[モバマス]あずき「お祭り大作戦♪」 (18)

桃井あずきちゃんとプロデューサーのSSです。
今回はP視点での地の文に初挑戦したので読みにくいところが随所にあるかもしれませんが、ご了承ください。

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俺が祭りに行かなくなったのは、いつだっただろうか。
暑いのと、人混みが苦手だから、なかなか行く気にならなかった。
だから今年も夏になったからと言って、祭りに行くことはないだろうと思っていた。
……あの時、自分の担当アイドルに祭りの話をするまでは。

夏休み入って少し経った、7月下旬の月曜日。
俺は暑さに参りながら、今日も仕事に励んでいた。
今日、事務所には俺以外に誰もおらず、ただひたすらにキーボードを打つ音だけが響いていた。
「プロデューサー、おっはよっ」
静寂を打ち破ったのは俺が担当しているアイドル、桃井あずきだった。
15歳にしては少し小柄な背丈と、それに似合わぬセクシーなスタイルを売りにしているアイドルだ。
今日も彼女は頭に結んだお団子を揺らしながら、俺の元へ駆け寄ってくる。
しかし、なぜ彼女はここに来たのだろう。今日はレッスンも仕事もないはずだが。
「おはよう、あずき。……今日はオフの日だったはずだけど」
「えへへー、プロデューサーに会いたくなったから来ちゃった♪」
そう言って彼女はこちらに微笑んだ。さすがはアイドル、今日も笑顔が眩しい。そして、自分に会いたくなったから来たと言ってくれるのは嬉しい。
……だがしかし、一つ言っておかなければならないことがあった。

「それは嬉しいけれど、夏休みの宿題はやらなくていいのか?やれる時にやっておかないと後で苦労するぞ?」
「うっ!……それはそうだけどー」
あずきは気まずそうに目を逸らした。やはり宿題には手を付けていなかったか。
「宿題が終わらないからってレッスンや仕事を休むことがないようにな」
「分かってるよっ!あずきの夏休み大作戦には宿題を効率よく片付けるプランもバッチリ入ってるから!」
「そうか、それならバッチリだな!……で、その中身は?」
「……これから考えるところ!」
「……はぁ」
予想通りの返答に俺は嘆息した。……仕方がない、あずきが夏休みの宿題に苦しまないようにするためにも、こっちから「夏休み大作戦」の中身を考える必要があるようだ。
「ところで、こんなものがあるんだが」
俺は先日家に届いた1枚のチラシをあずきに見せた。

「……これは?」
「祭りの告知さ。俺の地元では毎年この時期にお祭りがあるんだ。規模は小さいけれど、屋台とか出るし、花火も上がるぞ」
「お祭り!?行きたい、行きたーいっ!」
「あずきならそう言うと思ったよ。ただし、行くには一つ条件がある」
「条件?」
「このお祭りは八月の下旬にあるんだ。そこまでに宿題を全て終わらせておかないと、行くことは許可しません」
「えーっ!そんなー!」
「もちろん、テキトーにやったらだめだからな。ちゃんとやって、全部終わらせるんだぞ。まぁあずきには無理だと思うけどな」
あずきに限ってズルはしないと思うが、敢えてあずきを挑発するように俺は言った。
「むむーっ、分かったよっ!ちゃんと宿題やったらお祭り行っていいんだよねっ!?」
「そうだな」
「プロデューサーとお祭りデート大作戦していいんだよねっ!?」
「おう、デートでも何でもするよ」
「約束だよ!?」
「ああ、約束だ」
よし、やはりお祭りで釣れたか。……なんか気になるワードがあったような気もするが……まぁいいだろう。
「じゃあさっそくプロジェクトSを決行しなきゃね!」
「また新しいプロジェクトか」
「ちなみにプロジェクトSのSは、宿題のSだよっ!」
そんなことは誰も聞いてないぞ。
「じゃあ、あずきはさっそく今から宿題やるから今日はもう寮に戻るね!バイバイ、プロデューサー!」
「おう、がんばれー」
あずきは慌ただしく事務所から出ていった。再び静けさが戻った事務所に俺は少しだけ寂しさを覚えつつ、仕事に戻った。

―――一か月後


「……まさか、本当に全部終わらせるとはな」
「えっへん!すごいでしょー!」
あずきは誇らしげに胸を張っていた。
「正直、期待はしていなかったんだが……」
「えっ、ひどーい!色んな子に手伝ってもらったの!穂乃香ちゃんに響子ちゃんに芽衣子さんに杏ちゃんにユッコちゃんに、それからそれから……」
「何人いるんだ……」
一体何人のアイドルに手伝ってもらったのか……ムードメーカーとしての人脈の広さを思い知らされた。
「あっ、もちろんあずきもいっぱい頑張ったんだよ!ほらほら、見てよこの感想文―!文香さんに読みやすい本を選んでもらって、頑張って書いたんだよー!」
「分かった分かった。よくやったな、あずき」
労いの意味も兼ねてあずきの頭を撫でると、あずきは目を細めて気持ちよさそうにしていた。
「ということでー。今夜のお祭り、あずきと行ってくれるよねっ?」
「まぁ、約束は約束だからな」
「やったー!」
本音を言うと、俺自身もあずきとお祭りに行きたいという気持ちが強かったのは事実だが、それを言うと間違いなくあずきが調子に乗るので言わないでおく。

「じゃあさっそくこれに着替えてねっ!」
「えっ?」
あずきが取り出したのは一枚の浴衣だった。
「……これを俺に?」
「うん!ママに頼んで、プロデューサーのために実家から送ってもらったのっ。きっと似合うと思うよ!あっそうだ、着付けやってあげるね!」
あずきに言われるがままに、俺は何年振りか分からないくらいに浴衣を着た。
「うんうん、似合ってるよ!プロデューサー!カッコイイ!」
「まさか俺の分まで浴衣を用意しているとは思わなかったぞ」
「お祭りと言えば浴衣だよっ!それに、プロデューサーは、こういう服が似合うと思ってたんだ♪」
お祭り大好きガール桃井あずきがほほ笑んだ。
「なんだか照れるな……で、いくらなんだこの浴衣」
「あっ!お値段は気にしなくていいよ~!それ、パパのお下がりだから!」
「そうか、それなら安心……?だな!」
……後であずきの親御さんに連絡取っておこう。
「それじゃさっそく祭りの会場はしゅっぱーつ!」
「おいっ、引っ張るなって!」
今日は賑やかな一日になりそうだ。

「着いたー!」
「おつかれさま」
事務所の最寄り駅から電車で揺られること約十分、俺とあずきは目的地に到着した。
お祭りの会場はここから歩いて約五分だ。
「楽しみだねっ、プロデューサー」
「……ああ、そうだな」
あずきはお祭りが待ち遠しいのか、落ち着かない様子だ。電車で座っている時も、足をパタパタとせわしなく動かしていたし、今もきょろきょろと辺りを見回している。
「あずきは元気だなぁ」
「……プロデューサーはあんまり元気じゃないみたいだね」
「俺はお祭り騒ぎがあんまり得意じゃなくてな……このお祭りも地元でやってるけど、十年近く来てなかったからな」
「そうだったんだ……ごめんね、無理につき合わせちゃって」
「いや、いいんだ。あずきの望むことはできるだけ叶えたいし。それに……」
「それに?」
「あずきと一緒なら、どんな場所でも楽しくなるだろうって、思ったから」
「プロデューサー……うんっ、あずきに任せて!一緒にお祭りを楽しんじゃおう大作戦、スタートだよっ!」
あずきは俺の手を掴み、自信ありげにウィンクをした。そしてそのまま俺を引っ張るように駆け出した。
「おいっ、あんまり走ると危ないって!草履は履き慣れてないから転ぶ!」
「そうだった!えへへ……」
作戦名しか考えていないのは、相変わらずか……

「う~ん、おいしい!」
「祭りの屋台と言えば、やっぱりとうもろこしだよな」
俺達は屋台で買った食べ物を頬張りながら、会場を散策していた。
「りんごあめも甘くておいしいよ~!」
「今日もいっぱい食べるな、あずきは」
「成長期だから!」
「分かった、明日のレッスンはハードなものにするようにトレーナーさんに言っておこう」
「うっ!お、お手柔らかにお願いしまーす……」
「冗談だよ。たまには羽目を外したっていいんじゃないかな」
「そうだよ!こんなにおいしいものがいっぱいあるんだから!あ、そうだ!プロデューサーもりんごあめ一口食べる?」
「いや、俺は別に」
「はい、あーん♪」
「……あーん」
何の邪気もなくりんごあめをこちらの口元へ運んでくるあずきに、俺はただ口を開けることしかできなかった。
「どう?おいしい?」
「ああ、甘いな。色々な意味で」
「色々な意味って?」
「あずきは気にしなくていいよ」
……今の自分たちのやり取りを見て、周りの人が悶えていることに気づいていないようだからな。
「なぁ、あずきは長野にいた頃からお祭りとかにはよく行ってたのか?」
「もちろん!夏と言えばお祭りだよ!毎年、楽しみだったな~」
「やっぱり、金魚すくいか」
「うんっ!あずき、すっごく上手なんだよ!今日、金魚すくいの屋台があったら腕前を見せてあげるねっ!」
「今日のお祭りはそんなに規模が大きくないし、金魚すくいはないと思うぞ」
「そうなの~?残念~……じゃあ、また今度ねっ」
「はいはい、楽しみにしておくよ」

そういえば、あずきのプロフィールに「趣味:金魚すくい」と書いたはいいが、未だに一度もあずきが金魚すくいをしているところを見たことがない。今度何かのバラエティ番組で企画でもしてみようか……
「……」
「プロデューサーどうしたの?難しい顔して」
「ちょっと番組の企画を考えていてな」
「オフの日もお仕事のこと考えているなんて、さすがプロデューサーだねっ。でも~、今はあずきと二人きりだから、あずきのことだけ考えてほしいな……なーんて♪」
あずきは普段より少しだけ大人びた表情でこちらを見ながら言った。
「……そういうことはあんまり男に言うもんじゃないぞ。勘違いされるから」
「プロデューサーにしか言わないから大丈夫だよー♪」
「はいはい、そりゃどーも」
「あーっ、そうやってまた受け流してーっ!もーっ!」
「ははは」
「うう……あずきの魅力でプロデューサーをメロメロ大作戦はいつになったら成功するんだろう……」
「……さあな」
とっくに成功しているけれど、黙っておくことにしよう。

『間もなく、花火大会が始まります』ピンポンパンポーン

「おおっ、そろそろ花火の時間みたいだな」
「もうそんな時間!?やっぱりプロデューサーと一緒だとあっという間に時間が過ぎちゃうねっ」
「そういうものか?まぁいいや、花火はどこで見ようか」
今いるところでもいいけれど、周りに人が多い。どうしたものか。
「それなら、あずきにお任せ!あずきについてきて!」
突然、あずきが俺の手を引っ張り駆け出した。
「いやだから走ると危ないって……それにあずきはここらへんに来るの初めてじゃないのか?」
「いいからいいから!」
あずきについていくのは不安しかなかったが、花火を見るために他にいい場所も思いつかなかった俺はあずきについていくしかなかった。

「プロデューサー、こっちだよっ」
そう言いながら、あずきはどんどん山奥へ進んでいく。
小走りのあずきについていくことに精一杯だった。
祭りの会場から離れて五分ほど経った頃、あずきは立ち止まり、満足そうに頷いた。
「よし、この辺りだねっ」
「あずき、こんなに奥まで来て一体どうしたんだ」
「そろそろ花火の時間でしょ?花火がとっても綺麗に見える、とっておきのスポットがあるのっ」
「とっておきのスポット?」
「実はねー、こっそり下見大作戦してきたの!」
「そこまでしてもらっていたのか……」
「せっかく、プロデューサーが誘ってくれた夏祭りだもん。いっぱい楽しまなきゃ、って思ったの!」
そう言いながら、あずきはこちらに振り向いた。視線から真っ直ぐな好意を感じる。
「それはいい心がけだな」
照れくさくなった俺は、少し乱暴にあずきの頭を撫でた。
「わわっ、髪が乱れちゃうよ~。せっかく整えてきたのに~」
「ここなら誰も見ていないからいいだろ」
「プロデューサーが見てるじゃん!」
「俺なら大丈夫、気にしないから」
「あずきが気にするのっ。……プロデューサーに見てもらいたくて、整えてきたから」
頬を赤く染めながらはにかむあずきは、いつもよりずっと大人に見えた。
そんなあずきが愛しくて、思わず抱き寄せた。
「あずき……かわいいぞ」
「えへへ、ありがと……」

しばしの間、心地よい沈黙が流れた後、花火の打ち上がる音が辺りを包んだ。
「あっ!始まったよっ!」
夜空に打ち上がる花火は、あずきの作戦通り、予想を遥かに上回るほど綺麗に見えた。
「……絶景だな」
「でしょ?あずきの下見大作戦、大成功だねっ」
先ほどまで纏っていた妖艶な雰囲気はいつの間にかなくなり、いつもの元気なあずきに戻っていた。
しかし、花火に照らされた笑顔は、いつもより輝いて見えた。
「一緒にお祭りを楽しんじゃおう大作戦は大成功だな、あずき。……俺も楽しかったよ、ありがとな」
「どういたしましてっ!あずきはお祭り娘だから、これくらい朝飯前だよーっ!」
「それは頼もしいな。そういうことなら、来年もあずきと行こうかな」
「うんっ!来年も、そのまた来年も、あずきと一緒にお祭り行こうね♪ずーっとよろしく大作戦♪」
「……ああ、そうだな」
今日一番の満面の笑みを浮かべるあずきが眩しくて、俺はそっと目を逸らした。
こちらこそずーっとよろしく……大作戦、とあずきの耳に届くか分からないくらいの声で呟きながら。

そんな一組の男女の約束を、花火だけが見守っていた。

ちょっと短めですが以上となります。読んでくださった方、ありがとうございました。
桃井あずきちゃんSSR実装おめでとうございます!素敵な浴衣に身を包み、ステージで元気に踊るあずきちゃんが見れて、あずきPとして、とっても嬉しかったです。
もしよかったら、次回のスカチケで桃井あずきちゃんをお迎えしてみませんか?

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