渋谷凛「監視の気持ち」 (88)
デレマスの二次創作SSです
人によっては百合に感じられる描写があるかもしれません
よろしくお願いします
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──衣装室──
蘭子(最近はアイドルのお仕事にも慣れてきたけど)
蘭子(改めて考えるとすごいなぁ、プロデューサーって……)
蘭子(だって私がこの素敵な衣装を着れるのも、プロデューサーが頑張ってお仕事を取ってきてくれるおかげなんだもん)
蘭子(どんなに忙しくっても、そのことを絶対に忘れちゃいけませんよね)
蘭子(ありがとうプロデューサー。これからも一緒に進んでいけたら嬉しいです)
蘭子「我らが魂の赴くままに……!」
蘭子(とはいえ、誰もいない衣装室でそんなことを考えていたって、感謝の気持ちは伝わらない)
蘭子(プロデューサーに会った時に、直接口に出して言わないと!)
蘭子(でもなんて言えばいいんだろう。ありがとうの気持ちを伝える時ぐらい、ストレートな言葉を使って……)
蘭子(うん。試しに我がグリモアールにセリフを書いてみよう)
カキカキ
『カンシャしている』
蘭子「……」カァァ
蘭子(す、ストーレートすぎる! こんな直球の言葉、私言えない!)
蘭子(もう少し考えた方が良さそうかも)ペリ…
トントン
蘭子「!?」ビクッ
凛「ねぇ、衣装室に誰かいる? 入ってもいいかな?」
蘭子(凛ちゃんの声! こんな時間にどうして!?)
凛「トライアドで着る衣装、一応サイズの確認しておいてって奈緒と加蓮が……誰もいないなら入っちゃうよ」
蘭子(どどどどうしよう! このままじゃ凛ちゃんにこの紙を見られちゃう!)
蘭子(身を隠せる場所もないし、うまい言い訳も思いつかない……)
蘭子(あ、そうだっ。急いで消しゴムで消せば)ゴシゴシ
凛「失礼しまーす」キィ…
蘭子(あぁダメだ、間に合わない! どうしよう……どうしよう……)
蘭子(! そうだ!)
バッ
凛「あれ、蘭子いたんだ。返事してくれれば良かったのに」
蘭子「……降誕の時に備え、魔力を高めている最中であった」
凛「あー、集中してたってこと? そっか、邪魔してごめんね」
蘭子「いえ……優しき同胞よ、気にするでない!」タタタッ
バタンッ
蘭子(私が急いで紙を隠したのは、ずらりと並ぶ衣装の中の隙間……)
蘭子(服の間に紙を入れ、後で回収すれば誰にも見られることはないはず!)
蘭子(どうか見つかりませんように……!)
凛「……走って出て行っちゃうなんて、よっぽど集中したかったんだね」
凛「悪いことしちゃったな。後で謝っておかないと」
凛「でも今は、さっさと衣装合わせを済ませないとね」
ゴソゴソ
凛「次のトライアドの衣装ってどれだっけ。これじゃないし、これでもないし……」
凛「あ、多分これだ。えーと、確か胸のレースのあたりに特徴があるから……」サワサワ
カサッ
凛「ん? 衣装の内側から変な紙が出てきた」
凛「何か書いてあるな……」
ペラリ
『カンシ している』
凛「……」
──控え室──
ガチャッ
奈緒「凛。おかえりー」
加蓮「遅かったじゃん。やっぱ体型変わってたんじゃない?」
凛「いや、サイズに変更はなし。むしろウエスト3mm細くなってたぐらいだよ。全く失礼しちゃうな」
奈緒「ライブ前だからみんな測る決まりなんだよ。でもま、変わりないようで安心したぜ」
加蓮「ふーん、体型変わってなかったんだ。この前奈緒のおやつのチョコを盗み食いした時、凛の方が多く食べてたのに」
奈緒「なっ!? いつの間にかあたしのおやつがなくなってると思ったら、お前たちが犯人だったのか!」
加蓮「ふふ。机に開けっぱなし置きっぱなしの方が悪いんだよー」クスクス
凛「ごめん奈緒。チョコだったから、てっきり私への貢物かと思って」
奈緒「貢ぐわけあるか! どんな発想だよ!」
アハハ…
奈緒「さて、そろそろ時間だな。今日はリハのリハみたいなもんだけど、油断せず真剣に合わせていこう!」
加蓮「そうだね。行くよ凛」
凛「……うん」
凛(手紙のこと、2人に言おうかどうか迷ったけど、この雰囲気を崩すのは嫌だな)
凛(……監視している、か)
凛(差出人は熱心なファンか、ストーカーか……)
凛(どちらにしても気持ち悪い。練習の後プロデューサーに報告しよう)
奈緒「何ぼーっとしてんだ凛?」
凛「ごめんごめん、今行くよ」
──スタジオ──
まゆ「トライアドのみなさん。お疲れさまです」ペコリ
奈緒「あれ、なんでまゆがいるんだ?」
加蓮「今日って合同だったっけ?」
まゆ「いえ、まゆは隣のスタジオで撮影です。でもその前に、プロデューサーさんにお会いしておこうと思って」フフ
奈緒「そ、そうか」
加蓮「私たちの練習の邪魔はしないでね?」
まゆ「ええ。それでは行ってきます」
タタタッ
加蓮「……凛も行って来なよ」
凛「え?」
加蓮「プロデューサーさんのところ。衣装のサイズの報告があるでしょ」
凛「そんなの後でも良くない?」
加蓮「いいから行って来なって。凛が戻ってくるまで準備体操は待ってるから」
まゆ「……そうですか。わかりました、失礼します」ペコリ
凛「まゆ。プロデューサーいた?」タタッ
まゆ「あれ、凛ちゃんもプロデューサーさんにご用なんですか?」
凛「うん。ちょっとね」
まゆ「……」
凛「ただの衣装サイズの報告だから」
まゆ「……そうですか。ですが、まだプロデューサーさんは到着されてないみたいです。スタッフの方に聞いたんですけど、いつ来られるかもわからないそうで」
凛「ふーん、そっか。まあでもトライアドの練習までにはやって来るでしょ。まゆも私たちと一緒に待つ?」
まゆ「まゆはこれから隣のスタジオで撮影が……」
凛「あ、そうだった」
まゆ「しょうがありません。電話でお話しさせていだだきましょう」ピピ
プルルルル ガチャ
まゆ「もしもしプロデューサーさん? はい、まゆです」
まゆ「そうですかぁ、会議が長引いて……ええ。今スタジオにいるんです」
まゆ「プロデューサーさんに会うために、撮影の前に寄ったんですよぉ」フフッ
まゆ「え? どうして自分がスタジオに行くことを知ってるかって?」
まゆ「……うふふ。プロデューサーさんの予定ぐらい、把握しているに決まってるじゃないですか」
まゆ「まゆはいつだってプロデューサーさんのことを……”監視している”んですよ」
凛「……」
まゆ「ふふっ、監視は言い過ぎですかね。でも、それぐらい大好きってことです」
まゆ「なんたってまゆとプロデューサーさんは、運命の赤いリボンでつながっているんですから」
ピッ
まゆ「ふふふ……」
凛「……ねぇ、まゆ」
まゆ「あ、凛ちゃん。ごめんなさい、凛ちゃんも報告があったんでしたっけ。かけ直しましょうか?」
凛「大丈夫。それよりも……監視してるって、どういう意味?」
まゆ「え?」
凛「プロデューサーのこと監視してるって言ったよね。あれは、どういう意味で言ったのかな?」
まゆ「……そんなの決まってるじゃないですかぁ」
まゆ「大好きって意味です。好きすぎて、あなたのことを全部知りたいって意味です。他にどんな意味があるんですか?」
──練習後──
オツカレサマデシター
凛「私は卯月と帰る約束があるから。休憩室で時間潰していくね」
奈緒「おう。お疲れさま」
加蓮「また明日ねー」
ガチャッ …ゴロン
凛(練習、上手くいって良かった。手紙のことも練習中は気にならなかったし)
凛(あ、そうだ手紙……結局報告せずじまいだ。プロデューサー最後までこっちに来てくれなかったから)
凛(まあしょうがないよね。最近ずっと忙しそうだもん。あっちこっち動き回って、きっと疲れてるし)
凛(ふう。私も今日は、かなり疲れた……)
スースー…
卯月「──凛ちゃん」
凛「……」
卯月「凛ちゃん、凛ちゃん。起きてください」ツン
凛「……あれ、卯月?」
卯月「はいっ。お待たせしました凛ちゃん」
凛「うん……ふぁーあ。横になってたらいつの間にか寝ちゃってたよ」
卯月「もう、無用心ですよ。鍵のない部屋で女の子が居眠りなんて。お腹もめくれちゃってるじゃないですか」
凛「しょうがないじゃん、休憩室にベッドが置いてあるのが悪いんだよ。自由に寝てくださいってお願いされてるようなもんだもん、これ」ポンポン
卯月「もー、凛ちゃんったら」クスクス
凛「……おはよう卯月」
卯月「はい。おはようございます、凛ちゃん!」
──帰り道──
テクテク
卯月「今日はどんな1日でしたか?」
凛「うーん、練習漬けの1日だったかな。トライアドでレッスンしっぱなしだった」
卯月「大変でしたね。お疲れさまです」
凛「うん、卯月もお疲れさま」
卯月「えへへ。私の方はラジオだけで、今日は穏やかな感じでしたけど」
凛「そっか。ならよかった」
凛「まあ、トライアドの練習がハードになるのは仕方のないんことだけどね」
卯月「ライブの予定が近いですからね。私も今から楽しみです。必ず見に行きますよ、凛ちゃんたちのライブ」
凛「本当? 見に来てくれるの?」
卯月「当たり前です。未央ちゃんと一緒に、もうチケットも買ってありますので!」キリッ
凛「ふふっ、言ってくれれば何枚かあげられたのに」
卯月「いいえ、自分たちの手で直接取ってみたかったんです。今回のライブは特にチケットの倍率が高いって聞きましたから」
凛「そっか……ありがとう」
卯月「えへへ、お礼は私が言う側ですよ」
凛「え、どうして?」
卯月「凛ちゃんたちがキラキラと輝く姿は、私にとって、とっても大切な原動力ですから」
卯月「凛ちゃんたちの姿を見て感じる『あんな風にキラキラしたい』って気持ちが、私を前へ前へと進めてくれるんです。いつもありがとう、凛ちゃん」ニコッ
凛「……」
卯月「凛ちゃん?」
凛「あ、いや……こちらこそありがとう。卯月と未央の期待に応えられるよう、次のライブ、絶対に成功させるからね」
卯月「はい! 島村卯月、全力で応援します!」
──凛の部屋──
プルルルル… ガチャ
凛「あ、もしもしプロデューサー?」
凛「こんな時間にごめんね。……うん、プロデューサーもお疲れ様」
凛「大した用じゃないんだけど、衣装サイズの報告だけ電話で済ませちゃおうと思って。ほら、明日も会うの無理そうだし」
凛「うん、衣装のサイズに変更はないから。それだけよろしくね」
凛「……そういえば、あれからまゆとは会えたの?」
凛「そっか、撮影の後に会えたんだ。よかったね」
凛「え、なんでまゆと電話したのを知ってるのかって?」
凛「……」
凛「だって私は、プロデューサーのことを”監視している”から」
ガタンッ
凛「……あはは、冗談だよ冗談」
凛「あの時まゆのすぐ隣に居たんだ。ごめんね、そんなに驚くと思わなくて」クスクス
凛「……うん、そうだね。こんな電話してる暇があるなら体を休めないとね」
凛「プロデューサーも早く寝てね。それじゃあおやすみなさい」
ピッ
──翌日──
凛(そういえば、昨日の電話でストーカーからの手紙のこと報告するの忘れてた)
凛(まぁ、また後で電話しなおせばいいか……)
ガチャ
凛「おはよー2人とも」
奈緒「おう凛。今日も頑張っていこうな」
加蓮「昨日以上の完成度を目指して、気合い入れてこうね」
凛「うん、頑張ろう」
ザワザワ ランコチャンガンバッテー! ミリアモヤルー
奈緒「なんだ、騒ぎか?」
加蓮「蘭子がギャラリーに囲まれながら携帯電話を握ってる……」
蘭子「プ、ププ、プロデューサー!」
凛「プロデューサー?」
蘭子「い、いきなり、電話してごめんなさい……」
蘭子「あの、えっと、今日は思い切って伝えたいことがあって」オロオロ
蘭子「その、ええと……」
蘭子「……」グッ
蘭子「私、プロデューサーに感謝しているんですっ!」
蘭子「私1人じゃ、絶対にここまで来れなかったから……」
蘭子「だから、今日こそは感謝の気持ちを、直接伝えようと思って……!」カァァ
加蓮「わーお。朝から熱いもの見せてくれるねぇ」
奈緒「邪魔しちゃ悪そうだ。別んとこ行こうぜ」
──控え室──
奈緒「さっきの蘭子、すごかったな」
加蓮「うん。まさに愛の告白って感じだったよね~。甘~い!」
凛「いや、愛の告白ではないでしょ……」
加蓮「ん? なに? もしかして妬いてる?」
凛「はぁ?」
奈緒「でも、蘭子の言ってることはその通りだよな。あたしたちもプロデューサーさんにはきちんと感謝しないと」
加蓮「いつもお世話してもらってるもんねー。そうだ、ライブの打ち上げはプロデューサーさんの好きなお店でやるっていうのはどうかな」
奈緒「いいな。でもあの人の好物ってなんだっけ?」
加蓮「んー、なんだったかなぁ」
まゆ「プロデューサーさんの好物はまゆの手料理ですよ」ニュッ
凛「わっ!」ビクッ
まゆ「どうでしょう、打ち上げは寮のまゆの部屋でやるというのは……」
加蓮「まゆ!」
奈緒「どっから出てきたんだ!? ここトライアドの控え室だぞ!」
まゆ「うふふ。いえ、少し凛ちゃんに話がありましてね……」
凛「え、私?」
まゆ「はい。今お時間よろしいですか?」
──カフェ──
ゴユックリドウゾー
凛「で、話って何?」
まゆ「昨日の帰りの際、休憩室に寄りましたよね。控え室の窓から、加蓮ちゃん奈緒ちゃんと別れるところを見ていました」
凛「? それが何?」
まゆ「まゆもプロデューサーさんを待つために、凛ちゃんが帰った後休憩室に入ったんです」
まゆ「そしたら、とある紙がベットの上に」
凛「あ……」
凛(しまった。あの手紙を落としたか……)
まゆ「その反応、やはり凛ちゃんのものでしたか。……ふふ、大丈夫です。誰にも言わずまゆの鞄にしまってありますから。今お返ししましょうか?」
凛「いや……いらないよ。私が書いたものじゃないし」
まゆ「またまたぁ。誰かにあげるつもりだったのでしょう。あの”ラブレター”」
凛「は? ……ラブレター?」
まゆ「はい。ラブレターですよね、あれ」
凛「いや、どこをどう読んだらそんな解釈を……」
まゆ『まゆはいつだってプロデューサーさんのことを……”監視している”んですよ』
まゆ『大好きって意味です。好きすぎて、あなたのことを全部知りたいって意味です。他にどんな意味があるんですか?』
凛「……あーなるほど」
まゆ「凛ちゃんも隅に置けませんねぇ。誰に差し上げるんですか?」
凛「だから私が書いたんじゃ……」
まゆ「言いにくい人なんですかぁ? ふふ、まさかプロデューサーさんじゃないですよねぇ?」クス
凛「違うよ。確かに昨日の夜電話で、『監視してる』とは言ったけどさ」
シーン
まゆ「……え?」ユラ…
凛「あっ……ち、違う。そういう意味で言ったわけじゃ──」
まゆ「ど、どど、どういうことですかぁー!?」クワッ
凛「い、いやっ、まゆが想像してるようなことじゃないから! 大した会話じゃないから!」
まゆ「大した会話じゃない……つまり日常的に監視している!?」
凛「違うっ、落ち着いて!」
まゆ「詳しく説明してもらえますかねぇ。今ここで、じっくりと、まゆが納得するまで」ジリジリ
凛「……ごめん、私トライアドのレッスンがあるからっ。コーヒー代はここに置いとくね!」ダッ
まゆ「凛ちゃんっ!」
タタタ…
凛「はあ、はあ。早とちりもいいところだよ」
凛「私とプロデューサーはそんなんじゃ……」
卯月「プロデューサーさんがどうかしました?」
凛「わっ!」ドキッ
卯月「凛ちゃんおはようございますっ。顔が赤いようですけど、どうかしたんですか?」
凛「あ、ああ、今さっきまで走ってたから」
卯月「走ってた?」
凛「ううん、なんでもない!」
凛「私これからトライアドの方に行くけど、卯月は?」
卯月「ピンチェで撮影ですっ。私ももう行かないと!」
凛「帰りはどうしよっか。事務所で待つ? それとも昨日みたいに休憩室?」
卯月「うーん。凛ちゃんのいやすい方で構いません。両方に寄りますから。あ、でも休憩室で居眠りはもうしちゃダメですよ」
凛「ふふ、わかった。それじゃあお互い頑張ろうね」
卯月「はいっ」
スタスタ
まゆ『誰かにあげるつもりだったのでしょう。あの”ラブレター”』
凛「……」
凛「ねえ卯月」
卯月「はい?」クルッ
凛「卯月は、誰かを……」
卯月「?」
凛「……いや、やっぱりなんでもない」
凛「引き止めてごめんね。それじゃ、また帰りに」
タタタ…
──事務所──
ガチャ
まゆ「凛ちゃん、ここにいますかぁ? 早くで出て来てくださぁい」ユラァ
みく「元気出して、蘭子チャン」
みりあ「そうだよ蘭子ちゃん! 落ち込むことなんて全然ないよ!」
蘭子「うぅ……」
まゆ「?」
みく「蘭子チャンの電話、すごくよかったよ。隣で聞いてるだけでも蘭子チャンの素直な気持ちが伝わってきたもん」
みりあ「うんうんっ。みりあもそう思うよ!」
蘭子「感謝する、みく、みりあ……でも……わたし全然うまく喋れなかった……」
まゆ「どうかしたんですかぁ?」
みく「あ、まゆチャン」
まゆ「お電話がどうとか聞こえてきましたけど……」
蘭子「……言の葉は不得手、秘めたる意思を伝える秘術我には在らず。たかが感謝の報せでさえ、これほどの重みであろうとは……」
まゆ「ええと……?」
みりあ「蘭子ちゃんはね、たかが感謝の気持ちを伝えることさえ自分にはできなかったーって落ち込んじゃってるの」
まゆ「はあ、なるほど……」
みく「元気出して蘭子チャン」
まゆ「……」
まゆ「蘭子ちゃん。蘭子ちゃんがそんな風では、伝えられた側の人が可哀想ですよ」
蘭子「え……?」
まゆ「人のことを想う気持ちに、優劣なんてないってまゆは思ってます」
まゆ「愛するって気持ちも、好きって気持ちも、感謝するって気持ちも、監視したいって気持ちも」
まゆ「全部含めて、みんなある種の愛なんです!」
まゆ「蘭子ちゃんは愛の告白をしたんです。ちゃんと、自分の言葉を使って、自分の気持ちを伝えたんです」
まゆ「緊張してうまくしゃべれなくたって当たり前です。蘭子ちゃんはそれだけのことをしたんですから」
蘭子「まゆさん……」
まゆ「だから”たかが”なんて言葉、間違っても使っちゃいけません。涙を拭いて、前を向いてください。それが今相手に対してできる、最大の感謝の気持ちのはずですよ」ニコ
蘭子「我が……同胞よ……!」ギュッ
みく「……ふふふ。今度はみくの方の目が潤んできちゃったみたい……」ウルウル
みりあ「みりあも感動するー!」
まゆ「それで」
まゆ「そのお電話された方とは誰なんですか?」
みく「………………」
蘭子「………………」
みりあ「ぷろ──」
みく「にゃ゛っ!!!!」
────
オツカレサマー
凛「じゃ、帰ろっか」
卯月「はいっ」
凛「今日は何してたの?」
卯月「今日は雑誌のインタビューに答えたり、サイン色紙を書いたりしてました。凛ちゃんは?」
凛「ライブに向けた練習でてんてこ舞いだったよ。本番前の最後の大型レッスンだったから、昨日以上に疲れちゃった」
卯月「そうですか……お疲れ様です」
凛「心配しないで、明日から本番までは割とゆっくりできるはずだから」
卯月「それなら良かったです。……ライブ、緊張しますか?」
凛「そりゃ少しはね。でも、ファンのみんなや卯月や未央たちの期待に応えるんだっていう、ワクワクした気持ちの方が今は強いかな」
卯月「ふふっ、凛ちゃんらしいです!」
卯月「じゃあ、ライブに向けて心配事とかはありますか?」
凛「心配事か……」
『カンシ している』
凛「……いや、それもないよ」
卯月「そうですか。ふふふ、ではライブに向けてすでに準備万端って感じなんですね!」
凛「うん」
凛(心配事はない、それは本当のことだ。卯月を安心させようと嘘をついたわけじゃない)
凛(ストーカーからの手紙に対して、私は手紙を見つけた当初から、それほど危機感を抱いていないから)
凛(アイドルとしてもっと怖がるべきだと頭では理解しているのに……何故だろう、怖くならない)
凛(怖くならない理由が、自分自身でさえもよくわからない)
──海──
加蓮「久しぶりの休日! in夏のビーチ!」
奈緒「witnトライアド~!!」ドンドンパフパフ
凛「……テンション高いね2人とも」
加蓮「凛がテンション低いんでしょ! 休日だよ、ビーチだよ!?」
奈緒「レッスンで溜まった疲れを、パーっと解放させるいい機会じゃんか!」
凛「ライブ前にこんな暑いところ来て……体調不良にでもなったらどうするの」
加蓮「真面目か! 奈緒ですらこのテンションなのに!」
奈緒「トレーナーさんにもプロデューサーさんにも許可とって来てるんだから、今はそんなこと気にしてないで遊ぶんだよ! ほらお前も来い!」グイッ
凛「わっ、ちょっと奈緒!」
パシャパシャ
加蓮「見て~。この打ち上げられた海藻、奈緒に似てる~」
奈緒「本人に言うかそれ~?」
凛「やれやれ。2人とも完全にたがが緩んじゃってるね。レッスンきつかったし、本番前の緊張をほぐす意味でもわからなくはないけどさ」
凛「……ん、あれは」
リイナチャーン? ドコー?
みく「まったく、迷子の子猫チャンなんだから……」
凛「みく?」
みく「わっ、凛チャン!」
凛「なにやってるのこんなところで」
みく「普通に遊びに来てるだけだよ。李衣菜チャンと2人で……凛チャンは撮影?」
凛「ううん、私もプライベート。奈緒と加蓮と遊びに来てたの」
みく「そうなんだ。すっごい偶然だね!」
凛「李衣菜、迷子なの? 心配だから私も探すの手伝うよ」
みく「いいよ悪いし。そのうちひょっこり現れるにゃ」
凛「1人で探すより2人で探したほうが早いでしょ。大丈夫、奈緒たちは勝手に遊んでるから」
みく「んー、それじゃあお言葉に甘えて」
ザッザッ
凛「李衣菜ー、いないのー」
みく「まったく凛チャンにまで迷惑かけて李衣菜チャンったら」ブツブツ
凛「……みくと李衣菜はさ、普段から結構ケンカしてるよね」
みく「んー? まあねー。みくも李衣菜チャンも頑固なところがあるから……自分で言うのもなんだけど」
凛「その割にはすごく仲良いよね?」
みく「え?」
凛「ケンカしてもすぐ仲直りするし、今日なんて2人きりで遊びに来てるんでしょ」
みく「そ、そりゃあいつまでもアイドルがケンカしっぱなしってわけにはいかないからね。親睦を深めるために一緒に遊ぶことも重要だし」
凛「ふーん」ジー
みく「……何その目」
凛「……嫌いなわけじゃないんだ。あんなにガミガミ言い合ってても」
みく「そりゃそうにゃ。嫌いな相手に、自分の意見なんて言えないよ。嫌いな相手にはむしろ自分の本音を包み隠そうとするのが普通だし」
凛「まあ、そういうものかもね」
みく「よく言うでしょ、好きの反対は無関心だって。意見を言い合いたいって気持ちは、相手を認めているからこそにゃ」
凛「……」
みく「人のことを想う気持ちに、優劣なんてない」
みく「愛するって気持ちも、好きって気持ちも、感謝するって気持ちも、監視したいってって気持ちも」
みく「全部含めて、きっと、みんなある種の愛なのにゃ」
みく「だから意見をぶつけたいっていう気持ちも、相手を想う気持ちに違いはないはずなんだよ」
凛「……なにそのみくっぽくないセリフ」
みく「ふふっ。とあるアイドルの言葉だよー」
凛「ふーん……まあでも、素敵な考え方だね、それ」
みく「うん。みくもそう思うにゃ」ニコ
凛「だけどあれだね。その考え方でいくとみくが李衣菜のこと愛してるってことになるけどね」
みく「はあー?」
タタタッ
李衣菜「みくちゃんこんなところにいたー! 探したんだよ、もー!」
みく「あー、李衣菜チャン! それはこっちのセリフにゃー!」
李衣菜「いくら猫好きだからってさ、迷子の子猫ちゃんにならなくてもさぁ」ハァ
みく「だからそれもみくのセリフにゃ~!!」フシュー
凛「ふふ……」クスクス
李衣菜「あれ、凛ちゃんじゃん」
みく「一緒に李衣菜チャンを探してくれてたにゃ。ほら、お礼言って」
李衣菜「迷子になったのはみくちゃんじゃ……まあいいや。ごめんね凛ちゃん、わざわざ探してもらって」
凛「ううん。2人が会えて良かったよ。それじゃあ私も奈緒たちのところに戻るから」
みく「うんっ。ありがとう凛ちゃん!」
李衣菜「またね~」
──ビーチ──
奈緒「おーい凛ー、どこだー?」
加蓮「凛ー、どこいっちゃったのー?」
奈緒「……いない。完全にはぐれちゃったなぁ」
加蓮「凛さ、なんか様子が変じゃなかった?」
奈緒「あ、加蓮もそう思うか」
加蓮「うん。全然楽しそうじゃないし、急にいなくなるし……ライブに向けて不安とか抱えてたりするのかな」
奈緒「……やっぱり、今日は遊びに来るべきじゃなかったんじゃないか。あたしたちだけ楽しむのはなんか違うだろ」
加蓮「なに言ってんの。凛の不安を解消して3人で楽しめばいいだけじゃん」
奈緒「でもさぁ、凛が言ってたけど体調面も心配だし、ライブ前の大切な時期なわけだしさぁ……なあ、あいつを見つけたら今日はもう帰らないか?」
加蓮「えー? 大切な時期だからこそ息抜きって大切じゃん。奈緒もこの計画にノリノリで賛成だったのに、今更何言ってるの!」
スタスタ
凛「どうしたの2人とも大声出して……ケンカ?」
加蓮「あ、凛!」
奈緒「どうしたのじゃねーよ、探したんだぞ!!」
凛「ごめん。少し歩きたい気分だったから……ほんとごめん」
奈緒「あ……ま、まあ、謝る必要はないんだけどさ……その、大丈夫か?」
凛「? 何が?」
奈緒「いや、なんていうかさぁ……」
加蓮「単刀直入に聞くけど、何か悩みでもあるわけ?」ケロッ
奈緒「ばっ、加蓮! お前ストレートに聞きすぎだろ!」
加蓮「だって面倒臭いんだもん。ていうか私たちの仲なんだし、今更気なんか遣う必要ないでしょ」
奈緒「もしかしたらデリケートな話かもしれないだろ! 加蓮は率直過ぎるんだよ!」
加蓮「凛の不安は私たちの不安でしょ! 気を使って変に長引かせるよりここでビシッと解決しておくべきなんだって」
奈緒「それがデリカシーがないって言ってるんだー!」
加蓮「なにをー!」
凛「……ふふ、ふふふっ」
加蓮「え……?」
奈緒「凛? なんだ、急に笑い出して……」
凛「ご、ごめん。ただ、みくの言葉を思い出しちゃってさ。やっぱり、そうかもなぁって」
奈緒「?」
凛「愛し合ってるんだね、2人とも」
奈緒「???」
加蓮「熱中症かな」
──1週間後──
スタッフ「本番30分前でーす」
──控え室──
奈緒「もう本番かぁ。思えば早かったなぁ」
凛「あっという間だったね。今日までの間にいろんなことがあったけど……」
加蓮「どれもこれもいい思い出……ふふ、これから本番なのに、なんだかしみじみしちゃうね」
奈緒「それだけ自信がある証拠だよ。海から帰ってきてから、凛もいつもの調子に戻ったし……何一つ不安なく本番を迎えられるな!」
凛「うん。心配かけてごめんね」
加蓮「ほらね、やっぱり息抜きが重要だったじゃん」
奈緒「あたしだって息抜きがいらないとは言ってないぞ。ただあの時はタイミングが……」
コンコン
スタッフ「トライアドのみなさん。プロデューサーさんが到着したみたいです。この後すぐ控え室に来るとのことですー」
加蓮「おっ、プロデューサーさんやっと到着か」
奈緒「なんだかプロデューサーさんと直接会うのも久しぶりだな」
凛「うん、ずっと忙しいからねあの人」
加蓮「……」
トン
加蓮「凛、プロデューサーにあいさつして来なよ」
凛「え? でもこの後控え室来るって……」
加蓮「いいから会って話してきなって。私たちはここで待ってるからさ、ほら行った行った!」
凛「あ、うん。それじゃ」
…バタン
奈緒「急にどうしたんだ加蓮。凛を1人でプロデューサーさんのところに向かわせて」
加蓮「……ほら、やっぱり私の方がデリカシーもある」
奈緒「?」
──駐車場──
凛「……あ、プロデューサー」
凛「久しぶり。……うん、今到着したって聞いてさ」
凛「会って話して来なって加蓮に追い出されて……よくわかんないけど、ま、歩きながら少しおしゃべりでもしよっか」
テクテク
凛「ライブ、ついに始まるね。長かったようであっという間だった、ってさっき2人とも話してきたところだったんだ」
凛「プロデューサーもそう感じた? ……うん、だよね。私たち、ずっと忙しかったしね」
凛「忙しいほど時間って早く感じるから。だから、今こうしておしゃべりしてる時間は、ゆっくりに感じるかな」
凛「……ライブまでにたくさんのことがあったよね。企画が始まって、一緒にスケジュール立てて、練習して、後半はバラバラだったけど」
凛「でも心は1つだった。……って、これはちょっと恥ずかしい台詞かな」
凛「でも、私たちはいつも一緒に力を合わせてきたよね。トライアド3人やプロデューサーとかの内輪だけのつながりじゃなくて」
凛「ファンの方を含めて、心を1つにして……」
『カンシ している』
凛「……」
凛「……あのさ、プロデューサー」
凛「実は1つ、謝らないといけないことがあるんだ」
凛「私はアイドルとして、絶対に報告しなくちゃいけないことを報告しないままにしてるの」
凛「今まではタイミングがないから報告してなかっただけなんだけど、今は違くて、わざとその事実を伝えることを躊躇ってるんだ」
凛「……どうして? ……私自身、完全に整理がついたとは言い難いんだけど……」
凛「何ていうか、もしかしたら、当たり前の気持ちなのかなって」
凛「アイドルをしている以上、そう思われるのは当たり前なんじゃないかって、きっと私自身が最初からそう思ってて、だからあまり怖くなかったんじゃないかって」
凛「そう気付けたのはみくの受け売りの言葉があったからだけど……」
凛「少なくとも今はただ、『ファンレター』が送られてきた、その事実だけを受け止めようと思うんだ」
凛「手紙を送ってくれるってことは、少なくとも無関心じゃない」
凛「今はなんとなく、それだけでいいかなって」
凛「……ごめんね、変な話しちゃって」
凛「ライブが終わったらもう少し詳しく説明するつもりだし、もちろん実害があればすぐに頼りにさせてもらうからさ」
凛「……ふう。なんかプロデューサーと話して、さらに気分が落ち着いた気がする」
凛「え、自分は何もしていないって? むしろ悩みを抱えさせてごめんって……ふふっ」
凛「何言ってるのプロデューサー。プロデューサーはいつも私たちを助けてくれてるでしょ」
凛「お世辞じゃないってば。プロデューサーがいてくれる、プロデューサーが見てくれてるって思うだけで、前向きになれたりするんだから」
凛「……ごほん。もうすぐライブが始まる時間だね。私走って控え室行くから、プロデューサーも急いで来てね」クルッ
凛「……最後に一言だけ」
凛「いつもありがとう。感謝してるよ、プロデューサー」ニコ
──控え室──
加蓮「遅いね、凛とプロデューサー。駐車場にいて電波が悪いのかメール送っても反応ないし」
奈緒「凛はそもそも携帯置いていったぞ。……ていうか時間やばいな。そろそろ着替えたりなんなり、準備を始めたいんだけど」
ガチャ
加蓮「あ、おかえり凛──」
蘭子「闇に飲まれよ!」ビシッ
みりあ「応援に来たよー!」ヒョコッ
加蓮「ら、蘭子とみりあちゃん!?」
奈緒「2人とも今日来てくれたのか!」
蘭子「左様。漆黒の天使降誕のため、我らの力を貸してくれようぞ」
みりあ「なにか力になれることないかなーっ思って控え室までやってきたの!」
加蓮「そうだったんだ!」
奈緒「ありがとう助かるよ。今ちょうど凛がいなくて困ってたところだったんだ」
蘭子「ほう、何なりと申してみよ!」
加蓮「今凛が今プロデューサーのところに行ってるはずなんだけど、連絡が取れなくてさ」
奈緒「あたしが行ってもいいんだけど、3人中2人が控え室を開けるのも良くないかなと思って……それで、もし良かったらなんだけど、2人で凛のことを呼びに行ってもらえないか?」
蘭子「ふむ。我らに任せるが良い!」
奈緒「おー、ありがとう!」
加蓮「そうだ、みりあちゃん。凛の鞄に携帯が入ってるはずだから、取り出して一緒に持って行ってくれるかな?」
みりあ「はーい!」
ゴソゴソ
…ヒラリ
みりあ「ん?」
奈緒「なんだ。凛の鞄から何か紙が落ちたぞ」
加蓮「ほんとだ、蘭子の足元に……ねえ蘭子、その紙拾ってみて」
蘭子「……ん?」スッ
ペラリ
『カンシ している』
蘭子「!!?」
加蓮「蘭子、その紙何だった?」
奈緒「メモ帳か何かか? 何か書いてあったかー?」
蘭子「ききき、禁断の書がなぜここに!?」
蘭子(だってあれは、衣装に……もしかしてあの衣装って、凛ちゃんので……)グルグル
加蓮「もー。もったいぶらないで教えてよ。後ろから覗いちゃうよ~?」スッ
蘭子「ぴぃーっ!?」
ビリビリッ
加蓮「えー!?」
奈緒「ど、どうしたんだ蘭子!?」
蘭子「し、失礼しましゅ~!」ダダダ
バタン
加蓮「……何だったんだろう」
奈緒「さ、さあな……」
凛「おまたせ」ガチャ
加蓮「あ、今度こそ凛!」
凛「ごめんね、長話になっちゃって……ってあれ、みりあちゃん」
みりあ「凛ちゃん! ライブ頑張ってね、みりあ応援してるよ~っ」
凛「うん、ありがとう……なんか鞄が空いてて床に紙が散らばってる。私がいない間に何かあったの?」
奈緒「後で蘭子にでも聞いてくれ! 今は急いでライブの準備だ!」
加蓮「凛、気を引き締めていくよ!」
凛「うん!」
──舞台裏──
ザワザワ
まゆ「……お客さんもザワついてきましたねぇ。そろそろライブが始まる頃でしょうか」
まゆ「さすがに今から凛ちゃんが来ることはないでしょうから、結局告白は取りやめたということでしょうか」
まゆ「凛ちゃん……」ピラッ
『伝えたいことがあります。ライブの少し前に、舞台裏で待っています』
まゆ「凛ちゃんはこの手紙で一体誰を呼び出すつもりだったんでしょうか」
まゆ「……もちろん、凛ちゃんの恋路を邪魔する気はありませんが。しかしもし仮に、呼び出したのがプロデューサーさんだったら、まゆは、まゆは……」
卯月「まゆちゃん?」
まゆ「!」
まゆ「う、卯月ちゃん。どうしてここに……」
卯月「私は……ってあれ、その手紙……よく見せてもらえませんか」
まゆ「あ、えっと、この手紙はプライバシーに関わることなので、あまりジロジロ見るのは……」
卯月「やっぱり、私のだ」
まゆ「え?」
卯月「私が書いたものです。この手紙」
まゆ「……ど、どういうことですか」
卯月「凛ちゃんに渡そうと思って、どこかで無くしちゃったんです。まゆちゃんが拾っていてくれていたんですね」
まゆ「凛ちゃんに? ……」
まゆ「あっ……。……す、すみません、こ、このことは、誰にも言いませんから……」カァァ
卯月「? 別に構いませんよ。手紙を読んだことも気にしてませんし、誰かにお話しされたっていいですし」
まゆ「えぇ?」
卯月「だって、私はただ……」
卯月「私はただ──”感謝の気持ち”を伝えたくて」
まゆ「感謝の、気持ち……?」
卯月「最近はアイドルのお仕事にも慣れてきたけど」
卯月「考えれば考えるほどすごいんです、凛ちゃんって……」
卯月「だって私が今アイドルをやれているのも、凛ちゃんがキラキラと輝く姿を見せてくれているからなんですもん」
卯月「どんなに忙しくっても、そのことを絶対に忘れちゃいけないなぁって」
卯月「だけど、頭の中でそんなことを考えていたって、感謝の気持ちは伝わらないから」
卯月「だから凛ちゃんに会った時に、直接口に出して伝えようと思ったんです!」
まゆ「……」
ワァァァ
卯月「始まったみたいですね。凛ちゃんのライブ」
まゆ「……行かなくていいんですか?」
卯月「行きますよ。未央ちゃんを待たせてしまっているので」
まゆ「……」
卯月「それでは失礼します」タタ…
まゆ「……あの、卯月ちゃん」
卯月「はい?」
まゆ「卯月ちゃんは、誰かを……」
卯月「?」
まゆ「誰かを監視したいと思ったことはありますか?」
卯月「監視?」
まゆ「……まゆには、常に監視をしていたいぐらい大好きな人がいます」
まゆ「その気持ちは、その人を愛する気持ちと同じで、不純のないものです」
まゆ「……同じですよね。人を愛するのも、好きになるのも、感謝するのも、監視するのも」
まゆ「その人のことが大好きでしょうがないから、そういう気持ちになっちゃうのは、仕方ないことですよね」
まゆ「卯月ちゃんも、私と同じですよね?」
卯月「? ……」
卯月「どんな気持ちも根本にあるのは、その人に対する愛情って話ですか?」
卯月「好きって気持ちが膨れ上がってしまって、その人のことをずっと見張っていたくなってしまう」
卯月「だけどそこにあるのは、純粋な愛情だけ……なるほど、素敵な考え方ですね」
卯月「……だけど、本当にそうでしょうか」
卯月「根本が同じだからといって、その先も同じものだと言い切れるでしょうか」
卯月「文字が1文字ずれてしまえば、全く別の意味の言葉になるように」
卯月「気持ちだって、ほんの少しでも何かが欠ければ、それはもう全くの別物になってしまう……」
卯月「私はむしろそう思いますよ」
卯月「……それでは今度こそ、失礼します」
タタタ…
まゆ「……」
まゆ「だったらなぜ、あんなこと言ったんですか」
卯月『私はただ──”感謝の気持ち”を伝えたくて』
まゆ「矛盾してるじゃないですか。だって、この手紙は……」
まゆ「休憩室の”ベッドの上”に落ちていたんですよ?」
────
未央「あー! 遅いぞしまむー!」
卯月「未央ちゃんすみませんっ!」タタッ
未央「もー、どこいってたの、未央ちゃんずっと待ってたんだよ! 立ちっぱだよ立ちっぱ!」
卯月「すみません~!」
未央「えへへっ、まあいいや。ほら、まさに今から曲が始まるよ!」
アザヤカナイロマトウハモンハ♪
未央「お~、かっこいい! めちゃくちゃクール~!」
卯月「……」
未央「えへへ、何見惚れてんのさしまむー!」
卯月「あ、ごめんなさい。あんまりキレイだったから……」
未央「ふふ、その言葉聞いたらしぶりんたちすごく喜ぶよ! ……おー、さすがトライアド、歌うまいねー!」
卯月「はいっ。歌も踊りも完璧ですっ」
未央「衣装も抜群に似合ってるね! まさにこの日のための着こなしって感じでさ!」
卯月「はいっ。みなさんとてもカッコイイです!」
未央「ウエストも細い細い。よくあんなの着れるよね!」
卯月「はい、すごいです!」
未央「体型全く変わってないんじゃないかな。本当、涙ぐましい努力だよね!」
卯月「はい、ほとんど変わってないです!」
キラキラトヒカル マブシイソラヘト♪
未央「……ん? ほどんど?」
卯月「はい!」
卯月「凛ちゃんは、3mm痩せてましたから」
おわり
お疲れさまでした
見てくださった方、ありがとうございました
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