時雨「あ、先輩」那珂「んー?」 (20)


時雨「一人なのかい?」

那珂「うん? んー…」キョロキョロ

那珂「そうみたいだねー」


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時雨「困ったな、神通に少し聞きたい事があったんだけど」ペラッ

那珂「あ、この前の小テスト? 偉いね、ちゃんと復習してるんだ」

時雨「まぁ、ね。格好付かないからできれば予習で片付けておきたかったんだけど」

那珂「あは。…ふ、ぁぁ…」

時雨「あれ?」


那珂「あ、しまった。那珂ちゃんってばファンの前で欠伸だなんてアイドル失格だゾ☆」コツン

時雨「…お疲れのようだね」

那珂「ううん、だいじょう…」フラッ

時雨「おっと」ダキッ

那珂「あ、ごめんね」

時雨「なんてことないさ」


那珂「ふふっ、かっこいいね。時雨ちゃん」

時雨「…?」

那珂「…あ、ううん、疲れてるのね私」

時雨「私…?」

那珂「…むー、しっかりしろっ。アイドルは元気と笑顔が肝心だゾ☆っと」

時雨「…」

那珂「…」

時雨「…出直すよ」


那珂「あ、ちょっと待って、小テストでわからないところがあったんでしょ? 那珂ちゃんが教えたげる」

時雨「いや、悪いよ」

那珂「いいからいいから。…あ、やっぱり間違ったところはここかー」

時雨「えっと」

那珂「これ、いぢわるな問題だよねー。コピーさせてもらった時から思ってたけど」ポリポリ

時雨「コピー?」


那珂「うん。那珂ちゃんチームの子たちにもしようと思ってね、テスト」

時雨「ああ、そう言えば夕立がそんなことを言っていた気がする」

那珂「球磨ちゃんに見せたら笑ってたよ『こんなの正解するのはひねくれ者くらいだクマー』って」

時雨「…確かに、満潮は正答していたよ。…それが腑に落ちないから聞きに来たんだけどね」

那珂「あはは。いいじゃんいいじゃん、時雨ちゃんってば素直ないい子ってこと。…あ、満潮ちゃんが悪い子ってことじゃなくてね?」

時雨「わかってるさ」


那珂「お姉ちゃん、…神通ちゃんもねー、すごく一所懸命なんだけどこういうところがあるから可愛いよねー」

時雨「可愛い…?」

那珂「可愛いでしょ? 頑張りすぎて空回り! みたいな。アイドルとして負けてられないなー」

時雨「ほ、程々でいいと伝えておいてくれないかな。…駆逐艦たちの総意として…」

那珂「やだよーっ。キャハッ☆」

時雨「…うん、わかってたけどね」

那珂「それはそれとして、ここはね? えっとぉー」

那珂「…が…で…だから…」ペラペラ

時雨「うん、そこまではわかったんだ」

那珂「もー、最後まで聞いて、ね? で、そういう考え方で解くことを求めてはいるんだけど」

時雨「うん」

那珂「ここからがこの問題の面白いところでね、普通に考えたらこう、時雨ちゃんが答えた通り」

時雨「…うん」

時雨(今、…面白いところだって言ったね。自分でひっかけ問題だと言っていた気がするけれど)

那珂「ここで、問題文のこの部分が効いてくるの」

時雨「え? どこだい?」

那珂「ここ、ここ。…うーん、何回見てもいぢわるっていうか問題が悪いなぁ。数学パズルみたいで面白いなとは思うけれどねー」

時雨「数学パズル…?」

那珂「うん。気が付かないと解けないから問題としてはちょっとどうかなーって思うけど、けど、わかっちゃえばなんてことないからニクイよねー☆」

時雨「えっと」

那珂「問題文をよく見て? えっとね、ここのところは実は…えっと、書くものあったかな」ゴソゴソ

時雨「…」ジー

那珂「ここね、ここは問題文では如何にも重要っぽく書いてあるけど、実はたいしたことじゃないの」キュッ

那珂「もっとシンプルに、こうすれば…」カキカキ

時雨「! …ああ、なんだそういうことか」

那珂「そーそーそういうこと。ね? 面白いでしょ?」

時雨「うん、確かに」


時雨「けれどこれは、きっと解き方を知らないとわからない」

那珂「そうそう。だからこの問題は失敗なんだ。けど神通ちゃんはみんなが解けるって信じてたみたいだから、採点してる時は悲しそうだったなー」

時雨「ふむ」

那珂「那珂ちゃんはすっごく楽しかったけどね☆」

時雨「…」


那珂「…でもさ、知ってしまえばなんてこともないことでも。知らなければどうしようもないのは、やっぱり悲しいんだよね。那珂ちゃん、神通ちゃんの気持ちもちょっとわかるんだ」

時雨「え?」

那珂「時雨ちゃんは、雨が好きなんだよね。どうして?」

時雨「さぁ、どうしてかな。名前のおかげもあるけど、一番は…」


時雨「――だから、かな」

那珂「あは。素敵な理由だね。けど、雨を憂う人もやっぱりいる。…ううん、きっと、たくさんいっぱいいるのかな。那珂ちゃんもどっちかって言うと晴れの日の方が好きだもん」

時雨「そうだろうね」

那珂「笑顔だってそう。那珂ちゃんはみんなに笑顔になって欲しいからアイドルだけど。アイドルだからみんなを笑顔にするけれど。知らない人には、やっぱりどうしようもないんだよね」

時雨「笑顔、か。確かにそれ自体はなんてことのないことだね」

那珂「楽しくて笑う人がいる。嬉しくて笑う人がいる。けど、悲しいから笑う人もいるかもしれない」

時雨「…知らないだけで?」

那珂「そう、知らないだけで、だよ☆」


時雨「…」

那珂「…」クスッ

那珂「…なーんて言っちゃうと、なんだか難しいこと言ってるような気がするけれど、違うんだよ」

時雨「?」

那珂「ね、時雨ちゃんは戦うの、好き?」

時雨「…好き、ではないかな」

那珂「じゃあいっぱい活躍して、敵をいっぱい倒して、MVPなんか貰っちゃったりして、それで褒めて貰えたら、嬉しいよね。提督とかに」

時雨「それは、…うん、あるけれど」


那珂「那珂ちゃんもね、そうだよ。目立って、活躍して、那珂ちゃんを見てもらえるの大好き。…けど」

時雨「けど?」

那珂「それで、しあわせ? ほんとに心から笑顔になれる?」

時雨「…わからない」

那珂「そう、私もわからなかった。わからなくて、悩んで、けどみんなのために、平和のために、ね

那珂「だけど、ある時ふと思ったの。つまんないなって

那珂「戦って勝つのがしあわせ? 敵はまだたくさんいるし、いなくなる子もいるのに?

那珂「じゃあ、みんなを守るのがしあわせ? ほんとに? じゃあ私はどうなの? みんなの中に私は入るの? 入れていいの?

那珂「私と誰かを、なにかを秤にかけて、それで悲しい結果になるなら、それはしあわせって呼べるの? 笑顔はあるの?

那珂「知らない、わからない。――そんなことばっかり考えてた時期もあったかな」

時雨「……」

那珂「――ぁ、ご、ごめんね? 急にこんな話をして。…もー、那珂の馬鹿! 疲れたからって弱音吐いちゃダメ!」アタフタ

時雨「先輩は」

那珂「うん?」

時雨「じゃあどうして戦っているんだい?」

那珂「戦ってなんか無いよ」

時雨「え? でも」

那珂「那珂ちゃんはね、アイドルをしてるの」

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