提督「さよなら、ないない駆逐隊!」 (107)
天津風「うっ……なにこれ……くさっ……」
島風「こんなの……聞いてない!」
提督「今さら何を言っているんだ。君たちの方から誘っておいて」
浜風「たしかに話を持ち掛けたのは我々ですが……」
浦風「まさか、こがぁなことになるなんて……」
提督「君たちの覚悟はその程度のものだったのか? ほれほれ」
時津風「うえぇ……苦そう、アツそう……あと、くさい」
雪風「この辺り、なんかネバネバしています!」
提督「なんでもすると言うから、ここまで用意したのに……悲しいなぁ」
天津風「だからって……だからってこんな粗末なもの! お口に入れられるワケないでしょー!!」
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前
①提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」( 提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
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②提督「踊れ、ないない駆逐隊!」( 提督「踊れ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
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③提督「輝け、ないない駆逐隊!」( 提督「輝け、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461932975/) )
④提督「走れ、ないない駆逐隊!」( 提督「走れ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473942099/) )
提督「粗末なものとは失礼な。これはとある戦艦が、愛情とその他いろいろな物体を込めて作り上げた特製カレーだぞ?」
島風「そんなの見ればわかるよ! ……いや、明らかにカレーの色はしてないけど!」
時雨「あ、あの……僕たちが呼び出されたのってもしかして……」
暁「それはもちろん……あ、暁たちの助っ人としてよ……」
夕立「イヤっぽいー! 夕立、死にたくなーい!!」
暁「響がまた勝負を安請け合いするから……」ムスー
響「暁だって、挑発されて悔しそうにしてたじゃないか」
電「お、落ち着くのです! ケンカは良くないのです!」
雷「皆で力を合わせれば大丈夫よ! 私……応援してるから!」
電「雷ちゃんもちゃんと参加するのです」
島風「う~……浜風がリベンジするべきだって言うから」
浜風「暁たちへのリベンジは、我々の成長を示すために必要なこと。事実を言ったまでです」
浦風「そもそも、勝負の方法を提督さんに決めさせるってゆぅた天津風の責任じゃ」
天津風「あたしのせい!? だって! 勝手に決闘みたいなことしたら怒られるじゃない!
っていうかそもそも、あたしは普通に演習の申請を出そうとしたのに、
時津風が提督にくじ引きで決めてもらおうって訳わかんないこと言い出すから!」
時津風「普通、あんな勝負がくじの中に入ってるなんて思わないもん!」
雪風「ハイ! 何か行動を起こそうと言った、島風ちゃんが悪いと思います!」
島風「だーかーらー! それで浜風がリベンジしようって言うからー!」
提督「話がループしてるぞ……」
~ 数分後 ~
提督「そろそろ落ち着いたか?」
天津風「あたしたちは誇り高き陽炎型……。どんな過酷な状況にも、立ち向かわなきゃならない……」
夕立「提督さぁーん。夕立たち、これ参加しないとダメっぽい?」
提督「ふむ……たしかに、挑戦者であるないない駆逐隊にとっては意味のあるものだろうが、
君たちからすれば、このままでは勝っても負けても旨味がないな」
雷「そうよ司令官! 私たち、せめてご褒美が欲しいわ!」
提督「たしかになぁ……うーん、この鎮守府で一番偉い人からハグのプレゼントとか?」
響「それは要らない。私たちが勝ったら、その偉い人に何でも一つだけ命令できる権利を得るということで」
時雨「いやいや、さすがにそれは―――」
提督「よし、それでいこう」
時雨「いいんだ……」
提督「素っ裸で踊れ、尻を叩かせろ、一日ペットになれ……何でも聞いちゃうぞ、その偉い人なら」
電「そういうのはいいので、普通にアイス一年分とかがいいのです」
天津風「冷静な判断ね」
時津風「えー、ずるーい。そっちばっかー」
浦風「こっちが無理言うてお願いした勝負じゃけぇ、わがまま言わんの」
浜風「どのみち何でも命令できるのなら、中央鎮守府への帰還を希望するでしょうし、同じことです」
提督「ではさっそく、天津風チームVS暁チームによるカレー対決! ルール説明を開始する」
雪風「ハイ! たくさん食べたほうが勝ちだと思います!」
提督「その通り、より多くのカレーを口にしたチームが勝利。ただし、勝負には時間制限を設ける」
浦風「時間内にどんだけ食べられるかが勝敗を分けるってことじゃね」
提督「そして、たとえ時間内であってもチーム全員がその場から逃げ出したり、
気を失っていたら、その時点で敗北が決定する」
浜風「何のルール説明をしているのか分からなくなってきましたね……」
提督「他にも、食べ物を粗末にしたり、相手に暴力をふるったら、鎮守府コンプライアンス違反で反則負けだ」
天津風「ご丁寧に勝負の抜け穴を塞いでくるなんて、あたしたち駆逐艦をよく理解してるじゃない……!」
提督「ルール説明は以上だ。それじゃあ皆、用意はいいな? カレー対決、よーいスタート!!」
カーン!!
~ 数分後 ~
一同「…………」
提督(誰も食べ始めないな……)
天津風(島風……あなた、ちょっと食べてみなさいよ)
島風(イヤだよ死にたくないもん!)
天津風(カレー一口食べただけで死んだりしないって)
島風(じゃあ天津風ちゃんが食べなよ)
天津風(…………し、島風が食べたら食べる)
島風(もーっ!)
時雨「…………」カチャ
夕立「時雨がスプーンを……まさか……」
一同「………………!?」
時雨「こんなことわざを、知っているかい?」
一同「………………??」
時雨「……『雨は、いつか止むさ』」
雪風(そんなことわざがあるのですかっ)ヒソヒソ
時津風(いや、無いと思うけど……)ヒソヒソ
天津風「時雨、ちなみにそれはどういう意味なの?」
時雨「止まない雨はない、という意味なんだ」キリッ
夕立「極度の緊張と異臭で、時雨の頭がヘンになっちゃったっぽいー!?」
時雨「見ていてよ皆。僕がきっと、皆を勝利に導くから」
一同「………………っ!!」
時雨「」パクッ
時雨「そうか……なるほど」モグモグ
天津風「あ、あれ……? 意外と無事……?」
時雨「このカレーを食べて、ひとつ分かったことがある」
夕立「し、時雨……? 平気っぽい?」
時雨「僕らが住むこの惑星は、カレーライスだったんだ」
天津風「……は?」
時雨「そして僕らは……広大なカレーを泳ぐ、一粒の米粒だったんだね……」バタッ
夕立「うわーーー!! 時雨がワケ分かんないこと言って倒れたっぽいーーーっ!?」
島風「私、絶対食べないから」
天津風「うん……ごめん、あたしも」
浜風「とはいえ、少しマズイことになりましたね」
浦風「時雨が一口食べたけぇ、このまま時間が過ぎりゃぁうちら……」
時津風「こっちも誰か食べないと……!」
天津風「なんとかしないと……浜風、何か作戦とかないの?」
浜風「……ひとつだけ、考えがあります」
浦風「おぉ、さすが浜風! どんなどんな?」
浜風「このカレー……一体何が混入されているのか見当もつきませんが、
とにかくこれは、人を死に至らしめる劇薬です。
この毒を口にして正気を保つことは、はっきり言って不可能です」
天津風「辛口評価ね……カレーだけに」
浜風「ですがお米はどうでしょうか? いくら絶望的なまでに料理下手だったとしても、
お米で死に至ることはないはずです」
島風「おおー、じゃあつまり、カレーは避けてライスだけ食べればいいってこと?」
浜風「その通りです。たとえライスのみでも一口は一口ですから」
天津風「さすが浜風ね。たしかにその考えは一理あるわ。さっそく食べてみましょ。ねっ、時津風!」
時津風「えっ、なんで時津風なの!?」
~ 数分後 ~
時津風「あばばばば」チーン
島風「あーあ」
天津風「時津風……どうしてこんなことに……」
浜風「尊い犠牲でした」
浦風「うちら、時津風のこと、忘れんけぇね……」
電「はわわ……これでまた振り出しなのですっ」
雷「そんな……また誰かが犠牲になるしかないのね……」
夕立「うぅ~……時雨の死を無駄にしたくないっぽい……!」
※死んでません
暁「大丈夫よ皆! なんたってうちには、何度でも蘇る不死鳥がいるんだから! ね!」
シーン
暁「―――って、響いない!?」
雷「逃げたわね」
電「逃げたのです」
天津風「ふふふ、どうやら不死鳥の名は伊達だったようね!
うちには幸運の駆逐艦がいるんだから! さぁ雪風、奇跡を見せてあげて!」
シーン
天津風「―――って、雪風もいないじゃない!?」
浦風「相変わらず要領のえぇ子うやのぉ」
浜風「まぁ、奇跡でどうこうなる問題ではないですからね」
島風「ねぇどうするの天津風ちゃん! このままじゃ私たち、勝てないよ?」
天津風「わ、分かってるわよ! 今考えてるから!」
天津風( 落ち着くのよ天津風……。まずは状況を整理するの。
勝利を得るためには、あの毒物を食べなきゃならない……。
でも食べたら死ぬ……死にたくない…………全然いい考えなんて浮かばない)
島風「そうだ天津風ちゃん! 時間内に敵を全員ダウンさせちゃえばいいんだ!」
天津風「なに物騒なこと言ってんのよ」
浦風「そもそも暴力は反則っていうルールやったけぇ」
島風「うーん、いい考えだと思ったのに」
天津風「まったくもう何おバカなこと……―――いや、アリかもしれないわ」
浜風「どういうことですか?」
天津風「あたしたちは駆逐艦よ。勇猛果敢が売りだけど、
巨大な敵相手に考えなく真正面から突っ込むほど命知らずじゃないわ」
島風「おぉ……天津風ちゃんがズルイことを考えてる目だ!」
天津風「たしかに島風の言う通り、時間内に相手を全員戦闘不能にすればいいのよ。 暴力なしで!」
浦風「んー? 催眠術でも使うん?」
天津風「甘いわね。そこに転がってる時津風を見て」
時津風「…………」チーン
島風「そっか、カレーだ!」
天津風「そう……つまり、どうにかしてカレーを敵の口に投げ込めばいいのよ!」
浜風「毒を以て毒を制す、ということですね」
島風「ズルイこと考えてるときの天津風ちゃんはやっぱ頼もしい!」
天津風「これもすべてあたしたちの未来のため。なりふり構ってなんてられないわ!」
夕立「どうやら敵さんも、こっちと同じ結論に至ったっぽい」
雷「やるしかないわね……」
電「電の本気を見るのです!」
暁「よーし! 戦闘開始よ!」
~ 数分後 ~
提督「司令室、そこには黒くて臭くてねっとりした物を『あーん』して食べさせ合う、可憐な少女たちの姿が―――」
夕立「うおー! ウサギさん! 時雨の仇っぽーーーい!!」
島風「なんのー! 天津風ちゃんの仇ぃー!」
天津風「生きてるわよッ!」
暁「ひゃっ! ちょっともぉ! レディーに向かってなんてことするのよ!」
夕立「うおおーー! 文字通り、食らうっぽーい!!」
島風「へへーん! おっそーい!」
天津風「あーっ! 天井からレディーの素がー!」
暁「何ですって!?」
天津風「隙ありー!」
電「できたのです! カレー最中なのです!」
雷「最中の皮の中にカレーを入れたのね。これで相手を騙して食べさせることができれば―――
って、電ってば、ほっぺにカレーついてるわよ?」
電「へ?」
雷「取ってあげるから動かないで。……はい取れた」ペロッ
電「ありがとうなのです」ニコッ
雷「…………」
電「………………」
雷「うっ……」
電「って、舐めたら死んじゃうのです! ぺっするのです、ぺっ!」
雷「ぺ! ぺ! ……うええ、気持ち悪い」
電「何とか致命傷は避けたようで安心なのです。最中でも食べてお口直しするのです!」
雷「うん、ありがと、電」モグッ
電「…………あっ」
雷「」バターン
電「はわわー! ヤっちゃったのです!」
浜風「まさかこんな乱戦になるとは………………それにしても臭い……」
浦風「うぅ……浜風ぇ……うちもうイヤじゃ……こがぁな汚物にまみれた戦い……」
浜風「カレーが嫌いになるレベルですね……」
浦風「こがぁなん早ぉ終わらせたる!」
浜風「その意気です浦風。……ですがどうしましょうかこの状況」
浦風「うちに任しとき、浜風」
浜風「浦風……?」
浦風「最後の手段じゃ! うちが浜風にカレー食べさせて! それで、うちも食べる!」
浜風「なんですかその『あなたを殺して私も死ぬ』みたいなセリフは……」
浦風「なら! うちが! 浜風を! 食べる!」
浜風「いいからスプーンを置いてください」
~ タイムアップ間近 ~
天津風「やった……やったわ! あたしが最後まで生き残った!
提督ほら! 見て、決着がついたわ!」
提督「…………たしかに、勝負あったようだな」
天津風「ふふんっ」
提督「この勝負、暁チームの勝利だ」
天津風「は!? なんで!?」
提督「それは―――」
響「それは、こういうことさ」スッ
天津風「あなた、響!? いつからそこに……!」
響「開始早々に、私たちは司令官の後ろに隠れたんだ」
天津風「私“たち”って……?」
雪風「不沈艦の名は伊達じゃないのです!」
天津風「って、なに仲良く一緒に隠れてんのよっ!」
響「これで分かっただろう? こちらのチームの気絶者が多いということは、
すなわちより多くのカレーを口にしたということになる」
天津風「くっ……そんな……」
響「また私たちの勝ちだね、ないない駆逐隊」
~ 数時間後 会議室 ~
天津風「二度も負けた……二度も負けた……二度も負けた……」ブツブツブツ
島風「別にそんな落ち込むことじゃないと思うけど」
時津風「そーそー。演習で負けたわけじゃないんだしさー」
天津風「形式がどうであれ、負けは負けよ……。
これじゃあ最初の頃からまったく成長してないって言ってるようなものだわ……」
浜風「ではまた、勝負でも申し込みますか?」
浦風「あー、うち、次は美味しいもんが食べられる勝負がええのぉ」
雪風「お昼寝勝負とかがいいと思います!」
天津風「そうね……もうこの際なんでもアリだわ。
ひとつずつ黒板に書き出していくから、みんなどんどん案を頂戴!」
~ 数分後 ~
天津風「ふぅ……結構出そろったわね」
島風「これ全部やるの?」
天津風「まさか。この中から、あたしたちが勝てそうな勝負を厳選していくのよ」
浜風「趣旨が違ってきていませんか……」
浦風「ほんなら料理対決なんてどうじゃ? うち、お好み焼き作るの得意なんよ!」
天津風「いいわねそれ、向こうは時雨以外へたっぴそうだし」
雪風「天津風ちゃんはできるんですか? お料理」
天津風「…………。はい次」
島風「駆逐艦の勝負と言ったら、やっぱりかけっこ勝負だよ!」
天津風「それもいいわね。少し前まで走り込みばっかりしてたし」
時津風「うんうん!」
天津風「……いや待って、ちょっと心配になってきたわ」
時津風「なんで時津風の顔見て言うのさー!」
天津風「はい、他は?」
浜風「筆記試験なんてどうでしょうか?」
天津風「いやいや、それはどう考えてもダメでしょ」チラッ
浜風「それもそうですね」チラッ
島風&雪風&時津風「ちょっとッ!!」
浦風「もっとこう、うちらのチームワークを披露できそうな対決がえぇのぉ」
島風「チームワーク……運動会しよう! リレーやろう!」
時津風「時津風は騎馬戦やりたいなー。馬じゃなくて上に乗る方!」
雪風「玉入れがいいと思います!」
浦風「うちは組体操がえぇなぁ。浜風と!」
浜風「チーム戦がしたいなら、綱引きなんてどうでしょうか」
天津風「ちょ、ちょっと待って! 一度に言われても書けないから! えぇっと、リレーと……」
ガラガラガラ……
???「おぉ~、これまた随分と賑やかやな~」
???「会議室で反省会をしていると司令から聞いていたのですが……。随分と愉快な話をしていますね」
天津風「……えぇ!? く、黒潮! 不知火!? なんでここに……!?」
黒潮「あははは、お久しぶりやなあ皆。元気そうでなによりやぁ」
不知火「気の抜けた雰囲気は相変わらずのようですね」
島風「むうっ……」
浜風「わざわざ中央鎮守府からやってきたということは……何か重要な用事なのでしょうね」
黒潮「お、せいか~い。ほんま鋭いなぁ浜風は」
不知火「中央鎮守府の提督代理、翔鶴さんより、あなた方ないない駆逐隊への伝言を預かっています」
時津風「えっ、なにそれ……良い知らせなの? 悪い知らせなの?」
雪風「どきどきです!」
不知火「『中央鎮守府を離れて約一か月。あなた達のことは、
提督からの報告や、雑誌、テレビ等のメディアからも届いています』」
浦風「翔鶴さん……やっぱし見よってくれたんじゃね……」
不知火「『どうか皆さんの力を、中央鎮守府で役立ててください』……以上です」
天津風「え……つまり、これって……」
黒潮「みんな、帰ってきてえぇって」
一同「………………」
一同「やったぁああああーーーーーーーっ!!!」
雪風「雪風たち、やっと帰れるんですね!」
時津風「まぁここも悪くないけど、やっぱ帰れるなら帰りたいよねぇ~」
浦風「うちらの努力、ちゃぁんと実ったんじゃね!」
浜風「一件落着、と言ったところですね」
島風「ってことはもしかして、『ないない駆逐隊』っていう変な名前も返上!?」
天津風「なんだか愛着湧いちゃったから複雑な気分ね。でも……これはあたし達の悲願よ!」
不知火「喜ぶのは構いませんが、話はまだ終わっていません」
一同「…………え?」
不知火「翔鶴さんがそう仰ったあと、陽炎がある提案をしていました」
天津風「……陽炎姉さんが? 提案って?」
不知火「ないない駆逐隊に、最後の課題を与えたい、と」
天津風「最後の課題……?」
不知火「そしてこの課題をクリアできなかった場合、中央鎮守府への再配属は先延ばしになります」
浜風「我々ないない駆逐隊に下された、最後の試練ということですか」
浦風「その課題っていうのは……?」
黒潮「単純明快! とある駆逐隊との勝負に、勝利することやぁ~」
島風「おおー! やっぱリベンジは演習で果たさないと!」
天津風「あの、それで……あたしたち、一体どの隊と……?」
不知火「この鎮守府における、駆逐隊のナンバーワン。またの名を、最強の駆逐隊」
天津風「それって、もしかして……」
不知火「…………朝潮型駆逐隊。それがないない駆逐隊の、最後の敵です」
~ 数分後 会議再開 ~
天津風「陽炎姉さんが出した課題は、『朝潮型駆逐隊に勝利し、その強さを示すこと』……」
島風「朝潮型駆逐隊って?」
浜風「不知火も言っていた通り、この鎮守府で最も強い駆逐隊です」
浦風「うちらが初めて提督さんにご挨拶した時、一応顔を合わせとるはずじゃ」
時津風「えー? でもそれ以来、全然見てないよ?」
天津風「提督は長期遠征だとか休暇だとか、曖昧なことを言ってたけど……。
おかげであたしが秘書艦をやる羽目になったのよね」
雪風「雪風たちと、入れ替わりでどこかへ行ってたんですね!」
天津風「そう。詳しくは知らないけれど、その先で色々トラブルに巻き込まれて、
陽炎姉さんたちに助けられたらしいわ」
浜風「陽炎のことです、きっとまた思い付きで、我々と朝潮型駆逐隊を戦わせようと考えたのでしょう」
島風「う~、迷惑ぅ~。っていうかその朝潮型駆逐隊って、どれくらい最強なの?」
天津風「陽炎姉さんたちでさえ太刀打ちできなかったあの軽巡棲鬼を、撃退したそうよ」
時津風「ええ?! それって、陽炎たちより強いってことにならない!?」
浦風「これはまた……難儀な課題じゃねぇ……」
雪風「そんなのに、本当に勝てるんでしょうか??」
天津風「練度では間違いなくあたしたちより遥かに上ね」
浜風「ですが、我々陽炎型は朝潮型の欠点を克服した駆逐艦とも言われています」
浦風「艦性能なら、うちらの方が上ってことじゃ」
島風「ふふん! 島風はさらにその上なんだから!」
時津風「うぅー、つまりこっちは有利なの? 不利なの?」
天津風「分からない。でも……だからこそ、先代からずっとこう言われ続けているわ」
天津風「―――……朝潮型と陽炎型は、宿命のライバル」
一同「…………」
天津風「そういう意味でもこの演習……絶対に負けるわけにはいかないの」
~ 翌日 司令室 ~
朝潮「司令官! 朝潮型駆逐隊、ただいま帰投しました!」
提督「うむ。大変だったろうが、よく頑張った! えらいぞ!」
満潮「……いや、そういうのいいから、まず私たちに言う事があるでしょうが」
提督「みんな可愛いぞ、愛している」
霰「そういうのも、いらない」
荒潮「あらあら、今回どうしてこんなに留守が続いちゃったのか、体に教えて差し上げる必要がありそうねぇ」
提督「うんうん、よほど楽しい休暇だったんだろうな」
霞「なっにっがっ! 休暇よ! このクズーーーーーッ!!!」
大潮「大潮たち、あのまま南の島で原始人になっちゃうのかと思ったんだからー!!」
提督「分かった分かった。色々語りたいのは分かるが、それはまた別の機会に聞こう」
朝潮「ご心配をおかけしました司令官。それと、秘書艦のお仕事を一か月も溜め込んでしまい……」
提督「いや、それに関しては問題ない。君たちが留守の間、秘書艦はこの天津風が務めてくれていた」
天津風「…………あ、どうも。天津風よ」
天津風(この人たちが朝潮型駆逐隊? なんか……そんな強そうには……)
霞「あぁ、その子が陽炎の言ってた例の……」
霰「……どすこい駆逐隊」
天津風「ないない駆逐隊だから」
提督「そういうわけだから朝潮、秘書艦仕事に関しては安心してくれ」
朝潮「そ、そうでしたか……」
満潮「そんなことより、またいつか休暇取り直すから」
大潮「あれが休暇だなんて大潮は認めない! ろうどうきじゅんほーいはん!!」
提督「分かったからそう目くじらを立てるな。それに君たち朝潮型にとって、意味のある出会いもあっただろう?」
荒潮「まぁ……それは認めざるを得ないわねぇ。素敵なお友達ができたし」
提督「な? そうだろう? だからとりあえず、今日は一旦休んでもらってだな……」
朝潮「いいえ司令官、この朝潮、今すぐにでも秘書艦に復帰する覚悟です!」
天津風(あ、そっか……本来の秘書艦が戻って来たんだから、私はもう……)
提督「いや、秘書艦はしばらく天津風のままでいこうと思う」
朝潮「えっ……」
天津風「えぇ!?」
提督「これは天津風のためでもあるし、朝潮にもきちんと休息をとってもらいたい」
朝潮「お、お言葉ですが司令官! 今は世間的にその……忙しい時期ですし、私なら元気ですし……!」
天津風(忙しい時期……? 何かあったかしら?)
提督「秘書艦としての仕事能力なら、天津風もだいぶ板についてきている。彼女に任せても問題ない」
朝潮「ですがそれは―――」
天津風「―――あのねぇ提督、秘書艦やりたいって言ってる子がいるなら、やらせてあげればいいじゃないの」
提督「はは~ん、そんなこと言って、本当は辞めるの寂しいくせに」
天津風「さ、寂しくなんかないわよ!」
提督「ふふふ、天津風は嘘をつくと瞬きが増えるよなぁ」
天津風「ふぇっ、嘘!?」
提督「いやまぁ嘘だけど」
天津風「んもーっ!」
朝潮「………………了解しました。司令官」
天津風「えっ?」
朝潮「司令官がそこまで仰るのであれば……」
天津風「あ、いや、えっと……」
提督「よし。……さぁ皆、お詫びにアイスを用意してあるから、間宮さんの所に行ってきなさい」
霰「アイスごときで霰はごまかされない……」キィーーン
大潮「大潮はアイスなんかに屈しないぞー!」タッタッタッタ
満潮「いや、二人とも十分屈してるから……」
荒潮「あらあら、急いでもアイスは逃げないのに」
霞「まったくクズはもう、ほんとクズなんだから……」ブツブツ
朝潮「…………っ!」ジロッ
天津風「えっ……」
朝潮「失礼します、司令官」
ぞろぞろぞろ バタン
天津風「ちょっとバカーー!! なんかあたし、あの子にすっごい因縁つけられちゃったじゃないの!」
提督「どうだ。忠犬みたいで可愛いだろう、うちの朝潮は。あ、もちろん天津風も可愛いぞ」
天津風「はぁ……」
提督「それで演習の件はどうなんだ? 勝てそうなのか?」
天津風「何よその質問。提督はどっちの味方なの?」
提督「ノーコメントだ」
天津風「ノーコメントって……ま、どうでもいいけど。手塩にかけて育てた最強の駆逐隊が、
ぽっと出のあたしたちにコテンパンにされても泣くんじゃないわよ」
提督「すごい自信だな」
天津風「そっちだって、朝潮型駆逐隊が勝つに決まってるって顔してるじゃない」
提督「いやいやいや」
天津風「はぁ……あ、そんなことより、テレビが映らないって苦情が入ってるわよ」
提督「少し前からアンテナがその役目を全うしてしまったみたいでな」
天津風「修理は? いつ頃直るの?」
提督「ちょうど君たちの演習が、終わる頃になりそうだ」
~ 食堂 ~
天津風「近くで見てきたわ……朝潮型駆逐隊」
島風「どんなだった? 体長5メートルの筋肉ムキムキ巨人って聞いたけど」
天津風「いや普通にあたしたちと同じくらいよ」
浜風「体格は我々と同等ということですね」
浦風「まぁ、おんなじ駆逐艦じゃけぇねぇ~」
天津風「同等というか……くすっ、浜風と浦風の方が断然大きいわ」
浜風「はぁ……あなたは長く秘書艦をやりすぎたようですね、天津風」
浦風「提督さんの影響力やのぅ」
天津風「えぇっ!? やめてよ! ジョークだってば!」
時津風「ねー、それでどうだったのさー」
天津風「う、うん。それが何というか……最強の駆逐隊って言う割には、オーラを感じないというか」
雪風「オーラってなんですか?」
天津風「あんまり強そうには見えなかったってことよ。直接会話したわけじゃないけど、
なんかやり取りが子供っぽいっていうか……」
雪風「雪風たちの方がオトナなので、勝てると思いますっ」
天津風「あなたそれボケてるの……?」
島風「でもさー、だったら尚更ヤな感じしない? 夕立みたいに、戦闘ですごい迫力になるのかもしれないし」
浜風「島風が珍しく鋭いことを言っていますね。私も同感です」
島風「さり気なくバカにしたでしょ」
天津風「あたしもそれは思ったわ。だから演習の前に、朝潮型の面々について、少し予習をしておくべきだと思うの」
浦風「…………予習?」
~ 司令室 ~
キィ……
天津風「……いたわ。ターゲット捕捉」
浜風「朝潮型の十番艦、霞。情報によると、朝潮型駆逐隊で唯一、第二改装を受けているとのことです」
島風「改二かぁ……じゃあアレが一番強いってことかな!」
浦風「目つきも鋭くて、ちぃと怖そうな感じじゃ」
雪風「でも、司令室に何の用なんでしょう?」
時津風「しーっ! なんか言ってるよっ」
霞「ほら、また散らかってるじゃない! ほんっとだらしないわね!」
提督「これくらい散らかっていた方が落ち着くんだ」
霞「はぁ? そんなだからアンタはクズなのよ! ゴミクズ!」
提督「何をー! 霞にクズって言ってもらえるなら、私はゴミにでもクズにでもなるぞ!」
霞「いちいち気持ち悪いのよ!」
天津風「相手が誰でもあの調子なのね、提督……」
浜風「ですが、目上の者に対してあれだけ厳しくものを言える駆逐艦霞もさすがですね」
浦風「ぶちストイックな性格なんじゃねぇ」
提督「ふぁ~……仕事が終わらない。眠い」
霞「欠伸する暇があったら手を動かしなさい!
ほら、コーヒー持ってきたから、これ飲んでシャキっとする!」
提督「最近は徹夜続きであんまり寝れてなくてなぁ……。ふぁ~」
霞「体調管理もできないなんて司令官失格ね! お布団敷いといたからさっさと寝てきなさい!」
提督「仕方ない……。ここはママの言う通りにしよう」
霞「フン! 寝床からこっそり抜け出そうなんて考えないことね!
アンタが永遠の眠りにつくまで、枕もとで監視してるから!」
島風「……あれ、厳しくなくない?」
雪風「こういうのをツンデレって言うんです。本で読みましたっ」
天津風「どんな本読んだのよ」
天津風「敵艦見ゆ!」
雪風「敵は、駆逐艦4隻です!」
浜風「朝潮型の三番艦、満潮。新米駆逐艦の嚮導を任せられることが多く、
旗艦としての能力も長けているとのこと。朝潮型の第二の司令塔とも言えるでしょう」
浦風「ほぉう、ほいじゃあ周りにいる皐月、長月、文月の先生なんじゃねぇ」
島風「あの頭の輪っか、どうなってるんだろう」
時津風「なんかちょっと美味しそう」
満潮「私が留守の間、那智さんと輸送任務に出たみたいね」
皐月「あっれー? もしかして先生、ヤキモチ焼いてるー?」
満潮「は!? 違うから! 結果を聞いてんの!」
長月「結果はまぁ……その、色々あって……」
満潮「あっそ、やっぱ失敗したのね。ヘタクソが健在で安心したわ」
長月「ありがとうございます」
文月「でもねでもね? 先生のおかげで、あねごの訓練にも耐えられたのっ」
浜風「先ほどの霞と同じで、随分と口調が厳しい人ですね」
浦風「ふふっ、でも慕われとるみたいで、なんだか微笑ましいのぉ」
時津風「まぁ何だかんだで時津風も神通さんのこと好きだし、同じような感じなのかなー」
雪風「雪風も神通さん好きです!」
天津風「嚮導ねぇ……たしかにあたしたちには無いスキルかもしれないわ」
満潮「―――ところで、なんで那智さんが『姐御』なのよ」
皐月「なんかカッコイイじゃん那智さん! 大人だし、まさに姐御ォ!って感じで」
長月「心配せずとも、先生は我々にとって、いつまでも先生だ」
満潮「なんか妙にイラッくるフォローね」
文月「あねごとせんせぇだったらね、文月はせんせぇの方が好きだよ?」
満潮「あ、あっそ……」
文月「だってせんせぇお酒臭くないもん」
満潮「あっそーですかァ!!」
浦風「あははっ、表情ころころ変わって、面白い子じゃのぉ」
浜風「気苦労が絶えなさそうな性格をしてますね……」
天津風「うわっとと! ストップストップ! 気が付かなかったわ」
島風「なんかちっちゃい駆逐艦はっけーん」
浜風「朝潮型の九番艦、霰。艦隊の中で最も小柄で大人しいという印象の駆逐艦ですね」
浦風「うちらにはおらんタイプの子じゃね」
雪風「その隣に、軽巡1です!」
時津風「神通さんと同じ服……よく中庭で歌ってる人だ」
天津風「軽巡洋艦の那珂さんね。神通さんの姉妹艦よ」
那珂「見て見て霰ちゃーん! ふふーん! ほらこれ、新しいライブの衣装なんだよー!」
霰「ふーん」
那珂「もー、霰ちゃんってば反応薄いよー。あ、さては那珂ちゃんの魅力に見惚れちゃってたー?」
霰「那珂ちゃんって」
那珂「うんうん。なになに?」
霰「なんでアイドルやってるの?」
那珂「えーっ!? 急に何その質問ー!?」
浦風「これはまた……随分と個性的な子じゃねぇ」
浜風「一点の曇りもないあの瞳……ただ者ではなさそうです」
島風「え、そんなに?」
時津風「でも、神通さんの姉妹艦にあれだけ言えるのはスゴイかも……」
雪風「神通さんには、口が裂けても言えないです!」
那珂「えーっとねぇ、那珂ちゃんはね、世界中の皆に愛と元気を与えたくてアイドルをやってるんだよ!」
霰「そのためには、まず有名にならないと」
那珂「え、あ……うん。そうだね」
霰「どれだけ豪華な衣装で着飾っても、有名でないと誰も見てくれないと思う」
那珂「う、うん……」
霰「那珂ちゃんに足りないのは、世界中を駆け回って自分を売り込むための体力。そして筋力」
那珂「筋力?」
霰「神アイドルを目指すには、肉を食べ、野菜を食べ、日々レッスンを欠かさず―――」ブツブツ
那珂「霰ちゃん……また新しい何かに影響されてない……?」
霰「ほら、那珂ちゃんも一緒に踊る」
那珂「え? 急に何?」
霰「ドルキンアイドルリョク……!」
那珂「え? え……?」
島風「うーん……たしかにちょっと只者じゃない気がしてきた……」
天津風「よく分からないし、次行きましょ次」
雪風「かしこまです!」
天津風「いたわ。新たな標的を発見」
島風「なんかうるさそう」
浜風「朝潮型の二番艦、大潮。大胆不敵な艦隊のムードメーカー。
絶望的な状況下における勇気と行動力では、右に出る者はいないとのことです」
浦風「うちら駆逐艦に必要なもんを、しっかり備えとるってゆうことじゃね」
雪風「その隣に、重巡洋艦を発見!」
時津風「那智さんの姉妹艦の艦娘かな?」
天津風「あれは重巡洋艦の羽黒さん。改二が実装されて以来、数多くの好戦績を残しているみたいね」
大潮「でねー? ほんっと、すっごい大冒険だったんだから!」
羽黒「えぇー? 本当に?」
大潮「本当だってば! 無人島に取り残されて、このまま原始人になるの覚悟したんだから!」
羽黒「原始人っていうのは、なれるものじゃないと思うけど……?」
大潮「とにかく、大変だったけどちょっと楽しくもあったから、今度羽黒さんもやろう! 無人島生活!」
羽黒「えぇ~!?」
天津風「重巡相手に……しかも那智さんの姉妹艦の人に対してあんな風に……本当に怖いもの知らずね」
時津風「そう? 島風も那智さんに対してあんな感じじゃなかった?」
島風「私、あんなんじゃないし!」
浦風「ただ単に、仲良うしとるってだけじゃろ?」
浜風「中央鎮守府では上下関係がハッキリしていますし、珍しい光景ではありますね」
大潮「大丈夫だよ羽黒さん! 隊長は大潮がやるから!」
羽黒「隊長って?」
大潮「おっぱい探検隊の」
羽黒「おっぱい探検隊!?」
大潮「大潮が隊長で、隊員は羽黒さん」
羽黒「私、いつの間に隊員に!?」
大潮「洞窟とかあってスッゴイんだよ! 妖怪とか出るかも!」
羽黒「いや大潮ちゃん、怖いのはもう懲り懲りでしょ……?」
大潮「大丈夫! 大潮と羽黒さんは同志だから!」
羽黒「意味分かんないよー!」
島風「完全に振り回されてる」
雪風「しれぇと天津風ちゃんみたいです」
天津風「どういう意味かしら」
天津風「いたわ……前方に目標。こちらには気付いていないみたいね」
浜風「朝潮型の四番艦、荒潮。噂によると、しばらく駆逐艦のいなかったこの鎮守府に、
初めて配属されてきた駆逐艦とのことです」
浦風「あの提督さんが初めて迎え入れた駆逐艦……何か特別なんかのぉ?」
島風「きっと滅茶苦茶速いに違いないよ」
時津風「でもあの人、こんな所ひとりで歩いて何してるんだろう?」
雪風「あ、どんどん歩いて行っちゃいます! 追いかけましょー!」
荒潮「…………ふふふ、いいお天気ねぇ」
荒潮「人類滅亡の一週間前とは思えないほどの青空だわ。うふふ、うふふふふ……」
天津風「え……何言ってんのあれ……なんかヤバそうなんだけど……」
浜風「ただの妄言です。気にしては……」
浦風「ほじゃけど……表情がぶち怖いんじゃが……」
雪風「もしかしたら……深海棲艦のスパイスかもしれません!」
浜風「それを言うならスパイです」
時津風「ええー!? 時津風たち、すごい場面に遭遇しちゃった!?」
島風「追いかけようよ天津風ちゃん! このままじゃ滅亡しちゃうよ!? 人類!」
天津風「そ、そうね……とりあえず後を追いましょ!」
荒潮「それにしても、あの子たちも気の毒ねぇ」
荒潮「この鎮守府の艦娘、そして司令官でさえも組織の一味だなんて、知ったらどんな顔をするかしら?」
荒潮「うふふふっ」
天津風「え……“あの子たち”って誰?」
島風「私たちのことなんじゃないかな……?」
時津風「じゃあ……え? 他の皆が組織の一味って……え??」
雪風「みんな……グルメなんでしょうか!」
浜風「それを言うならグルです」
浦風「提督さんもだなんて……そんな……」
天津風「こ、こここ怖がってちゃダメよ! 追っかけま―――」
ズボォー!
一同「うわぁああああーー!!?!?」
島風「あいたたた……なに!? 隕石でも落ちたの!?」
浦風「ううう……何か穴に……ハマったようじゃ……」
雪風「あ! 何か紙が落ちています!」
『 ドッキリ大成功! 』テッテレー
時津風「これってもしかして……」
浜風「我々が後をつけていたこと、最初から気付いていたみたいですね……」
天津風「なにそれ怖っ!?」
天津風「目標を捕捉……最後はあの子ね」
浜風「朝潮型の一番艦、朝潮。一度解体処分を受けたことで手にした勲章はリセットされたとのことですが、
その優れた判断力と統率力は天下無類、まさしく艦隊の柱と言える存在でしょう」
浦風「あのメンバーをまとめとるってだけで、相当なもんじゃね」
島風「天津風ちゃんも見習わなきゃ」
天津風「う・る・さ・いっ!」
雪風「雪風、中央鎮守府であの子、見た事あります!」
時津風「そーいえば少しだけ中央鎮守府所属になってた時期があったっけ」
天津風「あ、不知火たちと何か話してるわ」
朝潮「改めて、この間はどうもありがとうございました」
黒潮「あはは、えぇってえぇって。あんなん陽炎の気まぐれやし、たまたまやぁ~」
不知火「陽炎のわがままを聞いて頂いて、むしろお礼を言うのはこちらです」
朝潮「いえそんな…………あっ、よろしければこれを」スッ
黒潮「んー? なになに……駆逐艦限定、朝潮型駆逐隊無事生還パーティー……?」
不知火「自分たちのような余所者が参加してもよろしいのですか?」
朝潮「はい。駆逐艦なら、誰でも歓迎します」
黒潮「おおきになぁ~。でも、本人からお祝いに誘われるーゆうのは、ヘンな感じやなぁ」
朝潮「企画したのは別の駆逐艦ですが、このチラシを作ったのは私なので」
不知火「なるほど、分かりやすいチラシで…………って自分で作ったんですか」
黒潮「あはははー、不知火の貴重なノリツッコミやぁ」
天津風「不知火がノリツッコミした!」
島風「不知火がノリツッコミした」
浜風「不知火がノリツッコミを……」
浦風「不知火がノリツッコミしとる」
時津風「不知火がノリツッコミしてる」
雪風「不知火ちゃんがノリツッコミしています!」
不知火「……コホン。では、お言葉に甘え、私たちも参加させて頂きます」
黒潮「それにしても、パーティーかぁ~。えぇなぁ、こういうの」
朝潮「中央鎮守府ではあまりなさらないのですか?」
不知火「あなたも多少ご存知でしょうが、中央では上下関係がハッキリしています」
黒潮「艦種間はもちろん、駆逐艦同士でも一部で上下関係があってなぁ、ここまで仲良ぉやってへんのや」
不知火「陽炎がそれを無くしたがっているのですが、なかなか上手くいかず……」
朝潮「中央は軍令部のお膝元ですし、規律に厳しいのかもしれませんね」
不知火「そういう意味でも、こちらの鎮守府は大変勉強になります」
黒潮「翔鶴はんがあの子らをここへ送り出したのも、そないな意図があったからかもしれへんなぁ」
朝潮「ですが私たちは、ただ仲良しなだけではありません」
不知火「えぇ。ですから今度の演習、楽しみにしています」
時津風「あぁ~、たしかにこの鎮守府のノリにも馴染んできた気がする」
雪風「雪風、ここ好きです!」
浦風「うちも同感じゃ。ほじゃけど、いつまでも足踏みしとるわけにはいかんけぇ」
浜風「そうですね。我々は勝って、中央鎮守府に帰らなければなりません」
島風「絶ッ対! 負けたくない!」
天津風「えぇ、打倒朝潮型駆逐隊! 何としてでも、どんな手を使ってでも勝つわよ!」
~ パーティー当日 司令室 ~
キィイ……
朝潮「司令官……」ヒョコッ
提督「朝潮か? どうした?」
朝潮「天津風さんは……?」
提督「天津風ならもうパーティー会場へ向かったぞ? 朝潮も早く行かないと、主役だろう?」
朝潮「はい……ですがあの……」
提督「ん?」
朝潮「司令官、お疲れではないでしょうか」
提督「ここに朝潮が手を拭いたハンカチがある」
朝潮「はっ……いつの間に」
提督「その香りを楽しむだけで、疲れなんて吹っ飛ぶんだ」
朝潮「では、それは差し上げます」
提督「ありがとう」
朝潮「…………ですが司令官、今は本当に……気苦労が絶えないかと存じます」
提督「例の件……朝潮はどこまで知っているんだ?」
朝潮「報道されている部分は……陽炎さんからお聞きしました」
提督「なるほど……。まぁテレビをつけたら大体そのニュースが目に入るだろうからな……」
朝潮「ないない駆逐隊の皆さんには言いにくいことでしょうし……もしかして司令官、
その件に関しては一人でご対応されているのではと思って……」
提督「さすが朝潮……私の秘書艦歴が長いだけのことはあるな」
朝潮「ですから司令官……司令官のご負担を減らすためにも、私を秘書艦に復帰させて―――」
提督「―――気持ちはありがたいが、今それはできない」
朝潮「司令官……」
提督「天津風にとって……ないない駆逐隊にとって、今は一番、大事な時期なんだ」
~ パーティー会場 ~
天津風「いい皆? あたしたちの戦いは、もう既に始まっているわ!」
島風「え?」モグモグ
天津風「明日はついに、朝潮型駆逐隊との決戦の日。
あの子たちについて予備知識を入れておく最後のチャンスなの!」
浜風「少しでも勝率を上げるために、情報は多い方が良いですからね」
浦風「今夜は皆浮かれとるし、うっかり弱点とか、口を滑らすかもしれんね」
雪風「雪風、がんばって情報収集します!」
時津風「よーし、がんばっちゃうぞ~」
天津風「あまり時間がないから、各人分かれてこっそりさり気な~く探ること、いいわね!」
一同「了解!!」
島風「ねぇ、朝潮型の弱点教えて」
夕立「あ、もしかしてウサギさん、明日のことで情報収集?」
島風「うん。……っていうかウサギじゃないし」
夕立「あははは、すっごい正直者っぽい~。いいよ、夕立が教えてあげる、朝潮型の皆が好きなもの」
島風「好きなもの……? 弱点を教えてって言ってるんだけど」
夕立「ずばり、提督さんっ!」
島風「話聞いてないし」
夕立「それから提督さんも、皆のことが大好きっぽい!」
島風「あの提督は誰にでもそう言うでしょ」
夕立「あはははは、たしかに! 夕立も、よく好き好きちゅっちゅ~って言われるっぽい」
島風「うえぇ……」
夕立「でね、中でも霞ちゃんは、あぁ見えてすんごいすんごい提督さん想い!」
島風「うーん……それを知ったところで演習に役立つとは思えないけど」
夕立「そんなことないっぽいよ。演習前に提督さんとイチャイチャしてるところを見せつければ、
霞ちゃんカーッ!っとなって、ムキー!ってなるっぽい!」
島風「それは火に油なんじゃ」
夕立「霞ちゃん戦闘ではいつも冷静だけど、上手くやったら感情的にさせられるっぽい!」
島風「んー……まぁ、覚えとくけど」
夕立「あはは、じゃあ教えてあげたから、お礼に今度ほうれん草ちゃん貸してねー」
島風「れん、そう、ほう、ちゃん!」
電「――――――あの中で一番注意すべき子、ですか? うーん……」
雪風「はい! 教えてください!」
電「一番は朝潮さんですけど、意外と霰さんも要注意なのです」
雪風「ほうほう! どんな所がでしょうか!」メモメモ
電「普段は大人しくてぼんやりしているのに、戦闘になるとすごい機敏になるのがカッコイイのです」
雪風「もしかして、戦闘になるとすっごい怖くなっちゃうタイプなんでしょうか?!」
電「いえ、見た目はあのままなのですが、でも反射神経がいいっていうか、すごい反応がよくて」
雪風「ほほう、ほうほう」カキカキ
電「噂によると、お相撲さんで鍛えたとかなんとかなのです。あははっ」
雪風「日頃からふんどし一丁で四股踏んでぶつかり稽古してちゃんこ食べているんですね……」カキカキカキカキッ
電「あの、テレビ見てるだけなのです…………そんなたくさんメモするほどの話では……」
雪風「ふむふむ、テレビと相撲を……ふむふむ……」カキカキカキカキカキカキカキカキッ
電「あのぉ……」
響「荒潮は、虫が苦手だって聞いたことがあるよ」
時津風「虫かー。時津風は別に平気だなぁ」
響「噂だと彼女は、艦娘になる前はどこかのキレーなお屋敷のお嬢様だったとか」
時津風「ふぅーん。だから虫に耐性がないとかかなー?」
響「分からないけれど、蚊に刺されやすいとも言っていたね」
時津風「よし、じゃあとりあえず大量の蚊を集めよう」
響(どうやって集める気なんだろう……)
時津風「他には?」
響「うーん……強いて言うなら、あの艦隊の中で、最も怒らせると怖いタイプってことかな」
時津風「あー……やっぱりそうなんだ」
響「ちなみに笑いながら敵戦艦の口に機雷を突っ込んで爆発させたとかいう伝説もある」
時津風「なにそれ絶対戦いたくないんだけど……」
雷「知ってるわよ、満潮の弱点。きっと演習でも役に立つと思うわ」
浦風「おぉ! そがぁなんを待っとったんじゃ!」
雷「あの子ってね、気が強そうに見えて実はすごく寂しがり屋さんなのよ」
浦風「ほうほう寂しがり屋さん」
雷「つまり一人になると弱体化するってこと。だから私たちも、あの子たちと演習するときは、
まずは他の子を倒して、最後に満潮を攻撃する作戦を立てるの」
浦風「なるほど、孤立に弱いんじゃね。えぇ情報が手に入ったわ」
雷「まぁそもそも私たち一度も勝てたことないから、孤立させたことはないんだけどね」
浦風「この情報は……参考にしてもええん?」
暁「え? 駆逐艦大潮の弱点?」
浜風「はい」
暁「だめよそんなの。一人前のレディーは鎮守府の仲間を売るようなことはしないわ」
浜風「アイス券を一枚差し上げます」
暁「大潮の弱点はずばり、おせんべいが好きすぎるところよ」
浜風「あっさりすぎませんか」
暁「えぇ、あっさり塩味が好みみたいよ」
浜風「そのあっさりではなく……まぁいいですが」
暁「海に出る前は必ず好物のおせんべいを食べてエネルギーチャージするらしいから、そこを突くべきだわ」
浜風「元気の源を断ってしまえばよい、ということですか」
暁「そういうことよ!」
浜風「随分と姑息な気もしますが、試してみる価値はあるかもしれませんね」
暁「あらかじめおせんべいに毒を盛っておく、とかでもいいわ」
浜風「随分と物騒なことを言うレディーですね……」
暁「失礼ね。あなた達ならそれくらいするでしょ?って意味で言ったのよ」
浜風「いやさすがにそこまではしない…………はずです」
時雨「そろそろ来ると思ったよ、天津風」
天津風「えっ、な、何のことかしら?!」
時雨「朝潮型駆逐隊のこと、聞いて回ってるんでしょ?」
天津風「なぜそれを!?」
時雨「だって皆、あんな直接的に聞き込みしてるから、さすがにね」
天津風「あの子たち……あれほどさり気なく聞き出せって言ったのに……」
時雨「ははは、まぁいいよ、僕もないない駆逐隊の応援はしたいし。
それで? 天津風は僕に誰の事を聞きに来たのかな?」
天津風「うっ…………まぁ、朝潮のことだけど」
時雨「旗艦同士、秘書艦同士……そして朝潮型と陽炎型、まさに宿命のライバルって感じだね」
天津風「練度で劣っていることは百も承知よ。だけど今回の演習、あたしたちは絶対に負けられないの」
時雨「どんな手を使ってでも勝ちたい……うん、その気持ちはよく分かるよ。僕も駆逐艦だから」
天津風「だから何か……弱点みたいなのがあれば教えてほしいの」
時雨「弱点かぁ……。たしか朝潮って、怖い話とかがすごくダメだって聞いたことがあるよ」
天津風「ホラーなら私も苦手なんだけど……」
時雨「ううん、苦手ってレベルじゃないみたい。話を聞いただけで卒倒しちゃったこともあるとか」
天津風「なにそれちょっと可愛いわね……」
時雨「まぁ深海棲艦とか、夜戦とかは平気らしいけど」
天津風「なるほどね……。ありがと時雨、参考になったわ」
時雨「ふふっ、明日の演習、楽しみにしてるよ」
天津風「みんなご苦労様。色々お説教したいことはあるけど、とりあえず情報は集まったみたいね」
浜風「あとはこれらの情報を元に、どのように準備をしていくかですが―――」
不知火「―――またコソコソと、何か企んでいるようですね」
島風「げっ、出たっ」
不知火「いけませんか」
黒潮「あはは、ウチもおるで~」
雪風「別に雪風たち! 演習で勝つための準備を! しようだなんて考えていません!」
時津風「そーそー! なーんにも悪いことなんて、企んでないからーっ」
不知火「何をしようと構いませんが、そろそろあなた達、出番ですよ」
浦風「出番? うちら、何かするん?」
黒潮「せやでー。朝潮型駆逐隊とないない駆逐隊、演習前の親睦会なんやから」
天津風「あれ……? これってそういう会だっけ?」
不知火「名目はどうでもよくて、ただ駆逐艦で集まって騒ぎたいだけなのでしょう」
時津風「ふぅーん。それで時津風たち、何かするの?」
黒潮「ふふっ、それはついて来てのお楽しみや」ニコッ
天津風「…………」
黒潮「さーさー始まったでぇ~。 本日のメインイベント、楽しい余興のお時間やぁ」
不知火「余興なのにメインなんですか」
黒潮「あははは、相方から愉快なツッコミを頂いたところで、まずは自己紹介するでー」
不知火「皆さん初めまして、中央鎮守府から参りました、ゲストなのに司会を任せられた不知火といいます」
黒潮「同じく黒潮やぁ。みんなよろしゅうな~」
島風「天津風ちゃん何これ……」
天津風「知らないわよ……」
不知火「では続いて、余興の主役の皆さんに登場して頂きましょう。
まずはこちら、遥か南の島から無事生還しました、朝潮型駆逐隊の皆さんです」
朝潮「よろしくお願いします!」
黒潮「ほな、続いてはこららー。中央鎮守府から無事左遷、ないない駆逐隊のみんなやぁ~」
天津風「紹介文ひどくない?」
不知火「これから皆さんにやって頂くのは、ディベート対決です」
大潮「ディベート……大食い選手権なら大潮にお任せ!」
満潮「食べ物じゃないから」
雪風「たしか欧米のスポーツでしたよね、時津風ちゃん!」
時津風「あっはは、バカだなぁ雪風。ディベートはカードゲームの一種だよ」
雪風「へぇー!」
浜風「どちらも全然違います」
黒潮「ディベートっちゅうのはなぁ、ひとつのテーマについて、賛否二つの艦隊に分かれて討論することや」
霰「むつかしそう……」
霞「それで? 何について討論するのよ?」
不知火「テーマはずばり…………この鎮守府の司令は、無罪か、有罪か」
荒潮「あらあら、なんだか深~いテーマねぇ」
霞「不快なテーマの間違いじゃないの」
島風「これどうやっても有罪が勝つでしょ」
浦風「それにうちら、提督さんと一緒におった期間も短いけぇ、不利かもしれんのう」
黒潮「その点は心配ご無用やでぇ~。今回のチーム戦は、混合チームでの勝負やから」
天津風「混合チーム!? それってつまり……」
不知火「朝潮型駆逐隊とないない駆逐隊の、シャッフルチーム同士での戦いとなります」
一同「えぇええーーーー!?!?」
不知火「赤チームのメンバーは……朝潮、大潮、霞、浜風、時津風、島風の六名です。
あなた方は、『有罪』チームとなりますので、司令を海に沈めるつもりで発言してください」
朝潮「そ、そんな……私が司令官のことを悪く言わなくちゃならないなんて……」
大潮「大潮、司令官のこと何でも知ってるから大丈夫! 大潮の優勝!」
霞「有罪チームで良かったわ。クズの擁護なんて口が裂けてもできないし。あー、よかったよかったー!」
浜風「提督があぁいう人ですから、こちらは有利かもしれませんね」
時津風「あははは、なんか他のメンバーに任せておけば何とかなりそー」
島風「島風が一番速いってところ、見せてやるんだからっ」
黒潮「はいは~い。ほな『無罪』の白チーム、メンバーは天津風、浦風、雪風、満潮、荒潮、霰の六名やぁ。
日頃からお世話になっとる司令はんのこと、しっかり守ってや~」
天津風「よりにもよってこっちの陣営になるなんて……でも勝負となった以上、負けるわけには……!」
浦風「あぁー、浜風と離れてしもうたなぁ」
雪風「雪風、しれぇの良い所、ちょっとだけ知ってます! 負けません!」
満潮「不利なのは確かだけど、勝てない戦じゃないわね」
荒潮「ものは言いようだものねぇ」
霰「善し悪しは表裏一体。有罪無罪は紙一重」
黒潮「あぁー……聞いた通り、えらい人気者やなぁここの司令はん……」
~ ディベート対決 開始! ~
●島風「提督は悪い! だから有罪!」
〇天津風「あなたいの一番に発言したかっただけでしょ……」
●大潮「はいはーい! 大潮、司令官は有罪だと思います!
なぜなら、大潮たちにベタベタ触ったり、ヘンなことを言ったりするからでーす!」
〇満潮「論破されたわね……」
〇天津風「えぇっ!? 諦めるの早すぎない!?」
〇雪風「はい! でもしれぇは、雪風たちのこと、大事に想ってくれていると思います!」
〇浦風「おぉ雪風、えぇ反論じゃ」
●朝潮「たしかにその通りです」
●時津風「なんでそっちの味方してるの!?」
●霞「こんなやり取りじゃ説得力に欠けるわね。具体例と一緒に言わないと」
●浜風「であれば私からひとつ。朝潮型駆逐隊の皆さんが留守の間、我々は危うくスク水姿で踊らされそうになりました」
●霞「クズ」
〇満潮「論破されたわね……」
〇天津風「だから諦めるの早いって!」
〇霰「でも霞なら、喜んで踊りそう」
●霞「やんないわよ!!」
〇浦風「う~ん……うちらも何とか具体例を挙げて反論せんと……」
〇荒潮「あらあら、私たちを大事に想ってくれている証なんて、みんな身に着けているじゃない」
●朝潮「えぇ……この指輪が、私たちを大切に想う動かぬ証拠……」
●時津風「時津風たちのチームにスパイいない?」
●霞「あのクズは私たちを弄んでも喜ぶし、罵られても喜ぶ変態よ。よって有罪」
〇霰「でも霞はいつも嬉しそう」
●霞「だから違うったらッ!」
〇浦風「ほじゃけどここの提督さん、他所の鎮守府と比べよったらぶち優しいと思うんじゃけど?」
〇満潮「へぇ……なかなか鋭い所を突くわね」
〇浦風「えへへ」
〇満潮「たしかに、私たちは最初からこの鎮守府所属だし……言われてみれば恵まれてるのかもしれないわね」
〇雪風「しれぇのお部屋でお昼寝してても怒られません!」
●島風「でも、フツーに出撃したら怒られたもん」
〇天津風「いや、それはあなたが勝手に出撃したからでしょ」
〇荒潮「私なんて、司令官のお尻をすーっと撫でても怒られなかったわ」
●大潮「大潮なんて、中にちゅーっと注入したもんね!」
〇天津風「そ、それならあたしだってしたことあるから!」
●浜風「提督は痔か何かですか」
●霞「っていうかそこ張り合う所じゃないでしょ」
●浜風「ふぅ……お互い難儀しますね」
●霞「そっちにも常識人がいてくれて助かったわ、ほんと」
〇霰「司令官の良い所といえば……いつも私たちを見てくれているところ……」
●時津風「あぁー、知ってるよ。しれーって、色んなとこにカメラ仕掛けてるよね~。
時津風、そういうの発見するの得意なんだ~」
●浜風「破壊するので次からはきちんとその場で言ってください」
●霞「まったく……さすがにあり得ないけど、お風呂場にも仕掛けてありそうで怖いわね」
●時津風「お風呂場にもあったよ」
〇天津風「はァ!?」
〇荒潮「あらあら、それは紛れもなくギルティねぇ」
〇満潮「論破されたわね……」
〇浦風「時津風、そんなカメラどこにあったん?」
●時津風「いつも湯船に浮いてるアヒルのオモチャ」
●霞「あのクズ……!!」
不知火「いつの間にか有罪一色になっているのですが……」
黒潮「まぁさすがに、これは、なぁ~」
●大潮「あれ? そのオモチャ、大潮が持ってきたやつだけど?」
〇満潮「は……?」
●大潮「司令室にいくつか置いてあったから、ひとつくらい大丈夫かなーって。だいぶ前の話だけど」
●朝潮「そういえば司令官……前に大切なものをひとつ失くしてしまったと言っていた気が……」
〇荒潮「あらあら、ということはつまり、中のデータはまだ誰にも見られていないということかしら?」
〇天津風「なんだびっくりしたわねもう……さすがにそこまではしないとは思ってたけど」
●霞「あとでそのアヒル焼却するから」
●大潮「えぇ~そんなぁ」
〇霰「なんか、司令官の株が上がったような気がしてきた」
●島風「うーん……もっと提督の良くないところを挙げてかないと……!」
●時津風「あ、はーい! しれーは有罪でーす!
なぜならぁ……えーっと、時津風たちが外で走ってるのを、双眼鏡でじーーーっと見てたから!」
●霞「ちょっと! それはいくらなんでも当てつけすぎるでしょ!」
●朝潮「それは司令官の優しさです!!」
●時津風「えぇー……なんで同じチームの人に怒られてるの……」
●島風「だったら朝潮もさー、提督の悪いところ言いなってー」
●朝潮「司令官に悪い所なんて……」
〇荒潮「朝潮が司令官のことを尊敬しているのは分かるけれど、そういう勝負だものねぇ」
〇霰「朝潮が司令官を悪く言う所、見てみたい」
〇満潮「たしかに珍しい光景かもしれないわね」
●朝潮「うっ…………司令官の、悪い所は…………」
一同「ゴクリ…………」
●朝潮「私が膝の上に座っていないと、きちんとお仕事をしないところ……」
〇雪風「これは……悪い所なんでしょうか?」
〇満潮「間違いなく悪い所……なんだろうけど」
〇浦風「ほんのりノロケ混じりって感じじゃのぉ……」
●朝潮「どうでしょうか」ドヤッ
〇天津風「どうって……ふんっ、今の主張は無効ね。
なぜなら、あなたたちが留守の間も、アレは一応仕事してたから」
●朝潮「司令官をアレと呼ぶのはやめてください」
〇天津風「……クズはいいのに?」
●霞「クズはいいの」
〇天津風「なんでよ」
〇荒潮「でも、たしかにあれは単なる司令官の趣味だから、朝潮を膝に乗せてないと
お仕事ができないっていうのは、少し違うかもしれないわねぇ」
〇天津風「ほら見なさい! それに、あたしだって司令官の膝の上に座ったから!」
●朝潮「!?」
●浜風「ですから、そこは張り合うところでは……」
●朝潮「司令官のお膝に座るのは、秘書艦の特権です!」
〇天津風「そうよ? 忘れてもらっちゃ困るわ、今の秘書艦はあたしなの。ただの駆逐艦さん?」
●朝潮「ぐぬぬ……」
〇霰「うまい。朝潮選手、今のはダメージが大きい」
〇満潮「なに呑気に解説してんのよ」
●大潮「おぉ……朝潮が押されてる……!」
●朝潮「し、司令官は、私の頭をよく撫でてくれます!」
〇天津風「あたしなんて、司令官のことをパパって呼んだことあるわ!」
●朝潮「司令官は私に、愛していると言って指輪を下さいました!」
〇天津風「それって、あなたたち6人全員に言った口約束の話でしょ?」
●朝潮「私は秘書艦なので、もっと特別です!!」
不知火「なんだかよく分かりませんが、想像以上の盛り上がりを見せていますね……」
黒潮「これ、両チームが仲良うなるための企画やったんやけどなぁ~、あはははっ」
不知火「ではこれ以上こじれる前に、投票へと参りましょう」
黒潮「ほな、有罪か無罪か、みんな手ぇあげてな~。あ、ディベート参加者の皆も一応手挙げてOKやで」
不知火「では、提督が有罪だと思う方、挙手を」
〇満潮「はい」
〇荒潮「はぁい」
〇霰「はい」
〇天津風「えぇっ!?」
~ パーティー終了後 桟橋 ~
天津風「はぁ……疲れた……」
天津風「っていうかあたし、なんであんなにムキになってたんだろ……。
あんな余興の勝敗なんて、今考えればどうでもよかったのに……」
天津風「あぁそれにしても暑い……ちょっと涼んでから明日に備えて……」
てくてくてく……
朝潮「………………」
天津風「……あっ」
朝潮「あっ……」
天津風(なんか流れで一緒に座ることになったけど……あの後だし、気まずい……)
朝潮「…………」
天津風「えっと……」
朝潮「パーティーの最中……私たちのことを色々聞いて回っていたそうですね」
天津風「うっ……バレてる……」
朝潮「いいんです。私たちも同じなので」
天津風「え?」
朝潮「私たちが鎮守府を留守にしていた間……どんな出来事があったのか……。
司令官はもちろん、那智さん、龍驤さん、瑞鳳さん、神通さん……色々な方々に」
天津風「あぁ……そういうことね……」
朝潮「あと雑誌とテレビの録画も」
天津風「あれは恥ずかしいからやめて……」
朝潮「私の代わりに慣れない秘書艦を務めることになって……それでも頑張ってお仕事をして、
司令官の支えになって、ないない駆逐隊の旗艦としても立派になったと聞きました」
天津風「えぇ!? あぁ、いや……それほどのことでは……」
朝潮「それなのに私、ムキになってしまって……反省しています」
天津風「ちょ、ちょっと待って! 急にしおらしくなられると困るんだけど……」
朝潮「明日の演習のことですが」
天津風「う、うん……」
朝潮「正直に言うと、演習の話を陽炎さんに持ち掛けられたとき……
私は負けるわけがないと思っていましたし、あまり深くは考えていませんでした」
天津風「ふぅん、舐められたものね」
朝潮「自分がこれまでしてきた努力に自信がありますし、何より心強い仲間がいて、最高の駆逐隊だと思っていたからです」
天津風「まぁ……そうよね」
朝潮「ですがあなた達のことを知るたびに、その考えは変わりました」
天津風「…………」
朝潮「私たちは、あなたたちに負けたくない。そして私は、あなたに負けたくない」
天津風「…………っ!」
朝潮「ないない駆逐隊にとって、この演習にどういう意味があるのかも理解しています。
それでも私は、私たちは……あなたたちと本気の演習がしたいです」
天津風「本気の演習……ね。なるほど、そういうことね」
朝潮「…………」
天津風「別に変な気を遣わなくたっていいわよ。手抜きの朝潮型駆逐隊に勝利したって、全然嬉しくないから」
朝潮「…………分かりました」
天津風「あ、それと、そのカッチリと敬語で話すのやめてほしいんだけど……なんか不知火みたいで怖い」
朝潮「え? ですが……」
天津風「姉妹艦の子たちとは普通に話すじゃない」
朝潮「あの子たちは……特別なので」
天津風「う~ん……まぁいいわ。そのうちあたしも、あなたの特別にさせるから」
朝潮「…………なんだか陽炎さんと似ていますね」
天津風「ホント!? 陽炎姉さんと似てるだなんて、照れるわね~」
朝潮「ふふっ」
天津風「あははっ」
朝潮「よし……それでは、私はもう行きます」
天津風「えぇ、また明日」
朝潮「はい、また明日、海の上で会いましょう」
続きは明日の夜に投稿します。
明日で完結予定です。
~ 演習当日 演習海域 ~
時津風「演習開始まで、あと30分かぁ……」
雪風「なんだか……緊張してきましたッ」
島風「う~っ! じっとしてらんない!」
浦風「まだ時間に余裕があるけぇ、ルールのおさらいする?」
天津風「そうね。浜風、お願い」
浜風「了解」
浜風「今回の演習は6対6の艦隊戦。互いの艦影を視認できない状況からスタートし、
索敵、砲雷撃戦、場合によっては夜戦へと移行します。
勝利条件は『旗艦の撃破』、夜戦で決着がつかなければ引き分けとなります」
島風「え? 引き分けなの?? 被害の少ない方が勝ちとかじゃなくて?」
時津風「引き分けになると……時津風たちはどうなるの?」
浦風「陽炎がうちらに出した課題は、朝潮型駆逐隊に『勝利』すること……」
天津風「そう。つまり、引き分けはあたしたちにとっての敗北。朝潮だけは、絶対に倒さないといけないの」
雪風「大丈夫です! 雪風、今日の作戦はしっかり覚えてきましたッ!」
時津風「そういえば作戦で思い出したけどさー、結局あれはどうなったの?」
天津風「あれって?」
時津風「演習前にしれーにお色気攻撃するとか、オバケを作るとか」
島風「抹茶せんべいに大量のワサビを塗るとか」
雪風「天津風ちゃんが言ってた姑息な下準備のことです!」
天津風「あたし、そんなこと言ったかしら?」
島風「言ってたよ! 悪い顔して言ってた!」
天津風「そんなものは必要ないわ。あたしたちは正々堂々、本気の演習をするだけよ」
浜風「昨夜のパーティーの後、何か心変わりがあったようですね」
浦風「ふふっ、急に顔つき変わる所は、陽炎そっくりじゃのぅ」
時津風「まーいっか! 今の時津風なら、何にだって勝てそう!」
天津風「その意気よ。あたしたち陽炎型の力、見せてやりましょ!」
島風「おー!!」
雪風「島風ちゃんは陽炎型じゃないです」
島風「そこツッコむところじゃないでしょー!!」
~ 30分後 ~
天津風「変ね……浜風、時間は?」
浜風「演習開始時刻から5分が経過しました」
浦風「提督さんの話じゃと、開始を知らせる無線通信が入るって……」
雪風「しれぇ、うっかりして忘れてるのでしょうか?」
時津風「無線が壊れてるとか?」
島風「それか時計の故障?」
天津風「…………」
浜風「どうしますか天津風。もし仮に、何らかの原因で我々にだけ無線通信が届いていないのだとしたら、
我々は敵の発見が遅れ、後手に回ることになります」
天津風「…………もう少し待ちましょう。でも、一応周囲の警戒はしておいて」
浜風「旗艦の命令であれば従います」
天津風「先に言っておくけど、間違っていても後で文句言わないでよね」
浜風「安心してください。その時は、皮肉を込めて慰めてあげますよ」
天津風「はいはい安心したわ。浜風がいつも通りで」
~ 数分後 ~
島風「…………ねぇ、さすがにこれ、遅すぎない?」
時津風「予定通り演習が始まってたとしたら、そろそろ敵に見つかる頃じゃないかなぁ?」
雪風「もしかして向こうの艦隊にも、無線が届いていないのでしょうか?」
浜風「しかし、全員の無線が一度に故障なんて……」
天津風「こっちからの呼びかけは?」
浦風「ダメじゃ……さっきから呼びかけとるけど、誰も……」
天津風「………………」
島風「どうするの? 天津風ちゃん!」
天津風「何だか嫌な予感がするわね…………。
せっかくやる気になってきたところけど、一度帰投するわよ」
~ 司令室 ~
バタン!
天津風「提督!」
不知火「天津風……」
島風「あれ? 提督は?」
黒潮「うーん……おらんくなってしもうてん……」
雪風「えぇ!? しれぇ、こんな時にどこへお出かけしたんでしょうか!」
不知火「何者かに連れられて、どこかへ行ってしまったようです」
時津風「それって誘拐!? 誰にさらわれちゃったの!?」
黒潮「それがウチらにも詳しいことは……」
不知火「ただ一言、大人しく待っていろと」
天津風「何よそれ……全然意味が分からない……。演習はどうなるの!?」
不知火「司令が不在では、演習は始められません」
天津風「じゃあ朝潮は!? あの子たちは今どこにいるの!?」
不知火「知りません」
天津風「もうっ!!」
時津風「落ち着いてよ天津風。不知火に当たっても仕方ないって……」
天津風「くっ…………そ、そうね。ごめんなさい」
浦風「ほじゃけどうちら、一体どうしたらええん……?」
雪風「しれぇのこと、とても心配です」
島風「決まってるじゃん! 提督のこと、取り返しに行かなきゃ!」
不知火「それはいけません」
島風「なんで!」
不知火「あなたたちはきっと、また勝手に出撃してしまうだろう……司令はそう仰っていました」
島風「行動パターン読まれてるし……」
不知火「だからこそ、『大人しく待っていろ』と何度も念押ししていました」
一同「…………」
浜風「……であれば、我々に無線で一報入れてからでもよかったはずです」
黒潮「それは……そないな余裕がなかったんや、司令はん」
時津風「それって、すっごい強引に連れていかれちゃったってこと?」
雪風「もしそうなら、やっぱり早く助けに行った方がいいと思います!」
不知火「…………」
天津風「それともあたしたちに何か……知られたくないことがあるとか」
黒潮「…………」
不知火「…………」
天津風「ねぇ、どうなの?」
黒潮「…………うぅ~ん…………はぁ……不知火、ウチもうあかん、パス」
不知火「まぁ……こうなるだろうとは思っていましたが」
天津風「……??」
不知火「天津風、これを」
天津風「この紙は……」
不知火「そこに、司令が連れていかれた場所が記載されています」
天津風「えぇ!?」
浦風「二人とも、何か知っとるん……?」
島風「ほらやっぱりー! 私たちに嘘ついてたんだー!」
天津風「もういいわ、島風」
島風「えー! だってきっと、他にも色々知ってるはずだよ! 吐かせないと!」
天津風「二人が何も言えないってことは、提督に口止めされてるってことでしょ」
島風「うぅ……だからそれを聞き出すチャンスなのにぃ」
天津風「本当は居場所だって言えないはずなんだから、これで十分よ」
島風「むぅ……」
不知火「最後にもう一度だけ言います。司令はあなた達に、ここで待っていろ、出撃するなと言っています」
天津風「でも理由は言えないのよね?」
不知火「…………」
天津風「だったらあたしたちが、自分でその理由を確かめに行くまでよ」
黒潮「はぁ……ウチら、ちゃーんと止めたで?」
天津風「忠告ありがと。でも生憎あたしたち―――」
天津風「―――『出撃するな』って言われて出撃しなかったこと、一度もないの」
黒潮「あぁ~あぁ……行ってしもぉたなぁ」
不知火「あぁいう所は変わりませんね」
黒潮「熱意は伝わるんやけどなぁ」
不知火「ともあれ、私たちの役目はこれで終わりです」
黒潮「あとは…………お任せやなぁ」
不知火「どういう結果になろうとも、乗り越えるのはあの子たちです」
~ 海上 ~
天津風「両舷前進! みんな急いで! あとはこのまま真っ直ぐ進むだけよ!」
雪風「しれぇ……一体どんな人に連れていかれちゃったのでしょうか……」
時津風「今ごろお仕置きされてるかも……お尻叩かれたりとか?」
浜風「大方の予想はつきます。艦娘の常駐する鎮守府のトップを拉致したというのであれば、
おそらく我々艦娘をよく思わない者たちによる犯行でしょう」
浦風「だから提督さん、うちらに知られんようにしとったん?」
島風「えーっ、でも仲間外れにされたのって、ないない駆逐隊だけだよー?」
天津風「ホントもう……あの人、何考えてるのか全然分かんない……!!」
雪風「あっ! 前方に何か見えます!」
時津風「げっ、もしかして深海棲艦!?」
浦風「人の姿に見えるけぇ……深海棲艦という感じじゃあ―――」
ドォン! バァアアアアアン!!
島風「う、撃ってきた!?」
天津風「こ、後進一杯! みんな止まって!」
時津風「なになに? やっぱり深海棲艦なの!?」
浜風「天津風、前方の艦隊から通信です」
天津風「一体なんなの……繋いで!」
朝潮「こちらは朝潮型駆逐隊、旗艦の朝潮です」
天津風「朝潮!?」
雪風「もしかして、まだ演習と勘違いしてるんじゃないでしょうか?」
天津風「聞いて朝潮! 演習は中止よ!」
朝潮「…………」
天津風「提督が連れ去られたの! だから―――」
ドォン! バァアアアアアン!!
島風「わぁあああ!?!? また撃ってきた! あれ人の話聞いてなくない!?」
浜風「いえ、何か様子が……」
天津風「ちょっと朝潮ー! いいから話を―――」
朝潮「…………今すぐ鎮守府へ、帰投してください」
天津風「…………っ!! まずい……全艦最大戦速、早く!!」
ドォン! バァアアアアアン!!
時津風「危なっ! 今の避けなかったら、当たってたよ!?」
天津風「しかも今までの砲撃……」
浜風「すべて、実弾です」
島風「天津風ちゃん! 向こうも動き出したよ! どーするの!?」
天津風「どうやら朝潮たちも、あたしたちをこの先へ行かせたくないみたいね……」
浦風「うぅ~……うち、もう何がなんだか、よう分からんくなってきた……」
天津風「難しく考える必要なんてないわ。ちょうど良かったじゃない。どのみちないない駆逐隊は、
朝潮型駆逐隊に勝たなくちゃいけないんだから」
雪風「でも、模擬弾じゃありません! 実弾です!」
天津風「今はあたしたちも実弾よ。本気の演習が、本気の実戦に変わっただけの事……。
立ちふさがる敵として、宿命のライバルとして、全力でぶつかって! 叩きのめしてやればいいじゃない!」
一同「…………」
浜風「……なるほど。面白いですね。どのみち戦う運命なら、今ここで、決着をつけてしまいましょうか」
浦風「そうじゃ……うちらの駆逐艦魂、ここで見せたるけぇ!」
雪風「雪風も、なんだかすごくやる気が湧いてきちゃいました!!」
時津風「しれーを助けに行くって決めたし、こんなトコで逃げたくないっ」
島風「天津風ちゃんに賛成! 一番速いのは私……ううん、ないない駆逐隊だから!」
天津風「ありがと、みんな大好きよ。さぁ、おっぱじめるわよ…………ないない駆逐隊、砲雷撃戦用意ッ!!」
天津風「両舷前進、第四戦速! 面舵20、そのまま複縦陣に移行! 急いで!」
雪風「わぁ~~! 待ってください!」
浜風「無茶です天津風! それでは最後尾の雪風が付いていけません!」
天津風「くっ……なんで……!!」
時津風「なんか敵の攻撃、艦列の後ろばっか狙ってない?!」
浦風「うちらの動きを分断する気じゃ……!」
島風「天津風ちゃん! なんとかして敵との距離をとらないと!」
天津風「分かってるわよ! さっきからやってる……やってるけど、どう動いても、
こちらが不利になるようにピッタリついて来る……!!」
浜風「練度の差がこれほどまでとは……艦隊運動の技術では敵いませんよ、天津風」
天津風「そうみたいね……。でも、これも想定の範囲内。次の作戦、行くわよ!」
一同「了解!!」
霰「敵艦隊、分散した」
荒潮「あらあら、思い切った事するのねぇ?」
霞「日の高いうちから乱戦でもする気かしら」
満潮「でも敵の目的は変わらない。向こうも私たちの艦列を崩したいんでしょ?」
大潮「どうするの! 朝潮!」
朝潮「ひとまず敵の誘いに乗りましょう。でも、いつでも艦列を戻せるようにしておいて」
霞「簡単に言ってくれるわね……」
朝潮「それから分かってると思うけど、艦列を戻すまでは守りに徹して、あと魚雷は使用しないこと」
霰「雷撃はお預け……」
荒潮「うふふ、艦隊戦もいいけれど、個人戦も楽しそうねぇ」
満潮「あの子たちホント強いみたいだから、気を抜くとやられるわよ、大潮」
大潮「大潮も強いから大丈夫!」
朝潮「さぁみんな、迎え撃つわ!」
天津風(……よし、作戦成功! うまく敵の艦列を崩せた!)
天津風「みんな、そのまま確固撃破よ! 艦列を戻させないよう注意して!」
ドォオオオン!!
朝潮「…………」
天津風「っとと……やっぱりあたしの相手はあなたしかいないわね、朝潮!」
朝潮「…………」
ドォオオオン!! ドォオオオン!!
天津風「くっ……なによもう、艦隊戦じゃなくても普通に強いじゃない……っ!」
浜風「聞こえますか、天津風」
天津風「なに?! 今、それどころじゃ……!」
浜風「敵の動きが妙です」
天津風「え?」
浜風「駆逐艦大潮と交戦中ですが……想像以上に押しが弱いように感じます。
事前に聞いていた彼女の戦い方とは明らかに……」
ドォオオオン!!
天津風(まさか、何か企んでる……? こんな乱戦の中で?)
朝潮「…………」ニヤッ
天津風「えっ……なに笑って」
朝潮「今! 艦列を戻して!」
天津風「しまった! みんな注意して! 敵が艦列を―――」
雪風「あわわわわっ! 間に合いません!」
時津風「嘘でしょー!? こんな簡単に戻っちゃうの!?」
天津風「まさか……あたしと戦いながらずっとタイミングを見計らって……」
浜風「雷跡多数ッ!!」
島風「えっ、どっちから?!」
天津風「島風、浦風、六時よ! 避けて!」
浦風「む、無理じゃ! 多すぎて避けきれ―――――」
バァアアアアアアアアアアン!
浜風「くっ……無事ですか、浦風」
時津風「うぅ……ねぇ島風、こういうの時津風の役割じゃない気がするんだけど……」
浦風「浜風、時津風……うちらをかばって……」
島風「世界一速い私なら避けきれたのにっ」
時津風「いやいや……ぅう……あれ背後から受けてたら絶対大破だったって……」
浜風「我々は中破。まだ……戦闘は可能です」
浦風「浜風……」
雪風「天津風ちゃん! 敵、また艦列を崩しました!」
天津風「くっ……なるほど、そういう手口ってわけね……」
島風「ねぇ天津風ちゃん! これ、また急に艦列組み直して雷撃してくるってことじゃないの?!」
天津風「十中八九そうなるわ。そうやって少しずつあたしたちを弱らせていくつもりなのよ」
浦風「うちらがどう出ようと、あくまで艦隊戦を仕掛けるってことじゃね……」
雪風「敵は皆、いつでも艦列を戻せるように動いてるってことでしょうか!」
時津風「えーっ! 皆、そんなこと考えながら戦ってるのぉー!?」
浜風「いえ、この統率の取れた動き……おそらく司令塔の指示。
特に私の相手がそこまで知恵を回しているとは思えません」
天津風「敵ながら惚れ惚れするわね…………朝潮!」
島風「どうしよう! このままじゃまた……」
天津風「元秘書艦がここまで優秀だとは思わなかったけど、秘策はあるわ。浜風、いける?」
浜風「……心配要りません。もうやっていますから」
ドォオン! ドォオン!
朝潮「大潮、速度を落としてから西へ少しずつ流れて」
大潮「分かった!」
ドォオン! ドォオン!
朝潮「荒潮はそこから後退、時津風をそれ以上寄せ付けないように。霰はそのまま、雪風を引き付けて」
荒潮「はぁい、がんばるわ」
霰「了解」
ドォオン! ドォオン!
朝潮「満潮、距離を詰めて浦風を押し出して」
満潮「分かったわ…………くっ、思った以上に度胸あるわね。全然引かないけど、もっと詰める?」
朝潮「それ以上は危険ね。代わりに霞が後退して、島風を引き寄せて」
霞「了解……って、えっ!? 意味分かんない、すごい速さで横を通り抜けていったんだけど……」
朝潮(思うようにいかなくなってきた……)
大潮「ねぇ朝潮! 大潮、どれくらい西へ進めばいいの?」
朝潮「…………」
大潮「おーい、朝潮ー」
朝潮「………………」
大潮「ねぇ朝潮ー!」
朝潮「大潮、敵に背中を向けて全力で後退して」
大潮「えぇ!?」
朝潮「その先にあらかじめ設置しておいた機雷があるの」
大潮「そうなの!? さすが朝潮! 大潮がそこまで誘い込めばいいんだね!」
朝潮「えぇ」
浜風「機雷……そんなものまで仕掛けられていたとは。深追いは禁物……後退します」
天津風「ちょっとズルイような気もするけど、通信傍受も戦略のうちね」
雪風「これなら敵の策略に飲まれることはありません!」
時津風「敵に艦列を組まさなければ、力はたぶん互角でしょー!」
浦風「いーや、陽炎型の方が性能えぇけぇ、十分勝てる勝負じゃ!」
島風「なら島風の方が! もっとスゴイから!」
天津風「みんな油断しないで! きっと次の手を打ってくるわ!」
浜風「なっ…………さっそく打ってきました」
天津風「え? もう!?」
浜風「敵がこちらの通信傍受に気付いたようです」
天津風「は? なんで??」
浜風「おそらく機雷はブラフ。カマをかけられました」
天津風「そんな……どんだけ鋭い勘してるのよ……」
時津風「でも、気付いたところでどうしようもなくない? 結局指示出すのに、通信するんだもん」
浜風「いえそれが……暗号で指示を出し始めました」
天津風「暗号!?」
島風「それ、解読できたりしないの?」
浜風「簡易的な暗号のようですが、すぐには不可能です。おそらく朝潮型駆逐隊、独自の暗号だと思われます」
浦風「独自の暗号って……そがぁなもん、普通持っとらんじゃろ……」
天津風「朝潮……同じ旗艦として、いちいちあたしをバカにしてくれるじゃない……!!」
雪風「どうしましょう、天津風ちゃん!」
天津風「このままはマズイわ。皆いったん退いて! 艦列を組んで仕切り直すわよ!」
霰「敵が退いていく……艦列を組み直そうとしてる」
荒潮「あらあら、振り出しに戻っちゃったわねぇ」
満潮「二隻分の中破を出したんだから、振り出しってわけじゃないでしょ」
霞「それにしても……まさかあのヘンテコな暗号が役に立つとはね……」
大潮「えっへん! 大潮に感謝して!」
霞「調子に乗るな。で? どうするの、朝潮」
荒潮「また艦列を崩すところから始める?」
朝潮「そうね。……でも、少しやり方を変えるわ」
天津風「両舷前進、第四戦速! よし、このままいけば反航戦よ! 朝潮を狙って!」
雪風「敵艦隊、二つに分裂しました!」
時津風「えーっ!? 今度は何するつもりなの!?」
浜風「次から次へと……手が読めませんね」
天津風「慌てないで! 作戦通り、朝潮のいる方に集中砲火を浴びせるのよ!」
浦風「了解じゃ! 旗艦を抑えれば艦隊は―――」
島風「待って! 煙幕だよ!」
天津風「しまった!?」
時津風「うぅ……なんにも見えない……」
ドォン!
雪風「ひゃっ! 至近弾です!」
天津風「止まらないで、動いて!!」
浜風「敵は艦列を組み直して、また魚雷を撃つ気でしょうか」
天津風「……雷跡に注意!」
島風「注意っていったって……どこから撃って来るのかも分かんないのに」
時津風「でもだいたいの位置は分かるんじゃない? 同じ方向からしか砲撃こないし」
ドォオン!!
天津風「なるほど、つまり敵は……おそらく二時方向――――――って、こんなの見え見えの罠よ! 散開して!!」
雪風「煙幕が晴れます!」
天津風「やっぱり……砲撃は一方向からだけど、敵は艦列なんて組んでない……全方位から抑え込むつもりだったんだわ」
時津風「ふぅ~、危なかったー。冴えてるじゃん天津風~!」
天津風「バカ……してやられたのよ」
浜風「敵の目的は我々の艦列を崩すこと。まんまと策略にハマっているわけです」
島風「うぅ……しかも散開するときにちょっと被弾したかも……小破だけど」
浦風「うちもじゃ……」
天津風「くっ……完全に押されてる……強い……!!」
霰「駆逐艦浦風と島風の小破を確認」
朝潮「上出来ね。そろそろ勝負を仕掛けるわ」
霞「あんなヘンテコな暗号じゃいつかはバレるでしょうしね」
大潮「ヘンテコじゃないよ! 大潮の考えた暗号!」
荒潮「とりあえずもう、本気でぶつかっても良いってことよね?」
朝潮「えぇ、刺し違えるつもりで。でも、私たちはチームだということを、くれぐれも忘れないで」
満潮「忘れる方が難しいわよ」
朝潮「そうね……。みんなありがとう。さぁ、決着をつけましょう」
島風「よーっし! これやると疲れるけど……連装砲ちゃん行っけー!!」
霞「はァ!? なにあの兵装!? 勝手に動くなんて反則じゃない!」
島風「ふっふっふ、島風からは誰も逃げられないよ!」
霞「チッ……的が小さくて当たらない……。本体のウサギ耳を倒した方が早いわね……」
島風「おっそーい! 全然当たらなーい!!」
霞「何なのあれ……格好はヘンだけど、間違いなく強い」
雪風「そこです!!」
ドォオン!!
霰「…………回避」
雪風「えぇ! こんな至近距離で!?」
霰「……今、魚雷発射」
雪風「ひぃ!」
シーン……
雪風「あれ?」
霰「魚雷が起爆しなかった……故障?」
雪風「なんだか分かりませんがチャンスです!!」
ドォオオン!!
霰「うっ……」
雪風「駆逐艦霰、大破です! 雪風また勝っちゃいました!」
天津風「でかしたわ雪風! あなたやっぱ天才! 霰はもういいから、時津風を手伝ってあげて!」
雪風「了解しました!」
霰「…………」
雪風「あの! ……では、失礼します!」
霰「…………」
霞「まさか、霰がやられた!?」
島風「よそ見してたらやられちゃうよー!!」
霞「くそっ……もう! チョロチョロ鬱陶しいわね!」
島風「駆逐艦島風は特別だから、速いだけじゃないんだ……よっ!!」シュバッ
霞「自走する兵装を動かしながら魚雷まで撃つなんて……避けきれない!」
ドォオオン!!
島風「おぉ、当たった」
霞「はぁ……もうダメね、これ」ゴトッ
島風「艤装を盾に……? でも、これで魚雷発射管と主砲を破壊!」
霞「…………」
島風「ねぇ天津風ちゃーん。なんか勝ったっぽいよ」
天津風「なんで夕立みたいな口調になってんの! でもよくやったわ!
じゃあできればこっちを手伝って―――」
ドォオオン!!
島風「うわぁああっ!?!?」
天津風「島風!? どうしたの、島―――ザザッ」
霞「油断したわね。よそ見してるとやられるって言ったのは、どこの誰だったかしら?」
島風「うそ……主砲、壊したはずなのに……」
霰「それ、私の主砲だから、私の手柄…………」
霞「なんでそうなるのよ」
島風「うぅ……まさか……」
霞「同型艦でないと、主砲の貸し借りなんてできないわよね? 特別な島風型さん?」
島風「うぅうううーーー!! 悔しいーーー!!」
霞「はぁ……とはいえ航行もできないし、私もここまでね……」
浜風「まさか島風が最初にやられるとは……」
浦風「浜風!」
浜風「浦風、無事ですか」
浦風「うん……でも、ばり強いけぇ……勝てるかどうか……」
浜風「私も、理屈が通用しなさそうな相手に苦戦しているところです」
満潮「あんた敵にバカって言われてるわよ」
大潮「えっ!? そうなの!?」
満潮「悔しかったら私の案に乗りなさい」
大潮「分かった! 何すればいいの?」
満潮「突っ込むのよ」
大潮「ほほう…………え?」
満潮「最大戦速で」
浜風「向かってきます……速いですね」
浦風「うちらも最大戦速じゃ!」
浜風「えぇ、そうしましょう」
浦風「………………」
浜風「………………」
浦風「浜風……このままだと、反航戦というより、うちら、ぶつかりよるんじゃ……」
浜風「進路を逸らしても真っ直ぐこちらに向かってきますね……まるでイノシシです」
浦風「まさか体当たりとか……?」
浜風「……この速度ですよ?」
浦風「でも……」
浜風「ここでスピードを落としては敵の思うツボです。速度を維持したまま、砲撃を続けましょう」
大潮「うおおおおおぉおっ!!」
ドォン!!
大潮「うぐっ!」
満潮「あと少し! 耐えなさい! 私の盾になって進みなさい!」
大潮「大潮、こんな役ばっかり!!」
満潮「泣きごと言わないの!」
浦風「は、浜風……あれやっぱり、突っ込む気じゃけぇ!」
浜風「ほんと、常識が通用しないッ! 回避します!!」
満潮「ほら、敵が避けるわよ! 青い方へ!」
大潮「うおぉおおっ!!」
浜風「浦風!」
浦風「うわあああこっちに来――――――」
ガッシャーーーーン!!
大潮「はぁ……はぁ……」
浦風「まさか……ほんとに体当たりしよるなんて……」
浜風「よくも浦風を……! このっ!!」
ドォォオン!
大潮「うあぁああっ!!」
浜風「なっ……! 駆逐艦大潮の艤装を盾に……!」
満潮「遠慮がないっていうのは、これくらいの事を言うのよ」
大潮「遠慮なさすぎ…………」
浜風「くっ……まずは距離をとって……!」
満潮「逃げるつもり? ふん……手ごたえのない子」
ドォオオン!!
浜風「天津風……後は頼みます……」
荒潮「うふふ、追い詰めちゃったわ」
時津風「ひぃっ!? 怖いぃ!」
雪風「時津風ちゃん! 助けに来ました!」
時津風「雪風!」
荒潮「あらあら、助けが来ちゃったわねぇ」
時津風「よ、よーし! これで2対1だし、時津風たちの方が有利―――」
ドォオオン!!
時津風「わぁっ!?」
雪風「時津風ちゃん!? 後ろから……!」
満潮「たしかに2対1ね。有利なのは私たちの方だけど」
時津風「うぅ……戦闘不能……。ごめん、雪風ぇ……」
雪風「むむむぅ……」
天津風「うそっ……残ったの、あたしと雪風だけ……!?」
朝潮「…………そこ!」
ドォオン! ドォオン!
天津風(なによこれ……今までの朝潮の攻め方と明らかに違う……
作戦なんかじゃない、刺し違えるつもりで向かって来てる……!)
天津風(敵の目的は、あくまでもあたし達を止めること……。
自分たちがどれだけボロボロになろうと、あたしたちの足さえ止められれば、それでいいってことね)
朝潮「やぁあっ!!」
ドォオン! ドォオン!
天津風(…………違う。それだけじゃない。
あたしたちが相手なら、艦隊戦でなくても勝てるんだって……そう言ってる!!)
天津風「だったら尚更…………朝潮型なんかに! 負けるもんか!!」
満潮「朝潮! 荒潮がやられたわ!!」
朝潮「荒潮が?!」
満潮「この雪風って子、見た目以上に強い。死神でも相手にしてるみたいよ」
朝潮「分かったわ。私も協力する」
ザザーッ
天津風「あ、こら! 待ちなさい!!」
朝潮「満潮! 射線から外れて!!」
満潮「了解」
ドォオン! ドォオン!
雪風「うぅ……当たりません!」
天津風「こら朝潮! あなたの相手はこの私―――くっ……この位置からじゃ雪風に当たる……っ!」
雪風「撃ってください天津風ちゃん! 全部回避します!」
天津風「…………!? ……そうだったわねこの天才! ちゃんと避けなさいよ!!」
ドォオン! ドォオン!
朝潮「撃ってきた……!? それなら……満潮!」
満潮「分かってる!」
朝潮「敵の回避ポイントに狙いを絞って……魚雷発射ッ!」
満潮「これで、全部よ!」
雪風「……っ!」
天津風「しまった! 雪風……あれは回避できない……!!」
雪風「なら雪風だって……最後の魚雷、全部発射します!!」
ドォオオオオオオン!!!
天津風「みんな生きてる? 応答して」
時津風「はーい」
島風「連装砲ちゃん、早く修理してあげなきゃ」
浜風「無事ですが戦闘は不可能です。それと、浦風が気を失っています。命に別状はありませんが」
雪風「雪風も、もうぐったりです……」
天津風「みんな良くやってくれたわ。お疲れ様」
島風「天津風ちゃんは?」
天津風「幸か不幸か、あたしだけまだピンピンしてるわ」
時津風「もうすぐ日が落ちちゃうよ? どうするの……?」
雪風「こんな状態じゃ、雪風たちはもう……」
天津風「分かってる。…………皆はここにいて」
浜風「天津風……どうする気ですか」
天津風「朝潮と、話してくるわ」
朝潮「被害報告」
霰「大破、航行不能。艤装は霞にとられた」
霞「人聞き悪いわね……。はぁ……私も戦闘は無理だわ」
満潮「惜しかったど、私も最後にやられたわ。あと大潮は目回してる」
荒潮「あらあら、私もやられちゃったし、残ったのは朝潮だけねぇ」
朝潮「そしておそらく、あちらも一隻のみ。旗艦が健在です」
霞「で、どうする気?」
霰「朝潮型駆逐隊の目的は、すでに達成されたようなもの……」
満潮「あとは……まぁ、リーダーに任せるわ」
朝潮「皆は、ここにいて」
荒潮「やっぱり行くのね、朝潮」
朝潮「………………まずは天津風さんと、話をしてきます」
天津風「戦術的だったり大胆だったり、面白い戦い方するのね」
朝潮「私も正直、ここまで被害が出るとは思いませんでした」
天津風「ふん、何カッコつけてるのよ。ないない駆逐隊はほぼ壊滅状態……。
こんなんじゃこれ以上先へは進めないし、そっちの勝ちじゃないの」
朝潮「朝潮型駆逐隊はまだ、勝ってなどいません」
天津風「は?」
朝潮「ないない駆逐隊と朝潮型駆逐隊の勝負における勝利条件は―――」
天津風「―――旗艦の撃破……」
朝潮「この勝負、引き分けでよければ、今すぐに撤退してください」
天津風「引き分け……!?」
朝潮「…………」
天津風「…………冗談じゃないわ」
朝潮「…………」
天津風「もうこうなった以上、提督の元へはたどり着けない。……でも、この戦いの勝敗には、大きな意味がある」
朝潮「ないない駆逐隊が、中央鎮守府へ帰るためですか?」
天津風「違う」
朝潮「…………」
天津風「駆逐艦天津風は……秘書艦として! 旗艦として! 陽炎型として! あなただけには……
駆逐艦朝潮だけには、負けたくないって言ってるのよッ!!」
朝潮「分かりました。では、受けて立ちましょう」
朝潮「―――……私も、同じ気持ちですから」
天津風「我、夜戦に突入す!」
朝潮「我、夜戦に突入す!」
天津風(星も、月明かりもない暗闇……この勝負、接近戦で一撃、与えるしかない!)
朝潮(魚雷は打ち尽くして、残る兵装は主砲のみ。主砲の弾薬も残り少ないし、無駄撃ちはできない……!)
ドォオオン!! ドォオオン!!
朝潮「くらえ……っ!!」
天津風「くっ……まだまだ!」
天津風(やっとここまで来れたんだ……! 朝潮みたいに有能な旗艦じゃないけど、
皆ついて来てくれたし、支えてくれた! あんなにバラバラだったないない駆逐隊が一つになった!
今だってあたしは、皆が切り開いてくれた道の先にいる!)
天津風(こんなところで終われない……負けたくない――――――)
天津風「――――――負けるもんかぁあああーーーーーーっ!!!」
朝潮「突っ込んでくる!? ……させない!!」
ドォオン!!
天津風「うぐっ……! 痛い……でも、ここまで接近すれば……!!」
朝潮「……っ!!」
天津風「朝潮型駆逐艦……これが陽炎型よ! 酸素魚雷、全弾発射ッ!!」
朝潮「最大戦速ッ! ギリギリ回避できる……!!」
天津風「甘いッ! こっちの本命は砲撃!!」
ドォオン!!
朝潮「しまっ……―――」
バァアアアアン!!
天津風「命中!!」
朝潮「…………」
天津風「なっ……防がれた!? いやでも、主砲を破壊した! これで敵の兵装はもう―――」
朝潮「これが……朝潮型駆逐艦のチカラ!!」シュッ
ガシャアアンッ!!
天津風「きゃっ!? 信じらんない……空の魚雷発射管を投げた!? 連装砲くんが……」
朝潮「これでお互い、丸腰です」
天津風(お互い、戦闘手段を失った……でも……)
朝潮(体はまだ動く……私はまだ……戦えるっ!!)
天津風「このっ…………」
朝潮「………………」
天津風「朝潮ぉおおおおーーーーーーっ!!!」
朝潮「天津風ぇええーーーーっ!!」
ガシッ!
天津風「絶対に負けない! 絶対に負けない! あなただけには、絶ッ対に負けたくない!」
朝潮「私だって負けたくない! 朝潮型の誇りにかけて、負けるわけにはいかない!!」
天津風「この…………いたたたっ!! 髪引っ張んないでよ、このバカ!!」
朝潮「そっちが……くっ……つねるのを、やめたらッ!!」
天津風「やめるわけないでしょ! この……提督に捨てられた元秘書艦!」
朝潮「捨てられてなんかいない! 司令官の秘書艦にふさわしいのは、私! あなたじゃない!」
天津風「バッカみたい! あんな頭のおかしい提督に執着するなんて!」
朝潮「司令官の悪口を言うな!!」
天津風「だいたいねぇ! 秘書艦を膝に乗せて仕事するって何!? 意味不明なんですけどッ!」
朝潮「あなたには一生分からない! 毎日司令官の膝の上に座ってきた私なら分かる!」
天津風「膝の上がなんだって言うのよ! あたしなんて、提督の肛門に指を入れて気絶させたことあるのよ!
提督大好き元秘書艦様でも、それはしたことないでしょう?!」
朝潮「そんなの……全ッ然自慢にならない!」
天津風「じ、自慢じゃないわよバカー!!」
霞「ったく……砲撃が止んだと思って来てみれば……」
浦風「言ってること無茶苦茶やねぇ……」
荒潮「まるで子供のケンカねぇ」
島風「もぉ……二人とも兵装ないなら、もう止めとけばいいのに」
大潮「おお~い……こっちの声、全然届いてない」
時津風「ねぇこれ、止めに入った方がよくない?」
満潮「止めたって意味ないわよ。完全に火が付いた駆逐艦は、誰にも止められないわ」
雪風「どっちももうヘロヘロなのに……雪風、心配です」
霰「旗艦同士の戦い……私たちは、ただ見守るだけ」
浜風「そうですね……駆逐艦の意地です。あと少しだけ、ここで見届けましょう」
朝潮「私は! あなたのことが、大っ嫌い!」
天津風「あたしだって! 大嫌いよ!!」
朝潮「ちょっと秘書艦を務めただけの余所者のくせに! あんなに司令官と仲良くして!」
天津風「嫉妬だなんてみっともない! あの人にとって、自分だけが特別だなんて思わないことね!」
朝潮「私とあなたでは、司令官と過ごした時間が違う! 密度が違う! 何もかもが違う!!」
天津風「それだけ違っていて! あなたが秘書艦に戻れないのは、どう説明するつもりよ!」
朝潮「それは司令官があなたたちとッ――――…………このっ……卑怯者ーーーッ!!」
天津風「はァ!? 何よ急に! 意味分かんない! 最後まで言いなさいよ!!」
天津風「はぁ…………はぁ…………」
朝潮「はぁ…………はぁ…………」
天津風「はぁ……軟弱者……もう、ギブアップかしら……」
朝潮「そっちこそ…………声、かすれて……」
天津風「あたしはまだ……全ッ然……戦えるわよ……」
朝潮「こっちだって……余裕……すぎるくらい……」
霞「はいはい、もうそれくらいにしときなさい」
浜風「これ以上は二人とも、本当に危険です」
荒潮「というかもう、立ってるのもやっとって感じよねぇ」
天津風「バカ、言わないで……! 勝負は……まだ……!」
浦風「もう終わりじゃ、天津風。十分頑張ったけぇ」
霰「朝潮も……がんばった」
朝潮「だめ……まだ私、勝ってない……」
大潮「ないない駆逐隊を止めたんだから、大潮たちはこれで十分だよ朝潮! もう止めよう?」
島風「そんなことより天津風ちゃん! 提督の方が優先だって!」
雪風「そうです! 雪風、しれぇが心配です!」
天津風「……提督のことなら、たぶん大丈夫よ」
時津風「え……どゆこと?」
天津風「これだけ提督のことを想ってる駆逐艦たちが……全力であたしたちの進行を阻止しようとしてるんだから……。
それって、提督の身の安全は守られてるって……ことでしょ」
朝潮「…………」
天津風「あたしたちを行かせたくない理由は…………どうしても教えてくれないみたいだけど」
満潮「はぁ……そこまで気付いてたんなら、大人しく撤退しなさいよ……」
天津風「だって……気付いたのは戦闘中だったし……それに、負けたくなかったし」
島風「天津風ちゃんって、結構負けず嫌いだよね」
天津風「あなたに言われたくないわよ……」
天津風「それに…………ねぇ朝潮」
朝潮「はい」
天津風「もし逆の立場だったら、朝潮ならどうしてた?」
朝潮「それは……言うまでもありません」
天津風「でしょ?」
浦風「ほいじゃあ、何するにせよ、うちらは体を休めんと……」
ザー…… ザザッ……
浜風「……待ってください。何か……聞こえます」
時津風「通信? 時津風の方は何も聞こえないけど?」
浜風「これは…………また電探が、テレビの電波を拾っています」
???『この―――皆さ――――――艦―――ます――』
天津風「この声…………浜風、もっとボリューム上げられない!?」
浜風「待ってください。電探の向きを調節して…………」
???『国民の皆さまの中には、鎮守府という存在、そして彼女たちの存在に疑問を持つ方もいらっしゃると思います―――』
天津風「やっぱりこれ……」
朝潮「あっ…………くっ……申し訳ありません、司令官」
時津風「えー!? しれー? なんでテレビで喋ってるの!?」
提督『そんな方々にはどうか分かって頂きたいことが、一つあります。
皆さんが今、こうして陸の上で平和な時を過ごせているのは、軍令部や私のような者ではなく、
常に最前線で、海の上で戦っている彼女たちのおかげです』
提督『彼女たちは今この瞬間にも、海の上で戦い続けています』
雪風「これ……なんでしょうか……」
天津風「分からない……でもこれ、艦娘のことを話してる……のよね?」
朝潮「………………」
提督『私は……彼女たち艦娘を指揮する立場の者として、
彼女らに対する不満や疑問を、どうしても解いておきたいと考えました』
提督『そのために観艦式や七夕祭り以外にも、雑誌やテレビの取材を受け理解を得ようと試みました』
浜風「雑誌やテレビの取材…………」
浦風「うちらが受けた……あの……」
提督『結果として、それが火種となりで何度も騒動が起きてしまい、
怪我人まで出してしまう事態となってしまいました。皆さまには大変不安な思いを―――ザザッ』
島風「騒動ってなに……? この前のデパートのやつ以外にも、色々あったってこと?」
雪風「雪風……全然知りませんでした……」
天津風「じゃあつまり……あたしたちが原因で、世間で騒動が……怪我人まで出てるって……」
朝潮「知られて、しまいましたね」
天津風「朝潮…………あなたたちが隠そうとしてきたことって……」
朝潮「ないない駆逐隊が受けた雑誌やテレビの取材……それは艦娘のイメージアップに繋がる一方で、
結果的に反感を買う材料にもなり得たということです」
天津風「そんな……」
朝潮「それを司令官は、あなたたちだけには絶対に知られたくないと……」
天津風「な、なんでよ……そんなの、当人のあたしたちが一番に知るべきことじゃない!?」
朝潮「知ってしまえば、あなたたちは落ち込んでしまうでしょうから」
天津風「なんでそんなっ……! そんな気遣い要らない! あたしたちのせいでこんなことになってるのに!」
朝潮「あなたたちが悪いのではないと、司令官は仰いました」
天津風「あたしたちが悪いに決まってるじゃない! それなのに……勝手に出撃するなとか言う前に、
そのことでもっとあたしたちを責めればよかったじゃない!
なんで提督が悪いみたいになってるのよ! あたしたち、呑気に帰りたいばっか言ってて、バカみたいじゃない!!」
朝潮「司令官はあなたたちを、鎮守府から手放したくないと仰っていました」
天津風「え……?」
朝潮「ですが中央鎮守府に帰ることがないない駆逐隊の悲願なら、せめて笑顔でお別れしたいと」
天津風「…………」
朝潮「ないない駆逐隊は、これまでいくつもの試練を乗り越え、ここまでやってきました。
このまま最後まで頑張って、頑張って頑張って……頑張ったその先に、司令官の望むお別れがあります」
天津風「あたしが秘書艦なままなのも……そういう…………」
朝潮「騒動のことを知って落ち込んだままのないない駆逐隊とは、さよならを言いたくなかったのでしょう」
天津風「さよならって……まだ帰れるかどうかも分からないのに…………実際勝てなかったのに……」
朝潮「提督は確信していたのでしょう。ないない駆逐隊はもう、素晴らしい駆逐隊になったと。
朝潮型駆逐隊にも勝ち得る、技量と絆を持っていると」
天津風「………………なにがノーコメントよ…………あのバカ……」
朝潮「司令官はいつでもどこでも私たちの事を考えてくれて、見ていてくれて、
私たち艦娘を大切に想ってくれています。それが司令官の、良い所なんです」
天津風「はぁ……バカはあたしもね……」
朝潮「…………」
天津風「そんなの……ディベート対決の時に、散々聞いたことなのに……」
浜風「…………テレビ通信、切れました」
荒潮「夜が、明けてきたわね……」
大潮「おおお~、朝日が迫って来る!」
霞「クズのテレビはひとまず忘れて、帰投しましょ」
浦風「うぅ……ダメじゃ……うち、もうこれ完全に航行不能じゃ……」
満潮「なら私が曳航するわ。主機の方はまだマシだから」
浦風「ふふっ、ありがと。やっぱり満潮は、面倒見のえぇ子じゃね」
満潮「う、うるさいわね……」
大潮「え~! 満潮、大潮も引っ張ってよー!」
満潮「あんたはせんべい食べれば動くでしょ」
霰「大潮は元気そうだから、艤装外して泳いで帰れそう……」
雪風「雪風もお付き合いします! 一緒に泳ぎましょう!」
大潮「えーーっ! やだーーーっ!! おっぱいガード!!」
浜風「ちょっ……なんですかそれは……私を盾にするのは止めてください」
雪風「泳ぎましょう!」
大潮「おっぱいガード!!」
浜風「止めてください!!」
時津風「はははー……時津風はまだ自分で動けるし一人で……」
荒潮「あらあら、あなたもフラフラじゃない。ふふふ、私が手を貸すわ」
時津風「えぇっ!? いや、怖……じゃなくて、だだだ、大丈夫だから……」
荒潮「ほらほら、遠慮しないの。ほらほらほら」
時津風「わぁあああ、ちょっと、わああああ!」
霞「実弾であれだけやりあったってのに……どこにそんな体力あんのよ……」
朝潮「でも、良かった」
霞「…………そうね。さて、私たちも行くわよ。立てる?」
朝潮「えぇ大丈夫」
島風「ほら、天津風ちゃんも」
天津風「ぐすっ……うん……」
島風「それにしても、提督ひどいよねー。テレビのアンテナ壊れてるっていうから、ずっと我慢してたのに」
霞「そりゃテレビなんてつけたら、イヤでも騒動に関するニュースが流れるからでしょ」
島風「そんなのどうでもいいよー。見たい番組とかあったのにぃ」
霞「テレビ見てる暇があったら、艤装の手入れでもしとけばいいじゃない。その、勝手に動く兵装」
島風「へへーん! すごいでしょ!」
霞「あとで私にも見せてほしいんだけど……その、れんそうほうちゃん?」
島風「ほうれんそうちゃん!! …………あれ? 夕立のせいで間違えた!!」
霞「ぷっ……なにそれ、普通間違える?」
島風「あーっ! もぉー!!」
朝潮「天津風は、今でも司令官のこと、きらい?」
天津風「……べ、別に。元からきらいじゃないから」
朝潮「じゃあ、すき?」
天津風「むっ……少なくともあなたのことはきらい」
朝潮「ふふっ……私も」
天津風「いちいち提督大好き自慢してくるから」
朝潮「天津風だって、いちいち司令官大嫌い自慢してくるじゃない」
天津風「…………ぷっ」
朝潮「…………ふふっ」
天津風「あはははははっ」
朝潮「あはははははっ」
天津風「はぁ~あ…………やっぱいいわね」
朝潮「何が?」
天津風「そういう喋り方のほうが」
~ 司令室 ~
提督「みんなおかえり。そしてただいま」
天津風「なっにっがっ! ただいまよバカー!」
提督「ど、どうした?」
天津風「あたしたちが、どれだけ心配したと思ってるのよアホー!!」
提督「あー……もしかして、やっぱり出撃したのか」
島風「もちろんしたよ! 当たり前じゃん!」
雪風「雪風たちはなんたって、ないない駆逐隊ですから!!」
不知火「そこは誇らしげに言わないでください……」
黒潮「あははは……まぁ無事で何よりやったけど」
提督「あー……それで? この子たちは、どこまで知っちゃったんだ?」
朝潮「申し訳ありません…………全部です、司令官」
提督「これはもう、さすがとしか……」
時津風「えっへん! 時津風たち、すごいでしょー!」
浦風「あー……でも提督さん、結局誰に連れてかれたん??」
浜風「反政府派の組織が、こんなすぐに身柄を解放するとは思えません」
提督「各地で騒動を起こしていたのは間違いなく反政府組織だ。その騒動自体を不安に思う者もたくさんいる。
そういう人たちからしてみれば、我々も間接的に、騒動の加害者ということになるんだ」
雪風「う~ん……よく分かんないです」
提督「要するに、そういう不安がっている人たちについて行って、ちょっと話をして、
ついでに公共の電波を使わせてもらったってだけの話だ。何も誘拐されたわけじゃない」
島風「えーっ!? それなら最初からそう言っといてくれればよかったのに!!」
不知火「ですから、それをないない駆逐隊に言えない理由があると、何度言えば分かるのですか……」
黒潮「せやから何度も言うたやん。大人しくここで待つよーにって」
天津風「うっ……だって、あんなので納得できるわけないじゃない……」
提督「まぁまぁ、それはそれとしてだ」
一同「…………??」
提督「今度は私から質問していいかな? 私の娘兼ないない駆逐隊旗艦の天津風」
天津風「いつからあなたの子になったのよ……」
朝潮「…………」ジーッ
天津風「いちいち睨まなくていいからッ!」
提督「で、天津風。君たちないない駆逐隊は、またしても勝手に出撃したんだよなぁ?」
天津風「いやだから……それは……」
時津風「まさか、また罰則……」
雪風「おトイレ掃除以外がいいですっ」
提督「艤装もあんなに、未だかつてないほどボロボロにしてきちゃったみたいだなぁ?」
天津風「……えっと…………」
提督「……で、どうだったんだ? 朝潮たちとの勝負は」
天津風「え? そこ?」
提督「あの場所で朝潮たちを待機させておいたのは私だぞ?」
天津風「…………」
提督「…………」
天津風「引き分け……」
提督「引き分け?」
天津風「私と朝潮だけ最後まで残って…………結局、決着つかなかった……」
提督「なるほどなぁ……そうか、引き分けだったか」
天津風「そうよ……勝てなかった……悪かったわね……期待させといて、こんな結果で……」
提督「不知火?」
不知火「はい」
提督「陽炎が出した課題の内容、もう一度教えてくれるか?」
不知火「『朝潮型駆逐隊に勝利し、その強さを示すこと』です」
提督「となると、別に演習でなくても、実戦でも勝負は勝負だよな?」
不知火「はい。そして、課題クリアの条件は『勝利』です。つまり今回は―――」
提督「課題クリアならず。中央鎮守府所属として返り咲くのは、また先の話だな」
天津風「くっ……」
島風「じゃあもう一回! もう一回演習やろうよ! 実戦でもいい!」
黒潮「あかんよ島風。今のないない駆逐隊じゃ、何度勝負してもおんなじや」
島風「うぅ……」
霞「それに勘違いしないでほしいんだけど、あの戦闘はアンタ達をさっさと止めることを目的としたものよ」
霰「朝潮の作戦なら……最後はあんな捨て身にはならない」
大潮「大潮だって、本当は体当たりなんてしないもん!」
満潮「あんたはするかもしれないでしょ」
荒潮「艦隊としてきちんと戦ったら、まだまだ余力を残して勝てそうねぇ」
天津風(たしかにそうだわ……ほぼ互角だって勘違いしてたけど、そういうわけじゃない……)
提督「というわけで残念だが君たちは、まだしばらくうちの鎮守府所属のまま。私の駆逐艦のままだ」
一同「………………」
不知火「ですので、あなたたちが朝潮型駆逐隊に勝利するまでの間、私が鍛えることになりました」
黒潮「あ、ウチはマネージャーみたいな感じで~」
天津風「え? じゃあ不知火もここに残るの……?」
不知火「まさか。私には私の任務があります。この場に残る訳にはいきません」
島風「え、じゃあ……」
不知火「あなたたちを、中央鎮守府で『預かる』ことにします」
浦風「預かる……それって……」
不知火「中央鎮守府であなたたちを鍛え、勝てると判断したタイミングでこの鎮守府に返します。
その時こそきっと、朝潮型駆逐隊に勝利してください」
天津風「不知火……っ! 大好き!!」ガバッ
不知火「やめてください。陽炎ですかあなたは……」
黒潮「あぁ~、もちろん。司令はんがえぇって、言うてくれたらやけどなぁ~」
天津風「いいでしょ! 提督!!」
提督「う~ん……」
天津風「いいでしょ! パパ!!」キラッ
提督「いやぁ~……でもなぁ……」
天津風「そこはいいって言うところでしょ!」
雪風「お願いします! しれぇ!」
時津風「お願いしれー!! しれーーーーーー!!」
提督「なら、一つ条件を出そう」
浜風「……条件?」
提督「全員これを、受け取ってくれることだ」
天津風「これは、首飾り……キレイ……これ、もらっていいの?」
提督「君たちは中央鎮守府へ帰るのではなく、預かられるだけ。
つまり、今君たちが帰って来るべき場所はここだということを、忘れてほしくない」
浦風「それはもちろん忘れんけぇ……ほじゃけど、この首飾りはどういう……?」
提督「それはいわば、首輪だ。きちんと飼い主がいるということを、向こうでも忘れないためのな!」
島風「えっ……なにそれ……」
浜風「他にもっと言い方はなかったんですか……」
雪風「あははっ、でもこれ、とってもキラキラでカワイイと思います!」
時津風「おー……どう? 時津風に似合うー?」
提督「そういうわけだから、きちんと毎日つけるようにな」
天津風「提督……」
大潮「あー! いいなー! 大潮も欲しい!!」
荒潮「私たちには、もっといいものがあるじゃない」
霰「司令官の自腹で買った指輪……」
大潮「えー! でも、あっちの方が大きい!」
提督「では大潮もあれくらい指が大きくなったら、新しい大きな指輪を買ってあげよう」
大潮「ホントに!?」
満潮「あんた化け物にでもなるつもり……?」
提督「天津風」
天津風「…………」
提督「短い間だったが、今日まで秘書艦として、本当によく頑張ってくれた」
天津風「……はい」
提督「本日をもって秘書艦の任を解くが、これからもないない駆逐隊の旗艦として、活躍を期待しているからな」
天津風「提督……あたし、今ようやく分かったわ」
提督「ん?」
天津風「あたしがこの部屋で秘書艦に任命された時、提督が最初に教えてくれたことよ」
提督「あぁ……」
天津風「駆逐艦って、本当に滅茶苦茶強いのね」
提督「そして、滅茶苦茶かわいいのだ」
天津風「もう……バカなんだから」
朝潮「天津風、次また戦う時も、私たちは負けないから」
天津風「どうかしら? あたしたちだって、次こそは絶対に勝つから」
提督「うんうん……持つべきものは良きライバル。やっぱり駆逐艦は最高だ」
天津風「よしっ! じゃあみんな、新たな決意を込めて、また組むわよ! 円陣!!」
島風「えー、また~?」
浜風「人前で円陣を組むのが好きな旗艦ですね」
浦風「でもうち、結構これ好きじゃ」
雪風「おー!!」
時津風「はやいはやい」
天津風「あたしたちはまだ、これからもないない駆逐隊! 頑張っていくわよー!」
天津風「えい、えい、おー!!」
島風「おぉーー!!」
浦風「えーいえーいおー」
浜風「おー」
雪風「ふぇっくしっ」
時津風「ファイトー、おー!」
天津風「―――――って、やっぱりバラバラじゃないのぉおおーーーーーッ!!」
おわり
あとがき
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
ないない駆逐隊のお話はこれにて閉幕です。
時間はかかってしまいましたが、陽抜に触発され、軽い気持ちで書いた朝潮型の物語が、
現在のないない駆逐隊まで膨らんだことに驚いています。
登場キャラやギャグシーン、王道チックな話の展開、世界観、自分の趣味丸出しで作ることができ満足しています。
今後の予定ですが、
今のところSSによる続編の予定はありません。
MMDドラマ作りが楽しいので、とりあえず駆逐艦愛が燃え尽きるまではコツコツ作っていこうと思います。
ご覧になっていなければ、空いた時間にどうぞ……(宣伝)
それでは最後に一言…… 「 駆逐艦万歳! 」
ありがとうございました。
過去作
①提督「朝潮型、整列!」
提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
②提督「朝潮型、出撃!」
提督「朝潮型、出撃!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443970090/)
③提督「朝潮型、索敵!」
提督「朝潮型、索敵!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445001663/)
④提督「朝潮型、遠征!」
提督「朝潮型、遠征!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445615911/)
⑤提督「朝潮型、編成!」
提督「朝潮型、編成!」 - SSまとめ速報
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⑥提督「朝潮型、解散!」
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⑦提督「朝潮型、結婚!」
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①提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」
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②提督「踊れ、ないない駆逐隊!」
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③提督「輝け、ないない駆逐隊!」
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④提督「走れ、ないない駆逐隊!」
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