京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」(1000)

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京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」 - SSまとめ速報
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2スレ目となります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372478669

oh...
1000を取ろうとしたら取られた件!

濁点の件、上の方でやっていきます。
ありがとうございます。


では、本日の投下致します。

京介「おおおおお! 何だよこれ! すっげえ良い場所じゃねえか!」

沙織「そ、そうでしょうか? ありがとうございます」

黒猫「沙織……まさか、あなたはここで連日儀式を執り行っているというの……?」

沙織「毎年、という程でも無いですよ。 たまに利用するくらいですので」

桐乃「うっはー! 空気美味しいね!」

俺たち四人はついこの間の夏コミの打ち上げで、沙織の別荘へと来ていた。

現在、別荘の二階から外を眺めているのだが、浜辺から少し離れた場所に設置された別荘。 この場所からは、海が綺麗に見渡せる。

これだけ海以外に何も無いと、夕方になれば太陽が地平線に沈んで行くのが見えるんだろうな。 是非拝めたい物だ。

そして、驚くことになんでもここら辺はプライベートビーチとなっているらしい。 まるで外国に来たような感じがするのは気のせいだろうか。

桐乃「良いなぁ。 こんな所に住んでみたい」

隣から同じ様に外を眺めていた桐乃が言う。 こういう場所、こいつは似合うだろう。 違和感無しでそう思う。

桐乃「そだ。 京介、人生相談」

と、急に俺の方を向き、桐乃は不穏な単語を口にした。

輝く笑顔が眩しいぜ。 俺にとっては嫌な笑顔だけどな、それ。

京介「は? ここで?」

桐乃「うん。 家買って」

……もう、こいつ本当にどうしようもないクソアマだな!

京介「そんな相談があってたまるかよ! ふざけんな!」

桐乃「ケチ。 いーじゃん別に」

ははは、仕方ねえなぁ。 買ってやるか!

ってなる奴がいると思う? 居る訳ねえだろうが。

もう面倒だし無視しよう。 これ以上絡んだら余計にぐさぐさと俺の精神に攻撃を与えてくるからな、こいつは。

京介「……で、これからどうすんの?」

俺と桐乃と黒猫の後ろから、微笑みながら見ている沙織に向け、俺は言う。

沙織「そうですね。 まだ夜までは時間がありますし……海に行きますか?」

黒猫「そうね。 折角だし、行きましょう」

おお、良いね。 まあ、その為のここってことはあるんだろうけど。

しかし海か。 久しぶりだしちょっとテンション上がるぜ。

桐乃「んじゃあ、あんたはここで留守番ね。 ヨロシク」

京介「何でだよ!?」

桐乃「だってぇ。 あんた、いやらしい目で水着姿見るじゃん? キモいし」

最近、何だか桐乃の俺に対する態度が冷たくなってきている気がするんだが、気のせいか?

俺が風邪を引いていた時は妙に優しかったんだがな……いや、今がただいつも通りってだけかもしれん。

黒猫「あら? わたしは別にそう見られても構わないわよ? ……という訳で、わたしと二人で行きましょうか。 先輩」

桐乃「なんでそうなんのよ! そんなのダメ、あたしが納得いかない」

黒猫「ふふ。 どうして納得いかないのかしら? 説明して頂戴」

桐乃「そ、それは……! べ、別にどーだって良いじゃん!」

京介「……頼むから、ここまで来て喧嘩しないでくれよ」

んで、四苦八苦の末になんとか俺にも同行許可が降りた。 マジで留守番とかやらされてたら今頃泣いていたかもしれんぞ。

というか、男が俺だけってのは非常に気まずいな……今更だけど。

まあ、三人居る内の一人は妹だしな。

もう一人は元カノだしな。

で、もう一人はお嬢様か。

……すげえな!? 俺の周り愉快すぎるだろ!

そんなくだらないことを考えながら、浜辺で俺と一緒に並んで座っている黒猫の方を向く。

京介「……お前、海入らないの?」

前の方では沙織と桐乃が何やら遊んでいるが……黒猫はというと、先程からちょこんと座り、身動き一つしない。

ちなみに、沙織はワンピースのような水着を着ていて、桐乃はしっかりと白いビキニを着ている。

いつか雑誌で見た奴と似たような感じだが、ちょっと違うか?

多分、桐乃なりに似合う奴を持ってきているんだろう。 相変わらずだけどセンスがずば抜けてるぜ。 派手って訳でも無く、かと言って地味という訳でもない。 桐乃の雰囲気と物凄く合っている感じ。

ていうか、あんなのはよっぽど自分の体型やらに気を遣ってないと着る気にもならねえだろうな……。

そうそう。 これは余談だが、数日前にこんな事があった。

つい……三日ほど前のことだったか。 コミケが終わり、一週間ほど経った後のこと。

俺はその日、暑くて暑くてあのアパートで扇風機を付け、ずっとその前から微動だにしていなかったのだが、突然桐乃が押しかけてきたんだ。

んで、何故かノーパソを持ってきていて「何か用か?」と聞いたらパソコンの画面を俺に見せてきた。

なんでも「あたしに合う水着を選べ」との命令……人生相談だったのが、ぶっちゃけそんなの分かる訳無い。 暑さで考えるのも面倒だった俺が適当に「お前は何着ても似合うだろ」と言ったら「じゃ、じゃあこれにしようかな……」とか言って再び俺に画面を見せた。

そこに写っていたのは、いかにも子供向けの水着で……案の定、メルルがプリントされていた訳で。

暑さで頭でもやられたのかと思い、さすがにそれは止めておいたけどね。 桐乃は「ふ、ふひひ。 メルちゃん、ヤバ。 ふひ」とトリップしていたのを戻すのには、そりゃあもうかなりの労力だったのはもはや通例か。 暑さと一緒に俺の体力を根こそぎ奪ったのは言うまでもない。

そんな事もあり、今日の桐乃の水着が決まったということで。

てか、俺が数ある内の中から最初に選んだのが今着ている水着なんだけど、あいつあの時「な、なんであんたの前でこんなの着なきゃいけないワケ? キモッ!」と言っていた気がする……。

結局着てるじゃねえかよ! マジ、なんなのあいつ?

……んで、俺が必死に止めたメルルの水着なんだが、あいつはどうやら結局買ったらしい。

俺の予想だと、実際に着る訳ではなく、観賞用だと思う。

そこまで桐乃の行動を予想できてしまう自分が嫌になっちまうけどな!

脱線しすぎたな。 話を戻そう。 俺の横に居る奴についてだ。

桐乃も沙織も良いとして、黒猫の奴は帽子被って、タオル巻いて、白いワンピース型の水着を隠しているのだが……何をしているのだろうか。

黒猫「……この聖なる光りはわたしにとっては敵なのよ」

京介「聖なる……え?」

黒猫「……ふん」

何だよ……?

京介「泳げないから……では無いよな。 前に練習したし」

あの時のおかげもあり、こいつは多少泳げるようになっているはずだし。

黒猫「察しが悪いわね……日焼け止めを忘れたのよ。 わたし、すぐに焼けてしまうから」

京介「あー。 そういうことね。 つか、それなら桐乃に借りればいいじゃねえか。 あいつ持ってきてただろ?」

黒猫「ええ。 しっかりと持ってきていたわ。 さすがはモデル様ね」

京介「……だったら何で借りないの?」

黒猫「厭よ。 何でわたしがあのビッチに「日焼け止め貸して? お願い! 頼みます!」だなんて言わなければいけないの? 考えてみれば分かるでしょう」

ちなみに今の黒猫の言い方が、物凄く俺に似ていたのは気のせいということにしておこう。

京介「別に大丈夫だろ……普通に貸してくれないかって言えば貸してくれると思うが」

黒猫「あの女がただで貸すと本気で思っているの……? わたしの予想だと「え? なぁに、あんた日焼け止め忘れたの? ウケルんですケド!」とまずは言うわね」

京介「言いそうだけどな」

黒猫「で、その後は「別にそんなのしなくたって良いんじゃない? 焼猫(笑)みてみたいなぁ~?」と言うに決まっているわ」

京介「それも言いそうだけどな」

黒猫「最後に「はぁ。 しっかたないなぁ。 んじゃあさ、お願いします桐乃様ってゆってみ? そうしたら、と・く・べ・つ・に……考えてあげるケド?」と吠えるでしょうね」

京介「……お前、本当にあいつのこと分かってるよなぁ」

良い友達持って良かったなぁ、桐乃よ。 泣けてくるぜ。

黒猫「で、そこまで言われると分かって借りにいくと思う? このわたしが。 はっ……笑えない冗談よ」

いや、まあそうは言っても。

京介「でもさ、お前だって海に入りたいんじゃねえの?」

黒猫「それは……まぁ、そうだけど」

しゅんとなる黒猫。 そんな姿を見て、俺は結局いつもの様に行動する。

京介「あー。 んじゃあ俺が借りてきてやるよ。 それで良いか?」

黒猫「……自殺志願者ね。 行ってらっしゃい」

本当に、こいつも桐乃も素直じゃねえからな……。

まあ、そんなこいつらの世話を焼くのも、最近だと何だか楽しいんだけど。

段々、良い感じに飼いならされてる感じがするぜ。

で、俺は沙織と海の中でボール遊びをしている桐乃に声を掛ける。

海面は膝下くらいで、遊ぶには丁度良い場所か。

京介「おーい。 桐乃」

桐乃「なに? てか、なんであんたは入らないの?」

俺が呼ぶと、桐乃はすぐに俺の方に顔を向け、そう言った。

てかお前、さっきまで留守番してろとか言ってた奴の台詞じゃねえからな、それ。

京介「後で入る。 で、ちょっと頼みがあるんだけどよ」

桐乃「あんたがあたしに? ひひ、ゆってみゆってみ」

嬉しそうだな。 普段とは逆だからか?

京介「日焼け止め、貸して欲しい」

俺がそう伝えると、桐乃は少しだけ考えた後、口を開く。

桐乃「え? なぁに、あんた日焼け止め忘れたの? ウケルんですケド!」

黒猫の予想通りじゃねえか。 改めてどんだけ仲が良いんだよ。

京介「俺じゃなくて黒猫が、だよ。 あいつもあそこでああしてたらつまらねえだろ?」

桐乃「ふうん。 あいつ、言えばいいのに」

桐乃は小さく呟いた後、続けた。

桐乃「でも、別にそんなのしなくたって良いんじゃない? 焼猫(笑)みてみたいなぁ~?」

と、こいつはマジで黒猫の予想していた台詞をそのまま言う。 勿論、黒猫の耳にも入る声でだ。

俺が黒猫の方を向くと、あいつは顔を逸らしていた。 恥ずかしがっている……のかな?

京介「そこを何とか頼む。 お前だって、皆で遊びたいだろ?」

桐乃「うーん」

桐乃「はぁ。 しっかたないなぁ。 んじゃあさ、お願いします桐乃様ってゆってみ? そうしたら、と・く・べ・つ・に……考えてあげるケド?」

ここまで台詞が被ってくると、何らかのテレパシーでもあるのかと疑いたくなってくるぜ。

京介「……それ、俺が言うの?」

桐乃「当たり前じゃん? ほら、早く」

今度から、桐乃に何か頼みごとをする時はまずは黒猫を通してどんな言葉が来るか教えてもらおう。

それで、その都度対策を立てておくべきだな。

京介「チッ……お願いします桐乃様」

桐乃「最初の舌打ちが気に入らないんですケド」

京介「……お願いします桐乃様」

桐乃「そっかぁ……そう頼まれるとなぁ!」

桐乃はニタニタ笑いながら、俺の顔を見る。 すっげえウザイ! 良いから早く貸しやがれ!

桐乃「う~ん。 ダメ、やっぱ貸せない。 じゃね」

京介「は……ハァ!? お前、さっき言ったら貸すつったじゃねえかよ!」

桐乃「そんなことひと言もゆってないし。 考えてあげるってゆっただけじゃん?」

桐乃「んでぇ、考えた結果……貸せないことになったの。 分かった?」

分かってたまるかそんなもん! 人を苛立たせる天才だよこいつ!

桐乃「じゃ、そうゆーワケで、ヨロシク」

桐乃はそれだけ言い残すと、俺に背中を向けて沙織の方へと歩いていく。

まだ足が付く浅瀬なので、桐乃の歩く速度は少し早い。

……ほ、ほう。 てめえ、隙だらけだぜ。

俺は静かに、その後を付ける。 ばれないように、近づく。

もう手を伸ばせば届く距離まで行った所で、俺は桐乃に掴みかかった。

京介「ははは! 油断したな桐乃ぉ!」

桐乃「ちょ! な、なにすんの!?」

京介「おめえが舐めた真似するからだよ! くたばれ!」

桐乃「く、くすぐるなぁ! ひ、や、やめてって!」

京介「うるせえ! お前が貸すって言うまで俺は続ける!」

桐乃「こ、この!」

桐乃は手をぶんぶんと回し、俺に攻撃を加えてくる。 が、くすぐられながらなので、力が入らないのか当たっても気にならない。

京介「早く観念しやがれ!」

桐乃「わ、分かった! 貸す! 貸すからやめて!」

……よし、勝った! この妹相手に初めて勝てた気がするぜ! めっちゃ嬉しいな、なんだこれ。

めっちゃ嬉しいのと同時に、なんかめっちゃ虚しい。 何故だ……。 記念すべき初勝利のはずなんだが……。

京介「へへ、俺を怒らせるとどうなるか分かったか」

桐乃「……ひい、ひい」

桐乃は未だに肩で息をしている。 くすぐりに結構弱いのか、こいつ。 良い弱点だ。

俺はそんな桐乃に勝ち誇った笑みを浮かべ、浜辺へと戻る。

京介「黒猫ー! 貸してくれるってよー!」

砂場まで歩き、黒猫にそう伝えると、黒猫は立ち上がり何やら俺の方を指差している。

京介「……何やってんだ? あいつ」

同時に何かを言っているが……普段から声が小さいってのもあり、俺の耳までは届かない。

京介「聞こえねーよ! なんだ!?」

言いながらも、黒猫の方へと近づいていく。 やがて、黒猫が何を言っているのか聞こえてきた。

黒猫「後ろ!」

後ろ……って?

何かあるのかと思い、後ろを振り向く。

桐乃「このクソ兄貴! 死ね!!」

すぐそこには桐乃が居て、思いっきり背中を押された。 当然のように俺はバランスを崩し、砂場へと倒れる。

桐乃「はー! すっきりした! ざっまあ!」

桐乃「バチが当たったのかなぁ? 砂だらけじゃん! うけるっ」

そんな事を言いながら、桐乃は俺の頭をげしげしと踏みつける。 こいつマジで容赦ねえな。

つうか、バチが当たったって全部お前の所為じゃねえかよ!

京介「て、てめえ……」

基本、やられたらやり返す奴だからな、桐乃は。

何かしら後でされるとは思ったが、ここまでとは思っちゃいねえぞ。

京介「……おう、桐乃。 お前さっきの所為で全身濡れてるよな」

俺は立ち上がりながら、桐乃の姿を見据えた。

桐乃「……はぁ? それが?」

京介「ってことは、お前もここで転べば砂だらけじゃねえか。 だよな?」

俺は言いながら、桐乃へと近づく。

桐乃「く、来んな! キモッ!」

桐乃は俺にそう吐き捨てると、振り返り黒猫の方へと走って行った。

桐乃「黒いの! ボケッとしてないでさっさと行くよ! 日焼け止め、部屋においてあるから!」

桐乃「早くしないと変態シスコンに襲われるから!」

黒猫「え、ええ。 そうね。 行きましょう」

黒猫は汚い物を見る目で俺の事を見て、そう言う。

……なんで黒猫は俺の事を裏切ってるんだ。 俺めちゃくちゃ可哀想じゃん。

一瞬、追おうか迷ったが……やめておくか。 こんな理不尽な役目はもう慣れっこだし。 ふん。

京介「……砂、流すか」

京介「ったく、あいつマジで倒しやがって……」

悪態を付きながら、海で砂を洗い流す。 髪にも絡まってすげえウザイ。

沙織「ふふふ。 きりりんさん、とても楽しそうでしたね」

それを見ていた沙織が近づいてきて、俺に話しかけてきた。

京介「そりゃ良かった。 その分俺は苦労してるけどな」

沙織「ですが、それが楽しいのではないですか? 京介さんは」

京介「そんなことはない! って言いたいが……まあ、かもしれない」

沙織「そうですか。 きりりんさんは、本人は絶対に言わないと思いますけど」

沙織「京介さんと居るときが、一番楽しそうにしているんですよ。 わたくしとしては、ちょっぴり悔しいんですけどね」

沙織はしゃがみ、海の水を指先で遊びながらそう言った。

京介「……そっか。 そりゃ嬉しい話だ」

沙織「ええ。 きりりんさんも素直では無いので……京介さんも大変だとは思います」

京介「もう慣れたさ。 多分、だけど……そういうの含めて、俺は桐乃のことを好きになったと思うんだよ」

沙織「ふふ。 愛の力という物ですね」

京介「そう言われると嫌なんだが……あいつには絶対に言うなよ?」

沙織「分かりました。 墓場まで持って行かせて頂きます」

京介「……いや、そこまでの秘密では無いけどね」

どちらかというと、俺の携帯の待ち受けの方がよっぽどヤバイからな。 あれはばれたら死ねる。

沙織「あ、お二人とも戻ってこられた様ですよ。 行きましょう、京介さん」

京介「ああ、だな……って、沙織?」

何故か、沙織がこれでもかってくらいニヤケながら俺とわざわざ手を繋いで、浜辺で待つ桐乃と黒猫の方へ向かっていく。

……桐乃、超怒ってるじゃねえか! この距離からでも伝わってくるんだけど!?

沙織「ふふ。 京介さん、嫉妬というのもたまには面白い物ですよ」

と、爽やかな笑顔で言ってくる。 怖すぎる。

ていうか、嫉妬ねえ。 それもまあ……あるのか? だけど、それ以外のことでもあいつは一々俺に突っかかってくるからな。 そんくらい、険悪なんだよ基本的に。

仲が悪いか良いかで言えば多少は良い……と思うけど。 それでも、険悪なのには変わりねえとは思う。

つまりだな。 ええっと、何だっけ。 細かい事を言ってくるんだよね。

たとえば……そうだ。 こんな話がある。

いつも通り、二人でアキバとか、たまには渋谷の方とかに遊びに行く訳だが、その度にあいつは「服にシワが付いている」だとか「靴が汚れている」だとか「堂々と歩けないの?」とかな。

一々言ってくる訳ですよ。 そりゃあ、俺だって気を付けてるよ? だけど、どんだけしっかりやっても文句を付けて来やがるからな、桐乃は。

今年のゴールデンウィークとか、ほぼ毎日そんなことを言われながら一緒に出掛けてるんだぜ? やってられるかっつの!

そんな感じだから、嫉妬というよりはただ俺に文句が言いたいだけなんだよ! 全く嫌になるぜ。







そこで、ふと気付いた。





そういや、最近はどっかに二人で出掛けるって少なくなったな。

前からこんなもんだっけか? 数ヶ月前まで、都合が合えば遊んでた様な気がするけど。

……最後に俺と桐乃だけでどこかに出掛けて遊んだのは、いつだったか。

ま、そんな気にする程の事でもねえだろ。

俺が一人暮らしになって、そこに桐乃が来るってのは結構あるしな。 ただ、二人でどこかに出掛けるってのが減っただけだ。

普通に考えれば、それもそうかもしれない。 俺が借りている部屋で遊べる訳だし、わざわざ出掛ける必要がなくなったってだけで。

それだけの、ことだ。


第十六話 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

乙感想ありがとうございます。

十三話、いい感じに纏まってましたね。
きりりんがモデルを始めた理由とか、エロゲーにはまった過程とか。

配信が待ちきれない!

こんにちは。
投下致します。

夕方、遊び疲れた俺たちは浜辺に並んで座り、夕日が沈むのを眺めていた。

沙織「良いですね。 何だか、青春といった感じがして!」

そういうの好きそうだからなぁ、お前は。

京介「俺はもう、早く戻って寝たい」

何故かって? 桐乃にさんっざん! コキ使われたからだよ! 飲み物買って来いだとか、ビーチボール取って来いだとかな。

ああ? 勿論全部聞いたさ! 悪いかよちくしょう。

桐乃「はぁ? どんだけニートなのよ、やだやだ。 空気読めない奴はこれだから」

な? 終始こんな感じだぜ、この妹様は。 で……だな。

その空気読めない原因は誰の所為だと思ってんの!? 砂に埋めてやろうかこいつ!

そう思い、桐乃を睨むと負けじと睨み返してくる。 目を逸らした方が負けだな……こりゃ。

黒猫「いつまで見つめあっているのよ。 気持ち悪い」

と、それを見ていた黒猫が口を開く。

京介「どこをどう見たらそうなるんだよ!? お前の解釈は時々とんでもないことになってんぞ!」

黒猫「そうかしら? 強ち間違ってはいないわよ」

桐乃「チッ……こいつと見つめあうくらいなら、そこら辺の石ころ眺めてた方が楽しいっつーの」

お前は楽しいかもしれないが、周りからみたら変人だけどな、それ。

つうか、最近桐乃の当たりが以前と似たようになってきた気がする。 気がするってだけで、だからどうだって訳じゃねえけどさ。

なんか、寂しいな。 ちょっとだけ。 なんて思っちまう。

京介「そうかよ。 俺もお前と同じ考えだ、気が合うな」

桐乃「ふん……あっそ」

沙織「お二人とも折角のお泊りなんですから、喧嘩はやめませんか? 楽しい物も、つまらなくなってしまいますよ」

沙織は少しだけ口調を強くして、言う。

そこからは一つ一つの思い出を大切にしたいという、そんな想いを感じた。

沙織「ですので! 皆さん、バーベキューをしましょう」

……それは大変素晴らしい案だが、前後の繋がりが分からない。 もうちょっと良い感じの切り出し方とかあったんじゃね?

まあ、それを突っ込むのはやめておこう。 沙織なりの気遣いなのだろうから。


京介「……だそうだ。 桐乃、ここらでやめとこうぜ。 ほら」

俺は言い、右手を差し出す。

桐乃「チッ……言っとくけど、沙織の為だから」

そう言い、桐乃も右手を差し出した。

ま、とりあえずこれで一旦は大丈夫だろうな。

京介「悪かったよ。 ちょっと嫌味っぽかったしな、俺」

桐乃「もう良いっつーの。 しつこい」

へいへい。 そりゃすいませんでした。

その後、沙織の指示で各自準備を済ませる。

着替えと準備が終わり、落ち着いたところで既に日は沈んでいた。

沙織「では! 黒猫さんの完売を記念して、乾杯!」

そう言われて思い出した。 そういやこれって黒猫の同人誌完売パーティだったんだな。 やべえやべえ。

それとさ、こいつってわざと同人誌って言葉抜いたよな、今。 黒猫の大量販売みたいに聞こえたぞ。

黒猫「ちょ、ちょっと……何もそんな事、言わなくても良いじゃない」

沙織「良いじゃないですか。 冬は百部を売り切りましょう!」

照れる黒猫を他所に、沙織の奴は沙織の奴で自分のことの様に喜んでいる。

俺もまた、嬉しかった。

桐乃「ま、あたしがまた手伝ってあげれば余裕だと思うケド。 小説のおかげだしね~」

黒猫「そう、ね。 正直助かったわ。 ありがとう」

桐乃「……へ? う、うん。 ど、どういたしまして」

面白え。 黒猫が素直にお礼言った所為で、桐乃が動揺してやがる。

そういやぁ、桐乃って素直にお礼とかいうと結構動揺するよな。 普段、喧嘩ばっかしている黒猫とか相手だと余計に。

京介「今回は行けなくて悪かったな。 次は絶対行くからさ」

黒猫「そうね……あなたにはコスプレをしてもらうという、大切な役目があるのだから。 次回はしっかりして欲しい物よ」

ああ、あれってマジだったんだ。 いつかチラッと聞いたけどよ。

桐乃「ふ~ん。 んで、看病してあげたあたしにお礼は?」

京介「桐乃にもマジで感謝してるよ。 ありがとな」

先程思ったこともあり、俺も例にならって素直にお礼を言ってみる。 が、対する桐乃は動揺することは無く、口を開いた。

桐乃「ひひ。 でもぉ、それだけじゃなんかなぁ~」

……これは明らかに選択を間違えた気がするぜ。 俺の今までの経験がそう言っているんだ。

エロゲーでいうと、選択肢を押した瞬間にきらきらと輝いていた目の光彩が無くなる感じ。 一発で間違えたと分かる。

京介「……ええっと、なんすか?」

桐乃「実は……コレ!」

桐乃は先程から持っていた紙を俺に手渡す。 敢えてずっと突っ込まなかったんだが、ここでそれか!

ええっと、何々……。

京介「冬の祭典……メルルとクリスマス?」

桐乃「そう! それ、チケット予約制なんだけど店頭販売だけなの。 んで、その発売日があたし学校じゃん?」

学校じゃん? っつわれても、俺はお前の登校日なんて把握してねーよ。

桐乃「学校終わる頃に行っても、多分売り切れちゃってると思うんだよね……だから、ね?」

つまり買って来いってことね。 めんどくせ。 なーんで俺がお前の行くイベントのチケットを買わねばならんのだ。

京介「……まあ、構わねえけど、また夜中に販売とかじゃねえよな?」

桐乃「だいじょーぶ。 今回は正午に販売だから、ちゃんと並べば買えると思うし」

それでも並ぶ必要はあるのか。 どんだけメルルは人気があるんだろうな。

京介「分かったよ。 んでいつ発売なの? これって」

桐乃「十月だね。 しっかり覚えておきなさいよ?」

京介「へいへい。 分かりましたよ……つっても、一応その少し前には一回連絡くれ。 予定とか空けないといけないし」

桐乃「あんたに入っている予定とかあんの?」

京介「めちゃくちゃあるよ!」

桐乃「へえ、じゃあ今度予定見せてよ」

京介「……一応、ぼちぼちある」

桐乃「あたしの中でぼちぼちってのはぁ……一週の内、五日は予定が埋まっている事だケド?」

京介「ああもううるせえな! 予定なんて全然ねえよ! わりいか!?」

桐乃「ぷ。 かわいそ~。 それで本当に大学生なの?」

京介「へっ。 ほっとけ」

桐乃「ま、一応連絡したげる。 良かったね」

何にもよかねーよ。 いつものことだが、めちゃくちゃ他人事の様に言ってくるな。

京介「はいはい。 良かった良かった。 ちょー嬉しいわ」

桐乃「ちゃんと二枚買っといてね」

京介「おう……って、なんで二枚?」

桐乃「はぁ? あんたも行くんだから、トーゼンっしょ」

……一人で行けよ! 俺はメルルには興味なんてねえんだよ!

しかも、このチラシによるとクリスマスの午後7時から二時間……9時までだと?

マジでメルルとクリスマスを過ごさないといけないの? 俺。

京介「ちょ、ちょっと待てよ……お前、クリスマスに俺と二人でメルルのイベントに行くって言ってんの?」

桐乃「そーだケド。 毎年十二月二十五日は、あんたがあたしに尽くす日だし?」

いつからそんな日になったんだよ! すっげえ嫌な日だ……。 廃止希望! 廃止希望!

京介「そ、そりゃあとんでもない日になってるんだな……。 つうか、お前毎年クリスマス俺と一緒に居るけど、友達いないの?」

桐乃「は、はぁ!? なんっでそうなんのよ! あんたと違ってあたしにはいっぱい友達いんの! 可哀想なあんたとち、が、っ、て!」

京介「じゃあ別に友達と行けばいいじゃねえかよ! お前の友達はそんな多忙なのか!」

桐乃「だ、だって……あやせは誘えば来ると思うケド、メルちゃんのイベントに連れて行ける訳無いじゃん。 我慢はしてくれるだろケドさ……内心、つまらないと思うし。 んでぇ、黒いのとはクリスマス一緒にとか考えられないし? それに、クリスマスは妹たちと遊んでるって前にゆってたし。 友達も彼氏もいないってかわいそ」

黒猫のとき、最後に明らかな嫌味が滲み出ていたぞ……。

黒猫「……悪かったわね」

ぼそっと黒猫が言う。 すっげえ声のトーンが低かった。 こええええ。

桐乃「それに、りんこりん連れて行くのは大変だし。 みやびちゃんだって一緒。 メルちゃんもでしょ?」

京介「ちょっと待て! なんでエロゲーの妹キャラとかアニメの魔法少女があやせや黒猫と一緒に並べられてるんだよ!?」

桐乃「決まってるじゃん。 友達だし?」

やべえ。 こいつマジでやべえ。 二次元と三次元が一緒になってやがる。 前まで一緒にすんなとか言ってたのに、なんてことだ。

てか、俺なんかよりよっぽどお前の方が可哀想な奴に思えてきたよ!

京介「ああ、ちくしょう。 分かった分かった。 友達は忙しかったり、するんだろ? なら俺が行ってやるよ」

桐乃「なんで上から目線なの? 連れて行ってくださいっしょ。 ふつー」

その言葉そっくりそのまま返したいんだがー。 なんで上から目線なんすかねー。

で、そのままそれを伝えようとしたところで、横から黒猫が口を挟んできた。

黒猫「はあ……これだからツン九割の女は……仕方無いわね」

黒猫「京介、この女が何を言いたいのか、分かる?」

京介「桐乃が何を言いたいか? 黙ってメルルのイベントに付いて来いってことだろ?」

そうだそうだ。 こいつは俺をうまいこと利用して……。

ん? いつものアキバとかじゃないのに、俺を連れて行く理由って、なんだ。

黒猫「強ち間違いでは無いけれど……要は」

俺のその疑問に答える様に、黒猫は続けた。

黒猫「このビッチは、あなたとデートがしたいのよ!!」

黒猫は言い、俺を勢い良く指差す。

京介「へ? そうなの……? 桐乃」

俺とデ、デートだと!?

桐乃「あ、あああたしは! その……」

桐乃の方をみると、何やら手遊びをしながら俯いている。 ええ、マジかよ。

桐乃「……嬉しいっしょ? あんた」

暗くてよくは分からない。 だが、桐乃の顔は耳まで真っ赤に染まっているようだった。

京介「……お、おう」

それは多分、俺も同じだったのだろう。

そうして、俺と桐乃のクリスマスデートは決まった訳なんだが……。

まあ、今は良いか。 順を追って話すとしよう。

それに、この時はまだ夏だ。 それが起きるのは、まだ先の話。

俺と桐乃のやり取りの後、再び皆で仲良くバーベキュー。

ってなる予定だったんだが、桐乃の所為で事態は思わぬ方向へと傾いた。

正しくは、桐乃の言動の所為で、だな。

沙織「あの、良い雰囲気の所、大変申し訳ないのですが」

桐乃「べ、別にそんな雰囲気じゃないし! んでなに!?」

沙織「きりりんさん、先程友達を挙げるときに、わたくしの名前が無かったのですが……」

……そういやそうだな。 こいつはひでえ。

桐乃「そ、そうだっけ? そんなことは無いと思うケドー?」

黒猫「いえ、あなたは言っていなかったわ。 沙織のことは友達として見ていないということね。 とんだ腐れビッチだこと」

桐乃「うっさいブス猫! 黙ってろ!」

黒猫「ぶ、ぶす猫!? あ、あなた……今の言葉、取り返しが付かないわよ……」

京介「お、おーい? 揉め事は勘弁だぜ?」

沙織「きりりんさん……酷いです」

桐乃「ま、マジで忘れてたワケじゃないって! ね?」

なんか修羅場だな。 見ている分には割りと楽しい。 止めようか止めまいか悩んで、もう少しだけ傍観させてもらうことにした。

沙織「……わたくしもそう思いたいのですが、きりりんさん」

沙織「少し、二人っきりでお話しませんか? 向こうの方で」

桐乃「う、うん……分かった」

沙織が示した方向は海の方で、波際で話をしようということらしい。

明日の朝刊に、女子高生海辺で死亡とかニュースが載っていたら、犯人は間違いなくこいつだな。

で、桐乃もさすがに悪いと思ったのか、沙織の言う事に従い、二人は波際まで歩いていった。

京介「……大丈夫かね? あいつら」

黒猫「ふん。 あんなビッチは死ねば良いんだわ」

京介「お前、一応あれでも俺の妹だからな。 ビッチビッチ言ってるんじゃねえよ……」

黒猫「あら。 それならあの女がわたしの事をクソ猫だとかブス猫だとか言っているのは良いのかしら?」

京介「そりゃ……良いわけねえけど」

黒猫「……まあ、わたしも桐乃も本気で言っている訳じゃないわよ。 それは、沙織も一緒」

京介「ん? さっき怒っているように見えたけど、違うってこと?」

黒猫「そうね。 でも、何かを企んでいる顔付きだったわ」

京介「それ、殺害計画とかじゃねえよな……」

黒猫「あなた、友達をどんな目で見ているのよ」

黒猫がそう言ったところで、先程、沙織と桐乃が歩いていった方向から叫び声が聞こえた。

主に、桐乃の。

桐乃「きゃあ!」

沙織「ふっふっふっふ! お待たせしましたね……さぁて、第二回戦と行きましょうか……」

だからそれはフリーザ様だろ。 しかも第三形態になってやがる。 何しているんだか。

京介「……はあ、行くか」

黒猫「ええ、そうね」

そして、俺と黒猫がそっちの方に向かって行き、最初に認識した光景は海の中に倒れている桐乃だった。

京介「ひ、ひいいいいいい!!」

黒猫「さ、沙織……?」

さ、殺人が!! 犯罪ってこんな身近にある物だったのか!?

沙織「早く立ちなさい! ふっふっふっふっふ!」

沙織さんこええ。 完全にキレてやがる。

桐乃「あ、あんたねえ……!」

おお、生きていたか。 良かった。

黒猫「……ふ。 雨濡れビッチね」

京介「そんなこと言っている場合じゃねえだろ!」

沙織はさっきからずっと高笑いしているし、桐乃は肩をぷるぷると震わせている。 んで黒猫はそんな桐乃を見て鼻で笑っている。

どういうシーンだよ、これ。

第三者視点から見ると、まるでイジメ現場だぜ。

京介「……お、お前ら、その辺にしておけよー」

小さな声で、俺は言う。 だって俺に矛先向いたら怖いじゃん。

桐乃「あーっ!! 上等じゃん!!」

ほら、桐乃さんキレたじゃねえかよ。

そんで、そのまま桐乃は沙織の方にずんずんと詰め寄って……途中で方向を変え、黒猫に掴みかかり、海に投げ飛ばした。

ばしゃーんという音と共に、黒猫は見事に先程の桐乃と同じ状況になっている。

ほら見ろ。 変に煽るからお前に矛先が向いたんだよ。 だから俺みたいに柔軟に立ち回るべきなのだ。

桐乃「ぷっ! ウケル~! 濡れ猫じゃん!」

こいつ、さっき言われたこと根に持ってるな……顔がすげー嬉しそうだ。

黒猫「あ、あなた……! この場所がどんな場所か分かってのことかしら……? 覚悟は良いのよね」

黒猫「漆黒の海の中で……わたしは本来の力を取り戻すのよ……」

そんなことをぶつぶつと呟きながら、黒猫は海水をすくいあげる。

黒猫「喰らいなさい……! 海の力を!」

そう言い、すくいあげた海水を何故か俺にぶち当ててきた。

京介「つめたっ!? お前なにすんの!?」

黒猫「争いに犠牲は付き物よ……流れ弾ね」

いやどう考えても狙ってやっただろうが!

黒猫「そして、余所見は禁物よ?」

黒猫はそう言い、小さく笑う。

まさかと思い後ろを見ると、案の定そこには桐乃がいて。

桐乃「ちょっとは学習しなさいって!」

とかなんか言いながら俺を押し倒してきた。

既にここは足元までは浸かっているので、どうなったのかは言うまでもないことだろう。

京介「て、てめえ……」

桐乃「ひひ。 ざまあ!」

桐乃は俺の上に馬乗りで、勝ち誇った笑みを浮かべている。 あーもう知るか!

京介「油断も禁物だよな、ああ!?」

そう言い、俺は桐乃の脇腹を掴み、横に投げる。 軽い体重の桐乃を投げ飛ばすのには苦労しない。

京介「はっはっは! ざまあ!」

桐乃「けほっけほっ! こ、こんのぉ!」

京介「ま、待て桐乃! あそこに一人無傷の奴がいるぜ!」

今にも掴みかかってきそうな桐乃を片手で制し、俺は今も尚高笑いしている沙織を指差す。

高みの見物ってか! あのヤロー!

桐乃「む……確かに、納得いかないかも。 ちょっと黒いの!」

黒猫「く……暗黒海のエネルギーが予想以上に……マズイわね……このままだと暴走してしまう……え?」

何やら一人で盛り上がっている黒猫は、桐乃のひと言で素に戻る。

桐乃「一時休戦、先にあのボスたおそーよ」

黒猫「なるほど……そういうことね。 いいわ、敵の敵は味方というわけね」

京介「よし、こうなったら全員共倒れになってもらおうぜ」

こうして、夜の海での馬鹿な遊びはしばらく続いた。

後で冷静になってから、シャワーだとか着替えですんげえ後悔することになるんだけどな。

まあ、たまにはこんなのも良いんじゃとも思うけど。

だが、ひと夏の最高に楽しい思い出になったのは間違い無いだろう。

それは多分、俺以外の三人も思っているはずだ。


第十七話 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

衛生兵!至急挿絵を!

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>97
中学生の頃に芸術性が無いピカソと言われた自分で良いなら書きましょう!


それでは、投下致します。

10月。 残暑もすっかりと収まり、段々と肌寒さを覚えるようになった今日この頃。

木々は所々紅葉していて、そんな情景を楽しむのもまた一興だろう。

秋空は今日も綺麗に澄み渡っている。 そんなある日の昼下がり。

外では時折、元気に遊ぶ子供の声が聞こえて来る。 そんな声を聞いて、なんだかしみじみとした気分となったり。

そろそろ、実家から持ってきておいたコタツを引っ張りだす季節なのかねぇ。

そんな気分になりながら、そんな事を思いながら、俺はアパートの一室でPCゲームをしていた。

京介「くっそ! あんのヤロー」

画面には「Your Lose」の文字。

そう。 俺はシスカリに興じているのであった。

なんで今更? とも思う奴も居るだろう。

俺だって、最初にあいつからこの話をされた時は、同じ様に返したしな。

が、どうやらあいつの話によると、この作品の続編とやらが今月発売予定とのことらしい。

んで、前作からの引継ぎだとかで、何でも特典アイテムがもらえるとの話。

しかしそれにも条件があり、対人戦での二百勝を収めないといけないと言うのだから、大体の事情は理解してもらえただろうか。

京介「……一応は真剣勝負だしな、悔しいものは悔しいぞ」

再対戦の申し込みをしたところで、パソコンの横に置いてある携帯から着信音が聞こえて来る。

ああ、どうせあいつだ、あいつ。 俺がこの状態になっている原因を作った奴。

京介「……はいよ」

もう誰か分かっているので、俺は素っ気無く応対する。

「ひひひひ! よっわ! マジざこ!」

対する電話相手は超絶ハイテンション。

時折ニュースで見かけるが、オンラインゲームが原因での事件。

具体的に言えば傷害事件とかだ。 リアルファイトって奴だな。

俺には今、それを起こした奴の気持ちが理解できてしまいそうで、恐ろしい。

京介「あーもう分かったっつうの!! だから一回勝つ度に一々電話してくんじゃねえよ!!」

「はいはい、負け惜しみ乙。 ふひっ」

うっぜえ! お前の住所とか全部分かってるんだから、リアルファイトすんぞこら!!

京介「チッ……次だ次」

さすがにリアルファイト云々を言う訳にはいかない。 あやせではなくても、通報しましたと言われそうだし。

「てゆうか、一々電話されるのが嫌だったらスカとか入れればいーじゃん」

京介「あー。 この前言ってた奴? 良く分からないんだよな、今度やってくれよ」

「しっかたないなぁ。 んじゃ、次の勝負に勝てたらやったげる」

京介「……へいへい。 約束だからな、しっかり守れよ」

「ふん。 上等だっつーの」

そう言うと、桐乃は電話を切る。

なんつうか……一々条件を出す奴だよな、こいつ。

俺は別に高い目標を設定されたからといって、やる気を出すタイプじゃねーんだけど。

それに、そのスカイプとやらを入れたとしても、話すのってお前だけじゃん。 妹物のゲームをやりながら、妹と話すってどうなんだろうな……。

京介「お、始まったか」

画面には俺の選んだ妹と、桐乃が選んだ妹が対峙している。

やがて、カウントが3、2、1と減っていき、0になった。

京介「負けてばっかじゃつまらねえし、な」

軽快なコントローラー捌き! とまではいかないが、若干慣れつつもある操作でキャラを動かす。

まずは距離を取り、相手の出方を窺って……と、ここで違和感。

京介「……ん?」

なんだ? なんか、桐乃のキャラの動きがおかしい。 いつもより、とろい? 動きが安定していない感じになっている。

回線でも不安定なんだろうか? 相手側の回線やらパソコンやらとの相性で、そういう事があるとは聞いたが……一応、俺のパソコンと桐乃のパソコンではこんな事、今まで無かったんだけどな。

京介「おいおい、大丈夫かよ」

試しに遠距離攻撃を撃つと、避ける動作もせずに桐乃のキャラへと命中。

ううむ。 これは一旦試合中断したほうが良いんじゃねえの?

とも思ったが……。

京介「そ、そうか……これは神が俺に与えたチャンスか!!」

いやもう、そんなことはどうでも良い。 俺はただ、桐乃のキャラをぼこぼこにしたいってだけだ。

京介「っし! 運も実力の内だぜ」

いつ、この不安定な動きが治るか分かった物じゃねえからな……それでそれが治ったとしたら、あいつは速攻俺を叩き潰しにくるはずだ。

なら、今がチャンス!

俺はキャラを操作し、桐乃のキャラへと一気に近づける。

未だにとろい動きをしているそれの背後を取り、コンボコンボ。

みるみる内に体力が減っていき、そして。

京介「いよっしゃああ! 勝ったぜ!!」

はっはっは。 ざまあみやがれ、でかい口を叩くからそういうことになるんだよ! ばーかばーか! っしゃあ!

……やべ、なんだこの気分。

俺、こんな天気の良い秋の日に何をしているんだろうなぁ……。

およそ、大学生の過ごし方じゃねえだろ、これ。

……はあ。

そんな喪失感にも似た感覚に襲われているところ、先程同様、携帯が鳴る。

京介「おう、桐乃か。 お前の動き止まって見えたぜ」

「ラグってたんだって! 分かってるくせに!」

京介「へへ、でも負けは負けじゃねえか! ざまあみろ~!」

「チッ……あんたって奴は……」

京介「でもよぉ、今までこんなこと無かったよな? なんで急になったんだろ」

「そ、そりゃあ! たまには、あるからっしょ? サーバーの問題じゃない?」

桐乃は何故か、少し慌てたように言う。

京介「ふうん。 俺の方はなんとも無かったけど……」

「あ、あたしだって分からないっつうの! んで、約束」

京介「約束……ああ、スカイプ繋いでくれるって奴?」

「う、うん」

京介「……あー、別に嫌ならいいぞ? 偶然だったし」

「それだとあたしが納得いかないっての! 負けは負けっしょ?」

京介「まあ、そうだけどよ……お前が良いなら、別に良いけど」

「おっけ! じゃあ明日行くね!」

京介「はいよ。 基本家にいるから、暇な時来てくれ」

「へえ、友達いないの? あんた」

京介「居るっつーの! お前がいっつも急に来るって言うから、基本的に予定空けてんだよ!」

「そ、そっか。 んじゃ、続きやろっか」

その後、何回も対決をしたのだが、この俺が勝った一戦のような『奇跡』は一度たりとも起こらなかった。

全く、何が原因か分からないけど、もう少し俺の味方をしてくれれば良い物を。

そして、次の日の昼過ぎ。

桐乃「たっだいまー」

桐乃が玄関扉を開けながら、入ってくる。

京介「おかえり……じゃねえよ、何で自分の家みたいな扱いなんだ」

桐乃「一々突っかからないでよ。 心せまっ」

腕組みをしながら、桐乃。

京介「うっせ。 昼飯は食ったか?」

桐乃「食べてない。 こっちで食べようと思ってたし」

っはあ。 どんな前提なの? まあ今に始まったことじゃあねえけどさ。

京介「んじゃ、なんか作るわ。 そうめんでいいか?」

桐乃「あんた、まだそうめん食べてんの? 夏はそればっかだったよね。 食べさせられるこっちの身にもなって欲しいんですケド」

京介「うーるーせーなー! 楽なんだよこれ!」

桐乃「あーやだやだ。 料理が出来ない奴はこれだから」

うっぜえ。 お前だってついこの間まで全然出来なかったじゃねえかよ。 今は確かに、美味い物作れているけどさぁ。

京介「んで、食うの? 食わないの? どっちだよ」

桐乃「ふん。 仕方ないから食べてあげる。 結構そういう気分だったし」

あのよぉ。 だったら最初から文句を言うんじゃねえっつーの!

桐乃「よいしょっと」

言いながら、桐乃は畳んである俺の布団の上へと座り込み、カチカチとスマホをいじりはじめる。

めちゃくちゃ覚えがある光景だよなぁ。 これ。

俺はその見慣れた光景に若干泣きそうになりながら、昼飯作りへと精を出すのだった。

京介「これ作るのにも大分慣れたな……」

そんな事を呟き、そうめんを茹でる。

すると居間の方から、聞きなれたパソコンの起動音が聞こえてきた。

あー。 そういや目的ってそれだったっけ。 あいつもしっかりしてるじゃねえか。

しばらくマウスのクリック音が響く中、俺はそうめんを茹でる、ひたすら。

カチカチカチカチカチカチカチカチカチ。 という音が嫌でも耳に入ってきて、若干鬱陶しい。

てか……いくらなんでもクリックしすぎじゃね?

そんな連打する必要って、あったっけか。

でも、何だか身に覚えがあるんだよなぁ。

この、こう連打する感じで。

……ん?

京介「き、桐乃! 待て!!」

あぶねえ! ギリギリで思い出せた!

急いで居間に戻ると、桐乃は俺の方へと顔を向ける。

桐乃「なに? やっぱこれって、そーゆう系の奴だったの?」

画面を指差しながら、ジト目で俺の事を見る。

京介「そ、そうだ。 だから今すぐ閉じろ」

近くに行き、画面を見て、俺は冷や汗を掻く。

大量のフォルダに何重にも仕舞われたファイル!

……っぶねえ! 後一つで終わってたじゃねえか!

桐乃「これってぇ、そんな見られたらヤバイ奴なの? ひひ」

マウスポインターでそのファイルの周りをくるくると回しながら、桐乃は言う。

京介「……おう。 それは、ヤバイ」

桐乃「ふ~ん。 てか、そんな見られたくない奴ならZIPにして、パス掛けとけっつーの」

言っていることは良く分からないが……とにかく、急いでそのフォルダを閉じさせなければ。

京介「そ、そうだな。 はは」

桐乃「……えい」

開きやがった! やべぇえええええぇええ!!

京介「うぉおおおおおおおぉおおおおおおおおおおお!!」

俺は桐乃に飛び掛り、押し倒す。

桐乃「ちょ、な、なにすんの! やめてよ!」

京介「ま、待て桐乃。 俺は別にそういうつもりじゃねえ! だが、そのままで少し待ってろ」

桐乃の体を左手で抑え、右手でマウスを操作。

桐乃「離せ! 離せ! ちょーキモいんですケド!!」

京介「暴れるなって! 大人しくしやがれ!」

……後少し、今表示されているこの画像を見られたら、マジで終わる。

そして、後数秒で画像を消せるところで、台所の方から何やら嫌な音が聞こえてきた。

シュー。 という、何回か聞いたことがある音。

京介「やべ、火消してねえ!」

一瞬、台所の方に気を取られたのがいけなかった。

隙を付かれ、桐乃の足で腹の辺りを思いっきり押され、俺は床に投げ出される。

桐乃「しねっ! マジきもい! いつまで体触ってんの……え?」

桐乃は言いながら、パソコンの画面を見た。 そして途中で、動作が止まる。

あろうことか、フルスクリーンでその画像が表示されていたのだ。

気持ち良さそうに眠る、猫耳と猫尻尾を付けた桐乃が。

桐乃「……こ、これ」

京介「お、おーう。 そうめんがやべえな、はは」

桐乃を無視し、台所へ戻る。

やべえ、終わった。 人生が割りと終わった気がするぜ。 へへ。 いやあ、まだ二十年も生きていないのに良い人生だったぜ。

未だに何の音もしない居間からはドス黒いオーラを感じるが、今はとりあえず火を止めないとだな……。

んで、その後にもたくさんやることがあるんだよなぁ。 まずは、荷物をまとめるだろ? んでんで、桐乃が動く前に家を出て行くだろ? んでぇ、これから一生見つからないように隠居する、と。

よしよし、完璧だ! はっは!

そして、数分後。

桐乃「説明。 あたしが納得いく理由で」

京介「はい」

腕を組み、俺の前に立つ桐乃の前で、俺は正座をしていた。

京介「ええっと……前に、お前が看病しにきてくれたじゃん?」

桐乃「お前って誰? てゆうか、なんでタメ口きいてんの?」

こっわ! あやせよりこええんだけど!

京介「はい……前に、桐乃さんが看病をしにきてくれたこと、ありましたよね?」

桐乃「うん。 あったね。 それで?」

京介「その時に、あのですね……桐乃さんがすげー可愛かったんで、つい」

桐乃「ふ、ふむ」

京介「それで、携帯に保存しておいたんですけど……これ、パソコンの大画面でみれたらやばいんじゃね? って思いまして」

桐乃「そんで、こっちにあったってワケ?」

京介「……そういうことです」

桐乃「……どんだけシスコンだっつーの。 キモ」

京介「か、返す言葉もありません」

桐乃「……ふん」

桐乃はそれだけ言うと、再びパソコンの前へと座る。

……ええっと、これって、どうなの?

京介「そ、そうめん取ってきます」

俺、マジで召使いみたいだな。

桐乃「つゆ、薄めね」

反応があった! やべ、ちょっと嬉しい。

も、もしかしてもうタメ口でも大丈夫なんじゃねえの? これ。

京介「お、おう」

言った瞬間、桐乃に睨まれる。 刺すような視線だ。 多分俺じゃなかったらこの視線を向けられた奴は一週間は立ち直れないだろう。

まだ、敬語じゃないと駄目なのね。

京介「は、はい!」

急いで言い直し、俺は再び台所へと戻るのだった。

京介「……どうでしょう?」

桐乃「ん、ちょっとのびてる」

京介「すいません」

桐乃「ふん」

先程からこんな感じだが、返事をしてくれるだけマシか。

桐乃「……あんた、さっきのあたしの画像でヘンなこととかしてんの?」

京介「ぶっ! す、する訳ねえだろ! ただ眺めてニヤニヤしてるだけだっつの!」

桐乃「それも充分キモイって」

京介「う……ぐ。 そ、そうかもしれねえけどさ」

だってさあ! 仕方なくね? あんな画像、マジでお宝物だって。

桐乃「……そんなに大事にしてたんだ?」

京介「そ、そりゃあ……あんなの二度と手に入らないかもしれないし」

桐乃「……ふん。 んじゃ良いよ。 もう」

京介「え、っと?」

桐乃「消さなくても良いっつってんの」

京介「で、でもお前嫌じゃないの?」

桐乃「ちょーキモいし、ちょーウザイ」

桐乃「……でも、別に嫌じゃない」

京介「……そ、そっか」

桐乃「だけど! 次に同じ様に撮ったら怒るから。 撮る時はゆってよ」

京介「……おう」

えーっと。

つまり、今日は怒ってないってこと? なのか?

桐乃「よっし! じゃあ、スカいれよっか」

京介「ん? ああ……そういやそうだったな」

当初の目的を忘れる所だったぜ。 しかし、急に切り替える奴だな。

桐乃「これ、とりあえずあげる。 あたしが前使ってた奴だけど、いいっしょ? 使うかは分からないけど……カメラも一応ね」

桐乃は言いながら、俺にヘッドフォンとカメラを手渡す。

京介「おお、助かるぜ」

桐乃「んでぇ。 アカウントもパスワードも作ったから……これでいけるはず」

京介「え? アカウントとパスワードお前が作ったの?」

桐乃「そうだケド……なに?」

京介「いや、だってそれだとお前も俺の奴にログインできるって事じゃね?」

桐乃「別にそんなのどうだっていいっしょ。 文句ある?」

京介「……ねえけど」

桐乃「ふん。 じゃあ一々ゆってこないでよ」

俺に普通に作らせればいいのに。 まあ困る訳でもないから良いんだけどさ。

そんなことを思いながら、パソコンを操作する桐乃を横から見ていて、あることを思い出した。

以前、黒猫の家に行ったとき話したことを。

黒猫「そういえば、あなたは音声チャットなどはするのかしら?」

京介「ん? 俺か? そういうのは詳しくねえからなぁ。 マイクとかも必要なんだろ?」

黒猫「そうね。 でも、結構面白い物よ? 中には知らない人と会話する人もいるらしいわね」

京介「知らない奴って……いきなり?」

黒猫「ええ。 わたしは少し怖いからやってないけど、ね」

黒猫「ウェブカメラを設置して、いきなり顔合わせというのも珍しくないのよ」

京介「……ほお」

すげえ時代になったもんだな。 恐れ入ったぜ。

黒猫「まあ、あなたも機会があれば入れてみるといいわ。 わたしもあのビッチと話しているだけじゃつまらないし」

京介「はは、そうかいそうかい……って、桐乃もやってんの?」

黒猫「そうだけど……それが?」

京介「も、もしかしてあいつって……その、知らない奴と話したり、してんの?」

俺がそう聞くと、黒猫は何故か笑い、口を開く。

黒猫「……なるほど」

黒猫「そうよ! あのビッチは顔も見たこと無い相手と話しているわ。 勿論、男よ!」

ま、マジかよ!? 桐乃が知らない奴と話しているだって!? しかも、男!?

京介「……そうなのか」

……なんだろ。 すっげえ気分が悪いぞ。 とっとと帰って寝ようかな。

黒猫「それに! ここだけの話だけど、聞くかしら?」

そんな俺の心情も知らず、黒猫は更に追撃の構えを見せる。

京介「な、なんだよ。 これ以上の話ってあるのか?」

黒猫「実はね。 このビデオチャットという物を利用して、とんでもないことが起きているのよ。 世にも恐ろしい悪魔の儀式が……」

京介「……」

俺は唾を飲み込み、黒猫の話に真剣に耳を傾ける。 そう言われてしまっては、聞かずには居られない。

黒猫「男と女……二人でビデオチャットをして、破廉恥なことをしているのよ!!」

京介「ちょ、マジ!? さすがに嘘だろ!?」

黒猫「嘘じゃないわ。 事実、起きていることなのだから」

やべえ、すげえなそれ! ちょっとやってみたくなったんだが!

黒猫「あなたのその嬉しそうな顔を見ているととても不快だわ……ひょっとして、気付いていないのかしら?」

京介「気付いていないって……何に?」

黒猫「ふ、ふふふ。 あのビッチも、同じということ……」

京介「待てぇええええぇえええええい!!!」

京介「お、おま! 何言ってるんだよ!? ありえねえだろ!!」

黒猫「そうかしら? あのビッチがそういうことをしていても、不思議では無いじゃない」

京介「ふっざけんな! 人の妹になんてこと言いやがるんだ!!」

黒猫「わたしは大真面目よ。 それに、そんなのは今の混沌の時代では普通のこと。 だ、だって……その、わたしも一緒だもの!!」

その日、俺は寝る事が出来なかった。

そういや、そんな事もあったな……。

てか、あの時は冗談だと思って……そう思い込むことにして流したが、実際のところ、どうなんだろうか。

俺は意を決して、隣に居る桐乃へと話しかける。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「なによ」

京介「お前ってさ……そ、その」

桐乃「なに? はっきりしてくんない?」

京介「あ、ああ。 じゃ、じゃあ言うぞ? 良いか?」

桐乃「だ、だからなんだって……早くして」

京介「その、こーいうチャットとかで、エロいことしてんの?」

桐乃「へっ? え、えろいことしたいの!? あたしとあんたで!?」

京介「ち、違う! お前が知らない奴としてんのって話だよ!」

桐乃「は、はぁああああ!? ばっかじゃないの!? するワケないじゃん!!」

京介「そ、そうだよな? 良かった……」

ふ、ふう。 マジ安心。 良かったぜ本当に……。

桐乃「て、てゆうかなんでそんな事を聞くの?」

京介「いや……だって、心配だったからさ。 そんなの、嫌じゃねえか」

桐乃「ふ、ふーん。 あたしからしたら、そんなの想像してる時点でキモイけどね」

京介「俺だって最初は考えもしなかったよ! 黒猫の奴がお前がそーいうことしてるつってたんだ」

桐乃「チッ……あ、あんのくそ猫……」

桐乃「……ひひ、良いこと考えた」

か、顔がこええぞ。 俺にはとても嫌なことにしか思えないんだが。

桐乃「ちょっと、きょーすけ。 携帯貸して」

京介「お、俺の?」

桐乃「そ。 早くして」

京介「何に使うの? 良い予感がしねえんだけど……」

桐乃「はぁ? 良いから早く貸せっつうの。 あんた、さっきのことまだ許してはいないんだからね」

……それを言われると、どうしようもないぞ。

俺は渋々、桐乃に携帯を手渡す。

桐乃「……マジであたしの写メ入ってるし。 てか待ち受けになってるし」

京介「わ、わりいかよ」

桐乃「ひひ、シスコンきもーい」

京介「……うっせ」

桐乃「ま、今はいーや。 ええっと」

そう言うと、桐乃は俺の携帯を手馴れた感じで操作する。

桐乃「よっし、これでおっけー」

数分間操作した後に、俺に携帯を戻す。

京介「何してたんだ?」

桐乃「大したことじゃないって。 んでぇ、次はこっち」

そういうと、パソコンに向かう桐乃。

……全くしたいことが分からない。 なんなんだ?

桐乃「チッ……おっそ」

数分間、桐乃はそんな事を言いながら、パソコンの設置されている机を指でトントンと叩く。 苛立ちが抑えきれず、溢れているのが分かる。

いつキレるんじゃないかと少し離れた位置で俺はびくびくしていたら、やがてパソコンから何やら音が鳴り、それを聞いた桐乃は。

桐乃「お、きたきたきたぁ! ふひひ」

テンションマックスだった。 いつもの可愛い笑顔とは違い、なんか恐怖を感じる笑顔だな。

京介「見ていいか?」

横から俺がそういうと、桐乃は手招きする。 オッケーってことだよな、つまり。

そのまま桐乃の方に体を寄せ、パソコンの画面を覗く。

ええっと、なんだ……これ。

京介「お前、どういうこと? これ」

桐乃「見れば分かるっしょ? あんたの名前使って、黒いのにビデオチャットしようって誘ってるの」

京介「……なんで?」

桐乃「だって、あんたから誘いがきた~! ってあいつ喜ぶじゃん? んでぇ、繋がったと思ったら、きりりん居るじゃん? ちょーウケル!」

性格わっる! ドン引きだぜ、俺。 いや、まあ黒猫の方も悪いっちゃ悪いのかもしれんが……。

というか、それだと俺まで協力者みたいになるじゃねえかよ!

っつうと、さっき携帯を借りたのって。

急いで手に持っていた携帯を開き、送信メールを確認。

やはり、一件黒猫に送っているメールがあった。

To 黒猫
なあ、超可愛い妹にスカイプいれてもらって、ビデオチャットもできるんだけどやってみないか?


超可愛い妹ってなんだよ……。

その文を打った桐乃はというと、今はパソコンに向かって、何やらキーボードをカタカタと打ち込んでいる。

もうやだ。 俺は知らん! 勝手にしてくれ!

そう思い、部屋の隅で座る俺の耳に、やがて桐乃の笑い声が聞こえて来るのだった。

ちなみに、この一件で俺のアカウントが黒猫にブロックされたのは言うまでもない。


第十八話 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

話数確定したので連絡を。
全25話となります。

京介のきりりんがるは壊れてしもたんか?

おつん
ちょいと質問だけど、一話辺り何kbくらい書いてるのん?

>>162
どうしてでしょうね。不思議不思議!

>>163
大体一話辺り15kb前後だと思います。
話によっても違いますので、何とも言えませんが。
短い時ですと10kbの時もありますし、長いのですと20kb行く事もある感じです。

こんにちは。

乙、感想ありがとうございます。
参考にさせて頂きます。

では、投下致します。

11月。 冬の足音も強くなった様に思える曇りの日。

大学での講義を終え、俺は今にも雨が降り出しそうな中を家に向かって歩いていた。

先月は無事にメルルのチケットをゲットした訳だが、どうにもあいつはその苦労を全く恩に感じていないらしい。

いや、一応の形式上といった感じで言葉でのお礼はしてくるので、俺も別に嫌な気分になるってことでも無いのだが。

しかし、それにしても今年に入ってから、好感度に変化がみられないのだ!

一番のピークは付き合っていた1月から3月くらいだが、それでも以降は仲良くやれているはずである。

色々なイベントをこなし、CGがもらえるようなことも何度かあったと思うのだが……。

ううむ、どうしてこう、変わらないのだろうか?

付き合っていた時はそれなりにあいつも優しかったり、理不尽なことでキレたりってのは無かったんだよな。

だがまあ、それにしても今がこんな風に昔みたいな感じだと、あの付き合っていた輝かしい日々は俺の夢の可能性さえ疑いたくなってくるぜ。

考えられる原因と可能性は……。

……待てよ。 俺はそうであって欲しくは無い事実に、辿り着いてしまったかもしれん。

もしかすると、桐乃の場合、あれで最高のデレってことか!?

やべえ、恐ろしいことに気付いてしまった。

全く変化していないと思っていた好感度は、既にマックスまで行っていたというのだ!

京介「どんなクソゲーだよ!!」

あれで好感度マックス!? 信じられねえ!! 返品物だぞこれ!!

初期の黒猫の方がまだ好感度高そうじゃねえか!

くっ……もし本当にそうだとすると、これではもう次のイベントが発生する見込みがねえぞ……。

ううむ。 どうにかして、今より好感度を上げる方法は無い物か……。

もう裏技でも何でも良いから、何かしらの策を練らんといかん。

プラス思考でいこう、プラス思考で。

ふむ。

とは言っても桐乃だって俺に可愛い顔を見せることは結構あるしな。 笑顔だって俺に向けてくれることは多くなった……と思う。

いや無理! プラス思考ちょっと難しいわ!

あれだ、あれ。 なんかこう、もっと仲良くなりたいんだ、俺は。

その為の第一歩は……相手の考えを理解すること、だな。

とは言ってもなぁ。 あいつの言葉はやっぱり訳分からないし。

……どうしてだろう。 なんかこう『引っ掛かる物』はあるんだけどな。

あー、そうそう、最近だとあいつの言葉にも種類があるのが分かってきた。 同じ言葉の中でも、だ。

たとえば。

「はぁ? 調子のんないでくんない? キモッ」

これと。

「はぁ!? ちょーしのんないでくんない? ……きもっ」

これ。

上の言葉は、殆ど素で言っているのだろう。 それはそれで悲しい事実なのだが、今は置いておく。

注意して欲しいのは下の方だ。 なんと、こっちの言葉は照れ隠しとなっているんじゃないかと、最近になって分かり始めた。 すげー分かり辛いが。

マジでこれがどっかの物語だったとして、あいつがヒロインだったら読者はぶちギレだろうな……。

と、そんな事を考えながら歩いていると、やがてアパートが見えてくる。

さて、そろそろふざけたことを考え続けるのはやめよう。 俺は今現在、抱えている問題がひとつあるから。

しっかし、もうこっちの方が俺の家って感じだよなぁ。 つうか、俺っていつ実家に戻れるのかね? 最近だと、親父もお袋も殆ど連絡してこねーし。 もしかして俺、存在忘れられてる?

京介「一回くらい電話しといた方がいいのかね……」

呟きながら、玄関扉を引っ張る。

何故、鍵を最初に使わないかって?

そんなの無駄な行動だからに決まっているだろうが。 だってほら、この扉チェーンが掛かっているし。

「待っててー、今開けるから」

中からそんな声が聞こえ、俺は扉を一旦元に戻す。

数秒ほど待つと、チェーンを外す音が聞こえ、扉が内側から開いた。

桐乃「おかえり」

京介「おう、ただいま」

ふう、今日も疲れたなぁ。

そのまま、靴を脱ぎ部屋の中へ。

学校帰りなのか、桐乃は制服姿。

部屋の真ん中にはコタツ。 その中に、桐乃は横になりながら入る。

京介「はー。 今日もさみーな」

桐乃「だよねぇ。 やっぱ冬はコタツが良い! 最高!」

うんうん。 そうだね。

京介「んでさ、ちょっと前からずーっと突っ込もうかと思ってることがあるんだよ。 具体的に言うと、先月の終わりくらいから、ずっと言いたかった事があってだな」

桐乃「あんたがあたしに? なに?」

京介「お前、なんで毎日俺の家に当たり前の様にいるの?」

俺が抱えている問題。

何故か、桐乃が毎日家に来ている。

桐乃「はぁ? チッ……何かと思えば、そんなくだらないこと?」

京介「俺にとっては大分くだらないことじゃねえんだよ……んで、どうして?」

桐乃「あんたのこの部屋、丁度学校と家の間なんだよねぇ。 だから、休憩地点」

京介「そりゃー良かったな。 俺の部屋が桐乃の休憩地点になってるなんて、すげー嬉しいよ」

桐乃「でしょ? もっと感謝していいよ」

試しに好感度が上がりそうな台詞を言ってみたのだが、返ってきた言葉がこれだぜ。

お兄ちゃんどうすりゃいいの、これ。

京介「それで、今日は何時までいんの?」

桐乃「んー。 飽きるまで」

京介「そうかい。 ってことは、なんか暇潰しアイテムでもあるってことか」

桐乃「お。 分かってんじゃん。 シスカリやろ、シスカリ」

あー、そういえば新作が出たんだっけか。 俺もほぼ無理矢理買わされた物の、桐乃とは予定が合わなくて一度もやっていないんだよな。

京介「別に良いけど……パソコン一つしかねえぞ?」

桐乃「だいじょーぶ。 あそこに仕舞ってあるし」

そう言うと、桐乃は押入れをごそごそと漁り、ノートパソコンを取り出す。

……なんでお前の私物があんの? しかも、俺すら把握していない場所に仕舞ってあるとか、軽く恐怖なんだけど。

桐乃「ひひ、これと……後これね」

そう言うと、桐乃は自身のカバンからもう一台のノートパソコンを取り出す。

学校に持って行ってるのかよ。 ばれたら取り上げられるんじゃねえの? さすがに。

まあ、こいつのそこら辺の事情はぶっちゃけどうでも良かったりするのでスルーだが。

京介「なんで二台? 普通のパソコン一台あるけど」

桐乃「別にそっちでやっても良いよ? 凍死してもしらないケド」

俺はそれを聞き、机の上に設置されているデスクトップパソコンとコタツの上にある桐乃が置いたノートパソコンを交互に見る。

……うむ。 コタツ最高。 冬はコタツでミカンに限るわ。

京介「じゃあ、こっちでやるか……寒いし」

桐乃「はいはい。 ちゃっちゃと起動してね」

桐乃「あ、いちおゆっとくけどさ。 あんた、そのパソコンでエロサイトとかみないでよね」

京介「見ねえよ! なんで俺は妹と一緒に居る時でさえエロサイトを見る奴扱いなんだ!?」

桐乃「だって、あんたにパソコン貸した時、猿のように見てたじゃん?」

京介「ぐ……だ、だってよぉ……今までパソコンとか持ったこと無かったし、もう色々と捗るんだよ、マジで!」

桐乃「そんな力説されてあたしはどんな反応すれば良いのよ……キモすぎるんですケド」

悪かったな、だが事実なんだからしょうがない!

桐乃「……あ、そーだ。 一つ絶対に許せないこと、思い出した」

京介「え……ええっと、なんかヤバイこと?」

桐乃「かなり」

俺を睨みながら言う桐乃。 ああ、この雰囲気はかなりヤバイな。

先月と同じ気配を感じるぜ。

京介「ど、どんな内容でしょう?」

桐乃「高坂桐乃 エロ画像」

やべぇええええええぇええええ!? これは予想以上にやべえ!?

京介「は、はははは。 何を言い出すんだよ、桐乃。 お前のエロ画像だと? はっ、笑わせるな」

桐乃「み、認めないつもり!? ありえないんですケド!」

京介「……お、おおおお俺がそんなこと検索する訳ねえじゃん?」

動揺しすぎて、ついつい桐乃の喋り方が移ってしまう。

桐乃「検索とかひと言もゆってないし……その時点で認めてるようなもんじゃん?」

対する桐乃は俺同様に返す。

そして、少しの睨み合い。

桐乃「てゆうか、あたしが証拠無しでそんなことゆうと思ってんの?」

その場に流れたこの空気を変えるべく、桐乃は口を開く。

京介「ど、どんな証拠?」

桐乃「……チッ。 前に教えたっしょ、検索は履歴が残るって」

……馬鹿め! そんなのは百も承知! 高坂京介を侮るなかれ!

京介「それはおかしいぞ! 履歴は全部消したし……キャッシュも消したはずだからな!」

そうだ。 俺も一応前回の失敗は踏まえているんだよ。 同じ轍を踏む真似をするかってんだ! キャッシュの消し方を調べるのは苦労したけどな!

桐乃「……キーロガー」

京介「え? なんて?」

何だ? 今桐乃が聞きなれない単語を言ったように聞こえたが……。

どうしてだろうか……俺にはその言葉が、物凄く恐ろしい物の様に聞こえた。

桐乃「と、とにかくあたしにはあんたが何を検索してるとか分かってんの!」

桐乃「『妹に冷たくされた時の対処法』とか『高坂桐乃 ファンサイト』とか『妹 好感度の上げ方』とかっ!」

ま、マジで全部ばれてやがるッ!? こいつはもしかして超能力とか使えんの!?

桐乃「てゆーか、あたしに好感度なんて無いから! ゲームのキャラと一緒にしないでくんない!?」

徐々にヒートアップしていく桐乃。 今にも手に持っているミカンを投げてきそうな勢いだ。

桐乃「ふん。 死ねっ!」

いや、投げてきた。 潰れたら掃除大変なんだからな!

京介「わ、悪かった! だ……だけど、お前と仲良くしたいっていう俺の純粋な気持ちは伝わっただろ?」

桐乃「うん。 それはしっかり伝わってるよ」

お? 良い感じじゃねえの、これ。

桐乃「最初の『桐乃 エロ画像』ってのが無ければね?」

全然悪い感じだったわ。

と、ここで見計らったかの様なタイミングで電話が鳴る。

京介「お、おおっと電話だ!!」

神が見ていてくれたかの様なタイミングで電話。 だ、誰だこんな素晴らしいタイミングで電話を掛けてきた奴は!

俺が携帯を開くと、そこには『新垣あやせ』という名前が表示されている。 以前は『ラブリーマイエンジェルあやせたん』との登録だったが、桐乃との一件からその辺りはしっかりと整理してあるのだ。 俺、偉いなぁ。

……って、あやせ!? なんで!?

桐乃「……電話、出ないの?」

桐乃が今日何度目かの視線を俺に向ける。 蔑んだ眼差しは俺の精神に深いダメージを与えているとも知らずに。

そしてあやせの電話を無視したら、後で刺されかねないので俺に取れる選択肢は一つ。 他を選んだらバッドエンド直行である。

京介「も、もしもし」

「あ、お兄さんですか。 こんにちは」

京介「おおう……こんにちは」

「……? どうしたんですか? いつもと調子が違う様ですが」

京介「な、何を言っているんだよぉ! 俺はいつも通りだぜ!?」

「なら良いんですけど……それより、今からそちらに行っても大丈夫ですか?」

京介「へ? なんで?」

「実は、この前モデルの仕事で遠方へ行った時、お土産を買ってきたんです。 それを渡そうかと思いまして」

気が効くなぁ! マジで! どっかの誰かとは大違いだぜ! 誰とは言わんけど!

京介「そ、そうか……けど、わざわざ来て貰うのは悪いから、桐乃に渡しておいてくれないか?」

「私も最初はそうしようとしましたよ。 でも、桐乃にそう言ったら「……やだよ、何されるか分からないし。 あやせはあたしがあいつに襲われてもいいの!?」って言うから……」

てめぇ桐乃! 何で俺をそんな扱いにしてやがるんだよ!

そう思い、桐乃の方を睨む俺。 気付いた桐乃は負けじと睨み返してくる。

……こわ。 やめとこ。

京介「なるほどなぁ! それなら仕方ねえけど……でも、今日は都合が悪いんだよ! てかそれで来て貰うってのはやっぱ悪いからさ、俺が今度家に行くよ」

「あはは。 そうですか。 分かりました」

分かってくれたか。 いやあ、良かった良かった。

「……お兄さん、何か隠していませんか?」

声のトーンが落ちるあやせ。 顔を見ずとも、電話越しの声だけであやせの瞳がどんな状態になっているかは分かった。

京介「なんも!? マジ、俺、何も隠してない!」

「……はぁ。 分かりました。 今回も騙されておきます。 機会があったら説明の方お願いしますよ」

京介「は……はい」

そして、通話終了。

なんとか最大の危機は去ったか……正しくは先延ばしにした感じだが。

桐乃「誰? 今の」

京介「あやせだよ。 なんかお土産があるとかなんとか」

桐乃「あー。 この前のやつか」

京介「そうだ、それで是非ともお前に聞きたいことがある。 お前、俺のことを外ですげえ扱いにしてねえか……?」

桐乃「当たり前じゃん。 事実しかゆってないし」

京介「どんな事実だよ! それはお前の妄想じゃねえか!」

桐乃「も、妄想ッ!? あ、あああたしがあんたに襲われる妄想をしてるっつってんの!?」

京介「そ、そうは言ってねえけど!? 事実無根ってことを言いたい訳でな……」

桐乃「……だって、あんたあたしの事を押し倒したり? キスしてきたり? 盗撮したり? 盗聴したり? してるじゃん」

……。

京介「そうだけど! とにかく外で変なことを言うのはやめてくれ……じゃないといつかあやせに殺されてしまう」

桐乃「チッ……分かったわよ。 特別だかんね」

京介「お、おう」

ふう。 なんとかこれで、これからの心配が多少減ったか。 桐乃が約束を必ず守るとも言えないが。

京介「……そういや、シスカリやろうぜ」

桐乃「あんたの所為ですっかり忘れてた。 おっけ」

ようやくこの流れになったか。 助かった助かった。

桐乃「んじゃ、ほら」

桐乃はそう言うと、体を少し横にずらし、自身のすぐ隣の床をぽんぽんと叩く。

京介「……何?」

桐乃「あんたのヘボ操作見てあげるつってんの。 こっち横になりなよ」

京介「へっ。 俺も練習してんだよ。 お前にゃもう負けねー」

桐乃「精々今の内にゆってればぁ? あー、早くあんたの悔しがる顔みったいなぁ!」

京介「俺にはお前が悔しがる姿しか見えねえなぁ? 覚悟しやがれ!」

そう言い、俺は桐乃の隣に入る。

いや、入る前は全然思わなかったんだが、体近すぎじゃねえかこれ。

桐乃「ちょ……もうちょっと向こういけないの?」

京介「無理だよ! こっちもギリギリなんだからな!」

桐乃「……ふん。 まあ良いケド」

こうして、俺と桐乃は並んでシスカリへと興じるのだった。

桐乃「あー。 ちなみにさ。 さっきの検索の件だケド」

桐乃「今度のクリスマス、あんたがコース考えるってことで手打ちにしといてあげる。 頑張ってね~」

つまり、コースを決めるってことはメルルのイベントだけじゃないってことだよな……?

まあ、俺に断る権利はねえか。

京介「へへ、任せとけ。 しっかりお前が楽しめるように考えておくわ」

桐乃「はいはい。 期待しないで楽しみにしとく」

京介「くっそ、どうして勝てねえんだ……」

桐乃「だーかーらー。 あそこは弱攻撃するべきだって。 強攻撃メインじゃなくて、弱攻撃メインでやるの。 分かる?」

京介「……ううむ」

桐乃「弱でコンボ決めて、最後は強でダウンさせる。 基本だかんね」

なるほどねぇ。 分かりやすく例えると。

桐乃が俺に攻撃してくる時みたいな感じか。 軽いジャブみたいなのを連打して、最後に思いっきりしばくと。 分かりやすいぜ。

そう考えると、あやせはまだまだだな。 あいつ、強攻撃しかしねえもん。

京介「よっし、んじゃもう一回だ」

桐乃「何回でもどーぞ。 てかさ、どうせなら何か賭けない?」

京介「俺の方が負ける確率高いのに?」

桐乃「時々それでも勝ててるっしょ。 ってことで内容だケドぉ」

話聞いてねえな、こいつ。

桐乃「まぁ、一応あたしの方が強いし、あんたに有利な条件でいいよ?」

京介「ふうむ……んじゃあ、俺が勝ったら今度飯奢ってくれ。 うまい飯な」

桐乃「あたしの手料理ってこと? んふ」

気持ち悪っ! 変な笑い方してんじゃねえよこいつ!

京介「そうじゃなくって……桐乃って結構飯がうまいレストランとか知ってるだろ? そこに連れて行ってくれよ」

桐乃「……ふうん。 おっけー。 んじゃあそれでいいよ」

京介「よし、じゃあ次はお前の番だぜ」

桐乃「あたしかぁ……どーしよっかな」

桐乃は指を唇に当てながら、考えている。

やがて、思い付いたのか口を開いた。

桐乃「じゃあ、もしもあたしが勝ったらこの家にはもう来ないってことで」

……あん? なんだその条件。

京介「……お前、ここに来たくなかったの?」

おかしくねえか? だってそれじゃあ……両方とも、俺に良い条件、じゃねえの?

桐乃「……あったりまえじゃん。 なに今更ゆってんの」

そう言う桐乃の顔は、とても儚げで……俺はそれを見て、何も言う事が出来なかった。

ちなみにこの時の勝負は引き分けで、サドンデス設定をしていなかったのもあり、勝負は次に持ち越しとなったが。

俺にはやはり、桐乃がその時に見せた表情が気になってしまう。 何を考え、何を想っているのか。

そんな気持ちを持ち続け、気付けばクリスマスがやってきた。

俺にとって、やはりこの日は忘れられない日となるのである。


第十九話 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

明日の投下ですが、前編後編二話構成となりますので、同日中に二つ投下致します。

おはようございます。
乙、感想ありがとうございます。

では投下致します。

12月25日、朝。

刺す様な寒さの中、俺はアパートの一室から外に出る。

階段を下って行くと、見慣れた姿がそこで待っていた。 俺の妹、高坂桐乃。

足がすらっと長く、体のラインははっきりとしている。 まさに、モデル体型と言った所か。

桐乃「よ」

服装は去年と同様の格好。 成長止まってんじゃねーのって突っ込みをしたかったが、確実にしばかれる未来しか見えないので、寸での所でなんとか飲み込む。

京介「おう。 寒かったか?」

桐乃「まあね。 ケドだいじょーぶ」

京介「そっか。 んじゃあ行きますかぁ」

桐乃「うん。 今日のコースはあんたに任せてるんだから、がっかりさせないでね?」

京介「任せろって。 入念な下調べもしっかりしておいたからな!」

桐乃「ひひ。 じゃ、楽しみにしとく」

最初こそ、二人で地元を出歩くのは……なんてことを話していた気がするが、ここで待ち合わせをしたのは桐乃から強い要望があったからだ。

どうやら、お袋と親父は今日は一日中家に居るらしく、見られる心配は無いからとかで。

とは言っても知り合いに見られる可能性は否定できないので、なるべく周りを警戒しながらにはなりそうだけど。

桐乃「あ! でも、メルちゃんのイベントには間に合わせてよ? じゃないと意味ないし」

京介「わーってるよ。 あれって秋葉原だったよな? それまでには間に合うから安心しろ」

桐乃「おっけーおっけー。 じゃ、いこっか」

京介「おう」

こうして、クリスマスの長い一日が始まった。

空は晴れていて、雨が降る心配も雪が降る心配も無さそうだ。

欲を言えば、去年同様に夜に雪でも降って良い雰囲気にならねえかなとは思うが……そこまで期待するのも、まあ天気に悪いしな。

さて。

三年連続でのクリスマスデートだが、一昨年は嫌な思いをさせてしまって。 去年も前半のイブで桐乃を泣かせてしまっているから……。

今年くらいは、最後まで笑顔でいさせたい物だ。

勿論、その為のデートコースって訳だし。

まず最初、手始めに俺が向かったのは……こいつには、恐らく覚えがある場所だ。

俺は桐乃の少し先を歩きながら、まず近くの駅に向かった。

電車をいくつか乗り継ぎ、着いた場所は地元とは掛け離れた田舎町。

辺りには田んぼと、山。 絵に描いたような田舎である。

更に詳しくどのくらい田舎かっていうと、着いた駅が無人駅って位の田舎。 改札らしき物の箱の中に切符を入れ、俺と桐乃は駅の外へと出る。

桐乃「なんか、こういう場所って本当に久しぶりだなぁ」

京介「ふうん。 前に来た事とかあるのか?」

桐乃「うーん……すっごい昔に、似たような場所はあるかも?」

多分そりゃ、ばあちゃんのところだろうな。 あそこも随分と田舎だったし。

その時の記憶が、僅かながらに残っているってことか。

京介「ま、たまには良いだろ? 自然が沢山あるところってのもさ」

桐乃「……そうだケド」

桐乃「でも、一応分かっていないかもしれないからゆっとくよ? 今日、クリスマスだかんね」

京介「何を今更! そんなもん分かってるっつうの」

桐乃「なら良い。 でもさ……あんた、まさか山とか行くつもり?」

隣を歩く桐乃が、ジト目で俺の事を見ながら言う。

京介「さすがにクリスマスに山登りデートはしたくねえよ……まあ黙って付いて来いって」

桐乃「ふん。 くだらないところだったら、マジで帰るから」

京介「へいへい」

そうして、俺と桐乃は並んでしばらく歩く。

さすがは田舎。 俺たちが住んでいるところも田舎っちゃあ田舎になるのかもしれんが……それでも、これだけ周りに自然が多いと、空気がうまいな。

とは言っても、ちっと寒いか……。

桐乃の方に顔を向けると、こいつもどうやら一緒の様で、耳が赤くなっている。

京介「……うう」

桐乃「……さむ」

同時に声が漏れ、互いに顔を見合わせる。

京介「……少し休憩してくか?」

桐乃「……暖かい物飲みたい」

珍しく俺も同意見だぜ。 ってことで、近くにある喫茶店に足を向ける。 幸いにもすぐ傍に看板があった為、それに従い少々歩く。

やがて見えてきた喫茶店に桐乃と一緒に入り、テーブル席に付いた俺たちは互いに暖かい物を頼んだ。

俺はホットコーヒーで、桐乃はミルクティー。

桐乃「それ苦くないの?」

正面でミルクティーを両手で持ち、手を暖めている桐乃がそう尋ねてきた。

こいつの手、ちっさいな。 カップがでかく見えるのも、その所為だろうか。

京介「一応、ミルクと砂糖入れてるしな。 俺からしたらお前のそれの方が甘くねえの? って感じだよ」

桐乃「こんくらいがちょーどいいの。 んで、まだ歩くワケ?」

京介「もうちょっとな。 つっても後十分くらいだけど」

桐乃「……ふうん。 さっさと済ませて次行きたいなぁ」

京介「わーったよ。 んじゃさっさと飲んじまえよ、それ」

俺は桐乃が未だに手を暖めているカップを指差し、言った。

桐乃「あんただってまだ飲みきってないじゃん」

対する桐乃も俺が未だに手を暖めているカップを指差し、言い返す。

京介「……まぁな」

桐乃「ひと口もーらいっ」

桐乃は突然そう言い、俺のコーヒーを奪い取る。 で、そのまま言葉どおり、ひと口飲んだ。

桐乃「……うぇ、にがっ」

京介「お前の飲んでる奴が甘すぎるだけじゃねえの……?」

桐乃「なのかな? ひと口飲む?」

京介「ん。 じゃあもらっとくかな」

俺はそう言い、桐乃のカップを手に取り、ひと口含む。

京介「……あまっ」

桐乃「んなことないって。 ふつーふつー」

つくづく感覚が合わないな、こいつとは。

桐乃「てゆうか、コーヒーってなんか年寄りくさい」

うるせえ奴だな、ほっとけや。

お前が今飲んでいるそのミルクティーは子供っぽいんだよ! ふん。

……とは言った物の、なんつうか。 あれだよな。

この光景を高校二年の時……桐乃から、最初の人生相談を持ちかけられた時の俺が見たら、なんて言うんだろうな?

あん時はクッションの一つですら、俺が使ったのは使えないとかなんとか言ってやがったのに。

それが今じゃあこれだもんな。 桐乃も嫌がる顔を全くしないで俺が飲んだミルクティーを飲んでいるし、俺だって別に嫌でもなんでもない。

……変化、か。

何年も、ずっと他人の様な感じで接していた俺たちが、こうなっちゃうなんてねぇ。

笑顔を向けてくれて、飯を作ってくれて、一緒にゲームやら遊ぶやらして。

いきなりそんな変化があったわけでは無い。 少しずつ、馬鹿みたいにでかい氷を溶かしていく感じだろうか。

……多分、この俺が今思っている気持ち、想いは……一生変わらないのだろう。

それだけ強くて、確信が持てる。

桐乃と別れてからもう結構な時間が経った今でも、俺は桐乃の事が、妹の事が好きだ。

そして。

そろそろ、そんな気持ちにもケリを付けないといけないことも、分かっている。

俺と桐乃が歩いてきた物語の終わりも、近いように思える。

それがたとえ最悪の終わりだとしても、俺は受け止めなければならない。

現実はいつだって、理想とは遠く、掛け離れているのだから。

桐乃も一緒。 同じ事を想っているのだろう。

どうしようも無く、俺たちは兄妹なのだ。

さて、ここから先は俺個人の想い。

俺は、どうしてだろうか。

何故か、今日この日、とても安心していた。

今日だけって訳じゃあない。 俺が一人暮らしを始めた辺り……正確に言えば、大学に入った辺り。

そのくらいの頃からずっと、俺は何故か安心していた。

理由は分からない。 どこかで、そう思っているのだろうか。 良い、日々だと。

毎日が毎日、楽しい日々だと。

……だけど、それと同時に。

得体の知れない焦燥感の様な物が、俺の中にはあった。

桐乃「ほら、さっさといこ」

桐乃の声を聞き、俺は張り巡らせていた思いを止め、口を開く。

京介「そうだな。 行くか」

会計を済ませ外に出ると、以前寒さは厳しくて、空はどんよりと曇り始めていた。 山に囲まれている所為か、あっと言う間に天気が変わっている。

京介「うわ……雨でも降んのかな。 天気予報だと晴れだったんだけどなぁ」

桐乃「ちょー田舎だし、天気予報なんて当てになんないんじゃない?」

田舎でも天気予報は正確だと思うが……つか、こいつって発言が一々失礼な奴だよね。

田舎に住んでいる人が聞いたら、マジで怒られるぞ。

俺は俺で、田舎は良いと思うんだけどなぁ。 道行く人が全員顔見知りで、皆が家族みたいな物なんじゃねえの? 場所にもよると思うけどさ。

京介「ま、降ったら降ったで仕方ねえか。 雨降る前に済ませちまおう」

桐乃「……ほんっとにくだらない場所だったら許さないからね?」

念を押す桐乃。

京介「だ、大丈夫だと思う……恐らく」

予防線を張る俺。

桐乃「チッ……まあいい。 いこ」

短い戦いだったが、恐らく戦力は拮抗しているはずだ! そう思うだろ?

さて、許しが出たところで、再び俺と桐乃は並んで歩く。

道中、会話は無かったが……そして、手こそ繋がない物の、桐乃との歩調は合っていた。

沈黙の中歩くこと数分。 やがて、俺が桐乃を連れて来たかった場所に着く。

ある意味で、俺と桐乃の思い出の場所。

調べるのには当然、コネをフル活用の俺だったがな。

桐乃「……ねえ、ここって」

京介「へへ、分かったか?」

桐乃「だ、だってこんなのって!」

桐乃はその光景を見て息を飲んでいた。 綻んでいる顔からは、桐乃の気持ちがしっかりと伝わってくる。

京介「……良かったよ。 喜んでくれたみたいで」

桐乃「当然じゃん。 あたしもこんなの知らなかったのに……ちょーすごい」

俺が桐乃を連れて来たかった場所。 それは、あるシーンの元となった場所。

桐乃が貸してくれたゲーム。 しすしすの、りんこりんルート。 それのラストシーンの場所だ。

京介「そんだけ嬉しそうにしてくれたら、調べた甲斐もあったぜ」

これは数ある選択肢の内の一つであった。

俺はその中でも、例外を選んだ訳だが……通常なら、こんな所にクリスマスに連れて行ったら、縁を切られるのが当然ってもんだろう。

だけど、俺と桐乃の場合は少し違う。

いや……俺と桐乃だからこそ、か。

桐乃「うっはー! マジでそのままじゃん!! こ、ここにりんこりんが……」

桐乃「ねねね! 一枚写真撮ろうよ! 写真!」

そう言いながら、スマホを俺に押し付けてくる桐乃。 さっきまでのテンションの低さが嘘のようだぜ。 全くさぁ。

京介「んじゃ、俺撮ってやるから、お前そこに居ろよ」

桐乃「おっけーおっけー! はやくぅ! ふひひ」

超楽しそうだな……それはとても良い事だと思うけど、若干キモいぞ? 今のお前。

京介「おし……撮るぞ」

桐乃「ひひひ」

カシャリという音と共に、シャッターを切る。

桐乃「どう!? うまく撮れた!?」

京介「まあな。 ほら」

駆け寄ってきた桐乃に、今撮ったばかりの写真を見せる。

とても嬉しそうな桐乃の顔と、りんこりんルートラストシーンのコラボだ。

桐乃「へへ。 やっばぁ……」

おいおい、よだれが垂れそうな表情になってんぞ。 大丈夫かお前。 色々心配になっちまうぞ。 次のコースが病院ってのは勘弁してもらいたいぜ。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「なに? 京介」

京介「ここまで歩いてきて、良かったか?」

桐乃の頭に手を乗せ、俺はそう尋ねる。

桐乃「ちょー良かった! ひひ。 ありがとね」

悪態を付くことも無く、文句を言うことも無く、飛びっきりの笑顔で桐乃は言う。

京介「……おう。 嬉しいぜ。 どういたしまして」

俺はそんな正面から言ってくる桐乃の顔を見れず、視線を逸らしながら答える。

桐乃「もう一生ここに居たいくらいなんだけど! マジで!」

京介「……それは俺のこれからのコースが無駄になるから、やめてくれ」

桐乃「へへ、分かってるっつーの。 期待してなかった分、ちょっと感動したしね」

確かに俺がコースを決める段取りになった段階で、言葉でそうは言ってたけどさ、本当に期待してなかったのかよ。 意外とショックだぜ、それ。

京介「んじゃ、次行くかぁ」

そう言い、歩き出した時。

頬に、何やら冷たい物が当たった。

俺はふと、空を見上げる。

京介「……雪だ」

桐乃「ほんとだ。 なーんか毎年ホワイトクリスマスじゃん」

俺の少し後ろを歩いていた桐乃がそう呟く。

京介「山が近いから、かな?」

俺は一旦足を止め、振り返りながら口を開いた。

桐乃「かもね。 ってか、あたし傘持ってきてないんだケド」

京介「そんな強くは降らねえと思うが……少し急ぐか」

桐乃「仕方ない。 強くなったら漫画喫茶でもいこー」

京介「それだけは避けたいぜ……クリスマスに行く場所じゃねえだろ」

桐乃「んじゃ、精々願っておくといーよ。 ひひ」

京介「ああ、そうさせてもらう」

そうして、俺と桐乃は来た道を引き返す。

雪はちらちらと降っており、寒さはやはり厳しい。

その所為なのか、どちらが先にってのは分からないが、俺と桐乃はしっかりと手を繋いで歩いていく。

つうか、こいつの喜びっぷりはさすがに予想外だったぞ。 これだとこの先のプランが崩れる危険性があるんだが!

マジ、こいつくらいじゃねえのか……エロゲーに出てくる場所に連れて行って、大喜びする女子高生って。

まあ、それが桐乃らしいっちゃ桐乃らしいか。 連れて行く俺も俺だけどよ。

……さて。

いきなりクライマックスばりに盛り上がってしまった訳だが、これで終わりという訳ではない。

行く場所も一応頭の中にはあるのだが……。

ぶっちゃけ、ここまで喜ばれると後が辛すぎる! どうすんの!?

そんな俺の焦りが伝わったのか、正直伝わって欲しくは無いが、桐乃が口を開く。

桐乃「ねね、今からならちょーど良い時間になると思うからさ。 一個行きたい場所あるんだよね」

桐乃「京介が考えてくれたのがダメってワケじゃないんだケド……」

京介「いや、良いぜ。 お前の行きたい場所なら」

桐乃「そ、そう? んじゃあいこっか」

これは予想だが、桐乃は桐乃なりに、俺にお礼をしたかったんだと思う。

桐乃の知っている場所、俺が喜びそうなところに連れて行ってくれると、そういうことだろう。

俺にも一応、連れて行きたい場所はあったんだが……まあ、今度機会があった時でも良いか。

そうして桐乃に連れられるまま、俺は横浜へとやってきた。


第二十話 終

以上で一旦終わりです。

またお昼頃、続きを投下致します。

乙、感想ありがとうございます。

乙、感想ありがとうございます。

二十一話、投下致します。

さすがに横浜は遠く、着いた頃には既に少しずつ辺りが暗くなり始めていて、至る所でイルミネーションがきらきらと輝いている。

京介「……すっげえ都会だな」

アキバと同じくらいの活気がある町だぜ。 ここ。

つっても、アキバとは雰囲気がまるで違うけど。 桐乃のような奴が何人もいやがる。 なんつーか、若者の町って感じ。

桐乃「ちょっと……田舎から来たみたいな台詞やめてよ。 恥ずかしいから」

京介「お、おう。 わりい」

千葉も田舎っちゃ田舎だと思うが。 少なくとも、ここと比べたらねぇ。

桐乃「お腹減ったし、ご飯食べてく?」

京介「ん、そういや昼ってまだだったか。 つうか、お前ってこの辺知ってるの?」

桐乃「仕事で何回か来てるしね。 美味しいお店も知ってるから」

京介「へえ。 んじゃあ案内頼むぜ、桐乃さんよ」

桐乃「任せなさい!」

そう言い、胸を叩く桐乃。

ノリ良いな。 今日の桐乃さん。 さっきのエロゲー聖地巡礼が効いたのだろうか。 だとすると嫌なテンションの上げ方だけど。

時刻は……午後の3時。 ちょっと遅い昼飯食って、桐乃が言っていた連れて行きたい場所とやらに行けば、結構良い時間かね。

ここからだとアキバには1時間も掛からないし、6時に出れば丁度良いくらいか。

で、横浜か。 なんつうか。

……うーむ。 まさかね。

その後、桐乃に連れられてテレビ等で何回か見ている中華街に連れて来られる。

桐乃が知っている店というのが、なんでも有名人も何人か来ている様な有名店で、味もかなりの物だった。

……にしても値段がたけえ。 これ、ぼったくりじゃねえの?

まあ、味と兼ね合いがあるからまだ納得できるが……それにしても高すぎやしねえか!?

当の桐乃はそんなの何でも無い様な顔をしているし。 俺だけなのかね、こう思うのって。

俺は財布の中身を想像してびくびくしながら飯を食っていたのだが、桐乃の方はすげー楽しそうに食事をしていた。 羨ましいぜ、お前の財布には一体いくら金が入っているんだよ。

そして、飯を食べ終えた俺たちは再び電車に揺られている。

京介「なあ、こっからまだ移動すんの?」

桐乃「ん。 すぐ近くだよ」

桐乃のその言葉通り、電車は目的地の駅へとすぐに到着する。

桐乃「着いた着いた♪」

上機嫌な桐乃の後に続き、俺も電車を降りていく。

京介「なあ、ちょっと良いか?」

俺は先程から、もしや……と思っていることを口に出してみることにした。 出来れば、違って欲しいが。

桐乃「んー? どしたの」

京介「まさかなーとは思ったんだけどさ、多分俺が連れて行きたかった場所と、お前の連れて行きたかった場所、一緒だったんじゃねえかと思った」

桐乃「え? マジ?」

京介「多分、な」

桐乃「はぁ。 最悪のパターンじゃん、それ! ったく」

なんで俺が怒られるんだよ……言わない方が良かったのかな。

桐乃「まぁ、仕方ないか……とりあえずあんたが連れて行こうとした場所ってとこ、連れて行ってよ」

京介「おう。 まあまだ違う可能性もあるしな。 行こうぜ」

そう言い、桐乃の手を引きながら俺は歩く。

向かった先は、駅のすぐ傍にある公園だ。

時刻は午後5時30分。 冬のこの時間だと、辺りはすっかり暗くなっている。

京介「な? 一緒の場所だったろ?」

俺が隣に居る桐乃に、そう伝える。

駅から5分ほど歩いた場所にある大きな公園。 俺が見せたかったのは、ここからの夜景。

クリスマスでは普段よりもより一層、綺麗な夜景となっている。

桐乃「……だね。 でもちょっと違うかな」

京介「ん? 違ったの?」

桐乃「そ。 あたしが連れて行きたかったのはあそこだし」

そう言う桐乃が指差す先には、観覧車。

京介「……なるほど。 確かにあっちの方が良い景色が見られそうだ」

桐乃「でしょ? あたしも乗ったこと無いんだよね、あれ」

京介「そうなのか? てっきり乗ったことあるもんだと思ったが」

桐乃「一人で乗れるかっつーの。 だから今日くらいしか乗れるチャンスないし」

京介「へへ、んじゃあ行こうぜ」

桐乃「なににやけてんの? ふん」

京介「べっつにー。 なんでもねーよ」

そんなこと言いながら、お前もにやけてるじゃねえかよ。 自分の事を棚上げしやがってよー。

まぁ、それを見ても生意気だとか、素直じゃねえとかは、思わなかったけどな。

桐乃「……うわあ。 すっごい綺麗」

観覧車の窓から、身を乗り出す勢いで外を眺める桐乃。

俺はそんな子供っぽい桐乃を見て、少し意地悪をしたくなってしまった。

京介「桐乃」

桐乃「すご……ん?」

真面目な顔で、笑いそうになるのを必死に堪えながら、俺は口を開く。

京介「お前の方がよっぽど綺麗だぜ」

いくら冗談で言う台詞としても、すっげえ恥ずかしい。 まあ、言われた桐乃の方が恥ずかしいとは思うけど。

それに、冗談ともいえねえのかな……?

桐乃「え、う……あ、ありがとう……」

さっきまでの元気の良さが消え、桐乃は窓から離れると観覧車内にある椅子に腰を掛け、俯いてしまう。

……マジで受け止めやがった! そうなると俺も余計に恥ずかしいじゃねえかよ!

京介「し、下向いてたら夜景見れないぞ?」

桐乃「う、うん……」

ちらちらと俺の方に視線を向ける。 なんだこの可愛い生き物は……。

桐乃「その……あの……きょ、京介も、かっこいいから」

い、今なんて言った……?

桐乃が、俺の事を格好良いと言った……?

京介「……俺、死ぬかもしれん」

桐乃「ちょ、なにゆってんの!?」

ありえねえけど……ありえてしまったのか!?

だ、だが……今日の桐乃はやけに素直じゃねえか……?

そりゃ、以前に比べたらこいつもちっとは素直になったと言えなくも無い……が。

それでもあの桐乃がぁ!? あろうことか、俺の事を格好良いと言ったのか!?

京介「だ、だってよ……お前がそんな事を言うなんて……素直すぎる!」

俺の妹がこんなに素直なわけがない!

未だに半信半疑。 もしかしたら夢の可能性も出てきたぜ、こりゃ。

桐乃「べ、べつにいいっしょ! いちお? 今日くらいは……」

視線を右へ左へ動かしながら、桐乃は言う。

観覧車で二人っきりの中、この空気は果てしなく辛い……!

桐乃が気が触れた様なことを言う所為で、俺まですげえ緊張してきたじゃねえかよ!

京介「お、おおう……そうか……」

桐乃「ほ、ほら! 俯いてたら夜景見れないっしょ! あたしがあんたに見せたかったんだから、ちゃんと見てよ」

あたふたしながら言う桐乃。 つーかな、いくらお前がそう言っても俺はそれどころじゃないって。 夜景なんかもう目に入らないっつーの!

しかしいつまでもこうしていては折角連れて来てくれた桐乃に失礼なので、俺は顔だけは観覧車の外に向ける。

当然、意識は桐乃の方にいっているが。

京介「……」

桐乃「……」

沈黙つらッ! こいつとはこんな感じに黙りあうことなんて、数え切れない程あったけど、今までで一番辛いかもしれんぞこれ!

数年前だったら……たとえばリビングで二人っきりになったとして、こんな感じにお互いひと言も話さないなんてことは良くあった話だが。

その時に俺が思ったことと言えば「何しかとしてんのこいつ。 感じワリー」とか「気まずいよなぁ……つうかなんでこいつは部屋に戻らないんだよ」くらいだったぜ?

んで、今は「こ、こいつ何考えているんだろう?」とか「今日、楽しめてるのかな?」とかだぜ?

まあ状況は全く違うから、思っていることなんてのは当然違う訳で……だけど、思い方が全然違う訳で。

うまく表現できるか分からないが……。

俺は俺で、延々と桐乃の想いを無視していた。 桐乃は桐乃で、延々と俺の言葉を無視していた。

それが今は。

俺は桐乃の想いを考えて、次のことを考えて。

桐乃は俺の言葉を受け止めて、しっかりと自分の気持ちを伝えてくれて。

そうなったからこその、この辛くも心が解される沈黙なんだろう。

桐乃「……外、寒そうだね」

その硬直状態を破ったのは、やはり桐乃で。

京介「冬だからな、当然だろ?」

それに答えるのは、俺の役目だ。

幸いにも、その後の会話は大分弾み、観覧車から出る頃には先程の様な妙な緊張感は無くなっていた。

桐乃が笑い、俺も笑う。 そこにあるのは『いつも通りの光景』だ。

桐乃「うう……やっぱさむ」

京介「……ほらよ」

俺は言い、桐乃に手を差し出す。

桐乃「……ん」

それを拒否することも、拒絶することも無く、桐乃はしっかりと掴む。

京介「今から向かえば丁度良い時間だな。 行くか」

桐乃「だね。 どっかでてきとーにご飯食べて、いこっか」

メルルのイベントが始まるのは午後の7時、今は丁度6時くらいか。 あんま余裕は無いが、真っ直ぐ向かえば余裕っぽいな。

京介「おう。 また来ような」

桐乃「……」

俺の言葉に桐乃は返さず、疑問に思って並んで歩く桐乃の顔を見たが、特に表情に変化は見えない。

辺りの喧騒で聞こえなかったのだろうか? まあ、もう一度言うことでもねえし、良いか。

そうして、俺と桐乃は駅へと向かった。

桐乃「そーゆえばさ」

京介「ん?」

道中、桐乃が口を開く。

桐乃「あんた、さっきゆってたじゃん? なんで今日はそんな素直なんだって」

京介「あ、ああ……言ったな」

桐乃「決めてたことなんだ。 今日は、しっかり想っていることをそのまま伝えようって。 前から」

京介「……へえ。 ならさっきのも納得がいったぜ」

京介「つまり! お前って普段から俺のこと格好良いって思ってるんだろ!?」

桐乃「な! そ、それは……っ!」

桐乃「ちょ、ちょーしのんなッ!」

殴りかかってくる勢いで言う桐乃。 全然素直じゃなくねえか!?

だが、否定しないってことはそういう事……なのかね。

へへ、恥ずかしいじゃねえか、こいつめ。

時間が経って、秋葉原。

軽く飯も済ませ、秋葉原にあるイベント会場へと来ている。

完全予約制ということもあり、超満員ってことは無い。 それはそれで寂しかったりするのだが、クリスマスに過去何回か体験したあの方達と一緒に「メ!ル!ル!」だとか「ハイハイハイハイ!!」だとかは決してやりたくないので、俺にとっては良いことである。

桐乃「うーん。 盛り上がりに欠けそうだけど、こういう雰囲気も良いカモ」

隣に居る桐乃が、そう言った。 つってもこいつはいざ始まったら酷いことになりそうなんだが……。

まあ、それは置いといて。

辺りを見れば、意外にも俺たちと同じ様な男女で来ている奴も結構居るんだな。

無論、小さい子供連れで来ている家族の人達も居るのだが、客層は圧倒的に大きなお友達が多い感じである。

折角チケットを取れたのに、こんな輩ばっかで申し訳ありません。 と家族連れの人達には謝りたい気分だ。

そんなことをつらつらと考えていると、やがて会場の照明が落とされ、聞きなれたメルルの主題歌と同時にスポットライトがステージの上に当たる。

……一応予想はしていてが、まさかマジで居るとはな。

ステージの上に立ったのは、もう見慣れた姿の加奈子であった。

「星くずうぃっちメルル、はーじまっるよー!」

そんな加奈子の声と共に、イントロが終わり音楽の音量が一気に上がる。

同時に、俺の隣に居る奴のテンションも一気に上がった様だ。

桐乃「き、キタぁアアアアァアアアア!」

桐乃「メルちゃあああああああぁん!! こっち向いてぇ!!!」

ったく。 どこに行ってもこいつはこうだよな。 ちっとは周りの迷惑ってもんをだな……。

そう思い、辺りを見回すと、俺達同様の男女層も桐乃の様な反応をしている。 ………マジかよ。 こいつら頭大丈夫か?

クリスマスにカップルでメルルのイベントとか、正気じゃねえよ絶対!

そんな非日常的な光景に嫌気が差し、家族連れの方に目を移す。

「うおおおおぉおおおおぉおおお!! メ!ル!ル! メ!ル!ル!」

家族連れのお父さんがはしゃいでいた。 日本は大丈夫か。 子供めちゃくちゃ引いてるぜ。

桐乃「うひょおおお!! ちょーかわいい!! 抱きしめたい!! めーるちゃああああん!!!!」

サビに入った辺りで、桐乃のテンションはどうやら振り切ってしまったらしい。

桐乃「ね! ね! きょーすけ! あれちょー可愛くない!? マジでヤバイって! フィギアほっしいいい!!」

ぴょこぴょこと隣で跳ねながら、桐乃は俺の手をぶんぶんと振り回す。 その笑顔、お前のファンが見たら感動物だぞ……。

だが、その笑顔の原因を知ったファンがどう思うのかは言うまでも無いかもしれんが。

京介「わ、分かったから! 可愛い可愛い!」

桐乃「ふひひひ! クリスマス衣装もめっちゃかわいい!! 終わった後にグッズとか売られないのかなぁ!!」

つうか、まだ始まって数分しか経ってねえぞ……?

こんな初っ端からテンションマックスで、こいつは平気なのだろうか。 少しばかり気になる俺だったのだが、やはりこういう物にかける情熱は桁外れで、俺の心配は杞憂に終わる。

俺と桐乃のテンションは、終始マックス状態だった!

間違えて無いぞ。 もう一度言おう。

俺と桐乃のテンションは、終始マックス状態だった!

いや、だってさ。 楽しかったもん。 俺にはこの日、桐乃を含むメルルの熱狂的ファンのエネルギーの源が、どこにあるのか少しだけ分かった気がする。

やべぇ! 次のイベントっていつなんだろうな!? はー! 早く行きたい!

桐乃「ふ、ふひひ……」

大量のメルルグッズが入った紙袋をちらちらと覗き込み、気持ち悪い笑いを横で漏らす桐乃。

京介「おい。 しっかり歩かないとあぶねぇぞ」

イベントも終わり、俺と桐乃は千葉に戻り、家までの道を二人で歩く。

桐乃「わ、分かってるって……でも」

桐乃「……ふひっ」

京介「……はは」

すんげー嬉しそうな桐乃を見ていたら、なんだか俺まで笑えてきちまったぞ。

桐乃「なに笑ってんの?」

京介「いや、へへ。 お前、めちゃくちゃ嬉しそうだったからさ」

桐乃「そ、そう? まぁ? 楽しかったしね」

京介「そりゃあ良かった。 俺も楽しかったよ。 お前と一緒に行けて良かったぜ」

桐乃「ふ、ふうん」

そう呟いたと思ったら桐乃の歩調が少し落ちて、俺が前に出る形となる。

京介「おい、どうした?」

手を繋いでいたのもあり、それにすぐ気付けた俺は後ろを振り向き声を掛けた。

桐乃「ううん。 なんでもない」

桐乃「あたし、そろそろこの辺で大丈夫だから」

京介「ん? そっか。 まだ、家まで距離あるけど」

桐乃「だからだいじょーぶだって。 知ってる人に見られたくないっしょ?」

今更それかよ? とは思うが……。

京介「……まあな」

と、俺は返した。

それを聞き、桐乃は俺と繋いでいた手を離す。

京介「家まで送っていこうかと思ったけど……ここで良いなら、俺はあっちだな」

曲がり角を指差し、俺は桐乃に向けて言う。

桐乃「うん。 知ってる。 だからここでゆったんだしね」

京介「そうかい。 気が利く妹だ」

桐乃「あたしが気を利かせなかったことなんて無いじゃん?」

京介「ははっ。 そうだったそうだった」

桐乃「でしょ? ひひ」

京介「……まあ、なんつーか。 ありがとな、桐乃」

桐乃「なんでお礼?」

京介「いや……お前のおかげで、今日は楽しかったし。 だから、かな」

桐乃「ふーん。 そっか」

冬の風は依然として冷たく、俺と桐乃の肌を刺している。

京介「さっみ……」

桐乃「……うん。 寒いね」

京介「さぁて、風邪を引かねえ内に帰るとするか」

桐乃「あんた、次に風邪引いたらもう看病はしてあげないかんね?」

京介「マジかよ。 そりゃ辛いお知らせだな」

桐乃「いつまでも甘えんなっつーの。 じゃ、京介」

京介「ん?」

桐乃「今日さ、あたし……ちょー嬉しかった」

桐乃「めちゃくちゃ楽しくて。 泣きそうだった」

桐乃「今日……だけじゃないかな」

桐乃「今までのことも、すっごく嬉しかったし、ほんとーに今まで楽しかったよ」

京介「……なんか照れるな」

桐乃「ひひ。 今日くらいゆわせてって」

京介「そか。 先に言われちまったけどさ、俺も楽しかったよ」

京介「勿論、今までのことも……な」

京介「人生相談やら、無理な頼みやら、嫌そうな顔して引き受けてたかもしれないけどさ」

京介「お前に頼られて、嬉しかった。 めちゃくちゃ楽しかった」

桐乃「……そっか。 ありがと」

京介「お礼を言いたいのは俺の方だっつうの」

桐乃「じゃあ……どういたしまして」

京介「へへ。 こちらこそ、どういたしまして」

桐乃「ほんとーに、あたしはいっつも酷いこと、してるかもだけど」

桐乃「……あたしは」

桐乃「あたしは京介に本当に感謝してるよ! 今でも、あの時と同じ気持ち、持ってるから!」

桐乃「だから、それだけは忘れないで憶えていて欲しい」

京介「当然だろ。 忘れなんてしねーよ。 何今更言ってんだよ」

桐乃「ひひ。 そっか」

桐乃「じゃ、そろそろ帰ろうかな」

京介「おう。 そうだな」

京介「またな、桐乃」

俺は桐乃に向けて言う。

それに桐乃は、こう答えた。






「じゃあね、京介」




俺はこの時、何一つ気付いていなかった。

馬鹿な俺は、桐乃の言葉に何も違和感を持たなかった。

今思えば。

桐乃から、小さな合図は沢山送られていたというのに。 それに全て、気付けなかった。

今思えば。

桐乃の行動に不可解な物はいくつもあったのに。 それに全て、気付けなかった。

今思えば。

俺はそれに『敢えて気付こうとしなかった』のかもしれない。 そう、思う。

そして。

今思えば。

その時に桐乃が言った別れの挨拶は、どうしようも無いくらいに、別れの挨拶だったことくらい、気付こうと思えば気付けたはずなのに。


こうして桐乃は、俺の前から居なくなった。


第二十一話 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

12月29日。 クリスマスの日から、数日が経ったある日。 今年の終わりが見えてきた頃。

時刻は夕方で、外は暗い。

そんな日に俺は、アパートの一室で携帯と睨み合いをしていた。

京介「チッ……あいつ、何してんだよ」

あの日から、桐乃からの連絡がぱたりと止まったのだ。

電話を掛けても出ず、メールを送っても返事が来ない。

家に電話を掛けようかとも思ったが……やはり、俺が急に桐乃のことをお袋や親父に聞いたら、疑念が高まってしまう可能性もある。

俺に今出来ることと言えば、あいつからの連絡を待つだけってことか。

まるで。

まるでこれは『桐乃がアメリカに渡った日々』の様だ。

京介「くそっ……」

一向に鳴る気配が無い携帯を布団の上に投げ捨て、頭をボリボリと掻く。

なんか、落ち着かねえな。

あのヤロー。 マジでメールくらい返せっつーの。 俺がメールに返事しないと怒る癖によぉ。

先程携帯を投げ捨てた布団に身を投げ、天井を見つめる。

京介「……そうだ。 あやせ」

今まで全く気付かなかった。 あやせに聞けば、桐乃に何か起きているとしたら分かるじゃねえか。 あいつが返事をしない理由も分かるかもしれない。

俺はすぐに携帯を手に取り、あやせの名前を電話帳から呼び出し、電話を掛けた。

繋がるまでのコール音が煩わしく、ようやく繋がると俺はすぐに口を開く。

京介「あやせか? 聞きたいことがある」

「ど、どうしました? なんだか切羽詰った感じですが……」

京介「お前、桐乃と連絡取ってるか?」

「……ええっと? き、桐乃ですか? 普通に連絡を取っているというか、遊びもしていますけど」

京介「それって、いつのこと?」

「……」

少しの沈黙、その後、あやせは口を開く。

「……つい昨日ですよ。 お兄さん」

つい、昨日だと?

なら、どうして桐乃は俺に連絡しないんだ。 メールも、電話も、全部無視かよ。

京介「そうか……分かった。 ありがとう、あやせ」

「いえ、お役に立てたのなら」

「……あの、お兄さん」

京介「ん? どした」

「実は」

「……あ、やっぱり何でも無いです。 ごめんなさい」

京介「え? そっか」

「ごめんなさい。 失礼します」

そして、あやせは電話を切る。

何かを言おうとしていたみたいだが……何だってんだ?

いや、そんな事を考えている場合ではねえか。

桐乃はどうして、俺に連絡を返さないのだろう?

別にあのクリスマスの日に、喧嘩をしたって訳じゃねえのに。

やっぱり駄目だ。 考えてもわっかんねえ。

……こうなったら、家に行くしかねえよな。

お袋と親父には怪しまれるだろうが、もうそんなのはどうだっていい。 俺は、あいつが何よりも大切だから。

そう思い、出掛ける準備を済ませる。 一秒だって時間は惜しい。 早く、行こう。

そして身支度を済ませ、携帯を手に取ったとほぼ同時に着信音が鳴る。

京介「桐乃か!?」

画面を開くと、そこにはお袋の名前が表示されていた。

このタイミングで、お袋? 嫌な予感がするが……気のせいだと良いな。

が、こういう嫌な予感に限ってことごとく当たるのだ。 俺の場合なんて、特にそうで。

通話ボタンを押して、電話に出た俺にお袋の今にも泣き出しそうな、そんな声が聞こえてきた。

「桐乃が、家に帰ってこないの!」

桐乃はクリスマスの日……25日に家に帰り、26日には出て行ったらしい。 既に帰ってこなくなってから3日も経っているという。

俺に連絡するのが遅すぎるという点で、まずは怒りが抑えきれなくなりそうだったが、俺は一旦状況を考えた。

俺と桐乃が出掛けて、桐乃の帰りが遅くなるってのは珍しいことではない。

その度に桐乃は何か適当なことを言って誤魔化していたらしいが、今回はそれが無かったらしい。 勿論、お袋が直接そんな事情を知っている訳では無いので「何も言わずに門限を破るなんて」と言っていたが。

しかしそれを考えたとしても、お袋の動揺っぷりはかなりの物だった。 まぁそれも無理は無い。

桐乃の部屋から、服やら携帯品やら、生活必需品という物が全て消えていたと言うから。

京介「あの馬鹿ッ!」

何お袋に心配掛けてんだよ! 俺も人のことは言えねえけどさ! 何があったのかは分からねえけど、家出なんて柄じゃねえだろうが!

俺はお袋との電話を終えて、千葉の町中を走っている。

空は曇っていて、星は見えない。 確か予報では、夜は雨とのことだったな。

早く、見つけねえと。

「京介、あなたの所に桐乃は行ってない?」

先程、お袋にそう聞かれた。

俺はそれに対し「桐乃か? そういや、この前友達とお泊り会があるとかなんとか、はしゃいでたな」と、そう返した。

あまり、心配や不安は掛けたくない。 その想いから、俺はお袋に嘘を吐いた。

「そう……だったの。 でも、それでも何も言わずに行くなんて」

その問いに対しては「あいつも大分浮かれてたからな。 ついつい忘れたんじゃねえの?」と、嘘を重ねた。

その度に俺は苦しくて、むかむかとした気持ちは募るばかりで。

今まで散々嘘を吐いて来たというのに、一向にこれだけは慣れる気がしない。

だが、幸いにも俺の嘘でお袋は安心した様子を見せ、一旦は落ち着きを取り戻した感じだ。

親父にも話は行っているらしく、最後の望みである俺が何も知らなかったら、親父経由で警察沙汰になっていたとか。

……あいつ、帰ったら相当絞られるだろうな。

さて。

俺は俺で、やることが出来てしまった。

あいつが今回の行動を取ったのにはそれなりの理由がある筈。 それは間違い無い。 突然の思いで、こんな真似はする訳がないから。

行く当ては……あるな。 交友関係は広いはずだし。 俺と繋がりがある奴が殆どだ。

と、なると。 まずは誰に連絡を取るべきか。

京介「……ん?」

そこである事に気付き、足を止める。

先程の、あやせとの電話だ。

あいつは何を『言い掛けた』んだ? 桐乃の事を聞いて、それから何を言おうとした?

もしかすると……知っていたんじゃないのか? 桐乃が、こうすることを。

それに遊んでいると言っていた。 それも、つい昨日。

……それが本当だとすると、間違いなく状況を知っているだろう。

なら、まずはあやせに電話を掛けるべき、だよな。

そう思い、携帯をポケットから取り出し、あやせの名前を呼び出し、通話ボタンを押そうとして。

指を止めた。

違う。 そうじゃねえ。

ここで選択肢を間違えたら、俺が知っているエロゲーなら間違いなくバッドルート直行だ。

だから俺は気付けた。 その選択が間違いだということに。

単純に考えるな。 もっと、それぞれの想いを考えるんだ。

あやせは、それを言わなかった。

俺の予想しているあやせが言おうとしたこと。 それをあやせは口にしなかった。

つまり。

あやせは俺と桐乃を比べて、桐乃を選んだ。

あいつは元よりそうなんだ。 俺と桐乃だったら、桐乃を選ぶであろう奴だ。

なら、今電話をしたら桐乃に俺が気付いた事を察知される危険性がある。

ばれたら終わり。 俺に捕まらずに逃げる術なんて、桐乃はいくらでも持っているだろう。

だとすると……どうする。

あれ。

俺はどうして、桐乃から逃げられていると思っているんだ?

そりゃメールや電話の返事が来ないからってのはあると思うが……。

どうしてか、俺は何か大事なことを忘れている気がする。

……いや、今考えることはそれじゃないか。

今は、まず、どうするかだ。

そんなの決まっているだろう。 俺の方に味方をしてくれそうな奴に連絡するしかない。

こんな時まで他人任せの俺だが、そうだって別にいいじゃねえか。

俺は、人に迷惑を掛けて生きているんだからさ。

再度携帯に視線を移し、電話帳を呼び出す。

電話を掛ける相手はもう決まっている。

俺の親友で、桐乃の親友。

黒猫。

いつも通り、数回のコール音が鳴った後、電話は繋がる。

京介「もしもし、黒猫か?」

「…… あなたが電話をしてくることは分かっていたわ」

京介「って言うと……状況は、分かっているのか?」

「ええ。 少なくともあなたよりはね」

「桐乃がどこに居るのかも知っているわ」

京介「本当か!? それ、今すぐ教えてくれ!」

俺がそう言うと、黒猫は少しの間の沈黙の後、返答する。

「厭よ。 今のあなたには教えられない」

京介「どう、してだよ。 そんなこと言っている場合じゃねえだろ!?」

「それはあなたにとって、でしょう。 わたしはあなたより今の状況を知っているわ。 だからこそ、今のあなたは桐乃に会わせられない。 わたしがどれだけ嫌われようと、どれだけ恨まれようと、それは変えられない」

京介「だけど……俺は桐乃に会わなきゃいけない。 心配なんだよ」

「……それが、それが!」

黒猫は、何かを言おうとした。 しかし途中でそれを飲み込み、続けてこう言った。

「……分かったわ。 桐乃には会わせられない、あなたとの話に決着が着くまでは」

「だから、今から会いましょう。 場所は」

黒猫は言い、時間と場所を指定する。

今から数十分後。 黒猫が選んだ場所は、公園だった。

京介「よう」

黒猫「待ちくたびれたわよ。 何分待たせるつもりだったのかしら?」

そこに行くと既に黒猫は待っていて、ブランコに座りゆっくりと俺の方へと顔を向ける。

黒猫の家からすぐ近くにあるこの公園は、人気が殆ど無い。 そんな中、俺と黒猫は二人っきりで向かい合う。

黒猫はいつか見たジャージ姿で、ブランコからゆっくりと立ち上がり、俺の近くまで歩き……そして、立ち止まる。

黒猫「では、話を始めましょうか。 いくつか質問をさせてもらうわね」

京介「何でも聞いてくれ。 答えられる物なら、答える」

俺がそう返すと、黒猫はコクンと頷き、その質問とやらを始める。

黒猫「まず、ひとつ目。 あなたはどうしてわたしに嘘を吐いたの?」

……何を言っているんだ? 黒猫の奴。

俺が、嘘を吐いた?

京介「悪いが、質問の意味が分からない。 俺がいつ、どんな嘘を吐いたんだよ」

黒猫「……まさか。 いえ、それなら次の質問をするわ。 今のは一旦置いといて頂戴」

黒猫「あなたは、何故ここに来たの?」

京介「……そんなの決まってる。 桐乃に会う為だ」

黒猫「そうでしょうね。 それは分かりきっている答えだわ」

黒猫「次の質問ね。 あなたは、これからどうするつもり?」

これから、どうするか。

それもまた、分かりきっている答えだ。

京介「桐乃に会って、家に帰す。 適当な言い訳二人で作って、いつも通りだ」

それが、一番良い。

また、一緒に馬鹿みたいにはしゃいで、たまには二人っきりで遊んで。

それが、あいつにとっても。

黒猫「違う」

その想いを黒猫は一言で否定する。

そして、そのまま続けた。

黒猫「わたしが聞きたいのは、そんな目先のことじゃないわ」

黒猫「今後のことよ。 これから、未来のことについて聞いているの」

黒猫「今はそれで良いかもしれないわね。 だけど、これから先、ずっとそうやって有耶無耶にするつもりかしら?」

有耶無耶に、する?

そんなつもり……俺には。

京介「これから……の、事」

あった、かもしれない。

言われて、やっと気付く。

俺はどこかで、桐乃との関係に妥協していたんじゃないかと。 良い日々だと、安心していたんじゃないかと。

……それは、確実に俺が感じていたことだ。

京介「……否定は、できない」

黒猫「なるほど。 やっと状況が全て分かったわ」

黒猫「最初の質問をもう一度繰り返させてもらうわね。 今度は、あなたにも分かる様に言い方を変えて」

俺は黙って、黒猫の言葉を待つ。

黒猫「桐乃がわたしに弱音を吐いたのは、憶えているかしら?」

京介「……ああ。 確か、春くらいの話だよな」

黒猫「その件についてよ」

待てよ。

なんで今更そんな話が出てくる? それはもうとっくに俺が解決したはずだろ。

黒猫「その件について、どうして『あなたは解決したとわたしに嘘を吐いた』のかしら?」

嘘、だと?

京介「ちょ、ちょっと待てよ。 それについて俺は嘘なんて吐いてねえぞ? あれはしっかりと解決した。 間違い無い」

黒猫「……そうね。 深く聞かなかったわたしの所為でもある訳だし、ごめんなさい」

黒猫は一度頭を下げ、再度俺を見る。

黒猫「今一度聞くわ。 あなたは一体、どんな問題を解決したの?」

京介「それは」

京介「……一番くじ。 メルルの一番くじだ。 あいつはそれでどうしても欲しい物があるっつって、俺に話をしたんだ」

黒猫「莫迦じゃないの?」

俺が説明した解決済みの人生相談を黒猫はそう一蹴する。 まるで、とんだ見当違いの発言を俺がしたように。

黒猫「あなた、本当に何も知らないの? あの女が、莫迦みたいにプライドが高くて、特にわたしには常に上から目線のあの女が、それくらいでわたしに弱音を吐くと、本気で思っているの?」

それは。

それは、俺も思ったことだった。 しかし、それで……その一件で桐乃の悩みは解決したんだと思い込んだ。

自分に、言い聞かせていた。

その件はもう考えないように。 桐乃が『他の何か』で悩んでいるなんて、考えないようにしていた。

それに、もしそうだったとしても腑に落ちない点が俺にはあるんだ。

京介「それは俺も考えた。 だけど、ならどうして俺に相談しなかったんだよ? 自意識過剰かもしれねえけどさ、あいつは最初に俺に相談すると思うから」

黒猫「……ふむ。 その後には何も無かったのかしら? その『人生相談』は」

京介「いくつかはあったが……どれも、お前がさっき言った程のことでは無かったぜ。 一番くじの件と似たような物だ」

黒猫「でしょうね。 ならやはり、あなたに最初に相談するというのは間違い無さそうだわ」

京介「は? どういうことだ?」

黒猫「あなた、どこかでそう思い込んでいたんじゃないかしら」

思い込んでいた……? 一体、俺が、何を? 今話をしているのは人生相談のことで、俺が思い込むことなんてのは、無いはず。

京介「悪いが、全く話の内容とお前の言っていることが分からない。 噛み合っている気も、しねえぞ」

黒猫「分かったわよ。 なら次はストレートに聞こうかしら」

黒猫「桐乃がわたしに弱音を吐く前。 その前にあなたは『人生相談』を受けているのでは?」

その……前?

黒猫から連絡が来て、話したいことがあると言われる前。

記憶を必死に探る。 その前に、桐乃からの『人生相談』は。

---------------------------------あった。

あの日。

俺が、大学から帰ったら桐乃が玄関に立っていて。

俺は桐乃の部屋に連れて行かれて。

されていたんだ。 桐乃からの『人生相談』を。

「京介、人生相談」

「へいへい。 今度は何だよ?」

「その……あたしたちって、今……微妙な感じじゃん?」

「微妙な感じって。 なんかそう言うとむず痒いぞ」

「うっさい! で、そのことについてなんだケド」

「分かった分かった。 んで、どうしたんだよ」

「あたしとあんたがこれからどうするか、考えてよ」

「……って言われてもだな、桐乃」

そして。

俺は未だに、その『人生相談』を終わらせていない。

むしろ、始まってすらいない。

俺は無意識的に考えようとしなかった。 いくら考えても、皆が幸せになれる方法なんて思いつかなかった。

だから、考えるのをやめていた。

桐乃の考えを読もうとしなかった。 解決しようとしなかった。 あいつの言っている言葉を全て、そのまま受け止めていた。

……俺は、桐乃を無視していた。 桐乃の気持ちを考えていなかった。

諦めていたのかもしれない。 これから先のことを考えるのを。 今のままで良いと、今が楽しいと、安らげると。

そう思い、俺は。

俺は今年の春から、今この時まで。

ずっと、桐乃のことを考えていなかったのか。

あいつは何度もヒントをくれていたというのに。

あいつは何度も俺と向き合おうとしてくれていたというのに。

それに、その事実にようやく気付いた。 本当に、今更ながら。

京介「……俺は」

全部。 俺の所為じゃねえか。

……馬鹿だったのは、俺だけだ。

黒猫「ようやく分かった様ね。 情けない」

京介「……そうだな。 お前の言うとおりだよ……本当に、さ」

黒猫「遅すぎるのよ。 今回ばかりはね」

黒猫「だけど」

黒猫は項垂れる俺の目の前まで来て、頬を撫でる様に触り、言う。

黒猫「まだ、でしょう? あなたの場合は」

黒猫「もう引き返すのは無理だわ。 そこは諦めるしかないでしょうね」

黒猫「でも、あなたが選べる選択肢なら、まだあるじゃない」

京介「……黒猫」

黒猫「一応言っておこうかしら。 京介」

黒猫「わたしはまだ、あなたのことが好きよ」

黒猫は優しく笑い掛け、俺にそう言った。

京介「……」

京介「俺は」

黒猫「言わないでいいわよ。 答えは分かり切っているから」

黒猫「それに、今のは告白では無いわ……ケジメ、と言った所かしら?」

京介「……そうか。 迷惑、掛けるよな。 お前には」

黒猫「ふ。 お礼よ、お礼」

京介「……ああ、サンキューな。 色々と」

京介「俺は、とんでもない間違いをしたよ」

京介「決めたのにさ。 桐乃のことを考えるって、決めたはずなのに」

黒猫「それなのに今回、桐乃の想いを無視してしまったと?」

京介「そうだ。 どうしようもねえよ……一緒じゃねえか。 今までと」

黒猫「ふっ。 それがどうしたと言うのよ。 そんなのくだらないわ」

黒猫「根本的な部分なんて、そうは変わらない。 変えようと思っても、変えられない物よ」

黒猫「それが人の欠点であったりするのでしょう? わたしもそうだし、あなたもそう。 沙織だってそうよ」

黒猫「勿論、桐乃もね」

京介「……でも、それだと今回がなんとか収まったとしても、俺はまた同じ事を繰り返すかもしれねえんだぞ。 それくらいなら」

それであいつが傷付いてしまうなら。

それであいつが思い悩んでしまうなら。

京介「このまま、桐乃には会わない方が」

そう言った瞬間、頬に鋭い痛みが走る。

驚いて目の前を見ると、腕を振り抜いた姿の黒猫が居た。

黒猫「莫迦ね。 本当に莫迦すぎて話にならないわ」

京介「……わりいな、俺はそう簡単に変われねえよ」

黒猫「あなただけじゃないとさっきも言ったでしょう。 わたしだって一緒よ」

黒猫「だけど、わたしはそんなのは気にしない。 わたしはわたしのままで、上手くやっていけていると思うから」

黒猫「何故か分かる?」

黒猫は、真っ直ぐと俺の顔を見る。

その視線は俺を射抜くように鋭く、逃がすまいと、見続ける。

黒猫「わたしは困った時、あなたたちに頼るからよ」

黒猫「今年の夏コミの本だってそう。 わたしが書こうと思って書いた物は、どうしようも無くわたしの欠点が出ている物だった」

黒猫「だから、あなたたちに頼った。 より良い物に出来ないかと思って。 わたしは仲間に頼った」

黒猫「そしてそれは、あなたも一緒じゃない」

黒猫「忘れていられたら困るから、一応言って置くわね」

黒猫「わたしは、あなたの親友よ。 勿論沙織も」

黒猫「だから、困った時は言えば良いじゃない。 あなたなんて特にそうなんだから、今わたしに頼らないでいつ頼るというの?」

黒猫「くだらないことばかり頼ってないで、もう少し周りを見て頂戴」

黒猫「人は簡単には変われない。 あなたのその莫迦みたいな鈍感さなんてそりゃあもう根強い物でしょうね。 だけど」

黒猫「それが悪い事だなんて、わたしはひと言も言って無いわ。 そんなの、当然のことじゃない。 完璧な人間なんてこの世に居ないし、居たとしたらその人はきっと孤独な人よ」

黒猫「いつだって、人は支えあっているのだから。 わたしも沙織や桐乃、あなたにも支えられている。 あなたも一緒。 わたしや沙織や桐乃に支えられるべきなの。 それとも、親友だと思っていたのはわたしだけだったのかしら?」

黒猫「……もしそうだったとしても、わたしはいつだって、あなたの味方よ」

黒猫はそこで一度息を整え、最後に言う。

黒猫「これでわたしの話は終わり。 あなたはこれからどうするのかしら」

黒猫は俺から離れ、顔に小さく笑みを浮かべて、尋ねる。

京介「……そうだな」

京介「そんなの、決まってることだった。 馬鹿みてーに頭抱える必要なんて、無かった」

京介「俺は、妹に……桐乃に、会ってくる」

もう、やめよう。

俺は何にも学習しちゃいなかったし、何にも分かっていなかった。

桐乃がどれだけ悩んで、あんな言動や行動をしていたのか、理解しようとしよう。

それで、今度はしっかりと向き合おう。 桐乃と、俺の問題に。

そして困った時は、頼れば良い。

また同じ様になった時は、助けを求めれば良い。

俺の、親友に。

黒猫「ふふふ。 それでこそ、あなたよ」

黒猫「勿論、きちんと先の事も考えてあるのよね?」

京介「……整理は付いたさ。 後はいつも通り、俺は俺が思うようにやるだけだよ」

京介「それじゃあ黒猫」

今度はしっかりと黒猫の姿を見て、顔を見て。

俺の親友の黒猫に向け、言う。

京介「頼む。 桐乃が今居る場所を教えてくれ」

それを聞いた黒猫は笑い、どこかの誰かの真似をする。

黒猫「はぁ。 仕方ないわね。 そう頼まれたのなら仕方ないわ。 やれやれ。 わたしに任せなさい」

黒猫「……ふふ。 似合わないわね。 わたしには」

黒猫「最後に……わたしがここまでしてあげたのだから、きちんと決着を付けてこないと、呪い殺すわよ」

京介「心得た。 任せておけ。 ありがとうな」

立ち止まってはいられない。

最後の最後まですげえ迷惑掛けちまったけど。

俺は黒猫に謝らず、代わりにお礼を言った。

黒猫「さぁ、見せて頂戴。 あなたが選ぶ選択と、その先にある未来を」


第二十二話 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

おつ!
あと3話だっけ?
たのしみだなー

おつです

京介に対する認識の違いから混乱してたけど、やっぱり逆戻り前提だったのね
問題に対する思考放棄は12巻の行動、自分が続けることを望んだ関係ということをを考えればさすがに無責任すぎるなぁ
個人的には、最終手段として駆け落ちも視野にいれてた京介こそ先の問題に対して真剣だと思ってる

ともあれ、ここからの京介の行動に期待

「拙者、シリアスな問題では毎回ハブではござらんか?」

>>375
後三話で本編は完結となります。
23/24/25 ですね。

>>380
その辺りが難しいんですよねぇ。 12巻時点での京介の決意はかなりの物だったと思いますし、そこを曲げるのも、とは思ったんですが、そうなると構成やらなんやらが大変なことに。

京介が以前の状態に戻ってね? の回答は今回の話で一応答えとなっております。

沢山レスして頂いて、物凄く返したかったんですけど返すとネタバレになるというジレンマ。

>>381
バジーナさんは皆の心のオアシスとなっています

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

黒猫は俺との話し合いが終わると同時、どこかに電話を掛けていた。

どうやら桐乃は黒猫の自宅に居たらしく、そのどこかと言うのが自宅らしく、電話で呼び出したのだが。

公園で待つ俺の姿を見た途端、あいつは一目散にきびすを返し、走り去った。

んで、勿論俺がそれを放っておく訳もなく、走って追いかける。

そんな俺を見て、黒猫は最後に「こうなるのも、大体分かっていたことね。 今回はもう協力出来ないわ。 後はあなたが何とかすることよ」と、言った。

俺も、そんなのは分かっていたさ。

今回ばかりはもう誰にも頼れない。 充分すぎる程、助けて貰えたから。 充分すぎる程、迷惑を掛けちまったから。

後は俺の力で、桐乃とぶつかり合うだけだ。

桐乃が家出をした原因は未だに分からない。 それはあいつに聞かなくては、馬鹿な俺では気付けない。

それが人生相談の延長線上にあるのは分かる。 そのくらいは分かる。

だが、直接的な原因は未だに掴めないままなのだ。 勿論、人生相談が関わっているのは確実。

しかし、俺が今まで、この一年近く、桐乃の言葉を一つ一つ考えていれさえすれば答えは出せたはず。

……今、そのツケが回ってきてしまっている。 俺には今、桐乃の考えが分からない。

普段だったら、こんな中途半端な状態で大切な妹と話すなどしたくはねえ。

そう思っていたんだ。 ついさっきまで。 考えを整理して話さねえとって。

しかし、桐乃の顔を見た瞬間に全てが吹っ飛んだ。 俺はあいつと話さなければならない。 たとえその結末がどんな物になろうとも。 今、この時に俺が思っている気持ちをぶつけなければ。

エロゲーでいうと妹ルート直行だぜ、こりゃ。 寄り道している暇なんてねえっつーの。

それに。

俺にはもう決めたことがある。 今まで中途半端だった分、今日中にしっかりと決着を付けてやる。

今回の最大級に難問な『人生相談』だが、それは俺がそう思っているだけで、攻略法なんてのは勿論ねえが、それでも何をすべきかなんてことは当の昔に分かっていたことだ。

ただ、それを避けていただけで。 ただ、それから目を逸らしていただけで。 ただ、逃げていただけ。

そしてもう、それはやめた。 向き合って、前に進んでいかなければならない。

後は、桐乃の気持ちを……想いを聞くだけ。

そう思い、走りながら前に居る桐乃の姿を見据える。

なんとか桐乃の後ろ姿は未だに見えている、が。

少しずつ、少しずつ背中が遠くなっていくのも分かる。

重い荷物を持っている癖に、俺よりはええってどういう事なんだよ、マジでさ。

ほんと、お前はすげーよ。 何回そんな思いを俺にさせれば気が済むんだっつうの。

ここで、桐乃に追いつけなければ全てが終わってしまう。

ここで、桐乃を見失ったら『もう二度とあいつには会えない』だろう。

そんな予感めいた物が、俺の中には渦巻いていた。

そして、俺の気持ちを表しているかの様に、ぽつりぽつりと雨が落ち始める。

……ここで。

ここで、終わらせるのだけは駄目だ。

俺には今、いくつかの選択肢がある。

散々間違えてきた選択肢。 そして、ここまで来て間違える訳にはいかねえ。

1 桐乃を追いかける。
2 追いかけるのを諦める。
3 知り合いに協力を頼む。

へっ。

桐乃を追いかける? そりゃー当たり前だろうが。 けど俺の足じゃあもうあいつには追いつけないんだよ! 仕方ねえじゃん、だってあいつの方が足も速いし体力もあるんだからさぁ!

で、だからといって追いかけるのを諦める? ふざけんな。 それだけは絶対に無い。 ここで諦めるってことは、桐乃を諦めるってことじゃねえか。 嫌だね、俺はシスコンだから、妹を……桐乃を諦めるだなんて死んでもお断りだぜ!

そんで最後、知り合いに頼む……か。 まぁ無難っちゃ無難だよな。 一番理に適っている方法でもある。 それが最良の方法だってのも、分かる。 だけど俺はそれを選ばない。 何でかって? 決まってんだろ、俺が嫌だからだよ。 もう決めたことだ。 今回の件で、俺の友人や桐乃の友人にこれ以上は助けを求めないってよ。

そりゃあ黒猫にはああは言われたが、それはどうしようも無くなった時だけだ。 最低限、俺に出来ることは俺がするべきなんてのは当然で。

だとするとどうするんだって話だよな。

普通のエロゲーやら妹ゲーだったら、この時点でこれより先には進めないだろうよ。 一生、選択肢画面のままさ。

だが、今俺が選ぼうとしているのは現実だ。 エロゲーでも妹ゲーでも、無い選択肢が俺にはある。

俺が高坂京介で、桐乃の兄で、どうしようもないくらいシスコンだからこその選択肢。

俺が。

俺が選ぶのは。

4 桐乃の足を止め、追いつく。


足が重く、これ以上走り続けるのは無理だ。

なら、俺は俺のやり方で、桐乃を止めてみせる。 この距離でも出来る方法なんて、一つだけ。

京介「きいいいいいいいいいいりいいいいいいのおおおおおおおおおお!!」

京介「逃っげてんじゃねえぞぉおおおおおおおおおお!! 俺から逃げて!! 俺に負けて!! お前は悔しくねぇえのかよ!!」

京介「このままだとお前は!!! 一っ生!! クソ兄貴に負けたクソ妹だぞ!! それでいいのかよてめえは!!!」

ありったけの声で叫ぶ。

今までのどんな声よりも、想いを込めて。

自分で自分に言っている様に。 逃げるなと、俺は叫ぶ。

そして、前を走る桐乃にその声は。

-----------------届いた。

俺から離れた距離で走っていた桐乃は足を止め、振り返る。

そして、あいつは。

桐乃「ばっかじゃないの!!!! なんで、なんであんたはいっつもそうなのよ!!!」

この距離でも分かる。 今にも泣き出しそうな顔をしているのが。

妹が悲しい顔をしているのに放っておける兄なんているわけが無い。

俺は足を止めた桐乃に、一歩ずつ近づく。

桐乃「くんなっ! あんたのことなんかもう大っ嫌いだからッ!! こっちにくんな!!」

嘘吐けや。 俺は忘れないつったぞ、お前があの時と同じ気持ちをまだ持っていると言ってくれたこと。

お前だって言ったじゃねえかよ。 それだけは、憶えておいてって。

お前がいくら嫌いだと言っても、いくら俺を拒絶しても、あの台詞は忘れる訳にはいかないだろ。

妹が吐いた見え透いた嘘を見抜けない兄なんているわけがない。

俺は、更に進む。 桐乃に向けて。

桐乃「いっつも、いっつもいっつも!! そうやって! あたしがどれだけゆっても!!」

俺は歩く足は止めない。 そして、前で今も叫んでいる桐乃からはもう、走り出す気配は感じられなかった。

桐乃「なんで……やめてよ……」

そんな小さな呟きも、俺の耳には届く距離だった。

京介「桐乃。 話、しようぜ」

俺は桐乃の肩に手を掛けて、桐乃の顔をみて、言う。

そして。

俺の妹が何も言わずに逃げるわけがない。

桐乃「…………うん」

雨はいつの間にか土砂降りで、桐乃は雨の所為なのか、それとも別の何かなのか……顔を濡らして、頷いた。

幾分か落ち着いた後、桐乃はゆっくりと語り始める。 想いと考えを。

桐乃「あたしは」

場所は変わらず、土砂降りの雨に降られたまま。

桐乃「……あたしは、あんたのことが好き。 ちょー好き。 めちゃくちゃ、好き」

好き好き連呼するんじゃねえって。 恥ずかしいじゃねえか。

桐乃「一生一緒に居たいって思う。 離れたくないって思う。 毎日一緒に居たいって思う」

桐乃「……そのくらい、好き」

思えば、これだけ桐乃が俺に言ってくれたのは初めてなんじゃないだろうか。 直接的に、言ってくれたのは。

でも、だとするとどうして家出なんてしたんだよ。 矛盾してるだろ、それは。

京介「桐乃……」

桐乃「だけど、あたしとあんたは……兄妹だから」

桐乃「駄目だって。 折り合い付けなきゃって。 落としどころを決めなきゃって」

桐乃「……そうしないと、あんたが幸せになれないから。 他の人達もみんな、不幸になっちゃうから。 それは、変えられない」

まっすぐと俺の顔を見て、桐乃は続ける。

桐乃「だから、なるべくあんたとは遊ばない様にした。 距離を置こうとしたの」

桐乃「それが、今年の春くらいのこと。 あたしがチャットで黒いのと少し話してたのは、黒いのから聞いているよね」

京介「……ああ、聞いているよ。 俺は、何にも考えちゃいなかったんだ」

そうか。

桐乃の行動は、人生相談の延長線上なんかじゃなかったんだ。

それは……それこそが『人生相談』その物だったのか。

桐乃「そうじゃないって。 駄目だったのは、あたしなんだからさ」

桐乃「……話、続けるね」

俺が頷くと、再び桐乃は独白とも言える内容を話し出す。

桐乃「それで……そうしようと思ったのに、駄目だった」

桐乃「……京介のこと考えると、苦しくて。 辛くてね。 会いたいって思っちゃうの。 そんで気付けばあんたの所に遊びに行ってて。 でもそれだと……このままじゃ駄目だと何回も何回も思って」

桐乃「だけど、止められなかった。 自分を抑えられなかった」

桐乃「……初めてだったよ。 どんなエロゲーでもプレイするのを我慢できたのにさ、あんたのことは、どうしても無理だったの。 どうしても、我慢できなかった」

エロゲーと比べられるのは微妙なところだが……まあ、嬉しいぜ。 それだけお前に言ってもらえるなんてよ。

桐乃「あたしがこのままだらだらと居たら、京介は絶対不幸になっちゃうから……あたしから、離れようとしたの」

桐乃「もう、家には帰るつもりはない。 このまま、モデルの仕事で海外にでも行くつもり。 何回も誘いは受けているからね。 黒いのとか、あやせには話してあるけど……場所までは教えてない」

桐乃「ゆっとくけど、あんたにも場所は教えない。 そうしないと、あんた来ちゃいそうだし……そうなったら、あたしもまた我慢できなくなっちゃうから」

桐乃「京介のこと、めちゃくちゃ好きだけど……京介と離れるのはめちゃくちゃ嫌だけど……京介に会えなくなるのは辛すぎて、泣くと思うけど!」

桐乃「そんなの全部、結局はあたしの気持ちじゃん。 あたしの所為で、あんたが幸せになれないとか、死んでもイヤ。 絶対にイヤ!!」

桐乃は息を吸い、大きな声で、俺に想いをぶつける。

桐乃「あたしは、あんたのことが何より大切なの!!」

桐乃「友達も、エロゲーも、全部大切だけど……それよりも、それ以上に京介のことが大切なの。 だから、京介が幸せになれないようなことは、もう出来ない。 もう、一緒に居られない」

かつて。

かつて桐乃の趣味が親父にばれてしまったとき。

こいつは、強く俺に「絶対にやめない」と言った。

自分の好きな物を好きでいることだけは、絶対にやめないと。

それが今度は俺に向けられていて。

今の言葉は『その時の言葉よりも強く、心からの声』だった。

桐乃は俺のことを想い、今までの行動を取っていた。

目を逸らさずに、しっかりと見よう。

桐乃は俺のことを好きでいてくれて、どんなエロゲーよりも、友達よりも、大切だと言ってくれて。

そして、俺が幸せになれないからといって、自分の気持ちを押し殺そうとしている。

それだけの気持ちを俺の為に、押し殺そうとしている。

こいつはその気持ちを殺すためだけに、親友も、お袋や親父も、全て一緒に捨てようとしている。

こいつにとってはそれらも掛け替えの無い物のはずなのに。

それが、今の状態だ。

桐乃「……分かったっしょ。 もう、ほっといて」

桐乃は最後に、悲しそうに笑う。

……やっと全て分かった。

俺が気付きそうで気付いていないことにしていたのは、全部繋がっていたんだ。

遊ぶ機会が減ったと思ったのも、急に桐乃が冷たくなったのも。

時々素直になったり、可愛かったり。 何回も俺の部屋に来たり。

看病をしてくれたり、そう思ったら急にキレたり。

黒猫に、弱音を漏らしたのも。

クリスマスの日に、本音を言ってくれたのも。

その理由が全部、俺には分かった。

その全てが、繋がった。

遅すぎだよな、全くさ。

鈍感すぎて、察しが悪すぎて……いいや、ちげえな。

俺はただ、気付けたそれらから目を逸らしていただけだ。

なんつうか、俺が俺を見たら笑っちまうだろうよ。

だけどさ。

手遅れじゃ、ねえんだよ。

そんな風に言ってくれて、マジで嬉しいよ。

お前はいっつもそうだよな。 自己中に見えて、何より人のことを考えて。

自分にすげープレッシャー掛けてさ、それでもお前はそれをいっつも耐えてさ。

それがたまたま今回は無理で……それも、違うな。 俺はそう思わなければいけないんだ。 桐乃の気持ちを見ないといけないんだ。

それが俺のことだったから、無理だったんだ。

……桐乃はあの日、クリスマスの日。

俺に向けて、こう言った。


「決めてたことなんだ。 今日は、しっかり想っていることをそのまま伝えようって。 前から」


そして、桐乃はそれをしっかりと果たした。

別れる直前、桐乃は俺に想いを話してくれた。

そこで俺が気付いていれば、気付こうとしていれば。

こうは、ならなかったのかもしれない。

しかし、今更それは後悔してもどうしようもねえ。

この数年間で分かっていることだ。 選択肢のやり直しなんて、出来やしないって。

だったら。

今から、俺は選んでやろうじゃねえか。

新しい選択を取って、その結果どうなるかは分からないが。

俺は最後まで俺らしく。 いつだって高坂京介だ。

俺は兄として、桐乃に好かれている奴として、一人の男として。

言うことなんてのは、決まっている。

桐乃は全てをぶつけてくれた。 なら、それに返す俺も全てをぶつけてやろう。

京介「俺も馬鹿だけど、お前も基本馬鹿だよな」

桐乃「は、はあ!?」

京介「お前の気持ちは分かった。 言いたいことも、考えていることも、俺のことがめっちゃ好きってのも、自分のことより俺のことを考えてくれているのも分かった」

京介「……ありがとう、桐乃。 お前にそんな風に言われてさ、すっげえ嬉しいわ」

京介「そんで、今まで何にも知らない風にしていて悪かった。 だからお前は、そんな風に思っちまったんだろ?」

桐乃「……今更、それは違うとかゆうの?」

京介「ああ、そうだよ。 文句あっか」

桐乃「……最後だしね。 一応、聞いてあげる」

京介「さんきゅ。 んじゃあ、続けるぜ」

勿論。 最後になんてさせねーけどな。

京介「お前は、俺が幸せになれないって言ったよな。 自分の所為で、自分がこのままだと、俺が幸せになれないって」

京介「俺は今まで、そんなお前がずっと募らせていた想いを無視してた。 お前は何回も、教えてくれようとしていたのにさ」

京介「本当に、すまん!!」

京介「だけどよ。 だけどな桐乃!!」

京介「お前の価値観を俺に押し付けるんじゃねえ!!」

京介「俺もお前に負けないくらい、お前のことが好きなんだよ!! お前が何を思って俺が不幸になるとか知ったことか!! 俺はなぁ! 桐乃!」







「お前が居なきゃ、幸せになんてなれねえんだよ!!!」





心の奥底から、目の前に居る桐乃に向かって叫ぶ。

激しく打たれる雨の音なんかに負けない様に。

遠く、離れてしまっている桐乃の心に届く様に。

俺は、叫んだ。 叫び続ける。

京介「桐乃が居ない未来なんて想像出来る訳ねえだろうが! 俺が不幸になる!? 周りの奴らが不幸になる!? それがなんだよ!! 俺にはお前が必要だ! だから、だから桐乃!」

京介「俺の隣にずっっっっっっっと居てくれ!!!!」

京介「桐乃が居なきゃ、俺の人生くっそつまらねえんだよ!! これから先、ずっと辛いんだよ!! だから、遠くへ行くとか言ってんじゃねえよ!!!」

京介「お前は自分の所為で俺が幸せになれねーって言ったけどなぁ!! その通りだぞ!! お前がどっか行っちまったら、もう会えなくなったら、間違いなくお前の所為で俺は幸せになれねーんだからさ!!」

京介「そんなに俺が大事なら! 大切だと思ってくれてんなら! 俺の為にどこにも行くんじゃねえよ!!」

桐乃は目を見開き、その目には涙を沢山溜め、そして、絞り出すように言う。

桐乃「……ばかじゃん」

いつもの様に、桐乃は言った。

桐乃「ばか、じゃん、ばかじゃん……なんで、どうしてよ……!」

桐乃「いっつも! いっつもあんたはあたしのことを考えて、自分が泥被って。 あたしは酷いことばっかして。 なのに……なのにあんたは」

桐乃「……こんなの、兄妹で恋愛なんて。 ただ気持ち悪くて、ただ馬鹿で、ただただおかしいのに」

桐乃「今まで、ずっと何にも知らない顔してたのに、今更なんて……」

桐乃「……で、も」

嗚咽を漏らしつつ、とめどなく溢れている涙を拭くこともせず、桐乃は必死に言葉を紡ぐ。

俺は、黙ってそれを聞いていた。

桐乃「でも! それで! それで……そんな風に言われたら、あたしはどうすればいいのよ!! わかんない……わかんないよ、京介ぇ……!」

桐乃は言いながら、俺の胸へと体を預ける。

そんな桐乃の頭を撫で、優しく抱きしめて、いつもの様に俺は言う。

京介「わりいな。 少し、時間が掛かりすぎちまったけどさ。 お前が言った『人生相談』まだ終わっちゃいねえもんな」

京介「付いて来てくれるか? 桐乃。 今から少し、行く所が出来た」

桐乃は俺の問いに、こいつもどこに行くのか分かっているのか、小さく頷く。

京介「今日中に、終わらせようぜ。 だから、後は俺に任せとけ」

雨は、既に止んでいた。


第二十三話 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

俺と桐乃はその後、一旦アパートへ戻り、身支度を整える。

時刻は夜の10時。 ある場所へ向かう道中では、殆ど人気が無かった。

京介「寒くねえか?」

桐乃「……寒いに決まってんでしょ。 冬だし」

隣を歩く桐乃にそう聞いたところ、こんな感じで素っ気無い返事が返ってくる。

はは、まあそりゃそうだ。 寒すぎるよなやっぱり。

雨上がりってこともあるのかもしれないが、気温はかなり低い。

吐く息は白く、真っ暗な空に消えていく。

京介「……はぁ」

桐乃「あんたさっきから溜息ばっかじゃん。 そんなんで大丈夫なの?」

京介「どう考えても大丈夫じゃねえよ。 今すぐにでも逃げ出したいっつーの」

桐乃「ふん。 ここまできたんだから、しっかりしてよ」

桐乃「どーするつもりか知らないケド。 いちお、あたしの所為ってのもあるし? ……最後まで一緒に居るから」

京介「はは、超心強いぜ、それ」

桐乃「あっそ。 でもあたしに助けは求めないでよ? 怖いし」

京介「心配すんな。 始まったら始まったで、もう後には引けねーしさ。 そこまでいったらもう勢いだろ」

桐乃「ひひ。 京介らしいね」

京介「そうかよ」

手を繋いで、ゆっくりと歩く。

俺と桐乃が向かっているのは、親父とお袋のところだ。

家に行くことは既に連絡してある。 そして、話があるということも。

全く、どうしてこうも人生にはすっげえ嫌なことがあるんだろうな。

だが、やらなければいけないことだ。

今日で、終わらせる為にも。

桐乃「そーゆえばさ」

京介「ん?」

桐乃「昔……あたしの趣味がお父さんにばれちゃったとき、あったじゃん?」

京介「……お前なぁ、今からそれと似たようなことすんのに、嫌なこと思い出させるなよ」

やべぇ。 あの時の恐怖が再来すんのか……更に行きたく無くなったぞ。

桐乃「あはは。 だから、別に嫌がらせとかじゃないっての」

京介「ならなんだよ?」

桐乃「京介がお父さんと話してた時、聞いてたんだよね。 あたし」

京介「聞いてた……って、内容をだよな?」

桐乃「……うん」

桐乃「あの時さ……なんて言えば良いのかな。 とにかく、嬉しくてさ」

桐乃「なんであたしの為に、そこまでするんだろうって思った」

桐乃「今なら分かるよ、なんでか」

京介「……へえ、何でだと思う?」

桐乃「ひひ。 あんた、あの時からあたしに惚れてたっしょ?」

京介「おまっ! んなわけねーだろ!! アホか!!」

お前! めっちゃ良い雰囲気だったのに台無しじゃねえかよ!

京介「あれはなぁ……自分でもよくわからねーけど、お前の努力とか、楽しみとか、そういった物を守りたかったんだよ」

京介「……俺が手伝った結果でもあるしな! それが一番の理由ってことで!」

桐乃「そっかそっか。 ひひ」

京介「なーに笑ってんだよ。 性格わりいな……」

桐乃「まあ、でも? あれがあったから更にあたしは惚れちゃったんだけどねー」

なんて、桐乃は意地悪く笑いながら言う。

京介「うっ……そうかよ」

桐乃「うは、顔赤いケドぉ?」

京介「うっせー! お前が変なことを言うからじゃねえか!」

桐乃「だって事実だもん。 仕方ないっしょ?」

京介「チッ……調子狂うぜ、本当に」

桐乃「なら、もうひとつゆってあげよーかな」

京介「聞きたくねえけど……」

桐乃「聞いてよ。 お願い」

上目遣いで俺のことを見ながら、桐乃は可愛らしく言う。

女ってずるいよね、こうすりゃ大抵の男は言う事聞かされるだろ。

京介「……な、なんだ」

俺も例に漏れず、聞かされる男なんだが。

桐乃「……だからさ」

桐乃「また、あの時みたいに惚れさせて」

女がずるいんじゃねえな、これは。

桐乃がずるいんだ。 マジで。

そんで俺がそんなこと言われて、やってやろうって思うのなんて、当然の結果だった。

京介「なんか、久しぶり」

佳乃「そうね。 おかえり、京介」

大介「こんな夜遅くになんの用だ? 事前に聞いてはいるが、明日でも問題無い内容では無いのか」

こうして、俺は久しぶりの再会をする。

正真正銘。 ラスボスと。

いつもの位置に座り、俺と桐乃は対峙していた。

京介「今日じゃないと駄目なんだ。 こんな時間になったのは、悪い」

京介「そんで……」

俺は言い、隣に座る桐乃に視線を向ける。

桐乃「お父さん、お母さん。 まずは、ごめんなさい」

そう言い、桐乃は頭を下げた。 その辺りのことはきちんと謝りたいと桐乃からの要望があったから。

佳乃「……良いわよ。 別に」

佳乃「それより、京介の話の方が私は気になるわね」

お袋は桐乃を座らせると、俺の方に鋭い視線を向ける。

桐乃の家出をひと言で済ませる、か。

……やっぱりだよなぁ、これは。

お袋も親父も、多分分かっているのだ。

分かっていて、今まで直接的にこういう話し合いの場を作らせなかった。

俺を家から出すという対処法を取って、改善を図っていた。

勿論、あくまでも俺の予想なので、事実は違うかもしれんが。

京介「お袋、親父」

京介「俺は……」

言うんだ。 言わなければ、何も変わらない。

京介「俺は、桐乃のことが好きだ」

はっきりと言葉にして、お袋と親父に向けて言う。

そんな俺の言葉を受け、お袋は目頭をつまみ、目をきつく瞑った。

佳乃「……一応、聞いておくわ」

佳乃「京介、それは家族として? 兄妹として?」

それは多分、最後の助け舟でもあった。

ここで俺がそうだと言えば、何事も無く終わらせてやるという、最後の助け舟。

……だが、残念ながら俺はそれには乗れない。

京介「それも勿論ある。 だけど、一人の異性として、好きだ」

佳乃「……そう。 やっぱり、ね」

京介「知っていたのか。 俺と桐乃のこと」

佳乃「最初は、そうなんじゃないかって疑っていたくらいよ。 確信したのは、京介のアパートに行った時ね」

佳乃「最初に行った時、あの日……桐乃が居たでしょう? 嘘は吐かないでね」

お袋は真っ直ぐと俺を見て、尋ねてくる。 嘘を吐く隙なんてのは皆無。 そんな鋭い眼差しだった。

京介「……ああ、居たよ。 お袋にばれないように、隠れてた」

京介「でも、どうして分かった? ばれる様なことは……」

佳乃「あなた、本当に気付いていないと思っていたの? 玄関に置いてあった靴、気付かない訳が無いでしょ?」

……ばれてた、か。

あの時、お袋は無理にでも中を調べて、桐乃を見つけることは出来たはずなのに。

それをしなかった。

……理由は恐らく、俺と桐乃を信じようとしたから。

そして、俺たちはそれを裏切っている。 お袋の気持ちを全て。

京介「……」

俺が押し黙っていると、お袋は心底辛そうな顔をした後に親父の方に顔を向ける。

佳乃「お父さん。 後は任せてもいいかしら」

自分ではもうどうにも出来ないとの判断からか、お袋は親父に助けを求める。

大介「……うむ」

親父は組んでいた腕を解き、立ち上がった。

大介「京介、ちょっと立て」

怒りが滲み出ていることは、容易に見て取れる。 内心もう本当にびびりまくってやばいが……やるっきゃねえ!

京介「ああ」

言い、俺は椅子から立ち上がると親父の前まで歩く。

大介「貴様、自分が何を言っているのか分かっているな」

京介「分かっている。 自分の言葉には責任を持て。 だろ」

大介「……そうだ。 なら、覚悟も出来ているな」

殴られる覚悟は未だにできてねえけど……だって仕方ねえじゃん。 痛いのは嫌に決まっているし、親父はマジで怖いんだからさ。

だがここで「いや、全然」とか言ったらそれこそ殺さねかねん。 出来てないなら、今、覚悟を決めるだけだ。

京介「おう! とっくのとうにな!」

俺は自分に言い聞かせるように、言う。

大介「この……大馬鹿者がッッ!!」

親父は家中に響き渡る声で怒鳴り、俺の顔を本気で殴る。

当然、まるでゲームのように俺は吹っ飛んでいった。

こりゃ、強攻撃どころじゃねえ。 必殺技じゃねえか。

大介「貴様ッ! 自分がどれだけふざけたことを抜かしているのか分かっているのか!!」

親父はそのまま倒れている俺の胸倉を掴み、立ち上がらせる。

京介「……分かっているさ。 ふざけたことってのも、馬鹿なことってのも」

京介「だけど! 俺は桐乃を好きになっちまったんだよ!! それはもうどうしようもねえんだ!」

大介「……考えを改める気は、無いと言う事か」

京介「無い。 誰になんて言われても、親父に殺されることがあったとしても、俺は桐乃を好きでいることはやめない。 絶対にそれだけは、やめねえよ」

かつて、桐乃が俺に言ったように、俺は言う。

京介「死んでも、嫌だね」

親父は耐え切れなくなったのか、もう一度俺の顔を殴り飛ばし、再度倒れた俺の上に馬乗りになりながら、言う。

大介「京介、これで最後だ」

大介「今すぐ俺と母さんと桐乃に土下座をするか、今すぐこの家から出て行くか、選べ」

……本当に、俺はどれだけ愛されているのだろうか。

お袋も、この親父でさえも、最後は俺に助け舟を出してくれる。

今ならまだ引き返せると、必死に止めてくれている。

これが、愛情以外の何だと言うのだ。

……だが、俺は言わなければならない。

泣きそうになっているのを抑えて、堪えて。

お袋と親父に、言わなければならない。

それが、俺の決めたことだ。

-------------------俺は周りの不幸を取り、自分の幸せを取る。

これだけは、揺るがない。 それが、俺の『最悪の選択肢』だ。

京介「……今まで、お世話になりました」

俺がそう言うと、親父は本当に一瞬だけ悲しそうな顔をし、俺の胸倉を掴んでいた手を離す。

これで、終わりだ。

桐乃にもこの事は伝えていない。 ここまで踏み切った行動をするとも言っていない。

あいつは多分、俺と桐乃が恋愛していたことは言って、なんとか全員が納得できる展開を望んでいたはずだ。

それくらい桐乃にとっても、二人は掛け替えの無い物だろうから。

そんで桐乃は親父にも怒られ、お袋にも泣かれ、それである種の区切りを付けるのだと、思っていたはずだ。

……そう考えると、案外俺も不幸なのかね。 全員が不幸になる選択ってとこか。 間違いねえや。

にしても自分でも意外だったぜ。 どうしようかと思ったとき、俺はどうしても桐乃のことが諦められなかったから。

これが桐乃の大好きなゲームなら、お袋も親父も納得して、以降は幸せに暮らしましたとさ。 みたいになるんだろうけど。

生憎、現実はそうもいかねえ。

お袋を泣かせて、幻滅させて。

親父を怒らせ、悲しまれ。

それでも俺は、この選択を取る。

桐乃に対する俺の感情には、嘘を吐きたくない。

散々、親父にもお袋にも嘘を吐いた俺だけど、それだけはどうしても偽ることができねえんだよ。 しょうがないだろ。

これが、この馬鹿げた物語の決着だ。

……さて、そういう訳で、終わりにしよう。

長々としたくだらない話をしてしまったが、俺の物語はこれにて終わり。

こんなつまらない結末だからこそ、リアリティーがあるってもんだろ?






そう、思ったときだった。

桐乃「あたしも京介のことが好き」

桐乃の声が、聞こえた。

佳乃「桐乃?」

大介「……桐乃」

桐乃「お父さん、お母さん。 本当にごめん」

桐乃「でも、それでもあたしは京介のことが好き。 京介と一緒で、好きでいることはやめない。 絶対に」

桐乃「だから、京介が家から出て行くなら、あたしも出て行く」

桐乃「今まで、ありがとう。 ごめんなさい」

それから少し経って。

桐乃は荷物をまとめる為、一度部屋に戻っていった。

俺の荷物は大方向こうのアパートに置いてあるので、そのままでも問題は無いだろう。

お袋は泣いていて、親父は先ほどから腕を組み、何やら思考している様子である。

……完全に、出て行くタイミングを逃してしまった。

今からのそのそと移動するのも、なんか違うよな……。

かと言って、ここに桐乃が来るまで残っているというのも辛い。

つうか、あいつは何を言ってんだよ。 マジで今年一番驚いたぜ。

俺が『最悪の選択』を選んだと思ったら、桐乃も桐乃で『最悪の選択』を選んだと言う訳だ。

はは……そうだよな。

あいつは言っていたもんな、さっき。

俺のことが何より大切だと、言ってくれたもんな。

単純なことだ。

……こんなことになって、巻き込んじまったよなぁ。

だけど……それでも今、俺は嬉しかった。

お袋にも親父にも嫌な思いをさせているっつうのに、嬉しかった。

桐乃が一緒に来てくれると言ってくれて、泣きそうなくらいに。

そんな風に考えていたとき、親父から声が掛かった。

大介「京介」

京介「……はい」

大介「一応、最後の情けだ。 貴様が大学を卒業するまで、桐乃が高校を卒業するまでの費用は出してやる。 それ以降は関わらん」

大介「貴様のことは、息子だとは思わん。 家族だとも思わん」

俺は、黙ってその言葉を聞く。

大介「最後に、ひとつだけ約束しろ。 もしも破ったら、俺は貴様を殺しにいく」

大介「……桐乃を泣かせるな」

それは、その言葉は。

親父から息子に向けての、最後の言葉だった。

京介「分かった。 必ず、幸せにする。 泣かせない。 守ってやる」

京介「……今まで、本当にありがとうございました」

気づけば、涙が零れ落ちていて。 それはどうやら、止まらなく、溢れ続ける。

この世に、俺以上に親不孝者は居るのだろうか。 まあ世の中は広いしいるっちゃいるんだろうが……それでもトップクラスの親不孝者だぜ、やれやれ。 全く、百人が聞いたら百人が馬鹿なことをしている。 ということを俺はしている訳だ。

だけど、それでも……俺は後悔をしちゃいない。

もう、迷わずに歩くと決めたから。

俺は再度、親父とお袋に頭を下げ、家を出て行った。

外で待つ事数十分、やがて、桐乃が姿を見せる。

桐乃「……ごめん、待った?」

京介「今日はお前に驚かされたばかりだぞ。 そんな台詞が聞けるなんてな……俺がお前を待たせた時間を考えれば、待った内なんかにはいらねーって」

桐乃「ひひ。 そっか。 んじゃ、いこ」

桐乃は少し大きめのキャリーバッグを引きながら、俺の隣を歩く。

京介「おう。 行くか」

そうして俺も、歩き出す。

アパートまでの道のり、桐乃が顔を伏せたまま、呟くように喋る。

桐乃「……お母さん、泣いてた」

京介「……だろうな」

桐乃「……あたしたちには見せなかったけど、お父さんも泣いていたと思う」

京介「そりゃ、そうだろ。 大切な息子と娘が、恋愛しちまってるんだもん」

桐乃「……だよね。 馬鹿なことしてるよ、あたしたち」

京介「……ああ、そうだな」

京介「だけど、俺は後悔しちゃいねえぞ。 悪いとか、申し訳ないとかは思うけど」

桐乃「あたしもだよ。 京介があそこまでするなんて思ってなかったケドね?」

京介「……俺はお前が一緒に来るなんて言いだすとは思っていなかったぜ」

桐乃「ふん。 そんなのちょっと考えれば分かることじゃん」

京介「考えるって、何を?」

桐乃「チッ……」

俺がわざとそう聞くと、桐乃は舌打ちをしながら、顔をふいっと逸らす。

ちなみにこの時、桐乃の顔は赤かったのだが、それは寒さの所為だろう。

だから、俺は言う。

京介「お前、顔真っ赤じゃねえか。 寒いのか?」

桐乃「……そ、そう! めちゃくちゃ寒いし? その所為……たぶん」

な? 寒さの所為だったろう?

京介「そうかよ。 んじゃ、そういうことにしとくわ」

桐乃「……なーんか、ムカつく」

京介「なんかって何だよ。 俺はただ、お前の顔がすっげえ赤いのは寒さの所為だなぁ……って言ってるだけだぞ?」

桐乃「それがムカつく! あんたわざとでしょ!?」

京介「へへ、わざとって何のことだか」

桐乃「……チッ」

桐乃は可愛らしく舌打ちをすると、急に歩く足を止め。

京介「おい、どうしたんだよ。 そんな怒ることか?」

桐乃「京介、人生相談!」

いつもの笑顔を俺に向けながら、それは始まった。

……おいおい。 ついさっきすんげー難しい人生相談終わった後じゃねえか。 だってのに今からかよ!

京介「へいへい。 分かったよ。 なんだ?」

桐乃「今からちょっと行くところができたから、付いてきて」

京介「今から? 俺はもう疲れ果てているんだけど!」

桐乃「うっさい。 そんなの知らない。 京介だって、そうゆってあたしを連れて行ったじゃん? だから別にいいっしょ!」

京介「わーったわーった。 行きゃ良いんだろ? んで、どこ行くの」

桐乃「あそこ」

桐乃は言うと、すぐ近くにある川沿いの土手を指差す。

……まさか「あんた、今からあそこで泳いでみて」とか言うんじゃねえだろうな!? なんてことだ、これはまさかのバッドエンド……!

俺のそんな心配を他所に、桐乃は喋り続ける。

桐乃「少し、話してこ」

京介「よっと」

桐乃「つーかれーたーなー」

俺と桐乃は、川のすぐ近くの土手に座り込む。 並んで、一緒に、寄り添って。

桐乃「うわ。 星ちょー綺麗」

言われ、俺も視線を空に移す。

そこには、クリスマスの日に見た夜景よりも輝いて見える星空があった。

数時間前までの大雨が嘘のように、空は綺麗に見渡せる。

京介「ほんとだ。 すっげえな」

桐乃「今回はゆわないんだ?」

京介「あ? 何を?」

桐乃「「お前の方がよっぽど綺麗だぜ」って」

京介「ぶっ! 言わねえよ! あれは忘れろ!!」

桐乃「ムリ。 後になってから思ったケドさ。 あれ若干キモイよね」

京介「や、やめろ……割とマジで恥ずかしいから、やめろ」

京介「てか、お前だってめっちゃ嬉しそうな顔してたじゃん! 人のこと言えんのかよ!?」

桐乃「あたしは良いの。 あんたはダーメ」

……変わらないよなぁ。 こいつ。

京介「……はぁ。 俺はこの先心配で仕方ねえよ」

桐乃「なんとかなるっしょ。 あたしに任せなさい!」

京介「どこからその自信が出てくるのか気になるけど……頼りにしてるぜ。 桐乃さん」

桐乃「ひひ。 まずはグッズの整理からしないと」

ああ、そうだ。 俺の部屋、こいつのグッズまみれになるんじゃねえの……? 最大の心配だぜ、それ。

まあそれは追々考えるとしよう……今考え始めたら、気が重くてやってられんからな!

しっかしこいつ、さっきからニタニタずっと笑ってやがるな。 何を考えているんだか。

京介「……なあ、桐乃」

そう思い、俺は聞いてみることにした。

京介「今、幸せか?」

桐乃「……どうだろ。 お母さんとお父さんのこともあるし、ちょっと気持ちぐちゃぐちゃしちゃってるケド」

桐乃「幸せ、かな」

桐乃は俺に笑顔を向けて、言う。

桐乃「あんたはどうなの? 幸せ?」

桐乃からの問い。

俺はそれに、こう答える。

京介「へへ、お前と一緒だよ」

いつか桐乃が俺に言った様に、同じ様に俺は返した。

それを聞いた桐乃は、ただでさえ緩んでいる顔を更に緩め、言う。

桐乃「そか。 良かった」

桐乃「……本当はさ、怖くて怖くて仕方なかった。 京介が来てくれるまで」

桐乃「泣きそうになって。 我慢して。 それでも頑張らないといけないんだーって思って」

桐乃「なのに、京介がそんなの全部ぶっ飛ばしてくれて。 嬉しかった」

桐乃「……よし。 もう一回、言おうかな」

京介「ん?」

桐乃は俺の方に体を向け、自身の胸に手を当て、口を開く。

桐乃「あたしは、京介のことが好き。 だから、あたしと付き合ってください」

それは桐乃から俺に向けての、正真正銘、心からの告白。

俺の答えなんて物は、それこそ決まりきっている答え。

京介「俺も、桐乃のことが好きだ」

京介「桐乃。 付き合うか」

俺が返事をすると、桐乃は笑い。

桐乃「うんっ」

夜空にも負けない程の笑顔で、言った。

それから数分後。 俺たちは未だに座って空を眺めている。

いや、彼氏彼女になったのは良いが……何を話せば良いのやら、妙に意識しちまうぜ。

そんな時、桐乃から声が掛かる。 いっつもこの状態を打破してくれるのは、桐乃からなんだよな。 昔も、今も。

桐乃「あんた、それちょー痛そうだよね」

桐乃は俺の頬を指差しながら、そう言う。

……付き合い始めて最初の会話が「親父に殴られたこと」かよ! なんだそれ!

京介「めっちゃ痛い。 ぶっちゃけ泣きそう」

だって親父手加減しねえんだもん。 そりゃそうだろうけどさ。 骨折れるんじゃないかって思ったぜ。 つうか泣くのを我慢できた俺は偉いと思う。

桐乃「すごい音してたし。 死んだんじゃないかって思った」

京介「へっ。 お前より先に死ねるかっつうんだ。 まだまだあるだろうしな、人生相談」

桐乃「あたしだって、あんたより先に死ぬ気はないケドね」

顔を見合わせて、笑う。 今更のことだが、俺は桐乃と居る時が一番笑っている気がするよな。 多分、それは気のせいでも何でも無いだろう。

こいつと居る時が、一番楽しいし。

桐乃「てゆうか、あたしも殴られるんじゃないかなーってびびってた」

京介「それはねえよ。 絶対に」

桐乃「なんでそこまで断言できんの?」

京介「もしそうなりそうだったら、俺が親父を殴ってた」

桐乃「……あたしたちが悪いのに?」

京介「おう」

桐乃「……ふ、ふうん」

京介「決めたんだよ。 今日、お前と話してさ」

京介「絶対にもう桐乃のことを泣かせないって。 幸せにしてやるって、決めた」

それは改めて親父に言われるまでも無いこと。 俺が決めて、俺が守るべき物。

京介「だから、いくらお前が間違えていても、悪かったとしても、俺だけはお前の隣に居るよ。 一緒に悩んで、一緒に考えようぜ」

桐乃「……ばかじゃん。 シスコン」

京介「へへ、どうも。 んで、お前はどうなの?」

桐乃「聞かなくたって分かってるっしょ。 わざわざ聞くこと? それ」

京介「生憎、俺は察しが悪い奴だからなぁ。 直接言われないとわかんねーんだよ」

桐乃「……分かった。 ゆえば良いんでしょ」

桐乃「あたしも一緒。 京介がいくら悪くても、いくら間違えていたとしても、あたしだけは隣に居る。 絶対に、何があっても」

桐乃「だから、これからもよろしくね。 京介」

京介「おう。 よろしくな、桐乃」

その時、一際強い風が吹く。

京介「……さっみい」

桐乃「そう? あたしは暖かいケド」

京介「……俺も一応そうだが、寒いもんは寒い! それはそうだとしても!」

桐乃「はぁ~~~。 折角良い雰囲気だってのに。 ったく」

桐乃「でも京介がそうゆうなら仕方ないし、かえろっか?」

京介「ああ、そうしよう。 帰ってコタツの中にでも入って、話の続きでもしようぜ」

桐乃「うん。 おっけ!」

こうして、俺と桐乃は並んで歩く。

俺たちが俺たちだったからこその、結末。

ゲームみたいに綺麗にハッピーエンドとは行かないけど、泥臭くて、全部が全部解決したって訳でもねえけど。

それでも、俺にとって……俺と桐乃にとっては、今が幸せだった。

すんげえ遠回りで、道を間違えて、ようやく辿り着いた場所。

それは人に決して誇れる物では無いし、自慢できる物でも無い。

本当に徹頭徹尾、馬鹿げた話ではあったが。

それでも俺は、桐乃と別れ、再び結ばれたこの一年間は忘れることが無いだろう。

どうだろうか?

この物語の決着、終着点。

俺は悪くねえって思うし、満足しているぜ。


第二十四話 終

あたしは。

あたしは、色々な人に迷惑を掛けてしまった。

お母さんに、お父さん。

黒猫に、沙織に。

あやせや加奈子……一応、入れておいてあげよっかな。 麻奈実さんにも。

そんで、京介にも。

今、隣で一緒に居られるのは、京介のおかげだと思う。

あの時、京介が来てくれなかったら、あたしたちはすれ違ったまま、二度とこうすることは出来なかった。

土砂降りの中、京介と話して、今までの気持ちを全てぶつけた。

そして、京介は今回もあたしを助けてくれた。

いつもの様に、俺に任せろって言って、助けてくれた。

あたしは相変わらず素直じゃないし、京介はどうしようも無く鈍い。

今はなんかムカツクくらいに鋭いから、嫌になっちゃうけどね? でも基本こいつはどうしようも無く鈍い。 それはやっぱり変わらない。

そんなんだから面と向かって大好きオーラなんてのは出せないけど。 今でもかなり、はずいし。

でもいつか、そう言える日も来るんじゃないかと思う。

顔を見て、抱きしめて、抱きしめられて……「京介、ありがとう、大好きだよ。 本当に、世界で一番好きだよ」って。 言える日が。

よし。

次の人生相談は、どうやらそれになりそうかな。

あたしはあたしで、作戦を立てないと。

そして。

この話はもう少しだけ続く。

時は流れて、三年とちょっと経ったとき。

あたしが大学一年から二年へ移る日。

京介が大学を卒業する日。

そんなある日、あたしはあいつに声を掛けた。


第二十五話へ続く

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

乙まだ続くのは嬉しい
そうゆうってのが目についたな
原作でも「ゆ」だったけ

>>516
「ゆってんじゃん」とか「そーゆうこと」みたいな感じで使われていた筈なんですが「そうゆう」って方はちょっと記憶が曖昧……

今更だが、クリスマスデートの夜景シーンって山下公園とその近くの観覧車?
横浜で夜景ときたらあそこだと思うんだけど

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>532
おお、そうですそうです。
山下公園とコスモロック21です

円盤の楽しみは追加シーンと映像の綺麗さ! 後特典のドラマCD、小説。
1巻は追加シーンっぽいの無かったですが・・


それでは投下いたします。

「京介! 人生相談!」

大学の卒業式を終え、いつものアパートに入るや開口一番、桐乃は俺にそう言った。

京介「おおう。 早速だな……よっし任せろ!」

桐乃「ひひ。 ってゆっても、車を出して欲しいってだけなんだケドね」

おおう。 いつもの事だな……はあ、任せろ。

京介「まあ別に良いけどよ。 今からか?」

桐乃「……うーん。 お昼食べてからでも大丈夫かな?」

京介「オッケー。 んじゃあ桐乃さんの超美味い飯を頂くとするか」

桐乃「嬉しいことゆってくれるじゃん。 今日のお昼はそうめんだけどね?」

京介「……お前、最近そればっかじゃね?」

桐乃「いーじゃん別に。 あたしが作るそうめん美味しいっしょ?」

ううむ。 確か数年前に同じ様なやり取りをした気がするな……確か、逆パターンで。

その時はかなりの文句を言われた気がするのだが、気のせいだろうか。

京介「まあな。 お前の作る物なら何でも美味いぜ。 マイハニー」

桐乃「うわ、キモッ……さすがにそれはキモイって」

京介「……へいへい」

面と向かってキモイキモイ言われるのは、未だに慣れないぞ。 ショック受けてるんだぜ、それ。

自分の肩を腕で掴み、ぶるぶるとわざとらしく震える桐乃の頭をぽんぽんと叩き、俺は部屋の中へと入る。

桐乃「あー。 ご飯食べたらそのまますぐ行くから、着替える暇無いかんね」

京介「……マジか。 俺は一刻も早くこのスーツから解放されたい」

桐乃「あんた私服ださいじゃん。 あたしと一緒に歩くんだから、それくらい我慢してよ」

京介「お前……それ俺じゃなかったらマジで泣いて部屋に閉じ篭る台詞だからな……」

桐乃「なら問題ナシ! 他の奴に同じ台詞なんてゆう気無いし?」

京介「そりゃそうだ。 それでこそ俺の彼女だぜ!」

桐乃「……だからそうゆーのゆってて、恥ずかしくないの?」

京介「大分恥ずかしいな」

桐乃「ならやめれば良いのに。 ばかじゃん?」

京介「ほ、ほう……だってお前が言う度にニヤニヤ嬉しそうな顔するからじゃねえか! そんな顔されたらまた言いたくなるに決まってんだろ!?」

桐乃「そ、それをゆうな! そんなのふつー、心の中でだけ思ってればいーの! わざわざゆうことじゃ無いかんね!?」

京介「はっはっは。 熱でもあるのか? 顔真っ赤だぞー」

桐乃「……ばーか」

桐乃は最後にそう言い、台所へと入っていく。

いやあ、いじり甲斐がある奴だな……全く。

まぁ、俺も嘘を言っている訳じゃねえからな。 その辺りは勘違いしないで欲しいところだ。

京介「あー、そういやさ」

未だに出したままのコタツに入り、台所に居る桐乃へと声を掛ける。

桐乃「んー? なに?」

京介「今日、どこ行くの? また服でも買いに行くのか?」

桐乃「あ~。 ちょっと違うかな? ま、京介はあたしの言われた通りに車で向かえばいいから。 安心して良いよ」

一体どの辺りに安心要素があるのか小一時間ほど話し合いたいが……。 ううむ、だとするとどこに行くのだろうか。

京介「ひょっとして、アキバか?」

桐乃「ひひ。 はっずれー。 京介にはわっかんないかもね」

……ふむ。 そう言われると当ててやりたくなる、が。

服でも桐乃の趣味であるオタ系でも無いとすると……マジで何だろうか。

まぁ、着けば分かるしそこまで気にしなくても良いのかな。

うううう。 とは言ってもやはり気になる……行く場所が分からないって、すげえ不安だし、落ち着かない。

よし、あの手を使おう。 あの手を。

京介「桐乃、愛してるぜ」

桐乃「ぶっ!」

桐乃「ちょ、ちょっと待ったぁ! いきなりゆうなっていっつもゆってんじゃん!?」

京介「んだよ。 良いじゃん別に。 だから教えてくれよ~」

桐乃「う、うううう……! だ、ダメ!! それでもダメ!」

お、おお!? マジかよ!? これでも駄目なのか!?

いつもならこの手で桐乃はコロッと言う事を聞いてくれるんだが……くそ、そこまでして秘密ということか。

なら、俺もそれは諦めるしか無いだろう。 桐乃がそこまで頑なに口を割らないってことは、本当に言いたく無いことなのだろうから。

京介「ちっくしょー。 分かった分かった。 んじゃあもう聞かない」

桐乃「……う、うん」

少しだけ申し訳無さそうな顔をこちらに向け、桐乃は言う。

それを見て、俺は先程の台詞の補足をすることにした。

京介「まあ、だからと言って愛してるってのは嘘じゃねえぞ? マジで、心の底からそう思ってるから」

桐乃「ばっ! だーかーらー! そうゆーのをやめろってゆってんの!! もう!」

ぷりぷりと怒りながら、桐乃は料理を再開する。 ただそうめんを茹でているだけだが。

それに怒っているとは違うな。 これは明らかに恥ずかしがっているのだ。 可愛い奴め。

そんなやり取りをしている間に、やがてそうめんが茹で上がる。

桐乃「ほら、出来たよ」

京介「おう。 さんきゅー」

桐乃「つゆ薄めだったよね? はい」

京介「さっすが桐乃さん。 良く分かってらっしゃる」

桐乃「ふん。 たまたまあたしの好みと京介の好みが一緒だったってだけでしょ。 だから覚えてんの」

京介「そうかいそうかい。 そりゃどうも」

京介「んじゃ、いただきます」

桐乃「召し上がれ……って、ヤバ。 準備しないと!」

京介「ん? お前そのままで行くんじゃねえの? 見た感じ準備出来てる風だけど」

桐乃「化粧直さないといけないし、色々あんの! ちょっと先食べてて!」

京介「ふうん。 ま、頑張れや」

慌しく準備をし始める桐乃に向け、声援を送ったところ、こう返された。

桐乃「他人事みたいにゆってるケド、あんたも準備してよね? 髪整えて、服についたゴミとかしっかり取ってね」

お、俺もかよ……。

別に俺は良くねえか? と返したら、多分こう返される。 あたしと歩くんだから、きちんとしてよ。 って。

……しっかたねえなぁ。 とっとと食って、準備するとしますか。

俺は気持ち早めにそうめんを押し込み、桐乃同様に慌しく準備を始めるのだった。

桐乃「よっし! んじゃあいこっか!」

テンションたけえな、おい。 あれだけ慌しく動いていたのに、タフな奴だ。

京介「へいへい。 んで、結局どこに向かえば良いんだよ? 道案内するっつっても、大体の場所は教えて欲しいんだけど」

桐乃「うーん……分かった。 仕方無いか」

桐乃「ええっと、じゃあまずは」

と、桐乃は本当に大体の場所を説明する。

……気のせいか? なんだか、以前同じ場所に行った気がするんだが。

まあ、良い。 着けば分かることだ。

俺は近くの駐車場に置いてある車に乗り、助手席に桐乃を乗せ、車を走らせる。

一応言っておこう。 この車は桐乃に買ってもらったとかそういう情け無い事情では無いと。

必死にバイトして、ようやく買った車ってわけだ。 中古だけどな。

そんな車を走らせること数十分。 目的地とやらはそこまで遠く無く、すぐに到着した。

桐乃「すとーっぷ。 ここで良いよ。 いこ」

京介「……ええっと。 ここって殆ど住宅街じゃね? 目的がお前の友達……だとしても、ここら辺に住んでたっけ?」

桐乃「だーかーらー。 こっから少し歩くの。 京介って普段歩いたりしてないし、丁度良いでしょ?」

京介「丁度良いかどうかはしらねえけど……まあ、良いか」

やっぱりだ。

どう考えても、俺は数回、ここには来ている。

具体的には思い出せない……が、確実に来た事がある場所だ。 身に覚えがある。

桐乃「ほら。 それじゃこれ着けて」

そう言い、桐乃が手渡してきたのは目隠し。 アイマスクの様な形をしている。

京介「……お前、俺を監禁するつもりか!?」

桐乃「ばかゆってないで。 早くする」

桐乃は言いながら俺の額にデコピンをし、車の外に出る。

……なんだって言うんだ。 マジで気になるじゃねえか。

俺は車の外に出ると、渋々それを装着した。

桐乃「んじゃ、ほら。 付いてきてね」

んで、離れていく足音。

京介「ちょ、ちょっと待てえい!! お前! 俺がこのままでしっかり歩けると思ってんの!?」

桐乃「ひひ。 冗談だって。 ほーらー」

桐乃は見ずとも分かるいつもの笑顔で笑い、俺の手を掴む。

桐乃「さ、いこ。 そんな遠く無いから」

京介「お、おう」

なんだか、目隠しをしながら桐乃と手を繋ぐと新たな可能性が見えてきそうで怖いな……。

いや、そんな変なことを考えているのがばれるとさすがにマズイから、現状について考えることにしよう。

まず、どうしてか今日、桐乃は人生相談だと言って俺をここまで連れてきた。

んで、ここら辺にはどうしてか身に覚えがある。

最後に、今日は大学の卒業式だった。

……あーくそ。

どうせなら、察しがすげー悪かった頃の俺に戻りたいぜ。

どうやら桐乃のしようとしていることが、分かってしまった。

こいつは多分、サプライズとして用意した物だろう。

それのネタバレを食らってしまったみたいで、なんだか申し訳無い。

桐乃が連れて来た場所は、恐らく。

俺と桐乃が二人っきりの結婚式を挙げた、その場所だ。

桐乃「んじゃ、あたしはちょっとだけ離れるけど……絶対に目隠しは取らないでね?」

京介「ん、おう。 分かった」

桐乃は言い、俺から離れる。

ううむ。 やはりこの部屋の空気には覚えがあるぞ。 俺の予想に間違いは無い。

……はぁ。 素直に心から感動できないってのも、酷い話だよな。 ったく。

そして、待つ事数分。

桐乃「お待たせ。 目隠し、取っていいよ」

目の前から、桐乃の声が聞こえた。

京介「……おう」

俺はゆっくりと、目隠しを外す。

桐乃「へへ、どう?」

すぐ目の前には桐乃が居て、純白のウェディングドレスに身を包んでいる。

京介「……すげえ綺麗だよ」

予想はしていたが、それでもこいつは相変わらず、俺の予想の更に上を行くよな……似合いすぎだろ。

桐乃「なーんか感動薄くない? 折角用意したのにさー」

京介「そ、そうか? 驚いているぜ?」

桐乃「ふうん。 ま、良いや。 んじゃあ始めよっか? 四年前の続き」

京介「……おう。 そうだな」

桐乃「最初に、これ。 渡しとく」

桐乃は言い、手に持っていた小さい箱を俺に手渡す。

京介「お前、これって……」

桐乃「やっぱ分かった? あの日、あたしが京介に返した指輪。 家を出て行くときさ、京介の部屋から持ってきちゃった」

京介「……そうだったのか。 ありがとよ」

それは、俺が唯一後悔していたことだった。

桐乃を守るのに必死で、桐乃を幸せにすることに必死で、俺は大事な思い出を残していたから。

だから、それは本当に嬉しくて。

京介「……じゃ、始めるか」

桐乃「うんっ!」

こうして、俺と桐乃は結婚式を挙げる。 四年前の続きとして。

薬指に指輪をし、桐乃の手を取り、俺は指輪を嵌める。

それは四年前のクリスマスイブと同じで、しっかりと指に嵌った。

桐乃「……やば、ちょっと泣きそうかも」

京介「感動するの早くねえか? まだ、だろ?」

桐乃「……うう。 まぁ、そうだケド」

京介「……じゃ」

桐乃「……うん」

俺は桐乃の体を抱き寄せ、頭を支え、桐乃の唇に俺の唇を重ねる。

桐乃「……ん」

京介「……さすがに久し振りにすると緊張するな」

桐乃「そーゆうことはゆわないの」

一指し指で俺を制し、八重歯を見せ、桐乃は優しく笑う。

京介「はは、わりいわりい」

京介「四年前は……ここで終わりだったけど」

京介「今は、これが始まりだな」

桐乃「……うん。 そだね」

桐乃「あ、そだ」

京介「ん? どした」

桐乃「いや、今の内にやっておかないと、後で出来なくなっちゃうからさ」

京介「……ええと、何を?」

桐乃「外行ってからじゃムリってゆってんの。 相変わらず察しわるっ!」

京介「いやいや……そうは言われてもマジでわからねえって」

京介「なんだってんだよ、きり----------------」

そう名前を呼ぼうとした瞬間、桐乃が正面から抱き着いて来た。

京介「お、おい?」

桐乃「今まで本当にありがとう。 兄貴」

桐乃は言う。 俺の顔を見ながら。

桐乃「いっつもいっつも助けてくれて、あたしの為に頑張ってくれて、ありがとう」

それは多分、今までのこと。

桐乃「いくらワガママいっても、走り回って、聞き入れてくれてありがとう」

それは多分、ある日の人生相談のこと。

桐乃「あたしが逃げようとした時も、あたしを見てくれてありがとう」

それは多分、ある日の土砂降りのこと。

桐乃「あたしと一緒に歩いてくれて、ありがとう」

それは多分、今も続く道のこと。

京介「……俺も、お前には感謝してるよ。 ありがとう」

桐乃「ひひ。 そっか。 じゃあ」

桐乃「京介、ありがとう、大好きだよ。 本当に、世界で一番好きだよ」

桐乃は俺に抱き着いたまま、俺の顔を見て、真っ直ぐとそう言った。

……ずりいっての、それはさすがに。

京介「桐乃、ありがとう、大好きだ。 世界で一番、愛してる」

そう答えるしかねえじゃん。

俺と桐乃はお互いに顔を見合わせたまま、再度唇を交える。

京介「つか、今までじゃねえよ」

京介「これからも、だろ?」

桐乃「あはは。 そうだったね」

桐乃「これからもよろしく、京介」

これにてハッピーエンド。

……と、行かないのが俺の妹であり、桐乃なのだから困ってしまう。

桐乃「じゃ、ほらほら」

嬉しそうだな、こいつ。 というか俺を引っ張っていくのは別に構わないんだが、外に出てどうするっつうんだよ。

着替える場所、中じゃねえの?

と、呑気に思いながら桐乃に引っ張られるままに外に向かう。

桐乃がでかい扉に手を当て、押して開ける。

まばゆい光りが差し込んできて、俺は一瞬視界を奪われる。

そして、次に目の前に広がった光景は。

……ああ、ちくしょうめ。

これはちょっと反則じゃねえの? 馬鹿野郎が。

今回のサプライズを予想してしまい、油断していた俺も俺だが、これは少し予想外すぎるぜ。

……すっかり忘れていた。 桐乃はいつも、俺の予想の上を行く奴だってことを。

横を見ると、桐乃はニヤニヤと笑っている。 最後の最後で、してやられてしまったよ。



「「結婚、おめでとう!」」

俺が見た光景。

外には、俺と桐乃を祝ってくれる、友人が居た。

黒猫に、沙織に、あやせに、加奈子に、御鏡に、瀬菜。

少なくではあるが、大切な……俺と桐乃の友人。

京介「桐乃……」

桐乃「ひひ。 びっくりした? てゆうか、泣かないでよ」

京介「うっせ。 泣いてねえよ……くそ」

桐乃「はいはい。 んじゃそうゆうことにしといたげる。 んで、感動した?」

京介「めちゃくちゃな……一体、どうやって?」

俺が桐乃にそう聞くと、黒猫がその会話に割って入る。

黒猫「それはわたしが説明するわ。 良いでしょう?」

桐乃「うん。 あたしからゆーのはちょっと恥ずいし。 お願い」

黒猫「ええ。 分かったわ」

黒猫は桐乃に向けて言うと、次に俺の方に顔を向け、話始めた。

黒猫「つい先月、桐乃から連絡があったのよ。 で、必死に頼まれたの」

京介「……それで、皆来てくれたってことか?」

すると黒猫は小さく咳払いをし、口を開く。

黒猫「「あたしさぁ。 京介と結婚するんだけどぉ。 あんた特別に呼んであげるから? きてもいいよ~。 ラブラブなのみせたいし? みたいな。 きゃはっ」と言われてね」

京介「……お前、それマジで言ったの?」

俺が桐乃に聞くと、桐乃は手をぶんぶんと振って否定する。

桐乃「ちょっと捏造しないでくんない!? そこまではゆってないじゃん!」

黒猫「捏造かしら? 事実にほんの少しだけ色を加えただけじゃない」

桐乃「だいぶ捏造だっつーの!! あんたほんっとに変わんないね?」

黒猫「あなたこそ変わらないじゃない。 まぁ、それがあなたらしくて好きよ」

桐乃「そ、そう? ……ありがと」

いやいや、俺からしたら二人ともお互いに対する態度はかなーり柔らかくなってると思うぜ。 ずっと身近で見てきたから、分かることだけどさ。

そこでしばらく三人で話していたところ、桐乃の方にあやせや加奈子から声がかかり、俺に軽く手を挙げ、桐乃はそちらの方に走っていく。

残されたのは、俺と黒猫。

黒猫「……懐かしいわね。 こうやって集まるのも」

京介「そうだな。 俺と桐乃とお前と沙織でってのは、何回もあったけどさ。 こうやって沢山集まるのは、随分久し振りだよ」

京介「……何人かは、欠けちまったけどな」

黒猫「……そうね。 そんな物よ、人生なんて」

黒猫「ところであの日、わたしが言っていた言葉、覚えているかしら?」

あの日……っていうと、俺の人生を動かした、あの日のことか。

京介「お前と話した時のこと……で良いよな? お前に言われて、やっと気付いた日のこと。 気付こうと決めた日のこと」

黒猫「ええ。 あの日、わたしが見せてもらうと頼んだ未来……このことで良いかしら?」

京介「……さぁな。 どうだろう。 けど、良い未来だったとは思う。 俺はな」

黒猫「ふふ。 そうね。 わたしも同じ事を感じているわ」

黒猫「どうしてかしら……わたしはあなたのことが好きで、この未来は悲しい物だと思ってもおかしくは無いのに」

黒猫「……自然と、笑ってしまう」

黒猫「それも多分、しっかりとわたしもわたしでケジメを付けたから、でしょうね」

京介「……そっか。 お前には一番、迷惑掛けていたからな」

黒猫「本当よ。 最後の最後まで引っかき回されたわ。 全く」

そう言いつつも、黒猫は笑っている。

京介「悪かったよ。 そんで、ありがとな」

黒猫「構わないわ。 とても、騒がしくも楽しい日々だったから」

黒猫「そして、それはこれからも……」

京介「へへ、当たり前だろ。 お前にはこれからも、色々迷惑掛けるかもしれねえけど、よろしくな」

黒猫「こちらこそ。 だけどもあまりにも鬱陶しかったら怒るわよ?」

京介「……ええっと、例えば?」

黒猫「そうね。 例えば……」

黒猫「急に雌らしい顔付きになって、あなたにいきなり抱き着いたと思ったらキスをする姿を見せられたりしたら、とか」

……マジ、で?

京介「……お前、見てたの?」

黒猫「あら、わたしだけじゃないのだけど」

京介「ど、どういう事だ?」

黒猫「ここの式場は、中の様子を外で見られる様になっているのよ。 桐乃は気付いていない様子だったけど、そして、なんだか面白いことになりそうな予感がして黙っていたの」

言いながら、黒猫は設置されているモニターを指差す。

……気づけよ桐乃!! こんだけ準備しておいて、それに気付かないとか!?

そうだ。 そうだった……あいつ多分、浮かれてたんだな。 間違いねえ。

黒猫「ふふ。 案の定、だったわね?」

京介「……一応聞いておくが、音は?」

黒猫「普段なら聞こえるらしいのだけど、生憎今日は何故かスピーカーの調子が悪いみたいで、残念ながら」

黒猫は言いながら、くすくすと笑う。

……こいつもこいつで、楽しんでるじゃねえか。

スピーカーの件は後でお礼を言っておくとしよう。 映像は……まあ、そのくらいなら問題はねえさ。

桐乃の言葉と俺の言葉。 あの会話は、俺と桐乃二人っきりの物にしておきたかったから。

黒猫には本当に、最後の最後まで付き合わせちまったな。

京介「……桐乃には、口が裂けてもいえねえなぁ。 あれが見られてたなんて」

黒猫「良いんじゃない? それならわたしが直々に……」

京介「や、やめてくれ! 頼む!」

黒猫「……はぁ。 まさか、冗談よ。 言う訳が無いでしょう」

京介「……おお、そうか……なら良いんだけど」

黒猫「あなた、そんなので良くあの桐乃と一緒に暮らせているわね。 尻に敷かれているとしか思えないわよ?」

京介「知ってる奴全員にそう言われるんだよなぁ。 けど、実際はそうでもねえぞ?」

黒猫「……もの凄く信用の無い言葉ね」

京介「っへ。 そこまで言うんだったら、証明してやるよ。 見とけよ」

俺は黒猫にそう言うと、あやせや加奈子、御鏡や瀬菜、そして桐乃が居る場所へ向けて声を掛ける。

京介「おーい、桐乃!」

桐乃はそれを聞くと、俺の方に向き笑顔で手を振る。

黒猫「……デレデレじゃない。 鬱陶しいわ……全く」

京介「いや、まだだ」

京介「桐乃ぉおお!! 愛してんぞぉ!!」

言った瞬間、桐乃は顔を強張らせ、大声で返事をする。

桐乃「ちょ、ちょっと待てぇええええええええい!!!!」

桐乃「み、みんなが居るところでなんてことゆってんの!? 二人っきりのときで、雰囲気が良い感じのときにしよーって約束したじゃん!!」

……予想以上に狼狽してんな。 後で怒られるかもしれん。

黒猫「……バカップルも程ほどにした方が良いと思うわよ。 正直、キモいわ」

俺の隣では、黒猫が冷めた目で俺の方を見る。

京介「でも、分かったろ?」

黒猫「今ので分かったのは、あなたたちがバカップルということね。 それと」

黒猫「妙な約束ばかりをしている、ということかしら?」

京介「……お、おう」

……それもそうだな。

結局恥を掻いたじゃねえか。 つうか桐乃の所為だからな! あいつが余計なことを言わなければ!

そう思い、桐乃の方に視線を向けたとき。

俺は驚き、目を見開いた。

京介「黒猫」

黒猫「どうしたの? そんな驚いた顔をして」

京介「悪い、少し行かないといけないところが出来た。 桐乃には適当に言っといてくれ」

黒猫「いつものパターンと言ったところかしら。 分かったわ。 こっちは任せて頂戴」

京介「……わりいな、ありがとう」

黒猫「今更ね。 早く行きなさい」

その声を受け、俺は走って式場の外へと出る。

俺が、さっき見たのは確実に、絶対に見間違いじゃねえ。

何年も、何年もずっと見てきた影なんだ。 間違える訳がねえ。

だとするならば……。

京介「来てくれたのか」

肩で息をして、両手を両膝につきながら。

式場から少し離れた場所、ようやく、その背中に追いついた。

俺と桐乃の面倒をずっと見てきていた人。

俺の、親父に。

大介「……たまたま近くを通りかかっただけだ」

親父は俺の方を見ずに、そう言う。

京介「そうか。 ありがとう」

大介「勝手な解釈をされても困る。 近くを通ったら馬鹿な事をしている奴らが居たからな。 少し覘いていたというだけだ」

京介「そうか。 その……」

お袋は。 と言おうとし、言葉に詰まってしまった。 俺は果たしてそう呼んで良いのだろうか。

大介「母さんなら、来ていたぞ。 今回のこと、母さんの方は桐乃に声を掛けられたみたいだがな……俺は違うぞ?」

俺の言わんとしたことを見透かすように、親父は言う。

ていうか、親父も親父で桐乃級の素直さじゃねえよな。 はは。

京介「……ありがとう。 本当に、ありがとう」

俺は親父の背中に頭を下げ、誠心誠意、その言葉を紡ぐ。

それに対し、親父はようやく振り返り、俺に言う。

大介「約束は、守っている様だな」

約束。

あの日、俺が親父の息子では無くなった日。

その時の、約束。

京介「勿論だ。 有言実行、よく言われていたからな」

大介「……そうか」

大介「さて、俺は帰るぞ。 元々ただ近くを通り掛かっただけだしな。 あんまりくだらん事ばかりしているなよ」

そう言い、親父は再度俺に背中を向け、歩き出す。

大介「……そうだ、一つ言い忘れていることがあった」

大介「母さんの企画でな。 今度の夏休みにでも『家族』で旅行をしないかと、頼まれていてな」

大介「勿論、俺はそんなのはどうだって良いのだが……一応、母さんが言ってくれたことだしな。 お前にも伝えておく」

大介「お前と桐乃。 もし良ければ来ないかという話だ」

京介「……親父」

大介「なんだ」

京介「……はは。 勿論、行くぜ。 必ず」

大介「……俺は反対だが、勝手にしろ。 この馬鹿息子」

その言葉は、俺にとって、一生忘れることのできない言葉だろう。

大介「後、母さんからの伝言が一つある」

大介「京介、桐乃のことはあなたに任せる。 だそうだ」

京介「……そうか。 ありがとうって伝えておいてくれ」

大介「ああ。 今度、直接自分の口からも伝えておけ」

大介「それと……俺は一応、桐乃については昔と変わらない考えだ」

そう言い、親父は去っていった。

桐乃「お、戻ってきた。 どこいってたの?」

式場に戻ると同時、桐乃が声を掛けてくる。

京介「分かってるだろ。 お前が声を掛けたんだしさ」

桐乃「……っていうと、来てくれてたんだ。 お父さんとお母さん」

京介「ああ。 お袋はもう帰っちまった後みたいだったけど。 つうか、お前は良く声を掛けたよな」

桐乃「だって、世界に一人ずつしか居ない人だから。 来るとしても、来ないとしても、ゆっておきたかったの」

京介「……そうかい」

京介「親父、家族旅行を計画しているんだとよ」

俺の言葉を聞き、桐乃は驚いた顔をした後に、目に涙を溜める。

京介「一緒に来ないかって言ってた。 勿論、行くって言ったぜ?」

桐乃「……うん、うん」

京介「んで、そうしたら馬鹿息子って言われちまったよ」

桐乃「……ひひ、そっか」

京介「……すっげえ嬉しかった」

桐乃「うん……だろうね。 あたしも一緒」

涙をぽろぽろと零す桐乃に向け、俺は言う。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「なに? 京介」

京介「お前の言っていた『人生相談』だけどさ。 今日で、やっと本当に終わったのかもな」

桐乃「……そうだね。 きっとそう」

京介「つうわけで、これからも何かあったら言ってくれよ? いつもみたいに相談に乗ってやるからさ」

桐乃「あはは。 お願いって言いたいところだけど……あたしさ、今日でそれ卒業しようと思ってるんだよね」

京介「……そうなのか? なんていうか、寂しいな」

桐乃「大丈夫だって。 今度は、あたしの番だから」

京介「って言うと?」

桐乃「あたしが京介に解決してもらった人生相談。 それに感謝しているのは今も同じなの」

京介「……おう」

桐乃「んで、その恩は多分、一生分くらいはあるんだよねー」

桐乃「だから、さ。 これからはあたしが、京介の人生相談に乗ってあげる。 勿論、あたしが感じた恩を全部返せるまで」

桐乃「ってゆっても、一生分だけどね?」

京介「……そうだな。 んじゃあ、そうさせてもらうとするよ」

京介「俺の人生相談もかなりあるからな。 覚悟しとけよ?」

桐乃「ひひ。 上等だっつーの」

京介「桐乃」

京介「これからよろしくな。 ずっと、いつまでも」

桐乃「京介」

桐乃「これからよろしく。 ずっと、いつまでもね」

桐乃の見せた表情は、言う必要の無い物だろう。

そして、こういうときの終わり方なんてのは、もう決まりきっている。

ここまで見てくれているのなら、その言葉の裏の意味なんてのも当然、知っているだろうという前提で。

最後は、いつもの様に締めくくらせてもらおうか。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない。


最終話 終

以上で本編完結となります。

乙、感想ありがとうございます。

そして短編へ……
前の話と今回の話の間のお話を何本か投下予定です。

既にいくつかは書き終わってますが、話数等は現在のところ未定。
一日一話ペースもちょっと厳しいかもですが、あまり間隔空けずに投下していきます。

とりあえず、本日の投下は以上です。
乙、感想ありがとうございます。

良かったけど一つだけ
最後までアンタッチャブルだった麻奈実さんwwww
いやどう扱えばいいかちょっとわかんないもんなww

お、短編あるのか
地味子はそこでくるかもしれんな
>>1の文は実に作中の雰囲気が出てるから色々日常編とかを見たかったし楽しみだ

やっぱ山下公園周辺か!
あそこらへん、夜景凄いからねw

最終話感動した。最高の作品をありがとう。
短編も期待してます!

乙乙うおおおおおぉぉ、めっちゃ良かった。親父とのやり取り泣けた
原作の今の時間じゃ無理だけど、将来的にはこういう可能性も十分あるよなー
ホント今までありがとう。すっごい楽しかったわ
短編にも期待。子作り編妊娠編出産編なんかも書いてくれていいよ!!!

てか原作12巻発売から丁度一ヶ月か
きりりん結婚1ヶ月記念日に完結とはやってくれる

乙乙!
黒猫厨だが、この二人に話って入る余地なんて皆無だなw
原作並みのクオリティをありがとう

それと一個質問
序盤の方で桐乃が持ってきたエロゲーの「いつか皆に祝ってもらえるといい」って奴はもしかして?

こんにちは。
乙、感想沢山ありがとうございます。

>>618
>>619
麻奈実さんはなんというか、出したら話の方向がどんどん重くなりそうで最後まで出せなかったです。
短編でも出るかは微妙……。

>>621
あの辺りはすごいですよね。 勿論きりりんの方が綺麗だけど!

>>625
そっち方面は自分の技量だと無理かと。
多分おっさんとネカマがチャットHしている感じになってしまいます。

>>628
そういえば6/7から丁度でしたね。 嬉しい偶然。

>>636
それは一番最初に張った最大のネタバレ伏線となってます。
ゲームみたいに全員とまでは行かないが、今も周りにいる人達に祝福してもらう。 って感じです。



本日はお昼過ぎくらいから短編1本投下致します。

遅れ馳せながら乙でした!

こういう原作を補完して桐京が幸せになるSSが出るのって、きっとふさたんも嬉しいんじゃないかなぁ
もちろん俺たちのほうが嬉しいんだけどww
短編も期待してます!

>>640
ありがとうございます。


短編投下致します。

あの日、俺と桐乃が家を追い出され、二人暮しを始めた日。

その日の夜、俺と桐乃は二人揃って色々とまあ驚愕することとなった。

京介「……お、おい?」

桐乃「……なに?」

そして現状である。

ど、どうしてこうなった!? 何故、俺は今桐乃と体を密着させて布団の中で寝ているんだ!?

……く、くそ。 記憶がぐちゃぐちゃだぜ。 い、一旦落ち着こう。 状況をまずは整理だ!

という訳で、時は少し遡り、俺と桐乃が家に着いた辺り。

京介「……んで、どうすっか」

桐乃「とりあえず、フィギアを飾る棚欲しいよね」

京介「そういう話じゃねえよ!」

俺と桐乃は現在、コタツに入り、向かい合いながら会議中。 これから先、どうするかという二人の人生相談である。

前のとは違った意味でのこれから先、どうするか。

それはどれだけ幸せなことなのだろう。 ま、始めてみないと分からないか。

桐乃「……ってゆーと?」

京介「お、お前マジで言ってるのか……これから、あれだろ?」

京介「その……二人で、暮らす訳だし?」

と、桐乃がいつも言う様な感じで俺は言う。

対する桐乃は。

桐乃「べっつに。 いつも通りで大丈夫っしょ?」

軽いなぁ! 俺は既に色々な意味でヤバイんだけど!?

京介「よ、よし……じゃあ一個ずつ潰していくか」

京介「まず、ひとつ目な。 桐乃」

俺の真面目な顔付きと真剣さを醸し出している空気に押され、桐乃の顔も若干強張る。

桐乃「な、なに?」

京介「……朝飯とか、昼飯とか、夜飯とか作ってくれる?」

桐乃「……うん。 良いよ」

よし! 懸念事項がひとつ消えた! 少し安心したぜ!

京介「助かるぜ。 マジで」

桐乃「そのくらいで一々感動しないでよ……」

京介「おし。 んじゃあ次だな」

俺は桐乃の言葉を軽く流し、ふたつ目の問題へと移行させることにした。 テンポ良くいくぜ。

京介「ふたつ目……せ、洗濯はどうだ?」

桐乃「せ、洗濯ッ!?」

京介「……おう」

こ、これはさすがに難易度が高かったか……? だけど確かに、いきなり桐乃に任せるってのも不安っちゃ不安だしな……。

桐乃「……う、うーん」

そう言いながら、頭を抱える桐乃。

京介「あ。 そーいやあやせは洗濯してくれてたな」

桐乃「は、ハァ!?」

え、ちょっと待てよ! 俺は「そーいえば」みたいな感じでぽろっと言っただけだっつうのに、そこまで怒ることだったか!?

桐乃「……そ、それって」

桐乃「そ、それってもしかして下着! う、うう……下着、とかも?」

京介「ま、まあ……一応?」

桐乃「一応じゃないっ!!」

桐乃は俺に向かって叫ぶのと同時、ミカン攻撃を加えてくる。

マジで潰れたら面倒なんだからやめろよ! 食べ物を粗末にするんじゃねえ!

京介「わ、悪かった!! 許してくれ!!」

二人暮しを始めてまだ一時間も経っていないのに、既に浮気がばれた男みたいな状態の俺である。

桐乃「チッ……あやせ、今度話さないと」

対あやせ最終兵器だな……桐乃は。

京介「……えっと、それで、どうなの?」

歯を食いしばり、顔を赤面させながら、桐乃はしぶしぶといった感じで口を開いた。

桐乃「……分かった。 洗濯、やる」

お、おお! ふたつ目の懸念事項も消えてくれた! なんてことだ!

桐乃「……だけど、あたしと京介の奴を一緒に洗うのはなんかヤダ」

京介「そ、そうですか……」

なんかあれだな。 思春期の娘が父親に言う台詞だよな、それ。

なんで俺は大学一年にしてそんな心境になっているんだろう。

……まぁ、桐乃も恥ずかしくて言っているだけで、本気で嫌がっている訳では無いはずだが。

無いと思いたい。

京介「……よし、じゃあみっつ目、いくぜ?」

桐乃「ま、まだあったの?」

京介「おう。 色々決めないといけないしな」

桐乃「……うん。 分かった。 なに?」

京介「……掃除、やってくれるか?」

桐乃「それは二人でやろうよ」

京介「……そうだな」

くそ! なんとか流れに乗せて押し付けようと思ったのに! やりやがる、桐乃の奴め。

ううむ……駆け引きが難しいな。 次はどう切り出すべきか。

そう思ったとき、桐乃が口を開く。

桐乃「んじゃさ」

桐乃「あたしからも、決めておきたいルールあるんだけど」

京介「桐乃から? 良いぜ、何だよ?」

桐乃「京介は一日ひとつ、あたしの言う事に従うってどう?」

京介「……ふむ、なるほど」

京介「なるほどじゃねえよ! なんだそのアホみたいなルールは!!」

こいつもう流れにうまく乗せる気とか皆無だな!! 普通に真正面から斬り込んできやがった!

桐乃「そう? 可愛いあたしの言う事に従えるなんて、幸せじゃん?」

京介「お、お前なぁ……!」

桐乃「落ち着きなって。 ちょっと考えてみて?」

京介「どこにどう考える要素があるんだよ……」

桐乃「だーかーらー」

桐乃「一日一個だけだよ? 一週間で七個。 一ヶ月で三十個前後。 そう考えると少ないと思わない?」

京介「……そうか?」

桐乃「んじゃあスケールを拡大して……一年で三百六十五個。 十年で三千六百五十個。 うるう年もあるから、正確にゆーと三千六百五十二個」

桐乃「どう? そう考えると少なくない?」

京介「……ううむ。 確かに」

桐乃「それにさ、このルールは京介の為でもあるんだよ?」

京介「俺の為?」

桐乃「そ。 ほんとーだったら、一日二個とかのとこをね、一個に抑えようってルールなの」

桐乃「だから、京介の為」

京介「……お前、そこまで俺の事を考えてくれているのか」

やばい、軽く感動。

……。

京介「いやそうじゃねえよ!! お前何ナチュラルに命令に従えさせようとしてんだ!!」

あぶねぇ!! 危うく乗せられるところだった!! 油断も隙もありゃしねえぞ!!

桐乃「チッ……んじゃ諦める」

全く、随分とヒートアップしちまったじゃねえか。

京介「……ふう。 飲み物取ってくるけど、なんか飲むか?」

俺は冷静になるべく、一旦お茶を飲むことにする。

桐乃「んー。 だいじょぶ。 そうゆう気分じゃないし」

京介「あいよ」

台所へと行き、自分の分の麦茶をコップにいれ、再びコタツの中へ。

桐乃「さんきゅー」

そう言い、桐乃は俺の麦茶を奪うと、飲み干す。

京介「……お前、そういう気分じゃないんじゃなかったの?」

桐乃「気が変わったの。 よくあるっしょ?」

京介「……そうですね」

こいつ絶対さっきのことを根に持っている。 俺の今までの勘がそう告げている。 ちくしょう。

俺は再度麦茶をいれ、コタツへと三度戻る。

今度は奪われないようにガードしながら、桐乃との会話を再開。

京介「他になんか決めておくこと、あったっけ?」

桐乃「んー。 後はやっぱグッズかなぁ。 フィギアとか、置く場所の確保」

この話、もう三回目くらいだよな。 そんなに重要なことかよ。

まあ、こいつにとってはそうなのかもしれんが。

京介「……つっても、この部屋ちっせえからなぁ」

桐乃「でも置く場所はあるっしょ? 前に御鏡さんに貰ったケースも、いちおあるし」

京介「一旦はそこに収まり切るくらいにしとけよ? フィギアとかエロゲーに埋もれた部屋として、テレビに取材されるのは嫌だしな」

桐乃「おっけ。 あー、あとぉ」

桐乃「あたしは趣味を少し我慢するんだから、京介も我慢ね」

京介「俺も我慢? そう言われても趣味なんてねえぞ……? 一体何を我慢しろっつうの?」

桐乃「ひひ。 あんたが持ってるエロ本とか全部捨てる」

京介「ま、マジ?」

桐乃「当たり前っしょ! あ、あたしはいちお……彼女、なんだし」

顔を伏せながら、俺の顔を見ずに桐乃は言う。

桐乃「そうゆうの持たれてたら……嫌だし」

よっし全部捨てよう! 今のお前の仕草で決心付いた!!

京介「明日中に全部処分しておく……で、良いか?」

桐乃「……うん」

さて、これで大体は決まった……かな。

そんな風に俺が思ったとき、桐乃が文字通りの爆弾発言をした。

桐乃「あ、お風呂はどうする?」

京介「おー、風呂か……って風呂!?」

桐乃「な、なによ? 急におっきな声だして……」

京介「いや! だってお前! 俺と風呂入るの!?」

桐乃「な、なぁ!? ち、違うっての!! あたしがゆってるのはお風呂掃除どうするかってハナシ!!」

京介「あ、ああ……そ、掃除か。 驚かせるなよ……」

桐乃「京介が勝手に勘違いしたんでしょ!? な、なんであたしがあんたとお風呂一緒に入らなきゃいけないの!!」

京介「そ、そうだよな……はは」

桐乃「……もしかして、マジで一緒に入りたかったりした?」

京介「……どうだろう」

桐乃「そか……」

……どうすんの、この空気。

桐乃「んで、結局どうするワケ?」

京介「え? 俺と一緒に入るかどうするか?」

桐乃「ちっがーう!! 掃除の話!!」

京介「冗談だって。 ううん、掃除かぁ」

京介「交代でいいんじゃね? それか、時間ある方がやるか」

桐乃「……ま、それが一番良いよね。 あたしだって忙しい時あるし、京介だってそうだろうし」

京介「おう。 んじゃそれはそういうことで」

京介「で、次で最後なんだが……」

桐乃「ま、まだあるの?」

京介「一番大事なことが、まだ残っているんだ」

桐乃は俺の言葉を黙って待つ。 顔付きから、一段と緊張しているのが見て取れる。

京介「ふ、布団。 どうする?」

桐乃「……どうするってのは?」

京介「いや……だから、布団」

京介「一つしか、ねえし……」

桐乃「ぶっ! あ、あんた二つ用意してないの!?」

京介「当たり前だろ! こんな、その……二人暮しするなんて、思ってなかったし!!」

桐乃「そ、そりゃそうだよね……」

むしろ俺がこの状況で「お前の分の布団もあるぜ」とかドヤ顔で言ったらそっちの方が酷い気がするっての!

京介「……やるしかねえか」

桐乃「そ、それって……」

京介「桐乃」

桐乃「は、はい」

京介「……一緒の布団で寝よう」

桐乃「くっ……それしかないか……」

そうして、俺と桐乃は同じ布団で寝ることになったのだが。

京介「……な、なんか近くね?」

桐乃「そ、そうかな? ふつーじゃん?」

桐乃はどうしてか、俺の体にくっつかんばかりの距離で横になっている。

……どうしてだろうなぁ! 俺分っからねえや!! ははは!!

京介「……」

桐乃は俺の顔を真っ直ぐとみて、何も言わずに少しだけ潤んだ瞳を向け続ける。

京介「……お、おい?」

桐乃「……なに?」

京介「い、いや……何でも無い」

桐乃「……そんなにイヤ?」

京介「そういう訳では無い! ……けど」

な、なんでこいつはこんな可愛いの!? え、えええっと?

布団ですぐ隣に横になってて? 俺の体にぴったり寄り添うようにしていて? んで? 俺の寝間着を掴んでいる?

……やべえ、頭がなんかふわふわしてんぞ!

京介「き、桐乃……」

桐乃「……なに?」

京介「……む、ムリ! 無理無理無理無理無理ッ!!」

俺はそう言い、布団から出て、立ち上がり、桐乃と距離を取る。

桐乃「ちょ、なにが?」

桐乃「やっぱり、その……気持ち悪かった?」

う、うううう! そうじゃねえ! そんな訳あるか!!

京介「それは無い! 絶対に断じてねえよ! だけど……あれだ」

京介「お前が可愛すぎて無理! 心臓止まらせる気かっつうの!!」

桐乃「……あ、そか……ごめん」

桐乃は言い、申し訳無さそうな顔をする。

あ、謝るなよ……。 俺が勝手にそう思ってるだけなんだからよ。

京介「と、とにかく桐乃。 マジで、俺が死んでしまうから、今日は少し距離を置こう……な?」

桐乃「……おっけ。 分かった」

言い、桐乃は俺に背中を向ける。

……うわぁ。 悪い事、しちゃったかな……?

すげえ申し訳ないぜ、本当に。

少しの間、桐乃の背中を見つめた後、俺はのそのそと布団に入る。

桐乃との距離は、ほんの少しだけ開いていた。

京介「……ごめんな」

桐乃「……」

桐乃からの返答は、無い。

明日、もう一度しっかり謝ろう。

そう思い、俺は目を瞑り、眠りに入る。

意識が完全に消える前、それはもしかしたら幻聴なのかもしれないが、俺の耳に小さな声が聞こえた。

「……別に良いっての。 あたしだって……死にそうだったし」



決着の日の夜 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

乙乙
身体は砂糖でてきている

糖度の高いスレだぜ……

子作りを克明に、とは言わないけど、最後の一線を踏み越えるまでの過程とか、そういうのはあったらいいなぁ

式でのキスが久しぶりって言ってたし、この京介はこれから数年手を出さないのだろうか
まぁ義妹√でも鋼の意思を見せてたがww

>>684
アンリミデッドブレードワークス

>>685
そのネタちょっと頂きます。

>>686
一応、自分の中では最後の結婚式で京介の中でケリは付いた形になってます。 書く予定は全く無かったのに685さんの1レスで書きたい欲が溢れて

おはようございます。
乙、感想ありがとうございます。

本日は投下二本致します。

一本目はIFルートとなります。
>>333 で、あやせに電話をした場合のお話です。 短いですが。


二本目は>>685さんから頂いたネタで作ったお話です。
時系列的には最終話の後のお話です。


まずはIFの方から投下致します。

そう思い、携帯をポケットから取り出し、あやせの名前を呼び出し、通話ボタンを押そうとして。

一瞬、何かが頭に過ぎった。

しかしそんなのを考えている暇は無い。 俺は、一刻も早く桐乃に会わないといけないから。

嫌な予感は未だにひしひしと伝わってくる。 だが。

俺はそのまま、通話ボタンを押した。

数回のコール音が鳴った後、電話は繋がる。

「もしもし、お兄さんですか? どうしました?」

京介「あやせ。 一つ、聞きたいことがあるんだ」

「……はい。 何でしょう?」

京介「桐乃が今どこで何してるか、教えてくれ」

俺が言うと、あやせは数秒の間の後、話し出す。

「……分かりました。 やはり、お兄さんにはしないと駄目……ですよね」

「私の家に来てくれますか? 桐乃も今、居るので」

俺は駆けていた足を止め、体の向きを変える。

京介「桐乃が、居るのか? お前の家に」

「ええ、そうです」

京介「……分かった。 今から行く」

「……はい。 お待ちしてます」

そうして、俺はあやせの家へと向かっていった。

あやせ「お待ちしてました」

玄関。 家からすぐ出たところに、あやせは居た。

桐乃の姿は見えない。 部屋にいるのだろうか?

京介「悪いな、こんな時間に。 で、桐乃は?」

そう言うと、あやせは頭を下げる。

あやせ「ごめんなさい。 私、嘘を吐きました」

あやせ「桐乃はここには居ません。 そして、メールも送っちゃいました」

あやせは言いながら俺に携帯を見せる。 画面には、数分前、俺が桐乃を探している旨を伝えるメールが表示されている。

京介「お前……どうして」

あやせ「すいません。 でも、桐乃の為にこうするしかなかったんです」

京介「何でそうなる……? 何で、俺に嘘を吐いたんだよ」

あやせ「お兄さんには沢山嘘を吐かれたので……というのは、言い訳ですよね」

あやせ「少し、場所を変えましょう」

言いながら、あやせは俺の横を通り過ぎ、一人歩く。

……俺は。

俺は何も考えられず、ただその背中に付いて行った。

いつか、来たことのある場所。

あれからもう、何年経ったのだろうか。

桐乃とはあれから、一度も連絡を取っていない。

京介「……懐かしいな、ここも」

辺りには誰もおらず、この公園には俺一人っきりだ。

遠い昔、あやせとここでは色々あったよな。

あの日。

桐乃が家出をして、そのままどこかへ消えて。

そして、あやせが俺に嘘を吐いた日。

京介「忘れられる訳、ねえか」

「ごめんなさい。 本当にごめんなさい」

あの日、公園に入るやすぐにあやせは俺の方を向き、再度頭を下げた。

京介「謝って欲しいなんて、思ってねえよ」

あやせ「……ですよね」

京介「俺が知りたいのは、どうしてってことだけだ」

あやせ「理由、ですか」

あやせ「……多分、私は間違えたことをしているんだと思います」

あやせ「本当なら、本当に桐乃のことを思っているのなら、私は嘘を吐かないべきだったんです」

あやせ「桐乃は、黒猫さんの所に居たらしいです。 それを伝えるべきでした」

京介「なら、どうして? どうして俺にそんな嘘を吐いたんだよ」

自分でも、自分の声から抑えきれない感情が溢れ出しているのが分かる。

あやせ「それは、私が桐乃の友達だからです。 親友だからです」

あやせ「私のしたことは、回りまわって桐乃を傷付けてしまうかもしれません。 落ち込ませてしまうかもしれません」

あやせ「ですが、桐乃は言ったんですよ。 私に」

あやせ「もし、あいつがあたしのことを探していたらすぐに伝えて。 そう、言ったんです」

京介「それを鵜呑みにしたってのか? お前は」

あやせ「ええ、そうですね」

あやせ「私は桐乃のこと、大好きですよ。 本当はこんなこと、したくないんです」

京介「……良く言うぜ」

あやせ「……ごめんなさい。 でも、それが私の、友達としてのやり方なんです」

あやせ「友達として、私は桐乃の言葉を信じました。 絶対に嘘だと分かっていましたけど……それでも、私は桐乃の友達です。 親友です」

あやせ「だから私は、桐乃を信じました。 桐乃も多分、私を信じてそう言ったのだと思います」

あやせ「お兄さん。 桐乃のことが好きなお兄さん。 桐乃の本当の気持ちを分かるのは、分かってあげるのは私の役目では無いんですよ」

あやせ「それはきっと、お兄さんの役目ですから」

あやせ「ですが、お兄さんは分かってあげられませんでした。 責めるつもりなんて、勿論ありません。 私が上手く立ち回っていれば、こうはなりませんでしたしね」

桐乃の、気持ち。

嘘偽り無い本心。

それを俺は分かってあげられたのだろうか。

それを俺が、分かっていなかっただと?

……そんなこと、ねえよ。

あやせ「……どうしてでしょうね。 なんで、こんなことになっちゃったんだろう」

あやせは言い、空を見上げる。

あやせ「お兄さん、これでも一応、それなりに覚悟は決めているんです」

あやせ「もし、私を恨むのなら恨んでください。 罵声を浴びせるのなら、好きなだけ浴びせてください」

あやせ「全部、私は受け止めます」

どんよりと曇った空から、やがてぽつりぽつりと雨が落ちてきた。

京介「……恨みはしねえよ。 罵声も浴びせない。 お前は、悪くねえからさ」

あやせ「……お兄さん」

あやせがメールを送ってから数十分。

既に、桐乃は逃げているだろう。

もう、間に合わない。

もう、手遅れ。

京介「くそ……」

雨はやがて、強くなり。

あやせ「……ごめんなさい」

あやせはその言葉を残し、帰っていく。

俺はしばらく、そのまま雨に打たれていた。

京介「あいつ、今どーしてんのかね」

俺は空を見上げ、いつか会えると信じている妹のことを考える。

この世界のどこかで、多分あいつは元気にやっているだろう。

それとも、俺と同じことを考えているのだろうか。

……遠く離れてしまった今は、ちょっと分からないな。

違うか。

今も昔も、きっとこれからも。

俺はあいつのこと、何一つ分かっていなかったのだろう。

あやせは「恨んでくれても構いません」と言っていた。

馬鹿か。 そんなので一々恨んでられねえよ。

紛れも無く俺の所為で。

紛れも無く俺の失敗で。

どうしようもない、ことだった。

今ではもう、皆と会うことも殆ど無くなってしまった。

良くも悪くも、あいつが中心だったから。

それが無くなれば、崩れるのも当然かもしれない。

京介「情けねえなぁ。 こんなんで、いつか会った時どうすんだっつーの」

頭をぼりぼりと掻き、座っていたベンチから立ち上がる。

そろそろ帰るとするか。 明日も明日で仕事がある訳だしな。

空は青く、風は気持ちが良い。

空気は綺麗で、気温は心地良い。

しかし、心はどうしようもなく、曇っている。

それは恐らく、俺が大切な物を無くしてしまったから。

一番に気付かなければいけないことに、気付けなかったから。

絶対にしてはいけない忘れ物をあの日、してしまったから。

だが、いつかまた、一緒に笑えると信じて。

俺は今日も、一人歩く。


もう一つの結末 終

以上でIFルート終わりです。

お昼過ぎに、もう一本の方を投下致します。

乙、感想ありがとうございます。

二本目投下致します。

京介「ふぃー……」

桐乃「どしたの? そんな疲れきった顔して」

桐乃のサプライズ、結婚式を終えて帰宅し、一息付いたところ。

京介「……お前、昔からずっと思ってたけどさ、マジでタフだよな」

桐乃「そうかな? 楽しいことは全力でやらなきゃ損っしょ?」

京介「全力でやって、それでもお前いっつも体力ありあまってんじゃん」

桐乃「……なんかそーゆわれると、少し乙女心が傷付くんですケドぉ」

京介「はは、わりわり。 すげーなって思っただけだよ」

桐乃「すごい? えーっと」

京介「陸上も、モデルも、お前の趣味にだって、いつでも全力だろ?」

桐乃「まあ、ね。 それがあたし流だし」

京介「俺にはそーいうのは、今まで無かったからなぁ」

桐乃「ふうん。 ま、昔の京介見てるから分かるケド」

桐乃「あんた、いっつもだダラダラぐだぐだしてたもんね~?」

京介「へっ。 あれはあれでいーんだよ。 ほっとけ」

桐乃「ひひ。 でも……」

京介「ん?」

桐乃「んーん。 なんでもなーい」

京介「んだよ」

桐乃「あはは。 怒らないでって。 あたしご飯作るからさ、お風呂入っちゃいなよ」

京介「へいへい。 んじゃお言葉に甘えて」

湯船に浸かり、一人考える。

今日は、人生で一番の日だったと胸を張って言える。

これから先、多分色々な壁にはぶつかると思うが。

それでも、桐乃と一緒なら大丈夫だ。 あいつと一緒なら、俺は何度でも立ち上がれる。

そりゃそうだろ。 俺はあいつの兄貴なんだから、当然だ。

この数年間の間、あいつと過ごして分かったこと。

昔はとても強く見えた妹だったけど、そんなことなんてない。

……そういや、確か麻奈実は桐乃に昔「桐乃ちゃんが憧がれていた凄いお兄ちゃんなんて、最初から居なかったんだよ」と言った事があるらしい。

そりゃーそうだとは思う。 それは正しいんだろうさ。

だがそれでも、桐乃は今の俺を見てくれている。 妹の為に、桐乃の為に、行動する俺を。 それは勿論、俺の為であったりもする訳だが。

んで、桐乃のことだ。

その麻奈実の台詞を借りよう。

俺が凄いと思っていた妹なんて、最初から居なかった。

今だからこそ、だな。

そりゃあ、あいつはすげえよ。 自慢の妹だし、俺の誇りでもある。

足も俺なんかよりずっと速い、モデルもやってて、頭も良いし、美人だ。 そういや小説も出してたし、アニメ化とかもしてたっけ。

性格は……まぁ、俺から見たら超可愛いぜ。 他の奴が見たらどうかなんて知らん。 俺が見た桐乃の話をしているんだしな。

でも。

あいつのその結果は全て、努力から来ている物で。

それでもあいつもあいつで、弱いし脆い。 そんなの、当たり前だ。

だけどあいつは一人で頑張ろうとしてしまう。 いつだって。

俺に頼ってくれることは多いが、それでも超大事なときに限って、あいつは一人で突っ走る傾向がややあると思う。

昔に比べたら、そりゃある程度それも無くなったのかもしれんが。

それはそれで、あいつの良いところでもあるのかもしれんが。

だけど、俺は不安で不安で仕方ねえんだよ!

そう思って、俺は決めたんだ。

絶対こいつを手離さないって。 一生、一緒に歩いてやろうって。

あやせにも確か、昔そんなことを言われたっけな。 一緒に歩いてくれと。

……あいつ、こうなるの分かってたのかね? だとしたらすげー恐ろしいんだが。

さて、そろそろ上がるとしよう。 もう飯も出来ている頃合だろうしな。

京介「しかしよー、桐乃」

桐乃「んー?」

飯を食べ終え、パソコンに向かっている桐乃に話し掛ける。 大方、新作のチェック等しているんだろう。

京介「お前、いつから今日のあれって考えてたんだ?」

桐乃「秘密~」

京介「……そですか」

桐乃「……そんな知りたい?」

パソコンから視線を外し、俺の方に向けながら桐乃は言う。

京介「まぁ、気にならないって言えば嘘になるけど」

桐乃「ふうん。 もうすっごい前ってことだけ、ゆっとく」

京介「すごい前、か」

桐乃「うん。 その時は、皆も呼ぼうって思ってなかったケドね」

京介「あれはすっげえ驚いたぜ。 事前に俺のところになんも無かったからな」

桐乃「ひひ。 じゃ、大成功じゃん」

京介「はは、だな」

京介「……最初さ、本当に一番最初。 俺とお前がまだ仲悪かったとき」

京介「こうなるなんて、想像できたか?」

桐乃「無い無い。 あたしは昔から一途だったケドぉ。 京介はちょーふらふらしてたしね?」

京介「……すいませんでした」

桐乃「べっつにー? あたしはそんなの気にしないし?」

京介「そ、そうか」

桐乃「だからあたしが今からふらふらしても、問題無いよね?」

そんなことを言いながら、桐乃はにやにやと笑う。

京介「だ、駄目だ! それは駄目!」

桐乃「え~。 どうしよっかなぁ」

桐乃「う~~~~ん。 どーしても?」

京介「……どうしても」

桐乃「しっかたないなぁ! 京介がそこまでゆーなら、これからも一途でいたげよっかな」

……楽しそうだなぁ、こいつ。

桐乃「で」

桐乃はそう言うと、パソコンの前から移動し、俺のすぐ傍までやってくる。

桐乃「あんたの方はどーなの?」

京介「お、俺か?」

京介「決まってんだろ。 俺もお前と一緒だよ」

桐乃「そか」

桐乃はにやにやした笑いから、満足そうに笑う。 その笑顔に多分、俺は見蕩れていてしまった。

桐乃「ねね。 それっていつから?」

京介「い、いつからって……」

桐乃「いーじゃん。 あたしも答えてあげたんだし」

お前は大して答えになってなかったじゃねえかよ! けどだからと言って。

京介「……すっごい前から」

と、答えると。

桐乃「はぁ? そんなのダメ。 正確な時期が知りたいの」

って言う。 分かりきっていたことだ。

京介「ああくそ……俺がお前に告白した時だよ。 あのクリスマスの日から」

京介「正確に言えばもーちょい前だけどな……そんくらいの時期」

桐乃「ふうん……へえ。 そんな前からだったの? ずっと妹のこと好きだったんだぁ?」

京介「……わりいかよ」

桐乃「ううん。 すっごい嬉しい」

俺の顔を見て、桐乃は言う。 冗談じゃないなんてことは、すぐに分かった。

ほんっとにこいつは……不意打ちというかなんというか。

そうする度に俺の寿命が縮められている事実に気付いているのだろうか?

京介「そ、そか」

答えるのとほぼ同時、桐乃はそのまま近くにしゃがみ込むと、俺に抱き着いてきた。

桐乃「……」

京介「……お前、泣いてるの?」

桐乃「……ゆわないで。 色々、思い出してて」

嬉しくて、泣いているんだろう。 そのくらいは分かる。

京介「……そっか。 あったからな、本当に色々と」

そんな桐乃を俺は、頭を撫でて、抱き締める。

桐乃「うん……もうダメかって、何回も思っちゃったしね」

京介「……ああ、そうだな」

桐乃「でも、京介が居てくれて、兄貴が居てくれて」

京介「俺にとっちゃ、桐乃が居てくれて、妹が居てくれて、だけどな」

桐乃「あはは。 そっか」

桐乃「大好きだよ。 京介」

桐乃は言い、俺に唇を重ねた。

桐乃「ね。 京介」

京介「ん?」

桐乃「昔さ、この部屋にあたしが泊まったときに「ちゃんとケリをつけないと、そーゆうことはしない」って」

桐乃「……あたしはいちお、今回のでついたと思ってるんだケド……そっちは?」

京介「……俺もまあ、そうは……思う、かな」

桐乃「……そか」

京介「……おう」

……ここから先は、俺と桐乃、二人の話ということで。


そして二人は 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

>>685
こんな感じになりました!

かなかなちゃんの出番マダー?


ちょっと甘すぎですわ(歓喜)

一応和解も何も「馬鹿息子」と言ってくれたんだからそういうことだろ

乙です!
あやせはかなり暗い感じでしたね…
でも後半は砂糖が体中から飛び出していました。

思ったのですが、大介目線のあの日からを描いてみたらどうでしょう?

地味子さんに幸せは訪れるのだろうか

乙です。甘すぎてニヤニヤが止まらない。家族旅行話も見てみたいなこれ

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>747
かなかなちゃんは出番があれば……

>>761
大介目線は少し難易度ががが。

>>763-764
麻奈実さんはもうどうしようも無くなった! ごめんなさい。

>>765
少し考えて見ます。 自分でもどんな展開になるのか分からないので、難しいかもですが。


それでは本日の投下致します。

こ、これは試す価値があるのか……?

俺は昼間、アパートの一室でテレビを見ていた。

12月31日。 大晦日の日のこと。

例の如く、時を少し遡ろう。

桐乃はどうやら今日はモデルの仕事があるらしく、今は家に居ない。

一人暮らしから二人暮しに変わり、今はめちゃくちゃ楽しい毎日を送っている訳だが……。

二人で住み始め、まだ数日しか経っていない内に俺はあることに気付いた。

京介「案外、一人の時間って貴重なんだな……」

そりゃあ勿論、桐乃と一緒に喋ったり遊んだりしている時が一番楽しい。

楽しいのだが、プライベートな時間というのも必要な訳で。

桐乃もそれは同じだと思う。 だからこうしてどちらかが家に居ない時は、お互いがお互いに好きな事をして過ごそうと決めている。

で、桐乃の奴はどうやらエロゲーをやっているらしい。

何故それが分かったのかってのも、お隣から苦情が来たからだ。 奇妙な声が聞こえる、と。 今日の朝言われた。

出掛ける前に桐乃にはもう少し落ち着いてやってくれと頼んで、渋々だがあいつも承諾してくれたのは良い事である。

んで、俺はというと。

京介「……エロゲーやるにしても、なんだかなぁ」

そっち関連で行くと、冊子を眺めるのが楽しかったりするのだけど。

ついこの前、俺と桐乃が一緒に暮らし始めた日。 その日の内に桐乃には「そーゆうのを持っているのはイヤ」とはっきり言われてしまったしな。

そういう流れで今あるのはエロゲーだけなのだが、勿論桐乃の所有物である。

そんで、俺も別にエロゲー自体が好きって訳でもないしな……つうか、今あるのって殆ど桐乃にやらされてプレイ済みな訳だし。

適当に暇を潰せるアイテムとしては重宝しているが、それにしてもそれだけをやるってのも変な話だし。

桐乃みたいにフルコンプリートなんて、する気はさらさら無いしな。

仕方ない、テレビでも見るか……。

そう思い、テレビを付けたのが切っ掛けだった。

どこもかしこも大晦日特番だとかで、普通の番組は一切やっていない。

そんなのにはもう見飽きていたので、適当にリモコンでチャンネルを次々と変える。

京介「……ん?」

途中、俺のリモコンを操作している手は止まった。

それもそう、テレビ画面にはでかでかと、俺の動作を止めるだけのテロップが表示されていたから。

『新年を迎える前に! 今の彼女と更にラブラブに!』

京介「きたか……!」

思わずコタツからガタッと身を乗りだして、画面を見る。

やべ、誰にも見られていないよな? そう思い、辺りを確認。

当然誰かが居る訳も無く、ただ虚しい光景が広がっている。

京介「……一応、チェーン掛けとくか」

桐乃が帰って来る時間まではまだ大分ある。 しかし、どんな緊急事態が起こるかも分からない。 安全策は取っておくべきだ!

こんな番組を見ているのを桐乃に知られでもしたら、さすがの俺でも恥ずかしさから家を飛び出してしまいそうだし。

京介「……よし、完璧」

玄関扉にチェーンを掛け、再びコタツへ。

ミカンをぱくぱくと食べながら、テレビ画面に視線を向ける。

『仲良くなる秘訣その2!』

その1終わってるじゃねえかよ!! ふざけんな馬鹿ヤロー!!

こ、こんなことならチェーンなんて無視して、見ておくべきだったか……。

いや、後悔しても仕方ねえ! とにかくその2からでも良いから、見ておくんだ!

『その1を終えて仲良くなった後は……思い切って、コスプレを頼みましょう!!』

なんでそうなるんだ!? この番組……頭おかしいんじゃねえの!?

……いや、でもコスプレか。 ありっちゃあり、だな。 ふむ。

つっても、もうコスプレとかしてもらってるしなぁ。 写メも持ってるし。

ちくしょう。 駄目だ。 次だ次!

『仲良くなる秘訣その3!』

『その1とその2を済ませ、大分仲良くなったあなた達……ここで切り出してみてはどうでしょうか? 一緒の布団で寝ようと!』

無理だろ!? ん……? 思わず突っ込んでしまったが……普通に一緒の布団で寝てるわ俺。 未だに。

なんだよ、全然参考にならねえ!

『さぁ、次でいよいよ最後です!』

もう最後なのか? 今のところ全部既にやってることだから、どうしようもねえんだけど。

『その4!』

『仕事を終えたあなたは家に帰ります。 そして、玄関先で迎えてくれる彼女。 その彼女に思い切って抱き着きましょう!』

は、はぁああ!? 無理だろ!! 恥ずかしすぎる!! それは無い!!

『今までの行動に比べたら、こんなのはなんとも無いと思いますが……単純に愛を示す行動が一番だということですね。 それではまた~』

そうして、番組は終わる。

だ、抱き着くだと!? き、桐乃に!?

京介「……無理だろ」

し、しかし……俺は他のを全てやってしまっている訳だし……残されているのはそれしかない。

いや、抱き締めた事が無いと言えば嘘になるけど、あいつが帰ってきていきなりとか難易度高すぎやしねえか?

そ、それに? 桐乃は仕事終わって疲れているだろうし……。

やるとしても立場が逆だし……。

……。

……ああ分かったよ! やれば良いんだろ!? やれば!!

立場が逆なのは問題ねえしな、ぶっちゃけ。

……おし。 今日の俺はやると決めたらやりきってやる! なんつったってもうすぐ今年も終わっちまうんだからな! モヤモヤした気持ちで新年は迎えたくねぇ!

俺はその後、玄関で何回かシミュレーションをして、桐乃が帰って来るまでの時を過ごした。

あー。 つかれたぁ。

全く、大晦日だってのに急に仕事入るとか……サイアク。

って、新年まで後6時間も無いじゃん! うう、京介と一緒にごろごろしていたかったのに。

気分はほんっとどん底。 帰って、お風呂入って、ご飯食べて、寝ようかなぁ。

初詣も行きたかったケド……そんな元気無いし。

……また、京介には悪態を付いてしまいそうだ。

桐乃「……はぁ」

溜息を吐いても、既にアパートの部屋の前。

会いたいのに、嫌な思いをさせてしまいそうで会いたくない。

……ダメダメ。 そんな風に考えていたら、また京介に怒られちゃう。 せめて愚痴を吐いて、慰めてもらおっかなぁ。

そう思いながら、玄関扉を開ける。

鍵もチェーンも掛けていなかったのか、すんなりと扉は開いた。

桐乃「ただいまぁ」

京介「おう、おかえり」

桐乃「ちょ! なんでそこで待ってんの!?」

び、びっくりしたぁ! なんで!?

京介「ん? 別に良いだろ、待ってても」

桐乃「……そ、そうだケド」

……ヤバイヤバイヤバイ。 これはヤバイ!

一気に顔が熱くなるのが分かる。 うう、見られないようにしないと。

桐乃「……ふん」

そう言い、あたしは顔を若干俯き気味にしながら、京介の横を通り、部屋の中へと歩いて行く。

あーもう! どうして素直にお礼を言えないの! あたしは!

で、でも……恥ずかしいし? い、いつか言えばいいかなぁ……みたいな?

自分で自分に言い訳をし、すたすたと歩く。

その時だった。

京介「桐乃」

後ろから声が聞こえたと思ったら、京介が、抱き着いてきた。

桐乃「ふぇ!? な、なななななに!?」

桐乃「なっ! なんであんたいきなり抱き着いてんの!?」

じょ、状況を! 誰か状況を!!

京介「……あれだ、なんつうか。 そうしたかったから?」

そ、そうしたかったって……。

京介「わり、嫌だった?」

京介に多分、そのつもりは無いんだろうケド。

耳元で、囁かれるように声がした。

桐乃「い、嫌じゃない! 嫌じゃないケド……」

桐乃「ぎ、ギブ……」

足に力が入らず、腰が抜けてしまう。

つ、疲れの所為から! 多分そう!

京介「お、おい? 大丈夫か?」

京介はそう言いながら、あたしの体を支える。

やっばぁ。 これはちょーやばい。 ふひひひ。 さっきまでの嫌な気持ちだとか、全部吹っ飛んだんですケド!!

こ、これはどういうことだ!?

あのアホ番組を参考にして、帰って来た桐乃に後ろから抱き着いた。 そこまでは良いとしよう……いや、良くはねえかもだけど。

で、そうしたと思ったら桐乃は腰を抜かして床に座り込んでしまった!

……完全に俺の所為じゃねえか! これは、このパターンはあれだ。

今はこいつの顔はすげー緩みきっていて、俺としてはそれはもう嬉しいのだが。

後になって、ほぼ確実に俺は怒られる。 間違いねえ!

そんな俺の予感は見事的中。

桐乃が回復するまでに約一時間を使い。 正気を取り戻した桐乃に呼ばれ、俺と桐乃はコタツで向かい合っていた。

桐乃「……そんで、なんのつもりだったの」

コタツの布団で顔を少しだけ隠しながら、桐乃は聞いてくる。

京介「ええっと……な、なにが?」

桐乃「……とぼけないで。 さっきの」

京介「あ、あー。 あれか! はは、あれね」

桐乃「……」

じっと俺のことを見つめてくる桐乃。 どうやら、言い逃れは出来そうにない。

京介「そ、そうすれば桐乃ともっと仲良くなれるかなぁ……みたいな」

桐乃「……ばかじゃん」

京介「マジで悪かったって! お、お前があそこまでになるとは思ってなくてさ……」

桐乃「チッ……そりゃなるっつーの」

最後の方はもごもごと言い、俺の耳には入ってこず。

京介「え? なんつった?」

桐乃「な、なんでもない!!」

俺が聞き返すと桐乃はミカン攻撃を加えてくる。 もうこれにも大分慣れてきたので、そのミカンを見事キャッチし、コタツの中央へと俺は置いた。

京介「……本当に悪かったって、ごめんな?」

桐乃「そこまでマジで謝らなくても良いっての……」

桐乃「でも……いちおーさ、そうゆーのいきなりするの、やめてよ?」

桐乃「あたしだって驚くし、あんな風になっちゃうかも……だし」

京介「……おう!」

つまり嫌だってことではねえんだよな? へへへ、これは良い楽しみを見つけてしまったかもしれないぜ!

アホ番組に感謝だ。 ありがとう。

桐乃「ちょ、ちょっと待って……その顔、信用ならないんだケド」

京介「んなこたぁねーよ! はっはっは」

桐乃「……覚えときなさいよ」

それから数時間経ち、もうすぐ新年を迎えるというとき。

桐乃「ねね。 初詣行かない?」

京介「初詣かぁ。 おう、良いぜ」

桐乃「ひひ。 んじゃあ年越ししたら、即出発ね!」

京介「はいよ。 そーいや、お前って着物とか着ないの?」

桐乃「うーん。 和服はねぇ。 趣味じゃないし」

へえ。 振袖とか浴衣とか、めっちゃ似合いそうだけどな。

桐乃「仕事とかで着ることはあるけどぉ……なに? そうゆうのみたいの?」

京介「まぁな。 お前って何着ても最高に引き出せそうだし……って、そうだ」

京介「それで良い事思い出した。 桐乃! 一つ頼みがあったんだよ!」

桐乃「な、なに? 急に。 ……イヤな予感がするんですケド」

京介「今日さ、沙織とチャットしてたんだが……ちょっと待ってろ」

そう言い、俺はパソコンを立ち上げ、カタカタと操作する。

やがて目的のページを開き、桐乃を呼び。

京介「これ! これ着てくれないか!?」

その画面を桐乃に見せる。

桐乃「あ、あんた……これって」

京介「な? 良いだろ?」

桐乃「ば、バニーガールの格好しろってゆってんの?」

京介「そうだ。 頼む」

桐乃「……なんか、あんた自分の欲望を忠実に曝け出す様になったよね」

京介「良い事じゃねえか。 で、どうなの?」

桐乃「いーや。 絶対してやんない」

京介「んだよ。 折角衣装は今度沙織から借りるってのに」

桐乃「もうそこまで手を打ってる時点で、ちょっと怖いんですケド」

京介「……まぁ、仕方ねえか」

ああくそ。 ちくしょう……。 一度は見て見たい物だってにのによぉ。

桐乃「そ、そこまで落ち込むこと!?」

京介「だってよぉ……マジで見たかったし」

桐乃「……だ、ダメ。 それはさすがにダメ!」

京介「……おう。 俺も無理にとは言わないしな。 分かったよ」

桐乃「い、いつかね? 本当にいつか気が向いたら……したげる」

京介「ま、マジか! さっすが桐乃だぜ!!」

桐乃「なんかそれ、あまり嬉しくない……」

京介「いよっしゃあ! 今年は良い年だった! なあ、桐乃?」

桐乃「あたしは複雑な気持ちで新年を迎えそう。 誰の所為だとおもう?」

京介「さーな。 さっぱりわかんねー」

桐乃「チッ……むっかつく!」

そう言うと桐乃はコタツに入るべく、俺に背中を向ける。

なーんてな。 そんな気分で新年を迎えるのはさすがに嫌だろうし。

俺は椅子から立ち上がり、桐乃に再び後ろから抱き着いた。

京介「桐乃。 今年はありがとうな。 色々と、お世話になった」

桐乃「っ! だ、だから急にすんなってゆってんのに……ばーか」

桐乃「……あたしも。 今年は色々お世話になりました」

桐乃「来年もよろしく。 京介」

そして、一年は終わる。

新しい一年は、まだ始まったばかりだ。


新年へ 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

乙、やっぱ最高だわ!
桐乃視点ってのもやって欲しかったから大満足!
毎日本当に楽しみにしてます、あと半日頑張るぜ!

>>806
一応、明日投下予定の短編はALL桐乃視点からになってますー

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

あたしの名前は高坂桐乃。

今は高校生で、モデルの仕事をやってて、携帯小説が本になったり、アニメ化されたり、陸上をやってたりしてます。

それで……それで今は彼と同棲しているどこにでも居る普通の女子高生!

あたしはそんな彼のことがだ~い好き! マジで、世界中探してもあんなに格好良い人は絶対にいない! 断言できる!!

桐乃「……さすがにないかぁ」

今はモデルの仕事の自己紹介文を書いているワケだけど。

なんてゆうか、これじゃああたしじゃなくて京介の自己紹介じゃない?

うまく書けないんだよねぇ。 うーん。

1月の終わり、あたしはアパートの一室で紙と睨めっこをしていた。

桐乃「そだ。 あたしが書いてもうまく書けないってことは……」

桐乃「他の人に頼んでみれば、うまくいくかもじゃん」

机に突っ伏していた体を起こし、あたしは独り言う。

よしよし。 案外うまくいきそうじゃない? この作戦。

とゆーわけで、まずはあたしのしんゆ……知り合いの、黒猫に電話でもしようかな。

スマホをいじり、黒猫に発信。

桐乃「……」

一分ほど待って、ようやくあいつは電話に出た。

「もしもし。 生憎わたしは忙しいのだけど」

桐乃「出んのおっそ! てゆうかいきなりその台詞は無いと思うよ。 どーせまた呪いの儀式とかやってたんじゃないの?」

「ふ。 はずれね。 わたしがやっていたのは聖なる儀式……神との誓い」

桐乃「はいはい厨二病乙。 んでさぁ、あんたにちょっと相談あるんだけど、良い?」

「あなたがわたしに? 構わないけれど……あまりにも無理難題は勘弁して頂戴ね」

桐乃「だいじょーぶだって。 ちょー簡単なことだし?」

「だと良いのだけど……」

桐乃「きりりんのすごいって思うところとか、可愛いって思うところとか、挙げるだけだから」

ガチャリと音がして、通話が終了した。

桐乃「あ、ああああああいつ……!!」

な、なんで電話切った!? 信っじられないんだけど!!

苛立ちを募らせながら、リダイヤル。

今度は数秒もしない内に、すぐに繋がる。

桐乃「ちょっとあんた切るってどうゆーこと!?」

「あら? ごめんなさい、電波の調子が悪かったようね。 そうじゃなかったとしたら、わたしの耳がおかしくなってしまった可能性も否定できないわ」

桐乃「いい? あんたのボケてる耳にも聞こえるように、ゆってあげるから」

桐乃「きりりんのぉ、すごいなーってところとか、可愛いなってところと、ゆってみ?」

「……あら大変、悪魔が舞い降りてきたわね……丁度良い事だし、あなたに仕向けておこうかしら」

桐乃「さ、最後まで聞け! 別にあたしだっていきなりあんたに褒めさせようってゆってるんじゃないんだかんね?」

「そう言うと……ただの嫌がらせと言う事? ふ。 あなたらしいわ」

桐乃「ちーがーうっつうの。 モデルの仕事で自己紹介文を書く事になってさー。 それでけっこー困ってるんだよね。 今」

桐乃「いざ自分で書こうって思っても、どう書けば良いのか分からないっしょ?」

「そうかしら? あなたならそういうのは得意そうだけど」

桐乃「なんで?」

「ナルシストだから」

桐乃「は、はぁ!? あたしはそんなんじゃないっつうの! てゆうか、それをゆったらあんたの方が酷くない?」

「わたしが、ですって? 言ってみなさいな。 一体、わたしのどこがどうナルシストだと言うの?」

桐乃「まず、その喋り方。 「ですって?」とか「言ってみなさいな」とか。 それに私服がゴスロリってね(笑)」

「そ、そんなの個人の自由じゃない……それを言ったらあなただって同じよ。 初めてのオフのとき、あんな場違いな格好をしてきて恥ずかしくなかったの? 一人だけ「あたしは~、モデルやってますし~」みたいな格好をして」

桐乃「あたしにとってはあれがフツーなの! あんたの見方がずれてるんじゃなーい?」

「ふ。 何も分かっていない愚直な人間はこれだから……いい? 良く聞いておきなさい」

「何を基準に見るか、よ。 問題は。 確かに渋谷や原宿といった町ではあなたの格好の方が正しいのかもしれないわ。 それが基準だから、ね」

「だけど、秋葉原ではわたしのファッションの方が基準になるのよ。 逆に考えてみなさいな」

「わたしがあの格好で渋谷や原宿に居たらおかしいでしょう? 浮いていると思うでしょう?」

「それはつまり、秋葉原であなたがいつもの格好をするのと同じ事よ。 短絡的に捉えれば、わたしが渋谷や原宿であの格好をする恥ずかしさと同じくらいの恥ずかしさが、あなたが秋葉原でする格好にはある。 ということね」

……なんかメンドーになってきた。 てか説明長すぎ。

桐乃「おっけーおっけー。 んじゃ、そうゆーワケであたしの自己紹介文考えてよ」

「……あなた、何も聞いていなかったでしょう?」

桐乃「うん」

「……もう良いわ。 あなたは一生気付かない恥を掻いておけばいい」

桐乃「はいはい。 で、あたしの自己紹介文どうぞ」

「まぁ、大体の事情は分かったわよ。 そういうことだったのなら先に言えばいいじゃない」

桐乃「それをしようとしたらあんたが電話切ったんじゃん!? チッ……まあ良いケド。 で、あんたから見てあたしってどんな風に見えてるワケ?」

「仕方ないわね。 ならばわたしが今から言う言葉をその自己紹介文に書き入れなさいな」

桐乃「おっけおっけ。 よろしく」

「あたしの名前はぁ。 高坂桐乃でぇ。 現役女子高生。 みたいなぁ! えへ」

「んでぇ。 お金持ってるおかげで友達はいっぱいいるしぃ? 皆あたしの奴隷! みたいなかんじぃ(笑) うけるっしょ?」

「男なんて腐るほどいるしっ。 あたしのゆーことは皆聞いてくれる、ってことぉ。 きゃはっ」

「という感じでどうかしら?」

桐乃「ダメに決まってるでしょ!! あんたから見たあたしってどんな感じで見えてんの!?」

「強ち間違いでは無いでしょうに……ね? 京介」

桐乃「は? え……京介、そこにいんの?」

「あらあら。 ふふふ。 どうしたの、そんなに声を強張らせて。 慄いているのが電話越しでも分かるわよ?」

桐乃「そ、そんなの聞いてないっ!! きょ、京介と代わって!!」

「全く……仕方無いわね。 京介、電話よ」

「……」

桐乃「も、もしもし?」

「……」

桐乃「きょ、京介? 返事、して?」

「……」

桐乃「……お願い、お願いだから。 京介」

あたしが言うと、電話からようやく声が聞こえる。

「さすがにかわいそうになってきたわ」

黒猫の声が。

「冗談よ。 先輩が居る訳ないでしょう」

桐乃「あ、あんた……騙したの?」

「人聞きが悪い事は言わないで頂戴。 わたしがぬいぐるみに京介という名前をつけているだけの話よ……」

桐乃「あ、あんたねぇ!!」

「なぁに? 勝手に勘違いしたのはあなたじゃない。 ちなみに今の音声は録音済み」

桐乃「……今から会おう。 黒猫」

「……遠慮しておくわ。 出来れば後一ヶ月は」

桐乃「えっと……どうして一ヶ月?」

「一ヵ月後にはあなたの機嫌も直っているだろうしね。 それまではわたしは逃げ続ける。 悔しいのなら捕まえてごらんなさい! あっはっはっはっは!」

桐乃「こ、こんのぉ!」

「まぁそんな怒ることでも無いでしょうに……ね、桐乃」

桐乃「怒るっつうの!」

「……あなたに言ったんじゃないわよ」

桐乃「はぁ? じゃあ誰にゆったっつうの」

「もう片方のぬいぐるみよ。 桐乃という名前の」

桐乃「な、なに勝手にあたしの名前つけてんの!?」

「そんなのわたしの自由じゃない。 そうそう、このぬいぐるみには面白くも切ない話があるのだけど……聞きたい?」

桐乃「なんであんたの厨二妄想を聞かなきゃいけないワケ?」

「実はね。 この桐乃とこの京介は付き合っているのよ」

桐乃「……ちょ、ちょっと詳しく」

「……仕方ないわね。 分かったわ」

「昔は仲が良かった二人。 しかし、いつの日かすれ違い、お互いがお互いを避けながら日々を過ごしていた」

「そんなある日。 二人は偶然再会した。 それは何年か越しの再会」

「最初はお互いになんとなく相手との距離を計り損ねていたわ。 まぁ、それも当然の話でしょう」

「しかし、何度も何度も数々の問題を解決して、二人で乗り越えている内に、気付けばお互いに惹かれあっていた」

「……何度も何度も挫けそうになりながらも、支え合って、やがて」

「二人は、結ばれたわ」

桐乃「ちょ、ちょー良い話だね! マジで!」

「し、か、し」

「そんなある日、京介は桐乃に言ったの」

「「お前、何でいっつも俺にワガママしかいわねえの? あん?」とね」

「桐乃はそれに答えたわ。 「はぁ? あんたあたしの命令聞けて幸せっしょ? ん?」と」

「京介はついに我慢出来ず、家を飛び出し……そして」

「その先で出会った黒猫という娘と結ばれるの。 めでたしめでたし」

桐乃「な、なんでそうなるッ!? あんた絶対あたしたちに置き換えてるでしょ!!」

「あら? あなたが言うには厨二妄想とのことじゃない。 なら問題は無いはずだけど?」

桐乃「だけど!」

「それともなぁに? 心当たりがもしかしてあったり……」

桐乃「ない! ないないないない! あんたマジで許さないからね! この屑猫!!」

「く、屑猫……? ふ、ふふ。 良いわ。 あなたがその気ならこちらにも策があるのよ……」

黒猫がそう言うと、電話の奥でカチッとの機械音が聞こえてきた。

『も、もしもし?』

『きょ、京介? 返事、して?』

『……お願い、お願いだから。 京介』

桐乃「~~~~ッ! こんのぉ!!」

「ふふふふふ。 今からメールを送ってあげるわ。 あなたが心配で心配で仕方の無い先輩に」

桐乃「……チッ。 仕方ない」

桐乃「ゆっとくケド、あたしだってあんたの弱味なんていくらでも持ってるんだからね? その辺、分かってんの?」

「……わたしの、弱味ですって?」

桐乃「あっれぇ? この前スカであんた騙した時、どんなチャットしてたか覚えてないのぉ?」

「……そ、それは!!」

桐乃「た、し、かぁ? 「ど、どうしたの? いきなりだなんて」とかゆってぇ。 あたしが「いや、お前の顔が見たかった」みたいにゆったらぁ? 「そ、そう? わたしも丁度あなたの顔が見たかったわ」とかゆっちゃってぇ?」

桐乃「んでその他にもイ、ロ、イ、ロ、あるケドぉ……ま、あんたがその気なら仕方ないかぁ!」

「くっ……桐乃」

桐乃「なによ?」

「わ、わたしにもまだ手はあるのよ……だけど、これ以上はお互いにとってただの殴り合いにしかならないわ……やめましょう」

桐乃「……おっけ」

「さて、そろそろわたしは忙しいので切るわよ?」

桐乃「……結局あたしの話、なんも解決してないじゃん」

「別に良いでしょ。 適当に書いておけばいいのよ。 そんなのは」

桐乃「あんた……最初から真面目に考えて無かったっしょ」

「そんなことは無いわ。 自己紹介文に書けること。 一つ分かったわよ?」

桐乃「……期待しないで聞いたげる」

「あたし、高坂桐乃はお兄ちゃんが……京介が大好き! ってところね」

黙って電話を切った。

桐乃「あ、あいつマジでムカつくぅ……!!」

くうぅぅぅ! この恨みはいつか絶対晴らす!

そう誓い。 またしても紙と睨みあいを再開。

……にしても、京介は何してるんだろう。

今日は確か、夕方には帰るって聞いてるし、もうすぐ帰って来ると思うんだけどなぁ。

あ、そだ。 夜ご飯作らないと。

よし。 一旦はこっちの方は後回し。 ご飯ご飯っと。

京介「お前、本当に飯作るのうまくなったよなぁ」

京介がテーブルの上に並んだ物を食べながら、あたしに向けて言う。

桐乃「そ、そう? 元から才能あったしぃ。 当然じゃん?」

京介「おうおう。 さすがだぜ」

京介は言いながら、あたしの頭の上に手を置き、ぽんぽんと叩く。

桐乃「……早く食べないと冷めちゃうんですケド」

京介「ああ、だな。 わりい」

手を引っ込め、京介。

……もうちょっと撫でてくれても良くない!?

はっ。 違う違う! そうじゃなくって! する話があるんだった。

桐乃「ねえ、ちょっと相談あるんだケド。 良い?」

京介「ん? 何でも来い!」

言いながら、いつもの様な顔をする京介。

この顔を見るのが、少し楽しみだったりする。

桐乃「実はさぁ……」

そう切り出し、あたしは自己紹介文の件を説明。

……勿論、黒いのとのことは秘密で。

京介「うーん。 なるほどねぇ」

京介「で、何を書けば良いのか悩んでいる訳か」

京介「……前と一緒で良いんじゃね?」

前……前っていうと、あれか。

休日は大好きなお兄ちゃんと買い物をして過ごしています♪ ってヤツ。

桐乃「そ、それはダメ!」

京介「どうして?」

桐乃「だ、だって……今は毎日じゃん?」

京介「ぐっ……桐乃、ちょっとタンマ!!」

京介は慌てながら言い、置いてあった水を飲み干す。

京介「……あぶねぇ。 死ぬところだった」

桐乃「……今、そんなヘンなことゆった?」

京介「いや! そうではない、そうではないんだけど」

京介「……お前、自分の攻撃力を理解した方が良いぞ」

と、意味の分からないコトを言う。

桐乃「……ふうん? ま、良いや。 んでぇ、とにかくそれはダメなの。 他になんかない?」

京介「ううむ……なら、趣味とか……は書けないよなぁ」

京介「そうだ。 桐乃の良い所とか書けば良いんじゃね?」

桐乃「……だからそれは難しいんだって」

京介「なんで?」

桐乃「んじゃ、質問。 京介の良いところってなに?」

京介「……自分で言えってのは難しいな」

桐乃「でしょ?」

京介「じゃあさ、代わりに俺が桐乃の良い所を言うから、それ書けばいいじゃん」

きょ、京介があたしの良いところを? ちょっと期待しちゃうんだケド!

うう、なんて言ってくれるのかな?

桐乃「……ゆってみ?」

京介「そうだなぁ」

京介「可愛いだろ? 料理が美味いだろ? スタイルが良いだろ? 優しいだろ? 気が利くだろ? 髪が綺麗だろ? 笑顔が良いだろ? 寝顔も可愛いだろ?」

桐乃「た、タンマぁああああああああああ!!!」

京介「ど、どうした?」

桐乃「……京介、自分の攻撃力を理解した方がいいよ」

危ないから本当に! 死ぬかと思った……!

桐乃「と、とりあえず? それは分かったケド……それ全部書いたら、ただの嫌な女だと思うっしょ?」

京介「まあ……確かにそうだな」

桐乃「でしょ? だからダーメ。 もっと真面目に考えてよ」

京介「別に良いんじゃね? 嫌な女って思われても」

桐乃「は、はぁ!? 喧嘩売ってんの!?」

京介「だって、俺は何があってもそうは思わないし。 それじゃ駄目か?」

こ、こいつは……。

こいつはヤバイ! あたしを確実に殺そうとしてきている!

駄目なワケ無いっしょ!! 馬鹿なの!?

……落ち着こう。 もう今でも顔は真っ赤になっているだろうケド。 それでも一旦落ち着こう。

桐乃「と、とにかくー! もっと簡単な物でいいんだって! どこにでもありそうなカンジでいいんだって!」

京介「うーん。 んじゃあ仕方ねえな。 ちょっくら一緒に考えるか」

京介「ま、それは後回しでとりあえず、飯食っちゃおうぜ」

その後、京介とあーだこーだ言いながら内容を決めた。

最後は結局あたしが決めちゃったんだけどね。

内容は秘密で。

と言っても雑誌に掲載されたら見られちゃうんだろうけど、それまでの秘密。

決まった内容は。

高坂桐乃。

最近は、毎日お兄ちゃんと遊んでいます。 もっと仲良く出来ると良いな。


あたしのお兄ちゃん 終

以上で本日の投下終わりです。

乙ありがとうございます。


前スレからの投下分ってどっかにまとめられてないのかね?
それか文庫本に(チラッチラッ

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>878
もし良ければ、捨てアドなど貰えればそちらの方に本編分のtxtファイルなら差し上げること可能です。
同人誌は敷居ががが。


それでは、投下致します。
本日二本投下です。

2月のある日。 休日を堪能するべく布団の上でごろごろとしていたら、電話が鳴った。

京介「……もしもーし」

「随分とだらけた声ね。 大方、休日を堪能するべく未だに布団の上ということかしら?」

黒猫か。 つうか、なんで俺の状態をそこまで把握しているんだよ、こいつ。

京介「この部屋には監視カメラでも付いてんのか……」

「そのくらい想像できるわよ。 で、折角の休みのところ申し訳無いのだけど、今から秋葉原に行かない?」

京介「今から? うーん」

今日は確かに桐乃はちょっと用事があるとか言ってたし……。 多分、モデルの仕事だとは思うけど。

それもあり、暇っちゃあ暇なんだが。

んでも、だからと言って黒猫と二人っきりで遊ぶっていうのは……マズくね? さすがに。

そんな考えを予想していたのか、黒猫は電話越しに言う。

「桐乃には言ってあるわよ。 それにわたしと二人じゃなく、沙織も居るのだから良いじゃない」

京介「おおう。 そっか。 そういうことなら行くかな」

「全く。 わたしと付き合っている時は桐乃と二人っきりなんて良くあることだったんでしょう? それに桐乃の部屋で後ろから抱き締められたらしいじゃない」

京介「なんでお前はそれを知っているんだよ!! つうか、兄妹なんだから二人っきりなんてあって当然だろうが!!」

「あらあら。 わたしの情報収集能力を舐めないで頂戴」

……言ったのは桐乃の奴だ。 間違いねえ!

あいつめ、くっそ。 帰ったら説教コースだな! いつもは変にはぐらかされてしまうから、今日は一度びしっと言った方が良さそうだぜ。

京介「はぁ……んで、何時にどこ?」

「今から、いつものメイド喫茶で。 ちなみにわたしと沙織はもう待っているから」

……へいへい。 例の如くアキバね。 ま、沙織も居るって聞いた時点で大体の予想はしていたけども。

ていうかそれなら「今から行かない?」って聞き方をするんじゃねえよ。 道中の話し相手にでもなると思ったのによお。 結局独り寂しくアキバに行かなきゃならねえじゃねえか。

しかし一度行くと言った以上、断るのも気が引けてしまう。

俺はこうして、休日を珍しい組み合わせで過ごす事となったのである。

この三人で会うってのも無かった訳では無いが……まあ、珍しいよな。

一応桐乃にはメールを入れておき、俺は身支度を整えると駅へと向かった。

時間は経って、現在メイド喫茶。

京介「で、なんで俺を呼んだんだ?」

黒猫「別に。 特に理由は無いわよ?」

京介「……マジかよ。 ただなんとなくで俺は秋葉原まで来てるのか!?」

先にそれを聞いておくべきだったよな。 そうすりゃ俺もわざわざここまで来てるなんてことは……無いとは言い切れないのが悲しいところ。

沙織「まぁまぁ。 暇でしたのなら、別に構わないでござらんか。 京介氏」

京介「ちっくしょう……俺の折角の休日が……」

黒猫「布団の上で過ごすよりは有意義でしょう?」

手の甲に顎を乗せながら、黒猫は言う。 殆ど無理矢理呼び出しておいて偉そうだな、こいつ。

京介「メイド喫茶で過ごすのも有意義とは言えないよな?」

沙織「京介氏、我々にとっては、秋葉原で過ごすその行動にこそ、意義はあるのですぞ。 そこら辺、しっかりと分かってもらいませんと」

……なんで俺は説教されているのだろうか。

つうか、そんなの知らねえっつうの! どうでも良いわ!

京介「んじゃあさ、その有意義な過ごし方を教えてくれよ。 さすがにずっとここって訳じゃねえんだろ?」

俺が言うと、沙織と黒猫は少しの間顔を見合わせ、互いに頷く。

黒猫「仕方ないわね。 分かったわ」

沙織「それではいざ、参りましょうか」

こうして俺と黒猫と沙織は三人で、秋葉原の町中へと繰り出していくことになった。

はずだった。 つい数分前まで。

京介「沙織、黒猫は?」

沙織「と、聞かれましてもなぁ。 拙者はこっちに夢中でしたので」

そう言い、アーケードゲームの方を指差す沙織。

画面にはでかい文字で沙織の勝利を伝えるメッセージが流れている。

京介「なるほど。 なら仕方ねえな……じゃねえよ!!」

京介「黒猫迷子じゃねえかよ! 一応あいつだって」

……そういや、あいつってもうすぐ高三なのか、一応。

いやあ、時が流れるのははえーな。 マジで。

そして、時間の経過と共に黒猫の言動が治る気配が無いってのは少し心配になっちまうけど……。

まぁ、大学行く頃には気付くだろ。 さすがに。 そうだと思っておこう。

京介「ていうかそうじゃない。 沙織」

沙織「にん」

京介「黒猫と連絡取れないか? 俺、携帯忘れてきちゃったんだよ」

桐乃にメールして、そのまま置き忘れ。 気付いたのは地元の駅に着いてからだったが、わざわざ取りに戻るのもあれだったので、そのまま来てしまった。

それに集合場所は決まっていたしな。

沙織「ほほう。 京介氏ともあろうお方が……まさか携帯を忘れるなんて!」

京介「おい。 お前絶対馬鹿にしてるだろ、それ」

沙織「いえいえ。 拙者は心配しているのでござるよ」

京介「心配? 一体何を?」

俺が言うと、沙織は俺の方へ少しだけ身を寄せ、耳元で言う。

沙織「……拙者との愛のメールが、きりりん氏に見つかってしまってはマズイではござらんか」

京介「キモッ! 今日のお前なんかキモいぞ!! つうか話を脱線させるんじゃねえよ!」

いやいや、この台詞を言っているのが実は美少女なんてことは分かっているが……それでもキモイ! なんか今日の沙織は変だ!

……言っておくが、いくら沙織の素顔が美少女だとしても、桐乃の方が可愛いからな。 これは揺るがない。

沙織「はっはっは。 さすがに冗談が過ぎましたかな?」

京介「冗談ってレベルはとっくに過ぎてるけど……?」

京介「……まあ良い。 んで、黒猫と連絡は取れるか? 話戻すけどさ」

沙織「うーむ。 その必要は無いかと思いますが」

京介「どして?」

沙織「これですな。 先程、黒猫氏から届いたメールでござる」

そう言い、沙織は俺に自身の携帯を突きつける。

画面には黒猫からのメールが届いていて、内容は。

京介「ええっと……今日は疲れたので帰るわ。 後はよろしく」

京介「なんだよそれ!! あいつってそんな奴だっけ……?」

びっくりだぜ本当に。 疲れたので帰る。 しかもそれをメールで済ませるなんてさ。

いくら桐乃でもここまで酷くは……あるか? 普通にあるかもしれんな。

いやぁ! でも今の桐乃じゃ絶対にそれは無い! そんなことされたら俺泣くし!

沙織「落ち着いてくだされ、京介氏。 とにかくこうなってしまった以上、仕方ありませぬ。 今日は二人でデートと行きましょうぞ」

京介「ははは。 何が楽しくて俺はこんなところに居るんだろうな……」

こうして俺は沙織と二人で、秋葉原の町中へと繰り出していった。

はずだった。 つい数分前まで。

京介「……なんかすっげーデジャヴだな。 なんでだろうな」

独り言を呟きながら、辺りを見回す。

なんで沙織も居なくなってるんだよ! これってあれか? もしかして新手のイジメか? 俺なんか悪いことしたっけ?

理由は分からんが……だけど、とにかく謝っておくことにしよう!

つっても連絡取る手段が無いからなぁ。 とりあえず、町中適当に歩いて探し回るか……。

その後、俺は約数時間に渡り、一人で秋葉原を散策する。

んで、その結果は。

京介「……はぁ」

ただの時間の無駄、ってことだ。

マジ、休日が本当に休日じゃなくなってるじゃん! くっそお!

……居ない物は仕方ない。 今日はもう、帰るとしよう。

夕日で赤く染まりつつある秋葉原の街並みに切なくなりながら、駅へと向かって歩く事にした。

京介「……たっだいまー」

いつもの癖からそのまま引っ張った玄関扉は開いていて、それから桐乃が帰ってきていることが分かった俺は、そう挨拶をしながら部屋の中へと入る。

桐乃「お。 お帰り。 早かったじゃん」

コタツの中にうつ伏せで寝転ぶ桐乃が、俺の方に顔だけを向けて言う。

京介「……そう思う? よし、桐乃。 今から俺の苦労話をたっぷり聞いて貰うから、覚悟しとけよ」

そう言いながら、俺もコタツの中へ。

桐乃「ふうん。 ま、特別に聞いてあげてもいいケドぉ。 その前に!」

桐乃はうつ伏せから体を起こすと、俺の方に顔をぐいっと寄せた。

俺は当然、急にそんなことをされた恥ずかしさから、顔を逸らしながら。

京介「な、なんだよ」

と答える。 未だにこいつのこういうさり気無い仕草には、慣れないんだよな。

桐乃「はぁ~。 マジでわっかんないワケ? しっかたないなぁ」

桐乃「……ん。 これあげる」

言うと、桐乃は何やら少し大きめの箱を俺に手渡す。

京介「え、えっと?」

桐乃「だーかーらー! 今日、バレンタインデーっしょ。 チョコあげるっつってんの」

京介「……そういや、そうだっけ?」

桐乃「はぁ……これだからあんたは」

京介「わ、悪かったな。 ていうか、お前が俺にチョコくれんの!?」

桐乃「な、なに? 文句ある?」

京介「そ、そういう訳じゃねえけどさ……」

桐乃が俺に、チョコをくれるだと!?

以前、毒物みたいな石灰みたいなチョコを貰ったことはあるっちゃあるが……。 あれをチョコと形容するのは、ちょっと違うだろう。

ってことは! これが初チョコってことか!? 桐乃から俺への!?

なんというかあれだ!

京介「お前なんか彼女っぽいな!!」

桐乃「……彼女なんですケド?」

京介「……はは、そうだった」

ううむ。 とは言われても……。

いや、ここは素直に喜ぶべきだろ。 俺も内心超嬉しいし。

京介「ありがとな、桐乃」

桐乃の顔を見て、俺は礼の言葉を述べる。

それを聞いた桐乃は。

桐乃「ち、違うし! それ義理だし!!」

京介「ぎ、義理なの!? この状況で!?」

さっすがに驚くぜそれは!

桐乃「そ、そう! 義理チョコ!」

京介「……いやいや、この状況で義理っていうのは無理があるんじゃね?」

桐乃「……とにかく! それは義理! ギリギリで!」

京介「ぎ、ギリギリで?」

えーっと。

つまりどういうことだよ。 ギリギリで義理って。

桐乃「……三分の二くらいは義理だから」

ってことは残りの1割は何だよ! とは聞けないよな。 それくらいは察しろってことだろ。

京介「ま、まあとにかく嬉しいぜ! ありがとよ!」

桐乃「……うん」

桐乃「じゃ、じゃああたし、ご飯作るから」

そう言うと、桐乃はそそくさと台所へ移る。

その背中を見ながら、俺は桐乃から貰った2/3は義理チョコというのを箱を開けて見たのだが。

中にはチョコが三つ……なるほど。 そういうことね。

そう思い、携帯を開くとメールが二件。

一件は黒猫からで、もう一件は沙織からで。

俺は二人にお礼と一ヵ月後楽しみにしていろとの内容のメールを送り、台所で料理を作る桐乃の後ろ姿を眺めていた。


残りのひとつは 終

1割……?

以上で一本目終わりです。

少し時間置きまして、二本目投下致します。

>>908
あ……
最初に書いたとき2割にしていて、残りの1割って書いてたんですけど、その時の名残です。
1/3に脳内変換お願いします。

おつ

もしかして沙織、バジーナになってる?
あの格好ってもうしないんじゃなかったっけ?

>>912
あ、あれ……

時間空いてすいません。
二本目投下致します。

3月。

土曜日で学校は休み。 仕事の方も今日は休み。 で、暇。

京介が居れば、適当に二人で遊んで暇を潰せるんだけど……生憎、今日は大学で講義があるらしい。

……あたしと大学どっちが大事なの!? と言えば京介は休んでしまいそうだけど……さすがにそんなことは言えない。

で、あやせや黒いのとか沙織とかと遊ぼうと思ったのに。

思ったのに! こーゆうときに限ってみんな、忙しいみたいで。

黒いのと沙織は一緒に何やら同人誌の作業があるらしくて。

あたしも行こうかと思ったケド、手伝えるような内容じゃなかったのでやめておくことにした。

……することがなーい。

桐乃「新作のエロゲーも全部やっちゃったしなぁ……」

桐乃「シスカリも、一人でやってもつまんないし」

うーん。

テレビでも見ようかなぁ。

土曜日のお昼過ぎ。 チャンネルを回しても特に面白そうな番組はやっていない。

ある程度回して、やっぱ他の事でもしようかなと、思ったとき。

『最近ちょっと冷めすぎてる? そんな彼と、更にラブラブに!』

桐乃「きたか……!」

思わずテーブルから身を乗り出す。 勢いでテーブルに足をぶつけてしまい、ガタッとの音が部屋に響いた。

……誰も見てないよね? 今の。

誰かいたらそれこそ驚きなんだけど……一応、部屋の中を確認。

よし、誰もいない!

桐乃「いちお、チェーン掛けておこっと」

京介にもしこんな場面見られたらイヤだしね。 念の為、念の為。

あたしは玄関扉のチェーンを掛けると、再び居間に戻り、テレビに視線を向ける。

『仲良くなる秘訣その2!』

1終わってるじゃん!! ちょ、ちょっと巻戻し巻き戻し!!

あー! これ録画じゃないし! なんなの!?

……うううう。 ちょー悔しいケド。 仕方ない、その2からでも目に焼き付けておこう。

『二人の時間はとっても大切。 そんな時間を大切に使うため、二人で寝転んで一緒にゲームはどうでしょう?』

桐乃「ぐはっ!」

ふ、二人で寝転んでゲームだとぉ!? え、エロゲーなんてそんな状況で二人でやったらどうなるか分かってんの!? この番組!!

……いや、でもそういえばやったことあったよね。 確か。

桐乃「つ、次次!」

あ、そだ。 メモも一応取っておこうっと。

『仲良くなる秘訣その3!』

『一日の疲れを癒す物と言えば……そう、お風呂! そんな癒し空間で彼と二人っきり。 仲良くなること間違い無しです!』

桐乃「し、しねぇえええぇええぇえええ!!」

握り締めていたペンを構え、テレビに向ける。

……はっ。 テレビに恥ずかしがってどうすんのあたし!?

で、でもぉ……一緒にお風呂とかありえないっつーの!!

ん……あれ? そういえば前に一緒に入ったっけ?

桐乃「全然ダメじゃんこの番組!!」

む、むっかつくなぁ……折角あたしの貴重な時間を割いて見てあげてるのに、なんの参考にもならないんですケド。

仕方ない……これはもう、最後に期待するしかない!

あたしは心の中で言い、画面を凝視。

『仲良くなる秘訣その4!』

『普段通りのあなたとして接しても、いつかは飽きられてしまうかも……』

桐乃「ま、マジで!?」

『そんな時はいつもと違った姿を見せてみては? 張り切って、レッツコスプレ♪』

桐乃「意味わかんないんですケドぉ!!」

我に帰る。

テレビと会話って、なんかちょっとだけ寂しいな。

……で、でもコスプレって。

あいつはそりゃ……喜ぶとは思うケド……?

だ、だけど!

……。

……また言い訳して、終わらせちゃうのかな。

桐乃「っ! よし! やってやる!」

衣装は……そうだ。 この前のアレがあるはず。

よ~し。 京介が帰って来るのは夕方のはずだから……それまでに準備を済ませて、待ち伏せだ!

桐乃「えへへ。 ひひ」

半ば若干壊れながら、あたしは準備を始めるのだった。

京介「だっりー……」

大学生は楽な物だとばかり思っていたが、案外だるいことに気付いた今日この頃。

俺は仕事疲れで帰るサラリーマンの如く、アパートの一室へと向かっていた。

まぁ、だけど帰ったら超可愛い妹様が待っていると思うと自然と足取りも軽くなるってもんよ! はっはっは。

京介「……またゲームやらされるんだろうなぁ」

ぶっちゃけ、ここ最近の俺の生活サイクル。

ゲーム、大学、ゲーム、ゲーム、大学、アキバ、ゲーム。

おかしいぞ! 俺はもっときゃっきゃしたいというのに! そりゃアキバに行けば二人で飯を食ったり、新作のゲームを発掘したり、すっげえ楽しいんだけどさ。

でも、なんかこう……もっと刺激的なことは無い物か! と俺は思っていたりする。

たとえばだなぁ。

桐乃が「お帰り、京介♪」ってすげー上機嫌で出迎えてくれるとか?

桐乃が「京介、あーん」とかな?

そんくらいのことが起きない物なのかね! マジで!

そんなことを考えている内に、部屋の前へと到着。

うーん。

或いは桐乃がコスプレをして出迎えてくれる、とか?

はは、さすがにそれはねーよ! あったとしたら俺、この二階から飛び降りてもいいね!

そして玄関扉に手を掛け、引っ張る。

桐乃「おかえり、京介♪」

京介「入る部屋間違えたわ!!」

急いで扉を閉める。

……なんだ、今のは。

あ、あれか? 俺の目と耳が同時におかしくなっちまったのか!

あろうことかあの桐乃が……バニーガールの姿をして上機嫌で俺の帰りを待っていてくれただと!?

ありえん! 断じてありえん!

もうどのくらいありえないかっていうとだな……桐乃がある日「京介、実はあたしって男なんだ……」とか言うくらいありえねえ!

……想像したらちょっと気分が悪くなってきたな。

いやいや、それより現状だろう。

ま、まず部屋の番号は……俺の部屋、だよな。

だが、中の光景がありえないことになってしまっている。

しかし、恐らく嬉しいことにというか、俺の目と耳は正常のはず……。

だとすると。

答えは一つ。

宇宙人か! 桐乃の奴、宇宙人に薬でも打たれちまったのか!?

俺の妹に、彼女になんてことをしやがる! 許さねえぞ!!

桐乃「ね、ねえ?」

空を見上げ、今にも叫びだしそうになっていた俺に声が掛かった。

玄関扉から顔だけを出し、桐乃が俺に向けておどおどした視線を向けている。

……耳が可愛いな、これ。

じゃねえええっっよお! どうしちゃったのこいつ!?

京介「お、おおおお前に聞きたいことが山ほどあるんだが……と、とりあえず中入るか」

出来るだけ平静を装い、桐乃に言うと、部屋の中へと入る。

今、俺は最強破壊兵器を目の前にしているわけだ。

……こいつはヤバイ。 とりあえず、かるーく状況説明するぜ?

テーブルを挟んで、俺と桐乃は今向かい合っている。

で、何故か俺も桐乃も正座。

桐乃の方はぺたんとした感じ。 女の子座りって言うんだっけ? あれだ。

頬は紅潮していて、手遊びをしながら、時折俺の顔色を窺っている感じだ。

さっきからずっとこれ! ヤバイだろ?

な、何を言えばいいんだよ。 これって俺にどうしろってメッセージなの!?

……どうするべきなんだ、これは。

このイベントの選択肢はマジで分からないぞ! いくら俺が冴えている時期でも絶対に無理!!

し、しかたねえ……ここは飛びぬけた事でも言って、桐乃の調子を戻す作戦……でいくか。

京介「な、なあ。 桐乃」

桐乃「……?」

手は未だにもじもじとしながら、きょとんとした顔をしながら、桐乃は頭をかくんと傾ける。

死ぬ! 俺ちょっと死ぬかもしれん!

だ、だが言わなければ……。

このままでは俺の体力やら気力やら、根こそぎ吹き飛んでしまうだろうし!

京介「……写真、撮らせてくれ」

よし……これでこいつはいつも通り近くにある物を俺に投げつけて、一件落着だ。

……嫌な一件落着だけどな。 でもこうするしかねえんだよ。

桐乃「……ん」

言いながら、頷く桐乃。

……よっしゃきたあ!! 実はちょっと期待してたもんね! やったぜ!!

で、携帯片手に桐乃の姿を写真に収める俺。

お互いにひと言も話さないので、シャッター音だけが部屋に響く。

……俺って、もしかしたらかなりの変態なんじゃねえのか?

なんて思ってしまう程の状況だ。 どうしてこうなった。

だが、そんなことで俺の手は止まらない。 だってすげえレアじゃん!

それを続ける事、数分。

桐乃の姿を撮ることに集中していた俺は、全く気付かなかった。

桐乃も桐乃で明らかにいつも通りでは無かったので、気付いていなかった。

来訪者に。

黒猫「……ごめんなさい。 プレイ中だったかしら」

沙織「は、はっはっは。 これは中々に」

声のした方に顔を向けると、そこには見慣れた俺のお友達。

京介「な、なんでいんのっ!?」

黒猫「何故、と言われてもね。 桐乃の遊びを断ってしまったから、寂しがっているのじゃないかと来てみたらこれという訳よ」

沙織「……まあ、きりりん氏も寂しくは無かったようですがな」

俺の見られ方が変わった瞬間じゃねえの、これ。

京介「え、ええっとだな……はは、これは」

慌しく、視線をあちらこちらに移す。

一瞬視界に入った桐乃は、恥ずかしさからか今にも泣き出しそうな顔をしていた。

京介「と、とりあえず一回外出ようぜ? 桐乃も着替えたいだろうしな?」

桐乃はその言葉に小さく頷き、俺は沙織と黒猫を部屋の外へと追いやるのだった。

黒猫「で、何があったのよ?」

数分後、着替え終わった桐乃に呼ばれ、俺と黒猫と沙織は部屋の中へと入る。

今現在はテーブルを4人で囲っている状態。 まるで何かの会議みたいな光景だな……。

桐乃「な、なにってゆわれても……気分?」

黒猫「いえ、別にあなたのコスプレについてじゃないわよ?」

京介「それ以外に何か突っ込むところ、あったか?」

俺が聞くと、黒猫はギロリと睨む。 恐ろしい視線で。

黒猫「あなたがどうして物凄く幸せそうな顔をしながら写真を撮っていたのかって話よ」

あ、あー。 そっちね。 ははは。

沙織「ははーん。 さては京介氏。 撮った写真を売り捌いて一儲けするおつもりだったのでは? 拙者にも言ってくれれば良い物を」

京介「なんでそうなるっ!? 桐乃の写真は俺だけの物だ!!」

沙織「は、はは。 そうでござるか。 ははは」

桐乃「ちょ、ちょっと京介。 やめてよ……」

京介「お、おう……わり」

桐乃「……別にいいケド」

黒猫「それで、話がずれているわよ。 どうしてあなたはエロい顔をしながら写真を撮っていたのかしら?」

エロい顔ってな……お前。

京介「そりゃ、桐乃がエロい格好をしてたから?」

バシン。 という音と共に頭を叩かれる。 勿論桐乃から。

京介「……は、はは」

すっげえ汚い物を見るかの様な目で見られているんだが! 俺ってそんな酷い事言ったか? 今。

黒猫「だとしてもあんなに嬉しそうな顔をして……気持ち悪いわ」

京介「わ、悪かったって……つうか、そんなことよりお前らはどうして俺の部屋に無断でずかずか上がりこんでいるんだよ!」

沙織「それは前からの癖、ですかな? 拙者たちの集合場所みたいな物なので」

俺の部屋を勝手に集合場所にするんじゃねえっつうの!

黒猫「別に良いじゃない。 迷惑かしら?」

京介「……迷惑、とは言ってねえけどよ」

桐乃「あたしも、別にそうは思って無いケド」

黒猫「あら。 それは嬉しいわ。 ありがとう。 でも次からは一応連絡は入れるわね。 二人で破廉恥なことをしている場面には遭遇したくないから」

京介「し、しねえぇえええよ!! するかアホ!」

黒猫「ふふふふふ」

その後、少々の雑談をした後に、黒猫と沙織はようやく家へと帰って行ってくれた。

京介「……そ、そんで。 さっきのって」

桐乃「あ、あー。 あれね。 あれは多分、気付いたら」

京介「気付いたら!? お前気付いたらコスプレしてんの!?」

どう考えたって言い訳じゃねえかよそれ!

桐乃「……う、うう。 その、さ」

桐乃「そうすれば、京介喜ぶかなぁって。 もっと仲良くできるかなぁって、思って。 ……そんだけ」

そういう桐乃の声はいつもより格段に小さい。 黒猫や沙織に見られたのが多分、恥ずかしかったのかもしれない。 勿論、今言った言葉その物からも来ているのだろうけど。

それより、なんだか身に覚えがあるパターンだな……なんでだろ。

京介「お、おう……そうだったのか」

献身的すぎる……。

で、でもこいつは以前に比べたらかなり素直になったし、そう言うならそう言うことなのだろう。

桐乃「な、なに?」

京介「久し振りに、一緒に飯作ろうぜ」

京介「俺はそれが嬉しいし、仲良く出来ると思うんだけど、どうだ?」

桐乃「きょ、きょーすけがそうゆーなら、作ろっか、一緒に」

京介「おう」

桐乃と一緒に料理するのって、あれ以来だよな。 あのカレーを作ったとき以来。

そう思うと、なんだか少しの懐かしさを感じる。 今じゃもう、俺が教えられる立場になってるんだもんな。

その後、二人で作った夜飯を食べ終えた俺たちは、テーブルを挟んで雑談中。

京介「中々上手くできたんじゃね?」

桐乃「……かな?」

京介「味も美味かったろ」

桐乃「……うん。 まあね」

ちなみに。

ちなみに俺は、当然先程から桐乃に元気が無いのは気付いている。

それは俺が帰ってきてからずっとのことで、俺はその理由にも行き着いている。

京介「あーっと、そうだ。 桐乃」

そんな訳で、俺は今思い出したかの様な口ぶりで桐乃に話し掛け、密かに持ち込んでいた紙袋を桐乃の前に差し出した。

だってさ、実はずっと頭の中にそれがあって、お前にいつ渡そうか悩んでいたんだ! なんて恥ずかしくて言えねえって。

だからこんなついでみたいな感じで申し訳ないとは思うのだが、こいつの場合はこれでいい。

京介「これ、バレンタインのお返し」

桐乃「え? あ、あんた覚えてたの?」

京介「おいおい、さすがに俺もそこまで抜けちゃいねえぞ……」

桐乃「……へ、へえ。 そか。 ふうん……ひひ」

桐乃「てゆうか、あんた演技下手すぎじゃない? 絶対準備してたっしょ、これ。 今思い出したみたいにゆっちゃってさぁ」

な? そんなことなんてすぐばれちまうんだから、意味ないんだよ。

京介「へっ。 ほっとけ」

桐乃「照れてんのぉ? ウケるぅ~」

桐乃「まぁ? 折角貰った物だしぃ。 貰っといてあげよっかなぁ」

京介「はは、そりゃありがたい」

桐乃「……その、ありがとね。 京介」

ほんっと、支離滅裂な奴だな。 貰っといてあげるの後にありがとうだぜ? どういうことだっつーの。

京介「別に。 俺は俺がしたいようにしてるだけだって。 で、俺が今したいのはお前と仲良くすることだって話」

桐乃「そ、そか。 ならさ、京介」

桐乃「エロゲー、やろ!」

結局そこに落ち着くんだよな、こいつの場合は……。

やれやれと思いながらも、俺はやっぱり言ってしまう。

京介「おう。 エロゲーやるか!」


返す気持ち 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

乙!
久しぶりに妹とエロゲーするかな……

>>959
2次元と3次元を一緒にするのは良くないかと!!!


今気付いたらもう950レスなんですね。
レス余裕あれば、明日に短編1本→次スレって流れにします。
余裕無い場合は適当な小ネタ的な物を作りまして、埋めさせて頂きます。

一応、埋め立てされた場合のことを考えてスレタイだけ。

京介「ただいま」 桐乃「おかえり」

上記にて次スレ、こちらのスレが埋まり次第立てます。

それならどっかのアップローダーにパス付きでアップして貰いたいかも?欲しい人は結構いそうだし

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>967
の方がよさそうですね。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4334572.zip.html
上記にzipにて、1話~25話のtxtファイルうpしました。

小ネタ投下します。

本編や短編とは完全に無関係の話となります。

桐乃「よ。 久しぶり」

京介「おう。 なんつうか、あれだなぁ」

京介「やっぱ、この家が一番落ち着くんだよな」

桐乃「あんた、殆どこっちに帰ってこないしね。 そりゃそうなるよ」

京介「落ち着くっていうか、懐かしいの方が正しいのかもしれねえけど」

京介「とりあえず、桐乃。 一年振りだな」

桐乃「なに? 急に」

京介「んだよ。 久し振りの兄妹水入らずの会話だぜ? もっと可愛く「お兄ちゃんがいなくて寂しかった」くらい言えよ」

桐乃「ひひ。 あんた、まだそんなこと言ってるんだ? 成長しないねぇ」

京介「うっせ。 それより元気してるか? 皆」

桐乃「まあね。 あやせとは時々買い物に行くし、加奈子も面白い噂とか、結構聞くしね」

桐乃「沙織ともちょくちょく遊んでるよ。 未だにアキバだけど」

京介「そっか。 また、皆で集まりたいなぁ」

桐乃「言っとくけど、あんたの所為で集まれないんだからねー? 仕事仕事仕事って、妹のあたしと仕事、どっちが大切なの?」

京介「すげえ台詞だな……それも」

京介「ま、一応答えてやろう。 勿論、お前の方が大切だぜ!」

桐乃「ひひ。 シスコンきもーい!」

京介「はっ。 何とでも言え」

桐乃「あはは。 なんか、昔思い出しちゃうね」

京介「昔?」

桐乃「あんたとあたし。 色々と面白いことがあったじゃん?」

京介「……あー。 それか」

桐乃「……うん。 ちょっと、懐かしいな。 あんたと話すと昔を思い出しちゃう」

京介「それが、嫌だって?」

桐乃「嫌じゃないよ。 思い出だからさ。 でも、やっぱり馬鹿だったなぁ……とは思うけどね」

京介「どーだかな。 それはもっと生きてみないと分からねえや」

桐乃「……そか。 そうだよね」

桐乃「あ! ちょっとだけ話戻すけどさ、黒猫は元気にやってんの?」

京介「ん? あー、あいつか。 まあ、それなりにはな」

桐乃「ふーん。 気まずくない? 一緒の仕事とか」

京介「そうでもねえよ。 でも、時々黒猫って呼びそうにはなるけどな?」

桐乃「あはは。 それはマズイっしょ」

京介「むしろ、一回呼んだけどな……」

桐乃「あ、あー……どんまい」

京介「……おう」

京介「そんで、そっちの方はどうなの?」

桐乃「んー? そっちって言うと、あやせたちの事は話したし……子供たち?」

京介「そ。 元気してんのかなって思って」

桐乃「毎日大変だっつーの。 それがまた、楽しいんだけどね」

桐乃「今は一応平日だから、学校行ってるよ。 もうすぐ帰ってくると思うけど」


京介「あー。 そうか。 んじゃあ、俺はそろそろ行くとするかな」

桐乃「会ってかないの?」

京介「いやいや……おじさんって呼ばれるの、結構ショックなんだぜ?」

桐乃「あはは。 かわいそー。 おじさん」

京介「うっせ。 お前もいつかお婆ちゃんって呼ばれるんだから、気をつけとけよ?」

桐乃「うわ。 それ想像したくないんですけど」

京介「ま。 まだ大分先の話だろうけどなー。 んじゃあ、俺は行くよ」

桐乃「はいはい。 またね。 次はいつこっちに戻ってくるの?」

京介「なんとも言えねえなぁ。 そんな長くはならないと思うけどさ」

京介「悪いな。 なんか、こんなたまにしか会えない奴で」

桐乃「なーに言ってんの。 もし顔見たくなったら、あたしがそっち行けば良いしね? アメリカよりは近いし」

京介「……お前、毎回その話出すのやめろよ。 思い出す度に若干恥ずかしいんだからよ」

桐乃「ひひ。 ほらほら、早く行かないとおじさんって呼ばれちゃうよ?」

京介「へいへい。 じゃ、またな。 桐乃」

桐乃「うん。 気を付けて、行ってらっしゃい」



あるひとつの未来 終

以上です。
即興で作ったので、誤字脱字あったらごめんなさい。

短編の方は、新スレにて夜辺りに投下致します。

新スレ立てました。

京介「ただいま」 桐乃「おかえり」
京介「ただいま」 桐乃「おかえり」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373702134/)

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