凛「特別な人」 (95)
SS初めてです。
モバマス・デレアニ・デレステの設定がごちゃまぜになっているかと思います。
よろしくお願いします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467528008
ーー撮影所ーー
凛「……わかった」
凛「うん。そっちも仕事頑張ってね」
凛「私はこれから撮影だから……え?」
凛「何言ってるの? ふふっ、変なプロデューサー」
凛「ううん、逆に元気でたかも。……ありがとう」
凛「うん、うん。大丈夫、行ってくるよ」
凛「今日は車で送ってくれるんだよね?」
凛「うん、撮影所で待ってるから」
凛「ありがとう。じゃあね」 ピッ
凛「……ふふ」
卯月「凛ちゃん?」
凛「あれ、卯月?」
卯月「偶然ですねっ」
凛「うん……でも、なんで卯月がここに?」
卯月「私も今日、この撮影所を使うことになったんです」
凛「なるほど」
卯月「お互い頑張りましょう!」
凛「うん、頑張ろう」
卯月「今、プロデューサーさんとお話しされていたんですか?」
凛「そうだよ。今日は車で迎えに来てくれるって」
凛「あ、せっかくだし、卯月も乗せてもらいなよ」
卯月「え、私もですか? ……迷惑じゃないでしょうか。一応電話で確認を」スッ
凛「平気だよ。私たち、家も近いことだしさ」
卯月「そう、ですかね」
スタッフ「島村さーん。そろそろ準備お願いしまーす」
卯月「は、はーい!」
凛「私ももう行かなくちゃ。撮影が終わったら、入り口前の階段で待ち合わせってことで」
パシャ パシャ
カメラマン「お疲れさまでしたー!」
凛「お疲れさまでした」
カメラマン「いやぁ渋谷さん、今日は特に良いショットがもらえましたよ!」
カメラマン「リラックスされてましたね。ポーズも表情もすごく自然体でした!」
カメラマン「これが渋谷凛なんだって自信が溢れているのが、レンズ越しにも伝わってきたと言いますか……」ペラペラ
凛「ふふ、ありがとうございます」
凛(自分でも感じた。調子が良かったって……)
凛(これもプロデューサーのおかげ、かな)
スタッフ「ん? どうかされました?」
凛「い、いえ、なんでもありません」クルッ
凛「私、このあと用事があるので、これで失礼します」タタタッ
ーー撮影所前ーー
凛「最後、顔赤くなってなかったよね?」
凛「見られてたら、恥ずかしいな」
凛「……」
凛(今日撮った写真、プロデューサーが見たら喜んでくれるかな?)
凛(いつもより良かったし、うん、多分大丈夫)
凛(喜んで、きっと、褒めてくれるよね……)
凛「……ダメだ、なんか、変な感じになる」
凛「卯月はもうちょっと時間かかりそうだし、少し撮影を覗かせてもらおう」
ーー再び撮影所ーー
カシャ カシャッ
カメラマン『いいよー卯月ちゃん!』
凛(卯月の撮影現場はあそこだね)
凛(卯月らしい、可愛らしくて素敵な衣装だ)
カメラマン『よーし! 次のポーズいってみようか!』
卯月『はいっ!』パッ
凛(……うん)
凛(卯月、順調みたい)
凛(ポーズもぶれてないし、表情もばっちり)
凛(このまま行けば卯月の方も、あと数分で終了しそうだね)
カメラマン『よし、そこでピースサインだ!』
卯月「はい!」
卯月『ぶいっ!』パアアッ
凛(……)
凛(……一足先に、待ち合わせ場所で待機していよう)クルッ
スタッフ「渋谷さーん?」タタタッ
凛「?」
スタッフ「これ、渋谷さんの忘れ物ですよね? うちのカメラマンが気付いて……」カサッ
凛「あ、そうです。すみません」スッ
スタッフ「いえいえ、お安い御用ですよ」
スタッフ「……島村さんの撮影見てたんですね」
凛「はい、ちょっと時間が空いたので」
スタッフ「……」
凛「……失礼します。お疲れさまでした」
スタッフ「あ、はい、お疲れさまでした」
スタッフ「……」
スタッフ「渋谷さん、暑かったのかな?」
スタッフ「顔、赤くなってたけど」
ーー数分後ーー
凛(……)
凛(……まだかな、プロデューサー)
卯月「お待たせしました~」パタパタ
凛「卯月、お疲れ様」
卯月「お疲れさまです! 凛ちゃんの方は、随分と早く終えられたみたいですね」
凛「今日は調子が良かったんだ。……卯月も頑張ってたみたいだね」
卯月「はい、島村卯月、頑張りました!」
凛「もうすぐプロデューサーが来るはずだから、卯月もこっちきて座りなよ」ポンポン
凛「この間未央がさ、加蓮と二人でハンバーガー食べに行ったんだって
凛「駅前に新しくできたちょっと高めのところ。卯月も見たことあるよね?」
卯月「はい、知ってます!」
卯月「でも、未央ちゃんと加蓮ちゃんの二人でなんて珍しいですね」
凛「二人とも脂っこいもの好きだからさ。奈緒はちょっとすねてたよ、あたしたちも誘えよな~って」
卯月「うふふ、今の奈緒ちゃんのモノマネ、ちょっと似てました」
凛「え、いや、そこはどうでもいいんだよっ」カァァ
凛「そのハンバーガー屋、結構美味しかったんだって。だから、今度一緒に行ってみない?」
卯月「……!」
凛「ダメ、かな?」
卯月「いえ、行きます! 凛ちゃんとお出かけ、楽しみです!」ニコッ
凛「うん、私も楽しみだよ」
凛「この”三人”で出かけるのって結構久しぶりだからさ」
卯月「え……」キョトン
凛「えって、忘れちゃったの? 冬にちょっとだけ、私と卯月と奈緒の三人で行動したことがあったじゃん。この組み合わせはそれ以来でしょ?」
卯月「あ、あー、確かにそうでしたねっ!」
凛「もう、うっかりしてるんだから。まあ、それだけ撮影に集中してたってことだと思うけど」
卯月「あはは……」
凛「未央たちのオススメはポテトなんだって。ハンバーガー屋に行ったのに、おかしいよね」クスクス
卯月「……うん、そうですね」ニコッ
ブロロロロ…
凛「あれ、プロデューサーの車だ」
卯月「こっちに手を振ってくれてます! 行きましょうか、凛ちゃん」
凛「う、うん。行こっか」
卯月「凛ちゃん? どうかしたんですか?」
凛「な、何が?」
卯月「プロデューサーさんの車を見てから、急に表情が変わったから」
凛「え、いや、そんなことないって!」
卯月「……」
卯月「……凛ちゃん、凛ちゃんにとって」
卯月「凛ちゃんにとって特別な人って、プロデューサーさんだけなんですか?」
凛「……?」
卯月「!!」ハッ
卯月「私、何を言って……ごめんなさい! なんでもありません!」
卯月「い、行きましょう! プロデューサーさんが待ってますから!」ダッ
凛「卯月……」
ーー卯月家の前ーー
卯月「プロデューサーさん! 送ってくれて、ありがとうございました!」
卯月「明日も一緒に頑張りましょうね! それでは失礼します!」タタタッ
凛「……」
凛(車内では普通の感じだったけど)
卯月『凛ちゃんにとって特別な人って、プロデューサーさんだけなんですか?』
凛(あれは一体どういう意味?)
凛(それにあの表情って?)
凛(私はたまに、卯月のことがわからなくなる)
凛「……」
凛(私たち、友達になれたんだと思ってたんだけどな)
凛「ねえ、プロデューサー」
凛「帰ったら電話に付き合ってくれない?」
ーー卯月の部屋ーー
卯月(……)ゴロン
卯月(……私、凛ちゃんにひどいこと言っちゃった)
卯月(ううん、凛ちゃんだけじゃない。奈緒ちゃんにも、すごく失礼なことを……)
卯月「……凛ちゃん、もう家に着いたかな?」
卯月「凛ちゃんは長電話苦手だけど、一言でもいいからお話ししたい……!」スチャッ
プルルルル プルルルル
留守電『現在通話中のため応答できません』
卯月「……」
ガチャッ
ーー凛の部屋──
凛「うん。それでね、カメラマンさんも褒めてくれて」
凛「いや、私だけの力じゃないよ」
凛「……プロデューサーのおかげでも、その、あるんだし」
凛「……まあ、その、あれだよ」
凛「いつも感謝してるってこと! これからも一緒に進んでいけたら嬉しいなって」
凛「……うん、うん」
凛「うん。……ありがとう、プロデューサー」
凛「……でさ、実は今日電話したのは、撮影の感触を確かめるためっていうのもあるんだけど」
凛「実は、卯月のことについて、ちょっとひっかかることがあって」
凛「ケンカとかじゃないんだよ? ただ、卯月が辛そうな顔をしててさ」
凛「一瞬のことだったし、車の中じゃいつもどうりに見えたけど……」
卯月『凛ちゃんにとって特別な人って、プロデューサーさんだけなんですか?』
凛「……これって、どういう意味なんだと思う? プロデューサーはどう感じる?」
凛「卯月が辛そうなのって、私のせいなのかな? 私が悪いのかな?」
凛「……うん、うん」
凛「そっか、でも、だとしたらなんで卯月はあんなことを?」
凛「……」
凛「ごめんねプロデューサー、明日も仕事なのに。でももうちょっとだけ付き合って。これってすごく大事なことだから」
ーー卯月の部屋ーー
プルルルル プルルルル
留守電『現在通話中のため応答できません』
卯月「……」
ガチャッ
プルルルル プルルルル
留守電『現在通話中のため応答で……『ガチャッ』
卯月「……」
卯月「あ、もうこんな時間!」
卯月「明日も朝から撮影ですし、もう寝なくちゃっ」ガバッ
ーー次の日の事務所ーー
凛(……昨日、携帯の電源が切れるまで一晩中プロデューサーと電話したけど、結局答えはでなかった)
凛(いや、もしかしたらプロデューサーはなんとなく卯月の気持ちの正体に気がついてるのかもしれない)
凛(あの人の声色から、そういうのを、少しだけ感じたから)
凛(それであえて答えを言わなかったっていうのは、つまりそういう意図があるんだよね)
凛(これは私が答えを出さなくちゃいけない問題だってことだ……)
凛(卯月と、本当の友達になりたいのなら……)
凛「おはよう」ガチャ
凛「……って、まだ誰も来てないんだ」
凛(私は今日、午前中に取材がある。卯月は撮影だってプロデューサーから聞いた。そして午後はお互いフリーだ)
凛(詳しく話せればいいんだけど)
ーー撮影所ーー
カシャッ カシャッ…
カメラマン「うーん、卯月ちゃん、今日はちょっとイマイチだな」
カメラマン「どうしちゃったの? 昨日はあんなにうまくいってたのに」
卯月「ご、ごめんなさい!」
カメラマン「……ま、調子が上がらない時っていうのは誰だってあるけどね!」
カメラマン「こういう場合は焦っちゃいけない。良いのが出るまで粘るんだ」
カメラマン「卯月ちゃん、午後から別の仕事って入ってる?」
卯月「いえ、なかったはずです」
カメラマン「今日の撮影は、午後も使ってじっくりやるよ。それでいいよね!」
卯月「は、はい! お願いします!」
ーー事務所ーー
凛「……来ないなぁ、卯月」
凛「プロデューサーから聞いた予定時刻はもうすっかり過ぎてるのに」チラッ
凛「もう帰っちゃったとか? でも、いつもの卯月なら、こういう空いた時間には必ず事務所に寄るはず」
凛「……あえて来ないんだとしたら、私が避けられてる、とか?」
凛「……」
ガチャ
凛「!!」
凛「うづっ……」
加蓮「お邪魔しまーす!」
凛「加蓮? どうしたの?」
加蓮「凛、いたいた。っていうか、今凛一人しかいなんだね」スタスタ
凛「みんな何かしらの仕事に出てるからね」
加蓮「なるほど、みんな忙しい中、凛だけは暇をしてると」
凛「変な言い方しないでよ、もう」
加蓮「でもちょうど良かった。午前まで奈緒と一緒だったんだけど、午後から分かれちゃってさ」
加蓮「よかったら、これから遊びに出かけない?」
凛「え?」
加蓮「この時間に事務所にいるってことは、お昼もまだでしょ? 一緒に食べに行こうよ」
凛「えーと……」
加蓮「駅前にできたハンバーガー屋に未央と行ったってこと、凛に話したっけ? 今日は私たち二人で行ってみよっか!」
凛「……」
凛「……悪いけど、待ってる人がいるから、私はいけない」
加蓮「ん? 待ってる人?」
凛「うん。もうそろそろ来るはずなんだ。約束してるわけじゃないんだけど、ちょっと話したいこともあってさ、だからごめん」
加蓮「……!」ピーン
加蓮「まあ、待ち人がいるなら私も無理に誘わないけど……」
加蓮「うふふっ、なるほどね、そういうことか」
凛「?」
加蓮「どうりでそわそわしてると思ったよ、そうだよね、二人っきりになりたい時もあるよね」
加蓮「プロデューサーさんと!」
凛「……え?」
加蓮「バイバーイ。盗み聞きなんて野暮なマネはしないから、ゆっくり話し合ってね」タタタッ
凛「ち、違うって加蓮! 私そんなんじゃ……」
バタンッ
凛「……もう!」
ーー夜の事務所ーー
カチ カチ カチ…
凛「……」
凛(これ以上は粘れない)
凛(明日の朝は私も撮影があるんだ。クマなんて作っていったら、色んな人に迷惑がかかる)
凛「卯月……明日は会えるよね?」
ガチャッ
卯月「……!」
凛「卯月!」
卯月「凛ちゃん、どうしてこんな遅くまで?」
凛「……」
凛「卯月と、話がしたかったから」
卯月「……」
卯月「……それは、電話じゃ話せなかったことなんでしょうか?」
凛「……? いや、電話でも別に良いけど」
卯月「ならどうして、昨日の電話に出てくれなかったんですか?」
卯月「どうして、折り返しの電話も、メールもくれなかったんですか……?」
凛「電話……? あっ!」
凛(プロデューサーとの電話の途中に携帯の充電が切れて、昨日からずっとそのままだ……)
凛「もしかして、電話してくれてたの?」
卯月「……」コクコク
凛「そっか、ごめん。昨日はずっとプロデューサーと話してたんだ」
卯月「…………」
凛「卯月?」
凛「なに?」
凛「どうかした?」
卯月「わ、私、もう帰りますっ!」ダッ
凛「!!」
凛「待ってよ卯月! なんで逃げるの!」ガシッ
卯月「逃げてないですっ。て、手を離してください!」
凛「離さない! 理由を教えてくれなきゃ、卯月を帰さない!」
卯月「も、もう帰らないといけない時間です。そ、それが理由です!」
凛「だったら私も一緒に帰る!」
卯月「や、やだっ!!」
凛「!!」ビクッ
卯月「今日は、凛ちゃんと、一緒に帰りたくありません……」プルプル
凛「う、卯月……」パッ
卯月「……」タタタッ
バタンッ
ーー凛の部屋ーー
凛「……」
卯月『や、やだっ!!』
ズキンッ
凛「……」グッ
凛(卯月、どうして?)
凛(どうして私を遠ざけたの?)
凛(……嫌だよ)
凛(嫌だよ、卯月……)
ーー奈緒の部屋ーー
プルルルル ガチャ
奈緒「……ふぁ~あ」
奈緒「……こんな時間に何の用だ、加蓮?」
加蓮『ごめんごめん……ちょっとひっかかることがあってさ』
奈緒「ひっかかることぉ? それは、あたしの安眠を妨げてまで話し合わなきゃいけないことなのかよ?」
加蓮『どうせ深夜アニメ見てるんでしょ? 音、ちょっと聞こえてきてるし』
タイユウキセイメイタイコンタクトヨウヒューマノイドインターフェース…ソレガワタシ…
奈緒「あわわっ……」ピッ
加蓮『あれ? 別に消さなくたっていいんだよ。見てたんでしょ?』
奈緒「録画だから、電話が終わった後ゆっくり見るんだよっ」
奈緒「だから早く、そのひっかかることっていうのを言ってみろっ!」
加蓮『……奈緒ってさ、昨日の午後って何してた?』
奈緒「あぁん? 午後? 加蓮と別れた後の話か?」
加蓮『そう。確か、新衣装のデザインの打ち合わせに参加するって言ってたよね?』
奈緒「そうだ。プロデューサーさんの意見でさ、こういうのは実際に着る人が会議に出た方が良いからって言われて」
加蓮『……つまり、奈緒はプロデューサーさんと一緒にいたと?』
奈緒「? 当たり前だろ、新衣装の打ち合わせだぞ? あたし一人に任してもらえるわけがないだろ」
加蓮『……』
奈緒「どうしたんだ? いきなり黙っちゃって」
加蓮『ちょっとね……』
奈緒「……もしかして、あれか?」
奈緒「私の方にプロデューサーさんが付いてきて、ちょっとヤキモチやいてるのか?」
加蓮『……は?』
奈緒「なるほどなぁ。そりゃあ深夜に電話しなくちゃいけないぐらいの大事な話だなぁ」ニヤニヤ
加蓮『は、は、はぁ!? 違うって! そんなんじゃないって!』
奈緒「わかってるわかってる! あたしたちだって、そう短くない付き合いだからな!」
加蓮『な、奈緒! 覚えててよね、明日徹底的にいじってやるんだから……その眉毛を!』
奈緒「なんで眉毛限定なんだよ!」
ブツッ
奈緒「……切りやがったな加蓮のやつ」
奈緒「……しかし、本当のところ、何のための電話だったんだ?」
奈緒「明日は午後から、トライアドでのポイトレだったよな」
奈緒「ま、その時に確認すればいいか」ポチッ
ポニーテールモエナンダ…
ーー翌日・ボイストレーニングルームーー
トレーナー「……今日はここまでだ」
トレーナー「だがな、はっきり言っておくが、こんな調子では本番に間に合わんぞ」
トレーナー「特に渋谷」
凛「はい」
トレーナー「……自分でも気づいているな? 一人だけ気持ちが全く入っていない」
トレーナー「来週までにやる気を入れ直してこい」スタスタ
バタンッ
ーー更衣室ーー
奈緒「……」ゴソゴソ
凛「……」パタパタ
加蓮「……」ヌギヌギ
奈緒「きょ、今日のトレーナーさんは特に厳しかったなぁ~」
加蓮「そう? いつも通りじゃなかった?」
奈緒「え、ええー、そうだったっけなぁ?」アセアセ
加蓮「いつも通りじゃなかったのは、誰かさんの方だよ」チラリ
凛「……」
奈緒「加蓮!」キッ
加蓮「トレーナーさんの言ってることが正しい。そうだよね、凛?」
凛「……うん」
加蓮「あんなやる気のない声聞かされるぐらいだったら、今日のレッスン休んでくれたほうがましだった」
奈緒「……おい加蓮、そんな言い方はやめろよ。調子が悪い日なんて誰にでもある」
奈緒「凛の表情を見ればわかるだろ、自分でも気にしてるって」
奈緒「今日一日たまたま不調だっただけで、ユニットの仲間にそんな嫌な言い方するなんて……」
奈緒「加蓮、お前はそんなやつじゃないはずだ!」
加蓮「……そうだね」
加蓮「凛の不調が、本当に今日一日で、たまたまだったならの話だけど」
奈緒「……どういう意味だよ?」
加蓮「凛に聞くのが一番早い。話してもらうよ、ユニットとして、友達として」
凛「……」
ーーカフェテリアーー
加蓮「なるほど……”また”卯月とのことね……」
奈緒「……」
奈緒(その言い方もあんまりだろうに。本当、今日はどうしちゃったんだ、加蓮のやつ……)
奈緒(もしかして、昨日の電話で言っていたちょっとしたことっていうのが原因でそうなってるのか?)
加蓮「……凛はトライアドの前からニュージェネを組んでた」
加蓮「トライアドを組んだばかりの頃、凛が卯月を気にして仕事に身が入らないことが何度かあった」
加蓮「あの時は、トライアドの存在が多少なりとも卯月に影響を与えてしまったから、私も強くは言わなかったけど」
加蓮「でも今回のは違う。それは凛と卯月、二人の問題だよ」
凛「……わかってる。仕事に私情を挟むつもりはないよ」
凛「……そのつもりだったんだけど、昨日の今日じゃ整理がつかなかったんだ。次からは気をつける、ごめん」
加蓮「……」
奈緒「それぐらいにしておけ加蓮。凛は反省してるし、事情も話してくれた」
奈緒「お前が言った通り、この件は凛と卯月、二人の問題だ。これ以上私たちが踏み込むのは野暮ってものだろ」
加蓮「……帰るよ、奈緒」ガタッ
奈緒「凛、お前も一緒に来い」
凛「……私は、このあと事務所に寄らないといけないから」
奈緒「……そうか、卯月によろしくな」
奈緒「凛と卯月の二人の問題とは言ったが、辛くなったら、あたしや加蓮に電話してみろ。相談に乗ってやるからさ」
凛「……うん、ありがとう」
カラン カラン…
ーー帰り道ーー
奈緒「なあ加蓮?」
奈緒「今日の凛への態度のことなんだけどさ。昨日の電話からして、何かしら理由があるんだろ?」
加蓮「……」
凛『悪いけど、待ってる人がいるから、私はいけない』
凛『うん。もうそろそろ来るはずなんだ。約束してるわけじゃないんだけど、ちょっと話したいこともあってさ、だからごめん』
加蓮「……プロデューサーさんだったら何ともなかったのに」
奈緒「え?」
加蓮「凛が待ってた相手が、プロデューサーさんだったら、私なんとも思わなかったのになぁ」
奈緒「加蓮……」
加蓮「人の気持ちって難しいね、奈緒」クスッ
奈緒「……」
ーー事務所ーー
ガチャ
未央「ただいま。みんなお疲れ~!」
オツカレサマ! オツカレサマデス ヤミニノマレヨ!
未央「おー! 今日は結構人数がいるね」
未央「私たちにとってこの場所は、やっぱり特別に居心地のいい場所なんだなぁ」シミジミ
凛「お疲れ、未央」
未央「うん、お疲れしぶりん。お隣お邪魔するよっ」ドサッ
未央「……ん?」
未央「今日って、午後はトライアドでのボイトレだったよね?」
凛「うん」
未央「二人と別れてからこの事務所に来たの?」
凛「そう、ちょっと話したい人がいて」
未央「ほほーん。してその待ち人とは、プロデューサーのことかなっ?」ニヤニヤ
凛「ど、どうしてみんなプロデューサーと勘違いするんだろう……」
未央「おや、その反応は違うってこと?」
凛「私が待ってるのは卯月だよ」
未央「しまむーなら、さっきまで私と一緒にいたけど……」
凛「えっ、さっきまでって?」
未央「事務所の前まで。今日は珍しく用事あるみたいで、そのまま帰っちゃった」
凛「……」
凛「……そっか」スッ
未央「どしたのしぶりん? 帰るの?」
凛「……その前にレッスンルーム行く。空いてるところ、一つぐらいあるよね」
凛「今日は私のせいでトライアドの二人に迷惑をかけたから。次からはちゃんとできるよう、ちょっと復習しておこうかなって」
未央「……」
未央(しぶりんがボイトレで迷惑をねぇ……?)
凛「じゃあね未央、また明日」スタスタ
未央「……待ってしぶりん! その練習、私も付き合うよ!」バッ
凛「えっ?」
未央「トレーナーさんのいないトレーニングは、やりすぎると逆効果になる場合だって多いんだから」
未央「ついつい熱中しちゃいがちなしぶりんのことだし、私がフォローしてしんぜよう!」ニカッ
凛「……ありがとう、未央」
未央「いいってことよー。トライアドはニュージェネにとっても大切な仲間だからね!」
ーーボイストレーニングルームーー
タララ♪ タララン♪ タラララン…♪
凛「……ふぅ」
凛「未央、もう一回頭から流して」
未央「いいや、今日はもうこれでおしまい。これ以上は喉が疲れちゃうよ」
凛「……でも」
未央「ねえ、しぶりん」
未央「やっぱり何かあったでしょ?」
凛「……」
未央「テンポが走りがちだったし、声もたまにうわずってた。声を出すことで、何か頭の中から消そうとしてない?」
凛「……これはトアイアドのために練習で、トライアドが大事だから、他のことを考えたくないってだけだよ」
未央「いつものしぶりんなら、もっと素直に歌えてる。自分でもわかってるんでしょ?」
凛「……」
未央「水くさいなぁ。私たち友達じゃん! なんでも打ち明けてみなって!」ダキッ
凛「でも……」
未央「ここで言いずらいなら、何かをつまみながら気楽におしゃべりしようよ!」
未央「うっふっふ。私いいお店知ってるんだ!」ニコッ
ーーハンバーガー屋・入り口前ーー
凛「ここって……」
未央「前に話したでしょ? かれんと行った新しいハンバーガー屋!」
凛「う、うん。私も気になってた」
未央「でしょー? 今日は未央ちゃんのおごりでいいから、そのクールな顔に隠した本音を吐き出してくれたまえ!」
凛「……」
未央「どしたのしぶりん?」
凛「え、いや、なんでもない」
未央「ほら行くよ! ここで止まってると他のお客さんの迷惑にもなっちゃうしっ」グイッ
凛「う、うん。行こうか」スッ
卯月『凛ちゃんにとって特別な人って、プロデューサーさんだけなんですか?』
ドクン
凛「……?」ピタ
凛(あれ? 私、なんで今、卯月のあの言葉を思い出したの?)
未央「しぶりん?」
凛「……」
凛「ごめん未央。せっかくのお誘いだけど、できれば違うお店で……」
ザッ
加蓮「り、凛?」
奈緒「未央も一緒じゃんか。二人でなにやってるんだ?」
未央「かれん、かみやん!」
奈緒「もしかして二人もこの店に入るところだったのか?」
未央「うん。二人”も”ってことは、そっちのお二人さんも?」
奈緒「ああ。こいつが誰かさんに強く言いすぎちゃってさ」
奈緒「明日どう謝ればいいか一緒に考えてって頼み込んできてな」ニヤニヤ
加蓮「ちょ、ちょっと奈緒!」
凛「え?」キョトン
加蓮「ぅ……」カアア
未央「立ち話もなんだし、早いところお店に入っちゃおうよ!」
奈緒「それでいいな? 加蓮、凛?」
加蓮「……わかった」
凛「……」
奈緒「凛は?」
凛「……うん、わかった」
スタスタ
未央「言っておくけど、私がおごるのはしぶりんだけだからね。さすがに四人分は破産しちゃうから!」
加蓮「へ~凛うらやましいなぁ。ま、私の分は奈緒がおごってくれるから別にいいけどね」
奈緒「お、おごるだぁ!? どっちかっていうと加蓮が私におごるべき場面だろここっ!」
アハハハ…
凛「……」
凛(卯月……)
ーーハンバーガー屋・店内ーー
加蓮「でさぁ、プロデューサーさんに気付いたその時の奈緒の顔、リンゴみたいに真っ赤っかだったんだよ~」モグモグ
未央「ほほぉ~。それはなんと申し上げますか、青春ってやつですなぁ~」ゴクゴク
奈緒「違う! どうしてそんな感想になるんだっ! あれはただ単に恥ずかしかっただけだっつーのっ!」
凛「ふふっ」
加蓮「本当に~? 結構意味深に見えたけどな~? プロデューサーさんも狙ってやったんじゃない?」
奈緒「プロデューサーさんがそんなことするわけないだろ! 偶然だ偶然!」
凛「そこは奈緒の言う通りなんじゃない? あの人って、たまに意識せずに変なこと言うことあるし」
未央「……おやぁ~? しぶりんは随分とプロデューサーに詳しいご様子で?」
凛「えっ?」
未央「うーん、しぶりんがそう言うんならそうなんだろうなぁ~。なんせあのしぶりんがここまで言うんだからなぁ」ニマニマ
凛「み、未央……っ!」
奈緒「ぬかったな凛! 今日のメンバーはトライアドに加えて未央もいるんだ!」
奈緒「気をぬいたら、いじりの矛先は簡単にお前に向くぞっ」ワッハッハ
凛「……ねえ加蓮、この間のライブのリハの時、奈緒ずっとプロデューサーの方見てたよね」
加蓮「うん。すごく熱い視線だった。間に立ったら火傷しちゃいそうなぐらい」
奈緒「なっ!?」カアアッ
未央「ほほー! その時の話をぜひ詳しく聞かせてもらいたいですな!」
凛「あのね、舞台袖で待ってた時のことなんだけど……」
奈緒「や、やめろー!」ブンブン
凛「ふふっ、あの時の奈緒、可愛かったよね、加蓮?」
加蓮「うん、可愛かった。写真残ってるかな?」
凛「トライアドの三人で撮ってもらったやつが部屋にあるよ。焼き増しして今度持ってくるね」
加蓮「本当? ありがとう凛っ」
ハハハハ…
奈緒「……」
奈緒(二人はもう大丈夫そうだな)クスッ
未央(……なるほどねぇ)チラッ
未央(しぶりんの不調はかれんとのケンカが原因だったわけだ)
未央(それなら私が無理に行動する必要はなかったね。これはトライアドの問題だもん)
未央(……うーんでもなぁ)
未央(あの落ち込み方は、てっきりしまむーがらみの悩みかと思ってたんだけどなぁ)
未央「……私の勘も鈍ったもんだねぇ。老いをひしひしと感じるよ、うん」
奈緒「い、いきなり何言い出すんだ未央」
未央「あとは任せた、私の分まで頼んだよ、かみやん……ガクッ」
奈緒「なんだぁ? この唐突すぎるショートコントは」
加蓮「その未央の役って私の方がはまり役じゃない?」
奈緒「縁起でもないこと言うな!」
ーー駅前ーー
タッタッタ…
卯月「はぁ、はぁ」
卯月(事務所に学校の春休みの宿題を置いてきちゃうなんて……)
卯月(自分の気持ちにあんまり鋭くない私でもわかる。私は今、動揺してるんだ)
卯月(……凛ちゃん)
卯月(凛ちゃんは今、何していますか?)
アリガトウゴザイマシタ
卯月「ん?」
卯月(あれは確か、おととい凛ちゃんが言ってた新しいハンバーガー屋さん)
卯月(今度行こうって約束した……)
ガラララッ
卯月「……!」
未央「やっぱりこのお店おいしいね、かれんっ」
加蓮「うん。またぜひ食べに来たいよ」
奈緒「今度来た時は、絶対おごってやらねーからな!」
凛「なんだ、結局加蓮に奢ったんだ、奈緒」
凛「あはは……っ」
ズキンッ
卯月「っ……」
卯月「…………」
卯月「……事務所に」
卯月「事務所に行きましょう。宿題を取りに行かないと……」
トボトボ…
ーー凛の部屋ーー
凛(……)
凛(今日は楽しかったな)
凛(気のおけない友達と、ワイワイおしゃべり、か……)
凛(アイドルになる前の私だったら、考えられなかったことかも)フフッ
凛「……友達、か」
凛「……」
凛「卯月は私のことを、友達とは認めてくれてないのかもしれない」
凛「でも、私にとって卯月は大切な友達だ」
凛「だからほっとけない。このまま離れ離れになっちゃうなんて絶対に嫌だから」
凛「……」
凛「未央の言うとうりだね。何かをつまみながらおしゃべりすれば、前向きになれるって」クスッ
凛(……未央はいつも私のピンチをいつも救って、励ましてくれる)
凛(ありがとう。感謝してるよ、未央……)
ーー次の日ーー
未央「しまむーおはよー!」
ビクッ
卯月「お、おはようございます。未央ちゃん……!」
未央「ん? どうかしたの?」
卯月「いえ、なんでもありませんっ!」
未央「いやいや、なんでもなくはないでしょ、そんな顔真っ青にしちゃって」
卯月「……」プルプル
卯月「じ、実はこの後、大事なオーディションがあるんです! 私、緊張しちゃってて!」
未央「……あーなるほど! オーディションって緊張するよね、うんうん、わかるよ~」
卯月「えへへ、そうなんですよっ」ニコッ
スタスタ
凛「朝から元気だね、二人とも」
未央「あ、しぶりんおはよ~」
卯月「!」
凛「おはよう未央。……卯月も、おはよう」
卯月「お、おはようございます」
凛「二人の今日の予定は?」
未央「私は舞台の稽古! しまむーはオーディションだって!」
凛「そっか、今日も一日頑張ろうね」
未央「うん! じゃあ私は、もう時間だからこの辺で! いってきまーす!」
卯月「いってらっしゃ~いっ」
バタン
凛「……」
卯月「……」
凛「……私は今日、ラジオ」
卯月「……そうですか」
凛「……」
卯月「……」
凛「パーソナリティが楓さんだから、結構ハチャメチャな感じなるかも」
卯月「……」
卯月「……はい」
凛「……来週の金曜に放送するらしいんだ」
卯月「……」
凛「時間あったら、聞いてね」
卯月「……」
卯月「……聞きます」
凛「うん……」
卯月「……」
凛「……」
凛「ちょっと歩こうか。朝だし、体もほぐしたいし」スクッ
ーー廊下ーー
トコトコトコ…
凛「卯月が載ってる雑誌、この前買ったよ」
卯月「……ありがとうございます」
凛「記者の後書き、卯月のことベタ褒めしてたね」
卯月「……よ、読んだんですか?」カアア…
凛「買ったからには、そりゃあ読むよ」
卯月「う、うう……そうですけど」
凛「インタビューの受け答え、プロデューサーと一緒に考えてたよね」
凛「努力の成果が出たって感じかな」
卯月「はい、プロデューサーさんには感謝してもしきれません」
凛「うん、そうだね」
凛「私も昨日取材だったよ」
卯月「……どんな内容でした?」
凛「テレビの人から質問を10個ぐらい」
卯月「へぇ。テレビの取材だったんですね」
凛「カメラはなかったから、アンケートみたいなものだけどね」
卯月「それでもすごいです。さすが凛ちゃんです」
凛「そんなことないよ。美嘉のところにはカメラも来てたらしいし」
卯月「おお~」
凛「気合入れてメイクしすぎて、リテイク食らったらしいけどね」
卯月「そうなんですか、ふふっ」
凛「……」
凛「……今日、何時に終わる?」
卯月「え?」
凛「私は7時。卯月は?」
卯月「ろ、6時です」
凛「……時間が合えば、一緒に帰ろうかなって思ってたんだけど」
卯月「……」
卯月「……待ってます」
凛「!」
卯月「……事務所で、待ってますから」クルッ
タタタタッ
凛「……」
凛「…………うん」
ーー稽古場ーー
プルルルル
未央「もしもしプロデューサー?」
未央「うん、元気にやってるよ。そっちは?」
未央「そっかそっか、そりゃあなによりだねっ!」
未央「……うん、一つだけ確認しておきたいことがあって」
未央「しまむーって今日、午前から午後までずーっと、みほちーたちとレッスンのはずだよね?」
未央「うん。だよねー、ありがとう」
未央「んじゃそれだけだから、ばいばーい!」
ピッ
未央「……」
未央「私の勘もまだまだ捨てたもんじゃないな」
ーー夜・帰り道ーー
凛「楓さんってほんと自由」グッタリ
卯月「あはは…」
凛「冒頭からこう言ったからね?」
楓『今日のお便りはいつもより多くて電話のベルがリンリン鳴り止みません、凛ちゃんだけに!』
卯月「ふふ、ふふふっ!」
凛「……今卯月は笑ってるけど、現場の凍えた空気ったらなかったよ」
卯月「えー? 面白いじゃないですかっ」
凛「はたから見たら面白いのかもしれないけど、少なくとも私はドキドキしっぱなしだった」
凛「いつ冗談がこっちに飛んでくるかわからないんだもん」
凛「まあ、あのスタイルでいつもワンテイクで取り切っちゃうっていうのは、素直に尊敬するけどさ」
卯月「うふふ」ニコニコ
凛「しかもね……」
卯月「うんうん!」
凛(……良かった、卯月、私の話聞いてくれてる)
凛(表情も明るいし、なんか、いつもの私たちって感じだ)
凛(よかった、本当に……)
凛「それでさ、ラジオで差し出されたバームクーヘンがね」
卯月「……!」
凛「ちょっと胃もたれしちゃいそうなぐらいの量でさ」
卯月「……」
凛「……卯月?」
ーー駅前ーー
凛(ああ、もうこんなところまで歩いてきたんだ。話してるとあっという間……)
凛(卯月の視線の方向にあるのは、ハンバーガー屋?)
凛「……あ」ドキン
凛(そういえば昨日偶然集まったメンツって、ニュージェネとトライアドの中で卯月だけいないんだ)
凛(四人で話してたこと卯月に言ったら、誤解を招いて卯月を傷つけちゃうかな?)
凛(……いや黙ってることの方がよっぽど卯月を傷つけるよ。ここで言っておこう)
凛「卯月、昨日たまたま出会った私と未央と奈緒と加蓮の四人で、あのハンバーガー屋に入ったんだ」
凛「未央から卯月は用事で帰ったって聞いてたから、卯月のことは誘わなかったんだけど……」
凛「意図的ではないとはいえ、卯月には悪いことしちゃったね」
卯月「……」
凛「それで、えっと、どうかな?」テレテレ
凛「今から私たち二人で、入ってみるっていうのは……?」チラッ
卯月「いえ、いいです!」ニコッ
凛「……」
凛「そ、そっか。夕飯の前だもんね、ご飯を作ってくれてる親にも悪いし」
卯月「はい、行くのはやめておきましょう」
凛(なんだろう、今の笑顔、いつもとちょっと違う感じがした)
卯月「それよりも早く、凛ちゃんのお仕事のお話をもっと聞かせて欲しいです!」パアアッ
凛「!」
凛「う、うん。どこまで話したっけ……」カアァ
ーー未央の部屋ーー
ガチャッ
未央弟「お姉ちゃん、お風呂入んないの? 俺先に入っちゃうよ?」
未央「ん、いいよー。私はちょっと考えることあるからー」
未央弟「へー、明日は雨かな?」
未央「なにー!?」
バタン
未央「……ふーむ」
未央(昨日しぶりんの様子がおかしかった原因って、やっぱりしまむーだったんだよね)
未央(今朝の二人のあいさつもぎこちなかったし)
未央(私が稽古に出かけた後、何か進展したかな?)
未央(……それは望み薄か)
未央(こういう時のしまむーは、元が優しい分、長引いちゃうから……)
未央「……今は考えるより行動だよね!」スチャッ
未央「二人に問題に私が首を突っ込むのも余計なお世話かもしれないけど」
未央「私はしぶりんのハンバーガーを奢ったんだ。話を聞く権利ぐらいはあるはずっ!」ピッピッピ
プルルルル プルルルル
未央(……きっとしぶりん、今すごくナーバスになってる)
未央(優しく、落ち着いて、丁寧に……)
未央「……こんばんわ、しぶりん」
凛『うん、こんばんわ、未央っ』
未央「!?」
凛『どうしたの?』
未央「え、いや、どうしたのっていうか」
未央「こっちこそ、どうしたのって聞きたいんだけど? なにそのテンション?」
凛『別に普通でしょっ?』
未央「……」
凛『……』
未央「しまむーと仲直りしたんでしょ」
凛『!』
凛『あれ、なんでわかるの?』
未央「何でって……はーあ、心配して損した」クタァ
凛『心配してくれてたんだ。ふふ、ありがとう』
未央「……でも、どんなマジックを使ったのさ。こんな短時間で仲直りしちゃうだなんて」
凛『え?』
未央「だって、今日の朝までケンカしてたんでしょ?」
凛『特別なことは何も……今日一緒に帰るうちに、だんだんいつもの調子に戻ったっていうか』
未央「……」パチクリ
未央「まぁ、友情と言う名の奇跡が起きたということなのかもしれないねぇ」
凛「なに格好つけたこと言ってるの?」クスクス
未央(拍子抜けだけど、良かったことに違いはないよね)
未央(にしても……)
凛「なに? 黙っちゃって、変なの?」フフフッ
未央「……昨日、かれんともケンカしてたよね」
凛「うん? ちょっとだけね」
未央「……」
未央「多分私は、かれんの側だよね」ボソッ
凛『ん? 何か言った?』
未央「何でもない! 元気そうでよかったよ、おやすみ~!」
ピッ
ドサッ
未央「……」
未央「特別な人、か」
未央「……」
未央「例えばプロデューサーは、私たちアイドルにとって、特別な人だよね」
未央「自分と夢を目指してくれる、自分と一緒に進んでくれる、かけがえのない人」
未央「でも、プロデューサーは、私たち全員にとっての特別なんだ」
未央「誰か一人だけの特別じゃない」
未央「ファンにとってのアイドルと同じ」
未央「……」
未央「……特別な人」
未央「先月、私はクラスの男子に告白された」
未央「きっと、アイツの中で私は特別な存在なんだったんだ」
未央「地球上で一人しかいない、特別な人」
未央「でも私は、その相手を40人クラスの一人としか見てない」
未央「相手から見た私は特別でも、私から見た相手は特別じゃなかったから」
未央「だから告白は断った……」
ーー卯月の部屋ーー
卯月「私にはクラスに40人の友達がいるんです」
卯月「みんな私のことを友達って言ってくれるんです」
卯月「そのことを知った時、私、こう思ったんです」
卯月「クラスの中に一人だけ私のことを友達だと言わなかった人がいたら」
卯月「その人にとって私は特別で、私にとってその人は特別だったんじゃないかなって」
卯月「だから、私は……」
ーー回想ーー
凛『なんだ、結局加蓮に奢ったんだ、奈緒』
凛『あはは……っ』
ズキンッ
卯月『っ……』
卯月『…………』
卯月『……事務所に』
卯月『事務所に行きましょう。宿題を取りに行かないと……』
トボトボ…
卯月『……』
卯月『違う』
卯月『……あの輪にいない私』
卯月『あの輪にいない私は、凛ちゃんにとって特別なんだ』
卯月『ニュージェネでもなくトライアドでもない、私と凛ちゃんだけの関係……』
卯月『凛ちゃんにとって私は』
卯月『一人だけ一緒にハンバーガー屋に行っていない』
卯月『特別な人』
ーー卯月の部屋ーー
プルルルル ガチャ
卯月「もしもし凛ちゃん?」
凛『卯月、今大丈夫?』
卯月「えへへ、平気ですよ」
凛『そ、そっか、良かった』
卯月「凛ちゃんの方から電話をくれるなんて、珍しいですね」
凛『この前卯月から電話もらった時は、ひどいことしちゃったからね』
卯月「ううん。私の方こそ悪いんです。ごめんなさい凛ちゃん」
凛『……私も謝る、ごめん卯月』
卯月「……」
凛『……』
凛「『……はい。これでもうおしまい、湿っぽい話は終わりだから!』テレテレ
卯月「ふふ、そうですねっ」
凛『今日はたくさん話し合わなくちゃいけないことがあるんだからさ』
卯月「仕事のお話の続きですか?」
凛『うん、それもあるけど、もっと大事な話』
卯月「?」
凛『私と卯月と奈緒でハンバーガー屋に行く計画のことだよ』
卯月「……」
凛『結局卯月だけハンバーガーを食べられてないままでしょ?』
凛『違うってわかってても、卯月だけ仲間はずれにしたみたいだからさ』
卯月「……」
凛『卯月?』
卯月「……その計画は、まだまだ先でいいんじゃないでしょうか?」
凛『そう? 具体的にはどれくらいあと?』
卯月「アイドルを辞めるまで」
おわり
終わりました
タイトルは次から気をつけます
見てくださった方、ありがとうございました
HTML化依頼をしてきます
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