【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十二輪目】 (1000)
このスレは安価で
久遠天乃は勇者である
結城友奈は勇者である
鷲尾須美は勇者である
乃木若葉は勇者である
久遠陽乃は……である?
を遊ぶゲーム形式なスレです
目的
ご家族への御挨拶
安価
・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります
日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
能力
HP MP SP 防御 素早 射撃 格闘 回避 命中
この9個の能力でステータスを設定
HP:体力。0になると死亡(鷲尾、乃木) 友奈世代のHP最低値は基本10
MP:満開するために必要なポイント。HP以外のステータスが倍になる
防御:防御力。攻撃を受けた際の被ダメージ計算に用いる
素早:素早さ。行動優先順位に用いる
射撃:射撃技量。射撃技のダメージ底上げ
格闘:格闘技量。格闘技のダメージ底上げ
回避:回避力。回避力計算に用いる
命中:命中率。技の命中精度に用いる
※HPに関しては鷲尾ストーリーでは0=死になります
戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】 不定期更新 ※前周はこちらに
前スレ
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天乃「……なら、沙織。九尾に今日一杯よろしくって伝えて貰っても良い?」
沙織「うんっ、良いよ」
天乃の我儘と言えるそのお願いに、
沙織は嬉しそうな笑みを浮かべながら頷く
夕方だけの話を今日一日と急きょ引き延ばしにする我儘の対象が
自分ではなく九尾だからこそ無関係に笑みを浮かべたわけではない
天乃はそうだと分かっても、しかし、本当の意味までは分からなくて
天乃「なんでそんなに嬉しそうなの?」
沙織「なんでって、ね……嬉しいよね」
東郷「そうですね」
なんでわからないかなと言いたげに困った表情を見せた沙織は、
東郷へと同意を求め、
東郷もまた、天乃の分からないという点に関しては困ったように
けれど沙織の言葉には肯定しつつ優しく笑う
東郷「以前の久遠先輩なら、そんなこと言わないじゃないですか。迷惑だからとか、何かあるからとかで。わがままのようなことは言わないじゃないですか」
天乃「……九尾に対してもそうしてた覚えはあまりないけど」
沙織「そうかもしれないけど、あたしに伝えてきて。なんてお願いはしないと思うよ? 伝える手段がないからとかできっと辞退してる」
天乃「そうかしら」
天乃自身にはそんな自覚がないようで
沙織と東郷の言葉に困ったような反応を見せたが
沙織は「そうだよ」と嬉しそうに言いながら、天乃の髪に触れて頭に触れて
沙織「良いんだよ。好きなだけお願いして。嫌なこと駄目な事、あたし達はちゃんと言うから」
天乃「……甘やかしすぎるのは駄目よ? 教育に悪いわ」
沙織「久遠さんは出来過ぎた子供だよ。少しくらい悪く……いや、ある意味悪いのかな?」
お願いしない、我がまま言わない
嫌なことをしてくる人たちにがいても
その人たちに何かがあったら心配したり、手を貸したり
それは理想の人間像としては正しいのかもしれないが、現実味が薄いというか
空想的なのだと沙織は思う
もちろん、目の前にそんな人がいるのが現実だが。
天乃「私は沙織の子供じゃないわよ?」
沙織「えっちにはそう言うプレイと呼ばれるものが――」
天乃「やらないわよ」
沙織「むぅ……仕方が無いなぁ」
天乃の拒否に、沙織は分かっていたような反応を見せると
それじゃ伝えてくるから安心してね。と
天乃と東郷に一言告げて二人を抱きしめる
種類の違う二つの匂い、大きさが似通っていながら触れる感触のまるで違う胸部
東郷「い、伊集院先輩?」
沙織「これぞ両手に華って奴だね。久遠さんは周囲に華園だけど」
羨ましいね。と
沙織は冗談ぽく言い残して、霧のように姿をかき消す
東郷「なんだったんでしょうか」
天乃「東郷のことも気に入ってるのよ。今度えっちなことしてみれば?」
東郷「技術を学ぶのはいいですね……」
ほんの少しの冗談を本気にして言う東郷に
天乃は直前の笑みを崩して「冗談だからやめて」と冷や汗を拭う
本当にやりそうだし、覚えそうだし
ろくなことを教えそうに無いからだ
天乃「ということなので、ぜひお願いします」
「こちらこそよろしくね。嬉しいわ」
相談した結果許可をもらえた―九尾の返答はまだだが―ことを伝えて
改めて母親に話をすると
母親はもちろん、鷲尾家に仕える使用人達も喜ばしそうに笑みを見せる
「お嬢様、一日限りでは御座いますが。改めてよろしくお願いします」
東郷に話しかける女性の使用人は
鷲尾須美だった頃にも見たことのある人で
楽しげに話す姿を離れて見守る天乃は
少しだけ戻ったような……懐かしい思いを抱いて首を振る
あの頃は良かった……なんて。そう言う感傷的なものは無しだ
そう、頭を切り替えたときだった
「天乃お嬢様」
天乃「ん!?」
「天乃お嬢様、お話が」
東郷と一緒に居た使用人であることは把握できたが
自分のことであろう呼称があまりにも不釣合いで思わず「えっ? なに!?」と驚いた声を零す
「お嬢様方のお部屋ですが、同室を希望されているのですが……いかがなさいますか?」
天乃「部屋のこと……ね」
1、同室
2、別室
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「別室で」
「はい?」
天乃「えっと、別室……」
「すみません、もう一度」
天乃「だから、私は別室が――」
「嫌なんですね、分かりました!」
天乃「あー……うん、そう来るのね」
天乃(夜に何されるか分からないんだけど……!)
では少しだけ
天乃「なら……同室でお願いします」
「かしこまりました」
そう頭を下げた使用人の奥に見えた東郷の笑みに
天乃はお嬢様という呼び方が東郷によるものなのだと察して、息をつく
天乃は久遠様と呼ばれるのはもちろん、お嬢様と呼ばれるのもあまり好きではない
それ以前に、特別扱いというものが嫌いなのだ
しかし、大赦の人間ではないであろう使用人の人は
仕事の立場として天乃や東郷をお嬢様と呼ぶし
母親や父親は奥様や旦那様と呼ぶ
天乃が個人的に好ましくないからと、変えさせるのも何か違う……が
天乃「あと、出来るなら私のことはあまりお嬢様って呼ばないで欲しいのですが……」
「畏まりました。久遠様。とお呼びしてもよろしいですか?」
天乃「う、うーん……使用人、だもの。ね」
どうしても相手に対し畏まった言い方と言うべきか
所謂、尊敬語等の言葉遣いで話さなければならないのだろう
大赦と違って―全員とは言わないが―畏敬の念が込められた久遠様と言う呼び方ではないけれど
だからこそのこそばゆさが、使用人の「久遠様」という呼び方からは感じられて
天乃「ごめんなさい、やっぱりお任せします」
「はい、承りました」
天乃の少し照れた表情に使用人は嬉しそうに答えて、
お部屋にご案内いたします。と、天乃と東郷の2人―それぞれに使用人が付けられた―を連れて部屋へと向かう
天乃「東郷、貴女でしょう? 天乃お嬢様って呼ばせたのは」
部屋で2人きりになった途端、天乃はちょっぴり怒ったように問いかける
使用人は恐らくではあるが、本来【お嬢様】あるいは【お客様】、【久遠様】と呼ぶ予定だったはずだ
それも多分、何も無ければ一番ありえたのは久遠様だろう
そこに東郷がお嬢様と呼ぶように。それも、【天乃】とつけるようにと言ったために
あんなことになったのだ
天乃「唐突過ぎてびっくりしたじゃない」
東郷「なんとなく、そう呼ばれたときの反応が見てみたくて」
天乃「貴女ね……」
楽しみにしていた反応を見られて満足したのだろう
嬉しそうに笑みを浮かべる東郷に天乃は少し困ったように呟いて、
東郷はスッと手を差し伸べて、少しだけ声を低く声をかける
東郷「天乃お嬢様、お手を」
天乃「はい、どうぞ」
意外にも素直にすんなりと答えた天乃は手ではなく、
自分の足を両手で掴むと、東郷の差し出す手のほうへと持ち上げていって
東郷「これは……」
天乃「足を出してあげるわよ。あなたになん――」
少し驚いた素振りを見せる東郷に、
天乃は悪戯な笑みを浮かべて見せて言う……否、天乃が言いかけた瞬間だった
東郷「では、ありがたく」
天乃「へ、え……あっ、ちょっちょっと!」
がっしりと足をつかまれた天乃は逃れられずに足を引かれ、
ずるりとスカートがずれていくのを感じて、片手で裾を押さえ込む
天乃「こ、こらっ、東郷!」
東郷「久遠先輩の足もすらりとしていて、綺麗で、好きですよ?」
天乃「最近大人しいと思ったのにっ!」
東郷「お膳立てされたら断るのも失礼かと思いまして」
そうっと足に頬を触れさせた東郷は笑みを浮かべていて
それはどこかうっとりとした、そういうときの表情で
天乃は時間を選んで頂戴と言うが、しかし、東郷は思う
先に足を出したのは久遠先輩の方ではないのか。と
少しずつ気温も下がり始めるような時期とはいえ、まだ暑さも残る9月
それでもタイツに包まれている天乃の足を
東郷は優しく撫でる。いとおしそうに、大切に、丁寧に。
東郷「肌が弱いと大変ですよね」
天乃「う、うん……それは、そうなんだけど、ね。放そう?」
ほんのりとくすぐったく、心地よさもある東郷の手つきは
そうと感じればやはり恥ずかしさを覚える
空気を読まずに静まる空間には布の擦れる音と二つの吐息
それがまた、少し、感じさせるものがあって。
東郷「……仕方が無いですね」
天乃「仕方が無いってなによ、仕方が無いって」
戻された足を下ろした天乃は、東郷の残念そうな言い方にため息を付く
時間も時間で、場所も場所
東郷も本当は少しからかうつもりだっただけなのかもしれないが
熱が入りかけたのを感じたのだろう
赤らみつつある頬を擦って
東郷「今度するときは足を楽しむのも悪くないかもしれません」
天乃「はぁ……そう」
東郷「……久遠先輩」
天乃「んー?」
声を抑えた東郷の声に、
天乃は少し間の伸びたのんびりとした声で先を促す
それは大丈夫だよ。と、言われているようで
聞いてくれると安心できるもので
東郷はそっと身を寄せると
天乃の体に触れて
東郷「今日はよろしくお願いします」
小さく、お願いを口にした
√9月4日目 夜(鷲尾家) ※木曜日
01~10
11~20 樹海化
21~30
31~40
41~50
51~60 樹海化
61~70
71~80
81~90 アイテム
↓1のコンマ
※ぞろ目特殊
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
鷲尾家の夕食……そして、東郷さんのお夜食。
では少しずつ
√9月4日目 夜(鷲尾家) ※木曜日
「懐かしいな」
須美の母親からの連絡もあってか
普段よりは早く帰宅したという父親は
二年という歳月以上に重ねた何かを天乃は感じる
須美に起きたこと、
須美たちが感じたこと、経験したこと
その一部でもしったからこそのものだろう
東郷「鷲尾須美……帰りました」
「ふふっ……子供の成長はやはり早いな」
東郷「お父様……」
嬉しそうな父の顔に、
東郷は感極まって、けれど、泣くまいと首を振ると
笑みを浮かべる
「だが、君もだな」
天乃「はい、ご無沙汰しておりました」
東郷から自分へと目が向けられたのを感じた天乃は
軽く頭を下げて、言葉を紡ぐ
天乃「ですが、私はこう見えて……何も変わってはいません。優しいだけの、女の子です」
東郷「久遠先輩、以前言ったのは優しいだけ。ではなく、我儘なだけ。ですよ」
天乃「あら、そうだったかしら?」
東郷「そうです」
悪戯っぽく笑いながら言う天乃に、
東郷は呆れたような息をつきながら首肯して……
二年前、
まだ馴染めていない頃の鷲尾須美にちょっかいを出して、
【わがまま】で鷲尾家に押しかけてきた天乃とのことを思い出して
東郷はくすりと笑い、夫妻もその頃のことを思い出したのだろう
取り戻した……というより、
帰ってきた日常の風景の一つに、笑みを浮かべる
「相変わらず、二人は仲がいいようだな」
「そうなんですよ。本当、仲が良くて」
母親の瞳がちらりと天乃と東郷へと向いて
それに合わせたように使用人たちが用意した食事が食卓へと運ばれていく
和食だ
洋も中仏も伊もなにも紛れ込んでいない料理の数々
どこかの家庭料理のような、料理
この方が喜ばれると思って
そういう母親に、東郷と天乃は有難うございます。と答える
天乃には味覚がなくて
残念ながら味を感じることは出来ないが
それでも気持ちは嬉しいし、
味覚がないからとただ栄養面のみに特化し
食事を即座に終わらせるための流動食なんかとは比べるまでもなく嬉しい
天乃「美味しそうです」
ただ、味覚なしに食べるには少々量が多いのだが。
色々な意味で喉を鳴らす天乃をよそに、
使用人が母親の指示で一時退室していくのを見送ってから
天乃ではなく、東郷が口を開く
東郷「実は、お父様に折り入ってお話があります」
「話……?」
本当は運ばれてくる前にするつもりだったのだが
来てしまったのだから仕方がない
東郷「食事のあと、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
東郷「有難うございます」
いよいよだと
そう緊張する心を落ち着けるように
東郷はほんの少し震える手で、箸を手に取った
食事を終えて、食器が片付けられていく
それを目で追うことしかできない東郷は、
しかし、首を横に振って自分の気持ちを切り替えると
ふと、息をついて父親を見る
東郷「それで、話……なのですが」
「ああ、何かな」
東郷「実は、私と久遠先輩……それと、ほかに数人。みんな女の子なんですけど」
「?」
今はまだ話の中盤
だが、見えにくい話の先を考えたのだろう
少しだけ表情が動いたのが、天乃には見えた
東郷「結婚を……しようと思っています」
「結婚……?」
驚く父親の瞳が、ゆっくりと天乃へと動いて
「疑うわけではないが……この子の相手である君からも、聞かせて貰えるかな?」
天乃「はい」
本来は、初めから自分で言うのが筋というものだろうが……
1、娘さんを愛しています。みんなを愛しています。全てを知ったうえで……私はみんなの支えでありたいと思っています
2、ほかの誰かに任せられない。任せたくない……みんなを幸せにするのは私でありたい
3、普通ではないのは分かっています。でも、みんなは私を愛してくれて支えてくれて。そんなみんなを私は愛して、支えたいと思っているんです
4、この選択を後悔させないと。お父様とお母様に、そして、東郷に……須美に、約束します
↓2
天乃「娘さんを愛しています。みんなを愛しています」
語ることは変わるかもしれないが、
そこに含む感情も、想いも何も変わらない
天乃「全てを知ったうえで……私はみんなの支えでありたいと思っています」
だから、天乃は言葉の一つ一つに自分の気持ちを迷いなく詰め込んで
父親へと述べる
自分と一緒に、そして自分が抜けた後もなお
勇者として傷つき、苦しみ、辛い思いをしていく東郷たち
そのみんなが好きなのだ
だから、幸せになって欲しいし、したい
その支えになれるのならなってあげたいと思う
天乃「だから、娘さんを私にください。絶対に、幸せにします」
「…………」
幸せの定義は人それぞれだ
子供が出来る事が幸せである人もいれば
それが幸せではない人もいる。
もっと些細な事でだって、擦れ違うことはある
だから、父親はあえてそれを口にはしない
自分たちには出来ることが無かった子供。それが居なくて幸せになれるのか。と
なぜなら、出来なかったからこその苦しみと辛さがあった分、出来なかったからこその幸福も確かに感じたからだ
2人の雰囲気、肩っている時の瞳
そこに感じたた意思は確かで
子供と大人に関係なく
生半可な気持ちで言っているわけでも無いことを
父親は、分かっている
長く生きた。けれど、死ぬ可能性のある交際など、婚約など。経験はない
その普通なら経験せずに済みそうな
死と隣り合わせの緊張感ある状況に二人はいるのだから
普通の大人よりも、その覚悟は強固なものだろう
「……その言葉に、二言はないか?」
天乃「ありません」
「何があっても……と、言えるかい?」
天乃「私は私を支えて来てくれたみんなを裏切るようなことはしないと……心に決めましたから」
どれだけ怖くても
どれだけ不安でも
戦うことはしないという覚悟を、決めたのだから
天乃「何があっても、病める時も健やかなるときも、私は。久遠天乃はみんなを愛し、支え、【生きる】ことを誓います。絶対に」
それは絶対だ
それは約束だ
叶えられない時があるとすればそれは、【みんなを失った時】だけだ
天乃の言葉を最後まで聞いて、
父親はゆっくりと目を閉じて、頷く
「なら、私からも言うことないのだろうな」
父親の察したような視線を受けて、
母親は「気付いていたのね」と、笑う
いつからかは分からないが、
この話はもうすでに母親には通っていることを
父親は気づいていたらしい
「だが、本来は私達ではなく、東郷家の御息女だ。しっかりと、挨拶はするんだよ?」
天乃「はい、有難うございます」
東郷「ありがとうございます……っ、お父様、お母様」
しっかりと、礼を述べて一礼する
挨拶が出来た。報告が出来た
自分が、鷲尾須美が二度と会うこともできないと思った人たちに
それが嬉しくて、
東郷は震えるような声で呼んで、顔を覆う
思い出す方法があってよかったと
逃げずに、怖がられずに、信じてよかったと
東郷は……思って
東郷「有難うございます……っ」
√9月4日目 夜(鷲尾家) ※木曜日
01~10
11~20
21~30 お別れは済んだ?
41~50 東郷さんのお誘い
51~60
61~70
71~80 良い流れだ。そろそろ逝こう
91~00 鷲尾さんのお誘い
↓1のコンマ
√9月4日目 夜(鷲尾家) ※木曜日
1、東郷さんを誘う
2、東郷さんに誘われる
3、今日くらい、大人しくしていてもいいのではないだろうか
↓2
東郷「……久遠先輩」
夜の帳が下りて、静けさと闇に包まれた部屋の中
鷲尾家の懐かしい空気に紛れて東郷の静かな声が聞こえてくる
そして
天乃「東郷?」
もぞもぞと東郷側の布団が動いて、
空気よりもひんやりとした手が、天乃の体に触れた
天乃「す、するの……?」
東郷からの返事はなく
その答えのように、
簡単ではなかっただろう並ベられた二つのベッドの上を這って
東郷の手が天乃の脇腹のあたりを掠めて、手に触れる
東郷「駄目、ですか?」
天乃「駄目というか……ここじゃ、少し問題があると思うのだけど」
片付けが出来ない二人
隠蔽も何もできないし、片付けは使用人
はっきり言って、したことがばれるのは確実で
その点を心配する天乃に、東郷は「そうですね」と、言って
東郷「久遠先輩を気持ちよくしすぎなければいいだけかと」
天乃「それ……かなり辛いと思うの」
東郷「少しだけ、少しだけですから」
天乃「ちょ、ちょっと」
ベッドを伝って天乃側に移ってきた東郷は
天乃の体に体をぐっとくっつけて……胸と胸が押し潰れ合う
東郷の手は天乃の拒むような呻きに関係なく
天乃の体を舐めるように滑り、布団の中から這い出て、頬に触れる。
布団の中で温まった手は、ほんのりと温かい
天乃「んっ」
東郷「っ……んっ」
優しく唇を重ねて、手と手を触れ合わせそうっと握る
東郷「このくらいもだめ、ですか?」
天乃「このくらいって……キスとか?」
東郷「そのくらいです」
1、仕方がないわね
2、貴女のはなんだかいやらしいから駄目
3、駄目……貴女からするのはね
↓2
天乃「駄目」
東郷「そんな殺生な……」
本気で落ち込んだように呟いた東郷の顔が
ゆっくりと布団の中に沈んでいく
天乃はそれにぶつかるように手を動かして、捉える
東郷「っ」
驚いて動くその顔を布団から引っ張り出して、
勝手にしておいて逃げるの? と、天乃は問う
努めて平静に
優しく、滑らかに、誘うように
だが、むしろそれが怖かったのかもしれない
東郷は少し怯えたように「それは……」と、呟く
天乃「……貴女が、するのはね」
その開いた唇を覆うようにキスをする
東郷「っは……」
離れて
東郷「んっ……」
一呼吸――そして今度はずにゅりと舌を捻じ込み絡めて
またすぐに離れる
天乃「どう? 少しだけ出来るようになってるでしょう?」
熱っぽい吐息と艶がかった唇
悪だくみを感じる、天乃の自慢気な瞳
東郷「そう、ですね……」
入り込んできた舌の感触が残る
重ねられ、圧し潰された唇の感覚がじわじわと攻める
触れ合う体の熱
それ以上に感じる自分の体
東郷は温かみの増した息を吐いて、飲み込む
そして――
天乃「んっ……んぅ……んくっ」
ぐっと体を突出させると、
天乃が反応する寸前に唇を重ね合わせて、舌を入れる
ぬちゅりと、くちゅりと。
ねっとりとした絡み合う音に混じって、小さく水音がはじける
東郷「んちゅ……ん……」
天乃「っは……は……んっ」
目の前で乱れた吐息を正そうと息を飲む天乃に
東郷は笑みを浮かべて……手を掴む
天乃「ちょ、と……」
それは握り合うというよりも、抑え込むような力で
東郷「まだまだ……ですよ? 補習の時間です」
天乃「ごめんなさ――あっ……んんっ!」
天乃は自分の選択が間違っていたのだと――悟った
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流無()
・ 犬吠埼樹:交流無()
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流有(鷲尾家訪問、二つの名前、任せる、宿泊、同室、どうせ逆転天乃攻め)
・ 三好夏凜:交流無()
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(楠さんの事情、九尾への伝言)
・ 神樹:交流無()
9月4日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 78(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 64(とても高い)
結城友奈との絆 91(かなり高い)
東郷美森との絆 94(かなり高い)
三好夏凜との絆 112(最高値)
乃木若葉との絆 85(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 30(中々良い)
沙織との絆 92(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
汚染度???%
√9月5日目 朝(鷲尾家) ※金曜日
01~10
11~20 ばれる
21~30
31~40
41~50 ペロッ……これは女の子の味!
51~60
61~70
71~80 樹海化
91~00 東郷は 朝だとしても 襲い来る
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日はもしかしたらお休み
出来れば通常時間から
東郷「その程度の接吻で、私が落とせるわけがないじゃないですか」
東郷「舐めてるんですか? 舐めてますよね」
東郷「そうですよね、分かりました、なら私も舐めます」
東郷「舐めて舐めて舐めて舐め尽くして」
東郷「久遠先輩が一生私の性技なしでは生きていけなくしてあげます」
園子「……ふう」
大赦「こ、このようなものでどうか――」
園子「写真が足らないよ~?」
大赦「……ッ!?」
では、少しだけ
√9月5日目 朝(鷲尾家) ※金曜日
いつもと違う空気、いつもと違う音
そして、普段は絶対に感じることのできないカーテンの隙間から入り込んでくる木漏れ日
天乃は感じることの出来る自然を浴びながら
すぐ横にいる東郷の寝顔を見詰める
穏やかで、静かで、どこか大人びた子供の寝顔
2年前にも見たことあるが、そのときはまだまだ子供っぽかったと
天乃は成長を感じて、笑みを浮かべて
天乃「……大きくなったわね」
優しく、頬を擦る
もう起きても問題ない時間
けれども限りなく優しさを込めて
眠る赤子に触れるように触れて、天乃は微笑む
エッチするときにも触るが
やはり、そのときとは感覚が違う
こみ上げてくるものが違う
柔らかくて、温かい東郷の頬
東郷「ん……っ」
東郷「んん……ぁ、久遠先輩」
天乃「おはよう」
東郷「おはよう、ございます……」
まだ寝ぼけ眼
寝起きののんびりとした声で天乃のことを呼んだ東郷は、
探るような手つきで天乃に触れると、その体にぐっと体を寄せて密着する
東郷「……温かい」
天乃「そうね」
冬場なら、もっとそれを実感できるかもしれないと天乃は思う
誰かと一緒に居るということ
それによって得ることの出来るもの
それを思い、それを考えて……天乃は東郷の体を優しく抱きしめる
清潔感のある匂いに混じって、女の子の匂いがする
自分のものか、東郷のものか。少し判断の付かない匂いは、特別嫌な感じはしない
東郷「2年前は……こんな距離感じゃなかったんですよね」
2年前にも同室で過ごしたし、一緒に寝ることもあった
けれど、それはもちろん天乃からのわがままによるものでしかなくて
鷲尾須美から近付いたことはなかったし、
こうして寝る距離は離れていたし、天乃が近付けば突き放していた
それが、今はこうして自分から近付く
その変化を、ここに着てからより強く感じて
東郷は天乃の体の身を委ねる
東郷「本当は嬉しかった。分かっていました。久遠先輩が悪い意味で適当なのではなく、常に適当なのだと」
誰かのために、目の前にある人のために
そうした生き方を、あえてわがままに突き通し、
本当に拒絶しているのだと感じればかならず身を引きまた適切な何かを探ろうとするのだと
けれど、鷲尾須美は認めたくなかった
外面だけで言えば、天乃の生き方はいい加減にも見えたからだ
それは、乃木園子がのんびりとしている裏で、とても冴えた考えが出来るのだと分からなかったように。
東郷「銀は言いました。あの人は凄く適当で面倒くさく感じるけど、でもアタシの100倍お人好しで、優しさの塊で、誰よりも須美のこと、みんなのことを考えてるんだぞって」
天乃「それは……初耳ね」
聞き覚えのない言葉
つまり学校か。どこか
九尾が知っているから記憶として与えられたのだから……樹海での話かもしれない
東郷「だから。もっと早く、こうしておけば……と、思わずにはいられません」
天乃「……思うのは悪くない。でも、思い続けるのはやめなさい。それは貴女の後悔だから」
弱音のような言葉を呟く東郷の身体を、
天乃はもう少しだけ強く、抱きしめる
後悔は忘れるべきではないと天乃も思う
けれど、いつまで経っても表面上で抱き続けるべきではないとも思うのだ
とても大きな後悔をして
それをずっと、抱え続けていた天乃だからこそ、思う
天乃「後悔は貴女を後ろ向きにさせてしまう。目の前にも問題はあるのにね」
天乃の優しい語りは、強くはないが深く感情が込められていて
東郷は挟む言葉を選びきれずに、黙って耳を傾ける
天乃「それに気づかないまま踏んで、ぶつかって、躓いて……気づいたときには傷だらけで。本当にどうしようもなくなっちゃうの」
東郷「久遠先輩……」
天乃「だから、ね。後悔するなと言わないし、忘れるなとも言わないけど。ただ、それだけに固執するのはやめなさい」
お前が何を言っているのかと他人には思われるかもしれないが
天乃は自分の生き方がそう言うものだったのだと自覚はあるし
それがどのような影響を自他共に与えたのを知っているから
東郷「……久遠先輩にそういわれては、どうすることもできませんね」
東郷は静かに、そして甘えるように呟き身を寄せていく。
容姿はまだ、一部を除いて子供のようで
性格だって、普段はとても子供っぽい
なのにこういうときばかりは……とても大人びて感じる
包まれる温もり、感じる想いは母のよう
東郷「大丈夫です。私は今を生きるつもりですから。再び得たこの後悔も無駄にすることなく……生きていくつもりですから」
だから東郷は委ねられると思った
天乃の周囲には、そんな癒しを求めて人が集うのだと思った
いつも登校する時間よりも早い時間に、送迎係である瞳は鷲尾家を訪れた
九尾扮する天乃と芽吹を先に送ると2人の天乃の目撃者が多くなってしまうため、
先に天乃と東郷を送り届けて入れ替え場所に待機させ、
九尾と天乃を合流させていつもとおりに。と言うのが狙いだった
東郷「お父様、お母様……行って来ます」
「……ああ、気をつけて」
「行ってらっしゃい」
さようならでも、また。でも無く
子が家を出るように東郷は両親に声をかけて
天乃もまた同様に挨拶を述べて、瞳と会う
瞳「おはようございます。久遠様」
天乃「ええ、おは……ん? 東郷もいるのだけど」
瞳「おや、久遠様ではどちらとも判断付きませんね。これは失礼しました」
悪戯っぽく笑う瞳は、
周囲に大赦の存在がないことを確認いてから
すみません、冗談ですよ。と言いつつ二人を車の中に入れていく
瞳「夏凜ちゃんがちょっと試してみろというもので」
東郷「何も悪くは無いですよ。名前が変わるとしたら、みんな久遠になると思いますので」
天乃「まぁ、人数的にね……」
そもそも変えずにそのままと言う選択肢もあるのだから
そうなる可能性も無くはないが
今は、言うべきではないと口を閉ざした瞬間――
沙織「さて、九尾さんがお待ちかねだから早く行こう」
どこからとも無く現れた沙織が、元気良く声を上げた
天乃「沙織、いたの?」
沙織「少し前にね。九尾さんからいい加減にしないと――」
天乃の耳元に口を近づけた沙織は
少なくとも天乃が受け入れられないようなことを言って、苦笑する
沙織「らしいから、ね?」
天乃「そんなに延期が気に入らなかったのね」
沙織の苦笑に紛れてため息を付いた天乃は、
瞳に出来る限り急ぐようお願いして、学校へと急ぐ
遅くなると、九尾が芽吹に対して過激なことをしてやるというのだから
急がないわけにはいけない
主に、久遠天乃と言う存在と、芽吹のために。
沙織「2人きりで楽しかった?」
天乃「まぁ……でも、2人きりって言っても若葉たちもいたんでしょ?」
沙織「ううん、別に危険なところってわけでもないし、遠くは無いけど常に傍にいたわけではないよ」
天乃「そっか……ありがとね」
沙織「どういたしまして。御礼は久遠さんの、か・ら・だ でね?」
天乃「はいはい」
誘うような沙織の言葉を適当にあしらって、天乃は窓の外を見る
もう少ししたら、きっっと来る
でも、出来るのならもう少し時間が欲しいと……天乃は静かに願う
√9月5日目 朝(学校) ※金曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50 芽吹
51~60
61~70
71~80 夏凜
81~90
91~00 樹海化
↓1のコンマ
√9月5日目 朝(学校) ※金曜日
1、風
2、沙織
3、芽吹
4、九尾
5、若葉
6、夏凜
7、樹
8、イベント判定
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「夏凜、デートしましょ」
夏凜「皆と、じゃなくて良いわけ?」
天乃「……うん」
夏凜「本当に良いの?」
夏凜「こういうのって、私がメインヒロインならフラグってのが立つらしいけど」
天乃「えっ? もう貴女とは立てたというか踏破したんじゃ……」
九尾「……恋愛。とは限らぬが」
千景「そういうことは止めるべきだわ」
では少しだけ
√9月5日目 朝(学校) ※金曜日
学校にて九尾との入れ替わりを解除した天乃は、
お手洗いの個室の外にいる芽吹の気配を感じながら、息をつく
解放された一日間は、
この自由でありながら拘束されているような監視に対しての嫌悪感を
少しだけ強めてしまうようで
天乃「……出たくない」
ぼそりと呟く
その小さな一言にでさえ、外からは「出てください」という言葉が飛び
扉がコンコンっと叩かれる
まだ最中だったらどうするのかと―最初からしてはいないが―思い、
分かったから止めてと不快感をにじませながら答えて
衣服を直すような音をわざとらしく出して、紙を少しカラカラと
水を流してふと息をついて個室を出る
「授業に出るのは学生の本分です」
天乃「私は一応、勇者なんだけど」
「今はただの学生です」
九尾と過ごした芽吹の言葉は相変わらずで
あの女性神官のような変化は見られず、何もなかったようにも思えるが
しかし、芽吹は顔を合わせようとしないのが……明らかにおかしくて。
天乃「……まぁ、そうだけど」
「分かっているのなら変な文句は……いえ、分かっているのなら良いです」
天乃「怒らないの?」
「この程度で怒っても仕方がないので」
やはり、芽吹は目をあわせようとしない
それに分かっているのなら。と、説教と言うか、
注意を仕切らないというのも、おかしかった
けれど、それは九尾が扮していたとはいえ、天乃が行ったこと
それゆえに下手に何があったのかと聞くことは出来なくて、
余計な話に繋がりかねないそのもどかしさに、天乃は小さくため息を付く
昨日で癒された分が一気に無駄になってしまいそうな気がした
天乃「ちょっと、夏凜に会いに行ってもいいかしら。丁度、楠さんのクラスだし」
そう言うと、何の変哲も無い言葉なのにも関わらず、
芽吹は少し驚いたように天乃へと目を向けて
すぐにまた、首を振って顔を逸らす
天乃「何?」
「いえ……昨日は芽吹。と、呼んでいたので……私としてはこのほうが助かるので、構いませんが」
天乃「…………」
呼称を間違えて呼んだとは考えにくい
だとすれば故意に呼んだのかと天乃は悪態をつこうとして飲み込む
後で話を聞いたほうが良いのかもしれないが
延期の件もあって少し不機嫌に見えたから、後にしたほうがいいかもしれない
「それで、三好さんに会いに行くんですよね?」
天乃「え、ええ……ダメ?」
「そう伺わなくても、学内であり時間内であれば構いません。もちろん、一人での行動は許容できませんけど」
天乃「そう、ありがとう」
ただのお礼
だが、天乃は視界の端で芽吹がビクッと震えたのが見えて
本当に何をしたのよ。と、心の内でボヤく
今のところ恐怖や魅了による何かではなさそうに見えるが
しかし、確実に影響を与えている
その不確定な何かに、天乃は少量の不安を抱きながら芽吹と共に2年の教室へと向かう
夏凜「ん、良く素直に連れてきたわね」
「特に理由は見当たらなかったので」
天乃に呼ばれて教室の外に出てきた夏凜は、
芽吹を見るや否や不思議そうに聞いて、そう言うもんなのね。と呟くと
天乃へと目を向ける
夏凜「朝から来るなんて、火急の用件でもあるの?」
天乃「用件が無いときちゃダメなの?」
夏凜「そう言うわけじゃなけど……こんな状況だし。天乃も教室にいるなら変に見張られなくて済むんでしょ?」
天乃が教室にいる場合は、基本的に芽吹が傍にいることはない
だからこそ、夏凜はその仮初とはいえ安寧が得られる時間を放棄してまで
この場に来たことを不思議に思ったのかもしれない
「いずれにしても、多少の行動時間があるのなら傍にいますが」
夏凜「まぁ、天乃の場合一人でいる方が嫌だろうし……とはいえ、流石にトイレまで付いていくのは止めてあげなさいよ」
「出来かねます」
夏凜の要求を芽吹は一蹴したが、
それも含めて想定済みだったのだろう、ため息を付きながら「でしょうね」と笑う
1、ねぇ、今日2人でデートしない?
2、みんなでデートしましょ
3、本当に用事はないのよ。ただ顔を見たかっただけ
4、銀のお墓参りに行こうと思うの。一緒にどう?
5、お昼、一緒にどう?
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
杏「陽乃さん。ですか? 雰囲気だけはとても冷たい人でした」
ひなた「周りや世界がどうだろうと、久遠陽乃の人生が報われないまま終わっていい理由にはならない」
ひなた「彼女はなぜ戦い続けるのか? に対してそう答えるような……自己中心的な人でした」
若葉「違うぞひなた。それは戦うじゃなく生きようとするのか? の方だ」
千景「面倒くさい人だったわ」
球子「貴女の為じゃない。戦い終えた後の私自身の為にしたことよ。勘違いしないで。ってのが口癖だったなぁ」
友奈「えへへっ、よく言ってたね。無表情で怖かったけど、でも、無感情ではなかったんだよね」
では少しだけ
天乃「今日ね、銀のお墓参りに行こうと思って」
夏凜「一緒にどうかってこと?」
天乃「うん」
夏凜「墓参り……ねぇ」
天乃から銀―三ノ輪銀―のことを聞いたことはあるが
それでもお墓参りにはまだ、行ったことが無い
個人的に行けばよかったのではないかと思わないこともないが
しかし、それはそれで何か違うような気もして。
行くには少し、時季外れな気がしなくもないと夏凜は思うが
天乃の窺うような視線に小さく息をついて頷く
夏凜「ま、大した用事もないし。鍛錬については樹でも通せばいいし。良いわよ。つきあったげる」
天乃「ごめんね、直前で」
天乃の笑み交じりの謝罪に、夏凜は呆れたように笑って
車椅子に小さく座る恋人の頭にポンッと手を乗せる
夏凜「問答無用で前触れなく介入してくる奴らを経験してんだから。そんくらいなんのことはないわよ」
夏凜「問題は芽吹……楠さんの方だけど」
「芽吹でいいわ。三好さん。今の三好さんはその方が呼びやすいでしょうし、畏まる理由もさほど無いはずだから」
夏凜「そ。なら芽吹の方はどうなのよ。天乃が墓参り行く件に関して」
「特に問題はないでしょう。一応、報告はするけれど。それで何か無い限りは阻むつもりは無いわ」
芽吹としては妨害するつもりはないというが
残念ながら、天乃と夏凜の2人きりで行かせることはできないことは
改めて告げて、天乃へと目を向ける
「それで構わなければ」
天乃「ええ、それは仕方ないことだものね」
「では、そういうことで……三好さん。私は久遠先輩を送るから――」
夏凜「分かってるわよ。来たら言っとくからさっさと連れて行きなさいよ」
夏凜の突っ撥ねるような言葉に対して、
芽吹は大した反応はせずに、ではいきましょう。と天乃の車椅子の持ち手を掴み、押す
天乃「…………」
やっぱり、あんまり仲は良くないらしい
まだ数日しか経っていないから仕方がないことだが。
天乃「夏凜とは関わり難い?」
「……そんなことは」
天乃「なら、せっかく同じクラスなったんだから。少しくらい仲良くしてみたらいいんじゃない?」
「伊集院家への干渉の件もあるので、簡単にはいきません」
あの一件が無ければ、きっとここまで溝ができることはなかっただろうと天乃も思う
しかし、だからと言って天乃は謝罪を口にはしない
あれはそうするしかなかったから
そうしなければ沙織を失うことになっていたかもしれないから
そこまで落ちたのは天乃自身に原因があるといえばあるのだが
あの場での正否を問うならば、天乃は正しかったと思うから。
「ただ。私が久遠先輩含む勇者部と敵対する関係であることは事実ですが、それは一定以上に距離を詰められない。というだけです」
天乃「……?」
「ですので、関わり難いかどうか。と聞かれれば答えは否です。結城さんなんかは向こうから迫ってくるほどで」
むしろ関わる云々ではなく、面倒くさい部類なのだろうか
芽吹は少し困ったようにため息を付いて
「関わりにくいのは、寧ろ久遠先輩です」
少し控えめながら、はっきりと芽吹は言う
天乃「え?」
「今日は普通ですが、昨日は本当に……結城さん以上に性質が悪く感じました」
天乃「それを普通本人に言う……?」
「この際なので」
天乃の言葉に対して芽吹はそう言い返すと
3年生のクラスが近付いてきたのが見えて、一度足を止める
「久遠先輩、調べたところ。産前うつ。という症状が妊娠初期にあるそうです」
天乃「そう、なの」
「ですので、あたりの強さに関して多少は仕方が無いのですが……出来れば不倫? のような誘いはやめてもらえると助かります」
天乃「あ、あー……」
まったく身に覚えが無い
それはもちろん、九尾がやってくれたことなのだから当然なのだが
天乃は酔い潰れて曖昧になっていた記憶が蘇ってきた大人のように頭を抱えて、呻く
もちろん、それで何をしでかしたのか思いだせるはずは無いのだけれど
あんまり嬉しくないことをしてくれたのだけは、確実だからだ
「名前で呼びたければそれでも構いません。ですが、二人きりの時だけ。なんていう特殊な演出は――」
天乃「う、うん。分かった……ごめんなさい。ほんと、生理中的なアレだから、うん、昨日のことは、ね?」
「出来る限りでいいです。抑圧させて変な方向に爆発されても困るので」
天乃の慌てふためくような態度
芽吹はやはり、そこには目を向けずに再び足を動かした
√9月5日目 昼(学校) ※金曜日
01~10 若葉
11~20 沙織
21~30
31~40
41~50 夏凜
51~60
61~70 九尾
71~80
81~90 樹海化
91~00
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
三好、鷲尾、結城家は挨拶済み
東郷、犬吠埼がまだ行っていない場所で伊集院が難航中
では少しずつ
√9月5日目 昼(学校) ※金曜日
昼休みになると、いつものように芽吹が3年の天乃のクラスへとやってくるのだが、
今日はなぜか若葉が一緒に天乃の元へ近づいてきて
どこかで用意したのだろう、昼食を机の上に置く
若葉「同席しても構わないか?」
天乃「拒否する理由はないけど……楠さんは?」
「構いません」
沙織「でもこれだと机の幅が足らないよね……くっつけちゃおうか」
芽吹の答えを聞いてから沙織は近くの机を天乃の机にくっつけて、
適当な場所に自分の弁当箱を置く
沙織「犬吠埼さんは……いないね。樹ちゃんのところかな?」
若葉「それか手洗いか……いや、荷物が無いから沙織が正しいか」
若葉と芽吹も揃って席に着き、ふと息をつく
普段と違って若葉がいても、
出てくるのも聞こえてくるのも何の変哲も無い日常的な会話
昨日の話の続きだったり、食べているお弁当の話だったり。
ただ、おしゃれだったり、放送されているドラマなどの会話が一切入ってこないのが
どこか特別な感じがしてしまう
若葉「そういえば、今日は東郷たちは連れて行かなくていいのか?」
天乃「うん?」
若葉「放課後の話だ。夏凜から話が回ってきたんだが……東郷にも関係はあるんじゃないか?」
唐突に話を振られて、何かと聞き返しかけた天乃は
続いた若葉の言葉で理解して、「そうね」と呟く
確かに、銀のお墓参りは東郷も一緒に居たほうがいいかもしれない
縁ある……と言う言葉では語弊が生じるかもしれないが
銀と東郷にだって繋がりはあるのだから
沙織「なになに? デート?」
天乃「デートというか、お墓参り。銀の」
沙織「あぁ……三ノ輪さんのところ。報告?」
天乃「うん、色々と」
天乃の肯定と浮かべられた笑みに
沙織は「そっか、そうだね」と嬉しそうに呟くと
ちらりと芽吹を見て、目を逸らす
何も言わないのはそれを邪魔する気が無いと悟ったからだろう
沙織「それなら確かに東郷さんもいたほうがいいね。本当は、あと一人」
「? なにか?」
伺うように目を向けられた芽吹は
その意図を知らないといわんばかりに不思議そうに声をかける
沙織の言うもう一人、乃木園子
芽吹も園子と東郷―鷲尾須美―、三ノ輪銀に関しては聞いているはずだが
園子がどこでどうなっているのかまでは聞いていないのか
その困惑には偽るような様子は感じられない
沙織「なんでもないよ」
元々無理な話であることはわかっていたが
それでも交渉してみれば……という駄目元な考えだったのだ
特に間延びさせることなく沙織は話を終わらせて、天乃へと目を向ける
沙織「どうする? 東郷さんも連れて行く?」
天乃「そうねぇ……」
「私は構いません。1人2人増えたところで、大差は無いと思いますので」
天乃「そう」
若葉「それなら、私も同席したい。代理になれるものではないが。一応な」
天乃「……うーん」
1、2人とも連れて行く
2、東郷だけ連れて行く
3、若葉だけ連れて行く
4、連れて行かない
↓2
天乃「2人とも連れて行っていい?」
「2人とも……ですか?」
天乃の言葉に驚いた様子はないが、
芽吹はどこか呆れた様子で呟くと、小さくため息をついて天乃から眼を逸らす
いつぞやの夏凜を彷彿とさせるような
真っ当に対応するのは面倒くさいとでも言いたげな様子で芽吹は自分の端末をちらりと見てから
天乃へと目を向ける
「一人二人増えたところで……と、言わなければよかったですね」
天乃「別にそれを――」
「解りました。九重さん……でしたか。それと東郷さんのお二人もお連れします」
天乃を遮っての言葉は呆れ交じりで
少しだけ疲れを感じた若葉は、「無理はしなくてもいいが」と
優しく声をかけたものの
芽吹は気にしなくて結構です。と、冷たくあしらう
「口を滑らせたのは私ですから……ただ、九重さんは東郷さんの補助をお願いできますか?」
若葉「ああ、その程度なら承ろう。楠さん一人に二人を押し付けることは流石に出来ないからな」
天乃「だから私は――」
「大丈夫です。分かっています」
天乃「分かってないから私が口を挟むのだけど……?」
「いえ、想定した言葉の中で私が一番言われたくない答えを返すだろうという予測は的中したので、恐らく分かっています」
天乃「貴女、馬鹿にしてるでしょう」
そんなことは全く。と芽吹が冷静に返す一方で
対する天乃は不服そうに頬をむっと膨らませて芽吹を睨む
本気で怒っているわけではないと分かるからこそ
若葉も沙織も穏やかな雰囲気を保って
ふと、思い出したように沙織が苦笑する
「……なにか?」
沙織「あはは、いや。うん……」
芽吹の視線を受けてなお笑った沙織は
別におかしいわけじゃないけど、と前置きをしたうえで
笑いをかみ砕いて芽吹を見つめ返す
沙織「ちょっとだけ久遠さんへの態度が柔らかくなったなーというか、全く似てないけど。あしらい方はどことなく三好さんの受け売りっぽいよね」
「…………」
沙織「仲良くなれなくても、久遠さんへの事だけはちゃんと教えて貰ったりしてるとか?」
「そういうわけではありませんが……ただ、妊婦のストレスは胎児に悪影響があると聞いたので」
若葉「それを考え――」
「違います」
ぴしゃりと言い切った芽吹は
少しばかり不機嫌になった様子で食べ終えた弁当箱をしまうと、
誰に目を向けるわけでも無くため息をついて
「その悪影響によって産まれてくる子供が災厄になられては困るだけです」
沙織「……あっそう」
とても。
とても興味がなさそうに
沙織のものとは思えないような冷めた呟きを残して、彼女は目を向けるが
その視線を遮るように、若葉の手が二人の間に割り込む
若葉「確かに、楠さんの言うとおりだ。間違いじゃない……が、少しは言葉を選んだ方が良い」
「…………」
若葉「大赦からの言葉をそのまま流しただけかもしれないが、自分が同じ立場で言われたら不快だろう?」
天乃の立場は特殊過ぎて
同じ立場になるなんてことは考えにくいかもしれないけどな。と
若葉は少し無理矢理に笑って
若葉「夏凜の前では絶対に言うんじゃないぞ……勇者部の前でもだ。そんなことをしたら、私は二度と楠さんを庇ったりしないからな」
「…………」
庇う。とは
それを考えようとした芽吹は、それよりも先に目が行く天乃の悲しそうな表情
そこから絞り出される「楠さんの言葉も分からなくはないけどね」という言葉に移ろって
「……すみません。軽率でした」
頭を下げる。言い訳はしたくない
そんなみっともないことは、と……芽吹は天乃の「良いから」という言葉が聞こえてもなお頭を下げた
√9月5日目 夕() ※金曜日
01~10 芽吹
11~20
21~30 九尾
31~40
41~50
51~60 樹海化
71~80 春信
81~90
91~00
↓1のコンマ
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
なお、24日、25日は諸事情でお休みとさせていただきます
沙織「……あっそう」
猿猴(殺――)
――バッ
若葉「確かに、楠さんの言うとおりだ」
若葉(今のは、不味いな)
若葉(楠さんも自身の考えではないのだろうが……あまりにも軽率だ)
では少しだけ
√9月5日目 夕() ※金曜日
放課後、いつもよりも大所帯になっている天乃は、
今は訪れる人の少ない中、お墓の場所を探すように視野を広げる芽吹へと目を向ける
天乃「あの角を曲がって、少し奥よ」
「……解りました」
お墓参りはそう何度も何度も来るようなものではないかもしれないし
逆に何度も来るような場所でもあるのかもしれないが
天乃は来るのが久しぶり過ぎるのを少し申し訳ないと思いながら
多少薄れた記憶から場所を求めていく
道中の覚えは薄れても、そこに銀のお墓があるというのは分かるから迷う気はしない
「お盆には来たんですか?」
天乃「ううん、色々あったから……あんまり余裕なかったのよ」
そのあたりの時期は死にかけているというか
かなり追い込まれている時期でもあったから仕方がないのだが。
「声さえかけて貰えれば、お連れしますよ」
天乃「そんな甘いことを言っちゃって良いの?」
「ここに連れてくる事は問題ないと伺っているので、甘いなんてことはないです」
放課後とはいえ、あまり寄り道するなという話にはなっているが
何もかも、理由無く抑圧する必要があるとまでは聞いていない
もちろん、阻む理由があれば検討の余地無く許可は出来ないが、
友人の墓参りくらいは自由だろうと芽吹も思う
自分に友人はいないし、その気持ちが分かるとは言えないけれど。
「もっとも、毎日くるような場所と言うわけでも無いと思いますが」
天乃「そうね……でも、毎日報告しにくるって言うのも悪くは無いと思うわ」
東郷「毎日惚気話になりそうですけど」
天乃「東郷がどんな子になっちゃったかみっちり詰め込もうかしらね」
東郷の挟んできた言葉に向けて、
天乃は怪しい笑みを浮かべながら言い返すと、
東郷は自分の手を見つめ、何かを握るように動かして「そうですね」と呟く
東郷「まずはそれが言えないように……みっちり仕込むとしましょうか」
天乃「あら、受けてたってあげようじゃない」
若葉「おいおい……」
勝てるわけが無いだろう。と
思った言葉を口にしなかった若葉は代わりのように呆れた笑みを零し、
口を閉ざした芽吹へと目を向ける
「…………」
何かを言おうとしているが、言えない
そんな様子の芽吹は楽しげに話す2人を一瞥すると、
ふと息をついて首を振る
「残念ながら、2人で会うことは出来かねます」
天乃「でしょうね……」
東郷「そういえば、伊集院先輩が楠さんも堕としてしまおうかという話を――」
「何の話か分からないけど、嫌な予感がするからやめてください」
東郷が言い切る前に怯えたように口を挟んだ芽吹だったが、
対して笑みを浮かべた東郷は「ふふふっ」と怪しくて
すぐ傍の夏凜が「やめなさいよ」と割って入る
夏凜「どうなるか分かったもんじゃないっての。責任取れないし」
「三好さんは分かるのね」
夏凜「そりゃまぁ、一応渦中の人間なんだから分かるわよ」
普段の夏凜よりもすこしそっけなく答えた夏凜はその態度はと思ったのだろう
ため息を付くと視線の厳しさを緩めて天乃を一瞥する
夏凜「芽吹だって、別段天乃に興味あるわけでもないんでしょ?」
「素直に答えれば、そうね……お役目だけの付き合い。特に知る必要は無いと思っているわ」
もちろん、穢れを孕んでいるとしても妊婦は妊婦
その扱い方くらいは情報も集めたりとするが。
天乃「正直でよろしい……っと、こっちよ楠さん」
天乃の指示した方向へと向かうと、銀のみならず三ノ輪家としての墓がそこにはあった
勇者として祀るという話もあった可能性もあるのだが、
三ノ輪銀は勇者としてではなく、三ノ輪銀として墓に眠っているのだ
夏凜「ここが、そうなのね」
若葉「柄杓と手桶を取ってこよう、夏凜達は……墓周りは綺麗だな。お線香を頼む」
若葉が適当に指示を出して場所を離れると、夏凜は瞳が用意した線香や花を持ち出して、
すでに綺麗な花の収まっている花瓶の深さを確かめてから、
持ち込んだ花の茎を切り落として長さをそろえる
その意外と手馴れた所作に、東郷は感心したように声を漏らしたが
夏凜は「瞳が言うから」と、その理由を簡潔に述べて笑う
夏凜「とりあえず若葉待ちね……けど、かなり綺麗にしてあるのね。まるでつい最近来たような」
天乃「来てる人がいるんだと思う。頻度は分からないけど少なくとも今朝来て掃除してる感じがする」
墓石にはまだ微かに水滴が残っており、水皿にはゴミも虫もない
その真新しさを見る東郷も同意して頷く
東郷「とても丁寧……銀の家族か、大赦か」
夏凜「家族の可能性が高いんじゃない?」
天乃「……そうね」
先月の初めだ
その頃にイネスにみんなで行った天乃は銀の弟である鉄男と再会して、
求められた一緒にいて欲しいという願いを断ってしまった
穢れの影響があって真っ当な対応をしてあげられたとは言えないし
それ以降もまた問題が積み重なったせいでアフターケアというべきか
会いに行くことも何も……出来ていない
そのことを思い出した天乃は罪悪感を抱いて、握って
亡き姉に声をかける少年の姿を空想して、首を振る
今更あって何を言うのだろう
何が出来るのだろう
穢れのことなどを警戒し、言い方こそきつかったり、態度が悪かったかもしれないが
天乃が何もできないことは事実だし
天乃が仮に一緒にいることを受け入れても
大赦に拘留されているような現状、一緒にいてあげることなど不可能な話だ
夏凜「天乃?」
天乃「ん……うん、ごめん。なんでもない」
夏凜「まだ何も言ってないんだけど」
まだ何も言っていないのに謝罪を口にする天乃に、
夏凜は少し不安を感じつつも、ため息を飲み込んで頭を掻く
天乃の全てを理解できている自信はないが
しかし、部分部分では理解できていると思いたいし
そうあれる―負担を軽減させられる―親しい人間でありたいと思うから
夏凜は天乃の考えを読み込むように目を閉じ、銀の事、天乃のことを思い浮かべて――
夏凜「鉄男……だっけ。あの子のこと考えてんの?」
天乃「……どうして?」
夏凜「三ノ輪銀、久遠天乃、で、あんたが暗い顔するって言えば思いつくのはそのあたり」
もちろん、夏凜が知らない何かの可能性もあるのだが
夏凜が知っているのはそれしかないのだから、仕方がない
夏凜「どうよ」
天乃「何で自慢気な顔するのよ」
夏凜「そりゃ、正解っぽいし」
天乃「流石……燻製型勇者」
夏凜「おつまみか私は!」
ぺしっと天乃の頭を叩いた夏凜は、
そこでようやくため息をついて、天乃に覆いかぶさるようにして耳元に口を近づける
夏凜「心配しなくても、あいつは上手くやって見せてくれるわよ」
天乃「何でそう言えるのよ」
夏凜「私が兄貴に向かって言ったこと、したこと……なんていうか、ちょっと似てたから」
自分の過去を思い出して微かに頬をそめた夏凜は
気恥ずかしそうな笑みを浮かべて天乃から離れると
だからそんなに気にしなくて良いのよ。と改めて言って、銀のお墓へと目を向ける
夏凜「嫌いとか言いつつ……ま、私は違うけど。言いつつ、本心では未練があんのよ」
天乃「本当は好き?」
夏凜「ああいうのは、ああ言って結局努力すんのよ。見返してやるんだとか言ったりして……」
本当は、本当に心の中で思っているのは
自分が上手くやれるところを見せれば見直してくれるかもしれない
受け入れてくれるかもしれない
認めてくれるかもしれない
振り向いてくれるかもしれない
そんなことを――と
夏凜はj言葉半ばに想うことを脳裏に浮かべて笑う
夏凜「いずれ向こうから会いに来るかもね。弟連れて、どうだ。ちゃんと世話できてるんだぞって」
天乃「…………」
夏凜「どうする? また、一緒にいてくれって言われるかもしれないわよ?」
1、無理よ。私が愛せる男の子は後にも先にも彼だけだから
2、そういうってことは、夏凜は別に良いって考えてるのね
3、貴女こそ、どうするの?
4、考えちゃうかな
5、素直に褒める。けど……一緒は無理だってはっきり言うかもね
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできればお昼頃から
天乃「行ってらっしゃい」
天乃「……うん? どうかしたの?」
天乃「行きたくない? なら、無理にとは言わないけど」
天乃「どうしてって……無理強いすること、させられること。それがどういうことかは私、良く分かっているつもりだから」
天乃「でも、あなたが行ってくれないと私も困っちゃう。わね」
天乃「ふふっ、そんな顔しないの。ほら、行かないと遅れるわ。仕方がないわね……一度だけ。好きな所にしてあげるから――」
園子「というVR映像を――」
夏凜「とりあえず却下で」
園子「勇者部ぜ――」
夏凜「全部破棄!」
では、少しずつ
また会いに来る可能性というものは考えられるが、
もう一度一緒にいてくれと言いに来るのかどうかは定かではないと天乃は思いながら
そうしたら……と、少しだけ考えて夏凜へと目を向ける
天乃「もしも来たら……夏凜はどうするの?」
夏凜「ま、そうくるわよね」
夏凜は自分の予想通りに返されたのが嬉しかった半面
やっぱりか。というように呆れた笑みを見せつつ、そうねぇ。とこぼす
考えるようなことでもない
夏凜「そうなったときの私が想像できてないから何とも言えないけど、まぁ。駄目だって言うんじゃない?」
天乃「友奈達は受け入れてるのに?」
夏凜「そりゃぁ、友奈達と鉄男じゃ色々と違うじゃない。天乃に出来る事。良い事も悪いことも含めて」
天乃「…………」
夏凜「友奈達は同じ女だから。天乃に出来る事の違いがあるのだとしても、結局限度がある。ある一定のラインは越えられない」
それは性別ゆえのものなのだから
努力しようが何しようが、
色んな意味で根本的な変化がない限りは跨ぐこともできない
夏凜「鉄男は私達のラインに踏み込める。けど、私達は無理。そう言う所にさ、多分……少なくとも私は不満を持つし、不安になるし、嫉妬すると思うのよ」
恥ずかしい話だけどねと
夏凜は笑いながら言って、天乃から目を背ける
夏凜「私はあんたのように広く受け入れることのできる”天”ではないから。ま、きっと他を探せっていうんじゃないかしら」
夏凜の心が狭いわけではない
思いやる心を持っているし、
友奈達を含めることだって受け入れているのだから十分心は広く優しいと言えるだろう
けれど、それでもやはり自分が出来ないことをしてあげられる存在というのは
それが自分の努力次第で補えるようなものではない以上
いや、補えるものであるのだとしても
不安になるし、不満を持つし、やはり……嫉妬心を抱く
人間ならば当たり前だと思う
むしろ、子供ながらにわがままを言わずに友奈達のことを受け入れているだけで
普通の人間のそれとは違うのだ
天乃「なんだ……夏凜も嫉妬するのね」
夏凜「そりゃ、私も人間だし。あんたの恋人だしするでしょ。沙織に聞いた話じゃヤンデレとかいう性質の奴もあるみたいだけど、やって欲しいの?」
天乃「良く分からないけど不気味な響きね」
夏凜の口から飛び出てきた良く分からない単語を頭の片隅にしまい込んで
天乃は小さく息をつく
夏凜は受け入れられないという
不安になって不満を持って嫉妬するという
なら、答えは一つだろう
天乃「私も鉄男くんのお誘いは断ろうかしらね。今度はちゃんと……私が抱く想いをしっかりと伝えて、誠心誠意。必要以上の傷を与えないように」
天乃の優しい表情を前にして
夏凜は少し安心したように微笑みながらもそれをすぐに払い除けると
悪戯を思いついた男の子のような表情を浮かべて
夏凜「あんたにそんなことできんの?」
天乃「私だっ――」
夏凜「誘うのは得意でも、振るのは苦手なのに」
天乃「そ、それはっ……その……否定は、出来ないけど……」
誘うのが得意と言っても
その誘った中のほとんどが無自覚なものというか
ただ相手を気遣っただけだったりするものが
言葉の選び方次第で誘っているようなものだったり
本当に何の変哲もない仕草が誘っているのだと誤認されたりするのだが。
そう言った自覚のある天乃は消滅に向かう小さな声を絞り出して
天乃「でも、そうと決めたからにはちゃんと、お断りするから」
夏凜「冗談、あんたがやるときにはやるやつだって。私は良く分かってるわよ」
良くも悪くもだけど。と
余計な一言は心の中にしまい込んで、夏凜は笑いながら言って――
東郷「若葉さんが戻ってきたので2人きりの世界から帰って来てもらっても良いですか?」
夏凜「あ」
東郷「隙あらばいちゃついて……」
夏凜「し、仕方がないじゃない。これは不可抗力よ不可抗力!」
東郷「本当かしら?」
東郷の冗談めかした笑みに交じる挑発的な言葉に
夏凜は真っ向から向かっていく
そんな二人の姿を見つめる二人に、何があったのかと困った表情の若葉が、合流した
自分はどうしているのか、どうしたいのか、どうするのか
銀を失ってから変わって、、また変わって
今の自分が何を目標としているのか
銀の墓前で手を合わせながら、一つ一つかいつまんで心の中で話しかける
今までの天乃の生き方は
銀がお墓の中から這い出て来てしまうんじゃないかというほどに危なっかしいものだった
心休まって安らかに眠ることは出来なかったんじゃないかというと
思う銀の姿は「本当だよ」と、呆れたように笑う
でも、今はもう違う。今はもう大丈夫
今ここにいる人たち、ここにいない人たち
天乃には支えがある。支えられるだけじゃなく支えることもできている
だから安心してほしいと、ゆっくり休んで欲しいと、天乃は伝える
本当かと疑うような声が聞こえた気がして、天乃はほほ笑むと
すぐ隣で銀から受け継いだ端末を手に何かを伝える夏凜を見る
天乃「……大丈夫よ」
三ノ輪と、三好
二つの三を重ねた力は柔じゃない
でも、少し不安だから可能なら見守ってあげて欲しいと
天乃はすこし冗談交じりに、銀への我儘を口にした
√9月5日目 () ※金曜日
01~10
11~20 大赦
21~30
31~40
41~50 樹海化
51~60
61~70 芽吹
71~80
81~90 九尾
91~00
↓1のコンマ
√9月5日目 夜(特別病棟) ※金曜日
夏凜や東郷から、明日は休みなのだから
自由な時間を与えるのは駄目なのか。とか
芽吹を含めてなら宿泊とかしてもいいのではないだろうかという話は出たのだが
当然のように、それらはすべて却下された
しかも芽吹の独断ではなく、大赦から直々のご連絡で、だ
少し前なら問答無用で不可能ですだのなんだの一蹴から始まるところを
聞いてみなければわかりません。と、芽吹が譲歩して暮れたのに、これだ
天乃「土日は一日中こんな部屋に居ろって? 何をしてろと言うのよ」
ぼやいても聞いてくれる人は今いない
もちろん、若葉達精霊ならそばにいるだろうが……
天乃「大きな戦いがあるのに……時間を大切にするべきなのに……」
信頼があるから不安にならないなど嘘だ
それは全くの別物で決して補えるものではない
天乃は布団を被りつつ、入りきれない微睡の裾を掴んでため息をつく
天乃「どうしようかしら……」
1、精霊組
2、勇者組
3、イベント判定
↓2
√9月5日目 夜(特別病棟) ※金曜日
01~10 九尾
11~20 芽吹
21~30 若葉
31~40 沙織
41~50 球子
51~60 千景
61~70 大赦
71~80 夏凜
81~90 風
91~00 歌野
↓1のコンマ
√9月5日目 夜(特別病棟) ※金曜日
千景「楠さんとは、中々うまくいかなそうね」
考えに耽ることもなくただぼうっとしていた天乃の頭に響いた声
仰向けのまま横に目を向けると、暗闇の中黒い影が揺らいでギシリと、ベッドが軋む
声でわかる、目で見てわかる千景だ
天乃「少しは進展した……のかしらね。私じゃなくて九尾だけど」
千景「したことはともかく、怯えている様子はなかったわね」
千景も九尾扮した天乃の傍にいたわけではないのだろう
何をしたのか知らないらしく、少し呆れたように言いながら、天乃を見つめる
千景「良ければ、ゲームを貸すわ」
天乃「ゲーム?」
千景「ええ。【デレさせるまで死ねま10】っていうクソげーだけど」
天乃「ク……って、それはつまり面白くないってことじゃないの? それを貸すの?」
千景「ネタバレすると不死者の主人公がツンデレなヒロインを攻略し、人間の心を取り戻したことで昇天する……つまりクリアしたら主人公が死ぬのよ」
なんでこんなゲームを買ったのか自分にもわからない
と、千景は自分自身に呆れ切ったため息をつきながら首を振ると
どこからともなくそのゲームが入っていたであろう箱を取り出して、天乃へと手渡す
天乃「クリアしたんだ」
千景「買った以上はやらないとって思って」
天乃「ちなみにそのお金はどこから?」
千景「……500ml2本で買えるから」
それなら何も問題ないかと思いつつ
そんな値段で買えてしまうゲームに
果たして面白いものがあるのだろうかと思って、
天乃はよく見れば貼られている\300-というシールを一瞥する
天乃「結末を知らなければ面白い?」
千景「死なないとはいえ、ヒロインの張り手で歩道橋から落ちて車に引かれたりするゲームの過程が面白いと?」
天乃「私は基本ゲームやらないから知らないのよ。何が良くて何が悪いのかなんて」
天乃がそう意図しているとは思えないが、悲しそうな雰囲気というべきか
やはり普通と同じような楽しみ方を出来ていなかったと感じ取れてしまう片鱗に触れた千景は
天乃の掴むもののいない手に視線を下ろして、首を振る
若葉なら触れただろう、握っただろう
だが、自分はと千景は思って
千景「これから知っていけばいいと思う……」
天乃「ん」
千景「一つ一つ。みんなが、きっと教えてくれるから」
天乃「そうね」
分かっているというような天乃の穏やかな返答に
千景は少し気恥ずかしさを覚えて、目を背ける
暗い部屋では、明るい二色の瞳と桃色の髪
僅かな光をかき集めているように浮き彫りになる白い肌は眩しい
千景「……こんな部屋、早く出られると良いわね」
1、出たいと言ったら千景が出してくれるんじゃないの?
2、こんな部屋だと思うなら、今日は一緒に寝てくれる?
3、ねぇ千景。みんなを守ってあげて。それで、貴女もみんなにちゃんと守られて
4、そうね……それで、千景が面白いと思えるゲームは貸してくれないの?
5、九尾は本当、何したのかしらね
↓2
天乃「じゃぁ……千景」
パッケージを握っていない方の手が自分の手に触れたのだと気づいた時にはもう、遅い
天乃の求めるような眼は千景を硬直させるように、見つめて来ていた
闇の中、はっきり見える二つの瞳
その視線は……ずるいと千景は唇を噛む
天乃「こんな部屋だと思うなら、今日は一緒に寝てくれる?」
千景「……まったく、久遠さん。貴女は」
墓地での会話を全く覚えていないのか
そう言いかけて飲み込む
言ったところで無駄だ。これは決して意識的にやっていることではないのだから
ただ、天乃は一人が寂しいからと求めているか
あるいはただからかうつもりでやっているだけで
相手を魅了しようなどという気は一切ないのだから
恋人である若葉や沙織もいる中で
自分でも良いのだろうかと千景は思うが……誘われたのなら仕方がない
千景「良いわ。付き合う」
千景「狭いわ」
天乃「それはそうよ。このベッドは一人用だもの」
それだけではない気がするのだが、
千景は一言を挟まず、密着する体の熱から意識を逸らして目を閉じる
誰かと一緒にいるということ
誰かに寄り添うということ
それがよりはっきりとわかるこの感覚が、千景は少しだけ。好きで
千景「……聞いた話、久遠さんの子供は通常よりも生まれるのが速いらしいわ」
天乃「妖怪の子供だから?」
千景「それもあるけれど、久遠さんの力と悪五郎の力が強いからその分成長が速いって聞いたわ」
なぜそれを直接言わないのだろうかと少し疑問を抱いて、ため息一つ
そんな情報を持っているのは九尾くらいで
九尾と接触する時間はこの状況下ではそこまでないし
言葉は悪いが良いように扱ってしまっているような現状では仕方がないのかもしれない
千景「どんな子供が生まれてくると思う?」
天乃「女の子なのは間違いないと思う。力を受け継げるのは女の子だけみたいだから」
千景「久遠さんに似るのか、悪五郎に似るのか」
天乃「またまたその両方だったり」
千景「その可能性も……あるわ」
天乃の腹部に触れようと手を伸ばした千景は、
やっぱり。と、躊躇して手を引く
優しく触れることが出来ないわけではないけれど
穢れを担う力を持つ自分が触れても良いのか
そう、迷ったからだ
天乃「触りたい? まだ全然反応も薄いけど」
けれど、その手の動き、感情の揺らぎに気づいた天乃の手はそれを逃さずにとらえて
自分の腹部、臍のあたりに千景の手を乗せる
天乃「そろそろ検査薬を使うべき時期かしらね。まぁ、みんなのおかげで形作られているのは伝わって来てるんだけど」
そもそも、人間用のもので反応するのか
という疑問はあるのだが、母体である天乃は人間に変わりないのだから使ってみるべきだろう
天乃「時期的に大赦が検査させに来るかもしれない」
千景「陽性だったら……」
天乃「監視体制が強化されるかも」
冗談ではなく。
けれど、天乃は子供が出来た結果なのなら仕方がないことだと考えて、
その時は仕方がないのよねと。笑う
千景「けれど、子供が生まれればきっとこんな場所ではなくなるはずよ」
だから。と
千景は思いを込めるように、天乃の腹部を撫でて
千景「早く元気な子供が生まれると、良いわね」
そんな願いを、ぼそりと呟く
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流無()
・ 犬吠埼樹:交流無()
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流有(お目覚め、銀のお墓参り)
・ 三好夏凜:交流有(銀のお墓参り)
・ 乃木若葉:交流有(銀のお墓参り)
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流有(一緒に)
・ 伊集院沙織:交流無()
・ 神樹:交流無()
9月5日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 78(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 64(とても高い)
結城友奈との絆 91(かなり高い)
東郷美森との絆 96(かなり高い)
三好夏凜との絆 114(最高値)
乃木若葉との絆 86(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 32(中々良い)
沙織との絆 92(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
汚染度???%
√9月6日目 朝(特別病棟) ※土曜日
01~10
11~20 千景
21~30
31~40 風
41~50
51~60 九尾
61~70
71~80 大赦
81~90
91~00 樹海化
↓1のコンマ
√9月6日目 朝(特別病棟) ※土曜日
今日は土曜日と言っても学校がない日の土曜日
ともなれば、今日も明日も一日中ここにいることになる
そんな退屈という話どころではない状況を前にして、
天乃は起きてしまった自分をもう一度寝させる事は出来ないのかと考えて、ため息をつく
二度寝なんて穢れによる圧迫感の消えた今、出来る事ではないからだ
天乃「ほんと……どうしたら良いのよ」
隠し持つ端末で連絡を取り合うというのもあるが、
それではみんなに迷惑をかけることになる
我儘が許されるとはいえ、
朝から晩までメールや電話に付き合って貰うというのは、流石に無しだ
天乃「…………」
1、精霊組
2、勇者組
3、端末関連
4、大赦
5、イベント判定
↓2
では、少し早いですが今日はここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から
陽乃「行ってらっしゃい」
陽乃「……なに? 行きたくないの?」
陽乃「そうね……別にあなたが行かなくても代わりはいるから良いんじゃないかしら」
陽乃「でも、これだけは言っておくわ」
陽乃「あなたがここに居続けるなら、私はここからいなくなるわよ」
陽乃「だって、あなたが帰るために。あなたを癒してあげるために私はここにいるんだもの」
陽乃「帰る場所も癒す必要もない人に、私は必要ないでしょう?」
ひなた「陽乃さんはこんな感じですね」
園子「天さんと同じようで全く違うね~」
陽乃「待って、流石にここまでひどくないわ」
では少しだけ
√9月6日目 朝(特別病棟) ※土曜日
「お呼びでしょうか、久遠様」
天乃の取り扱いは非常に警戒されているため、この場に呼んでも来るのは神官だが
神官である女性は園子の時には並べる前口上の一切を排除して、本題を促す
それを口にすると天乃が嫌がる
それが天乃に何かしらの力を使わせないかと、恐れているからだ
天乃「ええ、どうしても今日出かけることはできないのよね?」
「はい。申し訳ありません」
天乃「楠さんがいても?」
「はい」
天乃「……明日も?」
「そうなります」
必要以上に語らないよう言われているのか
普段は饒舌―といっても九尾のせい―な女性は
天乃の問に対して簡潔な答えを返していく
これに関しては仕方がないことなのだ
本来なら学校に行かせることすら大赦はしたくないが
暴動などの件もあって仕方がなく、登校させているという状況なのだから。
天乃「そう……よね。でも、それなら私のお願い聞いてくれたりするのかしら」
「可能な限りには、なりますが」
当然の答え。
いや、大赦にしては譲歩した答え。だろうか
可能な限りと言っても、外出だったり
勇者部の誰かをここに呼ぶといったことは恐らくさせてはもらえないだろう
不自由な自由だ
天乃「ところで、そろそろ……その、検査の時期じゃない?」
気持ちを切り替えた天乃は、
昨夜千景と話していたことを思い出して、神官に言葉を投げる
周期としてはそろそろ反応が出始めてもいい頃だし
出来る限り早く、他者からの感覚的な伝達ではなく、
はっきりとした証明が欲しくて。
「確かに、そうですね……そろそろ一ヶ月ですか。早いですね」
天乃「……そうね」
この神官が悪いわけではないが、
大赦側の人間にそう言ったことを言われると
どうしても盗撮なり盗聴なりされていた不快感が蘇って来て
天乃は思わず露わになった不満を飲み込んで首を振る
「かしこまりました。そのように伝えてまいりますね……ただ、問題が」
神官の女性は、天乃を気遣うような雰囲気で見つめると
どこか不快感を滲ませたため息をつく
表情が見えるのなら、きっと悲しげだろう。と天乃は思って
「検査に関してですが、検査キットを使った簡易検査ではなく、しっかりとした産婦人科医による検査になると思います」
天乃「それは承知の上よ。ここも一応は病院なんでしょうし」
簡易キットと違って、他人に色々と触れられる覚悟はある
何かいやらしい意味があるわけでもないし
医療目的で仕方がないことだからだ
しかし、それなら問題があるとは言わないはずで
不快感を滲ませるわけがないはずで。
天乃は嫌な悪寒を感じて、息を呑む
「久遠様もお気づきかと思いますが、問題は検査方法ではなく……非常に申しわけないのですが。その」
口篭る。とても言い難そうに
それは大赦の人間だったり、天乃側に近い人間だからとかそう言う話ではなく
もっと根本的な何かから来る不快感。
「医者は女性です。それは当然……なのですが、問題は立会人として男性が一人つくという点です」
天乃「えっ?」
「ですから、検査には男性がいるんです。久遠様には縁もゆかりも無い赤の他人がです」
神官の女性の不快感
それは、天乃と同じ女性だからこそのものだったらしい
少しだけ怒気の込められた声を漏らした女性神官は、
取り乱しつつあることを悟って息をつき、「すみません」と冷静に言葉を吐く
だが、雰囲気はまだ、怒り混じりだと天乃は感じた
天乃「えっと……」
何を言えばいいのか、分からない
その男性が立会人として存在する理由はなんとなく想像はつくのだが
そこまでする必要があるのだろうかと……
内心に広がる動揺を抑えるように、天乃は息をつくと
頬を伝う決して良くないぬくもりを拭う
天乃「どうしてか、一応……聞いてもいいかしら」
「何が起きるか分からないから。だそうです。情報の隠蔽や、殺害。妖怪ゆえの意表を突いた出産による異変等……」
天乃「そんなことは無いと、私が約束しても」
「無駄。でしょうね……私も神官である以前に女ですのでそれはさすがにと告げはしましたが、それで何かが起きたら責任は取れるのか。と」
天乃「た、確かに。私はイレギュラーだわ。妖怪との子供だなんて警戒するなと言うほうが無理だと思う。けど、おかしいじゃない、そんなの」
弱った心で声が震える
だが、気丈に振舞えというのは土台無理な話だと思うし、
酷い話だと思わざるを得ない
自分の夫が立ち会うことですら、良しとしない女性も少なからずいる中で
まったく関係も無い赤の他人を招くというのだから
そんな人に、自分の大事にしてきたものも何もかも、晒されるのだから
天乃「せめて、私が心を許せるような――」
「不可能です。赤の他人というのは久遠様に味方することがないようにするためです」
天乃「っ……」
「ですから、問題がある。と」
天乃「五郎くんとの件を盗聴するだけじゃ飽き足らず……私のプライバシーは。もう、あぁもう……」
ポロポロと零れていく涙は拭いきれない
悔しいとか、悲しいとか
もう、そう言う話ではなかったからだ
1、お願い。誰かに会わせて
2、その検査についての話をさせて
3、一人にして
4、大きな戦い……みんなの戦う日に関しては、どうなってるの?
5、貴女は、私の味方なの?
6、なら、検査キットでやらせて
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日、明後日は恐らく投下はありません
なので、再開は木曜日の通常時間を予定しています
大地「まぁ、立会人は俺だけどな!」
晴海「止めて、絶対ダメ!」
春信「仕方がない。ここは私が――」
夏凜「それもダ……いや、あーっ、もう、確かにそれが最善――」
園子「生やせばいいんじゃないかな」
夏凜「は?」
園子「三好さんが生やせば立会人になれるかもしれないよ~?」
風「ふっふっふ……アタシの樹には立派な樹が――」
樹「お姉ちゃん!?」
では、少しだけ
天乃「誰かに会わせて」
懇願するような、声だった
大赦のみならず人類に悪影響を与えるような人間だと言われても信じられないような
そんな、ごく普通の少女のような声で、表情で
「久遠様、それは」
天乃「良いじゃない、別に。誰かに会うくらい、だって……私は検査を見られなくちゃいけないんでしょう?」
そんな屈辱的な
いや、その程度では済まされない醜態とも呼べる姿を拒否権なく強制的に晒されなければいけないというのに
恋人の一人にも会えないのは絶対におかしいと天乃は思う
天乃「皆には話させないつもり? 私の、私は……私」
粗末に扱って良いものじゃない
好き勝手に弄ばれていいものではない
皆の恋人である以上、みんなを幸せにすると誓った以上
身も心も自分ひとりものではないのだ
天乃「この体は、みんなのものでもあるのよ……」
「存じております」
神官の女性は努めて冷静に答えて、頭を下げる
彼女だって、妖怪の子を身ごもっている可能性があるなどの諸問題があるから。ということで
警戒してこの部屋に天乃を閉じ込めていることはやむなしと考えているが
女性としての尊厳を踏みにじるようなその扱いだけは、絶対にあってはならないと思うからだ
天乃「ならっ……お願い……」
「…………」
身体に触れる天乃の手からは恐怖と悲しみが伝わってくる
震えている。泣いている
まだ中学生で子供を……しかも、妖怪の子を身籠って
それで閉じ込められて、人間としての扱いをして貰えない
「お……」
だが、大赦は感情的に動く組織ではない
それで動いていては、本当に犠牲が必要な場面に出くわした時に冷静な判断力を持つことは出来ないからだ
しかし、女性は「恐らく出来ない」という言葉を飲み込む
九尾による干渉を受けているのも一部関係あるのかもしれないが
目の前にいる子供に対して冷酷でいるのは容易くない
それは、たとえ仮面をつけ押し殺すことに神経を注いでいるのだとしてもだ。
仮面の裏で唇を噛み切ったり、寝室で叫び声を上げたり、手相の加工をしていたり
誰もが無神経で、冷酷で、冷徹で、機械のようにいられるわけではない
「お願い、してみますね。検査に男性が立ち会うことは恐らく不可避ですが、その心の準備等が必要だといえば……」
本当に動いてくれるだろうか
それで何かしてきたり、逃げ出したりどうするのか。
そう考える層は必ず存在する。
久遠天乃という存在を強く警戒し、人間ではなくバーテックスと同等の災厄と考え、
プライバシーなど微塵も与えようとしていない部分もある
それを、大赦は人類のためには仕方がないことだと考えている
たった一人の少女を箱に押し込めることで、
あるかもしれない被害を留められるのなら……と。
それは少女達にとっては冷酷だが、人類にとっては致し方ないという考えを女性も理解は出来てしまう
無関係な少女達に暴動を起こさせるほどの力があると知ってしまったのも理由の一つだ
天乃「嫌、会わせてくれなきゃ……嫌よ」
「ええ、努力はします。確約は出来ませんが、私の出来る限り要請してみます」
こうしてこのこのために動こうと思えてしまう
それもこの子の力だと考えてしまうと恐ろしい。と
女性は考え、首を振って振り払う
それでは、非人道的な手段を講じる上層の者達と同じになってしまうからだ
女性のいなくなった部屋で一人、天乃は体を抱きしめる
見られなければいけない、見せなければいけない
健康診断なんて生易しいものじゃない
普段は見せない、見られないようなところまで
何もかも全てを何の関係も無い男性に見せなければいけない
天乃「なんで、なんでよ……」
何でそこまでしないといけないのか
動かない膝を抱えて俯くと、膝の辺りがじわりじわりと濡れていく
勝手に相手を選んで、勝手にエッチをして、勝手に子供を作ったから
それが妖怪との子供だったから。だから、こうなっているのだろうか
いや、だから、こうなっているのだろう
それは天乃も理解できる。が、ならばどうすればよかったのか
そうしなければ死んでいたかもしれないのに。
誰かが選んだ好意もない男性に抱かれ、穢され、子供を産んで死ねばよかったのだろうか
天乃「きっと、大赦にとっては願っても無いことでしょうね」
寿命あるいは病気で厄介な天乃が死に、唯一利用価値のあった力は子供へと受け継がれるから
それを教育し尽くして、手駒にすることが出来る
赤ちゃんからなのだからさぞ簡単なことだろう
天乃「その望みどおりに行かせなかったから……かしら」
もはや笑いたくなってくる自分の境遇
みんなとのことが無ければ死ぬことも躊躇しないのだろうかと考えて――
天乃「っ」
ふと、体を包む温もり、ついさっきまで無かった匂いに気づく
若葉「すまない、驚かせたか……?」
天乃「若葉……」
若葉「一人になりたかったなら、すまない……見ていられなくて、つい出てきてしまった」
天乃「ううん、ありがとう」
若葉の温もりに体を預けるようにして、天乃は目を瞑る
一人ではないと感じられると、少しだけ心が落ち着くから
若葉「まさか、あそこまでとはな」
天乃「向こうの言い分も分からないわけではないのよ……でも」
天乃の言葉の続きそうな口を手で遮って首を振る
言わなくても分かる
というよりも、もう聞いているからだ
若葉「……ここから逃げるのも、一つの手だぞ」
色々と立場は悪くなる可能性も否定は出来ないが
辱めを受けるよりもましなのではないかと若葉は思う
少なくとも、天乃のことのみを考えるなら、
未来よりも今を取るのなら
天乃「でも、それは。ね」
若葉「無理にとは言わない。だが、少しは考えるべきかもしれない」
天乃「…………」
若葉「私達は協力する。賛同もする。だから、そうしたいと思ったら言ってくれ」
逃げ出せば状況が悪くなる可能性はあるが
逃げ出さなくても状況が悪くなる可能性もある
むしろ、良くなる可能性が見えてこないのだ
少なくとも、今の対応を考えれば……天乃を普通の少女として扱う気は絶対にないだろう
天乃「でも……」
伊集院家の評価は悪くなる
この件を持って余計に突き放そうとするかもしれない
そんな不安があって
若葉「天乃自身のことだからな、考える程度でいい」
今は心も弱っているはずだからと
若葉は天乃の体を優しく抱いて、頭を撫でた
√9月6日目 ※金曜日
01~10 可
11~20
21~30
31~40
51~60
61~70
71~80 可
81~90
91~00 可
↓1のコンマ
※白 不可
※ゾロ目特殊
√9月6日目 昼(特別病棟) ※金曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40 球子
41~50
51~60 樹海化
61~70 千景
71~80
81~90 歌野
91~00 沙織
↓1のコンマ
※ぞろ目 特殊
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
女性神官のご報告。
会わせない だったら行くよ 勇者部へ
では、少しだけ
√9月6日目 昼(特別病棟) ※土曜日
若葉「両日とは言わないが、一日くらい。いや、半日くらい会わせてくれてもいいと思うんだが」
天乃「……うん」
委ねるように身を寄せてくる天乃のことを抱きしめながら、若葉はしかし……と、考え直す
自分たちは天乃サイドで物事を捉え、考えているが大赦側で考えた場合はどうなのだろうか
世界を守ってくれている神樹様と結界
その結界を破壊し、神樹様を腐らせる―穢す―事の出来る力を持った久遠天乃という少女
その少女は人間ではなく、妖怪と交わって子を宿した
そう考えれば、
警戒するのは分かるし、恐怖心を抱く気持ちも理解できなくはなかった
しかしながら、その恐怖と不安による天乃への言動
これはどうしても許せるものではない
下手に他人と接触させて傷つけたり干渉しないようにと会わせることを極力避けられ
世界への影響を懸念して何かしらの儀式かなにかに用いられるヒトガタと呼ばれる紙人形に囲まれる部屋に監禁されて……。
大赦の考えで正しいのだとしても、
天乃の影響力こそ真実ではあるが、そんなことをする子ではないと熟知している若葉は許し難く思う
若葉「せめてもう少し、天乃のことを理解してもらえればいいと思うんだけどな」
天乃「無理よ。向こうはその理解を広めること自体が私の力による何かしらの影響力だと考えているんだもの」
若葉「世知辛い……度し難いな」
天乃「そもそも。私の力が怖いんだから、私がいい子ですよーって言ったところで猫かぶりだのなんだの。非難されて終わるわよ」
少しは落ち着いたようで、声は少し明るく穏やか。
楽しめるようなことでは……いや、一周回ってもはや楽しめるのだろう
非難されるといいつつ天乃は苦笑する
若葉「そんな非難する奴は何にも分かっていないな」
天乃「そう――」
若葉「天乃は狐かぶりだ」
天乃「そう言う問題じゃなっ、ちょ、っ」
わしわしと。
整えられていない髪を荒っぽく撫で回す若葉は楽しげに笑って
天乃は抵抗しながら「やめてってばっ」と
冗談だと、悪戯だと、遊びだと分かっているような声を投げつけて。
若葉「ふふっ、まったく。ほんとうに分かってないな」
普通の女の子なのだ
今は力を失っているからなどと言うのはまったく持って関係ない
力があろうがなかろうが、天乃は極普通の女の子
ただ、誰よりも人を思いやる子で
誰かが苦しむのも辛い思いをするのも、痛い思いをするのも嫌で
肩代わりできるのならその全てを引き受けようとしてしまうような子なだけで。
普段は優しくて明るくて、どこか適当で
必要なときは格好良くて、真面目で、強い
若葉「はぁ……」
思い返せば思い返すほど、普通の女の子とは言えないかもしれないと若葉は思う。
だが、本当は
本当は寂しがり屋で、弱くて、怖がりな一面も天乃にはある
だが、その一面を知れば……
若葉「確かに、力の一種とも思うか」
確実に決定を迷わせる何かがそこにはあると、若葉は心の中で呟く
他愛無い話にこのまま映ってしまえればと若葉は考えたが
しかし、意図しているわけではないだろうが、
そんな安寧は許さないといわんばかりに訪問者が訪れたのを察知して
若葉は「誰か来たみたいだ」と天乃に声をかけると
一度体を抱きしめて
若葉「傍にいる。心配するな」
天乃へと優しく声をかけて、姿を消す
それと同時に、朝に訪れていたのとは別の神官が姿を見せた。
見る限り女性ではなく、男性だろう
「…………」
まずは一礼
本来なら前口上を述べるのだろうが、
そこはやはり徹底されている―極力機嫌を損ねないために―らしくやはり口にすることなく
男性神官は天乃の近くへと歩み寄る
そこでようやく、後ろに重なるようにして神官が2人3人と続いていることに気づいて
天乃は思わず不快げに眉を潜める
天乃「今回は珍しく多いのね」
「事前のご報告なくこの人数での訪問、まことに申し訳御座いません」
代表と思しき神官は頭を下げたまま口を開くと、もう少し深く頭を下げてから顔を上げる
跪いたり頭を下げ続けたりと言うのも天乃はあまり好ましく思わないためだ
好ましくないことをしたからどうにかなるわけではないが
大赦の中では対応を誤れば天乃に殺される可能性もあるのだという話が出ているのだから仕方が無い
それはもちろんまったくの嘘なのだが。
天乃もそれを聞いたときには否定したが、その力ゆえの恐ろしさは一人歩きしていて
もはやどうにもならなかったのだ
そして。
天乃「……その人数ということは、私にはあまり嬉しくない話ということね」
天乃を不機嫌にさせる、怒らせる
だから人数を用意して謝罪するし、何かしらの献上もする
「今朝、久遠様のお付の者から話をお受けいたしました件について、ご返答請け賜っておりますため、そのご報告にと」
天乃「それで?」
答えは分かる。聞かなくても
天乃はその不快感を押し殺すように手を握り合わせて、息を吐く
それでも聞かなければいけないからだ
「はい。まことに申し訳ございませんが、久遠様を登校以外での外出させることは難しいと」
天乃「でしょうね……」
「久遠様は通常の子と違い、妖怪の子を――」
天乃「だから外の空気がどう影響するか分からないって言いたいの?」
たった一言挟んだだけで神官全員がびくりと体を震わせる
ほんの一瞬ではあったけれど、それは確かに天乃には見えた
「申し訳御座いません。この件に関しましては前例が無く、我々も慎重な対応を取らねばならず……なにが影響を及ぼすのか分からないため……」
長々と、神官は言葉を並べ立てた
しかし長いにも関わらず内容は簡単で詳細不明、ゆえに下手な手は打てない。ということ
長さが重要と言うわけではないが、
祝詞は長くなることが多いため、そう言った言葉の並べ方になってしまっているのではないだろうか。と
天乃は考えながらため息を付く
幸せが逃げるというのなら、逃げ出せるなら逃げ出して。追いかけるから。と
心の中で呟いて首を振る
天乃「で、私が出るのはともかく、みんなを来させられないのはなぜ?」
「それは、やはり――」
天乃「前例が無いため下手なことは出来ないって話かしら。そう、そうですか。まぁ、でしょうね……みんなが連れ出しちゃう可能性もあるものね」
「そのようなことは――」
天乃「心にも無いこと言わないで」
「申し訳御座いません」
声色がほんの少し変わって、空気が張り詰めると
それを感じ取った神官は深々と頭を下げて謝罪する
その声には必死に押し隠した恐怖があると天乃は気づいて
殺されるかもしれない、死にたくない
そう思っているのが……分かってしまう
天乃「はぁ」
陽乃は。久遠陽乃と言う天乃のご先祖様は、これを常に感じていたのだろう
どれだけ頑張っても認められず、罵倒され
いざ対面すると下手に出る彼らにあるのは尊敬でも感謝でもない。ただの恐怖
それと比べればと天乃は思うが
やはり、比較するべき対象ではなくて、
弱っている心には痛すぎるもので
泣きたい心をため息で押し返していく……やせ我慢
「申し訳――」
天乃「そんな怖がらなくてもいいわよ。信じろとは言わないけど……これでも私は慈悲深いのよ」
冗談めかして言った天乃は、
色々な感情を押し殺した笑みを浮かべて
ふと、握るような温かさを手に感じて正しく笑う
若葉だろうか。
きっと、「何を言ってるんだ」と、笑っているのだろう
天乃「確認するわ。私は登校以外での外出は認められない。なのに、検査は部外者。しかも男性が見る。ということでいいのね?」
「そうなります……」
天乃「そう……なるのね……」
嫌だ。
そう叫べば、怒鳴れば、泣けば
何かを変えてくれることはあるのだろうか
変えなければ殺すことも厭わないと言えば、変えてくれるだろうか
それも……嫌だ
天乃「私の心がどれだけ傷つくかなんて、構わないのね」
「…………」
天乃「一応、私は思春期で。15歳で、女の子で、恋人がいて……でも、そうね」
貴方達にとっては関係無しに化け物よね。
その皮肉を、嫌味を噛み砕いて飲み込む
天乃「っ……」
手に感じるぬくもりが強くなって
その包み込む優しさだけが、寄り添わせてくれる
それが涙を誘うのを感じて、天乃は首を振る。泣くのは、違うと
だけれど、その手は違わないよと、言うようで
「申し訳御座いません」
1、立会い。やめないとその人を殺すわよ
2、夏凜に会わせて。じゃなきゃこの建物ごと全て消し飛ばすわ
3、お願い。辱めを受けるのは我慢するから。だから、夏凜に会わせて。何も無いままじゃ覚悟も決まらないの
4、もう、もういいわ……出て行って
5、みんな……お願い。私をここから連れ出して
6、ならせめて私の知人にしてください。何も知らない赤の他人なんて絶対に嫌……お願いだから人間扱いしてっ!
↓2
√9月6日目 ※金曜日
01~10
11~20 検討
21~30
31~40 特種
41~50 可
61~70 樹海可
71~80
81~90 では、私が立会人になりましょう
91~00 可
↓1のコンマ
※白 不可
※ゾロ目特殊
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
なお、日曜日の再開は遅くなります
天乃「お願いだから人間扱いして!」
「解りました」
天乃「え?」
「ただし――」ガシッ
天乃「!」
「相応の対価は支払ってください……意味は、解りますね?」ニコッ
九尾(などということは流石にありえぬか)
九尾(……陽乃にはあったが、その愚か者を殺そうとしておったのう)
九尾(いや、人間扱いを求めたのではなくして欲しければと言われただけじゃからのう。当然の対処じゃな)
では少しだけ
天乃「っ」
謝られることが不快だった
どうしようもないというのが嫌だった
その覚悟を決めるための接触でさえダメだというのが許せなかった
その怒りと悲しさと、憎さが天乃に願いを吐露させる
天乃「なら、せめて知人にしてください……っ」
天乃は力があっても使うことはないが今はそもそもその力が無くて、
いざという時の手段が若葉たちの手を汚させることになる天乃は
どうしても、誰かに会わせてもらって覚悟を決めるか
誰か、自分が少しでも許せる人にしたかったのだ
天乃「何も知らない赤の他人なんて嫌なの……絶対に嫌なの!」
「久遠さ――」
天乃「お願いだから人間扱いして!」
弱くなった心では止めきれなかった涙を流す天乃は
叫ぶように声を上げて、頭を抱える
誰かが体を抱きしめてくれているのが分かる
なのに、体はどうしようもなく震えてしまう
以前、キスだけとはいえ天乃は同年代の男子生徒に襲われた経験がある
それによって
男子生徒との距離が開くとか嫌悪するとか触れられなくなったとか
そういったことは無かったのだが、それは天乃を支えてくれる人がそのとき傍にいてくれたからで
まだ、天乃の心は耐えうる強さを持っていたからだ
今はその心の強さが無い。だから、体が震える
怖くて、嫌で、非情さが悲しくて。
天乃「お願い……お願いだから……っ」
「…………」
神官たちが仮面越しに顔を見合わせて、少しの沈黙
少女の零す小さな嗚咽、鼻を啜るような音が部屋に響く
目の前にあるのは少女の演技
狐に化かされているのではと、疑う部分もある
だが、どうしても心が揺れてしまうのだ
それは大赦にとって不適切だと分かっていても
少女に対して今の自分達の接し方は本当に正しいのかどうか
そこに迷いが生じてしまう
そして――
「わかりました」
神官は承諾の言葉を口にする
「約束は出来かねますが、出来うる限り話を通すとしましょう。ただし、大赦に通ずる人間に限ります。それはご了承いただけますね?」
天乃「他人じゃないなら、なんでもいいです……」
「それでありましたら――」
本当にいいのか。大丈夫なのか。何があったのか
神官達が口々に話し始めるが
中には天乃に同情的な言葉も混じっていて
女の子にとっては……という一言が場に広がった波紋をかき消す
「それでありましたら、久遠様の知人にいたします。精神的な苦痛も何かの引き金になってしまう可能性はありますから」
そんな今更なことを言って、神官たちは一礼してからぞろぞろと退室していく
その全てがいなくなって、天乃が少し落ちつきを取り戻し始めたところで若葉がまた姿を見せた
若葉「大丈夫……じゃないな」
天乃「ごめん……ごめんなさい……」
体を寄せる。全てを委ねる
擦れる服を強く握り締めて、涙をしみこませていく
一度泣いてしまったら止められない
今はただ、優しさと温もりに包まれていたくて
若葉はそれを受け入れるように抱き寄せる
人間扱いして欲しいという叫びなんて、この時代、こんな弱弱しい少女に決して言わせてはいけない言葉だ
それを言わせた組織
それの過去を自分達が築いたという事実
その嫌悪感を噛み締めながら、若葉はただただ。天乃を包み込む
過去、似たような状況にいた少女に出来なかった分を、してあげるかのように。
√9月6日目 夕(特別病棟) ※金曜日
01~10
11~20 沙織
21~30
31~40 樹海化
41~50 夏凜
51~60
61~70
71~80 千景
81~90
91~00 九尾
↓1のコンマ
※ぞろ目 特殊
ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば平日通常時間から
最悪出来ない場合があります
若葉「今回はすまない……助かっ」
陽乃「貴女達を守っているわけじゃない。倒すべき敵の前に貴女達が居ただけ」
若葉「待――」
陽乃「そんな勘違いで一々御礼なんて言いに来ないで」
若葉「だがっ」
陽乃「私は感謝も尊敬もされたくないし信頼なんて虫唾が走るのよ」
陽乃「私はただ私が不幸なままで終わるのが気にくわないだけでしかないんだから」
陽乃「数の一つですらない……小数点以下だって割り切ってって言ってるでしょう!」バンッ
では少しだけ
√9月6日目 夕(特別病棟) ※金曜日
天乃は殆ど無気力な状態で端末を取り出すと、
スリープ状態を解除して時間を確かめる
昼は過ぎ去り夕方……その中でも夜に近い夕方と呼べてしまう数字を見つめて
天乃はため息をつく
あれは天乃にとってお願い。だったが
しかし、それは言い換えたものでしかなく我儘に他ならないとも天乃は思う
もちろん、そう考える必要があるわけではないし
こんな状況で、あんな条件を呑めという方がおかしいのだが。
天乃「約束は出来ない……って、言ってたけど」
もし本当に無理な話で、やっぱりできないと言われたら……
そう考えた天乃の握り合わせた手に、別の誰かの手が重なって
千景「少しは考えるのを止めた方が良いわ」
千景の優しくどこか冷たさを帯びた声が天乃の目を奪う
天乃「千景……」
千景「考えることは必要だけど……久遠さんは少し考えすぎている気がするわ」
今までもそんな傾向にあったが、
その時はまだ抑え込むほどの力強さが天乃にはあったから問題がなかっただけで
普通の少女と変わらない
いや、むしろ弱くなったと言える今の天乃には
その過剰な思考は毒でしかないと千景は思う
千景「手に余ることを考えても、答えの得られないもどかしさを感じて、苛立ちを覚えて。勝手に切羽詰まって焦るだけだわ」
天乃「……誰かの受け売り?」
千景「ゲームって、凄いのよ」
天乃「またゲームなの?」
表情こそそこまで変わらなかったが
どこか自慢げに言う千景の姿に天乃が笑みを零すと、
千景も重なるように笑って天乃の手を握る
若葉がしていた時と同じように。
千景「でも、私は間違っていないと思う。久遠さんは今、余裕がないでしょう?」
天乃「それは、そう。なんだけどね」
そうだ。確かに余裕がない
しかし、
考える前から検査には赤の他人が立ち合うという嫌な条件があり、
なのに誰にも会わせてくれないという制約があり、
ようやく手にした可能性を考えるなというのは聊か難しい話なのもまた、事実
天乃は千景の言うことも分かっているから嘲笑を含んだ笑みを浮かべながら
千景から眼を逸らして自分の手を見つめる
手に入る力が少しだけ強くなったのを感じた千景は思わず、天乃の名前を呟く
天乃「怖いじゃない。良いように考えて駄目だった時の絶望感とか」
千景「…………」
天乃「考えるのから逃げていざ駄目だった時の……なんの準備も出来てない状況で向き合う現実とか」
酷い話よね。と天乃は笑う
天乃「悪く考えるだけでも嫌だし、怖いのに。それから逃げたら結果が二倍になってのしかかってくるのよ?」
千景「良い答えが貰えるかもしれない。そうしたら……そう考えることも。結局は」
天乃「ええ。それが所謂ネガティブ思考ってものなんだろうけど。ほら、私って風当たりが強いから希望が持ち難くて」
千景「久遠さんは良く、みんなをポジティブに考えさせる人だと私は思っていたけれど……」
天乃「実は、自分で考えられないから誰かに考えて貰っていたのかもしれないわね」
そんな策略を張り巡らせていた覚えはない
誰かの考えを考えようとしていた時はその人たちのことを考えているだけだ
そういう時はこう考えるべきだ、こうするべきだという自分なりの考えを伝えていただけだ
天乃「なんて……ね」
千景「穢れは全身から少しずつ抜けて言っているはず……だけど」
千景はそう言いながら天乃の頬に触れ、
赤く染まっている左目をじっと見つめる
天乃「千景……?」
自分が見られているとは分かるが、見切れて見える千景に声をかけると
千景は少しだけ、笑みを見せる
千景「分からないと思うけど、少しだけ色が抜けて来てるわ」
天乃「そうなの?」
千景「そう。だからきっと大丈夫だと思うわ。もしも駄目だったとしてもその時は私達がいる。でしょう?」
それはつまり強硬手段を取るということに他ならない気がするのだが……
1、じゃぁ、千景が私を慰めてくれるのね?
2、駄目だったら……付き合ってくれる?
3、そうね……私が駄目でもみんなが駄目なわけじゃないものね
4、優しいわね。千景は
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間より少し早くから
九尾「向こうに帰らなくてもよいのじゃぞ」
九尾「少し離れではあるが、力のある場所は他にもある」
陽乃「……私の力が正しいなら。南と北の方?」
九尾「うむ。そうじゃ。行くか? 別に、この地を守る義理も無かろう」
陽乃「…………ううん。」
陽乃「一応は育った土地だもの。戻るわ」
では、少しだけ
千景の見せる笑顔に、天乃は笑みを浮かべて見せると
一瞬、考え込むように目を伏せて、「それならさ」と声をかける
天乃「駄目だったら……付き合ってくれる?」
千景「付き合うって……」
千景は照れたりすることなく、
どこか呆れたように呟きながら天乃へと目を向けると
察したため息をついて天乃の体に手を押し付ける
千景「久遠さんは、いつもそうね」
天乃「やっぱり……ダメ?」
上目遣いでの要求
それは拒絶を許さないというような強制力があるように感じたが、
しかし、千景はそれを振り払うように「久遠さんは」と言う
天乃は別になんの意図もないのだろう
付き合う。という言葉だって恋愛的な意味なんてない
この上目遣いだってただ単に天乃横になっているからでしかない
だが、そんな風に思わせるものが天乃にはあるのだ
千景「久遠さんはそうね。いつも……無自覚で」
天乃「え?」
千景「何でもないわ。良いわ。もしも駄目だったら付き合うわ。最後の最後まで……どこまでだって。何にだって」
失敗しようが成功しようが、そのつもりだったのだから
何もかわることはない
千景「久遠さんは男子にも同じような態度を取れば凄いことになりそうね」
天乃「そうかしら?」
千景「ええ」
付き合ってもいないのに勝手に付き合っていると思って距離感がおかしくなる人とか
自分の彼女だと言い出して争いになるとか
ゲームの設定ならありえるだろうかと千景は考えて首を振る
そんな良く分からないゲームはきっと売れないだろう
少なくとも、道徳教育が強く行われているこの世界では。
千景「私が男子なら間違いなく、久遠さんに詰め寄っていたわ」
天乃「えっと――」
千景「待てよ天乃」
ボフリ。と、
間の抜けたような頼りない音ではあったが、
横になっている天乃の頭のすぐ横に勢いよく手を突いた千景は、
長い髪が垂れるのもお構いなしに天乃を見下ろす
天乃「え? えっ? ち、千景?」
千景「なら、今から付き合えよ。じゃなきゃ……俺はお前の望みが叶わないようにって願っちまうだろ」
天乃「あの、えっと」
困惑する天乃の頬に手を宛がって、距離を近づけていくと
天乃「ごめ――」
天乃はすこし怯えた様子で、期待しているのではなく恐怖から逃れるように目を瞑って――
千景「なんて、冗談が過ぎたわ。ごめんなさい。ただの冗談よ」
頬に触れていた手で天乃の頭を優しく撫でた千景は、
そうっと天乃から距離を取っていく
勘違いさせる天然ヒロインに対する男からの飛び越えるような距離感のつめ方を演じただけ。
ゲームのヒロインは照れるだけだったり
好感度が足りていないと怒られるだけで終わる
もちろん、天乃のように怖がってしまうヒロインもいるが……
千景「そういうルートはCG回収……じゃない」
明後日の方向に消えていきそうな頭を振り、
考えを正して天乃を見つめた千景は息をついて、天乃の頭からも手を離す
千景「過ぎた悪戯だったわ。久遠さんがどうも……無自覚だから」
天乃「ちょっと怖かったわ」
千景「なら、次からはもう少し気を付けた方が良いと思う。色々……無防備だから」
言動もそうだが、雰囲気が緩いのだ
気を張っていたり、勇者の時はまるで隙は無かったのだが
今となっては軽く押し倒したりできるんではないだろうかと思って
あわよくば。とも思えてしまう
もっとも、他人がそれをやったりしたら大変という言葉では収まらない
凄惨な事件が起こることは不可避なのだが。
千景「とにかく、きっと大丈夫。駄目でも付き合うから……久遠さんはあまり悩まない事ね」
天乃「……うん」
√9月6日目 夜(特別病棟) ※金曜日
01~10
11~20 大赦
21~30 沙織
31~40
41~50 夏凜
51~60
61~70
71~80 九尾
81~90
91~00 君可愛いね。一緒に樹海化しない?
↓1のコンマ
※ぞろ目 特殊
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
沙織「久遠さんと初めて出会ったのは小学生の時なんだ。神託がきちゃってね」
沙織「戦えて、神託を聞ける優秀なハイブリットは何でもできて、優しくて、人が良くて、あたしの手助けも支えもいらなくて」
沙織「正直、妬ましいと思ったし、好きになれないなと言うのが、第一印象」
沙織「でも、小学生がサポートとして勇者のお役目につくとなった時の焦りと、怒り」
沙織「大丈夫だからね。と、いうたった一言のために血を吐き寝る間も惜しんでの努力を見て」
沙織「あぁ、この人が出来るのは他人の事であって自分の事じゃないんだなぁって」
沙織「自分のことは誰かが。そう、あたしがやってあげないといけないんだなって……いつの間にか思うようになっていったんだ」
では、少しずつ
√9月6日目 夜(特別病棟) ※土曜日
天乃「もう夜……なのよね」
誰に聞くわけでも無く呟いた天乃は、
自分の端末で時間を確認すると深くため息をついて、額に手を宛がう
一日中景色の移り変わりが希少なこの部屋にいると、時間の感覚が狂うのだが
果てには精神的におかしくなってしまうのではないかと思いつつ、
指の隙間から見える白い人形の列を睨む
天乃「……五郎くんと子供を作るからだぞ。とか言いたいのかしらね」
そんなことをしたからこんなところに閉じ込めるんだ
二度とやるな。やらなければこうはならないのだから
天乃「なんて」
はっきりとそう言われているわけではないが、
そう言われているようなものだと天乃は思って、苦笑する
こんなことを考えていてはまた千景が出て来てしまうし
今度はきっと怒られると――
コツンッっと、床に響くような足音が聞こえ
考えを両断するように扉が開かれ、誰かが部屋へと入ってくるのを感じて
天乃は侵入者へと目を向ける
神官の装いをした誰か。失礼しますも何も言わない
天乃「……貴方、誰?」
その神官らしからぬ無言の接近に違和感を覚えて、問う
「…………」
神官は答えない
答えないまま天乃へと近づくと
じっと見降ろして、ゆっくりと手を上げていく
天乃「な、なに……なんなの」
仮面に触れるのか、フードに触れるのか
それとも天乃へと振り下ろすのか
まだ行先の不確かなその手に一瞬だけ目を向けて
また、表情の見えない仮面へと天乃が目を向けようとした瞬間
手が天乃の方へと動いて――
天乃「やっ」
天乃は思わず声を上げ、頭を庇うように手を上げる……が
神官はその細腕を超えて天乃の頭に触れる
「そう怯えんな」
天乃「っ」
仮面越しでくぐもってはいるが
間違いなく、聞いた覚えのある声
天乃に触れていない方の手は仮面に触れ……そして
夏凜「こうじゃないとなかなか誤魔化し効かないのよ。あんたの精霊みたいな便利な力が欲しいもんだわ」
一番会いたかった人の苦笑いが見えた
天乃「な、なんで?」
夏凜「丸一日こんな場所じゃぁ、外の世界を知ったあんたには辛いと思って」
天乃「慣れてるわよ。これくらいなら」
夏凜「どーだか」
わしゃわしゃと乱雑に天乃の髪を撫でた夏凜は、
唐突に笑みを崩して天乃から眼を逸らす
この部屋に閉じ込められるのは確かに、慣れているだろう
この部屋だけじゃない
どこかに一人ぼっちで―精霊はいるが―監禁されるのは
今や、天乃にとっては日常の一つになりつつあるからだ
しかし、それでも天乃が不快だというのは変わりがないし
その気持ちを紛らわせるために来たというのも、理由の一つ
だが……
夏凜「……聞いたわよ」
天乃「え?」
夏凜「妊娠検査。立会人が就くんでしょ? しかも男」
天乃「誰に聞いたの?」
夏凜「天乃の精霊の中の誰か。でもま、あんたの為にしたことなんだし身勝手は許してやりなさいよ」
天乃が怒るつもりはないと知りながら
夏凜は冗談めかした様子で呟いて天乃へと笑みを向ける
夏凜「だから来たのよ。あんたはそう言うの、絶対嫌がるだろうと思って」
天乃「…………」
夏凜「なのに、大赦は絶対にそれを変えないだろうと思って」
少しずつ、距離を詰めていく
天乃「ちょ、かっ」
ぐっと天乃の体を押した夏凜は
天乃の体をベッドに押し付けながら唇を触れさせる……ようなそぶりを見せつつ
そのすぐ横に顔を落として、天乃の身体を抱きしめる
夏凜「私自身がそんなこと、許せないから」
天乃「夏凜……」
夏凜「あんたの恋人に見せるってなら私は我慢する必要はないし、許せる」
でも、そんな関係にない赤の他人に見せるなんて言うのは
到底許せるようなことではなかったのだ
天乃だけでなく、夏凜も。
夏凜「男が天乃のこと見たらただでは済まないと思うわけよ」
天乃「そう、かしら」
夏凜「白い肌、引き締まった腰回り、膨らんだ胸、男との触れ合いなんて微塵も感じない下腹部……やるしかないわ」
天乃「男の子ってそんなに性欲に正直な生き物なの?」
困惑の色を見せながら苦笑する天乃に
夏凜は「知らないわよ」と苦笑する
夏凜には兄がいるが、そんな人間ではなかったし
天乃の兄も知ってはいるが、
あれは色んな意味で規格外の人間であるため
男の子として考えることは出来ないからだ
もちろん、考えてしまったらもう
男の子は性欲に正直なものになってしまうが。
夏凜「少なくとも私は、あんたに対しては正直だけど」
天乃「っ……」
口元へと指を滑らせ、くっと下顎を上げさせていく
視野は狭く、夏凜は大きく
天乃の視界は極端になって
夏凜「それで……なんだけど」
天乃「?」
夏凜「ここから連れ出されたいなら、拒否して」
天乃「そ、れは」
夏凜「このまま、まだ不明な知り合いに検査を見られるのを受け入れられるなら。私も受け入れて」
天乃「そんな……答え方」
1、キスをする
2、キスをしない
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
九尾「勝手なことをしおって」
千景「会いたいときに会えない辛さを思い出させたのは貴女でしょう?」
九尾「…………」
千景「あのままでは久遠さんの心は耐えられなくなる。それじゃ、久遠さんが未来を選んだ意味がない」
千景「だから私は三好さんを連れてきた。あの日、高嶋さんと話せずに壊れた私と同じ道を、彼女が歩んでしまわないように」
では少しだけ
逃げるのなら、キスは出来ない
受け入れるのなら、キスを出来る
夏凜の示した選択肢は意地悪で
けれど真っ当なものなのだと天乃は思う
嫌なことから逃げる分、得られるものは少なくなって
嫌な事にも向かい合う分、得られるものは多くなっていく
天乃「……夏凜」
静かに名前を呼んで夏凜の首に手を回した天乃は、
そのまま、夏凜の唇に唇を合わせる
触れ合うだけ。息継ぎもいらない軽いキス
天乃「大丈夫、私は受け入れるから」
夏凜「そ……無理はしてない?」
天乃「しないことはできないわ。これは我慢する方向だから」
夏凜の声は穏やかで、いつもの強さのあるものではない
けれど、だからこそ言いやすい
風に対しての冗談めかした態度や、友奈達へのちょっぴり厳しい態度
そう言ったものとも違うから、ちゃんと受け止めてくれると感じるから
天乃「でもね、ここで逃げたら無駄になっちゃうから。沙織が頑張ったことも、私が頑張ったことも、みんなが頑張ってくれてることも」
大赦からの心証は今までも今も決して良いとは言えないし
化け物と言う評価に歪みこそないが
大人しくしている分、多少のことは許されるようになっていってくれるはずだし
交渉の幅も広がっていってくれるはずなのだ
天乃「でもね……赤の他人だったら、逃げてたかもしれない」
何とか交渉して、赤の他人じゃない知人男性にして貰うことが出来た
だから、我慢が出来る
だけど、それは一歩退いたようなものだから
天乃「キスは、これだけ。ね」
ほんの軽い、気のせいかと思うほどのキス
それだけでいいのだと、天乃は笑う――けれど
天乃「っ!」
ぐっと天乃の手を抑え込んだ夏凜は唇を天乃の唇に強く重ねて、数秒
驚く天乃の顔を見つめながら離れて、深く息を吸い込む
夏凜「赤の他人なんて、あんたが我慢するって言っても私が我慢できるとは限んないわよ」
ついさっきも似たようなこと言ったけど。と
夏凜は茶化した笑みも無く言うと、天乃の頬を包むように手を宛がう
夏凜「あんたはそこで諦めなかった。逃げなかった。どうにかできないかって、抵抗した」
涙の跡は無い。けれど
そこを流れる涙を拭うように死ながら、
夏凜はそうっと、天乃の唇に近付いていく
夏凜「だから、あんたはもっと欲張って良いのよ……お疲れ。天乃」
少し強く、深く。
舌との交わりこそ無いが、決して浅くも易くもないキス
唇同士が絡み合う長い接吻
呼吸さえも忘れて、ゆっくりと離れると
飲み込めなかった糸が伝って熱の篭った吐息が溢れる
体はほんのりと熱くなる
少しだけ求めたくなってくる
天乃「っは……」
夏凜「っ、ん……ったく」
熱っぽい声が頬に当たって
眼下には火照りに染まった天乃の顔
搾り出されていく水分に潤んだ瞳
微かに滲んだ汗
夏凜「あんた、エロいわ」
天乃「はっ!?」
夏凜「どうせ明日も会えないんでしょ? もう少し頂戴」
天乃「ちょっ、かっ……そこ首ぃっ」
さながら吸血鬼のように
しかし歯を立てることなくキスマークを刻むように夏凜は吸い付いていく
天乃「んっ……くっ」
キスではあるが、接吻ではないのに
いや、それだからこそ口から零れ出る甘い吐息を抑えるように
天乃は口元へと手を宛がって
その堪えている姿が、身悶えている姿が
また魅惑的なのだ
夏凜「っは……ふっ。風に犬先輩とは言ってるけど」
これじゃ自分が犬みたいだと
天乃を楽しみ、口元から覗く舌から垂れていく唾液を目で追いながら
夏凜は皮肉を心にとどめて笑う
でも、欲しいのなら仕方が無い。と
夏凜「明日の分まで、嫌な思いをする分まで。楽しみましょ」
天乃「んっ……っ!」
長い夜は、まだまだ続く
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流無()
・ 犬吠埼樹:交流無()
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流無()
・ 三好夏凜:交流有(受け入れる)
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流有(付き合って)
・ 伊集院沙織:交流無()
・ 九尾:交流無()
9月6日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 78(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 64(とても高い)
結城友奈との絆 91(かなり高い)
東郷美森との絆 96(かなり高い)
三好夏凜との絆 116(最高値)
乃木若葉との絆 86(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 34(中々良い)
沙織との絆 92(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
汚染度???%
√9月7日目 朝(特別病棟) ※日曜日
01~10
11~20 沙織
21~30
31~40 九尾
41~50
51~60 樹海化
61~70
71~80 春信くん
81~90
91~00 大赦
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
東郷「久遠先輩は反応が性的だわ」
風「天乃はキスした後の息遣いがもう……ゴクリって感じなのよねぇ」
樹「でも、たまには攻めに転じて欲しいなー……なんて」
夏凜「いや、天乃にそれは無理でしょ。じれったくてすぐに逆転するっての」
友奈「でも、あんまり上手じゃなくても一生懸命にしてくれる久遠先輩って、すごくかわいいと思う」
若葉「なら、試しに天乃から来てくれないと何もしない。と、言ってみるのはどうだろうか?」
沙織「さーんせーい!」
千景「……久遠さん。強く生きて」
では少しだけ
√9月7日目 朝(特別病棟) ※日曜日
「おはようございます、久遠様」
昨日と違って―と言っても昨日が特殊だったのだが―いつもの女性神官が朝から姿を見せ、
心なしか少し明るい声色で挨拶を述べ、一礼する
大赦側の人間が嬉しそうにしているというのは天乃にとっては警戒してしまうもので
険しい表情を浮かべる天乃に、
女性神官は「心配しないでください」と
感情を強く含んだ苦笑を溢してまた礼をする
それでも
仮面で表情が見えない分の怖さはぬぐえないが。
「伺いましたが、どうやら久遠様のご要望は問題なく許可されると」
天乃「……そう」
「嬉しく、無いですか?」
天乃「ううん。そういうわけではないわ。ただ……」
昨日の延長線上の話ならば、
昨日と同じくあの数の神官たちが姿を見せ、
誰が宛がわれるのか、どのようなことになるのか
それを話すことになるはずなのに
いつもの女性神官の簡単な報告になるという野には違和感があったのだ
天乃「……いや、あそこまでしちゃったら。意味がないってなる。かな」
泣きつき、揺れ動かないような心を思いっきり揺らしたのだ
彼らに任せようが、女性神官に委ねようが
もはや何も変わらないと判断されたのかもしれない
もしもそうなのだとしたら、
大赦からの心象は悪くなる一方と言うことになってしまうが
今回のことに限っては仕方がないことなのだと
天乃は考えを切り替えて、息をつく
天乃「それで、誰になるの?」
「はい。それに関してですが、久遠様のお知り合いで久遠様に誘惑されないであろう男性となりますと……」
天乃「?」
女性神官は話しながら資料を二枚ほど取り出して
天乃の手元へと差し出す
一つは、沙織の婚約者となっていたちょっといいところの男性
一つは、夏凜の兄である三好春信
「お二人のどちらかとなります。そもそもの話ですが、大赦内部における男性の知り合いと言うのが、久遠様には決して多くないのです」
もちろん、二人以外にも数名いるにはいるが、
欲情してしまう―魅了されてしまう―可能性があるものばかりで
残念ながら選択肢からは省かれたのだ
「……言葉は悪いですが、伝えられた言葉をそのまま言えば、意志の弱そうな男性は久遠様が性的に誘って味方につけるだろう。と。考えているようで」
天乃「そんな節操のない人間なら、男性が立ち会うことになんて感心も示さずに受け入れているでしょうね」
むしろ、自分からどうぞ。と、迎え入れたりするのではないだろうか
そんなことを考え、大赦にとって自分はそういう人間なのだろうか。と、天乃は思って
天乃「監視しておきながら、何もわかってないのね」
「……申し訳ございません」
悲し気に呟いた天乃に、女性神官は謝罪を述べながら深く頭を下げる
もっとも、女性神官は他と比べれば分かっている方なのだから
彼女に謝られても何の意味もないし
大赦はきっと天乃を理解しようとはしないだろう
言ってしまえば、化け物の心を理解することなんて出来ないし、意味などないのだから
天乃「それで、このどっちかから私が選べばいいの?」
「いえ、それでは全く意味がありませんので、こちらが選定いたします」
天乃「……? なら、なぜ今のうちに報告しに来たの?」
このどちらかから選べ。と言うのであれば、
まだ未定なうちに資料を見せてくる理由にはなるが
そうではないにもかかわらず候補者を見せられても天乃にはあまり意味がないのだ
こっちがいいと思っても違う結果になるだろうから
いや、むしろその反応を見て別の相手を選ぶという意地の悪いことをする可能性もある。と、
天乃は疑いながら女性神官に目を向けるが
彼女は「それはですね」と、さっきよりもトーンの落ちた声で会話を続けて、息をつく
それはため息だ
とても呆れていて、緊張感をどうにかしようとしているため息
「実は、この二人に監視を行っている際に入手した久遠様の、その……」
天乃「なに?」
監視している際に入手した
その言葉だけで絶対に喜ばしくないものであることは確定したのだが
天乃はどうせ聞かないわけにはいかないのだろうと先を促すように声をかける
しかし、女性神官は一度開いた口を閉ざし、首を振って
仮面に手を触れながら何事かをぼそぼそと呟く
天乃の耳は良い方だが、流石にささやき程度の声が仮面によってぐちゃぐちゃに乱れていては聞き取れない
「実は、ですね」
天乃「うん」
「入手した久遠様の淫らな映像を……お二人に見せることになります」
天乃「は……? なに、それ」
「それで問題ない反応を示した方にお任せすることになります」
待って。ちょっと待って
そう言った天乃は動揺に纏まらない頭を振って息をつく
それでも落ち着けないままに「待ってよ……」とまた零して
天乃「それ、拒否権は」
「ありません」
天乃「それ、消して貰うことは」
「出来ません」
申し訳ありません。
そう言った頭を下げる女性神官から眼を逸らした天乃は
握り合う自分の手を見下ろして、ため息を吐き出して
落ち着け、落ち着け。と、またも泣きそうな自分を何とか制する
泣きすぎだ
「知らないところでそれをされるよりも、知っておくべきかと思いまして」
天乃「……そう」
受け入れると昨日、決めたばかりなのだ
夏凜と触れ合って、ちゃんと……逃げないと決めたのだ
内容も醜態も多少違いはあるが
自分の生の姿を見せる相手なのだから、
もはやそれも仕方がないことだと割り切るほかない
天乃「はぁ……」
1、それ私も一緒に見られない?
2、その2人と会えない?
3、分かったわ。もうそれでいいから……
4、ねぇ、そこまで教えてくれるなら私の盗撮はどこまでされているか教えてくれない?
↓2
√9月7日目 朝(特別病棟) ※日曜日
01~10
11~20 可
21~30
31~40 可
41~50
51~60
61~70 可
81~90 可
91~00
↓1のコンマ
※空白は不可
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
沙織「……AVって実は Amano Vich の略称なんだよね」
風「え……マジ?」
友奈「東郷さん、ビッチってなぁに?」
東郷「私や伊集院先輩のような人のことを言うのよ」
樹「東郷先輩正直すぎませんか!?」
夏凜「ま、事実だし。けど……天乃は違うでしょ」
若葉「そうだな」
千景「どちらかと言えばvirusだわ」
歌野「天乃ウイルス……感染者はレズビアンになる」
では少しだけ
大きくため息をついた天乃は、不安がにじみ出る神官を一瞥すると
その不安を否定するように首を振って
天乃「ねぇ、その二人と会うことはできないの?」
当然の疑問を投げかけた天乃だったが
しかし、どうせ出来ないんだろうと想っていた
というのも、大赦がそれを許可するほど自分に優しい組織ではないと理解しているからだ
そもそも、何をするのか分からないという理由で監視や監禁等を行っている相手に
重要な案件の候補者への接触等を許してくれるわけがない
「申し訳ありません。事前に伺ったのですが、やはりそう言ったことはさせられないと」
天乃「やっぱり」
「すみません」
天乃「別にいいわ……そうだろうとは思っていたし」
女性神官の話をうのみにするのなら
彼女は決して悪くはないし
むしろ、天乃の考えを先に読んで話を聞いておいてくれたのだから
天乃「でも、そう……私の妊娠検査どころか。エッチしてるところまで見られるのね」
「……はい」
天乃「それは他に誰か見るの?」
「一応、内容は女性が確認します。あとは対策するためにと」
女性神官はそこで言葉を区切ると、
言葉を躊躇ってか息を飲んで仮面ごと天乃以外のどこかへと視線を向け、息をつく
天乃に対して何かしら、後ろめたいことがあるのかもしれない
とはいえ、そんなのは今更だと天乃は思って困ったように眉を顰めた
「すでに数名の職員が目を通しています。男性も女性も」
天乃「あー……そうよね」
思えば悪五郎との行為のすぐ後に、
そういうことをされたために。と言うような理由で監禁されることが告げられたのだ
見ていないわけがない
むしろ、リアルタイムで見ていて
惨めで滑稽で淫乱で勇者を毒した悪女に思えたことだろう
天乃「貴女は見たの?」
「い、いえっ。私は」
女性神官は慌てて否定をすると、
相当焦ったのか仮面をしていることも忘れて頬の部分を指で掻こうとして
仮面に気づき、また慌てて手を引っ込めると「すみません」と言う
「私は見ていません。確認はしようと思いましたが、その……見た人曰く魅了の力に毒されるからと禁止されたんです」
天乃「なにかあったの?」
「しばらく発情してある意味で発狂し、手が付けられなくなる。と……その際に無事だった女性がいたのですが、彼女が映像越しでも力の影響はあると教えてくれて」
実際に後処理が大変だったのでと言った女性神官は
その大変さを思い出したように疲れた声を出す
天乃はその無事だった女性と言うのが気になったが
それを察したのだろう
「その女性の名前や所属を聞きそびれてしまって……なぜだか容姿の記憶も曖昧で再会できそうもなく」
天乃「……そう」
天乃「2人は見ても平気なの?」
「いえ、むしろそれを見て平気でないのなら任せられないというのが正直なところです」
天乃「二人とも駄目だった場合は?」
「その時は……より軽症な方をと言う手はずになるかと思います」
天乃「中々強引ね」
天乃の呆れた笑みとため息に女性神官も同意したように苦笑を溢して、
そこまでするなら久遠様の恋人の方が適任だと思うのですが。と
天乃よりの意見を述べて
天乃「それ、聞かれたら大変よ?」
「大丈夫です。私がどちらかと言えば久遠様側の人間であることは周知の事実ですので」
天乃の笑みに女性神官は少しだけ上ずった明るい声で答えると、
そろそろ戻らないと心配をかけてしまいますので。と告げ、一礼して部屋を去っていく
天乃「……春信さん。せめて、夏凜のお兄さんの精神を壊すのだけは避けたいわ」
夏凜は仕方がないというだろうけど
それでも、大切な兄なのだから……壊すのも穢すのも嫌だと
天乃はどうしようもないという自覚を持ちながら、ため息をつく
√9月7日目 昼(特別病棟) ※日曜日
01~10
11~20 樹海化
21~30
31~40
41~50 九尾
61~70
71~80 若葉
81~90
91~00 沙織
↓1のコンマ
√9月7日目 昼(特別病棟) ※日曜日
1、精霊組
2、勇者組
3、端末関係
4、イベント判定
↓2
√9月7日目 昼(特別病棟) ※日曜日
01~10 若葉
11~20 九尾
21~30 沙織
31~40 歌野
41~50 球子
51~60 樹海
61~70 千景
71~80 友奈
81~90 東郷
91~00 夏凜
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
東郷「待って友奈ちゃん!」
友奈「東郷さん。止めても無駄だよ」
友奈「久遠先輩の尊厳を踏みにじることを許すくらいなら、久遠先輩の心を傷つけるくらいなら」
友奈「久遠先輩を犠牲にするくらいなら――私はこの壁を壊して、全てを終わらせる!」ドンッ
東郷「違うわ……私にも壊させてって、話よ」
友奈「東郷さんっ!」
夏凜「おーい待て待て待てぇーっ!」
では、少しだけ
√9月7日目 昼(特別病棟) ※日曜日
天乃「ん……」
何もすることが無い上に
心を疲弊させる大赦からの嫌がらせのようなやり方を目の当たりにし
その疲れを癒そうと昼寝をしようとしていた時だった
遮るような端末の震えを感じて、天乃が目を向けると
友奈の名前が表示される。それも受信中ではなく、着信
電話だと気づいてすぐに通話を開始させると、
少しだけの沈黙を置いて「友奈?」と天乃は声をかける
友奈『こんにちは、久遠先輩っ。今大丈夫ですか?』
天乃「平気だけど……」
出来る限り連絡はメールにして欲しいと天乃は言いかけて、飲み込む
電話越しゆえの微妙な感じ方の違い方かもしれないが
友奈の声にはどこか不安が混じっているように感じたからだ
天乃「どうかしたの?」
友奈『その……夏凜ちゃんから話を聞いたので』
天乃「あぁ……もう、夏凜も口が軽いんだから」
天乃は特別怒った様子はなく
むしろ笑い話のように苦笑しながら言ったつもりだが、
電話の奥、友奈はちょっぴり怒っているように感じたのだろう
慌てた様子で「すみません」と呟くのが聞こえてきて
天乃「別に怒ってはないわよ。夏凜のことだもの、考えがあっての事でしょう?」
大方、事後報告になると不満が余計に爆発するだろうから
今のうちに話して何か文句があるのなら話を聞いて解決しておこうというものだったり
何か理由あっての事だろうし
夏凜が言わなかったとしても、九尾や沙織から伝わる可能性はあるのだから
怒るようなことではなかったのだ
友奈『大事な検査だから、私達も行きたいって思ってたんですけど、駄目なんですよね』
天乃「そもそも、中にまで立ち会うようなものじゃないわよ?」
検査結果を二人で聞くというのなら分かるが
その検査中の姿まで見るというのは普通はあり得ない
それが見知らぬ男性になる可能性があったのだからなおさら恐ろしいと天乃は思い返して
震えそうになる体を抑え込んで、首を振る
今は友奈と電話をしているのだから、これ以上友奈の気持ちを揺さぶるべきではないだろうと考えて
友奈『それは分かってるんですけど、見られないものだからこそ、誰かが見るからこそ、見てみたいなぁって』
好奇心に満ちた笑い声を溢しながら、友奈は言う
子供が出来ていると確信できた時の嬉しさに思いを馳せているのか
電話の奥では「えへへっ」と幸せそうな笑い声が小さく聞こえる
天乃「中の中まで見られるのよ? 裸を見せるのとは違うの……解る?」
友奈『は、はい。一応』
天乃「友奈が妊娠したら、私にそう言うの見られたいと思う?」
自分でも意味不明なことを聞いていると天乃は思いながら
今更訂正するのもつまらないという
今まで持っていた悪戯心を刺激されて「どうなの?」と催促すると
友奈は困ったように笑って「そうですね」と呟く
友奈『久遠先輩になら……妊娠させられたいです』
天乃「待って、そうじゃない」
友奈『え?』
天乃「私じゃさせられないから、ね? その前提は考えないで欲しいの」
友奈『でも、そしたら私もみんなも妊娠はしないと思いますけど……?』
とても不思議そうに
友奈は純粋な声色で問い返してくる
きっときょとんとした表情なんだろうなと天乃は思いながら苦笑して
それはそうかもしれないけど。と呟く
何か重大なことがない限り、誰か他人に友奈達の体を許すようなことはしない
その重要なことだって
本当の本当に極限な何かでない限りは許されないから
天乃「じゃぁ、いいわ。仮に技術力の進歩で私が友奈達と子供を作れるようになった。という前提にしましょう」
友奈『それなら別に見られてもいいかなって思います。もちろん、久遠先輩にならですけど』
天乃「恥ずかしいとか、思わない?」
友奈『思うと思います。でも、疚しいことなんてないから。二人の幸せなことだから。分かち合いたいことだから』
明るい声、弾む音、夢を見ているのだとひしひしと伝わる友奈の言葉の一つ一つが
無神経な箱の中に広がっていく
友奈『だから、私は久遠先輩には見て欲しいって思います』
まだ空想のものでしかないから
友奈が実際に直面していることではないからこそ
夢を見ているような言葉になるんだろうと天乃は思う
けれど、直面していても一緒に。と、友奈は言いそうだと天乃は感じて
天乃「なら、なんとかして子供を作れるようにしないと」
天乃は冗談のつもりでそう言ったのだが、
友奈は真剣な声色で「そうなるといいですね」と答える
そうなると色々と大変なこともあるが、
そうなることで周囲から子供云々の面倒くさいことが言われなくなるし
結城家や犬吠埼家などがしっかりと子供を残すことができるからだ
天乃「でも、むず――」
友奈『東郷さんは将来その技術を生み出す仕事に就くのもありだわ。って言ってましたよ』
天乃「うーん」
東郷なら冗談に聞こえない
そもそも、友奈はそんな冗談を言わないだろうと考えた天乃は
その後に続いたであろう東郷の言葉を思い浮かべて
天乃「でもどうせ子供を産むのは私なんでしょ? 知ってる」
友奈『あははっ』
驚きながらも、どこか分かっていたかのような笑い声を零した友奈は
さすが久遠先輩! と、嬉しそうに褒め称えるが
天乃は逆に「あぁ、うん。ありがとう」とそこまででもない反応を示す
天乃が凄いのではなく、東郷があからさまなだけだからだ
友奈『でも、私は久遠先輩の子供も産んでみたいです』
天乃「そう……? 慰めじゃなくて?」
友奈『慰めじゃないですよ。みんなも久遠先輩に産んで欲しいのと同じくらい、産みたいと思いますし』
その言葉はどうなのかと天乃は一瞬思ったが
うまく言葉を選べなかったがゆえの率直な言葉なのだろうと判断して、ありがとう。と呟いた
友奈『あの、久遠先輩』
天乃「うん?」
友奈『みんなが、一緒ですよ。これからはずっと、一緒ですから』
悩まないで下さい。
一人で抱えないで下さい
相談してください
そんな言葉が続きそうな友奈の優しさに
天乃は改めて、本当の意味でのありがとうを述べて、笑みを浮かべた
√9月7日目 夕(特別病棟) ※日曜日
01~10
11~20 沙織
21~30
31~40 若葉
41~50
51~60
61~70 九尾
81~90 樹海化
91~00
↓1のコンマ
√9月7日目 夕(特別病棟) ※日曜日
1、精霊組
2、勇者組
3、端末関係
4、イベント判定
↓2
01~10 若葉
11~20 九尾
21~30 沙織
31~40 歌野
41~50 球子
51~60 樹海
61~70 千景
71~80 風
81~90 東郷
91~00 夏凜
↓1のコンマ
では、ここまでとさせていただきます
明日はできれば昼頃から
若葉「ところで天乃」
天乃「うん?」
若葉「ここに……草薙の剣があるんだが」
天乃「えー……っと?」
若葉「性的な意味で私の力を使ってみる気はないか?」グイッ
天乃「使うじゃなくて使わせる気じゃな――きゅっ」
では、少しずつ
√9月7日目 夕(特別病棟) ※日曜日
天乃「はぁ……」
あと半日もない時間が経って
目を瞑ってさえしまえば明日になって学校に行くことが出来る
皆に会うことが出来る
それを思うと少し気分は楽になるのだが
その分、なぜだか時間の進みが遅く感じられて
天乃は思わずため息をついて
若葉「ため息をつくと幸せが逃げると聞くが、大丈夫か?」
天乃「迷信よ。幸せじゃないからため息が出るんだもの。少なくとも、今はね」
どこからともなく姿を現した若葉に適当な言葉を投げて、
自分の場合はため息をつけば幸せがやって来てくれるのではないか。と
若葉へと目を向けて、苦笑する
若葉「なんだ、何かついてるか?」
天乃「ううん、タイミングが良いなぁって。思っただけ」
若葉「そうか……? いや、そうかもしれないな」
そう言って笑った若葉は、手に持っていた紙の束を天乃へと差し出す
若葉「勇者部の文化祭の出し物が演劇で決定してな。その台本だ」
天乃「……台本? なんで私に?」
若葉「それは天乃がこの演劇のヒロインをやるからだよ」
天乃「私が?」
受け取った台本には脚本から裏方までの参加者全員の名前が書かれていて
中には千景や若葉、歌野達の役割まであって
天乃の名前は確かに、ヒロインの立ち位置だった
それは、勇者の物語
勇者とはどういうものなのか
それを、感じさせてくれる物語
話自体は悪くないと、流れるように確認しただけでも思うが
しかし、自分がヒロインと言う扱いなのが、あまりよくないと天乃は首を振る
天乃「私は動けないのよ? 場所にもよるだろうけど、こんなのじゃ制限がかかっちゃうし邪魔にもなるわ。裏方にすべきよ」
若葉「いや、これは天乃がヒロインをやるからこそ、意味があるんだ」
天乃以外の誰かがヒロインをやれないのかと言われれば
それは決して不可能なことではないし、問題なく出来るかもしれない
だが、それでもみんなが天乃をヒロインに宛がおうとしたのは
演技を演技ではなくリアルなものにする為だ
若葉「心を動かせる真実を、風達は見せたい……だから、このヒロインの役は天乃であるべきだと言ったんだ」
天乃「…………」
若葉「それに、天乃はそもそも演劇に関係なくみんなのヒロインじゃないか。今更だろう?」
天乃「……なら、この他は」
魔王の部下に千景が宛がわれていたり、
農民に歌野や水都がいたりと
もはや勇者部だけにとどまっていないところを指摘する天乃に
若葉は少し困った様に笑うと
若葉「皆が居なければこの演劇は完成しないからだ」
天乃「これをやると決めることで、その気持ちをより強くしよう。っていうこと?」
若葉「そういうことだな」
もちろん、文化祭の演劇がなくてもみんなは帰ってくるつもりだし
無事なまま、戦いを終わらせたいと思っている
けれど、戦いはきっと簡単ではなくて
傷つくだろうし、何か失うものがあるかも知れない
だから、より強く誓うことが出来る何かがあればいいと思ったのだ
若葉「そのヒロインはやっぱり、天乃であるべきだろう?」
天乃「そういうこと、なら……受けるしかないわよね」
若葉「それなんだが、一つだけ問題があってな」
天乃「問題?」
そうなんだ。と頷いた若葉は、そこまで大きい問題じゃないからと前置きして、
安心させるためか、笑みを浮かべて見せる
若葉「一ヵ所キスシーンを入れたいという風の要望があったんだが、それが天乃がされるのではなく、するシーンなんだ」
天乃「……うん?」
若葉「出来るか? 天乃」
天乃「そのくらいできると思うけど……」
そこまで言って、若葉の言う問題と言うものに気付いた天乃は
言葉を止めて、「なるほど」と、呟く
演劇を見せるのはたくさん……になるのかは分からないが
いろんな人たちの前だ
その中で出来るのか。ということだろう
天乃「無くても遜色ないものなの?」
若葉「後から追加したらどうか。みたいな話になっただけだからな。なくても問題はないぞ」
天乃「そう……」
1、キスシーンを入れる
2、キスシーンは入れない
↓2
天乃「でも、大丈夫よ」
みんなとキスをすることは恥ずかしいことじゃないし
不特定多数の人に見られるのだって
今天乃が抱えている問題に比べたらとても些細なことで
この文化祭は、最初で最後のとても大切なものだから
天乃「入れましょう、そのキスシーン」
若葉「分かった。みんなにはそう伝えておこう」
天乃の選択に若葉は嬉しそうな笑みを浮かべて頷くと、
それと。と、続ける
若葉「恐らく、襲来は近いうちに来るだろう」
それはとても大きなもので、
きっと、天乃にも感じ取れてしまうような違和感で
そして、その激しさは、天乃を安心させることが難しくなるほどで
若葉「天乃には、辛い事実が告げられることになるかもしれない」
天乃「……………」
若葉「だが、約束だ。私達は誰も欠けずに戻ってくる。たとえこの目、この手、この足。何かが欠けるのだとしても」
天乃「……うん」
若葉「もちろん、その欠損も出来る限り拒む予定では、あるがな」
若葉の冗談にも感じられる声色とは裏腹に、
話している内容は重くて
強く拳を握り合わせる天乃は唇を噛んで首を振る
バーテックスは次第に強くなってきていて
こんどのその大きな戦いでは、極力満開を使わないという話になってはいるけれど
きっと、使わないなんていうことは不可能で
若葉「……大丈夫だ」
そう不安に飲まれそうな天乃の手に、
若葉は手を重ねて優しく、声をかける
若葉「巫女の祈りはな、たとえ樹海の奥にいても届くんだ」
それはきっとみんなの力になる
なによりも
きっと、神樹様から流れ込んでくる力よりもずっと強い支えになって力になって
皆を助けてくれるものになるはずだから
若葉「だから、天乃が祈ってくれる限り。願っている限り。私達は負けないから」
天乃「……うん」
恐らく、今月中には襲来があるだろう
明日、明後日
そんな近い話ですらあるかもしれない
だからこそ、若葉はそれを伝えて天乃に寄り添う
約束を、果たすために
√9月7日目 夜(特別病棟) ※日曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40 沙織
41~50
51~60
61~70 風
81~90 千景
91~00
↓1のコンマ
√9月7日目 夜(特別病棟) ※日曜日
1、精霊組
2、勇者組
3、端末関係
4、イベント判定
↓2
1、若葉
2、千景
3、球子
4、歌野
5、水都
6、九尾
7、沙織
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
沙織「この流れであたしを呼んだね、久遠さん!?」
天乃「えっ?」
沙織「良いよ、待つよ、構えるよ」
沙織「さぁ、好きなだけあたしでキスシーンの練習して!」
天乃「え、えーっと……」
沙織「あ、練習じゃなくて本番でもいいよ?」
天乃「……そういう用事ではないわよ?」
では少しだけ
√9月7日目 夜(特別病棟) ※日曜日
天乃「……さて」
神官による定期的な見回りが最後なのを端末の時間で確認した天乃は、
疲れを吐き出すようなため息をついて横を見る
今この空間に見える存在は天乃しかいないが、見えなくても精霊はいる
その精霊の中で一人の名前を天乃は口に出す
天乃「沙織、居る?」
精霊と言っても肉体は沙織と言う生きている人間ゆえに、
必ずしもいるとは限らないのだが……
沙織「いるよ。今は巫女としてのお仕事が時々来るからね」
どこからともなく姿を見せた沙織は天乃のすぐ横に近寄ると
天乃の顔の近くまで顔を近づけて、目を瞑る
天乃「沙織?」
沙織「うん?」
天乃「なに……してるの?」
沙織「なにって……するんじゃないの? キスシーンの練習」
ただ呼んだだけですべてを察したように行動する沙織の欲望に忠実な動きに
天乃はすこし困って苦笑して
天乃「まだ何も言ってないでしょう?」
沙織「えー……じゃぁ、えいっ」
天乃「っ!」
残念そうに溢した沙織は目を開いた途端に天乃の肩をぐっと掴んで距離をさらに詰めると
反応の遅れた天乃の唇に唇を重ねて
沙織「……どう?」
すぐに離れて、怪しげな笑みを浮かべる
天乃「いつもと変わらないでしょ。沙織からしたら」
沙織「それもそっか」
ただ沙織がしたかっただけなのだろうと天乃は思い、
けれど、誰かと触れ合うことの難しいこの中で
距離を詰めてくれる沙織の優しさに天乃はほほ笑んで
近くにある沙織の体を優しく抱いて「ありがとね」と、囁く
沙織「……それで? キスシーンの練習じゃないならどうしたの?」
沙織は天乃に抱かれたまま優しく声をかける
さっきまでのふざけた雰囲気は無くなっていて
天乃「そういう雰囲気なら、私よりも周りから魅力的にみられるんじゃない?」
正反対に天乃が冗談めかして言うと
沙織は「そんなことないよ」と即座に否定して笑う
否定はするが、しかし、褒められたことは嬉しいのだろう
沙織「久遠さんとは積み上げたものが違うからね。どうあがいても久遠さんがモテるよ」
天乃「そうかしら」
沙織「きっとそうだよ」
天乃はお茶目な部分があって、真面目な部分もあって
楽しんでいる姿はとても貴く感じる
今のこういう時間も貴重だと沙織は思い
このまま適当に明日を迎えてもいいのではと考えて……
沙織「……あたしはこのまま久遠さんとぎゅぅっとしてるだけでも良いけど?」
天乃「私は暑苦しいから遠慮したいかも」
沙織「えーっ……」
天乃「ふふっ、冗談よ」
たった一言で一転して落胆しきった表情を見せる沙織に
天乃は苦笑しながら頭を撫でて言う
取り繕ったわけではなく、本当に冗談だったし
沙織もそれを判っていないはずはないのだが
冗談だとしても沙織にとっては悲しいことなのだろう
天乃「でも、暑いのはほんと」
沙織「久遠さんとなら暑くなってもいい……ううん、熱くなりたい」
天乃「ちょ、さお――」
沙織「そうだ、脱ごう!」
天乃「こ、こらっ脱がそうとしないの!」
脱ぐといいつつ脱がせようとしてくる沙織の手をなんとか抑えながら
天乃は沙織を呼んだ理由を考えて――
1、襲来の詳しい日程はまだつかめない?
2、伊集院家について
3、満開の後遺症は、何とかならない?
4、猿猴は大丈夫?
5、妊娠検査の件
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「待って、検査。妊娠検査の件!」
沙織「検査かぁ……触診する?」
天乃「へっ?」
沙織「んふふ」ガシッ
沙織「でも、乾いてると危ないから――濡れよっかっ!」ニコッ
天乃「やぁぁぁっ!」
では少しだけ
天乃「検査の件! 妊娠検査の件で話があるの!」
沙織「検査の件……?」
なんだぁ……と
残念そうに声を漏らした沙織は、
引き裂く勢いでつまんでいた天乃の寝間着の裾を手放して手を振る
沙織「検査がどうかしたの? 止めた方が良いの?」
天乃「ううん、止めなくても良いんだけど……貴女ならいつやるかとか聞けてるかなって」
沙織「とりあえず、あたしの元婚約者と春信さんに久遠さんのAVを見せてからになるから、まだ先だよ。結果も分からないからね」
見せてから。と言う所で天乃以上に不快感を示した沙織だったが、
心を落ち着けるためか深呼吸をして、満足気な笑みを浮かべる
その変わりように疑問符を浮かべた天乃だが、
沙織は「それでだけど」と、天乃が質問する前に口を開く
沙織「それでも予定では【10日目】までにはやりたいみたい。後回しにするのはより問題が複雑化するかもしれないって考えてるみたいだよ」
天乃「問題……ね」
沙織「うん。これに関してはそもそも妖怪とは人間の尺度で測れるものなのかという根本的な問題に直結してるから、久遠さんだけの問題じゃないんだけどね」
人類史の奥の奥
神話の世界にまで踏み込めば人間と妖怪の子供の話も出て来てくれるかもしれないが
そこまでの情報に触れることが出来る媒体も何も存在していない為、
知識を得ようにも得られず、手探り状態なのが現状なのだ
だから言ってしまえば、大赦が問題だと、面倒だと括ってしまうのも仕方がないのである
大きな戦いが近いともなれば、尚更だ。
沙織「人間よりも長い年月を必要とするのか。それとも、短く済むのか……とかね」
しかし、天乃はその一般的な人間
そして、一般的な妖怪とも異なっているため、
仮にその情報があっても参考になるとは限らない
非常に難しい妊婦なのだ
沙織「ただ、郡さんから聞いたと思うけど、力の関係上成長はだいぶ早くて本来出産予定は40週くらいが基本なんだけど、その半分になる可能性もあるんだ」
天乃「半分って、それは……」
沙織「あぁ、大丈夫だよ」
胎児の成長は不完全なものになってしまうのではないかという不安を抱いた天乃に
沙織はその考えと気持ちを即座に察したように笑みを浮かべて、否定する
沙織「単純に、40週かかったら久遠さんから幼稚園生が産まれるレベルで成長が速いだけだから」
天乃「え……?」
沙織「まぁ、それは言いすぎてるけど」
それでも普通の人間に比べて成長した子供が生まれてくるだろうね。と
それは確実だと沙織は告げて、苦笑する
それだけ天乃の力、悪五郎から受け取った力が強いということなのだ
天乃「そう……でも、ちゃんと生まれて来てくれるのね?」
沙織「そうだよ。お母さんの体はとても脆い分神秘的なものだからね。頑張って適応するんだよ」
天乃「……そっか」
優しく自分の腹部を撫でる天乃の姿は本当の母親そのもので
沙織はそんな恋人の姿を優しい目で見つめて、ほほ笑む
妻を見る夫と言うものはこういう気分になるものなのだろうか
そんなことまで、考えて
沙織「久遠さん、見た目はまだ子供なのに……凄いお母さんらしい」
天乃「子供って、それは、まぁ……ちっちゃいけど」
沙織「あははっ」
母親のような雰囲気から一転、むくれた天乃は実に子供っぽくて
沙織は思わず笑いを溢して天乃の体を優しく抱きしめる
体に負担をかけないようにゆっくり抱き寄せて、匂いを感じて温もりを感じて
沙織「お母さん」
天乃「うん」
沙織「プレイがしたい」
天乃「ダーメ」
沙織「ちぇっ」
冗談―半分本気―を言って笑い合う
そんな日常的な空気が好ましく感じて、嬉しくて
沙織はそうっと距離を置くと、前触れなく天乃にキスをする
けれど分かっていたのだろう
天乃は危なげなく受け止めて、数秒の接触の後に、余裕の笑みを見せる
天乃「ふふっ、不意打ち失敗ね」
それがまた、可愛らしかった
母親になる大人の色気はそこになく
ただただ、女の子の可愛らしさがそこにはあった
沙織「流石、あたし達の嫁は良く分かってるね……ほんと、大好きだよ」
何度も伝えた自分の率直な気持ち
だけれど、伝えても伝えてもあふれるばかり
決して枯渇することのないその気持ちを流し込むように
沙織は天乃の体をベッドへと押し込んで、キスをする
優しく触れ合うように、熱烈に絡み合うように
沙織は天乃と唇を重ね、舌を絡めていく
天乃「んっ……っ」
沙織「……昨日の夜は三好さんとしてたよね。どう? どっちが上手い?」
天乃「技術力で言えば……貴女に匹敵するのは東郷くらいよ」
沙織「んふふっ」
天乃に跨る沙織は天乃の言葉を聞いて嬉しそうに笑うと
自分の口元についた唾液を拭った手を
天乃の首元、寝間着の襟を払い除けながら忍ばせて、鎖骨を露出させていく
沙織「良い匂い。清潔で、優しくて、でも……癖になる汗の匂いもある久遠さんの匂い」
天乃「そういう言い方……っ、んっ!」
ぱくりと開いた唇で、首元に吸い付く沙織のこそばゆさに天乃は呻く
けれどもその声は決して苦ではなく、甘くて。
沙織「――っはぁ、ふ……す、き」
キスをする。
キスをしながら、そうっと天乃の下腹部へと沙織は手を伸ばしていく
長い夜。
その一部を貰っちゃうね。と、沙織は小さく囁いた
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流無()
・ 犬吠埼樹:交流無()
・ 結城友奈:交流有(妊娠検査、みんながいる)
・ 東郷美森:交流無()
・ 三好夏凜:交流無()
・ 乃木若葉:交流有(演劇、襲来)
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流無()
・伊集院沙織:交流有(妊娠検査)
・ 神樹:交流無()
9月7日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 78(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 64(とても高い)
結城友奈との絆 93(かなり高い)
東郷美森との絆 96(かなり高い)
三好夏凜との絆 116(最高値)
乃木若葉との絆 88(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 34(中々良い)
沙織との絆 93(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
汚染度???%
√9月8日目 朝(特別病棟) ※月曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40 千景
41~50
51~60 樹海化
61~70 芽吹
71~80
81~90 大赦
91~00
↓1のコンマ
難易度判定コンマ一桁 1最小 0最大値
本戦前設定
↓1コンマ
難易度は3.補正無し
スキップ可能な戦闘難易度です
■難易度
3 判定有り 満開無し ダメージ有(小)
スキップする
1、する
2、しない
↓2
※スキップする場合、負傷の有無は判定で決まります
※スキップしない場合、負傷しない場合もありますが、より大きなけがをする場合があります
01~10
11~20 負傷
21~30
31~40
41~50 負傷
61~70
71~80 負傷
81~90
91~00 負傷
↓1
※負傷するキャラはランダムで振り分けられます
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
東郷「あぁ……っ、利き腕が麻痺して自慰もできないわ」
東郷「誰か、手伝ってくれる人はいないかしら」
東郷「このままじゃ、私……」
友奈「東郷さん、まだお昼だから駄目だよー?」
夏凜「ツッコむところ違くない!?」
東郷「そうね……友奈ちゃん。ここにつっこ――」
夏凜「やらせるか!」バンッ
では少しだけ
√9月8日目 朝(特別病棟) ※月曜日
ほんの一瞬の感覚
どこかから流れた風が頬を撫でたようなごく自然なもので
白の中の黒のように明確な違和感
天乃「ぁ……」
けれど、天乃に感じられるのはそれだけだった
どこで何が起きた、どんなことがあった
そんなことは天乃には分らない
天乃「樹海化……」
そうだと気づいた時にはもう戦いは終わっている
若葉は祈っていてくれと言ったが、
天乃にはそんな時間さえ与えられていないのだ
天乃「…………」
不安に駆られ、焦りそうな気持を抑えるように深呼吸をして
強く、強く手を握りしめる
若葉は信じてくれと言った。大丈夫だと言った
だから……と、天乃は目を瞑って
沙織「おはよう、久遠さん」
次の瞬間には
天乃しかいない隔離部屋に沙織が姿を現した
天乃「沙織、教えて貰ってもいい?」
今日は月曜日で当然のことながら学校があるため少ししたら担当の大赦関係者が来るだろうが
それまでの僅かな時間だとしても、話を聞きたくて
求めて視線を向けてくる天乃に、沙織は笑みを浮かべて頷く
沙織「結果的に言えば快勝だったと思う。樹海にちょっぴり被害はあったけど、現実への影響としては低いし」
天乃「貴女達が穢れを吸収したわけではなく?」
沙織「流石に何でもかんでも請け負ってたら消えちゃうから小さい被害に関してはノータッチだよ」
無理しないっでって言ったのは久遠さんだしね。と
茶化すような空気を割り込ませて笑った沙織だが、
天乃の不安そうな表情が微動だにしないのを目にして、
全く、久遠さんは。と、苦笑する
沙織「なんであたしが報告しに来てるのか考えちゃうと分かるかな……若葉さんがちょっと怪我しちゃってね」
天乃「っ」
沙織「あーっ! でも! でもね、全然! あれだから! 重い怪我とかじゃないよ。ほんと、軽症の部類ではあるけど念のため療養中なんだ」
天乃がピクリと体を動かした瞬間、
沙織は慌てて取り繕うような声を上げて、若葉の状況を説明する
大した怪我ではないのだがバーテックスの攻撃による負傷のため、
念のため療養に回って貰い、報告は沙織が担当することになったのだ
若葉は自分が行くべきだと言ったが、
そのバーテックスによる怪我の穢れが天乃に影響を及ぼす可能性もあると考えたためだ
天乃「そこまで気にしなくても大丈夫なんじゃないの?」
沙織「9割大丈夫だと思うけどね、1割不安だから」
天乃の体は今特殊な状況だから
1割と言わず1%でも不安があるのならばそれは避けたいというのが沙織たちの考え
沙織「三好さん達は普通に学校に行くから安心して。ね?」
沙織は笑みを浮かべる
大丈夫だよ。と、言いながら
けれど、その表情にはどこか影があるような気がして天乃が目を向けると
沙織は待ちに待った学校だよ。と、言う
天乃「ねぇ、本当に何もないの? 大丈夫なの?」
けれど、天乃はそれに流されることなく口を挟む
それが取り繕うものだと分かってしまってしまう天乃は
そう言わずにはいられなかったからだ
不安そうな表情で聞いてくるその瞳を見据え、
茶化す為の笑みを少しずつ控えていきながら沙織は息をつく
勇者ではなくなっても、巫女ではなくなっても
妊婦になって、精神的に不安定になったり弱くなっていたとしても
天乃と沙織の関係は変わらないから
天乃の人を見る目は歪みないから
沙織「……だから言ったんだよ。あたしだとバレちゃうよって」
天乃「え?」
沙織「実は、これからだいぶ厳しくなるかもしれないんだ」
観念したように零す
険しい表情こそしてはいないが、その顔つきは真面目なものだった
沙織「今回の襲来は先遣隊と言うか、偵察的な役割を持っていて、神樹様に近付くような素振りは殆ど見せなかった」
沙織曰く、今回のバーテックスは殆ど初期位置から動くことはせず、
近付いてくる勇者を迎え撃つことにのみ集中していたのだという
その不動の砲台のような戦い方に対し遠距離で対応できるのは東郷のみ
球子も一応は遠投するタイプの攻撃手段ではあるが、
あれはせいぜい中距離の攻撃しかできず、他はみんな良くて中距離の近接タイプの勇者
沙織「若葉さんが怪我をしたのもそのせい。範囲外から好き勝手に砲撃するサジタリウスを討つために囮になったんだ」
近付く勇者を片っ端から撃ち落すサジタリウス
縦横無尽に走り回るジェミニ
出現したバーテックスはその二体のみだったが
若葉が態々囮にならなければいけなかった最大の理由が、ジェミニだ
沙織「ジェミニはあの速度でどこに行ったと思う?」
天乃「神樹様に向かわなかったなら……勇者?」
沙織「そう。ジェミニは常に逃げる勇者や隠れる勇者を追い回して、それをサジタリウスが狙って討つ」
それが今回のバーテックスの戦い方だったのだ
夏凜達も日々鍛錬したり研究したりと努力しているが
それをバーテックスは実践で行おうとしているのだろう
この戦い方、このチーム
これなら勇者はどう対応するのだろうか。と
沙織「だから、そのジェミニを若葉さんが単独で迎え撃ち、その他で全力でサジタリウスを討伐することにしたんだよ」
ジェミニと単独でぶつかるのは危険が伴うが
かといって人員を割けばサジタリウスに時間がかかってしまうし
そちらを優先しようものなら、狙い撃ちされるのが現実だ
沙織「そのおかげで、なんとか若葉さんが軽傷のみで落ち着くことが出来たんだ」
けれど、ほかにバーテックスが居たらどうだっただろうか
地中から現れるピスケス
武器破壊に特化した針、打ち弾く力のある尾を持つスコーピオン
他にも、まだまだ
沙織「これから連戦になるかもしれないし、ならなくても最終決戦はかなり厳しくなる」
天乃「…………」
沙織「でも大丈夫。あたし達は負けないよ。逃げないよ。必ず、勝って戻るから」
それは天乃が戦いから退く代わりの約束だから
絶対に果たさなければいけない約束だから。
沙織「ごめんね。不安になったよね。でも、大丈夫だから」
不安を抱かせてしまったと罪悪感を覚えながら、
沙織は天乃の体を優しく抱きしめて告げて、唇を強く噛み締めた
√9月8日目 昼(学校) ※月曜日
01~10 夏凜
11~20 風
21~30
31~40 東郷
41~50
51~60 勇者部
61~70
71~80 芽吹
81~90
91~00 若葉
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日は所用で休載となり、明後日通常時間が再開時間となります
・芽吹交流
芽吹「樹海化の気配を感じた……?」
天乃「ええ、一応その程度の――」
ドンッ
天乃「きゃぁっ」ビクッ
芽吹「――なぜッ! なぜ……力を失った貴女に出来て私には……ッ!」プルプル
友奈「芽吹ちゃん、震えてる……」
東郷「まるで生きたバイ――」
樹「言っちゃ、ダメぇぇぇっ!」パシーン
では少しだけ
√9月8日目 昼(学校) ※月曜日
「久遠先輩、今日は申し訳ありませんが部屋を変えて頂きます」
昼休みになって天乃の元を訪れた芽吹は開口一番そう言って天乃の準備を整えてすぐに廊下へと連れ出す
クラスメイトである風や沙織はその有無を言わせない強引さに異議有り気にあとをついて来ようとしたが
定例の報告等をするだけです。という芽吹の言葉を受け、
それでも不安そうにしながら、二人きりになることを承諾する
と言ってももちろん、天乃の影には少なくとも九尾や千景、球子が控えているため
有事の際には害になると判断される存在は排除されるという安心感はあるし
それがあるからこその、許可だ
天乃「定例と言っても今朝の件でしょう? 別に勇者部でも良いんじゃないの?」
「いえ、これに関しては久遠先輩のみにお話しすることになっていますので」
天乃「私からみんなに伝わる可能性もあるのに?」
「それはそれです。私は規約に背きたくないので」
芽吹は硬い表情のまま答えて、天乃を用意した空き教室へと連れ込み、
誰も来ないようにと部屋の鍵を閉めて、一息つく
天乃「あら……一応、準備してあったのね」
本来は使われていないはずの教室は申し分なく清掃され、
机を並べただけのものではあるが
しっかりと昼食をとるスペースが作られており
相応の準備を行ったというのは一目でわかった
天乃「楠さんが準備したの?」
「これも、お役目のうちなので」
天乃「ここまで細かい指示があったの?」
「細かくはありませんが、その中で久遠先輩に負担無いようにと言うものはありましたので」
あくまでお役目
あくまで仕事でやっているだけ
そう言いたげな芽吹の態度には拒絶の色が強い
そしてそれが殆ど本心から来ていると分かるから
天乃もそれ以上茶化すような言葉などは言えなくて、口ごもる
やはり、二人きりと言うのはやりにくい
「さて、まずもうご存知とは思いますが今朝、バーテックスの襲来がありました」
天乃「……ええ」
若葉が負傷することになった戦い
すでに戦いの中身含めて沙織から聞いているため
これ以上聞くようなことはないと天乃は首を振るが、芽吹は弁当を用意しつつ口を開く
「大きな影響はなく、被害者は一般及び勇者含めても重軽傷者勇者側の軽傷一人のみ。とても良い結果だったと思います」
当たり前のように
しかし声色は淡々とした芽吹の報告に対し、
天乃は目を向けることはなかったが、
天乃「けが人が出て、いい結果だなんてよく言えるわね」
少し冷たさを帯びた反応を返す。
天乃にとっては若葉が負傷したというだけでも十分悪い結果だった
もちろん、大けがや町の人たちに被害が出ていないという点では良かったと言えるのかもしれないが
天乃が重視したいのはやはり、一番危険な目に合う勇者部のみんなだから
「……死ななければどれも悪くない結果と言えるかと思いますが」
天乃「…………」
「久遠先輩は少し、一般的な感覚とはズレがあるように思います」
しかし、芽吹にとってその考え方は不快なのだろう
はっきりと不快だと言わなかったものの
その考えは改めるべきであると言うような言葉を並べて
「自分が戦いに参加しているわけではないのですから、完璧を求めるのは見当違いかと」
天乃「……その言葉こそ、見当違いなのだけど」
向けられた視線は鋭利さを兼ね備え
紡がれた声は楔のように動きを封じて
目には見えない凶器を突き立てられているかのような
悪寒どころではなく鬼気迫る何かを感じた芽吹は思わず息を飲んで
「……失礼、しました」
震えている自分の手に気づき、しかし悟られまいと普段通りを演じながら謝罪する
自分は間違っていないと思うが
だが、正しいからと言って相手を矯正しようとしては反発を受けるのも仕方がないことだと芽吹は自分をまず改める
下手に手を出せば火傷では済まない
それが、久遠天乃と言う―化け物―なのだから
「それで、なのですが。街に被害はなく勇者も軽症者こそ出てしまいましたが、おおむね問題なかったと思います」
天乃「ええ」
「しかし、報告によればこれからバーテックスによる先遣隊の襲撃が連続して起こり得るという」
無論、それが絶対に行われるという事は言い切ることはできないししたくもないが
警戒をしないわけにはいかない。と言うのが、大赦の考えだと芽吹は言う
「そこで、勇者部の皆さまには一ヵ所にまとまっての共同生活を送って頂くのはどうか。と言う話が出ています」
樹海化した際に、それぞれの距離が離れていると
当然のことながら樹海化した際にもメンバーそれぞれがばらばらに配置されてしまうことになる
今朝の樹海化の時だって例外ではなく
各々が自宅にいる際に行われた襲撃のため人員の配置はバラバラ
今回は二体だから事なきを得たものの、
より多い襲撃だった場合には陣形や作戦を立てる間もなく戦線は入り乱れて崩壊することになる可能性が非常に高い
そう言った問題があってなお、
勇者部の面々は敵対的だとかつまらない考えに捕らわれているような組織ではない。つもりなのだ
天乃「それ、私に言って何かあるの?」
天乃の質問に、芽吹は空気に見合わないため息をついて
「くだらない質問は止めてください」
天乃「え?」
「そんな話が出たら久遠先輩はなぜいないのか。という話になるに決まっていると思いますが?」
確かに、それはそうだと天乃はすこし穏やかに呆れた笑みを浮かべて
天乃「それで? 私が居なくてもいいように説得しろとでも?」
「いえ、むしろ久遠先輩には士気向上のために合流していただきます」
芽吹はそれで天乃が有難みを感じるのかと思っていたが
そのような様子は一切なく、
むしろ呆れた雰囲気、怒った表情、厳しい視線はより強さを増したような気がして
「それで、なのですが」
思わず言葉に詰まり、緊張感に包まれていく自分を抑え込むように息を飲む
力を失って普通の少女になったという話を聞くが
そんなのは兵士が武装解除しただけの話
それで肉体的、精神的強さが変わらないように
天乃の精神的揺らぎは目に見えて大きくなりはしたものの、根本的なものまでは変わっていないと芽吹は思う
「その関係上、明後日に行う予定だった妊娠検査について急遽明日行わせていただくことになりました」
天乃「そもそも明後日と言う話は聞いてないけど、春信さん達は大丈夫なの?」
「それに関しては通常通り本日行う予定となりますので……検査日程に関してはいずれにしろこの場でお伝えする予定だったので、まだ未通知だったのかと」
芽吹は天乃の機嫌がより悪くなることが無いように
慎重かつ丁寧に、繊細な陶器に触れるように言葉は正しいのかと吟味しながら答える
「そしてその検査後、結果を聞いてから結果に関わらず勇者部に合流していただくことになります」
天乃「……そう。この監視体制は私が扱いにくい特殊な状況だからしていたんじゃないの?」
「その通りです。ですが、周囲の状況が変わりました。もはや久遠先輩を特殊だと隔離しておくような余裕はないそうです」
天乃「隔離、ね」
「有事に対し久遠先輩や勇者部が適切な対応が取れると大赦は願う。と」
それらはあくまで芽吹ではなく大赦からの言葉だ
もちろん、隔離と言う言葉に関しては芽吹もまたそう思っているからこその発言になるが。
通常の妊娠における体調等の変化や異常に関しては当然だが
専門の医療スタッフを用意したりする
しかしそうではない精神的なものに関しては、
外界から隔離して押さえ込むよりは勇者部に任せてしまったほうがいいと考えたのだ
正直な話
扱い次第で勇者のみならず市民を敵に回すことになるし
万が一にも機嫌を損ねれば神樹様を屠られてしまう―余程のことが無いと天乃はしないが―上に
大赦内部でも人道的な観点から扱いに関して色々と話が多く出てくる
世界を護るためには仕方のないことだ
彼女はそれでもここまで護り続けてくれた勇者だ
そんな話が出るたびに完全に分裂してしまいそうにもなっており
天乃のことは大赦も持余しているのだ
天乃「確かに、みんなは聞かないほうが良さそうな話だったわ」
それでも天乃は落ち着いた様子で
怒ったり不機嫌になってはいないのだろうと感じて、一息
普段は普通の少女と同等の力しかない天乃を制圧するのは容易だが
その周囲までもとなると芽吹には到底力不足だ
「ご報告は以上になります」
自分にとって重苦しい話を終え、終わりの言葉を付け加える
途端に学校中の喧騒、手にした弁当の温もり、食欲をそそる匂いを感じて、
ついさっきまで自分の五感が麻痺していたことに気づく
それだけ、緊張していたということだろう
天乃「今日も瞳が用意したの?」
「はい。私は結構ですとお断りを入れてはいるのですが、どうしてもと」
天乃「瞳は瞳で貴女を心配してるのよ。厚意は受け取っておきなさい」
そう言った天乃を一瞥して、芽吹は自分の弁当を見つめると
少しだけ、眉を潜めた
1、樹海化、貴女は感知できるの?
2、それで、どう? 勇者部には入る気になった?
3、そういえば、私がみんなと合流するのは分かったけど、貴女は?
4、ねぇ、ところで大戦後の調査担当には貴女も選ばれているの?
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「貴女は感知できるの?」
芽吹「えっと……そう、ね……」
芽吹「久遠先輩が良ければ、認知しますよ」
天乃「ごめんね、貴女が何を言ってるのか分からないわ」
芽吹「? 先日の子供を認知するしないの話では?」
天乃「えっ?」
では少しだけ
天乃「…………」
芽吹の業務的な報告が終わり食事に移った天乃達だが、
他クラスからの楽し気な騒がしさが周囲から聞こえてくるのがBGMとなるくらいで、
2人の間に会話はない
それもそうだろう、
天乃と芽吹は全くと言っていいほどに関係が良くない
沙織か若葉でも居ればまた変わるのだろうが、
居ないのだから変わるわけもなく。
そんな空気を感じる天乃は味の感じない栄養だけのお弁当に箸をおいて、息をつく
天乃「ねぇ、せっかくだから少し聞いてもいいかしら?」
「……ええ、答えられないこともありますが」
目を向けずに答える芽吹をじっと見つめた天乃は
少し不満げに「そっか」と呟いて、おかずを一口口に含む
答えられないこともあると言いつつ
大半が応えられない事なのだろうと思い
どんな質問なら答えられるのだろうかと、考えて。
天乃「大戦後の壁外調査には貴女も参加するの?」
以前、報告に来た巫女から聞いた話を振る
「?」
勇者間とはいえ機密性の高い情報ゆえ
話せないことだと険しい表情をするかと思う天乃の一方、
芽吹は何を言っているのかと不思議そうな表情を浮かべて
「それは先日お話したかと思いますが……」
天乃「あら、そう。だったかしら?」
「はい。もう一度答えれば、私も一応召集は受けています。今ここにいるのもその召集を受けた関係が強いです」
不思議そうにしながら再度話す芽吹を見つめる天乃は
芽吹には何か気になって思えたのだろう
手を止めじっと天のを見つめると「久遠先輩」と声をかけた
「もし、何か異常があるのなら言ってください。辛いなら早退も欠席も問題なくできますので」
天乃「え、いや、私――」
「何も無い。と言うのはかまいませんが、大事になった際周囲に大きな迷惑がかかることは肝に銘じておいてください」
それはもう強く心に刻まれていますとも。
そんな茶化すようなことを頭の中に思い浮かべた天乃は
一人、本当にね。と囁いて切なげな笑みを浮かべる
夏凜たちには本当に迷惑をかけてしまったから
だから芽吹に言われなくても天乃は良く分かっているのだ
今のような殆ど無力な状態になってしまって
その隠蔽癖というべきか、抱え込んでしまう癖は悪化しそうになっている一方
夏凜達には再三にわたって言われているのだから
流石に、異常があるなら言わない。なんていうことは無い
むしろ、そのおかげかせいか、寂しいという愚痴まで良く零すようになって来てすらいる
天乃「本当に大丈夫よ」
「そうですか」
本当に、問題ない
あるといえばあるが、
それはどうしても芽吹に言えないことなのだから仕方が無い
実は精霊である九尾と入れ替わってお泊りしてました。なんて
口が裂けてもいえない
「でも、確かにあのときの久遠先輩は少し特殊だったので、覚えていなくても不思議ではないですね」
天乃「そんなに……おかしかった?」
「二重人格を疑うほどに」
伺うような視線を浴びせてくる天乃を一瞥した芽吹は躊躇なく答えて、一息
以前話したと思いますがと前置きして
下の名前を馴れ馴れしく呼んでくること
積極的という枠に収まらないほど激しいボディタッチ
芽吹は自分がされたことの数々を語って、不意に顔を赤くする
天乃「もしか――」
「い、言わなくて結構です!」
天乃「ふ――」
「久遠先輩!」
天乃は思い出すも何も無いが、
芽吹は天乃―九尾―にされた不倫紛いのことを思い出し
以降増して妊婦という久遠天乃のことを考えるようになっているためか
恥ずかしさが湧き出したのだろう
机を叩いて制した芽吹は
自分の感情が思った以上に出てしまったのだと気づいて
すぐに頭を下げる
「すみません……ですが、アレは、あまり」
天乃「……?」
芽吹はすぐに目を逸らしたが
視線が自分のごく一部、唇の方に強く集中していたのを察知した天乃は
なんとなく首をかしげて「あーなるほど」と察する
つまり芽吹がされた不倫のようなものとはキスなのだ
恐らくは、未遂のはずだが。
「とにかく、気をつけてください。体調を一番分かるのは久遠先輩なので」
天乃「貴女は、分かってくれない?」
社交辞令にもにた心配ごとを呟いた芽吹に、
天乃は少し、寂しげな笑みを浮かべながら問う
それは何の謀も紛れ込んでいない純粋な感情で
何を言ってるんだろうと言いたげな顔をした芽吹は暫く硬直して
ふと、息をつく
「可能な限りは、分かるようにするつもりですが……」
天乃「そうね。まぁ、可能な限りよろしくね。一応、貴女は私の世話係なんだから」
皮肉ではなく、
険悪な雰囲気のままでいるのは息苦しいから
出来るだけ友好的にありたいという意味で言った天乃だったが、
芽吹は「気をつけます」と、伝わった様子はあまり感じられなかった
√9月8日目 夕(学校) ※月曜日
01~10
11~20 風
21~30
31~40
41~50 樹
61~70
71~80 夏凜
81~90
91~00 東郷
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば昼頃から
芽吹「壁ドンされ」
芽吹「壁クイされ」
芽吹「薄皮一枚の距離まで近づかれて」
芽吹「結局……されなかった」
芽吹「あの時の優越感に満ちた表情が、忘れられない」
では、少しずつ
√9月8日目 夕(学校) ※月曜日
「では、久遠先輩」
いつものように、芽吹が迎えに来る放課後
全ての授業が終わり、
ある意味で苦痛から解放された生徒たちが部活へと、自宅へと駆けていく喧騒
窓から入り込んでいく暮れ行く太陽の光
自分が外に出ているのだと実感することが出来るその心地よさを感じる天乃が生徒玄関口へとたどり着いたところで
その声は、跳んできた
東郷「久遠先輩!」
天乃「うん?」
東郷「良かった……間に合った」
少し焦ったような表情を見せる東郷は、
芽吹がいるのを確認すると、
少し時間を頂戴。と言って天乃へと近づく
天乃「どうかしたの?」
東郷「若葉さんから伺ってませんか? 文化祭の、劇についてですが」
天乃「聞いたわ」
後ろの芽吹が何か言いたそうな声を漏らしたのを察知して、
天乃はいつそこで聞いたのかはかくして頷くと
それに関しての事? と、問いかける
東郷「はい、その打ち合わせをしておこうかな。と思いまして」
天乃「打合せね……楠さん、大丈夫?」
天乃としては考えるまでもなく参加したい
しかし、最近は色々と我儘を聞いてもらっていたり
九尾による芽吹への嫌がらせのような何かも相まって
天乃の様子がおかしいだのなんだのとなれば、許可は出して貰えないし
その判断は基本芽吹に一存される
だから、天乃は芽吹の顔色を窺うように見上げながらたずねる
「文化祭の打合せ……ですか」
東郷「もちろん、楠さんも一緒にいて貰って大丈夫だから……」
「いえ、私が懸念しているのはそこではありません」
考え込むように言う芽吹は天乃を一瞥すると眉を顰めて、
根本的な問題ですが。と、切り出す
「久遠先輩がその文化祭に参加できるとは限らないのでは?」
東郷「それは」
「久遠先輩は妊娠……しているのかは不確かですが、していた場合余り無理は出来ないかと思いますが」
東郷「でも、出来るかもしれないわ。はじめから久遠先輩を含めずに考えるなんてそれこそ出来ない」
東郷のぶれることのない意志のある視線を受ける芽吹は、
しばらく黙り込んでからふと息を吐いて、分かりました。と呟く
「ただし、場合によっては久遠先輩が文化祭に参加することはできないことを覚えておいてください」
東郷「ええ」
天乃「出来る限り参加したいのだけど……」
「我儘いわないでください、これは私達ではなく久遠先輩が妊娠しているからこその措置なんですから」
天乃のぼやきに芽吹はぴしゃりと言い切って
どこか夏凜にも似たため息をついて首を振る
それが、東郷には良く見えたのだろう
部室に行きましょう。と、嬉しそうに笑う
「なにかおかしなことでも?」
東郷「ううん、別に」
「その声、茶化しているようにしか聞こえませんが」
東郷「ふふっ、そう聞こえるって言うことは楠さんに思い当たる節があるってことじゃないかしら」
東郷の笑顔に、芽吹の不満げな表情
2人の仲が良いのか悪いのか不確かな距離感に、天乃は首を傾げて
「……そんなもの、ありません」
芽吹は雲のようにふわりとした否定を呟いた
風「ごっめんね、席外してる間に連れ去られちゃって」
夏凜「風はトイレが長いんじゃないの?」
風「ち、違うし! 仮にそうだったとしても言うなっ!」
夏凜「……そう」
風「何よその言い方ぁっ!」
そう言うのならそうなんでしょうね。とでも言いたげに優しく呟きながら顔を背ける夏凜に、
風は厳重な抗議があると言わんばかりに声を張り上げて
樹「あはは」
いつもの光景で慣れているのだろう
樹や友奈達は楽しげに笑って
友奈「風先輩は職員室にお話ししに行ってたんじゃなかったっけ」
風「そうそう、大事な話があったから」
天乃「えーっと……文化祭の話をするのよね?」
樹「あ、はいっ。えっと一番最初に決めたいのが、勇者様なんです」
天乃「勇者……? そういえば、私達の名前しかなかったわね」
樹「そうなんです。脚本は出来ているので、後は一部配役なんですが、久遠先輩の相手がまだで」
天乃の相手
それはつまりキスシーンを披露する相手と言うことだろう
そう判断した天乃がなるほど。と言うと、
東郷「それが、夏凜ちゃんか友奈ちゃんどちらかが勇者役で久遠先輩の相手ですね」
天乃「それを、決めるのは私と言うことね……」
1、夏凜
2、友奈
3、あら。全員とするんじゃないの?
↓2
天乃「なら、夏凜が良いわ」
夏凜「私でいいの?」
天乃「何かダメな理由でも?」
どこか心配そうに言う夏凜に、
天乃は清々しく純粋で真っ直ぐな笑みを浮かべて答える
友奈が悪いわけではない
ただ、天乃としてはどちらかを選べと言われれば夏凜であることは揺らがない
もちろん、それが命に関わるというのであれば
迷うまでもなく両方を選ぼうとするが。
友奈「ほら、やっぱり夏凜ちゃんだったっ」
夏凜「いや、でも。私は演技とかそう言うの苦手だから」
東郷「大丈夫よ夏凜ちゃん。みんなも得意と言うわけではないから」
夏凜「それはそうだけど、主役よ。主役! 私が主役とか……友奈の方が映えると思うんだけど」
夏凜は不慣れというより
まだ経験もしたことのない演劇での主役を担うというのが不安で
だから、自分で良いのかと疑問を呟いたのだろう
きっと、ここで話す前に友奈にやるよう言ってたに違いないと、
天乃は思って
天乃「でも、夏凜は私にとっての主人公よ」
夏凜「はっ!?」
天乃「私の人生を担うよりも、難しいことなんて他にある?」
夏凜「そりゃ、そうかもしれないけど」
困ったように顔を顰めて呟いた夏凜は、
深くため息をついて、天乃から眼を逸らす
何のはかりごとも感じさせない笑みを浮かべながら
自分の主人公だとか、人生を担うとか言うのだから手に負えない
そう思って、そう感じて、またため息
風「それとも、夏凜には荷が重い?」
夏凜「いや……」
風の真面目な声色に夏凜は首を横に振って
友奈を見て、天乃を見る
どうするの? と言いたげな天乃の表情は
少しだけ、切なそうで
夏凜「私がやるわよ。選ばれた以上。やるべきことはやるわ」
天乃「なら、決定ね?」
夏凜「ん。あんたもセリフ覚えられませんでしたじゃ済まさないわよ」
天乃「生憎、暇な時間だけは十二分にあるから問題ないわ」
一転して見せられた笑顔
それはきっと、主役を受け入れたからこそのもので
夏凜は頑張らないと……と
手にした主役の台本を少しだけ強く、握る
演劇の練習も、バーテックスとの、戦いも
配役の話が完全にまとまって、
文化祭における衣装や小物、大道具の話へと切り替わったものの
それに関しては天乃はノータッチ―そもそもさせられない―とのことで
天乃「せめて衣装くらいは」
夏凜「良いからあんたはゆっくりしておきなさいよ。いつ何があるか分からないんだから」
天乃「でも、みんなが頑張ってるのに」
友奈「大丈夫ですよ。みんな、やりたくてやるんですから」
天乃の全てを委ねて楽をするということのできない性格に対して
友奈達はそう言って宥めて、抑え込む
本心で言えば、衣装づくりや大道具小道具の準備も含めて
天乃ともやりたいと思うが、
事情が事情なのだから、しかたがない
天乃「私もやりたいのだけど、仕方がないわね……」
「久遠先輩に何かがあっては困るので、本当なら文化祭の参加も控えて貰いたいのですが」
天乃「それは、嫌」
「ですから、せめてそれ以外のことに関しては周りに一任してください」
芽吹の命令のような指示
夏凜達の気遣ってのお願い
あれやこれやと話し合うのを見つめる天乃は、
仕方がないわねと、息をついて
天乃「解ったわ。お願い」
風「お任せあれ! って――あ、そうそう」
天乃「なに?」
風「これは文化祭には関係ないんだけどさ」
そう前置きをした風は、
少しだけ天乃に近づいて、視線を交わらせると
少しだけ口にしにくそうにはにかんで
風「天乃さえ大丈夫なら、今度ウチのお墓参りに行かない? 諸々の話もあるし」
天乃「うん、それに関しては私も考えてたから。良かった」
風からの申し出は、天乃も考えていたことで
いつかは言わなければと思いながら
中々きっかけをつかめなかった事
天乃「ちゃんと、ご挨拶しなきゃ……色々と。ね」
風「ん、楠さんもそれくらいいいでしょ?」
「久遠先輩の体調に問題がなく、また問題が起きていない限りは大丈夫かと」
判断しかねるといった様子での曖昧な芽吹の答えに
風は少しだけ不安そうに「それもそうか」と、呟いた
√9月8日目 夜(特別病棟) ※月曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50 沙織
51~60
61~70
71~80 歌野
91~00 千景
↓1
√9月8日目 夜(特別病棟) ※月曜日
夜の見回りの足音が遠ざかっていくのを聞きながら
天乃は閉じていた目をゆっくりと開く
暗い部屋の中には申し訳程度の薄い明かりがついていて
そこから伸びるヒトガタの影は
見る人から見れば幽霊のようにも思えるだろうと考えて、苦笑する
くだらないことでも考えて、笑う
そうしていないとこの部屋では生きていけないからだ
もっとも、その生活も予定ではもうすぐ終わるのだが。
天乃「勇者部での文化祭の出し物は決まったけど、クラスでの出し物は何をするのかしら」
中学3年生と言うこともあり、
受験もあって3学年は文化祭は自由参加で、出し物がなくても問題はない
ゆえに、何もやらない。というかのうせいもあるが……
天乃「今度、聞いてみようかしら」
報告がない以上、そもそもまだその話も出ていない可能性もあるけれど
天乃「……さて」
予定では、明日は妊娠検査
早めに寝ておいた方が良いかもしれないが
1、精霊組
2、勇者組
3、端末関係
4、イベント判定
↓2
1、風
2、樹
3、友奈
4、夏凜
5、東郷
↓2
枕の下から端末を取り出し、
画面に表示されるアドレスの中
東郷の名前を探し出して選択し、電話をかける
天乃のいる場所では消灯時間は過ぎているものの
時間としてはまだそこまでの時間ではなく
起きているのかどうかを気にしつつコール音を聞いていると
3コール目ほどで、東郷の声が聞こえてきた
東郷「久遠先輩……ですよね? どうかされたんですか?」
天乃「特に何かあったわけじゃないけど……もしかして、もう寝るところだった?」
東郷「いえ、ちょうどお風呂から出た後です。全然大丈夫ですよ」
東郷の声は普段よりも弾んで聞こえる
東郷「夏凜ちゃんに電話しなくて良かったんですか?」
天乃「夏凜に?」
天乃「夏凜に何か?」
東郷「いえ、ただ久遠先輩はやっぱり夏凜ちゃんが好きなんだなと、思ったので」
今日の部室で迷いなく夏凜を選んだからだろう
聞こえてくる東郷の声には
それに対しての恨みや妬み、不快感や嫌悪感
そう言った負の感情に通ずるものは一切感じないが
天乃はすこしだけ、不安に思う
天乃「それは」
東郷「いえ、分かっていますしそれでどうこうあるわけではないです。むしろ、それなのにこの電話が自分に来たことが嬉しくて」
本当に些細なことだし
天乃からしてみればそんな考えなどみじんもないだろうと東郷は思う
だが、なんの要件があるわけでも無いのに
その空白の時間を夏凜ではなく自分で埋めようとしてくれているというのが
東郷はなんだか、嬉しいのだ
それはやはり、東郷が天乃に好意を抱いているがゆえのものだろう
天乃「…………」
東郷「この時間を続ける為なら、徹夜も厭わないかもしれません」
天乃「それはたぶん、私が先に寝ちゃうかもね」
東郷「そうしたら、間接的に寝息が聞ける。と言うわけですね。録音していいですか?」
天乃「止めなさい」
東郷はもちろん冗談ですよと笑うけれど
東郷が言うからこそ、
それは冗談ではなく本気に思えて、天乃は苦笑する
そもそも、今まで夜を共にしてきた中で録音録画されていないとは限らないし
東郷どころか、恋人でも何でもない人たちに盗撮盗聴されていたのだから
そんなこと、今更だ
むしろされるなら東郷たちにされる方が良い。と、天乃は思う
東郷「早く、解放されると良いんですが」
天乃「うん」
まだ勇者をまとめるという話は聞いていないのだろう
東郷は残念そうに言う
天乃「…………」
言ってしまおうか
明日検査がある事
共同の生活が言い渡されること
芽吹も口止めはしなかったのだ。問題はない
1、妊娠検査がね。明日あるの
2、もうすぐみんなで生活できるわ
3、明日妊娠検査があって、明後日くらいかな。何か問題がなければ合流できると思う
4、録音しないなら、エッチな声を聞かせてあげても良いわよ?
5、東郷の家にも、挨拶行かないとね
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
東郷「共同生活……大丈夫ですか?」
天乃「うん? どうして?」
東郷「私は大丈夫ですが、久遠先輩は体一つでみんなの相手をしないといけないので」
天乃「え、いや、流石にほら、毎日とか、休みなくとか――」
東郷「数日間肉を与えられなかった獣が目の前に肉を出されて猛獣にならないと思いますか?」
天乃「え、えー……そこは理性とか」
東郷「性欲の前に理性なんて無力。男の子はそう言う生き物だって聞きました」
天乃「女の子でしょう、貴女達」
では少しだけ
会話が途切れた数秒間
言うかどうかを考えた天乃は小さくため息をついて
自分の胸元に触れる
痛いほどの強さはないけれど、普段よりも大きな鼓動
それは明日の緊張感と恐怖
覚悟を決めたと言っても怖いものは怖い
天乃「明日の事なんだけど」
東郷『はい?』
天乃「実はね、妊娠検査があるの。多分その関係で学校は休みになると思う」
東郷『検査……? こんな急にですか?』
東郷にも検査の件は伝わっていたのだろうが
明日急にと言うのは当然ではあるが伝わっていなくて
天乃「うん。私も聞いたのは今日なんだけど……ほら、襲来があったでしょう?」
東郷『それで、ですか? でも、それとこれとは』
直接関係ないと思いますが
そう言おうとする東郷の反応に天乃は「そうだけど」と割言って
少しだけ、間を置く
天乃「今回みたいに朝襲撃されたりするとみんなバラバラな配置になっちゃうでしょう?」
東郷『はい?』
天乃「だから、勇者を一ヵ所に纏めて生活して貰おうっていう話があるみたいで」
東郷『……なるほど。ですが、それでも久遠先輩とは』
天乃「そこに私も含まれてるのよ。私含めた勇者全員の共同生活。だから、いち早く合流するために私の検査を早めに終えようっていう話になってるの」
なっている。と言うよりはもうこれは確定事項だが。
電話の奥、東郷は天乃の説明に対して反応はなく、無言で
天乃がどうしたの? と問いかけると
気の抜けた声で「あ、いえ……」と呟くように答えて
東郷『嬉しい反面、複雑で……』
天乃「そう?」
東郷『だって、久遠先輩はもう、戦わないのに。それのせいでまた別に久遠先輩を追い詰めるようなことになって』
天乃「大丈夫よ。むしろ、嫌なことが速く終えられるのはメリットだし、みんなと会えるのはもっといい。正直、利点しか感じないわよ?」
冗談っぽく聞こえるような声色で天乃は言うけれど
本心から、それに関しては嬉しいと思っていた
自分の淫らな映像を見せられ、妊娠の検査にまで立ち会わされる男性には酷い言い方だと思うが、
しかし、嫌なことであることには変わりがないから
だから、それが早く終わるのは幸運なことだといえるし
それが済んだらもう、窓が無く明かりも心許ない
こんな人がいるべき部屋ではない場所での寝食を強制されなくなるのは
望んでいる以上にありがたいことこの上ないのだ
天乃「だから、別に東郷が悩む必要はないの」
東郷『久遠先輩……』
天乃「これまで追い詰められてきたし、それなのに解放されることがなかった。でも、これは違う」
救いが無かった昔、救いのある今
どちらが良いのかは言うまでもない
天乃「その心配のし過ぎは私の二の舞になるわよ? やめときなさい」
これは冗談。
そう分かる明るい笑い声を零して聞かせると
東郷も少しだけ笑って「冗談に聞こえませんよ」と、東郷は言う
確かに、天乃の二の舞は冗談にはならないが
そもそも、天乃と同様のことを成し遂げるのは簡単ではないし
しようと思ってもできることではない
東郷『分かりました、とりあえず明日久遠先輩はお休みで、近いうちにまた、みんなで暮らせるんですね』
天乃「うん、きっとね」
東郷『戻ったら大変ですよ。きっと』
思いを馳せるような声で呟いた東郷は、
笑い声を零しながらゆっくりと息を吸い込んでいく
一瞬の静寂が、天乃には少し不気味にも思えて
東郷『毎日みんなとしなくちゃいけないんですから』
天乃「それは、えっと……私の体を考えてくれたら助かるわ」
東郷『努力します』
わざとらしく不安を抱かせるように言う東郷は
すぐにもちろん、ちゃんと考えますからと続ける
天乃の身体を大切にしなければいけないことは分かっているし
そうでなかったとしても、大切にするのは当たり前だ
東郷『あと、風先輩の件の後日でいいので、私の家にも行きたいです』
天乃「あぁ、そうね……土日で行けたら良かったけど。まさか缶詰とは思わなかったわ」
そこで行くことができていれば
東郷家も犬吠埼家にもしっかり話を付けられたのに。と
天乃は思い、残念そうにため息を付く
缶詰は、本当に酷い話だ
東郷『一応の許可はもらえていますし、事情も事情ですから多少遅れても全然。落ち着いたらにしましょう』
東郷の宥めるような声に天乃はそうね。と答えて笑う
確かに挨拶に行くのは天乃がそうすべきだと自主的に行っていることで
もちろん、礼儀的に必要なことではあるが事情的に行う必要があることではない
けれど、やるべきだと天乃は思う
天乃「ちゃんと行きたいわ。そのためにも、お願いね」
東郷『はい』
天乃のお願いね。と言う言葉に東郷はその短い言葉で答える
もっといえる言葉は数多く存在するが
その一言で十分、伝わるからだ
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流有(お墓参り予定)
・ 犬吠埼樹:交流有(お墓参り予定)
・ 結城友奈:交流有(夏凜)
・ 東郷美森:交流有(妊娠検査、共同生活)
・ 三好夏凜:交流有(夏凜)
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流無()
・伊集院沙織:交流有(報告)
・ 神樹:交流無()
9月8日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 79(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 65(とても高い)
結城友奈との絆 95(かなり高い)
東郷美森との絆 99(かなり高い)
三好夏凜との絆 118(最高値)
乃木若葉との絆 88(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 34(中々良い)
沙織との絆 94(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
汚染度???%
√9月9日目 朝(特別病棟) ※火曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50 千景
51~60
61~70
71~80 樹海化
91~00 歌野
↓1のコンマ
√9月9日目 朝(特別病棟) ※火曜日
1、勇者組
2、精霊組
3、端末関連
4、イベント判定
↓2
01~10 千景
11~20 歌野
21~30 若葉
31~40 球子
41~50 樹海化
51~60 大赦
61~70 九尾
71~80 水都
81~90 芽吹
91~00 沙織
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
球子「皆で共同生活かぁ……懐かしいなぁ」
天乃「西暦時代もやっていたのよね」
球子「そうだぞ。寮生活だったんだけど、タマは良く杏の部屋に行ったもんだ」
天乃「陽乃さんは、どうしてた?」
球子「基本的には部屋にはいない。けど、街には行けないから城の屋根で本を読んでたな」
球子「今思えば、もう少し積極的にいっておけばよかったかもしれないな……」
では少しだけ
√9月9日目 朝(特別病棟) ※火曜日
朝が来た。急きょ決まった妊娠検査の日
皆との生活までのとても大切な一歩
そう思うと、目を覚ました時に見える忌々しいまだら模様にも似た白い天井も
不思議と明るく見える
天乃「っ……はぁ」
窓のない部屋の換気はどこかにある換気扇が担ってくれているが、
少し淀んでいる気がして、天乃は詰まった呼吸をすると
どこからともなく球子が姿を見せた
球子「んー外と比べると息が詰まるな」
天乃「……球子?」
貴女が来るなんて珍しいわね。と
嫌味でなく問いかけた天乃に、球子は普段はみんなに任せてるからな。と笑う
球子は別に恋人という立場にはいない
これは水都や歌野も同じで―と言っても二人にはまた別の理由があるが―若葉達恋人関係の人に場を譲った方が
天乃も気が楽だろうし、和めるだろうし、嬉しいだろうから。という
ある意味ではちょっとおせっかいな理由からだ
球子「けど、今日も若葉に譲ろうとしたらきっと喜ぶからたまには行けって言われてさ。タマだけに!」
天乃「…………」
球子「…………」
天乃「……あっ」
球子「あーいい、良いぞ、言わなくて良いからな!」
北風が吹くような流れで言った球子だったが
天乃の反応の遅さ、気づいた瞬間の申し訳なさそうな雰囲気に
気恥ずかしそうに頬を染めながら慌てて止める
その瞬間に気づかれなかったことの恥ずかしさと言ったら、無い。
天乃「ふふっ、ごめんね。急だったから」
球子「いや、それだけのんびりできてるって事だろ? なら良いと思う」
天乃「というより、反応が鈍っちゃったかな」
確かに、勇者としてはそんなものでは困るのかもしれないが
以前、本当に短い期間ではあるが、
乃木園子という勇者がいた記憶のある球子は
別に平気だろ。と笑って
球子「天乃はもう、普通の女の子だし、ほら。もっとおっとり天然なやついるだろ?」
天乃「園子は特別よ。あの子はあれでも――」
球子「……一緒だと思うぞ」
こう言うのは間違いじゃないのだろうか
球子は一瞬そう考えて間をおいてしまったが、
ままよ。と、勢い任せに考えて、口を挟む
球子「本当に必要な時にはすごく頼りになる。普段は頑張らなくていい、気張らなくていい。一緒じゃないか」
天乃「…………」
球子は心からそう思っているのが分かる優しい笑みを浮かべながら言って
ちらりと天乃へと目を向ける
球子「な?」
天乃「……うん」
球子の笑み、球子の言葉
それを受けた天乃はゆっくりと飲み込むように頷いて答える
それを受け入れたくないわけじゃない
普段の自分とは違うから
本当にそれでいいのかと躊躇ってしまうのだ
天乃「確かに、みんなも私には何もしないで。とか、ゆっくりしてろ。とかいうものね」
球子「ほんとだぞ。もう、天乃は隙あらば誰かの為とか言って何でもやろうとするからな。自重しろ、自重っ」
ええい、このこのっ!
そんな子供のような勢い任せに球子は天乃の体を突き回して
ベッドへと倒れ込む天乃はごめんなさいと口にするが
球子の手は止まらなくて
球子「天乃は一回じゃ聞かないからな、あと100回くらいだ!」
天乃「ちょ、ちょっとそこまで時間はなっひゃんっ!」
球子「ならば3倍速だっ! タマは赤く燃えるぞ!」
天乃「もっ、わっかっ……」
体中のどこかをまるで無数の手が触れるように突き回していく感覚は
気にならない部分、気になる部分
なんの配慮もなく響いてきて
天乃はこぼれ出る言葉を何とか紡ぐのを諦めて、
本当に3倍速くらいの速さで動く球子の手を掴んで
天乃「いい加減に、しなさいっ」
球子「おうっ」
ぱしりと頭を軽く叩いて止める
天乃「はっ、はぁ……はふ……」
突かれた部分から後追いで少しずつ薄れていく感覚は妙にこそばゆくて
天乃はそれが癒えるまで動きを止めて、深く息を吐く
天乃「次やったら、厳罰に処すわよ」
球子「……意外に苦手、なのか?」
天乃「今は結構敏感な状態なのよ」
球子「えっちもか」
天乃「球子」
球子「ごめん」
真顔ではなく、笑顔だった
天乃は背筋が凍りつくような笑みを浮かべながら、ただ球子の名前を呼んで
危険信号を感知した球子は即座に謝って「もうしないから」と言う
球子「つい、天乃の反応がおもしろくてさ。ごめんな」
天乃「妊婦の体を労わりなさい」
球子「でもそれ、本人が言うと逆にその気なくなるよなぁ……強制されてるみたいで」
もちろん、タマは言われなくてもやるけどな。と
球子は苦笑しながら言って、天乃の腹部を優しく撫でる
球子「ちゃんといるといいな。それで、また、みんなで堂々と暮らすんだ」
天乃「うん。結果に関わらずだから暮らせるけどね」
そう笑う天乃に、球子はそうだけどさ。と
少し困ったような表情を浮かべながら頷いてふと、目線を逸らす
球子「懐かしいな。共同生活」
天乃「…………」
球子の懐かしんでいる表情は、
以前、園子も含めた生活をしていたときのものではなく
西暦時代の話だと天乃は感じ取って、小さく息をつく
今いるメンバーの中にもそのときの勇者はいるが
やはり、全員ではないし、球子が一番親しくしていた伊予島杏という勇者はいないから
天乃「あの頃は確か、寮生活だったのよね」
球子「そうだぞ。いっつも、部屋を行き来したりしてたな」
天乃「陽乃さんもだったわよね。でも、なんだか聞く話し聞く話で印象がバラバラなのよね」
球子「陽乃は前にも言ったとおり、相手に合わせるようなやつだからな。聞いた相手によって印象なんて滅茶苦茶で当然だぞ」
そう言った球子は、少し考え込んでいるのはうーん。と唸りながら目を瞑って
確か若葉だったよな。と自己確認して頷く
球子「タマだけが知ってる陽乃といえば、そうだな。意外とキャンプとかも好きってところだな」
天乃「それは若葉も知らなかったわね」
球子「キャンプの道具とか、山とか川での作業とか結構得意だって、今度行こうとか、話したなぁ」
球子は思いを馳せる
叶わなかった。かなえられなかったその些細な楽しみ
それを思う球子は目元を拭って笑う
球子「たとえそれがタマに合わせてくれてただけだとしても、嬉しかったんだ。行きたかったんだ」
天乃「……なら、落ち着いたら、みんなでやってみる?」
球子「ほんとか!?」
嬉しそうに声を張り上げた球子は、
しかし、天乃を見つめて「いや」と、呟く
球子「流石に妊婦は連れて行けないし、生まれたばかりの子供も無理だぞ」
天乃「そのあたりが落ち着いたら、よ。出来れば園子も含めてね」
球子「なら絶対にちゃんとしなきゃだな……いいか天乃。約束だぞ! 嘘ついたら指千本だぞ!」
天乃「はいはい」
突くような素振りを見せる球子に天乃は笑いながら答えて「約束」と、答えた
√9月9日目 昼(特別病棟) ※火曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50
51~60 沙織
61~70
71~80
81~90 樹海化
↓1のコンマ
※空白は検査直行
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
大地「これを持って行ってくれ」
春信「余計なものは――」
大地「心配しなくてもバッジみたいに付けていればいいだけだから。な?」
春信「…………」
春信「このくらいの大きさのカメラ。お前なら作れる気がしたが」
大地「ハハッ」
春信「恥を知れ」
では少しだけ
√9月9日目 昼(特別病棟) ※火曜日
昼頃になって姿を見せた女性神官は、
少ししたら検査を行います。と、静かに告げて
「なお、検査の立ち合いに関してですが三好春信さんが担当されることになりました」
天乃「……あら。もう一人の方は脱落?」
もう一人の方というのは、
沙織の婚約者として一時期とはいえ、天乃から沙織を奪った男性だ
その人は欲情してしまったのか。と
天乃は少し気まずく、そして、
中学生に簡単に情欲を抱くような人だったのだろうか。と思って
「いえ、辞退されました。これ以上、久遠様、伊集院様に失礼は働けない。と」
天乃「……そっか」
彼はしっかりと考えたうえで
何か恥ずかしい理由もなくそこから退くことにしたのだと聞いて
天乃は大きく喜ぶような素振りこそ見せなかったが
嬉しそうに笑みを浮かべて呟く
一度は自分の元に来た沙織を奪って言った天乃
その敵ともいえるような人を気遣えるのは、この時代とはいえ……簡単なことではないだろう
天乃「春信さんは大丈夫だったの?」
夏凜の兄、三好春信
天乃の知人ということになってはいるがそこまで深い関係はない
けれど、夏凜と一緒にあったときなどの姿勢から
真面目な人であることは天乃も認めていて
そんな彼を欲情させられたのなら自分には本当に魅力があるのだろうと冗談っぽく思う反面
平気だったとしても何かしらの影響を与えてしまってはいないだろうかと不安を抱いて訊ねたが、
女性神官は「あの人の場合は困っていましたね」と
思い出したように笑って、一礼する
「こ、これは最後まで見ないといけないものなのか……? そもそもこういうことはすべきではないはずだ」
天乃「そう言ってたの?」
「ええ。そうです。あの時の慌て方というか不慣れな感じは、そう言った映像を見たことが無いのだろうと少しだけ……あ、いえ、これは何でもないです」
確実に何かあるような言い方だったのだが
女性神官はなんでもありませんので。と
仮面越しで顔こそ見えないものの恥じらっていると分かるような声で言って首を振る
本当、この女性神官は普通の神官とは変わっちゃったのねと天乃は思って
天乃「そういうことにしておいてあげるわね」
クラスメイトなどの友人、知人に言うように茶化すような笑顔で言う
春信関連で何かしら隠し事がありそうな女性神官の説明通り、
彼女が去ってから暫くして医療班数人が天乃を連れて行くべく部屋を訪れたのだが
そこには一人、見覚えのある顔がいて
天乃「春信さん……?」
「ん、あ、ああ……ここから暫く私も同行することになる。すまない」
天乃「いえ、私こそ見苦しい姿を見せてしまって……ううん、これからも、ですよね」
気まずそうな春信に対して、
天乃は努めて冗談ぽく零して笑って見せるが、
それが場を和ませられるのかといえば、もちろんそんなわけは無く。
「見苦しいなどとは……あれは美しいと思ったし、愛おしいと思った。心から相手を想っているのだと分かる姿だった」
天乃「そんな感想はいわれたくなかったんだけど……」
賞賛を受けるのが嫌なわけではないが、
ことがことだから素直に喜べるようなことでもないわけで
「それも、そうか。そうだな……すみません」
礼儀的に謝罪をする春信に
天乃は別に謝るようなことじゃないから。と、拒否して苦笑する
よくよく気遣いをしてくれるが
場合によってはその気使いは裏目に出てしまうといったタイプなのだろう
天乃はそう考えて夏凜を思い、
大変だったのかもしれないと想像して笑う
天乃「春信さんが見てくれるなら、検査も大丈夫そう」
「そもそも君にここまでする必要は無いといったのだが」
天乃「仕方が無いわ。私だもの」
「す……」
天乃「うん?」
「いや」
春信は何かを言いかけて、
けれど、それは言わずに口を閉ざして顔を背けてしまう
痛々しいとでも思われただろうか
可哀想だと思われただろうか
天乃はそれを思わせたかったわけではないけれど
それを感じてしまうのも無理は無いと思っているのだが
天乃「大丈夫ですよ。春信さんはとても良くしてくださってます」
「……君は」
天乃「私は夏凜の恋人ですよ?」
春信は夏凜と同様に優しくて、やっぱり不器用だから
そんなことを感じてしまったら罪悪感を抱いたりして
すまない。と、言おうとすることくらい分かるのだ
「久遠様、春信様」
そんな会話をしながらたどり着いた検査をするための部屋
立ち止まる医療班の呼びかけに、2人は静かに頷いて
天乃は少し黙り込んでいたが、
後ろを歩く春信へと振り返って少しばかり申し訳なさそうに、笑みを見せる
天乃「では、お願いします」
「……分かった」
春信の最小限の返事に天乃は一礼して前を向く
彼女でもない相手
しかも、妹の恋人である自分に対して
普通は絶対ありえないようなことをする
その役目は天乃がわがままを言ったからこそ
だから、天乃は少しの罪悪感を胸に
嫌悪感と不快感を微塵も許さずに飲み下そうと意を決する
それは、春信が天乃にとって不快な人ではないからこそでもあるが。
もしも関係が浅くなければ
世話係が瞳ではなく春信だったら
考えるのだけは自由だろう。と
天乃は少しでも気を紛らわせるために、想像を膨らませていった
√9月9日目 昼(特別病棟) ※火曜日
01~10
11~20 春信
21~30
31~40 九尾
41~50 春信
51~60
61~70 若葉
71~80 春信
81~90
91~00 沙織
↓1のコンマ
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
春信継続、検査後
結果待ち
では少しずつ
苦痛ともいえる検査を終え、
検査結果を待つ天乃は律儀に待機してくれている春信へと目を向ける
通常の病院の検査内容を調べてくれた春信曰く
やっていたことはどれも嘘や冗談、嫌がらせではなく
真っ当な妊娠検査だったらしい
大赦系列の医療班とはいえ
やはり医療行為に対してはまじめだった。と言うことなのだろうか
そう考えた天乃は首を横に振って、ため息をつく
天乃「春信さん、本当。ごめんなさい」
「い、いや……君が謝るようなことではない」
天乃「でも、やっぱり不衛生と言うか……あんなことは、ごめんなさい」
春信は謝る必要はないと言うし、
天乃自身、自分が謝る意味がない事くらい分かっている
けれど、どうしてもそれが出て来てしまうのだ
そもそうだろう、ただ見ているだけでよかった―と言っても子宮内の確認等も含めてだが―はずなのに
尿検査の採取まで手伝わされたりしていたのだから……もう最悪だと言えるだろう
大赦曰く、不正を防ぐためとの話で
それにはさすがの春信も何の冗談かと詰め寄ったのだが
もちろん、手伝わない事には進まないし何もできないわけで
天乃の諦めたようなお願いします……という懇願に仕方がなく春信は手を貸した
その行為のせいもあって、春信は天乃と距離を置いてしまったし
何とも話をしにくい微妙で息苦しい時間が少しずつ流れていく
天乃「あの――」
「こ、今回の件だが」
天乃「は、はいっ」
「その、互いに水に流すべきだ。いや、流そう」
きっとこのままでは謝罪の繰り返しでいつまでも何も進展しないと判断したのだろう
緊張感と羞恥心に苛まれた声は落ち着きがなく
子供の慌てて取り繕うさまにも似た目を向けようとしない態度を春信は見せる
だが、天乃も何も言えない
本当にそうだ。水に流してしまうべきなのだ
天乃「……ごめんなさい」
「気にしないでくれ。いつか子供を世話する時何度も似たようなことになる。その一つと考えれば……」
言いながらちらりと天乃を見た春信は硬直して言葉を止めて
あからさまに目を伏せて「いや、そうだな……そうだ……」と
ぶつぶつと口ごもって俯いてしまう
えっちな動画でダメージを受け、妊娠検査で覚悟していた以上のことをさせられ
それはもう、限界も限界なのだろう
「切り替えよう」
天乃「そう、ですね……」
切り替えようとは言ったものの
すぐに話題が見つけられるわけもなく
ただ様子を見るようにちらちらと目を向けては合わさった瞬間に眼を逸らして赤面する
そんな初々しい恋人のような数分間を過ごして
「……妹とは。夏凜とは、上手くいっているのだろうか」
ふと、春信は夏凜のことを切り出した
天乃「え?」
「話は聞いているし、検査前の君の様子を見ても問題なく行っているのは分かるが、少し聞いてみたいんだ」
天乃「夏凜とはうまく行ってますよ。問題なく」
ほんの少し来てほしいと思った時とかにはあまり来てくれなかったりするけれど
天乃「本気で会いたいって願うと、いつもそこに来てくれるんです」
「……そうか」
周りの手を借りているとはいえ
本当に来てほしいという時にはたとえ隔離された病院の一室にでさえ会いに来てくれる
むしろ、自分はその思いに答えるだけの力があるのかどうかと不安にさえなってしまいそうだと天乃は思う
「夏凜は学校では馴染めているか? あの性格だ。君なら分かるだろうが――」
天乃「大丈夫ですよ。学校の子は。クラスメイトは。勇者部は。夏凜が本当は優しい子だって、いい子だって。分かっていますから」
事細かな情報まで得られているわけではないけれど
少なくとも嫌われているような話は聞いたことが無いし
むしろ部活の助っ人などでよく引っ張られているという話も聞くくらいには人気だし
それにこたえているからこそ尽きない人気だとも天乃は分かっているから
天乃「最初こそ、ちょっと難しいかなって思う子でしたけど。でも、少し触れ合えばすぐにわかるんです」
夏凜は決してひねくれているわけではないのだと
友奈とはやはり違う。樹とだってやっぱり違う
けれども似たように純粋で一つ一つへの対応が覚束無い
だから、時にはその優しさは乱暴に思えてしまう
確かにそれだけでなく過去の経験から来る強がりのようなものもある
しかし、優しいという根本が変わらない以上は、その強がりも実に可愛らしく見える
天乃「夏凜は良い子なんだな。優しいんだなって」
天乃はそう言って笑うと
そこで褒めると照れくさそうに笑ったりしてもっと可愛いんですよ。と
本当にうれしそうに、幸せそうに
なんの偽りもない笑みを浮かべて見せて
「……そうか、そうか」
夏凜の兄である春信は
天乃の生報告を受けて感情の籠った相槌を打ちながら声なく笑みをこぼす
それは、心安き夏の音色を縁側で聞いているかのような
そんな、穏やかな表情で
天乃「春信さんは……本当に、お兄さんですね」
「……私が?」
天乃「そうですよ。夏凜のお兄さん……とても、妹思いの優しいお兄さんです」
そう言って、天乃がとてもいい笑顔を見せるから
年相応の、子供の
あと少しで高校生と言う微妙な時期のどこか大人びた面影があるから
いや、きっと。
それ以外にもたくさんの理由はあって
「……君に」
春信は呆然自失と言った様子で呟き
自分の胸元に手を宛がうと、息を吐く
「君に賞賛されるのは、なぜだかこう。とても体が温まる心地よさがあるな」
その紅潮は決して、淫らな映像を見たときの恥じらいとは違う
天乃「それは少し恥ずかしいわ」
天乃は褒めようとしているわけではなく本心でそう言っているだけ
だから褒め方が上手いと言われても困るし
それが心安らぐような感じがすると言われても
過ぎた賞賛に思えてどうにも気恥ずかしいのだ
天乃「でも、春信さんが良く思えたのならよかった」
「……ああ」
春信は短くそう答えただけで眼を逸らしてしまって
妹の恋人
つまりは義妹の褒め言葉に安らいでしまうのが恥ずかしいのだろうか。と
天乃は苦笑を溢して春信をじっと見つめる
そう、兄だ。義兄になるのだ
天乃「春信さんは、これからも春信さんで良いですか?」
「というと……?」
天乃「この世界には兄と呼ぶことに固執する人もいるみたいで……そこまで重要な呼び方だとは思えないのだけれど……」
考え込むように天乃は零して
その固執する人―自分の兄―を思いながらため息交じりに笑う
天乃「一応、夏凜と付き合う私は春信さんにとって義妹で、春信さんは義兄で。だから義兄さんと呼ぶべきなのかと思って」
春信「なるほど、一理ある」
春信は考え込みながら目を伏せていて
その真剣に考える様に天乃は苦笑を溢す
そこまで真剣に考える必要があるものでもないのに
あまりにも真剣に考えるものだから
天乃「春信さん。って呼ぶとなんだか古風な夫婦みたいですし」
「ふう……ふ……?」
天乃「そうですね……春信さんが私をおまえ。とか呼ぶとそれらしいかもしれませんね。君だと少し、距離を感じますから」
勿論、和ませるための冗談だ
芽吹にこれをやると突っぱねられてしまうのだが
今の夏凜はともかく、少し前の夏凜なら面白い反応を見せてくれるし
変な緊張感もなくなってくれる
天乃「もしくは天乃って下の名前で呼ぶのも良いと思います。試しにお客様にお茶を。って言ってみてください」
「え、あ……天乃、お客様にお茶を」
天乃「解りました。春信さんは先に客間へお願いします――なんて。ふふっ。少しそれらしいわ」
大人しい印象を受けそうななだらかな笑い声を零しながら
天乃は「でも、名前がちょっとね」と
少し残念そうに言いながら考えるように目を伏せて
天乃「陽乃さん。とかだったら春信さんも呼びやすそうね」
「そう、だろうか……」
天乃「そうでしょう? だって、なんだか天乃さんって言いにくいもの。その点、陽乃さんはいい感じに馴染むから」
検査結果を待つ退屈な時間
最初の頃はぎこちなかった
検査のせいもあって気まずい空気に包まれることもあった
けれど、話してみれば段々とその空気も落ち着いて
天乃「どうかしら?」
「……………」
天乃は純粋にその時間を楽しんで
だから、誰かが言う穢れた少女というものを一切感じさせない
無垢な笑顔を見せるし、優しい声色で話しかける
それが異性にとってどういうものかなんて微塵も考えずに。
もっとも、それはなんの謀略もない無意識で
それゆえに、久遠天乃は久遠天乃であり、強く警戒されるのだ
「久遠様、三好様」
天乃「あら、本当に早く終わるのね」
呼び出しに応じて、
天乃たちはもう一度用意された部屋へと入っていく
待っていたのは数人の医療班
医療班は神官と違って仮面をつけておらず表情が良く分かるが
一人確認すれば十分と言うほどに
その部屋の空気は驚きに包まれていて
天乃「あの、なにか?」
いつまで経っても説明も何もないことに疑問符を浮かべながら天乃が問うと、
普通の担当医として天乃に接していた女性が一枚の写真を天乃に手渡す
白黒のそれには良く見れば人の形をしたようなものが二つほど映っていて
「久遠様、もう一度お伺いします。本当に一月前なんですね? 」
天乃「それは貴女達が良く分かっていることだと思うけど」
「いえ、それ以前に男性と――」
天乃「そんなことしないわ」
失礼ではないかと問いかけるように視線を鋭くすると
医師はすみません。と謝罪を口にして天乃から手元へと視線を動かして首を振る
「結果のみでいえば、妊娠しています。それも、双子をです」
天乃「双子……」
「はい」
「だが、何か問題がある。のだろうか?」
先ほどの無意味に思える質問
着たばかりの不穏な空気
それに対して春信が切り出すと医師の目は春信へと動き、首肯する
「久遠様の問診を本来の流れに沿ってみると大体妊娠5週目相当です」
天乃「それで?」
「しかし、検査した結果はすでに胎芽を超えて胎児と呼べるほどに成長しています」
それはつまり。と
医師は緊張に強張り、畏怖に震える手を自分で握る
当たり前だ、誤診でなければ絶対にありえないことなのだから
「これは大体、妊娠8週目からようやく確認出来るかどうかと言うもの。分かりますか? 成長速度が尋常ではないんです」
天乃「そう……良かったちゃんと出来てるのね。それも双子」
しかし、天乃は驚く素振りも無く
ただそこに命が宿ったことが確信できたことを嬉しそうに撫でる
「久遠様は良くご存知無いかもしれませんがこれは――」
天乃「早いことくらいは分かっていたから特別驚くことではないわ」
「……は?」
何が分かっていたのか
そのあまりにも唐突な答えに医師は混乱し、
思わず素っ頓狂な声を漏らして
天乃はそれにも動じずに母親らしく笑みを見せる
天乃「聞いた話、栄養が多いからその分適応するために早く成長するらしいわ」
双子なのは驚いたけどね。と天乃はさも当然のように笑って
それでも多いから分けることにしたのかしら。と、嬉しそうで
医師は自分たちが動じていることが異常なのだと判断したのだろう
落ち着こうと深呼吸して、考えていたこと、そのメモに目を通す
「わかりました。そう言うことで構いません」
天乃「うん」
「これには問題点がいくつかありますので、周囲の方にもしっかりと相談してください」
その仰々しい前置きから告げられたのは注意だった
体が胎児の成長についていけない場合、
つわりの症状が急激あるいは一度に大きく現れたりして
母体に絶大な負荷がかかるということ
成長速度の予想が付かないため、少なくとも一週間に一度は検査を行うこと
行動は必要最低限に控え、悪天候時などの外出は控えること
必ず誰か一人は傍に居て貰うこと
「厳守してください」
天乃「分かったわ」
「軽い返事をしますが、久遠様のケースは前例がありません。くれぐれもご注意下さい」
天乃の分かっているのかいないのか
不確かな返事に医師は少しばかり厳しく言うが
天乃は「大丈夫」と変わらず答えて笑みを浮かべた
「では、これで今回の検査に関しては以上です」
本来ならこのあたりで予定日なども計算することはできるのだが
現状のまったくつかめない状況では下手に予測も出来ないため
妊娠していることを確認する以上のことは出来ないのだ
天乃「春信さん、時間は?」
「ああ、もうすぐ学校も終わる頃だろう」
そう言った春信はどこかへと連絡をして
それでは行こうか。と天乃の車椅子に触れる
「問題があるのなら早急に勇者部と合流した方がいい」
天乃「……大赦の予定とはずれるんじゃない?」
「そんなことを気にしていて問題が起きたら困る。君に何かあったら、夏凜が黙っていないだろうから」
冗談めかして言う春信に
天乃は「それもそうね」と、苦笑を零した
√9月9日目 夕() ※火曜日
01~10
11~20 樹海化
21~30
31~40 九尾
41~50 友奈
51~60
61~70 千景
71~80
81~90 若葉
91~00 夏凜
↓1のコンマ
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
勇者部との交流よりも先に千景
千景「……久遠さん、貴女に言っておくわ」
天乃「うん?」
千景「今ここで、貴女を寝取る!」ドンッ
沙織「あ、じゃぁ。あたしと技術力で勝負しようか」
天乃「やめて」
すみませんが、今日は急用で中止になります
出来れば、明日通常時間から
昨日やる予定だった分だけ素早く投下して終わります
√9月9日目 夕(共同住宅) ※火曜日
天乃に宛がわれたのは、今朝までいた窓のない部屋のような牢獄ではなく、
ごく普通の家にある一室だった
部屋は広く、医療機器がいくつか備え付けられていて、
畳んだ車椅子の収納スペースや、
車椅子の高さに合わせた手すり付きのベッドなど
天乃のことを毛嫌いする割には、天乃のことをしっかりと考えた部屋で
天乃「何なのよ、心でも入れ替えたの?」
一人きりの部屋で呟いて、苦笑する
別にそう言うわけではないのは百も承知
気遣うべきだと思っているから気遣ってくれただけのことで
これは東郷にもしているように
当然のごとくあるバリアフリーと言うものでしかない
そこに、天乃だからどうこう。なんて言うものは
悪い部分良い部分に関わらず存在していないのだ
千景「中々いい部屋だわ」
そんな天乃のすぐそばに姿を見せたのは漆黒の少女、郡千景
彼女は手にしたいくつもの小さな機械を袋に詰めて、ため息をつく
天乃「今のは?」
千景「言わずもがな、久遠さん達を監視する為の物よ。全て回収したわ」
監視する為の物と千景は言うが、それは要するに盗撮盗聴用の機械類
もちろん、天乃に嫌がらせをしたり、天乃の赤裸々な醜態を得ようとしているわけではないことは重々承知だが
だからと言って許せるのかどうか問われれば断じて否である
天乃「また、なのね」
千景「ええ」
天乃「そう言えば、何も言ってないのに、どうして?」
千景「どうせまた仕掛けてくると思ったから……」
そう言って、千景は天乃からゆっくりと眼を逸らす
監視されていたのだと知った時の衝撃
不快感と嫌悪感、怒りと悲しみ
あれを味合わせたくないと千景は思ったと言うのが、本当のところだ
……しかし、本心は語らない
千景「それよりも聞いていたわ。おめでとう」
天乃「え? あ、あぁ……うん。ありがとう」
一瞬千景が何のことを言っているのか解らなかったのだろう
天乃はすこし間延びするように答えながら、笑顔を見せて
天乃「お腹、触ってみる? まだ全然だけど子供がいるのよ」
大きくなったり、つわりなどの症状はまだ全くと言っていいほど起きていない天乃
しかし、だからこそ警戒すべきだと医師は言っていたし
千景としてはそれゆえに繊細なのだと考えて、天乃の申し出を有難く受け取りつつも拒否する
千景「私の力は穢れ……バランスを崩してしまう可能性もあるから」
天乃「でも、貴女自身が穢れているわけじゃない」
けれど、天乃は遠慮がちな千景の手を取って、
自分の腹部へとその手を乗せて、軽く、優しく、擦ってほほ笑む
千景はああいうけれど
天乃だって以前は穢れた力を持っていたし、
今の子供にだってその力の譲渡が行われているのだ
それも、天乃と悪五郎の子供が。だ
ただ触れたくらいでバランスが崩れるほど、弱いはずがないと天乃は思う
天乃「ね? 大丈夫でしょう?」
千景「……無茶を、するわね」
最初は天乃に撫でさせられる形だった千景は、
少し呆れたように溢すと、自分から天乃の腹部を撫でて小さく笑う
優しい笑顔だ
若葉の記憶上の西暦時代、
そこで見られた千景があまり浮かべることのなかった笑顔
本当は、とても優しい子だと分かる笑顔
天乃「ふふっ」
千景「なに?」
天乃「ううん、なんでもない」
その表情があまりにも優しくて、穏やかで
まるで、自分の子供であるかのように内心に喜びを秘めているから
少しだけ、夫に見えたのだ
千景「やはり、双子だったわね」
天乃「え?」
千景「余りにも力が強すぎて、一人では受けきれなかったのよ。だから、双子になってそれでも強くて成長が速い」
きっと、一人で受けていたら園児を産むことになっていたわ。と
千景はあまりにも恐ろしいこと平然と言って
もちろん、そうならないようになっていたのだけど。と続ける
千景「でも、生まれてきたら久遠さんからは切り離されるから、力の流入は適度に抑えられて普通の成長速度になると思う」
天乃「そう……よね。そこまで異常だったらまた、気味悪がられちゃう」
子供にはなんの非もない
けれど、周りはその異常さを恐れるだろうし
大赦はやはり、天乃に対するように
あるいはそれ以上に厳しい対応をしてくるかもしれない
それを心配して零す天乃に、
千景は大丈夫よ。と、優しく言って天乃の腹部を擦る
もう、その手に躊躇はなかった
千景「貴女と悪五郎の子供だから。きっと、とても強い子供だから」
天乃「ふふっ、そうね。そうよね」
もちろん、だからといって大赦の厳しい対応があって良いわけではないが。
天乃「ありがとね」
千景「なんの話?」
唐突なお礼の言葉に、
千景は本心から心当たりが無いといった様子で答えたが、
天乃は「とぼけちゃって」と、
千景に言われるべき部分があることを確信して笑う
天乃「貴女でしょう? 夏凜をたきつけてくれたの」
千景「……違うわ。乃木さんよ」
少し間をおいて答えた千景は、天乃と目を合わせようとはしていない
その態度は分かりやすく思えるが、
しかし、天乃があれを千景だと判断したのはもっと別の理由だから
その分かりやすい態度には、ただ苦笑を零して
天乃「乃木さんは違うわ。だって、乃木さんなら夏凜から名前が出るはずだもの」
やましいことは何もしていない
恥ずかしいことでもない
だから、自分の名前を出してもらっても構わないというだろう
歌野も同じ理由でありえない
球子や水都は恥ずかしがって言わないでと言うだろうが、
しかし、あんな身勝手をするかといえばそんなことはないだろう
千景「なら、伊集院さんは?」
天乃「あの子は寧ろ任せずに自分から来る子よ」
千景「あぁ……」
天乃「観念するのね」
逃げる必要は無いことなのだが、
逃げようとして見事に失敗した千景を微笑ましく見つめながら、
天乃は子供に接するかのような
少しだけ高いトーンで告げて、千景の手に触れる
天乃「あの流れで私のために夏凜を呼んで、名前を伏せて欲しいと願うなんて貴女くらいよ」
千景「……ええ、そう。私が呼んだわ」
天乃「だから、ありがとう」
あの再会があったからこそ、
天乃は今回の検査に関しての覚悟を決めることができたのだ
それが無かったら、今に至っていない
千景「久遠さんは会いたがっていると、そう思った。そう感じた。ただそれだけの独断専行」
天乃「それでも、千景は私のことを助けてくれたわ。ありがとう」
千景「……礼には、及ばないわ」
口ではそういいながらも、
千景は嬉しそうな笑みを浮かべて、天乃の手に手を重ねる
したいと思ったことをしただけだ
天乃のためになりたいと思っただけのことだ
だから、お礼を言われるようなことではないと思うのも事実だが、
しかし、嬉しいことはうれしいのだ
天乃には話していないが、
九尾によって西暦時代の記憶を戻して貰っている千景は
その時代の報われなかった辛さと、苦しさを良く分かっているから
本当に些細なことでも喜んでくれる、褒めてくれる
嬉しそうな表情を見せてくれるのが、嬉しくて
千景「……わかるわ」
天乃「え?」
千景「個人的なことだから、気にしないで」
不思議そうな顔をする天乃に千景は微笑んで封殺する
みんなが入れ込む理由
みんなが尽くそうとする理由
それが改めて良く分かった
報われるのだ。救われるのだ
それだけ些細なことであっても
辛いこと、大変なこと、苦しいことであっても
久遠天乃と言う少女は受け止めてくれるから、頑張ろうと思えるのだ
千景「あの約束は破棄ね。付き合えなくて残念だわ」
天乃「あら……約束関係なくても良いのよ?」
そう悪戯っぽく微笑む天乃に千景は「冗談よ」と呟いて
全部終わったら、落ち着いてから。また少しずつ進んで行こう
その上で本気で思ったのならと、心の中に小さな目標を積み上げていく
予定していた部分はここまでとなります
明日は出来れば昼頃から
開始時にイベント判定
積み上がるフラグは生存か死か
では少しずつ
√9月9日目 () ※火曜日
01~10
11~20
21~30
31~40 樹海化
41~50
51~60
61~70
81~90 樹海化
91~00
↓1のコンマ
※空白なら勇者部
難易度判定
↓1コンマ一桁
※補正+1
※1最低0最大
戦闘難易度は9+1=0(最大値)
戦闘はスキップすることが可能です
【0 判定有り 満開有り(多) ダメージ有(大~特大) 】
スキップしない場合の方が被害が少なく済む可能性もありますが
より大きな被害出る可能性もあります
1、スキップする
2、スキップしない
↓2
満開使用済み
東郷:2回(両足、記憶)
友奈:1回(味覚)
他満開使用無し
満開使用者割合は風:樹:夏凜:友奈:東郷=4:2:2:1:1
まずは満開の総合計数を判定し
回数分の満開使用者を判定します
総満開数判定 ↓1
※コンマ一桁
※難易度補正+2
判定0……10or0の明記忘れたのでどちらか再判定
↓1 コンマ
※奇数なら0=0。つまり+2で満開は2回
※偶数なら0=10.つまり+2で満開は12回
01~10 風
11~20 夏凜
21~30 樹
31~40 風
41~50 夏凜
51~60 東郷
61~70 友奈
71~80 風
81~90 樹
91~00 風
↓1のコンマ
※使用者判定1回目
01~10 樹
11~20 風
21~30 東郷
31~40 友奈
41~50 樹
51~60 風
61~70 夏凜
71~80 風
81~90 樹
91~00 夏凜
↓1のコンマ
※使用者判定2回目
風の後遺症判定 ↓1
東郷の後遺症判定↓2
01:記憶 02:視覚 03:手 04:触覚 05:視覚 06:声 07:出産 08:触覚 09:肺 10:腕
11:視覚 12:記憶 13:触覚 14:視覚 15:触覚 16:記憶 17:嗅覚 18:嗅覚 19:腕 20:皮膚機能
21:視覚 22:視覚 23:記憶 24:触覚 25:視覚 26:声 27:嗅覚 28:腕 29:成長 30:腕
31:触覚 32:皮膚機能 33:視覚 34:視覚 35:記憶 36:嗅覚 37:腕 38:記憶 39:皮膚機能 40:胃
41:色覚 42:成長 43:嗅覚 44:触覚 45:視覚 46:記憶 47:記憶 48:腕 49:視覚 50:感情
51:触覚 52:出産 53:腕 54:嗅覚 55:出産 56:視覚 57:聴覚 58:記憶 59:記憶 60:手
61:手 62:触覚 63:記憶 64:嗅覚 65:成長 66:手 67:視覚 68:腕 69:成長 70:記憶
71:触覚 72:色素 73:嗅覚 74:足 75:腕 76:記憶 77:聴覚 78:視覚 79:手 80:成長
81:嗅覚 82:触覚 83:声 84:嗅覚 85:視覚 86:腕 87:成長 88:記憶 89:視覚 90:聴覚
91:感情 92:心臓 93:腕 94:嗅覚 95:触覚 96:出産 97:成長 98:視覚 99:視覚 00:記憶
01:左 02:右 03:左 04:左 05:右 06:左 07:右 08:左 09:右 10:左
11:右 12:左 13:左 14:右 15:左 16:左 17:右 18:右 19:左 20:両
21:右 22:右 23:左 24:左 25:右 26:左 27:右 28:左 29:右 30:左
31:左 32:両 33:右 34:右 35:左 36:右 37:左 38:左 39:両 40:両
41:右 42:右 43:右 44:左 45:右 46:左 47:左 48:左 49:右 50:両
51:左 52:右 53:左 54:右 55:右 56:右 57:左 58:左 59:左 60:左
61:左 62:左 63:左 64:右 65:右 66:左 67:右 68:左 69:右 70:左
71:左 72:右 73:右 74:両 75:左 76:左 77:左 78:右 79:左 80:右
81:右 82:左 83:左 84:右 85:右 86:左 87:右 88:左 89:右 90:左
91:両 92:右 93:左 94:右 95:左 96:右 97:右 98:右 99:右 00:左
東郷 ↓1
風 ↓2
東郷 右腕(物は掴めるが持てない状態)
風 右手(腕は動くが物はつかめない)
ここから連続判定(精霊は除く)
※多いので複数可
怪我判定
01~10 大(骨折)
11~20 特大(意識不明)
21~30 大(一時的麻痺)
31~40 なし
41~50 大(一時的障害)
51~60 特大(流血)
61~70 大(骨折)
71~80 特大(内臓系)
81~90 なし
91~00 特大(意識不明)
↓1 友奈
↓2 風
↓3 樹
↓4 東郷
↓5 夏凜
友奈(意識不明)
風(精霊あってなお出血レベルのダメージ 右手不可)
樹(大骨折。左腕開放骨折)
東郷(負傷無し。 右腕不可)
夏凜(意識不明)
精霊組(ダメージ蓄積による召喚不可状態。集中療養)
ここまでが勇者チームの被害になります
追加で樹海の穢れを判定します
難易度補正コンマ+30
穢れ割合↓1コンマ
※00=100
※50以上で5割を巫女負担
※100以上で8割を巫女負担
※30以上で街に被害の判定有り
穢れ割合35+30=65
巫女負担5割=-33
最終穢れ残高=32
街被害あり
01~10 建物倒壊
11~20 山火事
21~30 悪天候
31~40 交通事故
41~50 地面陥没
51~60 山火事
61~70 悪天候
71~80 地割れ
81~90 交通事故
91~00 建物倒壊
↓1のコンマ
※コンマ奇数なら一桁分の負傷者
※ぞろ目奇数なら一桁分の死者
巫女の力で被害は最小限にとどまりましたが
しばらく悪天候が続きます
なお、
友奈、風、樹、夏凜は入院による数日間の不在
東郷は検査入院により翌日復帰
精霊組は集中治療のため数日不在
また以降も襲来は起きる可能性がありますが
今回の襲撃により軽度で済む可能性もあります
√ 9月9日目 夜(共同住宅) ※火曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40 姉
41~50 神官
51~60
61~70
71~80 春信
91~00 兄
↓1のコンマ
神官からの報告になりますが
少々ハードが過ぎるので少し休憩を挟んでから進めます
再開は19時半頃を予定しています
ではまた少しずつ
√ 9月9日目 夜(共同住宅) ※火曜日
天乃「――なで決め……あ、れ……?」
半ばに言葉を失った天乃は辺りを見渡して、消えるように息をつく
みんな、居なくなっていた
ついさっきまで話していたのだ
狭くはないが広くもない天乃の部屋
そこで一緒になるのは誰になるべきか、
ある意味で夜に相応しく、騒がしかったのだ
それが、一瞬で途絶えた
誰も、何も、音も、消えた
天乃「……九尾?」
呼ぶ
天乃「若葉?」
呼ぶ
天乃「千景……? 歌野? 水都……」
でも、誰の返事も聞こえてはこない
天乃「沙織!」
誰の姿も見えない
誰の存在も感じない
皆がいたその部屋は、天乃だけの寂しい空間になっていた
誰の名前を呼んでも反応がないまま数分
こんこんっと扉を叩いて入ってきたのは
精霊たちはもちろん勇者部のみんなでもなくて
天乃「あ……」
その来客が大赦に属する女性神官だと判別がついたのと同時に
天乃は嫌な事ばかりが想像ついて、声にならない言葉を溢して……頭を抱えた
「あの……」
天乃「待って!」
「っ」
天乃「待って……お願い」
聞く勇気がない
聞く覚悟が出来ない
絶対に聞きたくない事しか言われないと解るから
天乃は神官に向かって願いを口にして首を振る
天乃「ちゃんと聞くから、少しだけ時間を下さい」
天乃「……ごめんなさい、待たせて」
時間にして数分程度ではあるが、
天乃は「いえ……」と、控えめに否定する女性神官にもう一度ごめんなさいと謝る
それは女性神官に謝っているわけではない
その奥にある凄惨な結果
そうならないようにと手を出せなかった事への謝罪
深く息をついた天乃は視線だけはしっかりと向き合わせて
天乃「教えて。みんなはどうなったの?」
「……まず、街の被害ですが、大きな影響はありません。ただ、天候が急激に変化するような兆候が見られます」
天乃「そう……」
「次に、勇者部の皆さまですが……東郷様、犬吠埼風様に置かれましては比較的軽微な状態と言えるかと思います」
嫌な言い回しだった
つまり、それ以外のみんな
夏凜、樹、友奈に関しては【比較的にすら】軽微ということはできない状況と言うことになる
その不快感を感じ取ったのだろう
女性神官は息をつき、苦しそうに首元に手を宛がう
天乃「詳しく……教えて」
「かしこまりました」
一礼した女性神官は天乃に対してではなく、
報告自体に嫌悪感を抱いているかのような雰囲気を感じさせながら、
間をおいて、口を開く
「では、まずは犬吠埼風様ですが――」
そこから始まったのは可能ならば聞きたくないような
現実ではないと逃げ出したくなるような
凄惨と言う言葉では足らないような
そんな、悲劇と言うのですら軽んじていて怒りを覚えそうな真実
比較的軽度と言われた東郷は言われてみれば確かに軽度。
外傷等は一切なく、ただ満開による後遺症とみられる右腕の機能不全が確認された
風も満開を使用しており、その後遺症とみられる右手の機能不全が出ているほか、
過度な衝撃を受けたことによる内臓損傷による吐血が確認された
樹に関しては精霊の加護を超えての衝突の際に体を庇った左腕が開放骨折しており
満開はしていないがそのダメージは酷くよだんは許されない
友奈と夏凜に関しては精霊障壁越しではあるが、
敵の集中砲火を浴びてダメージが蓄積しすぎたため、風以上に外傷ではなく体内に深手を負っており
未だ意識が戻らない状況だという
天乃「…………」
「状況の報告に関しては以上となります……東郷様に関しては明日の追検査で問題がなければこちらにお戻りになられる予定です」
天乃「一つ、聞かせて」
「はい」
天乃「これで襲来は終わりなの? みんなは解放されるの?」
「……今回の襲撃はとても激しいものでしたが、まだ終わったとは言い切れないのが正直な感想です」
要するに、夏凜達はまだ解放されたわけではないのだ
ゆえに、もしもまた襲撃があった場合、
みんなはそのボロボロの状況で駆り出されることになる
天乃か園子
どちらかが比喩ではなく死ぬ気で力を行使しない限り……
天乃「それ、園子に報告は?」
「出来ません。園子様はお休みになられています」
天乃「…………」
襲撃があっても休んでいたということだろう
そんな状況では、
万が一の事が起きた際に力を使うなんて
奇跡が起きない限り不可能だ
天乃「……そう。分かったわ。ありがとう……」
「久遠様……どうか、お心を強く」
願うように言う女性神官を、天乃は一瞥するだけに留まった
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流無()
・ 犬吠埼樹:交流無()
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流無()
・ 三好夏凜:交流無()
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流有(妊娠検査、お礼)
・伊集院沙織:交流無()
・ 神樹:交流無()
9月9日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 79(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 65(とても高い)
結城友奈との絆 95(かなり高い)
東郷美森との絆 99(かなり高い)
三好夏凜との絆 118(最高値)
乃木若葉との絆 88(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 35(中々良い)
沙織との絆 94(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
√9月10日目 朝(共同住宅) ※水曜日
01~10
11~20 風
21~30
31~40 歌野
41~50 東郷
51~60
61~70
71~80 九尾
91~00 若葉
↓1のコンマ
√9月10日目 朝(共同住宅) ※水曜日
昨日は誰がそばにいるのか
そんな話題で盛り上がっていた部屋は結局、天乃一人きり
その寂しさが、その切なさが痛みを孕んで天乃をすり減らしていく
天乃「…………」
こんな状況下でも、今日は平日だから学校に行きましょう。と
芽吹が登校を促してくる
それが、不快で、不愉快で
天乃「でも……楠さんは悪くない」
芽吹は自分がすべきこと、させるべきことを全うしようとしているだけだから
何も悪いことはしていない
天乃「みんな……」
昨日聞いたみんなの状態
東郷は問題なく面会できるし、
樹も傷跡こそまだグロテスクな状況ではあろうが
それ以外の人に関してはたとえ関係者であろうと絶対に面会できない
離れ離れになっていて
ようやく一緒になれるかと言う所で……これだ
世界はどれだけ、厳しいのか
1、素直に登校する
2、登校しない
↓2
「学校に行かないとは……そのようなわがままを言われては……」
天乃「楠さんのお役目を大切にしたい気持ちもわかるわ。でも、行くような気分じゃないの……」
皆が守ってくれた世界だからこそ
日常をしっかりと経験していくべきだと天乃も思わないわけではない
だが、そんな日常を過ごしたかった皆が苦しんでいる間
自分がそれを享受するというのは
天乃自身が許せるようなことではなくて
「…………」
天乃「……お願い」
絞り出されたような懇願に
芽吹はつきかけたため息を飲み込んで首肯し
解りました。とだけ零す
天乃の妊娠が特殊な状況下であり
可能な限り外出は控えるべきだというのも聞いている
「……この悪天候です。認められるかと」
吹き荒ぶ大粒の雨が、窓に打ち付ける音
どこかで何かがはじけ飛んだ音
危うい状況と言うのを確認した芽吹は口にしたい言葉を口にせずに部屋を出ていく
それは禁句だと
そう、思ったからだ
√9月10日目 朝(共同住宅) ※水曜日
1、樹
2、東郷
3、端末関連
4、イベント判定
↓2
※1,2はお見舞い
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早めから
色んな予定を狂わせるバーテックス襲来……
大赦「今度は貴女の出番です。楠芽吹」
芽吹「ついに……」
大赦「ええ。勇者システムは改良を終え、満開ではなく新たな力を手に入れました」
芽吹「それは、一体……」
大赦「これは、そう……絶唱――」
芽吹「それは芽吹ではなく響ですが!?」
では少しだけ
東郷「久遠先輩……」
天乃「そんな顔しないで」
東郷「ですが……」
ほんとうなら楽しい時間が過ごせるはずだった
今だって学校に行っているはずだった
それが、こんな場所に来てしまっている
天乃は罪悪感を抱く必要はないというようなことを言うが
東郷は抱かずにはいられずに困った笑みを浮かべる
東郷「みんなの状態は、もう聞いたんですか?」
天乃「……ええ」
東郷「そうですか……」
動かない右腕は補助器具が付けられており、
机の上のパソコンに乗せられた右手は問題なく文字を打つ
東郷「なら、私達が満開を使ったことも……」
天乃「ええ……聞いたわ」
天乃「でも、責めたりはしないわ」
すでに満開を二度使っている東郷が
そう簡単に満開を使ったわけではないのは分かっているし
皆の状態を聞いただけでも
それがどれだけ壮絶で、余力を残しているような余裕が無かったことくらい分かるから
なぜ満開を使ってしまったのかなんて言えるわけがない
例え、どれだけ使って欲しくなかった事でも
天乃「東郷は右腕が動かないのよね?」
東郷「はい。持ち上げたり回したりといった腕を必要とする動作は一切不可能ですが、今みたいに指を使ったりは出来るんです」
それも、何の支障もなく
普通なら不随となって全体的に何も出来なくなるはずなのに
満開の後遺症と言うオカルト的な障害ならば、何でもありなのだ
記憶もきれいさっぱりに損なわれてしまうのと同じように。
天乃「樹や風には会えた?」
東郷「いえ、病室からは出てはいけないと」
天乃「そう……」
何か、声をかけてあげるべきか
それとも、行動するべきか
1、その後については、何か話が来たりしてる?
2、残念よね、本当……空気が読めてないわ
3、あまり、自分を責めないでね
4、抱きしめる
↓2
天乃「余り自分を責めないでね」
東郷「っ……」
天乃「わかるわよ。私だって」
ピクリと東郷の体が動いて、
自分へと目が向けられたのを感じながら、
天乃は悲し気な笑みを浮かべて東郷の手に触れる
天乃「銀が亡くなった時の私と一緒」
程度に差はあるのかもしれないが、
あの時の自分がいまの東郷と同じような表情をしていたというのは
後から沙織から聞いていたし
言っていた言葉の意味が今更ながらに良く分かって思わず失笑する
いや、笑ってでもいないと
心がどうにかなってしまいそうで
天乃「東郷はやれることをやった。貴女は後衛だったから、けがを負わずに済んだだけ……そこを、自分が前線だったらなんて考えるだけ無駄よ」
東郷「…………」
天乃「皆前衛というか、近接戦に向けた武器ばかりだからその分怪我が増えるのは仕方がないの」
東郷「でも……」
天乃「サポートだってそう、一人で全部補えるはずがないんだから」
自分の手よりも多く広く大きく
今回の戦いはそれがより顕著に出てしまったのだ
それでも自分を責めずにいられないのが、その場で唯一無事だったものの宿命だ
仕方がなかったって解っているし
努力はしたと、頑張っての結果なのだとちゃんとわかっている
それでもまだまだできたことはあるのではないかと考えてしまう、責めてしまう
周りが自分の行動を賞賛する言葉が皮肉に聞こえてしまう
それに苛立ちを覚えることだって……
天乃「東郷はまじめだから、きっと抱えちゃうと思う。でも、だからってあなた一人が抱え込むことは絶対にないの」
東郷「それは」
天乃「貴女だって知ってるでしょう? そうして生きてきた馬鹿な女の子の事」
東郷「馬鹿だなんて……思いません」
天乃「ううん、馬鹿よ。だって、それは結局周りを困らせることで、苦しませることで、迷惑をかけることで」
自分は償得るようにと、失態を補えるようにと行動しているのに
そのすべてが裏目に出てしまうのだから
馬鹿と言わず、愚かと言わず何と言えば良いのか
天乃「折角反面教師がいるのだから。考え直しなさい。甘えなさい。強がらなくたっていいの」
自分は無事だったんだ
自分よりも苦しんだ人、辛かった人、代償を支払った人がいる
だから自分は耐えるべきだ
そう考え、塞ぎこまなくていい
天乃「……お疲れ様。辛かったわね。東郷」
東郷「久遠……先輩……」
東郷「久遠先輩っ」
叫ぶように声を上げて、東郷は寄り添うようにして傍にいてくれた天乃の体に縋りつく
ああしておけば、こうしておけば
むしろ、初めから満開を使っていれば……
パソコンの画面にはその悔しさが文字となって並び続けている
たった数時間
けれど東郷は眠ることさえできずに自分を責め続けたのだ
精神的にも、身体的にも疲労しているのは明らかなのに
それでも責め立てずにはいられなかった
もっと苦しんだ人がいるのだから。と
天乃「皆の努力が貴女を救い、貴女の努力がみんなを救ったの。責めないで、苦しまないで。誰もね、そんなことは望んでいないから」
言われたわけではないのに、責め立てるみんなの声が聞こえてくる悪夢
天乃は自分の経験を東郷もしたのだと考えながら
それを払拭すべく語りかけて、東郷の体をゆっくりと抱きしめながら頭を撫でる
天乃「……良かった」
死んでしまうことが無くて。
そうなったらこうすることさえも出来ないから
天乃は不謹慎だと分かっていながらも
考えずにはいられないことを考えながら……寄り添う
√9月10日目 昼() ※水曜日
01~10 風
11~20 東郷
21~30
31~40
41~50 東郷
51~60
61~70
71~80 九尾
91~00 大赦
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
九尾「神とてより上質な存在を求めるのが道理よ」
九尾「主様が居らねば、選ばれるのは東郷の娘じゃろうて」
天乃「……でも、私一人で片付く話でもないんでしょう?」
九尾「いかにも」
天乃「なら戦うわ――子供たちが安心して暮らせるように」
では少しずつ
√9月10日目 昼(病院) ※水曜日
自責の念に駆られて休めていなかっただろう東郷はその分の精神的な疲弊もあってか
あれからすぐに眠ってしまって……すぐそばに寄り添う天乃は、
握られたままの手を優しく握り返しながら、頭を撫でる
もう二年も経って小学生ではなくなった東郷だが
天乃にとっては可愛い後輩で、小さな少女で、守るべき存在であることには変わりがない
天乃「ゆっくり、休みなさい」
母親のように囁く天乃は、病室の外から聞こえる独特の足音が扉の前で止まったのを聞き取って
東郷の頭に触れていた手を止める
小さなノック
聞き馴染んだくぐもった声
駄目だと言っても入ってきたのは看護師ではなく、大赦から派遣されてくる神官
表情が見えない分予測にはなるが、
どこか罪悪感を纏っているような気がして、天乃は視線を少しだけ和らげる
天乃「何をしに来たの?」
「久遠様がこちらに来られていると伺いましたので」
東郷が寝ていることを確認した神官は、
しかし、遠慮なく天乃の元まで近づくと、軽く一礼して
「久遠様には以前伺いましたが、勇者としての力を行使することは出来ないのですよね?」
天乃「え?ええ……」
「そうですよね……失礼しました」
すでに周知させているはずのことを確認して来た不可解な流れに
天乃は疑問符を浮かべながら目を向ける
仮面がなければ表情から読み取れるものも多いのだが……
それが出来ない現状では気配を感じ取るくらいしか出来なくて
天乃「何かあるの?」
「いえ、現状での戦力は心許ない部分がありますので確認をと」
友奈と夏凜は意識不明
樹は腕の開放骨折
風は内臓損傷
後者二人は戦おうと思えば戦えないこともないが
出来るなら戦わせたくないというのが本心だ
もちろん、必要ならば戦わせるのが大赦だが
天乃「本当にその確認だけ?」
天乃が妊婦であることも伝わっているだろうし
普通なら、力がつかえたとしても使わせるのを躊躇うはずだ
もちろん、大赦だから。の一言で片付けられることではあるが……
天乃「園子は?」
「園子様は眠りについておられます」
天乃「今日も、なのね……」
以前力を使った弊害は相当なものらしい
大赦はもう、園子を戦力の一つとしては考えていない
そんな空気を感じて、天乃は小さく息をつく
なら、自分はまだ園子よりは利用価値があるとみられているのか。と
少しだけ、呆れたように。
天乃「神託は?」
「ありません。こちらからコンタクトを取れるものでもないので……」
天乃「そう……」
1、それで行動を起こしたいけど、戦力不十分という所かしら?
2、夏凜や友奈に会わせては貰えないの?
3、風は大丈夫なの?
4、樹は大丈夫なの?
5、今回で終わりの可能性はどのくらい?
↓2
普段接してきた女性神官と比べて
今回報告に来た神官の声色には感情があまり感じられないが
しかし、流石に大赦も想定外の事態だからだろう
焦りや緊張そして恐怖していることはそこはかとなく感じられて
天乃はじっと神官を見つめてから
小さく呻くように動いた東郷を一瞥してほほ笑む
天乃「それで行動したいけれど、戦力不十分と言ったところかしら?」
「……話は通っているのですか?」
天乃「なんの話も通ってるわけないじゃない。昨日の今日で」
「…………」
天乃「私はただ、貴女がとても焦っているように感じたし、藁にもすがるような感じで力の有無を聞いてきたように思えただけ」
天乃に関しては厳重注意を促している大赦が情報共有を怠って
天乃の力の有無を確認できていなかったはずがないし
そもそも、神官は天乃の力について以前窺っている。と言った
つまり、それでも聞くような理由があったのだ
そして、力はないと答えたときの反応、
神樹様とのコンタクトはとれないと言った時の雰囲気
情報はまだ不十分だったが、直感で聞いたのだ
天乃「一応ね、こんな私でも勇者部と勇者の副リーダーを兼任してるのよ。甘く見ないで」
「っ……」
天乃「あぁ、別に貴女に対し怒っているわけではないから心配しないで」
「失礼しました」
天乃「謝らなくても良いわよ。それとも、謝罪すべきことがあるの?」
天乃の言葉一つ一つに怯えたように神官の体が動く
極力察知されることが無いようにと務めていたはずなのに
それはいともたやすく見抜かれて
しかも、隠そうとしたことに関して感情の起伏を感じさせず
それどころかとても穏やかであるというのが
逆に怖いのかもしれない
「……久遠様に力があった場合、協力していただこうとしていたので」
天乃「双子を身籠っている私に? しかも力が必要な案件だなんて、相当人使いが荒いわね」
「…………」
天乃「でも、残念ながら私にはその力はないわ。なら、どうするの?」
「それ以上は、久遠様にお話しするようなことではありません」
力があって協力をして貰うなら話すべきことだが
そうではないのなら話すだけ無駄だし
話したところで何かが好転するわけでも無い
だが
天乃「みんなの回復を待たずに私に協力を要請するような早急の案件じゃないの?」
天乃は食いつく。
目の前で尻尾を振ってしまった時点で、すでにマウントはとられているのだ
「…………」
向けてくる視線はとても優しい
だからこその恐ろしさがある
ベッドで横になる大切な存在に触れる姿はとても大人びて感じる
しかし、そこからあふれ出る何かは子供らしいのだ
閉じようとした扉に挟んだ足のように
決して譲ろうとしないそれは……きっと
もう一度話すようなことではないと言えば引き下がってくれる可能性もあるだろう
だが、そのたった一つの隠し事が表沙汰になった時
彼女と彼女の周囲が黙っているという保証はない
ただでさえバーテックスに詰め寄られている現状で
久遠勢力―大赦の認識でしかないが―と敵対することはまず間違いなく悪手だ
そんな先の見えない導火線に火をつけるものがいるとしたら
それはとてつもなく強運な人間か馬鹿だけだ
「壁外調査を予定していたチームを用いて、結界の外の様子を確認する話が出ています」
天乃「……この状況で?」
「この状況だからこそです。外がどうなっているのか、バーテックスはどうなっているのか。それを確認して対策を練る手筈です」
まだ大規模な戦闘が起こり得るのならば
時間稼ぎの策を練らなければいけない
「しかし、我々は調査チームを死なせたいわけではありません。それゆえに、警護役の勇者の力が必要だったのです」
それは早急に行わなければいけない事だが
友奈や夏凜は言わずもがな
風や樹に関しても決して軽傷だとは言えない為、
明らかに警護役の戦力不足
それゆえに天乃が言ったことは完全な図星だったのだ
天乃「そしたら……」
「はい。多少の犠牲は覚悟のうえで確認に向かいます」
天乃「そんなこと、本当にするつもり?」
「しなければ先には進めません。神託が下りない以上……自分たちの目で確認する必要があるんです」
その言葉は他と違って
強く意志が籠っているような気がして
天乃は紡ごうとした言葉を飲み込んで目を伏せる
天乃「事情があるのね」
神樹様に関しての話は聞いた覚えがあるが
あえてそう尋ねると、
こればかりは流石に。と神官は頭を下げて退室していく
天乃「不味いわね……」
あふれ出る力を少しでも神樹様に与えられたら変わるのだろうか
天乃はそう考えて……ため息をつく
√9月10日目 夕() ※水曜日
01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50 風
51~60
61~70
71~80 沙織
91~00 東郷
↓1のコンマ
ぞろ目特殊
ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から
場合によっては休載になる可能性があります
風「ねぇ、天乃」
天乃「……うん?」
風「あたし達がいないからって、どこかに行くのは無しだからね」
天乃「………」
風「車椅子なんだから。妊婦なんだから、おとなしくしてて……お願いだから」
天乃「大げさだわ。大丈夫よ……ちゃんと、貴女達が返ってくるのを待ってるわ」
では、昨日の予定分を出します
√9月10日目 夕(病院) ※水曜日
神官が去ってから暫くして訪ねてきた看護師に呼ばれていくと
連れてこられたのは風の病室で
女性が扉を軽く叩くと、少し弱って感じる風の声が聞こえてきて
天乃「入るわよ」
一言告げてから中に入ると
色々な機械に繋がれながらも、比較的元気そうな風が困ったように笑いながら手を振るのが見えた
風「ごめんねー呼び出しちゃって」
天乃「呼ばずに自分の足で来たら怒るわよ? 私」
扉の前で引き下がった看護師に一礼をして、風に近づいた天乃は、
風の他愛もない、ごく当たり前な前置きの言葉に、
厳しく言いつつ笑みを見せて、手に触れる
動かない右手、強く握るそぶりを見せても反応しない右手
風「真っ先に触られると、反応に困っちゃうんだけど」
天乃「話は聞いたから」
風「そっか……」
そりゃそうよねと風は悲し気に呟き、左手を天乃の手に重ねて軽く握る
腕は動くが手は微動だにしない
一つの指も反応しない
まるで、東郷のと合わせての後遺症であるかのように
天乃「機械に添い寝される気分はどう?」
風「どうもこうもないわよ。一日中ピッピピッピ……赤ちゃんの夜泣きかって」
天乃「そう感じるなら大丈夫そうね」
何が大丈夫なのか
天乃は苦笑しながら言うと、風の手から左手を逃がして、
風の胸元に手を宛がう
風「ちょ、ちょっと!?」
天乃「身体の方はどう?」
風「え、あ、あぁ……うん、だ、大丈夫だけど……まだ少し痛みはある」
勇者と言うこともあって、回復力は人一倍どころの話ではない
それでもまだ痛みがあるということは
それだけのダメージを負ったということになる
天乃「無茶し過ぎなの。そんな体で満開なんて使ったら夏凜達みたいに過負荷で意識不明になってた可能性もあるのよ?」
風「解ってるって、ごめんごめん!」
手を合わせられないからか、左手を顔の前に出した風は笑う
いつもの調子を演じるような雰囲気
笑顔を悪い意味で作っている感覚
天乃「風、貴女……」
風「んー? なーに辛気臭い顔してんのよ!」
天乃「…………」
風「そりゃ、被害は色々あったけどさ! でも、あたし達勇者だから。ちゃんと治るし。あたしだって――」
ぱんっっと自分の胸元を叩いた風は、
まだ完治していないために咳込んで苦笑する
風「ま、こんな感じで平気だし」
天乃「平気……ねぇ」
風「い、今のは強く叩きすぎただけだから!」
怪訝な目を向ければ、
風は困ったように笑いながら取り繕って言葉を紡ぐ
とても分かりやすい仮面だった
笑っていなければ壊れてしまうというわけではなく
そんな義務感があるというような感じだった
天乃「ねぇ、風」
風「なになに? 入院中だからあたし暇――」
天乃「私は、貴女に無理をさせるくらいなら今すぐにでもここから消えるわよ」
風「え? 無理……? なんの……」
天乃「してない? 本当に? 犠牲の多い中で、せめて自分だけは天乃に心配かけないようにしないといけない」
風「っ」
天乃「皆を守れなかったんだから。部長としての責務を果たせなかったんだから。無理してでも、自分は……なんて」
そう考えているんじゃない? と
天乃は責めるようなものでも、怒っているようなものでもなく
ただただ、優しく語り掛ける
全部わかっているように……いや、分かっているのだ
だから、笑みを浮かべている
天乃「無理、しちゃって」
風「ぁ、や……」
天乃の手が風の頬に触れるのと同時に
風は怯えたような声を出して、少しだけ体を逸らす
天乃が怖いのではない
それで自分が許されてしまうと分かるから
苦しみ、辛さ、痛み、悲しみ、担うべき責任
全てがその手によって引き取られてしまうと分かるから
だから、触れられたくないと思った
風「だ、駄目……駄目なのよ……」
天乃「そうね。分るわ。全部分かってる。風がなぜそんなことを言うのかも」
風「止めて」
天乃「ううん。止められない」
逃げた風を追って天乃はベッドに手をつきながら身体を伸ばし
もう片方の手で風の頬に触れる
けれど、力の入らない足は何の支えにもならず
伸ばしきった手では体を支えるには不十分で……崩れて風の体に重なる
風「天乃っ!」
天乃「ふふっ……大丈夫かなって思ったんだけど。駄目だったみたい」
風「なんで無理すんのよ。怪我したら危ないじゃない」
天乃「それが、私の打てる最善の手だったからよ」
天乃はまるでそれを諭すように言う
優しく、穏やかに
倒れた体を放置して
風の体に優しく触れ、引き寄せて抱きしめる
天乃「貴女だって一緒よ。貴女は貴女の打てる最善の手を打った。みんなもそう……その結果」
風「その結果が、救いようのない被害でボロボロになった勇者部なのよ!」
あたしの責任だ
もっとうまくやれることがあったはずだ
結果をかえられる最善策が別にあったはずだ
風「あたしは――ッ」
頭に触れる優しい感触が言葉に蓋をする
風。と、まるで懐かしき日の母親からの呼びかけのような声が聞こえて
抱きしめてくれる力は、強くなって
天乃「それでも、みんなは生きて帰ってきた。私やクラスメイトに被害もなく、今を生きている」
風「……そんなのっ」
天乃「その結果は、貴女達が頑張ったから。最善を尽くそうとしたから。勇者として、勇者部部長として、責務を果たしたから」
だから良いのよ。と
天乃は耳元で囁きながら風の体をより優しく抱きしめて
天乃「ここでまで、頑張らなくて良いの」
風「でもっ」
天乃「良いのよ。みんなが向こうですべてを支える代わりに、ここでは私がみんなを支えるから」
天乃「お疲れ様、風。ありがとう」
風「ば、ばか……っ」
そんなことを言われたら
そんな風にされたら
あぁ、やっぱり……と
風は諦めたように言葉を思い浮かべて
抱きしめているというよりは抱き着いている
そんな天乃の肩に頭を埋めて、嗚咽を溢す
風「っ……」
優しい手、穏やかな声、心地の良い感触
全てを包み込んでくれるそれらは
消毒液を塗られた傷跡のように沁みていく
天乃「……私は貴女達の伴侶だもの」
縋りつく間、ずっと感じた優しさは、温もりは
同年代の少女と言うよりも今は亡き母親のようで
その感情の氾濫は必然で、当然で、仕方がないことで
別にいけない事ではないのだと
許されていいのだと、吐露していいのだと
風はどうしようもなくそう思って、ただただその流れに従った
√9月10日目 夜() ※水曜日
01~10
11~20 千景
21~30
31~40 友奈
41~50 若葉
51~60
61~70
71~80 九尾
91~00
↓1のコンマ
√9月10日目 夜(共同住宅) ※水曜日
1、端末関連
2、イベント判定
3、早めに休む
↓2
01~10 友奈
11~20 九尾
21~30 若葉
31~40 夏凜
41~50 樹
51~60 千景
61~70 球子
71~80 芽吹
81~90 水都
↓1のコンマ
ここまでが昨日予定していた部分になります
では、一時中断して17時頃からまた再開していきます
ではまた少しずつ
√9月10日目 夜(共同住宅) ※水曜日
一人きりの、寝室
本当なら誰かがいたはずの静寂は寂しさを増して、
天乃は思わず、ため息をつく
芽吹にはどうせなら今日だけでも一緒にいるのはどうかと天乃は聞いたが
謹んでお断りされてしまったのだ
やはり、世話係としてのお役目がなければ同じ部屋にいる事すら嫌なくらいには
芽吹と天乃の関係は近しくないということだろう
天乃「はぁ……もう寝――」
どうせやることもないしと、
布団を引き上げた瞬間、枕の下に隠してあった端末が震えて、慌てて引き抜く
天乃「電話……? こんな時間に?」
確かに、まだよい子が寝る時間ではあるが
勇者部があんな状況である以上
電話をかけてくる人なんていないはずなのだ……が
天乃「非通知……? 公衆電話?」
今はほぼ全滅しかけて、病院だからこそ置いてあるかのような通話機械
もしかしてと通話を選択すると
すみません。と、樹の声が聞こえた
天乃「樹? なんで……? 大丈夫なの?」
確かに、樹は左腕が酷いことになっただけで
出歩くことが不可能だとか、意識不明の重体だとかいうわけではないが
昨日の今日で出歩くべきではないし
時間的におとなしく寝ているべきなのに……
樹『大丈夫です……まだ、痛みはありますけど、ギブスで固定されているので多少なら』
天乃「多少ならって、それ、ベッドに備え付けの――」
樹『久遠先輩っ』
声を遮る目的のような、強い声
電話の先のせいで表情は見えないが
その力強い発生は怪我に響いたのだろう
続く言葉は、少し苦しそうだった
樹『久遠先輩……会いに来てくれなかったので』
天乃「それは、別に会いに行かなかったとかじゃないのよ。ただ、面会の時間とか」
樹『それは分かってます。時間がなかったって、でもだからこそ電話をした方が良いかなって』
天乃「……どうして? 私に怒られたいから?」
樹『えへへっ、久遠先輩に怒られてみたいですけど……違います』
楽しそうに、嬉しそうに
自分が生きていることを実感しているかのような伸びた笑い声を溢すと
樹は久遠先輩。と、呟く
樹『会えなかった分、不安になるかなって思ったんです』
天乃「不安にって、そんなことで――」
樹『電話をすべきかどうか、タロットを引いてみたんです』
天乃「タロット?」
電話の奥で紙が擦れるような音が鳴って
樹の少し困ったようなため息が聞こえる
樹『結果は正位置の悪魔と、逆位置の皇帝でした』
電話をした場合は、悪魔の正位置
意味は期待外れ、悪循環、偽善的な行い、破壊、堕落
電話をしたところで、樹には何もできないだろうというような意味
電話をしない場合は、逆位置の皇帝
意味は身勝手、失敗、独りよがり、不完全
どうせ、自分の行動で天乃の何かに影響を与えられるだろう
不安を拭うことが出来るだろうという過信が裏目に出るのだから
電話をしない方が良い。というような意味
樹『でも……何もできない。無駄だから止めよう。それじゃ、変わる前の私と同じだから』
なにも、変えられていないから
それこそ、今までが無意味だったことになってしまうから
樹『例えこれが偽善でも、私は大丈夫だって、久遠先輩に声を聞いて欲しかったんです』
天乃「……無茶しすぎよ」
樹『はい』
天乃「…………」
少しだけ強い口調で言ったにも拘らず
樹の声には変化はない
それどころか、自分が言いたいことは言えたからか
満足気で、怒られるのだとしても
それは仕方がないことだと受け入れているようで
天乃「電話じゃなかったら無理やりにでもベッドに連れ戻してるわ」
樹『何してるのって怒って、戻りなさいって……でも、移動が大変だから久遠先輩の――』
天乃「ギブスの固定が出来ないでしょ。それは無理」
樹『そうでした……』
ちょっと残念そうに言った樹は
こんなくだらない話が出来ることを嬉しそうに、笑う
1、樹は、今回の戦いは満足いくものだった?
2、無理、してない?
3、早く治して、早く帰ってきなさい。そうしたら、好きにさせてあげるから
4、貴女は強いわね
↓2
天乃「無理、してない?」
仮面をつけた神官のように、
樹の状態も声でしか判断は出来ない
だから、あえて直球に疑問を投げかけたが
端末から零れてくる声には驚きもなにもなく
ただただ嬉しそうな笑い声が聞こえてくる
夜の病院ゆえの、押し殺した声
風や東郷のように、
何かを抱えている空気は一切感じない
樹『大丈夫です。私は友奈さん達と比べればそこまで重くはないですし。それに』
天乃「それに?」
樹『気を失う前だったんですけど、千景さんが褒めてくれて……一応、自分の限界までは頑張れたんだろうって思うので』
少しだけ悔しそうな声だった
けれど、それは自分の限界がその程度でしかなかったからで
今回の襲撃における後悔は感じない
やれることはやった
それでも自分は倒れてしまった現実を、
樹は真正面から受け止めようとしている
思った通り、樹は強いのだ
天乃「そっか……貴女は強いのね」
天乃がそう言うと、樹は「そんなことないですよ」と
困ったように笑って、息をつく
謙遜と言うよりは、本気でそう思っているような声
強ければ倒れることはない
強ければ気を失うなんてない
むしろ、自分が千景の立場で何か声をかけられただろう
そう、思っているのだろう
樹の目には常に、誰かがいる
そうである限り、樹は自分自身を強いとは思わないのかもしれない
天乃「千景が認めたのなら、十分強いわ」
樹『えへへっ、そうでしょうか……だとしたら、嬉しいですけど。でも、私の思う強い人は、もっともっと、強いので』
羨望を感じる言い方
それが自分に向けられていると感じた天乃は
少し照れくさそうに笑って、「んらもっともっと頑張らないとね」と
優しく抑え込んで
天乃「でも、無理も無茶もしたら駄目よ」
樹『はい』
天乃「解ったらお休み、樹。早く怪我を治しなさい」
樹『そうですね……久遠先輩。おやすみなさい』
通話が終わっても、天乃はすこしだけ端末を握ったまま静止して
そこまで私は強くないわよ。と呟いた
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流有(我慢しないで)
・ 犬吠埼樹:交流有(無理をしてない?)
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流有(自分を責めないで)
・ 三好夏凜:交流無()
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流無()
・伊集院沙織:交流無()
・ 神樹:交流無()
9月10日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 82(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 68(とても高い)
結城友奈との絆 95(かなり高い)
東郷美森との絆 101(かなり高い)
三好夏凜との絆 118(最高値)
乃木若葉との絆 88(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 35(中々良い)
沙織との絆 94(かなり高い)
九尾との絆 55(高い)
神樹との絆 9(低い)
√9月11日目 朝(共同住宅) ※木曜日
01~10
11~20 友奈
21~30
31~40
41~50 千景
51~60
61~70
71~80 夏凜
91~00 九尾
↓1のコンマ
√9月11日目 朝(共同住宅) ※木曜日
1、登校
2、登校拒否
↓2
「流石に、今日は登校するんですね」
天乃「……私まで休み過ぎたらみんなにも心配かけるから」
「それもそうですが、今日も登校拒否するというのなら流石に引っ張り出さなければいけなかったので」
芽吹は最後まで言わなかったが
妊婦とはいえど
流石に指示に従わないというのなら手荒な手段も取らせていただく。
私にも面倒な事はさせないで欲しい。というところだろうか
天乃「悪かったわ。でも、みんなのことも確認しておきたかったのよ」
「…………」
何か言いたげな沈黙
芽吹は不確かな感情の見える視線を天乃に向けると
呆れたのか、諦めたのか
目を閉じて首を振ると、天乃の背後に回って車椅子を動かす
「ですが、今後は立場をわきまえて頂くようお願いします」
天乃「うん……」
さっきまでとあまり変わらない口調ではあるが
どこか変わった声での言葉に
天乃はすこしだけ笑みを浮かべて頷いた
学校に着くと、天乃と同じクラスの下駄箱の前でちょうど履き替えた女子生徒が振り返る
昨日の勇者部全員の欠席
そして、それはきっとお役目によるものだと伝わったからか
天乃が来てくれたことを嬉しそうに
しかし、合わさった不安を持った複雑な表情で笑う
「久遠さん、今日は来て平気なの?」
天乃「ええ、私は特に問題はなかったのよ。ただ、みんなのことがあったから」
「そっか……犬吠埼さん達に関しては……あまり聞かない方がよさそうだね」
天乃「うん」
担任からどのような報告があったのかは分からないが
それでさえ、あまり穏やかではなかったのかもしれない
もっとも、天乃のクラスメイトは、
一般人ではあるが反旗を翻したメンバーのため、
担任に詰め寄ったのだろうし
普通に聞かされる以上のことを聞いたのだろうから、
一歩引くのも当然だろう
そう話が途切れたのと同時に、下駄箱の影から芽吹が顔をのぞかせた
「久遠先輩、教室へ向かいますよ」
「あ、私が連れていくよ?」
「いえ、これは私がすべきことです。どうぞ、先輩は先に」
「そう言うわけにはいかないかな。一緒に行くよ」
芽吹は迷惑そうだったが
天乃のクラスメイトの一歩も引こうとはしない姿勢に折れて、
仕方がないと諦めてクラスメイトを連れて天乃のクラスへと向かう
天乃「別において言っても良かったのよ?」
「ううん、どうせほら。同じ場所に行くわけだしね」
天乃「それはそうだけど、ね」
後ろから感じる芽吹の纏う空気
それはクラスメイトを完全に警戒しているもので
何か動きがあれば制圧も辞さない
そのような危うさがある
もちろん、ただの一般人である女子生徒が
そんな殺気めいたものに感付くわけもない
「それとも、久遠さんは私と一緒にいると、不倫でも疑われちゃう?」
天乃「ううん、私の恋人はその程度で疑ってたら心労で倒れるわ」
まだクラスメイトには言っていないが
勇者部全員に若葉や沙織
なん人もの【同性】と付き合っているのだ
「久遠先輩、移動教室、昼食の際にまた」
クラスにたどり着いて早々
芽吹は天乃をさっと位置につかせてそう話すと
まっ直ぐに教室を出ていった
√9月11日目 朝(学校) ※木曜日
1、クラスメイト
2、担任
3、イベント判定
↓2
√9月11日目 朝(学校) ※木曜日
01~10 若葉
11~20 クラスメイトM
21~30 千景
31~40 歌野
41~50 大赦
51~60 病院
61~70 クラスメイトL
71~80 担任
81~90 生徒
91~00 沙織
↓1のコンマ
沙織「おはよー……」
天乃「えっ?」
まるで夜更かしをして休めなかっただけのように
沙織は疲れ切った様子で教室へと入ってきた
勇者として戦っていた若葉達は当然のことだが、
あまり出てこられるような状態ではないだろう
しかし、沙織や水都に関しても
今回の被害の影響は決して軽くはなかったはずだ
天乃「沙織……どうして?」
沙織「んーまぁ、軽度……だったからね」
間延びした話し方は本当に眠そうだが
沙織のそれは決して寝不足ゆえのものではない
沙織「怪我をしたわけじゃ、ないし……それに、あたし達の場合、入院してるわけではないからね」
誰かからの言伝で無事だと聞かされても
その目で見るか、その声を聞くか
そうしない限り不安だろうから。と
沙織はちょっと困ったように言う
天乃「でも、だからって駄目じゃない。無理に学校着たら」
沙織「大丈夫だよ。授業は、寝るかもしれないけどね」
沙織「えーっと……あー……」
天乃「沙織?」
沙織「んーごめんね。ちょっと待って」
沙織は席についてから悩ましそうに首を傾げて
自分の机の中が空なのを確認すると
持ってきた鞄の中を見て、ため息をつく
沙織「そうそう、クラスでもね、文化祭をどうしようかなって話があったんだ」
天乃「ねぇ、沙織」
沙織「勇者部で演劇をやるよって話をしたら同じく演劇は出来ないと言うことになって……」
天乃「待って、ねぇ、沙織」
机の中、鞄の中
なんの意味があって探したのか
ぼんやりとした瞳は、まともにものを見れていないようで
沙織「えっと……そう。あれだ。そしたら丁度3学年全部使ってお化け屋敷とかどうだって話になったんだよね」
1、抱きしめる
2、沙織、私に出来る事はある?
3、せめて保健室行きなさい
4、そう……解ったわ。ありがとう。話は良いから休みなさい。ね?
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「沙織、、私に出来ることある?」
沙織「えー? 何でもするって?」
天乃「え? そんなこっ――んっ」チュッ
沙織「んっ……ふっ、なら……ね」グイッ
ドサッ
天乃「痛っ、ちょ、待って……ここ教室っ!」
沙織「しーらーなーいー」
では少しずつ
√9月11日目 朝(学校) ※木曜日
天乃「ねぇ、待って。沙織。話を聞いて」
沙織は明らかに普通ではなかった
ただ疲れているというだけではない異質感
普段の沙織なら天乃の声を無視するのはあり得ない
自分の話を途絶えさせてでも「ん? どうかした?」と言うはずだ
なのに、沙織はまだ話を続けようとする
まるで、耳が聞こえていないかのように
天乃「ねぇ、沙織。私に出来る事はある?」
耳元で、少し大きな声で
周りのクラスメイトに聞こえることなど構わずに、
天乃は沙織に声をかける
沙織「ん? えっと……そうだね……」
天乃「良いのよ悩まなくて……何でも言って」
沙織「えー……そう言われると、逆に困るかも」
反応は少し遅く、言葉の合間合間が微妙に広い
困ったような笑みは、ただただ嬉しいという感情に溢れているわけではない
沙織「あんまり、久遠さんと2人きりでいられないよね、学校」
天乃「そう、ね……うん、楠さんがいるから」
沙織「邪魔、だなぁ……」
天乃「待って沙織、駄目。楠さんも仕方がなくやってるの。彼女は悪くない」
何かを感じ取る力は天乃にはない
しかし、以前に注意はしておいたとしても
沙織の中にいる猿猴は芽吹を殺しかけない存在で
今は穢れの影響もあって不安定なために、天乃はもう一度念を押すように言う
今回ばかりは、沙織自身の不快感、嫌悪感、敵意、殺意
それは尋常ではないと思って。
沙織「んー……そうだね、仕方がないよね……喫茶店は久遠さん味覚が……じゃないっけ。えーっと」
天乃「っ……沙織」
呆然としているような沙織の頬に、触れる
手に感じるのは平熱よりも少し低めな温かさ
これがただ低血圧なだけならどれだけ良いか
寒い日ゆえの低体温ならどれだけ良いか
天乃「沙織、文化祭の話はもう大丈夫よ」
沙織「そう……? あ、ごめん、今違う話してたんだっけ……ちょっと頭痛くて」
穢れを担いすぎたせいで、身体に負荷がかかっているのもそうだが
意識もあまりはっきりしていないのだ
だから、目はぼんやりとしているし
話しかけても反応しなかったり、鈍かったり
意味がなかったり、繋がりのない言動をしたりしてしまうのだろう
沙織「久遠さんが何でもしてくれるって話だっけ」
天乃「うん。そうよ」
少し違うが、自分が要望を聞くということに関してはしっかりと覚えていることが
少しだけ嬉しくて、安心して
天乃はちょっぴり困ったように笑う
沙織「でも、楠さんが邪魔……だなぁ……んー違う違う」
天乃「学校では難しいかもしれないわね。夜とか、家ででもいいのよ?」
沙織「えーすぐしたいなぁ……なんで、楠さんが……でも、仕方がないんだっけ」
不快なため息をついた沙織はまた芽吹のことを口にして
けれど、思い出したように首を横に振ると、苦笑する
先ほどの芽吹から感じたクラスメイトに対する危うさ
それが些細なことだと鼻で笑えるのではないかと言うくらいに
沙織の危うさは尋常ではない
天乃「やっぱり、エッチなことがしたい?」
沙織「んー……あははっ、そうだね」
久遠さんは良く分かってるなぁと
恥ずかしそうに頬を染めながら呟いた沙織は
いつも見せる愛らしさを感じる笑みを浮かべて、ため息をつく
沙織「久遠さん、演劇でキスシーンやるんだっけ」
天乃「そうだけど……?」
沙織「じゃぁ、ここでしても平気だったり?」
天乃「すると思う?」
演劇でキスシーンをやるとはいえ、
HRが始まる数分前の教室でいきなりキスをしたりなんてするのは
流石に、周りも意味が分からないだろう
寝ぼけているんじゃないか。と言うのにもさすがに無理がある
沙織「そっかぁ……じゃぁ、はいっ」
天乃「ん?」
沙織「抱いて? 久遠さんの優しさで」
ばっと両手を広げた沙織はほらほら。と求めてきて
その行動にも周りのクラスメイトは少し驚いていたけれど
まぁ、沙織だから。という呆れ交じりの困った声や笑い声が聞こえてきて
天乃は「仕方がないわね」と応じて抱きしめる
ついでに頭も撫でてあげると「オプションサービス」と嬉しそうな呟きが胸元をくすぐる
「あっ、くーちゃんがさおりんを甘やかしてる」
天乃「お疲れ様なのよ。少しくらい癒してあげないと」
「正妻ですか。側室ですか。私は側室から始めて良いですか?」
天乃「だーめ」
勿論、彼女は冗談だが。
たたみ掛けるように言うクラスメイトの言葉に
天乃は合わせて冗談っぽくお断りをして苦笑する
「そっかぁ。でも、さおりんほんとにお疲れって感じだったからね。仕方がない」
天乃「理解のあるクラスで良かったわ……喜んでいいのか分からないけど」
「さおりんのくーちゃん愛はもはやどうしようもないからねぇ? 穏やかな寝顔だよ……このまま死んでもいいとか思ってそう」
天乃「……そうね」
幸せそうな笑い声を溢す沙織は天乃の胸に抱かれたまま眠っていて
その穏やかな寝顔は疲れなど感じさせないし、愛らしくて
天乃は子供をあやすように優しく頭を撫でて、笑う
大きい子供だと、思った
「くーちゃんってさ」
天乃「なぁに?」
「同年代に言うのは流石に気が引けるけど……くーちゃんに言うのはもはや仕方がない気がするんだけど」
クラスメイトはそんな前置きをすると
怒らないでね? いや、怒らないか
でも怒られてみたい気もしなくもないと
良く分からない独り言を言い始めて、「くーちゃんはさ」と切り出す
「お母さんみたいだよね」
天乃「そう? どのあたりが?」
「いやーどのあたりと言うか全体的に? 今もそうだけど勇者部の衛生兵だし、そうしてる時の雰囲気とか、優しそうな笑顔とか」
天乃「衛生兵は良く分からないけど……そんなにお母さんっぽい?」
それはもう。とクラスメイトは言うと
すぐ近くの男子生徒の背中をつっついて
そう思うよね? 思わない? と勢い任せに問う
話は聞こえていたからか、男子生徒は照れくさそうに困った顔を浮かべて
なんで俺に聞くんだよ、馬鹿じゃねーの? と呟いては、天乃をチラチラとみては
天乃と目が合って、羞恥心ににやけて
「てーれーんーなーよー」
他の男子生徒の嫌がらせのような言葉に「うっせぇ!」と怒鳴る
「お前はどうなんだよ」
「久遠にお母さん属性があるかどうかだろ?」
天乃「属……性?」
「勇者部の後輩と一緒にいる時とか結構そう感じるときあるぞ。ただ大人っぽいだけかもしれないけど」
もう片方の男子生徒は恥じらう様子もなく
はっきりと答えて天乃を見ると、そのまま最初の男子生徒を見て「ほら言ったぞ」と嫌味な笑顔を浮かべて
天乃「こらこら、無理強いしないの。貴女も変な話を振ったら駄目でしょう?」
「えーっ」
天乃「ごめんね? 変なこと聞いて」
「えっ、あ、いや……別に、変じゃ」
「ほら……なんか母親っぽい」
そうこうしているうちに担任が入ってきて天乃に抱かれたまま眠る沙織を起こそうとしたが
クラスメイトに強く阻まれた担任はお役目の件も察してか、HRはその状態のまま始まって
天乃「……起きそうにないし」
ぐっすり眠っている沙織に天乃はすこし困ったように溢して
夜にでもまた付き合ってあげないと。と、ほほ笑んだ
√9月11日目 昼(学校) ※木曜日
01~10
11~20 沙織
21~30
31~40
41~50 クラスメイト
61~70
71~80 大赦
81~90
91~00 芽吹
↓1のコンマ
では、今日はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
女子「側室から始めていいですか!?」
女子「あ、ダメならせめて子供だけでも作らせて!」
天乃「いや、私も貴女も女の子だかr――」
女子「そこら辺はかくかくしかじか。とでも言えば作れるから! 残念だけど割愛マジ万能だから!」グイッ
女子「不安なら実はそんな技術があったのであるって適当に前置きするか、※フィクションです。とでも言えば許されるから!」
夏凜「許されるかぁッ!」バンッ
では少しだけ
√9月11日目 昼(学校) ※木曜日
「く、ぅー、ちん!」
天乃「っ!?」
後ろから不意を突いた大声が飛び、
ほどほどの大きさのクッションが後頭部に押し付けられて
帰宅部らしい細腕がヘッドロックをかけんばかりに天乃に巻き付く
天乃は一瞬ほど驚いてすぐに一息
天乃「ちょっと……危ないわ。どうしたの?」
「この子の行動に意味なんてないよ。ほんと」
後ろから触れてくる感覚はそのままに
前から近付いてきた運動部のクラスメイトは呆れたように溢して
天乃に触れる――ように見せかけて
その後ろにいる幼馴染の女子生徒の頭を鷲掴みにして引きはがす
「はい、離れる離れる」
「うー……意味はあるんだよ?」
「あんたにじゃないよ? 久遠さんに意味があるかどうかだよ?」
セミロングの女子生徒の幼馴染である眼鏡―度無し―の子は天乃のことが大好きなため
天乃が居れば大抵行われるやり取り
どこかで「伊集院さんが元気だったら殴り飛ばされてるよ」と呆れた声が聞こえる一方
まぁ、あの子だから仕方がないよ。と
容認?する声もあって
「久遠さんも女の子の肉感は好きだと思って」
「ほう?」
「癒し効果?」
「そんな貧相な体ではちょっと……せめて伊集院さんくらいにはね?」
机に突っ伏して寝息を立てる沙織の事を一瞥した女子生徒は
比べるように幼馴染を見て、鼻で笑う
「むっ!」
天乃「こらこら」
2人の関係はそんなことで割かれることはないし
いつもの事過ぎて、喧嘩ですらない事なのだが
あまり大声で話すことではないし、今は昼休み
そして――
天乃「沙織が寝てるのよ。私は良いけど、この子の邪魔はしないであげて」
「あ、うん……ごめんくーちゃん」
「ごめんね」
2人の謝罪を聞いてほほ笑んだ天乃は、
その騒がしさがあってなお全く起きない沙織を心配そうに見つめて、首を振る
移動教室の時に起こされたきりで
それ以降沙織はずっと寝たままだ。まるで死んでしまったかのように
もちろん、寝息は立てているし
時々ではあるが「えへへ~、久遠さんえっちだぁ」と
意味不明なことを呟くので
とても幸せな夢を見ているだけなのは解っているが。
やはり疲弊が感じられるこの状況は、心配だった
天乃「それで? どうかしたの?」
「そうそう、本題は文化祭の件なんだよね」
眼鏡をかけている女子生徒は思い出したように切り出して、
朝にさおりんからちょっと聞いてたけどね。と、続けると
3学年は全クラスを使った巨大お化け屋敷を開催すること
やりたい人だけでやり、受験等を優先する人は不参加、不登校でも可であること
天乃は勇者部の演劇もあるから
無理にクラスには参加しなくてもいいという話になっていることを告げる
天乃「結構話が進んでるのね」
「そりゃ、もうこんな時期ですから」
天乃「そっか……そうよね」
天乃は公欠が多く、殆どの行事に参加していないし
普段なら必ず入らなければいけない委員会の仕事も
天乃だけは特例で免除されているなど
何らかの話に関して天乃が加えられていることの方が
むしろ珍しいことなのだ
「あ、別に久遠さんを責めるつもりはないよ」
「そうそう。くーちゃんが大変なことは、みんなよーく分っていることだからねぇ」
もちろん、沙織のこともだ
HRの時にも良く分かっていたことだが、
天乃のクラスは勇者関連の核心にまでとはいわなくても
ある程度知ってしまっているため、理解力は随一なのだ
「ということで、くーちんどうする?」
天乃「んー……」
お化け屋敷なら、ある程度参加できないこともないのだが
勇者部の演劇はともかくとしても
妊娠しているため、身重の状況で暗闇での作業は危険な可能性がある事
そもそも、出産が尋常じゃなく早まる可能性があるし、つわりなどの症状が一気に出る場合があり
それが文化祭に重なる可能性もあるなど、難しいのだ
「なにかあるなら、全然いいからね。久遠さん優先」
天乃「うん……ありがとう」
いつか伝わるのなら、言うべきだろうか
妊娠、していることを……
このクラスメイトなら単なる冗談とはとらない
何か知らない嫌な思いをすることもない……はずだ
1、ごめんなさい、多分参加できないわ
2、そうね、大丈夫だと思う
3、実はね、私妊娠してるの
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日も出来れば昼頃から
友奈「……せっくす」
風「はぃぃ!? 友奈さん!?」
友奈「最近、なんだか物足りないんです……自分でしても、満たされなくて」
東郷「私もよ……友奈ちゃん」
樹「お姉ちゃん。私も、それ分かる気がする……」
風「それは……た、確かにさ。いつまで焦らすんだよいい加減エッチさせろって怒りが湧き出すことあるけど……でも……あれ? それって誰に?」
園子「神様に寝取られるなんて……流石の私も激おこだよ~」
夏凜「エロいことより先に天乃の名前は出ないの? なんで? 天乃が泣くわよ?」
東郷「取り戻しましょう性常な世界を……そして、愚かな神々に人間の性欲が叛逆の源であることを、思い知らせるのよ!」
夏凜「あぁ、もうそれで良いわよ。酷すぎて突っ込む気にもならない」
では少しずつ
天乃「えっと……」
躊躇いがないと言えば嘘になる
けれど、いつか誰かから話は伝わるのだ
それはきっと、天乃が思う通りにはいかないし夏凜達から伝わるとも限らない
それに、まだ中学生と言うこともあって
質の悪い嘘だということになった挙句、反乱が行われる可能性も0ではない
天乃「私ね」
息を飲む
クラスメイトが誹謗中傷をすることはないという信頼こそあるが
受け入れて貰えると断言はできないから
けれど、天乃は覚悟を決めてクラスメイトの女子生徒を真っ直ぐ見つめる
天乃「妊娠してるの」
「…………」
最初は、沈黙だった
聞こえなかったその他のクラスメイトの騒がしさが収まることは無いのに
なぜか、隔離されたかのように静寂が訪れて
「……ん、んん?」
なお信じられないと言いたげに聞き返すそぶりを見せた眼鏡の女子生徒の一方、
元運動部のクラスメイトは、天乃から沙織へと視線を移動させると
おもむろに息を吐いて、天乃を見る
その瞳には微かな動揺が見て取れたが……
「冗談にしては、質が悪い……でも、伊集院さんがピクリとも反応しないのを見るに周知の事実なのね。少なくとも、そちら側では」
話の内容に対して、女子生徒は非情に落ち着いた声で疑問を口にする
そちら側と言うのは、
天乃達お役目を行う側であり、それを伝達等する大赦側
つまり、一般から一線を越えた先にいる人たちを指しての言葉
否定する理由もなく天乃が頷くと
女子生徒は運動部ゆえの力強い握りこぶしを作って
「それ、お役目……? 誰かに作れとか、命令されたの?」
「ちょ、待った待った。そんな本気で怒っ――」
「まだ怒ってない」
「いやいやいやいや!」
普段ボケに回っているはずの眼鏡の子が慌てて止めるほどに
運動部の子は殺気立つ
女子生徒は否定するが、どう見ても怒っているのが分かるし
そのせいで気づいていなかったクラスメイト達までもが
なんだなんだと
そのピリピリとした緊張感漂う空気に興味を持って口を閉ざす
「だって、久遠さんはこんな目に遭って……それでもし、女の子としてまで傷つけられていたなら……」
そんな雰囲気の中、許せないよ。と
女子生徒は続けて明確な不快感と嫌悪感を示して
天乃「ううん、誰かに強制されたわけじゃないわ」
女としての尊厳を傷つけられなかったかどうか
その話にもっていくとややかしいどころか
黒も黒の大変なことになってしまうために絶対に口にすることは出来ないが
少なくとも子供を作った相手に関してはそこに関係ない
天乃「私が自分で選んだの」
思いを馳せるように
天乃は穏やかな笑みを時間をかけながら浮かべて
胸元で両の手を合わせる
それは、力を尽くしてくれた彼への祈り
しなければ死ぬ、しなくても死ぬ
でも、すれば助かるかもしれない
そんな切迫している状況だったが、そこに信頼があった
そこに愛があった
そこには絡み合う心があった
天乃「そうしたいって、そうするんだって」
「…………」
天乃「ちゃんと悩んだ。ちゃんと考えた。そのうえで決めたことなの」
天乃のけして諦めたわけではなく
自分から求め、選び、進んだのだと分かる表情を前に
穏やかではなかった女子生徒は深々と息を吐いて、首を振る
「……中学生で妊娠なんて普通じゃないしとっても大変なことだって私でも分かることを、久遠さんが分からないわけがない」
ぼそりと呟いて
女子生徒はそれでもまだ落ち着いていないのだろう
また深く息を吐いて、天乃を見る
「ごめん……感情的になって」
天乃「ううん、良いのよ」
何も悪いことはしていないのに
なのに、罪悪感を抱えている友人に手を伸ばして、天乃はその小さな手で頬を包む
天乃「貴女は私のために、怒ってくれたんでしょう? ありがとね」
「……ありがとう。なんて。さ……私は、何にもできてないのに……」
「くーちゃんに母性を感じるのはそんな事情があったからかー!」
まだまだ気落ちしていく
そんな雰囲気を感じ取ったであろう眼鏡の子の元気な声が教室に響く
「まー色々あるよねぇ。そもそもだよ。さおりんがなーんにも言わない時点で、何もしない時点でさ。くーちゃんがそんな強制されてるわけないって」
ポンポンっと幼馴染の頭を軽く叩きながら
場の空気に似合わず軽い調子で続ける女子生徒はふと、息を吐いて
「文化祭の話をしてる時、さおりんはくーちゃんのことを凄く気遣ってた。運搬系とか、過激に動くこととか。そういうのはさせたくないって」
天乃「そこまで、気にしなくてもよかったのに」
「ううん、妊娠も出産もすごくつらいよ。苦しいよ。大変なことだよ……でも、凄く話しにくいことだよね。ごめんね、あまのん。ありがとね」
お調子者。だからこそ
その女子生徒は天乃の事をさらりと受け止めて見せて、
それなら仕方がないね。と、苦笑する
「お化け屋敷の中は暗いし、事故があったら怖いからくーちんは不参加! これ命令!」
天乃「えっ、そこま――」
「だーめ! その代わりに勇者部の演劇。期待させて貰うんだから」
あ、もちろん遊びに来るのは全然おーけーだからねーと
すぐそばの落ち込んでいる幼馴染を横目に、女子生徒は笑う
「もっとも、中に入れるのは無理だよ? あまのんのナイト様がお姫様抱っこするって言うなら話は別ですが!」
天乃「ナイト様って……」
「ナイト様はナイト様だよ……あー羨ましい抱きたい! やっぱり私も側室申請――」
「いい加減にしなさい」
ゴンッっと
手加減をしていなさそうな鈍い音を響かせた女子生徒が倒れ伏す横で、
さっきまでのとは違い、
お調子者に呆れたため息をつくセミロングのクラスメイトは
天乃の視線を感じて、苦笑すると
そのまま話を聞いたであろうクラスメイト達を見渡す
「言いふらさないように! あと、久遠さんには――」
「優しくはいつものことだから心配すんなって」
「いうわけないだろー!」
クラスの活気が戻り始めて、
シリアスにも似ていた空気は瞬く間に払しょくされていく
すでに、天乃の件はクラスの中からは書き消えていて各々がまた、日常の中に紛れ込む
天乃「…………」
天乃のクラスメイトにとって
天乃が関係する何かしらの事象は非日常ではあるが、日常の一つなのだ
それに対して一々驚いたり、扱いが変わったり、誰かに言いふらすようなことは
誰かが言わなくとも、決して行われない
それは、核心にたどり着いていなかったとしても
天乃が、勇者部が
とてもつらい経験を経てここにいるのだということは分かっているからだ
そんなことを軽く誰かに言いふらしたりするなんてありえない
それで付き合いが悪くなったり、中傷したりするなんてありえない
「卒業までに、産まれる?」
天乃「頭、大丈夫なの?」
床からにょきりと生えてくるように起き上がった女子生徒は
平気だよ。と頭を軽く擦って
それよりも子供はいつ頃? 見たいなー抱きたいなーと嬉しそうにする
「もしも卒業した後でも、産まれたら教えてね。認知するから」
天乃「ふふっ、それは大丈夫よ」
「元気な子が産まれますように……くーちゃんの体も無事でありますように」
女子生徒はさっきまでの調子物の雰囲気を陰に押し込んだような真剣な表情で
天乃の前で祈りをささげる
「頑張れ。くーちゃん」
そう言って笑った女子生徒の表情は、
どこか、はかなげに見えた
√9月11日目 夕() ※木曜日
01~10
11~20 友奈
21~30
31~40
41~50
51~60 芽吹
71~80
81~90
91~00 沙織
↓1のコンマ
√9月11日目 夕() ※木曜日
授業が終わった放課後
友奈達も居らず勇者部の活動など行われない時間
天乃は芽吹に大人しく従って、
瞳の運転する送迎車へと乗ったのだが……
「伊集院先輩は大丈夫なんですか?」
天乃「ちょっと、限界が近いわね」
「……これでちょっと。なんですか?」
芽吹の呆れ交じりの不安を感じる声に
天乃は苦笑して自分に寄りかかって眠る沙織に目を向ける
沙織は結局授業の全てを熟睡して終わったし
帰りも天乃が何度か声をかけてようやく、
鞄も何も持たずに席を立ったかと思えば
ドアですらない壁を出口と勘違いして―見えていないだけだが―衝突する始末
それでも覚醒することが無いのだから芽吹が心配するのももっともだろう
天乃「起こさないであげてね?」
「起こしませんし起こせません。私では手の施しようがないので」
助手席で自分はお手上げだと手を上げる芽吹の仕草に
瞳はそこはかとなく嬉しそうに笑うと、ミラー越しに天乃達へと目を向ける
沙織は今すぐ休ませてあげるべきだろうし
芽吹もお役目的思考であるならば
今すぐに共同住宅へ帰るべきだと考えているだろう
だが……
瞳「久遠様」
天乃「うん?」
瞳「どうされますか? このまま帰るか、病院に……勇者部の皆さまにお会いになられますか?」
天乃「そうね……」
すぐそばで聞こえる寝息
傍から見ればただ寝ているだけに思えるが
そんな生易しい状態ではない
ちらりと芽吹に目を向ければ
何も言わないが、病院に行くかどうかという質問には不快感を覚えているのが分かって
「伊集院先輩のためにも、帰宅されることを推奨しますが?」
当然、そう口を挟んだ
1、帰宅
2、病院
↓2
天乃「そうね……沙織のためにもここは帰りたいわ」
瞳「解りました」
友奈や夏凜が目を覚ましたという話は聞いていないし、
樹や風も静養すべきだし、
東郷は問題ないが……問題ないからこそ
問題のある沙織を優先するべきだろう
そうでなくても、目の前にいる沙織を優先するのは、当然だ
天乃「それにしても、楠さんも沙織のことを心配してくれるのね」
「……どういう意味ですか?」
天乃「貴女達、あまり仲よくないから」
「時と場合を選んでいるだけです。寝込んでいる人に毒を盛るほど。落ちぶれた人間なつもりはありませんので」
天乃「そう……」
「何か?」
天乃「ううん。何でもないわ」
芽吹は嘘をついていない
ついていないからこそ
天乃はすこしばかり残念に思えて
もう少し仲良くなることは出来ないのかと、思う
大赦側と大赦に反する側
その立ち位置と言う時点で、それは不可能なのかもしれない
とりあえず、という形で
沙織を天乃の同室のベッドへと寝かせて、ひと段落
送迎係である瞳が居なくなると
常勤の世話係―医師及び看護師―と天乃と芽吹だけが家に残る
沙織「んー……ふへへ」
天乃「呑気ね」
世話係は芽吹を含めて基本的には天乃に接触してこない為
人がいるとは言っても
部屋の中に入ってしまえば、二人きり
沙織の元気そうな寝言が良く聞こえて
天乃は嬉しそうに笑みを浮かべる
このまま元気になってくれればいいが
きっと、ことはそう簡単な話ではない
1、沙織に触れる
2、沙織に話しかける
3、精霊組
4、端末
5、イベント判定
↓2
天乃の使うベッドと沙織が使っているベッドは、間に隙間なく並んでいる
天乃に何かあった際に手を貸しやすいし、
ベッドから転げ落ちたりする可能性が極めて低くなるからだ
本来は別々だったため、
セミダブルサイズのベッドが二つ並部と言う非常に大きなベッドになっているが
念には念を入れたと考えらば、
あながち広すぎるということもないだろう
沙織「んぅ……」
天乃「……ふふっ」
そうっと頬に触れると、
天乃に背中を向けていた沙織は寝返りを打って天乃の方を向く
灰茶色の髪が枕の上で無造作に広がって
頬に垂れた一部の髪をさっと払い除けてあげると
少しくすぐったそうに呻くのが、また愛らしいと天乃は思う
天乃「…………」
こうしてみれば元気な女の子の寝顔でしかない
天乃「ん……」
柔らかく、温かい沙織の頬
指ではなく手の平全体で包むように撫でてあげると
こそばゆいのか、沙織は小さな声を上げて
沙織「久遠さん……ふふふっ」
どことなく怪しさを感じる笑みを浮かべる沙織は寝返りを打たず
頬の天乃の手に手を重ねて、嬉しそうに口元を動かす
今朝、沙織が登校してきた際に触れた時よりも肌に感じる体温は平熱に近い
少しは元気になったのか
それともただ、ベッドに入ったからなのか
前者であれば救いだが、後者であればまだまだ予断は許されない
天乃「っ」
天乃は首を横に振ると、
沙織の手に包まれた自分の手を見つめて、息を吐く
こんなに不安になっていてどうするの? と、自分自身に問う
何かしたわけでも無い
ここで待っているだけの自分
それだけしかできない自分
それが、みんなのことを励ますこともせずに落ち込んでしまうのなら
なんの意味があるのだろうかと、問う
天乃「……だめね、弱気になってる」
ほんの一瞬違和感を覚える程度の感知能力しかない天乃には、
残念ながら正確な数は分からないが
少なくとも今回の戦闘を含めれば4回程度世界は樹海化し、
そのたびに戦い、傷つき、穢れを請け負っている
しかも、その4回と言うのは
沙織達巫女の能力を持つ精霊が、
あと数回程度しか補うことが出来ない。と言ってからの数
加えて言えば、規模によってはさらに消滅は早まってしまうという話だった
天乃「今回は流石に、厳しかったものね」
今までも軽かったというのは若葉達の証言でしかない
ゆえに、もしも心配させまいと嘘をついていたのなら
今の沙織はもはや消えかけている状態であってもおかしくはない
天乃「……そう言えば、沙織。して欲しいこと、言わなかったわね」
天乃の手に重なっていた沙織の手からは次第に力が抜けて
ベッドの上へと落ちて動きを止める
沙織の口元から漏れ出る寝息は相変わらず
そう、これだけ寝ているのに、起きる気配がまったくない
天乃「眠り姫は、どちらなのかしらね」
1、額にキス
2、唇にキス
3、仰向けにさせる
4、そう言えば、エッチなことをすると少しは穢れを発散できるという話があったような
5、おとなしく隣で休む
↓2
天乃「……そう言えば」
淫らな事をすることで、
少しは穢れを発散できると誰かが言っていた。
と、天乃は意味不明なことを思い出して
何を考えてるのよ……と自分自身に呆れて首を振る
天乃「沙織は疲れてるのよ? それに……」
寝込みを襲うようなことなんて出来ない
沙織なら喜んで受け入れるというか
むしろ「ついに攻めにきたんだね!」などと言いそうな気はするが
天乃「…………」
静かな部屋に聞こえる穏やかな寝息
胸囲だけで言えば天乃と同じほどあり、
下着によって綺麗に補われた形のままの胸は
呼吸に合わせて、上下する
そして、ふと――ごくり。とどこかで奇妙な音がした
天乃「え、ぁ……待って。ちょっと」
それは明らかに天乃自身からで
天乃もそれにはさすがに驚いて首を振り、大きく息をつくが
スイッチの入った心は落ち着きを忘れて高鳴る
天乃「流石にないわ。駄目よ……」
前に言われたように、子供ができ始めている影響で力が集約し
そのせいで感度の上がった体が淫らな気分にさせているであろうことは天乃も分かっている
しかしそれを解消したいという欲求は当然ながら湧いてくるし
もはやおぜん立てされた状況と言える今はそれを最大限に高めてしまう
天乃「沙織は、寝てるの。疲れてるの」
沙織「んっ……ぅ……」
天乃「仕方がないから……なんて気持ちではしたくない」
沙織に手を出すのを躊躇う一方
穢れを少しでも癒してあげるという大義名分があるのだから良いのではないかとも思ってしまう
いずれにせよ、沙織は許してくれるだろう
きっと喜ぶことだろう
だが……だから無理矢理していいという理由にはならない
天乃「せめて、沙織が起きてるなら……ううん、朝に言っておくべきだった」
今声をかけて反応してくれるだろうか
えっちなことがしたい
沙織のためにと言う気持ち以外に、疼く気分を何とかしたいと思う
1、夜まで我慢
2、沙織を襲う
3、一人ですればいいんじゃないかな
4、ねぇ、エッチな事。していい?
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
沙織(やったー久遠さんの貴重な攻めっくすだ……結城さんに自慢しよっと)ドキドキ
天乃「……ごめんね」
天乃「少しだけ、少しだけ……」
沙織(良いんだよ。そんな気にしなくて!)
沙織(がっつりいっちゃって! あたしを食べて!)
沙織(でも、あとでこれを口実に強めのえっちしてあげないとなー……じゃないと多分、久遠さん罪悪感で泣くだろうし)
沙織(泣かせずに 喘がせてやれよ 女なら ってね!)
では少しだけ
天乃「ごめんね、少しだけ……許してね」
朝、沙織が求めていたことで、沙織が好きなことで、
沙織のためになることなのだとしても、
天乃はそれを独善的な大義名分として排除し
自分が身勝手にするのだと考えて、謝罪を口にする
たとえ沙織自身に理由があっても、
自分の性的欲求の解消がしたいというものがある以上、それをいいように使いたくなかったからだ
天乃「…………」
改めて想像して喉を鳴らした天乃は、
普段自分がされていることを思い浮かべ、沙織の頬に優しく触れる。
撫でるようにしながら手の平を滑らせていき、程よく色づいた健康的な肌の中、
ぴたりと閉じた唇の端を親指で掠めて開き、そっと唇を合わせる
天乃「っふ……沙織……」
寝息を遮ることが無いようにほんの一瞬。間違いで触れたかのような優しさで。
そのまま沙織が起きないように注意を払いながら、
上になっている左肩を押して沙織を仰向けに寝させてもう一度、キスをする
寝ているために唇の潤いは僅かに削がれており、
普段の豊かな心地よさには程遠くて、
天乃は自分の唇を内側に巻き込んで舌で潤してから、また唇を重ねる
沙織「んっ……ふ……」
天乃「っふ……」
沙織が呼吸している間だけ、キスをするのだ。
キスをするたびに頬に触れる沙織の吐息のくすぐったさなど気にならない。
唇から感じる沙織の厚みのある弾力
潤いが増すたびに自分に染まっているという微かな征服感
それらが流れ込んでくると、体自体が心臓であるかのように熱を持って脈を打つ
沙織「っは……ふ……んっ」
溜まった唾液を飲むと同時に、間に合わず零れた一筋が沙織の頬を伝って
天乃「ん……ぁ……」
天乃は躊躇なく舌先でそれを舐めとって唇を重ねる
沙織「……ぅ……」
沙織は小さく声を漏らしたが起きることはなくまた穏やかな寝息を立てて、
天乃は少し残念そうな笑みを浮かべる。
ほんの少しだけ目を覚ましてくれることを期待してしまったのだ。だが、
沙織は目を覚まさなかった。そんな貴女が悪いのよ。と、
天乃は意地悪なことを思いながら、
世話係が着せてくれた沙織の寝間着のボタンを上から三つほど外し、
顔を覗かせた鎖骨に吸血姫のごとく唇を触れさせて、優しく吸う。
沙織「ん……ぅ」
沙織の声は普通よりも少し艶っぽさを増してはいるが
心地よさを与えられていると言えるほどには到達していない
まだまだだ。もっとだ。天乃はそう思う。普段起きている分、
キスはもっと濃密な絡み合いがあったし、
それだからこその高ぶりが全身を包むことで、
身体に触れるころには半熟だったのかもしれないが、
やはりそこに慣れていると現状の薄い快感は物足りなく感じてしまうのだ
天乃「っは……」
首筋から顔を上げると一筋の流れが沙織の首元へと滴っていく
しかし、天乃は気にせず沙織の寝間着の一番下のボタンから二つを外し
見えた白いインナーの上から沙織の腹部を撫でる。
天乃「……筋肉、ついてないわね」
太っているわけではないが、痩せてもいない。
かといって筋肉質でもない標準的な女の子の肉質を手に感じながら、
天乃は人指し指から薬指までの指で沙織の臍周りに小さな円を描いていく
柔らかな脂肪はぐにゅりぐにゅりと心地よくほぐれては
すぐ真下にある強くもない筋肉への接触を許す
沙織「っぁ……んっ」
少しずつ体に熱が溜まってきて感度も良くなり始めているのか、
沙織の頬は最初に比べ赤みがかってきていて、
鼻での呼吸は口での呼吸へと切り替わり、仄かに生暖かい吐息が零れ落ちていく。
天乃「んっ……ちゅ……」
天乃はそんな沙織の潤いを残した唇に唇を重ねると、
自制心を持って抑え込みながら舌と舌を一瞬触れ合わせて、引き抜く
鼓動の痛みは欲求の催促。
意地の悪い性欲の取り立てから逃れるように天乃はもう一度沙織の唇を重ねて奪うと、
舌と舌を触れ合わせて絡め……ねっとりとしたどちらのものかも不確かな産物をかすめ取って飲み込む
口元から溢れた僅かなそれを指で拭い、
沙織の腹部を覆うインナーをずらし、目を奪うためとしか思えない窪みに濡れた指を触れさせる
沙織「んっ……はぁ……ぁ……」
天乃「はぁ……はふ……んくっ……はぁ……」
沙織の熱っぽい吐息が一瞬途切れて媚声にも似た声が零れ落ちたのを耳にしながら
天乃は自分の荒い吐息を飲み込んで額の汗を拭うと、
沙織の呼吸の合間に唇を重ねながら寝間着のボタンをすべて外し、
沙織の程よく育った乳房を守る下着を見つめる
天乃への好意が全開なのだろうか
おしゃれなレース刺繍が施された子供には早い桃色の下着はやはり背中側にホックがついていて、
天乃は本当は外した方が良いんだけど
と、恐らくは高いであろう下着のことも考えつつ、
沙織の胸から臍までの間、その見えない中央線に倣うようにして舌を滑らせる
沙織「んぅ……はっ……ぅ……」
びくびくと沙織の体が反応する。
天乃は自分の手でも気持ちよくさせられていることに安心する反面、
眠っている沙織に悪戯している罪悪感を併せ持ちながら、
沙織のお腹を懐いた犬のように舐めて味わって、
少しずつ上へ、上へと昇りつめて下着からはみ出た柔肉をぺろりと味見する
味覚はなくて何も感じないが、しかし心は満足げに天乃の体の中で疼いて……
天乃「壊しちゃったら……また新しいの買うからね」
沙織のブラの肩紐を伸ばして調節し、
空いた隙間から手を忍ばせて沙織の乳房に触れる
上から滑り込ませながら、下からすくうように右側の乳房を取り出し、
柔らかな果実の下半分を手の平で撫でて、揉んでと刺激しながら
開けば糸引くほど待ち焦がれている唇で、実から飛び出した旨味成分が詰まった紅一点を咥え込む
沙織「んんっ……っは……ぁっ……はぁ……」
天乃「っふ……んぁ……んっ……ちゅっ」
夕食を呼びに来るであろう時間まで、それは続いた。
沙織を一方的に感じさせながら、沙織が快楽に震えて身もだえる姿を糧に自分の下腹部を弄って
天乃は自分自身の性的欲求を解消する。
寝込みを襲い、その感じている姿で自慰に浸る。
そんな自分の卑しさを強く恥じ、
襲ってしまった罪悪感に天乃はすべてが終わった後に起こした沙織に対して、何も言うことは出来なかった。
√9月11日目 夜(共同住宅) ※木曜日
01~10
11~20 沙織
21~30
31~40
41~50 芽吹
61~70
71~80 沙織
81~90
91~00 九尾
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
東郷「え……続きはどこなの?」
園子「わっしー……世界にはね。無料試し読み制限って言うのがあるんだ」
東郷「それは知ってるわ。買うから続きを出して!」
園子「そして、未完結っていう極悪非道な作品もあるのさ」
東郷「…………」
東郷「……そうだわ」
東郷「壁に穴開ければ――」カチャッ
園子「そんなことしてもスランプの壁は壊せないんよ~」
では少しだけ
√9月11日目 夜(共同住宅) ※木曜日
天乃「私……最低な事、しちゃった……」
結局、沙織は天乃との行為中に目を覚ますことはなかったし
起こした後も気づいた様子はなく
ただ、少しだけ体が楽になった。と嬉しそうに笑いながら
久遠さんと一緒に寝るって最高だね。と
とても無邪気にはしゃいでいて……
罪悪感が尋常ではなかった。
光りを飲み込むような闇の帳の下りた世界
唯一窓から差し込む頼りない月明りを浴びて
天乃は握りしめた拳に滴る涙を拭輪ずに首を振って振り払うと
唇を噛み切ろうと噛み締めて――
九尾「そこまでにせんか。愚か者」
天乃「っ」
力強く両頬を掴まれて口が開かれ、未遂に終わる
それでもまだ鷲掴みにする手の先、
人の形で現れた九尾は体のいたるところに生々しい傷跡を残したままで
まだ、完治していないのは聞かなくても分かった
天乃「……おうひへ?」
九尾「なぜ怪我をしているのか。という点については、妾も力を貸す立場ゆえに。としか言えぬな」
そうじゃなくて。と
天乃は言おうとしたが、掴まれたままでは上手く話すことはできないし
九尾は天乃の言葉を言わずとも理解しているのだろう
茶化すようにくつくつと喉を鳴らすような笑い声を溢すと、
いや、なに。と、呆れた呟きを漏らす
九尾「主様が情欲に敗北して嫁を喰らったのが見えてのう……」
天乃「…………」
九尾「あの娘の事じゃ。気にすることもあるまいし、正直に言えば歓喜に踊るじゃろうに」
にも関わらず馬鹿正直に罪悪感に溺れておるから。と
九尾は明確な不快感と嫌悪感を詰め込んだため息を吐いて首を横に振る
こればかりはお手上げの馬鹿さ加減だ。と言いたげに
九尾「くだらんぞ。あの娘と立場が逆だったらどうじゃ。あの娘は情け容赦なく淫靡に沸き、情欲に震え、快楽に満ち、愛を貪るじゃろう」
天乃「そ、れは……」
九尾「主様はそんな娘に対しどう出る? 寝込みを襲いおってと激昂するか? 卑しさに溺れるなと説教を述べるか?」
そんなことはしない
無防備に眠ってしまった自分が悪いからと言うだろうし
沙織が心から愛しているがゆえの行為であり
大きな負担をかけないようにと気遣っても暮れているだろうから、
ほんの笑い話として、冗談のような日常の一つとして
さらりと受け流すことだろう
天乃「でも……私、沙織のことを穢したの。寝ていたのに、身体を弄んで……それを愉しんでしまった!」
沙織の体が快感に震えるたびに、
自分の手で気持ちよくさせてあげられていることに悦びを感じた
沙織の秘境から湧き水があふれ出てくるたびに
張り裂けるほどの脈動と焼き付くような熱を感じた
そして、沙織を穢した手で自分を慰めることに
眠っている沙織の横で嬌声を溢し身悶える事に快楽を得た
天乃「卑しいわ……最低だわ。汚らわしい……そう思いながら、自分を抑えられなかったの……」
九尾「まぁ、仕方が無かろう。主様の体は現在、蜜壺に向かって急激に力の集約が行われておるからのう。理性でどうにかできるものでもあるまい」
天乃「だけど……」
九尾「だからこそ、主様には幾人もの嫁が出来ているわけでもあるのじゃぞ」
誰かが嫌がって離れたりするとかいう話ではなく
理性で押さえつけることもできないような性的欲求は当然、果てしなく膨大であり
一晩中性行為に没頭したとて、全てが吐き出せるとは限らない
だから、一人二人ではなく数人の嫁がいるし―夏凜達がそれを了承したのは偶然でしかないが―
九尾はそれに対して反発しないしむしろ推奨さえするのだ
九尾「良いか? この際じゃからはっきりと言うておくが、子供が生まれるまではその性的欲求による理性の崩壊は必然。確定事項と思え」
天乃「そんな」
九尾「それも安産の為じゃ」
天乃「安産……? どうして?」
妊娠しているならむしろ
体に負担がかかりそうなみだらな行為はふつう控えるべきだ
そう思う天乃に、
九尾は当然の反応ではあろうがな。と
躊躇いを感じる表情を浮かべて見せて、息をつく
本当は行為に責任感や義務感、強制されるような感覚を抱えて欲しくはないからだ
九尾「淫らな行為は穢れを中和するための行為。主様はそれを知っておろう?」
天乃「ええ」
九尾「そして、主様は妊娠したことでその行為をしたいという情欲に掻き立てられることがある」
天乃「……うん」
九尾「要するに、じゃ。主様の力が強すぎて双子を身籠り成長を速めても対応が追い付かないから息抜きをしてくれという体からの救難信号。ということじゃ」
天乃「でも、今までは」
そう言いかけて、天乃は言葉を飲み込む
思えば自慰行為を行うことがあったし
沙織や夏凜、東郷たちとエッチな行為を頻繁……ではなかったかもしれないが
度々行ってきていた
それらは殆ど、向こうからの要求という偶然ではあったが
それらがあったからこそ、大きくたまることはなかったし
理性の崩壊が起こることもなく済んできていたのだ
九尾「あの娘にその説明と謝罪でもしておくと良い」
天乃「……今作った嘘。じゃないわよね?」
九尾「試しに禁欲してみるかや? 楠芽吹やクラスメイトを分け隔てなく食い散らかしても知らぬぞ」
天乃「それは嫌」
確かに、九尾が言うことの説明は付けられるし
一応の納得も出来てしまう
そもそも、九尾がそんなウソをつくメリットはどこにもない
ましてや、身体の怪我を直しきれてもいない状態で
わざわざそんな手間を取るはずがない
九尾「妾は主様の味方じゃ。本当に重要な案件ならば、妾は主様を惑わすことはせん」
天乃「九尾……」
九尾は天乃の頬を右手のみで優しく包むようにすると
その額に優しく口づけをする
九尾「その命は我が主である主様と、その為に尽くした良き友の血を引くものである。なれば、妾はそれを守る義務がある」
優しい声。
まるで自分の子であるかのように天乃を包み込んでいく九尾は
その姿を妖狐へと変異させていき、黄金色の尻尾で天乃を覆っていく
九尾「妾はそれを誓おう。主様が心穏やかに。身を健やかに。魂を安らかに。生きてゆくことが出来るのならば――何度でも」
その抱擁は人間には決して作り出せない温もりと、尊さと
闇夜を照らす光のごとく安堵を天乃へともたらすような、不思議な力があった
√9月11日目 夜(共同住宅) ※木曜日
01~10
11~20 継続
21~30
31~40
41~50 継続
51~60
61~70
71~80 継続
91~00 継続
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日は所用で休載で明後日の通常時間から
※継続:さおりん
九尾「嘘ではないぞ」
九尾(という嘘)
沙織「九尾さんグッジョブ!」
九尾「この程度造作もないことじゃ」
沙織「これでヤリ放題」
沙織「……ふへへっ」クネクネ
千景「させないわ。三好さんに頼まれた以上は私が久遠さんを守る!」
では少しだけ
天乃「ね、ねぇ……沙織」
沙織「んー?」
天乃「その……」
沙織「どうかした?」
沙織は朝や昼間と違って、元気が有り余ると言った様子で笑みを浮かべる
完全に癒すことが出来たわけでも
発散しきることが出来たわけでもないはずなのだが
多少は貢献できたという事なのだろう
沙織「お夕飯のあたりから、なんだか久遠さん元気ないよね」
天乃「そう見える?」
沙織「見えるし感じるし……久遠さんがあたしのために犠牲になったような気がしてちょっと不安かな」
なんだか知らないけどすごく元気になれたしねーと
沙織は気分がよさそうに体を動かしながら
無邪気な笑みを浮かべる
夕食前に起こした時と同じだ
起きた直前こそまったりとした感じだったが、
覚醒が近づくにつれて動き、身体をぐっと伸ばした沙織は
驚いたように体を動かして、楽になったーと無邪気に喜んで……
天乃「そんな不安になるようなことじゃないわ。犠牲にもなってないし」
沙織「久遠さんの犠牲になってないほど信用できないのは大赦くらいだよね」
天乃「そこと比べるの……?」
むしろそのレベルなのね。と
天乃は呆れたように苦笑して、ゆっくりと笑い声を霧散させていく
楽しげに笑う沙織を見られたのが嬉しくて
けれど、それは沙織を自分が淫らな気持ちで触れたからで
九尾の言葉を信じるのならばどれもこれも必要な事だし
そもそも沙織は喜ぶことだし
そうでないのだとしても、言うべきだろう
天乃「沙織、私の話を聞いて欲しいの」
沙織「ん……良いけど、プロポーズはもう少しムードのある場所が良いかもしれない」
天乃「それはまた今度ね」
すかさずぼけてくる沙織の発言を軽く受け流した天乃は、
九尾の言葉を思い出しながらも緊張して跳ねる胸元に手を宛がって、息をつく
繊細な状態の体での性的行為が
どれだけ負担になるのか九尾も分からないわけがないし
それに関してはきっと嘘は言っていないはずだ
冷静になって再度考え直そうとする頭を振り、沙織を見つめる
天乃「私ね、沙織が寝ている間にエッチなことをしたの」
沙織「……え? 誰と?」
天乃「沙織と」
沙織「沙織……沙織? 沙織って、あたし!?」
天乃「そう。伊集院沙織。今私の目の前にいる私の恋人」
一瞬殺気立った沙織だったが、
自分との行為であると言われた瞬間にそれは弾け飛んで行って
困惑と歓喜に打ち震える複雑な表情でにやけながら
頭を抱えて「あぁぁぁぁぁぁっ記憶がないぃぃぃ」と、
尋常ではなく悔しそうな声で唸る
やっぱり、寝込みを襲ったことに関してはむしろ喜ぶことのようで
沙織「寝たふりするからリテイクしない?」
天乃「しないわよ……あんなこともう二度としたくない」
沙織「そっか……久遠さん真面目だからそう言うプレイは辛いよね」
冗談めかした口調は変わらないが、
天乃が悲しげに言って否定するとすぐに沙織は天乃の体に触れて、優しく声をかける
沙織「ならいいよ。ごめんね」
天乃「ごめんって……」
沙織「あたしが魅力的でっ」
天乃「あぁ、うん」
和ますための冗談
それが分かるからこそ天乃は笑って振り払い、
体に感じる沙織の体温に触れ返す
天乃「でね? 聞いた話エッチなことをすると、私の力が流れ出るから、子供に過剰な流入が起こりにくくなるらしいの」
沙織「つまり、しまくれってこと? 良いの? えっ? それ本気? あたし2日間はし続ける性欲持ち合わせてるよ?」
天乃「落ち着いて。ね?」
押し倒してやろうかと言わんばかりにいきり立った沙織を抑え込んで
天乃は改めて九尾に受けた説明をそのまま沙織へと話す
なぜ沙織を襲ったのか
なぜ今までは平気だったのか
なぜ、そうするべきなのか
全てを話している間、沙織はウズウズとしてはいたものの襲わなかったが
話を聞き終えた瞬間――ぐっと天乃の肩を掴む
沙織「じゃ、しよっか」
天乃「駄目よ。貴女の精神はともかく体がもたないわ」
沙織「ドーピングしたように元気だよ?」
天乃「麻痺してるだけよ。それ」
元気がなくなっていた分元気がはじけているだけで
この状況でそれを用いて無茶をすると
反動で体が一気に駄目になってしまう可能性があるのだ
天乃「言ったでしょう? そのために複数のお嫁さんがいるんだって」
沙織「んー……でもさ。先っちょくらいならいけるよね?」
天乃「さきっちょって……貴方はもう……」
猿猴の部分が大いに影響しているのは分かるが
聊か積極性が増し過ぎているような気がした
1、明日。明日しましょう?
2、んー……解った少しだけね?
3、駄目。まずはゆっくり休みなさい
↓2
天乃「明日、明日しましょう?」
沙織「明日かぁ……ん~……」
沙織は諦めきれないといった様子で天乃を見つめて唸ったが、
天乃が明日は絶対するから。と、言うと、
またしばらく考え込んでから、渋々承諾して息をつく
沙織「約束だよ?」
天乃「分ってるわ……内容はどうであれ、沙織の体にも良い事は証明されたし」
沙織「三大欲求の一つなだけはあるよね」
冗談っぽく
そして何より呆れながら沙織は笑う
沙織も十分煩悩に塗れているが
それは一部猿猴による影響もある……はずで
一応は常識的にそれが冗談めいたものなのだとも考えるらしい
沙織「人ってつくづく罪深いよ」
天乃「そんな哲学に触れるようなこと言われても、私は何も言えないわ」
沙織「久遠さんは哲学じゃなくて概念だもんね」
天乃「それはないわ」
一人ぼっちだった部屋が、一気ににぎやかになって
けれどもやはり人の少ない家
出来る限り早く戻ってきて欲しいと、
天乃は祈りながら、眠りに落ちていく
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流無()
・ 犬吠埼風:交流無()
・ 犬吠埼樹:交流無()
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流無()
・ 三好夏凜:交流無()
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流無()
・伊集院沙織:交流有(私にできること。眠姦、明日)
・ 神樹:交流無()
9月11日目 終了時点
乃木園子との絆 54(高い)
犬吠埼風との絆 82(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 68(とても高い)
結城友奈との絆 95(かなり高い)
東郷美森との絆 101(かなり高い)
三好夏凜との絆 118(最高値)
乃木若葉との絆 88(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 35(中々良い)
沙織との絆 100(かなり高い)
九尾との絆 56(高い)
神樹との絆 9(低い)
√9月12日目 朝() ※金曜日
01~10
11~20 千景
21~30
31~40
41~50 若葉
61~70
71~80 友奈
81~90
91~00 夏凜
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
夏凜「っ……」
夏凜「あれ……」キョロキョロ
夏凜「気のせい?」
夏凜「なんかすごく強烈にツッコミしないといけない気がしたんだけど」
夏凜「はぁ……良かった」
千景(問題はこの後よ……三好さん)
では少しだけ
√9月12日目 朝(共同住宅) ※金曜日
天乃「…………」
沙織「ん……久遠さん……母乳……ジョッキで」
天乃「……寝て、る?」
起きているのではないかと疑いたくなるような寝言を呟く沙織だが
冗談でも何でもなく本当にただの寝言らしく
天乃の手を握りしめたまま心地よさそうな寝顔を晒し続けて、もぞもぞと動く
隣にいる誰か、感じる体温、聞こえる吐息
どこかで鳴く鳥の声
ひた走る車の機械的な音
日常のかけらの一つ一つが体に沁み込むようにと
天乃はベッドに横になったまま目を瞑って深呼吸
すると、感覚が鋭敏になったからだろう
部屋の外から聞こえる微かな足音に気づいて体を起こす
天乃「……どうぞ」
声をかけたのとほぼ同時にコッ。という中断されたノック音が響き
失礼します。という声に引き続いて芽吹が姿を見せた
夏凜が良くやるようなジャージ姿
疲れ切った様子はないが汗の煌めきが額に見えるあたり、鍛錬の途中で急いできたのだろう
天乃は緊急的な案件だと判断して身構えつつ、
沙織の手を握り返して、努めて平然な声を出す
天乃「どうかしたの?」
「はい……と言っても、久遠先輩が警戒するようなことではありませんよ」
天乃「え?」
「なんだか警戒しているように見えたので……違いましたか?」
天乃「あ、ううん……そうだけど」
嫌悪感を感じるとはいえど、
近くに居ることの多い日々は関係こそ変えることはないが
理解だけは深めているのかもしれない
そう思う天乃の一方、芽吹は咳ばらいをして天乃を見る
その表情は……どこか喜んでいるようにも見えた
「三好さんが目を覚ましました」
天乃「っ……! 本当?」
沙織「にゅむぐっ!」
天乃「あっ」
ガバリ。
漫画的な表現で言えばそんな環境音の使われそうな動きで天乃が体を起こし、
すぐ横にいた沙織は天乃の体―胸―に圧し潰されるような形になって呻き
慌てて目を覚まして
沙織「っふ……良い目覚ましだね……」
「……伊集院先輩。涎拭いてください」
沙織「んぅ?」
ああごめんごめんと軽い口調で答えた沙織は
指で口元を拭うと、たまたま用意されていたタオルでそれを拭って
ようやく、芽吹がいることに気づく
沙織「なんで?」
「緊急報告です。三好さんが目を覚まされました」
沙織「えっ、早い……」
天乃「?」
沙織「大丈夫なの? 状態は?」
「詳しいことは今検査を行っているので結果が出次第というところです」
そこでなのですが。と芽吹は沙織から天乃へと目を向けて、
「病院に行かれますよね?」
天乃「え、ええ……それは、当然……」
「では、伊集院先輩。久遠先輩と準備を。午後登校の予定なのでそのつもりの準備願います」
沙織「うん、わかった」
天乃がどうしたいのかを踏まえたうえで、的確な指示を出した芽吹
その姿が部屋から出て行くのを見送った天乃は
夏凜のこと、芽吹のこと
重なったそれらにすこしぼうっとして沙織を見る
天乃「ねぇ、これって――」
沙織「大丈夫、夢じゃないよ」
天乃「……早い」
沙織「言うだろうなぁって思ったし」
寝起きながら満面の笑みを浮かべる沙織は
早く準備しちゃおうか。と
天乃を起こすのを手伝って、制服と下着、学校の準備を進めていく
沙織にとって、天乃の心を読むのは読書感覚なのかもしれない
準備を進めながら、大人しい息を吐いて
沙織「さっき早いって言ったのはね。三好さんが相当なダメージを負ったって言うのもあるけど少し試したことがあるんだよ」
天乃「試した……?」
沙織「そう。前に三好さんが久遠陽乃の力の一部を継承してるっていうのがあったでしょ?」
天乃「ええ」
沙織「そこで、三好さんは久遠さんと同じように力を使えるのか試そうとしたんだよ」
そんなことを言ってから
沙織は慌てて取り繕うように「あんまり怒らないで上げてね」と
無理だろうなーと思っていると分かる表情で挟む
沙織「結果は過負荷に耐えられなくてね……それもあって三好さんはもう少し長引くだろうって感じだったんだよ」
天乃「…………」
沙織「誰かが無茶をする必要があった。出来なければ何も残ることはできないような戦いだったから」
昨日とは打って変わって
巫女として、天乃の戦友としての顔を覗かせる沙織は、
はっちゃけた様子の一切無い雰囲気を感じさせる
だから
沙織「三好さんもそれは分かってる。自分の無茶が無意味だったことも分かってる……だから、さ」
天乃「……夏凜はきっと、私に正直に話すわよ。私が何も言わなくても。自分は無意味だったって」
沙織「そうかな……」
天乃「そう。夏凜はね。きっと」
天乃は全てを受け入れたかのような
昨夜寝ている女の子を襲ったのと同一人物だとは思えない大人びた笑みを浮かべる
それはとても困って居るけれど、嬉しそうで
余計な言葉も異論も必要ないと思わせる不思議なものがあるように沙織は思う
天乃「だから、沙織がそんな気を回さなくてもいいのよ。忘れてない? 私と夏凜の出会い、私と夏凜の付き合い、私と夏凜の関係」
沙織「……忘れてないよ。ただ、そうだなぁ」
あたしは三好さんの理解が足りなかったみたいだね。と
沙織もまた、笑顔を見せた
√9月12日目 朝(病院) ※金曜日
夏凜は昨日の夜に眠って今日の朝普通に起きたかのように
何も変わらない様子でベッドの上に居た
天乃が中に入ると、誰かしらの訪問
また大赦関係、医療関係だと思っての態度なのだろう
紅葉を見に行紅葉。という、センスを欠片も感じさせない雑誌を手にしたままで
今度はなんなの? と、言いながら目を向けてようやく……天乃に気づく
夏凜「早くない?」
「連絡はすぐに来るので」
夏凜「……はぁ」
天乃「あ、どうぞ。読みながらで」
夏凜「もう終わったからっ」
ため息を付いた夏凜が雑誌を仕舞おうとしたのを見て天乃は茶化そうとしたが、
夏凜は照れくさそうに声を上げて片付けると
天乃へと目を向けて、自分の手を握る
夏凜「芽吹達は、少し下がって貰えないの?」
「きそ――」
沙織「はーい下がろう」
「ちょっ、伊集院せんぱ」
あとで抗議を言われることが確定する強引さで芽吹を連れて沙織が退室し
残された天乃と夏凜はその姿を不安そうに見送って、苦笑する
夏凜「良いの? あれ」
天乃「楠さん的にはアウトよね」
夏凜「ったく……ちょっとぼやいただけなんだけど」
天乃「あら、2人きりは嫌?」
夏凜「んなこと言ってないわよ」
ふいっと顔を逸らした夏凜の口元が引き締まっては緩み、
そのたびに手が握り合う
言いたいことがあるのだろうけれど、中々言い出せない
そんなじれったい様子を前に、
天乃は声に出さずに笑みを浮かべた
1、体の調子は?
2、ごめんね、戦いに参加できなくて
3、お疲れ様、良く頑張ったわね
4、何も言わない
5、ところで夏凜、私ね。えっちしないと死ぬ病気らしいわ
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
「三好様、こちらでよろしいですか?」
夏凜「そう、それ。助かるわ」
夏凜(紅葉……秋の行楽スポット)
夏凜(あいつ、こういうの好きなの?)
夏凜(まぁ、誘えば来てくれるんだろうけど……)
夏凜(出産前に一回くらいデート行こう。二人で)
夏凜(……お役目が、無事にひと段落出来たら)
では少しだけ
√9月12日目 朝(病院) ※金曜日
天乃「…………」
頭に思い浮かんだ言葉
それは夏凜にとって酷な言葉だと分っているが
しかし、だからこそ必要なのだと天乃は思う
夏凜は慰めて欲しいわけじゃない
むしろ、慰められる方が傷つくことだろう
自分たちで何とかする。そう胸を張って
戦闘の難易度が以前と比べて大幅に上がっていたのだとしても
満開を許し、意識を喪失し、大怪我を許した
とても勝利とは言えない結果を持ち帰る事しか出来なかったのだ
意識を失うなんてしている場合じゃないと思ったはずだ
こんな場所で横になっている場合じゃないと思ったはずだ
天乃が来た時
会えて嬉しいと思うことにすら、夏凜は嫌悪感を抱いたはずだ
自分は何故、そのようなことが許されるのかと
そんなぐちゃぐちゃになっている夏凜の精神に
頑張ったね。と、お疲れ様。と、仕方がなかったんだよ。と
そう言って何が変わるのだろう。何が救えるのだろう
自分は何も出来なかった。なのに、何を頑張れたのかと。
天乃「ごめんね、戦いに参加できなくて」
だから、これで良いのだ
夏凜「っ……!」
天乃「とても危険な戦いだったって、難しい戦いだって。聞いたわ」
夏凜「……っ」
夏凜の目が見開かれていき、
握り合う手の力が段々と強くなっているのが天乃の視界の端に映りこむ
怒りと悲しみと罪悪感と……
複雑な表情を浮かべる夏凜がゆっくりと天乃を見る
夏凜「あ……」
天乃「私も、一緒に――」
夏凜「っ……ふ、ふざけんじゃないわよっ!」
天乃「…………」
夏凜「ふざけんじゃ……ないわよ……」
強く握り締められた拳は行き場を失って震えて
瞳は怒気を放って鋭くなっていく
けれど、天乃は目を向けたまま、一旦口を閉ざしただけで
天乃「だって、そうでしょう。私が居ればみんなにこんな被害は無かったはず。満開だって必要なかったはず」
夏凜「だとしても、あんたにそんなこと言われたくない!」
そう叫んですぐに夏凜は悔しさを滲ませながら首を振ると
自分の手元を見つめて「……そうじゃないか」と、呟く
夏凜「言わせたくなかった」
天乃「知ってた」
夏凜「そう言わせたらダメだった。言わせちゃけなかった。後悔させたことになるから……」
天乃「うん」
東郷や風と面会したときのように
天乃は夏凜に触れようとはしなかった
触れたい。抱きしめてあげたい
そんなに抱え込まなくて良いんだよ。と、言いたい
けれど、それを夏凜にはしてあげられないのだ
今はまだ。言葉をせき止めてしまうだけだから
夏凜「頑張りは、したのよ。絶体絶命の状況。やるしかないって思って……天乃の力を使おうとした」
でもダメだった。と、夏凜は苦笑する
自分の手を見つめながら深く息を吐き、
天乃の方へと顔を上げて、「あんたは凄いわよ」と賞賛を口にする
完全な適正を持ち合わせていなかったのもあるが
夏凜にかかった負荷は尋常ではないのだ
まだ何もせず真っ向から立ち向かった方が良かったのではないかと思うほどに
夏凜「息が出来なかった。手が、足が、動かなかった。圧縮されて潰されるように骨まで軋んで砕ける感覚さえあった」
もちろん、それはそう感じたと言うだけで
実際に骨が砕けたり握り潰されたわけではない
けれど、それが現実だと思いかねないほどに強烈な重みがあって
夏凜「天乃はいつもそれを抱えてたんでしょ?」
天乃「そうね……九尾と死神。二つの力を使ったときはそうだったと思う」
夏凜「…………」
やっぱりか。そう言うような笑みを浮かべて見せた夏凜は、
固く唇を閉ざして目を伏せると、また小さく笑い声を零す
勝ち目が無い。そう思ったのかもしれない
夏凜「ごめん」
天乃「…………」
夏凜「約束を護れなかった。心配させたし嫌な思いをさせたし……後悔までさせた」
最悪だ。
何をしていたんだろう。
夏凜は空虚な雰囲気でぼやくと、ふと、窓の外を眺めて
夏凜「まるで、意味が無かった」
夏凜の心が悲鳴を上げて……折れていく。
1、でも、生きて帰ってきた
2、馬鹿ね。貴女が居るから私は悲しんだり心配したり、喜んだり怒ったりするのよ?
3、無茶はした。でも無理はしなかった。被害はあった。でも、犠牲は無かった
4、抱きしめる
↓2
ではここまでとさせていただ来ます
明日もできれば昼頃から
芽吹「ちょっと伊集院先輩――」
グイッ――ドンッ
芽吹「っ、な、なにを」
沙織「2人の邪魔は……したら駄目だよ」
芽吹「いえ、それは分かっ……近っ、近いです」
クイッ
芽吹「!」
沙織「ドキドキしてる……でしょ」
千景「そこまでよ!」バンッ
では少しずつ
弱弱しい
そんな言葉一つで済むような状況ではない夏凜の姿
それを前にして、天乃は呆れたりはしなかった
失望もしなかった
どれだけ弱い人にもどこかに必ず強さがあるように
どれだけ強い人にもどこかに必ず弱さがあるのだと
天乃は良く知っているからだ
天乃「夏凜……」
そっと手を伸ばして
機械が余計な反応を示さないようにと気にしながら
夏凜の体を抱きしめた――けれど
夏凜「っ!」
天乃「!」
すかさず間に手を刺し込んだ夏凜は躊躇なく天乃の体を跳ね除けて
距離を作って首を振る
しかし
その表情にあるのは不快感ではなく罪悪感だった
夏凜「そんなこと……する必要ない」
天乃「どうして?」
夏凜「分かるわよ……あんたはきっと私のことを助けてくれる」
天乃「…………」
夏凜「向こうじゃなくたって、ここでだって。いつもあんたはみんなのことを助けてるから」
でもだからこそ、
その必要はないのだと夏凜は言う
夏凜「私はその理由がない」
天乃「何言っているのよ」
夏凜「何かできたから、そうする意味があるからするもんでしょ」
天乃「自分にはそれがないって?」
夏凜「あると思ってる?」
天乃「私、そう考え無しにするように見える?」
夏凜の表情の変わらない嫌味のような発言に
流石の天乃も呆れたように笑いながら問い返す
周りからしてみればそう見えるのかもしれないが
天乃は別に考えもなくやっているわけではない
東郷だって、風だって、夏凜だって。そう
天乃「夏凜にだってそうする理由があると思うから、私は貴女に触れたのよ」
夏凜「何も出来なかった……約束すら守れなかった。そんなわ――」
今度こそ。と
夏凜が語り終えるよりも早く
瞬きのほんのわずかな隙間を拾って夏凜を抱く
夏凜の腕を巻き込まずに
内側から優しく包み込んでいく
天乃「だって、貴女はちゃんと帰って来てくれたじゃない。みんなだって。ちゃんと」
夏凜「でも……ボロボロになった。満開させた。町に被害だって少しでも出ることになった。沙織達を頼ってもっ!」
天乃「ねぇ、私って……努力をしても手が届かなかった結果を責めるような人?」
夏凜「そんなこと……」
努力をして、成し遂げることが出来なかった事
努力をしても守ることが出来なかった事
確かに、結果を出せなければ意味がないこともあるだろう
けれど、だからと言って天乃は結果を出せなかったことを責める気はない
そこまで怠惰な生き方をしてきてのものなら軽蔑もあり得るだろうが
努力してなお届くことが無かったのならば……それはあり得ない
天乃「確かに、約束を守って欲しかった。満開なんて避けて欲しかった。意識不明になんてならないで欲しかった」
夏凜「っ……」
天乃「でも。でもね? 夏凜」
優しく、優しく
ただそれだけを想いながら夏凜の身体を自分へと押し付けていく
そこに積み重ねられてしまったものが
少しでも自分へと傾くように
崩れていく大切な柱がまたしっかりと伸びるように
天乃「貴女の頑張りがあったからこそ、貴女の存在があったからこそ。私はここにいて、みんながいて、誰も死なない結果がここにある」
たとえそれが望んでいた物とは程遠い結果なのだとしても
けして、簡単な結果ではないことも
生半可な努力によるものではないことも、良く分かっているから
天乃「それで十分。それで満足。みんなが生きているだけで、私は良いの」
夏凜「ふざけ……ないでよ……そんなの……」
それで十分なはずがない
それで満足しているはずがない
――いや、違う
それで十分だと言わせていいはずがない
それで満足させていいはずがない
そんな、中途半端で終わらせていいはずがない
天乃に【妥協】させて良いはずがない
勇者として戦っていくこと
それを夏凜達は妥協させ、退かせたのだから
天乃は常に世界に強いられて、日常を諦めさせられてきたのだから
生きるために、子供を作ってまでここにいてくれるのだから
夏凜「そんなの……認められない」
天乃「…………」
夏凜「十分じゃない、満足じゃない。あんたはそんなわけがない……ただ、私が挫けそうだからそんなことを言ってるだけで……」
また頑張れるようにと、慰めようとしているだけで。
強く、布団の端を握りしめていく
爪が食い込み布地が裂ける。そうなってもおかしくないほどに強く、固く。
夏凜「文句を言いなさいよ、こうして欲しかった。ああして欲しかった。そうやって我儘言いなさいよ」
天乃「……どうして?」
夏凜「……じゃなきゃ、あんたに失望されたみたいで嫌だから。せっかくそう言う関係になったのに、また戻るみたいじゃない」
夏凜は包み込んでくれる天乃の体をゆっくりと掴み、
今度は強引にではなく、優しく引きはがして目を合わせる
夏凜「私は約束を守れなかった。満開を許したそれは変わらない」
確かに天乃はそうなったとしても、
そうするしかなかった戦いで責めることはない
そもそも誰かを責めるような性格ではないということを除いても。だ
けれど、と夏凜は思う
夏凜「それに甘えていたくない。それじゃ何も変わらない。あんたが戦ってくれていた時と何も変わらない」
その背中を見つめて
その姿に安堵を覚えて
彼女なら何とかしてくれる、なんとかなるという信頼をしていた
その時と、変わらない
だから夏凜は駄目だと言う
夏凜「悪かったわ……天乃」
天乃「何が?」
夏凜「何か失敗をした時、どうするべきなのか。あんたはそれを教えてくれてたのに」
天乃「別に良いわよ」
夏凜「私は良くないっての」
天乃のことを覚えていれば、忘れていなければ
天乃のとなりにいるというのなら
ちゃんとわかっているべきことだから
夏凜「もし次があった時は、絶対に約束を守る」
天乃「うん」
夏凜「無茶はしても無理はしない。絶対に、あんたの傍からいなくならない」
今回はそれを半分ほど守れたが
今度は絶対に全てにおいて守れるように
もっと強くなるべきだと夏凜は思って
夏凜「だから、とりあえず今はかえってくれない?」
天乃「またそういうこと言う……」
夏凜「じゃないと、オマケが欲しくなるから」
1、分かった。学校にも行かないといけないし……またね
2、嫌
↓2
天乃「分ったわ。学校にも行かないといけないし」
芽吹……と言うよりは大赦の判断だろう
天乃達は午前の授業は欠席し、
午後から登校することになっているのだ
その時間まではまだ時間があると言えばあるが、
昼食等の事を考えるのならばそろそろ病院を出るべきだ
天乃「またね」
夏凜「ん。また戦いがなければ、すぐに会えるわ」
天乃「そうね」
大赦曰く、
確実に終わったとは言い切れなくて
まだまだ、不安な点はあるが。
天乃「ゆっくり休むのよ? 鍛錬しないように」
夏凜「わかってるわよ」
天乃の一言に苦笑しながら夏凜は応えて
ほら帰った帰った。と
手で払うような仕草をして「また今度」と言い放った
√9月12日目 昼() ※金曜日
01~10
11~20 友奈
21~30
31~40
41~50 千景
61~70
71~80 若葉
81~90
91~00 担任
↓1のコンマ
√9月12日目 昼(学校) ※金曜日
昼から登校してきた天乃だったが、
クラスメイトは事前に説明を受けていたらしく
根掘り葉掘り聞くようなことはせず
ただ、無事でよかった。と、自分の事のように喜んでいた
天乃「なんだが、面倒になるわね。授業を受けるの」
「久遠さんがまた珍しいことを」
天乃「午後からだけ授業を受けるって言うの。やったことないからかな」
学校生活としての時間的感覚がズレるからか
普段気怠く感じることのない授業は
なんだか、気怠くて
「んー午後から授業を受けるのって基本、面倒くさくてサボろうとしたのを怒られて渋々参加するってだけだからねぇ」
天乃「そんな人いるの?」
「私の友達の弟がそんな感じかな」
天乃「良い性格してるわね」
道徳教育で厳しく……と言うのかはともかく
サボタージュ等に対することは学んでいるはずなのに
そう言ったことで怒られるほど
更にその後で渋々と言った姿勢なのだから
色々な意味で、将来有望だと言えるだろう
「久遠さんに会ったら年下なのをいいことに体触りそうな感じだけどねぇ」
天乃「……うん、良い性格してるわね」
色々な意味で。と
天乃は付け足すことなく呆れたように呟いて、首を振る
その友人には悪いが、
出来る限り会いたくはないかなと思って、ため息をつく
ぼうっとするほどではないがやはり、気怠さがある
急に出てきたというよりは
夏凜と別れたあとからじわじわと体を毒されていくように
不快感がにじんできているという感覚
そんな様子を見守るクラスメイトは
不安そうに眉を顰めて「大丈夫?」と問う
「辛いなら保健室行った方が良いんじゃない?」
天乃「そうね……」
1、行く
2、行かない
↓2
天乃「そこまでではないんだけど……」
授業を受けようと思えば受けられる
けれど、妊娠している体だからと
天乃はクラスメイトの提案を素直に受け入れて、沙織に声をかける
本来なら芽吹を待つべきだが
時間が経つにつれて酷くなっていく状態なため
連絡だけを軽く入れてまっすぐ保健室へと向かう
保険医にベッドを使う許可を取り、
沙織の手を借りつつベッドへと横になる
しかし、それだけで体調が回復するような様子はない
沙織「大丈夫? 九尾さん呼んだ方が良いんじゃないかな?」
天乃「ん……平気、だと思う」
この状況で来ていないということは
これが何か特殊な症状ではなく
天乃にとって起きて当たり前であり
強く心配するようなことではない。と言う可能性が高い
呼べば来るだろうが、素直に安静にしておけばいいと言われるのが、オチだ
「吐き気とかはある?」
天乃「いえ……」
「普段の体温は?」
天乃「36と少し……」
「だとしたら体温的には……でも」
悩ましそうに言う保険医は
沙織にタオルを渡して汗を拭うように指示すると、
何かをメモして、天乃へと目を向ける
「確か、久遠さん妊娠中よね?」
天乃「ぁ……伝わってるんです?」
「一部の先生にはちゃんと伝わってるわ。大赦の方から学校側にそう言う通達があってサポートするようにと」
天乃「……そう」
「それで、多分久遠さんにもつわりの症状が出て来てるんだと思うから。このままゆっくり休んで」
沙織「じゃぁ、迎えも呼んでおいた方が……」
「そうね。伊集院さんお願いできる?」
周りで勝手に話が進んでいく
その間にも、酩酊状態のように視界がぐらつき
上下から幕が下りるようにブラックアウトして
優しい何かが体を覆った感覚が少し遅れて伝わる
沙織「瞳さん呼んだから、休んでてね。そばにいるから大丈夫だよ」
最後の最後で、そんな声が聞こえた
では、少し中断します
20時頃には再開できる予定です
では、また少しだけ
√9月12日目 夕() ※金曜日
01~10 千景
11~20
21~30
31~40
41~50 沙織
61~70
71~80 若葉
81~90
91~00 九尾
↓1のコンマ
√9月12日目 夕(共同住宅) ※金曜日
天乃「ん……っ!」
ゆっくりと目を覚まそうとしてすぐ
ずきりとした痛みを頭に感じて、天乃は思わず手を宛がう
まだカーテンの隙間から少しだけ光の入る時間を時計は示しているが、
部屋の中は薄暗く就寝する時のような心許なさになっており、
すぐ横ではタオルを握りしめたまま沙織がすやすやと寝息を立てていた
沙織「すぅ……すー……」
天乃「布団……」
沙織は布団をかけずに眠っており
自分のベッドよりも半分ほど天乃に寄り添うような体勢で
寝るつもりはなかったのだろう。と、天乃は思って布団を掴む
けれど、身体は思うように動かない
全体的に重く気怠く、
頭の痛みもあれば、吐き気もあって
圧迫されていないのに、圧迫されているような感覚
寝返りを打てば口から何もかもを吐き出してもおかしくない
そんな、状態だった
天乃「さ、お、り……」
探るように手を伸ばせば沙織に触れることはできるけれど
それで沙織が起きることはない
かといって大声を出せば頭が大変なことになるだろうし
強く揺らすような余力は残念ながらない
天乃「ぉ……て」
声も、かすれるような弱弱しさ
本当に全てがつわりの症状なのか
そう悩みたいが、悩む気にもならない
ましてや調べる気も起きない
天乃「ふ……っ、ぇ」
どうするか。
そう息をつきかけたところで喉元に何かが駆けあがる
このまま死ぬ。
そう思うほどに、辛い
1、精霊組
2、ナースコール的なもの
3、無理にでも休む
4、イベント判定
↓2
01~10 沙織
11~20 九尾
21~30 千景
31~40 球子
41~50 歌野
51~60 若葉
61~70 水都
71~80 芽吹
81~90 大赦
91~00 東郷
↓1のコンマ
「久遠様、伊集院様」
聞こえるかどうか微妙なノック
それに続いてまた小さな声を刺し込んで
大赦から派遣された常在の医療担当者が部屋へと入ってきた
「久遠様……!」
天乃の手が沙織の方へと動いているのに気づいた瞬間
慌てた様子で
しかし、悪影響が無いようにと静かに素早く天乃の元に駆け寄り、
天乃の手を布団に戻し「大人しくしていてください」と囁く
「なにをされようとしていたのですか?」
天乃「沙織……寝てる、から」
「でしたらすぐにでもお呼び頂ければ……」
担当者の女性は天乃を心配そうに見ながら沙織を一瞥し、
握りしめられたタオルを取り、布団をかける
流石に手慣れているのだろう
起こすことなく寝返りもうたせて整える
「あまり無理なさらないでくださいね」
天乃「……でも」
「久遠様の症状は通常の妊婦に比べ非常に重いものです」
検査等をしたわけではない為
本当に正確な所は分からないが
見た限り聞いた限りではそうだという判断がされている
女性は天乃の体が動いた瞬間に
それを阻むように首を横に振って制止すると
持参したタオルで天乃の額の汗を拭う
「恐らくですが、久遠様の症状はさらにひどくなるかと思います」
天乃「え……?」
「すでに説明は受けているかとは思いますが、久遠様の場合長期に渡る症状が短期に集中するんです」
それが今天乃の体に起こっていることであり
まだ半日もしていない為
ここから重くなる可能性がとても高いらしい
「本来ならば、三好様方々がいらっしゃるのですが……」
天乃「居ないと……不都合……?」
「いえ、居られた方が久遠様も安心すると思うので」
むしろ、勇者たちの精神安静含め
天乃の件のために用意したのがこの家だったはずなのだ
それがまるで狙いすましたかのように襲来によって打ち砕かれ
今度は勇者が入院する状況に陥ってしまっている
「いずれにしろ、登校は出来かねますのでご提案がございます」
天乃「?」
大赦の許可云々以前に
天乃の体調的な問題から動くことさえままならないのは確実で
だからこその提案だろう
「勇者の皆さまが居られる病院に再入院されますか?」
普通のつわりなら入院が必要。とまではいかないが
天乃の場合はそんなことは言っていられないのだ
1、する
2、しない
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から。
今月は諸事情により不定期かつ不定休になります
天乃「きちゃった」
夏凜「……いや、来ちゃった。じゃ、ないんだけど」
天乃「夏凜を抱いていた方が体の調子がいいらしいの……駄目?」
夏凜「そんなわけ――」
天乃「お願い」ギュッ
夏凜「っ……あぁ、もう」
夏凜「わかったわかった好きにしなさいよ」ナデナデ
では少しだけ
√9月12日目 夕(共同住宅) ※金曜日
天乃「……再入院」
女性に目を向けられないまま呟いた天乃は、
吐き気を催さないようにとゆったりとした速度で空気を肺に取り込む
天乃「そう……ね……」
沙織がいるだけでも十分心強くはあるが、こんな状況だ
皆がいてくれた方がもっと心強いし
さらに言ってしまえば安心する
それに、ここにいる医療関係者は精鋭ではあるだろうが、
様々な専用機器の揃っている病院にいる方が
何か起きた際の対応もしやすいだろう
天乃「する」
「……承りました」
女性はどこか安堵を感じる表情で返事を返し一礼すると
天乃の顔に浮かぶ汗を拭ってほほ笑む
「連絡をしてきますので、何か些細な事でもありましたらこちらを」
備え付けのナースコールの長さを伸ばし、
天乃の手元にまで持ってくると、天乃の手に触れさせてここですよ。と言う
「お願いします」
天乃「うん……」
女性が足早に静かに部屋から下がっていったのを耳で聞き、
天乃はふと息をついて、ゆっくりと沙織の方に顔を動かす
力が入らないがゆえの身体の重さ
動きに遅れれば遅れるほど、こみあげてくる吐き気
腹部にも形容し難い違和感が強くあって
向ききる前に断念し、ため息をつく
天乃「死ぬ……」
冗談ではなく死ぬのではないか
そんな不安と恐怖があって
なんでこんなことになっているのか
生きるために死にかけているのはなぜなのか
相手のいない怒りがどこからともなく姿を表したかと思えば
涙がこぼれていく
天乃「っ……さ……り……」
もはや自分ではどうしようもない
子宮内で子供が形作られ成長していくその圧迫感にすべてが押し出されていく
沙織に声をかける
それだけでも、必死で
お願い、起きて。と、短い言葉を呟こうとしてもかすれて消える
手を伸ばそうにも動きがとても鈍く、持ち上がりさえしない
天乃「や……」
すぐそばに沙織がいる
けれど、肥えは届かないし、手は触れられない
その近くとも遠い距離は永遠のようで
孤独にない孤独に感じて
天乃「やだ……」
叫びたくなる。
暴れたくなる。
けれどどちらもままならない
我を忘れるような暴走さえも、
今の天乃にはすることは出来ないのだ
天乃「たす……」
沙織「久遠さん……」
天乃「!」
伸ばそうとした手が包まれ、濡れる頬が拭われていく
どこか遠くに聞こえる布の擦れる音
小さく舞う風を肌に感じると
ベッドが軽く軋んで沙織が顔をのぞかせた
沙織「ごめんね、久遠さん」
天乃「さお、り」
沙織「エネルギー切れ起こしちゃったみたい……でも、そばにいるから」
拭って、拭って、ほほ笑んで
沙織はズリズリと這うように体を寄せて軽く唇を重ねる
沙織「……もう、大丈夫」
天乃「ばか」
沙織「勉強できないからねー」
冗談めかして笑いながら言うと、
沙織は申し訳なさそうに天乃の体に触れて、布団を捲る
天乃「な、に……?」
沙織「いや、大丈夫ちょっとした確認だよ」
天乃「?」
沙織「えっと……今、久遠さんは多分ほぼ垂れ流し状態と言うか、意思に関係なく押し出させられる可能性があるから」
それは何の話なのかと聞こうとしたところで
沙織は頬を微かに赤く染めながら、苦笑いを浮かべて
沙織「お手洗い関係」
天乃の聞きたいことを先にくみ取って答える
通常の妊婦でも似たようなことはある―個人差はあるが―のだが
天乃はそれがより酷く出てくる上に双子を身籠っている為、
我慢するも何もないのではないか。という話で
沙織「実を言うと、保健室ですでに一度やっちゃってるんだよね……」
天乃「っ……」
沙織「妊娠しているからこそだから、仕方がないことだよ。だから、恥ずかしがらないでね」
自分でも無茶なことを言っているとは思うが
仕方がないことなのだから、仕方がない
そう思い、沙織は天乃の心を宥めるように触れ、寄り添う
沙織「頑張れ、頑張れ……子供が産まれたら、全部元通りだから」
天乃「ん……」
沙織が触れてくる手をそのまま握り返して
天乃は力なく、笑う
√9月12日目 夕(病院) ※金曜日
朝に来てまた夕方に戻ってきた病院
しかも今度は面会ではなく入院
夏凜達に知られたら何を言われるのだろうか。と
用意された病室に運ばれていく天乃は内心どきりとしながらその時を待つ
そして――
風「おーお帰り」
樹「お帰りじゃないよーお姉ちゃんっ」
東郷「あんまり大きな声は出したらだめですよ」
広い病室、並んだ複数のベッド
聞こえる風たちの声
枕を頼りに目を向ければ、
樹が使っているであろうベッドの傍に佇む風は少し複雑な表情で手を振っていて
出入り口に近いベッドからは東郷が「すみません」と囁くように手を合わせる
「各勇者の皆様にもお伺いしたのですが、なら同室が好ましい。と」
天乃「……各、勇者」
東郷の正面のベッドはまだ未使用
その横の樹のベッドの正面には風
そして、風の横のベッドもまた未使用で
その正面は夏凜のものらしく
天乃の登場には驚いたようすも怒った様子もなく
少し心配そうに笑みを浮かべて
夏凜「早くベッドに入ったほうがいいんじゃない?」
天乃「夏凜……」
夏凜「まずはベッド」
何かを言おうとした天乃を見ずに、
夏凜は正面の空白ではなく自分の隣、一番窓際のベッドを指差す
天乃「……? 夏凜の対面は?」
沙織「それはあたし。まぁ、一応ね」
天乃の傍に控えていた沙織は入院するほど重くは見えないが
沙織は沙織で問題を抱えているための処置だろう
天乃「なら、私の対面は……?」
東郷の対面が今意識不明になってしまっている友奈だろう。
そして沙織でも夏凜でもない。
では、カーテンに閉ざされた先に居るのは誰なのか
心当たりはある
けれど、まさか……と
天乃は沙織によって自分のベッドへと近付いた瞬間
カーテンの方へと手を伸ばしても届かなくて――沙織の手が変わりに動く
そして。
園子「ようやく……ようやくだねぇ……くー先輩」
懐かしい、顔が見えた
痛々しく包帯を巻かれた状態ではあるけれど
それは紛れも無く、重症になって以降会うことのできなかった乃木園子
園子「お願いしたらね、いいよーって」
天乃「園子……っ」
沙織「園子ちゃんもまだ体調は不安定だけど、病室を変えるくらいは問題ないだろう。って」
そのほうが管理がしやすいという裏があるのかもしれないが
それはとても嬉しい……気遣いだった
√9月12日目 夜(病院) ※金曜日
01~10
11~20 園子
21~30
31~40 九尾
41~50
51~60 千景
61~70
71~80 友奈
81~90
91~00 若葉
↓1のコンマ
√9月12日目 夜(病院) ※金曜日
1、個人的に交流 ※再安価対象選択
2、文化祭について
3、大赦について
4、子供について
5、添い寝
6、イベント判定
7、体調のために休む
↓2
1、風
2、東郷
3、樹
4、夏凜
5、園子
6、沙織
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「園子、久しぶりね」
園子「うん……」
園子「でも、私はね、そうでもないんよ~」
天乃「どういうこと?」
園子「久遠さんのえっちなビデオには大変お世話になりました」ニッコリ
風「…………」チラッ
風「……とりあえず大赦潰しに行ってくるわね」サッ
夏凜「それなら今隠し持った円盤みたいなやつ置いていきなさいよ?」
では少しだけ
√9月12日目 夜(共同住宅) ※金曜日
園子「えへへ~天さんの顔が見える~」
痛々しさを感じる姿に反して、
園子は相変わらずのほほんとした声で、雰囲気で
とても穏やかな笑みを浮かべて見せる
それは落ち着きのない心にとってはこれ以上ないほどの
癒しになるだろうと天乃は思う
もちろん、そんな場合じゃないというものもいるだろうが
そんな人も落ち着けてくれそうな空気が、園子にはあるのだ
天乃「そうね、私にも園子の顔が見える」
園子「いつ以来だっけ……」
天乃「そうね……」
園子と最後にこうやって対面できたのはいつだったか
だいぶ昔のような気がして記憶を掘り起こしていく
先月、先々月……そこまでさかのぼっても記憶にない
会いたくても会えなかった
会わせては貰えなかった
天乃「たしか、6月ごろだったと思うわ」
園子「6月かぁ~」
天乃「ええ、もう3か月も前」
園子「長かったよ~……ずっと、寝ていただけなのにね」
あの二年間よりも短いのにね。も変わらないのにね。と
園子は優しい声で言うが、
そこには寂しさと悲しさがにじみ出ているように感じられる
みんなとの賑やかさを少しでも感じてしまったから
その空気、その感覚
それをまた思い出してしまったからだろう
天乃「私もそう思うわ。園子……貴女、ずっと体調が優れないって」
園子「うん~……よくよく眠くなっちゃうんだ。時間とか、関係なくてね」
天乃「今は?」
園子「全然」
首を横に振った園子は、
気まぐれな睡魔さんにも困ったものでね~と
さほど困っていなそうな楽し気な声で言うと、苦笑する
園子「ほんと、急に来るんだよ。ふっと、電池が切れるようにね」
天乃「……ありがとね。園子」
園子「えへへ。天さんは分かってるね~」
あの日、天乃が戦いを託したから、
園子はその力を使うことになって、こんな体になってしまった
けれど、必要なのはごめんねと言う言葉ではない
痛々しさを前に言ってしまいそうなそれを言わず、
聞きたかったありがとう。と言う言葉を言ってくれる天乃に、
園子は嬉しそうな笑顔を見せる
園子「そう言えば、聞いたよ~。ここにいるみんな、天さんのお嫁さんなんだって~?」
天乃「そういうことばかり」
園子「天さんハーレムだねぇ」
わーい。と、
自分がそこに含まれていないことなどお構いなしに喜ぶ園子は
それを聞いて色々と捗っちゃってね~と、幸せそうな笑顔を見せる
園子の心がとても強いのだと、改めて感じるもので。
しかし、だからこそ不安にもなる
それは無理していないのだろうかと。
1、ねぇ園子。無理してない?
2、でも、全員じゃないのよ……解るでしょう?
3、どこまで聞いてるの?
4、ふふっ、園子……そこに貴女も加わるのよ
↓2
では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
天乃「園子。我慢してない?」
園子「……実は、してるんよ」
園子「ずっと、ずっと」
園子「天さんとエッチなことしてみたかった……!」
天乃「えっ、そっち!?」
園子「そっ、えっち」ニコッ
では少しだけ
天乃「…………」
園子「えへへ~」
園子はほんわかとした様子で
とても、そんな悩みを抱えているようにも
我慢をしているようにも見えないけれど
天乃「ねぇ、園子」
天乃は微かな動きすらも見逃さないようにと
視界に園子をしっかりと納めて声をかける
天乃「無理、してない?」
園子「無理……?」
天乃「うん……無理」
ほほ笑みながら、繰り返す
園子と会えた最後の日
それよりも少しだけ、さかのぼった日
自分と園子が何をしたのか、何があったのか
それを思い出して
天乃「覚えてる? 6月……あの戦いの少し前の日の事」
男の子に不意を突いた無理矢理なキスをされて
それを拭うかのように、園子とキスをした
あれが、きっとすべての始まりだった
夏凜との関係がそう言った方向で拗れたのも
皆とのキスをするようになったのも、
誰か一人ではなく、みんなを愛そうと思ったのも
一つ一つは繋がっていて、その大元には大きな結びある
天乃「あれのおかげで、私は色んなことをした」
園子「…………」
天乃「あれのおかげで、私は色んなことを知った」
園子「天さ――」
天乃「だから、だからね……園子にはとても感謝しているのよ」
園子が協力してくれなかったら
園子が居なかったら
今のみんなとの関係は確実になかった
今の幸せは……きっと。
天乃「どう? 園子が言った接着剤。うまく行ってると思わない?」
園子「そうだね……うん、うまく行ってると思う」
皆仲が良くて
ちょっぴり喧嘩もあるのだろうが
離別するようなことはきっとない
とてもうまく出来上がった複数の関係
天乃「だからね、園子。出遅れたから。離れていたから。そんなこと考えなくてもいいの」
園子「…………」
天乃「第三者目線で、自分のその満足度でごまかそうとしなくて良いの」
園子の気持ちはもう何度も聞いた
何度も感じさせて貰った。だからこそ、天乃は言う
満を持して、万全を期した今、ようやく
天乃「この中に、加わらない?」
園子「この中って……」
園子が目を動かすと、その視線を感じ取ったのだろう
天乃のすぐ横にいた夏凜が「別に」と、呟く
夏凜「別に私達は園子と天乃がそうしたいって言うなら阻まないわよ」
園子「三好さん……」
夏凜「嫌な思いするかもって考えてるのかもしれないけど、園子や天乃が曇る方が嫌な思いするし」
そう話した夏凜は天乃を一瞥して息をつくと
読んでいた本を閉じて、園子へと目を向ける
夏凜「したいことしていい。言いたいこと言っていい。害になること以外なら……だけど」
受け入れるってそう言うことだから。と夏凜は助言する
手を引くようなその言葉に、園子は小さく何かを呟くような
聞こえない何かを呟いて……ぽろぽろと、涙をこぼす
園子「寂しかった。会いたかった。ずっと……ずっと夢見てた」
天乃「…………」
園子「接着剤……みんなとの交際。その話が来た時もしかしたらって、心が躍った」
それなのに、襲来のせいで離れ離れになって
面会なんてさせて貰えなくなって
気付いたら、みんなから置いて行かれて。出遅れて
今更どうしたら良いのだろうと、想って
園子「でも、これだけ後になって――」
夏凜「それでも。もしかしたらと思ったから、あんたはここにいるんでしょ」
園子「!」
夏凜「だったら、あと一歩前に出てきたら良いのよ。私達はそうできたからここにいる」
夏凜はみんなに聞こえるような声でそう言うと、ベッドから降りて園子の方へと近づく
本来なら天乃がやるべきとも思うが
ベッドで離れているし、車椅子だから難しい
だから、代わりに
夏凜「離れているように見えるこの距離は、そんな小さな一歩でしかない」
園子「っ」
夏凜「どうする? 園子」
園子「天さん」
天乃「うん」
園子「にぼっしー」
夏凜「に……何?」
園子「私ね、この通り何にも出来ない。何もしてあげられない。何も返せないんだよ?」
両手も、両足も、片方の目も、耳も
体のいくつもの機能だって、機能していない
生きているというよりも、生かされているという状況
後ろめたさは、どうしても生まれてしまう
園子「それでも」
天乃「私だって似たようなものよ」
夏凜「そうそう寧ろ無駄に動ける分あれやこれやと迷惑かけられてばっかりだし」
天乃「ちょっと、そんなこと今――」
夏凜「園子。瞳から聞いた良い言葉を教えてあげる」
天乃の声を無視しながら、
夏凜は苦笑交じりに園子を見つめて、口を開く
瞳から聞いた。瞳から言われた。言葉
夏凜「園子の言うそんな乃木園子と一緒に居たいって、私達がそう思ったのよ」
園子「ぅ……」
夏凜「だから、心配しなくて良いのよ。別に。することにも返すことにも義務は無い」
そうっと、園子の手に触れた夏凜は
そのまま涙の流れていく園子の頬に手を宛がって、拭う
夏凜「それはいつかできるようになったらで良い。今はただ、笑えば良いのよ」
天乃「……そうね。そう」
夏凜の言うとおりだと天乃も思う
自分もされる側ゆえ、あまり大それたことも言えないが
義務感だけの付き合いになったら、それは恋人とは言えなくなるだろう
天乃「大丈夫よ。園子」
物理的には届かない。けれど、
園子に届くように手を伸ばして微笑む天乃に
園子「……うんっ」
園子は涙の混じった笑みを浮かべて、頷いた
遠く離れたり、途切れたり、遠回りしたり
けして容易いものではなかったけれど
それらは少しずつ、確実に繋がっていく
1日のまとめ
・ 乃木園子:交流有(合流、無理)
・ 犬吠埼風:交流有(合流)
・ 犬吠埼樹:交流有(合流)
・ 結城友奈:交流無()
・ 東郷美森:交流有(合流)
・ 三好夏凜:交流有(復帰、参戦できなくて、合流)
・ 乃木若葉:交流無()
・ 土居球子:交流無()
・ 白鳥歌野:交流無()
・ 藤森水都:交流無()
・ 郡千景:交流無()
・伊集院沙織:交流有(保険室)
・ 神樹:交流無()
9月12日目 終了時点
乃木園子との絆 57(高い)
犬吠埼風との絆 84(かなり高い)
犬吠埼樹との絆 70(とても高い)
結城友奈との絆 95(かなり高い)
東郷美森との絆 103(かなり高い)
三好夏凜との絆 121(最高値)
乃木若葉との絆 88(かなり高い)
土居球子との絆 38(中々良い)
白鳥歌野との絆 35(中々良い)
藤森水都との絆 29(中々良い)
郡千景との絆 35(中々良い)
沙織との絆 102(かなり高い)
九尾との絆 56(高い)
神樹との絆 9(低い)
√9月13日目 朝(病院) ※土曜日
01~10 友奈
11~20
21~30 風
31~40
41~50 樹
51~60
61~70 若葉
71~80
81~90 千景
91~00
↓1のコンマ
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
ここで友奈復活の予定調和
最終日前日
園子「わっしーわっしー、そこの箱の中見て」
東郷「箱……これね」ゴソゴソ
東郷「――!」
園子「てれれてってれ~大人のおもちゃ~」ニコニコ
園子「これで疑似的に天さんと異性っぽいえっちが出来るんよ~」
東郷「流石ねそのっち!」
夏凜「二年前の勇者ってみんなこんなもんなの……?」
銀「いやいやいや、流石にアタシは違うって」
では少しだけ
√9月13日目 朝(病室) ※土曜日
朝、嗅ぎなれた病院独特の匂いを感じて目を覚ました天乃は
気だるげに額へと手の甲を宛がって目を彷徨わせる
窓際の遮光カーテンは力強い太陽光に焼かれて白さを増し、
まだ残る夏の暑さと流れゆく季節のゆったりと冷えていく空気を織り込んだ丁度良い気温を維持する
けれど、身体的な重さはより酷さを増し
常に圧し掛かられているような体を少しでも動かそうとすれば
身体の中の液体が流れる感覚が強くなって吐き気を催しそうな不安があって
天乃はため息さえもつけずに一定の呼吸をして目を瞑る
天乃「……みんな、いる」
一人分の呼吸が聞こえないけれど
それ以外の、夏凜達の存在を感じることが出来る部屋
本当は、もう少し前に
こんな白い世界ではないところでできたはずの事
天乃「……遠回りさせられてばかりね」
バーテックス、大赦、勇者
とことん歪めてくる、阻んでくる
そんな存在を頭に思い浮かべて、重い瞼を開く
その瞬間、ベッドを囲うように閉じられたカーテンが捲られ、芽吹が姿を見せた
「起きていたんですね。体は大丈夫なんですか?」
天乃とは嫌悪になることがあるのが嘘のように、
芽吹の声は穏やかで優しいもので
「……そう言うわけでもなさそうですね。下手に動かない方が良いですよ」
天乃「楠さん……」
「無理に話さなくても結構です。辛いのでしょう?」
絞り出した声に対して、芽吹は困ったように眉を顰めながら
天乃の布団を直しつつ言葉をせき止める
「結城さんが目を覚ましました」
天乃「っ」
「今、改めて検査を受けていますから面会はお昼頃まで我慢してください」
天乃「……会った、の?」
「いえ、報告を受けた程度です。状況を上手く把握できておらず混乱した様子だった。と言うことですが、落ち着けば問題はないかと」
看護師か、大赦の職員か
誰に聞いたのかは分からないが、
天乃に話して聞かせる芽吹自身も少しだけ安堵している雰囲気で、口調で
天乃は寝たままながら嬉しそうに苦笑して――
天乃「げほっけほっ……っ」
「久遠先輩っ!」
天乃「だ、だいじょっ、けほ……大丈夫……」
僅かに呼吸が乱れた瞬間、喉が詰まった感覚を覚え、せき込む
その勢いで吐くのだけはと飲み込み、迷わずナースコールを押そうとした芽吹を制する。けれど
天乃「大丈夫……じゃ、なさそう」
「え?」
天乃「ごめんなさい……その、漏れちゃった、みたい」
結局芽吹にナースコールを押して貰い、
元々圧迫されていたことに加えて咳込んだことで
意思に関係なく湿らせてしまった下着や布団などの片づけや清掃を頼み
入浴の準備が整うまでの応急処置として体を拭って貰う
天乃「すみません」
「いえいえ、お気になさらずに」
呼ばれてきた看護婦の女性は、
清掃することへの嫌悪感や不快感など微塵も感じさせることなく
優しい表情で答えて、天乃の手を握る
「久遠さんは特に症状が重いですから。我慢する。したい、したくない。そういう選択の問題ではありませんからね」
天乃「……そう、なんですけど」
「それに、久遠さんの綺麗で若い肌に触れる貴重な機会……少し嬉しくも思いますよ」
それはきっと和ませるための言葉なのだろうが
すぐ隣からの「なんの話?」という不機嫌極まりない声に微栗と体をはねさせ、
女性は「すみません」と答えて、作業を終えると出ていく
カーテンに囲った状態で清掃して貰っている間に、
皆ももう、目を覚ましたようだった
夏凜「大丈夫?」
天乃「うん、大丈夫」
「三好さん達も目を覚ましたところで、改めて説明させていただきますね」
天乃の正面、園子のところだけはまだカーテンが閉まっているが、
それ以外のみんなはカーテンを開いており、
少し頑張って体を動かせば一番遠い東郷が見えて、
天乃の視線に気づいたのだろう、心配そうに一礼する
「結城さんが今朝……といっても1時間ほど前ですね。目を覚ましました」
東郷「友奈ちゃんが……?」
風「大丈夫なの?」
「その検査を今行っているところです」
樹「こっちに来れるんですよね?」
「問題がなければその予定です」
そう言いながら天乃や園子のいる空間を見渡した芽吹は、
質問した樹の方に目を向けて
「最も、久遠先輩や乃木様がいる以上、よほどのことが無ければ大丈夫かと」
その可能性もないとは思いますが。と芽吹は付け足すように言うと、
天乃に言ったように、「面会はお昼以降」と改めて告げる
東郷「怪我、怪我は……」
「外傷に関しては問題なかったようです。ただ、混乱している様子とのことで」
夏凜「その程度ならすぐに落ち着くだろうけど。それなら昼になって面会に行くより、早めに連れてきた方が良いんじゃない?」
「そうですね……打診はしておきます」
風「楠さんも丸くなったわねぇ。少し前なら規則ですので。とか何とか言ったでしょうに」
「別に規則ではありませんが……。ただ、三好さんの進言は理解できる面もある。と言うだけの話です」
風「本当に~?」
「勘ぐっても何も出て来ません」
天乃「……」
芽吹がこの空間に加わっていても
敵対しているような空気はうまれることなく
馴染んでいるように和んでいて
天乃は段々と溶け込んで行けているのが嬉しくてほほ笑む
「とにかく、みなさんは安静にしていてください」
風達に弄られるのが嫌だったのか
ただ報告が終わったからか
芽吹はそれだけを言い残して病室を出ていった
1、何かサプライズする?
2、みんな、体調は平気?
3、ごめんね、みんなの事起こしちゃったわよね
4、これで友奈が戻ってきたらみんな揃うわね
5、単独交流 ※再安価
↓2
ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
場合によっては休載となります
天乃「みんな、体調は平気?」
東郷「え……?」
風「は?」
樹「性欲的な意味で、平気じゃないです」
天乃「ちょ――」
グイッ――ドサ
夏凜「……まぁ、多少はね」フイッ
天乃「夏凜、貴女までっ!」
では少しだけ
早く友奈に会いたいという急く気持ちはあるが
自分が焦っても仕方がない。と心を落ち着けるように息をつく
目の前のカーテンはまだ開かないが、
そこはかとなく幸せそうな寝言がかすかに聞こえてくるあたり
いつもの園子なだけなのかもしれない
天乃「ねぇ、みんなは体調平気? 大丈夫?」
その流れでみんなを見渡して訊ねる
夏凜は昨日まで意識不明だった
東郷は満開をして右腕が機能不全
風も満開をして右手が機能不全
樹は腕を解放骨折しており、
当然ながらまだギプスを外せてはいない
そんな重い状況だったというのに――
夏凜「私達より天乃でしょ」
風「そうそう、吐き気とか凄いらしいじゃない。大丈夫?」
皆は自分達は問題ないというように
天乃に心配そうな声をかける
天乃「今は、平気」
東郷「昨日はかなり重く、今日は比較的軽い。と……症状が急に来る。と言う感じで波があるのかもしれませんね」
樹「不安定なものがさらに不安定になっちゃってるってことですか?」
東郷「簡単に言うと、そう言うことね」
東郷たちが勝手に話を広げていく中、
すぐ隣にいる夏凜は天乃の方をじっと見つめていて
天乃が「なに?」と声をかけると、天乃ではなく、自分を嘲笑するように苦笑する
夏凜「いや、なんていうか。この位置関係っていうか、あんたがすぐ隣居るのが現実味ないから」
一度、みんなで暮らしたり、
夏凜と一緒になったこともあったことにはあったが、
しかし、結局は離れ離れにされて、先日。ようやく……ということになったのに
それも結局阻まれて。
運命にも通ずる凶悪な壁に阻まれてそれは実現しないのではないか
夏凜はそんな考えを持っていたと笑い飛ばしながら言う
夏凜「だから今こうしてるのも、意識を失くした私が見てる夢なんじゃないかとも。思ってる」
天乃「夏凜、今は――」
夏凜「分ってる。分ってるわよ。これが現実だってことくらい」
でもね。と、夏凜は間に言葉を刺し込んで繋いで
夏凜「友奈も目を覚ましました。とか都合良過ぎて」
風「あーそれある」
東郷「確かに、後は友奈ちゃんだけっていうのが強調されたこの部屋に着た途端。ですから」
東郷の嬉しさに満ちた声が病室に浸透して
皆の目が友奈が入るはずのベッドに向かう
沙織「まぁ、久遠さんと一緒の部屋に自分だけが居れないって嫌だもんね」
天乃「そんなことだけで回復なんて――」
沙織「いや、そうとは限らないよ?」
天乃の言葉を遮った沙織は、
先日の体調不良が嘘のような軽快な動きを見せて天乃へと近づくと、
ベッド脇に立って、ギシリ。と、軋ませる
沙織「だって……しほうだい。だもん」
天乃「ちょ……さすがにそんな」
し放題で好き勝手にやられても困るのだと身を引くと
引いた分だけ沙織はベッドに踏み込んで手を伸ばし、
天乃の頬を手に捉えて、笑みを浮かべる
完全に、しようとしている顔だ
沙織「まぁまぁ」
天乃「まぁまぁ。じゃ、なくて」
確かに天乃は淫らなことをしないと、
身体に対し余計に負荷がかかってしまうという状況ではあるのだが
今すべきなのかと言うと、そうでもない
むしろ、粗相をしてしまうほどに切迫しているため、あまりしない方が良いのかもしれないとも、思う
もちろん、それによって後々問題が発生する可能性もあるし
みんなが乗り気な時にお願いするというのも間違いではないと考えてはいるが。
夏凜「無理強いしてんじゃないわよ」
沙織「キスくらい、してもいいと思うなぁ」
夏凜「欲求不満過ぎるでしょ」
樹「そ、それよりも体調の方は問題ないんですか? 何か必要な事とか、力になれる事とか」
私達は身体に問題はないので……と、樹は沙織と夏凜の間に口を挟む
勇者としての怪我と言うこともあって
みんなは満開の後遺症ではない部分に関しては回復は比較的早いし
夏凜にしても目を覚ましさえすれば問題はないのだろう
その一方で、天乃は勇者だからとどうにかなる問題でも無い為
心配するべきは天乃の事だけ。
だれも口にしたりはしないが先ほどの件だってある
利き手の機能不全、利き腕の機能不全、片腕の解放骨折……と
できることはやはり、少ない状況だが
それでもできることがあるのならしたい。樹のみならず、
みんなからはそんな意思が感じられて
沙織「どうする?」
本気で襲うつもりは無かったらしく、
沙織は大人しく身を引いて床に足をつけると同時に、天乃へと伺いを立てる
きっと、淫らなことをする必要がある件についてだろう
夏凜「何かあんの?」
天乃「ちょっと、ね」
淫らなことをすることで、有り余る穢れを放出させ
体への負担や胎児への悪影響を抑制することが出来るから
そう言うことをして欲しい。というお願い
体の一部が不自由だったり絶対安静だったり
そんなみんなに頼めるようなことではないのだが……
風「ちょっとしたことでも、あとで積もり積もって影響出るなら早めにね~」
樹「久遠先輩のことなら、なんでも受け止める用意はできてます」
東郷「久遠先輩のお体はもう、お一人のものではありませんから」
みんなが、優しく気遣ってくれる
これは義務感ではないし、そうしなければいけないと駆られているわけでもない
ただ、そうしてあげたいと。思っているからこそのもの
だから、温かみを感じるのだ
体の芯に、感じるものがあるのだ
夏凜「だからって、無理に言わなくていいから」
天乃「夏凜……」
夏凜「それだと逆に負担かけるだろうし。それに、何でも言われなきゃ気づかないって、少し残念な気がするから」
夏凜はそう言って笑いながら、なんか馬鹿っぽい話だけどね。と、
自分の拘っているような一面を垣間見せて、照れくさそうに一瞬だけ目を伏せる
その仕草を見ていた沙織は、
ふと、思い出したように「そういえば」と、口を開く
沙織「三好さんって、意外と読書家だから時々変なこと言うよね。良い意味で」
夏凜「意外って……別に、ただ瞳が読んだ方がいいって言うから」
風「そこで素直に従うあたりが夏凜らしいわよねぇ」
樹「夏凜さん、真面目ですから」
東郷「勉強も真面目にやればいい点数取りますし」
夏凜「な、なんで私を褒める流れになってんのよーっ!」
おやおや~照れ照れですか~? と、
風の楽しげな茶目っ気満載の声が流れては、
東郷の「いえいえ、デレデレですよ」という追撃が加わって
夏凜「そう言う話じゃなくない!?」
病室が賑やかになっていく
天乃「……ふふっ」
一度、二度、三度
誰か一人ではなく、皆がそれぞれ嫌なこと、酷いこと、辛いこと、苦しいことを経験し
心が折れるようなこともあった
勇者部がバラバラになるようなことだってあった
けれど、だからこそ勇者部はより強くなった
こんな状況であっても、笑うことができる。ふざけることができる
非日常の合間にある日常を心から楽しんで生きていくことができる
そして、その些細なものにでさえも幸福を感じることができる
天乃「夏凜ちゃんは優しいものね」
夏凜「いきなりちゃんづけすんなっ」
天乃「あら、ごめんね。夏凜――ちゃん」
夏凜「違う、そうじゃない……!」
天乃「ふふっ、つい」
ため息を付く夏凜の横で天乃は楽しそうに苦笑して
客観的に場を見つめる
勇者が何をふざけているんだと
そんな暇があるなら鍛錬すべきだと、
芽吹が思う気持ちもわからなくはない
こんな状況でも、普通で居られる少女達を理解できず
恐ろしいと感じてしまう気持ちもわからなくはない
けれど、天乃達にとって、自分達はただの学生なのだ
勇者であっても本業は学生。ただの少女
だから、今ある幸福を、日常を、護るために必死になるのだ
天乃「…………」
しかしだからこそ、
その空気を壊してしまうのではないかと、悩んでしまうこともあって
けれど、同じようにみんなを信じられるから
天乃「……私ね。体にちょっと問題があるの」
夏凜「問題?」
天乃「そう……でも、そんな深刻な問題じゃないのよ?」
切り出した途端にぴたりと空気が遮断されたのを感じて
天乃は取り繕うように苦笑しながら言って、自分の手元を見る
天乃「実は、定期的にえっちなことしないと体に負担がかかっちゃうらしくて」
風「……え、マジ?」
深刻ではないといいながら、深刻そうな様子で切り出された内容
しかしそれは深刻だとかどうとかいうものではなくて
風の驚きに満ちた声の後に、皆が沈黙して、園子の小さな寝息が聞こえてくる
東郷「……久遠先輩、一ついいですか?」
天乃「なに?」
東郷「それは夜這いしても良いという――」
天乃「他に質問ある人いる?」
東郷「ちょっとした冗談なんですが……」
風「東郷の冗談は過激だから」
天乃のために出来ること。
そこに一生懸命になった結果生まれた性欲の化身
その冗談に呆れた風はため息をついて遮断すると
あのさ。と、口を開く
風「必要だっていうのが事実だとして、妊娠している天乃の体に行為における疲労の影響は出ないの?」
樹「へ、変な話。自分でしたりしても少し疲れたりするから、やっぱり影響が出ちゃうんじゃないかな?」
沙織「した直後は疲れるけど、翌朝とかはもう、気分爽快だよ……まぁ、あたしはした記憶が無いけど」
残念そうに零した沙織は、
そういえば、明日ね。とか言われた記憶はあるんだけどな~と
天乃に迫るような様子で呟きながら、おかしいなぁ。と首を傾げる
天乃「え、えっと……沙織と同じなら。問題ないと思うわ」
園子「した記憶が無いという点を詳しく聞きたいな~」
天乃「それは許して東郷――じゃない?」
東郷「声で分かってくださいっ」
夏凜「いや、内容的に東郷だから仕方が無い」
東郷「そんな……っ」
ちょっとした茶番の横で見つめてくる視線を受けながら
天乃は困ったように苦笑して、「ごめんね」と頭を下げると
そのまま話を続けていく
天乃「それでね、その負担の影響で私は欲求不満になっちゃうみたいで」
樹「つまり、した方が良いと言うより、しないとダメってことですか?」
天乃「そうなの。でも、こんな状況だからみんなにして貰うしかなくてね」
夏凜「要するにそういうことする必要があるから、協力して欲しいってこと?」
天乃「端的に言えばそうね……でも、無理にとは――」
風「はいはーい! あたしが立候補!」
樹「わ、私も!」
天乃「えっ?」
風「この中でまだしてないのあたし達だけだし」
天乃「でも――」
樹「したいですっ」
天乃「う、うん」
いつかしよう。そんな話はいつの間にか流されていって、
気づけば、全てが終わったらと遠い話になっていた
それはもちろん、天乃の妊娠の件を気遣ったからでもあって
その心配がなくなった―むしろすべき事情がある―のなら、と風は切り出す
風「無理はしてない。むしろ、まだダメだって手を出さない方が無理があった」
天乃「ごめんね」
樹「いえ、久遠先輩を優先してのことですから」
後回しになってしまったこと、それに文句を言わない二人
それを羨ましそうに眺めた沙織は、「そういうことなら」と
先日の約束を破棄して、譲る
沙織「でも、結城さんの件もあるし流石に今からはダメだよ? もちろん、それ以降ならご自由にどうぞ。だけどね!」
天乃「へんな言い方しないでっ」
夏凜「でも、樹達も満足な体じゃないんだから無理すんじゃないわよ?」
樹「はいっ、出来る限りにします」
√9月13日目 昼(病室) ※土曜日
01~10
11~20 有
21~30
31~40
41~50 有
61~70
71~80 有
81~90
91~00 有
↓1のコンマ
※有。は問題あり
諸事情で別回線からになりますが
ここまでとさせていただきます
明日もできればお昼頃から…恐らくできません
天乃「大丈夫よ友奈。だって、私達は勇者。でしょ?」ギュッ
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十三輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十三輪目】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1512897754/)
では、少しずつ進めていきますが
続きはこちらからとなります
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