてくる。
QB「マミを訪ねに行くんじゃなかったのかい?」
かずみ「あ……そうだね」
来た道を少し戻って、再びキュゥべえの案内で歩きはじめる。
そして辿りついた場所に思わず息を飲んだ。マミの家は大きなマンションだった。
マミ「――――……さあ、上がって。といっても、今はお茶くらいしか用意できないけど」
キュゥべえが先にわたしには聞こえない声で話して、それから挨拶をすると、マミはさっそく家に招いてくれた。
建物の外観に似合って上品でお洒落な印象、部屋は綺麗だ。
かずみ「ううん、ありがとう! 紅茶すごくおいしいよ」
マミ「ええ、私のお気に入りの茶葉なのよ」
かずみ「ごめんね、もうちょっと早く寄ろうと思ってたんだけど遅くなっちゃって……」
マミ「いいのよ。実は私もさっき帰ってきたところだったから」
かずみ「えっ、じゃあもっと早くに来てたら会えなかったね」
どちらともなく笑い合う。
今まで会ってきた魔法少女たちと違って、雰囲気はすごく話しやすい。
マミ「ところで、あなたは少し特殊な事件に巻き込まれたと聞いたけど……?」
かずみ「ああ、うん。わたし、ホントはあすなろっていうところに居たらしいんだけど、気付いたら風見野でトランクに詰められて記憶喪失になってて」
マミ「風見野で?」
かずみ「そこで杏子って人に会って、マミなら受け入れてくれるかもって。で、どうかな!? わたし、ここにいてもいい!?」
マミ「そういうことなら拒みはしないわ。色々と大変なんでしょうし」
1ユウリのことを話す
2杏子とのことを聞く
3自由安価
下2レス
-----------次回は10日(金)夜からの予定です
ぱぁっとうれしくなって、マミの手を両手で握る。
マミはどこか照れたようにちょっと身を引いた。
かずみ「ありがとう! やっぱマミって優しいんだね、聞いた通り!」
マミ「て、照れるわよ……」
かずみ「そういえば、杏子とはどういう仲なの? 隣の街の魔法少女同士?」
マミ「そうね。今はそんなところかしら。……でもまあ、あの子もそんなふうに言ってくれるなんてね」
隣の知り合い同士でも、二人は全然違う。そんな二人がうまくやれてるのかが気になった。
今は。――その言い方に濁したような雰囲気を感じた。
なにがあったかは、まだ聞かないほうがいいのかな?
マミ「仲は良くないわよ。お互い、相手のやり方は認められないし」
かずみ「そっか……。あと、わたしを浚った人のことなんだけど、ユウリって人。元はわたしと同じあすなろに居たみたい」
かずみ「その人、目的はわかんないけど、変なもので街の人を魔女にするの」
マミ「街の人を魔女に?」
QB「どうやら、グリーフシードを模した合成物のようだね。さっきあすみが倒した人も落としていったよ」
その続きはキュゥべえが話してくれるらしい。
キュゥべえは長く伸びた耳の上にあの宝石を乗っけて私たちの前に差し出した。いつの間にかキュゥべえが拾っていたみたいだ。
かずみ「あっ、杏子に見せてもらったやつ!」
QB「グリーフシードみたいな使い方は出来ないけど、強い魔力を宿している。人に埋め込めば影響を与えることも可能だろう」
マミ「確かに、よく見ると違うわ。これが本物のグリーフシードよ」
マミがもう一つ黒い宝石を懐から取り出して見せる。
昨日は全く知らなかった時に見たからうろおぼえだったけど、並べて見てみると“偽物”のほうが歪んだ形に見えた。
かずみ「……これは“偽物”、かぁ」
マミ「ええ、あなたが見たっていう魔女もね。同じように呼ぶのも紛らわしいわね」
マミ「無事元に戻ったようでよかったわ。魔女は人の負の感情を好む、でも人は魔女に成らないもの」
かずみ「そうなんだね……じゃあ本当の魔女は、倒したらグリーフシードだけになって消えちゃうの?」
QB「魔女は結界に隠れ潜むって言っただろう? 倒したらその結界ごと消滅するよ」
ふむふむと頷いていると、マミがこっちを眺めていた。
驚いたようというか、そんな表情だった。
マミ「本当に何も覚えてないのね。契約したことも?」
かずみ「うん。わたしはキュゥべえとは違う人と契約したんだって」
マミ「そう、あすなろに居たと言っていたわね……」
かずみ「もしかして、わたしのこと知ってたりする!?」
マミ「いえ、あすなろはあまり行くことはないわ。最近だと学校行事で行ったくらいかしら」
もしかしたら、って期待を込めて聞いてみる。けど期待した答えはもらえなかった。
マミもそれを察したのか少し悪そうにする。
マミ「ごめんなさいね、手がかりになれなくて」
かずみ「ううん、いいの。 でも…………」
――――でも、むしろ聞いたわたしの方が、何故だかなんともいえない心に残るものがあった。
どうなんだろう。わたしは……わたしは本当は何を知っている? マミの事。杏子の事。あすみの事。――ユウリの事。
それ以外の、あすなろに置いてきた友達や家族。仲間。きっといなかったわけじゃないはずなのに。
マミ「それにしてもユウリって子、本当になんの目的でそんな悪趣味なものを……。魔法で作り出したっていうの?」
QB「恐らくそうだろうね。そんなものを作れるとしたら魔法くらいだ」
QB「彼女は攻撃に特化した応用が得意なタイプだよ。手数も多い。考えられないこともないとはいえるかな」
かずみ「ユウリのことはあすみちゃんが倒したんだけど、まだこの街にいるかもしれないから。とにかくマミには話しておこうと思って」
かずみ「今日はありがとうね。紅茶おいしかったよ」
あまり遅くなっても悪いかと、そろそろ立とうとする。
すると、マミに呼び止められた。――――立ち上がろうとした足が止まる。
マミ「今はどこで暮らしているの?」
マミは普通に聞いてきただけ。でもわたしは答えられなかった。
同時に一際大きいお腹の音が鳴って、お腹を押さえた。
強がりすぎたなぁ…………。
紅茶だけじゃ足りないよ……でもさすがにそんな図々しいこと言えない。
マミ「よかったら、今日はうちに泊まっていったら? どうせ私も一人だから」
かずみ「いいの!?」
抑えてた涙がにじんで、マミの胸にすがりつく。そしたら、マミは頭を撫でて慰めてくれた。
……マミってお姉さんって感じがするけど、それにしてもこの状態じゃわたしは子供だ。ホントはどのくらい離れてるんだろう?
マミ「ご飯も何か作るわよ」
かずみ「いいよそんな! 泊めてもらうんだから私が作るよ!」
マミ「それならお言葉に甘えてもいいけど、かずみさん料理できるの?」
かずみ「料理は得意だって、本能がいってるんだから!」
立派なキッチンを貸してもらってそこにあるものを見てみると、思わずにやっとした。
冷蔵庫には豊富な材料がある。調理器具も一通りそろってる。普段料理をする人の家だ。
メニューを決めて料理を作り始める。キッチンに立つと、思った通り、どう動いて何をすればいいかがわかった。
その“知識”と、確かにわたしの中にある“経験”にまかせて料理を作っていく。調理はスムーズにいった。
キュゥべえは途中で杏子のほうに行ってくるって言って出て行っちゃった。
完成したらキュゥべえにも食べてもらおうかと思ったのに。
かずみ「できたよ! さあ食べよう!」
マミ「すごい! 料理上手なのね」
かずみ「ありがとう。マミは?」
マミ「え?」
かずみ「隠してもムダなんだから! それも料理からお菓子作りまで! どう見てもあれは料理人のキッチンだったよ」
マミ「まあ、趣味の一つではあるわね。別に隠してはないけど」
マミと私の共通点を見つけてうれしくなる。
けど、マミと会う前に分かれたあすみのことを考えると、私だけがこんな幸せに過ごしてていいのかとも心配になった。
かずみ「あ……ところで、あすみちゃんってここの縄張りの魔法少女なんだよね?」
かずみ「私が言えることでもないけど、あの子のこともどうにかできないかな……? 住むところがないみたいなの」
マミ「あぁ……昨日私のところに挨拶に来てくれた子ね。今日も放課後話しに来てくれた。でも、ああいう子は施しは望まないと思うわ」
かずみ「『施し』って、そんな」
マミ「残念だけど、魔法少女の中には街の平和より自分の利益を第一に考える人も多いのよ。あの子もそういうタイプ、って印象だった」
マミ「そういう子はプライドが高いわ。生活に問題があって一人で生きているなら特にね」
かずみ「そういう子はしょうがないってこと?」
マミ「こちらが何かしようとしても、向こうに受け入れる気がないのならばどうにもできないものよ」
マミ「……まあでも、神名さんとはこれから付き合い方を探っているところね」
1マミは明日は学校?
2魔法のことを教えてほしい
3自由安価
下2レス
――料理を皿に盛っていってテーブルにつくと、もう待ちきれない。
さっそく挨拶をして食べ始めた。
かずみ「うん!おいしい!」
マミ「本当によくできてるわ。こんなに美味しいビーフストロガノフは初めてよ」
やっぱり美味しいものを食べてる時が一番幸せだ。実はわたしって料理の天才かもしれない。
昨日のサラダはひどかったけど……
かずみ「今度はマミの料理も食べてみたいな」
マミ「明日にでも作りましょうか?」
かずみ「えっ、泊めてくれてるんだから家事はわたしがやるよ!」
マミ「それなら次はティータイムにでもしようかしらね」
マミの作るお菓子かぁ。少し想像してみる。
今日の紅茶もあれだけおいしかったんだから。
かずみ「マミ、明日は学校?」
マミ「ええ。見滝原中学校ってところに通ってるわ」
かずみ「学年は?」
マミ「三年生よ」
かずみ(じゃあ15歳……くらいかな)
マミのことを考えてみる。けど、自分の年齢がわからないからものさしにならない。
……わたしは何年生だろう? ていうか、中学生? こう見えて高校生だったりとかは――
マミ「明日何かある?」
かずみ「じゃあ、放課後になったら魔法のこととか教えてほしいなって!」
かずみ「……前に戦ってた気はするんだ。自分の強さも知りたいし、今のわたしはまだ初心者みたいなものだから」
かずみ「ユウリに襲われた時だってあすみちゃんが居なかったらきっとまた浚われてたよ」
あの時、戦おうって思った時、何かが自分の中で見えた気がした。
それは見知った仲間たちと一緒に居る情景のようにも思えたし、もっと別の何か恐ろしいものにも思えた。
かずみ「キュゥべえが戻ってきてたら、キュゥべえも一緒に! キュゥべえは魔法の事ならなんでも知ってるもんね」
マミ「そうね。これから風見野に行くって言ってたから、明日になるかしら……?」
かずみ「一人で外にいるのも不安だし、話し相手にもなってもらいたいかなぁー……」
マミ「狙われる危険があるなら、ここにいてもいいのよ?」
かずみ「でもそれじゃマミにも迷惑かけちゃうかも」
マミ「今はそんなこと考えなくてもいいわよ。ただでさえ不安な時でしょう」
……マミより一足先にからっぽになった器を見つめながら、改めてその温かさを反芻する。
ベッドの隣に用意してくれた布団に入る。『いてもいい』。そう言ってくれたのがなにより嬉しかった。
かずみ(……でもやっぱ、あすみちゃんのことも心配だな)
魔法があれば何でも出来る。たとえそれが悪い事でも。
悪い事をヘーキでするなんて、悪い人だ。――でも、わたしもそうしなきゃいけない状況は味わったから。
――――
――――
――――――
風見野 夜
杏子「あの“グリーフシードモドキ”、やっぱ変な奴の仕業か。見滝原まで来てたなんてな。一体どれだけの縄張りに喧嘩売るつもりさソイツ?」
QB「確認されているのは今のところ風見野と見滝原の二箇所だね」
QB「けど、狙いはかずみだ。その居場所が分かった今、もう増やす必要もないだろう」
杏子は昼に手に入れたまがい物のグリーフシードを見る。
それを捨てようとしたが、キュゥべえはそれをグリーフシードと同じようには“処理”できないようだった。
杏子はまだ納得のいかない顔をしている。
杏子「あすなろの『かずみ』に『ユウリ』か」
杏子「……なあ、『ミチル』は死んだって聞いたぞ。それが今ここにいる説明は?」
――――
-------------次回は11日(土)夕方からの予定です
――翌朝になると、寝室のほうまでいい匂いがしていてあわてて起きた。
キッチンを見てみると、もう外見をきちんと整えたマミが立っている。
かずみ「マミ、私も手伝うよっ!」
泊めてくれるお礼に、家事はわたしがしたいって言ったから。
今朝の朝食は結局二人での共同作業になった。
テーブルにはサラダと卵、ほかほかと湯気の立つスープが色とりどりの色彩にきらめいている。
マミ「さすがに二人で作ると早いし豪華になるわね。ありがとう」
かずみ「ううん、朝からおいしいものが食べられてわたしも幸せ」
焼き立てのパンをかじりながら朝食を味わう。
かずみ「本当にこの後もここにいていいの?」
マミ「ええ。留守の間、よろしく頼むわね。お昼も適当にキッチン使っていいから」
かずみ「ありがとう。じゃあ、学校頑張ってきてね。あと放課後のこともよろしく!」
――学校に行くマミを見送りに玄関に立つ。
マミは見滝原中学の制服をまとっている。それを眺めていると、マミもわたしのほうを見た。
わたしは昨日から同じ服装だ。
マミ「ところで、かずみさんは服はそれだけ?」
かずみ「んー……今はこれしかないけど……――えいっ」
少しだけ気をこめて、手品のように服を変化させる。元はさっきまで着てたワンピースとも違う服だ。
買うお金もないし、杏子からもらったお金はあまり使いたくないけど、こうして色んな服が着られると思うと少し楽しい。
マミ「魔力の応用……かしら。それとも、かずみさんの魔法?」
かずみ「わかんないけど、最初からつかえたんだ」
わたしの魔法のことは放課後に見てもらおう。
マミを見送って、わたしは一人になって部屋の中に座りこむ。わたしの『魔力の源』に手を触れてみた。
かずみ「…………ひらけっ、ごまあぶらーゆ!」
扉に向かって念じてみるも、部屋の景色は変わらずはシーンと静まっている。
魔法っていっても、なんでもできるってわけじゃないのかなぁ。
キュゥべえはまだここにはこない。一人の時間をどう使おうか迷った。
昨日やっつけられたユウリはもう手を出してこない? 少しだけ考え込んでみる。
……でも、あんまり考え込むのなんて、わたしには合わないみたい。
――――
――――
午前中から、まだ明るい夕暮れの前の午後を待って、家の中で過ごす。
――――放課後の時間、マミが帰ってくるとさっそく『訓練』に行った。
その場所は昨日も見覚えのある道。その途中にある土手の下のほうだった。
かずみ「ここがマミのとっておきの場所?」
マミ「ええ。私が魔法少女になりたての頃、ここで訓練してたの」
たしかに、パッと見には外から見えないし秘密基地みたい。
これからここで訓練するっていうと、なんだか妙なわくわく感があった。
かずみ「マミも一人で訓練とかしてたんだね」
マミ「そうね。私の今している戦い方も、訓練の結果手に入れたものよ」
かずみ「マミは努力家だね。わたしも頑張らなくちゃなあ……」
わたしが意気込んでいると、マミがこっちを見ているのに気付いた。
少しうれしそうな表情だった。
かずみ「どうしたの?」
マミ「こうやって一緒にできるっていいなって。あまり私の考えに賛同してくれる人っていなかったから」
マミ「さあ、張り切って訓練しましょう! まずは変身して!」
かずみ「うん! 変身、あの“可愛い服”だね」
魔力を込めて、わたしの“戦闘モード”へと意識を変える。
昨日は勢いだけでやってたけど、今やってみようとしてもちゃんとできた。
黒色をした杖をしっかりと両手で持って、なんとなくポーズを決めてみる。
かずみ「さっそく、戦う練習をしてみる?」
マミ「それもいいけど……朝の魔法だけど、あれは?」
かずみ「“物”を“違うもの”にできるの。昨日は分身をつくったりもしたっけな」
マミ「なるほど。応用の利きそうな魔法だと思うから、使い方が問題よね」
かずみ「……あの時、急に頭に浮かんだの。わたしの“記憶”みたいなものが」
あれは紛れもない“記憶”。
…………わたしがこの力で戦っていた証拠だった。
マミ「戦いの中にもヒントがあるのかもしれないわ。訓練が終わったら、魔女を狩りに行ってみましょうか」
かずみ「わたしも前は魔女を倒すヒーローだったのかな?」
マミ「きっとそうよ」
『武器』の杖と魔法を使って訓練をする。
――マミは優しくも、訓練となるとすごく真剣な表情を見せていた。
★以下ステータスを獲得しました
[魔力コントロールLv0→1]
[格闘Lv0→1]
かずみ「――――ま、魔法っていっても、結構自分の身体を動かして戦うんだね……」
マミ「そうね。基本は魔法少女として持ってる武器と魔法だから」
……慣れない動きの指導に、終わったころにはへとへとになっていた。
でもまだへばってる場合じゃない。これから魔女狩りもあるんだ。
マミ「じゃあ、そろそろ出発しましょうか。これが終わったら帰ってティータイムよ」
かずみ「やったあ! それ聞いたら疲れも吹き飛んだ!」
マミと一緒にヒミツの土手を後にする。
それからマミがどこへ向かうのかはわからなかった。
かずみ「……それで、魔女ってどこにいるの?」
マミ「結界が近くにあればソウルジェムが反応するわ。慣れてくれば感覚でわかるようにもなる」
かずみ「あ! あれだね、あのどっか引っ張られるような感じ!」
マミ「かずみさんはもうわかるのね。あと、魔女を探すのは足頼みよ。確実に会えるってわけじゃないわ」
かずみ「あ、たしかにキュゥべえそう言ってた」
マミ「そういえば、キュゥべえはこっちには来てない?」
かずみ「うん。私のところには来なかったよ」
1もしかしてわたしって意外と経験があったのかな?
2自由安価
下2レス
1+キュウベェを呼んでみる
昨日風見野の杏子のとこに行くって言ってたから、何か新しい情報とかわかったのかな?
とりあえず呼んでみよう?
魔女と戦いになったらマミには戦いに集中してもらわないと危ないと思うし
キュウベェなら私の戦い方を見てアドバイスしてくれると思う
↑
キュウベエが来なかったらマミに魔女狩りを中断して今から風見野に行こうと提案
何か嫌な予感がするの
まだ風見野にいるのかな?
――でも、慣れた人にしかわからないその感覚がわたしにもわかるってことは!
かずみ「もしかしてわたしって意外と経験があったのかな?」
マミ「そうかもしれないわね。だから戦いの中に思い出すことがあったのかも」
やっぱり『魔法少女』のことが私のことを知る一番の希望なのかもしれない。
そう思うと一層、魔女を探すのにも意欲が沸いた。
そんなとき、マミが何かに反応して表情を変える。
マミ「魔女が近くに居るわね。倒しに行きましょうか」
かずみ「え……?」
マミ「かずみさん?」
マミが心配そうにこっちを覗きこむ。
魔女がいるらしいのに、今は昨日魔女の偽物が現れた時みたいなあの感覚がしなかった。
かずみ「あ……うん、行くよ!」
マミ「これが入口ね。ここに魔力を込めて開くと入れるようになるわ。この奥は魔女と使い魔の闊歩する地。心して進んで!」
かずみ「うん!」
ただの不調……なのかな? わかる魔女とわからない魔女がいる?
なにが理由なのか、わたしにはわからなかった。
かずみのアホ毛って魔女モドキしかわからないだったけ?
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>>956
わからないだった。
ちなみにかずみ編ではうっかりやらかして指摘いただきました。
ネットで調べたら魔女には反応しないとありましたね
意味深な設定だなぁ
―へヴィメタルの魔女結界
かずみ「これが本物の魔女のいるところ……。これはみんな『使い魔』なんだよね?」
マミ「そうよ。魔女は結界の最深部にいるの」
不気味な空間。マミから一通りこの『結界』のことは話してもらった。
もちろん、話している間にもマミは気を抜かない。使い魔が現れるたびに一旦わたしに譲り、それからわたしの間に合わない分だけ自分が倒す。
実戦でもマミはやっぱり“師匠”だった。
マミ「――魔女はこの奥ね。準備はいい?」
結界を進んだところには鉄製の大きな扉があった。
この先に魔女がいるらしい。
かずみ「大丈夫! 戦えるよ!」
マミ「それなら行きましょう。もたもたしていると現世に被害が及びかねないわ」
かずみ「じゃあ、せーので!」
マミ「ええ…………せーのっ!」
二人で扉の取っ手を片方ずつ持って、勢いよく開け放つ。
すると、途端に中から大音量の音楽が響いた。
かずみ「わあ!?」
マミ「耳が痛くなりそうね。まずは手前の使い魔から狙うわよ」
マミがそう言い終わる前にギターを持った使い魔がこっちに飛び込んできた。
マミはそれにも素早く反応し、リボンで弾く。
マミ「相手の動きに翻弄されないように! 可能なら魔法も使って工夫をして戦ってみて!」
かずみ「う、うん!」
使い魔は鋭い音とともに、半透明の衝撃波のようなものを繰り出してくる。
いくつか違う楽器を持ったやつがいるけど、ここにくるまで戦ったやつらだ。
奥には悪魔のような見た目をした、今まで見たことのない怪物がいる。あれが魔女かな。
かずみ 魔力[70/100] 状態:正常
GS:0個
◆ステータス
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]
仲間:
マミ 状態:正常
敵:魔女Danger
使い魔(Distortion,Deep,Beat) <-攻撃対象
1杖:近接武器戦闘(魔力-0)
2リーミティ・エステールニ(魔力-25):杖から魔力を放出してぶつける、かずみの必殺技
3再生成(内容により0~15消費変動):何かを変えることが出来る(安価内容で)
4ロッソ・ファンタズマ(魔力-10):その辺のものから分身を大量に作り出す必殺技
下1レス
0→1と書きましたが実はそれがミスだったのです……(小声)
見返したらLv1だったので2に引き上げで。
かずみ(焦ったってしょうがない!)
さっきの使い魔をマミと協力して倒す。
二人で戦えばすぐだ。確実に一体ずつ狙っていく。
かずみ「近くの使い魔は倒せたよ!」
マミ「ええ、もう少し踏み込みましょうか! ……そろそろこれも使いましょうかね」
マミが懐から銃を取り出す。銃身が長く、綺麗な装飾のついた白銀色の銃だ。
訓練中やさっきまではリボンしか使ってなかった。でも、リボンだけじゃなかったんだ。
銃といえば昨日のユウリのが浮かぶけど、それとも似ているようで少し違った。
マミ「これこそが、私の訓練の成果よ!」
マミは誇らしげに言う。
器用に銃を扱って離れた使い魔も撃ち落としていく。私も並ぶように踏み込んで使い魔を払い、突く。
魔女に近づき、あと一歩のところまで追い詰めた。……わたしはこの景色をなぜか知っている気がした。
かずみ(このあとは――――)
マミ「ティロ・フィナーレ」
必殺技の名前を叫ぶ。身体よりも大きな銃を携え、狙いを定めて巨大なエネルギーを吐き出す。
魔女は消え去り、グリーフシードだけがそこに残る。
かずみ「…………」
わたしはしばらくそれを眺めていた。
マミ「ふう、やったわね。これはあなたが持ってて。……かずみさん?」
かずみ「あっ、うん! かっこよかったね、ティロ・フィナーレ!」
マミ「えっ!? あ、ありがとう」
マミは照れたように笑っていた。
グリーフシードを受け取って、使い方を教えてもらう。
マミ「こうやって、ソウルジェムに当てて魔力を使った分の穢れを浄化するのよ」
かずみ「へえ、そうやって使うんだね」
わずかに差していた黒みが消えていった。マミと一緒にその様子を眺めて、ソウルジェムを元に戻そうとする。
マミはそれまでずっと、私の手元を――そこに乗せたソウルジェムを見ていた。
やがて手の上から消して顔を上げると、マミはどこか一点に視線を移す。
その視線の先には人がいた。
そこにいたのは、マミと同じくらいの少女だった。
かずみ「この人も魔法少女?」
マミ「呉さん、どうしたの?」
「いや…………」
マミ「呉さんも魔女狩りの途中?」
魔法少女だ。マミの言葉でそう確信してわたしも挨拶に出る。
……でも、さっきから返事はそっけない。それにどっか怖い顔をしているように見えた。
かずみ「お姉さん、魔法少女なんだよね? はじめまして。わたしはかずみ。わたしも少しの間この縄張りにいることになったの」
かずみ「マミには色々教えてもらってて……今はわたしたちも魔女狩りなんだけど、もしよかったら」
「グリーフシード、こっちがもらえるんだったらいいよ」
もちろん、その返事でもわたしたちはグリーフシードを目的としてるわけじゃないからいい。
改めてグリーフシードを目当てにする魔法少女が多いんだなぁ、って思うけど、しょうがないのかな。
二人が三人に増えて並んで歩く。
マミ「かずみさん、こちらは呉キリカさん。私が会ったのは昨日ね」
かずみ「よろしくね。ところで、キュゥべえわたしたちのとこには来てなかったけど、そっちには?」
かずみ「杏子のとこにいって、何か新しいことがわかったかも」
そう聞くと、キリカは立ち止った。それに気づいてわたしたちも足を止めて振り返る。
「……私のところにいたよ」
かずみ「そうだったんだ! じゃあそろそろ来てくれるかな? また会ったら言っておいてよ」
いてほしくない時にはいて、いてほしい時にはいない。そんな杏子のぼやきを思い出す。
もしかしたら今日もそれだったのかもしれない。
――そんなふうに考えていたけど、返ってきたのは思いがけない言葉だった。
彼女の口がきっぱりとそれを告げた。
「もういないよ。もうこない」
かずみ「……なんで?」
「殺したから。……あすみが」
マミ「!!」
わたしも驚いたけど、一番衝撃を受けていたのはマミだった。
隣にいてその反応がよくわかる。驚きと、哀しみと……それだけじゃない。強い怒りだった。
かずみ「……そんな、うそだよ」
「嘘じゃないよ」
――それとともに、なぜだろう。嫌な予感がした。
1自由安価
2見たの?
3どうして?
下2レス
かずみ「どうして?」
「話を聞かれたくなかったんだって」
……そんな理由で。隣でさらに怒りの炎が揺らいだ気がした。
それでもわたしはまだあのキュゥべえが死んだなんて事実が受け入れられなかった。
かずみ「だって、そしたらわたしたちはこれからどうやって魔法少女を続ければいいの!?」
かずみ「あすみちゃんだって、口ではキツイ事言ってても、あの子はユウリに襲われた私を助けてくれたんだよ!」
「助けてくれたって、大方襲われたのが君だけじゃなかったとかそんなことでしょ」
それは本当のことだ。そうなった理由はやむにやまれぬ事情があるかもしれないけど、あの子は決して良い人ではない。
じゃあ本当に、キュゥべえはあすみに殺されてしまったのか……
かずみ「――――キュゥべえ! はやくここに出てきてよ、変わらない姿で!」
……声一杯に叫ぶわたしをマミが静かに止める。
マミ「……もう、いいわ。もう…………」
かずみ「マミ……」
マミ「わかった。悪いけど、今日は私はパトロールを続ける気分じゃない」
マミ「……どうせ貴女も、グリーフシードのことしか考えてないんでしょう。私とは違うもの」
かずみ「まって!」
マミはキリカのことを、今まで見たことないようなキッと悔しさをのせたような目で見ていった。
わたしはただならぬ雰囲気をまとったマミの後を、慌てて追いかけていく。
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次回は12日(日)午前から開始の予定です
『オール安価でまどか☆マギカ 25』
オール安価でまどか☆マギカ 25 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1534003266/)
かずみ「これからどうするの?」
マミ「神名さんを探しにいく」
根拠のない『嫌な予感』なんて存在しない。なにかあるとしたら、必ず理由があるものだ。
もしかしたら、それはわたしが覚えてない頃のことで無意識に感じることもあるかもしれないけど――
……この予感は、今のわたしの意識のなかにある気がした。
昨日襲ってきたユウリ――――その不自然な倒され方。
かずみ「あすみちゃんに会ったらどうするの?」
マミ「……自分でも何をしてしまうかはわからないわ。かずみさんは先に帰っていてもいいわよ」
かずみ「帰らないよ! わたしもキュゥべえのことは無関係なんかじゃないから!」
キュゥべえや魔法少女のことはわたしにとっても希望だった。
それに、わたしを受け入れてくれたマミのことだって。
マミはあてもなく歩いていた。あすみに会えれば何かが変わる?
でも、歩いた先に望んだものがあるかどうかなんてわからない。
マミ「やっぱり、考え方の違う子なんて置かない方がよかったんだわ……こんなことがあるなら」
マミ「自分や大切なものが傷つくだけだもの」
マミの瞳から涙がどんどんあふれていく。
1マミはキュゥべえのことが大好きだったんだね
2さっきの子に場所を聞かなきゃ
3復讐をしても帰ってこないよ
4自由安価
下2レス
かずみ「マミはキュゥべえのことが大好きだったんだね」
マミ「ずっと一人だった私にとって、唯一そばに居てくれた友達だったわ……」
マミの悲しむ姿を見て、わたしの頬にも涙が伝った。
でもきっと、今のマミは冷静じゃない部分があると思うから。出来ればこのまま動いて後悔だけはしてほしくなかった。
かずみ「さっきの子に場所を聞かなきゃ。それに、やっぱり魔法少女とはいえ人間を殺してほしくはないよ」
かずみ「マミのその力は魔女から守ってきた力なんだから」
マミ「友達が殺されたのよ。放っておいたら他にも被害を出すかもしれない、悪い魔法少女でも?」
かずみ「……甘いかもしれないけど、わたしはそう思う」
来た道を戻っていく。
するとその途中で、さっきの人ともう一人……背の高い女の人が話しているのが見えた。
かずみ「ねえ!」
わたしが呼びかけると二人はこっちに振り向く。マミが真剣な表情で詰め寄っていった。
マミ「呉さん、神名あすみの居場所を教えて。さっき居た場所でもいい」
「彼女に何か用が?」
しかし、もう一人のほうが代わりにマミの前に立った。
「彼女には私も用があるの」
マミ「あなたは?」
「挨拶が遅れてごめんなさい。私は美国織莉子。この街で最近契約した者よ」
マミ「……そう」
織莉子はまずマミににこやかにあいさつして、それからわたしのほうにも目を向けた。
「そちらの小さなあなたも。よろしくね」
かずみ「わたしはかずみ。よろしく。でも別に小さい子じゃないよっ! …………たぶん」
「あら、ごめんなさい。それで……あすみさんのことだけど、キリカさんは知ってる?」
キリカはそんな織莉子を見ていた。
話を振られるとどっかぎこちない表情のまま答える。
「え……、千歳って人の家じゃない」
マミ「千歳? 住むところがないんじゃなかったの?」
「そんなこと言われても知らないよ」
――……場所については教えてもらった。
でも、もし何かあったらマミがやったことは絶対にわかってしまう。
マミは会いに行ってどうするつもりなのか。……もう一度マミの顔を見た。
1織莉子は何があったか知ってるの?
2とりあえずそこに行こう
3自由安価
下2レス
↑
織莉子と話す時織莉子の態度を注視する
何か感じたら後でマミに話す
かずみ「織莉子は何があったか知ってるの?」
「何? 一体どうしたの?」
かずみ「キュゥべえがもういないって……」
……この人にはキリカはまだ話してなかったのかな。
キリカが訝しむようにマミに問いかける。
「……あいつのとこに何しにいく気?」
マミ「会ってくるわ」
「それって」
マミ「きちんと話をしてくるの! ずっと見滝原を仕切ってきた魔法少女として!」
マミが声を張る。
まだ怒りも悲しみも消えないけれど、マミの行動はもう衝動と復讐だけじゃなくなっていた。
――――教えてもらった場所へと歩き出す。
まだこの街に詳しくないわたしはただマミの横をついていっていた。
かずみ「……会ったらどうするの?」
マミ「呉さんに言った通りよ。話をしにいく」
マミ「もちろん結果によっては戦うことになるかもしれないし、決断しなきゃいけないこともある」
かずみ「……うん」
魔法少女同士で話した結果、そうしないといけなくなるなら納得はできる。
マミがとりあえず自暴自棄になってないことに安心する。
マミ「あの二人とこれからどうするかもね」
かずみ「あの二人って友達なのかな?」
マミ「どうかしら、あまりそういうふうには見えなかったけど……」
話し方からしても、距離はあるように感じた。
魔法少女同士の知り合い、仲間ってところか……――――
……キリカはまたあの家に戻るのはごめんだそうだった。でも元はといえば、何の話をしてたんだろう?
マミ「……『千歳』、ここね」
表札の下のインターホンを押すと、少しして中から出てくる。
――あすみはドアを締め切ると、玄関の外側に立つ。
あすみ「あんたが来るなんて、いきなり何の用? あ、千歳さんならお留守ね」
マミ「自分の行動に心当たりはない?」
あすみ「自分の行動? あすみ、なーんにも悪いコトしてないのに。お顔怖いよ」
マミは落ち着いてはいるけど、いたって真剣で有無を言わせないトーンだ。
それに対して、あすみはケロっとした様子で答えた。ふざけているようにも見える。
マミ「……あくまでしらばっくれるの? それなら考えはあるわ」
あすみ「あ! もしかしてココのこと聞いた奴からなんかチクられたとか?」
あすみ「『キュゥべえ』のことでしょ。あんなの代わりはいくらでもいるじゃん。一匹潰したのがそんなに問題?」
マミ「代わりなんていない! 私にとってはかけがえのない友達だった!」
……話し合うとは言ってたけど、張りつめる雰囲気にわたしは心配になった。
かずみ「あすみちゃん、その言い方はないよ。魔法少女の契約をできる人はほかにもいるのかもしれないよ」
かずみ「でも『キュゥべえ』は、マミにとっての友達は一人だけなんだよ!?」
あすみ「あーもう、面倒くさいなあ……」
失望した。こんなにひどい人だとは思わなかった。
マミのほうも、もうこれ以上話し合おうとしても仕方がない。そんなふうに思っているのが感じ取れた。
――――しかしその途端、あすみは突然叫びだす。
あすみ「キュゥべえ! おーい、いーかげん出てきてやれよー! アンタの『トモダチ』が悲しんでるぞー!」
あすみ「どうせこれから一生死んだふりしてるわけにゃいかないんだから、さっさとタネ明かししてやれよ!」
あすみ「こんな面白い事態を見逃すアンタじゃないだろ!」
マミ「な、何を言ってるの!?」
あすみ「……アレ、出てこないな。いないのかな」
マミ「居るわけないじゃない。あなたが殺したのよ? この子、気でも触れているんだわ。そうでもない限り……」
マミ「とにかくもうこの縄張りからは出て行ってちょうだい! それが聞けないのなら……!」
マミは頭に血が上ったように語気を強め、すぐにでも戦える準備をする。
……あすみはまだ冷めた表情をしたままだった。
あすみ「……居たら? もし居たらその発言、責任とってよ」
あすみ「それまではしょうがないからこの縄張りを出てってやるよ。これ、連絡先だから」
あすみが何か紙のようなものに走り書きをして渡す。
素直に縄張りから出ていくなら私たちにとっては損ではない。マミは少し戸惑いながらもそれを受け取った。
1とりあえず一言謝るように言う
2自由安価
下2レス
--------次スレへ続きます。
以下フリー
すでに起きることが大体決まってる分やりにくいですが、展開安価も拾えるものは拾います。
埋立地
サーバークラッシュ期間をはさんだため、展開安価続き枠は新避難所のほうにあります。
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