渋谷凛「卯月の笑顔から禁止薬物が検出された」 (45)


デレマスの二次創作SSです

人によっては百合に感じられる描写があるかもしれません

よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1522931725


ゴポゴポゴポ…

卯月「凛ちゃんって、毎日コーヒー飲んでますよね」

凛「ん。なんか言った?」

卯月「もー。毎日コーヒー飲んでるなぁって言ったんです」ニコ

凛「あー、言われてみればそうかも」

卯月「事務所で凛ちゃんと2人きりの時、いつもコーヒーメーカーがお湯を沸かしてる気がします」

ゴポゴポゴポ

凛「……」

卯月「カフェイン依存症ですねぇ」

凛「……ふふ。依存とは違うよ」

凛「やめようと思えばいつでも止められるし」


──事務所──

凛「お疲れ様でーす」ガチャ

未央「おっはーしぶりん。こっち来て一緒にテレビ見ようぜー」

凛「なんの番組?」

未央「お昼のバラエティだよ。おにぎり特集ってのをやってるみたい」

卯月『このイクラすごく美味しいです!』ニコ

凛「あ、卯月じゃん」

未央「え、あっ、本当だ」

凛「え?」

未央「え?」


凛「本当だ、って今まで気づかなかったの? 卯月が出てたのに」

未央「う、うん。気づかなかった」

凛「なんで?」

未央「いやぁ、なんでだろ……」

CM「あこがれてたばしょをっ。ただとおくでみていたっ」♪

凛「……」

未央「ねえ、今のCMしまむーの曲使ってなかった?」

凛「え、そうだった?」

未央「聞いてなかったの? しぶりんが曲を聞き逃すなんて珍しい」

凛「……なんでだろ」


──カフェ──

加蓮「なんでだろ……って、聞くまでもないでしょ」

凛「加蓮にはわかるの?」スッ

加蓮「うん。ていうか、どうして私がわかって凛や未央がわからないのかが不思議なくらいなんだけど」

凛「どうしてって聞かれてもなぁ……」ゴク

加蓮「……それ」

凛「何?」

加蓮「凛にとって卯月はさ、今飲んでいるコーヒーと同じなんだよ」

凛「コーヒー……ああ」

加蓮「つまり、凛や未央に取って卯月の存在は”普通”そのものなの」

加蓮「毎日意識せずとも摂取してる、それが凛にとってのコーヒーで、2人にとっての卯月なんだよ」

加蓮「側から見ないと気付けないだなんて……全くとんだ卯月依存症だね」


テクテク

凛(なるほど、加蓮の言うことにも一理あるかもしれない)

凛(ニュージェネの3人って、いつもどこかしらで顔合わせてるから。意識しないぐらい会うことが普通になってるし)

凛(でも……”依存”ってのとは違うよね)

凛(私と未央と卯月は同じ事務所の仲間で同じユニットの仲間だけど、決してべったりなわけじゃない)

凛(それぞれがそれぞれの道を進んでいるはずだから……)

未央「しぶり~ん!!」

凛「噂をすれば未央。どうしたのそんなに慌てて?」

未央「どうしたもこうしたも……いいしぶりん、落ち着いて聞いてね!?」ガシッ

凛「う、うん」

未央「しまむーの笑顔から、禁止薬物が検出されたんだよ!」

凛「は……?」


──研究所──

凛「ちょっと、どういうこと!」

学者「なんですか君はいきなり」

凛「質問してるのはこっち。未央から聞いたよ、あんたに卯月が連れて行かれたって」

学者「未央……ああ、あの一緒にいた。ということは君もアイドルなんですか」

凛「建物の看板に研究所ってかいてあった。こんなとこに卯月を閉じ込めてどうするつもり」

学者「現在検査をしている途中です」

渋谷凛「……まさか本当に、卯月が薬物をやっていたとでも言うの? ありえないからそんなの」

学者「君は何か勘違いしているみたいです」

学者「我々はただ島村さんの笑顔から禁止薬物が検出されたと言っているだけですよ」


凛「いや、意味わかんないんだけど」

学者「島村さんの笑顔を見た人は皆幸せそうな表情になります。老若男女すべての人がなぜかあの笑顔に心惹かれるんです。これって不思議じゃないですか?」

凛「不思議も何もそれが卯月の実力ってだけだと思うけど」

学者「少なくとも我々にとっては不思議だったし、不自然だとすら思いました。なので我々研究者は島村さんの笑顔を見た人の脳を調べることにしたんです」

学者「すると島村さんの笑顔を見た人の脳内で一種の覚醒作用が起こっていることがわかりました。しかもその症状は日本で禁止されている薬物の反応とぴったり一致しするんです」

学者「つまり島村さんの笑顔、肌の口角を上げた時の筋肉と肌のシワの独特の比率は、視覚を通して薬物としての効果を果たしてしまっているということです」

学者「早い話が島村さんは歩く禁止薬物なんです」

凛「い、意味わかんない!」

学者「私は真面目な話をしているんですよ。君にも心当たりがあるんじゃないですか?」

凛「何を……」

学者「彼女の笑顔がどれだけ人を魅了するのかを」

凛「分かんないよ!」


学者「……分からなくてもいい。大切なのはあなたに納得してもらうことではないですから」ガチャ

卯月「り、凛ちゃん!」バッ

凛「卯月!」

学者「島村さん、お疲れさま。しかし検査は終わっても、約束は守らないとダメですからね」

卯月「は、はい……」

凛「約束? 約束って何?」

学者「島村さんには今後一切人前で笑わないことを約束して貰ったんです」

凛「!? そんなのあんまりだよ!」

学者「島村さんの笑顔から禁止薬物が検出された以上、これは致し方のない処置なんです」

凛「でもっ」

卯月「いいんです凛ちゃん」

凛「卯月、でも……」

卯月「学者さんの説明は丁寧でしたし私も納得できました。ファンの方たちのお身体のために、今の私にできることは”笑わないでいること”。それだけなんです」


凛(そうして研究所を後にしてもう2週間になる)

凛(卯月は約束どうり自らの笑顔を封印した)

凛(当然こんな話を公表できるわけなく、ファンのみんなは混乱状態になった)

ファン『俺たちの卯月ちゃんはどこにいってしまったんだ!』

ファン『笑顔を……卯月ちゃんの笑顔をくれぇ!』

ファン『澄まし顔の卯月ちゃんなんか卯月ちゃんじゃない! 私の卯月ちゃんはもっとキラキラしてるんダァ!』

ファン『過去のライブでの笑顔を見て、何とか生きつなぐ毎日。僕は立派な廃人です。どう責任を取ってくれるんですか?』

ファン『僕たちの笑顔を返せ』

加蓮「……ネットじゃあ初めは多かった応援コメントも少なくなって、すっかり攻撃的なファンだけが残っちゃったね」

奈緒「無理もないよ、卯月が何も語ってくれないんだから……もちろんあの卯月のことだから、何か事情があるんだろうけどな。凛、お前もこっちきて一緒に……」

加蓮「いや、凛は見ないほうがいいよ」

凛「……うん」

奈緒「そ、そうか。悪いな。先に控え室行っててくれ」


バタン

奈緒「なあ加蓮。卯月のことも心配だが、あたしは凛のことも同じぐらい心配だぜ」

加蓮「だね。卯月が笑顔を見せなくなって以来、まるっきり意気消沈してるもんね」

奈緒「あいつらってそんなにベッタリなようには見えなかったんだがなぁ」

加蓮「そりゃあ、凛に取って卯月はコーヒーだから」

奈緒「あん?」

加蓮「ふふ、なんでもない。私たちも控え室行こっか」

スタスタ バタン

加蓮「……あれ?」

奈緒「先に来たはずの凛がいない……」


──食堂──

ガコン ガコン ガコン

凛「はぁ……はぁ……」

志希「カフェイン依存症って言葉をしってるかにゃ?」

凛「!?」

志希「やっほろ凛ちゃん。楽しい楽しいお薬の時間を邪魔してごめんね~」

凛「薬? 何言って……これはただのコーヒーだから」

志希「薬っていう言葉の定義はね、摂取した時効果があるかどうかってだけなんだよ。だから今の凛ちゃんにとってその缶コーヒーは立派なお薬なんだよー?」

凛「……」ハァハァ

志希「コーヒーは没収ね。代わりに自販機で買えるだけの水を持ってこっちに集合!」


凛(それから私はたらふく水を飲まされた。コーヒーを飲めなくて落ち着かなかったけど、志希の言葉を聞いて指の震えはピタリと止んだ)

志希「──卯月ちゃんの件は、いち科学者として個人的に単純に興味があってね」

凛「!! 志希は知ってるの、卯月が笑顔を封じた理由を」

志希「うん。凛ちゃんの入った研究所にはあたしの同期もいるんだぁ。そのツテで色々と興味深い話を聞かせてもらったよ」

凛「卯月の笑顔が禁止薬物だなんて嘘だよね!?」

志希「あはは、はじめに聞くのがそれなんだ。ううん、残念ながら本当だよー。正確には卯月ちゃんの表情を見た人間の脳が勝手に禁断症状っちゃうだけだけど……この話学者さんから直接聞いたんじゃなかったっけ?」

凛「……」

志希「学者さんから説明の通りだよ。あれは全部本当のことだから、残念ながらね」

凛「そんなの……やっぱり信じられないよ」

志希「信じるしかないでしょ。あのさぁ。凛ちゃんここ最近自分が何してたかわかってる?」

凛「?」


志希「コーヒー1日10杯弱飲んでんだよ。1日で飲んでいい量じゃないからねこれ。自覚してる?」

凛「いや……でも、今までも毎日欠かさず飲んでたし。それにコーヒーぐらい……」

 卯月『──カフェイン依存症 ですねぇ』

 凛『やめようと思えばいつでも止められるし』

凛「……あ」

凛「そっか。私、カフェイン依存症なのか」

志希「ふふ、やっと自覚したんだね」


凛「でも、コーヒーを飲みすぎるぐらい、少し体に悪いって程度でしょ」

志希「これだから依存症の恐ろしさを知らない最近の女子高生は」ハァ

凛「……あんたも女子高生でしょ」

志希「依存症っていうのはね、科学的な話で言ってもすごーく危険な状態なんだよ。脳内での化学物質の放出がイカれちゃってるってことだから」

志希「視覚的にわかりやすい例で言えば……凛ちゃんも学校で教育ビデオぐらい見たでしょ。頭ぐらぐらして、幻覚見て、最後にはごぽごぽごぽって泡吹いちゃうやつ。最終的にはあんな風になるんだから」

凛「いや、でもそれは麻薬に限った話でしょ」

志希「違う違う。正気を失えば麻薬じゃなくても、教育ビデオみたいなグロシーンは起こり得るんだよー?」

凛「……わかったよ。これから当分の間はコーヒー止めるから」

志希「凛ちゃんの場合はそれだけじゃ済まないんだなこれが。卯月ちゃんが笑顔を封印してから急激に飲む量が増えてて、それにさっきの指の震えから推測するに……」

志希「凛ちゃんは卯月ちゃんの笑顔の依存症でもあるわけだよ!」


凛「!……」

 学者『早い話が島村さんは歩く禁止薬物なんです』

 学者『私は真面目な話をしているんですよ。君にも心当たりがあるんじゃないですか?』

志希「薬物依存患者がタバコを吸いたがるように、コーヒーが笑顔の代用品になっちゃってるんだよ。こりゃあ根本的な解決には根気がいるなぁ」

凛「……」

志希 「ふふふ。信じたくない卯月ちゃんスマイルの薬物性を、自分の身で証明しちゃったわけだねぇ」

凛「志希!」

志希「おおっと……まあそんなわけだから。あたしが言いたいのは、お身体をお大事にねってこと」

志希「カフェイン依存の方は水飲んどきゃとりあえず平気だけど……卯月ちゃんの方は時間をかけて欲求を薄めてくしかないかな。いきなり笑顔断ちは難しいだろうから、とりあえず誰かの笑顔で代用してさ。んじゃまたね~」タタタ

凛(そう言って志希は猫のように去っていた)

凛「代用って……いるわけないじゃんそんなの」

凛(私が卯月の笑顔の依存患者)

凛(信じたくないけど、指の震えがそれを許してはくれなかった)


──事務所──

チョットコワイヨ…? ヘイキダカラ…

凛「おはよー」ガチャ

みりあ「こ、こうでいい?」ニコリ

未央「違うッッ!! 違うんだよみりあちゃん! しまむぅはさ、そうじゃないんだよもっととろけこむみたいなぁ感じがして! みりあちゃんのそれはただ超絶に可愛いだけじゃん? そうじゃなくて、しまむーのはもっと”クル”んだよ、脳にさガツンと。こう、なんて言えばいいのかなぁ、いいのかなぁあ!?」

バコッ

凛「未央! 正気に戻って!」

みりあ「わーん。未央ちゃんが怖いよ~」タタタ

未央「ま、待って! 行かないでみりあちゃん! 私だけの、私だけの笑顔供給源になって~!!」

凛「……すぅ」

バコッ!!


…ゴポゴポゴポ

未央「まったくひどいやしぶりん、本気で殴るんだからさ」

凛「通報しなかっただけ良心だよ。あとでみりあちゃんにちゃんと謝ってよね」

未央「はーい」

凛「……」

ゴポゴポゴポ

凛「……未央も、中毒なんだね。卯月の笑顔の」

未央「え? あー……うん。どうやらそうみたい。自分じゃ気づかなかったんだけどさぁ」

凛「気付かなかったの?」

未央「だってさ、ほら、私いつもの私と変わらないじゃん?」

凛「……」

未央「え、なにそのドン引き顏」

凛「さっきのがいつもの未央なんだとしたら私はもっとドン引くよ……」


未央「気分転換にテレビでもつけよっか」

ピッ

司会「今日のゲストは、大人気アイドルの島村卯月さんです」

卯月「……どうも」ペコ

司会「いやぁ最近はすっかり大人っぽくなって。クールビューティが板についてきたねぇ」

卯月「……いえ」ペコリ

凛「最近の卯月、ずっとこんな感じだよね」

未央「笑顔を作れないのに元気なキャラはできませんからなぁ」

凛「……」

未央「この路線はこの路線で結構成功してるらしいじゃん。よかったよね」

凛「でも……今の卯月、すごく不自然だよ」

未央「まあ、ね……私も、今はそう思うけどさ」

凛「”今は”?」


ゴポゴポゴポ

未央「いつかは、こっちのしまむーを普通だと感じる日が来るんじゃないかなぁ」

凛「……何を根拠に」

未央「簡単な話だよ。私はこの事務所に来るまでしまむーと話したこともなかった。だけど、いつしかしまむーの笑顔や歌と接するのが私にとっての”普通”になっていった」

未央「だから……今度は”しまむーの笑顔がないことが普通になるだけ”なんだよ、きっとね。今は指の震え止まんないし辛いけど、いずれしまむーの笑顔がなくても、それが当たり前になる日が来る。私はそう思うんだ」

凛「──そうかな」

未央「え?」

凛「私はそうは思わないけど。ていうかそんな未来、来て欲しくもない」

未央「しぶりん……」


ゴポゴポゴポ

未央「……さっきから気になってたんだけどさ、コーヒーメーカー動かしていいの? 今コーヒー断ちしてるんじゃなかったっけ」

凛「いや、これお湯湧かせてるだけだから。コーヒーは作ってないよ」

未央「お湯だけ? なんでそんなこと……」

凛「この音。妙に落ち着くんだよね」

未央「あ……」

ゴポゴポゴポ…


──中庭──

志希「……ふーん。そんなことがあったんだ」

未央「科学的なことはわかんないけどさ、でもしぶりんのあの目は……多分やばい感じの目だったと思う」

志希「やばい感じ、ねぇ」

志希「……未央ちゃんみたいに更生の兆しが見える患者もいれば、そうでない人もいる。やっぱ人間って理屈じゃないねぇ」

未央「どうにかならないの!? このままじゃしぶりん……」

志希「まあ落ち着いてよ未央ちゃん。私は現場にいなかったからわからないけど、音でコーヒーへの欲求を抑えようとしてるってことはある程度理性を保ててるってことでしょ。案外心配いらないんじゃないかなぁ」

未央「……多分それ、違うんだよ」

志希「え?」


未央「しぶりんは欲求を抑えようとしているわけじゃないんだ。あれはきっと……”思い出すため音”」

志希「どういうこと?」

未央「志希にゃんは知らないかもしれないけど、しぶりんは毎日欠かさずコーヒーを──」

志希「それなら聞いたよ。凛ちゃんは毎日欠かさずコーヒーを飲んでたんでしょ」

未央「しぶりんからそう聞いたの? それって正確じゃないよ」

未央「しぶりんは、毎日欠かさずコーヒーを”しまむーと”飲んでたんだ」

志希「……?」


ピンポーン

卯月「はい……?」

凛「こんにちは卯月」

卯月「わぁ、凛ちゃ──」ニコ…

卯月「!!」バッ

凛「……どしたの。急に顔隠しちゃってさ。恥ずかしがることないじゃん」

卯月「恥ずかしい訳じゃ……久しぶりで嬉しくて、つい笑顔が、出ちゃいそうになって……!」カァァ

凛「……」

凛「 ……部屋、上がっていいかな」


──卯月の部屋──

バタン

卯月「飲み物淹れてきますね。凛ちゃんはコーヒーでいいですか?」

凛「いや……最近飲まないことにしてるんだ、コーヒー」

卯月「え? なんでですか?」

凛「うーん、止められちゃってさ」

卯月「そうなんですか……」シュン

凛「ふふ、なんで卯月が落ち込むの」

卯月「だって私……凛ちゃんが美味しそうにコーヒーを飲むところ、大好きだったから」


 ゴポゴポゴポ…

 卯月『凛ちゃんって毎日コーヒー飲んでますよね』

 凛『ん? なんか言った?』

 卯月『もー。毎日コーヒー飲んでるなぁって言ったんです』ニコ

凛(──あぁ、そうか)

卯月「でも…久しぶりに凛ちゃんに会えてよかったです…」

凛(あの時、声が聞こえなかったのは)

卯月「笑えなくなってから…──仕事の時間も合わなくなっちゃって…──」

凛(”この”音を聞くと心が落ち着くのは、本当は……)

ゴポゴポゴポ…

卯月「凛ちゃん?聞いて」ゴポ「すか?」

凛「……ん? なんか言った?」

卯月「久」ゴポ「りに会って少」ゴポゴ「ちゃん変わっ」ゴポゴ「気がしm」ゴポゴ


「前よ」ゴポゴポ「元気がな」ゴポゴポ「う」ゴポ
ゴポ「す」ゴポゴポボコ…「もし」ゴポゴポ「て」ゴポゴポ
「私の」ポゴポ …「い」ゴポゴポ「か?」ゴポゴポ…私の」
ゴポゴポ「気にし」ゴポゴポ「ないで」ゴポポ「前み」
「 たいに」ゴポゴポ「した」ゴポゴポ「凛ちゃん」ゴポゴ
ポ「戻って」ゴポ「さい」ゴ…ポゴ「は以前」ゴポゴ
ポゴポ…「凛ちゃん」ゴポゴポ「大好」ゴポゴポ「私も」ゴポゴ
ポ「前みたいに」ポゴポ「笑え」ゴポゴポ「よう」ゴポゴポ
「なる」ゴポゴポ「いっしょ」ゴポゴポ…「命」ゴポゴポ「頑張ります…」


凛「笑って」

卯月「──え?」

凛「ごめんね。頭の中がなんていうか沸騰しちゃってて、もう卯月の声が聞こえないんだ」

卯月「凛、ちゃん……?」

凛「だけど、音なんてもうどうでもいいんだ。音だけじゃない。コーヒーの香りや味だって、もうどうでもいい。……ふふ、やっぱり私カフェイン依存症ではなかったみたい」

卯月「凛ちゃん……何を言って……」サー

凛「あぁ卯月。そんな顔しちゃダメ、私は卯月の笑顔が見たいんだから。ね、笑って。卯月、笑って?」

卯月「ゃ、だ、ダメです。私の笑顔には禁止薬物と同じ効果があるんですから」

凛「何、聞こえない。もっと大きな声でしゃべってよ。何も聞こえないよ卯月?」

卯月「凛ちゃん……」

凛「わかんない。なんで笑ってくれないの。今までずっと笑ってくれてたじゃん。私の顔を見て笑ってくれてたじゃん。それが”普通”だったじゃん」


 未央『この路線はこの路線で結構成功してるらしいじゃん。よかったよねー』

 未央『いつかは、こっちのしまむーを普通だと感じる日が来るんじゃないかなぁ』

凛「違うっ!!」バッ

卯月「っ!?」ギュウ…

凛「違う! そんなの嫌だよ私、卯月にはずっと笑っててほしいよ? そんな日なんて来て欲しくなんかないよ!!」

卯月「凛ちゃ……くうしい……!!」ギュウ…!

 学者『早い話が島村さんは歩く禁止薬物なんです』

凛「意味わかんないよ……! なんなの卯月の笑顔が薬物って。視覚情報? 顔のシワ? そんなの無理がある、何が科学だ、学者も志希も嘘つきだよ! そもそも薬物だったら何? 見た人の脳に悪影響? だから、それが……?」

卯月「っ!!……っ…………」


凛「そんなこと言ったらアイドルだって薬物みたいなもんじゃん。非現実なのにサァ、あんなに可愛い格好しちゃって!」

凛「可愛い姿に夢中になって、夢と現実の見境がつかなくなる。何が違うっていうの、やってること同じじゃん!」

卯月「……」

凛「そうだよ。何も変わらないんだよきっと。薬物もタバコもアニメもアイドルも、依存する理屈はきっと同じで」

凛「同じなのになんで私の”普通”だけ奪おうとするのかな。ひどいよ。ひどいよね卯月……」

卯月「……」

凛「私の、私の卯月を……私のを……私の……」

卯月「……」

凛「──卯月? ……卯月、聞こえないよ。おーい」

凛「何? 卯月……おい。もっと大きな声で喋っててば」ユサユサ

凛「あれ……目、つむってる。そっか、寝ちゃったんだ。疲れちゃったかな……」


凛(横たわった卯月の、人形みたいなキレイな寝顔を、吸い込まれるように私は見ていた)

凛(くったりとして動かない表情。眉も目も鼻も口も、すべての意識から解き放たれているかのように無防備だった)

凛(そして私は、”なぜか首にあった手”をそっと離し、卯月のほおに触れる)

凛(驚くほど柔らかくて、弱々しくて……卯月。本当に今日まで笑ってこなかったんだね。顔の筋肉がそう言ってるよ)

凛(……卯月ごめんね。卯月の何よりの自慢だった笑顔を禁じられても、卯月は卯月なりに、笑わないアイドルなりの道を見つけようとしてたのに)

凛(否定してごめんね。でも私、中毒だから)

凛(依存っていうのは、それが普通になるっていうのは、自分じゃ、気づけない、ことだから…… )

凛「……」

凛(卯月の口内に親指を押し込んで、ぐいと口角を上げた──)


ごぽごぽごぽ…
ごぽごぽごぽ …
ごぽごぽごぽ …
ごぽごぽごぽ …



おわり


お疲れさまでした

見てくださった方、ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom