( ´Д`)離れ小島の提督さんのようです (130)
鳴り響く不快なアラーム音によって、僕の朝は強制的に始まる。
枕元でがなり立てるスマートフォンを手に取り、画面をタッチしてアプリを停止。目覚まし時計を模したアイコンが消えて、薄らとした明かりの中に現在の時刻が浮かび上がる。
○四三○……即ち、午前4時30分。
すっかり肌寒い日が増え、そろそろ秋と冬が鬩ぎ合いを始める季節。この時間太陽はまだ水平線から顔を出しておらず、外は暗い。
カーテンを開けても意味が無いことは明かなので、そのままスマホの明かりを頼りに眠い眼を擦りながら寝室の入り口まで歩き電灯のスイッチをONに。クリーム色の文明の光が満ちて、ベッドと鏡台と冷蔵庫だけの殺風景な室内を照らし出した。
「…………眠い」
食欲・性欲と並んで三大欲求に数え上げられ、古来より“眠らせない”という拷問が存在する程度には人間にとって睡眠は重要な行為だ。
「時間遅滞剤、開発まだかなぁ……」
故・手塚治虫先生が描いた【処刑は3時に終わった】というホラーテイストの短編漫画で出てきた、体感時間を極端に遅くするという効果を持つ薬。勿論架空の存在だけど、これがあれば大分僕の睡眠事情が改善されるのにと朝地獄の苦しみと共に目を覚ます度思ってしまう。
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(´Д`)~゚「くはぁ~………」
こうして僕────日本海上自衛隊付・青ヶ島鎮守府所属、八頭進(はっとう・すすむ)一等海佐相当官の一日は幕を開ける。
~(´Д`)離れ小島の提督さんのようです~
青ヶ島。
日本国本州から300km以上離れた南の海に浮かぶ東京都管轄下の島嶼の一つで、「人が住む島」としては日本領の最南端に位置する。島自体の面積が小さい上本州からあまりにも離れすぎているため、人口は僅か160人と少ない。
一応郷土料理・特産品と呼べる物もあるにはあるし宿屋も営業しているのだが、飛行機や船の定期便が極端に少なく交通の便も非常に悪い。近年では訪れる観光客も他の著名な伊豆諸島構成島と比較してかなり少なく、当然知名度も圧倒的に低かった。
なぜ過去形なのかと言えば、今は違うからだ。
「提督閣下、おはようございます」
(´Д`)「おはようございます、熊倉一士。館内巡回お疲れ様です」
「やや!司令官殿、おはよーにゃしぃ!」
(´Д`)「うん、おはよう睦月さん。入渠帰り?ゆっくり休んでね」
2011年、日本時間8月15日の正午ぴったり。
太平洋戦争の開戦から丁度70年となるこの年、海の底から突如として化け物の群れが現れる。
【深海棲艦】と呼称されたこの化け物達はハワイ島近海での襲撃を皮切りに、世界中の海を戦場に変えた。
「八頭一等海佐相当官、おはようございます!」
(´Д`)「おはようございます加納一曹。すみませんけど、一○○○の会議に出席して欲しいので県一等陸尉に声を掛けておいて貰えませんか?」
「はっ、承知しました!」
島国であり海洋国家である日本にとって、太平洋側に突如として現れた広大な“最前線”から雪崩れ込んでくる深海棲艦の大群をどう迎撃するかはまさに国家存亡に直結する大問題だ。本土上陸阻止のためにはもともと自衛隊基地がある南鳥島や硫黄島などを中核として離島群に戦力を配備して迎撃する必要があり、各島の拠点化や防衛ラインの整備が開戦当初から急ピッチで進められていた。
特にこの青ヶ島は市ヶ谷と永田町が設定した【海上機動迎撃網】の最外殻に位置する極めて重要な拠点となるためとりわけ練度の高い部隊が派遣され、艦娘実装とそれに伴う拠点の鎮守府化後も積極的に戦力が増強されている。
(*´Д`)「…………ンフッ♪」
「………司令官、どしたん?廊下のど真ん中ですてきっしょい笑顔浮かべて」
(;´Д`)そ「龍驤さん!?な、なんでもないよ!?」
これははっきりとした自慢だけど、そんな国防上の要所を守る部隊の指揮を任されたのが僕というわけだ。提督として着任し四年が経った今でも、その事を思うと今みたいに誇らしさでにやけが止まらない。
というか龍驤さん、すてきっしょいは酷くない……?
軽空母艦娘の龍驤さん。我が青ヶ島艦隊の最高練度を誇る総旗艦にして、頼れる筆頭秘書艦。背中辺りまでの長さになる髪を両側で纏めているのが世間一般で知られる彼女の髪型だが、今の龍驤さんは後ろで一つに結わえ馬のしっぽみたいに垂らした状態……所謂ポニーテール。
そんな彼女が、勝ち気な栗色の瞳を訝しげに細めて腰に手を当てながら僕を睨み付けている。
「君な、何でも無いなら何でも無いで問題やで?最前線の指揮官たる者が、理由もなくあんな弛緩した表情見せとったら皆余計に不安がるし不気味がるわ」
(;´Д`)「ご、ごめんなさい……」
理由そのものは一応あるが、自分が重要拠点の防御を任されていることに調子に乗ってましたえへへ何て言おうものならお昼休み辺りに膝詰め大説教の開幕だ。沈黙は金、言わぬが花、甘んじて彼女からの雷を受ける。
元よりハキハキとした言動の彼女に強い口調で説教を食らうと、思わず亀のように首を竦めちゃうなあ。長門さんや妙高さんは先生や上官から指導されている感覚に近いけど、龍驤さんのそれはお母さんとかお嫁さんに「叱られている」ような気分だ。
(´Д`)(身長は睦月さんとかとあんまり変わらないのにこの迫力って凄いよなぁ)
「今なんか失礼なこと考えてへん?」
(;´Д`)「め、滅相もない」
流石我が鎮守府最強艦。歴戦の猛者として研ぎ澄まされた第六感には戦慄せざるを得ない。
それにしても、龍驤さんのポニーテール………。
(*´Д`)「………」
「あっ!?君、また腑抜け顔しとるで!?」
(;´Д`)そ「ふ、腑抜け………」
「ただでさえいつもお味噌汁に入れて放置してぶよぶよになったお麩みたいに締まりの無い顔つきなんに!」
(;´Д`)「ねえ今日の龍驤さん辛辣すぎない!?無駄に罵倒がウィットに富んでるんだけど!?」
締まりの無い顔つきであることは重々承知で言い返せないのがまた悲しい。
「あんな君、もうちょい気張れっちゅー内容で注意してるそばからそんな情けない顔見せられたらウチはもうお手上げやで!?いつ深海棲艦の大攻勢が来るか解ったもんじゃないのにたるんどるんちゃうか!?」
(;´Д`)「た、たるんでなんかないですよ!ただ僕個人の趣味として龍驤さんのポニーテールがドストライクだったから見惚れてただけで……」
あっ、何言ってんだ僕。自殺行為にも程がある。
「………………………………………アホ」
(;´Д`)(うひぃ~~~~~~)
覚悟していたカミナリが降り注がないので恐る恐る龍驤さんの方を窺うと、彼女は耳まで真っ赤になって俯いていた。震える拳と絞り出されるような声から、抱く怒りの大きさが感じられた。
「っ! もう○四五五やし話は後、司令室に急ぐで!!!」
(;´Д`)「アッハイ」
足早に歩き出した龍驤さんの後ろをとぼとぼと着いていく。
あぁ、こりゃ昼休みの大説教はとんでもないことになりそう……
<マルゴーマルマル。提督がお休みのうちに、書類は、私が全て処理しておかないと…>
司令室の前まで到着すると、いつもの守衛コンビ二人が僕らを海自式敬礼で出迎えてくれた。
| ^o^ |「ていとく かっか、ひしょかん どの」
| ^o^ |「おはよう ございます」
「はい、おはよーさん」
(´Д`)「沼池一曹、磯子一曹、おはようございます」
沼池風夢(ぬまいけ・ふうむ)、磯子勇太郎(いそご・ゆうたろう)両一等海曹。身長190センチ近い長身を誇る沼池一曹に対して、磯子一曹は龍驤さんよりちょっと高いぐらいの背丈でしかない。漫画でよく見る凸凹コンビをそのまま現実に抜き出してきたかのように好対照な二人だが気は合うようで、勤務時間以外にも何かと一緒に居るのをよく見かける。共通する特徴である独特の間延びした話し方も合わさって、青ヶ島のみならず父島や八丈島など他の離島鎮守府でもそれなりに有名な二人組だ。
| ^o^ |「しかし ほんとうにはやいですね。かならずこの時間に間に合うようこられる」
(´Д`)「それが職務ですから」
身分証も兼任しているカードキーを手渡すと、磯子一曹はちらりとそれを確認した後扉の脇に備え付けられた電子パネルに翳す。
甲高い電子音と共に、司令室のドアロックが外れた。
| ^o^ |「○四五九、八頭進提督並びに秘書艦龍驤-02殿、司令室に入室を確認」
| ^o^ |「おやひしょかんどの。そういえばおかおがあかいようですがどうかしましたか?」
「きっ……気のせいや!」
| ^o^ |「まそっぷ」
| ^o^ |「あれは いたい」
僕の後ろで沼池一曹が龍驤さんに話しかけたところ、彼の右頬でスパンっと小気味よい打撃音が響いた。
か、加減はされてたと思うけど大丈夫かな沼池一曹、完全に白目剥いてたけど………。
「────第6巡回艦隊より定時連絡。周辺海域に異常なし、引き続き警戒を続けるとのこと」
《ポート2より司令室、第2巡回艦隊の回収にS-76を一機向かわせる。離陸許可を》
「司令室よりポート2、確認した。離陸許可、離陸許可」
「八丈島鎮守府より、広域偵察のため航空隊が通過すると通知あり。現着時刻は七分後です」
「了解。施設内全艦娘並びに全作業員、○五○七に通過する機影は友軍だ。発艦・出撃予定の艦載機や基地航空隊がある場合それらの通過を待つように」
《此方ウミドリ04、神通以下遠征艦隊四名の回収を完了。四人とも健常、周囲に敵影も無し。これより護衛航空隊と共に帰投する》
《第5巡回艦隊旗艦天龍より司令室、指定時間外操業の漁船を一隻発見したぜ》
「いつも通り手は出さず包囲、強行突破を謀ったら“正当防衛”として拿捕しろ。
ポート7、急ですまんが仕事が1件入った。指定ポイントにて民間人を“保護”してくれ、事情聴取の後海保に引き渡す」
《了解、シコルスキーを一機上げる》
突如発生した入り口での惨劇に後ろ髪を引かれつつも、「なれている ことなので」と気絶した沼池一曹を手際よく壁に立てかける磯子一曹に後を託す。
飛び交う通信にフル稼働する機械端末の間を抜けて、室内に入った僕らは真っ直ぐ最奥に置かれた執務机に向かった。
「流石は提督、本日も時間通りですね」
執務机には“先客”の女性が居た。彼女───重巡洋艦娘の妙高さんは、目の前まで来た僕と龍驤さんに気づくとちらりと腕時計に目を向けて微笑む。最後に手元にあった書類を軽く揃えた後、妙高さんは立ち上がって僕たちに敬礼をする。
此方も思わず襟を正してしまうほど、威厳に満ちた敬礼だ。
「○五○○、第3秘書艦妙高は提督代行業務を完遂。八頭進提督並びに筆頭秘書艦龍驤に業務を引き継ぎます」
(´Д`)「はっ、お疲れ様です!」
「謹んで、引き継がせていただきます」
龍驤さんもいつもの軽快な関西弁はどこへやら、畏まった口調で妙高さんに返答する。
「…………はぁ~~~~」
しかしながら堅苦しい空気の継続はほんの数秒で、妙高さんが深く長いため息と共に身体の力を抜いたところで終わりを告げる。
「お疲れやな」
「ええ、本当に……」
そういいながら自身の肩をもむ妙高さんに、いつもの凛とした面影は見られない。よく見れば髪はぼさぼさで、目の下には薄らと隈が横たわっていた。
「ここだけの話、昨日分の事務処理が終わったのつい10分前なんです。間に合わないんじゃとひやひや致しました」
(;´Д`)「妙高さん、以前も言いましたけど単身で処理するのが限界だと思ったら誰かに声を掛けるなり翌日に持ち越すなりして大丈夫ですよ?今は国際情勢の関係でどの鎮守府もデスクワークがキャパオーバー気味なんですからなおのことです」
「多忙で疲労気味なのは皆同じですし、来る書類はすべて日本の国防に重要なものばかりです。疎かにするわけにも、他人に職務を押しつけるわけにも参りません」
極度の疲労を滲ませつつも健気に微笑む妙高さんが眩しすぎて目を細めそうになる。何この聖人、軍艦の代わりにイエス=キリストの魂でも宿したの?
「妙高は真面目すぎやな」
湧き出る感涙を堪えるのに必死な僕の横で、龍驤さんは困ったもんだとでも言いたげに肩を竦める。
「ウチら艦娘の本業は深海棲艦の撃破。勿論それに繋がる事柄も取り扱ってる以上机仕事を疎かにするのはあかんけど、そっちで根詰めて肝心なときにダウンしてたら本末転倒やで。体調管理も艦娘の大事な………二人ともなんやねんその視線は」
(´Д`)「え、うん」
「まぁ、その」
声高に演説をぶち上げていた龍驤さんが、僕と妙高さんの湿度高めな視線にようやく気づいて小首を傾げる。
(´Д`)「龍驤さんさり気なく僕の分の書類仕事まで持ってっていつの間にか片付けてたりしますよね?多分鎮守府内で一番書類仕事に熱心なの龍驤さんですよ」
「休養日に当てられている日でも此方まで出てきて仕事してること結構ありますよね?しかも提督や私やイクさんが何度か注意しているにも関わらず」
「………ウチはここの秘書艦やって長いから慣れとんねん。あんなん気分転換の一環で別に疲れへんし、寧ろ休養の一つやし」
「まぁそうかも知れませんね。提督のお力になれることは龍驤さんにとって何よりの原動力になりますものね」
(´Д`)「そういう台詞は目の下の隈を何とかしてからにしてください。本当なら今すぐ妙高さんと一緒に休養とらせたいぐら」
(;´Д (■==「イブラヒモビッチ!?」
「はよ出てけボケぇええええええええ!!!!!」
「はいはい♪では、休養に入ります♪」
怒りで赤鬼みたいになった龍驤さんが暴れ狂い、妙高さんは騒ぎに対する好奇と詮索の視線が集中する中軽やかな足取りで退室していく。
僕はといえば、朝の軽食と糖分補給用に置かれていた伊良湖さん特製バナナパウンドケーキを顔面に投げつけられて床で悶えるハメになった。
<マルキューマルマル! おはよう、なのね!>
.
○九○○。
軽食として食べたパウンドケーキも消化され尽くし、本格的に空腹が感じられるようになってくる。
今日は通常の哨戒任務の通知と俗に“遠征”と呼ばれる資源探査任務の処理、他幾つかの事務的な書類が来た程度でここ2カ月で見れば奇跡といって差し支えないほど仕事の量が少なかった。妙高さんが前日の内に書類を処理しきってくれていたこともあり比較的手が空いた僕と龍驤さんは、一時間後に控える会議に備えて食堂で朝食を取ることにした。
(´Д`)「鮭朝食セットで」
「ウチは木の葉丼味噌汁付き」
「イクはスクランブルエッグにガーリックトーストを所望するのー♪」
(-_-)「……あいよ」
途中で哨戒任務から帰ってきていた伊-19さんとも合流し、食券を出して各々注文を述べる。
モチベーション維持のためということで、青ヶ島をはじめ離島鎮守府は本土から遠く離れた地にありながら食事事情は存外潤沢だ。給食は固定されておらずその日のメニューから選択が可能で、しかも料金は無料と来た。
尚基本的にはおかわりも無料。ただし、大和さんや赤城さん(どちらも我が鎮守府には配備されていないけれど)のような食の太い艦娘はおかわりの回数に制限が設けられていることが多い。とはいえ、それでもてんこ盛りで五、六杯まで許可される程度にはどの鎮守府も食料庫には余裕がある。
(-_-)「………お待ち」
「早いのね」
「流石やな」
(´Д`)「そういや今日の厨房フルメンバーだったね……道理で食堂が朝から盛況だと」
間宮さん、伊良湖さんの2大給量艦娘に鳳翔さん、雷さんの料理上手にして師弟コンビ。更に“海自の三つ星シェフ”こと引田、桜木両上級給養員と我が鎮守府に勤める人々が愛して止まない精鋭給仕部隊がたまたま全員集結している日は、【G-Day】と呼ばれて歓呼を持って迎えられる。
因みにGはGoldenのGだが、その黄金の日が今日だったのを完全に失念していた。
会議への景気づけにもう少し豪華なものを頼めばよかったと、若干の後悔が押し寄せる。
彡;(-)(-)
《南首相は本日の議会で新たな艦娘・鎮守府関連法案の制定を目指す予定ですが、共栄党、民心党の反対は少なくとも確実と見られ実現は厳しいと思われます。国会前では今日も複数の反戦団体によるデモが行われ、平和と人道を叫ぶシュプレヒコールが────》
早い、美味い、美しいの三拍子を揃えた給食を取るべく艦娘や自衛隊士官の皆さんでごった返す食堂での席取りは大苦戦が予想されたが、運良く近くで自分たちの分を食べ終えたグループがあったおかげで幸いにも三人横並びになりカウンター席に座ることが出来た。
食堂備え付けの大画面テレビでは我が日本の国家元首である南慈英内閣総理大臣の(強烈な)顔面が大写しになり、その下には彼が苦境であることを煽るようなテロップが入れ替わり立ち替わり現れている。
「毎回思うけど、この人凄い不細工なのね……あ痛っ!?」
「こらっ、容姿のことで他人をとやかく言うたらアカンっていつも言ってるやろ」
龍驤さんは伊-19さんを窘めるが、それ少なくとも南首相がブサ……個性的な容姿って事は案に認めてるよね?
(´Д`)(まあ僕も他人の容姿をとやかく言える身じゃないけどね………あっ、鮭美味しい)
鮭それ自体の塩気を殺さないどころか引き立たせる絶妙の味付けに、顔が綻ぶ。付け合わせの白菜の浅漬けをさっぱりした風味を楽しみながら咀嚼し、熱い緑茶で流し込めば大槻班長も笑顔でシゴロ三倍付け判定間違いなしのトライアングルが完成だ。
空腹を自覚したところにこの美味はたまらない。箸を動かす速度が加速し、あっという間に膳の上からメニューが消えていく。
「………ふぃ~っ、ごっそさん」
「美味しかったの。いつも美味しいけど、やっぱりG-Dayは別格なの」
(;´Д`)そ(速ぁっ!?)
僕の右隣に座る二人はと言えば、既にすべての皿を空にして満足げな表情を浮かべている。引田給養員結構大盛りにしてたと思うんだけど、身体は一見小さくても二人とも流石艦娘と言ったところか。
まだ時間に余裕があるので必要性はないのだが、釣られて僕も何となく食べるペースを早める。
「慌てると喉に詰まらせ………言わんこっちゃ無い」
(;´Д`)「ゴフッ、ゴハッ!」
注意を受けたそばから激しく咳き込む僕に、龍驤さんはため息をつきながら自分の分の御茶を手渡してくれた。
朝食を食べ終えて箸を置いたとき、テレビでは引き続き招集された臨時国会に関する報道が続いていた。
(#^Д^)
今度は最大野党の党首である民心党の守部代表と、所謂“極左”の第一人者として有名な共栄党の宝木代表が画面に並んで映し出されている。………ただし画面は5:5になっておらず、「イケメン国会議員」なんて渾名が付いている宝木議員の占める割合がかなり大きい。
というか、民心党党首の画像の大きさがどう考えても1/4ぐらいしかない。
(;´Д`)(露骨だなぁ……)
まあ、テレビ局の気持ちも解らないでもない。普通のちょっと割腹のいいおっさんでしかない守部議員に対して、宝木議員は近年のハリソン=フォードを彷彿とさせる「ダンディな初老」だ。どっちが画面映えするかは子供にだって解る。
ましてや今映し出されているテレビ日ノ出は関連の新聞社共々“反南政権”の急先鋒として特にインターネット界隈では有名な局だ。南首相の後に宝木議員をより目立たせて見せることで、視聴者により“対照的な視覚印象”を植え付けたいのだろう。
実際アホの坂田師匠に髪の毛だけ生やし両替機で更に崩したみたいな南首相の容姿の後に日本版ハリソン=フォードを見せつけられると、ハリソン=フォードが三倍増しで格好良く見える。
(´Д`)(………まっ、流石の日本でも格好良ければ首相になれるほど甘くはないけどね)
容姿や立ち居振る舞いの差に反比例するようにして、政権与党と共栄党の間には303:14という途方もない議席数の差が存在する。共栄党が今や世界的にもすっかり廃れた政治思想を党是に掲げていると言うのもあるだろうけど、それにしてもこの差は少し笑えない。
………全くの余談だが、以前某SNSで視界の端に映った「宝木×南」なる冒涜的でおぞましい文字列も笑えなかった。
あの人種の脳内はどうなっているのだろうか。
《テレビ日ノ出では番組の予定を変更して、引き続き今回の臨時国会について掘り下げていきます。
無謀とも言える改憲・新法成立に向けて今国会を召集した南首相に対し、野党のみならず連立与党である公民党からも批判の声が上がっています。艦娘という、いってしまうなら“日本の軍国主義の亡霊”と見ることもできる存在に力を持たせすぎることは国民の────》
予想できたことだけど案の定いっそ清々しいほどの偏りぶりだ。この後の番組を目当てで点けていたらしい鳳翔さんは、厨房の奥から出てくるとため息と共にリモコンでチャンネルを他局に切り替えた。
「………疑問なんやけどな」
(´Д`)「何が?」
「ウチらの国の国会って確か議席の数が物を言う多数決の筈やろ?さっきアナウンサーが首相の国会召集を“無謀”とか言ってたけどなんでなん?」
「あっ、それイクも気になってたの!!」
食後の御茶を啜りながら龍驤さんが口にした問いかけに、すぐに伊-19さんが便乗する。ハイハイ!と盛んに手を上げて此方に乗り出してくる様は、さながら活発に授業に参加している小学生のようで微笑ましい。
服装がいつものスクール水着のような見た目をした艤装着衣ではなく、レモン色のパーカーに活動的な黒い短ズボンというのも尚更その印象に拍車を掛ける。
「この間の解散そーせんきょの時にも、深海魚の所は単独過半数を取ったって小耳に挟んだの!そんな状態ならどんなせーじするにしても深海魚のところが一強の筈なのに、なんで改憲や新法せーりつが、無謀なの?」
(´Д`)「うん………伊-19さん南首相のこと深海魚って呼ぶのやめてあげて」
「イクは自分に正直なだけなの。それで、実際どーしてなの?」
(´Д`)「そういうルールだからだよ。今回みたいなケースの場合、“一党一票”制が国会で適用されるんだ」
伊-19さんや龍驤さんの指摘通り、国会における政党のパワーバランスは議席数によって決まる。その点現政権与党である国政党は、意見が衝突することも多い連立与党の議席を野党のものとして勘定してもダブルスコア近くというとんでもない大差を付けて単独過半数を握っている。従来通りのルールで行けば、よほど無理筋の滅茶苦茶な政策でもない限り与党は簡単に国会を通すことができるだろう。
ただし、艦娘・鎮守府関連法案と自衛隊関連法案に限ると大きく事情が変わってくる。
(´Д`)「この二つに関しては、成否を決めるとき議員一人につき一票じゃなくて“衆議院に議席を持つ政党一つにつき一票”の割り振りで投票するんだ。後、その際“最低80%以上の賛同票”が得られてなければ賛成多数でも可決されない」
現在衆議院に一議席でも持っている政党は八つ。これらの各党首に、所謂“無所属”から公正を期してくじで選ばれた議員を一人加えた計十票が採決に使われる。
この時、例えば賛成:7の反対:3と相応の差がついていたとしても法案は否決となる。10票中7票では過半数ではあっても「80%」には届かない。
国政党、公民党、野党でありながら比較的右派思想を持つ愛国党で事実上三票は見込める。逆に共栄党、民心党は現政権と真っ向から対立しているため票として計算に入れることは出来ない。
つまり政権与党側は、法案を通すにあたって無所属と残り四党から一つでも反対(或いは棄権)が出れば法案の可決を妨げられてしまう。
「………なんか、すっごいややこしいの。それに、片手で数えられるぐらいの議席しか持ってない党が何百議席も持ってる党と同じ価値の票を持つのも納得できないの」
「なんでんなワケわからん制度導入したんや。普通に多数決でいいやん」
(´Д`)「………僕もそう思うけど、ね。まぁ、南首相にも何か考えがあったのかな」
濁したが、本当の理由を僕は知っている。龍驤さんたち────即ち、日本が抱える膨大な“艦娘戦力”に対して打ち込まれたあからさまで歪んだ楔だ。
前半……というより冒頭の更に微妙な位置ですが出勤時刻なので一旦切ります。本日夜に残り投下予定
深海棲艦の出現当時極秘裏に南首相から下された、自衛隊による武器使用常時無制限での深海棲艦攻撃許可。それは紛れもなく英断であり、日本が本土上陸を受けずにシーレーンを艦娘実装まで守り切った最も大きな要因でもある。
でも発覚当時、この問題は国内外で強烈な非難に晒された。
【侵略に対する防衛戦争】こそ日本は憲法上でも認められているものの、自衛隊の名が示すとおり日本は国外での戦争行為を“永久的に放棄”している。だが、当時の状況下で南政権が必要とあれば日本領海外での軍事行動も自衛隊の独断で決行する権限を与えていたとする情報がメディアに流出したことで、一気に問題は加熱してしまった。
オーストラリアや中国海軍の相次ぐ壊滅にアメリカ軍主力のハワイ方面における苦闘、東南アジア諸国の制海力の低さなど、状況を考えればやむを得なかったとする論調も当時からある。それに、国政や軍事に携わる人間ならよほどのバカで無い限り深海棲艦のような敵に対して先んじて領外で迎撃することがどれほど重要かは理解できない方がおかしい。
しかし一部国家の指導層にとってはそうした事情や実際に他人事ではないはずの深海棲艦の脅威よりも、“日本が普通に武力を行使できる国”になることの方が遙かに大きな問題になるようだ。
特に、常任理事国でもある中国の反応は激烈で露骨だった。折しも日本が【艦娘】という画期的な軍事技術の実装を発表した直後であることや自慢の最新鋭空母が南シナ海の対深海棲艦戦闘で撃沈されていたことも手伝い、アジアの超大国を自称するかの国は形振り構わぬ大々的な反日キャンペーンに打って出た。
経済的に国際社会への影響力を未だに強く持っていた中国が動けば、同調する……せざるを得ない国は決して少なくない。また中国(と、真っ先にこの動きに足並みを揃えた韓国並びに北朝鮮)ほど強い感情ではないにしろ、日本という島国が強力かつ自由に使える軍事力を保有することによい感情を抱かない国も確かに存在する。
騒動開始から一ヵ月と経たずにロシアとイギリスが中国らの動きに同調し、アフリカ大陸の大多数の国家とヨーロッパの幾つかの国が更に追従する。粘り強く日本の立場に理解を示していたアメリカ、フランスもやがては中立に転じざるを得なくなり、中国が匂わせる経済制裁決議に恐れを成した日本の経団連もマスコミに働きかけ内部から南政権の行いを批判させた。
当然野党もこれに便乗し南首相による“軍国主義への回帰”とその象徴たる“艦娘”を連日のように批判・罵倒する中で、良くも悪くも「空気を読む」ことに長ける国民性も周囲のこうした雰囲気に影響され民間でも現政権に批判的な声が増えていく。支持率は急落し南首相の支持基盤である若年層ですら肯定派と否定派が半々で別れるようになったところで、限界に達した与党は国連からの勧告を承諾。
“艦娘三原則”と“軍事関連法案に関する一党一票制”という楔を、受け入れざるを得なくなる。
マイノリティの国政への反映と軍国主義回帰へのブレーキという、この世界的な危機の最中に失笑しか起きないような看板を建前としてひっさげて。
(´Д`)(まぁ、これだけ悪材料が雁首揃えた中で政権維持して自衛隊と艦娘の対深海棲艦即時交戦権や国内艦娘の保有権を残すどころか、逆に要請が出た場合の制限付き国外派兵まで認めさせてる辺り十分凄いけどね)
それでもやはり僕が知る限り、これは内政・外交問わず南慈英という化け物じみた辣腕を誇る政治家が喫した、現状唯一と言っていい【敗北】だ。
………艦娘の皆を明確に“資源”として、“道具”として扱い激しい外交戦が行われた結果の、一党一票制の誕生。そして道具としての彼女達の「用途」を制限するための、“艦娘三原則”。
国際政治の特性上仕方の無いことと頭では理解していても、胸糞が悪すぎて吐きそうになる。しかもその扱いを、外圧によるやむを得ない状況があったとはいえ彼女達が強く守りたいと願う祖国が自ら呑んだという事実。
臆病な僕には、目の前で実際に笑い、戦い、生きている彼女達にその事を突きつける勇気は無かった。
例え、既に彼女達が気づいているとしても。
(´Д`)「………さ、食休みも十分取ったしそろそろ片そうか。長居すると後がつかえて厨房にも迷惑掛けちゃうし」
「はーいなの。イクはこの後非番だから居住区でゆったり休むの」
(´Д`)「はは……お疲れ様」
「そういやキミ、ヒトヨンマルマルからの視察の件忘れたらあかんで」
(;´Д`)「あっ………」
「………しっかりせーや司令官」
完全に失念していたところへの不意打ちに、間抜けな声と共に立ち止まる。
龍驤さんはそんな僕を見て呆れた声を出しながらも、いつも通り屈託のない笑みを浮かべていた。
.
<ヒトマルマルマル。本日の作戦スケジュール、榛名にお任せください!>
.
.
配慮が欠けていた自身への自己嫌悪もあって、食堂での一件は僕にとって盛大な自爆となってしまった。
負ったダメージは小さくないが、ダラダラ引き摺っていられないのが提督業の辛いところだ。落ち込む気持ちを無理やりに奮い立たせ、指定時刻きっかりに僕は会議室の席に着いた。
「────それでは、全員揃ったようなので青ヶ島鎮守府週例会議をはじめさせていただきたいと思います」
ホワイトボードの前で腕時計を睨んでいた榛名さんが、最後に僕が座ったのをちらりと確認した後そう言って一礼する。
「今会議の進行役を務めます、戦艦部隊統括艦の榛名です。よろしくお願いします」
因みに彼女が身につけているのはいつもの巫女服のような戦闘衣ではなく、自衛隊の白い女性用制服だ。胸元には、艦娘であることを示すため金色の菊の紋が刺繍されている。
週例会のような会議では、一応海自所属という形式を取っている艦娘の皆も第一装での出席を要項で求められる。とはいえあくまで名目上であって相当非常識でなければ黙認される場合が殆どで、実際今日の出席者の中でも瑞鶴さんと龍驤さんは艤装服での出席だ。
川内さんに至っては、ど根性ガエルが描かれた白のTシャツに迷彩柄のジャケット、水色のスラックスという完全に土日を渋谷で満喫する10代半ばのファッションで頬杖を突き座っている。……流石にここまでラフな恰好が黙認されているのは、彼女が有事に編成される「第一艦隊」固定メンバーの一人という実力者だからだが。
だが、榛名さんは毎回律儀に第一装で出席する。流石は妙高さんと並ぶ「青ヶ島の2大真面目艦娘」と言ったところか。
虹の橋を封鎖できないことで知られる刑事ドラマシリーズで放たれた、「事件は会議室で起きているんじゃない」という高い知名度の台詞がある。ドラマ史に残る名言だが、これは少なくとも戦争には当てはまらない。
別に戦争が会議室から勃発するというわけではないけれど、戦争の「準備」をするために会議は欠かすことのできない重要な手続きだ。計画通りに戦況が推移することなどほぼ無いが、“核”となる部分を入念に練り上げることは決して損にはならない。
例えばこの週例会議の場合、議題は司令府から提示された任務の達成進捗や備蓄物資の増減の推移、演習による練度の向上具合、一ヶ月単位で見た場合のそれらの目標値に対する達成度、これら全てを踏まえた翌週以降の詳細な稼働計画と話し合う項目は多岐に渡る。いつ起きるか解らない深海棲艦による大規模な侵略や司令府側で時折企画される大規模な撃滅作戦に備えて、僕らは常に“準備”をし続け、行動の“核”となり得る部分を試行錯誤する。
行き当たりばったりで始まった戦争・作戦がいかに多くの命を無為に散らすかは、わざわざ御先祖様達が世界中で歴史に示してくれているのだ。同じ轍を踏む必要性は全くない。
………とまぁ、これが「平時」における週例会議の目的だ。
「まず、横須賀司令府からの指示には今週も変化ありません」
有事、或いはその直前と思われる状況では、この内容はまた大きく変わってくる。
「領海付近に出没する深海棲艦の撃滅と敵艦侵入を防ぐ入念な海上警戒と資源輸送の護衛の徹底的な強化、そして練度の向上。以上です」
「先月アメリカ政府から共有があった、深海棲艦の戦力増強の兆候について続報はありますか?」
「…………“引き続き兆候は顕著である”とのみ」
小栗三等海佐からの質問に、僅かに眉根を顰めて榛名さんが応じる。
「ただし、兆候が見られる地域が増加傾向にあります。
一月前の段階では、輸送型深海棲艦の往来激増が見られたのはインド洋、北極海の二箇所。二週間前はそこに喜望峰が、そして今週は更にアラスカ~極東シベリア間の海域複数箇所が追加されました」
「めちゃくちゃ広範囲やな」
配布された資料を眺めていた龍驤さんが、唇を尖らせぽつりと漏らした。
「リスボンにうちら青ヶ島、ベルリン、パリ、北欧。そんでロシアムルマンスク。確か夏には南アメリカでも一発あったやろ?あんだけ大攻勢連発して、またこの規模の攻撃が来るんか?」
「ベルリン、パリ、ベルゲンの陥落で情勢が大きく動きましたな」
石田一等海尉が、背もたれに寄りかかりながら呻く。
この席の最年長で艦娘実装前からイージス艦【こんごう】の乗組員として深海棲艦と最前線で渡り合ってきた一尉は、発する言葉に高まりつつある侵略の危機に対する実感が人一倍籠もっている。
「独仏が国土の半分以上を失陥し深海棲艦が地上で直接戦力を増産できるようになった今、向こうは今までヨーロッパ近海に裂いていた戦力の多くを各地の海に分散させることが出来ます。アメリカはこの内幾つかは第二次マレー沖海戦での失態を踏まえた陽動だと踏んでいるようですが、私はそんなに甘くないと思う。
現状確認されている敵艦隊の戦力増強地点、その全てが“本攻め”の可能性も否定するべきではない」
「横須賀の司令府でも、石田一等海尉と同じ懸念を示しています」
榛名さんは頷くと、ホワイトボードにマグネットで何枚かの紙を貼り付けた。
今日で終わる(終わるとは言ってない)
恒例行事というか書きための一部が吹っ飛んだので極めて中途半端なのですが切ります、申し訳ありません。
明日中には完結致します
「現在戦力増強の兆候が把握されている海域全てで、第二次マレー沖海戦と同規模の敵艦隊が一挙に攻勢を開始した場合の予想される攻撃経路です」
「絶望的な絵面やな」
花火が上がる隅田川の夜空か、はたまた蜘蛛の巣が張り巡らされた古い屋敷の天井か。
輸送型の目撃地点を示す幾つかの黒点から様々な方向に伸びる矢印が、世界中の海を覆い尽くしている。
「ヨーロッパ方面での陸上拠点の確保によって、深海棲艦側はかなりの海中戦力を世界中に再配備することが出来るようになったと思われます。過去に敵が行ってきた攻勢の規模や頻度を考えれば、この攻勢も最悪どころか十分にあり得る未来予想図ではないかと司令府は推測しているようです」
「そんな物量で押し寄せられたら、どう考えても人類側の海上防衛網が耐えられないよね?」
川内さんの問いに、榛名さんは答える前に一度喉を鳴らして生唾を飲み下した。
「………横須賀司令府の計算では、もし敵の攻勢がこの規模で実施された場合アフリカの西海岸、南アメリカの東海岸は少なくともほぼ全域で上陸を許すと」
鉛のような重い空気が、会議室に充満する。
もし司令府の予想通りに事が運べば、日本にとっても対岸の火事ではすまない。大局的な意味でもそうだが、直接的には北太平洋とフィリピン海の点から伸びた矢印は何本かが日本を標的にしているのだから。
この内後者の矢印が向かう先は、我らが青ヶ島鎮守府をはじめとする伊豆・小笠原諸島だ。
「……フィリピン海では輸送型の往来は確認されていなかったようだが」
「はい。ですがオーストラリア、マレーシア、そして在フィリピン米軍の偵察機が近海飛行中に相次いで連絡を絶っています。まだ各国民には隠蔽されていますが、ここ二週間で消息不明機は計8機にのぼります」
「………」
小栗三佐の揚げ足取りに近い質問は、或いは情報の信憑性にケチを付けて「何かの間違い」という可能性を少しでも見出したかったのかも知れない。
だがその試みは失敗に終わり、漂う深刻さだけが増す形となった。
手元に用意されていた資料冊子を、何ページか捲る。
横須賀では先に榛名さんが上げた南アメリカやアフリカ以外に、フィリピンやミャンマー、ニュージーランドなど東南アジアからオセアニアに掛けても深海棲艦による攻勢を阻止できない地域があると踏んでいるようだ。
更に資料は、世界的な上陸が現実となった場合の深海棲艦による「橋頭堡の建造」にも言及している。
「………深海棲艦による【泊地】が、12箇所も」
「しかもこれ、あくまでも司令府側での“予想”よね?」
眉間の皺を深くする石田一尉の向かい側で、瑞鶴さんは資料を汚らしいボロ雑巾を摘まむみたいに持ち上げてわざとらしく顔から遠ざけるフリをして見せた。
「あいつらが【泊地】を築く基準ってまだ解ってないんでしょ?つまり、予測より遙かにたくさんの泊地が作られる可能性もあるわけで………あぁ~、ヤダヤダ!」
「なっ……!?ず、瑞鶴さん!国防に関する話し合いを何だと思ってるんですか?!」
「だってこんなの考えたってどうしようもないし憂鬱じゃん。榛名さん、これについて考えるのやめよ?もっと他の議題にしようよ。クリスマス会はどうするか、とか」
ゴミでも捨てるみたいにぽいっと投げ出される資料。途端に榛名さんが跳び上がらんばかりの勢いで憤怒の声を上げるが、瑞鶴さんはどこ吹く風だ。
「なりません!勝手は榛名が許しませんよ!」
「ぶー、榛名さんの頭でっかちー。
だいたいゴキブリみたいな奴等のこと話し合うだけで気乗りしないってのに……というか、どこにでもいるし滅茶苦茶数多いし非ヒト型は大半が黒基調だし本当にゴキブリっぽいよね。
あっ、意外とアースジェットで行けるんじゃないのこいつら?」
「いや無理でしょ」
「えー、そうかなー」
トンデモ理論を口にし始めた瑞鶴さんに、隣の川内さんから鋭いツッコミ。だけど瑞鶴さんの方は、どこか納得がいかなそうに頬を膨らませる。
「でもさーかわうち、試さないのって勿体なくない?ほら、【怪獣黙示録】でもドゴラを倒すのに」
「ネタバレやめてよアレ買ったばかりなんだからさ。あと私“せんだい”ね」
「それに“友情、努力、勝利”って言うしさかわうち」
「私マガジン派だし、その標語とアースジェットの関連性が不明だし、せんだいね」
「諦めたら試合終了だよさむらごうち」
「せ ん だ い」
「あっ、そうだ。提督さんちょっとアースジェット片手にベルリン奪還して来てよ」
(;´Д`)そ「何がどうして!!?」
唐突に飛んできた流れ急降下爆撃に、思わず目を剥いて資料から顔を上げる。
「ほら、私の論が正しいかどうか試さないといけないじゃん?だから提督さんに行って貰おうかなって」
(;´Д`)「そんな学生の肝試しみたいなノリで死亡率100%の作戦に提督送り込もうとするのやめない!?だいたい一億歩譲って奇跡的にアースジェットが効果あったとして非武装でどうやって近づけっての!?」
最大射程距離数メートルvs数十キロ。しかも向こうは場合によって航空掩護付。ジェームズ=ボンドも真顔でミス・マネーペニーの鼻っ柱に一発お見舞いするに違いない。
「大丈夫っしょ提督、殺虫剤と溶接バーナーを異星人の武器としてカウントする地球防衛軍もあるんだよ?」
(;´Д`)「味方の総司令部にしょっちゅう罠をしかけられた挙げ句化け物呼ばわりされる万能兵士さんは関係ないだろいい加減にしろ!しかもそれ“どうやって近づくか”の部分に対する答えになってないし!」
「いや、案外イケるかもしれんで。漢魅せーや司令官」
(;´Д`)「漢の前にぶちまけられた内臓を見せつけることになりそう!!」
「……」
まさかの龍驤さん参戦に窮地に追い込まれる僕。榛名さんはといえば、俄に騒がしさを増した会議室の有様に呆然とした様子で棒立ちになっている。
「………ワッハッハッハッハッ!アースジェットで深海棲艦退治か!そりゃあいい!!」
割れ鐘のような笑い声を上げたのは、それまで会議に参加しながら沈黙していた県一等陸尉だった。よほどツボだったのか、彼はヒグマのように大きな身体を折り曲げてヒーヒーと苦しげに呼吸音を漏らす。
「確かに奴等は人類にとって害虫のような存在ですが、だからといって“じゃあ本当に殺虫剤を使おう”というのは例えジョークでも陸自の凝り固まった頭では思いつけない!なかなか、艦娘のお嬢さんは柔軟な発想をお持ちだ!」
「そういえば、県一尉はこの鎮守府に来て日が浅かったですな」
そういいつつ、石田一尉も顔を片手で覆いこみ上げる笑いに必死にあらがっていた。相当な無理をして衝動を抑え込んでいるらしく、彼のがっしりとした肩は小刻みに震えていた。
「彼女らは我が鎮守府屈指の実力者だが、同時に艦娘の中でも指折り数えられるレベルの名漫才コンビだ。この二人が退役したら、私は吉本に紹介状を書くつもりです」
「ちょっ、やめてよ石田さん。同僚の名前すら間違える鳥頭な奴とコンビなんて冗談じゃない」
「そーよそーよ。こんなゴーストライター使ってたエセ作曲家とコンビなんてこっちから願い下げよ」
「佐村河内引っ張りすぎだろ七面鳥」
(*´Д`)「ブフッ」
「ヒッヒッヒッ……!」
なおも続けられた二人の漫才に、僕と龍驤さんも耐えきれずに決壊する。特に龍驤さんはかなり耐えていたようで、机に突っ伏したまましばらく顔を上げられなくなってしまった。
「………」
「うぅ、提督まで……」
勿論、全員がもれなく笑顔になったわけではない。榛名さんは僕まで笑い始めたことにオロオロしているし、生真面目な小栗三佐は「苦虫を噛み潰したような表情」の標本にしたくなる顔つきをしている。
それでも、明日にも起きるかも知れない世界規模の惨劇にただただ打ちのめされていたついさっきまでよりは遙かにマシな顔色だ。
瑞鶴さんと川内さんは、榛名さんや妙高さんのような優等生からは程遠い。特に瑞鶴さんは、他の鎮守府提督に彼女の話をすると驚かれるほど世間一般のイメージからかけ離れた自由奔放な言動をする。
だがそれ故に、この二人は場の空気に全く縛られない。寧ろどんな空気であろうとも、平然と自分たちの色に変えてしまう。
現に今も、会議室を押し潰さんばかりに覆っていたお通夜のような空気は完全にどこかへと霧散してしまった。
わが鎮守府最強艦の一番弟子と水雷戦隊の頼れるエースは、戦闘外でも青ヶ島に無くてはならない存在だ。
(´Д`)「────アースジェット云々はおいとくとしても、実際瑞鶴さんの言うことにも一理あると僕は思う」
場の空気が解れたところで、僕は改めて提督として、この鎮守府の指揮官として言葉を述べていく。
(´Д`)「これだけ広範囲かつ大規模な攻勢となると、僕らだけが深刻になってあれこれやろうとしても与えられる影響なんか殆ど無い。勿論僕らの方でも考えることは必要だけど、まずは自分たちの身の丈でやれる範囲の仕事を確実にこなしていかなきゃ話にならない」
僕らは間違いなく国防の要だけど、僕らだけが国を守っているわけじゃない。全て無条件にこなそうとするのはお門違いであり鼻持ちならない思い上がりだ。
(´Д`)「榛名さん、フィリピン海からも敵の攻勢が行われた場合、特筆がないということは基本的な防衛計画については変わりないという認識で大丈夫?」
「は、はい!一応横須賀や市ヶ谷にも確認する予定ですが、現段階ではそう考えて差し支えないかと!」
前回の【イツクシマ作戦】は誘因からの包囲殲滅が目的となるため例外だが、基本的に離島鎮守府に後方から艦隊戦力が投入されることはほぼない。各島嶼拠点は深海棲艦の戦力を可能な限り漸減・遅滞し、防衛限界に達したところで自艦隊の損耗を抑えつつ後方の島嶼に退避して防衛線を補強するのが基本的な役割だ。
最前線以外の離島拠点は、直前の防衛線が破られるまでは航空支援に徹し主力に損害が出ることを極力回避。そうして段階的に敵艦隊を疲弊させつつ此方の戦力を強化していく………というのが上層部が描いている国防の青写真だが、これには深海棲艦との戦争が始まって以来付きまとい続ける大きな問題がある。
(´Д`)「これほどの規模の攻勢が行われれば、硫黄島・父島と青ヶ島間の空白海域がなおのこと重いね」
「せやな」
龍驤さんが、資料に添付された地図を指でトントンと叩く。
「フィリピン海からの攻勢経路は硫黄島方面にも伸びとるから、ウチらと硫黄島は同時に攻撃を受けることになる。
空白海域を寸断されたら、硫黄島、父島、母島は勿論南鳥島まで孤立するで」
【イツクシマ作戦】の折は敵艦隊誘因に当たって絶好の「餌」となったが、基本的に硫黄島と青ヶ島の間に横たわる防衛線の穴は日本の国防上最大のアキレス腱になっている。当然敵艦隊の侵入・展開を防ぐため在日米軍まで巻き込んだ徹底極まりない哨戒が行われているものの、到底万全の備えとは言い難い。
(´Д`)「最悪なのは、青ヶ島と硫黄島には増援を出せなくなる程度の規模で攻撃を仕掛け、空白地帯の警戒部隊を奴等の主力が全力で潰しに来た場合。
補給も修理も出来ず航空支援も遮られた海原の真っ只中で波状攻撃を受け続ければ、どんなに精鋭を展開させていたとしても幾らも持たずすり潰される」
「ウチらにとっての最悪、つまり敵にとっての最良手や。絶対ではないにしろ、向こうは限りなく100に近い確率でこの手を打つ筈や」
一応防空指揮艦【いせ】を旗艦とする第4防空機動艦隊───空母打撃群と潜水艦群がほぼ水上駐屯に近い形で定期警戒を行っているが、それでも戦線を維持するにはあまりにも戦力が薄い。
一応、問題を即座に解決する方法はある。青ヶ島~硫黄島間には何もないわけではなく、鳥島という小島が存在するのだ。
決して大きな島ではないが観測所にうってつけの山が二つあり、好都合なことに無人島のため“本来なら”拠点化するにも大きな制約がない。数日で鎮守府化や防護拠点化することが難しくても、せめて駐屯地と物資の集積所が置けるだけでも事情は大きく改善するはずだ。
そもそも、これほど重要な島嶼が今日に至るまで放置されていることの方がおかしい。まともな軍人なら真っ先に目をつけてしかるべきだし、何を置いてもまずこの島に巨大な戦力を投入し堅固な防御拠点を築くべきだった。
そして、実際に陸海空三自衛隊の上層部は連盟で鳥島の防御拠点化を具申したのだけれど………
(´Д`)「………一応聞いとこうかな。第何百次か忘れたけど、【鳥島鎮守府化要望】に対する八丈支庁からの回答は?」
「却下されました」
その返答だと予想していたとはいえ、それでも全員が──川内さんや瑞鶴さんさえ──げんなりした表情で天井を仰いだ。
「如何なる理由があろうとも、天然保護区域の環境を破壊することは許されないと回答がありました。ましてや特別天然記念物であるアホウドリの貴重な生息地であるため、よほど危急の事態で無い限りたとえ政府からの要請であっても受け付けないと。向こうの言い分では、防空機動艦隊の停泊さえ相当な妥協の末だそうです」
「やーくーしょーはーあーほーかー!」
なんとも言えない節回しで歌い上げながら、瑞鶴さんが勢いよく机に突っ伏す。ゴンっと音が鳴り、一瞬彼女の資料が机の上で跳ねる。
「今がその“よほど危急の事態”じゃないなら何だっつーの!!ヨーロッパじゃクトゥルフの神話生物みたいな奴等が何万体も陸に上がって人類攻撃してて、得体の知れない戦闘機の出現で制空権も今後は危うくて、しかもそんな奴等が四方八方から本土に押し寄せてくるかも知れない状況下で丸出しの急所抱えてる状態の!どこが!!危急じゃないってのよ!!!」
瑞鶴さんの叫びに、全員がウンウンと無言で頷く。
そりゃあ、「人類が存続するために自然を破壊する」のは傲慢だと言う意見は理解する。実際その傲慢を──特に産業革命以降──続けてきた結果が、解決の目処が全く立たない無数の環境問題だ。
それでもやはり、こう思わずにいられない。
そんなに自然と一緒に死にたきゃ素っ裸でアマゾン川に飛び込みピラニアの血肉にでもなりやがれクソ役人。
………はぁ。無い物ねだりして駄々をこねても仕方ない。“まずはできることを”だ。
(´Д`)「もう一つ一応聞くけど、“不要になった旧学園艦の停泊・拠点化”も当然却下されたんだよね?」
「はい。燃料流出や学園艦の大破による海洋汚染の可能性を考えると、例え自主座礁ではなく停泊でも許可できないと」
(´Д`)「……まぁ、こっちは仮に八丈支庁から許可が降りても野党左派とかマスコミが黙ってなかったろうしね、うん」
例えばこの青ヶ島鎮守府の施設は、直接島に建設されたわけではない。島嶼南島の浅瀬に、自由学園との統合で住人・生徒が居なくなった旧BC学園を傾斜しないよう自沈・座礁させて即席拠点として転用した。
数万人から十数万人を海上に居住させるために建造される【学園艦】は、兵器として転用した場合極めて高いポテンシャルを発揮する。高い居住性を持つため長期間の兵力輸送にも長け、既存の航空母艦など比べものにならない量の艦載機を運用でき、勿論強襲揚陸艦として大量の装甲戦力も運搬可能。
巨大すぎる上自重を支えるために装甲も分厚く、外部からの攻撃で短時間の内に轟沈させるにはそれこそ長距離弾道ミサイルやMOABが必要になってくる。欠点はエネルギー面で大食らいである点や全長数キロクラスのため隠密性能が低すぎる点だが、前者は殆どの学園艦が自給自足用の施設を備え後者はそもそも前述の通りまともに沈められる兵器が(深海棲艦という化け物を除けば)存在しないため必要性が薄い。
最悪天一号作戦の大和のように、港湾施設にでも特攻座礁させればそれだけで敵の国土に直接橋頭堡をたたき込める。
なので、学園艦を廃艦とする場合国連への事前申請が必須で第三国の立ち会いの下厳正なチェックが入る。学園艦関連の国際条約に関しては常任理事国の拒否権も“対象外”とされ、アメリカ、ロシア、中国の三大暴君ですら未だかつて学園艦の“兵器転用”という暴挙は行っていない。一応治安維持、戦車道の教練用等の理由で戦闘車両や軍人が乗っている官は少なくないが、車両数や人数は厳しい制限が設けられ此方も徹底的に管理されている。
余談だが、日本の文科省が学園艦を次々と統廃合していた時期は国連職員がひっきりなしに呼び出されるはめになり、国際戦車道委員会から直々に怒りに満ちた声明が発表される事態に陥った。
ともあれこの国際的な背景を考えると、国内外何れにおいても“稼働できる状態の学園艦”が本格的な軍事施設として認められるのは相当骨が折れたはずだ。青ヶ島での旧BC学園を基地として転用する際にも、南首相による詭弁と建前と脅迫によって相当なごり押しをした末に認められている。
当時は艦娘が実装したてでまだ十分な数が揃っていなかったことも大きい。東洋の不沈空母たる日本のシーレーンを早急に要塞化しなければならないという背景があったアメリカの強力な後押しがなければ、青ヶ島鎮守府も存在しなかったか今のような形式ではなかっただろう。
(´Д`)「なら別の手で行こう。まず海上保安庁並びに航空自衛隊と連動し、“空白海域”の警戒を更に厳とする。これについては先週の週例会議後に僕の方から話を通して、了承も得ている。明日には、横須賀司令府から更に駆逐艦四隻も増強される予定です。
在日米軍からも協力の申し出があったので、無人機を用いた徹底警戒をお願いしています」
「こっちに譲渡はして貰えなかったの?あるなら私達も妖精さんをもう少し休められるからかなり助かるんだけど」
(´Д`)「ごめん、それも交渉はしたけど無理だった。在日米軍側もハワイや北太平洋の警戒があるから戦力を割きすぎることはできないって」
「あー………それもそっか」
(´Д`)「ごめん………」
「謝んないでよ、提督さんが最善を尽くしてくれたのは解ってるし。さーんきゅ♪」
瑞鶴さんはそういって笑ってくれているが、実際航空戦力の更なる強化は鳥島近海の拠点化に次いで切迫した問題だ。
現在青ヶ島鎮守府が保有する空母戦力は、龍驤さん、瑞鶴さん、鳳翔さん、これに先週より着任した大鳳さんと水母から改装した千歳さんの5人。
この内大鳳さんは、中央で訓練を重ねてきたとはいえ実戦経験は希薄で龍驤さんによる徹底した“教育”の最中。鳳翔さんは他の艦娘の皆への座学教育や実質的な給仕長、妙高さんと共に鎮守府に勤める自衛隊の皆さんへの橋渡し役と兼任している役割が多い。
そのどれも鳳翔さんの力が欠かせないため、負担を減らすために戦闘哨戒任務については僕から頼み込んで少なめに抑えて貰っている(あの人は榛名さんや妙高さん、龍驤さんと同じ人種なのでこうでもしないと際限なく仕事を抱え込む)。
自然、航空哨戒の負担は龍驤さん、瑞鶴さん、千歳さんに集中する。基地航空隊も運用するなどして此方も可能な限り負担を分散できるようシフトを組んではいるけれど、それでもカバーしなければならない範囲の広さからどうしてもオーバーワーク気味だ。
(;´Д`)(再来週には海保からS-76ももう1機追加されるし、烈風が運用できる給油艦の速吸さんの派遣も要請してある。けど、対症療法にもならないな)
やはり、鳥島近海に海上拠点を設けるという抜本的な解決が最良の選択肢。だが、環境保護(笑)とやらでそれが難しい以上他の手段を考えなければいけない。
(;´Д`)「……空母艦娘の増強も含めて、この件については引き続き解消できるように努めるね。
空母部隊に限らず、他の皆も何か解決策が浮かんだらドンドン言ってね」
「はい!榛名も頑張ります!」
「考えるの苦手なんだけどなー……まあ、閃いたらね」
「私の方からも、海自に少し話を持って行ってみます。例えばレーダーの増強や艤装としての電探の更新など、空に限らなくても龍驤秘書艦達の負担を減らす方法があるかも知れない」
(´Д`)「助かります小栗三佐」
ここの人達は全くそんなことは無いけれど、民間志願組の提督に対してプライドや偏見からキツい態度、侮った見方をする海自士官は決して少なくない。特に上に行けば行くほどそれは顕著で、青ヶ島という重要拠点が僕のような民間の出に指揮されて面目が潰れたとほとんど憎しみに近い感情を抱く人まで居る始末だ。
言い方はとても汚いけれど、勤勉で上からの覚えもめでたい小栗三佐が間に立ってくれることで得られる恩恵、起こらずに済んでいる摩擦は数知れない。
(´Д`)「それで、次の議題だけど………県一等陸尉」
「お呼びがかからないのではと少しひやひやしましたよ」
(´Д`)「あはは、ごめんなさい。
まず、一つ単刀直入に聞きます。もし万一海上の防衛線が突破されて深海棲艦との陸上戦となったとき、この鎮守府施設ではどれぐらい持ち堪えられますか?」
「一時間半、長くても二時間です」
即答。突きつけられた数字は、案の定厳しい。寧ろ、想定していた「45分」より随分マシな数字だ。
「現在鎮守府内に存在する陸戦戦力は、10式戦車4両に89式装輪装甲車16両、MLRS1両、87式2両、陸上、AH-1Sが6機、最後に自衛隊普通科歩兵308名です。他に迫撃砲、携行重火砲などが多数ありますがこちらは省略させていただきます」
「数として聞いてみると意外と少ないね」
「あまり兵力が多すぎると中国が五月蠅くなりますからな」
川内さんの感想に、県一尉はドカベンの山田太郎に髭を生やしたような精悍な顔をくしゃりと歪めて苦笑いした。
「鎮守府それ自体に備えつけられた火砲もあるためある程度の迎撃力はあります、しかしこの鎮守府ほど練度が高い艦隊の海上防衛線が突破されたとなれば敵は相当な手練れか相当な物量を有するかのどちらかです。
幾らかは陸自の意地として粘ることが出来ますが、瓦解はあっという間でしょうな」
(´Д`)「なるほど」
歯に衣着せない物言いだけど、其方の方が僕としてもやりやすい。
変に濁されたり下手なプライドで見栄を張られたりすると、此方の計算が立ち行かなくなる。
(´Д`)「じゃあ、もう一つ質問を。
艦隊の余力を残した上で陸上に回収し、“青ヶ島全体”を使って防衛戦を展開した場合は?」
しばらく、会議室に沈黙が降りた。龍驤さんや榛名さん達だけでなく、石田一尉と小栗三佐も僕の質問の意図を今ひとつ掴みかねているようだ。
「……………」
ただ1人、問いかけられた県一尉だけが明確に理解している。彼はたっぷり20秒ほど俯いて思考の海に沈んだ後、ゆっくりと顔を上げ僕に視線を向けた。
「備蓄物資や艦隊の“余力”の程度、何より“民間人が居ないこと”を大前提とした上でですが………粘るだけなら、2週間でも3週間でも粘り抜けます」
(´Д`)「まぁでも、それは当然“今のまま”じゃ無理でしょ?」
「裸のままでは無理ですな、せいぜい3日4日に縮まります」
(´Д`)「ならば、お願いします」
「解りました。早速隊員を集め本土からも設置式火砲の増強を申請します」
「待ち待ち待ち待ち」
ぽんぽんと会話を続ける僕と県一尉の間に、龍驤さんが割って入る。彼女は僕と県一尉を交互に見比べながら、目を白黒させていた。
「なんやなんや、キミらテレパシー持ちか?頼むからウチら置いてけぼりで話進めるのやめてーな」
(;´Д`)「あぁ……」
我に返ってみれば、龍驤さん以外の5人も一様に呆然とした様子で僕たちに視線を送っている。川内さんなんかは完璧にリンゴを見せられても「ばなな」と答える系の人の顔つきと化した。
(;´Д`)「ゴメン、ちょっと説明が不足しすぎだね」
「申し訳ありません。提督閣下の案があまりに斬新で我を忘れてしまいました」
順を追って説明した方がいいと思い、僕は席を立ってホワイトボードへと向かう。榛名さんからマーカーを受け取ると、キャップを外して付近の海域を簡易に現す地図を書く。
「…………提督さん、下手っぴすぎない?」
(;´Д`)「高校時代美術の成績1だった人間としてはこれでも精一杯なの!!」
下手だって自覚はあるよ、でもいいじゃん本業は提督なんだから。
明日がお休みなので完結を明日まで延ばさせていただきます。眠気が限界に達しました、申し訳ありません
厳密に言うと日付変わってるんで今日ですね、重ね重ね申し訳ない
(´Д`)「結論から言うと、僕がこれから進めたいのは“青ヶ島そのもの”の要塞化なんだ」
「………?鎮守府施設で砲台や対空機銃を増やすということですか?」
(´Д`)「当然それも行うけど、ちょっと違う。旧学園艦以外の部分……文字通り青ヶ島全域の話だよ」
ピンと来ず小首を傾げる榛名さん。僕は青ヶ島を簡単に描いた図──決して床に落としたプリンじゃない──を、丸で囲んだ。
(´Д`)「青ヶ島は外輪山に囲まれていて砂浜が無い(※)。地形的な特性から、上陸し陸路で内部に浸透するのはもの凄く苦労する。この天然の要害を、作戦に組み込まない手はないと思う」
「………外輪山の上には森もあるから兵力や武器も隠蔽しやすいわな。深海棲艦が島に近づいてきた場合、これらの“伏兵”で援護射撃を行いつつ鎮守府の設備と艦隊で打撃ってところか」
※参考画像:青ヶ島外観
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira149204.jpg
(´Д`)「流石龍驤さん。理解が早い」
以前この地で深海棲艦の大群を粉砕したときの戦術が“イツクシマ”なら、今度のこれはまさしく“イオウジマ”式だ。
(´Д`)「鳥島の拠点化ができない以上、硫黄島・南鳥島方面への兵站線の間延びは絶対不可避になる。とはいえ、これらの鎮守府は故にかなり強力な戦力を有しています」
例えば硫黄島には、八丈島同様【一航戦】の加賀さん、赤城さんに加えて装甲空母改装が完了している翔鶴さん、更にかの大戦艦大和さんら130名からなる艦娘部隊が駐屯している。父島にも国内の同種艦娘の中では最高練度である扶桑さんと山城さんを中心に60名超、母島にも30名の予備艦隊。
全島合計200名オーバーという巨大な戦力は、平均的な練度も高いため深海棲艦が相当な物量で攻め寄せてきてもある程度の期間は持ち堪えられるだろう。
南鳥島は艦娘戦力こそ40名程度とやや小規模だけど、此方にも改装済みの翔鶴さんと大鳳さんが展開。更に欧州危機以降は空b……防空指揮艦【もがみ】を旗艦とした第5防空機動艦隊も駐屯している。北太平洋の情勢にも寄るが、機動力の面で言えば硫黄島方面に支援を飛ばすことも十分に可能だ。
(´Д`)「それでも、孤立無援であればいつかは落ちるし迎撃できる敵戦力にも限界はある。理想である鳥島の拠点化は行政上の理由でできない。
ならば次善の手として、硫黄島方面に割ける敵艦隊の量を制限せざるを得ないように仕向ける」
本土にも比較的近く他の離島と連携も取りやすいこの地は、よほどのことが無い限り兵站線を寸断される心配が無い。特に硫黄島に匹敵する戦力を保有する八丈島鎮守府と僅か70kmしか離れていないのは、防衛線を維持するにも引き払うにも大きなプラス要素になる。
その継戦能力の高さを最大限に生かすことで、南方孤立のリスクを出来る限り減らす。
(´Д`)「後方からの支援と艦隊の練度。そこに“島嶼それ自体が保有する防御火力”という要素が加われば………継戦能力の向上どころか、深海棲艦に“挟撃される危険性”を抱かせ、戦力を余分に分散させられるかもしれない」
島嶼自体が相応の火力を持っているなら、艦娘の数が減少してもある程度の迎撃は見込める。つまり、精鋭部隊による突貫で敵包囲網を突破して寸断されたシーレーンの回復、孤立した南方への増援を派遣する余裕も出てくる………実際にはそんなことは全くないけれど、「そう思わせることが出来た」なら十分僕らの勝ちだろう。
「後ろ向きではありますが、もう一つ大きな利点が。
仮に我々が制海権を掌握されてこの鎮守府施設が沈黙したとしても、島内陸部で我々が未だに戦力を有している可能性を敵が捨てきれなくなります。外輪山もそうですが青ヶ島は全体的に峻険な地形が多く、小島ながら引き込んでのゲリラ戦はうってつけだ。
予め島内にも予備の物資備蓄でも用意しておけば、実際に陸上戦を展開し防衛限界を“制海権喪失後”に至るまで引き延ばすことも可能です」
県一尉の補足は彼自身が言うとおり僕らにとって“最悪”の展開であって、あまり想像して気持ちのいいものではない。とはいえ、戦争を準備する以上“最悪の状況”に対する備えは絶対不可避になる。
楽観論で戦争に望んだらどうなるかは……インパール……ジンギスカン……ウッアタマガ……
それに───僕らにとっての“最悪”で納まるのなら。国にとっての、日本にとっての最悪にならずにすむのなら。
それはきっと、僕等が役目を果たせたと言うことなんだろう。
「上陸を許した時点でほぼほぼ詰みではありますが、艦娘の皆さんや提督殿、海さん方の脱出時間の確保、そして南方部隊の後退や救援に繋がるなら本望です。せいぜい、奴等が辟易するほど意地汚く粘り抜いてみせましょう」
「阿呆。陸のとはいえ同じ日本守る仲間見捨ててはいそうですかありがとうって逃げられるほど神経図太く出来とらんわ。そん時来たら、ウチはあんたらも引き摺って後退させるか一緒に小銃担いで残るかさせてもらうからな」
「は………はぁ……それはなんとも勇ましい……」
さらりと、しかし有無を言わさぬ強い口調で言い放たれた龍驤さんの台詞に県一尉はしばし右往左往した後に押し黙る。その眼には感動と畏敬と……あとなんかもう一つ感情が浮かんでいる気がする。
(´Д`)「………」
県一尉には後で念を押しておこう。何がとは言わないけどね、何がとは。
「しかしアレやな。確かに県一尉の言うとおり凄い作戦やわ。ある程度潤沢な艦娘戦力を持ってるのに深海棲艦との“陸戦”を最初から視野に入れた作戦計画とか、なかなか思いつくもんじゃない。
手放しで褒められるええ作戦や───準備する時間があるなら、な」
(´Д`)「………うん」
本当に、流石龍驤さん。何から何までお見通し。
青ヶ島外輪山の拠点化、そう一口に言うとただ画期的な案のように思える。だけど現実は、戦略シミュレーションゲームのようにコマンド一つで簡単に城や要塞を立てられるわけではない。
二重カルデラ地形という特性上、地盤に関してはそこまで苦労はしないだろう。ただ、急斜面ということで自走砲や戦車のように車両系の火砲は設置箇所に大きな制限が設けられる。同様の理由から、大口径砲に関しても恐らく多数配備することは難しい。
迫撃砲、臼砲などなら数も相応にあるが、此方で対処できるのはせいぜい通常種の非ヒト型軽巡級まで。押し寄せてくる深海棲艦の大艦隊に、「南方に大きな戦力を割くことを躊躇わせる」には何千門束にしようと威力が不足する。
本土から威力がある陸上火砲の輸送とそれらを深海棲艦に対して効果的な火線になるよう調整しながら配置………2、3年前ならいざ知らず、「明日にも侵攻が始まるかも知れない」今の状況で残されている準備時間は極僅か。
県一尉は賞賛してくれたが、実際この計画を脳内でつめていくにあたって朝覚えた高揚は消えていった。今の僕の胸に変わって去来したのは、自分に対する失望と怒り。
ああ畜生、何が「自分は人類の要衝の守りを任されている」だ。
何故数年もの期間この空白地帯に悩まされていながら、この事に思い至らなかったのか。いや、何故かなんて決まっている。僕が迂闊で無能だった、ただそれだけの話。
(´Д`)「龍驤さんの言及した問題以外にも、この計画にはいくつもの問題がある。
内陸誘引を前提とした場合村民はどうするのか?硫黄島に思いの外大きな戦力が投入された場合それをどうやって更にこっちに引きつけるのか?逆にこっちに予想を大きく上回る敵艦隊が殺到した場合どれぐらい持つのか?火力の件も含めて、これらの問題を解決するために残されている時間は少ない。しかもただ“少ない”というだけで、正確にいつ頃までなのかさえわからない」
県一尉への注文も、言ってしまうなら「間に合う確率が低くてもやらないよりはマシだから」出した要請。
そして僕の容量の少ない脳味噌では、これに変わる南方の孤立を阻止する方策もこの計画の完成を早める案も思いつかない。
(;´Д`)「………訓練や情報収集、資源備蓄も併行して進めていかなきゃいけない中で、とんでもない無理難題を言ってごめんなさい。でも、僕みたいな無能には現状は南方孤立の可能性を確実に低下させられる策はこれぐらいしか思いつかない。
どうか、力を貸して下さい」
「………ブハッ!!ハハハハハッ!!!」
机に額がつきそうな程、深く頭を下げた。そんな僕の姿を見て、瑞川漫才も耐えきった石田一尉が突然吹き出しそのまま笑い始めた。
(;´Д`)「えっ、えっ」
「はぁー……年甲斐もなく大笑いをしたのは久し振りです、横隔膜が攣るかと思いました………さて、八頭提督」
戸惑う僕の目の前で一頻り笑い続けた後、目尻の涙を拭いた石田一尉は口角を引き締めて僕を見据える。
決して大柄でも筋肉質でも無いけれど、六年間にわたって深海棲艦と最前線で戦ってきた海の男の眼光に思わず背筋が伸びた。
「海上自衛隊一等海尉として、そして50余年の人生を送ってきた頭の固い中年として二つほど忠告させていただきます。
まず一つ目。才人の“謙虚”は時として他人からは鼻持ちならない傲慢に映ることがある。そうでなくとも、あまり気分のいいものでは無いのでもう少し胸を張っていていただきたい。
そして二つ目。貴方がどんなに自身を卑下して低い評価を下そうとも、我々にとって貴方は頼れる指揮官です。
青ヶ島鎮守府の、提督です」
石田一尉、県一尉、小栗三佐。
龍驤さん、榛名さん、川内さん、瑞鶴さん。
いつの間にか、この会議室にいる全員の目が僕に向けられている。
「“お願い”をする必要なんか無い。民間の出だろうがなんだろうが、貴方が提督であるのなら────ただ、我々に命じてください」
(´Д`)「……………」
(´Д`)「…………日本を守るため、共に僕等に出来るベストを尽くそう」
「「「「了解!」」」」
.
<ヒトフタマルマル。正午だ。司令、谷風がくれた戦闘配食だ。海での握り飯は格別だな>
<13時です。ふぁ~。お昼休み、楽しかったー!>
「煙、煙すご………ゴホッ、窓開けて窓!!」
「誰だ磯風と比叡が厨房に入るの許可した奴ぅ!!」
「スプリンクラー作動!スプリンクラー作動!!」
「倒れてる駆逐艦抱えて避難させろ!急げェ!!」
「今厨房でなんか爆発……ぐへっ!?」
「かわう……川内ーーーーー!!?」
「うわぁあああ火がぁああああああ!!?」
「お前ら伏せろぉおお!!!!」
「引田給養員落ち着いて…………ぬわーーーーーーっ!!!?」
「司令かあああああああああん!!!?」
「なんでこんな………私は………私はただ………サンマを焼きたかっただけなのに……!」
※2017年11月某日、青ヶ島鎮守府食堂での惨事に関する音声記録を一部抜粋(横須賀司令府にて始末書と共に保管)
~閑話休題~
( T)ギュゥウウウ……
(,,゚Д゚)
::( T):: ギュウウウウウウウウッ
(,,゚Д゚)
( T)「手痛い。無理」
(,,゚Д゚)「えぇ……」
( T)「何これ?技研の新兵器?」
(,,゚Д゚)「しぃが作った“料理”だ」
( T)
(,,゚Д゚)「本人曰くパンらしい」
( T)「えぇ……」
~閑話休題終了~
<ヒトヨンマ…お、三水戦の皆集まってるよね?よーし!じゃ、夜戦に備えて、演習しときますか!>
.
迫り来る97式艦攻の軌道上から、跳ぶようにして川内さんが身を躱す。放たれた模擬弾頭魚雷は彼女の僅か5cmほど横を掠めるように進み、200mほど後ろで敷居として浮かんでいるカーボン製ブイに直撃し水柱を上げた。
すかさず彼女が右手に装着した15.5cm三連装砲を構え、砲撃。射線上にいた雷さんがこれの直撃を受ける。
司令室内にブザーが鳴り響き、演習判定員の陣内二等海曹が「電、中破」とマイクに向かって通達。よほど回避できなかったのか、珍しく彼女が悔しそうな声を上げる様がスピーカーから聞こえてきた。
敵討ちとばかりに、榛名さんと白雪さんが突貫。榛名さんが35.6cm連装砲の一斉射で砲幕を張り、川内さんの動きと視界を奪った上で白雪さんの雷撃で仕留めるという作戦らしい。
(´Д`)(失敗するな)
動き自体は素早く鋭いが、猪突猛進気味で周囲の警戒を怠っている。案の定砲撃態勢に入った瞬間、零式艦上戦闘機が編隊を組んで一斉に機銃掃射。頭部障壁に弾幕が集中したことで視界を遮られ、榛名さんは棒立ちに近い形で動きを止めてしまった。
《!? は、榛名さん!?》
《ダメです白雪さん、止まらず攻撃を!》
《えっ……きゃあっ!?》
榛名さんへの妨害に動揺してこれまた足を止めた白雪さんに、九九式艦爆の急降下爆撃。ブザーの後、無情にも下される轟沈判定。
《くっ、勝手は榛名が───もうっ!》
側面に回り込んだ妙高さんの雷撃が三発全弾命中。大破着底判定を聞かされ、実は凄く負けず嫌いな性格をしている榛名さんは悪態と共に水面を蹴り上げる。
さて、これで後はBチームは旗艦の大鳳さんのみ………ああいや。
《うぅ……か、艦載機全滅判定って……》
《っしゃ。詰みやな》
こっちももう終わってるか。
「────状況終了。Bチーム、島嶼防衛側は参加18隻中9隻が轟沈、2隻が大破、6隻が中破、1隻が無力化判定。対しAチーム、小破1。他、支援艦【こんごう】は艦上武装の一部に損害判定」
「戦闘指揮所より演習参加艦各位、速やかに上陸・休憩とせよ。ヒトゴーマルマルより演習結果の研修・総括会を行う。それまで体力回復に努められたし」
「提督閣下、ただ今の演習結果の詳細データです」
(´Д`)「篠崎一士、ありがとうございます。後ほど目を通すので、ファイルに纏めておいて下さい」
「了解しました!」
伸ばしかけた手をギリギリで止め、指示だけ出しておく。
いつもならすぐにでも飛びついて目を通したいところだが、そうすると考察や次回の計画、皆の動きを元にした対深海棲艦戦のシミュレーションなどに没頭して他のあらゆる事柄が耳にも目にも入らなくなる。
“オモテナシ”の真っ最中に、それは流石にマズい。
( ´∀`)「────いやぁ、素晴らしいものを見せて貰えました」
ましてやその相手が、内閣官房長官なんていう大物なら尚更に。
革張りの椅子に深く腰掛ける、老紳士が1人いる。背も大して高くはないし、体格は柳の木のように細くて頼りなげだ。浮かべる微笑みは柔和で春の日和のように暖かく、落ち着いたデザインの藍色のスーツと妙に纏う空気がマッチしていた。
パッと見た限りでは、この人が百戦錬磨の経験とそこから培った技術で妖怪が集う政界を40年以上も渡り歩いてきた南内閣のブレーン、茂名 尾前(しげな・びぜん)だとは思えない。
実際、彼が街の雑踏の中に紛れ込んだとしてマスコミでは忌み嫌われネット界隈では南首相に次ぐ人気を誇る大物政治家だと気づける人間は片手の指の本数を越えられるだろうか。
それほどまでに、彼からは平穏な、どこにでもいる好々爺のようなオーラしか感じられないのだ。
( ´∀`)「軍事も艦娘運用も私はずぶの素人ですが、それでも貴方の指揮下の艦娘たちが非常に高いレベルで鍛えられているのはよく解ります。流石は、国防の要たる拠点を預かる提督ですね」
(´Д`)「はっ、大変恐縮です。総旗艦龍驤以下当鎮守府に勤める総勢83名の艦娘の皆も、そのお言葉を聞けて喜ぶと思います」
( ´∀`)「ははは。貴方方の重要度を考えるなら、寧ろ私如きの“お褒めの言葉”程度で済ませるのは大変な無礼かも知れませんね」
喋り口も穏やかかつ丁寧で、それでいて知性とちょっとしたユーモアが溢れている。
これはまた、なかなかに首相とは随分と対照的だ。
( ´∀`)「それにしても、急な申し出にも関わらず調整していただきありがとうございました。こうしてこの様に素晴らしい演習を見せていただき、大変有意義な時間を過ごせましたよ」
(´Д`)「ありがとうございます長官。
ただ、特にB艦隊の名誉のために申し上げますとアレでも彼女達はベストからほど遠い動きです」
( ´∀`)「………アレで、ですか」
(´Д`)「えぇ」
これは誇張も嘘も無い、100%の事実だ。榛名さんや大鳳さんの動きに冷静な判断が欠けた場面が多々見られたが、これはとりもなおさず昼休みに発生した一騒動の影響も確実にあるはずだ。
正直、あの1時間半の地獄を題材にして小説を一本書ける自信がある。まさかサンマを焼くだけだったのにあわや鎮守府全域が壊滅する危機に陥るとは。
(ⅲ´Д`)「…………」
( ´∀`)「あの、お顔の色が優れませんが」
(;´Д`)「……申し訳ありません。何でも無いです」
ダメだ、あの件について思い出すとそれだけで胸の内に疲労が蘇ってくる。疲労だけですめばいいが、「官房長官の眼前でゲロをぶちまけた男」として日本史の教科書に載るのだけは絶対に御免被る。
(´Д`)「随伴していた新聞記者の皆さんは、別室に待機していただいております。別会場で記者会見の準備もさせておりますので」
( ´∀`)「お心遣いはありがたいですが、会見時間は五分も取りませんから専用のスペースなどは結構ですよ。なにせ今日は、このあとすぐにも八丈島から飛行機で永田町にとんぼ返りしなければいけないので」
(´Д`)「………あぁ」
言われて、朝のニュースが脳裏に蘇る。確か、艦娘関連法案制定のため南首相が臨時国会を召集していたはずだ。
……あれ?でも、だとしたら何でこの人は今日来たんだろう。
大規模演習も状況設定こそ変われど毎日のようにメンバーを入れ替えながらやっているし、わざわざ重要な会議の当日に東京から360kmも離れたこの島まで来る意味合いは薄い。状況設定が変わることを知っていたからこの日にしたという見方もあるが、そちらは茂名長官直々に“自分は詳しくない”と否定があったばかりだ(嘘をついている可能性もあるが)。
( ´∀`)「そりゃあ私が何故この日を選んで来たのかは当然気になりますよね」
(;´Д`)そ「えっ、いや、その……」
( ´∀`)「あぁ、そう驚かないで下さい。貴方の疑問は当然のことですから」
どうも、顔に出ていたらしい。天気の話でもするみたいにさらりと心境を言い当てられて慌てふためく僕の様子を興味深げに眺めながら、茂名長官は相変わらずの穏やかさでそう付け加える。
( ´∀`)「マスコミの方々は“危険な最前線を視察する官房長官”をアピールして内閣の支持率アップを狙っていると思われてるようですが、だとしたらもっと暇な日に来ます。
それに、そんな七面倒で回りくどい真似をせずとも南君の支持率は最新の世論調査で60%を大きく超えている。インターネットに限れば大手サイトでは平均して70%前後にまで達する。あんなゴミどm…………」
(´Д`)
( ´∀`)
( ´∀`)「あんなクソウジむs」
(´Д`)
( ´∀`)
( ´∀`)「……お忙しいマスコミの皆さんから時間を奪ってまでやることではありません」
(´Д`)「アッハイ」
うん、ちょっと認識を改める。
間違いなくこの人、あの首相と同類の人物だわ。
軽く咳払いをして、茂名さんは話を再開した。まぁね、毎回あんな中身の無い質問定例記者会見でぶつけられまくってたらいろいろたまってくるよね。
( ´∀`)「言ってしまうなら、今回のこの視察は半分は僕の身勝手な我が儘です。日本国の国防の要衝を守る“元民間人”がどんな怪物じみた男なのか、世界が危機に陥る中でふと見てみたくなった………というのが一点。
そしてもう一点は、ちょっとした“お誘い”です」
(´Д`)「お誘い……ですか?あ、宮田一士、御茶ありがとうございます」
( ´∀`)「あぁ、ありがとう、ちょうど喉が渇いていたところです………それで、お誘いの内容ですが」
寒い季節にはぴったりな、身体の芯に染みる熱い御茶。猫舌なのもあってふーふーしながら口をつける僕に対し、茂名長官は一瞬で全て飲み干してしまうとすぐに話題を再開した。
( ´∀`)「横須賀司令府で、貴方を本土に招聘し“元帥”に任命する動きが出ていまして」
(;´Д`)・∴∵゚。、「ボバブフゥウウウッ!!?」
そして僕は、激アツの御茶を思い切りひっくり返すはめになrあちちちちちちちちち!!!!?
「何やっとんキミィいいいい!!!?」
丁度指揮所の前まで来ていた龍驤さんが濡れタオル片手に跳んできてくれたお陰で、僕は笑いを堪える官房長官殿の前で醜態を長く晒さずにすんだ。
(;´Д`)「す、すみません長官。その、あまりのことに驚いてしまったもので………」
( ´∀`)「いえいえ構いませんよ。あと、面白い物を見せていただいたきありがとうございます。おひねりを投げかけた私の無礼をお許し下さい」
この官房長官酷い。口調が柔和な分歯に衣着せない物言いの強烈さが一段増してる。
南首相と同類の言動とか思ってたけど、寧ろこの人が首相の劇薬みたいな言動のルーツじゃあるまいね。
( ´∀`)「それで、其方のお嬢さんが」
(;´Д`)「あっ、改めてご紹介致します。我が鎮守府の総旗艦にして筆頭秘書艦の龍驤です」
「り、龍驤です。製造番号は12、お初お目にかかり光栄です官房長官閣下……なぁ、閣下でええんやっけこの場合」
(;´Д`)「えっ!?いや、どうだろう僕も解んない。というか急に聞かないでよ」
「しゃーないやんウチこういうお偉いさんと話すの初めてなんやもん!」
(;´Д`)「とりあえず総理大臣も閣下っていうし内“閣”っていうぐらいだし閣下でいいんじゃ」
( ´∀`)「上級軍人への呼び方である印象が一般的には強いですが、昔から文官にも使われていたので閣下で差し支えないと思いますよ。ただ、呼びにくかったら“クソ陰険爺”でも結構です」
(;´Д`)そ「「そっちの方が呼びにくい!」」
ハモらせ気味に声を上げた僕と龍驤さんの様子に、閣下(或いはクソ陰険爺)はまた静かに笑いを堪えている。
( ´∀`)「しかし秘書艦……つまり八頭提督の右腕、懐刀、頼れる女房役といったところですか」
「……………ぃ、いや秘書艦ってだけでそんなんちゃう、違います、し」
今更“官房長官”を前にしているという事実に緊張したのか、みるみるうちに龍驤さんの頬に赤みが差し………
( ´∀`)「なら丁度いい。
改めて、横須賀司令府に来ませんか八頭提督」
「え」
すぐに、蝋のように白くなる。
>>54
青ヶ島は二つのお山がそびえ立つ素敵な所なんだなぁ、っち
undefined
( ´∀`)「本来こういった人事を告げる役割は別途鎮守府機関にありますし、少なくとも客体的文民統制の観点から私のようなド素人が口出しすべき内容ではありません。
ただ、深海棲艦への対策に今日本中の鎮守府が忙殺されている中で横須賀司令府ですら一分一秒の時間も無駄に出来ませんし、下士官一人さえ遠方に差し向ける余裕はありません。
その中で貴方───八頭提督への最大限の礼を尽くして中央に迎えたいという横須賀司令府の意図を汲んで、なんとか時間の調整がついた私に白羽の矢が立てられたということです」
(´Д`)「…………なるほど」
対深海棲艦統合総司令官──通称“元帥”の地位は、日本国内に現存する鎮守府関係階級の中では最高位にあたる。まぁ、厳密に言うと海上自衛隊の一組織である鎮守府も最高司令官は法律上内閣総理大臣だが、専門職として指揮権を持っているのはあくまで“元帥”だ。
権限は、“鎮守府に関連・所属するもの全て”への指揮権・命令権。つまり日本国内並びに要請を受けて展開している東南アジア複数箇所の戦力を、自在に動かせるようになる。
かつての、連合艦隊総司令官に匹敵する役職だ。富も名誉も名声も、おそらく「今」とは比べものにならない。
(´Д`)「………私は若輩者ですし、何より民間の上がりです。やはりそう言った役職は、現“元帥”閣下のように正規の自衛隊員かせめてもう少し実績のある人間をつけるべきではと」
( ´∀`)「東欧連合をご覧なさい。海軍統合司令官のデレ=フェデレさんは貴女よりは年上とはいえ31歳は十分に若輩です。ベル=ラインフェルト陸軍統合司令官は左遷に等しい身から今の地位に抜擢されたと言います。
能力面については、イツクシマ作戦では総指揮こそ杉浦一尉ですが貴方も前線指揮官として見事な采配を振るった。
四年間にわたり、轟沈艦を1隻も出さずにこの島を守り抜いてきたのだから実績も十分だ」
茂名長官の口の端が、にぃっとつり上がる。三日月のような口元が、今までの好々爺然とした様子を打ち消す。
思わず後退りたくなるような、威圧感のある笑み。
( ´∀`)「日本国それ自体もそうですが、我々は有能な人材を1人でも多く活用する必要があります。元の身分だとか年齢だとか、そんな封建社会のような理論を振りかざしているときでは断じてない。
受けて下さいますか?一等海佐相当官───おっと、“元帥”候補官」
(´Д`)「………」
>>54の画像がPCからだと異様なことになっていたのでPC閲覧者向けに再掲させていただきます。対処遅れまして申し訳ありませんでした
※青ヶ島外観
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira149219.png
傍らに立つ、龍驤さんに視線を送る。彼女もまた、僕を見上げた。
日頃は元気で威勢がいい、頼れる僕の秘書艦。それが今は、まるで雑踏の中で親からはぐれそうになっている子供みたいに怯えた眼をしている。
どこにも行かなでとでも言いたげに無意識の内に僕の提督服の袖口を摘まむ指は、震えていた。
…………深海棲艦と初めて戦うときだって、こんな様子じゃ無かったのにな。
(´Д`)(まぁ、このタイミングにいちいち官房長官がお出ましになる時点で、ただの視察じゃ無いとは思ってたけどね)
それにしても、本当によかった。
「……あ」
龍驤さんの手をふりほどき───しっかりと握り返しながら、僕はつくづくそう思う。
(´Д`)「お断りします、ク……官房長官閣下」
答えが最初から決まり切っている内容で、本当によかった。
( ´∀`)「今、クソ陰険爺と言いかけましたね?」
まぁいいですけど。そう言って笑う茂名長官の笑顔が、たちまち元の「好々爺」へと戻っていく。多少の叱責は覚悟していただけに、ちょっと拍子抜けしてしまう。
( ´∀`)「物語でしたら、こういう場面は断られるのが相場と決まってますからね。正直な話、予想はついていました。
司令府の方にも、ダメ元だとは念押ししてありましたしね」
肩を竦めて見せる動作が、ひょろりとした長官の体躯ではとても様になっていた。
( ´∀`)「ただ、理由についてはお聞かせ願いたいですね。事前に資料を見せていただいた限り、貴方は自己評価がやや低すぎる傾向があるものの責任感も強い。この際言ってしまうと詭弁もいいところではありましたが、“人類のため”という文言にも少しも迷う素振りを見せなかったのは少々解せません。
富や栄誉では貴方は動かないだろうと踏んでいたので、此方でも無反応というのは少々意外でした」
(´Д`)「理論的な部分で言いますと、僕の能力云々を抜きにしても八頭進という人間の元帥昇進のタイミングがどう考えても適切では無かったからです」
まず僕の“民間志願組”という出自を、海自や横須賀司令府の中では嫌っている人も多い。元帥に昇進したとして命令を聞くことを良しとしない派閥が出来ることは火を見るよりも明らかで自分で言うと悲しくなるが僕は上層部においてしまうと寧ろ“団結を阻害”する存在になる。
加えて、さっき官房長官にも言ったが“現元帥”がいてしかも別に彼は何かしらの失態をやったわけではない。その最高責任者を唐突に、しかも敵の大規模攻勢が秒読みに差し掛かりつつある中ですげ替えれば間違いなく中央指揮系統に混乱が発生するだろう。
仮にこれが僕以外の───それこそ東欧連合軍の2人のように超絶有能な士官だったとしてもあまりにも交代のタイミングが不可解だ。
では、戦略的な意味ではまるで日本に利するところが無いトップの交代劇。戦略的な意味がないなら、次に視点となるのは“政治的”な方向だ。
(´Д`)「間違っていたら申し訳ありません。ただ、海自上層部並びに横須賀司令府は深海棲艦の大規模攻勢を前にスケープゴートを作ろうとしていたのでは無いかと」
( ´∀`)「…………これはこれは、金田一耕助か夢水清志郎か、といったところですね」
(;´Д`)「シリーズ作品は愛読書でしたが後者はちょっと勘弁して貰えると助かります」
常識人じゃ無いことは自覚しているけど自分の名前も忘れて腹が減ると野生化する自称“名探偵”と並び称されてしまうと、架空の人物だと解っていてもちょっと傷つく。
( ´∀`)「貴方の推察でほぼあっています。司令府と海上自衛隊の中枢は、来る深海棲艦との大規模防衛戦に向けてあろう事か自分たちの保身を考えています」
(´Д`)「耳障りのいい言葉で大々的にお飾りの指揮官に祭り上げて、防衛戦が成功しても失敗しても自分たちの手柄にするつもりですか」
( ´∀`)「ええ、浅ましいものです」
もし勝てば「出自に囚われない人事抜擢で勝利を掴んだ自分たちの慧眼」を、負ければ「偶然の産物で英雄になったが馬脚を露わにした無能な指揮官」をそれぞれ大々的に喧伝できる───こんなところだろうか。仮に後者の道を辿った場合抜擢した側にも批判は降り注ぐだろうけど、それは敗北の責任を“直接”被るよりは遙かに傷は浅くなる。なにせ、矢面に立ってくれる恰好のわら人形があるのだから。
それに僕なら………上層部の多くに嫌われ、根回しや人脈造りが困難な僕なら、前者の結果を辿っても「お飾り」のまま担ぎ上げていられ自分たちの既得権益や実権は握り込んだままでいられる……邪推だが、そんな計算も働いていそうだ。
( ´∀`)「勿論、自衛隊や司令府が完全に腐りきってるわけでは無いです。というか、ぶっちゃけた話これでも他国に比べれば相当にマシな部類ですね。保身を謀って私にこんな馬鹿げた話を持ってきた連中も、こと軍事に関しては優秀ですし」
その点については僕も同意する。鳥島の重要性には上層部も早くから気づいて八丈支庁に働きかけていたし、戦力の増強や深海棲艦への対処にも熱心だ。何より、僕が記憶する限り海自も司令府も上層部の顔ぶれは開戦以来殆ど変わっていなかったはずだ。つまり、六年間に渡って深海棲艦と彼らは渡り合ってきた。
逆に言うと、そんな歴戦の士の集まりでも及び腰になり最悪のタイミングで逃げを謀ろうとするほど、今後の深海棲艦による攻勢は苛烈を極める可能性が高い。
(´Д`)「………でも、そこまで理解しているのなら何故官房長官は私をあれほど真剣に誘ったのですか?」
( ´∀`)「一つは、貴方には本気で拒絶して貰う必要があったからです。
さっきも言ったとおり、今回のスケープゴート探しは司令府や自衛隊上層部の腐敗以上に想像を絶する深海棲艦の物量に対して及び腰になっているところが大きい。彼らに、“民間出身でありながら勇敢にも最前線に立つ提督”の姿を見せる必要があった」
きゅっと、茂名官房長官は眼を細める。
( ´∀`)「元一般人が肝を据えて戦う覚悟を決めているとあれば、一時の臆病風で萎えているだけの人間は奮い立ち肝を据え、浅ましい考えに囚われることも無くなるでしょう。
逆に根が完全に腐りきっている奴は………まぁ“間引き”ますよね。悪貨は良貨を駆逐するといいますし」
(´Д`)「…………………万に一つですけど、例えば僕が義憤に駆られるなり私欲に駆られるなりして元帥昇格を受けたら?」
( ´∀`)「前者なら大局観に、後者なら資質に欠け重要拠点の指揮をこれ以上任せるわけにはいかないとして更迭する予定でした。そして、上層部の綱紀粛正と引き締めは我々の手で行った上で別の優秀な提督を青ヶ島鎮守府に派遣するか内部昇格という形を考えたでしょうね」
(;´Д`)「………なんか、更迭という単語の前に“あの世に”って一言が隠れていたような気がしないでもないんですけど」
( ´∀`)
(;´Д`)「沈黙を、沈黙をやめてください」
イギリスも真っ青の二枚舌にどっと冷たい汗が噴き出る。あぁ、正直者に生まれてよかった。
( ´∀`)「もう一つ理由を挙げるなら────上層部の思惑とは別に、私自身は貴方のような人間にゆくゆくは鎮守府組織の上層部を率いていって欲しいからというのがあります。
イツクシマ作戦で現場指揮のレポートを見た杉浦一尉も、貴方の指揮は柔軟で無駄が無いと絶賛していました。志願組であるが故に、固定観念に囚われない発想ができるのは強みだとも。
八丈島鎮守府や硫黄島鎮守府からも度々司令府や内閣に貴方の昇進を推薦する話が来ていたのはおそらく」
(;´Д`)「……えぇ、存じませんでした」
怒濤の勢いで発覚する事実の数々に目眩がする。僅か数時間とはいえ官房長官の“おもてなし”が決まった時点で疲労困憊必至だと覚悟はしていたが、予想と方向性がいささか違った。
( ´∀`)「貴方が戦略的な理由“のみ”で断るようなら、改めて事態収束後に貴方を“元帥”に………少なくとも司令府付の上級提督にするつもりでした。
……が、貴方はこういった。理論的に“は”と」
魑魅魍魎が跋扈する政界を身一つで生き抜いてきた老政治家の、鋭い眼が微笑みの中で仄暗い光を放つ。
( ´∀`)「理由を、お聞かせ願えますか。ただの老人の好奇心ですが、私は八頭進という人間の“本音”を聞いてみたい」
「っ」
これが、そろそろ70を越えようかという老人が出せる迫力なのだろうか。歴戦の精鋭であるはずの龍驤さんが気圧され、繋がれる手二力が入る。
暗に、「嘘はつくな、そして隠すな」という言外の警告。……僕が竦み上がらずにすんだのは、きっとその警告が的外れだったから。
僕が司令府勤めという“栄光”に背を向けて、ここに止まり続ける理由。そこには隠したり偽ったりしなければならないような、恥ずべき事は何も無い。
(´Д`)「国内外訪わず、“対深海棲艦戦争で一人の犠牲者も出していない”という誤解をしている人が少なからずいます。【艦娘】技術誕生の地であることや東南アジアを中核とした反攻作戦で自衛隊が中核を担ったこと等が誤解の主な原因だと思いますが、実際は違う。“本州への上陸を許さなかった”というだけで、実際には日本も少なからぬ死者を出しています」
海上保安庁、131名。海上自衛隊、417名、航空自衛隊、19名、陸上自衛隊、66名。
深海棲艦との遭遇・戦闘が原因となる殉職者の数だ。
そして、戦争が始まった八月半ばは───日本では夏休みシーズンの真っ只中にある。
( ´∀`)「オセアニア、東南アジア、ヨーロッパ西海岸………海外旅行などを理由に国外にいた邦人、凡そ19万7000人が戦禍の犠牲となりました」
(´Д`)「その数字の内三人は、僕の身内なんです」
隣で、はっと息を呑む音がした。そういや、彼女にも話したことは一度も無かったっけ。
(´Д`)「父の八頭鬼平、母の桐子、そして……妹の一三(かずみ)。
たまたまインフルエンザで寝込んでいた僕を残してハワイ旅行に行っていた三人は、奴等との戦争がはじまったまさにその日、世界で初めて確認された【駆逐イ級】の砲撃によって命を落としました」
今でも、外務省経由で報せが届いたときの気持ちはよく覚えている。目の前が真っ暗になるという表現が非常に的確な比喩だったと言うことを思い知ったあの日。
寡黙だが温和で、いざというときは頼りになった父。
怒ると魔王も裸足で逃げ出すほど怖いが、そうでなければ優しくおおらかな母。
人生初のハワイ旅行直前でぶっ倒れた僕を「バカじゃないの?」と容赦なく扱き下ろしつつも、しつこいぐらい買ってきてほしいものや見たい場所を(本人はさりげなくやっているつもりで)繰り返し繰り返し聞いてきた、根は優しい妹。
三人の笑い声が、永久に家の中から消えた日のことを。僕は死ぬまで忘れられないだろう。
( ´∀`)「では、貴方は復讐のため提督の道を歩んだと?」
(´Д`)「家族の死がきっかけでしたが、そう言った感情でこの任に着いていたなら私は今頃生きていないでしょう」
恨み辛みで人生過ごしたって、楽しいことは一つも無い。裏見てないで、前を向いて生きろ。
僕等兄妹二人に、父が時折口にしていた言葉。
酷い親父ギャグだと昔は思っていたが、今はその言葉の意味がよく解る。
(´Д`)「月並みな話ですが、“自分と同じ様な身の上の人間”をこれ以上増やしたくなかったんです。海上自衛隊が犠牲を払いつつも何とかシーレーンを持ち堪えさせてはいましたが、突破されれば比べものにならないほど多くの人が犠牲になります、それを防ぐ一助になれればと言う思いでの志願でした」
( ´∀`)「……少々理解しかねますね。これは私見ですが、ならば尚更中央でその辣腕を振るうべきでは?大局的な視点で軍を動かす立場になれば、その規模に比例してより多くの深海棲艦を自分の采配で食い止めることができる。
貴方が“そこまでの力は無い”と自身の能力を裁定しているなら、断言しますが貴方は自分に些か厳しすぎるかと」
(´Д`)「官房長官閣下にそこまで言って貰えるとは、望外の光栄です」
でも、僕の気持ちは変わらない。
(´Д`)「確かに、真の意味で私の理想を果たそうとするならきっと長官閣下が示してくれた“中央への昇格”こそが最も正しい道なのだと思います。
ですが………私は、彼女達を“ただの数字”にしたくないんです」
( ´∀`)「数字、ですか?」
(´Д`)「はい。ここにいる龍驤さんたちも、彼女と共に閣下の前で演習戦闘を行った川内さんたちも、他の艦娘の皆も、そして彼女達を取り巻く石田一尉ら自衛隊の皆さんも………私が横須賀の司令府に入れば、モニターや紙面に出力されるただの数字になります」
自衛隊総数、予備役含め39万6000名。
艦娘総数、内地待機含め23753名。
合計して40万を越えるこの“数字”は、本来なら一人一人に意思があり、感情があり、命がある。
この数字が例えば1000減ったとき、それは多くの場合同じ数の命と感情が失われたことになる。
だけど僕が上層部に行けば、僕の元に情報が辿り着いたときにはそれは「1000人の戦力を喪失した」というただ1行の事実として片付けられてしまう。
(´Д`)「深海棲艦と戦い、国民の生命と財産を守る………自衛隊と艦娘、そして艦娘の皆を率いる提督に課せられた役割です。
逆説的に言えば、今の日本の平和は命を散らす覚悟でいる人々が───実際に散らしていった人々がいるからこそ保たれている」
犠牲なき勝利など有り得ない、それは奴等との戦いに参加してきた人間の一人としてよく理解している。
そしてそれを感情に囚われず情勢を分析し、前線の艦娘や自衛隊に「命を散らすように命令できる」存在が必要であることも。
(´Д`)「私は臆病で、弱い人間です。ことあるごとに上がってくる数字の下で消えた重みに、死んだ人間、沈んだ艦娘の重みにきっと耐えきれなくなる。
そうして、麻痺するなり逃避するなりして自分がそれらをいつか“ただの数字”としか認識しなくなるかも知れないことが怖いんです」
龍驤さんは常日頃は頼れる筆頭秘書艦だけど、実は最近自分が駆逐艦や自衛隊の下士官に嫌われてるんじゃ無いかと気にしていて密かに妙高さんに相談する小心なところがある。
川内さんは読書家で、夜戦がない日は子供向け絵本から戦術書に至るまで夢中になって読みふけっている。
瑞鶴さんは自分が他の“瑞鶴”に比べて一際浮いていることに自覚が有り、訓練の過程で他の鎮守府の翔鶴さんに絡んではその反応を密かに楽しんでいたりする。
.
(´Д`)「青ヶ島は国防上の重要な拠点です。深海棲艦側も無視できない以上、“1人でも多くの国民を救う”ことはここでもやりようは幾らでもある。
でも龍驤さんたちと────ここにいる人達と共に戦うことが出来るのは、当たり前の話ですがこの鎮守府しかない」
県一尉は鎮守府に来てまだ一月と経っていないが、陸海の垣根を感じさせず海自の人達とも打ち解けている。
石田一尉は本土に自慢の息子さんがいて、警察官になった息子さんとのツーショット写真を財布の中に密かに入れて持ち歩いている。
小栗三佐は日頃は厳格だけど実は大のお祭り好きで、去年のハロウィーンパーティでは60Pもある企画書を徹夜で書き上げて予算案と共に僕に突きつけてきた。
こんな愉快な人たちが、艦娘も自衛隊も、誰もが国を守ることに、この太平洋の小さな島を守ることに誇りを持って僕と共に働いてくれる。
(´Д`)「例え今より遙かに大きな栄誉を受けようとも、例え今より遙かに巨額の富を得ようとも、僕はここの人達を“ただの数字の羅列”としてしか見られない場所には絶対に行かない」
偽善だとよく解っている。ベルリンやパリで多くの人達が深海棲艦の攻勢により無くなったとき、僕は涙一粒すら流しはしなかった。
傲慢だと承知している。単に切り捨てる覚悟が無いだけなのに、それをまるで自身の正義であるかのように語るのだから。
それでも、僕は。
(´Д`)「僕は、ここの、青ヶ島の───“離れ小島の提督”で有り続けたいんです」
久し振りに、気持ちのよい青年でしたね。ええそうです、例の“候補”の1人です。
確かな戦術眼に、柔軟な思考、素晴らしい人望、そして何よりも芯の通った考え方。
彼は自分のことを「臆病者だ」なんて言っていましたが、とんでもない。彼ほど「勇気」を持ち合わせた提督というのを、私はとんと見たことがありませんよ。
随分嬉しそうじゃないかって?当然ではありませんか。
老害的な言い分になりますが、今の何一つ目的意識を持たずただ人生を無為に消費するだけの大多数の若者達には私は絶望しか感じられない。一般公募から志願した提督がアレほどの“芯”を持っていたとなれば、我が国もまだまだ捨てたもんじゃないとね。
………まぁ、でも。
我々からすれば、残念なことに“不適格”ですがね。
彼の理想は、志は、非常に美しい。
、、、、、
美しすぎる。
間違いなく、“清濁併せのむ”器量はありません。個人的には好きですが、そとこの計画に「適格」か否かは全くの別問題ですから。
………そうですね、左遷は難しいでしょう。本人の意志もさることながら、周辺の鎮守府からも一目置かれていて、下の者達からの人望も厚い。司令府にはアンチも多数いますが、それと同じぐらい実は「ファン」も存在する。
下手な動きをすれば、我々の方が探られかねない。
えぇ、えぇ、ご安心下さい。
最悪“2階級特進”も含めて、対応は鋭意検討致します。
では、そろそろ付きますので一度切らせていただきましょう。
互いの国に、繁栄と神の加護がもたらされますように。
<ヒトキュウマルマル! 19時なの! イクの時間なの!>
忖度、という言葉がある。“他人の気持ちを推し量ること”が単純な日本語としての意味だが、特に政界においては暗に癒着を現す意味で使う場合がしばしばある。
エコノミックアニマルの最終進化形態である彼ら……政治家は、その多く(というよりはほぼ全て)の個体が損を嫌い得を好む。彼らとお近づきになりたい企業や人間は、彼らが求めるものを「忖度」して懐にそっとそれを落とし込む。彼らが有利になるよう情報を操作したり特定の人物のプラスイメージを誘導し、その見返りとして忖度した側は何らかの融通を受ける。
「政治」という概念が誕生してからは、この薄汚い「give-and-take」は人種、国籍、思想、言語を問わず世界中の歴史の裏で行われ続けてきた。
(#^Д^)「────以上の理由から、私は首相から提出されたこの新法案は全く受け入れられない!長年平和を保ってきた日本という国を、破壊しかねない“戦争法案”だ!!」
今、日本で一番“忖度”を受けている政治家は?という問いがあるなら………恐らく、衆議院議員にして共栄党党首、宝木蕗也(たからぎ・ふきや)がその答えにあたるだろう。
(#^Д^)「今、国会議事堂の外には何万という人々が、若者を中心とした平和を訴える人々の輪ができています!!」
声高に叫び上げながら、宝木の視線は記者傍聴席を一瞬見る。両方とも2.1という良好極まりない視力が自慢の彼の眼は、“懇意”にしている某新聞社の記者が絶妙のタイミングでシャッターを押したことをしっかりと確認した。
(#^Д^)「聞こえますかこの声が!!南首相、これは貴方に向けられた、平和を愛する数万の群衆の声なんですよ!!」
大嘘もいいところだ。南政権発足後デモ隊自体は国会の度に嫌がらせの如く動員を繰り返しているが、その人数は1000人を越えることすら極稀にしか無い。序でに言うとデモ隊の平均年齢は余裕の60越え、まぁ早朝ゲートボールクラブ辺りの基準で言えば若いと言えなくも無いだろう。
今朝方確認した限りでは、せいぜい3、400人と言ったところだろうか。少なくとも、どれだけ好意的にバイアスをかけても1000人を越えているようには見えなかった。
だが、それは宝木にとっては瑣事に過ぎない。極端な話、50人も集まっていれば彼にとっては“十分”だ。
(#^Д^)「南首相、貴方は極僅かなサンプリングから導き出された、見せかけの支持率は高いかも知れない!ですが実際には、貴方の軍国主義時代への回帰には国民が“No”を突きつけているんです!!
その証左が、外で響くあの声だ!!」
【10000人の群衆】がおらずとも、【議事堂の中まで届く声】が嘘偽りでも、宝木がそれを「存在する」と叫ぶことによって彼の意志を“忖度”した多くのマスコミ達はこぞってそれらが「ある」ことを前提に記事を書き、番組を練り上げる。
そうして、最も上手に「権力に立ち向かうイケメン共栄党党首」の構図を作り上げた会社には、日本海を挟んでユーラシア大陸にある幾つかのご近所さんから他言がはばかられる“スポンサー”が紹介されるという仕組みだ。
(#^Д^)「首相はいたずらに国民の深海棲艦に対する危機感を煽る前に、対話を含めた“血が流れない解決法”を模索するべきです!それこそが、首相たる者の責務だ!
────以上です」
ボロい仕事だ。
さも舌鋒鋭く与党を追及したかのような素振りで壇上から降りつつ、宝木は内心で舌を出す。政権運営なんて七面倒なことに携わらずとも、国会議員なんて立場なら儲ける方法は幾らでもある。
席に戻りながら、宝木の興味は既にこの後に転がり込んでくる“マージン”の算用に移っている。なおも各党の質疑応答や答弁は続くが、そもそも今回議題に上がっている法案はどう足掻いても成立の仕様が無い。気にするだけ時間の無駄だ。
(*^Д^)(明日の報道次第だが、基本的には最近ご無沙汰だった日ノ出テレビ辺りに仲介すっかな~。
後でスポンサーリストも見とかねえと。二千万は固いかなー、いやいやここは少し謙虚に見積もって──)
繋がっているマスコミからは、テレビ視聴率や新聞購読数の低下が著しいこの時代に高額スポンサーを紹介してくれる“神様”として。
スポンサーからは、日本の帝国主義に歯止めを掛けるために「マスメディア」支配の橋頭堡を造ってくれる“同志”として。
双方からどんなに少なくとも五百万、下手をするとサラリーマンの生涯年収に匹敵する「謝礼」が送られてくる。これが浮かれずにいられようか。
思わず鼻歌を歌ってしまいそうになるほどの陽気。実際足は机の下で軽くステップを踏んでいる。
ふかふかの絨毯が敷いていなければ、下手くそなタップダンスの音が室内で場違いにも響き渡っていたことだろう。
( ^Д^)(これだから泡沫政党の党首はやめらんねえや)
世間から大して注目されていないから、自分さえ基盤の地で当選できれば後は適当な候補を立てて“誰が当選するか”程度の感覚でポップコーンを片手に見ていられる。支持者も多くが妄信的なので、とりあえず“毅然と戦っている”ように見せかければ勝手に支持を続けてくれる。
外患誘致罪適用も視野に入りかねない“仲介業”に関しても、殆どのメディアは共犯である以上口をつぐむしごく一部の真っ当なメディアもたかが10議席そこそこの政党を追いかけたりはしない。そしてほんの少し電話をしていれば、定期的に何千万が金庫の中を潤す。
全く、真面目に仕事をしている政権閣僚の連中はバカじゃないだろうか。そんな嘲りにも似た感情が胸の内に沸き───
( ^Д^)「………ん」
ふと、手元に与党である国政党が用意した今回の法案に関する資料が目に入る。
.
自身が送る人生の順風満帆ぶりに人知れずハイになっていた気持ちが落ち着き、まだまだ答弁が続いていることに気づいた宝木は舌打ちする。
“退屈な時間”を埋め合わせる意味合いで、彼は何の気なしに資料を捲り喫茶店に置かれた新聞感覚で目を通し始めた。
( ^Д^)(………本当、無謀な法案だな)
本当に流し読みをしただけで、ほんの僅かでも政治を囓っている人間ならすぐに解る程度にはその法案の内容は滅茶苦茶だった。
いや、これは正確な表現ではないか。法案それ自体の筋は通っているし、ざっと読んだ限りはよく練られている。
だが。
( ^Д^)(【艦娘三原則】に手出しは御法度が過ぎるだろ首相さんよ)
第一条。艦娘は人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条。艦娘は人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条。艦娘は、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
自身が制定に携わった法案であり国際条約だ。資料など見ずとも、いつでも諳んじられる。
( ^Д^)(大半の国の首脳にとって、艦娘ってのはただの兵器であって欲しいんだ)
日本の独占状態に亀裂を入れて上手い具合に自国にも艦娘を実装できたとして、この“揃いも揃って見た目は麗しい美少女”という厄介な特性を持つ【兵器】を戦争に使えば間違いなく世論という強大な敵との戦いに晒される。深海棲艦という、“艦娘でなければまともに戦えない”共通の敵に対しての投入ならいざ知らず………例えば国家間紛争に使われれば、間違いなくベトナム戦争後期におけるアメリカのような光景が世界中で散見されることだろう。
( ^Д^)(かといって、深海棲艦の全滅前に“対人戦闘への投入”まで前例が出来ちまうと、それはそれで都合が悪い)
現在「自国製の艦娘」を保有する国家は、日本、アメリカ、ドイツ、イタリア、ロシア、イギリス、フランス、【丹陽】として数隻譲渡された雪風を含めるなら台湾も加わり計8カ国。
200に迫る国が存在するこの世界に対して、決して高い割合とは言い難い。
中でも、25000隻に迫る日本の保有数は群を抜いている。6個に及ぶ空母機動艦隊や太平洋戦争の頃より鍛え抜かれてきた精鋭の戦車部隊と連携すれば、小国なら片手間で制圧できるほどの圧倒的な戦力となり得る。
つまり、諸外国からすると
【艦娘に人権が発生されるといざ自分たちが運用するときに体裁が悪い】
その上で
【日本が技術を独占しているうちに対国家戦に艦娘が介入できるような状態が発生すると、混乱収束後に米国をも凌ぐ覇権国家の登場を許してしまう】
という非常に悩ましい状況下にある。外圧で取り上げてしまうと言う手もあるが、あの自分も深海から這い出してきたみたいなツラの日本国首相はそれを許さないだろう。
というより【艦娘三原則】の誕生時に中国と韓国は実際にそうなるよう画策したのだが、生産プラントが確立しきっていない事を理由に南が艦娘の供給それ自体の完全停止を匂わせたために頓挫したという経緯がある。
( ^Д^)(要は、艦娘三原則ってのは日本という国がこの動乱の中で“覇権国家”になり得ないための首輪なんだよ。ただでさえいつ外されるか戦々恐々の国際社会が、それを外すきっかけになりかねないことを許すはずがない)
国内にしても、中国が主導して形成した【対日経済包囲網】は財界を中心に深刻なトラウマとなっている。下手をしたら同盟国のアメリカまで機嫌を損ねかねないこの案を、可決できる筈がないのだ。
( ^Д^)(ったく、南の野郎は本当になんでこんな無駄な)
( ^Д^)
( ^Д^)(…………無駄な?)
宝木の脳裏に、その単語が妙に引っかかる。
(;^Д^)(何で、そんな無駄なことを秋の臨時国会でわざわざやったんだ?)
宝木が知る限り、南慈英は極めて合理的な政治家だ。時に強引とも取れる手段に打って出ることもあるが、それは「多少強引に攻めても勝てる」と踏んだときだけだ。
(;^Д^)(あり得ねえ。
こんな法案に、勝ちの目なんてあり得るはずがねぇ)
理窟では、その筈なのに。
何故、これほどまでに。
「─────では、投票を行います。対象者各位、本法案に賛成の場合はご起立願います」
冷や汗が、止まらないのだろうか。
起立による賛意を示す、椅子が引かれる音が一つ鳴る。
二つ、三つ………止まらない。
( ^Д^)(………待て)
四つ、五つ………まだ終わらない。
(;^Д^)(待て、待て!)
六つ、七つ………動悸が、止まらない。
「────では、投票行動を締め切らせていただき」
(;゜Д゜)「まぁあああてぇえええええええええっ!!!!」
最後の椅子音が鳴り終わった瞬間、宝樹蕗也はその端正な顔を醜悪に歪め絶叫と共に椅子から跳び上がった。
血走った眼で、彼は議場を見渡す。
同じ反与党の民心党代表とこの法案については反対を表明していたはずの未来の党の代表は、申し訳なさそうな表情でこちらから視線を外す。
公民党、進歩党の代表は、見苦しいものを見るような視線を宝木に向ける。
優政党、社公党、日生党の代表と無所属議員は、どこかこびたような目付きで与党席の方を見ている。
愛国党の代表は、此方を真っ直ぐに見つめて嘲りの表情を隠そうともしない。
8人の議員は、その悉くが起立していた。
(;゜Д゜)「なっ………何を………そんな…………」
「おーおー、どないしたんや宝木議員。クソでもしたいならはよトイレ行ったらどうや?」
その光景を信じられず、受け入れられず、棒立ちになる宝木。
彡(^)(^)「それとも、法案に賛成か?満場一致とは嬉しいやっちゃな」
そんな自分を見据えながら、国政党党首にして日本国首相・南慈英は満面の笑みを浮かべていた。
彡;;(^)(^)(…………よっしゃあああああああああああああああああ乗り切ったやでぇええええええええ!!!)
さも「最初から解っていた余裕の勝利」を演じつつ、その実南の胸中はよくもこんな自然に笑顔を出せたものだと自分自身で感心してしまうほどにギリギリだった。
彡;(゚)(゚)(ほんっっまにヒヤヒヤしたわ………万一民心党か未来の党が共栄に義理果たしたりしてたら、連鎖的に他の奴等も習った可能性あったからなぁ…二度と渡りたくないわこんな橋)
愛国党や公民党はともかく、他の六党が何故悉く国政党に靡いたのか。タネを明かせば簡単な話で、南による事前工作で切り崩されたのだ。
とは言っても、正規のやり方で説得したのは公民党、進歩党、憂国党だけだ。今回の法案には批判的ながらも連立与党として長年関係してきた公民党と殆ど第2の国政党みたいな存在である憂国党は説き伏せるのにそう大きな労力は払わずにすんだし、現国政においてほぼ唯一の“まともな野党”である進歩党は今法案がいかに日本にとって有益な存在であるかを落とし込んだ結果旗色を変えてくれた。
問題は、民心党をはじめとする野党四党と無所属だ。代案政策もまともにもたず「とりあえず反野党の精神」で国会に居座っているような連中にまともな説得など望むべくもなく、無所属議員は誰が選ばれるか解らないので説得対象を絞れず、かといって全員を論で懐柔しきるには時間が足りない。
そこで南は、これらの代表・議員の工作は短期決戦方針に切り替えた。
無所属議員には、次回選挙で国政党から支援を出す“かもしれない”旨と当選の暁にはなんらかのポストを党内に用意するという非公式の打診を。
民心党ら野党には、南自身が独自に掴んだそれぞれの党の大スキャンダル公表をちらつかせその隠蔽とひき替えに賛成票をという脅迫を。
はっきり言って、下手を打てば自分たちのほうが致命傷を受けかねない諸刃の剣だった。実際野党の中には、寧ろこの脅迫行為自体を公表してやるとカウンターをかけてきた党もあった。
ただ、南には“支持基盤の違い”という大きな武器がある。
彡(゚)(゚)『ほーん……ま、そらとんでもないスキャンダルにはなるけどウチの主な支持層10代~30代半ば、つまりテレビ新聞離れが著しいインターネット世代やで?
メディアが騒ぎ立てても、“ネット☆DE☆真実”を大まじめにやってる奴等には殆ど影響ないからウチは怖くないで。
それでもやり合いたいなら公表してみるか?』
無論、はったりだ。ネット世代が支持の中核にいるのは確かだが、流石にここまでやくざ紛いの行為が世間に知れ渡れば“ダーティなイメージ”どころの話ではすまなくなる。野党に比べて生き残れる可能性は遙かに高いが、それでも一気に壊滅的な損害を受けた可能性も否定し難い。
だが、最終的に野党側は折れた。やはり支持層の違いからスキャンダルによる刺し違えも難しいと判断させることが出来た点と、事前に用意しておいたもう一つの“切り札”の存在が大きい。
彡;(゚)(゚)(ホンマ、あの筋肉野郎には感謝やで)
脳内に、ドウェイン=ジョンソンばりの筋肉を誇るマスクマンの姿がフラッシュバックする。あの男の存在がなければ、今回の議会をひっくり返した“二つ目の切り札”は手に入らぬままだった。
プロレス技をかけられた点やボロクソに罵倒された点はなかなか許しがたいが、「国益」に大きく貢献してくれた以上深くは追求しない。
(;^Д^)「グッ………がっ…………」
向かい側に座る宝木は、硬直した状態でロボットのような呻き声を発するだけ。彼は口をぱくぱくと空回りさせながら、眼を合わせようとしない民心党と未来の党への声にならない罵声を浴びせる。
本当なら、おそらく宝木としてはこの会議を談合なり不正なり断じて国政党をあげつらい、この決議の正当性にケチを付けたいという思惑がある。だが、未来の党はまだしも民心党まで国政党の法案に賛成してしまったことで、共栄党は下手に苛烈に攻め立てることが出来なくなった。
議席数的にはただの泡沫政党に過ぎない共栄党が衆議院で生き残れているのは、最大野党である民心党に“共闘という名の寄生”をしているからに他ならない。実際前回の解散総選挙では、民心党の代表がいない区でその票を取り込む、比例代表で民心党支持者が共栄党の名を書くなどして共栄党の議席を大いに(といっても国会全体からすれば誤差の範囲内だが)増やしてくれた。
民心党側も「申し訳ない」と思っている節はあるものの、結局連立を解かれれば衆議院の全議席失逸すらあり得る以上共栄党にはそもそも抗議する「権利」すら与えられていないも同然だ。
(;^Д^)「………っ!こんな法案、国際社会が認めないぞ!!」
だが、宝木の方も諦めない。自身が騒ぎ立てたことによって進行が止まりまだ採決が完了していない以上、あと二人座らせれば法案を棄却させることが出来ると考えているのだろう。
(#^Д^)「艦娘三原則は絶対不可侵の“世界的平和憲法”だ!この法案はそれを著しく侵す恐れがある!!
日本が世界から孤立するぞ、いいのか!?」
彡(゚)(゚)「…………ハッ」
南はその、憐れで見苦しい抵抗を鼻で笑う。
(#^Д^)「何がおかしい!?私は日本のためを思って」
彡(゚)(゚)「国際社会への理解なら、疾うの昔に得てるで」
( ^Д^)
( ・Д・)「はっ?」
ぽかんと口を開けて立ち尽くす宝木に向けて、南は何本かのUSBメモリを掲げてみせる。
彡(゚)(゚)「外務省経由で各国首脳と電話会談し、その際に本人達の許可を得て録音データ付で“今法案の改憲が人類への貢献のためであることを理解する”っちゅー言質を取らせて貰ったものや。
アメリカ合衆国大統領のトソン=カーヴィル、ドイツ連邦共和国首相ダイオード=リーンウッド、ロシア連邦大統領ニュック=バリシニコフ、他にもポルトガルにインド、台湾にインドネシア……同盟、防共協定を結んでる国は一通り揃えてある。
お望みとあらばマスコミ同席で幾らでも公開したる」
(;゜Д゜)「…………なっ」
彡(゚)(゚)「もし“音声なんて偽造できる”とか言い出すなら、署名と捺印付ファックス送信して貰った音声の正当性を保証するサインも一緒に提示するか?
はっきり言うが、日本の友邦たる国々の元首をそれほど不躾に疑って何もなかったら相応の代償は払って貰うで宝木議員」
(;゜Д゜)「……ち、中国や韓国からの許可はどうしたんだ!?隣国であり友好的な関係が必須の両国の許しがなければ、その法案に正当性は認められない!!」
彡(゚)(゚)・∵∴゚「ブボハァッ!!!」
今度こそ耐えきれず、南ははっきりと失笑してしまった。
この売国奴は、自分の腹筋に何か恨みでもあるのだろうか。
(;^Д^)「し、失礼だろ!?何がおかしい!?」
彡(゚)(゚)「おかしすぎて一瞬本気でアンタが狂ったのか思ったで。
まず一つ、日本は大韓民国とは1965年の日韓基本条約で、中華人民共和国とは1972年の日中共同声明でそれぞれ“国交を正常化した”のは確かやが、この2国と今日に至るまで“同盟”の類いは何一つ結んでいない。中国とは当然として、韓国ともあくまで“アメリカという共通の同盟国がある”程度の関係や。承認声明は全て、一つだけの例外を除いて防共協定や軍事同盟を結ぶ国家からのもの。中国や韓国は条件から外れるため除外した」
彡(゚)(゚)「二つ、そもそもこの録音データは、“国際社会からの理解を受けられないのではないか”という国民の不安を取り除くために造らせて貰ったものや。別段これが“ほぼ全て反対の声明”だったとしても、審理の結果施行が決まったなら間違いなく施行した。
同盟してるからといって、他国からの“内政干渉”を受けなければいけない謂われは存在せえへん」
(;゜Д゜)「…………か、艦娘三原則は国連でも取り決められているものであり、中国は、国連の常任理事国だ………やはり、中国の理解がなければ正当性は………」
まだ足掻くか、南は呆れるよりも先に感心した。
ハングリー精神だけは認めるが、詰んだ将棋で足掻いたところでそれはただただ無様なだけだ。
彡(゚)(゚)「宝木議員、ワイはさっき録音データに“例外”がある言うたな?」
(;゜Д゜)「………だからどうした」
彡(゚)(゚)「国連事務総長」
( ゜Д゜)「……………?」
彡(゚)(゚)「“同盟国の元首・首長”という条件に合致しないため“例外”に加えたが、国連事務総長ハガー=ルーマからも改憲に理解を示す声明を受け取った。
国連の最高責任者が認めたんや、常任理事国“ごとき”にとやかく言われる筋合いは何一つないわ」
( Д )
眼から光が消える。完全に打ちのめされた共栄党党首は、椅子に崩れ落ちそのまま空気が抜けたビニール人形のような状態で動かなくなった。
彡(゚)(゚)「…………議長」
「…………そうですな」
静まり返る議場に、南の何かを促す声と、それに応える議長の声がいやにはっきりと響く。
「第一項。深海棲艦に対する利敵行為を認められた国家、個人、団体に関しては、例えそれが人間であったとしても“敵性”であると認定し攻撃することを認む
第二項。艦娘は自身の任にそぐわない行為・行動・思想を強要する存在に対して、第一項の抵触者と見なして無制限に抵抗する権利を有する
第三項。艦娘は全ての対深海棲艦を主とする軍事行動に関して、無制限に発言権を認める。また、これを理不尽に阻害する存在に対しては第一項の適用を認む
第四項 上記三項目は全て“艦娘三原則”に抵触しないものであるとして、“艦娘三原則”に対し優先して適用することを認む
以上、【艦娘自己自衛権】法案を、賛成多数にて可決成立とさせていただきます」
<フタフタマルマルや。すっかり暗なってきたなぁ~。
……司令官、お疲れ様>
.
ゆっくりと、部屋の扉を開ける。
抜き足差し足、忍者の気分で寝床まで辿り着くと、案の定書類の山と乱れた布団に埋もれて眠りこける青ヶ島鎮守府の最高責任者の姿がそこにはあった。
「………ちょっ、寝相凄いなキミ」
以前初雪に見せて貰った動画の、ゲッなんとかの動きを絶妙のタイミングで停止させたかのようななんともダイナミックな体勢。無駄に長身なので、正直“圧”がもの凄い。うっかり夢で見てしまいそうだ。
「なかなか“仮眠”から戻らん上にいつもはがっちりかかってる鍵が開いてたからちょっち嫌な予感はしてたけど………あーあー、書類がエラいことになっとるやん」
床にまで散乱した紙束を拾い上げ、トントンと揃えて鏡台にひとまず置いておく。休むときは休め、仕事を部屋に持ち込むなと何度か強めに言っているのだが、この司令官は一向に聞きやしない。
八頭進という男との付き合いがかれこれ五年目になる青ヶ島の筆頭秘書艦も、昔からこの悪癖には手を焼いていた。
「…………五年、か」
本当に、いつの間にやら長い付き合いになったものだ。
最初は自分とこの司令官の二人だけ──当時はまだ“初期艦制度”が確立されておらず、とにかく竣工した艦娘に片っ端から提督をひっつけて最前線に送り込んでいる状態だった──ではじまった“奴等”との戦い。実績を重ね、徐々に他の艦娘も増えていき、重要拠点の指揮官を任されるようになり……周囲の環境が変わっていくにつれ、自分もまた変わっていっているのが何となく解った。
この司令官も、最初の頃とは随分変わった。正規の自衛隊員などに比べればひ弱だけど、それでも痩せぎすだった身体には筋肉が少し付いた。深海棲艦1体にも右往左往していた新米提督は、今や押しも押されもせぬ日本の守護神の一人だ。
「なのに、キミの中身はかわらんのやなぁ………」
いいところも、悪いところも。
………自分が、好きなところも。
「なぁキミ、やっぱり茂名官房長官の言ってた通りやで。キミは、自己評価が低すぎるわ」
茂名官房長官からの誘いを蹴るとき、自分の隣で言い放たれた言葉を反芻する。
(臆病者、なぁ)
なぁキミ、知っとるか?ホンマに臆病な人はな、あんな選択はしないんよ。
だってな、一番怖いのは死ぬことやろ?後方に行けば滅多なことではすぐに死なないし、数字の羅列云々の話やって言い訳のしようは幾らでもあるんやで?
なのに、キミはここに残るんや。残って、ウチらと一緒に戦うゆーんや。こんな臆病者がいてたまるかい。日本中の男の大半がふにゃちん野郎になってまうやんけ。
「…………間抜けな寝顔やなぁ」
こんなにも強い芯を持っているのに、口をぽかんと開けて端っこから涎を垂らし、心底幸せそうに眠りこける姿からはそれが微塵も感じられない。
でも、そんな何処か抜けているところも全部含めて。
「ウチ、好きやで、キミのこと」
たった、一言。
それを起きているときに言える勇気があるなら、どれだけ良かっただろう。
(一番臆病なのは、ウチやなぁ)
皮肉なもの、というべきだろうか。
人知を越えた化け物を何十体も海の底に沈めてきた自分が、たった2文字を相手に告げる勇気すら奮い起こせないのだ。
(ホンマ………笑え………るぇ?)
がくんと顎が落ち、急速に瞼が落ちていく。闇に意識が呑まれていく中で、龍驤は一つ思い出したことがあった。
(そういや、ウチも最近寝不足なんやった……)
幾ら司令官の負担を減らしたいからといって、流石に睡眠時間を削りすぎたか。
まぁ、今は執務室に川内が入っているし、彼女は夜型で徹夜にも強い。最悪任せてしまうことも視野に入れよう。
(………バックレは気が引けるけど、ホンマアカンこれ………明日……川内に………あやまらな………)
この時、眠気が臨界点を突破していた龍驤の脳裏からは、ここが誰の部屋であるのか、そして自分が誰の傍にいるのかが完全に滑り落ちていた。
翌日朝、珍しく○五○○になっても起きてこない八頭進提督の様子を見に来た妙高型1番艦の手によって、同じ布団に入り熟睡する筆頭秘書艦と提督を発見。
感極まった妙高の「おめでとうございまーーーーーす!!!」の叫び声で飛び起きた筆頭秘書艦が自身の状況を把握し、離れ小島の提督はここ数カ月で最悪の目覚めを経験することになるのだが………
その件については、余談故割愛とする。
~離れ小島の提督さん~
艦!こr
.
('、`;川「准将……これ………」
「Jesus…………」
( ФωФ)「………………“海軍”総司令部に繋ぎすぐさまアルタイムを叩き起こせ。ことは一刻を争うのである」
「………学園艦とはな。深海棲艦め、どこまでも驚かせてくれるのである」
~(´Д`)離れ小島の提督さんのようです~
艦!これ
終わった、終わった(青息吐息)
毎度毎度の締め切りぶっち、申し訳ありません。
ある門番たちの日常のようです
ある門番たちの日常のようです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501859857/) 時系列的な前作
|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです
|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490532219/) 青ヶ島鎮守府初登場話
これ最初に貼るつもりだったのですが完全に失念していました。今更ですが「艦娘三原則ってなに?」という方や「【イツクシマ作戦】って何だよ」って方は是非眼を通していただければ幸いです
過去作(時系列下から上)
ある門番たちの日常のようです
ある門番たちの日常のようです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501859857/)
('A`)はベルリンの雨に打たれるようです
('A`)はベルリンの雨に打たれるようです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494212892/)
川д川 ある鎮守府が呪われたようです
川д川 ある鎮守府が呪われたようです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493264370/)
( ^ω^)その時、戦車道史が動いた!のようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491739394/)
l从・∀・ノ!リ人 流石なれでぃ達の大騒動のようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491313655/)
|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490532219/)
( ^ω^)戦車道史、教えます!のようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490100561/)
('A`)が深海棲艦と戦うようです
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川 ゚ -゚)艦娘専門店へようこそ!のようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489478497/)
( ^ω^)戦車道史、学びます!のようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489304048/)
( ´_ゝ`)流石な鎮守府の門番さんのようです(´<_` )
( ´_ゝ`)流石な鎮守府の門番さんのようです(´<_` ) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489148331/)
( ・∀・)戦車道連盟広報部のようです
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488284987/)
今後についてですが、今度は大洗で一発やらかすというのは確定してます。時系列的な摺り合わせもありまして、【地獄の血みどろマッスル鎮守府】シリーズの直後に上げたいと考えております。
では、また別の作品でお目にかかれれば幸いです。
ご静聴、並びに支援レスありがとうございました
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