【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十六輪目】 (999)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的

東郷家、犬吠埼家への挨拶と伊集院家の説得
元気な子供を産む
進路決定
結婚式
生き抜くこと



安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります


日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
基本的には9月14日目が最終


戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに

前スレ
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】 - SSまとめ速報
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√ 11月08日目 昼() ※月曜日


01~10 芽吹
11~20 
21~30
31~40 夕海子
41~50
51~60 大赦
61~70 勇者大好き星屑くん
71~80 
81~90 ばてくす
91~00

↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


園子「互いの思いをぶつけあってこそ、より濃厚なものが出来上がるんだよね~」チラッ

東郷「! ……それはまるで夜の営みのように熱烈なものなのよ」

夏凜「そう? 快感を何層にも丁寧に塗り重ね馴染ませて相手に自分を溶け込ませていくことだって、十分営みって言えるでしょ」

夏凜「でもね、本当のセックスはぶつけるんじゃない。心と心を絡み合わせて感じるもんなのよ。体だけで満足してるなら自慰でもしてろ!」ビシッ

東郷「なっ……ま……負けたわ」ガクッ

風「………」カタカタカタ

友奈「風先輩、勇者部にツッコミを依頼しても風先輩しかできません……!」


遅くなりましたが、少しだけ


√ 11月08日目 昼() ※月曜日


瞳「……あっ」

新しい勇者システム、それを扱う覚悟

心持新たにした勇者部の面々を引き連れ、

とは所定の場所に向かうだけ。という段階になって、瞳は小さく声を漏らす

忘れ物をしたわけじゃない

ちゃんと考えていたし、対策も練った

それも念入りに、知られることがないように。

それにもかかわらず、壁が近づき人の姿の途絶えた道を封鎖するように止まった車

その近くにいる人の姿を見てしまったからだ

夏凜「あれって……」

園子「うん、安芸先生……だね」

いつもと変わらずに大赦の装束に身を包んではいるものの、

その見慣れた姿だからこそ、園子は複雑そうな声色で断言する

瞳「バレないように手は打っていたはずなのですが……」

風「勇者部全員が学校を休んだからバレるのは必然だったけど、流石に早いわね」

友奈「学校か病院からの連絡かな?」

風「ん~……あるいは安芸先生はもしかしたらこういうことするって解ってたのかも」


園子「私もふーみん先輩と同意見なんよ」

道をふさがれており、わき道を通って逃げるという手も使えないため、車が止まる

その揺れをものともせずに呟いた園子は、

フロントガラスを通して安芸先生らしき大赦の人を見つめた

園子「天さんの体の状態は病院から伝わってるし、多分、大赦の人間として久遠家の力のこともある程度知ってるはずだから」

だから、神樹様の力の一部である種

それを求めてくるだろうということは考えられたのだろうと園子は思う

樹「それなのに、安芸先生だけしかいないのはなんでなんだろう? 普通ならもっと大勢で来るんじゃないかな」

東郷「安芸先生も見逃すこと前提で話すために来た。大勢いても無駄だと分かっている。実は大赦職員の関係は冷え切っている……とか」

風「真面目な顔で冗談言うな」

夏凜「って言っても、大勢だろうが一人だろうが止めても無駄なのは事実よね」

そう言った夏凜も園子と同じように安芸を見定める

仮面のせいで、表情も考えも何も読めそうにはない

風「じゃぁなに、通りたければ私を殺していきなさいとか?」

東郷「世界を犠牲にする可能性もあることをするから、安芸先生自身が身をもって確かめようということですか」

園子「そのつもりなら、きっと先生は仮面を外してくると思うんよ」


天乃の状況を知っていて

その解決に必要な事であると知っていて

それでも、大赦の装いのままの目の前に現れた理由

園子「……あくまで、安芸先生は大赦であるつもりなんよ」

友奈「園ちゃん?」

園子「大赦にとって、天さんは最悪見捨てるしかない対象なのが現状だよね?」

夏凜「子供が産まれることは確定してるから久遠家ではなく天乃に関してはその可能性もあるか」

風「…………」

天乃が使えていた久遠家の力が子供に受け継がれつつあり、

天乃自身がもうその力を使うことができないという話が伝わっているのならなおさらだろう

ここまで冷酷無比な考えを持つとは考えたくないが、

極端に言ってしまえば、天乃は【世界の役には立たなくなった】のだ

そんな存在に世界を生き延びさせる方法の一部を分け与え

守るべき世界を危険に晒すなど、大赦という組織は容認することはできないはずだ

それは【無垢な少女たちしか勇者になれない】

だから【お役目によって犠牲になることも致し方ないこと】

それに似た考えを持ち、持たせるところからも想像できなくはなかった

瞳「もしあれなら私がいきますので、勇者部の皆様はこっそり降りて勇者になって跳躍していくという手もありますが……」


1、ここは避けて先を急ぐべき
2、ここは避けるべきじゃない


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



東郷「……そういえば、ピーマンが嫌いだったわよね?」

園子「でもわっしー、ここにピーマンはないんよ」

東郷「決めつけは早計よ園っち! ピーマンはないけれど、マn――っ!?」ヒュンッ

友奈「……惜しい」ギュッギュッ

東郷「あの……手拭き握って固めながら言わないで友奈ちゃん」

友奈「大丈夫だよ東郷さん、痛いのは一瞬だから」ニコッ

東郷「何も大丈夫じゃないわ!」


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「いや……」

夏凜の小さくともはっきりとした声が車内に広がって、

みんなの視線が夏凜へと注がれていく

夏凜「ここは避けるべきじゃない」

瞳が言うように、避けて通ることはできるだろうし

むしろそれが最も確実で、簡単な方法なのだと夏凜は思う

もしかしたら、みんなも同じ考えをしているのではないか。とも

けれど、夏凜は東郷と園子を一瞥して、

夏凜「もしも、園子達が言うように向こうには向こうなりの考えがあるなら、受けて立つべきだと思うわ」

風「それが不利益に繋がるとしても?」

夏凜「避けても避けなくても、向こうが私達の行動に察しがついてるならどうせ後で跳ね返ってくるなにかはあるでしょ」

東郷「むしろ、ここで大赦の一員である安芸先生にだけでも話を付けておく方が利点はあるって夏凜ちゃんは思うのね……一理あるわ」

風によるあえての反論に対し、同意する東郷の呟き

厄介なことを後回しにすることも必要だが、

それを先に行っておくことも必要なことはある

夏凜「友奈」

友奈「えっ、な、なに……かな」

夏凜「相手は大赦だし大人だから……園子達には悪いけど厄介と言うか、いろんな意味でリアリストだと思うのよ」

友奈「りありすと……?」

園子「ピーターパンに無視されちゃうってことなんよ」

樹「ややこしくなってますっ」


風「要するに、天乃とかアタシ達の考えとは真逆になるってこと」

友奈「………」

風「夢とか、理想とかで語っても無駄な可能性が高い」

乃木園子や鷲尾須美の状況を知っていながら、

仮面をつけることを選び、

かつての自分とは違う自分でいようとした人なのだ

場合によっては、芽吹よりも説得が難しい相手。ということになる

夏凜「だからこそ、芽吹の説得の前哨戦にもってこいってわけ」

友奈「私が安芸先生? を説得すればいいの?」

園子「最悪、出来なくても仕方がないと思う」

樹「押し通るのはあまり気が進みませんけど……」

どうしようもなかった場合にはそうすることもやむを得ない

同じく考える勇者部はそれぞれに頷いて、覚悟を決めた目を友奈へと向ける

そんな中、風だけは笑っていて。

風「難しく考えなくて良いから、軽ーく夢でも語って見せればいいのよ」

友奈の背中をたたいた


友奈「夢……?」

風「現実的じゃないとか、可能性は低いとか、タイムリミットだとか。アタシ達のやりたいことはかなり難しいでしょ?」

それでいて犠牲にしなければいけないことは多く、

ハイリスクながらハイリターンになるとは限らない

だから反対されるだろう、批難されるだろう

それは大赦だけでなく、芽吹たちにもされることだ

風「きっと、簡単じゃないとかそう言うことだって言ってくる。口だけでは何とでも言えることだって言われるかもしれない」

それでも天乃の為に、みんなの為にやり遂げてみせると、

力強く言い切れるかどうかなのだ

世界中を敵に回し、希望を奪って私的に利用する

そんな神樹様にたたり殺される可能性さえ出てくるような大罪を犯す自覚があるのかどうか。

それをはっきりと、希望をもって口にできるのであれば

流石の大赦の一員でも身を引いてくれるかもしれない

風「でも、向こうが何言おうと関係ない。難しいとか不可能とか大罪だとかそんなこと知ったことじゃない」

友奈「っ」

風「だってあたし達みんなの目的は変わらないんだから」

だからね、友奈。と、風は言う

本来、声をかけるべき副部長

まだはるか遠くに感じるその姿のひとかけらでも、友奈に感じさせてあげられればと。

犬吠埼風は部長として紡ぐ

風「自分の気持ちを全力で伝えなさい、友奈」

楠芽吹への説得、それを行うための前哨戦へと風は友奈を送り出す


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「………」

友奈「………」

東郷「あの、このやり取り車から降りてから――」

風「ゆうな! ゆうな……皆までゆうな!」

安芸「……テイク2入るなら飲み物飲んでいいですか? 流石に暑くて」

瞳「あ、はーいっ。安芸さん5分休憩でーす! カメラ向き変えて映り込み避けてくださーい」

夏凜「いや、代表して友奈が行くだけだから全員下りなくても良いと思うんだけど」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
可能であれば、明日は19時ころからの再開


では少しだけ


「…………」

すぐ手前で車が止まって数分、

ようやくドアが開かれ、降りてきたのは勇者部の一人

勇者部の面々がその中にいることは想定していた彼女にとっては驚くようなことではなく、

変わらず、近づいてくる姿を仮面を通して見つめる

勇者適正の一番高かった結城友奈

人のために全力を尽くそうとする性格などでもそうだが、

過去の英霊から引き継がれた【友奈】という名を冠している特別な存在

過去の惨劇の記憶を喪失し、偽りを植え付けられた東郷美森や、

久遠天乃に関して間違いではないが正解でもない情報を与えられていた犬吠埼家

満開のシステムというものを知って以降反発的な態度も見せていた三好夏凜

彼女たちが反旗を翻す可能性は十分に考えられていたし、

無関係なはずの学校の生徒たちが反発したことでその警戒はより厳しくなっていた

それでも、友奈までそちら側に完全に組するとまでは大赦も考えてはいなかった

甘い考えだと言われればそれまでだが、

彼女の性格的に大勢を犠牲にする可能性のあることに手を出すとは思えなかったからだ

友奈「あの……安芸先生。ですか?」

「……ただの神官です」

友奈「…………」


近くにまで来た友奈の問にさらりと答えた神官――安芸は、

友奈以外の勇者も、車を運転していたであろう大赦に属しているはずの大人も降りてこないのを確認する

その一方で、仮面越しで視線の動きを感じられていないのだろう、

黙り込んでしまった神官を困ったように見つめていた友奈は不安を吐き出すように息をついた

友奈「あの……久遠先輩の件、ですよね?」

「…………」

友奈「世界にとって、私達がしようとしてることは悪いことだから。やっちゃいけないことだから」

「それが分かっていて、行くのですか?」

友奈「それでも、助けたいんです」

悪いことに手を出すとしても

それが大きな被害をもたらすことになるのだとしても

たった一人の命を救うために行動するのだと友奈は素直に答える

ここまで来たのだ、知られているのだ

もう隠し立てする意味はないし

そもそも、自分には嘘なんて付けないのだと分かっているからだろう

友奈「久遠先輩は頑張ったんです。凄く、頑張ってくれたんです」

話に聞いただけの二年間

それがどれだけ壮絶で、凄惨で、心と体にどれほどの負荷がかかるものなのか

友奈は想像することしかできない

けれど、それでも天乃の普通とは言えない生き方と状況を見て、感じたものは嘘ではないと思う

友奈「だから、報われるべきだって思います」


「それで世界が失われるとしてもですか?」

友奈「危なくはなるかもしれない……けど、無くなることは絶対にないと思います」

大勢の犠牲が出る可能性、世界が滅んでしまう可能性

しかし、それらはあくまで可能性でしかないし、

天乃を救おうとしてもしなくてもそれらの危機的な可能性は当然ながら存在している

けれど、天乃はそう言うことが見逃せる性分ではない

友奈自身も、自分がそう言った他者の犠牲などに耐えられるような性格ではないと自覚しているが

それ以上に強く嫌悪感を示すのが天乃だと思っている

痛みや苦しみ、それによる絶望感

全く感じない、考えないなんて言うことは友奈には出来ない

怖いと思う、辛いと思う、苦しいと思うし、痛いとも思う

我慢して言葉にしなくても、心の内側で蝕まれていく

しかし、天乃は違う

少なくとも、以前の天乃は平然と自分が犠牲になることを受け入れるのだ

怖い、辛い、苦しい、痛い

そんな感情も、我慢している素振りさえ見せることなく【そう言うものだから】と、受け入れる

友奈「そんな久遠先輩が、関係ない人たちの犠牲を受け入れられるはずがないんです。見逃せるはずがないんです」

きっと、何が何でも救おうとするだろう

それこそ、自分が犠牲になる以外の方法が見つからなかったら犠牲にしてしまうかもしれない

だからこそ、世界が危機にさらされることがあっても絶対に失われることはあり得ない

そして、それゆえに

友奈「だから勇者部は、久遠先輩を助けるだけでは終われない。久遠先輩も助けて世界も救うんです。そう、約束したんです」

自分の考えを率直に述べる

風に言われたように、ただ自分達がなすべきと思っていることを述べる

その瞳は力強く、意思も感じられるものだった

けれど、神官の仮面は変わらない

「神樹様の種を用いれば久遠天乃を救うことは可能かもしれません。しかし、世界を救う保証はどこにありますか? それをなぜ、約束することができるのですか?」


途中ですが、ここまでとさせていただきます
可能であれば明日、少し早い時間から


では少しずつ


「確かに彼女の力は強力です。復帰することができれば改めて攻勢に出ることも可能かもしれません」

しかし。と、安芸は続けて言う

冷徹ささえ感じるような無機質な声で

「彼女は戦えない。違いますか?」

天乃は胎内に新たな命を宿しており、

力が譲渡されていっているせいで力がつかえないという

もしも力が使えるようになったとしても、

妊婦の体ではバーテックスはおろか星屑とさえ戦うことは出来ないだろう

「神樹様ももう、限界が近いのは勇者である結城様にも伝わってきているかと思います」

友奈「それは……はい、聞いてます」

「久遠様が絶大な力を持っていても、神樹様の力が尽きてしまうまでに再度戦地へと赴くことが出来るようになるのですか?」

友奈「難しいかもしれないです。けど――」

「きっとなんとかなる。ですか?」

感情の起伏を感じない言葉ではあったが、

そのあとに続いたため息が呆れから来ているものだと、

友奈ははっきりと感じた

大人としてか、大赦の一員としてか、

それとも、天乃達二年前の勇者の知り合いとしてか。

それは分からないが、【失望している】のだけは確かだった


「現実は、それほど簡単な話ではありません」

友奈「っ」

「確かに、単純に解決できることも世の中には溢れていることでしょう」

それこそ、複雑に考えるよりも

単純に簡単に導いた答えが正解であることも決して少なくはない

しかし、世界のすべてがそうたやすい事柄であるわけでもないのだ

そこに人知を超えた存在や事象が絡んでくるのであれば、なおのこと

きっとこうなってくれるだろう。などという希望的観測での行為は自殺行為にも等しい

「ですが結城様。ことは切迫し、猶予も残されてはおりません。一つ一つ、慎重に事を為さねばならないのです」

友奈「……慎重に考えて、久遠先輩を犠牲にするんですか?」

「やむを得ないと考えています。世界と一人の命。どちらが重いのかは考えるまでもなく明白ではないでしょうか?」

それこそ。

そのつぶやきは、天乃達の知り合いであろう安芸先生ではなく、

大赦に属する神官の一人なのだと感じるほどの静かな声だった

「単純明快でしょう」

友奈「く、久遠先輩は……」

友奈は恐怖や緊張ではなく震えてしまう手を胸の前で握り合わせて、俯く

風には自分の思いを告げて来いと言われた、背中を押された

その思いに自信はある。けれど、そのすべてを踏みにじられてしまいそうで

友奈は思わず、言葉に詰まってしまった


「そもそも、結城様は犠牲と言われますが、本当に犠牲なのでしょうか?」

友奈「どういうことですか?」

「久遠様は久遠家の力による影響で命を落とされる可能性がある。それは、血筋による運命なのではありませんか?」

バーテックスとの戦いによる負傷などで心や体に酷い障害を負い、

それによって死に至るというのならば、犠牲と言えるかもしれない

しかし、天乃の場合はそうではない

久遠家が代々迫られてきた力による薄命

それが近づいてきたことによる衰弱が死につながるというだけだ

友人達からしてみれば受け入れられないことかもしれない

しかし、安芸は大赦の一員として告げる

「久遠様の死は犠牲ではなく力による代償に等しいと、私達は考えています」

友奈「でもっ、久遠先輩はこの世界の為に――」

「心得ています。ですから、手厚く支援を行ってきました。例え反逆に近しい行いをされようとも……一定の警戒こそしましたが、援助はさせていただきました」

それはこれからも変わらないと安芸は言う

天乃が死んでしまった後も、

子供の為の費用などは全面的に大赦が協力すると約束する

それは例え、久遠家がしっかりと引き取ることを約束したとしてもだ

「戦うことのできる年齢である久遠様が失われることは惜しく思います。ですが、定めであれば仕方がありません」


友奈「定めなんて……そんな……久遠先輩は……」

少し前の天乃なら受け入れていただろうと友奈も思う

それが自分の運命だからと

悲観する様なこともなく、当たり前のような笑顔で

もしかしたら「ごめんね」とか、苦笑いしながら言うだけで終わろうとしていたかもしれない

けれど、天乃は死にたくないと言い、死なせたくないと言った

それなのに。

他人が、死ぬのが運命だからと受け入れていいのだろうか

他人が、死ぬのが運命だから受け入れろと言っていいのだろうか

本来なら死を受け入れていた人が、死にたくないと我儘を言ってくれたのに。

友奈「っ……」

「世界を救うために神樹様の種は必要不可欠です。それを奪うことは許されません。お引き取りを」

神官は極めて冷徹に述べる

まるで機械人形であるかのように無感情に。

流石の友奈にでさえ、怒りを沸かせるような無関心さを持っていた



1、ふざけないでください……っ、久遠先輩が死ぬなんてそんなの、運命じゃないです!
2、久遠先輩は、世界の為なら死んでもいいって言うような人です。でも、その久遠先輩が死にたくないって言ったんです
3、私達にとっては、久遠先輩が必要不可欠で、奪われることなんて許されないんです
4、わかりました――それなら、力づくで奪います

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日はできれば昼頃から


風「あっ」

夏凜「ん?」

園子「ゆーゆが宣戦布告したんよ、わっしー」

東郷「友奈ちゃん……」

樹「できれば、戦いたくはなかったですね」


遅くなりましたが、少しだけ


友奈「っ……」

言ってはいけない、吐き出してはいけない

自分の中の強い抑圧が働いて、友奈は自分の手首を強く握りしめたが

それでも抗いきれずに友奈は呟く

友奈「ふざけないでください……っ」

「…………」

友奈「久遠先輩が死ぬなんてそんなの、運命じゃないです!」

絶対に違う、絶対にない

天乃がそう言われても仕方がないような人生を生き、

宿命を与えられていると言われても仕方がないような状況ではある

しかし、そんなことを認めるなど友奈にはできなかった

友奈「ずっと頑張ってきたんです。安芸先生なら分かるんじゃないんですか? 私なんかよりも、知ってるんじゃないですか?」

安芸先生であるはずの神官は何も答えない

だが、

仮面をつけていて表情も視線の方向も分からないけれど、

その目は自分に向けられているように友奈は感じた

友奈「それなら……久遠先輩は報われるべきだって思います。子供を産んだら、お母さんとか女の人とか、あと、高校生とか……」

そう言うのになって、

今までできなかったこととか、やりたくても避けてきたようなことを一杯するんです。と、友奈は言うと

少し間をおいて、首を振る

友奈「安芸先生はさせてあげたいって思わないんですか?」


友奈「私達は自分たちのしようとしてることが大変な事だって言うのは、分かってるんです」

安芸に言われるまでもなく、自分たちでとても悩んだことだ

そして、改めて天乃に問われて考えそれでも選んだ茨の道だ

世界を敵に回すことになる

罪のない人たちを犠牲にする可能性がある

だからやめるべきだという周りの言葉は確かに正しい

けれど、それでもだ

友奈「私達は久遠先輩を助けたいんです。助けるって決めたんです」

「多くが失われることになっても、ですか?」

友奈「大赦にとっての世界が神樹様なら、私達にとっての世界は久遠先輩なんです」

だから、抗う

何があっても、何を犠牲にしてでも

それが悪であるのだとしても

天乃の望みがすべてを救うことであるのならば、足を踏み外してでも目的にたどり着く

友奈「だから」

友奈は強くこぶしを握る

勇者に変身していないから力は常軌を逸したものではないが

勇者になる以前から鍛えていたこと、

勇者になってから鍛えていたこと

それによる力は、容易に神官の体を叩き伏せることができるだあろう

友奈「道を開けてください安芸先生、一人の犠牲も、出来たら出ない方がいいと思うから」


友奈から強い敵意は感じなかった

しかし、その拳が確実に自分に向かってくるということも安芸は感じていた

殺すほどの力は出さないとは思う

けれど、殺してしまうことも視野に入れているような気がした

「……条件は同じ、ですか」

自分たちが久遠天乃という犠牲を認め、甘んじているのと同じように

勇者たちは安芸や神樹様、世界の犠牲を認めているのだ

違いがあるとしたら、出来得る限り犠牲を失くそうとしているのか、あらかじめ犠牲を出すことを確定させているかの違い

言葉にしてみれば、ほんの些細な違いだ

「ですが、結城様。大赦は認めません。貴女方の行いは反逆行為として厳しく取り扱われることでしょう」

勇者に接触する久遠家という存在は、

文字通りの毒として扱われ、隔離されることになるかもしれない

だが……それは結局

世界への反逆が、大赦への反逆となるだけでしかない

安芸は友奈に一礼すると車に乗り込み、車が通れるように道を開けて止まる

「……どうぞ、自らの行いが妨げようとしていること、その罪をその身に感じ、瞳に焼き付けてきてください。考えも変わるでしょう」

友奈「…………」

悲しさと、辛さと苦しさと

見たくはなかった、感じさせたくはなかったものを感じさせ

その何よりも思いであろう罪を感じたことのある友奈は、

安芸の最後の抵抗のような一言に怯えるようなそぶりは見せなかった

友奈「久遠先輩に託されたんです、どんなものがあったとしても私達の考えは絶対に変わりません」

そしてはっきりと、自分の意思を述べたのだった


√ 11月08日目 (壁の外) ※月曜日


01~10 
11~20 戦闘中
21~30
31~40
41~50 戦闘中
51~60
61~70
71~80 ばてくす
81~90
91~00

↓1のコンマ

※空白なら芽吹接触


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
HDDが破損気味なので、場合によってはしばらくお休みを頂くことになる場合もあります


東郷「安芸先生」

東郷「時間がないからこそ私達はその道が悪路だとしても遠回りするんです」

東郷「そうしなければ救えないものがあるから」

東郷「久遠先輩がいてこその世界」

東郷「いなくなってしまったら結局世界が終わるんです」

園子「そう――世界に絶望した勇者の手によって……!」

風「なにそのRPGゲームの続編みたいな設定」


おそくなりましたが、すこしだけ


√ 11月08日目 (壁の外) ※月曜日


壁の外は想像していた以上に灼熱の地へと変貌していた

一番経験があり、

こんな状況でも穏やかでいてくれそうな園子でさえ、驚きを隠せないほどに。

勇者へと変身しているからこそ耐えられるであろう熱さ

飲み込む空気も重く熱く、呼吸をするたびに苦しさがましていくような錯覚さえ覚える

風「……まるで地獄だわ」

遠く離れた場所にはなるが、星屑がいる上に、

バーテックスになろうとしたであろう残骸もちらほらと見える

そして、マグマのような真っ赤な大地

地獄と呼ぶにふさわしいその光景を目の当たりにして――夏凜達は一歩踏み出す

夏凜「地獄ってより墓場よ墓場。当然、あいつらのだけど」

樹「作りかけのバーテックスが雰囲気ある……かも」

呟きながら身を寄せてきた樹に笑みを浮かべながら、

友奈は軽く頷いて額を拭う

神官に言われた妨げようとしているモノ

それを見てもなお、誰一人通して止まろうとはしないみんなの背中を見つめて

だから言ったんです。と、友奈はひそかに思った


園子「わっしーどう? 見える?」

長距離狙撃用の銃を構え、スコープを覗東郷に声をかける

端末を見ても確認できるのは同じく端末を所持している勇者と敵

防人は対象外なのか、範囲外なのか名前はない

その代わりとして東郷に見て貰ったのだが。

東郷「ううん、見えない……範囲外の可能性が高いわ」

友奈「方向はこっちであってるよね?」

夏凜「確認はしてあるから平気なはずだけど……」

四方八方真っ赤な世界

背後の神樹様だけが目印になりそうな状況で自信を持つことは難しいが、

防人が目指す近畿地方の方角は確認してある

第一地点の場所も把握済みだ

それでも見えないとなれば

夏凜「なんかあったでしょ。アレ……暑いとなんかなるやつ」

風「心筋梗塞?」

夏凜「それもあるけどそうじゃない」

東郷「蜃気楼のこと?」

樹「それで見えなくなっちゃってることもあるのかな?」

園子「蟻さんみたいになっちゃってて混ざっちゃってる可能性もあるんよ~」


遠くにいるのならそれだけ小さく、この赤色に紛れ込んでしまっている可能性は否定できない

とはいえ、蜃気楼に関しては違うのではと風が口をはさんだ瞬間

辺りの雰囲気が変わったのを感じて、夏凜が刀を引き抜いた

夏凜「周囲警戒! 樹は風の後ろで射出待機!」

樹「はいっ!」

夏凜「最悪でも撤退はなし、突っ切るわ!」

幾度となく感じた戦いの張りつめた空気感

だが、向かってくる星屑の姿はなく生成されるバーテックスの姿もない

数分間その場から動かずに息を潜めていた夏凜達は、

戦意の矛先が自分たち以外の存在であることを確信して、地を蹴り出す

園子「防人も訓練はつんでるけど、生身の人間には変わりない……急ぐよ~!」

風「だからって満開はなしよ園子! それは最終手段!」

友奈「急いで急いでそれでも間に合わなかったら……ですね」

樹「…………」

漁夫の利という言葉を使いたくはない場面ではあるが、

ある程度手負いになってくれていれば、自分たちとは戦わずに渡してくれるのではないか。と

そんな考えを持ってしまった樹は首を横に振る

出来るのなら戦いたくない

だからと言ってそんな卑怯な手を使いたくはない


樹「東郷先輩、見えますか?」

東郷「走りながらだと揺れるから――」

東郷が言い終わるよりも先に東郷の体に糸を巻き付けた樹は、

その体を持ち上げて、移動を肩代わりする

樹「――補佐します」

東郷「ありがとう。少しそのままでお願いね」

移動をしながらスコープを覗くのは至難の業だ

だが、身体を支えてくれるのであれば話は別

肉眼で周囲を確認し、浮遊する星屑を確認した東郷はその姿をスコープに収め、

そのまま追跡していく

勇者たちから離れていく星屑はだんだんと降下し始め、

そして――何かの集団と交錯する寸前で弾かれ、撃退されていくのが見えた

東郷「見えたわ。方位そのまま、距離約1000!」

風「戦闘中……ぽい、わよね?」

東郷「ですが優勢……いえ、まもなく撃退可能に見えます」

園子「端末には敵影無しです、サー!」

夏凜「……勇者じゃないっていっても元々は勇者になろうとしたんだから、そりゃ適正武器さえあれば星屑くらいなら問題ないか」

風「ならこのままの速度で追いつくわよー、全員走れーッ!」

戦闘が行われているという緊迫感から一転

いつもながらの少し抜けたような風の掛け声に合わせ、みんなが駆け抜ける

端末と目視で周囲を警戒しながら、東郷には動向を監視させつつ距離を詰めていった勇者部は

巫女である国土亜耶を連れているせいか速度の遅い防人に素早く追いついた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
防人と合流


東郷「距離1000!」

風「なにそれ、センチ?」

夏凜「何言ってんのよ、メートルに決まって――」

東郷「マイルです。風先輩、夏凜ちゃん」

風「……園子、満開」

園子「あれれぇ~?」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば少し早い時間から


棗と雪花に関しては陽乃編でのみルート次第で交流できる予定ではありますが
今回の物語終了後に続編を開始するかは未定になります


遅くなりましたが、少しだけ


それは、防人達

そして芽吹にとっても想定外の事態だった

夕海子「芽吹さん! 接敵!」

芽吹「!」

同じ部隊に所属する信頼できるメンバーの一人、弥勒夕海子

彼女の叫ぶような声に導かれて振り返ると

小さかった【敵】はだんだんと大きくなりながら人型へと落ち着く

それは敵でもなんでも何でもなく、芽吹がかつて望み、関わりを持つことになった勇者たちだった

芽吹「三好さん……?」

夏凜「…………」

疑問符を浮かべながら呟いた芽吹を一瞥した夏凜は、

初めて見る映像以外の勇者の姿に騒めき立つ防人に守られ、隠れてしまっている亜耶を見つめる

夏凜「種は使ってない……わよね?」

亜耶「は、はい。目的地はここからもう少し先に進んだ場所になるので……」

シズク「おいおい……勇者様がこんなところにまで何の用なんだ?」

あんまり穏やかな感じじゃなさそうだが。と

シズクが呟いたのを耳にした雀が僅かに身構え、不安げに目を向けてきたのを感じて

芽吹は一歩前へと進み出た

芽吹「何をしに来たの? 久遠先輩はもう平気なの?」


普通に声をかけても無視をされる可能性がある

そのために、わざわざ久遠天乃の名前を持ち出す

シズクと同様に芽吹もただならない雰囲気を感じており、

並び立つ夕海子もどこか警戒心を感じさせる表情をしている

芽吹「まだ子供は生まれていないのよね?」

友奈「うん、それはまだなんだ」

芽吹「結城さ――」

友奈「芽吹ちゃん、あのね、お願いがあってここに来たんだ」

学校で、病院で

結城友奈という少女がどのような子であるのかを芽吹は見てきた

明るく、活発で人懐っこく、何事もポジティブに考えられると思われていたが

実は感情的になりやすい部分もあって、怒ったり悩んだり悲しんだりと人並みの感情の起伏があるのだと知った

だから、友奈が覚悟を決めた顔つきをしていても不思議には思わなかった

芽吹「時間があまりないけれど、聞くだけなら」

友奈「神樹様の種を譲って欲しいの」

単刀直入に友奈は言う

隠しても、誤魔化しても、これは駄目なのだ

真っ向から対立し打ち負かした結果ならばともかく

騙して強奪したのが露見したら、天乃を傷つけてしまうことになるからだ


勇者様が何を言っているのか分からないという者もいれば、

自分たちのお役目を引き継ぐのではと能天気なことを考える者もいる

だが、芽吹をはじめとしたチームはそんな甘い考えは持てなかった

もちろん、雀は「お役目交代だよメブー! 帰ろう、勇者様がなんとかしてくれるって!」と

この地獄のような場所から逃れられることを喜ぶそぶりを見せたが、

それもすぐに静まって

雀「そ、そんなことないよね……」

悲しそうに呟いた

芽吹「……一つだけ、聞いてもいいかしら」

友奈「うん」

芽吹「…………」

勇者全体に声をかけたはずなのに答えを返したのは友奈一人で

他の誰も黙り込んでいるのを芽吹は確認すると

交渉は結城さんに委ねているのね。と、察して真っ直ぐ見つめなおす

芽吹「神樹様の種は巫女でなければ扱えないと聞いているわ。それをどうするつもりなの?」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
明日は開幕安価になるかもしれません



東郷「神樹様の種を何に使うかですって? 愚問よ楠さん!」

芽吹「!?」

東郷「久遠先輩の下腹部に立派な神樹様を植え付けて今度は私達が孕むのよ」

芽吹「……だろうと思った」フイッ

シズク「おい待て分かっちゃうのかよお前!?」

亜耶「違います……芽吹先輩は諦めただけです……」

シズク「良く分からないが諦めたらそこで終わりだぞ!」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば19時ころから


では、遅くなりましたが少しずつ


シズク「おいお前まさか――!」

夕海子「シズクさん。ここは芽吹さんに任せておきましょう」

シズク「だが」

夕海子「勇者にも事情があるご様子。まずは話を聞くべきですわ」

ただ、その内容が何であろうと、

世界を救うために必要なピースをそれ以外の理由で譲渡することは考えにくいと夕海子は思う

それが例え以前に親交があり

穢れによって苦しんでいるという久遠家の人間の為であっても。

夕海子「……聊か、薄情ではありますが」

世界か個人か

そう考えれば答えは明白だった

それが例え薄情であり、人道に反するものだとしてもだ

もっとも、【防人としてなら】ではあるのだが。

芽吹「結城さん、この種は今ある世界の希望だということは分かっているのよね?」

友奈「うん」

芽吹「正しく使わなければ人類は滅亡してしまう可能性があるということも分かっているのよね?」

友奈「分かってる。けど、それでも私達には必要なんだ」


1、お願い芽吹ちゃん、久遠先輩を助けるにはそれしかないの
2、世界を犠牲にする覚悟はある。でも、そんなつもりはないよ
3、久遠先輩が助かれば神樹様の種を使わずに救う方法が見つかるかもしれない。ううん、きっと見つけてくれる
4、それを使わないと、久遠先輩は1年以内に死んじゃう可能性があるって言われたんだ……だから


↓2


友奈「それを使わないと久遠先輩が一年以内に死んじゃう可能性があるって言われたんだ……」

芽吹「っ……」

友奈「だから」

友奈が言葉を止める

悲しそうな表情を見せるのは、天乃が死んでしまう可能性があるというだけではなく

世界を危険に晒さなければいけないということもあるのだろうと芽吹は思う

友奈「だから、芽吹ちゃん。神樹様の種を譲ってもらいたいの」

芽吹「……なる、ほど」

雀「メブー?」

芽吹「そう言うことですか。いえ、何となく想像はついていましたが」

そう呟きながら振り向いた芽吹は、

種を持っている亜耶ではなく、久遠家と天乃の状況の一部を知っている夕海子へと目を向けた

夕海子「私が決めてよろしいのですか? だとしたら、答えは一つしかありませんわよ?」

芽吹「でしょうね……貴女はそういう人だから」

ふっと息を吐いた芽吹は夕海子から亜耶へと目を向ける

亜耶も天乃と会ったことがあるからなのか複雑な表情を見せたが

少し躊躇いながら自分の持っていた神樹様の種を芽吹へと手渡す

亜耶「芽吹先輩、判断はお任せいたします」

芽吹「良いの?」

亜耶「芽吹先輩にとっても久遠先輩は無視できない方だと思います……それに、勇者様はきっとどうしてもそれが必要なんだと思います」


勇者になる為の端末が大赦にて保管されていることは巫女である亜耶の耳にも入っていたのだ

今回のお役目になにか不備があって、

勇者に救援要請が出されたというのなら理解もできるが、

そんな様子がないどころか、神樹様の種を個人的な理由で渡してほしいという

つまり、端末に関しても

正式な理由なく譲渡……あるいは奪われた可能性さえあるということになってくる

すでにそこまでしているのなら

断られたからと言って、そのまま踵を返してくれる可能性は低い

芽吹「…………」

シズク「おい楠、分かってるよな? 俺達は役目があってここにきてるんだぞ」

芽吹「その通りよ。安易に渡せるようなものでもないこともね」

シズク「だったら迷う必要なんてないだろ。久遠ってやつがどんな奴なのか俺は知らないが、世界よりも大事な奴なのかよ」

芽吹「少なくとも勇者にとっては世界よりもだいじな存在らしいわ」

友奈「芽吹ちゃん、ダメ……かな」

懇願する様な声に芽吹は目を向けなおす

芽吹「ダメと言ったら、どうするの?」

友奈「その時は……戦う」

芽吹「人間と? 味方であるはずの私達と?」


芽吹「いえ、愚問だったわね」

天乃の為にどこまでできる覚悟があるのか

彼女に対する思いがどれほどまでなのか、芽吹は見てきたのだ

そんなことは聞くまでもないし

友奈の表情を見れば一目瞭然だった

悲し気でありながら、覚悟を決めている瞳

それは例え人間相手であろうと戦うというものに他ならない

芽吹「…………」

雀「メブーは、メブーにとっては、久遠先輩って言う人はどんな人?」

芽吹「嫌いな人、面倒な人、良く分からない人……あの人は不思議だわ」

答えにならない答えを返した芽吹は、

少し遅れてそのことに気づいたように苦笑いを浮かべる

芽吹「結城さん、神樹様の種を久遠先輩に使ったとして、世界が救えなければ意味がないのでは?」

友奈「でも、世界を救えたとしても久遠先輩が救えなかったら意味がない」

芽吹「久遠先輩が守った世界ですよ?」

友奈「だからこそ久遠先輩は生きていく権利があると思う。だから、死んじゃうことを運命だなんて認めらないんだ」

芽吹「そうですか……」


悠長に話している場合でも場所でもないことは分かっている

聞くだけ無駄であることも分かっている

けれど、それでも芽吹は形式的に必要な気がして問う

勇者だって人間であり、少女なのだ

大切な人がいるのは当たり前で、何よりも守りたいと思うのは当たり前で

それはもしかしたら、世界なんかよりもずっと大切なものになりうる可能性もあって。

芽吹「最後に一つだけ、教えて」

友奈「なに?」

芽吹「コレを使うことで、久遠先輩が助かるのは絶対? それでも助からない可能性というものは存在しているの?」

友奈「…………」

本当のことを言えば、絶対に救えるというものではない

むしろ、それを使うことで助けることができるかもしれないというのが真実だ

穢れに冒されていたことで天乃の体は神樹様の力に反発し

その副作用によって、症状が悪化してしまったりするかもしれない

もちろん、その対策も考えてはいるのだが……


1、まだ大変なことはあるけど、でも絶対に助けるつもりだよ
2、うん、絶対に助かるよ
3、助からない可能性はある……けど、なんとかする


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


友奈「助からない可能性なんてない」

友奈「久遠先輩は何があっても助ける……たとえ、悪魔に魂を売り渡してでも!」

芽吹「な……ッ!?」

シズク「主人公の台詞じゃねぇ!」

亜耶「主人公は久遠先輩では?」

夏凜「あいつはヒロインだから」

夕海子「では、主人公はわたくしに決まりですわね! 次回からは弥勒夕海子は勇者である。に変更ですわ!」

シズク「いや、それはねーわ」


では少しだけ


友奈「まだ大変なことはあるけど……でも絶対に助けるつもりだよ」

いつもの穏やかさを持ちながら強さを感じる瞳をしている友奈は、

自分の右手へと目を向け何度か握って確かめると、芽吹へと真っ直ぐ体を向ける

友奈「何があっても、何と戦うことになっても」

芽吹「……でしょうね。貴女達はそんな人と関わっているんだから」

彼女ならば何を失ってでも。と付け加えるだろう

そして、そんな少女の周りにいる勇者部もまたそれと同じ考えを持つ

問題は彼女がそれによる犠牲も許容できないような優しすぎる性格であることだろう

神樹様の種を天乃に使うことで世界が犠牲になる可能性があると言っても

天乃はそんなことを絶対に許さない……はずなのだ

芽吹「ここに久遠先輩も来てくれていたら、話も早いのだけれど」

妊婦にそんな無理はさせられない

だからこそ、芽吹は亜耶に託された神樹様の種を友奈の前に翳す

芽吹「久遠先輩が世界を見捨てるなんてできるはずがないから、これをどちらに使おうと世界の希望になるって私は思うわ」

友奈「なら――」

芽吹「けれど、タダで渡すのもそれはそれで示しがつかないわ……分かるでしょう? 三好さん」


夏凜「一騎打ち? それともあんた達のチーム戦?」

雀「勇者様と戦うの!? 無理ッ絶対に無理ーッ!」

死んじゃう絶対に勝てないって……と

泣き叫ぶように喚く雀を一瞥した芽吹は小さく笑って「大丈夫」と呟く

芽吹「一騎打ちで良いわ。こんな場所で余計に傷つけあう意味はない」

それに、と、続ける

芽吹「私達がチームで戦うのはあの人の前でって決めているから。その時まで残しておきたいわ」

夏凜「そういうことなら」

先代の勇者たちに言われた、勇者とは何なのか

若葉に言われたから気にしていたということもあるのだろうが

それがなくてもきっと関わることになっていたであろう仲間たち

芽吹はその中心にいる亜耶に頷いて、銃剣を握り締める

芽吹「どれだけ勇者に……いえ、もう勇者なんてどうでも良い」

夏凜「?」

芽吹「今はただ、貴女にどれだけ近づけたのかが知りたいのよ」

神樹様の種をかけての一騎打ちと銘打ってはいるが

その実、ただ自分のことを確かめたいだけ

そんな我儘をこんな場所で叶えようとしている自分の卑しさに、苦笑いする

芽吹「時間はあまりないから一撃先取、それでいいかしら?」


夏凜「そこは任せるわ。武器は統一する?」

芽吹「銃剣を使ってハンデがあったからとか言わないなら」

夏凜「……言うかっての」

灼熱の地獄の中、

本来こんなことをしている場合ではないと考えを持ちながら

しかし、芽吹達の視界には互いのみしか映らない

一定の距離を取り、身構える二人に向かおうとするシズクの手を夕海子が掴む

シズク「おい馬鹿、あのままやらせるつもりかよ!」

夕海子「今のお二人を止めるのは無粋というものですわ」

シズク「ちっ……どうせなら俺も混ぜやがれってんだ」

夕海子「貴女の本音はやっぱりソレですわよね」

だから止めたのですけれど。と夕海子は呆れたように呟きながら、

芽吹と夏凜を見つめる

本来なら自分も混ざっていい気はするのだが……

夕海子「芽吹さんは防人になった時から、勇者部とまた再会することを望んでいましたから」

最初はあの公園での情報交換だったために大したことは出来なかったが、

今は、互いに戦う理由があってそれが出来るのだ

夕海子「たまには我儘の一つ、許してあげても良いでしょう」

亜耶が苦しんでいるならもちろん止めるが

その亜耶も芽吹に託し、その動向を見守ろうとしている

邪魔をする理由はなかった

夏凜「それじゃ……やるわよ」

芽吹「分かってるとは思うけれど、私が勝った場合はコレは予定通りに使うわ。だから本気で来ないと、彼女は救えないわよ」

芽吹の挑発するような物言いに、

夏凜は「分かってる」と簡潔に答えて――刀を握り、身構えた


遅くなりましたが、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば17時ころから


では、遅くなりましたが少しずつ


夏凜「…………」

以前に一騎打ちを行ったときは夏凜の圧勝だった

勇者として戦ってきたこと、

天乃の分まで守れるようになろうとして厳しくした鍛錬

それらの積み重ねがあったのだから、当然だと言えるのかもしれない

しかし今は防人としての役目に従事し、

仲間を得て、切磋琢磨してきているのだろう

以前の敗北による引け目は感じられないし

それどころか、自らの力への自信すら感じる

夏凜「……あんたはあんたで、頑張ってきたわけだ」

今の敵ではあるが、

夏凜はそのことを何となく喜ばしく思って、笑みを浮かべた

若葉や自分、そして天乃と関わったこと

それが彼女にとって良く働いたのなら……と、思うからだろう

それもまた、芽吹が嫌った夏凜の甘さからくるものなのかもしれない

夏凜「芽吹、あんたの力。見せて貰うわよ」

芽吹「様子見していた。なんて言い訳をしなければご自由にどうぞ」


芽吹→夏凜 命中判定↓1 01~60  01~10 切り払い ぞろ目 カウンター

夏凜→芽吹 命中判定↓2 01~85  01~10 切り払い


芽吹「…………」

壁の外という熱さもあるのかもしれないが、

自分の呼吸が僅かに早まっていくのを感じて、芽吹は息を呑む

夏凜が怖いわけではない

この戦いだって自分から求めた想定内の試合

それでも緊張してしまうのは自分が劣っているからではないと芽吹は思う

目の前に立つ勇者の実力派知っている

彼女の強さも、その理由も今なら何となく分かるとさえ感じる

それでもなお緊張するのは、怯えているように感じてしまうのは

背負っているものの差か、覚悟の違いか

芽吹は探るように夏凜を見つめた

夏凜「なによ。アンタから来ないの?」

芽吹「余裕ね」

夏凜「一応これでも勇者の力を使ってるから。性能の差くらいは余裕もあるわよ」

芽吹「なら、少しの油断も欲しいものね……」

夏凜は余裕層に言葉を吐いてこそいるが

その目は一瞬たりとも芽吹から逸れてはくれない

ほんの少し体を動かせばその先を予測して叩き潰そうとしてくる

ほんのわずかな隙でも見せれば一瞬で攻め込まれ、潰されるのは芽吹にも想像に易い状況だった


芽吹「……はぁ」

使い慣れた銃剣二丁

それで夏凜へとどう攻め込もうかと考えようとする頭を振って、ため息を吐く

延々と考えている時間を与えてくれるのは、相手が夏凜だからだ

これがもしもバーテックス相手だったならこの間にも襲い掛かられていただろう

本能で―もしかしたら知能があるかもしれないが―攻めてくるバーテックスと

考えて行動する人を同列に考えること自体間違いかもしれないけれど

芽吹「少なくとも今、何もないのは三好さんが待ってくれているだけ」

この時点で、自分は一歩劣っているのではないかと思う

近くにいると思った

いや、むしろ自分の方が先んじていると思っていた距離

けれどそれは全くの正反対で、自分の方がはるかに後ろだった

それに気づいて、学んで、近づけたと思った

それでもやっぱり、勇者に選ばれた三好夏凜と、選ばれなかった楠芽吹には埋められないものがあるのかもしれない

そう考えて、芽吹は笑う

ならばせめて、どれくらい埋められたのかくらいは見させてもらおう。と

夏凜「ん……」

芽吹が姿勢をほんのわずかに低くしたのを見て、夏凜は右足を半歩だけ後ろに下げた

その瞬間、芽吹は勢いよく踏み込む


距離を詰めつつ、右手に握る銃剣を夏凜へと向ける

模擬戦を想定した装備ではないため、実弾だ

芽吹「ッ!」

それでも、芽吹は躊躇なく放つ

狙ったのは夏凜の右肩の少し横、ぎりぎり当たらないかどうかのライン

しかし、下手に動けば命中してしまうような場所

牽制の一打、隙を作るための一撃

だが、夏凜は避けるそぶりを見せなかった

夏凜「甘い」

夏凜はそれどころか自ら駆けだし、距離を詰める

二本の刀は斜めに振り下ろされたまま微動だにしない

切り上げてくるか、切り払うか、回って蹴りが飛んでくるか

芽吹「逃げる選択肢は――ない!」

考えを捨てて、芽吹も踏み込む

初めからやるべきことは一つ、出来ることも一つ

いくら撃ったところで夏凜に当たらないことなど芽吹は分かっているのだ

だからこそ距離を詰め、わざと当たらない場所に向かって撃ったのだ

惜しむらくは、それが牽制にすらならなかったことだろう

芽吹「私はここで、貴女に勝つ!」

利き手である右ではなく、左手の銃剣を勢いよく振るった


芽吹「!」

甲高い音が鳴り響き、

振るった左腕がもぎ取られてしまうかのような感覚を感じて芽吹きの視線が動く

銃剣の刃先と銃口、その切望部に割り込む夏凜の刀

引っかかって抜けないのか刀の進行方向に腕が引きずられ、大勢が崩れていく

夏凜「……あんたはやっぱ、こっちのほうがあってるんじゃない?」

ギャリッっと金属がこすれ合うような音に続く、左腕の解放感

夏凜の刀が銃剣から外れたと認識したときにはもう、夏凜の体は目前で

みぞおちに向かって肘が撃ち込まれる

芽吹「ッ!」

勇者に劣る防人とはいえ、それなりの正装をし身を固めていた芽吹だったが、

その一撃は装甲を抜けて生身を穿ち、弾かれるように芽吹の体は後ろへと吹き飛ぶ

視界の端に見える夏凜の体は打ち込んだ姿勢からゆっくりと戻っていく

踏み込んだ足元の地面は僅かに抉れているようにさえ、見えて

芽吹「……なるほど」

まだ三好夏凜の背中は遠いのだと芽吹は思った

そして、彼女が久遠天乃を救いたいという思いは

自分達が世界を救いたいという思いよりもはるかに強いのだと感じた

芽吹「もっとも……罪もない人々を犠牲にできる覚悟がある時点で、強いのは分かっていたけれど」

上手く受け身をとって体を起こした芽吹はゆっくりと歩きだして夏凜へと近づき、

亜耶から預かった神樹様の種が収められたものを手渡す

芽吹「手加減、したわね」

夏凜「斬ったら死ぬわよ。まぁ、強引に奪うって言うならそれも仕方がなかったかもしれないけど」


一撃決着、それで譲ってもらえるならと笑って見せた夏凜は、

確かに。と、神樹様の種を確認する

夏凜「力づくで奪えって言わなくて安心した」

芽吹「……結城さんが躊躇ってくれるなら、それも悪くなかったかもしれない」

自分たちから少し離れた場所で見守る友奈達へと目を向けながら、芽吹はそう零す

総力戦になったとしても、一部の勇者が躊躇い人数が減ってくれたりすれば

物量作戦で押し込むことができたかもしれない

あるいは、友奈或いは躊躇しそうな樹を抑え込んで退かせることもできたかもしれない

芽吹「けれど、結城さんはそんな様子は見せなかった。戦う覚悟を決めていた」

きっと犬吠埼さんも。

物量作戦で押し込むことは不可能だろうし、友奈や樹が躊躇してくれるなど夢のまた夢

そもそも……

芽吹「いずれにしても、私は譲るつもりだったわ」

夏凜「は?」

芽吹「どう転んでも世界の為になる。なら、久遠先輩を救った方がいいに決まってるって【人】である私は思うから」

それに。と

芽吹は少し躊躇ったような間をおいて夏凜を見ると声を潜める

芽吹「私は友人になりたかった。なんて、過去の話で終わらせるつもりはありませんから」

夏凜「それ、本人に言ってあげれば喜ぶでしょうに」

芽吹「自分であの人の友人にふさわしいと納得できるまで、何も言うつもりはないわ」


01~30 通常
31~50 1
51~70 2
71~90 1
91~00 3

↓1 コンマ判定

※戦闘難易度


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

戦闘難易度は通常の場合、楠芽吹は勇者であるにおけるスコーピオン戦
これに+3レベルの戦闘になります


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
戦闘からになるので、できれば明日は19時ころから


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「芽吹達も撤退するんでしょ?」

芽吹「ここにいてもできる事なんてないから」

夏凜「報告はどうすんの? 私達の予定通り力づくで奪われたってことにしてくれていいんだけど」

芽吹「正直に久遠先輩側に協力することにしたって報告するわ」

多少の厄介ごとに巻き込まれる可能性はあるが、

自分でそうした。という意思を誤魔化したくはない

たとえ保身に走る方が天乃の望みになるのだとしてもだ

芽吹「彼女を救う方が、結果的にこの世界の利益に繋がると私は思うから」

夏凜「さっきのが本心なら、それじゃ正直な報告にはならないんじゃないの?」

芽吹「どちらも本心ですから」

彼女の友人になりたいということも

彼女を救うべきであるという考えも。

芽吹「私は――」

風「夏凜、楠さん!」

自分なりの考えを夏凜へと語ろうとした瞬間、

叫ぶような風の呼び声が聞こえて、二人の意識が風達の方へと向かう

緊迫感のある声、手にした端末

それだけで察した夏凜が端末を取り出すと、惹かれたように芽吹ものぞき込む

画面に表示されるのは、簡素な周辺の地図に勇者たちの名前

そして――バーテックスの呼称だった


夏凜「っ……戦いに集まってきた?」

芽吹「勇者はこんな便利なものまで支給されているのね……」

少し羨ましそうなぼやきをこぼした芽吹だったが、

すぐに切り替えて周囲を見渡し、確認する。

灼熱のゆがみによる影響を加味しても、残骸などに紛れるようにして、

数体の星屑が飛来してきており、

出来損ないとは違う、確実に動くことのできるバーテックスの存在も確認できた

雀「め、メブー!」

芽吹「うろたえない! 今は勇者もいるのよ。望みはあるわ」

雀「じゃ、じゃぁ下がってても――」

夕海子「亜耶さんもいる事ですし、防人の一部隊は貸し出して下げた方がいいかと」

夏凜「一応、私達勇者が先行して戦うっていう形でも良いわよね? 芽吹達はあくまで防人なわけだからサポートを頼みたいのよ」

芽吹「この数を相手にできるの?」

勇者は今六人いるとはいえ、

端末の情報をあてにするなら、完成型のバーテックスが4体、加えて星屑が10体

勇者にとって星屑が取るに足らない存在なのだとしても、2人に付きバーテックスが1体と言うような状況で邪魔が入るのは辛いだろう

人類をはるかに凌駕する存在なのだ、3人は欲しいはずだと芽吹は思う


シズク「後ろはほかの部隊に俺達が前に出ればいいんじゃねぇか?」

風「それは危険すぎない?」

夏凜「そうはいっても私達も今は似たようなもんでしょ」

以前の勇者と違って、今の勇者を守ってくれる精霊の守りには限度がある

それを使い切ってしまったら生身に傷を負うことになるし、

満開も使えなくなってしまう

逆に満開を使っても守って貰えなくなってしまう

防人と比べれば少し頑丈というだけであって

有限である以上は夏凜が言うように大して変わらないのだ

風「問題は防人のみんながバーテックスとの対戦経験があるかどうかだけど」

芽吹「まともなバーテックスとの戦いは今回が初めてですね」

シズク「けど、こういう時の為に鍛錬を積んできた。だろ?」

夕海子「それに、この敵数では全員無事とはいかない可能性もありますわよ。芽吹さん」

芽吹「……そうね」

小さく息をついた芽吹はバーテックスを警戒しつつ、夏凜へと目を向ける

芽吹「三好さん、私は誰か一人でも欠けるような戦いにはしたくないわ。だから、私達にも協力させて」

夏凜「あんたねぇ……」


1、芽吹の部隊と協力して戦う
2、防人部隊は支援をメインに下がっていてもらう


↓2

マップ状況→【https://i.imgur.com/axwbKVU.png


マップ生成に時間がかかってしまいましたが、
本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば20時ころから


※戦闘は芽吹・夕海子・シズク・雀の楠部隊と協力します

※なお、HPが0になると防人及び勇者部は死にます
※勇者部は300以上のダメージおよび致命傷(クリティカル)または死亡する攻撃をすべて無効化(精霊の加護)します
※精霊の加護はMP20消費し、合計5回で完全消滅します。以後使用はできません
※満開をつかうと守って貰うことが出来なくなるので死亡確率が跳ね上がります
※楠部隊と隣接している場合にのみ、90%の確率で雀に守って貰えます


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「……わかった。協力して、芽吹」

芽吹「言われなくても協力するわ」

少なくとも彼女はそうするでしょう? と、

芽吹は嫌味を言うような栄を浮かべて、息を吐く

茶化してすぐに見開かれた瞳は大部隊のリーダー足るもので

芽吹「聞いてたわね? 私達は三好さん達と共にバーテックスを迎撃します。第二から第第五までの隊長は巫女を引き連れて撤退を進めてください」

雀「えぇぇっ~! 勇者様の足手纏いになっちゃうよ~!」

芽吹「雀、貴女なら大丈夫」

雀「で、でもでも~! 私なんか――」

樹「雀さん、私なんか。じゃなく、私だって。です」

自信なさげに泣き叫ぶ雀に向かって、樹は元気よく声をかける

この場で私なんかが、なんて言っていたって仕方がない

卑屈に泣いて喚いていたって何にもならない

樹「偶然でも、何かでも。意味があるからここにいるんです。私だから、ここにいるんです」

雀「うぅっ」

樹「出来ることがあるから、頼られているからここにいるんです。だから、出来ることを精一杯やりましょう」

雀「ま、守ってくれなきゃ死んじゃうんだからぁ~っ、守ってよぉ~っ!」


自分なら出来るとは言わなかったものの、

逃げ出そうとはせずに盾を握り締めた雀を一瞥した芽吹は、

少しだけ笑みを見せて、頷く

芽吹「シズクそれに弥勒さん、今回は指示に従ってください。じゃなければ、最悪死にます」

シズク「そりゃぁ……なぁ」

だんだんと近づいてくるバーッてクスを眺めてシズクは息を呑む

何度も戦う空想、鍛錬はしてきたつもりだが、

それでも実物の圧迫感はそれらの比にはならない

あくまで対人だった鍛錬と、化け物との戦い

違いがあるのは仕方がないことではあるのだが。

夕海子「承りましたわ。芽吹さん、全権をお譲りいたします」

芽吹「ありがとう。その代わり、絶対に死なせないわ」

、もちろん、と、繋ぐ

芽吹「貴女達も、勇者部のみなさん」

夏凜「つっても、倒さなきゃ結界にまでダメージが来るのよね」

ただ撤退するだけでいいなら問題はないが、

結界にまで近づかれた場合は樹海化が発生し巻き込まれる可能性も……

園子「待ってにぼっしーあえて樹海に連れ込むのはどうかな~?」

夏凜「ん? どういうこと?」


園子「樹海化が発生すれば、天さんの精霊が力を貸してくれる。その方が全員が助かる可能性があると思うんよ」

夏凜「それはそうだけど……神樹が耐えきれる?」

園子「その分の力はあると思う」

友奈「……千景さんたちがいてくれれば倒しきれると思う。それも安全に」

この遠征に力を借りてはいないが、

世界ひいては天乃を守るためともなれば力を貸してくれるだろう

引き連れて撤退したことには文句を言われるかもしれないが……

あるいは、命を大事に。を主に行動したならと受け入れて貰えるだろうか

友奈「でも、少しは戦わなきゃいけないと思う」

風「そうよねぇ。いずれにしても戦う必要がある。撤退戦の経験ないのはネックだわ」

芽吹「それならなおのこと私達も協力できると。この身一つの防人にとって、撤退戦は専売特許と言っても過言ではありませんから」

園子「どうするにぼっしー」

夏凜「…………」

出来得る限り迎撃をして神樹様の負担を軽減するか、

多少の負担を神樹様に背負ってもらうこと前提で撤退戦を行い、千景たちの協力を得るか

夏凜「確実に生き残れるのは後者か……」



1、撃退戦 ※通常通りの行動
2、撤退戦 ※行動範囲が神樹様側になります

↓2

※撤退戦の結果次第では神樹様の寿命等に影響があります


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

撤退戦を開始します。出来る限り迎撃しつつ、撤退を開始してください



樹「私なんて。じゃなく、私だって。です」

風(おおっ、樹が、樹があんなにも……)

風(帰ったら)

風(帰って、無事に天乃に種を届けたら)

風(樹にごちそうを作ってあげなきゃね)


すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日もできれば通常時間または少し早い時間から


では少しだけ


夏凜「なら、撤退するわよ」

風「そうするっきゃないわよねぇ、天乃がいなければ世界の為だ! とか言って居残るのもあるんだろうけど」

樹「久遠先輩がいなければ、まずここにきてなかったけどね」

天乃がいなければ。

きっと、仮初の平和に甘えてそこに浸っていたかもしれない

天乃がいない分、頑張らなかった自分たちが今以上の苦労をして

その療養に努めていたかもしれない

いずれにせよ、天乃がいて、今、自分たちはここにいるのだから

園子「帰るんよ。絶対に。投げ出していい命はここにはないよ」

東郷「そうね。生きて帰りましょう。帰ればまた、来られるのだから」

夏凜「…………ん」

夏凜は目前にまで迫ってきそうな敵の軍勢を前にして落ち着いた様子で瞼を閉じる。

防人の中には動揺する者もいる。今にも逃げ出そうというような者もいる

けれど勇者部の中にそんな者がいるはずもなく

その冷静さは防人の部隊全体に安心感さえ与えていて、

怯えてしまっていた子達も次第に落ち着いていくと、鎧の擦れ合う微かな雑音が止まった

夏凜「鳴りやんだ……ま、私達が殿を務めるわけだから安心して後退していくこと。下手に騒げばあんたたちの方に矛先が向くんだから」

「は、はいっ」

芽吹「余裕があれば銃剣隊は前方に一斉掃射、指揮は――」

東郷「砲撃指揮官は私が努めます」

芽吹「分かりました。任せます。銃剣隊は東郷さんの指示に従って行動してください」

銃剣隊の揃った返答に頷いた芽吹は大きく息を吸って、吐く

芽吹「ではこれより撤退を始めます! 各員行動開始!」


操作キャラは夏凜のみになります。
芽吹および夕海子、シズク、雀は【最前線に位置するキャラ】に隣接するような行動が基本になります。

撤退は全てのキャラが結界に到達するまで行い、全滅しきらない限り星屑が湧くので撤退のみに集中してください
ただし、芽吹以外の防人部隊を追い越しての撤退はできません。


1、移動する ※座標入力
2、必中(SP10)使用し、待機
3、必中(SP10)使用し、移動 ※再安価で移動先
4、待機
5、勇者部に撤退指示 ※勇者部は防人と3マス程度の距離を保って下がります
6、勇者部に同行指示 ※勇者部は夏凜の行動に合わせて動きます


↓2




マップ及び移動可能範囲※ピンクマス→【https://i.imgur.com/ETuHKDL.png


夏凜「風達は自由に行動して良いけど、撤退が基本で頼むわ。敵との戦いはあくまで迎撃。射程圏内に入った時だけにして」

友奈「バーテックスがどこから来るか分からないもんね……分かった」

風「あのー一応部長はアタシだからね?」

夏凜「勇者部は勇者部、勇者は勇者。それでいいでしょ」

東郷「戦闘に関しては夏凜ちゃんの方が上手ですから」

敵が来ているのにも関わらず、

他愛のない会話をするような雰囲気で話し合う勇者部は、

戦闘は射程圏内での迎撃のみに留めての撤退という方針を固めて、それぞれの行動に移っていく

芽吹「まったく……」

シズク「緊張感のないやつらだな」

芽吹「……だからこそ。彼女たちが勇者なのかもしれませんね」

シズク「ん? なにか言ったか?」

芽吹「いえ、私達も行動しましょう。勇者が同行してくれているとはいえ油断は禁物、各員警戒を怠らないで」

夕海子「勇者は勇者、防人は防人。ですわね」

シズクとは別の意味で戦闘を楽しめてしまいそうな勇者部の面々を一瞥した夕海子は、

その手に握る銃剣をよりしっかりと握りしめて、息を吐く

緊張はしていない、大丈夫だ

夕海子「ここで死ねば骨さえ残らない……弥勒夕海子。そのような失態は死んでもお断りしますわ」

雀「うぅぅぅ~みんなやる気がありすぎるよぉ~っ! 危ないんだよ~っ!」




操作キャラは夏凜のみになります。
芽吹および夕海子、シズク、雀は【最前線に位置するキャラ】に隣接するような行動が基本になります。

撤退は全てのキャラが結界に到達するまで行い、全滅しきらない限り星屑が湧くので撤退のみに集中してください
ただし、芽吹以外の防人部隊を追い越しての撤退はできません。


1、移動する ※座標入力
2、必中(SP10)使用し、待機
3、必中(SP10)使用し、移動 ※再安価で移動先
4、待機


↓2

※芽吹および夏凜以外の味方は移動済み
マップ及び移動可能範囲※ピンクマス→【https://i.imgur.com/DdasAmD.png


では移動を開始するところでここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


順調にいけば、現実時間2日ほどで撤退戦は終了することができます


では少しずつ


夏凜「私は防人の部隊がある方にまで下がるわ」

芽吹「そっちに敵が湧く可能性があるわね。任せます」

東郷がいる分安心感はあるが

それでも唐突に敵がわき出したとなれば陣形にも乱れが生じてくることだろう

もちろん、突然現れるなんてことがなければ十分ではあるけれど

ここは神樹様の守ってくださる範囲の外

敵に都合がよく自分たちには都合が悪いことが起きたとしても不思議ではない

夏凜「あんたたちは? 下がる?」

芽吹「武装の大きい犬吠埼先輩方のフォローに回ります。場合によっては足手まといになるかもしれませんが」

樹たちはともかく、風は剣が大きくひときわ目立つ

星屑やバーテックスが目で見て判断しているのかは不確かだけれど、

そこに集中して向かわれては流石の勇者でも撃退しきれないかもしれないのだ

芽吹「雀、行くわよ」

雀「守ってよ、絶対守ってよ!」

夕海子「守るのは雀さんの役割ですが……ふふっ、貴女のことは私たちが確実に守りますわ」

防人は勇者を、勇者は防人を

各々の力を分け合い、駆使し遭って身を固めつつ、撤退していく


夏凜「東郷!」

東郷「夏凜ちゃん、こっちに来て大丈夫なの?」

夏凜「撤退厳守、追撃はなしの迎撃のみ許可で下がるように言ってきたわ。それより、こっちは?」

東郷「この調子で順調に下がることができれば少なくとも巫女さんや沙織さん、防人の皆さんは無事に撤退出来るけれど……」

本当にそう簡単にうまくいくのか

上手くいったところで、呼び寄せたバーテックスが結界を傷つけることによって、

神樹様の寿命がさらに縮んでしまい、いろいろな弊害が起こることはないのか

東郷「っ」

不安が募る思考回路を乱して正すように首を振った東郷は、

銃剣を手にした防人の部隊、前方にいる友奈達の背中を見る

東郷「まずは友奈ちゃん達の援護を……っ」

近づいてくる星屑を長距離射撃用のスコープから見つめ、距離を測る

東郷「銃剣の射程はどのくらいですか?」

「あの距離はまだ届かないかと、ギリギリ牽制になればいいかな。という程度ですね」

東郷「……そう」

本来の銃剣も射程は百メートル程度しかなく、

神樹様の力を得ている防人の銃剣に関しても、

十倍以上の距離を狙い撃つような芸当は不可能らしい

それでは、今の敵との距離ではどうしようもない

それどころか、味方への誤射への危険性だけが伴う

東郷「ではこのまま撤退します。夏凜ちゃん、援護は出来る限りするけれど……お願いね」

夏凜「了解。ま、私もあんたたちの護衛みたいなもんだからすぐに下がるわ」

はにかんで見せる夏凜に頷き、東郷は防人の部隊とともに結界の方へと後退していく。

まずは防人と巫女を下がらせることが先決だった


経過 【https://i.imgur.com/4p1TRYu.png


夏凜「……さて」

ぞろぞろと軍隊のような動きで防人が下がっていくのを横目に見る夏凜は、

なんの気もなしに苦笑して息を吐く

多くても精霊を含めた9人程度の人数だった今までの戦い

それがこんなにも大人数で行動しているのだ

天乃が見たらなんというだろうか

何を思うだろうか

そんな無駄なことを考えてしまう

それだけ落ち着いているということなのだろうが

夏凜「安全に撤退出来てることにとりあえず安心するのが先かしらね……あいつのことだから私なら大丈夫とか言って突っ込みそうだけど」

その姿に呆れつつも、安堵の念を抱いてしまいそうな自分は、

まだまだ、天乃の強さには追い付くことが出来ていないのだろうと夏凜は思って

夏凜「なら、弱者は弱者なりに逃げに徹させてもらうとするわ」


1、移動する ※座標入力
2、必中(SP10)使用し、待機
3、必中(SP10)使用し、移動 ※再安価で移動先
4、待機



↓2


マップ及び移動可能範囲※ピンクマス→【https://i.imgur.com/wVMM7Zs.png


ではここまでとさせていただきます
明日も出来れば昼頃から


防人部隊は問題なく離脱出来るかと思います
後は勇者及び芽吹達の撤退になります


では遅くなりましたが、少しずつ


芽吹「三好さん? 何か問題があったの?」

夏凜「いや、むしろ全く問題なかった。あの調子ならあと少しで結界の中に戻っていけるみたいだから戻ってきたのよ」

芽吹「それなら三好さんも一緒に……というのは、流石に愚問ですね」

夏凜「幸い、あいつらの動きはトロいから巫女を気にしなければ絶対に追いつかれることはないわ」

夕海子「流石、経験者ですわね」

シズク「けど、そういうのってフラグって言うんじゃねーのか? 後ろから湧いて出てきたりするんじゃないのか?」

友奈「そうならないために、私達の端末には表示してくれる機能があるんです」

どこまで正確なのか、信用して良いのか

神樹様も限界が近い今となってはそこに疑問も生じ始めてきてしまうものだが、

そこを疑っても仕方がないことだ

友奈「それに、向こうには東郷さんがいてくれるから……きっと、大丈夫です」

奇襲を受け、崩壊して、大切な人を失った経験が東郷にはある

だからこそ、何か一つの事にすべてを委ねて警戒心を解くなんて言うことは殆どしないだろう

端末の情報を得つつ、自分でも索敵と警戒は行うはずだ

夏凜「だから向こうは平気、あんたたちは全力で下がんのよ」

芽吹「けれど、三好さんは?」

夏凜「言ったでしょ、殿は私達が務めるって」

夏凜は薄く笑って

夏凜「あとはあんたたちよ。芽吹」

急いで撤退しなさい。と、言う


芽吹「何言って――」

夏凜「あんたたちの方が足が遅いのよ。分かってるでしょ」

雀「わ、私じゃないよ!?」

夕海子「純粋な性能の差……というものですわね」

神樹様の力の一部を借り受けているとはいっても、防人と勇者ではその力に差がある

いくら芽吹達が鍛えていると言っても

勇者の撤退する速さに防人では追い付けない

逆に言ってしまえば、

バーテックスの早さや湧いてくる場所によっては芽吹達が囲まれてしまう可能性もあるということになる

夏凜「最初にもいったけど、あくまで迎撃するだけ。芽吹達に合わせてちゃんと下がるから心配しなくても平気」

芽吹「別に、三好さんの心配はしていませんよ」

夏凜「私じゃなくて天乃の心配してるってわけ?」

夏凜達に何かがあったら天乃が悲しむだとかどうとか

そんなことでも考えているのかと茶化すように言う夏凜に、

芽吹は呆れた表情で否定する

芽吹「難癖をつけられないか不安なだけです。特に……あの女性に」

夏凜「女性? 天乃?」

芽吹「いつもそばにいた肌の白い、赤い目をした人です。あの人だけは……正直に言ってバーテックスよりも恐ろしいと思います」


恐らく九尾のことだろうと察した夏凜と友奈は、困ったように眉をひそめる

天乃の害になるようなことは基本的にすることはないが

天乃に何かがあったとき、それを解決するためなら手段を択ばなかったりと、

天乃の為になる事ならば、望んでいないことでもやろうとするような怖さがある

それは人と精霊や妖怪の違いなのかもしれないが。

夏凜「とにかく、芽吹達は下がって。私達だって、死ぬわけにはいかないから」

友奈「ちゃんと帰りますから、安心して下がってください」

全員無事でなければいけない

出来るのならば、無傷が好ましい

バーテックスを前にして高望みかもしれないが

そうでなければ嫌だという我儘を言う人が待っているのだ

夏凜「友奈達も併せて下がる事、良い?」

友奈「う、うんっ。でも、すぐ後ろにいるからね」

動く友奈と、躊躇しながらも下がっていく芽吹達を横目に、

夏凜は気合を入れなおして、刀を握る


星屑→友奈 命中判定↓1 01~54 

さそり座→夏凜 命中判定↓2 01~32 01~10切り払い ぞろ目カウンター  


星屑→友奈 命中 47ダメージ
蠍座→夏凜 回避


夏凜「あくまで一直線に迫ってくるつもりなのね」

自分たちの陣地から撤退していけば途中で止まってくれる可能性も考えてはいたが、そんなはずもなかった

星屑もバーテックスもわき目も降らずに追いかけてくる

夏凜「……それだけの理由があるっての?」

神樹様の種を持って進出してきたことが原因なのか

神樹様関係なしに自分たちが壁の外にいるということ自体が問題なのか

夏凜「壁の外が云々って話ももしかし――っ」

おもむろに夏凜は身構え前を見据える

周りの世界もろとも覆い隠すような巨体を持つ蠍座の名前を冠するバーテックス

その針にはサソリらしく猛毒があるという

夏凜「………」

精霊の加護がある以上、聞くことはないが

攻撃を受ければ確実に作動し、力が奪われていくことだろう

その場合、数回攻撃を受けたら守られることは無くなり、終わりだ

夏凜「厄介な奴がいきなり来たわね……まぁ、私でよかった。とでもいうべきだわ」

今の勇者部だと、ブランクがあるとはいえ能力的には園子がトップかもしれないが

それでも積み重ねてきた努力はそれに匹敵しているという自負が夏凜にはある

それでも苦汁をなめさせられた相手はいたが、そのおかげでより多くの経験を積んできたのだ

夏凜「私はここよ、バーテックス! かかってこいッ!」

背後にいる守るべき者たちの元へは向かわせまいと、夏凜は声を張り上げた


蠍座から感じる殺意に似た何かはあるが、

目の前に近づいてなお、動く素振りを見せない不気味さと

いつ、どこから攻撃を仕掛けてくるかもわからない状況下での切らすことのできない集中

その分の疲労感を感じる夏凜は思わず息を呑んで奥歯をかみしめる

夏凜「……どこからくる」

攻めてくるのを待っているのか、隙を伺っているのか

その一瞬の思考の合間を狙い撃つように、夏凜の真横の火柱を鋭い針が貫く

夏凜「なッ」

蠍座の体はそれでも微動だにしていない

あくまで動かず尻尾だけを動かして夏凜の死角に隠し、

夏凜の集中が途切れた刹那、動かすという完璧に隙をついた一撃だった

しかし――

夏凜「ちょろいッ!」

夏凜はすぐさま前傾姿勢に切り替えると、

刀を斜めに構えて蠍座の針を受け流していく

砂浜での特訓は常に死角だった

砂や泥を投げつけられたり、人工的な砂嵐を起こされた状態での訓練だってあった

夏凜「本来は射手座の回転攻撃用だったけど……」

それでも死角からの攻撃になれている夏凜は、

人間の力とバーテックスの力との差に体勢こそ崩されたが、ギリギリのところで受け流す

夏凜「その程度の小細工、慣れっこなのよ」


戦闘途中ですが、少し中断とさせていただきます
再開は出来れば22時ころ


ではもう少しだけ


夏凜へとスコーピオン・バーテックスが攻撃を始めたのと同時に、

星屑が友奈へと迫っていた

友奈「ぁ……」

白くて丸い星屑の姿は灼熱の中では目に悪く、

ゆらゆらと泳ぐような蛇行が動きを予測させにくくする

星屑はバーテックスの幼体のようなものだと言っても、

その大きさは友奈よりもはるかに大きい

丸々と太ったその体が、回避することを諦め防御態勢をとった友奈へと突っ込む

友奈「ッ!」

突進はイノシシのように強烈で、鍛えていた友奈の体を容易に弾き飛ばす

友奈「ぁっ」

押しつぶされた体から空気が強引に引き抜かれ、口が開く

呼吸を寸断された苦しさと、身体の痛みに動きと思考が鈍る

だが、死ぬほどではない

致命的なダメージでもなく、運悪く柔術でコンクリートに叩きつけられたようなものでしかないのかもしれないし

あるいは、友奈が必要ないと思ったからかもしれないが

精霊によって守られることはなく、力の消費もせずに済んだ

それでも……

友奈「……はぁ……んっ、けほっ」

口の中には、鉄の味が鈍く広がっていった


夏凜「完全に接敵状態……」

このままいけば、風達も交戦状態に入ることになるだろう

もちろん、下がれば回避することが出来るかもしれないが

ぎりぎりで追撃を喰らう可能性もなくはない

だからと言って、この場で戦いを挑んでも倒しきれるのはせいぜい星屑くらい

星屑を相手している隙をついてバーテックスが芽吹達に攻撃を仕掛けるかもしれない

そうならなくても、自分たちの誰かが不意打ちを喰らって大変なことになるかもしれない

夏凜「あぁ……あいつがいなくなった時と一緒だわ。これ」

天乃が戦線離脱して初めのころ

あの後姿がないことに勇者部の誰もが不安を覚えた

なにかがあっても絶対に大丈夫だと、助けてくれると、何とかしてくれると。

そんな救済措置が失われた不安感と似たような感覚

夏凜「…………」

精霊が守ってくれるということにどれだけ依存し、無茶していたのかが身に染みてわかる

少しのミスが命取りになるなんてことは今まではなかった

多少やらかして、大けがすることはあっても死ぬことは絶対になかった

だが、今は死ぬのだ

その、恐怖が……嫌な事ばかりを考えさせる


1、移動する ※座標入力  ※敵と隣接する場合は戦闘有
2、必中(SP10)使用し、移動 ※再安価で移動先
3、蠍座と戦闘、のちに撤退 ※移動先座標入力


↓2


マップ及び移動可能範囲※ピンクマス→【https://i.imgur.com/bSIJD04.png


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から行いますが

場合によっては、明日と明後日の二日はお休みいただくことになるかもしれません


樹「園子さんっ、早く離れないと――」

園子「……いっつん、知ってる?」

園子「冒険物語で主人公が行う撤退戦には、セオリーがあるんよ」

樹「誰か助けに来てくれる。とかですか?」

園子「ううん」

園子「一回目は必ず、主人公が負ける」

園子「いっつんは一人でこのまま逃げて。私は……にぼっしーの援護に行ってくる」


では少しだけ


夏凜→蠍座 命中判定↓1  01~78  01~10、ぞろ目 CRT

友奈→星屑 命中判定↓2  01~95  01~10、ぞろ目 CRT

夏凜→蠍座 746ダメージ
友奈→星屑 980ダメージ 星屑討伐


友奈「はぁ……はぁ……」

バーテックスとはいえ星屑のたった一回の突進

想像していた以上の痛みの不安から余計に苦しくなっているだけなのかもしれないが

内臓が傷ついてしまったかのような痛みに、友奈は顔を顰めつつも荒々しく呼吸をする

オタマジャクシのように浮遊する姿は、何も知らない人から見れば愛らしく感じる事だろう

だが、友奈は歯を食いしばり、睨みつけ、こぶしを握る

友奈「っ……」

息を呑むと口の中に広がっていた血と唾液までもが流れ込んでくる

苦い、不味い

力んではいけないと分かっていても力んでしまいそうな不快感

友奈「……だめ」

基本的に迎撃のみで対処するべき

追撃や深追いは厳禁

友奈「帰るん、だから」

握りしめた拳を一度解いた友奈は深々と息を吐く

口元から血が滴り落ちる

息を吐き終えた肺が痛み、骨が軋む

それでも、もう一度こぶしを握り締めた友奈は迎撃の構えに切り替える

友奈「来るなら来いッ!」

向かってくるなら文字通り迎撃し、逃げるのならば追わないという意志を見せる友奈に

星屑はためらうことなく向かっていく


友奈「……まだ、まだ、まだ……」

天乃のように刀を具現化して扱うと言ったことが出来ればやりようもあるが、

友奈の武器は拳一つ

ゆえに、誰よりも敵との距離が近くなければいけない

だから普段なら相手の目論見を打ち砕く為にも、

不規則な動きでほんろうしながら距離を詰めていくのも友奈には必要なことだったし

鍛錬においては、それを重宝してきた

友奈「我慢、我慢、我慢」

しかし、今は飛び出すわけにはいかない

相手は星屑一体だけではない、どこから別の敵が現れるのかもわかったものではない

先手を相手に譲らなければならない専守防衛

友奈「……ふぅ」

星屑の白い巨体、開いた口のようなものが友奈を食い殺そうとその身をもって突っ込んでくる

その目の前で静かに息を吐き、目を閉じて集中する

そして――勢いよく左足を踏み出す

友奈「っッ!」

踏み込んだ反動を乗せた渾身の右ストレート

肉薄寸前まで来ていた星屑の体の抵抗力は思いのほか強く、右腕が吹き飛んでしまいそうな痛みを伴う

それでも

友奈「っは……ぅう゛」

歯を食いしばって――撃ち抜く


友奈「痛っ……うぅ……」

星屑の体を撃ち抜き、撃破した友奈の表情は喜びよりも痛みに引きつっていて

撃ち抜いた右腕を庇うようにしながら、足早にその場から下がっていく

友奈「帰る……帰るんだ……」

向かってくる強大な敵に対する恐怖心は当然ながら友奈にもある

ただ。

帰ることが出来ない恐ろしさ、悲しさ

それによってみんなが、天乃が道南てしまうのかという不安よりも勝るものはないというだけで

友奈「夏凜ちゃんがバーテックス本体と戦ってる……」

星屑と戦っただけで傷んだ体で何が出来るのか

それを考えた友奈は唇をかみしめて、首を振る

友奈「私なんかが、じゃない、私でも……」

痛みがあるとはいっても軽傷だ

精霊の力だって温存できている

なら、ここは援護しに行くべきだと、足を動かす

友奈「きっとみんないるはずだから」

友奈はそう呟いて、思わず笑い声をこぼした


夏凜は基本的に撤退をするべきだと言ったが、

自分はそう言いながら殿を務めて居座るような人を勇者部は知っている

そして、夏凜がその後継者のような立場を一生懸命に努めようとしていることも

皆は良く、知っているのだ

友奈「夏凜ちゃんはきっと、みんなが下がるまで下がろうとはしないよね……」

下がっても本当に少しずつ

皆よりも半分ほど遅れて下がっていこうとするだろう

友奈「そこは、久遠先輩と違う……かな」

天乃の場合は突っ込んで殲滅

そうできる力があるからではなく、自分一人なら。という考え方だからだ

もちろん、今は違うと信じたいが。

友奈「……やっぱり」

友奈の端末に表示された勇者部の立ち位置は、

しっかりと後退しながら、夏凜をカバーできるような場所に存在している

友奈「……あとで夏凜ちゃんに怒られちゃうかな」

あと久遠先輩に。

そんなことを呟き、友奈は急いで向かっていく


星屑→友奈 命中判定↓1  01~54  ぞろ目 CRT
乙女→友奈 命中判定↓2  01~76  ぞろ目 CRT
蠍座→夏凜 命中判定↓3  01~32 01~10切り払い ぞろ目カウンター 
星屑→園子 命中判定↓4  01~10  ぞろ目 カウンター 40~49 切り払い
星屑→園子 命中判定↓5  01~10  ぞろ目 カウンター 40~49 切り払い
魚座→園子 命中判定↓6  01~25  ぞろ目 CRT  35~44カウンター 71~80 切り払い


※判定なので複数参加可です


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から行いますが
今日行えた分、明日はお休みになるかと思います


現在の状況→【https://i.imgur.com/PjRLOVX.png


では、少しだけ



友奈 回避 94ダメージ

夏凜 回避

園子 10ダメージ 回避 回避


園子「…………」

風「ちょ、園子!? どこ行くの!?」

園子「風先輩はみんなと一緒に下がってください! 私はにぼっしーのところに行きます」

風「夏凜のところって……園子もかぁ」

園子「え?」

風「どうせ、夏凜が逃げようとしないだろうからって考えなんでしょ?」

呆れたように零した風は端末を確認して「やっぱりね」と呟く

友奈もそうだが、

夏凜もさっきまでいた場所からほとんど動いていない

明らかに被弾した危ない音が聞こえていない異常、動けないわけではないはずだ

だとしたら

風「……どうしてこうも、天乃に入れ込んだ奴は生き急ぐかねぇ」

園子「風先輩――」

風「んじゃ、せめて囲まれないようにカバーしに行くわよ」

全員で一か所に集まることも可能だが

そうなった場合囲まれて押しつぶされてしまう可能性がある

だからこそ、陣形を作る

風「アタシ達で防衛ラインを築くわよ。良いわね? 樹」

樹「う、うん」

こっそり裏を抜けようとしていた樹も立ち止まって、承諾する


園子「いっつんも……だから風先輩」

風「いや、アタシもだったし……友奈も、多分、東郷だってあのラインから後ろに下がる気はないわよ」

あと一歩下がれば結界の中に戻れるのに、

きっと、東郷は下がらずにみんなのことを援護しようとするだろう

沙織を含めた防人が下がった以上、

精霊達にはすぐにでも情報が伝えられ、援護に来てくれるはず

ならば、少しでも被害の軽減が出来るように安全圏からの援護を。とでも考えて

風「だから死に急ぐというか、生き急ぐというか」

まぁなんにせよ。と、風は苦笑いを浮かべる

風「全員一緒に戻るって言うのがすべての前提条件なんだから、そうするっきゃないわ」

精霊による守りによってなんどか死を回避できるだろうが、生傷は負う

それに関してはもう、諦める

園子「この状態での戦闘なら私が一番慣れてるから、外側は任せて欲しいんよ」

風「オッケー真ん中はアタシがカバーする。樹は少し下がってアタシ達の援護よろしく」

樹「任せて」

それぞれの役割を決めて、動く

全ては、全員で天乃の元へと戻るために


園子「……来たッ!」

バーテックスの一団はいつものように神樹様に直行するのではなく、

確実に勇者をつぶそうと囲むように動く

山羊座のバーテックスの巨躯が横を抜けていくのが目に見えたが、

その不意を突くように他の星屑や火柱の合間を縫ってきた星屑の突撃に阻まれ、山羊座への追撃を断念する

園子「向こうはわっしーが牽制してくれるはず……ならッ!」

一度目に味を占めたのか真横から差し迫る星屑を軽く躱し、

足場の奇妙な違和感から逃れるように跳躍した瞬間、魚座が地面をたたき割って姿を現す

園子「今はこっちに集中するッ」

たった4人しなかったあのころとは違う

皆がいる、みんなでカバーしあうことができる

装備だって、全盛期から劣っているとはいえ充実している

ならば、大丈夫。と

次の足場に着地してすぐ、軸足をけり出して駆け抜け、かく乱する

星屑の動きは本能的というべきか、獣のようだが、バーテックスは策を練って攻めてくる

同じ場所にいてはそれらが噛み合った瞬間に圧殺される可能性があるからだ

園子「……見ててね。ミノさん。今度は皆で――ちゃんと帰るよ!」


では短いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


行動選択は再開時に行う予定です


昨日は出来ませんでしたが、本日は少しだけ


夏凜「っ……芽吹は……」

蠍座と対峙している夏凜は振り返ろうとして、留まる

完成した形である蠍座のバーテックスから目を話すのは自殺行為に等しい

芽吹たちの安否は気になるところではあるが余裕がない

熱さか緊張からか汗が頬を伝う

握る刀は勇者の力なのに、頼りなく感じてしまう

夏凜「……落ち着け」

口ではそういいながら、深呼吸もため息もだせない

常に監視されているような感覚を夏凜は感じていた

夏凜「最後に確認した段階で、芽吹は結界に隣接しかかってた。東郷も同じ……で、友奈達は私の周りに」

戦いの火蓋が切って落とされた音を耳にしていた夏凜は、

ほんと、ばかばっか。と、少し呆れたように呟く

夏凜「私が下がればあいつらは下がってくれる?」

それとも下がっても下がらない? みんな下がると信じて下がる?

夏凜「天乃なら……あいつなら、どう動く?」


天乃が単独で出て行った場合、みんなも後を追いかけるようにして展開するだろうか?

全盛期だったら、むしろ足手まといになるからと避けたことだろう

しかし、後々の状況で出撃し、その際にこれと同じような状況に至った場合、みんなは今回のように出ていくはずだと夏凜は思う

その時、あとは下がればクリアの場合、天乃は下がるだろうか?

夏凜「……今の天乃なら、絶対に下がる」

自分で無理するよりも、みんなで一致団結してというのが天乃の今の考え方だ

であれば、下がる

しかし、天乃を引き継ぐように飛び出し撤退をしていない勇者部はどう考えるか、どう動くかは不明瞭だった

夏凜「私は? 私ならどうする?」

まずは悩む。考える

みんなはどうするのだろうかと

そして、今すべきことは何なのか

夏凜「自分が残れば周りは助かるはず。でも、自分は被害者になるかもしれない」

ある意味では、加害者になる

夏凜「…………」


1、結界外まで全力撤退
2、その場にとどまる


↓2


夏凜「撤退……ね」

みんなを信じているとはいえ、これはある意味一か八かの賭けだった

真逆の考えを持つ可能性は少なからずあるし、

それを考え裏を読んだ行動に移る可能性も十分にある

人間なのだから当然だ。

その場合は一部撤退、一部残留の地獄絵図になることだろう

しかし、それでも夏凜が撤退を決意したのには理由があった

一つは、最初に命令した「撤退優先」というものがあること

一つは、自信があってもそれは決して慢心ではないこと

一つは、ここに天乃が存在していないこと

夏凜「それと……全員の足並みがそろってるってこと」

夏凜は撤退しろと言いつつ、その場にとどまるような動きをした

なのに、全員がそれに合わせるように動いてきたのだ

それはある意味、夏凜=勇者部と言っても過言ではない

全員が撤退可能圏内、護衛対象は離脱済み

それゆえに

夏凜「この場に居座る意味も義理もないってことよ!」

夏凜は蠍座の動きを警戒しつつ、一瞬の間をおいて身を翻し全力で逃走を図る

二つ手前に足場にした部分が抉られるような爆音が響く

夏凜「振り返るな――走れぇッ!」

自分に、そして確実に周りにいる勇者部へと、夏凜は声の限り叫んだ


では遅くなりましたが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から


夏凜「振り返るな――走れッ!」

風「夏凜、ラストスパートをかけました!」

園子「おぉ~っ、このペースなら放送時間内に間に合うかも~」

東郷「……良い走りだわ。夏凜ちゃん」

友奈「振付あったかな……あっ、手を振ればいいかな? ゴールテープは結界だよね?」

樹「えっ、歌うんですか?」


では遅くなりましたが少しだけ


東郷→星屑 CRT判定 ↓1  ぞろ目 01~10 81~85


園子「みんなーっ! 下がるよ~ッ!」

視界の端に見える蠍座が獲物を追うような動きを見せた瞬間、園子が声を張り上げた

園子「……にぼっしー、下がってくれてよかった」

夏凜が推測したように園子たちも次の動きを悩んでいたのだ

逃げるか残るか

勇者部内部でかみ合わなかった場合、押しつぶされてしまう

だから園子は夏凜のうごきを待ってから動こうと考えたのだ

言い方は悪いが、友奈も無鉄砲に対応しようとしてしまう節があるが

夏凜は天乃の代理を務めようとしすぎる分、友奈以上にその場その場でギリギリの行動に出る可能性が高いと園子は思っていた

天乃を反面教師とする一方、

天乃の願いである全員が無事であることを叶えるためには多少の被害は免れないという考えがあり、

それならば……という覚悟が夏凜にはあるからだ

そこにはきっと、友奈達とは違って勇者になるべく鍛えてきたというものがあるのだろう

風「樹! 二人は?」

樹「大丈夫、友奈さんと夏凜さんも下がってる!」

風と園子より先を行き、安全圏にいる樹は端末を確認して、二人の安否を探る

友奈と夏凜の名前はマップ上で徐々に後退していく動きを見せてはいるが、

それを追って、星屑やバーテックスもまた少しずつ迫っていく

樹「でも、このままじゃ友奈さんが危ない」


まっ正面から対峙していた夏凜や、

樹や風の援護を受けることもできる園子とは違い

友奈は単独で囲まれかけている

しかし……

風「こっから援護には行けないわよ……?」

樹「そうだよね……」

全員で友奈の援護に向かうとなると、固まることになるため、

バーテックスに対する防衛網が崩れる上に、囲まれてしまう可能性がある

それを危惧する犬吠埼姉妹の間を、園子が真っ直ぐ抜けていく

まるで振り返ろうともしない園子の動きに、風は声をかけた

風「ちょっ、園子! 友奈は――」

園子「わっしーがいるから平気……絶対、わっしーならゆーゆを助けてくれる」

風に対して振り返ることもなく園子は答える

自信と信頼に満ち満ちた返答に、樹と風は顔を見合わせて……頷く

東郷はすでに安全圏に到達しており、最も冷静な判断が出来る立ち位置にいる

ならば、誰を援護するべきがどう動くべきかを的確に判断し行動できるはずで

風「東郷なら、友奈が一番危険だって察しが付くか」

そうでなくとも、天乃と同じく大切に思っている親友のことなのだ

絶対に放っておくわけがなかった


園子達からの強い信頼を得ていることなど露知らず、

東郷は自分が今扱うことのできる最長距離射程を持つ銃のスコープを除きながら、待機していた

夏凜、友奈、風、樹、園子

全員をそれぞれ一定時間で覗き、援護すべき対象を探す

東郷「はぁ……」

安全圏であるとはいえ、一瞬も目を離せない状況であり、

体を伏せ、いつでも狙撃できる構えは豊満な体型である東郷には余計に辛いのだろう

疲れの見えるため息を吐く

東郷「……夏凜ちゃんが動いた」

結界に向かって退避してくるのを確認し、園子達へと射線を変える

風と樹、園子も問題なく退避している中

星屑に加え、狙撃を可能とする乙女座に囲まれるような形になっている友奈の動きは危うい

東郷「怪我、してるから……」

生身での星屑の一撃は相当に体の負担となっているらしい

東郷「そのまま動いて、友奈ちゃん」

余裕があるのなら連絡をして打ち合わせをするところだが、

今の友奈にそんな隙を作らせたら一瞬で大惨事になると考えた東郷は、

あえて連絡せずに、狙いを定めていく


東郷「邪魔になるのは……星屑ね」

乙女座には大してダメージを与えることはできないというのもそうだが、

星屑は友奈に攻撃を仕掛けるというよりも、

周りをうろついて警戒させ、乙女座の攻撃を死角に置こうとしているような動きをしているように感じたのだ

現に、スコープから見える友奈の動きは星屑8割、乙女座2割の警戒割合になっている

一番近くにいる敵を警戒するのは当然で、こればかりは仕方がないことだと言っても良い

東郷「だから……私がここにいる」

散々言われてきたことだ

機動力に欠け、なおかつ遠距離での戦闘が可能な自分は【味方の二つ目の武器】だと

逃げる足がないなら、逃げる必要のない場所にいればいい

皆が最前線にいる中、最後尾にいることは決してずるいことでも楽な仕事でもない

最前線のみんなは自分と隣接する仲間だけを気にかければカバーしきれるが、

最後尾の東郷だけは、一人で自分を含めた全員を常に気にかけている必要があるから

東郷「……広い視野が必要だと痛感したあの出来事があったからこそ。今の自分がここにいる」

もう繰り返さない、もう失わない、失わせない

思いと覚悟でグリップを握り、東郷はトリガーを引く

友奈の動き、星屑の動き

それらをぎりぎりまで観察してからの正確無比な一撃は友奈を翻弄する星屑を確実に打ち貫き、崩壊させる

東郷「命中……友奈ちゃん、援護するから、走って」

吹き飛んだ星屑に気づいた友奈の目が自分へと向けられたのを感じながら、東郷は聞こえない声で呟く

東郷の援護で危機を脱した友奈を含め、勇者部全員が結界の中へと逃げ込むのと同時に、バーテックスが結界へと接触し、弾かれる

本当に、ギリギリの撤退戦は多少の友奈の負傷の身に留めて、成功することができたのだった


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


撤退完了、負傷は軽傷の友奈のみ


では、少しだけ


夏凜「なんとか、戻ってこれたわね」

結界の中に入った瞬間、全員が悪夢から覚めたかのような平穏な景色を前に安堵を込めたため息を吐くと

友奈「ぁ、れ?」

バーテックスとの戦いにおいては軽傷と言える状態の友奈が変身を解く間もなく崩れるように倒れ込む

東郷「友奈ちゃん!」

友奈「疲れ、ちゃった……」

友奈は今までも重傷を負うことがあり、

吐血してしまうほどの痛々しさは天乃を含めれば嫌でも見慣れてしまっている

だからと言って安心は出来ないと、すぐに救急車を呼ぶ

本来なら大赦の霊的医療班を呼ぶところだが、反抗した結果の負傷にかんして快く思わないだろうと、避けるしかなかったのだ

東郷「友奈ちゃん、苦しくない?」

友奈「ちょっと、疲れちゃっただけだから大丈夫だよ」

風「神樹様が弱ってるから回復が追い付いていないのかもしれないわね」

夏凜「いや……多分だけど、天乃の穢れを引き受けたことも原因の一つだと思うわ」

天乃の体の中で反発しているのと同じように

一度穢れを通したことで外見的には変化がなくても霊的な部分で変化が生じたのかもしれない

九尾に聞けばはっきりとするだろうか

夏凜「とにかく、ここなら安全だから安静にしてなさいよ? 天乃に怒られるのはまぁ……しゃーない」


友奈「ごめんね、油断しちゃったから」

樹「でも軽傷で済んで良かったです」

解放骨折のような外見も酷い状況を経験したことがあるため、

痛みや苦しさも軽く、吐血も収まっている友奈は比較的軽傷だと樹は思い、

そ判断できてしまう自分に、ほんの少しだけ成長とは違う変化を感じて苦笑いを浮かべる

園子「いっつん? どうかした?」

樹「いえ、なんでもないです。ただ、いい意味でも悪い意味でも変わったなぁって思っちゃって」

ある意味では頼もしく、ある意味では恐ろしい

そんな変化だと樹は言う

樹「ほんの少しの怪我じゃ驚くとか、そう言うのが全然なくなってきて……強くなれたなぁって思うのと、なんというか、わからなくなっちゃうような感じがして」

東郷「感覚が麻痺するというのはあるわね。辛い物に馴染みすぎて激辛も辛く感じないような」

夏凜「そう感じるうちはまだ大丈夫でしょ。それに、必ず誰かが止めるわよ」

自分の体の痛み、苦しみと限界

それが分からなくなって、無茶と言いながら無理をしすぎてしまうと言った不安を感じる樹に、

夏凜は諭すように答える

園子「少なくとも、天さんは許さないんよ」

いち早く察知して止めにかかるだろう名前を出し、園子は辺りを見渡す

園子「ん……ぶっきー達がこっちに向かってきてる」

夏凜「そのまま解散してくれれば話は早かったんだけど」

東郷「ふふっ。久遠先輩の意思を継ごうとしているのなら、そんな判断は出来ないわね」


芽吹「良かった……結城さんも大丈夫なんですね?」

風「多少内臓は傷ついてるっぽいけど、下手に動いたりしなければ大丈夫よ」

芽吹「……では、絶対安静で」

駆け付けた芽吹達は東郷の膝で目を瞑る友奈に驚いたが、

一応の説明を受けてなお、やや訝し気に承諾して頷く

下手にそんなはずがないと声を上げても、利点は見られなかったからだ

夕海子「勇者様は特別な力で守られていると伺いましたが……決して絶対安全というわけではないのですわね」

以前、映像で見たこともあるが

実際にこうして目の当たりにしてみるとその痛々しさがより鮮明に感じられて、夕海子は眉を顰める

装備の違いがある分、勇者は完成型のバーテックスと戦わなければならない

装備の違いがある分、防人は未完成のバーテックスである星屑との戦いで許される

夕海子「けして、楽に上げられる戦果などありませんか」

芽吹「それじゃ、私達は大赦への報告の為に一旦戻ります」

夏凜「真っ直ぐ戻ってよかったのに」

芽吹「三好さんがあんなことしたり言ったりしなければ戻れていましたが」

夏凜「……ったく」

芽吹の嫌味な一言を鼻で笑った夏凜は、

あんたもやっぱ、変わったわね。と、どこか嬉しそうに呟く

夏凜「今のあんたなら、私の代わりに勇者になれるかもしれないわね」

芽吹「お断りするわ。勇者の代わりはいても、貴女の代わりになることはほかのだれにも出来ないわ」

だから、あんな無茶はしない方がいい。と

芽吹は忠告をして、報告の為にゴールドタワーへと帰還していくのだった


ではここまでとさせていただきます。
明日もできれば通常時間から



夏凜「今のあんたならなれるかもしれないわよ。天乃の恋人に」

芽吹「そんな余裕を見せて平気?」

芽吹「私はなり上がるために努力をしてきたのよ。当然、そう言うテクニックも学び、身につけた」

芽吹「だから……久遠先輩は私でしか満足できなくなるかもしれないわよ?」

風「マジ?」

夕海子「芽吹さんは私が鍛えましたわ」

シズク「ドヤ顔で嘘つくのやめろ」


では少しだけ


√ 11月08日目 夕 (病院) ※月曜日


「これで検査は終了です、お疲れさまでした」

夏凜「どうも」

友奈が救急車で搬送され、追うように瞳の車で病院へと戻った夏凜達は、

芽吹達の報告かもともと観測されていたりしたのかは定かではないが、待ち受けていた医療班の検査を受けたのだ

夏凜や風、東郷達の体には異常はないが、

友奈は外傷のほか内部に命に別状はないけれど、肺や胃の部分にダメージがあったとのことで、入院が確定したらしい

幸いなのは、集中治療室に行く必要はなく、安静にしていれば治る程度のものだった。というところだろう

風「とはいえ、再入院かぁ……」

自分たちの名前が書かれた病室の前にたたずむ夏凜達は、

困ったように呟く風に同意して、頷く

友奈は治療を受けたのちにベッドへと運ばれてくる予定で、夏凜達は先に病室へと戻る……のだが。

園子「天さんは多分、怒るよりも無事だったことを喜んでくれるとは思うんよ」

風「それはね。でも、絶対嬉し悲しい顔するわよ」

夏凜「こういう時、大赦が勝手に報告しておいてくれると助かるって思わずにはいられないわ」

樹「でも、悪い報告だからこそ自分でちゃんと話したいとも思います」

夏凜「……解ってる。何となく言っただけ」


いわれてやんのーとちょっぴり煽るような風の視線を視界の外に放置し、

病室の扉に触れる

園子「にぼっしーだけで話す? みんなで行く?」

夏凜「全員で辛気臭い顔して会いに行ったってしゃーないんじゃない?」

そもそも今回のこと考えたのは私だしね。と

夏凜は自分が代表者として説明するのだという

目的は達成したし、被害も友奈の軽傷で済んだ

称賛されることではないという自覚はあるが、委縮することでもないと夏凜は息を吐く

それでも、無茶をするしかなかったという後ろめたさはあって

夏凜「ま、逃げたって仕方がない」

意を決して扉を叩くと、

いつもとは少し違う天乃の返事が聞こえて「帰ったわよ」と声をかける

天乃「入って平気よ」

夏凜の声を聴いても変わらない声質に、

なんとなく色々分かっているんだろうと感じた夏凜は風達へと振り返り

友奈の事頼むわ。とだけ伝え、病室へと入っていく


天乃はいつものように上半身を起こしただけの姿勢で

退屈さを感じる表情で窓の外を眺めていた

夏凜「天乃、ただいま」

天乃「お帰りなさい。怪我は……なかった。みたいね」

夏凜「私達はね……ただ、友奈はちょっと怪我したわ。幸い軽傷で済んだんだけど……一応、入院することにはなるって」

天乃「友奈のことがあったから、そんな他人行儀なの?」

無茶をした後ろめたさ

友奈の怪我が、自分のあの行動の結果である可能性もあるという罪悪感

それらがある夏凜にとって天乃の不思議な冷静さは、不安だった

天乃「友奈は軽傷で済んだんでしょう? 二年前と似たような状態の戦いで、たったそれだけで済んだんでしょう?」

なら決して悪い結果ではなかったんじゃない? と天乃は笑みを浮かべる

本来の目的だった神樹様の取得

それの成否さえ聞いてもいないのに、結果は悪くなかったと天乃は考えているのだ

天乃「こう言うと、貴女は怒るかもしれないけれど私にとっては神樹様の種なんかよりも貴女達の方が大切だから」

それが自分の命を助けるためのものであるのだとしても

天乃にとっての優先度は勇者部が上で、神樹様の種が下なのだ

天乃「友奈は入院が必要だけど、軽傷。みんなは無事で帰ってきてくれた。私はそれで十分よ」

だからそんな謝りに来た子供みたいな顔しなくて良いから

自信たっぷりに今回の成果を語ってくれていいから。と、天乃は促して。

天乃「それで、楠さんはどうだった? 譲ってくれた? 争うことになっちゃった? これが一番知りたいわ」

夏凜「っ」

自分の命を救う手段が手に入ったかの確認なんかよりも、みんなの安否と芽吹達との関係

そっちを優先させる天乃に、夏凜は何かを言いたげに口を開いて、閉じる



1、譲ってくれたわよ。ケジメとして一騎打ちはしたけど
2、あいつ、あんたと友達になりたいとか言ってたわよ
3、あんた、ほんと……調子狂わせる奴だわ
4、天乃。あんたはそう言うけど……それでも、悪かったわ。無茶をしたことは謝る


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「譲っては頂けたのですが……それを条件に、久遠先輩を一日好きにさせろ。と」

天乃「それはまた、楠さんも変な条件を提示してきたわね」

東郷「いえ、それが……防人全員で久遠先輩を弄びたい。と」

天乃「えっ」

シズク「卑劣……ッ! 勇者とは思えないほど卑劣な嘘だ……ッ!」

風「あー天乃なら冗談だって分かるから平気よ。うん」

樹(久遠先輩の場合、会った時に直接聞きそうだけどね……したいの? って)


ではh、少しだけ


夏凜「譲ってくれたわよ。まぁ……ケジメとしての一騎打ちはやったけど」

天乃「その様子だと、夏凜が勝ったのね」

自信を感じ、勝利の喜びが垣間見える夏凜の表情に天乃は勝敗を悟って口を挟む

芽吹と夏凜には多少の因縁がある

前回の一騎打ちに続いてまたしても敗れたとなれば、

芽吹にとっていい刺激になるだろうし、

夏凜だって、今回の一騎打ちで得られたものがあるはずだ

天乃「でも、浮ついた気持ちでいたら駄目よ? 勝者は追われるものであるという自覚がないと」

夏凜「それがなさそうなあんたに言われてもねぇ」

天乃「私はもうご隠居さんなの」

くすくすとからかうように笑って天乃は言う

だが、夏凜はそれでも天乃を前に見る

夏凜「隠居は隠居でも、山奥の仙人とか、森奥の忍者とかそう言うあれでしょ。あんたは」

妊娠しているから力が抑え込まれただけ

そうやって力を封じられた強力な存在だ

夏凜「勇者部のトップにいるって自覚ある?」

天乃「申し訳ないけれど、普通に戦って夏凜達に勝てるって自信はないわ」

夏凜「ブランクがありすぎる?」

天乃「それもあるけど、私の分までって頑張ってくれてるじゃない? だから、差はほとんどないんじゃないかなって思うのよ」


バーテックスに対してで言えば

穢れの力をより強く扱える天乃が一歩先に出ているのかもしれない

しかし対人戦に関しては、

今も夏凜に勝てるのかどうかは分からなかった

それほど、衰えた

それほど、何もすることが出来なかった

天乃「ごめんね。勝ち逃げするみたいな感じで」

両足が動かせない状況であったとはいえ

その状態での全力に近い力で叩き伏せた天乃と敗北した夏凜

芽吹のように、リベンジをすることはできないのだ

夏凜「でもコイツを使って何とかすればそれも叶うかもしんない」

天乃「それが、神樹様の種?」

不思議な輝きを放つ神樹様の種

自分の命を救ってくれるかもしれない光を前にして、天乃は感慨深そうな笑みを浮かべる

天乃「ありがとね。私……ん」

首を振る

それはけして言ってはいけない言葉だ

天乃「私の為に」

夏凜「苦労……は、あんましなかったわ。芽吹が協力的だったし」

撤退戦をすることになったが、

あれは入手後の話だから無関係だと夏凜は斬り捨てた


夏凜「それで。あんたの方は何かあったの?」

天乃「私の方は特に何もなかったわよ? 至って平和だったわ」

懸念してた大赦の訪問も何もなく、

気遣いなく口にしてしまうのならば退屈だと零しかねないほどに。と

天乃は少し困ったように言う

天乃「楠さん達の報告を聞いて、向こうがどう動くか。よね」

これから世界はより厳しい状況に陥っていくことだろう

その解決を勇者部に押し付けてくるというと言い方は悪いかもしれないが

頼ってくる可能性は高いし、

力を継承する久遠家に委ねることもあり得ない話ではない

天乃「どうなるのかしらね、ほんと」

夏凜「……でも、あんた何もなかったならなんで不問なのよ」

天乃「うん?」

夏凜「いや……」

別に掘り返すことでもなかったんじゃないかと言ってから思って、

取り消そうかと逡巡した夏凜はなんとなく目を逸らす

夏凜「これじゃ、まるで怒られたいみたいなんだけど……」

天乃「怒られたい? なんで?」

夏凜「怒られたいわけじゃないっての」


勘違いしないでよと語気を強めて言った夏凜は、

やっぱり藪蛇だったかもと後悔しつつ、口を開く

夏凜「軽傷で済んだとはいえ、結構無理したようなもんでしょ?」

天乃「そうね」

夏凜「いつものあんたなら、無茶しないでって言ったのにとか。言ってきたから……」

天乃「姑みたいに口うるさく? 脱ぎ散らかす夫に対する妻の愚痴みたいに?」

夏凜「…………」

天乃「…………」

冗談めかして言った天乃は、

意外に夏凜が不安を感じているように見えて、すぐに茶化すのを取りやめる

天乃「なにかあったわけじゃないわよ? 今回は、私が送り出したからってだけ」

夏凜「送り出しただけって、でもあんたは――」

天乃「私の為に無茶をしてきてって。危ないことしてきてって。だから、咎めるとか、怒るとか。そういうことをする理由はないのよ」

むしろ。と、天乃は優しく夏凜を見上げる

天乃「ありがとうって、言うべきでしょう?」

無茶をしてくれたこと

それでも軽傷で済み、無事だと言える被害で帰ってきてくれたことに


天乃「子供らしくない。かしら?」

いい意味でも悪い意味でも悟りすぎて

感情的になるべき場面でも控えめで

大人の対応と言われるような理性的な対応をする

天乃「友奈が怪我したことだって、心の中では凄く複雑で、ごめんねって、言いたい気持ちもあるの」

けれど、

無茶をしてきてと言った自分が、その通りに頑張って成し遂げてくれた相手に

ありがとうというよりも先にごめんねと言うのは何かが違うと思ってしまう

天乃「正直、分からないのよ」

夏凜「天乃?」

天乃「我儘で送り出したのに、帰ってきた後でまで我儘みたいな……自分勝手な事言っていいのかどうかとか」

冗談や空気を和ませるための一言であったとしても

躊躇ってしまうのだと天乃は苦笑いを浮かべる

天乃の今までの経験が、今まで経験してこなかったことが、

自分は勇者部に対してこうあるべきだというレールを敷き、その通りの反応をしてしまう

それが俗に言う、子供らしくない、大人びた言動であるのだとしてもだ

天乃「まさか、それで夏凜を不安にさせるとは思わなかったわ。でも、思えば確かに違和感があったわよね」

ごめんなさい。そう続けそうな口を天乃は閉ざすと笑みをこぼす


1、余計なこと言って悪かったわ。あんたの対応は別におかしくないって言うか、普通に当然っぽいわ
2、良いわよ別に、問題が問題だから何かあったか勘ぐっちゃっただけだし。それに、あんたは十分子供っぽい所あるから
3、正直、もうちょっと嬉しそうな天乃を見たかったって気持ちがないわけじゃない……っていうか、見たかった
4、なんて言うか、他人の事は分かんのに、自分はどうするかって考えると急にわけわからなくなるわよね
5、そういうときはお疲れ様。お風呂かご飯か私かって聞いておけば全部解決するかもしんないわよ?
6、あんたらしいっちゃらしいわ。無駄なとこで悩んで変な方向に行く辺りが

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



天乃「お疲れ様。お風呂にする? ご飯にする? それとも……私?」

東郷「お風呂で久遠先輩を頂きます!」

天乃「えっ」

風「でたッ! 裏メニューの欲張りセット!」ガタッ

園子「いつから自分が夜食ではないと勘違いしていた?」

樹「助けて友奈さんッ! もうツッコミは友奈さんしかいないんですッ!」


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「…………」

ここでこそ、大人みたいな達観した諭す言葉が必要なのではないかと思う

互いに納得できる妥協案のようなものが。

しかし、夏凜にはまだそんな考えをすることは容易ではなくて

手にした数々の小説の中の一文から適した台詞でも引き出そうと模索する

だが、それもやっぱり簡単ではなくて。

夏凜は逡巡して、眉を顰める

夏凜「そういうときはお疲れ様。お風呂かご飯か私かって聞いておけば全部解決するかもしんないわよ?」

天乃「なぁに? それ」

夏凜「友奈達にとってはある意味でご褒美になるし、ねぎらいにもなるし。ちょうどいい塩梅だと思うけど」

冗談みたいな話……というよりも冗談半分なのだが。

みんなに対する償いや謝礼であり、頑張ったことへのご褒美にもなる

ごめんなさいか、ありがとう

どちらを言うべきか迷うくらいならどちらともとれるようなことを言えばいい

それに対する相手の反応で何を言うべきかを決めればいい

夏凜「本当なら、頑張ってくれてありがとうとかでも良いんだけど。あんたの心情的にはそれじゃすまないんでしょ?」

面倒くさい性格だわ。と

皮肉ぶって言い放った夏凜は髪を掻きながら、ちらりと天乃を見る

頑張ってくれてありがとうと思いつつ、無茶させてごめんねとも思う

そんな不憫な性格は治そうとしても、きっと簡単には治らない

夏凜「正直、あんたが謝ると誰も幸せにならないのよ」


天乃「…………」

夏凜「分かるでしょ? あんたの為に頑張った結果、あんたに謝られる。なんのために頑張ったのか分かんなくなるっての」

呆れたように言う夏凜が決して怒っているわけではないと天乃は感じて、頷く

天乃だって、わざとそう言う考え方をしていいるわけではないし

そうしようと思ってそうなっているわけでもない

むしろ、以前の天乃なら考える間でもなく罪悪感に押し負けて謝罪を口にしていたであろう状況で

礼を述べることも考えたのだから、良い方だろう

夏凜「だからまぁ。そこで悩むくらいならちょっとふざけた感じでさっき言ったこと言ってみんのよ」

そう言った夏凜は小さく咳払いすると

辺りを見渡し、病室の中には自分と天乃しかいないことを再三確認する

ほんのりと染まった頬が、気恥ずかしさを表していた

夏凜「お疲れ様。お風呂にする? ご飯にする? それとも、私?」

天乃「えっと……」

少しだけ体を斜めに逸らして対面にはならず

それでいて横目でちらちらと天乃を見ながら、夏凜はそんなことを口にして頬を掻く

天乃「ご飯……?」

夏凜「はぁ」

天乃「え、なに? 駄目なの?」

夏凜「なんでもない! 汗臭いからさっさと着替えてきなさいよ。この馬鹿!」

そうかしら? と不安げに自分の襟首を引っ張る天乃に対して、夏凜は「シュミレーションだから」と遮る

ついついからかうつもりで余計なことも言ってはみたものの

園子たちとはやはり違って、冗談が長引くのは難しかったらしい


夏凜「ちなみに、あんたこのセリフの意味は分かってんのよね?」

天乃「そのくらい分かってるから大丈夫よ」

流石にね。と付け加えて笑みを浮かべる天乃を見る夏凜は死腰だけ、不安になった

もちろん、シリアスな悩みによるものではなく

天乃がそんなことを言い出したら、ほとんどがご飯もお風呂も飛ばして本来冗談である天乃を頂こうとするような気がしたからだ

夏凜「樹と友奈は……平気よね? 風もああ見えてまぁ……」

冗談だと分かっているだろうから天乃を頂く素振りを見せるくらいでとどまってくれるだろう

園子も同じように……行く。と信じたいが

今まで散々我慢されてきた園子が我慢してくれる可能性は意外と低いと夏凜は悩む

天乃「もしも私が良いって言うなら、負担がかからない程度にお願いしないとね」

夏凜「冗談だっていう気はないのね」

天乃「誘っておいて冗談だなんて可哀想でしょ?」

天乃は何言ってるのと言いたげな表情を見せ、夏凜は不満げに顔を顰めたが

軽く息を吐いて神樹様の種をもう一度見せる

夏凜「夜には全員ここに戻ってこられるだろうし、そしたら改めてこれについて話しましょ」

どう扱うのか、いつ決行するのか

大赦が後々干渉してくることは殆ど決定事項

それに対して妥協して神樹様の種を返却することがないのも決定事項

問題は天乃の体に神樹様の種を使うタイミング

そのあたりに関しては、勇者部の面々が悩むというよりは、

最も最適な答えを見つけてくれるであろう九尾の協力を得るべきだろう


夏凜「問題なかったって言ってたけど、九尾も平気だったのよね?」

天乃「ええ。姿を見せてはくれなかったけど、特別荒れた様子はなかったから大丈夫だったはずよ」

千景達からの報告も何もなく

隠れた場所で何かよからぬことをしていたわけではないことは確かだろう

頭の中で考えていたかどうかは定かではないが。

少なくとも神樹様の種が手に入り、天乃を救うことができる可能性が出てきた今余計なことはしないはずだ

夏凜「あんたのことは、絶対に助ける」

神樹様の種をしまった夏凜は天乃のことを少しだけ引き寄せ、唇を重ねる

淫らな行為をする直前の挨拶とも違う、愛情のみのキス

それは一瞬で、でも、確かに感じ合えるものだった

天乃「…………」

夏凜「…………」

離れた二人は互いに目を向け合う

何をするでもなく声をかけるわけでもない数秒間

そして、天乃が先に笑みを浮かべた

天乃「これだけでいいの?」

夏凜「まだ、全部終わったわけじゃないから」

それでも、疲れたから前払いを貰おうと思ったのと言いながら、

夏凜は天乃の額に額を触れさせる

体重をかけすぎない程度に

夏凜「だから、全部終わったら……そうね。みんなでどっかでかけるとかも、アリなんじゃない?」

天乃「夏凜と二人きりとは言わないのね」

夏凜「そこまで独占欲はないわよ」

そう言った夏凜は悪いことを思いついたのだろう

にやりと笑って

夏凜「あんたはそういう私の方がいいって思う?」


1、今のままでいいわよ
2、少しは、欲深くても良いんじゃない?
3、どっちも好きよ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
26日はお休みいただくことになるかと思います


天乃「どっちも好きよ」

風「口説いた」

天乃「え……このくらいでも口説いたことになるの?」

東郷「どんな自分でも好きだって言って貰えるのって、意外に嬉しいものなんですよ?」

天乃「嬉しいのと口説かれるのって違うんじゃないの? 一緒なの? え?」


では、少しだけ


天乃「そうねぇ……どっちも好きよ」

ちょっぴり独占欲がある夏凜も

今みたいに独占欲が希薄で、自分よりも周りに譲ってしまうような夏凜も

どちらも好きだと天乃は言う

その表情に、嘘は感じられなかった

天乃「だからたまには、夏凜が自分勝手にしてもいいんじゃないかって思うわよ」

夏凜「なにそれ。襲ってくれって暗喩?」

天乃「そんなつもりじゃないけど」

天乃がそう考えて言うような性格ではないと分かっているが、

夏凜はあえてそう意識するように仕向けつつ問い返して体を寄せる

そう言った後に、体を寄せれば天乃が意識すると分かっているから

困った反応を見せて、考えて、良い反応を見せてくれるから

天乃「ちょっと……そう言うつもりないんじゃなかったの?」

赤みがかった表情で、困った様子で

けれど、夏凜がどうしてもというのならという態度

距離を詰めても天乃は退かない。だから、夏凜はまた身を寄せた

肩が触れる

俯きがちに吐き出す吐息が交わる

するの? しないの? と、

期待と緊張感に少しだけ心臓の音が大きくなる


天乃「ね、ねぇ……夏凜……」

天乃はベッドの上に置かれた夏凜の手へと、二歩進んでは一歩進むかのような手つきで近づけていく

焦らすようなその動きに夏凜は思わず笑みを誘われ、苦笑する

そして、びくりと止まった天乃手を掴む

夏凜「やっぱ、あんたまだ毒気が抜けきってないわね」

天乃「…………」

夏凜「少し、やった?」

天乃「少し……少しよ。色々、あったから」

追及するような夏凜の視線から逃れるように天乃は顔を逸らしていき、

心なしか身を縮めて俯く

最初から気づかれていた可能性も考慮しつつ横目に見れば、夏凜はまだ自分を見ていて

急激に熱くなっていくのを感じながら、どうしようもない状況に息を呑む

それまるで、ことを為す直前のような感覚で。

天乃「するとね。少し楽になるの。体のこともだけど、嫌な事とか……」

夏凜「別に駄目だなんて言わないっての。あんたの場合、穢れのこともあって余計に悪い考え持つわけだし」

気晴らしだったり、毒抜きだったり。

自由にやったらいいんじゃないのと言いながらも夏凜は「でも」と続ける

夏凜「あんまりやりすぎると癖になるって聞くから、ほどほどにしておいた方がいいわよ。私達もいるし」

天乃「してくれるの?」

夏凜「それは……ま、まぁ……聞くまでもない。でしょ……」


懇願する様な瞳で尋ねられては流石の夏凜も受け流しきることは出来なかったのだろう

手を握り合ったまま、目だけは会わせないように逃れて、答える

天乃の為を思っていたら言ってしまったことなので、無意識だったからというのもあるかもしれない

夏凜「…………」

天乃「…………」

手を握っているのに、互いに目を合わせない不思議な雰囲気の中、

自分たちだけの体温が伝わり、吐息が聞こえ、だんだんと気恥ずかしさが増していく

これはもはや、逃げ場がなかった

警戒する小動物のような二人の視線が交錯する

互いの出方を探ろうとした結果見つめ合うことになるのだから、相性がいい

夏凜「あ、あー……その……そ、そろそろ友奈のところ行ってくるから」

天乃「あ、う、うん……見てきて」

夏凜「…………」

天乃「…………」

再びの沈黙

それからすぐに慌ててベッドから立ち上がった夏凜だが、

友奈のところに行くと言ったのに手を握ったままで

放り出すように手を離すとすぐに自分の手で抑え込む

夏凜「べ、別に、私は欲求不満ではないから」

天乃「うん」

夏凜「でもちょっと……頑張ったしハメ外したいとか思ったりはする」

ほとんど聞こえないような小さな声で言い捨てたまま

夏凜は逃げるように病室から出ていく

天乃の体への負担や、求めていないときに求めてしまう気まずさと

他のみんなへの譲歩で控えめではあったが、

やっぱり、夏凜は夏凜でそう言う欲求があったのだと

天乃は少し嬉しそうに握り合っていた手を自分の唇に当てる

天乃「……あ、だめ。今は」

夏凜の手の感覚が残っている手で触れそうになった天乃は、

その誘いを強引に断ち切って、布団の中に潜るのだった


√ 11月08日目 夜(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 大赦
21~30 
31~40 九尾

41~50 
51~60 大赦 
61~70 
71~80 
81~90 大赦

91~00 

↓1のコンマ 


ではここまでとさせえて頂きます
明日もできれば通常時間から


東郷「夏凜ちゃん夏凜ちゃん」

夏凜「ん?」

東郷「はめを外したいのか、はめ通したいのかどっち?」

夏凜「はめ通せないから外す方」

風「平然と答えたんだけど……」

樹「真面目に突っ込むと疲れるからって夏凜さん言ってたよ」


では少しだけ


√ 11月08日目 夜(病院) ※月曜日


安静を言い渡されたものの、治療を終えた友奈が戻ったことで

また、みんなが戻ってくることができた病室

もしかしたら大赦が接触してくるかもしれないという可能性もあったが、

対策を考えているのか、夜になっても来客はなくて。

夏凜「ま、来ないなら来ないで別にいいけど」

東郷「楠さん達に何かが起こってなければいいけれど……そこだけが不安だわ」

勇者と違い、防人は入れ替えを行うことができる

だから、謀反を起こしたに近い芽吹達は処罰を受けることになり

それを行うことでこちら側への接触が遅れているのではないか。と東郷は不安を感じていた

風「替えが利くって言っても優秀ではあるじゃない? そう簡単に抜くことができるわけじゃないと思うわよ?」

樹「でも、罰は受けることになっちゃうと思う」

芽吹達のことを考えて、暗い雰囲気になって行ってしまう中、

一番芽吹のことを分かっているであろう夏凜だけは笑い声をこぼす

夏凜「そこらへんも覚悟のうえで戻ったのよアイツは」

だから。と、

夏凜は自分のベッドわきに置いておいた神樹様の種を持ち出してみんなに見せる

芽吹達が処罰を受けなければいけない理由

そうなるのだとしても託してくれた大切な力

夏凜「私達はこれをどう扱うか考えましょ」


風「どう扱うかって言うか……どう使うの。それ」

東郷「見た目は種なのよね。普通に食べるとか……は流石にないかしら」

友奈「噛んだらダメなお薬もあるからどうなんだろう? 逆に噛んだ方がいいのもあるよね」

樹「一番効果が必要な部分に最も効く使い方が良いと思うんですが……」

神樹様の力を借りれば治るかもしれないという考えは持っていたし

それを天乃の体に取り込めばいいということも考えていたが

実際にそれをどう取り込ませればいいのかまでは勇者部には想像もつかなかった

色々考えることはできるが

失敗が許されない以上「とりあえず飲んでみる」というわけにもいかない

風「種ってことは植えるわけだし、おへそに植えてみる?」

天乃私のお腹から木が生えてくるかもね」

東郷「その理論だ――」

園子「わっしー今は、ね?」

東郷「まだ何も言ってない」

何を言うかは分かってるから。と

笑いながら諭す園子に、東郷は違うのにとちょっぴり不服そうに呟く

一通り話し合って扱い方に迷うままであることを改めて確認した風が一息置いて切り込む

風「やっぱり、九尾先生に知恵を借りるしかないわねぇ」

友奈「力を貸してくれるかな……」


夏凜「どう?」

不安気な友奈を一瞥した夏凜は天乃の傍で静かに佇む若葉に声をかける

九尾は天乃なんて関係なしに神出鬼没だが、

勇者部がいない間に姿を現したりはせず、今もまだ姿を見せていないのが気掛かりだったのだ

だいじな話をしていると向こうも分かっている以上、

全く聞いていないなどということはないはず

それなら、姿が見えないだけで近くにいるはずなのだが。

若葉「……話が聞こえていないわけではないだろう?」

天乃「いるの?」

若葉の目が夏凜達ではなく、

誰もいない空間へと向けられたことに気づき、天乃が聞くと

若葉は軽く頷いて、何処か呆れたように息を吐く

若葉「神樹様の力をお借りする。ということが気に入らないらしい。なりふり構っていられないことは分かっているみたいだが……」

夏凜「なるほど」

天乃「神樹様の事嫌いだから仕方がないわ」

神聖的な方向での嫌悪感は人が他人を気に食わないと言ったり、嫌いだと言ったりするようなものとは全く違う

聞くだけなら些細なことでつまらない話だと思うかもしれないが、事はそう簡単な話ではない

けれど、九尾にとっての天乃はそれを取り払ってでも救う価値のある少女だった

九尾「妾はそんな矮小な妖怪ではないぞ」

不満を露わにいつもの女性体の姿を見せた九尾は、

天乃の正面、園子側のベッドに腰かけて足を組む

九尾「それを使うのは良いが、子供を産んでからじゃな」


神樹様の種を指さした九尾は天乃の方へと目を向けるとベッドから離れ、

膨らんだお腹に優しく触れる

擦るというよりは、その存在を確かめるような手つきだった

東郷「なぜか、聞いても?」

九尾「子供がおるからじゃ。種が成長しようとして力を蓄えた子供から逆に奪う可能性がある」

はっきりと言った九尾だったが、

九尾にも本当にそんなことが起こるのかというのは分からないらしく、

あくまで推測であることを付け加えたうえでさらに続ける

九尾「その場合、子供は確実に衰弱する」

死ぬまではいかなくとも、様々な問題が起こり得ると九尾は言う

九尾の妖怪としての記憶の中には

力を奪う方法こそ違うが、力を奪われた妊婦から生まれた子が衰弱した状態だったり、早産などの問題が起こっていたり

最悪の場合死産だったものがいくつかある

九尾「主様とその子は頑丈じゃからな。死ぬまではいかぬじゃろうが……種を植えるのは産むまで待つべきじゃ」

天乃「それでも間に合うの?」

九尾「主様が無駄に力を消費することがなければ産んだ瞬間に死ぬとまではいかぬはずじゃ」

もちろん、子供を産んだ直後は天乃自身が酷く衰弱している可能性があるため

そこからまた少し経過を見て、少しでも天乃の体調が良くなったときに使うべきだろうと九尾は言った


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「久遠先輩のおへそから木が生えてくるなら」

東郷「下腹部に植えたら立派なものが芽生えるのでは?」

夏凜「木だけどね」

東郷「大丈夫よ夏凜ちゃん。私、受粉するわ!」グッ

夏凜「受精は出来ても受粉は出来ないでしょあんた」

風「違う。そう言う問題じゃない」


すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は19時ころから再開予定になります


遅くなりましたが、少しずつ


夏凜「九尾がそう言うなら、子供がちゃんと生まれるまでは待つしかないけど……結局どう使えばいいの?」

九尾「お主らが使うと考えたものじゃろうに」

東郷「それはそうなのですが……恥ずかしい話、九尾さんには知識でかないませんし」

神樹様の力を用いれば天乃を救えるかもしれないという考えでしかなく、

それをどう扱えばいいのかまで分かるほど完璧な知識を得られるものはない

大赦の協力を得て、何らかの文献を一生分あされば見つかる可能性はあるが

大赦が協力してくれる可能性は低く、

さらに久遠家のような状況に陥ってしまっている一族を救う方法が載っている奇跡に賭けなければならない

風「間違えたくないのよ。だからもちろん、九尾がこれは使うべきじゃないって言うなら使わないことだって検討するわよ」

神樹様の力だから嫌だという理由ではなく

まっとうな理由あっての指摘なら。というものではあるが。

天乃の為になる事である以上、九尾も嘘をついて使わせないという意地悪なことまではしないはずだ

天乃「どう? 使い方、分かる?」

九尾「ふむ……」

風や夏凜の問いかけには呆れた様子を見せるばかりの九尾だったが、

天乃の願うような声は無下には出来なかったのだろう

悩ましく息を吐くと、目を細めた

九尾「種じゃからな。胎内に入れるのが一番よかろう」

天乃「胎内って……胎内?」

九尾「うむ」


唖然とした天乃のつぶやきに頷いた九尾は、

夏凜尾手元にある神樹様の種を一瞥すると、恨めしそうに牙をむく

本心では利用したくないという思いが強いのだと、誰が見ても分かる表情で。

しかし、その邪魔をするつもりはないらしい

九尾「種だから。というのは冗談じゃ。理由はほかにある」

園子「道が出来てるから。かな~」

少しの胃だ黙っていた園子の安心する穏やかな声に夏凜達の目が向けられる中、

九尾だけは「ほう」とどこか面白いものを見つけたように笑う

九尾「そうじゃな。子が主様から力を引き抜く際にできた繋がりは子が産まれてもすぐさま消滅するわけではないからのう。それを利用する」

友奈「久遠先輩の体と神樹様の力が深くつながるってことだよね……久遠先輩が本当の意味で神様になっちゃったりしないかな」

樹「それは流石にないと思いますけど……」

九尾「ないとは限らぬぞ。お主らとて一見ただの人間じゃが、体の一部は神の力を宿した神聖なものじゃろう?」

そして、身体の奥深くから密接につながり合うことになる天乃は

場合によってはその比ではないほどに神聖さに満ち満ちてしまう可能性は大いにあると九尾は言う

最も、天乃はそもそも神樹様とは別種の神聖さに溢れていたため、属性が変わる程度で大きな変化は見られないかもしれないが。

九尾「いずれにしても、使うならば胎内、子が産まれてからじゃな」

別に信じなくともよいが、と九尾は後付けで言うが

真剣に話してくれたのだ、疑うような者はこの場にいなかった

夏凜「なら方針は決まったわね。それで行くわよ」

天乃「神樹様の種はどうするの? 夏凜が隠し持っておく?」

夏凜「万が一の為に近くに置いておいた方がいいし、それでいい?」

夏凜が確認をとると、風達は頷いて答え神樹様の種の保管方法も決まって、ひと段落

なのだが。

風「そういや、どうやって胎内に入れるの? アタシ達押し込めるような棒はついてないけど」

樹「薄々気づいてたけど考えないようにしてたんじゃないかなぁ……」


東郷「行為の一種で腕――」

夏凜「子供が産まれてもそれは流石にきついでしょ」

一番小さいであろう樹にそれを任せたとしても

かなりの痛みと苦しみを伴うであろうそんな行為は本当の本当に最終手段でありたいと夏凜は思う

しかし同じ考えだったのだろう

東郷が「そのつもりで言ったのに」と少しだけ悲しそうに呟くと

友奈は困ったように笑みを浮かべた

友奈「なら……お、男の子のそういうのみたいなやつってあるよねっ? それを使ってみたらいいんじゃないかな」

園子「問題はそんな方法で良いのかどうかなんよ。神様の力を使う以上、専用のものが必要かもしれない」

風「神樹様の木を削って作った男性器とか?」

夏凜「祟り殺されそうなことを平気で言うあたり尊敬するわ」

神樹様の種を奪う以上のことはないでしょうよ。と風は平然と言って顔を顰める

神樹様だから未だおとがめなしで済んでいるだけで、

神様次第では確実にたたられるような業の深い罪ばかりを犯しているのだから、今更だ

九尾「それに関しては巫女の力を持つ者が正しく送り込んでやれば問題なかろう」

巫女の力を持つ者と言えば、沙織か東郷、水都だろうか



1、沙織に頼むべきね
2、東郷、出来る?
3、水都さんが協力してくれるなら、その方がいいような気がするわ
4、ここはあえて、亜耶ちゃんにお願いしてみようかしら


↓2


天乃「なら……沙織」

沙織「えっ?」

天乃「お願いできるかしら?」

沙織「あたしでいいの?」

天乃「沙織が良いの」

自分が選ばれると思っていなかったかのような問いに、天乃は優しく答える

もう一人の選択肢であっただろう東郷は自分ではないことには少し悲しそうな表情を見せたが、

沙織が選ばれたことには納得しているのだろう、文句を言うようなことはなくて

東郷「私は巫女としての鍛錬は積んでいませんから、伊集院先輩が適任かと」

九尾「ふむ……主様の精霊の力も蓄えておるからのう。その分相性もよかろうて」

沙織「嬉しいけど、重要なことだから少し怖いなぁ……」

頼って貰えたことがうれしい

重要なことで自分を選んでくれたことが嬉しい

けれど、責任重大だからこそ怖くて不安だという沙織は

照れ臭そうに困った笑みを浮かべる

沙織「でも、久遠さんのためならあたし頑張るよ」

天乃「ええ。お願いね」


園子「とりあえずの方針はこれで決まったかな?」

夏凜「風、まだ何かある?」

風「そんな怒った風に言わなくてよくない?」

別に怒ってないけどと言う夏凜に風は苦笑いを浮かべて、

友奈達を見回して確認をとる

どう扱うのか、いつ扱うのか、だれが扱うのか

必要なことは全て確認し、決めた

ひと段落着いたことを改めて確認した風が頷く

風「大赦のこととか、楠さん達とか。問題はまだあるけど今日のところはゆっくり休みましょ」

東郷「特に友奈ちゃんとそのっち。そのっちはまだいいけれど、友奈ちゃんは怪我したんだから休まないとだめよ?」

友奈「うん、ちゃんと休むから大丈夫だよ」

そうはいっても体の痛みはあるのか

少しだけ顔を顰める友奈に東郷が不安そうな目を向けると

友奈は「大丈夫」と笑顔を返す

園子「良く眠るためにもわっしー布団を所望するんよ」

抱いて~とジェスチャーをする園子に東郷が困った反応を見せる中、

神樹様の種をしまった夏凜は苦笑しつつ、横目で天乃を見る

多少の被害はこうむってしまったが、犠牲を出さずに済んだからこその雰囲気

それはきっと、防人を犠牲にしても崩れてしまうほど繊細で

夏凜「……上手くやりなさいよ。芽吹」

だからこそ貴いものなのだと夏凜は思って、芽吹を想う


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(神樹様の種)
・   犬吠埼風:交流有(神樹様の種)
・   犬吠埼樹:交流有(神樹様の種)
・   結城友奈:交流有(神樹様の種)
・   東郷美森:交流有(神樹様の種)
・   三好夏凜:交流有(神樹様の種)
・   乃木若葉:交流有(神樹様の種)
・   土居球子:交流有(神樹様の種)
・   白鳥歌野:交流有(神樹様の種)
・   藤森水都:交流有(神樹様の種)
・     郡千景:交流有(神樹様の種)
・ 伊集院沙織:交流有(神樹様の種、沙織が良いの)

・      九尾:交流有(神樹様の種)
・      神樹:交流有(神樹様の種、反逆)


11月08日目 終了時点

乃木園子との絆  76(高い)
犬吠埼風との絆  102(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  92(とても高い)

結城友奈との絆  111(かなり高い)
東郷美森との絆  121(かなり高い)
三好夏凜との絆  145(最高値)
乃木若葉との絆  97(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  43(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  124(かなり高い)
   九尾との絆  64(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 11月09日目 朝(病院) ※火曜日

01~10 
11~20 千景

21~30 
31~40 
41~50 大赦

51~60 
61~70 
71~80 沙織

81~90 
91~00 九尾

↓1のコンマ  


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「流石ですね、風先輩」

風「急にどうしたのよ東郷……なんか怖いんだけど」

東郷「いえ、神樹様の木を削って作る男性器という発想は私にもなかったので感服しまして」

風「ほらぁっ! やっぱそういうやつだった!」

東郷「私の貧相な発想ではせいぜい座薬のようにぐにゅりと――」クイクイッ

風「恥じらいながら指動かすのやめろぉッ!」


遅くなりましたが、少しだけ


√ 11月09日目 朝(病院) ※火曜日


窓から入り込んでくる澄んだ陽の光に薄く笑みを浮かべた沙織は、目の前のカーテンを開く

入り込んでくるのは陽の光ではなく、まだ穏やかな寝息を立てる天乃の姿

膨らんだお腹と胸が呼吸によってより大きく膨らんでは萎んでまた膨らむ

まだ生きているのだと良く分かるその光景は誰しもが望むものだった

あと数ヶ月もすれば大きなお腹も小さくなって

そこからさらに数ヶ月もたてば、流石に同じ枕でとはいかないだろうが、

双子の赤ちゃんを愛おしそうに抱きしめる姿が見られることだろう

そして数年後には幼稚園

さらに数年後に小学校そして中学校、高校、大学、成人……そして結婚

これから生まれてくる双子の成長の節目節目の写真、その傍らには母親である天乃がいるはずだ

いや、いなければならないと沙織は思う

沙織「……そうだよ。久遠さん」

死んではいけない。死なせてはいけない

代々続く血族の呪いなんかに屈してしまうわけにはいかない

沙織「久遠さんは生きなきゃいけないんだ」

そのために、自分が選ばれた

神樹様の力を天乃に浸透させる重大な役目を担うことになった

天乃にはああいったが、一夜明けた今でもその緊張感は拭いきれない

早く子供の顔が見たいと思う反面、もう少し心の準備をさせて欲しいと思うほどに。


天乃が沙織が良いと言ってくれた以上

その選択を疑うようなことも反対する様なことも考えたくはない

その信頼に全力で答えてこそ、恋人の一人であると沙織は思うからだ

沙織「だからこそ……」

沙織はそうっと音をたてないように歩みを進めると、

天乃の枕元に立って息を呑む

最近の天乃は非常に鈍さが感じられるが、

流石に大きな音を当てたり、耳元に息を吹きかけたりなどすれば流石に目を覚ましてしまうだろう

沙織「ちょっとくらい、許してくれるよね?」

天乃「すぅ……すぅ……」

沙織「なんて」

勝手にしても、驚くだけで天乃は怒らないだろう

ほんの出来心、欲求不満

神樹様の種を使うときの予行練習

頭に浮かんで止まない言い訳の数々を口にする必要さえなく

きっと「びっくりするじゃない」と、おどけて笑うのだ

沙織「その優しさに、少しだけ」

甘えたいと、沙織は心の中で続きを呟く


軽く置いた天乃の枕元が小さく軋む

沈んだ分だけ天乃の顔が動いて、沙織の方へと向く

沙織「起きてないよね……?」

確認のために声をかけても、

天乃は目を開けるようなそぶりはなく、呼吸も一定のリズムのままで

沙織はもう少しだけ顔を近づける

前にやられたことで、やろうとしたことで

多少の経験はあるはずなのに、改めて行おうとすると

何処か罪悪感が湧いてきてしまう

ドキドキとする

バレたい好奇心とバレずに終えたい緊張感

その思いのままに、沙織は顔を近づけて――

天乃「…………」

そんな限りなく近い距離にある沙織の存在を、天乃は感じていた

いや、そうなる前から何となく起きてはいたのだが

しっかりと起きるころにはもう、沙織は近かったのだ


1、沙織、何してるの?
2、あえて声をかけない
3、あえて寝相でキスするのが悪戯心
4、沙織……と、寝言を呟く


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「上に接吻するといつから錯覚していた……?」

須美「貴女が東郷美森だといつから錯覚していた?」

東郷「!?」

須美「神樹様にお呼ばれされてきてみればなんという体たらく! こんな人が未来の自分だと断じて認めません!」

須美「成敗!」

東郷「いやーっ!」


東郷「……という夢を見たの」

園子「理性と本能が戦争してるんよ~」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば17時ころからの再開w予定しています


では、少しずつ


沙織「…………」

沙織は天乃をじっと見つめると、躊躇いがちに距離を詰めていく

目を覚ましているときは普通にしてること

怒られないし許されること

けれど、眠っているという無意識な状態の天乃にするというのは

やっぱり背徳感があって、普通にするよりも少しドキドキとする

沙織「……久遠さん」

もういちど、名前を呼ぶ

それでも天乃の反応がないのを確認した沙織は、

天乃の呼吸の妨げにならないタイミングを見計らって、唇を重ねる

沙織「ん……?」

唇本来の柔らかい肉質と、キスの為の反発力

いつもと変わらないそのキスの感触に沙織はすぐに離れて、眉をひそめて

沙織「久遠さん、起きてる?」

天乃「ん……」

小さく声は漏らすが、呼吸は一定で動きも少ない

瞼が開くこともない

それは確かに寝ているように見えるし感じるのだが、

沙織には何か思うところがあったのだろう

もう一度、「起きてるの?」と声をかけた


当然ながら寝ているときは無意識だ

それなのに、キスの感覚は起きている時と何も変わらなかった

互いにキスをしようとしている緊張感、それゆえの硬さと柔らかさ

起きているときにあるその感覚が、今のキスにはそのまま感じられたのだ

だから、沙織はもしかしたら天乃は起きているのではないか。と問う

沙織「………」

それでも天乃は反応しない

少しだけ体を動かしはしたものの、寝相と言えるような小さな動きでしかない

起きているのか、寝ているのか

少しだけ不安を感じながらも、

沙織は怪しげな笑みを浮かべると、考えるように自分の手を見つめる

小さな手、戦いに明け暮れた天乃とは違う女の子の手

沙織「寝たふりしてるなら、少しだけ激しくしていいってことだよね?」

だからこそ、女の子相手に悪戯をしやすいと沙織は思う

男の子の手の感覚がどんなものなのかというのは沙織にはわからないが

力不足だからこそ、力加減は絶妙にやりやすい

沙織「三好さんは……もうすぐ起きる。かな」


時間を確かめて小さく呟く

自分の為ではない、天乃に教えるためだ

本当に寝ているのなら無駄だけれど、寝たふりなのなら良い煽りになるだろう

まずは、布団から少しだけ見えている天乃の手を握る

布団の中にこもった天乃の温もりに温められた小さくも大きな手

学校で見たことのある男の子よりも力強さを感じるその手を握り、愛おしそうに頬ずりする

起きているときは気恥ずかしそうな反応をするだろうけれど、

今なら、そう言う行為も簡単にできる

沙織「最近は、良い感じに女の子らしくなってきた感じがする」

今までは戦いに明け暮れていたこともあって、

ある程度のケアでは±0にすらならずマイナスで若さで保っていた手も

戦いから離れて約三ヶ月

毎日ケアを施しているおかげか以前よりはだいぶましになっていて

沙織は思わず嬉しそうな声を漏らす

沙織「……それじゃ、少しずつだよ」

天乃の右手を掴んだまま、空いた左手で胸の部分の布団を少しだけめくる

一気に布団をはがすのもアリではあるが、季節的にそれは目を覚まさせる可能性が高すぎる

起きている可能性があるとはいえ、流石に、妊婦である天乃にそこまで急激な刺激を与えるのは憚られたのだ


天乃が着ているのは普通のパジャマではなく患者衣で

妊婦であるがゆえに、再入院になった友奈とも違う種類のものだ

ボタン留めではなく、腰元で紐を縛るでもなく

頭から被るように着るワンピースのようにも見えるそれはっ胸の部分だけ露出させたりと言ったことができない

それが惜しいのか

沙織はちょっぴり残念そうな顔をすると、逡巡の後に胸に触れる

沙織「ちょっとだけ、出るんだよね」

まだ母乳ではない分泌物になるが、

少し刺激するだけで出てくるし、刺激しなくても出てくることがある

だからこそ、その繊細な乳房を優しくマッサージするように小指の先から手首の辺りまでを使って包む形で擦っていく

天乃の場合、まだ未成年かつ双子、かつ特殊な事例ということもあって

医者も困惑してしまっているが、

乳房や乳頭のマッサージに関しては、天乃の体調を見て行うようにとの指示があった

それはもちろん、淫らな行為においても適用される

えっちしたいという欲望に負けて下手に刺激してしまうと

天乃の体だけでなく、母乳にも悪い影響を与えかねない

それだけはしないようにと、慎重に。

沙織「……もう少し、出やすくするね」


患者衣を汚さないためのブラと、母乳用のパッドに阻まれる感覚

互いの合意の下でやっていれば味わえないその感触は、

あまりいいものとは言えなくて、沙織は少し顔を顰める

脱がすか、忍ばせるか

沙織的には、脱がすことなく攻めていきたいが

せめてパッドだけでも外さなければまともに出来ない

しかし、パッドを外すにはブラを脱がす必要があって

ブラを脱がすには患者衣を脱がさなければならない

沙織「むー……」

まるで貞操帯だと、思った。

もちろんその用途は全く違うしそんな意味もないが、

寝込みを襲う側からしてみれば、満足に楽しませてくれない、先へと進むことを阻む壁だ

沙織「下からは……ちょっとなぁ……」

胸への愛撫を諦め、下腹部にすることは出来るのだが

沙織は不満そうな声を漏らすと、天乃から離れた


沙織「やっぱり、合意のうえでやるべきなのかな」

清く正しく合意のうえで淫らな行為

……というのかはともかくとして、

やはりちゃんとした下準備はしておくべきなのだと沙織は思う

しかし、今日夜這いするから下着付けないで。なんて言うのもおかしいとは思うのだが。

沙織「寝込みを襲うのは健康な時じゃなきゃダメかな」

妊娠ではなく風邪などの病気の時だってそうだ

下手に疲弊させたり脱がせたりすると

余計に悪化してしまうことだってある

沙織「まぁ……風邪は……」

ちらりと天乃の唇を見つめた沙織は、

最後にもう一度だけ。と呟きながらキスをする

沙織「移しちゃえば、治るけどね」

いっそキスで妊娠できたらいいのに

そんな冗談であり、半ば本心であることをぼやきながら、

沙織は天乃の傍らで息を吐くと

沙織「久遠さん、本当は起きてるよね」

天乃「…………」

沙織「……えっち」

本当に起きていると気付いているのか気づいていないのか

冗談めかした声で、そう囁いた


√ 11月09日目 昼(病院) ※火曜日

01~10 
11~20 千景
21~30 
31~40 大赦
41~50 友奈

51~60 
61~70 
71~80 沙織

81~90 
91~00 九尾

↓1のコンマ  


少し早いですが本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から行いますが場合によっては、一日おきの投稿になる可能性もあります
その場合は、改めてお知らせいたします



東郷「下着やパッドが邪魔……なにを当たり前なことを言っているんですか」

東郷「お店で売られているお弁当が蓋もなにもされずに販売されていますか?」

東郷「そして外さないまま食べられますか?」

東郷「それと同じことですよ、伊集院先輩」

沙織「それだと久遠さんが売られているってことになるけど良いのかな……」

東郷「一見お断りの勇者部専用店なので平気です」

夏凜「何言ってんのあんた」


テスト


※移転準備

 仮スレ投稿内容を流していきます


√ 11月09日目 昼(病院) ※火曜日


天乃「天気……悪くなってきたわね」

朝は晴れていた空がだんだんと暗くなっていく

どんよりとした灰色の雲が太陽を覆い隠して、雨が降る一歩手前のような空模様へと変わったかと思えば、

ぽつりぽつりと、粒が窓を打ち始める

九尾「それは妾に問うておるのかや?」

天乃「独り言よ」

九尾「つれないのう」

寂しげな声を漏らす九尾へと目を向けた天乃は

九尾のすぐそばにある神樹様の種の入った棚へと目を移して、また九尾へと目を向ける

天乃「何かあったの?」

九尾「妾が現れたからと言って何かがあるわけでもないが」

天乃「でも、何かあるから来るのが貴女でしょう?」

天乃の伺うような視線に九尾は怪しく笑って見せると、

棚へと腰かけて、天乃のことを見下ろす

九尾「くふふっ、間違ってはおらんのう」

天乃「……何があったの?」


繰り返して訪ねてくる主人を、

精霊である九尾はじっと見つめ返すだけで、口を開かない

いうべきかどうか考えているというよりも、

わざと焦らそうとしているかのような表情を九尾は見せる

天乃「言えないようなこと?」

九尾「言えないわけではないが」

天乃「何か、問題があったのね?」

九尾「ふむ……」

今度こそ考える素振りを見せた九尾の視線が、

腰かけた棚へと落ちていったのを見て、天乃は眉を顰める

神樹様の種による悪い影響があったのか

それともそれがないことでやっぱり、防人に悪いことがあったのか。

後者であっても大赦による処罰という程度であれば問題ないが、

樹海で何かがあったとなれば重大だ

天乃「神樹様の種が関係しているの?」


九尾「直接的な関係はないのう」

そう答えた九尾はふっと息を吐くと、

冗談めかした雰囲気を払拭する表情で棚から目をそらす

九尾「主様も想像はついているじゃろうが、防人に関してのことじゃな」

天乃「大赦は?」

九尾「関係あるといえばあるが、ないといえばない」

天乃「曖昧ね……」

小さくつぶやき、考える

さらに追及すれば、九尾は真実を語るだろう

だが、追及しなければ、

九尾はその何かを語ることはないだろう

天乃に直接関係なく、天乃に影響がないと考えるからこその秘密

あるいは、それを伝えることで天乃が何らかの行動を起こしてしまうからこその秘匿

天乃「…………」


【1、追及する   2、追及しない   3、ねぇ、それはどれくらい危ないこと?】

※1で進行


天乃「九尾、話して」

九尾「ふむ……むぅ」

天乃「九尾」

珍しく追及されても渋った九尾だったが、

このまま渋っても追及から逃れるには消えてしまうくらいしか道はないだろうと考えたのか、

あるいは、やはり主人は主人だと考えたのか

浮かべた笑みは困ったようで、どこかうれしさを感じさせるもので。

九尾「結界の外の動きが慌ただしくなってきておる」

天乃「……じゃぁ、今の天気も?」

九尾「無関係ではなかろう。外の激しさに結界が押し負けて介入されておるのじゃろうな」

天乃「神樹様の種を奪ったから?」

九尾「それで神樹が弱ったわけではないからのう。間接的には関係あるやもしれぬが」

だから、さっき聞いた時も間接的と答えたのだろう

九尾は少し考えて

九尾「じゃから、向こうに出ていくことのある防人も無関係ではない」

隠さずに答えた


天乃「今すぐ何かある可能性は?」

九尾「無きにしも非ず。じゃな」

天乃「まさか、防人のみんなを調査に出させたりするわけじゃないわよね?」

九尾「同じ異常は人間の観測班も感じておはずじゃ」

そこでどう動くかが問題になってくる

とりあえずは。と調査をさせに行くか、

この異常事態を見逃さずに対策を考えてから打って出ていくのか

悠長に考えている時間がないと考えれば

先に打って出ていく可能性は低くはない

神樹様の種の予備を用いて一気に攻めていくことだって

結界の中に介入されている可能性がある現状ではありえない話ではない

天乃「貴女ならどう動く?」

九尾「妾なら調査に出させるじゃろうな。未来のための犠牲は目をつむるべきじゃ」

天乃「…………」

九尾「大赦の防人に対する考え方次第じゃろう」


大赦が九尾のように犠牲もやむなしという考え方ならば

一度は調査に出向かせることだろう

そこで何かがあればその対策を考えるだろうし、

何もなければ今までの予定通りに動くかもしれない

九尾「防人に連絡は……難しいじゃろうな」

天乃「どうして? 連絡先なら――」

九尾「神樹の力を奪い与えたような奴らの関係を絶たぬ理由はないじゃろうな」

同じような理由から、

天乃たちが危険であることを伝えたのだとしても

それを真摯に受け取ってくれる可能性は低い

むしろ、天乃が危険だという方向に進む可能性さえある

天乃「そこまでだなんて考えたくはないんだけど」

九尾「主様は神樹を腐らせると嫌われておるからのう。仕方がない」


くつくつと笑う九尾の一方

不安を隠しきれない天乃は深く考え込む

素早く手を打たなければならないが、自分たちの声は届かないという

なら、どうしたらいいというのか

天乃「防人のみんなのことも助けたいわ」

九尾「ふむ……主様がそれを望んでおることは知っておるが……」

九尾は言うべきか迷ったのか中途半端に口を閉ざすと、

天乃のことを悲しげに見つめる

九尾の考えの中ではどうしようもない道があるということなのかもしれない

九尾「防人……いや、巫女の一人や二人は見捨てるしかなかろう」

天乃「巫女……?」

九尾「あの頃。そう、奉火祭を行った頃に似通ってきておる」

天乃「それって、いけにえになる子がいるってことよね? そんなの――」

九尾「防人の犠牲云々に限らず、諦める必要も出てくるやもしれぬ」

でなければ余計に被害が増える可能性もある

九尾はそう告げると、不安に苛まれて考え込む天乃の姿を視界から消す

こればかりは冗談ではない

本当に、そうする以外にはない可能性があるのだ

神樹様の種のような裏技もあるかもしれないが

相当に荒業で危険な行為になるだろうと、九尾は考えていた


√ 11月09日目 夕(病院) ※火曜日


風達勇者部は午後に行う予定だったボランティアが中止になったこともあって、

普段よりもだいぶ早く病院へと帰ってきていた

土砂降りになった雨が打ち付ける窓から見える景色は歪んでおり

まるで、別世界のようにさえ感じられる

風「いやぁ……こういう時は大赦様様だって思うわぁ」

東郷「現金ですね、風先輩は」

沙織「でも実際、大赦による送迎がなかったったらこの雨の中下着をさらすことになってたよね」

友奈「部室で待つのは……」

沙織「現実的じゃない。かな」

茶化すような口調ながら、

少しまじめに答えた沙織の横でタロットカードをめくった樹は

そうですね。と小さくつぶやく

樹「雨は、しばらくやみそうにはないです」

樹が見せたのは塔の正位置

いい結果とはいえないものだった


少なくとも、この雨が止むことはないだろう

風達三年生が体育で外に出ている時間に急激に崩れ、振り出した大雨

天気予報ですら大外れした夕立でさえない豪雨を目の当たりにした学校の生徒たちが口にした不安の声が、

沙織の胸の中に渦巻く

園子「……神樹様の結界が弱って外の影響を受けてきてるかもしれない」

沙織「もうすぐ、何か手を打たなければいけなくなるかもしれないね」

風「そうは言ったって……あたしたちにできることなんてそう多くないのよねぇ」

天乃の神樹様と天の神分け隔てなく穢れさせてしまう力が完全に扱えるのならば話も変わるかもしれないが、

その一端を夏凜が扱えるには使えるが、血反吐を吐いて最悪絶命することになるだけだろう

それで世界を救ったところで意味はない

夏凜「そこは大赦がどう動くのかも重要になってくるわね」

東郷「もう一度種をまきに行くのかそれとも別の道を選ぶのか……なんだか、いやな予感がするわ」

友奈「いやな予感?」

東郷「うん。抽象的な言い方になっちゃうけど、とてもよくないことが起こりそうな気がする」

東郷の言葉に、病室の扉を開けようとした風の手が止まって振り返る

園子「もしかしたら、わっしーの巫女としての何かが警笛を鳴らしてるのかもしれない」

沙織「……そうだね。あたしも。こう、もやもやする感じがあるから。その可能性もある」


鬱屈とした雰囲気を感じ取ってか、

友奈はちょっぴり唇を震わせてかみしめると、

笑みを浮かべて、前へと進み出る

友奈「神樹様も少し寝ぼけちゃって力が緩んじゃっただけかもしれないし、とりあえず中に入ろうっ?」

夏凜「さすがにそれは無理があるでしょ」

いやな考えを改めたいという思いがあってのことだろうが、

無理のありすぎる友奈の言葉に夏凜が笑い、みんなが苦笑する

友奈が考えなしに適当んことを言っているのではなく

一応は考えて、可能性がありそうなことを言ってくれているのをわかっているからだ

沙織「とにかく、中にはいろっか。久遠さんも雨がふってるから心配してるだろうしね」

園子「そうだね……たっだいま~!」

夏凜「ちょっ」

話が終わったからと我先に扉をあけ放って飛び込んでいく園子

そのあとを追いかけて、勇者部のみんなが駆け込んでいく

天乃「病院の中なんだから、静かにしなさーい」

安全に帰ってきた勇者部の面々の姿を見て、

天乃の優しいお叱りの声が騒がしさに満ちていく病室に漂う

天乃「……風、少しいいかしら」

ただ一人

勇者部の部長を担っている風だけには、緊張感のある声を投げかけた


風「……何かあった?」

天乃「雨は大丈夫だった? 時間的に体育だったでしょ?」

風「んーまぁ結構大変なことになったけど大丈夫っていえば大丈夫」

体操服が大変なことになって

見えてしまうような女子生徒も多くいて

それで男子生徒の喜びの声と女子の怒り

良くも悪くも楽しいイベントのようなものが巻き起こったと風は笑いながら話す

もちろん、女子としては全く楽しくはなかったが。

非日常を知る風としては、そんな細やかな男子生徒たちへのご褒美も

日常の一端としては悪いとも言い切れなかった

風「それで?」

天乃「…………」

風「大赦が接触してきた? やっぱり、神樹様の種を返せとか?」

天乃「ううん。大赦はまだ接触してきてない」

接触しても無駄だと思われているだけならいいが

そんな余裕さえもないほどに切迫している可能性さえ、ある


【1、大赦に連絡を取ってみてくれない?  2、九尾から話があってね。外が危ないって
   3、防人のみんな……連絡を取ることはできたりする?  4、ねぇ、風。貴女達に大赦は接触してきたりしてない?】

※2で進行


天乃「九尾から話があったのよ。外の件でね」

風「バーテックス?」

天乃「その可能性もある……けど、それよりもひどい状況になっていってるみたい」

バーテックスが出現する可能性もあるが、

それ以前に過熱していく結界の外の熱量

むしばまれていく結界はその力が弱ってしまっているせいで抑えきれず、

ついぞ現実の世界にまで影響を及ぼし始めており

それを抑えるために大赦が行う可能性があるのは二つ

天乃「一つは、防人のみんなによる結界外の調査」

風「危険な状況になっているっていうのに?」

天乃「だからこそ、打つ手を誤らないために調査させる可能性があるのよ」

そしてもう一つ。と、天乃はつづけた

天乃「巫女を用いた奉火祭」

風「奉火祭?」

天乃「簡単に言えば、生贄よ」

どれだけの規模になってしまうのかは不確かだが

一人二人の規模で済ませることは難しいだろう

天乃「巫女の魂を捧げることで神様の怒りを鎮めるの」

風「っ……そんなこと許せるわけがない」


強く出かけた声と体を押しとどめてこらえた表情を見せる風に、

天乃は冷静な目を向けて頷く

風がそんな反応を見せるのは分かっていたし

勇者部の誰に言っても肯定する子がいないことは分かっていたことだった

天乃「地質調査だって同じ。無事じゃすまないとわかりきってる今行わせるのは嫌だわ」

風「そりゃ……ねぇ。それで? 何か手を考えた?」

天乃「考えたいし手を打ちたいけれど、防人を危険な目に合わせない代わりにみんなが危険な目にあうことになるわ」

風「そのくらい気にすることじゃない。なんて、そう考えられたら苦労しないわよね」

天乃「…………」

だが、防人のみんなの負担を肩代わりしてもらうのならば、

ある程度の被害は覚悟していなければならない

いや、していなければそんな指示など出してはいけない

風「それで、大赦はどっちに動く可能性があるって?」

天乃「全然わからないのよ。接触してこないし、防人のみんなからの連絡もないから」

風「なら、あたしたちから連絡を取ってみるってことで良い?」

交渉することになった場合、

神樹様の種を持ち出されることになるかもしれないが。



【1、久遠家の名前を出してもいいから、聞いてみて  2、ううん。そこは巫女の沙織にお願いしてみるわ
 3、下手に動くと悪い方向に進みそうだからここはひとまずみんなでいろいろと考えてみない?
 4、ねぇ。神樹様の種が正しく使われていた場合の続く作戦を覚えてる?】

※3で進行


天乃「そうねぇ……」

天乃は少し考えて息を吐くようにつぶやくと、

手元に向いていた視線を風へと向ける

天乃「下手に動くと悪い方向に進みそうだから、一先ずみんなで考えてみない?」

風「一理ある」

天乃「決まりね。そしたらさっそくだけど、夜にでもみんなで話し合いましょう」

風「善は急げっていうし。とはいえ……まず間違いなく勇者が行くべきだって話が出るわよ?」

天乃「ある程度の覚悟はしているわ」

少なくとも、友奈が我先にと言い出して

夏凜か東郷がその難しさを語る流れになるだろうと天乃は思う

だから、はい勇者で視察に行きましょうと一直線に決まることはないはずだ

少なくとも、夏凜が冷静に考えてくれるのならばそんな事態には陥らないだろう

天乃「問題は楠さん達防人が危険な立場にあるってところよね」

風「加えて生贄が必要っていう奉火祭があること。これは超ネックだわ」

天乃「夏凜……ううん、東郷や園子ならそれがどんな話に発展するかも察しが付くと思うから」

風「?」

天乃「少し騒がしくなるかもしれないけど……まとめをよろしくね? 部長」

風「時期的に元部長になる予定なんだけど。ま、今はまだ仕方ないか」

余裕ができたら次の部長を任命しましょ。と、風は冗談めかした笑みを浮かべながら言った


√ 11月09日目 夜(病院) ※火曜日


沙織「ごめんね久遠さん、何か話し合いするって言ってたのに」

天乃「それでも呼んだんだもの。それ相応の話があるってことでしょう?」

夜になって、天乃たちがいざ話し合いをしようという話になったところで、

二人きりで話したいことがある。と。沙織が天乃のことを連れ出したのだ

告白するされるなんて言う冗談も関係ない仲の二人

沙織が話し合いを遮ったということもあって、

風もほかの有藪の誰も止めずに送り出してくれたし、

連れ出された天乃も、沙織に対しての文句は一つもなかった

むしろ、天乃第一の沙織が連れ出したということが気がかりでさえあった

天乃「何か問題があったの?」

沙織「まだ大赦は接触してきてない。けど、久遠さんはもう察しがついてることだよ」

天乃「結界の外の話?」

沙織「うん。あたしも一応精霊としての繋がりがあるからね。その話は通ってきてたから」

天乃「連絡を取ったの?」

沙織「大赦には取ってないよ? 同じような理由でお母さんたちにも連絡はしてない。でも、ちょっとした関係者に話を聞いてみたんだ」

沙織は苦笑いを浮かべながら慌てた否定を繰り返すと、息を飲み、

とても真剣な面持ちで口を開いた

沙織「大赦内部では、調査に出るという手段に出る可能性は薄いらしい」


天乃「それをしないっていうことは、まさか……奉火祭を行うの?」

沙織「その場しのぎとして。ね」

天乃の問いかけるような声にうなづいた沙織は嫌悪感のにじむ声でつぶやくと、目をつむる

あまり考えたくはないことだが、

そのような流れになろうとしているのは現実であり、最も可能性が高い

というのも、

壁画委調査に出て最善策を考えるといっても

刻一刻と弱っていく神樹様に対し、強まる天の神の力

悠長に調査して考えて。などという時間はまずないといっても過言ではない

ならばどうするかと考えて出てくる選択肢は一つ

奉火祭を行うことによる時間稼ぎだ

怒り狂う神を完全に鎮めることは、もう不可能に近いだろう

それでも、300年前にも行った奉火祭を行い願う

どうか怒りを鎮めてくださいと、言葉通り神頼みをするのだ

沙織「人が誓いを破っておきながら、またしないと人が願う。あまりにもおかしな話だよね。少なくとも、妖怪なら信じない」

天乃「九尾だったら、間違いなくふざけないでと怒るでしょうね」

沙織「だから、こんな話が出てくるんだよ」

そういった沙織は、誰かが聞き耳を立てていないかとあたりを見渡し、

二人きりのはずの使われていない病室が保たれていることを確認し、天乃へと向き直る

沙織「反抗するための力、それを行使する勇者を捧げるべきではないか。ってね」


天乃「ゆっ――」

沙織「分かるよね」

二度目の奉火祭は人間側が誓いを破り、戦いに打って出たことに対する怒りを鎮めるためのものだ

そんな裏切り対する怒りへの許しは、

それこそ、反抗してきた勇者の末代までを差し出したりでもしない限り認めてはもらえないかもしれない

だが、そんなことをしたら希望が潰えてしまう

沙織「そこで話が出ているのが、半神、乃木園子。巫女を兼ねる天才、東郷美森。そして……神の敵、久遠天乃」

天乃「…………」

沙織「この三人の中から一人差し出すことで、どうにか抑えて貰えないだろうか。という話になってきてる」

沙織の三本の指が立ち、折れていく

残った部分は薬指、沙織が天乃の名前を当てたところだ

沙織「この中で一番可能性があるのが、久遠さんだよ」

天乃「……妥当な判断ね」

沙織「冗談じゃないんだよ……大赦は本気だ」

天乃は久遠家として神に対抗するための強い力をもっているが

その力の大部分は今胎に宿っている双子の子供に譲渡されている

つまり、その子が生まれた後の天乃は出がらしも同然ということになる

それは、【もっとも利益の出る損失】ということでもあるのだ


沙織「でも、それは人の考えでしかない」

天乃「神様の考えは違うって?」

沙織「久遠さんは毒でもあるからね。神様は毒りんごだと判断する可能性もあるんだ」

天乃「なら、本当に可能性があるのは誰なの? 園子? 東郷?」

沙織「どちらかといえば、東郷さんだよ。満開のおかげで神に近く、巫女と勇者の力を持っている選ばれた子」

天乃「……決行の日は?」

沙織「まだわからない」

というのも、勇者を差し出すか巫女を差し出すか

その答えはまだ出ていないからだ

だから、無駄に刺激することになるだろう防人による調査が行われることはない

そして、考えて考えて、行動に移すことだろう

であれば……

天乃「来月?」

沙織「そうだね。長すぎず短すぎない半月程度の時間。そこで答えを出すかもしれない」

天乃「覚悟は……決めるべきことじゃない」

沙織「そういうと、思ってたよ」

沙織は嬉しそうな声で笑う

しかし、難しい表情は相変わらずだった

沙織「相当厳しいことになるとは思う。あたしたちでは……きっと、簡単じゃないよ」


√ 11月09日目 夜(病院) ※火曜日


天乃「待たせてごめんね」

夏凜「いや、そっちも……大切な話だったんでしょ?」

話を終えてみんながいる病室へと戻ってきた二人

話し合いをすると言って場を離れてしまった謝罪を述べる天乃に、

夏凜は沙織を一瞥しながら答える

天乃は笑っているが、いつもの明るさはないし、

沙織に関してもいい話をしたという感じではないのが夏凜にはわかりやすかった

もっとも、病室から離れたという時点で

いい話をしたわけがないのだが。

東郷「久遠先輩が話し合う内容に関して。ですよね?」

天乃「ええ」

風「だろうと思って、あたしがさっき天乃から聞いた話に関しては伝えておいたわよ」

樹「防人のみなさんが危険な目にあわされるかもしれないこと、奉火祭っていう儀式を行うこと。お姉ちゃんから聞きました」

風も、樹も、東郷も

みんなが真剣な表情で

そして、誰一人として「本当なんですか?」という常套句を述べようとはしなかった

友奈「……一応、久遠先輩と伊集院先輩がいない間に私たちでもいろいろ考えたんです」


天乃「なるほどね」

友奈「それでっ……その……」

東郷「そこで、一つ気になったことがありまして」

友奈「東郷さんっ」

言い出そうとして、言い出せない

けれど、表情で物語る友奈を横目に東郷は言葉を投げかけて

止めようとする友奈の声を聞き流す

東郷「この奉火祭ですが、本当に捧げられるのは巫女なのでしょうか?」

いえ。と、続く

東郷「巫女だけで済むのでしょうか?」

沙織「大体の予想はついてそうな言い方だね。東郷さん」

夏凜「種を使った土地開放の結末を考えれば予想できないことでもないでしょ」

樹「こんな言い方はしたくないですけど、大赦にとっては……久遠先輩を差し出すことが一石二鳥なのではないかと」

風から話を聞き、

事前に話し合って考えついた答えはそれだった

大赦は何を差し出すのか。何をしようというのか

そう考えたら、そうなってしまった

むしろ、自分たちの安直な考え方で思いついたのだから。

大人らしくもっと小難しく考えて別の答えを出してはくれないかと思ってしまう


天乃「みんなは、そのけっ――」

友奈「嫌です! 絶対に……嫌です」

天乃「…………」

唇をかみしめ、強く言い放つ友奈の表情には余裕がなかった

きっと、風達との話し合いでさんざん希望を述べたのだろう

免れる可能性を必死に考えて述べて、それでもたたき伏せられてしまったのだろう

けれど、それでも認めたくはないのだ

友奈「今までだって、危ないことがあったけど何とかなったんだから。今回だって、きっと……」

風「正直、今回ばかりはさすがのあたしも希望があるだなんて理想を抱くのは簡単じゃないって思ってる」

だからと言ってあきらめるつもりは毛頭ないけど。と

風は場の雰囲気に似付かわしくない笑みを浮かべながら言う

風「だからいろいろと考えてたってわけ。かな~り希望的観測も含めてね」

天乃「あまり、変な提案されても冗談にしかならないというか。冗談にもならないわよ?」

東郷「そのあたりは、私が真剣に考えているという点で信頼していただければと思います」

夏凜「あんたの真剣は真剣で不安になるでしょ」

園子「わっしーの真剣は鞘に収まってるから大丈夫なんよ~……たぶん」

樹「それは……意味が変わっちゃうような」


園子の元気な発言に対して困った表情を浮かべる樹

いつもと変わらないようで、歪に感じてしまうのは

無理やりに明るく話し合おうとしているからかもしれない

希望的観測で増量したということは

そうしなければ、

まったくと言っていいほどに悪いことしか考えられなかったということでもあるのだ

風「一つ、これは園子の話だけど。八岐大蛇の話って知ってる?」

天乃「ええ、多少なら」

風「それと同じように、相手を油断させておびき寄せて奇襲を仕掛ける手はずかもしれないってやつ」

園子「時間をかけすぎても神樹様の力は弱り、加護も得られなくなっていく。なら、一気に畳みかけようとするかもしれないからね」

東郷「私もこれに関しては捨てきれない策ではないかと思います。ただ問題は……怒り狂っている今、それを行う利点があるのか。という点です」

騙せる保証はない

そして、力の増した天の神相手に主力を捨てた力で太刀打ちできるのか

諸問題は残っているが……

風「逆に、ここで一攫千金を狙うために天乃は対象外になって巫女を犠牲……いや、囮として使う方向で話が進むんじゃないかってこともありえなくはない」


夏凜「とはいえ、それじゃ何の問題解決にもならないし耐性のない巫女なんて囮にしたら即死もあり得るでしょ?」

天乃「そうね。沙織みたいな子ならともかく、普通の巫女に今の結界の外は厳しすぎると思うわ」

今回の奉火祭がどのような形で行われるのかはわからないし

あの劫火の中に投じられるというのであれば、

神樹様の力を借りることができない巫女ではすぐに燃え尽きてしまうことだろう

東郷「そこで一つ……提案が」

天乃「提案……ね」

東郷「はい」

満面の笑みを浮かべる東郷の一方で浮かない表情のままの友奈

その時点で想像が付いた天乃は、

あえて察したことを悟らせるように目を向けた

東郷「お察しの通りです久遠先輩。この囮、私に任せては頂けませんか?」

天乃「理由は?」

東郷「巫女の素質があるほか、満開によって半神となっていますし、なにより勇者としての力で耐性もあります。囮役には十分かと」


【1、駄目ね。却下よ  2、それなら毒を撒くことができる私が適任だと思わない? 異論は?
 3、それで? 東郷のこの提案以外に何かないの?  4、それで本当に無事終えられるという保証はあるの?
                           5、決定するには早計だと思わない? まだ一日もたっていないのよ?】

※2で進行


天乃「それなら、毒を撒くことのできる私のほうが適任だと思わない?」

友奈「っ」

天乃「異論はある?」

東郷「そうですね……」

少し考えた返答に驚く友奈を一瞥した天乃は、

あくまで冷静さを保ったまま東郷へと目を向ける

沙織と話していたから

東郷がそういう子だと分かっていたからというのもあるかもしれないが、

それだけでなく、不思議と落ち着いていられた

東郷「久遠先輩はまだ子供を産んでいませんし、それが来月来るかという保証もありませんから。無理はさせられません」

風「さも当たり前のように天乃が囮になる前提って話はともかく。東郷の言う通りよ天乃。却下」

夏凜「仮に子供を産んだとしても、すぐに万全になれるわけじゃないでしょ? あんた」

そもそも、

子供を産んだ後には神樹様の種を用いた儀式に似た行為を行う必要があるのだ

それを行った後にはまた、天乃の体には副作用といってもいい影響が出てくるだろし

体を癒す時間だって必要になってくる

そういった産後対応を疎かに囮になどしたら、耐性など関係なく殺されてしまう可能性は高い

園子「確かに、能力的な意味では天さんが適任なんよ。でも、それ以外を含めたら一番不適切じゃないかな?」

天乃「なるほどね……悔しいけれど一理あるわ」

沙織「一理どころか百理も万理もあるよね」


樹「ですが、できれば東郷先輩の囮もなく済ませたいです」

風「言っても……実際に話が来たわけじゃないから未定だけど、勇者じゃなければ巫女が出るのは確定なわけだし」

そういった風は、沙織へと目を向ける

風「沙織なら多少カバーできるかもしれないけど、天乃の件があるから沙織を差し出すわけにはいかない」

夏凜「だとしたら大勢の巫女か東郷かで考えれば東郷になるのも仕方ないっていえば仕方がないわけ」

友奈「でも、東郷さんが絶対に帰ってこられるって決まったわけじゃないんだよ?」

夏凜「…………」

前向きな提案をしてくれるだろう友奈の後退りするような言葉に、

病室の空気は張りつめて、沈黙が漂う

ただ少し、夏凜のため息のようなものだけが聞こえた

東郷「友奈ちゃんは、助けられないって思うの?」

友奈「そんなことない! 東郷さんのことも、久遠先輩のことも助けるよ! 絶対、何があっても、何をしてでも」

でもっ。と、

普段は明るい、友奈の悲痛な声が大きく響く

友奈「助けるって言ったら、東郷さんが危ない目にあうって思うと……言いたくない」

園子「ゆーゆ……」

風「そうね……助けられるから安心してマグマに飛び込んでなんて、言いたくはない」

夏凜「けど――」

樹「友奈さんとは違うかもしれないですけど、私もできたら違う道を選びたいと思います」


風「樹まで……」

天乃と沙織がいない間の話し合いでは、

そこまで話し合わなかったのか、話し合いきれなかったのか

それとも、ただ樹や友奈の口数が少なかったのか

驚きを見せる風に対して、樹は「ごめんね」と苦笑いを浮かべる

樹「やっぱり、東郷先輩を囮にして天の神を騙しても時間稼ぎにしかならないと思うんです。だから、できたらそんな危ないことしない方法を選びたいです」

夏凜「それは無理だって話あったでしょ」

天乃「無理だって一概に決めつけるのは早計だと思うけどね」

しかし、ほぼほぼ不可能だろうと天乃は思う

仮にできたとしても

無茶をすることにはなるし、危険な目にあうことはきっと避けることはできない

というのも、今の状況から脱するために大赦は行動を開始するが

それを阻止するということは、それが行われる前に勇者部は動かなければいけないということになる

つまり、強くなっている天の神に対し、

最悪、準備不足の状態で戦わなければならなくなるかもしれないのだ

天乃「理想は樹や友奈が考えているように、囮無しに終わらせることだけど……難しいわね」

園子「大赦も嫌がらせとか意地悪でこんなことを考えてるわけじゃないんよ」


天乃対しては結構意地悪な考えを持つことが多いが、

今回に限って言えば、そんな考えはほとんどないはずだ

まじめに考えて

何が最小限の犠牲で納めることができるのか

それを考えてくるだろうと園子は言う

そしてだからこそ、勇者や天乃に声がかかる可能性があるのだと。

風「……それじゃ、東郷。提案は断られたわけだしとりあえずはいい?」

東郷「仕方がないですね」

残念そうに答えた東郷へと目を向けた風は、

応えるように眉をひそめた笑みを浮かべると、ほかのみんなを見渡す

風「東郷と天乃が一番可能性は高いけど、誰に大赦の話が来ても一先ず保留にして詳細を話し合うこと。良い? 単独行動は絶対にするんじゃないわよ」

夏凜「ま、私たちの目的的にそんなことするような奴はいないでしょ」

沙織「久遠さんの場合、万全だったらやりかねないけどね」

天乃「しないから大丈夫よ。今万全でもね」

不自由になって、傷ついて、

勇者部のみんなと様々なかかわりを持って、学んで

今はもう、一人で無茶をすることはないと

天乃は少しだけ自信をもって言える

風「その点は信頼してる。今回のことだって、先に話してくれたわけだし」

嬉しそうに笑う風の一方で、

全員が笑みを浮かべることができたわけではないことを、天乃は見逃さなかった


√11月10日 朝(病院)※水曜日


天乃「……銀の誕生日なのにね」

天乃にとって、三ノ輪家にとって

そして、鷲尾須美や乃木園子にとって太陽にも等しい存在だった銀の誕生日

祝うべき相手はいないからと言わんばかりに振る雨を眺めながら、

天乃は嘆息する

天乃「…………」

昨夜、奉火祭に関して話し合ったが、

結局のところ決まったことはほとんど何もない

囮になるのは巫女か東郷か天乃かという話で決着はつかなかった

囮になる以外の解決策もまた、見つかってはいない

天乃「子供が考えるには、荷が重すぎるのよ……」

世界の命運をかけた選択

それに対して賛同と反対を行う覚悟を勇者部はしている

だが、対する選択を提示できる自信があるわけではない

なせば大抵なんとかなる。そんな理想を語って突き進み続けていけるほど生易しくはない

もちろん、無理を通せばある程度の開拓はできるかもしれないが。


友奈は明るい子で、前向きに物事を考えられるが

その悪い部分の一切合切を考えられないわけではない

むしろその部分を考えられるからそこに希望や理想を上塗りしようとする

だから、それができない今回のような話では狼狽えてしまう

天乃「誰一人として犠牲が出ないことは理想だけど……」

それはあくまで、結果だけに求めるべきだろう

その被害が死人が出るといった話ならばともかく

過程でさえ被害の一つも許さないとなれば難易度は跳ね上がる

被害のない結果のため、最小限の被害で済む過程になるよう努めたほうがいい

天乃「被害といえば同じではあるけれど、中身が違う」

なら。と、天乃は思う

昨夜の話の続きになってしまうが

巫女、東郷、自分の中で誰なら最小限の被害で済むのだろうか?

耐性のほとんどない巫女、子供の宿っている天乃、勇者・巫女・神樹様の力を備えた東郷

どう考えても、東郷以外にはない

天乃「……そう考えられる辺りが一番の変化かもしれない」


思わず、自分自身に向かって嘲笑の混じった呟きを漏らす

今までの自分ならば、まず間違いなく東郷や巫女といった

自分以外の犠牲は絶対に許さなかった

明らかに自分よりも東郷たちが担うべきだとわかっていてもだ

天乃「それが、これよ……どう思う?」

答えてくれる相手のいない空間へと問いかける

視線の先の窓に映るのは、天乃だけだ

東郷……東郷美森

以前は鷲尾須美と名乗っていた―といっても、東郷から鷲尾で東郷に戻ったのだが―大切な後輩

二年前、あんな危険な目に合わせて

絶対に失わないと決めて

それなのに、囮になるのは東郷が適任だと考えてしまう

天乃「…………」

布団の上、何もない手を握り合わせて息を吐く

できるならば、それは避けたい

可能ならば、子供のように……徹頭徹尾夢を抱いて歩んでいきたい

それこそ、絶望的な状況を打破できるかもしれない可能性なのだから



【1、勇者と交流(続けて相手選択)  2、精霊と交流(続けて相手選択)
 3、大赦との接触を試みる  4、イベント判定  5、ほかに方法がないかを考える】

※1(園子)で進行


天乃「園子、ちょっといい?」

園子「ん~?」

天乃のベッドの正面に位置する場所で学校に行く準備を進める園子へと声をかける

まだ少し寝ぼけているような

そんなふわふわとした返事をしながらも足取りはしっかりと天乃へと近づいて

ベッドに手をついたかと思えば、ぐっと体を伸ばして距離を詰めていく

園子「行ってらっしゃいのちゅ~する~?」

ちょっぴりふざけたキスをするようなタコ唇

む~っと言いながら近づく園子に差し出した指は、唇の中へと吸い込まれて消えた

天乃「……おいしい?」

園子「おいひ」

天乃「それでね? 園子。少しまじめな話がしたいの」

園子「まひへなひゃない?」

そうよ。と答えると

園子は指をしゃぶるのをやめて、離れる

口元こそ少し汚れていたが、表情はまじめだった


園子「そっか……昨日の続き?」

園子は問いかけるように言うと、

天乃の表情を観察して、うーん。と唸る

園子「大赦の動きを監視するとかはさすがの私にもできないんよ」

会わせたり、ちょっとした話を聞くくらいならできるかもしれないが

動向をずっと見ていることはできない

園子「私としては、天さんもわっしーも。囮になんてなんてほしくない」

どちらも大切な人だ

銀とともに戦い、あの悲しみを知り、失わないと誓った大切な存在だ

それを、危険に晒すのは嫌だった

園子「……なんとか。なんとか、そうならない方法を探す」

だから。と、

園子は天乃の顔をまじまじと見つめる

強い瞳で、力のある表情で

園子「絶対に、無理はしないでほしいんよ」

天乃「……園子」


【1、それは、私も言いたいことだわ  2、私が話したかったのは銀の誕生日だからお墓に行かない? ってことだったんだけれど
 3、今のところは、貴女でも方法は考えつかないのね  4、大丈夫よ。私には子供がいるもの】

※2で進行


天乃「園子がしっかり考えてくれているのは嬉しいわ」

園子「っ、天さ――」

天乃「でもね」

限りなく優しい声だったからかもしれない

園子は不安と恐れを混ぜ込んだ複雑な表情を浮かべながら、

名前を呼ぼうとしているようなかすれた声で首を振る

けれど、天乃は微笑んだまま続けた

天乃「私が話したかったのは銀の誕生日だからお墓に行かない? ってことだったのよ」

園子「…………」

天乃「ごめんね? 言葉が足りなかったわ」

園子「………へっ?」

ぇ? と……ミクロンほどに小さな吐息のような声を漏らした園子は

唖然とした表情のまま天乃の顔を眺めて、不意に目を見開く

園子「てっ……くっ……ぁ……あまのんっ!」

天乃「ふふっ、ごめんなさい」


かわいらしい怒鳴り声が病室に響いたが、

誰一人として心配せず見に来ないのは、

本当に他愛もないことだとわかっているからだろう

頬を染めた園子は天乃から目を逸らしていて

心なしか、距離が開いているように感じた

園子「真剣な話っていうから昨日の……絶対わざとだった」

天乃「そんなことないわよ。銀のことはまじめな話だもの」

それに。と

小さくこぼした天乃は困った表情を浮かべる

天乃「私、きっと鉄男くんに嫌われたままだから」

というのも天乃は結局、銀の弟である鉄男との喧嘩別れをしっかりと解消できてはいない

それもあって、

栄誉ある死というものを受け入れることのできなかった鉄男のために、

英霊たちが眠る場所とは別に作られた墓に赴くことは難しいのだ

園子「……でも、きっと難しいことを言ったって分かってるとは思うんよ。だから会えば……」

そこまで言った園子は、

ついさっきまでの発言を取り消すように「ううん」と否定する

園子「会うのはダメなんよ」

天乃「だからそう――」

園子「天さんが考えているのとは全く違う理由で」


園子「鉄男くんは大赦に対して、お役目、名誉。そういうところで良い印象がないんよ」

痛みを伴う表情で園子は言う

かつて、銀の葬式が行われた時の出来事だ

銀の死がお役目―勇者としての戦い―によるものだとして

名誉であると、英霊であるとした周囲に対し、彼はそれを否定した

幼かったからではなく、

それが間違っていると感じたから

鉄男にとって、銀はとても大切な存在だったからだ

その彼が、二年たった今神樹様を深く信仰しているとは考えられないし

ましてや、大赦のことを快く思っているわけがない

そこに属していた天乃が、最後に見たころと酷く変わっていたらどう思うだろうか

その理由をもしも知っていたら、どんな反応をするだろうか

園子「……結構、天さんのこと好きだったんよ」

頼れる姉として、楽しい姉として、優しい姉として

もちろん、銀も優しく楽しく頼れる人で、天乃以上の存在ではあっただろうが

家族以外として、彼にはそんな思いがあったことだろう

園子は首を横に振ると、小さく息を吐く

園子「理由は分かっていないにしても、天さんはあのお墓には行けないって考えてた」

天乃「そう……ね」

園子「つまり、大赦の所有する英霊墓地。そこに天さんは行きたいってことだよね?」


園子「それは……かなり難しいと思うんよ」

天乃「だから、まじめな話なのよ」

園子「…………」

忘れようとしていたのをを掘り返されたからか、

園子は少しだけむっとした表情を見せると、病室の出入り口を一瞥する

英霊墓地とはつまり、かつての英霊たちの名が刻まれた石碑のある場所だ

二年前園子たちが守るべき場所としていた瀬戸大橋そのすぐ近く

しかし、そこに久遠家……

正しく言えば、久遠家の力を持つ人間の立ち入りは原則禁じられている

大赦にとっては穢らわしいというべき力が英霊たちを蝕むことを避けることを目的とされており

基本的に、別途用意されたなんの儀式的意味も存在していない場所や、

銀の墓が用意されている通常の墓地にしかいくことは許されていない

それゆえに、園子は難色を示しているのだ

大赦に要求して、それが通る可能性は極めて低い

連れ出すのが味方である瞳だとしても、

たどり着くまでの妨害、あるいは拒絶は神樹様の種を奪いに行く時以上だろう

むしろ、それがあったからこそより警戒されていてもおかしくはない


園子「乃木家の力を使ったとしても……きっと」

天乃「大赦の偉い人が許してくれないのよね? 直談判とかできないかしら」

園子「会うこと自体難しいと思う」

もしもそれが叶ったとしても。と

園子はわずかに言いかけた口をつぐむと、

天乃の問いかけるような表情をじっと見つめて、目を逸らす

そんな迷っているのだとわかりやすい園子の態度に

天乃は問うべきか否かを天秤にかけて、後者を即断する

悩まなければならない案件ならば、無理強いはできないと思ったからだ

しかし、園子はそらし、迷わせた瞳を天乃へとむけて

園子「……そもそも、久遠家の力を持つ人間を立ち入らせないようにと決めたのは久遠家なんよ」

天乃「えっ」

園子「そして、その代わり大赦は久遠の力を持つ者を出来得る範囲で保護することを目的として、代々の偉い人の中に久遠家がいる」

聞き覚えはある。だが、

いろいろとありすぎて流れてしまったか

それとも、消えた家族の記憶の中のものなのか

園子の話す内容に追いつくことができない天乃は困惑した声を漏らす

園子「それだけ、霊的・神的信仰に重きを置いてきたってことなんよ」

それも今となっては、天乃達の暴挙も含めたいろいろな要因から壊れ始めているのだが。


園子「……ミノさんの誕生日だし、いろいろな報告も含めて私は行きたい」

だから。と、

園子は悩みのない力強い瞳を天乃へとむけた

それは、天乃さえよければ全力で要請しよう、抗議しよう

そんな気持ちが表れているのだとわかった

それがたとえ、今後の乃木家の運命を大きく左右するものであろうとだ

園子「多分、今は天さんのお祖母ちゃんがその位置にいると思うし、話すとしたらその人になると思う」

天乃「お祖母ちゃん……?」

家族構成は知っているつもりだったが

両親と兄と姉位のものだと思っていた天乃は、思わず驚いた声で問い返すように呟く

園子「私も一度だけあったことはあるけどすごく厳しい人なんよ」

自分にも、他人にも。

決して甘やかそうとはしないような人だと園子は語る

園子「どう? 天さん、会えるのなら、会いたい?」


【1、会いたい  2、やめておく  3、考えさせて
 4、そこまで必要なら……鉄男くんにあう危険性はあるけど普通のお墓に行きましょ】

※1で進行


天乃「そうね、できるのなら会いたいわ」

自分の身内であるということもそうだが、

大赦の上席に座する者ならば、巫女あるいは勇者を犠牲にした奉火祭についての権限もあるということで

そして、それ以外の人々を歩ませる道筋を組み立てる立場にあるということでもある

つまり、話し合いができれば可能性が生まれるのだ

誰も犠牲にしなくてすむかもしれない選択

最良ではないが、良ではあるかもしれない選択

天乃「……銀のこともそうだけれど、おまけが得られそうだからね」

園子「簡単じゃない。もしかしたら久遠さんが傷つくようなことかもしれない。それでも?」

二年前、まだ馴染み切れていなかった頃の呼び名

そして、最も大切な話をするべきに扱う口調

園子は最大限の牽制を含んだ表情で問いかけると

天乃の変わらない瞳を確認して、頷く

園子「望み通りに行かなくても、がっかりしないでほしいんよ」

天乃「園子が頑張ってくれることは分かっているもの。それでだめなら、それだけのこと」

相当難しいというのは脅しでも何でもないのだろう

不安を隠しきれない園子に天乃が優しく声をかけると

園子はしっかりとうなづいて「頑張る」と言い、

一緒に学校に行く予定だった夏凜達へと欠席することを告げた


√ 11月10日目 昼(病院) ※水曜日

気が付けば、昼時

日の光が消えうせた空から絶え間なく落ちてくる雫は景色を歪ませて、

それをぬぐい、歪ませてを繰り返す

天乃「……大丈夫かしら」

園子は直接大赦に向かった

勇者である園子を害するようなものはいないと信じたいが

神樹様の種を奪うといったとんでもないことをした今

勇者という肩書が大赦に通用するかどうかは微妙だった

天乃「…………」

大赦の決め事、久遠家の存在

久遠家がいてなお、力を持つ者が忌み嫌われてしまう現状から察するに

どうあがいても救いはないのかもしれない。と

天乃は不安を抱き、息を吐く

天乃「無理は、しなくていいからね」

自分のためなら多少の無理は通してしまいそうな園子の無事を願うように手を合わせながら

天乃は静かに、祈りを呟く

神様にではなく、園子に向かって。


【1、勇者と交流(続けて相手選択)  2、精霊と交流(続けて相手選択)
 3、大赦との接触を試みる  4、イベント判定  5、ほかに方法がないかを考える】


※4で進行(歌野)


天乃「?」

窓から外を眺めていた天乃の耳に、コンッという音が届く

目を向けた先、音もなく出てきていたのは歌野だった

歌野「ソーリー、邪魔だった?」

天乃が授かった精霊である稲荷

その稲荷を媒体として出てきた歌野は稲荷の神格の影響でも受けたのか

それとも、もともとそういった少女なのか

無駄に英語を使う

若葉の記憶にある歌野はそんなことはなかったのだから前者の可能性はある

そんなことを考えながら不安をかき消して、微笑む

天乃「別に大丈夫よ。どうかしたの?」

歌野「大したことではないんだけど……少し嫌な予感がしてね」

天乃「嫌な予感?」

歌野「ん~……」

自分で言っておいてあれなんだけど。と

歌野は少し困った苦笑いを浮かべながら頭をかくと、

数瞬、窓の外へと視線を移して息を吐く

歌野「稲荷のパワーっていうか、シックスセンスというか。こう……樹海とか神樹様の力を感じ取ることができなくもなくて」

天乃「……もう持たないの?」

歌野「ドンウォーリー。もうしばらくは平気よ。ただ、凄くリトル。少しでも強い力で介入されたら結界の中に影響が出てもおかしくないわ」



天乃「なら、状況はあまり変わってないのよね?」

歌野「イエス……と言いたいところだけどノーよ」

心の底から残念そうに歌野は首を振る

何も状況が変わっていないのならば

似たようなことを聞いている天乃に再び言う必要はないのだ

ただでさえ、友の身を案じて浮かない表情をしていたのだから。

それでも接触したのは言わなければならないと思ったからだ

ものによっては、見落としてしまいそうなほど小さな種がある

しかし、それも育てばやがて大きなものへと成長していく

だからこそ、些細なことも警戒するべきなのだ

歌野「今までは治っていく力があった。でも、もう治るほどの力がない」

天乃「つまり、削られていく一方で消滅していくってことよね?」

歌野「イエス。それに……神樹様からは何か嫌なものを感じる」

天乃「嫌なもの? 具体的には……」

歌野「ソーリー、ドントアンダスタンド。私にはわからない」

けれど、それは決して悪いものだと一概に言えるようなものではないと歌野は言って

けれど、何か良くないもののように感じると歌野は言う

それを具体的に知る方法はあるだろうか……?


【1、それ、藤森さんには聞いてみた?  2、わかったわ。一応警戒してみましょう  3、ちなみに、どんな風に嫌な感じなの?】

※1で進行


天乃「それ、藤森さんには聞いてみた?」

歌野「ええ。でもみーちゃんったら抽象的過ぎてわからないって」

天乃「……そう。やっぱり難しいわね」

歌野から話を聞いて抽象的過ぎてわからないということは

水都は巫女として感じ取れてはいないということになる

あるいは感じてはいるが、感じ方が違うか

そもそも、神樹様から感じられる意思やお告げは抽象的なものであり

それを何とかして解読しているという形だ

嫌な予感はするが、悪いとは言い切れない何か

それだけでは何が行われるのか分からないが

おそらく、天乃たちにとっては良くはないけれど

世界にとって悪とは言い切れない何かかもしれないと天乃は思う

天乃「奉火祭……は違うでしょうね」

歌野「ホワット。どうしてそう言い切れるの?」

不思議そうに問いかけた歌野は

少し考える素振りを見せると、眉をひそめた

歌野「嫌だけど悪ではないっていうなら、奉火祭がマッチしない?」

天乃「奉火祭は天の神に対してのものだからかな」


奉火祭が直接関係あるのは天の神の方であって神樹様ではない

もしも神樹様が自分の領地内に住む少女たちが身を挺して守ろうとしている姿に涙し

そのようなことはさせられるぬと力を発揮するような慈悲深き御心をお持ちであらせられるのならば話は変わるが

残念ながらまだ、そこには至っていないだろう

だから、

奉火祭についての影響ならば嫌でも悪くはないという予感が神樹様から伝わってくるとは考え難い

もちろん、絶対にないとも言い切れないけれど。

天乃「だから、それ以外の何かがあると思うのよ」

歌野「ふむ……例えば?」

天乃「それを聞かれても困るけれど……そうねぇ。例えば大赦と神樹様の間で何か取引が行われている。とか」

歌野「リアリィ?」

天乃「さぁ? ただの推測というか、邪推みたいなものよ」

大赦が何か裏で行動しており、

それによる影響が出ているだとか

大赦にあまりいい印象がないからこその偏見に満ち満ちた適当な考えだ

これならまだ、神樹様の慈悲深き御心のほうが可能性がある

天乃は小さく笑い声をこぼして少しだけ考える

本当のところは分からない

けれど、天乃の中の巫女の力は不穏なものを感じ取ったかのように、

ただの考えすぎという程度で流そうとは思えなかった


天乃「……運が良ければ、大赦の人と話せるかもしれないから聞いてみるわ」

歌野「さっきトークしてたことよね?」

天乃「ええ。そう。だから運が良ければ」

普通に接触できるレベルの人出は、

そこまで深い話を聞くことはできないだろうし、聞いても無駄になる

だが、天乃の祖母が与えられている上の立場ならば、

その部分も詳しく知っていることだろう

あるいは、それを考えたのが祖母である可能性さえ、ある

歌野「でも、久遠さんは平気? グランドマザーなんでしょ?」

天乃「良いのか悪いのか。私には家族の記憶がないから……問い詰め易いわ」

ふざけて笑って見せた天乃の一方で、

歌野は少し悲しそうな表情を浮かべて、頷く

否定したり、余計なことを言ったところで乱すだけだと思ったのかもしれない

歌野「オーケー、それじゃぁそのっち次第ってことね」

天乃「うまくいけばね。正直、かなり厳しいと思うわ」

歌野「グランドマザーも立派なファミリーでしょ? きっと会いに来てくれるわ」

天乃「だといいけど」


さすがに場を荒らしすぎた

大赦の立場を危うくするようなことになったりもしたし、

人類の存亡をかけた神樹様の種を芽吹かせる作戦に割り込み、阻んだ

久遠家が代々守ってきた誓いを無碍にしているようなものなのだから

嫌われているかもしれない、憎まれているかもしれない

好かれているかどうかというよりも、

孫だと思ってもらえているかどうかでさえ、不安に思う

歌野「久遠さん?」

天乃「……あっ、ごめんなさい」

ぽんっと肩をたたかれ、笑う

無意識に考え込んでしまっていたら志井時間はおそらく数秒間

それでも、表情が不安を物語っていたのか、

心配そうに顔を覗き込んでくる歌野に「大丈夫」と声をかけて

天乃は作り笑いを浮かべた


√ 11月10日目 夕(病院) ※水曜日


九尾「また、厄介ごとに首を突っ込もうとしておるのか」

天乃「九尾……」

いつものようにどこからともなく姿を見せた九尾は

これと言って心配した様子もなく、呆れを感じさせる声で言う

天乃が余計なことに首を突っ込むのは―巻き込まれるのは―日常茶飯事だったからかもしれない

人間の女の姿でベッドのふちに腰かけた九尾の長い髪が天乃の手に触れた

九尾「主様の祖母は面会になど応じることはないぞ」

天乃「やっぱり、貴女は知ってるのね」

九尾「当然じゃろう」

体をむしばむ力の持ち主である以上、

九尾が先祖代々の守り神と言うには疑問があるが

それでも、憑いてきていたのは事実で。

歴代の久遠家の人間のことはよく知っているはずなのだ

九尾「反対に、奴は妾を知っておる」

天乃「勇者だったとか?」

九尾「くふふっ、まさか。奴が勇者だったならば二年前が始まりにはなっておらぬよ」


天乃「……それもそうね」

祖母の代から戦いが始まっていたならば、

もっとしっかりと準備が行われていたはずで

それならば、銀が命を落とすようなことにもなることはなかったことだろう

しかし、それならばと天乃は思う

天乃「戦いが始まってもいないのに貴女は姿を見せていたの?」

九尾「奴も力はあったからのう……いや、奴が妾に興味があったからじゃな」

九尾は語りながら懐かしむように天井を見上げると、

天乃の方へと頭だけを動かす

九尾「多少、繋がりはあった」

天乃「勇者としての役目がないのに?」

九尾「勇者としての役目など、久遠家の人間にはそもそもないぞ」

天乃「…………」

九尾「久遠家は神に対する絶対的な力を持っているがゆえに勇者と並んでいるだけで正式には勇者ではない」

それは分かっておるじゃろう? と問いかける九尾をじっと見つめた天乃は

静かに頷いて、目を逸らす

勇者としての力を与える神樹様に対してでさえ、

朽ち果てさせることができる化け物のような力を持っているのだ

仕方がないことだろう


天乃「それならなおさら疑問だわ。どうして繋がりがあるの?」

九尾「久遠家の力を継いだ人間は必ず、妾らのことを聞く。じゃから興味を持ったんじゃ」

天乃「だからって、貴女が必ず姿を見せるわけではないでしょう?」

九尾「いかにも。じゃから言ったであろう? 奴は力があり、なおかつ妾に興味があった」

天乃「昔の私みたいに感知したりできてたってことね?」

天乃の問いに、九尾は頷いて答える

逃げても隠れても祖母は感知できたのだ

それは巫女としての力が強かったからだと九尾は言う

神樹様関連のものから遠く離れていても、神樹様のお告げを受け取ることが可能なくらいには。

九尾「ゆえに、妾は奴をよう知っておる」

そういう九尾の細めた瞳は鋭く

久しく見ていない本来の狐の姿を彷彿とさせるように天乃は感じた

九尾「奴は面倒な女じゃ。主様が孫かどうかなど関係ない。それが必要ならば行い、不要ならば切り捨てる」

誰かの死が世界の存続に必要ならば、その死を甘んじて受け入れる

もちろん、その誰かが自分であってもだ

九尾「そして奴は主様との対話など不要だと切り捨てる」

天乃「…………」


【1、貴女なら接触できるんじゃないの?  2、どうして、そうなったの?
 3、そう……なら、必要なら奉火祭も行うのね。たとえ、孫の友人や孫自身が犠牲になるとしても
 4、今でも、その巫女としての力は残ってるの?】

※2で進行


天乃「……どうしてそうなったの?」

九尾「そうなったのではなく、そうだった。が適切じゃな」

言葉を選びながら九尾は言う

そうなったのではなく元からそうだったというのは

現代の神樹様信仰に通ずるものがあるように天乃は感じたが、

九尾は少し違う。と、聞かれずに否定する

九尾「久遠家の人間が若くして死ぬ定めにあるということが問題じゃ」

天乃「血のために易く朽ちてしまう一族からしたら、世界のための些細な命なんて気にするようなことじゃないってこと?」

九尾「久遠家の人間は……力の影響を受けずに済んだ奴は別じゃが、そういう考え方をする者は多い」

かつてあった神世紀72年頃の出来事のように、

自分だけではなく母や娘の命といった、低く見るべきではないものが

抗うすべも残されていないほどちっぽけなものに感じて、

それと比べれば、世界を存続させるための犠牲などさぞかし尊いものだと考える

天乃「なら、記憶を失う前の私は? 失う前はそうやって銀の死もただ尊いと思えるような――」

九尾「そんな人間ならば、あの二人はついてくることはなかろうな」

くつくつと笑いながら否定し、九尾は目を見開く

力強くも優しい印象を覚える瞳だが、内面は分かったものではない

九尾「主様の考えは奴の考え。いや、久遠家が代々継いできた考え方と相反するものなのは想像に易いじゃろう」

銀を失う前の天乃は自他ともに大切にするほうだったが、

銀を失ったあとはもう自己犠牲精神の塊で、人のためならば自分の命も軽んじられるような生き方だった

どちらかといえば、後者は近しいものではあるが、やはり久遠家が代々受け継いできた生き方ではない


天乃「だからお見舞いには来ないし面会も受け付けないって?」

九尾「自分が勇者として戦うのなら、私の代ですべて終わらせる。主様は奴にそう宣言しさえしたからのう」

天乃「その結果、銀を失うことになったのね」

九尾「主様はできる限りのことをしたじゃろ。それで救えなかったならば仕方があるまい」

仕方がないと言われても。と、

銀の誕生日だからか気の滅入った呟きを漏らす天乃を、九尾はじっと見つめる

少しして、「とにかく」と声が響く

九尾「奴と会うことは難しいじゃろうな。銀の墓参りの中に今後の大赦の方針についての話が交わることも考えるじゃろうからな」

しかし……

そうこぼした九尾は考え、悩んでグルル。と、喉を鳴らす

女性の容姿から出てくる獣感に天乃は眉をひそめた

天乃「何か気になることでもあるの?」

九尾「主様に接触する可能性も捨てきれぬやもしれぬと思うてな」

天乃と話して、過去を思い起こして

それで何となく感じたらしい

自分の根拠のない発言が気に入らないのか、渋い顔のまま九尾はつづける


九尾「久遠家の生き方に逆らった主様の心を折ろうとするやもしれぬぞ」

天乃「まさか」

九尾「奴の性根の悪さは酷いものじゃからな。あり得ぬ話ではなかろう」

天乃「さすがにそんなことはないと思うけどね。さすがに」

世界のために些細な犠牲を辞さないやり方をするならば、

世界を救うことも壊すこともできる力を持つ子を宿した天乃の心を深く傷つけるようなことはしないと、

天乃は信じて否定する

天乃「でも、その悪い考えがあっても接触できるに越したことはないわ」

九尾「ふむ……」

吉と出るかはわからないが

接触できなければ吉と出る可能性がそもそも潰えてしまうのだ

来てくれるというのならば見逃す手はない

それに。と、天乃は微笑む

天乃「私にはたくさんの支えがあるもの。そう簡単に、折れてなんてあげられないわ」

九尾「主様がそういうのならば、そうなのやもしれぬな……今の主様ならば。じゃが」

天乃「どうしてそこを強調するのよ。否定はできないけど」

祖母譲り……いや、

きっとその逆であろう意地の悪い冗談を述べる九尾をにらみつつ笑う天乃の横で、

九尾はふと。顔を伏せて息を吐く

九尾「主様。一つだけ問いたい」

天乃「なに? お祖母ちゃんにあうかどうかなら――」

九尾「そうではない。主様にとって、人間とはどのようなもののことを言う」

天乃「何よ。哲学的な話なら私より園子向きじゃない?」

九尾「妾の主は主様じゃろうて」


どのようなものであるならば、人間と呼べるのか

どちらも似たようなものではあるが、

感情を持ったロボット

画面の中でしか動くことのできない心のあるAI

それは人間と呼べるのか否か

AIの思考方法や意思、感情の出し方やそれらの反応速度が人並みに優れ、

見分けのつかない外見を持っていたとしたら、それは人間だと言えるのか否か

そのレベルにまでもっていくとなると、さすがに手が付けられないと天乃は首を振った

天乃「そう言う話を求めてるなら、私に聞くのは間違いよ」

九尾「主様は主様で、必ず問に対する答えを出す人間じゃろう」

天乃「買いかぶりすぎだわ」

九尾「それでもよい。のう、主様や。若葉たちは人間かや? そうであるならば、妾はどうじゃ。人間かや?」

天乃「…………」


【1、若葉たちは人間よ。貴女はちょっと違うけど……ちゃんとした家族ではあるわ
  2、若葉たちは人間だけど……貴女はペットかしら
   3、精霊だから。妖怪だから。ってこと? 身勝手な自論で良いの?
    4、若葉たちは若葉たちでしょ。貴女も貴女。違うの? 】


※4で進行


天乃「良く、わからないのだけど……」

自分の発言が何か、大きな影響を与えてしまいそうな予感がして

天乃は考えながら小さな言葉を呟いていく

天乃「若葉達は若葉達。貴女は貴女でしょ? 違うの?」

九尾「ふむ……」

あまりにも、普遍的で

九尾にとってはつまらないものだったのかもしれない

笑うことも驚くこともなく、ただ、変わらない無表情に近い顔のまま

ゆっくりと、ベッドから立ち上がる

九尾「それはそうじゃろうな」

天乃「答えが不満だった?」

九尾「当たり障りのない言い方じゃからな。もう少し、違った話が聞けるのやも。と思うておった」

天乃「期待に沿えなくて悪かったわね」

皮肉ぶった天乃の返事に、

九尾はにこやかな笑みを浮かべると静かに首を振る

九尾「初めからまっとうな答えなど期待していたわけではない。ただ、主様の考えを聞いてみようと思うただけのこと」

天乃「貴女がそういうこと言うときって大抵裏があると思うのだけど」

何かあるの? と尋ねると

九尾はやっぱり、笑うだけだった

九尾にしかわからない何かがあるのだろう

だから、天乃の考えを聞こうとしたのだ

当たり障りのない答え

それで九尾が何を考えどう動くのか

聞いてもきっと、答えてはくれないだろう

そんな考え事に気付いたかのように、九尾はくるりと体を回して見せる

もはや見慣れた看護師の衣装は乱れることなく

ただ、載せていただけの帽子が離れていく

九尾「妾は妾。さようじゃな……しかし主様。千景は千景なれば死神は……どうなるのかのう?」

天乃「きゅ――」

帽子が床に落ちるのと同時に九尾は姿を消す

床に落ちたはずの帽子もまた、気づけばそこにはなかった


天乃「……死神」

かつて、天乃の精霊だった者の名だ

今はその力、その存在を糧として

西暦時代の勇者である郡千景を精霊として呼び起こしており

もうすでにいなくなってしまった死神

千景は千景だというのなら、死神はどこへ行ったのだろうか

死神は千景だというならば千景は千景ではなくなる

千景であり、死神であり、やはり千景であるなどと入り組んだ考え方をするのならば、

まだ、言えなくもないが。

天乃「死神は千景に生まれ変わった……とか、そう考えれば……でも、ある意味で私の言ったことを否定することにもなる」

九尾は矛盾させるために、

お前の考えは間違っているというために死神のことを持ち出したのだろうか

それとも、また別の何か意味があって、持ち出したのか

天乃は数分間黙り込んで、息を吐いた

天乃「何をもって人間なのか。千景は千景なら死神はどうなのか……ね」

千景が人間なのか、死神が人間なのか

人間が何かに成り代わったとき、果たしてそれは人間だと言えるのだろうか

天乃「……そういう難しい話は私にされても困るわ」

九尾がそういう話をしたかったのかどうかは不確かだが

天乃は軽く悪態をついて、枕に頭を落とした


√ 11月10日目 夜(病院) ※水曜日


園子「天さん……」

夕方も過ぎ、学校に行っていたみんなが帰ってきてもまだ帰って来ることはなく、

夜になってようやく帰ってきた園子は時間以上に分かりやすい面持ちで。

天乃は優しく笑みを浮かべて、手招く。

東郷も、夏凜も、風も友奈も樹も

誰もが案じながらも、声をかけずに見送る

ベッドのわきにまで近づいてきた園子は椅子に座らずに、口を開いた

園子「一応、乃木家と関わりのある大赦の人にも話したけど……」

天乃「うん」

園子「ダメだった」

総じて、返ってきた答えが【ノー】だった

それとほとんど同じくして聞かされた言葉が、

久遠様は身重な体なのだから。というものだった

何かがあったら責任はとれない

特殊な妊娠なのだから控えるべき……と

あくまで身を案じているような断り方だった

園子「ミノさんの誕生日だからって、言ったのに」

天乃「本心なのかどうかはともかく、確かに私はもう少し気を使うべきかもしれないわね」


消沈している園子の一方で、

天乃は努めて明るい声で答え、苦笑する

少し前は死ぬか生きるかの瀬戸際といっても過言ではないような状況に陥っていて

夏凜達の協力があって何とか持ち直したからと

外出許可が取れるかといえば、そうでもない

天乃「思えば、大赦関係の病院だからそもそも外出できるはずがなかったわね」

園子「…………」

天乃「園子は、銀の家に行ってあげたりしたの?」

園子「っ」

首を振る。

ミノさんには悪いけど。と、園子はつぶやくような声で言う

天乃と一緒に行く予定だった、行きたかった

行きたいと言っていたから、連れていきたかった

だから、頑張って。

園子「ごめんね、天さん」

それでも、どうにもできなかった


天乃「別に謝るようなことじゃないわ。無理を言ったのは私だもの」

園子「でも」

天乃「お祖母ちゃんのことも、合わせて話してくれたんでしょ?」

園子「それは……」

祖母のこともそうだが、

お墓のことだけでも難しい

そしてそもそも病院から出ること自体、簡単なことではない

無理であることが当たり前だなんて言うつもりはないが

出来て当たり前だとも思わないし

出来なかったからと言って、

園子を責めるようなつもりは毛頭なかった



【1、無理なのは承知の上だったけど……それで、お祖母ちゃんの方はどんな反応だった?
 2、そういえばお祖母ちゃんのことで九尾と話して気になったのだけど、記憶を失う前の私って、どんな感じだったの?
  3、ところで、園子はなにが人間であると言えると考えてる?
   4、ねぇ、園子。もしも人が人の形ではなくなるのだとしたら、それを人間だっていえる?  】


※2で進行


現行ここまで


沈黙の空気は天気も重なってか、重苦しく感じる

そんな中、仕方がないなぁ。と

どこか呆れを感じるような優しい笑みを浮かべて園子を見つめた

天乃「話は変わるんだけどね。さっき、九尾とお祖母ちゃんのことで話してたのよ」

園子「え?」

天乃「大したことではないのよ? でも、そこで記憶を失う前の私ってどんなのだったのかなって気になったのよ」

重要な話を遮った話題

けれど、それもやっぱり重要なもののような気がして、園子は顔を上げた

罪悪感を帯びた瞳ではあるが、そのものの宿る話ではないからか

少しだけ明るくなったように感じる

園子「失った記憶は家族のことだから、そのことだよね?」

天乃「ええ。それ以外についてはちゃんと……でも、それで変わっちゃったこともあるのかなって思って」

園子「お祖母ちゃんのことをお祖母様って呼んでたっていうのがまず一つの違いかなぁ」

天乃「お祖母様? 私ってそんな――」

園子「結構敵視してるって聞いたことがあるんよ」

天乃本人ではなく、天乃の兄や姉から聞いた話にはなるが

お祖母様や大赦の取り決める犠牲有りでの人類の存続に対し、

天乃は犠牲のないやり方での存続や、状況の打開を目指していたのだ

真っ向から対立しておいたのだから、仲が悪いのも当然だろう


園子「小学生の私たちに戦わせるなんてダメだって。そういう進言もしてたみたい」

天乃「…………」

園子「でも結局駄目だったんだって、残念そうにしてた」

そんな話をしたような、していないような

きっと、大赦の上層にいる祖母に直談判でもしたのだろう

記憶障害の影響で曖昧だった

園子「だからこそ、天さんはミノさんがいなくなっちゃったときにすごく責任を感じてたんだ」

それでも激高して、周りに八つ当たりすることはなかった

ただ、ごめんねと。謝るだけだった

それが、誰も犠牲にならない戦い方から、

犠牲になるしかないならば自分が犠牲になろうというものに変わってしまった

園子「……えっと、そういう話じゃない。よね」

自然と銀の話に移ってしまったからか

園子は困ったような笑みを浮かべながら話を中断して首を振る

そうじゃない、それではない

今話すべきなのは、天乃が失った記憶の部分

それによって変わってしまった部分の話だ


園子「天さんが記憶を失う前後で一番変わった部分は、久遠家としての重荷がなくなった部分だと思うんよ」

天乃「なくなった……かしら?」

園子「前に比べたら、だいぶ軽いんじゃないかな?」

今でもずいぶんな扱いで

重荷になっているかどうかという部分は除くにしても

苦労させられているし、つらい思いだってさせられているのだ

しかし、以前はそれ以上だったのだと園子は言う

園子「時々、凄い暗い表情の時があったんよ」

天乃「それって、貴女達が戦ってるとき……とかよね?」

園子「うん。そう。今みたいに他所の家の子ではなく、家系で選ぶことを決めたのは久遠家を含めた大赦だったから」

それは結果的に、

まだ、年端もいかない小学生の身である園子たちを戦わせることになった

それで、三ノ輪銀という大切な命が失われた

園子「だから、記憶を失った後は久遠家の人間としての責任ではなく、生き残った勇者として、先代としての部分が大きかったんじゃないかなって思うんよ」

もちろん、対神に特化した力を持っているという部分も少なからずあったとは思うが

以前のように、このような世界に導いた大赦の一角を担う久遠家の人間

というような、重圧だったり、罪悪感はなかったことだろう


園子「だから、以前から変わった部分はほとんどないんよ」

優しいのは以前から変わりないし、

基本的には明るく活発で、男女分け隔てなく接するのもいつも通り

そしてやっぱり、自分が恋愛対象にされていると考えないのも変わらない

園子「久遠家としての部分は、私にもほとんどわからない」

大赦の厳重に貯蔵されている歴史書にならば記されているかもしれないが

普通に閲覧できる書物には当たり障りのないようなことしか記されていないか

規制によって削除されてしまっている

ゆえに、久遠家の根幹にかかわる部分は園子にもわからず、

これ以上に話せることはないという

園子「それでもいえるとしたら、天さんは今も昔も、私たちの勇者様で、大切で大好きな人から変わらないってことかな」

銀のことでの罪悪感

いつの間にか薄れていた園子の笑みは朱色に染まっている

過去の自分が抱えていた久遠家の部分という気になるところはあるけれど、

命の尊さを分かっていなかった、大切に思えていなかったわけではないこと

九尾が言っていたように、好かれていることには変わりなかったことが分かって、

天乃は嬉しさと、気恥ずかしさに照れくさそうに笑い返した


√ 11月11日目 朝(病院) ※木曜日

01~10 
11~20 風
21~30 
31~40 大赦
41~50 芽吹

51~60 
61~70 
71~80 園子

81~90 
91~00 大赦

↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
一日のまとめは再開時


園子「記憶を失う前の天さんは……えっちだった」

東郷「足が動いた分、飛んだり跳ねたりそれはもう卑猥だったわ」

東郷「あっ」

園子「わっしー?」

東郷「思い出しただけで下着が……」

園子「昔は子供だから鼻血だったけど、今はもう大人だねぇ」


夏凜「なにその嫌すぎる大人判定」


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(私が適任、奉火祭)
・   犬吠埼風:交流有(外の危険性、みんなで考える、私が適任、奉火祭)
・   犬吠埼樹:交流有(私が適任、奉火祭)
・   結城友奈:交流有(私が適任、奉火祭)
・   東郷美森:交流有(私が適任、奉火祭)
・   三好夏凜:交流有(私が適任、奉火祭)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(声をかけない)

・      九尾:交流有(追及する、外の危険性、奉火祭)
・      神樹:交流無()


11月09日目 終了時点

乃木園子との絆  76(高い)
犬吠埼風との絆  104(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  92(とても高い)

結城友奈との絆  111(かなり高い)
東郷美森との絆  121(かなり高い)
三好夏凜との絆  145(最高値)
乃木若葉との絆  97(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  43(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  125(かなり高い)
   九尾との絆  65(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(銀の誕生日、祖母に会いたい、以前の私)
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流無()
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流有(藤森さんには聞いてみた?)
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流有(祖母の話、どうしてそうなったの?、若葉達は若葉達。貴女は貴女)
・      神樹:交流無()


11月10日目 終了時点

乃木園子との絆  79(高い)
犬吠埼風との絆  104(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  92(とても高い)

結城友奈との絆  111(かなり高い)
東郷美森との絆  121(かなり高い)
三好夏凜との絆  145(最高値)
乃木若葉との絆  97(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  44(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  125(かなり高い)
   九尾との絆  67(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


9日分がまだだったので、一緒に
では、少しだけ


√ 11月11日目 朝(病院) ※木曜日


天乃「……………」

昨夜まで止むことのなかった雨の引いた灰色の空模様

窓から見ることのできる景色はどんよりとしていて

神々の力を感じ取ることができなくなった天乃にも

歌野が言う、何らかの嫌な感じというものが少しだけわかるような気がした

もっとも、そういわれたから。というのもあるかもしれないが

天乃「奉火祭はまだ、行われてはいないだろうけど」

もしも万が一、勇者ではなく、

巫女で行われているのだとしても

九尾や千景たちが気付かないわけがなく

すぐにでも対策を考えて実行に移そうとすることだろう

しかしだとしたら、

この嫌なものは何なのだろうかと、天乃は息を吐く

胸の奥に引っかかる不快になる感覚

それが何なのか、なぜなのかわからないのが嫌悪感をより高めていくような気さえする


天乃「12月が勝負ね……」

神樹様の持病が悪化して急遽必要とでもならない限り

今月にとり行われる可能性はないとみていいだろう

風達と話した時にも考えたが、

時間はないが、だからと言って事を急くわけにはいかないからだ

だから、12月

12月のいつ行われるのかは定かではないが、

少なくとも年明け前には何かが行われるはずだと天乃は考える

それが奉火祭なのか、はたまた別の何かなのかもまだ、わからないが。

天乃「情報不足だわ……けど、だからと言って手に入れることは簡単じゃないだろうし」

園子でさえ、ほとんどはじかれてしまっているような状況

当然、送迎係としてきている瞳にも情報は伝わってこないだろうし、

巫女である沙織にもほとんど流れてくることはない

流れてきたとしても、数手遅れての情報共有になりかねない

人と人とで余計な小競り合いをしている場合ではないとわかってはいるのだろうけれど、

神樹様の種を奪ったりなど、

講じた策を根本から挫くような真似をしてしまった以上、

そうされるのもやむを得ない


天乃「……もしも」

もしも、記憶を失っていなければ

久遠家の力を最大限利用して何らかの打開策を見出すことができたのだろうか?

それとも、

記憶の有無関係なく、奉火祭のような犠牲を必要とする策しか考えることはできなかったのだろうか?

考えたところで仕方がないことだとわかってはいるけれど

それで何かが変えられるのならと、少しだけ考えてしまう

もちろん、どうしても必要なら九尾に頼んで記憶を得ることはできるが……。

天乃はそれを考えて首を振る

あれは九尾の力も流れ込んでくるため

天乃自身だけでなく、おなかの中にいる子供にまで影響を与えかねない危険な行為

ゆえに、今の天乃にはそれを選択することはできない

天乃「……あまり、雲行きはよくないわ」


1、勇者と交流
2、精霊と交流
3、イベント判定


↓2


01~10 風
11~20 沙織
21~30 友奈
31~40 夏凜
41~50 大赦
51~60 芽吹
61~70 千景
71~80 若葉
81~90 樹
91~00 東郷

↓1のコンマ 


沙織「久遠さん、お悩み?」

天乃「あら……おはよう沙織」

カーテンを開いてさっそくと尋ねてきた沙織に答え、

天乃は笑いながら首を振る

悩んでいるといえば悩んでいるが、記憶を戻す方法はない以上悩んでも仕方がない

天乃「昨日の話、聞いてたでしょ?」

沙織「昔の久遠さんについての話だよね。久遠家の記憶の有無での違い」

天乃「ええ。沙織は何か知ってることある?」

今でこそ、精霊を兼ねた戦力の一人として数えられているが、

二年前は巫女として尽くしてくれていた沙織

園子とはまた違うことを教えてくれるのではないかと問いかけた天乃に対し

沙織は「そうだねぇ」と

園子に似た間延びした声で考える

沙織「結構考え方変わったよね。前は久遠家の知識というか、神様は云々って考え方が多かったし」

天乃「そうね……でも、神樹様を信じられなくなったっていうのもあるかもしれないわ」

沙織「確かに……あっ、そうそう。記憶を失くす前後で一つだけやらなくなったことがある」

天乃「やらなくなったこと……? 祝詞を読むとか?」

沙織「ううん、調べもの。神様との取引がどうとか言ってたよ。詳しくは教えてくれなかったからわからないけどね」


天乃「神様との取引……?」

考え事の小さな呟きに応えるように、沙織は苦笑すると

話したら止められるから言わなかったのかもしれないね。と

少し困ったような表情でいう

神様との取引ともなると、簡単なことではないし

易い代償で済むとも考えにくい

もちろん、神樹様がお人よしであるならば少しも違ってくるかもしれないけれど。

天乃「そんなこと、覚えがないってことは久遠家に関してか、身内で話し合っていたかだけど」

沙織「お祖母様と話してたんじゃないかな? 仲は悪かったけど、大赦の中枢にいる人ではあるから話さないわけにはいかなかったと思う」

天乃「なるほど……」

沙織「でも正直、久遠さんがその調べものをしなくなって安心してるんだ。あたし」

切なげな表情だった

そしてなにより、安堵を感じる印象的な笑みだった

天乃「沙織?」

沙織「だって、なんか……嫌だった。怖かったっていうほうが正しいかもしれない」

それは天乃が怒りに満ちているとかどうとか

そういう暴力的な怖さではなく

出かけていくその後姿を見過ごせば二度と帰ってきてはくれなくなるような

創作物でよくある別れのフラグ的な要素のように思えてならなかったと言う

沙織「笑顔だったし、普段と変わらないようには見えたんだけどね……でも、それがなんだか、逆に不安だったのをよく覚えてる」


天乃「……自分のことなのに、その時の自分の考えが思い浮かばないってもどかしいわね」

苦笑いを浮かべて言いつつ、まったくわからないわけでもないと呟く

銀を失った後の出来事なのだろうから

自己犠牲精神旺盛な愚か者の考えを持っていたことだろう

ならば、自分の命を犠牲にしての何かしらの儀式だった可能性が高い

もしかしたら、それこそ奉火祭を行おうとしていた可能性だってある

天乃「奉火祭……その時に行っていたら友奈たちが戦わずに済んだ可能性はあるわよね?」

沙織「少なくとも久遠さんが生贄なら十分あり得たことだと思う。しばらくは問題なかったんじゃないかな」

人類の切り札といってもいい力の持ち主を差し出すのだ

それ相応の許しは得られたことだろう

もっとも、それで神樹様の寿命が長続きしたかどうかまでは分からない

沙織「あたしが分かるのはそれくらいかな。あとは園子ちゃんが話したことと変わらない」

天乃「そう……やっぱり、久遠家のことがあるかないかで考えって変わるのね」

沙織「それはそうだよ。かなりの力がある家のことだもん」

でも、今はもう危ないことはしないよね。と

心配そうな表情でつぶやいた


√ 11月11日目 昼(病院) ※土曜日

01~10 
11~20 大赦

21~30 
31~40 
41~50 千景

51~60 
61~70 
71~80 芽吹

81~90 
91~00 若葉

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


須美「久遠先輩……もしも、もしも無事に帰ってくることができたら……」

須美「その時は、私たちの子供を身ごもってください!」


東郷「なんて、言えるのが理想だったあの頃」

風「……あれ? その時って小学生では?」

東郷「初潮を迎えていなければ妊娠できないと言われていますが、妊娠させられないとは言われていませんので」


では、少しだけ


√ 11月11日目 昼(病院) ※土曜日


「早ければ来月ですね」

天乃「ええ。遅くても再来月っていう話だったと思うわ」

「きっと、元気な子が産まれますよ」

学校に行っている夏凜達のベッドメイクや、

病室内の空気の入れ替えなど

天乃の身の回りの環境を整えてくれる若い看護師は、

子供ながら命を宿している天乃へと優しく声をかける

看護師自身は経験したことはないが、

そういう、母親になろうとしている女性たちの力になりたいとこの業界に入ってきたのだと理想を語る看護師は

思い出したように「そういえば」と切り出す

「知ってます? 今の婦長が入りたての頃に天乃ちゃんのお母さんの担当をしたらしいですよ」

天乃「知らなかった……」

「その時のことはすごく印象的だったのでよく覚えてるって言ってました」

天乃の母親もまた、かなり若い年齢

それも天乃とほとんど変わらない年齢での妊娠と出産だったのだ

しかし、年齢の驚きだけではないと看護師は言う

「産まれたのが男の子らしいんですよ。そしたら、お母様の周りの人はなんだ。男の子なのか……と、落胆した様子で」


婦長はそれが不思議だったそうで、

今は引退してしまった先輩に話を聞いたらしいが、

久遠家というのは代々、女尊男卑の節があるというように言われたのだという

「でも、お母さんだけはすごく安心した様子だったらしいです」

天乃「それはそうでしょうね。子供が産まれたんだもの」

「でも、そういう感じの安堵じゃなかったって言ってたんだよね」

天乃「え?」

それから晴海が産まれ、天乃が産まれた

中でも一番気になったのは、まさに最後の天乃が産まれた時だったらしい

「それで、天乃ちゃんが産まれたときは本当。なんかこう異様だったって」

天乃「異様……? お母さんが喜ばなかったとか?」

「うーん……それもあるけど仮面をつけた神官の装いをした集団が来たらしいです」

あれは不気味でした……と、

怖いはずの婦長が女であることを思い出させてくれる反応を見せましてね。と

看護師はお茶らけた様子で語りながら、苦笑する

天乃「仮面をつけた集団ね……」

十中八九大赦の神官だ

おそらく、力の継承が行われたから来たのだろう

「あっ、そうだった。そう、その仮面の人たちが朝に病院に来たんですよ」

それでこの話思い出したんですよねーと、看護師は満足げな表情を浮かべた


天乃「大……仮面の人が来た?」

面会か何かに来たのならば、こちらに来ているはずだろう

来ていないということは別件で来たはず

母親が自分の誕生を喜ばなかった―力を継承させてしまったからだろうが―という部分を気にしつつ、

天乃は大赦という言葉を抑え込んで問う

仮面の怪しい集団という方が扱いやすい

大赦というれっきとした組織に関しての内容ならば守秘義務が働くことがあるが

怪しい集団ならば愚痴やネタの一つとして暴露されやすいのだ

「そうなんだよね。なんか、人が来たら連絡を欲しいって」

天乃「指名手配されている人でもいるのかしら」

「覆面警官ってやつかもね」

天乃「それはパトカーじゃなかったかしら?」

昨今では見ない聞かない言葉を言い合って、笑う看護師の一方で天乃は考え込む

指名手配というのは冗談で言ったけれど、半ば本気でもある

大赦は誰かを探しているのだ

それも、天乃に関係のある誰かを

しかも、普通の大赦職員ではなく、神官まで駆り出されているというのがまた、妙だった

もちろん、純粋に人手が足りていない可能性もあるが

その場合、あまり公にできない理由、または人探しという可能性も浮上する


1、ねぇ、その探してる人って?
2、なるほどね。でも、そんなこと話してよかったの?
3、その探してる人が来ても教えないほうがいいわよ? 仮面で顔を隠してるなんて怪しすぎるじゃない
4、……それより、お母さんの連絡先って残ってたりしない?端末のデータが壊れちゃって連絡できないの。教えてくれない?


↓2


天乃「ねぇ、その探してる人って?」

「えっ? えーっと……あ、これ言っていいのかな?」

天乃「お母さんと繋がりのある人たちが探してる人だもの。もしかしたら情報提供できることがあるかもしれないわ」

「んー」

天乃「病院なんて目立つ場所で怪しい格好のまま来るなんて普通じゃないし、きっと緊急だったんだと思うの」

だから。ね? と、嘯く

そんなことなど全く思っていない

緊急性のある問題かもしれないとは思っているけれど

情報提供する気はない

もちろん、害になりそうな事であれば、周りにも協力を頼んで捕まえることに尽力するが。

「そうだなぁ……婦長には私が教えたって内緒にしててね?」

天乃「ええ。お腹の子供に誓って貴女から聞いたことを婦長には言わないわ」

「それなら……」

きょろきょろと

二人きりの病室の中で警戒する素振りを見せた看護師は

天乃の耳元へと顔を近づけた

「……楠芽吹さんだよ」

天乃「芽吹……?」


「もしも病院の付近で見かけたら教えてほしいってそれだけ」

天乃「…………」

予想していなかった名前を聞かされ黙り込んでしまった天乃は

おもむろに「なるほど、知り合いだわ」と答える

けれど、どこにいるのかはやっぱりわからないわね。と

あくまで残念そうな雰囲気で言う

天乃「でも、もし何か気づいたことがあったり、みんなから聞いたら貴女に教えるわ」

「う、うん。そうしてくれると助かる」

婦長自身に対してや、同僚を通して婦長に伝わった利したら大変だと看護師は慌てた様子で頷く

様子を見る限り、自分からぼろを出してしまいそうだ

宜しくね。秘密だからね

再三にわたって言いながら病室から出ていく看護師を見送り、

天乃は深く息をつく

天乃「何を……したの?」

ただ行方不明なわけではないはずだ

きっと、何か理由があって身を隠したか逃げ出したのだ

そしていずれにせよ自分たちに助けを求めてくることだろう

それはきっと、何かあったら来てもいいと、そう、言ったからこそだろう

でなければ頼るわけにはいかないと引き下がるか、耐えるか、自力での解決をもくろんだはずだからだ


√ 11月11日目 夕(病院) ※木曜日

01~10 夏凜

11~20 
21~30 
31~40 若葉

41~50 
51~60 風
61~70 千景

71~80 
81~90 
91~00 樹


↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日は予定通りお休みをいただき、明後日の通常時間に再開となります


大赦A「……まったく、だから言ったのだ!」

大赦A「久遠天乃にかかわらせるべきではないと!」

大赦B「しかし、このような行動に出るとは……」

大赦A「忘れたか? 信仰心厚い学生らが久遠天乃ただ一人のためだけに反旗を翻したのだぞ」

大赦A「あの娘は危険だ……悪魔だ。毒だ……我々を苦しめる猛毒だ」

遅くなりましたが、少しだけ


√ 11月11日目 夕(病院) ※木曜日


風「天乃、ちょっといい?」

天乃「えっ?」

風が神妙な面持ちでそう声をかけてきたのは学校から帰ってきてすぐのことだ

二人で病室から出ていくのではなく、

みんながいる病室の中で話そうという流れで、

真剣な話はみんなにも伝わっている内容だというのは明白だった

天乃「顔つきを見る限り嫌な話になりそうね」

風「まだ嫌な話って決まったわけじゃないのよ。……まぁ、八割がた嫌な話ではあるけれど」

天乃の苦笑いの挟まれた軽口に

風も精神的な疲れを感じさせるような笑みを浮かべながら応対する

しかし、八割とは言うが確定的な話だと天乃は心の中で思う

風「まず初めに聞きたいんだけど、大赦の人って誰かここに来た?」

天乃「ううん、来てない」

風「そか……じゃぁ知らないかな……」

小さく吐き出した風は逡巡したような反応を見せて。

風「じゃぁ、芽吹……楠さんは来た?」


天乃「ううん、来てないわ。大赦も楠さんも」

そもそも面会自体、全然なのよ。と

天乃は残念そうに言いながら、友達いないからなどと適当な冗談で笑う

その裏で、考える

風の話したいこと、聞きたいことが何なのか

それは、看護師が言っていた大赦が探す芽吹の件と関係あるのだろうか。と

今日の今日でこの話なのだから、関係ないはずがない

天乃「風のところには来たの?」

風「お察しくださいな」

場所を移すことなくみんながいる病室での話。

天乃ならそれで察しが付くだろうという風の信頼を受けて、

天乃は呆れた表情で背もたれの代わりになっているベッドへと体を預ける

天乃「何してるんだか……ちなみに、どっちが来たの?」

風「大赦」

天乃「楠さんは?」

風「来てないし連絡もつかない」


余計な一言も挟まず、簡潔に

情報を伝えた風は「天乃の方には来てないのかぁ」と

どこか残念そうに体を伸ばす

大赦が来ていないから残念なのではなく、

芽吹が来ていないことが残念なのだろうと天乃は感じた

風「神樹様の種のことがあるからそういう関係の話かと思ったら、最近楠芽吹とは接触しているのかって」

向こうがそういうことできないようにしてるくせによ? と、

風は呆れた素振りを見せる

おそらく、芽吹を探しているという話を直接せずに

神樹様の種を奪った―という体の―勇者部と

神樹様の種の差し出した防人の隊長である芽吹が裏でまだ繋がりがるのかどうかの調査という話でいったのだろう

それで気になって芽吹に連絡した結果

連絡がつかないから何かあったのかもしれないとみんなが心配になったらしい


1、楠さん以外の防人とも連絡はつかないの?
2、看護師さんから聞いた話なんだけど、どうやら大赦は楠さんを探しているみたいなの
3、それで? どう思う?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば21時ころから


東郷「探してる理由は奉火祭。ですね」

東郷「奉火祭で選ばれる巫女の中に国土さんがいることに気付いた楠さんが」

東郷「国土さんを連れて大赦から逃げ出したに違いありません」

東郷「ずばり、愛の逃避行中なのよ!」ビシッ


友奈「東郷さんが言うと説得力がないように感じるのはなんでなんだろう」

夏凜「日頃の行いでしょ」


では、少しだけ


天乃「看護師さんから聞いた話なんだけど、どうやら大赦は楠さんを探しているみたいなの」

風「楠さんを探してる……?」

天乃「ええ。そう聞いたわ」

これが看護師も巻き込んだ盛大なドッキリだというのなら面白い話だが、

残念ながら、そんなことはなくて。

風は訝し気に眉をひそめて口元に手をあてがう

風「奉火祭の関係で何かあったから逃げ出したとかそういうやつ?」

天乃「あるいは、重要な何かを持ち出したとか?」

風「重要って……」

今ある情報の中で、芽吹が自分の立場を悪くしてまで持ち出そうとするような何か

それを考えた風ははっとして天乃へと目を向けた

風「まさか……巫女? ほら……って、あの時に天乃はいないか」

神樹様の種をもらいに行った時のこと

あの場にいた巫女のことを思い出し、風はその名を口にする

天乃も以前、会ったことのある少女の名だ

風「国土亜耶。楠さんの防人部隊にはその巫女がいて、凄く大切な人って感じだった」

天乃「……じゃぁ、その子が奉火祭の一人に選ばれたから連れ出したってこと?」


自分で言っておきながら、

ありえないというようなニュアンスを感じさせる天乃に対し

風は小さく首を振る

以前の芽吹であれば絶対にありえなかったかもしれないが、

今はもう違う

国土亜耶を隠すことで世界に危機が訪れるのだとわかっていても、

はいそうですか。と、犠牲になることを受け入れるような少女ではない

たとえ、亜耶自身が、自分の巫女としての務めだからと受け入れていてもだ

それは、神樹様の種を譲ってくれたことからも明らかだった

風「楠さんは世界の危機と天乃を天秤にかけて、天乃を選んだ。その考え方なら、国土さんを見捨てる道理がない」

天乃「違う、そうじゃないの。それは分かってるわ」

そもそも、初めから芽吹が人を見捨てられるような人間だとは思っていない

天乃に対しては意地悪なようで、冷徹なものを感じさせる態度ではあったが、

それも最初のうちだけだったから。

天乃「私が否定したいのは国土さんだけ。っていう点なの。だって、国土さん一人を逃がしたところで奉火祭が止まるはずがないのよ」

亜耶以外の巫女を使って奉火祭が行われるだけであり、

それはきっと、芽吹の信念には反していることだろう

ならば、芽吹が行った大赦に追われるほどのことは何なのか。

天乃「予備で作られてた神樹様の種を持ち出したっていう可能性もなくはないのよね」


天乃がもらい受けた神樹様の種以外にも

準備してあった分はあるはずで

もしもそれを盗み出していたとしたら、追われる理由になるし天乃のいる病院にまでくる理由にもなることだろう

亜耶を連れ出すだけでは全員を救うことはできない

そして、奉火祭を行わなければならないほどに切迫した状況に現れる強力な敵に勝てる見込みも、

正直な話をするのであれば薄いだろう

だから、神樹様の種なのだ

天乃が必要としていたから

それを渡せばより早く、より良くなることができるかもしれないと考えて、

天乃さえ戻れば、奉火祭など行わなくてよくなるだろうと考えて。

天乃「……自意識過剰なだけであれば、いいんだけれど」

風「天乃が万全なら問題がなくなるっていう点だけは事実だから何とも」

天乃「…………」

神をも殺せる力

確かに、万全な状態で振るえるその力さえあれば一発逆転も可能なことだろう

風「本当に神樹様の種なのかどうかはともかく、会ったら考え直させる方向性で良い? それとも、一応保護しとく?」

保護する場合、大赦とは余計に険悪になったりする可能性も否めないが……


1、保護する
2、考え直させる


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば少し早い時間から


亜耶「大丈夫です。私は……大丈夫です」

亜耶「ですから、どうか」

亜耶「……みなさんが苦しむことの無いよう施しをください」

亜耶「たとえ、それでみなさんの中から私の思い出が消えてなくなってしまうのだとしても」

亜耶「芽吹先輩……みなさんを、悲しませたくありませんから」


遅くなりましたが、少しだけ


芽吹にだって考えや思いがあるはずだ

意地悪しよう、悪戯しよう、ただ気に食わないから

そんなふざけた理由でここまで―といっても推測の域を出ていないが―することはないだろう

だから、天乃は考える

どうするべきか、どうしてあげるべきか

それを考えて、天乃は風へと目を向けた

天乃「説得してやめるように言いましょ」

風「天乃ならそういうだろうと思ってたわ」

分かっていたと言い、

分かり切っていたのだと安心した表情を見せる風に微笑んだ天乃は息を吐いて整える

天乃「楠さんが間違っているとは言わない。でも、いいことだとも言うことはできない」

風「国土さんのために?」

天乃「ええ。きっと、国土さんは自分のために無理をすることを望まない。それで追い詰められている楠さんを見ていることはできない」

きっと心が痛むだろう

精神的に痛み、そして、そこからくる思いのこもった発言は芽吹を傷つけることになるだろう

それがどういう結果につながるのかを考えたとき

天乃には嫌な予感しか感じられなかった


どちらかといえば、

天乃は芽吹と似たような考えをするタイプの性格だ

守りたいもののためならば、自分のことなど気にしない

それで周りがどう思うか、周りにどんな影響を与えるかなども考えずに

けれど、さんざん説得されて、

さらにはそうできない立場になって

夏凜達が自分のためにと無茶を繰り返すようになって

痛いほどに分かるようになった

だから、芽吹の考えのすべてを認めることはできなかった

天乃「……このままじゃ誰も幸せにはなれないわ」

風「それ。前の天乃に一番分かってほしかったことだわ」

天乃「そうね」

風「…………」

少し、懐かしくなる空気を感じて微笑むと

風は手を軽くたたいて注意を惹き「さて」とつぶやく

風「楠芽吹大捜索! 勇者部が先か大赦が先か。たぎってきたぁっ!」

元気よく声を上げた風に、

他の勇者部部員……夏凜達は呆れた様子ながら同意して答えた


√ 11月11日目 夜(病院) ※木曜日

01~10 夕海子

11~20 
21~30 
31~40 若葉

41~50 
51~60 芽吹
61~70 千景

71~80 
81~90 
91~00 樹


↓1のコンマ 


√ 11月11日目 夜(病院) ※木曜日


天乃「…………」

カーテンが締まり、光が遮られた視界の先にある青白さのある天井を眺める

常に横になっているだけでも眠くなってくるのは子供がいるからだろうか

下手に寝返りも打てない状況で変わらない景色に映るのは、別れた時の芽吹

何かあったら頼ってもいいと、そう、話した

だからきっと、病室に来るはずなのだ

天乃「そうなったとき、どう説得したらいいのかしら」

本気で守りたいと思っているのならば、

芽吹は生半可な否定を受け入れてはくれないだろう

説得に対して反論し、自分の考えを述べてそれを強行する

しかし、今回は天乃の力を借りて事態の打開を狙っている可能性が高い

それなら、話を聞いてはくれないだろうかと天乃は思う

天乃「そもそも、神樹様の種を二つも入れられたらさすがに私の体が壊れるわ」

ただでさえ偏っていて、不安定で不慣れで今にでも壊れてしまいそうなのに。

追加で神樹様の力をより多く注ぎ込むことになったら逆に不安定になるだけで解決ができないし

それ以前に子供がいる今はまだ神樹様の力を取り込むことはできない

帝王切開という強引な手を用いて子供を取り出すという手もあるにはあるが、予定日を過ぎたなどの諸問題が起こっているわけでもない今

そんな母子ともに危険な手は選びたくなかった


天乃「それを説明したら諦めてはくれるだろうけど」

諦めてくれるのはせいぜい、天乃に神樹様の種を用いることくらいで

根本的な解決はできない

それでは意味がないのだ

芽吹と亜耶の両方を救うことを考えなければならない

天乃「…………」

きっとまた、夏凜達に無理をさせることになる

それ以外に方法はない

どんなことをさせることにんっても、

それで救えるのならと実行してくれるだろうが……

天乃「誰かが無理をする事は変えられないのね」


1、勇者
2、精霊
3、イベント判定


↓2


01~10 夕海子
11~20 沙織
21~30 東郷
31~40 若葉
41~50 友奈
51~60 芽吹
61~70 千景

71~80  夏凜
81~90  芽吹
91~00 樹


↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば昼頃から



東郷「友奈ちゃん、ここで問題です」

東郷「しゅ――」

友奈「夜這い」

友奈「この流れで東郷さんがするのはそれ以外ないよね?」

東郷「さすが友奈ちゃん、良く分かってるわねっ」


では少しずつ


東郷「……やっぱり、起きてますね」

天乃「東郷……」

カーテンの隙間から顔を覗かせた東郷は

心配とうれしさをかみしめた声色で言うと、すっと中に入ってきた

天乃が芽吹達のことで悩んでいることの心配と

芽吹達のことで悩んでくれているうれしさがある笑みを携えて。

東郷「説得するって答えを出して、あとはもうお任せします。なんて器用さは久遠先輩にはありませんから」

天乃「不器用で悪かったわね」

東郷「本当です。もっとも、私も人のことを言えた義理ではありませんが」

人のためにと尽くし、自分を犠牲にしてしまう不器用さ

しかしそれは自分にも痛いことだと東郷は苦笑いを浮かべながら、椅子に腰かける

今のような関係が紡げていないとか

あるいは、今いる誰かがいなかったりとかしたとき、

果たして、自分はそんな不器用な考えを持たずにいられただろうかと思う

東郷「もしも久遠先輩がいなければ、私はきっとものすごく大変なことをしていたと思います」

天乃「どうして?」

東郷「もしも久遠先輩がいなかったら、私には友奈ちゃんしかいなかった。友奈ちゃんしかいなかったら、私は傷ついていく姿を見ていることなんてできない」

以前にも言ったが、

天乃がいたことで早期に発覚したからこそ軽微で済んだ満開の秘密だってそうだ

後々に知ることになっていたら、それこそ反抗の理由となっていただろう

東郷「壁だって、本当に壊していたかもしれません」


東郷「ですから、私も不器用なんですよ」

天乃「壁なんて壊してたら笑い事じゃすまなかったんじゃない?」

天乃がいなければその力がない

その力がなければ神樹様を余計に弱らせることはなかっただろうが

壁を壊しなんかしたら一気に衰弱することになっていたかもしれないし

それによってなだれ込んでくるバーテックスだったり、それが神々に与える印象は相当なものだったことだろう

東郷「友奈ちゃんはみんなを救いたい、私は……きっと、全部を救うまで望むことはなかったはずですから」

天乃「対立してたかもしれないわね」

東郷「友奈ちゃんの勇者な拳に叩かれていたかもしれませんね」

夜の暗い雰囲気を払拭するように小さな笑い声をこぼして、ひと呼吸

やんわりと静まり返った空気の中で東郷は表情を引き締める

東郷「さて、本題ですが……楠さんの件はどう考えますか?」

天乃「説得する方法? それとも、楠さんがやろうとしていること?」

東郷「出来れば、両方です」

天乃「風との話は聞いてたわよね? 後者に関しては推測しかできないわよ?」


東郷「そうですね……聞いていた話で間違ってはいないのではと私も思います」

芽吹が持ち出したのは巫女である国土亜耶ではなく、

大赦が管理している神樹様の力を分けた種

そして、それを使って天乃の体を戻しバーテックスを何とかして貰う

亜耶だけを連れ出しても全員を救うことはできない

それではダメだと芽吹は考えるだろう

だから、そういった考えをしているかもしれないという推測

東郷も、それは間違っていないだろうと考えていた

東郷「私が考えているのはそれを達成するための彼女の動きです」

天乃「大赦から持ち出して……私のところに来るのはそうでしょうけどそのあとね。今どこにいるのか。とか?」

東郷「大赦の人から見つからないところなのはもちろん、私たちにも見つからないような場所にいるのではと私は思うんです」

天乃「東郷たちにも……?」

東郷たちは協力者として考えていいはずだ

だが、東郷はそれは避けようとするだろうと考えているらしい

東郷「理由は単純です。これは久遠先輩を利用する考えだからですよ」

それに加えて。と、東郷はつづける

東郷「久遠先輩の体のバランスが崩れることも彼女は分かっています。だから、私たちに顔は合わせ辛いかと」


東郷「ただ、彼女の誤算は久遠先輩が自分を犠牲にしようとは考えない点ですね」

天乃「…………」

東郷「ですよね?」

天乃「え、ええ……」

威圧的な問いかけを受けて、天乃は少し困ったように頷く

もちろん東郷が言ったように自分を犠牲にするつもりはない

たとえ芽吹に極秘裏に相談されたとしても

それを受けて考える。当然、自分も誰も犠牲にならなくていいように。だ

東郷「そこで、彼女が今どこにいるのかを考えたいと思いまして」

天乃「楠さんがどこにいるか……東郷は考えつく?」

東郷「そうですね……橋の下。とか?」

天乃「ふふっ、いろいろな意味でそれは困るわね」

しかし実際の問題、

絶対に見つかるであろう家にも帰れていない可能性のある芽吹が

行ける場所などあるのだろうか



1、学校
2、橋の下
3、天乃たちが住んでいた家
4、どこかのホテル
5、夕海子の家
6、その他


↓2


天乃「そういえば、楠さんの部隊の子……弥勒さん達はどうしたのかしら?」

東郷「大赦は謹慎中だとは言いましたが、楠さんのような扱いをしている素振りは見せませんでした」

天乃「つまり、弥勒さん達は大赦から離れていないのね?」

東郷「そう考えていいかと」

天乃「…………」

考えすぎというより、

ある意味で邪推しすぎている気はしなくもないが

天乃はもしかして。と、考える

天乃「弥勒さんの家とか?」

東郷「弥勒さんの家ですか……あるいは他の方の家」

天乃「ええ」

東郷「確かに、支援のない状況での逃走劇には限界がありますし無理がありそうです」

それでも続けられる精神力があったり、

短期決戦を狙っているならば話は別だが。

東郷「大赦が血眼になって探し、私たちが事態を察知するような手段まで講じている以上、支援によって手を焼いている可能性は高い」

あながち、間違っていないかもしれません。と、

東郷は考えながら答えた


東郷「ただ、弥勒さんの家であるという確証はありませんし……ここは手分けして各家をめぐるしかなさそうです」

芽吹の部隊の中でも主要メンバーとされている夕海子や雫たちの家

問題は、その家を知らないことだ

今住んでいる場所ならわかるが、そこは大赦の管轄

よって、実家にかくまってもらっている可能性が高いのだが

肝心のそれらの住所がわからない

みんなが香川出身ならばまだ見つけやすいが

おそらく、そんなことはないだろう

天乃「現実的ではないわね」

東郷「そうですね……やはりここで待っているほかないのでしょうか?」

天乃「それが一番確実な手ではあるのだけれど、私たちも何か行動したほうがいいような気がするわ」

でなければ、芽吹が大赦に見つかって捕まってしまうかもしれない

それはそれで、

目的を阻止するという過程をクリアすることができるのだが

根本的な解決には至らない

天乃「東郷。学校に姿を見せる可能性もあるから。その時はお願いね?」

東郷「お任せください。必ず、説得します」

一礼する東郷から、

カーテン越しに感じる月明りへと目を向ける

流れる雲にさえぎられて時折黒に染まるカーテンは

なんだか少し、不気味さを感じさせた


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(芽吹について)
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流有(芽吹について)
・   三好夏凜:交流無()
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月11日目 終了時点

乃木園子との絆  79(高い)
犬吠埼風との絆  105(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  92(とても高い)

結城友奈との絆  111(かなり高い)
東郷美森との絆  122(かなり高い)
三好夏凜との絆  145(最高値)
乃木若葉との絆  97(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  44(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  125(かなり高い)
   九尾との絆  67(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


※楠芽吹が姿をくらましました


√ 11月12日目 朝(病院) ※金曜日

01~10 友奈

11~20 
21~30 
31~40 樹

41~50 
51~60 
61~70 芽吹

71~80 
81~90 千景
91~00 

↓1のコンマ 


√ 11月12日目 朝(病院) ※金曜日


天乃「もうすぐ……12月ね」

肌寒さに目を覚まして、布団の中のぬくもりに魅力を感じて目を閉じたくなる

そんな季節になって、より深くなってくる時期

子供たちの楽しみであるクリスマスや、そのあとに控えているお年玉への期待

いろんな希望のある月なのだが……今は不安しか感じられない

子供が生まれる可能性もそうだが、神樹様の寿命の件もある

二年前もそうだったが、

明るく楽しく過ごすことは難しいかもしれないと天乃は思う

去年のように、幼稚園に出向いて演劇をやるだとか、

サンタに扮してイベントを行うといったことはやっている余裕がないかもしれない

けれど……余裕がなくてもそういった日常を感じることは必要だろう

余裕がないと忘れてはいけないことも迄忘れてしまいかねないが

そういった面で、自分たちが守っている日常というものは実に、心を癒してくれるものだからだ

もっとも、それでより追い込まれてしまう人もいる以上、

一概には言えないが


天乃「……楠さん大丈夫かしら」

今日は久しく曇天

雨が降ってはいないが時間がたてば振り出すような悪い天気だ

東郷と話したように誰かの協力を得られており、

夕海子や雀といった友人足り得るメンバーの実家に匿って貰えているのなら良いけれど

そうでなければ雨に濡れることになる

精神的につらい状態で、体まで追い込まれてしまうのは非常に危険だ

何とか見つけ出したいと天乃は思うが

しかし、残念ながら天乃は自力で動けないし外出許可を取ることは―状況を鑑みるに―不可能だ

万が一できたとしても芽吹をおびき出す餌にしかならないだろう

天乃「もどかしいわね……本当」

何もできない、ただ待っているだけの日々は

天乃の精神的二はとてもつらいものだった


1、勇者
2、精霊
3、イベント判定


↓2

√ 11月12日目 朝(病院) ※金曜日

01~10 夏凜
11~20 風
21~30 園子
31~40 友奈
41~50 樹
51~60 若葉
61~70 千景
71~80 球子
81~90 亜耶
91~00 九尾

↓1のコンマ 


√ 11月12日目 朝(病院) ※金曜日


園子「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」

天乃「えっ!? えっ?」

園子「えっへへ~」

ベッドの下から勢いよく飛び出してきたお転婆娘に困惑する天乃の一方で、

園子は欲望のままに飛びついて天乃に抱き着く

勢いこそあるものの、体を気遣ってか衝撃という衝撃はなく、優しかった

天乃「園子……? どうしたの? 珍しく元気じゃない?」

いつもなら「まだ眠いよ~」とでも言っているような時間なのに、

元気よく活動していることに違和感があったのだ

もちろん、必ず眠そうにしているわけではないがその頻度は極めて低い

園子「えへへ~天さん成分チャ~ジなんよ~」

天乃「こらこら」

ぎゅ~っとしながらすりすりと肌を摺り寄せてくる

体を優しく抱いて、頭を撫でてあげると嬉しそうな声が聞こえてきて

まるで猫や犬のようだと天乃は感じた

天乃「本当にどうかしたの?」


園子「天さんが悩んでる気配がしたんよ」

天乃「それはそうだけど、あんな出てきかたしたら驚くじゃない」

園子「夜這いならぬ床這い~」

天乃「はいはい」

極めて明るい声は、無茶をしている感じはなくて、

一先ず安堵の息を漏らした天乃は「それで?」と問う

天乃「何かあるからそんなに元気なんでしょ?」

園子「特に理由はないよ~。ただ、こうしたら天さんのかわいい顔が見られるかな~って」

天乃「もう……」

園子「それはそうと、天さんは楠さんのこと待つ?」

天乃「待つというか、待っているしかできないというか」

園子「んっふっふっふっふっ~楠さんで思い出したんだけど、九尾の力を借りれば少しだけ時間を作ることができるんじゃないかな?」

子供を身籠っている関係上

あまり長く外出することはできないし、させられない

けれど、少しだけなら大丈夫なはず

園子「天気がいい日にお昼までとか。ほら、明日……は登校日だけど、お昼までだし、それからとか」

天乃「う~ん……」

ほんの少しの時間だが、

それでも芽吹にあえる可能性もなくはない


1、確かに悪くはないかな
2、つまり、貴女デートがしたいのね
3、確かにそれなら……銀のお墓にもこっそり行けるかもしれない
4、それで楠さんに会えたらいいのだけど……

↓2


天乃「確かにそれなら……銀のお墓詣りにも行けるかもしれない」

園子「うんっ」

天乃「それに、運が良ければ楠さんと会えるかもしれないわね」

そもそも、妊婦だからと一日中ベッドの上というのも体も心もつらい

窓を開ければ外の空気を感じられるとはいえ、

実際に外に出られるのと比べれば微々たるもの

たまには、外に出たいのだ

天乃「でも、九尾が協力してくれるかしら?」

園子「天さんのためだもん。してくれるよ」

天乃「だといいけれど」

神樹様の力を借りる方向性で進めているのが気に入らないのだろうが

最近の九尾は優しいのか意地悪なのかわからないところがある

神樹様に対し悪事を働いていると言えるだろう芽吹を説得するための外出と知ったら、

協力してくれないかもしれない

あるいは、協力しつつ芽吹と接触した際には別の意味で説得するかもしれない

天乃「良い予感がしない……けど、九尾のことも説得したらいいのよね」


神樹様の種を使うことだって、

不満がまだ少し残っている感じがあるとはいえ、

一応認めてくれているのだから

今回のことだってちゃんと話せば呆れ混じりながら認めてくれることだろう

天乃「まぁ、少し大変かもしれないけどね」

園子「私も協力するんよ~」

手を合わせてすりすりとふざけたお祈りの仕草を見せる園子に、

天乃は「こらこら」と優しく叱って笑う

九尾に対してはそれでもいいのかもしれないが

仮にも神様の力を仮受けているのなら

ちゃんとしていたほうがいいだろう

もちろん、園子がふざけているのもわかるけれど。

園子「ミノさんもきっと喜ぶんよ」

天乃「……そうね」

東郷とはあんな話をしたが、

もし自分がいないことで何らかの変化があり、

銀が死ぬような未来にはならなかった可能性があったかもしれないと思うと

少しだけ、そんな世界だったらと思ってしまう

天乃「お墓参り、行きたいわね」

そんな考えを払拭するように、天乃は笑みを浮かべた


√ 11月12日目 昼(病院) ※金曜日

01~10 九尾

11~20 
21~30 
31~40 若葉

41~50 
51~60 
61~70 夕海子

71~80 
81~90 千景
91~00 

↓1のコンマ 


√ 11月12日目 昼(病院) ※金曜日


「順調そうで何よりです」

検査を終えた天乃を病室へと送った看護師は、

簡易的な検査結果が良好だったことを自分のことのように嬉しそうに言う

自分の妹といっても通用するような年齢の少女が母として健康なのは、

まだ若い看護師にとっては安心すると同時に嬉しいことだった

その分、妊娠させておきながら一度も姿を見せていない旦那であろう男の無責任さには腹が立っているのだが。

「ん~……」

天乃「どうかしました?」

「雨、降るかなぁって。ほら、病室の中も締め切ってると空気悪くなっていくから。腰だけ開けておいてもいい? 二時間くらいしたら締めに来るから」

逐一チェックして雨が降ってきてたらそれよりも早く締めに来るし、

最悪ナースコールで呼んでくれれば飛んでいくから。と、

看護師は少しだけ窓を開けて空気を流し込んでいく

少し冷たさを感じる自然の風が流れ込んでカーテンを揺らす

部屋にこもっていた空気よりも新鮮なそれは心地よくて、

天乃は「良い風ね」と、つぶやく

天乃「私じゃ手が届かなかったし助かるわ。降ってきたらお願いします」

「うん、任せて。それじゃ、検査お疲れ様。ゆっくり休んでね」


雨が降りそうで降らない微妙な空模様をただ何気なく眺めて

吹き込んでくる空気を肌に感じているだけだった穏やかな時間

油断していたというより、

想像できるわけがなかった。と、言うべきだろう

「ふっ!」

どこからともなく意気込んだ声が聞こえたかと思えば、

窓の縁に誰かの手がかかったのだ

天乃「ぃっ!?」

指先の部分は薄黒く汚れ、

一部ひっかけたのか糸の伸びた軍手に包まれた手に力が込められていく

天乃「ちょ、ちょっと……えっ、なんなの!?」

慌ててナースコールを手に取ったのと同時に、

闖入者は窓からよじ登って姿を現した

若葉に似た髪色で、口元のほくろが少し目立つジャージ姿の少女

「はぁ……まっっっっったく! なぜわたくしがこんなことを……あ」

天乃「う……」

夕海子「ま、待ってください! ナースコールは、ナースコールだけはご勘弁を! わたくしです、弥勒夕海子ですわ!」

天乃「弥勒さん……?」

夕海子「大赦の特殊警戒を潜り抜け、面会謝絶に挫折しようやくここまで来たのです。どうかお話をさせてください」

お願いします。と、窓から乗り込んできた弥勒夕海子は力強く頭を下げた


天乃「どうしてまた……そんな無茶を」

夕海子「芽吹さんがろくでもないことをしでかしたからです。亜耶さんがとても心配していて……」

それでもしかしたら天乃のところなのではないか。と

尾行と調査とストーキングを駆使して天乃のいる病室を調べ上げ、

大赦の警戒網を突破し、面会を断られ、大赦に連絡が行き、

厳しくなった警戒を潜り抜けて意地でもと壁をよじ登ってきたのだ

特殊な病室で目撃されにくい方角だったからこそできたこと

そこまで警戒されたらもう二度と潜り込むことはできなくなる

夕海子「その様子だと、芽吹さんはまだこちらに姿を見せていないようですね」

天乃「貴女達が匿っているわけではないの?」

夕海子「そうできていたらどれだけ良いか……芽吹さんはきっと、罪に問われるのは自分だけにしたいと考えているんです」

大赦からしても、神樹様や神様からしても、

奉火祭を阻むという行いは確実に悪いことだろう

その罪、その責任を問われるのは自分だけにしようという考えなのだ

天乃「……なるほど」

私なら、確かにそういう考えを持ってたなぁ。と

天乃は今更ながらに思って、目を逸らす

夕海子「そこで、芽吹さんが頼るであろう久遠さんにお会いしようとここにまで来たわけです。残念ながら空振りでしたが」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
なお、11月から場合によってはまた、予定が変わるかもしれません。



天乃「……まったく、誰に似たのかしら」

夏凜「あんたでしょ」

天乃「ううん、楠さんが来た頃はもう、私はダメだったから夏凜でしょ」

夏凜「じゃ、私はあんたに似せてるわけだから……あんたが悪いってことで」

天乃「……ふふっ。そういうことなら、悪役も甘んじて受け入れるわ」ニコッ

夏凜「ば、バッカじゃないのっ///」カァッ


では少しだけ


天乃「まだ来ていないだけで、あとで来る予定だろうとは思うのだけど……」

夕海子「そうですわね。今回の件で芽吹さんが頼れるのは久遠さんだけでしょうから、来るとは思いますが」

天乃「正直、弥勒さん達の協力があるものだと思ってたわ」

面会できるまで持っていけなくても、

身を隠すことのできる場所などを用意したりして援助していたりとか。

むしろ、そうであってくれなければ困る

たった一人で協力もなしに大赦に反抗し、神樹様の種を持ちだして奉火祭を阻止しようとしているのだとしたら

あまりにも、無謀だし精神的につらいだろう

天乃「私、弥勒さんの実家に匿っていたりするんじゃないかって考えていたのよ?」

夕海子「そうしたかった……いえ、もしも芽吹さんに会うことができていればそうする予定でしたわ」

天乃「楠さんを止めるつもりはないのね」

夕海子「独断専行は咎めます。ですが、亜耶さんを救おうというその意思を阻むつもりはありません」

夕海子ははっきりと言い切った

芽吹が一人でやろうとすることは咎めるが止めることはないと


天乃「弥勒さん、楠さんがやろうとしていることは分かっているのよね?」

夕海子「ええ。推測ではありますが」

神樹様の種を持ち出したということは、亜耶などから聞いている

だが、目的は聞いていない

けれど、何となく想像はつく

夕海子「……それで、神樹様の種を使えば久遠さんを救うことはできるのですか?」

天乃「今の不安定な状態から安定させることはできるわ」

でも、子供が産まれてからの話よ。と

天乃ははぐらかさずに答えて、夕海子へと目を向ける

天乃「つまり、子供が産まれるまでは神樹様の種を使うことができないのよ」

夕海子「では、芽吹さんがしていることは無意味……と?」

天乃「私を使うつもりなら、無意味になってしまうわね」

天乃の体の限界を気にせずに行うつもりならば無意味ではなくなるかもしれないが、

体が耐えきれないことを知ってなお、神樹様の力を過剰供給させることはできないだろう


夕海子「芽吹さんの努力が報われないという点にはこの際ですから目をつむることにしましょう」

運よく面会に来ることができたとしても、

天乃の体が耐えられない以上、すべてが水の泡だ

それを知ることができない芽吹には気の毒だが、

それはそれとして。と、夕海子は目を逸らす

夕海子「大赦が行おうとしていることはすでにご存じかと思いますが、改めて言わせていただきます」

大赦が行おうとしているのは奉火祭

巫女を用いた奉火祭が計画されており、

夕海子たちの大切な仲間である国土亜耶はその生贄の一人として選出されてしまっている

それを受けて、芽吹は神樹様の種を奪い、逃走中である

流れを簡潔にまとめた夕海子は「さて」と、切り替えるように口を開く

夕海子「久遠さんはどうお考えになりますか?」

天乃「どう……というと?」

夕海子「今後の事です。切り札足り得る久遠さんがいない以上、わたくし達は厳しい選択を迫られることになるでしょう」

それはもしかしたら、

身体機能の欠損につながる満開よりも難しい選択かもしれない

巫女の命を犠牲にするのはただ許しを請うだけではない、神樹様の寿命に対し何とか対策を練るためでもあるのだ

よって、それを阻止するということは、人類に考える時間を与えないのと同義でもあるのではないかと

夕海子は考えていた

夕海子「何か策は、おありですか?」


1、ごめんなさい。なにもないわ
2、そうね……二年前の私は何か考えていたかもしれないわ
3、以前から予測できたはずだもの。大赦が策を用意していないわけがないわ


↓2


昨日は失礼しました
本日も少しだけ


天乃「そうね……二年前の私は何か考えていたかもしれないわ」

夕海子「二年前ですか? なぜに過去」

天乃「勇者の戦いで記憶が無くなっちゃったから思い出せない部分があるのよ」

夕海子「っ、失言でしたわ」

努めて明るい天乃の語りではあったが、

夕海子は申し訳なく感じたのだろう罪悪感を感じる声色で、

天乃は「気にしなくていいから」と優しく言うと話を続ける

天乃「当時の私は今の私よりも神事に詳しかったみたいでね。その時も奉火祭は知っていたはずだから」

夕海子「対策は練っていたはずだと」

天乃「ええ。その可能性があるかなって」

自分のことなのに策を練っていた確信を持てないのは申し訳ないが、

奉火祭などという他を多く犠牲にして生きながらえるという方法など

過去も未来も現在も関係なく、久遠天乃という人間が認めることはないだろうという信頼だけはあった

もっとも、銀の死後であるならば

その方法はたった一人の犠牲で補うものの可能性が極めて高いのが問題でもある

もちろん、その犠牲は間違いなく天乃だろう


天乃「だから、もしかしたら誰も犠牲にせずに済む可能性だってあるかもしれない」

夕海子「……久遠さんの考えも一理ありますわ。ですが、こうも思うのです」

天乃「?」

夕海子「これが神罰であるならば、犠牲のない結末は訪れないのではないか。と」

天乃「それは」

夕海子「ええ。バカバカしいにもほどがありますわ」

しかし、実際問題解決することのできないような問題に直面しており、

その解決は生半可なものでは不可能だと言っていい

それこそ、誰か一人くらいは犠牲になる覚悟をしなければならないくらいのものだ

神との対峙による結果、起こっている災難だというのがまたその絶望感を肥大化させていく

夕海子「自分の思いを切り捨てるのであれば、わたくし達は大赦のやり方に従うべきでしょう」

天乃「知識も知恵も、神事においては大赦のほうが優れているものね」

夕海子「情報量においてもそうですわ。神世紀以前から現代までの記録が大赦本部には貯蔵されていると聞きますから」

天乃「……そのうえで選ばれた奉火祭という選択の重さは、簡単に振り払えるものじゃないというのは私も同意見だわ」

ならば、甘んじて従うか

答えはノーだ

断じて、受け入れることはできないと天乃は首を振る

天乃「勇者部はね、神樹様の種を奪うという話をした段階でそれに対する結論はもう出ているのよ」

夕海子「世界か個人か。貴女方が選んだのは後者でしたわね」

天乃「個人なんて汎用性の高いものじゃないわ。私よ。久遠天乃っていう、体も不自由で何の役にも立ちそうのない特定の個人のためよ」


天乃は笑って語った

冗談にしていいような話ではないが、冗談染みていて笑顔で語らずにはいられない

選んでくれた嬉しさももちろんあるが、

どうして迷わずこの選択をしてしまうのかという困った思いも混じった笑顔

夕海子はその決意を胸に抱いた勇者部の面々と対峙した

だから解る

彼女たちが決して生半可な気持ちでそれを選んだわけではないことを

神々に対抗できる最高の力を持っているからなどという理由ではないことを

夕海子「だからこそ、強い思いがそこにはあるのでしょう。だからこそ、そこに活路があるのかもしれません」

天乃「私もそう思うわ……もっとも、だからって無理されるのは嬉しくないんだけどね」

夕海子「久遠さんは少し求めすぎです。多少の無茶くらいさせてあげれば良いのですわ」

天乃「でも」

夕海子「その分、すべてが終わった後にうんっっっっっと文句を言ってご奉仕させるんですの!」

今回の件で芽吹さんを召使のように扱うことができるようになりましたし、

今からもう、わくわくして仕方がありませんわ。と

極めて明るい声で言い、ビシッっとポーズを決めて見せる

夕海子「だから、絶対に失うようなことがあってはいけないのです。骨折り損のくたびれ儲けなんて、嫌ですから」

にっこりと笑みを見せた夕海子は、

だんだんと近づいてくる足音を察知した瞬間に、窓から飛び出していく

夕海子「ではまたいずれ!」

ガサガサ、バサバサ……と軽い音から危うげな音まで外から聞こえたが

見ることはできないので目を逸らす

天乃「……今、最も無茶してたのは貴女だと思うわ。弥勒さん」

近づく足音が病室の前を通り過ぎていくのを聞きながら、

天乃は困ったように笑いながら、つぶやいた


√ 11月12日目 夕(病院) ※金曜日

01~10 若葉

11~20 
21~30 
31~40 友奈

41~50 
51~60 
61~70 東郷

71~80 
81~90 夏凜
91~00 

↓1のコンマ 


√ 11月12日目 夕(病院) ※金曜日


夕海子が帰ってからすぐに降り始めた雨は、

夏凜達が帰ってくる時間になってもまだ、止む気配はなくて

明日以降も降り続きそうな嫌な雰囲気があった

友奈「ただいまー」

天乃「おかえりなさい、雨、大丈夫だった?」

風「瞳さんが送ってくれるから平気だったわ」

友奈「でも、傘だけだったら危なかったですよね」

生徒玄関から校門前まで行くだけでも

靴や靴下はびしょびしょに濡れて、

鞄やスカートの一部も濡れてしまった

傘だけだったら全身ずぶ濡れになってしまっていたかもしれないと

友奈は少し困ったように言う

樹「天気予報では明日も明後日も……一週間くらいは雨続きですね」

夏凜「なんつーか。気が滅入るわね」


東郷「本来なら、楠さんの捜索を行う予定だったのだけど……」

風「こんな感じじゃできないのよね」

道端を歩く人達はみんな傘をさしていて、視界が遮られてしまうし

傘をさしている分顔が見えにくくなって芽吹かどうかの判別もつけにくい

それを無理やりに解消しようとすると、

むしろ、こちら側が不審者になってしまう

夏凜「そういえば、天乃は検査だったんでしょ? どうだったの?」

天乃「問題なかったわ。順調だって」

夏凜「…………」

天乃の浮かべる笑みをまじまじと観察した夏凜は

軽く頷いて「ならよかった」とこぼす

夏凜「けど……天気が神樹様と関係あるっぽいし、この感じを見るに不安定だから何かあったらすぐ言いなさいよ?」

天乃「うん」

夏凜「ちょっと調子が悪いとか些細な事でもちゃんと言いなさいよ?」

天乃「解ってるから大丈夫」


風「……嫁かよ」

東郷「嫁ですよ」

ぼそっとした風の呟きに即座に反応した東郷は、満面の笑みを浮かべる

自信に満ち満ちた東郷の表情は、

たとえそうではなかったとしてもそうだと思わせるような何かがあった

もちろん、東郷の言ったことは間違っていないが。

園子「どちらかといえば、にぼっしーの心配性な感じはお母さん。かな~」

夏凜「そういうやつじゃないっての」

ちょっぴり照れながらそっぽを向いて見せる夏凜の仕草

対する園子の笑みと、さらに反抗する夏凜

天乃は笑みを浮かべて、見つめる

これは、誰が犠牲になっても得ることができないものだろう

天乃「……ほんと、ね」


1、勇者
2、精霊
3、イベント判定
4、夕海子が来たことを話す

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は予定通りお休みをいただきます
再開は明後日になります


園子「お母さんかな~」

夏凜「そういうやつじゃないっての」

樹「でも、夏凜さんが一番久遠先輩の心配している気がしますね」

夏凜「樹たちだって――」

友奈「みんなそうだけど、でも、やっぱり、夏凜ちゃんが一番。かな」


では少しだけ


天乃「ねぇ、ママ」

夏凜「誰がママだ誰が!」

天乃「じゃぁ……パパ?」

夏凜「だかっ」

天乃「ふふっ、冗談はともかくみんなに話しておきたいことがあるのだけど、良い?」

園子「誰がパパで~誰がママで~」

上半身を動かして、歌い踊るような仕草を見せる園子を温かく見守って、

天乃は「残念だけどそれは今度」と微笑む

天乃「お昼に、弥勒さんが訪ねてきたの」

風「面会が通ったってこと?」

天乃「ううん。通らなかったからって窓から入ってきたわ」

東郷「窓……? 窓って、その窓ですか?」

天乃「うん。ここの窓」

唖然とした東郷の問いかけに答えた天乃は自分のすぐそばにある窓を指さして

いくつかの否定と、やりかねないという言葉が飛び交う

夏凜「まぁ、侵入方法はこの際だからいいわよ。緊急事態なら私達だってビルの10階だろうが結界の外だろうが行くでしょ」

東郷「そうね……たとえ地の果てだとしても行くわね」

風「ぶっちゃけ、未来的な話するならアタシたちの向かう先は地獄とか死地ってやつだし。今更ってもんよ」


さらっと言って見せた風だったが、

樹の「せめて希望に向かおうよ」という一言にしゅんとしてみんなの笑い声が響く

風が言ったようなことになりつつある今でも、

みんなが希望を失っていないからこそ冗談になり、笑い話になるのだろう

天乃「それでね、楠さんの件だけど弥勒さん達とは協力関係にないらしいの」

樹「独断専行……でしたっけ?」

風「樹が難しい言葉を……ッ」

夏凜「天乃で検索すれば予測変換で出てくるから覚えやすいのよ」

天乃「えっ」

友奈「あはは……でも、そうだよね。危ないことするなら被害は自分だけで良いって思うのは普通だと思う」

東郷「それが正しいことだとは、言えないけれど」

けれど、優しければ優しいほどにその考えを持ってしまうのだ

悪いことだという自覚があっても

大切に思う人たちが傷つく姿も苦しむ姿を見たくはないから

そんな思いをさせたくはないからと、自分の身一つにすべて押し付ける

園子「とにかく、メブ~は孤立無援の可能性があるってことだよね?」

夏凜「あるいはそれ以外の支援者」

風「でもそんな人いる?」

友奈「事情を知っていて、犠牲を出したくないって考えてくれる人達ですよね?」

東郷「ううん、友奈ちゃん。そうとは限らないわ」

友奈「どうして?」


樹「匿うって考えじゃなくて、保護とか、住み込みでの仕事みたいな形ならいくらでも可能性はあるってことですよね?」

園子「大赦系列の会社は除くことになるし、あまり表に顔を出す仕事もできないと思うんよ」

夏凜「だとしたらその繋がりにない……自営業とか。他県?」

友奈「うーん……久遠先輩に会う必要があるなら遠くにまでいかないと思う」

風「確かに……いや、あえてそうするって可能性も捨てきれないけど。友奈の意見に賛成だわ」

意見を出し合った夏凜達は、

しばらく押し黙り、みんなの考えを加えたうえで考えて、

さらに自分の考えを構築する

夏凜「孤立無援の可能性が高いって思ったんだけど良い?」

風「その心は?」

夏凜「自分だけに被害を集めるつもりなら、協力者なんて拒否するはずでしょ? だから、独り」

東郷「なるほど……一理あります」

沙織「不衛生な人は病院NGだけどね」

今まで黙って聞くだけだった沙織がようやく口を開き、

うんうん。と自分自身に同意してか頷いて見せる

天乃「ずっと考えてたのはそれなの?」

沙織「まさか。あたしの頭の中は久遠さんのことで年中無休だよ」

風「そうじゃなくて」

沙織「まじめな話、思ったんだけど弥勒さん達の協力がないなら、神樹様の種を奪う難しさは生半可なものじゃないよね」

園子「うん」

沙織「だから、大赦内部に協力者がいるんじゃないかなぁって思う」

だから、自分なりに誰が協力してるのかなって考えてたんだよ。と

沙織は少し困ったように言う


沙織「そこで見つけたのが久遠さんのお兄さんお姉さん。あの二人なら、巫女の犠牲なんて許容できない」

なにより、天乃がそれを望むわけがないという考えがある以上、

その妨害に協力できるのであれば、まず間違いなく協力することだろう

たとえ、求められていなくともだ

夏凜「ようするに、沙織は久遠家自体が協力者になってるって?」

沙織「そこまでは言えないけどね。お祖母様はともかく、お兄さん達は反対すると思う」

東郷「では、久遠家に接触する組とここで待機する組に分かれたほうが良いですね」

友奈「じゃぁ、明日の学校が終わったらいったほうが良いよね」

風「んじゃ、組み分けしますか」

そうと決めたら行動は早く、

大勢で向かうのは迷惑だろうということを踏まえ、

何かあったときに守る戦力としての夏凜、

以前から繋がりのある沙織、

頭脳面として(まじめに考えてくれるなら)東郷が選出され、

久遠家に接触するのは、夏凜や沙織、東郷で、

病院に戻ってくるのは風、樹、園子と友奈に決まった

風「部長のあたしの目が届かないのは多少不安だけど、頼むわよ夏凜、東郷、沙織」

夏凜「そっちこそ、問題が起きて対処しきれませんでしたは許さないわよ」

互いに問題なく終えられるよう

他愛もない小言を言い合う二人はやはり、良い表情だった


√ 11月12日目 夜(病院) ※金曜日

01~10 夏凜

11~20 
21~30 
31~40 樹

41~50 
51~60 
61~70 千景

71~80 
81~90 
91~00 若葉


↓1のコンマ 


では、少し早いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から



夏凜「パパだのママだの……」

東郷「でもね夏凜ちゃん。子供が産まれると、パパやママといった呼び方をすることもあるのよ」

夏凜「は?」

東郷「一説によると、赤ちゃんに認識させるためだったり、呼ばれやすくするためだったりと、子供目線になろうというものがあるの」

夏凜「そ――」

東郷「だからママプレイも許されるッ!」グッ


風「赤ちゃんを免罪符にすーるなッ!」パンッ


では、遅くなりましたが少しだけ


√ 11月12日目 夜(病院) ※金曜日


もうすぐ11月が終わる。

夜になるとより一層冷え込んでいく感覚に布団を引き上げながら、

天乃はふっと息を吐いてその白さを確かめる

病院ということもあり、できる限り冷え込まないようにという対応はなされているのだが

天乃の体の関係上、暖房器具をガンガン用いるということは出来ず、

やはり、少しだけ寒々しさが残る

天乃「このまま一気に冷え込んでいくのかしら」

考えすぎだとわかってはいるが、

この冷え込み方が、神樹様による加護が失われつつあるせいだとしたら。

そう思うと、世界の危うさがより際立つように感じてしまう

天乃「……楠さん」

本当に、久遠家に匿われているのだろうか

それならいいが、

もしもそうではなかったらどうなるのか。

少なくとも、弥勒さん以上の無茶をすることになるだろうと、

天乃は目をつむった


無茶をしていた自分と芽吹を同じに考えれば、

どれだけのことをするかなど想像もつかない

死ぬことを厭わないほどに無理をすることができてしまうのだから

そこに限界はないし

無理に限度を定めるのだとしても、

それは死んでしまった時くらいだろう

だkらこそ、早く救い出すべきなのだ

いち早く再会し、芽吹の手を掴んであげるべきなのだ

天乃「……歩けたら、良いのに」

以前のように身軽に動けるならば、

夕海子の後を追って窓から飛び降りることは朝飯前だったかもしれない

いや、もしそうなのであれば

芽吹が無理する必要自体なかったかもしれないと考えた天乃は、

自分が少しではない無茶をする思考に戻りつつあるのを感じて、考えをやめた


1、勇者
2、精霊
3、イベント判定


↓2



√ 11月12日目 夜(病院) ※金曜日

01~10 風
11~20 友奈
21~30 東郷
31~40 沙織
41~50 若葉
51~60 樹
61~70 球子
71~80 千景
81~90 夏凜
91~00 園子

↓1のコンマ 


では、短いですがここまでとさせていただきます
明日は、15時頃からの再開を予定しています


遅くなりましたが、少しだけ


√ 11月12日目 夜(病院) ※金曜日


天乃「今度は床じゃなくて、夜這いするつもり?」

こっそりと

息をひそめながら近づいてくる気配を察知した天乃は、

薄く目を開いて何者かに声をかける

園子「……およっ」

カーテンが揺れて、聞こえた声。

ゆっくりと起き上がる布の擦れる音は静かな病室には少しだけ大きい

園子「えへへ……バレてたか~」

月明りに映える黄金色に近い髪色

バレたことが残念そうで、でも嬉しそうで。

照れくささにちょっぴり赤らんだ顔色

心を揺らされる園子の雰囲気に、天乃は優しく微笑む。

天乃「園子じゃなくて東郷かなって思ったけどね」

園子「えっ……」

天乃「嘘。園子だって分かってた」

園子「むぅっ」

天乃「あら……園子もそんな顔するのね」


ちょっぴり怒った顔をしたりすることがあることは意外に長い付き合いの中で見たことはあったが、

自分ではない誰かのことを口にされて不満そうな顔を見せたのは初めてだった

天乃「園子も嫉妬するのね」

園子「別に……嫉妬したわけじゃないんよ」

天乃「あら。でも、ただ楠さんのことで心配したからこっち来たってわけではないんでしょ?」

園子「…………」

天乃「別に心を読んだりしたわけではないわよ?」

貴女の体が正直なだけ。

そういった天乃の視線の先に映るのは、

園子が強く抱きしめている枕だ

それを見られていると気づいたからか園子はさっと後ろに隠すが、もう遅い

なぜここに来たのかバレバレだった

天乃「東郷ばっかりずるいとか、思ったの?」

園子「そんなことは思ってないんよ。今更取り合ったりとかする気はないし」

けれど、と園子はつぶやく

園子「少し歩けば届く距離にいる……なら、行かない理由はどこにもないなぁって」


園子「それに……」

天乃「うん?」

園子「…………」

不安そうな表情だった。

何かを恐れている表情だった。

けれど、その何かが園子自身にもわかっていないのだろう

園子は首を横に振ると言葉を飲み込む

園子「少し、冷えてきたから……ポカポカしたほうが良いんよ」

天乃「それは確かにそうね」

以前に褒めていたわっしー布団とやらは使わないのか。なんて、

野暮な言葉を考えつつ、天乃は笑みを浮かべる

そうではないのだ

園子「だから、その……一緒に寝たい」

小さく、小さく。

独りぼっちは嫌だという言葉に変わりに、

妹に掴まれた服の裾のような音が、聞こえた

いつもの子供っぽさと茶目っ気の入り混じったものではなく、

少女の顔をした園子が目の前には居た

天乃「…………」


1、何も言わずに少しだけ場所を開ける
2、エッチなことは無しだけど、それでいいなら
3、あら。私と寝るだけのお金があるのかしら?
4、ちょうどよかったわ。一人だと悩みすぎるから誰か来てほしかったのよ

↓2


天乃は何も言わずに、ただ優しく笑みを浮かべながら、

もう一人くらいは入ることができるスペースができるように体を寄せる

軽くたたかれた布団の誘う音に園子の体が少しだけ跳ねたのが、

感じた嬉しさの大きさを物語る

園子「………」

めくられていく布団の中に、冷たい空気が入り込む

けれど、その寒々しさは冷えてしまった園子の寝間着の冷たさに追い出されて、

温もりに溶け込んでいく

そう感じるのは体だけではないと天乃は思う

園子「ぽかぽか~」

天乃「それはよかったわ」

園子「…………」

天乃「横にはなれないのよ。許してね」

首を動かして何とか目を向ける

その程度が限界の天乃は園子へと謝罪を口にするが、

園子は「いい」と、努めて冷静な返事を返して、ずぃっ、ずぃっと天乃へと体を寄せる

抱きしめる形で触れた園子の手は、

さっきまで外にいたとは思えないほどに、温かみがあった

園子「そばにいてくれるだけで、十分」


園子「実は……天さんが苦労してるのは分かってるけど、今の状況に感謝してる自分もいるんよ」

天乃「…………」

悪いけれど。と

そう前置きのつきそうな園子の言葉

心を完璧に読める自負は天乃にはないが、

それでも、何となくその気持ちがわかる気がした

それは無理をする立場を経験し、

無理を見せられる立場の声を聴き、

そして、無理を見せられる立場へと入れ替わったからこそかもしれない

園子「天さん……元気だとなんでもできるから」

久遠天乃という人間に関しての被害の一切を許容するのであれば、

天乃にできないことは何もなくなる

神樹様の寿命だって、追い詰めようとしている天の神の力だって

容易く覆してくれていたことだろう

だから、悪いと思いながらも

天乃が苦しむことのある今の状態を喜ばしくも思ってしまっている

天乃「大丈夫よ」

園子「…………」

天乃「たとえ今、動き回れるのだとしてもせいぜいが楠さんを探し出す程度。壁の外に飛び出して行ったりなんてしないわ」


胸元にかかる園子の手に手を重ねて、優しく握る

園子の手はそこまで大きくないほうだが、

天乃の手はそれよりも少し、小さくて。

握り切れないちょっとした愛らしさを、園子は優しさと一緒に感じた

天乃「子供がいるとかいないとか、きっと関係ないわ」

それによって自分の環境が激変し

学ばされることが多々あって、

もしかしたら、その違いによって感じていることも思っていることも考えも違っているかもしれないが、

この結果だけは変わらなかったはずだ

無理をするだけでは意味がないと

自分以外を救うだけでは何の意味もないと。

東郷だってそれを学んだからこそ、

独り悩みぬいて危険な行動に走ったりすることがないのだから。

天乃「大丈夫よ、私はどこにもいかない」

園子「っ……天さん、もしかして」

天乃「たとえ、子供が産まれたとしても、神樹様の種で体が良くなってもね」

頭を動かしてちょっぴり無理をして顔を向けた天乃は、

園子の柔らかい頬に手をあてがい、微笑む

天乃「だから安心していい。怖がらなくていいの。神樹様がどんな神託を貴女に見せたとしても」


園子「……神樹様なのかどうか。わからない」

でも、もしかしたら神託だったのかもしれない

そういいながら、園子は天乃の手に手を重ねて

頬と一緒にその感触と、ぬくもりと、愛情を体にしみこませていく

朝から感じていた不安と恐怖が簡単に、消えていくように感じる

園子「みんながいるんよ。部室で、いつも通りに元気に明るくて、今日はこんな依頼があるぞって」

天乃「うん」

園子「私たちはみんな勇者のことなんて無かったことみたいに普通で……あまりにも普通過ぎて自然だった」

でも。と、園子はかみしめるように続ける

園子「天さんがいなかった。天さんだけは、そこに無かった」

しかし、それでも普通だったのだ。自然だったのだ

そこに【天乃がいないことが】当然であるかのように、違和感がなかった

園子「でも、途中で意味も解らずに泣くんよ。みんなが驚いて、困って、でも、泣くんよ」

もしかしたら、心のどこかにあった不安が見せた夢かもしれない

だが、園子がその夢を思い出して泣きそうな声になっているのは夢ではない

園子「……それで、目が覚めた。飛び起きて、天さんの寝顔を見て、落ち着いて、落ち着けなくて、でも、そこにいるって思ったら、わかったら」

天乃「だから、朝からあんなに元気だったのね」

園子「嫌だよ……本当に、どこにも……嫌だよ……」

朝からずっと気をはっていたのか

それとも、ただ早起きしたことの弊害か

眠りへと滑り落ちていく園子の瞼が閉じる

握られた手の力が抜けないのはきっと、体ではなく心で動いているからだと

天乃は笑みを浮かべて

天乃「心配しなくても……私は、いなくなるつもりはないわ」

泣かせてしまうことを知っている

消えてしまった自分を求めて無理を重ね、奔走してしまうことを知っている

自分の死を厭わない救世が、結果的にすべてを失うことに繋がると知っている

だから、天乃ははっきりと否定した


√ 11月13日目 朝(病院) ※土曜日

01~10 
11~20 友奈

21~30 
31~40  樹
41~50 
51~60  九尾
61~70  若葉
71~80 
81~90 
91~00  千景

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日はできれば昼過ぎ、14時ころからを予定しています

一日のまとめは再開時に



園子「たとえ、記憶が改変されたとしても」

東郷「頭では考えることができなくなっても」

沙織「心は覚えてるから、大丈夫」

東郷「そもそも、記憶が消えたからと言って久遠先輩に刻まれた破瓜の痛みが消えるわけではありませんし」

友奈「あれ……? もう記憶変わってるよ?」

樹「東郷先輩なら想像妊娠さえできるのでは?」


では、すこしずつ


√ 11月13日目 朝(病院) ※土曜日


天乃「……ふふっ」

昨夜の不安そうな表情のかけらもない穏やかな寝顔を見せる園子を見つめて、

天乃は嬉しそうな笑みをこぼす

時折もにゅもにゅと口元を動かしては

天乃だったり、東郷だったり

夢の中の登場人物と楽しく過ごしているのだろう言葉を呟く

その愛らしい姿を見せる園子に、ふと、影が差したかと思えば

伸ばされた手が園子の前髪に触れ、さっとかき分ける

若葉「不安を夢に見たのかもしれないな」

天乃「若葉……聞いてたの?」

若葉「自分の子孫のことだからな。少し見ていたんだ」

天乃「そっか」

若葉「園子の悲しそうな顔は、ひなたと被って見えるから困る……だから、あまり悲しませてくれるな」

天乃「決行、気を付けてるつもりで入るんだけどね」

無茶をしない、無理をしない

何かがあったら相談する。

結構、徹底しているはずなんだけど。と、天乃は苦笑しながらつぶやいて、

園子の小さな手に触れる

天乃「でも、それだけ私が愛されているのだとしたら……少し複雑だわ」

若葉「喜ぶべきところじゃないのか?」


天乃「もちろん、嬉しくないわけじゃないんだけどね」

でも、そこまで愛されてしまっているからこそ、無茶をする原因にもなってしまう

だから少しだけ、複雑に思ってしまう

そんな考えを持つのは間違っているとわかってはいるのだが、

頭の片隅ではそういう考えがひっそりと蠢いている

天乃「申し訳ないとか、どうとか。そんなことは言うつもりはないけれど、もう少し、ね。妥協してもいいんじゃないかなって」

若葉「天乃」

天乃「?」

若葉「自分ができないことを、求めるものじゃないぞ」

天乃「…………」

若葉「極端かもしれないが、園子たちにとって、天乃を救うことは生きる上で呼吸をするのと同じくらい当たり前のことなんだと思う」

それがどれだけ難しいことだとわかっていてもだ。

いってしまえば、

弱肉強食の激しい自然界の中で、

小さな生き物たちが強者にあらがって日々を生きていくのと同じようなものだと若葉は言う

若葉「案外、この目には見えず、体にも感じることができないだけで、私たちの周囲には常に肉食動物のようなものがいるのかもしれない」

天乃「……言い換えれば、運命のように?」

若葉「それも、一つの捉え方かもな」

でも、だから諦めるなんてことはできない

草食動物が、肉食動物にかみつかれたら諦めるのか。

そんなことはない。

若葉「でも、それで諦める天乃じゃない。諦める園子たちじゃない。だろう?」


若葉「だから、妥協したらいいだなんていうな」

言ったらきっと、怒られる

昨日の今日での話であるならば、泣かせてしまうかもしれない

園子のそんな顔は見たくない

もちろん、ほかの誰かのものもだ

若葉「園子を泣かせたら、私が許さない」

天乃「ご先祖様らしいこと言っちゃって……半分くらいは上里さんが泣いているみたいで嫌だからって理由なんでしょ?」

若葉「それは……まぁ、ない。とは、言わないが……」

自分とひなたの子供である可能性は、性別を考えれば無に等しいだろう

だが、何らかの技術がそれを可能にしたかもしれない

300年もの間に、その血が混ざりあったかもしれない

わかっているのは、子孫である乃木園子には、大切な存在だった上里ひなたの面影があるということ

若葉は照れくささを押し隠して、天乃を見る

茶化すような表情の天乃の瞳が、少しだけ大きくなった

若葉「そうじゃないとしても。誰かの悲しむ顔なんて見たくはない」

天乃「……ええ」

かつて見た、大切な者の苦しみに満ちた表情

それに抉られた心の痛みを感じたように、若葉は苦虫をかみ潰したような表情を浮かべて

天乃は園子へと視線を落とす

天乃「そうね……そう。だからこそ……なんて。考えも持ちたくなるのよね」


若葉「まさか、戦いに出るつもりか?」

天乃「ううん、みんなのことも考えてそれはしないつもりよ」

若葉「なら良いが……そんなこと言われるとまた不安になるんだが」

天乃「昨日の、見ていたならわかるでしょ?」

園子があそこまで言ったのだ

園子があんな表情を見せたのだ

園子だけではなく、みんなも似たような顔をするだろう

感情をさらけ出してくることだろう

いや、もしかしたら夏凜はそれよりも怒るかもしれないが。

天乃「さすがにね、あんなこと言われてまで戦おうだなんて考えるほど、私も落ちぶれてはいないつもりよ」

けれど、何かできることがあるのでは?

そういう考えを巡らせたくなる

自分がもしも動ければなどと、できもしないことを考えてしまう

苦しんでいる人のことを考えて、こんなことができたらと考えてしまう

天乃「ねぇ……若葉」


1、楠さんを見つけ出してきてくれない?
2、私のお祖母ちゃん、連れ出せない?
3、貴女は、奉火祭を止める方法とか思いつかない?
4、私が我慢しているんだから、貴女達も少しは我慢してくれない?


↓2


天乃「楠さんを見つけ出してきてくれない?」

若葉「久遠家にいるんじゃないのか?」

天乃「うん。その可能性はあるけれど……もしかしたらそうじゃないかもしれないから」

若葉「その違う可能性というのは、理由があるのか?」

若葉の問いに、天乃は首を振る

ただもしかしたら。などと考えただけ

これは自分の不安であり、恐怖だ

守るためならばこの命を捨てることさえもいとわない考えを持つことのできた自分と

大切なものができた楠芽吹の考え方が同じであるならば。という前提での不安

人によっては馬鹿らしいと一蹴されるようなもの

けれど、若葉は「解った」と頷く

若葉「私は私で探してみよう。だが、それにあたって一人手を借りたいのだが、良いか?」

天乃「その人が良いっていうなら私の許可は別に要らないけど……誰?」

若葉「歌野だ」

天乃「歌野?」

若葉「ああ。たしか、楠さんは神樹様の種を持っているという話だっただろう? なら、歌野ならその力をたどって見つけ出せるんじゃないかと思うんだ」


天乃「…………」

若葉「……ダメなのか?」

天乃「さっきも言ったようにダメとは言わないけど……」

天乃は少し考える素振りを見せると、

ちょっぴり身を引く若葉へと目を向けて、困った表情を見せる

天乃「そういう考えがあるなら初めに言ってくれてもよかったのに」

若葉「この世界はそもそも神樹様の力があふれていて精度は高くないって言われてな」

下手に期待させるのも……と、考えていたらしい

だが、自分が探すのであれば

そういった不確定要素でも使ってみるのもありかもしれないと考えたのだ

しっかりと考え、相談ののちに導いたものと、

感覚にのみ頼った探し方

どちらがたどり着いても優劣などないが、方法は多いほうが良いだろう。と

若葉「考えを黙っていたことはすまないと思っている……確かに、不確定とはいえ情報共有はすべきだったな」

天乃「別に謝る必要はないわよ。久遠家だって答えが出てこなかったら言うつもりではあったんでしょう?」

若葉「ああ」

なら別にいいじゃない。と

天乃は笑みを浮かべながら「でも、そうねぇ」とつぶやく

天乃「一応、歌野には久遠家にいるかどうか調べてもらいましょうか」


√ 11月13日目 朝(病院) ※土曜日


21~30
91~00 

↓1のコンマ 


※上記範囲で……?


√ 11月13日目 昼(病院) ※土曜日

01~10 
11~20 芽吹

21~30 
31~40  若葉
41~50 
51~60 
61~70  千景
71~80 
81~90  九尾
91~00 

↓1のコンマ 


√ 11月13日目 昼(病院) ※土曜日


いつも通り、悪くもなく良くもない中途半端な空色を見上げながら、

天乃は枕の上に頭を落とす

天乃「今頃、私の家……? とか、みんな行っているのよね」

もしかしたら神社のほうかもしれないが、

夏凜達はそこに向かい、風達が帰ってくる

天乃「いるかしら……」

歌野は久遠家のところには居ないのでは。と少し不安ながら言っていた

神樹様の力があふれており、感知するのは難しいと前置きはしていたものの

まったく感じ取れないわけではないであろう歌野が首を横に振ったのだ

いない可能性は高い

なら……どこに消えたのか

天乃「若葉にお願いして正解だったかもしれない」

いくら、この世界が神樹様でいっぱいだといっても、

動き続ける強い力―神樹様の種―は特別

ゆえに、歌野を連れて後を追ってもらうことで

見つかる可能性が上がるのだ


天乃「若葉にああいった手前、動こうとは思わないけれど」

その思いとは裏腹に、動けないもどかしさは胸に疼く

何かできないだろうか

それを考えても、できることといえばみんなへの指示だとか

お願いを聞いてあげることでのストレス解消だとか

天乃「あまりろくなことできないのよね」

芽吹の考えを推測し、

何をしようとしているのか、どこに行こうとしているのか

それを考えることもできはするが、

今考えられることはしているため、情報がなければそれも難しい

天乃「はぁ……早く、帰ってこないかしら」

芽吹を連れてきてくれるのが望ましいけれど

連れてこれなくても、帰ってきてほしい

園子のいた温もりの消えていく布団を抱きしめながら、

天乃はほんの少し感じる寂しさを薄めていく

風「たっだいま~!」

樹「久遠先輩が寝てたら起きちゃうよ、お姉ちゃん」

風「大丈夫大丈夫、いつものナースさんが起きてますって言ってたし」

それを感じ取ったように、

午前で学校を終えた風達の声が、病室へと入ってきた


1、風
2、樹
3、友奈
4、園子
5、イベント判定

↓2


√ 11月13日目 昼(病院) ※土曜日


天乃「起きてるから大丈夫よ、樹」

樹「久遠先輩」

たたたっと近づいてくる樹を待ちつつ、

ベッドの上半身部分をリモコンで動かし、体を起こしていく

ゆっくりと動いてくれるから苦しくはないが、

体の中身が揺れる感覚は重く、

少しでも派手に動けば吐くかもしれないと、感じる

その分、胎児が十分に成長しているということなのかもしれないが。

そのつらそうな顔を見られたのか、

呼ばれた嬉しさを潜ませ、樹は不安そうに天乃を見つめる

樹「動いて平気なんですか?」

天乃「別に、病弱っていうわけではないから」

樹「でも……」

天乃「慣れない体の重さについていけてないだけよ。ほら、初めてだと船酔いしちゃうてきな」

樹「それならいいんですが……」

本当に無理はしてないですよね? と

樹は様子を伺いなら、近くの椅子に腰を落ち着ける

ふっと吐き出した息が、不安さを感じさせた


樹「夏凜さん達は予定通りに、久遠先輩の神社に向かいました」

天乃「なら、歩いて帰ってきたの?」

樹「いえ、瞳さんが送り迎えしてくれたのでさすがに歩かなかったです」

大変だから大丈夫だと断ったのだが、

学校から病院までの距離を考え、送ってくれたのだ

その時に夏凜達も一応は一緒にいたのだろう

見てみれば、

夏凜達の荷物がベッドのそばに置かれていた

天乃「瞳にも迷惑かけちゃってるわね」

樹「嬉しそう。ですけどね」

天乃「そうなの?」

樹「はいっ、夏凜さんやみんなが仲良くて、一生懸命で……」

問題が起こっていることに関しては悲しそうだったし、

喜ぶことはできないと言っていましたが。と、

樹は補足を加えて天乃へと目を向ける

樹「でも、夏凜さんがうまくやっていけていることは、凄く嬉しいそうです」

天乃「……ほんと、最初は酷いものだったものね」


夏凜の性格を考えれば当然の帰結だったと言えるかもしれないが

場合によっては、今のような関係にまでは至らなかったかもしれない

仲は良いが、それはただの友達でしかない。だとか。

きっと、恋人の関係になった今の関係は、

ありえた未来の中でも最も稀少な帰結だったことだろう

樹「もうすぐ子供が産まれるから、あまり心配かけないようにって瞳さんに言われました」

天乃「あら、そうなのね……もうすぐと言いつつ、12月か1月かわからないんだけどね」

樹「でも、二月まで伸びることはないと思いますし、もうすぐはもうすぐですよ」

12月の中旬とか、そのあたり

あるいは、年明けの後、中旬までには生まれるだろうという予想だ

その敏感になっているであろうお腹を一瞥した樹は、

天乃へと目を向け、ちょっぴり不安を感じさせる笑みを浮かべた

樹「子供が産まれるかどうかの時って、精神的につらくて不安になったりなんだりしちゃうらしいので、何かあったら遠慮なく言ってください」

天乃「今のところは不安もなにも、全部打ち明けさせてもらってるわ」

だから大丈夫。と、天乃は言う


1、そうだわ。来月ってクリスマスでしょ? 何かしないの?
2、ねぇ、タロットカードで占ってみない? 未来のこととか
3、でも、せっかくだから……そうね。一緒にいてくれない?
4、さすがに、留年するかもなんて不安打ち明けてもどうにもならないものね


↓2


ではここまでとさせていただきます
なお、明日より20―22の時間での投稿になるかと思います


東郷「聖なる夜といえば性に乱れることが許される日!」

友奈「いつも乱れてる東郷さんが乱れるのはちょっと……あはは」

東郷「ふふっ、私はまだ一度も本気になったことはないわよ?」

友奈「え?」

東郷「ふふっ」

友奈(あっ……これ、本気で言ってる時の東郷さんの笑顔だ)


では、少しだけ


天乃「そういえば、来月ってクリスマスでしょ? 何かしないの?」

いつもなら、幼稚園での演劇会があって、

お菓子を配ったりなんかして。

二ヶ月遅れのハロウィンのようなことをしたりする

勇者部ができて、まだ2年も経っていないが、

季節イベントや、ちょっとした演劇会を行ってきている勇者部にとってはもはや、恒例行事なのだが。

樹は「それなんですけど」と残念そうに言う

樹「一応、幼稚園の方からは依頼が来ているんです」

天乃「でも、風はやらないって?」

樹「というよりも、やるのは難しいんじゃないかって言ってます」

それが風だけとかならまだ可能性もあるが、

みんなが否定的なのだ

もちろん、できるのならばやりたいという考えは持っている。

だが、状況がそれを許してはくれない

天乃が心配なのもそうだが、世界が危ういのだ

演劇に集中なんて出来るはずがない

樹「友奈さんも、できるならやりたいけど奉火祭のこともあるし今はそっちのことを考えるべきだって考えみたいで」

天乃「まぁ……それもそうよね」

樹「東郷先輩と夏凜さんも同じような意見です。勇者部として考えればやるべきではありますが、やっぱり……それよりもやるべきことがあるんじゃないかって」


天乃「樹は?」

樹「すみません。私も同じ意見です」

聞いてくれたのに申し訳ないですが。と付け加えるように首を振った樹は、

姿勢正しく椅子に座ったまま、天乃へと目を向ける

その視線はもう、ただの中学一年生ではないように感じられた

樹「やっぱり、やるべきことを終えてから寄り道をするべきだと思うんです」

天乃「そうしないと、本当にやるべきことができなくなってしまうかもしれないものね」

樹「お姉ちゃんたちと一緒の部活は今年が最後で、これを逃したらもう、みんなで勇者部の活動なんてできないかもしれません」

それでも。と、樹は言う

樹「生きてさえいれば思い出は作ることができるから。みんなが無事なら、勇者部は絶対になくならないから」

姉よりも二年遅れ、夏凜達よりも一年遅れてきた樹にとっては、

参集中学での活動のチャンスはたった一年間しかない

進学した先の高校はバラバラになるかもしれない

ならなくても、天乃はその高校には居ない可能性が高い

だから、学生としては今年が最初で最後の一年間

けれど、それでもなのだ。

樹「……命を懸けない代わりに、私は思い出を懸けることにしたんです」

天乃「後悔……なんて、愚問そうね」


樹「後悔はしません」

天乃が言わなかった問いに、樹は笑顔で答える

そんなことはあり得ない

演劇会をやってもよかったんじゃないか。なんて

冗談めかした言葉は誰かが言うかもしれない

けれど、やっておけばよかったなんて後悔はしない

たとえ無駄でも、過剰でも、

たった一パーセントの可能性であっても

嫌な未来に行かないためなら命以外のすべてを尽くす

樹「本当は、命がけでっていうところなんですよ?」

天乃「そんなの、私が許さないわ」

樹「今までずっと命を懸けてきた久遠先輩には言われたくないことですけど」

天乃「それを言われると――」

樹「でも」

樹の反抗的な言葉に困った表情を見せた天乃

その言葉を遮って、樹は言う

樹「命を懸けられる辛さを知ってるから、私たちは懸けません。懸けられません。その分、人生の一部を懸けることにしたんです」

ある意味では寿命であり、人生である過去

大切な思い出になるであろうそれを捧げて、世界を救う

そして、いつか平和になった世界で言うのだ

こんなこともあったけど、大変だったけど、でも、今が幸せならそれでいい。と

樹「未来のために捨てるのは過去だけでいいんです」


天乃「……いい考え。だなんて、悪いけれど言うことはできないわ」

未来のために今を捧げる

命を懸けるよりはましなことだろう

だが、絶対にいい考えだと天乃は言えない

ましてや、過去を捨てるなどというのは無理だ

もちろん、樹たちのいう過去が天乃の言う過去と違う意味であることは分かっているが

それでも、天乃はいい考えだとは頷けなかった

天乃「記憶だけは、失くしたら駄目よ。心が覚えているといっても、やっぱり……寂しいもの」

樹「……解ってます」

置いていくのは今という過去だけだ

すでに得た思い出を捨ててしまうつもりなど毛頭ない

まして、天乃との記憶を奪われるなどとんでもない

樹「もしも万が一、神樹様や天の神によって久遠先輩との記憶が奪われるようなことがあったときは、神様を倒してでも記憶を奪い返します」

天乃「ふふっ。神隠しにでも会わない限り、私がみんなの前からいなくなることはないから大丈夫よ」

必ずここにいる。

少なくとも、子供が産まれて、体調が落ち着いて

外出できるようになるまでは。

天乃「それで、退院したらまたみんなであの家に帰るのよ」

ほんのひと時だけ、過ごした我が家

すべてが終わったら、あの家で暮らすのだと、天乃は笑みを浮かべた


√ 11月13日目 夕(病院) ※土曜日

01~10 大赦

11~20 
21~30 
31~40  芽吹
41~50 
51~60 
61~70  九尾
71~80 
81~90 芽吹(若葉)

91~00  大赦

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間(20-22)から

イベント無、芽吹見つからず
このまま進行の場合、11月14日目にイベント


では、少しだけ


√ 11月13日目 夕(病院) ※土曜日


若葉「すまない」

天乃「別に謝るようなことじゃないわ」

若葉「だが、見つけられる可能性が高まってなお、何の成果も得られなかったんだ。悔いも残る」

天乃「それでも、謝るようなことじゃないわ」

元々、ダメもとで探しに行ってもらったのだから、

若葉も歌野も誰も悪くはない

むしろ、逃げおおせている芽吹のことを称賛すべきだろう

天乃「久遠の方にもいなかったんでしょう? 本当、どこにいるんだか」

夏凜「つっても、知ってそうな二人がいなかったのよ」

沙織「お兄さんとお姉さんがいなかったのは防人関連だとは思うんだけどね。図ったわけじゃないと思う」

そういったことをさせないために、

事前に連絡などをせずに押し掛けたのだから

今回はそれがうまくいかなかっただけだろう

天乃「二人がいれば会えたかしら?」

沙織「どうかな……お兄さんは正直に教えてくれるかもしれないけど、お姉さんは誤魔化すかも」


夏凜「そう? 天乃のことだし教えてくれると思うけど」

沙織「そうなんだけどね……楠さんに賛同してたら久遠さんが止めることは分かってるだろうしもしかしたら協力してくれないかも」

風「でも、天乃の体のことが分かってない場合。でしょ」

芽吹だってそうだ

天乃の体に神樹様の種を使えば体調が良くなるという理解しか持っていなければ

神樹様の種を使うことに躊躇はほとんどないことだろう

東郷「実際問題、それが分かっていない場合の周知も含めてのものだったわけですから、まったくの成果なしというわけでもないんですよね」

天乃「お母さんに話したの?」

沙織「ううん、手紙をお願いしますってしておいた」

お母さんは勝手に中を見たりするような人じゃないから大丈夫だよ。と

沙織は安心させようと笑みを浮かべる

母親に伝えないのは、天乃だけでなく、二人までもが危険なことに首を突っ込んでいるなどと不安にさせないためだ

風「ま、結論だけ言えば今はお手上げ状態っていうか、待機期間になるわねぇ」

友奈「面会の件さえなければ、すぐにでも来てくれてたよね……」

樹「多分、そうだったと思います。大赦が動いちゃったから楠先輩も余計に難しくなっているのかと」

園子「焦ってうまく考えられてないのかもしれないね」

夏凜「ったく……余計なことだけは素早いってのが苛立つ」


歌野「ステイクール、ステイクール」

夏凜「解ってる。別に暴動起こしたりする気はないわよ」

友奈「でも、待ってることしかできないのかな?」

友奈の願うような一言に、

東郷は「今のところはね」と、優しく答える

これがもしも、天乃を目的としていないならもっと焦らなければならないところだが

芽吹の目的の関係上、天乃の協力は避けて通ることができない

だから、待つ。という選択肢があり、冷静でいることができる

天乃が芽吹の立場だったら血眼になって日がな一日無休で探し続けていたことだろう

東郷「場合によっては、この空白期間が冷静にさせてくれるかもしれないから。休むことも重要よ。友奈ちゃん」

樹「そうですね……急がば回れっていうこともありますし」

風「意味はちょっと違うけど樹が言うならそういう意味で良いかもしれない」

夏凜「下手に動き回ったっていいことないし、何か考えついたら話し合って行動。それでいいでしょ?」

天乃「そうね。そのほうが良いんじゃないかしら」

一先ずの休息期間

状況が状況だけに、

心から休まるなんて言うことは少し難しいかもしれないが

芽吹のことは一時保留とし、勇者部は休むことにした


天乃「………」

一時的に保留

何か考えがあったらその都度相談して行動するならする、しないならしない

とても簡単なことだが、

自分たちにとって大切なものがそこに絡んでいたりすると、

人はどうしても、考えることを怠ってしまう。

協力するということを疎かにしてしまう

ゆえに、実際にそうすることはなかなか難しいのだが、

それをやろうと言い、反対する者がなく、実行できるようになった勇者部の成長を感じて、

天乃はちょっぴり気恥ずかし気な笑みを浮かべる

自分は、動ける体だったとしてそうできるだろうか。と



1、勇者
2、精霊
3、イベント判定
4、クリスマスについて


↓2


01~10 大赦
11~20 晴海
21~30 夏凜
31~40 友奈
41~50 九尾
51~60 沙織
61~70 風
71~80 芽吹
81~90 千景
91~00 大赦

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

満を持して



芽吹「かくれんぼで最後まで見つけてもらえず置いて行かれた気分……あっ」

雀「どうかした?」

芽吹「大したことじゃないけど、かくれんぼをする友達自体がいなかったわ」

雀「すっごく大したことだよメブーッ!?」

芽吹「ううん、大したことないわ。だって、今はもう貴女達がいるじゃない」ニコッ

亜耶「思えば、私もしたことがありませんでした」

雀「やろう! うんっ、全部終わったら、みんなで……ねッ!?」


では、少しずつ


面会時間の終了に伴って、

家族や友人の面会に来ていた人が去っていき

通院目的の来客に集中するためか、だんだんと静まっていく病院

廊下に響く足音も少なくなり、また一日の終わりが近づきつつあることをみんなが感じる中

一人分の足音が、病室の前で止まった

天乃「あら……誰かしら」

夏凜「回診とかじゃないの?」

天乃「この時間にはやらないわ」

友奈「えっ」

不思議そうな天乃を差し置いて、

一気に緊張感が広がっていく病室の扉は、無警戒にも叩かれずに開く

風「東郷!」

東郷「了解」

ベッドから飛び起きた東郷は来客を【歓迎】すべく身構える

しかし、その姿が見えたことでとびかかることはなかった

天乃「遅かったわね……」

芽吹「そう簡単に言われても困ります、久遠先輩」

楠芽吹

防人として従事し、そして、奉火祭に反発して抜け出してきた少女

行方の分からなかった彼女がようやく、姿を見せたのだ


夏凜「あんた何やってた……というより、どこにいたのよ」

芽吹「久遠先輩のご実家に隠れていたのよ。知ってるのはお兄さんとお姉さんだけでご両親は知らないわ」

東郷「でも、昼過ぎに行ったときには気配も何もなかったのに?」

行ったんですか……と

半ば呆れたような呟きを漏らした芽吹は小さく息をつくと

ここに来るためにちょうど出かけていたのでは。と、考えを述べる

普通にいくだけなら交通機関を使えば簡単だが

大赦によって指名手配のような状況にある芽吹には、それができない

隠れながら、息をひそめながらの訪問になるため

倍以上の時間がかかってしまう

樹「楠先輩、神樹様の種を盗ったのは本当なんですか?」

芽吹「大赦から?」

天乃「ううん、はっきりとそれを教えてくれたのは弥勒さんよ」

芽吹「弥勒さんが? なぜ……どうやって」

風「そこの窓から登ってきたらしいわよ~? わざわざ、抜け出した誰かがここに来たんじゃないかって探すためだけに」

気を煽るような口調で窓の方を指さす風から窓へと目を向けた芽吹は、

まさか、そんな。と、困惑を口にして首を振ったが、

人のことは言えない。と、考えを改めた

芽吹「なるほど、ではもう無駄な話は必要がないということですね」


夕海子がこの場所に来たという驚きも多少は感じられたが、

それよりも優先すべきことがあるのだと、芽吹は雰囲気を一切乱すことなく話を続けようとする

それだけ、国土亜耶という少女が大切なのだろう

己の決めた、誰の犠牲もないという戦い方を全うしようとしているのだろう。

誰かもまた、そんな感じだったなと、天乃は思わず口元を綻ばせる

芽吹「確か、神樹様の種……その力があれば体調が良くなるという話でしたよね?」

申し訳程度の荷物しか入っていないであろうカバンから取り出された、

神樹様の種が納められた小さな入れ物を天乃の目の前へと差し出し、芽吹は願う

芽吹「亜耶ちゃんを……いえ、みんなを救ってください」

お願いします。と、、芽吹は頭を下げる

力になってくれるといったから

いや、芽吹の知る中で、

解決策を持っているような人はほかにはいない

だからこそ、その願いは力強い懇願のようにも感じられる

夏凜「芽吹……」



1、夏凜達に任せる
2、ごめんなさい。それはできないわ
3、あくまで体調が良くなるのは適量接種した時だけ。過剰摂取は体を壊すだけよ
4、たとえそれで治るとしても、子供が産まれるまでは無理できないの。ごめんなさい


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
なお、明後日は所用でお休みをいただく予定になります



芽吹「……つまり、産んだ後なら無茶できると?」

夏凜「させると思ってんの?」

芽吹「久遠先輩の力も影響の一つ、ご助力程度はしていただきます」

園子「むふふ~無理を押し通したいくらいにあややが好きなんだね~」

芽吹「すっ……た、ただ大切な仲間というだけです!」


では少しだけ


天乃「楠さん、貴女の覚悟と想いがどれほどのものか。多分、私にも分かってると思う」

それでも。

天乃の言葉はそう続き、首は横へと振られる

天乃「たとえそれで治るとしても、子供が産まれるまでは無理できないの。ごめんなさい」

芽吹「子供が産まれるのは……いつ、ですか?」

天乃「早くて来月……遅くても再来月になる予定よ」

芽吹「来月、再来月……」

それでは間に合わない

明確な時期は知らされていないが、

確実に間に合わないことだけは芽吹にもはっきりとわかって

強く握られた拳がゆっくりと振り上げられて、中空に留まる

あふれ出てしまいそうな感情に震える拳へとむけられる目は少ないが、

わずかにでも危害を加えようものならば一瞬で組み伏せようというピリピリとした緊張感が病室に漂う

芽吹「……っ、はぁ……」

唇をかんで、ため息

上がった手を下ろし、握り拳を解いて爪痕を刻み、首を振る

芽吹「……久遠先輩が軽んじたり、意地悪で言っているわけではないことくらい分かっているつもりです」

むしろ、重く受け止めて

それでも自分にはできることがないと返してくれたのだ

芽吹「相当、悩んだのでは?」

天乃「できることがないのは火を見るよりも明らかだもの。悩む暇もなかったわ」

芽吹「私でさえ無視できないこと。久遠先輩が自身の体だけを理由に諦めるとは到底思えません」


芽吹「……ですが、悪いことは承知で伺わせてください」

天乃「なに?」

芽吹「本当に、これを使うのは無駄でしかありませんか?」

天乃「冷たい言い方をするなら無駄ってことになっちゃうわね」

体内の力のバランスが崩れ、

体調を崩し、最悪死にかけることにさえなってしまう

無駄というのでさえまだ優しい言い方になるかもしれない

言おうと思えば、殺したいのか? と、逆質問だってできるのだから

風「一つだけなら大丈夫っていうか、むしろそれがなくても危ないっていうのは前にも話した通り。でも、それだって今すぐ使うわけにはいかないのよ」

天乃「今、こうして話していられるのはバランスがとれているからなのよ。そこで神樹様の力を取り込んだりなんだりしたら……ね」

どうなるのか。とは言わなかったが、

天乃の苦悶の表情からその凄惨さは容易に想像できた

天乃「私だって、奉火祭は認められないし阻止したいとは思うの。でも、私の力を使うことはできない」

芽吹「……でも、だからとあきらめたわけではない。ですよね?」

天乃「ええ」

夏凜「かといって、何かいい手が思いついたわけじゃないのよ」

芽吹「久遠先輩のお兄さん達もそういっていました。正直な話、それが最善手ではないか。と」


東郷「そんなことが最善だなんて……」

友奈「この世界のことだけを考えたらって話ですよね?」

芽吹「当然」

だが、実際問題世界のことを考えればそれが最善であるのは以前にも考えた通り

だから、代替の案がなかなかに浮かばない

ただそれが嫌だと否定し、拒絶し

跳ね除けるだけならば簡単だがそれができない

それは、勇者部だけで話あったときもそうだし、

同じく反対している芽吹を加えても変わらない

妥協とはつまり犠牲を出すことと同じだというのが、難しさを底上げしている

芽吹「……そうですか。久遠先輩にも、勇者にも難しいですか……」

残念そうにいう芽吹は、

神樹様の種をどうすべきかと逡巡する様子を見せて、鞄へとしまう

芽吹「弥勒さんにも……いえ、きっとみんなに迷惑をかけてしまいましたし、できることがないのであればここはおとなしく引き返します」

樹「楠先輩……」

芽吹「大丈夫。別に、できないからと言ってあきらめたわけじゃないわ。ですよね? 久遠先輩」


1、そうね……最後の最後まで諦めたりはしないわ
2、わかってるとは思うけれど……無理しすぎても意味はないわよ
3、楠さん、過去の私を探してみて頂戴。もしかしたら、そこに答えがあるかもしれない
4、そうね……でも、貴女にもちゃんと大切な人たちができたようで安心したわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は予定通り、お休みをいただきます



大赦「などと言っていますが?」

大赦「それでも神樹様なら、それでも神樹様なら」

大赦「記憶を消して事なきを得てくれるって信じてる!」


では、少しだけ


天乃「そうね……最後の最後まで諦めたりはしないわ」

友奈「そうだよっ、なるべく諦めない!」

元気よく声を上げた友奈は、

ううん。と、首を振って

友奈「絶対に諦めないっ」

芽吹「そう……できるといいけれど」

もちろん、亜耶たちを諦めるなんてことは絶対にしないつもりだが

犠牲をだれ一人出さずに……という部分は最悪諦めるしかないかもしれないと、

芽吹は考えていた

できるならばそれだって避けたい

だが、現実問題

代替案が見つかっていない以上、

何かを諦めるしかないのは仕方がないことだった

もっとも、そこで仕方がないからとあきらめる気にはなれないが。

芽吹「まったくもって、歯痒い状況です」


夏凜「で、大赦のところに戻るつもり?」

芽吹「色々、処罰を受けることになるとは思うけれど致し方ないわ。でも、それだけ本気であることは向こうもさすがに分かるでしょう」

風「分かったところで対応するかどうかまた別の話ってのがねぇ」

樹「久遠先輩の前例があっての奉火祭ですし……」

東郷「久遠先輩の周囲……私たちや伊集院先輩の名前を出さなかったところは学習しているということかしら」

沙織「勇者に関しては、その限りではないけどね」

困ったものだけど。と付け加えた沙織は、

自分が含まれなかった点はその経験があるのかもしれない。と

考えつつ呟く

園子「どうするにしても、頑張って代替案を考えないと」

天乃「……難しいわね」

絶対に出さなければならないが、

とてもではないが、安易な代替案を出すことはできない

数打てば当たるような適当な考えでは、

大赦も奉火祭をやめてくれることはないし、結局世界が滅ぶからだ

諦めないとは言っても、それは思いであり、願いでしかない

うまくいくことのできない現実の厳しさを

友奈たちは強く感じていた



√ 11月13日目 夜(病院) ※土曜日

01~10 九尾

11~20 
21~30 
31~40  風
41~50 
51~60  友奈
61~70 
71~80 夏凜 
81~90

91~00  千景

↓1のコンマ 


√ 11月13日目 夜(病院) ※土曜日


天乃「楠さん……大丈夫よね」

今の状況で、

芽吹に対してあまり重い処罰をしている余裕はないはずだが、

防人の任を解くくらいのことは平気でできるだろう

芽吹が優秀なリーダーだったのだとしても

神樹様の種を奪って逃走したというのは相当に重い罪だからだ

それを言ってしまうと

持ち逃げした勇者の面々が野放しなのは気になるところだが

天乃の関係であるという点で諦められていたり、

勇者だから。という特別な部分で見逃されていると考えることもできる

実際のところは不明ではあるけれど。

その部分で言えば、

芽吹の代わりはいないが防人の代わりはいる

奉火祭を行わなければいけないような状況にまで来てしまっている今

壁外調査が行われない可能性は高いし、その線が濃厚だった


もっとも、芽吹だってその覚悟で行ったことだろう

だからこそ、

その思いに応えてあげることが出来なかったことを申し訳ないと思う

こればかりは、仕方がないことだと分かってはいるけれど

しかし、今の天乃が無理してみんなが救われたとしても

その先で打つ手が無くなって滅ぶのは世界だし

それを防ごうとする気力が勇者部に残るのかと言われれば

残らない可能性が非常に高かった

天乃「…………」

子供ながらに代替案をいくつか考えてみても

それはやはり理想論であって現実的ではなく

解決策と呼べるようなものは浮かばない

このままいけば、亜耶だけは芽吹が何とかして救い出すだけで

他の巫女は犠牲になってしまうことだろう


1、勇者
2、精霊
3、イベント判定

↓2


1、九尾
2、歌野
3、球子
4、千景
5、若葉
6、水都
7、沙織


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日はできればお昼少し過ぎ、13時ころから行えればと思います


では少しずつ


√ 11月13日目 夜(病院) ※土曜日


天乃「貴女は、どう考えているの?」

九尾「なんじゃ、妙に妾に問うのが多いではないか」

くつくつくつ……と

挑発するような笑い声をこぼした九尾は、

整った顔立ちから理想的な見下す表情で天乃を見る

九尾「忘れてはおるまい? 妾は妖狐じゃぞ」

天乃「だから?」

九尾「騙し、誑かし、唆し、利用するのが妾……九尾じゃと言うておる」

記憶喪失とはいえ、

そんなことまで消えうせたわけではあるまい。と、九尾はいぶかし気に言うが、

天乃は「そうね」と、苦笑する

天乃「そんな、気遣うように確認してくるような妖狐が、ただ単純に悪さだけをするとは考えにくいだけよ」

九尾「…………」

天乃「悪から善に変わる悪。悪に徹しきれない悪。一のための善ゆえの悪。とか」

九尾「妾がそうとは限らぬが」

天乃「少なくとも、今の私に対してはそうでしょう。特に、私のための悪に平気で手を染めるタイプ」

だが、そこに罪悪感や躊躇いと言ったものは存在しない

目的のためにこうする必要がある。だからする。ただそれだけしかない

ゆえに、悪や善といった考え方そのものから乖離しているといってもいいかもしれない


九尾「買いかぶりすぎじゃ。いや、うぬぼれすぎている。とも言える」

天乃「そんなことはないわ」

九尾「そうじゃろう。お主、どこかでこう思うておるじゃろう」

今回に限っては、人の手でどうにかできるものではないと

人ごときの浅知恵だけで解決策が見出せるものではないと

だから、九尾の力を借りたい、知恵を借りたい

そうしなければ、まともな対策も対応もできずに時間だけが過ぎていき、

誰かしらの犠牲を免れることはできないと。

天乃「そんなことは」

九尾「奉火祭自体が人の域を遥かに超えた神々へと通じるためのもの。智ある者共がそれを選ぶのであるならば、主様がそう考えたとて思うことなどあるまい」

天乃「そんなこと考えてない。考えてないわ……」

一度は、九尾に言い返すために

二度は、自分に言い聞かせるように

繰り返して言う天乃は首を横に振ると、九尾へと目を向けた

天乃「貴女、奉火祭について詳しいのよね?」

九尾「詳しいというほどのものではないが、ふむ……まぁ、良かろう」


九尾「今回行われる奉火祭は前回同様に6人の巫女を使って行われることになる」

天乃「6人というところに理由はあるの?」

九尾「多ければ可能性が上がるから。と言ったらダメかや?」

少し面倒くさいのか

それともただの茶目っ気のつもりなのか

長ったらしくなりそうな話を半ばで終わらせる魂胆の透けて見えそうな言葉に

天乃は「お願い」とだけ伝えて先を促す

ふむ……と九尾が困った表情を見せたのは一瞬だった

九尾「妾にも事実は分からぬが、かつてこの世界において行われた人身御供という同様の儀式において、7人の巫女が扱われたという話がある」

天乃「7人? 6人じゃなく?」

九尾「実際に扱われる予定は1人じゃったがな。そうじゃな……丁度、お主を含めた人間である勇者部と同様の数じゃ」

風、友奈、東郷、夏凜、樹、園子

そして、天乃

実際に活動しているのは―今はまた休んでいるみたいだが―園子を加えた6人で

今まで参加していた天乃を加えて7人という形になる

沙織は巫女や精霊としての役割もあることから勇者部に所属となっていないためだ

九尾「その中から1名。となった場合、お主らはどのような行動に出る? 簡単じゃろう。その1名だけには背負わせまいと残りも身を投じるじゃろう」

天乃「ううん。阻止するわ」

九尾「それは主様らじゃから可能なことじゃろう。出来ぬ者共はせめて。と考える」


聞いておいて邪魔をするな。とでも言いたげな九尾の視線に小さく「ごめん」と口を動かし、

天乃は真一文字に結んだ唇の奥で言葉を飲み込む

確かにそう考えるだろう

あるいは、最悪逃げ出すことも考えるかもしれない

いや、自分たちの犠牲が無くなることで別のだれかが犠牲になるならば、

自分たちの犠牲で終わらせようという考えが先に出てくるだろうか

やはり、行きつく先は7人での供物だろうか。と

九尾「もっとも、先んじて身を投じた6名によって鎮まったわけではないのじゃがな」

天乃「えっ……なら6人も使う必要は」

九尾「しかし、6人の巫女が供物となったことでそれを必要としていた者を……そうじゃな、この場合は倒す。というべきかや。そうする時間を作れた。という説もある」

天乃「……でも、7人いたのよね? もう1人は?」

九尾「無論、6人の後を追ったとも」

天乃「…………」

九尾「そういうものじゃろう。こういう、下らぬ物語というものは」

それらに対する救いはないが、それら以外の部分に救いはある

当人たちの立場で考えればおかしな話だが、人々にとっては【素晴らしい話】なのだ

それは、銀の葬式における一幕からも察せられることだろう


九尾「それで主様、阻止する手立ては考えられたのかや?」

天乃「今の今でそれを聞いてくるなんて……そんなの……」

結果的に鎮めることができたとはいえ、

巫女である6人が犠牲になり、残った1人も犠牲となった

そんな、当人たちにおいての救いとは言えない結末を聞かされた後での問としては

あまりにもひどいものだと、天乃は首を振る

暗に、6人の中の巫女である亜耶の繋がりで、

芽吹までその身を投じてしまうだろう。と、助言とはいえない助言されたようなものなのだから。

天乃「何にも、考えついてなんていないわ」

九尾「ふむ……そうか」

天乃「そうかって、貴女いつも聞いているでしょうっ」

九尾「それはそうじゃが」

天乃「だったらッ」

九尾「こう、つまらぬきっかけでも与えてやらねば。主様は不満も言わぬじゃろう」

天乃「っ……」

九尾「主様が己の力不足を嘆いておることも、それでも考え、悩んでいることも。妾は十分に理解しているとも」

無意識に強く言葉を発していた自分に気づいて何も言わない天乃を

今度は、優しく見下ろして、九尾は声をかける

挑発の色はなく、ただ、宥めるような口調だった

九尾「主様に体の自由度がなく、子のこともあって普通の少女以上に精神的に崩れやすいことも十分承知しておる」

それでも、内面に押し隠して、平然を振るまおうとしてまう

ふるまえてしまうような人間であることも、九尾はよく知っている

九尾「主様や。少し、考えるのをやめるのも一つの手であろう」

天乃「なっ」

九尾「主様は一人で悩んでおるのか? そうではなかろう。そうならぬための者共であろう。それとも、少しの休息時間を取ることさえ咎めるような者共かや?」


九尾「主様がこの狭い部屋の中から出たいというのならば、妾は喜んで手を貸そう」

天乃「貴女……」

九尾「主様が言ったであろう? 九尾はいつも、話を聞いているでしょう。と」

銀の墓参りに行きたいのであれば、そのための時間と隙は作ろう

みんなとともに外の空気に触れてきたいのであれば

彼らの目を欺く手はずを整えよう

九尾「妾にとって、悪だの善だの興味はない」

もちろん、勇者部のためになるかどうか。

そんなことも九尾にとっては無関係だ

自分が思う、天乃のためになることならば

どんなことだってすることができる、してしまう

そこに躊躇いも後悔も罪悪感さえも存在はしない

だが、天乃が心の底からそれを嫌がって、そうしないでほしいと願い、代案を提示するのであれば、

自分の考えを捨てることさえできる

しかし逆に、

天乃が望まない犠牲であっても、その犠牲がなければ天乃が失われ

それに対する代案も何も提示できないのであれば、犠牲を出すことを厭わない

九尾「主様のためであるかどうか。妾が欲する理由はそれのみじゃ」

天乃「……そう」

九尾「どうじゃ主様。明日、少しは外に出てもよかろう」


1、みんなで一緒にいられればそれで充分
2、園子、東郷とともに銀のお墓
3、夏凜ちゃんとおでーと
4、みんなで少しだけ、外出


↓2


天乃「なら、お墓参りに行きたいわ」

九尾「先日話していたことじゃろ? その時言えばよかろうに」

天乃「色々考えることがあったの」

銀のことも優先したい

だが、ほかにも考えなければならないことがあった

周りの人の手を借りなければならないような状態である天乃が、

大赦の許可を得られていない脱走のようなことに手を貸してなど

なかなかに、言えることではない

天乃「本当に、協力してくれるのよね?」

九尾「嘘はつかぬ」

天乃「なら、東郷と園子もつれていきたい」

九尾「……欲張りめ」

天乃「貴女が良いって言ったんじゃない」

九尾「別にダメとは言うておらぬが」

まったく。と

半ば呆れたため息をついた九尾だったが

それで気が済むならば、と、天乃の要求に首を縦に振る


九尾「主様、出かける上で一つだけ忠告しておくことがある」

天乃「なに?」

九尾「主様の体が不安定であることは変わらぬ。半日じゃ。半日で戻ってくるのじゃぞ」

天乃「ええ、わかったわ」

九尾「軽いのう……」

不安じゃのう。と、心情を吐露した九尾は

逡巡して、そうじゃ。と、怪しげな笑みを浮かべる

九尾「連れて行く者共にはしっかりと口添えしておこう」

天乃「口添えって……そこまでしなくても」

九尾「主様のことを信頼しておるからじゃ」

よくよく無理をする

そんな天乃のことをある意味で信頼しているから、

だから、園子と東郷にも告げるのだ

あの二人ならば、何が何でも時間までに連れ戻すからだ

九尾「明日はゆっくり休むがよい。多少は、心も落ち着くじゃろう」

天乃「ええ。ありがとう」

九尾「くふふっ……礼には、及ばぬよ」

本当に、礼には及ばぬ

繰り返し微笑んだ九尾は、ふわりと姿を消していった


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(芽吹)
・   犬吠埼風:交流有(芽吹)
・   犬吠埼樹:交流有(芽吹、クリスマスはどうするの)
・   結城友奈:交流有(芽吹)
・   東郷美森:交流有(芽吹)
・   三好夏凜:交流有(芽吹)
・   乃木若葉:交流有(芽吹、芽吹を見つけて)
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(芽吹)

・      九尾:交流有(明日は)
・      神樹:交流無()


11月13日目 終了時点

乃木園子との絆  83(高い)
犬吠埼風との絆  107(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  94(とても高い)

結城友奈との絆  113(かなり高い)
東郷美森との絆  124(かなり高い)
三好夏凜との絆  147(最高値)
乃木若葉との絆  99(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  44(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  127(かなり高い)
   九尾との絆  68(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 11月14日目 朝(病院) ※日曜日

01~10 
11~20 大赦
21~30

31~40 夏凜 
41~50 
51~60 樹

61~70 
71~80 
81~90 千景

91~00 

↓1のコンマ  


では、いったん休憩します
19時ころに再開し、22時ころに終了予定になります


では、また少しだけ


√ 11月14日目 朝(病院) ※日曜日


夏凜「気を付けていってきなさいよ? あんた、一応妊婦なんだし」

天乃「一応って何?」

夏凜「精神的にはまだ、十分子供ってことよ」

夏凜はそういいながら、

天乃の膨らんだお腹に優しく触れて、微笑む。

産まれてくる子供を心待ちにする、母親

いや、この場合は父親のような表情で。

夏凜「九尾の挑発に乗ったりとか」

天乃「きこ……え、ちゃったわよね」

思わず、しゅんとする

申し訳なさそうな天乃の様子に、夏凜は「そんな罪悪感感じなくても」と、

口出ししたはずの夏凜が、困った表情を見せる

夏凜「九尾が言ってたこと、別に間違ってないでしょ。というより、あのままなら私が言ってたかもね」

天乃「……そんなにひどかった?」

夏凜「そこまでは酷くなかった。ま、昨日の時点では、まだ」

天乃「まだ。ね……」

夏凜「あんたは初めて会った時からそう。相談しても考え込む、自分の力が関わってたりすると余計に悩む」

そういった夏凜はふと、顔を上げて

天乃「?」

きょとん。とする天乃に微笑んで――ピシッっと、額を中指で打った

天乃「痛っ!」

夏凜「あんたが平気でも子供が平気とは限らないんだから、適度に発散するくらい好きにしなさいよ」


夏凜「九尾に言わせるって結構相当なことって自覚したほうが良いわよ」

天乃「……ええ」

夏凜「まぁ、こればかりは断った大赦が原因だし後で兄貴にでも文句言っておくか」

天乃「春信さんは関係ないでしょ」

夏凜「兄貴も大赦、連帯責任」

ふんっ。と

怒ったようで怒っていない

ただの八つ当たりなり冗談であるとわかりやすい夏凜の態度に、

天乃は笑い声をこぼして「まぁまぁ」と宥める

天乃「そんな理不尽なこと言ったら可哀そうだわ。春信さんだって酷い目に合ってるんだから」

夏凜「あれで酷い目とか、あんた相当優しいわ……あぁ、そういうやつだっけ」

天乃「えっ、なに?」

夏凜「何でもない」

なぜか標的が天乃に変わったかのような、不満げな表情

いや、天乃の優しさその奥に春信を見ているのだろうと天乃は感じて、小首をかしげる

天乃「何かあった?」

夏凜「何もないっての。もう前の話だし……ただ、今思い出してイラってきただけ」

天乃「何かあるって言ってるようなものなんだけど?」

夏凜「過去のことだし気にする必要ないって、ほんと」


ないない。と

ひらひら手を振って見せる夏凜の表情は

たしかに、今もなお本気で怒っているようなものではなかった

夏凜「贅沢な話だけど、兄貴も不本意だったってことは分かってるし」

天乃「贅沢……?」

自分がかかわっていて、

春信さんがかかわっていたことで

そんなことあったかしら。と、天乃は小首をかしげて、考えを隠す

気にはなるが、気にしても仕方がないことのような気がしたからだ

夏凜「そうそう」

天乃「?」

夏凜「最初にも言ったけど、ほんと、気を付けていってきなさいよ」

天乃「ええ」

夏凜「九尾が手伝ってくれるみたいだし、大丈夫だとは思うけど」

天乃「何か不安なことでも?」

夏凜「いや……ちょっと、嫌な予感がするってだけ」


1、不安なら、一緒に来る?
2、心配しすぎよ。でも、大丈夫……けど、一応警戒しておくわ
3、どんな予感? 会えなくなる。とか?
4、、あらやだ。もしかして誰か男の人に告白されちゃったりするのかしら


↓2


天乃「あらやだ。もしかして誰か男の人に告白されちゃったりするのかしら 」

夏凜「は?」

天乃「ふふっ、園子と東郷もいるし。結構魅力的に見えちゃったりして」

三人のうち、誰か一人でいたら声がかかるかもしれない

三人でいても、道を歩いていたら声をかけられるかもしれない

天乃「それでおと――っ」

パンッ! と、音がした

頬が叩かれた音じゃない

すぐ横の枕がつぶれ、空気が抜け出ていった音だ

天乃「へっ……え……ちょ、えっ?」

夏凜「へぇ……男、そう。男か。兄貴の話をしてすぐ男の話とか。あんたセンスあるわ」

ヒクついた笑み

怒ってはいるが、優しさから怒り切れていない

そんな表情

天乃「夏凜?」

夏凜「あんた、マフラーとか持ってたっけ」

天乃「持ってない、けど?」

それは好都合。と、夏凜は言うと

口元に触れ、下あごをくっと持ち上げて……夏凜の顔が見えなくなった


天乃「っ!」

夏凜の顔が見えなくなったそばから、首筋から痛みが走ってきた

かみつかれたかのようなピリッとした痛み

それに合わせて、ぬるりとしていてふっくらとした感触

夏凜の唇であることはすぐに分かって、

けれど、痛みのある感触に思わず動いた手は夏凜の手に抑え込まれて止まる

天乃「ちょ……ご、め……じょうだっ……」

数分間、その状態だった

天乃のベッドはまだカーテンに隠されたままで

周りのみんなは、夏凜と天乃の二人きりの時間を邪魔はしないようにと離れているし

なぜか、九尾達は助けてくれなかったからだ

夏凜「っは……あー……唇ってか口が痛い」

イタタ……と、口を指でなぞる夏凜を横目に、

天乃は夏凜の唇の感触が強く残る首筋に触れる

夏凜「はぁ……アニメだの漫画だのみたいにうまくはいかないか」

天乃「なに、したの?」

夏凜「あんたがあんなこと言うからいけないのよ」

天乃「あれはほんの冗談――」

夏凜「……でも、あんたを好きになるやつは沢山いる。彼女にする権利がなくても、好きになる権利は誰にだってあるから」


夏凜「そうなったやつが諦められるように」

夏凜は静かな声で言い、

天乃の手に重ねるように首を撫でる

痛かった? と、ごめん。と

申し訳なさそうに言って、天乃を見つめる

夏凜「キスマークを付けた」

天乃「…………」

夏凜「それなら、あんたを誑かそうなんて奴はきっといない。あぁ、でも……」

たまにはそんなバカもいるかも。と

夏凜は困ったように笑いながら離れて、深くため息をつく

なぜこうしてしまったのかと、

恥ずかし気で、罪悪感のある表情

天乃「かっ」

声をかける前にカーテンをよけて自分の棚を開けた夏凜は、

黒っぽいネックウォーマーを天乃に投げてよこす

夏凜「誑かされたきゃ、隠せば?」

天乃「……私のこと、誰かが好きになるのは嫌なの?」

夏凜「違う。好きになられて告白されたあんたの顔が、嫌いなの」

天乃「…………」

夏凜「……どっちをつけるかはあんたに任せる。馬鹿」

夏凜は言うだけ言って、カーテンの裏に逃げてしまった


√ 11月14日目 朝() ※日曜日

01~10 
11~20  芽吹
21~30 
31~40 
41~50  大赦
51~60 
61~70 
71~80  
81~90  大赦②

91~00 

↓1のコンマ 

※空欄は通常通り、東郷園子と天乃で銀の墓参り


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「久遠先輩、首巻は巻かなくていいんですか?」

天乃「いいのよ。これは、持ってるだけでいいの」ニコッ

東郷(首に夏凜ちゃんの嫉妬が押し付けられているし、大方隠したければ。という理由で貰ったけど)

東郷(隠すのは勿体ないし、手を握ってるように感じるから持っていたいって事かしら)

東郷「では、落とさないように気を付けてくださいね」


では、少しだけ


√ 11月14日目 朝() ※日曜日


「…………」

銀たち英霊を祭る英霊碑は瀬戸大橋を望むことのできる場所にある

天乃が行くことを望んだからか、

普段はいないはずの見張りが立っている

だが、天乃と園子、東郷が近づいても反応はない

まるで、何も見えていないかのように退屈さを感じる立ち姿をさらしているだけだ

園子「これが、九尾の力」

東郷「違うわ。その一端よ、そのっち」

二人が話しても、声は聞こえない

真横を通っても、車いすの音がしても

彼らは全く、気にする素振りを見せない

九尾による幻惑の力だ

大赦の人々の目に天乃達が見えなくなる

見えないとはつまり、その場に存在してはいないということになる

少なくとも【彼らの世界】では。

ゆえに彼女たちが出す音もすべてが、彼らの耳に止まらなくなるから何の反応も見せない


東郷「……本気になれば、存在そのものを消滅させられるのでは?」

天乃「否定はできないのよね……」

大赦の用意した見張りの人を振り返りながら、

少し、恐れを感じる声で東郷は言う

東郷たちのことが見えないし、感じられない

きっと、触れたりしても感じないようにさせることだってできるだろう

自分以外にもたくさんの人がいるのに

誰も、自分のことを認識してはくれない

誰も何もしてくれない、何も受け取ってはくれないし与えてはくれない

そんなことになったら、精神が擦り切れてしまうことだろう

だから東郷は恐ろしいと感じたのだ

園子「でも、天さんのためにならないから大丈夫なんよ」

何がどう転んでも天乃がそうなることを望むことはないだろう

だから、そうはならない……はずだ

園子「そんなことよりも、ミノさんに報告するんよ」

たくさん、たくさん。

話したいことがあるんよ。と

園子は嬉しそうで、切なそうに微笑んだ


東郷「ここが、英霊の眠る場所……」

園子「そう。先代……乃木若葉から現代まで。多くの巫女と勇者たちの眠る場所」

若葉たちの名前から始まり、銀の名前が刻まれた石碑と無名の石碑へと続く

きっと、これからも続いていくものだろう

東郷「この名前のない石碑は?」

園子「……わっしー。わっしーの名前もここに入る予定だったのかもしれない」

東郷「鷲尾須美、ね」

園子「そう。でも、また勇者としての戦いになったからか、何なのか。結局、ここは空席なんよ」

天乃「…………」

大赦が管理しているということもあって、

しっかりと手入れされているお墓はきれいだった

一部、経年劣化によって傷ついてしまっているものもあったが、

それでも、今にも崩れてしまいそうなものなどはない

若葉たちの名前が刻まれた石碑も。だ

天乃「……千景。貴女の名前はないのね」

それだけではなく、久遠陽乃。天乃の先祖の名前もここにはなかった

天乃「……………」


1、銀への報告をする
2、少し、若葉達のお墓を調べてみる


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷(見えない、聞こえない?)

東郷(誰にも……?)

東郷「く、久遠先輩……その、一つお願いが」

天乃「うん?」

夏凜「変なこと言ったらぶっ飛ばすわよ。あんた」

東郷「」

東郷(外でエッチなことは……さすがに夏凜ちゃんがダメなのね)


では、少しだけ


天乃「……少し、調べてみようかしら」

園子「天さん?」

天乃「園子、東郷。少しだけお願いがあるの」

東郷「なんなりと」

天乃「そうかしこまらなくてもいいんだけど……」

銀へのお話が終わった後で、若葉たちのお墓が調べたいのだと願う

大赦が作ったもののため、

以前、丸亀城にて見つけたようなものはないかもしれないが

少しだけ、見てみたいと思ったのだ

東郷「若葉さん達のお墓ですか……さすがに、墓荒らしは――」

天乃「そこまで酷いことしないから大丈夫」

園子「ご先祖様のなら直接許可取れるんよ~」

ニコニコとしながら言う園子に、

そういう問題じゃない。と、あきれ顔を見せる東郷

天乃の願いだからと言って

なんでもかんでもオッケーというわけではないらしい

東郷「はぁ……二対一ですか」

天乃「無礼なことはしないから安心して」

東郷「確かに、久遠先輩なら安心ですね」

園子「そこでどうして私を見たのかな~?」


なんでかな~どうしてかな~

不思議というよりは、からかっているかのような口ぶりで体を揺らす

東郷も、園子も。

一度は、歩くことのできなくなった二人が歩き、動く

そして、欠けてしまった部分はあるけれど、

かつてのように明るく話す光景を前に、

天乃は思わず、笑みを浮かべる

以前にも感じたが、銀のお墓の前というものもあってか、

そこに、銀もいるような感じがして……少し、温かみを強く感じた

東郷「分かった、わかったからそのっち、近い」

園子「天さんはぎゅーっってするのに!」

東郷「久遠先輩は良いんです」

抱き着く園子をぐっと押しのけようとする東郷は

ついぞ、困ったように天乃へと目を向ける

天乃「少しくらいいいんじゃない?」

園子「いやっほう!」

東郷「こらっ!」

ぺしんっと。

園子を叩く東郷は本気で嫌がっているわけではない表情を浮かべながら、

お忍びで来てることを忘れてない? と、叱った


銀との別れから、今まで

起きたこと、出会ったこと

沢山のことを東郷が優しい声で報告する

その傍らで、園子に導かれる天乃は若葉達西暦時代の勇者の名前が刻まれた石碑の前へと来ていた

園子「前にも来たことはあるけど、その時はまだご先祖様はいなかったから不思議な気分」

天乃「こんな風に、立派な石碑に刻まれている人が、呼べば目の前に現れてくれるんだものね」

園子「それだけじゃ、ないよね」

にゅっと、天乃の横に首を伸ばした園子の伺う表情に、

天乃は言葉の意味を察して、軽く笑う

確かにそうだ

天乃はその若葉と、恋仲になった

たとえ英霊ではなかったとしても

300年も前の人と恋人になっているのだから

笑い話にしては、凄すぎる話だと言えるだろう

天乃「すごいわよね。ほんと」

園子「うん」

天乃「先祖と子孫。その二人と付き合っているんだもの」

園子「……ぇへへ」


いい位置にある頭を優しくなでてあげれば、浮かんでくる笑顔

かわいらしい恋人を先祖の墓―先祖も恋人だが―の前で愛でているのは、

なんだか不思議な気分になってくる

多分、不敬には当たらない……と、思うが。

天乃「……でも、千景のお墓がないなんて」

事情は知っている

けれど、それでもやっぱり酷い話だと思ってしまう

しかし、

郡という名前や、久遠という名前はところどころに見える

特別、あの二つの名前がないということなのだろう

もしかしたら、

それ以外にも消されてしまった名前はあるかもしれないけれど。

園子「大赦は穢れてしまった名前として、それを歴史上から隠蔽した。だから、ここにはないんよ」

天乃「だとしたら、私の名前も載らないかもしれないわね」

園子「天さんの名前は、ここになくても、みんなの心にはしっかりと刻まれているんよ」

天乃「……そうね」


01~10 
11~20 赤嶺
21~30 
31~40 ひなた
41~50 赤嶺
51~60 
61~70 高嶋
71~80 祖母
81~90 
91~00 陽乃

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


祖母「……におうわ」

東郷「!」

天乃「まさか……見えてるの?」

祖母「…………」

天乃(違う。この人……九尾の力だけを感じているんだわ)

東郷「ほっ」

東郷(さっきの妄想で濡れたのがバレたかと焦ったわ)


では少しだけ


この世界を守ってきた、勇者や巫女

墓石の数は、つまり犠牲になった命の数

いや、ここにある英霊碑はあくまで貢献してくれた命

犠牲になったのはもっと多い

最初期、奪われてしまった命の数は……

その犠牲を許せなかった、認められなかった

報いを受けさせようとした若葉の名前を指でなぞろうとした時、

数人の男性を引き連れて、その人は姿を現した

「……結構です」

「しかし」

「この場で私に害をなそうなどという不届き者はいません」

付き添う護衛らしき男性たちに、

女性はしっかりとした声で反論を述べると「それとも」と

怒りをにじませながら、足を止める

「貴方方はここに眠る英霊の魂がわたくしに危害を加えると?」

「そ、そのようなことは決して……」

「では、入り口で待機していなさい」


最後まで言うことを許さず、

突き放すように言い捨てた女性は男性達の姿が見えなくなるまで佇み、振り返ったままで。

完全に見えなくなったのだろう

疲れたため息をつきながらまた、歩みを進める

天乃「…………」

東郷「見えて、いないんですよね?」

天乃「そのはずだけど……」

天乃たち少女からしては高齢

だが、決して老いていないしっかりとした足取りの女性は、

天乃達の横を通ると、

銀と無名の石碑の前で足を止める

お忍びでのお見舞いということもあって、

お供え物の類は一切していない

だが、女性は誰かが来たことを悟ったかのような表情でしばらくじっと眺めて、首を振る

「まったく……勝手なことをしますね」

園子「あの人……天さんのお祖母ちゃんだ」

東郷「えっ?」

天乃「そうなの……?」

園子「うん、間違いない」


いつになく真剣な表情を見せる園子の視線を追う天乃と東郷

その先にいる女性、天乃の祖母は石碑から顔を上げると

まっすぐに、天乃たちの方をにらんだ

天乃「見えて……ないのよね?」

「……今の世界は不安定で、彼らの不安も解らなくはありませんが、やはりここでまで護衛というのはいささかおかしい」

東郷「久遠家だからという理由かしら?」

園子「天さんと違って力はないはずだから大丈夫だと思うけど」

聞こえてはいないはず

だけれど、聞こえていそうで見えていそうで

思わず小声で話してしまう

祖母は聞こえているのかいないのか

小さく笑みを浮かべて、銀の墓の前で腰を落とす

「仮に英霊がわたくしの命を奪おうというのであれば、それは、命を賭した少女たちの希望を裏切ったからこそ。甘んじるべきでしょう」

手を合わせ、祈るように首を垂れる

天乃「…………」

九尾は祖母のことをあまりよく言わなかったが、

実際に見える祖母は、言われているような悪い人物には見えない


数分間、銀の石碑の前で手を合わせていた祖母は、

ゆっくりと目を開くと、静かに立ち上がって階段を上っていく

一歩一歩、しっかりと踏みしめて……そして、足を止めたのだ

東郷「!」

「そうは、思いませんか?」

園子「なっ」

天乃たち三人のいる、目の前で。

天乃の顔をまっすぐ、見下ろして

気づいているのかもしれない

見えているのかもしれない

もしかしたら、声だって聞こえているのかもしれない

だが、天乃のようにかすかに感じ取ることができるというだけで

完璧には見えず聞こえずの状態なのかもしれない

「もっとも、今の世界が望まれたものである。とも、わたくしは考えていないのだけど」

天乃「…………」


1、黙っておく
2、九尾を呼ぶ
3、それが分かっていてどうして、奉火祭を行うんです?
4、見えているんですか?


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


「どうして……ですか」

「そうですね。ここに刻まれた多くの石碑がその答えです」

「命の重さを語るのであれば、解らないとは言わせません」

天乃「っ」

「子供の我儘で失っていいほど、この世界はもう、安くないのですよ」


では少しだけ


答えるかどうか少し迷って、天乃は唇を結ぶ。

出かけた言葉を噛みしめて、精査する

祖母は犠牲を多く積み上げていく今の世界を快く思っていないのだろうか

ここに自分たちがいると分かって、

わざと、歩み寄った視点での言葉を紡いだのか

どちらなのか、祖母の表情からうかがい知ることはできない

だから天乃は問うことにした

天乃「それが分かっていてどうして、奉火祭を行うんですか」

園子「天さん……」

「どうして、ですか」

東郷「! やはり、見えて」

驚きの声を漏らした東郷へと、祖母は目を向ける

本当に見えているのだ

「ええ、見えていますよ。誰の差し金なのかも、わかっているつもりです」

園子「だから、護衛の人たちを下げさせたんですか?」

「それはただ、ここでは守られる理由がないと判断しただけですよ。貴女達の存在の有無は関係ありません」


冷たさを感じる言い返し

挑発しようとしているのが透けて見えてくれれば反論のしようもあるが、

その冷たさは祖母の他人に対する感情そのものなのだろう

偽りも何もない表情に、園子でさえも言い返す言葉を持たなかった

「それで……奉火祭の件でしたか」

天乃「…………」

天乃だと分かっていないのか

それとも、記憶喪失だから自分の正体を明かすつもりがないのか

祖母は天乃を見つめながら、他人のように声をかけなおした

「そうですね。奉火祭を行う理由はいくつかありますが、一番の理由としてはこの世界を守るために行います」

天乃「守るために犠牲を強いるの? 防人に近しい子まで巻き込んで反乱されたことを聞いていないの?」

「伺っていますとも。ですが、だからどうだと?」

東郷「どう……とは? どういう意味ですか」

「言葉通りですよ。東郷美森さん。反乱されたから。だから取りやめにしろと。まさか、そう仰るおつもりではありませんよね?」

東郷「っ」

「この場に眠る英霊はみな、この世界を守るために命を賭したのです。未来を望み、託し、そうして続いてきたのです」

その歴史があり、命の重さは分かっているつもりだ

だが、それでも奉火祭を行うことを決めたのはそうしなければならないからだ

そうしなければ、過去のすべてが無駄になってしまう。無意味になってしまう

「その託された世界の命運が、子供の我儘に左右されることなどあっていいはずがありません」


天乃「なら、神樹様の種を奪った私たちのところに来ないのはなぜですか?」

「神樹様の種一つでは、回復できる力には限度があります」

その一方で。と、

祖母は感情の見えない瞳で天乃を見つめ続ける

「貴女の体調が整う恩恵は計り知れない部分があります」

もちろん、それが良く働くばかりではないことも十分に承知している

しかし、天乃が世界を見捨てることができるような人間ではないことも知っている

どちらも世界をすくうために使うのならば

可能性の多い方に希望を託すのは不自然ではない

もっとも、天乃が世界をすくおうとするような人間でないならば、

すぐにでも、取り返しに向かっていたが。

「それに……貴女の体調が戻らず、子孫が途絶えるようなことになっても困りますから」

天乃「救わない。もし、私がそう言ったら?」

「心の乱れは胎児には辛いものです。あまり、無理なことを言うものではありませんよ」

天乃「だったら、奉火祭なんて行わないで」

「それは出来かねます。貴女が万全であったなら……そうですね。対策の練りようもあったのかもしれません」


東郷「それは、私たちにはできないことなんですか?」

巫女であり勇者でもある私……ではない

巫女であり、勇者である東郷

勇者であり、何度も満開を行って神に近づいた園子

天乃の穢れを引き受け、耐性のついた夏凜や友奈たち

勇者のみんなでだ

そのみんなでならできることがあるのではないか

そう、東郷は言う

しかし、祖母はしばしの沈黙ののちに口を開く

「残念ですが、役者不足でしょう。結界の外は今や勇者とてその命を削られてしまう。それこそ、無意味です」

園子「私たちだって強くなってます……久遠先輩だけに背負わせないために強く」

「それでも、変わりません」

園子「………」

園子の手が握りしめられた音が後ろから聞こえてくる

できることがないとはっきり言われてしまったことが、

犠牲のある未来が差し迫る中で代案を出すことができずに焦る心を煽る

「奉火祭は予定通りに行われます。貴女達の力は未来のために必要なものです。くれぐれも、無理をなさらないように」

祖母はそれを言い残すと、悔しさを見せる東郷たちの横を通って歩いていく

かける言葉がなかった

天乃にできることを聞いても、東郷たちが実行すると考え話すことは無かっただろうから。

だから、何もできなかった


√ 11月14日目 夕(病院) ※日曜日

01~10  風
11~20 
21~30 
31~40 樹

41~50 
51~60 
61~70  友奈
71~80  千景

81~90  
91~00  沙織

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


祖母(そう、それでは何も変わらない)

祖母(結局、【命を捧げる】必要がある)

祖母(一番近しい人の命を失うなんて、それは、貴女が一番嫌なことでしょう?)

九尾「だからと言って、失われていい命があると主様は考えぬぞ」

祖母「……策はありますよ」

祖母「それより、あまり余計なことはしないで下さい。彼女は身籠っているのですから」


では少しだけ


√ 11月14日目 夕(病院) ※日曜日


久しぶりの外出で吸った空気は病室に比べたらまだましではあったが、

以前よりはよどんでしまったように感じられた

それも、神樹様が弱ってきているせいだろう

今はまだ、結界を保つ力があるがそれもいつまで持つのか

寿命が尽きれば結界が消えるのは確実だが、

結界が消えたからと言って寿命が尽きるわけではない

生命維持……と言って正しいのかはわからないけれど

それを優先した場合は、結界が先に切れることだろう

しかし、それでは結局神樹様も犠牲になる

であれば、均等に消耗して同時に消滅するつもりだろう

天乃「…………」

英霊碑で出会った祖母

その言葉に反論できる隙はなかった

あれは、犠牲にすることを正しいと思ってはいない

そうしなければならないという責任と覚悟を背負っている口ぶりだった

軽い反論など、無意味どころか馬鹿にもなれない


友奈「久遠先輩……?」

天乃「ん?」

友奈「あっ、起こしちゃいましたか?」

ひょっこりと。

休むために占めたカーテンの隙間から顔を覗かせた友奈の申し訳なさそうな表情に

天乃は笑みを返して、軽く手招きする

自分で動いていない分、疲れはないが起き上がるのは少し気怠くて横になったままだ

天乃「どうしたの? 一緒に寝る?」

友奈「まだ早いですよ」

でも夜なら一緒に寝たい

そんなことをちょっぴり照れながら言う友奈は、

小さく息をついた瞬間にだけ、悲しげな表情を見せる

ほんの一瞬だったけれど、天乃の目にはそう見えたのだ

友奈「お祖母ちゃんに会ったって、東郷さん達から聞きました」

天乃「ええまぁ……何があったのか話は聞いたんでしょう? そのままよ」

友奈「奉火祭は予定通りに行うって、子供の我儘に左右されるわけにはいかないって」

そういわれたと聞きました。と

友奈は笑う余裕がないのだろう、困った表情でつぶやく


友奈「東郷さん、自分にもう少し力があればって言ってて」

天乃「なるほどね……それなら、私のところに来るよりも東郷のそばにいてあげたほうが良いんじゃない?」

天乃との性的な繋がりに強い意思を感じさせることが多い東郷だが

根はまじめだし、友奈のことだってとても大切に思っている

そうでなかったとしても、

友奈の存在はとても、安らぐものだろう

もちろん、友奈が無理をしていなければ。の、話だが

けれど、友奈は首を振る

友奈「こういう時、一番気にするべきなのは久遠先輩だって、みんなで決めてるんです」

天乃「私?」

友奈「一番、何もできない嫌な気持ちがあるのは久遠先輩だからです」

東郷達は役者不足だと言われても、納得はしないが神様の問題ゆえに自覚はあるし理解はできる

だが、天乃は違う

神格の存在に対しても通用する絶対的な力を持っていながら、

それを行使するための余力がない

そのもどかしさは力があってなお、それを行使することができない者にしかわからない

友奈「ごめんなさい、勝手に」

でも、嫌なんです。と、友奈は言う

友奈「だから、せめてそばにいるくらいできたらって」


天乃「案外、私のことを見張っておいてその隙に何かするつもりだったりしてね」

友奈「そんなことは、ないですよ」

天乃「…………」

友奈「そんなことできないです」

自分の意志で出来る出来ないではない

どれだけ強い意志があろうとすることができないのだ

大赦の拒絶を押しのけて強引に奉火祭を止めたとする

それで結界を侵食していくバーテックスの力が強くなったら?

神樹様の力が押し負けるようになってしまったら?

終わりだ。

対策の練れていない今の状況では、勇者が無茶をすることしかできない

だが、それも神樹様の恩恵あってこそ。

神樹様の寿命が尽きた後で勇者として戦うことができるかどうかはそれこそ、神のみぞ知ること

下手に手を出すことはできないのだ

友奈「もうすぐ、12月ですね」

天乃「そうね」


1、クリスマスプレゼント、楽しみにしているわね?
2、友奈はどう思った? 奉火祭を中断できない理由
3、友奈にも東郷にもみんなにも力はある。でも、だからと言って無理はしないでね
4、私が無事なら。できることがあるとは言っていたのよね

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から


天乃「無理はしないでね」

友奈「しないですよ、本当です」

友奈(出来ない、無理だけじゃなくて何も)

友奈(……奉火祭、やっぱり。どうしようもないのかな)

友奈(諦めたくない……諦めたくないよ……)


では、少しだけ


天乃「……大丈夫よ、友奈」

友奈「っ」

天乃「友奈にも東郷にもみんなにも力はある。でも、だからって無理はしないでね」

友奈「……はい、しないです」

出来ないです。と、友奈は残念そうな笑みを浮かべて断言する。

今の状況で無理するべきことは奉火祭の阻止

だが、そこで無理しても犠牲になるのが自分たちになるだけで

何の意味もない

むしろ、天乃の悲しさが増すばかり

であれば、する理由さえもなくなってしまう

友奈「でも、頑張って考える無茶くらいは、するかもしれないです」

天乃「徹夜は体に悪いわよ? 肌的にも、成長的にも、健康的にも」

友奈「それはそうなんですけど……」

天乃「無理して考えたって、実現できるものだとは限らないんだから」

友奈「でも、そういう夢みたいな考えが何とかするための作戦になるかもしれないです」

天乃「夢みたいな考えってだけでは、あの人は……大赦は奉火祭をやめてはくれないわ」


きっと。

いや、絶対にだ

友奈の頑張ろうとしてくれる気持ちはありがたいし、立派だと思う

だが、それではダメなのだ

根性論で考えを変えてくれるほど、あの人は甘くない

この世界を、軽く見てはいない

奉火祭だって、前例がなければ行うかどうかですら怪しいくらいに。

天乃「みんなで考えられるのだから、その分。無理はしないで行きましょう?」

友奈「はい」

天乃「……ごめんね」

無理ばかり言って

縛るようなことばかり言って

そう続けられる短い謝罪を、天乃は小さな声で言う

友奈「今何か言いました?」

天乃「ううん、頑張りましょ。って」

聞こえるべきだが、聞こえなくていい

聞こえてしまったらきっと背負わせることになるから

でも、言わなければいけない

だから、聞こえないほどに限りなく小さな声で言うのだ


√ 11月14日目 夜(病院) ※日曜日

01~10 
11~20  沙織
21~30 
31~40 
41~50  九尾
51~60  千景
61~70 
71~80 夏凜

81~90  
91~00  樹

↓1のコンマ 


√ 11月14日目 夜(病院) ※日曜日


天乃「……そういえば、九尾のこと、お祖母ちゃんは感知できるって九尾自身が言ってたわね」

九尾の力を感知して、看破したのだろうか

それとも巫女としての力がまだ残されていて

それによって感じ取ることができたのか

九尾が祖母を力による影響下に置かないようにと調整していたのか

天乃「それだったら、言ってくれてもいいんだけど」

九尾はその器用さはあってもやろうとはしない

いや、天乃が祖母に会いたがっていたことは分かっていたし、

万が一遭遇した時のために調整していてくれた可能性はある

天乃「でも、もしも……子供を産んだ後でも普通に力が残っているなら」

天乃にも、その可能性が残される

九尾達のことを感知出来て

今まで通りに、見て、触れて、話せて

神樹様の力を使って補うことで勇者としても……

そこまで考えて、天乃は首を触れずに息を吐く

天乃「そんなこと、したらみんなに怒られるわね」


犠牲を出さないことを要求しておきながら、

無理をすることは許さないと、行動を制限して

それなのに自分が力を使えるようになった途端に無理をする

天乃「最低よね。それは」

出来ることだとしても、やっていいことと悪いことがある

祖母の口ぶりから察するに、

天乃の力ならば結果オーライ。だなんてことが言えるのかもしれないけれど。

結果良ければすべてよし

な、わけがない

力を行使できるのは早くても出産直後―死を覚悟する程度の無理必須―だが、

それではきっと、奉火祭には間に合わない

奉火祭を行わせてしまった時点でもう、ダメなのだ

天乃「せめて、何かいい提案さえできれば止めることはできるのだけど……」

一応、祖母には祖母で奉火祭以外の手立てがあるようなことは言ってた

だが、それをするにはやっぱり天乃が必要で。

控えめに言っても、絶望的な状況だった


祖母に代案があるのならば、

それで何とか出来てほしいものではあるけれど、

東郷たちがみんなで頑張っても、結局変わらないという返事が返ってきた

つまり、

それをしても結局、誰かが犠牲になるしかないということ

奉火祭を行わず、別の手を打って

でも結局、勇者の誰かが犠牲になってしまう

それではやっぱり意味がない

天乃「……うまく、行かないものね」

奉火祭だけでなく

別の手を考えついている大赦

それに対し、阻止したくても何も考えつくことのできない勇者

所詮子供だと言われているようで

少しだけ、嫌な感じがした


1、勇者
2、精霊
3、イベント判定


↓2


1、風
2、樹
3、友奈
4、夏凜
5、東郷
6、園子


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日はできれば昼頃から
月曜日は諸事情でお休みとなります


東郷「…………」

東郷(そういえば、久遠先輩を妊娠させたのは悪五郎さんという男性型妖怪ではあるけれど)

東郷(普通のような妊娠ではなく、霊力の融合による疑似的に近い妊娠だったはず)

東郷(つまり、力を放出することさえできれば、妊娠させられるしできるのでは!?)


友奈(あの東郷さんの顔は、真剣だけどダメな方に真剣なんだろうなぁ)


では、少しずつ


東郷「久遠先輩から指名されるとは思いませんでした」

天乃「そう? 東郷のこと、結構呼んでると思うわ」

東郷「いえ、お昼の件があったからです」

誰か別の人を誘うかと思った

そうつぶやく東郷に、天乃は「だから呼んだの」と、返す

天乃「聞いたわよ。悩んでたって」

東郷「友奈ちゃんからですよね……やっぱり」

分かり切った表情で言いながら、

東郷はそういう方向での呼び出しですよねと少しばかり残念そうな態度を見せる

夜ということもあって、

少しだけ、期待させてしまったのだろうか

けれど、場合によってはそういうことも必要かもしれないと天乃は思う

今でこそ、だいぶ落ち着いてきているため、

天乃から必要になってくるような状況にはなっていないが、

自分が必要だった時にさんざん相手をしてもらって、

不要になったから一切受け付けない。なんていうのは

性的関係にかかわらず最低なことだろうから


東郷「確かに、悩んでいることは事実です」

予定通りに奉火祭を行うという宣言をされてしまった上に

自分たちでは力不足だと明言されて

ただでさえ何もできない状況で、絶望的な現実がより明確になった

いや、明確になったなどというものではない

もはや逃れられない現実となった

奉火祭だけでも阻止することは可能だが、

それだけでは何の解決にもなりはしない

東郷「ですが、どれもこれも思い浮かぶのは無謀なことばかり……確かに、言われたことは事実だと痛感してしまって」

考えつくことをやるだけ無駄

自分たちでは力不足で役者不足

どれもこれも、勇者部の中の誰かが犠牲にならなければならない

だから、考えるのももはや無意味なのではないかとまで、思えてしまう

ぼーっとしていていいとは思わないが

考えれば考えるほど、

考えの浅はかさと、無謀さに笑いさえこみあげてきてしまう


東郷「でも、だからと言って無理なことはしないので安心してください」

天乃「その言葉、信じてと言われると信じるのは少し難しくなりそうだけどね」

東郷「……ふふっ、確かに」

阻むべき奉火祭の実行宣言に加えて、時間のない状況で、

無謀な考えしか浮かばないと言った後のこれだ

信じたくても信じられない

だが、本当に無理なことをすることはできないと東郷は言う

東郷「でも、どちらの命が失われても、久遠先輩の心は酷く傷つきますから」

だが、自分たちが無理をする事

ましてや命を失うようなことになる方が最もひどい傷になることは良く分かっている

天乃が値踏みしているわけではなく、

銀の犠牲があっての今だからこそ

戦友の犠牲で得られる未来など喜ぶことは難しいのだ

東郷「ですから、こうやってお呼び戴かなくても、私は大丈夫です」


1、そう。じゃぁ、エッチなことも必要ないわね
2、ねぇ……東郷はお祖母ちゃんの考えてる代案が何なのかわかる?
3、ごめんね。信じてはいるの。でも、どうしても不安になっちゃって
4、奉火祭を止める力はなくても、6人の代わりになる力はある。それも使わないって約束できる?
5、最悪……奉火祭は諦めるかもしれないわね


↓2


天乃「なら……大丈夫かしら」

東郷「大丈夫。とは?」

天乃「答えがわかってても無理をしないわよねっていう意味」

東郷「それはできれば……いえ、なんでも」

天乃を困ったように見ながら、

何かを言いかけ、東郷は結局言わなかった

鏡を見ていってください。

一番無理をする可能性は久遠先輩です

きっと、似たようなことは友奈がもう言っているはずだと思ったからだ

念押しするのも悪くはないが

余り連続して言うと、今は余計な気持ちにさせてしまいそうだったのだ

天乃「……気になるのだけど」

東郷「きっと、友奈ちゃんが伝えているので」

天乃「……しないわよ。貴女達と一緒」

話の流れから

どうせそういうことだろうと判断した天乃は

どこか呆れ混じりに言いながら互いの不安の駆け引きを流す

天乃「ねぇ、東郷はお祖母ちゃんの考えてる代案が何なのかわかる?」


東郷「久遠先輩……」

眉を寄せ、少し下りた瞼と隠れた瞳

流し目に近い視線となったそれは、俗にいうジト目と呼ばれるものの類で、

東郷の考えていることが手に取るように分かった

この人は何を言ってるんだろうか。とか

無理はしないって言いましたよね? とか

疑い半分、呆れ半分、おまけに不安もあるだろう

天乃「するつもりはないし出来ないし、出来てもやらないから。ね?」

東郷「信用できませんっ、さっきの今でこんな話をするなんて」

無理をすると言ってるようなものじゃないですか。と

東郷は唇を尖らせて、そっぽを向く

天乃「少なくとも子供を産むまでは何もできないでしょう。でも、子供が産まれてからじゃ奉火祭を止めるのは間に合わない。それで、納得してくれない?」

東郷「無理で道理を吹っ飛ばしそうなので納得はできません

天乃「さすがに、そこまでは……」

東郷「でも、子供を危険に晒すようなことはしないって信じます」

自分たちもまだ子供であることは置いておいて、

今、天乃のお腹の中にいる子供だけは絶対に危険に晒さない

それは絶対に信頼できるはずだと、東郷は言う

天乃は「なら初めから無理しないこと信じてくれてても……」とつぶやくのが聞こえたが、

あえて、聞こえなかったことにする


焦らしたつもりはないが、期待させるような雰囲気にはなってしまっただろう

天乃の伺う視線を感じた東郷は、ぐっと唇をかんで、頭を下げる

その期待には応えたい。だが、答えられるものがなかった

東郷「正直に言いますが、おばあ様の考えている代案は全く分かりません」

西暦時代や、神世紀初頭に行われていたかもしれない儀式など

そういった部分を含めた神聖的な面における知識が全く足りていないからだ

どのような策が、神樹様や天の神に対してどのような影響を与えることになるのか

それが分かっていないから、

どうしたら、奉火祭が必要なくなるのかが考えられない

考えられるとしたら……と、東郷は切り出す

東郷「勇者の力を使って、天の神……バーテックスの親玉を倒すことくらいです」

天乃「神様が相手なのだとしたら、みんなが力不足だと断言されるのもおかしくはないわね」

東郷「それはそうですが……さすがに、そんな稚拙な考えではないかと」

今の結界の外の状況が、

祖母が語っていたように、勇者でさえ、その命が削られてしまうような状態なのであれば、

親玉が出てくる前に憔悴しきって潰れるのがおちだ

東郷「もっと別の、そうですね……神樹様の寿命に関しても併せて解決できるような手段だと思います」


天乃「神樹様の寿命ね。例えば、倒した敵の力を吸収するとか?」

東郷「久遠先輩、出来るんですか?」

天乃「どうかしら。試したことはないのだけど……」

神樹様の力に、穢れの力

特に、バーテックスの力に近いかもしれない穢れの力を蓄えることができているのだ

万全の状態から、無理をするならば可能かもしれない

もちろん、それはやっぱり命懸けだ

天乃「出来ないとは、言えないわね」

東郷「いえ、出来ないと言ってください。さすがに、三種類目の力なんて体に入れたら久遠先輩が壊れてしまう」

体も、心も

きっと、耐えきれなくなって崩壊してしまうだろう

これは、精神力や、努力、根性などといったものでどうにかできる範疇を超えてしまっている

東郷「抜け殻のようになってしまった久遠先輩なんて……見たくない」

天乃「……そうね」

そうっと、東郷の手に触れて、囁く

天乃「出来る出来ないの話だけでそんな顔されてしまうのだもの。出来るはずがないわね」

東郷「冗談じゃ、ありませんから」

天乃「ええ、わかってる」


東郷たちは、天乃と一緒にいることで

瀕死の恐怖を何度もまじかで見せられた

その時の心の痛みを繰り返し感じてきた

けれど、慣れるわけがない、慣れられるわけがない

そんなの嫌だ

必ず戻ってきてくれる?

強いから信頼して見送ることができる?

バカバカしい、ありえない

そんなのただ諦めているだけだ

今度は戻ってこないかもしれない

ベッドの上で、目をつむるその顔には白い布がかぶせられてしまうかもしれない

その恐怖から、目を逸らしているだけだ

東郷「……少なくとも、私にはできない」

天乃「なにが?」

東郷「死地へ、見送ることが。です」

戦艦などが好きだから、日本にそう言った歴史があったことは知っている

けれど、戦いに散った英霊たちの妻や彼女、女の気持ちまでは分からない

もしも、お国のためだと見送ることができたのならその心が知りたい。と、東郷は思った

東郷「久遠先輩、私は……私はもしも久遠先輩を犠牲にしなければいけない世界なら……その時は」

天乃「……そうならないように、みんなで。頑張っているのでしょう?」

言わせない

世界なんて滅ぼしてしまうかもしれない

そんな言葉は、東郷の口から言わせないように、天乃は【みんなで】という言葉を強調して、諭した


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(銀の墓参り)
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流有(無理はしないで)
・   東郷美森:交流有(銀の墓参り、祖母の代案)
・   三好夏凜:交流有(男の子に告白)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月14日目 終了時点

乃木園子との絆  84(高い)
犬吠埼風との絆  107(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  94(とても高い)

結城友奈との絆  114(かなり高い)
東郷美森との絆  126(かなり高い)
三好夏凜との絆  147(最高値)
乃木若葉との絆  99(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  44(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  127(かなり高い)
   九尾との絆  68(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 12月1日目 朝(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 友奈 
21~30

31~40 風 
41~50 
51~60 夏凜

61~70 
71~80 
81~90 樹

91~00 

↓1のコンマ  


√ 12月1日目 朝(病院) ※月曜日


月が明け、12月になった

日が落ちるのもだいぶ早まり、寒々しさも増した病室の中は、

特別の特別。と

本来病室にはおかれないような高そうな暖房器具が置かれることとなり、

ほとんど一日中、温かい部屋になった

園子「ふぅ~……ぬくぬくだよぉ~」

東郷「もうっ、そのっち! そろそろ行かないと遅刻になっちゃうわ」

園子「あと2分~」

東郷「その2分でエレベーターが来るかもしれないし、信号がちょうど青になるかもしれないの」

夏凜「あとはそうね、コンビニから出てくる車一台分とか」

樹「シビアな世界だねぇ」

風「シビアというか余裕がないというか……まぁ実際、5分も待ってたら瞳さんが困るわけだけど」

苦笑いを浮かべながら、

部屋全体を温めるために置かれたヒーターの前で膝を抱える園子の襟首をつまむ

風「車の中をあったかくしてくれてるから、行くわよ園子」

園子「うわぁ~天さ~んーっ!」

天乃「行ってらっしゃい」

沙織「寒くなって賑やかになったね」

天乃「園子がね」

廊下に連れ出された瞬間、上がった園子の悲鳴と

驚き戸惑う風の声

飛びつかれたのだと廊下に顔を覗かせた友奈の慌てて出ていく姿を目で追って、

天乃は小さく息をつく

天乃「元気出しすぎて、教室で寝ないようにしてね、東郷」

東郷「見張っておきます」

びしっと決めて、出ていく東郷と、「放課後ね~」と、出ていく沙織

学校に通うみんながいなくなった病室は途端に静まり返って

別の意味で、寒さを感じさせる


夏凜「何かあったら、ちゃんと連絡よこしなさいよ?」

天乃「!? あれっ、え? 夏凜?」

夏凜「なに驚いてんのよ、まだいたわよ。隣に」

何も知らない他人から見ても、

そのちょっと怒ったような口ぶりは仲がいいからこその軽口だとわかる表情を浮かべた夏凜は、

足元に置いておいた鞄を背負うように肩にかける

夏凜「看護師には厳重に言ってあるから、ま、大丈夫だとは思うけど」

天乃「うん、だから――」

夏凜「でも、あんた最近寂しそうにすること多いでしょ」

天乃「それは」

夏凜「別に学校休むくらいどうってことないでしょ。特に、園子なんて頼まれなくても休むんじゃない?」

天乃「どうかしらね。あんなことやってるけど、学校自体は行きたいと思うわよ。あの子」

夏凜「確かに……なら、風とか」

天乃「留年しちゃうかも」

夏凜「そうなったら、一緒に留年でもしちゃえば?」

天乃「簡単に言ってくれちゃうんだから、もう」


天乃は一応、特別措置として留年にはならずに卒業となる

というより、子供が産まれた後も復学することができるかどうかわからないため、

卒業させる方向で話が進んでおり、

風が留年となった場合、沙織が留年しないのならば風だけが取り残される

勇者部としての活動で顔が知られているのに、

留年したとあっては、風のメンタルが非常に心配になってしまう

天乃「大体、みんなが学校行ってる間くらい平気だから心配しないで」

天乃には精霊だっている

呼べば出てきてくれて、そばにいてくれる

無理を言って残ってもらうような必要はない

天乃「もちろん、夏凜がどうしてもっていうなら特別に残らせてあげてもいいわよ?」

夏凜「へぇ? じゃぁみんなで部活やるから遅くなるとか、旅館の厚意で一泊してくるとかも平気なわけ?」

天乃「……なんでそこで、そんな意地悪言うのよ」

ぷいっと

絡まっていた視線がほどけて、目が合わなくなる

天乃は正反対の窓の外を見ていて

そこに映る瞳は、同じく映りこんでいる夏凜を見ている……なんてことはない

天乃「ばか」

夏凜「ぐっ……」


あんたが挑発してきたんでしょうが。と

一言言ってやりたい気持ちではあったが、そこはぐっと飲み込んで息を吐く

夏凜「ったく……あんたってやつは」

天乃「なに?」

夏凜「ちょっと面倒くさい」

天乃「ごめん」

夏凜「そこで素直に謝られると反応に困るんだけどっ」

ちょっと茶化すつもりだったとか

その程度の他愛もない考えだからだろう

最後までその姿勢を貫いてくれれば、

もっと反発のしようもあるのにと、夏凜は髪を掻く

夏凜「でもまぁ……そういう部分もひっくるめて可愛いって思う」

天乃「えっ」

夏凜「ほらこっちみた」

天乃「あっ………」

夏凜「そういう反応が、面白くて好き」

満面の笑みを、夏凜は浮かべる


1、ばかっ、知らない
2、良く、恥ずかし気もなくそんなことが言えるわね
3、どうしたの? 熱でもあるの?
4、瞳を待たせてるんでしょ? 早く行きなさい


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は予定通りお休みをいただき、明後日の通常時間からの再開となります


園子「夏凜の笑顔に、どくん、どくん……と、天乃は心臓の痛みを感じ、頬の紅潮を感じた」

園子「でも、その痛みから逃れられると分かっていても、夏凜の目から視線を逸らすことはできない」

園子「そして、静かに唇が重なる。窓から差し込む柔らかな陽の光、部屋を包むまどろみに誘う温もり」

園子「そんなものよりもずっと心地よい感触に……天乃はゆっくりと、目を閉じるのだった」


東郷「という展開に!?」

園子「あれっ? 私が言ったみたいなことになってる!?」


では少しだけ


天乃「どうしたの? 熱でもあるの?」

夏凜「……なんでそうなんのよ」

天乃「夏凜にしては、珍しいから」

これが東郷ならば、またいつものが始まったかなと、

苦笑いしながら受け入れるものだけれど、

普段、こういった面で大人しい夏凜がしてくるとなると

体調でも悪いのかと、心配になってしまう

悪気はない

ただほんとうに、何かあったのかと心配になってしまうだけ

何もないならそれでもいい

けれど、何かあったら――

夏凜「ストップ」

天乃「っ」

ぺちっっと

ただ気を向けさせるためだけの攻撃を受けて、天乃は夏凜へと目を向ける

夏凜「考えすぎだっての」

天乃「…………」

夏凜「ちょっとふざけただけだから」


天乃「ふざけてただけ?」

夏凜「そう」

天乃「…………」

微妙な沈黙

黙り込んだ天乃は少しだけ、考える

考えて、夏凜から目を逸らす

天乃「……全部?」

夏凜「そりゃ――」

天乃「可愛いって……言ってくれたのも?」

夏凜「そんな冗談はさすがに言わない」

はっきりと、夏凜は否定した

天乃から言われると分かっていて

あらかじめ頭の中で考えていたということもあるが、

考えるまでもなく、真実だからだ

夏凜は少なくとも、天乃とは違う

もちろん、天乃も特別そんなものではないのだが

夏凜は無差別に可愛いと言えるような性格ではない

その対象は限られる

そして、その対象はもちろん、天乃だ


夏凜「あんたが可愛いのは事実だし、可愛いと思ったのも事実よ」

天乃「そ、そう……」

夏凜「そうやって、攻め込んだくせに相手が折れなきゃ押し負けるところとか」

天乃「っ」

少しだけきつく結ばれていた唇が、きゅっと固く結ばれる

病院での生活が長引き、

また一段と、白さが増してしまったかのように見える頬が一層赤らむ

夏凜「……そういうところよ」

今でこそ自覚して攻め込む―結局負けるが―ようになっているが、

少し前までは、自分が好かれるだなんて考えないような人で

本当に、無自覚で攻め入るタイプで

でも、根本的な部分はまだまだ変わっていないらしい

だからこそ、愛らしく思う

いや、そこで根負けしなくなったとしてもきっと、また別の愛らしさを感じることだろう

夏凜「天乃」

天乃「なに?」

夏凜「……あんたはやっぱり。可愛いわ」

ずっと一緒にいたいと思う。

守っていきたいと思う

だからこそやっぱり、何も失われてはいけないのだと、夏凜は感じた


√ 12月1日目 昼(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 千景
21~30
31~40 水都
41~50 九尾

51~60 
61~70 
71~80  若葉
81~90 
91~00  亜耶

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜「………」スッ

夏凜「待たせたわ」

風「……じゃ、行きますか」

東郷「ですね」

園子「必ず……帰ってくるんよ」


友奈「あれ? 普通に学校行くだけだよね?」

樹「友奈さんだけが久遠先輩がいない間の癒しです」


昨日は失礼しました
では、本日も少しだけ


√ 12月1日目 昼(病院) ※月曜日


天乃「……はぁ」

何も代案を出せないまま、結局12月に入り

今日もまた、何も考えられないまま時間だけが過ぎていく

ずっと病室にいるせいか、

普通よりも時間の流れが遅く感じられるせいかもしれない

精神的な疲労感は一際重くてどうしても、ため息が零れてしまう

園子たちは元気そうに見せているが、

それはやっぱり、まやかしだ

心の内では不安でいっぱい

でも、それをさらけ出したところで何も変えられはしないから

精一杯、明るく振舞っているだけ

勇者としての力があり、

その犠牲を持って強さを増した乃木家というものであり、

天乃と違って自由に動くことができるようになっている

園子なんかは、特に顕著だ


天乃「園子のことだから、あまりおかしなことをするとは思えないけれど……」

もちろん、みんなもだ

悩みすぎて、少し危うい行動をとりかねない天乃と似たようなタイプの東郷でさえ、

今はもう、そんな心配はほとんどない

もっとも、追い詰められてきている今の状況でもだ

そんな甘いことを言っていられるのかは疑問ではあるのだが。

天乃「勝負は今週中、かしらね」

実際にそうなのかは定かではない

しかし、天乃はその可能性が高いと思っていた

日に日にバーテックスからの干渉は強まっていくうえに、

神樹様の力は弱っていく一方

であれば、年明けまで耐え忍ぶという考えに改めるはずはない

かといって、性急すぎても失敗につながる

だからこそ、念入りに確認をしての今週中に行われる可能性があると、天乃は考える

それに関しては、夏凜達も同意していた

だからこそ、焦る

だからこそ、空元気が目立つ


巫女としての力を備えている沙織や、水都

時折大赦側に接近している二人にも、

いつ、どのようにして奉火祭を実行する予定なのか

その情報が一切漏れてこない辺り、祖母は本気なのだろう

天乃「お祖母ちゃん……」

もう一度会えたら

会えたら……何か、変えることができるだろうか

命がかかっているわけではない沙織との付き合い

それに関して、沙織の父親ですら説得する言葉を持てなかったのに

多くの命を犠牲に保たれてきたこの世界

それを守るために新たな犠牲を出そうという覚悟を持つ祖母のことを説得できるのだろうか

天乃「っ」

思わず噛んだ唇に痛みが走る

けれど、握りしめた手の力は限りなく弱い


1、精霊
2、イベント判定

↓2


√ 12月1日目 昼(病院) ※月曜日

01~10 若葉
11~20 九尾
21~30 千景
31~40 水都
41~50 歌野
51~60 亜耶
61~70 球子
71~80 大赦
81~90 春信
91~00 瞳

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から


水都「実をいうと、やれることは0じゃないんです」

天乃「……言わなくていい」

天乃「それは、出来ることであってもやっていいことではないわ」

水都「でも、このままでいるわけにはいかないと思います」

水都(私とうたのん……私たちは豊穣の力を持っている)

水都(その力を使うことで、神樹様の力を少しだけ強化することができる)


では、少しずつ


√ 12月1日目 昼(病院) ※月曜日


水都や歌野がいたのは四国ではなく、

神樹様の存在というものは覚えがない

もちろん、神樹様ではなく、加護を与えてくださる存在という点でならば、

多少、恩恵を与えてくださった存在はいるけれど。

だが、その大切さは良く分かる

神樹様の寿命が尽きようとしていることで

大気に満ちていた神樹様の力は弱り、

天候のような自然的な部分に対する加護も薄れてきている

作物の実りは今後、悪くなっていくかもしれない

それを防ぐため……というよりは、

神樹様をより疲弊させる原因となっているバーテックスを率いる天の神の怒りを鎮めるために、

奉火祭が行われる

正直、水都達にも天の神を鎮めるような手立てはない

だが、神樹様の寿命という部分においては、

豊穣の神たる稲荷神を媒体として顕現した水都達にもできることはある

水都「……久遠さん、少し、話をしませんか?」

だから、珍しく

水都は天乃の前に姿を現した


天乃「どうかしたの?」

水都「折り入ってご相談があるんです」

天乃「貴女にしては珍しいんじゃない?」

急にきて、急に相談がある。なんて

だが、天乃は困惑したような笑みではなく、

水都の考えを見通していて

だからこそ、答えに困ってしまっているというような

そんな表情を見せる

姿を見せること自体珍しい水都が姿を見せ

そこにある表情は、力強い意志を秘めたもので

だから、推測できてしまう

何度も見た顔だから

何度もしたであろう顔だから

天乃「……ご相談。ね」

水都「はい」

天乃「…………」

水都の視界

その端に見える天乃の手が少しだけ布を巻き込んで握られる

困ったものね。と、言いたげな表情が揺れる


水都「私たちの力、使いませんか?」

天乃「だめよ」

即答

だが、水都は一度噛みしめた唇を再び閉じようとはしない

普段、引け目の感じさせる雰囲気も

今は一層の強さを持っている

穢れの苦しみ、西暦時代の絶望

それらもあるかもしれないが

水都自身の強さ……そして優しさがあるからだろう

水都「……豊穣の神の力を宿している私たちの力を使えば、神樹様の力を少しは取り戻させることができます」

力を取り戻させることができるということは、

当然、その生命力であり、寿命を延ばすこともできる

場合によっては、豊穣の力でより強い力を持たせることだってできることだろう

そうすれば、外の世界からの影響を受けにくくなる

燃え盛る地獄の業火を受けての影響を抑えられ、

奉火祭の必要性を多少なりとも減らすことができて

考える時間を作ることができるかもしれない

水都「使わせてください、久遠さん」


ただ力を使うだけならば、許可は必要ない

だが、最大限の力を使うためには、

精霊としての水都を従えている天乃の許可が必要になってくる

だが、最大限の力を行使するということはつまり、

友奈たちに満開を使う許可を与えるのと同じようなことであり、

水都達の力のすべてを使い果たすのと同義

いや、神樹様に力を取り戻させるためなのだ

全身全霊でかからなければ、大した意味もなく終わってしまうだけだろう

天乃「本気で言ってるの……なんて、無駄そうな顔ね」

水都「奉火祭を止める手立てがないのなら、せめて、先延ばしにするくらいはするべきです」

それに、神樹様の力が戻れば、

勇者である友奈たちの力も増すかもしれない

攻勢に出るならば、それは重要な分岐点となるはずだ


1、でも、消えるわよね。貴女達
2、それは許可できないわ
3、どうしてこう、自分を大切にできないのよ。みんな
4、歌野は何か言ってないの?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば少し早い時間から



夏凜「ブーメランでしょ、あれ」

東郷「ブーメランって、どうしてあんなに卑猥な形をしているんでしょうか」

友奈「え?」

東郷「え?」

園子「わっしーの頭の中がどうなってるのか私にも読めないんよ」


樹(あれっ? 双頭の道具のことだろうなって分かった私も危ない……?)


では、少しだけ


天乃「どうしてこう、自分を大切にできないのよ。みんな」

水都「自分よりも、大切なものがたくさんあるから。じゃないでしょうか」

天乃「…………」

水都「うたのんは言ったんです。怖いものは怖い。でも、だからってなにもできないのは嫌なんだって」

それで、人の命が失われていくのは嫌なんだって

そこで、自分が頑張ることで救われるものがあるのなら

命を賭さねばならないのだとしても。

死の恐怖に負けてしまっては、救えるものも救えなくなってしまうから

水都「久遠さんも、そういう考え方。でしたよね」

天乃「……そうね」

水都「どうして、こう……勇者のみなさんは命を懸けちゃうのかな」

きっと。

水都「そういう、心を持っているからこそ、勇者に選ばれるんですよね」

天乃「もしもそうなら、勇者適正なんて言うバカげた考え方はやめて貰いたいわね」

水都「どれだけ、自己犠牲出来るかどうか……」

天乃「それはそうと、歌野がそう言ったのはその話をする前? それとも後?」

水都「前であり、後でもあります。その両方です」

天乃「そっか」


それが真実だとするならば……というのは意地悪な言い方になるが

今回の件は歌野も賛成しているということだろう

水都「久遠先輩も、同じ考え方をしていたならわかるはずです」

天乃「私はもう、やめたわ」

水都「本当に、やめることができていますか?」

天乃「……ええ」

水都「奉火祭、力があるなら無理をしてでも止める。そうですよね?」

こんなぎりぎりになってもまだ、

代案が出せていない最悪と言ってもいい状況

打開できるのであれば、

多少の無理くらい、自分がするのならば目をつむるだろうし笑ってごまかそうとするだろう

水都「私達を解放せずに体を何とかすると決めた想いを裏切るようなことだとも分かっています」

天乃「それなら」

水都「でも、失われる結果が確定しているのなら、せめて、精霊で賄うべきだと思いませんか?」

天乃「私は、みんなは……ただの精霊だなんて考えてない」

水都「でも、本来は精霊です。もう、この世界にはないはずの魂です」


水都「使うべきです」

天乃「また繰り返すの?」

天乃を救うために精霊たちの力を使うかどうかの話をしたように、

神樹様の寿命を少しでも伸ばし、

奉火祭の延期と勇者の力の強化を狙うべきだという話

どちらも、精霊を犠牲にするかしないかの話だ

それを、また繰り返すつもりなのかと、天乃は言う

まだ、声色は優しいが

確実に許可を出したくないとわかるものだ

天乃「貴女達は犠牲にしないと決めたのよ」

水都「これは、犠牲ではないと思います」

天乃「力を使ったら貴女達が消える。それの、どこが犠牲ではないの?」

大赦のように、

英雄であると奉れとでもいうのだろうか

勇敢な死であると、羨望のまなざしで見届けていればいいのだろうか

天乃「……ふざけないで」

水都「久遠さん、西暦時代の勇者であるうたのん達の魂が精霊という形でここにある理由を考えて見てください」


天乃「過去の魂だから何? 精霊だから何? だから犠牲にしてもいいっていうの?」

水都「っ」

天乃「悩んだのよ、さんざん……それで、みんなと話して、やっと決めたことなのよ」

自分の我儘を通すか

みんなの願いを酌むか想いを酌むか

悩んで、考えて、話し合って

そうして決めたのが今の在り方だ

この世界を、平和になった日常を感じてほしいという願いを聞いてもらったが故の今だ

それを、どうしようもないからという理由で

やっぱり力を使って犠牲になってくれと

天乃「そんなこと……できるわけないじゃないっ」

水都「…………」

ぽたぽたと、布団に雫が落ちる

うなだれた頭を抱える様につかむ手に力が込められて

髪が、歪に歪む

天乃「分かってる……このままじゃダメなんだって……でも……でも……」

それで精霊を犠牲にしてしまったら

すべてが無意味になってしまう

そう思えて、仕方がなかった


1、いやよ、絶対に嫌
2、……ごめんなさい、考えさせて
3、貴女は分かるの? なぜ、この時代に呼ばれたのか
4、犠牲にするために、精霊としてきてもらったわけじゃない

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日はできれば昼頃から


若葉「さすがに、今の天乃には難しいか」

千景「今する話ではなかったと思うわ」

千景「もっとも、今すべき話でもあるけれど」

九尾「ふむ……誰か、止めに入らぬのかや?」

歌野「みーちゃんが自分からトークしたいって言ったから。だから、もう少し……ステイするわ」


では、少しずつ
すぐに離席することになるとは思いますが、
それまでは


天乃「いやよ、絶対に嫌」

水都「久遠さん……」

天乃「言い分は分かるの、私の方が間違ってることだって分かってるの……」

活きている人間と、精霊

どちらも犠牲にする対象として選択することができるのなら、

精霊を犠牲にするべきだというのは当然の考えだ

精霊を犠牲にすることを嫌がって、

人の命を犠牲にしようとしている今の自分が間違いであることくらい、

天乃自身が分かっている

けれど、それでも嫌なのだ

それでも、認めたくはないのだ

誰かを犠牲にしなければならないなんて言うことは

天乃「貴女達は稲荷を犠牲にした。千景は死神さん、若葉は素戔嗚……そして、私は五郎くんと、銀」

銀に限っては人間だ

自分よりも若い命だ

そんなにも犠牲にしてきた今なのに、また、犠牲にするなんて

そんなの、奉火祭を行うのと何も変わらない

天乃「ここで貴女達を使ったら、奉火祭を阻止するために奉火祭を行うようなものだわ。どうしてそれを、貴女達はやれというのよ」


水都「久遠さんは優しいから、私たちのことを犠牲だと。そう、考えてしまっているだけです」

他の命を守るための犠牲

供物になる巫女の魂の代わりの供物

精霊は精霊であると認めることのできないその心はきっと、

とても優しいのだろう

その優しさは、誰もを守る最強の力となって

すべてを守る抜くための盾となるのだろう

だが、その盾は、誰が守るのだろうか

盾は守るだけであり、守られるものではない

常に傷つき、削れ、罅割れ、砕け散っていく

使い手のケアがあってもその運命には逆らえない

だからこそ、盾を用意する必要があったのだ

水都「私達は盾です。久遠さんや、その周りの人たちを守るための盾」

それは守ることを本分とし、

たとえ砕かれたとしても、使い手の命を守れたのならば、冥利に尽きる

これ以上に、喜ばしいことなどない

水都「みなさんを守ることができるのであれば、ここでお別れすることも決して悲しいことじゃありません」


天乃「貴女達にとってはそうかもしれないわね……でも、私はそうじゃない」

水都「自己満足、ですか?」

天乃「私はそうだったわ。少なくともそうだと教えられた」

どれだけ尽くして頑張っても

それで不安にさせたり心配させていたらダメなんだと

ましてや、それで死んでしまうなんてことがあるのは

絶対に、タブーなのだと

天乃「だから、ダメ。許さない」

水都「それで、人が奉火祭の犠牲になるとしても。ですか?」

天乃「それは阻止するわ。何が何でも」

水都「それを阻止する手立てが――」

歌野「みーちゃん」

水都「っ」

歌野「リミットよ」

ただ姿を見せていなかっただけで、

見ていたし、聞いていたのだろう

歌野は水都のすぐそばに姿を現すと、

天乃に言い返そうとする水都の肩を掴んで引き、首を振る


歌野「久遠さん、こんな話になったのはソーリー。本当に申し訳なく思ってるわ」

天乃「そう思うのなら――」

歌野「でも、きっと。私たちのソウルをこうして蘇るようにしてくれた陽乃さんは、きっと、初めからこういう考えだったと思う」

天乃「陽乃さんが? どうして? 話を聞いたことがあるの?」

歌野「……それはノーよ。出来なかった」

出来たら話してみたかったけど。と

歌野はひりつきそうな空気に明るい笑みを持ち出す。

引き下げられた水都は「うたのん……」と声をかけたが、

歌野は軽くうなずいただけだ

歌野「でもきっと、乃木さんも郡さんも、土居さんも、ミーもみーちゃんも。救うためにここに呼ばれたんだと思うわ」

守れなかった後悔を、

成し遂げられなかった後悔を、

過ちを犯してしまった後悔を、

尽くしきれなかった後悔を、

そのすべてを、この世界で補うために

歌野「今度こそ、成し遂げるために。ミーたちはこのワールドに来た。私はそう、思った」

それが、この奉火祭を止めるために使う力かどうかかはわからない

だが、そうであっても悪くはないと歌野は思う

歌野「だから、ミー達だけでなく、乃木さん達の力を使うことも併せて考えてみてほしい」

歌野はそれだけを言うと、

水都の手を引いて、一緒に姿を消してしまった


√ 12月1日目 夕(病院) ※月曜日


01~10 風

11~20 
21~30 
31~40 友奈

41~50 
51~60  夏凜
61~70 
71~80  樹
81~90 
91~00  東郷

↓1のコンマ 


では、少し中断します。
17時頃には、再開できる予定です


部長副部長対談

議題:久遠さんが面倒くさいのか、世界が理不尽なのか


では、少しずつ


√ 12月1日目 夕(病院) ※月曜日


風「何かあった?」

天乃「……そんなに分かりやすい?」

風「雰囲気が暗いっていうか、悩んでるんだろうなってのは分かるわね」

天乃「そっか……ごめんね」

風「別に謝らなくてもいいのに。子供がいると神経質になるっていうか、不安になりやすいっていうし」

風は少し不安そうながら、

もうすぐ子供が産まれる可能性があるからか、嬉しそうな微笑みを見せる

だが、天乃が小さく笑みを浮かべるのみに留まったのが気になって

もう一度、「何かあった?」と、問う

風「子供のことで何か言われた?」

天乃「ううん、検査は良好よ。出産予定日は月末頃になるかもしれない」

無理に不安要素を言うなら、

月末だった場合、確実に奉火祭を止める力が自分にはないというところだろうか

それくらいしか、

妊娠していることの不安や、それによる問題は感じていない


天乃「最悪、年明けになる可能性もあるから……そうね。今回の件、全部風達に押し付けることになっちゃう」

風「まさか、それが申し訳ないとか悩んでた?」

天乃「申し訳ないとは思うけど、それだけじゃないの」

ぎゅっと、自分の手を握る

言ってしまおうか、吐露してしまおうか

けれど、それでどうなるのか

我儘を通して精霊のみんなも残していくことを決めたのに

今、まさに悩まなければならないことがあるというのに

精霊の力を使うかどうかで悩ませていいのかどうか。

いや、精霊の力を使えば奉火祭も先延ばしにできる可能性があるし

これだけ考えてまだ打開策を考えられていない以上、

可能性があることを切り出すのは必要なことだ

けれど、積んでいるこの状態で、

精霊の力のことを話せば、

みんなは喜んで……とまではいかないにしても、

奉火祭を止める手段としてそれを選択する可能性は低くない

天乃「っ」


きっと悩む

深く悩んで考えて、

そのうえで答えを出してくれることだろう

だが、考える時間はそんなに長く残されていない

であれば、奉火祭を精霊で止める方に傾いてもおかしくない

天乃「違う……」

風「天乃?」

それではまるで、信じていないみたいだ

ちゃんと考えてくれると分かっているのに

それでもなお、そうなるかもしれないという話でしかないのに

どうせ、精霊を犠牲にする方向でしか考えない

そう、嫌な考えをしてしまう

天乃「…………」


1、奉火祭の件、精霊の力を使えばなんとかできるかもしれない
2、ねぇ、風は若葉たちの魂を呼べるようにした陽乃さんの考えって分かる?
3、ごめんなさい、何でもないの
4、ねぇ、奉火祭はなんとかできそう?


↓2


天乃「あの……ね。藤森さん達から提案があったのよ」

風「提案? 提案って……」

まさか。

驚く風に頷く

天乃の雰囲気と表情から察したのだろう

その察しの良さに、

天乃は複雑な笑みを浮かべる

天乃「奉火祭の件、精霊の力を使えばなんとかできるかもしれないって」

風「でも、力を使った精霊は残ることができない。そういうことなのね?」

天乃「話が早くて助かるわ」

風「そんなの……いや、でも」

天乃「正直、奉火祭に関しては私たちは打つ手がないわ」

風「それは分かってるけど」

けど。という言葉に続くのは

天乃と同じく、精霊を犠牲にするなんて……というものだろう

風達にとっても、

水都達はただの精霊ではない

大切な戦友であり、仲間であり、家族に等しい存在

共に戦っている犬神に対しても家族としての愛着のようなものがあるのだ

人型であり、実在した英霊である水都達がただの精霊で割り切ることができるはずがなかった


風「これ、天乃の時にも話したことと一緒よね」

天乃「ええ。それで考えれば、考えるまでもない」

風「そりゃぁねぇ……若葉達を生かしていくって決めて、だから神樹様の種だって強奪したわけで」

天乃「そうだったわね」

風は強奪という部分をやや強調するように言ったが、

祖母……大赦が、神樹様の種の件で接触してこない理由はすでに風達にも共有してあるため

別に強奪する必要はなかったことも伝わっている

強奪が必要不必要にかかわらず、

神樹様の種での代用という点においての変化はなかっただろう

風「けど、これは難しいわ」

天乃「私の時はまだ、代替案があった」

風「こっちもあるっちゃあるけど、その場合は巫女が犠牲になる」

天乃「それ、代替案だなんていわないで」

風「……夏凜呼んだほうが良いかもね」

天乃「なに?」

風「別に、ちょっと考えを整理しようかなって」

ぼそっと呟いて

聞こえなかったことに安堵するでもなく息を吐く

天乃は耳が良いはずだが、小さな呟きを聞き逃すくらいには

余裕がないということだ


風「実は、東郷が試しに大赦に話をしに行ってみたのよ」

天乃「?」

風「自分を巫女の代わりにすることはできないかって」

天乃「え……?」

風「あ、あーっ、もちろん実際にそうするつもりはなかったわよ? あくまで、取れる手段の確認として」

風としては、自分たちの側で得た情報を共有しようとしただけだった

天乃がそれをすごく嫌がることは分かっていたが、

実際にそうするつもりはなかったことを話せば大丈夫だろう。という考えで。

だが、話した瞬間の殺気だった空気感は危うげだった

頭で考えていた訂正の言葉も、

焦ってついた嘘のようなものに成り代わってしまう

風「だけど、勇者様は今回のことに参加させるわけにはいきません。って断られたみたい」

天乃「お祖母ちゃん、かしら」

風「そうだと思う。天乃の関係者は何が何でも参加させないって考え見たい」

天乃「なら、国土さんも私の知り合いだって話せば逃がすことができるんじゃないかしら」

風「国土さんだけなら。ね」


天乃「分かってるわよ……」

風「…………」

天乃「それだけじゃ無意味。みんなを救えなくちゃダメ」

亜耶一人であれば、

友人だといえば通せるかもしれないが、

他の五人はもちろん、亜耶の代わりに選ばれる子たちは、

友人だという言葉を通すのは難しいだろう

風「あたしも解ってるから安心して」

意地悪を言ったつもりはない

だが、

今の天乃にとっては、冗談や確認程度では済まないことだったのだと、

風は息を飲む

風「とにかく、あたしたちもこんな状況。で、そこで精霊の力を使えば止めるまでいかなくても延期できるんじゃないかって話が出てきた」

天乃「そうなるわね」

風「それ、天乃はどう答えた? やっぱり、拒否した?」


天乃「ええ、当然」

歌野には、それでも考えてくれないか。とは言われたものの

考えてもやはり、

自分だけではそんなこと認めたくはない

出来るのなら、叶うのなら

みんなで一緒に生きていきたいから

風「そこで、あたしたちも別途考えてた手が一つだけある」

本当の本当に最終手段

それゆえにすでにみんなの同意は得られている

天乃に話すのはこれが初めてだが……

風「奉火祭が行われたら、勇者部でそれをぶち壊しに行く」

天乃「阻止するんじゃなく、破壊する。ということね……なるほど」

代替案が浮かばない

阻止することができない

ならばいっそ、ぶち壊してしまう

神樹様の種を奪った時と同じやり方だ

風「大赦的にも世界的にもタブーってレベルのことじゃない。だから最終手段なんだけど……」


天乃「それをここで言うっていうことは」

風「そ。もうこれ以上に代案は出せないかもしれない」

今すぐ行うわけじゃない

でも、

実行当日にいきなり告げるなんて最低だ

それでは、天乃を不安にさせるし心配させるし傷つけることになる

だから、事前に話しておく

精霊の力を使うという話が出てきたなら、なおさら

精霊を犠牲にするなんて言う選択肢だけでは

余りにも、幅が狭すぎる

天乃「奉火祭を壊すことによる勇者部への被害は?」

風「壁の外に出ることになるだろうから、多少は。でも、誰も死なせたりはしない」



1、歌野達は、世界を救うための礎になるために、ここに呼ばれてきたのかもしれないって言っていたわ
2、でも、それだと今後が大変になりそうね
3、みんなで話し合いましょう
4、また物騒な手を考えたものね……ほんと、勝手なんだから


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風(天乃が精神的にやばいわね、こりゃ)

風「夏凜、ちょっと、夏凜」

夏凜「なによ」

風「夜這いしろ。部長命令」

夏凜「あんた何言ってんの……今の天乃にそんな余裕あるわけないでしょうが」

夏凜(今はそういう気分じゃないってつき返されるだけ。ま、行くだけは行くけど)


では少しだけ


天乃「……はぁ」

風「そんな呆れたため息つく必要ないんじゃない?」

天乃「別に、呆れてるわけじゃないわ。ただ……ううん、呆れてるのかな」

呆れているようなため息をついて

否定して、撤回して、やっぱりそうなのかもしれないと認める

誤魔化しているように聞こえるのに

嘘だと否定しきれない何かを感じる風は、眉をひそめて様子をうかがう

精神的な疲弊は、

妊娠と出産による不安だけではないだろう

特に、天乃は自分が何もできないというだけで非常に精神的なマイナス要素となる

天乃「とにかく、みんなで話あいましょうか」

風「そう来ると思った。というか、来てくれなかったらどうしようかと」

天乃「そういったって、結果は見えてるんでしょ?」

チクリと刺されて、口を閉ざす

自分の言葉にとげがあることに気付いているのかいないのか

答えを返さない風へとむける視線は不思議そうだった

天乃「なによ、図星?」

風「まぁ……」

考えつつ、目を逸らす

嘘をつくつもりはないが、目を合わせてはいられなかった

風「若葉達を犠牲にするか、自分たちが頑張るか。選ぶとしたらそりゃ後者になるわよねぇ」


特に、すでに自分たちが頑張るという手段に対する覚悟が決まっているのならば、なおさらだ。

若葉達精霊の力を使う場合、

精霊の力の消費によって消滅してしまうことは確実

その一方で、自分たちが頑張るという手段は

頑張れば頑張るほど、その被害を少なくできる……可能性がある

もちろん、頑張る方向性によっては被害も出るが、

満開のシステムが変化した今、

身体的な部分の散華というような犠牲はない

だが逆に、

精霊による加護は使用回数が限られ、満開を使うと使えなくなる

それによって生傷は絶えなくなることだろう

風「無理をさせないためには精霊の力を使うしかないっていうのはもう、分かってるんでしょ?」

天乃「ええ。そうでしょうね……」

こればかりはもう手遅れだ

時間があればまだ、もう少し考えましょう。だなんて悠長なことも言えたけれど

タイムリミットの近い今言えるのは、

そんな先延ばしにしたところで結果は変わらないだろう。ということだ


天乃「理不尽ね、ほんと」

笑うしかない。

なんて、そんな冗談も言う気にはならない

本当に、理不尽だ

もしかしたら、若葉達を呼んでしまったから理不尽になってしまっただけで、

呼んでいなければ、ただ精霊の力を使う。という考えだけに留まったかもしれない

……そんなわけがない

素戔嗚も、死神さんも、稲荷も、穿山甲たちも

みんな、大切な仲間だったのだ

西暦の勇者達を呼べるからと喜んで手放したわけじゃない

天乃「ねぇ、風」

風「なせば大抵なんとかなるでしょ」

自分では答えられないようなことを言われてしまいそうで

風は思わず、勇者部五か条の一つを口にする

気持ちとしては、半々だ

天乃「……そうね」

天乃は反論することなく

ただ、少し、疲れた大人の空返事のように答えただけだった

天乃「そうだと、良いわね」


√ 12月1日目 夜(病院) ※月曜日

01~10 
11~20  若葉
21~30 
31~40 
41~50  九尾
51~60 
61~70 
71~80  千景
81~90 
91~00 

↓1のコンマ 



では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

夜は結果の見えてる話し合い


天乃「で、どうする?」

樹「頑張ります」

東郷「当然、戦います」

友奈「私たちが頑張るだけで、救える人たちがいるなら……頑張らないなんて選択肢はないと思います」

夏凜(精霊が犠牲になるっていうなら……そうだけど。でも、結局精霊の力が必要になりそうな感じがするわね。これ)


では、少しだけ


√ 12月1日目 夜(病院) ※月曜日


東郷「白鳥さん達の力を使う……?」

夏凜「なるほど、確かに豊穣の神の力を使えば神樹様も回復させられるわ」

沙織「同じ神格級の力なら、そうだね」

樹「でも、その代わりに力を使い果たして消滅しちゃうんですね」

天乃「ええ」

消滅してしまうことに関しては、

歌野達の反応からも確定している

勇者部がなぜ、精霊の力を使うのを考えられなかったのかは、

きっと、この件において力を使わせれば、

消滅してしまう可能性があることに薄々気づいていたからかもしれない

精霊の力使う案、それによる代償

一通りの話を聞いた勇者部の面々は、

噛みしめるような面持ちで黙り込む

そして、友奈がそっと口を開いた

友奈「それなら、私たちが頑張る方がいいと思います」

天乃「……やっぱり、そう来るのね」

夏凜「まぁ、歌野達が消滅した時点で天乃の願いは果たされなくなるわけだし、頑張る方が可能性はあるでしょ」


天乃「それは分かってる」

夏凜「こっちだって、その不満げな顔の理由は分かってるわよ」

天乃「別に不満だなんて――」

樹「無理。することになりますから」

だから、不満なのだとわかる

たとえ顔に出ていなくてもわかる

取り繕って、笑顔で対応してくれていてもわかる

無理されることで喜べるほど、天乃は割り切りれないからだ

一見、困った顔つきには見えるのだが

唇がきゅっと結ばれているときは噛みしめるがごとく、不満を堪えている時だ

言いたいが、言っても自体が好転しない

だから不満ながら困り果てた表情になる

友奈「結界の外はすごく危険で、勇者の力も前みたいに使えないのは……やっぱり、不安です」

全部を前向きに言うのではなく、

友奈はあえて、なり切らずに不安を吐露する

取り繕ったって仕方がない

本心で当たらなければ、無用な気持ちにさせるだけだから

友奈「でも、それでも頑張ればなんとかできる可能性があるなら、あきらめたくないです」


東郷「奉火祭を妨害することで、大赦と天の神。その両方から嫌われることになると思います」

風「そこに関しては、はなっから嫌われてるようなもんだけどねぇ」

東郷「その通りです。ですから、顔に泥を塗るだとか、風当たりが強くなるだとか、それこそ心配しる必要はないことかと」

夏凜「でも犬吠埼家への援助とか、これから生まれてくる天乃の子供とか。完全無視ってわけにはいかないでしょ」

完全に打って出る方で話を進めていく勇者部の中、

天乃のそばで腕を組んで落下防止の柵に軽く腰掛ける夏凜が口をはさむ

賛成であり、反対でもある

そんな、中立の路線にいるのは天乃の代弁をするためだろう

夏凜「それに、努力と根性だけで押し切れるほど、甘い話でもない」

園子「いつだって、甘くはないんよ。にぼっしー」

夏凜「…………」

園子「頑張って、頑張って。それでもダメなことがあるって、よく知ってる」

天さんやわっしーも

きっとみんなも解ってることなんよ。と

園子は柔らかい声で続ける

園子「でも、頑張ることさえしなくなったら、何もかもがダメになる。だから、頑張る。一人では無理でも二人なら、三人なら、四人ならって希望を持つ」

そしてそれこそが。と

園子は強く握った言葉を伝える

園子「何よりも強い力になるんよ」


夏凜「……水掛け論になるか」

それで無理されたら元も子もない

けれどそれは為せば成ると考えず、不安と恐れを前面に出してしまっているからだ

希望を持つべきだと言われる

それで……と

半永久的に繰り返すのは時間の無駄でしかない

夏凜は軽く息を吐く

夏凜「と、こんな調子なのよ。特に、精霊を消滅させるかどうかって話なしによ?」

天乃「最終手段として話してたんでしょう? 本当、勝手に話を進めるんだから」

東郷「事前に全員の意見をまとめておいただけです」

天乃「なら、さっきの夏凜は茶番――」

夏凜「意思確認っ」

意思確認して見せただけだから。と、

少し強い口調で言い返した夏凜は浮いた腰を戻す

夏凜「とにかく、私達は奉火祭に武力介入する」

天乃「本当に、それ以外に道はないの?」


東郷「残念ながら、ありません」

友奈「ま、まだわからないよ」

風「さすがにこればかりはどうしようもないわよ、友奈」

友奈「うぅ……」

無理を押し通す覚悟をしているとはいえ

天乃が嫌がることは極力避けたいという考えは変わらない

だからだろう

まだ策がないと完全には諦めていない友奈はしょんぼりと俯く

樹「久遠先輩は、やっぱり反対ですか?」

天乃「それはね……無理してほしくないわよ」

けれど、そうするしかないのかもしれない

精霊である歌野達を失いたくないのならば

その分の厳しさを、勇者として戦うみんなに背負って貰わなければいけないのかもしれない


1、絶対、絶対に無理はしないで
2、戦うことになったら満開は使ってもいい。でも、使ったら撤退して
3、巫女のみんなを助けたらそれで終わりにして。深追いは無し。約束できる?
4、少し、考えさせて
5、やっぱり……私は我儘なんて言うべきじゃなかったんだわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「少し考えさせて」

東郷「そのために、事前にまとめておいたんです。時間はありませんが、ありますから。検討ください」


風(東郷がまじめすぎて違和感があるんだけど)

友奈(これが本来の東郷さん……だったような)

樹「東郷先輩の評価って一体……」


では、少しだけ


天乃「少し考えさせて」

精霊のことも、勇者部に委ねるかどうかも、

今日一日で、一気に聞かされたのだ

時間がないことは分かっているけれど、少しだけでも考える時間が欲しかった

いや、考える。というよりは整理する時間だ

夏凜「どのくらい時間がありそう?」

沙織「長くて3日……くらいで考えておいたほうが良いかな」

東郷「ということは、週末前にはもう、実行されると?」

沙織「ううん、そうじゃなくてね」

今週中に行われる可能性は非常に高いが、

だからこそ、週末まで時間を取るわけにはいかない

本当なら、3日でも言葉通り長いのだ

沙織「実行されるのはきっと週末。だから、半ばの3日間位取れると思うって話」

風「金曜日、土曜日もあるし、最悪そこに行われるのだとしてもあたしたちは覚悟できてるし」

天乃「その覚悟できてるって言うの止めて、嫌」

夏凜「……重症ね」

天乃「なにが?」

夏凜「別に」


ふいっと顔を逸らした夏凜は、

はいはい。と、手をたたきながら腰を上げる

夏凜「天乃が考えたいって言っている以上、いったん終了しましょ」

樹「私たちも、万が一の時のために歌野さん達のことを考えましょう」

東郷「そうね。そうするしかなくなった時、何かできることがないか慌てなくて済むように」

そのために満開を残しておくとか

もっと力をつけるための鍛錬を厳しく行うとか

今みたいに積んでしまうことがないように

そして、最悪の可能性に陥ったとしても

ただ悲しいだけでは終わらないために。

友奈「久遠先輩、私達頑張ります。頑張りますから」

天乃「……それは、分かってる」

だから嫌なのよ。と

天乃は言わずに飲み込んで

すぐ横にある夏凜の背中へと目を向けた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(今後の方針)
・   犬吠埼風:交流無(歌野達の力、今後の方針)
・   犬吠埼樹:交流無(今後の方針)
・   結城友奈:交流有(今後の方針)
・   東郷美森:交流有(今後の方針)
・   三好夏凜:交流有(熱でもあるの?、今後の方針)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流有(精霊の力)
・   藤森水都:交流有(精霊の力)
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(今後の方針)

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


12月01日目 終了時点

乃木園子との絆  85(高い)
犬吠埼風との絆  108(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  95(とても高い)

結城友奈との絆  115(かなり高い)
東郷美森との絆  127(かなり高い)
三好夏凜との絆  149(最高値)
乃木若葉との絆  99(かなり高い)

土居球子との絆  44(中々良い)
白鳥歌野との絆  44(中々良い)
藤森水都との絆  36(中々良い)

  郡千景との絆  45(中々良い)
   沙織との絆  127(かなり高い)
   九尾との絆  68(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 12月1日目 夕(病院) ※月曜日


01~10 千景

11~20 
21~30 
31~40 若葉

41~50 
51~60 九尾

61~70 
71~80  球子
81~90 
91~00  樹

↓1のコンマ 


失礼しました

12月2日目の朝です


√ 12月2日目 朝(病院) ※火曜日


与えられた猶予は三日

けれどそれはあくまで沙織が定めた期日

実際にはそれよりも時間がないかもしれない

天乃「……はぁ」

大きくため息を吐いて、

不安に飲まれていく考えを振り払う

不安になってばかりだ

ただでさえ嫌なことを

余計に悪く考えてしまいすぎている

頭ではそう、わかっているのに

天乃「…………」

ベッドの上半分、上半身の方を起こして体を預けると

丁度、カーテンが捲られて樹が姿を見せた

樹「良かった、起きててくれた」

天乃「ふて寝してるとでも思った?」

樹「いえ、体調を崩していたりしないか、ちょっと心配だったので」


病は気からというように、

不安になってしまったことで

精神的な面から体調を崩してしまうのではないか。と

樹「勝手に決めちゃってごめんなさい……とは、言いません」

天乃「樹……?」

樹「お姉ちゃん達は最終手段だって言ってましたけど、それしかないんじゃないかって、私は思ってたんです」

奉火祭は、

天乃たちにとっては理不尽であり、はばかられるべきものではあるが、

世界からしたら、そんなことはない

たった六人の巫女で世界が救えるのだから

尊い犠牲だと言えるだろう、仕方がないことだと割り切れるだろう

そして何より、善悪を問うことのできるものではないだろう

どちらも間違っていない

全員が無事であることを願うのも

世界のために、犠牲を受け入れることも

だからこそ、解決できるような方法はない

だからこそ、最終手段こそが取れるべき手段だと思ったのだ

樹「出来れば話し合いで解決したかった気持ちもありますが、でも、出来ないのなら仕方がないです」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「ということで……」ギシッ

天乃「?」

東郷「久遠先輩の体に正直になってもらうことも仕方がないことで――」グイッ

風「はーい、樹が大切な話してるから退場ね~」

東郷「痛いっ、痛いです風先輩っ、首がっ、締まっ……」ズルズル

樹(……その手は、最終手段かなぁ?)


では、少しだけ


天乃「最終手段しかないって、初めから諦めてたの?」

樹「あ、あきらめていたわけじゃないですっ」

強まった視線に一瞬ひるんだ樹の声は少し上ずって

慌てた否定についさっきまでのしっかりとした雰囲気は崩されてしまっている

こほんっ。と取り繕っても

もはや普段の樹の愛らしい雰囲気はもうしばらくは隠せない

樹「……むしろ、そう思っていたからこそ頑張っていたんです」

最終手段しかないということは、

勇者部が無茶をしなければならないということだ

そんなこと、天乃が喜ぶわけがないと分かっているから、

どうにか、この方法をとらない手はないだろうかと考えようとした

考えて、考えて

それでも、この結果になってしまったのだ

樹の仕方がない。という言葉はそう、軽くはない

樹「久遠先輩の理想はみんなを救うこと。だから、大赦もできるのならそれがしたいんだろうなって思います」

けれど、それはあまりにも理想的で、夢見がちで

多くを犠牲にしてきた大赦には、大人である彼らには

選びたくても選ぶことのできないものなのだ


樹「だからこそ、確実な方法を求めてくるんです」

根性論や感情論といった、

不確定要素の多い作戦は論外で

この力をこう使えば確実にこういった結果を得られる

それが証明できなければ受け入れてはくれない

奉火祭だって、過去の結果あってこそのものだ

樹「だから……」

だから。

東郷先輩から聞いた、祖母の言った「貴女が万全であったなら対策の練りようもあった」という言葉は

それなりに確証があってのことだったはずだ

天乃「なに?」

考えるために生まれた空白

その隙間をつつく天乃の視線を感じて、樹はいえ。と、呟く

樹「だから、おそらくですけど久遠先輩のお祖母ちゃんが言った対策は言い方からして、その力を使って天の神を直接討つことだと思います」

天乃「……樹が考えたの?」

樹「みんなで。です。むしろ、それが最終手段の切っ掛けになったと言ってもいいかもしれません」


樹「大赦は久遠先輩の力があれば天の神を討てると考えた。なら、勇者部全員の力で撃って出れば久遠先輩の代わりになれるかもしれない」

それは、守るために死ぬような戦いではない

守るため、そして、生き残るための戦いだ

それが、久遠家の力ならば可能だと考えたと勇者部は考えたのだ

もちろん、相殺―相討ち―の可能性もあるが

天乃「無茶だわ」

樹「……私を鍛えてくれたのは歌野さんなんです。ウェポンの使い方がベリーマッチしてるからって」

想いだし笑いを浮かべながら言う樹は、寂しそうな表情へと収束していく

いなくなってしまうことを考えてしまったのかもしれない

樹「そのおかげで私はいろんなことができるようになりました。何より、自分に自信が持てるようになった」

農業に関しての知識も気づけば集まってきていて、

スーパーでの野菜選びなんかでは主婦にさえ勝るかもしれない

樹「だから、今更、いなくなっちゃうことなんて考えられません」

だから。

そう続け、握りしめた拳を天乃へとむける

樹「歌野さん達が自分たちの生存を諦めてしまうのなら、その必要はないって、鍛えて貰ったこの力で示したいと思います」

それこそが。と、樹は笑う

樹「私が、私たちが歌野さん達に今、返せる恩。そして、この世界に来て良かったと思って貰える理由になると思うんです」


最終手段

されど、諦めた結果ではない

それしかないならと、決めた覚悟ではない

天乃を心配にさせるし不安にさせる

だから避けるべきであると考えはするけれど、

前向きに考えれば、

歌野達に恩を返す場として、

ここにきて良かったと思わせるための場として

利用することも考えられる

樹「ポジティブすぎる……とは、思うんですけど」

本当は友奈が言うようなものだが、

考えが天乃寄りのためか、戦いに出ることに関してはあまり、前向きではない

もちろん、

友奈には友奈で、なし崩し的ではない戦う理由はあるのだが。

樹「久遠先輩からしたら、不安だと思います。怖いと思います。でも、信じてはもらえませんか?」



1、だったら、私の最終手段は私の力を使うこと。無事じゃなかったら覚悟しなさい
2、まさか、樹からそんなことを言われるなんて思わなかったわ
3、本当に、諦めたわけではないのね? みんなにはみんなの、ちゃんとした理由があるのね?
4、私と貴女達の力は違う。危険よ。やめなさい

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


千景「あっ」

若葉「どうした千景、何かあったのか?」

千景「いえ、ただの杞憂よ……」

千景(あれは俗にいうフラグ……)

千景「まさか、ね」フルフル


では、少しだけ


天乃「だったら……そうね。貴女達がそういうのなら」

天乃は少し考える素振りを見せると半ば睨むような眼を樹へと向ける

勇者から退いていて、

ベッドから自力では動けないような体の状態

にも拘わらず、怯んでしまうような凄味があった

天乃「私の最終手段は私の力を使うこと。無事じゃなかったら覚悟しなさい」

樹「また、久遠先輩は無茶なことを言うんですね」

天乃「無茶でも、無理でも。私はやると言ったらやるわ」

樹「……知ってます。よく、わかってます」

天のなら、たとえ這いずってでも力を行使しかねないことくらい

それくらい、大切に思ってくれていることくらい

樹は良く分かっている

いや、みんなも良く分かっていることだろう

でも、わかってほしい。と、樹は思う

私たちも、同じくらい久遠先輩が大切なんだって。

樹「だから、持てる力のすべてをぶつけてきます。巫女の皆さんを、絶対に助け出します」


樹「それに、目的としては巫女さんを助けることなので、とりあえず戦うのは後回しにする予定です」

多少の自衛能力を持っている防人ならばともかく、

巫女はそんな力は持っていない

ましてや、救出が結界の外になるのであれば、

燃え尽きてしまいそうな熱気にあてられて気を失ってしまうかもしれない

そんな巫女を引き連れての戦闘など

やむを得ない場合を除いて避けたいのが本音だ

そこで無理して戦えば未来の勝利につながると言われても

まずは安全を優先する

樹「大丈夫ですよ、久遠先輩」

天乃「なせば大抵なんとかなる?」

樹「そうですね……成してこそ、何とかなるものだと思ってます」

天乃「簡単に言っていると、足元をすくわれるわ」

樹「そうならないために、今まで頑張ってきたつもりです」

だから、信じてください

だから、待っていてください

樹「久遠先輩に無理されたら、全部台無しになっちゃいますから」

そうならないよう、全力で頑張るから

樹「任せてください。久遠先輩の理想は私達が叶えます」


√ 12月2日目 昼(病院) ※火曜日


01~10 九尾

11~20 
21~30 
31~40 千景

41~50 
51~60 
61~70  若葉
71~80 
81~90 歌野

91~00 

↓1のコンマ 


√ 12月2日目 昼(病院) ※火曜日


精霊として存在している千景たちは、

その繋がりによって互いが知りえた情報を共有することができる

だから、精霊でありながら通常の生徒として学校に通っている沙織によって

勇者部が無茶をしようとしていることは千景たちの耳にも届いていたのだ

だから。と、千景は呟く

千景「……白鳥さん達は、それを止めようとしたのだけど」

残念ながら、逆に背中を押すような形となってしまった

もっとも、千景としては想像に容易い流れだったのだが。

天乃が伊達や酔狂で精霊である自分たちも生かしたいといったわけがないのは

今までの生き方から見ても察することができる

そして、その背中を見てきた勇者部

その思いに寄り添うと決めた勇者部

その彼女たちが、天乃が守りたいといった精霊たちの犠牲をよしとするだろうか

いや、するわけがない

久遠陽乃

彼女が何を考えて自分たちの魂を呼び出せるような細工を施したのかは

千景にもわかってはいない

けれど、今ここにいるのは事実だ

西暦時代に置いてきてしまったものは多く、

記憶だって失ってしまっていた

もしかしたら、その記憶がないということ自体が、陽乃の配慮だった可能性もなくはない


千景「……考えても、わかりそうもない」

目の前にいてくれれば考えようもあるものだが、

故人が何を考え、何を思い、なぜこのようなことをしたのか

終わりのない推測を続ける気にはなれないと

千景はふと息を吐いて、病室の中に姿を見せる

勇者部専用となっている広い特別な病室の中

一人ベッドに横になっている天乃へと、声をかけた

千景「……少しは、目をつむってみるのも悪くはないと思うわ」

天乃「千景……」

千景「大丈夫。勇者部は学校に行っているだけ。少なくとも、昨日の今日で動いたりはしないわ」

三日間の猶予があるといったのは沙織だ

沙織が天乃に対して偽りの情報を与えるはずがないし、

その程度の猶予が作れるだろうことは千景たちにも共有された情報

だから、千景ははっきりと言う

千景「樹との話で少しは考えはまとまったのでしょう? 少しくらい休んでも、平気よ」

天乃「貴女達も、樹たちと協力して戦うのよね?」

千景「ええ。戦うことになるのなら、戦うわ」

そもそも、千景たちは天乃の力を分散したようなものなのだから

全員で天乃の力と同等のものを引き出せるかと言われれば

使い果たす許可を貰えれば。というものにはなってしまうが

千景「結局、どちらにせよ精霊が犠牲になる。と、考えているの?」


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から



陽乃「……えっ? 私が何か裏があってやったんじゃないかって?」

陽乃「そんな邪推されても困るのだけれど」

陽乃「300年後のこととか、自分が死んだ後の世界なんてどうでもいいわよ」

九尾「じゃがお主、未来のためにと子供を――」

陽乃「あ、あれは若葉とひなたのためよ!別に私はどうでもよかったけど、二人が何もないと可哀そうだと思っただけ」

陽乃「それだけなんだからね!」


では、少しだけ


天乃「そうは思っていないわ」

そもそも、穢れを肩代わりすることによる消耗によって、

力を使い果たしてしまう可能性のある水都や沙織を除いて、

天乃の許可なく力を使い果たすようなことはできない

消耗が激しい場合、存在を維持できなくなって一時的な消滅こそするが

それも、時間の経過と天乃の力を借りることでまた姿を見せることができるようになる

だから、その点の心配はしていない

天乃「ただ、神様の反抗するということは簡単ではないと思うのよ」

千景「それには同意ね。樹達の言い分も悪いわけではないけれど……神罰。というものが考慮に入っていないわ」

天乃「神罰?」

千景「あぁ……えっと」

なんて説明をしようか。

思わず口にしてしまったゲーム的な用語をかみ砕こうとしたところで

天乃が「仏罰とは違うものよね」と、呟く

仏罰こそ、千景は知らない

千景「仏罰ってなに?」

天乃「色々あるのだけど、簡単に言えば仏教ってあるでしょう? その仏様の悟った真理に背いた人が見舞われる罰。みたいな」

それは決して仏が与える罰などではなく、自然的に被る罰である

ゆえに、人によってはそれを運命だという人もいたとされる

もっとも、神樹様信仰となった現代においては、神社や寺で運よく書物が残っていれば見ることができる。程度のものだが。

天乃「神罰という言葉も、軽くは知っているのよ。仏罰とは違って、神様が直接お与えになられる罰のことだって」

千景「そう、その通りよ」


説明せずに済んだという安堵の息を漏らすのもつかの間

天乃は悩ましげな表情で千景へと目を向ける

天乃「ただ、問題はどのような神罰が下されるのか。というところなの。千景はその辺り――」

千景「……具体的に浮かぶものはないわ」

適当なことを言っても仕方がない

そう、観念して正直に答えた千景は、

天乃の期待には沿えなかっただろうと目を逸らす

千景「ただ、神に逆らう以上、それは考慮していなければいけないことだと思っただけ」

天乃「樹たちだってその辺りは考えていないわけじゃないと思うわよ」

特に、沙織や園子がいるのだ

その部分の考えもなしに神様に対抗するなんて考えを受け入れたわけではないはずだ

それがあってなお、そうするべきだと考えただけのこと

あるいは、

そうであってもそうするしかなかったと――

千景「久遠さん」

天乃「っ」

千景「あまり、考えすぎないほうが良いわ」

千景の優しい声に沈みかけていた思慮の沼から引きずり出されて、はっとする

窓ガラスに薄く映る顔は、とても、酷いものだった


樹たちがなし崩し的に

そう、それ以外にはないから仕方がないのだと。

諦めた気持ちでその覚悟を決めたわけではないことは聞いた

それぞれに考えがあって、思いがあって

だからこそ戦う覚悟を決めて

けれども、危険なことだからと最終手段にしたのだと。

だから、

自分の願いが樹たちの行動を制限して、

危険な道を選ぶことを強制しているのではないかなんて考えは、

それこそ、失礼な話だろうに。

千景「表面上は平気だと取り繕っていても、闇は積み重なっていく」

天乃「………」

千景「普段は良いけれど、誰もいなくなってしまう広い病室も、今の久遠さんにはあまり良くない」

そう感じるわ。と、千景は天乃の体に触れる

戦いに出ていた時はとても頼もしく感じた天乃も、

やはり、女の子なのだと嫌でもわかる

決して、最強と謳われ崇められ称えられ、孤高で良いわけではないのだとわかる

千景「久遠さん、勇者部の中で一番無理をしているのはきっと、貴女だわ」


1、そんなことないわ
2、知ったようなこと言わないで、私は平気
3、私はただここで待っていればいいだけ。私なんかの願いを叶えようとしているみんなの方が無理しているわ
4、そうかしら……そう見える? ううん、そう見えるんでしょうね
5、そう思うのなら、しばらく一緒にいて

↓2


天乃「そんなことないわ」

千景「本気で言っているのなら、それは久遠さんの感覚がおかしくなっているだけよ」

さんざん無理をしてきたから

いや、誰かを頼って任せるということを怠ってきたからか

それをしているというだけで

自分よりも周りの方が頑張っているという認識になる

天乃「そんなことない」

千景「さっき、自分の顔を見た後でよく言えるわね」

周りの人が傷ついていくこと、無茶をする事

それが何よりも嫌なのに、任せっきりになってしまっている現状

まだ15歳と若いのにも拘らず、母親になっていく体

体だけでなく、心もだ

むしろ、心の方が無理をしていることだろう

千景「今は犬吠埼さん達勇者部がいないからあれだけれど、普段は悟られないように無理しているように見えるわ」

それでも、夏凜相手にはやや甘え気味だが。

他のみんなにはあまり、自分のことで手を紛らわせないようにしているように感じる

千景「久遠さんが甘えても、みんなを喜ばせるだけ。手を紛らわせるなんてことは一切ないはずよ」


天乃「どうしてそんなこと言えるのよ」

千景「見ていて、そう感じるからよ」

傍観者の立場にいる千景だからこそ、わかることもある

寄り添いあう樹たちはとても満たされている

確かに、天乃の理想たる全員が無事な世界を求めるあまり、無理をしている部分はあるが、

その疲れをしっかりと癒してあげられていることだろうと千景は思う

むしろ、

それが堪能できないのは天の神のせいだとして

やや八つ当たり気味になりかけているようにさえ思うほどだ

千景「私は……そう、私も自分に正直になることができていたら、過ちは犯さなかっただろうと今は思う」

天乃「…………」

千景「久遠さんはそんな私と同じようにはなるべきではないわ。せっかく、深く頼ることのできる相手がいるのだから」

天乃「でも」

千景「最終決戦前のイチャイチャは王道よ。どんなゲームにだってある。その時の尊さを胸に、戦うことで力が増す展開だってある」

天乃「……良く分からない」

千景「久遠さんはゲームをやるべきね。暇つぶしにもなるし、いちゃつき方も勉強になるはず」

天乃「今はそれ、関係ないでしょ」

天乃の興味なさげな反応に、

千景は「やっぱり駄目ね」と、呆れたように答えてため息をつく

普段の天乃なら、もう少し話に乗ってくれるはずなのだ

少なくとも、多少の興味は持ってくれることだろう

千景「とにかく、少しくらい甘えたほうが良いわ。久遠さんのためだけじゃなく、みんなのためにも」


√ 12月2日目 夕(病院) ※火曜日


01~10 東郷

11~20 
21~30 
31~40 夏凜

41~50 
51~60  園子
61~70  沙織
71~80 
81~90 
91~00 九尾


↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば昼頃から


千景「後は頼んだわ」

九尾「余計なことを話しおって」

千景「理想のendにたどり着くための手回しってものが、ゲームにはよくあるのよ」

九尾「勝手なことを抜かしおる……変わったのう」

千景「あんな、放っておけない人に呼ばれたからかもしれないわ」


では、少しずつ


√ 12月2日目 夕(病院) ※火曜日


時間の流れを感じやすくなる冬の夕暮れ時

時間を浪費してしまったかのような後悔を感じてしまいそうな胸の痛みに手を宛がうと、

丁度、覆うような影がどこからともなく姿を見せた

前触れもなく姿を見せることができるのは普通の人間ではなく、精霊しかいない

黄昏に溶け込みかける意識を引き上げて顔を上げると、

困り顔の九尾の姿が目に入った

天乃「九尾……」

九尾「お主、犬妹との話でどうするかを決めたのではないのかや?」

天乃「……そう、なのかしら」

九尾「妾に問い返すことではなかろう」

天乃「……駄目ね、なんだか、凄く疲れてるように感じる」

九尾「感じるのならば、まだ良くなったのじゃろう。神樹と外の奴らの干渉があるのじゃ。多少の気疲れがあって当然というものじゃ」

以前までのように目を覚ますことさえ困難で

起きたかと思えば血反吐を吐いたりするようなほどの影響こそないが

多少、疲れてしまう程度には影響がある

それを、知ってか知らずか完全に無視していたのは

焦りがあったからかもしれない

もしくは、それが体調よりも精神面に出ていたのかもしれない


天乃「……それを言うために、出てきたの? 休めって?」

九尾「それもあるが、小娘の余計な言葉で心労が増えたじゃろう」

丸投げしおって。と

不快感しか感じない呟きを漏らした九尾は、

呆れた表情のまま、天乃を見下ろす

閉じかけた瞼は開閉の判別のつかない有耶無耶なままで

瞳は少し、虚ろにも見える

ここまであからさまになったのは

先ほど言った外因的な部分もあるが、

出産が近づいてきているからというのもあるだろう

子供が産まれる際、天乃の体の中に廻っていた力が一気に引き抜かれる

その虚脱感の片鱗を受けているからだ

そんな中で、【神罰】などといった不安要素を残しておくわけにはいかない

千景もし、九尾のそういった心情を理解して話したのであれば、

作戦の立案を任せてもいいだろう

九尾「神罰について、妾から話してやれることがある」

天乃「千景が言っていたこと、よね?」

九尾「うむ。じゃがその前に、主様に確認しておこうと思うてな」


九尾「主様はどうするつもりなのか、じゃ」

天乃「どうするつもりかって……みんなにその手段を取らせるか、よね」

九尾「……うむ」

反応が少し、鈍い

眠気も合わさっていて、

少し目を離した隙に気を失ってしまっていそうだ

天乃「………」

九尾「………」

天乃「そうね……みんなやる気、だから」

止めても無駄かもしれない

言葉通り最終手段

それしかない場合に取る手段として残されているのだから

天乃の許可があろうとなかろうと、みんなはそれをやることだろう

もちろん、許可が出なかった場合には

それ以外の道がないだろうか今以上に頑張って探そうとするだろうけれど。

天乃「そう、ね」


1、その神罰について教えてくれたら決めるわ
2、どうせ言っても聞かないだろうし、せめて、私から後押しすることにするわ
3、その神罰が怖いから、出来ればやらせたくはないわね


↓2


天乃「その神罰について教えてくれたら、決めるわ」

九尾「主様の決定を確認してから……と、妾は言ったはずじゃが?」

天乃「そう、だったかしら……あぁ、そう、ね」

九尾「……はぁ」

少し横になれ。と

上半身を起こしたままのベッドのリモコンを操作し、

天乃の体を横にしていく

天乃「寝ちゃうから……」

九尾「その方が良い。神罰については、小娘どもが戻ってきてから話そう」

天乃「そしたら貴女、起こし――」

九尾「ちゃんと聞かせるから安心するがよい。これは、主様が必要なことじゃからな」

むしろ、天乃がいなければいけない

なのに、聞かせない理由などない

もっとも、聞かせなくていいならば、聞かせたくない話でもあるのだが

九尾「とにかく、主様は少し休んでいたほうが良い」

もう夕方なのだから

勇者部の面々もすぐに帰ってくることだろう

ほんの十数分程度にはなるだろうが

それでも、ちゃんとした受け答えができるくらいにはなるだろう

九尾「今は眼を閉じ眠れ。闇が恐ろしいのならば妾が居よう」

九尾はまだ開く瞼を下ろすようにそっと手を動かした


夏凜「天乃……起きれる?」

天乃「……っ」

九尾に誘われて眠りに落ちてからどれくらいの時間が経過したのか、

いつの間にか帰ってきた夏凜の声、揺すられる体の感覚を頼りに

ゆっくりと目を開こうと努力する

だが、まだ起きるなと叩き伏せるようなずきりとした頭の痛みを感じる

まだ眠っていたいと精神的な疲れの訴えを感じる

しかし、いつまでも寝ていられない

大事な話を聞くために寝たのだから

聞くために寝たのに、眠り続けていたら意味がなくなってしまう

天乃「夏り……痛っ」

夏凜「やっぱ無理なんじゃない? 明日にした方が――」

九尾「日を跨げば出産が近づく。まだ話せる今のほうが良かろう」

夏凜「そうは言ったってこんな」

天乃「……大丈夫よ。ありがとう」

頭に触れてくれている夏凜の手に手を重ねながら、

何とか微笑んで見せる

それすら痛々しいものだっただろう

夏凜はあまり納得していないという表情を浮かべる


夏凜「話を聞く程度にしなさいよ? 聞いたら寝る。いいわね」

天乃「ん……ごめんね。大事な話だから」

夏凜「それは九尾から聞いたわよ」

東郷「出来る限り手短に。お願いできますね?」

まだぼやけて感じる視界

自分のベッドの周りにいる東郷たちの姿を何とか感じ取る

夏凜が最も寄り添ってくれているが、

友奈たちも、出来る限り近くにいてくれている

まるで、九死に一生を得て目を覚ましたかのような感覚だ

九尾「ふむ……そう長くなる話ではないぞ」

無論、おぬしたちが余計なことを聞かなければじゃが。と

九尾は怪しげな言葉を含んで口を開く

女性の姿をした九尾は看護師の衣服を身に着けているが

その分、得体のしれない部分が増しているようにも感じる

九尾「おぬしらは神罰。というものを考慮しておるかや?」

沙織「当然。神様に戦いを挑む以上は避けては通れないものだと思ってる」

バーテックスに歯向かうというレベルの話ではない

捧げものを横から強奪しようというのだ

神罰が下っても仕方がないと言えるだろう

だから、考慮していないわけがなかった


九尾「じゃが、それがどう降りかかるものなのか、何が起こるのかまでは考えておらぬじゃろう?」

風「考えたには考えたけど、考えつかなかったっていうのが正しいけど」

考えつかなかったのだ

考えていないと言われても否定はできない

困り顔の風の横、

余計な口を挟むと話が長くなると言われて引きがちだった樹は

ちらっと天乃の方を見て、九尾へと目を向ける

樹「伊集院先輩を経由して状況は知っていたんじゃないんですか?」

九尾「すべてではないから確認しただけじゃ。さて、その神罰についてじゃが、実際にはこういわれるじゃろう」

【祟り】

話を一旦収めてから口にした短い言葉

強調されたそれを勇者部の面々はぐっと飲み込む

曖昧さのある神罰も、やはり、自分たちに良くない影響があるということは分かるが、

祟りという言葉はそれをより鮮明にして、恐ろしさが増す

九尾「巫女は確か6人じゃろう? 全員を救うつもりなら、全員がその祟りの影響を受けることになるはずじゃ」

一人につき一人

巫女と勇者で考えれば、非常に割に合わない計算になるものだが、

天の神としては、神世紀に入るころの誓いを破り、

あまつさえ、奉火祭による供物を強奪されるのだ

見逃せるものではないだろう


友奈「6人って、勇者部みんなのこと、ですよね?」

九尾「それ以外になかろう。精霊には干渉しがたい力が働いておるからのう」

天乃「……わたし?」

目を向けられ、

何の話かと疑問符を含んだ呟きを漏らす天乃に、九尾は頷く

干渉されることはあっても、完全に食切ることはできない

むしろ、天乃の持つ神殺しの力を受ければ

天の神が無事では済まないかもしれない

九尾「その祟りの対策じゃが、そこで主様の血を使う」

天乃「私の血?」

東郷「もう処女ではありませんが――」

風「東郷、今はそういう話はしてないから」

東郷「えっ、まじめな話……」

園子「処女はそれだけで神聖化されているというか、清浄だと思われているからね。巫女としてもそういう部分を重視するところはあるから」

わっしーは悪くないよーよしよし。と

落ち込む東郷を慰めながら、園子は優しく続ける

園子「それで、天さんの血を使うってどういうこと? 儀式を行うの?」


九尾「うむ。それぞれに主様の……いや、久遠家の血族となってもらわなければならぬ」

そうしなければ、

祟りによる影響を酷く受けることになってしまう

もちろん、久遠家の血族としたところで

祟りの影響を完全に消滅させることは不可能だが

それによって蝕まれることや、

それによって遭うはずだった災難を多少なりとも軽減できる

天乃が持つ穢れの力と干渉し対消滅してくれるからこそできる芸当だ

天乃から血を摂取するため、少し天乃もつらい思いをしてもらうことにはなるが

その方が、精神的には優しいだろう

九尾「血の誓約を行う。どうせ結ぶのじゃろう? 構うまい」

天乃「それは……」

夏凜「お好みのタイミングがどうとか、言ってられるやつじゃないんでしょ?」

九尾「うむ」

樹「では、それを事前に行うことはできませんか?」

九尾「出来るが、力を上塗りされれば強い拒絶反応が起こるじゃろうな。内側から噴出するであろう祟りの影響を丸め込む方が良い」


東郷「……そうですか」

友奈「で、でもあれだよね。婚約……して、別で結婚。みたいな」

樹「確かにそう考えればいいよ言うな……あれ?」

そういう話ではない気がします。と

一人我に返った樹の後を追うように

そうだよね。そうじゃないよねと慌てる友奈をなだめる園子

いつもの雰囲気が戻ってきてしまう勇者部を横目に、沙織は小さく苦笑する

沙織「九尾さんは、祟りが確実に降りかかる前提なんだね」

九尾「そうならぬわけがないからのう」

しかし、本当の問題はそれからだ

天乃が求めた通り、全員無事―祟りは受けるが―で戻ってきたとしても、

供物を奪った代償として新たな供物に選ばれるであろう六人の受けた祟り

それを抑え込んでしまうのだ、天の神もさすがに本気になってくることだろう

九尾「じゃが……」

天乃「?」

九尾「くふふっ、あの小娘の企みを阻害するという考えならば妾も楽しめるというものじゃ」

くふふふっ

そう、怪しげな笑みを浮かべる九尾は

本当に、心の底から笑っているように感じた


夏凜「祟り……ね。ま、あんたの穢れを負うようなもんだと正直思ってたわ」

祟りという名前で聞いたわけではないが、

天罰があるという話を聞いた時に、夏凜はそう思ったという。

天とは、天乃のことで

罰は、そのまま罰

だから、その理不尽に与えられるであろう天罰は

天乃が受けている穢れの苦痛そのものだと

簡単に考えたわけではないけれど

天乃と同じ状態になるのならばそれもありだろうと考えたのだ

現実は、それよりも厳しいことになるようだが。

そうでなければ、九尾がわざわざ口を挟んでくることはないだろう

夏凜「……聞いたでしょ? あんたにもできることがある。あんただけが頑張るわけじゃない」

天乃「ん」

夏凜「だから、あんたは気負わず体力温存しときなさい。子供、産むんだから」

出産するだけでも、酷く体力を消耗するという話を聞いたことがある

穢れや神樹様、天の神の影響を受けてただでさえ消耗しているのだから

出来る限り休み、疲れないようにする

夏凜「それが今のあんたがやるべきこと。わかったら休む。大丈夫、あんたが眠ってる間に出て行ったりなんてしないから」


夏凜はそういうと、笑みを浮かべて天乃の頭を枕に戻す

ずれた布団を胸の上にまで引き上げて

目元にかかる前髪をさっと払う

夏凜「ほら、おやすみ」

天乃「ん……」

東郷「あっ」

友奈「東郷さん、しーっ」

ゆっくりと、夏凜の顔が近づいてきたのが最後に見えた光景

影がかぶって真っ暗になって、

かすかな吐息を額に受けて、瞼を閉じる

その直後に感じた、何度も味わった柔らかさ

東郷の挙げた驚きの声と、止めに入る友奈の声

その感触と、空気感は心地よくて

何より、安心できて

天乃はゆっくりと、意識がまどろみの中に溶け込んでいくのを受け入れた


では、こちらのスレはここまでとさせていただきます
続きは次スレ


【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十七輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十七輪目】 - SSまとめ速報
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