提督「墓場島鎮守府?」 (985)


【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/)

上記スレッドの番外編です。

・舞台になっている鎮守府、通称『墓場島鎮守府』の過去の話になります。
 提督の着任から、各艦娘がこの島へ着任するに至った経緯を書いていきます。

・艦娘の殆どが不幸な目に遭っておりますので、そういう話が嫌な方は閉じてください。

・影牢のキャラは出てきません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476202236


艦娘以外の主要な登場人物

・提督
 階級は准尉。一般人には見ることも出来ない妖精と話が出来たせいで
 親からも変人扱いされ人間嫌いをこじらせる。

・小佐
 戦争は金儲けの道具と考え、中将の威光を傘に暗躍。後に大佐にまで昇進する。
 妖精と会話できる提督に危機感を覚え、離島の鎮守府に閉じ込めようとする。

・中将
 小佐の父親。有能だったらしいが息子が絡むと駄目になるらしい。

 * 太平洋上某所 離島の鎮守府 *

士官「本日より、ここがあなたの鎮守府になります」

提督「……」

士官「日本から離れたこの島で、一人で生活していただくのは大変心苦しいのですが……」

士官「これも国民のため、ひいては世界平和への貢献につながります」

提督「……ああ」

士官「この鎮守府の執務室に、少佐殿の鎮守府直通の無線機を設置しております」

士官「着任次第、連絡を入れていただくよう命令が来ておりますので、まずは少佐殿へご一報をお願いいたします」

提督「……」コク

士官「自分は別鎮守府への参集命令がありますので、荷卸しが終わり次第失礼いたします!」

士官「提督、ご武運を!」ビシッ

提督「ん……」ピッ


提督(妖精と意思疎通ができる能力を買われて、海軍入り)

提督(何の前歴もないのに、お人好しの中将に准尉の階級までもらって、息子の少佐を訪ねてみたら)

提督(これがどうしようもねえ小悪党……鎮守府の雰囲気は最悪だ、何をしないでも奴の悪行が耳に入ってくる)

提督(そのくせ、妖精から何を聞かれるかわからねえと、わざわざこんな離れ小島の鎮守府を任せて体よく幽閉とはな)

提督(まあ、ガキのころから妖精と話ができるせいで、俺をキチ扱いしやがる人間どもと縁が切れてせいせいするが……)

提督(あいつの手のひらの上にいるってのは、気に入らねえな)

提督になついている妖精(以下妖精)「やれやれ、まいったね……」ヒョコ

妖精「まさか艦娘のひとりも寄越さないうちに着任しろだなんて」

提督「電気も通ってねえくらいの島なのに、なかなか立派な建物じゃねえか」

提督「自家発はちゃちいがな」バルルルン

妖精「見栄だけの張りぼて鎮守府って感じもするね」


提督「それにしても……この島、妖精の数が多すぎねえか」

妖精「そうだね……」

提督「しかも歓迎されてねえみたいだしな」

妖精「……」

提督「ったく……大丈夫か」

妖精「うん。でも、同じ妖精から白い目を向けられるのは、結構きついね」

提督「……」


 * 執務室 *

提督「なんだこりゃ」

(配線や工具が散らかったままの執務室)

提督「設備だけ取り付けてそのまま帰ったって感じだな」

妖精「工具も片付けていかないようじゃ、少佐の部下の仕事もたかが知れてるね」ムスッ

提督「言うねえ……ん、これか」

(無線の設備につながれた旧式の通信機)

提督「へっ、えらく前時代的なブツを用意したもんだ」

妖精「……接続先を選ぶ装置がないね。すぐ通話できるってことかな」

提督「奴の鎮守府以外に連絡できないようにしてるんだろ。そういう狡い真似は得意そうだしな」キョロキョロ

妖精「どうしたの?」

提督「……スピーカーとつなぐケーブルを探してるんだが……こんだけ散らかってるなら余ったケーブルもあるだろ」

妖精「?」

 * * *

提督「さて、これで動くか」ガチャッ

 RRRR... RRRR...

スピーカー『提督か。遅かったな』

妖精「!?」

提督「……少佐か。この通信機はあんたのところに直通なんだな?」

少佐『鎮守府に着任し次第連絡をしろという命令だったが、何をしていた?』

妖精(スピーカーから二人の声が……!)

提督「発電機のトラブルだ。あんな貧弱なもん用意しやがって、予算ケチってんじゃねえよ」

少佐『口を慎め、提督准尉。今後定時連絡が10秒遅れれば、お前への配給は10日遅れると思え?』

提督「定時連絡?」

少佐『本日マルキュウサンマルより貴様はその鎮守府の提督として着任とする』

少佐『軍備の拡充及び深海棲艦の撃滅を行い戦果を挙げ、明日以降毎日ヒトロクサンマルに専用回線にて我が鎮守府へ報告せよ』

少佐『以後、命令に背けば即銃殺刑に処す。以上だ』

提督「軍備の拡充というのは?」

少佐『そんなものは島の妖精に訊け』

少佐『お前は妖精と話せるんだろう? お前はそこの連中と一生おままごとをしていれば良いんだよ』

少佐『話は以上だ。明日から連絡は寄越さなくて良いぞ』ガチャン

提督「……けっ」

妖精「むーかーつーくーーー!!」プンスカ

妖精「なんだよあれ! 言ってることが無茶苦茶だよ!」

提督「あいつがここまでやるってことは、俺が妖精と話せるのが少佐には随分と都合の悪い話だってことなんだろ」

提督「ま、定時連絡はご命令通りやってやるさ。俺にとっても苦痛だが、あいつにとっても俺の存在がストレスそのものなんだろうからな」

妖精「でも、なんでこんな会話をスピーカーに流したの? 私に聞かせたかったから?」

提督「ああ……俺たちはここで暮らすことになる。こうやって事の顛末を聞かせたほうが俺が説明する手間も省ける」

提督「ほら、そうこう言ってるうちにお客さんだ」

???「客は……君たちだろう?」

妖精「!」

島の妖精A(以下島妖精)「あんたとは……話は通じるんだな?」

提督「ああ。だが出ていけって話なら断る。船もねえしな」

島妖精B「……なら、力ずくで追い出すよ」

妖精「や、やめなよ!!」

提督「俺は構わねえよ。ただ、俺についてきた妖精には良くしてやってくれ、巻き込まれたようなもんだからな」

妖精「提督!?」

島妖精たち「……」

提督「さあて、俺はどうするかな……鎮守府ん中を見て回るか」

妖精「……一緒に行くよ」ピョコン

提督「そうかい」


島妖精たち「「…………」」

今回はここまで。

艦娘は次回か次々回あたりから少しずつ出していきます。

では続きを投下します。

 * 工廠 *

提督「……酷え有様だな」

妖精「工廠の設備はほぼ全滅。入渠用のドック2基のうち1基が修理すれば動きそうなレベル、と」

提督「修理するにも機材やら資材やらが足りなくて修理不能、と。しばらくはこのまま放置だな」

妖精「え、このまま?」

提督「少佐に機材を催促したって寄越すとは思えねえ。それに、復旧させるにも使うにも島の妖精たちの協力も要るだろ」

提督「建造ドックは機材もボロボロで電気系統もいかれてる、自家発もあれじゃパワーが足りねえし使えるとは思えねえ」

妖精「燃料も資材も供給不十分、ドックも壊れた状態で戦果を挙げろ、かあ。どうかしてるよ」

提督「ま、そういう話を小姑みたいにねちねちと報告してやりゃあ、アレもちったあこたえるだろうさ。会話自体したくねえが」

妖精「なんだかなあ……」


 * 埠頭 *

提督「なんだこの積み荷は」

空っぽの木箱「」カラーン

提督「これが補給物資だと? 半分以上空箱じゃねえか」ガン

妖精「おそらくだけど、意図的に中身だけ減らしてるね。送付記録は満数で書いてある」ペラリ

提督「兵糧攻めとかやることがいちいち小っせえんだよ! ああ癪に障んなぁ……くそが」

提督「実数記録しとくぞ。てめえで弱み作ってんだから、いつかいびり倒してやる」

妖精(いつになるやら……)

 * 会議室 *

提督「ここが会議室か……」

妖精「すっごい埃まみれ」

提督「蜘蛛の巣もひでえな……」バッバッ

埃「」ブワアアアア

提督「げっほ! げほげほ!」

妖精「撤退! 戦術的撤退!!」

提督「くそ、他の部屋に行くぞ」ガチャ

妖精「……うわー」

提督「応接室も似たようなもんかよ。くそがっ!」

妖精「とりあえず窓を開けないと……固っ!?」ガチガチ

提督「錠が錆びついてんじゃねえか、安物ですませやがったな……ぶち割っちまおうか、この窓」

 * 食堂 *

提督「……無駄に広えな」

妖精「ここも埃っぽいけど、掃除すれば問題なさそうだね」

提督「碌に使ってねえ、ってことか」

妖精「そうだね……厨房も、コンロとか綺麗なままだよ」

提督「それでも一通り拭き掃除がいるな。埃かぶったまま火をつけるわけにはいかねえ」

提督「流しは……」

蛇口「」ヴジャー

提督「なんだこの水の色。錆びが酷えぞ……飲めるのか?」

妖精「しばらく出しっぱなしにしないと駄目だね……」


 * * *

提督「はぁぁ……」グッタリ

提督「なんで鎮守府の中を見て回るだけでこんなに体力使うんだよ……」

妖精「改めてみると結構広いんだね、鎮守府って」

提督「だがまあ、鎮守府の中はもういいや。次は外……だな」

提督「島の外周を回って広さを確認しねえと」

妖精「……!」ゾクッ

提督「……」

妖精「……ねえ」

提督「ああ、島の妖精たちの様子が変わったな。いったい外で何がでてくるやら」

 * 島の北東 砂浜の海岸 *

提督「……」

妖精「……ひどい」

(海岸に打ち上げられた無数の艦娘の残骸)

妖精「こんなに大勢の艦娘が……」グスッ

提督「……」スッ

島妖精A「触るな」

提督「……」

島妖精B「触るなって言ってるだろう? 彼女たちを静かに眠らせてやれって言ってるんだ」

島妖精C「お前みたいなやつが、触っていい相手じゃないんだ!」

提督「……」

提督「……なあ、訊くけどよ」

提督「こいつらは、何のために戦ってたんだ?」

島妖精A「海の平和のためだよ」

島妖精B「その子が好きだった司令官のためだった」

島妖精C「彼女は国の……民のために戦ったんだ」

提督「へーへー、そうですか。まあ模範的な解答なこって……」

島妖精たち「」イラッ

提督「そんじゃあ、もう一つ聞くか。艦娘ってのは……」

提督「土葬しても大丈夫か?」

島妖精たち「!?」

提督「お前らは、ここまで戦ったこいつらに何をしてやりたい? こいつらが元の形を失って、朽ちていくのを眺めていたいのか?」

提督「俺に触るなって言うのはわかるが、野晒しってのは可哀想だ。こいつらだってこんな姿いつまでも見られたくないだろ?」

提督「昔の軍艦なら雷撃処理とかで水葬ってのがいいんだろうが、この砂浜にはでかい鉄くずも打ち上げられてる」

提督「それだけこの辺りの潮の流れが速くて強いなら、また打ち上げられちまうだろ。で、油もなくて火葬も無理なら、土葬するのが一番だろ?」

島妖精A「……どうして、お前は艦娘にそこまでしようとする」

提督「……こいつらが人間のために戦ったから、だ」

提督「お前は海の平和のためとか言ってたが、その平和はあくまで人間の言う人間基準の平和だろう?」

提督「俺も人間だ、人間のために働いて死んだこいつらを素通りできたら、こいつらに顔向けできねえな……って、思っただけだ」

提督「こいつなんか顔も腕もぼろぼろだ。せめて弔ってやりたい、と思うのは俺のエゴだが……お前らはどうなんだ?」グッ

島妖精たち「……」

提督「くっ……い、意外と重てえ……艤装も込みだからか……っ」

提督「おい、こいつら、この島のどこに埋めてやりゃあいい!?」

 * 島の中央よりやや南西、丘の上 *

妖精「少佐の送ってきた空の木箱を、こんなところで使うことになるなんてね」

提督「ちょっと窮屈だが、ただ埋めるよりいいだろ。俺たちじゃあ立派な棺桶は作れねえ」ゼェゼェ

提督「それに、動かせるユンボが残ってて助かった。穴掘りは結構な重労働だし、な」ハァハァ

島妖精B「まだ一人しか運べてないじゃないか」

島妖精C「サボってないで次に行こうよ!」

提督「お、お前ら、無茶言うな! こんな遠くの丘の上まで運ぶのクッソしんどいんだぞ!!」

 * 夕暮れ *

提督「くそ、運べたのは結局2人だけかよ……」グッタリ

提督「地味に定時連絡が面倒くせえしよ……」

提督「くっそ……腹へった」グウウ

提督「そうだ、俺の今日からの布団とか何も準備してねえ」ハッ

島妖精A「おい」

提督「……ん?」

島妖精A「ついてこい」

提督「あ、ああ」

 * * *

提督「ここは……」

島妖精A「食堂の厨房だ」

島妖精A「補給物資にはいってた食料は、厨房の隣の貯蔵室に移動しておいた」

島妖精A「保冷庫と電気式のコンロは一応使えるようにしてる」

提督「……!」

島妖精A「人間の食べ物の味覚はよく知らないから、あんたが適当に作ってくれ」

島妖精B「ほら、次はこっちだよ」

提督「お、おう」

 * * *

提督「鎮守府のそばに離れがあったのか」

島妖精B「前任者が寝泊まりに使っていたんだ」

島妖精B「簡単にだけど掃除はしたから、寝るだけなら十分なはずだよ」

島妖精B「発電機を使えば奥のシャワー室も使えるから」

提督「……悪いな、助かる」

島妖精A「あんたが働いた分の等価を用意しただけだ。勘違いするなよ」

提督「……ああ」

提督「当分はこんな調子で野良仕事だな……飯作ってくるか」

妖精「がんばれー」

今回はここまで。

続きを投下します。

 * 一週間後 *

提督「これで……最後の一人、か」ザッザッ

提督「墓標代わりの艤装を……これでいいな」

島妖精A「御神酒準備したぞ」

島妖精B「榊はこっちの木の枝でいい?」

島妖精C「さっき作った紙垂はどこー?」

提督「お前ら、結構信心深いんだな」フゥ

島妖精D「当然だよ、軍艦の中には神棚が作られているんだからね」

島妖精E「ほら提督、終わったんなら参列して」

提督「あ? ちょっと待て、俺一人で働いてたんだから少し休ませろ」

島妖精F「えー? 私たちだっていろいろ手伝ったよ!」

島妖精G「ユンボの使い方教えたじゃんか!」

島妖精H「艤装の外し方教えてやったのに」

提督「力仕事は全部俺じゃねえか!!」

提督「だいたい、神仏信じてねえ俺がこんなときばっかり手を合わせてもしょうがねえだろ」

妖精「でもさ、せめて敬礼くらいはしていこうよ」

島妖精B「あ、そうだね。頼むよ准尉」

島妖精A「将校の癖に、船に敬礼もできないのか?」

提督「……あーあー、わかったよ、ったく」

島妖精C「では、これより鎮魂祭を執り行います」

 * その後 *

島妖精A(以下妖精A)「私たちはもともと彼女たちの装備を管理していた装備妖精だ」

妖精B「艦娘とその装備が失われ、居場所がなくなってこの島に居着いたのが私たちだよ」

妖精C「装備があれば私らもそこに居着くんだけど、今は装備開発もできないし建造も無理」

妖精D「第一に材料が全然足りない! 鉄屑なら空き缶でもなんでも集めてこないと!」

妖精E「とりあえず、設備修理に必要な機材資材、全部不足してるから、鋼材を集めないとね」

妖精「……しばらくは砂浜のゴミ拾いかな?」

提督「だな。都合よく鉄屑含んだガラクタも流れ着いてくるし、定期的に回ったほうがよさそうだ」


 * 厨房 *

提督「……」シャッシャッシャッ トントントン

提督「……」ザクザクッ ジュワー チャカチャカチャカッ

妖精「相変わらず手際がいいよね」

提督「一人暮らしが長けりゃ誰だってそうなるだろ」

妖精A「……」ジー

妖精B「……」ジー

妖精C「……」ジー

妖精D「……」ジュルリ

提督「……お前ら少し離れてろ」

妖精E「あちっ!? 油が! 油がはねたーー!!」ゴロゴロゴロー

提督「だから言ったろうが……」ハァ

 * 倉庫 *

提督「なあ、誰か農業に心得のある奴はいねえか?」

妖精D「どうかしたの?」

提督「食料が心許ねえ。あの馬鹿、全部空箱寄越してくるときもあるから、心得のある奴に畑の作り方を習いたい」

妖精F「それならわたしが教えてあげるよ」

提督「本当か、助かる」

妖精F「だからわたしのご飯は少し多めにお願いね?」

提督「……節制したいんだがな」


 * 海岸 *

 ザァァァァ…

妖精「……あ」

提督「ん? ……あれは、艦娘か? 遠いな……良く気付いたな」

妖精「うん。わかるんだ、なんとなくだけど」

提督「……ああいう風に海の上を滑って行くのか、初めて見たぜ。あいつら、本当に船なんだな」

妖精「……」

提督「あいつらも、あんな風に海の上を走ってったんだろうな」

提督「わざわざ陸の上に連れてったけど、やっぱ余計なお世話だって思われてんのかね……」

妖精「そんなことはないよ、きっと」

提督「だといいがな」

 * そして三か月後 島の北東 砂浜の海岸 *

(ゴミや流木、鉄屑などが流れ着いている)

提督「先週も片付けたってのに、またいろいろ流れてきてやがんな……」

提督「……! また轟沈した艦娘が流れ着いてきたのか……」

艦娘「」

提督「外傷は……今までのやつに比べりゃそれほどでもねえか……?」スッ

提督「! ……まだ息がある……!?」

艦娘「……」

提督「さて……どうするか」

提督「……」

艦娘「……」

提督「……」

提督「連れて帰るしかねえよなあ。よっ……と」ダキカカエ

 * 鎮守府 工廠 *

提督「おいお前ら、とりあえずお土産だ」

妖精A「……おい、そいつは」

提督「まだ息がある。お前らなんとかできるか」

妖精B「なんとかって言われても……」

妖精C「入渠ドックは使える?」

妖精D「まだ駄目だよ! 応急処置で穴をふさいで、それで使えても10分ずつ小休止をしないと無理!」

提督「助けられないか」

妖精E「ま、まだそうと決まったわけじゃないけど」

艦娘「……う……」

妖精B「お、おい! 目を覚ましたぞ!? 話しかけてやれ!」

提督「俺がか?」

妖精C「提督以外に誰がいるのさ!」

提督「……」

艦娘「……」ボンヤリ

提督「おい」

艦娘「!」ビク

妖精D「おい、怯えてるぞ! もう少し優しく話しかけろよ!」

提督「うるせえな……」

艦娘「……」ビクビク

提督「……おいお前。生きたいか、それとも死にたいか」

妖精たち「「はぁぁぁぁぁ!?」」

妖精E「提督! よりによってそういうこと聞く!?」

提督「こいつに生きる意志がなけりゃ無理に生かしててもしょうがねえだろ」

艦娘「……う……」シュン

妖精C「提督はでりかしーがないなあ、怯えてるじゃんか」

妖精B「大丈夫? きみ、立てる?」

提督「……簡易寝台を準備だな」

提督「妖精Fはこいつに食いもんを、妖精Bはシャワーを使えるように準備だ」

妖精F「そうだね、提督には任せてられないね!」プンスカ

妖精B「僕たちに任せて提督は休んだらいいよ! ずーっと!」プンスカ

妖精「彼女の身なり、ぼろぼろだったね。激戦地で轟沈したのかな」

提督「あれは戦ってできた傷じゃねえな。服はぼろぼろだったが、もともと汚れててぼろぼろだったのが更に、って感じだ」

提督「服の燃え具合と体の傷の位置があわねえし、治りかけの傷もあるが、ありゃあたぶん戦う以前からついてた傷だな」

提督「生き延びたのに全然嬉しそうじゃなかったのも気になるな」

妖精「……彼女、もしかして不当な扱いを受けてたとか?」

提督「かもな。……はー、面倒くせえな」

妖精たち「「「ひどい!!」」」

提督「なんだ聞いてたのかお前ら」

妖精E「聞いてたもなにも声が大きいよ! 彼女が聞いてたらどうすんのさ!」

提督「あ? 知らねえよ、あいつのこれからを考えるのはあいつ自身の役目だろ」

提督「最初に訊いたろ? 生きたいか死にたいかって。あいつが何をしたいのか言えないなら、俺は何もしねえぞ」

妖精C「じゃあ提督は今何がしたいのさ」

提督「あー、当面は……少佐を殴る、最低でも10発以上」

妖精D「うわっ、子供!」

提督「うるせえ、俺はあいつのせいで死んで人生リタイアなんてしたくねえんだよくそが!」

提督「なんで俺を虐げる奴より俺が先に死ななきゃなんねえんだ! 最低でもあれのキ○タマ潰しとかねえと気がすまねえ!」

妖精C「さっきよりえげつないこと言ってるよ!?」

妖精A「……提督の意見は置いといても、この島で生きようって気がないなら、そのうちそうなる」

妖精「うん、当人が立ち直らないと駄目だね……」

今回はここまで。

続きです。

 * * *

妖精C「彼女、どうだった?」

妖精F「補給用の燃料を出してあげて、普通のごはんも出したんだけど、どっちも少ししか手を付けなかったなあ」

妖精B「今シャワーに行ってるところだよ」

提督「……」ペラリ

妖精「提督は何してるの?」

提督「あいつの艦種を調べてる」

妖精A「あの子は駆逐艦だな。艤装が少し古いタイプ……おそらく睦月型の初期の艦だな」

妖精E「あんなぼさぼさ頭の睦月型っていたっけ?」

提督「睦月型、ね……」ペラリペラリ

提督「髪飾りを見る限りこのタイプか? 2番艦、如月」

妖精A「……みたいだね。艤装の特徴が合致してる」

妖精C「うそでしょ!? 如月って言ったら綺麗好きなはずだよ! あんな汚れた服着てるはずない!」

提督「……とりあえず仮説だが」

提督「あいつの体には叩いたりぶつけたりしたような痣や切り傷のほうが多い。もちろん砲撃で受けた火傷のあとも見られるが、そっちは軽微だ」

提督「ここへ流れ着くまでに体をあちこちぶつけたりもしたんだろうが、それよりも前からつけられた傷痕があるってとこだ」

提督「たぶん棒状の得物を使われてる。木刀とか竹刀とか鉄パイプとか、まあその辺だな」

妖精E「なんでそんなことがわかるの?」

提督「俺が昔喧嘩ばかりしてたからな、痣や傷の具合で、何でやられたか、古いか新しいかくらいはまあ見当がつく」

提督「とにかく、いじめか何か知らねえが、暴力を振るわれたって想像はできるんだが……」

提督「怪我を直す入渠ドックってのは、風呂みたいなもんなんだろ? 頭を洗っちゃ駄目とかあんのか? 髪の毛や衣服の汚れがひどすぎる」

妖精F「いいや、逆に入渠と一緒に身だしなみを整えてくる艦娘のほうが多いね」

提督「となると、入渠させてもらえない事情があるか、束縛されて自由がなかったってところか?」

提督「で、艦娘の管理や鎮守府の設備の利用権限を持ってるのは誰か? って考えりゃ、犯人はだいぶ絞られるな」

妖精A「その鎮守府の指揮権を持つ司令官やその上司ってとこか。あとは憲兵くらいだが、そういう越権行為を働く憲兵の話はそう聞かない」

提督「わざわざ余所の人間が余所の艦娘に手を出すとは思えんし、そうなら司令官が脅されてるか自分から手引きしてるか」

提督「服や髪が汚いのは、どこかに閉じ込められていたか、綺麗にする気力を失うほど圧力を受けたか」

提督「こうなると、エロいことしようとして抵抗したら暴力振るわれて、って線が強そうだな」

提督「じゃなきゃ、他の艦娘が提督を骨抜きにしてて言われるがまま、それでいじめられたとか、その手の話か?」イライラ

妖精D「うわあ……」

妖精C「ちょっと提督、普段からそういうこと考えてるの?」

提督「あ? 経験論に決まってんだろうが。見てきたからな。人間のそういう部分は、嫌と言うほどな……!」ギロッ

妖精D「怖っ!?」ビクッ

妖精C「……!」ビクッ

提督「……あー、悪い。今、俺、すげえツラしてたろ……悪かったよ」ハァ

妖精C「」ウルウル

妖精E「あ、泣ーかした」

提督「ああ、本当に悪かった……くっそ、ばつが悪いから勘弁してくれよ」オロオロ

妖精F「泣ーかした泣ーかした」

妖精B「提督のいじめっこー」

提督「茶化すなよ! こうなるから嫌なんだよこういうこと考えんのは! くそ!」

妖精A「……あんたはともかく、如月はどうする気だ」

提督「……助けて欲しいなら、助けてって言やあいいんだがな。あいつがどうしたいのかわからなきゃ、俺だって手の出しようがねえ」

提督「死にたい奴は勝手に死にゃあいいのさ。俺にそれを察する義理はねえ。そもそも助けを求められていないのに助けてやろうなんてのは傲慢だ」

提督「そうじゃないなら……生きたいって本人が望んでんのなら、そのための手伝いくらいはしてやるさ」

 ポタッ ポタッ

提督「?」

艦娘「……それなら、助けて、って言えば、助けてくれるの……?」ポタポタ

提督「!」

妖精C「き、如月!?」

妖精B「体も拭かずにタオル一枚でどうしたの!?」

艦娘→如月「……消えないの」パサッ

如月「これが……この汚れが、消えないの」

妖精A「……それは」

如月「どうしても……これが、消えない、の……うっ、うう……」ポロポロ

提督「おい、ドックに入りゃあ、あの傷は消えるのか?」

妖精A「……難しいだろうな、あの傷じゃあ時間が経ち過ぎている」

提督「……」ギリ

如月「もう、嫌なの……!」

如月「面白半分に、私の体を傷つけて……弄ばれるのはもう、嫌……!!」

提督「……お前はどうしたい」

如月「助けて欲しい……もう、これ以上あの人たちに傷付けられたくない……だからお願い、助けて……!」

提督「……お前、名前は?」タオルヒロイ

如月「私は……如月。睦月型駆逐艦2番艦、如月」

提督「……湯冷めするぞ。もう一度温まってこい」タオルパサッ

提督「よし……聞いたか? 如月を助けるぞ、お前ら力を貸せ」

妖精たち「「!」」コクッ

如月「……!」

 * 翌朝 執務室 *

FAX <ピピピピー ジジジジッ

提督「昨日は結局如月に事情を聴いて、風呂に入れて休ませただけで終わっちまったが……」

提督「ん? なんだこりゃ」

書面『○月×日、貴君の鎮守府近海にて轟沈した駆逐艦 如月の捜索作業を行うため、駆逐艦 不知火を送る。不知火の命令に従い、捜索に協力せよ。以上 少佐』

提督「中身もなんだこりゃ、だな。如月を返せってか?」

如月「……あの、提督……?」

提督「おう如月。早速だが悪い報せだ」ピラッ

如月「……っ!」

提督「連中、どうやってもお前を確保したいらしいな」

如月「い、いや……戻りたくない……!!」

島妖精F「提督、お客さんだよ! 1小隊が船に乗ってきた、艦娘もいる!」

提督「ちっ、思ったより手が早えな……如月は隠れてろ」

今回はここまで。

続きです。

 * 鎮守府埠頭 *

提督「遠路はるばるご苦労さん、俺が提督だが」ピッ

不知火「駆逐艦、不知火です。今朝お送りしました文書には目を通されましたでしょうか」

提督「ん」ピラッ

不知火「早速ですが捜索の協力をお願いします」ビシッ

提督「あー……如月だっけか、沈んだの」

不知火「はい。この鎮守府に流れ着いていないか、確認せよとの少佐からの命令です」

提督「ふぅん……もしいなかったら?」

不知火「遺体でも良いから必ず探してこい、という命令を受けております」

提督「……そりゃあ骨が折れるな。あっちの連中は」チラ

不知火「この近海を調査するためのダイバーたちです」

提督「……」

不知火「……不知火に何か?」

提督「ちょっと話がしたいんだが、執務室まで来てもらえるか」

不知火「……承知しました」

 * 鎮守府 執務室 *

提督「お前、なにかやらかしたか?」

不知火「……いえ。不知火に何か落ち度でも?」

提督「お前の態度に鬼気迫るものを感じる。今回の任務がそんなに重要か、って訊いてる」

不知火「はい。ですが、これは不知火個人の問題ですので」

提督「なんで如月をそこまで必死に探すのか、理由を聞いても?」

不知火「……その件については申し上げられません」

提督「だろうな……ああ、楽にしててくれ、今そいつに訊くから」ガチャ

不知火「そいつ……!?」

 RRRR... RRRR...

スピーカーから聞こえる少佐の声『……何の用だ提督准尉』

不知火「!?」

提督「……不知火、お前はちょっと黙ってな」シー

提督「さっき不知火が来たんだが」

少佐『今朝文書で送った通りだ。詳細はすべて不知火に訊け』

提督「如月とかいう艦娘は何かしたのか?」

少佐『いいから黙ってすべて不知火の言う通りにしろ、銃殺されたいのか』

提督「この島には艦娘の遺体がたくさん流れ着いている。艦の特徴は?」

少佐『同型艦があるならすべて回収しろ。貴様とこれ以上話すことはない』プツッ

提督「……相変わらずだな、くそ野郎が」ガチャン

不知火「」ボーゼン

提督「? なんだ」

不知火「その、大丈夫なんですか? その……少佐に対する、接し方というか……とても上官に対する態度とは思えないのですが」

提督「ああ、あれには恨みしかねえからな。あれもあれで俺のことは厄介者扱いだし、お互い様だ」

不知火「……あれ、ですか」


不知火「……ここまで険悪ですと、提督には、ご協力いただけないのでしょうか」

提督「……不知火。お前が受けた命令を復唱してくれ」

不知火「はっ。『轟沈したと思われるZ提督鎮守府所属の駆逐艦如月を捜索し、少佐鎮守府へ身柄または遺体を移送せよ』と」

提督「期限は」

不知火「3日間」

提督「もし捜索できなかった場合は」

不知火「……帰還命令が出ています」

提督「で、お前が処分されるのか」

不知火「……! い、いえ」

提督「さっきから、お前の単装砲の妖精が泣きそうなんだがな。おいお前、ちょっと話してみろ」

不知火の妖精「……え?」

妖精「この提督は、私たちと話せるから大丈夫だよ」ヒョコッ

不知火の妖精「あ、あの……!!」

不知火「お、お待ちください! し、不知火が説明いたします……!」

 * * *

提督「……なるほどね、お前は今回のこれが初任務か」

不知火「着任後1年以上海に出ることもなく、鎮守府にて雑務……いえ、下働きをしておりました」

提督「中将に会う機会は?」

不知火「不知火には皆無です。秘書艦の赤城さんであってもお会いすることは稀有です」

提督「中将は普段どこにいるんだ? 会う方法は?」

不知火「中将は、少佐の鎮守府の近くの本営宿舎にいらっしゃいます」

不知火「本営とは書類や機材などの運搬のため、日に2回ほど輸送便を出していますが、人の行き来はあまりありません」

不知火「また、中将は足を怪我してからは指揮を執ることはまれで、ずっとデスクワークだと聞いております」

提督「そういや杖をついてたな。中将が鎮守府に来る予定は?」

不知火「おそらく、滅多なことがない限りはその予定はないかと」

不知火「もともと少佐の鎮守府は中将が提督として着任していましたが、中将の昇格に伴い、指揮権を息子である少佐が譲り受けました」

不知火「それ以来、中将は少佐に鎮守府の運営を任せるべく、努めて鎮守府に姿を見せないようにしています」

不知火「それから3年経ちますが……鎮守府は望ましくない方向へ変わった、と、古参の艦娘たちは口々に申しております」

提督「世襲制はろくな結果にならねえな」ククッ

不知火「提督の二つ目の質問については、実のところ不知火も掌握しておりません」

不知火「とにかく回収が絶対。そして本件については外に情報を漏らすなと釘を刺されています」

不知火「如月の特徴として『体中に傷がある』と聞かされており、また、発見した如月は拘束し猿轡をして運べと言われています」

提督「つまり、余計なことを喋らせるな、ってこったな。なるほど、なるほどねえ……」ニヤリ

不知火「?」

提督「ほかの鎮守府にも捜索願を出しているのか?」

不知火「はい。ただ、捜索範囲は極めて広範囲であるため人手が足りず……」

不知火「少佐配下の鎮守府には私のような末端の艦娘が、余所の鎮守府には少佐直属の部下がそれぞれ出向いています」

提督「なるほど、つまり戦力が分散してるのか。ますます好都合だ」ニタァ

不知火(今の邪悪な顔は一体!?)ゾクッ

提督「……さてと、どうするかね……」

不知火「……提督、如月の捜索は」

提督「急かすなよ。まあ、とりあえず海岸でも見に行こうぜ」

 * 北東の海岸 *

提督「お疲れさんです、何か見つかりましたか」

ダイバー「いえ、潮の流れがいきなり急になったりして、捜索は難航しています」

ダイバー「おそらくこの島の北にある海底火山の影響ではないかと思うのですが……」

ダイバー「おかげで……探している以外の漂流物も多い。ここの海底、見てると泣きたくなりますよ」

提督「あなたがたもあと2日で探してこいと?」

ダイバー「ええ、まあ。無茶ですが、それができなきゃ……まあ、帰って来いと」チラッ

不知火「……」

提督「……苦労なさってますね」

ダイバー「まあ、いろいろひどい話ですよ。この任務が終わったら退職しようかと思ってるくらいですから」

ダイバー「その前に、せめてこの仕事くらいはちゃんと完遂しておきたいんですが、海はそうはさせてくれないですね……」

士官「おい、そのくらいにしとけ。すみません、うちの者が」

提督「……ま、何の話なんだか自分にはわかりませんが」

士官「すみません。ともかく、今日は波も高いので、捜索はそろそろ打ち切らざるを得ないでしょう」

提督「……」

 * * *

不知火「……」

提督「……どうした」

不知火「……不知火は、このまま海へ出ることもなく解体されるのでしょうか」

提督「……お前はどうしたい」

不知火「できることならば、海に出て戦果を挙げたいと思っていました」

不知火「艦娘として生を受けたのですから、生きて、戦って……生きていることを実感したいと」

不知火「……ですが、それは……如月を犠牲にしなければ得られないというのなら、出過ぎた願いなのかもしれません」

提督「……」

 * 鎮守府 執務室 *

妖精D「なんだかよくわからないけど、少佐も焦ってるみたいだね?」

妖精A「そのせいで時間がないな」

妖精B「士官やダイバーも発見できなかったら不知火が解体されること知ってたから、明日の日の出から捜索するって言うし」

妖精F「卑怯だよね、不知火を人質にされてる感じー」

妖精E「夕餉にお酒出したら、みんな一緒になって少佐のこと愚痴ってたもんね」

妖精C「如月もそうだけど、不知火も職員の人たちも気の毒だよね」

妖精「ねえ、どうするの?」

提督「……どうしようかね」

提督「如月を渡すわけにはいかねえ」

提督「かといって如月を隠し続ければ不知火が解体される」

提督「余所にも捜索で艦娘を送り出してるらしいし、奴のことだ、放っておきゃあ不知火以外にも飛び火しそうだな」

提督「中将を引っ張り出して解決させようにも、動かせねえ要素がありすぎる」

提督「そして時間もねえときた」

提督「……」

妖精「……」

提督「そうだな……お前、一仕事できるか?」

妖精「わたしが?」

提督「ああ。この島には少佐の息のかかった奴が来てないようだし、お前の手を借りれば何かできそうだ」

提督「不知火から聞いた少佐たちのスケジュールに間違いがなけりゃあ、な」

今回はここまで。

続きです。

 * 翌朝 少佐の鎮守府、7時50分 *

少佐「如月が見つかった? 間違いないんだな!?」

通信『はっ! ただ今、如月を乗せ鎮守府へ向けて出港準備中、到着予定時刻はヒトマルサンマルになります』

少佐「よし。ご苦労」プツッ

少佐「……」ピッピッピッ

  RRRR... RRRR...

通信『こちらZ提督鎮守府』

少佐「少佐だ。Z提督に取り次いでくれ」

通信『少々お待ちを……』

通信『……』

通信『少佐! アレの件か!?』

少佐「ああ、見つかったと連絡が入った。ヒトマルサンマルにこちらに到着予定だ」

通信『そうかそうか……この件、余所に漏れてはないだろうな?』

少佐「できる限り、だがな」

通信『ああ、助かる。さすがは少佐、頼りになるな。俺はヒトマルフタマルにそちらへ行ける』

少佐「フ、困ったときはお互い様、というやつだ」

通信『そうだな……フフフ。では、失礼する。また後程』ピッ

少佐(……マルナナゴーマル……そろそろ来客があるが、到着まで2時間あるなら慌てる必要はないな)

赤城(少佐の秘書艦)「少佐、お客様がお見えです」

少佐「ああ、今行く。大事な客だ、誰も近づけるな、他の用事は待たせておけ」

 * 一方の太平洋上某所、同じく7時50分 *

士官「現在この船は太平洋上を航行中……目的地への到着予定時刻は『マルハチサンマル』」

ダイバー「……」

如月「……」

士官「……良かったのですか?」

提督「何がだよ」ニヤニヤ

士官「あなたがこの船に乗ったことです。私は危ないと思いますが」

提督「いいんだよ。如月を連れてこいって言ってきたのは少佐だ。不知火が連れてこいとは一言も言ってないし、俺に来るなとも言っていない」

士官「到着時刻も大幅にサバを読んでいます」

提督「兵は神速を貴ぶっていうじゃねえか。遅刻するよりは全然いい」

士官「不知火は」

提督「鎮守府を留守にするんだぜ? 不知火に1日くらい留守番をお願いしてもいいじゃねえか」

士官「如月に拘束具を」

提督「そんなもん港に着いた時でいいだろ?」

士官「……」フフッ

提督「……なんだよ、嬉しそうな顔しやがって」ニヤニヤ

士官「あなたも楽しそうですね」

提督「そうか? それよりもだ、予定通りに到着するんだろう?」

士官「ええ、間に合いますよ」

 * 執務室へ至る廊下、9時55分 *

少佐(マルキュウゴーゴー、ほぼ予定通り……)

少佐(これから如月の身柄を確保しZ提督へ引き渡す。事情を知る不知火やほかの鎮守府へ送った艦娘は解体処分)

少佐(最近反抗的だったダイバーどもは左遷だな。もっと時間がかかれば馘にするのも容易かったが……適当な不祥事をでっちあげるか)

少佐(……そうだな、不知火に同情的だったし、あれと一発ヤッたことにでもしてしまおう。世間的に殺せる)

少佐「赤城、いるか」ガチャッ

赤城「は、はい、少佐……」

少佐「何を慌てている」

提督「そりゃあ、俺がいるからだよ」

少佐「!!? き……貴様……なぜここにいる!」

提督「俺が如月を連れてきた」

少佐「不知火はどうした!!」

提督「俺の鎮守府の留守を頼んだ」

少佐「貴様! 不知火に任務を与えたのは俺だぞ! お前が不知火の行動をどうこうできる立場だと思うか!」エリクビガシッ

提督「不知火はお前の任務を全うしたじゃないか。命令は、如月の身柄をここへ移送しろ、だったな?」

少佐「屁理屈を!!」ギリギリギリッ

提督「だいたい俺がこっちに用があるから、代わりに不知火に留守を頼んだんだ。問題ない」

少佐「何が問題ない、だ!! 貴様が来るなんて聞いていないぞ!!」

提督「そうか」

少佐「澄ました面しやがって……!」

執務室の電話< RRRR... RRRR...

赤城「! は、はい、もしもし……」

赤城「ちゅ、中将閣下!?」

少佐「!?」

提督「……きたか」ニヤリ

赤城「少佐……!」

少佐「寄越せ……!」ジュワキウケトリ

少佐「……これはお父上、お元気そうで」

提督(ククッ、なんて猫なで声出しやがる……!)

少佐「て、提督、ですか? いえ、こちらには……」

提督「少佐殿!! 自分をお呼びでしょうか!!」

少佐「馬鹿野郎……! 声がでかい……っ!」ボソッ

通信『少佐、提督がいるようだね? 代わりたまえ』

少佐「……わ、わかり、ました……」

少佐「提督、出ろ。余計なことは一切言うな……!」ジュワキサシダシ

提督「……」ジュワキウケトリ

提督「もしもし、提督准尉であります。はい……いえ、中将殿のお心遣いに感謝しております」

少佐「……」イライラ

提督「はい……はい……」

少佐「……」イライライライラ

提督「わかりました……そのように致します……」ニコリ

少佐「奴め……何を笑っている……っ!」ギリギリッ

提督「復唱いたします」

提督「駆逐艦如月はZ提督鎮守府より異動、自分の鎮守府へ配属」

少佐「!?」

提督「駆逐艦不知火は少佐鎮守府より異動、中将麾下の艦娘とし、中将と自分の鎮守府との連絡員として月3回中将への連絡を行う任に就く」

少佐「!!??」

提督「承知いたしました。……はっ、失礼致します」

提督「……少佐、これを」ジュワキサシダシ

少佐「……」ボーゼン

提督「少佐?」

少佐「! ……っ!」ジュワキウバイカエシ

提督「……」ニヤァ

少佐「父上! いったいどういうことです!」

通信『聞いたぞ少佐……貴様、危険な橋を渡ろうとしているそうではないか』

少佐「な、なんのことです!」

通信『今回の捜索の件、貴様は如月が不当に暴力を振るわれていると予見したそうだな?』

少佐「!?」

通信『それを貴様は独断で解決しようと、提督に応援を送り証拠を確保し、海軍の恥部をもみ消そうとした』

少佐「そ、それは……」

通信『Z提督は貴様の良き友であったが、このような事態になり残念だよ。友人である以上、貴様が表沙汰にしたくなかった気持ちもわかる』

少佐「……い、いえ、それは」

通信『ひとまず如月の所属は提督へ異動させ、身柄は海軍と憲兵が預かることにした。本件については大将殿も賛成している』

少佐(大将だと……っ!? どこからそんなところに話が漏れたんだ!)

通信『それとだ、提督へ送る物資を横領されているという話もあったが、聞いているかね?』

少佐「は……?」

通信『Z提督は貴様の鎮守府によく出入りしていた。気心の知れた貴様の心の隙に付け込んでの容疑と見ておる』

通信『提督に未だ艦娘が配属されていないのもZ提督が一枚噛んでいるらしいじゃないか。彼にはこの件についても嫌疑がかかるだろう』

少佐「……そ、そのような、こと、に」

通信『この鎮守府の職員には、かつてZ提督のもとで働いていた者もいる。まずはそういった人間から疑われることになる……』

通信『友人がこんなことになり貴様もつらいだろうが、現実を受け止め、反省し、同じ過ちは二度と繰り返さぬよう努めていこうではないか』

少佐「……は」

通信『それと、この件については大将殿の手引きで、本日ヒトマルヒトゴーに憲兵隊が貴様の鎮守府へ向かう手筈になっている』

少佐「な……!?」

通信『うむ、もう間もなくだな。如月の身柄はひとまず彼らに受け渡し、貴様は提督准尉と共に事実確認に協力せよ』

通信『このような身内の不祥事で我ら海軍が揺らぐようでは、深海棲艦との戦いに勝つことはできん』

少佐「……は、は」

通信『後日辞令も出るが、今後の体制については提督に復唱させた通りだ。特に不知火には苦労させるが、くれぐれも大事にしてくれたまえ』

通信『儂からは以上だ。よろしく頼むぞ』

少佐「…………は……っ」プツッ

少佐「……」

少佐「……」プルプル

少佐「……提督、貴様……きさまああああああ!!!」ガシーーッ

提督「……」ツーン

少佐「貴様、貴様いったいなにをした! いったい、なにを……!!」

提督「なにを、とは……なにを?」フッ

少佐「ふざけるなああああ!!」グイイイイッ

提督「ふざけてなどいない。自分は如月を連れてきた……それがなにか?」

少佐「お前が何かを仕掛けたのだろう! お前が来て……中将に! 大将にぃぃ!」

提督「ここへ来て、ものの数分で何ができるんです? それに大将とは? 中将ならまだしも、大将とは面識すらありませんが?」

少佐「だ、だったらなぜお前がここにいる! お前が、お前が何かしたんだろう! あああ!?」

提督「ですから、『私』が、なにをしたのですか?」

少佐「だから、貴様が……貴様が!! ぐうううう!!」プルプルプル

提督「……少佐。憲兵が来るのでしょう?」

少佐「はぁ、はぁっ……それがどうした!!」

提督「私の服を掴んでしわだらけにするのは、いかがなものかと」

提督「如月の第一発見者は私です。憲兵にも説明を求められるでしょう。そのときに、余計なことを勘繰られたいのですか?」

少佐「!」ビクッ

提督「手を、放してください、しょ・お・さ・ど・の?」ニタリ

少佐「~~~!!!」ギリギリギリッ

 バッ

提督「如月の拘束は?」

少佐「……解け!」

提督「了解」ニヤリ

少佐「赤城!!」

赤城「はい」

少佐「憲兵が来る! Z提督の件は貴様が説明しろ! 俺は……」

赤城「……緊急の出張、ですね」

少佐「うまくやれ! いいな!!」

扉< バタンッ!!

赤城「……ふぅ」

提督「……やれやれ」クックックッ

赤城「提督准尉。あなたは予定より2時間も早く来て、いったい何をしたのです」ジト

提督「いいや……俺自身はなにも?」

赤城「あなたの目の奥はそう言っていませんね。何をしたのかは別にしても、どうせ少佐の悔しがる顔を見たくて煽ったのでしょう?」

赤城「少佐の機嫌が悪くなれば、この鎮守府の艦娘に被害が及びます。余計なことはしないで下さい」

提督「……それが、あなたの本心ですか」

赤城「ええ。迷惑です」

提督「ほーぉ……」

赤城「……なんですか」

提督「すっきりした顔してたくせに」

赤城「准尉っ!?」キッ

提督「冗談ですよ」シレッ

提督「ま、それはさておき、だ」キッ

提督「赤城殿。如月は、本日ヒトフタマルマルより我が鎮守府の所属、提督准尉配下となります」

提督「今後、艦娘の健康管理を行うに当たり、入渠ドックが使用できない現状は非常事態といえます」

提督「入渠ドックの修理と、発電機など運用可能な機材の調達を、少佐殿へお願いしたい」

赤城「承りました。不在の少佐に代わり手続きを行います」フゥ

提督「感謝いたします、赤城秘書艦殿」ビシッ

提督「……」フゥ

提督「それにしても……清濁併せ呑む、か。憎まれ役も大変だな」ポツリ

赤城「そういうセリフは私のいないところで言ってください。それと、こんなことで私を理解したつもりにならないように」ジロ

提督「これは失礼」

赤城「ですが、如月と不知火を救ってくれたのも紛れもない事実」

赤城「あなたにはお礼申し上げなければいけません。ご無礼をお許しください」ペコリ

提督「!」

赤城「どうしました」

提督「……やめてくれ赤城。俺は如月と不知火の望むようにしただけだ、特別なことはしていない」

赤城「いいえ? 私にできないことを為したあなたはもう特別なのです。少なくともあの二人にとってはそうなるでしょう」フフッ

赤城「ですから、今後はその部下のためにも、このような出過ぎた真似は控えてくださいね」

提督「部下、ね……やりづれえ。いまいち面倒くせえことになったな」ボソッ

赤城「おや、その面倒を買って出たのが他ならぬあなたではありませんか。責任を取ってあげなさい、男の子でしょう?」

提督「男の子? こんなでかいガキがいるかよ。言うことがおばあちゃんみたいだぞ」

赤城「あらあら、あなたこそうら若き乙女を捕まえておばあちゃん呼ばわりだなんて、提督は女心がわからない方ですね」プク

提督「待て、あんたは俺より……いや、いい。それよりも、今のあんたからそういうセリフが出てくるとは思わなかった。そういうキャラだったか?」

赤城「さて? そうだったかもしれませんね。昔のことです、おばあちゃんは覚えてなんかいませんよ」ツーン

提督「おいおい……まさか、この場であんたにからかわれるとは思わなかったな……」

赤城「ふふっ、先程のお返しです」

提督「……冗談もいいが、これからあんたは大仕事なんだろう?」

赤城「ええ。とっても嫌なお仕事です」

提督「……大丈夫なのか」

赤城「それが私の仕事ですから」ニコ…

赤城「提督准尉、改めて礼を言いますよ。誰かにからかわれたりしたのも、こんなふうに冗談を言えたのも久しぶりです」

赤城「では、お先に」

提督「……」

今回はここまで。

続きを投下します。

 * 2日後 少佐鎮守府 某所 *

ダイバー「世話になったな」

士官「いやいや、今までお疲れ様」

艦娘「いきなり退職されるなんて……これからどうなさるんですか?」

ダイバー「退職自体は考えてたよ、今後は普通に陸で就職活動さ。もう海はたくさんだ」

士官「まあ、あれを見てはね……」

艦娘「何かあったんですか?」

士官「この前、如月を捜索しに行ったときに、海の底にたくさんの艦娘の死体があったんだって」

ダイバー「その島の提督は、島に流れ着いた彼女たちを全部埋葬しようと考えてるらしい」

艦娘「島がお墓だらけになっちゃいますね」

ダイバー「残念ながら、もうそうなってたよ。丘の上に墓標代わりの艤装がいっぱい並んでた」

士官「うん。艦娘の墓場の島だった……いい景色じゃなかったが、目をそらしてはいけない光景だった。胸が苦しくなったよ」

艦娘「……墓場の島、ですか……」


 * 同日 墓場島鎮守府 執務室 *

不知火「駆逐艦不知火、ただ今帰投しました」ビシッ

提督「ん、ご苦労さん。んで、あいつらはどうなった?」

不知火「はい、順を追ってご報告いたします」

不知火「Z提督は既にご存知のとおり、一昨日憲兵隊により身柄を拘束され、現在は本営で取り調べを受けています」

不知火「同じように、この鎮守府に物資を送っていた職員数名も身柄を確保」

不知火「職員らは少佐の指示と言っていますが、書類はすべて正規の数字であり、少佐本人もその事実を否定……」

不知火「提督准尉が着任当初から記録していた物資の差異についても事実確認され、これも証拠として認められました」

不知火「以上から、憲兵はZ提督独断の越権行為として調査を継続中です」

提督「ま、多分連中は結託してたんだろうな。身内で固めてたのも他言無用を貫くため、と」

不知火「その後の調査で、この鎮守府以外の少佐麾下鎮守府への物資からも、資材を横領していたことがわかりました」

不知火「横領された物資は、他の鎮守府への融通や、賄賂や裏金の元としてZ提督のところからロンダリングされていたようです」

提督「なぁるほど。期せずして奴らの財布にダメージを与えたわけか」クックッ

不知火「はい。それと……Z提督の鎮守府からは、深海棲艦の遺骸から作ったと思われる鞭や刃物が見つかりました」

提督「深海棲艦の遺骸だと!?」

不知火「私見ですが、Z提督は深海棲艦が艦娘にどうやってダメージを与えるかのメカニズムを分析していたのではないかと思われます」

提督「如月は、Z提督が開発した新しい武器の実験台にさせられていたと言っていたな」

提督「単なる変態趣味と思いきや、実用的で金になりそうな黒い話じゃねえか。連中がただの悪党じゃなかったとなると面倒だ」

不知火「憲兵はこれらを押収して本営へ回すとともに、更なる余罪がないかをZ提督鎮守府所属の艦娘から聴取することになりました」

提督「本営はその遺骸から作った武器をどうする気だ?」

不知火「……この研究がどのように転ぶかは不知火にも予測できかねます」

不知火「本営が興味を持ち、如月のように艦娘を実験台にして研究を進めようとする可能性も決してないとは言えません」

提督「俺にゃあそうなるとしか思えねえがな。くそが」

不知火「とにかく、以後、Z提督の鎮守府には別の提督が着任し、指揮を行うことになります」

不知火「少佐の鎮守府は、今後も引き続き少佐が指揮することになりますが、憲兵が一層厳しく目を光らせることになったようです」

不知火「仮にも評判の良かった中将の鎮守府でしたから、憲兵たちも『これ以上この鎮守府に悪事が舞い込まないように』と警戒しているようです」

不知火「鎮守府の評判は、海軍と憲兵にとってはおおむね好意的と捉えて良いと思いますが……少佐にはやりづらくなったことでしょう」

提督「よくそこまでフォローできたもんだ。赤城が全部うまく回したんだろうな」

不知火「あの方は、少佐が鎮守府を仕切るようになってから、一番長く秘書艦を務めています」

不知火「少佐が着任してからの歴代の秘書艦は皆、すぐに鎮守府を去っていきましたから……」

提督「赤城はあのパンドラの箱に残った最後の希望、ってとこかね」

不知火「しかし、赤城さん一人に負担をかけ過ぎだとは思います。同じ鎮守府の加賀さんがいつも気にかけておいででした」

不知火「先日、その加賀さんとお話しする機会を得たのですが、やはり赤城さんは他の艦娘に対して突き放すような言い方をしているそうで」

不知火「不知火には、憔悴した加賀さんにかける言葉が見つかりませんでした」

提督「いや、それでいい。そっとしといてやれ」


不知火「それと、本日ヒトサンサンマルより、少佐鎮守府から作業員が派遣され、入渠ドック及び建造ドックの修理が行われます」

不知火「発電機も新調、経費についてはすべて少佐鎮守府が負担します」

提督「へえ。手厚いこった」

不知火「中将より『准尉をこの鎮守府の提督に任命した少佐の責任である』とのことです」

提督「そういやそうだったな。んじゃあたりめーだ」

不知火「そして……その、不知火ですが」

提督「おう」ニヤニヤ

不知火「不知火は中将麾下の艦娘として、平常時は提督鎮守府に勤務、一か月のうち3回は中将の本営まで直参し報告を行う……」プルプル

不知火「月に9日間、この鎮守府を開けることになります……その間は本営にて、中将のもとで訓練を含む活動を行う……」ガクガク

不知火「よ、よいのでしょうか……中将麾下といいますと、聞くところによれば出世コースとか言われているんですが……」ビクビク

提督「ま、せいぜい頑張れや」ニヤニヤ

不知火「こほん。最後に如月ですが」

不知火「本日ヒトサンマルマル、本鎮守府へ移動。間もなく提督准尉麾下の艦娘として正式に配属されます」

不知火「……ようやく、この鎮守府が、活動できる基盤が出来上がりつつあります」

提督「そうか」

不知火「なんというか、感慨深いですね……真新しい鎮守府の始まりの瞬間を、見ることができるのは」

提督「……まあ、別に何もしねえがな。深海棲艦の撃滅とか面倒くせえし」

不知火「し、司令、そのような発言はできるだけ控えていただかないと……その、海軍提督という立場的にも非常に危険です」タラリ

提督「仕方ねえな。ま、適当にやるよ、適当に」

提督「まあ、しばらくは休んでたっていいだろ。妖精にも休みをあげないとな」

妖精「ほんと、大変だったんだからねー? たまたま大将に見つかったのは本当に運が良かったよー」

不知火(少佐の鎮守府と中将の本営を結ぶ輸送便の午前の発着がマルキュウマルマル)

不知火(それに間に合うように鎮守府へ到着後、提督の手紙を持った妖精を本営への輸送便に忍び込ませて中将のもとへ届ける)

不知火(できるだけ少佐が今の境遇に困窮していて、提督がそれを気遣う文面の手紙を中将へ読ませればあとは親心)

不知火(提督が、少佐を気遣っていることを内密にしてほしいと書けば、まさしくその通りに誰が手紙を送ったか秘匿してくれる)

不知火(それにしても……妖精さんが海軍大将に見つかって、その結果ここまでことが迅速に動くとは、提督はつくづく運の良い方です)

不知火(中将は、海軍参謀としては有能でしたが……息子には兎角甘い。提督はそれを利用し、少佐を被害者に仕立ててZ提督のみを処断させた)

不知火(少佐にはできるだけ無傷で逃げられる道を作り、傍目には少佐がZ提督を切ったかのように誘導する)

不知火(そうすれば、少佐を頼って甘い汁を吸っていた者たちに不信感を抱かせ、少佐の影響力を削ぐことができる、と踏んでの判断……)


不知火「その……司令。質問よろしいでしょうか」

提督「おう」

不知火「司令は、なぜ私たちにここまでしてくださったのですか? 結果的にうまくいきましたが、あなたの身に及ぶリスクを考えれば躊躇するはずです」

不知火「もし中将に手紙を渡せなかったら? 少佐の予定が変わっていたら? 少佐の手の者が邪魔をしてきたら? 中将が動かなかったら?」

不知火「下手すれば司令ご自身の命にかかわるようなことです。不安要素がたくさんあったにも関わらず、行動に移してくださったのは、なぜでしょうか」

提督「単純だよ。頭に来たんだ、お前らを無碍に扱うあいつらに」

不知火「……そ、それだけ、ですか」

提督「失敗したらお前らの明日もねえのに、見殺しにして俺だけ生きるのも胸糞悪いからな。最悪、刺し違えるつもりだったさ」

不知火「しかしそれではご家族が……!」

提督「へ、俺みたいなのが死んだって悲しむ奴なんざいねえよ。家族なんてお互い顔も見たくねえしな」

不知火「……不知火は悲しみます。妖精たちもそうでしょう。そうならなくて本当に良かったと思います」

提督「できれば少佐も営倉へ送って屈辱を味わわせたかったんだけどな。その手も思いつかなかったし、なにより赤っ恥をかかせたくてああなった」

不知火「いえ、不知火には十分な結末です。少佐の嫌がらせはこれからも続くかもしれませんが、少しずつ戦果を挙げて本営に見直しを……」

提督「それなんだがな。お前はこんな仕打ちを受けて、まだ海の平和のために戦いたいのか? 人間なんて俺も含めて碌なもんじゃねえぞ?」

扉< コンコン

不知火「!」

如月「そうかしら? 少なくとも、私は目の前にいる人のために戦いたいとは思うわ?」

提督「ん……如月か? 随分と顔色が良くなったな」

如月「ええ、せっかくここに着任できるんですもの、恥ずかしくない恰好で来ないと司令官の威厳に関わります」ニコニコ

如月「髪の毛だって気合い入れてお手入れしなおしたんですよ? ほら、もうさらっさらなんだから」シャラン

不知火「……見違えるようになりましたね」

如月「そうよ? それもこれも、司令官? あなたのためなんだからね?」

如月「戦果を挙げて、少しでもこの鎮守府の暮らしが良くなるように上に評価してもらわないと、ね」

不知火「ええ、その通りです。この不肖不知火も、尽力致します」

如月「そういうわけだから、司令官? 如月を、末永~く、お傍に置いてくださいね?」

提督「ん……ああ」アタマガリガリ

如月「……あら?」

不知火「……もしかして、照れているのですか司令?」

提督「うるせえ」

妖精B「照れてるね」

妖精C「うん、照れてる」

妖精A「照れてるな」

妖精「わかりやすいね」

提督「うるせえ!」ガリガリガリガリ

妖精D「提督! また艦娘が砂浜に流れてきてるよ! 息がある!」

提督「……ったく、またかよ面倒くせえな……どれ、行くか」



ということでここまで。

続きを投下します。

 * 数日後、執務室 *

通信『うむ。初めてのケースだが、希望通り君に任せることとなった。本当に良いのかね?』

提督「今更ですよ中将殿。この拠点の重要性、人の行き来のないこの立地。モデルケースにするのに丁度良いでしょう」

通信『……わかった。だが、君のような人材が、その島で燻っているのは実に惜しい』

提督「かといって他に適任もいないでしょう。そう思えば、この島に私が送られたのも必然だったのかもしれません」

通信『……? どういうことだね。少佐は、君のたっての希望でその島へ着任させた、と言っていたが……』

提督(あの野郎、やっぱり中将に嘘ついてやがったか……)

提督「そんな記憶はありませんが。ま、今更言っても配置換えは無理なのでしょう? それよりも、少佐はまだ所在がつかめないのですか?」

通信『困ったことにな……ちょくちょく連絡は寄越してくるから、仕事をしていないわけではないんだろうが……』

提督「とにかく、この島には如月と同じ境遇の艦娘がこれからも漂着してくると思われます。都度対応が必要になるでしょう」

通信『う、うむ……こうなった以上は、儂も不知火を通してバックアップしよう。何かあればまた連絡をするといい』

提督「は。ありがとうございます」

通信『ではな。よろしく頼むぞ、提督准尉』プツッ

提督「……」チン

提督「ふん。中将ものんきなもんだ」ノビーッ

 * 鎮守府内 ロビー *

朧「来ませんよ」

吹雪「いいえ、来てくれます」

朧「来ませんよ!」

吹雪「来てくれます!」

朧「来ません!」

吹雪「来ます!」

提督「……まだやってんのか」

吹雪「来ますよ! 准尉もそう思ってますよね!」

朧「吹雪、公平性を欠くから准尉さんに聞くのはよくないって言ってましたよね?」

吹雪「やっぱり聞いてみないとわからないじゃないですか! 准尉も来ると思いますよね!」

提督「……知らねえよ」

吹雪「准尉も! 来ると思いますよね!」

提督「だといいな」ハァ

吹雪「適当に言わないでください! 本音は!?」

提督「あ? 来るわけねえだろが」

吹雪「准尉!?」

提督「馬鹿か手前。お前のご機嫌なんざ知らねえよ、手前に都合いいこと抜かすな」

吹雪「……っ!」

朧「……」

吹雪「朧ちゃん、こんなこと言われて悔しくないの!?」

朧「否定、しませんよ。できないです」

吹雪「否定しようよ! じゃなきゃ……」

朧「……」

吹雪「じゃなきゃあ……!」グスッ

朧「泣くくらいなら、最初から期待しなきゃいいじゃないですか」グスッ

提督「……」

如月「司令官? 不知火が帰ってきたわ……あら、またやってたの?」

提督「ん」

如月「いいわね、元の鎮守府から戻ってこいって連絡がくるかどうか、言い争えるなんて」ポツリ

吹雪「思い出があるんです。希望を、捨てたくないんです。必要だって言われたいじゃないですか!」

如月「……でも、戻ってそれからどうするの?」

吹雪「そ、それは……また、艦隊の役に……!」

提督「立てると思ってんのか。一度沈んだ奴が」

吹雪「そんなの、わかりませんよ! 私は……また出撃できます!」

提督「そうかよ……くそが」チッ

不知火「司令、こちらにおられましたか」

提督「ん、ああ。不知火か」

不知火「頼まれていたものです。どうぞ」ピラッ

提督「ん……どれ。ああ、やっぱりな、これですっきりするだろ」

提督「おい、朧、吹雪」

朧「は、はい!」

吹雪「なんでしょうか!」ビシッ

提督「ほれ、今月轟沈した艦娘の報告書」ピラッ

提督「不知火が中将の部下に頼んで写しをもらってきたんだが……朧の鎮守府がこっちで、吹雪はここだな?」

提督「こいつに載っかってきたってことは、お前らもう死人扱いだ。迎えは来ねえ」

朧「」

吹雪「」

提督「もうこれでお前らも無駄な喧嘩しなくてすむだろ。不知火、ご苦労さん」

如月「司令官……」

朧「う、う、ぐす、うぇぇぇえええ……」

吹雪「うああああああんん!」

不知火「……あなたという人は」

提督「……ふん」

 * 執務室 *

如月「司令官、もう少しあの二人の気持ちも考えてあげたほうがいいわ?」

不知火「不知火も同感です。あのように大上段からバッサリでは、あまりに容赦ないかと……」

提督「いいんだよ。いい加減うるさかったしな」

妖精「……昔の自分を思い出してたくせに」ヒョコッ

提督「うるせえ」ジロ

如月「昔?」

妖精「提督が海軍になったのは士官からのスカウトと、中将の説得があったからだよ」

妖精「それまでは、わたしたち妖精が見えることでずっと変人扱いされてたから、相当荒れてたんだ」

妖精「それが、やっと誰かに必要とされたって喜んだ矢先に、少佐がこの島へ幽閉してくれたからね」

不知火「……なるほど、役に立とうとしても立てない場所に連れてこられたと」

如月「吹雪ちゃんの心境もわかるわけね……でも司令官? それならなおさらあの言い方はないんじゃない?」

提督「だからこそだ。下手な希望持ってたって、ろくな事にはならねえよ。俺が身を以て知ってんだからな」

不知火「……不知火が中将に便宜を図らいます」

提督「やめときな。馬鹿息子絡みならともかく、准尉の俺やいち艦娘でしかない不知火が何か囁いても、海軍の中将が動いてくれるわけねえだろが」

提督「それに俺はお前らにも言ったよな。本人から何をしたいのか聞かない限りは俺は動かねえ、って。気のすむまでしばらく泣かせとけ」

提督「それよりも、だ。不知火」

不知火「はい」

提督「多すぎねえか、今月の轟沈艦」パサ

不知火「はい……不知火も、そう思います」

提督「軒並み駆逐艦で、しかも低練度だ。どいつもこいつも何してやがる」ガン

不知火「それなんですが、おそらくは『捨て艦』かと思われます」

提督「捨て艦?」

不知火「今、ある海域にきわめて強力な深海棲艦が現れ、それを打破するための方法が海軍全体で試行錯誤している状態でして」

不知火「その中で生まれた戦い方のひとつが、沈んでも良い艦娘を随伴させ、それを囮にして進軍する『捨て艦』と呼ばれる方法です」

提督「沈んでも良い……ねえ。あいつらもそういう扱いを受けたってか」

不知火「おそらく」

提督「チッ……如月。あの二人を呼んでこい、そろそろ泣き止んだろ」

如月「ええ、わかったわ」

今回はここまで。

続きを投下します。

朧「朧、入ります」チャッ

吹雪「吹雪、入ります!」

提督「ん。とりあえずお前ら、今の境遇は理解してるか?」

朧「……はい」

吹雪「……」ウツムキ

提督「吹雪は認めたくねえようだが、まあいい。これからお前らはどうしたいか、希望を聞く」

吹雪「そ、それなら」

提督「元の鎮守府に帰りたい、ってのは無理だからな」

吹雪「……っ!」

朧「准尉、質問です。戻るのが無理だと仰るのはなぜですか?」

提督「中将に確認した。一度沈んだ艦娘が再登用されないのはなぜか。答えは簡単、怖いからだ」

朧「……え……?」

提督「科学的根拠はねえ。だが、轟沈した艦娘は深海棲艦になる、というのが海軍の通説だ」

提督「一度沈んだ艦娘を引き取ったら実は深海棲艦でしたー、なんて話になったら嫌だ、っていうのが海軍の中じゃ当たり前なんだとよ」

提督「ドロップ艦と呼ばれる海上で発見される艦娘は、艦として沈む記憶を持っていても、艦娘として沈む時の記憶を持っていないから安全らしい」

吹雪「そ、そんな……!」

提督「実際に昔あったんだと。一度沈んで戻ってきた艦娘が、ある日突然深海棲艦になったって話が。勿論その鎮守府は大騒ぎ、半壊したってな」

朧「その話を知っていて、どうして如月さんはこの鎮守府に残っているんですか?」

提督「そりゃ俺がそうするって決めたからだ」

朧「は!?」

吹雪「ええ!?」

提督「如月がここで働きたいっつうんだから、それをかなえてやりたいと思って行動しただけだ。今朝、中将と話を付けた」

朧「許されるんですか? そんなことが」

提督「おう、許してもらったぜ。これで如月もお前らも大手を振ってこの島に居座れる」

提督「あとな、元の鎮守府に戻る方法もないことはないが、お前らの記憶とか大本営で全部『初期化』する必要があるらしい。だよな妖精?」

妖精A「実際に見たわけじゃない。が、一度沈んだ艦娘をそのまま運用するのは危険だって言われてるが故の措置らしい」

吹雪「ど、どうして記憶を消す必要が……!」

提督「轟沈の記憶こそが、深海棲艦になる要因のひとつと言われているからだとよ。まあはっきりわかっちゃいねえらしいが?」

提督「仮に初期化を受けて、戻った鎮守府が元の鎮守府と違ってても、なーんにも覚えてねえから『戻った』とは言わねえよな?」

妖精A「悪い意味で『戻った』とは言えそうだがな」

提督「つうか妖精よぉ、お前らとしてもどうなんだ? この話」

妖精B「初期化の話? わたしたちは知らないよー」

妖精C「うちら装備妖精だもん。結局は噂だし、考えたくはないね」

妖精D「心情的な話をすればやりたくないけど、自分の艦娘が深海化する方が嫌かなー」

如月「私は忘れる方が嫌よ? 初期化でいくら体の傷も消えるって言ったって、司令官のことを忘れるくらいなら死んだ方がましだもの」

如月「それに、助けてくれた司令官のためにも、私は絶対に深海棲艦になんかならないし、なったら不知火ちゃんに沈めてもらうわ」ニコー

不知火「さりげなく重いお願いですね」ハァ

提督「これで海軍としての不始末がありゃあ、俺が人身御供になるだけじゃねえだろうしな」

如月「そのときは私も道連れにしてね?」

提督「そいつは遠慮しとく」

如月「もう……照れなくてもいいのに」

吹雪「……」

朧「……」

提督「でだ。改めて聞くぞ、これからお前らはどうしたい?」

吹雪「……」

朧「……」

吹雪「……私は、元いた鎮守府に帰りたいと思っています。でも、記憶を失ってまで帰りたいわけじゃないです」

吹雪「記憶を持ったまま、深海棲艦にならない方法を見つけて、それから帰りたいです……!」

吹雪「それでも帰れないなら、見てもらいたい……! 前の司令官に、吹雪は、こんなに強くなったって!」

朧「朧は……まだ、どうしたいのかわかりません」

朧「……だから、答えを見つけるまで、ここで……この鎮守府のために働きたいと思います」

朧「一度沈んだ朧が、生き残った理由を、知りたいんです……そんな理由でも、いいんでしょうか」

提督「いいんじゃねえの? 困ったらまたその都度考えればいい」

提督「つうわけで、如月! 吹雪と朧の登録手続き、任せたぜ」

如月「うふふ、了解よ、司令官」

提督「しかし、不思議なもんだ。どうして吹雪はそんなに元の鎮守府に帰りたがってんだか」

如月「きっと、忘れたくない思い出があるのかもしれないわ。生まれた場所だったとしたら、なおさらじゃないかしら?」

提督「そんなもんかね……如月もそうなのか?」

如月「ううん、私は司令官と一緒よ? でも、結果的に私はあなたの傍がいいって選ぶことができたんだもの。幸せだわ」

提督「……」ナデ

如月「きゃ!? ……うふふふ」ニコー

提督(俺もやきがまわったな……)


・艦隊に、朧と吹雪が加わりました。


朧「なんだか、うまく乗せられた気がするけど……」

吹雪「ふふっ、いいじゃないですか! 目標もできたことだし!」ノビーッ

吹雪「よーっし、これから頑張るぞーーっ!」

朧「……まあ、いいか。ふふふ」

不知火「お喜びのところ恐れ入ります、早速お手伝いをお願いしたいのですが」

 * 北東の砂浜 *

不知火「……」ナムー

吹雪「……」

朧「……」

提督「……ったく、くそが」

妖精A「半年前よりはましだが……一日でこんなになるかよ」

如月「いくらなんでも酷いわね……」

(打ち上げられた大勢の艦娘の残骸)

提督「やれやれ……」

妖精B「もう見たくなかったけどね、こんな光景」

吹雪「なんか、早くもくじけそう……」グスッ

朧「うん……」グスッ


如月「! 司令官、ほら、あそこ! あのうずくまってる人!」

提督「ん、どうした如月」

由良(大破)「……いな、づま……ちゃん……」

朧「! まだ生きてる人が!」

吹雪「し、司令官!」

提督「なんだ、俺が行くのか? しょうがねえな」

吹雪「し、しょうがねえ!?」ガーン

不知火「いつものことです、お気になさらず」

朧「いつものことって……」ヒキッ

提督「……」ザッザッザッ

由良「ねえ……いなづまちゃん、どこ……!?」キョロ キョロ

提督「……おい」

由良「! お願い、一緒に、探して……あの子、由良と、一緒に大破して……」

吹雪「て、手伝いましょう、司令官!?」

提督「そうだな、手伝うか」

朧「……やけにあっさりというか、すんなりお願いが通りましたね」

提督「ん? こいつがちゃんと『お願い』してるからな」ユラユビサシ

吹雪「そういう基準なんですか……」

提督「ただ、俺はいなづま? ってやつの特徴がわからねえ」

不知火「でしたら司令、浅瀬の艦娘を手当たり次第引き揚げていただけますか」

提督「……こうか」グイッ ザボァ

吹雪「ひぃぃい!?」ビクーッ

朧「く、首がない……!?」ビクーッ

提督「……こいつも埋葬してやらなきゃな」

如月「と、とりあえず特III型じゃないみたいね……司令官、ローマ数字の3のバッジがついた子を探してくれる?」

提督「ローマ数字……」キョロキョロ

 ポコ ポコポコッ

提督「泡? もしや……こいつか」グイッ ザバーッ

電(大破、失神)「……」

全員「「「その子です!!」」」

提督「よし、こいつだな」イナヅマヒックリカエシ

吹雪「?」

提督「ふんっ!」ストマッククロー

電「げぼがばべ!?」カイスイゲボー

全員(((うわああ……)))

電「お、おげっ、っ、げほ、げほっ! ……ぅ、ぅぇ……?」

由良「いなづまちゃん……!」

電「……ゆ、ら、さん?」

由良「!! よ、かっ……」バタッ

朧「由良さん!?」

提督「ドックに入渠させるぞ。駆け足!」

今回はここまで。

資材使わす艦娘ゲットでウハウハやな

>>91
海域で拾ってませんがドロップ艦みたいなものです。正確にはドロップアウト艦(提督も)。


では続きです。

 * 修理ドック *

不知火「轟沈艦のリストを見ると、この二人は、この鎮守府の出身と思われます」

提督「B提督の鎮守府か。こいつらも捨て艦か?」

不知火「軽巡の捨て艦は珍しいですね。おそらく無理を押しての大破進軍かと」

提督「とにかく、こいつらも轟沈リストに載ってるんなら、どうしたいか聞かにゃあな」

不知火「ところで司令。先程FAXでこのようなものが」ピラッ

文書『明朝0900、提督准尉鎮守府に2隻の軽巡洋艦が着任予定。準備されたし 中将』

提督「なんだこりゃ。この鎮守府に艦娘が送られてくるってえのか……?」

不知火「……そのようですね」

提督「……なーあ不知火? この鎮守府にわざわざ送られてくる艦娘ってのは、どんな奴だと思う?」

不知火「……いやらしい言い回しですね」

提督「くくっ、眉間にしわ寄ってんぞ」

不知火「……っ」

提督「ま、『そういう連中』なんだろうな。俺もお前と同じ感想だよ、そう腐んな」

 * その日の夕方、執務室 *

 トントン

由良「失礼します」チャ

電「失礼します、なのです」

提督「よう、目を覚ましたか」

由良「はい、助かりました。ありがとうございます」

電「あなたがこの鎮守府の司令官さんですか?」

提督「一応な。提督准尉だ」

由良「私は長良型軽巡4番艦、由良」

電「特3型駆逐艦、電なのです」

提督「B提督鎮守府の所属だな?」

電「電の司令官さんをご存知なのですか……?」

提督「いいや。昨日、うちの不知火が本営で今月の轟沈艦リストを貰ってきた。その中にお前らの名前があったんでな」

電「……ということは」

提督「B提督の鎮守府からは除籍扱い、つうことになるな」

電「……」

由良「電ちゃん……」

電「電の力不足だったのです」ションボリ

由良「そ、そんなことないわ! そもそもあんな艦娘の運用方法自体、無理があったのよ!」

電「でも……」

提督「反省会は後でやってもらえるか? 俺は、今後お前らがどうしたいかを知りたい」

由良「今後?」

提督「このリストに載ったからには元の鎮守府に戻れねえ。これからどうすんだ、って話だよ」

電「ええと……この島には、電たちのように流れてくる艦娘が多いのですか?」

提督「多いぞ。お前らみたいに生きて流れ着く奴は稀だがな」

電「……」ゾッ

由良「も、もしかしてこの鎮守府の艦娘って、みんなそうなの?」

提督「みんなもなにも4人しかいねえが……不知火以外はそうだな」

由良「……」カオヲ

電「……」ミアワセ

提督「で、どうすんだ? まあ、時間はあるから今すぐ決めろとは言わねえが」

由良「でも、選択肢なんてないも同然でしょ? 少なくとも、由良はもうあの鎮守府に戻る気はないわ」フゥ

電「……電も、そうなるのです」シュン

由良「かといって当てがあるわけでもないし……良かったら、この鎮守府に置かせてもらえないかな」

提督「好きにしな。仲違いさえしなきゃ、俺は構わねえ」

電「……あの、電も、よろしいのですか?」

提督「おう。その代わり、ここはここでいろいろ不便だから覚悟しとけよ。まあ、明日の朝にでも登録手続きはしておく」



電「由良さん……良かったのでしょうか?」

由良「良かったって……?」

電「電は、初期艦として、あの司令官さんと一緒に頑張ろうって思っていたのです」

電「でも、あの人は戦果にしか興味を持たないで、第一艦隊の人たちだけを優遇し続けてきたのです」

電「ほかのみんなを蔑ろにして、誰が沈んでもお構いなし……」

電「電が、もっと厳しく言っていれば……」

由良「それはきっと無理よ。あれがあの人の本性だったか、そういう風に変わってしまったか、よ」

由良「電ちゃんが頑張っていたのはみんな理解してる。でも、もう済んでしまったこと……もう、由良たちには何もできないわ」

由良「そういう意味では、由良も悔しいんだけど……ね」

電「由良さん……」グスン


・艦隊に、由良と電が加わりました。

 * 翌朝 食堂 *

由良「まさか間宮さんもいないなんて……」

電「朝ごはんを自分で作って自分で片付けるなんて久しぶりだったのです」

吹雪「司令官、お料理の手際良かったなあ……」

朧「そうだ、今度教えてもらえませんか?」

提督「あぁ? 面倒くせえ」

全員「「「「酷い!」」」のです!」

提督「そんなことより如月」

如月「はーい?」

提督「今日は今日で軽巡が2人来るって予定だったが、動きは?」

如月「もう船が沖に見えてるわ、ほら(双眼鏡差し出し)」

提督「……あれか」

如月「昨日、中将に連絡を取ったんでしょう?」

提督「一人は中将の部下が相談にきて、うちに移籍させられないかと申し出てきたらしい。非戦闘要員らしいが」

如月「……となると、明石さんか大淀さんかしら」

提督「もう一人は少佐の部下が申し出てきたんだと」

如月「少佐の!?」

提督「嫌な予感しかしねえんだよな……ったく」

今回はここまで。

続きを投下します。

 * 鎮守府 埠頭 *

船員「急げ!」

 ドタバタドタバタ

船員「おい! 鎮守府の司令官はどいつだ!」

提督「……俺だが」

船員「積み荷の明細だ!」ポイッ

提督「……」ペシッ ポトッ

船員「ったく、遅えんだよ。邪魔だ、どけ!」

提督「……」ムカ

朧「なにあれ。書類を投げつけてくるなんて、何様のつもり?」

提督「さすがは少佐の子飼いの部下だ、よく躾けられてやがるぜ」

不知火「(書類を拾い上げながら)ええ、本当に」

吹雪「み、見てください、あれ!」

 ガタッ キィィィ…

(頭も含む全身を拘束衣に包まれて車いすに載せられたまま、船員たちに運ばれる艦娘)

提督「おいおい……なんの真似だよ。ここまでするか?」

不知火(さすがの司令も露骨に嫌悪してますね。無理もありませんが)

如月「本当、酷い扱いね……」

船員「お前もだ! 早く降りろ!」グイッ

大淀「きゃっ!」ヨロッ

電「お、大淀さん!?」

吹雪「ちょっと、何するんですか!? 大淀さん、大丈夫ですか!」ガシッ

船員「よし、早く船を出せ! こいつは後で使えよ!」ポーイ

不知火「? また何か投げて寄越しましたね」パシッ

 鍵の束 <ジャランッ

如月「? なあに、それ?」

不知火「これは何の……」

提督「寄越せ不知火」グッ

拘束された艦娘「……」

提督「たぶん、こいつのだ」

 カチャ カチャ カチャ カキンッ

提督「けっ、余程こいつに近づきたくないらしいな、連中は」

電「拘束具の鍵……ですか?」

 カチャカチャカチャ カキンッ カチャカチャ カチン

 カチャカチャ チャキン カチャ カキンッ

拘束された艦娘「……」ギシッ

提督「待て。もう少しだ」

 カチャ シュルシュル カチャカチャ

 カチャ シュルシュルシュルッ

提督「よし。もういいぞ」

拘束された艦娘「……」スクッ

 バッ バサバサバサッ

拘束された艦娘→神通「……」バサッ

如月「じ、神通さん……!?」

吹雪「ど、どうして神通さんがあんな風に拘束されてたんですか!?」

神通「……」キョロ

神通「……」ジャキッ

由良「さっきの船の方に主砲を……まさか!?」

電「待っ……!」

 ドンドンドンドンッ

電「……って、くれなかったのです……」タラリ

神通「……」シュウウ…

提督「で? 当たったのか?」

不知火「は、はい。命中してます……いまのところ航行には問題ないようですが」

提督「そうかい、そいつは残念だ。沈んじまえば良かったのに」

朧「そんなのんきなことを言ってる場合じゃないと思うんだけど……!」

神通「……」

電「はわわわ……い、いったい神通さんに何があったのです?」

神通「……」ジッ

提督「……ん?」

神通「……」コツ コツ コツ

神通「あなたが、この鎮守府の提督……准尉ですね」

提督「おう、そうだが?」

神通「……死んでください」ジャキ

如月「!? し、司令官危ない!」バッ

不知火「司令、お下がりください!」バッ

吹雪「し、司令官!? いったい何をしたんですか!」

提督「知らねえよ、初対面だぞ」

朧「……絶対どこかで恨みを買ってそうなんだけど」ボソ

提督「ああ、そりゃわかんねえな。で……いきなり死ねときたか。神通っつったな、これがお前の望みか」

不知火「神通さん。司令を撃つ理由はなんですか」

神通「……」ギラッ

不知火「……!」ゾクッ

不知火(い、いけません……この人は、強さの、格が違いすぎます……!)マッサオ

提督「別に撃ちたいんなら撃っていいぞ、撃つ理由があるんならな」

神通「……!?」

如月「司令官!? 何を言ってるの!?」

提督「そん代わりふたつほど頼まれろ」

提督「ひとつはこの鎮守府の艦娘。こいつらの面倒を頼む」

不知火「し、司令!? 本気ですか!」

提督「ふたつめは、俺が憎んでる少佐を確実に地獄に落とせ」

神通「!」

提督「できるか? できるんなら撃て、できねえなら余所に行きな、手配はしてやる」シッシッ

如月「司令官!? そこでどうして煽るの!?」

不知火「や、やむをえません、ここは私が守ります! 如月は司令を連れて退避を!」ガタガタ

如月「何言ってるの不知火、あなたも膝が笑ってるじゃない! 司令官、早く逃げて!?」ユサユサ

神通「……准尉」

不知火「……?」

神通「……あなたは、少佐の部下ではないのですか?」

提督「部下。部下ねえ……ああ、そうだ。くそむかつくし認めたくもねえが、それは事実だ」

神通「……あなたは、少佐が嫌いなのですか?」

提督「ああ嫌いだね。キ○タマぶっ潰してやりたいくらい大っ嫌いだ」

神通「……!!」カァァ ジャキッ

不知火「司令! それはセクハラですよ!?」

吹雪「っていうかこんな状況で言うセリフじゃないですよぉぉ!?」ワタワタ

提督「あー? この程度でか? 面倒くせえ世の中だな」ハァ

電「司令官さん、こんなときに冗談がきついのです!」カァァ

提督「冗談? いうかよ、俺は本気だ。俺の人生の目標のひとつだぞ」

由良「本気だからって女性の前で言う言葉じゃないわよね、ね?」カァァ

朧「この人には言うだけ無駄かもしれませんよ」ハァ

如月(朧ちゃんも言うわね……)

吹雪(すれちゃってるなあ……気持ちはわかるけど)

提督「で、撃たねえのか、神通?」

不知火「ですから! 煽らないでください司令!!」

神通「……」

大淀「あの……神通さん、やめておきましょう? この人がどういう人なのか、もう少しお話を聞いてからでも遅くないと思います」

神通「……」

大淀「それに、仮にも駆逐艦二人に庇われてますから、そこまで悪い人とは思えません」

提督「おやおや……そいつはどうかね」アタマガリガリ

神通「……」スッ

不知火「い、命拾いしました……大淀さんありがとうございます」

大淀「ふふっ、どういたしまして」

今回はここまで。

神通さんの前に大淀さんが流されてきた理由を。

続きです。

 * 執務室 *

提督「任務が遂行できなくなった?」

大淀「はい……私は、大本営の指針に疑問を持ってしまったんです」

如月「ど、どういうこと?」

大淀「私は大本営が設定した日々の任務の管理を担っているのは、みなさんご存知ですよね」

提督「らしいな。俺はよく知らねえが」

不知火「どんな鎮守府にも、任務遂行を担当する大淀さん、酒保を受け持つ明石さん、食堂を切り盛りする間宮さんと伊良湖さんが、配属されますが……」

朧「憲兵さんすらいませんからね、ここ」

吹雪「疑問を持った……って、何をしたんですか」

大淀「日々の任務の正当性と言いますか、正しいのかどうかがわからなくて、耐えられなくなってしまったんです」

不知火「日々の……と言いますと、敵艦隊の邀撃とかですか」

吹雪「あとは演習の勝利、装備の開発に、艦娘の建造と解体、あと……」

提督「待て。今、解体っつったか」

吹雪「え? はい、解体です。この前に艦娘を3隻建造する任務があって、作りすぎた艦娘を解体する任務があるんです」

提督「なんでわざわざ建造した艦娘を解体する必要があるんだ?」

吹雪「そ、それは……」

大淀「提督。そこです」

提督「あ?」

大淀「建造を繰り返し行うのは理解できます。建造技術の習熟度と練度の向上、及び、鎮守府の戦力の増強。重要ですよね」

大淀「では、解体は? 解体技術を高めるため? それはいつ役に立つんでしょう? 戦時中である今、その技術は必要でしょうか?」

大淀「任務の名目上は軍縮条約、としていますが、それが毎日発生します。それがわかっていながら、毎日建造を行う理由は?」

大淀「何のために艦娘を建造するのか? 条約があるのなら最初から建造しなくて良いのでは? そういった疑問が頭から離れなくなりまして……」

提督「それでお前は『不良品』と診断された、ってか」ペラリ

大淀「逐一不安そうな顔をしていては業務に支障をきたすから、解体も建造もできないところで働けと」

大淀「ここの鎮守府ならドックが半壊してるはずだし丁度良い、と、もといた鎮守府の責任者から推薦されたんです」

大淀「ですが、ドックは壊れてないみたいですね?」

不知火「先日修理……というより、新調したばかりですから」

如月「全然使ってないから新品でしょ?」

大淀「使って、ない……?」

提督「わざわざ艦娘作って戦わせたくねえからな。だから建造しねえ」

大淀「え!?」

提督「もっとはっきり言やあ、俺は人間のために戦うつもりもねえ」

吹雪「な、なんなんですかそれ!?」

電「司令官さん!? どういうことなのです!?」

提督「ただの逆恨みだよ。俺は人間が嫌いだ、だから人間の平和なんかどうでもいい」

大淀「で、ではなぜあなたは海軍に……」

提督「妖精と話ができるからだ。それで海軍で働いて欲しいと言われて素直に入ったら、あの糞少佐に勝手に敵視されて島流し食らってこのざまだ」

由良「じ、じゃあ、提督さんは着任してから海軍でなにもしてないの?」

提督「ああ、なーにもしてねえよ。妖精と話せるってだけで入れっつったり出てけっつったり……思い出したらむかついてきたぞ、くそっ」

提督「あと、お前ら助けたのもなりゆきだ。人間に使い捨てにされたのを見過ごせなかった……まあ、これも俺の自己満足さ」

朧「だったら……だったら、どうして司令官は朧を助けたんですか」

提督「あ? んなもんお前が一番わかってんじゃねえのか?」

提督「お前を助けたのは、うなされてた時に『まだ……朧は、まだ……』って呟いてたからだ」

提督「投げたり諦めたりしたやつは『まだ』なんて言わねえ。何かしら未練があるんだろ、だから助けた」

朧「……っ」

提督「それにしても吹雪。お前、任務のことに詳しいな」

吹雪「は、はい! 一応、一通りの教育を受けてきましたから!」

由良「吹雪ちゃんや電ちゃんは、初期艦としての訓練も受けてるの。どんな任務があるか、ある程度教えられているのよね、ね」

吹雪「そういえば司令官、この鎮守府の初期艦はどうしたんですか?」

提督「初期……? それなら、如月だが?」

吹雪電大淀由良「「「「えええええ!?」」」」

朧「そ、そんなこと、あるわけないですよ! 本当ならこの二人や、漣とかから選ぶはずじゃ!?」

提督「そんなルール知らねえよ。この島に飛ばされてから三か月、俺はここで妖精たちと轟沈した艦娘を埋葬しながら無人島生活してただけだぞ」

提督「本営も中将も俺のことは少佐に丸投げだ。その少佐のせいで生きてる艦娘は一人も送られてこねえ」

不知火「補足しますと、通信機器も不正に制御されていたため、少佐の鎮守府としか連絡が取れない状態でした」

提督「それで人間のために働け? 寝言言ってんのか! くそが!」

吹雪電大淀由良朧「」アゼン

提督「……とにかくだ。一番最初に鎮守府に来た艦娘を初期艦って呼ぶなら、そりゃあ如月だよなあ?」

如月「そうね。私が初めてよ? うふふ」

不知火(嬉しそうですね如月)クス

提督「ああ、ついでに言うと憲兵も来ねえぞ」

大淀「な、なぜです!?」

提督「ここにいる不知火以外の5人が轟沈経験あるからな。さすがの憲兵どももこの島で暮らすのは勘弁してほしいそうだ」

由良「も、もう由良たちは深海棲艦扱いなの!? あんまりだわ……!」

提督「轟沈した艦娘を鎮守府でそのまま保護しておくこと自体が異例中の異例とか言ってやがったし」

提督「ま、気にすんな。この鎮守府は轟沈した艦娘が滞在しても俺の責任にしときゃ問題ねえって話でケリを付けたんだからな」

不知火「司令。それはそれで責任重大なんですが、理解してらっしゃるんでしょうか……」

提督「話はそれたが、大淀、お前が疑問持ってるような任務は放っとけ。その辺の判断はお前らに任せる。つうか、お前の好きにしろ」

大淀「は、はぁ……」

提督「でだ、神通」

神通「……」

提督「お前、ずっとだんまりだが、お前はどうするよ?」

神通「……あなたが何を考えているのかが、わかりません。あなたは、この鎮守府をどうしたいんですか」

提督「そうだな……とりあえず、ここの艦娘がちゃんと生活できる環境を整えてやんねえとな」

如月「そのためには、出撃して、敵艦を邀撃して、戦果を報告しないとだめよ?」

提督「あまり気が進まねえが……人数も増えたしなあ。そうするしかねえか」

大淀「あの……それでしたら、任務を実行していただければ、本営から報酬が出ますよ」

提督「なに?」

大淀「吹雪さんからもありましたが、私が管理している任務には、敵艦隊の邀撃や、遠征任務の実施なども含まれます」

大淀「それらの任務達成による報酬で得られる高速修復材などは、艦隊のためにも確保したほうが良いかと思います」

提督「……高速? 有用なのか?」

如月「そうね、大破して入渠することになっても、すぐ直してもらえる特効薬みたいなものかしら」

提督「あるに越したことはねえってか……受け取る以上はある程度戦果を挙げとく必要もあるんなら、しゃあねえな。大淀」

大淀「はい」

提督「まるで物に釣られるみたいで意地汚く見えるが、お前にその辺の協力を仰ぎたい。頼めるか」

大淀「はい、もとよりこの鎮守府のために働くつもりです。これからよろしくお願いいたします」ペコリ

提督「ああ、こちらこそだ」

不知火「……」

提督「なんだ不知火、その目は」

如月「うふふ、素直な司令官を見てびっくりしたのよね?」

提督「俺はいつでも正直に生きてるつもりだがな」

不知火「……せめてTPOを弁えて、正直さを出していただきたいのですが」

提督「そんなもの俺の勝手だろ。それに勘違いすんなよ、俺たちが戦うのは人間のためじゃねえ。俺たち自身のためだからな」

如月「ええ、理解しているわ司令官」

電「如月ちゃんは司令官さんに優しいのです。なにかあったのですか?」

如月「それはもう、いろいろあったのよ?」ニコー

由良「ね、ね、なにがあったの? 教えてほしいな」

如月「ふふふ、ひ、み、つ、です」ニコニコー

吹雪「えっ、何ですかその意味深な発言! どういうことですか司令官!」ドキドキワクワク

提督「知るか」ギロリ

吹雪「しれいかぁぁぁん!?」ガビーン

朧「……本当によくわからない人」

神通「……」

今回はここまで。

続きです。

今回は神通さん編。

 * 夜 執務室 *

提督「……」

扉 <コンコン

提督「おう」

神通「失礼します」

提督「……話があるって?」

神通「はい。昼間は失礼致しました……少佐のことでお話ししておきたいことがあります」

提督「ん、とりあえず座れよ」

神通「あの……お願いです。私に、少佐を討たせてください」

提督「……ああ、それは構わねえ」

神通「では……!」

提督「俺とお前だけなら、頑張ればやれるかも、とは思うがな。やろうと思ったらあいつらを道連れにしなきゃいけねえ」

提督「あいつらも人間のせいで酷い目にあってる。もう少し長生きさせてやりたい」

神通「……」

提督「だから今は、もう少し待ってろ、と言いたいとこだな……」

神通「……そう、ですか」シュン

提督「それに、夕方の定時連絡、聞いたろ?」

神通「はい、聞かせていただきました。最近少佐は鎮守府を留守にしていると」

提督「ああ、だから攻めようがねえ。おかげで今は赤城が全部泥をかぶってる」

神通「いつまで、もつんでしょうか」

提督「赤城がか?」

神通「はい……そして、あなたもです」

提督「……」

神通「あなたはあなたで、やる気をなくしている、という雰囲気と、爆発したくてしょうがない、という雰囲気が混ざっているように見えます」

提督「……」

神通「……」

提督「確かに、な」

提督「やっとこの前、少佐の鎮守府まで行くことができた。そのときにやれてりゃあ良かったんだがな……あいつらのその後を優先しちまった」

神通「……あの、あなたをかばったふたりですか」

提督「ん。察しがいいな、その通りだ」

提督「まあ、ぶっちゃければ、そればかりじゃねえんだ。今の、他人……つうか、人間がいない生活が快適だっつうのもある」

提督「周囲の目を気にしてイライラしてたガキの頃とは全然違って、予想外に楽なんだよ。不満は物資が少ないことくらいだ」

提督「俺としちゃあこのままおっ死んでも良かったが、それで少佐が喜ぶんなら話は別だ。奴への嫌がらせのために俺は生きてる」

神通「……」

提督「勿論ストレスはたまるさ。ただ、最近この島に漂着してくる艦娘の境遇の方が俺なんかよりも悲惨でな」

提督「俺と同じ、人間に嫌な思いをさせられた奴らだ。無碍にできなくてこうなった」

提督「お前もそういうクチだろ?」

神通「……」

提督「奴がお前をこの島に送り付けたのは、奴の部下である俺を始末させるためか?」

神通「……それは、わかりません」

提督「少佐の部下である俺を派手に殺せば、あれもお前を処分する理由ができる。そういう思惑がありそうな気がしたんだがな」

提督「逆にお前がこの島に馴染むようなら、俺と一緒に幽閉し、あわよくば全員体よくくたばれ、ってとこだろう」

神通「……」

提督「……」

神通「……」

提督「……で、神通も喋りに来たんじゃねえのか?」

神通「……聞いて、くださいますか」

提督「ああ。だから座りな」

 * * *

神通「私は、3年前にF提督鎮守府へ配属されました」

神通「小さな鎮守府でしたが練度の高い艦娘が多く、またその艦隊の司令官であるF提督もとても良い方でした」

提督「F提督……」

神通「ご存知なのですか?」

提督「いいや、顔も知らねえ……が、事故死に見せて暗殺されたらしいって噂だけは知ってる。3か月前か?」

神通「はい……」

提督「深海棲艦と和平を結ぶ方法を模索して東奔西走していたところの船舶事故、ってのが本営からの発表だった」

提督「和平に反対してる奴らの仕業、って考えてんのか?」

神通「はい。そしてその事故は……F提督の鎮守府から、私を引き抜こうとした結果引き起こされた事故だと、私は考えています……!」グッ

提督「お前を……?」

神通「事故の知らせの直後、私は本営からの連絡を受け、輸送船へと案内されました。事故現場へ連れて行かれると思っていました」

神通「しかし、行き先はF提督のもとではなく、別の鎮守府……G提督の鎮守府でした」

提督「……」

神通「あの男は最低でした。暴力とモラルハラスメントで艦娘を支配しようとする気質の男でしたから」

神通「秘書艦を命ぜられた私は、暴力を振るわれたり不愉快な言葉を口に出されたりする前に、あの男の一挙一動を観察して対策しました」

神通「触られる前に席を立ち、卑猥な言葉を言われる前に違う話題を振り、秘書艦の立場を利用して業務を押し付けて椅子に縛り付け、遣り込めたんです」

神通「一番効果的だったのは、G提督の考えを言い当てることでした」

神通「あの男は、私が後ろを向けば私に触ろう、抱き着こうとしていました。それを逆手にとって、後ろを向いたままそれを指摘したんです」

神通「……それからは簡単でしたよ。あの男が考えているであろうことをそのまま口にするだけで、あの男は勝手に怯えて逃げ出して……」クスッ

神通「いつの間にか、私は他人の心を読むことができる、なんて言われるようになって……」ウツムキ

提督「今朝移送されてきたときのあの厳重な拘束具も、船員の態度も、すべてはお前を恐れて……か」

神通「F鎮守府に着任するより以前も、他の鎮守府で働いていたのですが、秘書艦になると決まって数週間後に転属を言い渡されていました」

神通「秘書艦になったときは、艦隊の業務を滞りなく進めるために、いろいろなことに気を配っていたんです」

神通「整理している書類の順番は決まっていますから、進捗度合によって適切な資料を提供したり」

神通「お茶を淹れるタイミングを計ったり、色目を使われそうになったら先手を打って牽制したり……」

神通「でも、しばらくするとみんなこう言うんです。『お前が怖い。考えていることをすべて見透かされているようだ』と……」

提督「……どいつもこいつも」チッ

提督「で、お前はそのG鎮守府からも追い出されたってわけか。せっかくお前が欲しかったってのに……むかつくぜ」

神通「そのG提督は今、病院にいます。私が、狂わせたんです」

神通「でも、後悔はしていません。G提督が少佐に電話をかけていたところを見つけたときから、私は復讐を決めていましたから」

提督「!」

神通「その時の電話で、F提督が亡くなったのち、G鎮守府への異動を手配したのが少佐だったことがわかったんです」

神通「G提督は、少し前にF提督鎮守府で私を見かけたらしく、そこで私に興味を持ち……私を手下に置きたいと少佐に持ちかけていました」

神通「戦争から利益を得ている少佐は、深海棲艦との和解を望むF提督たちを目障りに思っていたと聞いています」

神通「G提督は、少佐にF提督を殺してほしいとは頼んでいないと言っていましたが、定かではありません」

神通「ですが、利害の一致した少佐はこれを好機と見て、F提督と、彼に同調する関係者を消そうとしたんでしょう……!」フルフル

神通「私が、F提督と一緒にいたせいで……あの人が……F提督が狙われて……う、ううう……っ!!」ポロッ

神通「あの方は……この私を、好きだと……仰ってくださったんです……! 指輪まで、用意してくれて……なのに、なのに……っ!!」ポロポロ

神通「私は、F提督の、葬儀にすら……出ることも、かなわなかった……う、うう……あぁぁぁぁ……!!」

提督「……」ギリッ


 * * *


提督「……」

神通「あなたは……冷静、なんですね……」グスッ

提督「冷静、ね……神通。俺が今、何を考えてるかわかるか?」

神通「? ……いえ……」

提督「俺は今、どうしたらいいかわからなくて悩んでる」

提督「俺は誰かをそこまで好きになったことがねえ。だから俺はお前にどんな言葉をかけるべきかもわからない」

提督「それに、少佐を討ちたいって気持ちだけはわかったが、その希望を今すぐ叶えてやることもできねえ」

提督「だからどうしようもねえな、って思ってたんだ。だから、お前が言うほど冷静なんかじゃねえよ……力になれなくて悪いな」

神通「……いえ、聞いていただき、少し、落ち着きました。ありがとうございました」

提督「とりあえず、だ。ないとは思うが、この鎮守府で艦娘同士で争う以外は何をしててもいいからよ。しばらくは適当にやってくれ」

神通「……わかりました。失礼いたします」ペコリ

 パタン

提督「……」

提督「……妖精」

妖精「なにかな」ヒョコッ

提督「今回は……俺にできることはねえな」

妖精「……そうだね」

提督「……少しは、誰かの役に立てていた、って、気になって、まあまあ満たされた気になってたんだがな」

提督「久々だな。こうやって、歯痒い思いをすんのは」

妖精「……」

提督「……くそが」


・艦隊に、大淀と神通が加わりました

というわけで今回はここまで。

この時点で神通さんだけレベルが高いです。
駆逐艦勢、試練の時。

今のところ、本編とこちらのスレ両方に出てきているのは以下の方々。

提督:准尉。本編ではスレ中盤に少尉に昇進。
中将:そのまま。
少佐:本編では大佐に昇進済み。
B提督:本編では部下B。

そのうち本編の中佐(X中佐)も出てくる予定。

今回は、部下AことA提督の鎮守府が舞台です。

 * 1か月後 A提督鎮守府 *

霰「霰です」

満潮「満潮よ!」

A提督「来たか。おい、北上!」

北上「んあ?」

A提督「こいつらはお前に任せる」

北上「えぇ~? ……まあ、いいけどさ~」

A提督「よし、下がっていいぞ」



満潮「なにあれ、まともな挨拶もなし? 呆れた……私、なんでこんなところに配属されたのかしら」

霰「……」

北上「まー、あれだねー。あの人、結構忙しいからねー」

満潮「忙しいって言葉で片付けられる態度じゃないでしょ!? 何様のつもりよ!」

北上「司令官様のつもりなんだろーねー。ま、自由時間が増えると思えば、悪くないっしょー」

満潮「それでよく艦隊運営できるわね。感心するわ!」

霰「……」

北上「あー」

満潮「なによ!」

北上「……うざい」

満潮「はぁ!?」

北上「うざい。駆逐艦うざーい」

満潮「は、はああ!? なによ! あ、あんた何様のつもり!?」

北上「あたし? あたしは軽巡、北上様だよー」

満潮「うっざい!」ピキ

北上「はぁ?」ピキ

霰「……喧嘩……よくない」

満潮「なによ!」

北上「なんだよー?」

霰「……霰も、怒る……よ?」ギンッ

満潮「わ、わかったわよ……!」タジッ

北上「……ま、まあ、あたしも大人げなかったかなー」ポリポリ

霰「……ん……それより、任務」

満潮「そ、そうね……とりあえず、私たちは何をすればいいの?」

北上「んー、そだねー……」

 * * *

明石「へー、初出撃で無傷ですか!」

北上「そだよー。結構見所あるみたい」

明石「二人とも良かったですね!」

霰「……嬉しいかも」ペコリ

満潮「ま、まあ、このくらい当然よ」プイ

北上「んー、ただねー、満潮は動きすぎ。攪乱のつもりだろーけど、自分からあたしの雷撃に当たりに行きそうな勢いだったしー」

北上「霰は逆に動かなすぎ。当たらないってわかるといきなり原速に戻すから、単縦陣だと衝突するかもねー」

北上「二人とも、連携と相手の動きを見るってところは問題ないけど、味方の動きが見えてないとこが問題かな」

霰「……!」

満潮「……」

北上「んー? なにさー、ハトが豆鉄砲食らったような顔してさー」プー

明石「北上さんは結構周囲を見てるんですよ? 魚雷の射線に味方が割り込まないように注意してるんですから」

満潮「……そ、それであの命中率なの?」

霰「すごい、当ててた」

北上「んー、まあ、近々重雷装巡洋艦に改装される話があってねー。北上様は名実ともに雷撃のスペシャリストになるんだよぉ」ニヘラ

北上「だから魚雷の扱いには詳しくならないと、だし。今じゃ明石とも協力して、一緒に新型魚雷の開発をしてるんだよねえ」

満潮「ふぅん……!」

北上「でもなかなかうまくいかなくてねー」

明石「酸素魚雷の開発も難しくて、もっと簡単な作りで威力のある魚雷を開発できないか、北上さんと共同開発中なんです」

北上「見た感じ、二人とも興味ありって顔だねー」

霰「うん……砲戦より、水雷戦ですよ……?」

北上「おー、いいねえ、しびれるねえ」ニヒヒ

満潮「……まあ、いいんだけど。だからって全員が全員魚雷だけ積むわけにもいかないんでしょ」

満潮「機動力を生かすなり夾叉で牽制するなり、とにかく当てないと、威力があっても意味ないじゃない」

北上「……へー」

満潮「……なによ」

北上「ちゃんと考えてくれてんじゃーん。えらいぞー」グリグリ

満潮「頭ぐりぐりすんのやめなさいよ! うざいわね!」

明石「……」

霰「……明石さん、元気ない?」

明石「え? い、いえ、そんなことありませんよ!」

霰「……」クビカシゲ

北上「んー、やっぱり元気なさそうに見える? 明石ってば、最近冴えがないよねー」

満潮「ちょっと北上さん!? まさか明石さんに無理させてないでしょうね!?」

明石「あはは、大丈夫ですよ! むしろ北上さんと開発してるときは、楽しくて疲れが吹っ飛んじゃいますから!」

北上「少し前も、装備がいきなり暴発したとか嫌な騒ぎがあって、そのときも明石は大忙しだったよねえ」

満潮「なによそれ! 物騒過ぎるわ!」

明石「まあ、原因も突き止めましたし、再発防止のために手は尽くしましたから……」

満潮「とにかく! 明石さんはしっかり休んでおきなさいよね! 私たちが出撃中に倒れたりしたら許さないんだから!」

北上「それ、駆逐艦が言う台詞じゃないよねー……」

明石「あはは……でも、ありがとうございます」







霞「私たちの姉妹艦よ? 挨拶もなくて、本当にいいの?」

朝潮「……はい。今の私たちには、証拠をつかむことが最優先事項です」

 * 朝潮の回想 *

明石「裏帳簿……!?」

A提督「そうだ。これから金が必要になる。お前にその手伝いを頼みたい」

明石「そんなこと、できるわけないじゃないですか!?」

A提督「うむ。だろうな。ああ、別に構わない。協力を得られないなら、これから出撃する艦隊の装備に少々の手違いがあっても仕方ないな?」

明石「!?」

A提督「役立たずどもは解体する。修理よりもその方が得だ。そう思わないか?」

明石「……!」

A提督「艦娘というものは死にたがりが多いと聞くしな。戦場で散るなら本望だろう」

A提督「少しばかりその手伝いをしてやるというのも、おつなものかもしれんな?」

A提督「まあ、海に沈めるか溶鉱炉に落とすか、そんなことは微々たる違いだとは思うが……くくく」

明石「あな、た、は……っ!」ギリッ

A提督「ではな、明石。話は終わりだ」クルリ

明石「ま……待って!」

A提督「……」コツ コツ

明石「待ってください!」

A提督「んん? 何のようだ? 話は終わったぞ?」ニヤリ

 * 朝潮の回想終わり *

朝潮「それまでは、他の誰にも接触しないほうが良いと思います」

霞「……わかったわ。下手に手伝うなんて言われても困るし、その方がいいわね」

霞「あの救いようのないクズは、私たちがなんとかしないと……!」

朝潮「はい。明石さんのためにも」



 * 数日後 *

北上「じゃじゃーん、重雷装巡洋艦、スーパー北上様だよー」

霰「……おお」パチパチ

満潮「魚雷の発射管がいっぱい……重そうね」

北上「うん、重いよー。持ってみる? ちょー重いよー? 暴発するかもねー」ニシシ

満潮「え、遠慮するわよ!」

北上「そーぉ? いいけどさ~……明石もありがとね」

明石「いえいえ、ご協力できてなによりです。間に合って良かった」

北上「間に合って?」

明石「あ、資材が間に合って良かったなって意味です! あははは」

霰「?」

満潮「そ、それより、そっちの魚雷も気になるんだけど」

北上「あー、もしかしてそれ、この前作った新型の魚雷?」

明石「はい、それがですねえ……」

北上「あ、もしかして」

 バンッ

憲兵「工作艦明石!」

明石「!」

満潮「な、なに!? なんで憲兵がここに!?」

憲兵「立て! 貴様にはこの鎮守府の金を横領した容疑がかけられている」

霰「え……?」

北上「ちょっと、明石!?」

明石「……大丈夫ですよ、北上さん。私は、大丈夫です」スクッ

憲兵「では、同行願おうか」

明石「はい」スッ

北上「明石!!」

明石「北上さん、少しだけ待っててください」

憲兵「! これはA提督殿」

明石「……え?」

A提督「明石、貴様ともあろう者が、失望したぞ……?」ニヤリ

明石「なぜ、あなたが、ここに」

A提督「……連れて行け」

憲兵「は。来い!」

A提督「……駆逐艦たちを使って鎮守府の金を横領した罪、どうやって贖ってもらおうか……くくく」

明石「!? まさか……」クラッ

憲兵「早く来い!」

北上「……」アゼン

霰「……」ボーゼン

満潮「……な、なんなのよ。何があったのよ!」

A提督「今言った通りだ。明石が駆逐艦2名と結託して、裏帳簿を作って金を横領していた。それだけだ」

A提督「残念だよ……こんなことになろうとは」

A提督「……うむ、北上。貴様は改装を終えたのか。丁度いい、今度貴様の力を見せてもらおうじゃないか」

A提督「ここにある魚雷、積めるだけ積んでこい。初仕事を与えてやろう」クルリ

 コツ コツ コツ…

満潮「どういう、ことなのよ」

霰「……北上さん」

北上「……わかんない。わかんないよ」

ひとまずここまで。

海軍は憲兵ではなく特警な

>>141
ご指摘ありがとうございます。
次回以降修正します。

とりあえずA提督を掘り下げて描いてみたら
くっそ気に入らない奴になったので、
さっさとしまっちゃいましょう。

続きです。

 * その日の夜 明石の工廠 *

北上「…………」

北上「なんでこうなるかなあ……」

北上「明石が……裏帳簿、なんて……」

北上「嘘だよね……嘘だよねえ……」

北上「はぁ……あたしの荷物、持ってかなきゃ」

北上「? なにこの手紙……明石の!?」

 ガサッ ペラリ

手紙『北上さんへ』

北上「うわ、雑な字……急いで書いたの、かな」

 『私が捕まったときのためにこの手紙を残しておきます。』

 『私は、A提督から鎮守府のお金を盗むよう、指示されていました。』

 『A提督は、艦隊のみんなに不良品の装備を持たせ、危険な状態で戦闘をさせています。』

 『そして、その装備のせいで戦果を上げられなかった艦娘を、私に解体するよう命じています。』

 『まともな装備を持たせたければ、艦娘を解体させたくなければ、私にA提督の悪事を手伝え、と……。』

 『幸いにも、朝潮ちゃんと霞ちゃんが、A提督の悪事の証拠を掴んでくれました。』

 『その証拠があれば、すぐにとは言えませんが、私も自由になれるはずです。』

 『少しだけ、待っていてください。』


北上「…………」

『追伸』

『今回開発した丁型魚雷、爆風だけはすごいんですけど、』

『威力がてんでからっきしでした。次こそ、いいもの作りましょうね!』

  『明石』

北上「…………」

北上「…………」クシャ

北上「…………」

 * 二日後 太平洋洋上某所 *

 * A提督所有 巡視船甲板上 *

特警1「A提督。なぜこのような場所へ?」

A提督「余所の艦が来ないような場所の方が良いと思ってね。雷撃処分とはいえ、流れ弾が他の艦隊に影響してはまずいだろう?」

特警2「然様でしたか……」

特警3「連れてきました」

(猿轡+両手両脚を縛られ引きずられてくる明石)

明石「……」ジロッ

A提督「うむ。では、これより3隻の雷撃処分を行う」

明石「!」

特警4「抵抗するな!」

朝潮「んーーー!」

霞「んぐうう!」

明石(朝潮ちゃん!? 霞ちゃんも!?)

特警1「艤装は外さないのですか?」

A提督「せめてもの情けだ。艦のまま沈めてやろうじゃないか」

A提督(艤装の中に証拠が残っていたらまずい。一緒に沈めてやらねばな)

A提督(わざわざこいつらが主犯として動いたように工作したんだ、念入りにしなければ)

A提督「では、始めよう。こいつらを海へ放り込め!」

特警2「はっ!」

明石「んんっ!」ガシッ

朝潮「んーーっ!(明石さん!)」

霞「んむうう!(離しなさいよ!)」

A提督「抵抗するな!」グイッ

 ドボーン

A提督「次!」

朝潮「んー! んーーー!(明石さん! 明石さん!)」グイッ

 ドボーン

霞「んぐ、ぐむーー!(朝潮っ!)」グイッ

 ドボーン

霞(縛られてちゃ、まともに浮けないじゃない……!)

朝潮(明石さんは……!)

明石(……私だけならまだしも、この二人にまで罪をかぶせるなんて……!)

A提督「北上。やれ」

明石(!?)

(海上に立つ北上と、後ろに控える霰、満潮)

北上「……」

北上「……やるしか、ないのかねえ……」

霰「……」

満潮「……」

北上「……」

霰(あのお手紙の通りなら、A提督が明石さんに罪をなすりつけたことになる)

満潮(でも……A提督が怪しいのはわかっていても、証拠が何もないんじゃ、どうしようもない……)

北上「やっぱり、あたしがやるしか、ないんだろうねえ……」ジャキ

A提督「北上、重雷装巡洋艦の力、見せてもらおうじゃないか……中途半端な仕事を見せるようなら、わかっているな?」ニヤリ

北上「……」

霞(北上さんに撃たせるの!?)

朝潮(なんてことをさせるんですか……!)

明石(……北上さん……!)

北上「……片舷20門、全40門。うち四半分の10門を開放」

A提督「よし。さあ……撃て!」

北上「っ……あんたが……言うんじゃないよ」ギリッ

 バシュバシュバシュッ

 シュパーーーッ

明石(……せめて、彼女たちに当たらないように……!)グイッ

朝潮(明石さん!?)

霞(私たちをかばって!?)

 ドォオーーーン

明石(ぐっ……!? 思ったより、ダメージが少ない?)

明石(もしかして!?)

北上「……更に10門を開放。発射……!」バシュバシュバシュッ

 シュパーーーッ

明石(ああ、あの魚雷は……!)

北上「……あたしに、やれっていうのなら……やってやろうじゃないの……!」

北上(失敗作の魚雷で撃って、沈めたように見せかける……)

北上(致命傷にならないように、魚雷が明石たちの前で接触、炸裂するように角度を調整して……)

北上(うまくいくかはわからない。でも、こうやって、3人が生き残るのを祈るしかないよね……!)

 ドーーンドーーン

 ドーーンドーーンドーーン

特警1「おお……」

特警2「凄まじい威力……!」

A提督「これが、重雷装巡洋艦か……!」

北上「……霰、満潮。魚雷、補充して」

霰「……」コクン

満潮「ええ……」ガシャッ

北上(こっちだって証拠は残さない。丁型魚雷はここで全部処分して……)

北上(明石たちが生き残っているなんて、絶対に思わせない!)

霰「……北上さん」

満潮「いい、わよ……!」

北上「……」ジャキ

A提督「な、なんだ? まだ撃つのか!?」

 バシュバシュバシューッ

 ドーーン

 ドーーンドーーン

 ドーーンドーーンドーーン

特警3「魚雷だというのに、とんでもない、爆音ですな……」

特警4「なんと、容赦ない……」

A提督「……き、北上! もういい! もう、十分だ!」

北上「あ?」ハイライトオフ

A提督「……お、終わりだ! もういいぞ北上!!」

北上「あー、そう。終わりでいいんだね?」ニコ

A提督「あ、ああ。よくやった。よく処断してくれた。あそこまで容赦ないとは思わなかったが……」

北上「そーぉー? ……この北上様は、誰にだって容赦しないよ」


北上「もちろん、てぇとくー? あんたに対しても、ねぇ?」ニヤァ


A提督「……っ!」ゾッ

A提督「はは、じょ、冗談がきついな。ご苦労だった、ゆっくりと休め」

士官「……A提督、近くに他の鎮守府の艦娘の反応が」ヒソッ

A提督「……わかった、引き上げるぞ」

A提督「よし、では速やかに帰投せよ! 急げ!」

 * A提督鎮守府 トイレ *

北上「はぁぁ……」

北上「……うぶっ……うえ、げぇぇぇ……」

北上「おぐぅえぇぇ……げほっ、げほ……」

 ジャーッ

北上「……あ゛ー、気分わる……はぁ……」

北上「!」

霰「北上さん……」

満潮「……ねぇ……大丈夫なの?」

北上「んん? あー……どっか行きなよ。駆逐艦なんかに心配されるよーな、北上様じゃないよ」シッシッ

霰「……」

満潮「……」

北上「ほらー、うざいからさっさと……」

霰「嫌」

北上「……」

満潮「残念だけどね、私たちは北上さんを手伝ったのよ……他人とは言わせないわ」

霰「だから、一緒にいる……一緒にいたい」

北上「……」

霰「……北上さん」

北上「……駄目だから。どっか行きなよ」

満潮「なんでよ!」

北上「だって……」



北上「今、ゲロ臭いし」

霰「」

満潮「」

北上「……ぷ。なにさ、その顔」

満潮「ちょ……心配したのよ!?」

霰「……」ムス

北上「ひひっ……あー、はいはい。ついてきたいんなら、まー……適当に、ついてきなよ」

満潮「適当にって……ああもう、わかってるわよ! ついて行くわ!」

霰「……」コクン



北上「……ありがとね。あんたたち」ヒソッ

とりあえずここまで。

次回は敷波の予定。

続きです。

 * 少し時間をさかのぼって 墓場島付近の外洋 *

 ザザーン

敷波(小破)「……あー、いい天気」

敷波「こういう穏やかな海は久しぶりかなー」

敷波「……」

敷波「はぁ……」

 * 回想 B提督鎮守府 *

敷波「だから言ったじゃんかさー、電だって心配してたでしょ?」

B提督「うるさい! 電がいなくても作戦は遂行できる!」

敷波「目先の戦果に釣られて電を失ってから、ずーっと海域突破できてないじゃん。ショックなんでしょ?」

B提督「……そんなことはない!」

敷波「そう言ってもさ、今回の作戦が成功したら中将の配下に入れるチャンスだっていうのに、被害しか増えてないよ?」

敷波「評価が下がるのは仕方ないにしてもさ、焦らないでいったん引いたほうがいいと思うんだけどなー。士気にも関わるよ?」

B提督「だ、黙れ敷波! いくら付き合いが長いとはいえ俺は上官だぞ! 言って良いことと悪いことがある!」

敷波「えー、なにそれ! 今の話のどこが悪いって言うのよー! 初期艦だった電まで犠牲にした司令官は悪くないっていうの!?」

B提督「……うるせえ! ああ、そうかよ! 電がいなきゃ駄目だって言ってんだなお前は!」

B提督「だったらお前が電を探して連れてこい! 探し当ててくるまで戻ってくるな!!」

 * 回想終わり *

敷波「……はぁ」

敷波「馬鹿だよねー、あたしも。頭に来てたのは本当だから、しょうがないけどさー」

敷波「燃料も弾薬もほぼ空っぽ、そして艦影もなし、孤立無援っと」

敷波「あーやだやだ、3日も独りきりだと独り言が多くなっちゃってさー」

敷波「……」

敷波「どっか停泊できる島とかあればいいんだけど……んー?」

 ドーン

敷波「? なに? 今の爆発音」

 ドーンドーンドーン

敷波「……な、なんかたくさん聞こえるんだけど」

 ドーンドーンドーンドーンドーン

敷波「やっばいじゃん……すごい激しい戦闘してる? 大艦隊が来てるのかな」

敷波「……」

敷波「……で、でも、あたしが行ったって、役に立てないだろうし……」

敷波「……」

敷波「気になる……ち、ちょっとだけ、見に行こうかな……」

 * * *

敷波「確か、もう少し行ったあたり、かな……!?」

魚雷 <シャァァァァ

敷波「うえっ!? もしかして流れ弾!? やっば、回避できな……!」

 ドォォォォンン!

敷波「くうっ!? う、げほげほっ! す、すごい煙! ……って、あれ?」

敷波「直撃したのに殆ど被害なし? ……ど、どういうこと?」

魚雷 <シャァァァァ

敷波「うわ、また来た! 回避回避っ! っていうか多すぎだよ!」ザザッ

敷波「……向こうの音がやんだ……終わったのかな?」

 ザァァッ

 * * *

敷波「確か、この辺だよね……」キョロキョロ

 ザバッ ガシッ!

敷波「うわあ!? だ、誰!? 潜水艦!?」ビクーッ!

敷波「ち、違うや、艦娘の手だ!」ガシッ

敷波「ああもう、今引き上げるから……って、重っ!?」グイーッ

敷波「!? やばっ、なんか流されてる! 早く引き揚げないと!」

敷波「こ、このぉ……っ!!」

 ザバーッ

霞(大破)「……!」ゼェッゼェッ

敷波「や、やっと、引き揚げられた……!」

霞「ま、だ……よ……! もう、二人いるわ……!」ゲホッ

敷波「……ええ?」

霞「このロープを引っ張って……手伝って!」

敷波「……ああもう、なんなんだよお!」グイーッ

 * * *

 * * *

朝潮(大破)「ありがとう、ござい、ます……明石さん、しっかり……!」ボロッ

明石(大破)「は、はい……」ボロッ

敷波「ちょっとー、3人がかりであたしに寄りかからないでよ! 重いってば! あたし駆逐艦なんだから!」ヨロヨロ

霞「し、仕方ない、でしょ……あんたしか、まともに航行できないんだから……」

敷波「うーん、それなんだけどね。あたし、もう燃料ないんだー」

霞明石朝潮「「「え」」」

敷波「だからもう、潮の流れに任せて漂うしかないんだよね」

霞明石朝潮「」

敷波「絶句されても困るんだよね。あたしももう3日間ずっと補給なしだし」

敷波「それにあたし、家出したようなもんだから戻る鎮守府もないしさー」

敷波「そういうわけなんだけど、あたし一人で寂しかったからさ、気長におしゃべりしよーよ! ね?」

霞「」シロメ

明石「」キゼツ

朝潮「」シッシン

敷波「ちょっとおー!? 一人くらい目を覚ましてよーー!!」

敷波「もー……どんどん流されてるし……ん? あれ、島かな? 良かったあ、これで休める……」

 * その日の夕方、墓場島北西の砂浜 *

敷波「」スヤァ…

霞「」Zzz...

朝潮「」ムニャムニャ…

明石「……う、うう、ん……ここは……?」

提督「おい、風邪ひくぞ」

明石「うひゃああ!?」ガバーッ

提督「随分とぐっすり寝てやがるな。何しに来た」

明石「えっ、何をしに、って、その……」

提督「……」

明石「……えーと、ここ、どこでしょう? 私たち、流れ着いたんだと思うんですが……」

提督「なんだそりゃ……とりあえず、自殺志願者じゃあねえんだな?」

明石「は、はい! 死ぬ気はないです! ……で、ここ、どこなんでしょう?」

提督「どっかの誰かが『墓場島鎮守府』とか呼んでる場所だ」

明石「墓場!?」

 * * *

 * *

 *

・艦隊に、敷波、明石、朝潮、霞が加わりました。


 * 数か月後、入渠ドック内 *

明石「なんてことがありましたねえ。よくもまあ、無事にこの島に流れ着いたなあって思いますよ」

長門(中破)「……もしかして、そんな艦娘ばかりなのか?」

明石「ええ。この前も、初春ちゃんと暁ちゃんが漂着してきまして……」

長門「そして、今回は私と潮が流れ着いた、と」

明石「長門さんと潮ちゃんはレアケースですね。轟沈しないでこの島に辿り着いたのは、今までだと敷波ちゃんしかいませんでしたから」

長門「……酷い話だ。提督もよくこんな島で提督を続けていられるな」

明石「海軍将校のくせに人間嫌いだって話ですから。こんな島だからこそ働けているのかもしれませんよ」クス

長門「信用できるんだろうな、その男は?」

長門「人間が嫌いなら、同じように個性を持つ艦娘にも良い感情は抱いていないだろう」

明石「ところがそうでもないんですよねえ……」

明石「多分ですけどね」ヒソッ

明石「提督も、人間にはいい思いをしてないみたいなんです。だから、私たちみたいに人間にひどい目にあわされた艦娘には、同情的らしいです」

長門「……屈折しているな」ヒソッ

明石「かもしれませんね」


・艦隊に、暁、初春、長門、潮が加わりました。

今回はここまで。

舞台がいきなり変わります。

 * 本営そばの居酒屋 *

Y「うちの鎮守府についに金剛が来たぜ!」

V提督「マジか、やったな!」

U「お、ついに俺たち同期の中で初の高速戦艦か!」

Y「苦労したぜえ~! これで深海との戦いが楽になったってもんよ!」

W「戦艦はいいぞ! うちの伊勢も大活躍だぜ!」

X「みんないいなあ、うちは重巡すら来てないよ」

U「Xはのんびり屋だからな、まあ焦ることはねえよ」

W「よぉし、俺たちの戦力強化を祈念して、乾杯だー!」

「「おおー!」」

 * * *

 * *

 *

*それから1か月後*

U「どうよ、お前さんとこの戦艦、うまくやれてるか?」

Y「金剛型が揃ったのはいいんだがよ……比叡には困ったもんだ」

U「ああ、比叡か……やっぱり飯つくりたがるのか?」

Y「そうなんだよ! この前食堂が立ち入り禁止になって、何かと思ったら比叡カレーの異臭騒ぎでよ!」

U「うちもだよ! うちにあった食材全部使ってだめにしやがったんだ! 厳重注意したけど、まいったぜあれは……」

V提督「そ、そんなにひどいのか?」

Y「お前んとこは榛名だけだったか? 比叡が来たら気をつけろよー」

U「そうそう、飯のありがたみがすげーわかるぜ」

X「そんなにひどいの?」

W「個体差があるみたいだぞ。俺の先輩のとこにはカレーだけが致命的にまずい比叡もいるみたいだし」

X「ふーん」

W「で、お前んとこはまだ戦艦こねえの? うちには日向と扶桑が来たけど」

X「来ないなあ。この前大型建造やったらしおいちゃんだったし……」

U「」

Y「」

V提督「」

W「」

X「えっ、なにその顔、みんなどうしたの」

 * 数日後、V提督鎮守府 *

V提督(そしてついに……うちの鎮守府にも、比叡が来た)

比叡「比叡です! よろしくお願いします!」

V提督「ああ、よろしく頼む。金剛型はお前のほかには榛名がいる、仲良くやってくれ」

比叡「はいっ! ありがとうございます! 不在の金剛お姉様の分まで頑張りますね!!」グッ

V提督(……なんだ、いい奴じゃないか)

V提督(だが、料理の腕前は殺人級……絶対に厨房には立たせないようにしないとな)


 * 数日後、厨房 *

比叡「ふんふんふ~ん♪」グツグツグツ

榛名「比叡お姉様!? いったい何を!?」

比叡「あ、榛名! 司令に召し上がっていただくお料理を開発してたの! ちょっと見てくれる?」


異臭を放つ鍋「」ムラサキイロー


榛名「……」ムラサキイロー

比叡「どうしたの?」

榛名「いえ、これは一体?」

比叡「紫色のジャガイモを使ったカレーなんだけど……」

榛名「ジャガイモ、とけてどこにも見当たらないんですが……」

比叡「とけたほうがおいしいって言うし、どうかな?」

榛名「あの、比叡お姉様? 味見はしました?」

比叡「してない」

榛名「それではだめです!」クワッ

比叡「ヒエッ!?」

榛名「作ったお料理の味は自分の舌で確かめないといけません!」

比叡「そ、そう? おいしいと思うんだけど……」

比叡「」パクッ

比叡「……」

榛名「……」

比叡「……」ムラサキイロー

榛名「!?」

比叡「」バターン

榛名「比叡お姉様ーー!?」

 * 比叡と榛名の部屋 *

比叡「ひえええ!?」ガバッ

榛名「きゃあ!? ひ、比叡お姉様! 大丈夫ですか?」

比叡「こ、ここは?」

榛名「私たちの部屋です。比叡お姉様は、自分の作ったカレーを食べて気を失ったんですよ」

比叡「……ヒエー」

榛名「比叡お姉様があの料理に使った調味料を見ましたが、めちゃくちゃです。あんな組み合わせでは味覚がおかしくなってしまいます」

比叡「おいしいと思ったものをいろいろ入れてみたんだけど……」

榛名「あれでは駆逐艦に41センチ連装砲を持たせるようなものですよ。バランスが悪すぎて転覆してしまいます」

比叡「バランス……」

榛名「はい。潜水艦には対潜装備、空の相手には対空砲……戦う相手によっても装備を変えますよね」

榛名「お料理も似てると思うんです。からいものでも甘いものでも、余計なものをいれないで、狙いを定めて作るものだと」

比叡「……」

榛名「そして、榛名は、味見が一番大事だと思います。食べてくれる人がおいしいって言ってくれるかどうかは、そこで決まると思うんです」

榛名「斜角や射撃制度を調整するための、演習や試射。料理で言うなら、味の微調整をするためにするのが、味見」

榛名「どちらも同じくらい大事だと、榛名はそう思います」

比叡「榛名……!」

 * その後の厨房 *

比叡「んむむむむ……榛名、これ、どう思う?」

榛名「甘さがありませんね……」

比叡「でも、ここにお砂糖入れると、変に甘くなっちゃって。どうしたらいいと思う?」

榛名「……では、みりんを加えてみてはどうでしょうか?」

比叡「みりん……って、何?」

榛名「Oh...」

 * *

榛名「どうしたんですか、その手!」

比叡「大根のかつらむきがうまくいかなくて……」

榛名「……この包丁、刃が波打ってます。どうしてこんな包丁を使ってたんですか」

比叡「でもほら、弘法は筆を選ばずって」

榛名「比叡お姉様はまだ弘法大師様ではありません」

比叡「はい……」

 * *

比叡「どうやったらカレーがもっとおいしくなるかなあ……」

榛名「比叡お姉様、どうして焼肉のたれを見ながらカレーの話題になるんですか」

比叡「焼肉のたれを隠し味にカレーに入れるって聞いたから、どうなのかなーって。しょっぱくならない?」

榛名「そうですね……成分表を見てみるといいと思います」

比叡「……果物も入ってるんだ。りんごとか試してみようかな?」

 * そして *

榛名「比叡お姉様……」

比叡「……」ドキドキ

榛名「美味しいと思います。このカレーでしたら、どこへ出しても恥ずかしくありません」ニコ

比叡「ほ、本当!?」

比叡「良かった、本当に良かったぁ……!」

 * *

V提督(……ついに、比叡の作ったカレーが、ここにきた)

榛名「提督、どうぞお召し上がりください。榛名は整備がありますから、30分後にまた来ますね」

V提督「あ、ああ……」

V提督(いい匂いがする……しかし作ったのはあの比叡)

V提督(同期の連中が言うには、胃薬じゃなく病院を用意しておけとまで言われたあの比叡カレー)

V提督(しかし……)

カレー「」ホカホカー

V提督(うまそうなんだよな……ええい、一口。まずは一口だ!)パクッ

V提督「……」モグモグ

V提督「……」モグモグ

V提督「……」ゴクン

V提督「……うめえ」キラキラキラッ

V提督「どういうことだ!? あいつら、嘘言いやがったのか!?」ガツガツ

V提督「……スプーンが止まらねえ」ガツガツ

カレー皿「」カラッ

V提督「……うまかった……」クチモトフキフキ

V提督「ほ、本当に比叡が作ったのか……?」

榛名「失礼します。……あ、提督! いかがでしたか? 比叡お姉様のカレー!」

V提督「あ、ああ……うん。ま、まあまあ、だな」

榛名「え……ま、まあまあ、ですか……?」

V提督「……ああ……さ、下がっていいぞ」

榛名「は、はい。お下げします……」


 * 数日後 本営そばの居酒屋 *

U「ああ!? 比叡の作ったカレーを食ったぁ!?」ヒック

Y「あれをか!? 全部食ったのか!?」ヒック

V提督「……そんなに引くことか?」

U「お前ん家、そんなに貧乏だったっけか?」

Y「だよなあ。天地がひっくり返っても比叡のカレーをうまいだなんて言う奴はいないと思ってんだけど……」

U「お前、相当な味覚音痴だったんだな……」

Y「あれ食えるとか人間じゃねえぞ? 一度病院行ってみてもらったほうがいいんじゃねえの?」

V提督「……」

X「……そこまで言う?」

W「とはいえ、俺のところにはまだ金剛型が来てないからな。無責任なことは言えん……お前のところもまだか?」

X「……うん。いまだに戦艦が来ないんだよねー。Wのところには山城が来たんでしょ?」

W「ああ。……お前んとこの主力は?」

X「まだ軽空母の祥鳳さんと……まだまだ軽巡が主力だね。あとは潜水艦かなあ……あ、最近ドイツから駆逐艦が来たんだ」

W「は?」

今回はここまで。

そしてここから胸糞展開なんだ、申し訳ない。

続きです。


 * それからまた数日後、V提督鎮守府 *

比叡「……どうしたらいいんだろう」ブツブツ

榛名「……」

榛名(いまだに提督から「おいしい」の一言をいただけてません……)

榛名(ほかの艦娘たちも口を揃えて「おいしい」と言ってくれるのに……)

榛名(提督だけは、いまだに言いよどんで……)

比叡「もっと薄味か好みなのかな? ……あんまり濃すぎるのも……」ブツブツ

榛名(比叡お姉様はこんなに苦しんでいるのに……提督は、いったい何を躊躇してらっしゃるんでしょうか)


 * 更に数日後、本営そばの居酒屋 *

U「絶対おかしいだろ! 比叡の飯がうまいとかよぉ!」ヒック

Y「お前と一緒に酒を飲むのもこれっきりかなあ!」ヒック

V提督「……うるっせえな」ヒック

U「いやいや、V提督の鎮守府の連中全員味覚がおかしいんだろ」

Y「そーだよなー、比叡が飯作ってるってことは、他の艦娘も比叡の飯食ってるってことだもんなー」

U「勘弁して欲しいぜー!」

Y「ぎゃはははは!」

V提督「……だったら、お前ら俺の鎮守府に来てみろよ」

V提督「食ってから文句を言えよ!」ダンッ

Y「あー、中毒性あるんだろ? 行きたくねえなあ!」

U「まったくだ! うちの厨房だけでお腹いっぱい吐き気いっぱいだよなぁ!」

W「ったく、毎度毎度……付き合わされるのが馬鹿馬鹿しくなってきたな」

X「僕もこの飲み会に来るのやめようかな。やっと戦艦が来てくれたし、彼女に馴染んでもらわないといけないから……」

W「もしや、ビスマルクか」

X「うん。よくわかったね」

W「ここ最近の話を聞けばな。さて、俺も今後はお暇させてもらうか。帰って鈴谷と新しい瑞雲を開発しないと」

X「……」

 * 更に数日後、V提督鎮守府 *

V提督「そういうわけで、客人を4人招くことになった。比叡に料理の準備をさせてくれ」

榛名「わかりました」



比叡「お客様ですか?」

榛名「はい、提督のご友人だそうです」

比叡「……なるほど、これは御召艦として気合いを入れて腕を振るわないといけないですね!」

榛名(……これも、比叡お姉様の晴れの舞台……なのに)

榛名(この胸騒ぎは一体……!)

 * *

榛名「提督、ご友人の皆様がお見えになりました!」

W「失礼する。お招きいただき感謝する」

U「むしろ感謝して欲しいけどな?」

Y「よお、V提督、来てやったぜ!」

X「お邪魔します」

Y「で、わざわざ俺たちを招待してまで、お前の艦娘の手料理食わせたいってか」

U「勘弁して欲しいぜ……」ゲンナリ

W「……」

X「……はぁ」


V提督「お前ら、比叡の作った飯がまずいって言ってたよな。まあ、いいから食ってみろよ」ニコー

榛名「お待たせいたしました」ガチャ

U「!?」

Y「!?」

W「!」

X「!」

V提督「……」ニヤニヤ

Y(なんだ、この食欲をそそるいい匂いは……!)

U(ウソだろ……これが比叡の料理だって?)

W(参ったな。匂いだけでよだれが出てきたぞ)

X(いい匂い……なんていうか、品のいい匂い!)

V提督「俺の鎮守府の比叡が作ったカレーだ。なあ、比叡?」

比叡「はいっ!」ムネハリー

榛名(比叡お姉様、報われて良かった……)ニコ

V提督「……食べないのか?」

Y「い、いや、そんなことは……」

U「……と、とりあえず、食べるか?」

W「ああ……いただきます」パク

X「いただきます!」パク


U「……WとXが食った……」

Y「……お、おい、どうなんだ?」

W「これは……!」キラキラキラッ

X「んんん!!」ペカーッ

W「こんなに美味しいカレーは初めてだ……!」モグモグ

X「うん! うんっ!!」パクパク

比叡「やりました!」フンス

榛名「良かった……!」

U「……まじかよ」

Y「……お、俺たちも……」オソルオソル

V提督「ん? 俺の味覚がおかしいとか、そういう話じゃなかったのか?」

U「い、いや……」

Y「……そうじゃなくてだな、俺たちも実情を知らなかったし、なあ」

V提督「食べるのか」ニヤリ

U「あ、ああ……」

Y「……そ、そう、だが……」

V提督「これをか?」

V提督「お前らが言う『こんなもの』を、か?」グッ


 ポイ

 ガチャン

X「!?」ビクッ

U(自分のカレーを……)

Y(皿ごと投げ捨てた!?)

W「な!?」アゼン

 シーン

U「……」

Y「……」

X「……」

W「……」

V提督「お前らが散々まずいと言ってきたんだぞ? それを捨てて見せただけだ。なんでそんなに驚いてる?」

V提督「お前らは自分の鎮守府で、同じことをしてきたんだろ!? 同じことをしてやったんだ!」

V提督「これがお前らが貶めてきた『こんなもの』だ! お前らはこんなもの食えないんだろう!? どうなんだ!?」

V提督「食えよ。食って見せろよ! おまえらにとってはこんなもんなんだろう!? ああ!?」

U「……い、いや、それは……」

Y「……それとこれとは、話が……」


W「V提督……お前、何をしてるんだ!!」ガタッ

V提督「あ?」ジロリ

W「あ? じゃない。お前は……どうかしている」

V提督「……」チッ

W「……会食の空気ではないな。悪いが帰らせてもらう」

榛名「は、はい……」ボウゼン

比叡「」コウチョク

W「……大変、申し訳ない。私はこれで失礼する……!」ペコリ

U「お、おい! W!! 待てよ!」ガタガタッ

Y「……邪魔して、悪かった」ガタッ

X「ご、ごちそう、さまでした……!」ペコリッ

V提督「……」

V提督「……」

V提督「……ちっくしょうが!!」ガンッ


 * 一週間後 V提督鎮守府 *

V提督「なんだこの飯は!」ガシャアン

「うう、ここ最近V提督が荒れてて怖いよ……」

「比叡さんも全然厨房に立たなくなっちゃったし……」

「比叡さん、このところ食事も食べてすらいないでしょ? 今回の作戦、不安だよ」

榛名(大破)「……」ユラッ

「は、榛名さん!? いつ戻ってきたんですか!?」

「どうしたんですかその怪我っ!!」

「早く入渠ドックに……!」

榛名「……その前に、提督にご報告しないと」ニコ

 スタスタスタ…

「……榛名さん、すっごく怖かった……」

「ね、ねえ、比叡さんは?」

「そういえば……」


 * 執務室 *

榛名「ただいま、戻りました」

V提督「榛名か。その顔……作戦は失敗か」

榛名「はい」

榛名「旗艦、戦艦榛名が大破。随伴艦の重巡2隻と軽巡2隻は全員中破……」

榛名「そして、戦艦比叡が、轟沈しました」

V提督「……なに?」

榛名「復唱いたします」

榛名「旗艦榛名、大破。重巡2隻、軽巡2隻は全員中破。戦艦比叡、轟沈」

V提督「……なぜだ」

榛名「……」

V提督「答えろ榛名!! なぜだと訊いている!」

榛名「比叡お姉様は大破した後、艦隊を離脱するように戦闘海域へ進路を取り……そのまま交戦に入りました」

V提督「……!」

榛名「帰還しようとした私たちの制止も聞かず……ふらふらと海へ……」


V提督「……」

榛名「提督。重巡と軽巡の4名をドックに入渠させてください。榛名には必要ありません」

榛名「榛名は……もう大丈夫ではありません」ツー

榛名「これを、受理していただくようお願いいたします」スッ

 『解体願』

榛名「……お世話になりました。失礼いたします」フカブカ

扉 <パタン

V提督「……」

V提督「……は」

V提督「は、ははは……!」

V提督「……」

 ガンッ ズダンッ ガァンッ





 ドンッ

今回はここまで。

ことよろと続きです。


 * 二日後 墓場島鎮守府、入渠ドック内 医務室 *

(包帯をぐるぐる巻きにされた比叡がベッドの上で目を覚ます)

比叡「……」

比叡「……?」キョロ

暁「!」

暁「し、司令官!! しれーかーーん!!」

暁「比叡さん、目を覚ましたわ!! しれーーーかーーーーん!!」

 タタタタッ

比叡「……」

比叡「……」キョロ

 タタタタッ

暁「ほら! ちゃんと起きてるわ!」

提督「ん、ああ、目ぇ覚ましたのか。骨ガラになってたから、もう目を覚まさないと思ったんだが」

暁「司令官!? ひどいこと言わないでよ!」


比叡「……?」ムク

比叡「!」ズキッ

提督「ああ、無理すんな。それよりお前、頭は大丈夫か?」

暁「司令官!? そんなでりかしーの無い言い方しちゃだめよ!」

提督「……」

比叡「……」ボンヤリ

暁「……ちょ、ちょっと司令官! 無視しないでよ!」

提督「落ち着け暁。比叡……だったか、まだ受け答えできねえか」

暁「きっとお腹がすいてるのよ! ほほもこけてて、腕だってこんなに細いし!」

提督「そうか。んじゃあ飯は比叡は暁に任せる。頼んだぜ」

暁「え!? わ、わかったわ! 暁に任せなさい!」

 * *

暁「とは言ったものの、お料理は自信ないわ……」

電「料理の上手な人にお願いして作ってもらうと良いのです」

暁「だ、だめよ! 暁が任されたんだから、暁が頑張らなきゃ!」

電「それなら、上手な人に先生になってもらうのです」

暁「……そ、そうね! 先生になってくれる人……っていうと……」


 *

長門「それで、私に教えを乞いたいと」

電「はいなのです。長門さんならお願いできると思って……」

暁「お願いします!」ペコリ

長門「……比叡の容体を明石にも診てもらったが、芳しくない。私も彼女の顔を見てきたが、彼女は生きる希望を失っている。あのまま沈めてやっても……」

暁「だ、駄目よ! 本人はまだそんなこと言ってないもの!」

長門「……暁。厳しいことを言うが、お前はあの比叡を背負って生きていけるか?」

暁「え?」

長門「私が知る比叡は、明るく、力強い、ちょっとやそっとじゃへこたれない、活力の溢れる艦娘だ」

長門「その比叡があのように自失茫然として無反応になったのだ。彼女が何を経験してきたのか、もはや想像できるレベルではないと考えている」

電「そんな……」

暁「……」

長門「彼女を救おうとしても、どうなるかわからんぞ? 下手をすれば暴れだすかもしれん。それでも助けようと言うのか?」

暁「……助けるわ。暁はレディーだもの。後悔したくないし、全力を尽くすわ!」

長門「そうか。フフ、レディーか……悪くない」

長門「暁。比叡はここ数日何も食べていない。凝った料理は作らず、おかゆを作ってやるべきだろう」

暁「そ、それでいいの!?」

長門「ああ。何も食べていないところに濃い味のものを食べるとお腹がびっくりするからな。水分も多めにした方がいい、さ、手伝おう」

暁「あ、ありがとう長門さん!!」


 * 厨房 *

暁「長門さん、このくらいでどうかしら」

長門「……ああ、いいと思うぞ。汁気も柔らかさも、塩加減もちょうどいい」

暁「ありがとう! 比叡さんのところに持っていくわね!」

長門(暁、大変なのはこれからだぞ……!)

 *

比叡「……」ボンヤリ

暁「比叡さん! おかゆ作ってきたわ! さあ、食べて!」カチャン

比叡「……」

暁「ど、どうしたの? ほら、スプーンを持って!」

比叡「……」

暁「……そ、そう! 食べさせてほしいのね!? ちょ、ちょっとベッドの隣に……んしょ、んしょ」

比叡「……」

暁「ふー、ふー……あ、熱くないかしら……ふー、ふー」

比叡「……」

暁「ん……はい! 大丈夫だと思うわ! 比叡さん、あーんして!」

比叡「……」


暁「比叡さん? あーんして! あーん、って!」

比叡「……」

暁「比叡さん……?」

比叡「……」

暁「ど、どうしたの? おかゆが、おいしくなさそうなの?」

比叡「……」

暁「だ、駄目よ! 濃い味付けにしたらお腹がびっくりしちゃうんだから! ほら、あーんして! あーん!!」

比叡「……」

暁「……比叡さん、食べないと駄目だってば……! 死んじゃうよ……?」

比叡「……」

暁「比叡さん……!」ユサユサ

比叡「……」

 *

暁「……」モグモグ

長門「電、暁はどうだった」

電「駄目だったのです……おかゆが冷たくなるまで声をかけてたんですけど、比叡さんは全然反応してくれなくて……」

電「暁ちゃんが食べてるのは、その冷たくなったおかゆなのです……」

長門「おそらく、比叡はずっとあのままだ。暁には、私から諦めるように言うよ」

電「長門さん……」


 * 翌朝 *

暁「比叡さん! 新しいおかゆを持ってきたわ! ほら! おいしいわよ!」パク モグモグ

暁「だから、はい! あーんして! 口をあけて!」


長門「電、すまない。暁は躍起になっているようだ……」

電「暁ちゃん……」


 * その翌日 *

暁「比叡さん! 今度は少し塩味にしてみたの! はい、あーん! 比叡さん!」

長門「……」

電「……」

朝潮「まだ続いてましたか」

霞「遠征にもいかないで、いいご身分ね」

朧「そういう言い方、ないと思います」

霞「なによ」ムス

朧「なんですか」ムス

霞「……別に、そういう気で言ったつもりはないわ」

朝潮「大丈夫です。わかってます」


 * そのまた翌日 *

暁「比叡さん! 今度のはおいしくできたわ! 比叡さん! 口をあけて!」

長門「……」

電「……」

神通「……」

潮「じ、神通さん、遠征、行きましょう?」

敷波「うう、見てるこっちがつらいよ……」


 * 更にその翌日 *

暁「比叡さん。これ以上食べないと体が駄目になっちゃうわ。ほら、口をあけて」

長門「……ああもう見ておれん! こうなれば無理やりにでも比叡に……!」

電「長門さん落ち着くのです!」ガシ

吹雪「ここまで来ると、暁ちゃんに頑張って欲しいけど……」

由良「難しそうね……」

如月「どうやったら比叡さん食べてくれるのかしら……」

 * 一方の執務室 *

不知火「不知火、初春、ただいま帰投しました」

提督「おう、首尾は」

初春「これが報告書じゃ。まあ、酷な話じゃぞ」

提督「……」ペラリ

今回はここまで。

それでは続きです。


 * その日の夕方、厨房 *

長門「暁、もう比叡は……」

暁「……」

電「暁ちゃん……」

暁「ごめんなさい、長門さん、電」

暁「もう少しだけ、頑張らせて」ニコ

長門「暁……!」

提督「よう、邪魔すんぞ」

電「司令官さん……えええ!? ど、どうしたのです!?」

比叡「……」カカエラレ

長門「提督!? 比叡をなぜここに連れてきた!?」

提督「暁がおかゆ作ってるとこを見せたくてな。暁、そういうわけだ、気合い入れて作れよ」

暁「……わ、わかったわ!!」

提督「ほれ比叡、座ってろ」

比叡「……」ストン


長門「提督! どうしてこんな状態の比叡を厨房なんかに連れてくるんだ……!」ヒソヒソ

提督「いいから比叡に暁の姿を見せてやれ」

長門「は……?」

提督「見せてやれっつったんだ。じゃ、あとは任せる」

長門「お、おい!? どこへ行く提督!? な、何を考えているんだあの男は!!」

暁「……」ジャーッ

比叡「……」

電「比叡さん……暁ちゃんをじっと見てるのです」

長門「なに!?」

暁「……」コトコトコト

比叡「……」

長門「比叡が、暁の所作を目で追っている……?」

暁「……」パッパッ

比叡「……」


比叡(……つくってる)

比叡(……あのときの、わたしも……)


暁「塩加減は……」ペロ

比叡「……」


比叡(……あのひとは、おいしいといってくれなかった)

比叡(……なんでだろう)


比叡「……」ツゥー…

電「! 比叡さんが……!」

長門「涙を……!?」

暁「……よし、っと。比叡さん、できたわ! え? な、なに!? どこか痛むの!?」


比叡(……このこは、わたしが、ごはんをたべないことをしんぱいしてくれてる)

比叡(……わたしが、たべないと、わたしとおなじで、きっとかなしむ)

比叡(……それは……きっと、よくない)


比叡「……」フルフル

暁「そ、そう? 痛かったら我慢しちゃだめなんだからね!?」

長門「比叡が……反応を返した……!」


暁「ふー、ふー……比叡さん、はい、あーんして……」

比叡「……」


比叡(……わかる)

比叡(……この子は、ずっとわたしに、ごはんをつくってた)

比叡(……あの悲しみを……この子にも味わわせるのは……ぜったいに、よくない……!)


比叡「あ……」

比叡「……」パク

暁「!」

電「や……」

長門「やった……!」

比叡「……」モグ モグ コクン

暁「……だ、大丈夫!? 熱くなかった!?」


比叡(……ああ)


比叡「……い」

暁「え?」

比叡「……おい、し……い……」ポロポロポロ

暁「……そ、そう! 良かったわ! た、たくさんあるんだから、ちゃんと食べてね!」ウルッ

比叡「……!」コクコク

電「やったのです……暁ちゃん、やってやったのです!!」ダキツキッ

長門「ああ……暁、よくやったぞ……!」グスッ


 * 一週間後 *

長門「た、大変だ!!」ドタドタドタ

提督「なんだ、うるせえな」

長門「ひ、ひ、比叡が料理を作ると言い出したんだ!!」

提督「それが大変なのか?」

長門「大変だとも! 私が前の鎮守府にいた時の比叡の料理は、まるで化学兵器だったんだぞ!?」

提督「ふーん」

長門「ふーん、って、おい!? この鎮守府の死活問題だぞ!? 提督!!」

提督「ん、昼だな。飯だ飯、食堂に行くぞ」

長門「提督!?」


 * 食堂 *

朧「で、呼ばれてきたんだけど……」

吹雪「とってもいい匂いがします!」

明石「長門さんは防毒マスクが欲しいって言ってきてたけど……」

由良「全然そんな感じの空気じゃないわね、ね」

大淀「むしろ、なんだかわくわくしますね」

初春「提督は長門に教えてなかったのかのう?」

不知火「どうやらそのようですね」

如月「なあに? 何の話?」

神通「また提督の意地悪でもあったんですか?」

不知火「ええ、実は……」


電「お料理ができたのです!」

暁「みんなに配るわよ!」

霞「えっ、ちょっと……すごいんじゃない!?」

朝潮「おいしそうです!」

潮「こ、これを、あの比叡さんが……!?」


長門「……提督、これは一体……」

提督「あの比叡はな、料理が上手なんだ。で、ああなってた原因が『提督に自分の料理をおいしいと言ってもらえなかったから』らしい」

長門「……」

提督「で、暁が作ってるところを見せれば、少し刺激になるんじゃねえか、ってな。ぶっちゃけ博奕だったが、ここまで回復できたみたいでなによりだ」

長門「……提督は本当に人が悪い……」ガックリ

提督「ククク、今頃気付くなよ。ほれ、もたもたしてると食いっぱぐれるぞ」

 *

比叡「……あ、あの、いかがでしょうか、お味の方は」

提督「おう、うまかったぞ。毎日頼みたいくらいだ」ニヤ

比叡「ほ、本当ですか!?」パァァ

提督「とはいえ、残念だが厨房も回り番だ。お前だけに任せるわけにはいかねえ。だから……」

提督「暁! お前、比叡に料理を教えてもらえ」

暁「! ま、まかせなさい! レディーなんだもの、頑張るわ!」フンス

電「あ、暁ちゃんばっかりずるいのです!」

朝潮「司令官! 僭越ながら朝潮もご教授賜りたいと思います!」ビシッ

提督「というわけでな、比叡。今後、厨房はお前に任せる。時間があれば他の連中に料理を教えてやってくれ。頼むぞ?」

比叡「は、はいっ!!」ビシッ


 *

長門「今回は、暁が頑張ってくれたおかげだ。暁のおかげで比叡も幸せそうだし、私たちもおいしいご飯が食べられる……幸せなことだ」

提督「ん」

長門「なあ、提督? 暁はなぜこの鎮守府に来たんだ?」

提督「……」

長門「この鎮守府では建造したことがなく、私たちのように流れ着いたり、大淀のように左遷されたりした艦娘しかいないんだろう?」

長門「教えてくれ。あの暁は、いったい何をしたんだ? 何をされたんだ?」

提督「……」

長門「……」

提督「お前らと同じで、どっかの鎮守府から逃げてきた、って聞いてる。本人はそのことを覚えちゃあいないから、真相はわからんがな」

長門「……!」

提督「初春に聞いてこい。たまたまだが、あいつも暁に助けられた口だ」


 * 一方 *

W(以下W提督)「ったく、あいつめ……自分で手前の腹を撃つとか、何を考えてんだ」

 トントン

扶桑「提督、榛名さんが見えました」

W提督「ん。入れ」

榛名「失礼します……」チャッ

W提督「ああ、楽にしてくれ。金剛型の3番艦、榛名、だな。先日は大変失礼した」

榛名「いえ……」

伊勢「提督、彼女がV提督鎮守府の?」

W提督「ああ。奴からある程度の経緯は聞いてるし、こういうものを預かってきた。これは君のだろう」 っ「解体願」

榛名「それは……」

W提督「我が艦隊にはまだ高速戦艦がいない。君が良ければ、しばらくうちで働いてほしいんだが、頼めないかと思ってね」

W提督「それが嫌なら、君の希望通りにしよう。どうだろうか」


榛名「……少し、お時間をいただけますか」

W提督「わかった。君の答えが出るまで、待つとしよう。それまでの間、形式上はうちに転籍した扱いにさせてもらう」

榛名「はい……失礼します」ペコリ

W提督「扶桑、榛名を部屋に案内してやってくれ」

扶桑「畏まりました」

伊勢「……いいの? 提督ってば航空戦艦好きを公言してたじゃない」

W提督「身も蓋もないが、だからこそ俺は高速戦艦の実力を知らん。彼女がどんな戦い方をするのか見たいというのは個人的な希望だ」

W提督「それに……あそこまで不幸な身の上だ。俺があの時声を荒げたのもあるし、無碍に扱うことはできなくてな……」

伊勢「やれやれ、甘いね提督ったら」

W提督「ともかく、お前が来てから航空火力艦に頼りっきりだったからな。高速戦艦の運用も考えないと……」

W提督「伊勢、榛名に随伴させる重巡と軽巡のリストを作ってくれ。彼女を旗艦とした艦隊の演習メニューも検討しよう」

伊勢「了解です!」

今回はここまで。

次からは暁編です。

>>213
>>199の最後4行読めば
分かるんでねーのかなー

>>214
フォローありがとうございます。

続きです。


 * 鎮守府 長門の私室 *

長門「初春よ、まずは礼を言う。比叡が流れ着いてきた理由を調べてくれたそうだな」

初春「うむ、あやつに頼まれての。少々時間がかかったが、無事解決できたようでなによりじゃ」

長門「ああ……比叡も酷い目に遭ったものだ。その比叡を看病した暁が何故この島へ来たのか、それを知りたくてな」

初春「なるほどのう。あの男はわらわに丸投げと来たか……」

長門「暁は記憶を失っていると聞いた。一体なにがあったんだ?」

初春「うむ。おそらくは暁がおった鎮守府に原因があると踏んで、不知火と共に話を聞きに行ったんじゃが……そこは既に廃墟になっておった」

長門「廃墟!?」


 * 一年前 I提督鎮守府 建造ドック *

暁「暁よ! あなたが提督ね! 一人前のレディーとして扱ってよね!」ビシッ

暁(決まったわ!)フフン

女性提督(以下I提督)「あら、素敵なレディーね? 私はこの鎮守府の司令官、I提督よ。よろしくね」

暁(!!)

I提督「? あら、どうしたの?」

暁(こ、この人が私の司令官!? 足の運び方といい、指先の仕草といい、とっても優雅で素敵!)

暁(この人……レディーだわ! それも一人前どころじゃない、模範的なレディー!)ピキーン!

暁「……う、ううん、なんでもないわ!」

I提督「それじゃ翔鶴、響を呼んでもらえる? 彼女に部屋に案内してあげて」

翔鶴「承知いたしました」ペコリ

暁(あの翔鶴さんが秘書艦かあ……品の良い振る舞い、司令官にはお似合いの秘書艦だわ……!)

暁(暁も、あんなふうになれたら……)

響「暁」

暁「きゃっ!? ひ、響!?」

響「響だよ。不死鳥の通り名もある響だよ」

暁「し、知ってるわよ! 私の妹だもの! それより良かった、この鎮守府に響がいて!」

響「そうだね。第六駆逐隊はまだ私しかいないからね。私も暁に会えて嬉しいよ」ニコ

暁「もう、他人行儀ね! 暁はお姉さんなんだから、なんでもまかせておいて!」


 * * *

暁「ひ、へぇ、もう、らめぇ……」ゼェゼェ

響「任せてと言ったのは暁じゃないか」

暁「い、いきなりこんなハードな訓練が待ってるなんて聞いてないわ!」プンスカ

響「そのくらい声を出せるならまだ大丈夫だね。さ、続きだよ」ニコ

暁「ま、待ってぇぇぇ!?」

 * 1週間後 *

暁「」ボロッ

I提督「あら、暁。満身創痍ね?」

暁「ま、まだまだ、暁はやれるんだから……!」

I提督「ねえ翔鶴、暁の練習相手って……」

翔鶴「響ちゃんですね。おそらく妹だからいいところを見せたいんじゃないでしょうか」

I提督「うーん……あの子、二次改装待ちなのよね。練度も相当上だし、暁が相手をするのは大変じゃない?」

翔鶴「はい、だと思います」

I提督「……そうね。それじゃ、執務室にいらっしゃい。休憩しなさいな」

暁「えっ!? ……その、訓練は」

I提督「命令よ。響にも連絡するわ。それならいいでしょう?」

暁「は、はいっ!」


 * I提督鎮守府 執務室 *

I提督「紅茶でいいかしら?」

暁「は、はい!」オロオロ

I提督「どう? ここには慣れた?」

暁「え、えっと……響にも、みんなにもよくしてもらってるわ! け、けど……」

I提督「けど?」

暁「……」

I提督「いいのよ暁。そうやって溜め込んでも良いことはないわ。つらいときはつらいと言いなさい」

暁「……!」

 * *

I提督「そう。やっぱり今の訓練は今の暁には過酷すぎるかしら」

暁「で、でも、暁は響のお姉さんなのよ! 妹に弱いところは見せられないわ」

暁「なにより響が頑張ってるんだもの、暁も一緒に頑張ってみせたいし……」

I提督「レディーとしての自覚もあるし?」

暁「そ、そう! でも……最近、ちょっと自信もなくなっちゃってきたけど……」ションボリ

I提督「そう……それじゃ、レディーの練習もしてみましょうか?」

暁「え?」


 * *

I提督「胸を張って、顎を引いて」

暁「こ、こう?」

I提督「そう。それで肩の力を抜いて。それでいいわ。そうやって、まっすぐ前を見て」

暁「……これじゃ、司令官のお顔が良く見えないわ」

I提督「たとえその体が小さくても、素敵なレディーなら、殿方の方から跪いて顔を覗き込まれるものよ?」

暁「そ、そういうものなの?」

I提督「そうよ、だから堂々としてなさい? ほら、上を向いたら頭の上に積んだ本が落ちちゃうわ」

暁「!」ビシッ

I提督「ふふ、いい子ね、上出来よ」

 * * *

 * *

 *


 * 現在  墓場島鎮守府 長門の部屋 *

初春「まあ、暁が着任した当初は良い鎮守府じゃったと聞いておる。本営を聞いて回った時の評価はおおむね好評じゃった」

長門「……」

初春「それがあるとき、I提督の鎮守府は深海棲艦の猛攻撃を受け、壊滅寸前に追い込まれた。事の不幸は、その鎮守府の立地じゃな」

初春「三方を海に囲まれた岬の鎮守府。いかに航空戦力に優れていても、東西から分かれて本拠地を叩かれてはひとたまりもない」

初春「そして北の陸路の補給線も深海の艦載機によって分断されたとあっては、ジリ貧じゃな」

長門「……応援は」

初春「なかった」

長門「何故だ」

初春「僻みじゃ。なまじ可憐な女性提督、戦果も人気も周囲の鎮守府より上で、しかもたたき上げとなれば、妬み嫉みの格好の的じゃろうて」

初春「友人もおったはずじゃが、そこにも妨害があったというしの……世渡りが下手じゃったのは否めぬな」

長門「……それが、それが軍人のやることか」

初春「聞き間違いなら相済まぬが……お主もそういう軍人から逃げてきたのではないのかのう?」

長門「……っ」

初春「出る杭は打たれる、憎まれっ子世にはばかる。よくもまあこんな言葉が世にあるものじゃ……」

今回はここまで。

見直してみたら一番大変な目に遭ってるのが翔鶴さんだった……。
ちょっと(?)えぐい表現が出ますので閲覧注意です。

そして暁がレディになってはいけない風潮なんて私は知らない。


続きです。


 * 2週間前 I提督鎮守府 連絡通路 *

暁「川内さん! 夜戦禁止令ってどういうこと!?」

川内「資源がないの。弾薬も燃料も底をつきそうだってのに、補給線が切られちゃっててどうしようもないんだって」

響「それで資源の消費を抑えるための、苦渋の決断ってことらしいよ」

川内「補給線を復旧させようにも、あっちは陸路だから私たちじゃ足手まといだしね……」

響「遠征部隊も狙い撃ちされてる。バケツはあるけど、資材がないと修理できない……」

暁「……司令官は?」

川内「……」

響「……」

暁「ど、どうしたの?」


 * I提督鎮守府 執務室 *

I提督「……翔鶴、私はどうしたら……」ゲソッ

翔鶴(中破)「提督、どうかお気を確かに持って」

I提督「……翔鶴……ごめんね」ギュ


暁「司令官、あんなにやつれて……」

川内「対空は翔鶴さんの艦載機が最大戦力だったんだけど、それ以外に対空装備が整った娘がいなかったのが痛恨でね」

響「翔鶴さんが艦載機を飛ばせないとなると、万事休す……そういうわけにはいきたくないんだけど」

 ドォン

暁「きゃっ!?」

川内「このままじゃ、ここに攻め入られるのも時間の問題だね……なんとかしなきゃ」

暁(だけど……どうしたらいいの?)


 * 戦況は、膠着状態のまま *

「他の鎮守府からの応援は1週間後だって!?」

「遅すぎる! そこじゃない鎮守府への連絡は取れないの!? 本営は!?」

「物資がつきそうです! あと3回も出撃できるかわかりません!」


 * 数日後、朝 *

暁「し、司令官……?」

I提督「……」ギョロリ

暁「あ、あの、翔鶴さん、い、いったい何が……」

I提督「……」ギュウ

翔鶴「つっ……て、提督、大丈夫です。私はどこにも行きませんから」

暁「……」

翔鶴「暁ちゃんごめんなさい、提督は私に頼りっきりになってしまったみたいで……」

提督「だれ……? ……翔鶴を……とらないで」ジロッ

暁「……!」ビクッ

翔鶴「だ、大丈夫です提督、暁ちゃんはそんなことしませんよ? ね?」

I提督「……あかつき……」

暁「……!」コクコク

I提督「……うふ、ふふふ」ニタァ

暁「!」ゾワァッ


 * その日の深夜 J鎮守府内廊下 *

暁(こんな時間に目がさめちゃった……)

暁(司令官、大丈夫なのかしら……)

 ……

暁(? 何の音?)

 チャプ

暁(ドックに誰かいるの?)

「…………」

「…………」

暁(この声、司令官?)

暁(翔鶴さんも一緒にいるみたい……?)チラッ

「翔鶴……」

「て、提督……」

暁(……!?)

暁(し、司令官と翔鶴さんが、入渠用のプールの中で裸で抱き合ってる!?)カァァ

暁(ま、待って、何かの間違いじゃ……)チラッ

すいません、>>230>>232 に修正です。
Jじゃないよ、Iだよ……。


 * その日の深夜 I鎮守府内廊下 *

暁(こんな時間に目がさめちゃった……)

暁(司令官、大丈夫なのかしら……)

 ……

暁(? 何の音?)

 チャプ

暁(ドックに誰かいるの?)

「…………」

「…………」

暁(この声、司令官?)

暁(翔鶴さんも一緒にいるみたい……?)チラッ

「翔鶴……」

「て、提督……」

暁(……!?)

暁(し、司令官と翔鶴さんが、入渠用のプールの中で裸で抱き合ってる!?)カァァ

暁(ま、待って、何かの間違いじゃ……)チラッ


「翔鶴……どうして、出撃したの……?」

「そ、それは……」

「こんなに傷だらけになって……」

暁(そ、そっか、翔鶴さん、無理を押して出撃してたのよね……)

「提督……やめて、ください……!」

「それでも、こんなに綺麗だなんて、ずるいわ」

暁(あ、あれ、修理よね? 修理……に、見えない……ど、どうしよう……どうしよう!)オロオロドキドキ

「提督、どうか……おやめください……本当に」

「駄目よ、もっと見せて……!」

「え……提督、その工具は」

「翔鶴……あなたの、すみずみまで……!」

「提督、なにを……っ!」

「あなたは、誰にも渡さない……!!」

 ドシュッ

「てい、と……く……!?」

「……ふ、ふふ」


暁「え……!?」ビクッ

 ガタン

I提督「……だあれ?」ギョロリ

暁「ひっ!?」

翔鶴「あ、暁、ちゃん……!?」

I提督「あかつき……あかつき……!」ニタァ

I提督「ふふふ……みて、あかつきぃ」

 ズグッ グジュジュジュッ

翔鶴「あ、がああああっ!?」

暁「翔鶴さんっ!!」

 ズリュッ

I提督「ほら、みて……しょうかくの、『なかみ』」

I提督「とっても、きれい……!」スリスリ

暁「っ!!!」ゾッ

翔鶴「てい、とく……たすけ……」

I提督「うふ、うふふふ……しょう、かく……しょうかくぅ……!」

 ズグッ

翔鶴「ーーーーーっ……!!」


暁「……っ! ……っ!!」

翔鶴「あ、かつ、き……逃げ……」

暁「っ、……っ!!!」

暁(声が、出ない……いや、いやあ……こんなの、嫌ぁ!)

 ダッ

I提督「あか、つき、ちゃあん……どこへ、いくのぉ……? ねぇ……!」

I提督「……」

I提督「どう、したの、かしら……ね? しょう、かく……うふ、うふふふ……」

翔鶴「……」

I提督「しょうかく? いっしょに、いく、のよ……ねえ、しょおかくぅ……?」

 ズジュッ



 ズシャッ ブチ



 ブチブチブチッ



 * 廊下 *

暁(なんで……なんで、司令官が翔鶴さんを……!)グスッ

 ドォォン

暁「きゃあっ!?」

深海棲艦「……」

暁「こ、こんなところにまで深海棲艦が……!?」

深海棲艦「……」ニタァ ジャキ

暁(砲撃!?)バッ

 ズドォン

暁「っ!」ゴロゴロッ

深海棲艦「……」

暁「……」ジャキ

深海棲艦「……」ケタケタ

暁「なんで……なんで、こんなことをして、笑っていられるのよ……」

深海棲艦「……」

暁「……暁は、怒ってるんだから」グスッ

深海棲艦「……」ケタケタ


暁「笑わないで! 暁は、怒ってるんだからあぁぁあ!!」

 ドォン

暁「返してよ! 司令官を返してよ!」

 ドォォン

暁「あなたたちが来てから、司令官は……司令官はぁぁ!!」

 ズドォォン

深海棲艦「」プスプス…

暁「……はーっ、はーっ」

暁「ううっ……えぐっ、ぐすっ」ペタン

暁「う、うあああぁぁぁん」ポロポロポロ



 ピチョン


暁「!」ビクッ

 ペタッ ペタッ

暁「……」フリムキ

全裸でずぶ濡れのI提督「……見つ、け、たぁ」

暁「!!!」ゾワッ


I提督「どう、したの……? あな、たが、にげる、だ、なんてぇ……?」

暁「あっ、あああ……」ガタガタガタ

暁「し、しっ、しれ、かんっ……! そ、そ、『それ』っ、『それ』は……ぁ……っ」プルプル

I提督「うふ、うふふふ……ほらぁ、あか、つき、ちゃんも、おい、でぇ……」ズイ

暁「……」

暁「……う……ひぁ」フルフル

暁「あああああああああああああああ!!!!」ダッ

I提督「……」

I提督「わたしぃ……きら、われ、ちゃった……ね? 『しょうかく』ぅ」

I提督「……ふ、ふふふふふふ」ケタケタ



今回はここまで。

神速は魏書、拙速は孫子が元ネタのようで。
あのシーンでは、作戦の巧拙を考えず、とにかく急いでいることを強調したいので『神速』を用いてます。
でも、作戦の内容的には『拙速』の方が適切かもしれませんね。

では続きです。


 * * *

川内「鎮守府の真正面まで迫って来てるって!?」タタタッ

響「うん、迎撃か鎮守府の放棄か、決めないといけないよ」タタタッ

川内「提督は?」

響「それが、連絡が取れないんだ」

川内「どうして……って、なにこれ! 廊下が濡れてる!」

響「人の……裸足の足跡が残ってる。まさか、深海棲艦!?」

川内「この先は執務室……提督が危ない!?」


 * 執務室 *

川内「提督!」ガチャバーン!

川内たちに背を向けて窓の外を見る裸のI提督「……」

響「司令か……司令官!? 服はどうしたの!?」

I提督「……」

川内「提督! 深海棲艦が迫って来ています! 迎撃か、鎮守府の放棄か……」

 ズドォォン

響「! 鎮守府がまた攻撃を受けてる……!」


川内「提督! ご決断を!」

I提督「……だいじょうぶ」

川内「!?」

I提督「だいじょうぶ……しょうかくと、いっしょですもの……ふふ、うふふふ」クルリ

響「……し、司令官?」

川内「そ、その腕に抱えているのは……」

 「司令官! 司令官大変です!」

川内「!」

艦娘「せ、川内さん!? 大変なんです! ドックに、翔鶴さんの、首のない死体……が……!」

川内「……」

響「司令官……それは、まさか」ヨロッ

I提督「ね、しょうかく……わたしたち、ずっと、いっしょよ……うふふふ」

 チュ

艦娘「……っ! ……っっ!」ヘタッ

響「……なんて、こと」クラッ


川内「……伝令! 現時刻を持って本鎮守府を放棄し撤退する! 総員、退避して!」

響「! 川内さん、それじゃ司令官は……!」

川内「私たちが呼びかけて素直に来てくれると思う!?」

響「……っ」

川内「夜間なら艦載機も飛ばせない! 陸路を使って逃げるよ!」

川内「あなたも急いで連絡! 腰抜かしてる場合じゃないわ!」

艦娘「はっ、はいぃ!」ダダッ

 ドカァン

川内「敵陣での爆発!? 誰!? 深海棲艦へ攻撃を仕掛けてるのは!」

I提督「……ああ、あかつきちゃん……あかつきちゃんだぁ……うふ、うふふふ」

川内「ええ!? な、なにやってんの、あの子は!」

響「っ!」ダッ

川内「響っ! 待って!」

I提督「……みて、しょうかくぅ……ひかりが、とっても、きれい……うふ、うふふふ……」

I提督「……うふふふふふ……!」

 * * *

 * *

 *


 * ??? *

暁(中破)「……!」

暁「……ここは……どこ?」

??「……暁……」

暁「? 誰?」

I提督「暁」

暁「司令官!! 無事だったの!?」

I提督「暁!」ニコッ

暁「良かった……! しれーかーーん!」ダッ

I提督「うふふ……」

I提督「あかつきちゃぁん……!」ギョロリ

暁「!!!」


 * とある洋上 *

暁「!」ビクッ

 ザザーン

暁「……夢……?」プカプカ


暁「……」

暁「……ここ、どこかしら」ムク

暁「痛っ……!」

暁「……」

暁「暁は、どうして怪我をしてるの……?」

暁「……」キョロキョロ

暁「それに、さっきの夢、なんだったのかしら……」

 ザザーン

暁「……」

暁「どうしよう……ここ、どこだかわからないわ」

暁「……!」

暁「あれは……砲撃音?」

 * *


暁「……たしかこっちね。誰かいるのかしら……」

暁「……」

 (海面下に沈んでいく艦娘の姿)

暁「!」

 (ゆらゆらと揺れる淡い色の長い髪の毛)

暁(……しょうかく、さん……?)

 ズキッ

暁「!? く……な、なに?」

 (ゆっくりと海底に沈んでいく艦娘の姿)

暁「! ……だ、だめ……」

暁「だめ……! 沈んじゃ、だめよ……っ!!」

暁「ど、どうしたら……どうしたら!」

暁「あ……!」

 * *


 ギリギリギリ… ザバーッ

 (暁の背中の艤装に連結した錨にひっかけられて引き上げられる初春)

暁「良かった、なんとかなったわ……大丈夫?」

初春「う、うう……ここは……」

暁「ここ? ごめんなさい、暁も迷子なの。電探があればいいんだけど……」

初春「……おぬしが、わらわを、助けてくれたのじゃな……」

暁「ええ、そうよ。砲撃の音がしたから来てみたら、あなたが沈んでくところが見えて……」

初春「そう、じゃったのか……すまぬ、礼を言う」

暁「いいのよ、暁は暁にできることをしただけよ」ニコ

初春「……!」

暁「それより、どこか休める場所を探さないと……」

初春「のう、暁よ。何故、おぬしのような者が、こんなところで一人でいるのじゃ?」

暁「え? それは……」

 ズキッ

暁「……どうして、暁が、ここに……?」

初春「なに?」


暁「暁は……暁の、司令官、は……」

 ズキズキズキッ

暁「く、くぅぅ!! 頭が……!」

初春「あ、暁!? どうしたんじゃ!」

暁「……Iてい、と……く……」フラッ

 バシャアン

初春「暁! 暁っ! しっかりするんじゃ!!」

初春「くっ、暁……おぬしを沈ませはせぬぞ!」ガシッ

初春「なんとしても、陸に……!!」

 * * *

 * *

 *

今回はここまで。

それでは続きです。


 * それからしばらくして、本営の待合場 *

川内(……結局、私は暁も、提督も助けられなかった)

川内(大好きな夜なのに、少しも私の思い通りにできなかった)

川内(私は、まだまだ未熟だ……!)

若葉「……」ジーッ

川内「……ん? きみ、私に何か用?」

若葉「駆逐艦、若葉だ。I提督鎮守府の川内さん、だな?」

川内「ああ、きみが新しい鎮守府の! 川内よ、よろしくね」

若葉「よろしくお願いする」コク

川内「うん、それじゃ行こっか」

若葉「……」ジッ

川内「? どうしたの?」

若葉「川内さんと言えば夜戦に強いと聞いている」

川内「ん、ああ……まあ、そうだね。」

若葉「? 歯切れが悪いな……とにかく、その強さについてご教授願いたい」

川内「……強くなりたいんだ?」

若葉「無論だ」コク

川内「……丁度良かった。私も、このままじゃだめだと思っててさ……!」ゴゴゴゴ

若葉「!」ゾクッ

川内「特訓したいんだ。鎮守府に着いたら、付き合ってくれる……?」ニッ

若葉「……是非」ニヤ


 * 同じく本営の一室 *

X提督「君が響だね。君を引き取ることになった、X提督だ。よろしく」ニコ

響「……」

X提督「……」

祥鳳「……」

X提督「……ねえ、祥鳳さん。僕、なんだか警戒されてるようなんだけど」

祥鳳「……あの、響さん?」

響「……司令官は」

X提督「ん?」

響「……司令官は、女性なのかい?」ジリッ

X提督「」

祥鳳「ぷっ……ち、違いますよ? れっきとした男性です」

X提督「」ズーン

響「す、すまない司令官。前の鎮守府のことを思い出してしまって」

X提督「い、いや、いいよ。大丈夫」ナミダメ


祥鳳(そういえば、響さんの前の鎮守府は、女性提督と空母の秘書艦でしたね……)

祥鳳(私たちの組み合わせと似てると言えば似ていますから、やはりショックだったんですね)

響「……その、司令官。お願いがあるんだ」

X提督「な、なにかな」

響「私は、強くなりたい。私は、前の鎮守府を守れなかった……だから、力が欲しい」

X提督「……君は、二次改装を控えていたそうだね」

響「……」コク

X提督「……行方知れずになった姉妹艦と、一緒に改装を受ける予定だった……」

X提督「彼女を、探すつもりかい?」

響「それは……わからない」

X提督「それじゃあ、もう少し生きててみようか」

響「……」

X提督「生きていれば、手掛かりくらいは、どこかで手に入るんじゃないかな」

響「……」

X提督「改装の準備もしよう。僕の出来る範囲でだけど、手伝うよ。君の、やりたいことを」

響「……」コク


 * 現在 長門の部屋 *

長門「そうして、この島に流れ着いたというのか……」

初春「今思えば、わらわもまっこと運が良かったのう……二人揃って無事に流れ着くなど、相当なことじゃ」

長門「暁は、I提督鎮守府の一員だったのか?」

初春「うむ。かつてI提督鎮守府におった者に話を聞けば、鎮守府は壊滅。I提督は死亡、秘書艦の翔鶴は轟沈したそうな」

初春「鎮守府の艦娘と職員の退避のため囮として出撃した川内、響が大破。こちらはのちに戻ってきて、救助されたそうじゃ」

初春「そして、単身突撃した暁が行方不明……というのが、その鎮守府の最後の記録じゃ」

初春「何故に暁が単騎で出たのかはわからぬ。おそらくは報告以上の惨事がその鎮守府では起こっておったんじゃろう」

初春「暁がI提督の名を口にして気を失い、次に目が覚めた時には何もかも覚えておらぬのも、その影響であろうな」

初春「ゆえに、I提督鎮守府におった者たちには、暁が生きていることも伝えてはおらん」

初春「そなたも暁に昔のことを訊くのは控えた方が良いぞ。提督も判断を同じくしておるでの」

長門「……わかった。ところで、初春もなぜそんな目にあっていたんだ」

初春「わらわかえ? 捨て艦じゃ」

長門「……」

初春「ふふ、かような顔をするでない。捨てる神あれば拾う神あり、縁は異なもの味なもの、と言うではないか」

長門「そうか……すまない、つらい話をさせた。ありがとう」


 * 執務室 *

初春「提督よ。件の話、長門に伝えておいたぞ?」

提督「おう、ありがとよ」

初春「しかし……本当に良いのかの? 暁に、当時のことを教えなくても」

提督「お前から報告聞いたとき、俺も軽くひいたからな。記憶まっさらの赤ん坊に劇薬飲ませるような真似はちょっとなぁ……」

提督「ま、ただでさえ年中艦娘の遺体が流れ着いてくる島だ。首のねえやつだって別段珍しくもねえし、ショックであっさり思い出すかもしれねえ」

提督「それ以外にもきっかけなんてそこらじゅうに転がってるかもな。ただ、俺たちが暁にそれを話すには早えって思ってるだけだ」

初春「うむ、あいわかった。それと……一昨日までの報告でも、I提督の亡骸は未だ見つかっておらぬそうじゃ。翔鶴の首も……」

初春「それゆえ、あの海域で亡霊が出るという噂が出ておる。生首を抱えた濡れ女が、水面の上から近隣の鎮守府を見ているという……な」

提督「けっ、寝ぼけたこと言いやがって……!」ギリッ

提督「だったらお祓いでもなんでもいいから弔ってやれよっつーんだよ、くそが」

提督「だいたいそういうこと言い出してんのは、I提督の鎮守府見捨てて後ろめたさ感じてる奴らだろ?」

提督「それを野次馬が面白がって尾びれ背びれつけて囃し立てやがって……!」

提督「必要以上にゲンを担ぐほど信心深いくせに、面白くもねえ噂話が大好きな俗物連中こそ全員祟られちまえってんだよ、くそがっ!」

初春「貴様が言うと妙な説得力があるのう……」

提督「そもそも話盛ってんじゃねえのか? 女の腕力で艦娘の首をどうにかできるわけねえだろ」

初春「む、むう」

提督「いや、あり得なくはねえのか……暁が記憶を失ってるってのが事実なら。初春の聞いた話が本当なら、あり得るのか……」


初春「……」

提督「……」

初春「……」

提督「……はぁ」

初春「なんじゃ、今の溜息は」

提督「別に深い意味はねえよ。なんでこう面倒くせえ話ばかりこっちに転がってくるんだ? ってな」

初春「……それは貴様が望んでここにおるからじゃろうて」

提督「だからって、こんなにたくさん背負いこむつもりはなかったぞ」

初春「ならばもう救おうとしなければ良かろう? 不幸な艦娘を全員背負いこむこともあるまいよ」

提督「……そうだな、諦めるか」

初春「それが良い、貴様にできることは限られておる。無理はせんほうが……」

提督「あ? 無理しなきゃ無理だろ?」

初春「? 貴様は何を言っておるんじゃ」

提督「だから、見捨てて楽しようってのを諦めるんじゃねーか。俺はそういう人間と一緒にされる方が嫌だね」

提督「とりあえず今まで通り、助かりたいなら手は尽くしてやるさ。そのあとは保証できねえが……」

提督「ったく、我ながら面倒臭え偽善者してやがる、くそが」アタマガリガリ

初春「……」アキレ


提督「なんだよ」

初春「……まっこと、馬鹿じゃのう、貴様は」ハァ

提督「あ?」

初春「……まあ、嫌いではないぞ。貴様のような馬鹿は」

提督「へいへい」

初春「……ときに提督よ」

提督「ん」

初春「あの長門はやけにわらわを警戒しておるようじゃが?」

提督「警戒……ねえ」

初春「わらわが話を始めるときも、えらく気を張っておったようじゃしの」

提督「……聞くか?」スクッ

 カチッカチッ

館内放送『あーあー、戦艦長門。執務室まで来られたし』

初春「……」

提督「デリケートな話題なんでな」カチカチ ←館内放送OFF

初春「よもやお主の口からそんな言葉を聞くとはのう……」

今回はここまで。

間が開きましたが続きです。


 * * *

長門「なるほど。次は私の番か」

初春「一応、如月経由で潮からの話は聞いたがの。おぬしの余所余所しい態度は、それでは説明がつかんのでな」

長門「……なかなか鋭いな。あまり、駆逐艦の耳には入れたくないのだが……」

提督「やめとくか? 断ってもいいぞ」

長門「……いや、話そう。ただ、できれば、潮には黙っていてほしい」

初春「……」

提督「俺はわかった。初春は」

初春「正味なんともいえぬが……委細承知した」コク

長門「ありがとう……」

初春「潮からの話では、深刻なストーカー被害を受けたという話じゃったな。それを長門に相談し、長門が潮を逃がしたと」

初春「具体的にどんな被害を受けたかはよく聞いておらぬが……提督は聞いたのかの?」

提督「俺だけ詳細を長門同伴で、一応な。ま、聞かねえほうがいいぜ、胸糞悪い餓鬼の話だ」

初春「……」

長門「これからの話は提督にも話していない、私自身の話だ。ざっくりと話させてもらう」


提督「お前にも思うところがあったのか?」

長門「ああ。私の場合は、かつての鎮守府の提督……E提督が、あまりに怖くて、気持ち悪くて逃げてきたんだ」

初春「む? 被害を受けたのは潮だけではなかったと?」

長門「いや、その認識で間違っていない。正確には、鎮守府の殆どの駆逐艦たちが被害を受け、一番の犠牲になっていたのが潮だ」

初春「……なぬ? 殆どの駆逐艦!? 潮だけではないと?」

提督「聞いてないのか? そいつ、ロリコンで変態なんだとよ」

初春「……」ヒキッ

提督「で、長門もそうなんだと」

初春「……は?」ヒキキッ

長門「まあ、平たく言えばな」

初春「み、身も蓋もないのう……ちいとは否定せんのか」

長門「否定も何も、事実だからな。私も小さい子は好きなんだ。駆逐艦とのふれあいは私にとって癒しだ」

長門「たくさんの駆逐艦と一緒に遊びたい。抱きかかえて散歩したい。一緒にお昼寝してその寝顔を眺めていたい」

長門「私は、駆逐艦の無邪気な笑顔をずっと眺めていたいんだ……!」

長門「この図体でこんなことをのたまう私の言動が気持ち悪くて痛々しいことは、重々自覚している……」ズーン

初春「う、うむぅ……その程度ならばと変態ともロリコンとも呼ばんのではないのかのぉ……」

提督「過度に自制心が働いてるだけに思える。自虐も入ってるな、こりゃ」

初春「……むう」


長門「ともあれだ。結果的に、私がE提督に何かをされていたということはない」

長門「しかし、E提督の潮を見る目は、あまりに気持ち悪くて嫌な気分になるんだ……」アオザメ

提督「……なるほどな。近親憎悪か同族嫌悪の類か」

長門「程度は違えど、私も駆逐艦が好きだ」

長門「もし、私があの男と同じ目で駆逐艦を見て、同じ顔で駆逐艦と接しているのでは、と思うと、耐えられなくなるんだ」

初春(長門の言う『程度』には、水たまりとチャレンジャー海溝くらいの差があるように思えるのじゃが……)

長門「負い目を感じるから、奴と同じ場所にいたくなかった……これが理由の一つだ」

長門「そしてもう一つ。私は、潮をスケープゴートにしていたんだ」

提督「!」

初春「待て、そやつはロリコンではなかったのか?」

長門「……確かに、最初は私にそういう素振りはなかった」

長門「私も、潮が奴の毒牙にかかるのを見ていられなくて、潮を時々用もないのに呼び出したりしていたんだ」

長門「それからしばらくして……時折、な。あいつが潮を見るような目で、私を見ているときがあるんだ」

長門「……私は、それだけで耐えられなかった」ブルッ

長門「それと同時に、潮が、あの目にずっと見つめられていたと思うと……罪悪感と無力さに押し潰されそうだった」


長門「彼女はずっと奴のセクハラと戦ってきた……私はそれを、外から眺めていただけに過ぎない」

長門「私は、潮を逃がすことを口実に、逃げたのだ。潮以外の、駆逐艦たちを見捨てて」

提督「……」

初春「……」

長門「……こんな私に、駆逐艦を可愛がる資格はない……!」グスッ

初春「……」

提督「それで、初春と話をするときも必要以上に気を張っていた、ってか」

初春「これは重症じゃの……」

提督「……」

初春「のう、提督よ? この長門は信頼できると思うのじゃが」

提督「その言い方だと、信頼できねえ奴もいるのか?」

初春「うむ、わらわがいた鎮守府の長門は駆逐艦たちにしょっちゅう手を出しては折檻を食らっておった」

提督「なんだそりゃ……」ヒキッ

初春「……ま、まあ、たまにはおるのじゃ。変わった艦娘も」

提督「一気に不安になったな……で、この長門がまともかどうか、どうやって証明するんだよ」


初春「そうじゃのう……では長門よ、ちぃとここに座ってくれぬか」ソファポンポン

長門「あ、ああ……」ストン

初春「うむ。では失礼して……」チョコン

長門「!?」

長門(は、初春が私の膝の上に!?)

初春「遠征帰りで疲れておっての。しばしわらわの昼寝に付き合うてくれるか」ポスン

長門「あ、ああ……」ドキドキ

初春「そのように硬くならんでも良い。楽にしてもらわんと、わらわも落ち着かぬ」メヲトジ

長門「わ、わかった……」

提督「……んじゃ、俺は執務に戻る。長門は初春と一緒に、そのまま適当にくつろいでな」

長門「い、いいのか?」

提督「おう」

長門「……」

提督「……」カリカリカリ

長門「……」


長門(初春型、か。E提督の鎮守府では見かけなかったな)

長門(あの男は異様なまでに艦娘を選り好みする男だった。なにを基準にしているのか、聊か把握できなかったが……)

長門(気に入れば執拗に追いかけ回し、気に入らなければ即解体。あの男の私情がすべての、いびつな鎮守府だった)

初春「……」スヤ…

長門(……それに引き替え、ここはどうだ)

長門(在籍する艦娘全員が皆理由ありで、悲嘆にくれたことのある者たちばかり)

長門(そして、まるでやる気を感じられないこの男。編成も指揮も艦娘任せ、艦隊運営に差支えなければ、なんでも許す放任主義者)

長門(深海勢力を歯牙にもかけず、責任感もまったく見当たらない。形だけの、外界から切り離された孤島の鎮守府)

長門「……」ナデ

長門(……だが、不本意にもそんな場所に救われている自分がいる)

長門(潮も少しずつ笑うようになった)

長門(心残りはあれど、しがらみのないこの場所は、自分をゆっくり考え直すには丁度良い……)

初春「ん……」ゴロ

長門(比叡も、暁も……初春も、きっとそうなのだろうな)ナデ

長門(穏やかな顔をして寝ている。安心しているんだろうか)フフッ

長門(……)

長門(……今くらいは、このささやかな幸せを、噛みしめても……)


初春「なんじゃ、難しい顔をしておるのう」パチ

長門「!?」

初春「のう、提督よ? 貴様はどう思う?」

提督「まあいいんじゃねえか、少し遠慮しすぎてるきらいもあるが」

長門「お、おい、まさか私を謀って狸寝入りしていたのか!?」

初春「休みたかったのは事実じゃぞ。確かに、おぬしがわらわに何をするのか興味もあったのじゃが」

提督「あ? むしろ最初からそのつもりじゃなかったのか? 話の流れを考えりゃそう思わねえほうがおかしいだろ」

長門「」シロメ

初春(気付いておらなんだか……思いのほかどんくさいのう)

初春「まあ、それはともかくじゃ。わらわはもう少しこのままでいても良いかの?」

長門「んな!? も、もう終わりではないのか!?」

初春「わらわは初春型の長姉で、口調も気質も駆逐艦らしくなかろう? 誰ぞに甘えると言う発想も今まではなくてのう」

初春「ゆえに、誰かに寄り添ってもらったのは初めてじゃ。それがこれほど心地よいとは思わなんだ……」スリ

初春「もう少し、独り占めしたいんじゃが……どうかの?」ウワメヅカイ

長門「」キュン

提督(なんだこの茶番)

今回はここまで。

続きです。

たまには糖分多めのも書いてみたい。


初春「というわけで提督よ。もうしばらく長門と一緒にいたいんじゃが、良いかの?」

提督「いいけどしばらくだぞ。俺は仕事に戻る」

初春「うむ、では許可も得られたことじゃし、もうしばらく休ませてもらおうかのう」スリスリ

長門「い、いや待て初春、こ、こういうのはもう少しお互いを知りあってからだな……」タジッ

提督(乙女か)カリカリ

初春「何を言うておる。添い寝くらい別に構わんじゃろうて……ほいっと」トンッ

長門「おわっ!? な、何をする!」オシタオサレ

初春「ふむ、一緒に眠ろうと思っただけじゃが……なんぞ気になることでも?」ニヤリ

長門「私の上に跨って何をするつもりだ!?」ワタワタ

初春「何を……って、何をするつもりだと思うておる?」

長門「何って……なんだ、その……」ポ

提督(乙女か)カリカリ


初春「……ほう。何というとナニか。ナニされたいと申すか」ニヤァ

長門「ひっ!?」ビクッ

初春「ではお望み通り……」スッ

長門「!」ビクッ

初春「……」

長門「……」プルプル

初春「……」

長門「……?」チラッ

初春「……」クワッ!

長門「……」ビクビクビクッ!

提督(小動物か)カリカリ


初春「これ」デコピン

長門「はうっ」ベシッ

初春「貴様それでも長門か。ビッグセブンではないのか」

長門「そ、そうは言ってもだな! いきなり跨がられて驚かない奴なんかいないだろう!?」

初春「提督もしょっちゅう如月やら電やら抱き着かれて寝ておる。気にすることはない」

長門「それは気にしなきゃ駄目じゃないのか!?」ガバッ

初春「そうかのう?」

長門「……提督。今の話はどういうことだ」ジロリ

提督「あー、朝、目が覚めたら隣に誰かしらが寝てることは結構あるな」ソロバンパチパチ

提督「どうも寝苦しいと思ったら如月が上に乗っかってたり、電が脚にしがみついたりしてんだよ」

提督「だもんで夜、寝る前に俺の部屋に鍵をかけてるんだが、ただの一度も役に立った試しがねえ。どう思う」カリカリカリ

長門「!?」

島の妖精たち(実は、わたしたちが資材やらなにやら引き換えに鍵を外してるんだけど)

島の妖精たち(ばれてないみたいだねえ)


長門「け、憲兵はどうした」

提督「いねえよ」

長門「それでいいのか!?」

提督「陸軍の連中ですら、この島に滞留したくねえっつうんだからしょうがねえだろ。俺だけだぞ? この島に滞留してる人間は」

初春「あー、長門よ? そんなことより早く添い寝させてもらえんかのう?」

長門「」

初春「んふふふ、良いではないか良いではないか」オシタオシ

長門「あ、あわわわ、私は……」ドキドキ

提督「おし、終わりだ。悪いな初春、休憩は終わりだ」バサットントン

初春「なんじゃと?」

長門「!」

提督「でだ、ちょっと電を呼びに行ってくれ」

初春「ぐぬぬ……提督はいけずじゃのう……承知した、暫し待っておれ」ガチャ

 トテトテトテ…

長門「……」ホッ


提督「なあ長門。さっき、俺も初春に言われたんだがな」

長門「な、なんだ!?」

提督「お前、いろいろ背負いこみすぎだ。無理すんな」

長門「……な、なにを言う」

提督「どうせ前の鎮守府に残した連中のことを心配してたんだろ」

長門「……」

提督「全部なんとかしようと思うなら、自分がどうなってもいい、って思わねえと難しいもんだ」

提督「だが、それがお前にはできなかった。なぜなら、お前も被害者だからだ」

提督「助けに行きたい。だが、今行ってどうなるか。行ったあとにどうなるか? だいたい予想はつくよな?」

長門「……」ギリッ

提督「難しい顔すんなって。だから俺は最初から諦めろって言ってんだよ。じゃなきゃ、もちっと頭を使え。使えるものは上司でもだ」

長門「ならば貴様は……」

提督「俺は俺の出来る範囲でお前らの希望に応えてるだけだよ。無理なもんは無理で諦めてる」

長門「……」


提督「それ以上のことをしなくちゃ行けないときは、俺が命を捨てるときだ。だが、もうそれも安易に出来なくなった」

提督「長門。お前、この鎮守府を運営していく力はあるか? あるんなら、俺が代わりに命を捨てようじゃねえか」

長門「……い、いや、それは……」

提督「躊躇するだろ? だったらやめとけ」

提督「いい手がありゃあそれに乗るが、決定的に好転するなにかがねえとな……」

 コンコン

電「電なのです」

提督「ん、入れ」

初春「提督よ、呼んできたぞ?」ガチャ

電「失礼します……はわわ!? な、長門さん!?」

長門「!」

提督「とりあえずなあ、お前は余所を心配するより、この鎮守府の駆逐艦の悩みを解決してやったらどうだ?」

長門「……む……!」

初春「? どういうことじゃ?」

提督「長門は遠慮しすぎなんだよ。この前から電に素っ気ない態度取ってるのも、ふれあいが度が過ぎないようにって考えてるんだろ」

初春「この前とな?」


電「暁ちゃんが比叡さんにおかゆを食べてもらったときのことなのです」

電「嬉しくて長門さんに抱きついたんですが、それ以来どうも避けられてる気がして……司令官さんに相談してたのです」

提督「ただの照れ隠しだとよ。安心しろ電」

電「そ、そうなのですか長門さん!?」

長門(て、提督!?)チラッ

提督「……」ニタァァァ

長門「」

初春(おぉ……下っ衆い笑顔じゃの……)ヒキッ

長門「……こほん……ま、まあ、その、なんだ。別に電が嫌いというわけではない」

電「!」パァ

長門「少々、気恥ずかしかっただけだ。悪く思わないでくれ」

電「ほ、本当なのですか?」


提督「口だけじゃ証明できねえだろ。態度で示せ、態度で。ほれ、抱きかかえてやれよ」

長門「!? わ、わかった……い、いいのか電?」

電「はいなのです!!」ニコー

長門「では……」ヒョイ

電「わっ!? 高いのです!」キャッキャ

初春「……」ジー

長門「……わかった、初春もだな」ヒョイ

初春「お!?」

電「片腕で抱き上げたのです! 力持ちなのです!」

長門「ま、まあな。戦艦だからこのくらい当然だ」マッカ

初春「ふむ……この眺めも悪くないのう」スリスリ

電「長門さんに嫌われてなくてよかったのです……」スリスリ

長門「あ、ああ……」テレテレ

提督「……」ニヤニヤ


長門「! て、提督! 私は……」

提督「ま、話はこんなもんだな。長門、時間を取らせてすまなかった。戻っていいぞ」

長門「へ?」

提督「俺は執務があるから。大丈夫だ、二人抱えててもこのドアは通れる」ガチャー

長門「……」

提督「早く行け」ニヤァァァ

長門「くっ……覚えておけよ」スタスタスタ

 パタム

< アー、ナガトサンニダッコサレテルー

< ワタシモオネガイシマス!

< ワラワハマダオリトウナイノジャー!

< ナガトサンワタシモ…!

< ウシオォ!?

提督「……くっくっくっくっ」

提督「はー、笑った笑った……さて、仕事すっか」

というわけで、長門編はここまで。

次を誰にしようか悩み中なので、少し間が開きます。
はっちゃんか、古鷹か、利根か……仕上がり次第書いてみます。


ちょっとだけ個人的まとめ

如月:新兵器の実験台にされていたところを脱走し大破、島に漂着
不知火:如月捜索に駆り出される
朧、吹雪:捨て艦で轟沈後、島に流れ着く(二人とも別の鎮守府出身)
由良、電:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く
神通:当時の司令官を謀殺されて復讐を試みるが危険視される
大淀:日々の解体任務に疑問を覚えて仕事が手につかなくなる
敷波:由良と電の捜索を命じられそのままMIA
明石:提督に帳簿の不正を強いられてそのまま首犯扱いで雷撃処分
朝潮、霞:提督の不正の内部告発を計画するも逆に犯人扱いされ雷撃処分
暁:信頼していた提督の変貌に恐怖して奔走、記憶を失う
初春:捨て艦で轟沈後、暁に拾われる
潮、長門:ストーカー上司に耐え切れなくなり家出、長門はその護衛
比叡:料理上手なのに飯を「まずい」と言われ続けてノイローゼに
 以下これから
古鷹:
??:
利根:
??:
伊8:

というわけで古鷹さんから参ります。


 * 埠頭 *

古鷹「古鷹と言います。重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです!」

提督「……重巡洋艦?」

吹雪「はい。よく重巡と略されて呼ばれてます」

提督「神通とか由良とかとは別なのか」

朧「別ですね。この鎮守府にいる人たちだと、そのお二方も大淀さんも軽巡洋艦に分類されます」

提督「どう違うんだ?」

吹雪「対潜攻撃ができない代わりに、装甲と火力が高いというのが主な特徴です!」

提督「……重巡洋艦、うちにはいねえよな?」

朧「いませんね」

L少佐「だのになんで、あんたんところに長門がいるんだよぉぉ!!」

古鷹「L少佐、落ち着いてください!」

吹雪「司令官、こちらの方は?」

提督「知らん」

L少佐「おいぃ!? 准尉、さっき連絡しただろう!」

提督「初対面という意味で知らないっつったんだが」


L少佐「……ったく、まあいい。僕はL少佐、ついさっき敵艦隊を追い払ってきたところさ」フッ

L少佐「まあ僕たちにかかれば敵艦隊の邀撃なんて赤子の手をひねるより他愛ないことなんだが……」

L少佐「窮鼠猫を噛むと言ったところかな? 運悪く想定以上の敵艦隊と会敵してしまってね」

L少佐「その分資材を余計に消費してしまったんで、この鎮守府の資材の融通を指示したんだよ」

吹雪「指示?」

L少佐「当然だろう? 彼は准尉で、僕は少佐だ。僕はこれから本営へ帰還して観艦式に参加するんだよ」フッ

L少佐「敵艦隊の殲滅を手土産に、僕たちがそのまま観艦式の主役として颯爽と凱旋する……美しいだろう?」

L少佐「そのために、減ってしまった資材を補充しなければならないんだ。上司に仕えるのは部下の喜び。わかるね?」

吹雪「いつ上司になったんですかね」ボソ

提督「それと、ハナから他人に物を頼む態度じゃねえんだよなあ……気に入らねえ」ボソ

朧「諺多用するくせに、実るほど首を垂れる稲穂かな、って言葉を知らない人ですね」ボソ

古鷹「すみません、甚だご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」ペコペコ

L少佐「そうだとも。頭を下げろというのなら、いくらでもこの古鷹が頭を下げようじゃないか」

吹雪「……」ピキッ

提督「おい、吹雪の顔が面白いことになってんぞ」

朧「そりゃ他人にぺこぺこさせて自分は踏ん反り返ってたら吹雪だって気に入りませんよ」


L少佐「資材がないなら良い考えがある。長門が居るから資材が足りなくなるんだろう?」

提督「は?」

L少佐「おたくの長門はうちがもらってやろうじゃないか。君は資材の消費を抑えることが出来て万々歳だろう!」

提督「朧、塩持ってこい、塩」

朧「すぐ準備します」

吹雪「塩なんて上等なものじゃなくて、海水でいいんじゃないですか」

提督「……! おい、吹雪が成長したぞ。朧、赤飯の準備しろ」

朧「すぐ準備します」

吹雪「二人とも私をなんだと思ってるんですか!!」

L少佐「やれやれ、洒落が通じない連中だな」フゥ

古鷹「すみませんすみません、L少佐は悪気はないんです」ペコペコペコ

提督「悪気がねえ方が最悪だよ。吹雪、海水じゃなくて氷水の方がいいんじゃねえか」ボソ

吹雪「古鷹さんが代わりにかぶるって言い出しそうですけどね」

提督「じゃあ塩はやめて砂糖にしとくか。こいつが乗ってきた船の燃料タンクに角砂糖五、六個ぶち込んでやれ」

朧「司令官、それはさすがに止めておきましょう」


 * *

提督「とにかくな、あんたがなんて言おうと、無い袖は振れねえってんだよ」

L少佐「いやいや、それなら装備なり艦娘なりを解体すれば良いじゃないか」

提督「は?」

L少佐「それにだ、この島の南側を見たが、たくさんの単装砲が丘の上に並んでいたね」

L少佐「あれを溶かせば資材なんてすぐ取り戻せるだろう?」ニコー

提督「……」

吹雪「」ドンビキ

朧「」ドンビキ

古鷹「ど、どうしたんですか二人とも!?」

吹雪「いえ、その……L少佐さん、怖いもの知らずというか、地雷原突っ走ってるっていうか」

朧「さっきから司令官の逆鱗をべたべた触りまくってますよ……」

古鷹「えええ!? ど、どうお詫びすれば……」オロオロ

吹雪「この場合、古鷹さんが頭を下げても逆効果だと思います」

朧「司令官、キレたりしないでしょうね……相手は一応少佐なんだから、我慢しないと……」

吹雪「我慢とか無理でしょ……」

朧「うん、アタシもそう思う……」


L少佐「そういうわけだし、どうだろう? 僕の役に立つのは君にとっても良いことだと思うよ?」

提督「……」

朧(司令官、平然としてる……)

吹雪(真顔なのが逆に怖い……)

提督「……そこまで仰るなら、その資材とやらに案内しましょうか」

L少佐「おお、そうかい! さすが、物分かりがいいね!」

吹雪「ど、どうする気なんだろう……」

朧「ついていこう」

古鷹「私も行きます!」

というわけで今回はここまで。

今回の古鷹さん編は割とライトなドタバタ劇になりそうです。
はっちゃんはまあまあで、
利根さんは……くっそ重いのでご注意を。

L少佐はナルシスト系のキャラを思い浮かべると良いかもしれません。
そう考えるとウェーブヘアー系は当たってそうですね。
ちなみに古鷹だからエル少佐にしたわけではなく偶然です。


続きを投下します。


 * 北東の砂浜 *

吹雪「……」(提督の着替え籠持参)

朧「……」(手押しの一輪車持参)

古鷹「ふ、二人ともどうしてそんな暗い表情してるんですか!?」

吹雪「……だって……」

朧「……司令官が何をしようとしているかを考えると……」

吹雪「こういうの、なんて言うんだっけ? 人を呪わば穴二つ?」

朧「この場合は、毒を以て毒を制す、かなあ」

古鷹「い、いったい何を言ってるんですか!?」

吹雪「……まあ、普段のお仕事といいますか……」

朧「司令官の日課の一つというか……」

古鷹「?」

L少佐「ふむ、なかなか綺麗なプライベートビーチじゃないか。君にはもったいないね」

L少佐「しかし准尉、今僕が欲しいのは資材であって癒しじゃないんだよ」

提督「吹雪、服を頼む」

吹雪「はいっ」


古鷹「あの、提督准尉はどちらへ?」

朧「着替えてるんですよ」

L少佐「? 自分で資材調達するつもりかい?」

朧「……あなたにとっては、それに近いものです」ムスッ

古鷹「?」

L少佐「?」

提督(Tシャツ+長めのサーフパンツ+作業靴)「さて、やるか」

L少佐「なんだなんだその恰好は?」

提督「まあ、見ていてください」

 チャプチャプ

L少佐「彼は何をするつもりなのかな?」

朧「とりあえず、司令官の言う通り見ててください」

吹雪「そうすれば、この島がどんな場所か理解できると思いますから」

古鷹「?」


吹雪「とか言ってるうちに見つけたみたいですね」ハァ

朧「……見つからなければいいのに」ハァ

L少佐「何を言っているんだ君たちは?」

提督「よっ、と」

 ザバーッ

轟沈した艦娘「」

古鷹「!?」ギョッ

L少佐「な、なんだそれは!?」ビクーッ

提督「……『それ』なんて轟沈した艦娘に酷えことを言うなよ。吹雪、こいつの顔を隠してやってくれ」

吹雪「はいっ」ファサ

提督「五体繋がってるだけ、ましな方だな。艤装を外すぞ、朧、一輪車」ガシャガシャッ

朧「はい」ガラガラッ

古鷹「……あの、こういうこと、多いんですか?」

提督「多いな。半年前なら砂浜を埋め尽くさんばかりだった」

吹雪「それを司令官が一人一人埋葬しているんです」

古鷹「ま、埋葬?」


提督「この辺の浅瀬に埋もれてても、そのうち潮の流れで浜に打ち上げられるからな」

提督「水葬ができねえんで、妖精たちとも話をして丘の上に埋めることに決めた」

L少佐「丘の上……って」

提督「さっきあんたが話していたたくさんの単装砲。それはこいつらの墓標代わりだ」

提督「でだ。さっきの話に戻るが……こいつを解体して、あんたの資材にするってことでいいのか?」ギロリ

L少佐「い、い、いや、まあ、あー、や、やめ、やめておくよ!! は、はははは!」

提督「……じゃあ、資材はうちで出せる最低限。それでいいんだな?」

L少佐「あ、ああ! 十分だとも! そ、それじゃあ、よろしく頼むよ!」ダッ

古鷹「L少佐!? どこへ行くんですか!?」ダッ

朧「逃げた」ジト

吹雪「最悪」ジト

提督「ま、そうなるんじゃねえかと思ってたけどよ」ハァ

轟沈した艦娘「」

提督「悪ぃな、お前をだしに使っちまって……」ナデ

吹雪「……」

提督「……吹雪、どうかしたか?」

吹雪「いえ! なんでもないです!」

提督「?」

吹雪(……この島に来てくれたのが司令官で、本当に良かった……!)


 * * *

L少佐「やれやれ……とんでもないものを見せられたな」

朝雲「司令官! ここの提督さんとは話がついたの?」

L少佐「ああ、僕らの要求より少ないけどね」

朝雲「それはそうでしょ! いきなり他所様の鎮守府に乗り込んで資材寄越せだなんて、一歩間違えば海賊行為よ?」

L少佐「厳しいなあ朝雲は」

朝雲「司令官が古鷹さんに甘え過ぎなの!」

L少佐「でも、その古鷹を率いている僕の艦隊の主力部隊は高い練度を誇っているわけだよ?」

朝雲「古鷹さん、司令官の身の回りのことばかり気にして、自分の練度がおろそかになってるじゃない!」

L少佐「まあ、彼女は裏方だからね」

朝雲「まったくもう、ああ言えばこう言うし。古鷹さんがいなかったら、この艦隊はどうなってるのよ、もう」

L少佐「おやおや、君は僕の手腕を評価してくれないのかい?」

朝雲「ぶっちゃけ司令官は何もしてないでしょ?」ツーン

L少佐「……朝雲。それは聞き捨てならないぞ? 僕がいなかったらこの艦隊は結成すらできなかった」

L少佐「僕と言う司令官がいるからこそ、この艦隊は成り立っているんだ」


朝雲「そこまで言うなら、古鷹さんにおんぶにだっこの現状をなんとかしなさいよね!」

朝雲「ほんと、こういうときに叱ってくれるのは妹の霞の役目なんだけど……早くうちに来てくれないかなぁ」


 * 一方 遠征中の朝潮と霞 *

霞「へっくち!」

朝潮「霞!? 風邪ですか!? 熱はありますか!? 鼻紙は持っていますか!?」

霞「騒ぎ過ぎよ! そんなんじゃないわ。ただのくしゃみよ」

朝潮「では鼻の中に異物が入ったんですね! 朝潮が見てあげます!」

霞「やめなさいよ!」


 * 鎮守府 *

古鷹「L少佐! 資材の積み込み完了しました!」

L少佐「ご苦労、古鷹。いつも全部やってもらって悪いね」

 『ぶっちゃけ司令官は何もしてないでしょ?』

 『そこまで言うなら、古鷹さんにおんぶにだっこの現状をなんとかしなさいよね!』

L少佐「……」

L少佐「古鷹。ちょっとここで待っててくれるかな」

古鷹「は、はい?」

というわけで、今回はここまで。

間が開いてしまいましたが、続きです。


 * 執務室 *

提督「古鷹を置いていく?」

L少佐「ああ。後日改めてお礼がしたい」

L少佐「もし僕たちに万一のことがあって、それが果たされない時の保険だよ。彼女を担保として欲しいんだ」

提督「……」

L少佐「彼女は働き者だ。お願いすれば何でも言うことを聞いてくれる。この鎮守府にとってもマイナスにはならないはずだよ」

提督「どういう風の吹き回しなんだかな」

L少佐「受けてくれないか?」

提督「……レンタル、ということでなら、だな」

L少佐「良かった! よろしく頼むよ、准尉!」

L少佐「それで……頼まれついでで悪いけど、古鷹を風呂に入れてやってくれないか?」

L少佐「うちの古鷹はワーカホリックでね。束の間の休日ということで、今日くらいはゆっくり骨休めさせてやりたいんだ」

提督「……仕方ねえな」

提督(なにを企んでやがる……?)


 * 入渠ドックそばの大浴場 *

古鷹「お風呂を貸していただけるんですか!?」

L少佐「ああ。汗をかいただろうし、服も汚れただろう。しばらくゆっくりしてリフレッシュさせてもらうといい」

L少佐「響と大淀? だったっけ、二人ともよろしく頼むよ」

吹雪「吹雪です。『ひ』じゃなくて『ふ』です」

朧「アタシに至っては艦種も違うし」

L少佐「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない」ニコニコー

吹雪(よくこれで提督業できるなあ)

朧(すごく不安なんだけど)


 * 埠頭 *

L少佐「准尉、見送りご苦労。君の働きのおかげで観艦式の成功が盤石となったよ」

提督「……(ほんとかよ)」コク

L少佐「観艦式の成功の暁には、僕の勲章を見せてあげようじゃないか」

提督「……(もう来んな)」

L少佐「まあ、楽しみにしていたまえ。では、出航!」

提督「……(おう、とっとと出てけ)」ケイレイ

 船 < ブォーン ザァァァァ…

提督「……」

提督「……ったく、やっと行きやがったか。うぜえったらねえな、くそが」

妖精「古鷹さんを置いていくとか、何を考えているんだろうね?」ヒョコッ

提督「さあな。奴の考えてることはさっぱりだ」

提督「あいつ、考えがあると思わせぶりにしておいて、何も考えてねえって感じなんだよな。無能な政治家と同じにおいがするぜ」

妖精「……本当に、置いていって大丈夫だったんだろうね?」

提督「……言うなよ。俺まで不安になってきた」


 * *

L少佐「まったく、みな古鷹古鷹と……この僕の手腕を評価しないなんて、みんな目玉が節穴だ」

L少佐「古鷹がいなくとも、この僕が観艦式を立派に取り仕切って見せようじゃないか!」

L少佐「ふふふ、はっはっはっは……!!」


 * 日没 執務室 *

吹雪「司令官! 古鷹さんを連れてきました!」

古鷹「こんなにゆっくりさせて戴いてありがとうございます! あの、こんなにして戴いて、良かったんでしょうか」

提督「気にすんな。まあ、今のところ何もすることはねえし、しばらく適当に歓談してな」

古鷹「いえ、そうも言っていられません、そろそろL少佐の船に戻ってお仕事を……」

提督「……あ?」

古鷹「はい?」

提督「……ちょっと待て。お前、あいつにここに残るように指示されてねえのか?」

古鷹「ええええ!? そ、そんな話聞いていませんよ!?」

提督「……おい、どういうことだよ。っつうか、とんでもねえミスだぞこりゃあ」

提督「大淀いるか!!」

古鷹「……」ボーゼン

吹雪「あ、あの、古鷹さん!? 古鷹さん!?」


 * 一方 L少佐の船 *

L少佐「うんうん、順調順調。この調子なら明日朝の観艦式には間に合いそうだな」

朝雲「ねえ、司令官。古鷹さんの姿が見えないんだけど、どこに行ったの?」

L少佐「古鷹なら、さっき立ち寄った鎮守府に置いてきたよ」

朝雲「……は?」

L少佐「なあに、心配ないよ。何も問題なくことが進んでるじゃないか」

朝雲「……何を言ってるのよ。観艦式に古鷹さんがいないってどういうことなの!?」

L少佐「何を言っているんだ。もともと古鷹は観艦式には出ない予定だったろう」

朝雲「そういう意味じゃないわ! この艦隊が……司令官が今までやってこれたのは古鷹さんがいたからこそでしょ!?」

朝雲「その功労者をほったらかしにして何が観艦式なの!? 冗談じゃないわ!」ダッ

L少佐「朝雲!? どこへ行くんだ!」

朝雲「決まってるわ! 古鷹さんを迎えに行くの!!」ザシャァァァァ

L少佐「だ、駄目だ! 戻ってこい!! 朝雲ーーーー!!」


 * 墓場島鎮守府 *

古鷹「すぐにL少佐の船に戻らないと!」

提督「そこまで急ぐ理由はなんだ?」

古鷹「今L少佐が乗っている船は、資材を運ぶ輸送船も兼ねています。その輸送物資の金庫の鍵を私が持ってるんです!」

提督「……つまり、お前がいないと補給物資が使えない」

古鷹「観艦式のときに使う燃料なども、絶対に不足します!!」

提督「……バカジャネーノ、アイツ」

古鷹「……すみません!! 私、これからL少佐の船を追いかけます!」ダッ

吹雪「えええ!? ふ、古鷹さん!? ど、どうしましょう? 確かにL少佐の自業自得ではあるんですが……」

提督「うちが手助けしてやる義理はねえんだがな」

吹雪「かといって見捨てたりしたら……えっと、あの、き、きっとこの鎮守府に文句を言う人がいますよ!?」

提督「……面倒くせえな」ハァァ

吹雪「司令官!!」

提督「……吹雪。神通と由良、比叡を呼んでこい」

吹雪「!」

提督「旗艦はお前だ。古鷹を連れて奴の船に送り返せ」

吹雪「はいっ! 了解しました、行ってきます!」ビシッ ダダッ

提督「……ったく、どこまで甘えんだ俺は」


 * それからしばらくして *

提督「奴の船から返事は」

大淀「いえ、まだ来ません。電文を六回ほど打っていますが、未だ返信がありません」

提督「……なにやってんだあの野郎は」

大淀「提督、中将へ連絡してみてはどうしましょう」

提督「……それしかなさそうだな。L少佐の不始末だ、そう伝えろ」

大淀「はいっ!」

吹雪「司令官! 出撃準備できました!」

提督「揃ったか? よし、とっとと行ってこい」

吹雪「了解です!!」ビシッ


 * * *

提督「……」

大淀「……」ソワソワ

朧「……」イライラ

大淀「……」ソワソワ

朧「……」イライラ

提督「……はぁ。だっる」


朧「……司令官」

提督「ん? なんだ」

朧「どうして吹雪を行かせたんですか」

提督「どうしてもなにも、どう見ても行きたがってたろあいつ」

朧「朧は納得いきません。置いて行かれた古鷹さんも古鷹さんです。どうして身勝手なあの人を助けようとするんですか」

提督「そんなん知らねえよ」

朧「司令官は、それで納得できるんですか」

提督「納得するもしないもねえな。そいつがやりたいことをやらせてるだけだ、勝手にやれってこった」

提督「それとも、行くなと言えばいいのか? 邪魔すりゃあ良かったのか?」

朧「……あの人は、ちょっとくらい、痛い目を見ればいいんです」

提督「……まあ、俺もそういう気持ちはある」

提督「が、助けたいって思ってる奴がいる以上は、そっちを優先するかな。別段、死ねと言うほど憎い相手でもねえし」

朧「……」

提督「お前は、気に入らないんだろうけどな」


 通信機 < RRRR...

大淀「!」ガチャッ

朧「!」

大淀「もしもし!!」

提督「来たか」

大淀「……」

提督「悪い方に転んでるみてえだな」

朧「それはそれで腹が立ちますね」

提督「手を尽くそうとしたからには、良い結果が出て欲しい、ってか」

朧「他人の不幸を笑いの種に出来るほど腐ってもいませんから」


 * 鎮守府 埠頭 *

吹雪「すみません、司令官……」

提督「いい。話は聞いた、急いでそいつをドックに連れて行け」

吹雪「はい! 急ぎましょう古鷹さん!」

朝雲を背負った古鷹「しっかりして、朝雲さん!」

朝雲(大破)「……」

提督「で、奴の船には追いつけず、か」

神通「はい。途中、戦闘していた彼女が大破したのを見て、そこからL少佐の船を追いかけるのは危険でしたから」

比叡「彼女を助けるには、引き返すしかありませんでした」

提督「ったく……あの野郎どこまで馬鹿なんだ、くそが」


 * 翌朝 *

大淀「提督。中将からの電文が届きました」スッ

提督「ん」ガサガサ ペラリ

大淀「……」

提督「……奴の観艦式は、なんとかなったみたいだな」

大淀「!」

提督「中将が資材を肩代わりしたらしい。その代わり、L少佐は降格処分だと。ほれ」スッ

大淀「……そうですか……」ペラッ

提督「まあ、当然だな。中将の手を煩わせて赤っ恥もかいたし、この程度で済んで良かったじゃねえか」

大淀「ご不満のようですね」

提督「まーな。もっと大っぴらに失敗して後ろ指でも指されてりゃいいんだよ、ああいうのは」

大淀「……! 提督?」

提督「? なんだ」

大淀「こちらの一文……」

提督「なに? ……『重巡洋艦古鷹、及び、駆逐艦朝雲は異動、提督准尉配下の艦娘とする』……だと?」

吹雪「本当ですか司令官!!」ガチャバーン!

朝潮「新しい朝潮型の着任と聞いてご挨拶に参りました!」バーン!

霞「ちょっと朝潮! 少し落ち着きなさいよ!!」

吹雪「古鷹さーん! この鎮守府へ異動だそうですよー!」

古鷹「えっ!? そ、それじゃあ、この方が私の新しい提督なんですか!?」

朧「……」

提督「……なんだろうな? この形容しがたい漠然とした不安感は」

今回はここまで。
というわけで古鷹と朝雲が着任です。

古鷹:お人よし過ぎて自分の練度が上がらない上、観艦式において行かれた ←New!
朝雲:観艦式に向かう途中で艦隊を離脱して古鷹を追いかけ大破する ←New!


本当の騒動はここから。

ある意味、ここからが古鷹編の本編です。

続きを投下します。


吹雪「古鷹さんが書記艦補佐?」

朧「この鎮守府になじむ練習がしたいんだって。メインの書記艦の霞がいるから、あまり変なことはしないと思うけど」

吹雪「何でか知らないけど、心配だなあ……」

朧「吹雪もそう思うんだ……アタシもそう思う」



 * 翌朝 提督の私室 *

提督「……ん」パチ

提督「何時だ……」

目覚まし時計「マルゴーフタゴー」

提督「……起きるか」

提督「……」キガエキガエ

提督「……?」

目覚まし時計「マルゴーサンサン」

提督「……5時半にしてた目覚まし時計のアラームの設定が変わってるだと?」

提督「俺、変えてねえよな……8時半とか遅すぎるだろ」セッテイシナオシ


 * 廊下 *

 廊下 < ピカァ…

提督「なんだこりゃ」

古鷹「あっ、提督! おはようございます! お早いんですね!」

提督「ああ……お前の仕業か、これ」

古鷹「はい! 張り切ってお掃除してみました!」

提督「どうやったらここまでできるんだよ」

古鷹「夜のうちに済ませておいたんです。それで、申し訳ないんですが……」

提督「? なんだ」

古鷹「実はワックスや雑巾が足りなくなってしまいまして。追加で購入したいんですがお願いできないでしょうか?」

提督「……考えとくが、別にそこまでしなくていいぞ?」


 * 執務室 *

提督「……なんだ?」

古鷹「あっ、執務室もお掃除させていただきました!」

提督「……机の上にあった書類はどうした」

古鷹「それはこちらの棚に!」

提督「算盤はどこへやった」

古鷹「こっちの机の中に入ってます!」

提督「……」

提督「妖精、いるか?」

島妖精D「ふわぁい……」ムニャ

島妖精F「なーに……?」ムニャ

提督「……何があった」

島妖精A「いや、実はだな……」


 * * *

提督「つまり、古鷹は前の鎮守府と同じ感覚で掃除と整理整頓をやってたと」

島妖精A「ああ。私たちが止めるのも聞かず、夜のうちに一人で大掃除を始めたようなものだ」

提督「俺が決めた場所に置いていたものを勝手に入れ替えたのも、その一環だと」

島妖精A「みたいだな」

古鷹「す、すみません! つい、L少佐の鎮守府と同じ感覚でお仕事をしてしまいまして」

霞「どこまで古鷹さんに任せてたのよあのクズは……」

提督「古鷹、やりすぎだ。俺の机は勝手に触るな。重要書類をどこかに持っていかれたらたまったもんじゃねえ」

古鷹「は、はい。一応、前の鎮守府では喜ばれてたんですが……」

提督「ここにゃここのルールがある。勝手に物の置き場所を変えるんじゃねえよ」

古鷹「す、すみません」

霞「……初回だけなら、あまりきつく言わないほうがいいんじゃないの?」

提督「なあ霞? お前、厨房の食器と調理器具の場所が全部違ってたらどうするよ?」

霞「なにそれ……そこまでやったの?」

提督「ついでに調味料もな。電が砂糖と塩を間違えそうになってたのを比叡がとめてたって暁から報告があったぞ」

提督「おかげで朝餉の準備も遅れるそうだ」

霞「……」


古鷹「それなんですが提督、比叡さんがお料理作ったら大変なことになりますよ!?」

提督「それもお前の勝手な思い込みだ。比叡が料理できないのは余所の話で、うちの比叡は別だ」

古鷹「そ、そうなんですか!?」

霞「……まるであのときの長門さんみたいになってるわね」

 バタバタバタ

長門「提督、失礼する、長門と明石だ」トトトン

提督「噂をすれば、か。入れ」

長門「提督、保管しておいた布がなくなっているんだが、しらないか!?」ガチャ

提督「もしかして、掃除で全部使ったとかじゃないだろうな……」

明石「工廠の工具も! 置き場所がばらばらでどこに何があるかわからないんです!」

提督「……古鷹……」

古鷹「すみません! 本当にすみません!」ペコペコペコ

提督「……なあ、奴の鎮守府の連中はここまで古鷹に世話してもらわねえと何も出来なかったのか?」

霞「……目眩がしてくるわね」


 * 食堂 *

 ワイワイ ガヤガヤ

提督「とにかく、余計な真似はするな。何か手伝って欲しいときは呼ぶ」

古鷹「本当にすみません……」ションボリ

提督(いくら善意からお節介焼いてるとはいえ、ここまで常識外れだとはな……)

提督(最悪、一般常識から教育し直さなくちゃならないとかなったりしねえだろうな?)

霞「なに難しい顔してんのよ」

提督「わかってんだろ、察しろよ……ところで朝雲の具合はどうだ」

霞「もう八割方いいんじゃないかしら。大事を取ってまだ休養室にいるけど」

提督「じゃあ、普通の飯も食えそうだな? 後で持って行ってやるか」

古鷹「あ、私も行きます!」

提督「……ああ」

霞「……あんた、今の間は」

提督「わかってんだろ、察しろよ……」ハァ

霞(まあ、不安よね)ハァ


比叡「あっ、提督すみません、朝餉の準備、遅くなってしまいました!」

提督「いいよ、気にすんな。とりあえず元に戻ったのか?」ゴハンウケトリ

比叡「はい! 大丈夫です!」

古鷹「うう、すみません、ご迷惑おかけしました」ペコペコ

比叡「いえいえ、置き場所が変わってた以外は、厨房も綺麗になってましたし!」

比叡「次から改めて、お手伝いをお願いします!」

古鷹「あ、ありがとうございます!」パァ

提督「……こういうのを大人の対応っつうんだろうなあ」

霞「……なんで私に言うのよ」

提督「このくらい同意を求めてもいいだろ。とりあえず飯にすっか……」

霞「そうね……」

古鷹「提督、右隣の席に失礼しますね」

提督「ん? あ、ああ」

霞(……なんか、また嫌な予感が)

古鷹「♪」チャッ

提督「おい古鷹。それ、俺の箸……」


古鷹「提督、はい、あーん」ニコー

提督「!?」ピキッ

如月「!?」カシャーン(箸を落とした音)

神通「!?」バキィ(箸を圧し折った音)

敷波「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン

吹雪「し、敷波ちゃん大丈夫!?」セナカサスリ

不知火「」ブボァ

初春「」ブボァ

暁「」ベチャア

由良「暁ちゃん!? ちょっと待って、今拭く物を持ってくるから……きゃあ!?」ガシャーン

朧「由良さん!?」

潮「」ポカーン

長門「」ポカーン

電「はわわわ!? し、司令官さん!? 古鷹さんと何があったのです!?」


明石「ごめんね大淀も朝潮ちゃんも朝から手伝ってもらって……って、なにがあったのこれ」

朝潮「どうして古鷹さんが司令官のご飯を持ってるんですか?」

大淀「あの、提督? 提督!?」ユサユサ

提督「」コウチョク

霞「この……しっかりしなさいよ! このクズ!!」ガスッ

提督「ぐお!? な、なにしやがる霞!」

霞「この程度でフリーズするとか、軟弱なのよ!」

提督「軟弱って言うのかよこれは! びっくりしすぎて固まるわこんなもん!」

古鷹「あの、提督? あーんしないんですか?」

提督「自分で食うから。箸をおいて、お前はお前で食べろ……」ハァァァ…

如月「そうよ! 司令官に『はい、あーん♪』ってしてあげるのは私の役目なんだから!」バーン!

提督「如月も落ち着けよ……」グッタリ


 * 執務室 *

提督「……」カリカリカリ

霞「……」カリカリ

古鷹「……」ペラリペラリ

提督「……これで終わり、と。どうだ、霞」

霞「……ふん、いいんじゃない。無難だと思うわ」

古鷹「……へえ、すごいですね提督! 拝見させて戴きましたが、誤字もないし!」

提督「普通だろ?」

霞「普通よ?」

古鷹「いえ、とても素晴らしいと思います! 提督、よくできました」ナデナデ

提督「!?」

霞「!?」

古鷹「しかもこんなに早く仕事を終わらせられるなんて!」ダキツキナデナデ

提督「!?」シロメ

霞「!?」シロメ


古鷹「あっ、この資料、早速大淀さんに提出してきますね!」

古鷹「~♪」タタタッ

霞「……」

提督「……」

霞「……はっ!? ち、ちょっと! あんた鼻の下伸ばして……」

提督「……」アタマカカエ

霞「……ない、わね……どうしたのよ」

提督「……あ、あいつは、いったいなんなんだ?」

霞「……は?」

提督「だってわけわかんねえだろ! あれが褒められるようなことなのか!?」ツクエバーン!

霞「とりあえず落ち着きなさいよ……あんたがそこまで取り乱してるところ、初めて見るわ」


 * トイレ(個室) *

提督「ったく、参ったぜ……」カチャカチャ

古鷹「提督! 紙はありますか!? ちゃんと拭けてますか!?」ウエカラヒョコッ

提督「入ってくんな!!」


 * 風呂 *

古鷹「提督! お体洗って差し上げますね!」マッパ

提督「出てけ! あと前隠せ!!」

如月「そうよ! 私が洗ってあげるんだから!」バスタオルマキ

提督「如月もだ!!」


 * 寝室 *

古鷹「提督、子守唄歌って差し上げますね!」ガシッ

提督「いやもういいから自分の布団で寝ろよ……」

古鷹「寝付くまでだっこしててあげますから!」ギュー

提督「頼むから一人で寝かせてくれ……」グッタリ

如月「古鷹さん、司令官から離れてー!!」グイグイ


 * 翌朝の執務室 *

提督「眠ってえぞ、くそが……」ゲッソリ

霞「……ちょっと。大丈夫なの?」

提督「……いつもなら『体調管理も仕事のうち』とか言うくせに、どうした」

霞「さすがに昨日一日の様子を見てたら、そんなこと言えないわ。どう考えてもあの古鷹さんの過保護が過ぎてるんだもの」

霞「あんたが気を付けてどうこうできるとも、あんたに説教して事態が変わるとも思えないし?」

提督「言って聞かねえ奴ほど面倒くせえもんはねえな……」

 扉 < コンコン

敷波「しれーかーん、なにかお薬いる? 頭痛薬とか胃薬とかさ」ガチャ

提督「……あー、大丈夫だ、寝りゃあ治る。心配させて悪いな」

敷波「まあ、霞が一緒なら体調でも仕事でも心配はいらないんだろうけどさぁ……」

提督「で、連れてきたのか?」

敷波「うん。入ってー」

朝雲「失礼します。やっぱり、古鷹さんがご迷惑かけてるのかしら……」

霞「朝雲! 体はもう大丈夫なの?」

朝雲「うん。それより、こんなに素直な霞、見たことないんだけど……なにかあったの?」


提督「? 余所の霞は素直じゃないのか?」

朝雲「私が知る限りは、どんくさい司令官のおしりを蹴飛ばしながら『クズ』って罵ってるイメージがあるわね」

提督「まあ、クズ呼ばわりはあったな。事実だから気にしてねえけど」

霞「こんな感じで自分で自分のことクズって呼んでんだもの、蛙の面に水じゃ言うだけ無駄よ」

霞「それに、司令官は仕事できないわけじゃないの。理由なく蹴飛ばしてたら私がクズになるじゃない」

提督「霞は秘書官やらせりゃ仕事も早え。助かってるから俺もやる気にはなる」

霞「私以外の時もやる気を出して欲しいんだけど?」ジロ

提督「お前が一番事務仕事早えから、捗ってるってだけだ。俺の仕事の速さは変えてねえ」

敷波(なにイチャついてんだか)ムスー

朝雲「ふぅん……少なくとも、俗にいうダメ提督ではなさそうね」

朝雲「そうなると、古鷹さんはこの鎮守府には馴染めなさそう……最悪、毒になるのかしら」

提督「毒?」


朝雲「ええ。呆れるくらい人に親切にするのがうちの古鷹さん。それで堕落したのがL少佐」

朝雲「L少佐がだらければだらけるほど、古鷹さんが世話を焼いて、何もしなくなる悪循環」

朝雲「一見、鎮守府がちゃんと機能しているように見えるから、猶更たちが悪いの」

提督「……冗談じゃねえぞ」ゾワ

霞「……これは、なんとかする必要がありそうね」

敷波「なんとかって、どうする気?」

提督「……俺の今の状況が苦痛だってことを理解してもらえればいいんだよな」

霞「それができれば苦労しないわね」

提督「いいや、わかってもらおうじゃねえか。……絶対、わからせてやる」ギリギリギリ

霞(なんて顔してんのよ……)

今回はここまで。
一応古鷹さんが世話焼きになった理由も後ほど。


書いてて思ったんだが、この提督と雷ちゃんはすっごい相性悪そうだ……あと卯月と山風あたりも。

続きを投下します。


 * 翌朝 *

古鷹「……ん、んんんっ……?」ジャラン

 (ベッドの上で鎖で拘束されている古鷹)

古鷹「え? な、なに? いったいなにが……?」モゾモゾジャラジャラ

吹雪「おはようございます古鷹さん!」ドアガチャ

古鷹「吹雪さん!? こ、これは一体、なにがあったんですか!?」

吹雪「古鷹さん、今日からこの吹雪が、古鷹さんの身の回りのお世話をさせていただきます!」ビシッ

古鷹「え!?」

吹雪「これから古鷹さんの歯磨きと洗顔をさせていただきますね!」

古鷹「えええ!?」

吹雪「? どうかしましたか?」

古鷹「そ、そのくらいなら、私が自分でできますから、この鎖を解いてくれませんか?」

吹雪「それはできないです。司令官の指示ですから」

古鷹「て、提督の!?」


吹雪「これ以上、古鷹さんに苦労はかけさせられない。前の鎮守府で苦労した分を、ここで取り戻してもらおうという司令官の配慮です!」

古鷹「そ、そんな! 私はそれを苦労だなんて……」

吹雪「古鷹さん、無理しなくていいんですよ。さ、お湯が冷めちゃいますから、温かいタオルで顔を拭きましょう!」

古鷹「ふ、吹雪さ……わぷっ!?」

吹雪「終わったら歯磨きしますから、口をあけてくださいね~」

 * *

古鷹(結局、ドライヤーまでかけてもらっちゃった……)

古鷹(うう、こんなことしてる場合じゃないのに……提督、ちゃんと朝餉を食べてるのかな……)

吹雪「古鷹さん! 朝餉をお持ちしました!」

古鷹「え!? も、もしかして」

吹雪「はい! 私がお手伝い致します! あーんしてください!」ニコッ

古鷹「」

 * *


霞「……つまり、古鷹さんがああなったのは、演習相手の秘書艦からアドバイスを受けた結果、なのね」

朝雲「ええ。そこまでいくと過保護通り越して、介護って感じなんだけど」

朝雲「その秘書艦が言うには、殆ど付きっ切りでお世話してるみたいなの。昨日司令官にやったみたいにね」

提督「そこまでするのかよ……たまったもんじゃねえ」ウエッ

霞「私もにわかに信じられないんだけど。朝雲、その話は本当なの?」

朝雲「ええ、古鷹さんに直接聞いたし、間違いないわ」

提督「何やってんだよ、その演習先の司令官はよぉ……」

朝雲「私もそう思うけど、余所の鎮守府の事情に首を突っ込むわけにもいかないし……そもそも突っ込みたいと思わないし」

提督「確かにな。俺もそんな奴らだってわかってたら、関わり合いにすらなりたくねえや」

霞「……思ったんだけど、あんたもどっちかというと世話焼きタイプじゃないの?」

提督「あ?」

霞「なんだかんだ言って、私たちのこと気遣ってくれてるわよね。些細なことでも助けてと言われたら、ちゃんと助けてくれるし」

提督「一応この鎮守府任されてる立場だからな。それに共同生活してるんだから、ある程度は当然だろ」


霞「そう思うんなら何か頼まれるたびに『面倒くさい』って言うのやめなさいよ。あとくそくそ言うのも禁止!」

提督「あ? 嫌だよ面倒くせえなくそが」

霞「そういう風に言うんじゃないわよ! その口が悪いって言ってんの! 少しは直そうとしなさいよねこのクズ!!」

提督「マジ面倒くせえ。つうか俺クズだからクズらしくしてるわ」

霞「そうやって人をおちょくるのもいい加減にしなさいよ! あんたそういうところは子供っぽいんだから!」

朝雲(傍から見てるとイチャついてるようにしか見えないんだけどなー)

神通「本当、仲良しに見えますよね」

朝雲「!?」ギョッ

提督「神通、人の背後取って考えてること言うのやめてやれ。あと誰が仲良しだ、誰が」

神通「失礼しました。ところで、吹雪さんの件ですが……」

提督「今は古鷹の対応してるから悪いが、訓練の参加は見合わせだ。そのうち回り番にして、吹雪は復帰させる」

神通「……ですが、吹雪さんほど甲斐甲斐しいお世話ができる子もいないと思います」

霞「吹雪には、船の時の記憶もあるから猶更ね。一緒に出撃したことのある古鷹さんが相手だから張り切ってるとも言えるわよ?」

提督「なんだよ……因縁浅からぬ相手だってか。そりゃ面倒だな」


 * 一方その頃 *

吹雪「古鷹さん! ご本をお持ちしました! 読み聞かせてあげますね!」

吹雪「古鷹さん! おトイレは大丈夫ですか! おまる持ってきました!」

吹雪「古鷹さん! お昼寝の時間です! 子守歌を歌いますね!」

吹雪「古鷹さん!」

吹雪「古鷹さん!」

吹雪「古鷹さん!!」

古鷹「」


 * そして次の日の昼 *

提督「もう少し時間がかかりそうだと思ったんだけどなあ……」

朝雲「そうね……」

古鷹「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!」ナミダメ

提督「おい吹雪、お前古鷹に何しやがった」

吹雪「ええと、朝起きたら歯磨き洗顔ブラッシングして朝餉、そのあとストレッチと簡単な筋トレして砲撃訓練で古鷹さんは見学で……」

提督「その辺は神通の教育の賜物だなおい」

吹雪「で、昼餉を取ったらお昼寝の時間で子守歌歌って本を読み聞かせして夕餉を取ったらお風呂入ってお話ししてまた子守歌歌って就寝ですね!」

提督「……こいつもお世話大好き艦娘の予備軍じゃねえか?」タラリ

朝雲「否定できないわ」

吹雪「あ、勿論下のお世話も」

古鷹「やめてえええええ!!」ナミダジョバーー

提督「おいやめろ吹雪。朝雲も何をしてたか言ったのお前だろ、なんとかしろ」

朝雲「私じゃないわよ、おおもとの発案者はダメ提督製造機の駆逐艦よ」

提督「つうかここまで吹雪が暴走するとは思わなかったぞ、くそが」


吹雪「司令官! 明日も古鷹さんのお世話しますね!!」ランラン

古鷹「も、もう結構です! 私がやり過ぎてたこと、わかりました! 十分わかりましたから!!」

提督「おい吹雪」

吹雪「お世話続けていいですよね!!」

提督「……吹雪」

吹雪「いいですよね!!!」ギラギラッ

提督「……」ハァ

 バッチィィィィンン!

朝雲「」

古鷹「」

霞「ちょっ、何の音よ!」ドタドタ

朧「なにかあったんですか!?」バタバタ

吹雪「」キュウ…

朧「吹雪が倒れてる!」

霞「あんた、吹雪になにしたのよ!」

朝雲「……でこぴん」

霞「は?」

朝雲「今、この人のでこぴんで、吹雪が吹っ飛んたの……」ガクブル

提督「手加減忘れてた」フン

朧「」

霞「」

今回はここまで。

吹雪が倒れてるならやはりパンツは見えているのだろうか?

>>354
勿論、丸見えです。


では続きです。


 * 休養室 *

吹雪「……」(←ベッドに寝かされている)

提督(吹雪の額のタオルを取り換えつつ)「吹雪が暴走した理由には心当たりがある」

古鷹「と、いいますと……」

提督「吹雪は捨て艦だ。轟沈してこの島の海岸に流れ着いた」

朝雲「轟沈経験艦、ですか」

提督「そういう奴ばっかなんだ、この島は」

提督「で、吹雪は前の鎮守府の司令官に、自分の成長を認めてもらいたくて頑張ってる」

提督「誰かに認められたい、求められたい、頼られたい。そういう欲求が吹雪を暴走させたんじゃねえのかね」

朝雲「……」

古鷹「……私も、そうだったんでしょうか」

提督「朝雲の話を聞く限りだが、お前は見返りを求めてねえ感じがするな」

提督「お前は単純に人がいいだけだ。自分が人の役に立てばいい。それで満足するタイプなんだろうな」

朝雲「……確かに、そんなきらいはありますね」

提督「ただ、それが本当にその人に求められているものかどうかを考えずに行動してる。その独り善がりの結果がこうなんだろ」

古鷹「本当にすみませんでした……」


提督「自分がされて嫌なことはすんな、って話だ。それさえわかりゃ、この件で俺から言うことは何もねえ」

提督「……あと、これはお節介で一応言っておくけどな。古鷹お前、もう少し自分が女だって自覚を持て」

古鷹「は、はい? それはどういう……」

提督「俺の背中流そうとしてたとき、裸だったろ……」アタマガリガリ

古鷹「?」クビカシゲ

提督「おい朝雲。古鷹って前からこうだったのか? どういう思考回路してんだこいつ」アタマカカエ

朝雲「こ、ここまで酷いとは思ってなかったわ」アタマカカエ

提督「まさか、前の鎮守府でもこんなんやってたわけじゃねえだろうな」

古鷹「いえ、それはL少佐に頑なに固辞されました。憲兵さんに見つかるとまずいから、って」

提督「あー、そーいやそーだったなー憲兵いねーんだもんなーここ(棒」

朝雲「ちょっ!? 憲兵不在って、それどういうこと!?」

提督「その説明は後でな。で、憲兵がいなかったら真っ裸でL少佐の背中流してたのか?」

古鷹「はい!」ニコー


提督「襲われたりとか、そういう想定はしてねえのかよ」

古鷹「大丈夫です、提督になる人に、そんな悪い人や自分の欲望に負ける人はいらっしゃいませんから!」

提督「おい朝雲。こいつは穢れを知らない天使か? それとも悟りを開いた坊主か? 善人過ぎるにもほどがあるだろ」ズツウ

朝雲「……私もここまで箱入りで従順な重巡だったなんて思いもしなかったわ」ズツウ

古鷹「重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです!」

提督「うるせえよ!!」

吹雪「ぷ……くすくす……」

提督「! 目が覚めたのか? 吹雪」

吹雪「ふふっ……すみません、司令官」ムクッ

提督「悪かったな。お前の様子があんまりひどいもんで、手加減しなかった」

吹雪「いえ、私も調子に乗りすぎましたし……すみませんでした」

古鷹「ふ、吹雪……さん」タジッ

吹雪「あ、だ、大丈夫ですよ古鷹さん。必要以上にお世話されることの大変さを、古鷹さんに知ってもらいたくてやった演技ですから」

提督「終盤は演技じゃなくなりつつあったけどな」


吹雪「あはは……も、もう大丈夫です。目が覚めましたから」

古鷹「そ、そう、良かった……」ホッ

吹雪「でも、男性の前で裸になるのは本当に控えたほうがいいですよ? 夫婦とか、恋人同士の間柄ならわかりますけど」

古鷹「……」

朝雲「まあ、それが普通よね。男性はどうだかしらないけど」

提督「男だって着替えを見られるのは抵抗あるぞ。俺だって着替える時はドアを閉めるし、物陰に隠れる」

古鷹「……ふ……」

吹雪「?」

朝雲「古鷹さん?」

古鷹「……夫婦、ですか……!?////」カオマッカ

吹雪「……」

朝雲「……」

提督「……」

古鷹「……そっ、それか、こい、びと……!?////」ユゲボシューーー

提督「おい、こいつどんだけ煩悩と縁遠い生活してたんだ。純情とかウブとかいうレベルじゃねえぞ」グッタリ

朝雲「私だってこんなに極端な人だったなんて思いたくなかったわ」グッタリ


古鷹「あ、あの、提督さん!!」セイザ

提督「……あ?」

古鷹「ふ、ふ、不束者ですが! よ、よ、よろしくお願いしますっっ!!」ミツユビソロエテ

吹雪「」

朝雲「」

提督「……おい誰かなんとかしろよ面倒くせえったらねえぞくそがああああ!!!」ウガーー

吹雪「司令官!?」

朝雲「古鷹さん落ち着いて!? いろいろ手順を吹っ飛ばし過ぎよ!?」

古鷹「で、で、でも、もう提督に裸見せちゃったしーー!?」オロオロオロオロ

如月「司令官!? 私を差し置いて古鷹さんとなにがあったのーー!?」バーン!

潮「き、如月ちゃん、落ち着いてーー!?」オロオロオロオロ

朝潮「ふ、吹雪さん、この状況は一体……」

吹雪「あははは……説明するの、すっごい面倒くさい」ゲンナリ

朧(吹雪が司令官に似てきた!?)

神通「本当、言い方がそっくりでしたね」

朧「!?」ギョッ


 * 10日後 鎮守府埠頭 *

L少佐→L中尉「提督准尉! 本当に、本当に申し訳ありませんでした!!」ドゲザ

提督「……」

古鷹「L少佐!? その頭はどうしたんですか!?」

朝雲「綺麗さっぱり丸刈りにしちゃって……」

L中尉「ああ、古鷹! いまの僕は少佐ではなく中尉だよ。聞いての通り、降格処分を受けたんだ」

L中尉「君たちには本当に迷惑をかけた。本当にすまなかった!!」ドゲザ

提督「で、こっちの荷物はどうしたんだ」

L中尉「以前僕がこの鎮守府から借りた資材の返却分だよ。迷惑をかけた分、そのお礼の分も含めて返させてもらいたい」

提督「そりゃあありがたいが……処分受けたんだろ? あんたこれでやっていけるのか?」

L中尉「だからこそだ。これは僕の気持ち、そしてけじめだ。ぜひ受け取って欲しい」

朝雲「……変われば変わるもんなのね」

古鷹「素晴らしい心がけです! L少佐……いえ、L中尉! 古鷹は、これからの中尉のご活躍、期待しています!」

L中尉「あ、ありがとう古鷹……! これからは心を入れ替えて、頑張るよ!!」


??「L提督? 荷下ろしが終わりましたよ」

L中尉「ああ! おお、そうだ。紹介するよ、僕の新しい秘書艦だ。香取!」

香取「練習巡洋艦、香取です。どうぞお見知りおきを」

提督「どうも。提督准尉だ」

香取「……」ジッ

提督「……」

香取「……」

提督「……」

香取「……」ピク

提督「……」ピク

香取「……」

提督「……」

香取「……なるほど。あなたは大丈夫そうですね」ニコ

提督「そりゃどうも」


香取「さ、L提督、参りましょう? 准尉のご都合もありますし、そろそろ戻らないと」

L中尉「おお!? もうそんな時間か! 名残惜しいが仕方ない。では、これで失礼する!」ケイレイビシーッ

香取「では、皆様ごきげんよう」ニコッ

提督「はいよ」ケイレイ

古鷹「は、はいっ!」ケイレイ

朝雲「お、お疲れ様です!」ケイレイ

 船 < ブオーン ザザァァァ

提督「……破れ鍋に綴蓋、ってとこかねえ」

朝雲「ところで司令官、さっき、香取さんと睨み合ってましたけど……何があったんですか?」

提督「あいつ、俺のことを値踏みしてやがった」

提督「あいつの視線、見てたか? 俺の頭からつま先まで一通り眺めて、鞭で引っ叩く素振りまで見せて俺を試してた」

古鷹「そんな……」

提督「まあ、L中尉の秘書艦だから俺は知ったこっちゃねえがな。お似合いなんじゃねえの?」


提督「で、どうする? お前ら、向こうに戻るか?」

古鷹「……いえ、私はここで頑張らせてもらいたいです」

古鷹「戻ったら戻ったで、また甘やかしてしまいそうなので」アハハ

朝雲「私もここに残るわ。古鷹さんがまたやりすぎないか心配だし」

提督「お前ら軽く言うけどな、ここの生活は大変だぞ。わかってるか?」

古鷹「はい、少しでも良いところになるように頑張りますから!」

朝雲「私も付き合ってあげる! だから覚えておいてよ!」



如月「ねえ、司令官? 少しだけ、あっちの鎮守府に帰ってもらった方が良かったのに、って思ってたでしょ?」

提督「ああ、否定しねえよ……面倒臭いのはお前だけで十分だ」

以上、ここまで。

保守。

こちらはなかなか筆が進まず放置状態で申し訳ありません。
書きたいネタもたくさんありますし、
少しずつ書き進めてますので、暫しお待ちを。

では、続きを投下します。


 * 数年前 とある辺境の鎮守府 *

「吾輩が利根である! 吾輩が来たからには、もう索敵の心配はないぞ!」

「……」

「ぬ? ど、どうした?」

「あ、いや、なんでもない。重巡洋艦、利根だね。よろしく頼むよ」

「うむ!」


 * *


「吾輩が第一艦隊の旗艦じゃと?」

「ああ。この艦隊の旗艦、そして俺の秘書艦を務めて欲しい」

「うむ……そうか。ならばこの利根! その名に恥じぬ働きを見せようではないか!」


 * *

「提督よ、この艦隊も立派になったな!」

「ああ。それにしても、どうしてこう……運が悪いと言うか、何というか、なあ」

「う……む、確かに……どうすれば筑摩に出会えるんじゃろうなあ……」

「海域を回っても、建造を試みても、違う子ばっかり出てくるし」

「……ちくま……」ホロ

「……」ギュ

「な、なんじゃ!?」

「すまない、利根。俺の鎮守府に来たばかりに、寂しい思いをさせてしまって……」

「……ふふ、恥ずかしいところを見せてしまったな。大丈夫じゃ、吾輩には提督が居る」

「利根……」

「こんなことではいかんな。筑摩が来るまでに、もっと立派なお姉さんにならねば!」

「……そうだな。だが、たまには……いや、たまにじゃなくていいから、俺を頼ってくれていいんだぞ?」

「むう……提督にはずっと頼りっぱなしじゃからな。たまには頼れるお姉さんなところも見てもらいたいんじゃが?」

「はは、たまには甘えさせてもらうよ。だから一緒に頑張ろう」

「うむ!」


 * * *

 * *

 *


 * 現在 鎮守府埠頭 *

(士官が押す車椅子に乗せられて運ばれる利根)

利根「……」

士官「あなたが提督准尉ですね」

提督「……ええ」

士官「私はM提督鎮守府より参りました、彼女が利根です」

利根「……」

提督「伺っています。朝潮、部屋に案内しろ」

朝潮「はい、了解しました! どうぞ、こちらです!」ビシッ

士官「ありがとうございます……では」ペコリ



提督「……」

??「ひどい顔じゃと言いたそうじゃな」

提督「……まあ、な」

??「ああなってしまった原因は吾輩の司令官にあたるM准将……」

??「あやつのしたことを見抜けなかった吾輩にも……」

提督「よせ。俺があんたの懺悔を聞いてもどうにもならねえ」

??「……」

提督「で、あんたは何者だ?」

??「む、自己紹介がまだであったな。吾輩は……」

??→利根改二「吾輩は利根。航空巡洋艦、利根である」


提督「航空巡洋艦?」

利根改二「うむ。吾輩たち利根型重巡洋艦は、二次改装によって水上機を運用可能な航空巡洋艦になるのじゃ」

提督「ふぅん……しかし、何かの冗談かと思ったぜ。今しがた車椅子で運ばれた女がいきなり血色いい顔で現れたんだからな」

利根改二「血色が良い、か」

提督「……不服そうだな?」

利根改二「今の吾輩の健康が、他者の犠牲の上に成り立っていたことを知れば当然じゃ」

提督「? 生き物なんてみんなそんなもんだろ?」

利根改二「……広義で言えば、そうじゃな」

提督「……」



 * 執務室 *

利根改二「まずはお礼を言わせてもらいたい。彼女をここに置いてくださること、深く深く感謝する」ペコリ

提督「今後どうなるかは保証しかねるがな。で、何があった」

利根改二「うむ……どう、説明すれば良いものか……誤解される言い方ではあるが、こう表現するべきじゃろうな」

利根改二「彼女は、吾輩の鎮守府の指揮官、M准将に……虐待、されておった」


提督「虐待ねえ」

利根改二「正味、虐待と言うべきか何と言うべきか……吾輩も正直、どう言えばいいかわからぬ」

提督「お前は虐待されてねえのか」

利根改二「うむ……むしろ逆じゃ。これを見よ」スッ

提督「指輪? 薬指っつうことは……お前、既婚者か?」

利根改二「これはケッコンカッコカリの指輪じゃ」

提督「かっこかり……なんだそりゃ」

利根改二「艦娘のリミッター解除装置とも言われておる。練度が最大に達した艦娘が、更に成長できるようにする指輪じゃ」

提督「……なんでそんな思わせ振りな名前がついてんだ。悪趣味だな」

利根改二「どうしてこんな名前がついたのかは、吾輩も与り知らぬがおおよその見当は付く」

利根改二「愛情が人を強くするという意味か、愛がない相手を強化して寝首をかかれないようにするためか……」

利根改二「そうでなくとも、男女が長く一緒にいれば、そういう意識もすることもある。事実、吾輩もそうであった」

提督「お前が指輪をしているってことは、お前はそのM准将に可愛がられてた、ってことか?」

利根改二「うむ。吾輩はM准将の秘書艦を長きに渡って務めておった……」


 * 数か月前 M提督鎮守府 建造ドック *

利根「吾輩が利根である! 吾輩が来たからには、もう索敵の心配はないぞ!」

M准将「ありゃ」

利根「ぬ?」

利根改二「むう……」

利根「お、おお!? なんじゃ、既に吾輩がおるのか!?」

M准将「利根型は利根型なんだけど、久々に利根ちゃんが来たか……」

利根改二「おぬしの籤運も偏っておるな……」

利根「……もしや、吾輩は2人目なのか?」

M准将「うーん、利根なら10人目くらいじゃないかな?」

利根「なんと!?」

M准将「いや、嫌だってわけじゃないんだ。俺は利根のことは大好きだし」

利根改二「こ、これ、M提督よ!」カァ

M准将「なに照れてんだよ、今更じゃないか」

利根「いきなりのろけを見せられるとは……吾輩の席はすでに埋まっておるということじゃな」ハァ

M准将「いやいや、そういうのも可哀想だし、ちゃんとフォローするつもりだから」

利根「ふぉろー?」

利根「……まさか、めかけにでもするつもりか!?」

M准将「人聞きの悪いことを言わないでくれよ……なあ利根?」

利根改二「そこで吾輩に振るM提督も意地が悪いのう……」


 * 現在 執務室 *

利根改二「吾輩の鎮守府は、ちと入り組んだ場所にある、古い城砦を改装して作られた鎮守府でな」

利根改二「ここ同様に戦線からやや離れていること、大きな湾に面していることもあって、演習場としてよく使われておる」

利根改二「M准将は以前から艦娘育成がうまいと評判で、鎮守府に着任して以降は、新米艦娘の基礎訓練を任されておった」

利根改二「ゆえに、吾輩の鎮守府で育った艦娘が、演習相手の鎮守府へスカウトされて異動することも珍しくない」

利根改二「逆に余所の鎮守府の艦娘が、1週間から1か月程度の期間で、吾輩の鎮守府に滞在して訓練することも多いんじゃ」

提督「訓練場みたいな鎮守府だな……変わってんな」

利根改二「うむ。それゆえ、主力部隊以外は、結構な頻度で余所の鎮守府に艦娘を送り出していたのが、吾輩の鎮守府なのじゃ」

利根改二「本当なら、彼女……あの利根も、ほかの艦娘と同じように、余所へ異動するはずだったんじゃが……」

今回はここまで。

続きです。


 * 過去 M提督鎮守府 *

M准将「そういうわけで、ここに着任する艦娘の多くは、簡単に訓練をしてから別の鎮守府に異動することになる」

利根「なるほど……それなら吾輩も腐らずにすむというわけか」

M准将「そういうことだ。深海棲艦の脅威はそこかしこにある、即戦力が欲しい鎮守府もまたあちこちにあるからね」

利根「吾輩はそちらへ行くことになるんじゃな」

M准将「ああ」コク

利根改二「提督よ、話の途中じゃが、そろそろ演習相手の来る時間じゃぞ」

M准将「ん、そうか? 悪いが利根、今回はお前に仕切ってもらっていいか」

利根改二「うむ、任せよ!」

M准将「こっちの利根は俺と一緒に来てくれ。異動手続きの準備がしたい」

利根「うむ。あいわかった」

M准将「……うーん、こう言ってはなんだが……やっぱり紛らわしいな」フフッ

利根「……確かにの」クスッ

利根改二「もはや、何度このやり取りをしたか覚えておらんぞ」クスッ


 * 通路 *

利根「それにしても……なんともいえぬ趣がある鎮守府じゃな……」

M准将「ここはかつて城砦として運用されていたんだ。見てくれは石壁だが中身はハイテクだぞ。でなければ深海棲艦に対抗できないからな」

利根「ふむ……しかし、ハイテクとはまた古めかしい呼び方じゃな?」

M准将「おぬしに言われるとは心外じゃな? おぬしの口調も相当なものではないか」

利根「むっ! 吾輩の口調を真似するでないぞ!」

M准将「ははは、悪いね。何分、彼女とは長い付き合いでね、口調も伝染ってしまうもんなんだ」

利根「むう……」

M准将「だから気を悪くするな。俺は君も嫌いじゃないんだぞ? ははは」

利根「じょ、冗談も程々にせんか。おぬしには彼女がおろう、浮気なぞするもんではない」

M准将「もとは同一人物なのに、浮気になるのかな。まあ、なるんだろうけどね」ハハハ

M准将「……ああ、ごめん利根、ちょっと待ってくれ」

利根「む?」

M准将「そこの壁にくぼみがあるだろ? そこ、ちょっと見てくれるか?」

利根「? これか? ……なんなんじゃこれは?」


M准将「……」カチッ

(准将が近くの壁を軽く押すと、カモフラージュされた蓋が開いてスイッチが現れる)

M准将「……」ピッピッピッ

利根「……ここだけ石を削り取ったような穴というか……なんのために開けた穴なんじゃ?」

M准将「そこを少し押してみてくれ」

利根「?」グッ

 壁 < ズッ

利根「!?」

 壁 < グルンッ!

利根「おわあ!?」ガクッ

(壁全体が回転扉のように回転し、バランスを崩した利根を壁の内側の滑り台へ誘い込む)

利根「な、なん」

 壁 < バタンッ

 シーン

M准将「……」ニヤリ


 * ??? *

 シュオオオオオオオ…

(急角度の滑り台を落ちるように滑っていく利根)

利根「な、な、なんじゃあああ!?」

 ボフッ

利根「うわっぷ……!?」

利根「な、なんじゃ、クッションか? くう、真っ暗で何も見えんぞ……」

 シュウウウウウ

利根「こ、今度はなんじゃ! この匂い……くんくん……ガ、ガスか!?」

利根「う、い、いかん……ね、眠気が……」

利根「なんと、いう、こと……」ガクッ

 * * *

 * *

 *


利根「……」

利根「……」

利根「……う……」

利根「……ぐ、ぐう……ま、まだ頭がくらくらするな……」

利根「……吾輩はどうなったんじゃ……?」

 ジャラッ

利根「……鎖? なんじゃ、首と手足に鉄のわっかが……?」

 壁 < ガゴンッ

利根「!?」

M准将「目が覚めたかな」コツコツ

利根「お、おぬしはM提督! これはいったいどういうことじゃ!」

M准将「……」

利根「吾輩を鎖で繋いでどうする気じゃと問うておる!」

M准将「……」

利根「この部屋はなんじゃ!? まるで……」

M准将「……」


利根「まるで……」

M准将「……」ニコ

利根「……」

M准将「……まるで?」ニコニコ

利根「……牢屋……では、ないか……」

M准将「ふふ……」ニヤリ

利根「……いや、それよりも……」

利根「あれは、なんじゃ……!?」プルプル

M准将「……」チラッ

利根「M提督よ……答えよ」

利根「あれはいったい、なんじゃ!?」

利根「あの……巨大な丸鋸や……ものものしい、装置……は……」プルプル

M准将「……」

M准将「……ふふ」

利根「!?」ビクッ

M准将「ふふふ……はははは」

利根「!?!?」

M准将「ああ、すまない。利根が考えた通りのものだよ。あれの使い道は、そういうことだ」

利根「……」ガタガタ


M准将「怖いのか?」

利根「……お、おぬしは……」ガタガタ

M准将「ふふ……ふふふ」

M准将「利根は、かわいいいなあ……はははは」

利根「!?」

利根(なぜじゃ……なぜこの男は……こんな状況で、こんな笑顔を見せているんじゃ……!?)ゾクッ

M准将「まあまあ、そこまで怯えなくても大丈夫だよ」

利根「……怯えるな、じゃと?」

M准将「うん」ニコニコ

利根「この状況で、おぬしを怪訝に思わないほうがどうかしておる……!」

M准将「まあ、そうだろうな。仕方ない」

利根「何故おぬしは、そんなふうに笑っていられるんじゃ!?」

M准将「……」ニコニコ

利根「い、いったい……いったいなんなのじゃ、おぬしは……!」

利根「先程からのおぬしの言動……理解できぬ」

M准将「……悪いけど、俺は君に理解を求めてはいないよ。どうせ誰にも理解してもらえない」

利根「!?」

M准将「だからこうして、誰にも内緒で君を閉じ込めた」

M准将「この地下室は特別に作ったものだ。かつて地下牢として使われていたものを改装してね」

M准将「ここへ閉じ込めるためのからくりを作るのが一番大変だった」

利根「……」


M准将「何を言っているかわからないだろうが、わからなくていい」

 ピーピー

M准将「ん、悪いな、用ができた」

M准将「断っておくが、ここから逃げようとは思わないことだ。お前が一刻も長く生きていたいのなら、な」

利根「……っ!!」

M准将「じゃ、また後でな」

 壁に擬装された扉< ゴゥンッ ガシャンッ

利根「……ど、どういうことじゃ……」

利根「いや、それどころではない。早く逃げねば……」ジャラッ

利根「こんな鎖、引き千切ってくれる! ふんっ!!」

利根「……っく! ふぬぅぅぅぅ!!」

利根「んっぎ……うおおおおお!!」

利根「……ぜぇ、ぜぇ……これは、無理じゃな……」

利根「ならば根っこを壊せば……」グイ

 鎖 <バチッ

利根「ん?」

 鎖 <バリバリバリバリ!

利根「あぎゃああああ!?」バリバリバリバリ

利根「……」シュウウウ…

 * * *


M准将「鎖を引っ張りすぎると電流が流れる仕組みになっている。暴れんほうが身のためだぞ」

利根「……そういうことは、もっと早く言え」ギリッ

M准将「……んん、なかなか反抗的な目だな」ニヤリ

利根「……」

利根(わからん。この男の吾輩を見る目は、まるで吾輩が反抗するさまを楽しんでおるようだぞ?)

利根「お前の目的はなんじゃ」

M准将「……」

利根「お前の秘書艦は吾輩と同じ利根であろう。そのお前がなぜ吾輩にこんな仕打ちをする」

M准将「理由が知りたいのか」

利根「理由も知らずこんなところへ幽閉されるよりはましじゃ」

M准将「絶望するぞ。それでもいいんだな?」

利根「安い脅しを……! くどいぞ!」

M准将「……ふふっ」

利根「何が可笑しい!」

M准将「ああ、利根の激怒した顔はなかなか見られなかったからな。俺に憎悪をぶつけてくることもない……!」

利根「お前は何を言っておる……!?」


M准将「なんということはない。俺は、利根のいろんな顔を見たいだけだ」

利根「……」

利根「……」

利根「……は?」

M准将「今の秘書艦である利根に出会ったのは数年前。彼女との出会いは衝撃的だった」

M准将「一目で恋に落ちたよ。俺にとって、彼女のすべてが魅力的だった」

M准将「一緒にいて、励まし合った。泣き言をいって慰められたりもした。些細なことでケンカしたこともあった」

M准将「利根と仲良くなるにつれ、彼女とは笑顔で接する時間が増えた。それはいいことだ」

M准将「だが、俺は物足りなかった。怒ったときの顔や、嘆き悲しんだ時の顔……そんな顔を見ることがなくなってきた」

利根「……そ、そんなもの、少ないほうが良いに決まっておろう!」

M准将「俺は物足りなかった」ジロリ

利根「っ!」ゾクッ

M准将「……それをさておいても、2人目の利根が俺の前に現れた時は驚いた」

M准将「最愛の利根が隣にいる。そうではない、別の利根がまた別にいる」

M准将「……ふと思いついてしまったんだ。『別の利根』なら問題ないんじゃないか、って」

利根「……い、いかん。いかんぞ……」

M准将「わかっている。わかってはいる。だが、我慢できなくてね……」スクッ


M准将「お前がここで目を覚ました時、この装置のことを訊いてきたよな?」ニコ

利根「よせ。やめるんじゃ……」ガタガタ

M准将「この装置を使った結末が、このカーテンの向こう側にある。俺が『お前たち』をどうしたのか」グッ

利根「やめよ……やめてくれ!!」

M准将「見ろ」シャァァァッ

 室内灯< パッ

利根「……ひ……!?」

(カーテンを開けると、ガラス張りになった奥の部屋の様子を室内灯が照らしている)

利根「……ひ……あ……!」ガタガタガタ

M准将「……ふふ」

利根「……っ!! ……っっ……!!!」ガクガク

M准将「ふふふ、はははは……!」

利根「なん……なんと、いうことを……!」

M准将「……いいぞ。いい顔だ……いい表情だ」

M准将「俺は、その恐怖におののいた利根の顔が見たかったんだ」

M准将「だが悲しいかな、俺は彼女たちに美しさを感じるが……怖いという感情は全く沸かない」

M准将「お前とは、抱く感情が違うんだ……残念ながらな」


利根「お、お前は……そ、そんなことのために『吾輩たち』を、こんな目に遭わせたというのか……!?」カチカチカチ

M准将「最初は、お前たちが怒ったり、泣いたりする顔が見たくて、痛めつけたり詰(なじ)ったりしていた」

M准将「人間というのは欲深いもので、それだけではだんだん飽きてくる」

M准将「そのうち、今度は中身はどうなっているか興味が湧いてきた。どうだ、利根? お前の体の仕組みを見た気分は」

M准将「人間の体だって、縦に割った姿はなかなか見ることができないんだぞ?」

利根「……」ガチガチガチ

M准将「こっちも見ろ。こうしてバラバラにしてみると、それぞれの部位の魅力がよくわかる」

利根「……わかる……ものか……わかるものかあああ!!」

M准将「……そうか。まあ、お前の感想はこの際関係ない」

M准将「ここに飾った利根たちは、特別な処置をして形が変わらないようにしている」

M准将「せっかくここに来てくれたんだ。俺が死ぬまで、ずっと面倒を見てやらないとな」ニコッ

利根「……お……」

利根「お前、は……正気では、ない……!」

利根「……お前は、狂っておる……!! 狂っておるぞ……!!」

M准将「知っているとも」

利根「!?」

M准将「狂っていることくらいわかっている。そんなことは重々理解している」


利根「……ならば……」

M准将「やめろと言いたいんだろう? 無理な話だ」

利根「な……!」

M准将「俺は生きている利根も、こんな姿の利根も、全部好きなんだ」

M准将「あの利根が、海で見せている雄姿。攻撃を受けて傷ついた姿。そのすべてが愛おしい」

利根「……違う……それは違うぞ」フルフル

利根「お前のそれは……愛などではない……!」

M准将「そう思うよな。俺はそうじゃない。だから俺は最初からお前に理解を求めてはいない」

利根「……お前は……」

M准将「時間だ。そろそろ利根が戻ってくる」

M准将「次に会うときは、もっといろいろな表情を見せてくれ。楽しみにしているぞ」ニコ

壁に擬装された扉< バゥンッ

利根「……」

利根「……なんと、なんということじゃ……」ポロッ

利根「……ちくま……ちくまぁぁ……!!」ポロポロポロ

今回はここまで。

プラスティネーションでもやってるのか……えぐい

>>395
そういえばエンバーミングなんて漫画もありましたね……

続きです。


 * 数週間後 *

利根「……もう、耐えられぬ」

利根「来る日も来る日も、あの男の所業に怯えなければならぬ……」

利根「否……吾輩はここに閉じ込められて、何日経ったのかすらわからぬ……」

利根「……吾輩は……これからどうなるのじゃ……」

利根「……おぬしたちと一緒に、ここに飾られることになるのか……」

利根「……ははは……」

利根「そうじゃな……そうやも知れぬ。すべて諦めれば、これ以上涙することもない」

利根「しかし、いいのか……? せめて一矢報いねば、おぬしたちとて無念であろう?」

利根「……吾輩が傷付く方が堪えられぬ、とな。そのような姿になってまで、他人を思い遣るとは……」

利根「そうじゃったな。吾輩はおぬしたちじゃった」

利根「最早海に出ることも、ここから出ることも叶わぬ……」

利根「ならば何も、考える必要はない、か……そう、だな。うむ……」

利根「……」

利根「心残りは……筑摩に出会えんかったこと、じゃな……」

利根「おぬしたちもそうであろう……?」

利根「じゃが、それでいい……このような場所に筑摩を呼ぶことは許せぬ……」

利根「……」

利根「筑摩の名も、今が呼びおさめじゃな……筑摩……」

利根「……」


 * * *

M准将「利根? ご飯を食べていないのか?」

利根「……」

M准将「それじゃいかんぞ、ほら、食べなさい」

利根「……」

M准将「ほら、口を開けて。飲み込むんだ」グイ

利根「……」ダラー

M准将「……利根!」

利根「……」

M准将「仕方ないな」スマホトリダシ ピッピッ

利根「……」

 鎖の電流<バリバリバリバリッ!

利根「……!」ガクガクッ

 鎖の電流<フッ

利根「……」シュウウ…

M准将「……利根。……利根!」

M准将「もう壊れてしまったのか。もう少し大事にしたかったんだが……」

利根「……」

M准将「いや、反応がないわけではないからな。利根が意識している様子を見る手立てはあるはず……」

M准将「仕方ない。あれを準備するか」


 * 同時刻、鎮守府内の廊下 *

利根改二「今日の演習はえらく早く終わってしまったな。相手も潜水艦単艦でどうするつもりだったんじゃ?」

利根改二「せっかく早く終わったというのに、M提督はどこへ行ったのやら……偵察機を飛ばしても見つからぬというのは異常事態じゃぞ」

利根改二「はっ! もしや吾輩に黙って余所の女と逢引きなんぞ……」

利根改二「……」ポクポクポク チーン

利根改二「ありえんな!」ドヤッ

利根改二「……冗談はさておき、あの男は本当にどこへ行ったんじゃ。演習後じゃというのに歩き回ってへとへとだぞ」

利根改二「最近多いのう。席を外しておったかと思えば、いつの間にやら執務室に戻っておるし……」

利根改二「……ん?」

利根改二「なんじゃこの風は? どこから吹いておる?」

艦娘「利根さーん! 提督、見ませんでした?」

利根改二「! おお、おぬしか。いや、吾輩も探しておるんじゃが……」

艦娘「? どうかしたんですか?」

利根改二「うむ、どうもここの壁に隙間ができておるようでの。少し気になったのじゃ」ゴンゴン

艦娘「あれ……?」

利根改二「うむ……」ガンガン

艦娘「利根さん……!」

利根改二「こっちとそっちで音が違うのう。壁が別物なのか?」ゴンゴン

艦娘「多分ですけど、この壁の向こう側は空洞になってませんか?」

利根改二「否、ここはただの壁のはずじゃぞ。しかし確かにこの音は……」

艦娘「利根さん、音が違うのはここまでみたいです!」ゴンゴン

利根改二「この壁の向こうに何があるというんじゃ……?」


 * 地下室 *

(赤々と燃え盛る炉の中に単装砲の砲身が刺さっている)

M准将「……」グイッ

(厚手の皮手袋を付けたM准将が単装砲を炉から引き抜くと)

(真っ赤に熱せられた砲身の先端の周囲が陽炎のように揺らめいている)

M准将「……」

M准将「綺麗なままにしたかったから、こういうことはしたくなかったんだがな」クルッ

M准将「……利根」ニコ

利根「……!」ビクッ

M准将「これはさすがに無視できないよな?」

利根「……」

M准将「ふふ、震えているようだな。そんなに寒いのなら……ほら」

利根「……!」ズザッ

M准将「逃げなくてもいいだろう。君が連れないからこうなったんだ」ズイ

利根「……あ、ああ」ジリ

M准将「ああ、声が聞けた。いいな、その怯えて掠れた声」ニィ

(M准将が壁にあるレバーを引くと、利根を拘束する鎖が巻き取られる)

利根「!」グイッ


M准将「ほら、逃げるんじゃない……こっちへおいで」

利根「……っ! っ!!」ブンブンッ

M准将「首を振っても何にもならないぞ? 往生際が悪い……ふふふ」

利根(……)

利根(もはや、何をしても無駄じゃ……吾輩が足掻けば足掻くほど、この男は悦ぶ……!)

利根(もう、嫌じゃ……やめてくれ……いっそ、一思いに……!)

 ジュッ

利根「ぎっ……!!」

M准将「……そうだ。それでいい」

 ジュゥウ…

利根「あ、っが……あああ!!」

M准将「いい調子だぞ……そらっ!」グリッ

 ジュウウウウ!!

利根「ぎ……!!!」

利根「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」

利根「あ……が……」ガクン ブクブクブク…

M准将「……いい声だ……それに」

M准将「いいにおいだ。どうして今まで気付かなかったんだ……ふふふ」


 * 廊下 *

利根改二「ふぅむ……よくわからんな」ゴンゴンゴン

艦娘「この鎮守府の間取りはどうなってるんでしょう?」

利根改二「この城砦をM准将が見つけて海軍で買い取った時に手に入れているはずじゃが……」

艦娘「欠陥工事だったらまずいですね」

利根改二「うむ……!?」ピク

艦娘「? どうしました?」

利根改二「……壁の中から悲鳴が聞こえた」

艦娘「誰かいるんですか!?」

利根改二「わからぬ。じゃが、声はずっと下のほうから響いて聞こえてきたぞ」

艦娘「下!?」

利根改二「……この壁……なにかあるのか!」グッ

利根改二「むんっ……!」グググッ

艦娘「!!」

利根改二「……動いたぞ……やはりなにかある!」グググッ

艦娘「利根さん危ないです!」ガシ

利根改二「むう、壁の向こうは落とし穴か!?」

艦娘「この壁、回転扉みたいですね……」

利根改二「穴も深そうじゃの……たしか、倉庫に縄梯子があったはずじゃな」

艦娘「入るんですか!?」

利根改二「悲鳴が聞こえたからには、放っておくわけにもいかん。梯子と探照灯を準備せよ、急げ!」


 * 地下室 *

 バケツ< バシャァ!

利根「……げほっ……えほ……」

M准将「起きたかな?」

利根「……」ビクッ

M准将「……さ、続きだ」ニタッ

利根「……も……」

利根「もう、嫌じゃ……!!」ポロッ

利根「吾輩は……もう……いい……!!」ポロポロポロ

利根「もう、殺せ! 殺すのじゃ!!」グワッ

利根「これ以上、甚振られるのは……もう……」

M准将「……わかった。そうしよう」

M准将「俺も、お前がどんな味がするのか、気になったんだ」

利根「」ビク

M准将「……お前の肉の焦げるにおいが、俺の理性を奪ったんだ」

M准将「心を失ったふりをし続けたお前が招いた結果だ」

M准将「心配しなくていい。綺麗に食べてやるからな……!」

利根「あ……」

利根「ああああ……!」


利根「嫌じゃ……嫌じゃああ……来るな、来るなあああああ!!」

M准将「……」ズイ

 ジュゥ…

利根「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 ドゴォォン!!

M准将「!?」

 パラパラパラ…

利根改二「けほっ……なんじゃこの部屋は……」

M准将「利……根……?」

利根改二「……M准将!? おぬし、ここでいったい何をして……お……」

M准将「……」

利根改二「……る……」

M准将「……」ウツムキ

利根改二「……」パクパク

利根改二「……な……」

利根改二「……なんじゃ、ここは……」ワナワナ


利根改二「これは……なんなのじゃ」

利根改二「……」

M准将「……」

利根改二「……おぬしは……」

利根改二「……おぬしは、誰なのじゃ?」

M准将「……!」

利根改二「答えよ! おぬしは誰じゃ!!」ジャキッ

M准将「……」

利根改二「答えろ!!」ワナワナワナ

M准将「……執務室で、全部話そう」スッ

利根改二「逃げるか! 待て!!」

利根「……あ……」ピクピク

利根改二「!! お、おぬしはまだ生きておるのか!? なんと酷い……」

利根改二「何故じゃ……何故吾輩と同じ艦娘に、こんなことを……!!」

利根改二「何故じゃあ……!!」

今回はここまで。

では続きです。


 * それからしばらくして 執務室前廊下 *

艦娘「利根さん、地下室にいた利根さんは修理ドックに入居させました」

利根改二「うむ。どんな様子であった?」

艦娘「ずっと気を失ったままです……」

利根改二「……そうか」

艦娘「あの、利根さん……あんな酷い火傷、准将がつけたなんて信じられません」グスッ

利根改二「……吾輩もだ。提督は、いつの間にか別人にすり替わっていたのかもしれん」

利根改二「おぬしはここに控えておれ。何かあれば即刻この場から逃げて皆に知らせよ」

艦娘「……はい!」

利根改二「さて……」

 トントントン

M准将「入ってくれ」

利根改二「……」ギィ… バタム

艦娘「利根さん……」


 * 執務室 *

利根改二「……M提督よ」

M准将「来たか」ニコ

利根改二「今のおぬしはジキルか? それともハイドか?」

M准将「……なるほど、俺を多重人格と疑ってるわけか」

利根改二「……」

M准将「まずはこれを見てくれ。よっ……と」ガチャ

利根改二「本棚の裏に隠し階段じゃと……!」

M准将「さっきの地下室につながっている」

利根改二「……」

M准将「利根。お前は信じたくないだろうが、これから俺はお前に全部話そう」

 * *

利根改二「全部おぬしがやったと認めるのか」

M准将「認める」

利根改二「……」

M准将「……」

利根改二「……吾輩はおぬしを信頼しておったのだぞ」

M准将「……」


利根改二「何故、こんなことをした」

利根改二「何故……吾輩を裏切った!」

M准将「それは違う。俺はお前を裏切ったつもりはない」

利根改二「どの口が言うか!」

M准将「俺は『お前』を裏切ってはいない。俺は最初からこうだった」

利根改二「……」

M准将「俺は、徹頭徹尾、お前が好きだということは変わっていないし、お前を大事にしたいという気持ちは変わっていない」

利根改二「……」

M准将「俺にとってあの部屋は、ベッドの下に隠したエロ本みたいなもんだ」

利根改二「なにを……詭弁じゃ、そんなものと同列に……!」

M准将「その本の中身が、他人が耐えられる内容かどうか。その程度の違いだよ」

M准将「俺は俺が狂っていることを理解している。だから、大がかりな仕掛けを作って、見つからないようにしていた」

M准将「俺はお前のすべてを知りたかった。お前を見たくてあの部屋を作った。お前の代わりだけを飾るようにした」

M准将「だからお前をあそこに飾るつもりはなかったし、この秘密はお前にだけは知られたくなかった」

M准将「知られればどうなるか理解っていた。絶対に許されるはずがないからな」ウツムキ

利根改二「……何故吾輩は、飾られなかったのじゃ」

M准将「お前は俺の最初の利根だからだ。一目惚れだったからな」


M准将「それが、二人も三人も現れても見ろ。俺じゃなければ、ハーレムを作るやつだって出てくるはずだ」

利根改二「ならばもし、吾輩が二人目だったとしたら、吾輩もあの部屋に飾られていたのか」

M准将「三人目くらいまでは、余所の鎮守府に送っていたよ。それ以降だったら有り得たかもしれないな」

利根改二「ならば、もし……」

利根改二「もし、利根が吾輩以外にいなければ、吾輩を……切り刻んでいたと思うか?」

M准将「いや。それはしなかっただろう」

M准将「お前は俺が愛情を注ぐべき相手だ。歪んだ欲望をぶちまける相手じゃない」

M准将「お前の、代わりが存在した。それが、俺が一線を越えた理由……なんだろうな」

利根改二「……」

M准将「……利根。すまなかった」

M准将「お前を好いた男が、こんな男で……」

利根改二「……」

M准将「特警を呼んでくれ。始末をつけよう」

 * * *

 * *

 *


 * 現在 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「……」

利根改二「……その後M准将は、地下室の彼女たちを供養するために、特警同伴で溶鉱炉へ彼女たちを運び込んで……」

利根改二「一人投げ込んでは手を合わせるのを繰り返し……最後に自らも溶鉱炉へ飛び込んで命を絶った」

利根改二「今の俺は利根の前に存在して良い人間じゃない、と言い残してな」

提督「……」

利根改二「……それが、吾輩の鎮守府で起こったことの顛末じゃ」

提督「……いろいろ理解できねえよ。自分が殺した相手と心中したってことじゃねえか」

提督「もしかしてあれか? 好きな相手にちょっかい出すタイプの悪質なやつか?」

利根改二「かもしれぬな。吾輩は嫌がらせらしい嫌がらせは一度も受けておらんが……」

提督「とにかくだ。あの利根は、M准将から拷問じみた仕打ちを受けたのはわかった」

提督「お前はあいつにどうなって欲しいんだ」

利根改二「……できれば、立ち直ってもらいたい。でなくば、せめて穏やかな余生を過ごして欲しい」

提督「……」

利根改二「吾輩がやれと言うかもしれぬが、吾輩はあの利根に姿を見せないほうが良いと思っておる」

利根改二「同じ利根とはいえ、司令官の寵愛を一身に受けた身じゃ。彼女にとってはトラウマ以外の何物でもなかろう」

利根改二「吾輩には、彼女をどうこうする資格はない。吾輩がこれ以上彼女の未来に口をはさむこと自体許されまい」

提督「……かもな」


利根改二「彼女の引き取り先を方々に求めたが、練度も上がっておらぬ彼女を引き取ってもらえる鎮守府はここしかなかった」

利根改二「重ね重ね、どうか彼女をよろしくお願いしたい」ペコリ

提督「……まあ、本人次第だがな」

提督「で、お前はどうすんだ」

利根改二「……まだ、決めておらぬ」

提督「そうか。ま、好きにしな。俺もお前の行先をどうこう言える身分じゃあねえ」

利根改二「……吾輩も、あの男と同じ所へ行くべきなのかのう」

提督「ちっ……だったら好きにしろよ。俺は死にたい奴の面倒は見ねえぞ」ガタッ

利根改二「! どこへ行くんじゃ」

提督「向こうの利根の顔を見に行く」

 トントントン

朝潮「失礼致します! 利根さんをお部屋に案内しました!」ガチャ

提督「おう、ご苦労さん。朝潮、客人の帰りの案内も頼むぜ」

朝潮「は、はい! 承知しまし……ええ!? どうして利根さんがここに!?」ギョッ

利根改二「……」


 * 利根の部屋 *

車椅子から立ち上がって窓の外を見ている利根「……」

 コンコン

提督「入るぞ」ガチャ

朝潮「ま、まだ返事がありませんよ!?」

提督「んなもん待ってられっか。ん、立って歩けるのか?」

利根「……」

提督「まあいい。俺はこの鎮守府の提督准尉だ」

朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ

利根「……」

朝潮(……なんといいますか……)

朝潮(ここまで生気のない瞳をした人は、見たことがありません……)ゾク

提督「重巡洋艦、利根だな?」

利根「……吾輩に何の用じゃ」ジッ

提督「本日付でお前はこの鎮守府の配属となった」

利根「……」

提督「今後はこの鎮守府のルールに従って生活してもらう。ま、基本、この鎮守府のほかの艦娘の迷惑にならなきゃ、何をしてもいい」

利根「……」


朝潮「あ、あの、司令官……」

提督「ん?」

朝潮「利根さんは、ちゃんと聞いてくださってるんでしょうか……」

提督「多分な。聞いてねえならもう一回言って聞かせりゃあいい」

利根「……提督よ」

提督「ん? なんだ」

利根「あの利根は……あの秘書艦は、何故吾輩を避けておる」

利根「彼女は吾輩の命の恩人……なのに、何故じゃ?」

提督「……さあな。多分、お前に後ろめたいんだろ」

利根「後ろめたい……?」

提督「お前を酷い目に遭わせた男が好いた相手だ。お前とは話しづらいんだろうよ」

利根「……だが、奴は吾輩のことを好きだと言っておったぞ」

提督「……」

利根「あの利根は、違うのか……?」

提督「……俺に訊くなよ。人の好いた惚れたは俺の知ったこっちゃねえ」

利根「……そうか。おそらく、違うのだろうな」シュル


利根「でなくば……」パサ

朝潮「と、利根さん!? どうして服を脱……!」

利根「このような傷を付けられたのも吾輩だけなのだろうな」クルッ

朝潮「……っっ!!!」

提督「……!」

朝潮「と、と……利根さん……っ!! そのお怪我は……火傷の傷痕は!」

利根「……あの男に付けられたのじゃ」

朝潮「そんな……そんなっ!!」ワナワナ

利根「……提督よ。なんじゃその顔は。まるで鬼神か夜叉のようだぞ?」

提督「ああ? そんなことができる屑が存在していたと思うと、さっきから怒りしか沸いてこねえんだよ、くそが!」

利根「吾輩を解体せんのか?」

提督「なんでそんなことをしなくちゃいけねえんだ」

利根「……好きにしろと言うのであろう。ならば、吾輩を解体すれば良い」

提督「それなら一つ言い忘れていた。俺は自殺の手伝いはしねえ。死にたきゃ勝手にその辺で自沈しろ」

朝潮「し、司令官!?」

利根「……なんじゃ、吾輩もあの者たちと一緒に行けるかと思っておったのにな……」ウツムキ

朝潮「と、利根さんまで!?」


提督「なら、これ以上話すことはねえな。あとは勝手にしろ」クルッ スタスタ

朝潮「司令官! 司令官っ!!」オロオロ

利根「……」

朝潮「あ、あの、利根さん! 朝潮は、自沈してはいけないと思います!」

利根「……何故じゃ?」

朝潮「う、うまく言えませんが、今まで不幸せだったとしたら、これから幸せになるかもしれません!」

利根「……」

朝潮「あの、朝潮も、轟沈してこの島に流れ着いてきました!」

朝潮「ここの司令官……提督准尉は、物言いこそ霞と同じくらいきついですが、思いやりのある方です!」

朝潮「少しの間でも良いので、どうか思い留まっていただけないでしょうか……!」

利根「……」

朝潮「お願い致します!」ペコッ

利根「……うむ……」

朝潮「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

朝潮「で、では朝潮は執務に戻ります! 失礼致します!」ビシッ

朝潮「司令官! お待たせ致しました! しれいかーん!」タタタタッ

利根「……そういう意味での返事ではないんだが」

利根「……」


 * 夜明け前 鎮守府埠頭 *

 ザザーン

利根「……海、か……」フラフラ


(鎮守府埠頭を見渡せる高台で双眼鏡を構える提督と長門)

長門「大丈夫なのか。一人で海に出して」

提督「さあてな。鎮守府に向かって砲撃するような真似さえしなけりゃ、あとは野となれ山となれだ」

長門「貴様はどこまで人任せなんだ……」

提督「医者も言うだろ。本人が病気を治す気がないなら治るものも治らねえって」

長門「まったく、ああ言えばこう言う……」

提督「見ろ……利根が海に出るぞ」

長門「!」



利根「……」チャプ

利根「……」ザァァ…

利根「これが海か……」


利根「波は穏やか、風もない」

利根「空には満月……か。これなら偵察機も飛ばせそうじゃな」

 ガシャッ

 ブィー…ン

利根「……」

利根「……」

利根「……」ポロポロッ

利根「吾輩は……」

利根「吾輩は幸せ者じゃの……」

利根「あやつらも、海に出たかっただろうに……」

利根「本当に、たまたまなのじゃな」

利根「たまたま、あの利根が選ばれて……たまたま、そのあとに吾輩たちが着任した」

利根「ははは……なんということじゃ」

利根「さっきまで、あれほど死にたがっていたのに……」

利根「吾輩は、喜んでおる……海に出られることに、幸せを感じておる」

利根「吾輩は、やはり艦娘なのじゃな……」


利根「ああ……吾輩は、どうしたらよいのじゃ……」

利根「……」

利根「……?」



提督「月夜とはいえ、夜中に艦載機飛ばしてんのか」

長門「おい、利根が何かを見つけたようだぞ」

提督「むこうは……砂浜か。俺たちも行ってみるか」

 タタタッ

朝潮「司令官!」

提督「朝潮? どうしたこんな時間に」

朝潮「砂浜から深海棲艦の微弱な反応がありましたので、ご報告に参りました!」

長門「なに!?」

提督「ったく、次から次と……面倒なことになりそうだ」


 * 北東の砂浜 *

利根「……なんと……」

(砂浜に数人の艦娘の遺体が流れ着いている)

利根「……この島も地獄であったというのか……」

提督「よう。幻滅したか?」

利根「! 提督か」

提督「この島にはな、こうやって轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだよ」

利根「……よくあることなのか?」

提督「まあ、少なくはねえな」

利根「……こやつも、その犠牲者なのだな?」

提督「ああ……ん? なんだこいつ? 見たことねえタイプだな?」

長門「! ば、馬鹿! 近づくな!!」グイッ

提督「うお!? な、何しやがる!」

朝潮「司令官、早く避難しましょう! 利根さんも!」

提督「あ? 何言ってんだお前ら……」


長門「近づくなと言っているだろう! こいつは……」

??「……」

長門「こいつは深海棲艦!」


??「……!」パチリ


長門「戦艦ル級だ!!」



ル級「……」ムクリ


とりあえず利根の過去についてはここまで。

では続きです。


ル級「……」スクッ

長門「提督、朝潮と利根を連れて早く逃げろ! 重巡以上の艦娘を集めてくるんだ!」

朝潮「いけません! 朝潮、この場は長門さんに助太刀します! 利根さんは提督とともに避難を!」

ル級「……」ジッ

利根「……?」

ル級「……」ジッ

長門「む……!」

ル級「……」ジッ

朝潮「……!」

ル級「……」ジッ

提督「……なんだ? 俺たちの顔を見てやがんのか?」

ル級「……(無言で長門を指さし)」スッ

長門「!」

ル級「……(次に海を指さし)」スッ

朝潮「こ、これは……」

長門「私を御指名ということか……面白い」


ル級「……」クルッ

 ザァァァ…

朝潮「……深海棲艦が、私たちに背を向けて海へ……!?」

長門「あのル級が何を企んでいるのかはわからんが……この長門との殴り合いを望むと言うのなら、受けて立とう!」ザァッ

朝潮「あ、長門さん!!」

提督「……とりあえず、俺たちはどうすりゃいいんだ?」

利根「……」

朝潮「え、ええと……」



 * 沖合 *

ル級「……」ガシャン

長門「……」ガシャッ


朝潮「長門さんもル級も、艤装を展開して睨み合ったまま動きませんね……」

提督「マジで決闘かよ……おい、朝潮」

朝潮「はい!」

提督「あの2隻の間に一発撃って水柱たててやれ」

朝潮「は、はい!? わ、わかりました!」ジャキッ


 ドーン

 ヒューーー

ル級「……」

長門「……」

 ボチャーン

ル級「!」キッ!

長門「!」クワッ!

ル級「……ッ!」ドガガガガン!

長門「てぇぇ!」ズドドドドン!

 ドドドドーン!!

提督「……派手だな」

朝潮「な、なんで二人とも、原速のまま回避しないんですか!?」

提督「……まあ、見ていようぜ」


ル級(中破)「……ッ!」ガンガンガン!

長門(中破)「ハァァ!」ドンドンドン!

 ドカーンボカーン

朝潮「……」アゼン

提督「なかなか壮絶だな」


利根「……」

提督「どうした利根。怖いのか」

利根「……否」

提督「なら、お前も戦いたいのか」

利根「……わからぬ」


 シーン


朝潮「砲撃が……やみましたね……」

提督「……」


長門(中破)「……く……」ボロッ

ル級(大破)「……ハァ、ハァ……」ボロッ


提督「こりゃあ、長門の勝ちか?」

朝潮「……はい。おそらくは……」


ル級「……ハ、ハ……フフフ、フハハハハ」

長門「!?」


ル級「……ハハハハ、アハハハハハハ!!」

ル級「アッハハハハハ!!」ゲラゲラ


提督「おい朝潮、あの深海棲艦、何で笑ってやがるんだ?」

朝潮「わ、わかりません……!」


長門「……貴様……」

ル級「ハハハハ……ハハ……ッ、ア、アアア……」

ル級「アアア……ウァァ……グスッ、ウウウウ……!!」

長門「!?」

ル級「ウワァァアアアアン!!」ポロポロポロ

長門「……」アッケ


提督「おい朝潮……あの深海棲艦、泣き叫んでねえか?」

朝潮「そ、そうですね……」

提督「なんでだ?」

朝潮「わ、わかりません!」

利根「……なにがあったんじゃ」


ル級「ウワァァァン! グス、ビエエエエエエン!」ナミダジョバーーー

長門「お、おい、貴様!? なんだ! なにがあった!? そ、そんなに痛かったのか!?」オロオロ


提督「わけわかんねえ……朝潮、明石呼んでこい。あとバケツふたつな」

朝潮「は、はい! わかりま……ふたつですか!?」

提督「まあ、敵に塩を送るのも悪くねえだろ」

利根「……やはり吾輩は夢でも見ているのかのう……」

提督「現実逃避すんな」デコピン

利根「あだッ!?」ベシッ

提督「おし、夢じゃねえな。長門、そのル級連れて戻ってこい」

利根「……吾輩で夢かどうかを確かめた……じゃと!?」シロメ

今回はここまでー。

ル級がデレるのはもう少し後かな?

続きです。


 * 利根が鎮守府にやってくる少し前 *

 * 某鎮守府 *

「オリョクルはもういやでち!」

「とっとと行って来い」

「オリョクルはもういやでち!!」

「いいから行け」

「オリョクルはもういやでち!!!」

「出撃」ポチッ

「あああああああああああああああああああ!!」

 * 本営 *

「ってことが今朝あってなあ」

「ああ、うちもだ。いい加減聞き飽きたな」

「あいつらは黙ってオリョール回してりゃあいいんだよ。疲れたとか言ってんじゃねえっつうの」

「! お、おい」

「あん?」

伊58(スカート・革靴装備)「……」ジロリ

伊19(制服・スカート・革靴装備)「……」ギロリ


「ちっ、どこの鎮守府の潜水艦だよ、紛らわしい恰好しやがって」

「見世物じゃねーぞ。散った散った!」シッシッ

W提督「僕の部下がどうかしましたか?」

「げっ! W提督!? い、いえ、なんでもありません!」

「おい、なんでこんなガキにぺこぺこしてんだよ」

「馬鹿! 大将の甥御さんだ!」

「はぁ!?」

「し、失礼いたしました! ほら、行くぞ!」

「……ちっ」

W提督「……やれやれ」ハァ

伊58「ゴーヤたちをこき使ってるから出撃できてるのに!」

伊19「まったく失礼しちゃうの!」

X提督「ほらほら、二人とも怒らないで。あんまり僕から離れちゃだめだよ?」

伊58&19「「はーい!」なの!」

伊58「でもでも提督? ああいう人たちが艦娘を無下に扱う典型的な例だと思わない?」

X提督「今日の議題の話かい?」

伊19「気に入った艦娘を殺して飾る……まるでセイキマツホラー! 蝋人形の館なのね! 怖いのね!!」


X提督「そうだね……悲しい事件だ。まあ、そんなことがあったからこそ、今日呼ばれて啓蒙活動するって話だからね」

W提督「……よう」

X提督「あ、W! 久しぶりだね」

W提督「ああ、飲み会やらなくなって以来だな。Xも元気そうでなによりだ」

球磨「W提督、こっちの子は誰だクマ?」

W提督「ん、俺の同期のW提督だ」

熊野「あら、随分可愛らしい方でいらっしゃいますわね?」

W提督「言ってやるな、こいつ自分の見た目を気にしてんだから。紹介する、俺の部下の軽巡球磨と航巡熊野だ」

球磨「よろしくだクマー」

熊野「ごきげんよう、熊野ですわ」

X提督「うん、よろしく。この二人は僕の部下、伊号潜水艦のゴーヤとイクだよ」

伊58「ゴーヤだよ!」

伊19「イクなのね!」

W提督「おう、よろしくな」

球磨「球磨の知ってる潜水艦と服が違うクマ。駆逐艦みたいな恰好してるクマ-?」

熊野「あの、失礼ですけれど、潜水艦のお二人はそんなお洋服持ってましたかしら?」


伊58「あ、この制服のこと? これは提督が準備してくれたの!」

W提督「仮にも本営の集会だからね。靴も履かず水着姿でついてきてもらうのはどうかと思って用意したんだ」

熊野「まあ! X提督は艦娘のことを良くお考えですわ!」

伊19「そうなのね。イクに服を着せるなんて、提督はとんだ変態さんなの」

球磨「いや、その理屈はおかしいクマ」

伊19「いやいや、こんなに表向き紳士な提督は、絶対裏ではとんでもない変態さんなのね……!」ハァハァ

球磨「こじらせすぎクマ! どうしてこんなになるまで放っておいたんだクマ!」

伊19「いひひひ、こんなに破廉恥な格好させられちゃったら、もう提督にはイクのセキニンとってもらうしかないのねぇぇ!」ムッハー

球磨「うるせぇ、爆雷ぶつけんぞクマァ!」

X提督「あはは、もうすっかり打ち解けてるね」

球磨「どうやったらそう見えるクマ!?」

W提督「まあ、そうなるな」

球磨「うちの提督もボケ役クマ!?」

熊野「まあ!? わたくしのどこがトボケてると仰るんですの!?」

球磨「今日のお前が言うな会場はここですかクマァ!!」


伊58「イクもあんまりふざけちゃ駄目よ。そもそも提督には剣崎の責任を取ってもらうのが先でち」

伊19「ごめんなのねー」テヘペロー

球磨「……意外なところから助け舟が出たクマ」

伊58「意外でちか!?」ガビーン

W提督「剣崎? ああ、祥鳳のことか。今日は留守番か?」

X提督「うん、今日一日は提督代理さ。Wのところもかい?」

W提督「ああ、伊勢に丸投げだ。まったく、古今東西の提督を集めて会議したところで、時間を浪費するだけだろうに」

X提督「仕方ないよ、テレビ会議だと不在の提督も多いし。たまにみんなの顔が見られると思えば、僕はそこまで悪いとは思わないけどね」

W提督「……遠地勤務のお前はそうかもしれないな」

伊58「提督! そろそろ会議が始まるよ!?」

伊19「荷物持ってあげるから手をつなぐのねー!」ガッシ

伊58「あっ、ずるい! ゴーヤとも手をつなぐでち!」ガッシ

W提督「球磨、熊野、俺たちも行くぞ」

熊野「ああ、お待ちになって! ちゃんとエスコートしてくださいませんこと!?」ギュッ

球磨「なんで腕に抱き着いてるクマ。しかも自分から腕をつかみに行って真っ赤になってるクマ」

W提督「……まあ、熊野は目を離すとすぐ迷子になるしな。仕方ない」

熊野「ひ、ひどいですわ!?」


 *

女性提督「ちょっと、見てよあの男の子! すっごい可愛いんだけど!」

千歳「あの方は大将殿の甥っ子さんですね」

女性提督「なにそれ玉の輿!?」ジュルリ

足柄「ちょっと、もう結婚する気でいるの!? っていうか涎拭きなさいよ涎!」

女性提督「隣の男性も結構いい感じだし! 声かけておかないと!」ギラッ

足柄「やめといたほうがいいと思うわよ? あの子、潜水艦の子と手を恋人つなぎしてるし」

千歳「下手に絡んでは、向こうの艦娘に悪印象を与えかねませんよ?」

女性提督「なによぅ! こんなチャンス、滅多にないんだから! すいませ~~ん!!」ダッ

足柄「あっ」

千歳「ちょ」

 ガオーーーー

 キャーーー

 クマァァァァ!!

足柄「あーあ……」


 *

女性提督「ぐす、ぐすっ」

足柄「あんな絡み方したら逃げられるに決まってるわよ!」

千歳「にこやかに挨拶するだけで良かったんですよ」

足柄「だいたいがっつきすぎよ! 狼じゃないんだから!」

千歳「酔っ払いよりひどい絡み方してましたよ?」

女性提督「うるさい、うるさーーい!」ウワーン

女性提督「もう頭きた! 帰ったら大型建造しまくってやるんだからー!」

足柄&千歳((完全に八つ当たりだわ))ハァァ


 * 一方その頃 東部オリョール海某所 *

「モウイヤダ!」

「モウ潜水艦ハイヤダ!」

「モウ潜水艦ノ的ニナルノハイヤダ!!」



「マタ、ル級ガ駄々ヲコネテルノカ」

「仕方ナイ。アノ、ル級ガ出撃スルト、相手ハ必ズ潜水艦ダケダカラナ」

「ツイテナイナ」

「付キ合ワサレル連中モ、ソウダナ」

「一緒ジャナクテ良カッタ……」



「モウイヤダァァァァ!!!」

「ア、オイ!? ドコヘ行ク!」

 * * *

 * *

 *


 * 現在 夜明け 北東の砂浜 *

ル級「私ハ、来ル日モ来ル日モ潜水艦カラ、チマチマト小サナダメージ受ケ続ケ……」

ル級「ソレガ耐エラレナクナッテ、オリョールカラ出テキタノヨ」メソメソ

長門「なんということだ……」ホロリ

ル級「私ハ、タダノ一度モ反撃スルコトモ、大破スルコトモ、ナカッタ」

ル級「ダカラ、コウヤッテ撃チアエタコトガ、トテモ嬉シカッタンダ……」サメザメ

朝潮「そうだったんですか……!」グスッ

明石「苦労なさったんですねえ……!」エグエグ

提督「お前ら泣きすぎだ」

利根「……そう言うな提督よ。吾輩にもル級の心境は少し理解できるぞ」

利根「吾輩も、ついぞさっき海に出て、わかったことがある。吾輩たちは軍艦なのだ。我らが積んだ艤装も砲もお飾りではない」

利根「海に出て、敵艦隊を見つけ、砲雷撃戦にて邀撃する……軍艦として生まれた我らにとっては、それこそが存在理由そのものなのじゃ」

利根「戦艦でありながら一発も砲を撃ったことがないとなれば、このル級の懊悩も推して知るべきというものだぞ」

ル級「フフ……シカモ、ソノ初戦ノ相手ガ、カノビッグセブン、戦艦長門ダッタトイウノナラ誇ラシクモナル……!」

長門「……ま、まあな」テレテレ

ル級「最後ノ最後ニ艦娘ニ出会イ、憧レノ砲撃戦ガデキタ……私ハ満足ダ」


提督「ん? ……なあ、もしかしてお前、艦娘を見たことないのか?」

ル級「ソウダ。私ハ潜水艦娘ノ船影シカ見タコトガナイ」

提督「船影かよ。んじゃ見てねえのと同義だな。お前、こいつら知ってるか?」

ル級「……オ前ハ駆逐艦ダナ?」

朝潮「はい! 朝潮型駆逐艦一番艦、朝潮です!」

ル級「オ前ハ……巡洋艦カ?」

利根「……吾輩は重巡、利根である」

ル級「オ前ハ?」

明石「工作艦、明石です!」

ル級「ソシテオ前ハ……人間カ」

提督「提督だ」

朝潮「提督准尉は、この島にある鎮守府の司令官であらせられます!」

ル級「ココガ、鎮守府……ソウカ。私ハ敵ノ本拠地ニ流サレテキタノカ」

ル級「私モ年貢ノ納メ時、カ……フフ……」

長門「ル級……貴様……」

 ググゥ

ル級「……///」

全員「……」

提督「……朝飯、食いに行くか」

今回はここまで。

それでは続きです。


 * 食堂 *


朧「」ボーゼン


提督「へぇ、一応深海棲艦も飯は食ってんのか」モグモグ

ル級「タマニ魚ヲ捕マエテ食ベルクライハシテルケド、温カイゴハンハ食ベテナイワネ」パク

ル級「……ネエ長門、ソレナアニ?」モギュモギュ

長門「ん? 醤油のことか? これはこの野菜にかけるんだ。おひたしに味はついていないからな」

明石「かけすぎないように注意してくださいね」

ル級「……コノクライ?」チョロッ

長門「そうだな」

ル級「……」パク

ル級「! オイシイ!」パァァ

長門「そうか、それは良かった!」パァァ

明石「良かったですねえ!」パァァ

利根「……」

朝潮「利根さん、どうしました?」


利根「……不思議なものじゃの。敵であるはずの存在と、こうも和気藹々としながら朝餉を取ることになるとは」

朝潮「そう、ですね。朝潮も、こんな日が来るとは思いもしませんでした!」

利根「これがこの島の日常なのじゃな……」

提督「馬ぁ鹿、日常であってたまるかよ。あそこの朧を見てみろ、目え見開いて固まってんじゃねえか」

朧「」コウチョク

利根「違うのか?」

提督「お前は来たばかりだから誤解してるだけだ」

 ゾロゾロ

吹雪「おはようございまーす!」

敷波「ごっはんーごっはんー」

潮「あれ? 朧ちゃん固まってるけど何が……?」

電「なにかあったのです……?」

吹雪「なにって……?」

敷波「え……?」

ル級「ン?」モグモグ

吹雪敷波潮電「「「「はわわわわ!?」」」」ビックゥ!


電「て、て、敵戦艦なのです!?」ステーン

吹雪「し、ししし司令官離れてください危ないです!!」ガタガタガタ

潮「うーん……」フラッ

敷波「ちょっ、潮気絶してる!? しっかりしろってばー!」ユッサユッサ

提督「ほれ見ろ、普通こうなる」

利根「……むう」

提督「俺ですら、まさか深海の連中と飯を囲むなんて想像だにしてなかったしな」

ル級「私ダッテ朝ゴハンマデ御馳走シテモラエルナンテ、思ッテナカッタワ」

利根「提督よ、おぬしは本当に驚いておるのか? 厨房におった比叡はまったく驚いておらんかったではないか」

 *

比叡「え? 深海棲艦? またご冗談を……ひえー、本物ですか!?」

比叡「それでどうして食堂に……一緒に食事を! そうでしたか!」

ル級「……イイノカ?」

比叡「ええ、どうぞどうぞ! お腹がすくのはみんな一緒なんですね!」ニコー

 *

提督「あれの肝っ玉は特別製だ。比較対象にはならねえよ」

明石「ちなみに比叡さんの隣にいた暁ちゃんは絶句してました!」


長門「しかし、現実にこうして交友できているからな。問題なのはこれからだぞ、提督」

提督「ん?」

長門「貴様は、これからル級をどうするつもりだ?」

提督「……どうする、ねえ」

長門「普通、人間なら捕虜として扱うことになるんだが……」

明石「この状況では、拿捕というか鹵獲というか、敵戦艦を捕まえたことになりますからねえ」

ル級「……ソウ、ダナ」

提督「俺は別に捕まえる気はねえよ。好きに出入りしな」

ル級「ハ!?」

提督「お前、これ以上俺たちとやり合う気はあるか? 艦娘と戦う気はあるか? ねえならまた遊びに来いって話だ」

ル級「……」ポカーン

長門「提督よ……普通、こんなことを深海棲艦に言う司令官はいないぞ?」

吹雪「そ、そそそそうですよ司令官!!」

敷波「それ本気で言ってる!?」

潮「お、お、落ち着いて! 落ち着いて深呼吸して!!」ヒッヒッフーーー

明石「潮ちゃんそれ違うよ」

提督「落ち着くのはお前らのほうだろ」


電「さ、さすがにびっくりするのです……大丈夫ですか?」

ル級「……私ハ……」

提督「ま、決められないなら少し考えな。お前の都合もあんだろ?」

ル級「……」

朧「……はっ! い、今、敵戦艦がご飯食べてた気がするんだけど!」

電「朧ちゃん、ちゃんと現実に戻ってくるのです」

提督(思いの外、電が冷静なのは、沈んだ敵も救いたいって考えてたからかねえ)



 * 少しだけ時をさかのぼり 某鎮守府 *

「潜水艦どもが全員へばったって? MVP取った奴は別だろう?」

伊8(オレンジ疲労)「……」

「なるほど、ハチだけ元気なのか。じゃあお前、単艦で行ってこい」

伊8「……!」

「補給はお前の分だけ出してやる。他の潜水艦連中に補給を受けさせたいなら、とっとと行け」

伊8「……はい」


 * そして一方のオリョール *

「ウハwwwル級イネェwww」

「マジデwwwリアルトンズラwww」

「リダ補充ヨロwww」

「軽巡POP」

「エwwwwww」

「誘ッタ」

「ウハwwwオkwww」

「マジデwwwwwwwwwwwwwwwww」

「オイスー^^」

「ポコタンktkrwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「ル級ガ抜ケテ、アイツラノテンション、オカシクナッテル……」

「大丈夫ナノカ」タラリ

今回はここまでェ。

続きです。


 * 墓場島鎮守府 執務室 *

神通「そうですか。戦艦と交流を持てたということですね」

長門「そうだ。捕まえることもせず、ル級は海に帰って行ったが……いいのか?」

提督「いいんだよ。俺にはあいつを拘束する気はねえ」

長門「神通、貴様はどう思う?」

神通「私はル級さんとの交流に賛成です」ニコッ

長門「……!!」

提督「なんだその意外そーな顔は」

長門「す、すまん、そんなにあっさりと賛成すると思わなかったんだ」

提督「神通が以前所属してた鎮守府は、深海棲艦と友好を結ぼうとしていたからな」

長門「それでか。あんまり良い笑顔で言うから面食らってしまった」

神通「あの……そうは言いましたが、私も諸手を挙げて賛成というわけではありません」

神通「疑いたくはありませんが、彼女が私たちを騙している可能性もありますし、それに……」

長門「それに?」

提督「俺が狙われる、ってか?」

神通「……」

長門「狙われる? どういうことだ?」


提督「神通の元いた鎮守府の司令官……F提督は、深海棲艦と友好を結ぼうっていう連中で集まってた」

提督「それをうざったく思った別の海軍連中が、F提督たちを謀殺したんだよ。戦争が終わったら困るって理由でな」

長門「!」

提督「その犯人が、少佐じゃねえか、って言われてる」

長門「本当か!?」

提督「言われてる、っつうだけで証拠はねえ。だが、あいつならやりかねねえだろ」

神通「……私は、ル級さんとの交流は賛成です。ですが、それを表沙汰にすることには反対です」

提督「ま、そうならぁな。いいんじゃねえか、それで。上に報告すんのも面倒だし、馬鹿正直に報告しても厄介ごとは増えそうだ」

提督「ル級だって人間全部と仲良くしようって気はねえだろ。俺たちだけの関係ってことにしちまおうぜ」

長門「なるほど……乙女の秘密というやつだな」

神通「……」

提督「……」

長門「な、なんだお前たち、その顔は!?」


 * 東部オリョール海 戦闘海域 *

 爆雷<ヒュー…ボボーン

伊8(大破)「くぅ……!」

通信『その海域さえ抜けてしまえば、あとは潜水艦に攻撃できる奴はいない』

通信『そのまま進軍しろ』

伊8「……」

通信『そろそろ次の敵艦隊が見えてくるころだな。適当にやり過ごせ』

伊8「……」

 コーン

伊8「……ソナー音……!?」

ヘ級「……」ニヤリ

伊8「て、敵艦隊に……軽巡洋艦発見……!!」

通信『ああ? その海域に軽巡がいるわけないだろう!』

伊8「で、でも……!!」

 爆雷<ゴポポポ…

伊8「!!」


 ボガボガボガーーン

伊8「あ……!!」ゴボッ

通信『なんだ今の爆発音は! ハチ! 応答しろ!』

伊8「……」ゴボゴボゴボ…

通信『応答しろ! おい! ふざけるな! 応答しろっ!!』




祥鳳「……今、先行していったのは潜水艦でしょうか?」

伊勢「みたいだね。単艦で大丈夫なのかな?」

伊19「潜水艦なら、この海域を抜ければ攻撃される心配はないのね!」

熊野「そうなんですの? でも……わたくしの瑞雲から想定外の連絡が来てましてよ?」

球磨「何かあったクマ?」

熊野「……あの船影……間違いありませんわ。あれは軽巡ヘ級ではありませんこと?」

伊58「ええええ!?」

祥鳳「!! 仕方ありません、軽巡洋艦を優先して攻撃します!」


 * オリョール近海 *

ル級「……戻ルニシテモ、ドンナ顔ヲシテ戻レバイイノカシラ……ハァ」

ル級「……!」

ル級「……アレハ……」


海中に沈んでいく伊8「」ゴボゴボゴボッ


ル級「……」

ル級「……」

ル級「……」


 ザプン



 * 数日後 X提督鎮守府 *

X提督「報告は聞いたよ。オリョールに有り得ないはずの編成の艦隊がいたらしいね?」

通信(W提督)『ああ。伊勢も球磨も目視で確認してる。熊野が瑞雲で映像記録も残してる』

通信『本営に確認したら俺たち以外にもそういう連中と遭遇したって連絡があった。あいつら、気分転換でもしたのか?』

X提督「うちのイクとゴーヤも肝を冷やしたって言っていたよ。祥鳳も真っ先に狙って撃破したって言うし」

通信『……なら、そこで潜水艦娘の船影を確認したこともきいているな?』

通信『熊野が壊れた通信機を見つけてな。調べてみたら、ある鎮守府の潜水艦の持ち物だってことがわかった』

通信『単艦で大破させた艦娘を、進軍させたことは重大な軍規違反だ。二度と艦隊の指揮を執ることはできないだろう』

X提督「その潜水艦娘は……」

通信『残念だが、轟沈したらしい』

X提督「……まだ、艦娘をそんな風に扱うやつらがいるのか……」

通信『戦争だからな。犠牲が出るのは仕方ない』

通信『が、自分の部下を無駄死にさせる無能にだけはなりたくないな』

X提督「……」


 * ほぼ同時刻 墓場島 北東の砂浜 *

(伊8が波打ち際で気を失って横たわっている)

如月「この子は潜水艦ね。伊号潜水艦の8さんよ」

ル級「潜水艦!?」

電「わざわざオリョールから、伊8さんを引っ張ってきたのですか?」

ル級「一応、ネ。ココノ鎮守府ノ艦娘ダッタラ、ト思ッタンダケド……」

提督「そうだったか、気を遣わせて悪いな。うちに潜水艦娘はいねえんだ」

提督「つうか、俺も潜水艦娘を見るのは初めてなんだが……」チラ

ル級「?」

電「どうかしたのですか?」

提督「こいつが着てるの、小学校とかで着るような水着だよな……?」

如月「ええ、俗にいうスクール水着よ」

提督「……」

如月「どうしたの司令官?」

提督「えーとなあ……お前らがセーラー服着てるのって、もともとそれが水兵の制服だから、だよな?」

提督「そこまではいいんだが、その延長で潜水艦は学生用の水着がコスチュームってのはどうなんだ?」

如月「え、ええと……」

電「そう言われても……」


提督「ま、確かにお前らに言っても仕方ねえな。悪かった、聞かなかったことにしといてくれ」

ル級「トリアエズ、コノ艦娘ハ、アナタタチトハ無関係ッテコトネ?」

提督「ああ、そうだ」

ル級「ナラ、撃ッテモ構ワナイワネ?」ジャキ

如月「ええっ!?」

電「ま、待ってほしいのです!」

ル級「ナゼ待タナイトイケナイ?」

電「そ、それは……!」

提督「そりゃ寝覚めが悪いからだろ。仮にも自分と同じ艦娘が、お前に撃たれるのを見て平然としていられるほど、こいつらも図太くねえ」

電「し、司令官さんはどうなんです!?」

提督「さあて、俺は判断つかねえな。こいつが延々ル級を苦しめていたっていうのなら、ル級の気持ちが優先されてもいいんじゃねえの」

ル級「ソレナラ、遠慮ハイラナイワネ?」

提督「まあな。ただなあ……」

ル級「?」

提督「こいつ、やけに細くねえか? 目の下にくまもできてる。そんな奴がお前を何度も相手するのかね?」

如月「私も体の細さは気になってたわ。明らかにやつれてる感じだもの」

電「そもそも、オリョールで潜水艦が沈む話は聞いたことがないのです。こんなになること自体、ありえないのです!」


ル級「沈メテアゲレバ、イイノヨ。ソイツハ、生キルコトヲ苦シガッテルンダカラ」

如月「え……?」

提督「……その根拠は」

ル級「ワカルノヨ。ワタシタチニハ」

提督「へえ……こいつの口から訊いてみたいもんだな、その理由」

提督「ル級、しばらくこいつの身を預かる。また明日ここに来てくれるか」

ル級「……」

提督「心配すんな。逃がしたりしねえよ、約束する」

ル級「……ワカッタ。ダガ、約束ヲ違エルヨウナラ、ワカッテイルナ?」

提督「ああ、好きにしな」



如月「……」

電「如月ちゃん、どうしたのです?」

如月「私、そういえば司令官と約束したことなかったわ……羨ましい」ハイライトオフ

電「!?」ゾクッ

ル級(ナ、ナンダコノ悪寒ハ!?)ゾクゾクゾクッ

今回はここまで。

お待たせしてすみません。続きです。


 * 2日後 墓場島鎮守府 入渠ドック *

明石「簡単に言うと、過労ですね」

提督「……艦娘ってのは、そこまで働かせなきゃなんねえもんなのか?」

明石「残念ながら、潜水艦娘の扱いとしてはさほど珍しくないほうですよ。消費資材が少なく、入渠時間も短いからこその運用方法です」

明石「それに、東部オリョール海は資源の宝庫です。資源調達作業ですから、数をこなしてなんぼなんです」

提督「バケツリレーみたいだな」

明石「そんな感じですね。そしてその備蓄は、本営からある一定期間ごとに発令される大規模作戦のために行われることがほとんどです」

明石「そのために、普段から少しでも多くの資源を確保し、大規模作戦の成功のために各鎮守府が躍起になるんですよ」

提督「それを、日頃の深海勢力の討伐もやりながら、か」チラッ


ル級「……」

眠り続ける伊8「」


提督「話は分かった。が、こいつが2日も目を覚まさないのは普通じゃないよな?」

明石「まあ……普通じゃありませんね。体は治りましたけど、それで目を覚ます気配がありませんから、余程のことがあったんだと思います」


提督「……おい、ル級」

ル級「ナニ?」

提督「こいつは生きるのが苦しいとか言ってたな?」

ル級「エエ、ソウヨ。今モ目ヲ覚マシタクナイミタイ」

提督「明石、こいつの体のほうはもう大丈夫なんだな?」

明石「は、はい、衰弱はしていますが、治療及び損傷の修理は終わってます」

提督「そうか。じゃあ明石、こいつ借りてくぞ」ヒョイ

明石「え!? ど、どこに連れていくんですか!?」

提督「砂浜だ。行くぞル級、ついてこい」

明石「提督!? 待ってください!!」

ル級「?」


 * 北東の砂浜 *

提督「この辺でいいか」

明石「いったい何をしようと言うんですか! 提督!!」

ル級「人ガ集マッテキタワネ」

 ゾロゾロ

古鷹「ほ、本当に敵戦艦と一緒にいるんですね……」

朝雲「明石さん、騒いでるけどなにかあったの?」

由良「あの子、もしかして深海棲艦が連れてきたっていう潜水艦の子?」

利根「……そのようじゃの」


提督「さて、伊8っつったな」

伊8「……」

提督「おい、起きろ」

伊8「……」

提督「起きろよ」ペチペチ

明石「て、提督! 傷病人ですよ!?」


提督「いくらなんでも、ここまで起きねえのはおかしいだろ。ほれ、起きろ!」

伊8「……」ユサユサ

提督「……」

伊8「……」

提督「とっとと起きろやおるああああ!」アイアンクロー

伊8「っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」メギメギメギメギ

明石「提督なにやってんですかああ!?」ガビーン

古鷹「提督やめてあげてー!?」ガビーン

由良「酷い起こし方しないで!」ガビーン

朝雲「……あれがこの鎮守府の普通じゃないからね?」

利根「う、うむ……」

ル級(本当カシラ……)


伊8「う、ううう、ここは……」

提督「××国××島鎮守府。墓場島鎮守府、と言ったほうが通じるらしいがな」

伊8「……××国……そんなところまで、流されてきたの……?」ボンヤリ

提督「で、随分寝起きが悪かったようだが、お前はこれからどうするんだ」

伊8「……はっちゃん、怪我してたのに……手当、してくれたの?」

明石「はい! ひどい怪我でしたよ?」

伊8「そう……ありがとう。でも、すぐに行かないと……」

提督「どこへ行く」

伊8「オリョールへ……資材を、集めに……」

提督「……お前、本気で言ってるか?」

伊8「……?」フリムキ

提督「お前、本当に元の鎮守府に戻りたいのか?」

伊8「……」

提督「お前の意思で、鎮守府に戻ると、言うんだな?」

伊8「……」コクン

提督「だったらどうして、お前はそんなに怯えてやがる」

伊8「え……?」

提督「気付いてないのか? 足が震えてるぞ」

伊8「……!」カタカタ


提督「どうしてそこまで戻りたがる? そんなにお前の司令官が恋しいのか?」

伊8「……や、やめて……!」ビクビクッ

提督「お前を2日も眠り続けるほどこき使う、お前の司令官はそんなに立派なのか」

伊8「やめて……はっちゃんの提督を、悪く言わないで……!」

提督「……」

伊8「怒られる、から、やめてぇ……」カタカタカタ

提督「……!」

伊8「2日も、休んで……連絡もしないで……」プルプルプル

伊8「……あ、つ、通信機も……ない……ない!」ゴソゴソ

伊8「う、ううう……たくさん、怒られる……!!」ガタガタガタ

伊8「はやく……はやく、もどらないと……ちんじゅふに、もどらないと……っ!!」フラフラ

古鷹「……っ」

朝雲「ね、ねえ、ちょっと、異常じゃない……!?」

明石「行かせちゃ駄目です! 提督、彼女を止めてください!」

提督「……」

伊8「もどらないと……おこられる……!!」


提督「……安心しろ。戻る必要はねえ」ガシッ

伊8「!?」エリクビツカマレ

提督「お前は一度、沈んだんだよ。オリョールでな」

伊8「!? うそ……うそっ!」

提督「轟沈したお前の体の傷は、そこにいる明石が直したんだ」

伊8「はなして……はなしてえ……はっちゃんは、ちんじゅふに、もどるの……!!」バタバタ

提督「……」ハァ

 グイッ

伊8「きゃっ!?」ドテッ

提督「おい、ル級」

ル級「ナァニ?」

提督「こいつ撃っていいぞ。好きにしろ」

伊8「!?」

ル級「!」

明石「な、何を言ってるんですか!? 提督!!」

提督「人の話を聞かねえ死にたがりに、手を貸す気はねえ」

提督「こいつは一度沈んでる。戻ったところで解体が関の山だ」

提督「死んだも同然の潜水艦なら、潜水艦に恨みを持ってるル級に撃たせてやったほうがいいじゃねえか」


明石「な……正気ですか!!」

古鷹「」

朝雲(古鷹さんが言葉を失ってる……)

由良「せっかく助かったのに、どうしてそんなことを!」

提督「助かるかもしれない道を自分で潰してるんだぞ。なんで手を差し出す必要がある」

伊8「え? え……!?」

明石「だからと言って、曲がりなりにも一鎮守府を預かる司令官が、そんな判断をしますか!?」

提督「俺は自分の意思があるやつを優先する」

ル級「……」

朝雲「ね、ねえ、利根さん!? 利根さんからも何か言ってよ!」

利根「……」

ル級「……提督」

明石「!」ハッ

ル級「本当ニ、イイノネ?」スッ

提督「ああ」

明石「提督!!」

朝雲「駄目よ!!」

由良「やめてえええ!」


ル級「サヨナラ」ジャキッ

伊8「……ひ……!?」

 ドドドドドォン

伊8「あ……!」

 ドガドガドガドガァァァン

明石「!! てい……とく……っ!!」ギリッ

古鷹「」

朝雲「ほ、本当に撃たせるなんて……!!」

由良「そんな……」ヘタッ

利根「……」

ル級「……フゥ」

提督「……」

明石「提督!! あなたって人は……!!」

利根「待て」グッ

明石「何をするんですか!!」

利根「提督に食って掛かるより、伊8のもとへ行くべきじゃぞ。まだ間に合うやもしれん」

明石「……っ!」ダッ


由良「と、利根さんは、提督に何も感じないんですか!!」

利根「あの伊8は、元いた鎮守府に戻って、またオリョールを巡るだけの存在に戻ろうとしておる。それは伊8にとっての幸せであろうか」

利根「提督のやり方が良いとは思わぬが、伊8のこれからを考えれば、強引ではあるがこの手段もありかもしれぬと吾輩は思ったのじゃ」

朝雲「い、いや、普通ないでしょ!?」

利根「ならば聞くが、普通とはどういったものを言うのだ?」

朝雲「え? え、ええっと……」

利根「吾輩は、前の鎮守府で『もう殺して欲しい』とまで思ったことがある。それこそおぬしの言う『普通』とはかけ離れておろうが……」

利根「ならば、伊8を取り巻く環境が普通であったかどうか? 何を以てそれを確信できようか……!」

由良「利根さん……」

利根「あの伊8は、今の自分が正しいのかを考える力すら奪われている……吾輩にはそんな風にも見える」

利根「生きていれば、幸せを感じる可能性はある。その通りじゃ……吾輩は、今まさにそれを実感している」

利根「ゆえに、吾輩たちがしなければならないのは、伊8の間違った自己犠牲の精神を正してやることではないのかな?」

朝雲「……」


明石「伊8さん! しっかりしてください……あれ?」

伊8「げほ、げほっ、砂が口に……」

利根「む?」


朝雲「ど、どうしたの?」

明石「い、いえ、その、全然命中してないといいますか……」

由良「ど、どういうこと?」

利根「ル級、おぬし……」

ル級「借リハ返シタワヨ」ウインクー

明石「!!」

提督「なんだと? ……お前はそれでいいのか?」

ル級「ダッテ私、戦艦ダモノ。潜水艦ヘノ攻撃ハデキナイワ」

提督「本当かよ」

明石「……提督」スッ

提督「ん?」

 バヂン!

提督「!」ヨロッ

明石「ル級さんですらこうなのに……少しは、人の痛みを思い知ってください!」

由良「良い音」ジトメ

朝雲「そりゃ、ビンタされても仕方ないわよ」ハァ

古鷹「……はっ!? って、提督!? は、鼻血が出てます!!」

提督「つ……気にすんな。歯は折れてねえから安心しろ」ポタポタ

古鷹「顔の左半分が真っ青ですよ!?」


 ザッザッ

不知火「司令、こちらにいらっしゃいま……どうしたんですかそのお顔は」ヒキッ

提督「いいから気にすんな」

不知火「そうは仰いますが……砲撃音も聞こえました。いったい何があったん……」ピタ

不知火「……」パチクリ

ル級「?」クビカシゲ

不知火「……」メヲコスリコスリ

不知火「……」

不知火「……司令? 視界に深海棲艦の存在を確認できますが?」クビカシゲ

提督「その話はあとだ。それより、先月の轟沈艦リスト、もらってきてるな?」

不知火「……はい。それとその件で個別にご報告があります」

提督「なんだ?」

不知火「先日、東オリョール海域の敵艦隊の編成に変化がありました」

不知火「平時は編成に戦艦ル級がいる艦隊が、先日に限り軽巡ヘ級へと変わっていたそうです」

明石「!」


由良「ねえ、それってまさか」チラッ

ル級「……私?」

不知火「……」

提督「不知火、続きを頼む」

不知火「は、はい。その結果、大破した状態で進軍を指示された、某鎮守府の潜水艦娘、伊8が轟沈」

不知火「その艦隊を指揮していた鎮守府の司令官は解任となりました」

朝雲「それ、もしかしなくても、だよね」チラッ

古鷹「そういうことでしたか……」

伊8「?」キョトン

提督「やれやれ……」

不知火「あの、凡その見当は付きますが、不知火にもご説明いただけないでしょうか……」


 * 医務室 *

明石「伊8さん、落ち着きました?」

伊8「……はい」

古鷹「提督も動かないでくださいね」クスリヌリヌリ

提督「ん」

利根「薬を塗って終わりですむのか、その怪我は」

古鷹「なにもしないよりは良いと思います!」

由良「まあ、専門医もいないし……やむを得ないわよね。ね?」

朝雲「半分は提督の自業自得なところもあるしね」

不知火「それで、申し上げにくいのですが……伊8さんが沈んだ遠因に、ル級さんの出撃ボイコットがあったということですね?」

明石「間違いないでしょうね。ル級さんがこっちに滞在していた時期にも合致するし」

由良「ル級さんが抜けた代わりに軽巡が入ったから、潜水艦が無傷で突破できる海域じゃなくなった……ってことね」

朝雲「結果的に、意図せずして意趣返しに成功しちゃった感じ?」

ル級「ナンカ、釈然トシナイワ……」ムスー

利根「ふむ……それもあるが、伊8に大破進軍を命じた司令官も問題じゃろう。そもそも伊8の轟沈はそれで免れたはずじゃ」

古鷹「ですが、その人は解任されましたし、同じような目に遭う艦娘はいなくなりますよね!」ガーゼペタペタ

提督「そうなるといいがな」


古鷹「あっ、提督動かないでください!」ホータイマキマキ

提督「ん……」

不知火「とりあえず、伊8さんの司令官の解任は決定事項です。新しい司令官が着任予定になっています」

不知火「ただ、その方が前任者同様に潜水艦娘をオリョールへ繰り出すかどうかはわかりません」

古鷹「そうですか……そうでないことを祈るばかりですね」ホータイマキマキ

不知火「あとは、伊8さんの処遇についてですが」

伊8「!」

朝雲「ねえ不知火、さっきの資料見せてもらってもいい?」

不知火「ええ、どうぞ」スッ

朝雲「……由良さんと明石さんは一度轟沈してるんでしたっけ?」

由良「うん」

朝雲「それで鎮守府に引き続き着任できているのは、この島の鎮守府の特例、と」

古鷹「提督はすごい権限をお持ちなんですね!」ホータイマキマキ

提督「ん」

朝雲「じゃあ、もう伊8さんの取るべき針路はもう決まってるじゃない」

由良「そうね、結局そこに行きつくわよね」


明石「そういうわけで、伊8さん」

伊8「……」ビク

明石「あなたの鎮守府にいた司令官は馘になりました。彼はもう二度と艦隊の指揮を執ることはありません」

伊8「……! ほん、とう……?」

明石「はい! あなたの鎮守府の潜水艦娘の処遇も変わると思います! 多分!」

伊8「……そう……そう、なんだ……!」

伊8「もう、あのひとに、怯えなくて……いいんだ……!」ポロポロポロ

明石「ただ、あなたは轟沈したことになりました。元の鎮守府には戻れません」

伊8「! じゃ、じゃあ、はっちゃんは……」

由良「大丈夫、この鎮守府には轟沈した艦娘が着任できる特例があるから!」

明石「そういうわけですから提督!」クルッ

提督「……」ホータイグルグルマキー

伊8由良明石「「「!?」」」

明石「……なにやってんですか提督」

由良「……ミイラ男ごっこ?」

利根「さっきから眺めておったが、古鷹が包帯を巻きすぎただけじゃぞ」

提督「ん」


明石「と、とりあえず、伊8さんの着任は認めてくださいますよね?」

提督「ん……」

由良「あの、ん、じゃわからないんですけど」

提督「んぐぐ」ミブリテブリー

朝雲「……もしかして」ガシッ

朝雲「古鷹さん! こんなに包帯巻いたら提督の顎が動かないでしょ!?」

古鷹「え? 苦しくない程度に固定したんだけど……」

朝雲「固定してどうするの!? これじゃご飯も食べられないじゃない!」ホータイホドキホドキ

古鷹「……はっ!? そういえば!!」

明石「古鷹さんってこんなに抜けてましたっけ?」

由良「ときどきだけど、とぼけてはいるわよね、ね」

利根「朝雲は苦労性なんじゃな……」

伊8「……」


ル級「……」

不知火「……あなたは、これからどうするおつもりですか」

ル級「……サテ、ネ」

不知火「……」

というところで、今回はここまで。

続きです。


 * 夜 提督の私室 *

如月「はい、これで大丈夫ですよ」

提督「悪いな。自分の顔の包帯がこんなに巻きづらいとは思わなかった」

如月「うふふ、悪いだなんて……司令官のお世話でしたら、この如月、いつなんどきでも喜んで承ります」

如月「せっかくですからこのまま朝まで……うふふふふー」ニジリヨリ

提督「お前な……」ハァ

 扉<コンコン

利根「利根である。提督よ、夜分にすまないが、いいだろうか」

如月「……いいところだったのに」プクー

提督「いいところじゃねえよ……入っていいぞ」

利根「うむ、失礼する……む? 取り込み中であったか?」

提督「包帯を巻きなおしてもらったとこだ。どうかしたのか」

利根「うむ。ひとつ、確かめておきたいことがあっての……」

如月(利根さん、提督の前まで近づいて行って、何をする気かしら)

利根「……」

提督「?」


利根「せいっ!」ミギストレート

提督「危ねっ!?」バッ

如月「!?」

利根「む……何故避ける?」クビカシゲ

提督「避けるわ馬鹿たれ! なんでお前に殴られなきゃなんねえんだ!」

如月「と、利根さん!? どうして司令官に殴り掛かるの!?」

利根「……おぬしは、明石にビンタされたときには笑っておったではないか」

如月「」シロメ

提督「よく見てやがったな……それはそういう意味じゃねえよ。あん時は殴られても仕方ねえな、って自嘲してただけだ」

利根「そうなのか?」

提督「俺は殴られて喜ぶ趣味はねえぞ。如月もショック受けてんじゃねえか、ほれ戻ってこい」デコツン

如月「はっ!? し、司令官!? 司令官がドMなんて嘘ですよね!?」

提督「知るか、興味ねえから安心しろ」ハァ

利根「……そうであったか。すまないことをした」ペコリ

如月「もう、利根さんったら駄目ですよ? 司令官が大怪我しても、治療できる人がいないんですから」

利根「うむ……重ね重ね申し訳ない」


提督「それよりもだ、なんで俺を殴ろうとした?」

利根「……吾輩は、愛情というものがなんなのか、わからんのじゃ」

如月「??」

利根「前にいた鎮守府のM准将は、吾輩が好きだと言っておった。その反面、吾輩を痛めつけることを喜びとしておった」

利根「吾輩にはどうしても理解できなかった。気に入った相手に苦痛を与える理由も、意味も……」

利根「昼間、おぬしは明石に叩かれて笑っておった。叩いて喜ぶ相手なら、叩く側の気持ちもわかるのだろうか、と……」

提督「……叩く側の気持ちを確かめたかった、ってか」

利根「うむ。しかし、吾輩が提督を殴っていたとしたら、吾輩は途方もない後悔に苛まされておったであろうな」

如月「ね、ねえ司令官? 私たち、まだ利根さんのことはあまり詳しく聞いてないんだけど……」

利根「……話していなかったのか?」

提督「ああ、朝潮にも箝口令を敷いてる。お前がここに馴染む気があるかどうかわからなかったからな」

提督「だがまあ、ありもしねえ噂が立つよりかは、事情を話したほうが良さそうだな」

 * *

提督「つうわけで、利根がここに来た理由は以上だ」

利根「……」ウツムキ

如月「……なんてひどい……」グスッ


提督「事情が事情だからな。俺は正直、利根の過去についてはまだ伏せておきたいと思ってる」

提督「見た感じ、利根もここへ来たときよりはましな顔を見せるようになった。少しは立ち直ったと俺は勝手に思ってるんだが、どうだ?」

利根「……そう、じゃな。地下牢にいたころとは雲泥の差だ」

提督「だが、その頃の話を明け透けに話せるほど、利根の気持ちの整理もできちゃあいないと俺は踏んでる」

利根「うむ……」

提督「この鎮守府の連中は、ほぼ全員腹に一物抱えた奴ばかりだ。不可侵条約的な意味で、暗黙の了解を敷いてるところもあるんだが……」

提督「利根の体の傷だけは隠しようがねえ。利根自身が、その傷を見られても大丈夫なのかどうか……」

提督「そして、その傷を見た連中が変な噂を立てたりしないか。そのふたつが心配で、まだ誰にも話をしてねえんだ」

如月「……確かに、事情を知らなければ勘繰ってしまうかもしれないわね」

提督「出撃すれば絶対に中破しないなんてのも無理だろ。入渠ドックならまだしも、風呂は共同で仕切りもないし」

提督「俺の部屋のシャワーを使わせるような特別扱いをすれば違う意味で怪しいとも思うよな?」

如月「それはそうね」

提督「利根自身が、自分のトラウマに向き合う覚悟もしてないうちに俺が背中を押すわけにはいかねえからな。慎重にもなるさ」

利根「……何故じゃ」

提督「ん?」


利根「何故、提督は吾輩にそこまでする?」

提督「……まあ、一応はこの鎮守府の責任者だからな。俺もお前らも、楽に過ごせる環境を作りたいだけさ」

利根「……おぬしは、やさしいんじゃな」

提督「さあて、そりゃどうだかね」プイ

如月「素直じゃないんだから」

提督「俺が伊8にやった仕打ちを考えても、そんなこと言えんのか?」

如月「その伊8さんにも、助けてって言われたら助けてあげるんでしょ?」

提督「……そりゃあな」アタマガリガリ

如月「ほんと、素直じゃないんだから。ふふふっ」

利根「……如月は、提督を信頼しておるんじゃな」

如月「ええ、提督の秘書艦ですもの♪」

利根「……おぬしになら、聞いても良いかもしれん」

如月「?」

利根「おぬしの考える、愛情とは、どういうものなのじゃ?」

如月「! そ、そうね……」カァァ

利根「? 恥ずかしくなるようなものなのか?」

提督「俺はよく知らん」


如月「恥ずかしいっていうか、どきどきはするわね……なんていうか、その人のことを考えると、嬉しくなる、っていうか……」モジモジ

利根「ほう……」

如月「あとは、その人のために何かしてあげたいって思ったり、もっと私を見てもらいたい、って思うようになるわね」キャー

利根「ふぅむ……」

提督「……その話は別に俺の部屋でやらなくてもいいんじゃねえのか」

如月「もう、司令官はここまで言わせておいて白を切るの?」ズイッ

利根「む?」

如月「司令官は、自分のことを過小評価しすぎてるんです」トン

提督「お、おい?」オシタオサレ

如月「そのお顔。本当なら司令官も明石さんもお説教したいところなんですよ? 良い機会ですから言わせていただきますけど」ノシカカリ

如月「司令官? 自分が正しいと思ったことを貫こうとして、危ないとわかりきってる橋を渡るのはやめていただけません?」オオイカブサリ

如月「この際ですから、私が司令官をどのくらい慕っているか、わかってもらわないといけませんね……!」カオチカヅケ

利根「……な、なんじゃ!? 如月、おぬし何をする気じゃ!」ドキドキ

如月「何って……ふふふふっ」

提督「おいきさら……」

如月「司令官は、少し静かにしててくださいね……!」ガシッ

提督「!」


利根「き、如月! おぬし、まさか……いかんぞ! そんな破廉恥な行為は!!」ドキドキ

如月「止めないで利根さん……私、もう限界なの……!」

利根「そ、そんな大胆な!! ほ、本気で、せ、せ、せっ……」



利根「せっぷんする気か!?」カオマッカ


明石「何言ってるんですか!! もっと先まで行くでしょ!?」ガチャバーーーン!

如月「え」

利根「む?」

提督「おい」

明石「あ」


「……」


如月「明石さん……?」ゴゴゴゴゴゴ

明石「ひぃっ!!」


 * *

明石「すみませんでした」ドゲザ

如月「もう……せっかく司令官と二人きりになってたのに。どうしてこう邪魔ばかりはいるのかしら」

提督「そう腐るな。明石も俺に用件があったんだろ」

明石「え、ええ。その、手をあげた件の謝罪に……」

提督「そいつは俺が悪いんだから気にすんな。お前を責める気はねえよ」

明石「ですが……」

提督「あの状況を見ててお前を責めた奴がいたか? いなかったんだからお前は悪かねえって話だ」

提督「くそ痛えが、首も歯も折れない程度には手加減してくれただろ。だからもう気にすんな」

明石「は、はあ……」

提督「それより明石、お前いつから立ち聞きしてた?」

明石「え、ええ、それは……利根さんがここへ来たときの話のときから……」

提督「なら話は早え。利根の体の怪我、治す方法を考えてくれねえか」

利根「!」


提督「勿論、完全に消すのは難しいだろうが、少しでも目立たなくしてやれば、必要以上につつかれることもないだろう」

明石「わかりました。そういうことでしたらこの明石にお任せください!」

利根「……!」

提督「利根、お前はどうする。俺はお前がやりたいことを口に出さない限り、手は貸さねえぞ」

利根「……吾輩は……まだどうしたらよいかわからぬ。じゃが、もっといろいろなことを知りたい、と思った」

利根「海のことや、この鎮守府のこと、皆のこと……」

利根「……ゆえに、もう少し、生きてみようと思う。おぬしに撃たれたくはないからの」ニコ

提督「言ってくれるな……だがまあ、よく言った」クックッ

提督「じゃ、今日のところはこれで解散だな。俺も寝るから部屋に戻りな」

如月「そう? それじゃ私もここで」

提督「戻れ、っつったろ」ジトメ

如月「……っもう、知らないんだから!」プクー

利根「ではの、提督」

明石「おやすみなさい、提督」

提督「ああ」


 扉<パタム

如月「もうっ、司令官は鈍感なんだからっ」プンプン

明石「……」

利根「……明石? どうかしたのか?」

明石「あ、いえ、なんでもないですよ」



明石「……」

明石(手加減、したつもりなかったんだけどなあ……)


 * 一方その頃 建造ドック *

建造妖精たち「……こんな夜中にわたしたちに仕事を頼みに来たのかい?」

島に住んでいる妖精A(以下島妖精)「ああ……資材は確保できてる。こいつを見てくれ」

島妖精B「開発資材、100!」

島妖精C「燃料4000!」

島妖精D「弾薬6000!」

島妖精E「鋼材6000!」

島妖精F「ボーキサイト2000!」

建造妖精「すごく……大きいです」ゴクリ

島妖精A「? 多いんじゃないのか」

妖精たち(ネタが通じてない!?)ガーン

島妖精G「こほん。これは、これまでわたしたちがコツコツ集めてきたへそくり資材!」

島妖精B「提督が来てくれたおかげで、大型建造に十分な量まで集められたよ!」

島妖精D「あの人が来てどうなるかと思ってたけど……」

島妖精C「やっぱり話が通じるって重要だねぇ」


建造妖精「あんな性格でもか?」

島妖精B「……まあ、あの性格はもう少しどうにかならないかって思うけど」

島妖精G「それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精F「それにしても、わたしたちも変わったねえ」

島妖精C「もともとは、わたしたち全員が島から出るために新造しようとしてたんだよね」

島妖精B「それが、今は……提督を助けたいなんて思うようになるなんて」

島妖精D「提督も早くみんなに対して素直になっちゃえばいいのに」

島妖精A「……簡単じゃないんだろうな。わたしたちがそうだったように」

島妖精F「これから建造される子が、少しでも提督を楽にしてあげられるといいね」

島妖精G「うん……!」

島妖精A「……よし、やるか」

島妖精全員「やろう!」


島妖精B「資材、セット完了! ヨシ!」ユビサシ

島妖精D「数量 ヨシ!」ユビサシ

島妖精A「建造ボタン動作! ヨシ!」ユビサシ

建造妖精「……こっちも準備完了だ。いつでも行ける!」

島妖精全員「……」コク


島妖精全員「建造……開始!」ポチーーーーーッ!!

 ガシャン

島妖精E「……始まった……!」

島妖精F「頼むよ……!」

建造妖精たち「「建造はまかせろーー!!」」バリバリー

島妖精たち「「(余計なフラグ立てるの)やめて!」」

島妖精A「?」クビカシゲ

妖精たち((やっぱり一人だけネタがわかってない……!))


 ゴウン…ゴウン…


 [7:59:16]


 ゴウン…ゴウン…

今回はここまで。

では続きです。


 * 翌日 朝 廊下 *

明石「提督、おはようございます!」

提督「おう、おはようさん」

明石「あの、お怪我の具合は大丈夫ですか? だいぶ色が……痛そうなんですが」

提督「大丈夫だが……包帯、巻き直さなきゃ駄目かもな。飯食ってからでいいか」

明石「では後程お手伝いします!」

提督「頼む」

明石「はい! あ、それと報告したいことがありまして。今、建造ドックで艦娘の建造が行われているんです」

提督「なに?」

明石「あと10分程度で建造できるようなんですが……提督、建造なんてしました?」

提督「いいや? そもそも建造ドックなんて入った記憶すら……いや、ドックの修理が終わったときだけだな。それっきりだ」

明石「ですよね? 提督は、建造なんかしないってはっきり仰ってましたもんね……だとしたらいったい誰が」

提督「建造には資材が必要なんだろ? 資材は減ってるのか?」

明石「いえ、帳簿の数量とは合致してます」

提督「? じゃあ、誰かが外から資材を持ち込んだのか」

明石「それが、よりにもよって大型建造なんです。ほいほい持ち歩けるような量の資材ではないんですよ」


提督「大型? っつっても俺はその辺いまいちわかんねえんだが……じゃああとは、この島の妖精がやったとしか思えねえな」

明石「妖精さんが!?」

提督「砂浜にしょっちゅうガラクタが流れてくるだろ? あれの鉄くずを集めて妖精に渡して、資材の足しにしてんだからな」

明石「そうだったんですか!?」

提督「ほかにも轟沈した艦娘の壊れた艤装や、残ってた燃料とかの処分も妖精に任せてたし……」

提督「仮にあいつらが建造しようとしたとしても、なにかしら意図があってのことだろ。俺からとやかく言うつもりはねえさ」

明石「いいんですか……」

提督「俺より長く島に住んでるからし、俺がこの稼業できてんのも、あいつらのおかげだ。そのくらいのことにケチはつけねえよ」

明石「そうですか……わかりました」

提督「ところで、伊8はどうした」

明石「入渠ドックで念のための精密検査中です」

提督「そうか。とりあえず、艦娘として復帰するかどうか、あいつの口から直接聞いてなかったし、今はリハビリ中って扱いにしたいんだが」

明石「え、ええ……着任させないんですか?」

提督「戦線復帰の前にやってもらいたいことがあってな」

明石「と言いますと?」


提督「この島の海岸をぐるっと見てもらいたい。正直、この島の周囲のどこが危険でどこが安全か把握できてねえ。それを調べて欲しい」

提督「艦娘が流れ着いてくる海流がどこから来るか、残存する艦娘の遺体がほかにないかってのも、わかると助かる」

提督「あとはこの海域でとれる海産物。資材も大事だが、食の充実も士気向上に……まあ、単にうまい飯を食いたいだけだが」

明石「それはもちろんです!」

提督「着任の申請は準備しておく。出していいかどうかの判断は、明石の了解を得た上で出したい。いいよな?」

明石「了解しました!」

提督「よし。じゃあ、あとは利根だが……」

明石「昨晩の様子を見る限り、それほど心配はないように思えますね」

提督「そうか? じゃあ、朝飯の前に建造ドックに行くか」


 * 建造ドック *

 ゴシュウウウ…

島妖精たち「おお……!」

 ガシャッ

島妖精D「この子は……!」

島妖精B「信じられない……!!」

建造妖精「フ……いい仕事をしたな」ドヤァ

島妖精A「ああ。素晴らしい……」

??「……ここは……」ムクッ

島妖精F「目覚めたよ!」

島妖精E「きみ! 自分の名前はわかる!?」ワクワク

??「私……私の名前は……」スクッ

大和「私は大和。戦艦、大和です!」

島妖精F「立った……!」

島妖精C「立った立った! 大和が立ったー!!」キャッホーイ

島妖精G「クララかよ!」ビシーッ


島妖精A「大和がたった?」

島妖精E「死にたい船はどこかしら~?」

島妖精G「それは龍田だよ!」ビシーッ

島妖精A「???」

建造妖精「なあ、Aちゃんてボケ殺し?」

島妖精B「まじめちゃんだからね」

島妖精G「さあさあそんなことより祝杯だよ!」ワンカップダキカカエ

島妖精D「やったあああ! お酒だああああ!」ヒャッハーーー!

島妖精B「鏡割り! 鏡割り!」ワクワク

島妖精F「木槌配るよ!」セッセセッセ

建造妖精たち「わたしたちもいいのか!?」

島妖精C「もちろん! 木槌行き渡ったー!?」

島妖精E「こほん、では皆様ご発声を! 大和の建造を祝して!」

「「ぃよーーぉっ!」」

 ワンカップの蓋< ペキョン

島妖精D「ひゃっはあああ酒だああああ!」ヒシャクブンブン

島妖精F「落ち着けってのー!!」


 ワーワーキャーキャー

大和「……あ、あの」

島妖精A「ん?」

大和「ここはどこなんでしょう。日本ではない気がしますが……」

島妖精A「ああ、ここは××国××島にある孤島の鎮守府だ」

大和「……××国……××島ですか!? そ、そんな遠くの地で、私はお役にたてるのでしょうか……」

大和「そ、それで。この鎮守府の責任者は……」

島妖精A「提督准尉だ」

大和「」

島妖精A「……大和?」

大和「……さ、佐官どころか尉官……見習いとも、少尉候補生ともいえる人のもとに、私が……!?」プルプルプル

島妖精A「お、おい、大丈夫か!?」

大和「……ふ」

島妖精A「ふ?」

大和「不幸だわ……」バターン

島妖精C「山城だこれー!?」ガビーン

 ナンダナンダ!?

 ヤマトニナニガアッター!?


 * *

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精F「確かにショックは受けるよね。なんたってあの大和だもん」

島妖精B「こんな無人島に配属されたら、普通はそういう反応するよねー」

大和「……その……提督准尉は、どのような方なのでしょうか……」

島妖精A「そうだな……ええっと」

島妖精B「口が悪くてー」

島妖精C「目つきが悪くてー」

島妖精E「愛想も悪くてー」

島妖精F「運も悪いよねー」

島妖精G「四翻で満貫だね」

建造妖精「あと直属の上司にも恵まれてない」

島妖精B「あ、それは二翻役」

島妖精B「三翻役でもよくね?」

島妖精G「わーい跳満だあ」

島妖精C「 御 無 礼 」ドヤァァァ

大和「」シロメ


島妖精F「また気絶した!?」

島妖精C「トビで終了ですね」ドヤァァァ

島妖精D「言ってる場合かっ!」ポコーン

島妖精A「大和!? おい! しっかりしろぉぉぉ!!」ペチペチ

大和「……はい、大和は大丈夫です……」ドロリ

島妖精E(これアカンやつや……)タラリ

島妖精F(目から生気が失われてるんですけど……)タラリ

島妖精A「……とにかく、ここに建造されてきたことを今更悔やんでも仕方がない」

島妖精A「大和ほどの艦娘なら、余所の鎮守府からお呼びがかかることも十分ある。だからそれまでの間だけでも……」

大和「……はい、大和は大丈夫です……」ユラリ

島妖精B(これ絶対だめなやつだってばさ……)タラリ

島妖精D「まあね、落胆するのは仕方ない……でも、わたし的には納得できないよ」ヒック

大和「?」

島妖精D「大和が日本海軍の最終兵器だったってことはわかってる。名前からして期待されて建造された艦だってこともさ」トクトクトク

島妖精D「辺境の島で生まれたことを悔やむのも准尉のところに配属されたことを悔やむのもわかるよ……だからってねえ!」グビッ

島妖精D「わたしらだって、なんの希望も持たずに建造ボタン押したつもりはないんだよ!」コップタァン!

島妖精D「たたき上げでもなんでもいい! ここの提督を上に押し上げてやろうって気は起きないのかい!?」

大和「……」


島妖精A「……まあ、どうするかは、とりあえず提督に会ってからでもいいんじゃないか」

島妖精G「そういえば、提督の写真、誰か持ってきてなかったっけ?」

建造妖精「なんでそんなもの持ってきたんだ?」

島妖精F「ほら、提督は今、顔を怪我してるじゃない。いきなりそっちの顔で現れたらびっくりすると思って」

建造妖精「ああ……そりゃ確かになあ」

島妖精A「大和、こっち見ろ。こっちの机。提督准尉の写真があるから、とりあえず顔を覚えてくれ」

大和「……」ウツロ

大和「……」

大和「……この方が……」

大和「……提督……准尉……」

 ガション

島妖精E「ん?」

島妖精D「何の音だ?」

 ガション

島妖精F「み、見て、あれ!」


大和「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

島妖精B「や、大和が……!」

 ガショガショガッション

島妖精G「なんで大和の主砲が最大仰角になってるの!?」

島妖精A「お、おい、大和……?」

大和「……とくは」

島妖精A「?」

大和「提督はいつこちらにおいでになるんですか!?」キラキラキラキラキラキラッ

妖精たち「「「!?」」」

建造妖精「す、少し前に明石が来て、提督に話をしに行くって言ってたけど……」

大和「そうですか! はっ! 髪の毛とか乱れてないかしら……鏡! 鏡は!」キョロキョロ

島妖精D「ね、ねえ……どゆこと?」

島妖精A「……写真をしばらく凝視してたと思ったら、目が輝き始めて……」

島妖精F「つまり、好みのタイプだったってこと……?」

島妖精G「まじっすか……」

島妖精D(蓼食う虫も好き好きってやつかねえ)グビッ


大和「はっ、これも邪魔だわ!」

 ゴソゴソ

 ポイッポイッ

 ガランガラン

島妖精B「……ねえ、今投げ捨てたのって」

島妖精E「徹甲弾の被帽装甲だよね。胸当ての」

島妖精C「まじで何やってんの!?」

大和「だって抱きついたときに痛かったら迷惑です!」

島妖精F「もう抱きつく気満々なんだ……」

 扉< ガチャ

明石「失礼しまーす。建造はもう終わったのかな……って、えええええ?」

妖精たち「「あ」」

大和「……」スッ

明石「ほ、本当ですか……!? まさかこの鎮守府に……!!」

大和「戦艦大和。推して参ります!」ビシッ

島妖精E(うわあ、格好良い……)

島妖精G(さっきまで意気消沈してたのに……)


明石「て、提督! 大変です! 大和です、大和ですよ!! 早く!」ピョンピョン

大和「ああ、ていと……」

提督「大和?」(←包帯ぐるぐる巻き)

大和「」

提督「こいつが大和か……」

大和「……イ」

提督「い?」

大和「イヤアアアアアアアアアアアア!!」ビリビリビリ

妖精たち「」キーン

明石「」キーン

提督「」キーン

大和「い、いったいどうなさったんですか、その顔のお怪我は!!」ズイッ

提督「……大したことじゃねえから、少し落ち着け」

大和「は、はい! ですが、あまりに痛々しいので心配になってしまいます……」

大和(ああ、声も素敵……)トロン

提督(こいつ、俺より背丈あんのか……180cmはあるよな)←177cm


建造妖精「そういえば、その顔の怪我、明石がやったんだって?」

 ゾワッ

大和「……明石さん? それは本当ですか?」ハイライトオフ

明石「ヒィッ!?」ビクーッ

大和「明石さん、どうして逃げるんです? 提督の後ろに隠れてないで、こちらへどうぞ?」ヌラリ

明石「」ガタガタガタガタ

妖精たち(うわあ……)

建造妖精(ごめん明石……)

提督「そんな顔して主砲向けて何する気だ。明石撃つ気なら容赦しねえぞ」

大和「し、しかし」

提督「この怪我に関して、明石に一切の責任はねえ。これは俺の過失だ、文句あんのか」

大和「!! い、いえ、そういうことでしたら……出過ぎたことをしました、申し訳ありません」ペコリ

明石「て、提督、すみません……」カタカタ

提督「明石は謝るなっつってんだろ。俺は最初から不問にするって言ってただろうが」

大和「あの、明石さん、怖がらせてしまってすみませんでした」フカブカ


明石「い、いえ、気にしないでください!」

大和「本当にすみません……」シュン

明石「……大和さん、提督のことを気に入ってるんですね」

大和「え、はい、気に入ってると言うか……」モジモジ

提督「?」

島妖精B(提督もここまでどんくさいと罪だね……)

島妖精F(意図的に他人の好意は遮断してるきらいもあるけどね)

明石「……あ、そうだ。提督、その怪我の包帯の巻き直し、大和さんに代わってもらってもいいですか?」

大和「ええ!? よ、よろしいんですか!?」パァァ

明石「は、はい! いいですよね、提督?」

提督「……まあ、いいけどよ」

大和「こ、光栄です! 全力でお手当させていただきます!」

提督「いや、ゆるくていいぞ?」

明石「とりあえず、朝ごはんを食べに行きましょう! ね?」

大和「はいっ!」


提督「……」

提督「なあ妖精?」

妖精「なあに?」ヒョコッ

提督「こいつ本当に大和か?」

妖精「うん。正真正銘、本物だよ」

提督「マジか」

妖精「ただ……」

大和「~♪」ニコニコキラキラ

妖精「建造直後からこんなに好意的な艦娘って普通はいないはずなんだけど」

提督「……どうしてこうなった?」

今回はここまで。


ちなみに蛇足ですが、島の妖精さんたちのイメージはこんな感じです。

A:流星改
B:25mm連装機銃
C:彗星
D:20.3cm連装砲
E:15.5cm三連装砲
F:九三式水中聴音機
G:61cm四連装(酸素)魚雷

大和の全力で包帯を巻かれて提督の顔が圧壊する未来が見えた
跳満程度の役ですむのか・・・
更新お疲れ様です

続きです。


 * 食堂 *

長門「そうか。利根もついに戦う決心がついたか」

利根「うむ。そういうわけだから、これからよろしく頼むぞ」

長門「ああ、だがまだ無理はするなよ?」

利根「承知しておる。それよりもあの男のほうが余程危なっかしいとは思うが、どうなのだ?」

朝雲「そうね。みんなも見たでしょ、あの提督の顔」

霞「まったく、なにやってんのよあのクズは……」

由良「その提督さん、今朝はどうしたの?」

潮「明石さんが用があるって言ってましたけど……」

吹雪「司令官と一緒に建造ドックへ寄ってから来るそうですよ!」

神通「建造ドックへ? ……提督は過去に建造はしないと仰っていたはずでは?」

敷波「なにがあったんだろーね?」

初春「む、提督が来たようじゃ……ぞ……!?」

朝潮「初春さんどうしまし……えええ!?」

(提督の腕にしがみついて食堂に現れる大和)

全員「「「……」」」

全員「「「えええええ~~~!?」」」ドヨッ


明石「思った通りの反応ですね……」

明石の肩に乗った島妖精A「まあ、あの大和だからな……」

提督「……大和、そろそろ腕を離せ。自己紹介しろよ」

大和「はいっ! 私は大和型戦艦一番艦、大和! 推して参ります!!」

全員「「「」」」アングリ

提督「……まあ、そうなるよな」クビコキコキ

大和「さあ提督! 朝餉にしましょう!」ダキツキッ

提督「げふあ!? い、いい加減離れろ!」

全員「「「……」」」アゼン


比叡「……ほんとにほんとの大和さんなんですね……あ、これ大和さんの分の朝餉です」

大和「ありがとうございます!」

提督「悪いな比叡。いきなりの増員だが、飯の量は足りるか?」

比叡「はい、今日は提督がおかゆだけで良いと聞きましたから、その分を回してますので大丈夫です!」


暁「それよりも、暁は司令官のお顔の怪我のほうが心配よ?」

提督「まあ、こればっかりは医者もいねえし、おとなしくしてるしかねえな」

暁「誰かに頼んでお医者様を呼んだりできないのかしら」ハイオカユ

提督「こんな島に来てくれる医者が、そういるもんかね。それなら俺が行ったほうが早そうだが」オカユウケトリ

暁「だ、大丈夫よ! 一日二日くらいなら、ちゃあんとお留守番できるんだから! まかせてよね!」

明石「頼もしいですねえ! ね、提督!」

提督「……そうだな」ニッ

大和「提督、早く治すためにも、しっかりご飯を食べないといけませんね! さ、早くこちらの席に!」

提督「わかったからせかすなよ……」チャクセキ

提督(ん? なんか嫌な予感がするぞ?)

大和「♪」チャッ

提督「おい大和。それは俺のスプーン……」


大和「ふー、ふー……提督、はい、あーん」ニコー

提督(またかよ)

如月「!?」カシャーン(箸を落とした音)

神通「!?」バキィ(箸を圧し折った音)

敷波「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン

吹雪「し、敷波ちゃん大丈夫!?」セナカサスリ

不知火「」ブボァ

初春「」ブボァ

利根「」ベチャア

由良「利根さん!? 拭く物拭く物……きゃあ!?」ガシャーン

朧「由良さん!?」

朝潮「……」ポカーン

潮「長門さん、私、この光景に見覚えがあるんですが……」

長門「偶然だな潮、私もだ……なあ、古鷹?」

古鷹「ふえっ!? わ、忘れてください!」カオマッカ

霞「……そんなこともあったわねそういえば」ズツウ

朝雲「……簡単に想像できるけど、古鷹さんなにしてたんですか」ズツウ


電「司令官さん……今度は大和さんと何があったのです?」ジトメ

提督「俺は何もしてねえし、むしろ俺が訊きてえよ。様子見に行っただけで、こんなにひっついてくるとか訳がわからねえ」

大淀「大和さん、提督とはなにかあったんですか?」

大和「……運命を、感じたんです」

大淀「……は?」

大和「提督のお写真を拝見したとき、大和の体が熱くなったのを覚えています」

大和「この方をお守りしなければいけない、この方とともに暁の水平線に勝利を刻まなければならないと……」

大和「そんな、使命感にも似た、高揚感を抱いたんです」ポ

提督「……なんで俺なんだよ……」アタマガリガリ

大淀「……初対面、ですよね?」

提督「ああ」

明石「あ、大淀、迂闊なことは言わないほうがいいよ。私、さっき主砲向けられちゃったから」ヒソヒソ

大淀「本当ですか」ヒソヒソ

島妖精A(明石の頭上から)「……もしかしたら、だが」ヒョコ

島妖精A「わたしたちのせいかもしれない……」

明石大淀「「え?」」


 * *

明石「つまり、妖精さんが建造ボタンを押して建造したから、妖精さんたちの意思が多めに混ざったんじゃないか、と」

島妖精A「そうだ。今思えば、結果的にとはいえ提督の役に立ちたくてボタンを押したわけだからな」

島妖精A「それに集めた資材も、もとは提督が拾ってきた鉄くずや壊れた艤装、埋葬した艦娘に残ってた燃料……」

島妖精A「役に立つことができなくなった資材をわたしたちが製錬して建造したから、素材が必要以上に恩を感じてる気もするんだ」

大淀「そういった思いをリサイクルしたら、それが艦娘にも反映されるなんて……聞いたことありません」

島妖精A「……それプラス、埋葬された艦娘の思いが、さらに上乗せされたとしたら?」

明石「……」

大淀「……」

島妖精A「可能性の話でしかないけどな」チラッ


大和「……」モグモグ

提督「おし、ごちそーさん。おーい、朝雲! ちょっと時間あるか?」

朝雲「はーい? どうしたの司令官」

提督「飯が終わったら大和に包帯を巻きなおしてもらうんだが、不安でしょうがねえ」

朝雲「!」

提督「察したな? ちょっと付き合え」


朝雲「あー……わかったわよ。別にいいけど、霞じゃだめなの?」

提督「大和がやたら俺を気に入っててな、さっき明石に主砲向けたんだよ」ヒソ

朝雲「うわあ……それじゃ霞も危ないってこと? もー、どうしてこう面倒な人ばかり増えるわけ?」

提督「理解が早いと助かる」

朝雲「……それはいいんだけど、その大和さんはなんであんなしかめっ面でご飯食べてんの?」

提督「それはわかんねえな」

大和「……ごちそうさまでした。提督、こちらの朝餉はどなたがお作りになられたんでしょうか」

提督「? 今朝は比叡と暁だったぞ」

大和「そうですか……」スクッ スタスタスタ

長門「お、おい提督、大和は厨房に行って何をする気だ!?」

提督「……」

潮「長門さん、提督のこの顔は……」

長門「ああ……どう見ても『面倒臭えな』って考えてる顔だな……」


 * 厨房 *

比叡「さ、遅くなりましたけど、私たちも朝餉にしましょう!」

暁「はーい、いただきまーす!」テアワセー

 厨房の扉<コンコン

大和「失礼します!」チャッ

暁「大和さん!?」

比叡「どうかしたんですか?」

大和「……今朝の朝餉、お二方が作られたと聞きました……!」キリッ

長門「お、おい大和、何をする気だ! 早まるんじゃない!」

潮「な、長門さんも大和さんも落ち着いてください!」

 バッ

大和「比叡さん! 暁さん!」セイザ

比叡「ひえっ!?」

暁「あ、暁さん!?」

長門「!?」

潮「!?」


大和「この私にお料理を!」ミツユビソロエテ

大和「教えていただきたく存じます!」オジギ

比叡&暁「「!?」」

長門「あ、あの大和が……!?」

潮「正座して……お願いを!?」

「……」

比叡&暁「「ぴ」」

潮「ぴ?」

比叡&暁「「ピエェェェェェエエエエエ!?」」

長門「なんだその悲鳴は……いや気持ちはわかるが」

提督「……なーにやってんだ……」ハァ

朝雲「なんていうか、すごいもの見ちゃったわ……」アゼン

今回はここまでー。

>>530
> 大和の全力で包帯を巻かれて提督の顔が圧壊する未来が見えた
私もそう思ったので、まずいと思って朝雲とのくだりを急遽書き足しました。
この鎮守府の朝雲ちゃんマジ有能。

なぜか筆が捗りましたので、続きです。


 * 執務室 *

如月「……それで、大和さんは比叡さんにお料理を教わることになったんですね」

提督「ああ。だが、今日は比叡の出撃もあるしな。とりあえず大和には島を見回りしろって言って追い出したばっかだ」

如月「それにしても、まさか大和さんが着任するなんて、思いもしなかったわ」

提督「まったくだ……」ハァ

如月「司令官には良いことじゃないんですか? 人気の艦娘にあんなに慕われて、包帯も綺麗に巻きなおしてもらっちゃって」ツーン

提督「この鎮守府にゃあ過ぎたる艦だよ。聞けば消費資材が多すぎて、ほいほい出撃できる艦娘じゃねえし」

提督「それに……でかい声じゃ言えないが、女とはいえ俺よりでかい奴に追っかけられるのが、あんなにビビるもんだとは思わなかった」

提督「敵ならぶちのめして終わりだが……敵意がない分どうするか躊躇っちまうな。逃げるのが遅れる」ハァ

如月「……ってことは、まだ私のほうが有利なのかしら」ボソッ

提督「ん? なんだって?」

如月「なんでもありませんよ?」ニコッ

提督「……そうか?」

不知火「失礼いたします。如月、そろそろ出撃準備をお願いします」

如月「え、もうなの? わかったわ、それじゃ司令官、行ってきます♪」

提督「おう、気を付けてな」

不知火「」ケイレイ

 タッタッタッ…

提督「……さて、大和が戻ってこないうちに、見回りに行ってくるかね」

不知火「はい、ご一緒致します」


 * 一方その頃 島の南東部 丘の上 *

神通「……」

神通「!」

大和「あら? おはようございます!」

神通「おはようございます」ペコリ

大和「神通さんはこちらで何をなさってたんですか?」

神通「……今日は、出撃の予定がないので……海を、眺めていました」

大和「海を、ですか……」

神通「……はい」

 ザザーン

大和(……確かに眺めはいいけど、この無数に並んだ艤装は何なんでしょう……)

大和(見ていて落ち着かないというか心がざわめくというか……それなのに、どこか懐かしいような……)

神通「あの……大和さんは、どうしてこちらに?」

大和「え? は、はい! 提督から島を見て回ってこいと言われまして!」

神通「そうでしたか……」

大和「あの、提督准尉は、どんな方なんですか? 妖精さんたちは酷い言いようだったんですが……」

神通「……と、仰いますと」


大和「いえ、練度の高いあなたなら、提督のこともよく知っているのではないかと思いまして」

神通「……そういうことでしたら、私もよくわかっていませんよ。それほど長い付き合いというわけでもありませんし」

大和「そ、そうなんですか?」

神通「私は余所から異動してきましたから。彼をよく知っていそうなのは、不知火さんと如月さん……でしょうか」

神通「不知火さんは、今日は提督と一緒の予定です。埠頭で艦隊を見送ってから見回りに行くはずですので、合流してはいかがでしょう」

大和「本当ですか!? ありがとうございます! それではすぐに提督のもとへ向かいます!」

神通「……」

神通「……大和さんは」

大和「はい?」

神通「提督のことが……本当にお好きなんですね」ニコ

大和「……は、はい!」カァ

神通「すみません、引き留めてしまって」

大和「い、いえ! それで行って参ります!」

神通「はい」

 タタタタッ

神通「……」

(海に視線を戻した後、沈痛な面持ちで目を伏せ俯く神通)

神通「……F提督……」


 * 島の東側 鎮守府埠頭付近 *

不知火「ときに司令」

提督「なんだ」

不知火「司令は何故、如月たちの好意を受けようとしないのですか」

提督「……受けた後の責任が取れねえからな。こんな島でこうやって毎日ダラダラ過ごせてるのが奇跡みたいなもんだしよ」

不知火「では、司令の立場が変われば、やぶさかではないと」

提督「そんなことありゃしねえよ。それに……」

不知火「それに?」

提督「そもそも俺は誰かとくっつくつもりはねえ。気を持たせてもそいつを不幸にするだけだ、だから最初から切り捨てるようにしてる」

提督「神通んとこのF提督みたいに、俺もいつ消されるかわからねえ身だ。そういう意味でも、関わりは希薄にしたいんだが」

不知火「……」

提督「……なんだ、不服か」

不知火「いえ、司令には司令のお考えがあってのことだと。答えづらい質問に答えてくださり、ありがとうございます」

提督「いいさ。お前なら、茶化さなそうだしな。誰かにべらべら言いふらすこともねえだろうし……」

不知火「……」

提督「俺も、愚痴る相手が欲しい時もある」

不知火「……承ります」

 ドドドドドドド…

大和「提督ーー!!」

提督「……やれやれ、休憩時間は終わりだな。とっとと砂浜に行くか」

不知火「……」コク


 * 北東の砂浜 *

大和「わぁ……綺麗な砂浜ですね!」

提督「……まあ、一応な」

不知火「毎日司令が綺麗にしていますから」

大和「そうだったんですか!」

提督「今日は綺麗なほうだよな」

不知火「ええ……」

大和「? なにかあったんです……」


艦娘の腕らしきもの「」ゴロン


大和「」

不知火「司令」

提督「……ああ、今日はいい日かと思ったのにな。残念だ」

大和「……提督。これは……この子は」

不知火「この浜には、大破もしくは轟沈した艦娘が良く流れ着いてくるんです」

不知火「ほとんどの艦娘はこのような姿で……」

大和「……」


不知火「この鎮守府で建造された艦娘は大和さんだけです。この島の艦娘は、みんな余所の鎮守府から移ってきました」

不知火「そしてその半分以上は、轟沈してそのままこの島に流れてきた、轟沈経験艦です」

大和「……それでは、あの丘に埋められた艤装は」

提督「見てきたなら話は早いな。あれは、助からなかった奴らの墓標だ」

大和「……そう、だったんですか」

提督「流れ着いた時点でこうだからな。生きてりゃ奇跡、遺言が聞ければ上等だ」

不知火「体も必ず見つかるとは限りません。艤装、装備品、身体的特徴と、各鎮守府の艦娘の轟沈リストを見比べて、誰なのかを判別しています」

提督「先月のはこの前不知火がもらってきたばかりだ、この腕も誰だったかは調べられるだろ」

大和「……」

提督「つうわけでだ。華々しい戦果を挙げることを期待されてるお前には、相応しくない職場だってことは理解できたと思うんだが?」

大和「いえ。戦争には必ず犠牲がつきものです。それが味方であれ敵であれ……目を背けることはできません」

大和「この島で建造されたからには、この島で指揮を執るあなたの右腕になれるように邁進するのが、ここで建造された大和の務めです」

不知火「大和さん……」

提督「……」

大和「とにかく、この子は……この腕はどうするべきでしょうか」

提督「流されない所に置いて一日様子を見る。この腕の持ち主が明日流れ着いてくる可能性もあるし、浜の別のところにいるかもしれないし、な」

不知火「リストとの照合のため、写真だけ撮っておきましょう」テアワセ


大和「……綺麗な砂浜なのに……悲しい、場所なのですね」

不知火「提督がこの鎮守府においでになるまでは、目も当てられなかったと聞きます」

提督「まあな……ん?」

不知火「あれは……!」

大和「誰か倒れてます!!」タッ

??「……」

提督「こいつ……吹雪に似てんな」

大和「仰る通り、この子は吹雪型の駆逐艦娘ですね」

??「……」

提督「おい」

??「……ぐー……すー……」

大和「!?」

不知火「!?」

提督「……寝てるだけか?」

不知火「よく見れば、殆ど怪我をしていませんね……」

提督「……おい、お前。起きろ」

??「……ん……むにゃ」

提督「お前は何者だ。なんでここに流れてきた。なんで寝てる」

??「……んうう……? ちょっと、待って……ふああ」ムク

不知火「完全に寝ぼけてますね……」


大和「一度にたくさんの質問をしても答えられないのでしょうし……とりあえず、あなた、お名前は?」

??→初雪「……んと……初雪、です……」

提督「……」

初雪「ところで……ここ……どこ……?」キョロ

提督「××国の××島鎮守府だ。墓場島鎮守府とも呼ばれてる」

大和「そんな異名があるんですか!?」

不知火「はい、不本意ながら」

初雪「……はかば、じま?」クビカシゲ

提督「おまえがなんでここに来たのか、覚えてないのか?」

初雪「ここに来たのは……えと、よく、わかんない……です」カクン…カクン…

初雪「それより、寝かせて……おふとん、欲しい……ぐう……」

初雪「……すぴー……」パタッ

提督「……」

大和「……提督?」

不知火「ほぼ無傷で、寝不足で流れ着いてきた艦娘は初めてですよ」

提督「……」

大和「提督? どうなさったんです?」

提督「……いや、こいつをどうしようかって思ってたんだが……この場合、布団だよな。用意するのは」

不知火「……そうですね」

提督「ここまで悲壮感も緊張感もねえ図太い奴は初めてだ……」


 * おまけ 大和、初めての夜 *

大和「提督の寝室から追い出されました……」グスングスン

電「そういうときは妖精さんに資材を渡して鍵を開けてもらうのです」

吹雪「司令官は眠りが深いから、就寝の一時間後くらいが狙い目ですよ!」

如月「ちょっと、教えてるの!?」

朝潮「同衾までは了承するのがお約束ですよ!」

如月「わ、わかってるけど……」

利根「なるほど……それはよいことを聞いたぞ」

如月「もう……司令官には秘密ですからね?」


長門「……いつの間にそんな約束ができてたんだ」

初春「毎晩駆逐艦と代わる代わる同衾しておるおぬしがいうのも今更と思うがのう」

長門「そ、それはお前たちの希望じゃないか! 私に原因があるように言うな!」

初春「そういうことじゃから、提督のことにも口出しは無用じゃ。おぬしと同じで、あやつもどうあっても我らに手を出さんからの」

長門「それはまあそうだろうが……信頼の形として、それは良いんだろうか」ウーム

初春(こういうところがマジメなのも提督に似ておるのう)

初雪登場といったところで、今回はここまで。

駆逐艦の間では長門の部屋にお泊まりが流行中です。

なにも初雪登場の週に初雪が降らなくてもいいじゃないか……。

続きです。


 * 翌日 執務室 *

提督「だからお前の所属はどこだった、って聞いてるんだが」

初雪「……それは、言いたくない、です」

提督「言わねーと俺たちが困るんだよ。誘拐犯扱いされたらたまったもんじゃねえ」

初雪「でも、戻りたくないし」

提督「だったらなおのこと、元の鎮守府に三行半叩きつけてやらねーと駄目なんじゃねえのか」

初雪「もう関わりたくない……ぶっちゃけると引きこもりたい」

提督「それはいいにしても、お前がいた鎮守府の名前や特徴がわからねーと、こっちも対策の取りようがねえだろが、ったくよ……」

初雪(いいんだ……)

提督「じゃあ、質問を変えるか。お前、なんで砂浜に流れ着いてた?」

初雪「……正直、あまり覚えてない……です。多分だけど、遠征の途中だった気がする……」

提督「遠征?」

初雪「とにかく、休みたくて休みたくて、ひたすら眠りたかった気がする」

提督「……ってことは、過労か?」

初雪「……かも」

提督「交戦した記憶は?」

初雪「それは、ないです」


提督「ほかに変わったことは?」

初雪「むー……あ、そういえば」

提督「なんだ」

初雪「声が聞こえなくなった」

提督「声?」

初雪「そう。なんか……いろいろ思い出してきた」

提督「断片でいいから、片っ端から話してみな。整理しようぜ」

 * *

大淀「失礼します」ガチャ

提督「お、いいとこに来たな。初雪の話がだいたい整理できた。お前もちょっと聞いてくれ」

大淀「はい、わかりました」

提督「さて初雪。お前のいた鎮守府には一軍から三軍があって、一軍がメインで動くメンバー、二軍は一軍が動けなくなった時の控え」

提督「一軍と二軍の艦娘にはイヤホンマイクの装備が義務付けられていて、そのイヤホンに指揮官からの指示が飛んでくる」

提督「そして、三軍は入りたての出撃や遠征に行く枠のない、控えの控え」

初雪「……」コク

提督「で、遠征部隊の一軍だったお前は、寝る間もなく遠征に行かされて、疲れがたまって道中でぶっ倒れた」

提督「そのときにイヤホンマイクを紛失したもんで、これまで寝てなかった分の眠気にも襲われた、って感じでいいんだな?」

初雪「……そんな気がする」コクコク


提督「気がする、って、お前そこまで自信がねえのかよ」

大淀「覚えてないんですか?」

初雪「うん……あのイヤホンを付けたあたりからの記憶が曖昧だし」

初雪「体も、発泡スチロールみたいにふわふわしてた……ような」

提督「完全にそのイヤホンが元凶じゃねえか。大淀、心当たりは」

大淀「ありませんね。本営に情報を求めます」

提督「どうも話を聞く限り、催眠術まがいのこともしてそうだな。もし初雪のイヤホンを見つけても、身に着けないように通達してくれ」

大淀「承知しました」

初雪「……んうう」ミミグリグリ

提督「どうした」

初雪「思い出そうとしてたら、耳の中がかゆくなってきた……」

提督「まだ耳の中に何か残ってんじゃねえだろうな?」

初雪「……あ、そうだ。准尉さん、お願い」キョシュ

提督「ん?」

初雪「耳かき、してほしい……です」

提督「……」

初雪「お願い、します」ペコリ

提督「……しょーがねーな……」

大淀(ちゃんとお願いされると、お願い聞いてくれるんですね……)


 * *

(ソファで提督が初雪に膝枕中)

提督「……」グリ

初雪「……んふ」ゾク

提督「……」ゾリ

初雪「……ひんっ」ビク

提督「変な声出すな」

初雪「ごめんなさい」

初雪「でも、准尉さん、上手だから……声が出るのは仕方ない」

提督「そんなもんかね」コリ

初雪「うん……すごく、気持ちいい……ふぁんっ」

提督「我慢しろ」チョリチョリ

初雪「こ、これでもかなり我慢してるし」ウットリ

提督「つうか、溜め込みすぎだろ。なんだこの量」モフモフ

提督「よし、こっちは終わりと。ほれ、反対側」

初雪「はい」ムク タタタッ ストン

大淀(初雪さんが素早い……)


提督「……こっちはこっちで固まってんな。イヤホンつけっぱなしだったからか?」カリ

初雪「んあっ」ゾクゾク

提督「……マジで耳垢がリング状に固まってるぞ……ちょっと力入れるから、痛かったら言えよ」カリカリカリ

初雪「だ、だいじょう……んひっ」ゾクゾクゾク

提督「おぉ……でけえのがごっそり取れてきた」ゾリゾリゾリ

初雪「~~~っ!」ビクビクビクッ

提督「やべ、半分に割れた……が、一応半分はとれたな。つってもでけえぞこれ」

初雪「……は……ふう」ビクン

提督「よし、残り半分、カタマリ取るから動くなよ」ズリズリズリ

初雪「んくぅ……!!」プルプルプル

提督「こっちはカタマリになってたおかげで一網打尽にできたな。残りかす取るから待ってろ」コリコリコリ

初雪「おふぅ……」トローン

大淀(初雪さんの顔が、乙女がしちゃいけない顔になってる……)

提督「……おし、終わったぞ」

初雪「……」ムフー

提督「……おい? いつまで膝枕してりゃいいんだ」ツン

初雪「……ちょっとだけ、名残惜しかった……」ムク


初雪「あの、ありがとう、ございました」ペコリ

提督「おう。これでお前の所属も話してくれりゃ万々歳なんだがな」

初雪「それは嫌」

提督「……ったく」

初雪「でも」ジッ

提督「?」

初雪「こうやって、直接顔を合わせて、あの人と話したこと……一、二回くらいしかないし」

初雪「耳かきだって、やってもらえると思ってなかったし」

初雪「この鎮守府が、どのくらい忙しいのかわからないけど……ここのほうがいい」ポ

初雪「顔も覚えてない人のところに、戻りたくない……ここに、いたい、です」テレッ

提督「そうか……なら、なんとかしねえとな」

大淀(こういうセリフが来ると、提督も真面目モードになるんですよね。だいぶわかってきました)

初雪「……」カオマッカ

提督「……」


初雪「……あの。少し、散歩してきます」タッ

 扉<ガチャ パタム

提督「ん? ああ……って早えな」

大淀(初雪さんは恥ずかしさで逃げていきましたか)

提督「……さて、どうしたもんかね」ミミカキクリクリ

大淀「! ……あ、あの、提督?」

提督「ん?」

大淀「その……よろしければ、私が、耳かき、しましょうか」

提督「あー、気にすんな、自分でできる」

大淀「そ、そうですか」シュン

提督「……そうだな、大淀はいいのか? ついでだし、良かったらやるぞ?」

大淀「わ、私ですか!?」

提督「ああ」

大淀「……」

提督「……」

大淀「……お、お願いします……!」ゴクリ


 * 提督の耳かきには勝てなかったよ *

大淀「」クテェ…

提督「大淀。おい、しっかりしろ。大淀」ユサユサ

大淀「……はうっ」

提督「大丈夫か? もう耳かきは終わったぞ」

大淀「そ、そう、ですか……あ、ありがとうございました……」フラフラ

提督「本当に大丈夫か? 膝が笑ってんぞ……どうしてそうなった」

大淀「お、お前のせいだろが、くそが……」ボソ

提督「?」

大淀「い、いえ、なんでも、ありまひぇん……!」

提督「……こりゃだめだな」グイ

大淀「!?」オヒメサマダッコ

提督「とりあえず部屋まで運ぶから。お前、今日はもう休んどけ」

大淀「て、提督この格好はああああ」カオマッカ

提督「落としたりしねえよ、比叡もこうやって運んだし」


大淀「」プシュウウウウウ

提督「大淀?」

大淀「」カクン

提督「……疲れがたまってたのか?」



妖精「どこまでわかっててやってんのかな、提督は」

島妖精F「それよりほかの子が耳かきをねだってくる可能性、すごく高くない?」

島妖精C「1時間以内にボーキ100」

島妖精D「3時間以内に修復材1個」

島妖精G「きょう一日は来ないに鋼材300」

島妖精B「大穴狙い!?」

妖精「みんなはどこから湧いて出てきたのさ」


 * 2日後 墓場島近海 巡視船甲板上 *

N中佐「初雪とはぐれたのはこの近辺か?」

磯波「はい」

N中佐「ただの遠征で艦娘が行方不明になるなんて、とんだポンコツツールだな」

N中佐「メーカーは滅多にない現象とか言いやがったが、こっちは実害が出てるんだ、とっとと対応しろってんだよ」

N中佐「これが通常海域で邂逅できない艦だったら目も当てられねえぞ、ちくしょうめ」

磯波「……」

N中佐「おい磯波、この辺に鎮守府はあんのか」

磯波「このあたりだとトラック泊地が一番近いです」

磯波「それと、近くの無人島……××国の××島にも鎮守府があります」

N中佐「××島に? 聞いたことないな。立ち寄ってみるか?」

磯波「では、針路を××島にとります」

 ザザザァァァ…


 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

N中佐「驚いた。本当に鎮守府があるとはな」ザッ

N中佐「誰か住んでいるような雰囲気ではあるが、人影がないな……ん? あれは……おぉい!」

由良「? あなたは?」

N中佐「艦娘の由良か。俺は大湊のN中佐だ、理由あってこの海域の調査をしている。急で申し訳ないが、ここの責任者と面会を希望したい」

由良「……わかりました、少々お待ちください」

N中佐「ああ、頼む」


 * 執務室 *

提督「N中佐?」

由良「ええ。海域を調査してるんですって」

大淀「提督……」

提督「……ま、おそらく初雪だろうなあ。大淀、初雪は匿っておけ」

大淀「はい、わかりました。明石のところへ連れて行きます」


 * 埠頭 *

提督「お待たせしました、こんな顔で失礼します」

N中佐「うお!? き、急な話で申し訳ない。私はN中佐だ、あなたがこの鎮守府の責任者ですか」

提督「はい。提督准尉です」

N中佐「准尉? なんだ、准尉か」

提督「……」

N中佐「提督君、この辺で初雪を見なかったか。特型駆逐艦、吹雪型の初雪だ」

提督「……初雪、ですか。轟沈艦ならしょっちゅう流れてきていますが、探しましょうか」

N中佐「轟沈艦? いや、沈んだのなら別に……」

 ザザァァ

吹雪「司令官! ただいま演習から戻りました!」

利根「やはり大和はすごいな。相手も大和の砲撃に右往左往しておったぞ!」

大和「いえ、まだまだです」テレテレ

N中佐「……!」

提督「どうしました」

N中佐「提督君、あの大和はどうした」

提督「どうしたも何も……うちの大和がなにか?」


N中佐「……」

提督「?」

N中佐「……検査だよ、提督君」

提督「検査?」

N中佐「ああ。この鎮守府の戦績を見せてもらいたい」

提督「どういうことです」

N中佐「これは命令だ。君たちの戦績を見せてもらう」スッ

提督「……」

N中佐(イヤホンの回収のために初雪を探しに来てみれば、思わぬお宝に巡り合えた)

N中佐(准尉などという下っ端に大和を従わせておくなど、なんともったいない。俺の部下にしてやった方が確実に戦果は挙がる)

N中佐(階級をちらつかせて奪っても本営が黙っていないしな。戦績なりなんなり穴を見つけて、適当な理由を見つけねば)

N中佐(それか、大和本人に異動したいと言わせるか……!)

N中佐「失礼するぞ!」ズカズカ


吹雪「し、司令官!? 今の方は……!?」

提督「……面倒臭えのがやって来やがったぞ、くそが」

今回はここまで。

では続きです。


 * 執務室 *

大淀「て、提督! このN中佐という人が戦績表を見せろと仰ってきているのですが……」

提督「いい。見せてやれ」

大淀「! は、はい……」


N中佐「……なんだこのやる気の見えない成果は」

N中佐「大和やら長門やら、大戦力を率いておいてこの体たらく……情けない!」

N中佐「俺の鎮守府は大和や長門なしでも、ここ半年で多大な戦果を挙げている。大佐への昇格も間近だ」

N中佐「提督准尉。お前にはこの艦隊は荷が重すぎるようだな?」

提督「……」

N中佐「こんな鎮守府に戦艦など不要だろう。この戦績書は預かる、この鎮守府の過剰戦力は必要なところに移動すべきだ」

提督「……というと?」

N中佐「この戦績書を見て、本営はどう思うかな? この戦果しか出せない鎮守府で、戦艦を遊ばせるなど無駄でしかない」

提督「それはあなたが決めることじゃないと思いますが」

N中佐「お前が決める話でもない!」

提督「では決めてもらいましょうか。本営の中将に」

N中佐「!?」


提督「この鎮守府の運営については、中将に定期的に報告を入れています。中将があなたの判断を良しとするなら、従いましょう?」

N中佐「ちゅ、中将だと!? なぜ貴様にそんな権限がある!」

提督「事情がありますので」

N中佐「……」

提督「……」

N中佐「……私なら、君より良い戦果を期待できる」

提督「は?」

N中佐「10日だ。10日もあれば、君の戦績など余裕で越えて見せられるというのだよ」

N中佐「ふむ……その君の顔の怪我、私の鎮守府で軍医に見てもらえ。10日間、休養を与えよう」

N中佐「その間、この鎮守府の指揮を私が執る。君の戦術がいかに薄っぺらいか、この鎮守府の艦娘に教えてやろうじゃないか」

提督「……」

大淀「提督……」

提督「……承知しました、そういうことであれば、中将にも報告を入れましょう」

N中佐「ああ、賢明な判断だ」ニヤリ

提督「大淀、全員を会議室に集めろ」

大淀「ほ、本気ですか提督!!」

提督「ああ。N中佐、あなたも会議室へどうぞ。私は中将へ報告を行ってから参りましょう」


提督「大淀、N中佐を会議室へ通せ」

大淀「……わ、わかりました……こちらです」

N中佐「うむ」

 扉<バタン

提督「……さあて、妖精。またお前さんの力を借りたいが、頼まれてくれるか?」

妖精「また? しょうがないなあ」ヒョコ

島妖精たち「今回はどうしようっていうのさ」ズラッ

提督「奴の態度を見たか? 初雪の話のときはさして乗り気でもなかったくせに、大和を見てから目の色変えやがった」

島妖精B「へーえ、大和に目を付けたのか」

島妖精C「いい根性してるねえ」

提督「お前たちに、大和を指揮するのにふさわしい奴かどうか、見てもらいたくてなぁ」

島妖精F「そっかぁ、それならしょうがないね」

島妖精G「しっかり見極めてあげないといけないね」

島妖精E「不合格なら埋めちゃおうか」

提督「いいのか? 俺ならやるが」

島妖精A「さすがにそれはやめておけ」タラリ

島妖精D「なんにしても、人の物を奪おうとする輩にはそれ相応の見返りをしてあげないとねえ」

提督「あの野郎は、ここがどんな場所かよくわかってねえみたいだし……ちゃあんと教えてやろうじゃねえか」ニタリ


 * 会議室 *

 バタバタバタ

明石「遅くなりましたあぁ!」バーン

N中佐「大淀、明石で最後か」

大淀「……はい……」

 シーン

明石「あれ? なんなのこの雰囲気」キョロキョロ

N中佐「准尉が遅いせいで、ここの艦娘たちが不機嫌になっているだけだ」

大淀(そんなわけないでしょーが)イラッ

神通(まったくです)ウンウン

古鷹(神通さんはなんで頷いてるんでしょう……)

明石「……えっと、大淀? こちらの方は?」

提督「よお、待たせて悪いな」チャッ

大淀「提督!」

長門「提督! これはいったいどういうことだ!」ガタッ

朝潮「提督が解任されるとは本当ですか!!」ガタッ

提督「どこからそんな話になった。いいから座れ。ったく……」


提督「勘違いもあるようだから簡単に言う。俺の顔の怪我の治療のため、10日ほど島を離れる」

提督「その際、こちらのN中佐に臨時の指揮官として、艦隊の指揮を代わってもらうことになった」

N中佐「うむ、私がN中佐だ。よろしく頼む」ニコー

如月「! か、解任じゃないのね!?」

吹雪「良かったぁ……」ホッ

朧「……」

古鷹「優しそうな方ですね!」

朝雲「そうだといいわね」

朝雲(絶対そんなことなさそうだけど)

霞(ないわね)

長門(ないな)

比叡(提督より優しくなさそうだなー)ムー

暁(なんでかしら、あんまり嬉しくないわ)クビカシゲ

潮(セクハラされないといいなあ……)

敷波(この人も裏がありそうだなー)

神通(古鷹さん以外はみなさん賢明ですね)ウンウン

古鷹(また神通さんが頷いてる……)クビカシゲ


由良「提督さん。質問、いいでしょうか?」

提督「なんだ?」

由良「N中佐さんがこちらの指揮を執ることが正式に決まったのは、いつでしょうか」

提督「ついさっきだな」

由良「……いいんですか?」

提督「いくつか条件というか取り決めもあるが、それを踏まえて中将に了解を得た」

 ザワ…

由良「そう、ですか。わかりました」

N中佐「なんだ、その条件とかいうのは?」

提督「事情により、この鎮守府では艦娘の建造と解体ができません。建造、解体に関係する任務とその報酬もないことになっています」

N中佐「なに? 戦力は増やせないのか!?」

提督「ドロップ艦と呼ばれる外洋で発見された艦娘を保護するのはありですが、それ以外はできません。なあ、大淀?」チラッ

大淀「はい!」

提督「そして、この鎮守府にいる艦娘は、ここにいる全員です」

提督「駆逐艦は、如月、朧、吹雪、電、敷波、朝潮、霞、暁、初春、潮、朝雲、不知火の12名」

提督「巡洋艦は由良、神通、古鷹、利根の4名。戦艦は長門、比叡、大和の3名」

提督「そして、任務管理担当の大淀、工廠を管理する明石。以上になります」


N中佐「建造できないと言う制限はどこから来ているんだ? ドックはあるんだろう?」

提督「妖精です。この島の妖精が建造をしたがりません。N中佐は説得できますか?」

N中佐「いや……ならば仕方ない、か」

提督「この鎮守府は、この戦力でやりくりをしております。了解していただけますか」

N中佐「……いや。私ならもっと良い戦果を残せる。君が未熟なだけだ、言い訳とは見苦しいぞ? 提督准尉」フッ

 ザワッ

N中佐「!?」ゾクッ

提督「……お前ら、座ってろ」

N中佐(……なんだ、今の殺気は)ダラダラ

提督「まあ、経緯はさておいても、中将も俺の怪我を心配してくれている」

提督「10日という限られた期間ではあるが、鎮守府を留守にする間、N中佐とこの鎮守府を守って欲しい」

提督「くれぐれも無理はしないようにな。俺からは以上だ」

長門「提督、N中佐が指揮を執るのはいつからになる?」

N中佐「準備が必要だ。今夜荷物を取りに行き、明日の朝0800にこの鎮守府埠頭に到着、0900から執務開始の予定だ」

長門「その時間ならば、N中佐の朝餉の準備も必要だな?」

提督「そうだな……」

N中佐「ああ、気を遣わなくていい。サンドイッチでも持参するさ」

長門「そうですか。承知しました」

N中佐(あの長門が飯の心配をするか。鎮守府のレベルが知れるな)


 * 鎮守府埠頭 *

N中佐「時は金なり、だ。0830まで滞りなく全員を集めておくように」

提督「承知しました」

N中佐「磯波、この鎮守府の座標の登録は終わったな?」

磯波「はい」

N中佐「よし、では明日朝8時に到着するよう、スケジューラーとナビゲーターをセットしろ」

磯波「……はい、完了しました」

提督「便利な代物ですね」

N中佐「君も私くらい偉くなれば、この程度のものは支給される。もう少し積極的に戦果を挙げる気になればすぐだ」

提督(別にいらねえけどな)

N中佐「世の中は時代とともに進化を遂げている。こんな島にいるからと新しいものに触れないでいては、あらゆる世界から取り残されるぞ?」

提督「……」

N中佐「では、明日からよろしく頼む。行くぞ!」

 小型高速巡視船<ザザァァァァ…

提督「……」

初春「ふむ。行きは良い良い帰りは恐い、と」


初春「随分ハイカラなカラクリを使いこなしておるのう。じゃが……明朝、無事にここへ着くことができようかの」

提督「伊8にも調べてもらったが、この辺の潮流は迷路みたいになってるんだったな?」

初春「うむ。ある程度決まった位置から進入せんと、潮の流れで砂浜のほうへ押し流されるでのう」

提督「定期便もたまに砂浜に流されてるときがあるしな。明日朝にちゃんと埠頭に辿り着けるか、見ものだぜ」

初春「その言いぐさの割には、なんじゃ? 苦虫を噛み潰したような顔をしおって」

提督「最後の最後にまともなこと言ってくれやがったからな。癪だが正論だ」

提督「たまには外に行って、新しいものを取り入れる必要もあるのかね……あいつの鎮守府で、何が流行ってるかヒアリングでもしてみるか?」

初春「あまり俗な流行物ばかりでも困るがのう」

提督「その辺は艦娘の好みもある。こればっかりは男の俺には判断できねえから、手当たり次第になっちまうな……」

大和「提督!」

提督「ん? どうした大和」

大和「どうしたもこうしたもありません! 提督のもとに着任して、ほんの数日で別の人のもとで働くことになるなんて!」

提督「不満だってか? わがまま言うなよ……対案はあるからそれで我慢しろ」

大和「対案?」

提督「奴の狙いはお前だ。少なくとも、お前を奴の好きにはさせねえよ」

大和「提督……」

今回はここまで。

続きです。


 * 翌朝 鎮守府埠頭 *

(鎮守府埠頭の沖合で右往左往するN中佐の船を眺める提督たち)

提督「案の定だな」ニヤニヤ

長門「提督の意地の悪さも相変わらずだな」ハァ

不知火「大和さんが見たら幻滅するでしょうね」

長門「いや、わからんぞ。あの大和なら提督が何をしようと全力で肯定しそうな気がする」

提督「マジかよ最低だな」

長門「貴様が言うな!!」

不知火「それより、N中佐の船はこのまま放置でよろしいんですか」

提督「暁と電を迎えに行かせるって言ったのに断ったあいつが悪い」

不知火「……そろそろ本営へ向かう準備がしたいのですが」

提督「なに? もうそんな時間か。仕方ねえな……暁と電、呼んできてくれ」

電「あんまり遅いから見に来たのです」

暁「司令官、あんまり意地悪しちゃだめなんだからね?」

長門「まったく、駆逐艦の二人のほうが余程大人じゃないか」

提督「そこは三人だろ? 不知火も入れてやれよ」

長門「だから貴様が言うな!!」

不知火「長門さん、まともに取り合わないほうがよろしいかと」


 * 鎮守府 会議室 *

N中佐「あんなに接岸に苦労するなんて聞いてないぞ……」

提督「だから誘導すると言ったではありませんか」

N中佐「くそっ、予定がずれた! せっかく組んだスケジュールを全部見直さねばならん!」

提督(おいおい、どんだけ余裕のないスケジュール組んでんだ?)

N中佐「とにかく全員いるな!? 妙高、あの箱を持ってこい!」

妙高「はい」ドサ

N中佐「全員、これを身につけろ!」

長門「……これは……!」

N中佐「イヤホンマイクだ。俺からはこれを通して全員に指示を出す」

N中佐「貼ってある付箋に名前が書いてあるから、それぞれ自分の名前が書いてあるイヤホンを身に着けるんだ!」

敷波「ふーん……」

利根「なるほどのう……」

朧「……」

明石「私と大淀の分がありませんね?」

N中佐「おまえたちは戦闘要員じゃないだろう。お前たちはお前たちの仕事をすればいい」

N中佐「行き渡ったか? では、全員身に着けて待機するように。指示は追って出すことにする。では、解散!」

 ゾロゾロ ザワザワ


N中佐「さて、ここから先は俺が全部取り仕切る。准尉、俺の鎮守府へ行く準備は済ませているな?」

提督「それはいいんですが、あなたの鎮守府とこの鎮守府は勝手がだいぶ違う。引継ぎの資料を用意したので……」

N中佐「やることなど変わりないだろう。そんなお膳立てなどしなくてもいい、君は治療に専念しろ」

提督「……左様ですか。ですが念のため、大淀から説明を聞いておいてください」

N中佐「くどいな君も。まあいい、早くその大淀と、神通を呼べ。川内や妙高たちを待たせているんだ、急がせろ」

提督「神通を?」

N中佐「第三艦隊を開放しようというんだ。知り合いの鎮守府に頼んで、川内と那珂、那智、足柄、羽黒をレンタルで連れてきた」

N中佐「第四艦隊を開放するための金剛型までは準備できなかったが、まずは第三艦隊まで開放できれば良かろう」

提督「……」

N中佐「なんだその顔は。お前にとっても悪い話じゃないだろうが」

N中佐「いいか、俺がここから去ってお前が復帰した後も、お前には変わらず戦果を上げてもらわねばならん」

N中佐「少しでも環境は良い方がいい。だから俺は知り合いに頭を下げてあいつらを連れて来たんだ」

N中佐「深海勢力を海から駆逐し、安全な海を取り戻すことが俺たちの使命だ。それを忘れてもらっては困る」

提督「……は。ありがとうございます」


提督「……なんだよ。作りたくもねえ借りができちまったな……面白くねえ」

提督「ま、そいつとこいつは話は別だがな……」


 * 鎮守府埠頭 *

比叡「司令ー!」

如月「司令官!」

提督「ん、見送りか。悪いが留守は頼んだぞ」

如月「ええ、まかせて! それよりも」

比叡「こちらをどうぞ!」ズイッ

提督「! これは……」

比叡「お弁当です! 気合、入れて! 作りました!!」フンス

如月「私も手伝ったのよ♪」

提督「そうか。ありがとうな……って、これ、やけにでかくねえか?」

比叡「ちょっと気合を入れすぎまして」テヘペロ

如月「良かったら、みんなにお裾分けしてあげて」

提督「いいのか?」


如月「これで司令官の評価が上がるなら、願ってもないことだわ」

比叡「そうですよ! というより、司令の階級は不当に低いと思うんです!」

比叡「大和さんも来たことですし、どーんと階級が上がってもおかしくないんです!」

提督「はは、そりゃ過大評価しすぎだ。そろそろ行ってくる。じゃ、頼んだぜ」

比叡「行ってらっしゃいませ!」

如月「気を付けて!」

 小型高速巡視船<ザザァァァァ…

如月「行っちゃったわね……司令官」ションボリ

比叡「さ、工廠に急ぎましょう! 妖精さんが待ってます!」

如月「そうね。こんなものをつけさせられてどうなるか、理解ったものじゃないわ……!」


 * 執務室 *

N中佐「駆逐を遠征に……重巡は……」ブツブツ カタカタ

 扉<コンコン

不知火「N中佐、失礼いたします」

N中佐「……不知火か。何の用だ、忙しいから手短に話せ」

不知火「これより不知火は、大和さん随伴で6日間、本営へ行って参ります」

N中佐「!? な、なんだそれは! 勝手な真似をするな!」

不知火「いえ、勝手ではなく、不知火は本営中将の配下の艦娘です。この鎮守府所属の艦娘ではありません」

N中佐「はああ!? どういうことだ大淀!? 不知火の話は本当か!?」

大淀「本当ですよ。不知火さんは中将配下の艦娘です。月に9日間は本営へ、それ以外の時はこの鎮守府に滞在しています」

大淀「言ってしまえば、本営からのお目付役も兼ねているという感じでしょうか」

N中佐「……准尉はそんなこと言ってなかったはずだぞ!?」

大淀「確かに、申し上げておりませんでしたね。ですが准尉は不知火を部下だとは言っていませんよ?」

N中佐「いや、昨日、この鎮守府の艦娘と言っていなかったか!?」

大淀「先日、提督は『この鎮守府にいる艦娘』とは言いましたが、『この鎮守府に所属する艦娘』とは一言も言ってません」

N中佐「……」

不知火「……あの、続きをよろしいでしょうか」

大淀「はい、どうぞ」

N中佐「……」


不知火「中将より、先日建造された大和に研修を受けさせたいとの指示がありました。これよりただちに大和さんを本営へ……」

N中佐「ま、待て! 待てっ!! 6日間だと!? いつそんな話があった!」

不知火「昨日の夕方です。司令から本営に連絡ののち、不知火宛てに連絡がありました」

大淀「不知火さん、本来ならば3日間の予定なのでは?」

不知火「はい、3日間が3回なのですが、今月はうち2回を6日間1回に変更することになりました」

N中佐「なんだそれは……不知火の練度が半端に高いのはそのせいか!」

N中佐「待てよ!? 欠員が2名出ると言うことは……せっかく解放した第3艦隊に欠員がでるじゃないか!」

N中佐「ちくしょう、予定を全部組み直しだ! 妙高たちを帰らせなけりゃ良かった!」

大淀「あの、N中佐……先に直近のスケジュールを連絡しておいたほうが」

N中佐「ちょっと待て! もう少し後にしてくれ! ええと……」ブツブツ

大淀(この人、想定外の事態には弱いタイプですね。これじゃこの先、苦労しそう……)

不知火「大淀さん。やはりこの手の連絡不行き届きはまずかったのでは」ヒソッ

大淀「ええ、本当はよくありません。ですが、この人は初雪さんのことをすっかり忘れてます」ヒソヒソ

大淀「このくらいの意地悪はしても罰は当たらないと思いますよ?」

不知火「そう思いたいですね」

大淀「いざとなったら提督のせいにしましょう」

不知火「賛成です」


 * その頃の巡視船内 *

提督「……くちゅん!」

全員「「!!」」

提督「なんだ? 誰か噂でもしてんのか」ズ

妙高(くしゃみがかわいい……)

那智(かわいいくしゃみだな……)

足柄(かわいい……)

羽黒(かわいい……!)

那珂(那珂ちゃんよりかわいい!?)ガーン

提督「……? な、なんだ? どうかしたか?」

川内「ううん、早く夜戦がしたいなーって」

妙高型&那珂「「!?」」


 * その後……10時30分 執務室 *

N中佐「……大淀」カリカリ

大淀「はい、なんでしょう?」カリカリ

N中佐「なんというか、静かすぎないか? この鎮守府は」

大淀「全員出払ってますからね。N中佐が全員出撃するよう指示なさったではありませんか」

N中佐「そうじゃない。なんというか、人の気配がまったくないというか……そうだ、たとえば警備員はどうした。憲兵は?」

大淀「いませんよ。警備も憲兵も特警も。今この島にいるのは、N中佐と私と明石、それと妖精さんたちだけです」

N中佐「……は?」

大淀「わかりやすく言いますと、この島で暮らしている人間は提督准尉おひとりです」

N中佐「はあぁ!? なんだそれは!?」

大淀「なんだそれはと言われましても……この島の鎮守府の体制はそうなんです。警備に関しては妖精さんにお願いしているような感じですし」

大淀「憲兵や特警が必要になるような事件も……ありませんし」

N中佐「なんだ今の間は」

大淀「いえ、ときどき事件は起きていますけれど、私たちで解決できている、と思いまして」

N中佐「……」

大淀「そういうわけですので、13時の定期便の荷物の搬入ですとか、16時半の定時連絡なども提督のお仕事になります」


N中佐「定時連絡……というのはなんだ?」

大淀「私が先程お渡しした日程表にも記載していますが、日次業務として少佐鎮守府への定時連絡が必要です」

N中佐「その少佐というのは誰なんだ」

大淀「本営の中将のご子息です」

N中佐「……あいつか!? あのバカ息子! 准尉は奴の部下なのか!?」

大淀「少佐を御存知なのですか?」

N中佐「ああ、知ってはいる……だが、どうにもいけ好かん。奴はあの深海勢力の跋扈をなんとも思ってもいない……!」

N中佐「それどころか、今日の逼迫した戦況をへらへらしながら眺めている! まるで戦争を楽しむかのようにな!」

N中佐「准尉があいつの部下だと言うのなら、なおのこと早く大和をうちに引き抜かなければ……」ブツブツ

大淀「N中佐?」

N中佐「む!? あ、いや、なんでもない! 執務に集中してくれ」

大淀「それなんですが……」スクッ

N中佐「ん? どこへ行く大淀」

大淀「こちらの書類が終わりましたので、私は畑に行ってきます」

N中佐「はたけ!?」

大淀「はい。こちらも本来は艦娘の回り番なのですが、全員出払ってますので」

N中佐「そ、そうなのか……離島ならではだな」


N中佐「それと、もう一つ聞きたい。のどが渇いたんだが、ここにポットはないのか」

大淀「お水は食堂へ行かないとありませんね。お茶の道具も食堂にしかありませんし、紅茶やコーヒーも常備しておりません」

大淀「提督はそこにある水筒に氷水を入れて執務してましたので、私たちもそれに倣っていました」

N中佐「……食堂へ行って飲むしかないわけだな。そしてお前は畑仕事か」

大淀「はい。この鎮守府の裏手にビニールハウスがありますので、そちらへ行って参ります」

N中佐「本格的だな……わかった。俺は食堂へ行ってくる。カップは適当に使っていいのか?」

大淀「はい、お昼も適当に済ませていただけると助かります。私の畑仕事もお昼まで終わるかわかりませんので」

N中佐「わかった。ついでに聞くが……酒保でたばこは売ってるか?」

大淀「いいえ、置いていなかったと記憶しています」

N中佐「そうか……たばこもないのか」ガックリ


 * 食堂 *

 ガラーン

N中佐「本当に誰もいないんだな……」

N中佐「……」

N中佐「もしかして間宮と伊良湖もいないのか!? おーい! 間宮!! 伊良湖!!」

 シーン

N中佐「……」

N中佐「なんなんだここは……異質だ、異質すぎる」

N中佐「……カップラーメンとか置いてないだろうか……」ウロウロ


 * 昼過ぎ 鎮守府の裏手 *

大淀(Tシャツ+ジーンズ+麦わら帽子+長靴)「ふぅ……」

明石「おーよどーー」

伊8「」フリフリ

初雪「」フリフリ

大淀「あら、明石。伊8さんと初雪さんも一緒ですか」

明石「うん、一緒にお昼食べないかって。おにぎり作ってきたよ!」

伊8「はっちゃんも手伝ったよ」

初雪「私も少し……!」

大淀「ありがとうございます。もうそんな時間でしたか」

明石「初雪ちゃんも外に出るって言ってたのは、正直意外だったねぇ」

初雪「たまには……それに、ピクニックみたいだし」

大淀「ああ、確かにそんな感じもしますね。ところでN中佐はどうしました?」

明石「食堂におにぎり作っておいてきたけど、気付いてるかなあ?」

大淀「それなら、私のほうで後程確認しますよ。置きっぱなしなら持っていきますから」

明石「それにしても、提督は大丈夫なのかなぁ」

大淀「……確かに、ちょっと心配ですね。でも、昔に比べたら大分丸くなったと聞いてますし」

大淀「おそらく、必要以上には他の人間と触れあおうとはしないでしょうね」

明石「だといいけど……」



今回はここまで。

次回はN中佐の鎮守府のお話になります。

この鎮守府の比叡は肝っ玉母ちゃん枠かと。

続きです。


 * 一方、N中佐鎮守府 駆逐艦寮ロビー *

卯月「ううーー……」

弥生「……」

卯月「退屈だっぴょーーん!」

弥生「……おとなしくして」

卯月「そうは言うけど、この鎮守府に配属されてからずーーっとお留守番ぴょん!」

卯月「一度も出撃してないし、暇で暇で仕方がないっぴょん!!」

弥生「……静かにして」

卯月「どうやったらうーちゃんも出撃できるぴょん!? 遠征にすら駆り出されないぴょん!」

卯月「というか出撃チームはいつお休みしてるぴょん! ご飯食べてるとき以外出突っ張りぴょん!?」

卯月「遠征チームも遠征チームで全然お休みもないし、勤務体系が極端すぎるっぴょん!!」

弥生「……文句言わないで」

卯月「弥生はどうしてそこまで我慢できるぴょん。もしや、司令官に弱みでも握られてるぴょん!?」

弥生「卯月が騒ぐから、煙たがられて私たちにお呼びがかからないんだと思う」

卯月「辛辣ぴょん!?」

望月「つーか卯月マジうるさいんだけどー。黙っててくんない?」ヒョコッ

卯月「こっちも辛辣ぴょん!?」


望月「そんなに出撃したいんなら遠征部隊に志願してもいいんじゃないの~? 今なら行けるかもよ?」

弥生「もっち……なにかあった?」

望月「あー、や、悪いニュースなんだけどねぇ……遠征部隊の初雪が、行方不明になったってさ」

弥生「行方不明……」

卯月「ぴょん!?」

望月「この前から司令官が出てったのはそういうことらしいよ~?」

望月「その司令官がいないから言うけど、遠征中の艦娘が行方不明になるなんて、普通の鎮守府じゃあ起こりえないし」

望月「ここ一月前から、みんな酷使されてたじゃん? あたしのよく知ってる初雪なら、遠征中に逃げたって可能性もあるかなあ……」

望月「余所の鎮守府に逃げられたとしたら、この鎮守府に本営の査察が入ってもおかしくないよねえ?」

弥生「査察……」

望月「司令官はそれを防ぐために、初雪がいなくなった海域を回ってるんだって話だよ」

卯月「……事件の臭いがする話になってきたぴょん」

望月「ま、そうでなくても、主力艦隊の艦娘のみんなの様子がおかしいのは、前々から噂になってんじゃんか」

弥生「うん……鳳翔さんも、赤城さんたちの様子がおかしいって言ってた」

卯月「異常なほど少食になった、って話ぴょん? それ、赤城さんだけじゃなくて、戦艦の人たちもそうみたいぴょん」

卯月「話しかけても上の空。殲滅できても大破しても、ぜーんぜん感情の起伏なしらしいっぴょん」


望月「しかも、主力のひとたちがあんだけ休みなしに働いて、でもご飯はあたしたちと変わらない。どう考えてもおかしいよねえ」

望月「こんな状態で査察が入ったら、どうなんのさ? って話だよ。絶対怪しまれて、何かされるよねえ」

卯月「……」

弥生「卯月?」

卯月「冗談じゃないっぴょん……司令官に一度もいたずらしないまま、鎮守府が解体されるようになったら卯月の名折れっぴょん!!」

望月「いやそれおかしくね?」

卯月「冗談じゃないっぴょん! いたずらしないうーちゃんはうーちゃんじゃないっぴょん!!」

弥生「それ、二回言うの?」

卯月「何度でも言ってやるぴょん! 冗談じゃないっぴょーーーん!!」

卯月「決めたぴょん! 次に司令官に出会ったら問答無用でいたずらしてやるぴょん!!」

望月「ええー……」

弥生「……」

望月「弥生さあ、怒ってもいいんだよ?」

弥生「怒ってなんかないですよ……」ハァァ

望月(これは呆れてるっぽいねえ……)


 * N提督鎮守府 ロビー *

卯月「むむっ!? あそこに見えるのは司令官っぴょん!?」


妙高「検査の結果まで時間がありますので、なにかお飲物でも……」

提督「いや、気を使わないでいい」


望月「……確かに制服着てるけど、なんか違くね?」

卯月「妙高さんと話してて隙だらけっぴょん! チャンスは今! 卯月、行っきむぁああす!」ダッ

弥生「あっ」

卯月(くらえ、うーちゃん奥義! スライディーング、ひざかっくんぴょーーん!!)カクーン!

提督「うおっ」グラッ

卯月「ぷっぷくぷぅ~!! いたずら大・成・功・だっぴょーん!」キャッキャッ

妙高「卯月さん!? 何をしているんです!」

弥生「う、卯月……」オロオロ

卯月「成功したなら脱兎のごとく逃げるぴょー……」アタマガシッ

提督「……おい」

卯月「ん……!?」グリッ


提督「……」(←注:包帯ぐるぐる巻き)

卯月「ぴょおおおおおおん!?」ビクーッ

卯月「あ、あんた誰っぴょん!? N中佐じゃないぴょん!? ミイラ男だっぴょん!!」ガクガクブルブル

提督「いたずらしたのはお前か」グッ

卯月「い……いぎゃあああああ!?」メキメキメキメキ

弥生「え……」

卯月「痛い痛い痛い痛い痛い!! 痛いぴょん!! 超痛いっぴょおおおおおおん!!!」ジタバタ

望月「うっわあ」

卯月「頭が取れるぴょん! 割れちゃうぴょん! 離して! お願いだから離してっぴょおおん!!」ギリギリギリ

提督「お前、人に謝るときはそうじゃねえだろ?」

卯月「ご、ごめんなさいぴょん!! 許して欲しいっぴょぉおおおおんん!!」ナミダボロボロ

提督「……ったく、まあ良しとするか」パッ

卯月「ううう、なんて馬鹿力だっぴょん……頭が握りつぶされるかと思ったぴょん」サスリサスリ

提督「いきなり背後から不意打ちしかけるお前のせいだろうが」

弥生「卯月が悪いんだから、気にしないで……」


望月「っていうか妙高さん、司令官はどうしたの? この人は?」

妙高「N中佐はしばらく出張です。こちらの方は……」

提督「俺は提督准尉、××島鎮守府の指揮官だ。お前らはここの鎮守府の艦娘か」

望月「あーい、望月でーす」

弥生「弥生、です。そして、こっちが……」

卯月「卯月でぇーーっす! うーちゃん、って呼ばれてむぁ~す!」クルリーン

提督「……うぜえ」ギロリ

卯月「!?」


 * 休憩室 *

望月「へー、精密検査ねえ」

妙高「そのために鎮守府を離れる提督准尉の代わりに、N中佐が指揮するんだそうです」

望月「ふーん」チラッ


卯月「検査が終わったんだから、待ち時間あるぴょん? うーちゃんとお話するっぴょん!」

弥生「……卯月、少し静かにして」

卯月「余所の鎮守府のお話なんてそうそう聞けることないっぴょん! うーちゃん、外のお話を聞いてみたいぴょん!」


卯月「離島の鎮守府がどんなところか、弥生だって聞いてみたいと思うぴょーん?」

弥生「え……それは、そう、だけど」

卯月「さあさあ准尉さん、観念して洗いざらいうーちゃんに話すぴょん!」

提督「面倒臭え」

卯月「その反応はあんまりぴょん!!」ガビーン

妙高「あの島といえば、准尉? 島の丘に無数の艤装やら単装砲やらが並んでいましたが、あれは一体何でしょう?」

提督「……面白い話じゃあないぞ。それでもいいなら話すが」

妙高「?」

卯月「おお、話す気になったぴょん!? 聞かせて欲しいぴょん!!」ワクワク

望月(なんだか嫌な予感がするんだけどねえ……)

提督「……あれはな……」

 * *

望月(うん、やっぱり聞かなきゃ良かった系の話だった)

弥生「……」ズーン

卯月「ひどい話だぴょん……」ズーン

妙高「あれが全部……お墓だったんですか」


提督「うちの島の潮の流れが特殊なせいでな。艦娘の残骸やらなにやらが、海岸によく打ち上げられるんだ」

望月「残骸って……」

提督「ソフトな言い方したって事実は変わらねえよ。まあ、艦娘は水葬が一般的らしいが……」

提督「潮流が強い島の近辺じゃあ水葬は無理だから、土葬してる。野晒しは可哀想だしな」

弥生「……」

卯月「……」

望月(さすがの卯月もおとなしくなってるなあ)

提督「で、運よく生き残って、死にたくないって自分の意思で言えた奴は、うちの鎮守府に着任させてる」

提督「自分の敵を取るために出撃するもよし、今後の生活のために遠征するもよし。そいつらの好きにさせてる」

妙高「提督が指揮をなさっているわけではないんですか?」

提督「俺は書類のハンコを押す係。島に住んでいる艦娘の生活のサポート役でいいのさ。階級も気にしてねえし、俺はなにもしねえ」

提督「……と、思ってだらだらしてたんだが」ハァ

妙高「?」

提督「正直、今の環境でいいのかと思い悩んでもいる」

妙高「と、仰いますと?」

提督「お前らの司令官に『世の中は常々進歩している、こんな島で引き籠ってたら取り残される』なんて言われてな」

妙高「N中佐、新しいもの好きなところがありますから」


提督「そう考えると、俺は奴らに古臭い生活を強いているんじゃねえか、って気がしてきてなあ」

提督「そういうわけなんで、適当に流行物の雑誌類を貰ってこうかって考えてたんだが、誰に相談しようか悩んでたところだ」

提督「俗っぽいのは好きじゃねえんだが、娯楽の殆どは俗っぽいからな……俺の意思をはさまないようにしたい」

卯月「雑誌って言っても、いろいろあるぴょん? どんなのがいいぴょん?」

妙高「そうですね……たとえば准尉のご趣味はなんだったんですか?」

提督「俺の趣味か? ストレッチと……読書くらいか。あと人間観察」

望月「読書ぉ!?」

卯月「意外にインドアな趣味ぴょん……」

提督「口喧嘩で負けたくなかったってのが一番だな。文字が読めないと馬鹿にされるのも嫌だった」

提督「自分は頭がいいと思ってる奴らは、俺を馬鹿だと思って見下してきてる。で、俺の知らないだろう言葉を使ってなじってくるわけだ」

卯月「性格悪いっぴょん……」

提督「中学生の喧嘩ならそんなもんだろうよ。それより上でも同じような醜態をさらす奴はいるけどな」

提督「俺がそういう経験をしていて、自分の部下の艦娘に同じ轍を踏ませないような教育をしていないとなれば、俺は馬鹿かという話になる」

提督「俺自身はともかく、あいつらには黒いもん抱えさせたまま生活させたくねえし……そうだな。教養と娯楽は必要だ」

弥生「……」

提督「なんだよ。何か不服か」

弥生「別に、怒ってなんかないです。感心してただけで……すいません、表情かたくて」

提督「ん、ああ、そういうことか。こっちこそ悪かった、人の気持ちを察するのは苦手でな」


軍医「提督准尉、検査結果が出ましたので、こちらへどうぞー」

提督「……やっとお呼びがかかったか。ちょっと行ってくる」

妙高「はい。いってらっしゃいませ」

望月「……はーぁ、予想以上に重い話だったねえ……」

卯月「これは由々しき事態っぴょん。向こうの鎮守府には笑顔の元が足りてないっぴょん!」

弥生「……それは、そうかも」

卯月「妙高さん! 准尉の鎮守府に協力してあげるぴょん!」

妙高「そうですね……協力しましょう」

望月「あー、でもいたずらはやめたほうがいいよねえ。また頭を掴まれるかもよー?」

卯月「う゛……だ、大丈夫ぴょん! ばれないようにやるぴょん!」

望月「その前提が駄目なんだって……」

妙高「ところで、みなさんお昼ご飯はどうしました?」

卯月「!? も、もうそんな時間ぴょん!?」

望月「あー、いいっていいって。どーせ普通に行っても、混んでて食べた気しないし」

弥生「今くらいの時間のほうが、ゆっくり食べられる……」

卯月「鳳翔さんの賄い料理を食べられるときもあるぴょん!」

妙高「では、准尉が戻ってきたら一緒に食べに行きましょう」

望月「あーい」

弥生「わかりました……」

卯月「了解っぴょん!!」

というわけで、今回はここまで。

更新お疲れ様です

雑誌でイタズラの基本といえばエロ本?

快○天とかコミックL○とか?危険だなー(棒)

エロ本ではありませんが、裸が多い某漫画。

続きです。


 * 食堂 *

卯月「というわけでぇ、准尉を連れてきたっぴょん!」

提督「……」(←樹脂製のゴーグル型フェースガード着用)

卯月「ミイラ提督改め、鉄仮面提督だっぴょーん!」

提督「鉄じゃねえよ」

間宮「……サッカー選手にああいうマスク着けてた人がいませんでしたか?」

望月「あ、いたかも。確かその人、鼻の骨を折ってたんじゃない?」

妙高「頬の怪我が完治するまでは、こちらのマスクを着用してくださいとのことです」

提督「ったく、冗談じゃねえな、くそが」

鳳翔「准尉さん、お食事の時間にその言葉遣いはいけませんよ」

提督「ん……ああ、そうだな。これは失礼」

卯月「やーい、怒られたぴょん!」

提督「あ? また掴まれてえか」ワキワキ

卯月「そんな脅しに屈するうーちゃんじゃないっぴょん!?」ササッ

望月(速攻で鳳翔さんの後ろに隠れてるし……)

提督「ったく、愚痴りたくもなるぜ。あの医者の野郎、固いものは食べるな、柔らかくて流し込めるものを食えって言ってきやがったんだぞ」

提督「それでうちの連中が作ってくれた弁当もダメだって言われたんだからな」ゴトン


妙高「無理もありません。頬の骨にひびが見つかったんですから」

間宮「それにしても、大きなお弁当箱ですね」

提督「如月が『良かったらお裾分けしろ』って言ってきたくらいだ。最初から俺一人で食わせる前提じゃねえな、こりゃ」

提督「そういうわけなんで、良かったらつまんでくれ。それと……鳳翔だったか? おじや作るから、厨房と小さな鍋を借りたいんだが」

鳳翔「それでしたら私が承りますが」

提督「いいや、この程度のことは俺でもできるんで、手を煩わせるつもりはないと思ったんだが。やっぱり余所者を厨房には入れたくないか?」

鳳翔「いえ、無理にとは申しません。老婆心ながら申し上げただけです」

提督「そうか。んじゃあ、とりあえず塩とか醤油がどこにあるか教えてくれると助かる」

提督「ごはんはこっちの弁当のを使わせてもらうから……」ベントウガパッ


ごはんの上の海苔文字「キサラギヨリ アイヲコメテ」+文字を囲む大きなハートマーク


提督「……」

妙高「あらあら、これは……」

弥生「……」ポ

鳳翔「まぁ……」ニコ

間宮「可愛らしいですね」ニコニコ


望月「こりゃ提督准尉も隅に置けないねえ」ニヤニヤ

卯月「こんなところで見せつけてくれるぴょーん!」プククー

提督「帰ったら如月は尻たたきだな」ピキピキッ

全員「「!?」」

提督「とりあえずおじやでも作るか」ガッガッ

卯月「ハートマークの真ん中から容赦なくしゃもじで割り開いてるぴょん!?」

鳳翔「准尉、落ち着いてください!」


 * 一方の遠征中の如月 *

如月「はくちゅん! はっ! 今、司令官が私のこと噂してる!?」

如月「もう、司令官ったらそんなに喜んでくれるなんて!」モジモジ

如月「帰ってきたらたくさん愛してくれるのかしら! や~ん!」

朝雲「ちょ、止めないの……?」

暁「? いつも通りよ?」

霞「平常運転よね」

朝潮「問題ありません!」

電「なのです!」

朝雲「えええ……」


 * N提督鎮守府 食堂 *

提督「つうか、3段重ねのお重とか、何考えて作ったんだよ……どう見ても一人前じゃねえぞ」ガパッガパッ

望月「おぉ、いいねえ。定番のから揚げに卵焼き……黒豆も入ってんじゃん」

妙高「ミニハンバーグに煮物まで入ってるなんて、豪華ですね……!」

鳳翔「見た目も素晴らしい……かなりの腕前とお見受けいたします」

卯月「おいしそーなから揚げいただくぴょーーん!!」バッ

弥生「卯月、お行儀悪い……!」

卯月「いっただっきまーす! ぱくっ」

間宮「これも如月ちゃんが作ったんですか?」

提督「いや、これ作ったの比叡だな」

鳳翔間宮妙高「「「比叡さん!?」」」

卯月「もぐもぐ……うっ!」

弥生「卯月……!」

望月「しっかりしろって!」

卯月「う……うううっ!」プルプル

 パァァ…

提督「? なんだこの光」


卯月(全裸)「うまいぴょぉぉん……!!」ウットリ

全員「「!?」」

弥生「卯月が裸になって浮いてる……!?」

望月「なんで、から揚げ食っただけでこんなことになってんだよぉ!」

卯月(全裸)「お弁当なのに、こんなにおいしいから揚げは初めてぴょん……!」

卯月(全裸)「口の中で食んでいると、おいしいのがじゅわじゅわ溢れてきて、ずーっと口の中に含んでいたいぴょん……!!」ウットリ

望月「……マジか。あたしも食いてぇ」ジュルリ

妙高「望月さん!?」

望月「……」ヒョイパク

 ペカー

望月(全裸)「マジうめぇ」フワァ

全員「「!?」」

望月(全裸)「やべぇコレめっちゃうますぎ。全部にレモンかけて独り占めしてぇ」モッキュモッキュ

弥生「それはダメ……かけるなら小分けにしてから自分のお皿にだけかけて」

間宮「弥生ちゃん冷静ッ!?」


提督「……なあ、俺の目はおかしくなったのか? こいつら、なんで脱いでんだ?」

妙高「い、いえ、それはなぜかは……」

卯月「もぐもぐ」

望月「もぐもぐ」

全員「「!?」」

提督「服、着てるな……」パチクリ

妙高「ええ……」メヲコスリコスリ

間宮「それにしてもこのお弁当……」マジマジ

鳳翔「ええ、私たち以上かもしれません」マジマジ

妙高「お二人がそこまで仰るなんて、そんなにすごいんですか……」

提督「まあ、うちの比叡は余所とは違うからな……」

鳳翔「……こちらの卵焼き、いただきますね」パク

間宮「私も失礼いたします……」パク

 フワァァ…

鳳翔(全裸)「……これは……!」

間宮(全裸)「……こんなことが……!」

提督妙高弥生「「!?」」


鳳翔「このおだし。市販品ながら白だしにお醤油を絶妙な割合で合わせてますね……」

間宮「卵の焼き具合も程よく……このやわらかさ、お弁当に入れる前提で考えて焼いてあります」

鳳翔「ええ、それだけではなく……」

間宮「はい、しかも……」

提督「おい妙高。ここの鎮守府の連中は瞬時に脱いだり着たりする特技でもあんのか」セキメン

妙高「そ、そんなことありません!」

弥生「……でも、本当においしそう」オソルオソル

妙高「弥生さん!?」

弥生「黒豆、いただきます」モグ…

妙高「じ、准尉は見てはいけません!」メカクシ

提督「うおっ」

弥生「……!」

弥生「おいしい……!」ホワァァァ

妙高「……あら?」

提督「あぁ、もしかして黒豆は如月が作ったのか」ヒョイパク

提督「……うん、うめえな。これ、砂糖の加減が難しいんだよなぁ……ちょうどいい塩梅じゃねえか」モグモグ


間宮「弥生ちゃんの目尻があんなに下がったところ、初めて見ましたね」

提督「まあ、つまみ食いはこの辺にして、そろそろ厨房を貸してもらっていいか」

鳳翔「そうですね、私たちもご飯にしましょう。準備しますから待っててくださいね」

提督「妙高は一口食べなくてもいいのか?」

妙高「え……私ですか」

鳳翔「はい。準備しますので、ちょっとお待ちいただくことになります」

妙高「……そ、それでは、こちらのミニハンバーグを……」ソッ

鳳翔「では、准尉はこちらへどうぞ」

提督「はいよ」

間宮「私もご一緒します」パタパタ

妙高「提督は行きましたね……」

妙高「……」ゴクリ

妙高「ん……」パク

妙高「ん……!」モグモグ

妙高「んんんんん……!」ビクッ


妙高(こ、これは……冷えて固形化した油が、口の中で簡単に溶けていく……)モグモグ

妙高(噛むとハンバーグの中に入っていた薄味のソースが肉の油とブレンドして……)

妙高(口中いっぱいに、ぶわっと旨みが広がっていくのが、とても刺激的……なんて美味しい……!)ゴクン

妙高(全裸)「んんーーー……っ!」ビクビクッ

卯月「!?」

望月「!?」

妙高「……ふぅ」

弥生「おいしかったですか……?」

妙高「ええ、とても」ニコッ

望月(おとなだった)カァ

卯月(おとなだったぴょん)カァ



 * どこかの戦闘海域 *

比叡「ひとくちハンバーグは! 一番気合入れて作りました!」ドカーン

古鷹「誰に向けて言ってるんですかその掛け声!?」


 * N提督鎮守府 厨房 *

鳳翔「おかゆじゃなくて、おじやにするんですか?」

提督「おかゆにするために米を洗ったら、海苔がはがれちまうのが勿体ないからな。そのまま煮てしまおうと思ったんだ」

間宮「でしたら、厨房に残ってるごはんでも作れますよ」

提督「いや、あの弁当は俺が受け取ったんだから、俺が少しでも食わなきゃ失礼だろ」

提督「ま、おじやに作り変える時点で失礼なんだけどなあ……」

鳳翔「……海苔をそのままにすると言うなら、お茶漬けにするという手もありますね」

提督「!」

鳳翔「お椀を準備しましょうか。わさびもお使いになりますか?」

提督「あ、ああ。助かる」

間宮「そういうことでしたら、お茶の道具を用意しますね」

提督「……」

鳳翔「どうなさいました?」

提督「いや、二人とも手際が良いなと思って、感心していた。俺もそれなりに自炊はしていたんだが、思わず見入ってしまってただけだ」

鳳翔「ふふふ、ほめすぎですよ」

提督「……鳳翔も、本当は全部の鎮守府に一人ずついるはずなのか?」

鳳翔「え? いえ、そうとは限りませんが……間宮さんならそうですけれど」


提督「そうか……うちにはその間宮はいないんだよ」

鳳翔「え!? じゃ、じゃあ、伊良湖さんは!?」

提督「イラコ?」

間宮「し、知らないんですか……」

提督「ああ。比叡が来るまでは各自自炊してたし、来てからは来てからで艦娘と回り番で飯を作ってたりしてたんだ」

間宮「そんなお話、初めて聞きます」

鳳翔「いくら離島の鎮守府とはいえ、異常事態だと思いますよ」

提督「そうか。まあ、そうなんだろうなあ……ん?」

間宮「?」

提督「なあ……あのバケツ、なんでテーブルの上に置いてあるんだ? 普通床に置くもんだろう?」

鳳翔「これですか? これは高速修復材です」

提督「修復……? ありゃあ入渠ドックで使うもんだよな?」

鳳翔「たまに食べ物に混ぜて欲しいという話もあるんですよ……」

提督「……は? マジか? 食べられるのか、これ」

鳳翔「ええ。患部に塗ったり、口から摂取したり、頭からかぶったりと方法は様々ですが……」

鳳翔「その中身の液体が艦娘の体に触れるなり取り込まれるなりすると、効果を発揮するみたいなんです」

提督「みたい、ねえ……」スンスン


間宮「私たちも、その中身の液体がどういうものなのか、正直なところよくわかっていないんです」

提督「ふーん……少し見せてもらうか。ちょっとこの小皿とスプーン、借りるぞ」

鳳翔「えっ」

提督「……水飴みたいだな」トローリ

間宮「あ、あの、准尉!?」

提督「……ふむ、無味無臭……」パク

鳳翔「じゅ、准尉!? 何をしているんですか!?」

提督「うお、びっくりした。どうかしたのか?」

鳳翔「い、いえ、まさか修復材を小皿に移して食べてしまうとは思いもよらず……というか、大丈夫なんですか!?」

提督「ああ……水飴みたいな触感なのに、口に入れてると綿飴みたいにすっと溶けて消えるのは面白いが……」

提督「全然味気ねえんだな。黒糖でも混ぜないと食べづらそうだ」

間宮「あの、そういう意味じゃなくて、体調とか、本当に大丈夫なんですか?」

提督「ああ……別に何もおかしくないが……?」

鳳翔「……」

間宮「……」

卯月「鳳翔さーーん! はやくご飯にするぴょーん!」

望月「はらへったー……はやくぅぅぅ……」

鳳翔「! は、はーい!」

間宮「さ、行きましょう准尉さん!」

提督「お、おう」

今回はここまで。

こちらも続きです。
墓場島鎮守府に戻ってきます。


 * 夕方 墓場島鎮守府 執務室 *

大淀「N中佐、搬入作業お疲れ様でした」

N中佐「ぜぇ、ぜぇ……」

大淀「お水をお持ちしました。大丈夫ですか?」コト

N中佐「……ん……ごく、ごく、ごく……」

大淀(返事をする余裕もないみたいですね)

N中佐「ぷは……っ! はー、はー……」

N中佐「お、大淀。提督准尉は、いつもこんなことしてるのか……」

大淀「運搬は分担していますが、いつも立ち会ってますよ。少佐を信用していないので、数量チェックも欠かさずやってます」

大淀「普段から書類は少ないのですが、力仕事は多いですね。提督も朝のうちに書類仕事はすべて片付けて、日中の大半は外にいますし」

N中佐「……」ゼーゼー

 扉<コンコン

長門「長門だ。海域から帰投した」

大淀「どうぞ」

長門「ああ、失礼する。報告書を持参した、確認を頼む」チャッ


N中佐「……」グッタリ

大淀「報告書、いただきますね」

長門「あ、ああ。なあ、N中佐は大丈夫なのか」

大淀「まあ、ご覧のとおりですね。午後の搬入作業、N中佐にほぼ一人していただきましたから」

長門「一人でだと?」

大淀「正確には明石と私も少し手伝いましたが、私たちの仕事もありましたので、お手伝いできたのは途中までですね」

長門「そうか。それは大変だったな」

N中佐「おい……長門。お前は、こうなることは予見できていたのか……?」

長門「ある程度はな。この鎮守府の艦娘が全員全力で出撃すれば、こういう事態になることは予想できていた」

N中佐「……なぜ何も言わなかった」

長門「提督から『初日はN中佐の指示に全面的に従え、彼の意に背く反論や余計な進言は控えろ』と指示を受けている」

長門「この島の特殊な事情も把握せず、大湊と同じ感覚で指揮しようとした貴様への、提督からのささやかな嫌がらせ、と言ったところか」

N中佐「……っ!」

長門「正直に言えば私も貴様は気に入らん。ろくに我々と話もせずいきなり従えと言われれば、不興を買うのも至極当然の成り行きだろう」

長門「貴様には貴様の正義があるのだろうし、考え方やセオリーもあるのだろうが、現状の把握もせず、提督からの引継ぎもせず」

長門「貴様の考えが通用する土台を作ることを怠って、一足飛びに戦果をあげようなど、見方によっては傲慢と言わざるを得ないやり方だ」

N中佐「……チッ」


長門「それから、貴様が配ったこのイヤホンマイクについてだが」

N中佐「……なんだ」

長門「まったく音が聞こえない。壊れているのか?」コンコン

N中佐「なんだと!?」ガタッ

 扉<コンコン

霞「霞よ、遠征から戻ってきたわ、入っていいかしら」

大淀「どうぞ。お疲れ様でした」

霞「失礼するわ。あら、長門さんもいたのね」チャッ

霞「はい、これ報告書……って、汗くさいわね!? N中佐はなにをしてたのよ」

長門「一人で搬入作業をやっていたそうだ」

霞「……ふーん。その程度でだらしないわね」

霞「で? 次は何をするの? 指示を出してもらわないと私たちも動けないんだけど。あのクズより戦果をあげるんでしょ?」

N中佐「!? 霞のイヤホンにも指示が飛んでいないのか……!?」

霞「何も来てないわよ? それより、その言い方だとイヤホンで全部指揮しようとしてたわけ?」

霞「部下の顔色も見ないでどこ行けなにやれ、命令しようとしてたってこと? あんた、あたしたちのこと舐めてんの!?」

N中佐「……」


霞「まあいいわ……で、どうすんのよ。こんなもの、何も聞こえないんじゃ耳栓と同じよ」イヤホンハズシ

N中佐「……いい。今日はもういい、休め」

霞「そ。じゃ、艤装の整備でもしてくるわ」クルッ

大淀「N中佐。そろそろ定時連絡の時間です」

N中佐「……わかった」

長門「では、私もこれで失礼する」スッ

 扉<パタン

N中佐「……はぁぁぁぁ……」ガックリ



 * 廊下 *

霞「……ちょっと言い過ぎたかしら」

長門「そんなことはない。私の方こそ、少しやりすぎたかもしれないな」

霞「長門さんは何もしてないでしょ」

長門「何もしていないからこそだ。事前にこの鎮守府のことを話しておけば……」

霞「そんなことしなくていいのよ。N中佐、この鎮守府に何の興味も示してなかったじゃない。ほんとに大和さんしか眼中になかったし」

霞「あいつにとっては、私たちにこんなものを渡すくらいには、私たちのことなんてどうでも良かったのよ」

長門「なら、霞がさっき自嘲していたのは何故だ?」

霞「そ、それは、まあ……こっちでイヤホン壊したのに、壊れてるって嘘ついたことに後ろめたさを感じただけ!」


霞「それもこれも全部あのクズが仕組んだことなんだから、あいつが悪いのよ!」

長門「そうだな。提督ならその悪者役も望んで引き受けてくれるだろうな」フフッ

明石「あ、長門さんも戻ってきましたか! おかえりなさい!」

長門「ああ、明石か。ただいま」

明石「長門さんも、イヤホンの音は何も聞こえませんでしたか?」

長門「ああ。おかげさまで、耳が痒いだけで済んだ」イヤホンハズシ

明石「霞ちゃんたちも影響がなかったみたいなので、うまくいったみたいですね!」

霞「やっぱり、あのイヤホンの音ってまずかったの?」

明石「ええ、工廠の妖精さんたちと一緒にあの音の波長を確認したんですが、どうも妖精さんの声の波長と同じようなんです」

明石「それを絶え間なく聞かせることによって、艦娘を半洗脳状態に陥れるという代物ですから、聞き続けていたらどうなってたかわかりません」

明石「特に大和さんのイヤホンからは、N中佐の配下になるよう促すような音声も入ってましたから、危なかったですね」

霞「……思ってた以上にクズね。後ろめたさなんか感じる必要なかったわ」

島妖精G「提督が最初から怪しんでいたからねー」ヒョコッ

島妖精D「今みんながつけてるのも、音が出ないように壊したり、解析のために中身を抜いてガワだけにしたりしてるから、無害なはずだよ」

長門「初雪がつけていたイヤホンもそうだったんだな?」

明石「はい、初雪さんから話を聞いて、その日のうちに砂浜を散策してイヤホンを発見しています」

明石「それの音声データを解析した結果も本営にも送りましたし、これをどうするか、もうすぐ本営の回答も得られるはずです」


長門「なんだかんだで提督の思惑が当たっていたというわけか。恐ろしい話だ」

島妖精A「あとな、今回のイヤホンからは食欲が減衰するような効果のある音も混ざってた」

長門「どんな音だ?」

明石「食事が不快になる音らしいです」

島妖精G「そうだねえ……たとえば、クチャラーって知ってる?」

霞「……最悪じゃない……」

島妖精G「まあ、あれじゃないけど、そういう感じの音らしいよ」

島妖精F「それと、長門のイヤホンからは戦意高揚の効果のある音もあったみたい」

長門「本当か……」

明石「おそらくですが、艦娘を戦闘用、遠征用に最適化しようとしていたんでしょうね」

明石「暗示をかけて疲労や食欲までコントロールしようとしてた可能性もあります」

長門「……私たちを、完全に兵器にしようと言うわけだな」

明石「こうなると提督とは真逆の対応ですからね。みんな気に入らないのは同じだと思いますよ」

霞「ったく、あいつ、早く帰ってきてくれないかしら」

明石「そうですね……すみません、私のせいで」シュン

霞「あっ、べ、別に明石さんが悪いって言ってるわけじゃないから! 勘違いしないで!」オロオロ

長門「……」ナデナデ

霞「って、長門さんなんで私の頭なでるの!?」カァァ

長門「す、すまん! つい!」

霞「つい!?」


 * 一方その頃 執務室 *

N中佐「……で、定時連絡というやつはいったいなにを連絡するんだ」

大淀「実際には、今日何があった、と言う程度の日々の連絡になります。雑談するだけですよ」

大淀「昔は少佐が出る時もありましたが、今は秘書艦の赤城さんに専属で応対していただいてますね」

N中佐「そうか……気楽に構えてていいんだな?」

大淀「はい。受話器をどうぞ、今お繋ぎしますね」ピッピッ

N中佐「う、うむ」

通信『RRRR...RRRR...ガチャッ』

N中佐「……」

通信『はい、少佐鎮守府です』

N中佐「!」

N中佐(なんだ、この冷えた声は……)ゾク

通信『もしもし?』

N中佐「……こちら、××国××島鎮守府、臨時司令官のN中佐だ」

通信『N中佐……提督准尉よりお話は聞いております。墓場島の指揮を一時的に引き受けたそうですね』

N中佐「は、墓場島!?」


通信『……なるほど、その様子では何も聞いていない。准尉が意図的に話さなかったのか、それともあなたが聞く耳を持たなかったのか』

通信『その島がどういう場所なのか、あなたは御存知ない。そういうことですね』

N中佐「ど、どういう意味だ。貴様は何者だ、何を知っている!」

通信『……申し遅れました。私は少佐鎮守府、少佐の秘書艦、赤城です。短い間ですが、よろしくお願い致します』

N中佐(俺の鎮守府にも赤城はいるが、あいつからこんな薄ら寒い……背筋の寒くなるような冷めた声は、聴いたことないぞ……!)

通信『さて、N中佐。どういう意味か、という問いでしたね?』

N中佐「う、うむ……」

通信『提督准尉の報告によれば、その島には轟沈した艦娘がたびたび漂着するそうです』

N中佐「そ、そういうことか。由来だけ聞けば、そう呼ばれるのも仕方ないな」

通信『……その流れ着いた艦娘たちを、提督准尉が埋葬し、墓を作りました』

N中佐「!?」

通信『その墓が並んでいるから、墓場島、と呼ばれるようになったと聞いています』

N中佐「は、墓場……!? お、俺はそんなもの、見ていないぞ」

通信『私も島には行ったことがありませんので、具体的にどんなものかは把握していませんが、そこはそう呼ばれるような場所なのです』

通信『では、その島の鎮守府に所属している艦娘たちの半数以上が、轟沈した艦娘であることも御存知ないのですね?』

N中佐「な!?」


通信『かつて、轟沈した艦娘を招き入れ、その艦娘が深海棲艦化したために鎮守府が壊滅した話……』

通信『あなたも艦娘を率いる立場になったとき、訓話として聞いたことでしょう』

通信『提督准尉は、その訓話に反し……いえ、知ったうえで轟沈した艦娘を保護し、部下として育てているのです』

通信『拠点としての重要性が低く、航路としてもあまり価値のない、離島の鎮守府だからこそ……』

通信『有体に言ってしまえば、提督はその島を、隔離施設として運用しています』

N中佐「ば、馬鹿な! あの話が本当なら、そんなことを海軍上層部が許すのか!? むしろ何故そんなことをしようとする!?」

通信『本営の中将の提案によって特例を得ました。准尉以外の人間が滞在しないことについても、准尉は了承しています』

通信『さて……N中佐? その墓場島鎮守府を守るその役目、果たしてあなたに勤まりますか? 大和さんがお目当てのあなたに……!』

N中佐「っ!」

通信『おそらくは准尉も勘付いていることでしょう。あなたに指揮を任せた意図については、私も理解できかねますが』

通信『ともかく、10日間と仰いましたね。准尉のように覚悟のないあなたがその島で何日もつのか。何日連絡を取り合えるか……』

通信『忠告はさせていただきました。今後、その島であなたがどのような活動を行うかは、あなたの判断に委ねます』

N中佐「……」

通信『今日は初日ですから、この辺に致しましょうか。では、ごきげんよう』

 チン

N中佐「……」


大淀「N中佐、どうしました? 顔色がよろしくないのですが」

N中佐「……大淀。お前も、轟沈艦か」

大淀「いいえ、違います」

N中佐「そうか……赤城に聞いた。この島では轟沈した艦娘を鎮守府においていると。何故この事実を黙っていた!」

大淀「知らないままのほうが指揮しやすいかと思いましたが」

N中佐「ぐ……」

大淀「そうでなければ、大変失礼いたしました」

N中佐「……この島の、墓場というのは、どこにある……」

大淀「島の南東の丘の上です。もうすぐ日が落ちますので、足を運ぶのは明日以降になさったほうがよろしいかと」

N中佐「……わかった」

大淀「それから、敷波さんたち第三艦隊の遠征がもうすぐ終わります。本来の予定ですと、すぐ次の遠征に向かわせる予定でしたが……」

N中佐「中止だ。帰還したなら待機させろ。それから……俺が来る前の日程表があれば、それを見せてくれ」

N中佐「明日は、そのもともとのスケジュールで鎮守府を回す。そのうえで鎮守府を見回りたい」

大淀「! 了解致しました」

N中佐「……はぁ……最初からこうしていれば良かったのか……」

大淀「N中佐?」

N中佐「……なんだ」

大淀「シャワーを浴びてきてはいかがでしょうか? お部屋までご案内しますよ」

N中佐「……ああ。頼む。一度すっきりしたほうが良さそうだ……」

今回はここまで。

落とせるときに落としておこう……。

続きです。


 * N鎮守府 工廠 *

卯月「こっちが工廠ぴょん!」

提督「……さすがにでっけえな」

卯月「でも、明石さんは酒保にいるから留守ぴょん? わかっててこっちに来るなんて、無駄足ぴょーん?」

提督「無駄足じゃねえさ。こっちの明石にも、あとで話を聞きに行くつもりだ」

弥生「あとで……?」

望月「ほかに誰か話ができる人、いたっけ?」

提督「ああ、いっぱいいるじゃねえか。騒々しいくらいだ」キョロキョロ

弥生「?」

望月「……まさか」

提督「そうだな……おい、お前。ちょっと聞いていいか?」

工廠妖精1「え!? わ、わたし!?」オロオロ

提督「ああ、お前だお前。間違ってねえから安心しろ」

 ドヨッ

提督「おぉ……妖精の視線が集まったな。そんなに珍しいのか?」

工廠妖精2「珍しいっていうか初めてだよ!」

工廠妖精3「本当に私たちの声が聞こえるの!?」


提督「ああ、聞こえてる。聞こえてるから一人ずつしゃべっ」

工廠妖精4「えー、すっげえ! マジで!?」

工廠妖精1「わ、わたしが話しかけられたんだから、わたしがお話するのー!」

 キャーノキャーノ ヤイノヤイノ

提督「……」ピキッ

卯月「あっ」

望月「あっ」

弥生「あっ」

提督「 う る せ え 」ゴゴゴゴゴゴ

妖精たち「「ヒィッ!?」」ビクッ

望月「……うん、まー、そーなるよね」

弥生「卯月……どうして私の後ろに隠れるの」

卯月「はっ!? べ、別に隠れてなんかないぴょん!?」

望月(トラウマになってる……)

提督「興味があるのはいいが、楽しい話題じゃあねえぞ?」


提督「先日、うちの鎮守府がある島の砂浜に、この鎮守府の駆逐艦、初雪が漂着した」

 ザワッ

提督「それでその時、初雪がつけていたと思われるのが、このイヤホンなんだが……」スッ

提督「妖精のなかで、これの詳細を知ってる奴はいるか?」

 ザワザワ…

提督「ちなみに持ってきたこのイヤホンは外側だけで、中身の機械はうちの工廠にある」

提督「ある程度はうちの明石に調べてもらってて、これがどういう物かはそれなりにわかってるつもりだ」

卯月「ちょっと待つぴょん……! 准尉がそれを持ってきたってことは、初雪はどうなったぴょん!?」

弥生「……! まさか……」

望月「沈んだとか言うんじゃないだろうね……?」

提督「……」

卯月「准尉!! 答えるぴょん!!」

提督「……どうなったかなんて、言えるわけねえだろうが」

提督(まだ調査中なんだからな。でもまあ、こんな風に思わせ振りなことを言えば……)

弥生「そんな……」

望月「なんていうか……」

卯月「ひどいぴょん……」

提督(……効果ありすぎたか? まあいいや)


提督「とにかくだ。これがどういうものなのか、説明できる奴はいないのか?」

妖精たち「……」

工廠妖精5「あのぉ……わたし、知ってます」

工廠妖精6「お、おい」

工廠妖精5「ただ……お願いですから、N中佐を責めないでもらえますか?」

提督「? ……話次第だな」

 * *

工廠妖精5「と、いうわけでして……」

提督「……事情は分かった。が、N中佐の身の上関係なしに、あまり良い状況じゃねえぞ?」

工廠妖精5「と、仰いますと?」

提督「まず、初雪は無事だ」

 ドヨッ!?

卯月「ちょっ……さっき助からなかったみたいな空気させてなかったぴょん!?」

提督「俺は守秘義務があると思って言わなかっただけだぞ?」ンベー

卯月「うーちゃんを騙すなんて味な真似をしてくれるぴょん!!」プンスカ

弥生「……怒りますよ」

提督「俺よりN中佐に怒って欲しいもんだがな。まあ話は最後まで聞け」


提督「初雪は無事だったが、島に流れ着いてからしばらくの間は眠りっぱなしだった」

提督「休みなく遠征に駆り出され、たまっていた疲労がピークに達したんだろうな。奴は浜でも平気で寝てたぞ」

提督「さらに、イヤホンを付けてた頃の記憶が曖昧ときてる。N中佐の顔すら未だによく思い出せないでいるほどだ」

提督「もし、このままずっとイヤホンを付けたまま活動していたら、初雪はどうなっていたか、想像してみな」

全員「「……」」

提督「そもそも、初雪が沈まなかったのは運が良かっただけだ。遠征とはいえ危険な海でいきなり意識失ったら普通沈むぞ?」

提督「でだ。この鎮守府の初雪が付けてたんだから、ほかにもイヤホン付けた奴はたくさんいるんだよな?」

提督「そいつら、大丈夫なんだろうな? 急にぶっ倒れたりしないだろうな? 取り返しのつかないことになってたりしないだろうな!?」

全員「「……」」

提督「使うのはN中佐の勝手だ。それで艦娘が轟沈すんのも奴が撒いた種だ。俺に止める権限なんてねえ」

提督「だがな、こんな物を俺の部下に使おうとすんなら話は別だ。うちの奴らに何かあったらどうしてくれるつもりだ!? くそが!」

全員「「……」」タラリ

提督「まあ、そういうわけなんでな。俺の鎮守府の艦娘には既に対策を取らせてもらってる」

卯月「ちょっと待つぴょん。准尉はこの鎮守府のみんなには何もしないつもりぴょん?」

提督「何もしねえよ。つうか、危機感持ったんなら、あとはお前らでなんとかしろよ」

提督「そもそもN中佐が指揮権を手放してるわけでもねえし、余所者の俺が勝手なことするわけにもいかねえだろ」


弥生「本音は?」

提督「面倒臭え」

卯月「とんでもない本音が出たぴょん!?」

望月「弥生もなんでそんなこと訊くのさ……」

弥生「言うんじゃないかと思って。准尉の物言い、なんとなく、もっちに似てるし」

望月「いやあ、あたしもそう思ったけどさあ……認めたくねー……」ウヘェ

卯月「……准尉」

提督「なんだ」

卯月「うーちゃんは司令官のやり方、ちょっと間違ってると思うぴょん」

卯月「司令官の思いだって、今さっき妖精さんから聞くまで知らなかったぴょん」

卯月「みんなと、司令官を助ける方法……なにかないぴょん?」

提督「……まあ、なくはねえと思うが、N中佐まで助けるとなると面倒臭えな」

提督「とりあえずだ、艦娘を助けたいんなら、イヤホンの危険性を証明すりゃあいい」

提督「艦隊の主力を数人とっ捕まえて、検査を受けさせろ。体調の異常や判断力の低下、なんでもいいから粗を探せ」

提督「このイヤホンの音が、どのくらい艦娘に有害かを上に訴えろ。艦娘はそれでなんとかなるだろ」

鳳翔「そういうことでしたら……」スッ

提督「!」


鳳翔「今、そのイヤホンをつけている艦娘の精密検査をしていただくよう、私から進言致しましょう」

卯月「鳳翔さん!?」

鳳翔「すみません、気になってお話を聞かせていただきました」

提督「まあ、別にかまわねえけどよ。今の話、あんたに任せていいのか?」

鳳翔「大丈夫ですよ。私もそれなりにこの鎮守府では長いほうですから」ニコ

提督「……そうか。じゃあ頼まれてくれ」

鳳翔「それで……初雪さんは、本当に無事なんですね?」

提督「おう。頭はともかく、体はぴんぴんしてんぞ」

鳳翔「そうですか。良かった……」ウルッ

鳳翔「本当に、良かった……! これ以上、犠牲は出してはいけないと……ううっ」グスッ

弥生「鳳翔さん……!」

提督「……」

工廠妖精5「あ、あの、准尉さん……」

提督「ん? なんだ?」

工廠妖精5「できれば、初雪があなたの島に流れ着いた時の状況を、詳しく教えて欲しいです……」

工廠妖精5「初雪がどんな様子だったか、漂着した原因はなにか……」


工廠妖精5「対症療法になりますが、あなたに初雪の様子を教えてもらって、どんな治療方法を施すべきか考えたいです……」

提督「……わかった。そういう話なら協力する」

工廠妖精5「もちろん、それとは別に、今いる艦娘たちの検査も並行して進めるべきだと思います……」

工廠妖精5「鳳翔さんが後押ししてくださるなら、多分、N中佐も、説得に応じてくれるかも……!」

卯月「鳳翔さん鳳翔さん! うーちゃんには何ができるぴょん?」

鳳翔「卯月さんはまだ何もしなくても良いと思います。ただ、准尉の仰るような症状がみなさんに出た場合……」

鳳翔「そのときに、卯月さんたちの手をお借りできれば、嬉しいですね」

卯月「まっかせるぴょん!」ムネポーン

弥生「私も手伝います……!」

工廠妖精7「……わたしも協力するよ。みんなはどうする?」

 ヤルヨー

 テツダウー

鳳翔「……ありがとう……!」ホロリ

提督「……」

望月「んん? おーい、じゅーんいー? なぁんで不満そうな顔をしてるんだよー」

提督「義を見てせざるは勇無きなり、ってとこか? いいよなあ、綺麗事が通用する世界は」

望月「もしかして拗ねてんの? 鳳翔さんにいいとこ取られたからって」


提督「いいとこなんて俺はいらねえよ。面倒が増えるだけだしな」

提督「それ以上に、協力的なやつが多いと世の中救われるねぇ、って思っただけだ」

望月「言うことがいちいち卑屈っぽくない?」

提督「世の中、理不尽なことのほうが多いだろ。全部丸く収まってたら俺みたいな人間は生まれねーよ」

望月「あーはいはい。准尉も面倒臭い人だねえ」

提督「まあな。あとは、俺より面倒臭いあの野郎をどうしてやろうか、って話だ」

望月「うえぇ……N中佐にも喧嘩売んの?」

提督「俺の身内に手を出したんだ、しっかりけじめつけるためにも、痛い目見てもらわねえとなぁ?」ピキピキ

望月(うっわ、完全に悪役の顔だよ……)

提督「そういうわけだから、お前らは鳳翔のサポートしといてくれ」

望月「はぁ……はいはいっと。あーもーマジ面倒くせー、なんでこんなことになってんだよー、もー」

提督「望月……ずっと気になってたんだがお前、俺の真似すんじゃねえよ。趣味わりぃぞ」

弥生「もっちは普段からそんな感じ……真似じゃないです」

提督「……マジで?」

卯月「マジだぴょん」

提督「……」

望月「うわ、なんでこの世の終わりみたいな顔すんだよぉ。感じわりー」

提督「いや、世も末だろ俺と似た艦娘って……」



提督「あー、それと……鳳翔?」

鳳翔「はい?」

提督「あんたさっき、これ以上、犠牲を出したくないっつったな?」

提督「『これ以上』ってのは、どういう意味だ?」

鳳翔「……」

今回はここまで。

お仕置きなんて程度のものじゃなくなりそうな……。

続きです。


 * 翌朝 墓場島鎮守府 執務室 *

N中佐「……ごちそうさま」

大淀(お茶くみ中)「はい、お粗末さまでした」コポポポ…

N中佐「……」

大淀「今朝も執務室に朝餉を運ばせていただきましたが、明日からはどうなさいますか?」

N中佐「……」

大淀「どうなさいました?」

N中佐「……い、いや、お前たちはいつもこの朝餉を食べているのか? 昨晩の夕餉も、とてもおいしかった……」

N中佐「厨房には間宮も伊良湖もいないのに、誰が作っているんだ?」

大淀「メインは比叡さんと長門さんが交代で作っていますね。そこに駆逐艦の子たちがお手伝いに入ってます」

N中佐「ひえい……だと?」

大淀「みなさんよく勘違いなさっていますが、仮にも御召艦と言われた艦ですよ?」

大淀「方々の鎮守府の比叡さんはお料理の腕が残念だと言われていますが、ここの比叡さんは違います」

大淀「だいたいはダイナミックすぎるアレンジが悲劇を巻き起こしている原因と聞いていますけど」

N中佐「そうだな……個体差は、確かにあるな。昨日の赤城の声は、別人かと思えるほどだった」

大淀(赤城さん、提督と話しているときは、もう少し口調が柔らかいはずなんですけどね)


N中佐「そういえば、この鎮守府の半数が轟沈艦と言っていたが、残り半分はなんだ? ここで建造された艦娘か?」

大淀「この島のドックで建造された艦娘は大和さんだけですよ」

N中佐「は……?」

大淀「あとは余所の鎮守府から追い出されたり逃げてきたり、押し付けられたりした人たちばかりです」

N中佐「……」

 扉<コンコン

敷波「失礼しまーす」ガチャ

敷波「大淀さん、今日の秘書艦、あたしって本当?」

大淀「ええ、急にお願いしてしまってすみません。N中佐に島を案内して欲しいと思いまして」

敷波「ふーん。まあ、いいけど……ところで、どうしてN中佐は頭を抱えてるの?」

大淀「……さあ?」

敷波「それよりさ、朝餉を食べ終わったんなら、早くお膳を返してこないと!」

敷波「お椀が渇くと糊になって取れにくくなるんだから! ほら、お膳持ってくよー!」

N中佐「あ、ああ、すまない。誰が作ったのかはわからないが、おいしかったと伝えてくれ」

敷波「……そういうのはさ、じかに伝えたほうがいいよ?」ニッ

敷波「じゃ、食堂に置いてくるね!」パタパタパタ


N中佐「いい子だな。彼女はどっちなんだ」

大淀「彼女からなら、直接聞いてみてもいいと思いますよ」

N中佐「……そうか。じゃあ逆に、絶対に聞いてはいけない相手は誰だ」

大淀「そうですね……個人的な観点で言えば、神通さんと利根さんでしょうか。轟沈こそしていませんが、お二人ともつらい過去をお持ちですので」

大淀「それと、暁さんもですね。前にいた鎮守府の記憶を失っています。彼女に昔のことを聞くと、正直どうなるかわかりません」

N中佐「よくもこれだけ問題のある艦娘ばかりを、提督はまとめているものだ……」

大淀「……N中佐。その言い方は誤解を招きますよ」

N中佐「何故だ?」

大淀「その言い方ですと、艦娘側に落ち度があったように聞こえます」

N中佐「違うのか?」

大淀「……っ」


N中佐「追い出されたり押し付けられたりしたというのなら、その艦娘に問題があったんだろう? 逃げ出すにしても敵前逃亡は感心できない」

N中佐「我々海軍は、平和な海を取り戻すために命を懸けているんだ。その足を引っ張るのであっては、左遷もやむなしじゃないのか?」

N中佐「先日も本営で、気に入った艦娘を切り裂いて飾っていた狂人がいたとかいう話もあったんだが……」

N中佐「もし指揮官に問題があれば、その都度こうして憲兵なり特警なりが動いている。そうでなければ艦娘に問題があると見るべきだろう?」

大淀「……」

N中佐「そもそも提督准尉の行為自体が問題だ。どうして轟沈した艦娘をわざわざ運用しようとするんだ? 自殺でもしたいのか?」

 扉<コンコン

敷波「ただいまー」ガチャ

N中佐「ああ、戻ったか。よし、世間話はこのくらいにして執務を始めるとするか。敷波、よろしく頼むぞ」

敷波「それはいいんだけど……今度はどうして大淀さんが頭を抱えてるの?」

N中佐「……さあ?」

大淀「……」



 * 一方のN提督鎮守府 *

 ワーワー ドタバタ

望月「あーもー、マジ面倒臭えええ!!」

弥生「もっち、いいから手伝って」

卯月「鳳翔さんのところに空になったおひつ持ってくぴょん!」

望月「これおひつじゃなくて、たらいじゃね!?」



提督「いきなり騒がしくなったな」

妙高「准尉の昨日のお話が原因ですよ?」

提督「そうなのか?」

妙高「鳳翔さんの提案で、主力の空母たちの検査をしてみたら、軒並み栄養失調気味と診断されまして」

妙高「それでも少量のごはんしか食べようとしないから、無理矢理イヤホンを外してみたら、ドック途中の通路で倒れたんです」

提督「俺も今朝ドックの近くを通ったが、ガンガンゴンゴンってすげえ音が聞こえたな。救急車を通すための改装工事でもしてたのか?」

妙高「あれは赤城さんと加賀さんのお腹の虫の音だそうです」

提督「冗談だろ……!?」

妙高「いえ、本当です」

提督「……」


妙高「今、主力艦隊の人たちにも検査を受けてもらっていますが、みなさん空腹だと言うことで、急遽配給が行われてまして」

提督「配給ってなあ……妙高は手伝わなくていいのか?」

妙高「私は提督准尉の補佐を任されたといいますか……」

提督「ああ、おれのせいか。部外者ほったらかすわけにもいかねえもんな」

妙高「いえ、むしろ准尉がいらっしゃらなければ、この鎮守府の主力は全員倒れていたと思われます」

妙高「警鐘を鳴らしていただいた提督准尉には、感謝こそすれ、蔑ろにしては礼を失してしまいます」

提督「……そうかい」アタマガリガリ

妙高「准尉、そのように頭を乱暴にかいては、お顔の傷に響くのでは?」

提督「それなんだがなあ、今朝朝一番に医者に診てもらったんだよ」パチンパチン

提督「マスクを脱いで包帯を取ると……ここだここ。左の頬を見てくれ」シュルシュルッ

妙高「……見た目、なんともありませんね……?」


提督「この前までこの辺が真っ青だったんだ。全然痛くねえし、もう一回CT取ってもらって、今は結果待ちの状態なんだ」

妙高「そうでしたか……」ジッ

提督「……どうかしたか?」

妙高「す、すみません、准尉の素顔を見るのは初めてだったものですから。失礼しました」ペコリ

提督「確かにミイラ男だったもんな。素顔もそんなに珍しい顔でもねえだろ」

 PPPP... PPPP...

提督「おい、何か鳴ってんぞ」

妙高「私のですね……もしもし? 妙高です」ピッ

妙高「……本営からですか? 准尉にもお客様? はい、はい……ええ、今はロビーに……」

妙高「……わかりました。提督准尉にも同行していただきます。はい、よろしくお願い致します」ピッ

提督「俺に関係あるのか?」

妙高「はい。本日ヒトマルサンマル、本営からの査察が入ると連絡がありました」

妙高「その前段として、お客様がお見えです。提督准尉にもご同席願いたいということです」

提督「面倒臭えなぁ……できれば早く俺の鎮守府に戻りたいんだが」ハァ

短いですが、今回はここまで。

続きです。


 * 墓場島 丘の上 *

 ビュウウウ…

N中佐「……ここに並んでいる艤装が、すべて轟沈した艦娘のものだというのか」

敷波「うん。あたしが流れ着いたころは、この3分の2くらいだったかな?」

N中佐「駆逐艦や軽巡が多いが……大口径主砲や飛行甲板まで見受けられるとは」

敷波「まあ、こればっかりはどうしようもないよね。そういう命令を下す司令官がいる以上はさ」

N中佐「……っ」

敷波「あれ? いつもなら丘にある花壇のところに神通さんがいるんだけど……」キョロキョロ

N中佐(神通……!?)ビクッ

敷波「あ、いたいた。神通さーん!」

神通「! 敷波さん。N中佐も……おはようございます」

N中佐「あ、ああ、おはよう」

敷波「神通さん、ビニールシートなんか持ってきて、どうしたの?」

神通「今日は風が強くなるらしいですから、花壇にシートを張っておこうと思ったんです。杭もいただいてきました」


敷波「あたしも手伝う?」

神通「私だけで大丈夫ですよ。敷波さんは、N中佐を案内してあげてください」

敷波「はーい」

N中佐「……」

神通「N中佐?」

N中佐「!?」ビクッ

神通「? どうなさいました?」

N中佐「い、いや、なんでもない……」

神通「そうですか……? 私にどう話を切り出したらよいか、悩んでおいでのようでしたが」

N中佐「!?」ギクッ

神通「……やはりそうでしたか。大淀さんから何を聞いたのかは凡そ見当は付きますが、あまり緊張なさらないでください」ニコ

N中佐「」

敷波「……あー、神通さんごめんね。あたしたちそろそろ行くね」

神通「はい、気を付けて」

敷波「ほらー、行くよN中佐ー」グイ

N中佐「あ、ああ……」

神通「……」


 *

N中佐「……」ダラダラ

敷波「……ったくもう、何やってんのさ。みっともないよ」

N中佐「し、敷波、あの神通は……」

敷波「んー……『気が利きすぎる』って言えばいい? まあ、ここに来た理由はそれだけじゃないんだけどさ」

N中佐「な、何があったんだ……」

敷波「あたしは言わないよー。知りたいんなら神通さんに直接訊けば?」

N中佐「……お、お前はどうなんだ。なんでこの島に来た?」

敷波「あたし? あたしは……家出みたいな感じかな?」

敷波「前の司令官はさ、上に認めて欲しくて無理な進軍繰り返してて。大破進軍なんかもよくあったんだ」

敷波「それで大事な子も沈めて、見てらんなくて文句言ったら『じゃあ探してこい、見つかるまで戻ってくるな』って言われてさ」

N中佐「それでお前も轟沈したのか」

敷波「ううん、あたしは轟沈してないよ? でも、記録の上では轟沈扱いにされちゃってんの。結局ここのお世話になってるんだよね」

N中佐「なんだ、実際には轟沈していないのか……」


敷波「でも記録上は沈んだことにされちゃってんだよ。あたしはまだ生きてるってのにさ……!」

N中佐「……」

敷波「ねえ、もしかしてだけどさ?」

N中佐「なんだ?」

敷波「N中佐は、あたしみたいに轟沈したことのない艦娘は、雑に扱ってもいい、って思ってない?」

N中佐「っ! そ、そんなことは……」

敷波「轟沈してなくても、みんな余所で酷い目に遭わされた艦娘ばっかりだからね?」

敷波「勿論、轟沈した艦娘だって酷い目に遭ってきたわけだけどさ。捨て艦だったり、無実なのに罪を着せられたり……!」

N中佐「……お、落ち着け。落ち着くんだ」

敷波「あたしは落ち着いてるよ。ちょっとむかむかしただけじゃない」

敷波「それよりほら、天気が悪いんだから、早く行かないと案内できないよ?」

N中佐「あ、ああ」


 * 墓場島 北東の砂浜 *

 ザザーン

敷波「うわ、風が強くなってきた……N中佐、早めに行くよ!」

N中佐「砂浜か? 敷波、ここには何の用があるんだ?」

敷波「ここは、司令官がいつも見回りしてる場所だよ。あたしもここに流れ着いてきたんだ」

N中佐「なに?」

敷波「……あれ? 利根さん?」

利根「む? おお、敷波か! N中佐も一緒であったか」

N中佐「あ、ああ」

敷波「こんなところでなにをしてたの?」

利根「いやさ、砂浜を見回っていたら、また流れ着いた者たちがおってな」

敷波「あー……」

N中佐「流れ着いた……?」チラッ

敷波「あ、見ないほうが……」



N中佐「」ゲロロロロロ…

敷波「あーあ……」

利根「見慣れておらんのだろう。仕方あるまいよ」


利根「ひとまずこの者たちを引き上げたいんじゃが、敷波も手伝ってくれぬか?」

敷波「うーん、可哀想だけど今日はやめたほうがいいんじゃない? 午後から時化が来るっていうし、穴掘りとか無理だと思うよ」

敷波「もし司令官だったら、波が来ないところまで引き上げて避難させるところまではやるかもしれないけど」

利根「うむ、このような姿で波や雨風にさらされるのはあまりに哀れ。せめて岩陰に連れて行ってやるべきだな」



N中佐「……げほ、げほ……うえっ」ヨロッ

N中佐「はぁ、はぁ……なんて場所だ。赤城が言っていたのは、こういうことだったのか……」

N中佐(そうすると、俺が沈めた艦娘も、あんなふうになってこの島に……あの丘の、艤装の中に……)

敷波「ねえ、大丈夫? 顔が青いよ?」

N中佐「だ、大丈夫……大丈夫だ」

敷波「本当?」

N中佐「ああ……」

敷波(この人、自分の鎮守府に帰ったほうがいいと思うんだけどなあ)


利根「……うむ、この場はこれでご容赦願おう」ナムー

利根「N中佐よ、この場は敷波と一緒に引き上げたほうが良いぞ!」

敷波「そだね、顔色も悪いし、休んだほうがいいよ」

N中佐「あ、ああ、わかった。そうさせてもらう」

利根「ふむ……ときにN中佐よ。おぬしに一つ訊いておきたいことがある」

N中佐「な、なんだ」

利根「おぬしは『愛情』をなんと心得る?」

N中佐「愛情……だと?」

利根「うむ」

N中佐(い、いったいどういう意味だ……!?)

N中佐「……て、提督准尉は、なんと言っていた?」

利根「提督にも訊いたが、知らんと言われたのだ」

敷波「あー、言うだろうね、司令官なら」

N中佐「……」

N中佐(なんなんだ? 質問の意図がわからない……!)

N中佐(大淀の警告は、いったい何を意味しているんだ……なんて答えればいい!?)


N中佐「……お、俺も、よく、わからない、な……」

利根「そうか、おぬしもわからんのか」

敷波「……ねえ、本当にわからないの?」

N中佐「あ、ああ」

敷波「じゃあ、なんでN中佐は海軍にいるのさ?」

N中佐「っ!」

敷波「なんで海軍で艦娘の指揮を執って、深海棲艦と戦ってるのさ!?」

N中佐「俺は……」

N中佐「俺には、守らなければならないものがある。だから……深海棲艦の跋扈を許すことはできない」

敷波「それは愛情じゃないんだ?」

N中佐「……っ」

利根「うーむ……やはりよくわからんな」

 ビュオオオォォォ…

利根「むう、風が出てきたな……二人とも、早く引き上げるぞ!」

N中佐「わ、わかった」

敷波「……」

ということでここまで。

愛がなんだって?躊躇わない事さ!
察しの良い神通さんに邪な考えをもって近づいて顔を赤くさせて見たい(変態だー!)
更新お疲れ様です

神通を恥ずかしがらせる……できるんだろうか。


では続きです。


 * 一方のN提督鎮守府 *

卯月「疲れたぴょん……」グッタリ

弥生「……」ウトウト

望月「マジ疲れたし……! 寝るよー?」グテー

妙高「みなさんお疲れ様でした」

提督「よお、ご苦労さん」

卯月「!? だ、誰ぴょん!?」

望月「妙高さんが一緒ってことは……もしかして准尉?」

弥生「顔の包帯やマスクはどうしたの……?」

提督「治ったから取った」

望月「治った!?」

妙高「私もレントゲン写真を見せてもらいましたが、昨日の写真にはひびが映ってて、今朝の写真にはそれがないことを確認しました」

望月「マジか……」

卯月「准尉! 治ったんだったら今の今までどこでサボってたぴょん!?」

鳳翔「卯月さん、准尉はこの鎮守府の関係者ではないのですから、無理をお願いしてはいけませんよ」スッ

卯月「うー……」


提督「よお、鳳翔。ご苦労さん、忙しくさせて悪かったな」

鳳翔「いいえ、これで良かったんです。准尉、ありがとうございます」フカブカ

鳳翔「ところで准尉? お顔のお怪我はもうよろしいんですか?」

提督「ああ。正直、なんでこうなったのか、よくわかんねえ」

妙高「お医者様も狐につままれたような顔をしてましたね」

鳳翔「いったい何が……」

 < 提督ーーーー!!

望月「……んあ?」

卯月「誰ぴょん?」

提督「……この声、まさか」タラリ

妙高「?」

大和「提督ーーーーーーー!!!」ドドドドドド

提督「げぇっ! 大和!!」

大和「提督ーーーー! お会いしとうございましたーー!!!」ダキツキーーッ

提督「げぼあ!?」ドガシーーーッ

卯月弥生望月妙高鳳翔「「「!?」」」


大和「提督、そのお顔、治ったんですね! 良かった……本当に良かった!」ホオズリホオズリ

提督「放せ! 何やってんだお前は! 抱き着くな! 胸を押し付けんな!」

大和「当ててるんですよ?」ポ

提督「当てんな! いいから早く放せっての!」

大和「そんな……嫌です! この大和、もう二度とあなたを離しません!」ギュウウ

提督「お前は人の話を……」ガシッ

卯月「あっ」

提督「聞けやくそがあああああ!!」アイアンクロー

大和「ひぎいいいいいいい!?」メキメキメキメキ

望月「うっわあ……」

卯月「准尉のアレ、超痛いぴょん……! 大和さん、早くごめんなさいするぴょん!」ガタガタ

弥生(完全にトラウマになってる……)

鳳翔「准尉、そのくらいにしてあげてください。力で抑えつけても、人はついてきてくれませんよ」

提督「ん? お、おう……」パッ


鳳翔「お礼には及びませんよ。私からも大和さんに言いたいことがありますから」ニコ…

大和「は、はい……?」

鳳翔「まず、好いた殿方がいるとはいえ、鎮守府の廊下を走るなど言語道断です」

大和「は、はい! 申し訳ありません!」

鳳翔「それに提督准尉はれっきとした成年男性です。抱き着くだけにとどまらず頬擦りまでするなんて……」

鳳翔「あなたは准尉を猫か子供と勘違いなさっているのではないですか?」ジッ

大和「い、いえ! 決してそのようなことは!」

鳳翔「それに、当てているとはどういう意味です?」ギンッ

大和「ひぃっ!」

鳳翔「安直な誘惑などせず、礼節を知り、相手に対する敬意をもって接することこそが、尊いと思いませんか?」ゴゴゴゴ

大和「も、申し訳ありません! この大和、未熟な振る舞いが過ぎました!」ペコペコ

提督「おい妙高。鳳翔って何者なんだ?」ヒソヒソ

妙高「なんと言いますか、私たち艦娘の精神的なまとめ役というか、お母さん的な存在です」

妙高「艦だったときも、初期に建造された艦でありながら、終戦まで私たちの戦いを見守ったと聞いています」

提督「いまいちピンとこねえが……とにかく立場が上っぽいんだな?」


大和「ううう、ごめんなさい、ごべんなざいぃ……」グスグス

鳳翔「そ、そこまで泣かなくても……ほら、小さな子も見てますから。次から改めましょう?」

大和「はいぃ……」グスングスン

望月「……なんていうか、鳳翔さんすげえ……」

卯月「それよりも、准尉の鎮守府に大和さんがいることのほうが驚きぴょん! いったいどうやったぴょん?」

弥生「N中佐……大和をすごく欲しがってた」

提督「そのせいで面倒くせえことに巻き込まれてんだよ、うちの鎮守府は……」

鳳翔「それは……」

不知火「司令」ヌッ

提督「うっお!? し、不知火か!? お前いつの間にいやがった!」

不知火「大和さんが提督にアイアンクローを貰ってたあたりからです」

提督「なんで黙って見てんだよ……」

不知火「申し訳ありません、声をかけるタイミングを考えていました」

提督「……なあ不知火、もしかして、お前らが本営からの客ってやつか?」

不知火「はい、大和さんと一緒に、本件の調査と現状の報告を中将から仰せつかってきました」

提督「そうか。で、そっちは誰だ」

大鳳「初めまして、提督准尉。私は少佐鎮守府所属、装甲空母、大鳳です」

提督「少佐鎮守府、だと?」ジロリ

不知火「詳細をご説明したいので、お時間よろしいでしょうか」


 * N中佐鎮守府 応接室 *

大淀(N中佐部下)「では、本日中に特警からの調査が入るということですね……?」

大鳳「はい。今回問題になったこのイヤホンですが、海軍の依頼を受けたある開発チームが作成したものです」

大鳳「開発当初は、艦娘の健康管理やスケジュール管理など、艦隊運営の補助ツールとして試験運用されていました」

大鳳「もともとは、指揮官の出張や傷病による長期不在に対応するために開発したと聞いています」

大鳳「それが、開発を進めていくうちに、艦娘の体調のコントロール、リミッターの強制解放……」

大鳳「果ては艦娘への洗脳プログラム……そういったものが開発され、艦娘の人格への侵害が見受けられるようになり……」

大鳳「少佐を含む海軍の有志数名が、このツールの運用を中止させるべく本営に働きかけたのが、数日前」

大鳳「そして、提督准尉からの報告もあり、海軍上層部はこのツールを現実的な脅威として認定、運用と開発の中止を決定しました」

妙高「そんなものがこの鎮守府で運用されていたなんて……」

大鳳「先程報告していただいた、この鎮守府で起こったことを鑑みれば、ツールの運用は危険であると判断して良いでしょう」

不知火「対処法としては、イヤホンを取り外すだけで済みますが、抵抗されて死傷者が出るケースも発生しています」

不知火「取り扱いには細心の注意を払っていただくよう、お願い致します」

大淀「わかりました。すぐに対応します」

鳳翔「……N中佐はどうしてこんなものを……いえ、仕方ないのかもしれませんね」

提督「……」


大鳳「また、以上の話をN中佐に連絡し、このツールをどこから入手したのか、いつ使い始めたのか、経緯を聞く必要があります」

大鳳「N中佐は現在、提督准尉の鎮守府におられるということですので、私と不知火さん、大和さんはこれからそちらへ向かいます」

大鳳「提督准尉にもご同行をお願いします。よろしいですね?」

提督「ああ」

大鳳「そしてN中佐には、このツールを利用したことによる、しかるべき処分を受けていただくことになります」

大淀「!」

妙高「そう、ですか……」

提督「で、俺たちはすぐ出立すんのか?」

大鳳「いえ、島の周辺海域の天候がよろしくないので、様子を見る必要がありそうです。準備だけは整えておいてください」

大鳳「それと、この鎮守府には、本日ヒトヨンマルマルから特警が医師団を連れて捜索に入ります」

妙高「医師団?」

大鳳「はい、イヤホンを着用した艦娘の体調を調査するためです」

大鳳「今日は調査対象者のなかから、本営での精密検査を受けていただく艦娘を数名選び出す予定です」

大淀「そうですか……わかりました」


鳳翔「大淀さん、まずは艦隊のみなさんのイヤホンをすべて回収しましょう」

鳳翔「そのうえで別室へ待機していただいて、午後の調査がスムーズに行われるよう、みなさんにも協力を要請しましょう」

大淀「はい!」

提督「……」

大鳳「提督准尉? 先程から怖い顔をなさってますが、何か気に入らないことでも?」

提督「ああ、気に入らないことだらけだな」

提督「例えばツールの使い道、上の連中が一番恐れているのは洗脳プログラムだよな?」

提督「人間や海軍に対して攻撃を仕掛けるよう洗脳することも、そのツールなら可能なんだろ? 簡単にクーデター起こせそうだな」

大鳳「はい、少佐はいち早くそれに気付いています」

提督(……蛇の道は蛇ってか? この件はあいつが黒幕じゃあねえってことか)

提督「そんなことができるんなら、うちの艦娘に俺を裏切れって命令を出すこともできるよな?」

不知火「し、司令! いくらなんでも、N中佐がそこまでするとは……!」

鳳翔「准尉、そのお話……もしかして、先程の大和さんが関係していますか?」

不知火「あ……!」

提督「そうだな。俺には、大和が欲しいがためにツールの洗脳プログラムを使ったとしか思えねえ」

提督「じゃなきゃ、うちの鎮守府の指揮を執りたいなんて言うはずがねえよ。初雪の捜索をおざなりにしたのも、そういうことだろ」

鳳翔「……」


大鳳「お話を聞く限り余罪があるのかもしれませんが、まずは提督准尉の鎮守府へ急ぎ、N中佐の身柄を確保するのが先決だと思います」

提督「ああ、急ぎたいな。どうせ今から島へ向かっても日が落ちちまうだろうが……」チッ

提督「それと、もう一つ。大鳳は少佐の指示でここへ来たのか?」

大鳳「はい。少佐は今回のツールの運用が危険であることを証明すべく、奔走しておりました」

大鳳「このツールの存在そのものを少佐は酷く憤慨していまして、早急に対応するよう、私も直々に命を受けています」

提督「憤慨!? あれがか?」

大鳳「あ、あの、提督准尉? その、露骨に嫌な顔をなさっているのは何故です?」

不知火「いえ、これは無理からぬことかと……」

提督「大鳳、お前もしかして、少佐鎮守府に来て日が浅いのか?」

大鳳「は、はい」

提督「そうか。それじゃお前に言っても仕方ねえな」

大鳳「わ、私、何か准尉の気に障るようなこと言いました?」アセアセ

不知火「いえ、大丈夫です。司令は誰に対してもこんな感じですから」

大鳳「……赤城さんから聞いていたイメージとだいぶ違います……」タラリ

不知火「司令は少佐が大嫌いなんです。気を悪くなさらないでください」ヒソヒソ


提督「とにかくやることは決まったな? 俺たちは出立の準備をして、こっちの鎮守府は大淀や鳳翔に任せる、でいいんだな?」

大淀「提督准尉、お願いがあります。島へは鳳翔さんと妙高さんを連れて行っていただけないでしょうか」

鳳翔「大淀さん!?」

妙高「いいんですか!?」

大淀「准尉。このお二方は、N中佐が駆け出しのころ、この艦隊の主力として奮戦しておられました」

大淀「戦艦や正規空母の台頭で主力から離れていましたが、それでイヤホンを付けなかったのは不幸中の幸いだと思います」

大淀「今、N中佐を説得できるのはこのお二人しかおられません……!」

提督「……わかった。一緒に行くか」

鳳翔「はい。よろしくお願いします」

妙高「すぐに準備します!」スクッ

今回はここまで。


N中佐の話はいわゆるチートやマクロをモデルにしています。

じわじわと追い詰めます。


続きです。


 * 昼過ぎ 墓場島鎮守府 ロビー *

敷波「っていうことがあってさ」

霞「……ふーん」

敷波「司令官は、あたしたちがやりたいことをやらせたい、って考えじゃんか」

朝潮「はい。司令官は、私たちのことを第一に考えてくださっています!」

潮「任務も、やりたくないならやらなくていい、って言うくらいだし……」

朝雲「ちょっと甘すぎる気もするけどね」

敷波「司令官が、それを愛情だって言いたがらないのは、何となくわかるんだけど……」

霞(まあ、なんとなくわかるわね)ウンウン

潮(霞ちゃんが頷いてる……)

朝雲(頷き方がすごく力強いんだけど)

敷波「でもさ、N中佐の言う守りたいものに対する気持ちって、愛情とは別に何かあるのかな?」

潮「愛情じゃないけど、守りたいと思う気持ち……?」

霞「となると、哀れみとか、同情のたぐいかしら」

朝潮「どういう感情なんでしょう……よくわかりませんね」

敷波「あの人、何か隠してるのかな?」


 * 墓場島鎮守府 工廠 *

初春「のう明石よ、初雪の処遇は今暫くこのままかえ?」

明石「うーん、そろそろなんとかしたいんだけど……」

初雪「私はこのままでもいい……会ってどうこうするの、もう面倒くさいし」ウツラウツラ

明石「駄目だよー、何事もちゃんとすっきりけじめつけないと」

初春「うむ。今のままではおぬしは幽霊船になってしまうぞ」

初雪「知ってる……成仏できない幽霊は、悪霊になるっていうアレ」

明石「どこで仕入れたんですか、その知識……」

初春「そこまで理解しておるなら、なおのことここで舟を漕いでいる場合でもなかろうに」

初雪「大丈夫……そのときは初春にお祓いしてもらう」

初春「? わらわにか?」

明石「ああ、その髪飾り!」

初春「この紙垂は、そういう使い道のものではない」デコツン

初雪「おっふ」

明石「冗談はさておき、N中佐とどんな話をするか、方針が決まらないとね」

明石「N中佐の鎮守府に戻るのか、ここに残るのか。初雪ちゃんとN中佐双方が納得する答えを出さないと……」


初春「ものぐさな初雪には、自給自足が常のこの鎮守府の暮らしは聊か厳しくはないか、ちと心配じゃ」

朧「だからって、アタシは戻った方がいいなんて思わないけど」スッ

明石「!」

朧「もともとあの人は初雪を探しに来たのに、あれから初雪を探すような素振りも言及する様子も見せてない」

朧「そんな相手のところに『戻ったほうがいい』って言える?」

初春「うむ、わらわもそこが気に掛かる。当の指揮官が初雪を気に留めておらんのではのう」

初雪「……私は、別にかまわないけど」

明石「うーん……それじゃ、提督のことはどう思います?」

初雪「……気持ちよかった」ポ

明石「えっ!? なんですかそれ、どういうことですかっ」ズイッ

初春(瞳が必要以上に輝いておるのう)タラリ

初雪「耳かきが気持ちよかった」

明石「なんだ、そういう意味ですか」チェッ

初春「なんだではないぞ。まったく……」

初雪「でも、准尉はちゃんと私の顔を見てくれたし。N中佐より、嫌いじゃない」

明石「……そういうことなら、話は早いんじゃない? ねえ?」

初春「うむ。尊重されるべきは初雪じゃからな」

朧「……」


 * 夕方 執務室 *

N中佐「……」カタカタ

長門「失礼する……なんだ、休んでいなかったのか」

N中佐「いろいろと調べたいことがあってな」

長門「そのトランクの機械は通信機か」

N中佐「ああ。場所が場所だからな、衛星通信が可能な機械を持ち込んだんだ」

N中佐「電源だけはここから拝借しなきゃいけないが、その分はしっかり働かせてもらう」

N中佐「で、長門は何の用だ」

長門「休んだと聞いた貴様が寝室にいなかったのでな、様子を見に来た。何を調べている」

N中佐「この島の成り立ちについてだ。お前からも事前調査の不足を指摘されたからな」

N中佐「しかしいくら調べてみても、この島に鎮守府が建てられた経緯や、近海で起きた戦闘やらの情報がなさすぎる」

N中佐「本営のデータベースにアクセスしても、記録がほとんど残っていない……おかしいぞ、これは」

長門「……」

N中佐「長門は、この鎮守府の過去について何か知っていることは?」

長門「提督がこの鎮守府に着任した前後までなら聞きかじっているが、それ以前のこととなると私は知らないな」

N中佐「そうか……」


N中佐「ところで長門。お前も轟沈を経験したのか」

長門「いいや。私は逃げてきた」

N中佐「逃げた!?」

長門「ああ。私は、ある鎮守府から逃げてきた。ある艦娘とともにな」

N中佐「お前ともあろう者が、臆病風に吹かれたと言うのか!? なぜだ!」

長門「どうしようもない理由だ」

N中佐「理由にならんぞ! 敵前逃亡など!」

長門「敵から逃げた覚えはない」

N中佐「どういう意味だ」

長門「……いいだろう、覚悟を決めよう。耳を貸せ、絶対に他言するな。約束できるか」

N中佐「む……わかった。約束する」

長門「よし……すう、はあ……」

N中佐「深呼吸するほどのことなのか?」

長門「本来ならば誰にも話したくはないのだ……恥ずかしいからな」スッ

N中佐「恥ずかしい?」


長門「では、想像してみろ……貴様がもし艦娘だったら」ヒソッ

長門「自分の小水を直接飲ませろ、と言った男の下で働けるか?」

N中佐「!?!?!?」

長門「それが私たちがその鎮守府から逃げた理由だ。この話は、提督にしか話していない」

N中佐「……嘘だろう?」タラリ

長門「どうせ嘘をつくならもっとましな嘘をつく。なんでこんな恥ずかしい話を作って聞かせなければならないんだ」

N中佐「しかし、そんな変態行為に走る人間自体、例外もいいところじゃないか……」

長門「どうして貴様はそうやって否定から入る? 私は恥を承知で勇気を出してこの話をしたんだぞ、疑うのか!」

N中佐「し、信じられないものは信じられん!」

長門「だが事実だ! 貴様、私たちのことは最初から信じる気がないのか!」

N中佐「……そ、そんなことはない!」

長門「ならばなぜ、貴様と一緒に見回りに行った敷波の表情が晴れないんだ!?」

N中佐「それは話が別だ!」


長門「……昼間もそうだ。貴様は大淀に、艦娘を切り裂いて飾った狂人の話をしていたそうだな?」

長門「あれも例外中の例外的事例だとは思う。だが、貴様の不用意な発言で、彼女が傷付く前に言っておく!」

長門「この鎮守府の利根が、その被害者だ」

N中佐「馬鹿な……話が出来過ぎている!」

長門「貴様は今までこの鎮守府の何を見てきた? ここが、貴様の鎮守府とは全く違うことくらい、理解できているはずだ!」

長門「この島は、提督准尉が来るまで無人だったそうだ。その頃からすでに、砂浜には無数の艦娘の遺体が漂着していた」

長門「そんな状況では着任したい人間もいないだろう。私は、海軍の記録が残っていないのはそのせいだと考えている」

N中佐「……」

長門「この島に提督が来たことで、大破して漂着した艦娘の何人かが助かるようになり、鎮守府に着任したと考えれば……」

長門「この鎮守府の艦娘の多くが、何かしらつらい過去を持っていたとしても、なんら不思議ではない」

長門「それでも貴様は、我々の過去など信じる気はないのだろうがな……!」

N中佐「そ、そんなことは……」

長門「まあいい。それで、貴様はまだ調べ物を続けるのか?」

長門「そうでなければ早めに切り上げて部屋に戻るといい。時化の夜は発電機を動かさない方が良いからな」

 扉<パタム

N中佐「……」

というわけでここまで。

ずっと前から設定していた、潮の受けていた被害を、
どのタイミングで明かそうか悩んでおりました。
それを踏まえて本編の268を読むと、
「ああ、こいつ変態だ」と思うこと請け合いです。

追記、>>688>>689の間に、この一文を挟むのを忘れていました。

------

大和「ふぁっ!? い、いたたた……鳳翔さん、お気遣いありがとうございます」サスリサスリ

------


今度こそ今回はここまで。

では続きです。


 * 少し時を遡り、昼前 *

 * N中佐鎮守府 応接室の外 *

卯月「みんなが出てきたぴょん!」

大和「提督! お話はどうなりましたか!?」

提督「とりあえずだが島に戻るぞ。お前も一緒だ、準備しろ」

大和「はいっ!」

卯月「准尉、島へ帰るぴょん?」

弥生「せっかく来たのに……残念」

望月「全然休めてないじゃん。もうちょっとゆっくりしていきゃいいのに」

提督「もともと顔の怪我が治るまでって予定だったからな。島の連中をほったらかしにするわけにもいかねえし」

提督「まあ、暇なら遊びに来い。うちの連中も喜ぶかもしれねえ」

少佐鎮守府の士官(以下「士官O」)「提督准尉。お久しぶりです」

提督「んん……!? あんた、如月の捜索の時に島に来てた、少佐の部下か!?」

士官O「はい。覚えていただいていたみたいで恐縮です」ニコ

提督「あのあと大丈夫だったのか?」

士官O「なんとか、ですね。私は准尉のようにうまく立ち回る自信がなくて、しばらく目立たないように隠れてました」ハハッ


提督「あんたがここに来たってことは、今回もあんたが船を用意したのか?」

士官O「はい。準備はできていますよ、あとは天候だけです」

提督「そうか……ところで、今回の件、どこまで知ってる?」ヒソッ

士官O「あまり大きな声では言えませんが……このツールの調査を担当したのは私です」ヒソッ

提督「なに?」

士官O「少し前、少佐宛に余所の鎮守府から、艦娘が指揮官以外の言うことを聞かなくなった、という話が来たんです」

士官O「当初は少佐の全く気が乗らなかったものですから、私に調査しろと丸投げしてきまして。その結果、今回のツールに行きつきました」

提督「あんたもそんなもの押し付けられて、災難だな……」

士官O「ええ、まあ。でもそのおかげで、来月の頭に別の鎮守府に異動して、少尉として艦隊の指揮を執ることが決まりましたので、善し悪しかと」

提督「!」

士官O「実は、少佐が鎮守府を離れている間、少佐の地位回復のためという建前で、混乱に陥った余所の鎮守府の対応をフォローをしていたんです」

士官O「それこそ少佐の名前を使って、欠員が出た鎮守府に補充するための人材を確保したり、問題があった鎮守府の解決に乗り出したり……」

士官O「M准将のところにいた同期の士官に、提督准尉のことを紹介したのも私です」

提督「はあ!? あんたがやったのか!?」

士官O「はい。まあ、少佐が不在なことをいいことに結構好き勝手しましたね。うちの鎮守府の利益にならないことばかり」


提督「……あんた、意外と図太いな」

士官O「あなたの影響ですよ」ニコ

士官O「そういうことばかり積み重ねていたら、個人的にそれなりの評価を戴きまして」

士官O「少佐には余計なことをするなと言われましたが、赤城さんから鎮守府の評価も上がっていると報告を戴き、見逃してもらえました」

士官O「今回のツールの調査を押し付けられたのも、そういう実績があっての話なんです」

提督「へえ……それにしてもだ、大鳳はあのツールに少佐が憤慨していたとか言ってたが、本当なのか?」

士官O「憤慨していたかどうかはちょっと。ですが、私が調査結果を報告したときには、予想外に食いついてきましたね」

提督「どういうことだ?」

士官O「私がツールの調査を終えて仕組みを報告したところ、少佐はすぐその危険性に目をつけ、私に再調査を求めました」

士官O「少佐はツールの欠陥を大袈裟に非難し、そのうえで我こそは海軍と艦娘を救った男だとアピールを図ったんです」

提督「……くそだな」

士官O「准尉も御存知だと思いますが、深海棲艦の兵器化の研究をしていたZ提督が逮捕された事件……」

士官O「研究が頓挫したことで、研究の協力者やスポンサーが離れ、代わりに鎮守府を監視する本営の人間が増えました」

士官O「更には、少佐鎮守府の職員十数名も資材の不正流出の件で捕まったこともあって、少佐は名誉挽回に躍起になっているんですよ」

提督「けっ、あれの手柄じゃねえだろうによ」


士官O「それと、もしこのツールが海軍のスタンダードになれば、その開発者は本営に招かれ厚遇を受けられます」

士官O「調べていくうちに、かつての研究の協力者が今回のツール開発に携わったこともわかりまして」

提督「逆恨みも入ってるってか」

士官O「今となってはそれが最大の理由になってますね。自分を見限った研究者が成功するのを許せなかったんでしょう」

提督「やれやれ……くそな部分は全然変わってねえんだな」

士官O「今回の調査は赤城さんにもご協力戴いたんですが、その中で鎮守府の聞きたくもない裏事情も耳に入ってきまして」

士官O「少佐から距離を置きたいと思っていた矢先、少佐も私のことがお気に召さなかったようで……」

士官O「図らずも利害一致したものですから、私が栄転という形で鎮守府を出る運びになったんです」

提督「なるほど、ていのいい厄介払いか。だがまあそのほうが安心だな」

士官O「ええ。今後は私の先輩の同期にあたるW大尉のもとに身を寄せる気でいます」

士官O「ただ……あの鎮守府の艦娘たちのことだけが心残りですね」

士官O「それに、あなたを差し置いて私が少尉になると言うのも、申し訳がないと言いますか……」

提督「気にすんなよ。うちは海軍の戦力になってねえし、事情もわかってんだろ?」


士官O「ええ、不知火から、如月も元気だと聞いています。他にも助かっている艦娘がいるそうで……本当に良かった」ニコ

提督「そうだな。あの二人だけだったのが……」

提督「……」


提督「……ん?」


提督「……いや、まさか……」


士官O「提督准尉?」

提督「まずいこと思い出したぞ。完っ全に忘れてた……くっそ、俺の記憶違いだといいんだが」

士官O「なにか、あったんですか」

提督「悪い、すぐに船を出してくれ」

提督「うちの艦娘が、N中佐を殺しちまうかもしれねえ」

今回はここまで。


さあ修羅場だ!

それでは続きです。


 * 夜 墓場島鎮守府 執務室 *

 ザァァァ…

N中佐「……雨脚が強くなってきたか」

N中佐「……」カタカタ

N中佐「妙だな……俺の鎮守府の艦娘の情報が更新されてない」

N中佐「あいつら、ちゃんと演習なり遠征なりやっているのか?」カタカタ

N中佐「それとも、俺の鎮守府のツールまで壊れたのか?」

 カッ

N中佐「! ……雷か……調べ物もこの辺にしたほうが良さそうだな」パタン

 扉<コンコン

朧「朧です」

N中佐「ん……入れ」

朧「失礼します」チャッ

 ゴロゴロゴロ…


N中佐「雷が鳴っているからもう寝ろと言う話か? ちょうど仕事も止めたし、そういう話なら問題はない」

N中佐「しかし思うんだが、避雷に備えて自家発電機の稼働を控えようと言うのは、聊か的外れな対応じゃないか?」

朧「……」

N中佐「疑問を持たないか? それでこの鎮守府はよく攻め込まれないでいられるな、と」

N中佐「たとえ夜間でも警戒を怠るべきではないというのに、ろくに見回りもさせていないとは……」

朧「夜中に明かりをともせば的になるだけだ、というのが提督の見解です」

N中佐「そうは言っても無防備がすぎる」

朧「提督は夜間完全消灯します。島に着任してから3か月間そうやって過ごしてきましたが、実害はありませんでした」

N中佐「そうじゃない! 本営に連絡して、警戒態勢を整えさせるのが先だろう!」

N中佐「島にいられるのが提督准尉だけだとしても、この鎮守府を機能させたいのなら設備を拡充させるべきだ!」

朧「……」

N中佐「発想が無茶苦茶だ。提督准尉のやることなすこと、すべてが破天荒すぎる」

N中佐「そんな提督の下で働いていては、お前たちの命がいくつあっても足りないんじゃないのか?」

朧「……」ジロリ

N中佐「なんだ、その目は」


朧「……N中佐は……」

N中佐「ん?」

朧「どうしてこの島の鎮守府で指揮を執ろうと思ったんですか?」

N中佐「ん……それは……」

朧「……」

N中佐「それは、お前たちの戦い方が未熟だと思ったからだ」

N中佐「この島の事情を知らなかったとはいえ、それを踏まえてもこの鎮守府の戦果はあまりに低すぎる」

N中佐「准尉には追々教育するとして、現場であるお前たちの意識を変えなければならないと思っている」

朧「……」

N中佐「我々は大本営の指示のもと、一致団結して深海棲艦に立ち向かわなければいかん。そのためには……」

朧「演習などによる練度の向上」

N中佐「!」

朧「遠征などによる備蓄の充実、建造や開発による戦力の増強、そして、周辺海域への定期的な出撃による深海勢力の駆逐」

N中佐「!!」


朧「日頃はそれらの任務に従事し、大本営から一定期間ごとに告知される強大な深海勢力への一斉攻撃に備えるべし」

N中佐「……そうだ。その通りだ、素晴らしい!」

N中佐「この鎮守府には変わり者しかいないのかと諦めかけていたが、お前のような艦娘もいたんだな!」

N中佐「お前のような理解者がいるのなら心強い! ……そうか! こんな時間に来たのも、俺にそのことを伝えたかったからか!」

N中佐「そうとわかれば、朧には明日から秘書艦を頼みたい! 俺と一緒にこの腑抜けた鎮守府を立て直そう!」

朧「……」ツイッ スタスタ…

N中佐「お、おい、どこへ行く?」

 キャビネット<ギィッ

朧「……」スッ

朧「N中佐。これを、見てください」サッ

N中佐「? 何のバインダーだ? これは」

朧「……」

N中佐「このリストは……」ペラッ

朧「……」

N中佐「これは……本営の管理するすべての鎮守府の轟沈艦の記録か……! この鎮守府がこんな資料を取り扱っているとは」ペラッ

朧「……」


N中佐「朧……この、リストについているバツ印はどういう意味だ」

朧「……」

N中佐「ん……マル印がついているところもあるな。これは……」

朧「バツ印のついている艦娘は、この島に埋葬された艦娘です」

N中佐「……ということは、この島に流れ着いてきた艦娘か」

N中佐「これほど多くの艦娘が……で、マル印はなんだ?」

朧「……」

N中佐「マル印は少ないな……比叡……暁、初春……」ペラッ

N中佐「……」ペラッ

N中佐「……」ペラッ

朧「……」

N中佐「……朧。このマル印は……」

 カッ

朧「……」

N中佐「……」

 ゴロゴロゴロ…


朧「……わかりませんか」

朧「それとも、わかっていて訊いているんですか」

N中佐「……」ペラ…

朧「……」

N中佐「……」

朧「わからないというのなら、最後のページを見てください」

朧「そのバインダーの、一番古いリストを見てください」

N中佐「……」ペラ…

朧「そこでマル印をつけられた艦娘の名前は、なんて書いてありますか」

N中佐「……」

朧「その艦娘の所属は、なんて書いてありますか」

N中佐「……!」

朧「声に出して、読んでください」

N中佐「……」

朧「……読んでください」

N中佐「……っ!!」ビクッ


朧「……」

N中佐「……お、お前は、気付いていたのか」

朧「……」

N中佐「なぜ、言わなかった」

朧「……」

N中佐「なぜなんだ、おぼ……」

朧「……」ジャキッ

N中佐「ひっ!」ガタッ

朧「……」

 扉<チャッ

初春「なんとまあ……滑稽じゃのう」スッ

N中佐「は、初春か! た、助けてく」

初春「その前に、おぬしは朧の問いに答えよ。そのリストでマル印をつけられた艦娘はどうなったのじゃ?」

N中佐「……! ま、まさかお前も……!」

初春「気付いたようじゃな? 申してみよ」


N中佐「この島に漂着した轟沈艦……! その中で准尉の配下になった艦娘……それが、このマル印の艦娘か……!」

初春「うむ、ご名答。して、その中には朧の名前もあったじゃろう? 所属はなんと書いてあった?」

N中佐「……」

初春「答えよ!!」

N中佐「……N提督鎮守府……俺の、鎮守府だ……!」

朧「……」

初春「因果なものよの。江戸の敵を長崎で、とは、よく言ったものじゃ」

N中佐「……俺が、敵だと……敵なものか!」

初春「寝ぼけたことを抜かすでない。主砲を向けた相手が敵でなければなんと心得る」

初春「そもそも、朧がおぬしの鎮守府にいたことを言わなかったのも、おぬしが思い出す猶予を与えていたにすぎぬ」

初春「今し方の問答も、おぬしが朧のことをどう考えていたか、腹を探っておったのじゃ」

初春「戦争に勝つために犠牲になったことを『忘れられた』とあっては、朧も成仏できまいて。のう?」

朧「……」

N中佐「ま、待ってくれ! もう一度、チャンスをくれないか!!」

初春「チャンスとな?」


N中佐「俺にはやらなければいけないことがある! 今こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」

朧「……」

初春「チャンスなら、すでにくれておったわ」

N中佐「なに?」

初春「入ってくるが良い」

 扉<チャッ

初雪「……」スッ

N中佐「……お前は……!」

初春「さて、少しは思い出したか?」

N中佐「……」

初春「おぬしは本来、何のためにこの島に来たのじゃ?」

初春「よもや、ほかの誰かにかまけて忘れてしまったわけではあるまいな?」

N中佐「……」

初雪「……」

朧「……」

とりあえず今回はここまで。

では、続きです。


初春「朧は期待しておったのじゃ。おぬしが、いつ初雪のことを聞いて来るかを」

初春「そして初雪に、どのような言葉で詫びを入れるのかを」

初春「しかし、この期に及んでだんまりを決め込むとはのう。期待外れも甚だしい」

N中佐「……そ、それは初春には関係のないことだ! 下がっていろ!」

初春「そうはいかぬ。わらわは結末を見届けたいのじゃ、朧と同じく捨て艦にされた艦娘としてな」

初春「それにな、キスカからの撤退戦で沈んだ駆逐艦朧の最期を看取ったのは、他でもないこの駆逐艦初春じゃ」

初春「その朧が、必死の覚悟で仇を討つと言うのならば、わらわが朧に加勢せぬ理由はない……!」

N中佐「……く……!」

初雪「!」

N中佐「……くそ……くそお!」

N中佐「なんでだ! 俺は……俺は今まで必死にやってきたのに! この仕打ちはなんだ!?」

N中佐「俺は! 深海勢力から海を取り戻すために戦ってきた! 戦果を挙げてきた!」

N中佐「お前らも海軍ならその役目を果たすのが本懐だろう!」

初春「そのためになら艦娘も使い捨てにすると?」

N中佐「そうせざるを得ない時もある! 事実、捨て艦戦法で勝利をあげられた戦いもあったんだ!」

初春「この期に及んで開き直るか。なにを都合の良いことを……!」


初雪「……そうしないと、耐えられないんだと思う」

朧「!」

初雪「N中佐……本当は、わかってる」

初雪「自分のやってることが、間違いだって。認めたくないから、私たちのことはなかったことにしようとしてる」

初春「間違いだらけじゃの……この男は!」

N中佐「なにを……間違いなものか!! 何が間違いなんだ! 俺の行動は、全ては海を守るための、国を守るための行為だ!!」

初春「守るため、じゃと?」

初雪「……」

朧「……」

N中佐「奴らに海を奪われればどうなるか、人間は嫌と言うほど思い知らされたはずだ! 悠長なことをしていられないはずだ!」

N中佐「だというのに、当の海軍は内々で足の引っ張り合い……陸の連中も同じだ! 同じ人間同士で蹴落とし合いも茶飯事だ!」

N中佐「今、俺たちに必要なのは圧倒的な力だ! 抵抗する全てを抑え込み、一丸となって敵を殲滅する力だ!!」

N中佐「そのために、たとえ後ろ指を指されても、今の戦況を切り開く方法を取る! そうしなければ、人間はこの戦争に勝てないんだ!」

N中佐「捨て艦戦法をとったのも、深海棲艦の勢力拡大をどうしても防ぎたかったからだ」

N中佐「今回の艦娘制御ツールを採用したのも、一日も早い深海棲艦の撃滅を進めるため……!」

N中佐「どんな手を使おうと、俺はあいつらを、深海の奴らを! この海から駆逐する! そう、誓ったんだ!」


初雪「……」

朧「……」

初春「おぬしは……そうまでして深海棲艦を討ちたいのか」

N中佐「俺の故郷は小さな漁村だ。俺の父も漁で生計を立てていた」

N中佐「父の跡を継いで漁師を目指していた俺に、両親は大学を出るよう進言してくれて、今、俺はその海を守る仕事に就くことができた」

N中佐「その漁村の住人は今、深海棲艦の脅威によって疎開を余儀なくされている」

N中佐「このまま深海棲艦を海から掃討することができなければ、父の仕事がなくなってしまう。俺の故郷が消えてしまう……!」

N中佐「そんなことは絶対にさせない!! 俺を育ててくれた両親のためにも……お世話になった故郷の人たちのためにも!」

N中佐「俺たちは海軍だ! 海の平和を取り戻すのが最優先事項だ!」

N中佐「お前たち艦娘も、もともとは軍艦だったんだろう! ならばこの国の、人間のために命をかけることも当たり前だろう!!」

N中佐「そうでないのなら! お前らはいったい何のためにいる!?」

 扉<バンッ

全員「「!!」」

提督「ったく、うるせえな……廊下まで響く大声出しやがって、くそが」ビッショリ

朧「て、提督!?」

N中佐「提督だと!?」


提督「おうよ。雨ん中走ってきたもんで、ご覧の通り濡れ鼠だ」

初春「顔の傷はどうしたんじゃ!?」

提督「治った」

初春朧「「治った!?」」

提督「初雪もいるのか。丁度いい、お前にも話がある」

初雪「……!」

提督「が、先にカタをつけなきゃいけねえのは、N中佐。あんたのほうだ」

N中佐「俺だと!?」

提督「ああ」チラッ

 タタタタッ

妙高「准尉!」

鳳翔「准尉、大丈夫ですか……っ!!」

N中佐「妙高……鳳翔……!」

妙高「初雪さん、無事だったんですね……!」

初雪「妙高、さん……!」ダキヨセラレ

妙高「良かった……」ギュッ


鳳翔「朧さんも、よく無事で……!」

朧「……来ないでください!」ウツムキ

鳳翔「!」

朧「アタシは、沈んだんです。もう、あなたのところへは……弓道場へは、行けないんです」

朧「あいつの、せいで……アタシは!」キッ

N中佐「!」ビクッ

提督「悪いな朧、ちょっとだけこいつを借りる。後で撃たせてやるから待ってろ」

朧「!」

N中佐「准尉!? 貴様、何を……」

 トタトタトタッ

吹雪「司令官! 大鳳さん連れてきました!」

大鳳「提督准尉!」

提督「おう、ご苦労さん。悪かったな、急で」

吹雪「もう、びっくりしましたよ!? いきなり『誰かいるか!』って司令官の声が聞こえたんですから!」

電「本当なのです。びしょびしょの司令官さんが、傘と雨具を6人分、埠頭の船へ持って行けって……」

如月「いきなりだったから、私たちもちょっぴり濡れちゃったわ」


提督「そうか。じゃあシャワー浴びてこい」

由良「提督さんこそシャワーを浴びてきてください! 上着も脱がないと風邪をひきます!」タオルテワタシ

提督「大丈夫だよ。俺は馬鹿だから風邪なんかひかねえよ」タオルウケトリ

初雪「そういう問題じゃないと思う……」タラリ

吹雪「とりあえず、どういうことなのか教えていただきたいんですが……」

提督「朧はN中佐の元部下だ」

全員「!!」

N中佐「……」メソラシ

提督「で、この鳳翔は、着任したばかりの朧が弓道場に来た時に知り合って、それを機に弓を教えようとしてたそうだ」

鳳翔「……かつての駆逐艦の朧さんは、五航戦の護衛任務に着任していました」

鳳翔「私が弓を引く姿を熱心に見ていましたので、彼女たちのことをおぼろげながら思い出していたのではないか、と思ったんです」

提督「朧が捨て艦にされて轟沈したのは、それから間もなくだった」

朧「……」ウツムキ

提督「だから朧は、砂浜で倒れていたときに『まだ』って言っていたわけだ」

提督「まだ、弓を習い終えていない。鳳翔からの手ほどきを終えていない、と」

提督「そんな朧を犠牲にして勝利を得たN中佐が、今度は初雪を見捨てた。うちの大和に懸想して、な」


初雪「……」

提督「こんなイヤホンまで用意して……とんだくそ野郎だ」

N中佐「……っ!」

提督「でだ。あっちの鎮守府であんたの昔話を聞かせてもらった。どうしてこのツールを使うに至ったかの話もな」

提督「あとはあんたの口から直接訊くだけだ。本営で、この大鳳へ詳しく話をしてくれよ」

N中佐「本営で、だと? どういうことだ……!」

大鳳「本営は、このツールが危険であるという認識に達しました。運用は許可できません」

大鳳「このツールの仕組みについて、あなたがどのくらい把握しているか、お話を伺いたく……」

大鳳「本営まで出頭命令が出ております。N中佐、私とご同行願います」

N中佐「待て、その間の俺の鎮守府はどうなるんだ……」

大鳳「あなたの代わりの指揮官が配属されます。同時に、あなたからは鎮守府の指揮権が剥奪されます」

N中佐「……何かの間違いだろう!? 俺は、海の平和のために……国民のために必死にやってきたんだぞ!?」

N中佐「提督准尉もわかるだろう! 大事な人を守りたいという気持ちが!」

提督「ふん、お前の大事な人なんか知ったことかよ」

N中佐「な!?」


提督「大事な人たちを守りたい? それを言うなら、俺にとって大事なのは、この鎮守府に流れ着いたこいつらだ。この鎮守府にいる艦娘たちだ!」

朧「……てい、とく……」

如月「司令官……!」

吹雪「司令官!!」

提督「大和だってなあ、この鎮守府で暮らしてる妖精たちが、この鎮守府のために建造した唯一の艦娘だ」

提督「大和が妖精たちのために戦う義理はあっても、あんたのために大和を送り出すなんて考えはどこから出てくるんだ!?」

提督「そんなに連れて行きたいんなら、俺を殺して連れて行けよ。捨て艦だってやったんだ、簡単だろ?」

 ゾワッ

N中佐「!?」

鳳翔(足が、すくんで……!)

妙高(な、なんですか、この怖気は……!)

大鳳(なんて重苦しい……!)

朧「……提督」

提督「ん?」

朧「朧、提督のそういう冗談を言うところ、キライです」ジロリ

提督「……」


如月「そうね~。司令官のそういうところ、感心できないわぁ」ジロリ

吹雪「本当にそういうことになったら、どうするつもりなんですか」ジロリ

提督「……わかったわかった、お前ら本当に冗談が通じねえな」ハァ

 フッ

妙高(重圧が解けた……!)フラッ

提督「ったくよお、ただの煽り文句をマジにとるなよ……面倒くせえ」アタマガリガリ

電「今の発言、神通さんが聞いたら絶対激怒したと思うのです」ボソ

神通「ええ。ですから今後は控えてくださいね」ニッコリ

電「!?」ギョッ

提督「……お前も来たのかよ」アタマカカエ

神通「はい、ただならぬ気配を感じたものですから。それで……」

提督「今回は神通の手を借りなくても平気だ。それに話もまだ終わってねえ」

神通「と、仰いますと」

提督「本営に大急ぎで確認したぜ。N中佐、あんた、初雪を轟沈扱いにしたんだってな?」

初雪「!!」

N中佐「……」


提督「随分と捜索の打ち切り判断が早くねえか? 多分、大和の入手に注力したかったんだろ?」

初春「ということは、初雪は……」

提督「初雪に話したかったのはこのことさ。書類の上であろうと轟沈扱いにされちまったら、うちで引き取るか解体かって話になる」

初雪「……そう……」ハァ

神通「敷波さんと同じケースですね」チラッ

N中佐「!」メソラシ

提督「でだ、初雪。お前、これからどうする?」

初雪「……准尉」クルリ

提督「ん?」

初雪「その……これから、よろしく、お願いします」ペコリ

提督「おう。明日の朝一で手続きしとく」

N中佐「……!」

提督「ふん、初雪にふられて一丁前にショック受けてやがる。コミュニケーションを全部イヤホンから済ませてたくせに」

N中佐「」グサッ


初春「顔を見合わせたのも片手で足りる程度と聞いておる。顔を見に来ない相手に気を使う必要などあるまいにのう?」

如月「待って、初雪ちゃんが司令官になびいたことがショックなの? もしかして、あれで可愛がってたつもりでいたのかしら」

由良「っていうか、そもそも初雪ちゃんはN中佐が自分から手放したわけでしょ? ショック受けること自体おかしくない?」

電「N中佐さんは司令官さんから大和さんを奪おうとしていたのです。因果応報なのですから、同情の余地はないのです」

N中佐「」グサグサグサグサッ

鳳翔(N中佐、滅多打ちにされてますね……)

妙高(身から出た錆とはいえ、ご愁傷様です)

吹雪「あ、あの、みなさんそのくらいにしておきませんか」

鳳翔(ああ、さすが吹雪さん、この場を丸く収めようと……)ホッ

吹雪「あの人を泣かすのは朧ちゃんの役目ですから、寸止めでお願いします」

妙高(ただの死刑宣告だった!?)ガビーン

提督「ん、それもそうだな……朧。こいつを使え」ポイッ

朧「……これは」キャッチ

吹雪「輪ゴム、ですか?」


提督「ああ、ちょっと大きめのな。使い方は鳳翔に教えてもらったろ? そいつで撃て」ニヤリ

朧「……!」

如月「撃て、って……?」

朧「……」スッ

鳳翔「……!」

朧「……」グイッ ギリギリギリッ

電「輪ゴムでN中佐さんを狙ってるのです……」

由良「まるで弓をひくみたいに……!」

朧「……っ!」シュパッ

 輪ゴム<ピュンッ

N中佐「いてっ!」ベチッ

朧「……」

鳳翔「……朧さん。覚えて、いたんですね」

朧「……」ポロポロ

鳳翔「私が教えた、弓の動作を……射法八節を、ちゃんと覚えていてくれたんですね」ダキヨセ

朧「う、うう……!」ポロポロポロ

鳳翔「……」ギュウ ナデナデ


提督「さてと、あとはN中佐を本営へ連れてっておしまいだな。うちの艦隊の指揮権、返してもらうぜ」

N中佐「……提督准尉」

提督「ん?」

N中佐「俺は……間違っていたのか?」

N中佐「強い艦隊を作って戦果を挙げれば、俺たちの正義が証明されると思っていたのに……」

提督「知るか。俺は、あんたが俺の部下に手を出そうとしたことにムカついてんだ」

提督「自分が間違ってねえ自信があるなら、本営の連中に訴えろよ。あんたの境遇や思想に共感した奴がいたら、協力してくれるかもな」

初春「それはどうかのう? ツールを使って艦娘の情を無視した輩が、大事なものを守りたいから手を貸せと情に訴えてきたのじゃぞ?」

初春「わらわはまったくもって気に入らぬ。斯様な御都合主義者の二枚舌に耳を貸したいとは思わんな」ジロリ

提督「俺だって気に入らねえよ。結局は俺と同じで自分の身内が一番大事だって考えてるくせに……」

提督「わざわざ『国民のため』なんて枕詞添えて、さも大層なことやってる風な偉ぶった言い方しやがって。むかつくぜ」

提督「そもそも手段を選ばない道を選んだ時点で、人から恨まれる覚悟をしてねえのがおかしいんだ」

提督「それで誰かに好かれると思ったか? 何考えてんのかわかんねえよ、くそが」

N中佐「……っ」


提督「でだ、妙高、大鳳、ちょっと聞け」

妙高「は、はい? なんでしょう」

提督「本営がツールの運用を禁止した理由は、少佐の言うように艦娘を使ってのクーデターを危惧してのことだと思う。だとすれば……」

提督「N中佐がこのツールを、深海棲艦の撃滅のための手段にしか使う意図がなかったことを訴えれば、多少は大目に見てもらえるはずだ」

妙高「え!?」

N中佐「!?」

大鳳「た、確かにそうかもしれませんが……」

提督「というか、そこに付け込むしかねえな。N中佐が海軍には絶対刃向わないことをアピールするくらいしか、罰を軽くする方法が思いつかねえ」

妙高「罪を軽く……しようというのですか!?」

提督「おうよ。とりあえずだ、このツールを使うにあたってどんな人間に関わったかを、N中佐には全部正直に喋らせろ」

提督「わからないならわからないと言えばいい。言いよどんだり押し黙ったりするほうが、よっぽど心証が悪くなる」

提督「どうせ本営もいろいろ調べてるはずだ、N中佐の言うことに齟齬がなけりゃそれでいい」

提督「N中佐がこの仕事を続けたいっつうんなら、本営に使いたい、価値があると思わせなきゃならねえ」

N中佐「……」

妙高「……価値、ですか」

提督「そうだ、価値だ。使えねえ奴が馘になるのはどこも同じだろ?」


初春「のう提督よ、おぬし先程から何を言っておる?」

初春「N中佐にはわらわたちも随分引っ掻き回された……その返しにしては、手ぬるいどころか塩を送っているようにしか見えんぞ?」

妙高「ええ……私もそう思います。提督准尉の先程の言動からは真逆のお話です、どうしてそのようなことを?」

提督「あ? 向こうの鎮守府にいた卯月に『鎮守府のみんなとN中佐を助けたい』って言われたんだ、だったら助言するしかねえだろ」

N中佐「……!」

提督「じゃなきゃ俺だって朧に撃てって言ってたぜ。まあ、後々面倒だからこっちのが良かったけどよ」

鳳翔「……面倒、ですか」タラリ

提督「だいたいなあ、ハナっから手前が何をしたいか、艦娘に腹ん中を正直にぶちまけてりゃ良かったんだよ」

提督「やる気ある奴はついて行こうと思うし、間違ってることをしようものなら止めてくれる奴だって現れるだろ」

N中佐「……」ウツムキ

提督「ま、世の中にゃ『罪を憎んで人を憎まず』なーんて都合の良い言葉もある」

提督「本営で説明するときに、大鳳あたりが横からそう言えば、ちったあ効果あるかもな?」

提督「あとは、このツールを開発した連中が、N中佐の境遇を知ってて利用しようとした、とか言う話があるなら擁護も楽なんだが……期待はできねえか」

大鳳「……何と言いますか……」

妙高「……よくそこまで思いつきますね……」


初春「提督がN中佐に指揮を任せようとしたのは何故じゃ?」

提督「ええっとなあ……残念ながら断る理由が思いつかなかった、ってのがひとつめ」

初春「ふむ……」

提督「N中佐の鎮守府に行って、いくつか弱みを掴んで強請ってやろうと思ったのがふたつめ」

妙高鳳翔「「はい!?」」シロメ

提督「N中佐が最初からツール頼みの無能なら、妖精に頼んでイヤホン壊してしまえば勝手に自滅すると思ったのがみっつめ」

N中佐「!?」シロメ

提督「自分のやり方が正しいと思い込んでるワンマン指揮官だ、せいぜい苦労しやがれって思ってたぜ。くっくっく」

全員「「……」」

吹雪「あの、司令官……もう少しオブラートに包んだ言い方をしたほうがいいと思います」

電「司令官さんは悪い意味で正直すぎるのです」ハァ

提督「まああとは、この島に流れ着いてくる艦娘たちがいる現実を見せつけたかった、ってところだな」

提督「馬鹿の一つ覚えみたいに戦果戦果うるさくてしょうがねえ。世の中には価値観が違う人間もいることを理解してもらわねーとな」

神通「海軍の中では、提督の思想こそ異端だと思いますけど……」


提督「ま、いいや。これ以上の問答は本営に任せるか。いい加減面倒くさくなったし」

初春「……そういうことにしておこうかの」

妙高「……何につけても『面倒くさい』がついて回るんですね」ハァ

吹雪「口癖みたいになっちゃってますから」タハハー

 タタタタッ

大和「提督、すみません遅くなりました!」ビッショリ

不知火「……もうお話は終わったのでしょうか」ビッショリ

提督「なんだお前ら、合羽はどうした?」

士官O「着ていたんですが、ご覧の有様でして」ビッショリ

如月「! あなたは……!」

士官O「お久しぶりです。お元気そうでなにより」ニコ

提督「そんなに船の接岸に手間取ったのか?」

士官O「ええ、大雨のせいで視界が悪くて。誘導してもらったんですが、距離感をつかむのに苦労しました」

提督「なるほど、大和と不知火はそれを手伝っててずぶ濡れになったってわけか」

不知火「はい。今頃になって雨が収まりかけているのが癪ですが、仕方ありません」


提督「とりあえずお前らは風呂に行って体を温めてこい。如月、こっちの士官には俺の部屋のシャワーを使わせてやってくれ」

士官O「提督准尉のほうが先では?」

提督「こういうのは客が先だ。如月、頼むぜ」

如月「はい、了解しました。こちらへどうぞ」ニコッ

士官O「すみません、失礼します」

不知火「大和さん、私たちも行きましょう」

提督「あ……ちょっと待て。鳳翔、妙高、ついでに朧も、一緒に行ってさっぱりしてこい」

妙高「よ、よろしいんですか?」

提督「おう。大鳳はどうする」

大鳳「私は、N中佐を見張る必要がありますので、どうぞお構いなく」

提督「そうか。じゃあ後でな」

鳳翔「では提督准尉、お言葉に甘えます。妙高さん、朧さん、行きましょう」

妙高「はい」

朧「……」コク


提督「それじゃ、吹雪と神通は鳳翔たちが泊まる部屋の準備を頼む。由良と初春は士官たちに夜食の準備を」

提督「電はそれまでに大鳳に茶を出してやってくれ。俺は外に行って雨具を片付け……」

 ガシッ

提督「ん?」

神通「外は危ないですから、外出しようとしないでください。私がやります」

由良「それと風邪をひく前に、早く上着を脱いでください。洗濯しますから」

提督「……お、おう……」

電「見張り番なら、交代でやったほうがいいのです」

初春「ふむ、まずは起きている手すきの者を呼び出そう。明日に差支えぬよう役割分担せねばな」

吹雪「ベッドメークは古鷹さんにも協力してもらいます! まだ起きてたはずですから!」

由良「提督さんは酒保へ行って、明石ちゃんから士官さんの替えの下着とタオルを貰ってきてください」

神通「如月さんに全部押し付けてはいけませんよ?」

提督「……」

鳳翔「頼もしい子たちですね」ニコ

提督「……まあ、な」

普段より長かったけど、今回はここまで!

大和が濡れたら……まあ、ご想像通りでしょうねえ……。
それでもここの提督は意図的に無視すると思います。


続きです。


 * その晩 0250 *

 * 提督の寝室 *

提督「」スヤスヤ

 ――……と……

提督「」スヤスヤ

 ――て……と……

提督「……んん……?」

 ――てい……とく……!

提督「なん、だ……?」ムクッ

提督「……」キョロキョロ

提督「誰もいねえ……なんだったんだ?」

 ユラッ

提督「!」

ぼんやりした人影『……てい……とく……!』

提督「な……!?」

ぼんやりした人影『……いそ……いで……!』

 スゥッ…

提督「消えた……!?」

提督「……急げっつったって、どこへ急げばいいんだよ……」


 * 同時刻、客室 *

(別々のベッドで眠っている鳳翔と妙高)

鳳翔「……」

妙高「……」

鳳翔「……妙高さん? まだ起きてらっしゃいますか?」

妙高「……はい」

鳳翔「今回の件……やはり私がN中佐を止めていれば良かったんでしょうか」

妙高「いえ、それを仰るなら私も同じです。あの時は誰もN中佐を説得できなかった……みんな、それを悔やんでいるはずです」

妙高「鳳翔さんがひとり責任を感じることはありません」

鳳翔「……それでもやはり、責任を感じてしまいますね……」

妙高「鳳翔さん……」

鳳翔「……」

妙高「……」

鳳翔「……? 何か聞こえませんか?」

妙高「え……いえ、何も」


 ……♪ ……♪

妙高「!」ガバッ

鳳翔「聞こえますよね?」ムクッ

妙高「はい、なにか……歌のような……」

鳳翔「……!」ビクッ

 火の玉?<ユラッ

鳳翔「み、妙高さん、あ、あれを」

 火の玉?<フッ

妙高「え?」

鳳翔「……」

妙高「? なにかあったんですか?」

鳳翔「……」ガタガタガタ

妙高「……鳳翔さん?」


 ……♪ ……♪

妙高「!」ガバッ

鳳翔「聞こえますよね?」ムクッ

妙高「はい、なにか……歌のような……」

鳳翔「……!」ビクッ

 火の玉?<ユラッ

鳳翔「み、妙高さん、あ、あれを」

 火の玉?<フッ

妙高「え?」

鳳翔「……」

妙高「? なにかあったんですか?」

鳳翔「……」ガタガタガタ

妙高「……鳳翔さん?」


鳳翔「い、いま、窓の外に、ひ、人魂のようなものが」

妙高「人魂ですか……?」

鳳翔「……」フトンクルマリ ビクビク

妙高「ほ、鳳翔さん……?」

鳳翔「ご、ごめんなさい……わ、私、おばけとか、苦手なんです」ナミダメ

妙高「そうだったんですか……」

鳳翔「は、はい、ですから、その……」モジ…

妙高「?」

鳳翔「す、すみません! 一緒のお布団に入れてください!」ダッ

妙高「は、はい!? 鳳翔さん!?」ズボッ

鳳翔「だ……駄目でしょうか」プルプルガタガタ

妙高「いえ、私は構いませんが……というか、もう返事をする前に入ってきてますよね?」

鳳翔「す、すみません……」シュン…

妙高「ええと、先程も申し上げましたが、私は構いませんから。大丈夫です」

鳳翔「あ、ありがとうございます……!」パァァ


鳳翔「こ、こうやって誰かにくっついていれば、いくらか怖さが紛れますので……!」ギュウ

妙高「そ、そうですか……私で良ければ、いくらでもご一緒しますよ」

鳳翔「ありがとうございます……ああ、妙高型の一番のお姉さんだけあって、安心できます」スリスリ

妙高(可愛い……)

 ……♪ ……♪

妙高「!!」

鳳翔「ひ……!」ビクッ

妙高「この歌は、いったいどこから……」キョロ

 人影?<ユラッ

妙高「え!?」ビクッ

鳳翔「ひぃい!?」ビックゥ

 人影?<スゥゥ…

鳳翔「す、す、透け、透けて……」ガタガタガタ

妙高「ほ、鳳翔さん落ち着いてください!」プルプル


 * 廊下 *

 コツコツ

提督「ったく、意味深なこと言うだけ言って消えるなよな……面倒くせえ」

 タタタタッ

提督「ん?」

潮「は、はひ……ひいいっ!?」ビクッ

提督「なんだ!? 潮……なにやってんだ、こんな時間に」

潮「て、て、提督ですか!? た、大変なんです! 朧ちゃんが!」ヒシッ


 * 廊下 客室前 *

提督「朧が眠ったままこっちに歩いてきたって?」

潮「は、はい。いくら呼びかけても反応しなくて……!」

提督「こういうのなんて言うんだっけか。夢遊病ってやつか……ん?」

(客室のそばの廊下で倒れている朧)

提督「朧!」タッ

潮「朧ちゃん!」タッ


朧「……」

提督「……死んではいねえな。眠ってるだけか」

潮「朧ちゃん……いったいなにが……」ウルッ

提督「さっき潮が走ってたのは、朧を助けて欲しかったからか?」

潮「い、いえ、実は……その……わ、笑わないでくださいね?」

提督「? ああ」

潮「実は……ゆ、幽霊を見たんです……!」

提督「なんだ、そんなことか」

潮「そんなこと、って……!」

提督「だって俺も見たからなあ。笑ったりしねえよ」

潮「見た……ん、ですか!?」アオザメ

提督「お前も幽霊を見て、様子のおかしい朧が倒れてたとなりゃあ、怪しいのはまさにこの辺り……ん?」

潮「ど、どうしたんですか!?」ヒシッ


提督「ちょっと静かにしろ……なんか聞こえねえか?」

潮「なにか……っ!?」ビクッ

提督「……これ、歌か?」

潮「た、たぶん……!」ゾワワッ

提督「あの部屋から聞こえるな。N中佐と大鳳がいる部屋か」

提督「潮、ちょっとここで待ってろ。様子を見てくる」

潮「い、行くんですか!?」ガタガタガタ

提督「ああ。悪いが、手を放してくれるか」

潮「ひ、一人にしないでください!」ヒシッ

提督「……わかったよ。後ろに隠れてろ」


提督「さてと……」

< ♪ ~♪ ~♪

提督(確かに、妙に寒気っつうか悪寒がするな……)ゾク


提督「仕方ねえ……突入するか」

 扉<チャッ

提督「!! なんだこりゃ……」

潮「……ど、どうしたんですか……ひっ!?」ビクーッ

(部屋の中にぼんやりと浮かび上がる、無数の幽霊と人魂)

提督「異常な寒気の正体はこれかよ……!」

潮「ーーーーーーっ!?」ヘタッ

提督「なんでこの部屋がこんなことになってやがるんだ……!?」


 ♪ねえ~んね~ん、ころ~り~よ~……♪ ォォォ


提督「あれは……!」

大鳳「♪おこぉろ~り~よ~……♪」ォォォ

幽霊たち『』ウットリ


提督「……なんだこりゃ」

潮「……」

N中佐「」ガクガク

提督「……おい、大鳳」

大鳳「♪ぼ~うや……? は、はい、どうかなさいましたか」

提督「お前、何してた?」

大鳳「え? 何と申しましても……子守唄を歌っていたんですが」

提督「歌ってただけか?」

大鳳「はい。お聞かせしましょうか?」

提督「……お前、もしかして、歌うの好きか」

大鳳「はい!」ニコー

N中佐「」ピクピク

提督「……」


大鳳「あの、提督准尉?」

提督「あー、ちょっと歌うのやめてくれ。N中佐は寝てるみたいだし……」

幽霊たち『』ジーッ

提督「……どうせ歌うんなら、外で歌ったほうがいい。うん、そうしてくれ」

大鳳「あの、N中佐は寝てらっしゃるんですか? どこからかアンコールって声が聞こえるんですが……」

提督「……」チラッ

幽霊たち『』コクコク

提督「……」

大鳳「あの……」

提督「いいから外に行ったほうがいい。そこの通用口から南に少し歩くと、海が見える場所に出る」

提督「雨も上がったし月も出てる。寝てる相手より、月を相手に歌うほうがムードもあるだろ」

大鳳「……そう、ですか」

提督「ここは俺が見てるよ。よかったら外で気分転換してきな」

大鳳「……はい! お言葉に甘えさせていただきます!」パァッ

提督「おう……」


大鳳「失礼します! ~♪」スキップスキップ

 ヒュオオォォォォ…

提督「……」

潮「……」プルプル

提督「今の冷気、幽霊たちも移動したってことだよな」

潮「……た、たぶん」コクコク

提督「あいつらも娯楽に飢えてるってことなのかねえ……潮、大丈夫か?」

潮「……」クビヲプルプル

提督「……だよなあ、俺ですら鳥肌立ったし」ナデ

潮「!」ギュウウウ

提督「あの様子だと、大鳳には幽霊が見えてねえ、ってことなのか? 見える基準がわかんねえや……」

提督「あ、そうだ。おい、N中佐。生きてるか?」

N中佐「……か……」プルプル

提督「か?」


N中佐「金縛り、に……遭った……!」ゼェゼェ

提督「……」

N中佐「上に……何人も、乗っかられてた、気がする……息が、できなかった……!」

N中佐「提督が、来てくれて……助かっ、た……よ……」ガクッ

潮「ひっ!?」

提督「おい!? ……眠っただけか。びっくりさせやがる」フー…

提督「外で倒れてる朧は……多分、誘われたんだろうな。あいつらに」

潮「誘われ……!」ガタガタ

提督「俺の部屋にも幽霊が出たんだが、多分そいつは、そういう仲間の暴走を止めたくて出てきたんじゃねえかな?」

提督「あいつらが朧を誘いたい気持ちもわかるが、あんまりそっちに近づきすぎるのも考え物だ」

提督「目立ちすぎると手を打たざるを得なくなる。はしゃぐのは、できれば今夜限りにして欲しいもんだ」

潮「……」

提督「と、まあ、死んだ連中にこんな都合のいいこと言って、どのくらい譲歩してもらえるかわかんねえけどな」


提督「ただ、まあ……こんな形であいつらと意思疎通できるなんて、思いもしなかったぜ」

潮「……みんな、さみしかったんでしょうか……」

提督「……さみしい、か。そう言われればそうかもな」

提督「俺も日に一回見回りする程度だしなぁ……なんかあいつらの気晴らしになるようなもの、考えなきゃな」

提督「さぁて。潮、部屋まで送るぞ。朧も布団で寝かせてやらねえとな」オボロセオイ

潮「は、はい……!」

 < ♪トーォリャンセ トーリャンセ…♪

提督「……」

潮「……」

提督「しかし……あいつの歌声、行ったら戻ってこられなくなりそうな歌声だな……」

潮「……はい……」ゾワゾワッ



 * 一方その頃、隣の客室 *

鳳翔「」チーン

妙高「鳳翔さん……真っ先に気絶して回避するなんてずるいです……!」プルプル

今回はここまで。


個人的に、大鳳さんの声帯の妖精さんの歌声はかなりツボです。

続きです。


 * 翌朝 執務室 *

提督「ふあ……」

由良「提督さん、寝不足ですか?」

提督「だな。結局大鳳も歌い疲れて4時前に寝たし。その時間にはN中佐も寝てたから、見張りも必要なかったかもな」

提督「それと、朝餉が済んだら、ちょっと日曜大工してくる」

由良「何か作るんですか?」

提督「墓が並んでる丘の上に、祠でも立ててやろうかと思ってな」

提督「そもそも、お供え物が野晒しってのもアレだ。眠ってる奴らが退屈しないようなものを入れてやりたい」

由良「ふぅん……いいんじゃない?」ニコ

扉<コンコン

士官O「おはようございます」

由良「あ、士官さんですね。どうぞ」

士官O「失礼いたします」チャッ

提督「あんたも礼儀正しいよなあ……昨夜はまともに眠れたか?」

士官O「ええ。このごろは船の中で寝ておりますので、久々に揺れない寝床を堪能しました」


提督「そうか、ならいいんだ。大鳳やN中佐のところでちょっとした騒ぎがあったもんでな」

提督「二人の体調を考慮して、こちらの出発は遅れると本営に伝えた。1100をめどに準備してほしい」

提督「それまで食堂でしばらく暇をつぶしててくれ。そろそろ朝餉の準備もできてるはずだ」

士官O「了解いたしました」

提督「そういや、鳳翔が手伝いに行ってるんだっけか?」

由良「はい、比叡さんがどんな風に料理しているか、見に行きたいと言っていました。きょう一日、厨房でお勉強だそうです」

提督(……鳳翔は、幽霊は平気なのか?)

由良「ただ、妙高さんの顔色が悪くて……あまり眠れなかったって言ってましたよ」

提督「そうか……あとで声をかけとくか。朧の様子はわかるか?」

由良「うーん、変な夢を見た、って言ってたかな……顔色は悪くなかったと思います」

提督「夢、ね……わかった。よし、俺たちも食堂に行くか」



鳳翔「昨晩ですか? 普通に眠ってましたよ?」ハイライトオフ

提督「……」

鳳翔「眠ッテマシタヨ……?」ガクガク

提督(これ以上訊くのはやめたほうが良さそうだ)タラリ


 * 1100 墓場島鎮守府 埠頭 *

士官O「ではN中佐。参りましょう」

N中佐「ああ。提督准尉、すまなかった。鳳翔、妙高、ここでお別れだ」

提督「……」

妙高「N中佐……」

N中佐「私の鎮守府のみんなに伝えてくれ。今までありがとう、利用するようなことをしてすまなかった、と」

鳳翔「N中佐……どうか、お体にお気をつけて……!」グス

N中佐「……ありがとう」

大鳳「では、行きましょうか。提督准尉、お世話になりました。ご武運を!」

提督「おう」

由良「お気をつけて」

 ザァァァァ…

由良「行っちゃいましたね……」

提督「そういや不知火、お前たちは行かなくて良かったのか?」

不知火「はい。今回の一連の報告は大鳳さんが行うことになっておりました」


不知火「不知火が不用意にでしゃばって少佐の機嫌を損ねるのも得策ではないと思います」

提督「そういやそうだった、大鳳もあれの部下だったんだっけ。赤城みたいな毒気がねえから、すっかり忘れてた」

不知火「あとは、大和さんがこれ以上司令と離れていると何をするかわかりませんので……」トオイメ

提督「……なにがあったんだよ」ハァ

妙高「ところで、私たちはどうなるんでしょう?」

提督「それなら向こうの大淀から連絡があってな。N中佐の鎮守府から迎えが来るそうだ」

提督「ついでにちょっとしたお土産も持ってくるらしい」ノビーッ

不知火「……だいぶお疲れのようですが」

提督「昨夜まともに寝てねえからな……祠の図面も描けてねえし」

不知火「図面? ……もしや、今朝描いていたロケットの落書きがそうなんですか?」

由良「……ぷーっ!」クチオサエ

提督「……くっそ! どうせ俺に絵心なんてもんはねえよ!」ナミダメ

不知火「それを絵心と言うのは違うと思います……」

島妖精「そういうことこそ私たちに任せればいいのに」

島妖精「ねー」


 * 執務室へ戻って *

提督「ル級が来てる?」

由良「ええ。せっかくだし、お昼を一緒にと思ってるんですけど」

明石「提督ー! お弁当、作ってもらいました!」

提督「弁当? ……って、お前も行くのか?」

明石「はい! ちょっと案内したいところがありまして!」

提督「?」


 * 島の北部 岩礁地帯 *

提督「この辺、岩だらけなんだよな。歩きづらいったらねえ……つうか、なんでこんなとこ通るんだ?」

伊8「提督。こっち」

提督「おう……なんだこりゃ? 良く見つけたな、こんな洞穴」

明石「そりゃそうですよ、この壁の穴、最初は開いてませんでしたから」

提督「は?」

明石「私が撃って開けたんです」

提督「……崩れてきたりしねえだろうな?」

明石「大丈夫ですよ、岩盤が薄いのここだけですし」


由良「意外と中は広いのね……」

明石「向こうへ行くと、海に出られますよ」

提督「外から見るとただのでかい岩場だったんだが、こうやって潜んでいられるとなると、何かに使えそうだな」

明石「ここ全部、伊8さんが見つけたんですよ!」

提督「なるほど。こんな場所まで調べてくれて、ありがとな」

伊8「……」コク

由良「使う、ってどうする気なの?」

提督「まあ、緊急の避難場所ってとこか? 隠れるにはもってこいの場所だしな」

提督「あとはここにル級が潜んでいることもできるだろうし」

明石「そう思いますよね!!」

提督「……お、おう」

明石「そう思って呼んできてるんです! ル級さーん!」

ル級「……」スッ

提督「よう、久しぶりだな」

ル級「……」

由良「な、なんだか雰囲気が重たくない?」


明石「……あの、なにかありました?」

伊8「?」クビカシゲ

提督「なにかあったのか?」

ル級「……提督」

ル級「……悪イケド、私ハコノ鎮守府ニ居続ケル気ニハ、ナレナイワ」

明石「え!?」

ル級「シバラク、アナタタチヲ見テキタケレド、他ノ人間ガ多ク出入リシテイル」

ル級「私ガ居座ッテハ、アナタタチニモ、ワタシニモ、火ノ粉ガ降リカカルノハ目ニ見エテイル」

由良「そんな!」

ル級「ダカラ、オ別レダ」

提督「ん、そうか」

明石由良「「ちょっ!?」」

提督「な、なんだ? なんで驚いてんだ?」

明石「そりゃ驚きますよ! そんなにあっさり、そうか、なんて言われたら!」

由良「そうです! 引き留めるとかしないんですか!?」


提督「いや、いたくなきゃいなくていいだろ!? それこそ気が向いた時に来ればいいだけだろが!」

明石「!」

由良「!」

ル級「……!」

提督「なんだ? 俺、なんか変なこと言ってるか?」

提督「俺はル級に遊びに来いとは言ったが、ここで暮らせなんて一言も言ってねえぞ」

提督「そもそもル級と俺たちじゃ価値観も生活観も違うだろうし、一緒に暮らして海軍に目をつけられたら庇いきれるかわかんねえぞ」

提督「んな面倒事押し付けたくもねえし、俺としちゃあ、来るときに連絡をもらえればそれでいい、って考えてたんだが……」

明石「……」

由良「……」

伊8「……」

提督「お前らそこでどうして揃いも揃って変な顔してんだよ……」

明石「提督のせいでしょー!?」グワッ

由良「最初から誤解を生まないように言ってください!」グワッ

提督「ああ!? 勘違いしたのはお前らじゃねーのかよ!?」

伊8「……」ポカーン


ル級「……フフ、フフフ。アハハハハ!」

全員「「!」」

ル級「提督ノ言ウ通リダ。別ニ、今生ノ別レニシナクテモ良カッタ」

提督「そういうこった。楽に構えてくれよ、俺も気を張ってるの好きじゃねえし」

ル級「ヤレヤレ、変ナ人間ダ」クスクス

明石「全面的に同意します」ハァ

提督「とりあえずだ、どうしても気に入らないことがあるなら言ってくれ、できる範囲で対応しとく」

提督「ただ、今言ったみたいに、他の海軍の連中を押さえつけられるようなことはできねえから、島に近づくときも警戒はしておいてくれ」

提督「俺の権限もそこまで強くない。無理なことも多いから、そこは目を瞑って欲しい」

由良「そうね。今回みたいなことは二度と起こって欲しくありませんけど」

提督「それなら大丈夫だろ。幽霊騒ぎもあったし、それを上に報告すりゃあ、まともな奴はますます島に近寄ってこないはずだ」

由良「……本当、どうしてこんなことが次々起こるのかしら……」アタマカカエ

ル級「本当ニ退屈シナイワネ、コノ島ハ」クスクス

提督「ところで、ル級はこれからどうするんだ?」

ル級「ココカラ北ヘ進ムト海底火山ガアッテ、ソバニ小サナ無人島ガアル。私ハ、ソノ周辺ニ落チ着コウト思ウ」

ル級「私ニ用ガアルナラ、ソノ無人島ヲ訪ネテ欲シイ」

提督「わかった。なにかあったら連絡する。由良、あとで場所を確認しといてくれ、くれぐれも本営の連中に感づかれないよう、内密にな?」

由良「はい、わかりました」

明石「さ、お昼にしましょう! 待ちに待ったお弁当タイムです!」


 * *

提督「明石てめえ! そのメンチ俺のだぞ!!」

明石「そんなの関係ないですよ! つばが飛ぶから怒鳴らないでください!」ヒョイ

由良「あ、それ、由良が狙ってたからあげ……!」

提督「……明石、お前最近食いすぎじゃねえか?」

明石「なっ! そんなことないですー! ちょっとおいしくて箸が進んでるだけですー!」

提督「いやいや、いくら比叡と鳳翔の合作だからって、なあ?」

由良「ええ……」

明石「そういう提督こそ遠慮してくださいよ! この前、比叡さんと如月ちゃんにお弁当作ってもらったんでしょう!?」

提督「生憎と食ったのは黒豆だけだ。卯月と望月にすっげー勢いで食われたからな」

提督「そうでなくても、医者に食うなと止められたし……」

明石「それはご愁傷様です」ヒョイ

由良「あ、また由良が狙ってたタコさんウインナー……!」

提督「やっぱ食いすぎだろ。太るぞ」ハァ

明石「なっ! そんなことありませんー!!」

ル級「コラ。オ行儀悪イワヨ」ビシッ

明石由良「「ご、ごめんなさい」」

提督「……わりぃ」

伊8(いちばんまともなのがル級さんってのはどうなんだろう)ポテトモグモグ

今回はここまでー。

更新お疲れ様です
ル級の秘密基地が出来たという訳か

初見だけど面白いなこれ
前作があるのか?

>>784
今の時点では、ル級との密会用の場所、という認識ですね。

>>785
>>1にもありますが、別のスレで展開している物語の過去の話になります。
なので、このスレから読み始めていただいて大丈夫です。


書けたので続きです。


 * その日の午後 埠頭 *

卯月「やったあぁ、来たっぴょぉおおん!」

L大尉「久しぶりだね、墓場島の諸君!」

妙高「卯月さん!?」

提督「……」ウヘァ

霞「……ちょっと、このしまりのない組み合わせはいったいなんなのよ」

朝雲「L中尉!? ど、どうしてあなたがここに!?」

L大尉「おお、朝雲じゃないか! 聞いてくれ、昨日付で僕は大尉になったんだ!」

朝雲「……香取さんに迷惑かけてないでしょうね?」ジトメ

L大尉「せっかくの再会なのに一言目から厳しすぎないか!? 僕だって日々成長しているんだぞ! なあ香取!」

香取「ええ、L大尉はとても教え甲斐のある生徒さんですよ、ふふふ」

朝雲「……ほんっと、手がかかる人でごめんなさい」

L大尉「待ってくれ本当にどういう意味だ朝雲ぉ!?」

霞「わかってないの!?」

提督「霞、自覚のない奴には何を言っても無駄だぞ……」


古鷹「あっ! L中尉じゃありませんか! お久しぶりです!」

L大尉「お、おお、古鷹! 聞いてくれ、昨日付で僕は大尉になったんだ!」

古鷹「本当ですか! おめでとうございます!」

L大尉「うん、ありがとう! そうだよ、こういう言葉を聞きたかったんだ!」

古鷹「L大尉も成長なさったんですね……!」

L大尉「ああ! 自転車も乗れるようになったんだ!」

古鷹「本当ですか!」

提督「!?」

霞「!?」

古鷹「じゃあ、ウォシュレットも一人で使えるようになりました!?」

L大尉「もちろん大丈夫だ!」

提督「」

霞「」

古鷹「それじゃ、お風呂に水鉄砲を持っていくのも……」

L大尉「ああ、アヒルちゃんと一緒に卒業したとも!!」


古鷹「さすがです!!」

提督「」シロメ

霞「」シロメ

朝雲「提督と霞が死んでる!?」

卯月「しっかりするぴょん!?」

香取(お気持ちはよくわかります)シロメ

提督「……おい香取。なんでこいつ海軍にスカウトされたんだ」

香取「え、ええ、なんでも妖精さんがしっかり見えるというのと、何に対しても物怖じしない度胸と強引さを買われたらしく……」

提督「見えるのか。だからってそこまで人材不足なのかよ、海軍は……」

香取「残念ながら、艦娘を率いる指揮官の3割は、何かしらの問題を起こして処分を受けたり解雇されたりしているくらいですから」

提督「こういう問題のある奴を指揮官に当てたら、元の木阿弥どころか悪化するだろうがよ……」

香取「ま、まあ、L大尉の場合は余計なことをしたがる悪癖さえなければ、本営にとって使いづらいわけではありませんので……」

提督「あー、そういうことか。なまじっか中身がいい奴スカウトしたら、出世されて自分の地位が危うくなるもんな」


提督「こういう手合いには、古鷹みたいな苦労を苦労と思わないお人好しか……」

提督「あんたみたいなしっかりした教育者に押しつけるのが妥当だしなあ。とんだ貧乏籤ひかされたもんだ、察するぜ」

香取「い、いえ、そのようなことはありませんよ?」

提督「それを否定するあんたもまじめだなあ……」

卯月「そういえば、提督准尉はどんな理由でこの島に着任したぴょん?」

提督「俺か? 妖精と話ができると困るやつがいるから、と言えばだいたいわかるだろ」

香取「……そういうことですか」

卯月「? どういうことだっぴょん?」

香取「今の海軍が深海棲艦と戦争するには、艦娘と妖精さんの力が不可欠である、ということは知っていますね?」

香取「ところが、その妖精さんを見ることのできる人間が、開戦当時の海軍にはごく僅かしかいませんでした」

香取「そこで海軍が、妖精さんの存在を確認できる人材を募ったのが、今の海軍で艦娘を率いている方々と言われています」

香取「ただ、それでやりづらくなったのは古参の海軍将校。先程も准尉が仰ったように……」

香取「艦娘とのつながりを深く持てない彼らは、新参者の指揮官たちに地位をとって代わられることを恐れたんです」

提督「ようは俺たちの存在が邪魔なんだ。艦娘の力を借りずに深海勢力を打ち倒せる方法を必死に考えてた奴らもいたしな」


提督「艦娘に権力を与えてないのもそれが理由だろうな。艦娘はまだ海軍の備品扱いだろう? 都合が悪けりゃ簡単に始末できる」

提督「これが俺たちみたいに艦隊を任された『人間』で、しかも民間人出身者が多いとなると、そうそう安易に消すわけにはいかねえ」

卯月「消すぴょん!?」

香取「一部の海軍将校のなかには、忌むべき邪道な方法で戦おうとする方々もいますし……」

香取「妖精さんに対してすら、知られてはいけない秘密を持った方もいるかもしれません」

提督「生かさず殺さず、封殺するのが目的なら、こういう辺鄙な島に追いやってしまえば安泰……ってなるよな?」

卯月「……准尉の長い話はいつも重たいぴょん」ムー

望月「ったくもー、なんだって准尉は、そーゆー話を毎回他人事みたいにしれっと喋れるのさー?」

弥生「……こんにちは」

提督「おう、お前らも来てたのか、お疲れさん。それよりお前ら、どうしてL大尉の船に乗せられてきたんだ?」

弥生「L大尉が、提督准尉の顔が見たい、って……」

提督「はぁ……?」

香取「お恥ずかしながら、L大尉と本営から戻るときに大和さんがいるという話を聞いて、一目見に行こうと……」

香取「その大和さんが提督准尉の部下だと知って、それならなおのこと准尉にご挨拶に、と言う話になったんです」


望月「早い話が、野次馬?」

香取「……そういうことになってしまいますね」

卯月「でも、うーちゃんたちの鎮守府に来てくれたおかげで、思ってたよりこの島に早く着いたから結果オーライっぴょん!」

香取「そう言っていただけると救われます」

弥生「准尉、これ、お土産……」ダンボールサシダシ

提督「! これは……俺が言ってた雑誌か?」

弥生「私たちが読まなくなった、古い本、だけど……良かったら、暇つぶしになるかと思って」

朝雲「へー、ファッション誌とかもあるんだ」

妙高「それは私が買っていた雑誌ですね。昨シーズンの本ですから、捨ててしまうつもりでした」

提督「小説もあんのか。レイモンド・チャンドラーとかエラリー・クイーンとか、なかなか渋い趣味してんな」

望月「あー、あとこれも差し入れ。オセロとか将棋とか黒ひげとか、リサイクルショップで物色してきた」

提督「わざわざ買ってきたのか?」

望月「うん、まー、安かったし。離島なんだし、電源不要のおもちゃじゃないと遊べないじゃん?」


卯月「弥生も、気分転換にお買いものに行きたいって言ってたぴょん!」

弥生「う、卯月……それは内緒にして、って……!」オロオロ

卯月「望月も実は、どうせ行っても遊ぶものないしー、とか言って全然乗り気じゃなかったぴょん」

望月「……いや、だって、あたしがここに来て何ができんのさ……」ポリポリ

望月「っていうか、どうせ遊びに行くなら遊び道具があったほうがいいぴょーん、とか言ってたの卯月じゃん」

卯月「その通りぴょん! うーちゃんはこの島のみんなと遊ぶために来たぴょん!」

妙高「卯月さん!?」

提督「いや、いい。卯月の好きにさせてやってくれ」

妙高「い、いいのですか?」

提督「そういうのが、この鎮守府に欠けていたんだ。残念だが、俺には駆逐艦の目線で何が楽しいのかがわかってない」

提督「俺が何気なく愚痴をこぼしただけなのに、ここまで気遣ってくれたんだ。礼を言わせてもらいたい」


弥生「!」

望月「お……!」

卯月「准尉、そういう笑い方もできるぴょん!?」

提督「? なんだ?」

望月「准尉ってば、今まで悪人みたいな笑顔しか見せてこなかったからねえ」

弥生「優しい、顔してた」

提督「? そうなのか?」

霞「まあ、滅多に見せない顔してたわね」

L大尉「古鷹、提督は普段から笑っていないのか?」

古鷹「最近はそうでもないですけど……少ないですね」

朝雲「私も初めて見たかも」

提督「……なんか、すげー恥ずかしいぞ」

妙高「照れている准尉も新鮮ですね」クスクス

香取「ええ」クスクス


 * 使われていない会議室 *

提督「よし、荷物は全部ここにおいてくれ」ドサ

霞「わかったわ」ドサ

妙高「おもちゃも全部ここでいいんですか?」

提督「ああ。食堂に近いから飲み物も持ってきやすいし、艦娘たちの私室にも近いから、ここを休憩室にしてしまおうと思ってな」

提督「棚も多いから雑誌の収納にも困らねえ。騒がしくなりそうなのは……黒ひげくらいか?」

妙高「トランプもエキサイトするかもしれませんね」

望月「あー、そういえばここに来るまでの間、船の中でババ抜きしてたんだけど……L大尉、めっちゃ弱かったねえ」

霞「確かに弱そうね……」

提督「ところで卯月はどこに行ったんだ?」

提督「古鷹と朝雲は、L大尉や香取と一緒に資材の荷下ろし中だけど、そっちには行ってねえだろ?」

弥生「……そういえば」

妙高「さっきまでいたと思うんですが……」


まさかのL大尉再登場。
次回は卯月の出番だっぴょん!

今回はここまで。

うーちゃんの出番が思ったより少なかった不具合が発生

続きです。


 * 執務室 *

卯月「卯月でぇーーっす! うーちゃん、って呼ばれてむぁ~す!」クルリーン

如月「私と同じ睦月型の、四番艦よ。執務室に用があるっていうから、案内したの」

卯月「お姉ちゃんに案内してもらえるなんて、卯月感激っぴょん!」

大淀「あなたもイヤホンを付けさせられていたんですか?」

卯月「うーちゃんは残念ながらN中佐に声をかけられなかったぴょん……全然出番がなかったぴょん」

卯月「でも、そのおかげでこの通り元気だし、倒れるまで働かされるよりマシかもしれないと思うと、ちょーっと複雑ぴょん?」

神通「極端な勤務体系だったんですね」

大淀「それで、卯月さんは執務室にどんな御用ですか?」

卯月「提督准尉に個別にお土産を持ってきたぴょん!」

神通「お土産?」

卯月「鎮守府のみんなに頼んで、不要になった雑誌を持ってきたぴょん。こっちは提督准尉向けっぴょん!」ダンボールドサリ

如月「司令官向け?」

卯月「おっと、荷物はまーだまだあるぴょん! うーちゃんはみんなを手伝ってくるっぴょーん!! ぷっぷくぷぅー!」ピャッ

神通「……なにを企んでいるんでしょう、あの子」

大淀「企む?」


如月「確かに卯月ちゃんはいたずらっ子だから、なにか仕掛けててもおかしくはないけど……」チラッ

大淀「……ちょっと箱の中身を改めさせてもらいましょうか。びっくり箱だったりするかもしれません」

神通「そうですね……」パカッ

如月「……雑誌系ばっかりね?」

大淀「とくに何か仕掛けられているわけでもないみたいですね……」ペラリ

雑誌『王道ラブコメ路線のマンガでーす』

大淀「……普通のマンガっぽいですけど」ペラリ

雑誌『次のページから性的描写三昧だけどな!』

大淀「!?」カオマッカ

如月「ど、どうしたの大淀さん!?」

神通「この雑誌がなにか……?」ベツノザッシヲペラリ

雑誌『すまない、ここは触手でヌチョヌチョなページなんだ!』

神通「!?!?」カオマッカ

如月「ふ、ふたりともどうしたんですか!?」

大淀「……///」

神通「……///」


如月「なにがあったのかしら……」ベツノザッシヲペラリ

雑誌『大丈夫? 大人への階段駆け上がっちゃうページだよ?』

如月「!?!?!?」カオマッカ

大淀「……」ゴクリ

神通「……」ミミマデマッカ

如月「……」ユゲボシュー

島妖精(なにこの異様な空間)タラリ

島妖精(顔を真っ赤にしてるのに、じっくり熟読してるっぽい……)タラリ

島妖精(みんなむっつりなんだね……)タラリ

提督「なにやってんだ、お前ら」

大淀神通如月「「「きゃああああああ!?」」」ガタガタガタッ

提督「……ど、どうした!?」パチクリ

神通「な、なんでもありません!」ドキドキ

大淀「いきなり声をかけないでください!」ドキドキ

如月「し、しれーかんのエッチ!」ドキドキ


提督「なんでそうなるんだよ……ん? なんだこの雑誌」

大淀神通如月「「あっ」」

提督「……」ペラリ

雑誌『よう坊主、若奥様があれこれされるマンガは好きか!?』

提督「……」ビクッ

提督「……ん、む……」アオザメ

如月「し、し、司令官どうしたの!?」

神通「大丈夫ですか!?」

提督「……だめだ、気分わりぃ……それ、処分しといてくれ」ヨロッ

大淀「提督!? ……いったいどうしたんでしょう」

如月「部屋の外に歩いていっちゃったわ……」

妖精「うーん、あれはトラウマを思い出したのかも」ヒョコ

如月「トラウマ?」

妖精「うん、提督が学生時代にアルバイトで倉庫整理をしてた時なんだけど、そこの店長の奥さんと従業員の一人が不倫してたんだよね」

大淀「唐突すぎる昼ドラの世界ですね……」

妖精「それで、その二人が倉庫の奥で……その、下半身裸になってたところを提督が見ちゃってね」

神通「ええ……」ヒキッ


妖精「提督はそれ見てげーげー吐いちゃって。騒ぎに駆けつけた店長はその二人と喧嘩を始めちゃって」

妖精「わたしもあの時は、あー、こういうのを修羅場っていうんだ、ってしみじみ思っちゃった」トオイメ

如月「司令官、そんなことに巻き込まれるなんて可哀想……」

妖精「しばらくしたらその店はなくなっちゃったし。その頃から提督も余計すれちゃった気がするなあ」

大淀「提督も壮絶な経験をしていますね……」

神通「なんだか、提督が私たちに対して壁を作っている理由がわかった気がします」

妖精「提督も根っこのところは純粋なんだよねー。だからこそ、目の前で見た不貞行為には露骨に嫌な顔をするようになったから」

如月「私が司令官に付きまとうのも、嫌がられてるのかしら……」ウルッ

妖精「それは嫌なんじゃなくて、困ってるだけみたいだよ。結婚願望がないから、下手に希望を持たせたくないって愚痴ってたもん」

如月「ほんと!? 嫌われてはいないのね!?」パァァ

妖精「う、うん。ただ、今は大和もいるから余計に意固地になってるだろうし……」

大淀「複数人の女性と同時につきあったり、だからと言って片方を贔屓にしたり、というのは提督にとってもタブーでしょうね」

妖精「うん。今は誰ともつきあう気はないみたい」

如月「……」ションボリ


妖精「まあ、それはそれでしょうがないんだけど……それよりどうするの? その本」

大淀「……そ、そうですね、どうしましょうこの本」ポ

如月「ど、どうするって……」ポ

神通「……し、処分、するんですよね」カァァ

大淀神通如月「「「……」」」

朝潮「失礼します! 旗艦朝潮、ただいま遠征より帰還致しました!」

大淀神通如月「「「きゃああああああ!?」」」ガタガタガタッ

敷波「ちょっ、なにその反応!? なに驚いてんの!?」

不知火「どうかなさいましたか」

初春「その慌てよう、ただ事ではないな?」

敷波「あっ、なにそれ、マンガ!?」ヒョイ

大淀「あっ」

朝潮「朝潮、初めて見ました! 拝見させていただきます!」ヒョイ

神通「あっ」

不知火「……」ヒョイ ペラリ

如月「ちょっ」


初春「まあ、なんじゃ。おぬしたちの反応を見るに、どんな代物かなんとなく理解できたわ」

神通「わかっているなら止めてください!」カオマッカ

朝潮「……こ、これは……!!」カァァ

敷波「うわあ……」カァァ

不知火「……」ハナヂブバッ

如月「不知火ちゃん!?」

初春「うむ、やはりのう……各人予想通りの反応じゃな」

朝潮「……お、大淀さん! これはいったいどうなさったんですか!」

大淀「え、ええと……N提督鎮守府の卯月さんが、持ってきたんです」

朝潮「そ、そうでしたか……」ゴクリ

如月(朝潮ちゃん、本をずっと凝視してる……)タラリ

敷波「……こ、これ、どうしたの?」カオマッカ

神通「そ、それは、その……提督は処分しろと仰ってました……」カオマッカ

敷波「……じゃ、じゃあ、この本、あたしが処分するから!」

神通「えっ」


敷波「あたしが捨てておくから!」ダッ

神通「あっ」

大淀「……」

初春「上着の中に隠して持っていくあたり、敷波らしいのう」

如月(初春ちゃんは冷静すぎるわ……)

朝潮「そ、それでは、朝潮はこの本を処分させていただきます!」ダッ

神通「ちょ」

大淀「……」アタマカカエ

島妖精(みんないろいろたまってるんだなあ……)

不知火「……」ハナヂポタポタ

妖精(不知火もさっきからずーっとガン見してるし……)

如月「……私も一冊処分しようかしら///」コソッ

神通「!?」

如月「し、失礼しますね!」ダッ

大淀「き、如月さん!? 待って!? う、う、裏切り者ーー!!」

初春「どの辺が裏切り者なのじゃ……大淀も持ち帰れば良かろうが」ハァ


明石「なんか騒々しいけど、どうしたの?」ヒョコ

神通「あ、明石さん……」

明石「なにその段ボール箱……うわあ、どうしたのこの本!」

初春「明石は驚かんのじゃな」

明石「まあ、酒保を預かる身としては、そんなに珍しいものでもないしね。どうしたの、これ?」

大淀「実は……」


 * かくかくしかじか *


明石「ふーん。じゃあ、私が処分しときますか」

神通「えっ!?」

明石「駆逐艦の子たちの目に触れる場所に置いておくわけにはいかないし、提督もこの手の本は苦手なんでしょ?」

明石「可燃ごみなら工廠の裏に焼却炉もあるし、ついでに処分しておくけど?」

神通「……お、おまかせします」

大淀「……い、いいんじゃないでしょうか」


明石「そう? じゃあ、持ってくわね」グッ

神通「……」

大淀「……」

明石「あ、そうだ。二人とも、欲しい時は取りに来てね! 内緒にするから!」ニコー

大淀神通「「明石!?」さん!?」カオマッカ

初春「して、不知火はいつまで読んでおるんじゃ」

不知火「さすがに気分が高揚します」ハナヂポタポタ

初春「いいからおぬしは鼻血を拭かぬか」


 * 少佐鎮守府 *

加賀「へくちょ」

瑞鶴「なにそのくしゃみ」

加賀「なんでもないわ」ズズ

瑞鶴「そういえば、墓場島に行った不知火、元気だったって大鳳から連絡があったわよ」

瑞鶴「加賀さん、仕事がなくて無気力だった不知火にいろいろ押し付けてたじゃない。気にかけてたんでしょ?」

加賀「なんのことかしら」ズルー

瑞鶴「ニヤニヤしてないで鼻水拭きなさいよ!」


 * 墓場島鎮守府 廊下 *

由良「提督さん? 顔色、悪くありません?」

朧「すんすん、なんか酸っぱいにおいが……」

提督「……ちょっと気分悪くてな。戻してきた」ゲフ

由良「もしかして風邪が悪化したんじゃ……」

提督「いや、そうじゃねえから」

朧「そういうことでしたら休んでてください。鳳翔さんにおかゆ作ってもらってきますから」

提督「待て待て、普通に飯食わせてくれ……」

由良「駄目です! 今日はカレーなんですから、刺激物はよくありません!」

提督「いや、カレーだったらなおのことカレー食わせてくれよ、御馳走じゃねえか」

由良「無理は禁物です!」

朧「提督はもう少し自分をいたわってください!!」

提督「話を聞いてくれよ……いや待て、話していいのかこれ……あれ、俺、墓穴掘ってるか?」

由良朧「「……」」ジーッ

提督(……あ、こりゃ話さねえと追求する気の目だ)


 * そして工廠 *

利根「おお、これが愛か……」ドキドキ

明石「欲望も多分に混ざってはいますけどね。王道ラブコメはいいですよね~」ペラリ

利根「うむ、吾輩もこういう胸に来る関係に憧れるな!」

明石「あー、利根さんは余計にそう思いますよね!」

利根「うむ! こう、もどかしさやいじらしさを交えながらも、優しく包まれたくもあり、激しく燃えたくもあり……」ペラリ

伊8「……ムードって大事」

利根「うむうむ! しかし、男というものは女を無理矢理、という話が好みかと思っておったが、その限りではないのだな?」

明石「その辺は作者さんによりけりですかね。みんな願望とか性癖とかバラバラですから、その辺はお好みで、というやつです」ペラリ

利根「性癖か……うむ……」

伊8「……提督はどうなの?」

明石「うちの提督、好意を向けると逃げちゃいますからね。そのくせ私たちの言うことはききたがるし、ほーんと面倒くさい人ですよー」

伊8「……んー」

明石「あ、そうそう。この本、提督には秘密ですからね。暁ちゃんや電ちゃんあたりにも内緒ですから」

利根「あの辺りはそうじゃな。長門あたりもうるさそうだから他言はせぬよ」

伊8「……」コク

今回はここまで。


とりあえずいろんな伏線を回収中です。
・不知火がたまに加賀みたいなことを言ったり、>>65で加賀と話す機会があったり、
 本編で加賀が赤城にべったりだったことにショックを受けていたのは、>>809の理由から。
・本編で加古が「駆逐艦の部屋でエロ本を見つけた」と言っていたのは卯月のせい。
・朝潮がやたらとエロワードに詳しいのも卯月のせい。
・その卯月がエロ本持ってきちゃったのは>>616のせい。
・卯月のせいで神通さんが耳まで真っ赤になっちゃったのは>>682のせい。

卯月が万能選手すぎてつらい……!

続きです。

初雪の秘密と、陰謀編。


 * 執務室 *

L大尉「……というわけで、明日の朝11時にここを出立する予定だ」

L大尉「そのときまでに、妙高たちもここを出る準備を整えて欲しい」

卯月「えー? もう帰るぴょん!? もう少し遊びたかったぴょん」

妙高「卯月さん、あまりわがままを言って困らせてはいけませんよ」

L大尉「その通りだ。君たちの鎮守府の主力部隊は、しばらく鎮守府を離れざるを得ないんだから」

L大尉「君たちにもしっかり働いてもらわないといけないんだよ」

望月「へ? どゆこと?」

L大尉「提督准尉、これを」スッ

提督「この書類は?」

L大尉「N中佐の部下の中で、検査が必要と思われる艦娘のリストだ。主力部隊は例外なく全員が検査対象になっている」

香取「つまり、明日以降はあなたたちが主力部隊として動かなければならない、ということですよ」ニコ

望月「うええええ!? マジでぇぇ!?」

卯月「やったぴょん! 出番っぴょーん!」

弥生「卯月……静かにして」


提督「……なぜこれを俺に?」ペラッ

L大尉「中将殿から預かってきたんだ。おそらく今後、この顔ぶれの誰かがまたこの島に流れ着かないかを危惧してのことだろうね」

提督「ふーん……なんというか、奴の趣味が丸出しだな」

妙高「どういうことです?」

提督「ほれ、見てみろこの写真。駆逐艦のリストが一番わかりやすい」


っ『村雨』『潮』『長波』『浦風』『浜風』ピラピラッ


卯月「わかりやすすぎるぴょん!?」ガビーン

弥生「N中佐、意外と煩悩まみれだった」ガックリ

望月「あたしらが選ばれなかったのは当然の流れだったんだねえ……」トオイメ

妙高「……」ズツウ

提督「うちの潮に興味を示さなかったのは、同じ潮がいたからだろうなあ」

卯月「なんとなくだけど、写真の潮のほうがおっぱいがでかい気がするぴょん」

L大尉「へ? あ、ああ! そういう意味か! なるほど!」

香取「今、気付いたんですか!?」


望月「ちょっと待って。あ、あのさ、このメンバーのなかに初雪が混ざってたってことは……」

弥生「あ……!?」

卯月「准尉、真相はどうなんだっぴょん!?」ガタッ

提督「知らねえよそんなこと。ただまあ明石が、初雪が風呂に入りたがらないとは言ってたな」

提督「誰もいない時間帯を狙ってこっそり入ってるらしいから、なにかしら秘密は持っていそうだが、俺は追及する気はねえぞ」

望月「うあああ、マジか……マジかあああ」アタマカカエ

L大尉「なあ香取? なんで彼女はこんなに深刻そうに頭を抱えてるんだ?」

香取「その、女性にとってはデリケートな問題ですから……」

卯月「ちなみにL大尉はどういう子が好きぴょん?」

L大尉「私は優しい子が大好きだぞ!」

卯月「そういう意味じゃないぴょん! おっぱい大きい子が好きかどうか聞いてるぴょん!」

L大尉「それは難しい質問だな。古鷹のように細い女性も良いが、香取のような肉付きの良い女性も良い! どっちも大好きだ!」サムズアップ

香取「何を馬鹿正直に答えているんですか!!///」バチーン!

L大尉「へぶァ!?」

卯月「計画通り……ぴょん」ニヤリ

弥生「卯月……」アタマカカエ


卯月「んっふふー、提督准尉は大きいほうが好きぴょーん?」ニヤニヤ

提督「ああ? 別にどっちでもいいな」

望月「へー。んじゃ、准尉も節操なしってこと?」ニヤリ

提督「いーや、興味ねえし、ぶっちゃけどうでもいい。そんなのいちいち気ぃ遣ってられっか、くっそ面倒くせえ」ケッ

卯月「それはそれでひどいぴょん!?」

望月「……うん、そりゃ言っちゃ駄目だわ」

妙高「准尉は本当にぶれませんね……」ハァ

提督「つうか、五体満足ならそれでいいじゃねえか。お前ら、この島に流れて来る連中見ても同じこと言えんのかっつーの」

提督「少なくとも、見苦しくない体型を維持できてると本人が思ってるんなら、それでいいだろ」

卯月「意外にも模範的な回答が返ってきたぴょん……」

提督「そもそも胸の大小なんて、自分でほいほいコントロールできる代物じゃねえだろが」

提督「俺も正直、もう少し背丈が欲しかったが、今更どうしようもねえしな。ないものねだりしても仕方ねえ」

妙高「ああ……そうですね、男性にはそういう悩みもありますね」

望月「へえ~、准尉にもそういう願望あったんだ」


弥生「背丈……牛乳を飲むとか」

提督「牛乳ねえ。今から飲んで背が伸びんのか……?」

提督(そーいや、電は毎日飲んでるんだよな。おっきくなりたいから、っつってたけど……)

提督「効果あんのかねえ……」ウーン

望月(めっちゃ怪訝そうな顔してる……)



 * その頃の食堂 *

電「んく、んく……」クピクピクピ

電「!!」ムズッ

電「ぶぺくちょ!!」ギュウニュウブバー

敷波「ちょっ、牛乳飲みながらくしゃみしたの!?」

由良「ぞ、雑巾持ってこないと!」


 * 執務室 *

L大尉「まあ、とにかくだ。この島にN中佐の部下がこれ以上流れてこないことを期待するとして……」ヒリヒリ

妙高(ほっぺたに真っ赤な手のひらマークが……)

L大尉「もうひとつ報告したいのが、大和のことだ」

提督「まーた大和かよ……」

L大尉「いや、これはまじめな話だぞ。この資料を見てくれ、大和の能力を数値化した資料なんだが……」

L大尉「君の大和の装甲が、ほかの鎮守府にいる大和の平均値より少し低いみたいなんだ。心当たりはないか?」

提督「は? 装甲が?」

島妖精「あー」

島妖精「あれかー」

島妖精「あれね」

提督「なんだ? お前ら知ってんのか?」

L大尉「妖精たちがすごく納得したような顔をしてるんだけど……ちょっと聞いてもらっていいかな?」

提督「あ、あぁ……」


島妖精「あれはねえ……」

島妖精「かくかくじかじかというわけで……」

提督「ふんふん……つまり、ブラジャーしてない分だけ装甲が薄いってか」

L大尉「ぶらっ!?」ハナヂブバッ

弥生「!?」ビクッ

香取「た、大尉!?」

望月「中学生かよ」

L大尉「す、すまない、ちょっと取り乱した」フキフキ

香取(せっかく制服にカレーがつかなかったのを喜んでいたのに、まさか鼻血まみれになるなんて……)ハァ

望月「つか、なんで自分で装甲薄くしちゃってんのさ。弱体化したらまずいんじゃないの?」

卯月「……あ、うーちゃんわかっちゃったぴょーん」

弥生「卯月?」

卯月「大和さん、准尉におっぱいを押し付けたかったからぴょん!!」

L大尉「おぱっ!?」ハナヂブババーッ

香取「きゃあああっ!?」


妙高「そ、そ、そんなわけないでしょう!?」

島妖精「いや、残念ながらその通りなんだ」

望月「マジか……」

提督「何考えてんだ大和のやつはよ……」

卯月(テキトー言ってたら当たってたぴょん)タラリ

L大尉「ふう……ここで聞いても、大和は提督准尉が大好きで、しかも若干暴走気味だと言う感じだね」ティッシュツメツメ

香取「そ、そのようですね……」

提督「ここで、ってことは、余所でもそんな感じだったのか」

香取「え、ええ。同行していたはずの不知火さんから報告はありませんでしたか?」

提督「いや、聞いてないが」

L大尉「本営にいる僕の知り合いが言うには、不知火が本営に大和を帯同していったとき、相当注目を浴びたそうだ」

L大尉「大和の出現に興奮した野次馬が数人、大和に触れようとも抱き着こうともしたらしい」

提督&望月「「子供かよ」」

弥生(ハモった……)


L大尉「それを大和は、その無礼者を自分の艤装にひっかけて、合気道のように体のいなしだけでぽいぽい投げ捨てたんだそうだ」

香取「なんでも、私に触れていいのは提督准尉だけです、とか言いながら立ち回ってたそうです」

提督「どいつもこいつも、なにやってんだよ……」

L大尉「この件に関しては手を出すほうが悪いと思うが、なんせその相手の一人が少将クラスだったもんで、少々場が騒然としたらしい」

妙高「それ、少々で済むんですか……」

卯月「少将だけにぴょん?」

弥生「……ぷ」プルプル

香取(笑いのツボが浅いんでしょうか)

提督「少将がそんなんで大丈夫なのかよ本営は……くっそ頭痛え」

L大尉「まあ、それだけ大和が希少な存在だってことなんだ。僕だって一目見たいと思うくらいなんだから」

L大尉「ともかく、その時は中将の部下である不知火が執り成したのと、大和が提督准尉の部下だって主張したことで、その場は静まったらしい」

妙高「? その言い方ですと、大和さんが提督准尉の部下であると静まる理由があるんですか?」

L大尉「いやあ……提督に無礼を承知で言うが、本営ではこの島の話題は歓迎されていないんだ」

L大尉「君たちも知っての通り、この島は轟沈経験艦が住まう島。提督准尉にも根も葉もない噂を立てられてしまっている」


L大尉「おかげで、本営で僕が提督准尉に会いに行きたいと言ったとき、本営の将校には眉を顰められてしまってね」

L大尉「悪いことは言わないから、出世したければあの島には近寄るな、とまで言われてきた」

L大尉「隔離された艦娘が暮らすこの島の出身というだけで、お上にとっては致命的なマイナス要素らしい」

提督「はっ、いいじゃねえか。N中佐みたいに出歯亀を働こうとするやつが減ってくれりゃあ、こっちはその分だけ楽できる」

L大尉「何を言う、僕は提督准尉が馬鹿にされているみたいで面白くないぞ。彼らこそ何も知らないだろうに!」プンスカ

L大尉「確かに、僕はかつて少佐だった。この島に立ち寄った直後に中尉に降格したが、それは僕自身に問題があったからだ」

L大尉「人間万事塞翁が馬。この島に来たからこそ、僕は僕自身の勘違いに気づき、出世より大事なことを理解できたと思っている」

L大尉「それを、この島で何も経験していない彼らがあることないことを吹聴して、それがさも事実のように流布されるのは不愉快極まる!」

弥生「おお……」

卯月「さっきまで鼻血噴いてた人のセリフとは思えないぴょん」

香取「たまにこうして恰好いいことを言うので、つい見直して希望を持ってしまうんですよね……」

提督「納得だ」

L大尉「ははは、そんなに褒めないでくれ、照れるじゃないか」

望月「褒められてないって」


L大尉「……ところで提督准尉。ひとつ聞きたいんだが」

提督「?」

L大尉「君は中将と既知のようだが、その中将の息子さん、少佐を知っているか?」

提督「……ああ。一応、俺はあれの部下だ」

L大尉「部下!? 彼が君の上官になるのか!?」

提督「そうだ。不知火は中将のお目付け役だが、あいつも少佐のもと部下だ」

L大尉「そうなのか!? 何があったんだ……あ、その話はあとでいいや」

L大尉「その少佐の話なんだが、僕が昇進したのと同じタイミングで、彼もまた中佐に昇進したんだ」

L大尉「それ自体は彼の部下の働きによるものだと言われている。その少佐……いや、中佐が、君の大和に目を付けたようなんだよ」

提督「……なに?」ピクッ

L大尉「本営からの帰り際、中将に挨拶に伺おうと中将の執務室にお邪魔したとき、中佐が興奮しながら大和のことを話していてね」

L大尉「僕が入れ替わりで部屋に入ったときには、話の途中だったのか、中佐にすごい目で睨まれた」

香取「睨まれたんですか?」

L大尉「ああ、殺意のこもったような嫌な目だった。あの中将の血縁とは思えないほどだ」

香取「L大尉、あのときあなたはそんな素振りは……」

L大尉「さすがに中将の前だよ、慎むさ」ニコ


L大尉「そのあと僕は何事もなかったように中将と雑談して、その書類と大和の資料を賜った」

L大尉「中将は、本当は中佐にこの書類の内容について話がしたかったらしいが、中佐は大和に夢中で聞く耳持たず……」

L大尉「これでは話にならないと、中将はたまたま顔を見せた僕に白羽の矢を立てられたんだ」

L大尉「僕が墓場島鎮守府の縁者であることを中将は覚えててくれたようだし、ね」

提督「……」

L大尉「そのあと僕は、君が出発してしまったことを知らずにN中佐の鎮守府へ行き、彼女たちに出会って荷物を積み込んで……」

L大尉「ついでだからと横須賀で定期便に載せる補給物資も積んで、この鎮守府に来たというわけだ」

提督「……」

香取「……L大尉」

L大尉「どうやら、この話は提督准尉にしておいて正解だったようだね?」

提督「……ああ、助かる。奴が大和を狙ってるだと? 冗談じゃねえ」ミシッ

全員「「……」」ゾクッ

L大尉「提督准尉。その感情はみんながこの部屋を出るまで仕舞っておいてくれ。彼女たちは君のそんな顔は望んでいないよ」

提督「……そうだな。わかった」フー


L大尉「よし! 僕からの報告は以上だ! 香取!」スクッ

香取「は、はい!」

L大尉「とりあえず洗濯機を使わせてもらおう。とれるかな、この鼻血」

香取「……て、手洗いでなんとかしましょう」

L大尉「そうか、仕方ないな。では提督准尉、僕らはこれで失礼するよ」

L大尉「さ、みんなも話はおしまいだ。新設された休憩室で、昼間のババ抜きのリベンジをさせてもらおうじゃないか!」

卯月「わ、わかったぴょん!!」

香取「着替えて洗濯するのが先です!」

L大尉「お、おお、そうだね、急ぐか!」


 ゾロゾロ

 扉<パタン


提督「……」

提督「あの野郎……どうしてやろうか」ギリッ


 * 執務室の外 *

L大尉「いやー、参ったね。せっかく盛り上がっていたのに、思わぬ地雷を踏んじゃったなあ。あ、鼻血止まったかな」

弥生「……」

卯月「……」

望月「……あー、ま、まあ、しょうがなくね?」

妙高「そ、そうですね……」

L大尉「うーん……みんな、すまないね。やっぱり中佐のことはあの場で言うことじゃなかったよ。僕の失言だった」ペコリ

妙高「い、いえ、そのようなことは……!」

L大尉「せめて君たちを部屋に戻してから伝えるべきだった。君たちを怖がらせるつもりはなかったんだ」

望月「あー、あのさ、しょうがないって。どーせあたしたち、興味本位で聞いてたかもしれないしさ?」

弥生「……仕方、ないです」

卯月「……ぴょん」コク

香取「L大尉。提督准尉は、ご自身を中佐の部下だと仰っていましたね」

L大尉「うん。ということは、准尉をこの島に縛り付けたのも、おそらくは中佐ということになるね」

L大尉「さて、香取。中佐に関してだが、これから注意深く動向を探るべきか、それとも離れるべきか。どう思う?」

香取「……私は、薄情だと思われそうですが、中佐には近づかないほうが良いと思います」


L大尉「それは、僕が余計なことをしかねないからかな?」

香取「はい。中将閣下のご子息でもありますし、なにより得体の知れない相手ですので……」

L大尉「君子危うきに近寄らず、か。仕方ない、そうしよう。君たちも中佐には気をつけるんだ、できるだけ接触を避けたほうがいい」

望月「ちょっ、どゆこと?」

L大尉「簡潔に言うとだ。准尉は妖精と話ができる。中佐は妖精を介して話を聞かれるとまずいことをしている」

L大尉「だから中佐は准尉をこの島に閉じ込めた。となると、中佐が人には言えないことをやっている可能性が高い」

卯月「悪いことしてるなら、とっちめればいいぴょん!」

L大尉「悪いことをしているとわかっているならね。そもそも中佐が何をしているのか、僕たちは全然知らない」

L大尉「下手に探りを入れて、提督准尉や彼の部下……最悪、僕の部下や君たちにも、どんな迷惑をかけるかもわからない」

L大尉「香取が言いたいのはそういうことだろう?」

香取「はい」

弥生「……助けられない、の?」

L大尉「現時点では何もできないね。それにあの准尉の怒りようだ、彼にも事情なり思うところなりあるんだろう」

L大尉「彼と仲良くすることは、僕としても望ましいことだ。だけど……」

香取「深入りは避けるべきでしょうね」

L大尉「うん。それ以外で、今の僕たちにできることを考えるべきだろうね」

というわけで今回はここまで。

前回貼り忘れていた、この鎮守府限定の設定。


伊8>大和≧潮=比叡≧長門>
初雪=明石≧ル級>大淀≧
古鷹=利根≧由良≧神通≧
初春>如月>朧≧朝雲>
吹雪=敷波≧不知火=朝潮≧電=霞=暁


それでは続きです。


 * 休憩室 *

大淀「……ぐぬぬ」

L大尉「……」

大淀「……っ」パチッ

L大尉「王手」パチリ

大淀「ううっ……!」

望月「……強っえー」

卯月「ババ抜きはめちゃくちゃ弱かったのに、意外ぴょん!」

L大尉「御父上は棋譜を集めるのが大好きでね。面白い棋譜を見つけるたびに、僕が無理矢理相手をさせられてて困ってたんだ」

L大尉「僕がその棋譜に倣って打つと、名人と打ってるみたいですごく楽しいと子供みたいに笑うんだよ。なんだかんだでそれが嬉しくて」

香取「それでこんなに強いんですか」

L大尉「僕が海軍に来てからは相手がいないと言って淋しがってたなあ。ネット将棋もいいけど、やっぱり駒に触りたい、って」

吹雪「大淀さんもすごく強かったんですけど……」

L大尉「うん、かなり手強いね。この盤面にするのは苦労したよ」

霞「ここまで押し込めるなんて……私たちじゃ逆立ちしても勝てないわね」

朝雲「L大尉は強いわよー。昔、大将相手にも圧勝しちゃって以来、避けられてるくらいだから」

大淀「……むうう」


朝雲「ねえねえ香取さん、L大尉の言動がだいぶまともになっててびっくりしてるんだけど……いったい何をしたの?」

香取「L大尉は目立ちたがりで出しゃばりですが、根は素直な人です。極端に言えば言えば子供っぽい人と言いますか」

香取「古鷹さんが過剰にお世話好きだったこともあって、自分を王様だと勘違いしていたんでしょうね」

L大尉「ああ、香取。それもあるけど、僕に一番欠けていたのは、他人の気持ちを思い遣る点だ」

L大尉「お膳立ては全部艦娘がやってくれると思い上がっていたからねえ」

香取「……ですから、その勘違いを正すところから理解していただいて……」

香取「そこからはまあまあ順調でしたね。まだ常識の足りないところはありますが」

朝雲「ふぅん……」チラッ

香取「それをさておいても、将棋が強いというのは初めて知りました。軍師としての資質もあるかもしれません」

L大尉「でも、戦争と将棋は全然違うからね。必ず相手を沈められるわけでもなし、倒した相手を味方にできるわけでもなし……」

L大尉「相手の玉将を取れば終わりでもないし、部下の艦娘を失いたくないから、敵を討つための手段も選びたい……王手」ペシッ

大淀「あっ!!」ナミダメ


朝雲「……随分お人好しになっちゃったわね」

香取「ええ。いくら『君子は豹変す』という言葉もありますけれど……反動でしょうか?」

L大尉「お、大袈裟だなあ、そんなに変わった覚えはないよ」

霞「大袈裟でもなんでもなく変わりすぎよ。あんた、前来てた時はもっと上から目線だったじゃない」

大淀「うう……ま、参りました」ペコリ

L大尉「あ、はい、お相手ありがとうございました」ペコリ

朝雲「ほーんと……昔は『どうだ見たかい古鷹ー!』って、はしゃいでたのに」

吹雪「どんだけ古鷹さんにべったりだったんですか」

卯月「よくわかんないけど、ババ抜きやってるときとは別人ぴょん」

朝雲「うちの提督もそうだけど、あれじゃ出世できないわよ?」クスッ

香取「それは困りますね。少し、軍人らしい図太さも身に着けていただかないとだめでしょうか」クスッ


 * 鎮守府埠頭 *

提督「……」

提督「……いや、だめか」

提督「……」

提督「くっそ……」アタマガリガリ


如月「……」コソッ

神通「……」コソッ

大和「……」コソッ

如月「司令官、ずーっと悩んでるわね……」

大和「あの、提督は何に苛立っているんでしょう」

神通「大和さん。あなたは、提督の直属の上官にあたる中佐を御存知ですか?」

大和「簡単にですが、お話は伺っています」

如月「中将にはお会いしたんですよね?」

大和「はい、不知火さんと一緒に。その中佐との御目文字は叶いませんでしたが」

如月「……」

神通「……」


大和「あの……」

 ガサッ

神通「!」バッ

不知火「……すみません、驚かせるつもりはありませんでした」

如月「不知火ちゃん……」

不知火「その中佐について、不知火が説明します。お二人では、話しづらいこともありますから」

大和「どういうことですか……?」

 * かくかくしかじか *

不知火「……そういうわけで、如月にも、神通さんにも、そして司令にとっても、因縁の相手なんです」

大和「そうだったんですか……」

不知火「L大尉から、中佐が大和さんを奪おうとしていることを司令にお話ししたと言うことですので、おそらくそれの対策を練っているのでは」

提督「ま、そういうこった」ヌッ

全員「「!?」」ギョッ

提督「不知火、説明ご苦労さん。俺の手間が省けた」

不知火「ご自身で説明されたほうが良いと思うのですが……」ハァ

神通「提督、いつからお気付きになっていたんですか」

提督「ん、少し前だな。妖精たちが騒がしいから気が付いた」


提督「まあ、さっき不知火が言った通りだ。中佐が大和に目を付けたと聞いて、どうやって追い払うか考えてた」

提督「できればぶっ潰してこの場でゲームオーバーにやりてえが、ちいとばかし間が良くねえな」

大和「間、ですか?」

提督「ああ。ここへ来て間もない初雪や伊8を、すぐに俺の共犯にしちまうのは忍びねえ」

提督「せっかく交流の機会を得たル級や、鳳翔と再会できたばかりの朧にとってもどうかと思うし……」

提督「俺の代わりなら長門や初春あたりが頼りになりそうなんだが、艦娘には鎮守府の指揮権を恒久的に任せられる決まりがねえ」

提督「俺たち以外にこの鎮守府をやりくりして行ける奴となると……L大尉じゃ頼りなさすぎるし、O少尉でも無理だな。荷が重い」

不知火「そもそも、この島で無事に生活できるかどうかも怪しいですが」

提督「まあな。だからこそこの鎮守府の艦娘だけで、奴を相手取らないといけないわけだが……」

提督「こっちはできる限り無傷で、かつ、奴に痛い目見せて追い帰す方法が思い付かねえ」

如月「……」

提督「更に、できればの話だが、グーでも魚雷でもいいから、神通には奴に一撃を入れさせてやりたい」

神通「提督……!」

提督「来いと言われても無視することはできる。逆に、奴が大和を攫いに来るとなるとな。最悪、今すぐ来る可能性もある」

提督「だから、いつ来てもいいように、何かいい方法がないか海を見ながら考えてたんだ」

提督「妖精たちもあの野郎には頭にきてるらしいからな。ただで済ませるつもりはこれっぽっちもねえ」


提督「まずは俺たちがこの島に住む大義名分は作れたからいい。今度は、あいつがこの島に来ない理由を作りたい」

提督「例えばだが、強烈なトラウマを植え付けてやれば、俺たちに必要以上に干渉しなくなるはずだ」

大和「でしたら……この大和が、中佐を追い払います」

提督「追い払う? お前が?」

大和「はい! 大和になにかしらの不安材料があって、一緒にいると危険であると認識させられれば!」

如月「不安材料……?」

不知火「……陸奥さんの第三砲塔のようなものでしょうか」

提督「なんだそりゃ?」

不知火「かつて戦艦陸奥は、第三砲塔が謎の爆発を起こし、それが元で沈みました。ですが、爆発の原因は今もわかっていません」

提督「いつ爆発するかわからない、というデメリットを売り込む……ってか」

如月「そういうことなら、大和さんを手に入れようなんて気にならないかも……」

神通「ですが、それだけでは弱いと思います」

如月「……それなら、料理が下手だとか、家事が苦手とか、致命的なくらいにドジだとか、日常的な欠点を盛り込むとか?」

提督「んー……不自然じゃねえならそれでもいいかもな」

不知火「司令以外に従うつもりはないことを、あらかじめ中将に……」

提督「待て待て、すぐ中将に頼んな。っつうか、正直頼りになんのかわかんねえよ」


提督「それだったら、ここにいる轟沈経験のある艦娘が深海化したときの抑止力として大和をこの島に置きたい、って頼んだほうが自然だろ」

不知火「いえ、それでは如月たちが悪役になるのでは……」

如月「……それが一番いいかもしれないわ。一番説得力がありそうだし」

如月「一緒に司令官の身の安全もお願いしましょ? 司令官の身になにかあったら、私……なにをするかわかんないから。ふふふっ」ハイライトオフ

提督「……あー、わかったわかった」

大和「提督、私もその気持ちは同じです。私も、提督のお傍から離れたくありません!」

提督「……そうか」ハァ

神通「面倒くさいと言うのも面倒くさい、といった感じですか」

提督「……」

不知火「もはや喋るのも面倒と……」

提督「いやもう俺のセリフ、全部神通にアテレコしてもらってもいいんじゃねえかな?」

不知火「さすがにそれはどうかと」

提督「ところで神通、お前はどう思う?」

神通「……何がでしょう」

提督「仮に俺があいつを始末できたとして、その後この鎮守府をどうするかだよ」

大和「な……!」


提督「ある意味では絶好のチャンスなんだ。あいつを討つには、大和に浮かれてやってくるであろう、このタイミングしかねえ」

提督「お前が仇を取る、最初で最後のチャンスになるかもしれねえんだ。お前の考えを聞いておきたい」

如月「……」

不知火「……」

神通「……そうですね。のこのことやってきたところを、どんな手段でも使っていいのなら……大和さんを餌にして、あの男を……」

提督「……」

神通「でも、やめておきます。これは、私の個人的な復讐です」

神通「それに……そんなことをして、みなさんを巻き込んでしまったら……F提督にどんな顔をされるか、わかりませんから」

提督「……」

 ゴンッ

不知火「!?」

大和「提督!? どうして壁に頭突きなんかするんですか!?」

神通「それは多分……」

如月「神通さんが自重してくれたことが嬉しかったのよ。その照れ隠しだと思うわ。それプラス……」

神通「それを喜んでしまった自分に自己嫌悪なさってるんだと思います」

如月「神通さんもそう思います?」ニコー

神通「ええ」クス


大和「……私も、まだまだ修行が足りないみたいです……!」

不知火「何の修行ですか……」

提督「……神通、悪いな」

神通「大丈夫ですよ、提督。私もこの島に来て、少しですけれど変わったんです」

神通「提督が、この島の鎮守府を大事になさっていること。私も共感できていますから……悪いだなんて言わないでください」ニコ

提督「……ああ」

如月「とりあえず、方針は決まりね。大和さんには中佐をさりげなく拒絶してもらって……」

神通「二度と近づけないような理由も作らないといけませんね」ニヤ

如月「うふふ、どんな目に遭わせてあげようかしら」ニヤ

不知火「……なんだか司令が複数人いる気がします」

提督「どういう意味だそりゃ」

大和(私にも、あの笑い方ができるかしら……)ニヤ

不知火「増えた!?」ビクッ

提督「おいやめろ」



 * 少佐改め中佐鎮守府 *

少佐→中佐「大鳳、ご苦労だった。お前の働きに、お父上をはじめ皆が感嘆していたぞ」

大鳳「はい! お褒めに与かり光栄に存じます!」

中佐「しかし、違反者に情けをかけるとは。そんな甘い考えでは、戦争に勝てないぞ?」

大鳳「は……それは」

赤城「……N中佐も海軍の一員です。恩を売れば懐柔もしやすくなります」

中佐「それもそうか。ならば赤城、いつでも手懐けておけるよう、準備しておけよ?」

赤城「……承知しました」

中佐「では大鳳、改めてご苦労だった。お前はこれから我らが第一艦隊、空母機動部隊に入り、練度の向上に従事せよ!」

大鳳「はいっ!」ビシッ

中佐「赤城、俺は墓場島に視察に行く。お前は大鳳たちと演習に向かえ」

赤城「……承知しました。大鳳さん、参りましょう」

大鳳「はいっ! 失礼いたします!」

 扉<ギィ バタム

中佐「……」

中佐「……く、くくくく。大和。大和か……!」

中佐「ああ、楽しみだ。俺のもとに、誰しもが羨むあの戦艦が来るわけか……これで俺の艦隊にも箔がつく!」

中佐「提督准尉もたまには役に立つな! くくく……待っていろ大和! ははは、はははははは!!」

今回はここまで。

武蔵は一枚しか手に入りませんでした。

お待たせしました、続きです。


 * 翌朝 執務室 *

大淀「提督! このような電文が!」ピラッ

提督「……さっそく来やがったか」

 コンコン

香取「失礼いたします」

L大尉「ふああ……准尉は朝が早いな。失礼するよ」

提督「よう、早速だがあんたの忠告通りになったぜ」ピラッ

L大尉「……なるほど。これは気に入らないな」

 FAX『大和を貰う。準備をしておけ 中佐』

香取「……横柄が過ぎますね」

L大尉「怪人二十面相だって、もう少し洒落た予告状を寄越すものだがね」

大淀「そして、そのFAXの数分後に届いたのがこちらです」

 FAX『中佐が、大和さんを自分の鎮守府へ異動させるために島に向かいました。到着予定時刻は1400、気を付けてください 赤城』

L大尉「こっちはこっちで気を付けて、か……ここの赤城は苦労してそうだなあ」

提督「ああ、苦労してんぜ。あれの秘書艦、赤城以前はころころ変わってたらしいしな」


L大尉「彼の到着はヒトヨンマルマルか。僕たちとは入れ違いになりそうだね」

提督「そのほうがいい、あれに関わったっていいことなんざありはしねえ」

提督「特に卯月なんか何するかわからねえ。とっとと連れて帰ってくれ」

卯月「話は聞かせてもらったぴょん!」バーン!

提督「帰れ」

卯月「容赦ないっぴょん!?」ガビーン

弥生「帰ります……!」エリクビガシッ ズルズルズル

卯月「弥生まで容赦ないっぴょん!? 離すぴょーん!」ジタバタ

提督「いいからお前はお前の鎮守府の心配をしてろ」

香取「そうですよ卯月さん。あまり提督准尉を困らせてはいけません」

卯月「うー……」

提督「いいか、下手をうてば、お前だけじゃなく俺やこっちのL大尉にまで飛び火する」


提督「もし俺の邪魔をしようってんなら、多少の義理があるお前であっても容赦しねえぞ……!」ワキワキ

卯月「ひっ!」サッ

L大尉「卯月、これ以上は首を突っ込むべきじゃない。提督准尉がここまでの態度を取るとなると、中佐は本気で危ない相手だ」

香取「ところで提督准尉? その怪しい手つきはなんですか?」

弥生「あの……准尉の握力、すごいみたいなんです」

香取「え?」

卯月「准尉のアイアンクローはとんでもなく痛いっぴょん……!」ガタガタ

香取「あ、ああ、そういうことですか……」ポ

弥生「?」

L大尉「?」

卯月(もしかしてセクハラするような手つきに見えたぴょん?)

大淀(香取さんもお仲間(むっつり)ですか)メガネキラッ


 * 幕間 *

L大尉「あ、そうだ。帰る前に古鷹に会っていくよ」

提督「まだ何か用があんのか」

L大尉「ああ、耳かきをしてもらいたくてね!」

香取「!?」

提督「どうせなら教えてもらえよ。俺はやり方を教えてもらったぞ」

大淀「!?」


香取「……」

大淀「香取さん、せっかくですから、あなたが古鷹さんから耳かきのやり方を教えてもらったほうが良いのでは?」

香取「え、ええ、そのほうが良さそうですね」

大淀「もし、そうするのなら……覚悟してくださいね」

香取「!?」


提督「おい大淀、帰り際の香取のやつ、足下が覚束なかったが、なんかあったのか?」

大淀「いえ、なにも?」ニコー

提督「?」


 * 昼過ぎ 墓場島埠頭 *

部下1「中佐、到着しました! どうぞこちらへ!」

中佐「ふん、ここが××島か。景色だけは悪くない」ザッ

部下2「中佐殿がこのような島を管理なさっておられるとは、存じませんでした」

部下3「辺鄙な場所でなければ、リゾート地に使えそうですな!」

中佐「そうでもないぞ。この島はいわくつきだ」

部下1「なんですって!?」

中佐「世界には、不思議と深海棲艦が近寄らない海域がある。この海域もそのひとつだ」

中佐「昔のお偉方は、この島に鎮守府を建てて、泊地としてここを足掛かりに深海棲艦と事を構えるつもりだったが……」

中佐「島の北の海底火山のせいで海流が強く、多くの船が行き来するには不便極まりなかったのだ」

中佐「船舶事故も増えて物資補給が滞り、ここに着任した奴らが焦れて本営に見捨てられたなどと言い出した」

中佐「その話に尾鰭背鰭がついて、いつの間にやらこの島は流刑地扱いされるようになっていたのだよ」


部下2「そ、そのような島を、中佐殿はわざわざ自分のものになさったのですか……!」

中佐「ああ。それでここに准尉を住まわせたおかげで、大和が手に入るんだぞ?」

部下3「ははっ! さすが中佐殿、先見の明ということですね!」

中佐「お前たちは運がいい。建造されて間もないこの俺の大和を見ることができるのだからな!」

部下たち「ははっ!!」

中佐「……それにしてもだ」

中佐「あの役立たずめ、上官が顔を見せたと言うのに出迎えもないとは、どういうつもりだ!」

部下1「まったくだ……中佐、私めが大和を連れてきます!」

中佐「待て。呼ぶなら提督を呼べ。奴に大和を連れてこさせろ!」

部下1「はっ!!」ダッ


 * 倉庫 *

提督「……」カリカリ

長門「提督、この荷物は?」

提督「ん、こりゃ明石の荷物だな。あとで持っていくから、シャッターの隣に取り置きしておいてくれ」

古鷹「提督、こちらの箱の数量確認終わりました!」

提督「おう。やっぱり数が足りねえな、あとで中将に報告しとくか」

部下1「……ここか!?」

提督「? 誰だあんた」

部下1「貴様が提督准尉か!?」

提督「それより誰だって聞いてるんだが」

部下1「海軍中佐がお見えだ! 早く出てこい!」

提督「今、手が離せないんだよ。せっつくくらいなら手伝え」

部下1「なに!?」

長門「ではこれを運んでもらおうか」ヒョイ

部下1「ぬおおお!?」ズシーッ

提督「よし、とっとと運ぶか。もたもたすんな、置いていくぞ」ヒョイ スタスタスタ

部下1「ま、ま、待てええええ!」


 * 1時間後 埠頭 *

部下1「」ゼーゼー

提督「なんだ、来てたのか。何時に来るかくらいちゃんと連絡しろ」

中佐「ふざけるな! いったいどのくらい待たせたと思っている!」

提督「こんな島に来るくらいだ、暇なんだろう?」

中佐「いい加減にしろよ、提督准尉! 射殺されたいか!」

提督「……」

中佐「准尉、命令だ。大和を連れてこい」

提督「無理だ」

中佐「命令だと言ったはずだ!」

提督「……だったらついてこい。来ないなら勝手にしろ」クルリ スタスタ

中佐「……」ギリッ

部下2「なんなんだあいつは……!」

部下3「中佐に対し無礼にもほどがある!」

部下2「中佐殿のお手を煩わせるほどでもありません、自分が大和を連れてまいります!」

中佐「……いや、いい。案内させてやれ。大和を迎え終えたら、どうとでもできる」ギリッ

部下2「は、はっ!」ゾクッ

部下3「お、おい、行くぞ、大丈夫か」

部下1「ああ……ひ、酷い目にあった」


 * 島の南東 海岸部 *

朝潮「はっ! 司令官、お疲れ様です!」ビシッ

提督「よ。朝潮、大和たちはまだ戻ってきてないか」

朝潮「はい! 予定ではあと10分程度で戻ってきます!」

提督「……」チラッ

部下2「……おい、大和はどこへやった!」

 ドーン

部下2「!」

提督「海を見ろ。見ての通り海上演習中だ、10分程度だから、戻ってくるまで待ってろ」

部下3「貴様、人をさんざ待たせておいて、まだ待てだと!?」

中佐「……部下3、貴様に望遠鏡を預けていたな」

部下3「はっ! どうぞ!」サッ


中佐「……」スチャ

中佐「……おお」

中佐「おおお!」

部下1「中佐!」

部下2「中佐殿!」

中佐「あれが……あれが大和か……!」

部下1「ご確認できましたか!」

中佐「ああ、間違いない。大和だ! 戦艦大和だ!」

部下たち「「おめでとうございます!」」

提督(中佐のための艦娘じゃねえよ……なにがおめでたいんだか)イラッ

中佐「……」

部下2「中佐殿? いかがされました」

中佐「……美しい」

部下1「は?」

中佐「あの優美なる姿! 写真で見たよりも、はるかにいい女だ!」


中佐「あれが……俺のものになるのだな……! ふふ、ぐふふふ……!」ヌタァ

提督「……キモッ」ヒキッ

部下3「じ、准尉! 口を慎め!」

提督「悪いことは言わないから、あの顔やめさめてから大和に会わせろよ」

提督「あれじゃ第一印象最悪じゃねーか、女に会わせる顔じゃねえ」

部下3「そ、それもそうだな」ハッ

提督(思わず本音を言っちまったが……肯定すんのかよ)

部下3「ち、中佐殿、嬉しいのはわかりますが、お顔を緩ませたままでは舐められてしまいます……!」

部下2「そ、そうです! 最初が肝心です! 威厳ある態度で臨まねば、誰が大和の司令官か示しがつきません!」

中佐「ふははは、ああ、わかっている。わかっているとも。しかしだな、見れば見るほど大和はいい女だ……」

中佐「まさかこの齢にもなって、一人の女に心を奪われるとは思ってもみなかった……!」

部下1「もしや……一目惚れ、ですか」

中佐「そうかもしれんなあ……ふふふ、ぐふふふふ……!」デレッ

部下たち((笑顔が(気持ち悪っ!)))

提督(マジかよ……大和の奴、本当に大丈夫か?)


朝潮「あ、あの、司令官? あの方はいったい……」

提督「ああ、お前は初見か。俺の直属の上官の中佐だ」

朝潮「あ、あの方がですか……」ブルッ

提督「顔色が悪いな。気持ち悪いか」ヒソヒソ

朝潮「し、正直に言えば……」ヒソッ コクリ

中佐「おお、演習を終えたようだな。ふふふ、こちらへ来るか! くくく……いいぞ、そのまま俺の胸に飛び込んでこい!」

提督「言うことがいちいち気持ち悪い」ボソッ

部下3「て、提督准尉!? 貴様、何を言う!?」

提督「ん? 何か?」

部下3「……な、なにも言ってないのか?」

提督「なにも言ってないぞ?」

部下3「……」

提督(危ねえ、声に出てたか)

朝潮(司令官も朝潮と同じ感想を抱いてましたか……安心です)ホッ


中佐「よおし、さっそく連れて帰るぞ!」

提督「中佐、現時点でそれは無理だ」

中佐「貴様ごときに俺へ意見する権限があると思うか!」ギロリ

提督「中将からの指摘だが?」

中佐「……チッ、なんだ。手短に話せ」

提督「この鎮守府には轟沈を経験した艦娘が多数在籍している」

提督「仮に、その艦娘たちが万が一にでも深海棲艦になった場合、それを鎮圧する者が必要だ」

提督「そうなれば、この鎮守府で建造された大和こそが、その役目に相応しいと中将も判断している。おいそれと連れて行くわけには……」

中佐「ふん、それなら赤城と加賀をここに置けばいい! 後で連れてくる!」

提督「……」ハァ

中佐「あの大和が、こんな鎮守府に好きこのんで留まるわけがないだろう! どけ!」ダンッ

提督「つ……!」ヨロッ

大和「!」

朝潮「司令官!? 大丈夫ですか!?」

中佐「……ふ、ふふふ」スタスタスタ


 * 沖合 *

 ザァァァ…

大和(……人に嫌われる、というのは少々抵抗はありますが、これも提督と一緒に過ごすため……!)

大和(如月さんや神通さんと一緒にリハーサルもしてきました! 何とかして帰っていただかないと……)

大和(……)

大和(あれが、中佐……?)

 ドクン

大和(……)

大和(……え……?)

大和(あの人は……)

 ゾワッ

大和(あの男は……!!)


 * 一方の海岸部 *

中佐「ついに、ついに大和が……俺の元に!」ズカズカズカ

中佐「はは、ははははは!! さあ、早く向かってこい! 俺の前に跪け!」

 ゴゴゴゴゴゴ

大和「…………」

 ガシャン

部下1「?」

提督「……?」

部下2「お、おい。いま、大和の主砲が……」

 ジャコン

提督「大和……?」

中佐「待ちわびた! 待ちわびたぞ、やま


 ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ン !!


提督&朝潮「「!?」」

部下たち「「「!?」」」

今回はここまで。

この島の大和さんは結構極端な性格です。

では続きです。


 モクモクモク…

朝潮「……」アングリ

部下1「ち、中佐!?」

部下2「ど、どういうことだ提督准尉!? 貴様、騙し討ちしたのか!!」

提督「……なにやってんだ、あいつは」

部下3「き、貴様の指示だろう!? なんてことをさせる!!」

提督「指示してねえよ! 嫌なら嫌と言えくらいは言うが、普通いくらなんでも主砲ぶっ放せとか言わねえだろが!」

部下3「お、おお!? す、すまん」

部下2「じゃ、じゃあ、大和の独断……!?」

部下1「煙が晴れてきたぞ……中佐!」


中佐「……」ボーゼン


部下2「中佐殿! ご無事でしたか!」ダッ

提督「チッ……なんだ、意外としぶてえな」ダッ

部下3「中佐の足元にでかい砲撃の跡が……!」

部下1「あれが大和の主砲の威力か……!」ゾクッ


中佐「……な、なんだ!? いったいどうしたんだ!? 暴発か!?」ガタガタ

大和「……」ゴゴゴゴゴゴ

中佐「お、おい、やま」

大和「近寄らないでください」ジャコン

中佐「!?」

大和「次は直撃させます」ギロリ

中佐「」

部下1「中佐! ご無事ですか!」

提督「おい待てお前! 近づくな!」ガシッ

部下1「なにをする!」

提督「異常事態だ。あんなに殺気立った大和を俺は見たことがねえ」

提督「嫌がるくらいならわかるが、出会い頭に主砲を撃つなんて想定外もいいとこだっつったろ」

部下1「じゃあどうしろと……」

提督「俺が行く。あんたたちじゃあ大和は止められねえだろ」スッ

部下2「……わかった、なんとかしてみせろ」

提督「ああ」


朝潮「司令官……!」

提督「大丈夫だ、下がってな」

提督(……とは言ったものの)チラッ

大和「……」ゴゴゴゴゴゴ(←全砲門を中佐へ向けて仁王立ち)

中佐「……」(←腰が抜けてて動けない)

提督(ちょっとこのまま中佐の無様な姿を眺めていたい気にもなるな)


中佐「く、くくく……面白い冗談だ」ヨロヨロ

提督「おい大和、少し落ち着け」

大和「提督。こちらの、面白くない顔の御仁は何奴ですか」

中佐「」

提督「俺の直属の上司にあたる、本営の中佐だ。この前まで少佐だったんだが、昇格した」

大和「この人が……この人がですか」ムスッ


敷波(うわあ、大和さんあからさまに嫌そうな顔してる……)

不知火(汚物でも見るような眼差しですね)


部下1「な、なんだその顔は!」

部下2「大和だからって調子に乗るな!」

提督(なんだそりゃ)

中佐「ふ、ふふふ、まあいい。喜べ、大和。貴様はたった今から俺の部下だ」

大和「嫌です」


中佐「」


大和「聞こえませんでしたか?」

大和「絶対に嫌です。あなたの部下なんて死んでもお断りいたします」

中佐「」

大和「そういうわけですから、尻尾を巻いてお引き取りください」

中佐「」

部下たち「「「」」」


提督(容赦ねえ)


大和「なんですかその間抜け面は。あなたは、この大和を自分の部下にできると思っていたのですか?」

中佐「な、なぜだ! なぜ」

大和「近寄るなと言いましたよ」ギロリ

中佐「ひっ」タジッ

提督(あ、こりゃ任せてていいわ)

大和「なぜ? なぜあなたの部下になるのが嫌か、ですって?」

大和「それは、あなたの存在そのものが嫌だからです」

中佐「」

朝潮(……そこまで言ってしまうんですか)タラリ

中佐「こ……こ、この俺の何が嫌だと言うんだ!」

大和「顔です」


中佐「」


中佐「  」



朝潮(うわぁ……)

提督(マジ容赦ねえ)


大和「顔の造形のすべてが不快です。虫唾が走ります」

中佐「き、き、きさ」

大和「声も嫌です。油虫が汚泥を這いずるような耳障りな声、聴くに堪えません」

中佐「……っ!!」

大和「それから、ここからでもわかるこの下品なにおい。趣味の悪い香水がお好きなんですね。嗜んでおられるたばこも安物のようで」

大和「そこにあなたの体臭も混ざって、形容しがたい悪臭を放っていること、自覚してないのですか?」

中佐「~~~~っ!!!」

大和「ああ、ご自身の鼻が麻痺していらっしゃるんですね。でしたらお医者様に診ていただいたほうが良いでしょう」

大和「すぐにお帰りになって、そのまま入院していただけると、なお嬉しいのですけれど」

中佐「ふ、ふざっ、ふ」

大和「私は大まじめです」ギンッ

中佐「んぎぎぎ……」

提督「おい大和、その辺にしておけ。事実であってもわざわざ憚られるようなことは言わなくていい」

部下3(……さりげなく中佐がディスられてないか?)

大和「も、申し訳ありません……ですが、私としても嫌なものは嫌です!」


大和「この中佐のそばにいることが苦痛です。喜べだなんて、冗談でも笑えません!」

大和「この人の部下になるくらいならこの場で解体されたほうがましです。提督、解体届はありますでしょうか」ズイッ

提督「……ん……」タジッ

中佐「提督准尉! 貴様は新造艦娘にどんな教育をしている! 馘にするぞ!」

大和「あぁ?」ギロリ

中佐「」

朧「今の、提督そっくりだ……」ボソッ

如月不知火電敷波神通「……」コクコク

大和「ああ、そうですか。自分の思い通りにならなければ、すぐに弱い立場の者をなじって八つ当たり」

大和「それが中佐になった者のやり方ですか。まるで子供ですね、なんて情けない」フッ

中佐「うぎぎぎぎ……!!」プルプルプル

大和「この大和の目から見て、褒められるべきところがここまでに一つも見受けられない人間が、中佐?」

大和「軍隊の上層部が時折迷走してしまうのは、やむを得ない事情があることもありますが……」

大和「こんな愚物に民の血税を注ぎ込んでいるだなんて、国民が不幸だとしか言いようがありませんね」フゥ

中佐「おごあああああ!」ブチブチブチーッ


部下3「中佐殿!?」

部下1「お気を確かに!」

部下2「提督准尉! いい加減にしろ!」

提督「俺に言っても仕方ないだろ。おい大和、少し落ち着け」

大和「す、すみません提督……! 落ち着くためにも、もう下がってよろしいでしょうか!?」

提督「潮か」

大和「私としても不本意なのですが、ここまで嫌悪感を催す御仁だったとは思いもよらず……」

大和「ああ、今日はこの大和の厄日です。天中殺でしょうか……」

提督「そーだなあ……とりあえず、もうこれ以上喋らねえほうがいいんじゃねえか?」

中佐「そ、そうだ! もう諦めて上官の命令に従え!」

大和「それとこれとは話が別です」ギロリ

大和「たとえ提督の仰ることであっても、たとえ世界中から嫌な女と罵られようとも、この人だけは断固受け入れられません!」ギンッ

中佐「……」

提督「だ、そうですよ。もう諦めたほうが良いのでは?」

中佐「あ、諦めが早すぎるぞ!」


提督「こういうのは諦めが肝心だと思うが……」

大和「そうです、むしろこの場で人生を諦めてください」ガシャン

中佐「ふざけるな! 黙って聞いていれば調子に乗りやがってええええ!!」

大和「調子に乗っているのはほかならぬあなたでしょう」

大和「海軍の要職であった『提督』が爆発的に増加した今のご時世、その中で将官にまで上り詰めたのならいざ知らず……」

大和「たかだか中佐になった程度でこの大和を従えられると考えるほうが、余程見通しが甘いのでは?」

中佐「んぐ……っ!」

大和「それにそもそも、私はこの島の妖精たちによって、この島のために建造された艦娘です」

大和「この島に駐留する覚悟さえもない、あなたの下で戦う気など毛頭ありません」

中佐「そんなものは詭弁だ! お前たちは我が国のために戦うために建造された艦娘だ!」

中佐「その使命を捨て、こんな島で油を売ることがお前の果たすべき役割ではない!」

大和「でしたら、提督がこの島で果たすべき役割とはなんです? あなたが提督准尉をこの島の鎮守府に着任させた理由は!?」

中佐「う……ぬっ」

大和「さぞ大層な理由がおありなのでしょう? それがないというのなら、あなたに将来的な展望も見えていないということでは?」

大和「そんな使えない人材に、この大和が身を寄せる理由がどこにあると? どこに資格があると仰いますか」


中佐「っ……何が資格だ! 提督准尉は俺の部下だ! 部下は上官の言うことを聞け! それが正しい組織というものだ!」

大和「噴飯! 自分の行いが正しいと胸を張って証明できない人間が、正しい組織を語ろうと言うのですか!」

提督「あー、大和。とりあえず落ち着け。中佐も一旦矛を収めてくれ」

大和「……!」

中佐「む……!」

提督「いったん二人とも離れてくれ。ここは中佐の部下たちにも話を聞きたい」テマネキ

部下2「お、俺たちにか」

提督「ああ。中立的な立場で訊きたい。正直に答えてくれ」

部下1「……」ゴクリ

提督「これ、もう無理だろ」

部下1「……」

部下2「……」

部下3「……」

提督「いや、黙られても困る。傍から見てても絶望的な状況じゃねえの? 朝潮もそう思うだろ?」

朝潮「はいっ! 穏やかな話し合いとは程遠いと思います!」


提督「ここまで見てても全然歩み寄る気配がねえ。和気藹々どころか、一触即発ムードじゃねえか」

部下1「い、いや……」

部下2「しかし……」

部下3「なあ……」

提督「このままじゃあ、連れて行く途中であんたたちの乗船沈められてもおかしくねえぞ?」

提督「自分の身に何かあってからじゃ遅いんだ。違うか?」

部下1「……」

部下2「……」

部下3「……」

提督「だからなんでだんまりなんだよ……」アタマカカエ

中佐「もういいだろう提督准尉。説得はもういい、四の五の言わずに大和を渡せばいいんだ」

提督「……今のままじゃあ、中佐が死んでも俺たちは責任取れないぞ?」

中佐「いいからお前はもう口出しするな!」

提督「本当にいいんだな? 言ったな?」


中佐「くどい!!」

大和「だったら今すぐ死ねやくそがああ!」ガシャン

提督&中佐「「!?」」

 ドガァァァァン

中佐「ぎゃあああ!!」フットバサレ

朝潮「大和さん!?」

提督「……」アッケ

電「……司令官さんがもう一人いるのです」

朧「もうむちゃくちゃだよ……」アタマカカエ

部下1「中佐!?」

部下3「……な、なあ、ここはもう諦めたほうが……」

部下2「だ、だが、手ぶらで帰るわけにはいかないだろう!?」

提督「おい大和?」

大和「は、はい、なんでしょうか?」

提督「今のはさすがに俺も引く」

大和「ええ!? そ、そんなぁ!!」


中佐「っ提ぇぇえ督ぅぅうう!! こいつを何とかしろおおおお!!」グオオオ!

大和「あぁ!?」ギロリ

中佐「ひっ」

朝潮(機嫌が悪い時の司令官そっくりです……!)

提督「だから落ち着け大和。冷静になれ、深呼吸しろ」

大和「ですが!」

提督「いいから頭を冷やせ。それじゃ的に弾が当たらねえだろ」

大和「そ、そうですね! 落ち着きます!」スーハー

中佐「おい!? 誰が的だ!!」

提督「的は的だ、ものの喩えだ。誰も中佐が的だとは言っていない」シレッ

大和「的になりたいんですか? 喜んで的にしますよ?」ガシャン

中佐「ひいいっ!?」

提督「……中佐。もういい加減、諦めたらどうなんだ」ハァ

提督「俺の地位とか立場とか関係なく、初対面であそこまで嫌悪されてたら、中佐の命令に従うどころか命の危険まであり得る」

中佐「ば、馬鹿を言え! ここまで来て諦められるか!!」


提督「退くも兵法のうち、ここは……」

中佐「き……貴様ごときが兵法を語るなああ!」バシッ

提督「っ!」ドタッ

朝潮「し、司令官!!」

中佐「さっきから生意気なんだお前は! お前は、俺の部下だ! 下僕だ! 俺と同じ目線で喋るなあああ!」ガッ! ゲシッ!

提督「……っ!」

中佐「お前はとっとと大和を受け渡せ! それで全部済むんだ!」バキッ!

提督「ぐ……っ」ドサッ

朝潮「大丈夫ですか、司令官!」

中佐「はー、はー……」

電「司令官さんになんてことを……!」

如月「司令官!」ダッ

神通「待ってください!」ガシッ

 ザワッ

中佐「!」ゾクッ


大和「……」ゴゴゴゴゴゴ

部下3「や、大和の髪の毛が……」

部下2「逆立ってる……!!」

大和「……」ギロリ

中佐「ひっ!?」

部下1「……ち、中佐、ここはもう、引き上げたほうが……」

大和「その必要はありません」

部下1「え!?」

大和「この場で全員、消し炭にして差し上げます」ガジャン

部下たち「「「う、うわああああ!?」」」ダッ

朝潮「や、大和さん……!」オロオロ

中佐「はははは、そんな脅しに、乗るわけがないだろう! 提督、立て!」グイッ

提督「!」ウデヲツカマレ

中佐「行け! 大和をおとなしくさせろ!」

提督「なんで俺が……」


大和「……提督を、人質に取ろうとするなんて、言語道断! それでも軍人ですか!」ジャキン

中佐「くっ、早く行け! この場を収めなられければ、解体だ! この鎮守府の艦娘を全員解体するぞ!」

朝潮「!?」

提督「……は?」

中佐「は、じゃない! とっとと行け! なんとしても大和をおとなしくさせろ!」

提督「……断る」

中佐「は?」

提督「艦娘を解体だ? そうかそうか、俺の部下を全員解体するってか。じゃあ俺が生きてても仕方ない」ガシッ

提督「そういう話なら、俺は大和の好きにさせるぜ。おい大和、俺は構わねえからやっちまえ」

中佐「ななななにを言ってるんだお前はああああ!?」

提督「さっきは口を出すなと言い、おまけに殴られ損だ。だったらこうなることくらい、想定しろっつうんだよ」

大和「……」ゴゴゴゴゴゴ

提督「いいぞ、中佐を撃て。俺もろともでいいからよ」ガシッ

中佐「おおおおおい!? やめろ! やめてくれ!! 提督、離せ!!」

提督「……解体するんだろう? だったら離せねえな」ミシッ

中佐「し、しない! 取り消す!」


提督「絶対に、だな?」

中佐「絶対にしない!!」

提督「……よーし、言質は取った。約束だ、朝潮も聞いたよな?」

朝潮「は、はいっ!」

中佐「っ!」

提督「もし約束を反故にしたら……そうだな、中将に油の闇取引のことでも伝えるか。いいな?」ヒソッ

中佐「な……!?」

提督「……」スタスタ

大和「……提督」

提督「つうわけでだ、一応落ち着いてくれるか?」

大和「ああ、よくぞご無事で……! ご安心ください、この大和が……」

 ジャキン

大和「目の前の敵すべてを殲滅致します」ギロリ

提督「おい!?」


大和「さあ、提督は後ろへ。この大和の背へ……!」ハイライトオフ

中佐「て、提督、何をしている! 貴様、約束と言った手前だぞおお!」

提督(別に破ってもいいんだが……大和の手を汚させるわけにもいかねえな。どうしたもんか……)

提督「……」

提督「……大和。ちょっとこっち向け」

大和「はい?」

提督「……」スッ

朝潮「司令官が大和さんの顎に手を添えて、何を……!?」

 グイ

大和「!!!」


中佐「な……っ!?」

部下たち「「!?」」

朝潮「こ、これは……!」


敷波「し、司令官が……」

朧「大和さんに……」

電「キスしちゃったのです!!?」キャーー



如月「」マッシロ

神通「き、如月さん!? しっかりして!?」

今回はここまでー。

なんか大和は嫁というよりはヤンデレ妹って感じだな、似すぎててw

皆さん盛り上がっておられるところ恐縮ですが……してないんですよ。


 * ご注意 *

 今回のお話、お食事しながらの閲覧は控えてください。


続きです。


敷波「ほ、本当にキスしちゃったの!?」

朧「お、朧は、提督はそういうことする人じゃないと思ってたんだけど……」

電「電、見ちゃいました! なのです!!」キャーー

敷波(うわー、青葉さんそっくり……)

不知火「! 待ってください。司令は大和さんにキスをしてないようですよ」

敷波「えっ? どういうこと?」

不知火「司令の右手をよく見てください。大和さんの唇に、人差し指を当てています」

敷波「……ほんとだ!」

電「キスする振りをしてただけなのですか!」

不知火「ええ。顔をぎりぎりまで近づけてはいますが、触れてはいませんね」

如月「ほんと!?」シャキーン

朧(瞬時に戻った……)


不知火「はい。我々は横から見ているからわかりましたが、中佐の立ち位置からは見えてないようですね」チラッ


中佐「」マッシロ


敷波「うわあ……」

電「この一瞬で一気に老けて見えるのです……」

朧「効果はばつぐんだね……」

神通「いい気味です」ニヤリ

如月「いい気味だわ」ニヤリ

朧(如月にも効果はばつぐんだったのに……)

不知火(この二人も本格的に司令に感化されてきましたね……)


大和「……」ポワーーン

提督「どうだ大和。少しは落ち着いたか」(←顔を近づけたまま)

大和「!」

提督「我慢できたらあとでご褒美やるから、おとなしくしてろよ」

大和「!!」コクコク

提督「よし……」スッ

大和(ああ、提督のお顔がこんなに近くに……幸せ……♪)ウットリ

提督「さて、中佐」クルリ


中佐「」マッシロ


提督(効果ありすぎたか……?)

部下2「ちゅ、中佐殿!! しっかりしてください!」

部下3「提督! お前、中佐の大和になにをする!!」

提督「あ? 何を言ってんだ? 俺の大和だぞ?」

大和「俺の……!」ポ

中佐「」ピク


中佐「き……きッ……!」プルプルプル

中佐「きっさまあああああああああああああああああ!!」

部下1「うわああ!?」

朝潮「きゃあ!?」(←ダッシュで提督の後ろへ)

部下2「ちゅ、中佐殿!?」

中佐「その大和は俺の大和だぞおおおおお! それを貴様は、貴様わああああ!!」

提督「おとなしくさせろと命じたから、口を塞いでその通りにしたまでだが?」

中佐「うぎいいいいいいいいいいいい!!!」

提督(このまま血管ブチ切れて、おっ死んでくれねーかなー)


不知火(司令が心なしか笑っているように見えます)

神通「ええ、楽しんでいるように見えますね」

電「はうっ!?」ビクッ

朧「や、やっぱりそう思いますか」ビクッ

敷波「だ、だよね」ビクッ

如月「司令官、悪乗りしてるわよね……」コクコク

不知火(みなさん同じことを考えてましたか)


部下1「提督、貴様、中佐の大和に手を出したのか!?」

提督「だから、いつ大和が中佐のものになったんだよ。大和の管理者は昔も今も俺だ」

提督「大和はこの鎮守府で建造されたんだぞ? この鎮守府の全権を俺に任せたのもほかならぬ中佐だ」

部下2「中佐への報告が先だろう!」

提督「報告したくても、その中佐はしょっちゅう鎮守府を留守にしてんじゃねえか」

提督「話ができねえから中将にも話を通して、お目通しまで済ませたんだぜ。それのどこに問題があるよ」

部下3「中佐の確認を待つべきだろうが!」

提督「重要な連絡が伝播せず途中で止まってるほうが組織にとっては有害じゃねーか。何考えてんだ?」

提督「そもそも、大和が最初から中佐の部下になる前提で建造されたのなら、最初から中佐の鎮守府に出向かせてる」

部下1「ぐ……」

提督「つうか、この鎮守府の艦娘がどういう経緯で着任しているか、お前ら知らないわけじゃねえよな?」

提督「どんなかたちであれ、この鎮守府に着任した艦娘が余所に異動すること自体、問題視されかねねえぞ」

中佐「それと大和は関係ないだろう! これは命令だ! とっとと大和を引き渡せ!」


提督(まーだ懲りねえのか。もう少しダメージを与えられそうな言葉は……)

提督「んー……命令。命令ねえ……なあ、中佐? 命じていると言うことは、今の大和が俺の管理下にあることを認めているってことだよな?」

中佐「いいから早くしろおおおお!!」

提督「ったく、ヒステリーかよ。どうしてそこまでして俺のお古を欲しがるんだか……」

大和「!!」

中佐「……お、ふ……!!!」

提督(お、刺さったか?)

朝潮「し、司令官! そ、そのような言葉はあまり望ましくありませんので、控えるべきかと……!」

提督「気に障ったか。悪いな」

大和「いえ、そうです! その通りです! 大和はもう提督のものです!!」ダキツキッ

提督「うお!?」

大和「ふふふ……この大和! すでに身も心も提督のものです……中佐のものではありません!!」スリスリ

中佐「き、さ……まぁ……!!!」ギリギリギリギリッ


朧「うわあ……すごい顔」

敷波「嫉妬に狂った人の顔って怖いね……」

如月「私もあんな顔してるのかしら……」シュン

電「如月ちゃんはあんな変な顔してないのです! 大丈夫なのです!」

如月「へっ!? あ、ありがと……」ポ


中佐「許せん! 貴様、俺の大和を傷物にしやがったのか!!」

大和「ですから、あなたのものじゃないと、さっきから何度も……」

中佐「口答えするな!!」チャッ

部下たち「「中佐!?」」


朧「こんなことで銃を抜くの!?」

神通「提督!」

如月「司令官、逃げて!」


朝潮「司令官はお下がりください!」

大和「早く私の後ろに!!」

提督「だ、大丈夫なのか!?」

大和「はい! おまかせくださ……」

中佐「いちゃいちゃしてんじゃねえぞおらああああ!!」ドドドドドド

大和&提督&朝潮「「!?」」

中佐「もう形振り構っていられるか! 大和は俺のものにする!」

中佐「手始めに……ちゅーだあああ!」タコチュー

朝潮「はう!?」ギョッ

提督「おい大和!? 逃げろ!!」

大和(ひいい!? な、なんて気持ち悪い!!!)マッサオ

大和「う、うぶっ」ゴポッ

中佐「!?」

大和「ヴォエエエエ /

中佐「ぎゃあ /



 プツン









 ピーーーーー[しばらくこのままでお待ちください]ーーーーッ!

             (○)        ~φ
           ヽ|〃
         ヽ( ゚∀。)ノ チョウチョダー
       三 ノ ノ

       三丿 >









.


 パッ




大和「……ゲポッ」

中佐「……」ビチャァ…


神通「……これは」アオザメ

電「酷いものを見てしまったのです」

不知火「中佐の顔面に直撃してましたね」ウプッ

朧「大和さん可哀想……」

敷波「……何も見てなかったことにしよっか」

如月「そのほうがいいわね……」


朝潮「し、司令官……」オロオロ

提督「あー……朝潮、ちょっとあっち向いてろ」

朝潮「は、はいっ!」クルッ

提督「……大和」

大和「」ビクッ


提督「俺の声は聞こえてるか? 聞こえてたらそのまま後ろに5歩下がれ」

大和「……」ヨロヨロ

提督「よし。回れ右」

大和「……」クルリ

提督「その場にしゃがんで顔を下に向けて」

大和「……」シャガミ

提督「戻すときは全部戻せよ。そのほうがすっきりする」セナカサスリ

大和「ウエ……ゲホ、ゲホッ……」

提督「朝潮、近くの倉庫から担架の代わりになりそうなものを探してこい」

朝潮「は、はいっ!」ダッ

提督「大和、大丈夫か? 楽になったらドックに行って顔を洗ってくるんだ」

大和「ゲホッ……ぐすっ、も、申し訳ありません、提督……」グスッ

提督「いい、気にするな。今日はもう休んでろ、これで顔隠してけ」ハンカチサシダシ

提督「中佐、あんたも今日は諦めてシャワーを……」クルリ

中佐「……」ベチャー…

提督「……」


中佐「……」

提督「先に埠頭へ戻って水で流したほうがいいな」

中佐「ふっ……ざけるなあああ!」

大和「それは私のセリフです!!」ギロリ

中佐「っ!?」ビクッ

大和「あんな醜い顔を近づけて! 思い通りにならないからと、嫌がらせするにもほどがあります!」

中佐「嫌がらせ!?」ガーン

大和「よりにもよって大好きな人の目の前で、嘔吐させられる辱めまで受けさせられて!」

大和「最早一秒たりともあなたの存在を許すわけにはいきません!」ガシャン!

中佐「ひっ!?」

大和「第一、第二主砲……斉射、」

提督「おい!?」

神通「!」ダダダッ


大和「はじ」

神通「いけませええええん!!」ドロップキック

中佐「ほぎゃあああ!?」ドバキャーーッ ゴロゴロゴロズデーーーン

提督「あ」

大和「めええええええ!」

 ドガァァァン

部下2「うわあああ!?」マキゾエフットビ

部下1「中佐!?」

神通「……はぁ、はぁ……」

中佐「」ピクピクピク

部下3「中佐!? 大丈夫ですか!」

提督「おい神通、大丈夫か!?」

神通「はい……大丈夫です!」ニコヤカァァ

提督「お前のそんないい笑顔、今まで見たことねえぞ……」ヒソッ


朝潮「神通さん! えんがちょです!」サッ

神通「はっ!」サッ

朝潮「きりました!」スパッ

神通「朝潮さんありがとうございます!」

提督「なんだその儀式」

朝潮「それと司令官、短い梯子をお持ちしました!」

提督「お、おう。おい、部下のお前ら手伝え!!」

部下3「そ、そんな棒切れで大和の砲撃を防ごうってのか!?」

提督「逃げるに決まってんだろ! これを担架代わりにして中佐を埠頭まで運ぶんだよ!」

部下2「!」

提督「もたもたすんな、撃たれてえのか!? とっとと手伝えくそが!!」

部下1「わ、わかった!」

中佐(吐瀉物まみれで気絶中)「」プスプスプス…

部下1「うっ……」

部下2「これはひどい……」


提督「ごちゃごちゃ言ってねえでとっとと運べ! そっち持て!!」グイッ

部下3「わ、わかった……ううっ、胃酸臭い……」

提督「朝潮と神通は大和を頼む!」

朝潮&神通「わかりました!」

大和「ふたりともどいて! そいつ殺せない!」ガシャッ

朝潮&神通「!?」

 ドガァァァン

部下たち「「ひいいいい!!」」

提督「急ぐぞおらあああ!!」



電「司令官さん、行っちゃったのです」

如月「大丈夫なのかしら……」

電「如月さんは司令官さんを追いかけないのですか?」

不知火「追いかけないほうがいいでしょう。如月を中佐に会わせるのは酷ではないかと」

如月「……」ウツムキ

朧「……なにかあった、ってこと?」」

不知火「はい。ですので、ここは不知火が行きます。みなさんは大和さんのサポートを」

如月「……わかったわ。司令官をお願いね」

不知火「はい」コク タタッ

敷波「と、とにかくさ。一応、形としては追い帰しは成功したのかな」

朧「……たぶん」

というわけで今回はここまで。

>>891
「そいつ殺せない!」の台詞を入れようと考えてた矢先に、
ヤンデレ妹と言われて思わず納得。もしやエスパーですか!?

えんがちょは私も千と千尋で知った口です。


では続きです。


 * 鎮守府 埠頭 *

部下3「ひ、酷い目にあった……!」ゼーゼー

部下2「准尉、貴様どういうつもりだ!」ハーハー

提督「どうもこうもねえよ。ここまで大和の反応が酷いとか想像だにしてなかったぞ……」フゥ

部下1「そ、それより、准尉の体力は、なんなんだ……」グッタリ

提督「お前らこそこの距離走ってばてるなんて大丈夫か? とりあえずどいてろ、中佐洗うから」ジャグチヒネリ

 ホース<ジョボボボボ…

中佐「」バシャバシャ…

提督「ホースの水ぶっかけられても目を覚まさねえとか、重傷だな」

不知火「司令、中佐は」タタタッ

提督「おう、ご覧の通りだ」

不知火「……これはこれは。ご愁傷様です」ギンッ

部下1(なんだこいつの眼光は……)

部下2(戦艦みたいな目つきしやがって……)

部下3(お前みたいな駆逐艦がいるか……!)


部下1「て、提督准尉! 貴様はこの始末をどうつけるつもりだ!」

提督「始末も何も、ありのままを中将に伝えるさ」

提督「大和が中佐の部下になることを拒否して、それに激昂した中佐が嫌がる大和を無理矢理連れ去ろうとしたら砲撃された、ってな」

部下2「本気か……!?」

提督「砲撃を避けるために突き飛ばしたもんで、中佐が怪我をした。で、あんたらと一緒に急ぎ引き上げた。それで説明としては十分だろ」

不知火「不知火も状況は見ておりましたので、同様に説明可能です」

提督「うちの艦娘が中佐を蹴飛ばさなきゃあ、今頃骨も残ってねえだろうからなあ。中将に何を言われるやら……ま、仕方ねえな」

部下3「……」

提督「一応、大和に吐かれたのは伏せておく。中佐の名誉にかかわるからな」

提督「それともなんだ。お前らまだ大和を諦めてないってか? 俺はそれより、早く中佐を医者に診せるべきだと思うがな」

部下1「……」

提督「もう一回、忠告しとく。無理矢理連れて行って、その道中で沈められても、俺は責任を取れないぞ?」

提督「そもそも中将も、無理に引き抜きを成立させなくていいっつってたぞ。本人の希望が一番だ、ってな」

部下たち「「……」」

提督「どーすんだ?」

部下3「……引き上げる、か」

部下1「そのほうが良さそうだな……」


部下2「そうだな。まずは中佐を病院に連れて行こう」

部下3「俺たちが無理矢理大和の手を引いても中佐がお怒りになるだろうし! な!?」

部下1「それもそうだ。我々が中佐の許可なく大和に触れては、中佐に対して失礼にあたる!」

部下2「よし、大和は諦めて急ぎ鎮守府へ戻るぞ!」

部下3「准尉! 中将にはそのように、くれぐれもよろしく伝えておいてくれ!」ビシッ

提督「承知した」ケイレイ

部下1「そうと決まれば、中佐を連れて撤収するぞ!」バッ

部下2「出港の準備を急がせよう!」ダッ

部下3「俺は船から担架を持ってくる!」ダッ

提督「……」

不知火「司令、あとはみなさんに任せましょう」

提督「そうだな」

不知火「ところで……中佐の名誉と仰いましたが、本心ですか?」ヒソッ

提督「なわけねーだろ。いびりのネタにする」ククッ

不知火「でしょうね……」ハァ…

中佐「」(←引き続き気絶中)

 * * *

 * *

 *


 * それからしばらくして 鎮守府 埠頭 *

 中佐の船<ザザァァァ…

提督「やっと行ったか」

不知火「行きましたね」

提督「……」

不知火「……」

提督「もういいよな?」

不知火「いいと思います」

提督「……ふぅ……」

不知火(ざまあみろとか言いそうですね)

提督「ざまあ! くっっそざまあ!!」ウラァ!

不知火(ニアピンでした)

提督「ふー……まあまあすっきりしたぜ」

不知火「あれでまあまあですか」

提督「俺が直接殴ったわけじゃねえからな。キ○タマ潰し損ねたのも残念だったが……」

提督「だがまあ、いくらか気は晴れたさ」


不知火「……司令。良かったのですか、中佐を始末しなかったこと」

提督「そいつは仕方ねえよ。死亡事故なんて起こしたら、この島の鎮守府そのものの存続がやばいからな」

不知火「ということは、これからも中佐から連絡が……」

提督「いや、手はある。今日の定期便の荷物の中に、この前来てたO少尉から、奴の不正行為の証拠の資料が送られてきた」

不知火「は……!?」

提督「それをネタにゆすってやりゃあ、あれもそうそう手出ししてこねえさ」

提督「あの時も中佐にそれをちらつかせてやったら、思いのほか動揺してたしな。見せるだけの切り札としてなら使えるぜ」

提督「まあ、もちっと早く届いていりゃあ、そもそも今日みたいな騒ぎ自体防げたかもしれなかったんだろうけどなあ」

不知火「そ、そのようなものでしたら、むしろすぐ公表して、中佐を排除すべきでは……!?」

提督「早まんな。それをやっちまうと赤城も巻き添えにしちまうんだよ」

不知火「……!」

提督「今、奴の鎮守府をぎりぎりのところでシロく見せてるのは赤城の手腕だ」

提督「そこでもし不正を暴いたら、その不正の大部分を手助けをしていた赤城だってただじゃあ済まねえだろう」

提督「だからあの資料は、あくまで脅しの道具だ」

不知火「そ、そういうことでしたか……! でしたら、不知火は司令の意見に異議ありません」


不知火「それにしても、何故O少尉は司令にそんな資料を送ってきたのでしょうか」

提督「あいつ真面目だからなあ……あいつなりにこっちに手を差し伸べたつもりなんじゃねえか?」

不知火「確かに。それも考えられます」

提督「ま、とにかくこれでしばらくは安泰かね……ったく、よくもまあ次から次と面倒ばかり起こるもんだ、くそが」

不知火「……」

提督「お前が神妙な顔すんな。悪いのは尽く人間どもじゃねーか」

提督「いや……むしろ俺がお前ら巻き込んでんのか?」

不知火「いえ、そうは思いません。放っておいても艦娘が漂着する島です」

不知火「この場に誰がいたとしても、同じように巻き込まれるのはやむを得ないかと」

不知火「それに、わたしや如月のときも、比叡さんや初雪のときも、司令でなければ解決には至らなかったと思いますし」

不知火「司令の機転がなければ、轟沈した艦娘がこの島で生活できなかったのですから。司令が気に病まれるようなことはないと思います」

提督「そうか……助かる」

不知火「いえ。それと、申し訳ないのですが……」

提督「ん?」


不知火「野暮を承知で伺いたいのですが、どうして大和さんにキスする真似を?」

提督「……あー」

不知火「……」

提督「思い付かなかったんだよ、いい方法が」アタマガリガリ

提督「なんだったかな、喚く女の口をキスで塞いで、みたいな下りを、なんかの小説か何かで見たんだよ」セキメン

不知火「!」

提督「中佐もいたし、それを見せりゃあ奴もショックを受けるだろうって打算もあった。まあ、下衆な方法だったよな……」

提督「つうか、一番まずいのは、大和が俺を気に入ってることを知ってて、それを利用したことだよなあ」

提督「最低じゃねーか、俺……」ズーン

不知火「し、しかし! 司令は、その……あくまでフリをしたわけですから」

提督「フリでもなんでも人の心を弄ぶような真似してんだから、最低なのは変わんねーだろ」

不知火「……そこまで自責の念に苛まられるのでしたら、もう覚悟を決めて大和さんとゴケッコンなさったほうが良いのでは?」

提督「それこそ無理だ。俺は誰とも結婚する気はねえ」

不知火「司令……あなたは以前もそう仰いましたが、それを頑なに守り続ける理由はいったいなんなんです」

提督「俺の理想は、この島の艦娘と妖精が、人間や外敵に脅かされることなく暮らせる世界だ」

提督「俺自身も例外じゃない。それが叶ったら、俺はどこかへ消えるつもりでいる」

不知火「本気ですか……!?」


提督「俺はガキの頃から妖精と話ができていたんだが、周りの人間は誰ひとりそれを信じようとしなかった。実の親でさえもな」

提督「俺の話に聞く耳も持たず『嘘をつくな出鱈目を言うな』とただただ俺を殴って矯正しようとした男と」

提督「俺を気味悪がって目も合わさず口も利かず、遠くから観察していただけの女が親だなんて、いくら事実でも認めたくねえし」

提督「そんな奴らの血を引いた俺の遺伝子なんか、絶対に残すわけにはいかねえよ。俺の理想には、俺も邪魔なんだ」

不知火「……」

提督「……それなのに、俺は大和に……何やってんだよ俺は……」ハァァ

提督「まあ、いいか……嫌われるきっかけになりゃあ、それはそれで無為ってわけじゃねえしな……」

提督「そう考えるとな? 不知火、俺も含めて人間がろくでもねえもんだってわかったろ?」

不知火「……司令」

提督「……ん?」

不知火「司令のお考え、理解はしました。司令がいなくても、私たちが平和に暮らせる世界を望んでいると」

提督「……ん」

不知火「ただ、賛同はできかねます」

提督「……」

不知火「……」

提督「……そうか」


不知火「……」

提督「……」

 ザザーン…

不知火「……司令。そろそろ戻りましょう」

提督「あー、そーだな。大和のケアもしてやらにゃあな」


不知火(……司令が顔を赤くするところも、あんな風にひどく落ち込むところも、初めて見ました)

不知火(今言った言葉も、変わってくれると良いのですが……)


 スタスタスタ…


 ザザァ…

(海面から除く潜望鏡と集音管)

 チャプ…

(埠頭の海面から伊8が顔を出す)


伊8「……」



 * 夕方 執務室 *

通信『……』

提督「お前のところの部下たちにも聞いたと思うが、以上が島で起こった出来事だ」

通信『……』

提督「ひとまず中将にも簡単に事情は報告した。後日、不知火が本営に出向くときにも、大和を随伴させて同じ説明をさせる」

通信『……』

提督「あー、それとだ、N中佐の部下たちなら午前中にL大尉が連れて帰った。多分そっちは問題ねえ」

通信『……』

提督「俺からの連絡はこんなもんか」フゥ

通信『……』

提督「……赤城、聞いてるか?」

通信『……はぁぁぁぁぁ……』ボワァァァァ

提督「マイクに溜息吐くなよ。ノイズすげえぞ」

通信『誰のせいで』ボソボソッ

提督「ん?」

通信『誰(ダンッゴトゴトガコンッ)と思ってるんですか!!』

提督「……とりあえず落ち着け。声でけえ」キーン


提督「つうか机叩くなよ。マイクが音拾ってて何言ってるかさっぱりわかんねえし」

通信『本当にもう……中佐は入院します。全治三か月とのことです』

通信『首を動かせないと言うことで最低でも三週間は絶対安静。しばらくは出歩かないようにと言われています』

提督「ほーお、つかの間の平和ってやつだな、いいことじゃねーか」

通信『他人事だと思って気休めを言わないでください!』プンスカ

通信『中佐も艦隊を指揮する司令官です。まったく仕事をしていないわけではありません』

通信『艦隊の運用や資源調達は人並みにこなしていますし、私利私欲に走りさえしなければ、と思うくらいには能力はあります』

提督「まあ、仮にもあの中将の息子だしな。そのくらいはできて当然か」

通信『おかげで私の仕事がまた増えます。恨み言を三つ四つ聞かされても仕方ないと思ってください』

提督「そりゃご愁傷様で」

通信『……』

提督「赤城?」

通信『さて、建前はこの辺にしましょうか』

提督「……」

通信『私は本っ当についていませんね。どうして私はその場に居合わせていなかったのでしょう』

通信『さぞかし痛快だったでしょうに……!!』


提督「……ビデオでも回しときゃあ良かったか」

通信『居合わせなければ意味がないのです。もしそんなことが目の前で起こったのなら、私がとどめを刺していたのに。勿体ない』

提督「……」

通信『そうですね……良い機会です。提督准尉、これから話すことはくれぐれも内密にお願いしますよ?』

提督「なんだ」

通信『中将と中佐に血のつながりはありません』

提督「……なに?」

通信『中将は二度ご結婚なさっておられます。先の奥様は若くして病に倒れ亡くなられました』

通信『その後まもなく、後妻として結婚した女性の連れた赤ん坊が、中佐です』

提督「はぁ……道理で似てねえはずだ」

通信『中将の奥様を知る方からは、妻を亡くして気落ちしていたところを付け込まれたのだろう、と仰っておられました』

通信『後妻となった女性を一度だけ拝見しましたが、ブランド品に身を包んだ鵺、とでも申しましょうか? 若しくは狐狸妖怪の類かと』

提督「化け物だってか?」

通信『ええ。およそ中将には釣り合いませんね、卑屈そうに頭を垂れながら周囲を値踏みするような目をしていました。気に入りません』


通信『その息子が彼です。中将の息子となった中佐は、それはもう必死に勉強したそうで。結果、海軍にも無事入りましたが……』

通信『それも結局は、金や権力と言った己の欲望を満たすための努力……というより、執念でしかなかったようですね』

提督「……」

通信『残念ながら今のところ、彼を問答無用で追い出せるほど大きな不祥事や醜聞は掴めていません』

通信『それどころか、海軍の暗部に確固たる地位を作りかねない勢いです。中佐の入院先も、その息がかかった贔屓の病院と思われます』

通信『だからこそ……提督准尉。今日、あなたのもとにO少尉の名前で送った資料は、有効活用してください』

提督「!」

通信『中佐があなたの鎮守府に向かったおかげで、N中佐の件の報告書として、荷物に紛れ込ませることができました』

通信『それをちらつかせれば、墓場島に関わろうとする気もそらせるでしょう』

提督「赤城、お前……」

通信『私の勝手な見解ですが、提督准尉には期待しているんですよ?』

通信『私に何かあったとき、あとを任せられるのは提督准尉になりそうですから』

提督「……ふざけた真似しやがって。俺にお前の首を切らせる気か? 面倒事を押し付けんじゃねえよ」

通信『命を粗末にするな、という、私への激励と受け取らせていただきますよ』

提督「……食えねえ奴だな、あんたは」

通信『ええ、賞味期限が切れているのかもしれませんね。無駄に長生きしていますから……ふふふ』

今回はここまで。
自分で書いておいてなんですが、どうにかなりませんかねこのサクリファイス野郎ども。


ここからはダウナー方向に盛り上がっていく予定です。

残念ながら悪巧みではなく内輪揉めになります。


続きです。


 * 夜 提督の私室 *

提督「……」

 コンコン

提督「誰だ」

大和「大和です……お話を、よろしいでしょうか」

提督「……入れ。どうかしたのか」

大和「……」ギィ パタン

提督「……」

大和「提督。お願いです、助けてください」

提督「……助ける?」

大和「……あの男の顔を見たときから、どこからか声が聞こえるんです。嫌い、嫌い、憎い、憎いと」

提督「……声?」

大和「はい。自分でもわからないくらい、あの男の顔に嫌悪感を覚えました。初めて見る顔だったというのに……」

大和「逆に、提督のお顔を写真で初めて拝見したときには、この人はきっと私を大事にしてくれると、なぜか、そう思ったんです」

大和「そして、事実そうでした。提督は、私だけでなく、この島に流れてきた艦娘を、大事にしてくださいました」

提督「……」


大和「中佐のお話、皆さんから聞きました。私のことを執拗に聞いていたと。私に一目惚れしたらしいと」

大和「私は嫌です。私には恐怖でしかありません。きっと中佐は、私のことを諦めてはいないでしょう」

大和「私は不安なんです……! 助けて欲しいんです……!」

提督「ああ、それはやぶさかじゃねえが……」

大和「そのために、お願いがあるんです……」ズイッ

提督「?」

大和「中佐が、私を諦めてしまうよう仕向けたいんです」

大和「私は、提督のもとを離れたくありません。ずっと、お傍にいたいと……そう、思っています」

提督「……」

大和「提督……大和と、契りを結びましょう?」

大和「私が提督のものだという、証を立てれば……!!」

提督「……」

大和「あの時、仰っていたではありませんか。大和を……提督の、お古にしていただければ……!」

提督「……」

大和「提督……?」


提督「……やっぱり駄目だな」ハァ…

大和「え……!?」

提督「悪い。俺は、お前の思いには応えられない」

大和「な……何故ですか……!?」

提督「……俺は、誰とも一緒になる気はない。一生涯、そうするって決めてる」

大和「提督!? それでは私は……大和は、どうすればいいんですか!?」

大和「私は、どこへ行けばいいんですか!!」

大和「提督!!」

提督「……夜風にあたってくる。一人にさせてくれ」スッ

大和「……!」

大和「……どうして」

大和「どうしてなんですか……!」

大和「どう、して……」ポロポロポロ


 * 翌日 工廠 *

明石「……」

利根「……」


工廠の隅で体育座りしている大和「……」ドヨーン


利根「の、のう明石よ。大和はいったいどうしたんじゃ」

明石「あー、それがですねえ……ちょっとこっちの部屋で」チョイチョイ

利根「うむ……?」

明石「ええっとですねえ、なんでも提督に夜這いをかけたらしいんです」

利根「夜這い!?」

明石「しーっ! 声が大きいですよ!」

利根「す、すまん! ……いや、なるほど。ということは、あの様子から見るに、失敗してこっぴどく叱られたとかか?」

明石「いえ、謝られながら断られたそうです」

利根「なんと……ふられたと言うのか!」

明石「おかげで今朝からあそこでずーっと落ち込んでいるんです。本っ当、提督は女心というものを理解してなくて!」プンスカ


明石「私、ちょっと提督に文句言ってきます!」

利根「まあ待て明石よ。おぬしは言っておったではないか、提督はこちらが好意を寄せれば逃げていくような男じゃと」

利根「おぬしが提督を説教したとして、そのスタンスは変わるのか?」

明石「……」

利根「即座に言い返せないところを見ると、おそらくその望みは薄いか」

明石「……でしょうね」ムスッ

利根「ならばわざわざ出向くまでもなかろう。もしかしたら、提督にも大和の思いに応えられない理由があるのかもしれん」

明石「やけに提督の肩を持ちますね」

利根「ふむ……明石は随分と提督にキツくあたるな。さては伊8の件、また怒りが収まらんか?」

明石「……まあ、そうですけどね」

利根「吾輩はあの時の提督の立ち回りには納得しておる。いっそ介錯してやるのも、また情けであろう?」

明石「そうかもしれませんが、私は気に入りませんよ……昔、似たようなことがありましたから」

利根「明石が撃たれたのか?」

明石「私は仕方ないんです。以前所属していた艦隊の司令官だったA提督に脅されて、悪事に加担したんですから」

明石「でも、その悪事を調べていた朝潮ちゃんと霞ちゃんが、A提督に濡れ衣を着せられて、私と一緒に雷撃処分を受けたのが許せなくて……!」

利根「……なるほど。伊8にその姿を重ねてしまったか」

明石「はい」


利根「であれば、なおのこと提督へ物申すのはやめておいたほうが良かろう」

利根「あの男にも慈悲がないわけではない。しかし、あそこまで提督に入れ込んでいる大和の求愛を断るとなれば、それなりの理由があって然るべき」

利根「そうでなくても、あの男は無粋な物言いが過ぎるところがある。また感情的になって手を出して、大和に睨まれたくはあるまい?」

明石「……はい」

利根「まあ、一日二日で治って戻ってこられる程度の怪我で済ますなら、お灸をすえる意味で構わないのかもしれんがな!」カッカッカッ

明石「……それなんですけれど」

利根「ん?」

明石「私、あの時は本気で頭に来ちゃってて、提督を思いっきり引っ叩いたんです。死んでも構わない、ってくらいの力で」

利根「……」

明石「N中佐の鎮守府の軍医さんからは、頬の骨にひびが入っていたと連絡を受けました。レントゲン写真もいただいてます」

明石「でも、次の日にはそれが綺麗さっぱり消えていたんです」

明石「ダメージの度合いにしても、回復力にしても、よく考えたら……いや、良く考えなくてもおかしいと思いますよね?」

利根「……」

明石「提督が海軍に入ったのは、妖精さんと話ができるから、と聞いてます。そのくらいの能力なら、ほかの鎮守府にも持ってる人がいます」

明石「でも、頑丈だったり怪我がすぐ治ったり、大和さんに最初から好かれたりするなんて、聞いたことないんですよ」

利根「……」

明石「提督って、何者なんでしょう。本当に人間なんでしょうか……!?」

利根「……」


 * 一方その頃 執務室 *

提督「……」カリカリ

潮「……」カリカリ

提督「……」カリ…

潮「……!」チラッ

提督「……」カリカリ…

潮「……」

提督「……」カリ…

潮「……」ジー

提督「……」

潮「……あの……」

提督「ん、なんだ?」

潮「だ、大丈夫、なんですか? 顔色が、すぐれないようなんですが……」

提督「……まあ、あんまりよろしくねえな」

潮「お、お休みになられたほうがいいと思います……時々、手も止まってますし……!」

提督「……」ボケー

潮「あの……て、提督?」


提督「いや、大丈夫だ。この方が気がまぎれる……」カリカリ

潮「!?」ガタッ

提督「? どした?」

潮「て、提督、今、なんて……」

提督「?」

潮「今、気がまぎれる、って言いましたよ!?」

提督「……あー、そうだな」

潮「うそ……うそです……! 私の知ってる、提督は、そんなこと言いません……!」フルフル

潮「提督がそんなこと言うなんて、ぜ、絶対おかしいです!」

提督「……」

潮「……」プルプル

提督「潮」

潮「は、はいっ!」

提督「俺が……おかしい、だと?」ガタッ

潮「ひっ!」ビクッ

提督「……やっぱり、お前もそう思うか……」ハァァ…

潮「? ??」ビクビク


 * それからしばらく後 執務室 *

吹雪「……そんなに様子がおかしかったの?」

潮「うん。あの後、提督は頭を抱えたまま執務室から出ていっちゃって……」

電「それから非番だった電たちを呼びだしたのですね」

吹雪「びっくりしたよねえ! 『潮からドクターストップが出た』なんて言っちゃってたんだから!」

潮(吹雪ちゃんも、提督の真似が上手だよね……)

吹雪「電ちゃん、中佐が来た時の一部始終を見てたんだよね?」

電「はいっ! 見ちゃいました、なのです!」

吹雪(わああ、敷波ちゃんの言う通り青葉さんそっくりだあ……)

電「でも、あのやり取りの中で、司令官さんがへこむような場面はなかったはずなのです」ウーン

吹雪「だとしたら、そのあとかあ。夕食のときも、それほど落ち込んだ様子はなかったし」

電「どちらかというとイライラしてた気がするのです」

潮「そういえば、横からちらっと聞こえてきたんだけど、不知火ちゃんに中佐の鎮守府にいる赤城さんのこと訊いてたかも」

吹雪「赤城さん?」

潮「うん。でも、そのときは電ちゃんの言う通り、イライラした口調だったって覚えてるから」

吹雪「だとすると、昨夜寝るときか、今朝起きたとき、ってことになるのかな?」


 コンコン

吹雪「はーい!?」

初雪「……!」チャッ

潮「初雪ちゃん……?」

初雪「……」キョロキョロ

電「司令官さんなら外出中なのです」

潮「なにかあったんですか?」

初雪「……畑の、じょうろが壊れちゃって」

吹雪「あー、とうとう壊れちゃったかー」

潮(初雪ちゃん、畑仕事が気に入っちゃったのね……)

電(意外なのです……)

吹雪「酒保には行ってきた? 明石さんも替えのじょうろを揃えてるはずだけど」

初雪「……」ポ

吹雪「どうしたの?」

初雪「……司令官、夜這いかけられたとかって、聞いちゃって」

吹雪電潮「「「!?」」」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ


初雪「!?」ゾクッ

電「はわわわ……!」

吹雪「き……」

如月「……その話、詳しく聞かせてくれる?」ニコァァァ

吹雪「如月ちゃん……」

潮「……」ガタガタガタ

初雪「……」ビクビクビク


 * かくかくしかじか *


如月「そういうこと……司令官を問い詰める必要があるわね」

如月「ちょっと行ってくるわね……!」ニコァァァ

 ダッ!

全員「「……」」

吹雪「はー、焦ったあ……」グッタリ

初雪「……っていうか、怖かった」ナミダメ


電「タイミングが悪すぎたのです……」

潮「……でも、今の話が本当だとすると、提督は、大和さんとのお付き合いをお断りしたから落ち込んでるってこと?」

初雪「……だと思う」

吹雪「まさかぁ! なんでも『面倒臭え』で済ましちゃうような人だよ!? 気に病むなんて今までなかったよ!」

電「なのです。電たちが思い悩んでいても、容赦しないで一刀両断してしまうような人なのです!」

潮「た、確かにそうかもしれないけど……うん、そういうことばかり言う人、ですけど」

初雪(潮ですら否定しないんだ……)タラリ

潮「でも、私たちが困っていたら、ちゃんと考えてくれたじゃないですか……!」

電「……そう、ですね。やり方に問題があるときもありますけれど……」

吹雪「自分のやったことに対して堂々としてるから、なんとなく正しいことをしてる気にもなるんだよね……」

潮「そもそも、今回みたいに、問題から目をそらそうとしてるところなんか、初めてだから……」

電「思ったより、事態は深刻……なのですか?」

吹雪「初雪ちゃん、さっきの話、もう少し詳しく聞かせて!」

初雪「う、うん……」


 * それからしばらくして 工廠 *

工廠の隅で体育座りしている大和「……」ドヨーン

大和の隣で体育座りしている如月「……」ドヨーン


利根「おい、増えたぞ……」

明石「……」アタマカカエ

初雪「……なにが、あったの?」

明石「如月ちゃんが大和さんの件で提督に問い詰めに行ったんですって」

明石「で、如月ちゃんがいろいろ聞いても生返事を返すから、痺れを切らして『ずっと一緒にいたい』とか言っちゃったんですって」

明石「……そしたら帰ってきた返事が『無理だ』って」

利根「……」

明石「無理ってなんなんですかねえ!! もーちょっと言い方ってものがあるでしょうが!!」クワッ

明石「私、やっぱり提督を一発殴ってきます」ガタッ

利根「落ち着け! 落ち着くんじゃ!!」ガシッ

朝潮「た、大変です!」ダッ

利根「今度はなんじゃ!?」

朝雲「霞が如月とのやり取りの一部始終見てて、激怒しちゃってるのよ!」

朝潮「誰か止めるのを手伝ってください!」

明石「まったくもおおおおお!!」ウガーー!

利根「ええい、本当に面倒くさい奴ばっかりじゃのう!!」クワッ

初雪「……」タラリ

今回はここまで。

今回から修羅場回に入ります。

では続きです。


 * 鎮守府 埠頭 *

埠頭から海を見つめる提督「……」

<ハナシナサイッタラ!

<カスミコソオチツキナサイヨ!

霞「ちょっと! 見てたわよ、このクズ!」

暁「ちょ……!?」

提督「……」

霞「あんたねえ、如月になんて言ったかちゃんと理解できてんの!?」

提督「……」

霞「聞いてるの!? 少しは反応しなさいよ!」

暁「も、もうやめなさいよ! 言い過ぎよ!?」

霞「なによ、こんな人の気持ちも分かんないようなクズをかばうとか、どうかしてるわよ!」

提督「……」クルリ

霞&暁「!?」ビクッ

暁(し、司令官の目が死んでる!?)

霞「な、なによその目は! 落ち込んでるふりでもしてるわけ!?」


霞「落ち込んでいるのは如月だって同じなのよ! 如月に何か言ったらどうなのよ!」

提督「……」ジッ

霞「な、なによ」

提督「俺に慰めるなんて無理だ。無責任な嘘はつきたかねえ」クルッ

霞「……っ!!」

暁「司令官……!?」

霞「甘ったれてんじゃないわよ!!」ドガッ!

暁「霞っ!?」

提督「!!」グラッ

 ドボーン

暁「司令官っ!」

 タタタタッ

利根「お、おぬしたち、なにをしておる!」

明石「今、提督がいなかった!?」

暁「し、司令官が! 霞にお尻を蹴られて海に落とされたの!」

利根「なんじゃと!?」

明石「霞ちゃん!?」


朝潮「霞、あなたはなにをしてるんですか!?」

霞「わ、悪かったわよ……!」

明石「ううん、グッジョブ!」サムズアップ!

霞「!?」

暁「えええ!?」

朝潮「明石さんっ!?」

明石「だって提督はあまりに乙女心を理解してくれてないじゃない!?」

朝雲「そ、それはそうかもだけど……」

霞「そ、そうよ! じゃなかったら、あんな風に如月の気持ちを無下にできるわけないわ!」

暁「で、でも!!」

暁「あの時の司令官、すごくつらそうな顔をしてたわ。如月ちゃんのお願いを、断る前も、断った後も」

暁「たぶん、なんだけど……司令官は、誰かを贔屓したくなかったんじゃないかしら」

明石「贔屓?」

暁「暁は、背も低いし、みんなに比べたら子供だって思うときがたくさんあるわ」

暁「でも司令官は、比叡さんや長門さんと話すときと同じように、暁とお話してくれるもの……」

霞「……それ、人によって態度を変えるのが面倒なだけなんじゃないの?」

暁「!?」ガーン


明石「……まあ、ある意味、贔屓していない、って話にはなるわね。ったくもう、本当に強情なんだから……!」

朝潮「強情とは、どういう意味ですか?」

明石「如月ちゃんにしても、大和さんにしても、あんなに好意を寄せてるのに、一向にその気持ちを受け取ろうとしないのよ」

明石「そのくせ私たちのお願いとかは、文句を言いながらも聞いてくれるし、心配もしてくれるし……全っ然、素直じゃないじゃない?」

暁「それって、どういうこと?」

朝雲「なんていうか、私たちと接するときに、どこまで踏み込むかってラインを引いてるように思えるわ……」

利根「……」ガシャッ

朝潮「? 利根さん」

 零式水上偵察機<ブルーン!

明石「ど、どうしたんですか!? 敵襲!?」

利根「……提督が、海中から浮かんでこぬ」

暁「え」

利根「目視で見つからんから、水上機を飛ばしたのじゃ」

朝潮「ええ!?」

利根「もしやあの男、泳げないのではあるまいな?」タラリ

朝雲「ちょっと……」

利根「最悪、沖に流されたりでもしたら……」

霞「……!!」クラッ

明石「霞ちゃん!?」ガシッ


朝雲「明石さんソナーない!?」

暁「暁がわかるわ! 持ってくる!!」ダッ

朝潮「すぐ捜索しましょう!」

 スーッ

利根「!」

 ザバーッ!

伊8「ふう」

利根「い、伊8か!? 丁度良い、提督を見なかったか!?」

伊8「えーと……さっき流されてたんだけど」グイッ

気を失った提督「」ザバァ

暁&朝潮「司令官!!」

利根「でかしたぞ!!」

明石「よ、良かったあぁ……!」ヘナヘナ ペタン

伊8「な、何があったの?」

朝雲「後で話すから、早く司令官を引き上げましょ!」

利根「うむ! 蘇生措置を急ぐぞ!」


 * 工廠 *

工廠の隅で体育座りしている大和「……」ドヨーン

大和の隣で体育座りしている如月「……」ドヨーン

如月の隣で体育座りしている霞「……」ズーン


初雪「また増えてる……」

明石「霞ちゃんが気に病むことはないって言ったんだけど……」

利根「まさか提督がカナヅチじゃったとはのう……」

初雪「え。泳げないの……?」

朝雲「だとしても仕方ないと思うわ。だって提督、民間からのスカウトでしょ?」

朝雲「私が前に所属してた鎮守府のL大尉も、民間からの引き抜きだもん。それまでは海に何らゆかりもなかったって言ってたし」

朝雲「L大尉も泳ぐのが苦手で、沈まないようにするのが精一杯だったわ。提督もそうなのかも」

利根「うむ……そういえば、提督がなぜ海軍に入ってここに着任したのか、吾輩は知らなんだ」

利根「誰ぞ、そのあたりの事情を知っておる者はおらんか?」

朝潮「そういえば、私たちは司令官の昔のことをしりませんでしたね……」

明石「私たちより前にこの鎮守府に着任した子なら知ってそうだけど……」


島妖精A「……その辺の理由なら、わたしたちでも説明できるが?」ヒョコ

朝潮「ぜ、是非教えていただけませんか!」

島妖精A「ああ、わかる範囲でだが」

島妖精B「ちょっとAちゃん!?」ヒョコッ

島妖精C「そんな勝手なことしていいの!?」ヒョコッ

島妖精A「いいんじゃないか? 別に」シレッ

島妖精たち「……」

 * *

島妖精A「まず、提督が海軍にスカウトされたのは、わたしたち妖精と話ができるからだ。これは知っている人が多いと思う」

島妖精A「その後、中将から准尉の階級を与えられ、中佐を補佐せよと命を受けたんだが……」

島妖精A「中佐の悪だくみを知っている妖精との接触を恐れた中佐が、提督をこの島に隔離したんだ」

初雪「なにそれ……」

朝潮「先日来ていたあの中佐が、そもそもの元凶だったんですか……!!」ギリッ

島妖精A「ああ。それからこれは提督にも話していないんだが、中佐がこの島に誰かを捨てて行ったのは、提督が初めてじゃない」

朝雲「え?」


島妖精A「中佐は、この鎮守府の修繕という名目で、何度かこの島を訪れているが、そのたびに数人置き去りにしている」

島妖精A「おそらく、中佐は自分にとっての邪魔者を封じ込める場所として、この島を使っていたんだろう」

島妖精A「実際、提督が来る前にこの島に置いて行かれた人間たちは、仲間割れやらなにやら起こして、みんな死んだからな」

明石「通信機はなかったんですか!?」

島妖精A「この島の設備は、提督准尉が着任するまで放置されていたんだ。その当時は食料も通信機も、発電機すらもない状態だった」

島妖精A「提督准尉の着任時だけは、奴の部下が最低限の設備を修理していった。提督が中将に目をかけてもらったからだろうな」

朝潮「それで、妖精さんと話ができる司令官が、協力して鎮守府を立て直したんですね!」

島妖精A「いいや。わたしたちは、その時は全然協力する気はなかった」

朝潮「はい?」

島妖精B「だってねえ……あのころは酷かったんだよ?」

島妖精C「そうそう。その前まで来てた人間たちの仲違いが、ほんっとに見てられなくてねえ……」

島妖精B「いくらわたしたちの姿が見えないからって、あそこまで遠慮なく仲間割れしてるとこを見せられるとねえ?」

島妖精C「わたしたちのほうが人間に絶望しちゃってたもんね」

島妖精A「だからわたしたちも、提督が島に来たときは、早く出て行けと思っていたし、実際にそう提督にも告げた」

利根「それがどうして協力的になったんじゃ」

島妖精A「提督が、砂浜に打ち上げられていた艦娘を弔いたいと言い出したからだ」

艦娘たち「!」


島妖精B「人間が求める海の平和のために沈んだんなら、同じ人間の提督が弔わなきゃいけない……ってさ」

島妖精C「わたしたち、もともとはその轟沈したみんなに乗ってた装備妖精なんだけど」

島妖精C「そんな風に言ってくれた人は提督が初めてだったからね。一週間かけてみんなを埋葬してくれたんだよ」

島妖精A「それから3か月後くらいだったか? 如月が流れ着いてきたのは」

朝雲「3か月……って、それまで何をしてたの? 艦娘はいなかったの!?」

島妖精A「ああ、いなかった」

島妖精B「提督は無人の鎮守府で、畑を作ったり、漂着した艦娘を埋葬したりの生活をしてたんだよね」

島妖精C「それから修理ドックや建造ドックも壊れたままだったから、その修理のために鉄くずも集めてもらってたんだ」

明石「鉄くず……!」

島妖精A「結局、修理する分の鉄が集まるより前にドックを修理できたから、建造用の鋼材になったんだが」

島妖精A「それに加えて、轟沈した艦娘の残った燃料や弾薬をこつこつとかき集めて、わたしたちが大型建造を実行したんだ」

利根「それで建造されたのが大和というわけか……」

朝雲「なんで大和さんが司令官を好きなのか、わかる気がするわ」

明石「むしろそれが原因でしょうね……ここまで聞いて、やっと腑に落ちましたよ」

島妖精A「ああ。だが、提督が大和の求愛を断る理由はいまいち見当がつかないな」


朝潮「……それよりも、司令官がそんな壮絶な過去をお持ちだとは知りませんでした」

初雪「うん……正直、重すぎ」

島妖精C「如月が流れ着いてきた時も、いろんな意味で酷かったよ」

島妖精C「なんたって、如月にもいきなり『生きたいか、死にたいか』なんて聞くくらいだもん」

明石「無神経なところも昔からですか!」

利根「本人に生きる意志があるかどうかを尊重するところも変わっておらんのじゃな」

朝雲「その質問から、どうやって如月が司令官にぞっこんになったのか、すごい気になるんだけど」タラリ

不知火「それは、司令が刺し違える覚悟で中佐相手に立ち回って、如月を助けたからです」ヌイッ

朝潮「ひゃっ!? し、不知火さんっ!?」ビクッ

利根「お、驚かせるでない!」ドキドキ

不知火「それは失礼いたしました」

明石「そ、その話って本当なの!?」

不知火「はい。不知火もそのおかげで中将の配下になれましたので」

朝雲「世の中どう転ぶかわかんないわね……」

不知火「ところで、お話し中申し訳ないのですが、どなたか司令がどちらにおられるか御存知ありませんか」

明石「提督なら医務室でお休み中だけど」

不知火「医務室……ですか?」


大淀「なにかあったんですか?」ヒョコ

明石「あれ、大淀も来てたの?」

大淀「ええ、新しく配属される方が見えたので、提督にご挨拶をと……」

??「Hey, 大淀! テートクは具合が悪いんデスカー?」

明石「……」

朝潮「……この独特のイントネーションは、もしや」

??「良い機会デース、先にここにいるみなさんにご挨拶しまショウ!」

大淀「そう……ですね。それじゃ、ご紹介しますね」

??→金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! ヨッロシクお願いシッマーーース!」

利根「ほう、戦艦の金剛か! うむ、よろしく頼むぞ!」

朝雲「ねえ、これってタイミング的に最悪じゃないの?」ヒソッ

利根「? 何故じゃ?」

朝雲「だって、金剛さんって言ったら、どこの鎮守府でも司令官に猛アタックしてるって噂の艦娘よ?」

金剛「イエース! テートクのハートを掴むのは私デース!」Thumbs up !

利根「」

朝雲「そうなるわよね……」アタマカカエ


金剛「大淀、さっそく医務室に行きまショーウ! 私がテートクを元気付けてあげマース!」

大淀「それじゃ、私たちは医務室へ行ってきますね。行きましょう不知火さん」

不知火「はい」

 スタスタスタ…

利根「今回ばかりは聊か間が悪いと言わざるを得んのう……」タラリ

朝潮「……あの、こういうのを修羅場の予感、と言うんでしょうか」オロオロ

明石「その提督にノックアウト済みが二人ほどいますからね……」チラッ

初雪「……!」ゾクッ


大和「……提督のはーとを……?」ユラッ

如月「……掴むのは私……?」ユラッ


島妖精たち「「あ」」


大和「そんなこと……」ムクリ

如月「させるものですか……!」ムクリ

大和&如月「「ふふ、ふふふふふ……!」」ギラリ

朝雲「逃げて! 金剛さん逃げてえええ!!」ヒィィィ!


 * 一方その頃 医務室 *

ベッドに横たわっている提督「……ん……!」

暁「! 司令官!」

吹雪「司令官! 目を覚ましましたか!?」

提督「……ん。ああ……」

潮「良かった……!」

暁「司令官、ごめんなさい……」

提督「? ……なんで、お前が謝るんだ」ムクッ

暁「だって、あの時司令官を助けてあげられなかったし、霞も止められなかったし……」

提督「……それはお前のせいじゃねえよ」

暁「あ、それと、司令官は伊8さんが助けてくれたの」

提督「……そうか。あとで礼を言っておく」

吹雪「……」

暁「……」

潮「……あの、なにか、あったんですか?」

提督「……まあ、な」ゴロン


吹雪「いったい、なにがあったんですか?」

暁「私たちで良ければ、力になるわ!」

提督「……そうだな」

提督「もし、俺が明日この島を出て行く、っつったら、お前らどうする」

潮「ええ!?」

吹雪「!?」

暁「そんな……っ!」

提督「……そういう顔すんな。まだ出て行く気はねえよ」

吹雪「まだってどういう意味ですか!」

暁「司令官!?」

潮「……」

提督「そういう顔すんなっつったろ……お前らもそうなのかよ」ハァ

吹雪「も?」

提督「……ああ」

潮「もしかして、大和さんや如月ちゃんがショックを受けてたのは……」

暁「二人にも、そういうことを言ったの!?」

提督「そうじゃねえよ。俺を含めて人間なんて、ろくなもんじゃあねえ。だから、俺なんかと一緒になるとか言うな、って言ったんだ」


吹雪「ちょっ、司令官、なんてことを! あの二人の気持ちを知ってて言ったんですか!?」

潮「あ、あんまりです……!!」

暁「それはさすがに言い過ぎよ……!」

提督「……じゃあ、なんて言えばいいんだよ。その場しのぎの嘘なんかついてもしょうがねえじゃねえか」

吹雪「それ、どういう意味ですか」

提督「俺は誰とも結婚する気はねえって意味だ」

吹雪「そっちじゃありませんよ! 島を出て行くつもりかどうかを聞いてるんです!」

提督「……そうだな。人間どもがこの島に手を出さなくなったら、俺は消える。俺も含めて人間は島にいないほうがいい」

吹雪「はあ!? 勝手に結論作って話を進めないでもらえませんか!? 司令官は私たちにとって大事な人なんですよ!?」

提督「そんなもん今だけだ。この島の生活を脅かす、くそどもを追っ払うことがなくなれば……」

吹雪「それだけじゃあ、島を出て行くなんて絶対無理ですね! 仮にそういうことがなくなっても、司令官は私たちに必要な人ですから!」

提督「……何を根拠に。だいたいお前、元いた鎮守府の司令官を見返すんだろう?」

提督「話が通って、そっちに戻ることになったらその話は当てはまらなくなるだろうが」

吹雪「それこそいつになるかわかんないじゃないですか! そんなに私を島から追い出したいんですか!?」

提督「そいつは俺が決めることじゃねえだろ。お前の好きにすりゃあいい」

吹雪「そーゆーことを言ってるんじゃないんです!! そもそも今はそんな話をしてません!!」

提督「そういう話だろ。俺は好きにする、お前も好きにする。それでいい」ネガエリ


吹雪「こっち向いてください! 司令官!!」

提督「……」

吹雪「司令官!!!」

提督「……うるせえ」

吹雪「っ!!」ブワッ

暁「司令官!?」

潮「……っ!」

吹雪「なっ……何がうるさいんですか! そんな苦しそうな顔して! そんな、助けて欲しそうな顔をしてるくせに!」ポロポロ

吹雪「私たちを見捨てられないような優しい人のくせに、どうして今更そんなことを言うんですか!!」

吹雪「そんなに私たちに嫌われたいんなら、最初から私たちのことなんか放っておいたら良かったじゃないですか!!」

提督「……」

吹雪「司令官、昔言いましたよね! 私たちが戦うのは他人のためじゃなく、自分たちのためだって!」

吹雪「私たちに夢を見させておいて、なんであなただけ勝手にいなくなろうとするんですか! 自分たちのためじゃなかったんですか!?」

吹雪「司令官がいなくなるのが筋書き通りだって言うんなら、私はそんな未来なんかいらない! 来なくていい!!」

提督「……」

吹雪「はーっ、はーっ……ぐすっ」

吹雪「……なんとか言ったらどうなんですか。少しは反論してくださいよ。どうしてだんまりなんですか……!」ボロボロボロ

提督「……」


吹雪「司令官……!!」ググッ

吹雪「もう……もういいです! もう!! バカ! 司令官のバカっ! 司令官なんか、大っ嫌い!!」

 ダッ

潮「ふ、吹雪ちゃん!?」タッ

暁「……」

提督「……」

暁「……ねえ。司令官、追わなくていいの?」

提督「……ああ」

暁「そう……」

提督「……」

暁「今日の司令官はどうかしてるわ。最低よ」

 タッ

提督「……」

提督「……どうしろってんだよ」

提督「……しょうがねえだろ、くそ……っ」

「ふーん。しょうがないんだ」

提督「!」ガバッ

伊8「はっちゃん、聞いちゃった。うふふふ」

提督「……」

伊8「ねえ、提督。少し、お話したいなあ。いいでしょ……?」

今回はここまで。

修羅場の最中ですが温泉回に入ります。

続きです。


 * 北の岩場 *

提督「……」テクテク

伊8「……」テクテク

提督「どこに連れて行く気だ」

伊8「……」

提督「……」

伊8「ねえ、提督? できれば、はっちゃん、って呼んで欲しいなあ」

提督「……はっちゃん、ねえ」

伊8「うん」

提督「……」テクテク

伊8「……」テクテク

提督「……おい、はっ」

伊8「もうすぐ、着きますよ」

提督「!」

伊8「ほら……あれ」


提督「……煙?」

伊8「ううん、湯気」

提督「まさか……温泉か?」

(石を組んで作られた露天風呂)

伊8「うん」

提督「この島にこんな場所が……もしかしてお前が作ったのか?」

伊8「そう。この岩場の北側に海底火山があって、その湧水が見つかったから。それを利用して、石も組んで……」

提督「重労働だったろ。誰か手を貸してもらったりしなかったのか」

伊8「ううん? はっちゃん、一人で作っちゃった」

提督「マジか……」

伊8「ちょっとずつ作ったから、そんなに疲れなかったし。もともと、ある程度は自然にできてたから」

提督「……俺をこんなところに呼び出して、どうするんだ?」

伊8「提督。このお風呂に、入って欲しいな」

提督「……は?」

伊8「だめ?」

提督「……さすがに気分じゃねえよ」

伊8「だめ。入って」

提督「……」

伊8「入らないと、怒っちゃうんだから」

提督「……なんだんだよ、いったい」ハァ


 * *

提督(タオル一枚)「俺だけ入るのか?」

伊8(岩陰で待機中)「ええ、どうぞ」

提督「……」

 チャプ…

伊8「御湯加減はどうですか?」

提督「……ああ、丁度いい」

伊8「そうなの? 少しぬるめにしたんだけど……」

提督「熱い風呂は嫌いなんだ。俺はぬるいほうがいい」

伊8「ふぅん……」

提督「……風呂なんて久し振りだ。ずっとシャワーで済ませてきたからな」

伊8「そう。じゃあ、ゆっくり温まってくといいよ?」

提督「……」チャプン

提督「……」ボー

提督(……どうしてこうなったんだ? なんで俺は風呂に入ってる)

提督(いや、それよりもだ。昨夜の大和も、さっきの如月も、あそこまで泣かすつもりはなかったのに)

提督(霞も、吹雪も、すげえ剣幕だったよな……)


提督(……)

提督「駄目だな。どうしたらいいかわかんねえ」

提督(あの時素直に溺れてりゃあ、楽だったかもなあ……)ブクブク

伊8「どうしたの?」ヌッ

提督「うお!? な、なんでも……って、お前っ!?」

伊8(タオル一枚)「? はっちゃんがどうかした?」

提督「どうか、って、お前服はどうした!!」ウシロムキ

伊8「お風呂に入るのに、どうして服を着てなきゃいけないの?」

提督「そ……そりゃあ、そうだが」

伊8「お隣、失礼しますね?」チャプン

提督「……俺は先に上がるぞ」グッ

伊8「はっちゃん、提督の服、隠しちゃった」

提督「……」

伊8「提督とは、ゆ~っくり、お話したいなあ……ふふふっ」

提督(嵌められた……)

伊8「そんなに怖い顔しないで。提督、はっちゃんに何をしたか覚えてるでしょ?」

提督「……」

伊8「ほら、こっち向いてください……?」

提督(そういう意味か……観念するしかねえな)チャプ


伊8「……提督、元気ないのね?」

提督「お前もさっき見てたろ。吹雪泣かせて、元気出せってほうが無理がある」

伊8「ふうん」ズイッ

 (提督の正面に迫った伊8が、提督の首に両手を伸ばして)

伊8「今はそういうの、忘れてくれる?」ギュ…

提督「!!」

伊8「うふふふ……」

伊8「提督、言ってましたよね。この島が平和になったら、姿を消すつもりだって」

提督「お前……」

伊8「言ったでしょ? はっちゃん、聞いちゃったって。不知火との会話も、ぜぇんぶ、聞いちゃったの」

伊8「そんなことはさせません。勝手にどっか行くなんて、そんなこと、許してあげません……!」ギュウッ

提督「ぐ……!」

伊8「抵抗しちゃダメ。提督は、はっちゃんの言うこときくの……!」

提督「……わかったよ。好きにしろ」メヲトジ

伊8「うふふふ……動かないでね」


提督「……」

提督「……」

提督「……」

提督(……なんだ? どうして伊8は何もしてこない?)

提督(嬲るつもりか? 殺すんなら一思いにやって欲しいもんだがな)

 フニ

提督(……?)チラッ

提督に抱き着いてる伊8「……」

提督「!?!?」

提督(なんだ!? なんで俺は伊8に抱き着かれてるんだ!?)

提督「お、おい」

伊8「……」ギュウ

提督(しがみついてきた……もう何が起こってるのか訳が分かんねえ)ドキドキ

伊8「……」

提督「……」ドキドキ

伊8「……」

提督「……」

伊8「……」


 * そのまま8分経過 *

提督(やべえ……そろそろ頭かぼーっとしてきた)

提督(……い、いつまでこうしてりゃいいんだ……?)

提督「お、おい……」

伊8「……の」

提督「……の?」

伊8「のぼせちゃったかも……」カオマッカ

提督「おいぃ!?」ザバァ




 * 湯船から出ました *

提督「湯冷めすんぞ。ほれ、バスタオル巻いとけ」パサ

伊8「ダ、ダンケシェーン」マキマキ

提督「……で、お前は何がしたかったんだよ」アグラスワリ

伊8「……」チラッ

提督「……?」

伊8「あの、はっちゃん、オリョールにはもう行きたくなくて。自由に、なりたかったの」ストン

提督(……なんでこいつ俺の膝の上に座ってんだ?)


伊8「だから、提督がはっちゃんの言うことをきくようにしてしまえば、って思って」ペター

提督(なんでこいつくっついてきてんだ……)

伊8「それで、提督の弱点を探してて……」

提督「……弱点、ねえ」

伊8「提督は、後腐れなく島を出て行きたいから、誰とも深く関わろうとしてないってわかったから」

伊8「提督と、特別な関係になっちゃえば、言うこときいてくれると思って……」ポ

提督「……」

伊8「……」

提督「別にそんなことしなくても、普通に話せばよかったじゃねえか」

伊8「……そ、そうかもだけど、心配だったんです!」ワタワタ

提督「俺はてっきり、ル級にお前を撃たせた仕返しに、この場で始末してくれんのかと期待してたんだがな」

伊8「そ、そんなことしません!」

提督「しないのか?」

伊8「だ、だって、明石からビンタされてた時なんか……すっごい痛そうだったし」

提督「あー……まあ、な」


伊8「それに、痛いのより、気持ちいいことのほうが……言うこと聞いてもらえそうだし」カァァ

提督「だから俺にくっついて、色仕掛けで落とそうと?」

伊8「どっちかっていうと、既成事実を作っちゃおうって……」

提督「余計駄目じゃねえか!」

伊8「で、でも、嫌よ嫌よも好きのうち、って言わない?」

提督「……言わねえよ。それにそれ、男が女に言うセリフじゃなかったか?」

伊8「そうなの!?」

提督「いや、俺もわかんねえけどよ……そもそもそれって押し付けじゃねえか。嫌だから嫌だって言うんだろ普通は」

伊8「あうう……て、提督は、はっちゃんは嫌?」

提督「そういう嫌な言い方すんな……そもそもこんなくっついた状態で、嫌だっつっても説得力ねえだろ」

伊8「そう……良かった」ホッ

提督「けどなあ、首を絞めたのはなんでだ?」

伊8「んと……ヤンデレっぽいかと思って」

提督「なんだそのヤンデレって」

伊8「知らないの!?」

提督「知らねえよ……つか、どこから持ってきたんだよそんな単語」

伊8「え、えっと……この前、明石が持ってきた、アレなマンガに載ってた」

提督「……」アタマカカエ


伊8「だ、大丈夫……? おっぱい揉む?」

提督「大丈夫じゃねえよ! それはお前の頭が大丈夫じゃねえ!! なんで揉ますんだ!?」カァァ

伊8「や、やっぱり嫌なの……?」ウルッ

提督「軽くトラウマになってるだけだ。一歩間違えたら、湯船にゲロ吐いてたかもしれねえんだからな……」

伊8「え」

提督「昔、見ちまったんだよ。バイト先の倉庫ん中でジジババが下半身マッパでヤってたとこ」

伊8「うわぁ……」

提督「しかも店長の嫁さんと店員だったからな……色キチの考えてることなんか理解したくねえ」

提督「この前見ちまったマンガが似たような状況だったもんで、思い出して胃のもの戻したばかりだ」

伊8「提督、そういうの駄目なの?」

提督「よろしくはねえな。だから、お前らに対してもそういうことはしたくねえ」

伊8「ふぅん……だから、提督の魚雷は、元気なかったんだ」

提督「あ?」

伊8「うん。じゃあ、提督? はっちゃん、責任取ってあげる」

提督「は?」

伊8「提督が、ちゃんと女の子と向き合えるように、はっちゃんが、いろいろ教えてあげます!」

提督「お前は何を言ってるんだ」

伊8「はっちゃんは大まじめです!」フンス!


提督「別にそこまでしなくてもいい……」

伊8「そ、そんなこと言うと、みんなに、私たちが抱き合ってたこと、ばらしちゃいますよ!?」

提督「……ここへ来て俺を強請ろうってか」

伊8「だ、だって、いなくなったら困ります……また、同じことになったら、嫌だから……」ウツムキ

提督「……」

伊8「……だめ?」

提督「はぁ……わかったよ、しゃあねえな」

伊8「!」パァァ

提督「こうなったら、この島が俺の手を離れても、なんら問題ないようにするしかねえんだな?」

伊8「それは……戦争を終わらせるのと同じか、それよりも難しいと思うけど?」



提督「それはそうと、お前いつまでくっついてんだ」

伊8「ぬるま湯もいいけど、人肌もあったかいなあと思って」ポ

伊8「ほら、はっちゃんずっと海の中にいるから、あたたかいところは好きなんです」

伊8「たまにこうやって、膝の上に乗せてもらえると嬉しいかもしれません」

提督「……ほどほどにな」


 * 夕暮れ時 北の岩場から鎮守府への帰路 *

提督「……なあ。お前、なんで温泉なんか作ったんだ?」

伊8「単純にはっちゃんが入りたかっただけ。冷たい海の底を航行するから、体が冷えちゃうの」

提督「大変だったろ?」

伊8「うん。手ごろな石を並べて、廃材のパイプとか持ってきて、隙間を砂やモルタルで塞いで……」

伊8「でも、ああいうのを作ること自体初めてだから、結構楽しめました」ニコー

提督「共同の風呂は嫌だったのか?」

伊8「ちょっとお湯が熱かったし、人の出入りもあるから、ゆっくり入っていられなくて」

伊8「お風呂も大きすぎて、落ち着かなかったの」

提督「なるほど。3人も入れそうなスペースがありゃ、一人で入るぶんには十分だもんな」

伊8「提督が良かったら、あのお風呂使ってもいいよ?」

伊8「はっちゃん、背中流してあげる」

提督「……まあ、そのうちな」

伊8「? まだ何か考えてるの?」

提督「ああ。吹雪に謝らなきゃならねえ。酷いこと言っちまったからな」

というわけで今回はここまで。


次の投下時に次スレをたてようと思います。


こちらが次スレになります。

【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529758293/)

こちらでもよろしくお願いいたします。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年01月11日 (水) 00:39:42   ID: 4HSPs5Lz

更新がいつも楽しみ

2 :  SS好きの774さん   2017年02月14日 (火) 23:58:10   ID: Rwx0BFq9

エタったかー

3 :  SS好きの774さん   2017年08月20日 (日) 09:38:53   ID: -AOScED7

↓ここで続き読めまっせ

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/

4 :  SS好きの774さん   2017年08月21日 (月) 00:10:15   ID: V7EiSqLA

間違えた、↓だった

https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1476202236/

5 :  SS好きの774さん   2017年10月25日 (水) 19:58:59   ID: pwbeHVDq

面白い
更新頑張って下さい

6 :  SS好きの774さん   2017年11月11日 (土) 14:57:39   ID: y7nokxa_

更新頑張って下さい

7 :  SS好きの774さん   2017年11月21日 (火) 23:33:54   ID: njqitBmw

更新来てた!

8 :  SS好きの774さん   2017年11月25日 (土) 15:19:17   ID: 1JiEYnDX

待ってたぜーーー!

9 :  SS好きの774さん   2017年12月03日 (日) 22:58:17   ID: 3p5MN8A6

提督本営に行く
なんか起こりそうだな(ワクワク)

10 :  SS好きの774さん   2017年12月10日 (日) 11:06:12   ID: XrKJxNye

更新してたーーー歓喜

11 :  SS好きの774さん   2017年12月11日 (月) 11:49:05   ID: bHBBSX_H

提督チャレンジャーだなー

12 :  SS好きの774さん   2018年01月19日 (金) 13:46:24   ID: A2oRG4rY

更新頑張って下さい

13 :  SS好きの774さん   2018年01月19日 (金) 22:40:33   ID: A-My2_Jo

更新がめちゃくちゃ楽しみ!

14 :  SS好きの774さん   2018年01月30日 (火) 23:00:52   ID: 4UDzyeMu

気長に待つとしようか

15 :  SS好きの774さん   2018年02月10日 (土) 12:47:36   ID: Cdv2ChRu

続きに期待!

16 :  SS好きの774さん   2018年03月07日 (水) 11:38:05   ID: voGndmst

鳳翔さんかわいい

17 :  SS好きの774さん   2018年04月01日 (日) 12:58:49   ID: 6knJ_IPc

読みやす過ぎて驚いたw

18 :  SS好きの774さん   2018年04月20日 (金) 01:35:14   ID: SNS6QbPy

すぐ読み終わってしまった
続きがたのじみ

19 :  SS好きの774さん   2018年05月15日 (火) 10:11:05   ID: d7Hu1R1I

毎回いいところで終わるから
続きが気になる

20 :  SS好きの774さん   2018年05月18日 (金) 23:22:29   ID: ZeeBv6AH

面白くなってきたな…

21 :  SS好きの774さん   2018年05月25日 (金) 00:32:06   ID: JuSp4D1_

テンション高い神通さんに笑ったW

22 :  SS好きの774さん   2018年09月28日 (金) 09:00:19   ID: __zA64rM

ハラショー

23 :  SS好きの774さん   2022年12月26日 (月) 07:55:21   ID: S:15ptcB

百姓は武士より振り下ろす力は強かったというから農業は何気に軍事訓練に適してるのかもしれない。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom