提督「朝潮型、出撃!」 (54)
提督「ついでに那珂ちゃんも!」
朝潮「朝潮、出ます!」
大潮「行っきまっすよ~!」
満潮「満潮、出るわ」
荒潮「荒潮、華麗に出撃よ」
霰「霰、抜錨します」
霞「霞、出るわ!」
那珂「那珂ちゃんはついでじゃないよ~!」
―――こうして、わたしたちと那珂ちゃんの【 FL作戦 】が、始まった―――
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~ 一週間前 司令室 ~
荒潮「あらー……那珂ちゃん解体なの?」
提督「解体じゃない。 引退だ」
朝潮「引退というのは……アイドルを引退する、辞めるということでしょうか?」
提督「あぁ、そうせざるを得ないらしい」
大潮「大潮、知ってますよ! マイクを投げて普通の女の子に戻るヤツですよね!」
満潮「どこのプロレスラーよ。 置きなさいよ」
霞「そっか、結構好きだったけど、辞めちゃうのね……。で、引退の理由は?」
提督「CDが売れないらしい」
一同( うわぁ……結構ヘビィな理由だ…… )
霰「それで、わたしたちはどうすれば……」
提督「うむ。 君たちを呼び出したのは他でもない。
那珂ちゃんのCDを売りさばく、手伝いをしてほしいんだ」
朝潮「なるほど……。那珂さんの売れ残ったCDを何とかするのが、今回の私たちの任務なのですね!」
荒潮「誰も買わないCDをいかに売りつけるか……難しそうねぇ」
大潮「お任せください! いらなくなったCD配り、がんばります!」
満潮「要は倉庫の片づけをしろってことね」
霞「アンタたち売る気ないでしょ……」
提督「任務の概要は以上だ。 基本的にやり方は自由だが、民衆に迷惑がかからないように頼むぞ。
さて、何か質問はあるか?」
霰「はい……」
提督「なんだ?」
霰「CDがうれても……那珂ちゃんは……引退ですか?」
提督「あれは那珂が独自に行っている活動であって、鎮守府とは何の関係もない。
だから私にどうこうすることはできないし、今後を決めるのは那珂自身だ」
霰「……わかりました」
提督「他に質問は? なければ任務にとりかかれ。 作戦遂行期間は、本日から一週間とする!」
一同「はい!」
~ 駆逐艦寮 会議室 ~
朝潮「闇雲に販売しても非効率だという意見から、まずは作戦を立案しようと思います」
大潮「いぇーい!」
霞「うるさい」
朝潮「司会・進行・書記・記録係・その他諸々は私、朝潮が務めます」
満潮「誰かひとつくらい、代わってあげなさいよ……」
荒潮「えーっとぉ、まずは何から話し合えばいいのかしらぁ?」
朝潮「まずは当事者である軽巡洋艦、那珂さんについてよく理解しておくということで、ご本人を連れてきました」
那珂「みんなぁー! 今日は私のために集まってくれてありがとぉー!
みんなの応援に応えられるようにぃ、那珂ちゃん、今日も頑張っちゃうよぉー!」キラーン
シーン
那珂「あ、あっれー? みんなぁ、ちょっと元気ないぞぉー?
那珂ちゃんの心の天気予報はぁ、いつも晴れマークだよー!」キャハッ
朝潮「はい。 那珂さん、ありがとうございました」
那珂「あっ、はい……」シュン
朝潮「那珂さんは……元気っと」キュッキュ
那珂「えっと、朝潮ちゃん……これは……?」
朝潮「まずはこのように、我々がプロデュースする那珂さんの印象について、良い所と悪い所をホワイトボードに書きだしていきます。
一通り出揃ったら、那珂さんのキャッチフレーズ風にまとめてみようと思います」
那珂「おぉなるほど! なんか本格的なプロデュースっぽいね。 うん、那珂ちゃん元気が取り柄だよ!」
大潮「はいはーい! 那珂ちゃんは、お団子がカワイイと思いまーす!」
那珂「わー、嬉しい! このお団子は、那珂ちゃんのトレードマークなんだよ!」
朝潮「良い所……お団子っと」キュッキュッ
満潮「はい」
朝潮「どうぞ」
満潮「お団子頭なところがウザイと思います」
那珂「ガ――ン! さっきの発言のあとでそれはキツイよぉ……。 っていうか満潮ちゃんもお団子仲間だよね?!」
朝潮「悪い所……お団子っと」キュッキュッ
那珂「朝潮ちゃんも何のためらいもなく書かないでよぉ!」
霞「はい」
朝潮「どうぞ」
霞「那珂ちゃんのCDは一応持ってるから知ってるけど、良い所は歌とダンスが上手くて盛り上がれるところね」
那珂「ふぁあああ、那珂ちゃん感激だよ……歌を聴いてくれる人がこんなに身近にいるなんて……」
朝潮「歌と…ダンスが…上手くて……盛り上がれる、ところっと……ふぅ」キュッキュッキュッキュッ
霞「あと悪い所は……本人の前では言い辛いんだけど」
那珂「ううん大丈夫、いい意見が聞けそう! なんでも言って!」
霞「じゃあ遠慮なく。 いつも歌だけ聞いててあまり出撃も一緒になることが少なかったから知らなかったけど、
あざとい感じの声のトーンと喋り方がイライラする。
あと、大して売れてもないのに売れっ子感を出してくるのもやめたほうが良いと思うわ」
那珂「あ、はい……すみませんでした……」
朝潮「うーん………………性格に難ありっと」キュッキュッ
那珂「長いからって一言にまとめないでぇ! 余計に傷つくからぁ!」
荒潮「じゃあハイ、私からも」
朝潮「どうぞ」
荒潮「那珂ちゃんは……えっと、無駄に元気が良くて、へこたれない所が良い所からしらぁ」
朝潮「無駄に元気っと」キュッ
那珂「那珂ちゃん最大の取り柄が悪そうな感じになっちゃってるけど!?」
朝潮「他に……霰は何かある?」
霰「那珂ちゃんの良いところは……」
那珂「良い所は……?」
霰「ファンひとりひとりを、大事にしているところ……」
那珂「いやいやいや! ……ってあれ、まともな意見……」
霰「ファンひとりひとりの顔をきちんと覚えていて、それでいて、ていねいな対応……。
アイドルとしては当然だけど、実際にこれができるひとは……そうはいない……」
那珂「霰ちゃん……」
霰「そんな努力家な一面を、あえてファンに見せないのも、那珂ちゃんの良いところだと……おもう」
満潮「まぁ、ファンの母数も少なそうだし、親戚の名前を覚えるようなモンでしょうしねぇ」おせんべボリボリ
大潮「あー! おせんべい私も欲しい!」
那珂「雰囲気台無しだよォー!」ガーン
朝潮「数人しかいないファンを大事にしているっと」キュッキュッ
那珂「朝潮ちゃんはもうワザとやってないかなっ!?」
荒潮「ここまでの意見をまとめキャッチフレーズを作るとしたら……?」
朝潮「良い所と悪い所……できれば全てを活かして作りたいと思います」
~ 数分後 ~
『トレードマークは良くも悪くもお団子頭☆(テヘッ
無駄に元気なテンションだけど、歌とダンスで魅了しちゃうよ!
数は少なくてもファンのみんなは宝物。 清純派軽巡アイドル那珂ちゃん!(性格に難あり)』
荒潮「キレイにまとまったわね」
那珂「いやいやいや! 最後の一言でもう台無しだよ!!」
朝潮「すみません那珂さん……。 この一文だけはどこに組み込むか悩んだのですが……」
那珂「真面目に全部漏れなく組み込まなくてもいいんだよ!?」
大潮「あ! じゃあ端っこの方に小さくカッコ書きするのはどうでしょう!」ドヤァ
那珂「なんかソレもっと酷く見えちゃうよね!?」
霞「悪質な利用規約みたいね」クスッ
荒潮「あらお上手」オホホ
那珂「なに和んでるのー!?」
霞( 那珂ちゃんが全部ツッコんでくれるから、なんか楽だなぁ。
あー、こういうのが那珂ちゃんの良い所なのかも…………黙っとこ )
那珂「なんかもう、那珂ちゃん疲れちゃったよ……」
朝潮「続いての議題は、問題の売れ残りCDは、どうすれば売れるのか――です」キュッキュッ
霞「朝潮はもう素でその言葉をチョイスしてるのね……」
朝潮「何か良い方法はありますか?」
大潮「ハイハーイ! 無料で配ればイイと思います!」
霞「バカね。 無料配布なんてしたら元が取れずに大赤字じゃない」
朝潮「那珂さん的に、元をとるとらないはどのようにお考えですか?」
那珂「うーん……この際、もう赤字でも何でも大丈夫かな。 ただ那珂ちゃんの歌声が皆に届いてくれれば……。
あ、でも無料配布だけはさすがにちょっとって感じかな……」
満潮「そうね……使い捨てのポケットティッシュならともかく、CDだものね……」
那珂「それってもしかして、渡されても後始末に困るって意味じゃ……ないよね……?」
満潮「…………荒潮は何か無いの?」
那珂「何とか言ってよーッ!」
荒潮「そうねぇ……本人からしてみればあまり名誉なことではないけれど、抱き合わせ商法という手もあるわねぇ」
那珂「たしかに悔しい気もするけれど……それもひとつの手だよね……」
霞「抱き合わせねぇ……うちの鎮守府内で考えたら……加賀さんにお願いしてみるとか?」
大潮「それいい! 加賀岬と那珂岬、セットで販売すれば売れそう!」
那珂「那珂ちゃんの曲目にそんな歌は無いよ……」
朝潮「しかし、たしかに有効な手立てだとは思います」
満潮「ま、加賀さんがそれを許可してくれるかどうかだけどね」
一同「………………」 ポクポクポク チーン
荒潮「抱き合わせと言っても色々あるじゃない。別に他の誰かのCDでなくても」
那珂「あっ……うん……」
霞「ブロマイド写真とか、定番じゃない?」
大潮「それいい! せっかくだから水着写真がいいなぁ!」
那珂「み、水着ぃ!? 那珂ちゃん清純派アイドルだから、それはちょっと恥ずかしいし、イメージに合わないかなぁ……」
霞( 自分で清純派アイドルって言うのね…… )
朝潮「しかし、それも有効な手立てだとは思います」
満潮「でも、それだけっていうのも決定打に欠けるわね。 例えば手売り販売……握手会とかは?」
荒潮「いっそのこと手売り販売で撮影自由、おさわり自由とか?」
那珂「それダメなやつだよ! ファン層が変な偏り方しちゃう!」
霞「そういえば那珂ちゃんって、どういうアイドルを目指してるの?」
那珂「那珂ちゃんはね……老若男女、神羅万象、すべての生物に愛される存在になりたいんだ……」
満潮「うわぁウザ……でも黙っとこっと」
那珂「声に出てるよぉ!」
大潮「大潮に良い考えがありまーす!」
朝潮「どうぞ」
大潮「荒潮の言った撮影自由、おさわり自由に加えて、デザートバーとドリンクバーをつければ、
男性客だけでなく、ファミリーや若い女性も気軽に来てくれると思いまーす!」
那珂「那珂ちゃんをファミレスみたいに言わないでぇー!」
満潮「じゃあ喫煙待機列と禁煙待機列で分けて……」
荒潮「近くに仮設トイレも必要ねぇ。あ、でもそうなると―――」
大潮「大潮はゼロカロリーコーラが―――」
朝潮「ふむふむなるほど……」キュッキュッ
霞「アンタたちねぇ……」
バァン!!!(机を叩く音)
朝潮「!?」
大潮「!?」
満潮「!?」
荒潮「!?」
霞「!?」
那珂「!?」
霰「みんな……いいかげんにして……」
霞(今まで黙ってると思ったら……)
荒潮(あの温厚な霰ちゃんが……)
満潮(怒っている……)
霰「みんな根本的な考えをまちがえてる……。
みんながいま議論しているのは、いかにして、ただCDをばらまくか……。
でも……わたしの知ってるアイドルの那珂ちゃんは……そんな自分をのぞまない。
努力家で、せんさいで、たまにドジな那珂ちゃんは……そんな甘ったれたアイドルじゃない」
一同「……」ポカーン
霰「わたしたちが議論すべきことは、そんな商売方法についてなんかじゃなくて……
いかにして那珂ちゃんの魅力を、引き出すことができるか……
いかにして那珂ちゃんの魅力を、世界中のひとに伝えられるか……
わたしはそうやって……那珂ちゃんの力になりたいとおもってる。
もし、ただ倉庫のCDの数をへらせばいいとおもっているひとがいたら…………この作戦からおりてほしい」
朝潮( 私の知ってる霰と違う…… )
荒潮( 霰ちゃんは……もっとこう、ボヤボヤしてて、たまにぼそっとふざけるところがカワイイ……はず、だったわよねぇ )
満潮( こんな霰……はじめて見た…… )
大潮( こんなのふざけられる雰囲気じゃない! )
那珂「あ、あー、えーっと……」
霞「霰」
霰「なに」
霞「もしかしてアンタ……那珂ちゃんのファンだった?」
霰「うん……那珂ちゃんがデビューしたころから、ずっと好きだった」
那珂「うそ……私、知らなかった……」ジーン
霞「はぁ……やっぱりね。 私の持ってる那珂ちゃんのCDも、そういえば霰がくれたものだったわね」
霰「うん。布教用のCD」
那珂「霰ちゃん……那珂ちゃんのこと……そんなに好きでいてくれたなんて……」
満潮「そうね……半分悪ふざけのつもりだったけど、ファンの立場からすれば失礼な話だったわね……」
大潮「ごめん霰……」
荒潮「霰ちゃんの気持ちも考えず、私たち言いたい放題だったわね……」
那珂( 那珂ちゃんの気持ちも考えてほしいなー…… )
朝潮「ごめんなさい霰……。 私たち、もっと真剣になるべきだったわ……」
霰「みんな……うん、わかってくれれば、霰はそれで……でも……」
霞「安心しなさい霰。ここにいる皆は、やる時はやるわ。なんたって朝潮型駆逐艦よ?」
霰「うん……。わかってる。 みんないっしょなら……こころ強い……ね」
那珂「……よーっし、那珂ちゃんやる気MAX! 残り一週間、みんながんばろーっ!」
一同「おーっ!」
~ それから6日後 夜 司令室~
提督「そういえば那珂のCDの件、どうなってる?」
朝潮「はい。明日に限り駅前での手売り販売を許可されているので、そこで決戦となります」
提督「なるほど……いよいよか。 正直、ここまで頑張ってくれるとは思っていなかったよ」
朝潮「今回の作戦が順調に進んでいるのは、霰のおかげです」
提督「あの霰が……? 本当か?」
朝潮「はい、私も驚きました。 あの子は、私たちの中で誰よりも熱い……底の見えない熱意を持っている子です。
心に火が灯りにくいのが難点ですが、本気にさせたら非常に心強いです」
提督「そうか……それは知らなかった。
皆の身長体重、スリーサイズから足の大きさまで、すべてを理解しているつもりでいたが、私もまだまだだな」
朝潮「す、すす……スリーサイズもですか……!?」
提督「そうだ。 しかも四半期ごとに更新しているから、皆の発育具合はよく知っているつもりだぞ。
たしか朝潮は、前の身体測定では……」
朝潮「し、ししし司令官……それはちょっと……/////」
~ 同じころ 倉庫 ~
那珂「あれ……電気ついてる……こんな時間に……誰だろう?」
霰「…………」ガサゴソ
那珂「……霰ちゃん?」
霰「あ……那珂ちゃん……」
那珂「もう遅いよ。 明日も早いし、早く寝なきゃ」
霰「うん…………でも、もうすこしだけ……」ガサゴソ
那珂「これ、販売会場の飾りつけ?」
霰「うん……もう少し、派手なほうがいいとおもって……」
那珂「そっか……じゃあ、那珂ちゃんもお手伝いしようかな」
霰「えっ……ダメ、だって那珂ちゃん……あしたは……」
那珂「大丈夫だよ。 手伝わせて。 ……それに、霰ちゃんと、ゆっくりお話したかったし」
霰「……わたしと?」
那珂「ずっとお礼が言いたかったんだ」ガサゴソ
霰「えっ……なんの?」
那珂「ふふっ。 最初の会議のとき、霰ちゃん、那珂ちゃんのために怒ってくれたでしょ?」
霰「あ……あれは……ついカッとなって……はずかしい……」
那珂「あの時ね、私が遠慮して言えなかったこと……霰ちゃんが全部言ってくれて、本っ当に嬉しかったんだ」
霰「……」
那珂「それにね、那珂ちゃんは自分のことをまだまだ未熟なアイドルもどきだって思ってたけど……
こんなにも那珂ちゃんを好きでいてくれるファンがいるって分かって、ちょっとだけ自信がついたんだ」
霰「那珂ちゃんは……本当にすごいアイドルだから…………」
那珂「えへへっ。 だからありがとう、霰ちゃん」
霰「……うん…………///」
霰「あの……」
那珂「うん?」
霰「わたしもずっと……那珂ちゃんに聞きたいことがあって……」
那珂「え? 何かな!」
霰「那珂ちゃんは…………本当に……アイドルやめちゃうの?」
那珂「あー…………うん、辞めるよ」
霰「あした……CDが売れて……ファンが増えても?」
那珂「うん。 もう決めたの」
霰「…………」
那珂「未練が無いといえば嘘になるけどね。でも、今の那珂ちゃんには深海棲艦と戦うっていう大事なお仕事もある。
どっちも中途半端な気持ちじゃいられないって思うから……那珂ちゃんは、明日でアイドル……辞めちゃうんだ」
霰「いや」
那珂「……」
霰「わたしは……ひっく……那珂ちゃんのファンを……辞めたくない……
ずっと……ずっと応援、してたい……やめないで……」ポロポロ
那珂「霰ちゃん……」ジワッ
霰「うぅ……ひっく……ぐす……」ポロポロ
那珂「じゃあ……条件付きで」
霰「……え?」
那珂「ここにある100枚のCDぜーーーんぶ、明日中に売り切ったら、那珂ちゃんはアイドルを続けるよ」
霰「……ほんと?」
那珂「那珂ちゃんは、嘘は言わないんだよ?」
霰「そうだった……那珂ちゃんは……嘘なんて言わないアイドル……」
那珂「うん!」
霰「わたし……がんばる……」
那珂「那珂ちゃんも、霰ちゃんに負けないくらい頑張るよー!」
霰「そうだ……。 那珂ちゃん……あれやって」
那珂「わかった。 よーしいくよ~」
霰「ワクワク」
那珂「那珂ちゃんセンター! 明日は一番の見せ場です! がんばろー!」
霰「おー」
~ 決戦当日 早朝 ブリーフィングルーム ~
提督「泣いても笑っても今日がいよいよ最終日だ。皆、覚悟はできているな?」
一同「はい!」
提督「よし。では作戦会議を行う。 朝潮、頼む」
朝潮「はい。それでは、本日の作戦概要をお伝えします。
本作戦の最終目標は、倉庫内に眠っていた那珂さんのCD100枚…
これらのうち、最低でも50枚を販売することとします」
霰( そして完売させれば那珂ちゃんは…… )
朝潮「作戦開始ポイントは、地図に示された駅を出たスグの……ココです。
作戦中はこのエリアをポイント0と呼称し、その周囲をポイント1~8と振り分けて呼称します。
ここまでで何かご質問は?」
提督「いくら休日とはいえ、出社する人もいるだろう。通勤客の邪魔になったりとかは、大丈夫なのか?」
朝潮「はい。 通勤ラッシュ等が予想されるため、本作戦の開始時刻は
ヒトヒトマルマルから、ヒトナナマルマルまでという話で、関係者から許可を得ています。
万が一鉄道が込み合う場合でも、ポイント0は人通りの多い場所ではないので、
乗客や近隣住民の迷惑になる可能性は低いと思われます」
提督「分かった。それなら構わない」
荒潮「でも、人通りの多くない場所ってことは、作戦遂行はそれだけ難しいってことよねぇ」
提督「ふむ、たしかにな」
朝潮「ですので、そのことを加味した作戦内容を、タイムスケジュールと合わせて、これからお伝えします―――――」
朝潮「――――作戦は以上となります。全体を通して何かご質問は?」
大潮「はいはーい!」
朝潮「どうぞ」
大潮「作戦名は?」
朝潮「え? 作戦名は……えっと……」
満潮「いいじゃない、別にそんなの無くたって」
朝潮「ですが……霰は、何かある?」
霰「作戦名は…………FL作戦」
提督「お、なんだかソレっぽい作戦名だな」
荒潮「問題ないけれど、何か特別な理由でもあるのかしら?」
霞「FL……“Final Live”の略?」
霰「ううん。 これは……最後じゃなくて、那珂ちゃんの未来のためのライブ……“Future Live”」
満潮「未来……ね。 最後よりも、明るい名前で良いじゃない。賛成だわ」
大潮「FL作戦……カッコイイ感じしてきたー!」
霞「いいんじゃない。 那珂ちゃんがそれでよければ」
那珂「うん。那珂ちゃんも大賛成だよ!」
朝潮「分かりました。ではこれより、FL作戦を発動します!」
提督「よし、では…………。 朝潮型、出撃! ついでに那珂ちゃんも!」
那珂「那珂ちゃんはついでじゃないよ~!」
~ ヒトマルマルマル ポイント0地点 ~
【 ―――ですので、そのことを加味した作戦内容を、タイムスケジュールと合わせて、これからお伝えします 】
【 作戦開始前のヒトマルマルマル。 この段階で会場の下見、設営の準備に取り掛かります 】
朝潮「ここに机を置いて……CDは常に10枚、机の上に置いてある状態にしておきましょう」
大潮「うーんうーん」コソコソ
霞「こら大潮、今はまだ設営しちゃダメよ。 作戦聞いてなかったの?」
大潮「わ、分かってるけど、なんだか緊張しちゃってー!」
【 準備と言っても机等を並べてしまうと規約違反なので、設営風景を思い浮かべるのみです。注意してください 】
荒潮「もうすぐヒトヒトマルマルよ。 準備はいいかしら~?」
満潮「こっちはオッケーよ」
霰「問題なし」
那珂「いよいよだねっ」
【 ヒトヒトマルマルで設営開始。 設営に関する役割分担は以下の通りになります 】
朝潮「ヒトヒトマルマル! 総員、設営開始!!」
一同「了解!!」
朝潮「私と満潮は机回りの設置!」
満潮「ちゃっちゃと済ませるわよ!」
霞「私と荒潮で、会場スペースの確保ね!」
荒潮「危険なものは排除するわよ~」
那珂「那珂ちゃんは、霰ちゃんと飾りのセットだよ~!」
霰「みばえは、だいじ……」
大潮「大潮! ダンボールを運んじゃいます!!」テケテケテケ
霞「アンタがそれを落として、中のCD割ったら、元も子もないないわよ」
大潮「キ、キヲツケマス……」カチカチ
【 設営が完了し次第、次はチーム行動に移ります 】
【 チームαは那珂さんと私、霰。 チームβは霞と大潮。 チームγに荒潮、満潮を配置します 】
朝潮「打ち合わせ通り、チームαはポイント0で待機。周辺の呼び込みと接客!
チームβはポイント1~4、チームγはポイント5~8にて呼び込みと誘導を!
状況に応じてポイント0地点の人員を増やす場合があるため、無線は解放した状態を維持せよ!」
一同「了解!」
朝潮「総員、突撃!」
~ チームβ( 霰、大潮 ) ~
霞「な、那珂ちゃんのライブやりまーす……」
霞( 今更だけど……私こういうの苦手なんだけど……。
でも、そんなこと言ってられないわ……。作戦通り……子供……子供…… )
【 チームβ・γの目的は、ヒトロクマルマルより開始されるライブの周知になります 】
【 休日のお昼時は子供連れの家族も多いため、子供を突破口とし、ライブの観覧を勧めると有効でしょう 】
女の子「ねぇねぇ、おねえさん何やってるのー?」
霞「今集中してるから話しかけないで!」
女の子「はぅ……ご、ごめんなさい……」
霞「…………えっ! あ、いや、ななな何でもないわよ! 怒ってなんかないわ……ほ、ほらー」ニコ…ニコ…
女の子「ほんとう?」
霞「本当よ本当! それよりホラ、4時からアイドルの那珂ちゃんが来るの。
お父さんやお母さんと一緒に見にいらっしゃいな」ニコニコ……
女の子「お父さんも、お母さんもいないんだ」
霞( し、しまったぁああ! 私としたことがとんだ地雷をぉおおッ!! )
霞「あ、あぁあご、ごごごごごめんね! なら他のごごごご家族とぉお…………」
女の子「おじいちゃんも、おばあちゃんも、あとお兄ちゃんもね、いないんだぁ」
霞( ど、どうすんのよこの状況――ッ!! クズ! クズ! 私のクズ!! )
霞「えっと……えぇっと……えええええええっとぉおお……」
女の子「お母さんとお父さんは買い物に夢中でね、おじいちゃんとおばあちゃんはポチの散歩に行っててぇ、
お兄ちゃんはサッカーの練習があって、皆いないんだぁ。 わたし退屈しちゃって」
霞「…………あ、いないって……そういう…………」プシューー
女の子「ねぇねぇそれよりアイドルが来るってほんとー?」
霞「……そうよ…………あの、きっと楽しいから……4時からだから……良かったら来てね……」ホケェー
女の子「うん! その時間ならお母さんとお父さんも来れるかな! じゃあまたねー」
霞「…………」
大潮「…………プフー」
霞「……なによ」
大潮「アーッハハハハハハハハ!! クハハハ! うひー! おっかしぃー! あははははは!!」
霞「あんたねぇ……」
大潮「いやぁー、あんな霞はじめてみたぁ。 あー、まだお腹いたいやぁ」
霞「覚えときなさいよ……」カァッ
~ チームγ( 荒潮、満潮 ) ~
荒潮「那珂ちゃんが駅前でライブやりまぁす」
満潮「よろしくお願いしまーす」
荒潮「うーん、やっぱりこれじゃ、立ち止まってすらくれないわねぇ」
【 私たちが拡散すべきことは、那珂さんのライブ開催とCDの手売り販売です。 】
【 そのため多くの人を呼び込むために不特定多数に対し声をかけてしまいがちですが、 】
【 今回の場合あまり得策ではありません。 】
【 一枚でも多く積み重ねるため、ターゲットを絞って話しかけることを心がけましょう。】
満潮「そうね……作戦通りターゲットを絞ってガンガン話しかけていくべきだと思うんだけど……
何気に私たちって……その、あまり鎮守府の外でこういうのしたことないし、変に勇気が―――――」
荒潮「こんにちはー、そこのお兄さ~ん」
満潮「うそ……」
そこのお兄さんA「え、何、俺たちのこと?」
荒潮「はぁい、そうでーす」
そこのお兄さんB「なんだなんだ逆ナンか? しかも子供から!」
荒潮「あらー、子供扱いなんて失礼じゃないですかぁ。私もう、こう見えてオトナなんですよ?」
満潮「…………」
そこのお兄さんA「ははは、こりゃ失礼。 で、俺たちに何か用なの?」
荒潮「えぇっとですねー。実は私、ライブに来てくれる、カッコ良くてたくましいお兄さんを探していたんですよぉ」
そこのお兄さんB「カッコイイだなんて照れるなー? で、なに? 君がライブするの?」
荒潮「いいえぇ。私ではなく、皆さんご存知、アイドルの那珂ちゃんですよ」
そこのお兄さんA「ナカチャン……お前知ってるか?」
そこのお兄さんB「えっと……誰だっけ……?」
荒潮「いいえ、みなさん知ってますよぉ」
そこのお兄さんA「えっ……いや、悪いけど――」
荒潮「―――知ってます、よねぇ?」
そこのお兄さんB「あー…………え、あぁ、もしかしてA○B48……の?」(適当)
荒潮「…………はい、そうです」
満潮( 嘘つけぇ! )
荒潮「48の、アイドルですよー。サイン付CDの手売り販売もしてますよぉ」
満潮( 48って……艦娘IDが48ってだけじゃない…… )
そこのお兄さんA「へぇー、そうなんだ。俺詳しくないけど、妹が割と好きなんだよなぁ」
荒潮「あらぁ~。 でしたらどうぞ、お立ちよりください。4時からはライブもありますよぉ」
そこのお兄さんB「じゃあちょうどすること無かったし、ちょっと行ってみるかなぁ」
そこのお兄さんA「普段は行かないけど、小さなオトナに免じて行ってみるかー、ははは、じゃあねー」
荒潮「ありがとうございまぁ~す」
満潮「…………」
荒潮「満潮ちゃんの言った通り。 ターゲットを絞った方が、案外話を聞いてもらえるものねぇ」
満潮「…………なんか」
荒潮「んー?」
満潮「……そういうお店に見えたわ」
荒潮「あらやだ、ちょっとお話しただけじゃない。満潮ちゃんにもできるわよぉ」←4番艦
満潮「……無理です姐さん」←3番艦
~ チームα(朝潮、霰、那珂) ~
朝潮「本日午後4時より、那珂ちゃんのライブを行います! 是非お立ち寄りください!」
婦人「…………ナカ……あぁ、はいはい。よくテレビで見るわよ」
朝潮「て、テレビでですか……?(出てたっけ……?)」
婦人「そういえば息子が、もうすぐライブがあるって言ってたような気がしたわ。
まさか今日こんな所で芸人さんのお笑いトークライブが聞けるなんてオホホホホ」
朝潮「い、いえっ……那珂ちゃんは芸人ではなく――――――」
那珂「みんな頑張ってくれてるね! 那珂ちゃんだって負けないんだから! ってあれ?
霰ちゃん、重そうな荷物……何が入ってるの?」
霰「艤装」
那珂「あぁー、艤装ねー…………って艤装!? なんでぇ!?」
霰「いつ近海に深海棲艦があらわれてもいいようにって、司令官が……」
那珂「ま、まっさかぁ……こんな所に出るわけないよー」
霰「うん。99.9%でることはないだろうけど、用心のために、わたしの分の艤装だけ」
那珂「ふーん。まぁ、それもそうかなー。 イベントにトラブルは付き物だもんねー」
霰「それフラグ……」
那珂「へへへ」
霰「わたしも、すこし、よびこみ行ってくる」
那珂「へ、へーき?」
霰「……こわいけど…………がんばる」
~ ヒトゴーマルマル ~
那珂「えっと……なんだか変じゃない?」
朝潮「…………」
霰「なにが?」
那珂「いくら人通りの多くない場所って言っても……」
ガラーン
霰「たしかに……さっきから人ひとり通らない……もうすぐライブなのに……」
朝潮「おかしいわ……。 三日前からこの場所で、この時間帯に人の流れを観察していたけれど、こんなの初めて……」
霰「まるでみんな、べつのどこかに行っちゃったかのような……」
朝潮「別の……はっ……もしかして……。 霰! このあたりの地図を!」
霰「はい、これ」サッ
朝潮「…………あった……きっとこれだわ……」
那珂「な、なになに! どうしたの!?」
朝潮「こちらチームα! チームβ、応答せよ!」
大潮『こちらチームβ! 聞こえまーす!』
朝潮「今どこ!?」
大潮『え? えっと……んー、ねぇ霞、ここどガサッ――――』
霞『貸しなさい! 朝潮、ポイント3地点よ』
朝潮「ちょうど良かった……その近くに大型ショッピングモールがない!?」
霞『あるわ、目の前にね』
朝潮「まさか……」
霞『そのまさかよ。人気お笑い芸人のトークライブって書いてあるわ。……最悪ね』
朝潮「くっ……そんな……」
霞『らしくないわね、諦めるのはまだ早いわ』
朝潮「えっ?」
霞『トークライブの終了時刻は、幸いにもヒトゴーサンマル。
ここに来たお客さんを丸ごとライブに誘い込めば、形勢逆転よ』
朝潮「…分かったわ。ならそっちに増援を送るから何としても――」
霞『あ、バカ! 大潮! 何やって―――ガシャン!―――ザザー』
朝潮「え? 霞!?」
霰「……え」
那珂「……あれ?」
~ ヒトゴーサンマル 大型ショッピングモール ~
霞「ライブ会場はこちらでーす! よろしくお願いしまーす!」
大潮「よろしくお願いしまぁーす!」
霞「お手柄よ大潮! これだけの人数を送り込めば……!」
大潮「で、でも人が多すぎて目が回るぅうう……」フラフラ
フラ…フラ…… ポフッ
満潮「何へたれてんのよ。しっかりしなさい」
荒潮「スゴイ人の数ねぇ」
大潮「あれ? 満潮!? 荒潮も!」
満潮「朝潮から連絡もらって、応援に駆け付けたのよ。 無線が繋がらなくて心配だってさ」
霞「大潮が突然バカやるから、止めようとして落として踏んづけられたのよ。
まぁでも、結果的にそのバカが功を奏したっていうか……」
荒潮「どういうこと?」
霞「何を血迷ったのか、突然お笑い芸人のトークライブに大潮が乱入してね」
満潮「バカどころの騒ぎじゃないわね……」
荒潮「下手したら鎮守府を巻き込んで大問題ねぇ」
大潮「いやぁー、あの時は気が動転しててー」テヘッ
霞「芸人さんの寛容さと大潮のバカさ加減で観客が沸いて、なんとか丸く収まったわ。
ううん、それどころか、トークライブの舞台上で那珂ちゃんのライブの宣伝し始めるし、
面白がって芸人さんも『ぜひ行ってあげてくれ』とか言っちゃうしで、悔しいけど大手柄だわ」
大潮「いやぁー、それほどでも~」エッヘン
荒潮「でも次やったらグーでおしおきよ?」
大潮「あ……ハイ、キヲツケマス……」
満潮「はぁ……。 まぁいいわ。じゃあとりあえず、
まだ少し時間もあるし、この辺りを中心に呼び込みの続きを―――」
朝潮『こちらチームα! 応答せよ!』
荒潮「荒潮よ。ここに皆いるわ」
朝潮『総員、至急ポイント0地点に帰投!』
荒潮「まだ時間はあるけど、何かあったの?」
朝潮『えぇ――――』
朝潮『――――――――緊急事態よ』
~ ヒトゴーゴーマル ポイント0地点 ~
タッタッタッタ タッタッタッタ タッタッタッタ
霞「朝潮! 緊急事態って……ハァハァ……」
大潮「もうクタクタだよぉ……ゼェゼェ……」
霰「……機材トラブル」
那珂「発電機……昨日までは普通に使えてたのに……」
満潮「なに? ガス欠!?」
朝潮「違うわ……」
霞「え、じゃあ……」
朝潮「朝からずっと、発電機が陽の当たる場所に置きっぱなしだった……。
中の回路が焼き切れて、ショートしたのよ……」
大潮「発電機が使えないってことは、照明も曲もかからないってこと!?」
朝潮「ごめんなさい…………」
霞「バカ、大潮! わざわざ朝潮の前で……」
朝潮「いいえ、私のミスだわ……本当にごめんなさい…………」
那珂「あ、朝潮ちゃんのせいじゃないよ! 那珂ちゃんだって気づかなかったし!」
霰「わたしも……そこまで気がまわらなかった……」
満潮「そうよ、朝潮は悪くない。 私たちだって、こういう設営に必要な物や会場の手配まで、
ほとんど朝潮に任せっきりにしてたし……」
荒潮「みんな、お客さんが……」
霰「ヒトロクマルマル…………なかなかスタートしないから……みんな帰りはじめてる……」
朝潮「私のせいだわ……」
霰「ちがう……わるいのはわたし……」
霞「あぁもう、鬱陶しいわね! そういうのは後にして!
今はそれよりも、この状況を打開するのが先決でしょ!?」
霰「打開するって…………打開するって、こんなのどうしようもない……」
霞「はァ!? アンタが一番熱心にここまでやってきたんじゃない!
私たちはそんなアンタがいたからここまでやって来れたのよ!
なのに今更こんな中途半端で諦めるとか、どこまで私たちをコケにしてくれるのよ!!」
霰「そんなこと言ったって……もう分からない……どうすればいいの……。
あきらめるなって言うなら、どう打開すればいいか、おしえて……!」
霞「ふざけないで! 私はそのヘタレた考えをやめろって言ってるの!」
霰「あきらめないなんて口ではいくらでも言える……
霞はそんなことばかり言って、現状から目をそらしているだけ……」
霞「目を逸らそうとしてるクズはどっちよ!!」
霰「いまそうやって怒鳴ることしか能のない霞の方がよっぽどクズだとおもう」
霞「はァ!? もういっぺん言ってみなさいよッ!」
那珂「やめて! こんな時にケンカなんて……やめよう?
霞ちゃん落ち着いて。 霰ちゃんも、らしくないよ……」
霰「…………」
霞「ふん。 もう好きにしなさいよ」
荒潮「二人とも……」
朝潮「………………」
大潮「……うぉわ」
満潮「へ?」
大潮「うわぁあああーーーーーーーーーーー!!!」
一同「!?」
大潮「うおぉおおおーーーーーーーーーーー!!!!!」
満潮「な、なによ急に大声出して……変なものでも食べた……?」
大潮「私、行ってくる!!」
荒潮「行ってくるって……まさか……」
大潮「うぉおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!」
タッタッタッタ…… ダン!
大潮「皆さん! 私、大潮です! 今からゾウのモノマネします!」
観客「え……?」 「なんだなんだ?」 「あの子がアイドルなの?」
大潮「ぱお~ん! ぱおんぱぱぱおぱおぱお~~ん!! ぷお~ん! ぶおぉおおおん!!! ぶひぃ!」
観客「ははは、なんだアレ」 「なにあの子、超意味わかんないけど可愛ぃ~」
朝潮「もしかして……時間稼ぎのつもり……?」
霞「アレのメンタル……一体どうなってるのよ……」
荒潮「ふふっ……もう滅茶苦茶ね。 でも……」
満潮「大潮の度胸に、応えない訳にはいかなくなったわね」
霰「……あ、ひとつだけ……方法がある」
荒潮「なにか思いついたの?」
霰「わたし、鎮守府から、別の発電機をもってくる」
朝潮「それは無理よ。ここから鎮守府までは電車をうまく乗り継げても、片道で1時間はかかる……。
持って帰って来ても、ヒトナナマルマルを過ぎてしまっているわ……」
霰「うん。 だから……これをつかう……」
霞「……ちょっ、あんたそれ……」
霰「艤装を装備して、海路で鎮守府にもどる。最大戦速で航行すれば、ヒトロクサンマルにはかえってこられる」
霞「バカ! こんな所で戦闘以外の目的で艤装を使ったら……本当に営倉行きよ!?」
霰「でも……もうこれしかない……」
霞「霰……あんた、どうしてそこまで……」
霰「絶対に成功させたい。 軍規違反をしてでも、私は那珂ちゃんのライブを成功させたい」
那珂「霰ちゃん……」
霰「私には、それだけの理由がある。軍規違反というリスクを冒すだけの……希望がある。
だから……止めないでほしい」
霞「バカ……」
カシャカシャ…… ガシャン!
霰「装着完了。行ってきま―――」
那珂「―――待って」
霰「那珂ちゃん、もう時間が」
那珂「誰かを助けるために軍規違反を冒す……。 それってドラマとかなら、最ッ高にカッコイイよね」
霰「?」
那珂「でもダメ。今日のセンターは那珂ちゃんだから、霰ちゃんばっかりに良いカッコはさせないよ。
なんたって那珂ちゃんは、あの朝潮ちゃんに、『性格に難あり』って言われたくらいだからね」
朝潮「それは……」
霰「那珂ちゃん……いまはそんなことを言ってる場合じゃ……」
那珂「それにね。霰ちゃんは、那珂ちゃんのことを間違えているよ」
霰「え……?」
那珂「那珂ちゃんは、頭に『無駄』がつくくらい元気。それが唯一の取り柄なの。
こんな逆境でも、明るく元気な那珂ちゃんなら大丈夫なんだよ?」
霰「でも…………」
那珂「だから、霰ちゃんはここにいて。 そして見ていて欲しいの―――――」
霰「…………」
那珂「―――――本気になった……アイドルの那珂ちゃんを!」
霰「那珂ちゃ……」
コツ コツ コツ コツ
荒潮「那珂ちゃんが……」
朝潮「ステージへ…………」
コツ コツ コツ コツン
大潮「じゃあ次はインドゾウ……は、もうやったっけ、ナウマンゾウやりまーーす!!!」
那珂「ありがとう大潮ちゃん。 もう、大丈夫だから」
大潮「あれ……? あ、よかった……」ガクガク
タッタッタッタ……
満潮「お疲れ。あんた凄いわね」
大潮「なに? 直ったの……?」
霰「直ってない……」
荒潮「いったい……どうする気なのかしら……?」
観客「ざわ……ざわ……」
那珂(ここが……私のステージ……)
観客「なんだなんだ、次の子はどんなゾウをやるんだ?」
那珂( お客さんいっぱい……。私ひとりじゃ、絶対にこんなたくさんのお客さん、集まらなかったろうな……。
ありがとう皆……。 あんなこと言っちゃったけど、本当は少し怖いんだ。
でも……私は…………那珂ちゃんは、負けない。 こんな所で、負けてられないんだから!!! )
那珂「みんなぁああーーーーー!! 私、艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよーー!! よっろしくぅ!!」
観客「…………」パチパチパチ
那珂「今日はせっかく来てくれたのに、なかなか始められなくてごめんねー?
音響さんの調子が悪くって、ナカナカ始められなかったのー。 ……那珂ちゃんだけにネ!」
観客「クスクスクス」
那珂「じゃあまず最初に、那珂ちゃんを初めて見たって人もいると思うから、自己紹介するよー!
那珂ちゃんはねー、海の向こうからやってきた正義のアイドルだよ!
チャームポイントは、誰がなんと言おうとこのお団子! かわいいでしょーエヘヘ
あ、こらー! 誰ー? 海坊主って言ったのー!」プンプン
観客「ワハハハハ」
朝潮「す、すごい……」
霰「ほとんど初対面のお客さんを虜にする、かんぺきなMC……」
霞「やっぱプロね、大潮のとはワケが違うわ」
那珂「―――はーい、じゃあ皆、那珂ちゃんのこと、分かってくれたかなー?
それじゃあ時間もないし、アカペラだけど愛を込めて歌うよー! 恋の2-4-11!!」
満潮「あ、アカペラで歌うの?!」
荒潮「大丈夫かしら……」
那珂「~♪~~♪~~♪~~~~♪~~♪♪」
朝潮「う、うそ……うまい…………」
大潮「何気に那珂ちゃんの歌ってる所、初めて見たかもー!!」
満潮「アカペラなのに……全然見劣りしてないわ」
荒潮「それにダンスも……並大抵の努力じゃ、あそこまでは出来ないわ」
霞「CDや映像では見たことあるけど……生の迫力は全然違う……!」
霰「これが……那珂ちゃんの本気……」
那珂「ハァハァ……皆ありがとー!」
観客「パチパチパチ……」
那珂「……ハァハァ……」
朝潮「まずいわ……」
荒潮「たしかに歌もダンスも上手いけど……」
大潮「皆……なんだかアゲアゲじゃない!」
霞「やっぱり音響が無いぶん、盛り上がりに欠けるわ……」
満潮「暗くなってきて、那珂ちゃんの姿も良く見えなくなってきてるわ……」
霰「だめ……CDには目もくれない……かえっちゃう……」
朝潮(せっかくここまで来たのに……どうする……一体どうすれば……………)
ザザッ……
ザザッ……
霞「な、なにこの音!? 無線?」
『 朝潮型に告ぐ! 総員、ポイント0地点裏手の道路に整列! 』
朝潮「この声は…………」
一同「 司令官!! 」
朝潮「司令官! なぜこちらに!?」
提督「言っただろう。私は君たちの身長体重スリーサイズ足の大きさ、そしておへその汚れやほくろの位置まで知っている!
そんな私が、君たちのピンチに駆けつけない訳がないだろう!!!」
霞「なっ、何ふざけてんのよクズ! 変態! スケベ!!」
荒潮「あら~、霞ちゃん嬉しそう」
霞「う、ううう嬉しくなんてないわよ!」
満潮「それで? 手ぶらで来たって訳じゃないんでしょ?」
提督「もちろんだ。ふぅ、トラックなんて久しぶりに運転したぞ」
朝潮「ご無事で何よりです!」
提督「見よ! 鎮守府が停電した時のために注文しておいた新装備! その名も『nanoですモーターEX』だ!! 」
大潮「うぉー! なんかスゴそう!」
提督「実際スゴイぞ! これはナノ粒子を云々かんぬんで電気を生み出す、燃料要らずの画期的な発電機だ!」
霞「説明はいいから、さっさと起動しなさいよ! 時間がないわ!」
提督「よし、任せろ」ヌギー
霞「な、なんで上着を脱ぐ必要が…………え……まさか……」
提督「さぁ、残り5台あるぞ! 各員死力を尽くして…………漕げッ!」シャーシャーシャーシャー
霞「燃料要らずって、そういうこと!?」
霰「よいしょ…………」シャーシャーシャー
満潮「呆れた。でも、文句ばかりも言ってられないわね」シャーシャーシャー
荒潮「ここに来て肉体労働はキツイわぁ~」シャーシャーシャー
大潮「うおおおお! 大潮、まだまだアゲアゲです!!」シャカシャカシャカ
霞「あぁもう! 何でこうなるのよ!」シャーシャーシャー
提督「朝潮は、ここからステージまで配線を繋いできてくれ!」
朝潮「了解!」
提督「さぁみんな頑張れー! ハァハァ…… 目の前のナノデスゲージがMAXまで上がったら ゼェゼェ…… 向こうまで電気が届くぞ!」ギーコギーコギーコ
大潮「うおぉおおお!! オオシオ、今日は何だかもう、疲労困憊ですーーーーー!!!!」シャカシャカシャカ
満潮「こんなの! いつもの訓練に比べたら! 大したこと! ないわね!!」シャーシャーシャー
荒潮「うふふふふ、自転車なんて久しぶりだわ~」シャーシャーシャー
霞「こっの面倒くさいゲージねぇ! 早く上がりなさい!」
霰「あがれ……あがれ……あがれ……!!」
一同「あがれぇえええええええええええっ!!!」
ピー ピー ナノデス! ナノデス!
霰「朝潮……いま!!」
朝潮「了解! 探照灯、照射!!」
パァン!! パァン!! パァン!!
那珂「これ……スポットライト……!?」
観客「お、なんだなんだ? 電気がついたぞ?」「さっきので終わりじゃなかったのー?」
提督「よーし……じゃあ……みんな……そのまま発電を維持……これ以上サボると……アレだぞ……」ダラーン
霞「アンタに言われたくないわよ! このもやし!!」シャーシャーシャー
大潮「うおぉおおおお!! こんなのいつまでも持たないぃいいいいいい!!!」シャカシャカシャカ
荒潮「大潮ちゃんは、叫ぶのやめたら少し楽になるかしらぁ~」シャーシャーシャー
霰「……アンコール」
満潮「え?」
霰「アンコール……アンコール……アンコール」
一同「…………」キョロキョロ……コクン
霞「あ、アンコール! アンコール!」
大潮「うぉおおおおアンコーール! アンコォオーーール!」
荒潮「アンコールー アンコールー」
満潮「アンコール! アンコール!」
朝潮「この声は……」
那珂( 聴こえる……アンコール……みんなの声が……!
うん……まだ……まだこんなんじゃ、終われない!! )
那珂「みんあぁああああーーーー!!!」
観客「!?」
那珂「私は……頭のお団子が良くも悪くもトレードマーク!
無駄に元気なテンションと、歌とダンスで魅了しちゃうよ!
数は少なくても、ファンの皆は……みんなは大切な宝物!!
清純派軽巡アイドル那珂ちゃん、最後にもう一度この曲で、盛り上がっていくよぉおーー!!!」
朝潮「スイッチON! 楽曲再生!」
気づいてるわ みんなが私を ハートの視線で 見つめてるの ~♪
霰「あ……」
荒潮「那珂ちゃんの曲……お客さんの盛り上がりも、ここまで伝わってくるわねぇ」シャーシャーシャー
霞「ここからが正念場よ! みんな死ぬ気で漕ぎなさい!!」シャーシャーシャー
大潮「うおぉおおおおーーーーー!! 大潮、もう自分がどんな動きしてるか分からなくなってきたぁああーー!!」シャカシャカシャカ
満潮「ここで負けたら、朝潮型の名が泣くわね!」シャーシャーシャー
朝潮「……ハァハァ、司令官! あとは私が代わりますので、司令官はお休みください!」
提督「お、おぉ……頼む……」
朝潮「…………」シャーシャーシャー
提督「朝潮、サドルの感触はどうだ?」
朝潮「え? ……あ、温かいです」シャーシャーシャー
提督「そうか。あとで私ももう一度そこに座るからな」
朝潮「は、はぁ……どうぞ?」シャーシャーシャー
霞「クズ」シャーシャーシャー
恋のtwo! for! eleven! バッチリ編成(じゅんび)して ~♪
霰( あぁ……この曲だ……。 わたしがずっと聴いていたのは……この曲だった…… )
私はアイドルだから 「撃沈」(しずむ)なんてないわ ~♪
霰( はじめて深海棲艦をみて怖くなったあの時も、演習でMVPをとってうれしかった時も、みんなの足を引っ張って悔しかった時も…… )
恋のtwo! for! eleven! 撤退は出来ない ~♪
霰( この曲はいつもそばにいて……わたしを元気づけてくれていた……)
愛の砲雷撃戦で アナタのココロを攻略しちゃうから ~♪
霰( わたしはこの曲のおかげで……那珂ちゃんのおかげで……ここまで頑張ってこれた。
いつも勇気をもらえた……。 だから……私は那珂ちゃんが――― )
スキ! ダイスキ! セカイイチアナタガスキ! ×4
霰「だいすき……」
観客「うぉおおおおお!!」「きゃーーーーー!!」「ぶらぼーーーー!!」「那珂ちゃーーーん!!」
那珂「みんなありがと~! 那珂ちゃんは、皆のことが大好きだよぉーーーー!!」
わーわー! パチパチパチパチパチパチ!! ヒューヒュー!!
那珂「皆も那珂ちゃんのことが好きになったら、是非とも1枚! 那珂ちゃんのCDを、よろしくお願いしまーす!!」
大潮「あぁあああ~~…………つか……れた……もうダメ」グデーン
霞「ハァハァ……何へたってんのよ……これからCDを売るのが……最終目的でしょうが……」
荒潮「そうねぇ……最後に……もうひと踏ん張りねぇ」
満潮「お客さんが……CD売り場に、迫って来てるわ…急がないと……」
朝潮「ふぅ…………あ、あの司令官、どうぞ……」
提督「うむ。……おぉ、温かい」スリスリ
朝潮「あの、座られるのでは……?」
霞「ハァ……ハァ……あ、霰……」
霰「…………」
霞「……あの、さっきは怒鳴って……悪かったわ」
霰「ううん。わたしの方こそ……ごめん」
霞「ふふっ……アンタが珍しく大きな声を出したから、思わず張り合っちゃった」
霰「ごめんってば……」
霞「ううん。楽しかったわ。 ……さ、クズ司令官は放っておいて、最後の仕事、片付けるわよ!」
~ ヒトハチマルマル 帰り道 ~
霞「何考えてんのよ、あのクズ。 あんなに頑張って、報酬がコレだけなんて」
大潮「でもなんか、このアイスすっごーーーく美味しい!!」
朝潮「そうね。普通の市販で売っているアイスなのに、本当に美味しいわ」
満潮「大潮の場合は特にね」
荒潮「大潮ちゃん、今日は本当にがんばったわねぇ」
大潮「えへへー。朝潮の方が頑張ったよー」
朝潮「ううん。 ここまでやってこれたのは、私たち朝潮型全員の協力と、那珂さんの頑張りあってのことだわ」
荒潮「ふふふ。なんだか照れちゃうわねぇ」
満潮「ま、そういうことにしといてあげるわ」
大潮「あ、そーだ! お疲れさま会ってことで、帰ったら皆で野球しようよ!」
朝潮「夜に……?」
荒潮「まだまだ元気なのねぇ」
霞「どんだけタフなのよ……」
満潮「そもそも人数足りないじゃない」
大潮「なら相撲でもいいよ! なんだか今、すっごく球技がしたい気分なんだぁ~」
満潮「あんた何言ってんの」
朝潮「大潮は、相撲がどんなスポーツか知ってる……?」
大潮「知ってるよー! 剛球みたいな体型の人がぶつかり合うスポーツでしょ?
東ィ~ 霞の山ぁ~ ドスコイドスコイ! クチクカン! ゴッツァンデス! ってやつ」
霞「大潮、あんた喧嘩売ってるの?」
大潮「西ィ~ 満潮の富士ぃ~ チャンコオイシー! チャンコオイシー! なーんて……あ……」
満潮「はーん、どうやら痛い目みたいようねぇ」ポキポキ
霞「何もしないから、ちょーっと目を閉じて、そこを動かないでちょうだい」ポキポキ
大潮「うわぁーー押し出されるぅーーーー!!」タッタッタッ
霞&満潮「待ちなさぁあああああい!!!」タッタッタッ
朝潮「ふふっ」
荒潮「あははは」
霰「…………」
那珂「あはは、みんな走り回ってるよ。元気だねー。霰ちゃんは行かなくていいの?」
霰「…………」
那珂「あー…………CD100枚、全部は売れなかったね」
霰「うん」
那珂「でもでも! 那珂ちゃん史上最大の快挙だよ! 一日に74枚も売れたんだもん!
目標の50枚は超えたし、FL作戦は成功だよね! 那珂ちゃんだけに、売り上げは48枚でしたぁ~なんて
オチになったらどうしようかと思ったよー」アハハ
霰「作戦は成功でも……わたしは……くやしい」
那珂「霰ちゃん……」
霰「このFL作戦は、那珂ちゃんの最期じゃなくて、未来のための作戦だった……。
那珂ちゃんがアイドルをつづけて、世界中のひとに愛されていくはずだったのに……
それが叶わなかったのがくやしい……」
那珂「…………」
霰「そしてなにより……うぅ…………わたしのなかの……アイドルの那珂ちゃんが消えてしまうのが……
いちばんくやしい……いちばんかなしい……」ポロポロ
那珂「……泣かないで、霰ちゃん。大丈夫だよ」
霰「……」
那珂「たしかに那珂ちゃんは、約束通り今日で普通の艦娘に戻るけど、アイドルだった那珂ちゃんは消えたりしない。
今日まで一週間、霰ちゃんや皆と頑張った思い出と一緒に、いつまでも霰ちゃんの心に残るんだよ?
那珂ちゃんは、霰ちゃんの心の中でアイドルであり続けるから……だから、泣いちゃダメだよ」
霰「那珂ちゃん…………ありが、とう……」
那珂「うん」ギュッ
霰「わたしに勇気をくれて……元気をくれて……ありがとう……」
那珂「うん……」
~ あれから一週間後 ~
朝潮「それでは朝潮型、定例会議を始めたいと思いま――――――」
那珂「ドッカーーーーン!」
大潮「あ、那珂ちゃんだー」ボリボリムシャムシャ
満潮「何か用?」
那珂「はーい! みなさんご存知、那珂ちゃんだよー!
今日は那珂ちゃんのために集まってくれてありがとー!!」
朝潮「いえ、本日は我々の定例会議なので、那珂さんのために集まったわけではありません」
那珂「うっ……さすが朝潮ちゃん……相変わらずのクールパンチ……」
荒潮「それで那珂ちゃん、どうかしたの?」
那珂「実はねーイヒヒ 那珂ちゃん、なんと重大発表がありま-す! しかも本邦初公開だよー!」
霞「あー、大したことないのに大物ぶる感じ、那珂ちゃんも相変わらずねー」
大潮「満潮ー、おせんべー無くなったー」
満潮「それで最後。太るわよ」
大潮「ふふーん、へーきだもーん」
那珂「で、でねー! 那珂ちゃんの重大発表っていうのはーーーー??? なんと!!!!
那珂ちゃん、アイドルに復帰することになりましたーーーーー!!!」
一同「……は?」
那珂「実はCDを買ってくれたお客さんの中に、アイドル関係のお仕事をしてる人がいたみたいでねー。
あとからメールで素質あるって褒められちゃってさー!!」
朝潮「あ、あぁ~、アイドルと言っても、お金を愛する『愛$』のことですよね?」
那珂「那珂ちゃんお金の亡者じゃなーい!」
大潮「頭でも打っちゃったとか……?!」
荒潮「いいえ、那珂ちゃんはきっと夢を見ているのよ」
満潮「夢を捨てきれなかった那珂ちゃんは、自分の輝く姿を妄想するあまり、
いつからか現実と妄想の区別がつかなくなり―――」
霞「それから一週間後……そこにはお花畑を元気に走り回る自称アイドルの姿が……」
那珂「もぉー! 皆して那珂ちゃんに興味なさすぎるよー!
霰ちゃーん! 霰ちゃんなら分かってくれるよね? ねっ!?」
霰「…………」
那珂「えーっと、あ、霰ちゃーん。 おーい、何読んでるのかなー?」
霰「新聞」
那珂「うわぁー、霰ちゃんは偉いねぇ。でねー、那珂ちゃんアイドルに戻ったんだよー?」
霰「ふーん」
那珂「…………あれ? なんか期待してた反応と違うんだけど……」
霞「よくよく聞いてみるとね」
那珂「え? うん」
霞「霰が那珂ちゃんにハマり始めたのって、鎮守府に着任してスグの時期だったらしいのよ」
那珂「うん」
霞「それで、どうして那珂ちゃんの曲を聴きはじめたのかって聞いたら」
那珂「うん……」
霞「着任したての頃は暇ですることがなかったから、落ちてたCDを拾って聴いてみたんだって」
那珂「落ちてたんだ……」
霞「まぁ要するに、霰が那珂ちゃんにハマったのって、それだけの理由だったみたいよ」
那珂「へ、へぇー……運命的だよねぇ……」
霞「霰はそれだけ、些細な出来事でも熱が入ればトコトン踏み込んでいくタイプなの」
那珂「うん。そんな感じだよねぇー」
霞「で、冷めたらトコトン手を引くわけ」
那珂「えっ……それって……」
荒潮「那珂ちゃんの件は、無事成功したし、なんだかもう一区切りついちゃったものねぇ」
満潮「まぁ私たちも、霰のことだからいずれこうなるんじゃないかとは思ってたけど」
那珂「え……えぇ~……」
大潮「それであの日に、色々あって相撲の話になってー。 霰が相撲を知らないって言ってたし、
ちょうど中継もしてるから見てみようってことになったんだけど」
那珂「まさか…………」
朝潮「そのまさかです。さっきも、会議中に相撲の新聞記事 読むのをやめるよう注意したら、ものすごい勢いで怒られまして」
霞「相撲やろうと言い出した当の本人は完全に興味をなくしてるけどね」
大潮「テヘー」
那珂「え、えぇっと……霰ちゃん……?」
霰「なに」
那珂「お、お相撲さん……楽しい?」
霰「はぁ……那珂ちゃんも、全然わかってない」
那珂「あ、はい……すみません……」
霰「相撲は、楽しい楽しくないで語れるものじゃない。 ただぶつかりあって投げ合うだけの、簡単なものでもない」
那珂( なんか面倒くさい感じになってるーーーッ!? )
霰「構えた瞬間のミリ単位の挙動、瞬きの回数や目線から次の行動を予測し、素早く相手の裏をかく……。
あのほんのすこしの戦闘時間のなかで、数々の読み合いや力くらべがおきる。
わたしも今度の戦闘で、相撲を意識してみようとおもう。 とても勉強になる」
那珂「肉弾戦は控えた方がいいんじゃないかな……」
霰「那珂ちゃんもアイドル復帰したなら、相撲を勉強したほうがいいとおもう」
那珂「そ、そう! 那珂ちゃんアイドル復帰したの!
霰ちゃんはお相撲さんが好きだけど、那珂ちゃんも好きだよね!? 那珂ちゃんファンだよね!?」
霰「もちろん。 あれからずっと、わたしの中では那珂ちゃんはずっとアイドルだったから」
那珂「霰ちゃん……!」
霰「でもどうせやるなら、もっと力強く……相撲系アイドルとかに路線変更した方がいいとおもう」
那珂「うわぁああああん!! 霰ちゃんがこんなになっても、那珂ちゃんは絶対!
路線変更なんてしないんだからぁあああ!!!」
(おわり)
以上となります。 前回に引き続いて、朝潮型駆逐艦(と那珂ちゃん)の魅力が表現できていれば嬉しいです。
今回は満潮が加わりましたが、朝雲と山雲は未着任です。 いずれ別の機会に、登場させられたらなと思います。
ここまで読んでくださったロリk……朝潮型好きの皆様、ありがとうございました。
【参考】 前作:提督「朝潮型、整列!」 提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
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