【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】 (1000)

このスレは安価で

久遠天乃は勇者である
結城友奈は勇者である
鷲尾須美は勇者である
乃木若葉は勇者である
久遠陽乃は……である?

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的


・バーテックスの殲滅


安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります


日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2


能力
HP MP SP 防御 素早 射撃 格闘 回避 命中 
この9個の能力でステータスを設定

HP:体力。0になると死亡。1/10以下で瀕死状態になり、全ステータスが1/3減少
MP:満開するために必要なポイント。HP以外のステータスが倍になる
防御:防御力。攻撃を受けた際の被ダメージ計算に用いる
素早:素早さ。行動優先順位に用いる
射撃:射撃技量。射撃技のダメージ底上げ
格闘:格闘技量。格闘技のダメージ底上げ
回避:回避力。回避力計算に用いる
命中:命中率。技の命中精度に用いる

※HPに関しては鷲尾ストーリーでは0=死になります


戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに



√ 4月1日目 朝(某所) ※日曜日



天乃「ん……」

ちゃぽん……っと、雫が滴る風呂釜の中で、少女が体を伸ばす

讃州中学の特別学級三年である久遠天乃は

生徒であるのと同時に、勇者部という部活動の設立者である天乃は

今日行う園児への演劇の完成度を思い、息をつく

うまくいくだろうか

楽しんで貰えるだろうか

もちろん、そうなるようにと部員共々努力してきてはいるが

幾分、不安は絶えない

九尾「悩むべきはそこではなかろうに」

天乃「目先の問題は、まずはそこだから」

思考を読んだ入口からの声に、

天乃は考える時間すらなく、答える

九尾「違うじゃろう」

しかし、

真っ白な肌を持つ女性、九尾にとって、その答えは不服だった


九尾「ほぼほぼ確定しておるのじゃろう?」

天乃「……まぁね」

九尾「伝えぬままで、良いのかえ?」

天乃「それが風の望みでしょ」

やや適当に感じる受け応えながら

その言葉にはしっかりと、力がこもっている

それは天乃が

そうするしかない

それでいいじゃないか

などと諦めていないこと、選択の意思を投げ捨ててはいないことを示しているのだと九尾は感じ取り

けれども、溜息とともに「直前では選択らしい選択もできまい」と、吐く

天乃はそんな九尾を一瞥すると、

両腕だけの力で風呂釜から体を起こし、九尾のもとに飛び込む

九尾が自身の体を難なく受けた抱擁感を感じて、天乃が顔を上げると

いつもの呆れ顔が視界に入った

天乃「でも。直面してからでしか出せない答えもある。その恐怖を知って。なお選んでこそ正しい決断だわ」

九尾「……否定はできぬな」

わしわしと力強く髪を拭きながら、九尾は言う


何も知らないまま、何も見ていないまま

その現実に対する自分の本当の反応を知らないまま

何かを伝えられ、決断する

その無意味さを、九尾はよく知っている

そして、天乃もまた、それを知っている

だからこそ、九尾は否定できない

天乃「まぁ、あの子達が決断をするまでの時間を。風でも稼げるだろうし――」

九尾「主様に傍観が出来るとは思えぬな」

天乃「……………」

ぴしゃり。と、

言葉を完全に遮断され

しかも言い返せない言葉ということもあって、天乃は沈黙する

九尾「……まぁ良い。いずれにしても。問題は小僧小娘共のご機嫌取りなのじゃろう?」

天乃「そう言う言い方、あの子達の前でしたらダメよ?」

九尾「善処する」

そう言い残して、九尾は忽然と姿を消す

天乃「……しないくせに」

ひとり残された天乃はそう呟き、

ふと気づいて辺りを見渡す

天乃「ちょ、ちょっと! 着替え手伝って!」

どこかからか、くすくすと笑い声が聞こえた


√ 4月1日目 朝(某所) ※日曜日

↓1コンマ判定


現地集合 最初の接触相手


01~20 風  21~40 樹  41~60 東郷  61~80 友奈  81~00 沙織


樹「おはようございます、久遠先輩」

天乃「あら、おはよう」

天乃と同じく部の設立者である犬吠埼風の妹、樹

最初はおどおどしくて

内向的で、話すことすら困難だった樹だが

今ではだいぶ慣れてきていた

元気のいい挨拶を向けられて、天乃は嬉しそうに微笑むと

あたりを少し見て、樹を見直す

天乃「風は?」

樹「お姉ちゃんなら準備があるって、中にいます」

天乃「そっか」

樹「呼んできましょうか?」

天乃「大丈夫」

樹の気遣いに、天乃は首を振る

特別、緊急で話すような内容ではない

それに。きっと

すぐに大赦から連絡が来るはずだと、天乃は言葉を飲み込む


天乃と風は樹達勇者部員に隠し事があり、

それは今朝九尾と話していたことが深く関わっていた

大赦という神樹様と呼ばれる神様を祀っているとても大きな組織

天乃は少し特殊だが、風と天乃はその組織と繋がっており

ある特別なお役目の最中なのである

そしてそれが、次の段階へとゆっくり進行していることを

天乃達は……打ち明けていなかった

樹「……うまくいくかどうか、心配ですか?」

天乃の表情に一抹の不安を感じたのか、

樹の方が心配しているんじゃないか。と、

言い返したくなるような表情で、樹は問う

天乃「んー……」

不安そう。だったかな?

そんな風には見えないようにしてたんだけど……



1、樹と私って。身長同じだなぁって。思ったのよ
2、ううん。貴女達の頑張りは見てきたもの。不安はないわ
3、友奈が勢いに乗ってやらかさないか心配よ……
4、樹は。どんなことがあっても。風と一緒にいる覚悟はある?



↓2


天乃「樹はどんなことがあっても。風と一緒に居る覚悟はある?」

樹「え?」

天乃「……なんて、ね」

樹の困惑に満ちた表情を見て、

天乃は冗談っぽく笑ってみせる

困惑していようと、いなかろうと

答えられようと、られまいと

天乃はそれを冗談で終わらせるつもりだった

どうしてそんな事を言うのか

何の意味があるのか

分からない以上は本当に選びたい答えをしようがないし

下手な事を言うと風に怒られるからだ

けれど

樹「よくわからないですけど……お姉ちゃんについていきます」

どこまでも。いつまでも。最後まで

私にとっての、大事な家族。大好きなお姉ちゃんだから

気恥ずかしくて言えない言葉を飲み込み、赤面しながらも樹は答えた


天乃「……………」

率直に、驚いた

わからないです。という言葉で止まると思っていた言葉が

ついていきます。と続いたからだ

天乃「……そう」

天乃はどこか悲しそうな笑を携えて

空気のような言葉を吐き出す

知らないから、そう言えるんだろう。と

邪推することもできる

けれど、天乃はそうしなかった

樹里の言葉を否定せず、追求せず

ただ耳に残して、笑みを浮かべる

天乃「ちょっと。羨ましい」

樹「羨ましい。ですか?」

天乃「ええ。私には兄弟とか。いないから」

正確には親類縁者誰ひとりとして記憶にない

それもまた、天乃が隠している秘密の一つで

これに関しては風にでさえ、話していない


天乃「だから。ね。そう言ってもらえるの。羨ましいなと思ったの」

もちろん、そのことは話さない

天乃が作った偽りの設定として

家族は既におらず、独り身であり使用人として九尾を雇っている

というものがあるからだ

しかし

それがなくとも

その真実からさらに飛び出してくる真実は

とても、易々と語っていいものではないからだ

樹「………………」

樹はそんな天乃を見つめて、照れくさそうに頬をかく

いつも言っている言葉

けれど、風ではないということが口に蓋をする

天乃「樹?」

樹「ぁ……その」

天乃「?」

樹「いえ、何でもないです……そろそろ。なかに入りませんか?」

勇気は出せなかった

悲しそうな顔を、笑顔にはできなかった

そんな自分の弱さに、樹はため息をついた


√ 4月1日目 昼(保育園) ※日曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定

↓2

※沙織は電話


ではこちらで勧めてしまいますね

01~10 風
11~20 友奈
21~30 東郷
31~40 樹
41~50 死神
51~60 九尾
61~70 園児1
71~80 園児2
81~90 不審者
91~00 沙織

↓1のコンマ  


では、本日はここまでとなります
あすもできれば通常時間からとなります



変質者が兄という非情な真実を、少女はまだ知らない


では、初めて行きます


九尾曰く、小娘小僧のご機嫌取り

こと、園児への演劇披露会は滞りなく終えることが出来た

と、言っても

友奈がセットを誤って倒したり

それによって場が混乱したからと

魔王に対し人間の力を思い知らせようと園児を先導するぽっと出の女王様がいたりと

とても大成功とは言えない中身だったのだが……

しかし、

園児が喜んでいれば良かった。という点のみを上げるのであれば

成功だと言えるだろう

天乃「……………」

じっとしている演劇から参加型の演劇へと移った熱は途切れることなく園児を焚きつけてしまったらしく

お昼の現在も、園児を交えて遊ぶ勇者部を遠巻きに眺め、天乃は息をつく

すると、どこからともなく陽の光に似つかわしくない黒い靄が現れ、

死神「クオンサン」

小さな丸い体を黒いローブですっぽりと覆った死神が姿を現した


天乃「来る?」

死神「モウチョット……デモ。クルヨ」

死神は否定し、肯定する

今ではないが後で来るという嫌な発言を耳にして

天乃は空を見上げる

どこまでも青い空

しかし、果のある空

知る人の限られた真実を知っている天乃は、

楽しげな部員に目を向け、「近いの?」と、死神に問う

死神「チカイ。アシタカ、アサッテ?」

天乃「……でしょうね」

言いながらも、天乃は死神を見ず

役立たずな自分の両足をポンポンっと叩く


これから勇者部に降りかかるであろう厄介事

それによって失った、体の機能

でもそれは両足だけではない

天乃は片耳が聞こえないし、味覚がない

そして天乃は親類縁者の記憶がない

それら全てが、厄介事

正しく言えば大赦や神樹様からのお役目の最中に失ったものだ

でも、

天乃はそれを勇者部の誰にも語ってはいない

同じく大赦側の協力者として内通している犬吠埼風にはもちろん

天乃とは旧知の仲【だった】東郷美森にも、話してはいない

天乃「穏やかに生きていくって、簡単じゃないのね」

死神「……スクナクトモ。クオンサンニ。ソレハユルサレナイ?」

天乃「あら、厳しい」

死神「クオンサンハ、ユウシュウダカラネ」




1、無関係な精霊について(大熊猫、穿山甲)
2、褒められても嬉しくないわ
3、久遠の名前って。そんなにすごいの?
4、今度は……守れるのかしら
5、隠れんぼに協力してもらう(隠密雲隠れ)


↓2


死神の優秀という言葉に

天乃はピクっと反応して、死神を見る

その瞳から明るさが損なわれていることに死神は気づき

真っ赤な瞳で見返す

目をそらしたり、話を変えたり、謝ったり

人間ができることができないがゆえの対応

けれど、今はそれが正しかったのかもしれない

天乃「……今度は、守れるのかしら」

死神「マモルヨ」

天乃「……………」

死神「ダイジョウブ」

守れるかどうかではなく、守るか否か

死神はそれだけを答える

望んでいた答えではない

けれど、その自信に満ちた小さな味方の言葉に

天乃は笑みを返した


天乃「私が無理でも、貴方が守ってくれるのね?」

死神「クオンサンガ、ノゾムノナラ」

天乃「頼もしい言葉ね」

天乃は茶化すように笑う

けれど、本心では信頼している

死神のことも、九尾のことも

天乃「……もうすぐ、戦いがまた。始まるのね」

久遠天乃は、

讃州中学の特別学級三年の生徒であり、

讃州中学に存在する勇者部の部長補佐であり、

大赦という神樹様を祀る組織の関係者であり、

そして……

天乃「もう一度。勇者になるのね」

知られてはいけない重大な真実と

この世界を守る――勇者である

しかし、それを知っているのは……この場において

今はまだ、風のみだった

√ 4月1日目 夕() ※日曜日


犬吠埼風から勇者部全員に交流の申し込みがあります


1、受ける
2、受けない


↓2


天乃「お疲れ様会って……」

東郷「わかっていたことでは?」

風「二人して何よその反応はぁ……」

少しばかり悲しげに言う風を東郷と天乃は一瞥して、顔を見合わせる

もちろん、東郷の言うとおり分かっていた

お疲れ様会の会場が、

普段となんの変りもなくかめやであることは、

東郷も天乃も樹も友奈もわかっていて

もちろん、それが嫌なわけでもない

天乃「お疲れ様会なんだから、豪勢に行くのかと思っただけよ。安心して。期待はしてなかったから」

風「なにおうっ! アタシの手料理作るぞーっ!」

天乃「それはまたの機会にしたいわね」

どうせ、味なんて分からないから。と

天乃は大切な部分を言葉にせず、笑う

すると

樹「お姉ちゃんも久遠先輩も張り合わないでくださいっ。お客さんの邪魔ですよっ」

樹に怒られてしまった


では、今回はここまでとなります
あすもできれば通常時間から



樹「! いつかの私が囁いてる。久遠先輩には味覚がないって」

友奈「っ! 久遠先輩が犠牲になっていく未来が見える。止めなきゃ!」


では、初めて行きます


友奈「いつも思うんですが」

天乃「?」

友奈「久遠先輩って小食ですよね」

東郷「こういってはアレだけれど、風先輩とは正反対な感じだわ」

友奈と東郷の指摘に、

樹も「確かにそうですね」と、同意して頷く

既に二杯目、三杯目に突入しかけている風は規格外にしても

勇者部の中では小食に位置づけられる樹よりも食べていないのだから、

その疑問も仕方がない

風「そんなんだから、身長が伸びないのよ」

天乃「いいじゃない、別に」

樹「久遠先輩の身長って……」

東郷「たしか樹ちゃんと同じだったはずよ?」

樹「同じ……」


樹はそう口にしながら、じーっとある一点を見つめる

天乃の体

身長が伸びないほどの小食なのに

明らかにそこだけは成長しているであろう場所

羨ましいわけじゃないけれど

羨ましいわけじゃないけれど

と、樹は頭の中で繰り返す

天乃「どうかした?」

樹「ぁ、いえ……その」

風「久遠の胸が大きいのが気になるんじゃないの?」

樹「ぅっ」

せっかく言わなかったのに

そんな目をする樹に、風は笑いを返すだけで

東郷が困ったように息をつく

東郷「大きいという点において、利点はないから。適度に成長するのが一番なのよ。樹ちゃん」

樹「適度……」

その適度すら、叶いそうにないと不安になっているのが樹だった



1、樹、東郷の忌々しい胸をもぎ取ってあげなさい
2、風が成長してるんだから。大丈夫じゃない?
3、緊張とか、不安とか。するだけ無駄よ。樹。焦ったり急かしたりしても、成果なんて出ないものだからね
4、揉むと大きくなるらしいわよ
5、私はそのままの樹がいいと思うけど
6、話に入らないでおく



↓2


天乃「樹」

樹「はい?」

天乃「東郷の忌々しい胸をもぎ取ってあげなさい」

天乃が悪戯気分で言うと、

樹はちょっぴり困った様子で東郷を見て

もう一度天乃を見る

風「どちらかといえば、忌々しいのは久遠なんじゃないの?」

天乃「私は別に東郷を忌々しいだなんて――」

風「いや、久遠が東郷を。じゃなくて、樹が久遠を。よ」

風の訂正に天乃はなるほど。と、思い、

樹を見ると、樹は「そうですね」と、笑みを浮かべる

何がそうですね。なのかと考える必要はなかった

友奈「身長、同じだもんね」

友奈はどうしようかと悩んでいる表情で言うと

ここはお店の中よ。と、東郷が樹に言葉を投げかけた


樹「も、もちろん。しないですけど」

天乃「けど?」

樹「どうしたら……とは。ちょっと思います」

樹は可愛らしく頬を染めて、目をそらす

天乃には理解できないことだが

樹にとって、胸の大小は気になることらしい

それは友奈も似たような思いがあるようで

樹に対し「そうだよね」と、呟く

天乃「……風、教えてあげたら?」

風「なにをよ。豊胸手術とかお姉さん許可しないぞ」

天乃「自分の維持費でていっぱいだものね」

風「もぐわよ。久遠」

にやりと笑う天乃に、風は詰め寄って、ニッコリと笑う

もちろん二人共冗談なのだが

風は少しだけ……本当に触ってみたいと。思った


東郷「結局、お疲れ様会と言っても、いつもと変わりませんでしたね」

友奈「楽しかったし、いいんじゃないかなっ」

東郷「うん、そうだね」

友奈の笑顔に、東郷も笑みを浮かべて同意する

そんな二人の強い関係性を喜ばしく思いながら、

天乃は少し、寂しげな息をつく

風「……どうかした?」

天乃「ううん。別に」

風「メールの件?」

天乃「ううん、それとは別よ」

風の心配に答え、天乃は目をそらす

東郷のことを、天乃はこの中の誰よりも知っている

けれど、東郷はそのことを知らない

ゆえに、天乃と東郷はただの先輩後輩

ただの部活仲間

その程度でしかない

以前との落差になれたと思っていても

寂しいものは寂しく、悲しいものは悲しくて

けれど、天乃はただの先輩、ただの部活仲間の仮面を外さない

否、外せなかった

樹「また明日ですね。久遠先輩」

友奈「また明日お願いしま~すっ!」

明るい別れをし、天乃は九尾とともに家路に着いた

√ 4月1日目 夜(自宅) ※日曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、SNS

↓2

※3~7は電話


天乃「…………」

端末を取り出して、ワンコール

コール音はすぐさま途切れて、熱っぽさの感じられる息が端末から聞こえた

天乃「そんな急がなくてもいいのに」

沙織『久遠さんからの電話だからね。重要なことだったらまずいし』

天乃「そうじゃなければいいなって。期待を感じる声ね」

天乃がそう言うと、

電話相手の伊集院沙織はバレちゃった? と、笑う

沙織は天乃と同じく特別学級の生徒で

曰く、耳が上手く聞こえないらしい

それはもちろん嘘で、作り話で、設定で

実のところ、学校に行かなければいけない天乃のサポート役として

大赦から派遣されてきた数少ない巫女の家系の女の子だ

もっとも、天乃はサポートだと思っていないし

沙織自身、これは大赦からの監視のお役目だよ。と

隠しても無駄な嘘はつくまいとバラしていた


天乃「風に選定の可能性が高いこと。伝えたの?」

沙織「伝えておいたよ」

天乃「……そう」

神樹様によって、神樹様と世界を守る役目を担う勇者の選出

そレに選ばれる可能性が非常に高い

もっと言えばほぼ確実に選ばれるのが、讃州中学勇者部だった

天乃、風、友奈、東郷、樹

以上五名の勇者部だが、内二人がワケアリではあれど、

既に勇者としての戦闘を経験済みで

選ばれない方がおかしかった

沙織「巻き込みたくない?」

天乃「……まぁ、わがままを言えばね」

沙織「だろうと思った。それで? 電話の理由は? 久遠さんの家について。ようやく聞く気になった?」



1、貴女と話したいと思ったの
2、襲撃の正確な日にちはわかる?
3、貴女も勇者部に来たら?
4、どうやったら胸が大きくなるか。貴女の意見を聞かせて?
5、久遠家について


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から



記憶保持ループ等はないですね
ただ、前回とは多少違ってくるかと思います


では、初めて行きます


天乃「そうね……戦いがまた始まるのなら。避けては通れないことなんでしょう?」

沙織『うん。久遠さんには辛いことだと思う。でも、知っておくのと知らないのとではわけが違う』

天乃「なら、教えて」

申し出てから、天乃は息を呑む

自分が失った記憶

それを知ることが戦いに重要だというのだ

久遠家とは一体何なのか。と

天乃が不安になるのも無理はなかった

沙織『久遠さんは大赦から怖がられてるよね? なんでかわかる?』

天乃「曰く、何するかわからないから」

沙織『正しくはね。【何が起こるか解らないから】なんだ』

天乃「どういうこと?」

沙織『久遠天乃という人間との接触によって、何が起こるか解らないんだよ』

天乃「まるで、化物ね」

沙織『まさか。火山のダイヤモンドだよ』


くすくすと沙織が笑う一方で、

天乃はなんなのよ。と、悪態をつく

沙織が言いたいのはつまり

躾ければなんとかなるかも知れない化物程度ではなく、

下手すれば一瞬で大災害を起こしかねない火山こそ、天乃で

天乃と関わるのはそこに眠る原石を採掘するほどの危険なことだということだ

沙織『触らぬ神に、祟りなし。山の天気ほど、変わりやすいものもないし』

天乃「あのね……」

沙織『久遠さんは特別なんだよ。久遠家も。久遠さんも特別なんだよ』

沙織は一転して、生真面目な口調で繰り返す

天乃は特別だと

久遠家は特別だと

沙織『九尾さんが一番詳しく知ってるとは思うけど。久遠さんには二つの力があるんだ』

天乃「巫女と勇者でしょう?」

沙織『ううん、神樹様と、バーテックスだよ』


沙織はさもそれが当然の言葉であるかのように、

呼吸をするかのごとく、告げる

天乃「え?」

沙織『私も聞いた話というか見た話でしかないけど』

沙織はそう前置きをすると

確かこの辺に。と、電話の奥でガサガサと何かを漁る音が聞こえて

何かが落ちる音がした

天乃「沙織?」

沙織『………………』

天乃「沙織?」

返事がなく、もう一度呼んでみると

少し離れた場所で、はーいっと。声が聞こえてきた

沙織『ごめんね。ちょっと見つからないや』

天乃「なにが?」

沙織『旧世紀の日記。御記って言ったほうがいいのかな。久遠さんに見せようかと思って置いておいたはずなんだけど……』


それはとても大切なものなんじゃないのだろうか。と

天乃は思って、ため息をつく

天乃「大丈夫なの?」

沙織『原本は大赦が管理してるからね』

そう答えた沙織だったが、

すぐに「ぁっ」と、声を漏らして、今のは無しで。と撤回する

天乃「まさか、貴女。複製しちゃいけないもの複製したりしてる?」

天乃がそう尋ねると

沙織はあからさまに誤魔化した口笛を吹き

沙織『気のせいじゃないかな』

と、嘘をつく

いずれ、粛清されても知らないわよ。と

天乃は心の中で注意して、端末を耳に押し当てる

天乃「その件に関しては、九尾に聞けばいいんでしょう?」

沙織『教えてくれるかは別だけどね』

天乃「たしかに」


聞きたい気持ちがあって

同じくらいに聞きたくない気持ちがある

知ればきっと、今以上に大きなことに巻き込まれてしまうのだろう

まだ、日常に戻れるかも知れない位置にいる今を

完全に捨てなければいけないのだろう

と、天乃はどこかで感じ取っていたからだ

だから、天乃は沙織が詳しく説明できなくてよかったと思った

教えてくれるのか不確かな九尾に一任することになったのが

少しだけ、ありがたいと思った

けれど

沙織『あたしが記憶している部分だけ話しておくね』

沙織はそう言って、続ける

沙織『久遠さんには久遠家の中でも随一の力がある。だから、【アメノ】という神様の名前を与えられた』

天乃「っ」

沙織『ある意味、神様への下克上だよね。人間風情が神様の名前を貰うんだから』

天乃「……………」

沙織『でも、それが久遠家の決まりだったんだ。強い力を持った女の子が生まれたらその名前を与える。それが、久遠家の決まりだったの』


沙織『それを決めたのが、久遠さんの先祖。久遠陽乃さん』

天乃「……相当、神様が嫌いだったのね」

沙織『記憶が正しければ、陽乃さんの両親はバーテックスへの人柱にされたからね』

天乃「え?」

沙織『しかも、周りの人の勝手な【総意】で捧げられちゃったらしいの』

だからきっと

人も、神様も

何もかもが大嫌いだったはずだよ。と

沙織は声のトーンを落として答える

天乃「な、ならどうして。神様の名前を?」

沙織『そこまでは分からないかな……ごめんね』

天乃「御記には書いてなかったの?」

沙織『理由までは。たしか書いてなかった』

先祖である陽乃に聞くか、九尾に聞くか

実行可能なのは後者だが、きっと。教えてはくれないだろう


では、此処までとさせて頂きます
大赦サイドなので、序盤で学べることは多いかと




沙織「で、一番重大なことがあるんだ」

天乃「な、なに?」

沙織「久遠さんのお兄さんは……重度のシスコンを患った変態さんなんだ」

天乃「!?」


では、本日も進めていきます


沙織『でね? 久遠さん』

天乃「…………」

沙織『久遠さん?』

少しだけ強く呼ばれ、天乃はハッとして端末を取りこぼし

マイク部分が布団に接触したからか、沙織の小さな悲鳴が聞こえた

天乃「ごめんなさい、大丈夫?」

沙織『久遠さんは?』

天乃「平気。ちょっと、考え事をしてたの」

そう答えると、沙織は少し黙って何かを言う

余りにも小さいその声を、端末は拾えなかった

天乃がなに? と聞き返しても、

沙織は何でもないよ。と知らないフリをして、苦笑する

何かを言ったはずだ

何かを考えたはずだ

けれど、追求しても、沙織は誤魔化すのだろう


沙織『それで、久遠さんのおうちのことだけどね』

天乃「うん」

沙織『大赦の中でも結構なお偉いさんなんだよ? 知ってた?』

答えを分かりきっている問いかけに、

天乃は沈黙を返して、心の中で知らないわよ。と毒づく

天乃「………………」

けど……偉い人なのね

まぁ、娘がこんな状態じゃ。多少なりとも特別扱いもあるのかな。と

天乃は苦笑する

楽しいからではなく、皮肉だ

そんなもので、親は喜ぶのだろうか。兄や姉、妹や弟はありがとうと言えるのか。と

不満だった

沙織『久遠さんの家は、おばあさん、おじいさん、お母さんに、お父さん。お兄さんに、お姉さんそして久遠さんがいる』

天乃「七人?」

沙織『うん。祖父祖母が大赦中枢にいて、ご両親が神社の神主と巫女。お兄さんはプログラム関係。お姉さんは武術鍛錬の先生で高校生』

天乃「で、私は勇者で中学生」

冗談じみた口調で続けて、ため息をつく

明らかに、普通とは言えない家族だった


お兄ちゃんは普通にしても

女子高校生が武術鍛錬の先生っていうのは……どうなのかしら

もちろん、

それを任されたり、許可をもらえるということはそれなりの実力であるということだろうけれど

気にはなる

沙織『一番普通じゃないのは、お兄さんだよ』

沙織は天乃の思考を先読みしたのか、

声だけでも分かるほど、呆れて言う

沙織『近況の久遠さんの写真見せて貰ったけど』

天乃「?」

沙織『なんというか、努力を惜しまないんだなぁって。尊敬しちゃうよ』

天乃「沙織。ねぇ、ちょっと」

沙織『そろそろ、眠くなってきたし。またあした学校でね。おやすみ』

天乃「さお……」

沙織のあくびとともに電話が切れて、ツーツーツーと、虚しい音が響く

天乃「写真って……写真ってなによ」

聞いても、誰も答えてはくれず

風が当たったからか、窓がガタガタと、揺れた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(部活、うどん)
・   犬吠埼樹:交流有(風と一緒に、部活、うどん、胸)
・   結城友奈:交流有(部活、うどん)
・   東郷美森:交流有(部活、うどん、胸)
・ 伊集院沙織:交流有(久遠家について)

・      九尾:交流有(始まり)

・       死神:交流有(守る)
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



4月1日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 24(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 20(普通)
  結城友奈との絆 21(普通)
  東郷三森との絆 20(普通)
     沙織との絆 27(中々良い)
     九尾との絆 26(中々良い)
      死神との絆 26(中々良い)
      稲狐との絆 25(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%


√ 4月2日目 朝(自宅) ※月曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、SNS

↓1

※3~7は電話



01~10 
11~20 不審者について
21~30 
31~40 天乃と風のグループ

41~50 
51~60 
61~70 不審者について

71~80 
81~90 友奈・東郷「今日の登校」
91~00 

↓1のコンマ  

空欄の場合、天乃から


では、此処までとさせて頂きます
明日はできる限り早め。おそらくお昼頃からのスタートとなります


では、初めて行きます


九尾「主様、もう少し健康的な食事を……」

天乃「辛いのがいいの。というか、辛くなきゃ感じないし」

九尾「うむぅ」

朝食から激辛の麻婆丼を食べる天乃を見つめ、九尾はため息をつく

辛くなければ感じない。というのは、

天乃が勇者としての戦いによって味覚を失い、

何を食べても美味しくない、甘くない、不味くないという状況に陥っているからだ

それを言われては、不味いよりも不味い無味の食事を強引にさせにくかった

天乃「それに、一応。みんなの前ではしっかり食べてるんだから。家でくらいは。ね?」

九尾「……話さぬままで、良いのか?」

天乃「みんな優しいからね。味覚や記憶の内面的な部分までボロボロだなんて知ったら。どうなることやら」

九尾「しかし――」

九尾が何かを言いかけたが

天乃は端末を手に取って「連絡が来てる」と、遮った


九尾「美森と友奈じゃな……どれどれ」

天乃「自分で見れるわよ」

のぞき見しようとする九尾の顔を押しのけて

勇者部連絡用のグループの新着メッセージを見る

友奈からは、今日は久遠先輩と登校しようよ。と、入っていて

東郷からは、ここ連絡掲示板だよ。と、返されていた

天乃「私を直接誘えば……は、ダメね。東郷と友奈っていつも一緒だし」

そもそも友奈が

久遠先輩と登校するから、東郷さんは一人でね。みたいな真似ができるとは思えない

九尾「で、どうする?」

天乃「……そうねぇ」

東郷がいいよ。と、許可をしてからにはなるが

きっと、許可をしないということはない

つまり、後々どうですか? と、友奈か東郷あるいはその両方から

誘いの連絡が来るに違いない


秘密裏に計画しているのなら、まだしも

こうも見事なまでに公にされていると

少しばかり、断りづらい

友奈の単純なミスなのかもしれないが

これがもしも【全員の目に通せば断りにくくなる】という作戦のもとに行われているのだとしたら。と

天乃は考え、首を振る

友奈はそういう方向に関しては、器用じゃない

天乃「まぁ別に。登校くらいは何の問題もないけど……」

九尾「乗ってやればよかろう。知り合ってまだ1年程度じゃ。色々と挑戦もしたいのじゃろうて」

天乃「…………」



1、一緒でもいいわよ。と、送る
2、悪いけれど、遠慮する



↓1


天乃は逡巡の後、

そうね。と、誰に言うでもなく呟いて、一緒でもいいわよ。と返す

そのメッセージが表示されたのと同時に

友奈から「わぁっ、間違えちゃった」と文字が流れ、

すぐにまた「本当ですかっ」と、友奈の文字が入った

天乃「忙しないわね」

九尾「嬉しいのじゃろう。見えずとも、見える」

九尾は楽しげに笑うと

今はきっと、嬉しさに胸躍る。という状態じゃろうなと言い

ここで嘘だといえば面白いことになるはずじゃと、すすめて来た

天乃「そんな意地悪なことしないわよ」

九尾「本当に?」

天乃「風ならともかく、友奈は本気で落ち込むでしょ。可愛そうよ」

九尾の悪戯心に呆れながら、

天乃はもう一度、承諾するメッセージを返した


友奈「ありがとうございますっ」

東郷「ありがとうございます」

天乃「一緒に登校するくらいで、そんなお礼言わないで」

照れくさそうに頬を染め、言う

ただ一緒に登校するだけなのに

先輩とはいえ、敬語でしかもお礼を並べられると

流石に、気恥しかったのだ

それでなくても、天乃はそういう扱いに慣れていなかったのだから無理もない

友奈「久遠先輩って東郷さんと同じくらい、白いですよね」

天乃「まぁ、両足がこれだと外出は控えめになっちゃうから」

東郷「だからむしろ、友奈ちゃんのような、健康的な肌が羨ましいとも思うわ」

天乃「そうね」

天乃、友奈、東郷

という座り方になっていて、

挟まれ、褒められる友奈は思わず、目をそらした


天乃「あら、どうしたの?」

友奈「あはは……」

隠しきれない恥ずかしさが、笑いをこぼさせる

嬉しくないわけではないけれど

褒められるのが苦手なわけでもないけれど

自分が憧れている相手から

自分が尊敬している相手から

褒めてもらえたことが嬉しくて、恥ずかしくて

そんなことはないですと、否定をしたくて……

東郷「友奈ちゃん?」




1、頭を撫でる
2、別に。そんなことないと思うのなら。そう言ってもいいのよ?
3、友奈の足を触る
4、もう少し、自信を持っていいと思うわ
5、あら。照れた顔も可愛いわ
6、写真を撮る


↓1


天乃「あら、照れた顔も可愛いわ」

友奈「っ」

天乃「隠しても、覚えてるわよ」

両手で顔を覆った友奈に、天乃は追い打ちをかけて苦笑する

もちろん、嘘じゃない

見た時点で記憶をした。目を閉じて、思えば

その可愛らしい少女の表情は鮮明なまでに、浮かび上がってくる

東郷「久遠先輩、あまり」

天乃「からかってはないわよ。綺麗なものを綺麗。可愛い人を可愛い。そう評することに問題でも?」

東郷「………」

可愛いものを可愛い。そう言ってくれたらと、

東郷は少し、思った

友奈ちゃんはものじゃないですよ。と、

少しでも、話題や気を反らせることができたのに。しっかりと人と言われては

揚げ足取りはできないからだ

天乃「ないでしょう?」

東郷「ありませんが……」


東郷は友奈が可愛いという点に同意していた

概ねではなく、完全に同意していた

今だって、

友奈ちゃんは可愛いわよ。と、乗ってしまいたい気持ちがないといえば、嘘になる

そのくらいには……友奈を愛らしく思っている

東郷「でも、友奈ちゃん、顔が真っ赤です」

天乃「抱きしめないだけ、譲歩してるんだけどね」

友奈「うぅ……」

天乃「そんなに恥ずかしいの? 可愛い奈ちゃん」

友奈「友奈ですっ」

天乃「可愛い言う奈ちゃん?」

友奈「結城友奈です」

天乃にとっても、友奈は愛らしかった

後輩らしいというか、年下らしいというか

明るく、元気で活発で

ちょっとばかり男の子のような感じもあるけれど、しっかりと女の子な友奈が

とても愛らしかった

天乃「素直にありがとうって、言えばいいのに」

友奈「だ、だって……」

天乃「?」

友奈「私よりも、久遠先輩達の方が可愛いじゃないですかっ」


なん……失礼しました
戻せないのでこのまま勧めますが、4も挿入してしまいます


天乃「あら……嬉しい」

友奈「だ、だから」

天乃「でも」

友奈が何かを言いかけたけれど

天乃はすぐさま口をはさんで、首を振る

天乃「だからって、友奈が可愛くないわけじゃない」

友奈「ぅ」

天乃「もう少し、自信を持っていいと思うわ」

友奈「………………」

友奈は膝に手をついて、俯く

可愛いという言葉

それはただの社交辞令のようなものだと、お世辞のようなものだと

友奈はいつも、思っていた

でも、この人は。久遠天乃という先輩は

友奈「私、可愛いですか?」

天乃「ちょっぴり涙目なところが、さっきの三割増で可愛いわよ」

天乃が浮かべる笑顔は

社交辞令やお世辞のような建前は感じさせず、本心だとしか、思えなくて

友奈「うぅ」

いつものような言葉も

ありがとうございます。という当たり前の言葉も、言いにくかった


√ 4月2日目 昼(学校) ※月曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定

↓2


01~10 風
11~20 友奈
21~30 樹
31~40 東郷
41~50 沙織
51~60 先生
61~70 雨
71~80 他生徒
81~90 九尾
91~00 風

↓1のコンマ  


天乃「ん……」

ふと、嫌なものを感じて、外を見ると

快晴だった空にはどんよりとした薄暗い雲が瞬く間に広がって

ポツポツ……ザーっと、急激に雨が降り出した

沙織「わぁ……降ってきたね」

天乃「傘、ある?」

沙織「頼めば持ってきてくれるよ。係りの人が」

あるいは、頼まなくても

こんな予想していなかった自体の場合は――

「伊集院さん、伊集院さん、いる?」

沙織「はーい」

必ず、沙織が呼ばれることになっている

というのも、何らかの異常現象―自然災害等―が起きた場合、

神樹様や、神樹様による結界に何らかの影響があった可能性が高いからだ


「先生が進路相談室に来て欲しいって」

沙織「進路……あたし。適当すぎたかな」

「適当って、なんて書いたの?」

沙織「久遠さんのお嫁さんっ」

天乃「!?」

ずるっと、左手から顔が滑って額に強い衝撃を受けた天乃は、

軽くこすりながら沙織を見ると、

ごめんねッと、ジェスチャーする沙織が目に入った

「あ、あんたら女同士でしょ……」

沙織「愛さえあれば、関係ないない」

ニッコリと笑う沙織に、

クラスメイトではない女生徒は困った顔で、天乃を見る

本気なの?と、女生徒

知らないわよと、天乃

目だけの会話をしていると、沙織が割って入った

沙織「進路相談、久遠さんも来る?」



1、行くわ
2、行かない


↓2


天乃「仕方がないわね……行くわ」

「結婚報告?」

天乃「しないわよっ」

「そっか。じゃぁ……私にも。まだまだ狙う余地はあるわけだ」

天乃「何言ってるのよ」

冗談だとわかりやすい女生徒のニヤニヤした顔に、

天乃はため息をついて、沙織を見る

沙織「お嫁にしてもらうのはあたしなんだけど……」

「私は嫁にもらうから大丈夫」

沙織「なら大丈夫だね、久遠さん」

天乃「何が大丈夫なのか一から説明して欲しいところだけど……呼ばれてるんじゃないの?」

そう言うと、沙織はそうだった。と

忘れていたのか、苦笑する

女生徒は冗談だと分かりやすかったが

沙織の場合は本気か冗談か、わからなかった


進路指導室の扉を開けると、担任ではない先生が振り向く

「伊集い――……」

彼は天乃を見るやいなや、

あからさまに不愉快な表情を浮かべて、

まるで、そこには何もいないかのように、沙織へと向き直った

「伊集院さん。なぜ、連れてきたのですか」

沙織「神樹様や樹海、結界に関係があることなら、久遠さんがいるべきです」

いえ、むしろ。

あたしの方が、この場にはふさわしくない。と沙織は笑みを浮かべる

もちろん、そこに喜楽の感情はない

沙織「いては、不都合ですか?」

「……良いでしょう。いずれは、伝える話です」

男性は深々と息をつき、

あきらめを告げて、天乃と沙織を交互に視界に収め、息を呑む

躊躇うようなその素振りで、天乃は察した

「結界が少々不安定になっていおり、おそらく、明日にもバーテックスが再び進行してくるかと思われます」


「今回の、この急な天候の変化もそれによる――」

九尾「これに関しては不安定というよりも、実際に攻撃を受けたがゆえの余波じゃ」

「!」

その部屋に、大赦と通じている男性教師

そして、天乃と沙織しかいなかったはずなのに、割り込んできた別の声

しかも、背後から

それに驚き、振り返ると

目を背けたくなるほどに、美しい女性がいた

というのも

直視してしまったら、女性のことが頭から離れなくなってしまいそうだったからだ

「な、何者です」

九尾「妾が何か。ということよりも、現状の異変の理由が何かを考えるのが先じゃろう」

「……では、なぜ。攻撃を受けたと?」

九尾「そう言っておるからじゃ。そう感じたからじゃ……そう、つまり。二年前に創りし安寧の時は、終焉を迎えた」


天乃「結界、壊れる?」

九尾「壊れはすまい……いや、その前に扉が開くじゃろう」

九尾はいつもとは打って変わった声色だった

ふざけていない

真面目ではあるが、ただ真面目というわけではなく

苛立っているような、悲しんでいるような

感情の読みきれない、複雑な声だった

沙織「扉が開く……というと、結界のすき間を作るってことだよね?」

九尾「いかにも。準備を踏まえて。今日一日位は持たせよう」

「貴女は……」

九尾が現れて話を進めていく

そのせいで不要になった男性に振り向き、九尾はにやりと笑う

九尾「妾は、久遠家に仕える、精霊じゃ。無知なる愚者よ」

「っ」

ゆっくりと、近づく

いや、離れていく

近づいているようにみえる

離れているようにも見える

男性にはその両方に見えて、視界が不安定に揺らぐ

そして――ドサッっと、部屋に音が響いた

沙織「あ、あれ?」

天乃「九尾、貴女まさか」

九尾「……何もしてはおらん。こやつが、妾に【惑わされた】だけじゃ」


天乃「惑わされたって」

倒れた男性を一瞥すると、

天乃は困りきった表情で、ため息をつき、額に手をあてがった

普通に倒れただけでも、心配だ

人工呼吸に心臓マッサージ

必要な応急処置を考えなければいけない

けれど、

白目をむいて、泡を吹いているようなとてもじゃないが下手な真似のできない人にできることを

天乃は知らないからだ

天乃「戻してあげて」

九尾「ふむ……」

天乃「九尾」

九尾「仕方があるまい……主様は、今回の件をどうするか考えよ」

九尾はそれだけを言うと、膝をつき、男性の目を覆うようにして、手をあてがう

九尾「ご臨終じゃ」

天乃「コラっ」


沙織「任せて平気なの?」

男性に折り重なるようにして、沈黙した九尾から視線を上げ、

沙織は少し不安そうに言う

沙織は九尾を知ってはいるが、その力がどれほどのものかは知らないからだ

もっとも

天乃もそれに関して完璧には把握できていないのだが……

天乃「平気よ」

沙織「ならいいけど……」

それで。と、沙織は切り出す

沙織「今回の件。犬吠埼さんには伝えておいたほうが良いんじゃないかな」

天乃「絶対に、私たちが当たりだって?」

沙織「うん。犬吠埼ちゃんのこともあるし」

天乃「そうね……」


1、風に伝える
2、伝えない
3、勇者部全員に伝える


↓2


天乃「風にだけは伝えるべきだわ」

沙織「……任せて平気?」

天乃「ええ」

沙織の言葉に、天乃は笑みを浮かべて、頷く

だって、

風は大事な部長さんだもの

もちろん、友奈や東郷、樹だって大切な勇者部の一員だ

天乃「友奈達にも話すかどうか、風と話す必要もあるからね」

沙織「……久遠さん」

天乃「?」

沙織「だれかの犠牲による未来は、望まれていないことを。久遠さん自身が一番、解ってるって信じてるからね」

戦いは確実

そこに、天乃達が巻き込まれることが確定している今、

沙織は、そう言わずにはいられなかった

それに対して、

天乃は何も……返さなかった

√ 4月2日目 夕(学校) ※月曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定

↓2


部活に勤しむ生徒の声が、楽しげに聞こえる放課後の教室で

天乃は暗い面持ちで、風を見つめて

神樹様の力を借り、勇者として戦う事になることが確定したと、天乃は告げた

明日、戦うことになる可能性が最も高いとも、告げた

唯一の妹、

犬吠埼樹が戦う事になると……告げた

風「……そっか」

風は、ただ一言、そう言った

どう反応したら良いのか分からなかった

どう受け止めれば良いのか分からなかった

なにを言えば良いのか分からなかった

だからこその、簡単な一言だった

天乃「風……」

風「あたしたちで、確定しちゃったんだ……」


天乃「ええ、そうよ」

風「そっか」

同じ言葉を風は言い、窓の外を見る

それが、私には異常に見えた

風は樹を大切に思ってる

唯一の家族という点を差し引いても

生まれ持った性格ゆえに、溺愛していたに違いない

その樹が巻き込まれることを知って、平然としていられるのが不思議だった

たしかに、

事前に勇者として戦うことになる可能性があることは聞いていたし

その勇者候補のなかに樹の名前があることも承知の上だった

でも、それはまだ可能性の段階だったから平気だっただけの、はずなのに

戦うことが確定しても……平気だなんて

天乃「風……樹も戦わせるの?」

そう思って、聞くと、

風「……久遠、樹に何か言ったでしょ」

風は困った表情で、聞き返す


風「樹に言われたのよ。私は、どこまでもお姉ちゃんと一緒にいるよって」

天乃「……………」

風「急にどうしたのって聞いたら。久遠に変なこと言われて気になったって言ったのよ」

全く、人の妹に何言ってくれてるのよ。と

風は天乃を見つめながら、笑う

その表情に、樹や友奈、東郷を巻き込むことの不安と恐怖が見えた

風「だから、何が言いたいかって言うと。つまり、おいていけないでしょ」

天乃「危険なことよ?」

風「わかってるわよ。けど……あたし達がやらなきゃ。だめなんでしょ?」

確かにそう

私たちがやらなければ、やられる以外に道はない

けど……風は

勇者適性の高い生徒を集めるための勇者部

その勇者部の設立者である風は

何もかもを背負おうとしている。そんな気がしてならない


1、その選択、後悔しないわね?
2、部長が頼るために、副部長がいることを忘れないでね?
3、別に、樹がいなくても大丈夫よ
4、貴女がそれで良いのなら……いいけど
5、それで。どうするの? 戦いが始まる前に。みんなにも話しておく?


↓2


天乃「……………」

小さく息をついて、苦笑する風を見つめる

まだ、何も知らない

満開という犠牲の力も

バーテックスとの戦いの過激さも、危険さも

何も、知らない

いつか巻き込んだことの責任は

強い後悔を産み落として、背負いきれなくなるかもしれない

だから

天乃「風」

風「?」

天乃「部長が頼るために、副部長がいることを忘れないでね?」

風「……勇者のことを知ってるのがアタシだけじゃないだけで。十分頼ってるわよ」

天乃「なら、いいけれど」


風「嘘じゃないわよ?」

天乃「うん?」

風「こうやって話し合えるだけでさ。結構気が楽になってんのよ」

天乃「…………」

影になって見えにくいけれど

よく見れば、緊張の汗をかいてるのが分かった

風「多分、久遠がいなかったら。私はこの教室に一人で佇んでるだけだったと思う」

天乃「でも、私がいるわ」

風「そう……久遠がいる。だからちょっと、余裕が有るのかもしれない」

風は、あはは……と

照れくさそうに笑いながら、ゆっくりと近づく

そして

風「ありがとね、久遠」

ぎゅっと、体を抱きしめた


手を握るだけじゃないのは、

それだけで緊張が解けなかったから

怖い気持ちが拭えなかったから

不安なままだったから。だと、思う

天乃「ふ、風?」

風「少しだけ……このままで」

風には甘える相手がいない

弱さを見せることのできる相手がいない

天乃「……………」

だから、きっと

頼ってくれてもいいんだよ。という言葉が

すごく、嬉しかったんだと思う



1、そっとしておく
2、頭を撫でる
3、誰にも言わないから、安心して縋ってきなさい
4、抱きしめ返す
5、私も頑張るわ。みんな、大切なお友達だもの


↓2


天乃「安心しなさい」

風「…………」

天乃「私も頑張るわ。みんな、大切なお友達だもの」

たった一人の頑張るという言葉で

どうにかなる問題ではないはずだ

けれど

天乃の声は

天乃の言葉は

天乃の体は

天乃の優しさは

風「……なんでか。久遠の言葉はすごく、安心する」

天乃「……………」

大丈夫だと、心配しなくていいんだと

言葉以上の気持ちを感じさせた


風「久遠、あた――」

風の言葉を最終下校時刻を知らせる鐘が遮る

それは言葉だけでなく、空気も引き裂いて

風「っ」

天乃「?」

風は天乃を引き離して、首を振る

消えかけの夕焼け色か

それとも、体温の上昇ゆえか

封の顔はほんのりと赤く見えた

風「あ、あたし……何してるんだろ」

天乃「風?」

風「きょ、今日のことは誰にも言わないでよ?」

天乃「それは」

風「じゃぁ……また明日っ!」

天乃「ちょ……」

風は読んで字のごとく、

風のように、走り去っていった


天乃「……もぅっ」

勇者部の中で最年長とは言え

まだ中学三年生の子供には変わりないのだから

別に、誰かに甘えてたって気にすることはないのに。と

思って、気づく

私も、中三なのよね……

九尾「妾に甘えるかや?」

天乃「心読まないで」

九尾「ふむ……まぁ。なんじゃ」

天乃「?」

九尾「頑張るのは良いが、無理だけはするでないぞ」

天乃「あなたまで、言うのね」

きっと、無理することは避けられない

そう、ずっと感じ続け、思い続けてる

私は、溜息とともにそう言った

√ 4月2日目 夜(学校) ※月曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、SNS

↓2

※3~7は電話


01~10 風
11~20 友奈
21~30 樹
31~40 東郷
41~50 沙織
51~60 九尾
61~70 死神
71~80 須佐之男 
81~90 訪問者
91~00 稲荷


↓1のコンマ  


では、少し中断します

二一時半頃には戻れるかと思います


死神「クオンサン」

天乃「うん?」

大雨が嘘のように消え去った夜

窓から外を眺めていると、

ふよふよと浮遊する死神が姿を現した

天乃「どうしたの?」

死神「コワイ?」

天乃「怖くないわ」

死神「シンパイ?」

天乃「してないわ」

死神「ヤクソクハ、マモルカラネ」

天乃「……ええ」

死神の言葉に、言い返して

天乃はむぎゅっと、死神を捕まえる


天乃「あなたこそ、どうしたのよ」

死神「カンジル、クオンサン」

天乃「うん」

死神「クオンサン、シンジュ、キラナイ?」

天乃「……唐突に物騒なこと言うわね。あなた」

神樹を切らないか。と、言われても、

正直な話、答えづらかった

切り倒しても世界になんの影響もない

あるいは、ほんのちょっとの影響しかないのなら

まず、間違いなく切り落としているくらいには、憎い

けれど、切り倒した瞬間、

世界が終わると言っても過言ではないからだ


死神「……クロイノ、カンジル」

天乃「?」

死神「クオンサン、シンジュ、ニクイ、デショ?」

天乃「うん……まぁ、仕方ないでしょ」

天乃は、神樹への憎悪の念を抱きながら

神樹を守らなければいけない

ふざけるなと、罵りたい気持ちを押さえ込んで

日々、【神樹様】と呼び【拝】をしている

それは、普通の人間には耐え難いことで」

もしも、それができているのだとしたら

その人は、その人の心は……きっと

死神「ココロ、イタソウ」

天乃「あなたに、心がわかるの?」

死神「ベンキョウ、シテルヨ」

天乃「……………」



1、大丈夫よ。勇者部の誰かが。傷つかない限りは。きっと、大丈夫
2、心配してくれて、ありがとね
3、誰か、いい人見つけるべきなのかな
4、……なら、適当なこと言わないの
5、仕方ないのよ。仕方ないの……


↓2


天乃「大丈夫よ」

確証なんてない

天乃「勇者部の誰かが。傷つかない限りは」

保証なんてない

天乃「きっと、大丈夫」

だから

不安で心配で

恐れている

天乃「…………」

死神は、きっと

それを、この気持ちを感じ取っていたから、

最初にあんなことを言ったのだろう

死神「……ワタシタチガ、マモッテアゲナイト、ダネ」

天乃「……ええ」

死神「クオンサンノココロ、マモルタメニ」


天乃「風も、友奈も、樹も……須美も」

死神「……………」

天乃「みんなを、守らないと」

そのためなら、

九尾にも、沙織にも悪いけれど

私は……自分の全てを捧げるつもり

でも

その意志を汲んでくれるのは

天乃「きっと、あなただけ」

死神「クオンサンガ、ソウネガウノナラ。ソレデ、スクワレルノナラ」

死神には心なんてないはずだった

感情なんてないはずだった

けれど、その声は人間に限りなく近く

そして、悲しさを感じさせた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(勇者としてのお役目、頑張るから)
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流有(登校、可愛い、自信)
・   東郷美森:交流有(登校、友奈ちゃん可愛い)
・ 伊集院沙織:交流有(報告)

・      九尾:交流無()

・       死神:交流有(大丈夫)
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



4月2日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 26(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 20(普通)
  結城友奈との絆 25(普通)
  東郷三森との絆 22(普通)
     沙織との絆 28(中々良い)
     九尾との絆 26(中々良い)
      死神との絆 27(中々良い)
      稲狐との絆 25(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%


>>161
訂正してこちらです



1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(勇者としてのお役目、頑張るから)
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流有(登校、可愛い、自信)
・   東郷美森:交流有(登校、友奈ちゃん可愛い)
・ 伊集院沙織:交流有(報告)

・      九尾:交流無()

・       死神:交流有(大丈夫)
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



4月2日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 26(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 20(中々良い)
  結城友奈との絆 25(中々良い)
  東郷三森との絆 22(中々良い)
     沙織との絆 28(中々良い)
     九尾との絆 26(中々良い)
      死神との絆 27(中々良い)
      稲狐との絆 25(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%

√ 4月3日目 朝(自宅) ※火曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
↓2

※3~7は電話

01~10 風
11~20 友奈
21~30 樹
31~40 東郷
41~50 沙織
51~60 九尾
61~70 地震
71~80 須佐之男 
81~90 訪問者
91~00 稲荷


↓1のコンマ  


では、此処までとさせて頂きます
あすも可能であれば通常時間から


では、初めて行きます


天乃「あら、貴女が直接出てくるなんて。珍しいわね」

稲荷「………………」

精霊である稲荷は普段、

自身の使い魔である稲荷の狐を代理に寄越し、

連絡係としている

にも関わらず、今回は稲荷自らが姿を現した

その特異性だけで、普通の話ではないことが分かった

天乃「……それで?」

稲荷「……………」

天乃「そう……結界が緩み始めてるのね?」

狐のお面をつけている稲荷に、問うと

稲荷は小さく頷いて

天乃の力を使えば、多少なりと先延ばしにすることはできる。と

天乃を指さす


天乃「私の力を使って、先延ばしにして。何かが変わるの?」

稲荷「……………」

稲荷は首を横に振り

仮面の奥の瞳を向け、一枚の紙を天乃に手渡した


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 芒種の刻に生まれし姫よ

 お前が私に私に願ったことは世界の安寧だ

 しかし、それは

 お前が今しがた告げた【延命】でしかない

 お前は何を望む

 何を願っている

 今一度、かの地に赴く我が姫君よ 

 お前が望むのならば、私はお前の種をかの地に蒔き、耕そう

 お前が持ちうる絶対的な憎しみの花を、かの地に咲かせよう

 されど、お前が望まぬならば

 その美しき呪いの花は、愛おしき花となるだろう

 お前は……何を望む

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 
天乃「………………」   


稲荷からの文に目を通し、

稲荷の瞳をまっすぐ見上げる

稲荷から向けられる視線は力強く、決して優しいものとは言えなかった

死神とも、九尾とも違う

話す力のない稲荷という精霊を前にして

天乃は、考えた

言いたいことのほとんどが、分からない

久遠家が巫女の家系だったというのなら

きっと、勉強していたのだろう

その記憶が家族とともにあるものでなければ、すべて理解することもできたのだろう

天乃「……無駄なこと、考えちゃってる」

わからないことはわからないことで仕方がない。と、首を振って思考を正す

天乃「つまりは、私がどうしたいのかを聞きたいんでしょう?」

戦いが始まる前に、精霊である稲荷はそれが、知りたいのだ



1、勇者部の皆を、もう一度日常に返したい
2、バーテックスを殲滅したい
3、今は答えられない
4、バーテックスはもちろん、いずれは真珠様にも牙をむくわ


↓2


天乃「でも、ごめんなさい。その問には答えられないわ」

稲荷「……………」

天乃「私は、まだ。それに応えられるだけの何かが足りないのよ」

稲荷を見つめる天乃の瞳も

天乃を見つめる稲荷の瞳も

揺らぐことなく互を捉え、沈黙し

時が止まったかのような、静寂が訪れる

稲荷「…………」

やがて、稲荷はゆっくりと瞬きをして

九尾や死神と同じように、姿を消す

天乃「…………そう。答えられない」

取り残された天乃は、

靴下を履きかけた足を床につけて、天井を仰ぎ見た


巻き込んでおいてふざけるなとなるかもしれない

けれど、

天乃たちが巻き込まずとも、神樹様が巻き込んでいただろうし

そのどちらにせよ

神樹様に恨みがあるし

バーテックスを殲滅したい気持ちだってある

ある……が

やはり、現状では

みんなを、日常へと返してあげたいというのが望みなんだとは思う

でも

天乃「あの子達の日常には……」

ふっと息を吐き、学校に行かなきゃ。と

思考を途中で終わらせる

天乃「今更だけど。学校なんて、通わなければよかったのかもね」

冗談ぽく自分自身に言い捨てて、苦笑する

他人のままだったら、やりやすかっただろうに。なんて

そんなのは、後の祭りだからだ


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から


一週目、死神
二週目、九尾
三週目、稲荷


今日は久遠さんの誕生日です。おめでとう

では、少しだけ初めて行きます

√ 4月3日目 昼(学校) ※火曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
↓2


ピリピリとした、空気の緊張を感じて、天乃は窓の外を見つめる

もう少しは大丈夫かも知れない

けれど、あと半日も持たないだろうな。と、息をつく

天乃「九尾」

九尾「うむ」

天乃「バーテックスの数は多そう?」

九尾「数え切れない程の数がいるが、侵入してくるのはおそらく一体じゃな」

先遣隊と見て間違いなかろう。と

九尾は自分の考察を述べ、天乃を見つめる

たった一体だからか

それとも、どれだけの数が来ようと負ける気がしていないのか

落ち着き払った主の姿は

ある意味で頼もしく

ある意味で不安だった


九尾「落ち着いておるのじゃな」

天乃「いつかまた、戦う事になるとは思っていたし。負けるつもりはないもの」

九尾「……しかし、張りすぎた糸は切れやすいぞ」

天乃「張らなきゃ、矢が飛ばないもの」

それもそうだと、九尾は納得しなかったが、

その先を言っても結局平行線のままなのだろう。と

諦めを考え、頭を振り

九尾「して、何用じゃ主様」

戦闘直前の貴重な時間を使ってまで

自分と合う理由を、九尾は問う



1、久遠家について
2、九尾について
3、芒種について
4、久遠陽乃について
5、私は、みんなを守るためなら死ぬつもりよ


↓2


天乃「稲荷から手紙を――」

九尾「燃やせっ」

天乃「……手紙をもらったのだけど、知らない言葉があったのよ」

九尾の稲荷への拒否反応を受けながらも、

あえてそのまま進めると

九尾は天乃が見せた手紙を受け取り、

目を通して、天乃に返した

九尾「これは【 ぼうしゅ 】じゃな。ちょうど、主様の生まれた6月6日付近のことを指している言葉じゃ」

天乃「ぼうしゅ……?」

九尾「解りやすく簡潔に言えば田植えに適した時期じゃ」

天乃「た、田植え? でも、じゃぁ、この姫っていうのは……」

九尾「ふむ……それに関してはその植える作物から、稲田姫としているのじゃろうな。芒種の芒は【のぎ】とも読む」

天乃「っ」

九尾「乃木の意志を背負っている主様には与えても問題ないと思うておるのやも知れぬな」


では、短いですが此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から



九尾「乃木の種……つまり、主様は乃木園子と婚約しておるのじゃ」

天乃「!?」



園子「……という設定はどうかな」

夏凜「知らないわよっ!」


では、初めて行きます


天乃「乃木……園子?」

九尾「付け加えれば、主様の精霊に稲荷がいる理由であり、須佐之男がいる理由の一部でもある」

九尾は天乃の言葉には答えなかった

元々、聞いているのか、ただ呟いたのか分からなかったし

天乃もその点を追求するよりも

稲荷と須佐之男が自分に使えている理由。と、言われたことのほうが気になっていた

正確に言えば

ほかの精霊もそうなのだろうか。と、気になっていた

天乃「ねぇ、九尾」

九尾「?」

天乃「なら、貴女達にもそういった理由があるの?」

九尾「ふむ……少なくとも。黄泉の者は久遠家が祀っていた神の波状じゃな。妾は……禁則事項じゃ」

ニコッと

嫌なことに、

似合ってしまう笑みを浮かべて、九尾は答えを拒絶した


天乃「九尾」

九尾「……無駄じゃ。妾は語らぬ」

天乃「……………」

九尾「語る理由がない。その末に益は見いだせぬ。妾の過去は、処女が知るには重すぎる」

九尾はそう言うと、

座っている椅子の前足が浮くほどに強く

天乃の体に、下腹部に

手を押し当てて、天乃の瞳を見据える

天乃「っ……やめ」

九尾「今の世界は人間が生き辛くなりすぎておる。そして、人間が死に易くなりすぎている」

九尾の言葉の意味を、天乃は理解できなかった

旧世紀の人間の話は、それこそ

禁則事項があるかのように【無害】な話ばかりを教えられる

ゆえに、今も昔も変わらず――現実を知らなければ――生き易い世界だと、天乃は思っているからだ


もちろん、残念ながら、病気というものは存在し

当たり前のように人が死ぬこともある

けれども、

だからといって、人が生き辛い世界だとは言えないのだ

むしろ、様々な技術の【停滞】が見られはするけれども

病気やケガの治療は不可能ではないし、生き易い世界と言えるはずなのだ

天乃「どういう意味……?」

ゆえの困惑

ゆえの疑問

それに対し、九尾は天乃とキスをするほどに顔を近づけ

時間割表を机にたたき出して、言う

九尾「分からぬか? こんなにも【洗脳】しているというのに」

天乃「洗脳って……貴女一体」

続いた問い掛けに

九尾は何も言わず、離れて天乃を一瞥すると

もう答えぬぞ。と、言い残して姿を消してしまった


九尾が勝手に出した時間割表を見つめ、

天乃は小さく首を振る

九尾が何を洗脳だといったのかは理解できる

というのも、天乃自身が

それを洗脳だと呆れていたからだ

けれど、それでも

九尾が言っていた死にやすい、という言葉は、分からない

天乃「全く……」

悪態をつこうとした瞬間、

ピリピリとした警告ではなく

ビリっっと痺れるような警告以上の緊急さを肌に感じ

天乃は窓の外を見る

鳥が飛んでいた

いや……浮かんでいた

天乃「…………そう、来たのね」

何もかもが静止した時間の中、

どこかの教室から誰かが飛び出した音が聞こえる

天乃「風かしら」

階数的にそうなんでしょうね。と

この異常事態の中、天乃は落ち着いていた

世界が光に包まれて

真実をあらわにするこの現象――樹海化

それを、天乃はもう何度も。経験していたからだ


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間となります


今更知った話ですが、ゆゆゆは土曜日も授業があるそうです
第一第三は休みとかなら、現状のシステムで問題はないかとは思いますが

6日目は学校有り(午前授業) 13日目は無しなども一応考えておきます

少ししたら初めて行きます


まばゆい光が収まり、見えた世界は

何度も見た、見慣れた世界

大切で、大好きだった親友の眠る地

天乃「すぅ……」

天乃は大きく息を吸って、吐いて

いつ来ても嫌なほどに新鮮な空気が流れているのね。と、はるか遠方に見える

迫り来る驚異を見つめる

天乃「……須佐之男。あなたにも手伝ってもらうわ」

須佐之男「…………」

すぐ横に佇む須佐之男は軽く頷く

九尾や死神と違い、単独で戦闘可能な須佐之男ならば

きっと、ほかの勇者がいなくても乙女座一体くらいなら止められるだろう

もっとも。ダメージを延々と回復されてしまう以上、

須佐之男だけではジリ貧になってしまうだろうが……

天乃「さて」

とりあえず端末を手に取り、天乃は慣れた手つきで操作して

特別なマップを画面に表示させた


http://i.imgur.com/0NqSGNV.png


天乃「風と樹、友奈と東郷ってかんじよね」

いずれにせよ

風と樹のペアが友奈と東郷ペアめがけて動いているし

全員一緒と考えてもいい

天乃「……私の方に来てくれない」

誰に言うわけでもなく

ぼそっと呟いて、苦笑する

信頼されているのか、どうせこっちに来るだろうと思われてるのか、

実は、勇者部の中で嫌われているのか

ありえないことも考えてみて、笑う

樹海化という異変

乙女座と表示されている驚異―バーテックス―の侵攻

それと対峙しながらも、天乃は余裕だった



1、死神勇者
2、九尾勇者
3、両方の勇者
4、須佐之男に背負ってもらう


↓2


天乃「……とりあえず、死神。お願い」

死神「ハーイ」

天乃の声に合わせて姿を現した死神は、

返事をするやいなや、真っ黒な母屋となって天乃を包み込み

その姿を勇者へと、切り替える

黒を基調としたその衣装は勇者とは言えないような、禍々しさで

けれども、天乃は勇者だった

神樹様の……とは、断言しかねるが

天乃「九尾、背中に乗せて」

九尾「ふむ……かまわぬが、妾の妖狐化を知られて良いのかや? いささか面倒じゃが」

天乃「勇者の件を伝える以上、その辺を隠し続けるなんて無意味だわ」

九尾「そうじゃな……ずっと隠していたことを責められるやも知れぬ。良いかや?」

天乃「ええ。隠していた理由。風とは違うかもしれないけれど。私なりの理由はあるから」

人間の姿をした九尾は

そう言って笑った天乃を見つめ、呆れたように息をつくと

大きな狐の姿に変身を解いて、天乃を背中に乗せる

九尾「しっかり捕まれ。振り落とされても知らぬぞ」

その忠告とともに、九尾は大きく跳躍した


風「友奈、東郷をお願――」

友奈「風先輩! 何か近づいてきてますっ!」

風「え?」

風の言葉を遮って、友奈が一点を指差す

バーテックスは一体のはずだ

それはまだ遠くのはずだ

そう焦る気持ちを押さえ込み、友奈が差す方向を見ると

確かに、何かがものすごい速さで近づいてきていて

樹「これ……久遠先輩ですか?」

樹が端末の画面を見て、全員に見えるように差し出す

風「そうだ。久遠……!」

まだ合流していなかった副部長

まだ、どんな力を持っているのか分からない

この事態を知っている頼もしい味方

それが目の前の地に折畳った瞬間

天乃「迎えに来なさいよ。風!」

風「…………!?」

その衣装の禍々しさ、またがっている巨大な狐

自分の想像をはるかに超えた異形の勇者姿に、風はもちろん

樹達全員が言葉を失った


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から



どの勇者で戦うかである程度分岐


では、少しだけ


友奈「久遠……先輩?」

天乃「ええ。言いたいことは色々あるだろうけれど……ちょっと待って」

友奈の驚きに笑みを向けた天乃は、

そのまま風へと目を向けて頷く

天乃「話した?」

風「一応……緊急だから軽くだけど」

天乃「そう」

軽くとはいえ、

勇者として戦うことや、

今、こっちに向けて進行してきているアレが敵であることくらいは話してあるだろう。と

全員を見渡す


東郷と友奈は身を寄せ合っていて、

バーテックスに対し怯えて、戸惑っている様子で

樹に関しては

完全には理解できていなくても

以前言ったとおり、ついていこうとしているような様子で

これから戦おうとしている二人

戦えないふたりが明確に分かれているのを確認して、息をつく

天乃「風と樹は行くのね?」

樹「はいっ」

風「樹……」

樹「ついていくって、言ったよ」

不安げな風の腕を掴み、樹は笑みを浮かべる

それに対してやっぱり拭えない不安はありつつも

風は頷き、続くようにと指示して勇者へと変身した


風「久遠、どのくらい戦える?」

天乃「見た目相応には?」

風「……………」

適当な答えを返され、戸惑う風は

天乃の容姿、装備、跨っている巨大な妖狐をほぼ一瞬で見渡して

息を呑むと

最初の印象通りの答えでいいの? と、ためらいながら

天乃を見つめる

風「じゃぁ、二人は絶対に守れるでしょ?」

天乃「ええ。命に代えても」

風「なら……頼むわ」

樹「お姉ちゃ」

風「行くわよ樹!」

樹「っ、う。うんっ!」


風と樹が飛び去っていく中、

沈黙を保っていた九尾が友奈と東郷に向かってわざとらしく息を吹きかけた

九尾「して、主様や」

天乃「うん?」

九尾「子守などせず。主様が向かうほうが早かろう」

確かにその通りだ

風は天乃の実力を知らないから

風と樹で向かうか、天乃一人で向かわせるかを天秤にかけた結果

前者を選択した

樹一人で守らせたり、樹と天乃を行かせるのに関しては

不安ゆえに選択肢にすらなかったらしい

友奈「……しゃ、喋るみたいだよ。東郷さん」

東郷「っ」

友奈はまだ気丈に振舞えはするみたいだが、東郷に関しては……



1、風と樹のもとへ
2、二人は戦う覚悟。ある?
3、黙ってて悪かったわ。でも、想像だけで戦うだなんて無謀な決断はして欲しくなかったのよ
4、二人は……戦わないの?
5、何か言いたいことある?
6、友奈。コレ。腹話術よ


↓2


天乃「……………」

無理もないことだけれど、

やっぱり、樹海化とバーテックスに関して恐怖心がある

須美……東郷に関しても

記憶がないとはいえ

体に染み込んだものや、心に根付いた恐怖心が消えたわけじゃないのだから

すごく、怯えてしまっていて

記憶があればまた違うのかもしれないと思うと

天乃は神樹様が腹立たしくて仕方が無かった

その気持ちを抑えるためか

それとも、場の空気の重々しさを解消するためか

天乃「……そうそう、友奈。コレね。腹話術なの」

天乃は普段と変わらない明るい声で言った

……が

友奈「え、ぁ、はい……す、すごいですね」

当たり前なことに、反応は薄かった


風命中判定  ↓1  コンマ 01~83で命中

樹命中判定  ↓2  コンマ 01~80で命中


では、此処までとさせて頂きます
明日はおそらく出来ません

また、11、12もできない可能性があります




冗談言ってる間にふたりが被弾
これはおそらく、東郷さんに怒られます


では、本日初めて行きます


樹に83ダメージ
風に92ダメージ


天乃「あら、ノリが悪い」

友奈「く、久遠先輩っ! 今は、その……」

九尾「ふざけてる場合じゃなかろう。たわけならばともかく、この小娘どもはな」

天乃「ちょっとまって、そのたわけって」

九尾「妾に跨る愚か者以外はおらぬ」

不真面目な態度が嫌いなわけではないが

場の空気を読まない物言いに、九尾は呆れながら呟く

天乃「まぁ、確かに。この子が腹話術なんていうのは嘘よ。けど、今見えてることは嘘じゃないわ」

友奈「……………」

東郷「……………」

天乃「だからといって。この格好が趣味じゃないとは限らないけどね」

友奈「え?」

天乃「私、将来は騎手になろうと思ってるの。似合う?」

友奈「騎手……確かに。今の久遠先――」

天乃「まぁ、嘘だけど」

友奈「うぅっ!」


異質の中で、異質だった

あるいは

普通の中の異常、異常の中の普通

冗談を言う天乃と、からかわれる友奈というのは

友奈たちが見てきた日常の中では普通だった。当たり前だった

けれど、今いる日常という非日常で、それは……異常だった

九尾「主様っ!」

天乃「!」

少し離れた所で数回の爆発が起き、

逸れたのではなく

明らかな余剰の炸裂弾が天乃達目掛けて放たれ――

須佐之男「―――ッ」

抜いたことすら見えない一瞬

勝手に爆発したかのように見える、余りにも早い一閃がそれを切り捨て、爆発させる

そのこの世界での普通を前に、

東郷「いい加減にしてくださいっ!」

異常を続ける先輩に、東郷は怒鳴った


東郷「意味がわかりません……なんなんですかっ」

天乃「す……東郷」

東郷「わかりません……っ、どうしてそんな落ち着いていられるんですかっ!」

天乃「……………」

東郷「死んじゃうかも知れないのに、風先輩達が戦っているのに。どうして……ふざけていられるんですかっ!」

東郷は自分の体をぎゅっと抱きしめて

恐怖に震える声で、怒鳴る

樹海化

勇者

バーテックス



理解はできる、納得はできない

それを目の前にして、湧き上がる不安と恐怖に動くことのできない自分

そんな自分とは対照的に、ふざけることのできる天乃のことが

東郷は理解ができず、戦えるのに戦うことのできない自分自身に抱く怒りと同様に

戦えるのに戦おうとしない天乃に、怒りを覚えていた


東郷「戦えるなら戦ってくださいっ!」

戦えるなら、戦おうとして

東郷「久遠先輩っ!」

東郷美森っ!

それは、天乃に向けて言いながら

自分自身に向けての言葉だ

勇者にすらなれていないお前が言うなと言われてもおかしくない

友奈「……東郷さん」

東郷「っ」

大親友の心配そうな声が聞こえて

東郷は友奈を一瞥し、天乃へと目を向けた

九尾「と、言われておるぞ」

天乃「とはいえ。ふたりを守るのが私の役目だしね」

九尾「このたわけめ。刃を盾にするのかや?」

天乃「ふふっ」



1、須佐之男。ふたりを頼んで良いかしら?
2、終わったら。また、話す機会を作ってくれる?
3、……そうね。まぁ、貴女達のその死にたくないという選択を聞きたかっただけだから。すぐに参戦するわ
4、私。弱いのよ。力を貸してくれない?
5、そうね……じゃぁ。見てなさい。参考になるかどうかは分からないけれど。戦うということがどういうものかを。見てなさい


↓2


天乃「そうね……じゃぁ。見てなさい」

友奈「見る?」

天乃「そう。参考になるかはともかく。戦うということがどういう事か。まずは見てなさい」

東郷「っ………」

天乃は怒鳴ったことに対する怒りや嫌味もなく、

優しく笑い、諭すような声色で言う

東郷「久遠先――」

天乃「東郷」

東郷「は、はい」

天乃「大丈夫よ。私が守るから」

その一言には強い意志と強い後悔がある

けれど、東郷は記憶を失っているがゆえに、

それを分かるはずなのに、分からない

けれど、何かを感じて……飛び去っていく天乃を見つめ続けた


天乃→乙女  命中判定 161%   ↓1   CRI判定のみ  ゾロ目または60~69


九尾「何が参考になるかわからぬ。じゃ」

天乃「うん?」

九尾「なるわけなかろう」

飛ぶように地を駆け、木々の合間を縫って近づく九尾と天乃に

狙いをつけきれない乙女座による空爆の中、

九尾はため息をつく

余裕だった

余りありすぎるほどに、力の差があった

天乃「どうかしら」

九尾「主様の一撃は小娘共数人分。戦いを楽観視されても知らぬぞ」

天乃「……そうね。一応。手は抜くけれど」

乙女座の爆撃が止む一手前

木々を蹴り飛ばし、天に駆け上がる九尾の姿が

乙女座や勇者部全員の視界に映る


妖狐の真っ白な体、その上の真っ黒な装束

闇の中で目立ち、光の中で目立つその的は

乙女座に狙い撃つことができないはずがなかった

乙女座に思考があるとすれば【撃てば当たる】と、確信しただろう

勇者部は皆【次の炸裂弾は当たる】と、悲観しただろう

けれど

乙女座「!」

ほんの一瞬だった

気づけば、乙女座の体は塵となって

どこからともなく吹く風に、吹き飛ばされていく

東郷「え?」

友奈「?」

瞬きしてしまったのかと自分の目を疑った

視界に映った黒き闇の少女は目にゴミが入っていただけなのかと擦ってみた

けれど

それがいたはず。あったはずの近くの木が大きく揺れたのを【遅れて】気づき

それがとてつもなく速いスピードで撃ち貫いたのだと

東郷「……【撃てれば】の、話」

東郷は驚きとともに呟いた



乙女座に1010ダメージ
乙女座の討伐に成功しました


天乃「……あらら」

一太刀を振るうこともなく

ただ貫いただけの天乃は、綺麗なままの刀をどこかへと消し去り

振り向いて、苦笑する

予定では、このあと爆撃が降り注ぎ

擬似的なピンチの寸劇……茶番劇の予定だったのだ

しかし

振り向いた先には何もいない

爆撃をする敵は、塵となって消失してしまったからだ

九尾「なんだ。戦うなんて簡単なんですね。と、言うやも知れぬな」

天乃「ま、まさか……いくら友奈でも。そんなことは言わないと思うわ」

その自信はなかった

余りにも余裕で、簡単で、あっさりとした戦闘になってしまったからだ


では、本日はここまでとなります
明日もできれば少し早めの時間帯
もしかしたら、お休みです




一撃決殺でしたが、天乃が使ったのは
一番弱い技です


では、初めて行きます


風「ま、マジ……?」

樹「すごい……」

風と樹は同じく驚き、チリと消えたバーテックスがいた場所を見つめる

圧倒的だったはずだ

簡単なんかじゃなかったはずだ

いや、そもそも

封印と呼ばれる御霊の摘出を行わなければ

それを、破壊しなければ

バーテックスを倒すことなんて出来なかったはずだ

それなのに

風「っ………」

久遠は何をした

どうやった

なぜ……一瞬で仕留めることができた

その異常に対し、自分の体が震えているのを感じて

風は、首を振った


友奈「久遠先輩……すごい」

東郷「……すごいなんて、簡単な言葉じゃないわ」

風と同じように

体の震えが止まることのない東郷は

未だ姿の見えない天乃を思い、友奈を見る

東郷「化物を一瞬で屠ったのよ。あれは……」

友奈「あれは?」

東郷「あれは、バーテックスなんていうものよりもずっと……」

友奈「ずっと?」

友奈の言っていることが分からないわけじゃない

理解だって出来ている。けれど

東郷は天乃をただの先輩だとは、思えない

凄いなんていう言葉では片付けられない

東郷「っ」

東郷は首を振ると、

友奈から目をそらして体を抱きしめる

久遠天乃という先輩を、東郷は……恐れてしまったからだ


天乃「……あら」

勇者部が憧れと恐れに二分されていることなど知らず

悠長な声で日常から非日常へと戻りつつある世界を見つめる

天乃「私の日常が、消えて行く」

九尾「お主の日常は、今から帰る方。と、決めたはずじゃが?」

天乃「始まった以上は、これが私の世界よ」

九尾「……愚か者め」

九尾の言葉に

天乃は笑を浮かべず、目を向けることもなく

小さく息を吐いて、世界の変化を受け入れた

√ 4月3日目 夕(学校) ※火曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室へ

↓2


風「…………」

東郷「………」

友奈「ど、どうか、したんですか?」

樹「お姉ちゃん? 東郷先輩?」

いつもは賑やかすぎる勇者部は、

重苦しい空気に包まれている

無理もない

バーテックス、樹海化、勇者

そして……久遠天乃

問題が一気に現れすぎたのだ

もっとも

久遠天乃という驚異のおかげで、

勇者部の部長である犬吠埼風と東郷美森の荒事が抑制されている分

天乃にとってはよかったことかもしれない

九尾「…………」

こちら側としては、何とも言えないが


風「東郷……あの、さ」

東郷「風先輩。風先輩は、久遠先輩の力を知りませんでした」

風「それは……」

東郷は風を見つめ、天乃を見つめ、

もう一度風へと向き直る

東郷「………」

風先輩は久遠先輩に対して

どれだけの力があるのかと聞いていた

つまり、風先輩は久遠先輩のことを知らない

だったら……

天乃「……?」

東郷「久遠先輩。先輩は……風先輩以上にこの件に関わっている」

天乃「……………」

東郷「違いますか?」

風先輩よりも、久遠先輩に問うべきだ



1、そんなことはないわ
2、ええ、そうよ
3、……さぁ? どうかしら
4、ええ。そう。だって、私は前回から勇者を続けているんだもの


↓2


天乃「ええ、そう」

友奈「くお――」

天乃「だって、私は前回から勇者を続けているんだもの」

風「え?」

東郷「前回……?」

九尾「主様っ!」

天乃「隠すことはできないわ」

歯を剥き出す女性型の九尾を相手に

一歩も引くことなく、天乃は答える

その声が、表情が

真剣そのものだからこそ、

冗談の代名詞の言葉であろうと、嘘だと。冗談だと

誰も言うことはできなかった


風「前回って、どういうこと?」

天乃「そのままの意味よ」

友奈「前回っていうことは前から勇者だったってことですよね?」

樹「久遠先輩一人で。ですか?」

天乃「いいえ」

嘘はつかない

もちろん、言うことができないこともあるが、

話せることは話す

天乃「他にもいたわ。今は……いないけれど」

東郷「今は。というと?」

天乃「ここで語っているというのが私だけと言うのが、答えよ」

樹「そ、そんな……」

一人は死んだ

一人は監禁された

一人は記憶を奪われ、再利用されている

その全ては、この一言で事足りる

天乃「私では参考にならなかったけれど。少しは、危機感を抱いてもらえたかしら?」


天乃の含み笑いを前に

東郷も、風も、樹も、友奈も

誰も何も言うことはできず、勇者という戦いの結末を想像し

みんなを交互に見合って、俯く

九尾「…………」

怖くなったのだ

自分が死ぬことではなく

誰かが死ぬことが

仲のいい友人のうちの誰かが

いなくなってしまうことが、恐ろしかったのだ

九尾「主様はやはり……恐ろしいな」

勇気を振るおうとしていた

有望なる新人五人の心をへし折ろうというのだから

神樹や大赦が警戒する気持ちも、分かってしまう



1、まだ戦う勇気がある?
2、ほかに質問がある?
3、さて。話が終わったのなら今日の依頼を確認しましょう
4、黙ってて悪かったわね。でも、想像での恐怖、危機感で。蛮勇を振るって欲しくなかったのよ
5、貴女達は、必要がない。私だけで十分よ
6、何も言わずに立ち去る


↓2


では、此処までとさせて頂きます
明日はできれば通常時間から



九尾「……すべての責任を、負うつもりなのじゃな」


では、少しだけですが進めていきます


天乃「……………」

まだ、中学3年生にすら届いていない小さな友人達に

酷いことを言ったかもしれない

辛くて、厳しい現実を突きつけてしまったかもしれない

かわいそうなことをしたかもしれない

そう思いながら、それを押し殺すように目を瞑り、歯を食いしばって息をつく

憎悪の尽きることがない相手にでさえ、祈れるのだから

友人にきついことを言うことくらい。簡単だ

天乃「黙ってて悪かったわね。でも、想像での恐怖、危機感で。蛮勇を振るって欲しくなかったのよ」

友奈「蛮勇なんて。そんなっ」

天乃「そうでしょう? だって、大した力もないのに。友達のためだなんて言って戦うんだもの」

友奈「それじゃダメなんですか? 東郷さん達のために戦っちゃ――」

天乃「あなたに家族はいないの? 父親は? 母親は? 誰もいないの? 何もいないの?」

友奈「っ」

天乃「東郷達だけが貴女の全てだというのなら、その意志を汲んであげる。でも、違うでしょう?」


九尾「小狡いのう」

天乃「うるさい」

九尾「何も、そういじめなくても良いではないか」

困ったように笑う九尾は、

落ち込み、俯く友奈を見つめ、頭を撫でる

天乃「別に、虐めてるわけじゃないわ」

風「そう。久遠は別にいじめてなんかいない。現実を教えてくれてるだけ」

天乃「風」

風「久遠、初めて会った時に言ってたわよね。まだ手元に残ったものがあるのなら。それを握り締めて立ち去りなさいって」

天乃「……………」

風「あの時のアタシは正直、その言葉を理解してなかったし、しようとも思ってなかった。むしろ、久遠のことを馬鹿にさえしてた」

何言ってるの

意味わからない、馬鹿なんじゃないか

精神的に正常じゃなかったあの時は、冗談じゃなく……そう思っていた

風「でも。分かった」

ちらっと樹を一瞥すると、

風はもう一度天乃へと向き直り、悲しげな瞳で見据える

風「樹がいるなら、まだ。【非現実】のままでいるべきだって言ったんだ。こんな【現実】に戻らないべきだって。そうでしょ?」


天乃「さて、どうだったかしら」

風「久遠……」

現実を知ってしまった者として

戦うことのできる者として

どうすべきかを悩む四人を残し

天乃は車椅子を動かして、出入り口へと向かう

天乃「ちゃんと考えなさい」

九尾「……全く」

呆れたように言い残して九尾は姿を消し

天乃はそのまま、教室を出て行く

天乃「……………」

扉を閉め、見上げた先に見える勇者部という文字を見るその目は

とても、名残惜しそうで

けれど天乃は首を振り、車椅子を進ませる

戻れなくなってもいい

ここにこの部室があって、残された部員がちゃんといてくれるのなら、それでいい

天乃はそう、思っていたからだ


√ 4月3日目 夜(自宅) ※火曜日

01~10 沙織
11~20 風

21~30 
31~40 
41~50 友奈

51~60 
61~70 東郷
71~80 
81~90 樹
91~00 

↓1のコンマ  

※範囲内奇数なら来客(東郷以外)


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から



沙織「久遠さんって不器用だよね」

天乃「何がよ」

沙織「つまるところ、傷ついて欲しくないって言いたかったんだよね」

天乃「ち、違うわよっ。足手纏いになるから……」

沙織「はいはい」

天乃「もぉっ!」


では、初めて行きます


その日の夜

寝ようかとも思えず、真っ暗になった外を見上げていると、

沙織からの着信が入った

天乃「…………」

出ないという選択もあるにはあるが

それを選択した場合、明日に響く

そう確信して通話を選択すると、すぐに沙織の声が音を割った

沙織『――さーんっ!』

天乃「ぃ、うるさいっ!」

沙織『あれ? 繋がってる?』

天乃「繋がってるわよ。馬鹿」

右に当てていた端末を左に当て変えて、ため息

大方、もうしばらく出ないだろうとふざけて大声で名前を呼んでいたのだろう

出ないとしても、時間を考えるべきだ

沙織『ごめんね、つい。大声で久遠さんの名前を叫んで見てた』

天乃「馬鹿なの?」

沙織『あはは……電話なしでも話せないかなーって』

天乃「隣近所じゃないんだから、無理に決まってるでしょ」

沙織『それもそうだね……あははっ……ははっ』


楽しそうに笑って、悲しそうに笑って

大きく息をついた電話先の沙織は、

少し貯めてから、普通の声色で

久遠さん。と、呼びかけた

天乃「なに?」

沙織『聞いたよ。新人四人、潰したんだって?』

天乃「……潰したってなによ。私はそんなことした記憶はないわ」

沙織『勇者として戦えなくしたって意味だよ』

天乃「なるほどね」

二度と日常には戻ってこれなくなる可能性

今いる誰かがかけてしまう可能性

その恐怖、その緊張感、その危機感、その現実

それを教えたら戦えなくなるのは仕方ないことだと思うし

天乃自身、戦わせないために言ったことだ

しかし、それが【潰した】なんて物騒な言い方をされるのは

少しばかり、不服だった


天乃「大赦としてはそういう解釈になるのね」

沙織『久遠さんとしては、守っただけなのにね』

天乃「守った? 何を?」

沙織『あの子達の普通の人生。日常、夢物語。かな』

電話の奥で

明らかにからかっているような笑い声を響かせる沙織にムッとしながら

反論はすまいと、苦笑する

天乃「曲解ね」

沙織『曲がってるんだもん。曲げ直さなきゃ』

天乃「あのね……」

沙織『久遠さんは本当。器用だよ』

天乃「うん?」

沙織『みんなを戦いから遠ざけつつ、嫌われるような物言いで、自分一人の犠牲で終わった場合のみんなの後悔を無くそうとしてる』

その全部を、本の一歩でもあれ一気に進められたんだから。と

沙織は感心しているのではなく、

呆れた声で、言い放った


天乃「……………」

沙織『でも、勇者部のみんなはちゃんと考えて考えて。答えを出すと思うよ』

沙織はそう言うと、

そうだなぁ。と、考えているかのような声を漏らして、笑う

友奈、東郷、風、樹

四人の新人が多少なりとも悩むかもしれないが

行き着く先は一つしかないと、沙織は思っていたし、確信もしていた

というのも、

久遠天乃は嫌われる天才でもあるが

同じくらいに好かれる天才だからだ

前者は故意なのだが、

後者に至っては無意識だからタチが悪い。と

沙織は息をついて、言う

沙織『みんなは絶対に戦うほうを選ぶ』

天乃「戦わないわ。だって、死にたくないはずだもの」

沙織『死にたくないのと同じくらい、死なせたくないから。戦うんだよ。久遠さん』

天乃「……………」

沙織『なのに。みんなが戦うって言ったら、そう返すの?』



1、戦わせないわ
2、何言ってるのよ。私なんかより大事な人がほかにいるはずだわ
3、沙織だったら、戦うの?
4、……悩んで出した答えなら、私は尊重するわ



↓2


天乃「ううん、返さないわ」

沙織『え?』

天乃「……悩んで出した答えなら、私は尊重するわ」

沙織『そっか』

沙織からしてみればそれは予想外で

けれど、とても嬉しい言葉だった

きっと、あの頃のままだったら意地でも戦わせないと言っていただろう

力尽くでねじ伏せてでも止めると言い出していただろう

それが、戦うという意志を尊重すると言っているのだから

嬉しくないはずがなかった

沙織『人生相談の時にも、時々そう答えて。誰にも認めてもらえない夢を持ってる子とか、見事にハート打ち抜いてるよね。久遠さん』

天乃「その子の出来る出来ないは他人が決めることじゃないわ。本人が決めることよ」

沙織『………………』

天乃「大体、やりたいというのならやらせてあげるべきだわ。周りは黙って手を貸してあげれば良いのよ」

沙織『挫けるからこそ、成長する。挫ける事から守るのは正しい教育じゃないもの。だっけ?』

天乃「馬鹿にしてる?」

沙織『してないしてない』


良く言う言葉を真似た沙織にムッとした声を返すと

沙織は困ったような笑い声を返して、黙り込む

そして、言う

沙織『あたしは好きだよ。久遠さんのそういう教育理念。好きにやらせて、見守って、本当にもうダメだってSOSを見逃さないその姿勢。悪くないと思う』

誰しもがいいとは言わないだろう

そんなの間違っているという人もいるだろう

手がかかると思う人もいるだろうし

挫けてダメになってしまったらどうするんだと不安な人もいるだろう

けれど久遠さんは

近しい人が挫けたとき、支えてあげる自信がないのね。って、嫌味を言う

あたしはね、久遠さん

沙織『あたしは、久遠さんのことを絶対に支えてあげる』

天乃「何よ急に」

沙織『嫌なこと、辛いこと、苦しいこと、悲しいことがあって、久遠さんの心が疲れきってしまう時が来るかも知れない』

天乃「……………」

沙織『そんな時、あたしは絶対に久遠さんのことを支えるために頑張ってみせるからね』

宣言してみて

思いのほか恥ずかしくて

沙織はごめんねと一言謝って電話を切ってしまった

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(戦闘、先代)
・   犬吠埼樹:交流有(戦闘、先代)
・   結城友奈:交流有(戦闘、先代、腹話術、見てて)
・   東郷美森:交流有(戦闘、先代、見てて)
・ 伊集院沙織:交流有(尊重する)

・      九尾:交流有(戦闘、芒種)

・       死神:交流有(戦闘、)
・       稲狐:交流有(答えられない)
・      神樹:交流無()



4月3日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 26(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 23(中々良い)
  結城友奈との絆 26(中々良い)
  東郷三森との絆 22(中々良い)
     沙織との絆 30(中々良い)
     九尾との絆 28(中々良い)
      死神との絆 28(中々良い)
      稲狐との絆 26(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から




沙織「ハートを撃ち抜いてるよね」

天乃「? 何の話?」

沙織「えっ」


では、本日も初めて行きます

√ 4月4日目 朝(自宅) ※水曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室
↓2

※3~7は電話
※9は朝一勇者部直行、依頼確認


天乃「………」

昨日の一件は

もちろん、全員きつかったとは思うけれど

一番きつかったのは多分、友奈だろう

友奈の優しい気持ちを否定した

それ自体が間違っていたとは思わない

けれど、もっと言葉は選べたはずだ

諭すためとは言え

もう少し、なにか別の言い方があったはずだ

天乃「……っ」

そう考えてしまう頭を振って

天乃は端末を手に取って友奈へと電話をかけた


天乃「……………」

コール音が聞こえる中、

天乃は電話をかけてどうするのかと、今更ながら思った

昨日はきつく当たってごめんね。そう言えば、

友奈は許してくれるだろう

けれど

言うわけにはいかない

ごめんなさいだなんて、言えない

私は……

天乃「出ない」

九尾「あの小娘のことじゃ、まだ寝ておる可能性もある」

天乃「……そっか」

九尾の無表情のような瞳に対して

天乃はよくわからない感情を含むため息をついて、通話終了のところに指を近づける

けれど

九尾「切るのかや?」

天乃「…………」

九尾「話もせずに、切るのかや?」



1、コールを続ける
2、電話を切る


↓2


九尾にそう言われては通話をやめることなんかできず、

ピクっと、指が引いたところで

友奈『ふぁぃ……』

眠そうな声が聞こえてきた

やっぱり、寝ていたらしい

天乃「おはよう。起こしちゃったわね」

友奈『………んぅ?』

天乃「起きてない?」

友奈『……起きてるよぉ?』

九尾「くふっ……くははっ」

寝ているのか寝ていないのか

中途半端な状況の友奈は、いつもの言葉遣いも忘れて

間延びした声を返す

それが楽しいのか、九尾は押し殺した笑い声を漏らしていた


九尾「愛の告白でもしてみるかや?」

天乃「なんで」

九尾「目を覚ます程度の衝撃では、あるじゃろう」

明らかに楽しもうとしている九尾を一瞥して

端末を耳にあてがう

友奈『すー……すー……』

天乃「寝てるんだけど」

九尾『ふむ……まぁ、主様の目的のことをするか、ふざけてみるか。今なら、小娘も夢と思うじゃろう。するがよい』

天乃「…………」



1、実はね。好きな人がいるの
2、友奈、貴女はまだ戦うつもりがある?
3、ごめんね。きついこと言っちゃった
4、夕方、時間貰えない?
5、今から迎えに行ってもいい?
6、何も言わない


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から




天乃「まだ、戦う気はある?」

友奈「戦う……?」

天乃「友――」

友奈「あるよ……あるよ。ある……久遠先輩、一人にしたくな……ぃzzz」


では、本日も進めていきます


天乃「ねぇ、友奈。貴女はまだ戦うつもりがある?」

友奈『……あるよ』

天乃「……………」

友奈『……私達には家族がいて、久遠先輩には家族がいない。だから犠牲になっても良いなんて。おかしいよ』

寝ぼけているのか、起きているのか不確かで

合間合間に見える言葉のテンポの乱れだけが

まだ、覚醒状態ではないと主張する中で

友奈は、言う

友奈『だって、私は久遠先輩のことお姉ちゃんだって思ってる。家族だって、思ってる。だから』

天乃「……友奈」

友奈『いなくなって、欲しくないよ……』

電話の奥で、嗚咽が溢れ始め

天乃は友奈の言葉に答えをためらって、九尾を見る

その瞬間

ガチャンッと端末が音割れを起こす

多分、ベッドの上に置いてあるだけだった端末が落ちたか

友奈の手から滑り落ちたか

いずれにしろ、起きている状態での言葉ではないことだけは確かになった

天乃「それでも」

九尾「……………」

天乃「それでも、友奈がどこかでそう思ってくれていることには。変わりがないのね」

九尾「うむ……じゃろうな」

友奈が馬鹿と言いたくなるくらいにはお人好しだと知っていた

けれど、まさか

あそこまで言って一日も経たずにそう答えを出すとは思っていなかった


九尾「沙織が言っていたように。小娘どもは、主様を行かせはせん」

天乃「……………」

九尾「主様がきゃつらを守るためにと勇者部を提案した時点で、これは決まっておったことじゃ」

九尾は天乃に優しく言葉を投げかけると

端末を取り上げて、通話を終了させる

天乃「最初から、分かっていたの?」

九尾「力が関与しているのならば、容易であろうが。主様の性格だけ見れば、嫌われることは難しいじゃろう」

そうだ

人に嫌われるには久遠天乃は優しすぎる

そして、この世界は甘すぎる

あの頃とは違う

優しさを喰らい、善意を糧として生きていたあの頃とは違いすぎる

ゆえに、そう簡単には……孤独にはなれない

九尾はそう思い、首を振って天乃に端末を差し向ける

九尾「学校に行くのじゃろう? 準備はよいのかや?」

天乃「あぁ……うん。そうね。学校。行かなきゃね」

今が非日常だとしても、やるべきことはあるのだと。天乃は小さくため息をついて準備を始めた

√ 4月4日目 昼(学校) ※水曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室

↓2


天乃「昨日はサボっちゃったしね」

九尾「一日触れなかった程度で、溜まるようなものかや?」

天乃「そういうわけではないけれど。相談っていうのはね。基本、ギリギリにしかしてこないものなのよ」

天乃はそう言うと、

パソコンを軽く操作して、メールボックスを開く

天乃「……………」

自分ではどうしようもない

そう追い込まれたからこそ、誰かに相談する

そういうものだと、誰かから教えて貰った

だから、相談されたら後回しにしてはいけない

悩みを、溜め込んではいけない

迅速かつ丁寧に解決していく

それが、久遠天乃だ

九尾「来ておるのかや?」

天乃「進路相談が二年生から一件、恋愛相談が三年生から一件……ふふっ、もう卒業だから。告白したいのかしらね」

九尾「人間の恋愛事情など知らぬ。主様宛なのじゃろう?」

天乃「請け負うのは私だからね。それはそうよ」


天乃「どちらも確実に行うのは当たり前として、優先順位の問題よね」

九尾「ふむ……」

二年生からの進路相談に関しては、

時間がありましたらお願いします。という制限のされていないものだ

もっとも、それでも先延ばしにしすぎては自己完結あるいは

この時には目指していたものを諦めた選択に落ち着く場合もある

一方で、

恋愛相談に関しては、土曜日の午前授業後

時間を欲しい。とのことだ

ただし、その上げる時間の中での話等もあるため

最低でも前日には連絡を取り、会う必要がある


九尾「恋愛なぞ、勝手にさせて、玉砕させればよかろう」

天乃「そういうこと言わないの」

九尾「恋愛は、抱いている間が心地よい。なぜか知っておるかや?」

天乃「したことない私に言わないでよ」

絶対に変な事を言う

余計な事を言う

直感で感じ取り、適当に返す天乃に、

九尾は関係ないというように苦笑して、続ける

九尾「抱いている間は、夢。しかし、成立した瞬間現実になるからじゃ」

天乃「それの何が悪いのよ。夢を見て、夢から覚める。生きるって、そういうことなのに」

天乃は九尾に見向きもせず

メールを見て、息をつく

恋愛相談の三年生は隣のクラスだけれど、二年生の時には同じクラスだった人

進路相談の方は……友奈のクラスメイトだ



1、進路相談
2、恋愛相談
3、夕方、みんなと話してからにする


↓2


天乃「とりあえず、恋愛相談の方を請負いましょうか」

九尾「ふむ……進路の方は良いのかや?」

天乃「もちろん、そっちもやるわ。けど、三年生ならともかく、二年生ならもう少し猶予はあるわ」

昨日やっておけば連続依頼なんていうことにはならなかったのだろうが

それは言っても仕方のないことだと、天乃は首を振ってメールを返す

今日は水曜日

明日は木曜日、明後日金曜日

進路相談のことも考えれば

今日の夕方にでも会って話をまとめてしまうべきだろう

それに

天乃「友奈達は、私抜きで考えたいこともあるだろうし」

九尾「時間をつくるのは重要じゃが。何も変わらぬと思うぞ」

天乃「それでもよ。各々の気持ちを確かめ合う必要はあると思う」

特に、東郷……須美

あの子の恐怖心は易々と拭えるものじゃない

だからこそ……それを乗り越えられる強い絆と思いの確認は必要不可欠だ

九尾「うむ。合格じゃ。ならばよかろう。好きにするがよい」

九尾は一人満足そうに、姿を消した


では、ここまでとさせていただきます
あすはお昼頃からできればなと





「実は、お兄ちゃんが私と本気で結婚したいって」

天乃「ぇ……冗談じゃ」

「婚姻届も書いてるのっ!」

天乃「馬鹿なの?」

「……私も名前書いちゃったっ」フイッ

天乃「!?」


では、初めて行きます


01~10 
11~20 風

21~30 
31~40 
41~50 友奈

51~60 
61~70 
71~80 女子生徒

81~90 
91~00 

↓1のコンマ  


昼休み、部室に誰かが来ることはなかった

教室で昼食をとって話しているだけなのかもしれないが……

勇者部の中の誰かが悩むために部室を利用する可能性もあった

けれど

天乃「友奈が答えを出しているように、もう。各々の答えは決まりかけているってことなのかしら」

本来なら、一日やそこらで決めるような軽い問題じゃない

けれど

半日は一日など、ごく短い時間の後に再度襲来してくる可能性がある以上

早計だと、一概には言えない

天乃「……馬鹿ね。私を助けようだなんて」

足を引っ張るだけになる

手を焼かせるだけ

助けるんじゃなく助けられるだけ

そんな非力であろう勇者見習いを思い浮かべて、

天乃はため息をつく

けれど

その表情には、嫌悪感は感じられなかった

√ 4月4日目 夕(学校) ※水曜日


風「久遠は部室に行く?」

天乃「昼休みに自分の分のメールチェックは済ませたわ」

風「……そか。真面目ね」

天乃「そうね。授業中に居眠りしている貴女には負けるだろうけど」

きっと、寝る間も惜しんで考えたのだろう

唯一の家族、樹を巻き込んでの戦い

死ぬかも知れない恐怖

樹をひとりぼっちにしてしまう不安

大切な友人のひとりである天乃の犠牲

自分はどうするべきか

どうあるべきか

きっと、考えて、考えて……答えを決めようとしたのだろう

風「なによ。嫌味?」

天乃「まさか。皮肉よ」

風「言ってくれるじゃない……久遠の癖に」


風「ねぇ、久遠」

天乃「ん?」

風「あたしさ、考えたんだけど……戦うよ」

天乃「それをここで言うのね、貴女は」

まだ周りにはクラスメイトがチラホラといて

誰かに聞かれかねないという状況での言葉に

天乃は困ったように笑って、首を振る

眠気で上手く頭が回っていないのか

それとも、

自分の宣言がただの口約束でしかなかったとならないように

誰かに聞かせたかったのか

風「できることがあるのにやらないなんて、あたしには出来ない」

天乃「……樹とは話したの?」

風「そう言ってくれると思ってた。って、樹には言われたわ」


風の困り顔に

天乃はその時の樹の表情と思いを感じ取って

同意するように苦笑する

樹は意外と強い心を持ってる

いや、そうじゃない

弱くて、曲がりやすいからこそ柔軟で

折れることのない心を、持っている

それは、鉄のように硬い心よりも弱くて強い

誰しもが持つことのできるものではないし、真似が出来るものでもない

天乃「馬鹿ね……私は強いのに」

風「久遠が強いとか弱いとかは関係ない」

天乃「……………」

風「おいていくのが嫌なのよ。たった一人にすべてを任せるのが嫌なのよ」

天乃「風……」

風「みんな、そう思ってるのよ」

風はそう言うと、先に部室行くから。と、教室を出ていった


天乃「みんな。ね」

やっぱり、答えは決まってしまっているらしい

満開という危険な技のことも

まだ、話していないというのに

みんな、戦うつもりらしい

死ぬ可能性、傷つく可能性

それだけでは、【善意】は止められない

天乃「沙織に言ったら、自慢げな顔で笑うわね。きっと」

簡単に思い浮かぶ、沙織の笑顔を脳裏に浮かべて苦笑する

あの顔はちょっぴりイラッとさせるけど

平々凡々なこの非日常が日常であると錯覚させてくれるから、好きだ

天乃「……さて」



1、一度部室へ
2、恋愛相談の依頼主に合う


↓2



いつもは部室の外まで笑い声が聞こえてくる廊下は

昨日の今日ということもあってか、やっぱり静かだった

それでも、天乃はドアを開け、笑みを浮かべる

天乃「来ちゃった」

友奈「久遠先輩……ぁ、あのっ」

天乃「どうかした?」

友奈「今日の朝……電話、したりしてたのかなーって」

友奈はオドオドしているというよりも

恥ずかしそうに頬を染めて、問う

その手には端末が握り締められていて

すぐに画面は暗くなったけれど

通話履歴が表示されていたのが見えた


天乃「うーん」

通話履歴を見た以上

そこに久遠先輩。と、私の名前が入っているのは確実

つまり

それがある時点で電話したことは確定するし

不在マークは入っていないから

何かしらの会話をしたことも確定

それは友奈だってわかっていること

問題は、【どんな話をしたのか】友奈が覚えていないことだ

天乃「電話はしたわ。通話履歴を見たならわかるでしょう?」

友奈「はい……ただ、ごめんなさい。あんまり覚えてないんです」

天乃「あら、正直」



1、正直に話せば教えてもらえるとでも?
2、ふふっ。貴女が私のこと大好きって、おねえちゃん愛してるって言ってたのよ
3、そうねぇ……恋愛の話で盛り上がったわね
4、どんな話をしたのか話す
5、ぼた餅のせいで太っちゃったけど、東郷には言えない。断れない。どうしようって言われたわ


↓2


天乃「そうね。とても短い会話だったわ」

天乃はそう切り出して、今朝の会話を簡略化して、

友奈だけでなくみんなにも聞こえるように話す

犠牲になってもいいのは間違っているといったこと

家族でお姉ちゃんだから

いなくなって欲しくないと、言ったこと

天乃「そんなことを話したわ」

友奈「ぁぅぅ……っ」

言うことはないと思っていた自分の気持ち、自分の考え

それを見事に暴露していた恥ずかしさと

みんなにバレた恥ずかしさに、友奈は顔を真っ赤にして呻く

そして

天乃はそんな友奈を見つめ、言う

天乃「つまりね、私は友奈の生き別れのお姉ちゃんだったらしいの」


東郷「なっ……」

天乃「まだ私たちが今よりもずっち小さかった頃、事故が起きた」

友奈「事故?」

天乃「両足や耳などの機能不全という後遺症が残るほどの大きな事故。その結果。大赦に引き取られ人身御供となることが決まった」

風「人身御供って、あんた」

天乃「それが勇者として戦うことだったの」

天乃は笑うのを我慢しながら、

神妙な面持ちで息を吐き、続ける

天乃「当時、事故によって記憶障害も引き起こしていた私はいい傀儡だったわ」

樹「どういうこと、ですか?」

天乃「家族は妹含めて、死んだと教えられたのよ。バーテックスのせいで死んだってね。だから、大赦に尽くす以外なかったのよ」

風「そんな過去が……」

もちろん、ない

天乃「だけど、一年前、友奈と出会って私は何かを感じた。その意味を、理由を今日まで探し続けてきた」

友奈「久遠先輩、私。本当に」

天乃「貴女のお姉ちゃんという言葉を聞いて思いついたわ。私は、貴女のお姉ちゃんなんだって」

友奈「お姉ちゃん……」


東郷「久遠先輩……その話。本当なんですか?」

天乃「東郷……」

ひとり信じていない東郷を見つめて、

天乃は困った息をつく

風も樹も友奈も

この冗談に付き合えるほどには余裕が有る

こんなものを信じかけてしまうくらいには隙がある

けれど、東郷は……

東郷「ふざけたことを、言わないでください。今の私達は真剣に話すべきことがあるはずです」

そこまでの余裕がない

まだ、戦うことへの恐怖心を拭いきれていない

このまま戦っても精霊によって命の保証はある程度される

けれど、いい的でしかない


1、……そうね。冗談は止めて言うわ。貴女は足手纏いにしかならないから戦うのはやめなさい
2、ふふっ。そうね。じゃぁ聞くけれど。貴女はどうする?
3、本当よ……友奈は私の妹なのっ
4、話すべきことって、何かしら


↓2


天乃「ふふっ。そうね。じゃぁ聞くけれど。貴女はどうする?」

東郷「……私は」

天乃「戦いを思い出すだけで震える。そんな貴女がしたいことはなんなの?」

さっきまでの穏やかな空気を一蹴して

東郷へと、天乃は厳しい言葉を投げかける

一瞬であれ、天乃が笑ったこと

そこから空気が入れ替わってしまったこと

それに怖気づく勇者部の面々は息を飲んで、天乃を見つめた

東郷「っ」

天乃「貴女は真剣な話と言ったわ。愛の告白ではないだろうし、昨日の件なのでしょう?」

東郷「……はい」

東郷は戦うことを恐れている

それは、

自分が傷ついたり、死ぬかも知れないからという

誰もが抱いてしかるべき恐怖だ

むしろ、抱かずに友人のためと割り切れたほかの子がおかしいのであって

東郷は何も間違っていないし、おかしくもない


傷つくから、死ぬから

戦うのが怖い

それはつまり、死にたくないということで

言い換えれば【生きたい】という願いだ

それをふざけるなと怒鳴りつけること

戦えと強制すること

何かを人質に取って強要することなど、天乃にはできない

する気もない

だから、問う

天乃「貴女はどう思ってる? どうしたい? 震える体を抱きながらも。目指すものは何? 求めている結果は何?」

東郷「私は……みんなを、世界を」

天乃「みんなや世界は私が守ってあげるわ。無理をする必要はない。その震えている体を酷使する必要もない」

東郷「でも……私は」

天乃「その答えは何がこうだから、あれがどうだから。ではなく、私はこうしたい。こうだろうがあれだろうがどうだろうが、私はこうしたいという思いなの?」


東郷「っ」

天乃「……東郷」

せっかく助かった命だ

銀が守った命の一つだ

戦わなくても済むのなら

このまま、日常を続けることが出来るのなら

それが、一番いい。はずだ

そう思って、畳み掛ける

それがほかでもない【久遠天乃の願い】だと【善意の押し付け】だと

天乃自身が気づかないままに

東郷「それでも……私はっ」

東郷は天乃の言葉に首を振る

反論をする

これが天乃がいうように

こうだろうがあれだろうがなんだろうが、自分はこうしたいという思いなのかどうかはわからない

けれど

東郷「私は……久遠先輩のそばにいたいんです」


名前なんてしらなかったはずなのに、どこかで聞いたことがあると思ったし

他人だったはずなのに、とてもなじみやすくて、

気づけば信頼していたし、気づけば好きだった

自分の失った記憶の中で

知り合っていたのかもしれないとさえ、思っている

初めて会った時からそんな状態で

天乃のことを考えることが多かったり

その話題を振られると戸惑ったりするせいか

クラスメイトからは【恋愛対象として。好きなのか】とからかわれたりもする始末だ

そう見ているかどうかはともかくとして

そんな相手を東郷は……見捨てたくなかった

見捨てられるわけがなかった

東郷「初めて見た時から、私は……貴女のそばにいたいと。思っていました。何があろうと。離れたくないと」

東郷はそう言いながら

自分の胸を苦しそうに押さえ込んで、天乃を見る

東郷「だから、私も戦います。久遠先輩がなんと言おうと。久遠先輩が失われる可能性があるのなら。私はその可能性を拒絶する」


久遠先輩は最初に初めましてといった

けれど

さんざん冗談を言うような性格で

今回みたいな重要なことも隠していたりするような人だ

だから

一度は捨てた可能性

記憶がない間に知り合っていた可能性も、ゼロではなくなった

それに

そうじゃないとしても

久遠先輩は……

天乃「……絶対に戦うの?」

東郷「はい」

天乃「みんなも?」

友奈「はい」

風「もちろん」

樹「はいっ」

私たちの大切な部員で、友人だ


天乃「……そう」

昨日の今日で、この答え

震えていた東郷までもがこの答えにたどり着いた

適当なんかじゃなく

ちゃんと考えた末での答え

なら、沙織に行ったとおり

その意志を組んであげるほかない

天乃「わかったわ。ただし、無茶も無理もしないこと。いいわね?」

風「それはあんたでしょ」

樹「そうですよ。久遠先輩が一番、危ないことしそうです」

東郷「全部自分に任せてっていうくらいの無茶は、当たり前なのが困りものだわ」

天乃「なによ……言ってくれるじゃない」

嫌味のように言う三人に、天乃はちょっぴり膨れた表情を向ける

これは日常か

それとも、非日常か

どちらにしても……守りたいのは

天乃「友奈っ、お姉ちゃんに加勢しなさいっ」

友奈「え、ぁ、はいっ。お姉ちゃんっ!」

この世界だ


風「そ、そういや。久遠」

天乃「なによ。言っておくけど。こう見えて寝技は得意よ。足が動かなくても首を絞め上げるくらいはできるわ」

風「だ、だからごめんって言ったのに」

床に倒れた自分に馬乗りになる天乃に、

風はもう一度謝罪して、息をつく

足が動かないにも関わらず

押し倒して寝技を仕掛けてくるのだから、どうしようもない

風達にとっては

そのレベルの無茶なら当たり前のようにするとわかっただけでも、よかったのかもしれないが

風「依頼。メール返してたでしょ」

天乃「あっ」

風「教室で待たせてるんじゃないの?」

天乃「そうだった……風。この決着はまた今度付けるわよ」

風「勝ち目なさそうなんだけど……まぁともかく。友奈も。剣道部の助っ人じゃなかった?」

友奈「そうですっ」

東郷「私もやらないと……」

勇者としてどうするかという話から

勇者部の部員としてどうするかへと切り替えて、動き出し

友奈は体育館、天乃は教室へと向かっていく


会う予定を作った教室へと向かうと、

放課後の夕日の中、

男の子がひとり、椅子に座っていた

天乃「ごめんなさい。待たせちゃったわね」

「いや、時間をくれって言ったのはこっちだから」

男の子は遅刻に怒ることなく、

ちょっとばかり照れくさそうに笑いながら、頭をかく

天乃「それでも、遅刻は遅刻だからね。ごめんね」

「いや、気にしなくていいって。それよりもさ……その土曜日の件なんだけど」

天乃「午前授業のあとに時間がほしいっていう話よね? 告白の後押し?」

「いや、その」

男の子はおどおどしい態度で否定し

天乃を見つめて、見つめ返されて目をそらして

そして。言う

「あれだ。実はその……デートの下見に付き合ってくれないかな。と」

天乃「……え?」



1、いいわよ
2、それなら風たちの方がいいと思うけど?
3、どうして私なのよ
4、何も言わない



↓2


天乃「デートの下見……ね。ええ、いいわよ」

「ほ、本当か?」

天乃「こんなことで嘘はつかないわよ。それとも、からかったの?」

「い、いや。そういうわけじゃ、なくて」

天乃の鋭い瞳に

心まで見透かされそうな気がした男子生徒は

恥ずかしそうに目をそらして、頷く

「なんていうか。あれだ……どうして久遠なのかとか。色々聞かれるかと思って……」

天乃「そうね。確かに気になる点はあるけど。話せることなの?」

「っ」

天乃「言えないなら言わないでもいいわ。理由はどうであれ。貴方は困っているんでしょう? 私が手を貸す理由なんてそれで十分だわ」

天乃の笑みに、

男子生徒はありがとう。と、答えて、首を振る

理由は色々と考えてあった。けれど、それは必要なかったらしい

天乃「ちなみに、貴方が不良な人に私を呼び出すように脅迫されている可能性も考慮してるわ」

「いや、それはさすがに……」

天乃「現代でも不良は――」

「違うよ。不良に脅されてたとしても。久遠は差し出さない……久遠を犠牲にして助かろうとなんてしないって言いたかったんだよ」


おどおどしているかと思えば

ちゃんとするところもあるようで

天乃はちょっと驚いた表情を見せて、苦笑する

天乃「そっか。私を守ってくれるのね」

「まぁ、うん……」

天乃「ふふっ。ありがと」

「いや……別になにかしたわけじゃないし。お礼は」

天乃の笑顔が嬉しくて

けれども直視ができないかわいそうな男子生徒は

夕日でごまかせない表情を隠すように目を背け、息をつく

天乃が普通の女の子と変わらずに健康であれば、問題はなかっただろう

けれど、天乃は両足が動かない

片方の耳だって、全く聞こえていない

誰にも言っていないが、味覚もない

そんな天乃を下見に連れて行くのは、明らかに不自然で

その点を突かれずに済んだことに、安心して隠したまま笑みを浮かべた


天乃「それじゃ、土曜日の放課後でいいのよね?」

「うん」

天乃「そこでひとつ聞いておきたいんだけど、そのまま制服で学校から直接向かうか、帰って着替えてからのどっちにするの?」

「それは、久遠が決めてくれていいよ」

本心としては後者だったが

下見に付き合ってもらうという立場上

余計な願いはできないと、答えを辞退した男子生徒は笑う

「帰ってからで久遠が面倒じゃないなら、着替えてもいいだろうけど……」

天乃「そうね。下見場所は? 学校から遠い?」

「そんなに遠くはないかな」

天乃「そう……」

となると、

天乃の家からは少し遠い可能性がある


1、学校から直接
2、一回帰ってから


↓2


天乃「なら、学校から直接でいいかしら」

「久遠がそう言うなら、そうしよう」

天乃「じゃぁ、そういうことで」

土曜日は午前授業のあと、

そのまま男子生徒とのデートの下見

その予定を頭の中に書き入れて、天乃は笑みを浮かべる

天乃「楽しみにしてるわね。貴方との デ ー ト 。ふふっ」

「っ、な、いや、く、久遠とはあくまでし、下見だぞ」

男の子を弄ぶようなイタズラの一言

天乃にとってはその程度でも、男子生徒には強く響いたのか

気恥ずかしさをこらえるように言い返し

「ど、土曜日だからな……頼むよ」

続けざまにそう言って、教室から出て行ってしまった


天乃「ちょっと、からかいすぎ……ん?」

男子生徒が去っていく姿を見送ったあと、

端末の点滅に気づいて、サイレントを解除すると

不在着信が数件

メールが数件入ってきていた

天乃「東郷、東郷……風、樹」

電話もメールも風や東郷

特に東郷からのものが多く

どこにいるんですか、何してるんですか

慌てているようなものばかりで

天乃「……どういうこと?」

最終的には【友奈ちゃんが襲われました。大した怪我はありませんでしたが。先に帰ります。気をつけてください】と、綴られていた

天乃「襲われた?」

何に? 誰に?

バーテックスの襲来はありえない

星屑だって、襲来してきていない

だとしたら一体何が襲ったのか

天乃は不安を飲み込んで、開け放たれたドアを見つめた


√ 4月4日目 夜(自宅) ※水曜日


東郷の話によれば、友奈は剣道部の助っ人中

割り込んできた相手との試合に負けたらしい

東郷もその現場を見たわけではないが

ひどく一方的に近かった。と、剣道部員は言っていたらしい

東郷が着いた時にはもう、目を覚ましていたそうだが

しばらく動くことができなかった。というのだから相当だろう

天乃「どう思う?」

九尾「ふむ。主様の姉であれば容易じゃろうな」

天乃「私のお姉ちゃん?」

九尾「うむ。ちなみに、主様の祖母の場合は薙刀術が使える」

天乃「久遠家って一体……」

九尾「ちなみに、そんな女どもを守る為にそれ以上に強くなろうとした変態もいるぞ。やつは強い」

九尾は楽しげに笑いながら話すと

それてしまったな。と、自ら軌道修正を試みて真面目な表情で続けた

九尾「勇者や大赦絡みであると見て間違いなかろう。友奈が狙われたのではなく、勇者部が狙われている。という可能性は高い」


天乃「……やっぱり」

でも、それなら疑問が有る

なぜ、友奈を叩く必要があったのか。だ

勇者部を影から見る役割を担っている沙織が

勇者部の全員が戦意喪失、役立たずだ。と報告することはまずありえないし

沙織の報告以外でも報告を受けているのは分かっていたけれど

それでも

友奈達が戦う意志を示したことは伝わっているはず

天乃「どうして友奈を?」

九尾「桃の髪と赤い髪。赤に近い桃、桃に近い赤。それを想像して狙っていたとしたら?」

天乃「確かに、私を狙って誤って友奈を打倒した可能性は有る。というか、私以外を叩く理由なんてないわよね……」

どうなのかは、わからない

多分、犯人に直接聞かなければ、わからないだろう

√ 4月4日目 夜(自宅) ※水曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定


↓2

※3~7は電話


01~10 風
11~20 ばてくす
21~30 樹
31~40 友奈
41~50 稲荷
51~60 東郷
61~70 九尾
71~80 沙織
81~90 東郷
91~00 友奈

↓1のコンマ  


東郷『久遠先輩、起きていますか?』

天乃「ええ、問題ないわ」

東郷『良かった……』

天乃「?」

東郷の強い安堵の念を感じるため息が端末から漏れる

無事だったからというよりは

この時間に起きていてくれたことを喜んでいるような感じだと、

天乃は思って、息を呑む

天乃「どうかしたの?」

東郷『不測の事態に備えて、依頼メールが私のパソコンに転送されるようにしていたのですが、先ほど気になるものが届いたんです』

天乃「気になるもの?」

この時間から先ほど。という時間に依頼をする時点で気になるものだが

それ以前の話なのだろう。と促すと

東郷からメールを送るので見てみてください。と、電話が切れて、メールが届いた


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     ----- Forwarded Message -----

 依頼内容:その他
 名前:部活の助っ人をやっていた
 
 依頼内容補足:

 部活の助っ人をやっていた部員をたたきつぶしたのは私よ
 車椅子の二人は戦う価値もないし、犬吠埼風の妹は論外
 よって、今度は犬吠埼風との一騎打ちを所望する
 戦闘のスペシャリストと言われてる割には雑魚だった。と、伝えておいてちょうだい
 

 あと、一応確認するけど。勇者部は五人で間違いないわよね?

 車椅子の東郷美森、結城友奈 部長の犬吠埼風、副部長の久遠天乃

 そして、犬吠埼樹 

 もしも部活の助っ人。アレ、
 赤の他人だったら間違えたって伝えておいてちょうだい

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

天乃「名前欄に本文入力しようとしたわね、この子」

九尾「馬鹿じゃな」

天乃「はっきりと言わないの。せめて天然ちゃんにしてあげて」


東郷『メール、見ていただけましたか?』

天乃「ええ、実に面白いメールだったわね」

東郷『久遠先輩、冗談では……』

天乃「名前欄に本文入力してたり、友奈が車椅子だとか。ふふっ。狙ってやってるのかしらね」

電話の奥で聞こえる先輩の笑い声に、

東郷はもう一度、冗談じゃないです。と、口を挟む

本当に、冗談ではない

これはつまり、勇者部への果たし状だ

次は風を狙うと明確にしている……挑戦状だ

東郷『久遠先輩、次は風先輩が狙われています……なんとかなりませんか?』

天乃「そう言われても、車椅子のふたりは戦力外通告されてるし」

もっとも、犯人はおそらく、友奈と私を勘違いしているだろうし

私はもう既に、相手の中では敗者というわけだ

天乃「まったく……勘違いで友奈を倒しちゃうなんてね」



1、いいわ。私がぶっ飛ばすから。明日の放課後体育館に呼びなさい
2、とりあえず、エラーメール装って送り返してみてくれない?
3、風ならなんとかできるんじゃない?
4、貴女はどの程度何とかして欲しいの? 私はとりあえず、友奈の分で失神させるけど


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすはできれば通常時間から




久遠さんは満面の笑みで、失神させると言ってます


では、初めて行きます


天乃「貴女はどの程度何とかして欲しいの?」

東郷『と、言うと?』

天乃「私はとりあえず、友奈の仇討ちだし。失神させるわ」

東郷『物騒ですね……』

天乃「あら、そうかしら」

電話をしているだけでも、

東郷は天乃が笑っているのだと気づいたし

そこにある感情が喜哀楽の欠落した怒のみであることも

なんとなく、分かった

東郷『でも……久遠先輩にできますか?』

天乃「……………」

東郷『両足が動かないのに、友奈ちゃんを圧倒した相手に勝てますか?』


天乃「相手の実力は知らないわ。だから、絶対に勝てるだなんて言えないでしょうね」

東郷『それなら――』

天乃「でも、メールの内容的に。友奈は私の代わりに襲われた」

東郷『それは……そう、かもしれませんが』

天乃「私より友奈の方が可愛いのにね。見間違えるなんて……酷い話だわ」

怒っているのか、悲しんでいるのか

電話先では読みきれない声色に変化したことに気づき、

東郷は息を飲む

久遠先輩は優しい。すごく優しい

けれど、だからこそ。きっと……怒ったときは誰よりも、怖くて厳しくて、意地悪で……危ない

天乃「だから、無茶だろうと私はやるわ」

東郷『っ』


東郷『……………』

やめてといっても、

久遠先輩は戦ってしまう

お願いだといっても、きっと

東郷『っ』

天乃「?」

電話の奥で小さな呻き声が聞こえた

本当に小さくて

夜でなければ周りの雑音だと切り捨ててしまいそうなほどに小さなもの

どうかしたのかと天乃が聞こうとすると

その前に、東郷が口を挟んだ

東郷『相手の要望通り、風先輩にお願いしてみませんか?』

天乃「え?」

東郷『風先輩がもしも負けたら……久遠先輩が出る。それでは、ダメですか?』



1、そうね……まぁ、いいわよ
2、それじゃ、ハンデがついちゃうじゃない。フェアではないわね
3、万全の相手を叩きのめしてこそ。本当の勝利だって私は思うのだけど
4、ううん。余計な犠牲は要らないわ
5、なぁに? 私には戦って欲しくないの?


↓2


天乃「なぁに? 私には戦って欲しくないの?」

東郷『あ、当たり前です……ご自身の体のことを考えてくださいっ』

東郷にしては珍しく詰まったり、怒鳴ったり

意表をつかれ、返答を見逃した天乃に向かって

東郷は続ける

東郷『両足が動かず、片方の耳も聞こえない。そんな障害がありながら戦うなんて間違ってます』

天乃「……………」

東郷が言うことは間違っていない

いくらプロでも

そんな障害を持っているのなら、プロには勝ち目がなくなるだろうし

アマチュアにだって勝つことが難しくなる

ただの運動ではなく、試合ならなおさらだ


だからこそ、

天乃が危険な目に遭うだけの試合は止めて欲しいと、東郷は思ったのだ

負けるからとか、どうとかではなく

勝とうが負けようが、

無茶されるのが嫌で、怪我されるのが嫌だった

東郷『お願いです、久遠先輩』

天乃「東郷……」

東郷『風先輩の後にしてください。風先輩に委ねてください』

天乃「嫌だと言ったら?」

東郷『車椅子二人乗りになります』

天乃「車椅子二人乗りって道路交通法違反になるのかしら」

東郷『久遠先輩っ』

天乃「はいはい。真面目に答えるわよ」


1、悪いけれど。私が相手する。その子の狙いは私だったんだから
2、仕方ないわね。風に任せるわ。でも、負けたら私が出る


↓2


天乃「悪いけれど。私が相手する」

東郷『っ』

天乃「その子の狙いは私だったんだから。これは、やるべきことなの」

電話でなければ、

顔を見合わせていれば

しがみつかれていたり、

泣かれていたり

怒られていたり

色々なことがあったことだろう

でも、これは電話だ

一方的に言いくるめることができるし

相手の表情に気持ちを乱されることなく話すことができる

天乃「悪いわね、東郷」


東郷『私の言葉では、止まってはもらえないんですね』

天乃「友奈でも、風でも、樹でも。誰の言葉でも止められないわ」

友奈が討たれた

自分の代わりに、打ち負かされた

そして、また別の人を討とうとしている

勇者狩りとも言うべきそれは

早々に、終わらせたい

終わらせなければ誰かが傷つけられる。だから

天乃「私はその相手と――」

東郷『負けないと約束してください。私の思いを跳ね除けたんですから。絶対に』

口を挟んできた東郷に

天乃は声には出さずに笑みを浮かべて、答える

天乃「……そう言われると、貴女の告白を断ったみたいに聞こえるんだけど」

東郷『ある意味似たようなものですよ』

天乃「ふふっ。なら、負けるわけにはいかないわね」

東郷の悲しそうな声に

天乃は正反対に笑って答える

時間は明日の夕方、同じく体育館

天乃「リベンジマッチと行きましょうか。名無しさん」

友奈の分、叩きのめしてあげるわ

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(戦う意思)
・   犬吠埼樹:交流有(戦う意思)
・   結城友奈:交流有(寝言、電話内容、戦う意思)
・   東郷美森:交流有(戦う意思、挑戦状、戦う)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



4月4日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 27(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 24(中々良い)
  結城友奈との絆 28(中々良い)
  東郷三森との絆 24(中々良い)
     沙織との絆 30(中々良い)
     九尾との絆 28(中々良い)
      死神との絆 28(中々良い)
      稲狐との絆 26(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%

√ 4月5日目 朝(自宅) ※木曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室
↓2

※3~7は電話
※9は朝一勇者部直行、依頼確認


風『もしもし~?』

天乃「この時間でも起きてるなんて、さすがね」

風『あたしはやることあるからね。ないのに起きてる久遠の方が流石よ』

受話器からは

ニュースキャスターの声や、炒め物をしているのか

油が跳ねる音が聞こえてくる

ニュースを見ながら朝食・弁当作りとは

どこぞの主婦なのかと、天乃は苦笑する

きっと、料理は美味しいのだろう

それを味わうことのできる樹が少し、羨ましいと思った

天乃「早起きは三文の得って言うし」

風『三回早起きすれば九文ならぬ久遠。なんちゃって』

天乃「ふふっ。すっごくつまらない」

風『あははっ……ははっ』

天乃「ニュースよりもお笑い番組見たほうがいいんじゃない?」

風『そうする』


天乃「でも、良かったわ。いつも通りで」

風『ん?』

天乃「楽しい冗談を言えたらどうしようかと思っちゃった」

風『あたしがつまらないのが当たり前みたいに聞こえるんだけど?』

天乃「……自分のことって、自分では気づきにくいものなのよね」

風『なんか悲しくなるから止めてっ!』

風の声に笑い声をこぼして、

冗談よ。と、言い返す

天乃「………………」

友奈が襲われた件は風にも伝わっている

それでも、平常心を保てているのだから

その点に関しては、さすがというべきかも知れない

もっとも、学校に行ったら探し出そうとするんだろうけど


風『でさ、久遠』

天乃「うん?」

風『あと一時間、二時間で会えるのに電話してきた理由はなんなのよ』

天乃「やっぱり気になる?」

風『本題なんだけど』

ちょっと呆れたような返し

料理をしながら電話を受けてくれているのだから

余り、ふざけるのも良くなさそうだ

天乃「えっと」



1、どうして下の名前で呼んでくれないのかなって
2、今日の夕方。友奈を襲った犯人と一騎打ちをするわ
3、貴女の両親が亡くなったあの災害は、私たちが戦ったことによるものなの……ごめんなさい
4、土曜日の午後は、恋愛相談の一環でデートの下見に付き合うことになったわ


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から


これは2でのスタートになるですね


では、初めて行きます


天乃「どうせ、東郷から伝わるとは思うんだけど」

風「んー?」

天乃「今日の夕方。友奈を襲った犯人と一騎討ちをするわ」

風「い、一騎討ち!?」

風の大声の後

カシャンっと小さな陶器の音が鳴る

何かを落としたか、置いたか

いずれにしても慌てていて

風「そんなの許さないわよ! 部長権限! 絶対にだめ!」

いま気にするべきは天乃のことだった

天乃「いっつ……」

風「大体何考えてんのよ久遠は! 自分の体見えてないの? わかってないの? あんた、足が動かないのよ!?」

天乃「ぅぐっ」

キーンとする耳に、さらに怒鳴られて

思わずかをしかめた天乃は端末を遠ざけて、息をつく

風「そんなんで一騎討ちとか――絶対許可しないわよっ!」

それでも、声ははっきりと聞こえた


天乃「ふ――」

風「友奈が被害にあったからとか言わせないわよ」

天乃「そんな怒鳴らないで」

風「このくらいじゃないと久遠は「はいはい、わかったわよ……」とかだけで終わらせるでしょ!」

天乃「うっ」

同じように言うかはともかく

似たようなことは言うだろう。と

自分のことを客観的に見て、天乃は苦笑する

大方、間違いでもないし

東郷に言ったように、風になんといわれようが止める気はない

風「相手も車椅子なわけ?」

天乃「うん。そうらしいわ」

風「即答で嘘つかないの」

天乃「いいじゃない。別に」

風「良くないから言ってんのよ」


風「勇者ならともかく、普通のときの久遠はちょっと……」

天乃「なによ」

風「んーいや実はさ。簡単に押し倒せそうな女子ランキング一位なのよ。久遠」

天乃「なにそれ、知らないんだけど」

風「あ、あたしもつい最近知ったっていうか阻止したっていうか……まぁその」

つまり、かなりか弱い女の子に思われている。ということだ

両足が動かないとか、優しいとか

理由はいろいろあるが、そういうことになっている

風「だから、みんなが心配しちゃうっていうか」

それで久遠がボコボコに傷つけられたりなんかしたら

犯人がいろいろな意味でボコボコにされるというか

天乃「そんなこと言われても、偏見だわ」

風「そ、そうだけど。とにかく、危険だから絶対にダメ」



1、で、そのランキングとやらはなんなの?
2、風は、私がか弱い女の子に見える?
3、大丈夫。勝つわ
4、風、貴女は樹が襲われたとして。危険だからと引き下がれるの?
5、危険とかどうだとか知らないわよ。相手が友奈に手を出した。やり返さなきゃ気がすまない
6、避けられないわ。向こうから挑戦状が叩きつけられたんだもの

↓2


天乃「で? そのランキングとやらはなんなの?」

風「つまんないものよ。男子がよくやる、可愛いとか、エロいとか、そういうランキング」

天乃「よくやる。ね……」

あの子が可愛い、可愛くない、綺麗、綺麗じゃない

同じ学校の生徒でそういう話をしているのはあまり耳にしないが

アイドルとかでそういう話をしているのは良く耳にする

風「ワーストランキングをしないのが良心的だけどね」

天乃「ふぅん……そういうのがあるのね。で、押し倒せそうとか思われてるんだ。私」

風「うん、みたいよ」

天乃「私、押し倒す方が得意なんだけどね」

風「えっ?」

天乃「寝技、得意だし」

風「ね、寝技?」

電話の向こう側のゴクリっという音が聞こえて、

天乃は思わず笑って、言う

天乃「柔術も多少嗜んでたから、そのくらいはね」

風「あぁ、うん。柔術ね、柔術……」


天乃「なんで残念そうなのよ。教えてあげてもいいのよ?」

風「残念そうだなんて、そんなそんな。あはははー」

嘘っぽい笑い声をあげる風に、

天乃はため息をついて、一旦、端末を耳から遠ざける

押し倒しやすそう。とは、随分と甘く見られたものだ

しかし

そうなると、学内で集めた久遠天乃の情報では

戦闘のエキスパート。という結果には絶対にならない

もしなったのなら、情報操作されたか

収集した人間が馬鹿かのどちらかだ

そして、情報操作されておらず、収集した人間が馬鹿でもないのに

そんな評価になったのだとしたら

やはり、九尾が言うとおり大赦絡みと見て間違いないだろう


天乃「……ちょっとやっかいね」

友奈を圧倒しただけでも

中々の実力であろうことはわかる

けれど、大赦絡みで

しかも戦闘のエキスパートだと聞きながら挑戦したということは

自分の実力に相当の自信があるということ

そんな相手に……この状態で勝てるのだろうか

そんなことを考えていると

端末から声が聞こえてきた

風「ちなみに、可愛いランキングとか結婚とか嫁とかは直前で破かれたから分からないけど」

天乃「?」

風「先生になって欲しいランキングとか、怒られたいランキングは久遠が一位だったわ」

天乃「なによそれ……馬鹿なの?」

風「馬鹿なんでしょ。まぁ、害はないし。それだけ久遠が好かれてるってことよ」

風はそう言うと、

そろそろ樹起こしたりするから。と、電話を切る

無駄話で話をそらしたが……

放課後、風に止められてしまう可能性はあるだろう


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から




風「膝枕、癒し力、マネージャー……いろいろ独壇場だったしね」

樹「お姉ちゃん、何見てるの?」

風「男子の秘密ノート」

樹「男子? それ、女の子の名前が書いてあるよ?」

風「!?」


では、本日も進めていきます

√ 4月5日目 朝(学校) ※木曜日

友奈、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です


1、風
2、樹
3、友奈
4、東郷
5、沙織
6、イベント判定
7、勇者部部室


↓2



沙織「むふー」

天乃「?」

天乃が沙織へと目を向けると

沙織はそう来ると分かっていたのか

自慢げな息をついて、手をこまねく

察しがいいというべきか

なんというか

天乃「なによ。どうかした?」

沙織「結城さんがやられたから、久遠さん。内心メラメラなんじゃないかと思って」

天乃「からかうつもりなら、やめてほしいわ」

沙織「そんなつもりはないよ。あたしだって。いちファンであるあたしだって、結城さんに手を出した人には、ちょっとね」

沙織は変わらず笑みを浮かべて、

天乃の手をギュッと握る

沙織には戦う力はない

誰かを傷つけられるほどの強さがない

ゆえに、身勝手と思いながらも願う

沙織「だから、あたしは久遠さんのこの手で犯人を殴り飛ばして欲しいんだ」

天乃「……止めないの?」

沙織「まさか。火炎瓶投げ込まれた油の火を止めに行くほど。私は耐熱装甲持ってないもん」


天乃「耐熱って……私は」

沙織「あはは。触ったら火傷しそうだよ」

沙織は茶化すように言う

けれど、実際にそうなのだ

止めたところで止まらない

優しい久遠天乃が、大切な友人を【また傷つけられて】止まるわけがない

三ノ輪銀という悲劇

守ることができなかった後悔と絶望

それは、久遠天乃が両足がないという理由だけで止まることができるほど

小さなものではない

沙織「……相手が憎いのはわかる。苛立ってるのもわかる。でもね久遠さん」

沙織は握ってに力を込め

まっすぐ、天乃を見据える

沙織「殺しちゃダメだよ。絶対に……相手は人間なんだから」

天乃「殺すなんて、大げさだわ」

沙織「ううん、久遠さんが本気になれば武器なんかなくったって人を殺せるよ」


沙織は冗談を言うような表情でも、声でもない

その手は緊張していて

少し、汗ばんでいる

それに気づいたからこそ、天乃は息を呑み、目を向けた

沙織「両足が動かない分、普段の久遠さんは弱体化してると思う」

天乃「それはそうだけど……」

沙織「それでもなお、久遠さんの監視任務はあたしが任されてる」

天乃「……………」

沙織「久遠さんが絶対に傷つけられないと解っているから、あたしをこの場に置いてるんだよ。意味、わかるよね?」

その言葉に、天乃は頷く

沙織は天乃に対して甘い

激甘と言えるほどに、甘く。監視としてはほぼ意味をなしていない

それでも沙織を監視役として配置しているのは

大赦が天乃の力を恐れているからだ

監視役を沙織以外の者にしたら、殺されないかと怯えているからだ

風達に聞かせたら酷い話だというかもしれないが

それが現実で、それが、久遠天乃という個人の力なのだ


沙織「絶対に本気を出さない。それを約束できるなら、犯人と結城さんの戦いを見せてあげる」

天乃「見せてあげるって……」

沙織「体育館だったからね。一応、映像があったんだよ」

沙織はそう言って、

机の中から普通の携帯端末より一回りほど大きいものを取り出し

ニコッと、笑う

沙織「どうする? 本気を出さない?」

天乃「私は友奈の……」

沙織「それはわかってる。でも、その上で我慢して欲しいの」

天乃「っ」

沙織「お願い、久遠さん」



1、承諾する
2、承諾しない


↓2


天乃「……はぁ」

沙織「?」

天乃「わかったわ。手加減する……ハンデにハンデを重ねろなんて、貴女も酷い事言うわね」

沙織「ごめんね」

沙織は申し訳なさそうに言って

それならこれを見せてあげる。と、端末を手渡す

天乃「いいの? ただの口約束で」

沙織「あたしは久遠さんを信じてるし。久遠さん、約束敗れるほど意地悪じゃないでしょ」

天乃「信頼されてるんだかいないんだか」

沙織「してるよ。すごく。だからこそ、その人では本気の久遠さんに勝ち目がないって言い切れる」

沙織の言葉に耳を傾けながら

端末をタップしてスリープを解除し、体育館映像。というファイルを開く


天乃「少し遠いわね」

沙織「ズームできるよ。ちょっと荒くなるけど」

身を乗り出すように机に手を付いた沙織は、

真向かいに座る天乃の手元

端末の画面に親指と人差し指を当て、ぐいっと開く

天乃「ほんとに荒い」

沙織「戻す?」

天乃「大丈夫」

バレーボール、剣道

卓球

バスケ

様々な部活動の練習が行われていて、

いろいろな声が響く

その中には

友奈『やーっ!』

友奈の元気な声も混ざっていた


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友奈「えーい!」

掛け声を上げ、左足で床を踏み込み前へと動く

その瞬間、どこからともなく現れた生徒が

斜めから振り下ろされた友奈の竹刀を弾き飛ばす

友奈「っ! ご、ごめんねっ! 怪我はなかった?」

「はっ、あんたの斬撃程度で怪我なんかしないわよ」

友奈「ぇ、えっと」

「まぁいいわ。一般人相手だったわけだし。今のは見逃してあげる」

友奈「?」

何を言ってるんだろう。一般人って

それに……誰?

「あんたに決闘を申し込むわ。もちろん、受けてくれるわよね?」


友奈「け、決闘? なんで?」

「なんでも何も。私があんたの実力を見たいからに決まってるじゃない」

友奈「そんなの」

「勇者なら、逃げないわよね?」

女子生徒の言葉に、

友奈はピクっと反応して目を見開き

すぐに慌てる頭を落ち着けようと、首を振る

友奈「どうしても、やらないとダメなの?」

「別に、あんた以外のやつをやったっていいのよ? 私は」

友奈「っ」

自分が受けなければ自分以外の誰かが傷つく

きっと、自分以外の勇者候補のみんなが傷つく

そうなったとき、友奈が逃げるという選択を取るはずがなかった

友奈「分かった、受ける」

「そうこなくちゃ……ね。見せてもらうわよ。選ばれたやつの力ってものを」


にやりと笑う女子生徒に、友奈は厳しい目を向けて、頷く

そして

友奈「っ!」

勢いよく、床を踏み込む

さっきよりもずっと強く

長く強く踏み、力を溜め込んで相手を見据え

友奈は――トップスピードで飛び出す

友奈「せゃぁっ!」

「!」

友奈「逃がさないっ!」

女子生徒の体が後ろに倒れていっているのに気づき、

友奈はもう一度、床を蹴って再加速する

友奈「届けぇっ!」

後ろに飛ばれたら届かない

けれど、これならギリギリ追いつくことができる

腹部―胴―一本狙いの突撃

けれど

「馬鹿にしてんの?」

生徒はつまらなそうに、言い捨てた


迫ってくる友奈の刀

受けるでも躱すでもなく、

女子生徒は右手の竹刀を左手に持ち替え、外側へと切り払う

友奈「ぁっ」

「今度は私よ」

切り払われた竹刀は大きく弾けて、戻せず

突撃の推進力も残ったままの友奈目掛け、

身をかがめ、右肩を前に体当りする

友奈「っぁ゛!」

「へばんじゃないわよっ!」

自分の加速力、生徒の力

それの合わさった腹部への直撃に

友奈の矮躯がくの字に曲がる

それで試合を止めるべきだ

決闘であっても、やめるべきだ



なのに、

生徒は友奈の伸びきった腕を掴み、引き寄せ

そのまま背負って――

友奈「ゃ」

そして

ズダンッ! っと、強く、鈍く、痛い音が聞こえ

友奈「けはっ……ぁ……っ」

「ったく……話にならない。こんな奴が……」

倒れ込んだ友奈は苦しそうに呻いて、そのまま動かなくなって

倒した方の生徒は何かをぼやいて、そのまま体育館を出ていく

そして、

先生や東郷らしき生徒などが続々と体育館へと集まってきて

そして、映像は終わった


━━━━━

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━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


天乃「……っ」

ミシッと。端末が悲鳴をあげ

沙織が慌てて端末を取り上げる

握り締めるものを失った天乃の手が

拳を握り締め、震えだしたのを見て

沙織は見せるべきじゃなかったと後悔して息をつく

沙織「久遠さん」

天乃「……私」

沙織「久遠さん、お願い。約束……守って」

天乃「約束したけど……でも、こんな」

一方的だったことは聞いた

気絶するほどやられたのも聞いていた

けれど、見ることの出来た映像は余りにもなまなましくて

余りにも、酷くて……

沙織「久遠さんっ!」

天乃「!」

沙織「お願い……っ!」

沙織は怒りと悲しみに震える天乃を、力いっぱい抱きしめる

それでも、きっと

天乃の怒りを収めることは……完全には不可能だった


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から



九尾「勝手に選ばれた人間と、選ばれたくても選ばれず、掴み取った人間」

九尾「その嫉妬は……弱さを認められなかった」


では、初めて行きます

√ 4月5日目 昼(学校) ※木曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室
↓2


01~10 友奈
11~20 先生
21~30 東郷
31~40 樹
41~50 友奈
51~60 風
61~70 九尾
71~80 樹海化
81~90 友奈
91~00 生徒K

↓1のコンマ


昼休みになってから少しして、

クラスメイトから「美森ちゃんが来てるよ」と、声をかけられ

出入り口に目を向けると

明らかに不服そうな東郷が顔をのぞかせていた

「美森ちゃんになにかしたの?」

天乃「したようなしてないような。まぁ、微妙なところね」

「そうやって自覚してないところがダメなんじゃないの? まずはさ、美森ちゃんがどう思ってるのかをちゃんと理解するべきだと思うよ」

クラスメイトの言葉に

天乃は苦笑を返して、車椅子を動かす

どう思っているのかなんて分かっている

不服な理由もわかっている

それでも、天乃はそれを行うつもりだし

東郷にも、はっきりと伝えたはずだった


天乃「どうしたの?」

東郷「お話があります」

天乃「ここじゃダメなんでしょうね……きっと」

東郷「部室の鍵を借りてあります。付いてきてください」

天乃「ん」

一方的に告げて車椅子を動かして

先にいく東郷の背中を見つめ

天乃は息をついて、首を振る

拒否権は無し……か

有無を言わずについて来い

ついてこないなら……って、ところかしらね

大方、風達と結託でもして足止めしに来るんでしょう?

天乃「仕方がない子ね……貴女は」

誰にも効かせない言葉をつぶやき、天乃は東郷の後を追った


部室につくと、

東郷はパソコンの電源を入れ、天乃をチラッと見る

天乃「?」

あざとく首をかしげて見せて、

天乃は自分の端末を見て、時間を見る

昼休みになったばかりだけれど

あと二時間三時間もすれば放課後、決闘の時間だ

普段なら、どのくらい強いのかな。と

ワクワクすることもあるのだろうが

今はただ、できる限り手を抜いて叩きのめすことしか考えられなかった

天乃「で、東郷」

東郷「はい」

天乃「話があるんじゃなかったの?」

東郷「あります。風先輩から、全員に久遠先輩のやろうとしていることが伝わりました」

天乃「……でしょうね」

東郷「そして友奈ちゃんも樹ちゃんも、そして私も。久遠先輩を止めて欲しいとお願いされました」


東郷「……これを見てください」

東郷はそう言うと、

天乃が見やすいようにパソコンのモニターを動かす

画面に表示されているのは、勇者部への依頼メールが届くメールボックス

その中にある送信済みメールの一番新しいメールだった

天乃「いいわ、引き受けてあげる。今日の放課後体育館に来なさい……犬吠埼風」

短い返答

それを読み上げて、

誰に返したのかを見ずに、ため息をつく

天乃「馬鹿なの?」

東郷「その体で決闘しようとしている先輩が言えたことではありません。ずっとまともです」

天乃「……ひどいこと言うわね」

東郷「その体で戦うと言って聞かない先輩がよく言えますね」

天乃「怒ってる?」

東郷「はい。怒ってます……と、言えば。戦うのをやめてくれますか?」


天乃「昨日は認めてくれたのに」

東郷「確かに認めました。でも、あれはどう頑張っても久遠先輩が引いてはくれないと思ったからです」

東郷はそう言うと、

車椅子同士ゆえに

体を寄せることができないもどかしさに、呻いて、天乃を見つめる

飛び込んで、抱きしめて

身動きを取らせないことができたらいいのに……

でも、できない

東郷「そこで認めたからといって、久遠先輩を許したわけではありません」

天乃「まぁ……でしょうね」

東郷「……友奈ちゃんは登校はしていますが体を痛めているので言伝だけを預かっています」


天乃「友奈から?」

東郷「はい」

天乃「なんて?」

東郷「私は平気です。だから、危ないことしないでください。と」

まっすぐ向けられた東郷の瞳の奥に

体の痛みのせいで机に突っ伏し、

その話を聞いて、そう言う友奈の姿を見て

天乃は目を開く

天乃「平気って動けないくせに何が平気なのよ」

東郷「ひどいケガをしているわけじゃない。ということです」

天乃「沙織と本気を出さない約束をしたから、血みどろの争いにはならないわよ」

そう言って浮かべた笑みに

東郷は体を震わせて、抱きしめると

少しばかり震える声で、

東郷「なんで笑うんですか……怖いです」

そういった



1、とにかく、風がそう言っちゃったのなら。風の後にするしかないわね
2、風よりも先に行くわ
3、東郷は私が怖いの?
4、目には目を、歯には歯を、毒には毒を。って、言うじゃない
5、理性はあるから大丈夫よ。多分ね
6、友奈はそれ以外に何か言ってなかったの?

↓2


昨日は落ちました失礼しました
本日はしっかりと進めていきます


天乃「怒ってたほうが怖いかなと思ったのよ」

東郷「表情に出してくれていた方が、わかりやすくていいかと」

東郷の言葉に、

天乃は「そっか」と返すと、

それはそうと。と、続けて口を開いた

天乃「風よりも先に行くわ」

東郷「許可できません」

天乃「東郷の許可は必要ないわ」

東郷「っ……」

確かに許可は必要ない

でも、けれど……

東郷「昨日とは状況が違います。風先輩が打って出ようとしてくれているんですよ?」

天乃「その言葉を、風に返して欲しいのだけど」

東郷「久遠先輩の体に異常がないのなら、言うかもしれません。ですが……」


東郷は言葉を止めて、天乃の体、自分の体

それぞれを見て、首を振る

やっぱりダメよ……

両足が動かない不自由さは私だってわかってる

日常生活ですら、支障がある部分もあるのに

戦いになんてなったら……

東郷「私も久遠先輩と同様に両足が動きません。ですからそれが、どれほどのハンデになるか分かるつもりです」

天乃「それでもやると言ってる私の気持ちは、分かってくれないの?」

東郷「やらないでと言っている私達に気持ちを、わかっていただけないのですか?」

オウム返しのように

似通った言葉を投げ返す

どっちも、引きたくはなかったのだ


風を先に行かせるという言葉で引かず

風が先に行こうとしている現状でも

自分が先に行くと言って引かない

絶対に自分がやる

両足が動かなくても大丈夫

そう言っても引かない

もちろん、間違っているのは前者で引かない方なのだろうが

天乃は知り合いを

それも、友人を傷つけられることを何よりも強く嫌っている

それを犯されたのだから、仕方がないのかもしれない


東郷「久遠先輩」

天乃「なに?」

東郷「私は風先輩の方に賭けたい。久遠先輩よりも安全に済ませられると、そう思っています」

天乃「……………」

東郷「でも」

自分で決断できない

どちらに託すか

それを昨日の今日で改めて迷っている自分の弱さに

少し、悲しくなりながらも

東郷は言葉と息を呑み、天乃を見つめる

東郷「久遠先輩のあの強さを見て。風先輩よりも確実に懲らしめることができるかも知れないと思っています」

天乃「だから?」

東郷「このコイントスに、私は委ねます。今はまだ……」

私は。先輩方のどちらにも傾くことができないから


↓1コンマ判定


01~49 表  50~98 裏   ゾロ目 直立



東郷「……表です」

天乃「表はどっち?」

東郷「風先輩です」

障害を持っている先輩か

持っていない先輩か

どちらに頼るのが正しいのかと考えたとき

今回の場合は当然、障害のない先輩にすべきだ

だから、正しい方

風を、東郷は選択し、天乃を見る

東郷「久遠先輩は、戦いには参加させません。なんとしてでも妨害します」

天乃「それで風が怪我したらそうするの? 負けたらどうするの?」

東郷「そのときは……私の頬を叩くなりなんなり。好きにしてください」

止めたのは私で

間接的にとは言え、風先輩が怪我したりなんだりする理由の一部なのだから

東郷「甘んじて、受けます」

東郷がそう言うと、昼休み終了間近の鐘の音が鳴り響く

天乃は東郷のその言葉に答えられず

東郷はその答えを聞かないまま……別れた

√ 4月5日目 夕(学校) ※木曜日


6限の授業をサボりますか?
サボると、妨害をかいくぐって戦闘することができます

1、サボる
2、サボらない


↓2


天乃「風、怒ってるでしょうね」

九尾「じゃろうな」

天乃「東郷達にも連絡行って、きっと。私の端末はトラップボックスと化してるでしょうね」

電源を入れた瞬間

メールやら電話やらの不在着信や受信の嵐

それを見るまもなく、着信受信

そんな危ないアイテムになってしまった端末を九尾に手渡して

天乃は体を伸ばす

授業終了五分前

けれど、それが終わってもホームルームがある

そしてその間に、

彼女は来てくれるだろう


九尾「妾の力を使わぬままで良いのかや?」

天乃「使ったらずるいじゃない」

九尾「とは言うが、伊集院家の娘の映像を見た限り、手練じゃぞ」

天乃「じゃなきゃ、あんなことできないわ」

避けるでも防ぐでもなく

切り払ってカウンター、その当身からの投げ技

流れはとても綺麗だった

見事だったといってもいい

あれが戦闘なんかではなく

見世物程度のものだったとしたら

まず間違いなく、良かったわ。と、褒めていたと思う

天乃「でも、あの子は友奈を傷つけた。だから私はこの状態で勝って。あの子の自尊心をへし折ってあげるのよ」

九尾「……のう」

天乃「?」

九尾「牡丹餅娘にも言われておったが、そういうことを言いながら笑うものではないぞ。不気味じゃ」

天乃「笑えば冗談っぽくなるかと思って」

九尾「なるか戯け! 怖いわ!」

時間は……刻一刻と近づく


では、此処までとさせて頂きます
明日できれば通常時間から
投下自体できない場合もあります





天乃「大勢の生徒の目の前で」

天乃「煽って、煽って、さんざん大きな口を叩かせてから」

天乃「ぼろ雑巾のように叩きのめして、恥をかかせてあげるのよ」ニコッ

九尾「冗談か本気かわからぬから、笑うな」


では、本日も初めて行きます


HRが始まる鐘が鳴ったのとほぼ同時に

彼女は体育館にやってきた

讃州中学のジャージを着込み、

竹刀を入れている袋を肩にかけた女子生徒は

天乃を目にして、動きを止めた

「何してんのよ。あんた」

天乃「あなたこそ。何をしているの? ホームルームが始まってるわよ」

「そっくりそのまま返すわ」

言い放ち、女子生徒は肩の荷物を降ろして、木刀を取り出す

手入れはされているけれど

使い古されているのが良く分かる、所々に傷の入った木刀二本

女子生徒は同じくジャージ姿で、車椅子の天野が司会に入らないようにしながら、息をつく

「あんた、勇者部でしょ」

天乃「ええ」

「犬吠埼風との決闘。止めに来たの?」


天乃「んー止めに来たのとはちょっと違うかな」

「じゃぁ、なんでここにいるのよ」

女子生徒は天乃を見ることなく話を進め、

手に持った木刀の感触を確かめるために二度三度振って、続ける

「この時間にその格好。明らかに待ち伏せしてた感じじゃない」

天乃「それも少し違うわ」

「どう違うのよ」

天乃「私が待ち伏せされるから、先にここに来たの」

普通に授業に出ていたら

きっと、ここに向かおうとする頃には友奈か東郷か、樹か沙織か

とにかく、誰かの妨害にあっていたことだろう

そうならないために、ここにいる

授業をサボってまで、ここにいる


「待ち伏せ? あんたが? どうして」

天乃「私が貴女と戦うからよ」

コンッと……体育館の床に軽い音が響き

向けようとしていなかった女子生徒の目が天乃へと向けられた

そこには困惑と驚きがあって

こらえきれないおかしさがあって

「ははっ……あはははははっ。ばっかじゃないの? そんな状態で何が出来んのよ」

女子生徒は高らかに嘲笑し

ふざけるなと怒りに満ちた色をつけた瞳で天乃を睨む

HR終了の鐘が鳴り

どこからか全速力で駆け出す足音が、聞こえるような気がした

天乃「そうね。まぁ、そうでしょうね……」

「?」

天乃「車椅子に座った私が。あなたと戦うなんて馬鹿げているにも程がある」



1、けれど。それでも戦うわ
2、けれど。それでも勝てるわよ。貴女程度にならね
3、だけど、私は本気よ。貴女が友達を傷つけたから。その報復に
4、でも、必要なハンデでしょ?



↓2


天乃「けれど。それでも勝てるわよ。貴女程度にならね」

「は?」

天乃「貴女程度に【は】の方が良かった?」

そう言って笑みを浮かべる天乃に対し、

女子生徒は明らかな怒りの表情を浮かべて、木刀を落とした

「そういうこと、聞いたんじゃないんだけど……あんた。ふざけてるわけ?」

天乃「別にふざけてな――」

声を遮る、ダンッ! という鈍い音が響いた瞬間

風が吹き、天乃の髪が舞って

「ふざけてんでしょうが」

女子生徒の手が、天乃の胸ぐらを掴み上げた

数メートルの距離を

ほぼ一瞬に近い速さで詰めた速さ

それを見せつけ、胸ぐらをつかんで見せた女子生徒を見上げ、天乃は困ったように息をつく

天乃「ブラがずれるから止めて」

「はぁ?」

天乃「女の子ならわか……ぁっ」

「?」

天乃は言いかけて何かに気づいて目をそらし

怪訝そうな顔をする女子生徒を一瞥して

天乃「ごめんね。スポーツブラはズレるとかないものね」

「余計なお世話よっ!」

悲しそうに謝罪して、怒鳴られた


「あんた、やっぱり馬鹿にしてんでしょ」

天乃「胸は、別になくても……ね?」

「そっちじゃないっ!」

天乃「っ!」

突き飛ばすように手放され

車椅子に背中がぶつかって、体が僅かに反り返る

ちょっと、痛かった

「ふんっ」

女子生徒は鼻を鳴らして背を向けると、

木刀を手に取り、天乃の鼻先に木刀を振るう

ブンっと力強い音が鳴る

雑な一閃ではなく、綺麗な一刀

力みすぎず、力を抜きすぎず

適度な力量で振るわれる刀は乱れることなく統一された音を鳴らす

「私が素手じゃなかったら、あんたは喉を潰されて死んでたかもね」

天乃「素手なら、避ける必要ないじゃない」

「……よけれたと?」

天乃「あれがあなたの全力なら」


「……………」

ぴたっと、音が止んで

女子生徒の握る木刀の切っ先が床に触れる

うなだれた女子生徒は、

複雑な表情で天乃を睨み、笑う

引きつったそれは、きっと怒りゆえだろう

「あん――」

天乃「あなたの演舞はもう終わり?」

「っ」

天乃「生憎だけれど持ち合わせがないし、ここは学校だから。お金が欲しいのなら駅前に行くことをおすすめするわ」

「いい加減にしなさいよッ!」

女子生徒の怒りに被さって体育館のドアが開き

風達勇者部、各部活の1年生、二年生、三年生がぞろぞろと入ってきて

先客の異様な雰囲気に、息を飲む

「さっきから人のことを馬鹿にして……木刀で引っぱたくわよ!?」

天乃「じゃぁ、私との決闘を受けるの?」

「受けてやるわよ! 土下座させてやるッ!」


風「久遠!」

東郷「久遠先輩!」

天乃「と、いうことだから」

そう言って向けてきた笑には

悪びれた様子など微塵もない

そうしたかったからそうした

ただそれだけなんだという思いを感じ、風は眉をひそめ

ふと、手の止まった女子生徒が見ていることに気がついて睨んだ

風「なに?」

「そこの車椅子」

天乃「東郷、呼んで――」

「そっちじゃないわ。あんたよ。あんたが……あの久遠天乃?」

天乃「あなたの言う久遠天乃かどうかは知らないし、何とも言えないわね」

「……まぁいいわ。叩けばいいだけの話」

天乃「ふふっ、そうよ」


女子生徒は天乃の返しに苛立つのをやめ

そのすべてを戦いに振るう刀に込めることにした

車椅子だろうがなんだろうが関係なく

蹴落とし、蹴飛ばし、叩きつけ、切り払う

ごめんなさいというまで、全力で

「……あんたは武器有り。私は武器なしのハンデでも付ける?」

天乃「貴女が負けた時の言い訳が欲しいなら、つけてもいいけど」

「なら、竹刀二本」

「は、はいっ」

近くにいた剣道部員の少女に指示して竹刀を受け取ると

女子生徒は一本を天乃に渡す

「泣かせてやる」

天乃「もう泣かされたわ」

そう言って、天乃はチラっと友奈を見る

立っているのが辛いのか座り込んでいた友奈は

ちょうど天乃を見て、首を振る


天乃「…………」

止めて欲しいのだろう

引いて欲しいのだろう

けれど、もう。後には引けない

ここで逃げたら恥ずかしいからではなく

ここまで来たからにはやり遂げたいからだ

友奈のため、代わりに犠牲になるかもしれない風達のため

ここで、出てきてしまった杭は打つべきだと、天乃は竹刀を握る

「アレが久遠天乃だと思ったからそれなりに相手したけど。雑魚だったわ」

天乃「……………」

「あんなのが選ばれるなんて、冗談も――」

天乃「ねぇ」

「?」

天乃「先延ばしにして……いつまで逃げるの?」

天乃の無表情、無感情

冷たさすらない言葉に、女子生徒は笑みを浮かべて、床を蹴り飛ばした


女子生徒→天乃  命中判定↓1  01~40 21~35 カウンター それ以外防御


「…………」

車椅子に座った状態でまともに動けるとは思えない

だけど、話が本当なのなら

久遠天乃がハッタリを言っているのではないのだとしたら……

直進はしないッ!

女子生徒は素早く

かつ、緩やかなカーブを描くようにして、接近する

常人ならば数十歩必要な間隔を、十数歩に縮め

「ふっ!」

目前の踏み込みで竹刀を横に振り切る

天乃の目を見て、視線が市内へと一瞬でもずれたのを確認してから

横に飛び、ぐるっと体を回す

「貰った!」

視線を右に逸らし、左側に死角を作った

その上で、即頭部ではなく後頭部を狙った回転切り

強制的に土下座させられると思った。勝利を見た

けれど――

バシッと、音が鳴り

明らかに求めたのとは違う手応えが手に響いた


「なっ」

天乃「やめてよね。記憶障害にはなりたくないわ」

「っ」

力強く振り抜いたはずの竹刀は上へと跳ね上げられていて

回転切りの中断、斬り払い

その反動を受けてよろけた女子生徒は

数歩後退って距離をとり、天乃を睨む

「見えてたの?」

天乃「ダンス、下手ね」

「くっ」

明らかに、余裕だった

もちろん、身構えていればいいだけな分

斬り払い、回避、防御

すべてやりやすいといえばやりやすいだろう

けれど、それでも

フェイントをかけ、その目は確かに引きつけることができたはずだと。夏凜は呻く


視線誘導、死角からさらに資格への攻撃

ゆっくりやったのならともかく

本気の本気ではないにせよ、それなりの速度でやったはずだった

だからこそ

女子生徒は竹刀を強く握り直し

天乃を翻弄すべく全速力で駆け出し

天乃の周囲を二週して、背後に迫り、

「ッタァッ!」

右脇腹めがけて竹刀を振るう

天乃の竹刀を見る

わずかに動いた

防御の姿勢を取った!

「ッ!」

それを確かめてから、

やや無理矢理に体を反転させ、

標的を左脇腹へとシフトチェンジし、

左手で竹刀の柄を押し出し、体よりもまず、竹刀を勢いよく旋回させる

予想外の切り返し

予想外の速度

今度こそ打ち抜けると信じ、されどねじ込むまでは油断せず女子生徒は勢いを付け、回った

女子生徒→天乃  命中判定↓1  35~74 60~74 カウンター それ以外防御

天乃→女子生徒  命中判定↓1  ゾロ目回避  30~40斬り払い


命中率は184%ですが、特殊条件により、回避有


天乃は迷わなかった

迷わず、車椅子から転げ落ちた

「ッ!」

沙織「久遠さん!」

天乃「喋る余裕なんて、ないってばっ」

沙織の心配そうな叫びに叫び返し、

転げ落ちた勢いを残して両手で立つ

風「倒立?」

九尾「仕掛けるぞ」

風「え?」

天乃「せーのッ!」

竹刀が空を切り

天乃の不意をついた動きに判断の遅れた女子生徒が半歩引き下がる中

天乃は掛け声とともに体を反転させ、竹刀を捨て、車椅子に向かって前転

足置きに手をつき、車椅子が傾ききる前に座席に手をついて駆け上ると

車椅子が女子生徒に向かって倒れ始め、

二人の視線が交錯し、天乃は笑う


「ッ!」

ありえない動きだとか

馬鹿げてるとか

そんなことを気にする余裕はなかった

全身から発せられる【躱せ】という警告に目を見開き

足を引こうとする

けれど、遅かった

スローモーションのように、遅かった

天乃「ふ……っ!」

「あ゛っ」

天乃は倒れかけの車椅子を押し飛ばし、

女子生徒の肩を掴むと同時に、腹部へと右こぶしを叩き込むと

右手を滑らせて襟ぐりを引っつかみ、

天乃「このっ」

「っ!」

クの字に曲がりかけた女子生徒の体に体を密着させながら体を思いっきり回す

「なっ」

穿たれた痛みに力が抜けかけた女子生徒は

力技に抗えず、前のめりによろけて足が浮き、

天乃の体が重力に引かれるのと合わせて不完全に投げられ、

「がっ」

受身を取りそこなって肩を床に打ち付けてしまった

そしてすぐに動ける訳もなく

天乃「やーっ」

「ぉぇっ」

思いっきり、のし掛かられた


では、此処までとさせて頂きます
あすは可能ならお昼頃から




久遠さん全力のやり返し


では、初めて行きます


東郷「なんて無茶な動きを……」

九尾「ふんっ。あんなもの健常者ならば体育とやらでやっておるじゃろう」

風「いや、あそこまでアクロバティックな動きはちょっと」

前転倒立などは確かにやるが、

座った状態から前転、倒立

両手だけで椅子を駆け上がり、背負投

そんな芸当はおそらく体育教師ですらできないだろう

それを、

両足が動かない状態にも関わらずやってのけた天乃を

勇者部や部活動の生徒たちはそれぞれがすべきことを忘れ、見ていた

天乃「えいっ、えいっ」

「っ、この、どけっ」

天乃「おりゃーっ」

「ぅぐっ」

ポカポカと子供っぽく殴り、

起き上がろうとした胸元を右手でググッと押さえ込み

両手を左手で掴み、頭の上で押さえ込む

天乃「ふふっ、無様ね」

「その自慢げな顔、ぶん殴ってやるッ!」

天乃「んーその前に私が数十発殴ってもいいかしら。失神しなければ殴らせてあげるから」

その笑顔はとてもではないが

直視できるような穏やかさではなかった


ギュッと強く握り締められた拳

白いその手は血が溜まって

だんだんと赤みを帯びていく

「………………」

目の前に振り上げられ、構えられたそれは

久遠天乃の怒りそのものであると女子生徒は勘付き

問答無用で振り下ろすことなく

冗談ぽく問いかけているのは我慢しているからなのだと、気づく

「……あんた。私があいつにやったのと同じようなことをしたわね」

天乃「……………」

「あんたはそれだけしかやるつもりが無かった。つまり、随分と、手加減してた」

反撃の手を完全に決め、それ以外を使用しないというのは

こと決闘においてはとても戦いにくいものだ

しかも、ボディーブローからのの背負投という連撃

初撃を決める隙を見つけ、攻め込むことができなければ

まず成功し得ないこと

ほかにできることがあってもやらないというのがハンデと言わず、手加減と言わず、なんと言えばいい。と

女子生徒は頭の中で唸り、息をつく

「私は両足を使えないあんたに、技のほとんどを使わないあんたに。床に押さえ込まれたってことなのね」

天乃「ええ。そうなるわね」


「はっ……なによそれ……」

確かに、

自分も本気ではなかった

弄んでやろうと思った

馬鹿にしてやろうと思った

けれど。相手は本気じゃなかった

大きなハンデを背負いながら、さらにハンデを付け

それでも……勝ったのだ

「くそっ」

なによそれっ

完敗じゃない……

女子生徒は、

目をそらし、顔をそらしてギュッと目を瞑る

「放してっ」

悔しい……悔しいっ

泣きそう

泣き……っ

「放しなさいよ……っ」

そして、

女子生徒はポロポロと涙をこぼし始めた



1、九尾。端末! 写真撮って!
2、泣く前に友奈に謝りなさいよ
3、手を離す
4、弱いくせに。威張るからそうなるのよ。と、囁く



↓2


天乃「泣く前に友奈に謝りなさいよ」

「っ」

天乃「謝りなさい」

泣こうがなんだろうが、

天乃は関係ないと言わんばかりに厳しい目を向け

強い口調で促す

「わた――」

天乃「子供だって、泣きながらでも謝れるわ」

「っ」

野次馬のような観客たちのざわめきが止んで

体育館が静まり返る

みんなが共通して

天乃は優しい人だと、弱い人だと

とても温厚な性格だと思っていたし

女子生徒が泣き始めた時には、すぐにでも解放してあげるだろうと思った

けれど、違った

天乃は厳しく、非情に、冷酷に、女子生徒に謝罪を求めた

だから、想像上の天乃との違いに

場が、凍りついてしまったのだ


「……なさい」

天乃「聞こえない」

「ごめんなさい」

天乃「聞こえない」

「ごめんなさいっ!」

天乃「…………」

羞恥ゆえに顔を真っ赤にして

怒鳴るように叫んだ女子生徒を見つめ、天乃は……握り締めた拳を解き

女子生徒の視界に友奈が入るように、床に押し付ける

天乃「私に言っても意味がないわ。友奈に謝って」

「ぐっ……」

天乃「それと。さっきみたいに怒鳴るだけなら……顎の骨砕くわよ」

冷めた瞳は冷酷というだけでなく

そう感じるような感情さえも含まれていないような恐ろしさがあった

冗談でも脅しでもなく

本気でやられる恐ろしさがあった

だから、女子生徒は友奈を見つめ

「申し訳……ありませんでした……っ」

涙ながらに、謝罪の言葉を口にした


それでもなお、押さえつけたままの天乃の体を、

女性体の九尾が抱え上げ、女子生徒から引き剥がす

九尾「もうよかろう。小娘の心をへし折る気か」

天乃「……あの反抗的な目が。気に入らない」

「っ」

部活動に来たほかの生徒によって、体を起こされた女子生徒の目

憤っている

失意に終わっていない、反旗を翻して復讐しようとしているような目だ

九尾「やめておけ。沙織とも約束したのであろう? 殺さぬと。命も精神も同じこと。殺めてはならぬ」

天乃「……そうね」

「絶対……絶対に次は勝つ。あんたに土下座させてやるッ!」

「ちょ、ちょっと。今の久遠先輩にそういうのは……」

女子生徒と、天乃

ふたりの間に挟まれ、オロオロと交互に見る生徒は

言い放った敗北者から、天乃へと目を向け、ビクッと体を引いた

天乃「今ここで心をへし折って欲しいの?」

「やれるもんならや――」

「コラ、何をしてるんだお前たち!」

一触即発

いや、もうすでに発生しかけた新たな火蓋は

部活の顧問が到着したことによって、事なきを得た


風「久遠超怖かった」

天乃「あれでも手加減はしたのに」

樹「ぁ、あれでっ……ですか?」

天乃から向けられた瞳に

樹は思わず体をビクつかせて、半歩後退ると

すぐにハッとして、ごめんなさいと。謝った

東郷「あれはどう考えてもやりすぎです」

天乃「そうかしら。意地を張ったあの子が悪い」

東郷「それでもっ」

友奈「で、でも、久遠先輩もあの人もそこまで怪我しなかったし……」

東郷「友奈ちゃ――」

友奈「元々、私があんな負け方しちゃったからだから……ねっ」

険悪とまではいかなくても

悪い雰囲気になりそうな東郷と天乃の間に割って入った友奈は

困ったような笑を浮かべる

友奈「東郷さんも、久遠先輩も。ごめんなさい。それと、ありがとう」

東郷「友奈ちゃん……」


東郷「でも、あんなのは認められない。これからずっと。恐れられて学校生活を送るつもりですか?」

天乃「女番長。的な?」

東郷「冗談で言ってるんじゃないんですよ。久遠先輩」

友奈に気を使って、きつくなりすぎない口調で言った東郷は

大きくため息をつく

東郷「いいですか?」

天乃「ダメ」

友奈「く、久遠先輩っ」

東郷「……続けます」

茶化すつもりなのかなんなのか

口を挟む天乃から目をそらして、東郷は口を開く

東郷「今までのようなか弱いイメージでいてほしいとは言いません。ですが、あんな畏怖の対象になるのは間違ってます」

天乃「なりたくてなったわけじゃないし」

東郷「少し考えればわかったはずです。あんなことをしたら怖がられると!」


風「確かに、空気が凍りついたっていうか。怖がってたわよね」

友奈「それは……」

樹「最初の戦いは凄くて。格好良かったです……でも。そのあとが……」

樹の言いかけの言葉に

勇者部のみんなが息を飲んで、頷く

戦いに勝っただけなら、スゴイで終わった

格好良かったで終われた

けれど、そのあとの謝らせ方が

とても、怖かったのだ

友奈「も、もちろん。みんなは久遠先輩が私のためにしてくれたんだってわかってるとは思います。けど」

天乃「……普通じゃなかった。でしょ?」

友奈「それは」

天乃「すぐに謝ってくれればそれで済んだのよ。でも、泣くんだもの」

樹「く、悔しかったからとか……」

天乃「そうね。そうでしょうね。けど。負けて悔しかったのは理解できるのよ。でも、泣く前にすべきことがあったはず」

東郷「……………」

天乃「正直に言えば。東郷にも言ったように、失神させるまで打ちのめす予定だったんだから。我慢したほうよ」


天乃はおちゃらけた様子はないが

開き直ったように言い捨てて、ため息をつく

そうだ

あの時握りしめた拳を

全力で振り下ろせば良かった

けれど、それは自分のためでしかなかった。自分の怒りでしかなかった

そう思ったから、我慢した

失神させようと思っていたのを

沙織との約束を守って手加減して、謝らせるだけで終わらせた

天乃「なのに。あれ以上何を我慢して欲しかったのよ」

樹「それはっ」

天乃「泣いたから、じゃぁもういいわって放り出せば良かったの?」

風「久遠……」

天乃「女の子の特権みたいな馬鹿みたいな理由で、友奈を傷つけたことを許せば良かったの?」

天乃の声を聞き、みんなが目を向ける

そして、天乃は言う

天乃「なにがいけなかったのか。何を正すべきなのか。それを教えることすら我慢すればよかったの?」

東郷「ですが……しかし」

天乃「いいわよ。別に。私はやりすぎた。あの場では私が悪者だった。みんなはそう言いたいんでしょう?」




1、怖がらせてごめんなさい
2、強過ぎる人が恐れられて、忌み嫌われるのは。仕方がないことだもの
3、何も言わずに帰る
4、今ここで泣けば。みんなは私を許してくれるの?
5、私は後悔していないし、悪いとも思ってない……嫌いになってくれても。構わないわ


↓2


天乃「でも、私は後悔していないし、悪いとも思ってない」

友奈「っ」

天乃「……嫌いになってくれても。構わないわ」

無感情にも取れる言い方

けれど、そこに友奈は悲しさを感じて、目を向ける

目は合わなかった

向けた時にはもう、天乃は出口を向いていて

そのまま、出て行ってしまったからだ

風「嫌いになって構わないって」

樹「久遠先輩……」

東郷「……………」

友奈「……嫌いになるのは、おかしいよっ」

天乃が正しかったのか、正しくなかったのか

それはわからない

けれど少なくとも、嫌いになるのだけは間違いだと友奈は。言った


√ 4月5日目 夜(自宅) ※木曜日


友奈、東郷、樹、風からSNSに連絡が入っています

端末を扱い、交流をしますか?


1、する
2、しない


↓2


久遠先輩のこと、嫌いになりませんっ

言い過ぎました、申し訳ありません

怖かったけど、でも、嫌いには、なれないです

なーにいじけてんのよ。誰が誰を嫌いになるのよ

天乃「…………」

友奈たちの言葉が表示された画面を見つめ

天乃は息をつく

嫌いになっても構わないといっただけで、この反応だ

もちろん、本心なのだろうが……

天乃「いじけてるって何よ。別にいじけてなんか」

九尾「自分のしたことが受け入れられなくて、いじけたであろう」

天乃「いじけてない」

九尾「意地っ張り」

天乃「うるさいっ」


天乃「強すぎる人が、怖がられて、忌み嫌われるなんて分かってた事だから」

だから

あの場の空気が凍りついて

みんなから向けられる視線が畏怖しているものだと感じても

なんとも思わなかった

それが当たり前だと

もうすでに、身を持って知っているからだ

天乃「友奈達が怖がって、嫌っていくのも仕方がないって思ってたの」

九尾「じゃが、小娘共は嫌ってはおらぬ。怒らせなければ。主様はただの小娘じゃからな」

天乃「……小娘じゃない」

九尾「それに。私欲に走らず友のためにのみ力を振るう主様を、誰が嫌えるのじゃ」

天乃「大赦」

九尾「そこを突かれると痛いが、少なくとも。友にはおらぬであろう」


天乃の意地の悪い言葉に呆れながらも、

九尾はそう言うと、端末を指でつつく

九尾「返さなくて良いのか?」

天乃「……なんて返すのよ」

九尾「じゃぁ、好きっていって。なんていうのはどうじゃ?」

天乃「ふざけないでよ」

九尾「うむぅ」

明らかに冗談で

あからさまにつまらなそうに身を引いた九尾から目をそらし、寝返りを打つ

うつ伏せになると

胸が下敷きになって苦しい分

ベッドに端末をおいての操作がしやすいからだ

天乃「嫌いにはならない……か」




1、じゃぁ、好き?
2、やりすぎたのは認めるわ。やりすぎたことだけはね
3、嫌いになって、戦うのをやめるって言って欲しかったのに
4、でも、怖かったでしょう? 怒らせたら、 お し お き ね
5、別に、そんなこといちいち言ってこなくたっていいのに


↓2


嫌いになって、戦うのをやめるって言って欲しかったのに

そう入力し、送信すると

瞬く間に返事が返ってきた

そんなことしないです!

馬鹿なこと言わないでください!

なんですぐそういうこと言うんですか!

嫌いになったらむしろ。もっとやってやろうと思うわよ

ま、好きなってももっとやってやろうって思うんだけどね

友奈たちからの言葉は

ほとんどが怒っているような感じで

顔を見合わせていたら

むくれているに違いない。と、天乃は思って苦笑する

天乃「嫌いになっても好きになっても。だって」

九尾「主様が嫌いなら、任せたくはない。好いておるならば守りたいからじゃろうな」

天乃「そっか」

九尾「主様は人当たりが良かったからのう。初めからあの敗北者と似たようなことをしておけば良かったものを」

天乃「……出来ると思う? 私に」

九尾「無理じゃな」


くくくっと笑う九尾を横目で見つめて

天乃は「でしょうね」と

自分のことを他人のように言い捨てて、息を吐く

誰かを傷つけるのは、好きじゃない

誰かが傷つくのは、好きじゃない

何もしなければ、何もされなければ

その必要がないのなら、争うのだって好きじゃない

友奈たちが笑っていた時間

驚いたり、怒ったり、笑ったり、泣いたり

歩んできた時間が何よりも好きだ

その空間にいながら、一歩引いた場所にいた天乃は

過去に思いを馳せて

途中、真っ白になってしまった記憶に目を瞑る


天乃「ねぇ、九尾」

九尾「うむ」

天乃「みんなの過去に私がいなくても。笑うことができたと思う?」

九尾「いなかったのならば、可能じゃろう」

しかし。と

それだけでは終わらないというように九尾は続ける

九尾「居なくなったのならば、影もさすことじゃろうて」

天乃「……そうよね」

初めから、園子と一緒に監禁されていれば良かったのかもしれない

そうすれば、友奈たちをこんなふうに巻き込むことはなかったかもしれないし

割り切ることができない自分にも、ならずに済んだかも知れないからだ

けれど

それは全部【かもしれない】ことで【憶測】だ

天乃「都合よく、記憶を奪ってくれないかしら。真っ白に。塗りつぶしてくれないかしら」

九尾「きゃつらがそのような気を聞いたことをするとでも?」

天乃「思ってないわ。言っただけ」


もの悲しげに言う天乃の頬に手を添えて目を合わせると

九尾は同情するような面持ちで、頷く

九尾「いずれまた。主様の体が必要になるやも知れぬ。花開くことの犠牲が、怖いのかや?」

天乃「満開が怖いわけじゃない。そうしてまで守った結果が怖いのよ」

自分の体がどれだけ犠牲になろうと

それは犠牲になろうとしてしたことだ

だから、何かを失う覚悟は出来ているし、失ってもいい

けれど

それを失ったあとの自分に対する友奈達の反応が、態度が

怖い

天乃「下手に仲良くなった。せいかしら」

九尾「主様は、愚か者じゃからな」

そう返す九尾をひと睨みして

天乃は、そうかもしれないわね。と、笑みを浮かべた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(決闘、ランキング、サボって決闘、嫌いになって)
・   犬吠埼樹:交流有(サボって決闘、嫌いになって)
・   結城友奈:交流有(サボって決闘、嫌いになって、謝罪)
・   東郷美森:交流有(風より先に、サボって決闘、嫌いになって)
・ 伊集院沙織:交流有(手加減)

・   女子生徒:交流有(決闘、弱い、完勝、謝罪強要)
・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



4月5日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 29(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 25(中々良い)
  結城友奈との絆 30(中々良い)
  東郷三森との絆 25(中々良い)
  女子生徒との絆 -5(とても低い)
     沙織との絆 31(中々良い)
     九尾との絆 28(中々良い)
      死神との絆 28(中々良い)
      稲狐との絆 26(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%

√ 4月6日目 朝(自宅) ※金曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室
↓2

※3~7は電話
※9は朝一勇者部直行、依頼確認


では、一時中断します
二〇時頃には再開予定となります


では、再開します


天乃「死神さん。今日はどう?」

死神「コナイ。ト、オモウ」

天乃「……そう」

来ないに越したことはない。と、言いたいところだが

来ないという事はつまり

戦力を温存しているということで

温存しているということはつまり

次の戦いが一気に苛烈……過酷なものになるということ

今の勇者部の戦闘能力で

生き残れるのかどうか……怪しいかもしれない

もちろん、精霊の夜守りのおかげで

苦しんで、苦しんで、死ぬ可能性がある

天乃「死神さん。貴方達の守る力は、死んでからでも生き返る?」

死神「ウウン。シナセナイ。ダケ。シンダラダメ」

つまり死に至る毒でも

治癒能力で解毒し、救うということだ

さんざん苦しんでも……生き返らされるということだ

もちろん、死ぬよりはましと言えなくもないが……


天乃「今の勇者部だと、滅多打ちにされて、生き延びて、滅多打ちにされそうだわ」

死神「サンドバッグ?」

天乃「どこで覚えたのよ……まぁ、間違ってはいないんだけど」

死神「エイキュウキカン?」

天乃「怖いこと言わないの」

無邪気? に言う死神の頭を撫でる

怖いことを言ってるが、間違っていない

勇者は精霊による守りによって死ぬことはない

つまり、戦う為の道具としては永久機関と言えなくもないし

弱い勇者はバーテックスのサンドバッグにしかならない。というのも間違いではない

体が粉々に砕け散るような衝撃を受けても、生き延びて

串刺しにされる痛みを受けても生きて

天乃「体は無事でも……心は死ぬでしょうね」

死神「ウン」


感情らしきものがあるにも関わらず、

無感情に頷く死神を見て、天乃は小さく息をつく

死神

天乃の力の一部であり

天乃がバーテックスを御霊関係なしに倒せる理由

深い理由はわかっていないが

死神の力は死の力、命を刈り取る力と考えられていて

それは、神様であろうと、バーテックスであろうと関係なく刈り取れる

死神「?」

向けられた視線に、

死神は可愛らしく、瞬きをしてみせた



1、貴方は、何者?
2、満開した場合、どこが失われるとかわかる?
3、貴方は九尾を知ってる?
4、貴方は稲荷を知ってる?
5、どうして、貴方には感情があるの?


↓2


天乃「貴方は九尾を知ってる?」

死神「シラナイ。クオンサントオナジ、クライ、シカシラナイ」

死神は残念そうに言うと

天乃の周囲をくるりと回る

死神「キニナルノ?」

天乃「気になるというか……ううん。そうね、気になるのよ」

銀が死んだときに現れた精霊

それが、九尾

最初はあまりにも流暢に喋るものだから

銀の悪ふざけだとか、生まれ変わりだとか

現実逃避の対象にも、なっていた九尾

その正体は、不明だ

九尾に聞いても答えてはくれないからだ


彼女についてわかっているのは

妖狐の姿と女性体の姿の二つの容姿を持っており

どちらも真っ白で、瞳は赤く

とても魅力的な体つきをしている。ということ

そして

死神と同様に天乃を勇者にすることのできるトリガーということ

そして

九尾は久遠家を先祖の頃から知っているということだ

天乃「味方だとは、思うのよ。でも」

死神「キュウビ、コワイ?」

天乃「怖いわけではないけど、ちょっとね」

そう言って笑うと

死神はじっと天乃を見つめ

死神「キュウビハ、クオンサン。スキ。ワタシモ、スキ。ダカラ、ダイジョウブ」

そういった


好きだから大丈夫

その理屈はよくわからなかったけれど

きっと、

害になるようなことはしない。ということだろう

天乃「うん。そうね」

死神「エヘヘ」

けれど

死神の頭を撫でながら、思う

果たして

九尾は好きだからといって害になるようなことはしないのだろうか。と

むしろ

好きな子には悪戯したい。の、代表格なのではないだろうか。と

天乃「……ありえるから困るわ」

不安は拭えなかった

√ 4月6日目 昼(学校) ※金曜日

友奈、沙織、風、樹、東郷、男子生徒との交流が可能です

1、風
2、樹
3、友奈
4、東郷
5、沙織
6、デートする男子生徒
7、イベント判定
8、勇者部部室

↓2


1、直接教室に呼びに行く
2、メールで部室に


↓1


天乃「……………」

わかってはいたことだ

生徒が自分の姿を見るたびに

ヒソヒソと、何かを話して

視線を感じて振り向くと慌てて目をそらす

両足不随で健常者を圧倒した生徒として恐れられているのかもしれない

もしくは

噂が広まって

あぁ、あの人じゃない? と、話してるのかもしれない

天乃「はぁ」

そしてそれは

東郷達のクラスに行っても、同じことで

友奈「だ、だから、えっと」

「だって、先輩足が動かないんだよ? それなのに――」

東郷「?」

天乃「邪魔、かしら?」

「あ、いえ。友奈ですか? 東郷さんですか?」

頬を染め、目をそらした女子生徒に

天乃は「東郷を貸して」と、答えた


では、本日はここまでとさせていただきます
あすはもしかしたら、無し
できれば通常時間からとなります





「両足が動かなくても、頑張っていて強くて」

「怒ると怖いけど、その怒りは友人のためのもの」

「そんな人に恋人いない訳無いじゃんっ」

友奈「だ、だから、えっと」

友奈(あと何回いないって言えばいいんだろう……)


では、初めて行きます


天乃「なんだか、迷惑をかけちゃってるみたいね」

東郷「いえ、想像していたよりはずっと軽微です」

人がこなさそうな適当な教室で

東郷は可笑しそうに笑う

かなりひどいのを想像していたのかと

目を向けると、違います。と、先手を打ってきた

東郷「以前からとそこまで大差はないんです」

天乃「以前?」

東郷「前々から、先輩に関して質問されることが多々あったんですよ。実は」

天乃「何それ聞いてない」

東郷「伝えるようなことでもなかったので」

茶化すように笑う東郷に

ムッとした表情を浮かべる天乃は

息をついて、「それなら」と、切り出す

天乃「特に問題はないの?」

東郷「ええ、まぁ……あるといえばあるかもしれませんが。大きな問題はありません」


天乃「あるんじゃない」

東郷「いえ、それは今までと何一つ変わらないことなので」

聞かれても、答えられない

もちろん、

答えられないこともないのだろうが

やはり、天乃はその先が気になるだろうし

なぜ、なんで、どうして。と

疑問符を浮かべるだけにしか思えないからだ

東郷「それよりも、何かあったんですか?」

自分だけではないのなら友奈の様子を見に来たとか

校舎を回ることで、昨日の一件による影響を感じ取ろうとしたとか

いろいろな理由も考えられるが、

直接、自分だけを指名したというのが気になったのだ



1、サボってまで無茶したこと。怒ってる?
2、東郷から、何か言うことがあるんじゃないかなって。思って
3、東郷はあの女子生徒知ってる?
4、あれから、メールとか来てないかと思って
5、一緒にいたいと思っちゃ。だめ?


↓2


天乃「サボってまで無茶したこと。怒ってる?」

東郷「悪いと、思っているんですか?」

天乃「ううん。思ってない」

はっきりと言った

清々しいほどの笑みで

東郷「はぁ……」

正直、だろうとは思った

そう簡単に自分の意思は曲げない人だ

もちろん、それが本当に悪いことだったと認めたときは

しっかりと謝ったりしてくれるのだが……

東郷「なら、どうしてそんなことを?」

天乃「私はあの子を教育した件に罪悪感は一切ないわ」

東郷「教育……?」

天乃「けれど、まぁ。そうね。貴女達に心配させたのは事実だから。怒られる理由がある。怒る権利が貴女達にはある」

東郷「それが分かっていながら、どうして。先輩はやってしまうんですか。叱られたいんですか?」

九尾「……みもりんのお仕置き、癖になっちゃって」

東郷「ひっ」

天乃「邪魔ッ!」


どこからともなく現れた道化師を

そのまま亜空間に突き飛ばして、天乃はため息をつく

隙を見つけたら口を挟む

それが真面目な話、不真面目な話に限らず。割り込んでくる

そんな九尾が消えたあと、仕切り直すように、見つめ合う

天乃「叱られたくはないわ」

東郷「なら、どうして……」

天乃「私のしたいことが、叱られる結果に繋がってるだけよ」

東郷「それがわかっているなら、自重して欲しいです」

天乃「誰かの為に何もしないで褒められるなら、誰かの為に何かを成し遂げて叱られる方がマシよ」

東郷「………」

確かに、それはそうなのかもしれない

正しいことが必ずしも褒められるわけではない

間違っていることが必ずしも叱られるわけではない

けれど

口で言うだけでなく

それを実行できる人間はそうはいない

少なくとも、自分は出来るかどうかわからない

と、東郷は首を振る


けれど

天乃はそんな友人の肩を軽くたたくと、頷く

天乃「貴女達だって、戦うという選択をしたじゃない」

東郷「ぁ」

天乃「誰だって、そういうものよ。叱られると分かっていてもやらなければいけないことがある」

たった一年しか先を言っていない先輩の一言

向けられる笑み

そこにはたった一年では追いつくことができないような何かを、東郷は感じて

目を見開いた

何を見てきたのだろう

何を聞いてきたのだろう

どんな経験をしてきたのだろう

先代勇者、久遠天乃

その言葉に含まれた巨大な何かを、東郷は微量ながら

見せられた気がした


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から




勇者部が戦うと選択した時と、真逆の構図



東郷「たった一年しか先を言っていない先輩の一言、向けられる笑み、そこにはたった一年では追いつくことができないような何か。それは風先輩には無いものでした」

風「なっ」


では、初めて行きます


東郷「そう……ですね」

天乃「ええ」

言われて気づくのは遅い気もしたが

認めないのは誤ちであると

東郷は考え、頷く

散々天乃の行動に反対したりなんだりして、強行されて

理由はどうであれ、怒って

けれど、考えてみれば確かに

危険だと言われた勇者としての戦いに参戦することを自分たちは決めた

それとこれとはさほど変わりない

あるとすれば

そういうのなら。と、天乃が認めてくれたこと

東郷が認めるのを覆して、認めないと言ったことくらいだった

東郷「心が狭い。ですね」

天乃「そんなことはないわよ。すぐそうやって、自分のことをネガティブに考えるのは頂けないわ」


東郷「ですが……」

誰よりも周りの人が傷つく事を嫌っているのに

傷つく以上に危険な事への参加を、天乃は認めた

対し

自分はどうだ。と、東郷は右手を握り

左手の爪を立てた

一度は認めたくせに

風が参戦するとなってから何をした

やっぱり認められないと、覆した

――認めたからといって許したわけではない

そんなひどい言葉まで、ぶつけた

天乃「?」

顔を上げると、

天乃の優しくも困惑した表情と、まだ中途半端な太陽の光が重なる

それでも、眩しさなんてなくしっかりと顔が見えるのは

自分が強く、見るべきだと思っているからなのだろうか?


東郷は天乃から目をそらして、息をつく

落ち着かない

寒くないのに、唇が震える

たった一言。聞きたいと思って

その瞬間から震えだした唇は閉じても変わらず、深呼吸しても変わらない

それはきっと

天乃が言うように【ネガティブに考えてしまう】からだろう

もしかしたらの悪い結果をすぐ、考えてしまうからだろう

東郷「すー……はぁー……」

天乃「大丈夫?」

東郷「大丈夫です。それよりも……先輩」

天乃「なに?」

優しい声と、表情

それから目も耳もそらさず、

東郷はまっすぐ目を向け、問う

東郷「先輩は、あの時。覆したりした私に対して怒ってないんですか?」




1、ちょっと。ムッとしたかな
2、なんで怒るのよ。貴女はただ。私を心配してくれただけなのに
3、怒ったかな。少し……自分の意志じゃなく。コイントスで決めたことに関してだけど
4、怒ってて欲しいの?
5、さぁ? 過ぎたことだし。忘れちゃった


↓2


天乃「なんで怒るのよ」

東郷「え?」

天乃「貴女はただ。私を心配してくれただけでしょ?」

東郷「な……」

天乃のわからないわ。と、言いたげな目に

東郷は驚きを飲み込んで、目をそらす

心配していたのは事実だ

そこに嘘はない

けれど、だからといって

一度は認めたことをギリギリになってダメというのはいかがなものか。と

自らの行動でありながら、東郷は思った

残念に思ったはずだ、がっかりしたはずだ

裏切られたと、悲しんだはずだし辛かったはずだ

なのに

天乃「第一、状況が変わったのだから。再考するのは正しかったはずよ」

天乃はそういった


東郷「どうして……」

なぜそう言えるのか、不思議だった

優しいからという話ではなく

心が広いからという話でも、寛大だとか寛容だとか

そういう話でもなく

責めるべき相手を正当化しようと――

天乃「どうしてって。言われてもね」

天乃は困ったように返すと

そうね。と、間を作って、笑みを浮かべた

天乃「私だって、貴女達以外に勇者候補が出てきたりしたら、やっぱりダメって言うかも知れない」

東郷「……………」

天乃「要するに。自分がどうするかって考えたとき、一概に批難することは出来ないかなって思ったからかしら」


言葉が、見つからなかった

天乃の言葉に嘘はない

それが間違っているわけでもない

そしてなにより、それに対して疑問はもう必要なかったからだ

東郷「……完敗です」

元々、勝ち負けなどないが

それでも東郷はそう言わざるを得なかったし

笑顔を見せずにはいられなかった

天乃「うん? 何か勝負してたっけ?」

東郷「いえ。個人的にです」

子供のような無邪気さを持って首をかしげる天乃を見つめ

東郷は苦笑する

久遠天乃という先輩の背中は

はるかに遠く手どころか目すら届かない場所にあるのだと

東郷は、実感した

√ 4月6日目 夕(学校) ※金曜日

友奈、沙織、風、樹、東郷、男子生徒との交流が可能です

1、風
2、樹
3、友奈
4、東郷
5、沙織
6、デートする男子生徒
7、イベント判定
8、勇者部部室

↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から




東郷「完敗です」

天乃「え?」

東郷「体格的に、久遠先輩のカップサイズの方が上のようです」

天乃「嬉しくないっ」


では、初めて行きます


樹「疲れました……」

友奈「うん、いろんな意味で疲れちゃったよね」

部室へと入ると、

友奈と樹が向かい合うようにして椅子に座り、

机に突っ伏しているのが目に入った

天乃「あの二人、どうしたの?」

東郷「色々とあったんです」

天乃「いろいろ、ねぇ」

苦笑して答える東郷をよそに

二人に目を向けた天乃は、心配そうに息をつく

そして

なにか言いたげな風が目に入った東郷は

首を横に振り、唇に指を当てる

言うだけ、無駄だと思ったのだ


久遠天乃という人間は

自分のことを容姿端麗、頭脳明晰な美少女ちゃん。と

冗談で言うくせに

真面目な話になると、自分を過小評価しすぎる傾向にある

要するに

学校内で大人気ですよ。と言ったところで

【好感を持たれているのね】

という冗談に落ち着く

決して

【好感を持たれている】

という真実を認めようとしない

だから、言うだけ無駄なのだ

東郷「先輩。つかぬことを伺っても?」

天乃「なぁに?」

東郷「久遠先輩に、恋人っているのですか?」

だからまぁ、単刀直入に聞いてみる



1、いないわよ
2、いるわよ
3、明日、デートする予定よ
4、どうしたのよ。いきなり
5、いないって言ったら、東郷に告白されちゃうの?


↓2


風「ちょ……東郷?」

天乃「恋人ねぇ」

そう言いながら、考えるように小首をかしげる仕草

普段から見ているそれは

冗談の兆候だと、東郷は学んでいた

もっとも、だからといって必ず冗談を言うわけではないし

そもそも

冗談8割、真面目1割、曖昧1割な人間である以上

パターンを考えるだけ無意味なのだが……

それでも、東郷は心構えた

天乃「いないって言ったら、東郷に告白されちゃうの?」

にやりと笑った顔

ああ、冗談だ

そう思うのと同時に、やっぱりいないんだと、東郷は安堵した

……安堵?

東郷「しま、せんけど……」

良かったと思うのは

部活動の先輩だからか

大切な友人の一人だからか

はたまた、同じ障害もつ者として、先を越されずに済んでいるからか

天乃「じゃぁ、いるって言ったら?」

東郷「冗談で言われても、困ります」

いずれにしろ、困っていた


天乃「えーっ、私が男の子と付き合っていても良いの?」

風「良いか悪いかって言うより。心配?」

天乃「なんで?」

風「悪い男に引っかかりそう」

東郷「……風先輩は言えないような」

風「なんだとーっ」

言うのはこの口か。と

風が東郷にちょっかいを出すのを横目で見て

突っ伏しながらも笑う友奈達の声を聞く

天乃「…………」

微かな風が入る窓脇のカーテンが揺れて音を出す

日常の、ひとつ

天乃はその中にいながら

その中にいないような感覚を覚えて、苦笑する

天乃「大丈夫よ。今のところその気はないから」

友奈「久遠先輩なら、誘いがある気もしますけど……」

樹「占ってみますか?」

天乃「まぁ、私は私で。誘われない理由があるのよ」

天乃が思う理由と

友奈達が思う理由は全く違うのだが

二人は「そうですね」と、頷いた


東郷「ふ、風先輩」

風「んー?」

東郷「メールチェックを……」

風の痛くもなんともないヘッドロックを受けながら

東郷がマウスに手を伸ばす

個人に直接申し込んでくることもあるが

基本的にやり取りはメールが多く

そして

現状で誰も依頼があることを口にしない時点で

メールが来ていない場合

今日は暇になってしまうのだ

天乃「暇でいいじゃない。暇で」

風「それはそれで構わないんだけど――」

東郷「えっと……」


01~10 演劇部
11~20 
21~30 恋愛
31~40 バレー部

41~50 
51~60 
61~70 女子ソフト

71~80 
81~90 
91~00 進路


↓1のコンマ

恋愛・進路は天乃固定
それ以外は天乃以外
空白はなし

では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から



歌野さん……そうですね
上手く、巻き込めるといいですが……


では、少しだけですが


東郷「久遠先輩に、進路相談。ですね」

天乃「あー……」

東郷の背中越しに、画面を見ると

以前も見た名前、学年の子だった

切羽詰っているわけではない、はずだけれども

やはり

早く相談したいというのがあるのだろうか

……そもそも、親や先生ではなく私に相談という時点で問題があるんだけど

それは天乃だけでなく

風達も思うことだ

だが、大人は子供時代を経ているとは言え

悩める子供の人生を歩んできたわけではない

ゆえに、相談する相手として相応しくないといえば、相応しくはなかった

むしろ、悩みを打ち明けあうのであれば

共感しやすい同年代に近い人のほうが適任と言えるかもしれない

風「アタシがいく?」

天乃「ううん、私が行くわ」


樹「久遠先輩はむしろ、進路相談するほうだと思うんですけど……」

天乃「それはそうなんだけどね」

東郷「実は先輩とお話をしたいだけ。という可能性もあります」

天乃「まさか」

苦笑して流し、ちょっと言ってくるわね。と

天乃が教室を出ていくと

残された4人もまた、顔を見合わせて苦笑する

友奈「そのまさかも、あるんじゃないかな」

風「あるでしょ」

樹「ありえます」

東郷「……進路相談から始まる恋。ね」

友奈「ぇへへっ……なんだかちょっと恥ずかしいね」

風「なんで友奈が照れてるのよ」

友奈「男装してる久遠先輩、格好いいんだろうなぁって……」

樹「してみてほしいです」

勇者部は勇者部で、盛り上がっていた


天乃「……」

こんこんっと、教室の開いたドアを叩くと

ひとり椅子に座って黄昏ていた依頼人が振り向く

年相応

そんな幼さのある男子生徒は

運動系というわけではなく

けれど文化系というか

勉強好きのようにも見えない、平々凡々な顔つきだった

「すみません、何度も」

天乃「それはいいのだけれど……前回も待ってたの?」

「はい」

天乃「それは悪いことをしちゃったわね……ごめんなさい」

「いえ、僕が勝手に待っていたんです。家に帰るより、先輩を待つほうがドキドキして楽しかったので」


男子生徒の飄々とした物言いに

天乃はちょっと驚いた表情を見せて、苦笑する

面白かった

待っている間ドキドキしたなんて

合否発表やデートの待ち時間とかくらいなものだと

天乃は思っているからだ

天乃「ドキドキしたなんて、面白いこと言うじゃない」

「そう、ですか?」

男子生徒の困った表情

褒めたからか、ちょっと赤みがかっていた

天乃「それで? 教室で話しても平気なこと? それとも。どこか人がこなさそうな教室に移動する?」

「いえ、この教室で大丈夫です。人なんて、そうそう戻ってこないので」


「僕は、ゲームクリエイターになりたいんです」

天乃が教室に入り、向かい合ってすぐ

男子生徒はそう切り出した

将来の夢、進路希望

依頼人は赤みがかっていた表情を正し、

担任教師とする面談のような緊張感を持っていて

本気であり、本心であることは直ぐにわかった

ゲームクリエイターね……ゲームあまりやらないんだけどなぁ

心の中では無気力ながら、

男子生徒を見つめた天乃は、「でも、親は反対しているのね」と、問う

「そうなんです。別に、ゲームを毛嫌いしているわけではないんですが……」

天乃「?」

「そういう不安定な職業よりも、堅実な職業にすべきだって反対されてるんです」



天乃「不安定っていうことは、クリエイターといっても。データを組み上げるんじゃなく、脚本側ってこと?」

「そうですね、シナリオライターとか。脚本家とか。そう言ったほうが良かったかもです」

その仕事がどれほど不安定なのか

天乃は正直なところ全く興味がないので

あまり詳しくはないのだが

アイデアを求められる仕事である以上

当人の好調・不調で大きくブレる仕事であることだけは、なんとなく分かっていたし

それはつまり両親が言うように

不安定な仕事にほかならないであろう事もなんとなく分かった

天乃「ちなみに、貴方。出版社への応募経験は?」

「ないです」

天乃「自主的に読み物を書いたことは?」

「黒歴史が、3つほど」


照れくさそうに言う男子生徒だったが、目をそらすことはなく

真面目に考えているであろうことは、伝わってくる

とはいえ

応募もしたことないのでは、そういった世界の目が

この子の能力をどの程度だと見ているのかという指標もないことになる

天乃「……その黒歴史? とかいう物語は手元に有る?」

「いえ、そのっ……とても見せられるようなものじゃないので」

天乃「設定とか物語とか、言葉とか。乱れていても構わないけど……」

そういった天乃に対して

男子生徒は困りきった様子で、首を振る

「すみません」

天乃「……そう」

実力次第では、無責任に頑張れとは言えないし

これでは、何とも言えない




1、やる気だけではどうにもならないこともあるわ。まずは、私に見せられるくらいのものを書いて見せてくれない?
2、ご両親にも。同じようなことを言ったんでしょう?
3、自分の実力が最底辺……人に見せられないようなレベルだと認めているのなら。諦めなさい
4、なる気、あるの?
5、話にならないわね


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から


久遠さんのこれはかなり厳しい一言です


では初めて行きます


天乃「なら、そうね」

出始めはとても穏やかだった

優しい面持ちでとても、暖かい

けれど

そんな印象など、無関係に

久遠天乃は口を開く

天乃「諦めなさい」

「!」

天乃「自分の実力が最底辺……人に見せられないようなレベルだと認めているのなら、諦めなさい」

認めてもらえないから相談しようとした

どうすればいいかと、聞きたかった

そんな男子生徒の心を折る一言

それを告げた天乃の瞳は

まっすぐ、男子生徒を見ていた


天乃「私が、何の理由もなく褒めてあげるような優しい子だって聞いてた?」

「……………」

天乃「ただ、頭を空っぽにして貴方の夢を後押しする子だと思ってた?」

「そんな、ことは……」

思っていなかった?

いや、嘘だ

クラスメイトの友奈や

友達から【久遠先輩は優しい人】と、聞いていた

だから……そう。期待した

自分の思いが間違ってはいないと

目指すことに関して、踏み出しづらい一歩を踏み出させてくれるのではないか。と

けれど

天乃「悪いけれど。私はそんな甘い人間じゃないわ」

「………っ」

天乃は想像とは全く違っていた


「せ、先輩に……」

だから、かもしれない

期待と違っていた

想像と違っていた

だから、きっと

沸き上がってくるこれは

「先輩に何がわかるんだっ」

この怒りは間違ってはいないと

男子生徒は子供であるがゆえに、考える

いや、考えてすらいない

これはただの衝動

ただの、八つ当たりだ

「僕はっ!」

天乃「………………」

けれど、それさえも

「僕は……」

天乃の瞳がだんだんと冷めたものへと

悲しそうなものへと変わるにつれて、消えていく

夢も、怒りも

目の前の先輩一人に、潰された


天乃「……ぼくは、なに?」

「っ」

天乃「僕にはやる気があるんだ?」

天乃の声には感情の起伏がなくて

それを初めて経験する少年には

とても、怖かった

優しいだなんて幻想であると

それを、強く印象づける表情が

とても……恐ろしくて

天乃「やる気があっても、向上心がなければダメよ」

「向上心なら――」

天乃「ないわ」

けれど、続いて出てきた言葉は、その全てを払拭するような

なにかが感じられた

「どうして、そう言い切れるんですか」

天乃「自信がなくても、見せる勇気がないからよ。批判される怖さから、自分を守っているからよ」


少年自身、

自己保身をしているような感覚はなかった

こんなものは駄作だ

こんなものは黒歴史だ、見せられたものではない

そう切り捨て、ネット上のゴミ箱の中にすぐさま放り込んだ3つの作品は

見せないことが当たり前だと思っていたからだ

「見せられないようなものを、見せられないと言って何が悪いんですか?」

天乃「悪いわけじゃないわ。ただ、先を目指すのならそんな逃走本能は捨てた方が良いだけ」

「っ」

天乃「誰にも見せないってことは、あなたの作品に対する客観的な意見が一切貰えないってことなの」

「それは……」

天乃「貴方が目指している世界で、貴方の作品を見るのは、読むのは貴方だけなの?」

「ぅ」

違う。断じて、違う

見るのも読むのもプレイするのも自分ではない

他人だ。その物語を手にしてくれた【客】だ

そこに思考が行き着いて、天乃が言いたいことに気づいて

男子生徒は、目を見開いた


天乃「誰の意見もなく作品を作れる人は天才くらいだわ」

「そう、ですよね……」

天乃「普通は学ぶのよ。自分で……そして、誰かから教わって。学ぶの」

厳しさからの優しさ

冷たさからの暖かさ

それは

とても容易く頭に入り

夢を目指して折られた心の傷口に、沁みる

天乃「貴方はそれすら拒絶した。教えてもらおうとしている私にでさえ、拒んだわ」

「そんなつもりは……いえ。きっと、そうだったんだと思います」

見られたくなかった

恥ずかしかった

嫌だった

理由はなんにせよ、拒んだことには変わりはなくて

それは、つまり。教わろうとしていないのと同じことで……

「すみません……先輩」


自分が何をしてしまったのか

それに気づき、少年は謝罪を口にして頭を下げると

天乃の肢体が目に入って、慌てて顔を上げると

天乃「?」

きょとんとした天乃の顔が目の前にあって

思わず後退り、背後の机に足がぶつかってガタンっと、鳴った

天乃「大丈夫?」

「は、はい……その」

天乃「うん?」

「も、もう一度。ちゃんと夢を目指してからの初作品を書いたら。読んでもらえますか?」

今でも自信があるわけじゃない

ゴミ箱に捨てた三つとは、きっと

大した変化もない作品だろう

けれど

誰かに見て欲しいと思って書いたものを、見て欲しいと男子生徒は思い、訊ねた




1、私が読者第一号ならね
2、私が読めるような状態だったら、ね
3、……ごめんね。その約束はできない。けど、依頼をくれれば誰かが読んでくれるわ
4、ふふっ。私のために、書いてくれるのかしら
5、読んでください。で良いのよ。待っててあげるわ


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすはできればやりますが、お休みするかもしれません



逆上しても殴れないのが神世紀
殴れるのが旧世紀

クロスカウンターを免れたのが、神世紀


では、初めて行きます


天乃「そうね」

二年生よりも小さな先輩は

優しげな微笑みを携えて、そう呟く

その横顔は朝日のように眩しくて、夕日のように綺麗で

夜の月のように、優しげだった

「……ッ」

だから、そんなものが生まれたのかもしれない

天乃「読んでください。で、いいのよ」

「良いん、ですか?」

天乃「うん。待っててあげるわ」

詰まった言葉にも、しっかりとした答えを返して

期待が込められているかは分からないけれど

頑張らせてくれる笑顔を、天乃は浮かべる

「!」

そっか、これは……ああなるよ

男子生徒は以前見かけた、【相談者】の状態を思い出して

内心、認めて天乃から目をそらす

「……ありがとう。ございます」


天乃「貴方の相談は、これで終わりかな?」

「……はい」

天乃「そう。じゃぁ、お疲れ様」

天乃は頑張ってとは言わない

ただ一言、お疲れ様。と、微笑んだ

さっきまでの

諦めろと言った状態の天乃からの言葉だったら

期待できない。するだけ無駄

そう思われてると思っていたかもしれない

けれど、今は

たとえそれが自分の都合のいいように改変した解釈であったとしても

気負わせないために頑張れとは言わないんだろう。と

男子生徒は受け取った

「あの、先輩」

天乃「うん?」

「ぁ、いえ……その。ありがとうございました」


振り向いた天乃に

男子生徒は言おうとしていた言葉を飲み込んで、お礼を告げる

このあと時間はありますか?とか

玄関口まで押しますよ。とか

言えるわけがなかった

顔さえまともに見ることができないのに

どうして、言えるのだろうか

天乃「ううん。気にしなくていいのよ。相談受けるのが、私のお仕事だから」

「そ、それでも」

天乃「?」

「僕にとっては凄く。ありがたかったです。きっと、相談しなかったら。僕はただ書いてゴミ箱に入れる繰り返しだったから」

天乃「……貴方の助けになれたのなら。良かったわ」

そう言って去っていく天乃を見送り

姿が見えなくなってから、男子生徒は深く息をつく

「……何の理由もなく褒めてはくれなかったけど。厳しかったけど。でも、凄く、優しかったな」

そうつぶやく男子生徒の笑みを形作るそれは

夕日で誤魔化せないような朱色だった



01~10 
11~20 有り 
21~30 
31~40 
41~50 
51~60  有り

61~70 
71~80 
81~90 有り

91~00 

↓1のコンマ

有りならもう一度判定  


01~10 友奈 
11~20 沙織
21~30 風・樹
31~40 東郷
41~50 らぶなれたー
51~60 沙織
61~70 風・樹
71~80 東郷
81~90 友奈
91~00 東郷さん曰く、果し状的なアレ

↓1のコンマ  


男子生徒の相談を終えて、

流石にもう帰る時間だろうと生徒玄関に向かうと

見慣れた車椅子

見慣れた女子生徒の姿が見えた

東郷「先輩、お疲れ様です」

天乃「貴女……何してるの?」

東郷「久遠先輩一人に任せるだけ任せて帰るのは。と、思ったんです」

東郷の理由に、天乃は複雑な表情を返して、息をつく

そんなわけがない。と、断定することはしないけれども

しかし

東郷は車椅子ゆえに、同伴者がいない場合は基本的に車での送迎が行われている

それは天乃も同じことで、良く分かっていた

だからこそ、東郷のいいわけには違和感があったのだ


天乃「それで? 本当のところはどうなのよ」

東郷「いえ、その……」

この言い訳が通用する

そんなわけがないことくらいわかってはいたのだが、

東郷は思わず、口ごもって目をそらす

膝の上で握り締め合う両の手は

心なしか、汗ばんでいるように感じた

東郷「私達と、同じクラスの男の子……だったので」

東郷の様子は

そのクラスメイトを心配しているような感じで、

天乃はなんなのだろうかと、考えて



1、男の子が心配だったの?
2、男の子のこと……気になるの?
3、もしかして……好きな子?
4、どうしたの?
5、あら。もしかして。私があの子に告白されたりするとでも?


↓2


天乃「どうしたの?」

東郷「し……」

天乃「し?」

東郷「し、進路はどうするのかと。気になってしまって……同じ二年生なので」

苦しい言い訳、本日二回目

自分でもバカみたいだと思いながら

天乃の方を見てみると

天乃「ふぅん……」

やっぱり、ニヤニヤとしていて

進路云々というのが真っ赤な嘘だとばれたのは明白だった

東郷「なん、ですか」

でも、心配だったなんて言えない

だって、何がどう心配だったかなんて

自分でも良く分かっていないのだから

天乃「別に?」

東郷「悪い顔、してますよ」


天乃「あら、してるかしら」

ごまかすように笑った顔は

とても子供らしくて、とても、可愛らしいと東郷は思って

穏やかじゃなかった心中も

自然と、安らぎに満ちていくのを感じた

東郷「ごまかしても、口元がにやけたままですよ」

天乃「あらっ」

部室で付き合うとか付き合わないとか

そんな話をした名残だと言えば、そうなのかもしれない

それだけなのかもしれない

けれど、そんな決めつけすら出来なかった

不安か、心配か、おそれか、なにか

少し前までは激しく、今は大人しい鼓動を確かめるように胸元に手を宛てがって

東郷は息をつく

東郷「先輩の雰囲気が愉快でいっぱいなので口元隠してもだめです」

天乃「そうかしら」

東郷「はい。それと、久遠先輩が面白がるようなことは何もないですよ。本当に」

この良く分からないものは

少なくとも面白くはないと、東郷は決めつけた


では、此処までとさせて頂きます
あすはできればお昼頃から



それがどんなものであれ、少しずつ進んでいく


では、少しずつ進めていきます


天乃「別に、面白がるつもりはないんだけど」

東郷「どこがですが」

ニヤニヤとしていて

どう見ても、どう考えても

面白がっているようにしか見えないのに

そう思う東郷とは裏腹に

天乃はそうね。と、笑みを浮かべる

小首を傾げることもなく

ただただ浮かべ、向けてくる笑み

それh冗談の前触れではないと、東郷は直ぐに察した

天乃「貴女が真面目に、本気なら。ちゃんとお手伝いさせて貰うわ」

もちろん、して欲しいなら。だけどね

そう付け加えた天乃を見つめていた東郷は、

穏やかの中に痛みを感じた

東郷「そう、ですか」


天乃は東郷の気持ちが先ほどの男子生徒に向いているんだろう。と

考えているに違いない

それはさっきからの態度と言葉で簡単に分かることだった

東郷「でも、その必要はないです」

私はあの男子生徒に好意を抱いていない

そもそも、東郷にとってはクラスメイトというだけであって

友達にすらなり得ていなさそうなほどに、近くとも遠い人

ゆえに、手助け不要なのだ

東郷「私は別に、あの人に好意を抱いているわけじゃありません」

天乃「そうなの?」

東郷「……嘘をついているように見えますか?」

そう言って、目を見つめると

天乃は困ったように息をついて「さっきはともかく、今は見えないかな」と、言う

東郷「そういうことです。帰りましょう。先輩」

天乃「うん」


後者側に向かうと

運転手を担っている大赦の職員の女性が

ペコッと頭を下げた

「久遠様、東郷様。ご用事はお済みですか?」

天乃「ええ」

東郷「はい。待たせてすみません」

「いえ、自分が通った中学校の生徒を見送るのも、なかなか楽しかったですよ」

天乃「……年老いたことを実感させられたのね。可哀想に」

「わ、私はまだ20代前半ですっ」

茶化して笑う天乃に

ちょっぴり怒った様子の職員

二人を交互に見た東郷は

先代ゆえの関係なのかな。と、

近いはずなのに、と多くにいるような感覚を覚えた

「では、乗ってください」

天乃「二台行けるの?」

「今日はいつもとは違うやつなので。それに、後ろに積めば大丈夫ですよ」


「明日は午前授業ですよね?」

天乃「ええ」

「今日と同じように、お二人用にしますか?」

東郷「いえ、おそらく何かするかと思うので。大丈夫です」

東郷がそう答えたのを見送って

天乃は流れていく景色を見る

明日、午前授業のあとにはデートの下見がある

午前授業はお昼がないから

多分、お昼を食べることから始まるのだろうが……

東郷「久遠先輩?」

天乃「?」

東郷「ぼうっとしてましたけど……大丈夫ですか?」


天乃「うん、平気」

中学生だから高いお店の予約なんてことはしてこないだろうし

絶対とは言い切れないけれど、手料理持参は多分してこない

そのどちらもされては困ると思っただけ

天乃「明日のこと、考えてただけよ」

味覚がないから味の評価なんてできない

どれだけ高級な料理も

どれだけ愛情のこもった手料理でも

天乃にとっては、無味な料理でしかないからだ

「久遠様は、明日。ご予定でも?」

天乃「ん」



1、ちょっとね
2、男の子からデートの下見の依頼されちゃってね
3、なんだっていいじゃない
4、さぁ? どうかしら
5、デート。かな

↓2


天乃「ちょっとね」

「そうですか、では。ご入り用になりましたら。いつもどおりご連絡ください」

天乃「ええ……? なに?」

運転手と話しながら

ずっと気になっていた視線に向き合って、声をかけると

その主は慌てたように、目をそらした

東郷「い、いえ。用事があるなんて聞いていなかったので」

天乃「言ってなかったかしら?」

東郷「はい」

天乃「そっか、でも。大したことではないから。大丈夫よ」

天乃のその言葉に、東郷は頷く

今日、部室で

明日は午前授業だから。と

いろいろ話していた東郷としては少し複雑だったが

端末を取り出し、天乃を除いたグループチャットに「久遠先輩は用事有」と、送った


東郷「わがままを聞いていただいて、ありがとうございました」

「いえ、送迎が私の仕事ですし。部活もありますから。誤差の範囲内ですよ」

東郷「久遠先輩、それでは。お先に失礼します」

天乃「ええ、また明日ね」

一足先に東郷を家の前で降ろし、別れを告げると

車の中は天乃と、運転手だけになって

少し、さっきまでとは違う空気になった気がした

「……久遠様」

天乃「?」

「聞きましたよ。三好様と決闘したそうじゃないですか」

車を運転し、バックミラーを見ながらの問いに

天乃は軽く頷く

三好様が誰かは知らなかったが

決闘というのだから、あの敗北者のことに違いないと思ったからだ

「楽勝、でしたか?」

天乃「あの程度ならね。まぁ、向こうも本気ではなかったんだろうけど……格下だからと慢心している時点で失格だわ」


「失格。ですか?」

天乃「どうせ、あれも勇者候補とか、誰かの代用品なんでしょう?」

「……らしいですね」

天乃「だから、失格なのよ。どんな相手であろうと真面目に全力でぶつかってくれなきゃ困るわ」

相変わらず窓の外を眺めていて

ちっともこっちを見ようとしない天乃

その姿を鏡に映して見る運転手は、赤信号で車を止めて、息をつく

「聞いた話、久遠様も手を抜いたそうじゃないですか」

天乃「沙織がどうしてもって言うし。東郷も嫌そうだったし……仕方ないじゃない」

それでも、50%の力で100%の力を使って戦ったわよ。と

小難しいことを続けた天乃に、運転手は「さすがですね」と、返す

「ただでさえ50%なのに、そのさらに半分の力で勝てますか。三好様に」

天乃「友奈に謝らせるのが目的だったし。誰かの為だって理由がある以上。負けられないわ」

「優しいですね」

天乃「別に……私がしたかっただけだもの。ある意味自分のためよ」


「その誰かの為という優しさを、私たちは利用しているんですよね」

天乃「貴女ではないと思うけれど」

「いえ、大赦の職員である以上。私も同じです」

否定を認めず、繰り返す運転手に目を向ける

運転中だからか

それとも、目を合わせ辛いからか

彼女は前を向いたまま、続けた

「乃木様がこちらにいる限り、久遠様は逆らわない」

天乃「あら、どうかしらね」

「茶化さないでください。久遠様が神樹様を敬い奉るのが嫌なことくらい。わかってます」

天乃「沙織から聞いたんでしょう。どうせ」

「……報告を受けていますので」

あっさりと見抜かれ、運転手は笑うと

着きましたよ。と、車を止めた

「久遠様……どうか、ご自身も大切になさってください」

天乃「………………」

「私が言いたいのはそれだけです」

天乃を降ろし、家の前にまで連れて行った運転手は

別れ際にそう言って、去っていった

√ 4月6日目 夜(自宅) ※金曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、稲荷
9、イベント判定

↓2

※3~7は電話


天乃「稲荷」

一言、そう呼ぶと

チリンっと鈴の音を鳴らしながら、

九尾よりもずっと小さな狐が姿を現した

天乃の精霊稲荷

その稲荷の使いとして存在している小さな狐は

天乃へと、咥えた手紙を差し出した

そこには「就寝中」と書かれているだけで

それ以外には何も書かれていない

おそらく、休んでいるがゆえに代理が出てきたのだろう

天乃は困ったように笑って、「そうなのね」と、狐の頭を撫でた

天乃「疲れているの?」

稲狐「…………」

狐はフルフルと首を横に振り、

天乃を見上げ、口を開いては閉じ

言葉をしゃべることができないのが残念そうな表情を浮かべる

ちょっと、可愛いと思った


九尾「ふむ……どうやら、樹海の様子を見に行っておったようじゃな」

天乃「?」

九尾「先日、戦闘があった上に現在も侵入を試みておるからのう。警戒しておったのじゃろう」

九尾の翻訳? に、

稲狐は同意するように頷く

天乃「貴女がちゃんと翻訳してくれるなんてね」

九尾「妾とて、必要なことならば通す」

九尾と稲荷は犬猿の仲。というわけでもないが

九尾は稲荷を一方的に毛嫌いしており

一蹴せずにしっかりと話すのは珍しいことだった

天乃「もしかしてだけど、毎日見てくれてるの?」

稲狐「…………」

こくりと頷く

戦闘が始まってからというもの

毎日樹海に出向き、警戒してくれているのは

天乃にとっても、心強くありがたいことだった


天乃「悪いわね、面倒をかけて」

そう言うと、稲狐は首を横に振る

稲狐が勝手に判断しているのではなく、

これはすべて自身の主から託された回答だ

豊作を祈られ、穀物などの神として崇められて来た稲荷神

今や、祈られることもなく

神として崇められることもなくなった彼女だが

それでも

自分は豊作へと導かなければならない。と思っているのだ

この樹海が不作に終わり、枯れ果てたとき

世界が終わると、知っているからだ

天乃「…………」



1、ねぇ。稲荷神はこの世界をずっと見てきたの?
2、どうして。私にはこんなに神様がついてくるのかしらね
3、樹海が腐りかけたときは、協力お願いね
4、稲荷が蒔くって言った私の種について聞いておいてくれる?
5、私はみんなを守りたい。そう、伝えておいてくれる?


↓2


天乃「ねぇ、狐さん」

狐「うむ」

天乃「あなたじゃない」

わかっていながら割り込む狐さんを視界の外に追いやって

目の前の白狐を見つめる

稲狐はそれを見つめ返し

忠犬のように、ただ言葉を待つ

本当。誰かさんとは大違いだ

天乃「稲荷が蒔くって言った私の種について聞いておいてくれる?」

稲荷の狐はこくんっと頷いて、

天乃の膝に前足を置くと、口元をペロッと舐めた

九尾「! わ、妾でもしたことないのに!」

天乃「何よ、いいじゃない。別――んっくすぐったい」

もう一度、もう二度、もう三度

稲荷の狐は九尾のあからさまな視線を受けながらも天乃の顔を舐めると

逃げるように、姿を消した


天乃「んっ」

舐められたところに手を触れると

不思議なことに、全く濡れてはいなくて

舐められた感触も、まるでそんなことはなかったかのように

さっぱりと、消えた

九尾「妾も舐めて良いか?」

天乃「今の貴女にされると、キスすることになるんだけど」

九尾「一向にかまわぬ」

天乃「構いなさいよ。少しは」

ググッと顔を近づけてくる九尾の体を押し返して

天乃は顔を背ける

狐に顔を舐められるのと

人型の九尾に顔を舐められるのはわけが違う

それは、

恋愛感情を持っていない天乃であっても

流石に抵抗のあることなのだ

そもそも、九尾がただ舐めるだけで終わるわけなど、あるはずがない

そんな警戒心もある為、ハードルが高かった


九尾「主様、明日はでぇととやらに行くのじゃろう?」

天乃「ええ。下見だけど」

九尾「相手がもしも、妾の様に迫ってきたら、どうする?」

天乃は九尾の言葉に驚いた

九尾はからかうつもりなのかもしれないが

天乃はそんなことなど全く考えていなかった

あの男子生徒には好意を抱いている相手が居る

その大前提があるがゆえに、全く考えていなかった

天乃「キスの練習は……流石に」

九尾「は?」

天乃「え?」

九尾「はぁ……」

九尾は深々とため息をついて姿を消し

残された天乃は「なんなのよ」と、呟いた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(東郷に告白される?)
・   犬吠埼樹:交流有(東郷に告白される?)
・   結城友奈:交流有(東郷に告白される?)
・   東郷美森:交流有(無茶を、怒る必要、東郷に告白される?、出待ち、どうしたの?)
・ 伊集院沙織:交流無()

・     三好様:交流無()
・      九尾:交流無()

・       死神:交流有(九尾について)
・       稲狐:交流有(種について)
・      神樹:交流無()



4月6日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 30(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 26(中々良い)
  結城友奈との絆 31(中々良い)
  東郷三森との絆 29(中々良い)
  女子生徒との絆 -5(とても低い)
     沙織との絆 31(中々良い)
     九尾との絆 28(中々良い)
      死神との絆 29(中々良い)
      稲狐との絆 27(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%

√ 4月7日目 朝(自宅) ※土曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、髪型を変えてみる

↓2

※3~7は電話
※9は放課後でもできます



天乃「おはよう」

沙織『おはよう、久遠さんから電話してくるなんて珍しいね』

天乃「そうかしら」

沙織『うん。何があったのか気になっちゃうくらいだよ』

朝からの電話にも関わらず

元気のいい沙織の声を聞き

天乃は嬉しそうに、笑う

沙織が元気だと、天乃は嬉しかった

大赦からの監視役と、監視対象の間柄ではあるけれど

それと同時に二人は友人関係で

その信頼関係、その絆は強いからだ

天乃「電話来たんだもの。気になるのは当たり前じゃない?」

沙織『どうでもいい電話もたまにはあるよ。大赦からとか』

天乃「こらこら」

沙織『ふふっ、冗談だよ』


沙織『それで、実際どうしたの?』

天乃「んー……」

沙織『今日の放課後、お出かけでもする?』

天乃「ごめんね、それは用事がるから」

沙織『そっかぁ……』

残念そうに漏らす沙織の声を聞きながら、

なぜ電話したのか

その問に対する答えを――



1、なんとなく。かな
2、私に似合う髪型とかある?
3、デートってどのくらいお金かかるのかわかる?
4、今日ね。男の子とデートの下見するんだけど。キスの練習とか求められるのかなと思って
5、沙織は私の精霊、稲荷についてどのくらい知ってる?
6、沙織はキス。したことある?


↓2


天乃「ねぇ、沙織」

沙織『?』

天乃「今日ね? 男の子とデートの下見するんだけど」

沙織『!?』

天乃「キスの練習とか求められるのかなと思って。電話したの」

いつも聞いている声よりも

どこか不安げで

甘えてくるような声に

沙織は端末だけは落とすまいと思いながら

震える手で、口元を押さえた

デートの下見?

キスの練習?

誰ですかそんなこと申し出た人は、今日は休んでもらうしかないかな

なんて怖いことを考える頭を振り、深呼吸

沙織『それはさすがに断るべきだと思う』


沙織『もし仮に、それが本当の本当に下見だとして。だよ?』

天乃「? 下見よ?」

沙織『あぁ、うん。下見なんだけど。下見だとして』

多分下見じゃないとは思うんだけど

もし仮にそうだとして……いや、そうならば

沙織『その男の子は、好きな人よりも先に久遠さんとキスしちゃう』

天乃「うん」

沙織『そして、久遠さんは好かれてもいない相手。好きでもない相手とキスしちゃう』

天乃「そうね」

沙織『それはちょっと。なんていうか。ダメなんじゃないかなーって。思う』

いや、そうじゃなくても

あまり許したくはないんだけど。と思いながら

その気持ちを吐露しないように配慮する

デートの下見というのはきっと嘘だ。と、沙織は決めつけていた


というのも

普通に考えて、好きな相手とのデートよりも

天乃とのデートの方がはるかに緊張する

それに、

車椅子の女の子とデートの下見というのがまず違和感しかなかったからだ

もちろん、忌々し……男子生徒が

車椅子の女の子だったり、障害を持っている女の子に好意を抱いていないとは言い切れない

可愛いものは可愛いし、綺麗なものは綺麗だし

そこにマイナスポイントが付こうが

よほどのことがない限り、

その相手が好きであるのならば、相手の支えになることができることを喜んで請け負うだろう

沙織『デートの下見に付き合ってあげるのは。うん。いい事だと思う』

天乃「うん」

デートの相手は男の子ではなく、女の子

失敗したくないから女の子からの意見が欲しいと思う男の子の気持ちを、

沙織は分かっているからこそ、そう言えた


沙織『でも、キスはダメだよ。久遠さんだって、好きな人としたいでしょ?』

天乃「相手は、いないけどね」

沙織『それでも!』

天乃「っ」

茶化すように言ったのが悪かったのか

混じっていた笑いが悪かったのか

怒鳴り声に近い沙織の声に

天乃は思わず、ビクつく

沙織『それでも、だめ』

天乃「……………」

沙織『もしも、相手が久遠さんに好きだって言って。キスしようとしても……考える時間をちゃんと貰って』

切実な願い

そう思えるような感情が

端末から流れ出てきていた



1、下見よ。だから、好きな人は私じゃないわ
2、大丈夫よ。断るつもりだから
3、うん、分かった……断るわ
4、好きだと言われても……そうね。考える時間は必要よね
5、? 私からお礼のキスとかはありなの?


↓2


天乃「ねぇ、沙織」

沙織『?』

天乃「私からお礼のキスとかはありなの?」

沙織『……………』

沈黙、静寂、そして……

沙織『学校来たら、お説教だよ? 今更ごめんなさい冗談だったのとか言っても遅いからね?』

天乃「え、あのっ」

何かを言うよりも早く

沙織の言葉の余韻さえ残さぬままに、通話は相手から勝手に終了にされてしまった

天乃「お、怒った?」

いつもの冗談と変わらない

そんな程度のものだったはずなのに

もっとも、沙織からしてみれば冗談になる話ではなかったのだ

天乃「……ちょっとふざけただけじゃない」

電話をかけ直しても

電源を切られている。という自動音声しか、聞こえてくることはない

それはつまり、怒っているということにほかならなかった


天乃「そこまで必死になる必要。あったのかしら」

ただのデート。その下見

思い合う間柄でのデートなら

何かが起こるかも知れないし、

それなら、キス云々の心配をするのもわかるし

過剰なような反応を示すのも分からなくもない

だけど、そうじゃない

あくまで下見なのだ……天乃にとっては

天乃「キス。か」

ふと、自分の唇に触れてみる

微かに湿っていて

フニフニとしていて

多分、おそらくきっと

人とのキスを経験したことのない唇

天乃「やっぱり、特別なことなのね」

誰かとキスをする

そんな想像さえも、今の天乃にはできなかった

√ 4月7日目 昼(学校) ※土曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室
↓2


沙織「ふんっ」

天乃「いい加減、機嫌直したっていいんじゃないの?」

朝、学校に来たあと

天乃は沙織にひどく叱られた

もちろん、人目につかないようにと

空き教室で、だ

久遠さんは相手が好きなの?

好きじゃないなら冗談でも絶対にダメだよ

いや、好きだとしても

そこはもう一度改めて考えてからにしてよ

……等々

長々と

そう、朝のHRまでの30分少々をまるまる使い果たして

あわや遅刻扱いになりそうなくらいには、叱られた

それでも機嫌は直らないようだ


沙織「久遠さんはわかってないんだよ。わかってない」

天乃「わかってるわよ。冗談が過ぎたってことくらい」

あれだけ本気で怒っていたのだから

沙織が本気で心配してくれているのも

心配ゆえに本気で怒っていたことも

それを引き出すことになった自分の冗談が悪かったことも

天乃はちゃんとわかっている

けれど、沙織は首を横に振った

沙織「キスは誰とだって出来るし、何回でもできる。でもね?」

天乃「うん」

沙織「最初の一回目は、たった一人。たった一回しかできないんだ」

わからない人にはわからない

キスはキスだ

ファーストキスも、セカンドキスも、サードキスも

ひっくるめればキスはキス

けれど、沙織にとっては、違う

沙織「その初めてが、その人の恋の基盤になるんだよ」


沙織は思いを馳せて、頬を染める

その表情は

恋を経験したことのない天乃がよく見る

恋愛相談に来る少年少女たちのそれに、よく似ていた

沙織「言葉で思いを伝えて、この唇でその熱を伝えるの」

天乃「………………」

好きとか、愛してるとか

口では何とでも言えるけれど

高鳴る胸の激しさゆえの体の熱は

演技では作り得ない本当の気持ち

沙織「だから。大切なんだよ。キスで感じたものが歪んでいたら。歪んだ恋をしちゃうから」

天乃「えっと」

正直な話

そこまでのロマンチストではない天乃には

沙織の言いたいことは100%伝わることはなかった

けれど、大事な部分は。きっと



1、大切だってことは十分わかったわ
2、そこまで言う貴女は、相手がいるの?
3、そうなのね……ごめんなさい
4、それなら、相手の男の子もしてこなさそうね
5、沙織って、ロマンチックなのね

↓2


天乃「そこまで言う貴女は、相手がいるの?」

沙織「ふぇっ!?」

天乃「ん? 顔、真っ赤じゃないの」

にやりと笑う天乃から逃げようと

沙織は椅子から落ちない程度に体を引く

自分への行為に素晴らしく鈍感ではあるけれど

熱でもあるの? なんて

とぼけてくるような人ではない

だからこそ、沙織は身を引く

天乃「その顔、いるのね? したい相手。いるのね?」

沙織「うぅっ」

それをしていいのかどうかとか

そういったものを一切合切差し引いて考えれば、相手が居る

けれど、沙織は絶対に言えない。と、唇を噛み締めた


キスという行為を初めて知ったときは、そんなことは思わなかった

でも、成長するにつれて

そのキスという行為から発展していくこと

そこに含まれる意味を知って

沙織は簡単にしていいものではないのだと知った

その時に

なら、誰とならしていいんだろうと考えたとき

隣にいた友人を見て、沙織は思った

いや、脳裏にその瞬間を思い描いた

その時は確か

何の前触れもなかったから

熱でもあるの? 大丈夫? と、額に額を宛てがわれたのだったか

なんて思い出して

沙織「っ、ッ!」

沙織は顔を真っ赤にして、首を振った

天乃「相手がいるのね……沙織」


沙織「これは、えっと」

天乃「ううん。いいのよ別に。誰かを好きになっちゃいけないなんて決まりはないんだから」

目の前の友人は

そう言って、嬉しそうに笑う

沙織が誰かを好きだと知ったから

沙織が、そういった想いを抱く余裕が有ることを知ったから

そういったことを行える今を日常にしているのだと、知ったから

沙織「っ」

そんな安堵にも似た表情を浮かべる天乃に

沙織は否定できるはずもなく

そもそも、いるのは事実なのだから、否定できる訳もなく

沙織「う、うん……」

天乃「私に協力できることがあったら、言ってね」

沙織「あり、がと」

じゃぁ、まずはデートの下見にでも付き合ってもらおうかな。と

冗談を考えながら、真っ赤な顔が治まって

早鐘を鳴らす心臓が静まるのを、待った


沙織「あの、ね。久遠さん」

自分の胸に手を当てて

平常心を保てるくらいには落ち着いたのを見計らって、切り出す

天乃「?」

沙織「好きって気持ちはいっぱいあると思うんだけど」

天乃「うん」

沙織「例えばさ、女の子が女の子にー……みたいなのとかも相談されたことってある?」

天乃「そうねぇ……なくもないかな」

半年くらい前

樹が入学してくるちょっと前に

今は高校生になっているであろう先輩の相談を受けたことがある

といっても、相手が男の子かどうか聞いても答えず

女の子なのかどうか聞いても答えてはくれなかったので

正しくは性別不詳に終わってしまったのだが

沙織「じゃぁ、久遠さん」

天乃「?」

沙織「そういう同性間の恋愛って。どう思った?」


天乃「うーん……」

性別不詳だったあの相談

あれがもしも、同性

女の子相手のものだったらと考えて、天乃は息をつく

実際に相談されたわけではなく

想像上のものになるため、参考になるかどうかは分からないが

天乃「女の子同士ねぇ」

沙織「うん。恋愛って自由って言うでしょ?」

天乃「まぁ、うん」

沙織「だから、そういうのもあるのかなって」

ただの好奇心を装って、聞いてみる

天乃は悩ましげに眉をひそめて、考え込む

それを見つめる沙織の頬は、まだ少し。赤みがかっていた


1、わからないわ
2、互いに同意の上なら好きにしたらいいんじゃない?
3、あるとは思うわ。多分だけど


↓2


天乃「わからないわ」

沙織「え?」

天乃「実はというと、その相談。相手の性別がわからなかっただけなのよ」

考えた末の回答に

沙織はごまかしているんじゃないか。と

ほんの少しだけ疑って

直ぐに、疑ったことを後悔して俯く

天乃「何か答えようとは思ったんだけど、経験がないからうまい言葉が見つからなかったの。ごめんね」

沙織「ううん、あたしこそ。ごめんね」

疑ったり

変なことを聴いたりして。と

心の中で続けた沙織は、笑みを浮かべる

同性恋愛

アリかナシか

聞けば答えてくれるだろうけれど

もはや好奇心ではなくなってしまう為、

沙織は諦めて、身を引いた

√ 4月7日目 昼(学校) ※土曜日


男子生徒との恋愛相談の延長線上
デートの下見を開始するため、交流は男子生徒となります


↓1のコンマ


50以下なら男子生徒が後
51以上なら天乃が後


遅刻時間は一桁分  


「お待たせしてすみませんっ」

男子生徒は、

玄関から天乃が見えたからか

校門まで全速力で駆け抜け、頭を下げる

もともと誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。と

周囲の目を向けられていた天乃に

さらに多くの視線が向けられた

天乃「ほんの数分でしょう? 別に謝る必要はないわ」

「で、でも」

天乃「むしろ、公の場で謝られると悪い女の子みたいに思われかねないし、相手の機嫌損ねちゃうわ」

「ぅ……」

天乃「またせた時点で不機嫌にさせちゃうのだから。さらに不機嫌にはしたくないでしょう?」


とはいえ、

一言はちゃんと謝らないといけないんだけど……

さすがに思いっきり頭を下げられるのは。ね

天乃「ねぇ」

「は、はい」

天乃「まずはお昼。食べに行かない?」

いつまでもこうしていても仕方ないし

お昼も今日はまだのため、天乃がそう聞くと

男子生徒は焦った様子で、頷く

「そ、そうですね」

天乃「……えっと。貴方がリードするの、よね?」

「は、はい」

凄く、緊張しているようだ


「あの、さ」

天乃「うん?」

「久遠は好きな食べ物とか、あるのか?」

天乃「あら、どうして?」

今回の主役は天乃ではなく

この男子生徒

さらに言えば、この男子生徒が好きな子だ

天乃の好きな食べ物を聞いたところで意味はないはずなのに

「いや、ほら。昼に何食べてるのかとか全然知らないからさ……」

天乃「クラスが違うもの。仕方ないわ」

「そう、だけど」

男子生徒は萎縮しつつも

ちらっと天乃を見る



1、貴方の好きな人の食べ物はなんなの?
2、辛いもの。かしら
3、なんだと思う?
4、貴方が好きなものは?
5、緊張しすぎてない?


↓2


天乃「緊張し過ぎてない?」

「そ、そうか?」

片耳だけで聞いても……

いや、片耳でしか聴くことができないからこそ

鋭敏な聴覚には

その震えが良く分かってしまう

天乃「今日の相手は私よ?」

だから、

いつもと何も変わらない穏やかさ携えて

緊張感を包み込める優しさの笑みを浮かべて、振り向く

天乃「貴方の好きな人じゃないんだから。落ち着きなさい」

「!」

天乃「ね?」

まだ高い陽の光を浴びる桃色の髪が

風に靡いて甘い匂いを漂わせる

車椅子に座っていなかったらどうなっていたのだろうか

そう考える男子生徒は

天乃の死角に潜り込んで、自分の頬をパンッと叩く


「痛っ」

天乃「な、何してるの?」

「いや、蚊がいてさ……」

天乃「両頬に?」

「いや、真ん中らへんに来たから。こう、パンっと」

自分が好きな相手ではないのだから

そう言って笑ってみせた天乃の笑はもう

目を閉じれば浮かんできてしまう

とても優しくて、柔らかい笑顔だった

天乃「ふふっ、だからって無茶せず避ければよかったのに」

「! そ、そうだけどつい」

天乃が笑ってくれるのが嬉しかった

そして

そんな和やかな雰囲気が

男子生徒の緊張を少しずつほぐしていく


では、今日は少し早めですが
此処までとさせて頂きます
あすはできれば通常時間からとなります



九尾「無知は人を癒すことはないが、傷つけはするんじゃぞ」


では、初めて行きます


「久遠ってさ」

天乃「うん?」

「その……」

切り出したはいいが、その先を彼は言えなかった

笑っていると可愛いよな。という言葉は、恥ずかしくて言えないからだ

一年生の時、よく見た笑顔

二年生の時、全く見れなくなった笑顔

三年生になって、また見るようになった笑顔

彼は、それがとても好きだった

誰かが笑っているのなんてごくごく普通のことで

現在同じクラスの男子生徒、女子生徒

関わらず笑っているのを見る

けれど、

天乃の笑顔はそれらとは何かが違っているように思える

可愛い、綺麗

そうではなく、もっと別の、何か


天乃「何よ。どうしたの?」

「えっと、好きな食べ物は?」

天乃「繰り返すのね」

「教えてくれなかったじゃないか」

うまく言葉を見つけて、彼は本心を覆い隠す

なぜ、ほかとは別なのか

それは自分の心が彼女に向いているからなのかも知れない

しかし、男子生徒は納得が行かなかった

自分の目にはフィルターがかかっているとしても

天乃の笑みはあまりにも特別に思えるからだ

例えるならば

病気で亡くなる人が、

その一瞬、その時間、その些細な幸福を

全力で楽しんでいる時に浮かべるような尊さという特別感


あれだけ元気で明るかった天乃が

一気にその活気を損ない、車椅子での生活となった

それ以上の変化は見受けられないが、

真正面以外からの呼びかけには

時折、キョロキョロとする仕草が最初の頃は見られた

だから、男子生徒は一時期

どちらかの耳の機能まで低下しているんじゃないだろうかと、疑った

「……………」

思わず先生に聞いてしまった時の答えは

交通事故にあった。というだけ

それ以上は何も教えてはくれなかった

その時に脳にダメージが行き、脳機能が低下しているんじゃないかとさえ考えた

考えすぎだと改めはしたが

それでも、男子生徒は知りたかった

本当はどうなのか

自分に出来ることなど何一つないであろうと自覚しながら、それでも

少年は、愛ゆえに。無知を拒んだ


1、辛いものかな
2、特にないわ。満遍なく好き
3、私のを聞いたってしょうがないでしょう?
4、貴方の好きな人が好きなのはなんなの?
5、貴方がデートで行く予定のお店に行きましょう?


↓2


天乃「貴方がデートで行く予定のお店に行きましょう?」

「え?」

天乃「何驚いてるのよ。下見。なんでしょう?」

そう、これは下見だ

男子生徒からしてみれば

これは下見というよりも、リハーサルだが

天乃にとって、これはただの下見でしかないのだ

「そう、だけど」

彼は言いかけて、頭を振る

否定はできない

自分は気持ちを打ち明けたわけではない

恋愛相談という善意を利用し、下見という建前の上で

この二人きりの時間は進んでいる

天乃「まさか、お店の予約とかしてるの?」

「いや、流石にそんな余裕はなかった」

好きな相手の好きな食べ物どころか

嫌いな食べ物すら知らないのに、できるわけがなかった


「デートで行くお店とか検索するとさ、なかなか。ね」

男子生徒はそう言って笑う

もちろん、ちょっとしたおしゃれなお店とかいう程度のものもあるが

それでもやはり、

中学生のお小遣いから考えれば

とてもじゃないが安いものではない

ファミレスやうどん。うどん

そう、うどん

とりあえず、行ける範囲は割と限られてしまう

なのに

「デートではそういうところはやめるべき。みたいな話もあって、どうしたら良いか分からなくてさ」

天乃「中学生の男の子に、経済力を求めるような人は。止めておいた方がいいと思うけど」

「い、いや。その女の子がそういうのを求めてくるわけじゃないんだ。ただ、ちょっと見えはりたいじゃないか」


照れくさそうに笑う男子生徒を一瞥して

天乃は小さく息をつく

少しでも格好良く見せたい

気を引きたい

そういった理由があってのことなのだろうが……

天乃「無理はしなくてもいいのよ」

「けど」

天乃「けど。じゃなくて。ね? 貴方とその相手には温度差があることを忘れちゃダメよ」

男の子の気持ちもわからないわけではないが

けれども、だからこそ

天乃は少し厳しくいう

天乃「貴方が一生懸命なのが伝わるのはいい事だと思う。でも」

「でも?」

天乃「あなたのその全力が、相手の基準になってしまうかもしれない。そしたら崩壊するのは貴方よ。見捨てられるのは貴方よ」


ちょっとだけ頑張ったことで、相手は喜ぶかも知れない

でも、それが相手の当たり前になってしまったら

男子生徒は彼女のために頑張り続けなければいけない

もちろん、それは当たり前なのかもしれないが

その頑張りと、当たり前の温度差は

男子生徒を精神的にも、身体的にも、経済的にも疲弊させてしまう

天乃「私はデートして、付き合って終わり。それで終わってほしくないの」

「………………」

天乃「貴方と貴方の好きな人が、いつまでも続いていって欲しいと思ってる」

だからこそ

無意味ではなくとも、無茶な頑張りは奨められなかった

天乃「だからね? お金という付加価値のない貴方の魅力を見せて欲しい。教えて欲しい」

「付加価値のない、魅力?」

天乃「そう。貴方と過ごす時間がどれだけ魅力的で、幸せなのか。相手にそれを教えることが、デートをする理由で、意味なのよ」


同年代なのか

本当に彼氏がいなくて

一度も交際したことがないのか

それを疑いたくなるような天乃の発言に驚きながら

男子生徒は頷く

言われてみればそうかもしれない

そう、思ったからだ

「分かった。じゃぁ、さ。俺のおすすめのお店があるんだ」

天乃「行きつけ?」

「そう。すごい美味しいんだ。ちょっと高いけど。でも、月に何回かは通ってるとこ」

男の子の笑みに

天乃はじゃぁ連れてって。と、笑みを返す

天乃「相手の女の子が気に入るお店だといいわね」

「ん……ま、まぁ、まずは。久遠が気に入ってくれると。嬉しいんだけどな」

天乃「……ええ」

味覚がない。だから、気に入ることはできない

その非情な真実を、天乃は口にできないまま、頷いた


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から



久遠さんのデート講座
遊んでません。しっかりと恋愛相談やってます

では、少しだけ進めていきます


男子生徒に連れられてきたのは

讃州市の外れの方にある骨付き鳥のお店『五亀』というところだった

市内には他にもお店が数多く点在しており

端の方ということもあって、客入りはそこまで良くなさそうではあるが

それでも、店内には何人かのお客さんが入っていた

「おー今日も来たのか!」

「どうも」

男子生徒は言葉に偽りなく常連なのか

店主であろうおじさんは元気よく話しかけ、男子生徒は一礼する

そして、おじさんはうんうんと頷き

天乃がいることに気付いて……皿を一枚割った

「お、おい坊主!」

「おじさん、皿割れたよ!?」

「そんなこたァどうでもいい! 彼女かい!? 彼女さんなのかい!?」


なぜか興奮する店主は

落とした皿を踏み砕きながら男子生徒から天乃へと目を移し

もう一度男子生徒へと目を向ける

「バカ野郎! デートでこんな店連れてきてどうすんだ!」

「自分の店をこんな店っていうのはなしだぜおやっさんっ」

店主の言葉に、

おそらくはお酒を飲んでいるであろう男性から野次が飛ぶ

なぜ昼間からお酒を飲んでいるのか

という点を天乃は見逃して、息をつく

確かに

居酒屋のようなお店に中学生がデートで来るというのは

いささか雰囲気に欠けるかもしれないが

天乃「彼の行きつけのお店に連れて行ってって私が言ったの」

「けど、こんなところ。嬢ちゃんは嫌じゃないのかい?」

天乃「人は人柄を見るように、飲食店なら味を見るのが私の主義よ。おじさま」

「……ほう」

天乃「それに、おしゃれじゃなくても特別ではあるし、思い出にもなる」

だから。と

天乃は続けて言い、笑みを浮かべる

天乃「おじさまの料理で、その思い出に華を添えてくれると嬉しいわ」

「へっ……こりゃぁ気合い入れなきゃなんねぇな」

少女の言葉に店主は袖をまくって気合を入れて

周りの客はがんばれーと、声援を送る

もちろん、好まない人は多いだろうが

それでもやはり、普通のデートでは味わえない特別なものだった


対面で席につくと

男子生徒は天乃からの視線を避けるように、

おしぼりで遊ぶ手へと、視線を下ろす

お冷の中の氷がからんっと音を立てて

調理の音、息を呑む音が店内に小さく響く

「久遠ってさ」

天乃「?」

「よくああいうことが言えるよな」

誰かを褒めて

やる気を出させる

その場しのぎのような適当な言葉ではなく

ちゃんと信じ、ちゃんと頑張れるような言葉

「同い年なのが信じられないよ」

少なくとも、自分には言えないし考えつかない。と

彼は思い、苦笑する


「おじさんに向かって、思い出に華を添えてって言うのは。なんていうかすごいと思った」

天乃「そうかしら」

「え?」

天乃「だって、美味しいお店だったらまた来たいと思うし。美味しくないお店だったら来たいとは思わない」

美味しくないお店に至っては

この人はこんなお店の常連なのか。と

センスがないと思われたりするマイナスイメージ

つまるところ女の子目線では減点されかねないのだ

天乃「自分のおすすめのお店って言うのはね。大きなポイントであると同時に減点されやすい。いわば諸刃の剣なのよ」

「そ、そうなのかっ」

天乃「このお店の場合。女の子目線で言えば景観はマイナスだと思う。でも、だからこそ美味しいお店なら穴場というプラスになる」

数あるお店の中で、穴場のお店を知っていて

しかもそこの常連なんていうのは、ちょっとばかり特別で格好良く思える

天乃「わかりやすく言えば、中学生が憧れる大人っぽさがあるように思えるの」

「……正直、久遠の大人っぽさには勝てないけどな」

子供っぽさと大人っぽさをいろいろな意味で併せ持つ目の前の同級生

男子生徒は彼女を見つめ、照れくさそうに笑う

「けど、そっか。褒めてもらえたなら嬉しいよ。久遠も気に入ってくれた?」


1、ええ。おじさまも明るいし。いいお店だと思う
2、さぁ? 料理次第かしら
3、私はいいけど。相手の女の子はどうかしらね


↓2


天乃「そうね……私はいいけど。相手の女の子はどうかしらね」

そう言って困ったように首をかしげる天乃を見つめて

彼は少しばかり悲しそうに頷く

まだ明確に言葉にはしていないのだから

当たり前と言えば当たり前だ

しかし

彼女は男子生徒が好きな異性がいるという点に関して

全く顔を曇らせない

むしろ、本当に全力を尽くして、アドバイスしてくれている

それは素直に嬉しい

けれど、同時に悲しくもあった

なぜなら、天乃にとっての男子生徒は男子生徒でしかないと分かるから

なんの思いも抱いてはいないのだと、分かるから

天乃が、いもしない他の女子生徒への恋を成就させようと頑張ってくれれば頑張ってれるほど

悲しさは増していく


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から



最後の最後、別れ際
……デート、成功するといいね。と悲しげに天乃が言うんじゃないかと
希望を抱く青少年


では、初めて行きます


「はいよ。お待たせ」

店主直々に持ってきた骨付き鳥の【おや】と【ひな】は

意外にもおしゃれな四角いお皿の上の骨付き鳥は

ジューっと出来立ての音を鳴らし、

焼かれ、塗られ、焼かれた醤油ベースの甘辛い匂いを漂わせる

天乃「うん、美味しそう」

匂いだけは、素直に美味しそうだった

その道を歩み続けたプロの焼き加減は

香ばしく、それでいてみずみずしさを残した絶妙な位置に留まり、

余計な脂を排除し、タレを染み込ませた見事な黄金色に彩っている

見た目も合格だ

しかし、天乃に判断できるのはそこまでだった

さんざん、言わせてはもらったが

味の評価は、できない

匂いも見た目も美味しそうだ

それだけで食欲は唆られているし、口の中では絶えず催促の波が押し寄せてきている

けれど、天乃には味覚が……ないのだ


どれだけ美味しそうなものでも

かじりつけば匂いだけで、味はない

「久遠は切って食べるほうがいいか?」

不味い以上に好ましくない無味という裏切り

それが来るとわかりきっている天乃の手が止まっているのを見て

男子生徒はそう聞いた

男である自分はためらいなく尾を握り締め

肉にかじりつくことを厭わないが

女の子である彼女にはいささか酷なことなのではないだろうか。と、思ったからだ

骨付き鳥を食べる際は是非ともかぶりついて欲しいものだが

男子生徒はそう言わずに店主を見る

彼もまた、男ゆえに食べ方は豪快であって欲しかったが

何も言わずに、ナイフとフォークを天乃のところに持ってきてくれた

「汁が跳ねるから気をつけなよ。嬢ちゃん」

天乃「ありがとう」

礼を言う

しかし、この場合は実に。ありがた迷惑だった

けれども、食べないわけには……行かない


1、【おや】を食べる
2、【ひな】を食べる


↓2


豪快さを求めつつも

滅多に見られない女の子ゆえのおしとやかな食事風景を求めてしまう

野次馬、野獣、男衆

彼らの視線に苦笑を返した天乃は

右手に持ったフォークで肉を抑え、ナイフを肉の上に置くと

それだけで、肉汁がにじみ出てくる

半透明の旨みは刃先を包み込み、あっけなく皿上に流れ落ちていく

天乃「ぅ」

スポンジの特性を併せ持った、実に不愉快な食べ物は

無味にためらう天乃の背中を押すように、引き込む

味はなくとも匂いはある

その狡賢い誘惑に、天乃はひと切れを口にする

ひな肉はとても柔らかくて

噛むというよりも、押しつぶすような食感だった

圧迫した瞬間、肉汁が溢れ出して天乃の口腔に広がっていく

しかしながら、それは美味しくもなく、不味くもなく

ただただ、液体だった


本当は、美味しいのだろう

本当は――

押しつぶした瞬間には、甘辛い特性のタレを含んだ肉汁が溢れ出し、

唾液を巻き込んで加速し

瞬く間に口いっぱいに広がって、味覚に染み込む

舌に休む隙はなく

されど、

包みこむ肉の旨み、タレの甘味、絡み合う二つの間に潜むわずかな辛味に絆されて

子守唄によって聴覚を刺激されながらも眠る子のように

噛み締めることのできない肉が次から次へと放出する旨みに

味覚を染め上げられていく

しかし、それでは慣れが来る

聞き馴染んだ曲の歌詞を口ずさめてしまうように、覚えてしまう

だから、本能的に食す者たちは求める

あるものはトーストを

あるものは白飯を

そして自身の舌を襲撃する喜びをぬぐい去って、リセットし

初めてを装った味わいに歓喜する

――そんな楽しみがあっていいのだ

けれど、それは奪われた

お前にそんなことは許されないと

だから、天乃はただ一言「美味しいわ」と、言う

彼女にはそれ以外の選択肢が、ないからだ


「だろ? お気に入りなんだ」

天乃「流石に毎日とかは難しいけどね。太るし」

常套句。なのかはともかくとして

天乃はそう言って笑ってみせながら

香料のみの肉を切っては口に運び

溢れ出る【水】とともに流し込んで行く

それは食べているというよりも、飲み込んでいるというべきだったかもしれない

だけれども

それを常に【食事】に見せてきた天乃は

店主や野次馬はもちろん

目の前の男子生徒にですら見破られることなく、終える

天乃「……ごめんなさい」

誰にも聞こえない小さな声で、言う

連れてきてくれた彼に、作ってくれた店主に

嘘と偽りでしか答えられなかったことを、

天乃は申し訳ないと、思っているから


「ぱぱーただいまー」

食事を終えた休憩中

小学生中盤……いや、低学年の女の子が

赤いランドセルを背負って、店に駆け込んできた

「こらこら、ここは店の入口だって言っただろう」

「こっちのほうが近――」

店主の娘は父親に言いかけた口を閉ざす

その目は店主ではなく、天乃を見ていた

天乃「?」

「知り合い?」

男子生徒の問に天乃が首を振ると

女の子は驚くべきことに

「おばさん、長生きしてるんだね」

と、天乃に向かって言い放った


天乃「おば……さん?」

身長ゆえか

中学一年生や二年生と間違えられることは多々あるものの

おばさんと言われたことはない

小学生から見たらそんなものなのかもしれないが

けれども、おばさん呼ばわりはグサッときた

そんな驚きを見せる天乃に、

女の子はいいもの見せてあげるから待ってて。と

店のカウンターをくぐり抜け

おそらくは家に直通しているであろう階段を駆け上がっていく

「す、すまないな……」

天乃「いえ……小学生から見たら。うん……まぁ」

店主の謝罪に、天乃は困惑したままの笑みを返した


1、女の子を待つ
2、これ以上ショックを受けたくないので、店を出る


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から



「おばさん、長生きだね」チラッ

九尾「!?」

「隠れても無駄だよ。ウチのこの目。真実の眼―トゥルースアイズ―からは逃げられない」

天乃「なんだ。風の弟子か」


では、初めて行きます


良いものではなかったというのを口実に

少しばかり仕返ししよう。と、思ったわけではない

小学生の女の子からみてそう思われるのもあるにはあるというやや苦しい納得をしたし

そんな女の子が純粋な思いで見せようとしてくれているものを見ずに

さっさと帰るというのは、ややしのびなかったのだ

「ほんと、いつもはああじゃないんだがなぁ」

天乃「そうなんですか?」

「親の贔屓目で見なくても、いい子だぞ。だから、なんの理由もなく嬢ちゃんのことああいうとは思えなくてな」

天乃「……そう、ですね」

「すまねぇな、今日の嬢ちゃんのお代はいいからよ。許してやってくれ」

天乃「そんな、そこまでしていただかなくても――」

店主の申し出を断りかけたところで

ドタドタと慌ただしい音が2階から駆け下りてきて

女の子がまたしても現れた

今度はランドセルではなく、何やら四角い箱を持っている少女は

中身を出さずに、天乃へと差し向ける


「あけてごらん」

天乃「なに? 宝物箱?」

「ううん。おうちの倉庫に仕舞ってあったやつ」

女の子の無邪気な言葉に

店主が「また勝手な事して」と、小言を言うのが聞こえた

贔屓目に見なければ良い子というのは実にうまくいったなと感心して、苦笑する

つまり、贔屓目にみたら、悪い子ではないのだろうけれど、お転婆で活発で好奇心旺盛で

良い子というには少々減点が過ぎている子なのだ

笑う女の子

困り顔の店主

二人から箱へと視線を下げると

紙製の安っぽい箱には、うっすらとではあるが【一亀】と書かれているのが読めた

天乃「この一亀って?」

「あぁ、そりゃぁ。だいぶ昔のこの店の名前だな。代が変わるごとに、一、二、三って増やすのが伝統になっててな」

「つまり、今は五代目で、この一亀は初代?」

「そういうこった。んな昔のもん、よく見つけたな。ホント」

褒めてはおらず、呆れているのだとわかりやすい声だったが

女の子は関せずと笑って、天乃を見る

「開けて開けて。本当にね面白いのがあるんだよ」



女の子が見つけた段階で拭ってあるのか、埃っぽさのない年季の入った白い紙箱

かぶせ式の箱の封のテープはカッターか何かで綺麗に切り取られていて

箱は簡単に持ち上がる

そして

天乃「……え?」

思わず、声が上がった

「えへへっ、ねっ? ねっ?」

女の子の嬉しそうな声は透過して消えていく

天乃「これ」

箱の中には、すっぽりと収まった写真立て

プラスチックケースのそれは暗所保管だったためか

ぴったりと張り付いて写真が取れないなどの多少の劣化は見られたが

写真自体も残念ながら劣化はしているが

幸いにも、数百年眠っていたにしては良質な状態だった

そう、これは

この写真は

「せーれき、にーまるなんとかかんとかって、神世紀の前だってお婆ちゃんが言ってたんだ」

天乃「っ」

少なくとも300年前の……

「なのに、ここにね、おばさんが写ってるんだ」

驚きの理由も知らず

無邪気に笑う女の子の指が指し示した場所に

天乃と瓜二つと言っても過言ではない少女が、他数名の女の子と

そして

勇者様御一行という横断幕とともに、写っていた


「た、確かに久遠に似てるな……けど」

横から覗く男子生徒は

写真立てに刻み込まれた西暦という文字を見て、首を振る

文字を刻み込むなんていうのは、

お金を払えばやって貰えることだ

いたずらでその日付、文字を彫ってもらえばいいだけだ

けれども

天乃が常連でもないのに

そんないたずらを用意している訳もなく

「ああ、圧倒的にちげぇ部分がある」

「おやっさん!」

「ふっ……男なら目ェ行くだろう? 仕方ねぇ。男なんだからよ」

写真の中の少女と天乃が不一致であると確信した自分に対する

店主の同情、同意、同調に、男子生徒は頷く

「これは嬢ちゃんじゃねぇ」

「えー? どうしてー?」

「何を隠そう……この写真のねーちゃんは、胸がねぇ!」

店主はキメ顔でそう言った


天乃「おじさま」

「?」

天乃「私がおばさんであることを否定してくれようとしてくれたことは嬉しいのだけど」

とてもありがたくて

涙が出てきてしまいそうなほどに感謝しているのだけど

――などと、思っているわけはなく

天乃は見るものを恐怖のどん底に叩き落とすかのような

とても可愛らしく、冷たい満面の笑みを携えて、首を動かす

天乃「理由が聞こえなかったから、もういちど」

「!」

天乃「もう一度。お願いできるかしら?」

「い、いやぁ……その。ほら。300年とか。生きられるわけ無いだろう。ありえないアリエナイ」

「うーん……魔女とか!」

無邪気な女の子は天乃の冷めた脅しに気づくことなく、笑っていた


「おむねはね、ほーきょーって言うのができるんだもんっ」

天乃「なっ」

「おばさん、ほーきょーしておっきくしたんだ!」

ビシッ! と

意義アリとでも言うかのように指をさし、

ふふんっと鼻を鳴らす少女の笑顔に、天乃は引きつった笑みを返す

KYOIKUや、OHANASHIといった手はあるのだが

流石にそれはするわけには行かない

かと言って、この手の子供はなかなかどうして、しぶといのである

天乃「流石に、ね? 私も怒るわよ?」

「むぅっ」

天乃「なに?」

「えぃっ!」

天乃「!」

不意をつかれた――といっても、弾こうと思えば弾けたのだが

痛くしてしまわないだろうか、怪我させてしまわないだろうか

そう躊躇った逡巡は短くも長く

不十分に十分な時間を少女の伸ばした手に与えてしまった


その結果、

素肌の上、ブラジャーの上、シャツの上、制服の上……

とにもかくにも間にいくつもの壁を挟みながらも

女の子は狙い通りに、天乃の胸を鷲掴む

天乃「っ」

「シスコンが入ってないっ」

天乃「シスコンじゃなくてシリコン。それと」

「あぅ」

慎重に、丁寧に

砂の城の形を整えるがごとく繊細な手つきで少女の手を叩いた天乃は

左腕で胸を庇い、赤くなりつつある顔で、少女を見つめる

天乃「急に触ったら、めっ」

「……ごめんなさい。お姉さん」

胸の感触で。というのはいささか不愉快ではあるが

それがつくりものではないと判断し、写真とは違う人だと考えた女の子は言い換えて、俯く

「触っていい?」

天乃「いいわけ無いでしょう?」

物欲しそうな少女の願いを一蹴すると

さんざん向けられていた視線が一気に散らばり、どこからともなく嘘っぽい口笛が響く

天乃「もぅ……みんな、男の子なのね」

恥ずかしげな少女のそんな一言に

その場にいた全員が、いろいろな意味でドキッとした


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば似たような時間から


一亀⇔五亀
初代とのつながりあるお店


女房「ほほう?」

店主「あっ」


では、初めて行きます


天乃「…………」

それにしても、まさかこんな写真があるなんてね

天乃は、この写真に映ってる似ている女の子が、

先祖であり、勇者だった久遠陽乃であることは知っている

数人の少女の傍らにいる女性が

今は自分の側近のような存在となっている九尾であることも知っている

だからといって

それがこんな形で目の当たりにされるとは、思ってもいなかったし

十分すぎるほどに、すごいサプライズだった

写真はこのお店の大切なものなのだろうから

譲ってもらことはできないだろうけれど……



1、写真の写真を撮らせてもらう
2、大人しく返しておく


↓2


天乃「ねぇ」

「なぁに? お姉ちゃん」

天乃「この写真の写真、撮っていい?」

「い…………」

そう言うと、女の子は笑顔で「いいよ」と、言いかけたが

直ぐに言葉を飲み込んで、じっと天乃を見る

天乃「?」

まだ低学年とはいえ

豊胸だのなんだのと、ちょっと耳年増感ある少女の考え込む姿勢が

天乃には、少しばかり恐ろしく思えた

何を言ってくるのかわからない

何を求めてくるのかは……いや

そんなことはわかりきっている

天乃「触らせてあげないわよ」

「!」

天乃「いや、そんな驚かれても」


「ぅ」

天乃「泣きそうな顔をしてもダメ」

「じゃぁ、こっちも――」

天乃「さっき。触ったわよね?」

小学生を怯えさせる程度の笑顔で、黙らせる

それを笑顔と言っていいのか悩みどころだけれども

口元が曲がっているのだから笑顔なのだろう

それを見た女の子は当然、黙り込んで頷く

これが中学生にもなれば、もうちょっと反論できただろう

といっても、道場破りこと三好様こと敗北者こと、

ツイてないツイ(ン)テールさんの二の轍を踏むことになるのだろうが

「いいよ」

天乃「うん、ありがとう」

「……意地悪」

天乃「ありがとう」

「褒めてないもん」

天乃「あら嬉しい」

「むーっ!」


皮肉にも満たないことを言う女の子を

天乃は大人気なく

あるいは子供っぽく笑いながら、からかう

天乃「ふふっ。怒った?」

「怒ってないもんっ」

天乃「怒ってる?」

「ないっ」

ハムスターよろしく頬を膨らませる少女をよそに

天乃は写真の写真を撮って、元通りにしまって差し出す

天乃「ありがと」

「……うん」

小さく頷く女の子

そのしょんぼりと姿に見かねて頭を撫でる

中学生と小学生

二人はついさっき出会ったばかりの他人だけれど

周りの目には姉妹のように、見えた


天乃「大きくなれば、大きくなるわよ」

まぁ、多分。と忘れずに付け加える

実際問題、大きくなるかどうかなんて人それぞれだ

成長期にストレスを溜めたら小さい

規則正しい生活を送っていれば大きい

だとしたらば、なぜ

ストレスがあって、不規則な生活を送ってきた自分が

こう、不釣り合いな体系になってしまったのか

正直なところ、運次第

あと遺伝……多分

そう考えて、後者を消しゴムでさっと拭う

ついさっき見た先祖に祟られたくはないし

天乃「期待に胸膨らむとは言うけれど。案外、気にしない方が大きくなるものなのよ」

「そうなの?」

天乃「例えば、この手が期待で、袋が胸だとすると……」

言いつつ期待で袋の半分を潰して、空気を入れる

小さな膨らみができた

天乃「そして、この期待がなければ」

そう言ってもう一度袋に息を吹き込むと

今度は大きく膨れ上がった

「わぁ……っ」

天乃「ね? まぁ、こういうことなの。だから気にしない気にしない」


子供の純粋な目に多少の罪悪感を感じながら、

納得してくれた女の子の喜びに、笑みを向ける

天乃「おじさま」

「ん?」

天乃「お会計。そろそろ、長居しすぎちゃったと思うし」

そう言って男子生徒を見ると

彼はそんなことはないけどと言いながら

出るか。と、財布を取り出す

「ここは俺が払うよ」

天乃「え?」

「付き合ってもらってるんだ。当然だろ?」



1、ううん。私も払うわ
2、ありがとう



↓2


天乃「……ありがとう」

彼の厚意に、笑みを向ける

正直、付き合っているといっても

見返りを求めるような付き合いでも仕事でもなく

ただ善意で行っているだけの

恋愛相談

あるいはボランティアだ

ゆえに、折半が妥当ではあったのだろうけれど

「いや、こっちこそ。ありがとな」

彼の思いは無下にはできないし、

そんな些細なことでこの時間を壊すことはしたくない

天乃「……………」

会計している間、男子生徒を見守る

自分のお金を数えるわけでもなく

終始嬉しそうに、お金を出して、お釣りを受け取る

そこには

今支払ったお金以上のお釣りを貰っているような満足感を感じた


「ふぅ……意外と長くなっちゃったな」

天乃「そうね。そろそろお別れの時間ね」

「なっ、えっ?」

天乃「ふふっ、嘘よ」

本気で驚く男子生徒のお腹のあたりを軽くつついて、笑みを向ける

まだまだ、デートの中盤にも至っていない

むしろ

食事をしただけなんて序盤も序盤だ

天乃「ちなみに、奢るのは控えめにしておくことをおすすめするわ」

「え? でも、普通は……」

天乃「確かにありがたくはあるんだけど、そこは自分の分をきっちりしたいって人もいるじゃない?」

「たしかに……」

だからといって、小銭まできっちりしてると、

やや引かれたりもするのだが……

天乃「でもね? 自分がおすすめした店、連れてきた店では奢る方がいいわ」

「? 控えめにって言ったのに?」

天乃「それはそれ。これはこれ。女の子とのデートが単純なわけ無いでしょう」

女の子の衝撃的な発言に

男子生徒は思わず笑ってしまった


天乃「高いお店に連れてきておきながら、折半。どう思う?」

「う、たしかに」

天乃「自分が食べたくもないお店。でも折半。どう思う?」

「……言いたいことはわかったよ」

高いお店に連れてきたり、

女の子にお店を選ばせず、こちらが選んだ店にしたときは

大抵の場合、奢ったほうがいいのだ

というのも、天乃が言ったとおり

高いお店に連れてこられて想定外の出費は嫌がる人が多いし

食べたくもないお店で食事して無駄にお金を払うのも嫌う人が多いからだ

天乃「あと、奢るときは、男だから当然。なんていうのではなく、ちゃんとした理由をつけること」

「?」

天乃「女の子を下に見てるように聞こえちゃうからね。私は気にならないんだけど。嫌な人は嫌らしいから」

女の子って面倒よね。と

その女の子側であるはずの天乃はため息をこぼす

同意すべきかしないべきか

考えているうちに、話は進んでいく


天乃「楽な方法としては、奢る前提で高いお店を予約しておくこと」

「予約かぁ」

天乃「おごる理由としては、【食べて欲しかったから】とか【勝手にお店決めちゃってたし】とかかな?」

相手はおごって当然だと思っているのかもしれないが

それでも

こちらが相手に対してこうしたかった。という思いを抱いていることを示したり

きっちりしたい人だろうと

払って当然系の人であろうと

納得させてお金を消費する実に繊細な問題を穏便に解決することが目的なので、そこは気にしないでおく

それに、

ただ男だから当然だろ? というよりは

ここ、食べて欲しかったんだとか言うようなものの方が、印象は悪くない

天乃「あともう一つは女の子のお店を選ばせることかな。向こうが食べたいものを食べたんだから。奢って当然は通用しない」

それに。と

天乃は付け加えて笑う

天乃「付き合うと愛情とお金が底を突く相手かどうか判断できるわ」

「たしかに……自分が好きなもの食べて奢って当然ってされたら……」

天乃「お金だけは底をつかずに済むわね」


満面の笑みで毒づくデートの下見相手を直視できない男子生徒は

ちらっと横目で見て、赤くなりそうな頬をかく

天乃はどうなのだろう

きっちりしたいのか

おごって当然系なのか

考えつつ、やはり目を合わせづらくて

前髪をじっと見る

しかし、そんなこと聞けるわけもない男子生徒は

考えを改め、デートの下見だと頭の中で繰り返す

天乃「?」

「あ、あのさ」

天乃「うん?」

「映画……行かないか? デートの定番って言ったら映画だと思うし」

下見という建前であっても

やはり、気恥ずかしくて声は小さくて

強く握り締めた拳には

じっとりとした手汗を感じる



1、行きましょうか
2、好きな女の子と観る映画を私と見ちゃうの?


↓2


では、此処までとさせて頂きます
明日はおそらくできないかと思います
明日なくても、明後日は通常通りお昼頃からできればなと思っています






天乃「好きな女の子と観る映画を私と見ちゃうの?」

「いいんだよ」

(好きなのは……久遠なんだから)

「(なんて言えるわけがなーいッ!)」ブンブンッ

「つまんない映画だったら困るし」

天乃「それもそうね」


では、本日も進めていきます


天乃「好きな女の子と観る映画を私と見ちゃうの?」

天乃は不思議そうな表情で、そういった

もちろん、映画を予習しておいて

女の子と見たあとに話すことを考えておく。というのは悪くはない手かも知れない

しかしながら、

それでは男子生徒側が楽しめるものも楽しめなくなってしまう

天乃「私はいいんだけど、女の子と見た時。同じ気持ちになるのはちょっと難しくなっちゃうんじゃないかしら」

「同じ気持ち?」

天乃「そう。感動するものを見て、感動した。怖いものを見て、怖かった。それはやっぱり、初見と二度目では驚きも感動も違ってくる」

一度目はこのあとこうなるのかな。こうなって欲しいな。こうなっちゃうのかな

そんなドキドキと、不安と、怖さと、希望がある

二度目ではこのあとこうなるんだよな。という

諦めと、絶望あるいは

こうなるから大丈夫だという

安心と希望がある

それはやはり、決して同じではない

天乃「つまりね、見終えたあとの温度差ってやっぱり出来ちゃうと思うの」


天乃「例えば、私が女の子だとして」

「うん」

天乃「すっごいドキドキしたねっ! あんな風になるなんて思わなかったなぁ……助かって欲しかった」

「!」

演技

居もしない女の子の演技

それが分かっていても、その笑顔はとても可愛らしかった

いや、もちろん。今そう言う事を考えるべきではないと男子生徒はわかっていたが

それでも、天乃の可愛らしさに、男子生徒は鼓動の加速を感じた

天乃「なんて言っても。貴方は最初ほどの感動を出来るとは限らないし。そうなっちゃうと確実に温度差がある」

そこで起きる問題は

そんなに面白くなかったのかな。というように熱が冷めてしまうこと

自分だけ盛り上がっちゃったな。という罪悪感

そこで空気が悪くなってしまうと、のちのちに影響して言動が制限されてしまう

天乃「だから、もしも同じ映画を見るのなら。遠慮しておきたいわ」


「じゃぁ、観る予定じゃない映画ならいいのか?」

天乃「んー……まぁ、そうなるわね」

「なら、そうするからさ」

男子生徒のどうしても。というような姿勢に

天乃は苦笑する

まるで、自分と行きたがっているように思えたからだ

下見とは言え、そういう姿勢までしっかり取れるのは

天乃的には、悪くはない

もちろん、必死すぎるのは減点対象だけれども

天乃「わかったわ。じゃぁ、何を見るのか映画館に行って決めましょうか」

「あ、ああ」

天乃「ふふっ。どうしたの?」

「いや……ありがとな」

天乃「映画は嫌いじゃないもの。たまには友人と見るのも悪くないわ」

「っ……そう、だな」

車椅子の背後に回った少年の表情は、天乃には見えなかった


SFもホラーも恋愛もアクション映画もアニメ映画も

選り取りみどりな映画館の予定表

ほぼすべてが邦画となっていて

一部、洋画と呼ばれていた旧世紀にあった外国。という国外で作られた映画が

再放映という形で見ることが出来る

天乃「今回の洋画はアクション系みたいね」

「アクションに関しては邦画より洋画の方が派手さというか、勢いというか、迫力が有っていいと思う」

天乃「あら。映画好き?」

「いや、よくあるだろ。格好いいアクションの映画見て真似るやつ。その系列でよく見てたんだよ」

男子生徒は恥ずかしいのか

少し目をそらして、頭を掻いた

「久遠が見たいのはあるか?」


1、アクション(邦画)
2、恋愛
3、ホラー
4、SF
5、アニメ
6、アクション(洋画)
7、男子生徒に決めてもらう


↓2


天乃「貴方が決めていいわよ」

「え?」

天乃「万が一にも、貴方が見ようとしている映画とかぶるのも問題だからね」

天乃はそう言うが

男子生徒的にはむしろそうであって欲しいと思った

限られた選択肢の中での共通した意見

確率論で語られてしまいかねないことだけれども

同じ映画を見たいと思ったのなら、それは男子生徒にとって嬉しいことにほかならないからだ

そんなこともつゆ知らぬ天乃の一言は

男子生徒をより、白熱させる

「俺が選んだやつでいいんだよな?」

天乃「ええ」

「じゃぁ、恋愛映画で」

天乃「ええ……えっ?」

「観る予定があるやつじゃないし、いいだろ?」


天乃「たしかに違う映画ならとはいったけれど、一応、なんていうか」

「友人だからって。見ないとは限らないだろ」

天乃「え、あっ、ちょ。ちょっと」

決めてと言ってしまったことに加えて

車椅子を押されては辞めることもできず

「この映画は俺が一緒に見て欲しい奴だから。チケット代は俺が持つよ」

天乃「あ、えっ、あ、うん……ありが、じゃ、なく……」

止められるとわかってか

先んじて告げた男子生徒はすでにチケットを買うために受付に行っていて

天乃はその後姿を見ることしかできない

天乃「……私が言ったこと。実践するのはいいけど。相手間違えてるわよ」

男子生徒の勢いに

天乃は困ったように息をついて、自分の財布を確認する

あとで、ちゃんと返さなきゃね


『そうだ。俺は我侭だ。分からずやだ。だから君の気持ちも何もわからないッ』

『!』

『だから、何度だって言わせてもらう。俺は君が好きだ! 誰よりも、何よりも好きだって!』

主人公の男性が女性に盛大に告白をするシーン

何気なく見る天乃は軽く息をつく

この女性が素直になれなかったり

相手の気持ちを推し量れなくて、すれ違っているのなら

ああいう告白もありなのだろう

けれども、女性には別に好きな相手がいるのに

それを知っているのに、少し前のシーンで言われたのに

気持ちを分からないというのはいかがなものか……

天乃「…………」

女性が好きな別の人が、違う人が好きだという流れは完成しているし

その流れ上ではありなのだろうか

天乃「……ん」

とりあえず、考えるのはやめておくことにした

01~10 男子生徒が頑張る時間
11~20 
21~30 男子生徒が努力してみる時間
31~40 
41~50 男子生徒がやらかしちゃう時間

51~60 
61~70 
71~80 たまには、久遠さんがやらかしちゃうのもアリ

81~90 
91~00 久遠さんがやらかす

↓1のコンマ


「……っ」

映画を見ながら、ちらりと天乃を見る

見入っているのかこちらには全く気づいていない様子で

ずっとスクリーンを見つめる瞳は動かない

そこから胸を避けて、自分の側にある右手を見る

暗いから

その隣に飲み物があるから

偶然触ってしまっても、飲み物を手に取るように握ってしまっても

誤りで許されるんじゃないかと、男子生徒は考える

『私は……でもっ』

映画の大音量が耳に響く

なのに、体の内側からの心音の方が強く

程よく涼しいはずなのに、汗が吹き出てくる

その結果

「くっ」

男子生徒は天乃の手を握ることはできなかった


了承を得ずに手に触れる事への罪悪感があった

けれど一番の理由は

デートの下見という理由なしには二人きりで出かけることも出来ない弱さ、臆病さ

それらがあるからだろう

『俺はあいつに振り向いてもらえない諦めから好きになって貰いたいんじゃない』

『…………』

『俺が好きな今の君に、振り向いてもらいたいんだ!』

映画の中の男性のような力強さは、勇気は

男子生徒にはない

「…………」

横を見ればすぐ隣で

耳を傾けなくても囁きが聞こえて

呼吸をすれば匂いを感じる

それほどまでに近くにいるのに

彼にとっては……果てしなく遠い場所にいるように思えた


天乃「恋愛映画としては、うーん。まぁ中々だったんじゃないかしら」

映画を見終えた天乃の第一声に、

男子生徒は苦笑して頷く

正直に言えばほとんど内容を覚えていない

「ほかの恋愛映画がどんなものか詳しくないから。評価はできないけどな」

天乃「あら、そう」

つまらないとも面白いとも言わず

どんな場面がとも言わず

問題なく凡庸性の高い回答をする男子生徒を見て

天乃は笑う

久遠天乃という人間は

向けられた視線に気づけないほど、弱い人間ではないからだ

ゆえに、

ここで映画を見ていなかったことを指摘することさえ、できるのだ


なぜ映画を見ずに

自分のことを見ていたのか

凡庸性のある言葉という切り札を使わなければいけないほど

内容が頭に入っていないのか

天乃「…………」

きっと

私が名前も姿も知らない女の子の姿を、重ねていたんでしょうね

天乃「女の子と見るのは別の映画にしておきなさいね」

「ん。そのつもりだけど……」

天乃「?」

「気づけばもう、夕方なんだな……映画のせいか」

天乃「ええ。約二時間だったから」



1、手くらい握れば良かったのに
2、今日はありがとう。色々と奢らせちゃって……ありがとうね
3、貴方の一生懸命さは伝わったわ。あとは、迷惑に思われない程度にすることね
4、どうだった? なんとか感覚は掴めた?



↓2


天乃「どうだった? なんとか感覚は掴めた?」

「……いろいろ、教えてくれたからな」

天乃「ええ。だって恋愛相談だもの。ちゃんと乗ってあげなくちゃいけないじゃない?」

そこに浮かぶ満面の笑みから、男子生徒は目を逸らさなかった

それが自分との時間に特別な思いがあるがゆえのものでも

自分に楽しい思いをさせてもらったからでも

なんでもなく

ただ、ほとんど意味のない笑顔でしかない笑顔であると、わかってしまったからだ

「なぁ、久遠」

天乃「うん?」

「本当に、助かったよ。ひとりでやってたら多分。絶対に間違ってたこともあったと思う」

天乃「…………」

「だから、久遠には本当に感謝してるんだ」


天乃にとって、これはデートの下見でしかない

もともとそういう話だったのだから仕方がない

悪いのは、下見という語尾がなければ言うことのできなかった自分だ

それが分かっていても男子生徒は悔しかった

虚しかった

自分の支払ったお金の意味がどうのこうのではなく

彼女の心は全くと言っていいほどに

動かすことができなかったからだ

だから、

彼は天乃と向き合って、目を見る

「あのさ」

この数時間で動かせなかったものを

ずっと逃げてるようにしていた思いを

少しでも動かすために

「俺さ……久遠のことが好きなんだ」

彼は絶望を振り絞った希望の一滴を、滴らせた


天乃「え?」

「だから……その」

何でもないだとか

なげやりに繰り返しそうな自分

そんな自分を抑えるために歯を食いしばり、拳を握り締め

驚いたままの天乃にもう一度、告げる

「好きなんだ。久遠のことが……ほかの誰かじゃなくて。久遠のことが」

恥ずかしい

目をそらしたい

けれども彼は、そうしなかった

天乃「私……が? ほかの、女の子ではなく?」

彼女の驚きは

全く思っていなかったことを示す

けれども彼は、気持ちを告げたことを悔いはしない



1、えっと……告白の練習?
2、ごめんなさい……私。そういうことは考えてないから
3、ごめんね、考えさせてくれる?
4、ダメよ。私はダメ……
5、私を好きになるなんて。物好きね



↓2


彼が好きな女の子について一生懸命であることは分かっていた

だから

彼が愛している少女を、天乃は幸せだと思った

まだ子供ゆえの荒っぽさ

不得手な部分、不安定な部分

それらがあれど

ここまで思って貰えるのなら

どれほどまでに繊細な少女であろうと、保ち、守り抜いてあげられるだろう。と

しかし

天乃「ダメよ。私はダメ……」

想われていた少女は、とても幸せとが言えなかった

彼の気持ちを聞かされ、急転直下の不幸に落ちた

現実は非情であり、冷酷である

久遠天乃という少女のみならず、彼にとっても

世界は冷徹である

それは男子生徒が抱いたように

限りなく近く、遥か遠い位置に二人はいるからだ

天乃「ごめんなさい……私は。ダメなの」

住んでいる世界は、全くの別物なのだ


「ダメって……」

天乃「貴方の気持ちは嬉しいわ。でも」

知らないあいだに死んでしまうような女だ

誰かを間接的とは言え殺めることのある女だ

日常は日常にあらず、非日常こそが日常である女だ

天乃「っ」

「………………」

自分は世界の真実を知っている

だから、日々戦い続けている

これ以上に、体はボロボロになっていく

その好意を抱いた体も、心も

向けていたものとは別物になる可能性すらある

天乃「貴方が、報われないっ」

「報われないって……なんで。意味、分からない」



1、勇者について話してみる
2、わからないわ……話したところで理解なんてできない
3、ごめんなさい。とにかく……諦めて


↓2


天乃「わからないわ……話したところで理解なんてできない」

「!」

驚嘆

しかし、怒りはなく

彼は天乃を見つめて、首を振る

天乃がとても悲しそうだったからだ

とても寂しそうで、切なげで

突き放すその言葉には、不信感はないからだ

天乃「ごめんなさい」

勇者についてなんて話したところで分かるわけがない

なんの冗談かと笑われて、ふざけるなと怒られるだけだ

そう思う天乃は、男子生徒に一礼をすると、困ったように笑う

天乃「……デート。楽しかったわ。ありがとう。誰か、別の人と。また楽しめる事を願っているわ」

「……………っ」

そう言って

自力で車椅子を動かす天乃を

少年は――今はまだ、見ていることしかできなかった

√ 4月7日目 夜(自宅) ※土曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定
9、勇者部部室
↓2

※3~7は電話

01~10 風
11~20 友奈
21~30 樹
31~40 東郷
41~50 沙織
51~60 ばーてっくす
61~70 大赦
71~80 九尾
81~90 死神
91~00 妹泥棒

↓1のコンマ  


九尾「何を呆けておる」

天乃「……別に」

九尾「あの小僧が主様に好意を寄せておったとはのう」

天乃「ええ」

九尾「もっとも、妾は初めから気付いておったがな」

問題はそこではない

たしかに驚いたことではあるが

そうではないのだ

九尾「別に、勇者が一般人と好き合うことに問題はなかろうに」

それに気づいているからこそ

九尾は余計なことは流して続ける

九尾「残して死ぬのが、怖いかや?」

天乃「死ぬというよりも……私。絶対に迷惑かけるじゃない」

九尾「そうじゃな。今後。主様はよりその体の機能を奪われることになるじゃろうて。であれば、話すことも出来なくなるやも知れぬ」

天乃「この心だって。感情だって、記憶だって。奪われないとは限らない」

九尾「いかにも」

天乃「なら、ダメよ。やっぱり」


九尾「しかし、人とはそういうものではないか」

健康だろうが不健康だろうが

どれだけ神に祈っていようが

世界という不条理に腕をもがれ、足をもがれ、口を塞がれ

その魂さえももぎ取られていく

いや、人間ではなく、

この世界の生きとし生ける全てのものが

その残酷な流れの押し込まれていく

九尾「なればこそ。人の中で勇者と常人と分かれる必要などあるまい」

天乃「…………」

九尾「区別するから優劣が生まれ、勝敗が決められ、隔たりができる。過去も現在も変わらぬ忌々しい風習じゃ」

九尾はそこまで語って

道を踏み外していることに気づいて、首を振る

今話すべきは、そうではない

九尾「ともかく……勇者を語らずとも。病気と語れば小僧も納得するであろう」

天乃「なによ。貴女はあのこと私に恋人になって欲しいの?」

九尾「恋というものは人間を変えるという。それで少しでも主様が変わればと期待するのは仕方があるまい」


九尾の憎たらしい笑みに、

天乃は横目を向けて、何度も握る自分の手を見つめる

今は動く

けれども明日はもう動かなくなるかもしれない手

見えなくなるかもしれない目

それが、病気……

天乃「でも。私は別にあの子を好きなわけではないわ。嫌いでもないけど」

九尾「ほう?」

天乃「今後、彼と関わるかどうか何も考えてないけれど。それ次第ね」

九尾「ふむ……」



1、それよりも。この写真はなに?
2、勇者のことを話したら信じると思う?
3、ねぇ。貴女。本当に何者なの?
4、ところで。変わってほしいってことは不満があるの?


↓2


天乃「それよりも、この写真は何?」

五亀で撮らせて貰った300年前の写真

それを端末に表示させ、見せると

九尾は「まったく……」とでも言いたげな表情で鼻を鳴らす

九尾「300年前の記念写真じゃな。懐かしい」

一言目は、とぼける

けれども、その瞳には嘲り笑うような茶目っ気はない

九尾「その昔。勇者は公の存在とされていた」

天乃「公って、みんながしっていたってこと?」

九尾「いかにも。あの時代、バーテックスを知らぬ者は居らんでのう。その恐怖の抑止力として、勇者はよき存在じゃった」

懐かしきあの世界を思い浮かべ

けれども、その表情は悔恨

それはつまり、九尾にとってその世界は

まったく、いい世界ではなかったのかもしれない


九尾「主様のいる勇者部とは違うが、演舞などを見せては人間の心を癒す努力をしていたな」

この写真に関しても

その演舞を終えたあと、立ち寄った一亀という店で記念にと撮られた写真だ

人数分貰ったはずだが

それはもう既になく、この一枚が現存している最後の一枚だろう

九尾「妾と陽乃はわかるな?」

天乃「ええ。あと、この……」

写真の端っこの方に映る少女を指差し、九尾を見ると

九尾はただ頷いて、一人ずつ指をさしていく

九尾「久遠陽乃、土居球子。乃木若葉、上里ひなた、郡千景、伊予島杏。そして……高嶋友奈」

天乃「名前まで、一緒なの?」

九尾「主様も変わらぬよ。もっとも、友奈にしても変わらぬがな」


ため息一つ

九尾は感情を読みきれない表情で天井を見る

そこには何かが写っているのか

それとも、何もないのか

天乃も見上げてみたけれど、ただただ天井だった

九尾「それに、もう分かってはいるじゃろうが。この乃木の名は園子と同様じゃ」

天乃「じゃぁ……」

九尾「いかにも。乃木園子は乃木若葉の子孫じゃ」

聴き終える前に頷き、答える

それはまだ、隠すようなことではない

九尾「友奈に関しても似たようなものじゃ。主様もな」

つまり、先代の子孫はこの時代に少なくとも三人いて

その全員が、また勇者となっているということだ


あの世界は勝ち残ることができたのか否か

今この時代があるということはつまり

少なくとも、生き残ることはできたということなのだが……

天乃「あの時代はこの7人が勇者なの?」

九尾「上里ひなたは巫女じゃ。勇者ではない。ゆえに、六人じゃ」

天乃「……そう」

六人の勇者と一人の巫女

昔は公にされていた勇者とバーテックス

今は……

隠された勇者とバーテックス

天乃「ねぇ……どうして。勇者とバーテックスのことを。この世界は隠してしまったの?」

たしかに、そんなことは知らなくていいことかもしれない

そんな恐怖は忘れてしまうべきかも知れない

しかし、忘却とは

正すべき事も正せずに逃げることになってしまう

天乃「バーテックスという異形が襲ってきた理由を、人は……正すことが出来ていないのに」


九尾「いかにも。バーテックスがなおも襲っている以上。正せてはおらぬのであろうな」

九尾は他人事のように語ると、

首を横に振った

では何故、こうして隠してしまったのか

人間の中から恐怖を消し去り、

忘れさせたのか

敵が存在していても、勇者がいればその両者のことは人々の記憶に残るはずなのに

なぜ

どちらも風化していったのか

いや、していくことができたのか

その答えは、【大赦】にある

九尾「しかし、奴らは余りにも唐突じゃった。人が生き物の肉を食らうように。そこに誤りはなかったのやも知れぬ」

天乃「それは……」

九尾「今語れるのは、ただそれだけじゃ」

九尾はそう言って、姿を消した

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(デート予定、キス、理由)

・     三好様:交流無()
・      九尾:交流有(300年前について)

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



4月7日目終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 30(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 26(中々良い)
  結城友奈との絆 31(中々良い)
  東郷三森との絆 29(中々良い)
    三好様との絆 -5(とても低い)
     沙織との絆 34(中々良い)
     九尾との絆 29(中々良い)
      死神との絆 29(中々良い)
      稲狐との絆 27(中々良い)
      神樹との絆 5(低い)

 汚染度***%


4月はこの8日目終了に伴い、5月に移ります

√ 4月8日目 朝(自宅) ※日曜日

九尾、友奈、死神、沙織、風、樹、東郷との交流が可能です

1、九尾
2、死神
3、風
4、樹
5、友奈
6、東郷
7、沙織
8、イベント判定

↓2

※3~7は電話


↓1 コンマ

01~20 広まってる

60~80 知ってる


東郷『おはようございます』

天乃「おはよう」

東郷『昨日の用事はもう、お済みですか?』

天乃「ええ、問題なく」

実際には、問題があったのだけど

でも、あれは断ってしまった

その気持ちに応えることはできないとは言わなかったけれど

ごめんなさいと言ったし

別の人と……とも言った

九尾のはああいったけれど

あの子とはもう……多分

天乃「終わったわ」


東郷『そうですか……』

東郷はそう言うと

一息おいてからそれでは。と、切り出す

東郷『今日は特に?』

天乃「そうね。用事のあるなしで言えばないかな」

日曜日は勇者部も基本定休

そもそも、何も依頼がなければいつだって普通に休みだ

天乃「何? 何か依頼でもあった?」

東郷『いえ、そういうわけではないんですが』

何かを躊躇っているのか、歯切れが悪い東郷の言葉

昨日のデートを見られてた?

いや、見られていたとしても困るようなことではないけれど……

黙ったままの東郷に、こちらも息をつき返す

天乃「どうしたのよ」

東郷『いえ、大したことではないんですが』

東郷はそう切り出して

東郷『昨日は、先日の進路相談の相手と一緒にいたのかなと。思って』

疑問を問いた


天乃「え?」

東郷『あ、いえ……ただ気になってただけですが』

ただ気になっていただけにしては、

少し動揺が過ぎる気がするけれど

東郷『一昨日の昨日で、用事があると言われたので』

天乃「ん……違うわ」

男の子と一緒に過ごしたことは事実だけれども

東郷がいう男の子とは違う

だからそう、嘘は言っていない

東郷『そう、ですか』

電話の奥から聞こえてきた安堵に

天乃は向こうには聞こえないように苦笑して、天井に東郷を幻視する

今、どんな顔をしているのだろうか




1、ところで、これから会えない?
2、ねぇ。勇者と普通の男の子は恋愛していいと思う?
3、ねぇ。勇者の件をもしもあの世界を見ずに聞いてたら。どう思ってた?
4、あら。やっぱりあの子が気になるんじゃない


↓2


天乃「ねぇ、東郷」

東郷『はい?』

それを聞いてどうするというわけでもないけれど

天乃「もしも、の話よ?」

その答えがどうであれ

あの子との関係はきっと、変わらないだろうけれど

天乃「あの世界を見ずに勇者の件を聞いてたら。どう思ってた?」

この疑問の答えが欲しかった

自分では分からない気持ち

想像でしか語ることができない気持ち

けれど、そうなりかけた東郷ならばきっと

その答えを出してくれる。そう、思った


東郷『なんの冗談ですか。と、初めに言うと思います』

世界の裏側なのかなんなのか

樹海という別世界があって

そこで、自分たちは勇者として宇宙人のような存在。バーテックスと戦わなければいけない

そんなことを口頭で伝えられただけなら

まず間違いなく、信じないだろう

東郷『簡単に信じられる話では、ないですよ』

聴こえてくる苦笑に、天乃も笑う

けれども、ふたりの感情はすれ違う

窓から差し込む光が雲に遮られ

部屋は少しだけ。暗くなる

東郷『勇者も、樹海も。バーテックスも……あの世界に行ってからというのは、間違ってはいませんでした』

天乃「……そう」

東郷『誰か。話したい人でもいるんですか?』

天乃「え?」

東郷『今更そう聞いてくるなんて、そうなのではと。思いまして』


天乃「それは……」

東郷『男の子……ですか?』

恋愛相談にてデートの下見に行ったことも

それが下見ではなくデートそのもので

その最後の最後で好きだと告白されたことも知らない

けれども、東郷はその可能性を抱く

ただ気になっただけ

それで納得してくれる可能性は極めて低い

この問は余りにも今更で

誰か伝えるかどうか迷っている相手がいない限り

聞く必要もないものだからだ

天乃「…………」


1、なんだって。いいじゃない
2、昨日ね。デートして、告白されたの
3、ええ。男の子よ
4、大丈夫よ。東郷が気にしてる男の子じゃないから
5、何も言わない
6、気になっただけよ


↓2


天乃「昨日ね。デートして、告白されたの」

東郷『え?』

天乃「その……受けたわけではないんだけど」

東郷『……受けたわけではないんですね』

天乃「う、うん。まぁその。だからね? 一般人からしたらどうなのかなーって。思って」

いつか誰かに告白されるであろうことは

東郷はもちろんだが、勇者部の誰もが思っていたことだ

むしろ。あの進路相談の時に天乃がいなくなった部室で

お付き合い的な意味での進路相談なのかもしれないとまで話すくらいに

予想は出来ていた

東郷『………』

いつもからかってばかりの声は

この時ばかりは戸惑い、恥じらっているのを感じて

東郷は申し訳ないとは思いつつも

告白されれば人並みの反応をするのだと分かって少し、嬉しかった


東郷『勇者の件がある以上、下手に受けられませんよね』

天乃「ええ」

天乃が言ったとおり、

樹海に呼ばれて急に消えたりするし

東郷達はまだ知らないが、満開という問題もある

そしてなにより、

絶対に死なないとは、言い切れない

だから、勇者の事情を知らない人とは

なかなかどうして、付き合いにくいものなのだ

でも……そっか

告白。されたのね。久遠先輩

告白した人がいるのね

ううん、そもそも……デートに誘った人がいるのね

東郷『先輩は、デートしたんですね』

天乃「うん。最初は下見って話だったんだけどね……本当は私が好きなんだって。言われちゃって」


では、此処までとさせて頂きます
明日はできれば通常時間から

地の文が不安定ですね
もしかしたらお休みをいただく場合もあります


では、初めて行きます


東郷「下見って……」

デートをしたいと言えないからって

恋愛相談のフリをして

デートの下見だなんて嘘ついて……そんなの

東郷「騙したってことですよね」

天乃「まぁ、素直に言い出せないこともあるとは思うし」

東郷「お人好しが、過ぎるかと」

天乃「ぅ……」

予想は出来ていた

けれども、そういうことを我慢できずに口にして

東郷はどうせ、顔をしかめながら笑っているに違いない。と

ため息をつく

天乃とはそういう人間なのだと

この二年間、見てきて学んだからだ


天乃「でも。何かそういう言い訳みたいなのが必要な人はいると思うの」

東郷「では、先輩は練習という言葉を鵜呑みにして、キ……」

天乃「キ?」

東郷「せ、接吻……とか。するんですか?」

天乃「いや、それはさすがに」

流石にないとは東郷も思ったが

万が一を考えての問には願い通りの答えが返ってきて

ひとまず、安堵

なにも安心できるような状況ではないが

なにしろ、【恋愛相談での下見という名目】ならば

意中の相手とデートできてしまう前例が生まれてしまったのだ

そのデートを、自分や勇者部員が見ていなくても

クラスメイトあるいはその友人、学校関係者等々に目撃されていた場合

まず間違いなく、拡散する

明日には、恋愛相談で依頼メール用サーバーがパンク……は流石にないとしても

普通の依頼が見えなくなるまであるかもしれない


東郷『どうして……デートの下見になんて付き合ったんですか』

天乃「うーん……」

東郷『いくら恋愛相談の担当が先輩といえど、デートの下見は常識で考えれば別の人に申し出ているはずです』

天乃「けど」

東郷『明らかに怪しいです。久遠先輩狙いなのは明らかじゃないですか』

確かにそうだ

不審に思わなかったといえば、嘘になる

けれども、彼が言いづらそうだったから

躊躇っているような顔をしていたから

なぜ自分なのかと聞くことはできなかった

恋愛という簡単そうに見えて簡単ではない複雑怪奇な心情の交わりに

下手なことは言えないと、思ったから

けれど。そう

たしかに

天乃「私は……お人好しなのかもしれないわ」

東郷『かもしれないではなく。そうなんです』


天乃「…………」

はっきりと、東郷は言った

それは断言でそれは断定

地面に吐き捨てられたガムのようにこびりついて離れることのない

お人好しという、厄介な代物

誰しもが持つ優しさ

その枠を超えてなお、優しすぎるがゆえに与えられる言葉

東郷『相手の恋愛相談に乗るのは素晴らしいことだと思います。それでしっかりと成就させているのだから。流石です。でも』

けれども

東郷『デートの下見にまで、付き合うのはやめてください』

危険だとは限らない

本当に、ただ。的確なアドバイスが欲しくて

デートの下見に付いてきてほしいだけの可能性だってあるかもしれない。けれど

東郷『言葉ではなく、体で好意を伝えられたら……どうするんですかッ』



1、普通にデートに誘われたら付き合ってもいいの?
2、その時はその時よ
3、急だと。殴っちゃうかも……九尾が
4、心配してくれるの?
5、あら……体でって。どうやって?


↓2


天乃「あら……体でって。どうやって?」

くすりと笑って、問う

電話ではなく直接言い合っていたら

照れる東郷が見れただろうに。と

少し残念がる天乃は、知らない

東郷『……電話だから。見えていないかもしれませんが』

電話の奥で、東郷美森は

天乃の度が過ぎた優しさに

その余りにも大きな隙に

東郷『これでも結構。怒っているんですよ?』

憤っていて

けれども心配しているがゆえに、まだまだ優しく言い聞かせようとしていたのに

東郷『そうですか。そうやって、からかうんですね……』

天乃「と、東郷?」

東郷『目の前にいなくて良かったですね。いたら、きっと。実践して見せていたと思います』


天乃「えっと、待って。東郷」

声だけしか聞こえない

けれども

そこには何か不審な何か

いびつな何かを感じて

そこにはいない東郷の

不敵な笑みが脳裏に浮かんで、汗が滴る

東郷『はい?』

けれど

天乃「ぁれ……」

東郷『久遠先輩?』

普通だった

気のせいだったのではないかと思うほどに

東郷の声は普通だった

しかし、感じた不安は現実であると言うかのように

頬を汗が伝い落ちていく


東郷『どうかしたんですか?』

天乃「どうかって……」

今、貴女が変だった

そういったところで笑われるか、茶化されるか

向こうが馬鹿にしているんですかと、寝ぼけているんですかと

不服そうにするだけだろう

疲れて……いるのかしら

天乃「っ」

急に告白されて

何でもないと思ってはいても

驚いたのは事実で

それに対して、一般人と勇者はどうあるべきか

悩みだしたから、疲れているのかもしれない



1、ごめんなさい。気をつけるわ
2、ありがとう。心配してくれて
3、ねぇ、東郷。今なんて言ったの?
4、貴女、友奈が好きなんじゃないの?
5、ごめんなさい。ちゃんとわかってるわ。だから、実践の必要はないわ
6、……貴女となら。実践するのも。いいかな


↓2


では、此処までとさせて頂きます
あすもできれば、通常時間から


自分に好意があるとまったく意識しないだけで
恋愛相談している分、疎くはない久遠さん


では、初めて行きます


天乃「ごめんなさい。気をつけるわ」

東郷「そうしてください。誰かにそういうことをされてからでは。遅いんですから」

東郷は心配そうに言う

さっきのが嘘のように、ただ心配していることだけが伝わって来る声

やっぱり、気のせいだったのかもしれない

天乃「そうね。そうよね」

東郷「はい」

返事を返すと、少し安堵した声に変わる

天乃「ふふっ……」

気のせいだったとは思っても

どうしても敏感になってしまう自分に苦笑する

神経質というか、心配性というか……

まぁ、本当に心配性ならこんな「お人好し」なんて言われる事態には陥ってないんだけれど


しかし、気をつけるといっても具体的にどう気を付ければいいのだろうか

恋愛相談を全く受け付けないというのは可愛そうだし

デートの下見には付き合えない。くらいでいいのだろうか?

いっこ前にやっちゃった以上

やや断りにくいけれども……

そう思って、首を振る

ああ、確かに。お人好しだ

東郷「ところで、久遠先輩」

天乃「?」

東郷「このあと……といってもお昼ですが。時間はありますか?」

天乃「えっ?」

東郷「少し。お会いしたいのですが」


1、ごめんね、今日は。ちょっと
2、いいけど……
3、あら。なにか相談事?
4、ほかに誰か来るの?


↓2


天乃「ほかに誰か来るの?」

東郷「ほかに……」

天乃「?」

東郷「そうですね。来る予定ですよ。友奈ちゃんとか」

一瞬

東郷が黙りこんだ時には嫌な感じがしたけれど

次の瞬間にはもう、変わらない声だった

東郷であることは間違いないはずだ

けれども

東郷らしくない何かを、感じる

この違和感はなんなのだろうか

天乃「友奈ちゃんとか?」

東郷「はい。勇者部のみんなで集まる予定なんです。本当は、昨日集まろうとも思っていたんですが」

東郷はそう言うと

少し残念そうな声で「昨日はデートだったみたいなので」と、言った


天乃「そう……それであの時驚いていたのね」

あの車の中で予定があるといったときの東郷の反応

その理由がこれだろう

勇者部で集まって、何かをするつもりなのだ

東郷「ええ。まぁ……デートだとは思いませんでした」

天乃「そう簡単に言えるわけないじゃない」

沙織には言ったけれど。

口にするつもりのない言葉を思い浮かべて、笑う

勇者部よりも沙織の方が相談しやすいと思っているということなのかもしれない

茶化してきそうな風が減点の原因かしらね



1、そうね。じゃぁ。みんなが来るのならいいわ
2、けどごめんなさい。昨日のこともあるから今日は外出を控えたいの
3、そんなにデートデート言わなくても


↓2


天乃「そうね。じゃぁ、みんなが来るのならいいわ」

東郷「私個人とは会いたくない。みたいな言い方ですね」

その声は明るくて

そんなつもりはないと知っての皮肉のように聞こえて

思わず、笑う

そして、ごめんなさい。と一言

天乃「そんなつもりはなかったのよ。本当」

無意識的にはともかく

意識的には避けようとしたわけではない

東郷「わかってます。すみません。からかってしまって」

天乃「ううん。全然いいのよ」

東郷がそういうのって珍しいから

だから、少しだけ嬉しかった

東郷「では、お昼に一旦。私の家に来てください」

天乃「ええ」


お昼の約束をした


では、今回は此処までとさせて頂きます
あすもできれば通常時間から




九尾「……来る【予定】」

では、初めて行きます


01~10 いない
11~20  
21~30 いない
31~40 いない

41~50 
51~60 
61~70 いない

71~80 
81~90 いない
91~00 

↓1のコンマ  


東郷の家に向かうと、

言っていた通り、友奈達が既に来ていた

友奈「こんにちはです。久遠先輩」

天乃「ええ、こんにちは」

友奈の明るい声に

抱いていた不安をひと撫でされて、息をつく

やっぱり、心配のしすぎだったらしい

東郷「すみません。わざわざ来てもらって」

天乃「ううん。実際には車に乗せてもらうだけだからね。私は全然」

風「そういえば、久遠の送迎っていつも同じ女の人じゃない? 休みあるの?」

天乃「……さぁ?」

確かに、毎日あの人だ

言われてみれば、休みなし……の、ような気がしなくもない


樹「お給料高そうです」

友奈「確かに、お休みないのにお給料少なかったら可哀想だよね」

天乃「まだ、そう決まったわけじゃないけどね」

ほぼ確定したようなものだけど……

それはさておいて

天乃「それで、東郷。呼んだ理由はなんなの?」

東郷「あ、はい。勇者を続けて行くにあたって。考えるべきことがあると思いまして」

天乃「?」

風「実は昨日、少し話したんだけど。この前の戦いの時の状況覚えてる?」

この前の状況……

急に樹海化が起きて、勇者部が樹海に移動して

風と樹が勇者になって

東郷と友奈が勇者にならなくて……

一応は、覚えている

天乃「それがどうかしたの?」

友奈「呼ばれたとき、みんなバラバラだったじゃないですか。だから、せめて二人一組でいたほうがいいんじゃないかなって話です」


天乃「んーとは言っても」

確かに、

それはその通りなのだけれども

風、樹、友奈、東郷

四人を見渡して、首をかしげる

5人では確実に一人あまりだ

あの子かわいそうだから先生が組んであげよう。なんていう教師役もいない以上

独り寂しくジィーっと見ているくらいしかできない

東郷「そ、そこが問題なんです」

天乃の寂しげな視線に東郷は困ったように眉をひそめると

薄く頬を染めて、頷く

友奈「あと一人勇者。わがままを言えば一人暮らしをしている人がいればいたら良いんですけど」

風「そんなうまい話ないのよねぇ」

樹「あの剣道しに来てた人は勇者じゃないんでしょうか?」

東郷「仮にそうだとしても。先輩とは相性が悪いと思うわ」


では、こちらのスレはここまで

【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】 - SSまとめ速報
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