京介「ただいま」 桐乃「おかえり」(1000)
前々スレ
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」 - SSまとめ速報
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前スレ
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372478669/)
本編完結済みです。 短編をちまちまと投下していくスレ。
基本、京介と桐乃のお話となります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1373702134
乙。
前スレの>>959だけど、実際結構一緒にやったりするんよマジに。
感動ものとかギャグものだけど。お互い秀逸なノベルものが好きでさ。いやらしい場面はほぼみない。
まあ喧嘩も絶えないけど。最初に俺妹見た時は「あれ? 兄妹でエロゲーってそんなにだめ?」とか思ってた。
それより小ネタのって結ばれなかったルートですか
こんばんは。
短編投下致します。
4月。
俺は目の前に居る桐乃と探り合いをしていた。
それもそう。 今日はエイプリルフール。 嘘を吐いてもいい日とかなんとか言われている日。
元々そんな日には興味が無かったのだが……。
桐乃と前にした会話で、4月1日開始から24時間、お互いに1つ嘘を吐いてそれを見破られたら負け、騙せたら勝ちという良く分からないゲームをすることになっていた。
ああ、負けたら今度アキバに行った時、デート代は全てそっち持ちという罰ゲームがあるが。
勿論、その罰ゲームであっても、私物を買うときは自腹となっている。 そうしないと俺の財布が底を尽きてしまうからな。
これで何故こんな真っ昼間からテーブルを挟んで探り合いをしているかは分かって貰えただろうか。
桐乃「ひひ。 ゆっとくケド、このままあたしを騙せなかったら次遊ぶ時分かってるよね?」
言うなよ! ネタバレじゃねえか!
……そうだ。 俺は既に桐乃に騙されている。
つうか、こいつの嘘ってのも相当酷いからな?
朝、俺が気持ち良く寝ているところを桐乃が叩き起こしてくる。
桐乃「きょ、京介! ちょっと起きて!」
いつもと全然様子が違う桐乃の声を聞き、勿論俺は飛び起きた。
京介「ど、どうした!?」
桐乃「わ、わかんない……いきなり電話がきて「お前の写真をばら撒くぞ」ってゆわれて」
怯えて、泣き出しそうになっている桐乃。 こいつがここまでうろたえるってのも珍しいな……。
京介「……それって、いつだ?」
桐乃「ついさっき。 起きて、ご飯作ってたら電話が鳴って。 出たらそうゆわれたの」
ってことは……桐乃のストーカーか何かか?
まぁ、居ても不思議ではねえか……あやせにもストーカーが居た時期もあったくらいだし。
あいつの場合は、少し入り組んだ事情もあったけどな。
と、そう思ったときに桐乃の電話が鳴る。
桐乃「……非通知。 多分、そうだと思う」
そうだと思うというのは、要はストーカーからってことだろう。 そして桐乃は俺の方を見る、助けを請うように。
京介「俺が出る。 貸してくれ」
言うと桐乃はすぐさまスマホを俺の方に手渡した。 よっぽど、気味悪いと感じている様だ。 無理もねえけど。
京介「……もしもし?」
「…………」
無言、か? 奥から生活音らしき物が聞こえるから、誰かが居るってのは確実だが……。
京介「おい」
俺が怒りを込めて言うと、電話からようやく人の声が聞こえる。
「そう。 わたしは聖界より遣わされた天上の者……そして、桐乃のストーカーよ」
京介「……?」
何事かと思い、桐乃の方に顔を向けると。
桐乃「……くっ」
腹を押さえ、肩がぷるぷると震えていた。
「全く、どうしてわたしが朝からこんな茶番に付き合わされなければいけないのよ。 まぁ、今度遊んだ時に遊び代を出してくれると言うから別に良いけどね」
京介「……あん?」
桐乃「ひ、ひい……ひひ」
息を整えながら、桐乃がようやく口を開く。
桐乃「ねえ、きょーすけ。 今日はなんの日?」
何の日? そりゃあ勿論。
京介「……な! お前騙したのか!?」
桐乃「まだ始まって九時間も経って無いよぉ? ふひひ」
京介「ずりいぞ! 寝起きでそれは!」
桐乃「はぁ~? そんなルール無かったんですケドぉ~? 悔しかったらあんたも頑張ればぁ~?」
……いくらこいつが可愛いからと言っても、ムカつく物はムカつくんだな。 はははは。
京介「おい黒猫! お前どういうつもりだよ!」
これ以上桐乃と言い合いをしても、俺のストレスが溜まってしまう一方なので、黒猫に話を振ることに。
「どういうつもりと言われても。 桐乃が「京介を騙すのに協力してくれれば、上手くいったときアキバで全部あいつが奢ってくれるらしい」と言われてしまったからね」
京介「なんでお前の分も金出さなきゃいけねーんだよ!!」
「知らないわよ。 わたしはそう言われたからこうしたまでよ」
「それじゃ、妹たちの面倒を見ないといけないので。 さようなら、兄さん」
京介「おいお前ちょっと待て!」
そんな声も虚しく、桐乃のスマホからは通話の終了を告げる機会音だけが鳴り響いている。
桐乃「はい。 しゅ~りょ~」
桐乃「まぁまだ時間あるしぃ。 頑張ってねぇ~」
こ、この野郎……。
ってことだ。 酷いだろ? 酷すぎるだろ?
そういう訳で、今現在、俺と桐乃はテーブルを挟んで向かい合っているんだ。
京介「……今日も可愛いな」
桐乃「そ、そう? ひひ」
お? これで嘘だよぉ~! とか言えばオッケーじゃね?
桐乃「それ嘘だったら許さないかんね」
京介「……はい」
怖いよ桐乃さん。 いや、まぁ、嘘じゃねえから良いけどさ。
だが、俺はもう勝つことが出来ないので、引き分けに持っていかなければならないんだよな。
……これは最早戦争だ! 何故か知らないが黒猫の分まで俺が出すことになっているらしいし!
京介「……ん? 黒猫」
京介「桐乃。 黒猫の分も俺が出すって話だけどさ……もしかして、そこに沙織もいんの?」
桐乃「なにゆってんの。 当たり前っしょ」
当たり前かぁ! なら仕方ねえなぁ! あっはっは。
京介「……ぜってー騙してやるからな、お前」
桐乃「ふん。 もう無理だと思うケドねぇ~」
桐乃「だって、あたしはあんたがゆーこと、全部疑っとけばいいんだよ? それが嘘なら見破られて乙! だし。 本当なら、ああそうだったんだぁ。 で終わるし?」
京介「いやいや、待てよ。 もしそれが本当のこと……そうだな、例えば俺が「今日宇宙人に会ったんだが」ってお前に言ったとするじゃんか?」
桐乃「うん」
京介「で、お前はそれを「どーせ嘘でしょ? もっとまともな嘘吐けないのぉ? ひひ」って返すだろ?」
桐乃「……全然似てないんですケド」
いやめっちゃ似てたと思う。 そっくりだったぜ。
京介「しかし、それが本当だったとしたら、お前は騙されたことにならないか?」
桐乃「うーん。 確かにそうゆわれちゃうと、そうかも……」
桐乃「でもダメ!」
京介「な、何でだよ?」
桐乃「あたしがイヤだから。 それじゃ引き分けになっちゃうじゃん」
なるほど。 それは納得する理論だな。
京介「……はぁ。 いいぜ、分かった。 普通に騙してやるよ」
桐乃「はいはい。 無駄な努力頑張って~」
京介「へっ。 騙されて後々文句言われてもしらねえぞ?」
桐乃「ぷ。 あんたに騙されるワケないって」
聞けば聞くほどムカつくなぁ、おい!
俺をあっさり騙せたのが余程嬉しかったのか、すげーテンションの高さだよ。
……良いぜ。 上等だ。
京介「桐乃、お前俺のこと好きか?」
桐乃「は……は? なに、いきなり」
京介「いや、だからお前は俺のこと好きなのかなって思って」
桐乃「な、なんでそんなこといきなり聞くの? 意味わかんない」
京介「別にいいだろー。 んで、どうなの?」
桐乃「そ、そんなの……ふ、ふつーだし!」
京介「普通か……そっか」
桐乃「……なによ」
京介「……好きだったのは、俺だけだったのかって思っただけだよ」
桐乃「ち、ちがっ! そんくらい分かれっつーの!」
桐乃はテーブルをばんばんと叩きながら、俺に対して言う。
京介「いやいや、だってお前、今日はもう嘘ひとつ吐いてるじゃん? だからそれは本当のことだろ?」
桐乃「そ、それは……」
桐乃「……違うし」
京介「何が、どう違うんだよ」
桐乃「あーもう! 嫌いじゃないし、普通でもない! これで良い!?」
京介「へえ~~~。 そっかぁ~~~~」
どんだけ恥ずかしがってるんだよこいつ。 そう思いながら、にやにやしながら桐乃を見ていたら、案の定桐乃はシスカリの妹の如く攻撃を加えてくる。
桐乃「こ、このっ!」
京介「待て! 蹴りはやめろ!!」
それは聞いてない! 俺の予想だと可愛らしくぽかぽかといった感じだったんだが、今の桐乃はゲシゲシといった感じで俺を踏み潰そうとしているじゃねえか! それはやめて!
桐乃「うっさい! あんたがヘンなことゆーからでしょ!!」
京介「べ、別に変なことなんて言ってねーよ! ただ俺は気持ちの確認をしただけだっつの!」
桐乃「そーれーがー! ヘンなことだってゆってんの!」
京介「分かった分かった! 謝るから蹴るのやめてくれ!」
桐乃「ふう……ふう……」
俺が言うと、桐乃はようやく攻撃を止める。
京介「よし。 じゃあ桐乃、一旦落ち着いて座ろう」
桐乃「チッ……」
そして数分前までの状態へと戻る俺たち。
京介「桐乃」
桐乃「なに? 次またヘンなことゆったら怒るからね」
ついさっきまでキレてたじゃねえかよ。 今更何言ってんだこいつ。
京介「新婚旅行にハワイ行こうぜ」
桐乃「…………はぁ」
桐乃「あんた、その嘘はさすがにつまらなすぎ! てゆうか、まだ結婚してないじゃん?」
京介「まだってことはこれから予定があるってことか?」
桐乃「チッ……それがヘンなことだって、分かってんの!?」
言葉では怒っているが、表情は恥ずかしがっている様にも見える。 俺にそう見えるってことは、そうなんだろう。
京介「んだよ。 いいじゃねえか別に」
桐乃「……ふん」
桐乃「ま、良いや。 これで京介の負けだしね~♪」
京介「……わーったわーった。 奢りゃいいんだろ、奢りゃ」
桐乃「あー、でもぉ。 皆と行く時とあたしと二人で出かける時は別カウントだからね?」
京介「……すげえ後付ルールだな」
桐乃「ひひ。 負けたあんたがわるーい」
京介「はあ……へいへい。 負けは負けだしな。 分かったよ」
まあ。
今回は負けということにしておこう。
俺の嘘も、強ち嘘ではねえんだけど。
今はまだ、嘘ということにしておこう。
それは果たして 終
おつ!夜も来てたー!
裏組だけでなく、表組との絡みもみたいなぁ
途中で送ってしまった
おじさんって呼ばれる=自分の子供だけど、滅多に会えないから
桐乃の馬鹿だったなぁという台詞に対する京介の反応(もっと生きてみないと分からない)=今もその馬鹿だったことを続けているから
京介の悪いなって台詞=たまにしか会えない父親で、たまにしか会えない桐乃の夫で
ってこと?
エイプリルフールネタSSはこれが好き(宣伝)
http://www44.atwiki.jp/kiririn/pages/505.html
神絵師の挿絵付き
本音を隠してるキャラだから、やはりエイプリルフールネタは捗るwwww
こんばんは。
昨日投下できず申し訳ない。
乙、感想ありがとうございます。
>>39
今回はあやせとのお話ですよー
レス参考に、そんなお話も書いてみますね。
>>41
oh...
そこまで読んで貰えると、書いてる側としてもとても嬉しいです。
>>46
神絵師さんの絵マジぱねえっす!!
きりりん可愛いなぁ。
それでは投下致します。
4月の終わり。 ゴールデンウィークを目前に控えた今日。 俺は、あやせと会うことになっていた。
この事は桐乃にも秘密にしてある。 ばれたら多分、そうとう怒らせるだろうが、それでもあいつには言えない。
俺と、あやせの話。
思えばあやせとは色々あった。 出会いはそう、桐乃が家に連れてきたことだったかな。
その時に桐乃の趣味がばれそうになって、俺が部屋に飛び込んで、なんとか一応は治まったんだ。
で、その後メルアドやらをあやせと交換して……。
……あいつには結局、桐乃の趣味がばれちまったんだよな。
一度は絶交を告げられて、桐乃は酷く落ち込んで。
俺が馬鹿みたいな方法を取って、あいつらは仲直りして。
他にも沢山、あやせとはあった。
その中でも記憶に新しいことと言えば、俺が一人暮らしを終えたときの事だろうな。
あの日のことは、今でもすぐに思い出せる。
必死で想いを伝えてきたあいつを俺は断った。 好きな人がいると言って。
……あやせは多分、気付いていたんだろう。 俺の好きな奴が桐乃だってことに。
そんな普通じゃ納得しないような理由だったっていうのに、あいつは身を引いた。
そして、今から丁度一年くらい前か? あやせと再び話す機会があって。 お互いに多分、整理は付いたのだろう。
そう思いに馳せている時、ポケットの携帯が振動する。
開くと一件のメール。 差出人は、あやせ。
From あやせ
今から行きます。 遅れてすいません。
簡素な文。 それを見て、俺はそのまま携帯をポケットに仕舞う。
待ち合わせ場所は、いつもの公園。
あやせ「ごめんなさい。 お待たせしちゃって」
京介「いいさ。 その台詞は俺だと中々聞けないからな」
あやせ「ふふ。 そうですね。 桐乃なら、そうかもしれません」
京介「お、聞いてくれるか? 俺の苦労話」
あやせ「それはまたの機会にしておきます。 今日は、それよりも大事なお話なんですから」
ま、そうだな。 そんな話はいつでも出来る。 今日する話だって、別にいつでも……出来るには出来るが、先延ばしってのは良くねえよな、この場合は。
京介「ああ、分かったよ」
俺は言い、そのまま続ける。
京介「ちょっと報告遅れちゃったけどな、お前には言っておかないといけないと思って」
あやせ「ええ。 約束でしたからね。 勿論、お兄さんから何も連絡が来なかったらぶち殺しに行ってましたけど」
京介「そうかい。 なら今日の選択は正解ってとこか?」
あやせ「どうでしょう? それはお兄さんのお話を聞いてから、私が決めます」
京介「了解。 じゃあ、結果から言うけど」
京介「桐乃からも聞いているかもしれないが、両親に話したんだ。 俺と桐乃のこと」
京介「当然怒られて、殴られた」
あやせ「……そうですか。 それで、お兄さんは何て言ったんですか?」
京介「桐乃を好きでいることだけは、絶対にやめない」
京介「そう、言ったよ」
あやせ「あはは。 お兄さんらしいですね」
京介「そうかぁ? この言葉も、受け売りなんだよな。 桐乃からの」
京介「まあ、あいつの場合はそれを向けていた対象がちっと酷い物だけどな……」
あやせ「……なんとなく分かりましたので、それ以上は結構です」
京介「はは、そっか。 んでまあ、さっきの続きだけどよ」
京介「そんで、家から出て行けって父親に言われた。 で、俺は出て行く選択を取ったんだ」
京介「……意外っつうか、俺は多分それも分かっていたのかもしれんが。 桐乃も来るって言ってさ」
京介「俺たち二人で家を出て、今はあのアパートで暮らしているんだ。 それが去年の終わりのこと」
京介「あれからもう半年近いってのにまず驚きだよ。 時間が経つのがはえーはえー」
あやせ「ふふ。 そうでしたか」
京介「……おう」
あやせ「どうして、なんだか腑に落ちないような顔付きをしているんです?」
京介「いや……それが無いなら無いで、俺にとっては良いことかもしれないんだけど。 てっきり、お前には殴られるのかと思ったんだよ」
あやせ「なら質問です。何故、そう思いました?」
京介「だって、結局は桐乃を巻き込んだ訳だしさ。 これが本当にあいつにとっては良かったのかって、思っちゃうんだよ。 どうしても」
京介「それは普通だろ? だから、桐乃のことを大切に思っているお前が聞いたら、怒るんじゃねえかってさ」
あやせ「……少しだけ、予め桐乃からは聞いていましたからね。 お兄さんと二人で暮らしている、くらいですが」
京介「そうだったのか。 あいつってさ……それ言いふらしたりしてるの?」
あやせ「学校の授業で発表してましたよ?」
京介「は、はぁ!? マジで!?」
あやせ「冗談です。 あはは、お兄さん騙されやすすぎじゃないですか?」
京介「び、びっくりしたぜ……さすがに」
あやせ「そんなこと、桐乃がする訳無いじゃないですか。 自分で言うのもあれですけど……桐乃が信用している人にしか言ってないはずですよ」
京介「そうか。 なら安心だ」
あやせ「……」
京介「どした?」
あやせ「あ、いえ。 なんか、良いなって思ったんです」
京介「えーっと……何が?」
あやせ「お兄さんと桐乃の信頼関係、ですかね。 お兄さん、自分では気付いていないのかもしれませんけど、今凄く安心した顔をしてましたよ。 それで、良いなって思ったんです。 お互いに信頼し合っているんだなって」
京介「どうだかね。 俺がもしそうだとしても、多分桐乃の方は俺のことそこまで信じきってるって訳でもねえと思うけど」
あやせ「それは、自意識過剰だとか、そう思われるのが嫌だからですか?」
京介「……ちょっとな」
あやせ「なら良いです。 本気で言っていたのなら、今殴っている場面でした」
京介「笑いながら言わないでくれよ……怖いから」
あやせ「あはは。 ごめんなさい。 でも、桐乃を悲しませないでくださいね」
京介「当たり前だ。 それは俺自身で決めて、約束もしていることだよ」
あやせ「なら、心配いらないですね」
京介「そりゃどうも。 ……えっと、何の話だっけ?」
あやせ「あれ? ああ、私がどうして殴らないか、の話でしたね」
京介「あー。 そうだそうだ。 で、結局何でなの?」
あやせ「そんなの決まってますよ。 桐乃の顔を見たら、大丈夫だなって思っちゃいましたから」
あやせ「お兄さんに桐乃と二人暮しだなんて、考えただけで気持ち悪いですけど。 ぶち殺したくなってきますけど」
あやせ「でも、桐乃にとってはそれが幸せなんだろうなって、良い事なんだろうなって思うんです」
あやせ「……お兄さんのことは、大嫌いですけどね?」
京介「……そうかい。 ありがとな、あやせ」
あやせ「どうしてお礼を言うんですか。 私は私がやりたい様にやっているだけですよ? ふふ」
京介「おお、なんだそれ、すげえ良い台詞だな。 格好良い」
あやせ「……ぶち殺されたいんですか?」
京介「すいませんでした」
あやせはそこで一度咳払いをし、再度口を開く。
あやせ「お兄さん、ちょっと立ってください」
京介「ん? 別にいいけど」
あやせ「言っておきますが、今までの言葉は桐乃の友達としての言葉です。 そして、今から言うのは新垣あやせとしての言葉です。 良いですか?」
京介「……ああ、聞くよ」
あやせ「……この馬鹿っ!!」
言い、あやせは俺の頬を平手打ち。 そこまで本気だった訳では無いと思う。 いつもの様に、痛いって程ではなかった。
あやせ「そんなことして……どうするんですか! お兄さん、私は心配なんです!」
あやせ「これから先、自分のこともそうです……どうするつもりなんですか!!」
京介「あやせ……」
俺は新垣あやせの言葉を受け止め、返す。
京介「俺は、馬鹿な選択だったとは思ってる。 俺にとっても、桐乃にとっても、掛け替えの無い物だったから」
京介「だけどそれでも、それと比べたとしても、俺は桐乃が大事なんだ。 大切なんだよ」
京介「あいつの気持ちも、想いも、考えも。 俺にとっては何より大切で、どんな物と比べても掛け替えの無い物なんだ」
京介「俺はあいつを幸せにする。 絶対に。 もしそれが出来ていないとお前が思ったら、いつでもぶっ飛ばしに来てくれ」
あやせ「……馬鹿ですね。 何を言っているんですか」
あやせ「そんなの……ぶっ飛ばすで済む訳無いじゃないですか」
あやせ「お兄さん」
あやせ「宜しくお願いします。 お兄さんなら大丈夫だと、信じてます」
京介「……ありがとな、あやせ」
あやせ「どういたしまして。 で良いんですかね?」
京介「俺に聞かれても……」
あやせ「あはは」
あやせは笑い、口を押さえる。
あやせ「そうでした、一つお願いがあります」
京介「前に言ってたのとは違うお願い、か?」
あやせ「ええ。 それとは違う、これからのことについてのお願いです」
京介「おう。 分かった」
あやせ「聞く前からそんなこと言って、良いんですか?」
京介「よっぽど無理なお願いじゃなきゃな。 死んでくれとかはやめてね……?」
あやせ「もう。 そんなこと言う訳無いじゃないですか」
あやせ「では、お兄さん。 お願いがあります」
そしてあやせは笑顔のまま、お願いを口にした。
あやせ「結婚式には、呼んでくださいね」
……はは、結婚式ね。
京介「……随分話が吹っ飛んだな」
あやせ「そうですか? 私的にはそうでもない気がしますけど」
京介「周りから見たらってこと?」
あやせ「かもしれません」
くすくすと笑いながら、あやせはそんな風に言う。
京介「そっか」
俺は少し照れ臭いのもあり、あやせから視線を外しながら答える。 一体、俺と桐乃って周りからどう見えているのか、少し気になってしまうじゃねえか。
……今度、誰かに詳しく聞いてみるか。
あやせ「それで、お願い聞いてくれますか?」
外していた視線を戻し、あやせの顔をしっかりと見ながら。
京介「悪いが、俺にはそれを聞くことはできねえよ」
俺はそれを断る。 聞くことが出来ないお願いに当たるから。
あやせ「……どうしてですか? 返答次第では」
言いながら懐に手を入れるあやせ。 何が入ってるんですか、そこに。
京介「お、落ち着け!! こんなとこで包丁を取り出すんじゃねえよ!!」
あやせ「どうしてそういう解釈をするんですか! 私が懐から突然に包丁を出したことなんてありましたか!?」
京介「めちゃくちゃあった気がする! ねえかもしれないけど、俺の中ではお前イコール包丁なんだよ!」
あやせ「どんなイコールですか……はぁ」
すげえ呆れかかった溜息だけどさ、それならなんでお前は懐に手を入れるという紛らわしい動作をしたんだよ!
京介「と、とりあえず落ち着け。 どうしてか、だったよな?」
あやせ「ええ。 どうぞ続けてください」
京介「お前を呼ぶのは俺じゃないからだよ。 声が掛かるとしたら桐乃から、だと思う」
あやせ「……なるほど。 そういうことですね」
京介「ああ、そうだ。 だからお前のそのお願いを俺が聞くことはできねえ」
京介「桐乃に言ってみたらどうだ? へへ」
あやせ「馬鹿ですか。 言える訳無いじゃないですか」
京介「……だろうな。 多分、回りまわって俺がとばっちりを受けるんだろうよ。 そんな未来が見えるぜ」
あやせ「ふふ。 ですね」
あやせ「なら、私は桐乃を信じて、お兄さんに違うお願いをします」
京介「おう」
あやせ「幸せになってください。 二人で」
それを聞き、俺は。
京介「ああ、任せとけ!」
やはりいつもの様に、そう答えるのだった。
結果報告 終
以上で終わりです。
本日、もう1本後で投下できればする予定です。 できなかったらごめんなさい。
乙、感想ありがとうございます。
乙、感想ありがとうございます。
火曜日って確か、引き落としでss速報落ちる日でしたよね?
もう一本、投下致します。
5月。
ゴールデンウィークに突入した初日。
桐乃の方は仕事があるらしく、朝から家を空けている。
こういう日はテレビを見るか、一日中ずっとごろごろしているか、適度に勉強するか、沙織や黒猫と遊ぶか、のどれかなのだが。
今日の予定は埋まっていて、沙織と黒猫と遊ぶこととなっている。 勿論、桐乃には伝えてある。 じゃないと後が怖いからな。 かと言って、言わずに別の女の子と遊ぶなんてことはしないが。
で、今はいつもの様にアキバへと集合したって訳だ。
京介「今日はなにすんの? また俺をイジメんの?」
いつものメイド喫茶。 俺が座る対面には二人の友達。
黒猫「……この前のこと、まだ根に持っているのね。 つくづく借りを忘れない兄妹だわ」
沙織「はっはっは。 ですが京介氏、我々には感謝していたでは無いですか」
京介「一応はな。 一緒に作ってたんだろ? 俺にばれない様に」
京介「だがそれはそれ、これはこれだ。 俺がどれだけアキバ散策をしたことか……」
京介「今日はなにすんの? また俺をイジメんの?」
いつものメイド喫茶。 俺が座る対面には二人の友達。
黒猫「……この前のこと、まだ根に持っているのね。 つくづく借りを忘れない兄妹だわ」
沙織「はっはっは。 ですが京介氏、我々には感謝していたでは無いですか」
京介「一応はな。 一緒に作ってたんだろ? 俺にばれない様に」
京介「だがそれはそれ、これはこれだ。 俺がどれだけアキバ散策をしたことか……」
あの日の辛さは今でも覚えているぜ。 足が棒になってたからなぁ。 いつの間にか、アキバの地図が頭の中に出来ちまってるよ。
黒猫「良かったじゃない。 これで桐乃とのデートコースも完璧ね」
京介「俺が主導しても意味ねーだろ。 あいつが見たい所を基本的には回っているんだし」
黒猫「……なるほど。 けど、あなたはそれで楽しいの?」
京介「ん? 楽しいけど、なんで?」
黒猫「いえ、少し気になっただけよ……でも、桐乃と居るだけで楽しいあなたには聞く意味は無かったわね」
京介「……ほっとけ」
俺が恥ずかしさから視線を逸らすと、沙織が思い出したかの様に口を開く。
沙織「あ、そうでしたそうでした」
京介「ん?」
沙織「京介氏と黒猫氏に、お土産があるんでござるよ」
おお、さすがは沙織。 でも、こいつのお土産っつうとなんだ?
沙織「これでござる。 海外へ行った時に姉上が買ってきた物なのですが」
京介「ふうん……って、これって酒じゃねえの?」
沙織が渡してきた物は、見た目がいかにもって感じの……ワインか? こりゃ。
黒猫「いくらわたしに耐性があると言っても……それは今では無意味なのよ。 時が経たねば解かれない呪いが掛けられているわたしは飲めないわよ」
えーっと。
つまりは二十歳までは飲めないってことだな。 黒猫語も大分、解読に時間を割かない様になってきたぜ。 なんのステータスになるのか分からないけどな。
沙織「いえいえ。 そう見えるだけですな。 ただの葡萄ジュースでござるよ。 試しにひと口飲んで頂ければ、すぐに分かるかと」
黒猫「そう? なら」
つっても、一応ここは店だからな。 さすがにこの場で空けて飲む訳には……。
と思ったとき、メイドさんがニコニコ笑いながらグラスを差し出す。 良いのかよ。
沙織「常連ならではの配慮ですな。 はは」
京介「……あんま嬉しくねー配慮だな」
黒猫「あら、本当。 美味しいわね」
声の方を見ると、黒猫はいつの間にか空けていたジュースとやらを口に運んでいた。
京介「……なんか、その格好でその色の飲み物飲んでいるのを見ると、マジで変な物体に見えてくるな」
黒猫「あなたって、意外と失礼よね。 だけど、美味しいのは事実よ?」
黒猫は沙織から貰ったいかにもなパッケージをまじまじと見つめる。
黒猫「ほら、あなたも
黒猫はそう言うと、俺の所に置かれたグラスにそれを注いだ。 その自然な動作から、日頃から日向ちゃんや珠希ちゃんに接している態度が伺える。 良いお姉ちゃんだよな、こいつ。
今でも桐乃は俺にそれはやってくれたことないんだよな。
……いや、逆か? 兄である俺がやってやるべきなのだろうか。
京介「良いのか? お前の貰っちゃって」
黒猫「構わないわ。 妹たちに飲ませても、飲みきれないでしょうし」
京介「んじゃ、お言葉に甘えて」
黒猫に礼を言い、俺はグラスに口を付ける。
京介「ほんとだ。 うめーなこれ」
見た目は本当にワインその物だが……味は濃い葡萄ジュースって感じだな。
アルコールが入っていないのもすぐに分かる。 ていうか紛らわしすぎるだろ。
沙織「そう言って頂けると光栄ですな。 結構値段も張った様でしたので」
京介「……へえ。 ぶっちゃけ、いくらしたの?」
俺が聞くと、沙織は小さな声で俺に耳打ちをする。
沙織「……」
京介「たっか!? そんなの貰っていいのかよ!?」
お、驚いたぜ……。 未だにパックの麦茶を冷蔵庫に仕舞いこんでいる俺が情けなく思えてきてしまう。
沙織「構いませぬ。 日頃のお礼ということで。 それと、京介氏へのお詫びも兼ねて」
京介「……悪いな、本当に。 桐乃にも礼を言わせるよ」
沙織「はっはっは。 きりりん氏には、お礼は体でとお伝えください」
……多分、コスプレか何かの要求だろう。 言い方がすげー怪しいのが気になるけど。
黒猫「……」
京介「おい、どした?」
黒猫「こ、これを売れば……これを売れば!」
黒猫さんトリップしちゃってるじゃねえか!
京介「お、落ち着け黒猫。 それを売ったら色々と人としてマズイ」
黒猫「ば、莫迦じゃないの。 そんなことする訳が無いでしょう!」
すっげえ冷や汗掻いているけど、本当に大丈夫かね。
黒猫「とにかく! 今日はこれからどうするのかしら?」
慌てて話題を変える黒猫。 今度日向ちゃんと珠希ちゃんに聞いておくことにしよう。 どうなったか。
沙織「そうですな。 今日は……実は、京介氏には昔、頼んだことをしようと思いまして」
京介「俺に?」
沙織「バイトでござるよ、バイト」
あー。
あったな、そんなのも。
黒猫「バイト? 秋葉原で?」
黒猫が沙織に尋ねると、沙織は眼鏡を外し、答える。
沙織「ええ。 メイド喫茶のアルバイト、です」
黒猫「ふ、ふふふふふ。 ここから先は地獄のメイド達が待ち構える、メイド喫茶。 冥土の土産にあなたも、どうかしら?」
バイト開始五分。 黒猫が暴走した。
京介「ちょっと待てい!! お前それじゃあ客こねーだろ!!」
黒猫「そ、そうかしら?」
沙織「黒猫さん、もう少しお客様を歓迎するような形で……」
黒猫「……分かったわ」
京介「ほら、人来たぞ」
黒猫「……よ、ようこそ! 我が魔城へ! 歓迎するわ!」
言われ、びびって逃げる客。
京介「魔城じゃねえ! メイド喫茶だ!」
黒猫「くっ……わたしにはやはり、荷が重いわね」
京介「……なんつうか、お前も結構人見知りだよな」
黒猫「なっ! コミュ力が無いと言ったの? あなた」
京介「そうは言ってねえけど……」
沙織「あ、あの……このままだと、怒られてしまうと思いますが……」
ごもっともだ。 これじゃあバイトじゃなくて営業妨害って感じだからな。
黒猫「やれば良いんでしょう、やれば。 仕方ないわね」
京介「……最初からそれで頼むわ。 マジで」
京介「ほら、来たぞ。 今度こそ頼むぜ」
黒猫「……っ!」
黒猫「よ、ようこそメイド喫茶へ。 少し、休憩してはどうかしら?」
すっげー棒読みだ。 つうかなんだか怪しい店への勧誘みたいになってんな。
メイド喫茶が怪しい店かどうかは、ノーコメントで。
が、一応はそのメイドっぽい振る舞いが効いたのか、客は店の中へと向かっていく。
……こういうのも野暮なことだけど、大体は元々入ろうと思っていた客なんだろう。
まあ、そんなことは嬉しそうにしている黒猫を見たら言える訳もないが。
京介「やればできるじゃねーかよ。 今の調子でどんどんいこうぜ」
黒猫「ふ。 あのくらいなら朝飯前よ」
沙織「では黒猫さん。 次も張り切っていきましょう」
黒猫「ま、まだやるの……?」
沙織「うふふふ。 当たり前では無いですか。 まだまだ始まったばかりですよ」
怖いなぁ。 俺は是非とも巻き込まれたくない。 昔は俺が沙織の立ち位置で、沙織が黒猫の立ち位置って感じだったのに。
沙織も沙織で、色々あった一年だったんだろうな。
……それもそうだ。 その人にはその人の物語があって、それぞれが歩いているんだから。
俺が知らないところでも、色んな話があったんだろうよ。
沙織「京介さん。 何をぼさっとしているんですか。 しっかりと黒猫さんを手伝ってあげてください」
……かしこまりましたぁ!
そんなこんなでようやくバイトを終え、帰宅途中。
沙織とは方向が違うので、俺と黒猫での帰り道だ。
黒猫「……疲れたわ」
京介「だろうな。 俺も疲れた」
こうして黒猫と並んで歩くのは、中々今では珍しいかもしれない。
昔は、少し気になる相手として。 短い間だったけど、恋人として。
そして今は、友達として。
黒猫「……でも、ちょっとだけ楽しかったかもしれない」
京介「……はは、なら良かったじゃねえか」
どう見たってちょっとって顔じゃないけどな。 それは言わない方が賢明だろう。
そして、黒猫は夕暮れの空を見ながら、ふと声を漏らした。
黒猫「後、どのくらいでしょうね」
京介「どのくらいって?」
黒猫「わたしと、あなたと、沙織と、桐乃。 四人で遊べるのは、後どのくらいでしょうね」
京介「……なーに馬鹿なこといってんだよ」
黒猫「莫迦って……」
京介「言っとくが、俺の予定ではこれから先、年取ってもずっとだからな。 桐乃も当然そう思ってる」
京介「で、沙織もあれで友達大好きだからさ。 後はお前がどう思うか、だよ」
黒猫「……わたしは。 そんなの、決まっているじゃない」
黒猫「後どのくらいでは無いわね。 わたしが魔界に帰るまでは、一緒に居てあげましょう」
京介「……お、おう」
後何年か先。
その光景は今はまだ見えてこないが、きっと多分、幸せなはずだろう。
そう思い、俺は黒猫と並んで家へと帰る。
京介「たっだいまー」
いつもの様にそう言うと、すぐに部屋の奥から声が聞こえてきた。
桐乃「おかえりー。 アキバ行ってたんだ?」
布団の上に寝転がりながら、ノートパソコンを見ている桐乃はこちらを見ずに言う。 なんつうか、ニートみたいだな……。
京介「おう。 黒猫からでも聞いたか?」
俺は壁に背中を預ける形で座り、桐乃の背中を眺めながら。
桐乃「さっきチャットがあってね」
桐乃「「先輩と二人っきりで、手を繋ぎながら帰ったわ」って」
あの野郎。 なんてことを言ってやがる。 さっきの帰り道でのしんみりとした雰囲気をどこにやりやがったんだ。
京介「それは事実無根だぞ……?」
桐乃「ふーん。 どーだか」
京介「マジだって。 そりゃ家が近いってのもあるから、二人で帰ったっつーのは本当だけどさ。 手なんて繋いでねえよ」
桐乃「ま、別にいーケド」
……ああ、こいつ確実に怒ってる。 怒ってるというか、不貞腐れているって方が正しい。 これは多分、俺じゃなくても分かるくらいに分かりやすいぞ。
京介「……悪かったよ。 ごめん」
桐乃「ふん」
駄目だ。 こりゃ怒りが収まるのを待っていた方が良さそう……かな。 下手に変なことを言うよりは。
京介「あー。 これ、沙織からのお土産な。 冷蔵庫いれとくから」
桐乃「キョーミ無いし」
……へいへい。
京介「んじゃ……風呂入ってくるわ」
俺はそのまま、冷蔵庫に仕舞い、風呂場へと向かう。
出てくる頃にはコロッと機嫌が治ってればいいんだけど。
京介「……お前、どうしたの?」
風呂からあがり、居間に戻ると、テーブルの上に桐乃が突っ伏していた。
ええっと……そこまでへこんでる、とか?
京介「……おーい」
俺は桐乃の近くに座り込み、肩を叩く。
桐乃「……んー」
京介「さっきは本当にすまなかったよ。 桐乃」
言いながら、桐乃の顔を覗き込む。
桐乃「……ひひ」
京介「お前……顔めっちゃ赤いぞ?」
泣いてたから……じゃねえよな? しかもなんかすっげえニヤニヤ笑ってるし。
その時、視界の隅に可能性としては考えられる物が写った。
京介「……いやいや」
まさか。 まさかとは思うが。
目頭をつまんで、思考。
テーブルの上に置かれた、沙織からのお土産。 正確に言うと、沙織の姉からのお土産だけど。
……そうだとしても、だ。 俺はひと口飲んだが、別に普通のジュースで、俺が今見出した可能性は無い筈。 間違いねえ。
だ、だが……一応、確認しとこう。
桐乃「えへへへ」
未だにニヤニヤ笑い続ける桐乃を見て、もうそれくらいしか考えられないが、俺は外れて欲しいと思いながら、テーブルの上に置かれ中身が半分ほどに減っているジュースを手に取り、匂いを確認。
京介「……これって」
何度か嗅いだことがある匂い。 俺もまあ、親に隠れてこっそりってのもあったから分かるのだけど。
京介「酒、だよな……」
で、でもどうして? 確かに昼間、メイド喫茶で飲んだあれはただのジュースだったはずだ。 匂いも全然違う。
桐乃「きょーすけ!」
と、俺が何故こうなったのかを考えていると、桐乃が突然飛び掛ってくる。
京介「ど、どした?」
桐乃「なーんでもなーい。 ひひ」
俺の首にしっかりと腕を回し、いつもより断然近い距離で桐乃は言う。
……やべ、可愛い。
じゃねーよ! こいつ酔っ払ってるじゃねえか!
京介「……そだ、沙織」
あいつ、まさかわざとではねえよな?
桐乃に抱き着かれたままで動き辛いが……俺はなんとかテーブルの上の携帯を手に取る。
携帯を開くと、既に沙織から着信が来ていた。
その履歴から急いで掛け直す。 あいつから連絡があったってことは、気付いたってことか?
「京介氏! 申し訳ありませぬ!」
京介「……その様子だと、わざとでは無いな」
「……はい。 先程、家にあるのを確認してみたところ、どうやら京介氏に渡したのは」
京介「ああ。 わーってるよ。 悪気があったんじゃねえんだろ? なら良いよ」
「明日、代わりの品をお持ち致しますので……」
京介「そこまでしなくても良いって。 てか、もう空けちゃってるしな」
「と、仰いますと……」
京介「……桐乃がな」
「うう……今度お会いした時、お詫び致します」
京介「はいよ。 ま、桐乃もそこまで怒らないとは思うから、お前もそんな気に病むなよ」
「……はい。 かたじけないでござる」
こんな時までしっかりキャラ作りとは、恐れ入ったぜ。 ははは。
で、その後、お互いに別れの挨拶をして通話終了。
京介「……大丈夫か?」
未だに抱き着いたままの桐乃に視線を移し、そう聞く。
桐乃「んー……あたし?」
京介「おう。 お前」
桐乃はそれを聞き、俺に顔を一段と近づけ、笑顔を消して答えた。
桐乃「大丈夫じゃない!!」
京介「……はは、だよな」
京介「寝るか? 顔真っ赤だぞ?」
桐乃「やだ」
桐乃「きょーすけいなくて、寂しかったし」
お、おおう……。 いつもは殆ど言わないような事を言われると、ちょっとびびるぜ。
桐乃「だから大丈夫じゃない」
あ、あー。 そういうことか。 そっちの意味での大丈夫じゃない、か。 だからこいつは怒ってるのか。
京介「俺は絶対お前の傍に居るよ」
桐乃「……でも今日いなかったし」
京介「お前が呼べば、俺はどこへだって行くっつーの」
桐乃「ほんとに?」
京介「ああ、マジだ」
桐乃「えへへ。 ならいい。 許す」
……機嫌、治ったのか?
桐乃「ねー、きょーすけ」
京介「ん?」
桐乃「だっこして」
京介「だ、抱っこ?」
桐乃「うん」
な、なんだ……この桐乃に甘えられる感じ。 すっげードキドキするんだけど!
京介「……お、おう」
俺は言い、桐乃の背中と腰に手を回す。 正面から。
桐乃「ちがう!!」
京介「おま! 耳元で大声出すんじゃねえよ!」
桐乃「ちーがーうー」
京介「分かったよ……で、どうしろっつうの?」
桐乃「あれやって。 こんな感じのやつ」
桐乃は言うと、身振り手振りで俺に説明をする。
あー。 なーんとなく分かったが……。
やらねば、ならんのか。 お姫様抱っこ。
桐乃「きょーすけ」
……断ったら、間違い無く怒るよなぁ。
まぁ、良いか。 後で思い出して黒歴史になるのはこいつなんだしさ。
京介「分かった分かった。 ほら」
俺はそのまま桐乃の横に立ち、背中と太腿辺りに手を回す。
桐乃「ひひ。 やったあ」
無邪気に笑う桐乃を見て、俺は少し思った。
もしかしてこいつって、普段からこんな甘えたがってるのか……?
……いや、仮にそうだとしても、俺が変なことすればこいつは恥ずかしがるだろうしな。 今だけってことにしておこう。
京介「あんま動くなよ? 落ちるとあぶねえからさ」
桐乃「うん。 だいじょーぶ」
俺はゆっくりと桐乃を持ち上げる。 すっげえ今更だけど、こいつって軽いんだな。
桐乃「ありがとお」
なんて言いながら、桐乃は俺の首に手を回してくる。
……なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
京介「……べ、別に」
桐乃「ん~? きょーすけ、照れてるの?」
京介「ち、違う! そうじゃない!」
桐乃「えへへへ」
嬉しそうだなぁ。 こいつ。
今度、隙を付いて抱っこしてみるか……?
……殴られるか蹴られるかの未来しか見えねえな。 やめておこう。
京介「んじゃ、このまま布団まで連れてくぞ」
桐乃「よろしくー」
若干だが、眠そうな目をしているのが分かった。 あの減りから相当飲んだみたいだし、早い内に休ませておいた方が良いだろう。
ていうか、こいつも最初のひと口で気付けよな……。 こんなになるまで飲みやがって。
京介「よっ……っと」
桐乃を布団の上に寝かせ、掛け布団をかける。
京介「大丈夫か?」
俺がそう聞くと。
桐乃「もうだいじょーぶ。 ひひ」
桐乃はそう言った。
その大丈夫の意味なんて、充分すぎる程に俺に伝わっている。
京介「そっか、なら良かった」
京介「桐乃」
桐乃「んー?」
京介「なんかその状態のお前に言うのは、ちょっとずるいかもしれねえけどさ」
京介「俺は、お前のことが好きなんだよ。 だから、心配すんな」
京介「この気持ちだけは、絶対に誰にも負ける気はしないから」
桐乃「うん。 うん」
桐乃「でも、あたしの方がきょーすけのこと好きだし!」
こいつはヤバイな。 思わず抱き締めたくなっちまうぞ。
桐乃「ねー」
京介「ん?」
桐乃「ちゅーして」
……こいつはヤバイな! 思わず逃げ出したくなっちまうぞ!!
京介「お、お前な……」
桐乃「いーじゃん。 あたしのこと、好きなんでしょ?」
京介「……分かった分かった。 じゃ、目瞑っとけ」
桐乃「んー」
俺が言うと、桐乃は虚ろな目を瞑る。
京介「……」
俺は黙って、桐乃にキスをする。
ばれたらマジで、超怒られそうだが。
面倒見てあげたお礼として! 貰っておこう!
桐乃は特に反応見せず、未だに目を瞑っている。
……ま、寝ちまったかな。
そう思い、離れようと思ったところで桐乃が突然、俺の体をがっちりと抱き締めて、捕まえてきた。
桐乃「……おやすみい」
……これじゃ俺、身動きできねえじゃん。
京介「……おう。 おやすみ」
渋々俺も、寝る事にした。
次の日。
桐乃は二日酔いで寝込み。
俺は朝起きたらどうして抱き合っていたかの理由を原稿用紙に纏めろとの命を受け、現在テーブルに向かっている。
……いやいや。 これを纏めろって言われても、絶対最終的に俺は怒られるじゃねえかよ。
捏造……は良くないから、事実を若干飛ばすことにしておこう。 主に桐乃が言っていた色々なこととか、抱っこしたこととか、キスをしたこととか。
桐乃「頭痛い……京介、水ー」
……へいへい。
まあやっぱり、俺もなんだかんだ言いつつ、いつもの桐乃が接しやすいってことだろうよ。
それでもたまには、桐乃にして欲しい事を聞くのも悪く無いかもな。 本当に、して欲しいことを。
あいつが素直に言うとは思わないけど、それを分かってやるのが俺の仕事っつうことだ。
桐乃「はーやーくー……」
京介「ああ、わり! 今持ってくから!」
桐乃「……頭に響くから大声だすなっつうの」
……へいへい。
その中身は 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
今日大丈夫っぽいですね。
投下致します。
6月。
少し暑い日が増えてきたこの頃。 俺は家に行く途中のコンビニで、雨宿りをしていた。
梅雨はまだのはずなのだが、予報外れの雨。 空模様を窺う限り、どうやらしばらく晴れそうには無い。
今雨宿りをさせてもらっているコンビニで傘を買って行けば良いのだが……どうにも、負けてしまった気分になるよな。
そりゃあ、雨宿り開始してからすぐなら、買ってもそこまで負けた気分にはならなかったんだろう。 しかし、もう既に……なんと、30分も経っているのだ!
……言い訳をさせてもらおう。 立ち読みしてたら雨が降ってきて、もう少し暇潰してから行くかと思い、立ち読み時間を伸ばした結果がこれだ。
勿論、ただ立ち読みをするだけなんて真似はしない。 桐乃がいっつも読んでいる雑誌が今日発売なので、それはついでに買っておいたしな。
でも、だけども! 突然に降ってきた雨の為に傘をわざわざ買うのはなんとなく負けた気分なんだよ! 貧乏性で悪かったな!
俺と桐乃が今住んでいるアパートは、ここからだとそれほど遠くはねえが……雨は残念ながら結構降っている。 走っていったら確実に雑誌が濡れてしまう。
袋に包んで、服の中にいれれば良いって思うだろ? それは俺も考えたさ。 だけどこの前あった事を思い出したんだよ。
あれは確か、今日みたいに突然の雨が降った日だったな。
あの日も俺はコンビニで少し雨宿りをして、降り止む気配が無いのを知って、走って帰ったんだ。
で、部屋に入ると同時に桐乃に怒られた。 傘くらいさして帰ってきなよ! って。
俺の事を心配してくれたんだな……って思うだろ? 俺もそう思ったよ、最初はね。
あいつ、次になんて言ったと思う? メルルのポスターが湿気でダメになっちゃうでしょ! ただでさえ雨が降って気を遣っているのに、濡れたまま入ってこないで! だとさ。
いや、実際そのくらいで何がどうなるとも思えないんだけど、多分……突然の雨であいつも少しイラついていたのかもしれんしな。 別の日のことだが、そういう日もあったし。
んで、もうね。 俺の心までどんより雨降っちまったよ。 それから俺は、雨に濡れて帰ることが無いように気を付けているんだ。
って訳で、ダッシュして帰るのは論外ってこと。 分かってくれたか。
さて、そうなってくるとどーするかって話。
……ううむ。
視界には傘を差して道を歩く人がぱらぱらと見える。
つい先程、俺と一緒に雨宿りをしていた人はどうやら家族が傘を持ってきてくれたらしい。 一部始終を見ていた俺が考えるに。
……桐乃を呼ぶか? 傘持ってきてくれーって。
いや、わざわざそんなので呼ぶのもあれだろ。 俺が傘を買えば良いだけの話だしさ。
変な意地みたいな物だしな、俺が傘を買わないってのも。
そんな風に悩んでいるとき、携帯が鳴る。
京介「ん? 誰だろ」
携帯を開くと発信者は桐乃。
京介「もしもし」
「あんた、今どこいんの?」
京介「近くのコンビニ。 で、雨止むの待ってる」
「傘買えばいーじゃん。 ばかじゃん?」
京介「うっせ。 これはな、桐乃。 俺と雨との勝負なんだよ」
「ふうん。 ま、頑張ってねー」
京介「……へいへい。 で、これは何の電話?」
「はぁ? 京介の声が聞きたかったから~♪」
京介「そういうの似合わねえな……」
あくまでも、いつものテンションでやられるとって話。 あの酔っ払っていたときはどんどんばっち来いって感じだったけどな。
「うっさい。 で、理由無く電話しちゃダメなワケ?」
京介「別に、そういう意味じゃねえって」
京介「話し相手になってくれるなら、俺も暇しねえからな」
「そか。 んじゃ」
桐乃「帰りながら、話そっか」
目の前には……いつから居たのか、傘を差した桐乃がこちらを見ている。 気付かなかった俺も俺だけど。
京介「わざわざ来たのかよ」
桐乃「だって、どーせ傘持ってなくてどっかいるんだろうなぁって思ったし? んで、大学の方にいったら、途中のコンビニで京介を見かけたってワケ」
それで電話したってことか。 そうだとしても、わざわざ来てくれたのには変わりねえ。
京介「はは……その通りって訳だな」
桐乃「ま、半分以上はあたしの優しさだけどね~」
京介「今日は素直にそう思う。 ありがとよ」
桐乃「いーからいーから。 早くかえろ」
京介「おう……で、桐乃。 一つ聞きたいことがある」
桐乃「ん? なに?」
京介「傘、一本だけ?」
桐乃「問題ある?」
京介「……無いの?」
桐乃「なに、いまさらそれが恥ずかしいとかゆっちゃうワケ?」
数秒思考。
京介「……よし! 二人でラブラブ帰るか!」
桐乃「……ったく、声がでかいっつーの。 ほら、ちゃんと傘持ってね」
とは言いつつも、笑っているんだよなぁ、こいつ。
京介「おう」
桐乃が差し出した傘を受け取り、一つの傘の元、俺と桐乃は二人で帰る。
雨は未だに止む気配が無い。 こりゃあ、帰るまでに止むかも怪しいな。
桐乃「……なんか近くない?」
歩き出して数分。 桐乃がそんなことを言う。
京介「そ、そうか?」
桐乃「……別にいーケドさ」
京介「はは……あ、そういやさ」
京介「前も似たようなこと、無かったっけ?」
桐乃「似たようなこと? うーん。 あー、あったあった」
桐乃「……あの時は確か、逆だったんだよね。 あたしが雨宿りしてて、京介が傘持ってきてくれて」
京介「そうそう。 まだそんな話して無い時だったよな? 桐乃の最初の人生相談、趣味のことを聞いて、結構すぐのことだったっけ」
桐乃「うん。 懐かしいなあ」
桐乃の顔を見ると、昔を懐かしむように、それでも少し嬉しそうに、そんな表情だった。
そうだな。
あの日は今日とは違う立場だったっけか。
リビングで寝転び、漫画を読んでいたら、お袋が急に俺を呼び出した。
なんでも、桐乃が傘を忘れて帰れないらしい。 場所は最寄の駅。 桐乃自身は傘を買うと言っていたらしいが、お袋が迎えに行くからとのことで、桐乃は駅で待っているらしい。
佳乃「で、私は夜ご飯作らないといけないじゃない? だから、お願い」
京介「なんでそうなるんだよ……ていうか、行けないなら最初から傘買わせとけっつうの」
佳乃「嫌よ。 勿体無いでしょ?」
……勿体無い、ねえ。 お袋が桐乃の趣味を知ったら、どんな反応をするんだろうな。 あいつの金の使いっぷりには俺も大分驚かされたからな。 お袋の反応には少し興味があるぜ。
京介「チッ……よりにもよって俺か」
佳乃「京介しかいないのよ。 それに最近少し仲良いでしょ? だから良いじゃない」
京介「少し仲良いじゃねえ。 少し仲が悪くなくなった、だ」
佳乃「一緒一緒。 いいからほら」
京介「はあ……分かった分かった分かったよ。 行けばいいんだろー行けば」
佳乃「うん、よろしく」
……あーくそ! マジで面倒くせえ! わざわざ雨の中、駅で待っている妹を迎えに行くだと!? どこの世界にそんな心優しい兄貴が居るんだっつうの。
後でなんかご褒美でもあるのかね? ねえよなぁ。 無いだろうなぁ。 お袋に限ってそんな優しいわけがない。
まあ、まあ仕方ない。 傘をとっとと渡して、俺はとっとと帰るとしよう。 お袋は傘を持っていけと言っただけで、一緒に帰って来いとは言って無いしな。 言われたとしても一緒に帰るなんて想像できないが。
……あー、着替えするのも面倒だな。 制服のままでいいか。
俺はそう思い、そのまま玄関で靴を履く。
京介「んじゃ、行って来ます」
お袋はどうやら飯の準備に取り掛かったらしく、聞こえていなかったのか、返事は無い。
俺は小さく舌打ちをし、駅へと向かって歩いて行った。
駅に到着。 桐乃を発見。 あいつ、顔を逸らして雨の中歩き出す。
京介「おいおいおいおい!! お前しかとしてんじゃねえよ!」
桐乃「……なに?」
京介「何じゃねえっつーの。 傘持っていけって言われたから、持ってきてやったんだよ」
桐乃「何であんたなんかに傘渡されないといけないワケ? しかもさっきまであんたが使ってた傘とか。 キモッ」
……折角持ってきてやったのに、こいつはこんな事を言う。 俺が使った傘がそんな嫌だっつーのかよ。
京介「いいから使えよ。 俺じゃなくて、お袋がそう頼んでるんだから」
桐乃「……お母さんか。 あんたじゃなくて?」
京介「そうだよ。 俺がそんなことすると思う?」
そう答えると、桐乃は一段と怒りを増した表情をした。
多分、お袋に迷惑を掛けてしまったとか、考えているんだろうよ。 そんなキレるなら折り畳み傘の一つでも常に持っとけっつうの。
桐乃「ふん。 早く渡して」
先程まで雨宿りしていた場所に戻ると、桐乃は言う。
京介「へいへい……」
そう言いながら、俺はクソ生意気な妹様へと傘を渡す。
ちなみに、この時お礼の言葉無し。 妹様が受け取った時にした反応と言えば、舌打ち一つだ。 雨が降って困っている奴に傘を渡すことなんて、殆どあることでは無いけど、それで舌打ちされるってのは随分と心に来る物があるな……。
まあ、別にこいつだし、どうでも良いけど。
桐乃「……一つ聞いていい?」
京介「あん?」
桐乃「別にあたしに傘渡すのはいーケドさ。 あんた、自分の傘は?」
京介「ん……? ああ、やべえ」
傘一本しか持ってきてねえじゃん! マジかよ。
桐乃「ばかじゃん? あそこにコンビニあるから買ってくれば?」
えーっと。 その場合ってあれだよな。 俺が金出さないといけないよな。
……なんか、おかしくね?
俺は今日、駅まで傘を忘れた妹の為にわざわざ傘を届けて。
で、傘が一本しかなくて。
その傘を渡された妹は、コンビニあるから買ってくれば? と俺に言う……と。
ま、まあ傘を忘れたのは俺の責任だ。 それは認めよう。
けど、だけど! だからといって俺が金出してまで傘を買うっておかしくねえか? おかしいよな?
桐乃「なにぼーっと突っ立ってんの。 邪魔なんですケドぉ」
京介「……悪かったな」
渋々、俺はコンビニへと向かう。 ちくしょう。 せめて金はお袋に出させてやろう……そうじゃないと、マジで割りに合わねーって。
そうして歩く俺の服に、何かが引っ掛かり、引っ張られる。
京介「ん?」
どうやら見ると、傘の持ち手が服に引っ掛けられているようで。
桐乃「チッ……マジでキモいけど、仕方ないから傘入れてあげる」
京介「いや良いって。 俺は傘買うから」
桐乃「それだとあたしが悪者みたいじゃん。 あんたの所為でそーなるとかムカつくから却下」
京介「……分かったよ。 んじゃお言葉に甘えさせてもらうとする」
桐乃「……ふん」
で、一緒に帰ることになったのは良いが。
桐乃「もうちょっとあっち行ってくれない?」
京介「……お前、言っておくけど、俺既に体の半分は外に出ているからな?」
桐乃「指一本でも一緒に入れるだけマシっしょ」
酷いなこいつ。 少なくとも妹が兄に向けて言う言葉では絶対ねえぞ。
というか、こっちの方が明らかに悪者に見えるんじゃねえかなぁ。 だって、二人で傘に入っているというより、一人が傘を使って入れてあげてないみたいな光景だし。
桐乃「ま、いちおーはあたしが傘忘れたのが原因だしね。 感謝してよ?」
何にどう感謝すんだよ! 言っていることが訳分からないぞ!?
むしろお前が感謝しろって。 生意気な奴だよ、ほんとに。
京介「ありがたき幸せでーす」
俺は精々嫌味ったらしく、言った。
桐乃「キモッ」
もう、何も言うまいって感じだよね。 ほんとさ。
桐乃「そーゆえば、あんた、あたしが貸してるゲームクリアしたの?」
……ここで来たか。 未だに手付かずなのは言わない方が良いよな。 適当に言っておこう。
京介「……も、もうちょいでクリア」
桐乃「はぁああぁああ!? 貸してからもう一週間も経ってるんですケド!? どんだけゆっくりプレイしてればそうなるワケ!?」
京介「い、いや……俺もそれなりに忙しいしよ」
桐乃「チッ……今日中にクリア。 じゃないと許さないから」
京介「……努力はする」
努力はな。 クリアできるかは知らん。 ってか、お前に許されなかったからといって、何がどうなるって訳でもないしな。
桐乃「これだからしっかりプレイしない奴は……あ」
京介「ん? 急に止まるなよ」
桐乃「……何でも無い」
なんだ、空を見上げてた?
桐乃「ほら、ぼさっとしてないでさっさ歩いてよ。 あんたが歩かないと、あたしも歩けないんだから」
京介「あ、ああ。 悪い」
桐乃「……ふん」
それから数分。 俺と桐乃は無言のまま、一つの傘の元、家へと向かって歩いて行った。
京介「思えばそうだな。 あれが始めての相合傘だった!」
桐乃「……それって、覚えとく意味あんの?」
京介「さあな。 でも、桐乃がそのまま一緒に入っていいって言わなかったら、俺は結構ショックを受けていたかもしれんな」
一緒に入っていたかどうかには疑問が残るが、あれもあれで今となっては良い思い出。
桐乃「ひひ。 あたしの優しさだって、さっきもゆったじゃん」
京介「おうおう。 感謝してんぜ、桐乃さん」
桐乃「うんうん。 その調子その調子」
どんな調子なのだろうか? 少し気になる。
桐乃「ま、結局は今も昔もそんな変わらないってことかな?」
京介「……さぁ? 俺は大分変わったと思うけどな」
桐乃「やっぱそうだよね。 昔はこんなにくっついてなかったし?」
京介「言いながら近づくなって、俺も一応恥ずかしいんだからよ……」
桐乃「あはは。 シスコン」
京介「へいへい。 どーも」
桐乃「ってワケで、今度あたしが傘忘れても、しっかりと持ってきてよね?」
京介「お安い御用だ。 任せとけ」
桐乃「うん。 よろしくっ! ……あ」
京介「ん? どうした?」
急に立ち止まる桐乃。 俺は桐乃が傘から出ないように、足を一緒に止めた。
桐乃「雨、止んだみたい」
言われ、空を見上げる。
先程まで空を覆っていた雲は薄くなっていて、切れ目からは太陽の光りが差していた。
京介「……お、ほんとだ。 夕立みたいなもんだったのかな?」
桐乃「どだろ? んじゃ、傘はもういらないかぁ」
京介「んだな」
言いながら、俺は傘を畳み、左手で持つ。
桐乃「京介、その雑誌も左手でもって」
京介「ん? 別に構わないけど」
桐乃「ひひ。 はい、どーぞ」
桐乃は言うと、左手を俺に差し出した。 小さな、桐乃の手。
黙って、少し笑い、俺はその手をしっかりと掴む。
そうだな。
随分変わったよ。 あの日から比べたら。
それは多分、俺たち自身が変わった訳ではない。
変わったのは、俺たちの関係だろう。
俺は昔の雨の日を思い出し、なんだか面白おかしくなってしまうのだった。
昔と今 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
乙!毎回毎回良い話だな
2ちゃんのアニメ板の方の桐乃スレでノベルゲームっぽいの投下されてたけど、ああいうのはやらないのん?
作者さんのレベルで作れば凄いのが出来ると思うんだけどww
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
>>198
作れれば面白そうなんですけどね。 そこまでの技量が……
テキスト自体はいくらでも書けそうですが!
それでは、投下致します。
1日鯖が落ちてたみたいなので、2本投下します。
5月の中旬。 あたしはエロゲーに興じていた。
新作のエロゲーで、本日やっと届いたってワケ。 掲示板でネタバレを読まない様に、感想だけ少し見てみたんだけど、評価はかなりの物だったから、チョー楽しみにしてたんだよね。
桐乃「おお、きたきたきたきたあ!!」
こ、このシーンってあれだよね。 掲示板とかでも噂になってたかなりの名シーンってヤツ!
ただ、兄が妹を抱き締めるってだけのシーン。 それだけ見たら、妹ゲーには腐るほどあるシーンだけど。
それまでの過程、妹と兄の心境、そんでこの絵師さんの絵! それらを全部考慮すると、マジ神シーン!
桐乃「え、えへへへへへへ……」
しっかりとCGもあることだし、後で見返そうっと!
と、とりあえずは……ふひひ。 このシーンを堪能しよう! 心行くまで!
桐乃「……はああ。 かわいいなぁ」
画面では妹と兄が会話をしている。 在り来たりな会話だけど、心が込められている会話。
それぞれの想いがしっかりと伝わって、すれ違いばかりだった二人がようやく分かり合えて。
桐乃「ヤバ……泣けてきた」
一文一文、一字一句見逃す事なく、しっかりと読む。 悲しげなBGMが余計に涙腺を刺激してくる。
桐乃「うう……」
ここで、この流れ……あたしの予想だと、これから告白シーンのハズ!
や、ヤバイって。 マジで目真っ赤になっちゃうって。
と、その時だった。
突然暗転する画面。 え?
シーンの移り変わりにしては、長すぎる。 それに部屋の電気も一緒に消えている。
部屋の中に響いていた機械音も全て止まった。
こ、これって……もしかして。
桐乃「……停電?」
は、ははは。 死ねっ!!!
ありえない! 今から最大の見せ場だってゆーのに!? なのにここで強制ゲーム終了!? どんな仕打ちだっつーの!!
せ、セーブはちょくちょくルートの度に取っていたけど……こっちのルートに入ってから一本道で大分長かったので、また結構な時間を取られちゃうってことだよね。
桐乃「……はぁああぁああ」
その日はゲームをまたやる気分にもならず、寝るまでずっと落ち込んだままだった。
次の日。
モデルの仕事を終えて、あやせと喫茶店。
あやせ「桐乃、今日どうしたの?」
桐乃「ど、どうしたって?」
あやせ「何だか顔色悪かったし……カメラの人も、事務所の人も、なんか変だなって言ってたよ?」
桐乃「……そか」
あたしとしたことが、どうやら昨日のあれが相当効いてしまっているらしい。 それで、連鎖しちゃってる。
あやせ「……大丈夫? 何かあったの?」
い、言えない……。 エロゲーの神シーンで停電してテンション最悪とか言えない!
桐乃「な、何かってほどでも無いよ。 大丈夫」
飲んでいる紅茶の底を見ながら、あたしはあやせに言う。 余計な心配を掛けてしまっていると、思いながら。
あやせ「もしかして……お兄さんと喧嘩しちゃったとか? 明日も仕事あるけど……休めるように頼んでみる?」
桐乃「そこまでしなくていいって! それにそうじゃないよ。 明日にはもう元通りだって。 ちょっと早い夏風邪みたいなものだし」
あやせ「そっか……うん。 分かった」
あやせは渋々納得したようで、その後は世間話をして、今日のところは別れた。
で、本当に嫌なことというのは立て続けに起こってしまう。
あやせと別れ、一人でアパートへ向かっている途中、雨が降ってきた。
ぽつりぽつりっていう感じじゃなく、大雨。 降り始めて5分もしない内に、全身がずぶ濡れ。
桐乃「……なんだっての」
あたしなんか悪いことしたっけなぁ? ふん、くだらないくだらない。
だけど、イライラとムカムカと、そんな気持ちは募っていく。
……帰ってとっととお風呂入ろっと。
桐乃「……ただいまぁ」
扉は開いていたので、京介は多分帰ってきているんだろう。 そう思い、部屋の奥へ向けて声を掛ける。
しかし、部屋の中から返事は無い。
……あれ?
良く聞くと、洗面所の方からシャワーの音。
京介が入っているのだろう。 ええっとつまり……ってことは。
あたしはどうやら、京介が出るまで玄関に立っていなければならないらしい。
桐乃「……はぁ」
それから待つ事数分。 ようやく、京介が洗面所から姿を見せる。
あたしの姿を見るなり、京介は慌てながら口を開いた。
京介「おま、傘無かったのか? 風呂入っちゃえよ」
桐乃「……あんたが入ってたから入れなかったんだケド」
京介「あ、ああ。 そっか……ごめんな」
言いながら、両手を合わせて謝る京介。 その姿を見て、また胸がちくりと痛む。
京介「でもよ、お前がそれで風邪でも引いたら」
桐乃「良いってゆってんでしょ! ウザイ!」
あたしは苛立ちを京介にぶつける様に言い、申し訳無さそうな顔をしている京介の横を通り過ぎ、洗面所へ。
中に入って扉を閉め、あたしはそのままお風呂場へと入った。
桐乃「……はぁ」
何度目かの溜息。 あたしは、どうしてこうなんだろうか。
たった二日続いた嫌なことが原因ってだけで、京介に八つ当たりをしてしまう。
京介に悪気なんてあったワケ無いし、普通だったら京介は怒ってもおかしくないのに。
だけど京介はあたしに謝ってくる。 自分が悪いと思って。 そんなこと……あるワケ無いじゃん。 あたしが勝手にイライラして、勝手に怒ってるだけ。 それだけ。
それでもあたしは何も言えない。 さっきもごめんのひと言でさえ、言えなかった。
シャワーを捻り、頭からお湯を浴びる。
ムカつく。 ムカつくムカつく。 ムカつくし、情け無い。
この二日、色々あったけど。
自分自身に一番苛立つ。 どうしてあたしはいっつもこうなんだろう。
考えれば考える程に気分は落ち込んで、恐らくもう溢れ出ているであろう涙は止まらない。
桐乃「……なんだっての」
今更、謝っても遅いかもしれない。
あたしがずっとこんなんだったら、京介もいつかは愛想を尽かすかもしれない。
そんなことを京介はしないって分かる。 分かってるけど。
こんな気分の時は、不安になってしまう。
……明日になれば、またいつも通りになっているかな。
それは。
それは、甘えだ。
些細なことでも、しっかりとケジメを付けないと。
あたしだっていつまでもこうしているワケにはいかない。 京介と一緒に居る為にも、変わらないと。
……やっぱり、京介にはきっちりと謝っておこう。 それだけでも、しておかないとダメだ。
京介「ごちそうさまでした」
手を合わせ、ご飯を食べ終えた京介は言う。
食器を持って台所に向かう京介の背中に、あたしは声を掛けた。
桐乃「……さっきはごめん」
意外にもすんなりと出てきたその言葉は、小さい物。 本当だったら、しっかりと顔を見て言わないといけない言葉。
そしてその言葉が聞こえていないのか、京介は反応せずに食器を片付けていた。
……それとも、無視、されちゃったか。
あたしは顔を伏せて、零れそうになるそれを必死に堪える。
どうしよう。 家を出て行けと言われたら、どうしようか。
……どうにもできない。 あたしじゃ、多分。
変わらないと、あたしが。 そう思っても、変われない。 あたしはあたしで、それはもうどうしようも無いことだから。
そんな風に考え、顔を伏せて、歯を食いしばって、涙を堪えて。
コツンと、頭に軽い衝撃。
京介「なに謝ってんの? お前」
驚いて顔をあげると、すぐ近くに京介の顔。 あたしの頭を軽く、手の甲で叩いたのか。
桐乃「……え?」
京介「だから、なんで謝ったんだ?」
……聞こえてたんだ。 あたしの言葉。
桐乃「なんでって……あたし、酷いことゆっちゃったし」
京介「今更なーに言ってんだよ……もうそんなのはむしろ楽しくなり始めてるっつうの」
桐乃「で、でも」
京介「良いから。 次の質問な。 どうしてそんな泣きそうになってんだよ、桐乃」
桐乃「……」
あたしは。
ゆっくりと、あった事を話す。
桐乃「……昨日と今日で、色々やなことがあって」
桐乃「ゲームやってたら停電しちゃって、仕事では失敗しちゃって、急に雨に降られて」
桐乃「……帰ったら、京介に八つ当たりしちゃって」
桐乃「それで、お風呂の中で考えてたの」
桐乃「あたしはどうして変われないんだろうって。 あたしがこのままだったら、京介に嫌われちゃうのかもって、思って」
泣いているのかいないのか、自分でも分からない。
だけど、声は震えていたと思う。
京介「変わる必要なんてねーよ」
京介「お前はお前のままで良いんだよ。 俺に暴言吐いて、怒ったり優しかったり、ミカン投げつけてきたり?」
京介「確かに、お前は素直じゃねえしなぁ。 愛想尽かす奴もすげーいそうだよ」
京介「だけどな、桐乃」
京介「俺はそんなお前が好きなんだ。 前に言ったろ? 俺だけはお前の味方だって」
京介「誰にどう言われようと、俺はお前のことが好きだぜ?」
桐乃「……京介」
言葉は暖かく。 二日間で募っていた気持ちは嘘のように消えていく。
京介の顔は、滲んで見えた。
京介「俺がお前のことを嫌うなんて、ねえよ。 もしあるとしたら……」
京介「……実はお前が男だったりとか?」
京介「いや、でもそうだとしても嫌いにはならねえな……むしろ、今までのことを考えるとなぁ」
桐乃「……なワケ無いでしょ。 ばか」
あたしは自然と、笑っていて。
京介「だよな? お前、妹だもんな?」
京介も、笑っていた。
桐乃「……ありがと。 んで、さっそく一つ頼みがあるんだケド」
京介「……さすがの切り替えの早さだな。 良いぜ、何だよ?」
あたしは想いを込めて言う。 今日は少し、素直になろうと。
桐乃「……ぎゅって、して」
京介は一瞬驚いた顔をした後、いつもの様に言った。
任せろと、優しく、あたしを抱き締めて。
その日の夜。
桐乃「きたきたきたきたきたきたあああああああああああ!!」
京介「馬鹿! うるせーよ! もうちょい静かにやれ!」
桐乃「だ、だってえ……ふひひひ。 このシーン、マジ神シーンなんだって!」
京介「わ、分かった分かった。 分かったからもうちょい落ち着け、マジで。 苦情受けるの俺だからね?」
桐乃「……仕方ないなぁ。 ったく」
京介「ほら、セーブしとけよ? 一応」
桐乃「わかってるって。 ひひ」
停電で出来なかったエロゲーを京介と一緒にやって。
桐乃「よし……セーブおっけ」
桐乃「次は次は~っと」
桐乃「うっはあ!! きたああ……んー!」
京介「うるせえっつうの! 少し黙ってろ!!」
京介はあたしの口を塞ぎ、声を遮る。
桐乃「んー!!」
そんなこんなで、エンディングまで騒がしく、あたしと京介はゲームをやっていた。
次の日。
モデルの仕事が終わり、あやせと喫茶店。
あやせ「さっすが桐乃! 桐乃の言うとおりだったね」
桐乃「ん? 何が?」
あやせ「一日経てば元通りって奴だよ。 元通りっていうよりは、今日はいつもより綺麗だったよ?」
桐乃「そ、そう? なんか照れるなぁ」
あやせ「やっぱ桐乃はそうじゃなくっちゃ。 でも、どうして今日はそんなに元気良かったの?」
桐乃「……さ、さあ?」
あやせ「……」
じーっとあたしを見つめるあやせ。 怖い。
あやせ「……ま、良いかな。 桐乃はすごく嬉しそうだし」
桐乃「そ、そんなことないって~。 ただいつも通りってだけだよ?」
あやせ「そう? 事務所の人も、カメラマンの人も、今日はいつもより綺麗に写るって言ってたけど……」
桐乃「あ、あー! あたし用事思い出した! ごめんあやせ!!」
あやせ「ちょ、ちょっと桐乃? どうしたのー?」
逃げ帰るように、あたしは喫茶店を後にするのだった。
桐乃「ただいまっ!」
玄関扉を開け、元気良く声を掛ける。
相手は勿論、あたしの兄貴で、あたしの彼氏。 あたしが一番、好きな人。
京介「おう。 おかえり。 今日はどうだった?」
昨日言っていたことを覚えていたのだろう。 京介は、そう聞いてきた。
桐乃「あたしを誰だと思ってんの? ばっちしだっつーの」
京介「へへ。 聞くまでも無かったなぁ。 それでこそ桐乃だ」
桐乃「ひひ。 じゃあ仕事終えて疲れてるあたしの為に、冷たいお茶入れてきて欲しいなぁ?」
京介「へいへい。 任せとけって」
あたしが居間に座り、そう言うと、京介はすぐに台所へと向かっていった。
その背中を見ながら、一人想う。
思えば、こんな風になるなんて誰が予想できたのだろう。
あたしと京介が、あれだけ仲が悪かったあたしたちが、今はこんな風になっているなんて。
……小学生のあたしからのメッセージ。 それに今なら笑って、優しく、返事が出来る。
「大丈夫だよ。 昔のあたし」
「諦めないで。 追い続けて。 そうすればきっと、いつか並んで歩けるから」
「ゲームなんかよりも素敵な話、きっと見つかるから」
「だから、もう何年か頑張って」
そうすればきっと。
京介「ん? なんか言ってたか? 桐乃」
桐乃「んーん、なんでもなーい。 それよりお茶は?」
京介「しっかり入れてきてやったよ。 ほら」
桐乃「ひひ。 さーんきゅ」
想いは、届くから。
その理由 終
以上で1本目終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
それより、アニメ1期見直したんですが、きりりんが可愛すぎて辛い……
細かい描写でも、色々と考えられますよねぇ。
2本目は時間を少し置いて投下致します。
乙
毎日ありがとう
少し桐乃が精神的に弱すぎるかなぁ
まあ完結した話からさらに話を盛り上げるのも
難しいから、そうならざるおえないのかもしれないけどね。
>>236
京介のことだから、というのが一番大きいですね。
勿論、話の構成上というのもありますが。
それでは、2本目投下致します。
桐乃「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い!!」
京介「……八回?」
桐乃「数えんなっ! とにかく暑すぎ! どうにかしてよ!」
7月。 うだるような暑さの中、俺と桐乃はアパートの一室で会議を執り行っていた。
ご丁寧にも桐乃は小さなメモ帳を置き、先程から会話の内容を書き起こしている。
京介「それ、何書いてんの? さっきから思ってたんだけどさ」
桐乃「見たい? どうしよっかなぁ~~~?」
そこまで興味がある訳じゃねえんだけど……まあでも、ここで俺が「あ、いや、ならいいっす」とか言ったらこいつは怒るんだろう。 間違いない。
京介「ちょ、ちょーみたいっす」
桐乃「ふ~~~ん? え~~~? う~~~ん」
京介「そこをなんとか……」
俺が手を合わせ頭を下げると、桐乃はさっきまでの元気良い感じとは百八十度変わり、だるそうな声で呟く。
桐乃「……あっつ」
……うん。
京介「暑いな……」
会議内容。 この暑さをなんとかしろ。
ちなみにメモには「暑い」と殴り書きがしてあるだけだった。 全く持って役に立たない。
んで、まあ要するに桐乃様からの命令って訳だ。 この気温をどうにかしろってことだな。 どんな相談なんだろうな、これ。
京介「一応扇風機あるけど……」
桐乃「それじゃ一人しか涼しくならないっしょ」
京介「……俺は別に無くていいからさ、お前使えよ」
桐乃「ヤダ。 それじゃあたしが納得しないの」
いやいや……多分こいつなりの優しさなのだろうが、俺はマジでお前が涼しくなってくれれば良いんだけど。
一応、去年も同じくらい暑かったと思うが、それは乗り切っている訳だし。
桐乃「てゆうか、前の家住んでたときもさ、京介の部屋ってエアコンとかなかったよね?」
京介「まーな。 その点、お前の部屋は実に快適だった……」
あれこそ格差社会だよね。 俺が夏、暑っちい暑っちい言いながら必死にリビングで涼んだりしているとき、こいつはクーラーが効いた部屋でエロゲーを嗜んでいたのだろう。 なんだか想像したらちょっとムカツクな……。
桐乃「……勝手に入ってないでしょうね?」
じっとりしたような、だけど暑さにやられて若干死んだ目のような、そんな視線を俺に向ける桐乃。
京介「え? めちゃくちゃ勝手に入ってたけど」
先ほどの少しムカついた気持ちをぶつけるべく、俺は本当にどうでもいい嘘を付く。
桐乃「は、はぁ!? な、なななにしてんの!?」
京介「そういえば、桐乃のベッドはすげー寝心地良かったぞ。 うんうん」
桐乃「べ、ベッドって……!」
先程までの目が嘘のように、桐乃は見開いた眼差しをふらふらと彷徨わせている。 動揺しまくりだな、こいつ。
京介「ははは、さすがに冗談だぜ? 勝手に入ったりしてねーよ」
桐乃「……お、驚いた。 マジで一瞬、京介と一緒に暮らしているのが不安になりかけた」
京介「俺もそこまではしねーって。 お前だって、俺の部屋に勝手に入ったりそんなしてないだろ?」
一番最初。 メルルのパッケージに入ったエロゲーを探しに来た時。
俺が一人暮らしして、部屋に私物を置いた時。
そのくらいかな。
桐乃「……ま、まあね?」
……そのくらいですよね?
京介「き、桐乃?」
桐乃「あ、電話!!」
と、鳴り初めて1秒も経たないうちに桐乃は言い、電話を取る。 すっげえ速度だ。 体力まだあるじゃん。
桐乃「もしもーし」
桐乃「……なんだ、あんたか」
お、分かった。 黒猫だな、どうせ。
桐乃「は? 暑いかどうかって? 暑いに決まってんでしょ! 一々そんなんで電話したワケ?」
桐乃「え? ……なに、教えて」
桐乃「ふむふむ……はぁ!? ちょ、ちょっとそれはマズイでしょ!!」
な、なんだ……明らかに桐乃の様子がおかしいが。
桐乃「だ、だけどっ! ……うん。 マジ?」
桐乃「そ、そか。 なら、やってみよっかな」
桐乃「ありがと。 は!? するワケないっしょ!!」
桐乃「……ふう」
ようやく黒猫との一戦を終えたらしい。 桐乃はヒートアップしていたのか、先程よりも汗を掻いているようにも見える。
京介「黒猫か? なんの電話だったんだよ?」
桐乃「そだケド……なんか、暑さを和らげる方法があるとかナントカ……ゆってた」
京介「そんなのあるのか? で、どうすんの?」
さすがは黒猫。 あいつって、意外と物知りなんだよな。 助かるぜ。
桐乃「え、えっとぉ……」
桐乃「……暑いと思うのは、中途半端な暑さの所為、とか?」
京介「全然中途半端じゃねえぞ……」
この部屋の温度、三十度はあるんじゃね? そんくらい暑いぜ。
桐乃「だ、だから。 えっと」
言い辛そうに、しかし健気に、桐乃は言葉を紡ぐ。
桐乃「…………くっつけば、マシになるって」
京介「……」
京介「……え?」
桐乃「……あんたとあたしでくっつけば、マシになるって」
京介「くっつくって……物理的に?」
桐乃「……ぶ、物理的に」
聞かなきゃ良かったよ! 黒猫の奴ろくでもないこと言いやがって!!
京介「……嘘だろ?」
桐乃「で、でも……試さないと分からないじゃん?」
京介「そりゃ……一理あるけど」
京介「……ううむ」
桐乃「ど、どうすんの」
京介「……一応、やってみるか?」
桐乃「……う、うん。 おっけ」
で、黒猫さんの言われた通りにくっつこうとしたのだが。
京介「ど、どうやってくっつくの?」
桐乃「どうせなら、京介の膝の上……とか」
京介「……マジ?」
桐乃「く、くっつくならそっちの方がそうっぽいっしょ!? だ、だから!」
京介「わ、分かったよ……じゃあ」
京介「ほら」
俺は言い、胡坐を掻いて桐乃を見る。
桐乃はこくりと小さく頷くと、俺の近くまで来て、その上へと座った。
京介「ど、どうだ?」
桐乃「どうってゆわれても……」
桐乃、耳まで真っ赤じゃねえか。 相当恥ずかしがってるだろ、これ。 いや、俺もすっげえ恥ずかしいけどさ。
桐乃「も、もっとくっついた方が良いんじゃない?」
ヤバイ! 桐乃さん、若干壊れ始めてないか? なるようになれ状態になってんぞ!
桐乃「……ほら、早く」
言いながら、桐乃は俺の腕を掴む。
……多分、抱き締めろってことだろう。
京介「……おう」
俺は素直に、それに従う。 後ろからゆっくりと、桐乃を抱き締めた。
俺ってこのクソ暑い中、妹と何をやっているんだろうな? そんな風に思ってしまうほどに暑い。
……んで。
京介「……ちょっといいか?」
桐乃「……なに?」
京介「……これ、普通に暑いし汗でめちゃくちゃ気持ち悪いんだけど、お前は?」
桐乃「……同意見」
こうしてその黒猫案は却下となった。
桐乃「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い!!」
京介「……十五回?」
桐乃「数えるなっつーの!! とにかく暑すぎ! この部屋おかしいんじゃないの!?」
京介「部屋がおかしいっつうよりは、気温がおかしいんだと思うが……」
桐乃「あーつーいー。 どうにかしてよ」
京介「だから、扇風機を使えばいいんじゃねえの?」
桐乃「それじゃ、あたしだけしか涼しくならないっしょ。 扇風機小さいし」
京介「……なら、コンビニ行ってアイスでも買ってくるか?」
桐乃「外歩きたくなーい。 暑いし」
京介「桐乃は家で待ってても良いって。 俺が買ってきてやるからさ」
桐乃「……やだ」
京介「なんで?」
桐乃「なんとなく、ヤダ」
……面倒くさいなこいつ! どうしろっつうんだ!?
桐乃「あーつーいーんーだーケードー」
京介「……昼飯、冷たいもの食べるか?」
桐乃「涼しくなるの一瞬じゃん。 意味なーい」
京介「金出し合って、クーラー買うか?」
桐乃「今すぐじゃないからヤダ」
京介「……じゃあ」
京介「今から海でも、行くか?」
桐乃「いくっ!!」
……つくづく面倒臭い奴だった。 マジで。
海に行きたいなら最初から言えって。
それから。
桐乃と俺は身支度を整え、電車に乗り、海へと向かった。
さすがにめちゃくちゃ近いって訳では無いが、そんな遠くも無い、そのくらいの距離にある海。
桐乃「海きたぁあああああ!!」
嬉しそうだなぁ。 メルルのイベントと同じくらい嬉しそうだ。 比較対象があれだけど。
京介「そーいやさ」
まだ夏休みにも入っていないので、人はそこまで多くない。 辺りの音が静かなことから、少し離れた場所で海に入っている桐乃にもその声は届いた。
桐乃「んー?」
京介「お前、俺と一緒に海に行くくらいなら、あやせと行くって言ってなかったっけ?」
桐乃「……忘れたし」
嘘付けや! 気まずそうに視線逸らしやがって。
京介「おっかしいなぁ。 俺はちゃんと覚えてるんだけどよー」
桐乃「ふん。 もしゆってたとしても、何か問題あるワケ?」
京介「……いや、だからあやせと行った方が楽しかったんじゃね?」
桐乃「はぁ。 あんたさー、彼氏と海に来てつまんないって思う彼女がいると思ってんの?」
と、八重歯を見せながら笑い、言う桐乃。
京介「へっ。 だろうな」
京介「桐乃。 俺もお前と海に来れて、めちゃくちゃ楽しいわ」
桐乃「ひひ。 でしょ?」
そうして、日が傾き、涼しくなるまでの間、俺と桐乃はしばらく遊んでいた。
……別に、そんなイチャイチャ遊んでた訳じゃないからな? ベタなドラマとかである「捕まえてごらん」「あはは、待てー」みたいなことは無かったし。
あったことと言えば、桐乃が急に海水を掛けてきたので、俺も仕返しに掛け返したりってくらいだし。 ただの喧嘩みたいな物だろ?
っつう訳で、別にイチャイチャしてはいない。 うむ。
帰り道。
駅から出て、近くのコンビニで買ったアイスを食べながらの帰り道。
隣を桐乃が歩いていて、夕日に照らされた顔は思わず見蕩れてしまう物だった。
桐乃「なーに見てんの?」
京介「ん、ああ。 いや、なんでもねえよ」
桐乃「……ふーん」
いきなりお前って綺麗だよな、と普段なら返してそうな物だけど。
ただ、本当になんとなく桐乃の顔を見ていただけなので、急に聞かれると対応に困ってしまう。
京介「……今日、楽しかったか?」
桐乃「チョーつまんなかった」
桐乃「ってゆったら、これからどっか連れて行ってくれるの? ひひ」
京介「お前がマジでそう思ってるならな。 超楽しかったって言うまで付き合ってやるよ」
桐乃「さっすがー。 でも、大丈夫。 今日はチョー楽しかったから」
京介「そうかい。 そりゃ良かったぜ」
セミが鳴く中、吹く風は幾分か気持ちが良い。 何気無い会話の一つ一つがとても楽しくて、新鮮で、一日が終わってしまうのが少しだけ、寂しく思えてしまう。
桐乃「あ、そだそだ」
京介「ん?」
桐乃「今度さ、お祭りあるらしいんだけど、行かない?」
祭り、祭りかぁ。 もうそんな時期か。 ほんと、早い物だ。
桐乃と一緒に祭りね。 何気にすっげー久し振りじゃね? 最後に行ったのって確か、俺と桐乃が小さいときだったような。
こいつ、行きたい行きたい言うわりにはすぐに迷子になるんだよな。
京介「良いぜ。 俺が行かないとお前迷子になるもんな」
桐乃「どーでも良いこと覚えてるよね。 そんなの忘れろっつの」
京介「やだよ。 お前が「お兄ちゃん!」って言って泣きながら来たのを俺は今でも……」
桐乃「あーっ! 忘れろ忘れろ!! そーゆうのマジで良いから!!」
京介「ははは。 一生覚えといてやるよ」
桐乃「チッ……」
京介「怒るなって。 今となっちゃ良い思い出だろ?」
桐乃「……どーだろ」
桐乃「子供の頃ってさ。 お祭りとか、すっごく楽しいじゃん? お祭りだけじゃなくて、家族で出かけるってのが……それだけで楽しいことだったりするじゃん?」
京介「まぁ、それはあるかもな。 なんとなく、分かるぜ」
桐乃「でも、迷子になったり、嫌なことも沢山あるんだよね。 一人になると、怖いし」
桐乃「もう誰も来ないのかな、なんて思ったりね」
京介「……そっか」
京介「よし。 決めたぜ、桐乃」
桐乃「ん? 決めたって、何を?」
京介「今度の祭りで、お前に絶対嫌な思いはさせないって」
桐乃「ほ~う。 じゃあ、あたしはどっかで休んでるから、食べたいってゆったヤツ買ってきてね」
京介「……それはなんか違くね?」
桐乃「ふ~ん。 足痛くなるから歩くのヤなんですケドぉ」
京介「ほ、ほう……なら、お前は俺が嫌な思いをしても良いって言うんだな?」
桐乃「はぁ? べっつにそれは良いケド。 でもぉ、京介がどーしてもってゆーなら仕方ないかなぁ?」
桐乃「どーしてもあたしと一緒に歩きたいってゆーなら、考えてあげるケド……?」
いつもなら。
いつもなら軽口でも叩いて、それかからかうように言って、終わる場面。
だが、今日は何故か少し違った。 それは多分、俺が桐乃と居る時間を少しずつだが失っている様に思ってしまったから。
一緒に暮らし始めてから、もう既に半年以上経っている。 あの時は冬で、今は夏。 勿論、これから先ずっとこいつとは居るつもりだけどな。
それでも、この一年は一度っきり。 絶対に、やり直しはできない。
だから、俺は言った。
京介「どうしてもだよ! 俺はお前と一緒に居たい」
桐乃「え、あ……う……うん」
桐乃「……なら、一緒に居よ」
京介「へへ。 おうよ」
夏はまだ、始まったばかりだ。
気温上昇中 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
そういえば、PS3の俺妹ハッピーエンド予約してきました。 今から楽しみ。
このSSに触発されてbest版も出たし俺妹P続買ってきたわ
こっちの桐乃もなかなか破壊力あった
うーん、
親父とおふくろは家でどんな話をしてんのかなあ。
桐乃がこのssの最初と比べてしっかり変わってるのが良いよね
毎日お疲れさま
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
>>286
俺妹Pのきりりんはテラ可愛い
P続のきりりんは破壊力がヤバイ
>>292
それは全く想像が・・
>>293
変わったというよりは、本音を言えるようになったと解釈して頂ければ!
それでは、本日の投下致します。
7月の終わりが見えてきた頃。
京介とあたしが暮らしているアパートにて、あたしと加奈子とあやせは向かい会っていた。
桐乃「え、ええっと……今日はどうしたの? 急に」
京介は今大学へ行っていて、あたしたちは終業式を終えて、そのままここに集まったというワケ。 それも突然、あやせと加奈子が今日行くと言って付いて来たんだケド。
加奈子「急にじゃねえって。 前々からあやせと、桐乃については話さねーとって話してたんだから」
桐乃「あたしについて? ……何を?」
あたしは言いながら、あやせの方に顔を向ける。
あやせ「あ、えーっとね。 あはは」
桐乃「……笑って誤魔化さないで」
あやせ「うう……うん。 分かった」
何かを決めたような顔付き。 こ、これから何が始まるのだろう?
加奈子「桐乃とぉ。 京介がぁ。 バカップルすぎて見掛ける度にキモイって話だよな?」
あやせ「ちょ、ちょっと加奈子!!」
桐乃「ふ、ふぇ?」
あ、あたしと京介の話? それより、バ、バカップルって!?
桐乃「ど、どーゆうこと!? 別にそんなんじゃないし!!」
加奈子「は~? マジで言ってんの? 周りから見たお前らってぇ。 相当アレじゃね?」
あやせ「……加奈子、ちょっと話を纏めるから、少し黙っててね」
加奈子「……あ、オッケ」
あやせ怖い。 加奈子を一発で黙らせてしまった。 だけど今は少しありがたいカモ。 全然話の内容が見えて来ないし。
あやせ「き、桐乃。 怒らないで聞いてね……?」
桐乃「聞いてから決める。 んで、なに?」
あやせ「え、えーっとね……桐乃とお兄さんって、少し仲が良すぎなんじゃないかなぁ? って話をしててね」
桐乃「そんなことないしっ! ふつーだっての! フツー!!」
あやせ「で、でも……」
桐乃「それにそうだとしても良くない? だ、だって……付き合ってるんだし」
加奈子「惚気来た? 惚気来ちゃった?」
桐乃「ち、ちがっ! そうじゃないって!!」
な、なんなの!? これってなんの話なワケ!?
あやせ「……その、話を聞かされる私たちの身にもなって欲しいなぁ。 ってことかな。 嫌では無いんだけど……なんか」
桐乃「なんか、なに?」
あやせ「……聞いてて恥ずかしいから」
そ、そんなワケないじゃん! あやせや加奈子にしている話なんてマジで当たり障りの無い話だっての!!
桐乃「そんな話はぜったいしてない! あ、あー。 分かった。 分かっちゃった」
加奈子「分かったって、何が?」
桐乃「ふ、ふふん。 あやせも加奈子も、あたしみたいに純粋な付き合いをしたことが無いから、そう思っちゃうんじゃない?」
加奈子「は、はぁ!? テメー、加奈子の恋愛経験舐めてんの?」
桐乃「だって、加奈子のってなんか不純だしぃ。 仕方ないかなぁ!」
加奈子「……お前だって人のこと言えねーだろ」
なんか言った気がするけど、無視無視。
桐乃「ね? だからあたしのはそういうのじゃないの。 分かった? あやせ」
あやせ「じゃ、じゃあ聞くよ!? この前桐乃が私にした話だけど!」
あやせ「「ねね、あやせ。 この前京介とアイス食べたんだケドぉ。 あいつってば、美味しくない美味しくないゆってさー。 あたしはそんなこと無いと思うんだよね」って話、覚えてる?」
似てるなぁ。 あたしが話しているみたいだ。
桐乃「……あったケド、それが?」
あやせ「そ、それが!? この話にはまだ続きがあるからね!?」
あやせ「良く良く聞けば……一つのアイスを一つのスプーンで食べてたとか!」
桐乃「え? え? そ、それってマズイ?」
た、確かに恥ずかしかったケド……そんな、マズイことだったのかな? 世の中のカップルたちは皆やってると思うケド。
だってそれに仕方なくない? たまたまアイスが一つしかなくて、わざわざスプーンを二つ使うのもあれだったし……。
あやせ「ま、マズイって! 普通はそこまでしないから! したとしても人に話さないから!!」
桐乃「……う、ごめん」
そこまで強く言われると、なんだか申し訳ない。
あやせ「わ、悪いことでは無いと思うよ……だから、謝らないで」
桐乃「……うん」
加奈子「あ、そーだ!」
桐乃「な、なに? 加奈子」
加奈子「この前さぁ。 渋谷でお前ら見たんだよね」
桐乃「……あたしと京介?」
加奈子「ったりめーよ。 桐乃と京介」
桐乃「べ、別にどこで見たって良くない? 結構出掛けてるし」
加奈子「あたしだって、そんなので一々文句は言わねーって。 行動がヤバかったから言ってるんだっつーの」
行動がやばかった? そんなワケ、無いと思うケド。
桐乃「それっていつのこと?」
加奈子「先週末。 加奈子が仕事終えて、一息付いてたら見掛けたんだよ」
……それは確かにあたしと京介で間違い無いと思う。 でもあの日っていつも通りだったし、ヘンなことなんてしていないはずだよね。
桐乃「……具体的に、どんな風にやばかったの?」
加奈子「桐乃、自分で分かってねーもんなぁ。 んじゃさ、ちょっとその日のことを話してくれよ。 その後あたしは話すからさー」
桐乃「わ、分かった。 じゃあ、話すね」
あたしはその日のことを思い出しながら、ゆっくりと語り始める。
桐乃「よ。 待った?」
京介「……どうした? お前、熱でもあるのか?」
桐乃「は、はぁ? なんでそんなこと聞くワケ?」
京介「いや、だって「待った?」とか桐乃が言うなんて。 いきなりびびったぜ」
桐乃「たまにはいーっしょ。 デートみたいじゃん」
京介「みたいってなぁ。 普通にデートだけど」
桐乃「ひひ。 だね」
加奈子「はいアウトー」
桐乃「な、なにがよっ! まだ始まって一分も経ってないんだケド!!」
これからじゃん!? 会って数分で何がアウトだっての!!
加奈子「いや。 同棲してんだから、わざわざ待ち合わせしている意味が分からないっつー話」
桐乃「そ、それは……そっちの方が、盛り上がるし」
加奈子「ハァ? んなメンドくせーことしてどうすんのぉ?」
桐乃「……別に良いじゃん! あ、あやせはどう思う?」
あやせ「え? 私は別に……そのくらいなら良いと思うけど」
桐乃「ほらぁ! そのくらいなら良いって! 加奈子聞いてたぁ?」
加奈子「裏切るってのかよ、あやせ! ……ったく。 あやせは本当に桐乃には甘いよなー。 ま、どーでも良いけど」
加奈子「じゃ別にその事に関してはいーや。 桐乃、話続けてくれよ」
桐乃「ふん。 だから普通だってゆってんのに」
中途半端なところで区切られた話を続ける。 まだまだ1/10も語れてないしね。
桐乃「ねね。 今日はどこいく?」
京介「ん? 今日はお前が服を見たいって言うから来てるんだけど……」
桐乃「……はぁ。 そうじゃないって。 可愛い彼女がどこに行くかって聞いているんだから、どこに行きたいか察してってことでしょ?」
京介「お、おう……悪いな」
桐乃「良いよ。 で、どこ行く?」
京介「……えっと。 お前ってどこ行きたいの?」
桐乃「なんでそうなるッ!? 今さっきゆったばっかじゃん!!」
京介「いや。 まずお前がどの店に行きたかったのか知らないし」
桐乃「チッ……ま、良いや。 ほら、付いて来て」
そう言い、あたしは京介の手を掴み、目的地まで連れて行くことにした。 ったく、たまには格好良く居て欲しいのに。
……今のままでも充分だケド。
加奈子「アウトアウト」
桐乃「だからなにがよっ! どこにもアウトになるところなんて無かったんですケドぉ!」
あやせ「……わたしもそう思うよ? 加奈子。 付き合ってはいるんだから、別に普通じゃないかな?」
桐乃「ほらぁ! ほらぁ!」
加奈子「まぁ、あやせはその場面見てなかったからよー。 仕方ねえかもだけど」
加奈子「加奈子が見てたっての、その場面なんだよなぁ」
桐乃「そ、そうだったの? でも別に見てたとしても、あたしたちはおかしくなかったっしょ?」
加奈子「……桐乃、マジで言ってんの?」
加奈子が心配そうな眼差しをあたしに向ける。 なんなの? 本当にヘンなところなんて無いはずなんだケド。
あやせ「か、加奈子。 どういうこと?」
加奈子「こいつらさぁ。 このくっそ暑い中べったべったくっついてるんだぜ? しかも手を繋いだってふつーに言ってたけど、恋人繋ぎだったからな。 で、腕まで組んでたし」
あやせ「……本当に?」
加奈子「あたしが見間違える訳ねーって。 マジだよ、マジ」
桐乃「……そうだケド。 それが?」
加奈子「ハァ!? お前らこのセミも死ぬような気温の中、あんだけくっついて気持ちわるくねえの!?」
桐乃「べ、別に……? 付き合ってるんだし」
桐乃「あやせも、問題無いと思うでしょ?」
あやせ「……ごめん桐乃。 アウト」
あやせまで!? なんでなんで、どうして!?
あやせ「だって、今まで桐乃が「あいつと手繋いだ」って言ってたのが全部そうなんでしょ? それはちょっと……」
桐乃「あーもう! 付き合ってるんだから良いの! はい終わり! 次話すよ!?」
加奈子「……大分吹っ切れてるな、桐乃」
あやせ「あ、あはは」
京介「欲しい服、あったか?」
桐乃「うん。 ばっちし! 来て良かったぁ」
京介「そか。 なら俺も良かったぜ」
京介は言い、あたしに笑顔を向ける。 本当に楽しめていたかな、と思っていたケド……大丈夫だったらしい。
それがまた、来て良かったと思える。
桐乃「んじゃ、次はどーする? まだ時間あるケド」
京介「そうだなぁ。 どっか、飯でも食っていくか? 腹減ったし、前に渋谷の方で美味しい店があるとか、言ってたろ?」
桐乃「さすが! 良く覚えてたじゃん。 ひひ」
やればできる! やっぱあたしの彼氏はこうでなきゃね。 いや、京介以外はあり得ないケド。
で、京介と手を繋ぎながら道案内。 向かう先は、喫茶店。
京介「へえ。 やっぱ桐乃が選ぶ店ってお洒落なところばっかだよな」
席に付き、辺りを見回しながら京介は言う。 嬉しそうな顔を見ると、あたしも連れて来た甲斐があるよね。
桐乃「でしょ? もっと褒めてもいいよ?」
京介「……別にそれは良いけど、俺が言うとお前いっつも、しばらくはだらけるじゃん」
桐乃「う、うっさい! あんたのは言いすぎなの! 突然言うし……」
京介「へいへい……すいませんでした」
だってさぁ、京介の褒め方ってマジでヤバイって。
真顔でヘンなこと言うし……お前って本当に綺麗だよな、とか。 死んじゃうから。
桐乃「……そだ。 今度のお祭り、浴衣着ていくから」
京介「どした? 急に。 和服って趣味じゃないって言ってなかったっけ」
桐乃「気分だし。 別にあたしがなに着てもいいっしょ?」
京介「まぁ、それはそうだけど……」
桐乃「……京介が見たいって前にゆってたから、着ようかなって思っただけ」
京介「……げふっ!」
京介「お、お前! そういうの急にすんのやめろ! 危うく死ぬところだったぞ!」
桐乃「ひひ。 さっきの仕返し~。 でも嘘じゃないんだからよくない?」
京介「お前なぁ……」
京介「……よし」
桐乃「んー?」
アイスティーを飲みながら、顔付きがちょっとだけ格好良いようにも見えなくも無い京介を眺める。 そして、京介はゆっくりと口を開いた。
京介「ま、そういう部分も好きだけどな。 お前の」
桐乃「ぐはっ……!」
今のはヤバイ! さっきまでヘラヘラ笑ってたあたしがメチャクチャ恥ずかしくなってきた! からかったのにそれを褒めるとかヤバイって!
加奈子「ハイハイハイハイハイ」
桐乃「な、なによ……?」
加奈子「まず、場所確認な。 お前らどこでその会話したの?」
桐乃「どこって……喫茶店だケド」
加奈子「だってよー、あやせ」
あやせ「あ、あはははは」
あやせ、顔が笑ってないよ。
加奈子「もう、バカップルってことでいい? めんどくせ」
桐乃「だ、か、ら! ふつーだってゆってんの!! むしろこれから……」
加奈子「これから? これから、なに?」
桐乃「これから……もっと仲良くなれると良いなって、思うし」
あやせ「ごほッごほッ!」
飲んでいた麦茶で咽てしまったようで、苦しそうにするあやせ。
桐乃「だ、だいじょぶ?」
加奈子「なぁ、あやせ。 もうこいつら手に負えないって」
あやせ「う、うう……まだ、まだ桐乃は大丈夫だと思う」
加奈子「……いやぜってー無理だろ」
そんな言い方をされると……なんかちょっとムカつくんですケド。
桐乃「もう! なにがそんなおかしいの!? 別に良くない!?」
あやせ「き、桐乃……」
桐乃「あたしがどうしようと別に良いでしょ!? あやせや加奈子に関係ある!? これからそういう話は二人にしないってことで、良いでしょ?」
加奈子「あー……。 違うんだよ、桐乃」
あやせ「……うん。 ごめんね」
桐乃「……なにが?」
あやせ「実は、ちょっとだけからかおうって面が強かったの。 私や加奈子も本気で嫌がってる訳じゃないよ。 桐乃、お兄さんのお話するとき、すごく幸せそうだし」
桐乃「そ、そんなことないし……」
加奈子「けどよぉ。 桐乃」
加奈子「京介ってぇ、絶対浮気するぜ? あやせとかあたしとか、この前居た……野良猫だっけ? とか」
桐乃「そんなことないもんっ! 絶対に無い!!」
加奈子「ふうん。 じゃあさ、試してみようぜ?」
桐乃「た、試す?」
加奈子「そ。 ま、あたしに任せとけ!」
なんだかすっごく不安なんだけど……大丈夫かな。
ガールズトーク 前編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
かなかなちゃんのキャラが今一違う感じがしてならない……
展開が読めちゃうのは、もうどうしようも無いんですよね。
ネタもまだ色々とあるんですが、山が無ければ谷も無い感じです。
8月の14~16話のネット配信までの暇潰し程度に読んでいただければ、良いかなと思っております。
3スレ目ももう300超えか
ちょっと質問なんですけど、こんな話が見たいみたいな要望書いて、作者さんが書けそうなお話なら書いてもらうことって可能?
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
>>355
あくまでも参考までに、といった感じでなら大丈夫ですよ。
私も投下したいお話があるので、全部が全部書けるという訳では無いですが……。
前にも書いた桐乃と京介の結婚後の話は提供して貰った物ですし、あの様な形で良いのならですけど。
大体こんな感じのがみたいと書いて貰えれば、考えている本筋から逸れていなければ出来る限り書かさせて頂きます。
それでは、投下致します。
あやせ「ごめんね……桐乃。 こんなことになっちゃって」
横であたしと同じ様に隠れているあやせが、そう話し掛けて来た。
桐乃「いいよ、別に。 気にして無いから」
あやせ「……うん」
あたしとあやせは今、公園内の茂みに身を潜めている。 こうなったのも加奈子が「試してみよう」とか言うから。
京介を疑ってるワケじゃない……だけど、京介があたしが居ないところだとどんな話をしているのかってのには、少しだけ興味があった。
加奈子「おっせーぞ! 京介!」
ベンチに座っていた加奈子が、声を出した。 京介が来たんだろう。
京介「わりいわりい。 で、何の用事だよ?」
京介からは先ほどメールが来ている。 加奈子と会うけど良いかって。 あたしはそんなのは構わないんだけど、真面目だよね。 それにちゃんと言ってくれるのは……やっぱり嬉しい。
加奈子「京介、あたしと付き合えよ」
ちょ、直球すぎ!? そんなんじゃ京介がオッケーするワケないじゃん! むしろオッケーしたらすぐに殺す! あやせと一緒に!
京介「はぁ? なに言ってんの、お前」
京介「あー、もしかして……また仕事関係か? 俺、もうあれはやってねえんだけど」
加奈子「は~。 ま、良いや。 じゃあ、あたしとデートしてくれない?」
京介「お前今日どうしたの……? 頭でも打ったか?」
加奈子「ひっど! 折角あたしが誘ってるのにそれは酷くね!?」
京介「はは。 悪かったな。 んで、何の企みだよ、それは」
加奈子「なんも企んでないっつーの。 だからデートしてくれよ~」
京介「んー。 悪いけど無理だ。 軽く話すくらいなら良いけどよ」
加奈子「桐乃が嫌だって言うからだろぉ? ばれなきゃいいべ」
京介「ばれたら俺が死ぬじゃねえかよ……つうか、それ以前にあいつが嫌な気分になることを俺はしたくない」
加奈子「ふーん。 加奈子のこと嫌い?」
加奈子「知ってる知ってる。 で、こんな風に軽く話すくらいなら良いってことだよな?」
京介「ま、このくらいならな……」
い、良いんだ。 このくらいなら。 別にあたしもイヤってワケじゃないから良いケド……。
そ、そうそう。 京介のことは信用してるし? そりゃ、京介だって友達とは話したいだろうし?
なによりあたしって京介と一緒に暮らしちゃってるし!! だからあたしが他の女に負けるわけがない!
加奈子「うっし。 じゃあとりあえず、なんか飲み物買って来いよー。 京介のオゴリで」
京介「お前は本当に可愛くねえな……いきなり呼び出しておいて、飲み物買って来いって桐乃並だぞ」
加奈子「桐乃よりはかわいーだろ? ははは」
あやせ「……チッ」
あ、あやせ? なんか凄く怖い顔してるけど……。 加奈子、明日無事でいられるのかな。
あやせはそのままの顔でカチカチと携帯をいじり、あたしの方に顔を向けた。 ちなみにもう、笑顔。
あやせ「桐乃。 もう大丈夫だから」
だ、大丈夫って……なにが? ちょっと怖いんですケド。
京介「おーう。 買ってきたやったぞ。 感謝しろよ」
加奈子「あ、お、おう……」
京介「どした? 携帯見て青ざめてるけど」
加奈子「な、なななんでもねーっつーの! 大丈夫!」
京介「挙動不審すぎるだろ……大丈夫なら良いが」
加奈子「……桐乃の方が可愛いな、間違いねえ!」
京介「……マジでお前どうしたの? 今日なんかおかしくね?」
加奈子「んなことねーって! で、そう思うだろ?」
京介「ん? あー、桐乃の話か」
京介「そりゃまあそうだろ! 俺の彼女だし俺の妹だぜ? 可愛くないわけがねえよ!!」
……そんな大声で言うなっつーの。 ばーか。
加奈子「……テンションの上がりっぷりがキメエ」
京介「ははは。 いやあ、だってさ。 桐乃の話が出来る奴ってすげー少ないからなぁ」
加奈子「それは仕方ねーだろ? 世間一般じゃ受け入れられないんだからよ」
京介「まあな。 でも、やっぱこうして話せる奴がいるっての幸せなことだよ」
加奈子「へえ。 あたしは桐乃に惚気話ばっかされてイヤになってるけどな?」
京介「お、おう……それは悪い」
加奈子「っつうわけで、そんな桐乃なんかよりあたしと付き合おうぜー。 京介」
何かが軋む音が横で聞こえた。 音の方を見ると、あやせが携帯を握り締めている。
桐乃「……あ、あやせ?」
あやせ「……うん。 あやせ。 大丈夫。 大丈夫だよ、桐乃」
いや絶対大丈夫じゃないっしょ!? 止めないと今すぐにでも、加奈子の命が危ないかもしれない! ついでに京介の命も!
と、そんな風に思ったとき声が聞こえた。
京介「加奈子、今のは取り消してくれないか」
声色からすぐに分かる。 京介、怒ってる。
京介「俺のことは別になんて言ってもいいけど、桐乃のことを悪くは言わないでくれ。 俺が、誰よりも好きな奴だから」
加奈子「……はいはい。 分かった分かった。 取り消してやんよ」
加奈子「じゃあさ、もしも加奈子と桐乃のどっちかしか助けられないってなったら、どーする?」
京介「……嘘は言わない方が良いよな。 俺は、桐乃を助けるよ」
加奈子「そっか、そうだよなぁ。 そー言うと思った」
加奈子「うっし。 んじゃあ今日の話し合いは終わりってことで! またな~」
京介「突然すぎるだろ……ごめんな、加奈子」
加奈子「謝って済むかっつーの! あたしだから許してやるけどぉ」
京介「ありがとよ。 これからも、桐乃と仲良くしてくれよ」
加奈子「ったりめーじゃん!」
桐乃「ほらほらほらほらぁ!! だーかーらーゆったじゃん!?」
加奈子「うっぜ……桐乃うぜー」
現在は喫茶店。 あたしと、加奈子と、あやせで。
桐乃「京介が浮気するワケないじゃーん! えへへへへ」
あやせ「うんうん。 もし加奈子程度の女の子になびいてたら、今頃お兄さんは息してないよね」
加奈子「自然に加奈子程度とか言うのやめてくんね? ねえ、あやせ」
桐乃「京介はぁ……あたしのことがぁ……誰よりも好きなんだってぇ~~~。 聞いたっしょ? ん~?」
加奈子「はいはい……聞いた聞いた」
桐乃「んでぇ。 加奈子とあたしだったらあたしを助けるんだってぇ~~~。 即答だったよ? そ、く、と、う! 考えるってゆーより、条件反射だったよねぇ~。 どんな条件だったんだろうね? 気になる? 気になる?」
加奈子「どうでもいいっつうの! んなもん知りたくねーよ!」
桐乃「え~? それはぁ……あたしのことが好きだから、かなっ! ひひ」
加奈子「だー! うっぜええ! 桐乃とこれからも仲良くしろとかマジ無理だろ!?」
桐乃「あははははは! あいつあたしに惚れすぎっしょ~。 マジ、チョーキモイって~!」
キモイキモイ! えへへへ。
あやせ「桐乃、桐乃」
桐乃「ん? ああ、あやせ。 どしたの?」
あやせ「それくらいにしておかないと、加奈子が死んじゃうから……」
桐乃「あ、あー。 えへへ」
桐乃「……うん。 分かった……ふひ」
京介「ただいまぁ」
加奈子との良く分からない話を終えて、帰宅。
何故か途中で黒猫が家に来いと言って、桐乃に断りを入れてから言ったのだが、家の前に着いた途端やっぱり良いとか酷い仕打ちを受けているので、若干だがテンションは下がり気味。
無駄な労力を使ってしまったからな。 急に加奈子に呼び出されたり、黒猫からいじめを受けたり、今日は一体なんだってんだ……。
そんなことを考えながら、部屋の中に入る。
桐乃は今日、学校が終わったら家に居るとは言っていたので、それを考えると若干だがテンションは上がってきた気がするぜ。 へへ。
桐乃「おかえりっ!」
桐乃は珍しく、玄関に姿を見せる。 こういう時は決まって機嫌が良いときである。 何か良い事でもあったのだろう。
桐乃「えへへ。 カバン持つよ?」
そう言い、桐乃は俺が手に持っていたカバンを持ち、運んでいく。
……なんか機嫌良すぎじゃね? どんだけ良い事あったんだよ、こいつ。
京介「お、おう……サンキュー」
いつもと違う様子に若干戸惑いながら、俺は桐乃の後に付いていく。
居間に入ると、桐乃はカバンを置き、膝を抱えて床に座る込んだ。
京介「あー、レポートでもやるかな……」
桐乃「そう? ひひ。 じゃあ、あたしは静かにしてるね……ふひ」
……まあいい! とにかく気にしないでおこう!
そう思い、レポートに取り組む事にしたのだが。
時折、桐乃の方から「ふひひ」とか「あは」とか、そんな笑い声が延々と聞こえて来る。 ぶっちゃけ気味が悪いぞ。
しかも、横目でちらっと見たら、すっげー笑顔。 どうしたんすか、マジで怖いんですけど。
どれだけ良い事があったらこんな上機嫌になるんだろうな……つうか、もう上機嫌を通り越して少し頭が悪い人になりつつあるが。
ちょっと試してみるか……? 普段だったら断られるようなことを頼んでみるとか……?
京介「……喉渇いたな」
桐乃「あたしなにか作ろうか!?」
言った瞬間、桐乃が手をパンッと叩き、立ち上がる。 す、すげえ反応速度だ。 驚いた。
京介「お……う? じゃ、じゃあ頼む……あ、頼みます」
桐乃「おっけ! えーっと、コーヒーのがいい?」
京介「いや……何でも良いよ? 桐乃が作ってくれるなら、何でも嬉しいし」
桐乃「そ、そう? ひひ。 じゃあすぐに作ってくるねっ!」
桐乃は俺の方を向くと、一度にっこりと笑い、台所へと消えて行く。
……なんかおかしいぞ!? 普段の桐乃だったら、そうだな。
「はぁ? チッ……仕方ないなぁ。 どーしてもってゆーなら、別にいーケド」とか「ほら、しっかり感謝しなさいよ?」とか言いそうだぜ? なのに、今は二つ返事でOKと来た物だ。 何があったのだろうか……?
まさか、また酒を飲んだとか? いや、そうだとしても妙なんだよな……あの時は甘えてたって感じだったけど、今回は機嫌が良いって感じだし。
それに、あの時よりもなんだか自然な感じなんだよな……。
桐乃「お待たせっ。 はい、どーぞ」
言いながら、桐乃は俺のところにカップを一つ置く。
……やっぱり変だわ! も、もしかしてこれは夢……とか?
それにしては妙にリアルだよな。 ううむ。
桐乃「な、なに? あたしの顔に何か付いてる?」
京介「なあ、ちょっとこっち来てくれ」
桐乃「へ? う、うん」
手招きすると、桐乃は少し戸惑った様子を見せながらも、それに従う。
桐乃「……えっと、なに?」
すぐ隣に桐乃は座ると、首を傾げながら俺に聞いてきた。 見た感じ、普通だよな……。
京介「ちょっとごめんな」
言い、俺は桐乃の額に手を当てる。
……熱は無いか。 どうやら原因はそれでは無いらしい。
ってなると、他に考えられる可能性は。
桐乃「……はふん」
俺がそのままの姿勢で思考していたところ、桐乃はそんな声を漏らし、床に寝転ぶ。
京介「お、おい? 大丈夫か?」
桐乃「えへへ」
……すげえ嬉しそうだな。 足をばたばたしながら、床を手で叩いている。 なんだかこうして見ていると意地悪をしたくなってくるが……ここは我慢だ! まずは桐乃を元に戻さねえと!
京介「桐乃、聞きたいことがあるんだけど……」
桐乃「は、はい! なに!?」
一瞬でそこに座る桐乃。
……面白いな、こいつ。
京介「……えーっと。 なんか良い事でもあったのか?」
桐乃「あった! チョーあった!」
お、おおう……やっぱりか。
京介「へえ。 どんなことがあったの?」
桐乃「それは……」
桐乃「ひ、秘密……じゃ、ダメ?」
言いたくて仕方なさそうな顔だけど……それでも、言えないことって訳か。
なら俺が取るべき行動は。
京介「いや、良いよ。 お前が言いたく無いなら、無理には聞かねーよ」
桐乃「そうゆーワケじゃ無いケド……ごめんね」
京介「良いって。 気にすんなよ」
桐乃「えへへ。 うんっ」
可愛すぎる! ちょっと待てよ、落ち着け京介。
これはヤバイ! 今まで必死に我慢してたがこの桐乃は可愛すぎる! いつもとのギャップが堪らねえんだけど!
だ、抱き締めてやりたいが……今してしまったら、自分を抑えられなくなる可能性がある……。 ここが、ここが最後の防衛線ってことか。 ちくしょう!
なんていうか、あれだな。 好きとはまた違った感情だな。 勿論、桐乃のことは大好きだけど、それとはまた違った感情。
なんだ、守ってやりたいみたいな、そんな感じ。 桐乃さん天使すぎんだろ!?
俺はそんな葛藤を延々としながら、その日を過ごすのだった。
……ちなみに次の日。
一晩明けた次の日のことだ。
俺は昨日のこともあり、朝飯を食べ終わった後にこう言ってみた。
京介「桐乃、コーヒー淹れてくれよ」
と。
したら桐乃はこう返した。
桐乃「はぁ? なんであたしが淹れなきゃいけないの。 自分で淹れろっつーの」
まあ、そう言いながらも台所へ行ってくれるのでありがたいっちゃありがたいんだが、一日で元に戻りやがったな。
京介「……昨日のは何だったのかね」
一人呟き、次は桐乃に向けて言う。
京介「桐乃ー。 結局昨日のって何だったの?」
それを聞いた桐乃は台所から顔を出し、答える。
桐乃「やだ。 教えない。 聞かないってゆったじゃん?」
京介「……へいへい。 分かりましたよ」
桐乃「ふん……ふひひ」
……まだ少しだけ、続いている様だった。
ガールズトーク 後編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
oh ありがとうございます。
>>361-362
間に
京介「……お前って、なんか面倒な奴だったんだなぁ。 嫌いじゃねえって」
と京介の台詞が入ります。
申し訳ない。
乙です!
桐乃がなんで機嫌が良いのか言ったら今度は京介が1日中機嫌が良くなるんですねわかります
もし作者さんがよろしければ先日の桐乃が酒に酔って京介に甘える短編の逆パターンで
今度は京介が酒に酔って桐乃にセクハラしまくる短編が読んでみたいなあと思ったり
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
>>401
面白そうですけど、過程が難しいかも・・
今度ちょろっと書いてみますね。
それでは、本日の投下致します。
桐乃「へへ。 どう?」
京介「なんつうか……ほんと、すげえ似合ってるな」
目の前にはピンク色の浴衣を着た桐乃。 可愛らしく笑い、俺に浴衣を見せている。
8月15日。 今日は、二人で祭りに行く事になっていた。
日は沈み始め、時刻は18時。 夏だけにまだ明るいが、もう少し時間が経てば花火も綺麗に見える程に暗くはなるだろう。
桐乃「当ったり前じゃん? モデル舐めんな!」
京介「へいへい。 んじゃ、行こうぜ。 桐乃」
桐乃に向けて、手を指し伸ばす。 その手をしっかりと桐乃は掴み、俺と桐乃は祭りへと向かう。
桐乃の手は暖かく、俺の気持ちも心なしか穏やかになるのを感じた。
京介「うお。 結構人居るんだな」
まるで初詣みたいだ。 なんて呑気なことを思いつつ、隣に居る桐乃へと話し掛ける。
桐乃「ここら辺じゃ一番大きいお祭りだしね。 迷子にならないでよ?」
京介「どっちがだよ。 小さい時はすーぐ迷子になってやがったのに」
桐乃「ふん。 今は京介の方が心配だっての。 あんたって頼り無いし~?」
京介「……そうかいそうかい。 悪かったな」
桐乃「だから、手離さないでね」
京介「……おう」
んだよ。 なんだかんだ言いつつそういうことね。 まあ、言われなくても離す訳がねえけどよ。
京介「じゃ、どっから行く? 桐乃が行きたいところからで----------」
あ、やべえ。
あやせ「こんばんは。 お兄さん」
桐乃の後ろに、あやせが居た。
桐乃「お。 あやせじゃん」
京介「お、おま! なんで桐乃にストーカーしてんだよ!?」
あやせ「桐乃、偶然だね……って、な、なっ!? そんな訳無いじゃないですか!! 私がたまたまお祭りに居るのがそんなに変ですか!? ぶち殺しますよ!?」
あやせ「私はただ、友達と一緒にお祭りに来ているだけですっ!! それでお兄さんと桐乃を見かけたから声を掛けただけです!」
京介「あ、あー。 そういうことか。 なるほどね」
びびったびびった。 てっきり俺と桐乃が仲良く歩いているからストーカーしてんのかと思ったぜ。 全く紛らわしい真似をする女だぜ。
あやせ「何か、失礼なことを考えてませんか?」
京介「へ? いや、全然」
あやせ「どうにも嘘っぽいですね……」
京介「全然嘘じゃねえよ。 大真面目だって。 ほら、俺の顔を見てみろ。 どう見たって嘘なんか付いてる顔じゃねえだろ?」
そう言いながら、あやせの顔を見る。
と、横腹に衝撃。
桐乃「……なにあやせのことじっと見てんの?」
京介「お、おう……悪い」
桐乃が怒った原因は、そういうことだろう。 そんなのはもう、考える余地すらない。
あやせ「あはは。 じゃあ、邪魔者は失礼しますね。 またね、桐乃」
そう言い、あやせは俺と桐乃に手を振りながら人込みの中へと消えて行く。
昔だったら俺と桐乃が手を繋いでるだけで、多分ぶん殴られたんだろうが……。 あいつも、色々と考えているんだろうな。 つっても結局俺は桐乃に殴られている訳で。
桐乃「……ちょっとびっくりしたね」
京介「ああ、まあな。 てか、友達と来てるって言ってたけど」
桐乃「ん? それがどしたの?」
京介「……俺の事を兄貴だと知ってるのは、少ないからいいけどさ。 お前が男と歩いてるのって、見られたらマズくね?」
桐乃「んー。 えーっと、なんで?」
京介「いや、だってお前って学校じゃかなりの人気者なんだろ? 中学でもそうだったけどさ。 で、そんなお前が男と歩いてたらマズイんじゃねえの?」
桐乃「べっつにー。 あたしに彼氏が居ようが居まいが、あたしの勝手っしょ。 周りのヤツになんてゆわれても、気にしないし。 あたしは京介と一緒に居られればいいから」
……そうかい。 そりゃ、ありがたいお言葉だぜ。 桐乃。
桐乃「てゆーか、もっと堂々としてろっての。 なんなら腕組んじゃう? ひひ」
おうおう。 こいつはどうせ、知り合いに見られるから俺がそんなことはしねーと思っているんだろうよ。 だったら良いぜ……。
京介「ああ、そうだな。 そうするか」
言い、俺は桐乃の体を寄せて、腕を組む。
桐乃「へっ? ちょ、ちょっと……」
京介「ん? もしかしてお前、恥ずかしがってんの?」
桐乃「は、ハァ!? なワケないでしょ! 余裕だっつの。 ばーか」
京介「の割りには顔赤いけど」
桐乃「あ、暑いからっ! あんたがべたべたするからでしょ! ったく」
地面をダンダンと音を鳴らしながら踏み、桐乃はそう俺に訴える。 ついでに、空いている右手で俺の体をポカポカと叩きながら。
京介「ふ~ん。 ま良いや。 そういうことにしておいてやるよ。 でも暑いのかぁ。 なら離れるか?」
俺は言いながら、組んでいた腕を解く。 すると桐乃は小さく「あ」と言い、どこか寂しそうな顔をしていた。
……ああ、ちくしょう。 本当ならもう少しいじって遊びたいんだが、そんな顔をされてしまっては、俺にはどうにもこれ以上は無理だ。
京介「うっし。 んじゃあ気を取り直して……最初、どこ行く? 適当に歩くか?」
桐乃「うーん。 あんま歩くと、足痛いから……やっぱり普通に靴履いてくればよかったかな」
桐乃の足元をみると、夏らしく、祭りらしく下駄を履いている。 まぁ、確かに長距離歩くのには辛いよな。 それだと。
京介「もしあれだったらおぶってやろうか? はは」
桐乃「ばーか。 ま、適当にまわろっか」
京介「りょーかい」
とりあえず、ゆっくり回る事になった俺たちは屋台の間を歩く。 結構大きな祭りなので、出店の数は中々の物。
桐乃「あ、あれ!!」
桐乃が指差す先には射的。 ええっと、なに。 そんな珍しいか?
桐乃「ちょっと京介! あれ取ってよ!」
……ああ、そういうことか。
景品としてメルルのフィギア。 見た所普通のフィギアだけど、そんな欲しいのか? こいつ。
桐乃「結構前のイベント限定だったヤツ! あ、あれすっごい価値あるのに……こんなところにあるなんて」
京介「……ふうん。 いや、でもなんで俺にやらせようとしてんだ」
桐乃「ハァ? 可愛い彼女が可愛く頼んでるのに断るワケ? ありえないんですケドぉ」
……いや、可愛い彼女ってのは別に否定しないけど、可愛く頼んではいないだろ。 メルルの所為で緩んだ顔が若干こええぞ。
京介「人生そう上手くはいかねーんだよ。 まずは自分でやってみろよ」
桐乃「チッ……まぁ良いや。 取れればどうでもいいし」
で、射的開始。
桐乃「……」
黙りこくって黙々と銃を撃つ桐乃。 ちなみに、既に使った金は2000円程成り。
京介「……おーい」
桐乃「ちょっと黙ってて」
京介「……すいません」
つうか、こいつ下手すぎだろ!? 全然かすりもしてねーじゃん! んで、そのメルルのフィギアってのも結構な大きさだし、当たったとしてもあれじゃあ落ちないよな。
まー、とは言っても俺とて別段上手いって訳じゃねえし、任されたとしても、取れる自信は無いけどさ。
桐乃「あーもう!! 京介パス!」
言い、俺に銃を手渡す桐乃。 結局そうなるのね。
こいつ、あれだな。 自分が下手なの分かってて、俺にやらせようとしてたんだな。 素直にそう言えば良いのに。 まぁ、そこが可愛くもあるんだが。
京介「取れなくてもキレるんじゃねえぞ……?」
桐乃「あたしはそんな理不尽なことで怒らないって。 良く分かってるでしょ?」
何言ってんだこいつ。 ありえないんですケドぉ。
数秒間、桐乃の言葉を理解するのに時間が掛かっちまったぞ。
京介「はは」
返事代わりに苦笑いをして、金を払い、銃を構える。
……チャレンジしようとして分かったけどさ。 これ普通にやっても無理じゃね? どう考えたってこの弱っちい鉄砲であの箱に入ったフィギアを落とせる気がしねえんだけど。
無理ゲー無理ゲー。 思いながら桐乃の方に視線を向けると、なんだかすごい目付きをしていた。
くそ……あいつの考えていることが分かってしまう。 大方、絶対取ってね♪って思っているんだろうよ。
ちなみにフィルターをかけまくっているのでそう見えるが、実際は「取らないと後で分かってるよね?」くらいの事を思っているはずだ。 いや、もっと恐ろしいかもしれん。
桐乃が2000円ちょっとで、俺が1000円ちょっとか。 そんくらいの金を射的に使ったが、手元には何も残らなかったと。
……よし、気を取り直して別の場所行くかぁ。
桐乃「どこ行くの? まだ終わってないっしょ」
……はぁ、いつまで続ければ良いんだよ!!
「あなたたち、何してるの?」
もう祭りに来たというより、射的をしに来た感じになりつつある俺たちに、声が掛かる。 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには黒猫が居た。
黒猫「なんだか騒がしいと思って見てみれば……射的、かしら?」
京介「おお! 黒猫じゃねえか! 一人で来てるのか?」
桐乃「ぷ。 お祭りに一人で来るとかどんだけ寂しいの~? かわいそ」
開口一番に酷い事を言う桐乃。 お前は本当に容赦ねえな。
黒猫「……なんでわたしはお祭りに一人で来るキャラになっているのよ。 家族と一緒よ」
桐乃「え!? マジで!? ってことはひなちゃんもたまちゃんも来てるってことだよね!? どこどこ!!」
黒猫「今は待たせてあるけど……場所は教えないわ。 あなたの目が怖いから」
黒猫「それと、あなたもあなたよ」
そう言うと、俺の事を指差す黒猫。 俺、なんか変なことしたっけか?
黒猫「最初の台詞、友達と来てるのか? とか、家族で来てるのか? じゃなくて、一人で来てるのか? ってね。 酷い人だわ」
あ、あー。 そういやそうだったな。 あはは。
黒猫「……まぁ、良いわ。 それよりあなたたちは何が楽しくてずっと射的をしているの?」
京介「あぁ、それだけどな……」
と、俺が説明しようとしたところで、桐乃が横から口を挟む。
桐乃「なんかさ~。 京介がどーしても欲しい物があるってゆっちゃってぇ~。 仕方なく付き合ってあげてんの」
なんでそこで嘘ついてんのっ!? つうか、俺の所為にするんじゃねえよ!
黒猫「なるほど。 で、どれが欲しいのよ。 桐乃」
まぁ、そんな嘘に騙される黒猫では無いからいいけど。
桐乃「ん? あたし? あたしはぁ。 あのフィギア! チョー可愛いっしょ? あれ」
黒猫「……くだらないフィギアね。 百円の価値も無いわ」
桐乃「はぁ!? あんたがこの前あたしに見せてきたマスケラのフィギアの方が論外だから! あんなの道端に落ちてるレベルだっつーの!」
黒猫「な、なんですって……ふ、ふふ。 まあ良いわ。 それで、あなたたちはあのゴミにいくらお金を使ったのよ」
確かに俺から見たら何千円の価値も無いとは思うが、ゴミとはな。 ははは。
京介「えーっと。 二人合わせて……三千円くらいか?」
黒猫「……莫迦すぎね。 仕方ない、今からお手本をあなたたちに見せてあげるから、それを参考にして取りなさいな」
そう言い、黒猫は金を払うと、すぐさま銃を構える。
黒猫「……ククク。 闇より出でし銀色の弾丸よ……はっ!!」
見ていてすごく恥ずかしいが、一応参考にしねえとな。
で、俺はその光景をしっかりと見ていたのだが、黒猫が撃った銃は見事に商品に命中。 そして。
メルルのフィギアはしっかりと、下に落ちた。
黒猫「あぁ。 なんということ。 わたしとしたことが……あんなゴミを取ってしまうなんて」
黒猫「ゴミはゴミ箱にやった方が良いわね。 という訳で桐乃、あのゴミを受け取って頂戴な」
桐乃「え? マジで!? 良いの!?」
黒猫「な、なによ……わたしはただ、ゴミを押し付けただけよ」
桐乃「サンキュー! 黒猫!」
黒猫「だ、だから違うと言っているでしょう! 感謝される覚えなんて無いわ!」
桐乃「てか、あんたってめっちゃ射的うまいんだね。 やるじゃん?」
黒猫「あ、あなたね……ふん。 もう良いわ。 好きに言って頂戴」
こいつらマジで仲良いよな。 黒猫とか、明らかにメルルのフィギアを狙ってたし、桐乃も素直に喜んでるし。
黒猫「大体ね。 莫迦みたいに狙っても、落ちる訳が無いでしょう。 少し下から、角度を付けて撃つのよ。 狙う場所は中心よりやや下、そうすれば距離にも寄るけど、大体良い位置に当たってくれるわ」
京介「へえええ。 お前、すっげえな」
黒猫「べ、別にこのくらいは当然よ。 下僕を従えているわたしにとっては……」
げ、下僕……? うーんと、ああ。
妹たちのことか。 なるほどね。 それで黒猫は詳しいってわけね。
見た目は黒猫、中身は白猫って感じだなぁ。
……今のはつまらなかったな。 言わないでおこう。
しっかし、こうもあっさり取られちまうと俺としては少し納得が行かないんだけど……。
桐乃「やっぱ持つべきは友達ってことかなぁ? ねえ、京介」
ほらな? こうなるからだよ。
京介「……へいへい。 すいませんでしたね、情け無い奴で」
桐乃「次はもうちょっと頑張ってよね~。 ひひ」
お前だって人のこと言えねーだろ。 とは言うまい。 売り言葉に買い言葉って訳じゃないが、わざわざ気分を悪くするようなことは、言いたくないしな。
黒猫「ふふ。 それじゃあそろそろわたしは行くわ。 家族が待っているから」
京介「おう。 ありがとな、黒猫」
黒猫「だから、違うと言っているじゃない! あなたたちと来たら……全く」
そんなことを呟きながら、黒猫は去っていった。 家族のところへ。
……意識してあいつも言ったつもりじゃ無いんだろうが、家族……ね。
後悔しているつもりは無い。 また最初から、人生をやり直したいとも思ってはいない。 俺が選んだ、俺の話だから。
だけど、いつかまた、俺たちも……とは、思っちまうよな。
桐乃「どしたの。 ぼーっとして」
京介「ああ……黒猫、家族と来てたんだなって」
桐乃「……ふうん」
京介「……家族って良いよな。 なんて思ってさ」
桐乃「なっ!? あ、あんた子供欲しいワケ!?」
……何言ってんだこいつ!?
京介「馬鹿!! ちげーよ!! どうしてお前はいっつもぶっ飛んだ解釈をするんだよ!?」
桐乃「だ、だってそうじゃん!! あたしのことエロい目で見てたし!!」
京介「見てねーーーーよ!! お前が勝手に勘違いしているだけだ! 勘違いしないでよね!!」
桐乃「キモッ! あんたのツンデレマジでキモイからっ!」
へ、減らず口叩きやがって……。
いやでも待てよ……? こいつがそう解釈したってことは、それを望んでいる……ってことか? いやぁ、さすがになぁ。 高校生だぜ? 桐乃は。
……そう思っておこう。
京介「……ま、まあ次行くか。 いつまでもここでこうしてるのもあれだし」
桐乃「チッ……帰ったら説教だかんね」
なんで俺が説教される側なんだよ。 まあ、桐乃に説教する場合でも、される場合でも、最終的には雑談になるから良いんだけどさ。
京介「へいへい。 んじゃ、行くぞ」
夏の一夜 前編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます
こっそりエイプリルフールネタ、IFバージョン投下します。
完全にIFなので、時系列は12巻後の4月1日です。
今日は4月1日、エイプリルフール。
去年までならどうともなかったこの日だが、今年は例外で、少しだけだが警戒しないといけない日となっている。
というのも、最近になって桐乃は妙に俺に絡んでくるからだ。 それは当然、あの高校の卒業式の後のことが絡んでいるのは言うまでもあるまい。
んで、どうせあいつのことだ。 何かしらの嘘を俺に吐いて高笑いでもしようと企んでいるに違いねえ。 今、この時にでも「家が火事になってる!」と俺の部屋に飛び込んできてもおかしくは無いはず。
……ふむ。 となると、先手を打って俺が先に嘘を吐くか? いや、それだと逆手に取られて妹に酷い嘘を吐く奴のレッテルを貼ってきそうだし。
ううむ。
やはりここは、冷静に大人の対応として、素直に騙されておくのも良いのかもしれない。 あいつはそれで喜ぶだろうしな。
とにかく、ここでこうして考えているだけでは何も分かるまい。 一度、様子見も兼ねてリビングに赴いてみることにしよう。
そう思い、俺は自室から出るとリビングへと向かった。
桐乃「あやせ? 今日さぁ、丁度空いてるんだケドぉ。 この前ゆってた洋服見に行かない?」
リビングに入ると、いつものポジションで電話をしている桐乃が視界へと入る。 別段、変わった様子は無い。
桐乃「え~? 今日ダメなんだぁ……分かった。 え? 良いよ良いよ、そんな謝ることじゃないし」
しっかし、俺に対する態度とあやせに対する態度のこの差は何なんだろうな。 あんな一件があったにも関わらず、桐乃は相変わらず桐乃だし。
桐乃「うん……うん。 おっけ。 じゃあまた今度ね」
会話が終わったのか、桐乃は電話を切ると俺の方へと顔を向け、ひと言。
桐乃「なにじっとみてんの?」
おいおい、今はまだ午前9時だぜ? とりあえず朝の挨拶が先じゃねえのかよ。
とは思いながらも、それを口にすることはしない。 言ったとしても、何かしらの反論が飛んでくるのは間違い無いから。
京介「……別に、なんでもねーよ」
そう答え、俺は冷蔵庫に向かうと麦茶を取り出す。 桐乃はそれ以上何も言う気は無かったのか、テーブルの上に置いてある雑誌へと手を伸ばした。
桐乃「……そーゆえばさぁ」
京介「ん?」
視線をこちらに向けることもしない桐乃に対し、俺も視線を桐乃の方へやったのは一瞬で、麦茶をコップに注ぎながら次の言葉を待った。
桐乃「この前貸したゲーム、クリアした?」
……なんか借りてたっけ、俺。
京介「……えっと」
桐乃「チッ……どーせやってないんでしょ。 暇な大学生の癖に」
京介「大学生が全員暇みたいな言い方をするんじゃねえよ……俺だってなぁ」
桐乃「なに? あたしが貸したゲームより優先してやることとかあんの?」
それに限定するとしたら、他のこと全てが優先してやるべきことになるんじゃね? 妹に借りたエロゲーを速攻でやり込む兄貴とか、どこを探しても居ないだろうよ。
京介「俺も色々忙しいんだよ。 やることだってあるし」
麦茶を注いだコップを片手に、ソファーの空いている部分に座りながら、俺はそう言う。
桐乃「じゃあ質問。 昨日はなにしてたの?」
京介「……家で、ごろごろしてた」
桐乃「一昨日は?」
京介「……部屋で音楽聴きながら漫画読んでた」
桐乃「今日これからの予定は?」
京介「……特に無いっす」
桐乃「ぜんっぜん暇じゃん!! なに偉そうにやることがあるとかゆってんの!?」
京介「す、すんません」
いやはや、確かにこれには言い返せないな。 でも、妹にエロゲーをやっていないって理由でキレられるこの状況は、ちっとばかし理解しがたいぜ。
桐乃「ったく……ほら」
言いながら、桐乃はテーブルの上を指差す。 俺はつられて視線を移したが……当然ながら、そこには何も無い。
京介「……テーブル、がどうかしたか?」
桐乃「じゃなくて。 あたしが見てあげるからノーパソ持って来いっつってんの。 今日はお母さんもお父さんも家に居ないし」
京介「あ、ああ。 はは、そういうことね……」
桐乃「なに。 ヤダってゆーわけ?」
京介「……滅相もありません」
桐乃「だーかーらー! そこの分岐の意味、しっかり考えてよ! 今までのこと考えれば、そっちの選択肢はありえないっしょ!?」
確かにな。 どこでどう間違えたら休日の真昼間っから妹とリビングでエロゲーをする展開になるんだろう。 こっちの選択肢はありえなかったぜ。 やれやれ。
桐乃「……ほらあ、バッド直行じゃん。 あんたそれでやる気あんの?」
京介「あると思う?」
桐乃「無いっつったら死刑だから」
マジかよ。 高坂家ではエロゲーのやる気が無かったら死刑なのか……? いや、高坂家っていうよりは桐乃法って感じか。 独裁政治すぎる。
京介「分かった分かった……やる気はめっちゃある。 これでいいか?」
桐乃「チッ……ほら、次いくよ」
カチカチと慣れた操作で桐乃はマウスを動かし、先ほどバッドエンドになってしまったルートの選択肢まで戻る。
京介「ってことは……一番下がバッドエンドだったから、真ん中か」
横で真剣な顔付きの桐乃の顔を伺いながら、俺は独り言のように呟き、真ん中をクリック。
桐乃「だああああかあああらあああああ!!! なんでそうなんのっ!? そんなの選んだらまた同じじゃん!!」
京介「クリックする前に言えよ!? そうすればこうはならなかった!!」
桐乃「はぁあああ!? そーしたら意味ないっしょ!! ったく……」
やべえ、なんか泣きたくなってきた。 エロゲー始めてから横に座る妹にもう10回以上は舌打ちされてるぞ……。
なんで俺は、妹に怒られて妹とエロいことをするゲームを妹に見られながらやっているのだろう。 すげえ羞恥プレイじゃねえか、これ。
で、結局その羞恥プレイはお袋が帰ってくる夕方まで続くのだった。
京介「……なんか忘れてるな、俺」
夕飯を食べ終え、風呂にも入り、今は自室。
ベッドの上に寝転び、天井を見つめながら俺は一人呟く。
京介「……ううむ」
時計に目をやると、時刻は23時30分。 大分遅い時間になってきた。
京介「あれ」
ああそうだ! 思い出した! 今日はエイプリルフールじゃねえか!! すっかり忘れてたぜ……。
とは言っても、未だに桐乃からは嘘っぽいのは言われてないんだよなぁ。 あいつも忘れてるのかね?
……いや、まだそう決め付けるのは早計だな。 30分も残っているんだ、4月1日は。
京介「桐乃、どこにいんのかな」
行動を起こしてくるとしたら、残り30分の内だろう。 一応まだ警戒は解かない方が良いはずだ。 その為にも、やはり桐乃の姿を捉えておく必要がある。
そう思い、俺はリビングへと向かう。
ソファーの上では桐乃が座り、ファッション雑誌を眺めていた。 特に変わった様子は、やはり無い。
リビングの時計を見ると、時刻は23時40分。 ふむ……残り20分か。
麦茶で喉を潤し、桐乃に声でも掛けてみようか。
京介「桐乃」
桐乃「んー?」
やはり俺の方には顔を向けず、だがそれでも返事はあった。
京介「……また、ゲーム貸してくれよ」
桐乃「お、なに? 京介もやっと良さに気づいた?」
京介「まーな。 おすすめの今度でいいから、頼むぜ」
桐乃「おっけ! ひひ。 何本か貸したげるね」
……うむ。 こいつ、多分忘れてるな。 まあ、それはそれで良いんだけどさ。
京介「んじゃ、俺は寝るわ。 おやすみ」
桐乃「ん。 おやすみ」
言い、俺は自室へと戻る。
その途中、なんとなく歩きながら携帯を開いた。
……ん?
ちょっと待てよ。 これって……。
ベッドの上に座り、確認。
間違いねえ。 あいつは忘れていたわけじゃなかったんだ。 ってことは、俺の考えが当たっているとするならば。
部屋の時計を確認。 時刻は23時55分。
……来るな、あいつ。
そう思ったと同時、部屋がノックされる。
京介「んー」
返事をするとドアは開き、姿を現したのは俺の予想通り、桐乃だった。
京介「どした? なんか用事か?」
俺がいつもの様にそう返すと、桐乃は口を開く。
桐乃「……あの、さ」
桐乃「一応……ゆっときたくて」
京介「なんだよ?」
桐乃「あたし、その……あんたのこと、京介のこと……まだ、好きだから。 あの時と、気持ちは変わってないから」
桐乃はすっかり顔を赤く染め、そう言った。
俺はしっかりと、その言葉にこう返す。
京介「どうしたんだよ、急に。 俺だって一緒だぜ。 お前のこと、好きだから」
桐乃はそれを聞き、先ほどまでとは違い、馬鹿にする様に笑って言う。
桐乃「ぷ。 あははははは!! 京介ぇ、今日って何月何日ぃ? ひひ」
京介「ん……ああ、それか」
桐乃「反応うっす! もっと面白いリアクションとってよ」
京介「……悪かったな。 まあ、なんとなくそんなことだとは分かってたからさ」
桐乃「ふうん。 ま良いや。 そうゆーことだから、おやすみ~」
満足したのか、ドアを閉めようとする桐乃に、俺はひとつの言葉をプレゼントする。
京介「ところで桐乃」
京介「時計、しっかり直しとけよ」
その言葉を聞くと、桐乃は目を見開き、声にもならない声をあげながら勢い良くドアを閉めた。
やれやれ。 どうやらまだ眠れそうには無いらしい。 桐乃とは話さなければならないことが出来てしまったから。
俺は小さく溜息を吐き、桐乃の部屋へと向かうのだった。
4月の一日 終
以上で終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
今更だが、桐乃が「言」を「ゆ」って発音するのって「言う」の場合ぐらいで他は普通に「い」って発音してる
突っ込むべきか迷ったんだけど、
4月1日って嘘をついても良いのは午前中に限るって説もあるんだよね。
まあ、それならきりりんが『午前限定』って事を知りつつ『本心』を伝え、
エイプリールフールって事で誤魔化すって展開もありかなと。
>>468の続きなら
京介「ところで桐乃。『昨日』嘘をついても良いのは午前中だけなんだってさ」
京介「勿論、俺は知っていたぜ」
ってセリフでも面白いかなと。
突発的な小ネタ来るから飽きないわw
もちろん今の短編連続も飽きる要素皆無だけど
それはそうと、祭りの日程が8月15日って明確になってるのが気になって前の投下見直したんだけど
桐乃が暑いって言った回数が日程になってるのね
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
桐乃がリビングと京介の部屋の時計の時間を遅らせ、嘘に見せかけた本心を伝えた。(京介の携帯まではいじることができなかったので、結果的には京介にばれる形に)
その後は桐乃の部屋にて話し合い。 という形です。
>>480
ありがとうございます。
今回投下分から、修正しておきます。
>>483
それも面白そうですね。 どの道、京介さんカッコイイってオチにしかならない!
今回は分かりやすく、丸一日としてやらせてもらいました。
>>485
まさか気付く人が居るとは思いませんでした。
それでは、投下致します。
京介「ほら、お前の分」
桐乃「ん。 さんきゅ」
神社に行く階段の途中、そこに俺たちは居た。
あれから随分と色々周り、少々疲れた俺たちは飯を食う事にして、案の定、俺が焼きそばを買って来いとのお使いを頼まれたってことだ。
正しく言うと、桐乃にパシらされただけだけど。
そんな俺をパシった桐乃は満足そうな表情をしながら、買ってきたばかりのお茶を飲んでいる。
つうかだな、桐乃をここに一人で残すってのが俺にとっちゃすげー不安だったんだが、それを伝えたところ「あたしだったら大丈夫だから早く行ってきて」だとか「なに~? そんな心配なのぉ? シスコンすぎっしょ(笑)」だとか言ってくるから、渋々俺は一人で買ってきたってことなんだ。
……それだけ言われても、行ってから桐乃の顔を見るまで心配で心配で落ち着かなかったけどな。 仕方ねえだろ。 桐乃は俺の妹で、俺は桐乃の兄貴なんだからさ。
桐乃「ね? 大丈夫だったっしょ?」
ひとしきりお茶を飲んだあと、桐乃は俺の方に顔を向けながら言った。
京介「結果的にだろ……。 次からは付いて来いよ? お前になんかあったら嫌なんだよ」
桐乃「……別にいいケド。 ふん」
こいつもこいつで、俺が行ってから後悔してたんじゃないのかな。 俺の顔を見たとき、一瞬だけだがすげー嬉しそうな顔してたし。
京介「そういやさ、花火見て行くだろ? ここからでも見えるのかな」
桐乃「さー? てか、良い場所くらい調べといてよ。 見れなかったら許さないから」
京介「……すいませんでしたね」
落ち着け。 桐乃は口ではこう言っているが、多分……。
そう思いながら、横に座る桐乃の顔を見つめる。
桐乃「なによ。 そんなじっと見て。 あ~、もしかしてぇ。 あたしが可愛すぎてとかぁ?」
ケラケラと笑いながら、桐乃は言う。 そんなこいつに、俺はこう返すことにした。
京介「でも、俺は別に見れなくたっていいけどな」
桐乃「はぁ? 折角、お祭りに来てるのに花火見なくて良いとか、意味分からないんですケドぉ」
ははは、馬鹿め。 掛かったな。
京介「いや、俺は桐乃だけ見れればいいや」
と、真っ直ぐと桐乃の顔を見ながら言ってやる。
数秒間を置いて、桐乃は耳まで真っ赤に染めながら、ようやく口を開いた。
桐乃「ばっばばばばかじゃん!! な、なにゆってんの……そういうの人が居るところでやめてよ」
言葉の終わりは小さく、辺りが静かでなければ耳には入っていなかっただろう。
京介「ここは居ねーじゃん」
桐乃「でも! いきなりやめてっつってんの……」
京介「いきなりじゃないとお前の反応楽しめねーじゃん」
桐乃「う、うううう……!」
手で膝をぱんぱんと叩き、桐乃は呻き声にも似た声を漏らす。
そして、顔をあげ。
桐乃「京介!」
こいつはそう言うと、俺の肩を掴み、顔を近くに寄せてきた。
……え、ええええっと? な、なんだよこいつ。 意外にも、マジで怒ったとか……?
京介「き、桐乃?」
桐乃「そこまでゆーなら、あたしだけ見て。 他の子とか見ないでよ」
言いながら、更に顔を寄せる桐乃。
お互いの息が掛かりそうな、そんな距離。 桐乃はじっと俺の目を見つめ、俺も逸らす事はせずに、桐乃の綺麗な目を見ながら答える。
京介「……当たり前だろ」
それを聞いた桐乃は小さく笑い、目を瞑る。 何を望んでいるのかなんて、もう考える余地すらない。
そのまま桐乃の頭に手を回し、ゆっくりと抱き寄せて。
加奈子「んだよー、先客いるじゃねえかー」
京介「うわぁあああああああああああぁあああああああああ!!!!!!」
加奈子「うおっ! な、なんだ……京介じゃん! 何してんの? お前」
あ、あぶねえ! あぶねえっつうかタイミング悪すぎんだろこいつ! このチビが!
桐乃「あ、あああ……」
桐乃は顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。 今更そうしたってもう大分遅いと思うけどな。
加奈子「ん? 桐乃じゃねーか! んんん?」
加奈子「あー。 そういうことか! お前らこんなとこでエロいことしようとしてたのかよ? うへぇ」
京介「してねーし、しようとも思って無い!! ばっかじゃねえの!?」
そうだ。 俺がしようとしてたのは、恋人と純粋な気持ちでキスをしようとしてただけだし……?
桐乃「……」
未だに桐乃はそっぽを向いていて、ひと言も話す気は無いらしい。 ほんと、想定外の事態に弱い奴だ。 俺も人の事を言えるほどでは無いけどさ。
京介「て、てか……お前はどうしてここに居るんだよ。 もう子供は帰って寝る時間だぞ?」
加奈子「加奈子は子供じゃねえっつうの!! てかぁ、そこ加奈子の席なんだけどぉ」
京介「……そうなのか? 悪いな、なんか」
加奈子「まいーや。 イチャイチャしてるの邪魔するほど、空気読めない馬鹿じゃないし~」
加奈子「ってことで京介。 が、ん、ば、れ、よ」
京介「何をだよ! とっととどっか行けっつーの!!」
加奈子「はいはい。 あ、てかさ。 一応その特等席譲ってやってるんだから、今度なんか奢れよ、京介」
京介「あ? 特等席?」
加奈子「はぁ~? 知らねえの? 毎年そこからが一番良く花火見えるんだよ。 去年は彼氏と来たんだけどぉ。 今年はあのクッソガキと一緒ってのがなあ」
京介「クソガキって……ブリジットか」
加奈子「なーんで加奈子があんなクソガキの面倒見なきゃいけねーのって話じゃね? まそんなのはドーでもいいや」
加奈子「んじゃ、京介またな~」
手にしっかりとワタアメを二つ持っているのには突っ込まない方がいいか。 めっちゃ突っ込みてえけど!
京介「……おーい、桐乃? 加奈子ならもう行ったぞ」
桐乃「え? そ、そう? ばれなくて良かったぁ」
何を根拠にばれなかったと思ってるんだ!? こいつすげえな!!
京介「は、ははは。 あー、てかさ。 ここから花火見れるらしいぜ」
桐乃「マジ? 加奈子情報?」
京介「そうそう。 あいつの特等席らしい」
桐乃「ふーん。 ならここでいっか」
桐乃は言うと、優しく笑いながら夜空を眺める。
なんつうか……こう言うのもあれだが、今日の俺めっちゃ格好悪いな。
前からそうだろと言われればそうなんだけど、人頼みが多いっつうか、そんな感じになってるよなぁ。
桐乃はそんなので文句は言わないだろう。 でも、俺はどうしても気になってしまう。
黒猫は、かつて……俺に「頼れ」と言った。 もっと、頼れと。
だけど、それはどうしようも無くなったときだけ。 些細なことを全て仲間に頼っていたら、そいつはただの怠け者だ。
……今日、今日のことだ。
今日、黒猫の件や加奈子の件。 それらは本当に、あいつらに助けて貰わないと駄目だったのだろうか。
加奈子は正確に言えば助けたって意識は無いんだろうけど……結果的には、そういう形になっている。
これらのことは、俺だけでもどうにかできたことじゃねえのか?
そんな風に、思ってしまう。
桐乃「花火って何時からだっけ?」
京介「ん? えーっと……時間的にはもうすぐだと思う」
桐乃「そかぁ。 えへへ」
桐乃は笑いながら、俺の顔をじっと見つめる。
京介「……んだよ? なんか顔に付いてるか?」
桐乃「ううん。 そうじゃなくて」
桐乃「良かったなって、思って」
京介「……ここから花火が見れて?」
桐乃「それもそうだケド、色々」
桐乃「思い出を振り返る……とかじゃないケドさ。 なんか、幸せってカンジなのかな? 自分でもちょっと分からないや」
京介「ふうん?」
桐乃「あたしさ」
桐乃「-------、-------。 ---------------」
その後、桐乃が口にした言葉は聞こえなかった。 突然の大きな音によって、桐乃の声がかき消された所為で。
大きな音とは爆発音で、辺りが一瞬照らされる。 音の方に顔を向けると、夜空が綺麗に彩られていた。
桐乃「お、始まったじゃん」
京介「みたいだな……。 つかお前、今なんて言ったんだ?」
桐乃「秘密~。 もう今日は言う気分じゃないし、いつかね」
京介「そか。 じゃ、楽しみにしとくわ」
桐乃「うんうん。 よろしい」
空を見上げる桐乃の顔はとても幸せそうで、俺も多分、同じ様な顔をしていたと思う。
京介「なあ、桐乃」
桐乃「ん? どしたの?」
京介「俺、お前のこと……大好きだから」
その声はやはり花火の音で、かき消される。
桐乃「え? 聞こえなかったんだケド」
まあ……良いか。 そんな言葉は聞こえなくても、気持ちはしっかりと伝わるはずだから。
京介「なんでもねーよ。 お前と一緒で秘密にしとく」
桐乃「……するときは別にどうでもよかったケド、されるとムカつくんですケドぉ」
京介「お前がそれを言ったとき、俺も伝えるわ。 それで良いだろ?」
言いながら、桐乃の頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。
桐乃「……うん。 よろしく」
憎まれ口を叩く事も、話を逸らす事も、嫌がる素振りを見せる事も。
全てせずに、桐乃は俺に笑って顔を向けた。
京介「……終わったかぁ。 なんか、あっと言う間だったな」
桐乃「だね。 また、どっかでお祭りやらないかなぁ」
花火が終わり、しんみりとした気分になりながら、俺と桐乃は座って話す。
京介「そんなしょっちゅう祭りばっか行ってられねーよ。 たまには良いけど」
桐乃「言ってみただけじゃん。 でも花火はまた見たいカモ」
京介「じゃ、今度二人でやるか? 適当に買ってさ」
桐乃「お。 京介もたまには良いことゆうね? 賛成~」
京介「お前はそういうこと言わなきゃ、可愛いんだけどな」
桐乃「はぁ? それでも充分可愛いっしょ?」
京介「……まあな」
そうなんだよなぁ。
いくら口が悪くて、俺に理不尽だとしても、どうしようも無く可愛いんだよな、こいつ。
全く。 自慢の妹で、自慢の彼女だぜ。
京介「うっし。 んじゃあ帰るか。 桐乃」
言い、俺は立ち上がると桐乃に手を差し出す。
桐乃「う、うん……」
しかし、桐乃はどこか浮かない顔をする。 もうちょっとここで話して居たかった……わけじゃあねえよな? 花火ももう終わっているし、あんま長時間居て補導でもされたら笑えないし。
京介「どした?」
桐乃「あー。 実はさ、足」
えへへ、と照れ隠しするように笑う桐乃。 俺は桐乃の顔から視線を外し、その足元へと移した。
京介「……わり、全然気付かなかった」
指の辺りは赤くなっていて、少しだが血も滲んでいる。 見ただけでも、痛そうなのが伝わってくる。
そうか。
俺が食べ物を買いに行ったとき、付いて来なかったのはこれが原因か。
桐乃「良いって。 ゆっくり歩けば大丈夫だし」
そんなことを言いながら、立ち上がる桐乃。
……無理してるよな、こいつ絶対に。
京介「とりあえず、ほら」
俺はそう言うと、桐乃に持ってきておいた絆創膏を手渡す。
何の準備もせずに俺が祭りに行くと思うか? ははは。 俺を舐めるんじゃねえぞ。
桐乃「……驚いた。 持ってきてたんだ」
京介「一応な。 あっても困らないし」
桐乃「ふうん。 検索履歴に色々あったケド?」
京介「お前そういうのは言うんじゃねえよ!! 知ってても黙ってるだろ普通!!」
桐乃「ひひ。 ヤーだねっ」
くっそ! 俺がそういうので下調べしてたのばればれじゃねえか!
桐乃「祭りで彼女を喜ばせる方法。 とかぁ?」
京介「やめろ……頼むから、やめてくれ」
桐乃「あはは」
腹を押さえながら笑い、絆創膏を貼り終えた桐乃は立ち上がる。
そして先程までとは違い、微笑むように笑うと、桐乃はこう言った。
桐乃「ありがとね。 京介」
桐乃「でも、そんなことしなくても、京介と一緒なら楽しいから」
京介「……おう」
桐乃「なに? 照れてる? ひひ」
京介「うっせ。 ほら、行くぞ……つっても、足大丈夫か?」
桐乃「多分だいじょぶかな。 家に戻るまでなら全然我慢できると思う」
そっか。 それじゃあ駄目じゃねえかよ。
京介「……とは言っても、ここからじゃあれだよなぁ。 わり、桐乃。 とりあえず少し歩こうぜ」
桐乃「だから最初からそーいってるんだケド? ヘンなの」
こうして、俺と桐乃は帰路に就く。
しばらく歩くと、やがて人気の無い通り。 その辺りはやはり田舎だなぁ、なんて思ってしまう。
京介「おし。 この辺か」
桐乃「なに? 急に止まらないでよ」
京介「桐乃、ちょっと目瞑ってろ」
桐乃「はあ? 別にいーケド……」
大人しく目を瞑る桐乃。 俺は桐乃の近くまで行くと、桐乃の体を抱き上げた。
勿論、お姫様抱っこで。
桐乃「ちょ、ちょおおおおっと待ったぁあああ!! 降ろしてよ!!!」
京介「へへ、却下だ。 お前に我慢はさせたくねーんだよ。 足痛いんだろ?」
桐乃「だからこのくらいは何でも無いっての!! 誰かに見られたらどーすんの!」
京介「別に見られてもいーじゃん。 付き合ってるんだしよー」
桐乃「それとこれとはちがーう!!」
そんな文句を言いながらも、決して暴れはしない桐乃。
京介「とにかく後で文句ならいくらでも聞いてやるから、大人しくしてろって」
桐乃「……う、うう。 マジで許さないから」
絞り出すように言い、背中に手を回すと、桐乃は顔を俺の服に沈めてしまう。
京介「最後くらい格好付けさせてくれよ」
桐乃「……そんなことしなくて良いっての」
桐乃「……京介、前にいってたよね。 前にあたしがからかったときに「そういう部分も好きだ」って」
京介「ああ、言ったな」
桐乃「……それ、あたしも一緒だから」
京介「……桐乃」
そっか。 そうだよな。
桐乃の言っていることは、俺の心にしっかりと伝わった。
こいつは、俺のそういう中途半端な部分だとか、良いところでうまく出来ない部分だとか。
そういうのを含めて、好きだと言ってくれているんだ。
俺が思っていたことなんてのは、こいつに言わせればただの杞憂という訳で。
それすらも多分、桐乃は分かっていたんだろう。 だからこそ、言ってくれた。
京介「お前には本当に、頭が上がらねーな」
桐乃「じゃ、帰ったらお風呂作ってね」
京介「……へいへい」
そんで、俺もお前のそういう部分が好きだぜ。 そんなのは言わずとも、伝わっているだろう。
京介「おっし、着いたぞ」
桐乃「……それなら早く降ろして欲しいんですケド」
京介「あ、ああ。 はは、そりゃそうだな」
意外とこれって楽しいんだけどな……次にしてやれるのは、一体いつになることやら。
京介「そうだ。 なあ」
桐乃「なに? てゆうか降ろしてからでよくない?」
少しだけ怒りながら桐乃は言う。
そんなこいつに、顔を近づけ、キスをした。
勿論、抱き抱えたままで。
京介「ありがとな、桐乃」
桐乃「あ……あ、え? な、なにすんのいきなりっ!」
京介「何って、さっきは途中で邪魔されたから?」
桐乃「それでも……!! あああああっ! ムカつく!!」
京介「……そんな嫌だったか?」
桐乃「そんなワケ無いでしょ! ……あ、じゃなくて! イヤとかイヤじゃないとかじゃなくて!」
京介「じゃあ何だよ?」
桐乃「雰囲気考えろって言ってんの! もっとさ……いや、なに言ってんのあたし!? 良いから早く降ろして!」
面白いなこいつ。 一人でテンパってやがる。
京介「俺的には今のも結構良い雰囲気だったんだけどなぁ」
言いながら、俺はようやく桐乃を降ろす。
桐乃「チッ……ばかじゃん」
そうは言いつつも、頬が緩んでいるじゃねえか。 分かりやすい奴だ。
桐乃「あーあ。 あんたとくっついてた所為で汗掻いたし~。 最悪なんですケドぉ」
ぶつぶつと文句を垂れながら、桐乃は部屋の鍵を開け、扉を引く。
京介「あ、そういやさ……ちょっと良いか?」
その背中を見て、俺は再び声を掛けた。
桐乃「なによ?」
言いながら、振り向く。
俺はもう一度。
……何をしたのかは、言わずとも分かるだろう。
良いだろ、別に。 良い雰囲気だったんだから。
俺のしたことの所為で顔を更に真っ赤に染めた桐乃は、その顔を伏せながら部屋の中へとそそくさと入っていくのだった。
夏の一夜 後編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
お風呂作るが気になって仕方ないんだがw
>>531
お風呂を作るって今調べたら珍しい言い方なんですかね?
今までずっと使ってので、違和感ゼロでした。 気になる方は脳内変換を……。
乙
風呂は炊くものじゃねえのかよ……
風呂の件は家庭事情によって色々あると思う。
追い炊きが付いていない給湯器のみ場合は、そもそも沸かすことができないので「お湯を張る・入れる・溜める」
逆に給湯器がなくて、釜で水をから沸かす場合「沸かす・焚く」
追い炊きが付いている給湯器の場合
残り湯を使わず新しく入れる場合は「お湯を張る・入れる・溜める・作る(沸かしなおすのと区別する為)」
残り湯を沸かしなおす場合は「沸かす・焚く」かな。
方言もあると思うし、どれが間違いって事は無いと思う。
意味さえ通じれば、各家庭のローカルルールで良いんじゃない。
>>535「炊く」のはご飯だと思う
お風呂スレになってた……
いっそのこと、桐乃が言っていたのは一から風呂を作り直せってことでどうでしょう。
それが切っ掛けで、京介の大工物語は始まるということで
風呂スレにしてしまって申し訳ない・・
まだ夏だけど>>1に冬の温泉旅行ネタを書いてもらって流れをおさめよう(丸投げ)
>>546
先ほどは長レス失礼しました。
お風呂の準備にどんな言葉を使うかによって、その家のお風呂事情がある程度わかるんですよね。
アパートに限れば、関東以南は追い炊き機能なしの給湯器が多いですね。
それに女子中高校生なら夏場はシャワーだけで済ます事も有るかもしれません。
今後の参考になれば幸いです。
何気にお姫様だっこのまま帰宅して疲れた様子一つ見せないって京介めっちゃ鍛えてるのな
おんぶなら分かるけど抱えてそれなりに移動って並の男じゃ腕バキバキやでww
誰か挿絵を描こう(提案)
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
>>549
あなたがエスパーか。
実は次の次から温泉旅行話となります。 ネタバレですけど。
>>551
いえいえ。 参考にさせて頂きますよ。 ありがとうございます。
>>554
京介さんはきりりんを愛しているのです。 つまりはそういうことです。
>>558
宜しくお願いします(提案)
そういえば、バッドエンドのSS書いている方が見てくださっているようで、とても嬉しかったり。
あの系統のSSは自分だと全く書けないので、羨ましかったり。
自スレでの挨拶になってすいません。 ありがとうございます。
それでは、投下致します。
さて、そろそろこの話をしようと思う。
えっと、確か俺と桐乃が二人で暮らす事になって、その日の夜にした話だっけか。
まぁ、色々と各自のすることを決めた訳なのだが……あれの最後。 布団が一つしかないという件について、話そうと思う。
かなりドキドキしながら毎日を過ごさないといけなかったのは今となっては良い思い出にもなりつつあるけどな。 布団を買うまでの話を今更ながらにしてみよう。
頬に衝撃。 俺起床。
目を開けると、やはり目の前には桐乃。
俺の中ではもう、寝ているときに衝撃が走り、痛みと共に目が覚めたらイコール桐乃だという方程式が出来つつある。 というか出来ている。 学校では習えない、役に立つ方程式だぞ。
ある日、妹が部屋に入ってきて寝ている兄を引っ叩いて起こしたら、それはフラグだ。 覚えとけよ。
京介「おま……なんだよ」
心地よく眠っていたのを叩き起こされて、良い気分の人間は恐らくいないはずだ。 俺も勿論、例に漏れずといった感じ。
少しばかり不機嫌な声色でそう言いながら、窓の方に視線を移す。
カーテンの隙間から朝日が……差し込んでいない。 明らかに真っ暗。
当然、スズメの爽やかな鳴き声も聞こえない。
つまり、夜中って訳だよな。
桐乃「なんだよじゃないんですケドぉ。 あんた寝相悪すぎ」
なるほど。 なんとなく分かった。 俺が寝返りでも打って、桐乃を起こしてしまったのだろう。
それでこいつは俺を叩き起こしたってことね。 得心いったわ。
京介「仕方ねえだろ……一緒の布団で寝てるんだし」
桐乃「あんたはちょっと酷すぎるって話をしてんの。 あたしを少しは見習ってくれない?」
京介「いやいやいやいやいやいや。 お前だって十分酷いからな!?」
桐乃「はぁ? あたしは眠る時の姿勢と、起きた時の姿勢が一緒ってくらい寝相いいんだケド?」
京介「自然に嘘を吐くんじゃねえよ! お前なぁ……俺は何度お前の抱き枕にされたことか……」
桐乃「ちょ、な、なに言ってんの!! も、もしかしてそれであたしの匂い嗅いでた……とか?」
京介「だーかーらー! なんでそんな考えになるんだよ!? 俺は首を絞められて死にそうだったっつうのに!」
若干の嬉しさと、匂いといえば良い匂いはめちゃくちゃしたけどな。 そんなこと言えるか馬鹿野郎。
桐乃「あたしに殺されるなら幸せじゃない?」
……なんか今、すげえ台詞が聞こえたぞ。 ヤンデレ通り越してない?
京介「な訳あるかっ!! あーくそ……なら仕方ない。 桐乃」
桐乃「……なに?」
京介「布団、そろそろ買おうぜ」
翌朝。
京介「おし。 今日で快適とは言えない睡眠生活ともおさらばだ。 喜べ桐乃」
桐乃「確かに快適ではなかったからねぇ。 夏とか暑いし」
朝食を取りながらの会話。 しかしこいつも、本当に料理上手くなったよなぁ。 朝からこんな美味い飯が食えるなんて、幸せだぜ。
京介「……てか、今更だよな。 これって。 普通だったらもっと早く買ってるべき物だろ」
桐乃「あたしはずっっっっと我慢してたんですケドぉ? 感謝してほしいくらいだって」
京介「お、お前な……言っておくが、お前だって酷かったからな!?」
京介「りんこりんだとか、メルルだとか、そんなこと呟きながら俺に抱き着いてたじゃねえかよ!」
桐乃「なっ! あたしはあんたに抱き着いてたワケじゃないっての! 夢の中のりんこりんとメルルに抱き着いてたの!!」
どんな解釈だよ!? 俺からすればそんなのはどーでも良いんだよ!!
……つうかだな。 これはさらさら言う気なんてのは無いが、こいつは「きょーすけぇ」って言いながら抱き着いてきたこともあるんだよ。 言ったら間違いなく殴られるから言わないけど!
桐乃「て、てゆうかぁ……抱き着いた抱き着いたゆってるケド、あんただってあたしに抱き着いてたし!!」
京介「はぁ!? 俺が? お前に? 寝てる間に?」
桐乃「そうだっつってんの! 「桐乃ぉ」って言いながら、抱き着いてきたの覚えてないの!?」
……俺も一緒だった。
京介「別に良いじゃねえか! 起きてるときだって抱き着いてるんだしよ!」
桐乃「開き直るなっ! それとこれとは別じゃん!? 寝てるときに急に抱き締められるあたしのことも考えてよ!!」
でも、その場合は俺を叩き起こさないんだな。 と、なんとなく思う。 理由は考える必要なんてあるまい。
桐乃「てか、それならあたしが抱き着いてるのも良いってことになるよね? 違う?」
京介「あ、ああ……確かに。 言われてみれば……」
桐乃「じゃあ問題ないじゃん。 ふん」
京介「そう、だな?」
……あれ?
京介「いや、でもそれだと布団を買う必要無くねえか?」
桐乃「……確かに」
京介「でも、買った方が良いんだよな?」
桐乃「……うん」
京介「どっちだよ!?」
桐乃「じゃ、じゃあ……こうゆうのはどう?」
桐乃「とりあえず布団は買って、一旦別々で寝るの」
京介「結局そこだな……」
桐乃「で、まだ続きがあるんだケド」
桐乃「ふ、冬とか……寒いじゃん? だ、だから。 その時は……一緒に寝る、みたいな」
桐乃の攻撃。 京介に致死量寸前のダメージ。 危ない、死にかけた。
京介「お、お前がそれで良いなら……俺は別に構わないけど」
なんつうか、改めてそう言われると結構恥ずかしいぞ。 一緒に寝るって。
桐乃「じゃあそれで決定! ってワケで布団を買いにいこ、京介」
京介「おう。 ま、あっても困る物ではないしな」
とのことで、俺と桐乃はその日、布団を買いに行くのだった。
で、夜。
京介「んじゃ、おやすみ」
桐乃「うん。 おやすみ」
一人分程のスペースを空けて、俺と桐乃は横になる。 この位置関係を決める話合いで既にかなりの労力を割いた訳だが……。
いや、俺としては並べるような形にしたかったんだけど、桐乃がいつもの恥ずかしさからか、それを断固として拒否したってこと。
つい昨日まで一緒の布団で寝てた奴の行動とは思えないぜ。 マジで。
ま、無理にそうする理由も無いし、俺も大して強制はしたくない。 桐乃がギリギリ許容したこの距離感ってことだ。
辺りは静かで、桐乃の方を見るとどうやら俺に背中を向けている。 俺の方を見ていてもびっくりするけど。
しかし……なんだろうか。 この、喪失感は。
ま、まあ良い……今日はとりあえず、寝るとしよう。
少しの寝苦しさと、多大な疲れと、ほんの少しの物足りなさを感じながら。
そうして、俺は眠りへと就いた。
結局のところ、眠りに就けたのは数時間で、もぞもぞと布団の中で動く感覚に俺は目を覚ますことになる。
その感覚の正体を暴くべく、俺はぼやけた視界で隣を見ると……そこには見慣れた影。 見慣れた奴。
京介「き、桐乃? なにしてんの?」
桐乃「チッ……なんでもない」
なんでもなくねーだろ!? なんで別々の布団で寝てるのに俺の布団に入ってくるんだよ!
桐乃「ふん……」
桐乃は言いながら、少し距離を取る。 そこだと殆ど布団の外じゃねえか。
床に寝ている様な状態だし……ああくそ、それを放っておける馬鹿はいねえっつうの。
京介「ほら。 俺は別に良いから、こっち来いよ。 しっかり入らないと風邪引くぞ」
桐乃「……ありがと」
怖い夢でも見たか、寒かったのか。
それとも、寂しかったのか。
それは聞くことでは無いだろう。
結局その日、俺と桐乃は同じ布団で寝る事になった。
そして、次の日の夜。
桐乃「今日はあたしだけで寝るから。 おやすみ」
京介「なんの宣言だよ、それ……まぁ良いけどよ。 おやすみ」
昨日のこともあり、今日も桐乃と寝ることになるんじゃないかとは思ったが……どうやら今日は大丈夫らしい。 少しだけ、期待してたのかもしれんが。
ま、桐乃も桐乃で今日の顔付きを見る限り心配いらなさそうだし、問題は起こらないはずだ。 うむ。
正直、いきなり布団に入ってこられると相当びびるしな。 予めとは違って、あれは心臓に悪い。
いつかのあれもそうだったっけか。 起きたら俺の隣で桐乃が寝てた時。 前の家での、お布団デート。
……あれはマジでびびったなぁ。 今の俺なら、多分……優しく抱き締める選択肢を取りそうなのが怖いが。
いやいや、だってさぁ。 いきなりそういうことした時の桐乃の反応、めちゃくちゃ可愛いんだぜ。 本当に。
そりゃあまあ、普段通りでも充分可愛いけどね。 笑ってるときも、怒ってるときも、寝ているときも、驚いているときも、全部均等に可愛いんだ。 だが、恥ずかしがってるときの表情はやべえ! あれは癖になっちまうって。
例えば……そうだな。 大学から帰ってるとき、たまたま桐乃と会ったりすることがある訳だ。 方向は似たような物だし。
で、偶然会ってあいつは最初すげー嬉しそうな顔をする。 本人はばれてないと思ってそうだが、俺は気付いているんだぜ。 その後すぐに「お、京介じゃん」とか何食わぬ顔で言ってくるのもまた可愛い。 俺がそんなことを考えているとも知らずに「あんたと会えても別に?」と振舞う桐乃を見てニヤニヤしているのは当然のことだ。
そんで俺は、いきなり桐乃の頭を撫でる訳だ。 「今日は良い日だぜ」とか言いながら。 そうすると決まってあいつは顔を真っ赤にして俯いてしまう。 外じゃなかったら間違いなく抱き締めてるっつうの! あいつはそういう仕草で俺を殺そうとしてくるからな……危険だ。
だがしかし、あいつもあいつで最初はされるがままって感じだったんだけど、最近は地味に反撃をしてくるから、勢力では均衡になりつつある。 そうだなぁ。
ああ、あれだ。 俺がアパートに向かって歩いているときのこと。
その日は桐乃からメールが来ていて、少し帰るのが遅くなるってのが来てたんだよな。 で、俺は少しテンションが落ちるのを感じながら、歩いてたんだ。
マジで驚いたぜ。 しばらく会えないと思っていた桐乃が、いきなり後ろから腕を組んできたからな……。
あいつは意地悪く笑いながら「なにぃ? そんな顔して? ぷ。 寂しかったのぉ? ひひ」とか言ってきやがって、俺は勿論「そんなことはねえよ!」と言ったが、桐乃は全てお見通しだったらしく、その後散々いじられたりした。
しかしだな、その意地悪い笑い方でもすんげー可愛いから困るんだよ。 俺は当然嬉しくて、そのまま一緒に帰ったんだが。
……ああ、腕は組んだままな? 桐乃は腕を解こうとしたが、俺はそれを許さなかった。 したらあいつ、案の定恥ずかしがりやがって……自分からしたことなのにな。
ふむ。 でもそれを考えると、勢力としては俺の方がやや優勢じゃねえのか? とは思う。
でもなぁ、俺がちまちまちまちま攻撃しても、あいつの一発の破壊力はぶっちゃけヤバイ。 かなりの物だ。
シスカリで例えると……俺が通常攻撃でHPを削っているのに対して、桐乃は必殺技を撃ってくる感じ。
頻度は少ないが、威力は絶大だぜ。
……さて、いつまでも思い出を振り返っていないで俺もそろそろ寝るとしよう。
その前に一応、時刻を確認。
……ええっと、確かおやすみって言ったのが、0時くらいだっけか? で、今は。
さ、3時だと!? ええ!? 俺どんだけ寝れてない訳!? 時計ぶっ壊れてる……なんてことはないよな。 さすがに。
いや、つうかここまで寝れないとは思わなかったんだが……。
原因は。
なんとなく、分かっている。
昨日感じたあれだ。 喪失感みたいな奴。 多分、それが原因。
……ちくしょう!
解決する策はある。 後は実行するだけ。
考えてからの決断は早く、結局俺はのそのそと桐乃の布団に入ることにした。 寝れなくて仕方ないからだからな。 勘違いするなよ。
入って数分。 案の定、桐乃が目を覚ました。
桐乃「な、なにしてんの!?」
京介「……なんでもねー」
桐乃「なんでもないワケないじゃん……ったく」
言いながらも、桐乃は俺の方に体を近づけ、布団を一緒に被せる。
桐乃「……ねえ、京介」
京介「……ん?」
桐乃「……やっぱり布団一つで良いかなって思うんだケド……どう?」
京介「……俺も、同じこと思ってたわ」
こうして結局、新しく買った布団は押入れに眠ることになったのだった。
ちなみに、これがつい先日の話。
俺はひと言も大分前の話なんてことは言ってないんだぜ。 つまり俺と桐乃はあの日から昨日までずっと一緒に寝てたって訳だ! だからどうだってことでもないけどな。
ドキドキしながら寝たのも良い思い出って言うのはあれだぜ? 今だと前よりも安心して眠れるからってだけ。 少しドキドキはするけども。
そして、そんなどうでも良いことを考えながら、俺は今日も隣に居る桐乃に言う。
京介「……んじゃ、おやすみ。 桐乃」
桐乃「……うん、おやすみ。 京介」
俺と桐乃は今日も今日とて、同じ布団で寝るのだった。
今日の日付は、8月20日。
お布団デート 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
無理な頼みと分かってて。
桐乃のアニメキャラ個別スレの126で神絵師さんが描いている絵を題材にどうかSSを一つ・・・
乙です
更新多くて、嬉しい
ところで
桐乃のセリフで「言う」がぜんぶ「ゆう」とかになってるけど、「ゆってる」とかでゆを使うのは少し違和感が…
「そーゆう」とか伸ばしてしゃべる時以外でゆって表記してましたっけ?
俺はこのスレ読むためにアニメ一期二期全部見て原作12巻まで友達から借りて読んだwwww
いやそんだけの価値あるよ
それと乙。いつもニヤニヤさせてもらってますww
>>614
嘘付け
流石に無いわ
おはようございます。
乙、感想ありがとうございます。
>>609
それは書いて良い物なのかどうか……。
書いたんですけどね、書いたんですけど短いし地の文多いし投下しても良い物かどうか。 あの絵師さんのクオリティを出せるSSを書ける気が全くしないんですよね。
>>612
一応、修正はしてあるのですが見逃している部分もあるかもしれません。
短編の方もいつかzipなりに纏めて修正して流そうと思っているので、気付いた部分指摘して頂けると助かります。
今日から前に言っていた温泉旅行の話ですが、前中後の三話構成となってます。
いつもの時間くらいに投下致します。
本日の投下致します。
少し前の話。
運というのは思いがけない場所で使われてしまう物で、使おうと思って使える物じゃあ無い。
それは場合によっては悪い方向にも動くし、良い方向に動くこともある。
それもまた、運の内なのだろう。
でもさ、そう考えると悪い方向に動いた場合は「運が悪かった」と言って、良い方向に動いた場合は「運が良かった」というのはおかしくないか?
結局はそのどっちも運のおかげな訳だし、その運自体を悪いだの良いだの言うのは少し違うと思うんだよ。
正直に言おう。 俺は軽々しく「運が良い」とか「運が悪い」という奴は嫌いなのだ!
この前置きをしたのには特に深い理由は無い。 つまりだな、何が言いたいかと言うと。
「おめでとうございます! 一等の温泉旅行、ペアでご招待です!」
商店街のくじ引き。 俺は目の前で笑顔でそう言う人に、こう言った。
京介「おおお! マジっすか! 俺、運良いな!!」
そう言う訳で、俺と桐乃は温泉旅行へと行くことになった今日。 こういう形では珍しく、ツアーとかでは無いらしい。 時間で縛られることも無く、ゆっくりと満喫できる。
京介「……で、なんでお前は若干不機嫌なんだよ」
俺と桐乃は今、旅館へと向かって歩いている。 ここに来るまで少々新幹線での旅があったのだが、その時のこいつときたら、すっげえ楽しそうにしてたんだけどな。
ええと、確か「ねね、京介。 お弁当作ってきたから一緒に食べよ?」とか言ってきたんだぜ!? その時の仕草と来たらもう……!
よし、よし、ちょっと待てよ。 今説明するからな。
まず、ここに桐乃が居るとするだろ? すぐ横に座る感じだ。 桐乃が窓側で、俺がその隣ってことね。 んで、それでだ。
窓の外では景色が流れていて、それをバックに桐乃はカバンから取り出した弁当を両手で持ち、俺に「一緒に食べよ?」って言いながら頭をちょこっとだけ傾げる訳だ。 ポイントとしてはそのちょこっとの部分だぜ。 この……こう、絶妙な角度。 俺は一瞬意識があの世へ行ったのかと錯覚するほどの衝撃を受けたね。 温泉旅行に行く前に死んでどうするって話だけども。
しかし俺があの世に意識が飛びかけている時間、桐乃に待たせるのはどうしようもなく嫌だったので、俺は頑張って意識を引き戻し「おう!」と答えたんだ。 そうしたら桐乃は「えへへ」と超嬉しそうに笑いやがった。
多分、寿命が一年は縮んだと思う。 今思えば軽く五年くらいはいっているかもしれんが。
で、そんな上機嫌だった桐乃が今はこれ。
桐乃「こんな歩くことになるなんて思わなかった」
苛立ちを隠すこともせず、素っ気無く桐乃は言う。 まあな、確かに俺もこんな歩くとは思わなかったけどさ。
目的地は山に入って少々歩いたところ。 不便なことにバスは無く、タクシーを呼ぼうにも近くにタクシー会社が無い所為で、来るのに時間が掛かるとのこと。
それに、来たとしても行けるのは途中までで、結局は歩かなきゃいけないと知って、それならばと二人で歩いているってこと。
ちなみにだが、駅から歩き始めて既に一時間が経とうとしている。 桐乃が不機嫌になるのも仕方ないか。
これがツアーじゃないってのも少しだけ納得行ったぜ。 俺みたいに男だとか、桐乃みたいに陸上とかやってるのなら別だが、ちっとばかし年を取った人にはキツイだろうよ。 その点、この招待券が俺に当たったのは幸いなことだ。
京介「ごめんな。 ちゃんと調べとけば良かった」
桐乃「京介の所為じゃないでしょ。 だから謝らないでよ」
……いっそのこと、俺にきつく当たってくれた方が気が楽なんだが……桐乃は桐乃で、そうしないしなぁ。
京介「じゃあさ、なんかしながら歩こうぜ。 しりとりとか、グリコとか、そういった遊びしながらさ」
桐乃「……んー。 それより、もっと会話っぽいのが良いカモ」
京介「会話っぽいの……? えっと、例えば?」
桐乃「うーん。 そだ。 良くあるヤツやろーよ。 お題を決めて、それに「はい」か「いいえ」で答えて、当てるってヤツ」
京介「あー。 聞いたことあるな。 面白そうじゃん。 試しに一回やってみようぜ」
桐乃「じゃーあ、質問は五回までで、最初はあたしが質問する側ね。 いい?」
京介「オッケーオッケー。 っていうと、俺はお題を一個考えれば良いんだよな」
桐乃「そ。 最初だし、ぱっと頭に浮かんだヤツで良いんじゃない?」
頭に浮かんできたヤツね。 なるほど、それならすぐ出来そうだし、最初にするゲームとしては良いかもしれんな。
そう思い、俺は頭に一つ浮かべる。
京介「五回だしな、俺も桐乃も知っている様なのにしておく」
京介「……よし。 良いぜ、桐乃」
桐乃「じゃ、最初はどうしよっかなぁ」
機嫌も少し治ったのか、唇に指を当てながら、桐乃は視線を上に向ける。
桐乃「よし。 じゃあ一つ目の質問」
桐乃「それは、生物?」
……おお、さすがの成績優秀者か。 まずは大体のところから責めてくる訳ね。 参考になるぜ。
京介「答えは「はい」だ」
桐乃「……ふむ」
腕を組み、しばし思考する桐乃。 頭を咄嗟に撫でてやりたくなる衝動に駆られるが……ここは我慢しておこう。
桐乃「じゃあ次。 それは、動物園にいそう?」
……この場合ってどう答えれば良いんだろうな? でも、まぁ居るっていうのとは違うが……いるかいないかで言えば、居るになるのかな。
京介「多分……「はい」だな」
桐乃「多分?」
京介「ちょっと難しい質問だったから、多分ってことだ」
桐乃「……あー。 そーゆうことなのかな」
桐乃「次の質問。 それは人間?」
さすが俺の妹だなぁ。 この妹にしてこの兄があるという訳だな。 ははは。 言ったら殴られるからやめておこう。
京介「そういうことだ。 答えは「はい」」
桐乃「よっし! でも後二回かぁ……ね、ちょっと回数増やさない?」
京介「後から増やすんじゃねえよ……後二回で頑張れ。 お前ならきっと出来る!」
桐乃「ムカつく励ましの言葉ありがとう。 う~~~ん」
視線をあちらこちらに動かしながら、桐乃は思考する。
桐乃「……それは、京介と交友関係がある人?」
ここまで来れば、大体答えは分かっているだろう。 俺が考えたのは、桐乃だ。
京介「「はい」だな」
桐乃「ふむ。 次で最後、だよね」
京介「おう。 核心的な質問をしねえと、辿り付けないぞ~」
俺がそう煽ると、桐乃は恐る恐るといった感じで口を開く。
桐乃「……そ、それって、京介の好きな人……とか?」
よりにもよってそう聞いてくるのか、こいつは。
まあゲームだしな。 俺は胸を張って答えてやろう。
京介「超好きだぜ! マジで! これでもかってくらい好きだ!」
桐乃「……「はい」か「いいえ」で答えてよ」
京介「あ、あー。 そうだったな。 答えは「はい」だ」
だが俺はその時、こう考えた。
もし、もしも俺にもう少し力があれば、このくだらない世界をぶち壊し、俺と桐乃が幸福に暮らせる世界を創世できる。
京介「なあ、桐乃」
桐乃「んー?」
京介「俺、旅に出るよ」
桐乃「はあ?何言ってんの?アンタ…」
桐乃「ちょっ、こんな時間にマジでどこいくわけ?」
京介「触るんじゃねえ!!!」
桐乃「ひっ」
すまない、桐乃。
だが、こうするしかないんだ。
京介「……なんてな、テヘ」
桐乃「もう…京介のバカ…ヒヒ」
桐乃「……」
なんで黙るんだよ。 答え言えって。
京介「で、桐乃。 答えは分かったか?」
桐乃「……あ、あたし」
京介「おう! さっすが桐乃! 正解だぞ!」
桐乃「なんであたしを思い浮かべてるのよっ! 変態っ!!」
なんでキレてるんだよ!
京介「仕方ねーだろ!? 最初に浮かんできたのがお前だったんだからさ!」
桐乃「……最初に?」
京介「うん。 一番最初だ」
桐乃「そ、そか」
若干嬉しそうじゃねえか。 それならそれで良いけどな。
京介「っつう訳で、次は桐乃の番だぜ。 なんか思い浮かべてくれよ」
桐乃「え? あ、あたしか。 ……うん。 オッケ」
さて。
さてどうしよう。 俺はすごいことに気付いてしまったかもしれない。
今思い浮かべたときの桐乃の表情と仕草、それでなんと答えが分かってしまった。
……どうすんの、これ。
いや、待てよ。
この状況、もしかしたら逆に利用できるんじゃないだろうか? 要はこのゲームは「はい」か「いいえ」で答えなきゃいけないってことだよな。
それはつまり、俺がどんな質問をしても桐乃は「はい」か「いいえ」で答えるって訳だ。
……すごい良い状況じゃね? これって。
桐乃「なに黙ってんの? 質問しないと終わらないんですケドぉ」
京介「お、わりい。 んじゃあ質問だ」
俺は答えをまずは確定させるべく、聞くことにした。
京介「それは桐乃の兄貴か?」
桐乃「ぶっ! ちょっとタンマ!!」
京介「なんだよ?」
桐乃「あんた分かって聞いてない!? 絶っ対、答え分かってんでしょ!!」
京介「いやいや、俺は知らないぞ? ある程度決め付けて聞いてはいるけど、そんなの分かる訳無いじゃねえかよぉ」
桐乃「う、うう……」
京介「で、返事は?」
桐乃「チッ……「はい」だケド」
俺はそれを聞き、桐乃に向けてわざと笑い、口を開く。
京介「おお、そうかそうか。 なるほどなぁ」
桐乃「……もう答え合わせでいいっしょ?」
京介「なんでだよ? まだ四つ質問が残ってるし、俺は全然答えが分からないんだよなぁ」
桐乃「は、はぁ!? 嘘吐くなっ!」
京介「そーいうゲームじゃん。 ってことで次の質問な」
と言っても、何を聞くべきかな、これは。
普段なら100%否定するであろう桐乃が、今は二択で答えてくれるんだよな……。
京介「よし。 じゃあ、桐乃はそいつのことが好きか? 勿論、恋愛的な意味で」
桐乃「あ、あんたねえ……」
肩をぷるぷると可愛らしく震わせ、桐乃は俺の顔を睨む。
京介「「はい」か「いいえ」だろ~? ほら早く言えよ~」
桐乃「あーもうっ!! 答えは「はい」! 文句ある!?」
……いや、文句はねえけど。
京介「そうかそうかぁ……桐乃はそいつのことが好きなのかぁ」
桐乃「……後で覚えとけ」
こ、こわ。 桐乃さんちょっと今の声は大分怖かったんですけど。
だが! ここで退くことはできねえ……。 ここで退いたら、俺は激しく後悔することになるだろうしよ!
京介「は、はは。 つ、次の質問な」
声が少し震えてるのに情けなくなりながら、俺は勇気を振り絞って口を開く。
京介「桐乃は、そいつが居なくなったら死にそうになるほどに、そいつが好きか?」
桐乃「ばっ! は、はぁああぁあああ!?」
京介「お、大きな声出すなよ」
桐乃「あんたがそんな質問するからでしょ!?」
京介「まだ答えが分からないんだから仕方無いだろ? ほら、それで返事は?」
桐乃「こ、答えなきゃダメ?」
上目遣いで俺のことを見ながら、懇願するように言う桐乃。 ま、マズイ。 心が動いてしまいそうだ。 世界一可愛い生き物だろ、こいつ。
京介「……お、おう」
よし! 良く言った俺!
桐乃「……答えは「はい」」
すっげー可愛い! マジですっげー可愛い! 桐乃が可愛すぎて俺若干壊れ始めて無いか!?
京介「そ、そっかぁ……はははは」
桐乃「……次は?」
なるようになれと思ったのか、桐乃は俺にそう尋ねる。 ほ、ほう。 上等だぜ。
京介「……よし」
俺は意を決し、質問をすることにする。 これは場合によっては大変なことになるが……それでも、今日の俺はやる! やると言ったらやってやるんだ!
京介「桐乃はそいつと……エッチしたいか?」
桐乃「死ねっ!!」
見事な蹴りが鳩尾に命中。 蹲る俺。 その上から鞄で俺を引っ叩く桐乃。
京介「ごめん! 今のは悪かった!! 許してください!!」
桐乃「うっさい! 変態っ! 死ね死ね死ね!!」
許しを請う俺に攻撃を加え続ける桐乃。 その攻撃はその後しばらく続くのだった。
京介「……なぁ、マジで悪かったって」
桐乃「チッ……」
教訓としては、調子に乗りすぎるのは良くないってところだろう。 先ほどから俺の言葉に舌打ちで返事をする桐乃を見て、切実にそう思う。
京介「言う事一回必ず聞くからさ……な?」
俺が言うと、桐乃はようやく逸らし続けていた視線を俺に向け、口を開いた。
桐乃「……三回」
桐乃「三回聞くなら、許してあげてもいい」
京介「わ、分かった! 三回だな? それで良いぜ」
超必死だぜ。 桐乃に無視されるのは辛いから。
桐乃「じゃ、いーよ」
京介「お、おう。 ありがとな、桐乃」
桐乃「別に……あたしも、さっき叩き過ぎちゃってごめん」
京介「良いって良いって。 もうあんなのは慣れて心地良いくらいだぞ?」
俺が言うと、桐乃は冷めた目で俺のことを見ながら言う。
桐乃「……キモッ」
言うだけ言い、すたすたと歩調を早める桐乃の後ろ姿を眺めながら、一人思う。
……うん。 確かに今のは失言だったかもしれない。 聞き様によってはな。
こんな出だしで、俺と桐乃の旅行は始まるのだった。
視界にはようやく、旅館が見えてきた。
温泉旅行 前編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
京介を更にメロメロにすべくメガネ投入するきりりんが見たい。
「アタシも最近少し顔売れてきたし変装用」とか言ってメガネショッピングデートに誘い、
京介好みのメガネを幾つか見繕わせて何気に家でもかける。
あまりのきりりんの可愛さに制服エプロンにメガネ装備のきりりんを写メらせてくれ、
と懇願する京介とのイチャコラもあるとなお嬉しい。
>>655
よし書こう!!!
既に何本か書き終わっている短編もあるので、その後になりますがご了承ををを
ありがとうございます。
おはようございます。
乙、感想ありがとうございます。
絵師さんの件ですが、最後に短編集まとめてzipにするときについでに入れておこうと思ったんですが、見たい方も居るみたいなのでうpロダにあげました。
会社のPCからだと前回のところが使えなかったので、パス付いちゃってます。
pass 0000
でダウンロード出来ると思いますので、見たい方居ましたらどうぞ。
こんにちは。
投下致します。
チェックインをして、現在は旅館の一室。
京介「にしても、ほんとかなり歩いたな」
桐乃「足いたーい。 疲れたぁ」
時期が時期なのか、それともこんな山奥だからか、決して豪華とは言えないが、それでも結構立派な旅館だが、あまり繁盛している様子では無い。
先ほど仲居の人に聞いた限り、俺たち以外には数人のみしか宿泊客はいないらしく、悪く言えば寂しく、よく言えば伸び伸びと過ごせそうではあるけどもな。
京介「早速だけど、温泉入るか? 入浴時間は自由って言ってたし」
桐乃「うん。 そーしよっかなぁ。 一回すっきりしたいかも」
京介「んじゃ、行こうぜ。 俺も入ってみたいからさ。 今なら誰も入って無いって仲居さんも言ってたから貸切だぜ」
桐乃「お、マジで? やった!」
そうして俺と桐乃は温泉へと向かって行くこととなった。
ちなみに言っておく、混浴では無いからな。 ちゃんと別々だ。
……どうせならそっちの方が良かったけど! でもそうだとしても、桐乃は間違いなく一緒に入ってくれないんだろうな。 嫌とかじゃなくて、恥ずかしがって。 そう考えるとやはりあいつは可愛い。
京介「んじゃ、俺はあっちだから、また後でな」
桐乃「うん。 またね~」
珍しく素直に笑顔を俺に向け、特に毒も吐かずに桐乃は脱衣所へと入っていく。 俺はその姿を見送り、別の脱衣所へと入って行った。
桐乃「ふうう……」
ここに来るだけでも大分歩いたから、シャワーのお湯がとても気持ち良い。
中は随分と広々としていて、京介も言っていた様に居るのはあたし一人だけ。 なんだか贅沢すぎて悪いことをしている気分になっちゃうよね。
桐乃「……あっちはどうなってるんだろ?」
そう思って、高い壁を眺める。 同じ様な作りにはなっているんだろうケド……ちょっとだけ気になる。
……覗かないよ? そ、そうゆうのって男の人がやりそうなことだし……。
ま、まさか京介はそんなことしないよね? で、でもするかも……しれない、よね?。
だってあいつ変態だし……シスコンだし?
桐乃「きょ、きょーすけ?」
少し声を大きくして、壁の向こうにいる京介に話しかける。
程なくして、返答があった。
「んー? なんだよ、どうした?」
向こうも多分、人は居ないんだと思う。 だからこそ、こうして会話が出来るってワケだケド。
桐乃「あんた、覗かないでよ!?」
「は、はぁ!? 意味わかんねーんだけど!! なんでいきなりキレてんの!?」
桐乃「なんでも無いっつーの! ばーか!」
こうやって予防しておかないとヤバイよね。 京介っていつもはそれなりに格好良いケド……覗いてきてもおかしくないしね。
よし。 これで大丈夫。 あたしはゆっくりと温泉に浸かろう。
頭と体を洗い終わり、広々とした温泉にあたしは身を沈める。 少し熱いけど、それがまた疲れを癒してくれる。 そんな温度だった。
桐乃「てか……これから何するんだろ?」
ふと思う。 この辺って殆ど何も無いし……暇になっちゃうんじゃないのかな?
今回はさすがにエロゲーとか持ってきてないしなぁ。 やること無くなっちゃうんじゃない?
京介だったらどうするのかな……。 うーん。
て、てかさ。 冷静に考えると京介と二人で旅行ってかなりすごいシチュエーションじゃん?
もしエロゲーだったら、間違いなくそうゆうシーンになるよね……そ、それはマズイって!!
な、なんの準備も出来てないし? 心の準備なんて全くしてないし!!
……京介もいきなりはしてこないよね? 大丈夫だよね?
桐乃「き、キモッ!! キモすぎるんですケドぉ!!」
うう。 恥ずかし。 だ、だけど……もし本当になったらどうしよ。
京介があたしのことを「桐乃、ちょっと来てくれないか?」って呼んで、あたしは行くじゃん?
んで「なに?」って聞くと、あいつはいきなりどうせ変態だからキスするじゃん?
うはあ! その時点でヤバイって! あいつマジキモイって!!
桐乃「え、えへへへへ!」
それで、それでその後はぁ……。 頭撫でたり、顔を触ったりしてくるじゃん? どうせしてくる、間違いないって!
もうこの時点でかなり恥ずかしいんですケドぉ! キツイキツイキツイ!!
で、あいつはあたしを抱き締めて。
桐乃「ヤバイって! それは京介マズイって!!」
これ以上はムリ! ムリムリ! あたしが死んじゃうからっ!
……本気だったらどうしよ? そ、そーいえばさっきヘンなこと言ってたよね、あいつ。
エッチしたいかどうとかって。 マジありえないって! フツーそんなこと聞く!? ああああああ!!
桐乃「変態! 変態変態変態!!」
ふう。 思いっきり言ったらすっきりした。 で、ちょっと冷静になったことだし考えてみよっかな。
あいつは一体、どうゆう心境でそれを聞いたのだろう? ううん……。
た、単純に考えれば……そうなのかな? ま、マジで?
桐乃「ふ、ふひひ。 それはマズイよぉ!」
さすがにまだマズイって! で、でも……京介がそうしたいってゆうなら……あたしは別に?
ってなに考えてんの!? ないない!
……そーいえば。
この前のお祭りのとき。 あいつ、なんか言ってなかったっけ。
子供が欲しいとか、言ってたような?
……だとしたらマジじゃん!? や、ヤバすぎるって!! ど、どんな顔をして京介の顔を見れば良いワケ!?
桐乃「もームリ!! キモイキモイキモイよぉ!!」
京介「……あー。 疲れが取れるぜ」
なんだか年寄りみたいな台詞を呟きながら、シャワーを浴びる。
広々とした空間で、そこを独占するのはちっとばかし気後れする物はあるが……。
まあ、快適っちゃ快適だ。 大分疲れが回っていた体にも、このシャワーは気持ちが良い。
京介「これだけ良いところだと、歩いてきた甲斐があるってもんだなぁ」
置かれているシャンプーを手に取り、頭を洗う。 そんなとき、女子風呂と思われる壁の向こう側から声が聞こえてきた。
「きょ、きょーすけ?」
ん? 桐乃か? 何かあったんだろうか。
目を瞑りながら、恐らく声がしたであろう方向に顔を向け、俺は答える事にする。
京介「んー? なんだよ、どうした?」
「あんた、覗かないでよ!?」
京介「は、はぁ!? 意味わかんねーんだけど!! なんでいきなりキレてんの!?」
「なんでも無いっつーの! ばーか!」
意味が分からんぞ!? なんで俺はいきなり覗くことが前提で話を進められているんだ!?
もしかして、俺ってそんな風に桐乃から見られているのかな? だとしたら、ちょっと反省しなければいけないんだが。
いや、でもそれよりもいきなりそれを言うかよ……。 まあ、別に良いけどよお。
だが、桐乃の顔が見れないってのは少し損した気分になるぜ。 声だけってどんな焦らしプレイだよちくしょう。
……覗いてみるか?
それは駄目だ! それをしたら桐乃の想像通りの人間になってしまう! それは駄目! 絶対!
……でも、あいつの体綺麗だしなぁ。
京介「へへへ」
いかんいかん。 こんなことを想像していると桐乃に知られたら多分あいつはぷりぷりと怒るはずだ。 怒りながらも、嬉しさを隠しきれていないのだろう。 ああ、やっぱ可愛いぜくそ。
京介「……温泉入るか」
なんだかそんなことを考えているのが馬鹿らしくなり、俺はのそのそと歩き、温泉へと入る。
京介「……はぁあああぁああ」
やっぱり良いよな。 来て正解だわ。 これだけでも充分、価値はあると思う。
山の中腹にあるってことで、景色もかなり良いし。 緑に囲まれて、気分はどこか旅人の様な、そんな感じ。
「き、キモッ!! キモすぎるんですケドぉ!!」
な、なに? どうしたの? 一気に現実に引き戻されたんだけど。
あいつ……なにしてんだ?
いきなりあんな大声あげて、どうしたっつうんだ。
「え、えへへへへ!」
……なんで笑っているのだろうか。 やべ、純粋に俺の妹が心配になってきたぜ。
でも、あいつの笑い声可愛いなぁ! いっつも顔ばっかみてたけど、声だけでも充分可愛いな! へへへ。
「ヤバイって! それは京介マズイって!!」
俺がどうしたの!? 何がマズイの!? ちょ、ちょっと待てよ桐乃! あいつ、何を想像してんだ……?
俺の名前が出てきたことによって、不安度がすげー上がったんだが……杞憂に終わると良いけど。
「変態! 変態変態変態!!」
俺の名前が出てきて、次は変態連呼か。 少し悲しい気分になるぜ。 全く。
……声色が嬉しそうなのは気のせいということにしておこう。 マジで。
「ふ、ふひひ。 それはマズイよぉ!」
……無心無心。 俺は何も聞いてないし、何も知らない。
聞こえて来るのは風の音と、鳥の鳴き声。 そしてセミの鳴き声だ。 それだけ。
「もームリ!! キモイキモイキモイよぉ!!」
うるせえセミだなぁ! あっはっはっはっはっはっは。
これを聞いた俺は、一体どんな顔をして桐乃に会えば良いんだよ。 参っちまうよ、マジでさ。
それからようやく声は聞こえなくなり、俺は一人風呂場を後にする。 脱衣所で服を着て、外へ。
タイミングが良いのか悪いのか、丁度桐乃も出てきたところだった。
桐乃「サイテー! この変態シスコンっ!」
京介「は、ははは」
理不尽な怒りの理由も俺には分かってしまう。 それを突っ込めばこいつは多分面白いことになるんだろうが……。
軽く、言ってみるか。
京介「……お前、声かなりでかかったぞ」
桐乃「き、聞いてたの!?」
京介「聞いてたというか、聞こえたというか」
さて、こいつはなんと言ってくるのだろうか。 それとも、手を出してくるのだろうか。 どっちだろう。
桐乃「……ばーか」
しかし桐乃は小さくそれだけ言うと、足早に先ほどまで居た部屋へと向かい、歩いて行った。
想像していた反応と違い少し驚いたが……あいつ、一人で戻りやがった。
一人残され、どうした物かね。
……何か冷たい飲み物でも買って行ってやるか。
ヤバイ。
ヤバイ。 聞かれてた。 どうしよう!?
桐乃「あ、ああああ。 ヤバイヤバイって」
冷静に考えればそうだよね。 普通に会話できるくらいなんだし、聞こえていても不思議じゃないのか。
……どうしよ。
部屋に戻り、座り込む。 てゆうか、京介置いてきちゃった……。
で、でも。 恥ずかしすぎてなんかふわふわするし、ぼーっとするし。
仕方ない! うん!
どこまであいつが気付いたのかは分からないケド……あたしが多分、勢いで言った言葉は全部聞こえてたんだよね。 あの様子だと。
きょ、京介を殴って記憶を飛ばそうか……。
いやいやダメでしょそれは! さすがにそれはダメ!
でもそうは言っても、あいつって本当に何も手を出してこないんだよね。 前にそんな感じのことは言ってたケド、それでももうちょっとスキンシップ取ってくれても良くない? キスはたまーにしてくるケドさ。
なんか……良く考えたらちょっと失礼じゃない? こんだけ可愛い彼女がいつも近くに居るってのに。 魅力無いとか不安になっちゃうじゃん。
よし。
よし、よし! 良いこと考えた。 京介がそうならあたしにも考えがあるっつうの。 これならうまく行くはず。 そうと決まったら、早速作戦開始! よ~し。
京介「ほら」
言いながら、部屋の床に座る込んでいる桐乃の頬に自販機で買ってきたお茶を当てる。
桐乃「あ、ありがと」
素直にそう言うこいつを見て、なんだかいつもと違い、またしても少しの違和感。 まあ、気にする程の物では無いと思うけど。
京介「俺は別に気にしてねーから、お前もそんな気にしてるなよ」
桐乃「…………うん」
やはりどこかぼーっとしたような、そんな目をしている。
のぼせている訳でも、酒を飲んだって訳でも無いと思うんだが……どうしたのだろうか。
京介「……大丈夫か?」
桐乃「あ、あたし? 大丈夫、うん」
……どう見たって大丈夫じゃねえんだけど。
そう言おうとした時、唐突に桐乃が口を開いた。
桐乃「あ~。 なんかこの部屋暑いな~」
京介「……そうか? クーラー効いてるけど」
桐乃「あっついなぁ!」
ちなみにこの時の桐乃の服装。 風呂上りの為か、ゆったりとした服を着ている。 いつもの様なビシッと決まったのとはまた違う。
そして、桐乃は突然それを脱ぎ始める。
京介「おまっ! 何してんだよ!!」
必死に顔を逸らしたが。
い、一瞬だが見てしまった。 桐乃の下着姿を。 あ、あぶねえ。 いや、アウトか!?
つうかこいつは何でいきなり服を脱ぎだしているんだよ!!
桐乃「な、なにって。 あ、暑いし?」
京介「だからって服を脱ぐんじゃねえよ! 俺が居るんだからさあ!」
桐乃「べっつにいーじゃん。 あ、もしかしてぇ。 妹の下着姿見てコーフンしてるとかぁ?」
京介「無くは無いけどな! でもそれより良いから服を着ろっての!! 部屋着の浴衣があるだろ? それ着とけよ!」
桐乃「わ、分かったわよ……ふん」
ま、全く……折角温泉に入ったのに嫌な汗をかいちまったじゃねえか。 突然何をしてんだ、こいつは。
桐乃「……もういいケド」
未だに顔を逸らし続ける俺に、桐乃からそう声が掛かる。
ようやく桐乃の方を向き。
京介「……お前、やっぱそれでも似合うんだなぁ」
なんて、感心してしまった。
桐乃「そ、そう? ……じゃなくて!」
一瞬嬉しそうな顔をした後に、頭をぶんぶんと振り、桐乃は俺に詰め寄ってくる。
壁に背中を預けながら座る俺に、這うように桐乃は近づく。
京介「な、なんだよ?」
桐乃「い、いまあたし、浴衣だから下着着けてないんだよねぇ~」
京介「なんの情報だよ!?」
桐乃「べ、べつに。 ただ言ってみただけだし」
京介「お前、マジでどうしたんだよ? なんかおかしいぞ?」
桐乃「……そんなことないもん」
無くはねえだろ……。 いくら俺でも、お前の考えが全部分かる訳じゃないんだから言ってくれるとありがたいんだが。
言わないだろうなぁ。 このままだと。
京介「なあ、そうなってんのは俺の所為か? いつも通りだとは言わせないぞ」
桐乃「違う! 違う違う違う! あたしはいつも通りだっての!」
両手を振って、桐乃は俺の体を叩いてくる。
京介「お、おい! やめろって! マジで!」
桐乃「うっさいうっさい!」
数十秒、それは続いて、その後のことだった。
俺は腕で必死に攻撃を防いでいた訳だが、攻撃がやがて、止まる。
不審に思い目を開けると、桐乃は悲しそうな顔をし、項垂れていた。
京介「……桐乃?」
そう聞いた瞬間、桐乃の腕が俺の首に回り。
桐乃は俺に、キスをしてきた。
……何が起こってるんだ!? ちょ、ちょっと待てよ!
慌てて桐乃の肩に手を置き、距離を取ろうと思ったが、俺はこれ以上後ろにいけない。 つまりは、桐乃を押し返さないといけないのだが……。
なんて、少しだけ迷ってしまったのがいけなかった。 桐乃の次の行動は予想外で、想定外すぎたから。
口の中に柔らかい感触。 暖かく、俺の口の中へと入ってくる。
桐乃は未だに俺と距離を置くことはせずにいる。 それもそうだ。 桐乃の舌が、俺の口へと入っているのだから。
……やべ、頭がぼーっとして、思考が鈍ってきた。 宙に浮いているような、そんな感じもする。
未だに口の中ではそれが動いて、俺はその度にどんどんと眠気にも似た感覚に溺れてしまう。
……マズイ。
そうじゃない、このままじゃマズイ!
最後の最後で正気を取り戻し、桐乃を押し返す。 思ったよりも簡単に桐乃は俺から離れ、床に倒れ込んだ。
俺が押し倒した様な形になってしまっているが……この際、話すとしたらそっちの方が都合は良いだろう。
京介「どうしたんだよ、急に。 桐乃」
桐乃「なんでも……無いって」
京介「なんでも無くはねーだろ。 俺に出来ることならなんでもやってやるからさ、言ってくれよ」
桐乃「……じゃあ、聞くケド」
桐乃「京介が、あたしに手を出さないのはなんで?」
そのひと言で、全てが分かった。
……この馬鹿。 最後のあれは強硬手段って訳か。 実際かなり危なかったけどな。
京介「それはだな……」
桐乃「あたしが妹だから? 京介と、兄妹だから?」
桐乃「……なんでも三つ聞いてくれるって言ってたよね。 なら、あたしの質問に答えて」
ったく。 まさか旅行先でこんな話し合いをするとは思ってなかったぜ。 それもまた意外っちゃ意外で、桐乃らしいっちゃ桐乃らしいんだけどさ。
京介「前にも言っただろ、お前が大切だからだ」
桐乃「……あたしは京介じゃないからわかんないケド、そうやって逃げてるだけじゃないの」
京介「ちげーよ。 つうかだな、俺がどれだけ頑張って我慢していると思ってるんだお前は……」
これ、真面目な話ね。 一日一回は桐乃に襲いかかりたい衝動に駆られているから、俺。
京介「もしお前に手出して、それでもし子供でも出来たらどうすんだよ。 今の俺じゃ、お前とその子供を支えることはできねえんだ」
京介「……そうなればお前を悲しませちまう。 泣かせるかもしれない。 だから、俺は絶対に手は出さない」
桐乃「……うん」
京介「俺はお前が悲しそうな顔をしてんのが見たくねえ。 だから、今の顔も見たくねえ。 悲しい想いをさせないように頑張ってるけどさ、こうやってうまくいかねえこともある」
京介「でも、今はまだ無理なんだ。 お前がそれで俺に怒ったとしても、だ」
京介「俺はお前が一番大切なんだよ、桐乃」
京介「……ごめんな。 分かってくれると、俺すげー嬉しいわ」
俺が言い終わると、桐乃は自身の肩にある俺の手を退け、俺の顔を両手で挟む。
桐乃「……分かったよ。 そんだけ言われて、分からないワケにはいかないじゃん」
桐乃「でも、抱き締めるくらいはしてくれてもいいよね?」
桐乃は先ほどまでの押し倒された格好のままで言う。
俺の頬に触れている手は暖かく、桐乃の顔は今すぐにでも壊れてしまいそうなほどに儚かった。
……ここで断れる男が居たら、そいつは多分、どうしようもねえ馬鹿だろうな。
俺が言う台詞なんて、それを聞いた瞬間にもう決まっていた。
京介「おう。 任せとけ」
そう言い、優しく、力強く桐乃を抱き締める。 普段ならここで桐乃は満足するんだが。
桐乃「……好きって言って」
京介「……好きだ、桐乃」
桐乃「もーいっかい」
京介「す、好きだ」
桐乃「もーいっかい」
京介「……まだ言うのか?」
桐乃「はやくして。 はやくはやく」
京介「わーったよ……好きだ、桐乃」
桐乃「ふひ。 もーいっかいいって」
別にいくらでも言うのは良いんだけど、言う度に足をばたばたとするのはやめて頂きたい。 俺の主に下半身が攻撃を受けているから。
京介「好きだ、桐乃」
桐乃「えへへへ。 もっかいもっかい」
約一時間ほど、この状況は続くのだった。
温泉旅行 中編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
投下致します。
京介「うし。 行くぞ、桐乃」
桐乃「行くってどこにー? この辺なーんも無いじゃん」
京介「何も調べなかった訳じゃねえんだよ。 ここに来るまでの道のりは見落としてただけだって。 小さいけど祭りあるみたいだしさ。 また行きたいってお前言ってたろ?」
桐乃「へえ。 ほんと、重要なとこ見落としてるよね」
京介「ほっとけ。 で、行くの? 行かないの? ちょっと歩くみたいだけどな」
桐乃「……いくケド」
あの後、桐乃がいつもの調子を取り戻すまでに結構な時間を使い、今はもう夕方。
夏といえば……祭り、海、旅行。 色々あるが、俺は桐乃と過ごせればそんなのは割りとどうでも良かったりする。 こいつが楽しければ俺も楽しいし、こいつが幸せならば俺も幸せだ。 つまりはそういうこと。
少し前に祭りには行ったから、目新しさなんてのは無いと思うが、それでも別に良い。 俺はただ、こいつの笑っている顔が好きなのだ。
桐乃「ふひひ」
屋台が並ぶ中、俺と桐乃は歩いている。 隣を歩く桐乃の表情は言葉通りの物で、それを見て俺は自然と声を掛けた。
京介「……嬉しそうだな」
桐乃「はぁ? そんなこと無いんですケドぉ。 暑いし~。 虫ウザイし~」
京介「でも千葉よりは涼しくねえか? 虫は仕方無いとは思うけど」
桐乃「まあね。 でもさー、花火やらないってどーゆうこと? 意味わかんない」
京介「小さい祭りだししょうがないだろ。 でもお前嬉しそうじゃねえかよ」
桐乃「だ、だって……メルルのお面とかヤバくない? ふひ」
さっきそんなこと無いって言ってなかったっけ? こいつ。 良くある事だから突っ込まないけどさ。
しかしだな、祭りに行く度に俺と桐乃が住んでいる小さな空間にメルルグッズが増えて行くのはどうにかしねえとな……。
アキバに行く度にも増えていくし、早急に手を打たないと俺の居るスペースさえ無くなってしまいそうだ。
いっそのこと、沙織や御鏡みたいにそういうの専用の部屋があればいいんだが……無理だよなぁ。
ま、まあまだ許容範囲内ではあるし、あまりにも増えて行く様だったらその時考えれば良いか。 思考放棄じゃないぞ。 俺は桐乃を信じているだけだからな!
……本当に大丈夫かな。
桐乃「あ、そーだ。 京介」
京介「ん? どした」
桐乃「あたし、十月に三日間くらい家空けるから」
京介「……どういうこと?」
桐乃「だから、修学旅行があるの。 それで三日間居ないって話」
京介「そ、そっか」
三日もかよ! けどもうそんな時期か。 時が経つのは早いなぁ。
桐乃「……ひひ。 もしかしてぇ、あたしに三日会えないだけで寂しいのぉ?」
京介「……んだよ。 わりいかよ」
桐乃「べっつにー。 そかそか。 ひひ」
そりゃあ寂しいっちゃ寂しいけどな。 だけど別に耐えられないって程でも無いだろ……多分。 仮にも一応一人暮らしをしていた訳だしな。
桐乃「ま、寂しく無いように黒猫とか沙織には言っておくからさ。 適当な遊び相手になってあげて~って」
桐乃「でも、ヘンなことしたら殺す」
京介「しねえよ……。 そんな信用無いか? 俺」
桐乃「信用はしてるって、一応。 だって」
そこまで言うと、桐乃は何故か途中で言葉を止める。 何かを口にしようとして、止めた?
ここで少し関係ない話をするが、
あえてこの場面で言わせてもらう。
俺は桐乃が大切だ。
桐乃を大切に思うからこそ、今は桐乃と体を重ねることはできない。
そんなことしなくても、愛を確かめ合うことなんてできるからな。
例えば、こういうのはどうだろう。
京介「桐乃、俺の息子をしゃぶってくれ」
桐乃「はぁあ?!! あ、アンタ、急に何言って…ぶごっ!」
京介「ああ!!気持ちいい!気持ちいいぞ桐乃!」
桐乃「んご!んぐぉ!!ごぼっ!!ぉぇぇえ!」
京介「はぁはぁ…わかるだろ桐乃、俺はおまえが大切だ」
京介「だから、挿入はしない。」
桐乃「はぁ…はぁ…京…介…」
京介「桐乃、アナルするぞ。」
桐乃「ひぃぃぃぃ!!!」
ちなみに、この日、
桐乃は俺と口を聞いてくれなかった。
こんなに愛してるのに。
まあ翌日ころっと戻ってたけどな。
少し関係ない話だったかな。
さて、話を元に戻そう。
京介「だって、なんだよ?」
桐乃「な、なんでもないっ! 気にすんなっ!!」
京介「そ、そうか……? お前がそう言うならそれ以上は聞かないけど」
桐乃「……ふひひ」
な、なんだ……。 何故こいつは、今笑っているんだ……。
桐乃「あーヤバ! マジヤバイ!」
京介「ど、どした?」
桐乃「だからこっちのハナシ!! ちょっと思い出しただけだっつーの!」
京介「……おう?」
桐乃「ま、まぁ? 京介のことは信用してるから。 それだけ」
京介「……そうかい。 ありがとな」
どこでどの様にこの信頼を得られたのかは不明だが、桐乃がそこまで言うのなら信用してくれているってことだろうな。 理由が不明で、ちっと怖いが。
桐乃「ね。 なんか食べ物買ってさ、ちょっと座って話さない? 前みたいに」
京介「おっけ。 んじゃあ買いに行こうぜ。 一緒に」
桐乃「うんっ」
今回は、桐乃はしっかりと俺の手を握っている。 それがなんだか、少しだけ嬉しかった。
京介「しっかし、もう夏も終わりだなぁ」
桐乃「だね。 どうだった? 今年の夏」
俺と桐乃は手頃な場所にあったベンチに座り、しばしの休憩。 距離はいつもより近い気がする。
京介「決まってんだろ。 楽しかったよ。 桐乃が居たしな?」
桐乃「……ふん。 ばーか」
言いながら、桐乃は俺の肩に頭を預ける。 その頭を俺は、自然に撫でる。
俺に寄り掛かったまま何も言わない桐乃を見て、ふと思う。
京介「長かったな」
桐乃「……なにが?」
京介「色々とだよ、色々」
桐乃「……そっか。 そうだね」
桐乃「これから、大変だろうね」
京介「そりゃあな。 お前と居るといっつも大変なことしか起きないからなぁ」
笑って、桐乃の顔を見る。 桐乃も自然と、笑っていた。
桐乃「いいっしょ、別に。 可愛い妹の為なんだから」
京介「仰るとおりで。 昔はそれだけだったけど、今は彼女でもある訳だし」
桐乃「……ストップ。 今の台詞もっかい言って」
京介「……今は彼女でもある訳だし?」
桐乃「……よし。 オッケ。 いいよ、続けて」
なんかの撮影でもしてんのか、これ。
京介「……一回止められてからもう一回始めろって言われると、すげー言い辛いんだけど」
桐乃「うっさい。 いいから続けるの。 早く」
京介「へいへい……」
京介「ええっとだな、それで」
京介「可愛い妹でも、可愛い彼女でもねえな。 超可愛い妹で、超可愛い彼女だ」
桐乃「……そ、そう?」
京介「おう」
桐乃「ちょ、ちょっと待ってね……よし」
桐乃「も、もっかい言って。 今の」
京介「またかよ……」
桐乃「はやくする! ほら、いって」
京介「えーっと……超可愛い妹で」
桐乃「待ったストップ!!」
京介「なんだよ!? お前が言えって言ったんじゃねえか!」
桐乃「よ、予想以上だったから、やっぱいい。 あたしが危ない」
京介「……お、おう」
桐乃「……」
京介「……」
しばしの無言。 それはなんだか、心地が良い物だった。
桐乃「え? 終わり?」
それはどうやら、俺だけだったらしい。
京介「……まだお前を褒めなきゃいけねえの?」
桐乃「一日一回あたしを褒めないといけないってルールがあるんだけど、知らなかった? 遅れてるなぁ」
どんなルールだよ。 そんでそのルールはいつ決まったんだよ。 つか遅れてるって言うが、流行もしてねえだろ。 むしろ今日だけで何回褒めたことか。
京介「じゃあ、一日一回桐乃は俺に好きだって言わなきゃいけないルール知ってるか?」
桐乃「そんなの知らないし、知りたくもないっつーの」
ふいっと顔を逸らす桐乃を見て、昔の面影をちょっとだけ感じる。
いや……今も昔も変わりはしないし、桐乃は桐乃だけどな。 それで、俺は俺だ。
京介「なあ、桐乃」
桐乃「んー?」
京介「そろそろ戻ろうぜ」
桐乃「もう? まだ全然楽しめてないんですケドぉ」
京介「いいからいいから、ほら。 早く行くぞ」
桐乃「……京介がそーゆうなら、別に良いケド」
不満が残る表情をしている桐乃の手を引き、俺は旅館へと足を向ける。
知ってるぜ。 お前が物足りないと感じているのも、もう少し俺と遊んでいたいと思ってくれてるのも、知っているさ。
桐乃「持ってきてるなら、先に言えば良いじゃん……」
俺は密かに花火を持ってきていて、旅館のすぐ横にあった空き地で二人で花火をしようと声を掛けたのだ。 んで今、桐乃は片手で花火を見ながら、そんなことを呟いていた。
京介「あ、京介花火持って来てくれたんだ。 さすがあたしの彼氏っ! 超格好良い! ってことか?」
桐乃「ば、ばかじゃん! そんなこと思ってないし! ばかばかばか!」
……結構大袈裟に言ったのだが、こいつの反応を見る限り……マジか。
や、やめよう。 今、これ以上桐乃の考えを予想していたら全て当たってしまいそうで、若干気まずくなりそうだし。
京介「俺が馬鹿なのは分かったから花火振り回すのやめようぜ!? 普通に危ないから!!」
明言しておくと、俺の心配度的には桐乃9の俺1って割合。 お前の綺麗な肌が火傷でもしたらどうすんだ! へへへ。
……なんか変質者の思考みたいになってんな、俺。
桐乃「あ、あんたがヘンなことゆうからでしょ! チッ……」
京介「変なことって言うけど、俺は言わないだけで頭の中でもっと変なこと考えてるかもしれないぜ? 桐乃さんよ」
桐乃「は、はぁ!? キモッ!」
京介「んだよ。 これでもお前の兄貴だぞ」
桐乃「そんなの知ってるし。 で、その兄貴はなにを考えてたワケ?」
聞くのかよ、結局。 どうすっかな、勢いでああは言ったが、俺は大して変なことなんて考えて無いし。
京介「……うーん」
京介「桐乃は今日も綺麗だな。 肌を舐めまわしたいくらいだぜ。 とか?」
桐乃「……それはちょっとマジメにキモいかも」
京介「じょ、冗談だぞ。 さすがの俺でもそこまで思っちゃいねえって」
桐乃「さすがのって自分でゆうんだ。 ま、良かった。 本当にそんなこと思ってたらちょっと引いてた」
京介「お前はどれだけ俺のことを変態だと思ってんだよ……」
ショックだぜ。 一度本気だと思われていたしな。
てか、ドン引きじゃなくて「ちょっと」なんだな。 そんな突っ込みはしねえけど。
桐乃「あはは。 だってぇ、妹に結婚してくれってゆうくらい変態じゃん?」
京介「……うっせ」
お前だって「はい」って返事したじゃねえかよ! 棚に上げやがって。
桐乃「……でもまあ、嬉しかったケドね」
京介「知ってるよ。 そんなのは」
桐乃「多分、京介が思ってるのとはちょっと違うかな。 あたしが言ってるのは」
桐乃は線香花火に火を点け、言葉を続ける。 パチパチと火花を散らすそれを見ながら。
桐乃「……あたしはね、京介。 その初めての台詞をあたしに言ってくれたのが、嬉しかった」
京介「……そか」
桐乃「あたしは初めてのデート相手でもないし、初めての彼女でもないし、京介が初めて好きになった人でも無いケドさ」
桐乃「京介が初めてプロポーズした人になれて、良かった。 嬉しかったよ」
こいつは急にこういうことを言うからな。 聞く俺側からしたら恥ずかしいし、照れるし、まあ、嬉しいんだけどさ。
京介「桐乃」
俺は桐乃のすぐ隣にしゃがみ込み、同じように線香花火に火を点け、話し掛ける。
京介「確かにお前の言うとおりだよ。 桐乃はそうじゃなかった。 だけどよ」
京介「俺はお前のことをずっと知ってて、お前も俺のことをずっと知ってる。 お前は俺のたった一人の妹で、一緒に居た時間は誰にも負けねえよ。 そんで今は」
京介「俺が初めて一生一緒に居たいって思った奴で、俺が初めてこいつのことだけは他の全てを捨てても守ってやりたいって思った奴で、俺が初めて絶対に幸せにしてやりたいって思った奴だ」
京介「それじゃ、駄目か?」
桐乃はずっと黙って聞いていて、花火を見つめていた視線を俺に移し、首を振る。
桐乃「ううん。 充分。 充分すぎかも。 えへへ」
京介「そうか。 なら、良かったよ」
京介「一応、言っとくか」
京介「桐乃。 何か悩むことあったら、すぐに相談しろよ。 お前がどんなことを言っても俺は馬鹿にしねえし、どんな相談でも真面目に聞く」
京介「もしもお前が悩んでいることを笑う奴が居たら、俺がぶっ飛ばしてやる。 お前のことを悪く言う奴が居たら、俺が言い返してやる」
桐乃「うん、うん」
京介「……ま、そういうことだ。 何語ってるんだろうな、俺」
桐乃「いいじゃん。 京介らしくて、良いと思うケド」
桐乃「……ふう。 なんかすっきりしたかも。 ってことで相談あるんだケドぉ~」
……これはあれだ。 嫌な相談だ。 このパターンは間違いねえぞ。
桐乃「あたしぃ、喉渇いちゃってるんだよね~~。 あーあ、飲み物飲みたいなぁ~。 冷たいお茶飲みたいかも~」
京介「自販機あそこにあるぞ。 良かったな」
俺が指差す先には自動販売機。 距離にして約50メートル程だろうか。
桐乃「知ってるし。 でもいっぱい歩いて疲れてるんだよね~」
京介「……ふむ」
京介「ああ、分かった。 お姫様抱っこして欲しいってこと?」
桐乃「ちがーう!! それは違う!!」
京介「えっと……それはって言うと」
桐乃「な、なんでもない! 良いから早く買ってきてよ!!」
記憶を辿っても思い当たることは一つしか無いが……。 ま、まあ行くか。 俺に見える範囲内だし、な。
……ていうか金渡されてねーけど、これって俺が奢らないといけないのかね。 別に奢るのはいいけどな。
京介「分かった分かった。 ちょっと待ってろ」
で、自販機の前に到着。
京介「うお、すげえ。 このクソ暑い中、あったかい飲み物売ってるぞ……」
……間違えた振りをして温かいのを桐乃に渡してみようか。
その場合、どうなるのだろう。 少し考えてみるとするか。
「桐乃、買ってきてやったぞ」
「さんきゅ」
「……ってこれなんで温かいヤツなの!? 冷たいのが飲みたいって言ったんですケドぉ!」
「ははは。 ちょっと意地悪したくなっただけだって。 俺の方飲むか? 飲みかけだけど」
「あ、あんたねえ……分かった。 あやせに言いつけてやる」
「あやせに言ったってどうにもならんだろ……」
で、後日。
「お兄さん。 桐乃に何をしたんですか?」
「え、え? 別に、何もしてないけど……」
「桐乃が冷たい飲み物を飲みたいと言ったのに温かいのを買ったらしいじゃないですか。 何故ですか」
「いや……それは、少し意地悪をしたくなったというか……」
「はい? それで桐乃が自殺したらどうするんですか!」
「自殺するの!? 俺が買った飲み物が温かかったから!?」
「そうです。 お兄さん、この場合どうなるか分かりますか」
「……」
「死刑です」
俺は黙って冷たいお茶を買うことにした。 危うくあやせに殺されるところだったぜ。 あの女、なんてことを考えてやがるんだ。 まさかこんな場面でバッドエンド直行の選択肢があるなんてな……。
俺の人生、これから先も苦労は絶えなさそうだ。
てか、こういうのを死亡フラグとかいうのかな。 なんてことを思いつつ、桐乃の元へと戻る。
京介「買ってきたぞ。 冷たいお茶」
桐乃「さーんきゅ。 なんかやたら時間かかってたケド、どうかしたの?」
京介「いや、何でも無い。 大丈夫」
桐乃「ふうん? あ、お金後で渡すね」
京介「ああ、良いよ奢りで」
桐乃「でも、なんか悪くない?」
京介「お前が言うと軽く感動する台詞だな……。 けど、良いよ。 お礼でもあるし」
桐乃「お礼……って、なんの?」
京介「ん? キスのお礼」
桐乃「な、ななななああ!? わっ忘れろ!!! 忘れろ忘れろ忘れろっ!!!」
京介「……あれを忘れろってのは無理な話だと思うけど」
桐乃「良いから忘れなさいって! 妹とキスしてそれのお礼とか変態すぎだし!!」
京介「お前がしてきたんじゃねえかよ! しかも舌まで----------」
言いかけたところで、桐乃の拳が顔寸前で止まる。
桐乃「ふう……! ふう……!」
京介「わ、分かった。 言わない。 これ以上は言わない。 は、ははは」
後で恥ずかしがるくらいなら、最初からやめておきゃいいのにな。 まあ、俺も今になってこの冷静さを取り戻している訳だけど、あの瞬間は正直ヤバかったけども。
桐乃はしばらく俺の顔を見た後、ようやく拳を下ろし、口を開く。
桐乃「……そんで、どうだったの」
京介「……どうだったって、何が?」
桐乃「……あ、あたしとキスした感想、どうだったかって聞いてんの」
馬鹿じゃねえのこいつ!? なんで忘れろって言ったことの感想を俺に聞いてんの!? ていうか素直に感想とか言える訳ねーだろ!! どんな質問だっつーの!!!
京介「い、言わないと駄目か……?」
桐乃「……当たり前じゃん」
俺の顔を見れない程に恥ずかしがり、明後日の方向を見ながら桐乃は言う。
京介「え、ええっと……なんというか、やばかった。 桐乃からすげえ良い匂いしたし……? 実際、普通のキスでも俺結構緊張してんだけどな。 今日はなんていうか……ぼーっとしてきて、何も考えられなくなりそうだったっつうか……そんな感じ?」
何で俺は妹の前で妹とそういうキスをした感想を言ってるんだよ!? 訂正しておこう。 俺変態かもしれん。
桐乃「ふ、ふ~ん。 そうなんだ~」
桐乃は言いながらどんどん俺から顔を逸らす。 言い終わる頃には、俺に背中を向けていた。
桐乃「……う、嬉しかった?」
京介「……まあ」
気まずっ! 何だよこの羞恥プレイ!? 今すぐ逃げ出したいんですけど!
桐乃「そ、そかそか。 ふうん……ふうん」
なんか一人で納得されてるってのも嫌だな……後ろ姿だけでも、どんな表情してんのかは想像付くけど。
京介「だ、だからってまたするなよ……?」
桐乃「す、するワケないでしょ!! 変態!」
……警戒はしておくべきだな。 そう何度もやられたら、いつ我慢できなくなるか分かった物じゃねえし。
京介「……そんで、お前はどうだったの?」
桐乃「あたしが……って、なに?」
京介「いや、お前は俺とキスしてどう思ったのかって聞いてるんだけど」
桐乃「は、はぁ!? ふつーそれ聞く!? ゆうワケないっしょ! ばかじゃん!」
言いながら、桐乃は俺の横を通り過ぎて旅館へと向かっていく。
数分前のお前にその台詞を聞かせてやりたいんだけどなぁ。
ま、その反応の一つ一つが、多分俺の中では宝物なのだろう。 宝物で、思い出で、大事な物だ。
どんどん先を進む桐乃の後ろ姿を見て、俺はこう思う。
やれやれ、仕方ねえなぁ。 全く世話が焼ける妹で、世話が焼ける彼女だぜ。 なんてな。
よし、最後も決まったことだし俺も部屋に戻るとしよう。
夏もこれで終わりか……なんつうか、ちょっとだけ切ないな。
そんな時間の経過に少しの間だけ思い耽り、振り向き、夏の景色を眺める。
京介「……俺も戻るかな」
向き直り、一歩。
一歩進み、足を止めた。
京介「……いや、つうかあいつ片付けしてねえじゃん」
京介「……マジか」
そんなこんなで俺は蚊に刺されながら、花火の後始末をするのだった。
今回は、そんなオチ。
温泉旅行 後編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
こんにちは。
土日投下できず、すいません。
投下致します。
夏も終わり、9月。
夏は終わったと言った物の、未だに残る暑さは厳しい物がある、そんな日。
桐乃「きりりん大勝利ーーー!!! ざっまああ!!」
目の前で大喜びをする俺の妹でもあり俺の彼女でもあるこの女を見て、俺はこう思う。 この煽りに殆ど冷静に返せてる黒猫は偉大だと。
あいつも頭に血が上っている場合はあるけども。
桐乃「なになにぃ? もしかして欲しかったのぉ? でもぉ……あんたじゃんけんで負けたじゃん? だからむ~~~り~~~」
京介「んなことは知ってるわ! 良いから勝ったんだからとっとと食えよ!」
簡単に状況を説明しよう。 桐乃がモデルの仕事でどうやらケーキを貰ってきたらしく、夕食後のデザートとして食べていたんだ。
それだけならまだ良い。 二人で仲良く分けて、めでたしめでたしだからな。 だけど誰が狙ったのかケーキは3つあったんだ。
普通ならどうなると思う? そりゃあまあ、どっちかが譲るかその残ったケーキを半分にするかってところだろうよ。 だけどな、俺たちの場合はそうは行かなかった。 想像通り取り合いになったってこと。
後は分かるよな。 流れでじゃんけんになって、流れで俺が負けただけの話。
桐乃「う~ん。 どーしよっかなぁ! 取っといて明日食べようかなぁ? う~ん!」
京介「……」
桐乃「そんな黙って見られても困るんですケドぉ? だってぇ、これあんたのじゃないし~。 ふひひ」
京介「……」
桐乃「あ、もしかしてぇ。 食べたかったの? このケーキ美味しいもんね~。 ムリもないか! あははははは!」
京介「……あー。 だから最近、お前若干太ってきたのか」
ついには耐え切れなくなり、ぼそっと小さく言う。 勿論、そんなことは無いけど。 苦し紛れの反撃ってだけだ。
強いて言うとするならば、若干……本当に注意してみなきゃ分からないレベルだが、腹の辺りが以前に比べると柔らかくなっている気がしなくもないってレベル。 ぶっちゃけ変わらない。
なんでそんなことを知っているかって? そりゃ毎日同じ布団で寝てれば、間違えて触ってしまうこともあるしな? 間違えてだぞ、間違えて。
桐乃「……い、今なんて?」
桐乃は今の今まで嬉しさのあまりか、過剰になっていた動作をぴたっと止めて、聞きなおす。
京介「いや、だから……桐乃が最近、若干太ってきてるんじゃないかなって」
桐乃「…………マジ?」
ケーキが乗った皿をテーブルの上に置き、俺のすぐ目の前まで来ながら、真剣な眼差しで桐乃は言う。
……マジじゃないんだが、どうしよう。
つ、ついさっきまで散々言われ放題だったしなぁ!? 少しくらい仕返ししても良いんじゃね!?
京介「……お、おう」
俺は真っ直ぐと見てくる桐乃の視線に耐えられず、目を逸らしながら答える。
いつもなら嘘だと見破られていそうな物だが、桐乃にとってその事態は深刻な物だったらしい。
桐乃「う……」
明らかに焦っているのが分かった。 二の腕や腹を触り、確認を取っていたから。
桐乃「京介!」
京介「は、はい?」
桐乃「……明日、ちょっと出掛けるから付いて来て」
京介「……明日は赤城と約束しちゃってるんだけど」
桐乃「せなちーのお兄さんだっけ?」
京介「おう。 そうだ」
桐乃「あたしと……あたしとその人、どっちが大切なの?」
目を潤ませながら、桐乃は俺に這いよりながら言う。
……すまん赤城! 俺桐乃の方が大切だわ!
いや、勿論友達も大切だけどな。 赤城には今度何かしらの形で埋め合わせはするとして、明日は仕方ないが諦めて貰おう。 どうせあいつのことだしアダルトショップに行こうとか言い出すだろうしな。
つうか、こいつはこの前の温泉旅行以来、こんな感じで男心をくすぐる仕草を多用してくるようになったんだよ。 正直、俺の余命は後10年もある気がしなくなってきているぜ。
京介「分かった分かった。 明日はお前の為に使うよ」
桐乃「そ、そう? ひひ」
俺が答えると、桐乃は嬉しそうに笑っていた。
そして次の日。
朝の講義を終えた後、俺は帰宅。 桐乃はテスト絡みで午前授業となっていたらしく、午後からのデートとなっている。
京介「そんで、どこ行くの?」
桐乃「決まってるでしょ。 プール」
京介「……今日少し寒いけど」
桐乃「屋内に決まってんじゃん。 温水プールだって」
京介「ふうん。 まあそれなら良いけどよ。 なんで急に」
言ってから気付く。 昨日のことか……こうなるんだったら正直に言っておけば良かった。
でも待てよ。 これってつまり桐乃の水着が見れるってことだよな!? そ、そう考えるとこの選択は正解だった可能性が大……! 良くやった、俺!
桐乃「……ふん。 別に気が向いただけ」
京介「はは、そうかい」
俺はそう答えるのと同時に何か忘れている様な気がしていた。 まあそんな大事なことでは無い気もするし、いいか。
しかし恥ずかしそうにしているこいつを見ると、なんだか言ってやりたくなってくる。 ううむ……この葛藤。
京介「……まぁ。 別に俺はお前が太っても気にしねーぞ?」
桐乃「な、ち、違うっての!! なに言ってんの!?」
京介「それなら良いけどよ……」
桐乃「……そーゆうケド、もしあたしがテレビに出れるくらいに太っても良いの?」
なんでそんな段階まで行く事が前提になってんだ!? こいつ!?
ま、まあ一応想像してみるか。
京介「……は、はは。 それはちょっと」
桐乃「ほらほらぁ! なら決定! さっさと準備してよね!」
京介「でも、俺はお前の腹の感触好きだけど」
桐乃「……いつ触った?」
京介「あ、えーっと……」
桐乃「いつ触った?」
これ言う必要なかったな。 桐乃にばれない様に間違えて触ってるのがばれてしまったじゃないか。
京介「き、桐乃が寝てる時に間違えて……とか?」
桐乃「……変態」
京介「あと、あれだ。 大分前にメルルの一番くじの件でお前の部屋に行った時、くすぐったときとか」
桐乃「……あ! それ今になって思い出してなんか腹立ってきたんですケド!」
京介「なんでだよ!?」
桐乃「だってあんたあたしの布団の中でもぞもぞ動くし……あたしのことくすぐるし」
京介「お前がいつまで経っても大丈夫だって言わないからだろ!? そうしてれば俺もあんなことはしなかった!!」
京介「つうか、なんであの時お前は俺を出さなかったんだよ?」
桐乃「そ、それは! ……その、なんとなくだし」
京介「……なんとなく?」
桐乃「……うん、なんとなく」
京介「……そうか」
京介「ええっと、全く関係無い話だけど、その日はぐっすり眠れたか?」
桐乃「……だいぶ」
す、素直に答えてるんじゃねえよ。
桐乃「そ、そんなハナシはどーだっていーの!! いいから早く行くんだから準備してよね!」
京介「お、おう。 分かった分かった」
こうして俺と桐乃は平日の午後、ちょっとだけ離れた場所にある施設へと向かう事となった。
桐乃「はーやーくー」
プールの中から桐乃が言う。 ちなみに髪は縛ってあり、走るときのスタイルとでも言うべきか。
京介「いやちょっと待て、俺は別に元から入るつもりも泳ぐつもりもねえんだけど……」
桐乃「はぁ? ならなんで付いて来たの?」
京介「お前が付いて来いって言ったからじゃねえかよ!?」
桐乃「なに。 京介って妹が付いて来てって言ったらどこにでも付いて行くの? シスコンすぎじゃん?」
京介「おーまーえーなあ!!」
折角俺が来てやってるのに、この言い方は酷すぎるだろ!! い、良いぜ……お前がその気なら、俺にも手はあるんだからよお!
京介「……分かった。 入れば良いんだろ、入ればよー」
桐乃「最初からそうしろっての。 チッ……」
俺は黙ってプールの中へと入る。 ふ、ふふ。 隙だらけじゃねえか、こいつ。
京介「桐乃」
桐乃「なに?」
京介「あれってなんだ? さっきから気になってたんだけどさ」
俺は言い、適当な方向を指差す。 勿論そっちには何も無い。
桐乃「えーっと……どれ?」
桐乃はつられて視線を移し、俺はその背後に回りこみ、桐乃の腰の辺りを掴み持ち上げた。 プールの中なので、足が浮く感じではあると思うけど。
桐乃「ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ!! やめてって!!」
手をぶんぶんと振り回し俺に攻撃を加えようとしてくる妹を俺はそのまま放り投げる。 ははは! ざまあみろ!!
豪快な音を立てながら、桐乃は水の中へ。 あーやべえ、楽しい。
京介「今ので少しは痩せたんじゃねえの~? 感謝しろよ~!」
桐乃は項垂れたまま、何も言わずにしばらく黙っている。
桐乃「ふ、ふふふふふふふ」
ようやく声を出したと思ったら、恐ろしい笑い声だった。 あれ、これちょっとまずくない?
桐乃「じょ、上等じゃん……あんた、誰に喧嘩売ってるのか分かってんでしょうね?」
京介「あ、ええっと……桐乃さん?」
桐乃「なあに? 京介」
京介「……なんで少しずつ近寄ってくるんですか?」
桐乃「さぁ? なんでだと思う?」
京介「……逃げた方がいいですかねぇ?」
桐乃「もし逃げたら帰ってから殺す」
つまり、黙って今からされることを受け入れろってことか? 嫌だよ俺はまだ死にたくねえし!
京介「落ち着け桐乃! 目的は違うだろ!? そんなことしてる場合じゃねえって!」
桐乃「あたしにとって今、一番最初にするべき目的が変わっただけだから大丈夫だよ。 京介」
言い方こわっ。 つうかこいつは何をする気なんだよ!!
京介「そ、そっスカ。 はは」
桐乃はやがて俺の目の前までくると、怒りも混ざっている笑顔を向け、水の中へと潜っていく。
……な、なんでこいつは潜ったんだ。 あまり良い予感がしねえんだけど。
結局その予感は見事当たり。 桐乃はそのまま俺に近づき、あろうことか俺の水着に手を掛けた。
京介「ちょっと待て!! お前何しようとしてんだよ!! それはマズイから!!!」
ざばん、と音を立てながら桐乃は潜るのを止め、上がる。 ちなみに手は未だに水着に掛かったままだ。
桐乃「なに? なんかいった?」
京介「なんかいったじゃねえええええええよ!! お前それはヤバイだろ!?」
桐乃「ヤバイって何がどうヤバイの?」
京介「お前の言ってた目的が達成されたら俺は間違い無く捕まるじゃねえか!! だからやめてください!!」
桐乃「大丈夫大丈夫。 あんたが捕まってもあたしはあんたの味方だから。 前に言ったっしょ?」
京介「確かに言ったけど、明らかに味方のすることじゃねえからな!? つうかこの場面でその台詞を言うんじゃねえよ!!」
桐乃「チッ……うっさいな。 いいから黙って大人しくしてろっての」
この数十秒の会話の最中、桐乃は延々と俺の水着を引っ張ってくる。 それを必死にガードしながらの会話という訳だ。
京介「ここで俺が「分かった」って言ったらただの変態じゃねえか! てかお前も大分変態だよな!?」
桐乃「は、はぁ!? あたしのどこが!? あたしは純粋でチョー可愛い女子高生だかんね!!」
京介「それは知ってるけど、お前のやろうとしてることは普通にマズイから!」
そんな言い合いを続けながら、いつこの言い合いが終わるのかと思ったとき。 後ろから声が掛けられる。
「あの、他の方の迷惑になりますので……」
必ず居るであろう監視員の方だった。
京介「あ、あははは……すいません」
桐乃「チッ……あんたの所為で怒られたじゃん」
京介「……俺の所為か?」
その後少し泳ぎ、今は休憩中。 設置されている椅子に俺たちは並んで座っていた。
桐乃「京介があたしを投げなければ、あたしもあんなことしなかったし」
京介「いや、お前がプールに行くとか言わなければ、あんなことしなかったし」
俺が言い返すと、桐乃は肩をぴくっと震わせる。 大方、俺が素直に謝るとでも思ったのだろう。 俺だって言いたいときくらいあるんだっての!
桐乃「ほ、ほ~う。 それなら京介があたしを太ったとか言ってなければ、あたしは行くとか言わなかったし」
京介「な……! き、桐乃がじゃんけんで勝ってケーキ貰わなければ、俺はそんなこと言わなかったし」
桐乃「……っ! 京介がじゃんけん弱くなければ、そうはならなかったし!?」
京介「そこまで言うかっ!? なら、桐乃がケーキを持って帰ってこなければ、じゃんけんする必要も無かったし」
桐乃「は、はぁああぁあ!? そ、それならあたしと京介が同棲してなきゃ持って帰ることなんて無かったし!」
京介「へ、へえ。 ならお前が俺に惚れてなきゃ同棲なんてしてなかったし!」
桐乃「一緒でしょ! あんたがあたしに惚れてなかったら同棲してなかったし!」
京介「うっせ! 桐乃が妹じゃなかったら俺はお前に惚れてなかったし!」
桐乃「それも一緒だっつーの! 京介が兄貴じゃなかったらあたしは京介に惚れてなかったし!」
京介「……マジ?」
桐乃「……わかんないケド」
桐乃「てか、あんたのはマジ? あたしが妹じゃなかったらっての」
京介「……わかんね。 でも妹じゃなかったとしても惚れてたかもしれん。 会えてたら、だけど」
桐乃「……ならよし」
京介「そうじゃなくてだな! 今はどっちの責任かっつう話だよ!」
桐乃「だから、京介の所為でしょ?」
京介「いやだから、俺たちが兄妹じゃなかったらこうはなってなかったかもしれん」
桐乃「……まあ、確かに」
京介「ってことはだな、桐乃。 お互い様じゃね? これ」
我ながら、中々良い結論に辿り着いたんじゃないか。 全員が納得しそうな結論だぜ。
桐乃「ふん。 それでも京介が悪いから」
一人納得しない奴がいたな。 ここに。
京介「……はぁ。 分かった。 俺が悪かったよ、桐乃」
そして結局俺はこう言ってしまうんだけども。
桐乃「分かればいいよ。 許してあげる」
いやあ、良かった。 許してもらえた。 だけどなんか嬉しくないな。 なんでだろうな。
桐乃「あ、でもぉ。 帰りになんか奢ってよ。 アイスとか」
京介「……へいへい」
桐乃「ひひ。 やった!」
そういえば。
最近になって気付いたことが一つ。
桐乃は俺に、何かをねだることが多々ある。 それは今日みたいにアイスだったり、はたまたどこかへ連れて行ってくれだったり。
俺が気付いたのは前者の方で、何かしら買ってくれと頼む時のことだ。
桐乃は自分の金を使うのが嫌という訳じゃあない。 俺も結構、こいつには奢ってもらっているしな。 で、それだとどうしてかって話なんだけど。
こいつは俺に何かを買ってもらうのが、嬉しいのだろう。 それがどれだけ小さい物でも、たとえばコンビニに売っている10円のお菓子だとしても……こいつにとってはそれは重要なことじゃない。
桐乃にとって重要なのは、俺が買ってくれたという事実ということだ。 それに俺は、最近気付いた。
そして。
そして、思い出したことが一つ。
俺はある一つのことを忘れていたのだ。 すっかりと抜け落ちていて、忘れてはならないことを忘れてしまっていた。
しかしそれは、もう手遅れ。 今更悔やんでも悔やみきれない。 後戻りは、出来やしない。
そんなことを今になってようやく思い出した。
俺は顔を上に向け、天井に付いている照明を見ながらこう呟く。
やべえ、赤城に今日行けないって言うの忘れてた。
ダイエット計画 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
>>866、3行目から脳内補正
京介「うっせ! 桐乃が妹じゃなかったら俺はお前と結婚してたし!」
桐乃「それも一緒だっつーの! 京介が兄貴じゃなかったらあたしは京介に告白してたし!」
京介「……マジ?」
桐乃「……わかんないケド」
桐乃「てか、あんたのはマジ? あたしが妹じゃなかったらっての」
京介「…お、おう(ヤベ、咄嗟に本音が出ちまった)」
桐乃「…そ、そっか。…なら…許してあげなくもない(超恥ずかしいんですけど、このバカ兄貴)」
>>869、4行目へ
あ、句読点で数字を区切ったら3と4にアンカ付いちゃった。orz
いちおつ
このスレできりりん成分補給されるわー
>>1はキャラスレの視聴会参加してる?
僕はこことアニメで毎日充実してます
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
赤城さんは後のお話で補完されます!
軽く書いただけなのですが、書いていて楽しいキャラでした。 赤城さん。
>>891
一日一話見て行く。 って奴ですよね?
見てますよー。
切なきりりん見てきゅんきゅんしてます。
13時くらいから、投下致します。
それでは投下致します。
桐乃「ふひ。 ふひひひ」
10月。 大学から家に戻ると、部屋の中では桐乃がエロゲーをやっていた。 珍しい光景では無い。 いつも通りの光景。
そんな桐乃の背中を見て、俺は後ろから抱き締める。
桐乃「んっ……へ!? な、なにしてんの!?」
京介「なにって……別に?」
桐乃「べ、別にじゃないし……ばか」
これが、俺と桐乃の間で最近流行っていること。
意味も無く相手を驚かせるというゲーム。
始まりがいつだったかは分からない。 気付いたら、何故か始まっていた目的も理由も不明のゲームだ。
京介「へへ。 驚いたか?」
桐乃「驚かないほうがどうかしてるっての……」
桐乃「えっと……おかえり、京介」
京介「ああ、ただいま」
桐乃の体に触れている腕から、鼓動を感じ取れる。 いつもより早く感じるそれは、驚いた所為だけでは無いかもしれない。
しかし、こいつに後ろから触れたときはあまり良い思い出が無いんだよね。 ふっつーに殴られるからな。 誰か分からないからってのもあったのかもしれないけど。
でも今は、そういうことも無くなった。
京介「で、またエロゲーやってたのか?」
ようやく腕を解き、桐乃の隣に腰を掛け、俺は尋ねた。
桐乃「ん。 まあね。 今回のはすごいんだよ! 妹達が立体的に描かれてて、表情もすっごい豊かなの! 可愛いよねぇ……」
だらしない顔をしながら、桐乃はPC画面を眺めている。
……なんつうかあれだ。 妹ゲーの妹キャラに嫉妬しそうな感じだぜ。
京介「……ふうん」
桐乃「んで、でね! 今回は主人公が女の人なんだよ! すごくない? チョー感情移入できちゃうんだ~」
京介「そ、そうなの? でもそれだと、お兄ちゃんとか呼んでくれないんじゃねーの?」
桐乃「その辺はだいじょーぶ。 設定で変えられるから。 男勝りな女の人だしね」
京介「へえ。 つうか、お前って女同士とかでってのに興味あるのか……?」
桐乃「な、ち、ちがうっての! たまたまそうだっただけ!」
京介「そか。 危うく俺はどうすれば良いのか分からなくなりそうだった」
桐乃「ベツに問題ないっしょ? あたしの中じゃ、男の人って京介だけだから」
京介「ご、ごほっ! ごほっ!」
早速反撃を食らってしまった。 こいつ、その気になるとマジで容赦ないからな。 恐ろし過ぎる。
桐乃「なに? 嬉しかった?」
京介「……嬉しくない訳ねえだろ。 馬鹿が」
桐乃「ひひ。 しすこーん!」
京介「うっせえブラコン」
桐乃「ふん。 あんたの方がヒドイし。 あたしは全然まだまだだし~」
京介「はぁ? どこがだよ」
桐乃「だってそうじゃん? 京介お兄ちゃん」
京介「な……な!?」
京介「き、桐乃……今の、今のもう一回言ってくれ」
桐乃「ほらぁ! あんたのがシスコンじゃん!」
京介「いやもう俺の方がシスコンってことでいいから、もう一回……頼む!」
桐乃「そう頼まれるとちょっと恥ずかしいんですケドぉ……ベツにいいケド」
桐乃「きょ、京介お兄ちゃん」
京介「お前のことマジで愛してるわ!!」
言いながら、俺は桐乃を抱き締める。 抱き心地が良い奴だぜ、全く。
桐乃「ば、ばかじゃん」
京介「……でも、お前もやっぱ結構ブラコンだよな?」
桐乃「は、はぁ!? なんでそーなるワケ!?」
京介「だってよ、お前だって俺のこと、抱き締めてるし」
俺の背中側にはしっかりと小さな桐乃の手。 俺の服を掴んでいる。
桐乃「ち、ちがっ! これは……その、シスコン兄貴が嬉しいかなって思って……ってだけだし」
京介「なるほどなぁ。 ありがとな、桐乃」
桐乃「……ふん」
そうやって顔を逸らす桐乃の頭を俺はゆっくりとした動作で撫でてやるのだった。
京介「ふううう。 疲れが取れるわあ」
湯船に浸かり、今後の作戦をまずは構築。
脳内で一人会議ってことだな。 議題は勿論、どうやってあの妹様に一矢報いるか、だ。
正直言って、抱き締めるのは嬉しいし楽しいし桐乃とくっつけるしですげー良い方法ではあると思うのだが、あまり続けていて耐性でも付けられた日には最悪だ。
俺はあいつの恥ずかしがっている顔が結構好きだからな……。 当然、それがなくなったからと言ってあいつを好きじゃなくなるなんてことはあり得ないけど。
だから、他の桐乃を驚かせる算段を立てなければならない。
それが、今俺がやるべき事。
これについては俺よりも詳しい可能性がある黒猫にも相談したんだが……その時の話を少ししよう。
京介「お、黒猫か? 学校終わってると思って電話したんだけど、大丈夫だったか?」
「ええ。 大丈夫よ。 それよりどうしたのよ、いきなり」
京介「ちょっとお前に相談したいことがあってさ。 桐乃のことなんだけど」
「……あなたの相談、イコール桐乃よね。 毎回だけどいい加減鬱陶しいわ……」
京介「わ、悪い」
「まあ良いわよ。 それで、今度はどんなバカップルの悩みなのかしら」
京介「俺たちは別にバカップルじゃねえっての……」
京介「でさ、今桐乃と相手を驚かせるゲームをやっているんだよ。 で、あいつってどんなことで驚くのかなって思って」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。 今の台詞、もう一回言って御覧なさい」
京介「え? 相手を驚かせるゲーム……か?」
「そうじゃなくて、それより前よ」
京介「ええっと……俺たちは別にバカップルじゃない、か?」
「そう、それよ。 で、それをもう一度言ったところで聞くわね。 あなたはわたしにどんな相談をするのかしら?」
京介「いや、だからだな……桐乃と相手を驚かせるゲームをやっていて」
「……もう手に負えないわ。 大分手遅れね」
京介「……何が?」
「いえ、こっちの話よ。 それでその相談内容だけど……簡単な方法が一つあるわ」
京介「お、マジか! 是非教えてくれ!」
「こう言うのよ。 聞いておきなさい」
「お、桐乃。 ちょっと用事あるんだけどさ、いいか?」
「俺たち、一緒に暮らしてから結構経つのにそういうのって今まで無いじゃんか。 だから桐乃」
「セックスしようぜ」
京介「言わねーよ!!!! 馬鹿かお前!!!!」
「……つまり、もうしたということ?」
京介「ちげえ! それについては俺にはしっかり考えがあるんだ! ってか何でお前にこんな話しないといけねえんだよ!」
「……ま、まあ良いわ。 でも、それが駄目だとするのなら、もう他に方法なんて無いわよ?」
京介「そ、そうなのか? でも、キスとか抱き締めたりとか、いきなり愛してるとか言えば、あいつ驚いていると思うんだが」
「……そろそろ本気で気持ち悪いけど、仕方ないから答えてあげるとするわね」
「あなたは知らないでしょうけど……桐乃は心の中ではそんなのでは全然驚いていないわ」
京介「……マジで?」
「そうよ。 どうせあのビッチのことだから「あーあ、いつまでもそんなソフトなことじゃなくて、とっとと襲ってくれないかな」とか思っているわよ」
京介「お前本当にあいつの友達か!? それとそっち系の話はするんじゃねえ!」
「でもどうかしらね。 いくら驚いたりすることでも、何度も繰り返されては次第にそれは薄れていくでしょう?」
「あなたの言い方だとまだ大丈夫かもしれないけれど、いつ桐乃が飽きるか分からないわよ」
京介「た、確かに……言われて見れば、可能性はあるよな」
「だから普段と違うことをするのよ。 そうね、例えば」
「桐乃、大変だ! 沙織が亡くなった!!」
「とか、どうかしら」
京介「……お前、沙織を殺すんじゃねえ」
「嘘に決まっているでしょう。 妄想でいくら人を殺そうと罪には問われないのよ……ふふ」
京介「お、おう……一応聞いておくけど、俺を殺したことは?」
「約三回ほど」
京介「……いつかは聞かないでおこう」
「賢明ね。 それで、それも厭だと言うのなら……そうね」
「もう、諦めなさい」
京介「……りょーかい」
と、全く役に立たない電話だった。
分かったことと言えば、黒猫が妄想の中で俺を三回ほど殺している事実だ。
……あいつとは友達関係を改めて考えないと危ないかもしれない。 あやせの次は黒猫か。 俺の苦労は絶えない様で安心したぜ。 はは。
その時、突然、ガラガラと音がする。
聞きなれた音で、毎日聞いている音。
それは、風呂場のドアが開く音。
湯船に浸かっている俺の視界に入る位置にドアは設置されていて、つまりそれが開けばその奥が見えると言う訳で。
そして、このアパートのこの部屋に居るのは俺と桐乃で。
俺は今、湯船に入っていてドアには当然手が届かない。 開けられる可能性がある奴は一人だけ。
風呂場のドアを開けるということは風呂に入るということで、それら全てを考えると。
そこに居たのは、桐乃ということ。
しかも、タオルなんて巻いておらず。 全裸。 一応腕で隠してはいるが。
京介「お、お前っ! 今俺入ってるから!!」
言い、俺は視線を壁に向ける。
桐乃「……知ってるし。 別にいーじゃん」
やべえ! 桐乃の体を大分まじまじと見てしまった気がするぞ! いつ以来だよこれ!?
桐乃「てか、昔リアがきたときにあたしの裸見てるじゃん……あの時は何とも思わないとか言ってたのに?」
未だに桐乃に視線は向けられず、シャワーの音が聞こえて来る。 恐らく、頭を洗っているところだろう。
京介「……な訳ねーだろ。 お前って、その……スタイル良いし。 何とも思わない訳ねーだろ」
桐乃「ふうん? なら良いんだケド」
良い? 良いって、何がだ。
京介「お前、ひょっとしてあの時怒ってたのって」
桐乃「……それもある。 あと、照れ隠しと嫉妬」
京介「……そか。 悪かったよ」
桐乃「今更言って欲しくなんてないし~。 で、今はどうなの?」
京介「……め、めっちゃ意識する」
桐乃「キッモ~! えへへ。 シスコンすぎっ!!」
京介「わりいかよ……ちくしょう」
桐乃「良いよ。 あたしだってそんなシスコン兄貴と付き合ってる妹だしね。 ひひ」
今日の桐乃はやたら攻撃加えてきやがるな……。 何か、反撃できない物か。
京介「……そうだ。 前は確か、お前に背中流してもらったよな。 今日は俺が流してやろう」
桐乃「い、いいっていいって!! 自分でできるし!!」
京介「日頃のお礼だよ、お礼。 良いから大人しくやらせとけって」
桐乃「……分かった。 じゃあ、別に良いケド……見ないでよ」
京介「みねえよ……つうか見るなっていうなら、タオル巻いてくりゃよかったのに」
桐乃「ふん。 あんたが何も思わないとかゆーから、そうしたってだけだっつうの」
可愛いなぁおい! こいつ、考え方が一々可愛すぎる!
京介「じゃ、じゃあ……えっと、とりあえず今そっち見ても大丈夫か」
桐乃「う、うん。 背中向けてるから、だいじょぶ」
その言葉を受け、俺はようやく壁との睨めっこをやめる。 次に視界に写ったのは、桐乃の後ろ姿。
……こ、これはヤバイ。 大分エロいぞ。
俺は桐乃に聞こえないように、唾を飲み込む。 以前と違ってお互い裸だからな……すげえ緊張するんだが。
以前と違うといえばそうか、今はもう……ちゃんと付き合ってるのか。 別れるのが前提ではなくて、関係を有耶無耶にした状態でもなくて。 しっかりと、俺と桐乃は付き合っているんだ。
京介「えーっと……」
この場面ってなんか褒めた方が良いのか!? 初めてすぎて分からないんだけど!
京介「肌、綺麗だな」
桐乃「……変態」
京介「……悪かったな」
どうやら褒めたのは正解だったらしい。 桐乃の声色からして、嬉しそうなのが伝わってくる。
桐乃は俺が後ろに座るのを感じたのか、黙ったまま、前を向いたままでボディソープを俺に渡す。
それを受け取り、何回か押し、手に溜めて泡立て、桐乃の背中へ。
……こいつの肌、めちゃくちゃ触り心地いいな。 陸上やってるのもあり、しっかりとはしているけど柔らかい。 それにすべすべしてるし……。
これだけ触ったのってもしかして初めてじゃね? 寝ている時に間違えて触る時も、起きないように気を付けているしな。
いや、ていうかだな。 なんか、この光景エロくねえか!? 大丈夫か俺!?
桐乃「ね、ねえ」
京介「……どした?」
桐乃「出来ればタオル使って欲しいんですケド……」
なるほど。 なんでこんなエロいことになっているか理由が分かった。 そういうことか。
京介「……わ、悪い」
桐乃「べ、別に手でもいいけどね……?」
京介「ま、マジで!?」
桐乃「ちょ、なんでそんな嬉しそうにするワケ!? キモいんですケドぉ!」
京介「だってお前の肌めっちゃ触り心地いいんだもん! お前の肌触った男は絶対嬉しそうにするって!」
桐乃「あ、あたしが触らせるのは京介だけだし……でも、そんな嬉しそうにされるとなんかヤダ。 やっぱタオル使って」
京介「……マジ?」
桐乃「マジ」
京介「……分かった」
桐乃「その落ち込みっぷりが怖いんだケド……」
京介「よし桐乃。 明日も一緒に風呂入ろうぜ」
桐乃「なんでそうなるッ!? 一年に一回だけだから!」
京介「一年に一回しかねえの……?」
桐乃「う、うう……じゃあ、半年に一回……でどう?」
京介「そこをなんとか!」
桐乃「ま、まだゆうの? なら……ひと月に一回……とか」
京介「おし、そうしようぜ桐乃。 月に一回は一緒に風呂な」
桐乃「……なんか騙された気分」
京介「んなことねーよ。 ほら、背中洗い終わったぞ」
桐乃「ん。 ありがと」
京介「うっし。 じゃあ俺は出るぞー」
ぶっちゃけ、これ以上桐乃と触れ合っていたら俺がヤバイ。 こういう時はさっさと出るに限る。
しかし、俺はすっかり忘れていた。
一年とちょっと前に、似たようなことがあったのを。
桐乃「待って」
腕を掴んだりはされていない。 それでも桐乃の声はそれだけで俺の動作を止めるには充分な物だ。
俺は開き掛けた扉から手を離す、そして振り返り、背中を向けたままの桐乃に対して尋ねる。
京介「……どうした?」
桐乃「あたし湯船入るから、あんたも入れ」
……何故に命令形? いやいやいや、つうかだな、それはまずいだろうが!
京介「い、いや……俺もう、のぼせてきてるし……さっき湯船入ったし……」
桐乃「ふ~ん。 嘘吐くんだ。 そんなの嘘ってことくらい分かるんですケドぉ」
京介「う……で、でもなあ!」
桐乃「なんでも命令三つ聞いてくれるって言ったよね? あれまだ一個しか使ってないし、これが二個目ってことで良いよ」
あれってその日限定じゃなかったんすか。 桐乃が言うならそうじゃないことになってしまうけどよ。
まあ、でも。
京介「……なら、仕方ないか」
自分の意思とは裏腹に、俺はそう答えてしまう。 違うか。
多分それは、俺の意思通りだったのだろう。 そしてそれは桐乃の意思通りでもある訳で。
俺と桐乃は背中合わせで、湯船に入ることとなった。
桐乃「……面白い話どーぞ」
京介「すげえ振りだな……じゃあ一つ、面白いかどうか分からない話でもすっかな」
桐乃「お。 てっきりなんも話さないかと思っちゃった。 ヨロシク」
京介「……おう。 んじゃあ話すぞ」
俺は語り出す。 昔のことをゆっくりと思い出しながら。
京介「ある所に馬鹿な男が一人居て、そいつにはすげー妹が居たんだ」
京介「勉強も出来て、容姿も良くて、運動だって出来る。 そんな、妹が居た」
本当に、何でも出来る妹だ。
京介「男はずっと思っていた。 なんでこいつはこれだけ才能に恵まれているんだろうってな」
同時に、どうしてこいつばっかりってな。
京介「そんなことを思っていたのも……他にも色々とあり、妹とはしばらく会えない生活を送っていた。 会おうと思えば会えたのに、その男は会おうとしなかった」
妹はずっと、その男を見ていてくれた。 避けていたのは、その男で。
京介「だけど……ひょんなことから妹と知り合う切っ掛けを得て、それで話すようになったんだ。 少しずつな」
切っ掛けはすげえ物だったんだろうよ。 だって何年も会ってなかったのに、普通に話せる様になってたし。
京介「そしてある日、気付いた。 気付いたというか、気付かされた」
京介「その妹は天才なんかじゃねえって。 全部、努力して得た物だったんだって」
京介「勉強も頑張って、自分も磨いて、必死に走る練習して」
京介「今まで才能だと思っていた物は、そいつが必死に頑張って、一生懸命努力して、得た物だったっつう訳だ」
天才では無く、全て努力して得た物。 才能では無く、そいつの得た結果ってことだ。
京介「その時からずっと、男はある一つの事をずっと想ってる。 なんだと思う?」
俺のその質問に、妹は少しの間を置いて応える。
桐乃「……ちょっと分からない、かな」
俺もまた、少しの間を置き、口を開いた。
京介「俺は全然駄目だけど、いつも周りの奴に助けてもらってばかりだけど。 それでも一つだけ、誰にも負けないって思えることがある」
絶対に、どんな奴にも負けないことが、一つだけ。
京介「その妹はその男の誇りで、自慢の妹なんだ。 それだけは絶対誰にも負けないってな」
桐乃は俺の誇りで、自慢の妹で、そんで。
俺が世界一好きな、奴で。
京介「ま、そんな話だ。 つまんねー話だけどな」
桐乃「……そか。 それで、その人は妹とどうなったんだろうね?」
桐乃はそんな事を言い、頭を俺の肩へと預ける。 すぐ横を見ると、桐乃はちょっとだけ嬉しそうに笑い、天井を見つめていた。
京介「さあな? 今頃どっかで妹と仲良く一緒に風呂でも入ってるんじゃねーの?」
桐乃「ひひ。 かもね」
言いながら、桐乃は俺の手を掴む。 俺も、桐乃の手をしっかりと掴んで。
それからしばらくの間、俺たちはそうしていた。
俺も桐乃も落ち着いてたさ。 伝わってくる鼓動から分かるのは、二人とも落ち着いてたってことだろうしな。
ああ、そうそう。 最後に桐乃はこう言ったんだ。
桐乃「ね、京介。 来月も楽しみにしてるから」
背中合わせ 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
乙
桐乃と風呂とか羨ましすぎ
最近桐乃の抱き枕買おうか検討中、しかしここまで踏み込んでいいものかという心の葛藤
広い風呂だなー(棒)
こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。
投下致します。
10月下旬。
桐乃「じゃ、行って来ます」
京介「おう。 行ってらっしゃい。 お土産忘れるんじゃねえぞ?」
桐乃「え~。 どーしよっかな。 考えといてあげる」
京介「そうかいそうかい。 気をつけてな」
桐乃「はいはい。 あ、そーいえば」
玄関扉に掛けていた手を一度降ろし、桐乃は俺の方へと向き直る。
京介「ん? 忘れ物か?」
肝心なところで抜けてるしな、桐乃は。
桐乃「そんなとこ。 ひひ」
笑いながら言って、桐乃は顔を俺に近づけ、そのまま……キスをした。
京介「お、おま!」
桐乃「これで忘れ物な~し。 じゃ、またね」
桐乃はそれだけ言うと部屋を後にする。 俺は一人残され、唇に残された桐乃の感触に、少しの切なさを感じていた。
今日から三日間、桐乃は修学旅行へと行くことになっていたのだ。
京介「……さて」
今日は金曜日なので、えーっと……金、土、日、だな。 帰って来るのは日曜の夕方で……それまでこのアパートには俺だけってことか。
京介「一人ってのも随分と久し振りな気がするな」
そう思うのも無理はないか。 去年の終わりから今まで、ずっと桐乃と暮らしていたし。 どっちかが出掛けていて一人ってのはあったけど……これだけ長い期間一人ってのは、二人で暮らし始めてからは初めてだよな。
京介「……ううむ。 いきなり一人になると広く感じるな」
今日の予定としては、午前中は赤城と遊ぶ予定。 この前の埋め合わせも兼ねて。
で、赤城はどうやら午後には瀬菜と遊ぶらしく、俺はその後、黒猫や沙織と合流することになっている。
つうか、そう考えると一人っきりではねえよな。 折角伸び伸びと満喫しようと思っていたのに。 ま、明日もあることだし……別に良いか。
京介「えーっと、とりあえずはアキバか」
赤城からは「一人でずっと待ち合わせ場所に居るのは悲しいから、今回はドタキャンするんじゃねえぞ」と釘を刺されている。 うむ。 申し訳ない限りだ。
時間を確認する為、近くに置いてあった携帯を開く。 すると、新着メールが一件。
From 桐乃
一応警告。 浮気したらマジ許さない。
京介「する訳ねえだろ……って、添付ファイル?」
見たところ、画像ファイルの様だ。 俺は大して迷いもせず、それを開く。
画面いっぱいに映し出されたのは、笑顔のあやせ。
ふむ。 普段なら喜ぶべきところだろう。 美少女を見れて喜ばない男はいないからな。 それは仕方無いことだ。
念の為言っておくと、桐乃が一番。 それだけ言えば分かるだろ。
……で、だ。
今、この俺の携帯に表示されている画像。 これと桐乃からの本文を合わせると……出てくる答えは一つ。
京介「……あいつ、脅すにしてももっとマシな方法があるだろ」
なんだよこの恐ろしすぎる警告は! マジで、俺今鳥肌たってるからね。
俺は恐る恐る、メールを返信。
To 桐乃
当たり前だろ。 それより俺は可愛い妹の画像が見たいんだが。
さて。 俺もそろそろ行かないとな。 今回時間に遅れたら、赤城に何を言われるか分かった物じゃねえし。
そう思い、携帯をポケットに入れようとしたところで着信音。
京介「……桐乃か。 相変わらず返信はっええな」
From 桐乃
今回だけだかんね。
またしても添付ファイル一件。 来たか……!!
京介「これで今日も一日頑張れそうだぜ。 へへ」
思いながら画像を開くと、そこには桐乃では無くりんこりんが居た。
京介「あ、あの野郎……!」
確かに可愛い妹なのかもしれんが、俺が言っているのはそうじゃねえ! あいつ、絶対分かっててやりやがったな……。
若干泣きそうになりながら、俺は待ち合わせ場所へと向かうのだった。
赤城「おーう。 ドタキャン高坂! 元気してたかあ!?」
京介「悪かったって……頼むからそのあだ名で呼ぶのをやめてください赤城さん」
いきなり呼ばれたぞ。 顔を見た瞬間そう言ってくるって、赤城の中では結構恨みが募っている可能性があるぜ。
赤城「ははは! 次やったらマジで許さねえからな! 一人ずーっとお前のこと待ってたんだぜ。 恋する乙女でもあるまいし! ははは!」
京介「……なんでお前、朝からそんなテンションたけえんだよ」
赤城「いやいや、それがさー。 今日めっちゃ良いことあったんだよね、俺」
京介「ふうん。 で、今日はどこに遊びに行くわけ?」
赤城「おまっ、そこはあれだろ? 「どんな良いことがあったんだ?」って聞く所じゃねえかよ!」
京介「別にお前の身に起きた良いことなんて聞きたくねえよ……」
赤城「実はさ、朝飯食った後のことなんだけど」
なんでこいつは勝手に語り始めてるんだ。 ひと言も俺は聞きたいなんて言ってなくね?
赤城「俺は今日ここに来るために着替えなきゃいけなかったから、でもちっと自分の部屋で着替えるのが面倒でリビングで着替えてたんだよ。 風呂あがりだったしな」
多分、聞いても聞かなくてもどうせこいつは全部話すんだろうよ。 なら大人しく聞いてやるか。
京介「はぁ……それで?」
赤城「そしたらよ……瀬菜ちゃんとばったり会っちゃってさ!」
……そういう系ね。 なるほどなるほど。
京介「そりゃ家の中だしな。 会うだろう」
赤城「んでよー。 瀬菜ちゃんってば「お兄ちゃん筋肉前より付いてるね」って言って体触ってくんの! 朝からテンション上がっちまったぜぇ!」
京介「そりゃ良かったな……」
京介「でも、瀬菜って確か彼氏が」
赤城「高坂ッ!!! お前今何を言おうとした!?」
京介「あ、ああ……いや、なんでもない」
赤城「分かれば良い。 俺の前では二度とその台詞を出すなよ。 分かったな」
京介「……へいへい」
そして、赤城は最後にこう締める。
赤城「いやぁ、それにしても……やっぱり瀬菜ちゃんが世界で一番可愛いよな。 マジでさ」
京介「……あ?」
赤城「ん? どした、高坂。 その目は? 前に勝負して分かったろ?」
京介「お、お前な……桐乃は」
京介「……いや、なんでもねえ」
赤城「あん? まあ良いけどよ。 そろそろ行こうぜ」
京介「ああ、そうだな」
多分……多分だが、ここが俺と赤城の違いなのだろう。
昔は一緒だったかもしれない。 俺も赤城も、妹のことを自慢していて。
だけど今は、俺は言いたく無かった。 桐乃との話を……思い出を。
自慢する様な物では無いと思ったからかもしれない。 しかしそれよりも、俺は二人だけの物にしておきたかったのかもしれない。
赤城「しかしよ、高坂」
横で歩く赤城が話し掛けてくる。 俺はそれを聞いて一旦思考を止め、赤城の方に顔を向けた。
赤城「お前、なんか今日はテンション低いっつうか、顔色悪いっつうか、そんな感じなんだけど、なんかあったのか?」
……やっぱそうかよ。 自分でも分かっちゃいるが。
原因も大体検討は付いているけどな。 でも、そんなのは多分些細な物だろう。 その些細なことでも気付くほどに、こいつとは仲良くやっている訳だけど。
京介「別に、なんでもねーよ。 つっても、良いことならあったかもしれんが」
赤城「ふうん。 どんなの?」
言われ、朝のやり取りを思い出す。 桐乃が行って来ますと言って、俺が行ってらっしゃいと返して。
その後のこと。
赤城「……なんでお前ニヤついてんの?」
京介「はあ!? ニヤついてねーし!! 何言ってんだお前!?」
赤城「明らかに動揺してますよね高坂さん! てかどう見たってめっちゃ嬉しそうにしてたじゃねえか!? 正直ちょっと引いたぞ!!」
京介「そりゃあれだ、気のせいだな。 俺はいつも通りにお前と居る時はニヤつくことなんて滅多にない」
赤城「なんかそう言われると、俺と遊んでる時すげーつまらないみたいな言い方で嫌なんだけど……」
京介「え? 違わないけど?」
赤城「ひどっ! さすがに今のはひでーぞ! 高坂ぁ!」
京介「……冗談だっつうの。 良いからとっとと歩けよ。 瀬菜のお使いとかもあるんだろ?」
赤城「まあな。 さて、お前もいつも通りになったことだし、気合い入れていくか!」
俺は最初からいつも通りだっつうの。 そんで、そんな気合い入れて俺たちはどこに行くんだ……?
京介「ちなみに、だが。 赤城」
赤城「ん? なんだ?」
京介「瀬菜のお使いってどこ行くの?」
赤城「決まってるだろ。 ホモゲーとか、色々だよ」
そうだよなぁ。 俺の友達の妹のお使いが普通なわけがない!
……少しの寒気を覚えながら、俺と赤城は町中へと繰り出していった。
その後、昼頃までは赤城と遊び、午後からはいつものメイド喫茶。
遊んだというよりは買い物に付き合わされたといった感じだが。
……内容は割愛させてもらおう。 ひと言で済ませるなら、察しろ。
そんで、今居るメイド喫茶で昼飯も一緒に済ませている俺の正面には黒猫と沙織。 俺の友達でもあり、桐乃の友達でもある奴らだ。
黒猫「それで、あなたは寂しくてわたしたちと遊んでいるという訳ね。 厭になってしまうわ」
京介「そりゃあちっとは寂しいけど、そんな大袈裟に言う事でもねえだろ。 一応言っとくが、桐乃の代わりでとかじゃないからな?」
黒猫「分かっているわよ、一々言われなくとも。 それにもしそうだとしても無理よ。 あの女の代わりなんて、あなたにとっては誰も居ないのでしょう?」
京介「……まあ、そうだけど」
沙織「ふむふむ。 お熱いですなぁ」
京介「うっせ、ほっとけや」
しかしそんなことを言ったとしても無駄であろう。 この二人は俺のことを見ながら、ニヤニヤと嫌味な笑いを浮かべているからな。 全く嫌になるぜ……。
京介「あー、それで。 今日はなんか決めることがあるとか言ってなかったか?」
そんな視線に耐え切れず、話題を変える。 我ながらナイス機転だとは思う。
沙織「良くぞ聞いてくれました! 京介氏!」
おおう。 すげえ反応だな……どれだけこの話題を待ち侘びていたんだよ。 どうやらこの話題は当たりだったらしいな。
黒猫「あら、わたしもそれには少し興味があるわね。 今日くらいしか出来ない話……と言っていたし」
それは俺もなんとなく聞いていたな。 今日くらいしか……正しくは、ここ最近では今日だけ予定が合ったので。 というのもあるけども、それでもその言い方をするってことは。
京介「桐乃が居ない時に決めたいこと。 で良いんだよな?」
沙織「ふっふっふ。 さすがは京介氏。 良く分かってらっしゃる」
沙織「ずばりですな。 拙者が企画しているのは……クリスマスパーティでござる! にん」
そういえば……もう10月か。 そんな計画を始める時期なのかね。 もう。
京介「クリスマスパーティか……なるほど」
黒猫「……あなた「今年は桐乃とデートだから」とかほざくのは無しよ? 去年も一昨年も二人で過ごしたのでしょう。 今年くらいは」
京介「分かってるよ。 今年は皆で楽しくやろうぜ?」
ん? でも、それだとどうして。
京介「なあ沙織。 それならどうして桐乃抜きで話さないといけないことなんだ?」
沙織「聞いてくださると信じていましたぞ。 京介氏」
沙織「実はですな。 これはお礼でもあるのですよ」
京介「……お礼?」
沙織「簡単に言えば、いつものお礼という訳ですな。 良くも悪くも、きりりん氏にはお世話になっておりますので」
京介「悪くの部分が大半だと思うけど……」
ていうか、良くもの部分って殆ど皆無だと思うんだけど。 こいつには迷惑掛けっぱなしだしな。
沙織「細かいことは良いでは無いですか。 京介氏は大分前に、プレゼントを貰っていますし……黒猫氏は去年、同人誌製作を手伝って貰っておりますし。 きりりん氏にも何か、と思いまして」
京介「……お前は?」
沙織「はっはっはっ。 何を仰るかと思えば。 拙者は皆さんに会うたび、頂いておりますぞ」
……そうだな。 お前はそういう奴だったよ。
黒猫「……そういうことね。 それで今日決めるのは、どんなサプライズをするか。 ということで良いかしら?」
沙織「その通りですな、黒猫氏。 拙者だけではどうにも考えが及ばず……皆さんの知恵を借りようかと思った所存で」
京介「と、言われてもな……あいつが喜びそうなサプライズねぇ」
黒猫「……その点については、わたしに良い考えがあるわよ」
京介「お。 黒猫はあいつと仲良いしな。 聞かせてくれよ」
黒猫「分かったわ。 ふふ」
黒猫は咳払いを一つすると、その内容を語り出す。
黒猫「まず、レンタルルームを借りるというのは大前提で良いかしら?」
沙織「ですな。 今年はそうしようと思っていますので」
黒猫「そう。 ならまずはここに桐乃が居るとするわね」
言いながら、黒猫はテーブルの中心に携帯を置く。
黒猫「で、わたしと沙織がここよ」
次にコップを一つ取ると、今度はテーブルの隅にそれを置く。
桐乃と黒猫と沙織の位置関係は分かった。 うん。 この時点で嫌な予感がすげえするぜ。
京介「……俺は?」
黒猫「あなたはここよ。 当然でしょ」
黒猫は言うと、中心に置かれた携帯の上にコップを置いた。
京介「……一応聞くぜ。 どういう意味だ、それ」
黒猫「あなたが桐乃を押し倒しているという図ね。 で、わたしと沙織はそれを遠巻きに見ている」
京介「なんで押し倒さないといけねえんだよ!! しかもお前らの前でとか嫌すぎるわ!!」
沙織「……つまり、拙者たちの前でなければ良いと言う事ですかな?」
京介「あん!? なんか言ったかぁ!?」
黒猫「でも、桐乃はそれで喜ぶのでは無いかしら?」
そ……そうか? ううむ。
京介「桐乃」
桐乃「な、なに? 急に後ろから声掛けないでよ」
京介「ちょっとこっち向いてくれ」
桐乃「……うん」
桐乃は頷くと、俺の方に向き直る。 俺はそのまま、桐乃の唇に自身の唇を重ねた。
桐乃「んっ……ちょ、いきなり……」
言いながらも決して抵抗はしない桐乃。 それがどうしようもなく可愛く、俺は優しく、桐乃を押し倒す。
京介「……お前、やっぱり可愛いよな」
桐乃「や、やめてって……」
京介「……へへ、えへへへ」
黒猫「……沙織、この不審者を置いてとっとと帰りましょう」
沙織「京介氏……妄想の世界の住人になっておりますな……」
黒猫「本当にこういう所まで兄妹そっくりね……」
沙織「はは……ごもっともで」
黒猫「ちょっとあなた、いつまでニヤけているのよ。 本当に通報するわよ」
京介「やめて! やめてくださいごめんなさい!!」
京介「……ん、ああ。 黒猫か……あやせかと思った」
びびった。 ていうか、黒猫とあやせが仲良くなり始めてから、なんだか二人が重なることが多いんだが……余計な影響を与え合っているんじゃないか、こいつら。
京介「つうかお前が変なことを言うからじゃねえかよ! キスしながら押し倒せとか!!」
黒猫「キスについてはひと言も言ってないわよ……?」
京介「そ、そうだっけ?」
黒猫「そうよ」
京介「……とにかく! もっと違う方法にしようぜ! 皆に何かしてもらった方があいつも絶対喜ぶって!」
沙織「ですな。 折角ですから、皆さんで何かをしたいというのには、同意見でござるよ」
黒猫「さすがに冗談よ……だけど、実はもう一つあるわ。 聞きたい?」
京介「……次変なことを言ったらお前の信用度は底辺まで落ちるからな」
黒猫「ふ。 心配ご無用ね。 わたしが提案するのは-----------」
結局、その黒猫の案は桐乃が喜びそうで、沙織はそれに賛同した。
俺はまあ……少し恥ずかしいのもあるが、あいつが喜ぶならそれはそれで良いわけだし、渋々だが賛同となったんだけど。
しかし、なあ。 でも決まった物は仕方ない。 桐乃にはクリスマスパーティだと言って、連れて行くとすることにしよう。
その日、俺は少しの期待と少しの不安と、多大な楽しさと、膨大な寂しさを感じながら……一人、アパートの一室へと帰って行った。
修学旅行 前編 終
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。
今気付いたんですが、スレもう終わりそうなんですね。 結構ギリギリだった。
新スレ立てておきます。
新スレ立てました。
京介「おかえり」 桐乃「ただいま」
京介「おかえり」 桐乃「ただいま」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375244567/)
こっち埋めちゃいます
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