提督「朝潮型、結婚!」 (149)
朝潮「そんな……司令官と……け、結婚だなんて……」
提督「嫌か?」
朝潮「と、とんでもない! 私、司令官と結婚できるなんて、幸せです! 嬉しいです!」
提督「そうか、それは良かった。なら言ってごらん? 朝潮は私と、どうしたいんだ?」
朝潮「はい! わ、私は……し、ししし司令官と、け……結婚――――――」
大潮「ハイハイハーイ! 大潮、司令官と結婚しまーす!」
満潮「ちょっと大潮、あんた何勝手に言い出すのよ。司令官と結婚するのは私でしょ?」
朝潮「え、あ……ちょっ……」
荒潮「あらあら面白そうねぇ。私もしようかしら。司令官と、結婚」
霰「わたし……司令官と結婚……したい」
霞「はぁ……こんなクズとの結婚生活なんて、お先真っ暗ね。
このクズと結婚して将来きちんとやっていけそうなのは、私くらいよ」
朝潮「み、皆どうしてここに……司令官と二人きりだったはずなのに……」
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大潮「朝潮だけ抜け駆けなんてズルいよー。大潮も、司令官大好きー!」
荒潮「私だって、いつも司令官のこと、好きだって言ってるじゃないの」
霰「相撲界の中では、司令官が一番すき」
満潮「私だって、本当は司令官のことが大好きなんだからッ」
霞「フン! こんなゴミクズのどこがいいのかしら。本気で最後まで好きでいられるのは私くらいね、きっと」
朝潮「そ、そんな……まさか皆、こんなにも司令官のことが好きだったなんて……」
提督「あっはっは、いやいや困ったものだ。だが、私も皆が大好きだ。……よし、じゃあ全員と結婚しよう!」
朝潮「し、司令官!? わ、私との結婚の約束は……」
提督「もちろん朝潮とも結婚するぞ。心配性だなぁ朝潮は。あっはっは」
朝潮「い、いえ、そうではなく! わ、私は……司令官を……私だけの司令官に…………」
提督「ん? どうした?」
霞「鈍感ね。つまり朝潮は、正妻を決めようと言っているのよ」
朝潮「いや、そういうわけでは……」
満潮「正妻……そうね、朝潮の言う通りだわ」
朝潮「いやだから……」
霰「どうやって決めよう」
荒潮「大潮ちゃんは正妻選びについて、何かいい案ある?」
大潮「元気出していきましょう! セーサイ!」
朝潮(くっ…………もうこうなったら、せめて正妻に……!!)
提督「じゃあこうしよう。この場でおパンツを脱いで、一番早く頭に被った人が正妻ということで」
朝潮「私やります!!」
提督「おお、即答だな朝潮」
朝潮(恥ずかしいけれど、躊躇なんてしていられない! 皆もあれだけやる気なら、もうすでに下着を脱ぐ体勢に入っているはず!)
朝潮「はい! この朝潮、命に代えても司令官の正妻に――――――――――あれ?」
シーン
朝潮「みんな……脱がないの?」
大潮「いやー、さすがにそれはちょっと」
荒潮「女子として……というより、人としてそれは……ね?」
霞「あり得ないわね」
満潮「まさか朝潮……あんた、本気で脱ぐつもりなの……さすがにひくわ」
霰「変態行為だと思う」
朝潮「え、あれ……だって皆、あんなにスゴイやる気で……あれ?」
提督「さぁ朝潮、どうした。 やるんだろう? 脱ぐんだろう?」
朝潮「あ、あの……司令官、いや、その……」
朝潮(どうしよう……。恥を忍んで下着を脱いで、さらに頭に被れば、
私は晴れて司令官の正妻に……でも、そんなハレンチな行為を……この私が……! うぅ……)
提督「さぁ朝潮、脱ぐんだ」
朝潮「はっ! 司令官、いつの間に背後に!?」
提督「さぁさぁ朝潮、被るんだ」
朝潮「あれ? 司令官が前にも!?」
提督「さぁ、今すぐ脱ぐ。そして被る」
朝潮「あ、あれ?? 司令官が二人……三人? あれ? あれ??」
提督「自分に素直になるんだ」
提督「きっと気持ちいいぞ」
提督「脱いで被る、簡単だろう?」
提督「恥ずかしいなら私が手伝おうか?」
提督「いや、私も一緒に脱ごうか?」
朝潮「あわ、あわわわわわ??!?!?!」
提督「さぁ朝潮」
提督「さぁさぁ朝潮」
提督「朝潮……さぁ!」
提督「「「「 さぁ!!! 」」」」」
朝潮「くっ……み、見ていてください司令官……」スッ
提督「………………」
朝潮(恥ずかしいけれど……もう、やるしかない!!!)
朝潮「これが……これが、朝潮型駆逐艦の………………力なんです!!!」ズルッ
~ 朝 食堂 ~
霞「朝潮……アンタちょっと酷い顔してるけど、大丈夫?」
朝潮「う、うん……平気よ。 少し、変な夢を見てしまって……」
荒潮「珍しいわねぇ。いつもはどんなに朝早くてもシャキっとしてる朝潮が」
満潮「で? どんな夢だったのよ?」
霰「気になる……」
朝潮「う、うん……一言でいえば……まぁ、司令官と結婚、する夢なんだけど……」
大潮「結婚!?」
満潮「バカ大潮、声が大きい」
大潮「えへへー、ごめんごめん。驚いちゃって」
霞「ふ、フーン……まぁ確かに、酷い夢よね」
荒潮「うふふっ、またまた霞ちゃんったら」
霞「な、何よもう!」
霰「それで朝潮、夢で何かあったの?」
朝潮「私は司令官との結婚を果たすため……危うく社会的に死ぬところだったわ……」
満潮「どういう状況よ……」
荒潮「ふふふ、でも夢って、自分の経験や考えていることを表すって言うわよねぇ。つまりそれって……」
大潮「朝潮、結婚するのォーー!?」
霞「だから声が大きいってば」
霰「でも確かに、朝潮は秘書艦で、司令官との距離は最も近いはずの存在……」
朝潮「い、いやそんな! 司令官との結婚だなんて! そんな大それたことは考えて…………あっ」
満潮「え、やっぱりそうなの?」
朝潮「いや、そうじゃなくて……。思い出したのよ」
荒潮「あら、何を?」
朝潮「あれはたしか、昨晩……遅くまで書類仕事を片付けていた時のことだったわ……」
~ 昨夜 司令室 ~
朝潮「司令官、お手紙が届いています」
提督「あぁ、そこに置いといてくれ」
朝潮「ご覧にならないのですか?」
提督「それがすべて、駆逐艦の子たちからのラブレターだったら20回は読む」
朝潮「…………残念ながら、どれも軍令部からのようですね」
提督「そう……そうなんだよ。ここんとこ、ずっとそう」
朝潮「あの、差支えがなければ、内容を伺ってもよろしいでしょうか?」
提督「何の変哲もない、ただの出撃要請さ。朝潮たちも最近、実感しているだろう?」
朝潮「はい……たしかに。ここのところ、妙に出撃が増えていますね。
それも、場所や練度に見合わない、雑多な任務ばかりで…………はっ、すみません! 私……」
提督「いや、いいんだ朝潮。君の言う通りだ。他の鎮守府に要請すべきである遠方での任務。
戦艦や空母に課せられる陳腐な掃討戦。駆逐艦を危険にさらす、絶望的な出撃任務……。
上層部からの命令とはいえ、君たちにはかなり苦労をかけてしまっているな……すまない」
朝潮「そんな……司令官は悪くありません!」
提督「ありがとう朝潮。君がそう言ってくれるだけで、私は救われる」
朝潮「それにしても……何故このような、理不尽な出撃命令ばかり下されるのでしょうか……」
提督「圧力、だろうな」
朝潮「圧力……ですか?」
提督「要は嫌がらせだ」
朝潮「嫌がらせ!? どうしてそんな……理由が分かりません!」
提督「軍属でありながら、艦娘に手を出しかねない司令官とか」
朝潮「し、司令官にそんな自覚があったとは……あ、いえ何でもありません」
提督「他にはまぁ、駆逐艦を主力の一部としている、という軍令部が示す方針から逸れた組織体制とか」
朝潮「ですが、我々はきちんと戦果を得ています!」
提督「戦果を得ているからこそ、大艦巨砲主義のお偉い様方にとっては、我々が気に入らないのだろう」
朝潮「そんな……」
提督「あと他にも色々と目立つことがあったりしたからなぁ……」
朝潮「はっ! もしや、以前、中央鎮守府へ転属になった私を、強引にここへ再着任させた件も……」
提督「あー……たしかにあれも、かなり睨まれたな……。
いやしかし、そもそも秘書艦である朝潮に対してわざわざ転属命令が出されている時点で、それが既に嫌がらせだろう」
朝潮「…………」
提督「なに、朝潮が気に病むことはない。むしろ私は、君たちを誇りに思っているんだ。
戦艦や空母にも負けない、最強の駆逐艦……朝潮型駆逐隊を」
朝潮「司令官……」
提督「それに、気に病むとしたら、それは私の方だ。
君たちを私の方針に付き合わせてしまって、現にこうして辛い状況に巻き込んでしまっているのだから」
朝潮「いいえ、司令官! 私たち朝潮型駆逐隊は……ううん、この鎮守府に所属する艦娘は、司令官のことが大好きです。
私たちは司令官のためであれば、どんなに辛くても、どこまでもお付き合いする覚悟です!」
提督「朝潮……。 そうか……私はその言葉が聞きたかったのかもしれない。少し安心したよ」
朝潮「それは良かったです! あ、私、コーヒーをお持ちしますね!」
提督「あぁ頼む。ちゃっちゃと終わらせないとな!」
朝潮「司令官、コーヒーをお持ちしまし……―――――あれ?」
提督「ぐぅ……ぐぅ……」
朝潮(司令官……寝ちゃってる……)
提督「ぐぅ……ぐぅ……うすしお……」
朝潮「クスッ……どんな夢を見ているんだろう……」
提督「ぐぅ……ぐぅ……」
朝潮「お疲れですか、司令官。 ……司令官も私たちと同じ…………戦っているのですね……」ナデナデ
提督「ぐぅ……ぐぐ……うへへ……」
朝潮「あ、笑った……かわいい……」
ヒラッ……ポト
朝潮「あ、手紙が一枚落ちて…………これは…………『新システム実装のお知らせ』……?」
朝潮(……何だろう? すごく気になる…………しかし、司令官宛の手紙を、盗み見るような真似は……)
朝潮「司令官……少しだけ、拝見してもよろしいでしょうか……」スリスリ
提督「ぐぅ……ぐぅ……ぐへへ……」
朝潮「わ、分かりました司令官。では少しだけ失礼して……―――――こ、これは……!!」
――――――――――ケッコン カッコカリ
大潮「ケッコンンンンンーーーー!?!?!?」
荒潮「大潮ちゃん、本当にお願いだから、もう少し静かにね?」
霞「……どうでもいいけど、序盤ののろけ回想って必要だったのかしら?」
満潮「とにかく、その『ケッコンカッコカリ』っていうシステムが原因でおかしな夢を見たってことね」
霰「夢の内容よりも、その新システムというのが気になる……」
大潮「そうそう! そのケッコンって、どんなシステムなの!? 手紙の続きは読んだんでしょ!?」
霞「何言ってるのよ。真面目な朝潮がそんなことするわけ――――」
朝潮「―――――当然、読んだわ」
霞「読んだんだ……」
朝潮「ケッコンカッコカリシステム……
それは、軍令部が定めるところの最高練度に達した艦娘にのみ適用を許された夢のシステム……」
満潮「最高練度の艦娘…………」
朝潮「司令官から直々に、左手の薬指に指輪を差し込まれることで、その効果が発揮されると書いてあったわ」
荒潮「あらやだ……本当の結婚指輪みたいじゃないの」
霞「フン……そ、そんなのどうだっていいわよ。それで、その効果とやらは何なの?」
朝潮「指輪を装備することで、艤装の耐久力、燃費、運の向上……」
霰「運がよくなるんだ……」
満潮「いやいや、たしかに駆逐艦にとっては時の運ってヤツは大事だけれど……」
朝潮「それから、さらなる成長を遂げることが可能になると、その手紙には書いてあったわ」
大潮「さらなる成長!! 戦艦になれたりするのかな!!」
荒潮「そういうわけではないような気がするけれど……」
霞「ふーん、なんだか胡散臭いわね」
朝潮「えぇ、まぁ言われてみればそうなんだけど……」
満潮「でも最高練度に達した艦娘に適用可能っていうことは……もしかして……」
霰「もしかするかも……」
荒潮「あり得るわよねぇ」
大潮「大潮たち、司令官から指輪がもらえる!!」
霞「ふん、アホくさ。そんな頑張ったで賞みたいな粗品を貰って、何が嬉しいっていうのよ、まったく」
朝潮「あの、それでその、指輪のことなんだけど……」
霞「あーはいはい、どうせ失くしたら始末書、とかそういう話でしょ」
朝潮「……じゃなくてその指輪、各鎮守府にひとつしか支給されないみたいなのよ」
一同「…………」
大潮「ハイハイハーイ! じゃあここは、代表して大潮が! 司令官から指輪を貰いまーす!」
霞「はァ!? アンタ、何勝手に決めてんのよッ!!」
荒潮「あら~? 霞ちゃんは指輪なんて、興味ないんじゃなかったの?」
霞「ち、違うわよ! 私はただ、その……ちょうどアクセサリが欲しかったっていうか!!」
霰「わたしも……指輪、欲しい」
満潮「私だって欲しいわよ! いや、言っておくけどね! 司令官からの指輪が欲しいんじゃなくて!
強くなるために欲しいの! ほら、私って占いとか信じるタイプだから! 本当だから!!」
大潮「ええー、嘘だー。 満潮、占いは食べられないから興味ないって言ってたくせにぃー」
満潮「言ってないわよ! あんたと一緒にしないで!」
朝潮「み、みんな落ち着いて! こういう時こそ会議をしましょう。
この中で司令官から指輪を頂くのにふさわしい人物は誰なのか……話し合って決めましょう」
霰「朝潮型緊急会議……in食堂」
大潮「ハイハーイ! 艦娘たる者、やっぱり戦って勝った人が指輪をゲットするってことで良いと思いまーす!」
朝潮「なるほど……優勝商品として、ということね」
満潮「でもそれだと、露骨すぎて司令官に怪しまれない?」
霞「それもそうね。第一、私たちはケッコンカッコカリについては知らないハズなんだし」
霰「それに、最終的な決定を下すのは司令官……」
朝潮「では、一体どうすれば……」
荒潮「うふふっ、そんなの簡単じゃない。司令官に対するアピール、すなわち点数稼ぎ……これしかないわ」
霞「なんだかヤな響きだけど、たしかに一理あるわ」
朝潮「司令官に自分の良いところを見せて、気に入ってもらうということね」
大潮「要は、お色気攻撃で司令官をローラクさせればいいんでしょ!」
満潮「はんっ、大潮のチンチクリンで、司令官を虜にできるわけ…………」
霰「……あの司令官が相手なら、できそう」
霞「誠に残念ながら、あの変態なら……ね」
朝潮「そ、そういうのはナシで! 自分のアピールポイントを示していく方針で行きましょう!」
荒潮「それなら、きちんとルールを決めておいた方がいいわねぇ」
満潮「なら、ボディタッチ禁止で」
荒潮「服を脱ぐのは?」
霞「ダメに決まってんでしょうがッ!」
霰「それから、一人が司令官を独占するのもナシにしよう」
大潮「うんうん! じゃあ一回のアピールで、最大3分までにしよう!
3分経ってもアピールを続けていたら、床が開いて落下する形式で!」
霞「なんでわざわざ芸人スタイルの退場しなきゃいけないのよ……」
朝潮「ではここまでの意見をまとめましょう。
まず、司令官から指輪を頂くために、私たちができることは『アピール』のみ。
理由がどうであれ、最終的に決断を下すのは司令官であり、私たちは異議を唱えないこととします」
満潮「そうね。誰が勝っても、恨みっこなしね」
霰「分かった……」
朝潮「そして『アピール』には一定のルールを設けることとします。
まず、ボディタッチは厳禁。司令官を誘惑するような破廉恥な行為を、私たちは認めません」
荒潮「はーい、質問。ボディタッチといっても、司令官から触ってきたり、やむを得ない場合は?」
朝潮「それは……」
霞「向こうから触ってきた場合は、その場で殴るか憲兵団を呼ぶこと。
やむを得ない場合ってのがどんな状況なのか想像つかないけど、まぁセーフでいいんじゃない?」
朝潮「そうね……では、そういうことにします。 あと、服を脱ぐ行為は全面的に禁止です」
荒潮「はーい、質問。脱ぐのは禁止といっても、司令官が脱がせてきた場合は?」
霞「速やかに消し炭にするか、憲兵団を呼ぶこと」
荒潮「やむを得ない場合は?」
霞「やむを得ず服を脱ぐ状況って何よ!」
朝潮「世の中にはやむを得ず下着を脱いで頭に被るという状況も存在するくらいだから……」
霞「どんな状況よ!!」
大潮「最初から何も着てなければ、脱ぐことにはならないんじゃない?」
荒潮「あぁ~、なるほどぉ」
霞「アンタたち、冗談で言ってるのよね……」
朝潮「それから、司令官を独占するような行為も禁止とします(秘書艦を除く)」
満潮「いやいやいや! なにさらっと秘書艦を除かせてんのよ!」
朝潮「秘書艦ともなれば、自然と司令官と二人きりになる時間が増えるので」
霰「朝潮だけアピールする時間がたくさんあって……ずるい……」
大潮「それなら大潮たちも、ずっと司令官のそばを離れなきゃいいんだよ!」
霞「な、なんでわざわざ休憩中までクズ司令官の所にいなきゃいけないのよ」
荒潮「あらー、じゃあ霞ちゃんはお部屋にいるといいわ」
霞「ふん、そうさせてもらうわ。別にそこまでしてその指輪が欲しいわけじゃないし……」
朝潮「ではこのような方針で、異議はありませんね?」
一同「異議なーし」
朝潮「それじゃあ皆……おそらくこの中から一人だけ、近々司令官から指輪を渡され、
新システムのケッコンカッコカリが適用されることになるでしょう……。
その相手が誰になったとしても、私たちは決して恨まず、僻まず、祝福することを、ここに誓いましょう」
一同「了解!」
~ 司令室 ~
霞「―――――って、言ってるそばから……」
朝潮「…………」
提督「おぉ皆、おはよう。揃ってどうしたんだ? 今日は非番じゃなかったか?」
霞「……」ジロッ
提督「な、なぜ睨む……」
大潮(朝潮だけずるーーい!!)
満潮(そうよ! なんで朝潮が率先してルール無視してんのよ!)
霰(秘書艦特権……)
荒潮(司令官の膝の上で一緒にお仕事なんて、これはポイント高いわねぇ)
朝潮(ち、違うのよ! これはその、朝やる気の出ない司令官を元気にするために、毎朝やっていることであって……)
霞(そんなの関係ないわよ! ルール1のボディタッチ厳禁に違反よ!)
朝潮(こ、これは司令官が円滑に仕事を行うために、やむを得ず行った行為に該当するわ!)
提督「えっと……なんか皆、私を置いてアイコンタクトで会話してないか?」
霰「……そんなことはない。司令官が、少し疲れているだけ」
満潮「そうよ。……あ、私、司令官にコーヒーを淹れてくるわ!」サッ
霞「あっ、しまった、出遅れた!」
提督「え?」
霰「わたし……疲れている司令官のために、肩叩きする」ポンポンポンポン
提督「ありがとう霰。おぉ……なんだか孫を持つおじいちゃんになった気分だ……和む」
霞(霰め……朝潮がルールを曖昧にしたのを見計らって、さっそくボディタッチを……!!)
霰「おじいちゃんの背中、とっても大きい」
提督「霰よ、欲しいものがあれば何でも買ってやるぞ。ふぉっほっほ」
霰「おじいちゃん、霰、なにかキラキラしたアクセサリが欲しいなー」
提督「おうおう買ってやるとも。おじいちゃんに任せなさい」
霞(アピールが露骨すぎでしょ!!)
荒潮「あらー、しまったわー、どうしようかしらー」
提督「どうかしたか? 荒潮」
荒潮「うふふっ、気づかない? 私、今日はスパッツを履き忘れちゃって」
提督「な、なに!? いつもスパッツを履いている荒潮が……今日は……」ゴクリ
霞(んなっ! 荒潮……まさか本当にそんな仕込みをしてくるとは……!!)
荒潮「せっかくだから気分を変えて、今日は髪をポニーテールにしてみようかしら」ファサッ
霞(髪ゴムを口にくわえて髪をかき上げ、さりげなくうなじを見せる角度……なんて計算し尽くされた立ち姿なの!?)
提督「おお……おお……いいな。 いいな!!」フゥンフゥン
荒潮「あっ、シュシュ落としちゃった。よいしょっ」
提督「うおおおお! 見え……見え……見えーっ!!」
霞(わざと落とした!? スカートの中がギリギリ見えないように拾うその姿に、ゴミクズはもう釘づけ!!
さ、さすがは荒潮……私まで少しドキッとしたわ……)
大潮「うおおお!! 司令官!! ドォオオーーーン!!!」
提督「お、どうした大潮……って、うわぁ!?」
大潮「大潮は、司令官の肩の上で索敵を開始します!」
提督「うおおおっ」
霞(大胆というか、不自然すぎる突然の肩車! そして潔いほどのルール無視!
言ってることも意味が分からないけれど、太ももが顔に当たっているからか、クズはご満悦!)
大潮「辺りに敵影を確認できません!」
提督「よし大潮、もっと動いてよく確認するんだ」
大潮「了解です!」ユーラユーラ
提督「おぉ……」スリスリ
霞(しかも調子に乗り始めた……!)
満潮「お、お待たせ司令官! こ、コーヒーを持ってきたわ!」
提督「おぉ満潮、ありが……――――な、なんてことだ……いつの間にか満潮がフリフリメイド姿に!」
霞(こ、これは想定外だったわ! まさか満潮が、七夕祭りで散々嫌がっていたメイド服を、また着てくるなんて……!)
満潮「べ、別に着たくて着たわけじゃないわよ! ちょうど着る服がコレしかなかっただけよ!」
霞(しかもそんな見え透いた嘘まで用意して……!!)
提督「ではさっそくコーヒー頂こう……あ、砂糖をひとつ貰えるか?」
満潮「スティックシュガーしかないわよ、ほら」スッ
提督「ああ、ありがとう」
満潮「あっ」
提督「あっ」
霞(そして砂糖を渡す時に少しだけ触れてしまう手……大胆なボディタッチとは違う、そこはかとない青春っぽさ!
二人の背景はもう、シュガーのように甘いシャボントーン!)
朝潮「司令官、それより早くお仕事を……!」
霰「おじいちゃん、霰、手元が光る装飾が欲しいな」
荒潮「あら、これシュシュだと思ったら今朝履こうと思っていた下着だったわ。私ったら、慌てんぼさんねぇ」
大潮「司令官! 大潮、索敵を続けます!」
満潮「司令官は仕事を続けなさい! コーヒーは私が飲ませるから!」
提督「あぁ^~」
霞「ま、まずい……! 気づいたら私だけ何もしてないじゃない……!! 解説なんてしている場合じゃなかった……!」
提督「いやぁ、今日は何だか良い日だなあぁ。あっはっはっは」
霞(くっ……このままじゃ、私が指輪を手に入れる確率は低い! なんとかして逆転の一手を……!!
この際だからルールなんて無視して、とにかくクズ司令官が喜びそうなことを……)グルグルグル
霞(もう……下着を脱いで……頭に被るしか……!!)グルグルグルグル
朝潮(はっ!? 霞のあの体勢はもしや……!)
満潮(あの霞が……まさか……)
荒潮(苦悩の末に、行き着いた答えなのね……)
霰(プライドを捨てた、最低な行為……でも、司令官にはたぶん、効果テキメン……)
大潮(霞、トイレでも我慢してたのかな……?)
霞「うぅ……このクズ……私になんてことさせんのよ……」
提督「え? え? どうしたんだ霞?」
霞「うるさい! いいからよく見ておきなさい! これが本気になった私の――――――」
コンコン
??「失礼します」
提督「あ、はい」
ガチャッ
??「あの……何やら騒がしいようですが、ここが司令室でよろしいのでしょう……か…………」
一同「………………」
提督「えっと……あ、はい。いかにも司令室ですが」
??「では、この状況について、何かご説明して頂けないでしょうか」
提督「いや、これはその……」
霞(もうやだ、死にたい……)カァアアアア
朝潮「あの……」
??「はい」
朝潮「あなたは艦娘ですが、この鎮守府の方ではありません、よね?」
??「駆逐艦朝潮、あなたの仰る通りです」
朝潮「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
??「そうでしたね。大変申し訳ありません。遅ればせながら自己紹介をさせて頂きます。
私は、軍令部直属部隊、軍令部総長の秘書艦を務めます―――――――」
一同(軍令部……!!)
??「――――――――――大和型1番艦、戦艦大和です」
~ 駆逐艦寮 会議室 ~
朝潮「今回の議題は……皆も知っての通り、大和さんについてです」
満潮「唐突すぎて驚いたわ……。まさかあんなタイミングで現れるなんて……」
霰「戦艦大和……生で見たのは初めてだったけど、噂ではよく耳にする人……」
霞「まぁ、私たち艦娘の間では有名な人よね。私たちが艦娘になるよりも前……今ほど防衛線が整っていない頃、
深海棲艦による本土への侵攻を、たった一隻で防ぎ切った無敵の戦艦……」
荒潮「そして、当時の指揮官が現軍令部総長であり、大和さんがそのまま秘書艦となった……っていう話だったわよね?」
大潮「でもそんなスゴイ人が、うちに何の用があったんだろう?」
満潮「大潮、あんた話聞いてなかったの? 言ってたでしょ、監査役として来たって」
大潮「ふむふむ監査……つまり?」
朝潮「ここのところ、ずっと軍令部からの風当たりが強かったと、司令官が言っていたわ。
そして、いよいよ軍令部の秘書艦が直接来たということは…………」
霰「司令官が………………クビになるかもしれない」
霞「最悪、この鎮守府そのものの存続にも関わるかもしれないわね」
大潮「えぇー!? そんな! 司令官がいなくなるのも、鎮守府がなくなるのもイヤだよ!!」
朝潮「えぇ……だからこそ、私たちで何とかしようという会議よ」
荒潮「けれど、まず私たちにできることって、何があるのかしら……?」
満潮「あんな変な所を大和さんに見られちゃってるし、むしろ状況を悪化させているわね、私たち……」
霰「朝潮、私たち、一体どうすれば……」
朝潮「それは、私にもどうすればいいか分からない。けれど、必ず何か手はあるはず。
だからまずは監査役としてやって来た大和さんについて、少しまとめておきたいの」
霞「そうは言っても、噂程度しか聞いたことが……」
大和「その会議、私が混ざってもよろしいでしょうか?」
朝潮「はい、まぁ今回は人数が多ければ情報も多く集ま―――――――」
一同「えぇええーーーーーーーっ!?」
大和「すみません……やはりお邪魔でしたでしょうか?」
霞「あ、あああああアンタい、いいいいつからそこにィ!?」
大和「申し訳ありません、会議が始まるころから、ずっと聞いておりました」
荒潮「あらあら……全部筒抜けだったのね……」
朝潮「であれば大和さん。包み隠さず、単刀直入にお伺いします」
大和「はい」
朝潮「軍令部はどうして、司令官に対して嫌がらせのような圧力をかけ続けているのですか?」
一同「…………」ゴクリ
大和「すみません。それは、私からはお答えできません」
霞「はァ!? ちょっとそれどういうことよ! あれだけクズ司令官に嫌がらせして!
私たちにまでその影響が及んでいるのよ!? そうするだけの、真っ当な理由がない限り、納得できないわ!」
大潮「そーだそーだー!」
大和「軍令部がこの鎮守府に対して圧力をかけていること自体は、もちろん私も存じています。
ですがその理由については、私も総長から聞かされておりません」
霰「軍令部総長の意向を、その秘書艦が知らないなんて……ヘン……」
満潮「霰の言う通りだわ。そんな主張、とても信じられない」
大和「皆さんがそう仰られるのは当然だと思います。総長の意向を秘書艦が理解できていないというのも、
私自身、おかしな話だと思います。 ですが本当に、恥ずかしながら……分からないんです」
朝潮「……分かりました。では質問を変えます。大和さんは今回、監査役として当鎮守府にいらしたと
仰っていましたが、具体的な監査項目を教えていただけますか?」
霞「まさかコレも分からないなんて言わないでしょうね?」
大和「……私は、あることを確認し、必要とあれば適切な処置をとるようにと、総長から命を受けて参りました」
大潮「司令官が変態異常者であることを確認したら、即刻その場で打ち首、鎮守府は爆撃処分に!?」
大和「機密事項のため具体的なことは申し上げられませんが、
提督を辞めさせたり、鎮守府を閉鎖させるようなことは致しません」
満潮「ほっ……なんだ、少し安心したわ……」
朝潮「ですが大和さん。司令官への圧力と、今回の監査…………何か関係があるのですね?」
大和「それは……」
荒潮「沈黙は肯定の印……ね」
大和「すみません、私からお答えできるのは、これで全部です」
霰「結局、色々分からないまま……」
一同「………………」
霞「はぁ……。無敵の大和型が、今じゃまるでお人形ね」
荒潮「ちょ、ちょっと霞ちゃん、さすがにそれ以上は……」
大和「…………」
霞「軍令部総長が何をしようとしているのか分からない。けれど命令には従う。
それも深海棲艦との戦闘ならまだしも、こんな下らない監査のため。
危険な海域には私たちのような下っ端に出撃させておいて、大戦艦さまはのうのうと電車に揺られながら味方の偵察?
何が無敵の艦娘よ、何が大和型よ。陸の上で縮こまってるだけの、ただの操り人形じゃない」
大和「………………」
大潮「うわぁ……霞、言い過ぎ……」
荒潮「あ、あの大和さん……霞ちゃんは少し口調が厳しいだけで、別に悪意があるわけじゃ……」
大和「いいえ……霞さんの言う通りだと思います。何度か勲章を頂いたことはありますが、それはもう昔の話です。
最後に艤装を装着して海へ出たのはいつだったでしょうか……。今となっては、陸の上でこんなことばかり
しているような気がします。…………あはは、ダメですね、私」
~ 工廠前 ~
朝潮「そして最後に、こちらが工廠です。最近では電探の開発を主に進めています」
大和「ありがとうございます、朝潮さん。私なんかのために、わざわざ鎮守府の案内までして頂いて」
朝潮「いえ、大和さんはしばらく鎮守府に滞在するとのことなので、一度鎮守府全体を見ておいた方が良いと、
司令官も仰っていましたし。私も、誰かに鎮守府の案内をするのは好きなので」
大和「そうでしたか……。それにしても、ここの提督は不思議なお方ですね。
本来であれば目の敵にするはずの私に対して、ここまで良くして頂いて……」
朝潮「司令官は、私たちのことが……艦娘のことが大好きなんです」
大和「え?」
朝潮「たまに怒ったり突き放したり、変なコトもしてきたりしますけど、そのすべてが、私たちに対する愛情なんです。
だからこそ私も、この鎮守府に属する皆も、司令官のことが大好きなんです」
大和「はい……それは皆さんを見ていると、本当によく伝わってきます。
だからこそ、あの時の霞さんの言葉は、私の心に深く刺さりました」
朝潮「あ……すみません! 霞は決して、悪い子では……!!」
大和「はい、それはもちろん分かっていますよ。私がただ、事実を突きつけられだけですから。
昔は私も未熟者でしたが、現総長と二人で二人三脚で頑張ってきました。辛くて苦しい場面に何度も直面しましたが、
そのたびに乗り越えてきました。…………とある、ひとつの夢のために」
朝潮「私たちと、同じなんですね」
大和「ですが、私も総長も、役職が上がるたびに出撃回数は減り、今となっては総長のお考えが私には分かりません」
朝潮「大和さん……」
大和「今思えば司令室の扉を開けてあなたたちと提督の姿を見た瞬間、少し昔の自分を思い出していたのかもしれません。
夢に向かって突き進むだけの、楽しかったあの時を……」
朝潮「…………」
大和「あ、すみません朝潮さん。こんな暗いお話をするつもりではなかったのですが、あははは」
朝潮「大和さん!」
大和「は、はい?」
朝潮「私、あなたのことを誤解していました。同じ艦娘、平和を取り戻す者として、共に奮闘している同志なのですね」
大和「朝潮さん……」
朝潮「私たち朝潮型駆逐隊は、あなたを歓迎します!」
~ 別の日 夜 司令室 ~
提督「なんだか最近、賑やかになってないか? この部屋」
朝潮「えぇ、まぁ……」
大和「すみません、執務のお邪魔にはならにように努めますので……」
提督「いやまぁ、別に立入禁止というわけじゃないからいいんだが……」
大潮「ねぇねぇ満潮ー、おせんべいはー?」
満潮「無いわよ。全部あんたが食べたから」
大潮「えーっ!? もう誰だよ大潮のおせんべい食べたのー!」
満潮「だからあんただってば! っていうか、もともと私のお煎餅だからね?!」
荒潮「あらぁ霰ちゃん、椅子なんて持ち込んじゃって、気持ちよさそうねぇ」
霰「この場所、結構気に入ったかも」グデーン
荒潮「あらあら、じゃあ私も、布団でも持ってこようかしら?」
霞「アンタたち、人の部屋でくつろぎすぎでしょ……」
朝潮(大和さんの件で色々とうやむやになってしまったけれど、アピール作戦に関しては誰も忘れていないみたいね……)
提督「皆そろそろ風呂にでも入ってきたらどうだ?」
大潮「おおー、気付けばもうこんな時間!」
荒潮「あら、じゃあ司令官もご一緒します?」
提督「よし。ではそうしよう」
大和「……はい? あの……提督もご一緒されるというのは、つまりどういう……」
提督「裸と裸の付き合い。これがウチのやり方でな」
大和「そ、そうだったのですね……」
満潮「なワケないでしょ!!」
霞「アンタのお風呂は別! さっき『私が』沸かしておいたから、さっさと入りなさい!!」
霰「霞の……さり気ないできる子アピール……」
朝潮「私の仕事なのに……」ショボン
提督「おぉ、さすが霞だ。気が利くじゃないか」ナデナデ
霞「と、当然よ! っていうか、気安く触らないでよねっ」プイッ
一同( すごく嬉しそう…… )
大潮「ねーねー、じゃあ大和さんは、大潮たちと一緒に入ろうよ!」
大和「え? よろしいのですか……?」
朝潮「はい。私たち、大和さんとお話ししたいことがたくさんありますし」
荒潮「来客用のお風呂って、なんだか味気ないものねぇ」
満潮「まぁ、いいんじゃないの? 広いし。霞はどう?」
霞「な、何でいちいち私に振るのよ……。 ……構わないわよ、別に」
大和「ありがとうございます。ご一緒させて頂きますね」
大潮「よーし、そうと決まればお風呂にゴー!」
提督「いやぁ、大勢でお風呂って楽しいよなぁ」
霞「…………あん?」
提督「冗談です」
霰「強いて言うなら、ここまでの一連の流れがウチのやり方……」
大和「あははは……」
~ 駆逐艦寮 大浴場 ~
カポーン
大和「本当に大きいですねぇ、駆逐艦寮の浴場は……」
朝潮「はい。少し前までは一番少なかったのですが、今ではたくさんの駆逐艦がいますから」
大和「軍令部ではいつも個室のお風呂でしたので、なんだか感動です」
大潮「うん……すごいよこれ、この大きさは、本当に感動ものだよ……ッ!」ペターン
大和「はい、そうですね」ドーン
満潮「大潮、あんたドコ見て言ってんのよ……」
霞「さすがだわ。軍令部の秘書艦様ともなれば、個室のお風呂が与えられちゃうのね」
荒潮「もぉ、霞ちゃんったらまた悪態ついちゃって」
霞「う、うるさいわね……」
霰「わたしは……広いお風呂で、皆と一緒の方がすき……」
大和「私も同感です、霰さん。こうやって誰かとお風呂に入るのも、かなり久しぶりです」
満潮「逆に私たちは、一人で入浴することなんて滅多にないわねぇ」
大潮「あっ、ハイハーイ! 大潮、大和さんに質問がありまーす!」
大和「はい、何でしょう?」
大潮「軍令部って、どんな所なの? 何があるのー?」
満潮「随分とまたキワドイ質問ねぇ……」
大和「ふふっ、いいですよ。まず軍令部は、こちらと同じで海に面しています。
ですが中枢都市に存在しているということもあり、どちらかというと機械や人混みといった
環境音であふれる場所になります」
霰「波の音が聞こえないのは……ちょっと不安になりそう」
荒潮「ある意味、職業病ねぇ……」
大和「ですが少し行ったところには山もあるので、鳥や虫たちの鳴き声が聞こえてきて、とても風流ですよ」
朝潮「そうなんですか。あ、山ならウチにもありますよ」
大和「ここへ来る途中に見えました。なんという山なのでしょう?」
大潮「その名も…………うらめし山」
満潮「勝手に変な名前つけるな」
霰「“温羅山(うらやま)”っていう名前の山で、鬼とか幽霊とかが出るって言われてる山」
大和「お、鬼や幽霊!? 本当ですか?」
霞「そうやって言われてるだけよ。実際は艦娘の墓標として存在しているみたいね」
大和「そうなのですか……とはいえ、少し怖い気もしますね」
朝潮「ただの山ですし、なんてことはありませんよ」
満潮「いやいやいや、朝潮が一番怖がってたでしょうが」
大潮「そうそう! そういえば朝潮、真夜中にその山で迷子になったんですよー」
大和「それは大変でしたね。提督も、さぞご心配されたことでしょう」
荒潮「あの時は逆に、キリッとしてたわよねぇ、司令官」
霞「まぁ、実は無理してただけで、失神寸前だった、っていう裏話もあり得そうだけど……」
~ 数分後 ~
大和「それから軍令部は、鎮守府と違って艦娘が少なく、男性の軍人さんが多いですね」
満潮「まぁ、中枢部だものね」
大和「それに厳格な方が多く集まっているので、この鎮守府のように司令室に集まってお喋りするようなことはできませんね」
大潮「うえー、大潮、堅苦しいのは苦手だなぁ」
霞「何しろ、急に司令室に呼び出されたと思ったら、ふざけたクイズ大会が始まるくらいだものね、ウチは」
大和「クイズ大会?」
朝潮「ふふっ、霞が落ち込んでいる時期があって、見かねた司令官が元気づけるために開催したんですよ」
大和「艦娘のメンタルケアまで、面倒見の良い提督ですね」
霞「あ、あれは結局クズ司令官が、私を弄んだだけで……!」
荒潮「でも、最終的にはご機嫌になったじゃない」
霰「おまけに第二改装まで受けられて」
大和「そういえば霞さんは、朝潮型駆逐隊の中で、唯一の改二でしたね?」
霞「別に改二になったからって、特に変わりはないわよ」
霰「司令官のことがより好きになったってことくらい」ボソッ
霞「うーるーさーいー!!」グイー グイー
霰「あうあうあう」
大和「くすっ」
霞「あっ! いま笑ったわね……戦艦だからって、容赦しないわよ!」
満潮「まぁまぁ霞」
荒潮「今更そんなムキにならなくても、ねぇ?」
大潮「そーそー。もう認めちゃえばいいのに」
朝潮「霞が皆や司令官のことが大好きなことくらい、みんな知っているわ」
霞「あーもう! 何なのよォー!!」
大和「うふっ、あはははは」
一同「あはははははっ」
いい雰囲気で面白い
続きものみたいだし、良ければ過去作教えてくださいな
~ 別の日 演習後 桟橋 ~
大和「皆さん、演習お疲れさまでした。よろしければこれ、大和特製ラムネです」
大潮「うおおおー!! なにこれ、なんかスゴそう! 貰っていいの!?」
大和「はい。お口に合えば良いのですが」
満潮「ふーん。じゃあ、遠慮なく頂くわ」ゴクゴク
荒潮「あら、美味しい」
霰「口の中が……シュワシュワする……」
霞「まぁ、疲れた後の一杯としては、悪くないわね」
朝潮「ありがとうございます大和さん」
大和「うふふ、いいんです。半分趣味みたいなものですし、それに皆さんの素晴らしい演習も見られましたし」
霞「それはどーも。でも、どうせ言うなら、悪い点を指摘してくれた方がこちらとしてはありがたいんだけど?」
大和「悪い点、ですか?」
荒潮「ここに来たばかりの頃は色んな人に教わってきたけれど、今ではそういうことも無いものねぇ」
霰「初心に帰ること……大事だと思う」
大和「そうですねぇ……本当に非の打ちどころのない技術と艦隊運動だとは思いますが、
一点だけ気になることがありました」
大潮「え、なになに!」
満潮「遠慮なく言ってちょうだい」
大和「では……皆さん、何かを急いてはいませんか?」
朝潮「急いている……?」
大和「各々が焦っていると言いますか、手柄を立てるために前へ出すぎているように思えました。
うまく表現できませんが、成長するための演習というより、魅せるための演習……みたいな」
一同「………………」
大和「どうやら、何か心当たりがおありのようですね」
霞「軍令部の秘書艦なら当然知ってるわよね。……ケッコンカッコカリってのがあるんでしょ?」
大和「…………はい、もちろん存じ上げております」
荒潮「うちの鎮守府における最高練度の艦娘は、ほぼ間違いなく私たち朝潮型駆逐隊」
満潮「でもシステムの適用を許されているのはひとりだけ……」
霰「演習の結果は、いつも司令官に報告されるから」
大潮「成績が良ければ、司令官に選んでもらえるでしょ!?」
大和「なるほど……それで皆さん、あんなにも張り切っていたのですね」
朝潮「教えてください大和さん。ケッコンカッコカリとは何なのでしょうか?
朝潮型駆逐隊が、そろって適用されることはないのでしょうか??」
大和「そうですね……ケッコンカッコカリというのは、提督との絆を深めるシステムです。
指輪はそのための媒介装置であり、艦娘の心と、艤装に宿る魂に共鳴すると言われています」
大潮「……え? んん? どういうこと??」
大和「要するに、最高練度という条件さえ満たしていれば、指輪の数だけケッコンカッコカリを適用できるということです」
荒潮「指輪が六つあれば、私たち全員に適用することもできるということね」
満潮「でも、それができないから一つしか支給されないんでしょ?」
大和「はい。指輪の製造には莫大な費用と年月を要すると言われています。
将来的にどうなるかは分かりませんが、現時点では各鎮守府にひとつとされています」
霰「やっぱり……この中でひとりだけ……」
霞「分かったわ。じゃあ質問を変えるけど、その指輪の効果って結局何なの?」
朝潮「文書では耐久と運と燃費が向上すると記載されていましたが、それだけではイマイチ分かりません」
大和「では順番に説明いたしましょう。
まず耐久についてですが、これはその名の通り、艤装の耐久度を意味します。
通常であれば大破して航行不能となる場面でも、場合によっては中破で持ちこたえることがあるかもしれません」
大潮「そっかー! 夜戦ともなれば、大破と中破じゃ大違いだもんね!!」
荒潮「大事な局面で撤退を余儀なくされるというケースも、もしかしたら減るかもしれないわね」
大和「そして運についてですが、これは一般的に言われている運勢とは別物です。
たとえば夜戦等において深海棲艦と肉薄した際、
確実に敵を仕留めることができるというタイミングを、実感したことはありませんか?」
霰「ある……。その瞬間を狙って魚雷を発射すると、ほぼ確実に敵を撃沈できる」
大和「軍令部ではそのタイミングの見つけやすさを『運』と呼称しているのです」
満潮「なるほどね。つまり運が高ければ夜戦で敵を仕留められる確率が上がるってわけね。
それで、その指輪にはその『運』を上昇させる効果があると」
大和「その通りです。では最後に、燃費の向上についてです。まず具体的な数値を挙げますと、
システム適用前と比べて燃料と弾薬の消費量がおよそ15%軽減することが分かっています」
大潮「うおー! エコだ! すごーい!」
霞「でもちょっと待って? そもそも駆逐艦と戦艦とじゃ、消費量は雲泥の差よ。
戦艦ならまだしも、駆逐艦にとってはそれほど恩恵がないんじゃないの?」
大和「それも仰る通りです。あなた達を前にしては言いにくいことですが、
そもそもこのケッコンカッコカリというものは、戦艦や空母といった大型艦を強化するという
目的で実装されたシステムみたいなので、あまり駆逐艦向きではないのかもしれません」
朝潮「そ、そんな……。では駆逐艦への適用は、認められないということなのですか!?」
大和「いえ、そのようなことは決して」
霞「そういうわけではないけれど、軍令部の意向としては、大型艦に適用するべき、なんでしょ?」
大和「はい……。軍令部においては、大艦巨砲主義が基本的な考え方ですので……」
荒潮「前から気になってはいたけれど、大和さんがしているその指輪って……」
大和「はい。これは総長から頂いたものです」
大潮「うおー! これが指輪かぁ~。もっとよく見せてー!」
満潮「やめなさい大潮、汚い手で」
大潮「えぇー、汚くなんかないよー!」
霰「大和さんに指輪の効果が加わったら、もはや敵なし……」
荒潮「燃費の問題から見ても、効果は抜群よねぇ」
霞「…………」
朝潮「司令官は……本当に私たちの誰かに、指輪を渡してくださるのでしょうか……」
大和「朝潮さん……」
霞「はぁ……ついに言ったわね、朝潮……」
満潮「この流れからして、大潮あたりを除いた全員が薄々気づき始めていたけれど……」
大潮「お、大潮だって気づき始めてたってー!」
霰「別に私たちの中の誰かでなくても、戦艦や空母の人たちの成長を待って、
最高練度に達したときに指輪を渡すという選択肢もあるはず……」
荒潮「そんな……深く考えるのはやめましょう? それは司令官が考えることであって、私たちは……」
朝潮「だって、よく考えたらおかしいわ……。 ケッコンカッコカリ実装の手紙が届いたのはもうずっと前の話なのに、
全体周知どころか、秘書艦の私にだって何も聞かされていない……」
荒潮「朝潮……」
>>21
ほい。
完結後に作者がまた貼ると思うけど
提督「朝潮型、整列!」
提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
提督「朝潮型、出撃!」
提督「朝潮型、出撃!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443970090/)
提督「朝潮型、索敵!」
提督「朝潮型、索敵!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445001663/)
提督「朝潮型、遠征!」
提督「朝潮型、遠征!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445615911/)
提督「朝潮型、編成!」
提督「朝潮型、編成!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446812254/)
提督「朝潮型、解散!」
提督「朝潮型、解散!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447416092/)
朝潮「これはつまり、戦艦や空母の方たちが最高練度に達するまで、話自体を伏せておこうという司令官の配慮……」
霞「憶測ばかりで物を考えるのは良くないけれど、今回ばかりはそう考えざるを得ないわね」
大潮「同じ練度になれば、強いのはどう考えたって大型艦だもんねぇ……」
満潮「悔しいけれど、性能差がありすぎるわ」
霰「……そう考えれば、司令官の判断は正しいのかも」
荒潮「所詮私たちは、駆逐艦の中では強いだけ。戦艦や空母と同じ土俵には立てないものね……」
朝潮「司令官は最初から、私たちに指輪を渡すつもりなんて、なかったんだわ……」
一同「………………」
大和「私は、最初に言ったはずです」
一同「…………??」
大和「ケッコンカッコカリとは“絆を深める”システムです、と。これは文書の一番初めにも書かれている言葉です」
朝潮「絆を……深める……」
大和「はい。色々と細かいお話をしてきましたが、このシステムの第一目的は“絆を深める”ことであると、
総長は仰っておりました。それは艦隊を運営する上での単なる『システム』ではなく、
本当の結婚のように、心と心を繋ぐ『 印 』であると」
霞「でも……そうは言っても軍令部の方針は―――」
大和「たしかに、大型艦に渡すべきであるという風潮はあります。ですが考えてもみてください。
あのユニークな提督が、そんな軍令部の方針に従うでしょうか?」
満潮「それは……」
大和「それは私よりも、あなた達が一番、よくご存じではないでしょうか?」
一同「…………」
大潮「そっか……そうだよね! なんたって司令官だもん!」
霰「司令官はいつも、常識にとらわれない」
荒潮「司令官は私たちに、ゾッコンだものね? うふふっ」
ピーンポーンパーンポーン
霰「あ、構内放送……」
提督『朝潮型駆逐隊、大事なお話があるので至急司令室まで来るように』
霞「噂をすれば、ね」
朝潮「もしかしたら、大事なお話って……!!」
満潮「考えても無駄。さっさと行くわよ!」ダッ
大潮「あ、待ってよぉー!」
荒潮「あらあら、早く着いたからといって、評価は変わらないわよぉ」
霰「うぅ……荒潮もそう言いつつ、全力疾走してる……」
霞「まったく、やれやれね。朝潮、私たちも行きましょう」
朝潮「えぇ。……あ、大和さん」
大和「はい」
朝潮「ありがとうございます」
大和「ふふっ、できるといいですね、ケッコン」
朝潮「は、はい……」カァアアッ
霞「朝潮ー! 置いていくわよー!」
朝潮「今行くわー!」タッタッタッ
大和「あの子たちも、私と同じなのですね。
総長、この気持ちは届いていますか? 私が本当に欲しいのは―――――」
~ 司令室 ~
提督「皆、急に呼び出してしまってすまない。さっそくだが、大事な話というのは――――――」
一同(ケッコンカッコカリケッコンカッコカリケッコンカッコカリケッコンカッコカリケッコンカッコカリ)ブツブツブツ
提督「けっこん――――」
一同(キタ!!!)キラーン
提督「……失礼、けっこう酷な出撃任務なんだけどな」
一同(………………)ガーン
提督「お、おい……なに落ち込んでるんだ。まだ内容は何も言ってないぞ」
朝潮「し、失礼しました司令官。それで、朝潮型駆逐隊の出撃任務とは?」
提督「南方海域に突如姿を現した、新種の深海棲艦の撃破だ」
大潮「新種の深海棲艦!? 強いの?」
提督「非常に強力で、特に装甲がかなり硬いとの報告が上がっている」
荒潮「あら? 装甲の厚い大型艦なら、戦艦や空母の出番じゃないの?」
提督「軍令部はその深海棲艦を、『軽巡棲鬼』と名付けたそうだ」
満潮「軽巡? 大型艦じゃないってこと??」
霞「なるほどね……固い上に機動力もある深海棲艦……これはたしかに厄介ね」
霰「そして決め手になるのは……私たち駆逐艦の、夜戦火力……」
提督「うむ、その通りだ。物分かりが良くて助かる」
朝潮「これが私たちの……私たちにしかできない任務……」
提督「そうだ。既に中央鎮守府から陽炎型の駆逐隊を何度か送り込んだそうだが、作戦は失敗している」
大潮「大丈夫! 大潮たちなら、できる!」
満潮「相変わらず適当な自信ね……」
提督「もちろん、君たちならできると思ってこの話をしている。……朝潮、やってくれるか?」
朝潮「はい! 朝潮型駆逐隊……総力をあげて、必ずや作戦を成功させてみせます!!」
~ 南方海域 ~
朝潮「各艦、被害報告」
大潮「大潮、パーフェクト!」
満潮「満潮、損傷なし」
荒潮「荒潮、同じく損傷なし」
霰「霰、平気」
霞「霞、無傷よ」
朝潮「よし、全員ここまで損傷なし。最高の気分ね」
霰「そろそろ最終目標地点のはず……」
朝潮「そうね……大潮、満潮、羅針盤に変動は?」
大潮「異常なし!」
満潮「このまま南東へ真っ直ぐ。そろそろ小島がいくつか見えてくるはずよ」
荒潮「少し不気味な雰囲気になってきたわね……」
朝潮「今回の任務は軽巡棲鬼の撃破……。この辺りに現れるのは間違いないはず……。
敵の偵察機に捕捉される前に、敵艦を発見する必要があるわ」
満潮「グズグズしてられないわね」
朝潮「えぇ。よし……両舷前進、強速! 全方位、索敵を厳に! 島影に注意して!」
一同「了解!」
朝潮( 私たち駆逐艦が、戦艦や空母に劣る? ううん、そんなことはない!
今回の出撃だって、司令官は私たちを選んでくれた。私たちならできると、言ってくれた!
私たちは強い。戦艦や空母よりも……朝潮型駆逐隊が、一番強い!! )
霞「敵艦見ゆっ!!」
一同「!?」
霞「十字方向、小島の影から六隻!」
朝潮「霰、望遠鏡!」
霰「…………駆逐3、戦艦2……それから、軽巡棲鬼」
満潮「ビンゴね」
荒潮「向こうもこちらに気付き始めたわぁ」
朝潮「偵察機を持つ相手に、索敵で後れをとらなかったのは大きいわね。……みんな、準備はいい?」
大潮「いつでも大丈夫!」
霞「ひとり残らず叩きのめしてやるわ」
荒潮「うふふふふっ、なんだかワクワクしてきたわぁ」
霰「絶対に……勝つ」
満潮「さぁ朝潮、ちゃっちゃと始めましょう」
朝潮「えぇ……それじゃあ、朝潮型駆逐隊! これより、戦闘態勢に移行します!!」
一同「了解!!」
大潮「まずは反航戦だー!」
朝潮「両舷前進、最大戦速! ターゲットは敵の駆逐艦三隻に固定!」
荒潮「かわいそうかしら? うふふっ、一撃で仕留めてあげるから」
朝潮「砲戦用意! ……撃てぇーーーー!!!」
朝潮「報告!」
大潮「駆逐艦を撃沈! うっ、あいったたたぁ~」
朝潮「大潮、大丈夫?」
大潮「うぅ、軽巡棲鬼の砲撃がかすっただけで中破だよぉ。でも大潮、まだ、大丈夫だから!」
霞「うっ……あの戦艦にやられた……。被害としては小破だけど、魚雷発射管がイカれたわ」
荒潮「うふふ、小破したけれど、私も駆逐艦を撃沈したわ」
霰「損傷なし」
満潮「私も無傷よ」
朝潮「私が撃沈させた駆逐艦も合わせると計三隻の撃沈……。
こちらの被害は、大潮が中破、霞と荒潮が小破ね。概ね予定通り……行ける!!」
霰「朝潮、次はどうする?」
満潮「まだ夕暮れ時……夜戦を始めるには早すぎるわ」
朝潮「そうね……皆、軽巡棲鬼の姿は見た?」
霞「嫌でもよく見えたわ……。あれ、ヲ級やタ級よりももっと……完全に人型だったわね……」
大潮「大潮、あれに睨まれた気がする。殺意の塊だったよぉ~」
朝潮「そうね……。きっとあの深海棲艦は、今まで見てきた中でも、かなり知能の高い部類だと思う。
こちらの目的が艦隊としての勝利ではなく、軽巡棲鬼の撃破であるということも、おそらく向こうは勘付いているわ」
荒潮「このまま夜を待って夜戦へ突入しても、軽巡棲鬼は戦艦にかばわれる……?」
朝潮「そういうこと」
霰「なら一体……」
朝潮「残りの戦艦二隻を…………昼のうちに沈めます」
満潮「せ、戦艦二隻を、昼のうちに!?」
霞「くくく……滅茶苦茶言ってくれるじゃない。でも……燃えてきたわ!」
大潮「うおー! すごい! すごい!」
荒潮「朝潮? 何か策があるの?」
朝潮「えぇ……一度しか言わないから、皆よく聞いて―――――――」
朝潮「作戦開始!」
大潮「いよーーっし! 頑張るぞー!!」
朝潮「大潮……本当に大丈夫? かなり大変な役目よ」
大潮「もぉ、朝潮は心配性なんだから。大丈夫、大潮にドーンと任せてよ!」
朝潮「信じるわ大潮……沈まないで」
大潮「へへん、朝潮もね!」
朝潮「じゃあ行くわよ……両舷前進! 最大戦速!!」
大潮「よーし…………うわっ、出た! 後方に戦艦二隻と軽巡棲鬼!!」
朝潮「よし、うまく引き付けられたわね……。撃ってくるわよ! 最大戦速を維持したまま之字運動!」
ドォオオオン! ドォオオオン! ドォオオオン!!
大潮「うわぁああああすごい轟音! 当たるよ! 当たるってぇええ!!」
朝潮「当たらないで!」
大潮「そんな簡単に言うけどぉおおおおお!!」
朝潮「じゃあ祈って!!」
大潮「うわぁあああああ危ない! 危ないってばぁああ!!」
霞「大潮そのまま! 当たるんじゃないわよ!!」
荒潮「うふふふ、軽巡棲鬼さん? あなたの相手は、私たちよ?」
軽巡棲鬼「………………ニドトフジョウデキナイ……シンカイヘ………………シズメェッ!」
霞「こいつ、喋るの!?」
荒潮「あらあら、面白いじゃない。私たちと口喧嘩でもする気かしら?」
霞「ふんっ、良い度胸ね。泣いたって、許してあげないんだから!!」
朝潮「よし……軽巡棲鬼の離脱を確認。霞、荒潮、頼んだわよ……」
大潮「うわっ!? え、あれ!?」
朝潮「どうしたの大潮! 被弾!?」
大潮「違う! 違うけど……あれ!? なんか主機から異音がするよ! 出力も落ちてる!!」
朝潮「くっ……あと少しなのに……。なんとか持ちこたえて!」
大潮「ぐぬぬぬぬっ! あほー! もっと速く動けぇええっ!!」
朝潮「満潮、霰、聞こえる?! そちらの状況は?」
霰『聞こえる』
満潮『持ち場についたわ。いつでも行ける』
朝潮「大潮がもう限界なの! なんとか一撃で仕留めて!」
霰『朝潮、落ち着いて』
満潮『ちょっとは信用しなさいよね』
朝潮「うん……ありがとう。二人の声が聴けて、安心したわ」
大潮「うおおおおっ!! 大潮、絶対にそっちまで行くからぁあああっ!!」
ドォオオオン! ドォオオオン! ドォオオオン!!
朝潮(ここから約2km先に島がある……。島の近海には、あらかじめ満潮と霰が機雷を設置。
水しぶきが上がって敵の目を眩ませた瞬間に、島影から霰と満潮が超至近距離からの挟撃……。
敵を引き付けているうちに私と大潮は大破するかもしれないけれど、
これなら霰と満潮を無傷のまま夜戦へ送り出せる!)
大潮「ぐぅうう……ううっ……!」
朝潮「大潮、血が!」
大潮「大丈夫! 破片がかすっただけ!」
朝潮「あと少し……あと少しよ! あの場所まで行けば……たどり着きさえすれば――――――」
ドォオオオン!
大潮「うわぁあああああああっ!!」
朝潮「大潮ッ!!」
大潮「うぅ……」
朝潮「だめ……直撃弾……。大潮、意識がない……しっかりして! 大潮! 大潮!!」
大潮「…………」
朝潮「このままじゃ……」
大潮「うぅ……朝潮……いっ……」
朝潮「大潮! 良かった、気が付いたのね! さぁ手を! 私が曳航するわ!!」
大潮「だめ……朝潮……行って……」
朝潮「なっ……何言ってるのよ!! 大潮を置いて行けるわけ!」
大潮「倒して…………勝って…………司令官に……褒めて、もらっ……て……ケッコン……」
朝潮「もうバカ! こんな時に……何言ってるのよ!!」
大潮「…………」
朝潮「大潮! 起きて!! 大潮ーーーーーーーっ!!!」
霞「ちっ……この距離からの砲戦で倒せるとは思ってないけど……」
荒潮「本当に時間稼ぎにしかならないわねぇ」
霞「それに、少しでも気を抜いたら! 一撃でやられる!」
荒潮「朝潮たちの心配を、してる場合じゃないわね!」
霞「荒潮、各自最大戦速で回避運動を取りつつ砲撃、いいわね?」
荒潮「うふふ、了解よ」
霞「いい? お願いだから衝突とかやめてよね! すっごい痛いわよ!」
荒潮「あら、霞ちゃんこそ。射線上に出てきても、私、撃っちゃうわよ?」
霞「ふんっ、そしたら撃ち返してあげるわよ!」
荒潮「うっふふふふ、それじゃあ、行くわよぉ~!」
霞「くっ……お喋りするだけあって、なかなかやるじゃないの……」
荒潮「霞ちゃん! そっちに行ったわよ!」
霞「くそっ……両舷後進一杯! 後退しながら砲撃を……―――――」
プスッ…… プスッ……
霞「主機が……くっ、吹かしすぎた!? だめ、体勢を立て直せない!」
軽巡棲鬼「……シズメ……シズメ……シズメ!!」
霞「ううっ!」
荒潮「霞ちゃん!」
霞「うっ……平気よ。主砲がぶっ飛んだだけだから……」
荒潮「主機は大丈夫なの!?」
霞「ちょっと最大戦速で吹かしすぎたみたいね。一時的に停止しただけで、今は大丈夫」
荒潮「そう……。でも、これ以上は無理ね。朝潮たちの方も決着がついている時間だし、そろそろ離脱しましょう」
霞「悔しいけど……そうね、そうするわ」
軽巡棲鬼「サセヌ……サセヌワ……!」
荒潮「逃がさないつもりね……。霞ちゃん、もう一度最大戦速、行ける?」
霞「知らないわよ! やってみるしかないでしょうが!!」
荒潮「撃ってくるわよ!」
霞「両舷前進、最大戦速!!」
ブォオオオオン!! ……プスッ……プスッ……
荒潮「そ、そんな……」
霞「くっ、速度が上がらない! この速度のまま朝潮たちの所まで逃げるしかないわ!」
軽巡棲鬼「シズメ! シンカイヘ……シズメ!!」
荒潮「霞ちゃん、危ない!!」
ドォオオオオオン!!
荒潮「うっ……くぅ……」
霞「あ、荒潮! アンタ、何かばってんのよ!!」
荒潮「大丈夫……主砲は守ったわ……これ、霞ちゃんが、使うのよ……」
霞「アホ! 装備よりも自分の身を守りなさいよ!!」
荒潮「うふっ……お説教はあとよ。私の主機は大丈夫みたいだから、このまま離脱しましょう」
霞「くっそォーーー!!」
朝潮「大潮……大潮ってば!!」
大潮「………………」
深海棲艦「ウオオオォオオン!!」
朝潮( ダメ……やられる……!! )
満潮「作戦変更よ、朝潮」
朝潮「満潮……どうしてここに……!」
満潮「どうしてじゃないでしょ。あんた達がもうダメそうだったから、迎えに来たんでしょうが」
霰「間に合って、よかった……」
朝潮「霰……。はっ、作戦変更って、どうするつもり!?」
霰「わたしと満潮が二人で……」
満潮「ぶっ潰すのよ、戦艦を」
朝潮「えっ……ちょ、それって……」
満潮「朝潮、あんたは大潮を安全なところに運んで! それから軽巡棲鬼との戦いにでも備えてなさい!」
朝潮「二人とも……」
霰「このデカイの二つは…………私たちが片付ける」
朝潮「くっ……大潮を移したら、すぐに追いつくから!!」
満潮「さーて霰、一世一代の大勝負よ」
霰「うん……」
満潮「なに? 怖いの?」
霰「荒潮がキレた時の戦慄に比べたら、そうでもない」
満潮「ぷっ、あとで荒潮に言っとくわ」
霰「ちょっと……」
満潮「冗談よ。それよりどうするつもり?」
霰「深海棲艦の喉元に魚雷を投げる。これしかない」
満潮「シンプルで分かりやすいわね。おっけー、それで行きましょ」
霰「やっぱり砲戦より、水雷戦…………あ、来た」
満潮「さぁいらっしゃい深海棲艦! その先にあるのは……地獄よ!!」
朝潮( もう夜だ……暗闇の世界……。お願い皆……無事でいて!! )
??「朝潮!!」
朝潮「えっ、誰!? どこにいるの!?」
霞「ここよ、ここ」
朝潮「霞……無事だったのね、よかった」
霞「一時は死ぬかと思ったけど、おかげ様で何とか小破止まりよ。あ、それから荒潮もいるわ」
荒潮「うふふ……ごめんねぇ朝潮。私、ちょっぴり無茶しすぎちゃって」
朝潮「荒潮! ううん……無事でいてくれただけで、本当に良かった……」
霞「大潮は? 生きてる?」
朝潮「向こうの島に退避させておいたわ。出血もしていたけど、大したことはないみたい」
荒潮「さすがは大潮ちゃん……タフねぇ」
霞「じゃあ満潮と霰は? 今頃はあの世?」
満潮『聞こえてるわよバカ……勝手に殺さないで……』
朝潮「無線……! 満潮、無事なのね?」
満潮『えぇ、大破したけど何とかね。ほら、霰も何か言いなさいよ』
霰『疲れた……死にそう……』
霞「ふぅ……残念、元気そうね」
満潮『そうそう、デカブツ戦艦なら二隻とも仕留めたから、存分に褒めるといいわ』
荒潮「あらあら……大手柄ね、二人とも」
朝潮「となると、敵の残存は軽巡棲鬼のみね……」
荒潮「闇に紛れてなんとか振り切ったけれど、アレ、まだきっと近くをうろついているわねぇ」
朝潮「そしてこちらの状況は……大潮、荒潮、満潮、霰が大破。霞が小破ね……」
霞「魚雷発射管がイカれてて、雷撃ができないポンコツ仕様だからよろしく」
荒潮「かなり厳しい状況ね……」
霞「けれど、可能性はゼロじゃない」
霰『とても危険……だと思う』
満潮『別に撤退するって言っても、私たちは恨んだりしないわよ、朝潮』
朝潮「………………いいえ、やるわ、夜戦」
荒潮「朝潮……」
朝潮「ここまで皆、死ぬ気でバトンを繋いできた……こんなところで、みすみす手放すわけにはいかないわ!
それに大潮も、勝ってくれって、倒してくれって、言っていたから」
霞「そうね、天国の大潮の分までね」
荒潮「ふふっ、もう、霞ちゃんってば」
朝潮「これが最後よ……霞、付き合ってくれる?」
霞「当然よ。アンタがそう言うなら、断る理由なんてないわ、リーダー!」
荒潮「二人ともさすがね。じゃあ私は一度満潮ちゃん達と合流してから、大潮ちゃんの所に行ってるわね?」
朝潮「えぇ。皆のこと、頼んだわよ、荒潮」
荒潮「うふっ、頼まれましたっ」
霞「それじゃあ朝潮、ちょっとそこまで、深海棲艦に……風穴開けに行くわよ!」
朝潮「両舷前進、微速……音を立てないで」
霞「無茶言わないでよ……私の主機、そろそろガタが来てるんだから……」
朝潮「今夜だけ……何とか乗り切って」
霞「いや、私に言われても」
朝潮「…………」
霞「…………」
朝潮「……いたわ。見える?」
霞「どんな視力してんのよ……。普通気づく? あんなの」
朝潮「あちらはまだ、私たちに気づいてない。絶好のチャンスよ」
霞「作戦は?」
朝潮「…………」
霞「ちょっと朝潮、もしかしてアンタ、今さら私に遠慮しようとしてない?」
朝潮「そ、それは……」
霞「図星みたいね……。いい? 私のことは将棋の駒や働きアリとでも思いなさい!
どういう扱いをしてもいいから、アンタの思う最善の策を提供してちょうだい!」
朝潮「……分かったわ。レッサーパンダだと思うことにする。可愛いから」
霞「いや、いいから、そういうの」
朝潮「じゃあ作戦だけど――――――――」
霞「できればもう二度とあんな化け物と対面したくはなかったんだけど……。
まったく無茶を言うわね、うちの旗艦は……。 ふふっ、でもそれくらいじゃないと、つまらないわ!」
霞( さぁお願い……これっきりでいい……しっかり動いて! 駆逐艦霞の主機なら、根性見せてみなさいよッ!! )
霞「両舷前進! 最大戦速!! 動けぇええええええっ!!」
ブォオオオオオオオン!!!
霞( やった!! ……って、これで喜んでどうするのよ。これからが本番だって、いうのにね!! )
霞「探照灯、照射!!」
軽巡棲鬼「オノレ…………オノレ……!!」
霞「当たってたまるもんですか!!」
霞( どんなに硬くたって、ゼロ距離で砲撃すれば……!! )
軽巡棲鬼「ウウゥウウウ!!」
霞「唸ったって当たらないわよポンコツ! さぁ、そろそろ行くわよォ!!」
軽巡棲鬼「シズメェ!!」
霞「沈みなさい!!」
ドォオオオオオオオオン!!
霞「うわぁあああああっ!! うぅ……痛い……くそ……でも、確実に当てた……ダメージを与えた……」
軽巡棲鬼「…………」
霞「…………」
軽巡棲鬼「ククク……ソノテイドカ……?」
霞「う、嘘でしょ!? あんな超至近距離で被弾しといて……どんだけ硬いのよ!?」
軽巡棲鬼「ククク……」
霞「ふんっ、だけど笑っていられるのも今のうちよ……。アンタは沈むのよ。……うちの旗艦の、雷撃でね!!」
軽巡棲鬼「!?」
朝潮「一発……必中……」
朝潮( 霞が軽巡棲鬼を引き付けておいてくれたおかげで、気付かれずに敵の背後へ肉薄することができた……。
おそらくこれが最後のチャンス! 私が……私がコイツを! 沈めてみせる!! )
軽巡棲鬼「……!!」
朝潮「遅い! 四連装酸素魚雷、発射!!」
霞「お願い朝潮…………これで決めて!!」
軽巡棲鬼「オノレ……ッ!」
朝潮「深海棲艦! この世界から、出ていけぇええええええっ!!!」
~ 翌日 夜 司令室 ~
大和「軽巡棲鬼……かなりの強敵であると聞きます」
提督「それは、大和にとってもか?」
大和「はい。私の砲撃でも、通用するかどうか、不安が残るところです」
提督「なるほど……それはたしかに、かなりの強敵だ」
大和「はい……ですから、そんな軽巡棲鬼を含む艦隊を相手に勝利するなんて、素晴らしいことだと思います」
提督「だな。さすが、我が鎮守府、自慢の朝潮型駆逐隊だ」
大和「朝潮さん以外が全員大破した状態で帰って来たときは驚きましたが、酷い外傷もないみたいで、心底安心しました」
提督「さて、そんな朝潮たちがそろそろ入渠を終えてこちらに来る頃だが……」
コンコン
朝潮「司令官! 朝潮型六名、入渠を終え、改めて任務の報告に参りました!」
提督「噂をすればだな……。待っていたぞ、入ってくれ」
朝潮「失礼します」
ガチャ ゾロゾロゾロ……
提督「まずは皆、本当にお疲れさま。よく全員生きて帰ってきてくれた。ありがとう」
大潮「大潮、今度こそ本当にダメかと思ったぁ~」
荒潮「大潮ちゃんが一番重傷だったものねぇ」
満潮「大潮じゃないけど、私も……途中で生きてるのか死んでるのか分からなくなったわ」
霰「地獄を見た気がする……」
大和「壮絶な戦いだったのですね」
朝潮「それでは司令官。改めて報告致します。
我々朝潮型駆逐隊は、南方海域へ出撃。目標地点へ向かう道中で二度の会敵がありましたが、
損害を出すことなく突破。そのまま目標地点へ到達し、標的である軽巡棲鬼を含む水上打撃部隊と交戦しました。
我々は最終的に五隻大破という大損害を受けましたが、結果として我々は勝利を収めることができました」
提督「うむ、ご苦労。本当によく頑張ったな」
朝潮「…………」
大和「…………」
霞「……ふざけないでよ」
荒潮「霞ちゃん……」
霞「何が……何が勝利よ……何がよく頑張ったよ……そんなの、何の意味もないわ」
朝潮「やめて霞……何も、言わないで……」
提督「霞、無意味なんかじゃない」
霞「無意味よ…………どれだけ勝利しても! どれだけ頑張っても!
作戦失敗してたら、意味なんてないじゃない!! 無理に褒めようとしないでよ!!」
一同「………………」
朝潮「私が……私が悪いんです。最後の雷撃で……一撃で、決め切れなかった……」
大潮「朝潮は悪くないよ! 元はといえば大潮が大破して、朝潮が考えた作戦を台無しにしちゃったから!」
満潮「なに言ってんのよ! そんなリスクの高い役目を大潮に負わせたのは、私たちじゃない!」
霰「せめて中破でとどまっていれば……私たちも夜戦に参加できた……」
荒潮「私、主機は無事だったんだから……夜戦で囮になるくらいなら、できたはずだったわ……」
大和「皆さん……同じ艦娘として、お気持ちは分かります。ですが、戦いの後に
『もしもこうしていたら』という話をしてはいけません」
霞「だって……あと少し……あと少しだったのよ!? あとたった一撃与えるだけで、アイツを撃沈できたのよ!?
そんなの悔しいじゃない……負けたのと同じよ……」
提督「戦いの流れについては朝潮から一通り報告は受けている。
会敵から速やかに駆逐艦三隻を撃沈。策を講じたが敵の火力に一歩劣り、大潮と荒潮が大破。
その後、残った戦艦と刺し違えるようにして、満潮と霰が大破……。
夜戦にて軽巡棲鬼を追い込んだ霞と朝潮だったが、火力が一歩及ばず軽巡棲鬼を取り逃す……。
私が思うに……たとえ、たったのあと一撃で倒せたとしても、これが最大限の戦果であり、
これ以上の結果は見込めないとも考えられる」
大和「私も同感です」
朝潮「私たちの実力が……そこまでだったと……いうことですか……?」
提督「それだけ敵が強力だったということだ」
一同「………………」
提督「報告は以上だな。君たちは部屋に戻って休息を――――――」
霞「違う……」
提督「霞?」
霞「あの戦いは……勝てる戦いだった……」
大潮「霞、もうそれくらいにしようよ……」
満潮「そうよ。あんたらしくもない」
霞「朝潮型駆逐隊の中で一人でも……大破ではなく、中破だったら……。
夜戦中、ヤツを確実に仕留められるタイミングを、すぐに見つけられていたら……」
大和「霞さん……あなた……」
提督「…………霞、何が言いたい」
霞「誰でもいい……私たちの中で一人でも、ケッコンカッコカリが適用されていたら……倒せたって、言っているのよ」
提督「霞、その話……どこで聞いた」
朝潮「し、司令官…………申し訳ありませんでした! 私が……私が……」
提督「朝潮か……。はぁ……そうか……まさかこんな形で、君たちに知られることになるとはな……」
朝潮「うっ……司令官……ぇぐ……ごめんなさい……私……私……」
提督「…………」
荒潮「朝潮…………泣かないで? ね?」
霰「ごめんなさい司令官……朝潮だけのせいじゃない。わたしも、共犯だから……」
大潮「そうだよ! だから朝潮だけを叱らないで! 悪いのは大潮も同じだから!」
提督「…………」
満潮「ちょっと待って。謝る必要なんて、無いんじゃないの?」
荒潮「満潮ちゃん……? それは、どういう……」
満潮「よく考えてもみなさいよ。そのケッコンカッコカリってのは、私たち艦娘に対するシステムなんでしょ?
それを司令官は、当の私たちに知らせず黙っていた。私たちにはそれを知る権利があるはずよ」
霞「そうよ……いつまでも待っていられないわ。さぁ、答えてよ……司令官」
提督「そうだな……。少し予定が狂ったが、この際だから話しておこう」
一同「…………」
提督「今、私の手元にはケッコンカッコカリの書類一式と、指輪がある。
そして、軍令部からこれが届いたのを確認した瞬間から……こいつの使い道は既に決めていた」
大和( 指輪を渡す相手は……最初から既に決めていた!?
てっきり、彼女たちの中で決めかねていたのだとばかり…… )
霞「いったい…………誰なの…………」
提督「…………朝潮」
朝潮「えっ」
提督「大潮」
大潮「な、なに?!」
提督「満潮」
満潮「…………え」
提督「荒潮」
荒潮「あら……?」
提督「霰」
霰「……?」
提督「霞」
霞「…………な、何よ」
提督「この指輪を渡す相手は………………――――――――――――――――」
(前編 おわり)
いったんここで終了です。
続きはまた明日の夜、更新します。
>>1氏、ターキーと鶏肉を間違える
荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」
↓
信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」
↓
鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋
↓
信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」
こんな可愛い信者が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」 【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」 【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450628050/)
(中編)
提督「この指輪を渡す相手は………………―――――――君たちの中の、誰でもない」
~ 数分後 ~
大和「良かったのですか。あんな風に言ってしまって」
提督「嘘を言っても仕方がないだろう」
大和「皆さん、非常にガッカリしていましたよ」
提督「あぁ……だから内緒にしておいたんだ」
大和「結局その指輪は、どうなさるおつもりですか? 戦艦や空母の方が最高翌練度になるのを、待つおつもりですか?」
提督「いいや、この指輪は誰にも渡さないつもりだ」
大和「そうですか…………って、はい? 今……なんと仰いました?」
提督「ケッコンカッコカリ……私はこのシステムを、使わないつもりだと言ったんだ」
大和「まさか……いや、そんな…………」
提督「何をそんなに驚いているんだ?」
大和「いえ、失礼しました。…………提督、あなたのそのお考えに、お変わりはないのですね?」
提督「無論だ」
大和「……そうですか。これはまさかの展開です」
提督「まさかで悪かったな。さ、夜も更けてきたことだし……大和も部屋で休んでいいぞ」
大和「いいえ、提督」
提督「どうした? まだ何か用か?」
大和「お忘れですか? 私は軍令部総長の秘書艦であり、ここへは監査のために参ったということを」
提督「何を監査しているのかまるで分らないけどな」
大和「それは、いずれ分かることになるでしょう」
提督「ん? どういうことだ?」
大和「これは、軍令部総長からの命令です。 提督…………あなたを――――――――」
~ 就寝前 朝潮型の部屋 ~
朝潮「うぅ……ひっく……ぐすっ……」
―――――― この指輪を渡す相手は………………君たちの中の、誰でもない ――――――
霞「朝潮……そろそろ、泣き止んでよ……」
朝潮「うん……ごめんなさい……」
霞「謝るのはこっちよ……悪かったわ……勢い任せに……ケッコンカッコカリの話、しちゃって……。
あれじゃあ朝潮のことをチクったのと同じよね……。バカだわ……私……」
朝潮「ううん……ううん……」
荒潮「本当に悲しかったのは、その後の司令官の言葉……よね?」
朝潮「…………」コクン
大潮「はぁ……あれってつまり、結局は戦艦や空母の人たちに渡すつもりって意味だよねー」
満潮「まぁ、妥当な使い道なんだろうけれど、何だかちょっと、見損なったわ」
霰「うちの司令官だけは……他の人たちとは違うって……信じてたのに」
霞「“絆を深める”なんて、結局はキレイゴトよね。どういう名目であれ、能力が向上するんだもの。
それこそが真の目的なんだわ。絆だけで深海棲艦を倒せたら、苦労しないわよ」
朝潮「司令官は……私たちのことを……何とも思っていないのかな……」
一同「…………」
朝潮「司令官がいつも私たちに言ってくれている『好き』は……他の皆に対する『好き』と……同じだったのかな……」
大潮「そんな風には……思いたくないよ……」
荒潮「思いたくないけれど…………何だかもう、分からなくなってきちゃったわね……」
満潮「はぁ……もう寝ない? いつまでもうだうだしてたって、仕方ないじゃない」
朝潮「ねぇ、満潮……」
満潮「なによ」
朝潮「今日は、そっちで一緒に寝てもいい?」
満潮「はぁ!?」
朝潮「……いい?」
満潮「……わ、分かったわよ。今日だけなんだから……」
朝潮「うん……ありがとう。温かいわ」ガサガサ
大潮「じゃあ大潮もー!」ドスーン!
満潮「は?」
霰「わたしも」ササッ
満潮「ちょっ! 何言って……」
荒潮「うふふ、それじゃあ私も、お邪魔しようかしらぁ?」ピョーン
満潮「ちょ、ちょっとぉ!!」
霞「同じベッドに六人は……さすがに狭いわね」スススッ
満潮「霞までーっ!」
大潮「うう……狭いんだけど……」
霰「苦しい……」
満潮「当たり前でしょ! いいから出なさいよ!」
荒潮「あらあら、朝潮だけなんてズルイじゃない」
霞「ふぁ~……枕は私が使うから」
満潮「あ、こら! もう! 朝潮、元はといえばあんたが―――」
朝潮「満潮」
満潮「なによ!」
朝潮「ありがとう」
満潮「うぅ……」
~ 翌朝 ~
朝潮「…………」スヤスヤ
満潮「うっ……重い……。人の気も知らないで、気持ちよさそうに寝てるじゃない……」
ドタドタドタ
荒潮「ふぁ~……あら? おはよう満潮ちゃん、これ、何の音かしら?」
満潮「知らないわよ……。廊下にイノシシでもいるんじゃないの?」
霰「…………力士かもしれない」ゴシゴシ
霞「……だったら面白いわね」
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ
??「大変だぁあああーーーー!! 大変大変大変大変大変!」
満潮「大潮ね」
荒潮「大潮ちゃんよねぇ」
霰「大潮」
霞「大潮だわ」
バァン!!
大潮「みんなー!! 大変だよ!! 大変なんだよー!!」
満潮「朝から騒々しいわね」
大潮「だから大変なんだってば!!」
満潮「分かったから、早く言いなさいよ」
大潮「しり!」
霰「おしり?」
大潮「違う! 噛んだ! 司令官が……!!」
荒潮「司令官が?」
大潮「司令官が……いなくなっちゃったぁあああーーーーーっ!!!」
朝潮「…………」スヤスヤ
~ 軍令部 執務室 ~
総長「よく来てくれた。歓迎するぞ、若造よ。ようこそ、軍令部へ」
提督「総長殿の秘書艦に、無理矢理連れて来られたのですが。それも夜中に」
大和「…………」
総長「んっふっふ、その秘書艦にお前を連れてくるように命じたのは、この私だからな。
その様子だと、なぜ連れて来られたのかも分かっていないのだろう」
提督「えぇ。心当たりが多すぎましてね」
大和「提督、言葉遣いにはお気を付けください」
総長「いや、いい。大和、お前は黙っておれ」
大和「……失礼しました」
提督「…………」
総長「では、まだまだ尻の青い若造に、ここまでの経緯を教えてやろう」
提督「『ここまで』というのは、どこからの圧力のことでしょうか?」
総長「くっくっく、圧力? とんでもない。あれはお前たちに課せられた試練なのだよ」
提督「試練?」
総長「従来から我々は、戦艦の火力こそが艦隊の要であるという方針で艦隊運用を続けてきた。
ところが近年では海域の変化や、深海棲艦の多様化などにより、
従来通りの運用では上手くいかないケースが増えつつある」
提督「大型艦では突破できない、潮の流れの激しい北方海域……。
そして、突如として出現した新種の深海棲艦……軽巡棲鬼……」
総長「その通り。そうしたことで我々が苦戦している中、ある鎮守府だけはきちんと戦果をあげているではないか。
しかも詳しく調べると、その鎮守府の主力は戦艦でも航空母艦でもなく……駆逐艦ときたものだ」
提督「えぇ、駆逐艦は……戦艦や空母よりも強い」
総長「しかし、それは我々の方針とはあまりにも違いすぎる。たとえ結果が出ていても、すぐに受け入れられるものではなかった」
提督「だから……試した、と?」
総長「そうだ。お前の自慢の駆逐艦に厳しい任務を与えることで、駆逐艦の力というものを試すことにした」
提督「それで、総長殿の目には、どう映ったのですか?」
総長「ふっふっふ……先日の軽巡棲鬼との死闘、報告を受けたとき、思わず身震いしたものだ。
…………素晴らしいではないか、最強の駆逐隊…………朝潮型駆逐隊と言ったな」
提督「…………それは、どうも。ありがとうございます」
総長「軍令部としては、今後の艦隊運用には駆逐艦の編成にも力を入れていくつもりだ」
提督「そうですか。……それで、私をここへ連れてきたのは、そのことを伝えるためですか?」
総長「まさか、本題はここからだ」
提督「…………」
総長「ケッコンカッコカリについて、お前の意見を聞きたい」
提督「雀の涙ほどしか効果のない、高価な粗品だと思っています」
大和「て、提督……あなた……」
総長「くくく……正直なのは良いことだ。つまらんお世辞を言われるより、よっぽど良い。
実はこのシステムを考案したのは私だが、お前の言う通り、気持ち程度の効果しかない。
だが、艦娘の性能が向上するのは確かなことだ。たとえ僅かでも勝率を上げられるなら、
装備しておいても損はないだろう」
提督「勝率……」
総長「よって試験的に、各鎮守府に一つずつ指輪を支給した。そして、鎮守府内の最強の艦娘に、その装着を促したのだ」
提督「最強の艦娘ですか……なるほど」チラッ
大和「…………」
総長「ところがどういうことか、ここでも我々の方針に従わない鎮守府が、ただひとつだけ存在したのだ」
提督「まったくけしからんですね」
総長「待てど暮せど、ケッコンカッコカリの申請書類は送られてこない。
だから私は、大和を監査官として送り込んだ。場合によっては、その問題児をここへ連れてくるようにと」
提督「なるほど……。だから私が『誰にも渡さない』と言ったとき、あんなにも目の色を変えて驚いていたのか」
大和「当たり前です。あなたが指輪を渡すべき相手は、あの子たち……朝潮型駆逐隊の、誰かだったはずです」
総長「では若造よ、今一度尋ねる。……お前はあの指輪を、誰に渡す」
提督「あの指輪は……誰にも渡しません」
大和「そんな…………どうして…………」
~ 数日後 ~
提督「なぁ大和、ちょっとだけ、外を散歩してきてもいいか?」
大和「いけません」
提督「じゃあせめて、扉越しの会話をやめて、こっちに顔を出してくれ。退屈なんだ」
大和「はぁ……提督……あなたはご自分の置かれた状況を、本当に理解しているのですか?」
提督「分かっているとも」
大和「分かっていません! あなたは軟禁されているのですよ!?」
提督「これでも焦っているんだ。なにせ、何の連絡もなく、もう何日も鎮守府をほったらかしだからな」
大和「でしたら今すぐに、お手元の書類に艦娘の名前を書いて、総長へ提出してください」
提督「おいおい、ケッコンカッコカリってのは、名前を書いて提出さえすれば済むものなのか?」
大和「あなたがすぐに指輪を渡さないからです!!」
提督「……分かった。分かったから大声を出すな」
大和「……失礼しました」
提督「はぁ……しかしこの指輪、どうしたものか……」
大和「お尋ねしてもよろしいですか?」
提督「なんだ?」
大和「あなたが指輪を誰にも渡さないと言ったのは……あの子たちの中から一人を、選べなかったからですか?
だとしたら総長にお願いして、指輪をあと五人分……」
提督「当たらずとも遠からず……ってところだな」
大和「……はい?」
提督「私は、たとえ指輪が六つ支給されていたとしても、誰にも渡さなかっただろう」
大和「そんな……どういことですか? あなたの考えが、まるで分かりません」
提督「分からないのは……私の考えだけか?」
大和「くっ…………何が、言いたいのですか」
提督「教えてくれ大和――――――」
大和「…………」
提督「―――――――君はその指輪を貰って…………本当に幸せだったのか?」
~ 鎮守府 司令室 ~
霞「………………」イライラ
大潮「あ、霞ー。蛍光灯が切れかかってるよー?」
霞「……………………」イライライライライラ
満潮「ねぇ、ついでにペンのインクも切れたんだけど」
霞「………………………………」イライライライライライライライライライラ
霰「少し早いけど、お昼にしたい」
霞「あぁああああーーーーっ!!! もう!! なんでまた私があのクズの代理なんてやらなきゃいけないのよ!!」
荒潮「あらー、仕方ないじゃない。司令官がお留守なんだもの」
霞「そういうことを言ってるんじゃないの! 代理なら朝潮がやるべきなんじゃないの!?」
朝潮「私は秘書艦だから。それに霞には、司令官の代理の経験があるみたいだし」
霞「あの時とはワケが違うの! 難しい書類がたくさん来てるし、アンタたちはうるさいし、何よりあのクズ!
もうあれから何日経ったと思ってるのよ!!」
大潮「司令官……もう帰ってこないのかな……」
満潮「大和さんからの手紙、見たでしょ? あれは今、軍令部にいるだけだって」
霰「でも、いつ帰ってくるかは……書いてなかった……」
荒潮「そもそもどうして、司令官は軍令部へ行っちゃったのかしら?」
朝潮「それも、私たちに何も言わないまま……急に……」
霞「言わなかったんじゃなくて、言えなかったんでしょ?」
大潮「どういうこと?」
荒潮「あの晩、私たちが司令室を飛び出して行って……そこに残っていたのは司令官と大和さん。
そして翌朝には、その二人の姿がなくなっていた……これってつまり」
大潮「か、駆け落ち!!」
満潮「何でそうなるのよ」
霰「あのあと司令官は、大和さんに、軍令部へ連れて行かれた……」
霞「そういうこと。つまりあのクズが、軍令部へ連行されるだけの何かをしでかしたということになるわ」
荒潮「うーん、何か、ねぇ……朝潮? なにか心当たりはない?」
朝潮「ごめんなさい…………ありすぎて、どれのことだか……」
霞「朝潮にここまで言わせるなんて、どんだけクズなのよ……」
朝潮「あ、いや! でも、何日も帰ってこれないような、そんな悪いことは……!!」
霰「知ってる」
満潮「だから分らないんじゃない。今のこの状況が」
朝潮「うん……」
荒潮「じゃあまず、私たちもお手紙か何かで、軍令部へ連絡をとってみればいいんじゃないかしら?」
大潮「おおー! 荒潮、あったまイイー! なら大潮が書く!!」
満潮「だめよ。あんた字、汚いじゃない」
霰「イタズラだと思われそう」
大潮「ええー、そんなぁ~」
朝潮「本当に……そうなのかな」
一同「え……?」
朝潮「本当に司令官は……大和さんに連れて行かれただけ、なのかな……」
荒潮「朝潮? ……それは、どういう意味?」
朝潮「司令官は……私たちに愛想を尽かして……自ら鎮守府を出たのかもしれないわ」
満潮「はぁ? ちょっと何言ってるのよ、そんなワケ……」
朝潮「司令官だって、本当は戦艦や空母の人たちを艦隊の主力にしたかったのよ。
それなのに私たちは駆逐艦で……そのくせ指輪を欲しがって…………」
霰「待って朝潮……司令官は、私たちのことをそんな風に思ったりしない……」
朝潮「その証拠に……指輪は私たちには与えられなかった。戦艦や空母の人たちの成長を待ってから、その後にあげるのよ……」
大潮「そんなこと、司令官は言ってないよ! それに、大潮たちが愛想を尽かされる理由なんて、どこにもない!!」
朝潮「だって……だって私たちは…………作戦に、失敗した……」
荒潮「朝潮……あなた、作戦のこと、まだ気にして……」
朝潮「だからもう……司令官は、私たちのことなんて……!!」
一同「………………」
霞「朝潮……アンタの言いたいことは分かったわ。だから、顔をあげて」
朝潮「霞……」
霞「それから、歯を食いしばりなさい」
朝潮「えっ……」
パァン!
大潮「うわぁ! 霞がまた殴った!」
満潮「ちょ、ちょっと、霞……」
朝潮「なに……するのよ……」
霞「いい加減にしなさいよ……あッたま来た。むかつくのよ……アンタ!!」
パァン! パァン! パァン!
朝潮「うっ……!」
霞「むかつく! むかつく! むかつく!!」
荒潮「ちょっと霞ちゃん! やりすぎよ!!」
霰「霞……落ち着いて……」
霞「うるさいわね! 私は今、この女をボコボコにしないと、気が済まないのよ!!」
朝潮「……よくも……やったわね!!」スッ
スカッ
朝潮「しまっ……」
霞「今日という今日は、絶対に許さないから!!」
ドサッ
満潮「か、霞! 馬乗りなんて、そこまでする必要ある!?」
朝潮「重い……どきなさいよ……!!」
霞「言ったでしょ! アンタをボコボコにするまで、絶対にどかない!!」
パァン! パァン!
朝潮「うっ……このっ……」
大潮「霞! ねぇ、もうやめようよ!!」
荒潮「やめて霞ちゃん! ……みんな、霞ちゃんを止めるの、手伝って!」
霰「うん……!」
満潮「もう! なんで毎回こうなるのよ!!」
霞「やめて! 放しなさいよ! もっと……もっとコイツを! 殴らせてよぉおおお!!」
朝潮「霞…………!!」
大潮「ダメだよ霞! これ以上やったら、朝潮が死んじゃうよぉ!」
荒潮「どうしちゃったの!? こんな一方的なの、あなたらしくないじゃない!?」
霰「霞……かお、こわい……」
満潮「霞! いいから立って! やめなさいってば!」
霞「良い子ぶらないで!! アンタ達だって、同じ気持ちなんでしょ!?」
一同「…………!」
朝潮「どういう……ことよ……!」
霞「とぼけないで……。アンタはさっき、どれだけ私たちをバカにしたのか、分かってるの?!」
朝潮「え……?」
霞「たしかにアイツはバカだけど! 駆逐艦だからといって、私たちを弱い者扱いなんてしなかった!
どうしようもない変態だけど! 私たちのことを心から大事に思ってくれていた!
救いようのないクズ司令官だけど…………作戦失敗の一つや二つで、私たちに愛想を尽かすほどクズじゃない!」
荒潮「霞ちゃん……」
朝潮「…………」
霞「どうしてアンタにそれが分からないの?!
秘書艦として、一番近くでアイツの背中を見てきたアンタが! どうしてそんなことも分からないのよ!!」
朝潮「…………」
霞「なんとか……言ったらどうなのよ」
朝潮「長い」
霞「はァ!?」
朝潮「言いたいことがあるなら、一言でまとめて」
霞「いいわ……言ってやるわよ。言ってあげるから、もう一度歯を食いしばりなさい」スッ
大潮「ちょ、ちょっと霞……」
霰「また殴る……」
満潮「はぁ……もう……」
朝潮「…………」
霞「…………」スゥー ハァー
霞「私たちの大好きな司令官を、バカにするなぁぁああああああああああっ!!!!」
パァン!!
~ 昔 工廠裏 ~
朝潮「私……またやっちゃった……」
ねこ「にゃー」
朝潮「ううん。あれは私のせいよ」
ねこ「にゃー、にゃー」
朝潮「慰めてくれるのね……ありがとう」ナデナデ
ねこ「にゃー」
提督「朝潮は猫と会話ができるのか?」
朝潮「ほわぁああああっ!?!?!? し、司令官! い、いいいいつからそこに!?」
提督「今来たところだが?」
朝潮「そ、そうですか…………あっ! あの! この子は……!!」
提督「鎮守府において、猫は不吉な生き物……朝潮ならそれくらい、当然知っているよな?」
朝潮「はい……。鎮守府では猫の飼育を禁止されています。
迷い込んだ猫を発見した場合は、直ちに追い出すようにと、養成所で何度も聞かされました」
提督「そうだ。で、その子猫、かなり朝潮に懐いているようだが……。まさか、こっそり育てていたのか?」
朝潮「も、申し訳ありません! ……でもこの子、親とはぐれちゃったみたいで、餌も自分で取れなくて!
弱っていて……可哀そうで……」
提督「それで、軍規違反と知りながら、育てていたんだな?」
朝潮「はい……」
提督「陸奥が知ったら怒るだろうなぁ。あいつ、昔思いっきり引っ掻かれたとかで、猫が嫌いらしいからな」
朝潮「…………」
提督「じゃあこれは、私と朝潮の、秘密ということにしよう」
朝潮「えっ?」
提督「あ、大潮たちにも言うんじゃないぞ? 特に霞なんかは、こういう規律には厳しそうだからなぁ」
朝潮「私と司令官の……秘密。二人だけの……秘密……」
提督「それはそうと、子猫はなんて言ってたんだ? 作戦の失敗は、朝潮のせいじゃないって、言ってくれたか?」
朝潮「司令官の意地悪……やっぱり聞いていたんじゃないですか……」
提督「で、どうなんだ?」
朝潮「あれは……どう考えたって私のせいです。皆さん無傷で、とてもいい調子だったんです。
それなのに私が……目標地点到達前に大破して……撤退を余儀なくされて……」
提督「一緒に出撃した赤城や加賀、陸奥、妙高も神通も、誰も朝潮が悪いなんて言わなかったぞ」
朝潮「皆さんは強くて優しいから、そう口にしないだけです」
提督「強くて優しいのは、朝潮も同じだ」
朝潮「いいえ、私は弱いです」
提督「ふぅむ」
朝潮「司令官……この作戦に、駆逐艦は必要ないと思います」
提督「どうしてそう思う?」
朝潮「いくら安定した航路を進むためとはいえ、目標地点を前に撤退しているのでは、意味がありません」
提督「駆逐艦の枠をゼロにして、迂回路から攻めた方が得策だと?」
朝潮「はい」
提督「それは無理だ」
朝潮「どうして……!」
提督「朝潮、私は今作戦の編成を考えるために、二時間もトイレにこもった」
朝潮「は、はあ……」
提督「艦隊に駆逐艦を編成すべきか否か、本当に最後まで、ずっと考えていた。
この作戦に駆逐艦を組み込むことは、それだけリスクが大きいからだ」
朝潮「では……なぜ……」
提督「駆逐艦の力を……強さを、信じていたからだ」
朝潮「司令官…………でも……」
提督「いいか朝潮。君が分かってくれるまで、私は何度でも言う。 駆逐艦は強い。
その強さは戦艦や空母、巡洋艦……それらに匹敵する、いや、それ以上だ」
朝潮「しかし私は……私のせいで! 現に作戦は失敗しています!」
提督「いくら大破しようが、作戦に失敗しようが、私は駆逐艦の強さを諦めない」
朝潮「どうして……そこまで……」
提督「私が駆逐艦を…………朝潮型駆逐隊のことを、愛しているからだ」
朝潮「司令……官……私は……うぅ……私は…………」
荒潮「朝潮……」
霞「なによ、泣き虫…………泣きたいのは、こっちの方よ」
満潮「霞、もう、気が済んだでしょ」
霞「えぇ……悪かったわね、うるさくして」
大潮「うるさいどころの騒ぎじゃなかったよぉ……もぉ、怖かったぁ……」
霰「大潮が言うんだから、相当うるさかったと思う」
霞「だから悪かったってば」
荒潮「朝潮、大丈夫? 立てる? よしよし、ほら、もう泣かないで」
朝潮「ぐすっ……ごめん……荒潮。皆も……本当にごめんなさい」
霞「…………」
朝潮「……撤回するわ。司令官は、そんな人じゃない。
私たちは皆、司令官のことが大好きで……そして司令官は、私たち皆のことが大好き……」
大潮「うんうん! そうだよね!」
霰「……」コクン
朝潮「だから……だからこそ私も、司令官のことを、諦めたくない」
満潮「いい顔になってきたじゃない」
朝潮「指輪を貰えなくたっていい。能力が向上しなくたっていい。
でも……あんな最後でお別れなんて……絶対にイヤ!!」
霞「ふん……それがアンタの……朝潮の本心ってわけね。じゃあ、これからどうするつもり?
お淑やかに手紙でもしたためる? 激しい抗議の電話? はたまたテレパシーとか?」
朝潮「何を言ってるの霞。私たちは駆逐艦……デストロイヤーよ。手紙や電話だなんて、生ぬるいわ」
荒潮「うふっ、あらあら。いったい何を企んでいるのかしら?」
大潮「うおおおー! なんだか……なんだか燃えてきたね!!」
霰「わたし、どこまでも朝潮についていく……」
満潮「はぁ……ホント最悪な展開だけど……最高ね」
霞「それじゃあリーダー。アンタが私たちに指示を出しなさい。何かあった時に、真っ先にアンタのせいにするから」
朝潮「分かったわ。責任は全て私が負う。だから、司令官を迎えに行くのに、皆の力を貸して」
荒潮「久しぶりの出撃ねぇ。うふふっ、腕がなるわぁ~」
大潮「当然! 大潮、頑張るから!!」
霰「朝潮のためなら、何だって……」
満潮「やれやれ、もうどうなっても知らないんだから」
霞「私たちの力……全てアンタに託したわ」
朝潮「ありがとう……。 それじゃあ行きましょう。
朝潮型駆逐隊は…………これより、軍令部への殴り込みを行います!」
大潮「了解!」
満潮「了解!」
荒潮「了解!」
霰「了解!」
霞「了解!」
~ 夜 軍令部近海 ~
朝潮「両舷前進、原速。闇夜に紛れて突破します。索敵は常時続けて」
霰「真正面に船影が2つ。二時方向に3つ見える」
荒潮「うーん……あのシルエット、漁船かしら?」
大潮「なーんだ、なら問題ないね! お魚貰ってきちゃう?」
満潮「アホ。あれは漁船だけど、おおかた監視艇ってところね」
霞「速力はほどほどで火力も皆無、戦闘向けではないけれど索敵能力だけは高いわ。あれに見つかったら一発でアウトよ」
荒潮「あらあら、じゃあ見つかる前に、魚雷で沈めちゃう?」
霰「荒潮、無慈悲すぎる……」
荒潮「うふふ、冗談よ」
満潮「冗談に聞こえないんだってば……」
朝潮「速度を速めつつ、監視艇を迂回します! 両舷前進強速、Q方!」
霞「なっ……九時方向! サーチライトよ!」
大潮「三時方向からもだよ!!」
朝潮「速度を第三戦速に! 十秒後に後進をかけて!」
一同「了解!」
満潮「いい皆? お願いだからしっかり止まってよ?」
荒潮「追突事故は嫌よねぇ」
3 2 1 ・・・・
朝潮「今! 後進一杯! 急停止!!」
ザザーッ!!
大潮「よ、よし……うまく止まった」
霞「ホッとするにはまだ早いわよ」
霰「サーチライト……来る」
朝潮「総員、一ミリたりとも動かないで。やり過ごします」
・・・・・・・・
霞「……ふぅ……何とかやり過ごせたみたいね……」
荒潮「いつもとは少し違う緊張感ねぇ」
大潮「うぅ~、変な汗かいちゃったよぉ」
満潮「それにしても、我ながら綺麗な艦隊運動だったわね。艦列もほとんど乱れてない。
どこかの新米おバカトリオに見せてやりたいくらいよ」
霰「出た、満潮先生……」ボソッ
朝潮「ふふっ、そうね。今度一緒に訓練したいわね」
満潮「べ、別にそういうつもりで言ったんじゃないわよ……」
霞「それより、これからどうするつもり? 一難去って、また一難……見てよあれ」
大潮「うわぁ……監視艇がいっぱい……夜間偵察機も飛んでるよ!」
朝潮「さすがは軍令部ね……これでも警戒レベルは低い方だと思うけど、こんな中を正面から突破するのはさすがに無理だわ」
荒潮「ねぇ、とりあえず移動しない? ずっとここにいても危険じゃないかしら?」
朝潮「そうね……まずは一旦、そこの小島に上陸して、作戦を練り直すわ」
霰「六時方向から監視艇が二隻……急いだ方がいい」
朝潮「えぇ、慌てず急ぎましょう。両舷前進原速……絶対に見つからないで!」
一同「了解!」
~ 小島 ~
朝潮「霰、どう?」
霰「だめ。軍令部に上陸するためには、どうしてもあの警戒網を突破する必要がある」
朝潮「そう……。海路から見つからずに侵入するのは無理ということね……」
大潮「じゃあさ、じゃあさ! いかにも遠征帰りです、みたいな顔で堂々と突入するのはどう?!」
荒潮「まぁ、艦娘かどうかなんて、身なりを見れば一発で分かるものねぇ」
朝潮「うーん…………おそらく、それは通用しないと思う」
大潮「ええー、なんでー?」
霞「大和さんが言ってたでしょ。軍令部は少数精鋭。艦娘の数自体は少ないのよ。
監視艇の船員たちが見慣れない艦娘を見ていきなり発砲することは無いだろうけど、確実に連絡が飛ぶ」
満潮「ま、そうなるわよねぇ」
霰「結局は、最後まで見つからずに侵入するしかない……」
朝潮「何か方法があるはず……何か…………」
???「誰!? 誰かそこにいるの!?」
一同「!?」
朝潮(しまった! この島に誰かが潜んでいる可能性を考えていなかった……!!)
荒潮「あらあら……ヤっちゃう?」
霞「バカ! 民間人かもしれないでしょうがっ」
???「やっぱり誰かいるのね……隠れてないで出てきなさい!」
霰「……どうする?」
大潮「逃げる?」
満潮「逃げたら連絡されるんじゃない?」
一同「…………」
朝潮「ごめんなさい。私たち、隠れていたわけじゃないの」
霰「朝潮……」
???「んん……? あなた達、見かけない艦娘ね?」
朝潮「わ、私たちは……」
霞「そういうアンタは、その独特な格好………………伊号潜水艦ね?」
???「あらご明察。その通り、私は軍令部直属艦隊の伊号潜水艦……伊168よ。イムヤって呼んでね」
大潮「おお……変な格好! しかも勝手に名乗った!」
荒潮「あら大潮ちゃん、しーっ、よ?」
朝潮「私たちは朝潮型駆逐隊……私が旗艦の朝潮よ」
伊168「朝潮型……名前くらいは聞いたことがあるわ。でもウチに何の用なの? しかもそんなコソコソと」
満潮「そ、それは……!」
伊168「……ふぅ~ん、なんだかイムヤ、分かっちゃったかも? ふふっ、いいわ。ついてらっしゃい」
霞「大丈夫なの……あれ」
朝潮「今は……行くしかないわ」
伊58「伊58でち。ゴーヤって呼んでもいいよ?」
伊19「はじめましてなのね! 伊19、イクって呼んで欲しいのォ!」
一同「…………」
伊168「この二人が艦隊の仲間よ。改めてよろしくね」
朝潮「よ、よろしく……お願いします」
霞(な、何なの……この強烈な艦娘……)
大潮(大潮……この水着の人たちには勝てる気がしない……!)
荒潮(これはもう……もはや個性と呼べる範囲を逸脱しているわ……)
満潮(私たち……本当に大丈夫なの……)
霰(頭おかしい)
朝潮「―――――――…………と、言うわけなんだけど」
伊168「ふぅ~ん、だいたいの事情は理解したわ。でも、それを私たちに話しても良かったの?
今ここで無線を使って連絡すれば、あなた達の水面下の企みは、すべて海上へ浮き出ることになるわ」
朝潮「えぇ。だから一か八か、あなた達に望みを託そうとしているの」
伊58「ふむふむ……なかなか度胸のある艦娘でち」
大潮「あの頭に花が咲いてるピンクの人、なんかスゴイ偉そうにしてる!」
荒潮「はいはい大潮ちゃん。本音はしばらく控えましょうねぇ」
伊19「いひひっ、でもー? 潜入のことに関してなら、イクたちの右に出る者はいないのね!
そういう意味ではー、イクたちを頼ったシオシオちゃんは、なかなか見る目があるのォ!」
朝潮「シオシオ……?」
霞「で、イチロッパーだっけ? 監視の目をかいくぐって潜入する方法なんて、あるの?」
伊168「イムヤよ! イ・ム・ヤ! もう、失礼しちゃうわね!」プイー
満潮「ちょっと霞、あんたのせいで機嫌損ねちゃったじゃない」
霞「自分のことを愛称で呼ばせようとする方が悪いのよ……」
伊58「監視の目を掻い潜って直接軍令部へ潜入する方法……まぁ、無くは無いでちね」
霰「本当?」
荒潮「あらぁ、是非とも知りたいわ」
伊19「うーん、教えてあげてもイイけどぉー、タダで教えるわけにはいかないのね」
朝潮「じゃ、じゃあ……大潮が一発芸をやりますので、それで……」
大潮「えぇー!? なんでぇー!?」
伊19「そんなの見せられても、ちぃーっとも嬉しくないのォー」
大潮「むきーっ!!」
満潮「あんたはやりたいのかやりたくないのかどっちよ……」
霞「それじゃあ、どうすれば教えてくれるわけ?」
伊168「そうねぇ……。実は私たち、今とっても燃料と弾薬が必要なの」
荒潮「燃料と弾薬? ……どうしてかしら?」
伊58「や、野暮なことは聞くなでち!」
霰「なんか、怪しい」
伊58「別にゴーヤたちは、実はオリョール海へ出撃していることになっていて、それなのにこの島でサボっていて、
向こうで回収するはずの燃料と弾薬についてどう報告しようか悩んでいたわけでは、断じて無いんでち!!」
一同「…………」ジトー
伊19「そういう訳だから、燃料と弾薬を用意してくれたら、抜け道のことを教えてあげてもいいのォ!!」
満潮「ねぇ、これってもう、『私たちのことをバラしたら、あんた達のサボりもバラすぞ』って脅しちゃえばいいんじゃないの?」
大潮「さっすが満潮! 考え方が鬼ぃ~」
霰「でも、それが一番手っ取り早いかも」
荒潮「第一、そんな今すぐ燃料と弾薬を用意しろと言われても、無理よねぇ?」
朝潮「でも……それはダメよ。この人たちが可哀想」
霞「可哀想って……単なる自業自得でしょ。それとも何? 別の方法があるとでも言うの?」
朝潮「それは…………」
朝潮「ねぇイムヤさん、燃料と弾薬って、オリョール海ではどれくらい獲得できるものなの?」
伊168「オリョールで獲得可能な資源はほんの僅かよ。でも私たち潜水艦って燃費がすごく良いから、それでも黒字になるの。
だから何度も出撃するのよ。たとえほんの少しでも……ほんの、少しでも」
伊58「ゴーヤ知ってるでち。オリョールは温暖な気候で、水底も穏やか、綺麗な魚たちがたくさん住んでる良い所なんでち。
ただすこーし、そこへ出撃する回数が多くて、見飽きちゃって、人生に疲れを感じてきたとか、
そういう訳ではないでち。断じてそういう訳では……ないんでち。えへへへ」
伊19「オリョールの海はね、もうしゅごいのォ! 思い出しただけで頭がシュワシュワになってぇー、
耳の中が魚雷と爆雷の音でいっぱいになるのね! ゾクゾクしちゃうのォ~、いっひひひひぃ」
霞「これは……重症だわ……」
荒潮「なんだか触れてはいけないことに触れてしまったようね……」
霰「目が死んでる」
満潮「たしかに……これはなんだか、可哀想な気がするわね……」
大潮「大潮、潜水艦じゃなくて良かった……」
朝潮「………………分かったわイムヤさん。燃料と弾薬、あなた達に差し上げます」
伊168「ほ、本当!?」
霞「いやいやいや! ちょっと待ちなさいよ朝潮! そんなもの、私たち持ってきてないわよ!?」
朝潮「あるじゃない、ここに」コンコン
霰「ココって……もしかして、わたしたちの艤装の中の……?」
朝潮「えぇ。皆の分を集めれば、それなりの量にはなるわ」
大潮「ええー!? 途中で戦闘とかになったらどうするの!?」
朝潮「知らない」
荒潮「帰り道は? 燃料がないと海路を進めないわよ?」
朝潮「それも知らない」
満潮「ちょっ、無鉄砲すぎない!? 大丈夫なの!?」
朝潮「どうなるかなんて分からないわ……。でも、司令官のもとへたどり着かないと意味がない。
艤装に関しては、司令官を救出したあとに考えましょう」
霞「はぁ、大した決心だこと。ま、でも、それもそうよね。旗艦の決めたことでもあるし、私は従うわ」
朝潮「霞……」
霰「うん、朝潮が言うなら……」
大潮「だ、大丈夫……大潮は、普通の女の子になっても、強いから!」
荒潮「もぉ、仕方ないわねぇ」
満潮「超大型のうずしおに巻き込まれたと思えば、同じことよね」
朝潮「ありがとう皆……
そういうわけだから、教えてもらえる? 軍令部への抜け道を」
~ 抜け道 ~
荒潮「艤装が無いと、やっぱり身軽ねぇ」
満潮「その代わり、かなり不安だけどね」
霰「イムヤさん達の情報によると……この洞窟を行けば、軍令部にたどり着くって……」
朝潮「今はあの人たちを信じて、進むしかないわね……」
大潮「なんだか薄暗いよねぇ……わぁ!」
霞「な、なによ大声だして!」
大潮「あ、足元に水が……」
霞「それくらいで変な声出さないでよね……びっくりするじゃない」
荒潮「でもこれ、だんだんと深くなっていくみたいねぇ」
満潮「艤装があればスイスイ行けるんだけど……」
朝潮「靴と靴下、脱がないと進めないわね」
霰「海水に浸かると、なんだか不安になる……」
霞「躊躇してる暇なんてないわ。何も服を脱げって言ってるわけじゃないんだから。靴くらいさっさと脱いで裸足になりなさい」
ヌギヌギヌギ……
朝潮「みんな準備はいい? 出発するわ!」
一同「おー!」
ピチャ ピチャ ピチャ
ジャブ ジャブ ジャブ
ズズズ ズズズ ズブズブ……
大潮「って!! 行き止まりだよ!?」
荒潮「違うわ大潮ちゃん。これ、通路が水の中へ続いてるのよ」
霰「ここからは、海水の中を潜って進まないといけない……」
満潮「はァ!? そんなこと、あの潜水艦は一言も言ってなかったじゃない!」
霞「まぁアイツら潜水艦だし、これも単なる道なのよねぇ……」
朝潮「……行くしかないわ」
大潮「えぇー!? 本気なの!?」
朝潮「見て。この通路、別に冠水しているというわけではないわ。
僅かだけど上の方には空気がある。途中で息継ぎができるはずよ」
霰「で、でも朝潮……服を着たままじゃ私、うまく泳げない」
荒潮「そうよねぇ。艦娘の服って、水に対してよく浮くようにできているみたいだし、
普通の服とは違って着衣状態での潜水は難しいかもしれないわ」
朝潮「で、では………………服も…………ここに、置いていきます…………」ワナワナワナ
霞「あぁなるほど、それなら海の中もスイスイと…………って、はぁああああっ!?!!?」
満潮「じょ、冗談でしょ朝潮! 全裸で進めって言うの!?」
朝潮「そ、そうよ……。こ、ここここれも司令官のもとへたどり着くために、ひひひ必要な……」プシュー
荒潮「朝潮、恥ずかしいなら言わなくてもいいのよ……」
朝潮「へ、平気よ……。そ、そうだわ、お風呂だと思えばいいの。
みんなの裸ならお風呂で見慣れているし……うん、何の問題もないわ……」
大潮「問題大ありだよー! 向こうに着いたら司令官ならまだしも、他にも男の人がたくさんいるんでしょ?!
さすがにそれは、大潮も恥ずかしいよぉー!!」
満潮「っていうか、全裸で構内をうろついている時点で、完全に変態じゃないの……」
朝潮「恥ずかしいのは分かるわ……でも、司令官を助け出すために、今はこれしか手段がないのよ……。
霰……霰は、私にどこまでもついて来てくれるのよね?」
霰「えっ……」ギクッ
朝潮「霞もそうよね……旗艦の命令なら、従うんだったわよね……」
霞「んなっ……!」
朝潮「荒潮も、満潮も、大潮も、みんな……私に力を貸してくれるって、言ったわよね……」
大潮「あはは…………いやー」
荒潮「うふふ……」
満潮「……はは……ははは……」
朝潮「……言ったわよね?」
~ 数分後 ~
朝潮「みんな、しっかり全部脱いだわね?」スッポンポーン!
満潮「朝潮……せめて下着だけでも……」
朝潮「ダメよ。下着にも通常のもの以上の浮力が効いているから、潜水の妨げになるわ」
満潮「鬼……」
大潮「司令官のため司令官のため司令官のため……」ブツブツブツ
霰「………………」
荒潮「大丈夫よ……服をまったく着ていないと、逆に健全に見えるものだから……」
霞「朝潮……この作戦に、変更はないのね……」
朝潮「私は……やるわ……。司令官のためなら……文字通り、一肌脱ぐ!」
霞「何うまいこと言ってんのよ……」
朝潮「さぁ、夜が明ける前に行きましょう! 朝潮型、潜水!」
ザバァ
朝潮「ぷはぁ! はぁ……はぁ……どうやら、開けた場所に出たようね……」
霞「人影は……ないみたいね」
荒潮「もぉ、体も髪もベタベタ。お風呂入りたいわ」
霰「ここ……どこ?」
満潮「小さいけれど……出撃ドックみたいね。ウチの鎮守府には無い、立派な設備だわ」
大潮「そっかぁ……ってことは、ココって艦娘以外は立ち入らない場所ってことじゃない?」
朝潮「……そうね。人の気配もないし、そういうことなのかもしれないわ」
霞「そういう所であると信じて、いったん上がるわ……海の中って、沈んだみたいでほんと気持ち悪い……」
バサァ…… ペタペタペタ
荒潮「さて……これからどうする? 司令官がどこにいるかも分からないけれど?」
朝潮「なるべく人に見つからないようにして、建物内を調べるしかないわね」
満潮「なるべくじゃなくて、絶対に見つかりたくないんだけど……」
霰「とりあえず体を拭きたいのと……あと、着るものが欲しい……」
大潮「ここが出撃ドックなら、もしかしたら何か服があるかも!」
朝潮「よし……じゃあまずは、衣服の捜索から……―――――――」
パァン! パァン! パァン!
大潮「うわぁ!? 探照灯!? まぶしいぃ!!」
朝潮「て、敵襲!?」
霞「お、大潮! 朝潮も! 前隠しなさいよ、前!!」
大和「ようこそ軍令部へ。
………………って、なんて格好をしているんですか……」
一同「や、大和さん!?」
~ 別部屋 ~
大和「良いですか? 婦女子たるもの、常に気品を持たねばなりません。
我々は艦娘である前に、女です。それもあなた達のような少女であればなおさら。
どんな状況であろうと、女子としてのプライドを捨ててはなりません。丸腰で軍令部へやってくるなんて、言語道断です」
霞「うぅ……なんでこんなあっさりバレてんのよ……」
大和「そろそろあなた達がここへ来るだろうと思い、電探で索敵を続けていました。
……まさかあんなルートから、あんな姿でやって来るとは思いませんでしたが……」
満潮「私たちだって、あんなことになるとは思ってなかったわよ……」
荒潮「あの、ところで大和さん?」
大和「はい」
荒潮「さっきから色々してくれてる、この人たちは……?」
大和「軍令部における、信頼できる最高峰の美容技術を持った女性スタッフの方々です。ここであなた達を綺麗にします」
霰「わたし……普通の服でいい……」
大和「あら、霰さん、そのドレスとてもお似合いじゃないですか」
大潮「うわー、大潮こんなの初めて着たかもー! お姫様になったみたーい!」
朝潮「あ、あの大和さん……洋服に関しては分からなくもないのですが……その、髪のセットまでする必要は……」
大和「朝潮さんはとてもツヤのある、綺麗な黒髪をしていらっしゃいます。
こうやって髪を持ち上げて束ねると、いつもと違った大人の女性の雰囲気が出せますよ」
朝潮「わ、私は……こ、こういうのは別に……」
荒潮「あらあら、うなじが見えちゃって、少しセクシーな感じがするわね?」
朝潮「…………」カァアアアアッ
大和「そういう荒潮さんは、髪を巻くことで気品が増して、お屋敷のお嬢様みたいになりましたね」
荒潮「うふふ、こういうの、久しぶりだわ」
大和「大潮さん、満潮さん、霞さんは普段から髪をまとめていらっしゃるので、今回はおろした状態でケアを施しました」
大潮「大潮、大潮じゃないみたーい!」
満潮「これも悪くは……ないわね……」
霞「ふ、服が着れればいいのに、ここまでする必要ないでしょ」
大和「霰さんは髪が短いので髪型自体は変えていませんが、傷んでいた髪を綺麗にしました。とても可愛らしいですよ」
霰「必要……ない……」
荒潮「あらーあらあら、霰ちゃん。いつにも増して日本人形みたいになっちゃって~」
霰「むっ……」
大和「さぁ皆さん。これだけでは終わりません。さらにお化粧もします」
霞「はァ!? どういうつもりよ! 何を企んで……わっぶ、変なモン塗らないで!」
大和「あまり動かれると、危ないですよ?」
~ 数分後 ~
大和「完成です。どうぞ、ご自分のお姿を、鏡でよくご覧ください」ガラガラガラ
朝潮「うそ……これが……私……」
満潮「自分じゃないみたい……」
大潮「すごーい! すごーい!」
霰「気に入った……かも」
荒潮「純白のドレスに髪のセット、お化粧までしてもらって、頭にはティアラまで……これって、まるで…………」
霞「ちょっと! 私たちはこんなことをしてもらうために来たんじゃないの!!」
大和「大好きな提督を連れ戻すため……ですよね?」
霞「そ、そうよ……分かってるなら……」
大和「えぇ。……ですから、あちらの扉へお進みください」
朝潮「あそこには一体何が……」
大和「提督があなた達を、待っていますよ」
ギィイイイイイイイ……
朝潮「ここは…………」
大潮「真っ暗だねー」
満潮「一体どこに司令官が……」
パァン!
荒潮「あら、またライト?」
霰「まぶしい……」
パパパパーン パパパパーン パパパパン パパパパン パパパパン パパパパン
霞「な、何この音? パイプオルガン?」
朝潮「メンデルスゾーン…………結婚行進曲だわ。やっぱり、これって……」
総長「ようこそ軍令部へ……朝潮型駆逐隊の諸君」
大潮「あ、ああああの人は………………誰!!」
大和「あの方こそが、日本海軍軍令部総長です」
大潮「へ、へぇー……で、どれくらい偉い人なの?」
満潮「あんたバカなの!? 海軍で一番偉い人よ!!」
霰「そして……きっとあの人が、司令官をさらうよう命令を下した、張本人……」
朝潮「教えてください総長! 司令官は……私たちの司令官は、今どこにいらっしゃるのですか!?」
総長「お前たちの目の前だ」
パァン!
提督「…………」
一同「司令官!!!」
提督「みんな…………」
総長「さぁ若造よ、つまらん意地を張るのも今日でおしまいだ。
こうしてわざわざ艦娘たちがお前に会いに来たのだ。手に持っているソレを、誰か一人に渡したまえ」
朝潮「ケッコンカッコカリの……指輪…………」
大潮「えぇ? な、なに? どういう状況なの!?」
満潮「し、知らないわよ!」
荒潮「でもこれってつまり……今から私たちの中の誰かに、指輪が渡されるって、ことよね……」
霰「だから……こんな格好を……」
霞「どういうことよ……私たちには渡さないんじゃなかったの……?」
大和「さぁ提督、前へ。花嫁たちが待っています」
提督「あぁ…………」ガタッ
コツ コツ コツ
――――― 霞には改二になる資格がある。十分にな ―――――
霞( クズ司令官…… )
コツ コツ コツ
――――― 君たちのピンチに駆けつけない訳がないだろう!! さぁ、漕げ!! ―――――
霰( 司令官…… )
コツ コツ コツ
――――― 大潮、旗艦は君だ。皆のことを、よろしく頼んだぞ ―――――
大潮( 司令官!! )
コツ コツ コツ
――――― 本当に素晴らしい戦いだった。……そして、最高の観艦式だった ―――――
満潮( 司令……官…… )
コツ コツ コツ
――――― この鎮守府に来てくれたこと……本当に感謝している ―――――
荒潮( うふ……司令官…… )
コツ コツ コツ
――――― 朝潮……もう我慢するな! 隠すな! 強がるな! ―――――
朝潮( 司令官……私は…… )
コツ コツ コツ コツ………… ピタッ
総長「さぁ、渡しなさい」
提督「この指輪を渡す……相手は…………―――――――――――――――」
(中編 おわり)
ここでいったん終了です。
次回はたぶん明日の夜です。次で完結です。
(後編)
提督「この指輪を渡す……相手は…………――――――――」
ゴクリ……
提督「全員だ」
一同「えっ……」
大和「……は?」
総長「ぷっ……あーっはっはっはっは!! ここまでお膳立てをさせておきながら、結局一人に絞り切れぬとは!
あっはっはっはっは、面白い! どこまでもこちらの方針に従わん男だな貴様は!」
提督「…………」
総長「くくく……よかろう。ではお前のその図太さに免じて、もう五人分の指輪を用意させる。大和!」
大和「は、はい! ただいまお持ちします!」
朝潮「え……これって、結局全員に……あの、司令官?」
提督「…………」
霞「まったく、何を考えてるんだか……」
大和「提督、五人分の指輪をお持ちしました」
提督「ありがとう」
大和「やはり、六人の中で誰にするか決めかねていらしたのですね。びっくりさせないでくださいよ」
提督「…………」
大和「提督? あの、そういう……ことですよね?」
提督「…………」
大和「えっ……?」
総長「これで準備は整った。さぁ、その指輪を渡したまえ」
提督「朝潮型、整列!」
一同「はい!」ザザッ
提督「みんな綺麗だ。そういう姿も、よく似合っている」
一同「…………」
提督「これから六人に、私の最大限の想いを込めた結婚指輪を渡そうと思う。
受け取る意思のある者は、私が手を差し出したとき……その上に、左手を添えてほしい」
一同「…………」コクン
提督「ではまず……霞」
霞「は、はい……」
提督「霞、君は誰よりも人に厳しく、自分に厳しい。私の間違いにも本気で叱って、本気で叩いてくれたな。
これからも私を、ずっと叱って、ずっと叩いてほしい」スッ
霞「何よ、真面目な顔して……ば、ばかぁ……」ポン
提督「私はそんな霞のことを、愛している」スーッ
霞「アンタみたいなクズ……支えてやれるのは、私くらいなんだからね……」
提督「次に、霰」
霰「はい……」
提督「霰は大人しいように見えて、実はかなり熱い心の持ち主だ。私はその姿を、陰でこっそり見守るのが好きだった。
これからもずっと、君のその小さな頑張りを、眺めさせてくれ」スッ
霰「司令官の視線は……こっそりすぎて少し気付きにくい……」ポン
提督「私はそんな霰のことを、愛している」スーッ
霰「私も……相撲と同じくらい、司令官のこと、好き……かも」
提督「次は大潮」
大潮「はーい!」
提督「大潮は元気な所が取り柄だが、それ以外のションボリした顔や照れた顔、真面目な顔に心を動かされたこともあった。
そんな、何が飛び出すか分からないその個性で、私を驚かせ続けてくれ。カンチョー以外でな」スッ
大潮「司令官……大潮、司令官のために新しい技、開発します!」ポン!
提督「ふぅ……私はそんな大潮のことを、愛している」スーッ
大潮「うわぁー、キラキラしてる! ありがとう、司令官! 大潮も、司令官が大好き!」
提督「次は満潮」
満潮「はい……」
提督「ぶっきらぼうではあるが、本当は寂しがり屋で、仲間想いな満潮の一面を見るのが、私は個人的にすごく好きだった。
これらももっと、満潮のそんな姿を見せてくれ」スッ
満潮「い、いちいち視点が気持ち悪いのよ……」ポン
提督「そんな満潮をのことを、私は愛している」スーッ
満潮「知ってるわよそれくらい………………私も、だから」
提督「荒潮」
荒潮「はぁい」
提督「荒潮は、私に色々なことを教えてくれた。駆逐艦の魅力、朝潮型の魅力、そしてスパッツの魅力……。
これからも私に、たくさんの未知の領域を、与えてほしい」スッ
荒潮「うふふっ、司令官ったら相変わらずねぇ」ポン
提督「私はそんな荒潮のことを、愛している」スーッ
荒潮「私も好きよ。司令官のすべてが」
提督「最後に……朝潮」
朝潮「はい!」
提督「私は辛いとき、いつも朝潮を膝にのせている時間を思い出す。それが最高に幸せな時間で、
癒しのひと時だからだ。何度も言うが朝潮、私はもう、君無しでは仕事ができない、生きていけない。
だからこれからも、ずっとそばにいてくれるか?」スッ
朝潮「はい……もちろんです。司令官のためなら」ポン
提督「私はそんな朝潮のことを……愛している」スーッ
朝潮「司令官……ありがとうございます……朝潮は、幸せです……」
大和( みんな……とても嬉しそう…… )
―――――――君はその指輪を貰って…………本当に幸せだったのか?
大和( 私だって、この指輪を頂いたときは嬉しかった……でも………… )
霞「ふ、ふんだ。 ちょっとクズ! たかがシステムのひとつで、大袈裟すぎない!?」
提督「えぇー、でも霞、嬉しそうだったじゃないか」
大潮「そうだよー、いっひっひ」
霰「満潮、泣いてる」
満潮「う、うるさい! こっち見るな!」
荒潮「あらあら、泣くほど嬉しいのよねぇ。分かるわぁ」
朝潮「綺麗な指輪……まさか本当に、こうして皆でつけられるなんて……」
提督「気に入ってもらえて、本当に良かったよ」
大和( でも私は……あんなにも喜んでいた? 泣いたり笑ったりするほど、幸せだった?
はめているのは同じ指輪なのに…………この違いは、何なの……? )
総長「ククククク……素晴らしい。実に素晴らしいケッコンカッコカリであった。
このシステムは、はめる者とはめさせる者、二人の絆の深さに作用する。
諸君らほどの絆であれば、能力の向上は高く見込めるだろう。予備の指輪をすべて使った甲斐があったというものだ」
提督「これで、いいのですね。総長殿」
総長「無論だ。これ以上、私が諸君らを咎める理由はない」
提督「ふぅ……そうですか」
朝潮「ということは、司令官も鎮守府に帰って来られるということですね!!」
大潮「やったー! ばんざーい! 朝潮型駆逐隊、大勝利ィー!」
霰「これで、いつもの日常に戻れる……」
荒潮「ふぁあ……なんだか色々ありすぎて、疲れちゃったわ」
満潮「もう真夜中でしょ。一体何時よ……」
霞「もう司令官代理なんてほんと懲り懲りだから! ……絶対にいなくならないでよねっ」
提督「あぁ、本当にすまなかった。戻ったら何かおごろう」
大潮「大潮、アイスがいいなー!」
満潮「言うと思ったわ」
一同「あははははっ」
大和「これでひと段落ですね、総長」
総長「くくく……違うぞ大和。肝心なのはここからだ」
大和「え……はい? それはどういう……」
総長「この私が何のために、貴重な指輪を5つも与えたと思っている」
~ 翌日昼すぎ 軍令部 出撃ドック ~
大和「皆さん、お忘れものはございませんか?」
満潮「あるわけないでしょ。全裸で入って来たんだから」
大和「あはは……そうでしたね」
荒潮「大和さんが用意してくれた私たちの服と艤装、これだけで十分よねぇ」
霰「大和さんのおかげで……露出狂にならずに済んだ」
大潮「大和さんサマサマだよぉ~」
朝潮「本当に、何から何までありがとうございました!」
大和「い、いえ……私は、そんな……」
霞「…………?」
大潮「ねぇ大和さん、司令官は? 大潮たちと一緒じゃないの?」
大和「あぁ……はい。提督はもう少しだけケッコンカッコカリに関する手続きを済ませてから、陸路でお帰りになります」
朝潮「了解です。それでは私たちはこれで」
大和「はい……お気をつけて」
霞「ねぇ、ちょっと大和さん」
大和「は、はい?」
霞「アンタ何か、隠してない?」
大和「えっ!? い、いえ……何を仰るんですか? 私は何も……」
霞「…………ふーん、ならいいんだけど」
大潮「あれー? 霞もしかして、お昼あれだけ食べたのに、まだ食べ足りないんでしょー?」
霞「アンタと一緒にするな。行くわよ」
ザザーッ……
大和「………………ふぅ。総長、聞こえますか」
総長「あぁ」
大和「朝潮型駆逐隊六名、鎮守府への帰投を開始しました」
総長「了解した」
~ 軍令部 執務室 ~
総長「駆逐艦朝潮、大潮、満潮、荒潮、霰、霞……うむ、これで六枚だ。ご苦労であった」
提督「そんな書類、作る必要あるんですかね」
総長「まぁそう言うな。それよりもっと喜んだらどうだ? 最強の駆逐隊が、より最強な軍隊となったのだ」
提督「…………」
総長「私が目指しているのはな、最強の艦隊を作ることだ。だがしかし、戦艦や空母のみでは限界があると知った。
そこへ朝潮型駆逐隊が現れ、ケッコンカッコカリによってさらなる力を得た……私はこの事実に、猛烈に達成感を感じている」
提督「達成感ですか」
総長「そうだ。私が目指す最強の艦隊に、一歩近づけたのだからな」
提督「そうですか……。まぁとにかく、これで用事は終わりですね。私も鎮守府に戻って……」
総長「おっとその前に、この書類にも目を通すように」
提督「また書類ですか。今度は何です?」
総長「読めば分かる」
提督「えーっと、なになに………………――――――――」
総長「それは、命令だ」
提督「……ふざけるなよ…………このクソジジイ……」
~ 軍令部近海 ~
朝潮「速度は原速を維持。一応索敵は続けて」
一同「了解」
大潮「ふふーん、能力が向上した大潮たちなら、もう敵なしだよねー!」
霞「これは酷い慢心ね……」
荒潮「うふふ、でも気持ちは分かるわぁ」
満潮「どれだけ強くなったか、感じてみたいしね」
霰「……三時方向の海面に影」
朝潮「敵!?」
大潮「ホントに出たァ!?」
霰「目視では判断できない。でも動いているから、たぶん潜水艦」
荒潮「あらあら、やられに来ちゃったのかしら?」
満潮「いいわ、ぶっ飛ばしてあげる」
霞「かかってきなさい!」
朝潮「陣形を単横陣に! 両舷前進、第三戦速! 爆雷用意、一撃で仕留めます!」
一同「了解!」
朝潮「そろそろよ……。 カウント、5 4 3……」
一同「…………」ゴクリ
伊58「海の中からこんにちはー! ゴーヤ……でちぃいいいいい!?!?!?」
朝潮「後進一杯! ストップ! ストップ!!」
大潮「うおぉおおーーー!」
ザバーン!!
霞「はぁ……はぁ……何なのよもう……驚かさないでよ……」
伊58「驚いたのはこっちの方でち……死ぬかと思ったでち……」
荒潮「私たちも、危うくヤっちゃう所だったわねぇ」
伊168「ぷはぁ! ゴーヤ、もう、やっと追いついたわ。一人で勝手に先行して……ってあれ? 朝潮じゃない」
朝潮「イムヤさん、昨晩はお世話になりました」
伊168「わぁお、その様子だと、色々とうまくいったみたいね」
伊58「ゴーヤたちは結局サボりがバレて、またオリョールへ行く羽目になったでち……」
満潮「わ、私たちのせいじゃないわよ……」
霰「ご愁傷さま」
伊19「ぷひゅ~、イクも忘れないで欲しいのォ!」
伊168「で、あなた達はこれから遠征にでも行くの?」
霞「は? アンタたちと一緒にしないでくれる?」
朝潮「私たちはこれから鎮守府へ戻るところだけど?」
伊58「鎮守府に戻るぅ? その指輪って、ケッコンカッコカリってやつでち?」
大潮「へへーん、うらやましいでしょー」
伊19「イクたちには縁のない代物なのね……」
伊168「でもそれなら、ちょっと変じゃない?」
荒潮「あら? 別にこの指輪、どこも変なところはないけれど……?」
霰「とってもキレイ……」
伊168「そーじゃなくて、指輪を受け取ったのに鎮守府へ戻るって、どういうことなのかなって」
満潮「は? ちょっと、あんたが何言ってるのかよく分からないんだけど」
伊58「んー? ゴーヤたちが聞いた話と、何か食い違いがあるみたいでち」
伊19「いひひっ、もしかしてこれってぇ~、言っちゃダメなことだったなのォ?」
伊58「あぁ~、そういえばそうでち。ゴーヤたちが総長の弱みを掴むために、コッソリ執務室に聞き耳立てて
聞いた情報だったでちー。えっへへへへー」
朝潮「…………」
伊168「じゃ、じゃあイムヤたちはこれからオリョールだから、お気をつけて~……」
霞「ちょっと待ちなさい」ガシッ
伊168「ひぃっ!」
朝潮「その情報、私たちにも教えてちょうだい」
伊58「な、なんのことでちぃ~」ヒューヒュー
霰「とぼけるの、よくない」
満潮「いいから言いなさい」
伊19「じゃ、じゃあ交換条件なのォ~! 今回は燃料と弾薬に加えて、ボーキサイトも……ひぃいい!!」
荒潮「どうしようかしら~。この爆雷、なんだか握り潰しちゃえそうねぇ」
伊168「わ、わお……」
伊58「オリョールより恐ろしいものが……この海にはあったでち……」
伊19「い、イク……イクのぉ……しゅごいのォ……」
朝潮「教えて!」
伊168「で、でも……」
霞「さっさと言いなさい、イチロッパー」
伊168「い、イムヤで……」
霞「言え」
伊168「はい」
~ 軍令部 執務室 ~
―――― 駆逐艦朝潮、大潮、満潮、荒潮、霰、霞 以上六名の、軍令部への転属を命ずる ――――
提督「ふざけるなよ…………このクソジジイ…………」
総長「ふざけてなどいない。それは命令であり、貴様はその命令に従うのみだ」
提督「こんな無茶苦茶な命令に従えるか!」
総長「私は言ったはずだ。私が目指すのは、最強の艦隊であると。
ならば最強の駆逐隊と謳われるあの駆逐艦共は、当然我が手中に置いておかなければならない」
提督「あんた……初めからそのつもりで指輪を……!!」
総長「無論だ。私が指輪を渡すよりも、貴様が渡した方が効果的であるに決まっている。
まぁ、渡してしまえばあとは私が貰い受けるだけだがな、若造よ」
提督「この野郎……」
総長「先に言っておくが、前回と同じ手が通用するとは思わないことだ」
提督「前回……朝潮の時のことか」
総長「あの時は貴様がいつまでも秘書艦を駆逐艦などにしているから、変更するきっかけを与えてやるために転属命令を出した」
提督「…………!!」
総長「だが後に大艦巨砲主義だった軍令部の考えが変わり、加えてケッコンカッコカリの計画も動き出した。
だからこそ、あのような強引な連れ戻しにも応じたまでの話だ」
提督「くっ……」
総長「だが今回は通用しない。貴様の朝潮型駆逐隊は……私の手駒となるのだ」
提督「手駒……だと……ふざけるな!! だったら力ずくで――――――」
総長「この男を取り押さえろ」
ザッ
提督「なんだお前ら! 離せ!! このっ!!」
総長「ふふふ、安心しろ。何も貴様を海の底へ沈めたり、辞めさせようなどとは思っていない。
朝潮型駆逐隊のいない鎮守府で、また新たな駒を育成すれば良いのだ。私のためにな」
提督「とんでもないクズ野郎だな、アンタは……!!」
総長「すべては、最強の艦隊を作るためだ」
提督「知るかよそんなの……。 そうだ! 朝潮たちは!? 今、朝潮たちはどうしている!?」
ギィイイ
大和「朝潮さんたちなら、先ほど鎮守府へ帰投を開始しました」
提督「大和!? ……まさか、お前も知ってたのか」
大和「………………」
提督「お前……」
総長「転属の準備をさせるため、一度鎮守府へ帰してやった。
やがて転属の辞令が出てこちらへ戻って来た時、入れ違いで貴様を鎮守府へ帰してやろう」
提督「くそったれめ……」
総長「つまり貴様はもう、『愛している』と言ったあの駆逐艦に、一生会えないのだよ」
提督「…………」
ピーッ ピーッ ピーッ
大和「……はっ! これは……観測機からの通信……」
総長「何事だ」
大和「朝潮型駆逐隊が進路を変え……こちらへ戻ってきています」
総長「なに?」
提督「朝潮たちが……」
大和「このままでは今から約30分後に軍港へ到達します」
総長「ふん、飼い主に似て命令を聞かん奴らだ」
大和「総長……どうなさいますか?」
総長「大和、お前が直接行け」
大和「了解です。皆さんを何とか説得して鎮守府へ送り届け―――――」
総長「なにをバカなことを言っている」
大和「……はい?」
総長「私はお前に、撃てと言っているんだ」
大和「撃つ……朝潮さんたちを……私がですか?!」
総長「当然だ」
提督「おい何を言っている! やめろ! 大和もそんな奴の言うことを、聞くんじゃない!!」
大和「撃つ……私が……朝潮さんたちを……」
総長「沈めてしまわなければ何でもいい。しつこく抵抗するようであれば、致命傷を負わせてここへ連れ帰れ。
そのままここへ転属させ、この男を鎮守府へ帰せば良いだけのことだ」
大和「………………」
総長「無敵の戦艦、大和であれば造作もないことだ」
大和「わ、私は……」
提督「おい、大和……お前まさか……」
大和「私は…………私……私には…………できません……」
総長「…………」
提督「大和……!」
大和「朝潮型駆逐隊の皆さんは……とても良い子たちです。提督のことが大好きで、仲間想いで、
こんな私にだって……笑顔で『ありがとう』と、言ってくれたんです……」
総長「…………」
大和「だから……だから私は……」
総長「もうよい大和。お前がそこまで言うなら仕方がない」
大和「総長……」
総長「顔を上げて、私の目を見ろ」
大和「…………」スッ
総長「朝潮型駆逐隊を、叩きのめしてこい」
大和「………………了解。出撃します」コツコツコツ
提督「!?」
総長「まったく……ようやく行ったか」
提督「お前今……大和に何をした……!!」
総長「駒が持ち主の命令に従うことが、そんなに珍しいか?」
~ 軍令部近海 ~
霞「あの偉そうなオヤジに、まんまと騙されたわね」
荒潮「イムヤちゃん達の話が本当なら、私たちは軍令部の直属部隊に配属される……」
満潮「つまり、私たち朝潮型駆逐隊が、丸ごと転属ってわけね」
大潮「そんなの無茶苦茶だよー!」
霰「司令官に……伝えなきゃ……!」
朝潮「みんな急いで! なんだか……嫌な予感がする!」
霞「ちょっと! 前方に何か見えるわ! 霰、覗いて!」
霰「うん…………あれは……」
満潮「な、なによ! 早く言いなさいよ!」
霰「戦艦が一隻…………武装した、大和さん……」
ザザッ ザザッ
荒潮「無線!? 乗っ取られてるわ!」
大和『朝潮型駆逐隊に告ぐ。全艦、停止してください』
朝潮「後進! 停止して!」
大潮「……っとっと。な、なになに? どういうこと?」
大和『そのまま回頭し、鎮守府へお戻りください』
満潮「怪しいわね」
霞「嫌だと言ったら……どうするつもり?」
大和『………………』
ドォオオオオン!! …………ザブゥウウウン!!
荒潮「いやぁあああっ」
大潮「うおおああああわわわ」
朝潮「撃った!? しかも……実弾! 二人とも大丈夫!?」
荒潮「平気よ。当たってないから」
大潮「大潮も。ただ衝撃がすごくって、驚いちゃった」
大和『弾着観測。距離修正……次は当てます』
霞「威嚇射撃ってことね……」
満潮「うそ……本気で当てるつもりなの……!?」
霰「あれ……本当に……大和さん……?」
朝潮「大和さん! そこを通してください! 司令官に、会わせてください!」
大和『ここから先は、鼠一匹通しません。これは……総長の命令です』
霞「チッ……出たわ、また総長。もうウンザリだわ。さっさとクズ司令官の所へ案内しなさい」
大潮「司令官のところに行かせて! 大和さん!」
満潮「私たちが司令官に会いに行くことが、そんなに悪いわけ!?」
荒潮「大和さん、私たちはただ、司令官の無事を確認したいだけなの」
霰「司令官に……会いたい」
大和『どうして……どうして……どうしてどうしてどうして!!』
一同「!?」
大和『私は…………あなた達が憎い。憎くて……たまらない!!』
朝潮「大和さん……」
大和「…………目標捕捉」
霞「ちょ、マズイわ……」
大和「全主砲……薙ぎ払え!!」
朝潮「散開!!!」
ドォオオオオオン!!!
満潮「あ、危なかった……」
朝潮「みんな! 止まらないで! また撃ってくるわ!!」
ドォオオオオオン!!! ドォオオオオオン!!!
大潮「火力お化け……あんなの食らったら、ひとたまりもないよー!!」
荒潮「これは冗談抜きで……本当に痛いわよ……うふふ」
朝潮「艦列を単縦陣に組み直します! 急いで!!」
一同「了解!!」
霰「もう……戦うしか……ない」
霞「まさかパワーアップして最初の戦闘相手が、こんな伝説級とはね……!」
朝潮「よし、両舷前進、第五戦速! 砲戦用意!!」
大潮「こっちも実弾だけど……!」
荒潮「こうなったら、もう手加減なんてしてられないわ」
霰「当てる……」
朝潮「……撃てぇえーーーーー!!」
霞「よし、命中! 直撃よ!!」
大和「…………」
荒潮「全然効いてないわねぇ……」
大潮「装甲お化け……」
朝潮「まだよ! 満潮、スモーク展開!」
満潮「了解!」
プシューーーーーー
朝潮「全艦、一斉回頭! 続いて雷撃戦用意!! 扇状発射を意識して!」
霰「やっぱり砲戦より……水雷戦……」
満潮「魚雷が直撃すれば、戦艦は倒せる。前の戦いで立証済みよ!」
朝潮「魚雷発射ッ!!」シュバッ
ドーン!!
霞「爆発音! 当たった!?」
大潮「これなら、せめて中破くらいまでに――――――――」ヒュッ
ドォオオン!!
大潮「―――――――…………追い込ん、で……」
朝潮「だめ……魚雷も効いてないわ! 離脱して!!」
ドォオオン!! ドォオオン!!
満潮「あぁもう! なんでこんな視界が悪いのに、正確に狙ってくるのよ!!」
霞「電探射撃よ……。大和さん、たしか高性能な電探を持っていたわよね」
大潮「そんなの反則だよーーーー!!」
朝潮「之字運動! 航路を読まれないで!!」
荒潮「もう、速力では勝ってるのに、いつまで撃ってくるのよぉ!」
霰「射程距離が長すぎる……逃げられない……」
満潮「性能が……違いすぎる!」
霞「あんなクズ戦艦……たった一隻に……!!」
大潮「無理無理無理! あんなの倒すなんて、絶対無理だよぉおー!!」
朝潮「諦めないで!!」
一同「朝潮……」
朝潮「司令官は言ってくれた……。駆逐艦は、戦艦よりも強いって!!
だから……だから私たち朝潮型駆逐隊は、絶対に負けたりしない!!」
???「よく言ったわ、朝潮!」
朝潮「この声は……」
ブォオオオオオン ドドドドドドドドッ
大和「くっ……艦載機!? ……一体どこから!?」
???「構える弓は瑞のごとし、放つ矢じりは翔のごとし……」
???「や、闇夜を切り裂く鶴の舞……」
瑞鶴「この海域の制空権は、翔鶴姉と、この私! 瑞鶴が頂いたわ!!」ババーン!
大潮「うおおおー!! なにあれカッコイイ!!」
瑞鶴「ふふん」ドヤー
翔鶴「ねぇ瑞鶴……やっぱりこのキャッチフレーズ、少し恥ずかしいのだけれど……」
朝潮「翔鶴さん! 瑞鶴さん!」
瑞鶴「やっほー朝潮、元気してた?」
翔鶴「朝潮さん、無事で良かったわ」
朝潮「お二人とも、どうしてここに……?」
翔鶴「ふふっ、あの人が軍令部へ連れていかれたっていう噂を聞いてね、瑞鶴がどうしても様子を見に行きたいって」
瑞鶴「ち、違うって! 前に朝潮の件もあったから、今回私たちは何の関係も無いって軍令部に言いに来ただけよ!」
朝潮「……とにかくお二人の力が加われば、百人力です!」
瑞鶴「そ、そうよ! 五航戦の本当の力、見せてあげるわ!」
翔鶴「行きましょう瑞鶴。私たちの航空火力を、朝潮型駆逐隊のために!」
瑞鶴「よーし、第二次攻撃! 稼働機、全機発艦!!」
翔鶴「全航空隊、発艦始め!」
ブォオオオオン!!
満潮「空母の力……改めてみると、凄まじいわね……」
霰「これなら大和さんが相手でも、太刀打ちでき――――」
大和「三式弾装填。 目標、敵航空隊…………第一、第二主砲。斉射、始め!」
ドォオオン!! ドォオオン!!
瑞鶴「う、嘘でしょ!? 普通あんなにも墜とす!?」
翔鶴「無敵の戦艦……話には聞いていましたが、相当のようね」
荒潮「航空戦力さえも抑えるなんて……」
??「あら? あらあら。目には目を歯には歯を、戦艦には戦艦を、って状況かしら?」
一同「陸奥さん!?」
陸奥「ふふふっ、みんな久しぶりね。随分と逞しく育ったみたいで、お姉さん嬉しいわ」
荒潮「陸奥さん……。陸奥さんも、司令官の噂を聞きつけて?」
陸奥「まぁ、そんなところね。どんなセクハラで捕まったのか、元秘書艦として興味があったのよ」
霰「司令官は別に、何も……」
陸奥「えぇ、あなた達の左手を見れば分かるわ。セクハラ以上のことを、やってのけたみたいね」
荒潮「そうですねぇ。私たち、司令官にすごいこと、されちゃったもの」
陸奥「あら」
荒潮「あらあらあら」
霞「戦闘中にコントしないでくれる……」
陸奥「そうよねぇ、あの相手じゃお姉さんも、ちょーっと本気にならざるを得ないわ」
大和「徹甲弾装填……」
陸奥「あら、さっそくやる気ね。ふふっ……徹甲弾装填」
大和「全主砲――――」
陸奥「全砲門――――」
大和&陸奥「撃てぇーーーー!!!」
大潮「せ、戦艦同士の殴り合い…………恐ろしい!」
霰「すごい……迫力……」
??「大潮ちゃん! 怯んではダメです!!」
??「戦闘もステージも、楽しむことが大切なんだよ~!!」
大潮「あれは………………羽黒さん! 助けに来てくれた!」
羽黒「当たり前です。だって私たちは……同志なんですもの!」
大潮「おっぱい同盟万歳!」
霰「えっと……アイドルの人も……来てくれてありがとう」
那珂「もぉー! 名前すら忘れちゃうなんてヒドイよー!!」
霰「冗談……」
朝潮「羽黒さん、那珂さん! 救援、感謝します!」
羽黒「ううん。あのまま鎮守府にいたって何もすることないし、私がそうしたいと思ったから」
那珂「提督もいないし、提督代理もいないんだもーん。お仕事がなくて、那珂ちゃん退屈ぅー」
霞「なによ。私が悪いって言いたいの?」
羽黒「ええっ!? ご、ごめんなさい! そういうつもりじゃ……」
那珂「そんなコワイ顔してたら、アイドルなんてなれないんだよー?」
荒潮「うふふ、この二人も相変わらずね」
満潮「まぁでも、鎮守府からの救援は正直助かるわ。二人とも練度は高いから、足手まといにはならないだろうし」
??「お~い、せんせぇ~」
??「先生ー! ボクたちの力、貸しに来たよー!」
??「先生のためなら、我々はどこへでも飛んでいく!」
満潮「って、言ってるそばから足手まといが……」
羽黒「あの、一応止めたんですけど、ついて来るってきかなくて……」
那珂「アイドルの追っかけは、ほどほどにねぇ?」
文月「せんせぇのピンチって聞いてね、文月、今日は早起きして準備したんだぁ」
皐月「安心してよ先生! ボクたちはもう、あの時のボクたちとは違うよ!」
長月「そうだ。今の我々は、自分たちで潜水艦を倒すことができる。……敵が一隻の場合に限るが」
満潮「あぁもう分かったわよ! せいぜい当たらないよう、死ぬ気で逃げ回りなさい。いいわね、ヘタクソ共!」
皐月&長月&文月「ありがとうございます!!」
瑞鶴「さーて、何だかよく分からないけど、役者は揃ったようね」
翔鶴「一隻相手に卑怯かもしれないけれど、一切手を抜くつもりはないわ」
朝潮「本当にありがとうござます。これなら……皆さんの力なら、切り抜けられます!」
陸奥「それは違うわよ、朝潮」
朝潮「え?」
陸奥「これは紛れもなく、あなた達、朝潮型駆逐隊の力よ。
私たちがこうして集まったのは、あのおかしな提督と、あなた達のためだもの」
荒潮「朝潮型駆逐隊の……力……」
霞「ふんっ……駆逐艦は戦艦よりも強い……か。まぁたしかに、戦艦を遥かに上回る力よね、この戦力は」
大和「くっ……どうして……どうして…… どうしてぇ!!」
ドォオオオン!!
皐月「ひぃいいいっ!! 至近弾! 至近弾!!」
文月「狙われてるよぉ~!」
長月「速度を上げろ! 絶対に捕捉されるな!!」
羽黒「お喋りしている暇はありませんね…………砲戦用意! 撃ち方、はじめてくださーい!!」
那珂「それー、どっかぁーーん!!」
朝潮「よし、私たちも戦闘に戻ります! 砲戦用意!」
羽黒「ダメです!」
大潮「羽黒さん?!」
羽黒「ここは私たちに任せて、皆さんは提督のところへ!」
那珂「ここからは、那珂ちゃんのステージなんだからねー?」
陸奥「良い判断だわ。早く行ってあげて」
朝潮「でも……」
霞「朝潮!」
朝潮「…………分かりました! 皆さん、どうかご無事で!」
大和「させない……総長のもとへは……行かせません!! ……くっ!」
翔鶴「余所見をしている暇があるのかしら? 大和さん」
瑞鶴「アンタに恨みはないけど、朝潮の敵なら、私たちにとっても敵よ!」
大和「負けない……負けるものか……戦艦大和が、こんな所で!!」
朝潮「大和さん……。あなたの考えは、私には分かりません。ですが私たちだって、負けるわけにはいきません!
両舷前進、最大戦速! 目標地点は…………司令官です!!」
一同「了解!!」
~ 軍令部 軍港 ~
総長「喜べ若造。私は気が変わった」
提督「…………」
総長「もうじき戦闘も終わるだろう。大和が瀕死状態の朝潮型を連れてやって来るはずだ」
提督「その無残な姿を、取り押さえられ身動きの取れない私に見せて楽しもうという魂胆か」
総長「あぁそうだ。感謝したまえ。一生会えない予定だった朝潮型と、ここで最後の別れを交わせるのだ。
ふん……まぁ、向こうの意識があればの話だがな」
提督「言っておくが、朝潮型駆逐隊は……彼女らの力は、大和を上回る」
総長「ふん、世迷言を。たとえ六隻であろうと、駆逐艦が戦艦に敵うはずがない」
提督「結局その古びた考えは変わらずか」
総長「貴様のバカげた主張もな」
朝潮「全艦、用意でき次第、魚雷発射! 目標、司令官!」
総長「ん?」
提督「え?」
ドォオオオオオオン!!
総長「げほっ! げほっ! な、なんだ!?」
朝潮「続いて砲撃開始! 目標、司令官!」
ドォン! ドォン! ドォン!
提督「うおっ、ちょっ!」
朝潮「上陸! 速やかに司令官を確保!!」
総長「くっ……」
提督「形勢逆転だな」
総長「あのバカ戦艦は何をやっている!!」
朝潮「動かないでください」
霞「全員の主砲がアンタに向けられてるのよ。死にたいの?」
荒潮「うっふふふ、ハチの巣になるわよぉ~」
総長「ば、バカが! 私は日本海軍総長、そんなことをしてみろ。艦娘とてただでは済まんぞ!」
満潮「はァ? だから何?」
霰「そんなのは……今は関係ない……」
大潮「司令官に意地悪したんだから! 大潮たちは、許さない!」
総長「ぐぬぬぬぬっ……こっのザコ共めぇ……!!
お前らは全員、投獄だ! この私を脅迫し、危害を与えた罪で、牢獄にぶち込んでやるッ!!」
提督「……総長殿」
総長「ふん! どうした若造、言っておくが、今更許しを請いてももう遅い! お前らは必ず――――」
提督「牢獄行きはあなただ」
総長「はっ、何を言い出すかと思えば―――――」
提督「あなたは執務室で、大和に対して何かをした。
その途端、大和は人が変わったようにあなたの命令に従い、朝潮たちに攻撃を仕掛けた」
霞「なるほどね。大和さん、どうりで様子が変だと思ったわ」
荒潮「つまり大和さんは、操られていたってこと?」
大潮「そうだ、きっとそうだよ!」
霰「普段の大和さんなら、絶対にあんなことはしない……」
満潮「もしそうだとしたら、それは大問題ね」
総長「あれは私の駒だ! 兵器だ! どう使おうが、私の勝手だ!」
提督「艦娘は駒でも兵器でもない、人間だ。人間を強制的に支配するような行為は、海軍どうこう以前の話だ。
あなたは人として、罰せられなければならない」
総長「くっ……」
提督「総長殿、あなたの負けだ。大人しく負けを認め――――――――」
総長「ククククク……くはははははっ!!」
大潮「急に笑い出した!」
霰「頭がヘンになったのかも」
総長「私をここまで追い込むとは大した男だ。くくく……お前には特別に、手品の種明かしをしてやろう」
提督「種明かしだと?」
総長「まずは何から話そうか……。そう、ケッコンカッコカリについてだ。
……これは、絆を深めるシステムであると、貴様らには周知したな」
提督「あぁ、実に胡散臭い書類だった」
総長「あのシステム……あの指輪にはもう一つ、隠された機能が備わっている」
霞「隠された機能? 能力向上以外に、まだ何かあるって言うの?!」
総長「それは……指輪の装着者と、マスター権限を持つ者との絆を結びつける機能だ」
満潮「は?」
荒潮「どういうことかしら……?」
総長「分からんか。ではその身を持って実感するが良い。
マスター権限を持つ私と……そして、指輪の装着者との、絶対的服従の絆をな!!」
大潮「んー???」
提督「…………」
朝潮「まさか…………みんな! 今すぐ指輪を……!!」
総長「気付くのが遅いわ!!
朝潮型駆逐隊に命ずる! この男を…………殺せ!!!」
霞「……しまった!!」
満潮「そんな……まさか、こんな力が、指輪に!!」
霰「だめ……司令官……」
大潮「うぅううううーーーっ!!」
荒潮「不覚……だったわ……!」
朝潮「司令官、逃げてください! 早く! 私たちの正気が保たれているうちに!!」
総長「はっはっはっ! バカめ! 効力はスグに発揮される!
5秒と経たずにお前たちは、その男をハチの巣にするのだー!! わーっはっはっはっはっ!!!」
一同「………………」ガクッ
提督「総長殿」
総長「くくく……手塩に育てた駆逐艦に殺される感覚、しっかりと味わうがいい」
提督「朝潮たちな、私を叩いたりカンチョーすることはあっても、砲を向けることは決してない」
総長「バカめ! その指輪を装着している限り、どれだけ思いが強かろうが、絶対服従だ!」
提督「その結婚指輪は、私が愛を込めて朝潮たちに与えたものだ。あなたの支配が立ち入る隙はない」
総長「ふん! 吠えるがいい。 さぁ朝潮型駆逐隊、この男を殺せ!!」
一同「………………」
総長「どうした早く殺れ! この憎たらしい男の顔を、ゴミクズ同然にしてしまえッ!!」
大潮「大潮、久しぶりに怒ったかも」
総長「は?」
霰「私も……ちょっと我慢できそうにない」
総長「な、なにを言っている……さっさと……」
満潮「こんな気分は久しぶりだわ。100発は殴りたい」
荒潮「どう命乞いしたって、許せる自信がないわぁ」
総長「なぜ私の方を向く……従え! 従え!!」
霞「アンタねぇ、誰の許可を得て『ゴミクズ』だなんて呼んでるわけ? アレをそう呼んでいいのは私だけ。
私以外が呼んでるのを聞くと、本ッ当にムカツクんだけど」
朝潮「ここまで私たちの司令官を侮辱されて……黙っているわけにはいきません」
総長「ば、バカな……なぜだ……なぜ私の命令を聞かない!! 従えザコ共!!」
提督「行ったはずだ総長殿。私の愛が、あなたの支配に負けるはずがない」
総長「なーにが愛だ!! ふざけるな!! おかしい! こんなのはおかしい!
私がどれだけその指輪の開発に、金と時間を注いだと思っているんだぁあああああっ!!!」
提督「あなたが言っているのは、このガラクタのことですか」スッ
カラン カラーン カランカランカラン カラーン
総長「指輪……6つ……なぜお前が持って……バカな! コイツらはちゃんと指輪を装着している!!
指輪が合計12個!? なぜだ! どうなっている!!?」
提督「今度はこちらが種明かしをする番だ」
総長「種明かしだと? どういうことだ…………」
提督「私はあの時、大和から受け取った指輪を、朝潮たちに渡してなどいない」
総長「う、嘘をつけ! 私はハッキリと見たぞ! この六隻に指輪をはめている姿を!!」
提督「もちろん指輪は渡した。だがあれは…………
私が個人的に用意した、『結婚指輪』だ」
総長「…………は?」
一同「えっ?」
提督「軍令部からケッコンカッコカリとかいう書類と指輪を目にしたとき、私はコイツを使わないことを決意した。
なぜなら、私がしたいのはケッコンカッコカリなどではなく、結婚だからだ」
一同「………………」
提督「私は、朝潮型駆逐隊の全員と、『結婚』がしたかったのだ!!」
総長「意味が……分からん……」
提督「こんなオモチャを渡して結婚だなんてあり得ない。私は自腹で、指輪を六人分購入した。
だが朝潮たちは任務で忙しい。結局渡すタイミングが見つからず、しばらく肌身離さず持ち歩いていた。
本当はもっと静かな場所で渡そうと思ったが、やむを得ずあの場で渡すことにしたというわけだ」
大潮「じゃ、じゃあこれ、パワーアップの効果は……!?」
提督「そんなものはない」
霰「運の、向上……」
提督「ない」
荒潮「つまり、私たちがずっと、ケッコンカッコカリの物だと思っていたこの指輪は……」
提督「私の愛がたっぷり詰まった、結婚指輪だ」
満潮「じゃ、じゃああの時……指輪を渡す時……あ、ああああんた……」
提督「私はハッキリ『愛している』と言って指輪を渡した。そう、全員にプロポーズをしたのだ」
霞「じゃあ私たちは……そんなことも知らずに……そ、そのプロポーズを……」
提督「皆は恥ずかしそうにしつつも、嬉しそうに受け取ってくれたな」
朝潮「つまり……わ、私は…………私たち朝潮型駆逐隊は…………し、司令官と…………」
提督「そうだ。私たちは昨晩、めでたく結婚したのだ!」
一同「えぇーーーーーっ!?!?」
総長「あ、ありえん…………貴様はどこまで……私の命令に背くつもりだ…………」
提督「そんなことは知らんが、とにかくあなたは、朝潮型駆逐隊の怒りを買った。
本当ならココであなたは、血の気の多い愛しの駆逐艦にボコボコにされるはずだが、
それではご褒美になりかねないので、代表して私が一発、全身全霊を込めて殴る」
総長「や、やめろ……私に近寄るな……。はっ! そうだ!!
おい聞こえるか伊号潜水艦!! 応答しろ! おい!!」
伊168『イムヤです。何か御用です?』
総長「今すぐ来い! 至急だ!」
伊19『それは無理なのォ~!』
総長「つべこべ言うな! これは命令だぞ!!」
伊58『いくら命令って言っても、それは無理でち。ゴーヤたち、その総長の命令で、今は楽しい楽しいオリョールでち』
総長「ふざけるな! そこがオリョールなら、この無線が届くわけがないだろ!!」
伊168『あっ、しまった』
伊58『しーっ! ここはシラを切り通すのが得策でち』
総長「貴様ら…………!!」
伊19『総長さぁ~ん、イクたち、そろそろ戦闘が始まるのねぇ~。また今度お返事するのォー!』
伊58『さーて、トランプの続きをするでち』
伊19『まだ無線つないだままなのねっ』
伊168『ちょっと早く切りガサゴソ……ザザッ……ガガゴゴッ……ブツッ……』
総長「あの役立たず共がッ!!」
提督「……で、忘れたとは言わせません。
あなたは私の朝潮型駆逐隊のことを、駒だの兵器だのザコだの、散々言ってくれましたよね?」
総長「て、撤回する! お願いだ! お前やあの六隻に言った暴言はすべて撤回する!
転属も取りやめだ! 圧力もかけない! そうだ、お前の階級を上げてやることだってできる!」
提督「この子たちのことを、いちいち六隻って言うの、やめてくれませんかね?」
総長「……へ?」
提督「朝潮型駆逐隊は、六人だ」
総長「わ、分かった! すまない! 乱暴はよせ! 見逃してくれ!!」
提督「ダメだ。可愛い可愛い私の朝潮型をコケにした非礼……私の愛の一撃をもって、償ってもらう!」
総長「ぬぅううう!! さては貴様! ロリコンかぁああああああっ!!!」
提督「私はロリコンなどではない!! 朝潮型を、愛しているんだぁあああああっ!!!!」スッ
総長「ひいぃいいいっ!!」
…………ピタッ
総長「ん……?」
提督「…………そこをどけ、大和」
大和「どきません」
大潮「大和さん!?」
霰「大和さん……ボロボロ……」
満潮「でもあれ、見た感じ中破ってとこよね……」
荒潮「それでここまで来れたっていうことは……」
朝潮「翔鶴さんたち全員を相手にして……振り切ってきた……!?」
霞「どんだけ強いのよ……あの人……」
大和「殴るなら、どうか私を殴ってください」
提督「私に、艦娘を殴れと言いたいのか」
大和「…………そう、でしたね。あなたのそういう所は、以前に朝潮さんからお聞きしていました」
提督「…………」
総長「おぉ大和……よく来てくれた! さぁ、今すぐコイツらを始末してくれ!」
大和「…………」
総長「どうした? さぁ、この私をこんなにも侮辱した奴らに、鉄槌を下すのだ!」
大和「総長…………もう、やめましょう…………」
総長「……ど、どういうことだ? 何を言っている?」
大和「監査官として鎮守府で過ごした日々……そして、ぼんやりと覚えている先ほどの戦いの、記憶の中で……
私は朝潮型駆逐隊に、ひどい嫌悪感を抱いていました……」
朝潮「大和さん……」
大和「朝潮さんたちの色々な行動や表情をを見るたびに、自分との差を感じました。
この子たちはどうしてこんなにも幸せなのか、どうしてこんなにも、私と違うのか……。
私はそんな彼女らが憎くて、羨ましくて……悔しかった…………」
総長「何を言っている……ふざけるな! だったらソイツらを始末しろ! ……これは、命令だ!!」
大和「…………総長、その命令はもう、私には効きません」
総長「なっ!? どういうことだ……指輪は……お前、指輪はどうした!」
大和「捨てました」
総長「捨てたァ!?」
大和「はい」
総長「捨てたとはどういうことだッ!! 何のためにアレを、お前に与えたと思っている!!」
大和「私は……」
総長「この役立たずめ! お前は黙って命令に従っていればよいのだ!」
大和「私は…………私は! 操り人形なんかじゃない!!!」
総長「なっ……」
大和「私は……本当は指輪なんて、欲しくなかった……。能力の向上なんて、なくてもよかった……」
総長「嘘だ……だ、だってお前は! システム実装の話が持ち上がった時! もの欲しそうに指輪を見ていただろう!」
大和「私の想いは……あなたには届いていなかったのですね……」
総長「どういうことだ……」
大和「私が…………私がずっと…………本当に欲しかったのは…………
あなたとの、絆です……」
総長「絆…………だと……」
大和「総長……いえ、提督…………思い出してください。
あなたが目指していた夢は…………最強の艦隊を作ることなんかじゃ、なかった……」
総長「私の、夢…………」
大和「提督…………もう一度、聞かせてください。あなたの、本当の夢を」
総長「私の夢は……私が、本当に目指していたのは……」
大和「…………」
総長「……………………静かな海を…………取り戻す……こと…………」
大和「はい。そうですよ、提督。 あなたが昔そう言ってくれたから……。
…………私はあの日から、ずっと…………ずっとあなたのお傍に……お仕えしております」
総長「大和…………うっ……うおおおお……うわぁあああああ……すまなかった……
すまなかった……大和ぉおおおおおお…………」
大和「提督……私は、あなたのことを…………―――――――――」
提督「結局、殴れず終いか……」
朝潮「司令官、綺麗な夕焼けですよ」
提督「あぁ、実に良い景色だ」
朝潮「どうかこの景色のことを、いつまでも、忘れないでいてください」
提督「あぁ……」
~ 一週間後 鎮守府 司令室 ~
提督「おかしい……これは、また軍令部からの圧力だ!」
霞「何日もここをほったらかしにしてたから、仕事が溜まってるだけでしょ」
霰「書類の山…………目が回る…………」
朝潮「し、司令官……この朝潮、24時間……書類と向き合う覚悟です……」
提督「朝潮、無理はするな。のんびり行こう」
満潮「いやいや、あんたはのんびりしすぎでしょ」
大潮「気合が足りなくなったら、大潮に言ってくださいね!」
提督「できれば上品なやり方で頼む」
荒潮「それより司令官、あれから随分と日が経ったけれど、軍令部はどうなったのかしら?」
提督「元総長は官位をがくっと落とされ、大和はそれについて行ったそうだ」
霞「官位を落とされた? なにそれ、それだけで済んだわけ?」
大潮「てっきり島流しにでもあったのかと思ったのにー」
提督「あの人の不祥事は、メディアに公開しないことになったらしい。
ただでさえ民間人には艦娘という存在を疑問視されがちだ。これ以上、海軍への不信感を煽ることはできないんだと」
霰「もみ消し……」
満潮「ふーん、なんだか拍子抜けね」
荒潮「それに大和さんも一途よねぇ。あれだけのことをされて、まだ一緒にいたいと思うなんて」
提督「まぁ、あの人だって最初からあんなクズ野郎だったわけではないはずだ。
階級が上がるたびに、色々と思うところがあったのだろう」
大潮「ふぅーん。なんか大変そう。……あっ! そうだ司令官、大潮、聞きたいことがあったんだ!」
提督「なんだ?」
大潮「この指輪って、大潮たちとの結婚の証なんだよね!」
提督「そうだ」
大潮「じゃあ結婚したら、大潮たちはどうすればいいの?」
満潮「ぶーっ!! あっ、あんた! なにバカなこと聞いてんのよ!!」
提督「そうだなぁ……まずはお弁当を作ってくれたり」
大潮「うんうん」メモメモ
提督「あと子供を作ってくれたり」
大潮「なるほどー」メモメモ
霞「メモするなぁあああーーーーっ!!」
朝潮「し、しししし司令官と……私の……」
荒潮「あら、でもそうなると、正妻を決めなくちゃいけなくなるわねぇ」
朝潮「せ、正妻……あれ……なんだか見覚えが……」
霰「波乱の予感……」
満潮「そんなことよりさっさと仕事よ! ほら、また何か手紙が来て……うっ、なにこの便箋! 可愛いじゃない!」
荒潮「あらぁ、さっそく浮気かしら?」
提督「いやいや何言って……ふむ……中央鎮守府…………翔鶴からだ」
朝潮「翔鶴さんから?」
提督「まぁ、便箋の趣味は瑞鶴なんだろうけど」
大潮「なんて書いてあるのー?」
提督「あぁこれ、今日だったのか……。
実はあの日、翔鶴と直接話をしたんだが……少しの間、うちで中央鎮守府の駆逐艦六名を預かることになったんだ」
霞「ふーん、どうしてまた?」
提督「中央鎮守府も駆逐艦の育成に力を入れ始めたみたいでな。
まぁその合宿みたいな感じで、駆逐艦の強さに定評のある我が鎮守府で面倒をみてほしいそうだ」
霰「じゃあ、その手紙は……」
提督「そろそろそっちに駆逐艦が行くから、よろしくどうぞってな」
荒潮「ふぅん、でも司令官? 向こうの駆逐艦の子たちがどれだけ可愛くても……ふふっ、浮気は禁物よ?」
提督「なにを言っている。私は君たち全員に自前の指輪を与えるほど、君たちのことを愛しているんだ。
今更どんな子が来たって、そんな簡単になびいてしまう私ではない」
満潮「まぁ、あんたのそれは、筋金入りだものね」
――――――――コンコン
???「中央鎮守府から駆逐艦六名、ただいま参りました」
提督「お、噂をすればだな。よし、入りなさい」
???「失礼します」
ゾロゾロゾロゾロ……
朝潮「この人たちが……」
提督「一人ずつ簡単に、自己紹介してくれるか?」
天津風「私は陽炎型の九番艦、天津風よ。艦隊の旗艦を務めるわ」
浜風「駆逐艦、浜風です。短い期間になりますが、お世話になります」
浦風「うち、浦風じゃ。ちぃと迷惑かけるかもしれんけど、よろしく頼むけんねっ」
島風「駆逐艦、島風でーす」
時津風「ふーん、この人がココのしれーかぁー。あ、時津風だよー、よろしくぅー」
雪風「雪風です! よろしくお願いします、しれぇ!!」
提督「ふむ……」
朝潮「司令官? あの……どうかなさいました?」
提督「……霰、今日の天気予報は?」
霰「……晴れ。でもちょっと、風が強い」
提督「ありがとう。では大潮、ちょっとだけそこの窓を開けてみてくれ」
大潮「お任せください! それ、どーーーん!!」ガラガラガラ
ビュウゥウウウウ……
天津風「ひゃっ」ピラッ
提督「いい風来てるな!!」
霞「クズ……」
満潮「最低……」
荒潮「すけべな風ねぇ」
提督「冗談はさておき、皆ようこそ、我が鎮守府へ。せっかく来てくれたところ悪いんだが、私はちょっと街へ出る」
朝潮「えぇ!? 司令官、一体どちらへ!?」
提督「心配するな朝潮。 ちょっと、指輪を買いにな」
一同「このっ………………浮気者ぉおおおおおおおおおっ!!!」
(おわり)
あとがき
朝潮型シリーズはこれでおしまいです。ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
私の勝手な偏見ですが、朝潮型が好きな人って、本当に好きで好きでたまらないっていう人が多いんじゃないかと思います。
逆に朝潮型に興味のない人は、「本当に興味がない、よく知らない」という人が多いように思います。
私は当然前者であり、このような妄想を抱いてSSとして残してしまいました。大好きです。
というわけで、私が朝潮型SSを書き始めたきっかけは、「多くの人に朝潮型の魅力を広めたい!」というものでした。
とはいえ最初はノリと勢い任せでしたので、あまり深く考えずに書いちゃいました。ごめん霞。改二おめでとう。
また別のSSを書いてみようかなとも思いますが、今のところは未定です。
艦これイベントだったり初めてMMD作品を作ってみたりで、いろいろ忙しかったですが、年内に完結できてほっとしています。
(わが鎮守府の朝潮型とも、めでたくケッコン……いえ、結婚できました!)
自分語り失礼しました。
最後に一言いわせてください。
朝潮型はガチ(で可愛い)!! 良いお年をー。
過去作
①提督「朝潮型、整列!」
提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
②提督「朝潮型、出撃!」
提督「朝潮型、出撃!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443970090/)
③提督「朝潮型、索敵!」
提督「朝潮型、索敵!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445001663/)
④提督「朝潮型、遠征!」
提督「朝潮型、遠征!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445615911/)
⑤提督「朝潮型、編成!」
提督「朝潮型、編成!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446812254/)
⑥提督「朝潮型、解散!」
提督「朝潮型、解散!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447416092/)
このSSまとめへのコメント
全作品読ませていただきました。
読み行ってしまう内容でおもろかった。
次は中央鎮守府の陽炎型シリーズやな
とても良かった!!
完結乙です。