朝潮「プリン、あげるわ」霞「いらない」 (32)


朝潮「なるほど、あげるわ、プリン」

霞「いや、だからいらないって。なによ急に」

朝潮「……?」

霞「訝しげな顔されても……」


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朝潮「あっ、大潮、プリンいる?」

大潮「いります!」

朝潮「そうよね」

大潮「はい!」

朝潮「ありがとう。行っていいわよ」

大潮「はい! ……はい?」

朝潮「呼び止めてごめんなさい」


大潮「……ん、ん、んー、あぁ、はい、ああ!」

霞「……?」

大潮「では! ごゆくっり!」

霞「は? え、ちょっと」

朝潮「さて」

霞「え、え、なに? なんなの?」


朝潮「知らなかったわ。プリン、嫌いだったのね」

霞「……浮かんだ疑問はこの際置くとして、私が今、美味しそうに食べてるものはなんだと思う?」

朝潮「プリン」

霞「正解」

朝潮「無理して食べなくてもいいのよ」

霞「不正解」

朝潮「なんだ、やっぱり好きなんじゃない。あげるわよ、ほら」

霞「だからいらないってば」

朝潮「……そこまで言うなら、無理強いはしないけど」

霞「わかってくれたらいいのよ」


朝潮「……」

霞「……」

朝潮「……おかしいわね」

霞「? なにが?」

朝潮「ほら、あんなふうになるはずだったのよ」


卯月「うーちゃん、プリンもらいっぴょん!」

睦月「あー! ……人のもの取ったらだめでしょもう!」

卯月「早いもの勝ちぴょん!」

睦月「ほら、ほっぺたに付いてる!」フキフキ

卯月「……ひひひ!」


霞「……なるほど」


朝潮「仲睦まじい。良き姉妹愛よね」

霞「あんたのことだから大真面目なんだろうとは思う。いやごめんわかんないわ。正気か」

朝潮「意識ははっきりしてるわよ」

霞「目的がぼんやりしてる。私のどこを見てああなると思ったんだか」

朝潮「プリン、好きなんでしょう?」

霞「それとこれとは、……いや、好きだけども」

朝潮「では何故、さっき受け取らなかったの?」

霞「あんたから貰う理由がないし。……プリン嫌いだったとか?」

朝潮「大好物よ」

霞「あ、そう」


朝潮「物欲しそうな目で見つめてくる妹に大好物をゆずる姉というのは、姉としての理想像のひとつだと思わないかしら」

霞「理想はあくまでも理想ということね」

朝潮「そう。わかったわ。ではこうしましょう」

霞「うん?」

朝潮「プリンをよこしなさい」

霞「……説明を」

朝潮「取っ組み合いまでは視野に入れているわ」

霞「犯行予告じゃなくて、動機の方」

朝潮「理想はあくまでも理想だって言うから」

霞「なるほど。……ところで理想と現実というのは、必ずしも対立する必要はないんだって私は思うんだけれど、それについてどう思う?」

朝潮「辞書を引くと対義語として載っているのに?」

霞「そうかも知れないけど、理想を目指す努力はするべきだと思う」

朝潮「素晴らしい心がけね。はい、プリン」

霞「それはいらない」


朝潮「理想の姉妹像というのは」

霞「ん?」

朝潮「総じて妹が幼稚に描かれているのが現実だけど。では妹が優秀ならば姉は理想足り得ないのかしら」

霞「……そもそも理想の妹が幼稚というところから、なにか勘違いしてると思うんだけど」

朝潮「そうかしら。姉に甘えない妹という言葉の響きに反して、妹に甘えてもらえない姉というのはどこかしら問題があるような気にさせられると思わない?」

霞「……恣意的というか、不必要に言葉を悪く使っている気がしないことも無いけど、まぁ、そうね」

朝潮「はい、プリン」

霞「いらない。けどそれを言うなら、反発する妹を慈しむ姉と言うだけで、おおよそ満点に近いと思うわ」

朝潮「霞。私は理想の姉妹像を思い描いているのであって、姉だけが理想であることを望んでいないわ」

霞「そりゃそうよね。ごもっとも」


朝潮「ちなみに理想の妹は、普段は手が掛からないけど要所で甘えてくれる妹よ」

霞「恐ろしく都合のいい妹ね。……まぁ、努力はするけども」

朝潮「はい、プリン」

霞「いらない」

朝潮「努力するのでは?」

霞「強制力はない。あと考えてみてほしいんだけど」

朝潮「何を?」

霞「私は姉の大好物がプリンだと知っている。それならば姉には大好物を美味しく食べて欲しい」

朝潮「なるほど」

霞「これは私なりの愛なのよ。姉が妹に大好物を与えようとするのは愛。嬉しく思いながらも妹は姉に食べて欲しいと思うのも愛。理想の姉妹愛よね。プリン、食べなさいよ」

朝潮「私は妹にマウントを取られたいと思わないわ」

霞「ぶっ殺すぞ」


朝潮「まぁ聞きなさい」

霞「なに? 私は喧嘩という現実を行使してもいいのよ」

朝潮「私は上官には絶対服従。敬礼の角度はこう。返事は美しくというのがモットーよ。忠犬と呼ばれるのこそを由としているし、自覚しているわ。ただし、下っ端根性とまでは卑下するつもりもない」

霞「で?」

朝潮「立場が下ならば下の振る舞いを心がけるのが私で、上なら上の振る舞いをするのが私。はっきり言いましょう。姉である以上、私は妹より偉い」

霞「不思議なことにそう言われると意地でも従いたくなくなるのよねぇ。私は私の名にかけて、反体制、反権力、反権威を主張する」

朝潮「アナキズム?」

霞「リバタリアン!」


朝潮「どうせ聞きかじりでよく理解して使ってないんだろうけど、どっちにしても軍隊にはそぐわないでしょう。ますます司令官があなたを矯正しようとしないのが不思議でならないわ」

霞「命令されたら意外と従うのよ私。血筋かしら」

朝潮「当たり前のことをさも特別なことのように言うんじゃありません。さぁ、プリンを食べなさい」

霞「いらない」


朝潮「……はぁー、かわいくないわ。不出来な子ほどかわいいというけど、あれは嘘ね」

霞「そりゃどうも。あんたこそ、意外とプライド高いのね。犬に食わせてもまだ足りないんだ」

朝潮「当然。捨てるためには持っていないといけない」

霞「ふーん」

朝潮「姉を敬いなさい。そして、あわよくば甘えなさい」

霞「どうしようかしらね」


朝潮「さしあたっては、お姉ちゃんと呼ぶことからはじめることね」

霞「私にだってプライドはある。……プリンじゃなくて?」

朝潮「お姉ちゃんと呼ぶか、プリンを食べるか」

霞「……プリンありがとう、お姉ちゃん」

朝潮「もちろん、どうぞ」

霞「まったく、しつこいんだから」

朝潮「ふふん、私の勝ちね」

霞「……目的変わっちゃってるじゃない」


――

大潮「どう見ます?」

霰「……似た者姉妹」

とりあえず了
思いついたら他にも書くかも


大潮「あの二人が似たもの姉妹なら、大潮たちはさしずめ似てない姉妹ですかね?」

霰「……霰たちもやるの?」

大潮「もち! まぁプリンはありませんけど」

霰「……あっても、いらない」

大潮「おぉ! ノリノリですねぇ。流石は大潮の妹ちゃんです」

霰「違う。……姉妹ではあるけど、……助けて霞姉さん……」


大潮「おやおやぁ? これは嫌われちゃいましたかね!」

霰「……嫌いではない。苦手」

大潮「ほう、苦手と来ましたか。大好きだけど苦手! うーん、悩ましいですねぇ」

霰「……少なくとも、大好きではなくなった、かも……」

大潮「これはいけませんね。姉として妹ちゃんに嫌われる。いや嫌いではないんでしたっけ?」

霰「……嫌いではない。霰のことはほっといてほしい……」

大潮「露骨に鬱陶しがられていますが……、ま、家族とはそんなもんですかね。ただし、ほっといて欲しいと妹ちゃんが言って、はいそうですかとはなりませんなぁ」

霰「……ほっぺをグリグリしないで」

大潮「朝潮姉さんは甘えてほしいと言いますが、ご自身が甘くていらっしゃる! 甘えられないなら甘やかせばよいのです! うりうり!」

霰「……横暴」


大潮「姉が横暴でなくてはなんとしますか。おおしおの『お』はおうぼうの『お』!」

霰「……横暴が二つ並んでる……三つもある……」

大潮「大横暴です!」

霰「……横暴と横暴と横暴に挟まれたら、『し』なのは当然、かも……」

大潮「大横暴と大往生もなんだか語感が似てますしね!」

霰「……というか、そもそも大横暴なんて言葉はないと思う」

大潮「ありませんとも、横暴というのも大嘘ですよ。優しい大潮お姉さんとは私のことです!」

霰「……優しいというのは否定しない、けど」

大潮「けど?」

霰「……今は優しくない」


大潮「甘いですねえ。どうにも大潮の周りには甘えたがりが多いです。糖分過多ですね」

霰「……潮という名前が入っているのに? ……霰には潮は、無いけれど……」

大潮「塩分控えめですか」

霰「……そう。自分で言うのもなんだけど、あっさりしてる……」

大潮「いやぁ、どう見てもジトジトしてますが……」

霰「そうでも、ない。あっちはあっちと、私は、あなたと違う……。線引は、してる……」

大潮「線引ですか」

霰「そう、個性は大事、でしょ……?」


大潮「どうですかね。個性というものそれ自体を大事にするつもりはありませんから」

霰「……個性の塊みたいな人間のくせに……」

大潮「ほう、個制なのに塊とは、これいかに?」

霰「……揚げ足を取らないで」

大潮「いえいえ、揚げ足取りではありませんよ。ただ、個性とは大事にするほどのものでもないんですよ、きっと。一人にすらたくさんあるんですから」

霰「……釈然としない。大潮姉さんは今、たくさんのマイノリティを、敵に回した……」

大潮「マイノリティなんだかマジョリティなんだかわかりませんね、たくさんいると。まぁ、個性を盾に距離を取ろうとしたところで、大潮には通用しないぜ!」


霰「……確かに、作戦は失敗だった。切り替える……」

大潮「へこたれませんねぇ。存外、ポジティブなんですかね? 似てない姉妹のつもりでしたが」

霰「……その程度のことで同じ括りにいれないで……」

大潮「共通項はコミュニケーションを円滑にしますよ。アゲていきましょう! いぇーい!」

霰「その項目、霰には絶対、ない……」


大潮「ポジティブで図々しい性格の霰ちゃんは、どう攻めてくるのでしょうかね?」

霰「待って。……霰は図々しくない」

大潮「ふっふ、そうは思えませんがねぇ」

霰「発言の撤回と、訂正を求める。いたって謙虚。奥ゆかしさもある。大和撫子とは霰のこと」

大潮「その発言がすでに図々しいですが……」

霰「……大潮姉さんは霰が合わせるように言う。でもむしろ、大潮姉さんが霰に合わせる、べき」

大潮「拍車がかかってますね。ですが大潮は奥ゆかしさとは真逆の存在です! パクス・アメリカーナ!」

霰「……テンションだけの発言をしないでほしい……。大和撫子から思いついたのかも知れないけど、パクス・アメリカーナは別に、掛け声じゃない……」


大潮「じゃあどういう意味です?」

霰「たしか……『アメリカによる平和』だったと思う……」

大潮「パクス・アメリカーナ! ……いやこれ、かなり図々しい言葉じゃありませんか?」

霰「……鬱陶しい……。でも、霰の、勝ち」

大潮「おやおや? それはまたどうして?」

霰「大潮姉さんは今、霰との違いを主張したから、霰も大潮姉さんとの違いを主張できる……」

大潮「いや霰ちゃんが奥ゆかしいとは微塵も思ってませんが……。まぁ良いでしょう、負けを認めることで器の大きさを見せることにしましょうか。パクス・アメリカーナ!」

霰「……気に入ったの? その言葉……」

大潮「ええまぁ、かなり」



霰「じゃあ、アメリカはあげる。だから霰のことはほっといてほしい」

大潮「言ってることはみみっちいのに、ずいぶんスケールの大きい譲歩ですねぇ。魔王ですかと問いたくなります。しかも自分のものじゃないし」

霰「……ともかく、敗者は勝者の言に従うべき」

大潮「はいはい、仰せのままに魔王様。 では、また後で!」

霰「……うん、また、後で」


――

荒潮「どう見るかしら?」

満潮「……どうでもいい」

とりあえず了
思いついたら他にも書くかも

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