提督「輝け、ないない駆逐隊!」 (80)



浦風「雑誌の……取材?」

提督「そうだ」

浜風「それはなかなか珍しいですね。良いのですか? 鎮守府内に部外者を入れてしまっても」

提督「たしかにウチには機密情報が多いため、極力部外者を入れないようにしてきた。

   だがしかし、それは国民に対する不安感を煽ることにも繋がる」

雪風「どういうことでしょう?」

天津風「あたしたちの戦場は本土から遠く離れた海の上。一般の人の目に触れることはまず無いわ。

    だから艦娘の存在自体は知られていても、何をしているのかなんてほとんど知られてないのよ」

時津風「ふぅーん。だから時々お披露目する場が必要ってことかぁー」

島風「でもそれなら観艦式とかあるじゃん。それじゃダメなの?」

提督「それは我々が主催しているもの。時にはメディアからの要求に応えることも必要なんだ」

浦風「ほぉ~。じゃあうちら、雑誌に載るんじゃね!」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1461932975



①提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」( 提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454071396/) )

②提督「踊れ、ないない駆逐隊!」( 提督「踊れ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457606813/) )



天津風「その取材って、いつ頃なの?」

提督「来週中だそうだ」

天津風「来週!? や、ヤダ……じゃあ誌面いっぱいに写真が載っちゃったりして……ハッ!

    前髪大丈夫かしら……こっちには切るの上手い人いるかな……」

時津風「えへへー、時津風、有名人になっちゃったりして~」

雪風「雪風も、ついにテレビデビューです!!」

提督「雑誌な」

島風「島風が一番速いってこと、絶対に書いてもらわなくちゃ!」

浜風「……ですが、それをわざわざ我々に先行して伝えたということには、何か理由があるのでは?」

提督「さすが浜風、察しが良いな」

天津風「うっ……なんか嫌な予感がするんだけど……」

提督「君たちないない駆逐隊には、取材記者への対応を一任しようと思う」



一同「えぇえーーーっ!!?」






時津風「……って、驚いてはみたけど、これって喜ぶべき? 残念がるべき?」

天津風「いや、まぁ取材記者への対応があたし達に任されるってことは、

    それだけ雑誌に自分らのことを多く取り上げてもらえるってことかもだけど……」

島風「でもちょっと、大変そうだなぁ」

雪風「大役だと思います!」

浦風「うちらの対応しだいで、艦娘や鎮守府に対するイメージが決まりよるけんね……」

提督「当日は施設の案内や仕事内容の説明や実演、インタビュー対応など……

   スケジュールは君たちで適当に決めてもらって構わない」

浜風「待ってください提督。そもそも我々はこの鎮守府所属ではないのですが……」

提督「いや、今はうちの所属で、私の艦娘だ」

浜風「ですが鎮守府を案内しようにも、我々も把握しきれていません」

提督「だろうな。そう言うだろうと思って、助っ人を二人、君たちの補佐として任命しておいた」

天津風「助っ人?」

提督「あぁ。古くからこの鎮守府のことをよく知ってる、それはそれは『小さな』艦娘だ」













           ~ 駆逐艦寮 会議室 ~




天津風「……というわけで、あたし達ないない駆逐隊が主体となって

    外からやってくる記者さんの対応をすることになったわけだけど……」

雪風「ハイ! 皆でカレーをご馳走するのがイイと思います!」

島風「私たちがどんな仕事をしてるかを取材に来るんでしょ?

   カレーばっかり作って食べてるみたいに思われそうじゃん」

時津風「えー、でも、だからって戦闘や遠征に同行させるわけにはいかないでしょー?」

浜風「そもそも我々のありのままを見てもらうための取材なのですから、特別なことをする必要はないのでは?」

浦風「そうじゃね。うちも同感じゃ!」

天津風「えぇっと……それじゃあつまり、当日まで特に何か準備したりする必要はないってこと?

    それはいくらなんでも無計画すぎない?」

雪風「やっぱりカレーだけは外せないと思います!」グゥ~

時津風「それ、雪風が食べたいだけでしょ」

島風「じゃあもう一日ずっと提督の隠れ密着取材とかでいいんじゃない?」

天津風「それ、下手したら逮捕されかねないわね、提督……」



浜風「私が言いたいのは、あちらはあちらで取材のプランを立てているでしょうから、

   こちらで色々と身構える必要はないだろう、ということです」

浦風「うんうん。うちもそれが言いたかったんじゃ!」





???「ホンマ、噂以上に滅茶苦茶なチームやな……自分ら」

???「個性的って言ってあげようよそこは」





一同「…………!!?」

龍驤「いやオカシイやろその、『急に誰やアンタ!?』みたいな反応。ウチらさっきからずっとココにおったで」

瑞鳳「急に割り込んできちゃってごめんね? 私たちも何かお手伝いができればと思って」

天津風「いえ、ありがとうございます! よろしくお願いします。えっと……」

龍驤「申し遅れたなぁ。ウチは軽空母、龍驤や。よろしゅー頼むで」

瑞鳳「同じく軽空母の瑞鳳です。よろしくねっ」



島風「……なーんだ。鎮守府の古参って言ってたから、戦艦か正規空母の人かと思ったのに」

瑞鳳「け、軽空母だって、練度があれば正規空母並みの……」

時津風「いやー、さっきからそこにいたのは気付いてたけど、てっきり通りすがりの住人かと思って」

龍驤「誰が住人や。ここ、駆逐艦寮なんやけど?」

雪風「でも安心しました! 同じ駆逐艦の人なら、仲良くやっていけそうです!!」

龍驤「だから軽空母やこのチビ!!」

雪風「ひぃ!?」

瑞鳳「ま、まぁまぁ龍驤ちゃん。悪気があって言ってるわけじゃないんだし……」

龍驤「はぁ……しゃーないなぁ。ここは大人の余裕っちゅーもんを見せたるわ」

浦風「お二人とも忙しい中、時間を作ってくれとるけん。ぶち感謝じゃ」

龍驤「ほーう? 問題児ばっかっちゅう噂やったけど、きちんとお礼の言えるまともな駆逐艦も……」

浦風「…………」

龍驤「駆逐艦……も……」

浦風「…………?」ボイーン

龍驤「…………」ストーン

浦風「ん? 龍驤さん?」

龍驤「……はは、ははは。こらこら君ぃ、嘘はアカンでぇ嘘は」

浦風「はい?」



龍驤「自分、駆逐艦とちゃうやろ?」

浦風「うちは陽炎型駆逐艦、浦風じゃけど?」

龍驤「は……ははーん? 分かったでぇ。まぁ、ませた駆逐艦にはありがちなことや、なぁ瑞鳳はん?」

瑞鳳「え? ……何が?」

龍驤「ふっ……ウチはあの金剛型や一航戦よりも長くここにおる。

   他は騙せても、ウチの目だけはごまかされへんで!」

浦風「…………?」

龍驤「自分、下着のサイズが合うてへんやろ!!」

浦風「なっ…………なんで分かったん!!??」

龍驤「やれやれ、バレバレや。まぁ、文字通り胸を張りたいお年頃っちゅーのは分からんでもないけど――――――」

島風「うわー。浦風、また大きくなったんだぁ。遅そー」

天津風「そういうことはきちんと言いなさいよ。体に毒よ」

浦風「うん……。ちぃと恥ずかしゅうて、言えんかってん……」

雪風「しれぇに言って新しいのを買ってもらいましょう!」

時津風「いやー、それはやめといた方がいいと思うなぁ」

浦風「うぅ……じゃあどうりゃあええん?」

雪風「あっ! そういう時こそ、何でも知ってる龍驤さんに聞けばいいと思います!」

島風「ぷっ……」

天津風「ま、まぁ分からないことを先輩に聞くのは普通よね……」


龍驤「…………」ゴゴゴゴゴゴ


浦風「そうじゃね! ほんなら龍驤さん。龍驤さんは下着を買うとき、いっつもどうしとる?」

龍驤「うっさいわボケ! ちったぁ自分で考えろやデカチチ女!!」ベシッ ボヨ~ン

浦風「ひゃっ! うぅ、浜風ぇ。この変な口調の人、うちに乱暴するぅ~」

龍驤「お前が言うなや!」

浜風「遠回しに胸部の格差を指摘され敗北感を負わせてしまったことは謝ります。

   ですが浦風に対する暴力は、私が許しません」

龍驤「言葉の暴力はえぇんか!?」

瑞鳳「まぁまぁ落ち着いてよ龍驤ちゃん。悪気があって言ってるわけじゃないんだし……」

龍驤「いやあるやろ悪気! 青い乳はともかく、こっちの銀の乳の方が明らかに言葉を選んでへんやろ!!」

島風「色で判別されてる……」

天津風「ごめんなさい龍驤さん。浜風はなんというか、思ったことをスグに口にしてしまう性格で……」

龍驤「はん! どーせ他のチビもウチのことをサーフボードだとかまな板だとか思っとるんやろ!」

時津風「いやー、サーフボードっていう発想は……」

龍驤「言うとくけどな! ウチは着ヤセするタイプや! 他のチビちゃんらには負けてへんで!」

島風「別に張り合おうだなんて思ってないし」

天津風「あの、それよりも本題の方を……」

龍驤「いやアカン! 白黒はっきりつけたる! 全員そこに整列や!!」

瑞鳳「龍驤ちゃん……大人の余裕は…………」










          ~ 数分後 ~





瑞鳳「え、えーっと、それじゃあ気を取り直して、取材記者さんのおもてなしを考えようと思います」

天津風「すみません瑞鳳さん。司会を代わってもらっちゃって」

瑞鳳「ううん、気にしないで。私、おねーさんなんだからっ」

龍驤「せやな。頑張りや」

瑞鳳「龍驤ちゃんはいつまでも落ち込んでないでやる気出して!」

浜風「それでどうするのですか? 当日まであまり時間はありませんが、我々は何かを用意するべきなのでしょうか?」

瑞鳳「うーん。最初に浜風ちゃんも言ってたように、やっぱり見てもらうべきなのはありのままの私たちだから、

   変に何かを取り繕う必要はないんじゃないかなって思うの」

時津風「ふぅん、そっかー。 じゃあこの会議自体、する意味ないんじゃないの?」

瑞鳳「ううん。そんなことないよ。

   例えば『演習の様子が見たい』って言われて演習場に行ったけど、その時間には誰もいなかったり、

   記者さんの質問に対して皆がバラバラな回答をしていたり……あと、

   鎮守府内で見せても良い場所と悪い場所があったりするでしょ? そういう意識合わせが必要なんじゃないかな?」

島風「おおー。そう言われてみれば、確かにそんな気がする」

雪風「さすが軽空母のお姉さんです!!」

浦風「うちらじゃぁそこまで考えつかんかったかものぉ」

瑞鳳「え? あははは、いやぁー、もぉー、照れちゃうなぁー、えへへ」



龍驤「なんでや」スッ

瑞鳳「ひぃ!?」

龍驤「なんで瑞鳳はんだけ、そんな羨望の眼差しを……」

瑞鳳「もう、だったら龍驤ちゃんもしっかりしてよ!」

龍驤「瑞鳳はん……ウチの方が先輩や、『龍驤先輩』と呼びや」

瑞鳳「えー? ヤだよ。普段から龍驤ちゃんって呼んでるのに」

龍驤「ウチらは軍人や。上下関係がしっかりしとるっちゅーとこを、取材の人に見せつけんと」

瑞鳳「いやだから、ありのままの姿を知ってもらおうっていう話をしてたトコなんだけど……」

龍驤「えぇか瑞鳳はん? 世の中には体裁って言葉がある。

   ありのままを表現するのは大いに結構や。けどな? 大人として最低限の部分は取り繕わなアカン」

瑞鳳「ふーん。最低限の部分かぁ」ジトー

龍驤「な、なんやその目は」

瑞鳳「私、知ってるよ? 観艦式とか七夕祭りとか、外からお客さんが来るとき、

   龍驤ちゃんいつも“カサ増し”してるよねぇー?」

龍驤「な、なぜそれを!!?」

瑞鳳「大人として涙ぐましい努力をしてるもんねぇ龍驤ちゃん。取り繕うことも大事だよねぇ。

   でも私たちからしたらバレバレっていうところが、さらに泣けてきちゃうんだよねぇ」

龍驤「おいコラァ! 言って良いことと悪いことがあるやろ!!」




島風「私たちが言うのもアレだけど、血の気の多い駆逐艦はよくケンカするって言うよねぇ」

天津風「本当に大丈夫かしら、これ……」













         ~ 数分後 ~








瑞鳳「ということで、取材当日の演習スケジュールについては把握できたね?」

浦風「とにかく演習場が空いとる時間さえ分かれば、無駄足は避けられるってことじゃね」

天津風「大丈夫だとは思うけど、一応当日に演習の予定が入ってる人には

    見学に行くかもしれないことを伝えておいた方が良いわね」

龍驤「んで、次は記者からの質問に自分らがきちんと答えられるかどうかやけど」

雪風「雪風、何でも答えられると思います!!」

龍驤「ほーう? えらい自信やな。 じゃあ問題や。

   夜戦を終えて真夜中、母港へ帰投しようにも羅針盤が故障した。どないする?」

島風「なんでクイズみたいになってるの……」

天津風「うーん……たしかに夜戦で羅針盤が故障することはたまにあるけど、

    6人のうちの誰かの羅針盤が生きていればそれで事足りるものね……考えたこともなかったわ」

雪風「まず、木の棒を取り出します!」

龍驤「どこから出すつもりや、海の上やで」

雪風「そして地面に突き立てます!」

龍驤「だから海の上やっちゅーに!!」

雪風「念じた後に手を放して、棒が倒れた方向が目的地です!」

龍驤「はいアホ、次」

時津風「あっははは、おバカだなぁ雪風は。時津風は知ってるよ。

    羅針盤がなくて方角が分からなくなったときは、切り株を見るんだよ。知ってた?」ドヤッ

雪風「知りませんでした!」

龍驤「海上のどこに切り株があんねん」

島風「それ、年輪の間隔が広い方が南ってやつでしょ」

天津風「迷信だって聞いたことあるけど」

時津風「え、そうなの?」

龍驤「はい次、なんやギブアップかいな?」



浦風「日光がありゃぁ多少は分かるんじゃけど……うーん、浜風はどうじゃ?」

浜風「答えは星です」

瑞鳳「すごい、正解!」

浜風「北極星はほぼ真北に存在しているので、それを頼りに航路を定めることが可能です」

浦風「さっすが浜風じゃ! やっぱり頼りになるのぉ」

龍驤「やるやないか銀乳。……っていうか、フネとしてこんなん基礎の基礎や。

   自分らこんなことも知らんでよう艦娘になれたな……」

天津風「ま、まぁ……たしかに養成所時代に習ったかもだけど……」

島風「スピードさえあれば問題なかったもん」

浦風「うちらには浜風という頭脳がおるけん、なーんも心配ありゃせん」

龍驤「ならこれはどうや? 海洋のど真ん中で待機命令出た。その時の暇つぶし方法は?」

島風「そんなの何でもいいじゃん……」

天津風「だいたい待機命令なんだから、暇つぶしなんて考えずに周囲を警戒するべきじゃないかしら?」

龍驤「ごちゃごちゃ言うなや!」

瑞鳳「龍驤ちゃん、ムキになって変な問題出さなくても……」

雪風「ハイ! ジャンケンして遊びます!」

龍驤「一人の場合はどないするんや?」

雪風「一人でジャンケンします!」

龍驤「人生楽しそうやな自分……」

浦風「うーん、浜風は何か思いつく?」

浜風「……いえ。というより、問いが漠然としすぎていて何とも」

龍驤「なんや銀乳。降参かいな? はっはっは、まぁしゃーないわな。子供には難しすぎる問題や」

時津風「でー? 答えは?」

龍驤「答えはズバリ……テレビや」

浦風「テレビ……?」

天津風「海の真ん中で、どうやってテレビが見れるんですか?」

龍驤「正確にはテレビを聴くっちゅー答えになる。

   おそらくこの方法を知ってる艦娘は、鎮守府の中でもほんの数人だけや」

瑞鳳「……って言いながら今みたいに、自慢気に色んな人に教えてるから、

   今ではほとんどの人が知ってるんだけどね」

龍驤「まず電探の受信レベルを最大にする。んで、アンテナの一部を微妙に屈曲させつつ色んな方向に向けてみる。

   そうするとあら不思議、テレビの電波を受信してしまうことがあるんや。原理は知らんけど」

島風「……ふーん。でも私、電探持ってないし」

天津風「たしかうちの部隊で電探が与えられているのって、浜風だけだったわよね?」

浜風「貴重ですからね、電探は」

浦風「浜風が一番上手に扱えるけん、提督代理の翔鶴さんが持たせてくれたんじゃ」

龍驤「なら、一度試してみることや。そしてウチの博識ぶりに敬意を表すとえぇで」

浜風「ありがとうございます。ですが取材時にコレを言ってしまったら、

   遊んでいるように思われてしまうので、知らなくても良い情報でした」

龍驤「なんやと!?」

瑞鳳「落ち着いて龍驤ちゃん。すごく正論だよ……」
















瑞鳳「じゃあ基礎的な知識の共有はこれくらいにして、あとは見せても良い場所と悪い場所のおさらいでもしよっか」

雪風「見せたらいけない場所って、どこでしょう?」

天津風「そりゃ資料室とか工廠の深部とか、機密情報に関わるところじゃない?」

時津風「ふーん。別にどこを見られても都合の悪いことなんてないんだけどなー」

瑞鳳「まぁ、私たちからすればそうだけど、ここは一度提督に相談した方がいいかもしれないね」

龍驤「ウチから言わせてもらえば、自分らの格好が一番危ういような気がするんやけど」

浦風「ん? 何か変かのぉ?」

瑞鳳「浜風ちゃんと浦風ちゃんはともかく、他の子たちはちょっと刺激が強いとういうか……。

   時々見えそうになってちょっとドキドキするから、せめて下に何か履いてほしいかなぁ」

天津風「瑞鳳さん、あたしは駆逐艦天津風として、この服装に誇りを持っています。改良するのは嫌です」

雪風「雪風も、このお洋服は気に入っています! 動きやすいです!」

時津風「オシャレでかわいいと思うんだけどなー」

島風「別に普通でしょ」

龍驤「あんたのが一番普通じゃないやろ」

浜風「待ってください。彼女たちよりも、もっと見せてはいけない人物が一人います」


一同「………………」


天津風「……提督ね」

浜風「はい」

天津風「提督は一番取材を受けるべき人物だけど、それ以上に取材を受けてはいけない人物だわ」

浦風「あの提督さんじゃけんねぇ……記者さんの前で何言い出すかわからんしねぇ」

浜風「あの方も大人ですから、体裁を保つ振る舞いはするだろうと思います。

   しかし、いつボロが出てしまうか分かりません。最も注意すべき存在だと考えます」

島風「控えめに言って、変人だもんねー提督」

雪風「雪風はしれぇのこと、面白い人だと思います!」

時津風「まぁー、遠くから見てる分には」

瑞鳳(うわぁ……提督、来たばかりの子たちからもヒドイ言われよう……)














            ~ 取材日前夜 桟橋 ~





浦風「あ、浜風。どこにも見当たらんと思ったら、こがぁなトコにおったんじゃの」

浜風「浦風?」

浦風「空なんて見上げて、何しょおったん?」

浜風「いえ、ただ……翔鶴さんや陽炎たちは、今頃どうしているだろうかと考えていただけです」

浦風「そうじゃねぇ。ここへ来てだいぶ経ったけぇねぇ」

浜風「浦風は……私たちの鎮守府に、帰りたいですか?」

浦風「うーん……たしかにここも素晴らしい鎮守府じゃけど、できれば帰りたい……かなぁ? 浜風は?」

浜風「私は別にどの鎮守府所属だろうと構いません。

   ただ、このまま『ないない駆逐隊』であり続けるのは、少し癪です」

浦風「たしかにそうじゃね。浜風みたいな優秀な艦娘、そうそうおらんのに」

浜風「いえ、最もこの不名誉な隊にふさわしくないのは浦風……あなたです」

浦風「え?」

浜風「あなたは私に…………私たちに巻き込まれる形で『ないない駆逐隊』の一員となりました。

   このまま浦風が落ちこぼれ呼ばわりされるは……」

浦風「………………考えすぎじゃて」

浜風「いえ、ですが……」

浦風「やっぱり取り消し。うちも所属に関しては、どこでもえぇ。

   浜風と一緒ならどこでもえぇし、どんな風に呼ばれたって、うちは構わんよ」

浜風「…………」



浦風「なぁなぁそれより浜風。前にお星さまの話しとったじゃろ? うちにも教えて欲しいな」

浜風「あ……北極星のことですか?」

浦風「うん。うちな、あの話聞いて、ぶち感動したんじゃ。浜風は本当に何でも知っとるのぉ」

浜風「そうやって私を褒めてくれるのは、浦風だけです」

浦風「そのうち皆も、浜風のスゴさに気づくじゃろうて」

浜風「そうですか……。 さて、では北極星についてですが……

   地球における北極星はあの恒星、こぐま座のポラリスです」

浦風「ポラリス? 北極星って名前じゃないん?」

浜風「『北極星』というのは、地球の自転軸の延長線上……地上から見てほとんど動かない星のことを示します」

浦風「その条件に当てはまるのが、そのポラリスっていう星?」

浜風「そうです。そしてほんの少しずつ動いているので後々北極星はポラリスからケフェウス座の星へと移り変わります。

   まぁ、何千年後の話ですがね」

浦風「なるほどぉ。『北極星』っていうのは、役職みたいなモンなんじゃね?」

浜風「はい。そして北極星の見つけ方ですが、北斗七星を目印にすると分かりやすいと言われています」

浦風「それならうちも分かるよ。あの柄杓の形をした七つの星じゃね」

浜風「えぇ。まずはその北斗七星、柄杓の先端であるα星とβ星を見つけます。

   その2つの間隔を、柄杓の口が開いた方向に5倍ほど延長した場所にポラリスがあります」

浦風「おぉ、なるほど。うんうん、へぇ~。これでまた一つ、うちも賢くなったのぉ」












              ~ 取材 当日 ~





記者「本日は取材の許可を頂きましてありがとうございます」

天津風「は、はははハイ。こここ、こちらこそ、よよよ、よろしくお願いしましまします」




島風「なんで天津風ちゃん、あんなに緊張してるの?」

雪風「艦娘以外の人とお話しするのは苦手だって言ってましたっ」

時津風「だったら別の人が応対すればよかったのに」

浜風「天津風は我々の旗艦であり、何より秘書艦様ですからね。相応の責任感があったのでしょう」

浦風「でも記者さん、女の人だったんじゃねぇ。ちぃと安心したわ」




天津風「わ、ワタクシは、提督の秘書艦を務めます、かか、陽炎型駆逐艦、天津風と申しましゅ!」

記者「ふふっ、はい天津風さん。よろしくお願いしますね」

天津風( あぁーっ! 噛んだ! 笑われた! もういやぁー! )カァアアッ




浜風「あれでは心配なので、我々もできる限りサポートしましょう」

時津風「だねー」

















           ~ 演習場 ~






雪風「朝起きて歯を磨いて顔を洗って着替えてご飯を食べてちょっとくつろいだら、まずは訓練です!!」

天津風「ごめん。雪風は少し黙ってて」

雪風「えぇーっ」

天津風「あたしたち駆逐艦は、基本的に同型艦で艦隊を組むことが多いです」

記者「なるほど。それであなたたちは、陽炎型のチームなのですね?」

島風「陽炎型じゃないし……」

時津風「お姉さんほらー。あっちで駆逐艦の艦隊が演習を始めるよー」

浦風「白露型と特三型の艦隊戦じゃね」

浜風「白露型の駆逐隊は、うちの鎮守府ではナンバーツーの実力を保持していると言われています」

記者「へぇ……艦娘さんは本当に海上を滑っているのですね。まるでスケートみたいです。

   しかもあんな小さな女の子たちが、大きな武器を持って」

天津風「見ていてください。あたしたち艦娘が、のうのうと暮らしているわけではない所を。

    深海棲艦との命を懸けた真剣勝負のため、日々精進している姿を!」





   ドォオン!  ドォオン!  ドォオオン!




記者「すごい砲撃音……それにあんなスピードで海上を動き回っているのに、全然艦列を乱さない……」

浜風「使用しているのは模擬弾なので、本来ならさらに大きな砲撃音が鳴り響きます」

浦風「深海棲艦が相手となれば、艦隊運動ももっと激しゅうなるんよ」

記者「これが艦娘……。あれ、ところで彼女たち……

   背中に何か大きな旗のようなものを背負っていませんか? あれは……」


一同「………………」


記者「『白露型参上っぽい!』……『特三型の本気なのです!』…………と書いてありますが……」

天津風( あのおバカ達ぃ~!! あれほどいつも通りにしろって言ったのにッ!! )

浦風「あれはそのぉー…………駆逐隊のシンボルマークみたいなモンじゃけん、気にせんといて」

記者「なるほど。戦国時代の兵士みたいなものですか」メモメモ

時津風( 変なことメモされちゃってる…… )













              ~ 食堂 ~







天津風「訓練を終えてお風呂で汗を流したら、あたしたちは皆この食堂でお昼にします」

記者「広い食堂ですね。それに、とても良い香りが漂っています」

雪風「せっかくなのでおねーさんも、雪風たちと一緒に食べましょう!」

時津風「あっ、向こうが空いてるよー。行こー?」

記者「ありがとうございます。すみません、わざわざ」

浦風「はい、どーぞ。本日のランチはサバの味噌煮定食じゃ」

記者「おいしそうですね。ではいただきます……パク モグモグ……うん、とても美味しいです」

島風「モグモグ……でしょー?

   たまにハズレがモグモグあるけどモグモグ定番メニューはモグモグ美味しいんだよねー。ごちそうさまー」

天津風「島風、お行儀悪いっ!」

記者「それにしても驚きです。海軍ですから、失礼ながらカレーばかり食べている印象がありました」

浜風「たしかにカレーの割合は多いかもしれませんが、さすがにそればかりでは飽きてしまいますからね」

雪風「あ、赤城さんと加賀さんが入ってきました」




一同「…………!!?」




天津風( ……な、なんだか嫌な予感が )



記者「あのお二方は?」

浦風「一航戦の赤城さんと加賀さん、航空火力の要じゃけぇ。この鎮守府になくてはならんお方じゃね」

時津風「あんまり話したことはないけど、瑞鶴さんが何かすっごいグチグチ言ってたっけぇ」

記者「とても重要な存在なのですね」

天津風( 大丈夫かな……あっ、赤城さんこっち見た…………あの『分かってます』って言いたげな表情……。

     良かった、やっぱり大人の女性は安心できる…… )

記者「皆さんにとって、あのお二方はどのような存在なのですか?」

天津風「はい、それはもうあたしたちの頼れるお姉さんで、憧れの的です!

    品行方正で、知的で、凛々しくて、駆逐艦なら皆、ああいう人になりたいって思うくらいに……!!」

島風「あ……」

記者「…………さ、さすがですね。やはりそれだけスゴイ方となると、食べる量もそれはそれは……」



     バクバクバク!  ムシャムシャムシャ!



天津風( いやっ! いつも通りにしてくださいとは言ったけどもーーーーーッ!! )

雪風「へー、天津風ちゃんは大食いに憧れていたんですね! 知りませんでした!」

天津風「うるさいわね! 憧れてなんかないわよ!  ……はっ!?」

記者「あははは………………」

天津風「あ、いや! 今のは違くてッ!」



浜風「自爆ですね」

浦風「自爆じゃねぇ……」













          ~ お昼休み 桟橋 ~






天津風「昼食を終えたあたしたちは、こうやって好きな所でのんびりと、

    寄せては返す波の音色を聞きながら優雅なお昼休みを…………」






          ~~~♪ ~~~♪ ~~~♪





記者「何か大きな音が聞こえますが……?」

天津風「………………」

雪風「あっちから聞こえます! 行ってみましょう!」

時津風「わーい、あははは」

島風「あっ、かけっこなら私が一番なんだから!」







那珂「みんなー! 今日は那珂ちゃんのスペシャルゲリラライブに集まってくれてありがとー!」




   バチバチバチ




記者「えぇっと……あれは……」

浜風「あの方は軽巡洋艦の那珂さんです。唯一の観客であるお二方は、同型艦の川内さんと神通さんです」

浦風「ちぃと前にアイドルを辞めるって噂があったけど、まだ続けとるんじゃのぉ」

記者「アイドル? 深海棲艦と戦う艦娘なのに、アイドルまでやっているのですか?」

天津風「そ、それはその! 副業とかじゃなくて! 片手間で艦娘やってるとか、そういう中途半端なアレじゃなくて!

    なんというか……そう! 自称アイドル! アイドルごっこ!!

    陳腐な真似事をしてストレス発散しているだけですあの人!」

記者「な、なるほど……。まぁ自由時間ですからね」

時津風「うわー天津風、そこまで言うなんてひどー」ボソボソ

天津風「仕方ないでしょ! ふざけてるって思われたらどうすんのよ!」ボソボソ











            ~ 工廠前 ~




天津風「あの建物が工廠です。あそこであたしたちの艤装を整備したり、改装を行なったりします」

記者「ここがすべてのテクノロジーの源になるのですね」

雪風「ちょっと鉄くさいですけど、さっそく中に行きましょう! ……あっ!!」

天津風「うっ……こんな時に……」

記者「……扉の前にどなたかいらっしゃいますね?」

浜風「重雷装巡洋艦の大井さんと北上さんです」

浦風「二人は雷撃のプロじゃ。何十本もの魚雷を同時に放って、

   自分よりも大きな敵の戦艦を容易く沈めてしまう、おっかない人らじゃ」

記者「それはスゴイですね。是非お話を伺いに……」

天津風「ちょっ、ちょっと待ってください! い、今はやめておきませんか? 忙しそうですし」

記者「ただお二人でお話ししているだけのように見えますが……」

時津風( 時津風も最初はそう思って話しかけたら、何故かすっごい怒られたっけ…… )

天津風「いや、あの、あの人たちは今、二人の時間を大切にしていて……!

    二人はほら、新婚夫婦みたいな感じで、お姉さんだってホラ、そういうの邪魔されたくないですよね?」

記者「…………あの方々は、ご結婚なさっているのですか……?」

天津風「え!? いや! まだそんな!」

記者「ということはつまり、今は単なる恋人同士ということですね……」

天津風「えっ、いや、えーっ!?」

記者「私も女子高、女子大と経験したのでお気持ちは分かります。

   女性しかいない鎮守府の中で、こうなることは至極当然のことかと思います……うんうん」

島風「なんかよく分かんないけど、納得してくれたならもういいんじゃない?」

天津風「いや、ダメでしょ色々と……」















             ~ 司令室前 ~





天津風「そしてこの先が……提督がおみえになる、司令室になります」

記者「司令室……なんだか緊張してしまいますね」

天津風「司令室は基本的に提督と秘書艦である私しか立ち入りできませんので、ここからは私一人がご案内します」

記者「お、お願いします……」

雪風「おねーさん! 雪風たちはここで失礼します!」

時津風「ばいばーい」

記者「はい、ありがとうございました」



浜風( 心配いりません天津風。我々も陰ながらフォローします )

浦風( もしもの時は、うちらに任しとき! )

天津風( 頼むわよ、浜風……浦風…… )

島風( 私たち、全然頼りにされてない…… )

雪風( 雪風もがんばります! )

時津風( がんばってねー天津風 )



天津風「では参りましょう。提督、失礼します!」コンコン

提督「うむ。入れ」

記者「…………」ゴクリ

天津風( お願いだから提督……いきなり変な格好とかはヤメテ…………!! )ガチャ




              ギィイイイイ




提督「ようこそ鎮守府へ。私が提督です」

記者「初めまして。本日は取材の許可を頂きまして、ありがとうございます」

天津風( よ、よかった……とりあえず普通だ…… )



提督「何でも聞いてください。お答えできる範囲であれば、何でも構いません」

記者「ありがとうございます。それではその……いきなり重い話になってしまうのですが……」

提督「どうぞ」

記者「国民の皆さんから多く寄せられる、鎮守府に対する意見の一つについてです。

   艦娘はみな、女性です。適性を持つのが女性のみであるというのは分かりますが、

   こちらの天津風さんのような少女さえも戦争に駆り出してしまうのは如何なものか……という意見に対し、

   提督さんはどのようにお考えでしょうか?」

天津風「…………」

提督「そうですね。たしかに戦地へ赴くのはいつも艦娘たち。それも、未来あるうら若き少女たちばかりです。

   だからこそ、彼女らを戦場へ送り出す時……私は悔しい気持ちでいっぱいです。

   もし私自身にその力があれば、誰よりも先頭に立つのにと……」

記者「ですが現状では、彼女らの力に頼る他ありません」

提督「えぇ、その通り……情けない話です。

   ですが彼女たちは皆、平和な国を守るため、自ら志願して艦娘になる道を歩んできた子たちです。

   私はその勇気と愛国心に敬意を表し、常に私にできる精一杯のことをしています」

天津風( 良かった……本音なのかどうか知らないけど、とにかく変なことは何も言ってない……。

     皆にはいつも通りにしてほしいって言ったけど、提督に関してはこれで良し! イケるわ! )

記者「では秘書艦の天津風さんは、艦娘として、提督をどのように思ってらっしゃいますか?」

天津風「えっ!? わ、私!?」

記者「はい」

天津風( いつも……通り……。いや、無理無理!!

     スケベで変態で苦手な人です、なんて言えない!

     だからと言って絶賛すると、この人あとで掘り返してくるし……どうしよう………… )

提督「彼女たちの隊は、うちの鎮守府に来たばかりなんです」

記者「え、そうなのですか?」

提督「はい。深い事情がありまして一時的に他の鎮守府から預かっています。

   ですから私と彼女たちの関係は、まだあまり深くないんです」

記者「なるほど、そういうことでしたか」

天津風( す、すごい……なんかよく分かんないけど、あの提督が、あたしをフォローした……!! )




記者「長いこと質問してしまってすみません。次が最後になります」

提督「いえいえ、どうぞ」

記者「世の男性から密かに浮上している疑問がありまして」

提督「はい」

記者「女性ばかりの鎮守府に、ひとりだけ存在している男性の気分は如何なものでしょうか?」

提督「たしかに周りが女性ばかりで気を遣うことは多いですね。

   ですが彼女たちは命を懸けて戦う艦娘であり、我々人類の宝です。

   私は上官という立場ではありますが、彼女たちには常に敬意を表しています。やましいことなんてもっての外です」

天津風( よくもまぁこんなスラスラと嘘を…… )

記者「さすがですね。やはり提督になるべくしてなったというお方です。

   朝から色々な艦娘さんにお会いしましたが、あちこちに綺麗なお姉さんの姿が見えましたので

   提督さんとはいえ少なからず翻弄されてしまうのかとは思いましたが……――――――――」



         ピクン



提督「綺麗なお姉さん……ですか…………駆逐艦の子たちは、お目にかかりませんでしたか?」

記者「え? あぁはい。鎮守府内を案内してくれた子たちも、とても可愛らしい子ばかりでした。

   ですがまぁ、まだ子供ですので……」

提督「子供だから……興奮しないとでも…………?」

記者「……はい? 興奮?」



天津風( ……て、提督の目つきが変わった!? )








        コツン コツン


天津風( 何? 窓から音が…………龍驤さん?! )


          ガラガラガラガラガラ……


龍驤「やっぱアカンくなったみたいやな……」

天津風「龍驤さん、なんか提督の様子が……」

龍驤「あぁ、分かっとる。あれは一種の禁断症状や」

天津風「……はい?」

龍驤「自分の性癖を隠して長く話しすぎたんや。あれをあのまま放っておくと、

   いずれ自分の好きな駆逐艦の魅力について話し続けるで」

天津風「そ、そんな! そんなことになったら……!」

龍驤「あぁ……間違いなく、司令官は変態カミングアウト。そして雑誌で変態提督デビューを遂げるやろな……」

天津風「なんとかしないと!」

龍驤「落ち着きや。まずはこれを使って司令官を強制的に眠らせるんや」

天津風「えっと……これは……」

龍驤「睡眠効果を持ったウチの式神や。これで司令官の急所をつけば、一発でグッナイや」

天津風「司令官の急所って?」

龍驤「ケツの穴や」

天津風「はぁあああぁああっ!!?」




龍驤「しーっ、声が大きいわ! 時間がない、はよせぇ!」

天津風「急所なんて他にもあるはずです! どうしてまた、お、おおお、お尻の……」

龍驤「えぇか天津風? 司令官はな、変態や」

天津風「そんなの知ってます!

    お尻にそんな……やったら、私まで変態になっちゃうじゃないですか!」

龍驤「話を最後まで聞き! その式神は、相手に精神的ダメージを与えつつ貼り付けることで、

   その効果を発揮するんや。せやけど天津風みたいなカワイコちゃんが司令官を殴ったところで、

   あの変態はご褒美としか思わへん。精神的ダメージはゼロや」

天津風「なにそれ気持ち悪い!」

龍驤「けどそんな司令官にも弱点がある。それがケツの穴や! もしくは肛門!

   臀部ホール! ア●ル! どこでもえぇ、選ぶんや!!」

天津風「はわぁ……はわわわわわ……」プシュー

龍驤「天津風……人生楽ありゃ苦もある」

天津風「こ、黄門さま……」

龍驤「そうや、肛門や」

天津風「……わ、わわわ……あ、あたしの……ゆ、指を……提督の……提督の黄門さまに…………」

龍驤「覚悟を決めるんや天津風! 鎮守府の存亡は、秘書艦天津風の指にかかっとる!!」

天津風「はわわわ……」











記者「あの……聞き間違いでしょか? 何とおっしゃったのでしょう?」

提督「私は駆逐艦を愛しています」

記者「えっと……つまりそれは、親心のような目線で、ということなのでしょうか……?」

提督「いいえ。男女としての愛です」

記者「…………」

提督「実は私、既婚者です。既に駆逐艦6人と結婚しています」

記者「………………」







天津風( ……しっかりなさい天津風! こんな危険な人を、野放しになんてしちゃいけない……。

    私が……私がヤらなきゃ! さぁ、ヤるのよ天津風!

    この無防備な黄門さまに! あたしの! 指を! )

龍驤「ここが踏ん張りどころや天津風! 肛門だけに!!」

天津風「いくわよ…………撃ち方、始め!!」




         ブスリ!!




提督「………………ッ!!?」バタン

記者「あれ? 提督さん? あの、もしもーし」

提督「…………」チーン

天津風「うぅ……ぐすっ……ぇぐ……」

記者「あの、天津風さんはなぜ泣いて……」

天津風「何でもないです……少し、放っておいてください……」






龍驤「よし、ようやったで天津風! あとは変声効果付きの式神で司令官を演じれば……!」

時津風「おおー。見た目は子供で頭脳は大人な名探偵みたーい」

龍驤「誰が子供体型や!!」

島風「そこまで言ってないでしょ……」

浜風「急いでください龍驤さん。記者の方が不審に思ってしまいます」

龍驤「せや、瑞鳳はん! さっき渡した式神、はよう使いや!」

瑞鳳「うん! って言いたいところだけど……実はさっきから見当たらなくて……」

龍驤「はいぃ!?」








提督「失礼しました!!」

記者「あ、びっくりしましたよ。突然どうされたのですか?」

提督「すみません! お腹が空いてきちゃいまして!!」

記者「え? お腹、ですか?」








雪風「はい、そうです! お腹がすくと、雪か……わたしはいつもこうなります!!」

一同「…………」

瑞鳳「雪風ちゃん、それ……」




記者「え、えぇっと……話は戻りますが、あなたは駆逐艦の少女たちに対して――――――」






龍驤「―――って、なんでチビが勝手に使っとるんや!!」






提督「やってみたかったんです!!」

記者「や、ヤってみたかった!? あなた、あんないたいけな少女たちに……」




龍驤「アホ! もうそれに向かって喋るな!」

時津風「あははっ、時津風もやるー」ヒョイ

雪風「あっ!」






提督「えーっとねー、うーんと、時津……わたし、すぐに(変なことを)言っちゃうんですよ」

記者「すぐにイっちゃう!? あなた、突然何を言い出すのですか?!」

提督「……ん? まぁ、とにかくあんまり気にしないでください」

記者「いや気にします!」





瑞鳳「なんか、全然会話がかみ合ってなくない……?」

時津風「んー、なんでだろ」

島風「貸して貸してー。私もやりたーい」

龍驤「オモチャ感覚で貸し借りすんなー!」

島風「コホン……」






提督「あなたにひとつ、覚えておいてほしいことがあります」

記者「なんでしょうか……」

提督「駆逐艦はとても速い」

記者「速いからあなたはすぐにイってしまうのですか」




島風「…………? まぁいいや」




提督「そして、その中でも島風って子は、特に速いです。最高です」

記者「要りませんよそんな情報!」

提督「いや、あなたにも是非見てほしいです。速きこと、島風のごとし、です!!」

記者「…………」





龍驤「ドン引きされとるやないか!」

島風「うーん……おかしい」

龍驤「もうアカン! 瑞鳳はん、お手本みせたって!」

瑞鳳「う、うん! ……コホン」





記者「つまりあなたは、あの小さな駆逐艦の少女たちのことを、恋愛対象として……

   いえ、それどころか性的観念から見ているということで間違いありませんね?」

提督「……いえ、違うんです。誤解なんです」

記者「はい? あなた、先ほどご自分が仰ったことをお忘れですか?」

提督「いや、あの、その……小さな子供が好きってわけじゃなくて……その、胸の小さな子が好みなだけです」




龍驤「そこはかとなくイラっとする言い訳やな」




記者「…………」

提督「そ、それに加えて、夜食に甘いとろとろのたまごやきを作ってくれるような、

   チャーミングな子が好きかなぁ。 軽空母の可愛い瑞鳳ちゃんみたいな! えへへへ」




瑞鳳「えへ、えへへへ……もぉ~、提督ったら可愛いだなんて~」

龍驤「なにニヤけとんねん。司令官をオモチャにするんやない」





記者「……ですがそれって、結局は駆逐艦の子たちも対象になるってことですよね?」

提督「あっ、たしかに」





龍驤「何がたしかにや! そこは嘘でも否定せんとアカンやろ!! まったく、ウチに貸し!」グイッ

瑞鳳「あっ」




提督「…………というのは全部ジョークや! わっはっはー! ……??」

記者「…………」

提督「もしかして……信じてへん?」

記者「あれだけ熱弁されて、そうですかと引き下がるとでもお思いですか?」





瑞鳳「龍驤ちゃんだって言い訳ヘタクソすぎだよ!?」

龍驤「アカン。もう収集つかへんわ。パス」スッ





提督「へ? うち? あっ、えぇっと……」

記者「あなたは他にも何かを隠しているように見えます」

提督「きょ、今日は何だか気分が優れんけん、また今度に……」

記者「私たち国民には、それを知る権利があると思います」ゴゴゴゴゴ




浦風「も、もう……うちには無理じゃ……浜風ぇ」

浜風「貸してください」スッ



提督「急に取り乱してしまったことをお詫びします。そして、これからあなたに、私の真実をお伝えしましょう」

記者「提督さんの、真実……?」

提督「私は小さな子供が好きです。大好きです。それはもう、親目線ではなく、恋愛感情。

   いえ、それをも超える情熱を私は持っています」

記者「やはり……まさかとは思っていましたが…………あなたはロリk」

提督「ですが! 何も女子が好きだとは言っていません」

記者「……………………はい?」

提督「私が愛しているのは同性、すなわち男子なのです」

記者「あなた、何を言って…………」

提督「分かります。ドン引きでしょう。ですが愛の形は様々なのです。あなたにも心当たりがおありでしょう」

記者「た、たしかに……女子同士での恋愛があれば、当然男子同士の恋愛というものも……。愛は自由……」

提督「女性ばかりの環境に長く居すぎた成果、気付けば私は男性の体を欲するようになったのです。

   それも成人ではなく、未発達な体……男児の柔肌ッ!」

記者「だ、男児……」

提督「そうです。このことをあなたに打ち明けた上でもう一度言います。

   私は艦娘たちに対し、やましい感情を抱くことは決してありません! なぜなら私は、男児が好きだから!」

記者「………………ッ!!!??」

提督「愛は自由……あなたの言うように、このような愛の形が正当化されつつある昨今ではありますが、

   まだまだ世は、愛に対して偏見を持つ者も多いでしょう。

   ですからどうか、この話は聞かなかったことにして頂きたい。あなたなら、分かって頂けるはず」

記者「………………そうですね。分かりました」







瑞鳳「さ、さすが浜風ちゃん! どういう思考回路でその考えに行き着いたか知らないけど、何とかなったね!」

龍驤「頭の悪そうな発言連発のおかげか、駆逐艦との結婚云々とかの話はウヤムヤになったみたいやな……」

雪風「よく分かりませんが、浜風ちゃんカッコイイです!」

時津風「いやー、あぁもペラペラ言葉が出てくるとはねー」

島風「あの記者のお姉さんもちょっとした変人だと思うんだけど」

浦風「やっぱり浜風は頼りになるけん! うちも浜風のこと、ぶち愛しとる!!」

浜風「ふぅ……これで、一件落着のようですね……」




天津風「…………いや、普通にダメでしょ、これ」











           ~ 数日後 ~





提督「みんな! 例の雑誌に鎮守府のことが載っているぞ!」



一同「………………」どよーん



浜風「取材を終えたときは達成感で良い気分でしたが……」

浦風「冷静になって思い返してみると、不安しかありゃぁせんのじゃが……」

提督「心配するな。マイナスイメージに繋がるようなことは何も書いてなかったぞ」

天津風「え、本当に?」

雪風「わーい、早く見たいです!」

時津風「しれー、時津風たちにも見せてよぉー」

島風「私のこと書いてある? 一番速いって書いてある!?」

提督「どうどう落ち着け。ほらほら、エサだぞ~」バサッ

天津風「エサって……犬じゃないんだから」

浦風「ふむふむ……ほぉ~。思ったより真面目な感じじゃね」

浜風「個性的な提督と艦娘たち……この一文にすべてが集約されている感がありますね」

提督「実はというと私も少し不安だったんだ。インタビューの途中から、なーんか記憶が飛んでるし」

雪風「あははっ、しれぇは忘れんぼさんです!」

時津風「もうトシかなー?」

提督「しかも尻に謎の違和感が残ってて、変なんだよなぁ」

天津風「忘れたい………………」




浦風「とにかく何とかなったみたいで安心じゃ。うちらもこれでようやく普段の生活に……」

提督「いいや浦風、この話には続きがある」

浦風「続き?」

提督「私のインタビューのあと、しばらくあの女性記者さんと君たちで雑談をしてたらしいな?」

浜風「えぇ。取材とは関係なく、我々ないない駆逐隊のことについて少し」

提督「その話が向こうでどう転がったのか知らないが、頑張る少女たちのエピソードとして、偉く気に入られたみたいだ」

天津風「……はあ」

提督「喜びたまえ、ないない駆逐隊の諸君。……今度は、テレビだ!!」







一同「えぇええええええええええっ!!?」

本日はここまでです。
続きは明日の夜に更新予定です。











                ~ 駆逐艦寮 ~






天津風「嘘……今でも信じらんないわ……テレビだなんて……」

雪風「雪風、本当にテレビデビューです!!」

時津風「しかもないない駆逐隊をメインとしたドキュメンタリー番組だってぇ……なーんでこうなったんだろ」

島風「でも時間は4分くらい……終わるのはっやーい!」

浦風「嬉しいけど……じゃけど、うちら、大丈夫なん?」

天津風「そうよね……雑誌の取材だけであんないっぱいいっぱいだったのに……今度はテレビだもの……」

浜風「ですがこれは…………千載一遇のチャンスではないでしょうか?」

浦風「チャンス?」

浜風「はい。全国放送のテレビともなれば、遠く離れた地にいる翔鶴さんや陽炎たちの目にも留まるはずです」

時津風「うえー、だったら尚さら緊張しちゃうよぉー」

浜風「ですが、目に留まるからこそ、我々の成長を知ってもらうよい機会になるということです」

天津風「そっか……テレビであたしたちの成長した姿を見せることができれば、もしかしたら……」

雪風「雪風たち、帰れるかもしれません!!」

島風「おおー、それはたしかにチャンスかも」

浦風「そう考えると、俄然やる気が湧いてくるのぉ!」

天津風「あたしたちの悲願……ついに叶う時が来たってことね!

    そうと決まれば皆! テレビも無事成功させて、ないない駆逐隊ともおさらばよ!!」

一同「おー!!」













                   ~ 夜 居酒屋鳳翔 ~






浜風「こんばんは」

龍驤「おぉ来たか銀乳」

瑞鳳「うへへ~、浜風ちゃんこびゃんは~……ひっく」

浜風「…………」

龍驤「あぁ、コレなら気にしんとき。ちょっと飲んだだけでスグこれや」

浜風「はあ」

龍驤「で、なんや? 銀乳の方からウチを呼び出すなんて、珍しいやないか?」

浜風「はい。実は少し、相談がありまして」

龍驤「ふーん? 当てたろか? 青乳のことやろ?」

浜風「……彼女をそう呼ぶのはやめてください」

龍驤「ジョークやジョーク。で、浦風のことなんやろ?」

浜風「……はい」

瑞鳳「おぉ~、さすが龍驤ちゃん~」

龍驤「龍驤先輩や」

瑞鳳「龍驤ちゃ~ん」

龍驤「まぁえぇわ……。で、なんや?」

浜風「実は先日の雑誌に続いて、今度はテレビの取材が来ることになりまして」

龍驤「あぁ、司令官から聞いたで。ウチの写真や記事は1ミリも無かったあの雑誌、好評だったみたいやな。

   で、お次は自分らないない駆逐隊の短編ドキュメンタリーとねぇ?」

浜風「そうです。そして、それは我々ないない駆逐隊にとって、非常に重要なものとなります」

龍驤「それも知っとるで。えぇとこ見せなアカンのやろ?」

浜風「はい。ですが……正直なところ、今の私たちが高く評価されるとは到底思えません」

龍驤「ほう?」



浜風「天津風は旗艦としての自覚と自信を持ち始めてきました。島風もあれ以来、輪を乱すような事はしていません。

   雪風と時津風も、今回のテレビ取材に関しては真剣に取り組んでいるように思えます」

龍驤「で、問題は青ち……もとい、浦風ってワケやな」

浜風「…………はい」

龍驤「ウチにも分かるで。あれは意志がないというか、銀乳……いや、駆逐艦浜風に依存しすぎなんや」

浜風「はい。彼女があのままである限り、我々はいつまで経ってもないない駆逐隊です」

龍驤「浦風はもともとあぁなん?」

浜風「いえ、本来の浦風は、逆に周囲から頼られる存在でした。自由で思い切りが良く、面倒見が良くて、優しくて…………」

龍驤「それがあぁなったんは、何か理由があるんとちゃうんか?」

浜風「理由…………それは…………」

龍驤「あぁー、いや、ちょっちタンマ! やっぱ今のナシや!」

浜風「はい?」

龍驤「質問を変えるで」

浜風「はぁ」

龍驤「浦風があのままだといつまで経ってもないない駆逐隊のまま……自分、さっきそう言うたよな?」

浜風「……はい」

龍驤「じゃあ聞くで。浜風、自分はどうなんや?」

浜風「…………遠慮がない。それが、私の生まれついての性格であり、欠点だと言われています」

龍驤「欠点ねぇ……ウチは別に、そうは思わへんけど?」

浜風「……何が言いたいのですか?」

龍驤「あのなぁ浜風。あの空っぽの浦風に対して自分がどないするべきか……そんなもん、もう分かっとるはずや」

浜風「…………」

龍驤「浜風。自分…………浦風に、遠慮しとるんやろ?」














            ~ テレビ取材前日 駆逐艦寮 会議室 ~




時津風「うわー、すごい雨」

雪風「明日、晴れるでしょうか……」

天津風「ほらほら二人とも、外ばっかり見てないで明日の最終打ち合わせするわよ」

島風「あと何か話し合うことあったっけ?」

天津風「前の雑誌の時の反省を生かすの」

浦風「というと?」

天津風「雑誌取材における失敗は、私たちが全員で行動していたことよ。

    質問に対してそれぞれが答えようとするからバラバラになるの。テレビだったら尚のこと。

    テレビに映りたがって一斉に喋りだすに決まってるわ」

浜風「なるほど。それは言えていますね」

時津風「じゃあどうするのー?」

天津風「さすがに一人で対応するのは心細いから、二人一組で行動してもらうことにするわ」

時津風「じゃあじゃーあ、時津風は、雪風と一緒がいいなー」

雪風「雪風は誰でもいいです!」

時津風「えぇー……」

天津風「はいはい。じゃあ時津風は雪風とペアね」

浦風「それならうちは、浜風とペアで決まりじゃね」

浜風「………………」

天津風「まぁそうなるわよね。じゃあ浜風は浦風と――――――」

浜風「――――――待ってください」

天津風「ん?」

浜風「私は……天津風とペアを組みます」

天津風「わ……私と? いや、いいけど……でも…………」

浦風「……浜風? も、もぉ~、急に何言い出すんじゃ~。浜風はうちとペアに決まっとるじゃろ?」

浜風「いいえ」

浦風「浜……風……?」

浜風「私は、浦風とはペアを組みません」



一同「…………!!?」




島風( ねぇねぇ天津風ちゃん、浜風どうかしたの? ケンカでもしたの? )

天津風( いや、そんな感じには見えなかったけど……でも………… )

浦風「浜風? ……どうしたん? なんか……怒っとるん? うち、何か変なこと言うた……?」

浜風「別に、腹を立ててなどいません。私はただ、浦風と組みたくないだけです」

時津風「うわー…………」

雪風「…………」

浦風「いや……いやじゃ……うち……」

浜風「それで天津風? 私と組んで頂けるのですか?」

天津風「あ、え……でも、浦風が組みたいって……」

浜風「あなたがイヤなら、島風でもいいです」

島風「島風『でも』って何さ、『でも』って」

浦風「浜風……」

浜風「お願いします。天津風、島風……どちらか、私と組んでください」

浦風「浜風……浜風っ!」

浜風「たかが明日の取材のペア決めです。早く決めましょう」

浦風「なんで……なんでなん…………うち、迷惑……?」

浜風「………………えぇ、迷惑ですとも」

浦風「…………え?」

天津風「ちょ、ちょっと浜風……」

浜風「浦風……あなたはなぜ自分がないない駆逐隊の一員となったのか理解しているのですか?

   駆逐艦浦風には意志がないんです。どこへ行っても、何をしても、全部私に頼っている。依存している」

浦風「違う……うちはただ……浜風と仲良うしたいだけじゃ……」

浜風「理解してください。迷惑なんです。このままではどれだけ取材を受けても同じです。

   あなたが空っぽの浦風であり続ける限り、私たちはないない駆逐隊のままです」

浦風「………………」

浜風「ですからこれは、必要なことです。浦風、もうこれ以上……私に頼るのは、やめてください」



浜風「今のあなたは、足手まといなんです」




一同「…………」






浦風「うっ……うっ……ひっく…………浜風の……あほぉ…………」ダッ




    タッタッタッタッタッ……




雪風「浜風ちゃん……ちょっとコワイです……」

時津風「なになに……どーいうこと……?」

浜風「天津風」

天津風「な、なに?」

浜風「私と、組んでください」

天津風「い、いいけど……浦風は、いいの?」

浜風「…………」

島風「そうなったら私、浦風と組まなきゃじゃん……。なんか気まずいよ」

浜風「急に騒ぎ立ててしまい、すみませんでした」

天津風「一体どうしたの? 浜風が、浦風とケンカなんて……」

浜風「これは、終止符です」

天津風「終止符?」

浜風「私と浦風の関係は偽物でした。偽物の親友、友情ごっこを、終わらせようと思います」

雪風「…………?」

時津風「??」





浜風「………………皆さんにひとつ、お願いがあります」










―――――――――

――――――

―――




浦風「うち、浦風じゃ。少しでも艦隊の力になれるよう頑張るけん、よろしくね!」






―――うん。よろしく、浦風。あなたは今日から私の妹だから、そのつもりでいなさいよ!

―――よろしくお願いします。どうか、誇り高き陽炎型駆逐隊に泥を塗ることの無きように。

―――よろしゅうなー、浦風はん。仲良うしようなー?

―――よろしく浦風。私たち陽炎型は、あなたの着任を待っていたわ。





浦風「チョコレート作り?」

   ―――そうよ、いいでしょ別に。浦風、そういうの得意そうだと思ったのよ。

浦風「うーん……うち、お菓子系はあんまり作らんけん……まぁでも、うちで良かったらお手伝いするよ?」

   ―――そ、そう? まぁ、ありがと。あなたにお願いして正解だったわ。

浦風「えへへへ」





   ―――なーなー、浦風はーん?

浦風「んー?」

   ―――前に翔鶴はんが運ぶようにー言うとった机、どこ行ったか知らん?

浦風「あれならもう、うちが運んでしもぉたわ」

   ―――ほえー、ホンマに? おおきに~。浦風はよう気が回る子や~。





浦風「あれ? ボタンが取れかかっとる?」

   ―――はい。みっともないので、今夜のうちに処分しようと思っていたところです。

浦風「えー、もったいない! 待っとき、うちが直したる。お裁縫は得意なんじゃ」

   ―――手慣れたものですね。見事です。

浦風「また解れたら、うちを呼んでなー?」




   ―――うーん……。あ、ちょうどイイところに浦風。ねぇ、こんな作戦立てたんだけど、どう思う?

浦風「それもえぇけど、うちならコッチじゃね。こっちの方が燃えてくるじゃろ?」

   ―――あはははっ。たしかに! ありがと、いい意見が聞けたわ。

浦風「あはは、うちは何もしとらんけん」

   ―――ううん。姉として嬉しいわ。頼りにしてるわよ、浦風!






―――――――――何か、御用ですか?

浦風「うち、浦風じゃ」

―――――――――知っています。

浦風「いつも一人でおるけん、何しとるん?」

―――――――――あなたには関係のないことです。

浦風「うちとお昼、食べよ?」

―――――――――よした方がいいです。

浦風「なんでなん?」

―――――――――私の言葉は、相手を不愉快にさせるからです。

浦風「遠慮がないから?」

―――――――――……それを知っているなら、いちいち聞かないください。

浦風「思ったことを素直に言いよるのって、うちはスゴイと思うよ?」

―――――――――はい?

浦風「だって、うちの言葉は嘘ばっかじゃけぇ」

―――――――――嘘?

浦風「うちな、ついつい人にえぇ顔ばっかしてまうんじゃ。

   人から頼られるのだって本当は嫌じゃ。どっちかって言うと、人に頼りたいタイプなんに……」

―――――――――頼るなと、言うだけじゃありませんか。

浦風「それが言えんけん、悩んどるんじゃ。遠慮なく言えるのが羨ましいわぁ」

―――――――――私から言わせれば、贅沢な悩み事です。

―――――――――あなたのような人を見ていると私は、無性に腹が立ちます。…………あっ。

浦風「ぷっ……あははははっ」

―――――――――なんですか。

浦風「すごい! 本当に遠慮なくズバズバ言いよるんじゃね!」

―――――――――やめてください。

浦風「決めた! うち、頑張ってあなたに頼っていくけんね!」

―――――――――は?

浦風「うちが遠慮なく甘えることのできる親友の、第一号になってもらうけん!!」

―――――――――あの、勝手に決めないでくれますか。迷惑です。

浦風「うち、浦風じゃ」

―――――――――知っています。

浦風「あなたは?」

―――――――――…………私は…………














浦風「浜風!!」

天津風「あ、ようやく起きたわね」

浦風「あれ、天津風…………」

天津風「悪かったわね、私で」

浦風「いや、えっと……あれ……?」

天津風「覚えてないの? 浦風、高熱で倒れたのよ?」

浦風「高熱……あぁ、うち……夢、見てたんじゃね……」

天津風「どんな?」

浦風「うちが……着任したばっかりの頃の……」

天津風「ふーん」

浦風「あ、ごめんな? うち、もう起きるけぇね。テレビ取材の前やのに……」

天津風「いいわよ寝てて」

浦風「でも……」

天津風「テレビの取材なら、もう終わったから」

浦風「……え?」

天津風「浦風が倒れてから、もう丸一日よ。取材の人たちは夕方に帰ったわ」

浦風「丸一日……そっか、そんなに……ごめん……」

天津風「気にしないで。私たちはチームなんだから、困ったときはお互い様よ。

    それに、何だかんだで取材もうまくいったわ。私たち一人ひとりにインタビューしただけで終わっちゃったし」

浦風「そう……」

天津風「…………」

浦風「あの……天津風?」

天津風「ん?」

浦風「…………浜風は……あれからうちに、何か……言うとった?」

天津風「…………。いいえ、特に何も」

浦風「そっか……」



天津風「ねぇ浦風、それよりお腹空いてるでしょ? ほら、たまごやき作ったから食べなさいよ」

浦風「たまごやき? 天津風、お料理しよったっけ?」

天津風「あっ、いや、瑞鳳さんに教えてもらって……」

浦風「あぁ、そうじゃったね……。瑞鳳さん、たまごやきだけは得意って言うとったもんね」

天津風「そういうこと。ほら、早く食べて」

浦風「じゃあいただきます……。もぐ……はむ……はむ…………うん」

天津風「どう? 思わず笑顔になっちゃうくらい、おいしいでしょ?」

浦風「うん。うち好みの、バッチリの塩加減じゃ。天津風はえぇお嫁さんになるの」

天津風「もう、何よそれ」

浦風「うちの汗拭いてくれたり、氷枕用意してくれたり、寝間着を着せてくれたり……」

天津風「汗を拭いたのは時津風。氷枕をこまめに作ってくれたのは雪風だし、寝間着に着替えさせたのは島風」

浦風「…………。そっか、みんなにお礼、言わんとね」

天津風「…………」

浦風「天津風、うち、決めた」

天津風「え?」

浦風「“ないない駆逐隊”だなんて……もう、誰にも呼ばせんけぇね」
















              ~ 数日後 ~





天津風「提督、何か大きな荷物が届いてたわよ?」

提督「おぉ……良かった。間に合ったか!」

雪風「しれぇ! それ、何なんですか!?」

提督「フフフ……よくぞ聞いてくれたな雪風よ。これは……ジャーン!

   どんなテレビ番組も超高品質録画! 8Kにも完全対応! ……その名も、『なのですレコーダーEX』だ!!」

時津風「こんなのドコで売ってるのさ……」

島風「ふーん。これ、速いの?」

提督「ダイビング速度は業界一だ。とても速い」

島風「おおー! すっごーい!」

天津風「提督、もしかしてそれ、今夜のためだけに買ったの……?」

提督「もちろんだとも。愛する我が駆逐隊の勇姿を永遠に保存するために、やれることは何でもやる」

浦風「あぁ~、なるほど。例のテレビって、今夜放送なんじゃね?

   うち風邪で寝込んどったけぇ、どがぁな感じにになっとるか楽しみじゃのぉ」

提督「私も非常に楽しみだ。……ってあれ、浜風はどうした?」

雪風「浜風ちゃんなら、今朝から体調が悪いとかで、お部屋でお休みしてます!」

時津風「なんだか風邪っぽかったねー」

提督「浦風の風邪が治ったと思ったら、今度は浜風か……。うつったのか?」

天津風「え、いや、それは……」

浦風「きっと別モンじゃね。うちの所に浜風は来んかったけぇ」

提督「そうか……。もしかしたら、これから流行るかもしれないな。

   よし、今日から駆逐艦の子たちに対しては、私が手洗いうがいの手助けをする制度を作ろう」

天津風「やめて……」





        ウォオーーン  ウォオーーン  ウォオーーン




雪風「警報!?」

時津風「びっくりしたー」

天津風「て、提督、これは……敵襲!?」

提督「うむ…………なるほど。どうやら鎮守府の警戒網に深海棲艦が引っ掛かったようだ」

島風「敵の数は!?」

提督「敵潜水艦がたくさん。正確な情報は入ってきていない」

浦風「それなら大丈夫じゃ! 提督さん、うちらが出撃するけん!」

提督「……そうだな。現在稼働可能な艦娘たちの中で、最も適しているのが君たちだ。お願いしてもいいか?」

浦風「もちろんじゃ! うちに任しとき!」

時津風「あれ、でも浜風はどーするの? 出撃は無理だと思うけどー?」

提督「それもそうだな……。5隻での出撃は些か不安でもあるし……」


龍驤「なら、ウチが出よか?」


提督「龍驤……君は、今日はバストアップ休暇のはずじゃ……」

龍驤「何やそれ。単なる非番や」

天津風「いいんですか? 龍驤さん」

龍驤「えぇってえぇって。たしかうちは、ないない駆逐隊の補佐、なんやろ?」

天津風「龍驤さん……!」

浦風「そうと決まれば抜錨じゃ! テレビの放送までには、絶対戻るけぇね!」










              ~ 南方海域 ~





天津風「浦風、それ、どう? ちゃんと使えてる?」

浦風「うん。うちのと大差ないけぇ、問題なしじゃ」

島風「そういえば浦風の艤装、メンテ中だったの忘れてたねー」

時津風「まぁ、ちょうど浜風の艤装が空いてたから良かったけど」

雪風「他人の艤装を使うのは、ちょっとムズムズしちゃいます!」

浦風「あはは、ご心配どうも。でも本当に大丈夫じゃ。うちならいつも通り戦える」




龍驤「おっと偵察機より入電…………ふむふむ、ほぉう。見えたで……潜望鏡丸出しの、間抜けな潜水艦や」

島風「数は!?」

龍驤「……んー。これは、数えるんが億劫になるくらいいっぱいやな」

時津風「えー、それって、ちょっとキツくないかなぁ」

龍驤「逆、逆。潜水艦ってのは隠密行動あっての脅威や。あんなわんさか湧いとったら、隠密も何もないやろ」

雪風「敵はおバカってことなのでしょうか!」

龍驤「慢心はアカンけど、まぁ敵さんの練度不足っちゅー所やな。むしろ心配すべきなんは、この海域や」

浦風「海域? うちらはこの辺り初めてじゃけど、何かあるん?」

龍驤「この辺りの海はよう荒れる。今は穏やかやけど、急に天候が変わるかもしれへんから、そこだけ注意やで」

天津風「分かりました。……龍驤さんがいてくれて良かったです」

龍驤「あぁ、せやろせやろ」

雪風「そろそろ射程範囲内に突入します!」

時津風「よーし、やっるぞ~」

天津風「陣形は単横陣! 両舷前進、最大戦速!

    いい? 突っ込むわよ! 爆雷投下用意………………今ッ!!」









島風「へへーん。潜水艦なんかが、私の速度に追いつけるわけないもんねーだ!」

時津風「ふわ~、くたびれたー」

雪風「今ので終わりでしょうか?」

龍驤「まだどこかに潜んどる可能性は……無きにしも非ずや。せやけどホレ、見てみ、空」

天津風「これは……ひと雨きそうだわ……まぁ脅威は排除できたし、そろそろ潮時ね。全艦一斉回頭……」

浦風「あっ!」

天津風「浦風?」

浦風「あそこ、ほら、見てみ! 潜望鏡じゃ!」

時津風「あ、ホントだ。逃げようとしてるのかな」

浦風「うち、行ってくる!」

天津風「え、ちょっと! 浦風!?」

浦風「大丈夫じゃー! 相手は手負いじゃ、うち一人で問題ないけん!」

龍驤「おいコラ! そういう問題やない! はよぉ戻り!!」

島風「あーあ、行っちゃた」

雪風「島風ちゃんみたいです……」

島風「うっ……」

天津風「浦風……」









浦風「おどりゃーー!!」





         ドウン! ドウン! ドウン!  ゴボゴボゴボ……



浦風「敵潜水艦の撃沈を確認。どんなもんじゃ!」

浦風( できた……浜風…………これでえぇんじゃろ? うち、もう浜風に頼らんでも、一人でできるけん )



          ポツン ポツン……



浦風「わっ、降ってきたのぉ。はよぉ戻らんと」




         ザァアアアアアアッ! ピカッ ゴロゴロゴロ……



浦風「うっ……すごい嵐じゃ……前が見えん……」



     ビー……ザザッ


龍驤『おーい、各員に告ぐで。生きとったら返事しー』

天津風『みんな、大丈夫!?』

時津風『うーん。大丈夫ー、雪風も隣にいるよー』

雪風『平気です!』

島風『私もへーきだよ。何? 結局皆バラバラになっちゃったのー?』

天津風『そうみたいね……。浦風、浦風は!?』


浦風「うちも大丈夫じゃ。潜水艦も無事仕留めたけん」


龍驤『よし、全員無事やな。じゃあこれからやけど、こんなんじゃ偵察機や電探はまともに使えへん。

   一度集合してから固まって帰投したいとこやけど、そんな時間もあらへん』

時津風『まだいるかもしれないもんねー、潜水艦』

天津風『完全に夜になったら形勢逆転……私たちは潜水艦に対して無力になるわ』

島風『じゃあどうするの? 個別に撤退?』

龍驤『まぁ、危険やけどそれしかない。鎮守府はこの辺りからだいたい北西の方角や。

   まずはとりあえず、各自北西に進路をとることや、えぇな?』


浦風( 夜の荒れた海での単艦撤退…………うちの、せい?

    うちがあの時、無理に潜水艦を追ったから……。天津風や龍驤さんの言うとること、無視して…… )


雪風『わぁー! 雪風の羅針盤、壊れちゃってます!』

時津風『大丈夫だよー。時津風の羅針盤は正常だから』

龍驤『あんたらだけ二人セットで助かったわ。……他に、羅針盤に異常があるもんは?』


浦風( うち……やっぱり、足手まとい……なのかな…… )


天津風『それじゃあ皆、周囲には十分注意して航行すること、いいわね!?』












              ~ その頃 鎮守府 ~




瑞鳳「もうすぐ始まっちゃうね、テレビ」

浜風「はい」

瑞鳳「みんな楽しみにしてたけど……お仕事じゃ仕方ないよね」

浜風「私は……少し、安心しています」

瑞鳳「え? 安心?」

浜風「あのインタビューでは、色々と喋りすぎてしまったので」

瑞鳳「あ、さては恥ずかしい?」

浜風「……そうかもしれません」

瑞鳳「あはっ、やっぱりねー。龍驤ちゃんも言ってたよ?

   ありゃー遠慮がないっちゅーか、単に嘘や建前を言うのがヘタクソなだけなんやろーって」

浜風「なるほど。どういう見方もあるのですね」

瑞鳳「結果的に人を傷つけちゃうこともあるけれど、

   やっぱりそういう所が素敵だって、思ってくれる人もいるんじゃないかな?」

浜風「そうやって色々と見透かされてしまうと、実に気分が悪いですね」

瑞鳳「あはは、気分が悪いのは浦風ちゃんの風邪がうつっちゃったからでしょ。ほどほどにしなよって言ったのに」

浜風「…………」

瑞鳳「浦風ちゃんの看病、ぜーんぶ浜風ちゃんがやっちゃうんだもの。

   それなのに自分は何もしてないことにしてくれってお願いして回って、そこまでしなくてもいいと思うんだけどなぁ」

浜風「私のしていることは、無駄でしょうか」

瑞鳳「そんなことはないと思うけど…………ちょっと、遠回りかな?」

浜風「遠回り……」

瑞鳳「遠慮して言えないけれど真に伝えたいこと……あるんでしょ?」

浜風「…………風邪のせいか、あまり考えがまとまりません」

瑞鳳「ふふっ。そんな風邪っぴきの浜風ちゃんにはこれ、ジャーン! 瑞鳳特製、たまごやきでーす。美味しいよ?」

浜風「いただきます」

瑞鳳「召し上がれっ」

浜風「はむ…………はむ…………甘いですね」

瑞鳳「これはね、提督が喜んでくれる絶妙な甘さなの。まさにたまごやきの黄金比!

   まぁ、こればっかり練習してたからこの味のたまごやきしか作れなくなっちゃったんだけどね」

浜風「はむ……単細胞ですね」

瑞鳳「ええーひどいよー。大切な人が美味しいって言ってくれたお料理は、何度でも作っちゃうものなんだからー!」

浜風「そうですか………………それはたしかに、私にもよく分かります」












             ~ 数分後 鎮守府 桟橋 ~






島風「おっそーい!」

天津風「遅い……いくら何でも、遅すぎるわ……」

龍驤「せやな。何やあったのかもしれへん……」

瑞鳳「ちょ、ちょっと浜風ちゃん、ダメだよ外に出たら……!」

浜風「一体、何事ですか……!?」タッタッタッタッ

時津風「浦風だけ、ちっとも戻ってこなくてさー」

雪風「雪風、心配です!」

龍驤「司令官に頼んで夜間偵察機を出してもろたけど、見つけ出すのは困難やで……」

浜風「浦風……私、迎えに行きます」

天津風「ちょっと無茶よ! あなた風邪ひいてるし、艤装も浦風が持っていってるし!」

浜風「では浦風の艤装を借ります。兵装はメンテ中のようですが、主機だけなら問題ないでしょう」

天津風「危険すぎるわ! 丸腰で出撃するってことなのよ!?」

浜風「何と言おうが私は出ます」

天津風「はぁ~もう……提督に怒られるのは私なのよ……?

   …………分かったわ。でもその代わり、私も行くから」

島風「じゃあ私も行くー」

雪風「雪風もお供します!」

時津風「時津風もー」

龍驤「まったく……駆逐艦っちゅーのは、ヤンチャガールばっかやな。

   えぇか、無理したらアカンで? ピンチの時に撤退する勇気も大事や」

浜風「心得ています」

瑞鳳「浜風ちゃん、これ、持って行って」

浜風「探照灯……」

瑞鳳「持ち出し許可はとってないから、あとでこっそり返しておいてね」

浜風「ありがとうございます。必ず、浦風を連れて帰ります」

龍驤「ほな、さっさと行き! 時間がないで!」

浜風「はい…………。それでは行きましょう。ないない駆逐隊、抜錨です!」









                 ~ 海上 ~






浦風「雨は止んだみたいじゃが……皆の姿は見えんのぉ」

浦風( うちが早いだけ? それとも一番遅い? 帰投中に誰かと会うじゃろうて、思っとったけど…… )


浦風「そうじゃ、無線で一度確認してみればえぇんじゃ。えぇっと……」


        ザザー ザーザー ザーーーー


浦風「無線が届かん……。そんなに離れとるん?」

浦風( 何かが、おかしい…… )

浦風「でも、進路だってきちんと北西じゃ。何も間違うとらんし………………えっ、嘘……」



浦風( 羅針盤が……動いとらん………… )



浦風「ここ…………どこ…………」






    ――――――今のあなたは、足手まといなんです。






浦風「やっぱり……ダメじゃ……。うちはおバカじゃ。

   結局……結局うちは……誰かの頼れる存在になんて、なれんかった……。

   ひとりで鎮守府に帰ることもできんなんて……足手まとい以外の、何でもない……」


浦風「助けて………」





浦風「助けて…………浜風……浜風…………浜風……」









        ザザッ



??『私は遠慮がなさすぎると言われ、ないない駆逐隊の一員となりました』


浦風「え……この声は……」



??『思ったことを、すぐに口にしてしまうのです。私のこの性格は、時には人を傷つけます。

   私の発言が原因で隊の雰囲気が悪くなることも、何度かありました』


浦風「浜風……?」


??『それは大変ですね。何か対策などはされたのですか?』


浦風「…………??」


??『対策……ですか。対策ではありませんが、私は人と距離を置くことで、この欠点が目立たないよう努めました』

??『ということは、現在所属している隊の人たちとも、あまり仲は良くないのですか?』


浦風「な、なんじゃ……? 浜風と、知らない人の声………」


??『慣れ合うつもりはありませんでした……ですが、そんな私に、手を差し伸べる人がいました。

   彼女は私の欠点を「すごい」と言ってくれました。私のことを頼りにしたいと、親友になりたいと……』

??『なるほど。ではその彼女が、あなたを暗闇から救ってくれたのですね』




浦風「もしかしてこれ、テレビの音……? 例のドキュメンタリー……でも、なんで……」




  ――――――答えはズバリ……テレビや!



浦風「そうじゃ……龍驤さん、言うとった……。

   海域によっては、電探がテレビの電波を受信しよることがあるって……!」



浜風『彼女に救われた…………いいえ、私が、彼女を引き込んでしまったのです』

??『どういうことでしょうか?』

浜風『その日から彼女は、私に頼ることを始めました。それは日々エスカレートし、やがて「依存」に変わったのです。

   それが原因で彼女は周囲から、意志のない空っぽな艦娘だと言われるようになりました。

   私自身も、彼女が周囲からそう呼ばれていくのを感じていました。

   だから私は、その時点で彼女に言うべきでした。私の親友であり続けていると、あなたの評価が落ちる、と』


浦風「………………」


浜風『でも……私は、言えなかった。怖かったんです。彼女が私の親友でなくなってしまったら、

   私はまた、あの暗闇の中に戻ってしまうのではと……そう考えてしまって……』


浦風「浜風……」


浜風『私は……私はずっと、大好きな親友にだけ……ずっと……遠慮していたんです』


浦風「………………」


浜風『だから……たから私は今、伝えたいのです。私は、彼女と…………―――』


   ザザーー…………プツン


浦風「あっ、切れてしもぉた……」



浦風( これは……浜風からのエール。

   浜風の声が……浜風の電探が……うちに言うとる。諦めたら、ダメだって…… )



浦風「考えるんじゃ……まだ何か方法がある……何か……何か………………」



   ――――――星です。



浦風「そうじゃ……星…………北極星……!!

   北斗七星……柄杓の先端のα星とβ星……。2つの間隔を、柄杓の口が開いた方向に5倍延長して……

   そこに見えるのが北極星……こぐま座の、ポラリス!!」






浦風「また雨……。北極星、見えんくなってもぉた…………ううん、大丈夫。北西はこっち……こっち……」


       ザーッ


浦風「浜風……うちだって同じじゃ……。

   頼りたいとか頼られたいとか、今さらそんなの、もうそんなの、どうでもえぇんじゃ……。

   ただ浜風を頼るのをやめたら……うちは、今まで通り浜風の親友でいられんくなるんかもって……。

   それだけが、怖かった……」


   ビュウゥウウウウウウウウッ!!


浦風「うっ……突風…………!! 流されて……! 方角、見失ったら……!」


    ザバァアアン!


浦風「くっ……どこじゃ……どこじゃ…………北極星は……うちの、ポラリスは…………浜風…………」








    ピカッ  ピカッ







浦風「あれ、見える……北極星? ……こんな雨なのに、どうして……」




    「 浦風ぇえーーー!! 浦風ぇえーーー!! 浦風ぇえーーー!! 」



浦風「浜風……浜風…………。 浜風ぇえええええーーーーっ!!」








時津風「何か、聞こえない?」

雪風「声が聞こえます!」

浜風「はぁ……はぁ……浦風……浦風の声です!」

天津風「良かった! でも、どこから……? 雨で何も見えないんだけど……?」

浜風「こっちです!」

島風「うわっ、急に進路変更しないでよもぉー!」




浜風「浦風ぇえーー!!」

浦風「浜風ぇええーーーっ!!」




    がしっ




浜風「はぁ……はぁ……ようやく、捕まえましたよ……浦風……」

浦風「浜風……浜風ぇ………」

浜風「浦風、覚えていますか? 私と浦風が、初めて言葉を交わした日のことを」

浦風「うん」

浜風「………………色々と遠回りしてきましたが、私はずっと、あなたに一言、

   たった一言だけ……怖くて、遠慮して伝えられなかった、単純な気持ちを、伝えたかった……」

浦風「………………」







浦風「ぐすっ…………うち、浦風じゃ」

浜風「知っています。……知っています」

浦風「えへへっ……あなたは?」

浜風「私は、浜風です」

浦風「うん。知っとるよ」

浜風「浦風、どうか……どうか私と……」

浦風「うん……」

浜風「私と、“本当の親友”に、なってくれませんか?」

浦風「うん…………喜んで」







時津風「ひゅーひゅー、お熱いねー」

雪風「二人はやっぱり、とっても仲良しさんです!」

島風「見つかったなら早く帰ろうよー。もうベタベター! はーやーくー!」

天津風「ほら、また雨も止んで綺麗な星空も見えてきたことだし、今のうちに帰投するわよ」






浦風「……北極星じゃね」


浜風「はい? あぁなるほど、この辺りまで来れたのは、あの知識が役に立ったからなのですね」


浦風「ふふっ。浜風はうちの、輝く北極星じゃね」

















              ~ 翌朝 司令室 ~









―――私は……私はずっと、大好きな親友にだけ……ずっと……遠慮していたんです。


―――だから……たから私は今、伝えたいのです。私は、彼女と…………


――――――浦風と、本当の親友になりたい……。




提督「いやぁ、色々あったみたいだが皆が無事でなによりだ」

浜風「………………」



――――――浦風と、本当の親友になりたい……。



提督「その後の報告によると、敵の残存潜水艦はすべて撤退していったようだ。

   ないない駆逐隊、諸君らのおかげである!」

天津風「あ、はい……それは、どうも」

浦風「えへ、えへへ……」



――――――浦風と、本当の親友になりたい……。




提督「雑誌もテレビも無事に終わったようで良かった。

   きっと向こうの鎮守府でも、君たちのことが話題になっているだろうな」

雪風「翔鶴さん、雪風たちの活躍、見てくれているでしょうか!」

時津風「そりゃー当然だよー。録画だってしてるよー」

島風「翔鶴さん遅いから、録画とかできなさそう」



――――――浦風と、本当の親友になりたい……。



提督「ははは、もしそうなら、私の方から翔鶴へデータを送るさ」

浦風「うんうん。へへっ、それがえぇねぇ~」



――――――浦風と、本当の親友になりたい……。



浜風「…………て、提督」

提督「ん? どうした?」



――――――浦風と、本当の親友になりたい……。



浜風「いい加減……そのシーンだけリピート再生するのは、やめて頂けませんか……」



提督「それは聞けぬ願いだな」

浜風「お願いします」

提督「ダメだ」

天津風「鬼だわ……この人……」

提督「言っただろう? これは罰則だ。私の許可なく浦風を捜しに再出撃し、

   あまつさえ無断で探照灯を持ち出したんだ」

浜風「この罰則は、私だけが辱めを受けているようにしか思えないのですが」

提督「嫌なら今度こそ全員で踊ってもらうぞ。スク水姿で」

雪風「はい! 雪風、今の罰則のままでいいと思います!」

時津風「時津風もー」

島風「異議なーし」

天津風「わ、私も……」

提督「ほら、皆こう言ってるし」

浜風「何がチームですかこの薄情者め……」

浦風「えへへっ」

浜風「浦風は、私の味方で……」

浦風「うちもこの罰則の方がえぇなぁ~」

浜風「なっ……」

浦風「いやー、提督さんもお目が高いのぉ。うちもこのシーンがぶち好きじゃ!」

提督「普段クールで表情を変えない浜風の、この恥じらいながらも大切な人を想って

   本音を打ち明けてしまう表情が、ホンットたまらないな!」

浦風「分かっとるやないの提督さ~ん。しかもこれ、うちに向けたメッセージじゃけぇねぇ?

   もぉこれ……なんべん聞いても照れてまうのぉ……!! えへへーっ」

浜風「浦風……これが、あなたの意志なのですか…………」



提督「しかもそんな素晴らしいシーンを、本人のいる前でリピート再生するというこのプレイ……

   新しい何かに目覚めてしまいそうで少し恐ろしい……でも、やめられない! これは罰則なのだから!」

浦風「くぅ~! そうじゃ、罰則じゃけぇ、しゃあないことなんじゃ!」



――――――浦風と、本当の親友になりたい……。



天津風「浦風……恐ろしい子……」

浦風「それはそうと提督さん。その録画のデータ、うちにもちょうだい?」

提督「いいだろう。ただし、タダというわけにはいかない」

浦風「そんなの当然じゃて。うちにはほれ、浜風のお宝写真がこがぁにあるよ?」

提督「お宝写真!?」ガタッ

浦風「これはカレーうどんを食べる浜風、こっちはお昼寝浜風、さらにこっちは寝起き浜風」

提督「よし、このデータを浦風にも渡そう」

浦風「交渉成立じゃ」

浜風「…………」

天津風「浜風のことを、こんなにも気の毒に思ったのは初めてね……」

雪風「あれ、何をしているのでしょう?」

時津風「闇の取引かなぁー?」

島風「もうお部屋戻っちゃだめー?」



提督「―――で、他にはどんな写真が?」

浦風「おしゃぶり昆布に夢中な浜風じゃろ? それから縄跳びしてる浜風、鏡の前でポーズをとる浜風に……」

提督「ください」

浦風「いくら提督さんでも、タダってわけにはいかんのぉ」

提督「じゃ、じゃあこの写真集……個人製作『秘書艦天津風の一日』を丸ごと……」

天津風「なんてもの作ってるのよ! っていうかいつ撮ったの!?」

浦風「それはダメじゃて提督さん。浜風の写真じゃなきゃ無価値じゃけぇ」

天津風「何それちょっとショック!?」

浦風「ふふーん、どうじゃどうじゃ?」キラキラ

提督「ぐぬぬ……」



天津風「この調子だと、この先も色々と大変ねぇ浜風」

浜風「いえ……何がともあれ、浦風の輝く笑顔が見れて私は………―――」




浦風「提督さーん? うちのお願い何でも聞いてくれるんなら、浜風コレクションを共有してあげてもえぇよ?」

提督「ほ、本当か!?」




浜風「―――私は………少し、複雑な気持ちです」









おわり



ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
今回のテーマは多感なお年頃の少女の、色んな意味でベタベタな友情、という感じでしょうか。
ゲーム内のないない駆逐隊もすくすくと育ってきました。
佐世保鯖でお見かけした際には、どうぞよろしくお願いします。



過去作

①提督「朝潮型、整列!」
提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
 【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28020797

②提督「朝潮型、出撃!」
提督「朝潮型、出撃!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443970090/)
 【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28309364】(1/3)
 【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28443518】(2/3)
 【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28592869】(3/3)

③提督「朝潮型、索敵!」
提督「朝潮型、索敵!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445001663/)

④提督「朝潮型、遠征!」
提督「朝潮型、遠征!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445615911/)

⑤提督「朝潮型、編成!」
提督「朝潮型、編成!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446812254/)

⑥提督「朝潮型、解散!」
提督「朝潮型、解散!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447416092/)

⑦提督「朝潮型、結婚!」
提督「朝潮型、結婚!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451124063/)




①提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」
提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454071396/)

①提督「踊れ、ないない駆逐隊!」
提督「踊れ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457606813/)


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