俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.14 (984)

■前スレ
俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.13

■まとめwiki
http://www43.atwiki.jp/vip_oreimo/

・鬱、エロ、NTR、オリキャラ、クロス作品の場合は、投下前に断り書きをしましょう
・完結させてからの投下が望ましいです。3回以上中断する場合は別スレを検討しましょう
・やむを得ず中断させた場合は、再開時に前回のものをアンカーで知らせてください
・前の作者の投稿から3時間程度の間隔をあけるのが望ましいです。無理な場合は一言断りましょう
・被り、苦情防止のために事前に投下時刻とカップリングを宣言しておくのもオススメ
・SS作家さんには惜しみない賞賛を
>>980 を踏んだ人が次スレを立てましょう

感想や雑談などご自由に

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1351775844

■関連SSスレ
○【俺の妹】高坂京介は落ち着かない
○沙織「京介先輩」
〇京介「ポケモン?」あやせ「はい」桐乃「その4!」
京介「ポケモン?」あやせ「はい」桐乃「その4!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1333506723/)
〇【俺妹】高坂家に親戚の幼女がやってきた


京介「……」

あやせ「空なんか見上げてどうしたんですか?」

京介「SSが落ちてこねえかなと思ってさ」

あやせ「……お兄さん! あのキラキラ光っているのは何なんでしょうか!?」

京介「……あれは……そうだ! 蜘蛛の糸に違いねえよ!」

あやせ「あれが、伝説の蜘蛛の糸……」

京介「おう! これで俺たち、助かるかもしれねえ……どぇー!」

あやせ「お兄さん、お先に失礼します」

京介「くそ! この馬鹿女! 裏切り者!」

あやせ「何とでも仰ってください。この蜘蛛の糸は一人乗りなんです。さようならー」

京介「……あやせは行っちまったか……。SSも落ちてこねえし……」

あやせ「……お兄さん、元気出してください。わたしは、お兄さんを置いて行ったりしません」

京介「あ、あやせ……おまえってやつは。……蜘蛛の糸が切れたんだな」

おしまい

桐乃「なにあんたたち間抜け面して空見上げてんの?」

京介&あやせ「桐乃!?」

桐乃「上向いて口開けて、なんか金魚みたいなんですけどww」

京介「……しょうがねーだろ、降ってこないか期待しちまうんだから」

桐乃「ばっかだねー、上ばっか見てるから大事なもの見落とすんじゃん」

あやせ「どういうこと?」

桐乃「ホラ、見てよ、足元を見渡してよ。13個もあるじゃん。見なおしてみなよ」

京介「もう、古くなっちまってるだろ」

あやせ「いえ、待って下さい。確かに今見ることで新鮮な発見があるかもしれません」

桐乃「そうそう、せっかくきれいに整理されてるんだし……あれ?」

京介「……この一番新しいの、埋まったまんまだな……」

あやせ「埋めた覚えは無いんですけど……」

桐乃「後から来た人の為にも、片付けなくちゃなんないね」

あやせ「そうね、このままじゃ見つけにくいし」

京介「掘り起こして、並べなおす——まずはそこからかな」



というわけで頼むわ

東京MXで『俺妹』の再放送やってんのな。全然気付かなかった
それはそれとして、『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』はなかなかだね
だけど、SSにはしづらいかも、アニメの中ですでに妄想を超越してる気がする
お兄ちゃん×妹のパターンって、ほんと次から次へと出てくるもんだ

このスレ最初のss投稿という名誉をいただいてもよろしいか?

それでは、失礼して次レスから投下。











ビバ・夏!!

なんて素晴らしい季節なのだろうか、夏というのは。
熱い砂浜、青い海。そして、セクシーな水着のお姉さん!!

素晴らしい!!!

俺は思わず太陽に向けて万歳をしてしまった。
そう、今俺は海に来ている。勿論一人では無い。桐乃と黒猫と沙織が一緒だ。
どうしてこんなリア充みたいな事をしているかというと、桐乃の奴が言い出したせいだ。

桐乃が言うには、今日ここでコスプレのイベントがあるらしいのだ。
それに参加して桐乃はメルルの豪華商品をゲットという魂胆らしい。

ちなみに桐乃はEXモードのメルルのコスプレをするみたいである。
メルルは全体的にようぢょしか出ないので桐乃に勝ち目は無いのではないのでは、と思うのだがそのおかげでこんな良い思いを出きるのだから追求はしまい。

うんうんと頷いていると、着替え終わったらしい。皆がこちらに歩いてくる。

「はぁ何故私がこんなところに来なければならないのかしら。ここは天使の光(エンジェルズフォール)が強いから余り来たくないのだけど」
「紫外線ね。厨二病乙」
「まぁまぁお二人とも、まずはこの水着姿で京介氏を悩殺いたそうではござらんか」

……oh
やられた、やられたよ。

俺は鼻血が出ないように鼻を手で押さえる。

お前ら、分かってるじゃねぇか。ここでマニアックなスクール水着とか着てきたら俺は帰るところだったぜ。
よかった、全員ビキニでよかった。

特に沙織。お前の体系はビキニじゃないといけ無ぇ。そのまさにボンキュッボンッな体系はビキニが一番映える。
それに加えて黒だからな。エロ杉だろ常考。

黒猫、お前も分かってるじゃねぇか。ビキニはビキニでも子供が着ていそうなミニスカビキニを選んでくるとは。お前の凹凸の少ないスマートな体系にはそういう可愛い水着が似合うんだぜ。

そして最後に桐乃。我が妹ながらなんとも我侭なボディーだろうか。そりゃ沙織には負けるがそれでもたわわに実った果実が胸元にあった。
キュッとくびれた腰に、柔らかそうな太もも。そしてそれを隠そうとするパレオ。うん、完璧じゃないか。

ブッ!!

おっと、ついに限界が来たらしい。

「ちょっ! 兄貴!? なに鼻血出してんの!?」
「せ、先輩!? 大丈夫!?」
「ふふん、京介氏は見事に我々の水着姿に悩殺されたようでござるな」

あぁ、駄目だ。鼻血とまんねぇ。
本当きてよかった。これだけで重たい荷物を運ばされたかいがあったってものだ。
俺は念のために用意していた3箱のティッシュを一箱取り出すと二、三枚取り出して鼻に詰め込んだ。

ふぃー。あとは寝転びながら桐乃達がキャッキャウフフするところを眺めるだけだな。

ビーチパラソルを立てて、シートの上に寝転ぶ。

「ちょっと俺は休んでるわ、お前らは遊んでてくれ」


そう言って皆を浜辺へと促す。桐乃達はなんの躊躇いも無く頷くと、俺を置いて砂浜を駆けた。
さぁ、俺の天使達よ、遊んでくれ。揺れる胸を見せてくれ。肌を滴る雫を見せてくれ。

なんて事を思いながら桐乃達を見ていると、隣から話しかけられた。
内心で舌打ちをかますと、渋々振り向く。

誰だよ。邪魔すんのは。

「よっ、こんな所で何やってんだ?」
「……加奈子か、俺は妹のお守りだよ。お前こそこんな所で何やってんだ?」
「加奈子はちょっと仕事でな」
「……あぁ、コスプレか」
「なんで知ってんの!?」

いや、それが目的で来たしね。今日は。
俺は完全に加奈子の方に向くと、改めて水着を見た。

ボーイッシュな感じの水着だ。上はスポーツブラに近い感じで、下は普通の水着に短いジーパンを合わせた感じ。
ここまで男みたいな態度の奴だと、とても似合っている。二つに括っている髪の毛もぴょこんとしていてとても可愛らしかった。

「な、なんだよ」

おっと、ジッと見つめすぎたらしい。俺は慌てて視線を外すと、一応礼儀として水着を褒めた。

「水着、似合ってんじゃねぇか」
「ば、バッカ当たり前だっつの!!」

何故か怒って加奈子は顔を真っ赤にする。
このバカは自分が似合っているのは当たり前だろう、と言いたいらしい。ふむ、確かに一理ある。悔しいが認めるしかあるまい。加奈子はなんだかんだで可愛いから結構なんでも似合うのだ。

「あぁ、悪かったよ。仕事はいつからなんだ?」
「んーと、まぁ後一時間ぐらいで仕事開始かな」
「結構時間有るじゃねぇか、ここで休んでいくか?。ジュースぐらい奢ってやるぞ」
「ひひ、分かってきたじゃねぇか、クソマネ」

加奈子は奢ってもらうのが嬉しいのか、頬をピンクに染めながらはにかんだ。
まぁジュースぐらいでこんな顔が見れるなら安いものだ。

ちょっと可愛く思ってしまい、頬をポリポリとかく。

「じゃ、売店まで行くぞ」
「おーう!」

子犬みたいについてくる加奈子に思わず笑ってしまったのだった。








   ・・・・








30分後。


俺と加奈子は特になにもせずノホホンと寝転がっていた。
たまに持って来たお菓子を二人で食べたりするが、それも寝たままだ。

あぁ、ぐーたら最高。

「なぁクソマネ、喉渇いた。ジュース取って」
「へいへい」

ぬるくなると嫌なので、クーラーボックスにしまっておいたジュースを取り出すと、加奈子に投げる。
加奈子は寝ながらでも華麗にキャッチすると起き上がって飲む。

「ぷはぁ、生き返るぅ」

加奈子はオッサンみたいな飲みかたをすると、これまたオッサンみたいな反応をした。
風呂上りのビールを飲んだオッサンかお前は。

ま、それにしてもこいつは、なんで微妙なものばかり飲むのだろうか? ドロリッチにしたって、喉が渇いたときに決して飲みたいとは思わないのだが。
今回にしたって、こいつはヤシの実オレンジという、ひじょうに微妙な商品に手を出した。どっちだ、ヤシなのか、オレンジなのか。
つっこみどころが多すぎる。

でもどうだろうか、加奈子のやつはそんなジュースをむちゃくちゃ美味しそうに飲んでいるではないか。
意外と美味いのだろうか?

人間一度気にしだすと、いけない。気になって気になってしかたがなくなる。
なので俺は、加奈子にジュースをもらおうと声をかけた。


「おい、加奈子。それ美味いのか?」
「おうよ。やっぱ夏の海に来たならこれ飲まないとな!」
「へぇ、そんな美味いのかよ。じゃ、ちょっと一口くれね?」
「……へ?」

加奈子は俺の言葉を聞くと、口をポカンと開いて間抜けな面になった。
ん? なんだ?
と思っていると、どうだろうか。今度は顔が真っ赤になりはじめたではないか。

「お、おい。大丈夫か?」
「お、おおお、お前ぇぇ!! いきなり何言い出すんだよ!?」

俺が心配して声をかけると、それをきっかけに加奈子は何故かキレた。
顔をトマトのように真っ赤にしながら怒り狂っている。

「いや、どんな味するか気になったから…」
「お前分かってんのか!? お、おま、これ加奈子が飲んだやつなんだぞ!?」

? なにが言いたいんだ? ばっちぃって言いたいのか?

「あぁ、大丈夫大丈夫。そんなの俺気にしないから」
「か、加奈子が気にすんだっつの!」

ふむ、年頃だな。じゃぁしょうがない。面倒だが口元のところを拭いて飲むとしようではないか。

「分かった。それじゃぁ拭いて飲むよ。ならいいだろ?」
「い、いや、わざわざそんな事する……ことはねぇよ。分かったから普通に飲めよ」

俺がせっかく折衷案をだしたというのに、どうしたことか、加奈子は普通に飲んで良いと言い出したではないか。
どっちなんだよ! とツッコみたかったものの、今そんな事を言ったら最悪飲ませてくれない可能性も出てくるので、なんとか文句を飲み込んだ。

まぁ本人からお許しをもらったんだ。普通にのもうではないか。

「じゃ、もらうな?」
「おおおおう」


おたけび?

加奈子の返事に内心ツッコみをいれながら、俺は加奈子のジュースに手を伸ばす。
ペットボトルの蓋を開き、俺はジュースを飲んだ。

「っど、どうよ?」
「……微妙」

うん、とにかく微妙だ。
オレンジの風味もするし、ヤシの風味もする。どっちつかずの味だ。
どうしてこんなものを飲まないと夏の海じゃないのだろうか、やはり俺は間違っていなかった。やはりおかしいのは加奈子の方であって、俺ではなかったのだ。

「えぇ? 結構美味いと思うんだけどなぁ」
「いや、これはマジで微妙だぞ…」

加奈子が赤い顔で、俺の感想に文句を言ってくるが、これは譲れない。こんな味で夏の風物詩など語らせてなるものか。
この後、加奈子が俺の舌がおかしいなどと言ってきたが、それを言ったらお前の舌だろう、と俺が反論して口喧嘩になった。まぁ永遠に平行線で決着がつくはずもなく、俺達はそれ程時間を置かずに結局もとの位置に戻っていた。
レジャーシートの上でノンビリと寝転ぶ、最初の位置に。

しかし、それから何分過ぎたぐらいだろうか? 加奈子は欠伸をもらしながら立ち上がった。

「じゃ、加奈子今から仕事だから。じゃぁなクソマネ」
「ん? もうそんな時間なのか?」
「まぁ用意とか色々あるかんね。なに? もしかして加奈子が居なくなって寂しいの?」
「バーカ、んなわけあるかよ」
「ニシシ、まぁ気が向いたら仕事終わりに会いに来てやるよ!」

加奈子は最後にそういうと、思い切り笑って会場に走っていった。


ふむ、加奈子にはああ言ったがうるさい奴がいなくなると寂しいもんだな。
欠伸をもらす。


すると、いつのまに帰ってきたのだろうか。バッグの中からバスタオルを取り出す桐乃達がいた。

「ん? いつ帰ってきたんだ?」
「いや、別にぃ? あんたが自分の妹の友達とイチャイチャしていたところからだけど?」
「やっぱりようぢょが好みだったのね、呆れたわ」
「ふむ、今の時代それはいかがなものかと。二次元ならまだしも現実でそれはタイーホでござるよ?」

何気なく質問しただけなのに何故か返ってきたのは剣の有る返事だった件について。
まぁとりあえず否定だけはしとかなければ。

「いや、なに勘違いしてんだよ。今日あいつは仕事で来てんだっつの。それでたまたま見つけた俺に話しかけたんだろ」
「「「鈍感」」」

何故か全員がハモって俺に同じ事を言ってきた。鈍感? 俺が鈍感?
全力で否定したかったが、話がややこしくなるだけだと理解しているので自粛する。

「ま、いいよ。で? なんかとりに来たのか?」
「いや、何言ってんのよ。もうすぐ大会でしょ?」

あぁ、加奈子が行ったってことはそうなのか。
景品は何か知らんが頑張ってもらいたいものだ、勝てなくて参加賞だけだとか目もあてられないからな。
まぁ参加賞があるかどうかも知らないのだが。

「ま、頑張って来いよ」
「? 何言ってんの? あんたも参加するに決まってんじゃん」
「は? 俺が? いやいや、女装とかマジ勘弁だから」

メルルに男キャラなんかいないだろうが。

「先輩、何を勘違いしているのか知らないけれど今回の大会はなにもコスプレはメルル限定じゃ無いわよ」
「ふむ、確か拙者の記憶では 星くず☆うぃっちメルル と MASCHERA 堕天した獣の慟哭 と 妹めいかぁEXシリーズ の作品のどれかのコスプレが可能だったと思うでござる」
「はぁ!? じゃぁなんで景品がメルルのしか無いんだよ!?」
「そっちこそ何言ってるわけ? あたし達は一度も景品がそれだけとか言ってないじゃん。副賞にはマスケラのフィギュアだってあるっての」
「まぁ何故副賞なのかは疑問に思わざるをえないけれど」

黒猫は不満そうに頬をふくらませる。
っていうかちょっと待て!? じゃぁ何か? 俺も参加する感じになってるのか?
無理だって、マジで。お前らと違って俺は並の見た目なんだよ? もうちょっと俺の事も考えようよ。

「ちなみに拙者はタナトス・エロスで参加するでござるよ」
「ま、そう言う事だから。あんたは当然漆黒の衣装ね」
「当然ね、先輩には本来の姿に戻ってもらうわ。私の生涯の敵である漆黒という真の姿に」


もう夜魔の女王になり切っているのか、黒猫は頬を紅色に染めてうっとりとしていた。
やべぇどうにかして逃げたいがどうにも退路を断たれているらしい。どうしよう。

どうにかして逃げようと必死に考えていると、手遅れらしい。俺は桐乃に手を取られると無理やり会場に向けて歩かされた。
畜生。







会場前。やはりどこででも沸くのだろう大きなお友達がむさくるしくひしめき合っていた。
夏のビーチだというのに全員がなにかしらのアニメがプリントされた服を着ているというのだから精神を疑わざるをえない。

だが、非常に理解しがたいが、この会場の懲りようからしてこの大会は結構大掛かりな部類に入るらしい。証拠に仕事で来ている加奈子もいたし、カメラマンらしき人達もいる。

なんて考えていると、とうとう大会が開かれた。司会であろう人が出てくる。

「こっんにっちわー!! メルルだよぉ!!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

……加奈子だった。
加奈子の奴、俺はてっきり大会に参加するのかと思っていたが、どうやら司会らしい。

「今日は来てくれてありがとぉ!! 楽しんでいってねぇ!」
『わぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ』

加奈子がウインクをしてそう言うと、会場に居た何人かが咳をして倒れた。
大丈夫なのかよ!?
とか思っていると大会の関係者なのだろうか、なにか腕章をした人たちが倒れた人を連れて行った。

その光景を見てると、とてつもない不安が襲ってくる。
警察沙汰にならない事を祈るばかりだ。

「よぉぉし、最初にOPとしてメルルの踊りを見てねー!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁ』

加奈子が大声でそう言うと、会場に音楽が流れ始めた。言わずも知れたメルルの主題歌である。
メールメルメルメルメルメルメ、という電波的、表現を柔らかくしても特徴的が限度の音楽だ。聞いていると頭が痛くなるのはこの場では俺だけらしい。
加奈子の奴ももう何度も踊っているのだろう。冷静さが慣れているのをかたっていた。

そんなメルルも主題歌が終わると、もう会場のテンションは最高潮まで上り詰めていた。歓声が耳に痛い。

「皆ー!! ありがとー!! じゃぁ次からは本命のコスプレ大会だよ!! それでは一番の方、どうぞー!!」

加奈子がそう言うと、パーン!! と会場のあらゆるところからクラッカーが炸裂した。それと同時に加奈子が引っ込み、一番にコスプレを披露する人が出てくる。
この大会では、三つの段階をふむらしい。まずは特技を披露する『特技タイム』 二つ目は司会の人の質問に答える『質問タイム』 三つ目は会場の皆に向けて挨拶する『挨拶タイム』だ。

この三つの段階を終えて、次の人に変わる。

やっぱり大会の規模だけはあって、しっかりとした内容になっているらしかった。
けれど、何故か参加者は少ないらしかった。合計でたったの30人らしい。
大会の規模に臆したのだろうか? まぁなんでも良いが、俺達には好都合だ。
早く終われるし、景品もゲットしやすい。
さらに桐乃達はモデルになれるくらい可愛いのだ、最早ほとんど景品をゲットしたも同然だろう。

うんうんと頷く俺。そんな事をしていると、どうやら桐乃達の出番がもうすぐらしい。俺以外の皆は大会の係員さんに連れられてどこかに行ってしまった。
ちなみに俺の出番は28番。かなり後ろの方なので、まだまだ待つ事になりそうだ。


「ではお次の方! 13番の方お願いしマース!」

加奈子のそんな声に続いて、黒猫が会場に姿を現した。俺にはいつものゴスロリにしか見えないのだが?
だが俺のそんな感想に反して、会場は沸く。

『わぁぁぁ!!』

よく見ると、黒猫とほとんど同じゴスロリ服を着ている方もいらっしゃるではないか。
まぁなにはともあれ、黒猫のコスプレが認められて俺も嬉しい限りだ。

「ではまず始めに、特技を見せてくださーい!!!」

「ふふ、そうね。でも司会の人? 私の特技には人の協力が必要なのだけれど、どうすればいいのかしら?」
「ふむー、そうですねー。審査員さーん! 会場の人たちに協力してもらうのは、いいのですかー?」

加奈子がそう審査員に聞くと、審査員は数瞬もしないうちに、OKサインを下さった。

「オーケーだそうでーす! では会場の人たちに協力してもらって、アプローチしてください!」
「了解したわ。では、下僕達? PSPのスト4が得意な人がいたら出てきなさい。何人でも良いわ、アピールタイムの内に何人でも相手してあげる」

黒猫は有名どころのゲームを二つ持ち出し、会場の大きなお友達を挑発した。すぐに何人も手をあげる。
会場のカメラマンはすぐに会場上の黒猫の手元を映す。その映像はすぐに会場の上についたモニターに、映し出された。

「さぁ、かかってきなさい」
「ははっ! 俺がどんだけやりこんだと思ってんだ。いくら可愛いからって……、俺が勝ったらデートしてください!!」

なにを考えているのか、黒猫に向かってデートを頼む野郎。
だがそんな光景を見ても、俺が焦る事は無い。
何故なら、俺は知っているからだ。こいつがゲームでは誰にも負けないと。

「さぁ、次よ」

ほらな、余裕だろ?

さっきのデートを申し込んだ奴は一瞬で蹴散らされ、すごすごと会場を降りていく。
それからも次々に挑戦していくが、勝つどころか攻撃を当てる暇もなく倒されていく。

アピールタイムは最大十分。
なんと黒猫はわずかなその時間内で、10人以上を蹴散らし会場が歓声でつつまれた。

「ふむむむ! すごかったですねー! メルルも思わず見入っちゃいました!! よし、では次の質問タイム、いってみよー!!」

会場から何人も手が上がるが、順番的に審査員がやはり上なのだろう。審査員さんを指差し加奈子が声を張り上げる。

「ではそこの審査員さん! 質問いってみよー!!」
「ふむ、そうだね。ではまずは絶対に聞いとかなければならない質問をしようかね」

腕を組みながら、妙に勿体つけて話す審査員。どうでも良いから早く質問しろや。とか思っているのは俺だけではあるまい。

「君。勿論彼氏はいるまいな?」

……なんか変なこと気にしてるんだけどぉぉぉぉ!!!

「えぇ、残念ながら居ないわ」

審査員の妙な質問に律儀に答える黒猫。ここは無視しても全然大丈夫だっただろうに。そんなに景品が欲しいのだろうか?
そう思っていると、黒猫が質問に答えてからしきりにこちらをちらちら見ている事に気がついた。どうしたのだろうか? 腹痛か?
まぁここで舞台から降りると次には進めないだろう。だから俺は応援する事にした。

俺は舞台横から黒猫にサムズアップした。頑張れ、黒猫。


「あぁ、先輩。絶対また勘違いしてるわね。あの顔はそういう顔だもの。折角私が彼氏居ない事を教えてあげたのに、あの反応はちょっと流石に傷つくわ」

黒猫マイクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
黒猫の俺に対する愚痴(まぁこの際何故俺が愚痴を言われているのかは問うまい)はマイクを通して、会場に大音量で漏れていた。
審査員の顔がみるみるうちに変わっていく! 真っ赤に変わっていく!

そして、会場と審査員の声がハモって会場に木霊した。

『こいつ彼氏は居ないけど好きな奴いるぞぉぉぉぉぉぉ!!!!』

全員が怒り心頭のようだ。なんちゅうしょうもない連中なんだ……。
俺は呆れる気持ちと一緒に何故か流れてくる涙が止められなかった。だってしょうがないだろう? 俺だってモテた事無いんだから。黒猫の好きな奴、か…。殺したいね。

「はい、次は挨拶ね、早くして降りてくださーい」

審査員が冷たい目(詳しく言うならオタクがリア充を見る目)で黒猫を見て促す。
ぶっ殺してやろうか。

「ふむ、そうね」

そんな皆の目に気付かずに黒猫は堂々と次の挨拶へと移行する。

「下僕達? 我を真なる闇の王の玉座へと導きなさい! これは願いではなく命令よ!」

こうして、黒猫の出番は終わった。
まぁあの様子なら次には進めないだろうが、どうか落ち込む事が無いようにとだけ願っておこう。どうにかできるならしてやりたいが、どうにもできそうにない。
なので大会が終わったらあの審査員をぶっ殺してパンツ一丁にして外に放置してやる。

さて、次は誰だ?

会場を見ていると、お次に出てきたのは桐乃の奴だった。
黒猫の時より控えめな声援が聞こえてくる。やはりファンからしたら桐乃がメルルをやるのは無理があったのだろう。
しょうがない、だってあのアニメを見ているのは大体ようぢょが好きな変態なのだから。

俺から見たらまだガキんちょでも、あのメルルファンからしたらかなりふけて見えるのだろう。

特技はオーソドックスに歌。
メルルの主題歌を歌った。きょぬーになど興味は無い! っと豪語する連中も、やはり男なのか大きく揺れる胸に視線が行っていた。
まぁメルルのコスであんな踊りをしたらそりゃ揺れるだろう。俺も男だ、妹だからって胸が揺れているのなら見てしまうのだ。これは男の性だ。しょうだ無いに違いない。

反応はまさに微妙な感じ。あれはメルルの大人verだ! という脳内保管する奴も居たが、やはり受け入れられない奴も多いらしい。

続いては質問タイム。
審査員が当然のようにあの質問をしたが、桐乃は清清しく「いません(ニコリ)」と答えた。まさにモデルの営業スマイルだったが、会場の皆様は見事に騙され歓声を上げる。
哀れな連中だ。桐乃がどれだけモテるのか知らないだろうに。こいつが彼氏を作ろうと思えば今この瞬間から30分もあれば作れるだろう。
桐乃がどんだけリア充だと思っているのやら。オタクが皆非リア充だと思ったら大間違いだぜ。

俺が呆れて溜息をつくと、桐乃は最後の挨拶を行っていた。

「お兄ちゃん達! だいちゅき!!」

桐乃いわく、かむのがコツだそうだ。
狙い通り挨拶は好評で、アピールタイムよりも質問タイムよりも大きな歓声が会場を揺らしたのだった。



さて、ここからはしばらく俺達には関係無い人たちの出番だ。
俺は一息つこうと、近くのベンチに腰掛ける。

それにしても、ヤバいな。見た目が良けりゃ勝てるだろ、とか思っていた俺をぶん殴りたいぐらいだ。
やはりオタクはいらないプライドがあるのか、黒猫も桐乃もあまり良い結果が得られていない。黒猫は特にだ。もう景品は得られないも同義だろう。

桐乃は好評っちゃぁ好評だったのだが、やはり他の人に比べてパッとしない。その前の人たちも見ていたが、やはり歓声の大きさや、審査員の印象も劣っていると思われる。
残るは沙織と俺だけなのだが、俺は論外と言っても過言ではない。やはり沙織に頼るしかないだろう。

欲しい景品は少なくとも二つ。どうにかならないものか、と考えるも、良い考えが浮かぶ事もなく沙織の順番が来た。
沙織の出番は16番なので、もう大会も後半に突入だ。

さて、沙織の奴はどんな特技を見せてくれるのだろうか。
ちょっとだけ興味がある。

沙織は会場に出てくると、会場横に用意していたのだろう射的の的らしきものを運び込んでいく。これで大体の奴が分かっただろう。
ふむ、佐織らしいな。

オートマティックの銃を二丁。名前は知らないが赤黒い外装の銃を二丁、両手に持って構えるその姿は、思わず見とれるほど格好良い。メガネも取っているのでまさに美女戦士というのが相応しい容姿になっていた。
会場は一瞬静寂につつまれて、そして箍がはずれたように皆叫んだ。

タナトス・エロスの格好で銃を持つ格好良さがウケたのだろうか、分からないがこの歓声は今までのどの歓声より大きい事は確かだった。

構えているだけでこれだ、これから沙織が見せる特技を見たらどんな反応がかえってくるのか。。

そう思っていると、沙織が「行きます」と言って一気に弾けた。
両腕を一気に左右に開き、左右の的の顔面を撃ち抜く。続けて発砲、今度は胴を打ち抜いた。ここまでの発砲数は4発。聞こえた発砲音は合わせて二回。その意味が成すところは、両腕で持った銃の発砲間隔が限りなく零に近いということだ。

結構な威力なのか、ペイントが弾けたと思ったら的自体倒れていく。だが完全に倒れる瞬間、沙織が後ろも見ずに銃口を背に向け連射する。的が倒れた音が一切聞こえず、代わりに嵐のような発砲音が耳に届く。沙織の背にあった的が倒れる前に撃ち続けられ壁に叩きつけられた。それでも尚撃ちつづける。

やがてマガジンが空になり、沙織はマガジンを排出して銃をホルスターにしまい、一瞬で新しいマガジンを懐から二つ取り出すと空中に放り投げる。
もう一度銃をホルスターから取り出したと思うと、なんとマガジンを空中で銃に装填した。

ガシャリと男心くすぐる音がマイクを通して会場に響く。
沙織は最後だ、と言わんばかりに空に向けて新しいマガジンが空になるまで撃ち続けた。

終わって、佐織はスカートを掴むと、軽く会釈した。
会場の最初の一人が呻き声をあげる、そして、一気に熱気が溢れかえった。

『『『うおぉぉぉぉおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』』』

俺も雄たけびを上げている一人だ。
すげぇ、すげぇよ沙織! 鳥肌やべぇことになってんだけど!!
なんて事を思っていると、加奈子が喋り出した。

「うぉぉ、すっげぇなお前!」

って加奈子! 素が出てんぞ!











    ・・・・







その後、質問タイム、そして挨拶も無事に終わり。沙織は見事優勝(ほとんど)確定の状態となった。
そしてどんどんと順番は流れて、とうとう俺の番が回ってきた。

これで俺が準優勝とかできれば良いのだが、やはり世の中そう甘くはあるまい。
俺は諦め半分になりながらも、一応頑張りますか、と会場に出る。

キャラになりきるためにクールを気取りながら。
会場の中央につくと、マントを翻してボソリとマイクに向けて呟く。

「漆黒だ……。よろしく頼む」

そして会場は、静寂に包まれた。
沙織の時なんて比じゃねぇぐらいの静寂が。

あぁ、やっぱり駄目か…。すまねぇな、黒猫。景品はゲットできそうにねぇよ。
冷や汗をかきながら、内心で黒猫に謝っていると、どうしたことだろうか、会場がとんでも無く大きな大歓声に包まれた。

『ほ、本物の漆黒よぉぉぉぉぉおオオオオオオオオオオオオ』
『か、かっけぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ』

一瞬ビクッとなってしまったが、なんとか外面をととのえる。何故歓声が生まれたのかは疑問だが、これならば準優勝ぐらいはできるかも知れん。
特技の件でも沙織がとっておきを用意してくれてる。これはもしかしたらもしかするかもだ。





    ・・・・







その後、質問タイム、そして挨拶も無事に終わり。沙織は見事優勝(ほとんど)確定の状態となった。
そしてどんどんと順番は流れて、とうとう俺の番が回ってきた。

これで俺が準優勝とかできれば良いのだが、やはり世の中そう甘くはあるまい。
俺は諦め半分になりながらも、一応頑張りますか、と会場に出る。

キャラになりきるためにクールを気取りながら。
会場の中央につくと、マントを翻してボソリとマイクに向けて呟く。

「漆黒だ……。よろしく頼む」

そして会場は、静寂に包まれた。
沙織の時なんて比じゃねぇぐらいの静寂が。

あぁ、やっぱり駄目か…。すまねぇな、黒猫。景品はゲットできそうにねぇよ。
冷や汗をかきながら、内心で黒猫に謝っていると、どうしたことだろうか、会場がとんでも無く大きな大歓声に包まれた。

『ほ、本物の漆黒よぉぉぉぉぉおオオオオオオオオオオオオ』
『か、かっけぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ』

一瞬ビクッとなってしまったが、なんとか外面をととのえる。何故歓声が生まれたのかは疑問だが、これならば準優勝ぐらいはできるかも知れん。
特技の件でも沙織がとっておきを用意してくれてる。これはもしかしたらもしかするかもだ。


さて、正念場だ。ばっちこいや。
と構えて加奈子を見る。だが、いくら視線を向けても加奈子が反応しない。
何故かボ〜っとしている。

『く、クソマネかっけぇ……はっ! な、なな、何言わすんだてめぇ!』
「……お前が勝手に言ったのだろう」

いつものノリで返しそうになるが、どうにかキャラを保ち答える。
加奈子も冷静になったのか、どうにか営業スマイルを取り戻すと声を上げた

『よぉし、じゃぁはじめに特技をみせてもらっちゃおぉう!』
「ふむ、特技…か。なら、刀術でも見せようか」

俺は会場横に用意してある、模造刀と『細工』をした丸太を一本取って来る。
ここからはただただ演技があるのみだ、どれだけ観客を騙せるか。気を落ち着けるように深く深呼吸をする。
腰を落とし、刀に手を添える。

会場もあわせたように静まりかえる。頬を伝う汗の感覚がひどく鬱陶しい。
もう一度だけ、と深呼吸をすると、俺はついに刀を抜いた。唾なりの音が甲高く響く。そして俺は数瞬もしないうちに刀を鞘に納めた。

それと同時に、丸太が五等分され床に崩れ落ちた。

そして、デジャヴのような感覚が俺を包む。沙織の時のように、会場を大歓声が覆ったのだ。
良かった……なんとか騙せたかな……。

安心すると、ドッっと疲れが襲ってくる。俺は本当は切ってなどいない、ただ、切る『ふり』をしただけだ、丸太は最初から『切られていた』 それを表面を接着剤で簡単にくっ付け、そしてある一箇所を叩くだけで崩れるようにしておく。あとは演技をするだけだ。

まぁあまり自信は無かったのだが、どうにか騙せたようでなによりだ。
俺は後の質問を軽く答え、そして最後に挨拶をする

「……また、俺に会いたいか? 俺はまたお前達に会いたい。会いたいやつには願おう。会いたくない奴には命じよう。俺をもう一度壇上に登らせろ!!……分かったな?」

そこで俺はかるくウインクしてマントを翻して壇上から降りた。直後にまたも歓声が聞こえてきた。
俺は裏に戻ると、一人ガッツポーズをした。

なんかいけた気がするぞ!
多分これだったら準優勝できたんじゃねぇの!?

充足感が満ちてくる。これで黒猫に景品を上げる事が出来るかもしれん。
まぁどれもこれも沙織のおかげなのだが。今度沙織にはお礼をしなければ、どっか食べにでも連れてってやるとしよう。

俺はニヤニヤと笑いながら会場を後にしたのだった。






   




    ・・・・













 その後。俺達は帰りのバスで揺られていた。
加奈子も一緒で、俺以外の皆は寝こけてしまっている。

大会の結果は見事俺は優勝をはたした。完璧に沙織に負けていると思っていたのだが、どうしてかは分からないが俺が優勝してしまった。
それでも沙織は準優勝で、俺達は欲しかった景品を全部手に入れたのだ。

その証拠に、桐乃の奴は俺があげたメルルのフィギュアを大事そうに抱きしめている。そう、抱きしめているのだ。言っていることが分かるだろうか? 抱えているのではなく抱きしめているのだ。そう、桐乃が抱きしめているのはあの伝説の等身大フィギュアと呼ばれる物なのだ。
沙織の話ではそのフィギュアはレア物どころの話ではなく原作者が直々に書き上げたイラストをそのまま作り上げ、そして世界で通用しているフィギュア師が直々に作り上げた唯一無二のものらしいのだ。売れば車の新車が買えるらしい。

俺だったら即効で売るね。

ふと溜息をついて外を見る。夕焼けが眩しく、海がキラキラと輝いていた。
体を動かしたいが、そういうわけにも行かない。左の肩には桐乃が寄りかかっていて、右の肩には加奈子が寄りかかっているからだ。
黒猫の奴が大層ご機嫌斜めだったが、仕方あるまい。加奈子は桐乃の表の友達だからな。裏の友達としては気に入らないのだろう。

その時の事を思い出して俺はまたもや溜息をついてしまった。
あの時は「あら、随分とオモテになるのね? 先輩?」なんて事を喋っていた口も、今では沙織と肩を寄せ合って眠り、何も喋らない。

静かなものだ、と景色を眺め続ける。海岸沿いを走り続けていたバスも、とうとうその道を外れた。
景色が段々と見慣れたものになっていくのに、俺は一末の寂しさを覚えた。
夏が終わりってわけでもないのに、悲しくなってくる。

俺はそんな気分を紛らわすように首をふるが、すこしも紛れる事は無かった。
どんどんと気分が沈んでいく中、俺の周りの皆がうなり声を上げる。

それに続くように寝言を言い出す。

「ふみゅぅ、よぉし次はスイカ割りだクソマネぇ……」
「なに言ってんの……次は海の家でやきそ、ば、…」
「ふみゃ、わたし、は、アイスを…望む、わ…」
「まぁまぁ、皆様ったら…食いしん坊さんです、ねぇ」

お前らは夢の中でつながってんのか? というぐらいリンクしている。思わず俺は噴出してしまった。
うん。そうだよな。これからだよな、夏は。

沙織に礼もしてねぇし、まだ皆で秋葉にも行ってねぇ。加奈子達の荷物持ちもしてねぇし(まぁやりたくは無いのだが)あやせのお願いも聞いてねぇ。
第一にまだあやせの水着を、見てねぇ。

俺はそこまで思い浮かべると、アンニュイな気分も無くなって口元には笑みを浮かべてしまった。
まだ目的地には時間がある。そう考えると、俺の体は疲れを思い出したのか瞼が急に重くなってきた。

心地良く感じるようになったバスの振動も手伝って、俺はすぐに眠りについてしまったのだった。




駅に到着。皆寝ていたせいか、顔が寝起きだ。加奈子なんかはしきりに欠伸をしている。
沙織と黒猫はここから電車なのでお別れだ。

「よし、それでは拙者達はここで失礼するでござる」
「そうね、そろそろ良い時間だものね」

そう言うと、二人は名残惜しげも無く改札口に向けて歩き始めた。

「おい! 今日は楽しかった、サンキューな!」

俺がそう言うと、二人は振り返っていつものように笑った。
そして互いに手を振って別れる。



「よし、俺達も行くか」
「いや、加奈子はここで良いよ、家近いし」
「そうか?」
「おう、でもさ」

加奈子は俺の袖を少しだけクイッと引っ張る。夕焼けのせいで赤くなった顔で上目遣いをしてきた。
うぐっ、か、可愛いじゃねぇか

俺は少し動揺しながらも、なんとか聞き返す

「な、なんだよ」
「今日さ、ほとんど遊べなかっただろ? だから今度さ、一緒に遊びに行かね?」
「なんでだよ」
「なんででも!」

ほとんど強制な加奈子の態度。でも、そんな加奈子に誘われて嬉しがっている俺がいるのもまた真実だった。
だから俺は苦笑いして、仕方なくっていう体をしながらも了承してしまった。

「分かったよ、仕方ねぇな」
「へへ、絶対な! 絶対だかんな!」

そして加奈子は、帰ったらメールする、と言ってダッシュで帰っていった。
仕方ねぇ奴だな…と思いながら帰ろうと桐乃を振り返る。


かなり怒っていました。


なんで怒ってるんだ、と聞く暇も無く桐乃俺の頬に一発紅葉を散らしてくれると、ずんずんと歩いていく。

「それ、ちゃんと家まで運んでよね」

桐乃はちょっと振り返ると、地面に置かれた荷物を指差してそう言った。
そこには当然等身大のメルルフィギュアもある。

「ま、待て桐乃。これを俺が運ぶのか?」
「当然でしょ。さっさとしてよね、早く家に飾りたいから」

それから桐乃は俺の、待ってくれという言葉に耳をかさず、さっさと歩いていってしまった。

「結局俺が運ぶんかぃぃぃぃ!!!」

帰りに俺がどんな視線を向けられたかは、各自の想像に任せる事とする。









fin

60間違えた…orz
気にしないでもらえたら嬉しい。

あれっ? 勢いが止まっているぞ

>>86

あやせ「お兄さん、勢いが止まってるって言われてしまいました」

京介「人がいないんだからしょうがねえだろ」

あやせ「お兄さんがあっちこっちの女の子に手を出した結果がこれなんですよ!」

京介「そうかもしれねえけど……。俺にだっていろいろ事情ってもんが……」

あやせ「ブツブツ言ってないで、少しは反省してください!」

京介「反省してます! だから俺の腹にローソク垂らすのやめてくれ、ほんと熱いんだよ!」

よし、とりあえずやれるとこまでやってみる

>>109
その意気だ。
それまでの場繋ぎくらいはしとくから。
さて、新スレにははじめて投下。
原作9巻『突撃・乙女ロード!』の続き。
次レスよりいきます。


「ねえ・・これみて」

せなちーとの通信を切ってすぐ。
あたしは京介の部屋に行くと、さっき教えてもらったURLを京介のパソコンに打ち込んだ。

「・・・なんだこりゃ?」

ディスプレイを見ながら呟く京介。
そこにはさっきせなちーに見せられたのと同じホモ系イラスト・・・京介が桐乃くんとやらに襲われているシーンがデカデカと映し出されていた。

『突撃・乙女ロード!after』


「・・・お前はこれを俺に見せてどーしろと言うんだ?」

呆れたような声音で言う京介。
・・・まったくおんなじリアクションだあたしと。
ま、まあそうだよね。
べ、別に疑ってたわけじゃないよ、うん。
セ、せなちーがあんまりにも断言してくるもんだから、ちょっとね。
ちょっとした確認みたいなものよ、うん。
まっさかせなちーのお兄さんとなんて・・・。

「・・・なんかおぞましいこと考えてないかお前・・・?」
「べ、別に!?」

あぶなーい!
どうやら顔に出ちゃってたらしい。
ドン引き気味な表情の京介から視線を逸らし、そっぽを向いて動揺を隠す。
・・・大丈夫だよね、京介?

「あの、さ・・・」
「ん?んだよ?」
「・・・せなちーのお兄さんとは・・・」
「なんか怪しいと思ったらやっぱりか!!なんもねーよ!?」
「だ、だよねー・・・あ、あたしは信じてるよ?」
「なにまだ少し疑ってます的な空気出してんのお前!?ホントに何もないんで勘弁してください!!」

ああ・・・このツッコみ具合は本当だ。
よかった・・・。
ウチの兄貴は、まだそっちにいってなかった。

「まだ健全だね・・・兄貴・・・」
「なんで泣いてるの!?俺はずっと健全だよ!?とりあえず戻ってこよーか妹!?」
「だって・・・せなちーがあんまりにも自信満々にゆーから・・・」
「あの女の脳みそは腐ってんだから信用するなよっ!!」
「だって・・・赤×京は世界を救うって言うし・・・」
「それで救えるのは腐海に沈没した特殊な世界だけだから!!てか、お前もそっちに行っちまってんじゃねーだろなっ!?」

本気で京介が心配してきたので、それはないと強く念を押しておいた。
・・・少しだけ興味があることは黙っておこう。


「・・・まあいいや。んで?」
「え?」
「この不快なイラストはどーゆーことなんだよ?」

ピッと親指でディスプレイを指しながら京介が聞いてくる。

「ふ・・・不快って?」
「とぼけんな。これ・・・受け側どーみても俺だろ!?」
「うえっ!?」

京介の指摘に、あたしは思わず身構えるような体勢で一歩引き下がった。
す、するどい・・・。
思わずゴクリと喉が鳴る。
初めて見るホモ画像。
その片割れが自分だと見抜くなんて、とても普段のこいつからは考えられない鋭敏さだった。
・・・そう。
今あたしは、とても恐ろしいことに気づいてしまった。
あたしはざっと引いた姿勢のまま京介にとりあえず聞いてみた。

「あ・・・あんた」
「んだよ?」
「なんでそんな簡単にホモ画像の自分を受け入れちゃってるわけっ!?」
「うおお、しーまったーっ!!!」

あたしの指摘に、頭を抱えながら明らかに動揺する京介。
その反応に、あたしの中の疑惑が確信に変わっていく。

「やっぱ・・・あんた・・・」
「違う!落ち着け!!これには深いわけが・・・!!」

ぶんぶんと必死に手を振りながら否定する京介に、あたしは・・・精一杯の優しい笑顔を浮かべた。

「ううんいいよ・・・京介。もういいんだ・・・」
「なにがもういいんだ!?てゆーか受け入れるなマジで!!とりあえず、その慈愛に満ちた泣き笑いの表情やめてください!!」

その後すったもんだあった挙句、どうにかあたしは京介の説明に納得がいったのだった。

「へえ。ガチホモRPG ねえ・・・」
「そーだ。そこで一回俺は、自分がモデルになったおぞましいイラストを見せられてるんだよ・・・」

聞けばあたしの留学中の話で、ゲー研にて黒いのとせなちーが、お互いに企画を出して競い合った時のことだとか。

「ちなみにどんなイラストだったの?」
「聞くな」

即答した京介は、なにやら頭を抱えてがたがたと震えている。
・・・どうやら相当なトラウマになってるみたいね・・・。
とりあえず、時折聞こえてくる「肉○器・・・輪○・・・」などの単語は華麗にスルーしとこう。うん。

「なるほどねー」

あたしは京介のベッドに倒れこみながら、今までのいきさつをようやく理解していた。
・・・しっかし、あんの腐海女子。人の兄貴になんてことしてくれてんのよ。
今度会ったら、それなりの目にあわせてやる。
具体的にはメル×アルのガチレズ本をこれでもかと読ませる。
決定。


「・・・でよう?」
「うん?」

あたしが密かにせなちーへの復讐を企ててると、ようやく立ち直ったのか、京介が再び声を掛けてきた。

「なに?」
「結局・・・このイラストはどーいうことなんだ?」
「あ」

そういえばそうだった。説明がまだだっけ。
んー・・・なんかもう面倒くさくなっちゃったなー。
せなちーのフォロー入れるのもなんか癪だし、とりあえず洗いざらい吐いちゃおう。

「いや実はね・・・」

あたしはせなちーが、乙女ロードで嬉々として話した、京介の人物像(腐女子補正有)についてとつとつと語ってみせた。

「なんだよ凄まじいまでの受けオーラって・・・ネコ耳着けたいとか、あいつの脳内で俺、どうなってるんだ・・・」

案の定京介は、ぐったりと疲れたように肩を落としてうなだれていた。
精神的にかなりキタのだろう。
幾分やつれたように見えた。
もしくはコーナーでぐったりと座り込んでる、ダウン寸前のボクサー。

「いやーホントあんたって後輩に恵まれてるよねー」

しかしあたしはそのまま追い打ちをかける。
なんでって?
楽しいからに決まってんじゃん。

「ああ・・・お陰様でな・・・」

応える声にも力がなく、あたしは益々ヒートアップ。

「邪気眼電波に腐れ脳の巨乳だもんねー・・・次あたり、高慢ちきな勘違いお嬢とか来るんじゃない?」

にやにやと笑いながらあたしはからかうように京介を嬲る。
ああ楽しい。
しかし京介はあたしの言葉に、

「・・・」

と、無言で視線だけを向けてきた。

「・・・なにその目?」
「いや別に・・・」

京介はなにやら意味深に、ため息交じりに呟いてから言葉を続けた。

「・・・あと、少し病み気味のモデルとタメ語上等のちんちくりんもいるな」
「あー確かに。いやーホントあんたって一癖も二癖もあるのばっかり周りにいるねー」

あたしはバタバタと足でベッドを叩きながらケラケラと笑った。
笑い過ぎて涙まで出てきた。
その時、ここぞとばかりに嬉々として京介をいじり倒しているあたしに、ぼそりと呟く声が聞こえた。

「・・・まあでも」
「ん?」
「全部お前の友達だけどな」
「うぎ!」

思わぬところからの反撃に、あたしは笑顔から一転、渋面を作る羽目になった。
うう・・・素で気づかなかったよ。

「そ・・・それはそうだけど・・・」
「良かったじゃないか。いい友達に恵まれてて」

ニヤリ、と笑って重ねられた言葉に、あたしはますます渋面を深くする。

「ぐ・・・あんた、さっきの仕返しね?」
「さあな」

あたしの反応に満足したのか、京介はもうすっかり元通りになっていた。
うー、くやしい!
もう少し弄りたかったのにっ!

「しかしほんとに何してくれてんだろなあの腐れ姫は」
「腐れ姫?」
「赤城のこと」
「へーせなちーってそう呼ばれてんの?」
「いや直接じゃなく、ほかの部員の間での通り名みたいなもんだ」
「ああ。黒いのの邪気眼厨二みたいなもんね?」
「それはお前しか使わないし、お前は直接言ってるけどまあ概ねそんなもんだ」

兄貴はそう言うと、マウスを操作して件のイラストにカーソルを当てる。
しかし腐れ姫か。
なんというか、付けた人GJ.。

「しかしこれ、赤城の絵にしちゃ上手すぎないか?」

京介の言葉にあたしもイラストに視線を向ける。

「ああ。なんか凄腕絵師さん巻き込んで描かせたみたい」
「マジで?・・・意外にあいつのネットワークも広いのか?」
「まあ同好の士ってのは意気投合したら仲良くなるの早いからね」
「ああ・・・それはよくわかってるよ」

一瞬だけ兄貴が、優しげな眼差しであたしをみつめてきた。
その意図に気づいて、あたしはわざと大袈裟にそっぽを向いた。

「ま、まあ一般的な話だけどねっ!!」
「そうだな」

クスクスと笑いながら兄貴はあたしの言葉を軽く流す。
むー・・・なんかしてやられた感があって釈然としないんですけど?

「んでこれ消させたのか?」
「へ?」

あたしの返事に京介は言葉を重ねてくる。

「いやだってこれネットだろ?誰かに見られる前に消さねーと」
「あーそれ無理だって」
「な!?なんで!?」

落ち着いた様子から一転、ガタガタと椅子を蹴倒して京介が振り返る。
ああ・・・あたしも同じリアクションしたなー。

「んーなんかね?一旦ネットに流出しちゃうと、もう独り歩きして多岐に亘っちゃうんだって言ってた」
「ま・・・マジで?」
「マジで」

あたしがコクリと頷くと、京介は絶望したように頭を抱えた。

「あ・・・あんの雌ブタ・・・なんてことを・・・」
「まーどうせこれ見たって皆京介のこと知らないし平気じゃん?」

とりあえずありきたりの慰めの言葉を掛けてみる。
正直、今回こいつは理不尽な被害者なわけだし。

「そ・・・そうだよな。知り合いに見られることもまずないだろうし・・・見られても気づかないよな?」
「そういうこと。いくらこれが京介に似てたって、すぐそれって気づくのはよっぽどのことがない限り有り得ないって」
「だ、だな!腐った知り合いは赤城しかいないし、なら大丈夫だよな!」

ふー焦ったぜー、と安堵の息を吐きながら笑う兄貴。
その顔を眺めながら、あたしはにんまりと笑う。
なんだかほっこりとした気持ちを感じながら。

「まーね、あたしだってあんたと一緒のイラストに乗っかるのは嫌だけど、そこはまあ我慢するし」
「・・・はい?」
「ん?」

見ると、きょとんと京介があたしをみつめていた。

「・・・なんのことですか?」

「へ?いやだからコレ。あんたと一緒にいるイラストが流失なんて嫌だけど我慢するって」
「・・・」
「?どうしたの急に黙って?」
「・・・桐乃さん・・・」
「へ?」
「この俺を襲ってる相手・・・もしかしてお前なのかっ!?」
「ああああっ!!しーまったーっ!!」

あたしは思わぬ自爆に頭を抱えながら、どこかで聞いたような叫びを上げた。

NORMAL END

小ネタ落とし忘れた。
12/14だと思ってくれ。

京介「(今日は12月14日…赤穂浪士討ち入りの日か…)おい桐乃」

桐乃「なに?」

京介「今日はなんの日か知ってるか?」

桐乃「12月14日?」

京介「ああ」

桐乃「12…『良いにーにー』」

京介「……は?」

桐乃「14…『良いシスター』」

京介「……おい」

桐乃「つまりにーにーとシスターがいいことする日ね!?(ガバッ!)」

京介「うおい強引すぎっ!!」

京介「桐乃、今年ももうすぐ終わりだな。なんだかあっという間だったような気がするぜ。」

桐乃「ん、そうだね。この1年、アタシはともかく、あんたも少しは頑張ったんじゃない?」

京介「はっ、お前のせいで柄にもなく色々振り回されちまったからな。」

桐乃「楽しくなかった?」

京介「そんなわけないだろ。お前とまた仲良くなれて嬉しかったよ。」 ポン

桐乃「このシスコン・・」カァー

京介「桐乃、ありがとな。俺と一緒にいてくれて、すごく幸せだったよ。」

桐乃「お、お礼を言うのはこっちのほうだよ、兄貴。アタシのことずっと見守ってくれててありがとう。」デレ

京介「来年もよろしくな。」

桐乃「うん。」ニコッ

あやせ「という夢をみたんですが、お兄さん説明してください。」

過疎ってるみたいなのでゆっくりとSS書いてみます。

設定
・オリキャラ登場します。時系列としては、
あやせと喧嘩別れする前辺りからスタートします。

「俺の妹がこんなに可愛いわけがないに登場人物が一人追加されるわけがない。」

↓本編

ある日の午後・・

私こと高坂桐乃は親友のあやせとショッピングにきていた。

「桐乃ー、今日買いたい物ってそれで全部かな?」

「うん。しっかし、こんなに多くなるんだったら、あの馬鹿つれてきたらよかったな。」

「あの馬鹿って、もしかしてお兄さん?」

「あ、うん。あいつすっごいシスコンだからね。あやせは近づいちゃだめだよ?」

「優しそうな人に見えたけど?」

「んー、まぁ本当に極々稀に優しい時もあるんだけどね。でも基本あいつ私のこと無視してくるし。」

「アタシもあいつとは・・って冷た!」

「あ、雨降ってきちゃったね」

「そんなの聞いてないし!」

「多分、にわか雨だと思うよ?」

そうだね・・そう返事をして、あたしは親友とたわいのない会話を続けていた。

それから30分・・・

「なんで雨やまないの!余計ひどくなってきてるし!むかつく!むかつく!」

「桐乃・・落ち着いて」

「それに・・あの馬鹿電話に出ないし!妹のことが心配じゃないのかっての!」
せっかく傘持ってきてあげさせようと思ってたのに・・
電話に出ないとなると図書館で地味子と・・
あれ・・なんでアタシこんなにイラついてるんだろう?

「お兄さんが来てくれなくてさみしいんだ?」

「そんなわけ無いじゃん!ただこの辺コンビニ無いし、このあたしが雨なんかで待たせれるかと
 思うとムカつくわけ」

「天気予報では晴れだって言ってたしね。でも私は桐乃とこうやっておしゃべりできて嬉しいな。」

「桐乃は私といて楽しくないの?」

「わ、わたしもあやせとおしゃべりするのは楽しいよ!」

「ふふっありがと桐乃♪」
あやせに抱きつかれる・
あやせってたまにテンションがおかしくなるから怖い・・

「それにしてもはやく止まないかな。」
メルルまでには帰りたいのに・・そんな風に考えていると
突然後ろから声をかけられた。

「もし良かったらこの傘使ってください。」
いきなり声をかけられてしどろもどろになる。

「え、あの・・」

「あ、待ち合わせ中とか?」

「いえ・・急な雨で雨宿りしているところです。」
あやせが答える。

あやせってしっかりものだな・・なんて思っていると

「じゃ、この傘どうぞ。」

「貴方はどうするんですか?」

「僕は折りたたみがあるから」

そういって私達に今しがた使っていた傘を手渡して

走り去っていった。

「あ、名前・・」

「いっちゃったね・・」

私たちは一緒に走っていく金髪が揺れる後ろ姿を見送っていた。

そんな彼と思わぬところで再会するのはちょっとだけ未来のお話

「まぁ、せっかく傘かしてくれたんだし!帰ろっかあやせ♪」

「そうだね、桐乃〜」

私たちは家路につくのであった。

続く


「ふぁ〜眠ぃ〜」

俺の名前は高坂京介。どこにでもいるような高校2年生だ。
好きな言葉は平穏・・なのだが・・最近俺の妹様のせいで
その平穏が脅かされている。


「人生相談があるの。」

その言葉を聞くたびに俺は、妹に振り回され、
オヤジに殴られたり、妹の親友には変態呼ばわりされ
散々な目にあっている。
まぁその奮闘記については、また機会があったら話してやるよ。

しかし。それでも・・その後の嬉しそうな顔を見ると
「悪かねぇな」なんて思っちまうわけよ。

いままでお互い無視し合って暮らしてきたのになんでこんな風に
思っちまうのかね?これも兄貴の性ってやつなのだろうか。

昨日も深夜までシスカリとかいうゲームに付き合わされて
眠いったらありゃしない。
しかも、
「こんなに可愛い妹が相手してあげてるんだからアンタもっと喜びなさいよ!」

なんて言って来やがる。

「誰が喜ぶか!」

っていったら、

「えー?アンタ、シスコンで、アタシのこと、大、大、大好きなんでしょ?この変態!」

変態呼ばわりされるのはお前のせいだろ!なんてことは言えず、結局朝の5時まで相手をさられたわけだ。 

187 一番下の行「さられたわけだ⇒させられたわけよ」

今日はそんな妹様も朝から仕事に出かけて家にはおらず(あいついつ寝てんだ)
両親は二人でデートなんだとさ。
そんなわけで、現在俺は一人家で勉強中。(ぼっちってわけじゃないからな。知り合いはみんな用事があったんだ。)

「一息入れますか」

そう思ってリビングにおり、冷蔵庫を開けた時に事件が発生。

「む、麦茶がない!」(そこ、何が事件だなんていうな!俺にとっては大事件だ)

「仕方ない買いに行くか」

俺は財布をもって、コンビニへと向かった。

コンビニに向かう途中、通りがかった公園から
綺麗な音色が聞こえてきた。

「コンサートでもやっているのかね。」

そう思って俺は公園に足を踏み入れた。

しばらく歩くと公園のベンチに一人の少年が座っているのが見えた。

きれいな金色の髪をした少年は銀色のフルートで美しい音色を奏でていた。

俺は向かいのベンチに座り、その音色にしばらく浸ることにした。

しばらくすると音色が止んだ

少年が俺に気がついたようだ。

「僕の演奏いかがでした?」

「え、いや、なんというか心に響く音だったよ」
俺は慌てて返答する。正直俺は音楽ってのがよくわからない
いまの答えで大丈夫だろうか・・なんて思っていると

「ふふ ありがとうございます。」
どうやら正解だったようだ。

もう一曲聞かせてくれないか。そう言おうとする前に彼の表情が変わっていく。

「あれ・・もしかして・・京介さん?」

「あぁ・・俺は京介だけど、どこかであったことあったっけ?」

「やっぱり、京介さんか。ちょっと昔と雰囲気が・・いや、なんでもないか。」

「ん?」
最後の方が聞き取れなかったけど、どうやら向こうは俺のことを知っているようだ。

「僕のこと覚えていませんか?」

改めて彼のことをよく見てみる。

髪は金色で、背は桐乃やあやせよりちょっと高い位か。
昔、赤城の家でゲームしてたときに見た
テイルズシンフォニアに出てくるミトスのような感じだな。

このこと会った事って・・
俺は頭の中を検索していく。

・・・・・・

・・・・・

・・

「僕・・・一人ぼっちなんだ・・」

・・・・

俺が・・

・・・

「俺がついててやるからな。サコ・・」

サコ?サコシ・・

「お前・・・もしかして、あの、サコショーか?」

「思い出してくれたんですね。」

「えらく久しぶりだな。元気だったか?」

「はい。本当にお久しぶりです。京介さん・・」

彼の名前は佐古下翔。
年齢は俺の一つしただけど、一緒に遊んでいたっけな。

色々あって彼は俺になついていた。・・それからまた、
いろんな事情で確か遠いところに・・

「それで、ようやくこの街に戻ってくることができたんです。」

あのあと、一旦分かれて俺は麦茶を勝手自宅に戻っていた。

そのあとややあって彼は、俺の部屋へやってきた。

そこで、俺たちは近況報告をしていたわけだ。

「それで、今、京介さんは充実してるわけですね」

「どこをどう聞いたらそうなる。」

「だって、京介さん、いやいや言ってましたけど、すっごく楽しそうじゃないですか?」

「へっ。まぁ、あいつのおかげで新しい知り合いもできたわけだが。」

「まぁ、一般的に言うオタクって偏見もたれていますけど、いろんな人がいますからね。」

「そうなんだけどな。でもオタクを嫌ってる人が多いのも事実なんだよな。」
世間がこうも騒がなければ、桐乃も趣味を大ピラにできただろうに・・
そうすれば俺が首を突っ込むこともなかったはずだ。

俺が憤りを感じていると

「全く、馬鹿みたいですよね。実際に見たこともない癖に、世間の報道を当たり前に受け入れて」

「自分の考えをもたず、凶弾する奴らを見てると不快に感じます。」
話を聞くと彼自身はそういう趣味はないようだが、自分で考えずに悪とレッテルを
貼る行為を好かないようだ。

「確かにその通りだな」
全く、あやせに聞かせてやりたいぜ。

話もおいおいにして、
彼がもってきたゲームをすることになった。

「カルドセプト」っていうカード(ボード?)ゲームなんだが
これがなかなかどうして面白い。

気がついたら夕方になっていた。
勉強?まぁ一日くらいサボったって問題ないだろう。
一応専用の家庭教師が付いてるおかげで俺の成績は悪くはないんだ。

「えっと・・サコ、そろそろいい時間だけど、今日はこれで終わりにするか。」
ゲーム中にお互いの呼び名の話し合いがあって、
俺は昔の呼び名と違って呼びやすいようにサコと呼ぶことにした。
ただ、サコの方は、目上だから親しき仲にも礼儀ありとのことで
俺の呼び方は変えないようだ。

「そうですね、終わりましょうか。」

「そういえば、京介さん、今日ご両親帰ってこないんですよね」

「夕食はどうするんですか?」

「妹の分とお金もらってるから、弁当でもかって食べるつもりだけど?」

「良かったら僕が何か作りましょうか?」

そう言って彼はリビングへと降りていった。

「おい、いいぜ、そんなに気を使わなくても」

「別に気なんか使っていませんよ。僕がしたいだけです。これでも料理好きなんですよ?」

「でも食材あったかな」

「実はここにくる途中かってきて、ここの冷蔵庫に入れておきました。
そういえば来たときしたで物音がしてたな。

「お前なぁ・・人のうちの冷蔵庫勝手に開けるなよ」

「ごめんなさい。でも、そのかわり美味しいもの作りますから。」
そう笑顔で言われると、これ以上文句を言うわけにはいかない。

「じゃ、一つよろしく頼むよ」

「はい、楽しみにしててください」

俺はリビングのソファーで完成を待つことにした。

サコが料理をはじめてからしばらくして、玄関の方が騒がしくなる。

・・じゃまします。

いいの・・親いなく・・馬鹿しかいないから・・

そうなん・・二人・・

あれ・・知らない靴が・・
バン!
と、そこでリビングの扉が開く。
そこから件の妹様が顔を覗かせる。

「お、おかえ・・「玄関に知らない靴があったけどアンタ誰か連れ込んでるの!」

「もしかして地味子?家に誰もいないからってキモ!」

「地味子いうな!それからあいつじゃねえよ、俺の昔のダチがきてるだけだ」

そんな言い合いをしていると、もう一人入口から顔を覗かせる。

「こんばんは。変態のお兄さん。」

「あ、あや・・いや新垣さん。こ・・こんばんは。」
妹の親友新垣あやせ

いろいろあって俺のことを近親相姦の鬼畜変態兄貴と思っている。
そんなこともあって、俺はこいつのことが苦手だ。

「あやせでいいですよ?お兄さん。それともなにかやましいことでもあるんだすか?」

「今日、桐乃と二人きりだそうですね。もし、桐乃に手を出したら私お兄さんのことをぶち○しますよ?」
怖ぇー 怖いっすよ あやせさん・・

「いや・・なにもありませんよ・・あやせ・・さん?」

「本当ですかね?」
目が怖いです。

「で、こ、こんな時間にどうしたんだ?」

「今日、桐乃から両親がいないって聞いて、それなら私が夕食作ってあげるよって話になったんです。」

「あやせの料理ってかなり美味しいんだ。」
あの容姿で、家庭的ときたか。これで性格ももうちょっと改善されたら
素敵なのにな・・なんて思っていたら

「なにか失礼なこと考えてませんかね?本当にぶち○されたいんですか?」
なんで俺はこんなに心を読まれるんだ?

「あんたの顔に出やすいからね。馬鹿じゃん!」
そりゃぁお前もだろうがよ・・

「まぁ、それでせっかく作るわけですし、お兄さん一人だけ仲間はずれにするのもいじめてるみたいですし」

「一緒に食べるのは嫌ですけど・・この前のお礼も兼ねてお兄さんの分をつくってあげます。」
そう言うとあやせは食材を取り出し始めた。
でも今の話の中で一つ気になることが、お礼ってあやせまさか俺の嘘に・・

とそんなことを考えていると、

「あれ、桐乃だれか台所つかってるみたいだよ」

「え、お母さんはいないし、まさか泥棒?」

そうだ、サコのことを忘れてた。

「いや、さっき言った俺のダチだ。今日両親いないっていったら、晩飯つくってあげるっていわれたからさ」

「やっぱり!女連れ込んでんじゃん、この変態!」

「ちげーよ、男だ男!」

「お兄さん、桐乃に相手されないからって男の人に手を・・」

「そいつもちげーよ!」
そんな風にさわいでいると、台所の方からサコが顔をだした。

「京介さん、誰か来てるんですか?」

台所の方から声がして桐乃とあやせが振り返る。
そして、
「「あっ」」
二人して声をあげた。
そして・・・

「へぇー、じゃあ前にサコに助けてもらったのか」

「うん、でも、まさかあんたの知り合いだったなんてね」

今リビングには手前に俺とサコ、奥に桐乃とあやせが座っている。

机の上にはサコとあやせが作ってくれた料理がならんでいる。

「んー♪このハンバーグ柔らかくて美味しい〜」

「ホントだうめぇ。これはサコが作ったのか?」

「はい。喜んでくれてうれしいです。あ、こっちのサラダもドレッシングの風味が効いてて美味しいですね。」

「こんなのうちじゃ絶対食べられないね!これはあやせが作ったの?」

「うん。新垣家秘伝のドレッシングなんですよ」

「このスープも美味しいし、新垣さん、本当に料理お上手ですね。」

「いえいえ、佐古下さんこそ、それから私のことは あやせ でいいですよ?」

「ごめんなさい。いきなり馴れ馴れしく呼ぶのはどうも苦手なんです。」

「まぁ無理にとは言いませんが・・」

「まぁ、僕は呼びたいように呼ばせてもらいます。お二人も僕のことをサコショーとか
 好きによんでくれて構わないですよ?」

なんて話をしていると、急に俺に火種が飛んでくる。

「それにしても佐古下さんがこのバカ兄貴となんで仲いいか不思議だな。」

「ええ、全くです。」

おいおい本人目の前に二人してその言い方はないだろう・・
俺だって泣いちゃうよ?

「そんなことないですよ。京介さんはすごく素敵な人です」

「素敵〜?こいつがぁ〜?まじありえないんですけど〜」
そう言うと桐乃は憎たらしく笑い出した。

俺コイツのこと殴っていいかな?いいよね?

「それに僕は京介さんに救われたんです。」
そういうと・・さこは懐かしいものを見るかのように天井を見上げた。

それから食事も進み、片付けも終わった頃、テレビでも見ようかと
リモコンを手にとった。
この行動がこのあとの小さなトラブルに巻き込まれることとなる。

>>196
ごめんなさい。
書き溜めてから投下します。

グダグダで読みにくくて済みません。

一旦話が切れるところまでかけたので投下します。
続きの構想はあるので時間があるときに後日投下します

テレビをつけると、丁度ニュース番組がやっていた。

「本日秋葉原でナイフを持った・・」

あやせにでもみられてはまずい。俺は慌ててリモコンを手に取る。

焦っていたのだろう。リモコンを落としてしまった。

その音にみんなが反応する。一瞬ひやっとしたが、

いまテレビに写っているものはドキュメンタリー番組どうやらチャンネルは変わっていたようだ。

ほっとしたのも束の間、番組の内容を見て愕然とする。

・美少女ゲームにハマりすぎて引きこもりになった少年にせまる
・実録「オタクに襲われて心に傷をおった女の子」
・専門家による「・・・ゲームが精神に及ぼす影響について」
etc

簡単に言うとオタクを非難するドキュメンタリーだった。

リモコンを広いチャンネルを変えようとするが

「待ってください」
あやせの冷たい声が響いた。

「ど、どうしたの・・あやせ・・?」
桐乃がたどたどしく尋ねる。

「ねぇ桐乃?一緒に見ようよ?」
いつかのような光彩を失った瞳で答える。

「えと・・」
桐乃は返答に困った様子で、流し目で俺を睨みつけてくる。
助けろということか。

俺は決心してあやせに声をかけようとするが、

「お兄さんは黙っててください」
あやせに一蹴される。

そんな雰囲気の中、サコが俺に向かって、

「折角だし、京介さんも一緒に見ましょ?」
なんて声をかけ椅子を差し出してきた。

20分ほどで番組が終わり、俺は一息をついた。
どうやら相当緊張していたようだ。
だって番組中誰も喋らないんだぜ?

「やっぱり・・こんな汚らわしいもの存在してはいけないんですね・・」
ふと、あやせがそう呟く。

「桐乃、やっぱりあんなのやめようよ?お願いだから」

「で、でも・・てか、あやせ納得してくれたんじゃなかったの?」
あやせと桐乃が再び険悪な雰囲気になる。

「おいちょっとまて、あやせ、あれは俺の・・」

「そうでしたね、あれはお・に・い・さ・んのものでしたね!!」
「あんなもので桐乃を汚して、さっさと処分してください。お兄さんができないのでしたら私がお兄さんと一緒に処分してあげます!」

あやせが鬼の形相で迫ってくる。どうする俺・・考えろ・・考えろ・・

その時、

「どうして捨てないといけないんですか」
サコがきょとんとした顔であやせに尋ねる。

「どうしてって・・貴方もあの番組をみたでしょう?あんな汚らわしいものをもってたら桐乃も犯罪者になってしまいます。」
「親友の暴挙を止めるのは当然でしょう?」

「でもさ?番組では断言してなかったよね?確かにああいったものと犯罪に関連性はないってことは僕には言えないけど」
「絶対に関連してるとまでは言えないんじゃないかな?」

「でも、犯罪を犯す人ってああいういかがわしいモノに興味があるって」

「だったら、ほかに共通点があるかもしれないよ?例えば皆野菜を食べてると思うよね」
「新垣さんはもし、野菜を食べることと犯罪性に関連があるかもしれないって言われただけで野菜を食べないの?」

「それとこれとは話が違います!」

「それとさ、君自身はああいうことで被害にあったことはあるの?」

「それは・・ないですけど・・でも!」

「それにさ、君は自分で判断したの?ああいうものを読んだりとか触ったりとかして」

「そんなの触れるわけないじゃないですか!この変態!やっぱり変態のお兄さんのお友達なことはありますね。」

「変態かぁ〜そうだね、僕は変態なのかもしれないね。でもそういう君はあれだね、思い込みの激しい妄想気○い女さんだね」
場が凍りついた。それからぷっつんと音がなった気がした。

「だ、誰が妄想気○い女ですかぁ!!!」
そう叫ぶとサコに飛びかかり、ハイキックを繰り出した。

「あ、あやせ!」
桐乃が叫ぶ。

「あやせ、まて、はやまるな」
俺は慌てて止めに入ろうとしたが、一足遅くあやせの蹴りがサコに命中した。

俺はとっさにサコ倒れるであろう場所に移動し受ける体勢を取る。

しかしサコは倒れてこない。

恐る恐るサコに目をやると、サコの手があやせの足を抑えていた。

「くぅ・・」

「なかなかいい蹴りみたいだけど、ごめんね、これでも僕合気道とか武術やってたんだ」

「は、離してください!」

「わかった。でもさ、これだけは覚えておいて欲しい、結局さ、なにをやるにしても判断するのはその人自身なんだよ?」
「君の親友はさ、ああいったものくらいで、犯罪に走るような子なの?」

「桐乃が・・桐乃が・・桐乃がそんなことするわけないじゃないですか!」
あやせが泣きながら答える。

「あやせ・・ありがと」
桐乃が微笑む。

「あ、さっき言ったことごめんね?ちょっとかっとなっちゃった。」

「私もごめんなさい。いきなり飛びかかっちゃって」
こうして今回は俺が出るまでもなく解決の方向に向かっていった。

そして、
「おじゃましました」

「おう、サコまたな」
サコはこの後、用事があるからといって帰っていった。

「じゃあ、私も今日は帰るね」

「うん、またね、あやせ」

「気をつけてな」

「お兄さん、桐乃になにかしたら承知しませんよ。」

「わかってるって・・」
もう2度とあやせ様を怒らせないようにしないとな。

「そういえばさ、あんたあの時しゃがんでたじゃん。」

「あぁ・・サコを受けようと思ってな。」

「ふーん・・でもあんたさなんかちょっと顔赤くなかった?」
やばい・・この流れはまずい・・

「お・に・い・さ・ん?もしかして私のスカートの中見たりしてないでしょうね?」

「み、見るわけないじゃないか・・」

「そうですか・・それはよかったです。お兄さんに今日はいている赤のレースのパンツなんか見られたとしたら」
「どうしようかと思いました。」

「え・・赤のレース?・・白っぽかったような・・」
あ・・俺のバカ!

「お兄さんやっぱりみたんじゃないですか!この変態!」

「あんた!ひとの友達になにしてくれてんのよ!」
このあとどうなったかはご想像におまかせするぜ

その夜・・・

「痛ててて・・あいつらちょっとは手加減してくれても・・」
「はぁ・・今日はもう寝るか」

その時携帯電話からメールのお知らせが届く。

だれだ・・?ってサコか

佐古下

件名:今日はありがとうございます。

本文
京介さんへ
今日は久しぶりに京介さんと遊べて
楽しかったです。また、今度一緒に
遊びましょう。
             佐古下

そうだな・・また一緒に遊ぶか。
あいつのことだ、俺や桐乃の友達とも仲良くなれるだろう。
今度は黒猫や沙織もまぜて秋葉原にでもいこう。
・・・

またひとり、俺の物語に登場人物が増えたな・・

ふと、そんなことを思いながら眠りにつくのであった。

続く

くっ、クリスマス物間に合わなかった…

>>220
あきらめたらそこで試合終了ですよ。

ほらまた明日もあるよ。

タイトル『忘れられないクリスマス』
↓「クリスマスねえ・・・今日も今日とて受験生には関係ない話ですよっと」

高校最後の冬休みに入って数日。
世間様は、今立川に住んでるとかいう神様のお祝いとやらで大はしゃぎだ。
かくいうウチも例外ではなく、お袋は夕方からご近所の奥様方とクリパ(BBA 無理すんな)だとか言ってカラオケに繰り出して行ったし、親父は年末の警戒強化だとか。
桐乃はもちろんというか、さすがに人気者らしく、クラスでのパーティー・読モ仲間でのパーティーなど引く手数多だ。
要するに、多少毛色は違うのも混じるが、ウチの中もクリスマス一色なわけだ。
俺以外。

「・・・はあ」

椅子の背もたれに体重を預けながら小さくため息をつく。
・・・俺だって何も好き好んでこうなったんじゃねーや。
ただ・・・悉く振られただけだ。
思い出すだけで泣きたくなる。
以下こんな感じで断られた。

○黒猫「あなたとは1度形とはいえ別れているわ。そんな二人が一緒にいるのはおかしいでしょう?」
○沙織「いやー申し訳ござらん京介氏。その日拙者、槇島の方のパーティーに出なくてはいかんのでござるよ」
○麻奈実「ごめんねー京ちゃん。今年はおじいちゃんがケーキ売りまくるんだーってすっごくやる気なの。だからお手伝いしなきゃなんだー」
○あやせ「何故私がお兄さんと?ありえません」
○加奈子「おまえばっかじゃねーの?その日、加奈子はメルルのクリスマスパーティーLIVEの真っ最中だっつの」
○赤城「おう悪い高坂。クリスマスは瀬菜ちゃんとデートなんだ」

「・・・赤城にまで振られたのが地味に痛え・・・」

なんだか友達が一人もいないボッチの気分だよ・・・。


またため息をつきそうになってあわてて頭を振る。
あーいかんいかん。
気持ちが落ちたらやる気も落ちる。
せっかく勉強すると決めたんだから、こんな気分じゃ意味ねーじゃねーか。
ちらりと卓上の時計に目をやると夕方6時。
よし。
確かお袋が夕飯代だと言って置いて行った金がリビングにあったな。
クリスマスだから奮発したのかその額5千円。
桐乃もいると思ったのかもしれないが、残念だな。俺の一人占めだ。
よし、それで滅多に食べないピザなど頼んじまおう。
普段は高すぎて手が出ないが、あいにくとこれは泡銭だ。
パーッと使っちまうに限る。
おお、そういえばたしかクリスマスセットなるものもあったか。
ピザにチキンにドリンクまでついているなんとも豪勢なやつだ。
あれにしよう。あれに決めた。
よしよしなんだか楽しくなってきたぞ。
そこまで来たら、親父等の寝室にある親父愛飲のブランデーも少しいただいちまうか。
なーにほんの少しだわかりゃしねーって。
皆どうせ帰ってくるのは遅いんだからその前に寝ちまえばいい。
酒の匂いなんぞ気づきゃしねって。

「うしっ!せっかくのお祭りだ。俺も少しは味わわせてもらうぜ!」

そうと決まればさっそくピザ屋に電話だ。
俺は携帯を取り出してかけようとしたが・・・。

「・・・っと。先にチラシで確認しとくか。クリスマスセットのやつ」

頼んでもし『そんなのありません』じゃちょっと恥ずかしいしな。
俺は一旦携帯を閉じると、部屋を出て階段を降り始めた。
古新聞は確かキッチンにまとめてあるはずだからっと・・・。
リビングのドアに手を掛けカチャリと押し込む。

「え?」
「電気電気っと」

俺は手さぐりで電気のスイッチに指を掛けた。
カチッと言う軽快な音とともにパパっと23度瞬いてから電気が付く。

「・・・は?」

そこで見た光景に思わずマヌケな声が漏れた。

「い・・・」

なにしろ眼前には。

「いやーーーーっ!!」

ほぼ下着姿の女が何人もいたのだから。


「な・・・ななな?」

い、いかん!あまりの事態に頭がパニックだ。
だがしかしそこは男の性。
状況は理解できなくても、状況を凝視してしまうことはできるのだ。
お・・・おお・・・。
なんだこのレパートリーに富んだ肢体の数々は。
肉付きの良いのからほっそりしたしなやかなボディ。
中にはツルペタまでいるじゃないか。

「おおお・・・」
「っ!いつまで見続けてんのよ!?この変態っ!!」
「え?その声桐・・・」

はっと我に返って目を向けた先。
そこには視界いっぱいに広がる拳が見えていた。
そのあとリビングから叩きだされた俺は、桐乃が声をかけるまで正座といいつけられて、くそ寒い廊下で震え続けた。
どれくらい経ったか、歯の根が合わなくなってきたぐらいにようやく声をかけられた。
部屋に招き入れられた俺は、思わず『おおっ』と感嘆の声を上げた。
なにしろそこには、大小さまざまな美少女サンタが俺を出迎えてくれたんだからな。

「な・・・なんだよこれ・・・」

思わず呆然と呟いた俺の背後。いきなり肩を掴まれた。

「なににやけてんのキモい」
「き、桐乃?」

振り返って見た俺は一瞬思考停止してしまった。
見慣れているはずの妹が、全くの別人のように見えた。
首に結ばれた赤いチョーカー。
肩を大胆に露出した半袖のサンタ服。ご丁寧にヘソチラ付きだ。
そしてすらっとした足を、惜しげも無くさらけ出す超ミニスカ。
動いたらパンツくらい見えそうだ。
とにかく、普段とは見紛うばかりの超絶美少女サンタがそこに立っていたんだ。
呆けるくらい普通だろう

「な・・・なにじろじろ見てんのよ・・・」
「京介さんは、きりりんさんの可愛らしさに見惚れていたのですわ」
「えっ!?」
「んな!?」

誰だそんな本当のこと暴露してくれやがるの・・・は・・・。

「さ・・・沙織・・・さん?」
「はい」

小さく小首を傾げながらニコッと微笑んだのは、紛れもなく沙織・バジーナこと槇島沙織だったのだが・・・。


「お・・・うおおおおおっ!!」

こ、これはヤバい!!
なにがヤバいってまず胸元!
ちょうど胸の谷間が見えるあたりが大きくハート形に切り取られているデザイン!!
そこにこれでもかと主張する双丘の膨らみ!!
なまじ体にフィットさせる造りなのがよりその胸を強調している・・・。

「は・・・半端ねえ破壊力・・・」
「お・に・い・さ・ん?」
「うおわっ!!」

いきなり視界に飛び込んできたもの。
それは左の頸動脈に当てられた、鈍く光る・・・ナイフ 。

「あ・・・あやせ・・・か?」
「・・・今・・・破廉恥なこと・・・考えてませんでしたか?」
「か、考えてない!全然まったくこれっぽっちも考えてないぞ!!」
「そう・・・ですか。それならばいいんですけど?」

その言葉と同時にスッと首筋から感触が消える。
やべえ。別の意味でやべえ。

「拙者の胸はそんなに魅力ないでござるか?」
「う・・・お・・・目の前で寄せて・・・」
「お兄さん?」
「いいえなんでもありません!!」

死神の目の前で俺を弄ぶなオッパイ女神!!

「いやいやほんと。これっぽっちも・・・」
「?どうしました?」

振り返った瞬間思わず呟いたね。

「・・・ラブリーマイエンジェル・・・」
「っ!!お、お兄さん!?も、もうからかわないって言ったじゃないですか!?」
「すまねえ・・・マジ本心から出た言葉だ・・・」
「泣いた!?」

いやだってよ・・・本当に天使に見えたんだもん。
ノースリーブのサンタ服から伸びる柔らかそうな腕。
チラチラ見える脇がまた艶めかしい。
両手を覆う真っ白な手袋は、あやせの純潔の表れだろうか。
なんにせよ、死神なんて思ってごめん。
あやせたんマジ天使。

「ありがとうございました」
「な、なんでお礼を言うんですか!?も、もう相変わらずですね・・・」
「ははすまん。でもマジで可愛いよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
「あらあら。元恋人の前で見せつけちゃってくれるわねえ・・・」
「く、黒猫!?」

ぎくりとして声の方に振り返る。


「まったく節操のない雄だこと」
「・・・」
「?どうしたの?」
「・・・は!わ、悪い!・・・見惚れてた・・・」
「なっ!?ま、またそんな調子のいいこと言って・・・」

いや・・・本当に見惚れてた・・・。
今日ばかりは黒猫もみんなと同じサンタコスだ。
だが・・・基調が赤と白でなく、黒と白なのだ。
しかしそれが・・・黒猫に実によく似合っていた。
他の皆と違い、極端に露出の少ないコス。
首から手首、膝上まで全くと言って肌は出ていない。
しかしそのきっちりと包み込まれてる感が、黒猫の雰囲気に実に合っていた。
俗な言い方になるが、拘束されているように見える。
そのなんとも言えない背徳感のような雰囲気を助長させているのが、手首に嵌められた大きめの鉄枷だ。
そこからジャラリと地面まで伸びる鎖が、なんというか・・・。

「い、今あなたから邪悪な雰囲気を感じ取ったわ!」
「え?そんなわけないじゃナイカ」
「く、口調が怪しくなっているわよ・・・?」
「きのせいダロ?さあとりあえずそのくさりをおれににぎらせるんダ」
「ひいっ!!」
「目がヤベーよオメー」
「う」

突然腹に蹴りを入れられた。
そちらに目を向けると・・・ちんまいサンタが立っていた。

「・・・子供?」
「加奈子様だ!!ばっかやろー!!」

いや分かってるけどさ、この辺はお約束じゃん。
いや・・・それにしても・・・。

「見事にツルペタだなお前」
「んなっ!?」

まあ正直、一番際どいサンタだよお前。
胸は幅の広いリボン一本でか結ばれてるのみ。
肩から手首までかけて赤い袖で包まれる逆ノースリ。
可愛いお腹も華奢な肩もあけっぴろげに露出されてる。
それにスカートは見せパンなのか、思いっきりのマイクロミニ。
さっきっから見えまくりだ。
しかし・・・なあ?

「お前ホントに凹凸ないのなー」
「っ!!」
「もういっそ小学生ですって言った方がいいんじゃないのか?乗り物も映画も安く済むぞ?誰も疑わねーし」
「・・・な・・・なんだよ・・・そんなに・・・加奈子、駄目なのかよぉ・・・」

あーあ泣きやがった。
・・・予定通りに。

「う・・・か、加奈子だって・・・頑張ったんだぞ・・・きょ、京介に・・・喜んでもらいたくって・・・」
「わかってるよ」
「・・・え?」
「ほら・・・こい」
「え・・・あ・・・」

躊躇してる加奈子を強引に引き寄せ抱きしめる。

「・・・お前があんまり可愛いからよ、ちょっと意地悪したくなった」
「っ!・・・ほ、ほんとに悲しかったんだぞ・・・バカ」
「悪い。でもな、泣き顔が可愛いお前が一番悪い」
「・・・バカ・・・」
「・・・あれどういうことなんですか?」
「・・・なんかね、加奈子のイベントで、あーやって二人で楽しむことがよくあるみたい」
「・・・ドMなのね・・・」
「黒猫氏と一緒ですな・・・」


「京ちゃん!」
「うおっとっ!!」

やっべ。今完全にイベント気分だった。
いかんいかん。今日は殺戮の天使が降臨してるんだった・・・って。

「・・・麻奈実?」
「うん、そうだよ」
「・・・」
「な、なんでそこで黙るの!?」

いやだって・・・なあ。
麻奈実ももちろん格好はサンタコスだ。
しかしいかんせん・・・地味だ。
オーソドックスな街中でよく見かけるようなサンタ服。
その上にいつもの幼馴染の顔が乗ってるだけ。
なんつーか・・・・変わり映えしない。

「・・・お前はいつもと一緒だな」
「な、なんで!?ほ、ほらほらサンタなんだよっ!?」
「うんまあ。それ含めて普通って言うか・・・」
「ええっ!?」

途端に悲しそうな顔になる麻奈実。
それも見慣れたもんだ。

「なんで泣きそうになってんだよ?」
「だ、だって・・・加奈子ちゃんじゃないけど、あたしもがんばって・・・」
「ああそれはそうだな。だから普通だなって」
「・・・え?」

お前が頑張ってるのなんて俺が誰より知ってるじゃねーか。

「どんな格好してたって麻奈実は麻奈実だ。いっつも俺の隣にいてニコニコ笑ってるバーさん、それがお前じゃねーか。ちょっとくらい変わった格好したくらいで見る目なんて変わらねーよ。だから、普通だよお前は。俺のよく知ってる・・・俺を誰よりよく知ってくれてる、俺の大切な幼馴染だ」
「京ちゃん・・・」
「それにお前のイメチェンは、以前の前髪事件で懲りてんだ。ホントあの時は泣きたくなったんだからな?もう二度とすんなよ?」
「う・・・うんっ!わかった!えへへ」
「よし」

頭を撫でてやりながら互いに微笑みあう。

「・・・な、なんですかあの熟年カップルのようなやり取りは?」
「・・・昔っからあーだよ。ほんっと頭くる」
「さ、さすがはベルフェゴール・・・ラスボスなだけはあるわね・・・」
「京介氏があれほどリラックスしているのを拙者初めて見ましたぞ」
「師匠パネェ・・・てゆーかそこのでかいの。口調がさっきからオタクになってんぞ」
「あら失礼」
「あーもう!いつまで二人の世界作ってんの!?」
「うわっ!お、おい桐乃」

急に桐乃が俺と麻奈実の間に入ってきて引きはがした。

「ほらそれじゃサクサク始めるよ?」
「い、いやちょちょっと待ってくれ」
「ん?なに?」
「いや、なにじゃなくて・・・今までお前らの姿に驚いてたけど・・・これって結局なんなんだ?」
「はあ!?ばかじゃん!?」

いきなりキレるなよ。普通聞くだろ誰だって。
誰もいないはずのリビングに、着替えてる女が6人もいて、そんでいきなり始めるよって・・・どんなカオスだよ一体?

「そもそもお前らなんでここいんの?みんな用事があったんじゃなかったか?」

それで俺振られてボッチマスしようとしてたんだよな。
あ、あやせだけは普通に振ったんだっけ。


「桐乃。クラスと仕事のパーティーは?」
「もちブッチ」
「はあ!?な、なんで!?」
「い、いいじゃん別に!」

いやいやいやよくねーだろ!!
仕事してない俺でも仕事相手との会合をブッチしちゃいけないことぐらいわかるよ!?

「お、お前・・・後で問題になるぞそれ・・・」
「うっさいなーあたしがいいって言ってんだからいいの!」
「い、いやしかしなあ・・・」
「大丈夫ですよお兄さん」
「あやせ?」

気が付けば、あやせが桐乃の肩を掴んで背後に立っていた。

「あたしの事務所の社長に頼んで、桐乃の事は伝えておきました」
「え!?あやせそんなことしてくれたの!?」
「そうだよ桐乃。もー駄目だよ?無断でお仕事サボるなんて」
「だ、だって美咲さん・・・離してくれそうにないもん・・・」
「それでもだーめ。ちゃんと手順を踏んでお休みしなきゃだよ。わかった?」
「うん・・・ありがとあやせ」

あやせに素直に礼を言う桐乃。
なんだかんだであやせは本当に桐乃の姉ちゃんみたいに優しく見守ってるよな。

「俺からも礼を言うよ。ありがとな、あやせ」
「べ、別にお兄さんの為にしたわけじゃないですから・・・」
「それでもだ。これからも桐乃のこと頼むな」
「い、言われるまでもなく当然です!」

真っ赤になってそっぽを向くあやせ。
本当に桐乃はいい親友を持ったよな。


「おい京介」
「なんスか加奈子様?」
「オメーちっと加奈子にも礼言えよ」
「はあ?」

いきなり出てきて何ふざけたこと言ってんだこのクソガキャ?

「なんで俺がオメーに礼言わなきゃなんねーんだよ?」
「それが・・・言ってあげてくださいお兄さん」
「へ?なんで?」

あやせまで困ったように笑いながら言ってきたよ。
こいつに俺なにもしてもらってないよ?

「実は・・・あたし達3人が今ここにいられるの、加奈子のおかげなんです」
「3人・・・てお前と桐乃と加奈子?」
「はい」
「へっへー。実はそーなんだよな」

得意気に加奈子が言うには、なんでも、桐乃だけならまだしも、さすがに3人共がいなくなるのは困ると上の人が渋っていたのを加奈子がきれいに纏めたとか。

「嘘はいいからほんとのことを言え」
「なんだとー!?ほんとだっつーの!!渋る社チョーに『社チョー。明日のメルルLIVE、加奈子ずっと出ずっぱりでい良いからお願い』つって頼み込んだんだよ!!」
「・・・マジで?」
「はい」

驚いて聞くと、あやせがコクリと頷いた。

「おま・・・出ずっぱって・・・どんだけ大変かわかってんだろ?」
「たりめーじゃん」

手を頭の後ろに組んでいつものようにニヒヒと笑う加奈子。

「確かに6時間ずっとはキッチーよ?でーもよー、ダチが目の前で困ってんのに比べたらどーってことねーって」
「おまえ・・・」

俺はゆっくりと抱きしめると、小さくお礼を言った。

「ありがとうな。ホント男前だな・・・お前は」
「お、おう・・・へへ。明日はいい席用意すっから見に来てくれよな?」
「ああ必ず行く。なんならまたマネージャーとしてコキ使ってくれてもいいぞ」
「マジで!?よーしあとで社チョーに聞いてみる!」
「ああ」
「・・・今回は目を瞑る」
「・・・わたしも」


ひとしきり抱き合った後、今度は沙織に向き直る。

「沙織はどうしたよ、槇島のパーティーは?」

あっちは上流階級のパーティーだから、そう簡単に抜け出せるとは思えないんだが。

「いえ・・・実は今年は姉さんが帰ってきてまして・・・」
「げ!?あの破天荒姉ちゃんの香織さんが!?」
「はい・・・」

そう俯き加減で答えた沙織の肩がプルプルと震えている。
お、おい・・・握り拳まで震えてるぞ?

「さ・・・沙織さん?」
「まったくあの人は・・・ふらりと帰ってきて『今年は私が出るからお前は好きにしな』などとかるーく言い出しやがりまして・・・まったく私の苦労など何も知らないくせにほんとにかるーく・・・うふふ・・・」
「お、おいおい待て待て怖い怖い!!」
「うふふ・・・後で覚えていやがれですわ・・・うふふ・・・」
「ヤベー。槇島家に血の雨が降る」
「でもそれって、沙織さんのためを思って言ってくれたんじゃないかな?」
「え?」

不意にかけられた声に沙織が振り向くと、そこには麻奈実がニコニコと笑っていた。

「いいお姉さんだよねえ。沙織ちゃんがここに来たがってるのがわかって、急に代役を買って出てくれるなんて。たしか外国に住んでるんでしょ?わざわざ妹さんのために帰国するなんて、京ちゃんに負けないシスコンさんだねえ」
「そ、そんな!そんなことはありません!第一私がこちらのパーティーに来たがってるなどと、離れてる姉さんにわかるはずがありませんわ!」
「そんなことないよう。だって私が伝えたもん」
「・・・え?」
「・・・へ?」
「・・・」

一瞬ここにいる全員が黙り込んだ。
今・・・とんでもないこと言わなかったかこいつ?

「ま、麻奈美?」
「ん?なに京ちゃん?」
「お前・・・香織さんの連絡先知ってるの?」
「え?あ、うん」
「どどどどうして!?」
「んーと、ある日急に香織さんから電話がかかってきて、私は沙織の姉だー。もしよければ沙織のことを見守っててくれないかーって」

ニッコリと笑いながら言ってるが・・・とんでもねーぞこれ。

「まあ・・・あの人なら麻奈美のこと調べるのくらい訳ねーか・・・」

なんたって俺の事も事細かく調べ上げてたもんな。

「姉さんが・・・そんなことを・・・」

沙織がギュッと胸の前で両手を握りしめる。
よかったな、お前の姉さんはお前のことをいつでも思ってくれてたな。

「へー良いなあ沙織。加奈子なんかさーホント放任主義だもんよー」

あたしもそれくらい思われてみてーよ、とぼやく加奈子。
たしかにお前の姉ちゃん、下手したらお前より子供だもんな。

「そんなことないよ加奈子ちゃん」
「へ?」

そんな加奈子にまた麻奈実が声をかける。

「彼方さんからも私頼まれてるんだー。かなちゃんはまだ中学生だから、遅くても11時には帰してねって。責任重大だよー。だから送っていくからちゃんと帰ろうね?」
「・・・」
「・・・」
「・・・麻奈美?」
「ん?なあに?」
「お前・・・ここにいる奴等の身内、一体どれくらい知ってんの?」
「えーそんなに知らないよー」

そういいながら麻奈実は、んーとと前置いて指折り数えて羅列していく。

「まず京ちゃんのお父さんお母さんでしょ?あとあやせちゃんのお父さんとお母さん。黒猫さんのお母さんに妹の日向ちゃん。沙織ちゃんのお姉さんにお母さん。あと加奈子ちゃんのお姉さん。せいぜいこれくらいだよー」
「そんだけ知ってりゃ立派過ぎるわっ!どこで手に入れたんだよその濃密連絡網!?」
「えへへ秘密ー」
「・・・初めてお前を恐ろしいと感じたわ・・・」

俺の幼馴染マジパネェ!


「ま、まあいいや・・・それで、黒猫は・・・」
「わ、私は・・・その・・・」
「あたしが誘ったのよ」
「桐乃が?」
「そ」

桐乃は黒猫の前に回るとギュッと抱きしめた。

「こ、こら離しなさい」
「こいつさー、最後まで頑固でさー」

相変わらず話は聞かないのなお前。
まあ黒猫もまんざらではないようだしまあいいか。

「頑固ってなんだ?」
「んー実はさ、この集まりって、京介にサプライズパーティーをプレゼントするって企画だったんだよね」
「え?」

ちょちょっと待て。
え?なにがなんだって?

「それでこの黒いのも誘ったんだけど、こいつったらまだ夏のこと気にしててさ、今回は遠慮するわ・・・とか言っちゃって。まったく素直じゃないってゆーか。そんであたしがちょっと強引に引っ張り出してきたってわけ」
「いきなり車に乗せて、有無を言わさず沙織の家まで連れて行くのをちょっとで済ますのねあなた・・・」
「まあそこまでやっちゃえばこいつも観念するじゃん?だから・・・って聞いてんのあんた?」
「あ、ああいや・・・すまん。ちょっと頭が追いついてってないっつーか・・・」
「はあ?」
「いや・・・俺にプレゼント?サプライズパーティー?」
「だからそー言ってんじゃん」
「きりりんさん。京介さんはあまりに意外過ぎて驚いてらっしゃるのですわ」
「え?なにが?」
「京介さん?」
「あ、な、なんだ?」
「これは紛れもなくきりりんさんがあなたの為に企画したプレゼントなのです」
「ちょ!それいうなって言ったじゃん!!」
「でも言わなければ、京介さんはずっと固まったままでしてよ?ね?京介さん?」
「あ・・・ああ」

たしかに俺は意外過ぎて頭が回らなかった。
桐乃が?俺にプレゼント?
エロゲ以外に?
あまりにも現実離れし過ぎていて信じられなかった。


「・・・桐乃が『あいつさーあたしと離れるのが嫌でA判定〓ぎ取ってくるぐらいシスコンじゃん?だっからさーあたしからなんかもらったら泣いて喜ぶと思うんだよねー。エロゲん時みたいに?だからさ、あんたも協力してよ』なんて言ってくるものだから、私もこうしてここにいるのよ」
「ちょ!あんた!!」
「なにかしら?本当の事しか言ってないはずだけど?」
「う、うぐぐ・・・」

桐乃が黙った。
てことは本当の事ってことかよ・・・。

「それでわたしも社長に頼んでお休みを頂いたんです」
「加奈子の犠牲でな」

おまえら・・・。

「それで私も沙織ちゃんのお姉さんに頼んでこの日を空けて貰ったんだー。一緒にお料理したんだよね?」
「はい。麻奈実さんにはいろいろとお世話になりました」
「師匠ー、加奈子も手伝ったじゃんよー」
「そうだね。加奈子ちゃんすっごく料理上手になったもんね」
「え、えへへ照れるッスよー」

本当に俺のために・・・。

「んで、仕上げに沙織に用意してもらったサンタコスしてあんた呼ぼうと思ったらさー・・・ほんと空気読めないよね?」
「・・・いやでも・・・これ・・・俺悪くねーんじゃ・・・」
「はあ?どの口が言うわけ?だいたいあんた・・・は・・・」
「・・・京介さん・・・」
「・・・まったく、変わらないわね。あのときと一緒だわ」

そう言って黒猫は静かにポケットからハンカチを取り出すと、優しく俺の目元をぬぐってくれた。
そう・・・。
俺は感極まって・・・泣き出していた。

「あーあったく、大の男が泣くなよな京介ー」
「さっきは加奈子が泣いてたけどね」
「良かったね京ちゃん」
「う・・・ぐっ・・・ご、ごめんっ・・・あ、ありがとな・・・おまえら・・・」
「・・・なに言ってんの。まだパーティーは始まってすらないんだよ?ほらあんたはソファに座ってあたしたちの可愛いサンタコスを堪能してなさい!」

パン!背中を叩かれてたたらを踏む。
これが桐乃なりの照れ隠しなのはもうわかってる。

「・・・桐乃、さんきゅな・・・」
「い、いいって・・・」
「プレゼント・・・今度買いに行こうな」
「っ!ま、まあ!あんたがどうしても貰って欲しいってんなら行ってやってもいいけど!?」
「ああ。ぜひ貰ってくれ」
「う・・・わ、わかった・・・」

桐乃が消え入りそうな声で答えてくるのを聞いて、今度はどんなに高くてもこいつの欲しいものを買ってやろうと固く心に誓った。


「あ、あのさ・・・」
「ん?」

不意に桐乃が小さな箱を出してきた。

「なにこれ?」
「あ、あとで渡そうと思ったんだけけど・・・」

そういいながら箱を開ける。
中には小さなシルバーのリングが入っていた。

「これは?」
「ちゃんとしたプレゼント。パーティーは結局みんなも楽しめるから。京介に買ったプレゼント」
「桐乃・・・」

どんだけ泣かせるつもりだこいつは。

「ありがとな」
「さ、サイズたぶんあってると思うけど、もし違ってたら直さなきゃいけないから今ちょっと嵌めてみて」
「・・・おう」

涙をぐっとこらえて、桐乃のくれた指輪を嵌めにかかる。

「・・・」
「・・・」
「・・・桐乃?」
「なに?」
「・・・これ、左手の薬指にしかあわねーんだけど・・・?」
「よしぴったり」

・・・満足そうに頷いたよ・・・。

「いや、ぴったりじゃねーよ!!結婚指輪かこりゃ!?」
「ちなみにそれペアリングだから」
「んなっ!?」
「あー!桐乃が抜け駆けしてるーっ!!」

俺が驚きに口が塞がらないでいるとき、準備をしていた加奈子が俺をビシッと指差してきた。
その声に、一斉にみんなの顔がこっちに向く。

「ズルいよ桐乃!プレゼントはあとで皆で交換会って言ったじゃない!!」
「そっちのもちゃんとあるよーだ。これは京介に買ったんだもん」
「いやはや油断も隙もありませんな」
「く・・・ビッチと二人きりにするなんて・・・。この聖なる夜はやはり私の魔力に影響を及ぼしているわ・・・」
「なあ野良猫、いい加減そーゆーのキメエ」
「お兄ちゃんへプレゼントカー。よかったねー京チャン」
「お、お姉さん・・・え、笑顔が怖いです・・・」
「なんとでも言えばー?きりりん大勝利ー!!」
「は・・・はは・・・」

ドタバタと駆けずり回る6人の美少女サンタ。
そんな光景を見ながら、俺は知らず笑い出していた。
全くお前ら本当に最高だよ。

「飯にありつくのはこの騒ぎが収まらないとだな・・・」

さてそれじゃあそれまで、このリアルシスカリ・クリスマスバージョンを特等席で楽しませてもらうか。
俺はゆっくりとソファに腰掛け、深く身を沈めた。
どこからか聞こえてくるジングルベルをBGMにしながら・・・。

END

以上です。

クリスマスとは関係ないけど、ssを書いたので次スレから投下。
桐乃×京介。




同居室。






学校から帰り、俺は自分の部屋へと歩を進める。いつもどおりに、階段を上り部屋へと向かう。
途中の道で何故か桐乃の部屋から色々な家具が出ていたが、模様替えでもしているのだろうと気にせずに自分の部屋の扉を開けた。
たてつけが悪くなってきたのか、何故か俺の部屋の扉だけきしむ。

ギギ……

この音を聞くと、何故だか悲しくなってくる。親父達は桐乃の部屋がこんな状況になったら一瞬でなおすのに、俺の場合だと軽く一年ぐらいは待たされる覚悟をしなければならないのだ。
ふっ、とかるく息を吐き出して何時も通りの質素な自分の部屋を視界におさめる……。

……?

「……」

桐乃が俺のベッドで俺の枕に顔を埋めていた。
扉の音で気付いたのだろう、振り返った桐乃と目があう。

驚愕して、大きい眼を目一杯に開いてこちらを見ている。

……うん、よし。

パタン。

思わず扉を閉めてしまった。
……いやいや、おかしい、ありえない。うん、ありえないよな。昨日は夜更かししちまったし、きっと疲れて幻を見てしまったんだろう。
だって俺の部屋に桐乃が居るんだよ?。おかしいだろjk

俺はふっと笑うと、深呼吸してもう一度扉を開いた。

今度は桐乃が床に正座していた。
静々とお茶を飲んでいる。

うん、やはり見間違いだったらしい。っておかしいのはそこじゃねぇだろ!!

俺は思わず心の中で一人ノリツッコミをしてしまった。
おかしいのはお前が何をしているかじゃねぇんだよ、お前が俺の部屋にいる事なんだよ!

勝手に俺の部屋に入り、好き勝手していた妹に軽く殺意が沸くが。まぁここはあれだ、内心だけで抑えるべきだろう。
俺は一応兄貴だからな。なんで俺の部屋に居たのかも大体見当はつくし。
どうせ自分の部屋の模様替えに飽きて、休憩がてら俺の部屋に来たのだろう。

でも一応は男なので、そんな俺の部屋で寝ているのかはどうかと思うね。

俺は盛大に溜息をつくと、ベッドに鞄を投げると桐乃に問いかけた。

「…で? 何で俺の部屋にいる? っていうかなんで勝手に入って勝手に人のベッドで寝てんだ」
「……勘違いじゃない?」
「んなわけあるか! どうせ自分の部屋の模様替えに飽きて休憩とかそんなだろ!」
「違う違う、ついいつもの日課……っ!?」
「日課?」
「じゃなくて!! うん、そう! 兄貴が言った理由! いやぁばれちゃったかぁ!!」

ふん! 隠す事もなく堂々と認めやがって。少しは反省しやがれ

「はぁぁぁぁ、飽きるならやるなよなぁ。で? なんで急にこんな事やろうって思ったんだよ」

まぁ別に理由なんて無さそうだが…。一応言い訳は聞いといてやろう。

「いや、こんな事態になったら兄貴の部屋に泊まれるかなぁ……っ!?」
「ん?」
「いやぁ!! なんとなくだよお!!」

やはりか、やっぱり思いつくままだったか。
俺は何度目か数えるのも面倒になった溜息をもう一度つくと、桐乃をジロリと見る。

「で? これからどうするつもりだ?」

もう夕方である。この調子だと桐乃の部屋はめちゃくちゃであろう。それこそ寝る場所すらないくらいに。
で、問題になるのは桐乃の寝る場所である。
桐乃のことだ、どうする事も出来なくて俺を頼ってくる可能性が大きいのだ。

だから俺は最初に断りを入れることにした。

「う〜ん、それなんだけどさぁ、この調子だと寝るまでに間に合わなくてさ」
「桐乃、俺は手伝わないからな。」
「まだなにも言ってないんだけど!?」

当たり前だ。言われてたまるか。

「良いじゃん! 手伝ってよ!!」
「やだね、自分のケツくらい自分で拭きやがれ」
「むむぅ」

桐乃はうなってくる。
だが俺はいくら頼まれようと聞き入れるつもりは無い。これまでは仕方がなく。そう、しかたがなく手伝ってきただけだ!
これからは断固として兄の威厳を取り戻す!

「分かった。手伝わなくていいよ。でも知らないからね? 兄貴の今日の寝床はリビングのソファだよ?」
「何故に!?」
「いや、だってお母さんに部屋の事話したら兄貴のベッドを貸してもらいなさい、って」
「あんのくそお袋ぉぉぉぉ!! 貸さん! 俺はベッドなんぞ貸さんからなぁぁぁぁぁ!!」
「……じゃぁ兄貴はあたしが下のソファで寝て、震えながら寝て風邪引いても良いって言うの?」
「むむむむむむ」

くそぉ! こんな時だけ泣きそうな顔しやがって!
俺は桐乃が下のソファで震えながら寝ているところを想像して、頭を振った。

どうやら今回も俺の負けらしい。
手伝うしか俺に選択肢が残されていなかった。

「……わぁったよ!! 手伝えばいいんだろ!? 手伝えば!!」
「ニシシ! さぁっすが兄貴! 信じてたよ!!」

俺がやけくそになって叫ぶと、桐乃は待ってましたといわんばかりな声を出した。
勿論さっきまで泣きそうな顔だったが、今は満面の笑顔である。

きぃぃぃ! 悔しい! でも感じちゃう!!

最近、変にオタクに染まってきたなぁ、俺。
咄嗟に出てきた脳内の言葉に俺は俺自身に呆れてしまった。

まぁそれはさておき、桐乃の部屋の片付けである。
そろそろオタクコレクションが多くなりすぎて、整理もしなければいけないし、という理由ではじめたらしいこの模様変え。
今でもなんで俺が、とは思うものの、この寒い季節にリビングのソファに寝るぐらいなら手伝ってやろうではないか。

「よっしゃ、じゃぁどれから移動させるよ?」
「う〜ん、今考え中、ちょっと待ってて」

……考えてなかったのかよっ!
思わずそうつっこみそうになるが、すんでのところで堪える。
沸々とした怒りがこみあげてくるが、ここで文句を言えば余計に時間をくうこと必定だ。なんとか我慢して出来るだけ早くこの面倒な事態を解決しようではないか。

なんて思って待つ。
…待つ。

……待つ。

………待つ。


—————1時間経過——————

「って待ちきれるかぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ、びっくりしたぁ。なによ兄貴、きゅうに大声だして」


そりゃ大声だすわ、どんだけ考えてなかったんだよ。おかしいだろ。
待ってもう一時間だぞ。待ちきれるかボケ。

「もう知らん。俺は部屋に戻るからな」
「えぇぇ? なんでよ、もうちょっとで閃きそうだからここにいてよ」
「そのもうちょっとが異常にながそうだからやだ」

っていうか、もうあれだよ? もうすぐ夕飯だよ? どうすんの、これどうやっても間に合わないんじゃねぇの?

嫌な予感に顔をひくつかせていると、予想通りにお袋から夕飯の声がかかった。

現在時刻。7時である。









11時。。

夕食後。桐乃はうんうんと唸って考えて、なんとか模様変えの考えを纏めたらしいがいくらなんでも遅すぎた。

やはり俺の予想通り桐乃の模様変えは間に合わなかったのだ。
夜もふけ、もう真夜中と言える時間に突入している。俺は眠気眼を必死にこすりながら桐乃を手伝ったが、時間的にやはり無理があった。

最終的に俺は諦めて、桐乃に声をかける。

「おぉい桐乃、もう無理だ。俺は下で寝るからお前は適当に俺のベッドで寝てろや」

まぁしょうがないだろう。ここは俺が下で寝るしかあるまい。これで風邪でも引かれたら寝覚めが悪くて仕方がないからな。
溜息を吐きそうになるが我慢して下へと歩き出す。

だが、その歩みは意外にも桐乃の奴によって止められた。
歩き始めた俺の手の袖を、ちょこっとつまんで止めたのだ。振り返ってみると、桐乃がそっぽを向いて下を睨みつけていた。
顔が赤いのは俺の勘違いだろうか? もしや手遅れか? もう風邪引いちまったのか?

俺は不安になり思わず桐乃のおでこに手を伸ばしてしまう。ふれたおでこは熱くなく、風邪ではないようでホッと胸を撫で下ろす。
その間桐乃といえば、目をキュッとつむり下を向いていた顔は何故か上を向いていた。熱は無いのに顔は更に赤くなっているように見えるのは何故だろうか?

まぁいつまでもこうしていてもしょうが無い、と思い桐乃に用事を尋ねる。
途端桐乃は不機嫌になるが、それも数瞬もしないうちに萎れた顔に戻ってしまった。

「なんだ? 早く寝ないと明日も学校だぞ?」
「あ、あのさ……。あんた、下で寝るの……やっぱり嫌?」

珍しく歯切れが悪い桐乃。
溜息をついて俺は返事をする。

「嫌に決まってんだろ。でもま、お前が風邪をひくよりはよっぽど良いとは思うから、俺は下で寝るよ」

安心させるように笑いかけ、俺はもう一度歩き出そうとする。だが桐乃は俺の袖から手を離そうとしない。

「あんだ? まだなんかあんのか?」
「な、ななな、ならあたしと一緒にね、ねねねね、寝よう!?」

……?
こいつ、今なんて言った? 一緒に寝ようって言った?
信じられなくて思わず聞き返す。

「わ、わりぃ桐乃。上手く聞こえなかったわ、もう一度言ってくれ」
「だから! い、一緒に寝てあげるっつってんの!」
「ば、バッカ野郎! んなことできっか!」
「じゃぁいいもん! 兄貴が一緒に寝てくれないならあたしが下で寝るから!」
「いや、駄目だ! 俺が下でねるんだ!」
「ぜーったいにやだ! 兄貴が一緒に寝るって言わない限り絶対にベッドで寝ない!!」

むむむむむむ! なんて頑固な奴なんだ!


頭に血が上ってくるが、ふと考えてしまった。
なんでこんな事になっているのかを。

だって、そうだろう? 俺達はどっちも【下のソファ】で寝たがっているんだぞ?

こんなアホな話があるか? いや、無いね。
俺は、言うのは嫌だがこんな風になったのは桐乃に風邪をひいてほしくないからだ。
だったら桐乃は? なんで下で寝たがっているんだ?

そんなの、決まってる。俺が、風邪をひいてほしくないからだ。

俺は、そこまで考えるとおかしくなって笑ってしまう。現在怒り心頭な桐乃はそれを見てさらに怒っているが、そんな桐乃に俺は笑いかけて言った。

「よし、じゃぁ一緒に寝るか、今日は」
「……へ?」
「いや、一緒に寝るんだろ?」

桐乃は最初、何を言われたのか理解していなかったが、俺が二度目を言うと満面の笑みを浮かべて首をたてにふった。

「うん!!」






————桐乃side————

INベッド。


あたしは必死に目を瞑る。眠れない。
兄貴の体温、兄貴の匂い、兄貴の体、兄貴の息、兄貴の髪、兄貴の服。

兄貴の、全てが私の意識を持っていく。風邪でもないのにボーッとしてしまう。

あたし達は背中合わせ。ピッタリと合わさった背中から兄貴の心臓の音が伝わってくる。
優しく、優しく。

「兄貴、寝てるの?」

返事は無い。もう寝てしまったのだろう。
あたしは思わず頬をふくらませてしまった。なんで寝れるのよ、あたしが緊張して全然寝れないっていうのに。あたしは後ろから兄貴の脚をこつんと蹴る。
もうちょっと、意識してくれてもいいのに。


そうだ、兄貴はいっつもそうだ。妹として扱ってくれて、とても優しくしてくれるけど、ひとつも女の子として扱ってくれないんだ。
いくら妹と言ったって女なんだよ? しかもモデルしてるくらい可愛い女の子なんだよ?
でもしょうがないか、兄貴だもんね。

あたしはくるりと向きを変えて兄貴の背中に抱きつく。さらに鼓動が早くなって心臓がはちきれるんじゃないかと思うくらいうるさいが、それすらも心地良く感じた。

鈍感、低脳、唐変木、服のセンスも無ければ、顔が特別格好良いわけでもない。
だけど、とってもとっても優しくて、そんな甘い蜜に女の子が集まってくる。ちょっとツンデレ成分が入っているのも女の子にとってはツボだろう。

でも。
兄貴は誰にも渡さない。絶対。

体で表現するようにあたしはもっと強く抱きつく、頬を摺り寄せる。

「兄貴、大好き。絶対に誰にも渡さないから、あたしだけの兄貴だから」

いっそ、どこかに閉じ込めて、一生一緒に暮らそうかな?
そうだな、別に広くなくても良いから、この部屋くらいでいいかな? 大切に大切に閉じ込めて、ご飯もあげて、衣服もあげて、娯楽もあげて、快楽もあげて。
あたしの全部、あげる。

ちょっと背を伸ばして、兄貴の髪に顔を埋めた。
サラサラしてて、良い匂いがする。
きっとこんな事をするのも思うのも本当は逆の立場なんだろうけど、あたしはこうするのが大好きだ。

絶対、絶対に誰にも渡すもんか。この匂いの一万分の一もくれてやるものか。
兄貴の口はあたしと喋るためにある。兄貴の耳はあたしの声を聞くためにある。兄貴の目はあたしを見つめるためにある。兄貴の匂いはあたしが嗅ぐためにある。兄貴の声はあたしが聞くためにある。

兄貴の全てはあたしのもので、あたしの全ては兄貴のものなのだ。

あたしは落ちてくる瞼に逆らわずに目を閉じる。
深いまどろみに落ちる前、あたしはあらためて決意した。


いつか、絶対に作ってやる。あたしと兄貴の、完璧で完全な【同居室】

>>245
終わりだったら<おわり>って入れようぜ

>>246

すまそ、忘れてた(^^;;
これで終わりだから( *`ω´)

桐乃が京介を「兄貴」って呼ぶのに激しく違和感ww
面と向かってだと「あんた」じゃね?

全然スルーされて構わない前置き

アホみたいに長くなったし 続きっぽいモノの構想も考えてるが
一応これで完成で、ネタ的にギリギリなんでいそいでうp


最終的に黒猫、麻奈実報われ√の可能性は原作に普通にありそうだし
カナカナは守備範囲じゃないし、アキちゃんは好きだけど
一番体よくキャラ変えられちゃった、あやせを書くことに


あやせと密室○○が多分一番需要があって、書くのも楽だが
今回は敢えて外メインで書いてみた


※他のキャラの同士のカップリングあり

結局最後の最後まで

京介×あやせ





今日は12月24じゃなくて×31日


だからこれはちょうど一週間前の俺のクロニクルと言うことになる



               ***

"プロローグ"


例えば俺が子供の頃の話

クリスマスケーキとアイスケーキなら断然アイスケーキの方が食べやすいし
好きだとか
あの極道面の親父がサンタの格好してたのがクリスマスって言うよりコント
みたいだったとか
例の冷戦で疎遠だった時ですら、 桐乃はクリスマスは何となく楽しそうだったとか


またクリスマスが別の大きな意味を持つのはやっぱ思春期からであって

バレンタインデーとならんで、世の中の男共が一喜一憂するイベント
希望を頂いて期待した結果、別に何も起こらず 絶望して意気消沈するイベント

『俺たち別にキリスト教徒じゃねぇからwwwww
ってか本場の奴らは家族で過ごすもんだろ?
日本人なのに、 愚かな西洋被れのにわか乙wwww』
とうそぶいてみる奴とか

色々拗らせちゃった結果 どこぞの死ね死ね団に所属して、
クリスマスを滅ぼそうと画策してる奴とかもいる。


この俺はと言うと、 まともな彼女が居た時期なんて夏場のキリギリスの命みたいに
本当の短期間だったし、
その前はずっと、 クリスマスの天敵と思われる和菓子屋の娘の幼馴染みとパーティー
なんかをやってて恋人と○○やりましたー的な思い出は正直ひとつもない。

あ、そういやひとつだけ思い出が有ったっけか
去年の今頃 妹とラブホテルに入っていたんだ
でも間違ってもあの時は、 ラブラブ in ラブホテルじゃなかったよな?


今年はそもそも俺は受験生なんだからクリスマスなんて関係ないんだ
—————————————なんてことも実は無かったりする。


今日、 出かける前にテレビで見た天気予報じゃ、
関東一円大荒れの模様なんて言ってたが電車の窓から見上げる空は、
俺の内心と一緒で馬鹿がつくほどのいい天気だった。

流石に真っ昼間だからネオンの灯なんてものは見えなかったけど
町中至る所、見渡す限り赤と緑と白のクリスマスカラーの仕様で彩られ
四方八方から催眠音波よろしく流れてくるクリスマスキャロル

『たまにもこういうのも悪くねぇな』なんて結局 思ってる俺。
こんなコトを考えちゃう俺はもちろん 浮かれちゃってるわけだ。


—————————————本当は色々な意味で浮かれちゃダメなんだ。


でも結局、 俺の浮ついた気分は消えることがなく
自然と早足になった俺が約束の待ち合わせの場所に到着した時には
すでに"彼女"はそこに立っていた。

そして彼女を見た途端、 さっきまでの考えをすっかり忘れる俺



燃える(萌える)ような紅いコートに
雪のようにフワフワ透き通った袖口と襟の白いファーを纏い

コートの下から微かに覗かせるデニムのショーパンに
大胆に出した長い足の黒いストッキング 
足下には空でも飛べそうなコットンのショートブーツ

それはまるで絵本から飛び出てきた妖精のようで、
もちろん一�の文句もつけようがなく、 俺にとって(おそらく誰にとっても)
100%な美少女だった。

もちろん服装だけじゃない
本当は見慣れた筈の—————————
今日の服装によく馴染んだ均整の取れた身体と、
最近少し大人っぽくしたアッシュ入りの明るめのブラウンの髪と、
プロ顔負けなシックな化粧と
そんな完全武装の強襲型にも関わらず、 隊長機のアンテナみたいなトレードマーク
である例のヘアピンはちゃんと装備されていた。

しかも何か すげぇ真っ赤だし……………今日は通常の三割増くらい可愛い気がする。

ああ、 やっぱ俺の妹はこんなにも可愛いわけである


「よっ! 桐乃、 待った…………………か?
ちょっぉ———————————————じゃなかったあぁぁっ」

ってぇ何でおまえがあの場所にいるんだよ?!
あっヤベ こっちに気付いた。

——————————そもそも今日の俺の待ち合わせの相手は妹では無かった。

今日の俺の妹は

『ちぇっ、、あたし、、クリスマスなのに仕事あるんだよねぇ。
それにさ、今日は、、ちょっと遅くなるかもしんないしさぁ。
あんたが、、もし暇なら迎えに来ることを許可してあげても良いケド?』

とか言ってたわけで

俺だって『受験生には盆も正月もクリスマスもねぇんだよ』とか言ってたわけで

会話の最後は妹の

『あっそ、、じゃぁさ ちゃんと家で勉強しときなよ?
真面目に頑張ってたら、、、、あたしがお土産買ってきてあげる』

で終わっていた。


妹の許可がなきゃ、 クリスマスに出かけちゃいけないわけじゃないが
(それだと奴隷だ)これはどう考えても相当にバツが悪い。
と言うか妹に嘘吐くのって何でこんなに罪悪感あるんだろう……………?
俺にとって永遠の謎である。

何とか隠れようとしたが、 真っ正面で仁王立ちしていた妹に見据えられてちゃ
もう全てが手遅れだった。

案の定、 俺は妹にメチャクチャ怖い顔で睨め付けられていた。

「あ、あのさ………………えっと、あの………………その」

桐乃は怒った表情の顔を ますます赤らめて、
最後には目にたくさんの涙を溜めてうつむいてしまった。

これはどう考えても相当ヤバイ
まさかこの日、この場所で、こんな形で
俺の究極奥義を披露することになるなんて思ってみなかったね 

はい—————————でましたよ 必殺★クリスマス土下座 


周りに居たカップルや家族連れは何事かとこちらを眺めている。

おい! おまえら携帯広げて写メ撮ったり、 つぶやくんじゃねぇ!
み、見せ物じゃねぇんだぞ……………と内心思いつつ

しかし今はそんなコトを気にしてる場合ではないんだ


地面から見上げると桐乃は身体を前後に振るわさんばかり震えていて
何かに耐えた様な本当に苦しそうな声で俺に訊いてきた。

「わ、、あたしのコト・・・すき?」

「え?」

「・・・・き、きらいなの?」

俺らの周りの野次馬は、 この一連の流れの結末を固唾を飲んで見守っていた。

「お、俺は………………」

「フ、、ぷっ・・・・・アハっハハハ」と突然堰を切ったように笑い出す妹

「ぇ?へ?」

桐乃以外の人間 
俺と俺を含めた周りの人間は頭に『?』マークを載せて一瞬固まった。

桐乃はそんな周りの空気などまるで気にする様子もなく
ゆっくり俺に近づくと腰を下ろして

「・・・・・行きましょう?」 と言った。

俺らは 円陣になっていた黒山の人だかりを突っ切ると
そのまま街中に紛れるまでただ、 ひたすらに全力走った。

お互いに全力で走ってるように感じるのに、
この俺でも妹の足取りに追い付けてるのはかなり奇妙で不思議な感覚だった。

「………………おまえ足遅くなった?」

「・・・・いいえ、 ぜんぜん」



「俺はてっきり、 てっきり——————————ってっきり あやせ!?」

「ハァー・・・・やっとですか。まったく お兄さん ちょっと気付くの遅過ぎ」

「どっ、どうして!?」

「それは・・・・・わたしがデートのお誘いして、
お兄さんがOKしてくれて、 あの場所で待ち合わのお約束をしたからですよね?」

俺が言ってるのはそういう意味じゃないんだが


「あのさ……………質問して良いか?」 「はい どうぞ」 

「何、 その格好っ?」  「趣味・・・・です」

「あ〜なるほど、 なるほど
桐乃のコスプレするのが あやせの趣味なんだなぁって…………納得出来るかよ!」

「普段から わたしと桐乃でお揃いのお洋服買ったりだとか
時々 お互いに色々交換したりもしてるし・・・・・だから別に普通だと思います」

「だったらその髪は何だよ?」

そりゃそうだ
『黒髪の美少女』ってのが俺があやせを形容する時の言葉なんだ。
『茶髪の美少女』じゃ本当に、 あいつと区別が付かなくなっちまう。


「気になります?」 「気になる」 「本当に?」 「もちろん」

「これは・・・・」  「こ、これは……………?」

「あなたには教えたくないです」  「—————っんだよっ、それ」


「どうしてそこまで、 わたしの髪の色が気になるンです?
あなたは————お兄さんは、 別にわたしの彼・氏・で・も・な・い・・・のに」

「そう…………だったな」




俺だってあやせの行動理由に確固たる確信を持ってるわけじゃない
何故なら思い当たる節が有りすぎて、 逆に何が本当の原因かがもう分からなく
なっちまってるからだ。

それはヒントが多すぎて余計に答えが分からなくなって
解けないなくなっちまってる 『なぞなぞ』 を出されてる気分に似てた。


単純に言っちまえば

俺はあやせに告白された。 

でも俺らは付き合ってない。

あやせのお願いで、俺らは最後にクリスマスにデートすることになった。

その場所へ桐乃みたいなあやせがやって来た。

つーことだが、 俺らがこの先どんな『↓』へ続くのかなんて検討もつかない。


「とにかく・・・今日のわたしの気分はこうなんですっ」

「そ、そうか」

「せっかくだから、 どっか誰かのシスコンさんの好みに合わせてみちゃいました。
今日のわたしって・・・・・お兄さん的にはいかがです?」

俺は何と言って良いのか分からず黙ってしまった。
今日のあやせが特別可愛いのか? もしくは別の理由によるものなのか?
俺の好みって結局どういうものなのかって自分で分からなくなってた。


「ねぇ、 こういう質問された時って答えはもう決まってるって思いません?」


「俺はあやせならどんな服や髪型でも、 そんなのに関係なく可愛いと………思う」


「あーあ、 女の子のお洒落を全否定とか・・・・・
これからデートしようする男の風上にも置けませんねっ。
ってことで、 相変わらず全然ダメ・・・・だから0点」

でも大して怒った風もなくあやせが言った。

「ふむ」


「ねぇ・・・お兄さん、 お手々を出してください」

「手錠か?」

「っふ・・・もちろん用意してますけど どうします?」

あやせは、 おそらく今日の服装に合わせたであろう 
これまたサンタの袋の様な真っ白のバックから金属特有のピカピカと光った
物体を俺に見せた。


「あ、あるのかよっ! つーか、 それも俺に解答権があんのか?」


「もちろん そんなのある・・・・・と思ってます?
でも・・・・・今日はもう一度だけ特別にチャンスあげても良いですよ」


「では……………これで宜しかったですか? お嬢さん」


今までならこういう場合は

『刑事さん わたしがやりました』って両手を突き出すの一択だった

でもさ、 好きと言われた後で、 警察24時ごっごなんてやってたらコントだからな



「ふ、ふ〜ん、 そうなんだ・・・これで本当に合ってるって思ってます?」 


「ああ、 もちろん」



「うん・・・・よろしい♪」

そう言った時の 俺の妹を格好した 妹の友達はやっぱり可愛かったよ。




一応、 俺は受験勉強で忙しい(と言いつつこんな時期にデートしてっけどな)
ってことで今日のデートコースはあやせにお任せだった。



「・・・・見える、 わたしにも敵が見える!」

「え? どこ どこ?」

「数は10 10時の方向 あの丘陵地帯  距離は150 右から左に移動
装備 AK 8 いや7 SVD 2 RPG 1
お兄さん! よそ見しないでちゃんと狙ってっ!!!」

「あ?はっはいぃ。あれ、弾が出ねぇぞ」

「リロード!」

「よっしゃっ! げっ………………や…………られた」


「甘く見てるからそうなる・・・・だから油断するなと言った
ここは自然の摂理だけ支配する世界 弱い者から死んでいく それが戦場の唯一の掟」

って おまえは誰だよ………………


「ごめんね——————そして、バイバイ
あなた達もわたしの前にさえ出てこなければ死なずに済んだのに」

あやせは芝居じみた台詞を呟きながら
的確なヘッドショットを連発していき、 どんどん脅威を排除していった。



「あ〜マジで惜しかったな」

あやせに案内された最初のデートコースは意外にもアミューズメントパーク
の中のゲーセンだった。


俺らはそこで開催されていたクリスマス カップル限定のアーケード FPSゲーム

『二人で駆けめぐる 愛と勇気・戦場のクリスマス』

って相当に意味不明な組み合わせのイベント大会に参加していた


「俺が下手だから足ひっぱっちまったな。すまん」

あやせは獅子奮迅の活躍だったが、 カップル限定である以上ペアで戦うので
最後は多勢に無勢、 それでも準優勝はしたのだから俺は素直に感心した。


「でもあやせがこんなにゲーム上手いなんて知らなかったぜ」

「驚きました? 実は黒猫さんが教えてくれたんです♪」

あ、だから一々所作が芝居じみててキャラぽかったわけだ。




「でも……………いつのまにか おまえら仲良くなってたんだな」

「色々誤解してしまったけど・・・わたし、 黒猫さんのこと好きですよ」

「そうか」

「・・・・・・はい。 わたしの大切なお友達です」

なんだか、それを聞いて俺も嬉しくなったよ。



準優勝の商品は俺らがやったFPSに登場していたマッチョな軍曹のフィギュアだった。
ひげ面の巨大なおっさんで半裸な上に 胸毛から腹毛まで繋がっていた。

「あやせ………………これ非売品のレアモノらしいけどいる?」

「・・・・い、いいえ」

ったくよ
こんなの誰が欲しがるんだよ、ってかクリスマスもカップルぜんぜん関係ねぇし
何の嫌がらせだ、コレ?

俺らが軍曹の扱いに困惑していた時、 後ろから声が聞こえてきた


「………………ちょっと や、辞めましょう」

「何を言ってるんですか、 せんぱい!
どうしてこのイベントに参加したのか分かってますかっ?
わたしが欲しかったのはアレキサンダー軍曹だったんですよ!
家に居るゴルードバーグ少佐だけじゃカップルが成立しないじゃないですか!」


あれ?
この声、この内容………………つーかこの腐臭はどこかで

「すいませーん、 あなた達って準優勝した人達ですよね?
もし良かったらなんですけどぉ………………優勝賞品と交換って出来ま
あっ あれ? あなたはセクハラ先輩じゃないですか?」

「だれがセクハラ先輩だ、 こら」

「あれ? 高坂先輩じゃないですか?お久しぶりです」

俺に話しかけてきたのは なんと赤城瀬菜と真壁くんだった。
そうか、 真壁くん…………………頑張ったんだな。

「よぉーす、 真壁くん———————」

俺は何だか嬉しくなって真壁くんの肩を抱くとヒソヒソ話をする要領で

「"————————でかしたぜっ、 おまえは大した男だよ
ついに瀬菜とデート出来たんだな! おめでとう
今度から真壁くんのコトを腐海を救った伝説の英雄と呼んで良いか?"」


「アハハ………………やめてくださいよ、僕 照れるじゃないですかぁ〜」

でもまんざらでも無い様子の真壁くんだった。


「ちょっと、 真壁せんぱい! 高坂先輩とイチャイチャしたら部長が泣きますよ!」

ぜんぜん救えてませんでした


「高坂先輩もまさかクリスマスにデートですか? うちのお兄ちゃんが泣きますよ。」

俺の方が泣きそうだよ


すると瀬菜はあやせに気付くと

「あっーひさしぶり」と言った。

し、しまった……………知り合いに遭遇する可能性考えてなかった。


「・・・・?」

声を出さずにニコニコしてる桐乃(あやせ)を不思議そうに見ている瀬菜
今度はあやせに、ヒソヒソ話の要領で言った。

「"こいつら桐乃の知り合いなんだ"」

あやせは、 『コホコホ』と大げさに咳をするとペコリと頭を下げた。
風邪で声が出ないってポーズなんだろう。

でも何故か次の瞬間、 あやせは俺の肩に身を寄せて 俺の腕に自分の手を回した。
そりゃ何のアピールなんだよ?!

………………あやせが何をしているのか まったく意味が分からん俺

「え?
あ゛————————桐乃ちょっと風邪気味で調子悪いんだ」



「そうなんだ。桐乃ちゃん……………お大事に」

真壁くんは若干引き気味だったが、瀬菜は多少の心配の感情以外は
別段何の感慨も抱いてない様子だった。


「確か…………な、何か用が有ったんだよな? おまえら」

「あ〜忘れてた。
そうなんですよー 先輩達がゲットしたアレキサンダー軍曹とこのチケット
交換してくださいよぉー」

「でも、 高坂先輩達もアレキサンダー軍曹が欲しいかも知れないですから
無理を言ったらダメですよ、 瀬菜さん」

いや アレキサンダー軍曹はどう考えてもいらないんですけど


「で優勝賞品って何だったんだ?」


ババーン★

『カップルで過ごす 真夜中の戦場(の)メーリークリスマス!
高級ホテル 夜景の美しいスイートルーム ご宿泊券』

な……………んだと


「いやでも、 高坂先輩ってアレキサンダー軍曹のファンでしたよね? ね?」

真壁くんの必死な説得、 あ〜そういうことか
でもいくらなんでも腐海の女王様が一回デートしたくらいで落ちるわけないけどな。
と言うか、 そんなことしたら赤城に ぶっ殺されるだろう 間違いなく


っつーても、 もちろん俺が使う予定も全くねぇんだけどさ


「——————————やった♪」

結局、 瀬菜に押し切られる形で物々交換をした俺。
別れ際に 真壁くんの恨めしそうな顔を見た時はちょっと悪い気がした。


「ちょっとそれ見せてください。
———————ふーん、素敵そうな場所・・・みたい」

あやせに引ったくられる様にチケットを渡した。



「と、ところで……………さっきのアレはちょっとビックリしたぜ」

「あ・・あれはですね・・・・・えっと作戦? ですから」


何の作戦?
って聞いても結局、秘密って言われちまった。

でもあんな事したって、 事情を知らない奴には
イチャイチャしてる兄妹の痛いガチカップルにしか見えないと思うんだが、
あやせの極秘作戦は俺にはしっかり隠匿されていた。



次に俺らはクレーンゲームコーナーに居た。

あやせはディープな深夜アニメキャラには全く興味がない様だが
メジャーなアニメの 『例のネズミ』や 『ビーグル犬』や 『魔女の黒ネコ(黒猫!)』の ぬいぐるみは好きらしく まぁ、そこら辺は普通の女の子って言うコトだな。

あやせは取らなくて良いと言ったのだが、 男なら格好いい所を見せたいと思うの
当然だよな?


………………いくらやっても と、取れない。
あーあ、情けないな俺って、 こういうのくらいスマートに出来たら良いのにな。

するとあやせは近くに居た男の店員に何事か話しかけた。
両手を合わせ 片目を閉じてウインクして 首を傾げ、ブラウンの髪を振るわせて
(息が詰まりそうなくらい)コケティッシュに笑った。
その姿があまりにも可愛くて店員だけじゃなくて、見ていた俺まで赤くなってしまった。

店員はあやせの魅惑の魔法 チャームやらテンプテーションでもかけられた様に
クレーンゲームの中を開けると、 取りやすいように落ちるか落ちないかの位置に
ぬいぐるみを置いてくれた(しかも3回ほど)。

あやせは例の白いバックにぬいぐるみを入れる。

そんなにバックは大きく無いのに、 その3匹のぬいぐるみはちゃんと
あやせのバックに収まった。

女の子のバックってどういう構造なんだろう?
女の子って色々と謎である


「お兄さん・・・ありがとございます♪」

「ほとんど、 あやせが自分で取った様なもんだけど…………な」

せっかくあやせが礼を言ってくれてるってのに……………
俺ときたら、 さっき店員へ笑いかけてるあやせに対して
変にモヤモヤって気がして素直に喜べずにぶっきらぼうに言った。


「まさか・・・・・・・・ゼンゼンですよぉ」

「そうか? 俺はやっぱ女の武器って強力だなって思うぜ」

「だから・・・・そんなことないですってばっ」


「でもさ———————」

「あのね———————お兄さん、知ってました?
今のあなたって、 まるで駄々こねてる子供みたいに見えるって・・・こと」

あやせはクスクス笑いながら言った。


「……………………………」

何となく俺の真意を言い当てられた気がして俺は黙ってしまった。



「・・・・・・こっち来て」

握ってる手を引っ張られて連れて行かれた先は


「……………プリクラ?」


そういや、本物の桐乃とデートした時もプリクラ撮ったっけ?
今日のあやせの見た目が見た目なだけに、 俺は強烈な既視感に襲われる


「フレームは何にします?」

「……………………ああ」

さっきのコトを思い出して急に気恥ずかしくなって気の無い返事を返す。


「ハァー まったく、 あーんもうっ!
本当にお世話の焼きがいがある・・・・・・・・・・しょうのない人。
ほら これ———————だったら?」

「…へ?………え?!」

あやせはプリクラの仕切りの中で周りから隠れるようにして
さっき瀬菜達の前でやったように、否 もっと強く身体を密着させた。
 
そしてプリクラのカメラがある正面じゃなく、 俺の方に身体全体を向けると
俺の顔には自分の顔を、俺の目には瞳を、俺の感情には意識を
——————パズルのピース同士がカチって音を立ててハマったみたいに重ねて
俺の記憶にその後ずっと焼き付くくらい魅惑的な表情で微笑んでみせた。

「……………ぁ、 あやせさん?」

「これで少しは機嫌直りました?」


「な、何でこんな………」


「だ・か・ら・ ・・・ご機嫌いかがです?って聞いてるンですけどぉ、 わたし」

あやせは俺の質問はスルーで更にたたみ掛けてくる

「もう…………(かなり)な、直った」


「彼氏でもないのに———————普段はフラフラしてる癖に
こういう時だけ、 すごく独占欲が強くて 嫉妬しちゃう本当にお子様・・・ですね。
困った僕(ぼく)ちゃんは、 少しは反省してます?」

「は、はい」

もう完全にガキ扱いされてる俺である


「お兄さんの大切な人が相手の場合は、 今のわたしみたいなコトにならないように
・・・・・絶対にそうならないように—————————
お兄さんがその人のことを、 ちゃんとしっかり掴まえててあげてください。 ねっ?
——————————こんな風につまらない嫉妬なんてしなくて良いように」

あやせの何かを諭すような台詞は、
さっきの表情とシンクロして俺の心に刺さった。


「お、おい………………プリクラは良いのか?」

あやせはそれだけ言い終わると、 振り向いて歩き出した。


「もし撮りたいなら、 また——————」

「え? 何か言ったか?」

「——————・・・・いいえ、 なにも。さぁ行きましょう」

手を引かれてる俺には、 前を歩いている あやせが
その時どんな表情だったか窺い知ることは出来なかった。




あやせに連れられて電車に乗り移動して 俺らは池袋にやってきた。


「こっちに何かあんのか?
つーか お兄ちゃん、 お腹が空いたよ…………あやせたん」

そろそろデートにも馴れた俺は、 段々楽しくなって
何となく親密な気持ちにもなって、 あやせにちょっとおどけてみせた。


「あと少しでお昼にしますから・・・良い子にしててくださいね。
あっ そう言えば———————」


「どうした?」

俺の右手を左手で引っ張って、 ついでに注意も引く
俺があやせを見た時、 あやせも下から見上げる格好で言った。


「—————さっき交換したチケットのホテルってこの近くにある・・・みたい」

あやせは右手で例のチケットを、 俺の目の前でひらひらさせて言った。

「う、うん?!」


「な〜んてね、 言ってみただけだよ・・・・お兄ちゃん♪」

「グハっ」

あやせに見事に一本取られた俺

あれ? あやせってこんな子だっけ?

冗談って分かっちゃいるが 今日の色々(俺得)な累積で何か
俺自身も変なスイッチが入りかけてないか自分で自分が心配になってきた。

今まであやせが可愛いってのはデフォルトの事実として頭の隅には有った。
でも『セクハラ』とか『通報』とか言われ続けて萎縮してたんだが
今日はその台詞をまったく一回も言われてない事によって、
俺のアレな気分は確実に助長し拍車をもかけさせていた。


俺らは大きなビルの開放されている中庭のベンチに座って食事することにした。
もう真冬も良いところだが、 ポカポカ陽気の小春日和で幸いそれほど寒くなかった。
天気予報じゃ、 今日は大荒れとか言ってたのに良い方に外れて良かったよ。

あやせは例のバックからランチパック、水筒、ぬいぐるみ3匹を順番に出した。
俺は不思議な気分でその様子を眺めていた。

「あやせのバックって四次元ポケットみてぇだな」

「そ、そうですか?」

「だって沢山もの入ってるしさ。
相当に重いんだろ、それってさ? 他にどんなモノ入ってるんだ?」

俺は本当に無意識で(と言うか、 今日は何しても怒られない気がしてて油断して)
あやせのバックの口を広げて覗き込もうとした。

             —————ピッシャっ!

「あっ痛ッ」

「—————な、何をやってるんですか、 あなたは!」


「いや……………あの」

あ、ヤバ 調子に乗りすぎてマジ怒りさせちまったのかも
せっかく良い雰囲気だったってのに、 ぶち壊すなんて間抜け過ぎんぞ、 俺

普通なら必殺 THE 土下座のところだが、 何だか今日だけは———今だけは
平身低頭で謝罪したり、 あやせに『ブチ殺す』とか言わせるのはどうしてもイヤだった。

「いい加減にしないと、 ぶち——————」


俺はぬいぐるみの中で、 白黒のネズミのやつを取ると身振り手振りを交えて

ネズミ『——————やぁ ぼく ミッ○ーだよ。』

「・・・え?」

ネズミ『あやせちゃん、 あんまり怒ると可愛いお顔が台無しだよ』


一種の賭け………否、 はっきり言って単なる悪ふざけである。
火に油を注いで、 油田火災からの大災害にならないとも限らなかった。

「・・・・・・・・」

あやせは思いっきり拳を振り上げた——————や、やってもうった。
俺は目を瞑って歯を食いしばり衝撃に備えて———————たのだが


イヌ『お兄ちゃんが悪いんだよ。女の子の持ち物を勝手に見るなんて最低だよ』

あやせは振り上げた手を俺の頬じゃなく、 ビーグル犬の方に伸ばして
手に取ってから俺と同じように動かした。


ネズミ『………………お兄ちゃんも悪気は無かったんだよ、 きっと』

イヌ『でもバックが重そうって思うのに持ってもくれないんだワン』

ネズミ『………………そ、それは悪かったチュウ』


「ちょっとぉ、 ○ッキーの語尾が『チュウ』なんて・・・・絶対におかしいです!」

「俺だってさ、 このネズミ野郎がどうやって話すのなんか知らねぇんだよ!
いや、それ言うならさ………そのス○ーピだってワンって語尾じゃねぇだろう、確実に!」


一瞬顔を見合わせて あやせに背中を叩かれた

             —————パッしっ!

「ぷっ!————————ッアハハハ」 

あやせは俺の背中に背中を合わせて、肩を振るわせて



「………………………」

ああ、そっか  こいつって やっぱ笑ってたほうが———何倍も



「どうかしましたか? ちょっと顔が赤いみたい」

「………………な、何でもねぇから。
せっかくあやせが作ってきてくれたんだ。食べようぜ! いただきますー」

俺は誤魔化すように、 あやせの作ってきてくれたおにぎりを口に入れた。
これはあやせが世話を焼いて作ってくれた時に作ってくれた あの料理の味だ。
俺は懐かしい気持ちになりながら舌鼓をうった。

考えてみれば、 俺はあやせの世話になりっぱなしだった。

お袋に理不尽な理由でいきなり追い出されてアパートで暮らした時も、
身の回りの世話から 今食べてるみたいな美味しい料理まで至れり尽くせりで、
そのお陰で、 あの大切な時期に何とか勉強に集中する事が出来て、
路頭に迷わずに済みそうなんだ。(もちろん、 他のみんなにも感謝してもしきれない)


「これ美味しいな。——————ってあやせ、 どうした?」

何故か、 あやせはビルに囲まれた周りの狭い空を遠いを目をしながら眺めていた。


「そう言えば—————わたし 昔はこんな風に 一人でよく人形遊びしてた
のを思い出して」

あやせはさっきのイヌを抱き締めながら言った。


そういや、 桐乃が今よりずっと小さい時は人形遊び とかままごと
とかに付き合ってやったことも有ったっけな………………。

『あたし、 将来 ぜったいにお兄ちゃんのお嫁さんになるもん』

みたいな萌アニメのテンプレな台詞だって聞いたことが有った気がする


「その当時はお父さんもお母さんも忙しくって、 わたしも人見知りだったから
あんまりお友達も出来なくて—————」

「なんか少し意外だな」

「そう?」

「うん」

俺は肯く
俺の中のあやせのイメージは優等生でクラス委員的な美少女だったからだ。

「・・・・・お兄さん、 筧さんって覚えてますか?」

「あやせのスト(ーカー)じゃなくて、 ファンだったよな」

「見てください」

そう言うと、あやせは携帯を俺に見せた。
そこには仲の良い姉妹のような表情のあやせと沙也佳ちゃんが笑顔で写っていた。

「あの後、 何度か会ってお話をして・・・ちゃんと仲直りすることが出来ました」

「そっか…………本当に良かったな」

俺も階段から落とされたり、スネを蹴られた甲斐が有ったよ。


「わたしって——————この前の時はすっかり忘れちゃっていたけど
小学校の卒業文集では、 保母さんになりたいって書いてたんですよ」

「いが………いや、何でもない」

「意外ですよね・・・ふふ、 確かに自分でもそう思います。
でも自分が一人っ子で淋しかった分、 あの頃のわたしは小さな子に優しくしたり
親切にしたいって思ってたのかも知れませんね」


「そっか………あやせは小学生の時からちゃんと考えていたんだな。
俺なんか小学校の時は『世界皇帝になる!』とか言ってたぜ」

死にも至りそうな勢いの若気の至りである


「世界皇帝・・・・なれると良いですね♪」

「……………いや、い、今は流石に思ってないから」

本当だよ?


「わたしも今はもう・・・思ってないですよ」

確かに…………小さい時の夢と今の夢が違うなんてよくあることだ。
俺の妹だって陸上から目標を変えて 今はモデルを一生懸命に頑張っている。

黒猫や麻奈実もちゃんとした夢があるみたいだ。

考えてみたら俺の周りの人々は、 これって結構 凄い奴らって言えないだろうか?
俺なんか今は受験のことで精一杯で、アワワってなってるもんな。
そして何にも増して、 こいつらに俺は世話になりっぱなしなわけだ。

でもさ

そんな俺でも、 こいつらが夢を叶えたり、 望む道を進んで行けるように
————————ずっと応援してやりたいって思うのは
———————それが俺の一生の夢だって心の中で勝手に決心してるのは
世界皇帝の夢は諦めて 自分の受験勉強で凹んだりする残念な俺だけど
こんな俺にしちゃ 結構悪くねぇな って最近思うようになったんだ。



「まぁそうだよな、今のあやせは 泣く子も黙る超A級美少女モデルだからな。
でもさ————」

「?」

「—————案外、 似合ってるんじゃねぇの?
幼稚園とか保育園のあやせ先生」

「♪」

俺が正直に思ったことをあやせに言った時、
あやせは…………ただ微笑むだけで、 結局何も言わなかった。


「あやせさ…………———!」

俺があやせに何事か言いかけた時にメール。
妹からだった。
添付されている写メには、 ここからそう遠くない場所にある会場で
煌びやかな衣装を纏った俺の妹のバッチリな絶品ショット。

俺はついメール と目の前にいるあやせ を何度か交互に見比べたりした。
そして着信 当然、桐乃からだった。

『写メ見た?』

「ああ…………見た」

『感想、、聞いてあげるから言ってみぃ』

「へ?」

『感想早く言えっての』

「……………か、可愛いんじゃねぇの」

『、、、、そんなの知ってるしぃ♪』

でも何故かご機嫌な様子の桐乃
あやせとも目が有ったが普通に、 口元を押さえてくすくすと笑っていた。


「最近忙しいみたいだし、 身体に気を付けて無理はしないで頑張れよな」

『うん、、年末のはすごい大きいイベントでさ。
人も全然足りないみたい。
しょうがないからあたしが無双してんの、 だからアンタもさ———————』

桐乃はここ何日か朝早くに出かけて、 門限ギリギリに帰ってきていた。
モデルの仕事を頑張ると決めた桐乃の面目躍如って所だろう。
 
またあやせと目が合う
あれ…………何かすごく大事な事を忘れてないか、 俺?


『————————でね、、聞いてんの?』

「聞いてる、聞いてる」

『そか、、あんたも勉強頑張ってるんだ、、、うん』


ごめんな、桐乃 実はサボってる。
でも俺は桐乃に対して嘘を吐いている罪悪感は有っても、
あやせの為に"最後に"時間を作ってやることに対しては一�の後悔もなかった。

桐乃との電話を切った後、 俺はまたあやせを見た

ってか俺が嘘を吐いてる以上は、
あやせのこの行動も桐乃には秘密なのだろう。
別にあいつが俺の彼女で、 浮気してるってわけじゃないのに
急にドキドキしてきちまった。


でもさ、 このドキドキも もう少しで終わりなんだ。
今日だけの話じゃない、 もう二度とあやせとこんな風に過ごすことは無い。

今日だけが特別、 俺たちは賞味期限が一日だけの恋人みたいなもの。

残り少ない時間が————そう考えれば考えるほどに
余計にその時間そのものを俺にとって愛しいものに感じさせていた。



でも同時に俺は訝しくもを感じる—————————

「桐乃は何て言ってました?」

「大きなイベントで頑張ってるらしい」

「そっか・・・・うん。やっぱり桐乃は凄いですね」


———————俺はこいつの"今の夢"をちゃんと応援出来てるのかな?
ってさ



「あやせは忙しく————っつーか じ、時間は大丈夫なのか?」

「あっ———————なんですゥ?
桐乃とお話したから、もうお家に帰りたくなっちゃったんですねっ?」


「ち、ちげぇ…………そういう意味じゃなくてだな」

「そんなに心配しなくても・・・・きっと、 すぐに会えますよ」


「へ?」

そりゃ、今日帰ったら会えるだろうけどさ


「それにしても、 ちょっと肌寒くなってきましたね」

「そうだな」

確かにさっきまで雲一つ無かった空は、いつのまにか冬特有の重くて分厚い雲が
これまた冬特有の弱々しい太陽の光を幾分遮り始めていた。


そして あやせは後片づけをして立ち上がったのにも関わらず
俺を見つめたまま微動だにしない。

「………………あやせ?」

ぬいぐるみ「・・・・・・」

バックのわずかな隙間から 例のヤツらが顔出していて、つぶらな目でこちらを見ていた。ぬいぐるみってよく見ると ちょっと怖いんだよ


「あやせ、 俺がバック持つぜ———っ」

お、重っ。
何が入ってるんだ、これ?


そして俺がバックを持ったにもかかわらず、 首を傾げて佇んだままで
あやせは歩きだそうとしなかった。

「どうした?」


あやせは両手で水を掬うみたいな形を作ると、 自分の白くなった息を吐きかけて
俺を ジィー(音が出てそうなくらい)と見た。


「うん?」


イヌ「・・・・きっと、 あやせちゃんは寒いんじゃないか?ワン」

(追加攻撃/小声で)『本当に鈍くて救いがたいヤツだワン』


ネコ「この人・・・デートしてるのにすぐ帰りたがるし最低だニャン」

(追加攻撃/小声で)『デリカシーがないヤツは死ねばイイニャン』


ネズミ「まったくぅ・・・・これだからシスコンの童てっぅう゛——————」



「——————だぁぁ……………よし行くぜ!!!!」


色々な意味でこの状況に恐怖した俺は、 これ以上の追加攻撃を避けるべく
あやせから『セクハラ』とか言われることなど もはやまったく意に介さずに
あやせを自分で両手でガッシリ抱くとそのまま歩きだした。


「…………………………」

半ば予想していたことだが、 あやせに正義の鉄槌を下されたりはしなかった。


「・・・・・暖かい(ワン)」

実は———————色々な意味で俺の方が熱くなってたのは内緒な



暫く歩いていて、 ビルの大きな吹き抜けになっている屋内へ

周りはカップルで溢れてるとは言っても、
彼女を挟み込んで抱きつきながら歩いてる痛い奴なんて流石に誰一人居なかった。

「も、もう・・・・大丈夫」

「お、おう。 それで次は何処に行くんだ?」

抱きつくのを辞めて、 自然にあやせと手を繋ぎ直しながら俺は訊いた。


「・・・・・一緒にお星様を見に行きしょう♪」


俺たちが進んだ先に有ったのはプラネタリウム

そっか、 デートって普通はこういう場所に行くもんなんだ。
俺の中のデータベースにそういうクエリ(発想)は皆無だった。

デートって言葉を思い浮かべて "あいつ"とこんな場所に来たらどうなるのかな?
なんて妄想するのは、 今日のあやせ相手じゃ やっぱ失礼かも知れない。


当然、 男と女 男と女 男と女 男女♪って歌えるくらいの規則的な並び
カップルじゃなきゃ入場資格なぞ無いとばかりの構成の集団の中で暫く並ばされる。

ふと見た時 男女 男★! 男女
野郎がポツンと立っていた

ちょい、休憩

あけおめ
再開↓
———————————————————————————————————————

ってか、 ちょぉwwww あれ部長じゃねぇーかっ!

そう言えば、受験どころか卒業が危うくて
『高坂よ、
もう一度 俺と一緒にハイスクールライフを満喫してみる気はないか?』とか言ってたな

その原因も
ようやく出来た彼女(沙織)と遊びまくったのが原因らしく

『兄弟よ、 ALL I need is Love(愛こそすべてだ) 
俺はクリスマスに世界の中心でアイを叫ぶつもりだからな!
ついでに夜はビースト・モードになるのだ!フハッハッハッ』とか言ってたし

でもアレじゃ世界の中心で"哀"を叫んでる、 まるで"哀戦士"じゃねぇか

多分、沙織と喧嘩でもしたんだろう
沙織もああみえて、 意外に強情な所があるからな


本当ならこんな厄介には首を突っ込んでる場合じゃないんだが
それでもいつもの癖で俺は部長に沙織との首尾をメールして聞いてみた。

返信メール
——————————————————————————
件名 兄弟よ マヤの予言を知っているか?(死)

本文
クリスマスなぞ、 俺が滅ぼす(呪)
明日のニュースを楽しみにしておくことだ (髑髏マーク)
——————————————————————————

ってか部長、テロでも起こさんばかりの形相じゃねぇか!?
しょうがなく、俺は沙織に電話してみる

挨拶もそこそこに 部長の名前を出したら、速攻で切られちまった。

沙織のあまりの拒絶ぶりに
まさかと思うが部長がストーカーとかにでもなってるのかと危惧して、
その旨をメールで聞いたら『そうではござらぬ』から『ですの』で締められた返信。
そっか、やっぱ要するに単なる痴話喧嘩ってわけだ。


興味深そうに俺の無謀な努力を眺めていたあやせは

「まったく・・・お兄さんって本当にお節介な人」

「自分でもそう思う」

「でも・・・お兄さんに色恋の問題なんてどう考えても荷が重いようですね」

「自分でもかなり…………そう思う」

そりゃそうだ
俺なんか他人どころか 自分自身のコトだってちゃんと出来ないんだからさ。


あやせは つかつか と部長の前まで俺と二人で歩いて行くと

「あなたに大切なお話があります」

「ど、どちら様ですか?
あっ! 兄弟じゃないか!
し、しかも兄妹そろってクリスマスデートとは、 この俺を笑いにでも来たのか!」

兄弟と兄妹で韻を踏みつつ、 その内容は被害妄想に溢れた素敵な台詞の部長である。
そして…………ここでもぱっと見で桐乃と思われているあやせ。

「ちょっと落ちつこうぜ、 なっ 部長」



「良いか 高坂よ、 よく聞くんだ!
リアルの女なんて苦労するだけだぞ。

整合性のある選択肢が出るわけでもない。
分かり易いフラグがあるわけでもない。

そのくせ、 オチのない無い話を延々聞かされたあげく、
こちらが善意で一生懸命に考えた内容をアドバイスでもしようものなら、
そんな意見は必要無い、 だだ自分の話を聞いてくれたら良い、
あなたの意見なぞ聞きたくはない—————とくるんだ。

あれならゲームの方がよっぽどインタラクティブだぞ、 冗談抜きでそうなんだ。
だから敢えて言おう、 リアル恋愛など不毛なカスゲーをやってるようなモンである
と」

「そ、そんなことねぇと思う………………けど」

俺は意外に思った。
俺の知ってる沙織はどっからどう見てもエンターテイナーのそれで
"普通"の女の子みたいな我が侭な部分がどうしても上手く想像出来なかったからだ。


        ————————パチンっ!


「「え?」」

殴られた部長も それを見ていた俺も状況が飲み込めずに間抜けな声が漏れる。


「あっ—————(やせ)、おまえ何やってんだよっ!!!」


「説明………あるんだろうな?
年下の女だから手こそ出さなかったが、 兄弟と違って俺は叩かれて喜ぶMでもなければ
笑って済ますほど人間も出来ちゃいない」

部長がメチャクチャ キレてるのが分かる。
そりゃそうだ、知り合いの(一応ここでは)妹とは言えほぼ初対面の女に
いきなり理不尽に殴られたら、 俺だってMじゃねぇから普通怒るよ。


『わ・た・し・は・こ・の・人・が・好・きぃい! ! ! !』


その声はきっと、俺が桐乃とあやせを仲直りさせようとして芝居した時の声
——————"あの時の声"よりも、 ずっと大きかった。



「……………え? マジで?」

部長はさっきの勢いは何処にやら完全に戦意を失っていた。
俺だって息をするのも忘れて茫然とあやせを見ていた。

もちろんそれは俺らだけじゃない、
クリスマスに素敵なプラネタリウムデートをしようとしていた
無関係の善良なカップルのみなさんもドン引きである。


あやせの周りで 静寂で、清浄で、神聖な空間がいつのまにか展開されていた。


『わたし達は・・・・誰にも祝福されない』


あやせは さきほどとは うって変わって
とても静かに優しい声で言った—————————————


・・・・・でもあなた達は違うでしょう?


お互いに好き同士で、 みんなに祝福されてるなら何の問題があるの?

あなたは知ってますか?
本物の神様は、 あなたが思ってるほど優しくも無ければ 慈悲深くもないってこと


でも今はすごく——————す・ご・く・幸運なことに

あなたの愛する人は、 あなたの大切な友達が 好きな人 なわけではない。

あなたの愛する人は、 あなたが尊敬してやまない人が 好きな人 なわけでもない。

あなたの愛する人は、 あなたが自分自身よりも大切と思う人が 好きな人
なわけじゃない。


自分の心の中だけが敵なら・・・・そんな下らない心 ぶっ飛ばして、ぶち殺して、
ちゃんとその人を掴まえて、 今のその好きって気持ちを大切にして


残酷で、 きまぐれな神様が、 そんな神様が あなたに与えてくれた 奇蹟が

絶対に 壊れないように
絶対に 無くしてしてしまわないように
絶対に 消えてしまわないように
絶対に 失わないように

—————————————と


「ね、わかりましたか?」

あやせは、 優しく母親が子供を諭すように言った。


「………………う、うん………………う゛ぅうん」

部長は奇蹟を体験した人が、 神様の御使いの天使の前で跪くように泣き崩れていた。


「だったら・・・・・・・さぁ 早くお行きなさい」

「うぉぉ——————————」

泣きながら、 明日へ走り出す部長

         —————パチッパチッパチッパチ!

まわりから拍手喝采されている俺たち


「おまえさ………………」

「何です?」

「い、いや………………何でもねぇよ
————————————うぉっとぉ ビックリした!」

俺が何と言って良いか分からなくなっていた所
号泣しながらの部長が戻ってきた。


「高坂 貴様に良いモノをくれてやろう! 妹殿を大切にしておけよ
では御免」

と言って部長は全速力で、 視界から明後日の方向へ消えた。


これはまた完全に……………誤解されちまったな。
でも全然悪い気分じゃなかった つーか、 悪いどころの話ではない。
色々なコトが起きってけど、 俺はこのクリスマスデートを結構満喫してるよ。


「今日のお兄さんとわたしって、 何だか色々なアイテムをゲットする日みたい♪」

確かに、 さっきの赤城瀬菜と真壁くんとは わらしべ長者的に
どう考えても いらん『アレキサンダー軍曹』と、
どう考えても使い道がない『ホテル宿泊券』を交換した。

今回のは、 あの部長だからロクでもない可能性もあるが、 何の変哲もない小さな包み。
俺は 取り合えず爆弾解体でもやってるつもりで、用心しながらその包みを開いた。


ババーン★

『恋人達に永遠の愛を ペアリング 引換券』

な……………んだと
って他人のペアリングなんか要るわけねぇだろ、 部長の野郎 トチ狂ってやがるっ!


さっそく、 部長に抗議のメールをすると————————————

ペアリングは御鏡(御鏡がゲーム部に訪ねた以来の懇意の仲らしい)
に頼み込んだ友情価格なので、 その辺 心配ご無用とのこと

部長はアホなので、 ペアリング(まさか ペアの意味を理解していなかった)
を一組じゃなく、 二組頼んだので(御鏡もさぞ困惑したことだろう)

沙織へのクリスマスプレゼントについても 懸念ご無用とのこと 
 
リング自体は真っ新の状態なので、

奇文、珍文、猥文、呪文、ヒエログラフ、ルーン文字、ポエムetc etcを
このビルの内にある受け取りの店で、 自由に刻印すれば良いとのこと 

可愛い妹と宜しくやれとのこと  (`・ω・´)キリ


兄弟よ、 ALL I need is Love(愛こそすべてだ)とのこと (`・ω・´)b


敬具(クリスマスのツリーっぽい記号) 

—————————————だった。

「どうするよ?これ」

「ねぇ、 お兄さん・・・桐乃に何かプレゼント用意してます?」

俺は『みんな! オラに元気を分けてくれ』って言うポーズから
ラジオ体操みたいに両手を思いっきり横に広げつつ 首を絶妙に 斜め四十五度に捻った


「あの人って意外に、 ちゃんと女の子が欲しいものを理解してるみたい。
クリスマスデートするのに手ぶらの誰かさんなんかよりも、 ずぅーと」

「………………」

どうやら俺の男子力って、 あの部長未満らしいですよ?


「桐乃にちゃんとしたクリスマスプレゼントが用意出来て良かったじゃないですか?
——————きっと喜びますよ、 女の子だったら誰でも」


誰でも………………か


「…………なぁ プラネタリウムが始まるまでに 後 どれくらい並ぶんだ?」

「まだ、30分くらいはあると思いますけど・・・・」


あやせはなるべく良い席で見たいらしく、 俺らは最前列の前から2番目に
ならんでいた。
そしてさっきの部長と遭遇したってわけだ。



「ちょっと、トイレ行ってくるっ!」


—————————俺は必死で走った


「ぜぇぜぇぜぇ…………勉強ばっかしてるから完全に運動不足だな、こりゃ」


「何処までおトイレ行ってたんです?」


「はい、これっ!」

俺はあやせに、 御鏡製のペアリングの片割れを渡した。

そのリングは 俺が考えるアクセサリの漠然としたイメージと違って
パッと見はシンプルそのものな形なのだが、 よく目を凝らしてみると
細かい細工が、 至る所細部にまで施されていた。

実際に買おうと思ったら洒落にならないくらい高いらしい。
御鏡って本当に良いヤツなんだなとしみじみ思う俺だった。


「あーペアリング取りに行ってたんですね・・・後で、 ゆっくりでも良かったのに。
『K・K』、 うんとっても素敵」


「あ、 それ俺のだ—————あやせのはこっち な、 ほい」

俺は『A・A』と刻印されたリングをあやせに渡す


「・・・・え?」

「だ、だってさ………イニシャルだと『あやせ・新垣』だろ?
普通に『新垣・あやせ』でも一緒で、 ってそれは俺も同じなんだけどさ」


「・・・・・・・」


「これはイニシャルだけじゃなくて、 実は俺的なダブル・ミーニングで
『あやせたん・Angel』(キリッ) これってどうよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・ナンデ」


「……………もしかして気に入らなかった?」


「わ、わたし—————ってスカスカじゃないですか これ!」


「そりゃ、 部長が沙織専用に作ってるからそうなるわな」

男子用のは部長サイズだから俺もほぼピッタリなのだが
女子用はあやせにはどう考えても装備不可 規格外の大きさだった。


「あーあ・・・やっぱり結果 すごくお兄さんらしいプレゼントですね、これって」

あやせに苦笑される俺。
確かに これだといつもの勝手知ったる残念でアレな俺で終わっていたかも知れない。
しかし、 今日の俺は ちょっぴりだけ違ってたりする(聖なる夜の奇蹟的な意味で)








「まぁまぁ そう言わないで ちょっと貸してみぃ…………これをこうして、こうしたら。
はい、 あやせ—————」

下着やら、ぬいぐるみやら、アクセサリやら、アクセサリやら色々
色々な女の子に色々なモノを送ってきた俺だけど
そいつらの人生相談にものってきた俺だけど
それは全部、 相手に喜んで欲しくて、 笑顔になって欲しくてやってきたことだった。

そして今の俺は、 どうしてもあやせに喜んで欲しいと思っていたんだ。


「—————え? キャァー-ー な、何をするんです?!
お兄さんっ ひ、人前ですよ・・・待ってっ みんな見てるからっ ダメェだからっ!」


「————痛てて。 あやせたん、 ハッピー メーリー★クリスマスつーことで」

俺はあやせに抱きついて(流石に今回は衆人監視の下だったから結構殴られました)、
あやせの首筋に手を回すと、 ネックレスに通したリングを着けてやった。

「これって・・・?」

「さっきのぬいぐるみ件も このペアリングも———これは部長の好意だけど
俺自身は、 結局 今日あやせの為に何もしてやれなかったからさ。
だから、せめてチェーンくらいは 俺が買ってプレゼントしたいって思ったんだ。
ペンダントにしたら リングの大きさも関係ないだろ?」

ペアリングの主な素材らしいパラジウム(レアメタル/貴金属)ってのは
単なる(しがない)受験生である俺には全然買えず

タングステン(レアメタル/何とか語で重い石って意味)のチェーンを
急遽 間に合わせで買った。

俺にしちゃ、 なかなか悪くないアイデアだと思うんだが…………どうだろう?


「お兄さん・・・・」


「"ペアリング"ならぬ、 "ペア?のリングとリング・ネックレス"になっちまったけど、
どうかな?」

「わたし・・・・お化粧直してきます」

あやせは顔は下に向けると、 そのまま いそいそと歩いていった。
喜んでくれるって期待してたのに……………ちぇ ダメだったか。


暫く経って、 そろそろプラネタリウムが開演しそうなのにもかかわらず
あやせはなかなか戻ってこなかった。
俺は心配になってメールしようと思っていたところ


「ハァハァハア・・・・・・」

美少女が息を切らせて走ってきた。

「あやせ………随分遅かったけど、 大(だい)————痛って。
おまえ、 何すんだよっ!?」

「お兄さんの馬鹿 バカっ! もうっせっかくの気分が台無しじゃないですか!
女の子に 何てことを聞いてるンですかっ!?
この変態ッ! へんたいっ!ドォ へ・ん・た・いッ!」

「意味分かんねぇよ! 『大丈夫だった?』 って言おうとしただけだろ?」

そもそも気分って何だよ?って話だが


「?————っ!」

「え? なになに?」


「だ、大丈夫じゃないですっ・・・・・」


「お、おい……………あやせ? 人前だぜ、 良いのかよ?」

つーか、"人前"じゃなきゃ俺とあやせは抱きつく仲ってわけでも無かったよな?多分
今日、 散々抱きつき 抱きつかれて…………段々感覚が麻痺してきていた。

「指輪・・・・・してないんですね?」

「ああ………そうだな」

考えてみたら俺がアクセサリなんてどう考えても柄じゃないし
装備したら追加アビリティーが無いどころか、 逆に能力値まで下がりそうな気がする。


「あーあ、 お兄さんがどうせ身に着け無いンだったら
わたしは 桐乃とお揃いの方が嬉しかったのになぁ・・・・・・このリング」

あやせはペンダントヘッドのようになったリングを触りながら言った。

「そう…………そっか、 そうだよな ハハハ」

そりゃそうだ、 あやせは桐乃の格好で出掛けるくらいに桐乃好きだもんな。
確かにイニシャルが『K・K』なら桐乃にプレゼントしても良いわけか



      いいや 違う———————そうじゃねぇだろ 俺



今のあやせの言葉の内容をそのまま100パー真に受けて
曲がりなりにも『好き』って告白されたコト 抱きつかれた今の状況を
コロっと忘れるとか—————俺って『本当に鈍くて救いがたいヤツだワン』だぜ。


「桐乃には 何か別のモン買おうかって思ってるから、
これは………………このままで良いんじゃねぇの?」

「だ、 だったら、 これは本当に お兄さんとわたしのペアリングってことで
本当に良いンです・・・ね?」

「もちろん」


「うん・・・・・・・そっか、
ねぇ だったら、 これからはちゃんと身に着けててください」

あやせはそう言うとニッコリ笑って、 自分がしていた『あやせたん・Angel』
のペンダントを首から外して、 何故か俺が買ったタングステンのチェーンも
同時にリングから外して抜いた。

そしてポケットから真新しい高そうな別のチェーンをリングに通してペンダント型
にすると俺に身に着けさせた。

「へ? おまえ、一体何を………………」

「ほら、 次はあなたのリングをかして」

「あ、うん」

「・・・・・これをこうして、こうしたら。
————————はい、 お兄さん」

あやせは、 もう一方の『K・K』と刻印された方のリングに
さっき外した(俺が買った)タングステンのチェーンを通してペンダントにする。

そのリングをあやせから渡された俺は———————————
あやせが一体全体何をしたいのかさっぱり分からなかったが、 一連の流れから想像して俺はその『K・K』のリング・ペンダントをあやせの首にかけてやった。

「このリングに刻印されてるいる『K・K』は・・・・・・・・
桐乃じゃなくて、 お兄さんのイニシャル『京介・高坂』ですよね?
わたしの言ってるコト、 ちゃんと合ってます?

「お、おう。 それで正解」

「そしてあなたの首にあるのは—————」

「『あやせ・新垣』(あやせたん、天使 マジで)だよな?」


「お兄さん、 ご存知でしたか?
ペアリングって、 相手の名前を刻印した物を自分が身に着けるって・・・・こと」

「…………………え?え゛ぇぇ?」

自分用のペアリングの刻印って自分の名前じゃないのかよ!?
……………あっ 考えてみれば、 そりゃそうだ。
もし自分の持ち物に自分の名前を刻印するんだったら、
それは小学生が自分の玩具に名前をマジックで書いてるのと変わんねぇもんな

俺って全く部長のこと笑えない
しかも間抜けにも女子用のリングに自分の名前を刻印してるとか
しかも沙織(の指のサイズ)のお陰で、 大きさ的にはむしろ男子用で
合ってるってまったく、 変な気分だぜ。


「お兄さんのプレゼント・・・・・わたし すごく大切にします」

俺がさっきからずっと待ち望んでいた、あやせの喜んでる顔…………やっと見れたよ。
それはもちろん嬉しかったけど、 何か色々な意味で複雑な気分でもあった。

「あやせがペンダントにしたこのチェーンって………………」

まかさの"パラジウム素材"である。

「はい、 わたしのプレゼントです♪」

「あやせの気持ちは、すげぇ有り難いんだが…………なんつーか」

俺の男のプライド的なアレである。


「どうしても、 わたしのプレゼントがそんなに気になるンだったら、
来年のクリスマスには、 同じモノ
その次の年には、 プラチナ
その次の年は、 純金のチェーンを改めてプレゼントしてください」

「あやせさん…………ま、マジですか?」

「ふふ・・・・冗談ですよ、 冗談♪」



その時、 俺がふと想像したことは——————————

もし あやせに(冗談じゃなく)本気でおねだりされたら、俺は一体どうするんだろう?

——————————ってことだった。



抱きつき状態がデフォルトなった俺らはやっと、 プラネタリウムの中に通された。

その時、 俺らより前に並んでいた最前列の感じの良さそうな初老の夫婦の人達が
俺らの身の上(さっきのあやせの演説と俺らのやり取り)を観察してて

『いや………若いって良いですね。君たち頑張ってください』と言って

握手を求められ 最前列を譲ってくれた。


「ここ・・・座りましょうっ!」

「お、おう」

俺らが座った席は入り口から一番遠い奥の隅っこで何故か
他のシートは横並びで青いのに、 俺らの席だけが赤くて2席だけ独立していた。


なんつー The カップルシートなんだ、これ………………。

しかしクリスマスのプラネタリウム 、ビックリっすよ。
満天の星空そっちのけで、 目の前のカップルはイチャイチャ抱擁し始めてるし

「あ、あやせ…………何かすごいな、ここ」

「お兄さん、 綺麗ですねぇ・・・・ねっ♪」

「確かに、 綺麗な子だとは思うが————」

「—————ふふ、 お兄さんが綺麗なキラキラお星様になっちゃいますぅ?」

あっ、 北斗七星の隣に見えるあの星は…………死兆星!


「すんません、 軽い冗談のつもりだったんです。
だから………………どうか命だけは」

「って言うか・・・・と、隣に居る子は可愛くないンですかァ?」

「隣の可愛い子ってよく見えないじゃん」

俺らの真っ正面の真ん前でチュッチュしてるカップルの
隣の子は位置的に暗くて見えなかった。

「あー確かに、 ここからは死角になって見えません————って正気ですかっ?!」

「うほえす、 じぉふうじゃんでふ はよせはぁまぅ
(嘘です、 冗談です。 あやせさま)————痛てて」

思いっきし両方の頬を抓られ引っ張られちまった。

「良いですか、 お兄さんっ!
まず第一に、 デート中に他の女の子を見てるなんて万死に値するってコト、
ちゃんと肝に銘じておくようにっ!」

「は、はい」

「大体、 お兄さんは色々気が多くて色々目移りするし 浮気性のエッチで————」

「悪かった、悪かった。
つーかさ、 どう考えても…………今、 俺の隣・に・座・って・る・子・が
今日 俺が会ったり見た中で断トツに可愛かったぜ」


「ふぅ〜ん、 ふふ————だったら 桐乃に言いつけちゃおうっかな?」

「………………く」

「う・そ・————お兄さん、 なんて顔してるンですか・・・もう」

「………………」

俺は一体どんな顔をしてたんだろう?


「だ、だからデートする時はその相手だけを見てあげてくださいね、わかりました? 」

「へーい。
ってかさ 何か今日のあやせって本当に先生みてぇだな」

つーか、 今の俺ってデート指南受けてる幼稚園児の悪ガキの気分だぜ


「・・・・アハハ、 案外当たってるかも知れませんよ?」


「なぁ、 あやせのその格好ってさ………………もしかしたら」

こんな俺でも そろそろあやせの極秘『作戦』の全容が
何となくだけど分かっちまってきていた。
同時に、 そのせいで罪悪感やら何やらが一気に俺の心の中を占領しようとしていた。


俺は何とかあやせの表情を読み取ろうと、 あやせの方に向こうとした時

「せっかく、 プラネタリウムに来たんだから ちゃんと見ましょうよ」

「…………確かに、 そうだな」

俺はしょうがなく言われたとおりにする。

「・・・星ってやっぱり綺麗」

「うん」

「わたし、 冬の空って大好きですよ。
オリオンのベテルギウスとリゲル それに一番キラキラしてる、おおいぬ座のシリウス」

「あやせって若いのに物知りだな」

「小さい時は絵本、 小学生になったら本を読むの好きだったから」

その頃は、 『世界皇帝』とか言ってた男 高坂京介


「俺なんか自慢じゃねぇけど 中学になるまでサンタを信じてたし
どう考えても天動説の方が説得力があると思ってたし
それに雪だるまって—————いや」

「・・・・雪だるまって?」

「いや、恥ずいから…………やっぱ良いって」


「わたし聞きたいです。 お兄さん・・・教えてください。 ね?」

プラネタリウムでカップルシートに座った時点で かなりの密着状態だったのに、
今は、真っ正面のイチャついてるバッカプルと比較しても遜色ないほど
———お互いの服がシワになるくらい、 俺はあやせにくっつかれていた。


「ゆ、雪だるまって 当たり前の話だけど雪転がして作るだろ?
そしてバケツを帽子にしたり、 ほうきで手を作って………………
外国のだったら、 鼻はにんじん刺したりして」

「・・・うん」

「で、 目は丸い炭で 口は木炭とかだよな……………?」

「そうですね、 わたしもお父さんに作って貰ったことありますよ」

「俺ってさ、 ああいうのって全部空から降ってくると思ってたんだわ」

「雪だるまの目と鼻とか手のパーツが、 ってことがですか?」

「そう、 だから冬の空って すげぇ良い奴だなって思っててさ。
そりゃ、 みんな当然の如く雪だるま作るよなって考えてた。
———————日本と外国の雪だるまの違いも空とか気候の違いみてぇな話」

そういや、『冬将軍』ってアレキサンダー軍曹みたいな見た目の
実在の将軍もガチで居ると思ってたよ、 俺

『世界皇帝』VS『冬将軍』……………とかね

不思議なんだけど、 今日のあやせと話していると忘れていた過去をよく思い出した。


「ふぅん・・・お兄さんって凄くロマンティストだったんだ」

「桐乃にもドヤ顔で言ってたなぁ…………ああ、恥ずい」

多分、麻奈実やロックにも言ってたな。


「わたし————そういうお兄さん 嫌いじゃないから・・・・・
わたしの前だったら、 そんな風に恥ずかしがらなくても全然 大丈夫ですってば」

あやせは 俺の黒歴史を、一生懸命に元気づけてくれてるような
でも同時にそんな俺の過去を、本当に受け入れてくれてるような
まるで愛しいって(何か色々恥ずくて俺には判断出来ない)感じで言ってくれた。


「あ、ありがとう…………あやせがちゃんと聞いてくれて、
そんな風に言ってくれたから、 何か昔の俺もそんなに悪くない気がしてきたぜ」

幼馴染みの家で 俺と桐乃と麻奈実と鼎談してた時には話すことが無かったけど
これもやっぱり 紛れもない俺の過去だった。
——————高坂京介って言う名前の遠い遠い昔の話。

そして俺は気付くと、 三年前の————"櫻井秋美"との過去の出来事も
結局、 あやせに話していた。

そんな俺の話をあやせは ただ黙って聞いてくれた。


「お兄さんがせっかく過去のお話してくれたから
わたしも特別に、 昔話しちゃいますね

わたしの初恋のお話—————————————」


その話は…………あやせも俺と同じように、今 突然思いついたのか
それとも今日………俺と会う前からずっと考えていたことなのかは
今の俺には分からなかった。

あやせの話は 初めての『恋』の話であるのと同時に、
初めての『夢』の話でもあった。

そして、 あやせの失った恋と夢の話は淋しくて、 切なくて、 救いがない話のように
俺は聞こえた。


『本物の神様は、 あなたが思ってるほど優しくも無ければ 慈悲深くもないってこと』


それでも結局俺も あやせの話を ただ黙って聞いていることしか出来なかった。



桐乃はわたしが初めて会った時から、今の桐乃で・・・優しくて 親切で、
一生懸命な努力家でわたしは、 そんな桐乃をすぐに好きになって 同時に憧れました。

—————桐乃のお陰でちょっぴりだけモデルとして自信が出てきた時に
・・・・そんな時に、 わたしはお兄さんと出会ったんです。

桐乃に大好きなお兄さんが居ると分かった時、 すごく羨ましくて ちょっぴり嫉妬して
わたしにも、 あなたみたいなお兄さんが居たら
もしかしたら桐乃みたいになれるのかな? なんて考えたりもして

お兄さんのことを"お兄さん"って呼んだり、 こんな風に好きになったのも
きっとそういう理由もあったのかも知れません

だから わたしなんかが もう二度と お兄さんをシスコン呼ばわりなんて
出来ないですよね ふふ

そしてだからこそ、 わたしには 桐乃の気持ちってよく分かるんです


今まで色々なことがあったけど

桐乃や加奈子に出会えて、 今のお仕事を始めるようになって
そして お兄さんやお姉さん、 黒猫さんや沙織さん
—————————沢山の素敵なみんなと知り合えて

たかだか中学生の分際で 大げさって言われるかも知れないけど、
わたしが生きてきた中で、 一番大切で 一番幸せな時間だって思ってるから


だから——————————わたし・・・・・・・



俺はあやせの言葉の続きを ずっと待っていた。
でも………………いつまで待ってもあやせの言葉は出てこなかった。
そして……………あやせが泣いてるのは分かっていた。


同時に、 俺は思った
—————————————人と人との思いの差って、 何なのか? 
ってことを


それは俺の無自覚で派手だった あやせへの好意と、
対照的な、 あやせの静かで確かだった 俺への好意のことだ。

例のストーカー騒動の時
沙也佳ちゃんは 過去のあやせのイメージを、 無理矢理 現在のあやせに押しつけて
あんな騒ぎを起こした。
確かに、 あれは沙也佳ちゃんの思いこみって部分が大きかった。

それでも、 あやせの昔の沙也佳ちゃんへの優しさが全部嘘で勘違いとは
きっと言えないと思う。

みんながみんな、 他人を自分の思いこみや願望で見ているから
誤解したり勘違いしたりすることはしょうがないって、
あの時の俺は一応納得していたんだ。


でもさ………………俺とあやせの場合もそれと一緒と言えるのかな?


俺がふざけて『好きだ』とか『結婚しよう』なんて、 ちょっかいをかけなけりゃ
あんな風に散々煽って 勘違いさせなければ…………あやせに思いこませなければ
こんな風に、 あやせを泣かすことも きっとなかった。

そして、何よりも—————俺はあやせが桐乃に遠慮して、 板挟みになり
苦しんでた事にすら、 今の今まで気付いてなかった。

そして今更——————今頃、 それは櫻井の時も同じだったと気付く
これじゃ、 俺の頭と心はまるで 石ころみたいに からっぽじゃねぇか


後輩を泣かせ、 同級生も泣かせ、 幼馴染みを心配させ、 妹をも不安にさせた挙げ句
周りを散々振り回して、 今は妹の親友を悲しませてる

告白してきた女の子を——————結果的に俺が振ってしまったその女の子と
今日みたいに楽しく一日デートすれば、 二人の間に良い思い出さえ作れば
その後は笑って友達になれるなんて思うのは、100%俺の欺瞞と偽善だった。

俺ってヤツは みんなに良い人と思われたいだけだったんだ。
誰にも嫌われたくなくて、 必死でみんなに良い顔をしていただけだったんだ。


俺は身勝手な最低の……………———・・・・・・わたし、 お兄さんのそういう所も大好きだったから



        —————あやせは俺の頭を優しく撫でた




わたしも同じ  桐乃にも、 お兄さんにも、 誰にも嫌われたくなかった

だから お兄さんは悪くない ぜんぜん 悪くない

わたし お兄さんに出逢えただけで 嬉しかったから すごく すごく嬉しかったから

だから もう良い 

わたし、 お兄さんのこと ちゃんと 分かってるから

だから 全部 全部 もう・・・良いから 

わたしは大丈夫・・・だから 

だから・・・お兄さんも ほら

・・・ね? 


結局、 俺は自分が振った泣いてる妹の親友の胸の中で 優しく抱き締められて
ただ——ただ、泣きじゃくった。

そんな俺のせいで、 あやせは泣きながら こんな俺の為に微笑んでくれた。


               ***


"Air"


俺達がプラネタリウムを見終えて、 外に出た時の 心の晴れ晴れしさとは
対照的に どんよりと重い雲が完全に、 冬の早い黄昏の空を覆っていた。

俺とあやせのデートも、 もうすぐ終わろうとしていた。
多分、 時間的に考えると次が最後だろう。
でもあやせが望むなら、 門限だろうが何だろうが今日の俺は気にしないつもりだった。

「あやせ、 次はどうする?」


「もう少しだけ・・・・お時間大丈夫ですか?」


「もちろん。 良いに決まってんだろ」


あやせと過ごす一分、 一秒がもの凄く短く感じて、 時間は止まらなくても
せめて 時間が遅く進めば良いのになんて————無駄なことを
誰に頼んで良いのかも分からずに、 願いたい気持ちになったり
何度も何度も、 携帯で時刻を確認してみたり

考えてみれば
俺とあやせは もう二度と会えない運命の遠距離恋愛中のカップルと同じだ。

少なくとも 俺達は お互いのことを憎からず想っている。

このデートの瞬間を、 その一瞬一瞬を愛おしく思いながら 過ごしている。

でもこのデートが最初で最後 

賞味期限が一日の恋人の俺たちはこのデートが終わったら……………
恋人として再会することは、 二度ない。


「・・・すごく綺麗」

辺りが暗くなった分、 駅前のクリスマスツリーや 通りのイルミネーションは
輝きを増して 俺たちに幻想的な風景を見せていた。

でも、 そんな風景すら 引き立て役のおまけに思えるほどに…………………
今のあやせは 俺の目には美しく見えた。



「あやせ、 二人で写メ撮らない?」

「良いですよ・・・・もちろん」

時間を遅くすることも、 ましてや止めることも出来ないなら
せめて、 この瞬間を切り取って何かの形に残しておきたかった。

俺って女々しいよな、 本当にそう思うよ

通行人にお願いして撮って貰う。
そして、 あやせが受験勉強中の俺へ 息抜きになるようにと送ってくれた写メが
何枚もファイルされているフォルダに保存した。

女々しい上に—————節操もない俺

「こんなお願いしてごめんな、 あやせ」

「わたし 言いましたよね? お兄さんのコトはちゃーんと分かってるって。
乗りかかった船ですし、 だから最後までしっかり応援します。
お兄さんがダメって言っても、 それがダ・メ・ですよ?」

「マジで有り難う……………色々とさ」

「気にして頂かなくても結構です、 だって わたしがイヤなんだから。 
どうしても お兄さんのコト、 やっぱりほっとけないですし
やっぱり駄目な子を相手している・・・幼稚園のあやせ先生みたいな?
感じです・・・・ふふ」

そう言ってあやせは笑った。


そんな笑顔のあやせを見ていて、 言葉に出来ない葛藤が俺の心を駆けた。

いっそ、このままあやせと逃避行…………なんて
(女々しい上に————節操もなく)、ついでに勇気も度胸もまったく無い
俺には…………絶対に無理な話だった。


「ほらっ・・・・そんな顔しないの!
今日はせっかくのクリスマスなんですよ、 お兄さん」

「うん、 そうだな」


「わたしが お兄さんの為に 特別なクリスマスプレゼント、
この後に用意してますから・・・・・ものすごぉ〜く 期待してて良いですよ♪」


「マジか…………何だよ?
滅茶苦茶気になるから、 俺にあやせのプレゼント 早く教えてくれよ」

でもあやせは

『ふふ——————今はダ〜メ、絶対に教えてあげない』 と言った。

いくら、 頭が悪くて鈍いアレな俺でも もう分かっていたよ。
あやせの言うプレゼントが 何—————誰(だ・れ・か・)かってことは、
とっくの昔にさ。


『あーあ、 俺って本当に駄目なヤツだ』——————って後ろ向きな事を
考えるのは もうこれで辞めにしよう

おそらく 俺と待ち合わせる前から…………あやせが決めていた企みに
まんまと乗って驚いたフリをして………………あやせに礼の一つでも言えば
今日のことは全て終わる。

こんな俺でも、 あやせは出会って良かったって言ってくれたんだ。

だから 明日からは 俺はあやせのことを今までみたいに、
いいや 今まで以上に応援してやろう

それが、 このお節介で心優しい美少女に 俺がしてやれる唯一のことなんだ。


               ***


でも
その日 俺が あやせのクリスマスプレゼントを受け取ることはなかった。

そして、 結局 また俺はずっと一晩考えることになる
—————————————人と人との思いの差って、 何だろう?ってことを



それは……………おそらくあやせが 俺のプレゼントの為に
妹と電話して 何事か話終えた直後に起きた。
なぜか あやせは全ての表情を無くして 突然 崩れるよう俺の肩に寄りかかってきた。


  『わたしの夢・・・消えちゃった————』


あやせがそう呟いた時、 あやせの頬に大きな雨粒が落ちてきた。
俺は無意識にあやせを身体を抱き締めながら、
暗い色だけの絵の具で塗り潰したような どす黒い空をずっと見ていた。

雨が音もなく、 あやせの髪やコートを濡らしていった。
俺の首筋も雨粒を感じたと思ったら、 それはあやせの涙だった。


さっきあやせがプラネタリウムで 俺にしてくれたみたいに………………
俺があやせの濡れた髪をいくら撫でても、 赤く上気して潤んだ頬をいくら撫でても


あやせは、 (二人でホテルに行くまで)絶対に 泣き止まなかったし


降り出した冬の冷たい雨も、 (俺たちが 朝、帰り道の路地裏を歩くまで)
一瞬も止むことはなかった。






おわり

桐乃の語りで小ネタを一つ投下

『呪いのDVD』

あやせからDVDを貸してもらったの。それも、ずっと昔に流行した『呪いのビデオ』のDVD版。
もちろんあたしだって見てみたい気持ちはあるんだけど……。
でもなんていうか、はっきり言ってやっぱ怖いじゃん。
こういうときに打ってつけなのが、あたしの三つ年上の兄貴。つまり高坂京介っていうわけ。

「ねえ、今忙しい? ……ていうか、お正月だからって、いつまで寝てんのよ!」

「何か用でもあるのか?」

「別に寝ながらでもいいんだけどさ、あやせがDVDを貸してくれたのよ」

「それを俺に見ろってか? あやせが貸すようなDVDなんて、見たってろくなことがねえだろ」

「そんなこと言わないでさ、とにかく一度見てから、あたしに感想聞かせてよ」

ブツブツ文句を言う兄貴に無理矢理DVDを押し付けて、あたしは自分の部屋に戻ったの。
まあ、二時間もすれば見終わるだろうし、感想を聞いて怖そうじゃなかったらあたしも見ようと思ってね。

◇◇◇

もういいかなって思って、あたしは兄貴の部屋へ行ったの。
一応声を掛けてみたんだけど、中からあいつの返事がないのよ。
思い切ってドアを開けたら、そこには全身から生気を抜き取られたような兄貴が横たわっていたの。
……まさか、『呪いのビデオ』って本物なの!?

「ねえ! 大丈夫!? やっぱ、あの『呪いのビデオ』って本物だったの?」

「き、桐乃……か? あ、あれは危険だ! お前は絶対に見るんじゃねえぞ!」

「どういうことなの!? あのDVD、何が写ってたの!? ねえ!」

あたしが兄貴の正気を取り戻そうと、身体をゆさゆさ揺すってたときなの。
階下で、あやせの声がしたのよ。

「桐乃? いる?」

あたしは急いで兄貴の部屋を飛び出して、階段を転がるようにして駆け下りたわ。
だって、あやせもこのDVDは見たって言ってたし、兄貴がこんなふうになった原因もわかるかもってね。

「あ、あやせなの? あいつが、あいつが大変なことになっちゃってるの!」

「桐乃? どうしたの慌てちゃって。あ、それよりも、さっき貸したDVDなんだけど……」

「そのDVDが問題なの! あの『呪いのビデオ』っていうDVD見た後、あいつがぐったりして変なのよ!」

「お兄さんが変? でもあのDVD、『呪いのビデオ』じゃないよ。わたし、間違って桐乃に渡しちゃたみたい」

「『呪いのビデオ』じゃない……? じゃあ、あれは何のDVDだったの?」

「ほら、去年の夏休みに、お仕事で水着の撮影したでしょ。あのときのメイキングビデオなんだけど……」

あたしがあやせの話を聞いて愕然としていると、兄貴がそそくさと階段を下りてくるのがわかったの。
何となく気まずそうな顔してるのがはっきりわかったわ。そりゃそうでしょうとも。

「どこ行くつもり? 買物とか?」

「あ、ああ……。ティッシュがなくなっちまってな、ちょっとコンビニまで買いに」


おしまい

>>325の方の作品読んでたら、なんかギャグっぽいSS書きたくなって
書いた作品。とりあえず京介にツッコミまくらせてます。

毎度gdgdですが投下します。

カプ? 京介×黒猫 (恋愛模様はございません)

「RPG]


黒「先輩、ゲームを作ってみたのだけれど、良かったらまたプレイしてもらっても
  よろしいかしら?」

京「お、じゃあ早速今からやろうぜ。で、今回のはどんなゲームなんだ?」

黒「ふ、今回のは古典的なRPGよ。某ド○クエ風のね」

京「なるほど。しかし、黒猫ともあろうものが、よく一般的なゲームなんて
  作ろうとおもったんだな」

黒「ふん、ほんと貴方は察しが悪くては困るわ。一般的なものと言うのは
  世間に認められた物のことを指すときに使われるわよね。だから、私は
  世間に受け入れられるものがどういったものなのかを知るためにこれを
  作ったの。いわば踏み台ね」

京「はぁ」(ド○クエを踏み台よばわりかよ)

黒「まぁ、いずれこの経験を私の作品に取り入れて、ものすごく独善的で、
  みんなにも受け入れられて、あの女もヒィヒィ言うようなすばらしい
  ものを作ってみせるわ。だから期待していて頂戴」

京「わ、わかった。お前の崇高な理念はよーくわかった。
  だからさ、さっさとゲーム始めようぜ」

俺はゲームを起動した。
パソコン画面にタイトルが表示される。

   『シスコンクエスト』

京「待て待て待て待て、おい、黒猫、このタイトルはなんだ?」

黒「あら?『シスコンクエスト』と書いてあるはずなのだけど
  貴方字も読めないのかしら?」

京「字くらい読めるわ!というか、お前言ったよな?古典的な一般受けする
  RPGを作ったって」

黒「ええ、そう言ったつもりだけど、理解できていなかったのかしら?」

京「じゃぁ、なんだよ?このタイトル、なんで一般受け=シスコンなんだよ!
  てか、シスコンに一体何をさせる気なんだ?シスコンは世界を救うとでも
  言いたいのか?」

黒「全く、タイトルぐらいでぎゃあぎゃあ言って、ほんと躾のなっていない雄ね。
  弱い犬ほどよく吠えると言うけれど、あなたはどうなのかしらね?」

京「ぐっ、まぁ良い、タイトルはまぁいい、百歩譲って許そう、だがこれは何だ?」

黒「何?ってそこは主人公の名前を決定する画面よ」

京「で、なんで名前の決定が選択式なんだ?」

黒「あら、某ポ○モンの主人公だって名前だって選択式よ?
  お気に召さなかったかしら?」

京「まぁ、選択式なのもいいだろう。だがその選択肢が
  京介・先輩・お兄さん・兄貴・きょうちゃん・京介氏・クソマネ・ロリコン・
  変態・鬼畜野郎・・・って全部俺じゃねぇか!てか後半ただの悪口だろ!」

黒「あら?自覚はあったのね」

京「うぐ、お前さっきから俺をからかって楽しんでるだろ?」

黒「ふふふふ、さて?どうかしらね」

京「お前なぁ」

黒「まぁ、なんであなたの名前ばかりかというと貴方にプレイさせるために
  作ったっていうのがまず一つ。それからシスコンといえば京介、
  京介といえばシスコン。言わばこれはもはやこの世界の定理なのでしょう?」

京「どんな定理だよ!シスコンは俺の代名詞じゃねぇよ!もういいよ、
  名前選ばなきゃゲーム始まらないんだろ!京介でいいよ、京介で」

黒「ふ、やっとゲームがスタートしたわね」

京「誰のせいだよ!?」

〜〜ゲームの中〜〜
京介、京介、貴方は18歳になったら世界中の妹を助けるために
旅に出なければならないの。そして、貴方は明日18歳の誕生日
明日、この市の市長にあって、旅立ちの許可をもらってきなさい。

京「へぇ、つっこみたいところは満載だが、まぁ始まりは普通だな」

その日の晩、

『パン!』京介は10のダメージを受けた。

京「いきなりなんだよ!」

黒「そんな焦らないで、続きを勧めてご覧なさい」


突如、頬に痛みが走り、目が覚める。

「起きて」

目を開けると、そこには妹の姿があった。暗いせいか、表情はよく見えない。

俺は妹に、

A・いきなりなにすんだよっと、蹴飛ばす

B・痛てぇなと文句を言いたいのを我慢し、相手の出方を伺う


京(お、選択式か、まぁ、せっかくのRPGなんだし、普段はできない選択肢を
  選ばせてもらうとするか)
  俺はためらわずAを選択する。

「いきなりなにすんだよ」『ドカ』

「あ、あんた、何いきなり人のこと蹴ってくれてるわけ?
 わけわかんないですけど!」

『ドガ』京介は反撃にフライングニードロップを食らった。
京介は30のダメージ、京介は死んでしまった。

京「黒猫・・これは一体なんだ、なんでストーリー始まる前に
  主人公が死んでんだよ!」

黒「あら?これは『シスコンクエスト』なのよ?
  シスコンらしからぬ行動を取ったらBADEND直行に決まっているじゃない」

黒「貴方は、貴方らしく、素直に妹の下僕として演じなさい」

京「・・わーったよ」(俺ゲームの世界ですらこんな扱いを受けるわけね)

今度は先ほどの選択肢でBを選択した。

「・・・」

「・・なによ?その眼、死んだような魚の眼で睨んできてさ?ムカつくんですけど」

タララララララララララララッラーン←(戦闘開始音楽みたいな奴)

『生意気なビッチが1匹現れた』

京介 HP 5

戦う

特技

逃げる

京「ちょっと待って、なんでいきなり戦闘始まるんだよ!」

黒「あら?RPGといえば戦闘で始まるのが基本ではなかったかしら?」

京「旅立ちの許可もらう前から戦闘なんかしねぇよ!それになんだ、
  俺のHP低すぎじゃねぇか?」

黒「それは、貴方が妹にひっぱたかれてダメージを受けたからでしょう?」

京「あれ、回避不可イベントだったじゃねぇかよ!」

京「それから・・最後にだ。なんでいきなり妹とバトんだよ?それに
  なんだこの名前は!」

黒「やっとその質問をしてきたわね。あなたのことだから最初に聞いてくるもの
  だと思っていたのだけれども?」

京「ツッコミどころが多すぎなんだよ!」

黒「ふ、まぁ、今回はお試し版ということで、最初に戦闘を体験してもらおうと
  思ったのよ。どんなに面白いストーリーでも戦闘が糞だと、やる気も失せる
  でしょう?名前は私のイメージよ」

京「わかったよ、やればいいんだろう?やれば」

(さて・・「攻撃」・「特技」・「逃げる」か特技を選んでみるか)

⇒特技

土下座

京「なんで特技が土下座なんだよ!」

黒「ベルフェゴールから聞いた情報によると、貴方所構わず土下座して
  クラスメイトからは土下座してってからかわれているそうじゃない?」

京「ま、真奈美の奴、余計なことを・・」

黒「だからもうこの世界では土下座といえば貴方、貴方といえば土下座の法則
  が成り立っているとも言えるわ」  

京「土下座も俺の代名詞じゃねぇよ!」
 
(はぁ・・さっさと進めるか、土下座は使えない、
 逃げるじゃ話にならないし、ここは攻撃一択か)

京介の攻撃、生意気なビッチに3のダメージ

生意気なビッチは魔法を唱えた。

『クンカクンカ』

生意気なビッチは兄パンを嗅いで悦に浸っている。
生意気なビッチのHPが全快した。

京「誰だよ!こいつは!?さっきまで険悪なムードだったじゃねぇか!
  なにいきなり兄貴のパンツ嗅いでんだよ!」

黒「それは、いわるゆツンデレというやつね」

京「こんなツンデレいねぇよ!それになんでHP回復するんだよ!」

黒「あら?貴方の妹はアメリカで意気消沈していたけれど、
  貴方に会っただけで万全な体調に戻ったそうじゃない、
  だったら、クンカクンカすればHPだって回復するわよ。」

京「どんな理屈だよ!!」(てか、そもそもあいつはそんなことしねぇけどな)

黒「ほら次のターンが来たわよ」

京「わかったよ」もう一度攻撃ボタンを選択する。

生意気なビッチは仲間を呼んだ。

(仲間・・?)

光彩の消えた堕天使が現れた。

京「次はこいつかよ!」

京介の攻撃、生意気なビッチに1ダメージ

光彩の消えた堕天使はカウンター魔法を唱えた。

『ぶち殺しますよ』

「私言いましたよね?桐乃に手を出したら容赦しないって」

京介は死んでしまった。

黒「あら、死んでしまったわね。ほんと、貴方ってゲームが下手糞ね」

京「「あら、死んでしまったわね。」じゃねぇよ!
  なんなんだよ!このゲーム、てかリアルにありそうで怖ぇよ!」

京「てか、全然楽しくねぇじゃねぇか」

黒「私には結構楽しそうにしているように見えるのだけれど」

京「どこがだよ!」

黒「まぁ、貴方がどうしてもこの子達と戦いたくないというのなら
  こんなモンスターを用意したわ」


『スイーツ(笑)1号 2号 が現れた』

京「おま、名前変えただけじゃねぇか!」

黒「そう?某ド○クエだって同じ画像の使い回ししたモンスター
  たくさんいるじゃない」

京「そういうことは言うなよ!」

黒「しかし、貴方、やはり新生のシスコンね」

京「ど、どういうことだよ」

黒「だって、貴方、兄のくせしてあんな出しゃばっている妹に手も
  出せないんでしょう?」

京「お、俺だってそれくらい、本気になれば手だって・・出せるぜ・・」

黒「あら?何を言っているか全然聞こえないわ」

京「だから手くらいだせるって」

黒「もっと高らかに宣言したらどうなの?」

京「あぁ、言ってやるよ。俺は桐乃に手を出してやる!」
  (あれ、俺今とんでもないこと口走っちゃった・・?)

黒「ふふ・・あなたの覚悟しかと見届けたわ、じゃ、私はこれで
  失礼するわ」

あれ?黒猫、帰っちゃうの?なんだか背筋が寒いんですけど・・

あ「お兄さん♪」

振り返るとあやせが立っていた。その瞳にはあるべき光彩が宿っていない。

京「あ、あやせ、ひ、久しぶりだな、い、いつからそこにいたんだ?」
  (まずい・・この展開は・・)

あ「そうですね、黒猫さんが帰るちょっと前くらいからですかね。
  ところでお兄さん」

京「は、はい、なんでしょう?あやせ様」

あ「なんだかその呼び方気持ち悪いです、お兄さん、反吐が出ます。
  それで、さっきの叫びなんですが・・私言いましたよね?」

京「違う・・違う・・違うんだあやせ!」

あ「何が違うんですか?お兄さん、覚悟はできてるんでしょうね?」

結局こうなるのかよ!人生にリセットボタンってないんですかね?

〜fin〜

終盤ネタギレ。orz

色々な意味で全然スルーして良い前書き

別に名指しされてたわけじゃないが何か上で書いてるリクエストに
合ってたんで、前に書いてたヤツの続き

(あくまで個人的な感想だが)今の原作の流れが大好きって奴も居るだろうけど
SSのあやせがダークって言うなら原作の11巻の最後で好きな男取り合うのに
みんなで笑ってるのとか自己啓発セミナーかよと思ったり
黒猫に踏まれてアンアン言ってるあやせは暗黒じゃねぇんですかいって話

(あくまで個人的な感想だが)あやせの最後が黒猫にオルグされた結果
サブカル守る為に都合良く政治家とかなってたらもう焚書レベル

(あくまで個人的な感想だが)あやせ恋人エンドはほぼ駄目なんだから麻奈実恋人エンド希望

(あくまで個人的な希望だが)誰か上手な人・・・麻奈実の良いやつ書いて欲しい



新年そうそう批判満載(笑)だった"Air"のつづき
過去編だから当然、名も無きオリキャラ満載


京介×あやせで


—————————————あの日の、 すべての子供たちへ




これは、物語が終曲へ導かれる直前で 奏でられることになった

"変奏曲"




                "<Da Capo>"


「ごめん、 あやせ 俺好きなやつがいる」


「それは桐乃のこと・・・・ですか?」


「………………………………」


「答えてっ・・・・・お兄さん、 ちゃんと答えてください」


「桐乃には告白するつもりだ——————でもきっと俺は振られちまうかもな」


だったら、その時はわたしのこと考えてくれますか?
・・・・・・・・・・・・・なんて死んでも絶対に言えない

その誰かが わ・た・し・ じゃないこと だけは分かっていた・・・から
たとえ桐乃じゃなくても 別の誰かということだけはもう知っていたから

だから最後に、 わたしは自分の為じゃなく・・・・友人のために訊ねる



『だったら・・・・・・・もし桐乃がそのつもりだったら?』



「その時は世界中を敵に回しても————————————」



『世界中を敵に回しても————————————』



                 ***


<数年前>


「世界中を敵に回しても、君とデートしてあげるから」

「お兄ちゃんのうそつきー!」

「お兄ちゃんじゃなくて先生だよ、新垣さん」

「新垣さんじゃなくてあやせだよ、お兄ちゃん」

「あのね、あやせさん」

「あのね、あやせだよ」

「あのね、あやせちゃん」

「あのね、それでいいよ」


「あのね、 あやせちゃん。
先生はね、 あやせちゃんがピアノのレッスンを真面目にやってくれないと
君のパパとママからクビにされて路頭に迷っちゃうんだよ」

「路頭に迷ったら、うちの おうちにお婿さんに来たらいいよ
 結構お金持ちだよ」

「悪いけど、 僕はまだ結婚したくないんだよ」

「お兄ちゃん、 ちょっとわがままだよ」

「あのね、 こうやってレッスンする様になって結構経つけど、 ビックリすることに
僕は君がまともにピアノに触れてるのをまだ見たことがないんだけどな」


「レッスンなんて必要ないもん」

「わかった わかった。
だったらこの楽譜の曲を————僕が最初に会ったとき君に聞かせた曲を
あやせちゃんが完璧に弾きこなしたら、次のレッスンの時にでも
君のパパとママに結婚のお願いをすることにしよう。
これでどうかな?」


                 ♪♪♪


「…………か、完璧」

「うちのパパって礼儀正しい人が好きだから、挨拶する時はちゃんと正装してきてね
お兄ちゃん♪」

「驚いたな。もしかして、 他の人にもレッスン受けてる?」

「ぶぅ〜! あやせ、お兄ちゃんひとすじだよ! 浮気なんてしないもんっ」 

「………………参ったね。 僕、 自信なくしそうだよ」

「お兄ちゃん、 すごく自信持って良いと思うよッ!
それと・・・・・あやせは、 新婚旅行は国内でいいからぁ」


「と、取り合えず結婚の前に、もっとお互いを知り合う為にデートしよう?」




「ぶぅ〜! これのどこがデートなの!
お兄ちゃん、 今日はクリスマスだよ、 恋人がホテルでお泊まりする日なんだよ?」

「僕はここでデートしたかったのさ。
どうしても、 あやせちゃんにここを見て欲しかったからね」

「ぶぅ〜〜!
しかも、 何であやせが子供達相手にピアノなんて演奏しなくちゃいけないのぉ?」

「あやせちゃん、それ ピアノのペダルじゃなく僕の足だから踏まないで。
と、とにかくさ そう言わずに、 これが夫婦の初めての共同作業みたいなものって
言うじゃない?」

「ゼンゼン意味わかんなーい」


「僕は小さな子供たちが音に触れて楽しんでくれると嬉しい。
だから…………時々こんな風にして、 みんなの前で演奏してるんだ。
あやせちゃんがお手伝いしてくれると、 僕としても助かるんだけどな」

「ふぅーん、でもこの子達ってだぁれ? 何でパパとママが居ないの?」


「この子達は僕の家族。そしてここは僕の育った家」

「家族ってなぁに?」


「あやせちゃんにはまだ…………ちょっと難しいかな
とにかく、 僕はこの子達のことが大好きなんだ
もちろん、 あやせちゃんのことも同じくらい大好きだよ」

「お兄ちゃんって、 ろりこんさん?
あやせ、 子供じゃないよ! もう大人のれでぃだよぉ」

「そうか…………そうだったね、ごめん。
でもね、 僕はどうしてもこの子達に君の音を聴かせてあげたかったのさ
だって………………僕は君の弾くピアノが大好きだから」


ちょっと前まで、 わたしはピアノなんて大大大嫌ッいだった。

わたしの両親はその当時忙しくて、わたしの演奏をちゃんと
聴いてくれることはただの一度もなかった。

本当に聴かせたい人に聴かせることが出来ないピアノは
わたしにとって、自分は孤独だと確認させるだけの冷たい黒い箱でしかなかった。

次々にレッスンにやって来た家庭教師のピアノの先生たちは、
生意気で心を開こうとしないわたしに、 ピアノを心から憎んでいるわたしに、
最初は戸惑い 最後は苛立って結局やがて来なくなった。



—————そして最後にやって来た先生が彼だった。


「おまえは可哀想なやつだな、 よしよし」

彼は最初に来た時から変な人だった。
わたしへの挨拶も そこそこにピアノを撫でて一人で喋り始めた。


「ピアノに話しかけても、 お返事が返ってくるわけないよ」

「そうかな?
 僕にはピアノが君に嫌われて悲しいって言ってるように聞こえるよ」

「バカみたい」

「バカかどうかはやってみれば分かるさ。いくよ、 相棒」


「・・・・・それで本当に先生?」

彼の演奏は小学生のわたしが聴いても(多分誰が聴いても)酷くて
おまけに、 ところどころ音まで外していた


「実はさ……………僕って褒められて伸びるタイプなんだ」

「・・・・・・頑張って、 おじさん」

「こ、これでも……………ギリギリ10代なんだけどなぁ」

今度は間違えなかったけれど、全く心のこもってない演奏だった。
しかもそれはさっきの間違った音よりも、 わたしを何倍も不快にさせた。


「もう良いよ、 辞めてっ!」

「う〜ん、 やっぱりダメだな。
これは僕よりも相棒が原因かもしれないな」


「・・・・なぁにそれ」

「君はどうしてピアノを両手で弾くか知っている?」


「・・・・旋律と伴奏で色々な和音やリズムを作るため」


「残念、 それだと半分しか正解じゃない」

「ふ〜ん・・・じゃぁ、なぁに?
きゃぁ————」

おもむろに近づくと、 彼はわたしの手を片手でギュっと握ってきた。

「——————なにするのぉ! ママに言いつけるからっ!!!!」


「こうすると…………暖かいよね?」


「だ、だからっ?!」


「こうすると…………もっと温かいよね?」

更に彼はわたしの手に両手を重ねて撫でた。
彼の触り方があまりに自然だったから、 わたしは彼の手を振り払うことが出来なかった。

「・・・・・(ぷい)」


「僕の知ってるピアノ達は、 みんな寒がりで寂しがり屋ばっかり」


「・・・ピアノはピアノだもん」


「そんなことないさ…………ピアノにだって心がある。
だから僕じゃなく、 やっぱり君が撫でてくれた方がこいつの機嫌が直ると思うな」

「・・・・・・・」



「………………ピアノが怖いかい?」


「別に・・・・・・どうでも良いだけだよ」

でもわたしは、 結局・・・彼の挑発に乗って撫でた。



不思議な音色だった。
本当にピアノが喜んで笑っているような音だった。

とても優しい音色だった。
今思えば(おそらくその時だって)彼の演技だということは分かる。
でもそんな下手なお芝居ですら、 信じてしまいそうになるくらい素敵な調だった。



そして何より彼が楽しそうに弾いている姿は、あれほど憎かったピアノへの
わたしの中の憎しみをきれいに消してしまった。



本当はピアノだって、 ずっとずっと一人で練習してたんだ・・・・・
誰かにちゃんと聴いて欲しかっただけ

—————寒がりで寂しがり屋なのは、 本当はピ・ア・ノ・じゃなかった。



そして・・・その時を境にして苦痛でしかないレッスンの時間が
いつの間にか本当に待ち遠しくなった。

わたしが一番嫌だった時間が、 一番愛しい時間に変わった。


先生の演奏をずっと聴いていたくて、色々理由をつけてはほとんどの時間を
彼の演奏を聴く時間にした。

先生が帰った後は先生が弾いてくれた曲を何度も何度も練習した


先生と過ごす時間は、 ずっと幸せな夢を見ている気分だった。

ピアノとちゃんと仲直りして、 好きになれた自分が誇らしく思えた。
そう思わせてくれた先生がもっと好きになっていた。


彼がわたしの初恋の人だった。


        彼とずっと一緒にピアノを奏でいたい


—————————結局、 それが叶えられなかったわたしの夢だった


                 ***


「—————————ゆめ?
あなたはこの反転した高次元の存在であるわたしの夢を訊きたいと言うのね?」

ダメ・・・ですか?


「人間の分際でまったく……………身の程知らずも甚だしいわね。
でも良いでしょう、 これをお読みなさい。そして感想を聞かせなさいな」

え? わ、わたしの感想ですか?


「そうよ、私は率直なあなたの意見を必要としているの」

そうですね・・・う〜ん、 さっぱり意味が分からなかったです


「っぐ、 よくお聞きなさい…………スイーツのあなたは日本語の記号としての
表層の文だけしか追ってないから、 私の高位な文脈の流れと高等な行間との
相克する意味がまだ素直に受け止められてないのよ」

えー?・・・・わたしは率直に意見を言っただけなンですけどぉ


「ふっ ま、まぁ良いでしょう、 スイーツ向けに甘ったるい内容も書いてみたから
こっちもお読みなさいな」

アハッハハ・・・・黒猫さん わ、わたし・・・・お腹痛いです


「あらあら、 そんなに顔を歪ませて笑ったら可愛いお顔が台無しよ」

すみませんでした、 わたし 黒猫さんのコトを見くびってました


「まだ頭は下げなくて良いわよ。 だってそれは未完成の不完全品なのだから」

え? こんなに面白いのに・・・?


「それはあの女との合作なのよ」

でもでも、 これは桐乃だけの力じゃないですよね?
それに桐乃は親友なんだし・・・・・・・だったら、 気にする必要なんて


「そうね……………例えば、新垣あやせは 高坂桐乃とセットじゃなければ
モデルとして成立しないと言われたら、あなたはどう思うかしら?」

・・・・・・


「私は決めているのよ。
私を認めないこの世界の愚鈍な奴らに必ず私の実力を見せつけて、
完膚無きまでに叩きつぶし鉄槌も下し、 最後は必ずひれ伏せさせる事を、 ね。
そして………………これがあなたが私に訊ねた質問の答えよ」


「そして………………この夢は友情とは関係ない。
いいえ、違うわ———————全然(ぜ・ん・ぜ・ん・)違うわね。
私が一番認めさせたいのは他の誰・で・も・な・い・高坂桐乃という存在なのだから。
友だからこそ譲れないことが、 何があっても絶対に譲ってはいけないことがある」


・・・・・黒猫さん、 ごめんなさい 


「フフ 本当に良いのかしら、 オタクや中二病患者は嫌いだったのではなくて?」


本当に、 本当にごめんなさい



「こちらこそ…………わ、悪かったわ。
これで引き分けということにしておきましょう。
……………それに私の方こそ、 あなたを少しだけ見直したわよ。
個人的にはモデルなどには何の興味はないのだけど、滅多に他人を褒めない
あの女が珍しく、 あなたの事を自分に匹敵するモデルだと褒めていたわ」



  それが・・・ "わたしに唯一残った夢"
               


「う〜ん………………夢かぁ 夢だよね。
そうだねぇ…………難しいことはよく分からないけど
わたしはね、 わたしが作ったお菓子を食べてくれた人が喜んでくれて
それで笑顔になってくれたら嬉しいなぁって思ってるよ。
こんな答えだとダメだったかな?」


「———————これは誰にも話したことなかったんだけど
実はね、 きょうちゃんなんだ…………………。
わたしに お菓子屋の娘に生まれて本当に良かったって思わせてくれたのって
わたしに そのことを分からせてくれたのって、 きょうちゃんだったの。
ああ…………わたしって本当はお菓子が 自分の家族が大好きなんだってこと。」


「小さいときは、 わたしって『お菓子なんて大嫌いッ!』て言ってたんだけどねぇ。
あやせちゃんには想像出来ないかも知れないけど………………昔のわたしって
すごくおてんばで女の子らしいことよりも、 男の子に混じって外で遊んで
身体を動かすことの方が好きなような子だったんだ」


「でもある日、 わたしが親と大喧嘩して家出した時
わたしのことを一生懸命に探してくれて、 一晩中ずっと一緒に居てくれて、
それから一緒に親にも謝ってくれて…………そして、こんな風に言ってくれたの
『麻奈実はお菓子みたいだって、 派手じゃないし目立たないけど
一緒に居るとホッとして温かい気持ちになれる』って」

「だから わたしはきょうちゃんがヒーローなんかじゃなくっても
ダメな男の子でも別に全然良かったんだと思うな………ううん、そうじゃないね 
ずっと ずっと、きょうちゃんはわたしのヒーローだったんだね、 きっと」


「でも もうそんなこと
きょうちゃんは忘れちゃってるかも知れないけどね…………ふふ」



あのね・・・・・桐乃にお願いされたら、 お兄さんの為なら
モデルのお仕事のことなんて・・・・自分の夢のことなんて
本当にすっかり忘れちゃう、 わたしって本当にダメな子なんだ


桐乃にお兄さんのお世話をお願いされた時だってそうだったんだよ?


でもね、 これからは桐乃を目標にして頑張るから、桐乃がちょっぴりでもライバルと
思ってくれるように 認めてくれるように一生懸命に頑張るからさ

それにね わたしは黒猫さんと違って桐乃とセットでもすごく嬉しいんだ
全然イヤじゃないの

だから、 これからは精一杯頑張るからさ 桐乃に負けないように頑張るからさ 
だから桐乃が海外に行ってもわたしのこと忘れないでね



・・・・・・・これがわたしの大切な夢だから






"それに・・・・・・"

"わたしが桐乃とお兄さんのことを応援してあげる"

"だってお兄さんは—————————————"



『世界中を敵に回しても————————————』


                 ***


「・・・・分かりました。 お兄さんに好きな人がいることは」

「本当にすまない」

「謝らないでください。
 ・・・・・その代わり最後に、 わたしのお願いひとつ聞いて欲しい」

「言ってみてくれ。俺に出来ることなら何でもするからさ」


「お兄さんがお時間取れる時で良いから・・・・わたしに一日付き合ってください」


「………………分かった」


「そんな顔しないで・・・・・ください。
わたしはお兄さんと出会えて本当に良かったって思ってますから、 ねっ♪
本当に——————心から本当にそう思ってますから」

「………………あ、ありがとう」

「ハァー、まったく・・・何で振ってる方のお兄さんが泣いちゃうんです?」

「ごめん」


その時は 不思議ともう わたしの瞳から涙が流れることはなかった。
もっと泣いて、 号泣して、 慟哭してしまうかもしれないなんて考えていたけど
こんな風に振られることに覚悟が無かったわけじゃないから・・・



「おはよう、 桐乃」

「おはよう、 あやせ。あっれ〜嬉しそうだね、、、なんか良いことあった?」

「ううん・・・・そんなことないよ」

「、、、そ、そっか」


だから、
わたしはこの泣き虫のお兄さんとあの素直になれない妹の為に
何かしてあげたいと思った。

この優しくてお節介な・・・わたしの大切な兄妹に、
わたしが叶えられなかった『あの時』と『この時』 の夢を託そうと思った。


「あのね・・・・・わたし 桐乃に贈り—————」

「ちーす、 桐乃に、 あやせ。
 加奈子さぁ………………宿題してねぇから写させてくれョ」


「こらっ、 加奈子っ!
わたしはちゃんとお勉強しないとダメだよって言ってるよね?
中学3年生を2回するつもりなの・・・・・・? あなたはっ!」

「あやせ様……………どうか加奈子にお慈悲をォ、
ってかさ、 あやせ おまえ……………ソレどぉったの?
あーもしかして失恋でもし———ぁった(パチン)痛ってぇな!
なんで………………桐乃が加奈子を殴るんだよ?!」

「加奈子、、余計なこと言わなくて良いから勉強するよ。
このあたしが直々に、 あんたにレクチャーしてあげるからさ。
感謝しなさいよね、、わかった?」


「加奈子の夢は最強のアイドルだっつーの。
アイドルは、 ちょっとくらいお馬鹿な方がキモヲタ共には受けが良い——————」


「加゛・奈゛・子゛!
夢があることは・・・・すごく良いことだよ。でもお勉強は別だからねっ!」

「ひぃ…………でも加奈子勉強したくないでござる 勉強したくないでござる」

「「あっ———逃げた」」


「桐乃追っかけてっ!」

「おっけ!」

「ハァハァ…………こ、こっち来んナ!!」


「「アハハ」」


これが—————お兄さんに告白して断られた後、
桐乃達と過ごした何気ない日常で————同時に、 わたしにとっては大切な日々。

『わたしは・・・・もう大丈夫』そう心の中で何度も自分に言い聞かせたんだ。


お兄さんは受験生だから、もちろんスケジュールは合わせなきゃいけいないのは
わたしの方だった。


だから深い意味なんてないつもりだった、
単にお兄さんの予定を聞くだけの電話のつもりだった。


なのに——————それなのに


『もしもし、 あやせ』

「こんばんは、 お兄さん・・・・ちゃんとお勉強して————————」

涙はこの時、 溢れる様にとめどもなく出た。
カッコつけても、 平気なふりしても、 わたしってやっぱりダメな子なんだ。


『ど、どした?』

「・・・・・・ゴホゴホ、 ご、ごめんなさい、、咳で」

滑稽にも涙声を誤魔化す為に大げさに咳き込んでから一旦電話を切った。
メールしようとしたら画面に涙が落ちてきて、 手間取ってわたしが送信する前に


『後で、こっちからかけ直すから』

とメールが届いた。
しばらく経ってからまたメール


『今、 かけても良いかな?』

—————————この人は気付いてるんだと直感的に分かった。


本当にいつもは超がつくくらいに鈍い癖に、
こんな時は誰よりも優しくて思いやりのある人なんだ。


結局、 その日はとりとめの無いお話をして、 お互いに少し笑って電話を切った後
またわたしは泣いた。


<次の日>


「Whatever fate may befall all I know is
that the gift of love is the greatest gift of all」

『う〜ん、 愛の運命は過酷な贈り物ってこと?』


「あーあ、お兄さん、 英語は嫌いでもちゃんとお勉強してくれないと困ります。
って言うか、 この時期になっても この程度も分からないなんて絶望的ですよ」

『さーせん』


「お兄さん、 覚えてますか?
わたしがお仕事を休んで、お世話したことを・・・・・。
わたしの時間を無意味になんかしたら————————」

本当は全然違う
お世話することが、 お仕事よりも何よりも楽しかったんだ。

もしもわたし達が一緒に暮らしたら・・・・こんな感じなのかな? なんて
自分でも滑稽で笑ってしまう妄想をしてた

お兄さんのアパートへ行く時は、いつも小躍りしてスキップしながら歩いていた。
帰る時は、 いつも後ろ髪引かれる思いだった。


用事もないのにアパートの前で、 お兄さんの部屋の灯りをずっと見ていたこともある。


絶対に無理だと分かっていた。
でもずっとずっと この日々が続けば良いと思っていた・・・・願っていたんだ



———————————でもそんなわたしがお仕事を休んでる間に桐乃は

留学していたブランクなんか全く感じさせず、 この時期に海外へ行く話が
持ち上がること自体がもちろんその証拠でもあるのだけど・・・・

桐乃が陸上だけに打ち込んでた間、
こんなわたしでも、 自分のお仕事に多少の自負はしてたつもりだった。
桐乃の分まで、 密かにわたしが頑張るという決心もしていた。


だけど、 そんな決心なんて おこがましい・・・
わたしの独りよがりでしかなかったと認めざるを得ないほど
たった一ヶ月の間で周りを納得させ、 わたしも納得させ

—————————わたしの本当の目標が誰だったのかを否が応で思い出せた


たとえ絶対に桐乃には勝てなくても、 本当はわたしの方こそ
今の残された時間を・・・・・全力で頑張らなくちゃいけなかったんだ



"でも・・ね"


<また次の日>


『どうだ?』

「———————全問正解です」

『やったぜ!』


"お兄さんに取っては、 こんなこと受験勉強の息抜き以外の意味はないことなんて
他には何の意味もないことなんて・・・誰よりもわたし自身が一番よく知ってるよ"


「頑張ったお兄さんに・・・・・・ご褒美あげる」

『あやせ………………この写メ?』


「わたしは推薦でもう高校は決まってるし、 今の時期は比較的時間も取れるし
だから・・・・しょうがないから時々相手してあげます。
お兄さんのお世話したことが無駄になっちゃったら、 わたしが一番イヤだから」


"でも今はまだ良い・・・・・・よね?
こんなことしても、 わたしだって何処にも行けないのは、 ちゃんと分かってるから"


                 ***


お父さん、 お母さん・・・・お話があります

こういうものが全部悪いもの・・・じゃないの

これはわたしのお友達にとっては、 すごく すごく大切なものなんだ

だから、 わたしにとっても・・・これはもう汚いものじゃない


わたしの話・・・・ちゃんと聞いて

ねぇ、 お父さんとお母さんは覚えてる?

わたしがピアノを弾けなくなったときのこと

わたしが笑えなくなったときのこと

わたしがずっとずっと泣いていたときのこと

あの時、 わたしを助けてくれたのは・・・・わたしを笑顔にさせてくれたのは
このお友達なんだ


わたしが尊敬する・・・わたしの何よりも大切なお友達なの



                 ***


<再び 過去>


「コンクールってなぁに?」

「ピアノの上手な子の天下一武道会みたいなこと」

「お兄ちゃんってオタクさんなんだ。
お父さんが大人にもなって漫画やアニメを見てる人には近づいちゃダメって言ってた」

「それは す、すごい偏見だな。
まぁ…………と、とにかく出てみない?」

「あやせ、 興味なーい」

「う〜ん……………残念だな。
僕のツテでもう一人くらい予選を受けさせてあげることも出来たんだけどね」


「ほかの人ってだぁれ?」「え?」「・・・・女でしょう?」 「え゛?」

「お兄ちゃんのうわきものっ!ぶぅ〜!」

「違う、違う………………僕の妹だよ」




「ふぅ〜ん、この子がお兄ちゃんが教えている子供?」

紹介された女の子も先生のことを"お兄ちゃん"と呼んでいた。
そして ひと目見た時からこの人も先生が好きなことはすぐに分かった。

「・・・・・」

「でもこんな小さい子が、 本当にコンクール出る意味あるのかな?」

「新垣さ………あやせさ…………あやせちゃんは
僕が教えてる子の中で一番弾ける子だと思ってるけどねっ、 ね? あやせちゃん」


わたしは黙ったままピアノの前に座ると、 いつものように優しくピアノを撫でてから
自分が弾ける曲で一番難しいものを選んで一気に演奏した。

先生の妹が驚いた顔を見て、 わたしはとても愉快だった。
わたしの先生への思いが、 今日会ったばかりの彼女に負けているとは
その時のわたしは微塵も考えてなかった、 きっと思いつきもしなかった。

わたし達はこうしてコンクールの予選に出ることになった。
コンクールに出場出来る年齢制限の中で、 わたしが最年少で彼女は最年長だった。

彼女は何年も連続でコンクールに出ていて、それでも本選へ通過出来たのは
一番最初に出場した年の時だけだった。


先生の前で二人が課題曲を練習している時、 彼女だけがよく詰まった。
わたしが器用に演奏すればするほど彼女は初歩的なコードで躓いた。


ある日、先生が用事で居なくなって二人っきりになった時に言われた

「アンタには夢があるんでしょ?」

「あたしから全部取らないで!」

「あたしからお兄ちゃんまで取らないでっ!」

ってか投稿してる時に、割り込まれると邪魔なんだが
疲れたのでついでにちょい休憩

意見、批判、雑談はうpが終わった後で好きにしてくれ
つづき


後で分かったことは
先生がいずれ海外の音楽学校に留学する予定であること
彼女も同じ道を歩けるように一生懸命に努力していたこと

彼女はその奨学金を得る為に、 コンクールで全国大会まで勝ち進んだ上で
入賞するする必要があったこと
そして、 その年が彼女の最後のチャンスだったということ


あの時、
彼女がピアノを弾いている時の顔は先生に出会う前のわたしの顔に似ていた。

先生が側に居るのにそんな顔になってしまう彼女を見て
わたしは子供ながらに気の毒に思い始めていた。


「お、お姉ちゃん・・・ピアノ撫でてあげたら、 ピアノはちゃんと応えてくれるよっ」


「………………アンタって、 良い子なんだね。
あやせちゃん………………初めて会った日のこと、ごめんね」


「ううん・・・あやせ 気にしてないから、 だいじょうぶだよ」


先生の妹は本当はすごく優しくて、 そして・・・とても繊細な人だった。

だからわたしは、 いつの間にか先生のことを"お兄ちゃん"と呼ぶのを辞めた


「お姉ちゃんって・・・お(兄)、 先生の妹なんだよねぇ」

「うん…………そう」

「でも でも 兄妹は結婚できないよぉ?」

「ふふっ……………あたし達は出来るの。
あやせちゃんの方こそ お子様は結婚出来ないんだよ?」


「で、出来るもん あと、4ねん か5ねん後には・・・・」


「おいおい君達、 お願いだから真面目に練習してくれよ? 
頼むから……………ちょっとは推薦してる僕の身にもなって欲しい」


「「……………アハハ」」



ある日、 先生の"家族"の前で演奏した帰り

「先生、 わたし・・・・・わたしね
わたしと同じ子供なんて嫌いだっだけど、今は好きになれたよ」

「あの子達も、 あやせちゃんのことが大好きだよ」


「・・・・だからわたし、将来 保母さんになりたい。
淋しそうな子が居たら、 わたしが笑顔にしてあげるつもり!」


「あやせちゃんなら、絶対に素敵な保母さんになるさ。
だって…………僕がもし子供なら君に教えて貰いたいくらいだもの」

・・・・きっと、 筧沙也佳さんが好きだった『新垣あやせ』はこの頃のわたし



「あっ、
 でもその前にお兄ち・・・ ダーリンのお嫁さんになるんだけど、ねぇー♪」

「だ、ダーリン?
 は、はは……………確かに そ、そうだったね」


本当はもう"お嫁さん"の夢は半分以上諦めていた。


彼と同じくらい彼の妹が凄く好きになっていたから・・・・・・・
だからどんな関係でも"この兄妹"の側にずっと居られるなら
それだけで良いと思っていたんだ。



<そして数ヶ月後>


「おめでとう! 二人共予選通過してたよ」

「やったね! お姉ちゃんっ♪」

「………………うん、 あやせちゃんもおめでとう」

本選に彼女が選ばれたと聞いた時は、 自分が選ばれたと聞いた時よりも
何倍も嬉しかった。

きっと その頃のわたしはピアノそのものよりも、
ピアノを通して出逢ったこの兄妹の方が大切になっていたから。

だからハッキリ言えば初めから、自・分・の・結・果・には興味が無かった。

自分よりも他人のことを思いやる・・・言葉にすれば、美しいことだった。
でもわたしのそれは結局、美徳であるのと同時に彼女への同情であり優越感だった。

今考えればよく分かる、でも子供だったわたしにその区別なんて無かった。


大して思い入れの無いコンクールに適当な気持ちで出場して
簡単に予選を通ったわたしは、 もうピアノを撫でることはなく
一人で黙々と練習することに対して煩わしさを感じていた。



そんな傲慢だったわたしに、神様は一番残酷なやり方で罰を与えた



<コンクールの本選当日>


確か・・・・あの日もこんな風に雨が降っていたクリスマスだった。


その選考の厳しさと格式の高さで名を馳せていたコンクールのジュニアの部で
本選に選ばれたのはわたしを含めわずかに数人。
もちろん、その中の一人がお姉ちゃんだった。

本選は予選の成績順らしく演奏の順番は一番最後がわたし、 その直前が彼女だった。

技術と言う点ではきっとわたしは彼女の足下にも及ばなかったに違いない。
わたしと彼女の年齢の差はもちろんのこと、 普段の練習だって彼女は命を削る様に
真摯にピアノの前に向かっていた。


——————それでも超えられない何かがあるとすれば・・・・・・


コンクールでの彼女の演奏が終わったとき、 このままなら彼女の優勝に
違いないと確信出来るほど、 その日の彼女の演奏には鬼気迫るものがあった。
今までわたしが彼女の演奏を聞いた中で、 一番上手く完璧に弾きこなしていた。


そして最後に、 わたしの演奏の順番になった。
馴れないドレスに身を包んで、 会場の最前列にいる両親を一瞥すると
久し振りに、 ピアノをゆっくり撫でてから演奏を始めた。

両親が聴いてくれていると思うとやっぱり嬉しかったし、 ホールで多くの観客の前で
————生まれて初めての晴れ舞台で弾く状況はわたしの気分を高揚させた。

純粋に楽しんで、 何も考えずに演奏が出来た—————その筈だった。


だってこの曲を間違える筈がない、 なぜならこの時わたしが弾いていた曲は
先生が初めてわたしに弾いてくれた曲だったから。



でも、 彼女に同情していたわたしは・・・・・傲慢にも————————
曲の最後の最後 "<Coda>"の部分で、 一瞬だけ分かり易く故意にテンポをずらした。



ずっと一緒にレッスンしていた先生とお姉ちゃんはわたしの行動に気付いていた。
それでも彼女が優勝出来れば、 全て丸く収まるとわたしは思っていた。

子供だったわたしは、 自分の行動がどんなに残酷なことなのか、
どんなに相手を傷つけることなのか・・・最初から全く考えもしなかった。



そして
コンクール本選の最優秀賞受賞者発表と全国大会への出場資格者が発表された時
わたしの名前が呼ばれ、 彼女の名前は呼ばれなかった。

両親は心から喜んでくれて、 名前もよく知らない親戚の人たちも褒めてくれた。
でも、 その時のわたしにはもう何の意味も無いことだった。


彼女の完璧な演奏よりも、 わたしの手心を加えた中途半端な演奏の方が
勝っていたという現実を前にして、 わたしはようやく自分の愚かな行動に気付いた
————————でもその時には全てが手遅れだった。


会場でわたしが彼女を最後に見た時

『もう………………ピアノの声聞こえないんだ』

と人目も憚らず泣いていた。


先生は泣きやまない彼女をずっと抱擁していた。

結局、 わたしが何を望んでも—————何を望まなくても、
わたしが何をしても—————何をしなくても
最初からずっと・・・先生はお姉ちゃんのものだった。

先生にとって彼女こそが

『——————世界中を敵に回しても』守るべき存在だった

最初から、 わたしにはピアノしか残されていなかったんだ。



先生との最後のレッスンの時

先生は一言もわたしを責めず
ただお姉ちゃんの分まで、わたしに頑張って欲しいと言った。

『あやせちゃんの手は、 色々な人の思いと心で繋がっているんだよ。』


『だから————優しい今の君のまま、 これからもピアノを続けて欲しい』



ずっと———ずっと後で、彼女がピアノを捨てたことを知った。

・・・・・そして先生が彼女の為に留学を取りやめたことも



ピアノさえあれば、またあの楽しい気分を思い出せると、わたしは思っていた

でもダメだった。

いくらピアノを撫でても、もうそれは前以上の冷たい箱でしかなくなっていた。

そして・・・あの親密で優しい音色を二度と取り戻すことはなかった。

それがわたしの才能の限界だったのかもしれない


でも たとえ、 どんな結果になろうと、 わたしがあんなことさえしなければ


先生が自分の夢を諦めることも

彼女が永遠にピアノを失うことも

わたしが永遠にピアノとあの兄妹失うことだって


この出来事が、 本当にわたしの行動が原因かどうか・・・それは問題じゃない。

—————わたしは、 わたし自身の欺瞞がどうしても許せなかった


                 ***


結局、わたしはどうしようもない子供だったんだ。

何かを、 誰かを好きと言う気持ちを、 ちゃんとした形で持ち続けることが出来ない

簡単に周りの状況に流されて、 自分のしっかりとした強い意思が持てない。

本当に自分の大切な物を最後まで理解出来ない・・・・そして守ることも出来ない

————————だから平気で誰かの大切な物を傷つけることが出来る



この時から自分が子供であることを、 わたしは何よりも呪うようになった。


そしてわたしは・・・笑えなくなった。

いつも、 いつも・・・・泣いていた。


そんな時 桐乃に・・・・そしてお兄さんに出逢ったんだ。


あれから・・・・色々なことがあった。
楽しいこと、 辛いこと、 葛藤したこと、 笑ったこと、 泣いたこと
でもそのひとつ————ひとつが、 今のわたしには愛しい大切な記憶。

だから今度こそ、 わたしの大切なものを失わないように
余計なお節介ということは分かっていても、 何かわたしに出来ることをしてあげたい。


桐乃が本当にお兄さんのことが好きなのは分かっている。
だから今度こそ間違えない—————間違える筈がない。


今度こそ、誰かの大切なものを守れるように
今度こそ、誰も傷つけずに済むように


                 ***



<再び 12月24日>


そして
————————あの時の、桐乃との電話


                 "<Vide>"


————————————————————————————————————
あのね、、あやせにだけは本当のことを言っとくね
あたし、 今のまま負けたままだと悔しい、、、だからリベンジするつもり
もう一度だけ陸上を真剣に頑張ってみる。
今度はあ・い・つ・の為じゃなくて、自分自身の為に自分の夢の為に挑戦する。
だからあやせは、、あたしの分までちゃんとモデルの仕事を頑張ってね
————————————————————————————————————


・・・・わたしの夢————わたしと桐乃の夢・・・・



                       
          ち が う           
                       



これは・・・・・・違う、 これは桐乃の・・桐乃だけの夢だ



わたしの夢なんて別に・・・・・最初から桐乃は
はじめから・・・・これはわたしの夢じゃなかったんだ


ああ、そうか・・・・・・・そうだった


桐乃はわたしとは・・・違う。 
桐乃はどんな逆境も困難も必ず乗り越えていく。
いくら挫折してもいくら落ち込んでも、 最後には必ず自分の力で立ち上がる。


自分の夢や未来のことを、 誰・か・の・せ・い・にしたりなんかしない


わたしなんかじゃ
—————絶対に敵わない
—————隣に並ぶことはおろか、 同じ道にすら立てない
—————最初から居る場所も、 見ている場所だって違ったんだ



『友だからこそ譲れないことが、 何があっても絶対に譲ってはいけないことがある』

そしてわたしは、 きっと黒猫さんともお姉さんとも・・・・違う。


わたしは独りよがりに勝手に空想して・・・また自分の夢を他人に重ねて
他人の夢の中へ逃げようとしていただけ

自分の絶対に叶・え・ら・れ・な・い・夢に、 体良く言い訳を予め作っていただけ

『あの時』の自分と結局、 何ひとつ変わってなかった。




——————わたしの夢・・

『——————わたしの夢・・・・消え』

「——————わたしの夢・・・・消えちゃった」


「——————………………やせ、あやせ?、おい! あ・や・せ・!」

「・・・・・」


「………………あやせ?」




わたしのゆ・め・——————そうだった

———————わたしだけ・・・・・わたしだけの本当の夢は



『お兄さんを諦めず、 桐乃の友達であることも辞めない・・・諦めない』


アハハハ

何て・・・なんて、 わたしは傲慢で
どうして、 いつも———いつも・・・・・こんなにも愚かなんだろう? 

だったら、
わたしはお兄さんを失っても、 今まで通り都合の良い友達のままで居られた?


ニコニコ笑って、 わたしじゃない別の誰かとお兄さんを心から祝福出来たの?


—————わたしの思いはその程度だったの?


そして———————桐乃の・・・・黒猫さんの・・・・お姉さんの
——————他のみんなの思いは、その程度(と思っていたの?)



嘘が嫌いだった、 何よりも・・・・・・

でも

『嘘』と言うなら・・・・・自分にもう嘘は吐けない 絶対に吐きたくない



ねぇ 先生————・・・・お兄ちゃん 

  『この二つの手は何の為にあるの?』

メロディとコードで、和音と倍音を紡ぐため?

誰かの左手と自分の右手を繋いで、違う誰かの右手と自分の左手を繋いで
みんなで仲良くお手々を繋いで、 お友達になるため?

自分が繋いだ誰かの手—————その誰かが果たせなかった夢を繋ぐため?



ちがう——————自分の大切な夢がこぼれ落ちないように
何が遭っても・・・・しっかり抱き締めて守るため

気まぐれで残酷な神様から—————わたし以外の誰か(だ・れ・か・)から
絶対に奪われないようにするためだったんだ



・・・・・・だから もう、 わたしの手に
あなた以外の何も(な・に・も・)、 誰も (だ・れ・も・)
触れられなくなってしまってもいい


これから先、 ずっと 誰かに卑怯者だと蔑まれ続けても良い

これから先、 一生 誰かに嘘吐きだと罵倒され続けても構わない

これから先、 全ての人に軽蔑されて・・・二度と誰からも相手にされなくても

そんな些細(さ・さ・い・)なことなんて、 最初からどうでも良かったんだ



「もっと・・・・・ギュってして」

「…………………………」

"お兄さんは、 何も言わなかった。"

"でもちゃんと、 わたしのことをしっかり抱き寄せて抱擁してくれる"


"そして・・・優しくわたしの髪を撫でてくれる"



わたしの ふ・た・つ・の・手・は ・・・指先は—————
わたしの髪の毛からつま先まで わたしの身体のすべて・・・ あなたに捧げる

"彼の気を引くために、 イヤイヤするように何度も首を振って甘える"



もっと あなたに・・・触れたい  わたしに、いっぱい触れてほしい

"わざと泣き顔をジッと見せて困らせて、 もっとわたしの言いなりにさせる"


"彼は泣きやまない・・涙で濡れたわたしの頬を、 温かい手でゆっくり優しく触れた"


              だから
          他には・・・・・もう何もいらない 



わたしの心は・・・・今までの————これからの記憶も、感情も、意識も
ぜんぶ・・・・・あなたに献げる

"わたしは彼の掌を取ると、 コートを開いて
無理矢理その手を・・・わたしの胸に押しつける"



もっと あなたを知りたい わたしのことだけ見て欲しい   

"どんなに手を動かしても、 手を振り払おうとしても・・絶対に許してあげない"


              だから
         もう・・・絶対にこの手を離さない







                 "<Coda>"
                 

「ねぇ————お兄さん、 ホテル・・・・行きましょう?」


「—————あや………………」



「プレゼント・・・・お兄さんへのクリスマスプレゼントに—————」


「………………せ?」



『———————・・・ わ・た・し・を・あ・げ・る・』







                 "<Fine>"


 
           
   たとえ、 —————世界中を敵に回すことになったとしても



                 








おわり

いままでROMだったものです。
皆さん乙です。楽しく読ませていただいてます。

ところで
このスレの流れ的には、ヒロインと結ばれるSS(少なくとも恋愛要素があるSS)以外は投下しちゃまずいですかね?

>>382です
とりあえず仕上がったんで投下してみます
こういうSSはまだ二度目(一度目は別作品のSS)ですがよろしくお願いします
エロ、鬱、NTR、オリキャラ、クロスオーバーはないです
京介すら出ないので2828とか期待しているならぜひ読み飛ばしてください
多分3〜4レスで終わります
次レスからはじめます

「あたしの友達がこんなに変人なわけがない」



あたしは五更日向。二つのお下げがトレードマークの、小学四年生である。
超かわいい妹と、優しく不器用な姉に挟まれた、三姉妹の真ん中。
それ以外には…あんま言うべきことはないかな。千葉県在住の、わりかし普通の女の子です。はい、自己紹介終わり。
でもって、そんなあたしが今どうしているかというと、

「微妙だなぁ…」

そう。少し落ち込んでいた。あたしにしては、かなり珍しいんじゃないかなと思う。

「もう少しイケたと思ったんだけどなぁ」

手元には赤いペンでいくつかの○と×と△、そして75と書かれた紙がある。
いくら紙を睨んでいても、75と書かれたその数字は変わったりすることはない。
そんなことはわかっているけど、あたしはそれを見つめ続けることしか出来なかった。

踏ん切りをつけてその紙を引き出しにしまうことも出来ず、またしょうもない独り言が口から漏れそうになったときだった。

「フヒヒ…」
「っ!?」

キモ…もとい、変人、じゃなくって、えっと、その…
うん、まあそんな感じの声を聞こえてきた。ストーブの近くの席なんだけど、その効果を上回る寒気を感じたね。
恐る恐る声のするほうを窺うと、あたしの隣の席の沙也佳ちゃんが、
『お見せできないよ(^^;』な感じの表情で同じ算数のテストを見ていた。

「あやせちゃん…待っててね。あと少しで…フヒ、フヒヒ…」
「あの、沙也佳ちゃん?」
「うわっ、ひ、日向ちゃん!」
「どしたの?テストの点悪すぎて頭がおかしくなったとか?」
「ち、違うって!ほら、今回のテスト100点だもん!」

そういって彼女は自分の解答用紙をこちらに見せてくる。
確かに右上には100と書かれている。すぐ下には「よくできました」の文字が添えられていた。

「どう?すごいでしょ?」
「うわ、ショック。まさか沙也佳ちゃんに負けるとは」
「ちょ、それどういう意味?」

彼女は筧沙也佳ちゃん。あたしのクラスメイトで、友達である。
名前が両方「カ行」で始まることもあって席はいつも近い。家も近いし、去年からは登校班も一緒なのでいつも一緒にいる。
ときどき自分の世界に入ってさっきみたいな感じになっちゃうけど、あたしの姉も同じようなところがあるので気にならないかな。
でもだいぶ系統が違うか。ルリ姉は気持ち悪いというよりイタ…
ゴホン。話がそれちゃったね。あたしの姉は気が向いたら紹介するよ。
まあ、沙也佳ちゃんは自分から登校班の副班長を引き受けたりする前向きな女の子だ。
昔はそうでもなかった気がするけどなぁ。なんか原因があるのかな?

さて、彼女の紹介はこれぐらいにして、『沙也佳ちゃん100点事件』の解明に戻りますか。

「ごめんごめん、冗談だよ。でも沙也佳ちゃん算数得意だったっけ?」
「算数は大っ嫌いだけど、あともう一回100点取ればお父さんがカメラ買ってくれるって言ったからね」
「へぇ、カメラ欲しかったんだ?」

カメラが欲しいというのは、あたしの中の彼女のイメージと少し違う。

「なんか理由あるの?」
「えと、その…憧れの人がいて」
「ほう、憧れの人とな」

面白そうな匂いがぷんぷんするぜ。そんなの誰だと聞いてくれと言ってるようなもんだよね。
それに女の子として、友達のそういう情報は抑えておきたいじゃん?

「それって男の子だよね?沙也佳ちゃんも隅に置けないねぇ」

ここは無理やり聞き出すが吉とみた。

「違うよ、どうしてあんな奴らの写真なんか撮らなきゃいけないの」

およ?この反応はホントにそういう話じゃないのかな?あたしはおとなしく引き下がることにした。

「うーん、それもそっか」

沙也佳ちゃんはなんとなく年上の人に憧れを持っていそうな気がする。
この学校はあまり上級生と知り合うチャンスがないし、学校外の人かね?

「それじゃ、その人どんな人なの?」

男の子じゃないとしても、気になるものは気になる。

「そ、それより、日向ちゃんもどうしたの?いつもテストの点なんて気にしてないでしょ?」

沙也佳ちゃんはごまかしただけのつもりだろうが、痛いところを突いてくるな、沙也佳ちゃんのくせに。

「うん、まあいつもはね。今回はルリ姉が勉強手伝ってくれたからいつもより自信あったんだけど、点数いつもどおりだったから」

今回はルリ姉が勉強を見てくれた。自分も遅くまで頑張ってるのにもかかわらず。
受験で忙しい姉が、自分の時間を削ってまで手伝ってくれた勉強、75点という数字はそれにふさわしいとは言い難い。
あたしがこんなこと気にするのはキャラじゃないと思うんだけどね。

「でもほら、あたしの解答と比べても、ほとんど大きな間違いないんじゃない?これならお姉さんにも怒られないよ」
「うん、そうだね」

ルリ姉は多分怒らない。でも、いつもあたしたちに優しくしてくれる姉に、たまには報いとなることがしたかった。

「日向ちゃんが落ち込んでるの、らしくないよ」

沙也佳ちゃんの気遣いがとても温かい。友達を心配させるとは、ダメだねあたし。

「えへへ、そうだね!ガラじゃないか」

とかいいつつも、次は少し頑張ってみようと思った。



そして二週間後、再びあたしは算数のテストと向き合っていた。

「うん、さすがあたし!」

右上には100という数字と「よくできました」の文字。
いやぁ、あたしの才能の賜物だね。まあ、前回のが悔しくて確かにいつもより少し勉強したかもしれないけど。
ホントに少しだけだからね。
ときどきは取れる100点だが、今回は格別な気がする。頬が緩んでいる気がするのは気のせいってことで。

ん?そういえばテストといえばなんかあったような。ふとそんな気がして前のテストのことを思い出そうとする。
何気なく右のほうに振り返ったとき、全てを思い出した。

「沙也佳ちゃん…?おーい。うん、こりゃもうだめっぽいな」

軽く呼びかけて手を振ってみたが、返事がない。ただの変人のようだ。
彼女の性格を理解していようがいまいが、あれを見て彼女に近づく人はいまい。賭けてもいいね。
遠目で観察し続けていると、何かを小声で言い続けているみたいだった。怖いもの見たさで耳を澄ませその声を聞き取る。

「あやせちゃん可愛いね…あやせちゃん綺麗だね…あやせちゃん愛してる…」

怖っ!沙也佳ちゃんマジ怖いよ!
友達に対して失礼かも知れないけど、これが正直な感想だったね、うん。

「起立」

いつの間にか授業が終わり日直の号令がかかる。しかし隣の友達には変化がない。

「沙也佳ちゃん、号令かかってるよ!戻ってきて!」
「うひゃ、あ、え?」

沙也佳ちゃんが素っ頓狂な声を上げながら慌てて立ち上がる。先生は不審そうな顔をしていたがお咎めはないようだ。

「気をつけ、礼」

全員が頭を下げて、少し長めの休み時間となる。男子たちが活気を取り戻し外へと駆けていった。
あたしは正気を取り戻した沙也佳ちゃんに話しかける。

「テスト、大丈夫だったみたいだね」
「うん、ほら」

彼女の解答用紙にも100という数字が堂々と刻まれている。沙也佳ちゃんの笑顔は心の底からのものに違いなかった。

「日向ちゃんはどうだったの?相変わらずダメだったの?」
「ふっふっふっ、このあたしを甘く見てもらっては困るね!」

あたしも自分の解答を堂々と突き出す。沙也佳ちゃんの毒舌も今はスルーしてやろうじゃないか。

「おお、またお姉さんに勉強見てもらったの?」
「ううん、今回は自分で頑張った」
「どうしたの?熱でもあるの?」
「定番のコメントありがとう」

今度からもう少しまじめキャラになろうと決意した瞬間だった。ちくしょう。

「ごめんごめん、日向ちゃん。いじけないでよ」
「はいはい、どうせあたしは不真面目キャラですよ」
「ごめんってば。よかったね、お姉さんも喜んでくれるよ」
「べ、別にそんなこと考えてないってば」

といいつつもルリ姉のことを考えると頬が緩むのが抑えられない。沙也佳ちゃんもそれに気づいているようだった。

「うんうん、そうだね、わかったわかった」

沙也佳ちゃんに適当にあしらわれる。
くっ、あたしとしたことが沙也佳ちゃんごときにここまでされるとは。いじり役としてのプライドが…

なんとかイニシアチブを取り戻そうと考えを巡らせる。

「ん?ここ答え4800平方メートルだっけ?」

反撃の機会を生み出そうとしていると、沙也佳ちゃんの解答用紙に違和感があった。
自分の解答と見比べる。うん、あたしの解答は5800平方メートルだ。あたしが間違えたのか?
問題は変な形の土地の面積を求めるというものだ。長方形の面積の求め方を応用して解くやつ。

「式は『70×100—(70−40)×(100−60)』だよね?」
「ううん、あたしは『40×100+60 ×(70−40)』」

どうやら沙也佳ちゃんと答えを求める過程が違ってるっぽい。どちらも間違いではなさそうなんだけどな。
ほかの人にも聞いて見ようと思ったが、みんな遊びに行ってしまったので仕方なく二人で計算しなおす。
あたしがもう一度筆算した結果は、やはり5800平方メートルだった。

「どうなった?」

結果を聞こうとして振り返る。その瞬間にあたしはこの出来事の大きさを察した。
そう、沙也佳ちゃんの顔はこの世の終わりのようだった、大げさじゃなく。今にも泣くんじゃないかと思えた。
唇を噛みしめ、吐き出すように彼女は言った。

「あたしが計算しても5800平方メートルだった」

まだ、確定ではないが答えはやはり5800平方メートルっぽかった。先生の採点ミスはよくあることだ。
けれど沙也佳ちゃんにとって今回のテストはカメラを買ってもらえるかどうかが懸かっている。
そっと、彼女を出来るだけ傷つけないように話しかける。

「まだ、採点ミスとは決まってないんじゃない?」
「でも、あたしも計算して答え違ってたし…」

沙也佳ちゃんはさらに塞ぎ込んで暗くなってきてしまっている。その姿が見ていられなくて、無理やりでも話をつなごうとした。

「お父さんにカメラ買ってもらう約束だったんだっけ?」
「うん、あたしが算数苦手なのお父さん知ってたから、算数のテストで3回連続百点取ったらカメラの本体買ってくれるって」
「お年玉はどうしたの?」
「お年玉だけじゃ足りなくて、一緒に望遠レンズも欲しいし。そもそもカメラ本体はお年玉と貯金合わせても足りないし…」

つまり、今回のテストが100点でなければカメラはしばらく買ってもらえなくなるということだ。
自信満々に解答を見せてくれた沙也佳ちゃんの笑顔を思い出す。
思い込みが激しくって、表情がころころ変わる彼女でも、あんな笑顔はそう見ない。

「いま計算して正しい答え出せたんだし、今回はいいんじゃないかな」

もちろんいけないことだってのはあたしもわかっている。
けれど、今にも泣き出しそうな彼女を見たら言わずにはいられなかった。
あたしの慰めに沙也佳ちゃんは少しの反応も見せない。自分の無力さを悔しく感じた。

「あたしね…」

沙也佳ちゃんはうつむいたままだった。それでもゆっくりとしゃべり始める。あたしはその言葉に耳を傾けた。

「カメラ買って、憧れの人を撮りたかったんだ」
「うん」

二週間前のやり取りを思い出す。確かに気持ち悪い以外の感想はなかったけどさ。
何かに対して本気のときの気持ちって、多かれ少なかれみんなそんなもんで、
それってなにがあっても馬鹿にしちゃいけないものだ。あたしはそう思う。

「その人はいつも優しくて、いじめられてたとき、あたしのこと助けてくれて、恩人で…」

ゆっくりと言葉が吐き出されていく。
彼女はそのときの憧れの気持ちを思い出し、そのまま言葉にして喋り続けているようだった。

「その人がモデルデビューしたの、たまたま知った。まだ中学生なのに、どんな人よりも輝いてるあの人が写真に写ってた」

あたしにその人のことはわからない。けれど、沙也佳ちゃんの言葉を嘘と思える馬鹿げた頭は持ってないつもりだ。

「あたしは、あの写真みたいに輝いてるあの人を撮りたいと思った」
「うん」

そう話す彼女の目は真っ直ぐだった。沙也佳ちゃんはさらに言葉を紡ぐ。

「カメラは、絶対欲しいよ。もっとあの人を見ていたい。でもね…」

彼女の言葉がそこで詰まる。あたしは彼女の言葉を待った。
顔を上げたとき、沙也佳ちゃんは笑顔だった。

「もし、あたしがその人だったらさ、ちゃんと先生に言うと思う」
「うん」
「だからね、あたしも先生に言ってくるよ。点数直してもらってくる」

そう彼女は言い切った。沙也佳ちゃんはすごいと思う。ここまで真っ直ぐにひとりの人に憧れるって、きっと難しい。

「そっか。ならあたしも一緒に行くよ」
「うん、日向ちゃん、ありがとうね」
「それぐらいどうってことないよ」

あたしは、この友達の横にいれることを、誇らしいと思っただけだから。
職員室に行き算数の先生を探し出す。テストを見せ、事情を伝えると○に二重線が引かれ、△が付け足される。
そして100という数字も消され、95という数字が新たに書き込まれた。
笑顔で95という数字を見つめる彼女を見て思う。
沙也佳ちゃんは憧れの人に一歩近づいたんじゃないかな、なんてね。



週明けの月曜日、あたしの右隣の机には変人がいた。
カメラの説明書を読みながら、やはり何かに憑かれたようにつぶやいている。
その友達を見ながら、あたしは思わずにはいられなかった。

「あたしの友達がこんなに変人なわけがない」



<fin>

予告どおり終わってませんねww すみません
日向と沙也佳が同い年だったので、もしかしたらこういうのもあるんじゃないかと思って書きました
笑いなし、2828なしのお目汚しでした
読んでくれた方はありがとうございました

>>398
まとめwikiの管理人が変わってから編集人のメンバー登録が承認されなくなっちゃったんだ

俺も登録されていた時は順番にまとめていたけどメンバー登録されていないと手順が面倒で
まとめられなくなっちゃったんだ

>>399
ああそうなんだ?
なら前スレの幾つかと、このスレの乙女ロード纏めてくれた人には感謝だな。ありがとう。
もし希望が叶うなら、日向シリーズとこのスレのクリスマスは纏めお願いしたい。
クリスマスは久し振りに楽しく書けたやつだし、日向シリーズは自分でお気に入りなんだww
俺は携帯なもんで、纏めにいっても携帯じゃできませんてはじかれるんだよねww
出来る方、是非ともお願いします(^人^)

さて、お願い書くだけじゃスレタイに反するから、次レスより一本投下。
確か無印の極悪桐乃ルートで、京介が一人でエロゲ買わされに行くのがあったなーと不安な記憶を元に書きましたww


「は、はなしてください!」

あたしは掴まれた手を振り払うようにぶんぶんと振った。
しかしがっちりと掴まれた手首はびくともせず、あたしは今更ながらに後悔していた。
エロゲを買いに行っている兄貴が帰ってきたとき、隠れてて驚かしてやれなんて思わなきゃよかった、と。
『極悪桐乃ルート・if』


今あたしは、店から少し隠れた路地裏で、3人の男に絡まれていた。
最初はナンパだと思い無視していたのだが、そのうちの一人がいきなりあたしの手首を掴んできた。
驚いて振り返った視線の先、そいつらが所謂ヤンキーと呼ばれる人種だと初めて気が付いた。

「はなしてくださーいだって。かっわいいの」

金髪に髪を染めたスカジャンの男が茶化したようにあたしのマネをした。
瞬間、カっと頭に血がった。

「ちょはなせって・・・言ってんでしょこのキモ男!」
「・・・あん?」

やばい!
頭にきて言っちゃいけないこと言っちゃった!
こういう奴らは人はバカにするくせに、自分がバカにされると途端にキレる単細胞だ。
小学生の頃それで一回失敗してるあたしは、そのことを身をもって知っている。


「手前ぇ・・・いま、なんつった・・・?」
「ひっ!」

案の定男の視線が変わった。
さっきまでの小バカにした目から、鋭く尖ったものへ。
それは・・・暴力を躊躇なく振るう奴の目だ。

「あ、あの・・・その・・・」
「なんつったって・・・聞いてんだろ、らぁ!?」
「ひっ!!」

掴まれてる方の手と逆の手が振り上げられて、思わず身を竦ませる。

「へ。ビビってんじゃねーよ糞アマ」

あたしの反応に溜飲が下がったのか、男はそれ以上威嚇してくることはなかった。
その代わりに、強引に腕を引っ張られた。

「とりあえず場所変えんぞ?そこでみっちりさっきの話の続きといこうや」
「い、いや・・・」

あたしは涙目になりながら力なく首を振る。
足を踏ん張って必死に抵抗する。

「あー・・・まーだ立場わかってねーか?」

その行為がまた男の神経を逆なでする。

「仕方ねーな・・・やっぱ2・3回殴ってから連れてくか」

なあ?と、男が自分の仲間に声を掛ける。
そいつらの下卑た笑い声を耳にしながら、あたしは必死に祈っていた。
助けて。助けてあに・・・。

「あのー・・・」

え?
その時耳に届いた、聞きなれたダルそうな声。
あたしはこのときの声を一生忘れない。

「そいつ俺の連れなんで・・・離してもらっていッスかね?」

涙で少し霞んで見えるそいつは、ポリポリと頭を掻きながら目の前に立っていた。


「なんだてめえ!?」

殊更大きな声をだす男。
こういう人種はとかく威嚇から入るのだ。

「いやだからこいつの連れで・・・」
「あーん?聞いてねーんだよそんなこたあ。いいからどっか行っちまえよ」

・・・なにこいつ?
自分から聞いておきながら聞いてないとかって・・・ヤバい。
こいつ、下手したら薬くらいキメてるかもしんない。

「いやーそーゆー訳にもいかなくて。一応こいつの兄貴なんで」

そんであんたはなんでそんなゆるっゆるなままなのよ!?
ヤバい雰囲気くらいわかるでしょ!?

「兄貴だあ?・・・はん。お兄ちゃんならちょうどいいや。今お前の妹がよ、俺等にちょーっと悪さをしてな、今からその詫びに一緒に遊びに行くとこなんだ。わりーけど、親御さんには心配しないように言っといてくんな」
「なっ!?」

男のでたらめな言い分に、一瞬目を向ける。

「そーだろぉ・・・なあ?」
「ひっ!」

でも、ねめつける様な眼光に、あたしは怯んでしまう。

「ホントか?桐乃?」

あたしは瞬間的にぶんぶんと首を振った。
途端にあたしを見ていた男の目が眇められて、あたしは小さな悲鳴を上げる。

「てめえ・・「妹が違うっつってんで、手え離して貰えないッスかね?」

そいつがあたしを怒鳴るよりも早く、兄貴は男に向かって言った。
男の意識がすぐに兄貴へと向き直る。

「なんだって?」
「違うらしいんで、手、離して貰えないッスか?」

困ったように笑いながら、兄貴はあたしの手を指差す。

「なんだぁ?身内びいきってやつか?そんな簡単に妹のこと信用しちゃだめだぜ?どーせ嘘言ってんだからよ。それに多数決じゃこっちのが勝ってんぜ?なあ?」

言いながらまた男が仲間たちを振り返る。
そこに同意を示す声が重なる。
・・・悔しいよ兄貴。
こいつら・・・完全に兄貴をバカにしてる。
あたしは涙をこらえるようにギュッと目をつぶった。


「なあ?みんしゅてき国家のこの国じゃ「ぶっは!!」

その言葉に噴き出すような笑いが重なった。
え?
あたしは俯いていた顔をガバッと持ち上げた。
見ると兄貴が大声で笑っていた。

「ぶはっはっーはぁ・・・いやー自分の妹より赤の他人を、信じるって方が普通にあり得なくないッスかね?それにしても・・・ぶくく。民主国家とかマジうける」

意味わかって使ってます?
兄貴はへらへらと笑うようにしながら男に言った。
ちょ・・・ダメだって!
こいつらにそんな言い方したら・・・!

「てめえ・・・ケンカ売ってんのか!?」
「いえいえそんな」

兄貴は慌てて両手を振って否定を示す。
ただそのあとに続く言葉が最悪だ。

「ただまあ・・・そう思うってのは、あんたが単細胞だからなんじゃないスか?」

ちょっと!
やばいってほんとに!!
あたしの目の前で、男は明らかにキレていってるのがわかる。
頬を引くつかせ、こめかみに血管を浮かばせ、顔はもう真っ赤になっていた。
やばいやばいやばい!
このままじゃ兄貴がボコボコにされちゃう!

「兄貴逃げて!逃げて警察とか連れてきて!あたしそれまで頑張るから!」

あたしが必死に叫ぶ中、あたしの手を握っていた男が乱暴にあたしを地面に投げ捨てた。
痛みをこらえて見上げると、男は壮絶な笑みを浮かべてあたしを見下ろして言った。

「もう遅えーよ。どっちも逃がすかよ・・・一緒に拉致って、お前の目の前でゆっくりあいつボコボコにしてやるよ」

俺を怒らせたんだからよ・・・。
最後の言葉に、ソクリと背中が震える。
こいつが本気で言ってることがわかって。


「テメーも覚悟決めろや?もう泣いて謝っても遅ーぜ!?俺は頭にきてんだから・・・よっ!!」

言い放つや否や、男はダッシュで兄貴へと躍り掛かった。
汚い!
不意を衝いて一気に決めちゃうつもりだ!
あたしが絶望に顔を真っ青にしかけたその時・・・。

「桐乃!立って俺の傍まで走れ!!」

兄貴の力強い声があたしの耳に届いた。
反射的にあたしは男の後を追うように走り出していた。
そのあたしに、今度は小さな呟きが聞こえてくる。

「頭にきてる・・・だあ?」

それは、ともすれば聞き逃しそうな小さな声だったけど、あたしは確かにその声を聞いた。

「うらあっ!!」

そしてあたしの数歩前を行く男が右拳を振りかぶり、ダッシュの勢いのまま兄貴に打ち下ろした。
瞬間。

「頭にきてんのは俺の方なんだよっ!!」


兄貴は怒鳴り声を上げると同時に、体を屈ませながら男の体に対し左に半回転した。
半身、男の目標からずれるようになったので、男の拳が空を切る・・・かに見えたのだが、男の拳には、いつの間にか兄貴の左手が添えられていた。
その手首を掴み、一気に前にひく兄貴。
必然的にバランスを崩す男。
ザアッと踏ん張るように兄貴が足を広げたかと思うと、その男の腰が、屈んでいた兄貴のそれと重なる。
次いで兄貴が空いていた右手で、男の後ろ腰のベルトを握ったと思った瞬間。

「っらぁあああ!」

二人の体は一回転し、そのまま折り重なるようにして地面に転がっていた。

「う・・・あああいてえええええ!!」

一拍おいて、男の悲鳴が路地に響く。
一体何が起こったのかあたしはわからなかった。
ただ急いで兄貴のもとへ駆けつけてみると、男は兄貴の下敷きになって大声でわめいていた。


「いってえええええ!いてえええよおおおお!」
「るっせーな・・・痛えように投げたんだから、当たり前だろーが」

男の上になりながら、兄貴は何事もなかったかのように呟いた。
一緒になって倒れていた割には、兄貴に痛むところはないらしい。
どうやらすべての衝撃は下の男がクッションになって受けていたようだった。
よっと一声上げて立ち上がると、兄貴はあたしの方に目を向けてきた。

「怪我ねーか?」

あまりにもいつものように言われて、あたしはただコクコクと小さく頷いた。

「そっか」

いつものように締まりのない笑顔でそう言うと、兄貴は踵を返してまだ倒れてるままの男にに近づいていった。
男の仲間たちは、今の出来事に驚いたのか、その場で動けずにいるようだった。


「いてえ!いってえええ!」
「おい」
「いてええよお!!」
「うるせえ!」
「ぐふ!!」

地面を転がりながら喚き散らしていた男の脇腹に、兄貴のつま先がめり込んだ。
よほど痛かったのか、今度は声も出せずに悶えていた。

「話してんだ。ちったぁ静かにしろ」
「あ・・・う・・・」

男が恐怖に青ざめているのがわかる。
あたしの位置からは兄貴の背中しか見えないから、一体どんな顔をしてるのかはわからないけど。

「まだ騒ぐようなら、もう一回蹴んぞ?わかったか?」

男がコクコクと頷くのが見えた。
それから兄貴は動けないでいた男の仲間2人も呼び寄せると、その場で正座させた。

「まず免許証出せ」

開口一番、兄貴はそう切り出した。

「え?」
「3人共だ。早くしろ」

いきなりの命令に男たちは渋っているようだったが。

「うあっ!!」

兄貴がさっきの男の太ももあたりを踵で蹴ると、慌てて全員が免許を差し出してきた。

「桐乃」
「な、なに」
「それ、写メとっておいてくれ」

言いながら兄貴が免許証を放ってくる。
あたしはそれを受け取ると、一枚一枚写メを撮り始めた。
その様子を確認すると、兄貴はもう一度男たちに向き直った。

「さてと。これでお前らの素性は知れたわけだ・・・なあ?」

『なあ?』で、声に凄味が増したのがわかった。
男たちの顔がより一層青ざめたからだ。
しかしそんなことは意に介さず、兄貴は正座している男たちと視線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「さてと・・・だ」

兄貴はさっき投げ飛ばした男に視線を合わせると、ゆっくりと口を開いた。

「ここからちょっとわかりやすい話をしようか」
「は・・・はい・・・」
「いやいやそんな硬くなる話でもねーんだ。俺等はよ、今後もちょくちょくこの辺に遊びに来るってー話なんだ」
「は・・・はい」
「んでまあだ。んー・・・そんときさ、お前らみてーのが目の前をうろついてっとほら、不快なわけだ。・・・わかるよなあ?」
「あ・・・う・・・」

兄貴は言いながら男の肩に手を置いただけだ。
それなのに男は恐怖で口もきけないらしい。

「それでもまあお前らがまだここにいて、もし会っちまったら・・・そりゃ仕方ないよな?」

兄貴はやれやれといった風情で軽く肩を竦めた。

「なにが・・・ですか?」

男の中の一人が兄貴に問いかける。

「ん?んー・・・」

兄貴は一旦そこで言葉を切ると、一人一人をゆっくりと見てから言った。

「まぁ、連帯責任、だな」
「・・・え?」
「全員・・・家まで迎えに行くからな?」

覚悟決めとけ。

「!!」
「・・・わかったな?」
「ひいっ!!」

もう一度兄貴が男の肩に手を置いた途端、男達はさっきまでのあたしみたいな情けない声を上げて這う這うの体で駈け出して行った。


「ったく・・・胸糞悪い連中だぜ」
「あ、あんた・・・」

吐き捨てるように呟く兄貴の背中に声をかける。

「ん?おお。ホントに大丈夫か桐乃?痛いトコとかないか?」
「う、うん平気・・・」
「そっか」

振り向いた兄貴の声は、あまりにも日常そのものだった。

「しかし桐乃。なんでまた路地裏なんかに居るんだよ?おかげで探しちまったじゃねーか」
「あ、あんた待ってる間、た、退屈だったから、か、隠れて驚かしてやろうって思って・・・」
「なるほどねえ・・・まあ、運が悪かったな。今回のことはきれいさっぱり忘れっちまえ」
「・・・怒らないの?」
「?どこに怒る要素があるんだよ?今回完全に被害者じゃねーかお前」
「う、うん・・・」

兄貴の声はどこまでもいつも通りで。
あたしもだんだんと緊張が解けてきて・・・。

「うえ・・・っく・・・」

気が付けばあたしは震えながら泣きだしていた。

「こ、こわっ・・・こわ、かった・・・よう・・・」
「桐乃・・・」

あたしは今頃になってガクガクと膝が笑いだした。
そう。
本当はずっと怖かった。

「つ、つれてかれちゃって・・・もう、あ、兄貴とも・・・会えないのかもって・・・」

それが怖かった。
本当に本当に怖かった。

「こわ・・・かったよぅ・・・」
「ちょっと待ってろ。あいつら殺してくる」

不意に兄貴が物騒なことを言いつつ立ち上がった。
え?え?

「え!?ちょっ!?兄貴っ!?」

放っておけばあいつらが逃げ去った方へ、今にも駆け出していきそうな兄貴を必死で引き止める。

「い、いいから!あたしは平気だからっ!!」
「平気なわけあるか。お前がこんなに怖がらされたんだ。あいつらに地獄くらい見せてやらねーと釣り合わねーだろ」
「い、いいからお、落ち着いて!そ、それより・・・」

あたしはまたさっきの恐怖を思い出して、ポロポロと涙が溢れてきた。

「い、今は・・・そばにいてよ・・・」
「桐乃・・・」

兄貴は一言、すまんというと、あたしの手を握って歩き出した。


「ほらもう泣くな」

そう言って兄貴はあたしに缶コーヒーを差し出してきた。
さっきの騒動のあったところからとりあえず離れようって兄貴が言って、あたし達は近くの公園まで移動した。
その間兄貴は、あたしの手をずっと握って、ゆっくりと歩幅を合わせて歩いてくれた。

「どうだ?落ち着いたか?」

兄貴も自分の分のコーヒーを開けながら、あたしの隣に腰を下ろした。
あたしはというと、泣きはらした顔を見られたくなくて、無言で俯いたまま頷く。
ああもう。
こういうところが自分でも嫌になる。
まだちゃんとしたお礼も言ってないってのに・・・。

「そっか」

でも兄貴は気にした風もなく、安心したように息をついた。
当たり前か。
普段のあたしの態度を見てればこれくらいなんともないよね。
ああもう、ますます落ち込む・・・。

「・・・あのさ?」
「ん?」

沈黙が耐えきれなくて、あたしはとにかく何か話題を探して話しかけた。

「あんた・・・強いよね?」
「そか?そうでもないだろ」

なんでもないことのように答えてくる兄貴。
よし。このままの流れで『ありがとう』って・・・。

「・・・なんでもっと早く助けてくれなかったの?」

なに言ってんだあたしは。
助けてもらった上になんだこれ?
そもそも兄貴を驚かそうなんて考えて路地裏に隠れたのが原因なのに・・・。
今まで素直になれなかったツケがこんな時に出てくるなんて。
ああもう本当に嫌になる。
あたしはこんなこと言いたいわけじゃないのに。
素直じゃないこの体は、もはや反射的に憎まれ口をきいてしまう。
もう穴があったら自分を埋めてしまいた・・・。

「ごめんな」

不意に頭に柔らかい感触があった。
それが優しく乗せられた兄貴の手だと気付いた時・・・あたしは涙を流していた。

「・・・な、んで?」
「ん?」
「なんで・・・あんたが・・・あやまるのよ・・・?」
「お前に怖い思いをさせたからな」
「そんなの・・・あたしの自業自得じゃない」
「そんなことはないさ。少なくとも、お前の言う通りもっと早く助けてやれなかったのは俺の責任だ」

言いながら兄貴の手はあたしの頭をずっと撫で続けてくれてる。
その感触が優しくて、手のぬくもりが嬉しくて、気が付けばあたしは兄貴の胸に縋り付いて泣いていた。


「う・・ええええ・・・うええええん」
「お、おい桐乃?どうした?さっき怖かったの思い出しちゃったのか?」

いきなり泣き出したあたしに、兄貴はひどく慌てた様子だった。
おろおろとあたしの背中を撫でたり、頭を抱きしめて撫でてくれたり、大丈夫だぞって耳元で言ってくれたりしてくれた。
あたしはすごく申し訳なくて謝りたかったけど、その手が・・・やっぱり嬉しくて。
抱きしめて撫でてくれるのが幸せで。

「・・・兄貴・・・」
「ん?なんだ?」
「・・・大好き・・・」
「・・・えっ!?」

思わず告白しちゃったけどごめんね。
でもね。

「・・・本気にした?」
「んなっ!?」

あんたに気持ちを伝えるのはもう少し後にしておきたいから。

「きっも。妹に告白されてドギマギするとかどんだけシスコンなのあんた?」

今は精いっぱいの強がりでいさせて。

「おおおお前なああ!!」
「この状況で告白とか有り得ないし。どんだけエロゲ脳なのあんた?」
「お・・・お前って奴はよう・・・はあ。全部お前の影響だろーが・・・」

疲れたようにうなだれる兄貴。
その手を・・・自然だよね?そっと握ってみる。

「しっかたないから手ー繋いで帰ったげる」
「・・・ありがとよ・・・」

もはやツッコむ気力もなさそうな兄貴。
あたしは降って湧いたご褒美に、表面平静ながらウッキウキで手をギュッと握る。

「そーいやあんたホント強かったねー」
「そうか?あれくらい普通だろ」
「投げ技とか習わないとできなくない?」
「ああ。実はな・・・」

夕暮れにかかる街中。
手を繋いで帰るあたしたち二人。
それを見てるのは、北の空に浮かびあがった一個目のお星さまばかり。
お願いね。
もう少しだけ内緒にしていてね?

END

以上です。

バレンタインに向けて皆力を蓄えているようなので場つなぎに投下
最近忙しかったので下調べだけが手厚くなって、無駄に長くなってしまってすみません

————————————————————————————————————————————

タイトル「white」



「ホント、あんたらしいよね〜」
「やかましいわね、あなたたちのようなブルジョワジーのように買い物をしてたら身を滅ぼすわ」

冬休みのとある日、俺はいつもの面子と一緒にアキバのゲームセンターに来ていた。
桐乃がanimateに行きたいといってはanimateに行き、沙織がメロンブックスで新しい同人誌が出ると言えばメロンブックスに行く。
俺は意見を言う権利さえ与えられず、黒猫の意見を聞いてここにいるってわけだ。
まあ、いつものことっちゃいつものことだし、それが楽しいんだからいいけどよ。

「フッ…。私の力をせいぜいその目に焼き付けるといいわ」

そういいながら500円玉を両替機に入れる黒猫。どうやら自分のホームグラウンドに来て調子が出てきたらしい。

まあ、そのあと俺がやってたことと言えば、黒猫が片っ端からアーケードゲームのランキング1位を勝ち取っていくのを応援するだけだった。
桐乃がときどき勝負を挑んでいたが、結果は見なくてもわかるってもんだ。見てるだけだと暇なのはわかるが、わざわざ黒猫に勝負をかけなくてもいいだろうに。
てか、なんであいつ『太鼓の達人』下手なのに勝負しようとしたんだ?

「あ〜、もう、また負けた!」

トイレから戻ってくると、桐乃が『jubeat』でダブルスコア負けしていた。本当に負けず嫌いだな、こいつ。

「人間風情が私に敵うわけがないでしょう」
「くっ…。つ、次はあれ!あれで絶対勝つ!」
「愚かね。これだけの力を目の当たりにして、まだ私に挑もうと言うの?」

桐乃が指差したのは『Dance Dance Revolution(以下DDR)』だった。やっぱあいつ馬鹿なんじゃねーの?

「ったく、あいつも懲りないな」
「いや、これはわからないでござる」

ボソッと言った俺の言葉に反応して、いままで俺と同じく見守る側だった沙織が二人に聞こえないように耳打ちしてきた。

「確かに黒猫氏はどんなゲームも達者でござるが、それは黒猫氏の解析力とコントローラ捌きの影響が大きいでござる。
DDRは置いてあるゲームセンターの数が少ないですし、そもそもこのDDRX3は新しい筐体でござる。
黒猫氏も経験がないでござろうし、このゲームは足の動きも大切でござるが上半身を支えるバランス感覚が重要でござる。
きりりん氏の運動神経が生かされれば勝機はあるでござるよ」
「へえ、そうなのか」

沙織の解説を聞くと、俺も黒猫と桐乃の勝負に興味がわいてきた。二人は早速4つの矢印がついたゲーム機の上にのってコインを入れている。

「曲と難易度はあなたが決めて構わないわ」
「その余裕マジムカつく…」

そこで挑発に乗ってイラついても黒猫の思う壺だろうと思ったのだが、言ってもきっと桐乃の耳には届かないだろう。おとなしく行く末を見守る。
桐乃はこのゲームをやったことがあるとは思えないので特に曲を選べるメリットはないと思うんだが。

「ところであなた、このゲームのルールはわかっているのでしょうね?」
「なめんなっての。友達がやってんの見たことあるからそれぐらいわかるって」

いや、それだけかよ!大した自信だな、プレイしたことねえのによ。

「あ、コネクトあるじゃん!神曲キター(°∀°) てか、まずClariSがネ申!」
「うるさいわね、さっさと決めなさい」

どうやら知っている曲があったようで、桐乃は迷わずその曲を選択した。

「ふむ、やはりその曲を選ぶでござるか」
「有名な曲なのか?」
「この曲はClariSというデビュー当時中学生だった二人組みのグループが歌っている有名なアニソンでござる。
今度reunionという曲が新アニメのOPになるので、タイムリーなアーティストでござるな」
「へえ、そうなのか」

曲が決まると、今度は難易度を選ぶ画面に移る。まあ、普通ならBASICぐらいがちょうどいいんだろうが…

「フフッ、あなたにはせいぜいBEGINNERがお似合いよ」
「…くっ」

といったお決まりのやり取りを経て、桐乃は一番下に表示されている難易度のCHALLENGEを選ぶ。ったくこいつは…

「おまえな、そんなの選んで…」
「恭介氏、CHALLENGEは難しくないですぞ」
「え、そうなのか?」
「ええ、CHALLENGEという難易度は曲によってバラバラなのでござる。今見たのですが、コネクトのCHALLENGEは『足7』、
きりりん氏はこの曲をよく聞いているようですし、クリアできる可能性がある難易度です。」
「『足7』ってなんだ?」
「おっと、これは失敬。『足』というのはDDRにおける難易度を表すものでござる。現在は最高が20で、基本的に9以下ならそれほど難しくはありませぬ。
 といっても、足7を初めてプレイする人がクリアするのは難しいでござるが…」
「やっぱ難しいんじゃねえか」

ま、全く歯が立たないって感じじゃないらしいし、お手並み拝見とするか。

「ふっ、この程度、私にとっては戯れ同然ね。愚かな人間にハンデをくれてやるわ」
「このっ……。ふん、せいぜい調子こいてろっての」

そう言って黒猫は設定画面をいじり始める。どうやら黒猫にとっては「この程度」らしい。

「なあ、あいつ何やってんだ?」
「ふむ、どうやらSPEEDを上げてSUDDENを加えたようですな」
「……わかるように説明してくれねえか」
「これは実際に見たほうがわかりやすいでござる」

桐乃は特に設定を変えていないようだ。二人ともボタンを押して曲が流れ始める。確かにどっかで聞いたような曲だな。

「せいぜい足掻くがいいわ」
「うっさい!」

このゲームは画面を流れてくる矢印に合わせて、足元の対応するボタンを踏むゲームのようだ。画面上に表示されているゲージがなくなるとゲームオーバーらしい。

「なあ、あの白い横に繋がった矢印はなんなんだ?」
「あれはSHOCK ARROWと言って、あそこはボタンを踏んではいけないのでござる。
あと、黄色で縦に長いのはFREEZE ARROWと言って、ずっとボタンを踏んでいなくてはなりませぬ。
また、普通の矢印の色にも意味があって、赤は4分、青は8分といったように色分けされているでござる」
「へえ、よく考えられてんな」

この曲はほとんどが赤と白の矢印だから、リズム自体は4分がメインでシンプルってことか。

「恭介氏、二人の画面を見比べてくだされ」
「ん?……黒猫のほうは、矢印が見づらいし、速くなってるな」

桐乃の画面は画面全体に矢印が表示されているし、ゆっくり流れてくるのに対し、黒猫の画面は下3分の1ぐらいの矢印が消えていて、矢印の流れが異様に速い。

「これが最初の設定の違いでござる。SPEEDは矢印の流れる速さを変える設定、SUDDENは矢印が画面の途中から現れる設定でござる。
SPEED8倍にSUDDEN、譜面を覚えていないとしたら、いくら簡単な曲だとしても普通はクリアできますまい。さすがは黒猫氏といったところでござるな」
「ああ、それは俺でもわかる」

黒猫のほうは矢印が出できてから0.3秒ぐらいで過ぎていくような感じだ。
黒猫はミスなく踏み続けているようだったが、ホント人間業とは思えんな。あらためてこいつの凄さを思い知らされたって感じだ。
やっぱりことゲームにおいて黒猫相手じゃ勝負にならねえか。

「ふむ、きりりん氏もクリア出来そうですな」
「あいつもほんと意地張ってんな」

黒猫があまりにすごかったので忘れかけていたが、中盤でそこそこのコンボを重ねて今のところ桐乃のゲージは7割ぐらい。
なんだかんだいってクリアは出来そうに見える。あいつの負けず嫌いが導いた結果だろう。意地を張って本当に結果を残しやがるのが桐乃の桐乃たる所以だからな。

曲がサビに差し掛かった。メロディに合わせてほんの一瞬だけ矢印が流れてくるタイミングがずれる。

「え、う、うわっ!」
「…っ!あ、あなたなにやって、きゃ!」

桐乃がそれに無理やり合わせようとしたせいでバランスを崩し、黒猫のほうに倒れ込む。
ゲーム中の黒猫がそれを支えられるわけもなく、二人ともドミノのように折り重なって転ぶ。
世界がスローモーションに見えるなんてこともなく、あっという間の出来事だった。

「きりりん氏!黒猫氏!」
「おい、大丈夫か!」

なにが起こったか理解すると同時に慌てて駆けつけると、桐乃が立ち上がりながら黒猫を見やる。

「…あ、あんた大丈夫?」
「え、ええ、問題ないわ。あなたこそ平気なのかしら?」
「うん、あたしも大丈夫」

どうやら二人とも怪我はないらしい。思わずため息が漏れた。やれやれ、心配かけさせやがって。

「ところで黒猫氏」

まだ倒れている黒猫に手を貸そうとすると、沙織が口をω←こんな風にしながらとんでもないことを言い放った。

「その体勢だと恭介氏にパンツが丸見えですぞ」
「ちょ!」「なっ!(///)」

反射的に黒猫の足元を見る。言っとくが、決して黒猫のアレを見ようとしたわけじゃないな。
これはその、あれだ。「あ、UFO!」と言われると、宇宙人の存在を信じていなくてもそっちを見るのと同じ、見ようとして見たんじゃなかったんだ。
そりゃさ、はっきりと見ちまったよ。けどさ、しょうがなくね?俺は純粋にこいつらを心配して…

「……っ!」
「…!桐乃!ま、待て、俺は、」
「…このっ、ヘンタイ!」

桐乃の怒りのこもった視線に気づいたときはもう手遅れだった。ためらいなく放たれたボクサー顔負けの右ストレートは俺の鼻っ柱にクリーンヒット。
背後ではDDRの画面にCLEARDの文字がでかでかと表示されていたが、俺がその画面を見れる状態じゃなったのは言うまでもない。
ん?何色だったかって?言えるわけねーだろそんなもん!



D.C.
fine

あるときふと浮かんだ妄想を書き連ねましたww
気づけばやたら音楽関係の話題が多いですが別に意識したわけではないです
まともな作品とはいえませんが、読んでくれた方はありがとうございます

…二時間経過してるんだが…まさか書きながらなのか?

>>436さんへ
すみません。fineは音楽記号で「終わり」を表す記号
D.C.は「最初に戻る」を表す記号です
一応アレを全て読んでからタイトルに戻るとタイトルの意味が通じるようにしたつもりで、投下したのはアレが全てです
私の実力の至らなさが誤解を生んでしまい、ご迷惑をおかけしました
心よりお詫び申し上げます


あやせ「お兄さん、これを見てください」

京介「こりゃあ鯖じゃねえか。どうしたんだよこんなもの」

あやせ「昨日、道端に落ちてたんですけど……」

京介「うわっ! 臭ぇええええ! 腐ってるじゃねえか!」

あやせ「てへっ。わたしからのバレンタインチョコです」

京介「鯖だろこれ!? それも腐ってるヤツ」

あやせ「わたしがチョコだと思えば、誰がなんと言おうとこれはチョコなんです」

京介「あやせは相変わらず思い込みが強ぇよな。だけど、誰が見ても鯖だからな」

あやせ「それじゃあ受け取ってくださいますね」

京介「俺の話を聞けっつーの!」

※誰かがSSを投下するまで、永遠に一行目へ戻る

久しぶりに投下。


『中心にいつも居るのは……。』







桐乃side


そろそろ、兄貴の授業が終わる時間。
あたしは開いてるパソコンに集中できなくなってくる。そわそわ、そわそわと時計を気にしてしまう。

なんでかなんて知らない、知りたいとも思わない。

そわそわ、そわそわ。きっと今のあたしは他人が見たら病院を薦めてくるぐらいおかしい。

とうとう、我慢できなくなる。
あたしは服を着替えて外に飛び出した。
読モや部活でいつもは行けないけれど、たまにこうして我慢しきれずに兄貴を迎えに行く。

ちょっと小走りをしながら考えるのは、やっぱり兄貴のことで、自然と顔が赤くなった。
もうそろそろ校門かな? でも兄貴トロいから、もしかしたらまだ靴箱かも。ならもうちょっと長く兄貴と居られるな。

なんて考えているのは、きっと兄妹の範疇をもう超えているのだろうけど、でも止まらない。気持ちも体も、頭の命令なんて完璧無視だ。

もしかしたら、まだ靴箱にも行っていないかもしれない。
流石に教室まで迎えに行くのは恥ずかしいけれど、でも、行ってあげても良い…かも。
でもそんな事すると兄貴が恥ずかしがるかな? でも良いや、兄貴の赤い顔を見るためならちょっとぐらい恥ずかしくても行ってやる。

ふふふ、と漏れる自分の笑い声を、気のせいだと自分で自分を誤魔化した。

あぁ、早く会いたいな。









麻奈実side


私は今日も、きょうちゃんを誘う。何時も通り、今日も、きっと明日も。
HRが終わり私はきょうちゃんの方に向かう。

でも、そこには私の想像していた光景は無く、もぬけの殻になっているきょうちゃんの机だけがあった。
いつもなら私が行く頃はまだ用意しているのに、なんで今日はこんなに早いのだろう?

ぷくっ、と頬を膨らませると、私は話しかけてきた赤城君を無視して緩慢な足取りで教室を出た。
こうなったらきょうちゃんに一言いってあげないといけないね!

私は肩を怒らせながら、ふんふんと鼻息荒く歩いていく。

きょうちゃんはいつも私のことを年寄りくさいとバカにしてくるけれど、それはきっときょうちゃんも一緒だろう。あんなに傍にいて安心できるのは、きょうちゃん以外に私は知らない。
どこまでも、どこまでも受け入れてくれて、けど甘すぎず、時にきつく。そんなきょうちゃんにしかない雰囲気がきょうちゃんにはある。
一度それを味わうと、きっともう駄目なんだ。

罪なほど、深い深い優しさ。それがきょうちゃん。

とくんとくんと揺れる心臓の上に手を置いて、ふぅ、と一息ついて前を向く。

すると、どうしたのだろう、きょうちゃんの妹の桐乃ちゃんが校門に居た。
きょうちゃんを迎えにきたのかな? なんて思って、声をかけようとすると、桐乃ちゃんもこちらに気付いたのだろう。
一瞬でムスッとした顔になると桐乃ちゃんは踵を返して帰ろうとする。

きっと私を見て桐乃ちゃんはきょうちゃんが先に帰ってしまったって分かったんだ。
私は桐乃ちゃんに声をかけて後についていく。

無視されちゃったけど、まぁ良いや。桐乃ちゃんの家はきょうちゃんの家なんだし、きょうちゃんに会えれば、それで良いや。

あぁ、はやくきょうちゃんに会いたいな。





黒猫side


駅を降りる。ここはあの小生意気なスイーツが住んでる街。そして、お兄さんが住んでいる街。

兄さん? 貴方は今、どこでなにをしているのかしら。迷子の親探し? それとも家出少女の面倒を見てるの? それとも、お婆さんの荷物でも持ってあげてるのかしら。
兄さんはどうしてそんなに面倒事に巻き込まれるの? と質問したくなるほど、いつも誰かの面倒を見ている。

それは言うなれば、どこかの幻想を[ピーーー]右腕を持っている人のごとく、言うなれば超人的な幼なじみを持つめだかなボックスの主人公のごとく。
そろそろ、兄さんも何かの能力に目覚めるかもしれないわね。

なんて、冗談めかして自分で笑う。ふふっ、と漏れる笑い声と共に私は兄さんの家に向かって歩みを進めた。

私も、面倒を見てもらった立場でなんだけど、もうちょっと兄さんは自重したほうが良いわね。これ以上ライバルを増やされるのは困るわ。
兄さんは自分で自分をモテてないと思っているみたいだけど、実際は違う。
きっと学校だけで数えても、かなりの人数に惚れられているだろう。自覚してくれないかしら、と思うけれど、きっとそれは無理だろう。どんなに過激なアプローチをされても兄さんは振り向かなかった。
いや、気付いてすらいなかった。

その過激なアプローチ(頬にキス)をしたコンビニの店員である女の人は頬を引くつかせていたものである。
最後に「サービスよ」と言ったのが間違いだったようだ。兄さんはその言葉を普通に信じて、店員さんに向けてこう言ったのだ「そんなサービスはやめたほうがいいですよ、店長に怒られるし勘違いされます」と。

鈍感ここに極まるって感じね。

そんなに鈍感なら、優しさを振りまかないでちょうだい。そんな笑みを女に向けないでちょうだい。女に向かって可愛いなんて言わないでちょうだい。お節介をやかないでちょうだい。

なんて、思う今日この頃。
でも、私にだけはその全てを向けてほしい、なんて考えているのだから私も重症ね。

まぁ、なにはともあれ、まずはあの鈍感大魔王を探しましょうか。
私は目の前にいるスイーツとベルフェゴールを見て、ふぅ、と溜息をついた。






沙織side


つきましたね。
電車を降りて、あの人の居る街の空気を吸い込む。

さて、今日はなにをしましょう? 皆さんは、なにをしたら喜んでくださるでしょうか?
また一緒に秋葉原に行くのもいいですね、京介さんの家に遊びに行くのも良いですし。

ふふっ

本当、最近は凄く楽しい。
京介さんは私によく「いつも悪いな」と仰いますけど、それはきっと私が言うべき言葉ですわね。
桐乃さんと黒猫さんの間を取り持つのも、私はとっても好きです。

けど、なによりもきっと好きなのは、桐乃さんと黒猫さんを見ている京介さんの顔でしょうね。
瞳は優しさで溢れ、細める。口元も笑みを浮かべ、くすりと漏れる笑い声。そんな、優しさが溢れたあの顔が私はとってもとっても大好き。
そのお顔を見つめるのは、私だけの特権です。

京介さんはきっと、私が見つめていることにすら気付いてないでしょうけど。

でも、良いんです。この関係を崩したくないですし、それにきっと貴方は、気付いたら苦しむから。とても苦しむから。
私を選ばないと、私が悲しむ。だけど、私を選んだら桐乃さん達が悲しむ。
好意には気付いていないでしょうけど、きっと私達が悲しむ事を本能で理解しているのでしょうね。

私達が悲しむのを、自分の事以上に悲しむ貴方だから。

だから私は貴方に言いませんよ? この胸に秘めている感情は。
きっと貴方は苦しんで最後には選ぶのでしょう。たった一人を。私は待ちます、貴方が選んでくれることを願いながら。

私は桐乃さんと、黒猫さんと、麻奈実さんの後姿を見て、ぐるぐる眼鏡をかける。これで準備おkでござる!
きっと楽しくなるであろう今日を思って笑った。









あやせside


いつもの公園に向かう道を、私は気まぐれで歩く。
お兄さんに色々な相談をしたあの公園。

お兄さんは、一体どのように思ってこの場所まで来てくれるのでしょうか? また呼び出されたと落胆して? それとの私と会えると喜んでくれているのでしょうか?
きっと後者でしょうね。いや、正直に言うとこれは私の願望です。
お兄さんが私と会うのを楽しみにしてくれていると良いな、なんて思っている私の願望です。

だって私は、とっくに気付いているのですから。お兄さんが最初に会ったとおりの、優しいお兄さんだって。

妹のために必死になって走り回る、最初に出会った優しいお兄さん。
私と桐乃の仲を取り持つために自分を偽るお兄さん。嫌そうな顔をしながらも、毎回相談にのってくれるお兄さん。お風呂のときは体から洗うお兄さん。小六までお漏らしをしていたお兄さん。自分は普通だと言いながらも、桐乃や黒猫さんや沙織さんと離す話題の為に自発的にアニメを見ているお兄さん。最近の自慰行為は三日前のお兄さん。

色々な、私の優しいお兄さん。

けれど、桐乃はともかく最近お兄さんの周りの女性が多いですね。
お兄さんの女たらしにも困ったものです。今度ちょっとお仕置きしなきゃですね。

私はふぅ、と溜息をつくと目の前を歩く桐乃達に合流しようと、歩調を速めたのだった。






加奈子side


よーっし! 今日もクソマネんとこ遊びに行くぞブリジットォォ!!
加奈子はブリジットの手をとって走り出す。クソマネ、クソマネ、クソマネ、クソマネ。

今日はなにすっかなぁ。クソマネにお姫様抱っこさせてそこらへん歩き回るのも良いなぁ。ニシシ、ここらへんの女にこいつは加奈子のだかんな、って見せ付けるんだ。

ん? なに? ブリジットにもわけてほしい? 駄目駄目。あいつはつま先から頭の髪の毛一本一本までぜんぶぜ〜んぶ加奈子のなの!
まぁお前は加奈子の妹分だからな、たまにおんぶされるまでなら許してやる。お姫様抱っこは駄目だぞ?

それは加奈子の特権だからな!
ずるいったって知らないね! クソマネの全ては加奈子の物なんだから!

あのふわふわそうな髪の毛も、意外と筋肉質な体も、あの優しい声音も、あの優しい輝きを灯す瞳も、ぜんぶったら全部加奈子のもんだ!
桐乃の奴が妹のくせにクソマネを好きなのも気付いているし、あやせがいつもクソマネを見てるのも知ってる。桐乃のオタク友達の黒いのがいつもクソマネに構ってもらってるのも知ってるし、グルグル眼鏡ののっぽな奴が兄貴を見つめているのも知ってる! 

だけど加奈子は絶対、ぜったぁぁいに負けないもんね! 何度でも言ってやる、クソマネは加奈子のもんだぁぁぁ!

ふっふぅ、よし、気合はいった。ブリジット、行くぞ!

ブリジットの手を取りながら、加奈子は進む。あやせや桐乃や桐乃のオタク友達に向かって。







ブリジットside


今日も、かなかなちゃんはマネージャーさんの所に行く、と言って私の手を引いていく。
内心でやったぁ、今日もマネージャーさんに会えるんだ。と喜びながらかなかなちゃんについていく。

前でかなかなちゃんが、「よっしゃ、今日はクソマネにお姫様抱っこさせるか!」なんて言いだした。

ずるい、私だってマネージャーさんにお姫様抱っこしてもらいたい!
そうかなかなちゃんに伝えるも、返ってきたのは期待はずれな言葉だった。

いいもん、かなかなちゃんが許してくれなくったってマネージャーさんに頼んだらきっとしてくれるもん。

いくらかなかなちゃんでもマネージャーさんは絶対に渡さないからね!

気弱な私をいつも引っ張ってくれるかなかなちゃんだけど、これだけは譲れない。
私はマネージャーさんと結婚して、庭付きの一軒家を建てて、庭にお犬を飼って、揺れるお椅子を置いて、そこに座りながら子供を膝に座らせて絵本を読んであげるんだから。
そして優しい声音でマネージャーさんは言うの、「こらこら、そんなところでご本を読んでもらって、眠たくなっても知らないよ?」そして皆で笑うんだ。心地良い日なたで三人の笑い声が重なるんだ。

私はそこまで想像して笑う。ふふっ、楽しみだな。
そんな事を考えていると、かなかなちゃんが皆を見つけたようだ、騒がしい音が近づいてきた。


わぁ、皆大集合だね!









      ・・・・








ALL side






そこは、とある公園、どうしてこんなところに居るの? と疑問に思うけど。仕方無いかな。
だってあの人なんだもん。

どんな事を思ってこんなところに来たのか、どんな経路をたどってこんなところに来たのか。

分からないけど、そこにいた。
優しい木漏れ日の中、小さなベンチに腰掛けて、貴方はすやすやと眠っていた。





近づいて、寝顔を皆で覗き込む。

ふふっ、可愛い。

皆して笑いあう。まだ時間はあるから、皆で抱きついた。
思い思いの形で貴方に寄り添う。

一人、また一人と寝息をたてはじめる。
おきたらきっと貴方は驚くんだろうな、自分がなにかやったのか、って思うんだろうな。

違うのに。そんな理由じゃないのに。

そんな理由じゃ、決してないのに。




皆様々な事を思って、様々な行動をして、ここにいる。
だけどやっぱり中心に居るのは貴方。

貴方を中心に集まって、貴方を選んでここに来て。

貴方が好きでここに居る。






私達の中心は、いつも貴方。好きで、好きで、大好きな貴方。















fin

中々ネタが思いつかない。
音楽でネタとか考えるタイプなんだけど、最近はなんか駄目だな。

けどなんとか一作品作ってみたので久しぶりに投下してみた。


『お兄さん、あやせです。あの、どうしてもお聞きしたいことがあるんですが……』

「おう、俺に聞きたいことってどんなことだ?」

『あの……電話ではちょっと……。もしよかったら、いつもの児童公園まで来ていただけますか?』

もちろん俺は二つ返事でOKした。電話では聞けないようなこと……か。

あやせが俺との待ち合わせ場所に指定したのは、児童公園の奥にある桜の木の下だった。
今年の桜は例年よりも開花が早く、この公園の桜もすでに満開を過ぎていた。

「あやせはまだ来てねえか……」

桜の木に向かって歩きながら辺りを見回したが、あやせの姿はまだ見えなかった。
こんな所に呼び出してまで、あやせが俺に聞きたいこととは一体なんだろうか。

溢れるような妄想と格闘しながら桜の木に近づくと、木の根元に一通の手紙が落ちていた。
俺がそれを拾おうと一歩足を踏み出した瞬間、俺の片足が地面に吸い込まれた。
落とし穴だった。

「くそ! 誰だこんな所に穴なんか掘ったヤツは!」

片足を落とし穴に突っ込みながらも俺は手紙を手に取り、それを開封してみた。
几帳面な性格がよく現れたあやせの文字だった。

『お兄さんへ 今日は何月何日でしょうか?』


おしまい


P.S. 部屋を暖めておけば、いつか人も戻ってくるんじゃないのかね

>>534
どSwwwwww


「はぁ!?『妹婚(シスコン)』の続編発売延期ってどういうこと!?」

春休みのある日、リビングでのんびり麦茶を飲んでいると桐乃が突然そう叫び始めた。
どうやらケータイでエロゲ関係のサイトを見ていたらしい。別に叫ぶほどのことじゃねぇだろうに。

「中止じゃねぇならいいじゃねえか」

ガッ!
……ってぇ!
こいつ、実の兄に向ってリモコンなんぞ投げやがって…

「あんた、あの神ゲーをいち早くやりたいって気持ちがないの!?」

あるわけねぇだろ、と言ったら今度はコップが飛んでくるんだろうな。おっかない妹様だ。

「い、いえ、あります。今すぐにでもやりたいです」

自分でもわかるぐらい棒読みだった。顔も引きつってる気がする。けど本当にどうでもいいとしか思えねぇんだよなぁ。
幸い桐乃は俺が棒読みだったことを気にしていないらしい。

「いい、今度はシスコンエロゲーマーとして正しい反応すんのよ」
「お、おう」

誰がシスコンエロゲーマーだ、誰が。と内心言い返したくなる。だがここで我慢するのが年上の反応ってもんだ。
そんな俺の様子を気にかけることもなく桐乃はまたケータイをいじり始める。
数秒の間をおいて初めと同じ台詞を叫んだ。

「はぁ!?『妹婚(シスコン)』の続編発売延期ってどういうこと!?」
「え、ウソ!?マジで!?」

茶番って言うのは多分こういうのを言うんだろうな。
しかしまあ、これならちゃんとご希望通りのリアクションをとったんじゃないだろうか。

「……」
「…桐乃?」

桐乃は急に黙り込んだ。コップが飛んでくるのを警戒してガード体勢をとりつつ様子を伺う。

「くっ…、んふ、ふははっ…。だ、騙されてやんの。ばっかみたい」
「はぁ?」

こいつエロゲのやりすぎで頭おかしくなったんじゃないのか?という俺の心配をよそに桐乃は腹を抱えて笑っている。

「今日はエイプリルフールだっての。ふはは、『え、ウソ!?マジで!?』だって〜。さっすがエロゲーマーの鑑。マジキモいんですけど〜」

桐乃はひたすら俺のことを笑い続ける。
しかし怒りは湧いてこない。呆れ過ぎたせいか、なんかもう、ため息しか出なかった。

おしまい



PS   やはり桐乃はうまく書けない。 orz
     キャラ愛が足りてないんだろうか。
     少しでも燃料になってることを祈る。

ここはすでに廃墟で、住人なんて一人もいないよ
投下されるSSもレスも、実はPCによる自動生成なんだ

>>573

あやせ「お兄さん、世界五分前仮説って知ってますか?」

京介「ああ、ラッセルの思考実験で、世界は5分前に5分前の状態で作られたってやつだろ(ドヤァァァァ)」

あやせ「お兄さんのくせに物知りですね(イラッ)」

京介「んで、それがどうしたんだ?」

あやせ「わたし、世界がどうできたかなんて重要じゃないと思うんですよ。
    それより、ここにある作品を楽しんでいる自分がいることが大切じゃないですか?」

京介「ああ、確かにそうだな。けど…」

あやせ「けど…?」

京介「それってどちらかというとラッセルよりデカルトの『我思う、ゆえに我あり』って感じじゃないか?(ドヤァァァァ)」

あやせ「お兄さんはホントに無駄に物知りですね。死にたいんですか?(ニコッ)」



数日後

麻奈実「きょうちゃん、今日の倫理のテストどうだった?」

京介「(ガクガクブルブル)」

おしまい



やはりとっさの思いつきはあまり面白くまとめられん orz

>>576
すまん俺の知能では理解できなかった

>>577
すまん、こちらこそわかりづらいもん書いて申し訳なかった
心からこんなものを書いて投下してしまったことを後悔してる

他の書き手さんが俺の屍を踏み台に頑張ってくれることを祈る

>>576
高校のとき「倫理」の授業があったけど、まったく記憶に残ってないや
「地球を指で押すと〜」みたいな話があったがなんだったんだろう

さてと、真夜中の「あやせホラー劇場」を投下します
今回は1レスで収まらなかったので2レスで


厳しい猛暑が続いていた八月中旬のある日のこと。
桐乃は朝から部活で家にはおらず、お袋もご近所の奥さんの所に入り浸ったままだ。
俺の昼飯なんかどうでもいいってことかよ。

何か残り物でもないかと冷蔵庫を漁っていると、ふいに玄関でインターフォンが鳴った。
どうせ宗教の勧誘かなにかだろうけど、俺も暇なもんで出てみることにした。

「はい、どなた……。なんだ、誰かと思ったらあやせじゃねえか」

「……お水を……ください」

「どうしたんだよ、桐乃なら部活で学校へ行っていねえぞ」

「お水を。……どうか、お水を飲ませてください」

俺の目の前に立っているのは確かにあやせなんだが、どうもその様子が尋常じゃない。
顔は炭でも塗りたくったように真っ黒だし、着ているセーラー服もかなり時代遅れの代物だった。
そのうえ、所々焼け焦げた痕まである。

「何なんだよその格好。仮装大会でもやってんのかよ」

「お水……」

「わかったって、今持って来てやるから」

再び冷蔵庫を開け麦茶をコップに注ぎ玄関まで戻ると、そこにあやせの姿はなかった。
念のため門の外まで出てみたが、あやせどころか猫の仔一匹見当たらない。

俺が玄関に戻ろうとしたそのとき、ドアの前に妙な物が落ちていることに気付いた。
何となく懐かしく、どこかで見覚えのあるそれは……。

「いまどき防災頭巾かよ? 何でこんな所に……。それに、何で焼け焦げてんだ?」

「……お兄さん、それ、わたしの防空頭巾です」

背後の声に驚いて振り向くと、そこには全身焼けただれた無惨な姿のあやせが……。
そして、ふと寂しげな表情を俺に見せると、かき消すように消えてしまった。
俺はそのときになって初めて、今日が八月十五日、終戦記念日であることを思い出した。



「どうよ、こんな感じなんだけど。俺が作ったホラーの感想は」

「それって、わたしが戦争で焼け死んだ女の子っていう設定ですか?」

「つまんなかったか?」

「イマイチどころか、イマサンくらいですね。……それにしても、桐乃遅いですね」

俺ん家のリビングで麦茶を飲みながら、あやせが桐乃の帰りを待っていた。
桐乃がまだ帰宅していないと知って帰りかけたのを、俺が無理やり引き止めたわけだ。

「もうすぐ帰ってくるさ。二人で買物にでも行くのか?」

「ええ。そろそろ秋物の服が出てきたので、駅前のデパートまで」

「そっか、もう夏も終わりなんだな。……麦茶、もう一杯どうよ」

「いただきます。あ、でもその前に、お手洗いをお借りしてもいいですか?」

「おう、場所はわかるよな」

「はい。それじゃあ、ちょっと失礼します」

どうもあやせはホラーには興味がないようだし、正直言って俺もホラーは苦手だった。
トイレに立っている間に、何かあやせが好きそうな別の話題を考えねえと。
このままじゃ、俺がホラーマニアかなんかだと思われて帰っちまうかもしれない。

桐乃が帰るまで場を持たせようと四苦八苦していたそのとき、運よく俺の携帯が鳴った。

「おう、桐乃じゃねえか。部活は終わったのか? 遅いじゃねえか」

『今あやせと一緒なんだけど、駅前のデパートで買物してから帰るってお母さんに伝えといて』

「あやせと一緒だって!?」

『うん。それがどうかしたの?』

じゃあ今この家にいるあやせは、一体誰なんだよ。


おしまい

※今回も2レスで……

「あやせの様子がおかしいって? いつものことじゃねえか」

「いつもとは全然違うんだって」

「どう違うっていうんだよ」

「何か悩んでることがあるみたいなの」

「それで、俺にどうしろっていうんだよ」

「あんたに出来ることなんて、人生相談くらいしかないじゃん」

桐乃に押し切られ、どういうわけだか、俺があやせの人生相談に乗ることになった。
待ち合わせ場所には、あやせの方からいつもの児童公園を指定してきた。

「桐乃から聞きましたけど、お兄さんが相談に乗ってくれるそうですね」

「俺でも協力出来ることがあるなら何でも言ってくれよ」

「わたしにとっては真剣な悩みなんです」

「とにかく話してみなよ」

「わたし、名前がひらがななんです」

「帰ってもいいか?」

「お兄さんも内心では、わたしのこと馬鹿にしてるんですね」

「誰も馬鹿になんかしてねえだろうが」

「わたしも来年は高校生なんです。それなのに名前がひらがなだなんて」

「ひらがなの何がいけないんだよ。それに、『あやせ』なんて可愛い名前じゃねえか」

「『あやせ』っていう名前もイヤなんです」

「わけがわかんねえよ。少なくとも俺は可愛いと思ってるよ」

「もしわたしが、将来『綾瀬』っていう苗字の人と結婚したらどうなりますか?」

「そりゃあ、『綾瀬あやせ』ってことになるんじゃねえのか?」

「何なんですか、そのふざけた名前は!」


俺に文句を言われたって知るかよ。そんなことを言い始めたら、パンダはどうなるんだ?
あやせが『綾瀬』って男と結婚する確率なんか、殆どゼロに近いじゃねえか。
桐乃のたっての頼みとはいえ、相手があやせだということをもっと考えるべきだった。

「だったら、将来は俺と結婚すりゃあいいじゃねえか」

「イヤです! お兄さんと結婚するくらいなら、わたしはまだ『綾瀬あやせ』の方がを選びます!」

「ああそうかよ。おまえの悩みは難しすぎて俺なんかじゃ無理だわ、すまなかったな!」

売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだった。
俺がついうっかり強い口調で言ったもんだから、急にあやせは黙り込んでしまった。
女子中学生を相手に、高校生の俺が大人気なかった。

「ごめん、俺が悪かった。ちゃんと相談に乗るから許してくれ」

「真剣にわたしの相談に乗ってくれますか?」

「もちろんだ」

俺は、あやせの悩みと正面から向き合うことにした。
あやせが納得するまで、俺はいくらでもあやせに付き合ってやろうと覚悟を決めたんだ。
それから数時間後、あやせの顔に笑顔が戻って、俺もすっきりとした気分で帰途についた。

「あやせはどうなったの? ちゃんと問題は解決したんでしょうね」

「当たり前だろ。あやせの悩み事なんか、俺にかかれば簡単なもんさ」

「ふーん、あんたでも役に立つことがあるんだ。でも、よく解決できたよね」

「まあな。ところでさ、今日から俺、『高坂きょうすけ』になったからよろしくな」


おしまい

京介×あやせのカプで、純愛路線って面白いんだろうか?
過去のSSでもあんまりなかったような気がするけど

>>607
まとめwiki内では、
あやせの初恋
9巻(偽)あやせの家庭教師
とかは良かったと思うが(どちらも失恋エンドだけど)
あと、タイトル忘れたが、夏祭りのも良かった

中学生くらいだと、特に女子は、年上の異性に憧れることは普通にあるんじゃないの?
同級生の男子なんか子供っぽくて相手にしてらんない、みたいな
桐乃の感情もそれと同じで、兄妹愛というよりは、むしろ恋愛感情なんだろうよ

でもそれって、成長するにつれて一般的には薄まっていくのが普通でしょ
結局のところ『俺妹』って、多感な年頃の妹(桐乃)と
そんな妹に振り回されながらも温かく見守る兄(京介)の物語だったのです
なんてな

二人の成長の軌跡に残るのは、原作者に裏切られ発狂した桐乃ファンの屍のみ
京介と桐乃が結ばれたら、千葉モノレールも困るだろうし

小学生時分の恋心って、いわゆる大人の恋愛感情とは一線を画すでしょ
幼い女の子が、「将来、あたしはパパのお嫁さんになるの!」って言ったとしても
真に受ける者はいないし、それを恋愛感情とは見做さないでしょ

そのこが成長して、「わたし、卒業したらお父さんと結婚します。お母さんとは別れてください」
なんて言うヤツは多分いない……と思う。いや、いないことを願う

なお、最終巻はタイアップ先に配慮し、公序良俗に反しない範囲で煙に巻いて終わり(残念)

おっと、>>666といえば、悪魔の子ダミアン

全然スルーされて構わない前置き
※何か知らんが、うp中に割り込んじゃう
お茶目でアレな人は頼むから読んでくれ

良い感じで過疎ってるのでうp

あやせたんが大人気で誠に嬉しい
アニメのあやせんたんは本当に可愛い

絶対に諦めないあやせたんの続きも書きたいが
今回は別ので

※オリキャラがあり

———Boy Meets Girl Again———


"過ぎ去りし遠くの日々への前奏曲"



「留学———って何だよ?!」

俺は深夜、妹の部屋に居た。
最初に人生相談を受けてから随分時間が経ったと思うが
本当に俺達は色々な経験をして、色々な人達と知り合うことが出来た。
でも流石に———今はそんな感慨に浸ってる余裕は無かった。


「だからそのままの意味」

「何で———何でだよ!
おまえ、こっちで自分が出来ることを頑張るって言ってたじゃねぇか」


「やっぱり………気が変わったの」


「お、俺は———」


「な、何………?
あんたが言いたいことがあるなら聞いてあげても良いけど………さ」


俺は例の
———何でもひとつだけ俺の言うことを聞いてくれると言う
『約束』を思い出した

———けど

「………………」

結局、舌の先からでかかった言葉を呑み込む


「ふぅ〜ん
じゃ、あたしの話を終わりだから、部屋から出てってくんない?」


「お、俺は………」

「良いから………もう出てって」


別に何か物を投げられたわけじゃない
機嫌が悪い時みたいに叩かれたわけでも、蹴られたりもしてない
そして張り上げるような大声を出されたわけでもない

でも———桐乃が静かに言ったその言葉は、普段のどんな行動よりも
俺がこれ以上何かすることを拒絶するのに充分な説得力が有った。

「………桐乃、俺は」

「おやすみ………京介」

———バタン

俺は暫く妹の部屋のドアの前で茫然と立ちつくす。

つーか、この事を親父達は知ってるのか?
おふくろはともかく、親父はもう桐乃が遠くに行く事を
絶対に許さないんじゃねぇのか?

だから………俺が心配なんてしなくても
桐乃はもう何処にも行かないんじゃねぇのか?

いいや———
でも………あ゛ぁぁー、俺は一体どうしたいんだ?

桐乃を止めたいのか?
それとも———


結局、俺は自分自身の気持ちの整理はつかず
(整理をつける方法も分からずに)
でも、とにかく何とかしたくて親父達の部屋に向かった。

麻奈実や黒猫に相談しようかとも思った。
でも俺自身で(どうしたいのかも分からずに)とにかく何とかしたいと思った。
———いつまでも他人に頼ってばっかじゃ成長が無いだろう。



——————でも
親父達の部屋に行って戻った後、俺は更にややこしい状況に陥った。

自分の懸念を解決しようと思って、意を決して両親に話そうとしたのに
その前に、悩みが単に一つ追加された形になった。


———いいや、決して悪いことじゃない
これは本来喜ぶべきことなのだから


しっかし、何で色々な事が、こう立て続けに起きるんだ
ああぁ———………………………やっぱダメだ、俺には無理だ

そして

『もしもし麻奈実———』

あーあ、結局はこのザマである。
でも———今回ばっかりは
どうしても麻奈実に話を聞いて欲しかった。

次の日
夕方、話があると予め言っておき早く帰宅した親父に向かって、
俺は思いきって切りだした。


「なぁ、親父………桐乃の留学を認めてやってくれ!
確かに前の時は、最終的にあんな結果になっちまった。
でもあの時はこの俺が———俺自身が心配でほっとけなくて無理矢理
桐乃を———妹を連れ帰ってきたんだ。
だから桐乃が半端で適当な気持ちで留学したわけじゃね!!
あいつは、あいつなりに考えて決めた事なんだよ!!!」

俺は一気に切りだした。


「話は分かった。
京介………おまえの言いたいことはそれだけか?」


あーあ、極道面が見る——見る、赤くなるのが分かる。
やれやれ………俺、また殴られるのか?
まったく、アクティブな妹を持つ兄貴は大変だぜ



———と思っていたら


「お父様———たかだか高校生の分際で
しかも他人の私がこの様に差し出がましい真似をしてすいません。
でも京介が———先輩が言う様に
桐乃が———お父様の娘が中途半端な気持ちで留学を決意したとは
私には絶対に思えません」

「わたしも彼女と同じ意見です。
桐乃はわたしの学校でも優しくて親切で、みんなの信頼も厚くて
わたしはそんな桐乃に憧れてました。
桐乃は———わたしの親友はちゃんとした考え方を持った女の子です。
お願いします………桐乃をどうか信じてあげてくださいっ」


何故こういう話の流れになったのか?の詳細はハッキリ覚えていない。
でも昨晩、麻奈実に電話した結果———それが黒猫とあやせにも伝わって、
今は俺が親父を説得する際の援軍になっていた。


「………………………………………」

親父はずっと黙っていた。
俺たちも暫く黙っていた。

流石に、親父がどんなに怒り狂っても
黒猫やあやせの目の前で、俺が殺されることはねぇと思うが


そんな事を考えていた時

———『ただいま』と桐乃の声がした。

………しまった。
本当なら、本人関係無い所でサラリと問題を解決して
桐乃に余計な心配をかけねぇつもりだったのに

「ただいま
って言うか………な、何であんた達がお父さんと一緒にいるの?!」

「ハハハ」

親父が突然大声で笑い出した。
娘が心配過ぎて、ついに壊れちまってねぇだろうな?
このおっさん

「桐乃、おまえは本当に良い親友を持ったようだな」

「え?
う、うん………もちろん!」

「「「あの………」」」

俺と黒猫とあやせは困惑して、俺の親父と妹を見ていた。


「桐乃………おまえから兄とお友達に、ちゃんと話なさい」

桐乃の話はこうだった。
親父は予想通り最初は大反対だったが、桐乃の真剣な説得の結果
留学のことを、すでに認めているということ
そして両親は前回のこと反省して、金銭面から留学先まで自分達が全面的に
サポートする予定ということ

「な、何だ、そうだったのかよ………」

俺は桐乃を見た。


「何か文句でもあんの?」

「いや、俺が言う事は何もねぇよ」

………そっか、こいつはもう俺に人生相談をしてた頃のガキじゃないんだ。
俺が出しゃばらなくても、ちゃんと自分で親父達を説得して
自分の夢に向かって歩いて行ける。
そうだ桐乃は
———こいつは何時だって、よっぽど俺よりも出来た妹だっただろ?


「ところでさ、何で黒猫やあやせ達がいるの?」

「そ、それは………ねぇ黒猫さん」

「え、ええ………ねぇ先輩」

「お、おう………えっとな、用事の半分はすでに片付いたんだが———」

「はぁ?あんた何を言ってんの?
まぁせっかくだし、黒猫もあやせも夕ご飯食べてく?」

「ええ………有り難う、そうさせて貰うわ」

「う、うん………そうしようかな」

親父への説得は見事成功したのに
俺たちの間には微妙な空気が流れていた。


「ところで、お母さんは?買い物か何かなの?」


「桐乃ちゃん、おかえり♪みんなご飯出来ましたよぉ」

まるでタイミングを見計らった様に
麻奈実はダイニングからリビングへ顔を出した。


「え゛えぇぇ?
な、何で………麻奈実さんがうちの台所に立ってんの!!!
ちょっと母さんはどうしたのっ?!」

「う〜んとね
それはわたしの口からは言いにくいので———」

「———まさか、うちの親が離婚して、
お父さんと再婚するとかじゃないでしょうね?」

「な、わけあるか!!!」

そんなの俺が絶対に許すかよ!
親父は関係なく———相手の男が誰であろうと………だ


「桐乃、母さんはだな………………」

親父は何となく言いにくそうだった


「まさか、お母さんに何か遭ったの?!」

桐乃は心配そうな顔をして言った。


親父もこういう事にはだらしなかった。
しょうがないので、俺がこの一家の長男らしく宣言する



「そうだ、母さんに
———俺ら家族のみんなに、とても良い事があった。
桐乃、喜べ………おまえに妹か弟が出来る」

「は?」

だよな、俺も昨日の夜
親父達に聞かされて、まんまその反応したよ

「おまえは、もうすぐお姉ちゃんになる」

「えぇぇぇ?」

「おふくろは、つわりが酷くて今夜は大事を取って病院に泊まるらしい。
でも安心しろ、明日にはちゃんと帰ってくるから」


まぁ、ギネス級の高齢出産も良いところだからな


「だ、だから?」

「だからきょうちゃんのお母さんとお話して
今夜はわたしが夕食作ることになったんだ」

麻奈実はニコニコしながらそう言った。

黒猫とあやせが微妙な雰囲気だったのはこのせいだ。
流石に、高坂家の明るい家族計画を聞いても
普通は何と反応して良いか分からないだろう

「そ、そうなんだ………お父さんおめでとう♪」

「………う、うむ」

まぁ驚いたけど
———これは高坂一家の慶事には違いなかった。
俺は桐乃が麻奈実がうちの台所に居て食事を作ることに
もっと難色を示すかと思っていたが、赤ちゃんのことで
そんな事を忘れたかの様に終始ご機嫌だった。


「何だかとても不思議な気分ね———この光景を見ると」

「はい考えてみれば、本当に不思議ですね
わたしが黒猫さんやお姉さんと、桐乃のお家でお夕食を食べてるなんて」

「確かに、あんた達が二人そろってうちの食卓に居るって
ちょっと………シュールで面白いんですけど」

「まぁ、良いじゃねぇか、食事は大勢で食う方が旨いしさ」

「ふふ、きょうちゃん———みんなもお代わり沢山してください
はい、おじさん———お酌どうぞ」


「麻奈実ちゃん………ありがとう
それにしても今日は、まるでおまえの妹が増えたみたいで賑やかだな?
なぁ———京介」

「おう、確かにそうだな………親父」

俺には今日の親父が
ただの気の良いおっさんにしか見えなかった。

ついでに俺はどんな奴に見えてたのだろうか?


その後、
酔っぱらって眠りこけた親父を寝室に運んだ後

そういや、親父も最近は酒にめっきり弱くなった気がする。
もう若くはねぇもんな———でも夜はお盛んの様だが
うおぉ………変な想像しそうになって、必死にそのイメージを消した。

普通どう考えても———エロ×家族=嫌悪しか出てこない。


「んじゃ———俺はみんなを送ってくるわ」

「わたしはお片づけが残ってるから、
きょうちゃんは黒猫さんとあやせちゃんを送ってきてあげて」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」

何故か納得のいかない様子の黒猫が異議を申し立てた。


「ほら、良いから———帰りましょう、黒猫さん♪」

「あ、あなた———ちょっと」

あやせは黒猫の腕を組むと無理矢理ひっぱる様にして
玄関から外に出た。


「お邪魔しました、桐乃またね♪」

「うん、今日は超楽しかったよ
二人共………バイバイ」


帰り道
まずは黒猫を駅に送る事になり
俺達は三人で駅に向かって歩いていた。

「新垣あやせ、あなたは一体どういうつもり?」


「ねぇ、黒猫さん———今日はわたしのおうちにお泊まりません?」

「は、はい?
あなたは何を言ってるのかしら?」

「おまえらマジでメチャクチャ仲良しになったんだな」

俺は二人のやり取りを見つめながら、少し感慨深く感じてそう言った。



「お兄さん、ごきげんよう」

「せ、先輩———また明日」

「おう、またな」


俺は黒猫をあやせの家に送り届けた後、帰路についた。


                   ***
               




「あなた、説明は———してくれるのでしょうね?」


「お友達がお泊まりに来るのは久し振りだから
今日は、トコトン二人の親睦を深めましょうよ………黒猫さん♪」


「だから私はそんな話を今してるわけじゃないわ
何故、ベルフェ———田村先輩をあの家に残そうとしたのかを
聞いているのよ」

「やっぱり怒ってますか?」

「事と次第によっては
裁きの雷があなたに落ちることになるでしょう」


「ふふ、そうですね………
今からわたしが話すのは独り言です
だからそのつもりで聞いてください」

「ええ、まぁ………良いでしょう」



わたし、黒猫さんのことが大嫌いでした
———でも今は凄く好きですよ
桐乃や加奈子と同じくらい大好きになれました

何故だか分かりますか?

黒猫さんの本当の気持ちがよく分かったからです

お兄さんと黒猫さんがお付き合いして
突然別れたのって桐乃の為だったんですよね?
それは、予め———あの兄妹を素直にさせる為の作戦だった


「そ、そうよ。あなたの言う通り———」


———本当は全然違いますよね?

本当は好きで好きでしょうないから
自分の心に逆らえなくて告白しちゃって、
でも桐乃の辛い顔が見ていられなくて別れた



「………」


もしお兄さんとまたお付き合い出来たら
今度はどうするんですか?

他人の辛い顔はもう見馴れたから、今度こそ平気ですか?
黒猫さんだって
———あなた自身好きな人があの時よりも増えた
それは同時に———自分が自覚して傷つけてしまう人が増えてしまった
ってことですよね?


「だ、だから
それは………私は桐乃もあなたも
みんなをちゃんと納得させて上で———」



———それは絶対に不可能ですね

人間って嫌いな事を
———嫌いな人を好きになることはきっと出来るんです
………それが素敵な物であればあるほど、誤解してたり偏見で
嫌ってる場合が多いから

わたしが桐乃の趣味を、何とか認められたように
黒猫さんや沙織さんとちゃんとお友達になれたように

でも好きな人を
そんな都合よく好・き・じゃ・な・く・はなれない

好きなこの気持ちを
簡単に忘れて、無かったことになんて出来ない


違いますか?


「いいえ………違わないわね」


だったら、他人が泣いても苦しんでも構わないから
自分の為に誰かを傷つけたとしても手に入れるしかない

黒猫さんは優しいから———凄く優しいから
きっと、それは無理だと思います

だったらいっそ、みんなで仲良くお兄さんを共有しますか?


「………そ、それは」


「今、あの人達は———あの家族は
お兄さんも桐乃も、お父さんやお母さんも、凄く幸せなんでしょうね」

「あ、あなた………何を言ってるの?」


幸せの形って本当はそんなに多くはないってコトです

人の気持ちを簡単に分けたり、共有することなんて
絶対に出来ない

あの家族を見ていて凄く———凄く、羨ましかった
わたしもお兄さんとあんな風になりたかった

そしてわたしは黒猫さんほどお人好しじゃないから
本当は何が有っても———誰が相手でも
絶対に………諦めつもりは な・かっ・た・ んです


「あなたは———新垣あやせは、その言葉を過去形で言うのね?」




そうです………わたしはもう
—————あ・の・話・を・聞・い・て・し・まっ・た・か・ら・


他人をどんなに傷つけても構わないから

自分自身もどんなに傷ついても構わないから

本当の自分は、永遠に忘れ去れても構わないから

自分だけは絶対に結ばれなくても構わないから

彼の幸せだけを願う———傲慢で独りよがりで身勝手な愛


そんな愛情を貫けるのは
この世界で………たった一人しか居ません


そしてそれは—————………………



                   ***


「おかえり、きょうちゃん♪
ご飯に———あっ、ご飯は食べたよね〜
だったら、お風呂にしますかァ?
そ・れ・と・も・………♪?」


「うん、じゃぁ一緒に風呂でも入る?」

俺はずっと前に麻奈実にからかわれたことを
思い出して、意趣返しのつもりで言った。

「えー?本当にー?」

「馬鹿、冗談に決まってんだろ
最近のばあさんは色気づいて困るぜ」

「もうっきょうちゃんの馬鹿
わたしだって冗談だったんだからねっ
ぷんぷん」


「あんたら相変わらず仲良いみたいね
つーか、家まで乗り込んでやるって………
ぷ、アハハ」

「げっ」


「ハァー?
"げっ"て………何よ?げってさっ!
あたしが相当機嫌良いフリしてあげてんのに
本当に、あたしが微笑ましいなって思って笑ってるとでも思ってんの?」

「………ぐ」

やっぱり普通に
ご機嫌はナナメだったらしい。

この前、麻奈実の家で昔話の鼎談をしたが
俺の妹と幼馴染みの関係は冷戦から熱い戦いに変わっただけ
の様な気が今更ながらしてきた。


「ふふ、もうわたしは帰るから
またね………きょうちゃん、桐乃ちゃんも」

苦笑しながら麻奈実は言った。


「いや、俺が送って行くって」

「ううん、大丈夫。そろそろ———」

———ピンポーン

「よぉーす
ガーディアンのロック様がお迎えに参ったぜ」

「よぉーす
なるほど、おまえか。ちゃんと元気にしてたか?」

「おうよ
俺は元気だぜ、あんちゃん
つーか、この家もなかなか久し振りだ………ぜ」

暫く、我が家の内観を眺めていたロックだが———

「げっ」

———ロックは桐乃と目が合うと
さっきの俺の様な奇声を上げていた。

「あん゛?
裏切りもんの分際であんたが、あたしに何か文句でもあんの?」


「ひぃー、………姉ちゃん、速攻で帰ろうぜ」

「もう、ロックったら。じゃぁね、二人共」

「アディオス、あんちゃん!
あ、あんちゃんの妹のおまえも………な」


「ふんっ、もう二度と来んなつーの!」

やっぱ………色々な意味で
昔の様にはいかないんだと俺はしみじみ思った。


「うん?………う〜ん?」

「何だよ………ロック、どうかしたか?」

「そういやさ、超古代の大昔に
このうちで俺って結構色々なゲームさせて貰ったよな〜
って思ったんだけど———あれ?
でもそれって、あんちゃんの部屋だっけ?」


「「「………………!」」」


「ほ、ほら………良いから帰るよ」

「ラジャー
じゃあ、マジでアディオス!」


麻奈実達が帰った後も
俺達兄妹の間には、時間を凍らせた様な冷たい沈黙がずっと横たわった。


「………」

「………」


おそらく
俺たちは二人共———まったく同じことを考えていると
俺は感じる。




「ねぇ………話があるから、後であたしの部屋に来て」

暫くして桐乃はとてもゆっくりと静かに
———しかし強い決意をした表情で俺に言った。


「………ああ」


俺は桐乃の部屋に行く前から
桐乃が何をこれから話すのかが直感的に分かった。


新しい命が生まれると分かった祝うべき今日この日
まさに、今この瞬間こそ(だけ)が
———俺達兄妹の間に決して消えることなく燻っている
まだ『名前』のない(正体もハッキリ分からない)この不可思議な感情に、
ケリをつける最初で最後のチャンスかも知れない。


『俺達はお互いをどう考えているのか?』

『俺達はどうなりたいのか?』


本当は無理に決着も名前もつ・け・る・必要なんて、
その必要なんて全く無いのかも知れない———このまま曖昧なままにして
二人の現在の関係を時が自然に、何かに変えてくれるのを待つ方法だってある。


名前を付けようとしなければ、その気持ちを俺達が言葉で呼ぶ必要はなくなり
決着を着けようとしなければ、その気持ちを否定も肯定もする必要はない

何かを望むいうことは
———同時にその何かを失う可能性を、自ら作り出すことと同じだ。


桐乃………おまえはそれでも、俺に答えを求めるのか?




その夜
桐乃は———前回留学へ旅立つ前夜、俺が見ることが出来なかった
あの『アルバム』の中身を俺に見せてくれた。





———そこには俺がかつて本当に好きだった初恋の女の子が写っていた。



"僕のビアンカ"



俺様の名は高坂京介
人は俺のことをこう呼ぶ———北関東のハイエナ



ハイエナは狙った獲物は絶対に逃さない

「キャァー」

「うりゃ———よし苺のパンツか」

狙った同級生の女子のスカートは必ずめくる
それがハイエナの掟(お・き・て・)

「フフハハハ………これで後一人———って痛ってぇ」

後頭部を思いっきり蹴られる俺様

「何すんだ!誰だっコラ?!」

「高坂
———アンタこそ何をやってる?」

「ゲッ………団子」

俺が『団子』と呼ぶ———俺様の頭にケリをいれた不届きな奴
怖い物なしの俺にすれば唯一の天敵だった。

みたらし団子の様な髪の色に
みたらし団子のような団子を頭の上に乗っけたような髪型に、
長い足に———これ見よがしの短いスカート
クラス委員で、クラスの中心にいつも居る、クラスのまとめ役

集団行動の群れた羊共のリーダー、否、猿山のメスボスザルなんだ。
要するに

一匹ハイエナである俺様はもちろん群れるのを好まない
————独りで生きていけない権力に屈した羊共はもちろん俺様に
逆らったりしないのだが、この団子だけは別だった。
そして、クラスで俺様がスカートめくってないのもこの男女だけだった。

「誰が団子?
高坂、ちゃんと名前で呼ぶ」

「………………………………う、ぅるせぇ」

「えー?何か言った?
全然聞こえない」

「な、な、なんもねぇよ。
俺は先を急ぐからよ。アディオス———あっ」

「待って
———こっちの話は終わってない。高坂くん!」

団子は、威圧的に俺の名前を君付けした。


「こっちはねぇんだよ!」

「口で話出来ないなら、こっちで訊くしかない?」

『ボキボキ』と
団子は俺を威嚇するように首や拳の関節を鳴らした


「す、スカートめくって、本当にすいませんでした」

結局、団子に凄まれて——脅されて何度も何度も土下座をさせられた。


「も、もう大丈夫だから———私はこれでっ」

最期にはスカートをめくられた当の女の子の方が恐縮していた。


「これに懲りたら少しは反省する
良(よ)い?高坂———」

俺が土下座の格好ままで下から団子を見上げていた刹那

「———甘いぜ、団子っ!
大将討ち取ったりっ———ってあれ?」

記念すべきコンプリートのパンツは密かにこの小生意気な同級生と
決めていた俺様だったのだが、ヒラヒラしている短いスカートを
いくら強くめくってもお目当てのパンツは見えなかった。

「こ・う・さ・か!!!」

鬼の形相の団子を放置して俺は一目山に走って逃げ出した。
逃げ足だけには自信があるつもりだった

———しかし団子は簡単に追いつくと思いっきり俺を蹴り飛ばして

「アンタ、少しは足速いみたいだけど、わたしほどじゃない」

「く、くそ………なんで、いつも負けんだよ!
それにスカートめくれねぇし」

「これからは覚えておくと良(よ)いよ!
———これはキュロットスカートって言う
そして、やっぱりアンタってバカ、バカ、バカ、バカ高坂!」

と言って
『バカ』のかけ声に合わせて何発も何発も俺の頭を踏み砕いた。

「………グハ」


「痛てて………あの男女覚えてろよ!」

「もうきょうちゃんって、ホントにおバカだね」

おっとりした口調で彼女が言った。


「痛いって………ちょっと手当するなら、もう少し優しくしてよ」


「そんなにパンツが見たいならさ、わたしがいくらでも見せてあげるのに♪」

「え?」

「ふふ、あっれ〜?本気にしちゃった?」

彼女はショートカットの髪を振るわせながらニッコリと笑った。
そして彼女が振るえるように笑うと大きな胸も一緒に揺れた。


「そんな ふとましい太ももとか、そんなパンツとか別に見たくねぇって」

俺は何となく恥ずかしくなって軽口を叩く


「ぶーもうっ、きょうちゃん、ちょっと言葉が過ぎるぞ ぷんぷん
親しき仲にも礼儀ありだからねっ?」

怒ってるのか笑ってるのか分からない
———俺が好きな優しい微笑みを浮かべながら、
幾分芝居がかった口調で(でも自然な表情で)頬を膨らませつつ
彼女は言った。

———本当にどんな時も全然変わらないなと思う。
こんな風に話しているだけで、俺は何となく落ちついた気分になれるんだ。


「はいはい」

「ところで、きょうちゃんって女の子のスカートめくって何が楽しいのー?」

「別に楽しくねぇよ、暇潰し」

「でも大人達に怒られるんだから、もう辞めた方が良いと思うよ」

「そういや、最近親父に殴られてないや」

「そのお団子ちゃんが一緒に謝ってくれてるから、めくられた当の女の子も
先生や親に言ってないのかも知れないね」

「そっか、だから
帰りのホームルームで問題になったり、親父に殴られたりはしてねぇんだ」

でもあの男女に殴られてるなら一緒じゃねぇかと俺様は思った。


「でも、もうしちゃダメだよ?
次にしたら、わたし本当に怒るから、分かりましたか?
きょうちゃん」

「はい、はい」

同じ女は二度狙わないのはハイエナの掟だ。
そしてあの団子の野郎が例の絶対防御(キャロットスカート)を装備してる限り
俺の狩り(スカートめくり)が成功する確率は一�もない!

この狩りは暇潰しで始めたんだし、(当然)誰に褒められるわけでもない
でも何となく、このミッションがコンプリート出来なくて悔しい気持ちと
———同時に、(エロい意味ではなく)何がなんでもやってやろうって
ワクワク感が俺様の中に拡がった気がした。

そう———ハイエナは狙った獲物は絶対に逃さないんだ。


「ねぇ、きょうちゃん………わたしのお部屋でゲームする?」

「するする、ドラクエやりたかったんだ」



『うかんだぞ!
トンヌラというのはどうだろうかっ!?』


「うげぇ………どっかで見たことある顔だな、これ。
ってかさ、俺一人でやってても良いの?」

「うん♪
わたしはきょうちゃんが遊んでるの………見てるだけでも
楽しいから」


『あなた、だあれ?
え?お父さんといっしょに旅してるの?
わたしもお父さまといっしょに来たのよ。
海ってなんだか広くてこわいのね。』


『ちょっとあなた。
勝手に入ってこないでくれる?
ここは私の部屋なの。
わかったら早く出て行って。』


『ねえ、
大人の話って長くなるから上にいかない?
わたしはビアンカ。
わたしのことおぼえてる?』

『きまったわ!
今日からあなたはチロルよ!』


次の日、学校


「えっと、今日は運動会のリレーの選手を決めたいと思います」

自習の時間に団子が教壇の前に立って、何やら話している。
あの男女………今日はズボンかよ、くっそ


「誰か立候補する人はいる?他薦でももちろん良いよ」

運動会のリレーなんぞ俺様にはどうでも良いんだ。
本当に何が楽しいんだか。
あーあ、こいつらマジで下らねぇな。


『委員長が良いと思います』

と誰かが言った。


『確かに一番足速いし、賛成』

『俺も賛成』

クラスの羊共がこぞって団子を推薦している。
そりゃ、あの男女の足が速いのは俺様が一番知ってるさ。

「他に誰かいる?居ない?」


『おまえ、やれ』 『無理無理』

などクラスの男共は言い合っていた。

全く、群れたがる羊はひ弱なモヤシが多いらしい。
その後、団子がいくら問いかけても最期の一人の選手が決まらなかった。



俺は完全に興味を無くして窓から見える空を見ていた。
今頃、俺の妹は病室の窓から、この空を見てるのだろうか?


「———が良いと思う」

少し眠くなりながら窓から教壇に目線を戻した時、
何やら大勢の視線を感じた。
教壇にいる団子は笑顔で、他のクラスの奴等は困惑気味に俺の顔を見ていた。


「わたしは高坂くんが良いと思います。どうかな?」

「は?」

「だから、わたしはリレーの選手に高坂くんを推薦してる。」

『………………』

さっきまでとうって変わって、クラスの中が気まずい雰囲気に包まれる。
そりゃ、俺様を前にすりゃ羊共は畏怖して、ビビるよな、当然だ。

「断る!
なんで俺様が、この愚民共の為に走らなきゃいけねぇんだよ
参加者が居ないとか知るか、走る奴がいねぇなら棄権でも何でもしろよ」

『………………』

一瞬、氷の様にクラスの羊共の顔が固まったのが見えた。
俺は本当に良い気分だった。
何で俺がおまえらの為に何かしなきゃいけないんだよ。
知るか———トロい奴が参加してボロ負けしちまえば良いんだ。
へへ………ざまぁみろ

『……………………………………』


「う〜ん、困った———困った」

その雰囲気の中、団子はただ一人だけ場違いな感じで
『困った』と言いつつも、ニコニコ笑顔を崩さずに続ける


「ちょっと………高坂くん、お話があるから来てください」

と言って
教壇から最後尾にある俺の席までステップでも踏んでるかの如く
飛んでやってくると、団子は俺の手を無理矢引っ張った。

そして俺は教室を出て、誰も居ない廊下に連れ出された。



「ちょ………おまえ」

「あれ?
どうしたの………高坂、アンタ顔が赤い」

「う、うるせぇ!一体どういうつもりだよ!」

「いや、だからリレーの選手になってくんない?
わたし達、困ってる。
アンタって逃げ足速いじゃん、今度はリレーでそれ使って欲しい」

「だからイヤだって言ってるよな?」

「冷たいこと言わない
アンタ………女の子がこんなにお願いしてる」


「し、知らねぇし
………俺には、おまえらがどうなろう関係ねぇだろ」

教室の廊下側の窓からクラスの奴等が奇異の目で俺等を見ている。
俺は思いっきり睨み返してやった。

「関係ないわけない。
だって、高坂はうちのクラスなんだから」

「俺はおまえらとクラスメートになったつもりなんか………ねぇ」


そして———それは俺だけじゃない


       お・ま・え・ら・だって、そう思ってるんだろ?


俺はおまえらが嫌いだ、だからおまえだってそれは同じだろう。


「出席番7 高坂京介くん 住所は千葉県———で、
趣味はパズルと植物観賞。尊敬する人は………………」

「だぁぁ………何で俺のトップシークレットを知ってるんだよ?!」

「これくらいの情報はクラスメートなら当然知ってる」

「………………」

俺はクラスの奴等の情報なんて
それどころか———名前すらあやふやだった。
当然、相手だってそうだと思っていた。

「アンタにそのつもりないって言われても、わたしは困る。
———わたしは普通にクラスメートと思ってるし
何よりも実際、高坂はわたしと同じクラス。
アンタ、何をワケの分かんないこと言ってる?」

「………………う、うるせぇ、とにかく知るか」

俺は団子の言葉に動揺していた。

こんな風に一方的に関わってくる、こいつが相手だと
どうしても、俺様のペースはかき乱されちまう。

「あー、逃げる?」

「は、はぁ?
おまえ………何言ってる———」

「だ・か・ら・わたしはアンタをクラスメートと思って頼んでる。
うんって早く言ってくんない?」


俺は思わず、団子から目を逸らした。



教室の奴等は俺に冷たい目を向け居た。
俺が、おまえら羊共と同じクラスなわけがねぇだろ。
そうだ、俺がこいつらの為に何かするなんて絶対お断りだ。

団子の野郎もきっと同じだ。
———こいつは優等生だから点数稼ぎで色々俺に構ってくるだけだ。
ただそれだけだ———そうに決まってる。

「———くれたら、良いぜ?」

どうせ、おまえもあいつらの仲間なんだろ?

「………?」

「おまえのパンツ、見せてくれたら
走ってやっても良いって言ってるんだよ!」

「………」

俺らのやり取りを見ていたクラスメートが一斉に騒ぎ始めた。
———知ってるさ、ワザとやってやったんだ。
おまえらがいくら騒いだって痛くも痒くもねぇさ。


「…………………ふぅん」

「おまえこそ逃げるのかよ?」

ほら、早く正体見せろよ?
おまえは所詮、あいつらの中の一人に過ぎないって事をな


「アハハ………高坂ってやっぱり面白い」

団子の反応は
———俺の予想と違う大きく違うものだった。
何で、おまえはあ・い・つ・ら・と一緒に、俺を糾弾しないんだよ?

「ふ、ふざけるな!
誤魔化してるんじゃねぇよ、無理なら無理って言え!」

俺は尚も諦めずに団子に迫った。


「いいよ。見せてあげる」

「え゛?」

「その代わり、高坂もパンツ見せる。良(よ)い?」

「はぁ?
お、おまえ一体何を言って———」

「———だ・か・ら・
アンタが見せてくれるなら、わたしのも見せてあげるって言ってる」

「何でおまえが俺のパンツ見たがるんだよ?」

「高坂と同じ理由かもね?」

「う、うそつけ
俺がやらないからって脅してるんだな?」

「さぁ?どうでしょうね」

「おまえ、ふざけるなよ………やってやるさ」

「っ………!」

流石の団子もこの時ばかりは驚いた顔で、茫然と俺のパンツを見ていた。
ほら、どうだ!ふん、これで俺の勝ちだ

クラスの奴等に笑われたのはシャクに障るが
団子の野郎が、大嘘吐きであいつらの仲間だって分かっただけでも
俺様の大勝利に違いなかった

———その筈だった


「よし、うん分かった。
ほら………今度は、高坂よく見る」

団子はズボンのベルトを外すと、一番上に止めてあったボタンも外した。


「ちょっと………待っ」

「ほら注目———」



「———このバカ野郎!
何、本当にズボンを降ろそうとしてるんだよ!!!!!」

俺はとっさに団子に飛びついて、こいつが降ろそうとしていたズボンを
———そのズボンを、降ろそうとしていたこいつの両手もろとも無理矢理
思いっきり上に引っ張り上げた。

こいつの一連の行為がズボンを降ろす振り(ふ・り・)で
してなかったことは明らかだった。
何故なら、俺が団子の両手を握って引っ張りあげた時
その手の力のベクトルは確かに下の方向に向いていたからだ。

しかも教室の奴らには、角度的には見えてないかも知れないが、
俺には下着の生地の一部が色だけだが少しだけ見えていた。

「あれ?
見なくて良(よ)いの?
アンタはちゃんと見せてくれたのに、わたしはちゃんと約束は守るつもり」

「バカ野郎!おまえは女だろ!」

「高坂、いつも女子のスカートめくってるじゃん」

「今はクラスのほとんどの男共も見てるんだぞ!」

「高坂………顔真っ赤かだ」

「う、うるせぇ」

「何で、アンタが照れてる?
それにアンタが邪魔するから脱げなかったじゃん」

「と、とにかく………もういい」

「何が良(よ)い?」

「わ、分かったから
———おまえの気持ちは分かったから、ズボン下げんなよ」


「高坂ってさ———」

団子は俺に近づくと、ヒソヒソ話の要領で俺の耳元に———………

「———実は優しい」


………———と言った。


「う、うるさい!うるさい!」

「別にうるさくはない。わたしは小声で言ってる」

「………」

俺は絶句して、もう何も言えなかった。
目を逸らして教室の方を見るとクラスの奴らも静まり返っていた。

「とにかく高坂には約束守って貰う」

「へ?」

「だって、アンタが見せなくても良いって言ったんだから
今更、ナシとかはナシ」

「………く」

「高坂はちゃんと走る、わたし達はリレーで勝つ。
うちの組が優勝する、結果めでたし——めでたし」

「………くそ」

「あと、リレーの選手は練習あるから、ちゃんと来る。
良(よ)い?」

「ちいっ」

「返事聞こえない」

「あーあー」

俺は両耳を両手で押さえて、奇声を上げた。


「返事」

『ボキボキ』と関節を鳴らして団子が問いかけた。
悔しいが、今はこいつの言う事の方が正論だった。
賭けをして負けたのに約束を反故にするのは、俺様の流儀に反する。


「ちぃ分かったよ!やりゃ良いんだろやりゃ」

「うんうん、期待してる。
他のクラスには速いの多いからね。
わたしはアンタの逃げ足だけが頼りです♪」

こいつが周りの状況・雰囲気・流れ、
そんなの完全無視で、ニコニコと笑ってるのを見ていると、
俺は腹立つより呆れて、それ以上何か言うのが面倒くさくなってしまった。


———本当にいつも、いつもそうだったんだ。


「ちくしょう、ちくしょう!
あの団子のやろう、まんまと俺をハメやがって!」

「きょうちゃん、リレーの選手になったんだ、凄い凄い」


「マジで………最悪過ぎる」

「でもお団子ちゃん、結構な策士の女の子だね
わたし、ちょっと会ってみたいかも?」

「単なる変わり者なんだ、あいつ
———俺にいつもちょっかいかけやがって、マジで腹立つ」

「きょうちゃんのことが好きなの………かもね?♪」

「じょ、冗談キツ過ぎる」

「全然………冗談じゃないよ」

「何で分かるの?」

「女のカン………かな?」

「そのカン大外れだよ、絶対
大体、女のカンって………適当過ぎる」

「適当じゃないよ
わたし、きょうちゃんの事なら何でも分かるもん」

「何で分かるの?
ってそれも女のカンで、以下無限ループで———」


「———わたしはね、きょうちゃん好きだから♪」


「なっ………」

「これは将来、大惨事が起きるかもね
お団子ちゃんと、わたしできょうちゃん取り合いかぁ
———わたし、二人が付き合っても別れて欲しいとか言ったりして」


「ハァ
まったく………何をワケの分からないことを言ってるんだよ」


「とにかく大会の時はわたし、応援しに来るね
お団子ちゃんにも会ってみたいし、きょうちゃんの活躍も見たいし」


「こ、来なくて良いよ」

「お弁当作ってくるからね♪」

「何で、俺よりはしゃぐのさ?」


「あのね………きょうちゃん、よぉ〜く覚えておきなさい
女の子はね、自分が好きな男の子が頑張る姿にはしゃぐ生き物なんだよ」



———そして、俺よりはしゃいでる女の子がもう一人居た。


「わぁーお兄ちゃん、
リレーに出るのすごぉい、すごぉい」

「ふふ、クラスの奴らがどうしてもってお願いしやがったからな」

「えぇー?
そーなんだ………みんながおねがい したんだぁ!
みんなに、たよりにされてるんだねー」

「俺ってさ頼られたら、断れないからな
———まったく、北関東を守護するハイエナは苦労が多いぜ」


「キリちゃん、ぜぇ〜たいっおうえんに行く♪」

「うん、でもその前に早く良くなれよ?
そしたら、俺様の超絶スペシャルな活躍が見られるからな!」

「うん!
はやく よくなって………ぜったいぃみにいく!」

「でもキリちゃんごめんな、
俺、その練習で放課後とかあんま来れなくなるかも」

「う、うん………………だいじょうぶだよ
———でもぜったい、ぜったい一番になってね、お兄ちゃん♪」

「ああ、当日はキリちゃんの為に走ってやるからな」

「うん♪ぜったぁいやくそく!」


俺の妹は病気だ
物心ついた時から、ずっと入院していた。

だから両親は当然、俺の妹につきっきりで看病。
と言うよりも、家族の優先順位は常に妹の事で占められていた。

そして家族の中で、
———何故か一番妹に懐かれてる俺は(たかだか小学生だが)
何を犠牲にしても、妹に会って看病したり、あやしたり、話し相手になったりした。


そう………俺には、あの羊共の様に群れたり連むダチは居なかった。
あの通り、学校では一匹ハイエナだし———俺は孤高の存在なんだ。

別に、弱っちぃクラスの羊共と連みたくなんて無いから
それは別にどうでも良いが
でもあの団子だけが突っ掛かってくるから、話がややこしくなってる。

俺は入院生活で辛い思いをしている妹が少しでも喜んでくれたら嬉しいだけ。
出来ればその笑顔のまま、病気を乗り越えて欲しいと思っているだけだ。

だから現実の学校での俺様と、妹に今話してる俺に、
ちょっとばかりギャップが有ったって別に何の問題も無いさ。


それに学校ではあんな俺でも
家に帰れば、俺のことをちゃんと待っててくれる人が居る。

だから不平なんてない———不満なんて無い。
俺はこのままで良い———絶対に変わるつもりなんて無かったんだ。


「ほら、きょうちゃん、お紅茶煎れたから。それにお菓子もどうぞ」

「うん、有り難う」

『こんな私でいいの?
フローラさんみたいに女らしくないのに。』

『私は守ってもらうことしかできない女ですのよ。
それでも私を選んで下さるの?』


『なにしてるの?早く私を選びなさいよ。』


「結構、きょうちゃんゲーム結構先まで進んだね。
きょうちゃんの人生最大の選択かな?」

「何か、滅茶苦茶………選びづれぇな」


『なんとこの私が好きと申すか!?
そ、それはいかん!もう1度考えてみなさい』

「ふふ………何回それやってるの?
もう、きょうちゃんったら♪」



"しかし選んだ花嫁にプロポーズせずここを出てゆけば
皆をがっかりさせることになるだろう"


———逃げ出したくても"ルーラ"は肝心な時には使えないって事
と合わせて
何となくこの言葉が、その後 俺の心の中にずっと引っかかった。



俺の学校での生活は相変わらず
でも、前にもまして団子の奴が色々話しかけてきやがる。
ったく あの女、面倒くせぇったらありゃしねぇ。


いつもの様に、妹の見舞いを終えて帰ろうとしていると
何故か、団子が突き当たりの病室の前で困った顔をしていた。

俺は興味本位で、その様子をしばらく遠くから眺めていた。



団子が病室へ入っていった後、部屋から声が聞こえる。

「わし、薬とかいらんし飲まんからね」

「お爺さん………我が侭を言ったらいけませんよ。
これはお医者さまが———」

「———大体、医者なぞ病院なぞ来たくは無かったんじゃ」

どうやら、団子のじいさんが我が侭を言って、家族を困らせてるらしい。

何でだろう?
学校でいつもちょっかいをかけられていたから
その意趣返しのつもりだったのか?
それとも別の理由だったのか?

大好きな祖父母のことを思い出しながら
俺は本当に何の躊躇もなく、病室の入り口から団子に挨拶した。


「よっ!
こんな所で会うなんて随分奇遇じゃねぇか?」



「誰じゃ、この小僧は?」

「こ、高坂——アンタ、ここで何してる?」

「何じゃ、わしの孫娘の友達か
とにかく、わしの可愛い孫はおまえにはやらんぞ」

このじいさんは陽気なタイプのようだ。
こういうじじいの転がし方は、大体分かっている。

「お爺さん、そう言わず是非、僕にください
絶対に幸せにしますから」

「小僧、マジか?」

「嘘だよ、じいさん」

「クク………面白い坊主じゃな。茶でも飲んでくかい?」

「おう、玉露で良いよ」

全くの他人で初対面にかかわらず
俺とじいさんは、普通にうち解けて茶を飲んで世間話をした。


「じいさん、何だから知らねぇが薬は飲んだ方が良いと思う」

「だって苦いし不味いし、嫌じゃ」

子供か、このじじい


「じゃ、勝負しねぇか?じいさん
将棋やって、俺が勝ったら素直にじいさんは薬を飲む」

病室の机に置いてあった将棋盤を指差しながら、俺は言った。

「小僧が負けたら、どうするんじゃ?
わし、薬飲まされるだけの勝負とか受けるつもりはないぞ」

「団子と———じいさんの孫と結婚するのは
泣く泣く諦める」

「ほう………気に入った、よし勝負じゃ!
でもわし強いからハンデをやろうかのう」

「そんなのいらないぜ」

「———ふむ、その意気潔し!! 」

「いざ………尋常に」

「「お願いします」」

俺は自慢じゃないが、ガキにしては結構 将棋強い方だと思っていた。
でもこのじじい、とぼけてる割りに滅茶苦茶強い。

「ほらほら、どうした王手、飛車取りじゃぞ」

こんな所にノコノコやってきてボロ負けしちゃ
俺の格好つかねぇんだよ。

………………………!


まぁ………このじいさんなら洒落は分かるよな


「あっ、じいさん………窓、窓にUFO!!!」

「え?!
何処じゃ?何処にも見えんぞ」

———この隙に将棋盤をそっくりひっくり返して


「あれ?どうやら俺の勝ちみたいだぞ」

「あーわし負けとる」

「いや、良い勝負だったぜ」

俺は、団子と団子のおばあさんにウインクして、
じいさんに見えない様にピースサインを出した。

「わたしが優勢だった筈なんじゃが、何でかのう」

本当にボケてないだろうな?
………このじじい

「とにかく、約束守って貰うぜ」

「しょうがないのう」

じいさんは約束通り、薬を飲んでくれた。


「じいさん、早く良くなれよ」

「うむ、また遊びにおいで」



「高坂、あんがと
うちのおじいちゃんって頑固だから、本当に助かった」

「俺は、年寄りあしらいはプロ級なんだぜ
暇なら、また茶でもご馳走になるわ
んじゃ、帰るわ———」

「———あの高坂………」

「アディオス!」

「ちょっと待ってくれる?」

「な、何だよ?」

「アンタさ、お菓子好き?」

「おまえんち、菓子屋だったのかよ。
マジでイイよな、菓子食い放題でさ………羨ましいぜ」

その後、俺は何故かこいつに連れられて団子の家に案内された。
考えてみりゃ、俺って女の子の家なんて上がったことなかったな。
つーか、友達の家なんて随分行ったこと無かった。


「わたしの予想通りの高坂らしい発想
でもわたしは和菓子よりも、洋菓子の方が好き」

「おいおい………おまえ酷いな
それでも和菓子屋の娘かよ?」

「ふふ
だったらアンタ、ここの子になる?」


「毎日、菓子食えるなら結構良いな、それ」


「ふぅん
本当に美味しそうに食べてる
お茶飲んで、お菓子食べてる姿がうちのおじいちゃんにそっくり」

「あんま嬉しくねぇな、それ
ところで、物陰に隠れてるガキに、俺、睨まれてるんだけど?」

「あれはね………わたしの弟。こら、挨拶は?」

「逃げやがった。
おいおい、躾けと教育がなってねぇぞ………ここの家は」

「アンタがそれ言う?」

「そりゃ………そうだな」



  『アハハハ』  『クク……フハハ』


その後、俺らは何が面白いのかも分からず
ずっと二人でクスクス笑っていた。


俺がこんなに無邪気に笑ったのは———………

"姉ちゃん"や妹と話してる時以外で、

………———俺がこんなに笑ったのは、どれくらい前だっただろう?


「高坂の妹って入院してるね?」

「何で知ってるんだよ?」

「だって、うちのおじいちゃんも入院してるから
アンタって妹のお見舞いに何度も——何度も行ってる」

「おまえ 見てたのかよ………?」


「ちゃんとお兄ちゃんしてて偉い。
アンタが早退したり、学校来なかったりする原因って
やっぱり———」


ああ………そっか。
だからこいつは、そんな俺に同情してただけ だったのか。

何故だか、俺はさっき一緒に笑っていた自分が無性に恥ずかしくなった。


「別に、そんなんじゃねぇよ」

「わたし、高坂と走るの楽しみにしてる
アンタがスカートめくって逃げるのを追っかけるよりは
バトンを渡す方が絶対に良(よ)いよ。
うんうん♪」

「………あっそ」


「何?
高坂、どうかした?」

「俺、帰るから」

「ちょっと待って———」

団子が何か言うのも聞かずに
俺はなるべく早く、この場から立ち去ろうと駆けて外に飛び出した。

俺は一体、これ以上………この親切なクラスメートに何を期待してたんだよ?
こいつは他の奴らとは違う。
それで———それだけで、もう充分じゃねぇか?


無性に姉ちゃんが恋しくなって、
俺は脇目もふらずに家路に向かって出鱈目に走った。


俺は思った。
———あのドアを開けたら、またいつもの俺に戻れるんだ


「ハァハァハァ………もうっ高坂!
———だから、わたし ちょっと待ってって言ったでしょうに」


「な、な、何で、
おまえは………俺の家の目の前まで追っかけてくるんだよ?!」

「挨拶」

「あ、挨拶………?」

「忘れてる」

「え?」


「高坂、またね」


「お、おまえ………」


「高坂、リレー頑張ろう」

「………」

「返事」

「あ、ああ………やろうぜ!」


夕陽に照らされた、こいつの顔を見ていると
何故か、ポカポカと暖かくて懐かしい気分になって
俺は何の気も衒わず———本当に素直な気持ちになって、そう答えていた。


「高坂、アディオス♪」

とニッコリ笑って団子がそう言ったかと思うと
まるで背中から羽根でも生えてるみたいに
本当につむじ風の様に———団子は俺の視界から消えていった。


気付くと俺は
いつまでも——いつまでも、団子が見えなくなっても手を振っていた。



あーあ、俺って何………青春してんだか


その時、俺の頭の中で
何故か、ゲームの場面が再生される。

『きまったわ!
今日からあなたはチロルよ!』


北関東のハイエナだろうが、"地獄の殺し屋"だろうが
———こうなっちまったら、もう形無しだ。

「………………………ったくよ」

———本当に、最近の俺ってバカみたいだ


俺はそう自嘲しながら、もう暫くの間
———団子が居なくなった路地を、家のドアの前で
ずっと——ずっと、見つめていた。

おわり


切りが良いのでここで一端切り
クリックするのに疲れた

一文字違うだけで大違いっていうSS

—その1—

京介「あれ? 二人ともどっか出かけるのか?」

桐乃「うん。包丁が錆びちゃったから、新しいの買いにホームセンターまで」

京介「なんだそうか。……あやせはその付き添いってわけか」

あやせ「いいえ。わたしは、盲腸が膿んじゃったので病院へ」

京介「だったらとっとと行けよ! 脂汗流してなに笑ってんだよ!」

—その2—

京介「あやせは俺の天使だ! 大好きだ!」

あやせ「本当ですか!? わたしもお兄さんが大介です!」

親父「呼んだか?」

—その3—

桐乃「ねえ。先週あたしがフリマで買ったヤツ知らない?」

京介「おまえのブルマなら俺が穿いてるぞ」


……不作でごめん


あやせ「何だかとっても静かな夜ですね」

京介「……」

あやせ「そろそろ防腐剤を買ってこないと……」

京介「……」

『それぞれの想い』

○桐乃編

桐乃「ねえ、クッキー焼いてみたんだけど……」

京介「おまえが? へー、けっこう上手くできてるじゃねえか」

桐乃「味、どうかな? ちょっと失敗しちゃったかもなんだけど」

京介「うーん、もう少し甘くてもいいかな……」

桐乃「あたしも少し甘みが足りないかなと思ったんだよね」

京介「でも、俺はこの味好きだよ」

桐乃「ありがと。……やさしいんだね」

京介「なんか言ったか?」

桐乃「ううん。(よし! もっと練習しなきゃ!)」

○黒猫編

黒猫「先輩? 何だか眠たそうな顔だけれど……」

京介「もうすぐおまえの誕生日だろ」

黒猫「……それが、どうかしたのかしら?」

京介「いや、何を贈ったらおまえが喜んでくれるかなって、な」

黒猫「……まさか、それを考えて寝不足になったとか?」

京介「うるせえよ。俺も初めてだからいろいろ考えちまうんだよ」

黒猫「ありがとう。……やさしいのね、先輩って」

京介「なんか言ったか?」

黒猫「……。(私は、先輩がそばにいてくれるだけでいいのよ)」

○あやせ編

あやせ「いけない、もうこんな時間……。お母さんが帰ってきちゃう!」

京介「……」

あやせ「どうしたら……どうしたらいいのかしら……」

京介「……」

あやせ「せーの! よいしょ!(お、重い……)」

京介「……」


『運命の日』

あやせ「明日が来ませんように。明日が来ませんように……」

京介「……どうしたあやせ? 呪いの呪文か?」

あやせ「お兄さんは、明日がどんな日か知ってて言ってるんですか?」

京介「明日といやあ、例の本が発売される日じゃねえか」

あやせ「そうなんです。ついに運命の日が来てしまったんですよ」

京介「やっぱ、新しく登場した常盤さんがこれからのキーパーソンだよな」

あやせ「は? 常盤さん……ですか?」

京介「そうだよ。でもさ、仲村さんと佐伯さんはどうなったんだろ」

あやせ「あの、何のお話をしてるんですか?」

京介「何って、明日発売される『悪の華 8巻』に決まってるじゃねえか」

あやせ「……」

京介「あれ? もしかして、あやせは何か勘違いしてんじゃねえのか」

あやせ「どういうことですか?」

京介「あやせが言ってるのは、多分あの本のことだと思うけどさ……」

あやせ「そうじゃないんですか?」

京介「あやせだから正直にいうけど、実は俺、8巻までしか読んでない」

あやせ「8巻って……随分と前じゃないですか」

京介「まあな」

あやせ「それでよく平気な顔してSSなんか書いてましたね」

京介「それはさ、俺にとってあやせは……」

あやせ「お兄さんにとって、わたしは……何なんですか?」

京介「俺にとってあやせは……」

あやせ「お兄さんにとって、わたしは……。その先を聞かせてください。刺しちゃいますよ」

京介「俺にとってあやせは、天使なんだよ……って、少し刺さってるじゃねえか」

あやせ「ご、ごめんなさい! 嬉しくてつい」

京介「おまえは、嬉しいと人を刺すのかよ!」

あやせ「大丈夫です、少ししか刺さっていませんから。……でも、本当に嬉しいです」

京介「あの本の結末がどうなろうとも、俺はあやせ一筋だから心配すんな」

あやせ「わたし、お兄さんを信じています」

京介「ありがとな……って、刺すなよ!」

あやせ「じゃあ、お兄さんとわたしのSSもずっと続くんですね?」

京介「その件に関して言えば、常盤さんがどうでるかにかかってる」


ししまい

あ〜あ
ふさ三木のせいでスレが荒れちゃった

全部見ている訳じゃないけど他もこんな感じなのかい?

>>788
いや。
桐乃スレは普通に祭り。
5日目突入ww
黒猫スレは普通にお通夜。
5日間泣き通しww

小ネタ:昼下がり


桐乃「ねえ、ちょっと良い?」

京介「……zzz」

桐乃「……寝てるし」

桐乃「おーい」

京介「んー……」

京介(咄嗟に寝た振りをしたけど、どうすっかな)

桐乃「折角新作のエロゲー持ってきたのに、むっかつくなあ」

京介「……」

京介(またかよ! つい一週間前も持ってきたじゃねえか!)

桐乃「……本当に寝てるよね?」

京介「……」

京介(な、なんだ。 桐乃が近づいてきた?)

桐乃「……よし」

桐乃「疲れてたのかなあ」ツンツン

京介(何してんだ桐乃の奴! 俺の頬を突付いてるのか!?)

桐乃「……いつもありがとね」

京介(やべえ、これ聞いちゃって良いのかな)

桐乃「兄貴ぃ……」

京介(だ、抱きついてきやがった……)

桐乃「……うう」

京介(良い匂いするな、こいつ……って何考えてるんだよ俺は!)

桐乃「もう少し素直になれればなぁ」

京介(……桐乃)

桐乃「いつもごめんね、ありがとね」

京介「……おう」

桐乃「……へ?」

京介「……えっと」

桐乃「な、なななな! 起きてたの!?」

京介「……い、いや。 今起きたところだ」

桐乃「……っ!」

桐乃「もしかして……き、聞いてた?」

京介「いいや、俺は何も聞いて無い」

桐乃「……そ、そう」

京介「それより、なんか用事だったか?」

桐乃「用事って程でも無いけど……ほら、あんたが楽しみにしてた新作エロゲー」

京介「別に俺は楽しみにはしてねえけど!?」

桐乃「本当はやりたかった癖に、見栄張っちゃって」

桐乃「これ貸してあげるから、感謝しなさいよね」

京介「はいはい、やっときゃ良いんだろ?」

桐乃「次の休みまでにコンプしておくこと! これ絶対だかんね」

京介「へいへーい」

桐乃「……ふん。 もしやってなかったら死刑だから」

京介「分かった分かった。 んで、用事はもう済んだのかよ」

桐乃「はあ? 何その態度。 チョーむかつくんですけど」

桐乃「あたしと話せるだけ、光栄に思いなさいよ」

京介「……そうですか、とても光栄です」

桐乃「チッ……んじゃあ、あたしは部屋戻るから、宿題しっかりやっといてね」

京介「……」

京介「……なあ、桐乃」

桐乃「は? 何よ」

京介「……どういたしまして」

桐乃「……!」

桐乃「ば、ばかじゃん!」


おわり

一応改変で書いてみたんだけど、これ黒猫スレに書いても平気かね?

タイトル『12巻if—黒猫編—』

「やめてくれ!」

京介は思わず黒猫の手を取っていた。
一瞬驚いたように目を見開いた黒猫だったが、すぐさま頑強に抵抗を始める。

「離しなさい!!」
「だめだ離さない!」
「ふざけないで!あなたに止める権利はないわ!!」

ボロボロと泣きながら黒猫は大声で京介に言葉を叩きつける。
まるでそうしなければ心が折れてしまうかのように。

「私はもう敗れ去ったの!けじめをつけなければいけないのよっ!そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ…」

不意に黒猫の手から力が抜けた。
そのまま力尽きたかのように膝から地面に崩れ落ちる。

「…私は前に進めないじゃない…」

降りしきる雨の中。
その雨に負けないほどに涙を零す黒猫。
そんな彼女の耳に…一言の呟きが届く。

「ごめん…な」

その言葉に顔をあげる黒猫。
その目が京介の顔に釘付けになる。
京介の顔が…慟哭に彩られていたから。

「ご…めん、な…ごめん。ごめん…瑠璃…黒猫…」

嗚咽を上げながら、しゃくりあげながら、京介はただひたすら黒猫に謝っていた。
支離滅裂に。
呼び名さえも混同しながら、京介はただ泣きながら謝っていた。

「悲しませてごめんな。俺たちの我儘に巻き込んじまってごめんな。待っててくれたのにごめんな。ずっと俺たちを大切にしてくれてたのに…泣かせてごめんな…」
「京介…」
「ごめ…う…」
「…好きよ、京介」

そうして語られたのは悲しい告白。

「ずっと、ずっと好きよ」

ゆっくりと立ち上がりながら黒猫はニコリと微笑んだ。
滂沱の涙をたたえたまま。

「今生も、来世も…未来永劫、あなたが好きよ」
「る…り…」

立ちすくんだまま、ただただ涙を流す京介に、黒猫はそっと近づいた。

「あなたがあの子を選んだのならそれでもいい。それでも覚えていて…」

そうして呪いは上書きされることなく解かれる。
掛けた時と同じ行為で。
少しだけ違う行為で。

「私があなたを好きだということを」

重ねた唇を離しながら黒猫は、今までで一番きれいな笑顔で最後に告げた。

「さよなら、先輩」

そうして二人は別れ、そのまま二度と会うことはなかった。



そうして月日は流れ…。



「ふいー今日もあちいなあ…」

ある公園のベンチ。
木陰のかかるその場所で、京介はネクタイの結び目をグイッと緩めた。

「夏の外回りは堪えるよなあ…」

言いながらさっき自販機で買ったペットボトルのお茶をごくりと飲む。
冷えた液体が喉を通る感触が心地よく、思わず京介が大きく息をつく。
もう一度口に含もうとボトルを傾けた時、照りつける陽光が目に入った。

「…」

目を細め眩しさを堪えていると、不意にポケットの携帯が鳴った。

「っとメールか…」

お茶をベンチに置き、ポケットをまさぐって携帯を取り出す。
液晶にタッチし、メールの文面を呼び出す。

『よう兄弟!今日はそのまま直帰していいぞ。お疲れさん』

「社長…だから名前で呼べって言ってるでしょいつも…」

思わず苦笑が漏れる。
周りにケジメが付かないからと、何度言っても変えない変わり者のあの人。
学生時代と変わらぬ呼び方にふと過去のことが思い出される。


結局京介と桐乃は、あの後恋人同士になったまま今に至る。
桐乃が高校生のうちは両親にバレないようにと、京介は一人暮らしを始めた。
そうして、極力会わないよう桐乃に言い聞かせた。
渋る桐乃に京介は『けじめだ』といい、『在学中に他に好きな奴ができたら俺のことは忘れろ』と言い含めた。
3年という月日をほぼ会わないで暮らすこと。
それは自らの気持ちを再確認すると同時に、桐乃にも選択の幅を与える意味も含めていた。
そして…。

「…」

あの夜、微笑みながら別れてしまったままの、今でも大好きな彼女へのささやかな贖罪でもあった。
結局桐乃は京介への恋慕を絶やすことなく、大学進学を機に京介のアパートへと転がり込んでくることになる。
京介もそこで腹をくくり、大学卒業から2年経った今も両親とは冷戦中である。

「…ったく。傍から見たらキモいよな」

実妹と暮らすために実親とガチ喧嘩。
それどんなエロゲ?と言われても仕方ない。
そんなおり、就活中に一本のメールが来たことが今の現状に繋がっている。
差出人は三浦絃之介。
かつて高校時代に在籍していたゲー研部長からだった。

『ゲーム会社を作った。手伝わないか兄弟』

この誘いに京介は一も二もなく飛びついた。
正直就活に行き詰っていたのだ。


と言って、就職先がなくて困っていたわけではない。
むしろ就職先に困っていたのだ。
最初に提示されたのが桐乃から、自分の専属マネージャーとして美咲さんに売り込んだということ。
快諾してくれたということだったが、京介は速攻でこれを断った。
理由は二つ。
桐乃のコネということと、まるで自分が桐乃のヒモのようだと思ったこと。
次にオファーが来たのがアイドルKANAKO のマネージャー。
本人たっての希望ということだったがそれも断った。
理由は言わずもがな。
それからも、槇島の関連会社への極秘内定だとか、新垣衆議院議員の秘書だとか、とにかく高校時代のコネが色々と用意されて辟易していたのだ。

「…俺ってそんなに一人じゃ何もできないように思われてるのか?」

当時は本気で悩んだものだ。
そんな折に来た絃之介からのメール。

『手伝わないか兄弟』

この文言が京介に決意させた唯一の理由だった。
早速承諾のメールを返し、その数日後には会社のフロアがあるオフィスビルへと歩を向けた。

「よう4年振りだな兄弟!!」

そう言って歯を見せて笑う絃之介は少しも変わっていなかった。
しかしそこに意外な人物がいて、少々京介は驚いていた。

「久し振りだね京介君」

ニッコリと柔和に笑いながら、そいつ…御鏡は京介の手を握った。
話を聞くとこの状況に得心がいった。
この会社は御鏡が出資して立ち上げたこと。
理由が自分好みのエロゲを作ることというのだからすごい。
そこでかねてより親交のあった絃之介を社長に据えたこと。
これは何もなあなあな理由ではなく、彼の高校・大学時代における人をひっぱる能力、所謂牽引力・統率力を見込んでとのこと。
そして今回京介が誘われた理由は一つ。

「兄弟はなぜか周りをその気にさせちまうんだよな。それが欲しいんだ」

そうしてそのまま会社に入り、もう2年経った。
その間にかつての部活仲間、真壁夫妻の入社でジャンルも多様化し、今ではちょっとしたブランドになっている。


「会社自体が高校の時のノリだもんな…」

呆れたような笑みを浮かべながらピッとメールを閉じる。
そうしてベンチの背もたれに体重を預けながら目を閉じる。
そう。
たしかにメンツは高校の部活と同じ面々が揃っている。
…ただ一人を除いて。

「…黒猫…」

あの夜を境にどこかに行ってしまった彼女。
誰にも行先を告げず、連絡先すら変えて消えてしまった彼女。
まるで死期を悟った猫がひっそりと姿を消すように…居なくなってしまった彼女を、ふとした拍子に思い出すのはもはや日課みたいなものだった。
元気でいるか?
友達はできたか?
俺のことは…忘れたか?

「…どの面下げて心配なんかできんだよ糞が…」

思い出すたびに、京介の中に自嘲じみた気持ちが湧き上がる。
それは自己嫌悪などと言った生易しいものではなく、本気で自分自身を殺してしまいたくなるような激しい憎悪。
一時期などは本気で自傷行為にはしったものだ。
桐乃が『それはあんたの自己満足だから。その気持ちはそんなことで消していいもんじゃないから。…あたしも同じもの背負ってるから』と言ってくれたときは、二人で一晩中泣き明かした。
そうして今京介はこうしてここに生きている。

「…直帰でいいなら、たまには土産でも買って行ってやるか…」

言いながら立ち上がるころには、照りつける太陽もいささか柔らかくなっていた。



「さて、新作のエロゲは…と」

もはや行きつけになっている『あにしょっぷ秋葉』。
あれから6年も経とうというのに、桐乃のゲーム熱は冷めるどころか益々ヒートアップしていた。
多忙なモデル業の合間を見つけてはゲーム三昧。
時折、これ夫婦の営みより時間多くね?と京介が思うとか思わないとか。
しかしそんな桐乃を受け入れた京介には、それがもはや日常であり、生活の一部分なのも確かだった。
だから今日は、自社製品のマーケティングがてら久し振りにプレゼントを買って行ってやろうということにしたのだ。
店内を歩きながら壁に貼られている販促用のポスターを眺めていく。
大概の自信のある新作はこうして壁に貼られている。
ゲームも本も。

「…数はあるけど、妹物はねーな…」

ひとしきり眺めた後、平積みの棚へと目を移す。

「…………え?」

一瞬だけ視界を横切った書籍の平積みの棚。
そこに信じられないものを見た気がして、慌てて視線を戻す。
そうして京介は、そのまま固まったように立ち尽くした。

「は…はは…」

どれくらい経ったろう。
不意に思わず漏れた笑い声。
小さく掠れたそれは、流れ落ちる涙の所為であった。
しかし京介はそのことに気付かないかのように、一冊の本を見つめ続けた。
いつまでもいつまでも。

「…どうかなさいましたか?」

そのうち店員が、泣いている京介を不審に思い声をかけてきた。
その声で、不意に呪縛が解けたかのように我に返る。

「な、なんでもないです」

慌てて涙を拭きながら、なおも止まらないそれに苦笑をもらす。

「…どこかお加減でも?」
「い、いえ本当になんでも。それよりこの本…2冊貰えますか?カバーはいりません」

もう止まらない涙をあきらめて、泣き笑いの顔で店員に伝える京介。
やや戸惑いながらも、店員はその本を持ってレジへと京介を誘導する。
それに従いながら京介は、一度だけ振り返って先の棚をみつめた。
そこにある、懐かしい名前のタイトルの本を。

『運命の記述〜ある兄妹と一匹の黒猫の物語〜』

END

以上です。

そうかい?
一応黒猫スレ民救済を名目に書いたんだけどな…。
あとこんなんも書いてみた。
タイトル『負け猫たちの密談』

「しっかし結局桐乃かよ〜・・・」

ポリポリとおかきを口に運びながら加奈子はあぐらのまま後ろにひっくり返った。

「加奈子お行儀悪い」
「今日ぐらい見逃せよ〜」

マジへこんでんだからよ。
そう加奈子が言うと、あやせもそのままグッと押し黙った。

「・・・気持ちはわかる」
「だべ?正直敗けると思ってなかったしよー・・・」

その自信はどこから湧いてくるんだ?
居合わせた全員がツッコむのをかろうじて堪えた。

「まあねえ。加奈子ちゃんのはいんぱくとあったよねえ」
「でっしょー師匠!」
「・・・確かにあれで断るのは勇気がいるわね・・・」
「だべ野良猫」
「黒猫よ」

きっちり名前を訂正して黒猫は続ける。

「でもそれだけに、衆目の前で振られたメルルもどきを想像すると、私の溜飲も少しは下がるというものだわ」
「加奈子だつってんだろ!」
「ああおかしい。自信満々にステージの上から告白。大勢の観衆の前で叫ばれるスマン。よく最後まで歌い切ったわね?」
「ぐぬぬぬぬ・・・」

調子に乗ってドS 全開でからかう黒猫。
加奈子は目に涙をためながら、いきなり麻奈実の胸に飛び込んだ。

「ししょー!あの野良猫がひでーよ!」
「うーんそうだねえ。すこーし言い過ぎかなー・・・ね?黒猫さん」
「ひっ!」

ニコリと麻奈実に笑顔を向けられた途端に硬直する黒猫。
もしも尻尾が生えていたなら足の間に挟んでいたかもしれない。

「そ、そうね。す、すこしいいすぎたわ。ごめんなさいね来栖加奈子」

少し早口気味にまくしたてると、黒猫はそのままあやせの隣に座りなおす。

「・・・黒いのはあなたで慣れたつもりだったけど、あの人のは桁が違うわ」
「そうですよね・・・って!私が黒いですって!?いくら黒猫さんでもぶち殺しますよ!?」
「・・・ぶち殺すって単語が日常化してる人ってあまりいないと思うわ・・・」

ぼそぼそと囁き合ってると、いつのまにか元の位置に戻った加奈子がケロッとした表情で声をかける。

「おいそこの盛大に振られた二人組」
「「一緒にしないでちょうだいっ!!」」
「おーこわ。まー落ち着けよ。どうこう言ったって、あたしらみんな同じ穴のムジナなんだからよ」

ケラケラと笑いながら、さっき泣いたカラスはニヤリと牙をむくように、いつもの笑顔を浮かべる。

「話はこれから先、だべ?」

その言葉に残る3人の顔がピリッ!と引き締まる。
そう。
今この田村屋二階の麻奈美の部屋に集まった4人は、この先の話をしに集まっていたのだ。
詳しく言えば『件の二人が卒業後』の話を。


「・・・でも本当はどうかしら?結局別れないなんてことになったりしないかしら?」

黒猫のもっともな意見に、あやせがさらりと答えてくる。

「あら、その時は、二人を埋めてしまえばいいんですよ」
「私の親友を埋めないでちょうだい!!」

黒猫の高速マッハのツッコミにあやせはキョトンと首を傾げる。

「なに言ってるんですか黒猫さん。誰が桐乃を埋めるなんて言いました?」
「え、だ、だって今二人を埋めるって・・・」
「ああ。ですから加奈子と黒猫さんの二人を・・・」
「「埋めんなよ!!」ないでよ!!」

ぜえはあと荒い息をつく黒猫と加奈子。
それを不思議そうな顔でみつめるあやせ。

「だ、大体なんで私たちが埋められなくてはいけないわけ?」

全くこっちの剣幕が伝わらない相手に、業を煮やして黒猫が問いかける。

「まったく関係ないでしょう?」
「えー・・・とお・・・」

んーと暫し虚空をみつめ考えるあやせ。
そうしてとてもいい笑顔で答えてきた。

「八つ当たり的な?」
「「あたるなよ!!」」
「あはは面白いね3人共」

クスクスと笑いながら目の端を擦っていた麻奈美は、脱線はそこまでとばかりに話を元に戻す。

「黒猫さんの意見はもっともなんだけど、あの桐乃ちゃんが一度決めたことを破るってあんまり考えられないんだよねえ」

京ちゃんの事でわかるでしょ?
そう言われて押し黙る3人。
たしかにあそこの兄妹は、自分がこうと決めたら他人がどう言っても変えない頑固なところがある。
そうすると、卒業までと期限を決めた恋人関係も、あながち本当なのかもしれない。
互いに視線を交わして頷きあう麻奈美以外の3人。
しかしそこに麻奈実がまたも鋭い一言を差し込んできた。

「でもね、一回別れたーって言って、またくっついちゃうのはあるかなーって思うの」
「「「!!」」」

三人の目が大きく見開かれて麻奈実に集まる。

「確かに卒業したら普通の兄妹に戻るって言ってるみたいだけど、それってずーっとって言ってないんだよね」
「た・・・確かにそうね・・・明言してないわ・・・」
「元の兄妹に戻りました。約束果たしました。じゃあこれでまたふりだしね・・・桐乃なら言うかも・・・」
「うへえ、えげつねーなあ」
「ね。だからここは、ほんとーに別れた直後にしかチャンスはないとみていいと思うの」

麻奈実の言葉に全員が頷く。

「そうね。それが確かに確実ね」
「わかりましたお姉さん」
「誰が勝っても恨みっこなしだぜ?」

ニヒヒと笑う加奈子に対し、残る3人も不敵な笑みを浮かべる。


「ふん。元カノを甘く見ないでちょうだい。京介は私の元に戻ってくるわ。なぜなら私たちは前世より結ばれた魂の持ち主なんだから」
「厨二病乙。京介は加奈子が大事に養ってやるからお前は電波の海へ帰れよw」
「あらあら。この数か月、お兄さんの世話をしていたのは誰かわかってます?お兄さんは絶対に私を選びます」
「それでこっぴどく振られたのだから救いがないわねえ」
「なっ!あ、あなただって号泣したじゃないですか号泣!!」
「わ、私のは演出よ演出!く、クリスマスにあの二人に呪いをかけるって崇高な・・・」
「『泣きじゃくる黒猫さんを慰めるのに苦労しましたわ』」
「!?」
「へっへーん。沙織に聞いてっぜ〜泣き虫ルーリちゃん」
「あ、あのデカ女・・・今度会ったら最大の呪いをかけてやるわ・・・」
「まーまー喧嘩しないしない。・・・所詮幼馴染には敵わないんだから(ぼそっ)」

黒っ!!
口中で3人のツッコミが見事に一致していた。

「あ、あれでもししょー告白どうすんの?」
「あ、うん。だからね・・・」

コソコソと話し合う4人。
その話し合いは夜中まで続いたとか。

「みんなであの二人を真人間にもどそー!
「「「おー!!」」」

卒業式はもう目の前に迫っていた。



「うお!」
「どしたの京介?」
「いやなんか今背中に悪寒が・・・」



その後二人だけの結婚式を覗き見ていた4人が、キスのくだりで発狂したとかなんとか。
それはまた別のお話。

END

以上です。

>>820
あ〜乙乙

黒猫好きな俺としては、『俺妹』は7巻で終わってるから
その後の展開がどうなろうと気にしない。桐乃END? よかったよかった
それよりも、『あやせのホラー祭り』が近日開催されるらしい

>>820
激乙

最終巻が出たタイミングで確かにスレが盛り上がって来たけど
桐乃派があの内容で満足しているって事に泣けてきた

>>825
そうか?
桐乃スレでも書いたけど、こうなるって補完してるから満足してる。

桐乃「人生相談があります」

京介「ああ知ってる。昼間言ってたしな。んで?」

桐乃「あんた約束守る気ないでしょ?」

京介「なにを言う。俺は分別つける男だ。約束は守るぜ?」

桐乃「キ、キキキキキスしといてどの口が言うか!?」

京介「兄妹のスキンシップだ。別段不思議じゃない」

桐乃「あ…あんた、それで何もかも済ませる気じゃないでしょうね?」

京介「ん?ああまあな」

桐乃「?」

京介「この後一緒に住むのも、ずっと一緒にいるのも、時折キスするのも、兄妹なら仕方ないよな?」

桐乃「〜〜〜っ!?な、なに言って…!?」

京介「『どこにも行くな。俺と結婚してくれ』」

桐乃「!?」

京介「言っただろ?『はい』って答えたよなお前?」

桐乃「そ、それは卒業までは恋人でって約束で…!!」

京介「恋人じゃねえ。夫婦だ」

桐乃「!?そ、そんなの屁理屈…!」

京介「嫌か?」

桐乃「嫌なわけないじゃんっ!!」

京介「そっか。はぁ。安心したぜ」

桐乃「…バカ。ほんとバカ。変態。シスコン」

京介「うるせえ。いいから左手出せ」

桐乃「?」

京介「…よし。これが前に返された婚約指輪で、これが今日買った結婚指輪な」

桐乃「…結婚指輪、メルルのこれ?」

京介「あとでちゃんとしたの買ってやる。とりあえずそれで我慢しとけ。よし、じゃあ桐乃」

桐乃「ん?」

京介「末長くよろしくな」

桐乃「っ!し、幸せにしなさいよね!!」

HAPPY END

アニキャラ個別のことなら、今はかなり落ち着いてるぜ。
勝ち組笠にきて他キャラスレに凸る奴もいないしな。
黒猫スレの連中にゃ、さんざっぱら煽られたけどな。

うーん…12巻改変また書いてみた。
また黒猫スレ狙い。

タイトル『妹猫の暴走』

「ルリ姉!?どうしたのさ!?」

あたしはたった今帰宅したルリ姉の姿を見て悲鳴を上げた。
いつもと同じ黒いゴス服。
見慣れたその姿が、今は見るも無残なものになっていた。

「なんでも…ないわ…」

小さな声でそう呟くルリ姉。
その様子がどこか既視感のある絵としてあたしの頭に蘇る。
そうだ…これ…。

「…高坂君、と…なにかあったの…?」

あのお祭りから帰ってきた時のルリ姉と同じだった。

「…」

あたしの言葉にルリ姉は何も答えなかったけど、あたしはそれだけで理解した。
高坂くんが何かひどいことをルリ姉にしたんだ。

「そう…なんだね?」
「…」

ルリ姉はあくまで何も言わない
でもあたしは怒りがふつふつと沸いてきた。
あの野郎!あたしの大事なルリ姉を泣かせたな!!
ギリッと思わず奥歯を軋ませる。
多分今私は珠ちゃんに見せちゃいけない顔をしているだろう。
それほどに怒りで頭が真っ赤だった。
…信じてたのに…。
信じてたのに信じてたのに信じてたのに!!
優しそうな人だと思った。
ちょっと情けないかなって思うこともあった。
気が付けば普通に家族のようにあたしたちの中に溶け込んでいた。
そして…あのルリ姉がずっと笑顔だった。
嬉しくて楽しかった。
それを…それを全部踏みにじったんだ。
なにがあったなんて知らない。
でもこのルリ姉の様子を見れば十分だ。
それだけで十分すぎるほど怒りがあたしを支配していた。

「許さない…」
「え?」
「ルリ姉…仇はあたしがとってくるからっ!!」
「え、ちょっ…日向!?」

ルリ姉の制止の声が聞こえたけどあたしは振り返らず、そのまま雨が降りしきる夜の中へ飛び出して行った。



数時間後。

京介・日向「つきあうことになりました」
黒猫「なんでっ!?」

END


『告白』

京介「俺は、あやせが大好きだ」

あやせ「わ、わ、ワンナウト!」

京介「頼む、俺の彼女になってくれ」

あやせ「つ、つ、ツーアウト!」

京介「そんなに俺のことが嫌いなのか?」

あやせ「す、す、スリーアウト! バッター交代です」

京介「……代打、高坂京介……18歳」


ししまい


『買い物』

京介「よう、誰かと思えばあやせじゃねえか」

あやせ「まだ生きてたんですか、お兄さん」

京介「悪かったな。買い物か?」

あやせ「ええ。電マを買いに」

京介「で、電マ!?」

あやせ「何を驚いているんですか? 桐乃から頼まれたんですよ」

京介「き、桐乃が電マ頼んだのかよ!?」

あやせ「ええ、見ますか?」

京介「見せてくれ!」

あやせ「はいこれ。桐乃に頼まれた、電撃マガジン」
ししまい

今からSS投下します。

京介視点・桐乃視点・黒猫視点を何度かいったりきたりします。

ーこれは、自分勝手な兄妹が残した一瞬の恋物語。と、ほんの少し先の物語ー

※京介視点


「ー帰ったら人生相談だかんね!」

俺が妹に不意打ちのキスを食らわせたあと

俺たちは約束通り、『オタクっ娘あつまれー』のオフ会へと足を運んでいた。場所はいわずもがな、例のメイド喫茶である。

そこには大尉と女王(この店ではそう呼ばれている)が既に俺たちを待っていた。

「おー、これはこれはきりりん氏!京介氏!お久しゅうござる!」
「別に大して久しぶりでもないじゃない。いちいち大げさなのよ」

らしい言葉で出迎えてくれる大尉と女王。

「いやー、待たせちまったな。というより、何でお前らいつも早いんだ?」
「当たり前じゃん。黒いのは私たちしか友達いないんだから、会いたくて仕方なかったんだよねー」

神経を逆撫でする猫撫で声で話す桐乃。こいつ、相変わらず黒猫にはあたりが強いんだな。

あんなことがあったあとでも・・・前と変わらないと言えば微笑ましいけどな。

「ふん、勝手に言ってなさいな。この泥棒猫」
「はあ?猫はあんたでしょ?」
「まあまあお2人とも」

そう、俺たちの仲はいつもこんなもんだったよな。と、言ったところで

「なあ、沙織。新しいメンバーってどんな奴だ?」
「ふむ、もう少しでいらっしゃると思いますが・・・」

カランカラン・・・

丁度その時入ってきたのは俺と桐乃にも馴染みのある顔だった。

黒い長髪、スラっとしたスタイル、天使のような美少女・・・

「「あ、あやせ!?」」

俺と桐乃が絶叫したのも無理はないだろう。

「あ、そこにいらしたんですね。」

俺たちの絶叫を聞いてこちらに向かってくるあやせ。

「さ、沙織!?新メンバーってあやせのことか?」
「ええ、冬コミも黒猫氏のサークルを手伝って頂きましたし・・・黒猫氏が是非に、と」

そういってωというお決まりの笑顔を決める沙織。

むー、なんというか・・・黒猫といい、あやせといい・・・

気まずいなあ・・・

「あ、お兄さん!お久しぶりです。まだ生きていたんですか?」
「え、あ、ちょ、あ、あやせ?」

あやせの輝くような笑顔が吐き出す毒にさすがの桐乃も驚いてる。

「はは、変態シスコン鬼畜野郎のお兄さんが塀の外を歩けるなんて、日本って甘いですね?」
「全くだわ、実の妹と付き合う兄貴なんてクズよね。まあ、付き合う妹の脳味噌も沸いてるけれど」

瑠璃先輩まで便乗だと・・・な、なんだこの集団。俺をいたぶる集会かなんか?

「私の胸まで見た癖に。責任も取らないで実の妹に手を出すなんて気持ち悪いです。」

天使の表情で悪魔のような告白をするあやせに黒猫も桐乃もあっけに取られている。

「ちょ、ちょちょちょあんた・・・わ、わたしにはそんなこと何にも頼まなかったじゃん。なんであやせには・・・」
「わ、私の胸を触る勇気もなかったのにまさかあやせの胸をみていただなんて・・・」
「待て待て待て〜!」

黒猫と桐乃に完璧に誤解された上に、沙織ですら笑顔が引きつってるじゃねえか!

にしても・・・黒猫、あやせのことを名前で呼ぶようになったんだな。

「事実ですけど?私が身も心もあなたに穢されたのは本当です。」
「そういう問題じゃなえ!あれは事故!事故なの!ってかあやせ!お前は何でいつもいつも語弊を含んだ言い方をしやがる!」

でも、この感じ。この空気は・・・俺たちが元の関係へと収まっていけるような、そんな予兆なんじゃないか。

沙織の仲裁もあってひとまず冷静さを取り戻した俺たちだが、あやせの爆弾発言によって場の空気は壊滅状態であると言えよう。

「いやあ、京介氏がきりりん氏に手を出したこと自体驚きでしたが、我らが新メンバーにも既に手を出していたとはドン引きでござった」

よりにもよってそこから話を始めますか大尉。しかしまあ、沙織のこうした状況をまとめる手腕は折り紙つきだ。この場は任せるとしよう。

「しかし、それも全て過去のこと。今は京介氏ときりりん氏は恋人同士なのでござるから、こうしたことは2人にお任せして。5人で集まる時は皆仲良しお友達ということには参りませぬか?」

そっか、こいつらまだ俺と桐乃が付き合ってると思ってるんだな。

ちらっと桐乃に目をやると、桐乃も俺と同じことを考えていたのかこちらをちらちら見ている。

言うべきか言わざるべきか。迷っているのはお互い様だ。

そんな俺たちに気付いたのはやはりこいつだった。

「目線で会話をしないで頂戴、そこのイチャイチャ兄弟。何か言いたいことがあるなら、ハッキリ口に出しなさいな」

またしても見つめ合う俺と桐乃。

「どうする、言っちゃう?」
「良いんじゃねえの。隠すことじゃないし。」
「じゃあ、あんたから言って。」

まあ、すぐにバレるしな。俺たちの口からスパッと言った方が良いのかも知れん。

「黒猫、あやせ、沙織。大事な話がある。」

「俺と桐乃はな、卒業と同時に別れた。今は付き合っていない。だからその、もうこういう話はなしにしてくれないかな・・・」

「ごめんな、いきなりこんな話をして。でもお前らにはちゃんと知っておいて欲しかったんだ。わがまま勝手を言っているとは思う。でも俺たちが出した結論なんだ。分かって欲しい。そして図々しいけれど、今まで通り俺たちの友達でいて欲しい。」

一瞬の沈黙。考え事をしているような沈痛な表情の黒猫と、単に驚いた表情のあやせと沙織。

「イヤよ。」

沈黙を破ったのは黒猫だった。

「全くこけにされたものだわ。私もあやせもあなたに振られた挙句、その理由も実妹を好きになったっていうトンデモナイ理由だった」

「でも私たちはあなたが、桐乃が幸せなら。後ろから支えていたいって心の底から思ってた。」

「なのに、別れましたなんて軽々しく言わないで頂戴。私があなたを諦めることがどのくらいの苦痛だったかあなたに分かるの?」

「あやせがあなたを想っていた気持ちの辛さもあなたには分からないのでしょう?」

「どうしようもなく自分勝手な理屈を並べ立てるのね。全くよく似た兄妹よ。普段は気遣っているようで、人の気持ちを最後の最後で踏みにじることに関してはあなたたちの右に出るものはいないでしょうね」

「不愉快極まりない話よ。申し訳ないけど今日は失礼するわ。」

黒猫は荷物をまとめるのもそこそこに、席を立ち顔を真っ赤にしながら立ち去る。

「ちょ、ちょっと待て!」

慌てて止めるも俺の言葉を聞く気もないのだろう。黒猫はまっすぐ店外へと出ていった。

「お兄さん、今日はいつにもまして最低ですね」
「返す言葉もねえ」
「黒猫さんと少し話してきます。後を追うので失礼します。」
「待って!」
「桐乃?」
「私もあの黒いのに話がある。それとあやせ、あんたにもね。」

桐乃は立ち上がるとあやせの手を掴み走り出す。

「き、桐乃?ちょっと!」
「いいから!黒いのを見失わないうちに急ぐよ!」

黒猫に引き続き、あやせ・桐乃も店外に出ていった。

「仕方ありませんわね。」
「申し訳ねえ、俺があんなことを言ったばかりに。」

ため息をもらしている沙織に俺は謝ることしか出来なかった。

「仕方ないですよ、色恋を挟めば男女の仲は少なからずこじれますから。」

「今は京介さんが関わるだけもめるでしょう。でも、私たちの仲はこんなことで壊れたりしませんわ。2人きりになってしまいましたし、今日は私とのデートに付き合って下さいますか?」

微笑む沙織をよそに、俺は怒った黒猫のことを思い浮かべていた。

※桐乃視点

「い、いた!」

店を出た時にはもう黒いのは見えなかったけど、もしかして?と思った場所にあいつはいた。

最初の二次会、私と黒いのが初めて話したあの某ファーストフード店。そこに1人でポテトをかじる黒いのがいた。

「き、桐乃〜。走るの早すぎ。わたし、もう少しで転びそうだったよ〜」
「あやせ、よく私についてこれたね。陸上始めたら?」

実際、あやせは何かとてつもないパワーを秘めてると思う。

「あ、あなたたち・・・どうしてここに」
「あんたが来るとこなんてお見通しだっつうの。」

そう言ってあやせと一緒に黒いのと同じ席につく。

「ふん、何の話かしら?」
「あんたとはここで全部ケリつけないとなって思ったから来た。」

深呼吸して想いを口にする。

「私はまだ京介が好き。多分これからもずっとあいつが好きだと思う。でも、あいつとはもう付き合えない。」
「らしくないわね。あなたたち兄弟にとって、何が障害だというの?」
「ばっかじゃ〜ん?普通兄弟で付き合ってるなんて人に言えるかっての。そんなうちは私たち幸せになれないから。だから卒業したら別れるって決めてたの。最初からね。」
「それがらしくないと言っているのよ。私と京介が付き合っていた時の辛そうな貴方を私はもうみたくないわ。あなたたちはいつもむちゃくちゃな理屈で何もかも強引に押し通してきた。そうでしょ?今回はそうはいかないの?」
「それは私も思うな」

静観していたあやせも話し出す。

「桐乃は好きなものを絶対に諦めないよね。私のこともちょっとエッチなゲームのことも諦めなかった。らしくないと思うよ。桐乃ならお兄さんのことを諦めないで、色んな問題を解決しようとするんじゃないかな?」

そうだ、私は今まで努力すれば絶対に好きなものも好きな人を失わずに済むと思っていた。

京介が黒いのと付き合った時も。私が我慢すれば、京介も黒いのも幸せでいられるし、私も2人の中に溶けこめると思っていた。

「私にはね、頑張り続けることなんて出来ないの。」

あの時のように。あの時私は。大好きな親友の為に頑張ることが出来なかったのだから。

「京介のことに関しては。私があいつといると、私以外の誰かが傷付いちゃう。」

そう、私は結局何かを諦めなきゃいけない。

「私と付き合っても周りは誰も認めてくれないんだよ?あいつの為を思ってくれる、超スゴイ子が何人もいるんだよ?その子たちといた方が、あいつは絶対に幸せになれる。」

黒いのも、あやせも、加奈子も、あのくまさんの着ぐるみの人も、麻奈実さんも。私に負けないくらい京介のことが好きなんだから。あいつは誰と付き合っても幸せになれる。妹である私以外となら。

「それは桐乃が決めることじゃないんじゃないかな?お兄さんが桐乃が一番だって言うのなら、お兄さんを幸せに出来るのは桐乃しかいないと思う。」
「かもね。」

でも決めたんだ。

「あいつもきっとそう言うと思う。でも、私が耐えらんないの。あいつには私よりもっと素敵な人が相応しい。あいつの横に私はいちゃいけない、って私が思うの。」

「兄貴と付き合って思ったんだ。私は兄貴の一番じゃなくて良い。だって妹だよ?もともと特別なんだからさ。」

元の兄妹に戻る。たった1人の兄貴。たった1人の妹。それだけ特別ならあとは望まない。そう、兄貴にも伝えるつもりだ。

「だから私たちは別れたの。お互いに話し合った上だし、未練はない。黙っていたのは謝る。ごめんね。」

本当はちょっとあるけど・・・兄貴と一緒にいられればそれで良い。

「そっか・・・なら、それで良いんじゃないかな。黒猫さんもそう思いませんか?」

あやせは静かに目を閉じて話を聞いていた黒いのに話をふる。

「そうね。お互いに未練がタラタラなのは目に見えているけれど。覚悟だけは伝わってきたわ。」

ふっ、とらしい笑みをもらしながら

「でも、あなたたちが別れたからといって私には関係ないことよ。ただ、黙っていられたのが少しイラついただけ。」
「相変わらず嘘が下手くそですね、黒猫さん。」
「な、なんですって?」
「また自分にチャンスが来たんじゃないか?って内心少し喜びつつも、桐乃の覚悟を聞いて素直に喜んではいけないと自制しているように見えますけど?」
「お、大きなお世話よ。だいたい貴方も同じではないの?」

切り返す黒いのに

「いや、私はお兄さんは諦めましたから。だって、私は桐乃にもお姉さんにも黒猫さんにもかないませんから」

仕方ないよね?っとさみしげに微笑む。

「それに、今ちょっと気になる人からアタック受けてるのよね〜」
「え?誰?」

思わず聞いてしまった。

「お兄さんほどじゃないけど超の付くシスコンで、なんていうか。そういう所お兄さんに似ているのよね。今度デートするの。」

そう言ったあやせの笑顔はどこか儚くて、それでも希望に満ち溢れている。そんな気がした。

「だから、私はもうお兄さんを狙ってないです。ライバルが減りましたね?黒猫さん。」

あやせはまたしても黒いのに振る。まるで、黒猫から大切な言葉を引き出そうとするかのように。今度は私の番だ。

「ねえ、あんたさ。京介に謝らせるから何も言わず許してやってくれないかな。」
「えっ?」
「あんたと付き合ってた時のあいつ、すごい幸せそうだったからさ。あいつ、あんたと仲良くしていると嬉しそうだし。あいつの幸せは私の幸せ。」

それにさ

「あんたらが付き合ってるの、私が邪魔しちゃったわけだし。もう、私は大丈夫だからさ。あんたさえ良ければ、あんたより私を選んだあのバカの目を覚ましてやってよ。」

※京介視点

結局あのあと沙織と一緒にいたわけだが、気が気でない俺を気遣って沙織が早めに切り上げてくれた。せっかく新メンバーと遊ぶ予定だったんだろうに、また迷惑かけちまった。

それにしても

桐乃、結局あいつらと何を話したんだ?門限ギリギリに帰ってきて、それから部屋に閉じこもりっぱなしだ。

しかし話しかけるのも気まずい。仕方ねえ、今日は寝るか・・・

ー数時間後ー

バシッ!

い、いてえ!なんだこの夜中に?

「き、桐乃!?まさか夜這いに・・・」
「う、うっさい!お父さんたち起きるでしょ!人生相談あるって言ったじゃん。」
「あ、ああ」
「良いからサッサと起きて私の部屋に来る。」

全く・・・扱いが2年前に戻ったみたいだぜ。

数分後、俺は桐乃の部屋にいた。

「で、なんだ。今度の人生相談は。」
「なんだじゃない。私たち別れたよね?」
「お、おう。」
「じゃあなんでキスしたの?」
「兄妹だから良いだろ。」

バシッ!

き、桐乃のやつまた面を叩きやがった!

「なんだよ!」
「は?妹に無理やりキスしておいてまだ口利いてもらえるだけありがたく思いなさいよ。」

そ、そんなに怒ってんのか?

「私、もうあんたと付き合ってないし。次あんなことしたらタダじゃ済まさないから。」
「へっ、分かったよ。」
「それからもう1つ。」
「なんだよ?」
「私のことまだ好きなら迷惑だからやめてくれない?私、あんたのこともう好きじゃないからさ。」

ズキンと胸が痛んだよ。「あんたのこと好きじゃない」。何ヶ月か前ならなんてことなかった台詞なのに。今ではそれが無茶苦茶キツイ。

「大体兄妹なんだからさ。恋愛感情持つことが間違いなわけ。」
「そ、それは・・・」
「いい、京介?」

いつになく真剣で、教え諭すような桐乃の声に思わず押しとどめられる。

「私たち、別れるって決めたでしょ?理由は覚えてるよね?」
「ああ」
「私たちはね、好き合ってちゃいけないの。兄妹での恋愛は現実じゃタブーなんだからさ。」
「でも・・・」
「良いから聞いて。あんたと付き合った3ヶ月くらいは超幸せだった。でもね、それじゃいけないから別れたんでしょ?」

だからね、と優しく言葉を紡いで

「あんたは私を好きじゃダメなの。私はあんたを諦めた。2人きりの兄妹なんだよ、一生特別な人なんだからさ。それで十分じゃん。それで満足しよ。」

「だから私を諦めて他の、私が認めるくらいあんたを想ってくれる人と幸せになりなさい。」

良いね?っと俺の頭を撫でる桐乃は。俺が見たなかで一番素敵な桐乃だったよ。どことなく麻奈実に似てたけどな。

「分かった。ごめんな、桐乃」
「許さない。許して欲しかったら1つだけ私のお願いを聞いてくんない?」
「なんだよ?」
「今すぐ電話して黒いのに今日のこと謝って。それから・・・あんたが黒いのと付き合ってた時、どんだけ幸せで、今からあいつとどうなりたいか言ってやって。私はもう、わがまま言わないからさ。」

作者が今度はレールガンでのコラボ小説のインタビューで追加でとどめさしてきたぞ

俺妹のキャラに言いたいことは、って質問に

京介には、「ちゃんと妹を幸せにしてやれよ」と言ってあげたいですね。僕にできる手助けはすべてしてやったので、あとはお前次第だ!

桐乃には「幸せになれてよかったね」と、祝福してあげたいです。

だって
虐殺やん…



盛り上がっているところ申し訳ない。超短編SSのために1レスだけ下さい


すまん、コピペの半分が消えてしまった。雑談をどうぞ

急ぎ修復しました……

『好敵手』

京介「ほら、頼まれたケーキ買ってきてやったぞ」

桐乃「みんなバラバラのを頼んだけど、間違えなかったでしょうね」

京介「当たり前だろうが。桐乃は、モンブランだったよな」

桐乃「うん」

黒猫「私が頼んだガトーショコラは、ちゃんと買えたのかしら?」

京介「おう、これでいいんだろ?」

黒猫「ありがとう」

桐乃「あやせは何を頼んだの?」

あやせ「わたしは、イチゴの……」

京介「ほらよ、あやせはイチゴのパンツだったよな」

あやせ「え!? あ……ありがとうございます」

桐乃「ブッー、ゲフンゲフン……」

あやせ「あの……お兄さん」

京介「なんだよ、せっかく買ってきてやったのに不満なのかよ」

あやせ「いえ、そうじゃなくて……。この前も同じようなことがありましたよね」

桐乃「この前って、『うまか棒』を買ってきてもらったときのこと?」

あやせ「うん。……あのときも、わたしだけ『突っ張り棒』だったじゃない」

黒猫「そういえば、地震に備えてとか言われてたわね」

あやせ「他にもまだあったじゃないですか」

黒猫「いつのことだったかしら?」

あやせ「お兄さんがタコスを買ってきたときも、わたしだけ酢ダコだったし」

黒猫「でもあなた、ちゃんと持って帰ってたじゃない」

あやせ「捨てようかと思いましたけど、お兄さんが悲しい目でわたしを見るから……」

桐乃「もしかして、あやせの気を引くためだったりして」

京介「それは断じてない」

黒猫「なんだか、元も子もない言い方をするのね」

あやせ「お兄さん、わたしをいじめて楽しいですか?」

京介「ああ」

あやせ「わたしのことが、そんなに嫌いなんですか?」

京介「好きだよ。大好きさ。……でもな、この前の礼はきっちりさせてもらう」

桐乃「この前の礼? って、何のこと?」

京介「あやせがこの前、体に良いから飲めって栄養ドリンクをくれたんだよ」

桐乃「そういえば、先々週だっけか、なんか飲んでたよね。そのあとのた打ち回ってたけど」

京介「その栄養ドリンクが問題なんだよ。……何が入ってたと思う?」

あやせ「ふん。お兄さんて、見かけによらず器のい小さい男だったんですね」

黒猫「あなた、一体何を入れたの?」

あやせ「……正露丸」

ししまい


『あやせの数え歌』

あやせ「♪いっぽんでーも ニンジン、二つに分けても お兄さん!」

京介「すまん、俺が悪かった」

あやせ「♪惨劇後ーの 死体! 死体だかーら 五体バラバラ」

京介「助けて……」

あやせ「赤巻紙 青巻紙 黄まきまき……」

京介「わかってる、今までのことは全部巻き戻すよ!」

あやせ「目標をセンターに入れてスイッ……。ありがとうございます」

ししまい


今からSS投下。
初めてだからお手柔らかにお願いします
設定としては原作の11巻途中まで。麻奈実との話し合いが終わって櫻井には会ってない。
会ったとしても告白されてないことに。
11巻収録のプロローグもなし。
後は基本的に原作に準拠
では次から投下

風呂から上がった俺は、髪を拭きながら自室のベットに寝っ転がる。
今日も疲れた…とは言っても土曜で学校が休みだったから1日中受験勉強をしていただけだが。
今日は12月の15日。今年も残り2週間とちょっとだ。
世間では10日後に迫ったクリスマスと、それに続く正月に向けてお祭りモードだ。
しかし受験生である俺には関係ない。
か、彼女がいないからじゃないからね!?
世間の受験生様たちは腹がキリキリするような時期だろう。俺も例外ではない。
もっとも、今現在俺は受験以外にも抱えている問題のおかげで腹だけではなく頭も痛い。
つまり、あやせの告白をどうするか、だ。
11巻では丸々無視しちまったからな。
告白された日、俺はすぐに返事をすることができなかった。そんな俺に対してあやせは罵倒するでもなく、暴力を振るうでもなく優しくこう言った。
「お返事はすぐでなくても構いません。いえ、頂けるなら今すぐ欲しいところなんですが…
お兄さんが受験勉強『とか』で大変なのは分かっています。だから、落ち着いてからお返事を下さっても構いません」
俺はそんなあやせの優しい言葉に甘えることにした。

全く俺ときたら黒猫の時といい、いざというときには腑抜けてしまう奴だ。
しかしいつまでも先延ばしできる問題でもない。
今は単なる『猶予期間』なのだから、いずれは『その時』が来てしまうわけだ。
だから、俺は『その時』が来てもいいように考えなければならない。

思えば今まで語ってきた俺の物語は、いつも受動的だった。
妹からの人生相談を受けてオタク趣味を共有できる友達を探して、
親父からオタク趣味を守って、
あやせと仲直りさせたり、
去年のクリスマスには一緒に小説の取材をしたっけか。
他にも桐乃がアメリカに行く前にはエロゲー買いに行かされたり、
「スカトロ*シスターズ」を見せつけられたりもしたし、
彼氏のフリをしてデートもさせられた。

他にも、あやせからは桐乃へのプレゼントを相談されたり、
加奈子のマネージャーごっこを依頼されたりもした。

勿論、俺が能動的に動いたこともあった。
桐乃が書いた「妹空」が乗っ取られてそれを取り返しに黒猫と出版社に乗り込んだり、
黒猫がうちの高校に入学したときには、勝手に世話を焼いて友達を作ってやろうとした。
あとは、加奈子のライブを見せるために痛チャリに桐乃を乗っけて暴走したり、
家に帰れるかどうかが係った重要な模試の日にあやせのストーカーと対決したり…

けど、俺は妹や黒猫達のために、能動的に動いたにすぎない。
もっとも、それは俺がやりたいから勝手に世話を焼いただけだが、
『他人のため』であることには変わりない。
依然として、俺は自分のために能動的に動くことはあまりなかった。
だが、そろそろ俺も自分のことをしっかりしなければならない。
黒猫と別れたときや、麻奈実がそっけなかったときのように、
いつまでもヘタレて妹に泣きついている場合じゃない。

俺は俺に『人生相談』をする。
『お前はどうするのが一番いいと思う?』
「…分かんねえ」

『あやせと付き合うのか?』
あやせはちょっと思い込みが激しいが友達思いで、
何事にも真剣で、真摯で、
可愛くて俺にはもったいない子だ。

『黒猫はどうするんだ?』
黒猫もあやせに負けず劣らず友達思いで、
優しさにあふれていて、
時折魅せる表情が蠱惑的で、照れた表情が可愛い子だ。

『どっちを選ぶんだ?』
選ぶだなんて偉そうかも知れんが、
現に俺はあやせに告白されているし、
黒猫とも喧嘩別れしたわけではないから、
付き合おうとすればどちらかとは付き合えるはずだ。
黒猫、あやせ、2人の顔が交互に俺の脳裏によぎる。
2人とも俺にはもったいないくらい魅力的でいい子だよな。けど、俺は選ばなきゃなんねえ。
「…どっちも選べねえ」
はっ、本当に俺はヘタレだぜ。
だがな、俺はこの『人生相談』を中途半端に終わらせるわけにはいかねえ。
分かんねえじゃ駄目なんだよ。

どのくらいそうして考えていただろうか。
拭く手を止めていた髪の毛も、自然と乾いていた。
「…決めた」
俺は1つの結論を出した。
『後悔しないのか?』
後悔?ありまくりだ馬鹿やろう。
できるならあやせとも黒猫とも付き合いてえよ。
でもよ、現実はそんなんじゃ通用しねえ。選ぶなら1人だ。
『そうか、なら』
「やるしかねえな」
俺は腹を括った。
今年の汚れは今年の内に、今年の内に解決できる問題は今年の内にやっとくべきだろう。

書きながら投下してんのか?

「やっと今週も学校が終わったねえ〜」
「ああ、そうだな」
今隣には麻奈実がいて、俺達は学校からの帰宅途中。
今日は12月の20日。
あの決断をしてもう5日も経っていた。
いや!?別にヘタレたわけじゃないよ!?
俺は受験生だし、黒猫もあやせも同じ学校じゃないから呼び出すのは平日じゃないほうがいいと思っただけだって。
…本当だよ?
「きょうちゃん。明日はどうする〜?図書館で勉強会にする?」
「いや、すまねえ。明日はちょっと用事があるから勉強会はまた今度な」
「そっか〜頑張ってね?」
…こいつ、俺が明日なにやるか御見通しなのか。あり得るから怖い。
「ああ、まかせろ」

帰宅して自室に籠ること2時間。
勉強もせずに携帯片手に熟考をしていた。
だがここにきて悩むのも馬鹿らしい。
俺はこの問題を今年中に片づけると決めたし、そのための結論も出した。
あとはそれを実行するだけだ。
『明日の昼2時に、あの場所で待っている』
俺は携帯の送信ボタンを押した。



>>946
すまん、見落としてた。
違う、もう書ききって投下してるだけ、遅いのは許してくれ

「まったく、私に闇の力が無かったらあなたの居場所を割り出せずに出会えず仕舞いだったわよ」
待ち合わせ場所に現れた瞬間に、俺を見下すような目線で黒猫は言った。
「いや、お前ならちゃんと来てくれるって信じてたよ」
闇の力なんてなくてもな。
そう、待ち合わせ場所は黒猫から『呪い』をかけられた校舎裏のベンチだ。
俺たちで「あの場所」って言ったらここしかないよな。
現に黒猫も待ち合わせ時間に間に合ってるし。
そして黒猫は場所だけじゃなくて、ここを指定したことで俺が今日なにをしようとしているかも察しがついてるはずだ。

「それで、ここまで呼び出したのはどういう用件なのかしら?
もしかして世間話をするためでもないのでしょう?」

いつになく攻撃的な口調だな。いや、分かってる。
こいつが精一杯の虚勢を張っているってことはな。
「まあそんなに急ぐなよ。ちょっと昔話に付き合ってくれないか?」
そう言って俺は座っていたベンチの右隣を叩く。
黒猫は躊躇するように目線を彷徨わせたのち、俺の右隣に腰かけた、拳4つほどの距離を空けて。

「それで昔話とは何かしら?もしかして『堕天した獣』の頃の記憶を取り戻し…」
「いや、ねえよそんな記憶。そうじゃなくてよ。色々あったよな、今年の夏は。」
「…ええ。そうね」
黒猫は恥ずかしそうに目を伏せる。
俺たちは別れてからこの話題に触れることはなかった。
意識的にか無意識的にかは分からないが、
その話題に触れることがなかったから、なんとなく俺たちの間では‘禁忌’のようになっていた。

「お前が神猫の姿で現れたデートしたり、一緒にプールにも行ったな。
他には、黒猫ん家に呼ばれて日向ちゃんや珠希ちゃんにも会って…
逆に俺ん家にも呼んで。付き合ってからはほとんど毎日会ってたよな」
「…ええ」
「楽しかったよな」
「…」

黒猫の方を見ると、膝の上で拳を握りしていた。
こいつは頭の回転も早いし、俺のこともよく知ってるから、なんで今さら昔話をしてるのか分かったのかもな。
「そんで、花火も見に行って…そして俺たちは別れた」
「そうね。それが私たちの短い恋人同士だった思い出。それがどうしたと言うの?」
キッと黒猫が俺を睨む。両目は赤く充血していた、今日はカラコン入れてねえのに。
「お前と付き合ってた今年の夏は本当に楽しかった。それだけは嘘じゃねえ」
今は12月の冬真っ盛りなのに、ここだけが夏のようだった。
セミの鳴き声、
抜けるような青空、
汗でべたついた素肌…
まるで質量をもって今も存在しているようだった。
けどこれは幻で、今は冬だ。あの頃の楽しかった思い出は夢で、夢はいつか覚める。

「けどよ、黒猫。…すまねえ、お前とは付き合えねえ」

黒猫が顔を伏せちまったから、泣いているのかは分からない…
分からないけど、泣いてるんだろうな。
「…理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
「…さっきも言ったけど、お前と付き合ってたあの時は本当に楽しかった。
それに、俺がお前のことを好きだってことも嘘じゃねえ」
「ならっ、なら何故!」
黒猫はつっかえながらも、もどかしそうに言葉を紡ぐ。
「正直に言うと、俺は浮かれちまってたのかも知んねえ」
本当はここまでぶっちゃける必要なんてない。
桐乃が言った「兄貴に彼女ができるのなんて絶対にイヤ!」という、あの言葉で誤魔化し続けることだってできた。
けど、そんなことはできない、真摯に俺と向き合ってくれた黒猫に対してそんなことは。
だから、俺は言葉にするのが困難な、できるかも分からない心の中のゴチャゴチャとした感情を黒猫に吐露する。

「俺さ…初めてだったんだよ、女の子に告白なんてされるの。
すっげえ嬉しかった。なんて言うか…生まれてきた意味があったって言うか、
この世界に居ていいような気持ちになれた。
それにさ、アメリカまで桐乃を迎えに行く前、お前がキ…『呪い』をかけてくれたよな?
あの『呪い』もさ、生まれてはじめだったから、寝ても覚めてもお前のことで頭一杯だったよ」
俺はふう、と一息吐く。
黒猫の瞳は俺を写していた。
表情から察するに、今のところちゃんと俺の気持ちは伝わってるみたいだな。

「けど、今になって冷静に振り返ってみると、あれは本当だったのかって考えちまうんだよ。
『本当に俺は黒猫のことが好きだったのか?』
『それは恋愛感情としてか?』
ってな。
勿論、俺はお前が友達思いの良い奴で、優しくて、照れ屋で可愛い奴だって知ってる。
けど、今になって分かったんだよ。
俺は恋に恋してたんじゃないかって。
こんな使い古された言葉で申し訳ないけど、やっぱり俺は恋することに舞い上がっちまってたんだよ」

「じゃああなたはもう、私のことが好きじゃないのね」
「…少なくとも、異性として一番って意味ではな」
俺が伝えたいことは言い切った。
俺は黒猫に視線を合わせる。
さっきみたいに顔を伏せたままで、肩を震わせている…
泣き続けてるんだろうな。
クソ!俺はこんないい奴を悲しませて

「…ククククク」
…あれ?黒猫さん!?
「ハーハッハ!滑稽だわ。
キスをしただけであんなにも狼狽して。
ねえ?私があなたのことを好きなのか気になって夜も眠れなかったでしょう?
私のことで頭がいっぱいで他のことなんて手につかなかったでしょう?
童貞を御すなんて容易だったわ。
私のことを意識させて、ちょっと私が気のある素振りをすれば野良犬のように食付いて。
あとはタイミングを見計らって告白すれば、結果は火を見るより明らかだったのよ。
フフフ。どう?私の掌の上で踊らされていた気分は?」
あれ?黒猫がなんか覚醒したぞ!?なんだこれ!?これが闇の力なのか…!!

「ええ、そうよ。
こんなものは茶番でしかなかったのよ。
私が人間の男1人なんかに本気になるわけないじゃない。
でも…」
けど、そこで不意に鼻声が混じる。
「でも、そうね。
あの夏の日、別れていなかったらあなたは今でも私の掌の上で踊っていてくれたのかしら?」
黒猫の泣きはらした真っ赤な目が、縋るようにこちらを見る。
あの時別れなかったら、か。
そうだったら多分、俺は今でも黒猫に夢中で、
別れるとか、本当に好きなのかとか考えたりもしなかっただろうな。
「いえ、今さら『〜たら〜れば』の話をしても仕方ないことね。
一番滑稽なのは…私でしょうね」
自嘲するような黒猫の表情は今まで見てきた中で、
一番無防備で、そして一番可愛く、また綺麗でもあった。

「あの茶髪なんて放おっておいてあなたと付き合っていれば良かったわ。」
そんな黒猫の呟きに、俺はどうしても言っておきたかったことを言う。
「けどよ、お前が『儀式』を遂行してくれなかったら、
俺は桐乃の本当の気持ちも知ることはなかった!
知らないままだったら、多分俺たちは今でもすれ違ったままの兄妹で終わってたよ。
俺はあのおかげ桐乃の気持ちを知ることができた!!
兄妹をやり直そうと思えた。
だから…ありがとう」

これは心からの言葉だ。

「ふん、桐乃のことはことのついでだったのよ。それなのに肝心のあなたを失うようでは本末転倒でしかないわ」

そこで黒猫はスッと立ち上がる。

「私は狂気の街、千葉(せんよう)に舞い降りた堕天聖黒猫。黒猫は東洋では不吉の象徴とされている存在。
私がすぐにあなたを諦めるような尻軽女と思わないことね」


あれ?勇気出して黒猫と話し合ったのに、あんま変わんなくね?
しかも「付きまとう=不幸にしてやる」とか悪化してね?

言いたいことはもうないとばかりに黒猫はそのまま立ち去ろうとする。
「ちょ、黒猫!」
「なにかしら」
「また、また俺たちで、沙織と桐乃と4人で集まれるよな!?」
これはどうしても確認しておきたかった。
俺が黒猫を振ったせいで4人の仲がバラバラになれば、
俺は沙織からサークルクラッシャー男という不名誉な称号で呼ばれることになっちまう。

「勘違いしないで頂戴。私があの4人で集まっていたのは先輩のためじゃないわ」
そう言って黒猫はこの場から去っていった。
へ、そりゃそうだ。
あいつは桐乃や沙織と遊びたいからあいつらと会ってるんだよな。
だったら、俺が黒猫を振ったところで俺たちの関係が壊れるわけないよな。

黒猫との話合いから帰宅後、俺は携帯でメールを作成していた。
昨日のように悩むこともあるまい。
もう黒猫には話を付けたし、この勢いのままもう1人とのケリもつけちまおう。
『明日の昼12時に、いつもの公園に来てくれないか』
「送信っと」

「すみませんお兄さん、遅れてしまいまして」
そういってあやせは小走りにこちらに駆け寄ってくる。
アウターは真っ白なダッフルコート、
下は膝丈の真赤なプリーツスカートに黒のニーハイのレースアップブーツ。
首元には上品なライトグレーのマフラー。
雑誌から飛び出したような可憐な姿だ、まあ本当にモデルなんだが。

「いや、待ち合わせ時間には間に合ってるよ」
「それでもお兄さんをお待たせしてしまったことには変わりありません」

その理論でいくと、あやせは待ち合わせ時間に関係なく俺より早く着いてないといけないんだよな。
俺があやせより遅れたら…考えただけで背筋が凍っちまうぜ。

「それにしても、待ち合わせ場所はなんでここなんですか。他の場所でもよかったのに」
この公園のすぐ裏には交番がある。
あやせは俺のことを『近親相姦上等の変態鬼畜兄貴』と思い込もうとしていた。
けど今はもうそうじゃないことを知っている。
だから、あやせは交番が近くにないところでもよかった、と言っているのだろう。

「いや、そうだけどよ。けど、俺たちと言ったら『ここ』だろ」
「ふふ、確かにそうですね」

あやせは懐かしむように公園を見渡す。
俺もあやせに倣って公園を見る。
『妹が、大ッッ…好きだぁぁぁぁぁぁぁーっ!』
と言ったせいで近親相姦上等野郎になったのもこの場所だったよな…諸悪の根源だな。
今さらながらもっと雰囲気のいい場所にしとけばよかった。

「それでお兄さん。今日呼び出したのは?」
「ああ。先日の告白の返事をしにきた」
「…そうですか」
あやせも勿論そのことを覚悟していたのだろう。
さほど動揺は見られない。
気を引き締めるように胸元に手を置き、一呼吸置いてから言った。
「では、お聞かせください」
あやせの真剣な目をみて俺も決心が固まった。
だからストレートに自分の気持ちをぶつける。
「すまん、あやせ!
お前と付き合うことはできない!」
あーあ。言っちまった。
もったいねえ。
「…どうしてですか?」
いつもの光彩を欠いたレイプ目じゃなく、うっすらと涙の膜をはった上目遣いで俺を見る。
やめろ!そんな目で見られたら俺の鋼の心(当社比1.4倍)ですら砕けちまう!
でも、ここで「やっぱやめた!付き合おう!」なんて言えるわけもねえ。
俺はあの晩に出した結論をそのままあやせに伝えることにする。

「俺さ、あやせのことを真剣に考えたんだ。そしたらさ」
『私はあなたの妹の代用品ではないわ。莫迦にしないで頂戴』
はっ、確かにその通りだ。
ここにきて黒猫の言葉が効いてくるなんて、これもあいつの呪いなのかね。
いや、違うな。これは別にあいつのせいじゃねえ。
単に俺が不誠実だっただけだ。

「俺はあやせのことを妹と思ってる」
「なっ!それは…新しい告白ですねこの変態シスコン野郎!!」

違げええええ!!!!!
確かに俺の言い方も悪かったけど、お前も曲解しすぎだろう!
「いや!ちょっとタンマ!そうじゃねえ、そうじゃなくて。
俺はお前のことが好きだ、これは間違いねえ。」
「そ、そうですか」
「けどよ、その『好き』が何なのかって考えたら…
それは異性として好きってのじゃないんだ。
多分、俺はお前のことを妹のような存在として接してきてたんだと思う」
「…妹ですか」
ふう、誤解は解けたようだ。
とりあえず生命の危機は脱したな。
「そうだ」
「なぜですか?」
そりゃそうだ。
血も繋がってないのに兄妹なんてのは、エロゲー御用達の義妹か
はたまたお金を払ってそういうプレイをしているとか…
例えが悪りいけど、まああんまりあることじゃないしな。

「まず1つ目の理由は、お前が桐乃の友達だったからだ」
「友達だから?」
「そうだ。お前も、桐乃と一緒で俺とは3つ歳が離れてるだろ。
だから俺の中では妹っていうポジションに座るのにそれほど違和感はなかったんだよ」
「でも、お兄さんより年下なら皆お兄さんの妹であっても違和感はないですよね?」
「まあ極論すればそうだな。だから歳はそんなに重要じゃない」
「他にも理由が?」
「ああ」

あー言いたくねえ。俺は告白よりも恥ずかしいことをしようとしてる。
けどスイッチが入っちまった俺は誰も止められねえ!俺自身でもな!人はそれを暴走とかキ○ガイとか言う!

「あー…ぶっちゃけると、お前が理想の妹に見えたんだよ」
「理想の?」
「ああ。桐乃って茶髪だろ?俺、あれ嫌いなんだよ。
その点、お前は綺麗な黒髪のストレートで、一目見て『いいな』って思ったよ」
「そうですか」
嬉しそうなあやせたん(←マジ天使)

「他にもあるんですか?」
「ああ、あるぜ。
あやせと初めて会ったとき、あやせは俺と桐乃の仲をフォローしてくれただろ」

『だけどっ、本気でお兄さんのことを嫌ってるわけじゃないと思うんですよ!』ってな。

「その時、『あ、こいつ優しい奴だな』って思ったんだよ。
他にも桐乃のために一生懸命になってるところを見て、
お前が友達思いで、優しくて、一生懸命の頑張り屋で、真面目な奴だなって思った」
「…そこまで言われると照れてしまいますね。
でも、なんでそんな印象から妹に?」

「あやせももう知ってるだろうけどさ。
俺と桐乃って3年前くらいに喧嘩しちまって全然喋らないくらい仲が悪くなっちまったんだよ」
「それは…はい、知ってます」
「そんでさ、あやせと初めて会ったのは去年の7月くらいだったよな。
そん時くらいから丁度妹と話すようになったんだよ。
けど仲直りしたわけじゃねえから、あいつの口の悪さに超イライラしてさ」
「桐乃はお兄さんの前では素直じゃないですからね」

昔の俺だったら『いやいやあれがあいつの素だから!』って突っ込んでただろうけど今はそうじゃない。
あいつが俺のことをどう思っていたのかを今はもう知っている。

「そうかもな。そんで、そんなときにあやせみたいに可愛くていい子が現れたから『桐乃もこんくらいいい子ならいいのになあ』って思っちまうわけよ。
そんであやせは俺に何度か相談してくれたことがあっただろう?
あんときにも妹に頼られてる気がしてさ、桐乃に優しくできない分あやせを猫っ可愛がりしちまったんだ。
で、そういうことを何度かしてるうちに、俺はお前のことを『妹みたいな可愛い奴』と思ってたみたいだ」
「そうだったんですか…」
ほっ、誤解なく伝わったようだな。
けど伝わったからって問題がないわけじゃないよな。

「でもお兄さん、私に
けっ…結婚してくれ、とか大好きって言ったり。
いっつもエッチなリアクションばかりしていたじゃないですか」

確かにそうだ。俺はこいつに会うたびに気のあるリアクションをしていたな。
確かに俺は嘘は言っていない。こいつはマジでかわいいし、マイラブリーエンジェルだ。
それに結婚してくれとかは本当に言っちまってるし。
けどよ、俺だって全てを包み隠さずお前らに言ってきたわけじゃないしな。
嘘は言っていないけど、黙秘はしてるってわけだ。
「確かにそういうことも言ってきたけど、お前だってちゃんとそれが冗談って分かってたじゃねえか」
「そうですけど、けど!」
「あー待て待て、んじゃ仮に今までの冗談が本心だとしてもだ。
俺は妹みたいなもんとしてお前を見ているんだぞ。それでも付き合うのか?」
「それは…」
「それに、だ」

本当は「妹みたいにしか見ていない!」でケリを付けたかったんだが…

「お前だってそうじゃないのか?」
「私はっ!私は今までお兄さんにエッチな冗談なんてしていません!」
「そうじゃなくてよ、『お兄さん』だよ」
「はい?」
「呼び方だよ、お前の。
お前は初めて会ったときから今まで一貫して俺の呼び方は『お兄さん』だったろ。
それに前、お前は俺のことを『優しそうなお兄さんでいいな』って思ったって言ってたよな。
お前も俺のことを一人の男じゃなくて兄貴みたいな存在として見てたんじゃないか?」

「それは!…お兄さんとは『桐乃のお兄さん』として初めて会ったからそう呼んでいただけです!
呼び方を変える機会もなかったですし、年上の人に『さん』付けで呼ぶのも恥ずかしかったですし」

「だったら麻奈実はどうなんだ?『お兄さんのお友達』になるんじゃないか?黒猫や沙織も『桐乃の友達』だろ?」

「それは屁理屈です!麻奈美さん達は同性ですし、『さん』付けで呼ぶことにも抵抗がなかったですし…」

まあ屁理屈っちゃあ屁理屈だわな。

でもよ、本当にあやせが俺のことを男として好きにしろ、
ちょっとは兄に対する憧れみたいなもんが混じっちまってる気がするんだ。
桐乃もあやせもしっかりしてるし、
モデルとして仕事もとしているから勘違いしちまいそうになるけど、
こいつらは中学生で、まだまだ餓鬼だ。

こういう年頃の奴らは恋愛に対して貪欲で、好きな奴がいて当たり前みたいな風潮になってやがる。
そのせいか、周りに足並みを揃えるためにも、無の状態から有を作り出すみたいに、
無理矢理好きな奴を作ろうとする。
女の方が精神年齢の成長が早い分、その傾向も強いだろう。

いうなればあやせの俺への感情は『麻疹』みたいなもんだ。

俺が言えた義理じゃないが、
相手の真実を見通せず、恋してる自分に浮かれて、恋に恋して、空回りして…
けど、それもいつかは醒めちまう。
別にそれが間違いとかじゃなくてもな。
だから、俺は卑怯な方法に出る。
別にきっぱり、あやせを拒絶して必要以上に傷付けることもないだろう。

「じゃあな、あやせ。俺とお前は、一体なんだ?友達か?」
「それは…」

これは俺が一人暮らしを強要されていたとき、
あやせが黒猫に問われた質問でもある。
そのとき、あやせは
『セクハラの被害者と加害者の関係』
とか言ってたけど、実際俺もあやせとの関係はなんて呼称すべきか迷った。

友達と言うほど近しくもないが、顔見知りというほどそっけないもんでもない。
…なんだろうな、この関係って。

「俺たちは友達って言うにはちょっと違う気がするんだよ。
それなのによ、一足飛びで恋人同士って無理じゃね?」

世間では友達からステップアップせずに、いきなり恋人から始まる関係もあるだろう。
別にそれを否定するわけじゃないけどよ、俺はそういうのは苦手だ。
ちゃんとそいつの為人を知って、二人の関係を強固にして、
それで恋人同士になっても耐えきれるだけの愛情と関係性を築いたうえで次に進みたいんだよ。
これはあやせも同意してくれるだろう。なんてったって見るからに奥手で潔癖そうだし。

「確かに、それはそうかもしれませんが…」

渋々ながら同意を得られた。
ふー、ここまでくれば後は簡単だ。

「じゃあさ、妥協点としてとりあえず友達にならないか?」
「友達、ですか?」
「ああ、俺はあやせのことを妹みたいに思っちまってるしさ、現状お前と付き合うのは無理だ。
けどよ、友達としてお前のことをもっと知れたらって思うんだ」

別に全くの嘘っぱちってわけでもねえ。
俺は桐乃を介さずともあやせとの関係性を持ちたかった。
それに、友達として関係を続けていけばあやせが俺に失望する可能性もあるし、
何より麻疹が治ってる可能性もある。
そうすりゃあやせを傷つけずに穏便に事が済む。


レベルが足りなくてスレ立てが無理です。誰か980を踏んでいただけないでしょうか

えっ980行くまで続くの

「…お兄さんの言い分は分かりました。
そうですね。
ではとりあえず私達は『友達』という関係からスタートさせたいと思います」
「そうか、それじゃ今後ともよろし…」
「でも、お兄さんのことを諦めたわけじゃないですよ。
好きな気持ちを持ってても友達同士でいることはダメじゃないですよね?」
「まあ、駄目じゃないが」
「そうですか。
それじゃ、私はいつかお兄さんを振り向かせてみせます」

全く、なんていい女なんだよこいつは。
早くも振り向かせられちまってるよ。

「じゃあ『京介さん』。行きますよ」
「…どこに?」
「決まってるじゃないですか。遊びにですよ。


友達なんですから」

>>969
今で半分くらいなんでいくかと

もう辞めた方がいいでしょうか

無知で申し訳ありません
個別スレを検討してみます。
無駄にレスを消費してしまいすいませんでした

完結したものを投下するだけならここでいいんじゃないかなあ
次が必要になるってわかるのも完結してるからだろうし

テンプラだけ置いてく


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