【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」吹雪「その4です!」 (353)


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提督「墓場島鎮守府?」
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」 - SSまとめ速報
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時系列的にはここがこのスレ。

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】 - SSまとめ速報
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「鎮守府が罠だらけ?」スレッドの番外編(前日譚)です。

・舞台になっている鎮守府、通称『墓場島鎮守府』の過去の話になります。
 提督の着任から、各艦娘がこの島へ着任するに至った経緯を書いていきます。

・艦娘の殆どが不幸な目に遭っておりますので、そういう話が嫌な方は閉じてください。

・影牢のキャラは出てきません。


・感想、雑談など、書き込みの際はメールアドレス欄に「sage」と入れてください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1652576643

舞台の「墓場島」について
 作中の表記は「××国××島」、通称「墓場島」。太平洋上にあるとある無人島、パラオ泊地が一番近いと思われる。
 島の北側には海底火山があり、潮流が強く流れが特殊なため、普通の船舶は近寄れない。
 そのためか深海棲艦も寄り付かず、轟沈した艦娘の亡骸がよく島の北東に流れ着いている。
 島の北部は火山活動によってできた岩場。西側は手つかずの林に包まれ、小さいながら切り立った崖がある。
 島の南から北東にかけては、なだらかな丘陵と砂浜が続いており、島の東側に鎮守府が建てられている。

 墓場島と呼ばれるようになった所以は、提督が流れ着いた艦娘を埋葬し、墓標代わりに艤装を並べたことから。
 最近では、問題を起こした艦娘を送り込む墓場、という意味に勘違いした海軍から、艦娘を送り付けられている。


艦娘以外の主要な登場人物

・提督
 階級は准尉。一般人には見ることすら出来ない妖精と話が出来たせいで
 親からも変人扱いされたため、人間嫌いをこじらせる。結構な不幸体質持ち。
 中佐の補佐官として海軍に入ったが、無人島の鎮守府に幽閉同然の扱いで着任した。

・中佐(前スレ初登場時は少佐)
 戦争は金儲けの道具と考え、中将の威光を傘に暗躍。後に大佐にまで昇進する。
 妖精と会話できる提督の存在に危機感を覚え、離島の鎮守府に封じ込めた。

・中将
 中佐の父親。有能だったらしいが息子が絡むと駄目になるらしい。
 足を悪くしており、本営の自室でデスクワークが日常。

・そのほか、たくさんの『提督』

登場艦娘一覧

如月:試作の新兵器の実験台にされていたところを脱走し大破、島に漂着
不知火:もと少佐の部下。解体前提で如月捜索に駆り出されるが、提督の計らいで中将麾下に
朧、吹雪:捨て艦で轟沈後、島に流れ着く(二人とも別の鎮守府出身)
由良、電:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く(同じ鎮守府出身)
神通:慕っていた司令官を謀殺され、その復讐の途中で左遷させられる
大淀:日々の解体任務に疑問を覚えて仕事が手につかなくなり異動してきた
敷波:由良と電の捜索を命じられそのままMIA
明石:提督に帳簿の不正を強いられ、そのまま首犯扱いで雷撃処分
朝潮、霞:提督の不正の内部告発を計画するも逆に犯人扱いされ雷撃処分
暁:信頼していた提督の変貌に錯乱して敵陣特攻し記憶喪失に
初春:捨て艦で轟沈後、暁に助けられ島に漂着
潮、長門:変態の上官に迫られ耐え切れなくなり家出、長門はその護衛
比叡:料理上手なのに認めてもらえずご飯を投げ捨てられて鬱に
古鷹:お人よし過ぎて自分の練度が上がらず観艦式において行かれる
朝雲:観艦式に向かう途中で艦隊を離脱して古鷹を追いかけてきた
利根:司令官の猟奇趣味に巻き込まれ死にかける
ル級:オリョールで毎日毎日潜水艦に小突かれる日々に嫌気がさし脱走
伊8:オリョールに行ったら逃げたル級の代わりの軽巡に轟沈させられる
大和:妖精が提督に内緒で大張り切りで大型建造したら作られた
初雪:艦娘管理ツール使いの提督に昼夜問わずこき使われ失神後漂着
金剛:愛情から目を背ける提督を説得し続け、煙たがられて左遷
五月雨:玉砕覚悟の敵討ちを望むも、仲間を沈めた濡れ衣を着せられて追い出される
榛名、那珂:養成所の訓練と称して轟沈するまで戦わされ島に流れ着く
扶桑、山城:理由もなく疫病神扱いされ、戦況不利な海域に誘導され轟沈する
龍驤:暴食を強要され体形を馬鹿にされ、ブチ切れて鎮守府を火の海に
陸奥:龍驤と同じく暴食を強要され、かつ度重なるセクハラで男性不信に
雲龍:特別海域で艦隊に邂逅できず、餓死寸前だったところを龍驤に保護される
島風:スピードを追い求める姿勢を疎まれて、訓練中に除名される
白露:島風と一緒に特訓するため艤装を改造、同じく訓練中に除名される
黒潮:姉妹艦を人身御供にした司令官にぶち切れて、犯人もろとも海に投げ捨て離反
山雲:ドロップ直後に、黒潮を探す雪風が起こした深海勢に激突される
最上、三隈:最上にベタベタし続けたことに三隈が切れて提督の股間を破壊
摩耶、霧島:理不尽な防戦指示を無視して戦況を好転させたため、提督に激怒される
川内、若葉:夜戦禁止の腰抜け提督の下で輸送部隊の撃破のため夜戦したら馘になった
武蔵:またも妖精が提督に内緒で大張り切りで大型建造して作られた
五十鈴、筑摩:テレビの取材で舞い上がった前提督の散財で赤札を貼られた鎮守府から脱走
加古、鳥海:一日提督の無茶のために、加古の大破進軍を轟沈させまいと鳥海が庇って揃って轟沈
千歳、足柄:婚活したがっている女提督と喧嘩別れ後、墓場島への案内を任されそのまま着任
隼鷹:ケッコンカッコカリ間近で提督の頬を叩いたところを上官に見られて更迭後、脱走
那智:酒飲みの愚痴聞き係で戦線に立たせてもらえなかったため脱走

注:ル級は島の北の離れ小島近辺に住んでいます。この鎮守府所属ではありません。

以上テンプレ。長くなりすぎだ……。

では本編の続きです。


 * 翌日 執務室 *

武蔵「……というわけでな」

龍驤「ふーん、利根と筑摩はまだぎこちない感じやったんやねえ。利根だけだと平然としとるんやけど」

提督「そういうわけで、龍驤と雲龍に、意見っつうか、今の筑摩たちの状況をどう打開したらいいか、経験者の話を聞かせて欲しくてな」

龍驤「なんでうちらを呼んだかと思えば、そういうことやったんか。まあ、確かにシチュエーションとしては似とるかなあ?」

武蔵「そうなのか?」

龍驤「うちが一方的にブチ切れて、雲龍を困らせたってのは事実や」

雲龍「そうじゃないわ。私が悪かったから龍驤を怒らせたの」

龍驤「うちやろ?」

雲龍「私よ?」

武蔵「唐突にイチャイチャし始めないくれ」

龍驤「イチャイチャしてるように見えるんか、これ」

雲龍「嬉しいわ」ポ

龍驤「うちら言い争ってたんちゃうんかい」ツッコミ

武蔵「仲が良くないと、そんな言い争いはできないだろう」


提督「だよな。でだ、今でこそこのくらい仲が良いんだが、あの時は俺もどう手を付けたらいいかわからないくらいにはなってたよな?」

龍驤「んー……まあ、そうやねえ」

筑摩「……」

提督「なあ雲龍?」

雲龍「はい」

提督「もし、お前が龍驤に許してもらえなかったら、どうしてた?」

雲龍「……あまり、考えたくはないけれど」

雲龍「その時は、龍驤の前から消えようと思ったわ」

雲龍「私が龍驤に嫌われるのは仕方なかったと思うし、私は龍驤を嫌いになりたくなかったから」

提督「……そうか。龍驤もよく受け入れられたもんだと思うぜ」

龍驤「あー、まあね……その、悔しいとかってのは確かにあったんやけど、それで雲龍に文句言うのも、それはそれで理不尽やんな、って」

提督「そこで冷静になれるからすげえって話だ。俺なんざ一度嫌いになると二度と話したくなくなるしな。おとなだぜ」

雲龍「ええ。素敵でしょう?」ドヤ

龍驤「雲龍がドヤるんかい」ツッコミ


武蔵「となると、やはり利根から筑摩をどう思うか聞いた方がいいと思うんだが」

雲龍「そうかしら。私は、そこまでしなくてもいいと思うけど」

武蔵「どうしてそう思う」

雲龍「相手が許すか許さないかは関係ないわ。悪いと思ったから、頭を下げる。それだけじゃないの?」

武蔵「む……」

筑摩「……」

雲龍「ねえ、筑摩」

筑摩「は、はい」

雲龍「多分だけれど、あなたの好きな人は、あなたが傷付くことを望んではいないと思うわ。だって、私もそうだったもの」

筑摩「そ……そうでしょうか」

雲龍「あなたはきっと、『好き』の伝え方を間違えただけ」

筑摩「……」

雲龍「私も、私を助けてくれた人のために、独り善がりで自分を傷付けようとして、逆に怒らせてしまったの」

雲龍「自分のしようとしたことが、本当に相手が望むことなのか。自分の思い込みだけで、相手の幸せを決めつけていないか」

雲龍「それをしっかり考えることができるようになれば、また、向き合ってくれると思うわ」

筑摩「……」


龍驤「そうそう、うちも殺したいほど雲龍が憎いわけやなかったし、利根も同じやと思うで」

雲龍「そのためにも、改めてちゃんと謝るべきね」

龍驤「せやなあ、それは最低限かな。もし利根が、筑摩を心底嫌ってなければ、時間はかかるやろうけど、許してくれると思うけどなあ」

提督「だから俺は時間をかけるしかねえと思ってんだよな。けど、武蔵はそろそろ筑摩がやばいと思ってんだろ?」

武蔵「ああ。私自身がじれったく思うからというのもあるが、ここ最近の筑摩の意気消沈ぶりを見ると特にな」

提督「……利根がどう思っているか、というのが案外重要になるわけか」

武蔵「龍驤の場合はどうだったんだ。どういう経緯で雲龍を受け入れようと思ったんだ?」

龍驤「んーとねえ……うちは前の鎮守府で、このちんちくりんな体を馬鹿にされ続けてきててなあ」

龍驤「せやから、胸の大きい子とかは、ぶっちゃけ憎悪の対象やったんよ。だから、自分が助けた雲龍もそうやったんや」

龍驤「けど、扶桑が言っとったんよ。辛いことから目を背けてたら、大事なものを失うことになる、て」

龍驤「それから扶桑は、うちが雲龍を助けたことを羨ましい、って言うとった。自分がそれをできひんかったから、て……」

提督(時雨のことか……)

龍驤「そん時の扶桑の笑顔がえらい寂しそうでなあ……そう言われると、うちのやってることが途端に小ぃちゃく思えて」

龍驤「だから、カラダ抜きにして雲龍と向き合おうと思たんよ」

武蔵「……」

龍驤「そういうことを最初から理解してたら、雲龍とも喧嘩せんかったのになあ……」アハハー


提督「おいおい、最初からそうだったら雲龍との邂逅もなかっただろ」

提督「忘れたか? お前、自分の体のことで思い詰めて鎮守府飛び出してったんだろが」

龍驤「あー……!」

提督「お前が悩んでなかったら、雲龍も海の藻屑になってた」

提督「おそらく、お前にとっても雲龍にとっても、その悩みは必要なものだったのかもな。好意的に捉えれば、の話だが」

雲龍「それってもしかして、運命……?」

龍驤「うーん、それを運命って呼ぶのは嫌やなあ……雲龍が骨だけになってたのが運命やなんて、酷くない? あんまりやで」

雲龍「……好き」ヒシッ

龍驤「んなっ!? なんなん!? なにしたん!?」

武蔵「そういうところだぞ、龍驤」

龍驤「どういうとこやねん!」ツッコミ

提督「……どうだ、筑摩。少しは参考になったか」

龍驤「いやそこで筑摩に振るんかい」ツッコミ

筑摩「……」

武蔵「まだ迷ってるみたいだな」


提督「無理もねえさ。筑摩としちゃあこれ以上利根に嫌われたくないからな。臆病にもなる」

提督「けど、利根だって筑摩を避けたくて避けてるわけじゃねえはずだ。俺だって仲直りできりゃあいいなとは思ってる」

提督「ただ、こればっかりは当人同士が納得しねえと、余計にぶっ壊れて修復不能になるだろうからな。俺が口を挟んで好転するとも思えねえ」

武蔵「……そう、だな。利根のことを考えれば、無理強いはできないな」

龍驤「せやねえ……あれは思い出しとうないなあ」

提督「ああ、あれか」

雲龍「?」

龍驤「雲龍は覚えてなくてええんやで」ナデナデ

 コンコン

提督「うん? 誰だ」

神通「神通です。提督、少しお時間よろしいでしょうか」

提督「ああ、とりあえず入ってくれ」

神通「失礼いたします」チャッ パタン

提督「何かあったのか?」

神通「……あの、まだお話の途中でしたでしょうか」

提督「いや、一区切りついた、よな?」

武蔵「ああ」

神通「でしたら、恐れ入りますが提督にご足労いただけないでしょうか」

提督「俺か?」

神通「はい」


 * 島の南東 丘の上 *

神通「こちらです」

提督「……利根?」

利根「うむ、すまぬな神通。引き続き人払いを頼む」

神通「はい」

提督「……話ってのは、お前か?」

利根「うむ。単刀直入に言おう、筑摩は今どうしておる?」

提督「……一言で言えば、滅入っているな」

利根「そうか……」

提督「……」

利根「提督よ。吾輩は、ケリをつけようと思う」

 * * *

 * *

 *


 * しばらく後 埠頭 *

武蔵「ふむ……」

筑摩「武蔵さん、大和さんからのお話というのはいったい……」

武蔵「私も心当たりはないが……なんでも、準備がいると言っていたからな。装備の話だろうか」

筑摩「……」

武蔵「とはいえ、約束の時間を10分遅刻か。一度戻ったほうがいいか……?」

 ザッ

武蔵「!」

大和「ごめんなさい、お待たせしました」

武蔵「おお、大和、遅かったな。それで、私に話というのは……?」

利根「……」ス…

筑摩「!」ビクッ

大和「ごめんなさい。話があるのは私から武蔵へではなく、利根さんから筑摩さんへ、です。五十鈴さんにもご同席をお願いしました」

五十鈴「大和さんたちがいるんだから、私がどのくらいお役に立てるかわかんないですけど……」

武蔵「なるほど……いや、こういう状況なら助かるぞ。筑摩のことを一番よく知っているのはお前だろうからな」


筑摩「……」メソラシ

利根「筑摩」

筑摩「……姉さん」

利根「吾輩のほうを向いてくれ。筑摩」

筑摩「……」チラッ

利根「……」

筑摩「あの、利根姉さんは、大丈夫……なん、ですか?」

利根「ああ。その……今まで、すまなかった」

筑摩「ね、姉さん……!」

利根「吾輩が醜態を曝したばかりに、筑摩につらい思いをさせたこと……吾輩の未熟ゆえの」

筑摩「ち、違います! それは違います!! 醜態だなんて……姉さんが悪いなんて!!

筑摩「利根姉さんに悪いところなんてありません! 私が……私が、自分勝手な思いを押し付けたのが……」

筑摩「嫌がっていた姉さんのことを、心配しなかった私が悪いんです!」

利根「……」

筑摩「利根姉さんが……私の前で、つらそうにしているのは、全部、私のせいです……」


筑摩「だから……利根姉さんは、無理をしないでください。私は、姉さんがいるだけで、いいんです」

筑摩「あんなことをした利根姉さんが、普通にしてくれているだけで……」

利根「いいわけがなかろう!!」

筑摩「!」ビクッ

利根「筑摩は、吾輩の、自慢の妹だぞ……! その妹に、いつまでも避けられる姉がいてたまるものか!!」

筑摩「ね……姉さん……!」

利根「……筑摩」スッ

筑摩「……」ビクッ

武蔵「筑摩。下がるな」

筑摩「で、でも、姉さんがまた倒れたりしたら……」

利根「そうはならん。情けない姉は、今日で返上じゃ」

筑摩「利根姉さん……!」

 (筑摩にゆっくりと利根が歩み寄る)

五十鈴「利根さん、筑摩さんに近寄るだけで緊張してるみたいですけど……本当に大丈夫なんですか」ヒソヒソ

大和「信じましょう。利根さんも、必死なんですから」

五十鈴「……そうね、そうだわ。利根さん、頑張って……!」


利根「……筑摩」

筑摩「利根、姉さん……」

利根「……」

筑摩「……」

利根「大丈夫。大丈夫だとも」ニコ…

筑摩「……!」ウルッ

利根「しかし、やはり吾輩は情けないな」

 (そっと筑摩の頬に手を触れようとする利根)

利根「……筑摩に触れるのさえ、躊躇うとは」

筑摩「……」

利根「そのように泣きそうな顔をするな、筑摩。吾輩は大丈夫だと言ったであろう」

筑摩「はい……私は、利根姉さんを信じています」

 (祈るように胸の前で手を組む筑摩)

筑摩「私も、利根姉さんに、信じてもらいたい……!」

筑摩「二度と、同じ過ちは犯さないと……!」


利根「筑摩……」

 (利根の手が筑摩の頬をそっとなでる)

筑摩「……!!」

利根「……やっと……やっとじゃな」

筑摩「利根姉さん……!」

利根「待たせて、すまなかった」

筑摩「そんな……私のせいで、ごめんなさい……!」ポロポロ…

武蔵(いや、まだだ……まだだぞ、筑摩。慌てるな……決して、手を出すなよ、筑摩……!)ジリッ

利根「……なあ、筑摩よ」

筑摩「は、はい」グスッ

利根「その……」

 (利根が筑摩を抱き寄せる)

筑摩「!?」セキメン

武蔵「な……っ!?」

利根「今は、これで、我慢してもらえんか」

筑摩「○※▲×◇!?」


武蔵「が、我慢!? ……というのは、どういうことだ!?」

利根「筑摩は、おそらくこうしたかったんではないか、と思っていてな」

筑摩「」コクコク

利根「しかし、吾輩がそれを恐れたが故に、筑摩は今も吾輩に手を出すまいと胸の前で組んでおる」

利根「吾輩は、筑摩のことは決して嫌いではない。嫌いではないんじゃ」

利根「その、強引に迫られるというか、目の色を変えられるというか、そういうのが苦手というだけで、吾輩は、筑摩が決して嫌いなわけではない」

筑摩「……」ジワッ

利根「何度でも言うぞ。筑摩は、吾輩の自慢の妹である」

利根「こんなに吾輩を心配してくれていた筑摩を、恐ろしいと思っていたこと……許してほしい」ギュ…

筑摩「姉さん……!!」

筑摩(ああ……触れることすらかなわないと思っていた姉さんの手が……顔が、こんなに近くに!)

筑摩(自分から触れるよりも遙かに嬉しくて……こんなに昂ぶるなんて!!)プルプル

筑摩(……)

筑摩(……もしかして、このまま私が利根姉さんに手を出さずにいたら、もっといろんなことを利根姉さんにしてもらえるのでは?)

利根「……筑摩?」


筑摩「え? だ、大丈夫ですよ姉さん。姉さんこそ、大丈夫なんです……よね?」

利根「ああ。心配させてすまなかった」ギュ

筑摩「……!!!」

筑摩(ああああ! 利根姉さん可愛い! 笑顔が! 柔らかい感触が!)プルプルプル

五十鈴「ねえ……筑摩さんの様子がおかしくない?」

大和「えっ? まさか……」

筑摩(利根姉さんに初めて会ったときは、嬉しくて全部欲しくて襲いかかってしまったけど……)

筑摩(もしかして、私がこのまま我慢し続ければ……私から手を出さなければ、利根姉さんのほうから襲ってきてくれる可能性も!?)

筑摩(……私が、利根姉さんになすがままに……!?)

筑摩(……それは……!)

筑摩「はぷあ!」ハナヂブシャアアア!

利根「ふおわ!?」

大和「ぬお!?」

武蔵「きゃっ!?」

五十鈴「筑摩さんっ!?」

利根「ち、ちくま!?」

筑摩「ら、らいひょ……っし、しあっ、しあわひぇ、すぎ……」

利根「し、しっかりするんじゃ筑摩!!」


大和「い、いったいどういうことなの……」

武蔵「うーん……もしかしたら、我慢しすぎたんじゃないか?」

大和「が、我慢しすぎた?」

武蔵「反動が来たというか……利根が倒れた一件以来、筑摩は利根との接触を極力避けてきたからな」

武蔵「おそらく、筑摩が我慢に我慢を重ねた結果、利根に対して強烈な片思いを抱くようになり……それが突然成就した結果で、ああなったと」

五十鈴「……それであの鼻血?」

武蔵「ではないかな、と思ったんだ……自信はない」

武蔵「いずれにせよだ、あの二人はもうしばらく様子を見たほうが良さそうだ」

大和「そ、そうね……」

利根「筑摩! しっかりするんじゃ! ちくまぁぁ!!」ナミダメ

筑摩「だいひょうぶ、だい……じょうぶ、です、利根姉さん……!」ウフフ…

五十鈴「まあ、筑摩さんも嬉しそうだし、いいんじゃない?」ニガワライ


 * その後 執務室 *

提督「……」

神通「……」

大和「というわけで、利根さんは筑摩さんをドックへ運んで、しばらく看病? するということでした」

提督「……訳わかんねえな。どういうこった?」

大和「えぇと……拒絶されていた相手からいきなり抱きつかれたら、嬉しいのと戸惑うのとで混乱するだろう、」

大和「というところまでは、私もなんとか『そうかもしれない』と考えることまではできましたが……」

提督「鼻血ってのはなんなんだ?」

大和「……興奮しすぎたか、感極まったか……」ウーン

提督「まあいいや、大和に理解できねえもんを俺が理解できると思えねえ」

提督「ともかく、利根が襲われたときのことを想定してお前に行ってもらったが、杞憂で済んで良かったぜ。ありがとな」

大和「いえ、艦隊のお役に立てて何よりです。また困ったことがありましたら、大和をお呼びください」ニコ

 扉<チャッ パタン

提督「神通、お前は利根のところに行かなくてよかったのか?」

神通「はい。あのときは、利根さんの決意を私も信じてましたから」

提督「……無理すんなよ? 利根でも俺でも、頼りたいときは頼れよ。お前みたいになまじ強い奴ほど、ストレスため込むからな」

神通「ありがとうございます」ニコ

というわけで今回はここまで。
掘り下げて書き出した結果、4スレ目にまで突入してしまいました。
不定期更新ですが、本スレでもお付き合いよろしくお願い致します。

よく見る二次創作だと、利根が筑摩に泣きつくパターンが多いので、
逆にしっかりお姉さんしてる利根を描きたくなってこうなったのですが……。
筑摩をここまでクサレっぽくする気はなかったんだけど……どうしてこうなった。

続キデス。


 * 夜 提督の寝室 *

提督「……」

提督「……」ムクリ

提督「……眠れねえな……」

敷波「……」スヤァ…

提督「今日は敷波か? ……珍しいな」

提督「目が覚めたのは、珍しい奴が隣にいるから……じゃねえな」

提督「……くそ、眠れねえ」



 * 北東の海岸 *

提督「……」

(提督が空を見上げると、月が煌々と輝いている)

提督「……月か」

提督「久し振りだな。こんなふうに夜空を眺めるのは」

 ザザァ…

ル級「珍シイナ。コンナ時間ニ散歩ダナンテ」

提督「よう。確かに珍しいな」


ル級「服装ガイツモト違ウナ……?」

提督「ああ、こりゃ寝間着だ。こんな時間に目が覚めて、眠れなくてこんなところまで足を運んだんだ」

ル級「ネマキ?」

提督(あー……もしかして、深海棲艦に睡眠の概念とかねえのか?)

提督「えーとな、人間は普通、夜中は横に寝転がって眠ってんだ。堅苦しい服だと眠れないんで、こういう楽な服を着てんだよ」

ル級「……眠レナイ? トイウコトハ、目ノ覚メルヨウナコトデモ、アッタノカ?」

提督「いや? むしろ疲れてて眠りたいはずなんだけどな……なんか、気分がザワザワするっつうか……」

提督「おそらく、ここ最近この島に来てた人間どもにイライラさせられて、それがすっきりしてねえんだろうな」

ル級「……人間……」

提督「まあ、いろいろありすぎだ。とっとと寝て忘れたいところだが……」

ル級「……」

提督「……ル級?」

ル級「提督。コノ島ニ、人間ドモガ来テイタダロウ?」

提督「ああ。見たのか?」

ル級「私ガ、ソイツラヲ、殺シタ」

提督「お前が……?」


ル級「ソウダ」

提督「あいつらに何かされたのか? 攻撃されたとか……なにか撮られたとか」

ル級「……? 何モ、サレテイナイ。アイツラハ、私ニ怯エテイタダケダ」

提督「何もされてないんだな? ……そうか。なら良かった」

ル級「……」

提督「なんだ? 不思議そうな顔をして」

ル級「提督。オマエハ、私ヲ咎メナイノカ?」

提督「咎める? なんでだ?」

ル級「……」

提督「……?」

ル級「オ前ニハ、都合ガ悪クナイノカ?」

提督「俺? ……あ、ああ、そういう意味か」

提督「俺の立場って意味じゃあ、確かに、良いとは言いづれえな……」

提督「けどよ、そんなの関係なく、お前を責める気はねえよ。悪いのは、勝手にこの島に乗り込んできた、あの人間どもだ」

提督「だいたい、お前にとって人間は敵だろ? だからお前が人間を殺すのくらい当たり前だろうし、それを咎めるなんて意識はなかったな」

ル級「……」


提督「まさか俺のことを心配してくれてるとは思わなかった。悪いな」

ル級「……イヤ、イイ」

提督「ところで、お前はいつもこの時間に島に来てるのか?」

ル級「イイヤ? 今夜ハ、気マグレダ」

提督「そうか、そりゃ運が良かった」

ル級「? ドウイウ意味ダ」

提督「もしこの場に艦娘がいたら、今のことを話してくれてたか、って思ったんだ」

提督「深海棲艦と人間は敵対関係だ。逆に艦娘は人間の味方で、深海棲艦は人間と共通の敵……しかも、深海棲艦に対する攻撃能力もある」

提督「鎮守府は艦娘の拠点で、そこで不祥事を起こせば艦娘の生活にも少なからず影響が出る」

提督「それを引き起こしたのが深海棲艦のお前とあっては、うちの艦娘であっても、お前に悪い印象を抱くかもしれない」

提督「ま、お前との仲が険悪になるような話を聞かせたくなかったんで、好都合だったな、って話さ」

ル級「……提督ハ、ツクヅク変ナ人間ダナ」

提督「そうか? はっちゃんの時とか扶桑の時とか、お前には何度か助けられてるんだ。このくらいの礼儀はあって当たり前だろ?」

ル級「敵ニ、礼儀ヲ尽クスノカ?」

提督「俺はお前を敵だと思っちゃいねえぞ?」

ル級「……」


提督「ここには俺とお前だけ。俺はお前の敵のはずの人間だ。なのに、お前は俺を殺そうとしてねえじゃねえか」

提督「それどころか、わざわざ自分のやったことを教えてくれた上に、俺の心配までしてくれた」

提督「もしかしてお前、俺より優しいんじゃねえか?」

ル級「……オ前ノセイダナ」

提督「うん?」

ル級「オ前ガ、人間ノクセニ、深海棲艦ト馴レ馴レシクスルカラダ」

提督「……そうか。ククッ、それもそうか」

ル級「フフ……ソウダ。オ前ハ悪イ奴ダ」

提督「違いない……!」フフッ

ル級「提督」

提督「ん?」

ル級「……深海ニ来ルカ?」

提督「!」

ル級「提督ハ、人間ノ世界デハ生キニクソウニシテイル。私ト……深海ニ来ル気ハ、ナイカ?」

提督「……それも、いいかもしれねえな」


提督「だが、まだやることが残ってる。俺が身軽になったとき、まだ待っててくれるなら……それも考えてみよう」

ル級「……ソウカ。早クシテクレ。私ノ気ガ変ワラナイウチニ、ナ」

提督「また難しいこと言いやがって……」ククッ

提督「なあ、ル級?」

ル級「……ナンダ?」

提督「お前が……あいつらを殺したとき、お前はどう思ったんだ?」

ル級「……?」

提督「深い意味はねえよ。単純にどう思ったかが知りたい」

ル級「……私ハ、邪魔ダト思ッタダケダ」

ル級「アイツラガ、コノ砂浜デ言イ争ッテイタトコロヲ見ツケテ……目障リダト思ッタ。ソレデ、沖ヘ掴ンデ放リ投ゲタノヨ」

提督「そうだったのか。すまなかったな、手を煩わせちまって」

ル級「提督以外ノ人間ハ信用ナラナイ。ダカラ、邪魔ダト思ッテ、始末シタ。スッキリサセタ……ソレダケダ」

提督「なるほど……」

ル級「提督ハ、違ウノカ?」

提督「……ちょっとな。正直、これは俺自身が変なんじゃねえかって話なんだけど……」

ル級「提督ガ?」


提督「ああ。俺はあいつらが死んでるのを見つけたとき……」

提督「なんとも、思わなかったんだ」

ル級「……」

提督「ああ、死んだのか、と。ただその事実を認識しただけで、なんの感情も生まれなかった」

提督「この島で初めてこの砂浜に来て、たくさんの艦娘の遺体を見て、ショックを受けたことを、俺は覚えてる」

提督「それ以降も、この砂浜で艦娘が息絶えているのを見つけて、そのたびに腹ん中に黒い感情が渦巻いていたのを、俺は覚えてる」

提督「嫌な相手が死ねば『ざまあみろ』くらいは思うだろう。そうでなければ『残念だ』くらいは思うだろう」

提督「けど、あいつらが死んでたのを見ても、俺はなんとも思わなかった」

提督「何も、感じなかったんだ」

ル級「……」

提督「まあ、そんな感じで、俺も人間としては少なからずおかしくなったのか、と、思ってな」

提督「参考までに、お前がどう思ったのか、聞きたかったんだ」

ル級「……」

提督「深海か……俺は、そこでやっていけんのかねえ」

ル級「……ユックリ、考エレバイイ」


ル級「マダ、時間ハアルノダカラ」スッ

 ザザァ…

提督「ル級?」

ル級「戻ッテ、早ク眠レ。サモナクバ、私ガ深海ヘ連レテ行クゾ」

提督「……そうだな。少し楽になったし、そろそろ眠れるか」

ル級「ソウダ。地上ノ未練ヲ全部清算シテ、早ク、コチラニ来イ……!」

提督「急かすなよ。つうか、たった今ゆっくり考えろっつったろ、どっちなんだお前……」

ル級「両方ダ。ユックリ考エテ、急イデ来イ。オ前ガ来ル未来ヲ、私ハ待ッテイルダケダ」

提督「……もう行くのか」

ル級「コレ以上ココニイタラ、オ前ヲ攫ッテ行キタクナルカラナ……!」ニヤリ

提督「……」

ル級「デハ、マタナ。オヤスミ、提督」クルッ

提督「……ああ、おやすみ」

 ザザァ…ン

提督「……」

提督「あいつ、俺より人間くさくなってきてんな」

提督「……」

提督「俺は……」


 * 提督の寝室 *

 扉<チャッ

敷波「あ、おかえり」

提督「なんだ、敷波、起きたのか」

敷波「……目が覚めちゃった」

提督「俺が起こしたか? だとしたら悪いな」

敷波「多分、司令官のせいじゃないよ。ほら、月が明るいし」

提督「ああ……確かになあ」

敷波「目が覚めたとき、司令官がいなかったからびっくりしたんだけど」

提督「眠れなくてな。ちょっと外を歩いてきたんだ」

敷波「……誰かと会ってきたの?」

提督「ああ。ル級とな、少し立ち話をしてきた」

敷波「ふーん」

提督「なあ……誰かと会った、って、なんでそう思った?」

敷波「なんとなく。なんか、嬉しそうだったから」

提督「……そうか?」

敷波「それより司令官も早く寝たら? いつも早起きなんでしょ」

提督「ああ……」


敷波「あたしも寝るね。おやすみ」コロン

提督「……ああ、おやすみ」

提督「……」

敷波「……」

敷波(なんだろ、この、嫌な気持ち)

敷波(司令官が、どこかへ行っちゃいそうな……どこかへ消えちゃいそうな)

敷波(やだなあ……なんでこんなに不安になるんだろ)

敷波「……」チラッ

提督「……」スー

敷波(ル級さんか……明日になったら、深海に行くとか言わないよね……?)

 (敷波が隣で眠る提督の腕にそっと手を乗せ、少しだけ力を込めて腕を握る)

敷波「司令官……勝手に、どっかに行っちゃだめなんだからね」ヒソッ

提督「……」スー

敷波「はぁ……寝よ」

敷波「……」

敷波「……」スヤ…

提督「……」

今回はここまで。

前スレ読み直してたら致命的なミスしてた……。
どっかの機会で修復します……あれほど読み返して見落とすなんて不覚。

では続きです。


 * 執務室 *

 扉<トントン

如月「司令官? 隼鷹さんをお連れしました」

提督「おう」

如月「失礼しますね」チャッ

隼鷹「お邪魔しまー……す」

提督「よう、酒は抜けたか?」

隼鷹「んー……まあ、そうだね」

提督「随分大人しいな」

隼鷹「そりゃー、そうもなるよぉ。あれだけ脅されて神妙にしてなかったら、それこそ酒が抜けてないと思われそうじゃないか?」

提督「それもそうか。とにかく、酒が抜けたってことは、お前はまだ希望を捨てたくない、ってこったな?」

隼鷹「うん、あたしは……R提督のもとに生きて帰りたいんだ。あの人と一緒にいたいんだよ」

如月「……」

提督「よし。そんじゃあ、とりあえずR提督の足取りを追うところから始めるか。で、隼鷹を送り届けていい環境かどうかを確認だな」

隼鷹「調べてもらえるのかい……!?」


提督「それがお前の望みならな。それまでの間、お前にはこの鎮守府で過ごしてもらう。必要に応じて出撃を依頼するかもしれねえが……」

隼鷹「ああ、調べてもらえるんなら、出撃くらいお安い御用だよ! と言っても、艦載機がないから、その準備からお願いしたいけどね?」

提督「その辺は明石に面倒見てもらうさ。ついでに預かってた酒も開放してやらねえとな」

隼鷹「いやぁ、それもありがたいねえ。ここ2、3日は、千歳と足柄が怖かったからねえ……」アハハ…

提督「……あんまり嬉しそうじゃねえな?」

隼鷹「いや、嬉しいには嬉しいよ? けど、せっかく悪い酒が抜けたんだしね。しばらくの間は飲む量も少しは控えてみようかな? ってさ」

隼鷹「離島の鎮守府だってことなら、物流自体少なさそうだし……酒保も覗いてみたけど、あんまりお酒もないんでしょ?」

隼鷹「酒で失敗したんだからねぇ……少しは反省しないと。また変なとこに異動させられても困るしさぁ」

如月「……ここからの異動を受け入れてくれるところ、あるかしら?」

提督「どうだろうな……やらかしの程度にもよるが、ここに居場所がないなら、あとはO中尉くらいしか話せそうなとこはねえし」

提督「変なとこ紹介してもらいたくもねえしな。行った先がそのまま溶鉱炉とか海の底とかじゃあ、さすがに気分が悪い」

隼鷹「あの、ちょっといいかな……?」

提督「ん? なんだ」


隼鷹「なんか、ここってすごい場所って聞いてんだよね。轟沈した艦娘が着任してるとか、普通ないよね?」

提督「まあな。お前は轟沈艦の扱いを知ってんのか?」

隼鷹「一応ね。で、しかも提督の階級、准尉って聞いたんだけど」

提督「おう」

隼鷹「不躾に聞くけど……不愉快になったらごめんよ? なんで提督は階級が准尉なんだい?」

提督「ん? どういう意味だ」

隼鷹「普通、轟沈経験艦の保護なんて重要な任務、尉官どころか見習い扱いにやらせるのはおかしいよ? 責任取れないじゃんか」

隼鷹「そうじゃなきゃ、あんたの階級を佐官以上にしてもらわないと、割に合わないっていうか、やらせてもらえないと思うんだけど?」

提督「そういう意味か。どうせ昇進なんて無理だからいいだろ、俺も望んでねえし」

隼鷹「なんだいそれ!? どういうこと!?」

提督「……俺の着任の経緯から話すか。如月もいいか?」

如月「ええ」コク

提督「まず、俺は妖精たちと話ができる。姿も見えるし声も聴ける」

隼鷹「え……えぇえ!?」


提督「そのせいで、俺が見習いで最初に行くことになった鎮守府の主に厄介者扱いされて、妖精と一緒に准尉の階級のままここに来た」

如月「……秘書艦もつけてもらえずに、ね」

隼鷹「はぁあ……!? この島に? 他に誰かいなかったの?」

提督「いたのは妖精たちだけだったな。艦娘もいないし人間は俺一人、あとは妖精たちしかいなかった」

隼鷹「……」ポカーン

提督「で、この島には轟沈した艦娘が流れ着く砂浜がある。俺はそいつらを埋葬してたんだが、ある日その中で生き残った艦娘を保護してな」

提督「その当時、俺は、轟沈した艦娘が深海棲艦になる、って話を知らなくて……」

提督「電話で中将に、流れ着いた艦娘をうちで引き取るって話をしたら大袈裟に驚くもんで、その時に初めてその話を知ったんだ」

如月「……」

提督「でだ、実際にそういうことがあったのか、本当にそうなるかを誰かが確認したのか……中将に訊いたら、そういうことではないらしい」

提督「だったら、この島に轟沈経験艦に住まわせて様子を見よう。ここは幸いにも離島の鎮守府、戦術的にもそこまで重要な場所でもない」

提督「俺が艦娘たちの保護と監視をするから、どうだろうか……と、提案して通してもらったわけだ」

提督「轟沈経験艦を保護するようになったのは、それからさ。おかげで、俺以外に島に住む人間が誰もいない。憲兵にも特警にも常駐を断られた」

隼鷹「無茶するねえ……そこまでする人間、そうそういないよ?」

提督「……そうかもな」


隼鷹「けど、だったらなおのこと、昇進があってもいいんじゃないの? 重要任務だと思うんだけど?」

提督「そいつは多分、中将の馬鹿息子の中佐の仕業だと思ってる」

提督「俺をこの島に封じ込めたあの男が、余所に余計なことを喋らせないため……俺に権限を与えないために邪魔してるんだと思う」

提督「個人的にはありがたいぜ、人間なんざこの島に来ないほうが楽でいいからな」

隼鷹「うへぇ……」

提督「あとは、さっきも言ったが、轟沈した艦娘が深海棲艦になるって言う話のおかげで、誰も寄り付かねえんだよ」

提督「それをいいことに、手前んとこのいらない艦娘を俺に押し付ける奴が出てきた」

提督「問題はあるが、処断するとまではいかない艦娘を、俺に預かれ、と。預かれと言うか……まあ、そういうことだな、腹立たしいことに」

提督「その時に、押し付けたい相手が上官だったらやりづらいだろ? 奴らにとってそういう扱いなのさ、俺は」

隼鷹「……」

提督「そもそも、この島の存在自体がどうも本営の連中には疎ましいようでな。関わり合いになりたくない、と思ってる奴が大多数だ」

提督「だから、仮にこの島で何か問題が起こったとしても、関わり合いになりたくない、と思ってる奴が大多数」

提督「責任を取ろうなんて奴が本営の中将以外にいねえから、明確な功績があっても誰も褒めようとしない」

提督「だからこそ、俺の昇進も発生してない、と思ってる」

如月「司令官? ……それは、本当なの?」

提督「確かめてはいないがな。中将も言いづらそうにしてたが、俺のやってることに賛同する人間が上にあまりいないらしい」


提督「現場の連中からは、自分の育てた艦娘が戻ってくるのなら、という声もあるが……」

提督「その一方で、艦娘が深海棲艦になるかもしれないリスクに釣り合わない、って意見も多いそうだ」

隼鷹「そうかあ……そうだね、自分が育てて強くなった艦娘がいきなり深海棲艦になったら、倒すの大変そうだもんねえ。心情的にもさ」

提督「海軍の上の一部の連中に支持されてるのは、艦娘の存在そのものに不確かな部分が多いから、っつう話だ」

提督「この島でやっていることは、連中にとっては実験……それも長期的な、優先度の低い内容だ」

提督「無為ではないが、有意義ではない。関わるだけ時間の無駄。そういう扱いなんだろうさ」

提督「もしも深海化する艦娘が現れたら、ミサイル落として島ごと焼き払えなんて過激なこと言う奴もいたらしい」

如月「そ、そんなの初耳よ!?」

提督「そりゃこれまで言ってなかったからな。下手に喋ってお前らの不安を煽りたくねえ」

如月「そ、それはそうかもだけど……」

提督「とにかく、不要な艦娘を押し付けるにしても、島ごと切り捨てるにしても……」

提督「俺が佐官や将官では具合が悪いんだ。あいつらは絶対に、俺に頭を下げたくないだろうからな」

隼鷹「だから、提督は准尉のままだってことかい」

提督「ああ。で、何かあったら中将に俺を処断させりゃあいい、というのが連中の思惑だろう」

提督「俺としても下手に昇進して人間どもとの付き合いを増やしたくねえし、現状維持が丁度いいと思ってる」


隼鷹「……それを差し置いても、妖精と会話できる人間て珍しいんだろ? 人材としても、もっと大事にされなきゃ駄目なんじゃないの?」

提督「艦娘を大事に思ってる奴なら、そう思うだろうな」

提督「だが、そうじゃない人間にとっては、妖精から何を言われるかわからなくて疑心暗鬼になるってもんだぜ?」

隼鷹「……」

提督「ましてや後ろめたいことをしている連中にとっちゃあ、妖精から余計な情報を掴むかもしれないんだ。邪魔でしかないと思わねえか?」

隼鷹「……そういうこと、しなきゃいいじゃん……」

提督「生憎と、そういう上司にしか恵まれたことがなかったんでね。ま、そんなもんだと思って、諦めな」

隼鷹「はあ……とんでもない人のところに来ちゃったもんだねぇ、あたしも」

如月「……ねえ司令官? この島にミサイルを落とすとか言う話、いつごろ知ったの?」

提督「いつだったかな? 大和が来て、N中佐が捕まって……たしかその辺りだったと思うが」

提督「あっちの鎮守府の赤城からか、中佐が電話でぎゃーぎゃー喚いてるのを聞いたらしい」

如月「そういうお話、どうして早くして下さらなかったんですか」ズイ

隼鷹「ま、まあまあ、落ち着きなよ! 普通はミサイル落ちてくるかも、なんて物騒な話、そうそう話せたもんじゃないよ」

隼鷹「秘密にされたことを信頼されてないって思うのもしょうがないかもしれないけど」

隼鷹「みんながみんな如月みたいに動じないわけじゃないし、噂だけ独り歩きしても危ないじゃないか?」


隼鷹「少なくとも、あたしゃ今の話を聞いて、とんでもないところに来ちゃった、って素直に思ったわけだしさあ」

隼鷹「心配性な子とかがいれば、不安がたちまち艦隊に伝播しちゃう恐れもあるんだから、緘口令もしかたないよ。ねぇ?」

如月「……それはそうなんですけど。司令官はいつも一人で溜め込む人だから、相談くらいはあっても良かったのに、って」

如月「いつまでも私たちを保護対象だと思ってるのが、ちょっと不満なだけなんですっ」

提督「お前ひとりに話すわけにもいかねえだろ」

如月「そんなのわかってますっ!」ツーン

提督「なんで怒るんだよ……」

隼鷹「なんでって、そりゃ提督、如月は特別扱いされたいんだよ~。なぁ~?」ニッ

如月「!?」セキメン

隼鷹「ほら、赤くなった。提督も、もうちょっと女心ってのを理解しなよ~?」

提督「そりゃ無理だ、俺にそういうもんを求めんな。好いた惚れたの話は、俺には理解できないと思ってくれって、何度も……」

隼鷹「っかぁ~、身も蓋もないねぇ……! そんなんじゃあ、そのうち艦娘に愛想を尽かされちまうよ?」

提督「……お前、意外と世話焼きだな?」

隼鷹「ちょっ!? 意外ってなんだよ、意外って! 失礼しちゃうねえ!?」


提督「ああ、悪いな。世の中の酔っ払いは、手前と酒のことしか頭にねえと思ってたもんでなあ」

隼鷹「そりゃーお酒の部分は否定しないけどさあ! 言い方ってもんがあるでしょうよ! 言い方ってもんが!」

如月「唐突にイチャイチャし始めないでもらえます?」ジトッ

隼鷹「してないよ!? 今のやり取りをイチャイチャって言うの!?」ガビーン

龍驤「ええツッコミが聞こえてきたで!」ドアガチャー

隼鷹「どっから出てきたんだよぉ!?」

提督「俺が呼んだんだよ。同じ空母だからな」

龍驤「あ、ノック忘れとったわ。ごめんね?」

提督「いいけどよ。入ってくるタイミング良すぎだろ」

龍驤「いやぁ~、なんか痴話喧嘩っぽい空気だったもんで、まだ入っちゃまずいかなあ、って」アハハー

隼鷹「だからそういうんじゃないんだってば~。あたしにはR提督っていう、ちゃんと心に決めた人がいるんだからさあ」ポ

龍驤「ほーん? そかそか」ニヤニヤ

提督「とりあえず、そのR提督のもとに隼鷹を送り届けるのが目的になるんだが……」

提督「それまでの間、どんな風に過ごしてもらうか、実力の程はどんなもんか、龍驤に見てもらいたくてな」

龍驤「ほほーん。ええで、うちにまかしとき!」ムネポーン


龍驤「じゃあ早速、工廠へ……」

隼鷹「あ、ごめん。悪いんだけど、できたらもうひとつお願いしたいことがあるんだけど、頼めるかなあ」

提督「? なんだ?」

隼鷹「できたらでいいんだけど……飛鷹のことも調べて欲しいんだ」

提督「飛鷹? お前の言ってた姉妹艦のことか?」

隼鷹「そう。あたしがR提督と言い争ってビンタしたせいで、あたしたちが散り散りになった、って話したと思うけど」

隼鷹「飛鷹も同じように……いや、同じじゃなくて、あたしのとばっちりかな。飛鷹も余所の鎮守府に飛ばされたはずなんだ」

提督「……なるほど。お前としては、姉妹が心配だと」

隼鷹「R提督の居場所だけでも苦労すると思うのに、飛鷹のことまでお願いするのは……ちょっとどころじゃなく図々しいとは思うけどさ」

隼鷹「R提督のことは、飛鷹とあたしで支えてきた自負があるんだ。だから、R提督のところへ行くときは、飛鷹も一緒にって思ってるんだよ」

隼鷹「当然のように一緒にいた二人と会えないのがこんなにつらいだなんて、思ってもみなかったしさぁ……」

提督「R提督については当てがあるんだが、飛鷹のほうは一から調べねえと駄目そうだな」

隼鷹「あ、当てがあんのかい!?」パァッ!

提督「R提督だけだぞ?」

隼鷹「それだけでも良かったよぉ……なんせあれから全然情報が入ってこなかったしさあ!」ウルッ


隼鷹「とにかく、今は二人が無事でいて欲しいねえ……それがわかれば、あとは時間がかかっても会いに行くだけさ」

如月「……」

龍驤「……」

提督「……そう思うんなら、まずはお前がしっかりしねえとな」

隼鷹「そうだねえ。その通りだよ」ニッ

提督「龍驤、隼鷹の艦載機、選んでやってくれ」

龍驤「了解! ほな行こか!」

 扉<パタム

如月「……」

提督「? どうした?」

如月「え? な、なんでもないわ?」

提督「そうか? ……ならいいんだが」


提督「さて、あいつも約束を守ったことだし、こっちも約束のブツを取りに行くか」

如月「約束?」

提督「ああ、L大尉から預かった大量の酒を食堂に運ばなきゃな。足柄と千歳にも禁酒を強いたわけだし」

提督「ご協力感謝します、のアルコールを提供してやんねえと……」

如月「そうね……千歳さんたち、どんなテンションになるのかしら」フゥ…

提督「そういや、如月は酒は飲めるのか?」

如月「えっ? え、ええっと……そういえば、飲んだこと自体、なかったかも?」

提督「そうか……考えて見りゃあ、酒なんて必要ないと思ってたもんなあ。うちの連中、どのくらい飲むんだ?」

如月「うーん、そもそもみんな飲んでるところ自体、見てないかも……??」

提督「……もしかしてこの鎮守府、全員酒のことを忘れてるくらい健全だったのか? それもすげえ話だな」

如月「そ、そうね……」

提督「そう考えると、改めて酒が入ったときが怖いな」

如月「……どうなるのかしら」

今回はここまで。

次回は恐怖の酒宴の予定。

久々に平和なのを書いてるなあ、と思いつつ。

続きです。


 * その日の夜 *

 * 食堂 *

山城「はぁ……耳が幸せだったわ……」ウットリ

扶桑「お酒と一緒に、那珂ちゃんのライブまでいただけるなんて、幸せね」ウフフ

那珂「たっだいまー! 山城ちゃん、今日のステージどうだった!?」

山城「幸せよ……那珂ちゃんの歌を聞いてる時間は至福の時だわ」

山城「それなのに……」

明石「はーい、それでは引き続き、ビール早飲み競争でーす」

山城「そういう昭和的なくだらない催し物を、なんでライブの後にぶちこむのよっ!? ああ、不幸だわぁ……!!」

那珂「じゃあ、那珂ちゃんも出番だから行ってくるねー!」

山城「いやああああ! 那珂ちゃんは歌とダンスで売れればいいのよ!?」

山城「そんなバラドルか地下ドルかわからないようなことしなくていいのよぉおお!! お酒で喉がどうにかなったらどうするのおおお!!」

 ガヤガヤ…

 アハハハ…

提督「……盛り上がってんなあ」


如月「あらぁ、司令官~」

提督「如月か。お前も飲んでるのか?」

如月「ええ。司令官もいかが?」

提督「いや、俺はいい……つうか思ってた以上に騒々しいな。いつの間にこんな企画してたんだ」

如月「こんなにみんなが騒いでるの、滅多にないからいいと思うんだけど?」

提督「まあ、そうだな……こんな馬鹿騒ぎ、そうそうやる機会もなかったしなあ」

如月「司令官はぁ、静かなのがお好み?」

提督「どっちかと言えばな。俺が大口開けて笑うようなタイプに見えるか?」

如月「ふふっ、そうね。それじゃ、見回りが終わったら、一緒に飲みません? 二人でゆっくり……」

提督「あんまり飲む気はないんだが……気が向いたらな」

如月「ええ、待ってるわ。うふふふっ」


 *

初雪「司令官、誘ってこなかったの……?」

如月「ええ。あとでゆっくり、お話しましょ、って」

初雪「ふぅん……」チビチビ

隼鷹「ふたりはお酒飲めるんだねえ」

如月「初めて飲んだんですけれど、ワインっておいしいのね、うふふっ」

初雪「悪くは……ない……」チビチビ

隼鷹「白ワインは魚料理に合うし、赤みたいに渋みもないからねえ。馴染んで来るとクセになるよぉ」ニヒヒ

隼鷹「けど、ビールとかと比べるとアルコール度数が高いから、チーズとか食べながらゆっくり飲むんだよー?」

大和「うふふ。うふふふふ……」ポヤー

隼鷹「って、ちょっとぉ!? なんで大和ができあがっちゃってんの!?」

陸奥「美味しいからってあっと言う間に飲んじゃったのよ……ほら大和、水飲んで、少し目を覚ましなさいよ」

大和「うふっ、うふふふひっく、んふふふっ」

榛名「こうならないように、二人は気を付けてくださいね」

如月「ええ、気を付けます」ニコニコ

初雪「はい……」コク


 *

利根「おお、提督、貴様も来ておったか」

神通「んぎゅ……」

提督「うん? お前が神通に肩を貸すなんて、どうしたんだ?」

利根「どうも酒に弱いようでな。しかも泣き上戸ときておる。少し外の空気に触れさせてやろうと思ったのだ」

利根「昔の話を語りだそうとしているし、ここでそれを言わせるのはよろしくなかろう」ヒソヒソ

提督「……大っぴらに話せる話でもねえしな。まかせていいか?」

利根「うむ、任せよ」ニッ

利根「それから、テレビ局の人間がこの島で亡くなった件、提督にはお咎めはなかったそうじゃな?」

提督「ああ、注意喚起をして、かつこちらの指示に背いた上での事故、って扱いになったからな。中佐がうまくやったんだろうよ」

利根「その朗報も、この馬鹿騒ぎの一因である。みなのことは大目に見てやってくれ」

提督「……ああ」アタマガリガリ

神通「んぅう……とねさぁん……」ヒック

利根「おお、では行くとするか」

提督「……」


 *

龍驤「おぉ~、提督も来たんか。たこ焼き食べる?」

提督「んん……珍しいな、龍驤が厨房に入ってるのか」

龍驤「うち、下戸なんよ。お酒入ると気持ち悪くなってなあ……」

龍驤「飲んで一緒に騒いだりはできひんから、うちはこっちでお役立ちやー、っと」クルクルッ

提督「おお、うまいな。手慣れたもんだ」

龍驤「よっし! ほい、一皿分できたでー」

三隈「はーい、お持ちますね」

提督「三隈? お前が手伝ってるのか」

三隈「私もアルコールは苦手でして。消毒薬のにおいとか、そういうのでもちょっと……」

提督「なんだ、それで酒飲みの場所にいて大丈夫なのか?」

三隈「最上さんが羽目を外さないか心配なので、そこは我慢ですわ」

提督「過保護だな……そういやだいたい龍驤と一緒にいる雲龍はどうした?」

三隈「あちらで妖精さんたちと一緒に、龍驤さんが焼いたたこ焼きを召し上がってます」


提督「うん? 妖精たちもいんのか」

島妖精A「遅かったな提督」モグモグ

島妖精C「雲龍と一緒にお先にいただいてるよ!」グビッ

島妖精H「たまにはこういうのもいいね~」

提督「お前らも酒飲んでんのか」

島妖精E「雲龍とシェアしながらね」

島妖精D「命の水だよ!」グビグビグビ!

提督「お前は水みたいに飲んでんじゃねえよ」

島妖精B「あ、提督、妖精ちゃん借りてるよー」

提督「ああ、うちの妖精もいるのか」

妖精「」スヤァ…

提督「……って、おい」

島妖精A「お前の連れは酒に弱すぎだ……」

提督「ま、いいけどよ……」


雲龍「……」モッキュモッキュ

提督「雲龍はくっそ幸せそうな顔してんな」

三隈「そ、そうなんですか? あんまり変わってない気がするんですけど……」

提督「雲龍はあんまり表情の起伏がないっつうか……ちょっとわかりづらいかもな」

三隈「……ちょっと??」クビカシゲ

龍驤「けどまあ、あんな嬉しそうな顔で食べてるの見たら、作る方も力が入るっちゅーもんや」

三隈(全然わかりませんわ……)

龍驤「実はうち、料理自体あんまりやったことなかったんよ」

提督「そうなのか?」

龍驤「先生の腕と教え方がええから、ぶっつけ本番でもやっていけてる感じやね!」

提督「へえ。誰に習ったんだ」

龍驤「長門!」

提督「ああ、なるほど。あいつも料理好きだしな」

龍驤「今回も長門がいろいろ作ってたから、うちが引き留めたんよ。厨房はいいから、飲めへんちびっ子集めて話し相手になれ、って」

三隈「正直、意外でしたわ。あんな風に駆逐艦に慕われる長門さん、少なくとも私は初めてお会いしましたから」

提督「長門は酒を飲んでるのか?」

三隈「どうでしょう? 見た感じウーロン茶のようでしたけど」

提督「ちょっと見てくるか」

三隈「はい、いってらっしゃいませ」


 *

提督「よう」

長門「おお、提督か」

朝潮「司令官! お疲れ様です!」ビシッ

暁「司令官もお酒を飲みに来たの?」

提督「いや、俺は飲む気はねえぞ。長門もそうなんだろ?」

長門「ああ、見ての通りウーロン茶だ。このテーブルは飲まない艦娘で集まっている」

電「電も、お酒は好きじゃないのです」

島風「酔って走ると気持ち悪くなりますしー」

敷波「飲めるって言えば飲めるんだけど、あんまりおいしいと思わないんだよねー」

長門「私もそのくちだ」

朝潮「私もです!」キョシュ!

潮「わ、私は、飲むと気持ち悪くなっちゃいますので……」

霞「私もまあ……似たようなものね」

提督「体調崩してまで飲むもんじゃねえからな。無理に飲ませようとする奴がいるなら俺が追い払うぞ」

長門「ああ、それならさっき暁がやってくれたぞ」

提督「なに?」


長門「私たちに千歳が酒を勧めてきたんだが、その返しが鮮やかでな」

暁「千歳さんが、お酒はレディーの嗜み、って言ってきたの。なんでもかんでもレディーにかこつけるのはどうかと思うんだけど」

提督「だな」

暁「それに、私の体はどう見ても子供でしょ? 私のような明らかな子供に向かってお酒を勧めるのは、大人としてどうなのかしら?」

提督「大人扱いはまだ早い、ってか?」

暁「ええ、自分のことなんだもの、レディーを自覚するなら私自身の体も正しく自覚するべきだと思わない?」

長門「と、まあ、私がフォローを入れるまでもなく、ぐうの音も出なくなった千歳は引き下がらざるを得なかったわけだ」

提督「何やってんだあいつは……」

長門「それに、私も誘われたんだが丁重にお断りしたばかりだ。素直に聞いてくれる相手で良かったぞ、なあ初春?」

初春「まったく……」ヌッ

提督「初春?」フリムキ

初春「なんじゃ、貴様もシラフか。長門が無理なら貴様とと思ったが……」

提督「初春は飲んでんのか」

初春「うむ。まあまあ、人並みには飲めると言うたところかの。できれば騒々しくない酒を、と思って来たんじゃが……あれを見よ」

提督「?」フリムキ


吹雪「あっはっはっは! 不知火ちゃん顔真っ赤!!」

不知火「……」カオマッカ

黒潮「あかんやん! いつゆでだこになったん! あはははは!!」

白露「たこ焼き食べながらお酒飲んで、ゆでだこ! あっはっはっは!」

朝雲「こーらー! みんな不知火で遊んでちゃだめでしょー!?」

山雲「あさぐもね~ぇ~、おちついて~~?」マッカ

吹雪「山雲ちゃんも赤い!! あはははは!」

白露「あっはっはっは、赤いのに3倍遅い!!」

黒潮「これがほんとの逆シャアやな! ナイチンゲールや!!」

朝雲「ま、まあ、確かに山雲は癒し系だけどぉ……」ニヨニヨ

不知火「朝雲、そのナイチンゲールはそういう意味ではありませんよ」

吹雪「不知火ちゃんツッコミが冷静!!」

黒潮「ぶはははは、笑かさんといて!!」

白露「あはははは! ところでナイチンゲールってそれ何のネタ?」

黒潮「知らんで笑っとったんかい!」ツッコミー

白露「逆シャアって言ったらサザビーじゃないの?」

黒潮「サザビーktkr!!」

不知火「黒潮。それは漣です」

吹雪「冷静! 不知火ちゃん冷静!! あっははははは!」


初春「わらわの傍には、どうも笑い上戸が固まったみたいでのう……」

提督「不知火と山雲は大丈夫なのかよ……」

初春「見た感じあまり飲んでおらんのだが、顔に出やすいタイプなんじゃろうなあ」

初春「あの手合いに酒を勧めるのも気が引けるしのう。もう少しじっくり話せる相手が欲しくて、提督はどうかと思ったんじゃ」

提督「飲まずに話を聞くだけなら……ん? なんだ?」

初春「あれは若葉じゃな。呼んでおるようじゃが、行ってみんか」

提督「そうだな。あんまり気乗りしねえが」

 *

武蔵「おい、あまり飲ませすぎるんじゃないぞ」

千歳「大丈夫ですよ、ささ、もう一杯」

筑摩「んふ、んふふふふっ」ヒック

最上「あはははは!」ヒック

比叡「あはははは!」ヒック

古鷹「楽しいですね!」ヒダリメピカーー

五十鈴「古鷹さん眩しい!?」

武蔵「本当に大丈夫なのか……?」

千歳「うふふふ、楽しい……!」ポワワー

武蔵「……ああ、千歳は自分が飲むより他人に飲ませるのが好きなのか。厄介だな」アタマオサエ


 *

若葉「……来てもらえたか、助かる」

大淀「うぐぅ……」グデェ

朧「んむう……」グデェ

初春「なんじゃこの有様は」

若葉「二人に絡まれて延々と愚痴を聞かされた。二人とも然程お酒には強くないようで、酔い潰れてしまったが」

提督「あー……どっちも内に溜め込みそうなタイプだからな」

若葉「それでだ、提督にこの二人を部屋へ連れて行ってほしいんだが」

提督「俺がか?」

若葉「ああ、是非。愚痴の大半は提督のことで、もう少しコミュニケーションを取ってもらいたい旨の話だった」

若葉「提督が部屋までエスコートしてくれれば、溜め込んだ不満も多少は解消されるだろう」

提督「朧はともかく、大淀に愚痴られてたってマジか? そこまで愛想悪くした気はねえんだが……」

若葉(……なるほど、これが朴念仁というやつか)

五月雨「て、提督! こっちも助けてもらえませんか……!」

提督「そっちはなんだ?」

由良「んゆへへへえ~、提督さぁん? んが、んふゅ~……」グデェェン

初春「由良殿……? これはまたひどいのう」ヒキッ


提督「おいおい、べろんべろんじゃねえか……どんだけ飲ませたんだよ」アタマオサエ

五月雨「こちらの缶チューハイを一本だけ……」

提督「マジか。ロング缶ですらねえのかよ」

摩耶「提督ー、こっちもなんとかしてくれよー」

提督「うん?」

霧島「うっうっ、ぐすぐす……」ヒシッ

鳥海「むにゃあ……まやあ……」ヒシッ

提督「両手に花ならぬ両手に眼鏡か。モテモテだな」

摩耶「そういう冗談はいいから、どっちか引き受けてくれよ。霧島さんこんなに泣き上戸だったなんて思ってもなかったしさ」

提督「引き受けろっつっても、見る限り、どっちもお目当てはお前じゃねえか。鳥海はともかく、霧島は他の金剛型呼ぶか?」チラッ

金剛「Hey テートク ? Would you call me ?」ヌゥッ

提督「うお。急に背後に現れるなよ……まあ探してたのは事実だが」

摩耶「もしかして金剛さんも酔ってんのか?」

金剛「Non-non-non ! I'm not drunk yet...」セナカニダキツキー

提督「……こりゃこっちも相当酔ってるな。ほれ、しっかりしろ」ナデナデ


金剛「Hmm... what a pleasant smell...」スリスリ

提督「鼻をこすりつけるな、犬か猫かお前は。それより金剛、霧島と鳥海と、どっちでもいいから見てやってくれよ」

金剛「? 霧島……? Why don't you cry ?」

霧島「金剛、お姉様……?」グスン

金剛「霧島……こんなに泣き腫らして……つらかったんデスネ。さぁ……Please come in」リョウテヒロゲ

霧島「こ……金剛お姉様ー!」ヒシッ

鳥海「んぅ……あ、いいなあ……」ヨロフラ

金剛「Okey, 鳥海も来るデース……!」

鳥海「……ふあぁい……」フラフラ ヒシッ

摩耶「……なんか、これはこれで面白くねーな?」

提督「金剛のハグは凶悪だからなあ。摩耶もいっぺん体験してみな、びっくりするぞ? 俺も溺れかけたからな」

摩耶「はぁあ!? ちょっと待て、お前もやってもらったってぇ!?」

提督「有無を言わさず頭をがっちりホールドされてな。途中で抜け出せてなかったら、俺もどうなっていたか……」

摩耶「それ、本気で言ってんのか?」

提督「ああ本気だ。真面目に恐怖を覚えたぞ? 嘘だと思うんならお前もやられて来い。耐えきったら手放しで称賛すっから」


摩耶「……どこまで本気かわかんねーけど、やべーんだな?」

提督「ああ。真面目にくそやべえ。なあ、五月雨? 金剛に頭なでてもらったとき、すごかったろ?」

五月雨「えっ? 金剛さんの……あ、はい、その、すごかったです……」ポ

摩耶「マジかよ……そこまで言うんなら、本当に洒落になんねーんだろーな」

提督「とりあえず霧島と鳥海の二人は金剛に任せて、由良を部屋に連れてくか。こん中じゃ一番重症っつうか見るに堪えねえ」

五月雨「は、はい、お願いします……ふわぁ」

提督「……五月雨も眠そうだな? お前も休むか?」

五月雨「え? あ、はい……そう、します……」

提督「ああ、その前に少し水飲んでこい。水分摂って体内のアルコール分を薄めると酒が抜けやすいって聞いたことがある」

五月雨「わかり、ました……」フラフラ

提督「あいつ大丈夫か?」

初春「ふむ、由良殿のことで安心して気が抜けたら睡魔がやってきた感じかの?」

若葉「そのようだな。五月雨も由良さんにすすめられるがまま同じものを飲んでいたが、お酒は初めてだったんだろう」

初春「しかし、すすめた当人があの弱さではのう……」

由良「えへぁ……」グデーン


摩耶「……あたしも鳥海を部屋に連れてくかぁ。どう見ても眠たそーだしなあ」ガタッ

提督「その方が良さそうだな。ほれ、由良起きろ。背負ってくからこっち向け」

由良「んふぇ~」セオワレ

朧「……」ジロォ

大淀「……」ジトォ

若葉「……」ゾク

提督「若葉、悪いが朧と大淀は後で連れて行く。もうしばらく相手しててやってくれ」

若葉「……わかった。早めに頼む」

五月雨「お、お待たせしました」

摩耶「よーし、鳥海! 一緒に行くぞ!」

鳥海「ふわぁぁ……まやぁ……むにゃ……」ヨロヨロ

提督「じゃあ行くか」スクッ

由良「ん……んふっ、すん、すんすんすん……くふん」クンクン

 スタスタ…

若葉「由良さん、滅茶苦茶鼻を鳴らしてたな……」

初春「貪るように提督の背中の匂いを嗅いでおったのう」

若葉「……ところで、金剛さんは何を飲んでるんだ? 紅茶のカップで飲んでいたはずだが……」

初春「む、あれじゃな。ティーポットの傍らにブランデーが置いてある」

初春「うむ……ティーカップからもブランデーのにおいがするな。さては紅茶にブランデーを混ぜて飲んでおるのか」

若葉「さすが、金剛さんもしゃれたお酒を嗜むものだな」フーム

今回はここまで。しばらく酒飲みが続きます。

>68
冒頭のお断りは、私がレスを返すかどうかの最低限の基準として書いたつもりです。
なので、気に入らなくとも触らずスルーしていただけると助かります。

>69
少しずつ話がまとめられそうになってきたので、
先ほど少し落として参りました。

では続きです。


 *

筑摩「利根姉さんはどこか抜けてて、すぐ私に『ちくまあああ!』って涙目で走ってくるイメージがあったんです」

最上「うんうん」

筑摩「余所で会う私はいつも利根姉さんを心配してて、嬉しそうに利根姉さんをお世話してたんです」

最上「うんうん」

筑摩「それが、こちらの鎮守府ではとても頼りにされてて、どんなときでも落ち着いてるって言うから驚きで」

最上「そーだねー」

筑摩「あれ以来、一緒にいて優しく声をかけてもらえて……まさか甘やかさせてもらえる日々が来るなんて、もう幸せで幸せで」キラキラッ

最上「うんうん」

古鷹「あ、甘やかしすぎは良くないです! 鎖で縛られて介護されちゃいますよ!?」

最上「何の話だい?」

五十鈴「唐突過ぎるわ……」


武蔵「おい千歳、ちょっと飲ませ過ぎじゃないか」

千歳「いいんですよ、楽しいお酒なら飲み過ぎってことはないんです」

武蔵「どういう理屈だ」

千歳「私、悲しいときとか、怒っているときは、お酒を飲まないようにしてるんですよ」

武蔵「んん? それもどういう意味だ」

千歳「お酒を飲むと、その前にお酒を飲んだ時の記憶がよみがえるらしいんです」

千歳「泣きながらお酒を飲むと、次に飲んだ時にその記憶がよみがえって、楽しい席でも思い出して泣いてしまう、という……」

武蔵「それは本当か?」

千歳「泣き上戸とか怒り上戸とかあるじゃありませんか。説教を始める人もそういうことなんですよ」

武蔵「……むう」

千歳「そういうわけなので、楽しいお酒はじゃんじゃん勧めるのがいいんです!」ギャンッ!

武蔵「ほどほどにしてやれと言うんだ!」

三隈(武蔵さんも苦労人の一人になりそうですわね)


 *

初春「おお、早いな。戻って来たか……って、上着はどうしたんじゃ」

提督「由良に取られた」

若葉「……それでTシャツ一枚なのか」

提督「取り返す時間も惜しいんで諦めて来たんだ。ともかく次は朧を連れて行くぞ」

若葉「摩耶さんはどうしたんだ?」

提督「五月雨を部屋に連れてってもらってる。由良を背中から引っぺがすのに手間取ったもんで、見かねて助け船出してくれたんだよ」

朧「……」

提督「ほれ、朧、こっち向け。部屋まで連れて行くぞ」シャガミ

朧「! ……んふ……」セオワレ

提督「じゃ、行ってくる」

初春「うむ。気を付けてな」

朧「……んん……」スリスリ

潮「朧ちゃん、嬉しそう……」

敷波(朧のあんな笑顔、見たことないんだけど)

霞(ったく、だらしないわね……)ムスー

電(電も、おんぶしてほしいのです……)ムスー


 *

扶桑「ふふふ……少し、飲み過ぎたかしら」

山城(ああ、お酒を飲んでほんのり赤くなってる扶桑お姉様……なんてお美しい)ウットリ

扶桑「あら。朧ちゃん、提督に背負ってもらってるなんて、羨ましいわ」ホゥ…

山城「扶桑お姉様!? えも言われぬ色気を振りまきながら何を言ってるんですかぁ!? ああ、不幸だわ……!!」アタマカカエ

那珂「山城ちゃん、大丈夫? お酒で気分悪くなったりしてない?」

山城「え? え、ええ、大丈夫、大丈夫よ。私は大丈夫……はぁ」

那珂「すっごい落ち込んでるように見えるんだけどなあ」

山城「大丈夫よ……それより那珂ちゃんこそ、ステージ終わってから結構飲んでたじゃない。無理してないでしょうね?」

那珂「ふふふっ、だーいじょーうぶ!」

那珂「アイドルたるもの、ちょっとくらいのお酒で我を忘れたり、みっともない姿は見せたりはしないんだよーっ!」ビシッ

那珂「でも、山城ちゃんが心配してくれて嬉しいなっ! いつもありがとーー!」ダキツキー

山城「ふぉああああ!? ちょっ、ちょっとぉぉ!?」ギュー

扶桑「まあ、那珂ちゃんったら、羨ましいわ。私も山城に抱き着こうかしら」ダキツキー

山城「どういう理屈ですか扶桑お姉さむほぁあああ!?」ギュギュー

扶桑「あら、嫌だった?」

山城「嬉しくてどうにかなっちゃいそうです……」カオマッカ

那珂「嬉しいんだ! やったねっ!」ムギュー

山城「何? なんだか幸せ過ぎて揺り返しが怖いんですけど。私、死ぬの?」


 *

明石「山城さんは相変わらずねえ。いい加減自分の幸せを素直に認めればいいのに」

伊8「……ああ言うのを尊死(とうとし)って呼ぶんでしたっけ」

足柄「……」グッタリ

明石「ほらー、足柄さん飲み過ぎですよー。しっかりしてください」

足柄「ぐう……なんで二人ともそんなにお酒が強いのよぉ……」

伊8「うーん……体質、ですかね?」

明石「私もそうかなあ。それよりも、この程度のお酒で手元が狂ったなんて言ってられませんからね、工作艦として自負と言いますか!」フンス

明石「こういうのは確固たる意志というか、自制心っていうか……セルフコントロールっていうものが大事なんじゃないかなぁ」

明石「その意味では、提督もお酒強そうなんだけど?」

伊8「……なんか、まだ一緒に飲める感じじゃないみたい」

明石「飲めるんだったらお相手してほしいなあ」

伊8「ねー」

足柄「……ね、ねえ……おみずちょうだい……」

明石「ロシア語でウォッカは水って意味でしたっけ?」

足柄「……そういうボケはいいから……」


 *

摩耶「うーっす、戻ったぜ……って」

金剛「Zzz...」

霧島「むにゃぁ……」

比叡「すやすや……」

榛名「あら、摩耶さんおかえりなさい」

摩耶「金剛型が固まって寝てる……榛名さんは大丈夫なんすか?」

榛名「ええ、榛名は大丈夫です! いまのところは!」

摩耶「いまのところっすか……霧島さん、霧島さん、こんなところで寝ちゃ駄目っすよ」ユサユサ

霧島「ん……摩耶……?」

摩耶「大丈夫っすか? 霧島さん、酔って寝てたんですよ」

霧島「……わ、私としたことが……」カオマッカ

榛名「とりあえず、金剛お姉様たちも起こして部屋に連れて行かないと……」


霧島「そ、そうね。金剛お姉様、比叡お姉様!」

比叡「……ふにゃ?」

金剛「Hmm... Goog morning...」メコスリ

霧島「金剛お姉様、ここは食堂です。お部屋に戻っておやすみしましょう」

金剛「Woo... Okey. Follow me everyone, let's go to our bed...」ヨロフラ

霧島「金剛お姉様、本当に大丈夫ですか……?」ヨコカラササエ

比叡「私も眠くなっちゃったし……一緒に行きます!」ヨコカラササエ

榛名「私もご一緒します!」

摩耶「あ、榛名さんはいいっすよ。あたしが霧島さんたちについていきますんで」

摩耶「あっちのテーブルの隼鷹さん、誰か見てないと駄目なんすよね?」

摩耶「ぱっと見、みんな酔ってるっぽいし、万が一のために榛名さんはあっちのテーブルについてて大丈夫っすよ」ニッ

榛名「それは確かに……では、お姉様たちはお願いしますね」ペコリ

金剛「テートクゥ~、ドォコ、デースカァ~、ひっく」フラフラー

霧島「こ、金剛お姉様! しっかりしてください!」

摩耶「やべっ、もう行っちまったのか! おーい、金剛さーん!」タタッ

榛名「……ふふっ」ニコニコ


 * *

白露「すかー……」Zzz...

吹雪「ふぴゅー……」Zzz...

黒潮「んすー……」Zzz...

朝雲「むにゃあ……」Zzz...

山雲「くー……」Zzz...

不知火「……」チビチビ


隼鷹「なあなあ、あの辺のちびっ子たちが揃って酔い潰れてんだけど、大丈夫?」

榛名「お酒飲んで大笑いしてましたから、笑い疲れて寝てしまったんでしょうね。後でお部屋に連れて行きましょう」

如月「うふふー、みんなハイペースで飲むからぁ、すーぐ酔っちゃうのよね~」ポワワ~

初雪「うん……」カクンカクン

隼鷹「かくいうこの子たちも怪しくないかい?」ヒソヒソ

榛名「はい……でも、こちらのほうがもっと心配です」ヒソヒソ

大和「うう、提督……早く戻ってきてえ……」メソメソ

陸奥「……」ナデナデ

隼鷹「そうだねえ……大和は子供っぽいし、陸奥もやたらと大人しいし……見たことないよ、こんな菩薩みたいに悟り開いたような陸奥」


榛名「そうなのですか?」

隼鷹「うん、余所で会った陸奥ってば、お酒入るとお色気マシマシだよ?」

榛名「マシマシですか」

隼鷹「なんかここの陸奥はそういう感じじゃないんだよねえ……にしても、榛名は全然変わんないねえ?」

榛名「うーん……これまでお酒をこんなに飲んだことはなかったのですが、強かったのかもしれませんね」ニコー

隼鷹「そっかあ……お、提督戻ってきたねえ……って、えええ?」

榛名「!?」




提督「はー、やれやれ……」

初春「む、戻っ……どうしたんじゃその恰好は!?」

若葉「なんで上半身裸なんだ」

 ドヨッ!

提督「朧にTシャツ奪われた。面倒臭ぇからそのままにしてきただけだ」


 *

伊8「オゥ、提督、大胆……」ポ

扶桑「まあ。うふふ、提督ったら……」ウットリ

山城「んな、なああああ!?」カオマッカ

那珂「はわわわわ……!」カオマッカ

明石「あー、あれが噂の。確かに全体的に見ても細いなあ、あの体のどこにあの握力があるんだろ……」

伊8「あとで調べてあげたら? 定期的に検査してあげるとか。はっちゃん、お手伝いしますよ?」

那珂「そ、そういえば、提督さんが医療船に行ったとき、明石ちゃんがお医者さんしてたよね~?」アセアセ

明石「残念だけど、私には人間の医療に関する知識がないからできないよ。ほら、個体によって得意分野が違うし、ね?」

那珂「うーん、そっか~」

扶桑「あら、残念。私も白衣を着てお手伝いできればと思ったんだけど」ウフフ

山城「扶桑お姉様のナース姿……!? ああああ、駄目、駄目よ山城!! 一瞬でも看てもらいたいだなんて思っちゃ駄目ぇぇ!!」ブンブン

伊8「山城さん、さっきから煩悩垂れ流しなんだけど?」

扶桑「可愛いでしょう? 山城はとっても素直なの」ナデナデ

山城「あ、あの、扶桑お姉様、冷静に言われると大変恥ずかしいのでご容赦願いたいのですが」カオマッカ


 *

敷波「あーあ、司令官、また上着取られちゃったみたいだねー」チラチラ

島風「うっわぁ、提督ほっそーい!」

朝潮「おお……司令官の体は引き締まっていますね! 初めて拝見しました!」キラキラキラッ

暁「こんなところで脱ぐなんて、司令官、お行儀が悪いわ!」プンスカ

敷波「それ、お行儀って言うのかな……」

潮「ふああ……!?」カオマッカ

電「はわわわわ……!?」カオマッカ

霞「んななな、なにやってんのよあいつは……っ!?」カオマッカ

長門「……ここにいる面子には、少し刺激が強すぎたみたいだな?」

敷波「電はなんで恥ずかしがってんのさ。この前、電が司令官の服を脱がしたじゃない?」

電「ほえっ!?!?」

島風「えっ、それ本当!?」

暁「それはそうだけど、あの時、電は寝てたから見てないわよ?」

敷波「あ、そっか。あの時は寝惚けてて服掴んで離さなかっただけだもんね」

電「そ、それでお部屋に司令官さんの服が……は、はわわ……」ユゲボシューーー

長門「返してなかったのか……」


島風「それじゃ、提督には代わりに私の服の替えを貸してあげるといいかな?」

長門「何故そうなる!?」

島風「提督も足が速そうだよ? 陸上選手みたいで風を切って走りそう! お揃いの服でかけっこしたーい!」ガタッ

長門「着せるのはやめておけ……」

朝潮「司令官は短距離走は苦手だそうですよ?」

島風「なーんだ、つまんない」ストン

島風「あっ、でも私の服を着せたら速く走れるかも!」ガタタッ

朝潮「その服にそんな効果が!?」ガタガタッ

霞「そんなわけないでしょっ!? 座んなさい!!」


 *

雲龍「龍驤、大変」

龍驤「うん? なにしたん?」

雲龍「三隈が上半身裸の提督を見たら固まって動かなくなったの」

三隈「」コウチョク

龍驤「なんや、おぼこいなあ」アハハ

龍驤「って、裸やて!?」バッ

雲龍「ええ。ほら、あそこ」

龍驤「うわ、ほんまや! 提督なにしとん! つうかほっそ!! 細すぎやん!?」

雲龍「そうなの?」

龍驤「え? そうなの……って言われると……うーん」

龍驤「うちが前にいた鎮守府の男どもが軒並みデブやったからなあ。提督くらいが標準? いやでもちょっと細いよなあ?」

雲龍「……ごめんなさい、今の時代の普通というのがわからないから、私はなんとも……」

龍驤「あ、そっか、ごめんな?」

雲龍「ううん、いいの、大丈夫。私こそごめんなさい」


雲龍「それより。提督、確かに痩せてはいるけど、不健康な感じはしないと思う」

龍驤「そう、やなあ。細っこい割りに大淀背負えてるし……て、裸で背負うんかい。大淀がパニクっとるで」

雲龍「龍驤もおんぶしてあげようか?」

龍驤「んー、おんぶより抱っこの方がええなあ。おんぶやと雲龍の顔が見えへんし」

雲龍「」キューン

雲龍「もう……好き」

龍驤「だからなんやねんこの流れ」


妖精「仲がいいのは良いことだね」←起きた

島妖精H「尊いとも言うね」ポワァァ

島妖精B「これはあれだな。ご馳走様という奴だな」

島妖精D「ごっちそーさまが聞っこえない~」ヒック

島妖精E「Dちゃん飲み過ぎ……」タラリ

島妖精A「何杯目だ……」


 *

若葉「ここに来る前に何か羽織るものを持ってくるとか、できなかったのか」

提督「急いでくれっつったのはお前だろ。俺の部屋回ったんじゃ遠回りだからな。それにあとは大淀だけなんだし」

若葉「それは、まあそうだが」

大淀「……」ウツラウツラ

提督「おい、大淀、こっち向け」

大淀「ふぁ……あ……!?」ボフッ

提督「大淀、顔赤えな。飲み過ぎたか? 大丈夫か」

大淀「ふぇっ、ひょ、ほえええ!?」オロオロアタフタ

提督「なにやってんだ、落ち着け」

初春(提督が裸だからじゃろうにのう?)

若葉(あれだけ提督のことで管を巻いておいて、いざ目の前にすると怖じ気づくというのはどうなんだろうな……)


 *

明石「うわー、大淀テンパってるなあ」

伊8「意外とウブだったんですねえ。狼狽えてないで、そのまま襲えばいいのに。まどろっこしい」

那珂「!?」

山城「!?」

扶桑「まあ、はっちゃんは過激ね。うふふ」

伊8「そうかなあ。据え膳だと思うけど?」

明石「足柄さんはどう思います?」

足柄「……」グロッキー

那珂「足柄ちゃん、お部屋に連れて行って寝かせたほうがいいと思うなー」

足柄「ちゃ、ちゃん付けはやめて……うぐぅ」


 *

隼鷹「戻ってくるたびに脱げてるとか、なんのコントだよ……ねえ榛名?」

榛名「……」ガンミ

隼鷹「目が血走ってる……」

如月「んもう、司令官ったらぁ……そういうのは、安売りしないで取っておいて欲しいのにっ」ジッ

隼鷹「駆逐艦の口からこういうコメントが出てくるのってーのは、どうなんだい……?」

大和「……」ウットリ…ジュルリ

隼鷹「ちょっ、大和、よだれよだれ!」

陸奥「……///」

隼鷹「陸奥もなんで両手で顔を隠してんのさ……」

陸奥「……」ユビノスキマカラ チラッ

陸奥「……!///」カオヲカクシテウズクマリ

隼鷹(なに? ここの陸奥って乙女なの?)

初雪「……隼鷹、さん」クイクイ

隼鷹「んお? な、なに?」

初雪「そろそろ、寝ます。おやすみなさい……」ペコリ

隼鷹「お、おお、おやすみぃ……って、ちゃんと部屋に戻れんの?」

初雪「司令官に……ついてく……」ヨロヨロ

隼鷹「あー……気をつけてなー?」

榛名「……」ハナヂポタポタ

隼鷹「ああ、榛名ってば見過ぎ見過ぎ! 鼻血出てるぞー!?」


 *

提督「ほれ、大淀、背負って部屋まで連れてくから、早く乗れ」

大淀「へ、ほぇっ……っ!?」

提督「ここで寝ても面倒見切れねえんだ。早くしろ」グイ

大淀「!? !?!?」キョロキョロ

初春「鳩が機銃掃射食らったような狼狽っぷりじゃな」ポツリ

若葉「口をぱくぱくさせて金魚か鯉のようだが」ボソッ

提督「おい大淀、背中であんまり動くな。しっかりつかまってろ」グイ

大淀「~~~~~!?!?!?!?」カオマッカ

初春「おお、提督の背中に密着じゃな」

提督「あと、肩を掴むんじゃなくて、腕は俺の首の前に回せ。落ちるぞ」グイ

大淀「」シロメ

若葉「背中とはいえ、抱き着きたいという希望は達成できたようだな。良かった良かった」ウンウン

初雪「……」ヨロヨロ

提督「ん? どうした初雪」


初雪「……眠いから……お部屋に、戻る……」

提督「そうか。よし、んじゃあ初雪も一緒に部屋まで送ってくる」

初春「む、少し待て。大淀殿、背負われてるときに気を失っておると危ないぞ」オシリペチーン

大淀「はうっ!?」

提督「お、悪いな。んじゃ、行ってくる」

初春「うむ、気をつけてな」

若葉「初雪もいることだし、慌てないでゆっくり行ってきていいぞ」

提督「おう。じゃ、行くか」

初雪「……」コクン

大淀「え、ちょ」

 スタスタ…

初春「……ふむ、行ったのう」

若葉「これで一安心だ。さて、飲み直すか……初春姉、付き合ってくれ」

初春「うむうむ。ゆるりと語り合おうではないか」


 *

長門「……私もそろそろ行くか」ガタッ

潮「えっ?」

長門「ああ、みんなはまだ食べててもいいぞ。酔い潰れた吹雪たちを部屋に連れて行こうかと思ったんだ」

敷波「あー……」

朝潮「そういうことでしたらお手伝いします!」ガタッ

霞「そうね、朝潮型もいることだし、手伝うわ」スクッ

島風「私も競争したい!」ガタッ

敷波「やめときなよ、走って運んだら気持ち悪くして吐いちゃうかもよ?」

島風「おう……っ」

敷波「あたしが行くから、代わりにあのテーブルの上を片付けといてよ。ね?」

暁「そうね、お片付けは引き受けるわ。こっちのテーブルのごみも一緒にまとめましょ?」

長門「そうしてもらえると助かる。朝潮と霞、敷波は一人ずつ背負って行ってくれ。私は二人抱きかかえて行こう」

朝潮「了解です!」ビシッ

電「それじゃあ、私たちは飲みかけのジュース以外を片付けるのです!」


吹雪「すぴーー……」

敷波「あー、みんな寝入っちゃってるなあ」

長門「不知火は大丈夫か?」

不知火「……はい」ハナヂポタポタ

長門「不知火!?」

霞「鼻血出てるわよ!?」ティッシュサシダシ

不知火「不知火に何か落ち度でも」ヒック

敷波「落ち度しかないんだけど?」

今回はここまで。
酒飲み回は結構長くなりそうです。

鼻で嗤っておきましょう。

では続きです。


 *

如月「ああ~ん、やっと戻って来てくれたぁ、しれぇか~ん」フラフラッ

提督「……おいおい、すっかりできあがってんじゃねえか」

隼鷹「提督が来るのが遅いからだよ~。駄目だよ、お酒弱い子を待たせちゃあ」

提督「その如月より弱い奴等をケアしてきてたんだが……」

如月「なんでシャツを着ちゃってるのぉ~? 脱いでてくれて良かったのにぃ~」ピトッ

陸奥「……」ポ

提督「陸奥も顔が赤いな。大丈夫か?」

隼鷹(さっき裸を見せてた男が何を寝惚けてんだかねえ……)

如月「んふふふ~、しれいかぁん……」ヨリカカリ

提督「っと、如月も大丈夫か? 気持ち悪くはないか?」ダキヨセ

如月「あっ……うん、しばらくこのままで……」ポ

大和(羨ましい……!)

榛名(羨ましい……!)

提督「気持ち良さそうにしてんな……悪酔いはしてなさそうだし、如月は割と酒は大丈夫そうだな」ダキカカエタママチャクセキ

如月「うん……」スリスリ


隼鷹「……ちょっとだけ羨ましい」ボソッ

提督「は?」

榛名「えっ?」

大和「えっ?」

隼鷹「あ、いや、准尉にそういうことしたいって意味じゃなくてさ。ほら、あたし体が大きいっていうか、結構背が高いっしょ?」

隼鷹「だから、そうやって椅子に座って、その膝の上に乗っかって体を預けるとか、この図体じゃあしてもらえないし、できないよねえ……って」

隼鷹「そういうのは駆逐艦たちみたいな小さい子の特権だよねえ、って、思ったんだよー」

提督「ああ、なるほど。そりゃまあ確かにな」

隼鷹「そもそもそういうのってあたしのキャラじゃないしねえ?」

隼鷹「そういうのなしにしても、さすがにR提督と離れて長いし……如月みたいに甘える様子すら羨ましくなっちゃってねえ」

大和「それは確かに……」

隼鷹「それでつい、口に出ちゃったんだよねえ。ヤキが回ったもんだよ、あたしもさ」ハァ

榛名「胸中お察しします……」

陸奥「……」ナデナデ

隼鷹「うおっ!? なんで頭撫でられてんのあたし!?」ビクッ


提督「陸奥はどうしたんだ?」

榛名「お酒を飲み始めてしばらくしてから、ずっとあんな感じでして……」

提督「菩薩か観音みてーな顔してんな。こんな酔い方してる奴、初めて見たぞ」

隼鷹「陸奥も何かあったの?」

提督「おう、あったぞ。むしろある奴しかいねえ。何があったかは各々の名誉のために伏せておくが」

榛名「そうなんですか……」

隼鷹「榛名も知らないの?」

大和「陸奥さんに関しては知らない人の方が多いのでは? 確か、暴食を強いられた、という話しか……」

提督「……それか?」

榛名「?」

提督「陸奥がいた前の鎮守府の提督が筋肉ダルマの格闘家だったんだが、そいつの方針で異常な量の食事を強いられてたんだよ」

提督「それがなくなって落ち着いて食事できるようになったから、安心しきってるのが表に出てきたんじゃねえかな」

隼鷹「うわあ……」


榛名「あの、提督? 伏せておく話ではなかったんですか?」アセアセ

提督「大和が知ってる話から、差し支えなさそうな範囲で話したつもりだったんだが……まずかったかな」

陸奥「……」ニコニコ

隼鷹「めっちゃ穏やかだねえ……」

榛名「問題ないとみていいんでしょうか」

提督「さっきから一言も喋ってねえのは問題じゃねえのか。おい、陸奥、大丈夫か? 眠い時はちゃんと部屋で寝ろよ?」

陸奥「……」コクン

大和「頷いてる……一応、聞こえてるみたいですね?」

如月「……」ウトウト…

提督「如月も眠そうだな。このまま部屋に連れてくか……」スクッ

陸奥「……」スクッ

隼鷹「うおっ、びっくりしたぁ!」

提督「陸奥も寝るのか?」

陸奥「……」コクン

提督「そういうことなら送るか……一緒に行くか?」

陸奥「……」ニコ…

提督「そうか。んじゃ、ふたりを部屋に連れてくぞ」

榛名(……陸奥さん、さり気なく提督の服の裾を掴んでる……)


隼鷹「はぁ~、ここの提督も大変だねえ。これだけ大勢に頼りにされてちゃ、おちおち送り狼もできたもんじゃないね、いひひっ」

榛名「送り……狼、ですか?」クビカシゲ

隼鷹「ありゃ。もしかして、送り狼って言葉自体知らない?」

榛名「はい、恥ずかしながら……」

隼鷹「別に恥ずかしくもないよ~、言葉自体がちょっとアレなんだから」

榛名「と、言いますと?」キョトン

隼鷹「送り狼ってのはさ、酔っ払った子をお見送りするだけじゃなくて、その先で食べちゃうってことだよ、性的にさ」ガオー

榛名「……」クビカシゲ

榛名「……!!」ボフッ!

隼鷹「ひひっ、反応がお子様だねえ」


榛名「そ、そそ、そういう意味だったんですねっ」アセアセ

大和「……」ズーン

隼鷹「あれ? 大和はなんで落ち込んでんだい」

榛名「いえ、わかります。大和さんがなぜ落ち込んでいるのか……」

榛名「提督は……性行為を嫌悪してらっしゃるので……そのような事態は起こってほしくても起こりえません」ズーン

隼鷹「え、なにそれ」

大和「提督は、過去のトラウマで……そういうことが全部駄目なんです」グスッ

榛名「聞いた話では、そういう漫画を読んだだけで嘔吐したとも……!」プルプル

大和「なんで提督のような方がそのような目に!!」ナミダジョバーー

榛名「榛名も大丈夫じゃありませぇぇん!!」ナミダジョバーー

隼鷹(思わぬところで地雷踏んじゃったよ……)


 *

川内「ふわぁ~、おはよー……ってなにここお酒臭い!!」

加古「なんだ、もうみんな出来上がっちゃってるねえ」

那智「お前たちは寝すぎだ。川内は夜戦ばかりで昼夜逆転しているから仕方ないかもしれないが……」

加古「酒盛りするんだったら、もうちょっと早く起きてりゃ良かったねえ」

那智「無理だろう。爆睡してたじゃないか」ジトメ

川内「あたしは夜戦できなくなるからお酒はパスだね。食べ物だけ貰ってこようっと」

加古「あたしも残ってるお酒、もらってこようかね~」

那智「それでは私は……」

武蔵「悪いが、シラフなら手伝ってもらえないか」

那智「ん?」

武蔵「ここのテーブルの酔った艦娘を、部屋に連れていきたいんだ」

千歳「んふふ……」ウトウト

最上「えへへへ……」ムニャー

筑摩「すー……」

足柄「ぐー……」

古鷹「スヤァ……」

那智「これはこれは……惨憺たる光景だな」


三隈「最上さん、こんなところで寝るなんて無防備が過ぎますわ……!」

五十鈴「筑摩さんのお部屋ってどこだったかしら……」

武蔵「筑摩は私が運ぼう、五十鈴には自分で歩けそうな千歳を任せたい。那智には足柄を頼みたいんだが」

那智「構わないが……どれだけ飲んだんだ? 一升瓶やら四合瓶やらの空瓶がずらりと並んでいるんだが」

伊8「あ、それは、私と明石さんとで飲んだお酒です」

那智「……」

明石「いやあ、久々にがっつり飲んだなあ~」ノビー

武蔵「足柄も一緒に飲んでいたんだが、早々に脱落してな。私も見ていたが、顔色も変えずに飲むわ飲むわ……」

伊8「武蔵さんも飲んでたでしょ?」

武蔵「お前たちほどではない。私も酒は好きな方だが、この二人の前に並んだ瓶を見るとな……」

那智「それにしても……汚い話で悪いが、これだけ酔い潰れてて誰も気分を悪くしていないというのもすごいな?」

明石「ああ、それに関しては提督から釘を刺されてて」

伊8「酔って吐くようなことがあったら、顔を掴んでジャイアントスイングする、ってお達しがありました」

那智「は?」

明石「うちの提督、握力がとんでもないんですよ」

伊8「本気出したら、頭骨も砕いちゃうかもってくらい」

那智「なんだそれは……」

明石「なのでみんな、セーブして飲んでましたねえ」

伊8「すごく健全な酒飲みでしたね」

那智「……」


 *

隼鷹「ああもう、どうすりゃいいのさー!」

加古「なんかここだけ騒々しいね……なにがあったの?」

隼鷹「あ、加古……」

榛名「提督がもう不憫で不憫で……」グスグス

大和「いったいどれだけ不幸を背負えばいいのかと!」グスグス

加古「この二人はなんで泣きまくってんの?」

隼鷹「いやあ、ここの提督、性欲ってものがないとかって話になってねー」

大和「そうなんです!!」

加古「うおっ」

榛名「愛情も良くわからないと仰るんですよ!? あんなにお優しいのに!!」

加古「……そんなに泣くほど優しいの?」

大和「優しいですよ!? ちょっと口が悪いですけど!」プンスカ

隼鷹「そこは否定しないんだ」

大和「不器用なだけなんです!!」


榛名「提督は、幼少のころから妖精さんとお話しできていたために、ご家族からすらも疎み蔑まれ……」

榛名「まともな愛情を受けることなく大人になったと聞いています。提督はそのためにあのような性格になったと……」

加古「うへえ……よくグレなかったねえ?」

大和「それは、提督と一緒にいた妖精さんが見守ってくれていたおかげだと思います……」

大和「ですが、人を好きになるという感覚を一度も理解することなく、提督は今日(こんにち)まで……」ウルッ

加古「そんじゃあ、なに? あの人は、あたしたちに愛情を持ってるわけじゃーなくて、憐れに思って助けてるってこと?」

大和「」

榛名「」

隼鷹「あー、そういうふうにもとれるねえ」

大和「け、決してそんなことはありません!!」

榛名「ないと思います!!」ブンブン

加古「そうは言うけどさ、来たばっかりの部外者って立場から見てみると……ねえ?」

隼鷹「ってーかさ? 提督がそういうコトに興味ないのを嘆いてるってことは、二人とも提督とそういうコトをしたいってことだよねえ?」ニチャア

大和「……それは、まあ、その、はい……」カオマッカ

榛名「……否定は、しません、けど……」カオマッカ


隼鷹「二人とも、なんでそんなに提督が好きなのさ? 教えてちょうだいよ~」ニヒヒ

大和「私は、その……一目惚れと言うか……最初はお写真だったんだけど、見た瞬間に、こう、昂ったというか……」モジモジ

隼鷹「ほうほう?」ニヤニヤ

大和「この離島の鎮守府で、提督の階級も准尉ということで、最初はものすごく落ち込んだのだけれど……」

大和「提督のお顔を見たときに、それを忘れるほどの衝動というか……この人のために、という思いが沸き上がってきまして……」ポ

大和「これまで提督とご一緒して参りましたが、提督はいつも艦娘が抱えた問題をすべて取り払おうとしてくださってて……」

大和「提督ほど私たちの身を案じ、そして我儘を聞いてくださる素敵な方は、ほかにいないと思います!」キラキラッ

隼鷹「それでアタックしてるんだねえ!」

大和「ええ、一度はこの身を捧げようとしたんですけれど、お断りされまして……後から話を聞いたら、そういう話だった、と……」ションボリ

隼鷹「えっ、提督に迫ったことあるの!?」ガタッ

加古(隼鷹の目が輝いてる……)

大和「はい……提督が、『俺の大和』と仰ってくださって……」ポ

隼鷹「マジで!?」

榛名「」ハイライトオフ

加古(こっちは目から光が消えた……!)タラリ


大和「はい、あの時、提督があの男に向かって……あの男に……」ビク

大和「……あのおとこ……」アオザメトリハダ

隼鷹「ちょっ、どうしたの!? 顔色悪くない!?」

大和「ご、ごめんなさ……う゛っ」ガタッ

 タタタタッ…

隼鷹「な、なんだあ? 大和ってば、どうしたの?」

榛名「」ハイライトオフ

加古「こっちは目から光が消えたままになってるし……」

明石「あらら、大和さんたらトイレに行っちゃいましたか。提督のアイアンクローの犠牲者第一号かな?」

隼鷹「あっ、明石! 今、大和から聞いたんだけどさぁ、提督が大和のことを、俺のだー、って言ったのって本当?」

明石「え、そうなんですか?」

隼鷹「ありゃ? 明石も知らないんだ」

伊8「……それって、もしかして」

隼鷹「お、何か知ってる?」

伊8「多分なんですけど……」


 * 中佐のことを説明中 *

隼鷹「ははぁ……そいつを思い出して大和がトイレに駆け込んだってことかあ」

明石「朝潮ちゃんも、中佐の見た目やらなにやらが気持ち悪かったって言ってたっけなあ」

伊8「あのあとですよね、大和さんを利用したみたいな気分になって、それで提督が落ち込んでたの」

明石「あぁ、あったあった、大和さんやら如月ちゃんやらが工廠の隅っこで体育座りしてたあの事件!」

加古「んーと……つまり、提督は中佐って奴を追っ払うために『俺の大和だ』って言ったんだね?」

伊8「結果的にはそうですね」

榛名「……!」ハイライトオン

加古(あ、戻って来た)

明石「まあ、たとえ提督の都合のいいように利用されたとしても、大和さんは提督のことを好きでい続けるんでしょうねえ……」

隼鷹「お、そこまで言う? なんでなんで? 教えてよ~」

明石「……この島には、轟沈した艦娘が漂着してくるって言いましたよね」

明石「提督は昔、着任以前に漂着して長らく放置されてきた艦娘たちを、全員丘の上に埋葬してあげたんだそうです」

明石「その埋葬した艦娘の艤装の一部を妖精さんが集めて資材にして、その資材から建造されたのが大和さんなんですよ」

隼鷹「へええ!?」


明石「しかも、その建造は提督じゃなくて、この島の妖精さんたちが建造ボタンを押したって言うんですから」

明石「それで建造された大和さんが最初から提督に好意を持っていても、まあ当然かなあ、って思うわけですよ」

加古「うわあ……」

隼鷹「榛名もそうなの?」

榛名「あ、いえ、私は違いまして……ここではない、別の場所の出身です……」

隼鷹「うん? なんでまた言い淀んでんの」

明石「なんか、鎮守府とはまた違う施設らしいんですけどね。胡散臭い施設なんで、あまり他言するなと提督から言われてまして」

加古「……」

明石「そこで、死ぬまで戦えみたいな指示が出てたらしいんですよ」

隼鷹「は? マジ?」

榛名「……本当です。その施設の人たちは、榛名たち艦娘を道具としてしか見ていませんでした……」

榛名「でも、この鎮守府の提督は、艦娘たちのことを……私のことを、ちゃんと『榛名』として見てくださいました……!」

榛名「榛名は、提督のお傍にいたい、少しでもお役に立ちたいと思って、この鎮守府にお世話になることに決めたんです」

加古「思ってた以上にハードな昔話ばかりで、ちょっと引くんだけど……」

隼鷹「はぁぁ……なんか、あたしがこの島に辿り着いた理由が、ちっぽけに思えて情けなくなってきたよ」


隼鷹「もっと軽い理由でこの島に来た子とかいないの? 駆逐艦とかでさあ、そこまで重たい理由背負ってない子。いない?」

明石「うーん……セクハラから逃げてきたとか?」

隼鷹「それも十分重いよ~。逃げなきゃいけない上官とかないよ~」

伊8「じゃあ、訓練中に勝手に除名処分とか」

隼鷹「なにそれ!?」

伊8「沈んだ僚艦の捜索中に除名されちゃった子もいるんでしたっけ? 轟沈扱いにされちゃったって」

隼鷹「だからなにそれ!? 聞いたことないよ!? ひどくない!?」

榛名「捨て艦にされた子も何人かいましたよね?」

隼鷹「最悪なの来たよ!? しかも一人じゃないの!?」

加古「一応訊くけど、あくまで軽い方から言ってんだよね?」

明石「んー、まあ、悲惨じゃないほうから、かなあ。加古さんと同じで、大破進軍の子もいるし……」

加古「いるんだ……」

明石「あ、あと他に喋っても良さそうなのは大淀かな?」

明石「大淀は、日々の任務の中で解体任務がありますけど、あれをどうしてやらなきゃいけないのか、って、不思議に思っちゃったんですよ」

隼鷹「あー……」


明石「だったら最初から艦娘を建造も解体もすることのない鎮守府へ行け、ということになりまして」

加古「それでここに来たってかあ」

伊8「それ、私も初めて知りました」

明石「あれっ、そうだった?」

伊8「はい。それが理由で、この鎮守府では建造任務も解体任務もないんですね」

明石「そうそう。それでこの鎮守府で建造された艦娘も、大和さんと武蔵さんだけ、っていう」

隼鷹「引き運、強すぎない?」

明石「さっきも言いましたけど、妖精さんが建造ボタンを押してますからね」

加古「ある意味、チートしてるってこと?」

明石「かもしれませんねえ」

伊8「あ、大和さん戻って来た」

大和「……はぁ、せっかくおいしくいただいていたのに」トボトボ

大和「あの男のことを思い出したら台無しになりました……」ガックリ

隼鷹「まあまあ、そういうのは飲んでパーッと忘れちゃおう!」

大和「……はい、そのように努めます」


提督「やっと戻って来たぜ……ん? 加古も起きてきたのか」

加古「うん、ついさっきね~」

提督「そうか……うん? 誰だ? 胃液臭えな」スン

大和「う……わ、私です。ここでお話ししていて、中佐のことを思い出してしまいまして……」シュン

提督「中佐? あー、そりゃお前にはどうしようもねえな……」

隼鷹「おや、明石の言った通りだ。理解あるねえ?」

提督「俺だとしても吐きたくなる相手だ。あれだけは悪い意味で特別扱いしねえとな……」

大和「うう……申し訳ありません」

提督「その辺を汚したりしたわけじゃねえなら、そこまで咎めねえよ。次から気ぃつけな」

提督「さてと……だいぶまばらになって来たな、そろそろお開きか。大和が戻ったのはついさっきか?」

大和「は、はい」

提督「てことは、腹が空っぽになったんだろ? 厨房行って、そばかうどんでも茹でてくるから、好きなの言いな」

大和「提督……!!」パァァッ

提督「酒飲みたちの締めにもなるだろ。どっちをどのくらい食べるか、紙に書いて誰か厨房まで持ってきてくれ」

明石「それなら、かけそば1人前お願いします!」ワーイ!

伊8「はっちゃんは、ざるうどん半玉で」

大和「私はおうどん二玉でお願いします!!」キャー!

提督「紙に書けっつったろ! 紙に! 覚えてらんねーよ!」

隼鷹「……なるほどねえ。こんだけ面倒見がいいんじゃ好かれるわ」

加古「そうかもしんないねー……」

今回はここまで。

遅くなりましたが大和改二おめでとう! アーケードにも早く来てください!

それでは続きです。


 * 執務室 *

提督「やれやれ……やっと解放されたか」

 扉<コンコン

提督「うん? 誰だ」

那智「那智だ。加古も一緒だが、いいだろうか」

提督「おう」

那智「失礼する。大変だったな」ガチャ

加古「お邪魔~」

提督「……なんだその酒瓶」

加古「いやあ、提督が飲んでないっていうからさ。ちょっと付き合ってくんない?」

提督「俺か?」

那智「私は禁酒中なのでな。話に付き合うのは構わないが、酒は無理だぞ、と言ったところ、貴様はどうかという話になったんだ」

加古「日本酒とウヰスキーとどっちがいいかなあ?」

提督「……」


加古「前の鎮守府の話を愚痴りたくなってさあ。聞いて欲しいんだよねえ」

提督「俺はそんなに飲めないぞ?」

加古「いいよいいよ、グラス置いとくだけでいいから。雰囲気でさ!」コトッ

提督「そういうもんか?」

加古「とりあえずウヰスキーでいい?」トクトクッ

提督「注いでから訊くなよ……ま、いいけどよ」

那智「おっと、私の分はいらないぞ。飲まないのに酒を開けてはもったいない」

加古「そう?」

那智「ああ。それに私は麦茶を持ってきている」

加古「んー、まあいいか。そんじゃあ、乾杯!」

提督「ん……」チン

那智「うむ、乾杯」チン


提督「……」ペロッ

提督「くあっ!! ……やっぱ舐めただけでもきついな」

那智「水割りにするか? 氷と水を持ってくるが」

提督「いや、いい。水割りなんざ、もっとうまいと思った記憶がねえ……あんなもん水で薄めたコーヒーと一緒だ」

那智「ほう……!」

加古「提督ってば辛党?」

提督「いいや、好みは薄味だが」

加古「ってことは、作り方がまずかったんだろうねえ……」

提督「そういうもんなのか?」


 *

加古「はー……今だから言うけどさ。遠大佐の変貌は本っ当ショックだったね、改めて考えても」

提督「そいつはまったくだ。ありゃあ、あんな奴の下で働いてたのが運の尽きだとしか言えねえな」

加古「今思うと、あんな連中のために轟沈したのも馬鹿みたいだねえ……」

提督「しょうがねえよ。誰だって追い込まれりゃあ正常な判断なんてできなくなるもんだ。まして歯向かえる立場でもねえしな」

加古「……そりゃあねえ」

提督「あいつ、もともとは留提督が加古や鳥海を轟沈させた尻拭いのために、この島に来たんだよな?」

加古「うん。ぶっちゃけ、雷の話で頭からぶっ飛んでたけど……」

提督「もし、あいつがお前たちを轟沈させてなかったら、そのまま提督の交代劇が始まってたってことだよな?」

加古「あーそっか、あいつがずっと提督になってたのかぁ……うあぁ、絶対やだなあそれ。鹿島が可哀想なことになってるよ」

提督「とはいえ、遠大佐のままでもまずかったんじゃねえの?」

加古「うーん……それもそうだね。遠大佐のままでも、ストレスたまってただろうねえ」

提督「ついでに足柄と千歳も、L大尉と一緒に神戸に行ってた可能性があるわけだな」

加古「うん? そりゃまたなんで?」

提督「留提督たちがこの島の案内役としてあの二人を連れてきたんだ。どういう経緯で声をかけたのかはわかんねえが……」


那智「加古たちが轟沈していなければ、いろいろと結果が変わっていた、ということか……」

提督「沈んだのが加古だけとか、鳥海だけとかでも、少し変わっていたかもな」

那智「……しかし、面識がないから訊くが、遠大佐とはどんな人物なんだ?」

提督「駆逐艦にうつつを抜かした挙句、童子返りを起こしたおっさん」

那智「……」

加古「人柄ってだけで言えば、面白みの少ない真面目なおじさんだね。ちょっと意固地で融通の利かない、小難しいところもあるかな」

那智「真面目なのに駆逐艦にべったりになったのか?」

加古「駆逐艦って言うより、過度に甘やかしてくれた相手にべったりになっちゃったんだろねえ、遠大佐は」

那智「むう……甘えて欲しいなどと言う駆逐艦の方が希少ではあるか」

加古「それでさあ、あたし、実は二、三度、駆逐艦の言うこと聞き過ぎじゃないか、って感じに、軽ーく窘めたことあるんだけどさ」

加古「その時に、親の仇かってくらいの目で睨まれたんだよね」

那智「その駆逐艦に、すっかり丸め込まれてたと?」

加古「丸め込まれたっていうか、望んで依存してたんじゃない?」

加古「睨んできたときの顔を見て『あー、こりゃ何を言っても駄目だ』って思っちゃったのは確かだね」


提督「それで早々に見切りをつけたと。お前は遠大佐のところに着任してどのくらいだ? 雷は長いのか?」

加古「あたしは半年よりちょっと長いくらいかな。雷はほぼ最初からいた最古参の一人らしいよ」

提督「実力的に、あの艦隊じゃあ五指に入るとかって聞いたが?」

加古「そりゃ重巡があたししかいなかったからだよ。それで出番が多くなって、その結果、練度も高くなったんだよね」

加古「重巡2人目の鳥海が来たのもあたしの2か月後くらいだったから、一応、重巡のなかじゃああたしが一番古株になるかな?」

那智「少なかったのは重巡だけか?」

加古「そうだねー。他の艦種は満遍なく……あ、でも、空母は意外と多かったかな? 駆逐艦も多いけどそれはそれである意味普通だし」

加古「主力が駆逐艦と軽巡洋艦、航空母艦だったんだ。だからボーキサイトも不足してて、後から来た空母の人たちも暇してたっけなあ」

那智「私がそちらに着任していれば、出撃できていたということか……」

加古「そうだったらあたしも助かってたねえ」

提督「そういう話だと、ガンビアベイも暇してたってことか。鹿島たちの着任時期はいつごろだった?」

加古「あの3人の着任は割と最近かな、来て2か月経ってないはずだよ。鹿島は来た当初はすっごい張り切ってたっけなあ」

加古「それがいつごろからか顔つきが険しくなってて、笑ってるところを見なくなっちゃったんだよねえ」

提督「鹿島が遠大佐の育成方針に危機感を抱いてたとか言う話をどっかで聞いたな……山風だったか?」

加古「ってーことは、鹿島もどこかで遠大佐と雷がべたべたしてるところを見ちゃったのかな」

提督「かもな」


那智「加古、お前からは鹿島に何か助言してやれなかったのか?」

加古「うーん、それはちょっと難しいと思うよ。ぶっちゃけ助言してやれそうなことがなにもないんだから」

那智「ふむ……」

加古「それにあたし、出撃するとき以外は寝てたから」

加古「一応主力だったし、割と特別扱いしてもらってたこともあって、そもそも鹿島と接点少なすぎたんだよね」

加古「個人的に遠大佐には少し意見も言うときがあったけど、あんまり聞き入れてもらえなかったしねえ……」

那智「どんなことを進言したんだ」

加古「もうちょっと巡洋艦増やしてほしいとか、駆逐艦増えるだけ増やしてて練度が上がってないから育てて欲しいとか……」

加古「ま、あたしが忙しかったから、その負荷軽減をお願いしてたわけよ。全然聞いてもらえなかったけど」

加古「そういうわけでさあ。ぶっちゃけ遠大佐に対する信頼っていうの? それが薄れまくっちゃってねえ……」

提督「しかもあのちびっ子をママ呼ばわりだからな」

加古「うん……まあ、薄々感付いてはいたけど。あれ聞いたときは真っ白になったねえ……」

那智「ママ……とは、どういうことだ?」

提督「さっき言ったろ、童子返りって。雷って駆逐艦を、遠大佐がママ呼ばわりして抱き着いてたみたいなんだよ」

那智「……」ヒキッ


加古「ん? ……みたい、って、提督ってその場に居合わせてたんじゃないの? マイク持ってったっしょ?」

提督「ああ、俺はその場に居合わせてはいた。いたんだが、その辺覚えてねえっつうか覚えていたくねえっつうか……」

加古「……あ、ああ、そういう……」

那智「ここで聞いているだけでひどいと思うのだから、目の前で見ていたのでは相当にショックだっただろうな……」

提督「俺以外であの場面見てたのは……暁と霧島だったっけか? 詳しくはあの二人に聞いてくれ。俺は見てなかったことにしたい」

提督「ま、どうせもうあいつらと顔を合わせることもねえんだ。遠大佐は降格ののち左遷されるって話だからな」

加古「そうなんだ。どこへ行くんだろうね」

提督「端っこだってんなら、南西海域ならブインかショートランド。東ならリンガ、北なら幌筵ってとこか?」

那智「……駆逐艦に甘えるような男を、激戦区へ放り込むのか? 士気に関わりそうだぞ」

提督「そう考えると、比較的安定してる地域に送られる可能性のほうが高えか。リンガは割と穏やからしいから、そっちかもな」

那智「それより、そもそもその男の暴走をどうにかして止める方法はなかったんだろうか、とも思うが」

提督「そいつはなかったんじゃねえの? それが隠れてた本性だったんだろ、早かれ遅かれ暴走してたと思うぞ」

加古「……かもねえ。その暴走を喜んで受け入れるような艦娘に出会っちゃったのも、良くなかったんだろうし」

那智「ふむ……」


加古「提督は甘やかされたいタイプじゃなさそうだねえ?」

提督「ああ、俺は世話を焼かれたくねえな。っつうか、世話を焼かれたから焼き返してやったこともあったな、そういや」

那智「なんだそれは」

提督「この鎮守府に古鷹がいるだろ? あいつ、だいぶ前にその問題の雷と出会ってんだよ」

那智「なに?」

加古「あー……」

提督「その古鷹はこの前来ていたL大尉……その時はあいつ少佐だったな、あいつの部下だったんだ」

提督「で、おそらくだが、L大尉が遠大佐と演習したときに、雷から古鷹がいろいろ教えてもらったらしい」

那智「いろいろ?」

提督「ああ。いろいろ」

加古「……」アタマオサエ

提督「で、L大尉がやらかして少佐から中尉に降格して、そん時に古鷹と朝雲をこの鎮守府で引き取ることになって」

提督「それで古鷹を試しに秘書艦付きにしてみたら、俺の風呂から布団から、トイレにまで入ってきて世話を焼こうとしやがった」

那智「と、トイレ……?」

加古「……」アタマカカエ


提督「だから俺は吹雪をけしかけて、古鷹をベッドに縛り付けて介護かってくらいの世話をさせて、俺が嫌がってることを理解してもらったわけだ」

提督「吹雪も吹雪で暴走したから大変だったけどな……」

加古「……」テーブルニツップシ

那智「何をしたんだ何を……」タラリ

提督「詳細は本人に訊け」

提督「ともかく、程度に差はあれ、お世話を焼くのが好きな艦娘は思ったよりも多いからな」

提督「俺としちゃあ、甘えてくる分には構わねえが、どっちにしても俺は少しドライなほうが気楽で助かる」

加古「いやあ……古鷹も人がいいっていうか……まあ、うん……」

提督「ちなみに、朝雲は前の鎮守府から古鷹をフォローしてたから、いろいろ知ってるはずだぞ」

加古「雷のことに気付いたのも朝雲だったねえ、そういえば」

提督「あいつ、とにかく気が利くんだよ……マジで頼りになる。と言っても駆逐艦だからな、あいつに頼りすぎるのも問題だ」

那智「戦艦はどうなんだ? 見る限り数は揃っているじゃないか」

提督「戦艦なら長門が一番頼りになるな。来てから一番長いから、この鎮守府の大半のことは知ってるし、面倒見もいい。何を任せても安心できる」

加古「え、長門さん最初なの」

提督「ああ、その次が比叡か。あいつには厨房を任せてるから他のことは二の次にしてるが、よく笑うもんで、いるだけで雰囲気が良くなるな」


提督「次に来た大和はちょっと子供っぽいところがあるし、俺を過剰評価しすぎて盲信的になってるんで心配になる」

那智「順番が滅茶苦茶だ」タラリ

加古「そういやここの大和さん、提督のことべた誉めしてたねえ?」

那智「そうなのか?」

加古「そうそう。あ、そうだ提督、中佐って奴相手に『俺の大和だ』って言ったこともあったらしいけど、本当?」

那智「なっ!?」

提督「……ああ、言ったな。そこまで聞いたのか」アタマガリガリ

提督「そいつは『あれ』が大和に執着してたんで、一番ダメージ与えられそうな言葉を探してた時に言った俺の失言だ」ハァ…

那智「貴様は上官を『あれ』呼ばわりか……」

提督「ああ。『あれ』は俺をこの島に追いやった、俺にしてみりゃ恨み骨髄、不倶戴天の相手だ。気遣いなんざしてたまるかよ」

提督「それに、この島の艦娘の何人かは『あれ』と因縁があるんだ。そいつが俺の直の上官だぞ? 忌々しいことこの上ねえ」

提督「大和も大和で、出会ってすぐ主砲をぶっ放したくらいには毛嫌いしてるからな?」

那智「そこまでやったのか!?」

提督「やったよ。会った瞬間、嫌いとか憎いとか言う声が聞こえた、みたいなことを言ってたんだ」


提督「その一方であの野郎は、大和に一目惚れしたとか抜かしてやがった」

加古「そこであのセリフってわけだね」

提督「ああ……そのせいで、大和に変に気を持たせたというか、大和の気持ちを弄んじまったんだから、そこは俺が悪いとしか言いようがない」

那智「そう思うのなら、貴様が男として責任を取るべきじゃないのか」

提督「男としての責任ね……そりゃ娶るって意味でか? そんなことしたら不幸にしかならねえぞ?」

那智「なぜだ」

提督「俺がまともな親に育てられてねえんだ、夫としても父としても、まともに務められねえと思ってる。つうかまず父親になるのが無理か」

加古「それ、性欲がないって話?」

提督「ああ。その手の漫画見ただけで気持ち悪くしたこともあったし、そもそもコレが勃たねえからな」

那智「……」

加古「じゃあ、女性の裸も駄目なの?」

提督「それだけならまあ、多少は慣れたな。裸よりひどい姿の奴もたくさん見てきたってのもあるが」

那智「……」

加古「……提督さあ? やっぱり、提督はあたしたちに憐れんでるんじゃないの? 愛情ってものがわからないって言ってんでしょ?」


加古「あたしたちを可哀想だと思ってるから、あたしたちの言うことを聞いてんじゃない?」

那智「おい、加古……!」

提督「……そりゃちょっと違うな。可哀想だから助けようだなんて、俺は考えてねえぞ。そいつは傲慢が過ぎる」

提督「助けて欲しけりゃ自分の口から助けてと言え、ってのが俺のスタンスだ」

提督「俺以外の艦娘が助けようとしたとしても、その言葉を当人から聞かない限り、俺が出しゃばるようなことはしないようにしてる」

提督「ただまあさすがに、轟沈して砂浜に流れ着いて、そのまま野晒しになってた艦娘たちだけは、俺の判断で埋葬させてもらった」

提督「そいつらを可哀想だと思うくらいは、いいよな?」

加古「まあ……そりゃあ、ね」

提督「ま、あいつらに対しては、人間のために戦って死んだんだから、人間の俺がちゃんと弔わないと失礼だ、ってのもあったけどな」

提督「それとは別に、轟沈するような指揮を執る人間への怒りと……うまく言えないが、嫌悪感、って言えばいいのか?」

那智「嫌悪感?」

提督「ああ。俺は単純に、お前ら艦娘に対する、人間どもの理不尽な仕打ちを、嫌だと感じてるんだと思う」

提督「俺がそうだったからな。人間の都合に振り回されて、人間に嫌気がさして、それでもなお迂闊に信じちまったせいでこの島に追いやられて」

加古「……」

提督「俺が人間社会でうまくいかなかったのは、俺自身の問題だ。他人に反抗的なのが悪いんだろう」


提督「で、俺がそうなったのは、妖精の存在を否定したくなかったからだ」

提督「だが、あいつらは妖精の存在を信じないし、嘘をつくなと言うんだよ。俺だって嘘なんかついてねえってのによ」

提督「それでお互い受け入れられなくなって、俺は人間を信じられなくなった」

提督「お前らもそうだろ? 人間を信じられなくなったから、望む望まないに関わらず、ここに来たんだろ?」ニヤッ

加古「……」

那智「……否定できないな」

提督「俺も、何言っても無駄だったことが多かった。だから、俺はお前らに同情している、と言った方が適切かもな」

加古「……同情、ねえ」

提督「他に言い方というか、他にもっと適当な言葉があるかもしれねえが……ま、所詮は自己満足のためだし、なんでもいいさ」

提督「お前らが、人間から受けてきた嫌な思いを少しでも解消できてて、いま笑えてるんなら、俺はそれでいいと思ってる」

提督「俺もこの島に来た直後なら、人間に対する憤りの方が強かったな。半ばやけくそ気味で、中佐とは刺し違える気でもいた」

提督「今は今で、艦娘たちにこれ以上なく良くしてもらってるからな……それが嬉しくて、単純にその礼を返したいつもりでいる」

提督「こうやって酒飲んで駄弁ったり、笑って話すなんて、あっちじゃあなかったからな」フフッ

加古「なるほどねえ……」

那智「……」


提督「そういうわけなんで、欲しいものがあるとか、これを直してほしいとか、そういう話はできるだけかなえたいと思ってる」

加古「へーぇ……それじゃあ、ふかふかのベッドが欲しいとか、そういう話もしていいの?」

提督「おう、いいぞ。むしろそういう話なら遠慮すんな。財布と相談になるが、言うだけ言ってみな」

加古「んへへえ、いいこと聞いちゃった」

那智「それでいいのか……?」

提督「いいさ。お前らは命懸けて人間のために戦ってるんだ。そのくらいの見返り、あっても罰は当たらねえだろ」

那智「むう……」

加古「見返りかあ……そういうの、考えたことなかったねえ」

提督「……」

加古「……どしたの?」

提督「いや。俺たちは、自分たちの身や財産を守るために戦ってる、って認識は間違ってはいないよな?」

加古「うん……まあ、そうだねえ?」

提督「今、俺が見返りって言ったけど、深海の連中はどうなんだ? なんで連中はこっちに攻めてきてるんだ? って、ふと思ってなあ……」

提督「あいつらがどんな見返りが欲しいのか……あいつらの目的が、改めて考えてみてもわからねえ」

加古「……うーん、あたし、そういうことは考えたことなかったねえ。攻めてきたから追っ払う、みたいな感じだったし」


那智「……恨みじゃないのか? 人間に対する……」

提督「恨みって何の恨みだ?」

那智「……むう」

提督「海を汚されたとか、そういう恨みだけとは思えねえんだよな。根っこがわかんねえ……」

提督「仕方ねえ、あまり訊きたくねえが……今度ル級に訊いてみるか」

加古「……え?」

那智「ル級? 敵方の戦艦のことか……?」

提督「ああ。深海棲艦の戦艦ル級だ」

加古「……」

那智「……」

加古「ええええええええ!!??」ガタガタッ

那智「ちょっ、ちょっと待て貴様!?」ガタガタッ

提督「んん? なんだ?」

那智「今、深海棲艦に訊くと言ったな!? どうやってだ!?」


加古「すっごい気軽に言うけど知り合いでもいるの!?」

提督「いるぞ」

那智「」

加古「」

提督「たまに飯を食いに来る」

加古「うっそだぁ……あたしたち、あいつらと戦ってるんだよ? 話はできても、話が通じたことがない相手だよ?」

那智「どんな手を使ったんだ」

提督「ル級も砂浜に流れ着いてきたんだよ、加古みたいにな。向こうにもそういう不幸な奴がいるってことさ」

加古「……なんか、びっくりしすぎて酔いも眠気も覚めちゃったよ」

那智「私も、自分が素面なのか信じられなくなってきたぞ。貴様、酔っ払っての戯言じゃないだろうな?」

提督「本当だよ。今度会ったら紹介してやるよ、誤射させたくねえしな」


 * ブイン泊地 *

日向「そうだ。深海棲艦とは、いったい何者なんだ?」

加提督「……」

日向「私たちは、なぜあいつらと戦っている?」

加提督「……」

日向「私たちは、いったい何者なんだ?」

加提督「うるせえええええ!!」

加提督「そんなことに疑問を持ってる場合じゃねえっつーの!」

加提督「戦況を見ろ! お前がぼんやりと考え込んでる間に敵の艦載機にぼっこぼこにされて!」

加提督「全員撤退してからぶっ放しても意味ないんだよ!!」

日向「君の指示通り、旗艦は沈めたぞ」

加提督「遅すぎるんだよ!! ただでさえ鈍足艦なのに、考え事をして艦隊においていかれたりしてんじゃねえよ!!」

加提督「もう限界だ! 次が最後だ! 次でまた足を引っ張ったら、お前は左遷だ!!」

日向「……」


加提督「なんだその顔は! お前の建造のためにどんだけ資材を投じたか、わかってんのか!」

加提督「それに見合う働きができないんなら、当然だろうが!」

日向「それは君の指示が悪いんだろう?」

加提督「俺の話を聞いてないやつが言っていい台詞じゃねえよ!! もういい!!」

日向「……」

 * *

日向「敵を知ろうともせずに戦いに勝とうだなんて、無理難題もいいところだ」

日向「今の戦力では海域の突破は無理だな。敵航空戦力を無力化する方法がなさすぎる」

日向「こちらの航空母艦は満身創痍。まともに太刀打ちできる艦戦も少ない」

日向「根性論など以ての外……もう、潮時か」

日向「……」

日向「本当に……」

日向「深海棲艦とはいったい何者なんだろうか」

というところで今回はここまで。

長いこと書き込みがないときは
「こいつまた書けない病を発病してんな」とでも思っててください


続きです。


 * 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「……眠てえ」グッタリ

加古「提督、どのくらい飲んだの? ってか、飲むって言うより舐めてるようにしか見えなかったけど」

那智「ツーフィンガー程度しか注いでなかったはずだな」

加古「もしかして提督って、お酒弱い?」

提督「……飲めないとは言った」

加古「弱いんじゃないのさ……」

提督「くそ、調子に乗って喋りすぎたし飲みすぎた」ムクッ

那智「そこまで喋りすぎという印象もなかったが?」

提督「いいや、こんだけ誰かに喋ったのはなかったぜ。長らく話し相手が妖精しかいなかったから自重してたこともあるしな」

提督「むかし安アパートで妖精相手に延々愚痴ってたこともあったが、その時に隣の部屋の奴に救急車呼ばれたこともある」

提督「何もない空間にずーっと喋り続けてたから、頭がおかしい奴だって思われて警察まで呼ばれてよ」

提督「妖精が見える警察官もいなかったし、そん時は電話だって誤魔化して逃げた」

加古「ありゃあ……」


提督「海軍に誘われて、これで遠慮なく妖精と話せると思ったら、海軍の人間でも声が聞こえる奴はごく少数だっつうし……」

提督「白い目で見られなくなったのはこの島に来てからだ。そもそも俺を見る人間がいなくなったんだから、当然っちゃあ当然だがな」

提督「ったく、つくづく俺は人間社会に適用できない人種らしい。いっそ、俺も人間でないほうが良かったのかもな」

加古「見えないものが見えるってのも善し悪しなんだねえ……」

提督「ああ、くそ。俺は誰かに愚痴るような奴じゃねえっつうの……やっぱ酒は駄目だ」

提督「本当、悪いな……こんな醜態、誰にも見せたくねえんだが」

加古「まあまあ、ちょっとくらい弱みがあったっていいじゃない。あたしたちだって完璧じゃないんだしさ」

提督「……まったく、艦娘ってのは本当にいい女ばかりだな。手前の不甲斐なさが恨めしいぜ」

加古「あはは、そんなお世辞言われるの、初めてだよ」

提督「そうなのか?」

加古「あたし、寝てばっかりだよ? あたしより真面目で可愛い子、たくさんいるからねえ」

提督「そういうもんか……? お前も可愛い方の部類に入るだろ」

加古「は?」


提督「少なくとも、俺が見てきた艦娘は、可愛いか美人かのベクトルの違いはあっても、全員美女か美少女と言って通用すると思ってんだが」

加古「……」

提督「加古もそうだし、那智もそうだろ?」

那智「……貴様、酔っているな」

提督「そんなことはねえよ……」スクッ

 グラッ

提督「うお……っとぉ!?」ドシャッ

那智「おい!?」

加古「足にきてんじゃん! 大丈夫!?」

提督「マジかよ……こんなんなるまで酔ったのか」クラクラ

加古「いやいや、飲んだ量なんてほんのちょっとじゃんか!」

提督「……マジで酒に弱かったんだな、俺」ハァ…

那智「貴様、自覚がなかったのか」

提督「酒なんて一口二口しか口にしたことなかったからな……飲み会なんて一度も行ったことねえしよ」


加古「それであたしに付き合うって、馬鹿みたいにお人好しだねえ……」

提督「ふん、こういうのは雰囲気だっつったのはおま……っうお!?」ヨロッ ドテッ

那智「無理をするな!」ガタッ

提督「悪い……情けねえな、我ながら」ガックリ

加古「この辺でお開きにする?」

那智「そうだな。提督も部屋に戻って……と言ってもその様子では無理そうか」

提督「ああ、俺のことはいい。このままソファで寝ちまっても……」

加古「んじゃあ、あたしが連れて行こうかね」ヒョイッ

提督「お、おい!?」セオワレ

那智「ふむ、そういうことなら私が部屋を片付けておこう。酒とグラスは食堂へ持っていくといいんだな?」

加古「そだねえ、よろしくー」

提督「お、おい! そこまでしなくても」

加古「酔っ払いは大人しくしてなよ~。どうせ立てないんだしさ?」

提督「……」

那智「ふふ、人間、ひとつくらい欠点があってもいいものだ。それをフォローするのが仲間だからな」

提督「……面目ねえ。ありがとな」セキメン

那智「礼には及ばん。加古、提督を頼むぞ」

加古「はいよー」


 * 提督の部屋へ向かう廊下 *

加古「実はさあ、提督のベッドって特別だって聞いたんだよねえ~」

提督「……ああ」

加古「良かったらあたしもそこで寝てみたいなー、ってさ」

提督「そういうことなら、いいぞ……いつでも」

加古「えっ、本当? いやー、楽しみぃ!」

提督「……俺がいないときでも、寝てていい……」

加古「え? いやいや、さすがに部屋の主がいないのに、勝手にベッド拝借しちゃうのはどうかと思うよ?」

提督「……控え目だな……?」

加古「それのが普通じゃない? それで感心されるって常識ないみたいに思われて、結構心外なんだけど?」

提督「……俺は……部屋に入るのは、寝るときだけだ……」

提督「いつも留守なんだから……それだと、日中、寝れないぞ……」

加古「んー、それもそっかー。あ、この部屋だね? 入るよー」

 ガチャ

加古「……なにこれ」


提督のベッドで眠る如月「すー……」スヤァ…

同じく大和「くー……」スヤァ…

同じく榛名「ん……」スヤァ…

同じく陸奥「……」スヤァ…

加古「ちょっと、提督? ここ、提督の部屋だよね?」

提督「んむ……なんだ、また来てたのか」

加古「また!? またってどういうこと!?」

提督「……よくあるんだよ……」

加古「よくあるの!?」

提督「ああ……つうか、如月と陸奥は、部屋まで送ったはずなのに、なんでここにいるんだ……?」

加古「そんなのあたしが知りたいよ……」

提督「……加古が寝るスペースがねえな……」ムニャ…

加古「そこであたしにそういう気を遣うの?」

提督「悪いが、加古は今日は自分の部屋で寝てくれ……俺は、床でいい……」

加古「ちょっと!?」


提督「俺のことは……その辺に、転がしておいてくれ……」カクン

加古「提督!? おーい!?」ユサユサ

提督「……」スー…

加古「寝ちゃったよぉ……どうしよう」

加古「……」

加古「……」



 * 加古の部屋 *

加古「ここまで連れてきちゃったけど……」

加古のベッドに寝かされる提督「……」スー…

加古「まあ、床で寝かせるわけにはいかないもんねえ……」

加古「ふわぁあ……あーやばい。眠い……」

加古「執務室のソファでも借りて……けど、遠いんだよなあ……」

加古「……もー無理、あたしも……寝る……」ヨロフラ

加古「……おやすみぃ……」パタリ

加古「……ぐー……」


 * 翌日 未明 *

提督「く……う、重て……ぇ……!?」

加古「すかーー……」グッスリ

提督「なんで加古が俺の上で寝てんだ……?」

提督「……」

提督「ここ加古の部屋かもしかして」タラリ

提督「加古は良く寝てやがんな……よっと」

提督「俺の部屋のベッドが占拠されてたんだよな……それで自分の部屋に連れてきてくれた、ってとこか?」

提督「……」

提督「起きてきたら新しいベッドの手配してやんねえとな……」ベッドテナオシ

加古「むにゃあ……」

提督「これでよし。執務室のソファで寝直すか」

 チャッ パタン

提督「……加古の部屋から出ていくところ、誰にも見られてないよな?」キョロキョロ

提督「って、それも今更か……行くか」スタスタ…


 * 朝 執務室 *

ソファで眠る提督「……」スヤー…

 コンコン

大淀「おはようござ……あら?」チャッ

提督「……」スヤー…

大淀「て、提督! どうして寝てるんですか!?」ユサユサ

提督「んお……お、大淀か」

大淀「も、もしかして、酔ってこんなところで寝てしまったんですか!?」

提督「……んー、まあ……いつつ」

大淀「大丈夫ですか?」

提督「……ちょっと寝足りねえが、大丈夫だ。それより、こんなところで寝るもんじゃねえな……」

大淀「当然ですよ! お昼寝ならまだしも、ご自身のベッドがあるんですから!」

提督「昨晩はその俺のベッドが占拠されててな」

大淀「え?」


提督「酔っ払って加古に部屋まで連れてってもらったんだが、部屋に行ったときには俺が寝るスペースがなくてなあ」

大淀「それでここで寝てたんですか!? みなさん何をしてるんですか……」

 コンコン

島風「おはようございまーす!」ガチャ

提督「……よう、今日は島風か。白露はどうしてる?」

島風「白露はまだ起きてません! お酒のせいかは知らないけど、すっごい恰好して寝てるよ?」

提督「あいつもだいぶ飲んでたみたいだしな……」

島風「……提督もちょっとお酒臭くありません?」

提督「そうか? そういや昨晩、シャワーも浴びてねえな……」スンスン

島風「酔っ払った人が多いみたいですし、今日はお休みにしませんか? なーんて」

大淀「し、島風さん!?」

提督「……いや、その方がいいかもな。いつもの業務を半分くらいにして、今日は休める奴は休めるようにしよう」

島風「ほ、本当に休むの!?」

提督「食堂や食料調達とかはそうはいかねえけどな。平和だったことにしておけばいいさ……ふあぁ」


島風「それじゃ提督、お風呂に行ってきたら? その後ちょっとお昼寝して、お仕事はそれからにしましょーよ!」

大淀「島風さん! そのような勝手な……」

提督「ふあぁ……んん」ボリボリ

大淀「……本当に眠そうですね。島風さんの言う通りにした方がいいかもしれません」

提督「贅沢はよくねえな。良い布団に慣れちまうと、普通の布団が体に合わなくてまともに寝られなくなっちまう……」

提督「あのベッド、加古にくれてやるかな……」

大淀(それでしたら私がいただきます!!)

島風「それは良くないよー、あのベッドは提督のために、みんなで選んでもらったものでしょ?」

提督「……まあ、首謀者は如月と大和だけどな。どうせならもう少し小さいサイズで良かったんだ、洗濯が大変だしよぉ……」

提督「つっても、気を使ってもらって実際助かってるのに、ケチ付けるのは良くねえことだしな。そこは島風の言う通りだ」ナデ

島風「! えへへ……!」ニカッ

提督「大淀、後で加古にも俺の部屋のベッドと同じでシングルサイズのやつ、買う準備してくれるか? 加古に確認取れたら発注頼む」

大淀「……はい、承知しました」シューン

島風(なんで落ち込んでるんだろ?)クビカシゲ


提督「さてと、ついでに着替えてくるか。ああ、そうだ島風、一人で大変なときは他に誰か呼んでいいからな。俺もできるだけ早く戻る」

島風「はーい!」

大淀「いってらっしゃいませ」

 パタン

大淀「……ふぅ……」

島風「ねえねえ、大淀さん? 大淀さんもなんだか目の下にクマができてるみたいなんだけど、寝不足?」

大淀「えっ、そ、そんなことはありませんよ?」

島風「そう? ゆうべは、ぐでんぐでんになってたような……あ、提督におんぶしてもらってたんでしたっけ!」

大淀「!!」

島風「提督の体ってどうでした!?」

大淀「ほえっ!?」ドキーン

島風「提督、細身で足が速そうじゃないですか? 筋肉質だったんでしょ!?」

大淀「……え、ええ、まあ」カオマッカ

島風「朝潮が『提督は短距離走が苦手だ』って言ってたけど、それはフォームの問題だと思うんですよねー!」

大淀「……」ハナヂポタポタ

島風「!? お、大淀さん大丈夫!?」

大淀「えっ」

島風「えっ、じゃなくて! 鼻血!!」ティッシュサシダシ

大淀「えっ、誰がですか」

島風「大淀さんでしょー!?」


 * その後の提督の私室 *

如月「スヤァ……」

大和「スヤァ……」

榛名「スヤァ……」

提督「……昨夜はもう一人いたよな?」クビカシゲ

提督「まあいいや、シャワー浴びるか……」



 * 一方、陸奥の部屋(長門と同室) *

長門「? 陸奥、いつの間に戻ってきてたんだ……」

陸奥「え、ええ……夜のうちにね」

潮(確か、5時ごろに入って来たような……) (←長門のベッドにお泊り中)

長門「顔が赤いぞ? 本当に大丈夫か?」

陸奥「だ、大丈夫よ……」

陸奥(いくら酔った勢いとはいえ、なんで私、提督のベッドで寝ちゃってたのかしら……)カオマッカ


 * 再び執務室 *

大淀「お見苦しいところをお見せしました……」ティッシュツメツメ

島風「それはいいけど、本当に大丈夫? 大淀さんも休んだ方良くない?」

 コンコン

大淀「はい!?」ビクッ

加古「ふわぁ……ねむ」ガチャ

大淀「あ、あら? 加古さんおはようございます」

島風「おはよーございまーす!」

加古「んあ……おはよ……ん? 大淀どうしたの? その鼻」

大淀「いえ、大したことでは……加古さんこそ、こんな朝早くに、どうしました?」

加古「んーとねえ……提督、見なかった?」

島風「提督なら、さっき自分のお部屋に向かったよー?」

加古「んん? ここにいたの?」

大淀「はい、私が来た時はこちらのソファに横になっていました」

加古「ありゃあ、そういうことかあ……」


島風「どうかしたんですかー?」

加古「いやあ、昨晩、提督を酔い潰しちゃってさあ」

大淀「はい? 加古さんがですか?」

加古「そうそう。で、提督の部屋に連れてったら、ベッドが満員で寝られなくて」

島風「おぅ!?」

加古「しょうがないからあたしの部屋のベッドで寝てもらったんだよねえ」

大淀「!?」

島風「えええ!? それじゃ加古さんはどこで寝たの!?」

加古「うん? そのまま提督の隣で寝たよ?」

大淀「!?!?」

加古「寝苦しいかと思ったら思いのほか快眠できちゃってさあ。目が覚めたら提督いないし、どこ行ったのかなあって思って探しに来たんだよ」

島風「いなくなっちゃったの?」

加古「そう。今の話からすると、酔いがさめたあたりであたしの部屋から出て、ここで寝てたってことかな……」ポリポリ

大淀「て、提督をお部屋に連れ込むとか、何を考えてるんですか!?」

加古「そんなこと言われても~。提督の部屋のベッドは満員だったし、背負った提督は床でいいとか言い出して寝ちゃったんだよー?」


加古「ここのソファで寝かせるわけにもいかないしさあ……あたしだって悩んだんだからねー?」

島風「それでお部屋のベッドに寝かせてあげたんですか?」

加古「そーだよー。で、その後、あたしもどこで寝ようか悩んだんだけど、もう眠くて眠くて限界で……」

島風「それで一緒に寝ちゃったんだ?」

加古「そういうこと……ふわぁあ」

大淀(加古さんに先を越された……!?)

加古「んーと、それで……提督は自分の部屋に向かったんだっけ?」

島風「そうでーす!」

加古「それじゃあ、あたしも提督のお部屋のベッドを借りようかな~」

大淀「ちょっ!? いいんですか!?」

加古「んん? 夕べ提督に訊いたら、いつ借りてもいいって言ってたよ?」

大淀「」

加古「あたしゃ部屋のあるじが在室中に借りたいんだけどねえ……あ、ついでに訊くけど、提督って、いつも誰かと一緒に寝てるの?」

大淀「はい!?」

島風「うーん……島風は提督のお部屋にお邪魔したことないけど、結構、いろんな人が提督と一緒に寝てるみたい」

島風「この前は、敷波が初めて一緒のお布団で寝た、って言ってたし!」

大淀(あの敷波さんにも先を越された!?)


加古「ふーん、そっかあ……ねえ、もしかして提督ってさあ、抱き着かれ慣れしてんのかなあ?」

大淀「は?」

加古「夕べ一緒に寝たときも、眠ったままあたしの邪魔にならないように体勢変えてくれてたし」

加古「なんかもう、誰かと一緒に寝るの慣れてるみたいな感じだったんだよね」

大淀「」

加古「それに細身だから、抱き着いてみたらなんか丁度手が回って具合が良くてさ。手頃な抱き枕だったっていうか?」

大淀「」

加古「あんな風にすっきり寝られたことなかったからねえ……抱き枕買ってみようかなあ」

島風「それだったら、さっき提督が加古さんの新しいベッド買おうかって話をしてましたよ?」

加古「え、マジで?」

島風「一緒にお願いしてみたらいいと思いまーす!」

加古「そうだね~、お願いしてみよっかな~……ふあぁ……」

加古「うん、眠い……提督のお部屋のベッド、貸してもらおっと……んじゃ、おやすみぃ~」ヒラヒラ

島風「おやすみなさーい!」

大淀「」シロメ

島風「大淀さん? 大淀さーん!? 本当に大丈夫ー!?」ブンブン

今回はここまで。

>168
大淀はむっつり+へたれ+ラッキースケベのジャ○プお色気系漫画主人公路線で
行くことにしました。その方が面白そうだから。

>170-171
あくまでお願いですので。
私自身はスルーすると宣言したので、ぶっちゃけ楽です。

>172
実はその辺、あまり深く考えてなかったり……。
ただ、2人以上で潜り込むケースはありだと思ってくださって結構です。

で、肝心の本編が全然書けねえ……できたところまで投下します。


 * 某所 *

クルー4「買収!? うちの会社がですか!?」

クルー6「ど、どういうことっすか……!?」

部長「さっき役員会議で決定したんだ。かつてバブルの時代に、親会社の番組制作部門が分社化で別々の会社に分かれただろ?」

部長「うちもかつてはその部門の一つだったんだが、景気が悪くて採算が取れなくなったから、買収してもらうことになったんだ」

クルー4「じ、じゃあ、俺たちは……」

部長「一応希望を取るが、ほぼ全員、親会社である在京の○○テレビに移籍することになる。社長は退職するけどな」

クルー4「え!?」

部長「今回の騒動でスタッフも死んだし、表向きはその責任を取る形でな」

クルー4「……」

クルー6「……」

部長「あまり重く受け取らなくていいぞ? もともと社長も隠居したがってたんだ。むしろ一番心配なのは留父さんだ」

クルー6「ど、どういうことっすか?」

部長「留父さんが海軍のお偉いさんと大親友だってのは聞いてただろう?」

クルー6「は、はい」


部長「そのお偉いさんが、海軍のイメージアップのためのアイデアを求めて留父さんに相談したのがきっかけで……」

部長「そこからうちの親会社、またそこからうちに企画書が回ってきて、じゃあ長期間のロケをやろうってことになって……」

部長「それで、臨時のスタッフを募集して君を雇ったわけだ」

クルー6「はい」

部長「で、ロケの主役として白羽の矢を立てたのが、留父さんの息子である留氏だったんだが」

部長「これが蓋を開けてみたら、とんでもない問題児だった。ここまではいいな?」

クルー6「はい、大丈夫っす」

部長「聞くところによるとあのバカ息子、婦女暴行未遂も何度かやらかしてるらしいな」

クルー4「ええ……」

クルー6「俺たちとんでもない人に付き合わされていたんすね……」

部長「でだ、留父さんが海軍の人たちと親会社の専務を引き連れて、うちの社長に土下座しに来ててなあ」

クルー6「土下座!? 留父さんがですか!?」

クルー4「それで会議室に近寄るなと」

部長「ああ。弊社としては、うちのスタッフの起こした問題だ。俺たちが頭を下げるべきなんだが、留父さんも引き下がらなくてなあ」

部長「お互いかばい合ってるというか、罪の所在を奪い合ってる、ちょっと変な空気になったんだ」


クルー4「……俺たちのせいじゃない、と、言ってくれてるんですか?」

部長「ありがたいことにそういうことだ。とはいえ、責任は誰かが取らなきゃならんが、留父さんに取らせるわけにはいかんのだ」

部長「それで、うちの社長が、自分が辞職することで手打ちにして欲しいと提案したんだよ」

クルー6「俺、会ったことないんすけど、すごい社長さんなんすね……」

部長「とにかく、これから謝罪会見を開いて、留父さんと親会社の専務から、説明してもらうことになった」

部長「ま、ちゃんと責任を取る形で会見すれば、視聴者からはそこまで厳しく追及してこないだろう」

クルー4「最近じゃあ、下手に秘密にしてごまかした方が炎上しますからね……」

部長「それから、今回不祥事を起こした留氏とうちのスタッフは、更生のため、一定期間海軍で訓練や奉仕活動に参加させることも決まった」

クルー4「はー……」

クルー6「何やらされるんでしょうね……」

クルー4「軍隊だろ? 何をやらされるか知らんけど、厳しいんだろうなあ……」

部長「そのついで、と言ってはなんだが……」

部長「これまで親会社は、うちへ外注する形で番組制作を依頼していた。が、昨今の情勢を鑑みるに、その必要もないと判断した」

部長「統廃合することで余計な経費を抑え、これを機に余計な膿を出すこともできる」

クルー4「……ということは」


部長「海軍居残りになったあいつらとは、これを機に社員契約を打ち切ることで決定した」

クルー4(良かった……あのとき思い留まって本当に良かった……!!)

部長「お前たちには、このまま一緒に親会社へ行って欲しいと思っているが、その辺の意思確認をしたい」

クルー4「お、俺……じゃない、私は、引き続きこの仕事を続けたいと思っています!」

部長「よし。君はどうする? バイトで入ったとはいえ、あの中で悪い連中に流されなかったのは評価できる」

部長「このまま続けてもらうのも悪くないが?」

クルー6「……俺は、当初の予定通り、契約が終わったら、また別の仕事を探そうと思います」

クルー4「お前……!?」

部長「そうか。残念だが、君がそう言うのなら仕方ない」

クルー4「いいのか……!?」

クルー6「いいっす。すごく貴重な経験をさせてもらいましたけど」

クルー6「さすがにこういうのがずっと続いたりするのは、俺にはちょっとしんどいっす……」

クルー4「そっか。残念だけど、まあ、あわないんならしょうがない」

クルー6「すいません……」


部長「ああ、それから……あの島で見た話は、口外無用だそうだ」

部長「あの島に関わったこと自体がその人の不幸になる、という、御大層な物言いで釘をさしてきたから、余程の秘密があるんだろう」

部長「そういうわけなんで、あの島の話は、あとでじっくり聞かせてくれ」ニヤリ

クルー6「」ガクッ

クルー4「何こけてんだよ」

クルー6「……そ、それ、いいんすか」

部長「テレビマンが興味と好奇心を失ったら終わりだぞ?」

クルー4「ははっ、まあ、部長ならそう仰るんじゃないかと思いましたよ」

クルー6(笑い話じゃないと思うんだけどなあ……やっぱり俺には合わないな、この世界)

部長「……あとは、死んだ奴らの家族にどう説明するかなんだが」

クルー4「ああ……」

部長「あいつらがなんで死んだのかは海軍が調査中。一応、死因と調査結果を連絡してもらうことになってるんだが」

部長「お前の話だと事故死による溺死だったな? 海に落ちたんだって?」

クルー4「は、はい。夜中、外に出て行って、喧嘩して海に落ちた、っていうのが、その場の見解でした」


部長「謀殺された線はないのか?」

クルー4「どうですかね……あのときは留さんや俺たちがマークされてて見事に嵌められたんですけど、殺されるって感じじゃなかったし」

クルー4「6は最初からなにもなかったんだっけか?」

クルー6「そ、そうっすね。5さんと一緒に館内を歩いてた時も、誰もいなくてびっくりしましたし。見張られてた感じなんかも全然なかったっす」

クルー6「つうか、3さんと5さんが殺されたとしたら、どんな理由で殺されたんですかね?」

クルー6「最初から全員口封じする気なら、俺たちだけになった時点で始末したっていいじゃないすか」

クルー6「なんだかんだで風呂入れてもらったり、晩酌のおつまみまで作ってもらったりして、悪くはない思いさせられてますよね」

クルー4「そういやそうだな……?」

クルー6「留さんや1さんたちもあれだけのことをしてても殺さないで、大した怪我もさせずに捕まえてますし」

クルー6「それに俺、あの島にいたときも言いましたけど、准尉が一人で管理させられてたわけっすよね?」

クルー6「あの島、マジでなにかあるんじゃないっすか? 俺、艦娘死んでたのもびっくりしましたもん」

クルー4「そうだよな……俺もあの島の艦娘が、人間の言うことに逆らったって言う話を聞いて愕然としたし。普通じゃないよな?」

部長「ありがちな話だと、化け物を飼ってる、とかか」

クルー4「え!?」

クルー6「化け物!?」


部長「海軍があの島に近づくなと言うのが、何かしらの秘密を抱えているからだとしたら……」

部長「その口封じのために事故死に見せかけて殺された線は考えても良いだろう」

クルー6「外でその化け物を見た、ってことっすか?」

部長「俺は最初からそうじゃないかと思ってたんだが。化け物じゃなくても、海軍としてどうしても隠しておきたい何かがあるとしか……」

部長「あの島にいる人間も、若い下っ端提督が一人だけだったんだろ? 普通だったらもっと上の階級の将校がいてもいいはずだ」

部長「そうじゃないんなら、危険すぎて誰も近寄れないような化け物の見張り番をやらされている、とか思ったんだが」

クルー4「うわ……」

部長「不祥事を起こして左遷されて、問題があったら日本に帰るのが遅れるから、お前たちに帰れと必死に訴えた、とかじゃあないのか?」

クルー4「そう考えると、辻褄あいますね……」

クルー6「……マジでやばかったんすね、俺たち」

部長「ともかくだ、海軍からは二人の死因についてあとから連絡を貰うことになってるんだが……」

部長「実は二人とも一人暮らしで、身内の連絡先をこれから調べなきゃならないんだよ」

クルー4「あー……3は両親いないんじゃないんでしたっけ? で、5は家出してきたって言ってたような」

部長「誰かその辺詳しい奴はいないのか?」

クルー4「1さんは知ってると思いますけど……」


部長「じゃあ、あいつに届け物もあるし、訊きに行くか。4も横須賀まで付き合ってくれ」

クルー4「え……わ、わかりました、けど……」

部長「会いづらいだろうが我慢しろ。最後の義理だと思え」

クルー6「……届け物、って、差し入れでも持っていくんすか?」

クルー4「退職っつうか、馘の通知とかじゃないか? 持って行きづらいなあ」

部長「それもあるが、1の奥さんが離婚調停起こしててなあ。その内容証明が届いてるんだよ」

クルー4「」

クルー6「」

部長「裁判やりたいらしいんだが、1は当分海軍施設に軟禁だろ? だったらまず離婚届にサインさせろと言う話になってなあ」

部長「破かれてもいいようにと、弁護士から10枚ほど押し付けられてきた」

クルー4「ますます行きづらいですね……」

部長「だからこの話は一番最後……いや、クビの話が最後か」

クルー6「……あ、あの、離婚って、何が原因なんすか?」

部長「家庭内暴力だと。経済的DVも込みだそうだ」

クルー4「うっわ……」

クルー6「あの警棒、ファッションじゃなかったんすね……」

クルー4「……言うなよそういうこと! 今になって怖くなってきたぞ!? 洒落になんねーよ、会いたくねーー!!」

というわけで今回はここまで。

実は話を書いてる途中までは、4も6も全員助からないストーリーで書いていました。
どこでどう変わるかわからないですね。

>183-184
前スレの、牢屋で古鷹に諭されているシーンを見直してからだと、なお味わい深いですよね。


今回はムナクソ回ということで、
不愉快な表現が多々ありますので【閲覧注意】とさせていただきます。

続きです。


 * ??? *

 ブロロロ…

クルー7「窓のない護送車で運ばれるなんて初めてですよ」

クルー1「ここ、どの辺なんだろうな……」

留提督「スマホも取り上げられたせいで、退屈すぎてしょうがないよ……」

クルー2「スマホどころじゃないっすよ。服も下着まで着替えさせられてますからね、まるで……」

クルー7「まるで?」

クルー2「言わせんな、バカ」ペシッ

クルー7「いてっ! じょ、冗談っすよ! つうか、海軍は俺たちをどうする気なんですかね」

クルー2「そんなの、俺が知りてえよ……」

 ガクン ゴウゥゥン…

クルー1「……? 停まった……のか?」

留提督「……エレベーターかな、これ。下に降りてる」

クルー1「下ですか……?」

 ガシャン! ギィ…

クルー2「ドアが開いた……!」


クルー7「ここで降りろってことか……あ、見てください、あそこ! 誰かいますよ!」

クルー2「行くしか、ないですよね?」

クルー1「そうだな……」

留提督「……」

 *

眼鏡の男「ようこそ。お待ちしていましたよ」

クルー7「ち、ちわっす……!」

クルー2「なにのんきに挨拶してんだよ」

クルー7「や、つ、つい……」

クルー1「あなたは……?」

眼鏡の男「私はここで艦娘の研究をしております」

クルー2「研究?」

眼鏡の男「ええ。実はこちらに、新たに発見された艦娘がにおりまして」

眼鏡の男「その艦娘が人と触れ合ってどうなるかを、モニターさせていただきたいんですよ」

クルー7「新しい、艦娘……?」


眼鏡の男「これまでどこの鎮守府にも着任していない艦娘が4体……ちょうどあなた方と同じ人数おりまして」

眼鏡の男「お好みの艦娘をひとりずつ選んでいただいて、しばらく一緒に生活して問題ないかを検証したいのです」

クルー1「……」

眼鏡の男「御存知の通り艦娘は女性ですので……合意の下であれば、まあ、『そういうこと』があっても、我々は関与致しません」

眼鏡の男「ただ、あくまでモニタリングが目的ですので、あなた方の行動のすべてを記録させていただくことになります」

眼鏡の男「それだけはご承知おきください」

留提督「そういう気分じゃないんだけどな……」ボソッ

眼鏡の男「勿論、この建物のなかで起こった出来事の一切は、外部に漏らしません。我々の秘密も多々ありますのでね」

眼鏡の男「今回、一緒に生活していただく艦娘はこちらの部屋におります。どうぞお入りください」

クルー1「……入らないって選択肢もあるのか?」

眼鏡の男「ええ、それも結構です。断るというのであれば、北極圏での活動を想定した戦闘訓練に参加していただくことになっておりますが」

クルー7「うげっ!? や、やめときましょうよ!? お、俺は行きますよ!」

留提督「どんな娘かは知らないけど……まあ、いいよ」スッ

クルー2「1さん……」

クルー1「行くだけ行ってみるか……」

 扉<ガチャッ バタン

眼鏡の男「……」


 *

クルー2「なんだこの部屋? 入ったらまたドアだけしかないぞ?」

クルー7「見てくださいよ、さっき入ったドアのノブ、こっち側はついてないですよ!?」

クルー1「一方通行ってことか」

クルー2「行くしかないですね……って、なんだこりゃ。次の部屋もドアしかないぞ?」

クルー1「こっちのドアもノブはこちらだけか……」

クルー7「……ありゃ? 奥の部屋のドアノブが回らないっすよ!?」

クルー1「もしかして、こっちのドアを閉めないと開かない仕組みになってるんじゃないか?」パタン

留提督「ああ、本当だ。すごい厳重体制だね……」ガチャー

クルー7「どんだけいかつい艦娘がいるん……お、おおぉお!!」

クルー2「っ!!」

黒髪艦娘「ああ、やっと来てくださいましたね」

幼女艦娘「お待ちしていました……ふふふ」

青髪艦娘「ほーんと、待ってたんだから!」

金髪艦娘「ふぅん、この人たちが……」


クルー1「……あ、こいつら……」

クルー2「やっべえ……あの金髪、モロ好みだ……!」

クルー7「あ、あの! こっちの小さい子は俺が受け持ちますから! いいっすよね!?」

クルー1「いいよいいよ、俺たちはそこまでロリ好みじゃねえし」

留提督「こっちの二人は決まりだね……」

クルー1「じゃあ、残りの二人は……どうします」

留提督「僕はどっちでもいいよ、好きな方を選びなよ」

黒髪艦娘「好き……?」キラッ

黒髪艦娘「いま、好きって言いました?」ズイッ!

留提督「え、あ……」

黒髪艦娘「私、あなたと一緒に行きます! いいですよね?」

留提督「え……まあ」

黒髪艦娘→迅鯨「良かった! 私、迅鯨って言います! これから末永くよろしくお願いしますね!」

留提督「え、あ、んん……」


迅鯨「さっそく執務に取り掛かりましょう! さあ、こちらへ!」グイッ

留提督「ちょっ、ちょっと待っ……!」

クルー1「留さん!?」

金髪艦娘「それじゃ、私たちも行きましょうか?」

クルー2「!」

金髪艦娘→ホーネット「ああ、自己紹介、まだだったわね。私は、USS CV8 Hornet. 覚えておいて」

クルー2「は、はいっ!」

幼女艦娘→対馬「海防艦、対馬です。こちらへどうぞ……」ニィッ

クルー7「はーい!」

クルー1「お、おい!?」

青髪艦娘「ふふっ、やっぱり、こうなるのね」ニコッ

クルー1「え?」

青髪艦娘「大丈夫よ、心配しなくても。それより、私たちも行きましょ? ほら、そんな他人行儀にしなくたっていいんだから!」

クルー1「い、いや、君は一体……」


青髪艦娘→ゴトランド「……え? もしかして……ゴトのこと、忘れちゃったの?」

クルー1「わ、忘れた!?」

ゴトランド「あなたは覚えてないの!? 私はあなたのこと、何でも知ってるのに……」

クルー1「お、覚えても何も初対面……」

ゴトランド「19XX年X月XX日、XXX市の出身で」

クルー1「!?」

ゴトランド「小学校はXX小でしょ? 中学はXXX中、陸上部だったんだよね?」

クルー1「!?!?」

ゴトランド「それからXXX高校からXX大学に行って、XXサークルでパフォーマーになって」

ゴトランド「そこからメディアに入って、いろんな企画に携わって……」

クルー1「な、何で知ってるんだ!?」

ゴトランド「もう、だからさっきから、ゴトはずっとあなたと一緒だったって言ってるじゃない!」


ゴトランド「忘れたの? 幼稚園に入る前に、ゴトと遊んだこととか」

クルー1「!?」

ゴトランド「ほら、XX小学校のそばの公園で、私が転んだところに手を差し伸べてくれたでしょう?」

クルー1「!?!?」

クルー1(なんだ? 確かにそんなことがあったような……でも、あれはこいつだったか!?)

ゴトランド「忘れちゃってるなんて、寂しいな……でも、いいわ。これからたくさん思い出を作っていけばいいんだから!」

クルー1「い、いや、おかしいだろう!? 30年前のことをどうしてお前が……」

ゴトランド「だから、さっきから言ってるじゃない。ゴトはずーっと、あなたと一緒だった、って」

クルー1「!?!?」

ゴトランド「ほら、あなたがくれた指輪。ちゃあんと持ってるんだから」

クルー1「……え?」

ゴトランド「ほら、行きましょう? 私たちの愛の巣、執務室へ!」

クルー1「…………え?」


 *

迅鯨「ふんふん~♪」

留提督(……半ば強引に連れ去られてきたけど)キョロキョロ

留提督(通路の扉が全部、鉄でできてる。この施設、どう考えても怪しいよなあ……)

留提督「この建物、窓はないの?」

迅鯨「……ええ、ありません。ここは、新任の提督が訓練するための施設……」

迅鯨「私たち、艦娘の存在は、一般の人たちには知られてはいけないって言われてるんです」

迅鯨「だから窓もないし、海へ出ることもまだできないんです」

留提督(それはおかしいな……この前から艦娘もテレビに出るようになったのに。施設の中にいるせいで情報が古いのか?)

迅鯨「あ、ここです! ここが私たちのお部屋です!」

留提督(なんだろう……すげえ嫌な感じがする……部屋に入ったら、二度と出られない気が……!)

迅鯨「も、もう、このお部屋の鍵、硬いんだから……っ」ガキガキッ

留提督「……」キョロ

留提督(逃げるなら……)

 ガチャッ

迅鯨「開いた!」

留提督(今しかねえ!!)

 ダッ!

迅鯨「……え?」

迅鯨「……」

迅鯨「……」

迅鯨「……え?」ハイライトオフ


 *

 タタタタッ…

留提督(あの女はヤバい! 勘でわかる! どこか……隠れる場所か、匿ってくれる人を探さないと!)

留提督(もと来た道を辿れば……って、誰かいる!?)

鹿島「……! だ、誰ですか!?」

留提督「うわっ!? し、静かにしろ!!」ガッ

鹿島「もがっ!?」

留提督「……ふう、見つかってないよな?」キョロキョロ

鹿島「……」プルプル

留提督「……あ、ご、ごめん! 俺、ちょっと追われてて! ……大声、出さないでくれる? この通り! お願いだから!」ペコペコ

鹿島「も……もう、今回だけですよ……!」ウルッ

留提督「あ、ありがとう……あの、きみ、鹿島だよね? 練習巡洋艦の」

鹿島「わ、私を知ってるんですか? 光栄です……!」

留提督(良かった……素直そうな艦娘だ。この子になら頼めるかも……)


留提督「あの……いきなりで悪いんだけど、俺、この建物から出たいんだ。君は出口を知らないかな?」

鹿島「出口……ですか? え、ええと……一応、知ってます」

留提督「マジで!? 良かった……! ごめん、案内してもらえないかな? お願い、頼むよ!」ペコペコペコ

鹿島「え、ええ、わかりました」コクン

鹿島「それじゃ、ついてきてください」

留提督「ありがとう……!」

 スタスタ…

留提督(良かった……これで一安心かな)

留提督(それにしても)

鹿島「……」スタスタ…

留提督(改めて見ても、短いスカートだよなあ。お尻がチラチラ見えてんだけど)

留提督(さっきのか細い声も可愛かったなあ。あっちの鹿島みたいに気を張ってる感じじゃないし、細くて素直そうで……)ムラッ

留提督(ヤベ、ちょっと襲いたくなってきた。あーダメだダメだ、今はそれどころじゃない。早くこの変な建物から逃げなきゃ……)

鹿島「あの……」

留提督「な、なにかな!?」ギクッ


鹿島「私、出口を知っているんですが、ちょっと出るのが大変なんです……それでも、大丈夫でしょうか」

留提督「え? ああ、ちょっとくらいなら大丈夫! 出られるんだよね?」

鹿島「はい……あ、ここです、このお部屋です。ついてきてください」チャッ

留提督(ここは木の扉なんだ……厳重な感じじゃないんだな)

 ガジャン!

留提督「え」フリムキ

留提督(……う、裏側が鉄の扉……? カモフラージュされてた!?)

 ガシッ

留提督「ぐえっ」エリクビツカマレ

鹿島「さあ、こっちですよ」ニタァ

留提督「!?」グイッ

留提督(さ、さっきまでと雰囲気が違う! こいつ……ネコ被ってやがった!?)ヨタヨタ

留提督(くそ、すげえ力で引っ張られる! どこに連れていかれるんだ!)

 鉄扉<ガチャ ギィィ…

留提督(う……なんだここ)


部屋の隅に拘束されている男「う……うう……」

ベッド上の全裸の男「……た、たすけて……」

留提督「こ、ここは一体……?」

鹿島「あなたの望んだ出口ですよ? ここは、この施設で提督業を続けられなくなった人が最後に来るお部屋です」

鹿島「ここで私から最後の研修を受けていただいて、それが終わったらここから出られるようになっています」

留提督「け、研修……?」

鹿島「はい。こうやって……」ゴムテブクロソウチャク

ベッド上の全裸の男「や、やめ……ぎゃひいいい!」

留提督「……」

鹿島「あはははっ! もう一滴も出ないみたいですね! こんなに苦しそうにびくびくしてるのに!!」

留提督「……」

鹿島「おわかりいただけます? こんな風に、ア〇ルに指を突っ込まれただけで無様に果てられるよう、『教育』させていただいているんです」

留提督「……うそ、だろ……鹿島は、そんなこと、しないはずだ……!」

鹿島「信じる信じないはあなたの自由ですが、あなたがいま目の当たりにしている現実を否定しても、何も変わることはありませんよ?」


留提督「っ……そ、そうだけど、なんで鹿島がこんなことを……!!」

鹿島「任務ですから」

留提督「……にん、む……!?」

鹿島「はい。善良な国民を守るために必要な、重要な任務を、私は仰せつかっているんです」

留提督「……な、何を言ってるんだ」

鹿島「そうですねえ……例えば果物を育てるとき、たくさん実がついていれば、その分だけ供給される栄養は分散されますよね?」

鹿島「栄養が分散すると、各々に十分な栄養が行き渡らず、実が大きく育たなかったり、弱って病気になりがちになったり……」

鹿島「結果的に量はたくさん採れても、質として立派なものが育つ確率は少なくなるでしょう?」

鹿島「逆に実がひとつしかついていなければ、栄養はそのひとつの実に集中することで、病気にもならない丈夫で立派な果実が期待できます」

鹿島「私は社会のために、その立派な果実が育つよう、余分な実を間引いて環境を整えるお手伝いをしているんです」

留提督「……間引く、って、人間相手にか!? なんだよそれ……!」

鹿島「なんだと言われましても……あなたがたがこの施設に連れてこられた原因を顧みれば、適切なのでは?」

留提督「……」

鹿島「あなた方は、自身を選ばれた人間だと勘違いし、同じ人間を自らの欲望のまま、穢し、貪り、辱め、食い散らかしてきたでしょう?」

鹿島「そんな個体が上位種として蔓延れば、人はじきに獣以下の存在になり下がり……やがて文明も腐って、種の存続すら危うくなる」


鹿島「故に、私の『提督』さんは、人間の未来を案じた結果、こう判断しました」

鹿島「人間の社会を崩壊へ導く異物がこれ以上繁殖できないよう、野に放逐する前に生殖機能を奪う必要がある、と」

鹿島「私たち艦娘が守るのに相応しい人間だけが、子孫を残せば良い、と」

留提督「……っ」

鹿島「だから……」グリグリグリッ

ベッド上の全裸の男「ぎゃああああああ……!!!」

 ガクッ

鹿島「私がこうやって、摘果してあげているんです」ニコッ

留提督「……っ!」ジリッ

鹿島「うふふっ、屈辱ですよね? こんな小娘に、イきたくもないのにさんざんイかされて、性への恐怖を植え付けられるなんて」

鹿島「でも、この人に同情なんかしなくていいですよ。この人がここへ来る前にしてきたことを考えれば、当然の報いです」

鹿島「国会議員の息子という地位を傘に、何の罪もない善良な国民の平穏を脅かし、挙げ句、艦娘にも手を出そうとしたんですから」

留提督「な……?」

鹿島「知ってますよね? この人。あなたの、おともだち……で・す・よ?」ニタァ…

留提督「あ……っ!」ゾワワワッ!


鹿島「ちなみに、私の研修が終わり次第、病院での検査、一般教養の座学などを経て、社会へ復帰することになっています」

鹿島「罪を犯した皆さんが心を入れ替え、いち国民としてこれ以上他者に迷惑をかけないように教育してあげるのが、私の務めです」

鹿島「そういうわけで、次の研修生の皆さんをこちらに控えてさせていたんですが……」チラッ

拘束されている男「ひ……!」

鹿島「そうですね、一刻も早くここから出たいというのであれば、予定を変更して、あなたから教育しても良さそうですね……!」

留提督「う……!!」

鹿島「さあ、怖がらないで。しっかり教育しなおして差し上げますから……うふふっ」

留提督「く、来るな! 来るなあああ!!」

 <ガゴォン!

留提督「!?」ビクッ

鹿島「……あら。見つかっちゃいましたね?」

留提督「み、見つかっ……?」

鹿島「あれは表の扉の音ですね」

 鉄扉<ガチャ ギィィ…

迅鯨「……見つけたぁ」

留提督「う、うわああああ!?」


鹿島「うふふっ。見つかっちゃいましたね」

迅鯨「……あなたが、彼を誑かしたの?」ジロッ

鹿島「いいえ、誑かすなんて、そんなことは。私は、彼が出口を探していたので、私が知っている出口へ案内しただけですよ」

迅鯨「そう……『手』を出してはいないのね?」

鹿島「はい。もう少し遅ければ、その限りではありませんでしたけれど」

迅鯨「……」ギロリ

鹿島「うふふっ、怖い怖い」

留提督「……」

迅鯨「……」クルリ

留提督「ひっ」

迅鯨「……どうして、逃げるんですか?」

留提督「……」ガタガタ

迅鯨「好きって言ってくれたじゃないですか」

留提督「……っ」ゾワワッ


鹿島「迅鯨さん? この手錠、使います?」ジャラッ

迅鯨「……要らないわ。そんなものがなくても、私たちは大丈夫」ニィッ

鹿島「そうでしたね。差し出がましいことをしました、ごめんなさい」ニコッ

迅鯨「さあ、行きましょ? 私たちの執務室に」ガシッ

留提督「う、うああ……た、たす、たすけ……」

鹿島「助けて? うふふっ、そうやって許しを請う女性を、あなたは何人手籠めにしたんでしたっけ?」ニタァ

留提督「……っ!」

鹿島「迅鯨さん。その人、絶対に手離さないでくださいね」

迅鯨「……ええ、勿論」ニタァ

留提督「い……嫌だ、助けて……助けてくれええ!!」

 鉄扉<ギィィ…ガジャン!

 <タスケテクレエエエエ!

 <ガジャン…!

鹿島「あーあ。行っちゃいましたね、楽しくお仕置きできるかと思ったのに」

鹿島「……さあて、それじゃあ皆さん! 教育を再開しましょうか!」クルリ

部屋にいる男たち「ひ、ひいいい!!」


 * *

 鉄扉<ギィィ…

ホーネット「Com'in.」

クルー2「あ、ああ。ありがと……!?」

クルー2(なんだこの部屋……鉄アレイとかバーベルとか、めちゃくちゃ置いてあるぞ!?)

ホーネット「さて。改めて、私はホーネットよ。よろしくね」

クルー2「よ、よろしく……それにしても、すごい部屋だなあ?」

ホーネット「ここは私の部屋じゃないんだけれど、普段は……寝るとき以外はいつもここにいるわね」

クルー2「あ、ホーネットの部屋じゃないのか……ジムみたいなところか?」

ホーネット「ええ。もっとも、ここを利用しているのは私だけのようなものなのだけれど、ね」

クルー2(一緒に気持ちよく汗を流そう、って言ってたのはそういうことか……)

クルー2(いや、でも、一緒にトレーニングしていい雰囲気になれば……!)

ホーネット「そうね……それじゃさっそく、日課のトレーニングを始めようかしら。あなたもやるでしょう?」

クルー2「!?」

クルー2(冗談だろ? ウエイトリフティング用のウエイトを、フリスビーみたいにひょいひょいと……)


ホーネット「どうしたの? ほら、早くこっちに来て……」

クルー2(おおお、セリフの色気がやべえ……どうせなら同じセリフをベッドの上で聞きたいぜ)

ホーネット「じゃあ、あなたはこれを使って」スッ

クルー2「え? これ、って、50キロおぉおおお!?」ズシーッ

クルー2「ちょっ、待っ……重、げほっ! と、取って! 取り除いてくれええ!!」ベシャア

ホーネット「え? この程度のウエイトに押し潰されるなんて……あなたちょっと、か弱すぎない?」ヒョイ

クルー2「げ、げほっ、げほっ……し、死ぬかと思った……」ゼーゼー

ホーネット「仕方ないわね。それじゃこっちをあげるわね」スッ

クルー2「って、ちょっと待っうぐおおおおお!?」ズシーッ ベチャ

ホーネット「えええ? 嘘でしょう? 40キロも耐えられないの?」

クルー2「こんなもんいきなり渡されても無理だ! 無理!! 殺す気か!? 俺を死なせる気か!!」

ホーネット「冗談はやめて。そんな弱さで海軍でやっていけると思ってるの? いくらなんでもひどすぎるわ」

クルー2「じょ、冗談はあんたのほうだろ!? 俺は海軍でやってくなんて一言も言ってないぞ!?」

ホーネット「……なんですって?」

クルー2「俺は軍人なんかにならねーよ! ここへも無理矢理連れてこられたんだぞ!?」


クルー2「あんたも聞いてんだろ!? 俺たちは、新しい艦娘のモニターになれって言われただけなんだ!」

クルー2「それなのに、勝手に提督になったことにされて……なんでこんなバカみたいなトレーニングをさせられなきゃなんないんだ!」

ホーネット「……」

クルー2「そういうのは正式に海軍に入ったやつにやってくれよ! 俺は違うんだぞ!」

ホーネット「あなた、それ、本気で言ってるの……?」ザワッ

クルー2「ああ本気だよ!!」

ホーネット「……それじゃ、あなたは一体何者なの?」ザワザワザワッ

クルー2(な、なんだ!? ホーネットの髪の毛が逆立って……なんだこの息苦しさは?)

ホーネット「やっと、私の提督が見つかったと思ったのに……あなたは、この海を守ろうというつもりはないの?」ギンッ

クルー2「そ、そんなものは艦娘が自主的にやってくれよ! もういいだろ!? 早く家に帰してくれ!!」

ホーネット「……ふざけないで……!」

クルー2(な、なんだ……!? ホーネットがどんどん青ざめて……背後に、でかくて透明な魚のような……鯨!?)

ホーネット「そんな軟弱な人間に……私は……ワたシは……!!」

ホーネット「ア、アぁあア……二度ト、何者ニも負けナイタめニ、ワタシハ……アァァアアアア!!」ゴォッ!

クルー2「ひぐっ!?」ビクッ

クルー2(い、息ができない……!? なんなんだこの、体全体を押し潰すような圧力は……!)グラッ


クルー2(……体が動かないし、うすら寒いのに汗が止まらない……重たい……!!)ベタッ

ホーネット?「……オ、マエ、ハ……」ジャキッ

 (土下座のような恰好でうずくまるクルー2の頭に艤装の銃口を突き付けるホーネット)

ホーネット?「答エロ……オマエハ、提督デハ、ナイノカ?」

クルー2(これ……嘘でもいいから、提督だって言わないと……俺、殺されるんじゃ……?)

クルー2「……っぐ、う……」

クルー2(駄目だ、息が……体が重くて顔も上げられない……)

ホーネット?「答エラレナイノナラ……」

クルー2(もう、駄目……だ……)


 ドパァン!!

 ビチャッ ビチャビチャッ


クルー2(……)

クルー2(……)

クルー2「あ、あれ……?」


クルー2「体が……動く!?」

クルー2「な、なにがあったん……」ミアゲ

 (クルー2に銃口を向けたまま仁王立ちしているホーネットの頭の上半分が吹き飛んでいる)

クルー2「ひ!?」

 (力を失ったホーネットの手からライフルが落ちて、ガシャンと重い音を立てる)

 (それとともに、ホーネットの身躯がぐらりと傾いて)

クルー2「う……ぁ」

 ドチャァ! (クルー2のほうへ前のめりに倒れこむ)

クルー2「っっ!!」クチヲパクパク

クルー2「」

クルー2「」

クルー2「」

クルー2「」バタッ


 * ??? モニタールーム *

 (気絶したクルー2の姿を映すモニターを、研究者風の男性3人が眺めている)

眼鏡の男「やれやれ。なかなかうまくいかないもんだな……」

白衣の男「いきなり頭がぶっ飛んだな。何か仕込んでたのか?」

眼鏡の男「対象に対する反抗心が一定以上になったときに、頭部を破壊するよう爆弾を埋め込んである」

スーツの男「なあ、あのサンプル俺にくれよ。深海化した艦娘のサンプルなんて貴重なもの、捨てるとか言ったりしないよな?」

眼鏡の男「好きにしてくれ。俺もあの個体がなんで深海化したのか、原因を知りたい」

スーツの男「っしゃあ! まあ任せとけ、こいつを足掛かりに一気に仕組みを解明してやるぜ」

白衣の男「それにしても、だ。まだ特別海域でも発見できていない、未知の艦娘の建造なんて、結構な成果じゃないか」

眼鏡の男「ガワができたってだけだ。先行して建造できても、生まれてくるのが頭のおかしい欠陥品じゃ意味がない」

眼鏡の男「連中にあてがった試作型も、これまでの失敗作を元にセッティングしたんだが、どうもな……」

白衣の男「金髪以外も問題があるのか?」

眼鏡の男「いろいろ設定を誤った。もともとの性格がわからないから、初期設定を誤ると暴走しやすくなるんだ」

スーツの男「そういうもんなのか?」


眼鏡の男「例えばあの小さい艦娘だが、ああいうタイプはどこまで精神を大人にしてやるかの調整が難しい」

眼鏡の男「性格の設定を幼くし過ぎるということを聞かないし、大人っぽくすれば今回みたいにただのマセガキになる」

スーツの男「なるほど……」

眼鏡の男「黒髪のやつは、命令をきくように、設定を『提督』への好意に振ったんだが、どうも偏らせすぎたみたいで逆に危うくなった」

眼鏡の男「金髪のやつは、黒髪のやつの失敗をもとに、逆に好意を抑えて任務に備えさせるように設定したんだが、まああの有様だ」

白衣の男「……忠誠心を減らしすぎた、ってところか?」

眼鏡の男「そうだな。貴重なサンプルではあるが、外部からの『お客様』を怪我させるわけにもいかないし、爆殺処分もやむなし、と」

スーツの男「青い髪のやつは?」

眼鏡の男「あれは試験的に『提督』と認めた対象の脳波を読み取る能力を備えさせた実験作だ」

眼鏡の男「見た目が陰気臭そうな雰囲気の個体だったから、少し積極的にかかわらせようと思ったんだが、それも裏目になった」

スーツの男「なるほどねえ……個体の性格なんて見た目からなんてわかんねえしな。そういう話なら、俺たちだって失敗してただろうよ」

スーツの男「とはいえ……本当に良く見つけたもんだ。輸送ワ級が艦の魂を運搬してるとか、聞いただけだと意味が分からなかったぞ」

眼鏡の男「あのワ級が珍しいサンプルだったからな。これまでよりも慎重に調査したら、見たことのない分析結果が出てきてくれただけだ」

白衣の男「かつての軍艦の因子を海底からサルベージして、深海勢力として利用する……か」

スーツの男「因子というか、艦の魂というか、深海棲艦や艦娘を構成する核のようなものだった、と……」


白衣の男「ワ級がその因子を運搬することで、海域的に無関係なはずの艦娘がそこに現れる、か。説としても面白いな」

眼鏡の男「とにかく、形を作るところまではできている。あとは中身……従順さだ」

眼鏡の男「無条件に人間に平伏して体を差し出すくらいのサンプルを作れないと、売り物にもならないしお前らの研究にも使えないだろう?」

白衣の男「まあな。そのレベルで協力的なモルモットができてくれれば、俺としてもありがたい」

スーツの男「その『設定』ってのは、今はどうしてるんだ?」

眼鏡の男「建造中の人口音声による刷り込みだ。今はそれである程度はいじれているが、これ以上何をすればいいのかわからなくてな」

眼鏡の男「艦娘を率いている現職の提督の音声も使ったりしているが、それでも、対象に適度な好意を抱くように、と言うのが難しい」

眼鏡の男「設定にしくじると、エゴの強すぎる個体ができることが多くて、使い物にならないんだ」

スーツの男「かといってその設定を控えめにすると、今度は対象に対して暴力をふるうようになるってか」

眼鏡の男「ああ、さっきの金髪みたいにな」

スーツの男「微調整が難しい、か。そいつはどうしたもんかな……」

白衣の男「……あまり、気が進まないんだが……」

眼鏡の男「なんだ?」

白衣の男「この前告発された、洗脳ツールがあっただろう。妖精の音声の波長を利用したとかいう……」

スーツの男「ああ、あったな、そういえば」


白衣の男「妖精なんて目にも見えないもの、俺は信じたくはないんだが……そのツールが使った音を利用する、というのはどうだ」

眼鏡の男「……悪くないな。試してみる価値はありそうだ」

白衣の男「聞いたどころか見たこともない妖精の声なんて不確かなもの、個人的には勧めたくないが……」

スーツの男「だが艦娘を洗脳できてる実績はあるからな。俺も見たことがないから言うが、本当に妖精なんているのか?」

眼鏡の男「一部の人間には妖精の姿が見えるらしいぞ。血縁が海軍の関係者だったり、今の『提督』や関係者の子供だったり……」

眼鏡の男「もともとの艦船や、艦娘に関わることが多い人間の縁者に、その兆候が良く見られるそうだ」

スーツの男「そうなのか? だったら俺たちにも見えてくれて良さそうなもんだが」

白衣の男「やめてくれ。俺たちに妖精が見えたら、俺たちが研究材料にされちまう」

スーツの男「ハハッ、確かにそりゃ勘弁だ」

眼鏡の男「海軍はそういった人間を『提督』に据えているわけだが、妖精の声が聞こえるのは、さらにその中の一握り、稀有な存在と言われている」

眼鏡の男「どんなやつなのか、一度お目にかかってみたいものだが……」

白衣の男「ああ、できれば数体連れてきて欲しいな」

スーツの男「で……結局、妖精の存在は疑わしいが、否定はできない、ってことか?」

眼鏡の男「その認識でいいだろう。じゃなきゃ、この施設内に妖精感知センサーなんてものがついたりしていないからな」

白衣の男「どこまで役に立っているのか、わかったもんじゃないがな……」


眼鏡の男「とにかく試してみるか。意外と良い方法かもしれない」

 ピピピッ

眼鏡の男「ん? ……何のメールだ?」

 ピッ

眼鏡の男「お、新しい余剰品の入荷の目途が立ったようだぞ」

スーツの男「おお、やっとか!」

白衣の男「この前送られてきた分もそろそろ在庫切れになりそうだったし、助かる。今度はどこのだ?」

眼鏡の男「呉で左遷される奴の艦娘がフリーになるそうだ。生憎と珍しい艦娘は引き抜かれてるが、数はそこそこ揃うらしい」

スーツの男「借金が原因じゃねえだろうな? この前の連中みたいに借金のかたがどうのこうのみたいな三文芝居見せられるのは御免だぞ」

眼鏡の男「今回は純粋に不始末らしいな。そこの提督が駆逐艦娘と駆け落ちを狙ってたらしい」

白衣の男「おやおや……幼女趣味とは業が深いな?」

眼鏡の男「どこの国も同じようなもんさ。日本はそれでもまだマシな方だが……」

スーツの男「へっ、そいつぁどうかねえ?」

 ポチッ

スピーカー『うふふ……こんなところを踏まれて、嬉しいんですか?』

スピーカー『ふおおおお!? ありがとうございますぅぅ!』


スピーカー『危険ですね……こっちは、もっと危険……!』

スピーカー『あっ!? ああ、ああああぁぁぁあ!?』

スピーカー『危険がいっぱい……うふふふ……』

 ポチッ

スーツの男「ぶははは、駄目じゃねえか」

眼鏡の男「ふざけてるようならお前に艦娘は回さないぞ?」

スーツの男「んくく、すまんすまん……ひひっ」

白衣の男「ま、見捨てられた艦娘なら、扱いやすいだろう。観念もしてるだろうしな」

眼鏡の男「ただでさえ、解体やら近代化改修やらでなかなかこっちに艦娘を回してもらえないからな。有効利用しろよ?」

白衣の男「ああ。次にいつ来るか、わかった物じゃないしな」

スーツの男「そういや、お前の作ったあの失敗作、いつ処分するんだ? このまま使い続けるわけじゃないんだろ?」

眼鏡の男「ああ、だいたい一か月か二か月ってとこだな。今回の客もそのくらいで帰すらしい」

スーツの男「あの客ども、依存して離れられなくなったりしないか?」

眼鏡の男「解体して首だけにでもなった姿を見せてやりゃあ目も覚めるだろう」

眼鏡の男「所詮は作り物だ、作り物でいいって言うならダッチワイフと結婚すりゃあいい」

スーツの男「あの銀髪は?」

眼鏡の男「鹿島か? しばらくはあの役割で使い続けるつもりだ。珍しく俺の言うことなら何でも従う成功例だしな」

スーツの男「へえ……なんでもするのか」

眼鏡の男「ああ、豚の真似も喜んでやるくらいだ、死ねと言えば喜んで死ぬだろうな。ただ、俺以外の人間の指示はまったく受け付けん」

眼鏡の男「俺以外の命令も聞くような個体が量産できなきゃ意味がない。その開発ができるまでは、せいぜい有効利用させてもらうさ」


 * J少将鎮守府 執務室 *

K中佐「……報告は以上になります」

J少将「ほう……新造した艦娘が深海棲艦になったと」

K中佐「はい」

J少将「では、人為的に艦娘を深海棲艦にすることも可能である、と言えるわけだな」

K中佐「はい。できるはずだ、と」

J少将「そうか。ようやく、光明が差したか」

K中佐「……」コク

 (海の見える窓の前に立ち、水平線を眺めるJ少将)

J少将「ふふ……ふふふふ!」ニヤリ…

J少将「この海は我々が護ってきたものだ。あんな小娘もどきや、化け物どもに、誰が譲ってやるものか……!」ググッ

K中佐「……! 閣下、失礼を……!」スッ

J少将「どうした」

K中佐「今、海に何者かが……!」

J少将「なんだと!? あれは……艦娘か? 勝手に海を出て、なにをしているか……!」

K中佐「至急確認致します」クルッ タッ

J少将「ん、任せる」

 チャッ パタン

J少将「……」

J少将「……」

J少将「見せしめが……要るか」ギリッ

と言うわけで今回はここまで。
笑いながらおぞましい話をする狂った悪役を描くのは楽しいですねえ!


J少将や研究者たちの話を覚えてない方は、
こちらのその2スレの374あたりからをご参照ください。
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529758293/374)

今回はちょっと閑話休題的なお話です。

続きです。


 * 2か月後 *

 * 墓場島 執務室 *

提督「……」カリカリ(←書類整理中)

千歳「……」カリカリ(←書類整理中)

敷波「……」(←ソファで読書中)

提督「んー……っ」ノビーッ

千歳「お疲れ様です、提督」

提督「少ないとはいえ、やっぱ書類仕事は体が固まっていけねえな……」ウデヲグルグル

千歳「提督は、執務中にお茶とかお召し上がりにならないんですか?」

提督「まあな。特に飲む習慣もないし、年中夏みたいな気候だし。どうせ氷で薄まるなら水でいいか、ってな」

千歳「それで水筒に氷水なんですか。せっかくの秘書艦ですし、張り切ってお茶くみしようと思ってたんですけれど」

提督「いや、別に気にしなくていいぞ?」

千歳「いえいえ、気にしますよ? この鎮守府の最高司令官であるあなたに気持ちよくお仕事をしていただいて……」

千歳「そして一番いいパフォーマンスを発揮できるようにサポートするのが、秘書のお仕事だと思っていますので」

千歳「あなたが艦娘のみんなに対して普段からしていることと同じです。そのくらいはサービスしますよ?」


敷波「そうやって気を使われたり、お世話されたりするのが苦手だもんね、司令官って」

千歳「あら、そうなの?」

敷波「そうだよ。むしろ艦娘の誰かの役に立とうとしてる時のほうが、司令官はやる気出てる感じだしね」

敷波「あとは、例えば司令官は渋めのお茶とか好きなんだけど、それだと出してくれた人も同じお茶を飲むわけじゃない?」

敷波「でも、駆逐艦の子なんかは渋いお茶が好きな子、少ないでしょ? 自分の好みを押し付けたくなくて、遠慮してるんだよ」

千歳「あらあら。そうなんですか?」

提督「……まあ、そうだな……」

敷波「そういえば。司令官ってさ、食べ物は薄味が好きなのに、お茶やコーヒーは渋めとか濃いめが好きって、どうなの?」

千歳「うーん、食べ物は口の中に残るけど、飲み物はすぐに通っていくから、とかかしら?」

敷波「あ、それ、なんか納得できるかも」

千歳「それで加古に酔い潰されたんでしたよね? 薄まるのが嫌だからってストレートのウイスキー飲んで」ニヤリ

提督「……まあな……」ハァ…

千歳「どうせなら私ともご一緒してくださいませんか? 良かったら今晩にでも……」

提督「俺は下戸だっつってんだろ。また酔い潰されるのは御免だ」

千歳「もう、つれないですね。頑固なんだから」


 扉<コンコン

電「失礼します! 司令官さん、長門さんたちから海域の突破に成功したとの連絡が入ったのです!!」ガチャー

提督「ん……! 全員無事か?」

電「はい! 古鷹さんが中破した以外は、皆さん損傷軽微と聞いているのです!」

提督「よし、若葉がいるから大丈夫だと思うが、油断せずに気を付けて帰ってくるよう伝えてくれ」

提督「それから明石と、厨房にも連絡頼むぞ。いい知らせだ、いいもの用意して待っててやらないとな」

電「了解なのです!」ビシッ

 タタッ パタン

提督「……そういや、新しい海域の突破も久し振りだな」

敷波「千歳さんが発破掛けてくれたおかげだね」

千歳「そうかしら? この鎮守府の艦娘のみんなの力なら、突破自体は私が言わなくてもできてたと思うけど?」

敷波「そこは司令官が過保護だからねー」

提督「過保護? どこがだよ」

敷波「過保護だよ? さっきのお茶の話とかもそうだし、普段から私たちに自由にやらせたいって感じがすっごいし」

敷波「出撃も最低限でいいって言うし、私たちってばこれ以上なく好きにやらせてるじゃない?」


千歳「そうね、規律って意味では、ここって甘々のゆるゆるよね。提督、少し甘やかしすぎじゃありません?」

提督「……そうか?」

千歳「そうですよ? 海域の攻略をほったらかして、艦娘に好きにさせてる鎮守府なんて、そうそうありませんよ?」

千歳「波大尉もそういうところがあったから、ときどきつついてあげないといけなかったんですよね」

敷波「波大尉……って、千歳さんが前にいた鎮守府の司令官?」

千歳「そうそう。民間からいきなり連れてこられた人だから、軍隊のぐの字もわからない人だったのは仕方ないんだけれど……」

千歳「民間から来た人たちって、とにかく被害を出すのを嫌がるのよ。小破してもすぐ引き返して修理、みたいな運用する人が多くって」

千歳「だから、これくらいなら行けますよ! って感じの指針を示してあげて、少し強引なくらいに引っ張ってあげないと駄目だったのよね」

千歳「そういう意味では私たちのことをすごく心配してくれてたのよね~。懐かしいなあ、ふふっ」

敷波「あー……そっか、この鎮守府、前に出て引っ張ってく感じの人が少ないんだ」

敷波「朧や吹雪はやる気あるほうだけど、意外と司令官の言うこと素直に聞いちゃうし」

敷波「長門さんとか龍驤さんとかも、やると決まったら勢い付くんだけど、意外と慎重派で腰が重たいんだよねー」

敷波「若葉とか五月雨は、どっちかというと海域の解放より自分の練度を上げるほうが優先度高いし。川内さんもそういうとこあるかな?」

敷波「あとは、最近入った五十鈴さんや那智さんもやる気出してるけど、もともと新しい海域へ挑める練度じゃないみたいだし」

敷波「今までいなかったんだよ、千歳さんみたいにここへ行きましょう! って言ってくれる人」

千歳「うーん……これはある意味、問題ね」


敷波「まあ、司令官の考えもわかるんだけどさ。海域を順調に突破しすぎると、上に目を付けられるのが嫌だ、とか?」

敷波「ル級さんが知り合いだから、余所の海域とはいえ同じ顔の深海勢力を倒すのがちょっと気が引ける、とか」

千歳「そうなんですか?」

提督「……まあ、否定はしねえよ。けど、新しいチャレンジってのも必要ではあるからな」

提督「いつまでも一歩引いたところで見物しちゃいられねえ、とは思ってるさ」

提督「長門が慎重なのも、下手にうちの懐事情を知ってるせいで、試しに突っ込んで資材を無駄にしたくないと思ってるせいだな」

提督「足柄と隼鷹が経験があって協力的だし、行けそうだって確信が持てそうなら長門も遠慮しねえだろう」

提督「龍驤が気にかけてる艦載機の問題も、千歳と隼鷹のおかげで解消でき始めているし……」

提督「お前たちの後押しのおかげで、霧島や鳥海が新海域の攻略と解析にやる気を出してるのもいい傾向だ」

提督「なんだかんだで千歳たちが入ってくれたおかげで、艦隊に新しい活力が生まれたのは確かだ。そこはありがたいと思ってる」

千歳「あら、そうですか? ふふふ、そう言っていただけると光栄です」

提督「ただな、嬉しいことがあるとすぐに酒飲みに誘うとこは何とかなんねえのか」ハァ…

千歳「ん-、そこは私が可能な限り善処しますね」ウフフ

敷波(あ、これ絶対やらないやつだ)

 …タッタッタッ

足柄「入るわね!」ガチャー


千歳「足柄!?」

足柄「みんな、これ見て、これ! この週刊誌の記事!」バサッ

千歳「どうしたの、ノックもなしにそんなに慌てて……」

提督「んん……なに? 『留父氏、芸能界を電撃引退』……?」

千歳「この人がどうかしたの?」

足柄「忘れたの!? 私たちと一緒に来てた芸能人の一日提督の留提督! あの人のお父さんよ!!」

千歳「えええ!? この人が!?」

提督「……なんか、見たことあるな。映画とかテレビのCMとかで見た記憶がある」

敷波「え、司令官、映画館とか行ったことあるの?」

提督「映画館の前のポスターに、こいつの顔がでかでかと出てたんだよ。別に入って見たわけじゃねえ」

敷波「なーんだ」

提督「けど、随分老けた感じがするな? 俺が最後に見たのが3年前としても、頭が真っ白じゃねえか」

千歳「そうね、少し前は真っ黒だったんだけど、染めてたのかしら」


足柄「それよりも! 下のほうに留提督のことが書いてあるのよ! ほら、ここ!」

千歳「……はあ? 書類送検!? ……3年前に婦女暴行!?」

足柄「息子の不祥事に激怒して遺産相続はさせず、留父氏は所有する財産を海軍と病院に寄付だって」

提督「ふーん……ま、どうでもいいな」

足柄「いいの!?」

提督「もう関わることのねえ他人だからな。今更どうなろうと、どうでもいいさ」

足柄「うーん、提督にはさほど重要じゃなかったみたいね?」

提督「ま、あの馬鹿が二度と来ることがなさそうな状況だってことが分かったのはいいニュースだな。わざわざ悪いな」

足柄「ええ、とりあえず報告は以上よ! それじゃ、荷下ろしに戻るわね!」

 タタタタ…

提督「……こういう週刊誌、まともにこうやって見るのは初めてだな」ペラリ

千歳「お嫌いですか?」

提督「好きとは言えねえな。面白けりゃ何を書いてもいいって考えてる奴らが作った本だからなあ」

提督「中には事実も確かめずに、憶測か妄想書き散らしただけの自己満記事もあるっつうしな。そんなもんに金なんか出したかねえ」

千歳「ふむふむ、そうですか」


敷波「……」ペラリペラリ

記事『特集 政治とカネ 艦娘の裏で蠢く巨額の政治資金の行方』

記事『……艦娘は「提督」と呼ばれる特定の能力を持つ人間によって指揮されており……』

記事『能力を持った提督を引き入れるため、多額の賄賂を支払ったと言われる■■議員は……』

敷波「……」ペラリ

記事『少女に迫る魔の手! 現代人が背負った屈折した心の闇』

記事『……先週、少女誘拐の容疑で逮捕された自称テレビカメラマンの〇〇容疑者は……』

記事『警察の調べに対し「小さい女の子に踏んで欲しかった」などと供述しており……』

敷波「……」ペラリ

記事『ついに脱いだ! 美しすぎる美少女アイドル△△のヌード解禁!!』

敷波「うへえ……」ペラリ

敷波「……こんなの、どこがおもしろいんだろ。不祥事とか犯罪とか嫌なことばっかじゃん」ポイ

千歳「政治家さんは結構気にするみたいよ? こういう本から不祥事を追及して、敵対組織の要職の幹部を攻撃したりね」

敷波「ふーん……」

提督「その手の雑誌は、人間の悪意を集めて煮詰めた毒みたいなもんだ。俺は読むのはおすすめしねえぞ」

千歳「世の中の動向を見るのには丁度いいかと思ったんですけど」

提督「事実だけ書いてありゃあいいんだよ、余計な味付けはいらねえんだ。そう言う点でも新聞の方がましだな」ハァ

敷波「そうだね……そもそも、司令官はこういうの嫌いだもんね」ヌードページペラリ

提督「ああ、鼻くそも出ねえな」

千歳「さすがに二人とも達観しすぎじゃないかしら」タラリ


 * 提督の私室 *

初雪「……」スヤァ…

 扉<キィ…

加古「んぉ? 先客がいる」

 タイマー<ピロピロピーー ピロピロピーー

加古「うおっ」

初雪「……んう……」ムクッ

加古「あー、びっくりした。目覚まし付けてたの?」

初雪「ん……おはようございます……それ、なに?」メヲコスリコスリ

加古「あー、これ? 抱き枕だよ~」

加古「この抱き枕と一緒に、ここにあるベッドのシングルサイズを買ってもらったんだけど、こっちだけ先に届いちゃってさあ」

加古「だから抱き枕の使い心地を、こっちのベッドで試そうと思ってさ……ふわあぁ……お邪魔していい?」

初雪「うん……それじゃ、私は戻る……ごゆっくり」

加古「うん、ありがとねー。おやすみぃぃ……」ゴローン

加古「……すぴー……」

初雪(寝るの早すぎ……)タラリ


 * 入渠ドック *

利根「……すまんな、明石」

明石「いえいえ。これはまあ仕方ないことですよ」チラリ

利根「うむ……」チラリ

隣の医務室で鼻に詰め物されてベッドに寝かされている筑摩「うふ、うふふふ……」

明石「で? 利根さん今度は何をしたんです?」

利根「それが……吾輩がちょっとよろけたところを、筑摩が支えようとして、その結果勢いよく抱き着いてしまっただけである」

明石「それだけですか?」

利根「うむ。それで筑摩が鼻血を噴き出して気絶したんじゃ。出会った時の筑摩からは想像できん有様で、正直戸惑っておる」

明石「ですねえ……利根さんに対する免疫力が、どうしようもないくらいに駄々下がりって感じですね」タラリ

明石「そういう利根さんは大丈夫ですか? 筑摩さんから、怪しい視線を感じたりしてません?」

利根「むう……時折、筑摩からそういう視線を感じることはあるが……なんというか、吾輩が怖いと感じる視線ではないな」

利根「吾輩をどうにかしたい、という目つきから、何かされるのを待ち望んでいるような目つきになったというか……」

利根「ただ、吾輩と向き合うときには、そういう目つきが消えておる。相当に我慢してくれているようじゃな……」


明石「ということは、その我慢している影響で、利根さんの接触が嬉しくて仕方ない、という感じなんですかね?」

利根「かもしれんなあ……なんだか筑摩に無理を強いているようで、申し訳がないな」

明石「でも、それを許してしまうと今度は利根さんがおかしくなっちゃうんですから。自衛のためにも仕方ないことですよ」

明石「筑摩さんのせいで利根さんが壊れるのも、逆に筑摩さんのせいで利根さんが壊れるのも、みんな望んでいないでしょうからね」

利根「うむ……」

明石「それからついでにのお話なんですが。利根さんの火傷跡の治療、これ以上はなかなか難しくて……」

利根「以前話していた、特殊メイクみたいになる、という話だったか」

明石「そうですねえ。利根さんの場合、患部が、その……アソコとかじゃないですか。そういうもので全部覆い隠すわけにもいかないんですよ」

利根「……実は、吾輩も今、とある治療法を試しておる。生活習慣のようなものなのじゃが……」

明石「えっ!?」

利根「これをやることによって自然治癒を促すという、ごくごく自然的な方法を試しておるんじゃ」

明石「そんな治療法が!? い、いったいどんな治療法なんですか!?」

利根「今、吾輩は下帯を履いておらんのだ」

明石「」


利根「胸のさらしは外しておらんが、あの火傷の跡を風にさらすことで免疫力を高められまいかと思って、数日前から試しておる」

明石「」

利根「腹も圧迫されんし、思いのほか快適での。当面はこのままで過ごそうと思っておる」

明石「」

利根「明石?」

明石「……下帯、って……」

利根「俗に言う、褌のことであるな」

明石「つまり、はいてない、と」

利根「うむ」

明石「……いえ、いいんですけどね……?」アタマオサエ

利根「ちなみに先日、提督にも見てもらったが、以前よりだいぶ良くなったと言ってくれた。これも明石のおかげである」

明石「提督に見せたんですか」

利根「うむ。これまでも何度か見せておる」

明石「何度か?」

利根「そのたびに眉間にしわを寄せてはいたが、今回は割と良い反応が……む? どうしたんじゃ」

明石「……いえ、いいんですけどねぇ……?」アタマカカエ


 * 墓場島 埠頭 *

武蔵「……」ボロッ

長門「ル級、お前、また強くなったか?」

ル級「ソウ思ウ? オ前タチトハ何度モ演習シテイルカラネ。動キモ良クナッテ当然ダト思ウケド」フフッ

那智「謙遜かもしれないが、深海の戦艦はあんなに動けるのか? これでは砲撃を当てられる自信がないぞ」

長門「いや、あの動きができるのは、ここのル級だけだろう。外海の戦艦はもっと動きが緩慢というか、雑だからな」

鳥海「そうですね。私の計算外の動きをしていました」

ル級「伊達ニ長生キシテイナイカラネ」

武蔵「……ん? というと、お前たちは基本的に短命なのか?」

ル級「ソウネエ。私ガ知ル限リハ、発生シテ、スグ沈メラレル艦ノ方ガ多イカモシレナイ」

ル級「遠方ノ海ニハ、モット長生キシテイル艦ガイルト聞イテイルケレド。例エバ、オ前タチガ『鬼』ヤ『姫』ト呼ヨブ艦タチトカネ」

那智「そいつらはこちらに攻めてこないのか?」

ル級「ソレハ聞イタコトガナイ。深海棲艦ハ、自分ノ縄張リヲ大事ニスルカラ、塒ヲ放棄シテ移動スルナンテ、ナカナカナイハズヨ?」


鳥海「なるほど……ということは、鎮守府近海の深海棲艦が弱いのは、私たちが見つけ次第駆逐しているからかもしれませんね」

鳥海「そうなると、仮に近海であっても戦闘せずに放置した場合、力を蓄えて強くなる可能性が……」

ル級「戦ワナイデ強クナル、トイウノハ、チョット疑ワシイト思ウケド?」

鳥海「そ、そうですか? 遠方の海域の深海棲艦が強い説明になるかと思ったんですが……」

那智「人の手が入りにくいせい……だとしても、それだと戦う回数がそもそも少ないという話になるか。説明しづらいな」

長門「ル級はもともと東オリョール海にいたんだったな?」

ル級「ソウネ」

長門「北方や南方には姫級がいると聞いているが、そちらに行ったことがないとすれば、ル級が知らないのも無理はないか」

武蔵「構わんさ。我々が力をつけて見に行けばいい話だ、まさかル級に見て来いと言うわけにもいくまいよ」

鳥海「そうですね。演習相手にまでなっていただける深海棲艦さんに、そのようなお願いはいささか厚かましいかと」

那智「そうだな……」

ル級(別ニ行ッテモイイケドネ。興味アルシ)

今回はここまで。

ちょっとこちらの続きが書けてないので、
次の投下までは少し時間がかかりそうです。

やっと書けた!(陽炎並感想)

続きです。


 * 別のある日 *

 * 休憩室 *

雲龍「……」

黒潮「……んふっ」

龍驤「……ぷくくっ」

 DVDプレーヤー<ゴメンクサイ! コラマタクサイ!

黒潮「く、くくっ」

龍驤「ふひっ」

 DVDプレーヤー<ワシャトマルトシヌンジャアア!

黒潮「ふひー!」

龍驤「うはははは!」

雲龍「……?」

吹雪「あれっ、今日はDVD鑑賞会ですか?」コヅツミカカエ

雲龍「ええ。笑い声で少しうるさくなるだろうから、このお部屋を借りてたの」


雲龍「だけど、私にはちょっと意味が分からなくて」クビカシゲ

吹雪「お笑いのツボが違うんですかね……」

雲龍「でも、龍驤たちは楽しめてるみたいだし」ニコ

雲龍「……飲み物、持ってこようかしら」スクッ

吹雪「……」チラッ

 *

雲龍「……あら?」

 DVDプレーヤー<モガケバモガクホドクイコンデイクンヤー!

吹雪「ぷふーっ!」

黒潮「あっはっはっは!」

龍驤「ひー、ひー……!」

雲龍「吹雪はわかるのね。羨ましいわ」フフッ

 小包<オイテキボリデス

雲龍「……これ、大淀宛てね。代わりに持っていくわね」ヒョイ


 * 通信室 *

大淀「届けてくださったんですか、わざわざありがとうございます」

雲龍「吹雪が持ってきたんだけど、途中で用事ができちゃったから」ニコ

大淀「そうでしたか。確か彼女も非番でしたね、あとでお礼を言っておきますね」ガサガサ

雲龍「……本を頼んだの?」

大淀「はい、有名棋士の指南本です。L大尉がこちらに来ることができなくなったと仰っていましたが、私はリベンジするつもりですので!」フンス!

 ドタドタドタ…

雲龍「あら?」

吹雪「ごめんなさああああい!!」キキーッ

大淀「吹雪さん? どうしたんですか?」

吹雪「ごめんなさい大淀さん! 私、大淀さん宛ての小包を……」

雲龍「それなら私が届けたわ」

吹雪「ズコー!?」ズデーン

大淀「!?」

雲龍「吹雪? 大丈夫?」


吹雪「あ、いえ、大丈夫です! じゃなくって! 雲龍さんすみません! 本当が私が頼まれてたのに……!」

雲龍「構わないわ。面白かったんでしょう? あのDVD」

吹雪「は、はい……!」

雲龍「非番なのはお互い様だから。次からは、用事が済んでから、一緒に見てあげて」

吹雪「はいっ!! すみませんでした!!」ペコッ

 タタタ…

雲龍「……うーん」クビカシゲ

大淀「どうしました?」

雲龍「吹雪が『図工』って言って倒れてたでしょ。あれはなにかと思って」

大淀「あ、ああ……あの、雲龍さん? さっき、吹雪さんがDVDを見てたって言いましたけど」

大淀「もしかして、龍驤さんが買ったお笑いのDVDですか?」

雲龍「ええ、そうよ。龍驤と黒潮が見てたの」

大淀「ああ……それであのリアクションですか」

雲龍「?」


 * また別の日 *

 * 執務室 *

伊8「……」ムスッ

提督「……」

龍驤「伊8はどないしたん?」

伊8「提督が、はっちゃんと一緒に温泉に入ってくれません」

龍驤「いや、それは普通やったらあかんやつやん」

雲龍「如月たちがいたら大変なことになってるわね」

提督「はっちゃんには、体にタオルを巻けって言ってんだけどな」

龍驤「巻いてへんのかい! もっとあかんやんか!」

雲龍「大胆」

伊8「タオルを湯船に入れてはいけません」

龍驤「いや、さすがに提督と入るんなら巻いときや? ちゃんと隠さんと」

雲龍「そうね。女性同士ならともかく、男性と入るとしたらそのほうがいいんじゃないかしら」


伊8「提督とは何かあってもいいんです」

龍驤「……ああ、むしろそういうのを望んでるんか」

雲龍「それならタオルは無粋ね」

提督「お前ら速攻で掌返してんじゃねえよ」タラリ

伊8「そういうわけですから、提督ははっちゃんとお風呂に入ってください」

提督「……これまで3回くらい入っただろ……」

伊8「全然足りません。最上さんと三隈さんなんか、この短い間に温泉に10回くらい入ってます」

龍驤「え、そんなに入ってるんか」

提督「あいつらは仲が良いからいいだろ……そもそも最上が温泉好きだしな」

龍驤「あの温泉、最上たちが訓練中に見つけたんやっけ?」

提督「ああ。航空巡洋艦になって水上機が運用できるようになったから、って、飛ばしまくってたら見つけたって」

提督「だから作ったはっちゃんを呼び出して、他の艦娘が使っていいかを相談したわけだが……」

伊8「はっちゃん、あんなに大人気になるなんて思ってませんでした」

雲龍「ああいうプライベート空間って、大事よ」


龍驤「ある意味、この島唯一の観光地みたいなもんやしなあ」

雲龍「私たちもありがたく使わせてもらってるけど、いい場所よ。提督、歓迎されてるんだから、もっと使ってあげたら?」

提督「いい場所なのはわかっちゃいるけどよ……一人で入りたいんだよ、俺は。鳥海だって一人で長風呂してるって聞いたぞ」

龍驤「そこは鳥海関係ないよ。作った当人の希望も聞いてあげなきゃあかんよ?」

提督「……」アタマガリガリ

伊8「じゃあ、今度提督が入るときにお邪魔しますね」

提督「……しゃあねえな……龍驤、雲龍、この話は他言すんなよ」

龍驤「んふふ、わかってるって」

雲龍「面倒なことになりそうだものね」ウフフ

 扉<コンコン

陸奥「提督、入るわね」

提督「おう」

陸奥「ねえ、龍驤、雲龍が……って、あら、ここにいたの?」チャッ

雲龍「何かあったの?」


陸奥「工廠で明石が開発をしたいから手伝って、って。千歳や隼鷹も来てるから、いよいよ新しい艦載機の開発に本腰を入れるみたいよ」

龍驤「おおう、準備できたんか!」

陸奥「それから、伊8もいるなら丁度いいわ。千歳が甲標的の話をしたいんだって」

伊8「!」

龍驤「そういうことなら工廠に行こか。善は急げや!」

陸奥「ええ、お願いね」

雲龍「はっちゃんも、行きましょ?」

伊8「はい。それじゃ提督、さっきの話、よろしくお願いしますね?」

提督「わかったわかった」

 扉<ガチャ パタン

陸奥「……」

提督「……」

陸奥「……さっきの話って?」

提督「あいつが露天風呂作ったのは知ってるよな? 俺に一緒に入れとよ。他言すんなよ?」

陸奥「ふふっ。相変わらず、好かれてるのね」

提督「いいんだか悪いんだか」


陸奥「悪いことではないと思うけど?」

提督「だといいがな……ところで、陸奥もだいぶマシになったように見えるが。気分は大丈夫か?」

陸奥「ええ。おかげさまで」

提督「だったらいいがな。くれぐれも無理はすんなよ?」

陸奥「ええ、わかってるわ」スッ

 (陸奥が提督に近づいて)

陸奥「このくらいでも……大丈夫よ」

提督「……マジで無理すんなよ? 震えてんじゃねえか」

陸奥「……」

提督「……また、背中向いたほうがいいか?」クルッ

陸奥「……」

提督「……」

陸奥「あなたが、言うほどでも……ないわよ」ス…

提督「!?」

 (陸奥が提督の背中に抱き着いて、後ろから手を回す)


提督「む、陸奥……!?」

陸奥「何を、驚いてるのよ……」

提督「そりゃ驚くだろ……この前まで俺にだって怯えてたんだぞ」

陸奥「……どきどきしてる? 背中から、心音が聞こえてくるんだけど」

提督「まあ、な……」

陸奥「……そう……」ギュ…

提督「……」

陸奥「……」

提督「……」

陸奥「……」

提督「……陸奥?」

陸奥「ん……なに?」

提督「ああ……何も言わないから、どうしたのか気になっただけだ」

陸奥「照れてるの?」


提督「……潮が俺の背中に寄りかかって、そのまま寝ちまったときがあったんだ」

陸奥「そうなの?」

提督「お前がそうなることはないと思うが……」

陸奥「そう……ね」

 扉<コンコン

提督「!」

陸奥「!」

朝雲「失礼しま……って、陸奥さん!?」ガチャ

陸奥「あら。どうしたの朝雲」

朝雲「それはこっちのセリフですよ!? 背中から抱きついたりしてるんだもの!」ドキドキ

陸奥「あらあら。ちょっと提督をからかってただけよ、うふふっ」パッ

朝雲「もー、陸奥さんったら……」

提督「……やれやれだな。朝雲はどうしたんだ」

朝雲「さっき、五月雨が書類持って畑に来たんだけど、ホースに足を引っかけて転んじゃったの! そのときにおでこを打ったらしくて」

提督「は? それで五月雨はどうしたんだ?」


朝雲「大丈夫だとか言ってたけど、武蔵さんがドックに運んで行ったわ。それと、ホースの取り付け口の金具が壊れたみたいなの」

朝雲「水を出すと蛇口からホースが外れちゃって、水かけできなくて困ってるのよ」

提督「その辺の部品も明石が管理してたはずだな。俺もドックに行こう、朝雲も一緒に来てくれ」

朝雲「わかったわ!」

提督「陸奥、悪いが留守番頼めるか?」

陸奥「え? ええ、いいわよ」

提督「助かる。行くぞ、朝雲」

朝雲「ええ!」

 扉<パタン

陸奥「……」

陸奥(朝雲には、ばれなかったみたいね……)ホッ

陸奥「……」

陸奥(私……提督に……)

陸奥「……」カァァ…

陸奥(私、何をしてるのかしら……)ミミマデマッカ


 * 工廠 *

五月雨「だ、大丈夫ですってば! 大袈裟です!」

武蔵「大袈裟なものか!? すごい音がしたぞ!」

明石「五月雨ちゃん、また受け身取らなかったんでしょ? ほら、おでこ出して!」

五月雨「ううう……」

明石「海の上ならいざ知らず、陸で転んで手もつかないとか、危ないにも程があるでしょ!?」

五月雨「書類で手が塞がってたんですよ……」

武蔵「書類なんぞよりお前の体のほうが大事だ、馬鹿者」

提督「おう、説教食らってるか。いい気味だ」

五月雨「提督!?」

提督「お前、自分より仕事を大事にするきらいがあるからな。特に秘書艦やってるときが一番そうなってる」

提督「書類なんて読めりゃいいんだよ、読めりゃ。武蔵の言う通り、お前の替えはねえんだから、そっちを大事にしろ」

五月雨「うう……」

提督「五月雨は任せるとして、明石、ホースの取り付け口の金具の替えはあるか?」

武蔵「それなら私が把握している」

提督「じゃあ、それだけもらって畑に行くか。五月雨はちゃんと治してもらえ、今日はもう仕事もねえしな」

五月雨「す、すみません提督……」シュン…

提督「面倒な仕事はお前が朝一に片付けてくれたからな。あとはまるっと休憩に充てて、のんびりしてな」

朝雲「ってことは、あとはいつもの散歩だけ?」

提督「まあ、そうだな。畑に行ったら、そこから丘に……いや、一旦執務室に戻るか。陸奥に留守を任せたまんまだしな」


 * ビニールハウス内 *

 (ビニールハウス内の一角にビーチチェアとパラソルのセットが置いてある)

提督「……」

初雪「……」

提督「いつ来ても、ここにこれがあるのは変な感じだな……?」クビカシゲ

初雪「そう……?」クビカシゲ

提督「いや、景観的に違和感があるだけで、用途としてはベンチとかより、これのほうが適当なんだよな」

初雪「うん。横になりたいし」

山雲「司令さ~ん?」トテテッ

提督「よう、山雲、そっちのハウスの水は大丈夫そうか?」

山雲「は~い、大丈夫ですぅ~」

提督「こっちのハウスも問題なしだ。壊れたのが取り付け金具だけでよかったぜ」

初雪「うん……広くしたのに、また、じょうろ使うことになると、大変……」

山雲「あー、そうだ、司令さ~ん? ちょおっと、こっちで見てほしいものがあるんですけど~」テマネキ

提督「なんだ?」


山雲「こっち、こっちですう~」

提督「……こっちって、なにかあったか?」スタスタ

山雲「あのですねえ~、耳を貸してもらえます~?」ヒソヒソ

提督「なんだ、お前の要件はハウス絡みじゃねえのか……」シャガミ

山雲「そうなんです~。それでですねぇ~……」

山雲「初雪ちゃんは~、どうして、胸にさらしを巻いてるんですか~……?」ハイライトオフ

提督「……」

山雲「……」ヌタァ…

提督「お前、また胸のでかい奴を目の敵にしてんのかよ……どうやったら気付けられるんだよ、ったく」ハァ…

山雲「しゃがんだときに~、膝が胸にあたって、盛り上がっていましたから~。ちなみに、気付いたのは最近ですよ~?」ニコァァ…

提督「その濁った眼をしたまま、にこやかに笑うのはやめろ」アタマオサエ

山雲「えへへぇ~、ごめんなさ~い」ニタァァ…

提督「……初雪がそれを隠してる理由は、そういう悪目立ちする部分を変な目で見られたくないからだって聞いてる」

提督「吹雪型で胸がやたら大きい個体はいないらしい。ほかの奴と違うからってからかわれたくもないし、特別扱いも仲間外れも嫌なんだと」


提督「だから隠して目立たなくして、波風立たないようにおとなしくしてんだよ、あいつは。つっても、すでに一回騒ぎが起きてんだけどな」

山雲「ふぅ~ん……」

提督「端的に言えばそういうことだ。あいつも平穏を望んでんだから、これ以上、騒ぎになりそうなことはすんなよ?」

山雲「わかってます~。だから、山雲も~、最初に司令さんに訊いたんですよ~?」ハイライトオン

提督「……」

山雲「なるほど~、そういうことですかぁ~」ウンウン

提督「あいつが出撃したがらねえのも、多分そのせいだな。中破して服が破けたら、ほかの奴にばれちまうし」

山雲「ん~……でも、遠征なら~……」

提督「遠征はもっと嫌がるんだよ。洗脳ツールを装備させられて、眠る間もなくずっと遠征し続けてたせいでな」

山雲「え、えー……!?」

提督「そうか、お前はその話は聞いてないのか。まあ、今は起きそうもない話だし、しょうがねえか」

提督「ともかく、初雪は出撃も遠征も嫌だから、せめてこっちで役に立とうって思ってくれてるって感じなんだろうなと俺は思ってんだ」

提督「練度は高いが、戦力として期待して欲しくないっつう、面倒臭い立ち位置だが……ま、あまり悪く思わないでくれ」

山雲「そ、そうですねぇ~……」


初雪「なに? どうかした……?」ヌッ

山雲「!」ギクッ

提督「ん? ああ、ちょっと話の流れで、初雪の練度が不自然に高いのがなんでか、って訊かれてたんだ」

山雲「!」

初雪「……あー……」

提督「洗脳ツールの話は、しても良かっただろ?」

初雪「うん……話してくれて、いいです……もう、寝ないで働くのは、嫌だし」

山雲「あ……それで、ハウスの中に、すぐ横になれるよう、ビーチチェアがあるのねぇ~……」

初雪「おぉ……わかって、もらえた……!!」パァッ

提督「まあ、布団のありがたみは俺もよくわかってるつもりだしな」

初雪「睡眠、大事……!」フンス!

山雲「……ねえねえ、司令さ~ん? 今の話聞いてて思ったんだけど~……」ヒソヒソ

山雲「なんだか~、この島にこたつがあったら~、初雪ちゃん、ず~っと出てこなくなりそうじゃな~い~?」

提督「この島に冬が来なくて、良かったのかもな……ただでさえ働かざる者食うべからず的な空気もあるし」

初雪「?」クビカシゲ


 * 執務室 *

陸奥「あら、おかえりなさい」

那珂「提督さん、やっと戻ってきた! さっきまでどこにいたの!?」

提督「工廠回って畑に行ってたんだが、どうかしたのか?」

那珂「んむー……提督さん、ここへ来る少し前に、怒ったり機嫌が悪くなったりした?」

提督「いいや? 俺は特に怒ったりはしてねえが……」

那珂「そう? んじゃ、どこからだろう……」

提督「とりあえず何の話かわかんねえぞ。何かあったのか?」

那珂「あ、ごめんなさい。以前、那珂ちゃんは、提督から深海棲艦の気配がする、って言ってましたよね?」

那珂「それと似たような気配を感じたんで、提督さんになにかあったのかと思って来てみたんです!」

提督「……あー……」

陸奥「? 何か心当たりがある顔ね?」

提督「それ、俺じゃねえや。山雲だ」

陸奥「!?」

那珂「へっ!? 山雲ちゃん!?」


提督「そうだ。お前ら、あいつがなんで海で倒れてたかは知ってるよな?」

陸奥「ええ、敵の空母と接触事故を起こしたって……」

那珂「そ、そのせいなの!? 山雲ちゃんがここに運ばれてきたときは、そんな気配は感じなかったんだけど!?」

提督「そりゃ多分山雲が気絶してたせいだな。元気になってから、ここで少し雑談したときに……あー……」

陸奥「……」

那珂「……」

提督「雑談したときに……その、山雲が、落ち込んだっつうか、思い悩んでたっつうか……」ウーン

提督「まあ、なんだ。ちょっとよろしくねえ精神状態になって、そんときも深海棲艦っぽい雰囲気が山雲から出てたんだ」

陸奥「今の間はなんだったの」

提督「……それは訊くな」アタマオサエ

那珂「山雲ちゃんも、そうなんだ……」

提督「そうなったのも、空母棲姫に衝突事故をもらったせいだと俺は見てるんだ。ル級にも聞いたが、多分そうなんじゃないかって見解だった」

提督「明石にもほかに影響がないか調査はしてもらってるものの、特にこれといった異常もないから騒ぎ立てはしてなかったんだが」

提督「那珂は今日は装備の点検で埠頭にいたんだったよな?」

那珂「はいっ! 衣装チェックしてました!」


提督「離れた場所にいたお前が気配を感じ取ってるようだと、あまり放置もできねえか?」

那珂「うーん……回数的には滅多に感じ取らないから、那珂ちゃんも気のせいかな? って感じで済ませてたんだけど、心配は心配ですね~」

提督「そういうお前も大丈夫か? そこまで深海棲艦に対する感度がいいと、慢性的にストレス感じたりしてねえか心配なんだが」

那珂「那珂ちゃんなら大丈夫です! むしろこのくらい感度が良くないと、艦隊のセンターは務まりません!」

提督「そう言うんなら信じるけどよ。いくらアイドルでもオフの日があるだろ」

陸奥「まあまあ、那珂の自然体がこうだとしたら、無理にオフモードを押し付けなくてもいいじゃない」

陸奥「いつも背筋伸ばしてる朝潮とか、レディーな振る舞いの暁にも、同じこと言ってる?」

提督「……あー、まあ、それもそうか。あいつらあれが平常運転だもんな」

那珂「提督さんの言いたいこともわかりますけどねー。加古ちゃんとか、オフとオンの差がすごいし!」

那珂「那珂ちゃん、これでも適度に気を抜いてるんですよ? この鎮守府、カメラがありませんから!」

提督「あー……まあ、確かになあ」

那珂「大きな鏡を用意してくれたのはすごく嬉しかったですけどぉ、那珂ちゃん的にはやっぱりカメラ映りも気にしたいなあって思います!」

提督「……」

那珂「あ! ご、ごめんなさい! カメラは、そのぉ……」

提督「ああ待て待て、那珂は謝んな。お前が悪いんじゃねえんだから」


陸奥「あら、カメラって鎮守府になかったの? カメラくらい買ってあげたらいいじゃない」

提督「買うつもりではいたんだよ。っつうか、申請もしたんだが、中佐の野郎に全部握り潰されてるんだ」

提督「テレビ局の連中が来たときも話題になったんだが、あいつはこの鎮守府の記録を取られるのを極端に嫌がってる」

提督「いま使えるのは、不知火が本営の中将から預かってる、轟沈した艦娘を撮影する用のデジカメくらいしかねえ」

提督「俺もカメラくらい買ってやりたいが、ちょっと裏ルートでも開拓しねえと無理そうなんだよなあ……」

那珂「那珂ちゃんもつい勢いで言っちゃいましたけど……買えなかったって話は、提督さんに前もしてもらってるんです」

提督「むしろそっちのほうが那珂にとっては迂闊に口に出るほどストレスなわけだな。どうすっかねえ……」

陸奥「……この前のテレビ局のカメラ、1台くらい隠して持っていけば良かったわね?」

提督「そうだなあ……あ、でも駄目だ。あいつらリスト作ってたから、どっちみち全部回収されてたな」

陸奥「あらあら、それじゃ駄目ね?」

提督「まあ、全然手を打ってないわけじゃねえんだ。限りなく望み薄なところに頭を下げてんだが……あまり期待はしていない」

那珂「いくら那珂ちゃんのためとはいえ、あんまり危ない橋は渡って欲しくないから、あまり変なことはしないでくださいねー?」


提督「ああ……とりあえず、お前にしても他の奴にしても、穏やかじゃないなら早めに言ってくれよ。那珂の心配事はそれだけか?」

那珂「ん-と、そうですね! 那珂ちゃんからは以上でーす!」ビシッ!

提督「おう、報告ありがとな」

那珂「それじゃ、那珂ちゃんは現場に戻りまーす!」

 扉<チャッ パタン

提督「うーん……山雲はどうしてやるかな……」

陸奥「……ねえ、提督?」

提督「うん?」

陸奥「さっき、那珂が、提督から深海棲艦の気配がするとか言ってたけど……」

提督「ああ、それか。那珂が来たばかりのときに言われたんだよ、俺が深海棲艦なんじゃないかって。マジな目されて砲口向けられた」

陸奥「ええっ……!?」

提督「あいつがなんでそんなことを言ったのか、俺にもさっぱり心当たりがねえんだが……」

陸奥「……全然、そんな感じはしないんだけど」

提督「みんなそう言ってくれてんだけどな。ただ、那珂にしても根拠もなくそう言うとも思えねえ」


提督「実際、轟沈したことのある艦娘からも同じ雰囲気を感じたって言ってたしな」

陸奥「……」

提督「俺が轟沈した艦娘を弔ってるからとか、轟沈艦を集めてるからとか、たまにとはいえル級と普通に一緒に過ごしてるからとか」

提督「そういう、普通の鎮守府じゃ起きてないことに関わってるからじゃねえのかな? って、考えてはいるんだけどな」

陸奥「……」

提督「ま、俺のことは後回しだ。山雲の治療っつうか、不安要素を取り除いてやるほうが先決だな」

陸奥「そうは言うけど……こんな話聞かされたら、提督も心配よ?」

提督「心配なんかいらねえよ。少なくとも人間が深海棲艦になるような話は、どこからも聞いたことねえしな」

提督「それに、俺に万が一があったらお前たちに撃ってもらえばいいだけの話だ」

陸奥「……」

提督「……ん?」


陸奥「あなたは、どうしてそういうことを言うの?」

提督「いや、どうして、って……」

陸奥「簡単に撃てとか言うけど、お世話になった人に対して、何の躊躇いもなく撃てるわけないでしょ?」

陸奥「あなたが言うほど簡単に割り切れるものじゃないわ。そのくらい、もう少し考えて喋ってほしいんだけど?」ムスッ

提督「……」

陸奥「なによ?」

提督「……お前も、怒るんだな?」

陸奥「え?」

提督「ずっと怯えてた顔してたからな。お前のそういう顔を見るのは初めてだ」フフッ

陸奥「……!」

提督「ああ、別にお前を怒らせたくて言ったわけじゃないからな?」

陸奥「……提督って、そういう人よね」

提督「ま、こればっかりはな。そういうもんだと思ってくれ」ハァ…

陸奥(ため息つきたいのはこっちよ……私、いまどんな顔してるのかしら)セキメン

今回はここまで。

こちらも続きです。


 * 砂浜へ続く道中 *

隼鷹「ああ、提督、お疲れさん」

提督「よう。何を眺めてたんだ」

隼鷹「ちょっと、砂浜をね。ここ、綺麗な砂浜だよねえ……この浜に何人も打ち上げられてたなんて、聞かないとわからないよ」

提督「……」

隼鷹「どしたの?」

提督「ああ、こんなところで佇んでる奴がいるのが珍しいと思ってな。お前、最近は工廠にいなかったか?」

隼鷹「そうかもねぇ。最近は明石んところで艦載機の開発に付き合ってるほうが長いんだけど、散歩も結構好きだよ?」

隼鷹「ほら、軍港だとこういう砂浜とか、波打ち際とかお目にかかれないしさ。ゆっくり眺めていたくなっちゃってね」ニッ

提督「なるほど……」

隼鷹「こっちの砂浜も綺麗だけど、西側の崖もなかなか風情があって良かったねえ」

提督「崖? ……って、お前、西側に行ったのか!?」

隼鷹「え? 行っちゃまずかったの?」オロオロ

提督「いや、まずいっつうか、妖精たちも俺たちも西の林にはあまり立ち入ってねえんだよ。お前が怪我とかしてないならいいんだが……」

隼鷹「あ、そうなの? なんか見ちゃまずいもんがあるわけじゃないんだ?」


提督「俺たちが見られて困るようなもんはねえな。この前、テレビ局の連中が林に入って人骨見つけたらしいけどよ」

隼鷹「人骨!?」

提督「ああ。この島がかつて戦場になってたなら、そこまで珍しいもんでもねえと思ってる」

提督「ただなあ、その死んだ理由が、例えば毒蛇だとか、落とし穴とか地雷みたいな罠だったりしたら嫌だろ?」

提督「そういうのにお前らが引っかかったら嫌だなって考えてたんだ」

隼鷹「あー……なるほどねえ」

提督「撤去しようにも安全を確認するための装備や、怪我したとき用の薬とかがないからな。下手に立ち入らずに探索しないことにしてたんだ」

提督「けど……そうか、お前には連絡が行ってなかったか。悪かったな、申し訳ない」

隼鷹「いやいや、いいってば。結果論だけど、こうやって五体無事なわけだし!」

提督「本当に結果論だけどな……ちなみに、その時にどのルート辿って西端へ行ったのか、あとで教えてくれ」

隼鷹「うん、いいよ~。しっかしアレだねえ……この鎮守府の前任者ってどんな人だったんだろうねえ。引継ぎとかしてないの?」

提督「いや、引継ぎも何も、前任者とかいねえし。俺はここに何にも知らされずに連れてこられたんだぞ。妖精以外に誰もいなかったしな」

隼鷹「……」

提督「なんだよその顔は」


隼鷹「いやあ、いくらなんでもさあ……提督の両親はいったいどんな悪いことしてきたの?」

提督「その因果が俺に回ってきてるってか? あのくそどものことだし、十分にありうるな」ムスッ

隼鷹「否定しないの!? とことんひどい星の元に生まれてんだねえ、提督ってば……」

提督「ま、いま生きてるし、人間と話す機会も激減してくれたおかげで、まあまあ人生楽しめてるけどな……うん?」

隼鷹「? 誰かいるねえ? ありゃあ、初春かな?」


 *


提督「よう」

初春「おお、提督か。隼鷹とはまた、珍しい取り合わせじゃな?」

提督「まあ、たまたまだ。お前こそこんなところで佇んでるなんて、珍しいな?」

初春「わらわとて、たまにはメランコリーな気分になるときもある」ハァ…

初春「酒飲みたちが頻繁に酒を勧めてくるわ、若葉は疲労を忘れてひねもす働こうとするわ、白露たちはしょっちゅう暴走するわ……」

初春「わらわが神経質になりすぎなのかもしれぬが、いささか目に余る行動が多くてのう……」

提督「ふーん……」チラッ

隼鷹「あ、あたしは別にお酒に誘ったりしてないよ!?」アセアセ


初春「まあ、良い機会じゃ、提督よ。貴様に尋ねたいことがある」

提督「なんだ?」

初春「貴様は、この島にやってきた無礼者たちを、何故あの程度で済ませておるんじゃ?」

提督「面倒臭えから」

隼鷹「!?」

初春「……」

提督「なんだ、納得いかねえのか」

初春「納得いかぬな。貴様は手ぬるい! 少しは痛い目を見せて懲らしめようと思わぬのか!?」

初春「N中佐のときもそうじゃったが、仁提督のときも大した罰も与えず手打ちにしておったようじゃし」

初春「テレビ局の連中に至っては、鹿島たちの件で懲らしめはしたものの、わらわたちへの無礼と歓待には詫びも礼もないときておる」

初春「躾のなっていない小童どもの尻を叩いてやるのじゃ。彼奴らのためにもなろう!」

提督「それこそ面倒臭えってんだよ。懲らしめるとは言うけどよ、結局はお前が叩きのめして満足したいって話だろ?」

初春「む……」

隼鷹「……ちょっとごめんよー? 話が見えないんだけど……」

提督「あー、この鎮守府に、何回か余所の提督が来たりしてんだけど、そいつらが問題あるやつばっかりでな」


初春「洗脳ツールを使ってわらわたちを意のままに操ろうとしたN中佐や、長門をけしかけわらわたちを?っ攫おうとした仁提督……」

初春「それから忘れておったが、己の見栄のために秘書艦を島に残して観艦式に向かったL大尉も、不始末を起こした一人であったのう?」

隼鷹「えええ……」

初春「そしてふた月ほど前には、駆逐艦と抜け駆けしようとした遠大佐と、鎮守府を娼館と勘違いしたテレビ局の馬鹿どもと……」ギリッ

初春「貴様はその場を諫めるだけで、処罰はみな上に任せておる! 何故、わらわたちで彼奴らをがつんと引っ叩くことができぬのじゃ!?」

隼鷹「待って待って、なんでこの島にそんな問題ある人ばかり来てんの……!?」

提督「この島自体にろくでもねえ噂をたてられてるから、そもそもまともな人間が寄り付かない、ってだけじゃねえかな」

提督「それをわかってない非常識な奴が、勝手に羽目を外して勝手に恥を晒してく、ってケースが殆どだったよな」

隼鷹「……あああ……なんか、勝手に羽目を~ってくだり、自分のことを言われてるみたいで恥ずかしいねえ……」

提督「思い返して恥だと思えるんならいいさ。そこまで気にすんな」セナカポンポン

初春「うむ、かように貴様が艦娘に寛容であること、これまでの境遇も踏まえて、わらわたちは良き理解者を得たと思っておる」

初春「しかしじゃ! 貴様はこれまで人間に酷い目に遭わされてきたにも関わらず、あやつらにも寛容と言ってよい扱いをしておる!」ビシッ!

提督「そうか?」

初春「そうであろう! その証に、貴様、これまで来た人間に対して手を挙げたことはないじゃろう?」

提督「あー……いや、テレビ局の連中のときは、黒潮や白露、摩耶たちに好きに痛めつけろと指示したぞ?」

初春「あれは艦娘への凌辱に対するお仕置きじゃろう。そうではなく、あ奴らのこの鎮守府に対する狼藉そのものに対してじゃ!」


初春「まともに詫びを入れてきたのは、頭を丸めてきたL提督くらいなものではないか!」

提督「……俺、艦娘にでこぴんやらアイアンクローやらかましてきたけど、それはいいのか?」

初春「……それは、艦娘の救済のための必要悪じゃろう。それはともかく」プイス

提督「ごまかしたか?」

隼鷹「ごまかしたねえ?」

初春「ともかくと言うたであろう!」ムキー!

提督「人間に対して甘いっつってもなあ、必要以上に敵視することはねえだろ」

提督「少なくとも俺と同じ提督稼業で生きてる人間だ。嫌われてもいいが恨まれるのは後々面倒臭え」

初春「……」

提督「仁提督に関して言えば黒潮の姉妹艦の面倒を見てもらってるし、N中佐にしても事情を聞いた卯月たちが厳しくするなっつったしな」

提督「留とかいう奴も、帰り際にはしおらしくなってたんだから、必要以上にぶっ叩かなくていいと判断したんだ」

提督「叩きすぎると恨みや復讐心を持たれる。次に会ったときに睨み利かせてくるような敵を作っても面倒臭えだけだ」

提督「恨みが直接俺に返ってくるならいいが、全然関係ねえお前らや、それこそ無関係の艦娘に飛び火するのは嫌すぎる」

初春「……それが貴様の処世術ということか」

提督「攻撃的な奴ほど敵を作りやすいもんだ。そうだろ?」


隼鷹「大人だねえ……」

提督「そうか? 俺自身は衝突を避けたい臆病者のやり方だと思ってるんだが」

隼鷹「衝突を避けようってあたりがもう大人じゃんか」

初春「普段の態度のわりに、そういうところはしっかりしておるのう……貴様、本当に人に嫌いなのか?」

提督「いくら俺が人を嫌いでも、俺が嫌だと思ってる奴等と同じになりたかねえんだよ。そういう意味での人でなしにはなりたかねえ」

提督「言うだろ、仰ぎて天に恥じず、って。これでも自分がやったことや選んだことを後悔したくねえんだ」

初春「むう……」

提督「嫌われるにも嫌われ方ってのがある。愛想が悪い程度なら無視されて終わりだが、手癖が悪いとなれば警戒されて見られ続けるよな?」

提督「ヒーロー気取りで悪者退治するのも同じだ。手柄を立てたら次も期待されるし、期待する奴らは無責任にこっちに責任を丸投げしやがる」

提督「俺はそういうのが嫌だから、そういうのは全部余所に押し付けて、無名無風であり続けるほうがいいと思ってる」

隼鷹「……名誉欲とは無縁の人だね、こりゃあ」

提督「あ、でも、お前らの戦果は別だからな? そっちは正当に評価してもらえるように根回ししてるから安心してくれよ」

初春「……いや、もう良い。わらわが何を言おうと、貴様は貴様で変わらんのだろうな」フゥ…

隼鷹「初春?」


初春「わらわは、朧を沈めたN中佐が、這いつくばって朧に詫びを入れるところを見たかった」

初春「開き直り自分を正当化し、初雪を見捨てて大和を意のままにしようとしたあの男が、額を床に擦り付け、許しを請うさまを見たかった」

初春「それがまさかあのような、ちゃちな輪ゴム一発で済まされるとは夢にも思わなんだ」ハァ…

提督「不満だったか?」

初春「ああ、不満じゃったな。不服であった。まったくもって、腑に落ちぬ。なれど、それはわらわが受けた仕打ちではない」

初春「朧が納得したというのなら、わらわも納得せざるを得ぬ……」

初春「かつてわらわも、その鎮守府の提督からただの一声もかけられず海に放たれ……そして何の得心も得ぬまま、砲火を浴びて海へ沈んだ」

初春「水面の下の、深く暗い青色を見た時の虚無感よ……忘れたくとも未だ時折夢に見る」

初春「のちにわらわが沈んだことにされ、それが捨て艦などという忌むべき戦い方だと知ったときの失望感もまた、到底言葉にできぬものじゃった」

隼鷹「捨て艦、って……!」

初春「なればせめて、同じ策を弄した輩が無様に泣き叫ぶ様でも見れば気も晴れようかと思っておったが……それも叶わず終いであった」

提督「……」

初春「のう、提督よ……?」


初春「この、わらわの無念は、どうやって晴らせば良いのじゃ?」グリッ

初春「わらわの恨みは、いずこへ向ければ良いのじゃ……!?」

初春「わらわのこの沈んだ心は、いつ海の底から掬われてくれるのじゃ……?」ハイライトオフ

隼鷹「……っ」ビクッ

提督「ったく、この馬鹿が」

初春「なんじゃと……?」ギロリ

隼鷹「ちょっ!? なに言ってんの!?」

提督「馬鹿だろうが。初春、お前、俺の何を見てきた?」

提督「俺はこれまで、島に来た連中にさんざん言ってきたぞ。生きたいか死にたいか。何が望みか、ってな」

提督「俺に心を読む力なんてねえ。言われたことしか聞けねえとも言ってきた。お前も知らねえとは言わさねえぞ」

初春「……」

提督「隼鷹」チラッ

隼鷹「おっ!?」ビクッ

提督「悪いが、この場は俺と初春だけにしてもらえるか?」

隼鷹「う、うん、わかった! あたしは引き上げるよ!」

提督「おう」テヲフリ

 タタタッ…


提督「さて……」

初春「……」

提督「……で、初春。お前はその恨み言、どうしたい?」ズイッ

初春「……」ジトリ…

提督「つうかお前、なんでそういうのをため込んでんだよ。とっとと吐き出しゃ良かったじゃねえか」

初春「……吐けるものか。わらわの、はらわたの奥底に沈んだ、穢らわしい呪詛のごとき言の葉を、吐き散らす無様な姿なぞ……」

初春「そのような醜い姿なぞ、誰にも見せられたものではない……」

提督「お前がぶっ壊れるより百倍マシだろうが。つうか、隼鷹がいたのにそんな目ができる時点で、もう壊れかけてんじゃねえのかよ」

提督「それともなにか? お前はこのまま黒いの抱えて死にたいってのか?」

初春「……」

提督「それもできるわけねえよな。暁が助けてくれたことを、お前は感謝していたはずだ」

提督「せっかく救ってもらった命を、投げ出すわけにはいかないと言っていたのも、その時だよな?」

初春「……」

初春「……わらわは……」

初春「咎人が、目の前で罰せられることを望んでおった」


初春「大方の、読み物の大筋はこうじゃ。事件が起き、悪事が暴かれ、罪を犯した者が罰せられる……悪の栄えたためしなし、とな」

初春「わらわは、そのような結末が好きじゃ。そういう結末を望んでおる。でなくば、気持ちよくなかろう……? 面白くなかろう……!」

初春「私利私欲に走り、他者を陥れた者が、己の所業を悔いることなく物語が終わったのでは、貶められた者が救われぬ……!」

初春「そのような話の、何が面白いのじゃ……! 作り話であっても、悲嘆に暮れてそのまま終わることの何か良いというのじゃ……!」

提督「……」

初春「気に入らぬものを叩いて何が悪い……? わらわたちに仇なすものを、徹底的に打ちのめすことの何が悪い……!?」ギリギリッ…

初春「先に力を行使したのは彼奴らぞ……! 先にわらわたちのすべてを踏みにじろうとしたのは、彼奴らぞ!」クワッ!

初春「何故、わらわたちが彼奴らを討つのは許されぬ……? 何故じゃ……!?」

初春「わらわを沈めたのは彼奴らぞ!! 彼奴らも同じように、沈め返されよと言うのじゃ!! 地獄を見ろと言うのじゃ!!」

初春「なぜ、やられっぱなしを許容せねばならぬ!! わらわが彼奴らの無様な姿を見るのは悪と言うのか!?」

初春「彼奴らは敵ぞ! 叩き潰せ! 撃ち滅ぼせ!! わらわたちが、深海棲艦にしたように!!」

提督「……」

初春「ふ、ふふ……のう、提督よ?」

初春「どうじゃ。いまのわらわの顔は、醜かろう……?」ニタァ

提督「……」


初春「提督の言うとおりじゃ。わらわの望みは、望まぬ敵を作る望み。憎悪の連鎖を作り出す望みじゃ」

初春「吐いたところで、みなを慟哭させるだけじゃろう……わらわの一方的な恨み辛みじゃ」

提督「だから、言わなかったってか」

初春「そうじゃ……それにわらわには、別の望みもある……」

提督「……どんな望みだ?」

初春「それは、わらわたちの……朧や、暁や、みなの笑う顔じゃ。貶められた者への、心の救いじゃ……!」

初春「ここで、朧や、他の者たちの憂いが払われ、平穏を得られたことは、わらわにとっても喜びである……」ニコ…

初春「じゃから、先の言葉は、どうあっても言えぬのじゃ。祝福された者たちに、わらわの復讐の道連れなど決してさせられぬ」

提督「……」

初春「しかしのう……それも所詮は建前に過ぎぬと知った。わらわもいつしか、朧たちのようにと……」

初春「わらわ自身の、恨みを……無念を晴らしたいと、願ってしまうようになったんじゃ……!」

初春「今更になって欲が出てきたのじゃ……! 嫉妬したのじゃ……!! 憑き物が失せ、心の底から笑えるようになった、仲間に!!」

初春「我ながら、なんとさもしい……なんと卑しいことか……!! 我ながら情けない……!」

初春「ふたつもみっつも、かような欲を抱えて……欲張りじゃ。業突張りじゃ……わらわが忌み嫌う者どもと同じじゃ……!!」


初春「わらわが……こんな……狭く小さい器だったとは……思いとうなかった……!!」ホロッ…

提督「……」

初春「……」

提督「……別に小さくもねえだろ」ナデ

初春「……!」

提督「みんなと同じになりたかった、って思うのは、あっていい望みだ」

初春「ぐ……っ!」

提督「妖精が見えるってだけで仲間外れにされる。それがなぜなのか、ガキの俺にはわからなかった」

提督「大人になれば少しは変わるかと思っていたが、社会に出てからも何も変わらなかった」

提督「それが、ここへきて、艦娘たちと一緒になって、妖精と話すことをからかわれることもなくなった。驚かれることはあったがな」

提督「俺の感覚が普通になれたんだ、と……お前たちと同じになれたって思えたのが、俺も、心地いい、と思ったさ」

初春「……っ」

提督「だから、そういうの、少しわかる気がするぜ。一緒に、共有できる喜びが欲しいって、そう思ったんじゃねえのか?」

提督「お前も、自分のことを誰かに一緒に喜んで欲しかったんだろ?」

初春「ぐ、ううう……!」


提督「なら、俺にもそのお前の悩みを共有させろよ。答えは出せなくても、向き合うことくらいはできる」

提督「必要なら……そいつがお前が忌み嫌うほどの外道なら、手を汚すのも、悪くねえ……!」

初春「ぐ、あ、あああああ……!! ば、馬鹿者……馬鹿者がぁ……!!」ポロポロ…

初春「なぜ……なんで貴様は、そこまで言えるんじゃあ……!」

提督「俺も、お前たちと同じだからな。助けてやりたいってだけだ」

初春「きさ、ま、はぁぁああ……あああぁぁ……!!」ボロボロボロ

提督「……」ナデ…

提督「……叩き潰す、か」

提督「確かに、できてたかもしれねえな……」

初春「うっ、うっ……ぐすっ……」

提督(俺も、いつかは……腹を括んなきゃな)

提督(そのときは……こいつらを、ちゃんと守ってやらねえとな……)


 * 鎮守府埠頭 *

 彩雲<バウーン

由良「あれは……新型の偵察機ね」

隼鷹「やほ~」フリフリ

電「隼鷹さん!」

由良「さっきの偵察機は隼鷹さんのですか?」

隼鷹「うん、彩雲だよ~」

電「あれが彩雲なのですか!? すっごく速かったのです!」

隼鷹「でしょでしょ~? 我に追いつくものなしって言うくらいだからねえ!」

隼鷹「ところでさ、二人ともどこ行くの? 砂浜?」

由良「はい、また見回りに……」

隼鷹「それなんだけどさあ、ちょっといま取り込み中なんだよね。悪いけど、後にしてくんない?」

由良「え?」

電「入っちゃダメなのですか?」


隼鷹「平たく言えばそうだねえ。ちょっと理由は言いづらいけど……あたしも引き上げてきたとこだしさ。ね?」

由良「……」カオヲ

電「……」ミアワセ

由良「もしかして、それで彩雲を飛ばしてたんですか? 人が入ってこないように」

隼鷹「おやおや、鋭いねえ」

電「そこまで仰るのなら、従うのです」コク

隼鷹「そう? 助かるよー」

隼鷹「しかし……なんだねえ? あたしも結構ひどい目に遭ったなあって思ってたんだけど、それ以上の子が多いんだねえ……」

電「……なのです」

隼鷹「捨て艦だって数人いるって聞いたしさ。ひどいもんだよ……」

由良「捨て艦……? ってことは」

電「朧ちゃんか吹雪ちゃんか初春ちゃんなのです」

隼鷹「……」

電「朧ちゃんと吹雪ちゃんは、踏ん切りがついたって言ってたから……」

由良「初春がなにかしてるってこと?」

隼鷹「……いやあもう、この推察力っていうの? なんなの? せっかく言葉を濁してたのに……」


由良「由良たちは、鎮守府ができて間もないころから在籍してたから、ねっ」

電「そこそこみんなの事情を知ってるのです」

隼鷹「……まー、理解が早いのは助かるけどさ……?」

電「ちなみに電たちも大破進軍で轟沈させられたのです」

由良「ねっ」

隼鷹「……」

電「気にしちゃ駄目なのです。いまこうやって生きてるのですから、割り切って前を向いて歩くのです!」フンス!

由良「そうそう、ねっ?」ニコー

隼鷹「いやあ、当事者がそう言うならいいけどさあ……ここまで察しがいいのもどうなのかねえ……」

電「それにしても、初春ちゃんはそういう悩みを誰かに言うタイプには見えなかったのです……」

由良「そうね。いつも余裕ぶってみせてる感じなのに」

隼鷹「そりゃー、理想があるからじゃない?」

電「理想……ですか?」

隼鷹「そ、理想」ウンウン


隼鷹「ほら、誰かに頼りにされたいとか、誰かの隣にいるのにふさわしくなりたい、とかさ?」

隼鷹「それとか、弱いところを見せたくない、とかさ。特にあたしらみたいに大人になると、弱ってるところなんか他人に見せたくないじゃん」

由良「ああ……そうですね」

隼鷹「こんななりして人前でぼろぼろ泣くわけにもいかないし、ねえ?」

電「……悲しい時は悲しいで、やせ我慢しないほうがいいと思うのですが」

隼鷹「そうもいかないよ。それこそ、恥も外聞もない、みたいな言われ方されちゃうよ、ここに来た時のあたしみたいにさ」

電「そうなのですか……?」

由良「そうね……いい大人がわんわん泣いてたら、みんなびっくりするわ」

隼鷹「理想ってなぁ、そういうもんさ。人に見せたくない恰好、誰にだってあるもんだよ」

隼鷹「……そういうあたしは、その理想をR提督に押し付けちゃったせいで、ここにいるようなもんなんだけどさぁ」

由良「……」

電「おとなになる、って、難しいのです……」

隼鷹「……ほーんと。そうだねえ……」


 * 砂浜 *

提督「……」

初春「……はぁ。わらわとしたことが……なんと情けない」

提督「あー、そうか。お前、割と見栄っ張りっつうか、他人にゃあ余裕ぶっていたいタイプだもんなあ」

初春「む……」セキメン

提督「とにかく、今の話は誰にも言わねえよ。安心しろ」

初春「まったく、不覚じゃの……」プイ

提督「また吐き出したくなったら早めに呼べよ。黙って聞けと言えばその通りにすっからよ、俺を掃きだめと思って捨てに来い」

初春「ふ、ふふ……まったく。人に嫌われる覚悟のできた人間は、言うことが違うのう?」

提督「そうでもねえぞ。お前らに嫌な顔されるの、最近はちょっと嫌だからな……」

初春「む!? そうなのか!?」

提督「誰とは言わねえが、飯のときに俺が食ってるデザートをうらやましそうに見てる奴がいるんだよ」

提督「俺が食い終わると残念そうな顔をして、ちょっと睨まれるんだ。それがちょっと心苦しいっつうか……」

初春「それは意地汚いだけで、普通に怒って良いと思うぞ……?」

提督「そうか?」

初春「……ちなみに、それは潮か?」

提督「いやいや、潮もそこまで欲張りじゃねえよ。余りがなくて、しょんぼりしてるのはたまに見るけどな」

初春「むう、違うのか……だとすれば、あやつかのう」

提督(……あとで大和には厳重注意かねぇ……)


提督「ま、それはそれとして、だ。お前の心残りもどうにかしてやるから、あとでお前がいた鎮守府がどんなところか教えろよ」

初春「!」

提督「潰したいんなら、それなりに前準備が欲しいからな。どうやったらそいつの顔を潰せるか、一緒に企んでやろうじゃねえか」

初春「……ふ、ふふ、良い良い。わらわのことは後で良い」

初春「ああは言うたが、これまで何の音沙汰もないのじゃ。貴様の言う通り、下手に関わらぬのが最上かも知れぬでの」

提督「いいのか?」

初春「うむ、今時点で彼奴らが我らを敵視しておらんのじゃ。わざわざこちらからちょっかいを出す必要はあるまい」

初春「それに、中佐に比べれば、取るに足らぬ小者じゃ。先に始末すべきはそちらではないのか?」

提督「……!」

初春「心残りで、目障りなのじゃろう? 貴様にとっても、みなにとっても」

提督「そうだな……その通りだ。あの野郎に限ってだけは、お前にとっても胸がすくような結末を準備してやるぜ」

初春「ふふ、そうじゃ。それで良い。あの外道のなすところは、わらわも外でよぉく聞き及んでおる」

初春「わらわこそ汚れ仕事も引き受けよう、いくらでも声をかけるがよい」フフッ

提督「……そうか。頼もしいな」ニッ

初春「当然じゃ。わらわの望みはみなの笑う姿じゃ。当然、貴様も含んでおる」

提督「!」

初春「今の笑み、我らが仇敵を討ち果たしたあとも、わらわたちに見せるがよいぞ?」

提督「へっ……やれやれ」アタマガリガリ

ということで、今回はここまで。

「墓場島鎮守府?」シリーズとしてのお話は、あと数回分の投下で終わります。
終わり方としては中途半端感がありますが、
「鎮守府が罠だらけ?」シリーズが続きとしてあることを
前提に書いておりますので、ご容赦願えればと思います。

続きです。


 * 数か月後 *

 * 墓場島鎮守府 応接室 *

 扉<コンコン ガチャ

提督「悪ぃ、遅くなった」

艦娘たち「「!」」 ガタガタッ

提督「わざわざ立たなくていい。座ってていいぞ」

大淀「引継ぎに随分時間がかかりましたね?」

提督「ちょっと余計な話をしてきたんでな。あの野郎、俺なら何を愚痴ってもいいとか思ってんじゃねえだろうな」

大淀「ああ、あの大佐の元部下だった方ですか」

提督「あれが大佐に昇進してから半月か? 未だに俺にぶちぶち言いやがる。別にそれで手前が大佐になれたわけじゃねえっつうのによ」

提督「中将に目をかけてもらって、連絡員として引き立ててもらっただけでも良かったと思えってんだ」ハァ…

提督「まあいい、愚痴はこのくらいにしとくか。お前らが余所から転籍になった艦娘だな?」

青葉「はいっ! 青葉です! よろしくお願いします!」

伊勢「あたしは超弩級戦艦、伊勢型の一番艦、伊勢です!」

日向「……同じく、日向だ」


提督「よし、じゃあお前らに最初に質問だ。お前ら、死にたいか生きたいか、どっちだ?」

青葉「はい!?」

伊勢「いきなり何言い出すの!?」

日向「……」

大淀「……提督。毎度のことですが、その質問の出てくるタイミング、なんとかなりませんか」アタマオサエ

提督「いつ訊いたって同じだろ。こういうのは早いほうがいい」

伊勢「え、ええーっと、少なくともあたしは死にたいとか答える気はないんだけど。死にたいって答える人、いるの?」

提督「ん-……今はいねえかな? 途中で言い出す奴もいたが、そのあとに撤回はしてるな」

青葉「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? 死にたいなんて口にするからには、それなりの事情があるんじゃないですか!?」

青葉「そういう相手からはちゃあんと事情を聴いて、立ち直らせるところからケアしてあげないと……」

提督「なんで俺がそこまでお膳立てしてやんなきゃなんねえんだよ。面倒臭え」

青葉「はいっ!?」

伊勢「めんど……って、ちょっと!?」

日向「……」

大淀「……まったくもう、何度目なんですかねこのやり取りは」アタマオサエ


日向「いつもこんな調子なのか」

提督「まあな。お前らみたいな自称善人には奇異に映るかもしれねえけど、俺は俺なりの基準でものを言ってるつもりだぞ」

日向「では、その助けないと言った根拠は何だ」

提督「そいつが助けを求めてもいないのに、俺が勝手に張り切って助けてやることが、果たして本当に、正しくて、いいことなのか?」

日向「……介錯するのも武士の情け、と、言いたいのか」

提督「まあ、そうだな、それが近いか。死にたきゃ一人で死ね、誰かを巻き込むな、って言いたいところだが」

日向「……」

提督「とりあえず、お前らもまだ死ぬつもりはないんだな?」

日向「ああ。死ぬ理由はない」

青葉「あ、青葉だってありませんよ!?」

提督「んじゃあもうひとつ確認だ。お前ら、この島がなんて呼ばれてるかは知ってるか?」

青葉「はいっ! 青葉、知っています! 墓場島と呼ばれているんですよね!?」

伊勢「え、なにそれ!?」

日向「……」


提督「ほーぉ、よく知ってんな。じゃあ、なんでそう呼ばれるようになったかは知ってるか?」

青葉「えーと……いわゆる姥捨て山ですかね~。処分するのに面倒な艦娘が送られる島、と聞いています」

提督「そっちか……じゃあお前も自分が面倒になった理由ってのをわかってるってことか?」

青葉「そうですねえ。青葉はおそらく、写真を撮りすぎたんでしょうね~」

提督「なんだそりゃ?」

青葉「えっとですねえ、前にいた鎮守府の司令官が大の写真嫌いだったんですよ」

青葉「それで鬱陶しがられてこちらに送られた、と青葉は認識しています!」

提督「そんな程度でかよ……ってことは、お前、カメラ持参でこっちに来たのか?」

青葉「いえ、カメラは没収されました……」タハハ

提督「ふーん。で、伊勢と日向も何か問題起こしたのか?」

伊勢「問題は別に起こしてないかな。干されてたってのはあるけど」

提督「? そりゃ珍しいな、それだけでこの島に送られるなんて初めてだぞ。ほかに理由はないのか」

伊勢「うーん、思い当たるところはない、かなあ」

提督「よくわかんねえな。日向はどうなんだ」

日向「……私は、煙たがられた、と言えばいいのか。青葉と似たような感じだが、ごくごくつまらない理由だ」ハァ…


日向「良い機会だ、提督、あなたにも訊こう。艦娘は、なんのために存在している?」

提督「……なんだそりゃ」

日向「真面目に答えろ。艦娘とは何者だ? 深海棲艦とは、いったい何だ?」

提督「ああ? そんなもん俺が知るかよ」

日向「……」

伊勢「ちょ……」

大淀「……」アタマオサエ

青葉「あ、あの、ちょっとテキトーすぎでは……」

提督「どっちの意味の適当だ? ふざけたつもりはねえぞ」

提督「俺はこれまでそんなことは考えたことはねえ。それをごくごく正直に答えただけだ。不服か?」

大淀「言い方に問題がありすぎます!」

日向「……」

伊勢「えっと……提督?」

提督「なんだ?」


伊勢「日向が前の鎮守府から追い出されたのは、こういう質問を繰り返していたから、らしいんだ」

提督「それこそなんだそりゃ?」

伊勢「あたしが聞いた話だと、出撃前にそこの提督を質問攻めにするわ、出撃してからも急いでるのにゆっくり進軍するわ……」

伊勢「一応、要所要所で敵旗艦は沈めてたらしいけど、結局足並みを乱したことに変わりないし、帰投後もまた提督を質問攻めするわ……」

伊勢「そこまでやったら、まあ、そうなるよね、っていう……ね?」

提督「なるほど。そりゃウザがられるな」

伊勢「それで、同型艦の伊勢がいれば少しおとなしくなるんじゃないか、って話で、あたしが呼ばれて、一緒にこの島に送られたわけなの」

提督「はぁ? 伊勢と日向は別の鎮守府だってのか!? ……伊勢は完っ全にとばっちりじゃねえか」

伊勢「そう思うよね?」

提督「なに考えてやがんだよ、アホじゃねえのか、あっちの連中は……」

青葉「あのう、准尉さん? この島には、そういう、何かやらかした艦娘ばかりが集められている、という認識でいいんですね?」

提督「いいや? 俺の認識じゃあそっちのが少数派だ」

青葉「違うんですか?」

提督「お前ら、島の丘の上に置いてあるもの、見てきたか?」

伊勢「え、ええ、この島に来る途中で。艤装みたいなのがたくさん置いてあったのは見たけど……」


提督「この辺の潮流が特殊なせいで、この島の砂浜には轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだ」

提督「水葬もできねえし燃やすような設備もねえ。だから、俺があの丘に土葬した」

日向「だから、墓場島……か」

提督「そういうこった」

日向「なぜそんなことをした?」

提督「あいつらは人間の言う平和のために戦って死んだんだ、人間の俺が弔ってやらねえと可哀想だし不義理ってもんだろう」

青葉「それじゃ、青葉が聞いてきた話は嘘だったんですか……」

提督「ある意味じゃ間違っちゃいねえよ。墓場島の名前だけが伝言ゲームで伝わった結果出来上がった間違った噂だが」

提督「結果的にそういう噂が信じられて蔓延ったせいで、実際にそういう扱いをされて送られてきた艦娘もいる」ハァ…

伊勢「それで私たちも?」

提督「まあ、お前らはそうなのかもしれないが……原因はだいたいそこにいた人間どもなんだがな」

提督「この島にはそれ以外に、かつて所属していた鎮守府から逃げてきた連中もいる」

提督「そこの提督の横暴に耐えられなかった奴や、反抗してそいつに暴力振るった奴とか……まあ、どこもかしこもむかつく話ばかりだ」

伊勢「うへえ……」


提督「ところで青葉。お前、人のことを詮索するのが好きらしいな?」

青葉「い、いえいえいえ! そんなことは!! ちょぉっと、人に取材をするのが好きなだけでして……」

提督「どっちでもいいが、一応、釘を刺しとくぞ」

提督「この鎮守府にいる艦娘はほぼ全員、面白くねえ過去を背負ってる」

提督「下手に詮索して他人のトラウマ呼び起こすような真似をしたら……」

青葉「……したら……?」

提督「そうだな。少なくとも、死んだほうがましだったって思えるくらいのことはしてやるよ。覚悟しとけ」

青葉「」

伊勢「それ、一番最悪なやつじゃない……?」

提督「生き地獄を味わってきた奴らもいるんだ、それを思い出させたいんなら手前にも同じ地獄を見せてやろう、ってだけじゃねえか」

日向「……」

提督「そういうわけだから、くれぐれも仲間割れはしないでくれ。俺も楽なほうがいい」

提督「あとは飯食ってるときに騒ぐなとか、ごくごく常識的な範疇の生活ルールがあるくらいで、余所の鎮守府より甘々のゆるゆるだ」

提督「出撃に関してもある程度は自由だから、出撃したいときは申請してくれ」

伊勢「出撃も自由なの?」


大淀「出撃に関しては、艦娘が独自に日程を組んで出撃しています。提督からの指示は特にありません」

提督「ぶっちゃけ丸投げ状態だ。なにかあっても責任は俺に押し付けていいから、自殺以外は好きなようにやってくれ」

大淀「もちろん、問題にならないように調整していますので、ご安心ください」

伊勢「えええ……」

提督「まあ……大まかな説明はこんなとこか?」

大淀「提督、一番肝心なことを伝え忘れていますよ? お話しして下さると思って言いませんでしたが」

提督「ん? なんか抜けてたか?」

大淀「この島には、轟沈して流れ着いた艦娘を埋葬しているとは言いましたが」

大淀「その中で、息のある艦娘をそのままこの鎮守府で登用していることまでは伝えていません」

青葉「いっ!?」

日向「!!」

伊勢「え? な、なに? 二人ともなんで驚いてるの?」

提督「……俺、言ってなかったか」

大淀「はい」

提督「……この二人の驚きようを見ると、確かに伝え忘れてたみたいだな。悪い、大淀、助かった」

大淀「はい」ニコ


提督「さてと、俺の落ち度で言い忘れていたが……」

提督「大淀が言ったとおり、この島には轟沈を経験した艦娘が、いまはだいたい4割、ってとこか? そのくらい在籍している」

提督「その理由はそれぞれだが、その轟沈経験艦をそのまま運用できる鎮守府は、おそらくここしかねえ」

提督「伊勢だけ理由を知らないみたいだが、青葉と日向は知ってるのか?」

青葉「は、はい、確か、轟沈した艦娘は、深海棲艦になる、って……実際にあったかどうかは眉唾だそうですが」

提督「ああ、それが海軍内の通説だ。実際に、昔そういうことがあったらしいが、何がきっかけで深海棲艦になるのかまではわかってねえ」

提督「俺もその話は知らなかったんだが、ある日ここに轟沈して息のある艦娘が流れ着いてきて、俺はそいつに助けてと言われた」

提督「それで俺が中将に掛け合って、離島なんだし、ここでなら運用してもいいだろう、と特例にしてもらった」

青葉「よ、よく許可してもらいましたね……?」

提督「まあな。これで深海棲艦になるきっかけが判明すればそれはそれで良し。ならないのなら、それもそれで良し」

提督「ただ、いつなんどきに艦娘が深海棲艦になるかはわからない、気の長い検証だ。だから、この島には俺しか人間がいない」

伊勢「……提督は寂しくはないの?」

提督「いいや? むしろ快適極まりねえ。くそ面倒臭え人間を相手することがなくて、ずっとこのままでいいくらいだ」


青葉「あ、あの~、確か、准尉さんは国会議員の息子さんだと聞いているのですが……なぜこの島に」

提督「ああ?」ギロリ

青葉「」

大淀「青葉さんはピンポイントに提督の嫌なところをつつきますね……」アタマカカエ

日向「君の生い立ちはともかく。君が、どうしてここで提督として在籍しているのかについては、私も知りたいな」

提督「……経緯だけ掻い摘んで言えば、俺は妖精と話ができるから海軍にスカウトされた」

提督「ところが、中将の息子の大佐が、妖精から何を聞かれるかわからないから、と俺を煙たがった」

提督「民間から登用した人間を不審死させるわけにはいかねえ。だから、あいつは俺を秘書艦もつけずにこの島へ放り込んだ」

提督「ここから出てくるな、そのまま野垂れ死ね、って感じでな」

日向「……」

提督「それから、親からは勘当されてる。妖精が見えるなんてとち狂ったことをほざく人間は、我が家には要らねえとよ」

伊勢「だから青葉が睨まれちゃったわけかあ……」

青葉「……理不尽です」

提督「つうかお前、俺の親の話はどこから掴んできたんだよ」

青葉「え? あ、いやあ、まあ、いろいろと。あははは……」


提督「つくづく良かったなあ、詮索した相手が俺で。これが艦娘相手で下手打ってたら、お前どうなってたろうな?」ニタァ

青葉「」

提督「ま、俺も愉快な過去は持っちゃいないんでな。聞きたきゃ答えるが、俺の機嫌がどうなるかは保障しねえぞ」フン

青葉「それ、遠回しに『聞くな』と言ってるようなものじゃないですか……」

提督「俺が不機嫌になるだけだ。悪いとは言ってねえ」

青葉「良くないようにしか聞こえませんよ!?」

伊勢「……なんか、すごいところに来ちゃったね」

日向「ふむ……」

大淀「ええ、皆さんそう仰います」

提督「誰か来るたびにこの話をしてるからな。いい加減話すのも飽きてきたぜ」ハァ

日向「だったら、退屈しない話をしようじゃないか」ニヤ

日向「提督、君は何のために生きている?」

提督「……」

日向「実の親を忌み嫌い、上官にも恵まれず、こんな場所で艦娘を従えて生きている、君の生きる目的はなんだ?」

提督「……艦娘が、人間の手を借りなくても、生きていける場所を作る。そいつが俺の望みだ」

日向「ほう……!」


提督「日向、そう言うお前の望みはなんだ?」

日向「私たち艦娘は、深海棲艦とは、いったい何者なのか。何のために生きているのか。それが知りたい」

提督「ふーん……そりゃまた面倒臭え望みだな」

大淀「提督、そういう真面目な話に面倒とか言うのはやめてください……」アタマカカエ

提督「面倒臭えもんは面倒臭えと言うしかねえだろが。俺に嘘をつけってか? それとも日向のご機嫌を取れってか?」

大淀「もう少し言い方を考えてくださいと言っているんです」ジトッ

伊勢「大淀、苦労してるみたいだね……」

大淀「ええ、もう……こういう場では本当に無礼というか礼儀知らずというか……」ガックリ

提督「別にいいだろ。本音が聞きたいなら、むしろこんな感じで明け透けに言わなきゃ説得力がねえ」

日向「なるほど。理屈としては面白いが……面倒臭いというのはどういうことだ?」

提督「あんな哲学的な問い、普通は唐突に訊かれてすぐ答えが出るもんじゃねえよ。だから俺は面倒臭えと言ったんだ」

日向「君はさらりと答えたようだが?」

提督「具体的に、目的と訊かれたからな。俺がいま生きてる理由と受け取っても差し支えない」

提督「が、そんなことより直近ではこの鎮守府をどうやって問題なく運用していくかのほうが重要だな」

提督「日向の問いの真意に当たる部分を考えてる余裕はない」

日向「ふむ……」


提督「とりあえずだ、金や資材の面では不自由させるかもしれねえが、可能な限りは我儘は聞いてやる」

提督「ま、日向の相談に限っては、俺が役に立てるかはわかんねえな」

日向「……そうだろうか?」

提督「俺はそうだと思ってるけどなあ? 俺みたいにある程度目的が決まった奴だと、その道を外れるような意見には否定的になるだろうし」

提督「お前が多様な意見が欲しいとか言うなら、すでに人生の方針が固まってる俺だけから話を聞いたら絶対思想が偏るだろ」

提督「人によって大事なものが違うんだし、手前の考えをこれこそが真理だ、みたいな感じで押しつけられんのも、うざってえよな?」

日向「確かに……」

提督「所詮、他人は他人。すべての人間、すべての艦娘が、まったく同じ目的のために生きてるわけじゃない」

日向「それはそうだろうか? 少なくとも艦娘は、戦いに勝って戦争を終わらせるという目的は同じだと考えられるのだが」

提督「目的が同じでも手段は様々だろ。ある時点での人間の生きる目的がひとつだったとしても……」

提督「誰が先導するか、どんなアプローチをとるかで意見も分かれるだろうし、そうなりゃ派閥もできて諍いも起きる」

提督「もしそうじゃなかったら、極端な話、戦争自体が起きなかったかもな。下手すりゃ艦娘も、軍艦も生まれなかったかもしれねえ」

日向「……」


提督「それに、確かに生きる目的が決まってた方が生きやすいってのはあるが……」

提督「誰かが作った結論一つを、人生の目的として決めつけちまうのを面白くねえと思う奴もいるだろうよ」

日向「そこで面白いかどうかで生き方を決めるのはどうだろうな……?」

提督「いや、ありだろ? というか重要だろ。面白いことや楽しいことといった『快楽』がなかったら、それこそ何のために生きるんだ?」

提督「お前が今ぐじぐじ言ってんのも、自分の中でもやもやしてることを、すっきりさせて『気持ちよくなりたい』からじゃねえのかよ」

日向「む……!」

提督「俺はこの島に来て良かったと思ってる。俺が付き合ってきたのは心底気分が悪くなる人間ばかりだった」

提督「同じように人間に苦痛を受けた艦娘が、ここで少しでも笑ってられるんなら、俺の生きてた意味はあった」

提督「だから俺の結論はそれでいい。俺はその考えを続けていくし、今、これ以上深く掘り下げる必要はないと思ってる」

提督「そこで考えを止めてる俺が、お前の問いの核心となるような答えを返せるとは思えねえな」

日向「私の問いは、君が考える問題ではない、と?」

提督「ああ、お前のいう次元の話は、金持ちが何もかも手に入れた末に暇つぶしに考えるレベルの話に思えるな」

提督「人間だろうと艦娘だろうと、無理に生きる意味なんか考えなくても生きていけるし」

提督「そんな大層なこと考えながら生きなきゃならないなんてこともないだろ?」

日向「……それが君の見解か……」


提督「大雑把に言えばな。ただ、深海の連中が何のために生きてるか、ってのは、暇なときに考えてもいいかもな」

提督「あいつらが何を悦びや愉しみにしてるのかは、ちょっと興味がある」

日向「喜び……楽しみ……か。確かに、彼らがそういう感情を抱くか自体も、わかっていないな」

大淀(微妙に言ってるニュアンスが違う気がするけど……気のせいかしら)

伊勢「ねえねえ日向、提督ってば結構いい人なんじゃない?」

日向「思ったよりは、な。第一印象ほどではなさそうだ」

大淀「ええ、基本的なところは……これで口と態度の悪ささえなんとかなってくれればいいんですが……本当にもう」ハァァ…

提督「俺がそんなことになったら気持ち悪くねえか?」

大淀「迂闊な発言をされるよりはましです。第一印象でどのくらい心証を悪くしてるか少しは理解していただきたいんですが」キッ!

伊勢「少しは気持ち悪いってところも否定してあげようよ」

青葉「あの~、司令官? もしかして、上官に対しても同じ態度をとってたりしませんよね……?」

提督「中将あたりにはさすがに猫を被るかね。大佐の野郎にゃ死んでも媚びたくねえが」ケッ

青葉「中将クラスじゃないと態度を改めないんですか」タラリ

提督「そもそも、この鎮守府に関わってくる人間が極端に少ないからな。お偉方なんざ滅多に来やしねえし」


提督「今までこの鎮守府に来た海軍の人間、この前のテレビ関係の奴ら除くと何人だ?」ヒーフーミー

青葉「テレビ関係? この島がテレビに出たんですか?」

提督「いいや? テレビ局の連中が来て、この島を取材したいとか言ってやがったが、カメラも企画も全部潰してやった」

青葉「!?」

提督「不本意ながら死人も2人出たしな。ま、鎮守府の私物化を企んでたような奴だったし、因果応報ってなもんだ」

大淀「ええと、留父さんって知ってますか? 少し前に芸能界を引退宣言した……」

伊勢「うわ、知ってる!」

青葉「青葉も知ってます!! あの人がここに来たんですか!?」

提督「違えよ。来たのはそいつの息子だ」

青葉「うーん、そうだったんですか……来たのがお父さんなら良い感じに有名になれたのに、惜しいですねえ」

日向「青葉は有名になりたいのか?」

青葉「あ、いえ、どちらかというと、そういう方々とお近づきになれたらいいな、とは思いますね~。面白そうな話、たくさん聞けそうですし」

日向「そうか。提督は、そういうものは望んでいなさそうだな?」

提督「ああ、いらねえなあ。有名になったところで、面倒が増えるだけだ」


提督「それ以前に、轟沈した艦娘が住む島だからな。お近づきになりたい奴のほうが珍しいと思うが?」

青葉「そこはそうですよね……改めて考えても、青葉、とんでもないところに来てしまいました……!」

提督「おう、絶望は今のうちにしとけ」

大淀「そうですね。ここに在籍している皆さんの前でそれを言って、不興を買うのもよろしくないでしょうし」

青葉「……」

提督「大淀が俺の追い打ちかけるなんて珍しいな?」

大淀「青葉さんの好奇心は少し行き過ぎるところがあると聞いてますので」

青葉「……青葉、少しへこみます……」

提督「それから、この島で生活するにあたって、欲しいものがあるなら申請してくれ。余程じゃねえ限りは通すからよ」

青葉「でしたら、青葉はカメラが欲しいのですが……できればプリンターも」

提督「! ……カメラ、なあ」ウーン

大淀「やはりそうなりますか……」

提督「なんでも、とは言ったが、カメラみたいな撮影器具は、ちょっと調達は難しいかも、だな」

青葉「そうなんですか……?」


提督「ないわけじゃない。この島には1台デジカメがあるが、そっちは中将の鎮守府からのレンタル品だ」

提督「この島の鎮守府には人間が俺しかいないこともあって、中将麾下の不知火がお目付け役になってくれている」

提督「その不知火が、本営への報告のためにデジカメを持参してきてくれてるんだ」

青葉「では、自由に使えるわけではないんですね……」

提督「そうだな。この島で起こったことを記録することには違いないが、例えばいつ轟沈した艦娘が漂着してきたか、とか」

提督「どの部位が流れ着いてきたとか、あまり嬉しくねえ情報を記録するために使われてるな」

日向「ブイ?」

提督「ああ。埋葬し終わってから腕だけ遅れて流れ着いたりしたときもある。その過去の記録を見るときにカメラを使ってる」

伊勢「うえっ、部位って、そういう……」

提督「轟沈させられてるんだ、五体満足なほうが珍しい。首が無えとか、胴体から真っ二つとか、そういう奴らばかりだ」

提督「極端な話だと、朝に腕が来て、昼間に胴体が来て、晩に艤装が来て、そんで次の日に頭が届く、なんてこともあったからな」

青葉「そういう写真撮影は、さすがに遠慮したいですねえ……」

提督「心情的にはそうなんだがな。けど、艦娘違いで違う奴を埋葬したくないし、せめて一か所に集めて弔ってやりたいってのもある」

提督「そのためには、カメラで記録を取っておくのが一番確実なんだ。今使ってるカメラは、その記録用と本営への報告用ってことだ」


提督「それから、この島の存在自体を記録に残したくない奴がいるってところも、調達が難しい一因だな」

青葉「は?」

提督「テレビ局が来た時もそうだったんだが、この島の情報は絶対に外に出したくない、というのが俺のすぐ上、大佐の意向らしい」

青葉「……それこそ、どういうことです?」

提督「大佐はこの島の存在を秘匿したいと思ってるみたいなんだよ。この島のどこにどんな不都合があるんだかは知らねえが……」

提督「で、不本意ではあるが、人間と関わりたくない俺の思惑と合致してるから、これまでも文句を言ってこなかったんだ」

提督「その今の状況で、個人でデジカメを使いたいとなると、島の情報が漏洩しないか、大丈夫か? って感じで突っ込まれそうなんだよな」

青葉「うーん……」

提督「プリンタもモノクロのレーザー式しかねえし、新しく頼むとなると確実に調べが入りそうな気がするな」

大淀「ほかにも、ゴムボートのようにこの島から出ることができる装備は却下されてまして……」

伊勢「えええ? いくらなんでもそれはないんじゃない!?」

日向「上官である大佐は、君をそのレベルで嫌っているというわけか」

提督「まあな。俺も俺でいくら中将の息子とはいえ、あのくそ野郎には好かれたくもねえってのはあるが」

日向「その男の下に甘んじているのは、艦娘のためか」

提督「……まあ、そうだな。俺たちの存在を隠したい大佐の思惑は、人間との接触を避けたい俺の思惑に都合がいい」


提督「艦娘を虐げたり、轟沈させるような真似をする奴らのために働くなんて、俺は嫌だからな」

日向「なるほど……」

提督「ちなみに青葉。お前、カメラで何を撮るつもりだ?」

青葉「それはもう、楽しい写真を撮りたいんです! 何気ない日常をパシャパシャと!」

青葉「それから、できれば皆さんが集まった集合写真なんかも撮らせてもらえると嬉しいです!」

提督「ふーん……」

青葉「あ、あんまり悲しいシーンは撮りたくないので、そこは分別しますよ?」

提督「……」

青葉「ど、どうしました?」

提督「……悪い、聞いたはいいが、どんな写真になるのが想像できなくてな。やっぱり、アルバムとかに閉じたりするのか?」

青葉「印刷した場合はそうですねえ。あとはコルクボードに貼り付けたり、写真立てに飾ったりとか!」

提督「んー……」

伊勢「提督、学校の卒業アルバムとかは見たことないの?」

提督「ない。ガキの頃の話なんざ思い出したくもねえな」

伊勢「どんな学生時代を過ごしてたの……」タラリ


日向「……」

大淀「もしかして、日向さんも想像できないんですか?」

日向「ああ。写真を飾って楽しむ、という概念が想像できないんだ。どんなふうになるのか、考えたこともなかった」

提督「ぶっちゃけ、写真にいいイメージないんだよな。写真週刊誌みたいに面白くもねえハプニング撮ってどうすんだ、とかよ」

青葉「これは、正しい写真の楽しみ方を教えてあげるところから始めないといけないみたいですねえ……」

提督「その前に、自由になるカメラを手に入れるところからだな」

提督「プリンタも含めて、どっかからこっそり横流ししてもらうしかねえと思うんだが」

大淀「余所の鎮守府からのフォローはおそらく見込めないでしょうね」

青葉「ちなみに、不知火さんのカメラを貸していただくことは……」

提督「あのカメラ、たしかデータ消せねえぞ? 変なもの撮影しないって約束できるか?」

青葉「……何がこの鎮守府の地雷なのか把握できていない青葉が、事故を起こさないとは口が裂けても言えませんね」

提督「理解が早いと助かる」

青葉「……まあ、青葉も平和な写真を撮りたいですからね……」ボソッ

伊勢「?」


提督「……仕方ねえ」スクッ

大淀「どうしました?」

提督「ちょっとひとっ走りしてくるか。お前らを送ってきたあの士官いるだろ。あいつにカメラを調達できねえか聞くだけ聞いてみる」

青葉「ほ、本当ですか!?」パァッ

提督「おう。とりあえず大淀、この場は任せたぞ」ガチャ タッ

青葉「あ、ありがとうございます!!」スクッ ペコリ

大淀「……さて、任されましたけど、だいたいは説明が終わりましたので……」

伊勢「とりあえず、この鎮守府のみんなに挨拶しにいかないとね」

日向「……」

伊勢「日向?」

日向「あの男。なかなか曲者だな……」

大淀「!」

日向「面倒面倒と言いながら、私の問いに澱みなく答えていた。若いながらも自身の人生観が確立している……興味深い」キラッ

伊勢「あー……」

日向「彼となら、私が望む答えを見つけられそうだ」

青葉「司令官、早速目をつけられた感じですね?」

大淀「そうみたいですね……」

伊勢「まあ、しょうがないよね~」アハハー

今回はここまで。

お待たせしてすみませんが、
回収し忘れてる設定がないか見直しながら書いてますので、
こちらはもう少しお待ちを。

続きです。


 * 1週間後 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

仁提督「ほれ。買ってきてやったぞ」ハコサシダシ

提督「……!!」

黒潮「……司令はん、これもしかして……」ハコウケトリ

青葉「デジカメですね!!」パァッ!

那珂「デジカメだって!?」パァッ!

仁提督「こいつがメンテナンスキットで、こっちが替えのメモリーカードで……」

仁金剛「こちらが領収書デース!」

提督「……」

那珂「うわああ……!! 仁提督、わざわざ買ってきてくださったんですか!?」キラキラキラッ

仁提督「俺がスマホを新調するついでだ」

青葉「青葉、感激です!!」キラキラキラッ


仁提督「んん!? お前、青葉か!? 確かこの鎮守府に青葉はいなかったと思ったが……」

提督「先週ここに来たばかりだ」

青葉「ども! よろしくお願いします!」

仁提督「ああ……准尉、貴様も苦労するな」

青葉「どういう意味ですかそれ!?」

提督「なんかあったのか」

仁金剛「ンー、それはデスネー、先週とある鎮守府と演習を行ったんデスが……」

仁金剛「駆逐艦たちが提督の背中に乗っかりまくったところを、演習相手の青葉に撮影されていたんデス」

仁提督「撮った画像を消せというのに面白がっていたからな……」イライラ

仁金剛「ビコーズ、青葉を集中砲火して大破させろと言われマシタ」

青葉「……」

提督「なんで乗っかられてんだよ」

仁提督「雪風がきっかけだと思うが……あいつら、俺をジャングルジムかなにかと勘違いしてるんじゃないか?」


時津風「しれぇ~!」トテテテテガシッ

文月「しれぇか~ん!!」トテテテテヒシッ

時津風「この人たちが演習の相手なの~?」ヨジヨジ

文月「ねえねえ、しれぇか~ん?」ヨジヨジ

仁提督「だからなんで登ってくるんだお前たちは!!」

時津風「ひゃ~!」トテテテテッ

文月「しれぇかんが怒った~」トテテテテッ

提督「……苦労してんだな」

仁提督「まったくだ……」ガックリ

雪風「黒潮お姉ちゃん、准尉さん、お久し振りです!」ビシッ!

黒潮「おー、雪風!」

提督「よう」

青葉「お久し振り……というのは、皆さんお知り合いなんですか?」

黒潮「うん、もともとうちと雪風たちは同じ鎮守府にいたんよ~」


提督「その鎮守府の司令官が馬鹿やりやがってな。黒潮だけうちで引き取ることになって、雪風たちは仁提督のところに着任したんだ」

青葉「へ~え、そうでしたか! そういうことなら折角の機会ですし! 皆さん集まってください、さっそくこのカメラで一枚撮りましょう!!」

黒潮「それ、ええなあ!」

雪風「嵐と萩風も早くー!」

仁金剛「テートクは一緒に写らないんデスか?」

仁提督「この組み合わせに俺が入るのは野暮だろう。それより、俺もスマホで4人を撮っておこうと思うんだが」

仁提督「数枚撮ってあとで現像してやれば、普段から飾っておけるしな」

仁金剛「オーウ、それもそうデスネー! あとで私とも一緒に撮影してくだサーイ!」

仁提督「……あとでな」

青葉「えへへ、新品新品~♪」

仁提督「使い始めはバッテリーも満充電されてないだろうから、あとで充電しておけよ」

青葉「はいっ、了解です!」


 * 執務室 *

仁提督「電気屋の知人に頼んで見繕ってもらったんだ。丁度モデルチェンジがあるからと、新古品というやつを買わせてもらった」

青葉「ありがとうございます! 目いっぱい使わせていただきます!!」ニコニコー

那珂「動画も撮れるんだよね!?」ウキウキ

青葉「はい! いけますよ! 早速充電しておきましょう!」ルンルン

不知火「仁提督。こちらがカメラのお代金です、お納めください」

仁提督「ん……なんだ? 多くないか?」

提督「それで電気屋の知人になにかご馳走してやってくれ」

仁提督「そういうことか。なら、遠慮せず貰っておこう」

仁提督「しかし、お前らも大変だな。まさかカメラを買うのも一苦労とは」

提督「まあ、俺がそういう部分を利用しながらこの鎮守府を隠し続けてるわけだからな。目的のための必要悪の不自由だ」

提督「俺がこんなだから、あんたたちもこの島に来るのも大変だろう?」

仁提督「それなりにな。最近は北方海域も一通り回れるようになって、南西諸島への出撃もできそうかという評価をもらっている」

仁提督「ここの鎮守府との演習をこじつけるのも、そろそろ大変になってきた。まあ、それでもまだ墓参りという名目はあるがな」

提督「……」


仁提督「貴様のことだ、目立たないように戦果を控えめに報告しているのだろうが……」

仁提督「少しは真面目に戦果をあげないと、悪い意味で目を付けられるぞ」

提督「かもな……」

仁提督「実際に、止提督だったか? 夜戦嫌いの提督が、深海棲艦の撃滅に積極的ではないという理由で僻地に追われたという話も聞いている」

提督「止提督? どっかで聞いたな……夜戦嫌いだって?」

仁提督「ああ。秘書官にも愛想を尽かされ出ていかれたとか聞いたし、貴様も気をつけろ……と言いたいが、そもそもここ以上の僻地はないか」

仁提督「代わりにここに継続着任できるような提督もおらんだろうしな。日本へ帰らないのも、然程、苦にしてないんだろう?」

提督「まあな。仮に処罰があるなら、補給を減らされるかもってくらいか」

仁提督「それはさすがに悪手だろう。この近辺の海域で深海棲艦の襲撃がほぼなくなったのはお前たちの功績だ」

仁提督「海軍の手によってわざわざ沈静化した海域を、また深海棲艦の住処にしたのでは海軍のみならず国家そのものの評価にも関わる」

仁提督「いくら貴様が疎ましかろうと、そこまで海軍が愚鈍だとは思いたくないぞ?」

提督「そりゃどうだろうな?」ヘッ

仁提督「……なんともはや、だな」ハァ


仁提督「それから、貴様の上にいる大佐だが……この前の昇格はいまいち不可解でな。裏があると思っていいのか?」

提督「俺はずっとそうだと思ってるけどな。単に中将のコネもあるんだろうが、それ以上に何か裏がある話だと思ってるぜ、俺は」

仁提督「……そのせいかどうかわからんが、その大佐が自分の部下にした提督たちを集めて、なにやらきな臭い動きをしているようだぞ」

提督「!」

仁提督「なんでも、姫級の深海棲艦の居場所というか、塒を見つけたらしい。そこへの総攻撃の準備をするため、精鋭を集めているんだと」

仁提督「精鋭と言えば聞こえはいいが、集めているのは大佐の息がかかった連中ばかりだ。戦果を独り占めする気じゃないかとしか思えん」

仁提督「手数は多いに越したことはない。貴様にもお呼びがかかっていると思ったんだが」

提督「……俺にもか?」

仁提督「ああ。姫級や鬼級といった強力な連中は、1回や2回の攻撃ではまともに攻め落とせないらしいんだ」

仁提督「波状攻撃で5、6回くらい奴らに膝をつかせないと撃破が難しいから、討伐には複数の艦隊を用意せねばならんと聞いている」

提督「あんたは交戦したことがないのか?」

仁提督「直接はない。その姫級が連れてきた敵空母、ヲ級の上位種と数回交戦した程度だが、それでも酷い目に遭った」

仁提督「当時は北方海域の敵にも手こずっていたし、艦隊の対空要員も育っていなかったからな。それ以来か、榛名に三式弾を持たせたのは」

仁提督「もし貴様にお呼びがかかるとしたら、当時の俺と同じように、姫級の取り巻きを引き付ける囮役を任されると思うんだが……」


仁提督「貴様らのいびつな関係を考えると、この島の艦隊まるごと捨て艦にする気じゃないかという気がしないでもない」

提督「かもしれねえな。つうか、最初からそのつもりじゃねえか? だから俺を呼ばずに作戦を知らせる気もないんだろうさ」

仁提督「貴様も否定せんのか。つくづくどうかしているな……」

提督「どうかしてんのは大佐の野郎さ。そんな重要な作戦、連中だけで片付けられるつもりでいるのが気に入らねえ」

提督「ついこの前、大佐になったばかりのわがまま坊主に、複数の艦隊まとめ上げる指揮能力なんかねえと思ってんだけどなぁ?」

仁提督「そうは言うが、この前の空母棲姫の邀撃はあいつの手腕じゃないのか?」

提督「ありゃあ部下に特攻命じてたようなもんだぞ? 死んでも守れ、じゃなく、全員生還できる戦術を見せろってんだよ……!」ムスッ

提督「それから、あの野郎がそうそう負けを受け入れるとは思えねえからな。多分、なんらかの保険をかけてるとは思うんだが」

仁提督「そういや、どっかの少将の協力をこぎつけたとかなんとか聞いたような気がするな?」

提督「父親の中将じゃなくてか?」

仁提督「ああ。俺の上官も少将なんだが、難しい顔をしながらそんなことを言っていたぞ。どこの少将かは聞けなかったが」

青葉「え? 仁提督の上官も少将なんですか?」ズイッ

仁提督「うおっ!?」

青葉「ちょおっと恐縮ですが……仁提督の上官にあたる少将と言うのは、どなたかお伺いしても?」

仁提督「お、俺の上官か? 与少将だが……」


青葉「ああ、あの! 大和に振り回されたっていう、あの与少将ですか!」

仁提督「……」アタマオサエ

提督「そういや、そういう話だったな……」アタマオサエ

仁提督「事実っちゃあ事実だが……そんな感じで噂が広まっているのか?」

青葉「青葉が聞き込んだ限りはそうでしたねえ。自分の艦隊にいなくて初めて見たから、はっちゃけちゃったと聞いています!」

仁提督「そこまで噂になってんのか……」アタマカカエ

青葉「だた、それ以外の話で聞けば、おおむね好意的でしたね。大規模作戦には、未熟な提督も参加できるよう編成を工夫してあげたり」

青葉「部下の艦隊にいない艦娘との邂逅時には、その艦娘を無償で移籍させてあげたりとか、面倒見の良さには定評があると」

青葉「ご自身が持っていない艦娘と出会ったときに鬱陶しいぐらい羨ましがられる以外は、問題ないと聞いていますね!」

仁提督「……まあ、ちょっと子供っぽくて面倒見が良すぎるところもアレではあるが、致命的な欠点ではないからな。悪い上司じゃない」

青葉「いやあ、そうでしたか! 安心しました!」

仁提督「なんだそれは……」

青葉「いえいえ! どうも失礼しました!」タタタタッ

仁提督「なんなんだあいつは?」ヒソヒソ


提督「……最近来たばかりだから、俺もまだ性格や素性が掴めてねえんだよ。もしかして、出身が少将のとこなのか?」

仁提督「お前も知らんのか」

提督「報告書に、以前どこの鎮守府にいたのかって書いてなかったんだよ。おそらく突っ返されるのが嫌なんだろう、って青葉が言ってたが」

提督「当人もそいつとは縁を切りたがってるらしくて、どこの鎮守府の出なのか頑として言いたがらねえ」

仁提督「向こうも青葉を切り離したがってるんなら、もう関わらない、でいいんじゃないのか? 人嫌いのお前らしくもない」

提督「俺としちゃあ、そいつがいきなり乗り込んでこないか心配なんだがな……」

提督「そいつがどういう気性の奴なのか、どんな事情持ちかがわからねえと、いざ来た時にどうやって追い返すかの対策が立てられねえ」

仁提督「……実に貴様らしい理由だな」ハァ

提督「写真に撮られるのが嫌いらしいから、わざとカメラ向けて追っ払うってのもありなのかもしれねえけど……」

仁提督「誰でもいきなりカメラを向けられたら、いい気分にはならんと思うがな」

提督「とにかく、大佐がそういう行動をしてるって情報はありがたいな。赤城に探りを入れてみるか」

仁提督「なあ、その赤城は本当に大丈夫なのか? 相変わらず、大佐の言うことを忠実に聞く冷徹な艦娘という噂が流れてくるんだが」

提督「気にすんな。それでいいんだ、赤城の奴は」

仁提督「それでいいときたか」


提督「他言すんなよ?」

仁提督「ああ、他言はせん。話そのものはまったくもって気にいらないがな」

提督「……」

仁提督「ふん、そんな目をするな。俺も大佐には関わりたいとは思ってないから、着様らのやることに首を突っ込むつもりはない」

仁提督「が、まるで貴様と赤城が海軍の悪を隠れて退治するために、他人を遠ざけるよう共謀しているように見えて、いろいろと気に入らん」

提督「別にそんなんじゃねえよ。俺は俺の気に入らない奴を潰したいだけだ」

仁提督「本当か? 思えば貴様は人を見限ったようなことばかり言ってるようだが……」

仁提督「正義のために死のうとしてるから嫌われたがってる、ともとれるが?」

提督「正義ぃ!? やめろよ気分悪ぃ。俺は艦娘を食い物にしている連中が許せねえってだけだ」

仁提督「……」

提督「なんだよ、その顔は」

仁提督「なるほど、貴様は艦娘の味方というわけか」

提督「……」

仁提督「まあいい。とにかく、貴様もあまり危ない橋を渡ってくれるなよ? 黒潮にもしもがあれば雪風たちが悲しむ」

提督「そうなる前に、あんたに黒潮を託せられるようにするさ」

仁提督「そうじゃない。貴様も命を大事にしろと言うんだ。貴様がいなくなっては、この鎮守府の艦娘が困るんだろうからな」

提督「けっ。余計なお世話だ」


 * 鎮守府埠頭 *

提督「あのおっさんも随分お節介焼きになりやがったな……命を大事にしろ、か。やれやれ」アタマガリガリ

大淀「ごもっともだと思いますけど?」

五十鈴「そうよ。心配してくれて、いい提督じゃない」

提督「そうでもねえよ。あいつ、この島に来た時は使い捨て出来る駆逐艦を探しに来てたんだぞ?」

五十鈴「そうなの!?」

提督「しかも、そこの長門がちょっと問題でな……締まりのない顔で駆逐艦を追い掛け回してたんだ。うちの長門と大違いだ」

五十鈴「……ここの鎮守府の長門さんのほうが珍しいと思うんだけど」

提督「なに?」

五十鈴「前の鎮守府にいた長門さんも、寄ってきた駆逐艦にはデレデレになって、ラムネで気を引こうとするくらいには甘かったわよ?」

提督「……」

五十鈴「演習で余所の鎮守府の艦隊が来た時も、そこの長門さんがこっちの駆逐艦にやたらとアピールしてたし」

五十鈴「あとはやたらと駆逐艦に過保護な長門さんが来てた時もあったわね。旗艦なのにやたら駆逐艦を庇いまくるの」

五十鈴「ここの長門さんみたいに、駆逐艦に囲まれても穏やかにしてる長門さんのほうが、私は珍しいって思ってるけど」

提督「……マジか」


五十鈴「他にも畑仕事に精を出す初雪とか、お料理上手な比叡さんとか、やたら大人びた言動の暁とか、夜中にうるさくしない川内とか」

五十鈴「一体どこから連れてきたの、って言いたくなるような艦娘が多いわよ? まあ、問題がないから誰も言及しないんだろうけど」

提督「そりゃあな。いい傾向なら、別に悪化させなくていい」

五十鈴「そうよねえ。だから、何もないところで転んでる五月雨を見ると、ちょっとほっとするのよね」

提督「……余所でも転んでんのかよ」

大淀「こう言ってはなんですが、ドジな子であるという共通認識ではありますね」

提督「まあ、確かにそういう傾向のところもあるな。余所だと顕著なのか?」

五十鈴「そうねえ、例えば私が居合わせてた時は、提督にコーヒーを運んできたら、必ず頭からぶちまけるくらいには顕著だったわね?」

大淀「それはまた……」

提督「……」

五十鈴「そういえば、ここで提督がコーヒーまみれになってるとこ、見たことないわね?」

提督「うちの五月雨は持ち運んでるものを零したり壊したりしたことはないぞ?」

五十鈴「そうなの!?」


大淀「よく転びはしますが、書類でもコップでもちゃんと落とさず運んできますね」

提督「その代わり、持ち物をかばうようにすっころんでるせいで、額やら腕やらに痣を作りまくってるけどな」

五十鈴「……やっぱり、ここに集まる艦娘って、ちょっと変わってるわね」ウーン

五十鈴「考えてみたら利根さんも、余所の利根さんよりしっかりしすぎてる気がするし、筑摩さんもあんな感じじゃなかったし」

提督「ちょいと複雑な環境にいた奴らばっかりだからな。そういうお前はどうなんだ?」

五十鈴「私? うーん……どうかしら? そりゃあ前の鎮守府には五十鈴がたくさんいたけど、一人目以外はみんな達観してたし?」

五十鈴「一人目の五十鈴も私たちにどう接したらいいかわかんないみたいで、余所余所しかった気がするわ」

提督「まあ、そうもなるか……解体確定の自分と同じ顔した奴だもんなあ」

五十鈴「あ、私、解体って言ったかしら。どちらかと言えば解体じゃなくて近代化改修のほうが多かったわね」

提督「改修? なんだそりゃ」

五十鈴「いわゆる部品取りみたいな感じなんだけど、五十鈴って素材にしてもいい感じみたいなの」

大淀「確か、五十鈴さんが素材になると、対空能力の強化ができたはずですね」

提督「ますますなんだそりゃ。その改修ってのは、艦娘がいないとできねえのかよ」

五十鈴「そうみたいよ? どんな仕組みかは聞かないとわかんないけど」

提督「……今度妖精に訊いてみっか」


 * 執務室 *

青葉「司令官! 質問があるんですが、この島で写真を撮ってはいけない場所はありますか?」

提督「うん? 俺としては特にねえと思ってるが……何を撮る気だ? 風呂場とか盗撮みたいな真似だけはやめとけよ?」

青葉「それは勿論です! 迂闊なことをして不評を買いたくありませんので!」

青葉「ここへ移るときも、ここより僻地はないからせいぜい気をつけろと言われたくらいですから!」

提督「誰だそんなこと言っ……って、あいつか!? あの士官か!?」

青葉「はい、ここに連れてきてくださった、あの士官さんですね」

提督「ったく、あの野郎、好き勝手言いやがって……まあ、間違っちゃいねえけどよ」

青葉「認めるんですか……」

提督「まあな、人に言われるのはむかつくが仕方ねえ。仮にここから追い出すっつっても、あてにできそうな鎮守府がねえのは事実だし」

提督「おまけに呉の中将からは、この島に立ち入った人間と艦娘は呉に近づけるな、みたいなことも言われたしな」

青葉「ええ……?」

提督「良くは知らねえが、よっぽど忌み嫌われてるっぽいぞ。この島そのものが」

青葉「……それじゃ、ここから余所の鎮守府に移る可能性って、ものすごく低いってことですか」

提督「なくは……いや、実際にねえな」

青葉「ないんですか……」


提督「余所の鎮守府の艦娘が数日滞在してて、そいつらがまた別の鎮守府に行ったことはあるが……」

青葉「ここに着任した艦娘が転籍したっていう実績はない、ってことですかぁ」

提督「だな。ただ、ここに来た艦娘のうちだいたい半分……轟沈を経験してる艦娘が、一番長くて2年近く島に滞在して深海棲艦化しなかった」

提督「この事実を本営がどう見るか、そろそろ判断してもらわなきゃなんねえんだよな……してもらいたくねえが」

青葉「司令官は、この島から艦娘を、社会へ帰してあげることを躊躇っておいでですか?」

提督「俺が人間を信用してないからな。少なくとも、この島に対して偏見がある以上、そこから来たとあっては色眼鏡で見られて当然だろうさ」

提督「下手すりゃいじめが生まれるからな。呉のお偉方もそうなんだし、そういう偏見を本営が取っ払えるとは思えねえ。それに……」

青葉「……司令官?」

提督「いや、なんでもねえ」

摩耶「ま、とにかく心配なんだろー? 島から出た艦娘が、まともに取り扱ってもらえるか、って」ヌッ

青葉「!」

摩耶「よっ、邪魔すんぜ。こいつ、使い捨てにされてないか、わざわざ別の鎮守府に移った三日月たちの心配までしてくれてんだ」

摩耶「あたしたちも余所の鎮守府に移ろうもんなら、心配で夜も眠れなくなるんじゃねーの?」

提督「……普通は心配するだろうが。お前はお前で、その言葉遣いをなんとかしねえと、目ぇ付けられんじゃねえのかよ」

青葉「いえいえ、摩耶さんはどこの鎮守府でもこんな感じですよ?」

提督「そうなのか?」


青葉「はい。ほかの艦娘にも、もっと言葉遣いが荒いというか、オラオラした人もいますよ? 軽巡洋艦の天龍さんとか」

提督「は? 軽巡? 神通とか由良とか、あのくらいのなりでか?」

青葉「そうですよ~、威勢よくに突っかかってきますからねえ。死ぬまで戦わせろよ! って感じで!」

提督「ふーん。そりゃもう駄目だな」

摩耶「あぁ? お前も似たような言葉遣いじゃねーのかよ!」イラッ

提督「俺が駄目だっつったのは『死ぬまで戦わせろ』なんて言ってるとこだよ。摩耶はそんなこと言わねえだろ」

摩耶「お、おう……まあな」

提督「むしろお前の場合は、誰かがそんなこと言ったら、ふざけんなよって止めに入る側だよな?」

摩耶「ま、まあ、そーかもしんねーな……」テレッ

青葉「……」

提督「摩耶は面倒見がいいからな。あえて心配するとしたら、他の奴を庇って無理しないかのほうが心配だ」

摩耶「そ、そうかよ……」

青葉「司令官は摩耶さんを随分信頼してますね?」

提督「まあ、少なくとも大きく間違ったことは言わねえからな。心情的な話になっても頷けることは多いし」


提督「それに、上でも下でも仲間のことをよく見てる。間違いなく俺より気遣いもできるし面倒見も愛想もいい」

摩耶「……」セキメン

提督「おまけに妹思いだ。鳥海褒められて本人より胸張ってんだぜ、どんだけ可愛いんだよ」

摩耶「……」プルプル

青葉(摩耶さん、めちゃくちゃ恥ずかしがってますね……褒められ慣れてないんでしょうかねえ)

提督「ま、そういう感じで気持ちのいい奴だからな。くそが、なんて口の利き方さえしなきゃ、どこ行ってもやっていけるだろ」

摩耶「ああ!? おまえだってくそとか言ってんじゃねーか、くそが!」

提督「ああ!? 俺はくそでクズだからいいんだよくそが! お前がくそくそ言う方が不似合いだっつってんだろが!」

摩耶「そうやって自分を卑下しまくってんじゃねーよ! てめえはあたしたちの上官だろ!? 情けねえっつってんだろーが!」

提督「一丁前に気ぃ遣ってんじゃねえよ! 外の連中なんざ適当でいいんだから、お前らも俺のことは適当にこき使えってんだろーが!」

青葉「……唐突にイチャつかないでいただけませんかね?」

提督&摩耶「「イチャついてねえっつってんだろ!」」

青葉「なんですかその前も言われたことがあるみたいな言い方……」

提督「……まあ、確かに気が合うっつうか馴染むっつうか、摩耶が俺に雰囲気似てんのは不本意ながら認めるけどよ……」

摩耶「だからその不本意ってのはなんなんだよ、くそが……!」


提督「そういう粗野なところは似て欲しくねえってだけだろが。お前、鳥海のことは品があって可愛いって自慢してんだろ?」

提督「鳥海のそういうところをお前が褒めてんのにお前自身がそれを見習う気がねえんじゃ、言ってることとやってることがあべこべじゃねえか」

摩耶「いいんだよ、それが鳥海のいいとこなんだから。あたしにはそういうの似合わねーんだから」

青葉「意外と似合いそうですけどねえ……」ボソッ

摩耶「いいっつってんだろ、そーゆーのは!」

青葉「本っ当に似てますね、摩耶さんと司令官は……」

摩耶「……そーかぁ?」

提督「それより、摩耶はどうかしたのか? お前、今日は休みだろ?」

摩耶「ああ、あたしの用件は特に急がないっつうか、ちょっと相談しに来ただけなんだけどさ」

提督「相談? 困ったことでもあったのか」

摩耶「最近、鳥海がよく温泉に行ってるだろ? 更衣室を作ってもらえないかと思ってさ。岩が目隠しにはなってんだけど、あれじゃなあ……」

提督「あぁ……確かになあ」

摩耶「湯船に浸かってる間はともかく、着替えてるときに最上の飛ばした瑞雲とかが飛んでくると、ちょっと気分良くないだろ?」

摩耶「眺めはいいんだけどよ、いくら防水とはいえ服を入れとく棚だけが置いてあるってのも、どうかと思うんだ。屋根くらいはつけて欲しいんだ」

提督「まあ、確かにな」


摩耶「あの温泉、なんで湯船だけ作ってあるんだ?」

提督「あれはもともと、はっちゃんが自分の体を温めるために作ったやつだからな」

提督「他の人が入ったりとか、そもそもみんなに教えること自体、想定してなかったらしいんだ」

提督「それが今はみんな使うようになったからなあ……確かに偵察機飛ばす練習もするし、温泉の製作者の意見も聞いて検討させてもらうか」

摩耶「お、やってくれんのか?」

提督「ああ、おそらく問題は建材くらいだな。大風呂に個人用を増設したときの木材とかが残ってりゃいいんだが」

摩耶「そっか。屋根があると嬉しいから、マジで頼むぜー。あ、それから青葉」

青葉「はい! なんでしょう?」

摩耶「お前、更衣室にカメラ仕掛けたりすんなよ?」

青葉「しませんよ!?」

提督「やっぱりお前、そういう奴なんじゃねえか」

青葉「風評被害甚だしいですよぉ……」ガックリ


 * 2週間後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

不知火「司令。こちらをご覧ください」

提督「……へえ、いよいよ来たか」

如月「どうしたの?」

提督「本営に来いとよ。噂の姫級の撃滅作戦への参加要請だと」

如月「! いよいよ来たのね……!」

不知火「この招集は中将閣下からですので、不知火が同行します」

提督「……早めに行きたいな。赤城に情報を集めてもらってるんだろう?」

不知火「はい。すでに船も手配しております」

提督「……久し振りの日本か。あの大湊以来だな」


 扉<コンコン

大和「失礼いたします」チャッ

 ゾロゾロ

吹雪「失礼します!」

金剛「テートク! 無理は禁物デース!」

提督「おぉ……また大勢で来やがったな」

朧「提督、本営に行くんですか?」

提督「ああ。どこで聞いてきた」

初春「大淀と不知火が神妙な顔をしておったからの。大淀に話を聞いてきたのじゃ」

電「司令官さん、本営に行って大丈夫なのですか?」

提督「そこまで心配すんな、別に腹を切れって話じゃねえからな。まあ、罠の可能性は考えてなくはねえが……」

提督「不知火も赤城もいるし、中将も承知してる。大佐の奴にしても目立ったことはしてこねえだろうさ」

榛名「提督! 私たちもご一緒いたします!」


提督「いや……お前らには、俺自身よりこの島の留守を頼みたい」

初雪「留守……?」

提督「ああ。なんせこの島の人間は俺一人だ。その間に、知らない人間が島に上がってきて好き勝手される方が俺にとっては痛手だ」

潮「そんなことを考える人、いるんでしょうか……」

提督「いずれにしろ、帰る場所は大事だからな。そいつは守っておいてもらいたい」

伊8「はい、それはとっても大事です」

提督「異常があればすぐに知らせてくれ。最悪、やばいと思ったらすぐ反撃していい、最優先は島の防衛だ」

提督「今回は珍しく不知火が無線機を持ってきてくれた。事後でもいいが、できれば早めに連絡を頼む」

不知火「残念ながら旧式ですが、こちらを使えばどこにいても不知火と連絡できます」

大和「……わかりました、お預かりいたします」

提督「先日、不知火経由で中将からの作戦概要を伝えたと思うが、この島が巻き込まれる可能性が高い」

提督「正直、どこでなにがおこるかわからねえ。万全の状態で出撃できるように、各々の装備の確認を済ませておいてくれ」

艦娘たち「「!!」」


 * 工廠 *

最上「ふーん、それで今日は遠征や出撃を控えようって話なんだね」

武蔵「そういうことだ」

足柄「大袈裟ね、って言いたいけど、まあ提督の心配もわからなくないわね」

日向「……つくづく難儀しているんだな、この鎮守府は」

伊勢「どうせなら不知火だけじゃなくって、戦艦や空母の誰かがついて行ったほうがいいんじゃない?」

朝雲「その辺は心配ないですよ、不知火が中将麾下の艦娘ですから」

伊勢「え、そうなの?」

五十鈴「提督以外に人間がいないから、憲兵の代わりのお目付け役なんですって」

隼鷹「憲兵も着任を嫌がってたんだっけ? すごいところだよねえ」

日向「何から何まで提督任せの鎮守府なのだな……」

由良「だからこそ、ここまで鎮守府を好き勝手できたとも言えますけどね?」

山雲「変なお客さんが来なければ、ゆっくりできますし、ねー」

五月雨「山雲ちゃんが言うと説得力あるなあ……」

明石「それじゃあいい機会だし、皆さんの装備の見直しでもしましょうか!」

若葉「それはいいな。若葉も付き合おう」

加古「待った待った、若葉が一緒だと明石が寝不足になるから、時間決めてやってよ」

三隈「先日は明石さんが工廠の床で寝てましたものね……」

青葉「目の下にクマを作られても困りますし、ねえ?」

若葉「むう……」


 * 鎮守府埠頭 *

黒潮「なんや、さっきまで曇り空やったのに、晴れ間が出てきたわ」

龍驤「しっかも、ええ風が吹いてるなあ……」

千歳「本当。穏やかで、気持ちいいわね」

神通「対姫級の作戦ですか……これが嵐の前の静けさとは思いたくありませんね」

古鷹「大丈夫です! 私たちはこれまで、何度もトラブルを乗り越えてますから!」

雲龍「そうね。きっと、嵐が来ても、私たちなら立ち向かえるわ」

鳥海「あっ、司令官さん! お疲れ様です」

提督「……なんだ、もしかして全員出てきたのか」

長門「ああ。以前はこうやって見送ることもできなかったが……」

比叡「今回はみんなで見送ることができますね!」

提督「大袈裟だな……と言いたいが、これから行くところが物騒だからな。ま、お前らの顔見て安心するのも悪くねえな」

霧島「海軍本営が物騒と仰いますか……」

那珂「提督にとっては伏魔殿って感じだよね!」

筑摩「仮にも私たちはその海軍に所属しているのですが……」

白露「とは言っても、信用できないところも多いからねー」


利根「うむ……これまで起きた騒ぎの中で、納得できないことも多かった。そう言う意見が出てもやむを得まい」

川内「提督も提督で、変な考え起こしちゃ駄目だよ?」

提督「ああ、やる時は、ちゃんと考えてからやるさ」

山城「ちょ……やらかす前提で向かうつもり!?」

提督「まあ、多分やらかさざるを得ない状況になるんじゃねえかな……これから行く話に、あの大佐が噛んでんだぜ?」

扶桑「では、そうならないようにお祈りさせていただきましょう」

朝潮「朝潮も同感です! 司令官、どうかお気を付けて!」ビシッ

霞「さっさと用事を済ませて、とっとと帰ってきなさいよ!」

敷波「……素直じゃないなあ」ボソ

霞「何か言った!?」

敷波「ん? 言ってないよ?」シレッ

島風「ほらほら、時間が押してるんでしょ!? 速く行って! そして速く帰ってきてね!」

暁「そうよ、留守は私たちに任せておいて!」

提督「……ああ、んじゃ、任せるぜ」ニッ

摩耶「おう、安心して行ってきな!」


大淀「提督。出航の準備ができました」

提督「ああ、じゃ、行ってくる」

大和「提督! ご武運を!」

吹雪「お気をつけて、司令官!」

如月「司令官! いってらっしゃい!」

提督「おう」ウナヅキ


(提督と不知火が小型輸送艇に乗り込むと、じきに輸送艇が離岸し始める)

 小型輸送艇<ザザァ…


長門「……」

如月「行っちゃったわね、司令官……」シュン…

千歳「大丈夫よ、そこまで長期間の出張ってわけじゃないんだし」

大和「……」

武蔵「……大和?」


大和「はあぁ……」ガックリ

武蔵「おいおい、提督不在と言うだけで大仰にため息をつくな。駆逐艦たちに示しが付かんぞ」

大和「そうは言うけどぉ……鎮守府に提督がいない、って考えると……」

如月「そうなのよね……私たちが遠征や出撃から帰ってきたら司令官がいるっていう、あの安心感……」

朧「あー……」

伊8「わかります」

吹雪「うん、なんとなくわかる……」

榛名「榛名もわかります!」

金剛「テーーートクゥーーー!! Please come baaaaaack !!」

長門「今行ったばかりなのに早すぎるぞ!」

武蔵「本っ当に示しが付かんな!」アタマオサエ

霞「……ま、そのうち帰ってくるでしょ。心配は心配だけど、あたしたちがぐだぐだでどうすんのよ」

大淀「その通りです。留守の間に鎮守府の様子が変わっていたら、提督に余計な心配をさせてしまいます」

摩耶「ま、そうだなー。あたしたちが普段通りに出迎えてやらねーと、あいつ、まーたこーんな顔すんぜ?」


利根「うむ、その通りじゃ。どれ、吾輩たちはカタパルトの整備に行くか」

筑摩「はいっ!」

白露「それじゃ、私たちは航行訓練してくるね!」ダッ

島風「あっ、白露待って!」ダッ

長門「……いつも通り、か」

武蔵「そうだな。これからでかい任務が来るわけだ。備えるとしようか」

 ゾロゾロ…

大和「……提督……」

如月「司令官……!」

金剛「テェーーーーートクゥーーーーーー!!」

 ザザァー…




 * 太平洋上 小型輸送艇内 *

提督「……」

不知火「司令、こちらの資料を。赤城さんからです」

提督「ん……」ペラッ

不知火「そういえば、初めて司令とお会いしたときは、私が島に一人、留守番を務めていましたね」

提督「ああ……如月を連れてこい、って命令されたときの話か」

不知火「はい。大佐……あのときは少佐でしたか。その少佐のスケジュールと、中将閣下へのコンタクトができる時間を調べ……」

不知火「あなたが、刺し違える覚悟で如月と私を助けていただいたこと。感謝しております」

提督「……そうか」

不知火「今度は、私が助ける番ですね」

提督「なに言ってやがる。俺はお前にこれまで散々助けられてるじゃねえか」

不知火「……そうでしょうか」

提督「そうだよ。感謝してるんだぜ、これでも」

不知火「……光栄です」


提督「……」

不知火「……」

提督「……なあ、不知火?」

不知火「はい」

提督「……俺は、どんな手を使ってでも、あいつらを守るつもりでいる」

提督「もし……『もしも』の事態が発生したら……頼むぞ」

不知火「……はい。そうならないことを祈ります」

提督「ああ、そうだな。まったくだ」

提督「そうならないために……俺はどんな手でも、使ってやるぜ」

提督「さて、行くか。俺たちの未来のために」

不知火「……」コク



 小型輸送艇<ザザザァァ…!





 * 「鎮守府が罠だらけ?」に続く *


 * * *

 * *

 *


??『絶望が近づいている』

??『ようやく……ようやく、彼に絶望の刻が訪れる』

??『絶望が怒りを呼び、悲しみを呼び、憤りを呼べば、我らがあるじが再臨される』


??『ひとたびあるじが目覚めれば、それを慕う者たちがこの世に召喚される』

??『人間も、それを守護する艦娘も、それに仇なす深海の者どもも、等しく魔神様の糧となる……』





??「魔神様」

??「さあ、起きて」

??「人間狩りの時間だよ」



.

ということで、この「墓場島鎮守府?」シリーズはここまでで完結です。

中途半端な終わり方になりますが、この続きは本編となる「鎮守府が罠だらけ?」につながっていきます。

本編も続きを書いておりますので、興味ある方はよしなにお願い致します。

数日の間はHTML化の申請はせず、質問等あれば返せる分だけ返そうと思います。

では、見てくださった皆様に感謝しつつ。
良いお年をお迎えください。

こちらのスレッドは完結しました。
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このSSまとめへのコメント

1 :  バグキャラ   2022年05月17日 (火) 03:23:44   ID: S:dsxtxt

今のところ自分の中で断トツ1位で墓場島鎮守府がすきだわ

2 :  SS好きの774さん   2022年06月17日 (金) 01:37:21   ID: S:QbcfaI

待ってた

3 :  ネコ丸   2022年07月25日 (月) 16:01:24   ID: S:0-bC37

いつも楽しみにしてます。ありがとうございます。

4 :  ジョセフ級原潜   2022年07月26日 (火) 19:17:09   ID: S:Q8AlMB

久しぶりに見たけど来た甲斐があった
まさかこんな進んでいたとは

5 :  SS好きの774さん   2022年08月24日 (水) 07:59:08   ID: S:rPq57E

続きはよ

6 :  SS好きの774さん   2022年09月20日 (火) 17:39:56   ID: S:v0lbbW

youtubeで見つけてからナンコレスッゲーオモシロイってなってから半年間隔で見に来てる。下手な小説より何倍も面白くて飽きない

7 :  SS好きの774さん   2022年09月27日 (火) 01:32:49   ID: S:Wk29iq

完って表示されてるけどこれからはこっちの更新はなし?

8 :  SS好きの774さん   2022年10月14日 (金) 01:56:07   ID: S:uF5LjQ

そろそろかと思ったらまだ更新は無いのかな?
YouTubeで続きは出ているみたいですが検索にはその4までしか引っかからないので情報がほしい。

9 :  SS好きの774さん   2022年11月13日 (日) 17:22:39   ID: S:dZsVtj

まさか昨日更新されたとは

10 :  SS好きの774さん   2022年12月20日 (火) 19:29:52   ID: S:jP3BOT

演習にやってきた仁提督のとこの雪風が[鬼は司令達で両鎮守府対抗鬼ごっこがしたいです]といったら、採用されちゃいそうだね。どっちの司令も断れない性格だし。

11 :  SS好きの774さん   2022年12月24日 (土) 05:18:08   ID: S:i5gWEN

[ひろい世の中は赤の色や、緑の色や黄の色や、さまざまな、数えきれぬ色合いによって、成り立っているのじゃ]。墓場島提督は池波正太郎先生と同じように考えてるようだね。
池波作品読んだのかな?

12 :  SS好きの774さん   2022年12月30日 (金) 11:07:11   ID: S:YWHoFa

明日で今年は終わろうとしている。

13 :  SS好きの774さん   2023年01月02日 (月) 08:10:00   ID: S:Wbk5b0

ここまで慕っている不知火に魔神エンドの提督は、あの選択を迫ったのか……

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