提督「朝潮型、整列!」 (32)
朝潮「はい!」
荒潮「はぁい」
大潮「ハーイ!」
霰「はい……」
霞「フン……こんな所に呼び出しておいて、ろくでもない理由だったら承知しないわよッ」
提督「こらこら霞。しっかり返事をしないか」
霞「……はーい」ハァ
提督「うむ。全員そろったか?」
朝潮「司令官。 満潮が……」
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霞「満潮は大破して入渠中だから、しばらく出てこられそうにないわね」
提督「ふむ。そうだったな……。では仕方ない。今いる五名だけで訓練を行う」
大潮「えー、今朝もやったばかりですよー」
霰「……もう疲れた」
提督「まぁまぁそう言うな。自分で言うのもなんだが、この私が直々に訓練をみてやろうと言うのだ」
朝潮「司令官が自ら……ありがとうございます!」
荒潮「あらぁ~、司令官の7.7mm機銃……楽しみね」
提督「おう、速射には自信があるんだぞー、ってやかましいわ!」
霞「バカなこと言ってないで、さっさと何するか言いなさいよ」
霰「ねむい」
提督「コホン。
これから行うのは、「訓練」と言ってもある種の試験であり、仲間同士の戦いでもある。
戦場では息を合わせて艦隊運動を行うことが大切だが、
今回ばかりは自分のために、自分の力だけで臨むように」
一同「ざわ……ざわ……」
提督「そう……名付けて!
『誰が改二になれるかな? 朝潮型対抗クイズ大会! ポロリもあるよ』 ドンドンパフパフ~」
大潮「うぉー! なんだか楽しそう!」
霞「はァ? なにそれ、ふざけてるなら帰るわよ」
提督「おっと霞、そんなこと言ってもいいのか?
このクイズ大会での優勝……それはすなわち、さらなる改装、改二になる権利を得ることだ。
以前から強くなりたいと言っていた霞には、またとないチャンスだと思うのだが……?」
霞「うっ……それ、本当でしょうね」
提督「もし嘘なら、靴のまま踏んでくれても構わない」
一同「…………」
朝潮「これは……嘘ということですね! 朝潮には、司令官の言うことが分かります!」キラキラ
荒潮「あらあら、驚いて損したわ」
大潮「なーんだ嘘かぁ」
霰「おなかすいた」
霞「さようなら」
~ 信じてもらえるよう説明すること数分 ~
提督「とにかく、改二の件に関しては絶対に本当だ」
霞「もう分かったから、早くしなさいよ」
提督「うむ……。 それでは第一問。 私の問いに一人ずつ答えよ」
デデン!
提督「我々は、何のために深海棲艦と戦っているか? まずは朝潮」
朝潮「はい。 深海棲艦から制海権を奪還し、安全な輸送航路を確保するためです!」
提督「何のために戦っているか? 次は荒潮」
荒潮「それはやっぱり、平和な海や街を取り戻すためじゃないかしら~」
提督「なんで深海棲艦と戦うのか、大潮」
大潮「魚雷です!」
提督「霰、我々はどうして深海棲艦と戦うのか?」
霰「おいしいゴハンをたべるため」
提督「なぜ我々は深海棲艦と戦うのか、最後は霞」
霞「……せ、世界平和のためよ」
提督「ふむ。全員答えたところで……この問題…………全員正解だ!」テーレッテレー
朝潮「やった……! これが、朝潮型駆逐艦の力なんです!」
霞「いやおかしいでしょ! 百歩譲って霰はいいとして、大潮は質問の意味を取り違えてるじゃない!」
提督「霞よ。今のは質問に正しく答えられるかどうかをテストしたのではない。
質問に対して素早く、恥ずかしがらずに胸を張って意思を述べられるかどうかをテストしたのだ。
さすが大潮は二番艦なだけあって、そのあたりには気づいていたようだな。素晴らしい俊敏さだった」
大潮「……そうです!」フンス
霞「ちょっ、いま変な間がなかった?!」
提督「その点、霞はギリギリ合格点といったところだ。今の正解はおまけだと思いなさい」
霞「こっのクズ司令官……」イライラ
提督「そういうわけで正解者には1ポイント。 MVPの大潮にはさらにもう1ポイント追加だ」
大潮「この後もアゲアゲで行きます!」
提督「第二問」
デデン!
提督「ここでは名前を伏せておくが、ここに戦艦のH氏が作った特製ミックスジュースがある」プ~ン
霰「ひえっ…」
提督「私はこのジュースをクッソマッズイジュースと勝手に名付けたが、味は分からない。 が、おそらく非常に不味い。
今から君たちにはコレをコップ一杯飲み干してもらい、『おいしい』と言ってもらう」
朝潮「不味いものを美味しいと言って飲み干す……難しそうですが、朝潮、この命に代えてもやり遂げてみせます!」
大潮「いくらアゲアゲでも……もう臭いで倒れそうです……」ウップ
霞「ふざけないで! こんなの訓練でも何でもないじゃない!」
提督「これはな霞。 例えば敵に捕まってしまった時、不気味な液体を飲まされるとするだろう?」
霞「前提がおかしい」
提督「でな、あまりの気持ち悪さに耐えきれず、敵に鎮守府の機密事項を話してしまうかもしれない。
だからこれは、どんな状況でも思ったことを口にしないための特訓であり、試験なのだ」
朝潮「はっ…なるほど! 一理あると思います!」
霰「……ない」
霞「ないわね」
提督「えーい、つべこべ言わずに始めるぞ! まずトップバッターは朝潮だ」
朝潮「はい! 一発必中……駆逐艦朝潮、出ます!」
ゴクゴク プハッ……
一同(ゴクリ……)
朝潮「…………お、おいしいです」ウップ
提督「おお! やったな朝潮、偉いぞ!」ナデナデ
荒潮「朝潮? ……大丈夫、なの?」
朝潮「…………」
提督「はーい。 次は荒潮な」
荒潮「死んじゃうじゃない……」
朝潮「…………」
~ 数分後 ~
荒潮「……おい、しいわ…………」ウェップ
霞「このクズ……私たちになんてものを飲ませようとしてるのよ……」
提督「私だって心苦しいさ。 はいじゃあ次は大潮」
大潮「大潮……行きます! それ、どーん!」グビー
ゴク……ゴク……
霰「へいきそう……」
大潮「ふぅ……おいしいです!」ゲロゲロゲロオエー
霞「わーっ! なに吐いてんのよバカ!」
大潮「…………」白目
提督「さて、じゃあ次は……」
霰「わたし、おなかいっぱい」
霞「さっきまでお腹空かしてたでしょ」
提督「がんばれ霰。 お前ならできる!」
霰「……わかった。じゃあせめて、霞といっしょに。にげるといけないから」
霞「うっ……アンタ意外とちゃっかりしてるわね……」
提督「うむ。いいだろう。では二人同時に」
霰&霞「せーのっ……」ゴクゴクゴク
霞(なにこれマズッ……で、でも言わなきゃ……)
提督「さぁさぁあと10秒以内だぞ」
霞(言わなきゃ……でも、口を開けたら……吐きそう……)モゴモゴ
霰「…………お……」
朝潮「がんばって霰」←復活
霰「……お……お、お……」
荒潮「もう少しよ霰」←復活
霰「お……おい……」
大潮「霰ファイト!」←復活
霰「お……おお…………………………おおいし」バタリ
霞「大石って誰よ!?」
提督「はい終了。 第二問は霞以外、全員正解! みんな頑張ったので、霞を除いて5ポイント獲得!」
霞「ちょっ、な、なんでそうなるのよ!」
提督「霞は第一声で『おいしい』って言わなかったろ?」
霞「そ、そうだけど……。大潮は吐いてたし、霰に至っては『おおいし』って!」
提督「大潮は盛大に吐き散らかしたが、アノ味を感じて『おいしい』と言った。
そして、たしかに霰は声も小さく、きちんと言えていなかったかもしれない。だが、私は『おいしい』と
言おうとした霰のその頑張りと、途中まで言うことができた成果を見込んで、おまけの正解を与えたのだ」
霞「そ、そんな……私だって頑張ったわよ!」
提督「だが、その成果が出ていない」
霞「この……くず……」イライラ
提督「第三問」
デデン!
提督「君たちは私が愛してやまない少女だが、同時に艦娘であり、軍属の一部でもある。
そのため、自分のことをハッキリと、相手に印象付けるように、かつ正しく表現できるようにならねばならない」
朝潮「司令官のおっしゃる通りです!」
提督「そこで、君たちにはこれから一人ずつ、短くてインパクトのある、そしてキュートな自己紹介&自己PRをしてもらう!」
荒潮「キュートな部分って、必要なのかしら?」
提督「必要だ。はい、じゃあもう時間もないしちゃっちゃと行くぞ。まずは朝潮から」
朝潮「えっと……駆逐艦朝潮です! 司令官の言うことなら、何でもする覚悟です!」
提督「ん?」
朝潮「はい?」
提督「今、何でもするって言ったよね? たとえばナニしてくれるの?」
朝潮「はい! 司令官のお世話とかです!」
提督「よーし、オッケー分かった。よっしゃー」
霞「クズ」
提督「では次は、荒潮」
荒潮「はぁい。 私、荒潮です。 好きなことは、深海棲艦の脳天に風穴をあけることよ」
提督「次は大潮」
大潮「クチクカン オオシオデス!」
提督「…………」
大潮「以上です!」
霞「短っ!」
提督「よし、では次は霰だ」
霰「おおいしです」
霞「やっぱり大石って言ってるじゃない! っていうか誰よッ!」
霰「おわり」
提督「わかった。では最後に霞」
霞(はぁ……もう普通でいいか……)
霞「駆逐艦、霞よ。 敵が戦艦だろうと空母だろうと、負けないわ。 以上」
提督「はい、みんなお疲れさま。 結果から言うと、第三問は霞以外、全員正解! MVPは朝潮だ」
朝潮「本当ですか! 嬉しいです!」
霞「だーかーらぁ……だから何で私が不正解なのよ!
大潮は名前しか言ってないし、霰は名前すらきちんと言えてないじゃない!」
提督「そうだな」
霞「それでまともに答えた私が不正解って、冗談じゃないわ!」
霰「霞、おちついて……」
霞「大石は黙ってて!」
提督「私が試したのは、君たちらしさ……個性を表現できるかどうかだ。
イジりたくなる真面目さを持つ朝潮。おっとりしてるがたまに怖い荒潮。
大潮はシンプルな元気さ。寡黙でありつつも、ユーモアを備えた霰」
霞「じゃ、じゃあ私の場合は……何が正解だって言うのよ……」
提督「それを私が言っても意味がない。 『霞らしさ』を完璧に表現できるのは、他でもない、霞なんだ」
霞「……そんなの、知らないわよ! このクズ!!」
提督「おぉ、よく分かってるじゃないか」
提督「第四問!」
デデン!
提督「今回は単純に、君たちの思考の瞬発力と正確さを試したい。
瞬時に私との意思疎通がはかれる、そんな艦娘になってもらいたいからだ」
霞(次こそは……)
提督「では、これから私の問いかけに、全員同時に答えてもらう。 準備はいいか?」
一同「はい!」
提督「コホン…… 『餃子の』ォー?」
朝潮「王将です!」
荒潮「王将ね」
大潮「オオシオです!!!」
霰「王ぃ将」
霞「……え、あ」
提督「はーい。 じゃあ霞以外は全員正解っと。 MVPは元気の良かった大潮でいいかな」
霰「てきとう」
霞「……ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
提督「今度はどうした霞。 今の不正解は文句ないだろう」
霞「うっ……たしかに答えられなかったのは認めるわ。でも大潮だって!」
提督「大潮はさっきなんて答えた?」
大潮「オオ……オウショウです!」
提督「だそうだ。これ以上、言った言ってないを繰り返しても仕方がないし、ジャッジの撤回は無しだ」
霞「…………クズ」ウルウル
霰(おおいしっていったの、だれもきがつかなかった……)
提督「さぁ次で最後の問題となるが、その前に現在の点数のおさらいをしておこう。
暫定一位は9ポイント、MVPを二回獲得した大潮!」
大潮「やったー! 大潮、このままアゲアゲで頑張ります!」
提督「二位は8ポイントの朝潮! かわいい!」
朝潮「この成果も司令官のおかげです。 ありがとうございます!」キラキラ
提督「そして三位は荒潮と霰。 7ポイントだ!」
荒潮「あら~。 私、まだまだ諦めませんよ」
霰「ぎょーざ、たべたくなってきた」
提督「そして五位は、たったの1ポイントの霞!」
霞「フン! 悪かったわね」
提督「いやいや諦めるのはまだ早い。 最終問題は、なんとMVPに334ポイント!」
荒潮「何となく読めてましたけどねぇ」
霰「おやくそく」
霞(ってことはつまり……この問題で正解してMVPを取れば……私は改二に! 絶対に、負けない!!)
提督「では、泣いても笑っても最後、第五問!」
デデン!
提督「第二問の時に、思ったことと反対の事を言う試験を行ったが、
逆に今回は、思ったことを素直に言う試験を行う」
大潮「それって、簡単なんじゃないですかー?」
提督「いいや、そんなことはないぞ。君たちは誇り高き艦娘なのだ。
時には恥ずかしくて本当のことを言えないこともあるだろう」
霰「霞がたまにオネショするとか」
霞「しないわよ!」
提督「例えば……これから私が言う質問に、イエスかノーで、心の中で答えてみてくれ」
朝潮(はい。 分かりました、司令官)
提督「みんな、間宮さんのアイスは好きか?」
一同「 YES! YES! YES! YES! YES! 」
提督「いやだから、声に出さなくていいからな。 ……じゃあピーマンは好きか?」
一同( NO! NO! NO! NO! NO! )
提督「戦場で華々しく、そして凛々しく戦う駆逐艦。
そんな彼女らがピーマンを食べられないなんて民衆が聞いたら、どう感じるだろうな?」
朝潮( たしかに私たち艦娘が…… )
荒潮( ピーマンが苦くて食べられないなんて…… )
大潮( 言えな…… )
霰( い…… )
提督「君たちには、今からその気持ちを、まっすぐに私の目を見て言ってもらう。
たとえそれが恥だとしても、勇気を振り絞って言ってのける姿を、私に見せてくれ」
霞( 言ってみせる……。たしかにこのクズに向かって弱みを見せるようでシャクだけど……言ってやる!
誰よりもハッキリ、誰よりも大きな声で……しっかり目を見て言いきってみせる!! )
提督「準備はいいな?」
一同「はい!」
提督「よし。 では朝潮、ピーマンは好きか?」
朝潮「き、嫌いです!」
提督「荒潮、ピーマンは好きか?」
荒潮「……嫌いよ」
提督「大潮、ピーm」
大潮「キライです!」
提督「霰、ピーマンは好きか?」
霰「きらい」
霞( 次は私の番……絶対に……絶対に………… )
提督「霞、私のことは好きか?」
霞「大ッッッッ嫌いよッ!!!!!!!!」
提督「…………」
霞「……え、あ、あれ? あっ、いや、違ッ!」
提督「…………」
霞「……ちっ、違う! ん? ……違わないわよクズ!」
霰「どっち」
提督「ん? なになに、もう少しハッキリ言ってくれないとなぁ」ニヤニヤ
霞「……っるさい……うるさいバカァ!」
提督「えっ」
霞「私にばっかイジワルして! 気に入らないならそう言えばいいじゃない!
○んじゃえクズ!! バカ! ハゲ! 童貞!! うわぁあああああん」タッタッタ
荒潮「霞ちゃん、泣いてたわねぇ……」
朝潮「私、霞を追いかけます!」タッ
提督「朝潮、待て」
朝潮「は、はい!」ピタッ
提督「結果発表……そして、さらなる改装――改二の実装ついて、君たちに話しておきたい」
~ 駆逐艦寮 ~
霞「はぁ……知らないわよ……あんなクズ……」
朝潮「霞」
霞「なによ、お説教でもしに来たの?」
朝潮「上官に対する暴言は、営倉入りでは済まされないわ」
霞「フン……本当のことを言っただけよ」
朝潮「司令官は……ハゲてないわ」
霞「そこしか訂正しないのもある意味暴言よね……」
朝潮「でも、司令官はそんな霞を許してくれたわ。 むしろ興奮したって」
霞「とことんクズじゃない……」
朝潮「それよりも、司令官は霞のこと、嫌ってなんていないわ」
霞「嘘ばっか。 私をあれだけコケにしておいて」
朝潮「霞は、司令官のことが嫌い?」
霞「き、嫌いよ! さっきも言ったでしょ、大っ嫌い!」
朝潮「でも今、霞は司令官に嫌われて拗ねている。 矛盾しているわ」
霞「拗ねてなんか――」
朝潮「司令室で言った霞の『大嫌い』が嘘なら、やっぱり最後の問題も不正解ね」
霞「あっそ。だったとしても、あれにはもともと、私を改二にさせるつもりなんて無かったのよ。
……それで、結局のところ改二実装は誰になったわけ?」
朝潮「そのことについては、ヒトナナマルマルに司令官から正式な発表が行われるわ」
霞「ふーん。ま、どうでもいいけどね。 ……っていうかずっと気になってたんだけど、
普段あまりこの鎮守府から外へ出ないくせに、なんで皆して餃子のナントカっていう店なんて知ってたのよ」
朝潮「それは昨日、私と荒潮、大潮、霰の四人で行ってきたからよ。
『休日だからたまには姉妹で外出したらどうだ』と、司令官から有効期限間近の割引券を頂いて」
霞「はァ!? 私、そんなの知らないわよ!?」
朝潮「呼んだけど、訓練するからって、断ったじゃない。休日なのに」
霞「あ……」
朝潮「満潮も入渠中だから、行くの止めようとも思ったけど、『自分のことは気にするな』って言ってくれたわ」
霞「満潮らしいじゃない」
朝潮「それと、もし霞がアノことで落ち込んでいたら、元気づけてやってくれって」
霞「大きなお世話よ……」
朝潮「司令官もきっと、同じ気持ちだったのよ」
霞「……え?」
朝潮「姉妹で外出せよと言ったのも、ああして直々によく分からない試験を行ったのも……。
全部、いつもの霞を取り戻すためだったんだと思うわ」
霞「……」
朝潮「荒潮や大潮、霰も同じ。あぁやってふざける姿は、いつも私たちが見てきた姿じゃなかった?」
霞( たしかに……いつもの私ならあの程度で怒ったり泣いたりなんて………… )
朝潮「少しは司令官や仲間の優しさを、分かってくれた? ……ううん、思い出してくれた?」
霞「わたし……」
朝潮「うん」
霞「私……みんなに、ひどいこと……言っちゃった……」ポロポロ
朝潮「うん、もう十分よ。さ、行きましょう」
霞「行くって……」
朝潮「もうそろそろ、ヒトナナマルマルよ」
~ 講堂 ~
全艦娘「がやがや……」
朝潮「ヒトナナマルマル。これより、大本営による定期通達の報告会を執り行います。
司会は秘書艦の朝潮が務めさせていただきます。 総員、敬礼」
全艦娘「……」ビシッ
朝潮「それでは司令官より、通達の内容をお伝えします」
提督「大本営からのアップデート内容を伝える前に、ひとつ話しておかなければならないことがある。
これは二日前の夜…この鎮守府に向かう輸送船団護衛の任務を行っていた第四艦隊の話だ――」
霞「……」
提督「輸送船団はここに来る途中で敵潜水艦による襲撃を受けた。
幸い、雷跡に一番に気が付いた満潮が輸送船をかばって被害は抑えられた。しかし満潮は大破し、
敵潜水艦はさらに攻撃態勢を整えていた。全員で反撃に出ればおそらく仕留められただろうが、
その場合、満潮が沈められていたかもしれなかった」
提督「かといって、撤退を続けていれば、輸送船団の速力ではいずれ追撃を受けて壊滅していた。
そこで旗艦は判断した。速力の遅い輸送船は放棄。船員は同行していた高速船に移乗させ、全速力での撤退……。
旗艦だけが単独で潜水艦の足止めを行い、その後、全艦無事海域を離脱した」
提督「結果として、一部の高速輸送船は帰港したが、任務としては失敗だ。
今後の大規模作戦に向けての重要な輸送任務だったということもあり、こちらとしても被害は甚大。
今回の作戦失敗で大本営からは批難轟々、有ること無いこと言いたい放題だ」
コツ……コツ……コツ……(壇上を降りる提督)
提督「……だが私は、決して後悔していない」
コツ……コツ……コツ……
霞( え、やだ……こんな時に……こっちに近づいて…… )
提督「戦場での旗艦の判断は、正しかったと確信している」
コツ……コツ……コツ……ピタ
提督「――だから霞、よくやってくれた。 ありがとう」
霞「なっ……で、でも……私は……私のせいで……」
提督「それからこれ、受け取ってくれ」ペラッ
霞「感謝……状……?」
提督「お前が命をかけて守った輸送船の船員達からだ」
霞「私が……守った……」
提督「それからもう一つ、これも受け取ってくれるか?」ペラッ
霞「……かい、に……改二実装、計画書……駆逐艦…………霞……!? うそ……どうして……」
提督「唯一無事だった輸送船が運んだ書類だ」
霞「そ、そうじゃなくて! あの試験で私は……」
提督「あぁ、あれね。あんなのはただのお遊びだ」
霞「えっ!?」
提督「改二実装なんて私の一存で決められることじゃないからな。
霞の改二実装は大本営が前々から決定していたことだ」
霞「そ、そう……前々から……」
提督「だが、改二実装の計画書が届いてから霞に渡すまでの判断は、私の仕事だ。
霞自身にその資格が無いと判断したら、渡さないつもりでいた」
霞「私には……その資格があるって言うの……?」
提督「あるとも、十分にな。
人命を最優先と考えた瞬発力と、判断の正しさ。
撤退することで重要な作戦が失敗に終わることを理解したうえでの、勇気ある決断。
輸送任務は失敗したが、霞の頑張りは人命を救ったという大きな成果を得た。
多少言葉にトゲはあるが、その『霞らしさ』が、その手にある感謝状に繋がったのだ」
霞「……私、らしさ」
提督「どうだ? そう考えると例の試験も、いつもの霞なら余裕だったと思わないか?」
霞( そうか……あの試験で試されていたのは全て……任務失敗でふて腐れた私が……失っていたもの…… )
提督「あ、でも途中で面白くなって、からかいすぎちゃったのは本当に悪かっ――――」
霞「――私の方こそ!」
提督「……?」
霞「私の方こ……うっ……ぇぐ……ごめ、なさい……」ポロポロ
提督「霞……」
霞「私……あんなこと言っちゃったけど……司令官……信頼してるし、尊敬してるし……
全然イジワルなんかじゃ…ないし…………ハゲてもない……」
提督「お、おう……」
霞「それに……私……嘘、ついちゃった……」
提督「嘘?」
霞「私……本当は…………本当は司令k――」
朝潮「司令官の……?」
荒潮「司令官のことがぁ……?」
大潮「司令官のことがぁーー??」
霰「だーい……?」
ニヤニヤ……ニヤニヤ……(期待の目で霞を見つめる艦娘たち)
霞「あっ、アンタたち―――――ッ!?/////」カァッ
朝潮「さすが霞ね」
荒潮「こーんな大勢の前で」
大潮「司令官に愛の告白……!」
霰「ふつうじゃない」
霞「あ……あぁ…………/////」プシュー
提督「で、何だって?」
霞「――――――――――っ!?!!??」
提督「司令官のことが? だーい?」ニヤニヤ
霞「だ……だ……大ッッッッ嫌いよォオ!!! このクズー!!!!!」
(おわり)
朝潮型の可愛さを少しでも表現できたらなと思い、書きました。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
良い。