ここが墓場だ
1、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/)
2、男「モテる代わりに難聴で鈍感になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/)
3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385750291/)
4、男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1397082375/)
5、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1406541846/)
6、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるならどうする?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1420921537
7、男「モテる代わりに難聴で鈍感だった日々より」
男「モテる代わりに難聴で鈍感だった日々より」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1446919295/l50)
男(異常じゃないか?)
男(文化祭の期間は、授業が止められるとはいえ、出席確認はクラス担任として義務だぞ。何故いない、体調不良かも、OK、で簡単に済ませるのもらしくない)
先生「お昼のあとで煩わしい話してごめんねー。でも、先生たちはみんな君らに最高の思い出作って欲しいわけでして」
男子生徒「先生大袈裟すぎますよ、他がやらかしたからって俺たち速効右に倣えとか噛ましませーん!」
女子生徒「そうです、そうです! 私たちなんてクラス発表の練習で盛り上がっててそれどころじゃないです!」
男の娘「み、みんな、思いは一つになれてるんだよね! 男、素敵だよね!」
男(条件反射気味で斜に構えようとした俺を嗅ぎ取ったらしい男の娘、その笑顔は無理があっても埃被った人間に眩しすぎる癒しビーム)
転校生「不穏、って言うのかしら。こういう時……あってる?」
男「俺に訊いてるのか? いつでも勉強好きだな」
転校生「何なのかな。落ち着いてられない気分が続いてて、先が怖くなっちゃってる自分がいるのよ」
転校生「こんな辛い事が、また何度も繰り返されるなんてことがあったら、私……」
先生「はいはい! 気持ちはしっかり受け止めましたんで、その情熱は午後の準備に回すように! 以上、散れ!」
「急いで取りかかるよ! 体育館占領してられる時間なんて限られるんだから!」
男「少し先生に用がある。どこ行ったか訊かれたら適当に誤魔化しといてくれ、転校生」
転校生「えっ、う、うん?」
男(張り切るクラスメイトたちをしばし眺め、先生は教室から退出。そんな憂いを纏う美人教師をかけ足で俺は追い掛け、並び歩いた)
先生「おサボりが過ぎる子にはそろそろお仕置きが必要なんじゃないかな?」
男「いえ、歩きながらで構いませんので、先生にお尋ねしたいことがありまして……」
先生「次の期末試験で出そうな問題教えてとかだったら、承知しないよ?」
男「疑ってばっかりじゃ疲れますよ、先生」
男(ニッ、と含み笑いして返す彼女、ではあったが、こちらがこれから持ち出さんとする話題を完全に予測していなかったらしい、意外だと気抜けを見せられることになった)
男「名無しがどうして休んでいるのか本当に理由を聞いてないんですか?」
先生「えっ、うん、そうだけど……男くんこそ知らないの?」
男「でしたら、朝の時点でアイツがサボりだと決め付けて、じゃ おかしいですよね。先生もさっき指摘されて始めて気づいてましたから」
男「欠席取らないんですか? 嫌な事件が立て続いてるこんな時に、何か事件に巻き込まれたとか疑わないんですか、先生」
先生「ま、待ってまって! 質問攻めはパス! 私だって気に掛けてるわよ、それなりに!」
男「だったら尚更…… (目を泳がす先生に迫るしかなかった。不可解の影響が、名無しなのであれば、彼はまた“企み”があると推測できる)」
男(わざと登校しなかった意味を探る行動に移れる。……どうしたって、俺の中では今朝の彼が気掛かりに変わりはなかったのだ)
先生「そ、そうだ! 君 あの子の連絡先知ってる?」
男「はぁ?」
男(……何を、言っているのだ……連絡先? ……アイツの連絡先を、俺に尋ねた? 個人の? いや、まさか)
男「俺詳しい事はわからないんですけど、生徒に関する連絡先名簿とか持たされるんじゃないんですか」
先生「世の中最近じゃあ個人情報がどうとかで配布もほとんどで撤廃されてるんだよ。携帯電話流行ってから連絡網とか聞かないでしょ?」
男「だ、だとしてもアイツの住まいに連絡ぐらいは叶うでしょう!? 携帯の番号だって、俺、何かのプリントで書かされたことありますよ!」
先生「うん……で、でも名無しくんのだけ何でか本当にわからなくて……」
男「どうしてそれを本人に訊こうとしなかったんですか!? 大事な事でしょうが!」
先生「大事、そうね、とっても大事……何でかな……」
男(詳しくと、詰め寄りしつこく訊き出そうとすれば、ボロが出た。驚くべきというか、信じられないというか、あり得ない)
男(名無しの個人情報は一切学校側に知られていない。信じられるか? 住まい、戸籍等の、学歴から何もかもの情報が伝わっていなかったのである)
男「……そんな奴を学校に区別しないで置いておくなんて、どう考えたっておかしくありませんか?」
男(俺は勿論、美少女たちにでさえ細かな設定を与えられ、当たり前の情報は開示されている中、名無しのみが不揃い。実体が、無い)
先生「正直、男くんに今日問い詰められてようやく変だと感じてるのも否めないかもしれない……なんでだろう」
先生「そもそも“あんな男の子”、ウチのクラスにいたっけ?」
男「いやいや、担任がそんないい加減でどうするんですか」
男(……奴だけ この世界にぞんざいに扱われている、錯覚ではない、それ故に彼の浮いた雰囲気と透明感が本物だったと思わせられた)
先生「名無しくんは素行も悪くないし、優等生だと私も思うんだけど……」
先生「ごめん、今の聞かなかったことにして! 自分が受け持った生徒を変に疑うとか教師失格だしね、あははは」
男(合わせ笑いしてやれる余裕もなく、投げかけた世間話に頷きつつ茫然と廊下の角を曲がろうとした時だ。懐かしい感触が体に当たってきた)
「――――いたっ!」
男「おぐっ、大丈夫ですか!! って……お前」
後輩「もう、先輩って車に乗ったら良くないタイプなんじゃないんですか? 前方不注意の罰金です」
男(スカートの尻付近を払ってしれっとジョークを噛ます彼女こそ、今遭遇したくなかったランキング一位の美少女。というか この俺とぶつかっておきながら、無事だったのか)
先生「怪我は、なさそうだから安心していいかな。この子の言う通り、考え事しながら歩いてたら危ないっての!」
男「俺ばかりに非があるのは気に食わないんだが」
後輩「そうですね。私も少し考え事しながら歩いてたかもしれません、すみませんでした」
後輩「だけど、不幸中の幸いかもしれませんね。こんな所で先輩と会えるなんて、ふふっ!」
男(コイツが俺を探していた?)
後輩「先生、この人を借りて行って構いませんか? 丁度用事がありまして……ありますよね? せーんぱい」
先生「ほうほう、モテる男は罪だねぇー? 少年くん?」
男(罪が転じて罰とならない事ばかりを祈る誘いだがな)
男(別れ際にウィンクを飛ばした教師には溜め息で返すのが常套句にも変わろうか。溜め息からの深呼吸)
男(体を満たした酸素が、目の前の不気味で綺麗な少女へ睨みつける勇気を与えてくれた)
後輩「とっても怖い顔してますね?」
男(変わらぬ様子で答えると、顔を寄せて魅惑的な耳打ちである。「あの人が待っています」。その表情は悪戯に笑っていた、吐き気を催す邪気に染まって)
男(きっと 先を行き出す後輩を追うこの体はバキバキに固まっていたかもしれない。あんなに距離が近づいたと喜べていた美少女が、ただただ遠く離れて去って行きそうな危うさを醸し出している)
後輩「私が怪しく見えるのなら正直にそう答えてくださっても構いませんけれど、先輩」
男「……」
後輩「あはっ、お喋りのあなたがダンマリですか? 何だかちょっぴり寂しいです」
後輩「文句もなさそうなので私のあとを着いて来てください。心配しなくても騙す気なんてありませんので」
男(心配などあるものか。怖いぐらい辺りは人の気配を感じさせず、特別、を意識させていた)
男(ここは、俺が先程までいた学校の中なのだろうか。異世界に落とされたように周りの背景はモノクロに見えて、視界に写るどれもが無感情であった)
後輩「お待たせしました。どうぞ、中へ入ってください」
男「お前は入らないのか?」
後輩「“主”はあなたとの一対一をお望みです。私に任されたのは道案内だけです、以上以下もなく」
後輩「さぁ、中へお入りください――――――」
男(――――散々、中へ入れと催されてはみたが そこが自分の居場所である教室であるとは思わなんだ)
男(窓の外は無。白に近く 一切合切視覚を楽しませる背景もなく、闇のような白が広がっている、なんてカッコつけた表現が思い付けど、彼が先に嘲笑ってくれた)
名無し「wwwwwwwww」
男「何だって?」
名無し「え、この表現じゃもう古いの? 恍けた面がお似合いだな、主人公気取り」
名無し「安心してくれ、この部屋の中なら完全にオレと男だけの世界だよ。邪魔な手出しもされずに、二人だけの時間を過ごせる」
男(座れ、と言わんばかりに元々の俺の席にあった椅子が動いてくれた。名無しは無礼上等で教卓に腰掛けて、手の中の物を遊ばせて見せた)
名無し「さぞかしオレが気に食わないんだろうな。お前にとってオレは不要だろうさ」
男(ふてぶてしく教卓にいた彼の姿が消え、周りを見渡すと、座った自分の席の机の中から憎らしく顔が覗いていた)
男「悪趣味だ……」
名無し「オレがいなければ、オレさえ現れなければ。お前が楽しめていた理想は音を立てて崩れてしまったな」
名無し「お前が繋げた想いが重たくなる日々はどれほど居心地悪いんだろう……共同のデメリットだな……」
名無し「ぶっちゃけ面白くなくない? こんなの?」
男「煽りたいなら、この程度とか生ぬるいんじゃないか?」
名無し「草草草草草草だ・・・w」
来週火曜日に続く
名無し「やー! 鬱陶しくてごめん。やっとオレたちだけになれたのが嬉しくて、つい!」
男(狂気は無邪気から来るものか、さぁ、甲乙付けがたい。席を退き、彼から距離を置こうとすれば、背後から肩に手がトン、と。ホラー演出最高だな、ド最低だ)
男「よし、提案っちゃなんだが……遊んでもらいたいなら、素直にお願いしてみるべきなんじゃないか?」
名無し「どーせ、オレが誘っても心の底から男が楽しんでくれないだろ。無理強いするのが友だちかな?」
名無し「いまこの時でさえお前は、オレが何をしでかすのか、何を考えてるのか、ずーっと探っているんだ。落ち着かないよ」
男「はてしなく面倒臭いな、お前」
男(聞く耳持たずいつのまにやら窓の外でラジオ体操やっている名無しを放置し、見覚えある室内を見渡す。席の数も俺のクラスと変わらない)
男(“名無し”という男の存在意義を糺す前に、彼の影は現状極めて朧げだ。あの先生にまで拒絶を仄めかされてしまった具合である)
男(名無しの席は、確かにここにある。して、新たな疑問が浮かぶのだ。元々彼にはオリジナルとなった男子生徒がいた筈だろう)
男(初めこそモブの扱いではあったが、ある日急変して……だのに、何故情報は一切無いと聞かされるのか)
名無し「知りたいか?」
男「えっ!?」
名無し「だから、オレのことだろ? 気になってるなら別に教えても構わないのさ。男」
男(というか、この場所に呼び付けてどうしたいのかを先に教えてくれないのか、コイツ)
名無し「ポテチ食べるか? 美味いぞ、コーラもある。やー、コイツは格別だなぁー」
名無し「遠慮しないで食えってば! 毒なんか盛ってないの食べてるオレが保障してるモンだろう」
男「分け与えられた物を口に運ぶって抵抗あるんだよ、信用置けない奴からは特に」
名無し「そっか、美味いのに残念だな……ぶっちゃっけ細かいこと気にしすぎだろ、男は」
名無し「オレが他の奴らやお前と違って不都合ある? オレが何者でもない、十分じゃないか、聞いてるんだろう?」
男(あの胡散臭い神との会話もどこかで盗み聞きしていたと? だからこそ、また接触して来た?)
名無し「オレは、オレがここに在る為に、どうでも良い一人の体を借りただけだよ。設定だって全部書き換えてるし、ソイツとイコールになる点もない」
男「オリジナルである俺の知る本人と繋がらない部分が多いのは、みんなだって同じだろ。でも、お前だけは」
名無し「お前がオレと深く関わる予定ある?」
男「は…… (深く、関わるだと。言葉の意味を、深層が一瞬にして巡った。巡って、一周回って、薄らと理解へ辿り着く)」
名無し「やー、男の娘みたいのならまだしもオレとどうこうなりたいって思うのか? 両方行けちゃうワケ?」
男「NO!! お前はダメだ、絶対ダメ!!」
名無し「だよなぁ~、安心した。言葉足らずだったけど、何となく納得したんじゃないか?」
名無し「別に親友・悪友ポジがいたって同姓なら“チマい設定”要らねーだろ、お前らの色恋沙汰物語に何ら影響ないんだから」
名無し「作る意味もない。でも傍に立ち易くて、男の周りを動く意味に一々苦労しない。何より、変態からケツ追い掛けられずに済む」
男(美少女狂いには痛かった)
男(だが、名無しよ。お前は爽やかイケメンという武器を持っているだけで、俺から相当危険視されたであろう事を忘れるなよ)
男(立ち回り易いだと。愚か、裏で何かされるのではと常に注意を払われて、い、いた筈なのだ)
名無し「確かに。もう少しぶっっっサイクな面に作り直すべきだったかもと後悔してる、でも」
名無し「お前に嫌悪感を与えられたのは、それはそれで気分が良かったから良しとしてるんだ!」
男(思い切りがいい、俺を気に食わない事実は変わらないという改めた宣戦布告だった)
名無し「騙されるんじゃないか? いや、有益じゃないが実はそんなに悪い奴でもないのでは? ……サンキューな、お前は後者を信じてくれた」
名無し「笑うしかないwwwwwwwww」
男「名無し……」
名無し「アイツ使って呼び出せばのこのこ大人しく着いて来て? 何か期待して待っててもオレからコケにされたままと?」
名無し「wwwwwwwwwwwwwww」
名無し「思わせぶりな真似してごめんwwwwww別に何でもないwwwwww」
男「……名無しよ…………」
名無し「やー、細かいこと気にしすぎだろ、男は」
名無し「なんつってwwwwwwやー、なんつてwwwwwwwww」
男「……窓の外で倒れてるあの子、何だよ…………おい……」
名無し「えー?」
男(声を荒げるより先にこの外道の胸倉を掴み掛かっていた。次に「あ」でも「う」でも言葉を漏らした瞬間、貧弱でも拳を叩き込んでやる。二度と、口を聞けなくさせてやる)
名無し「……鼻息荒くしてどうした? “あの子”扱いじゃ他人行儀だろ、男」
名無し「生意気で可愛い世界に一人だけの、お前の兄妹じゃないか――――ん?」
男(振り上げた拳が空で制止され、頬が二、三と痙攣した。勢い凄んで捉えた糞は、悠々と目前で心ない言葉で煽るに煽りたてて来る。そんな、何でだ、あ)
男「……う」
名無し「ウソだと思うのは手前勝手、好きにしなよ。他人の空似って場合もあるし」
名無し「ただ、オレはこれからあそこの女子をどうにかしようと思っていて……男も楽しむか?」
男「卑怯だろ……お前っ、自分が何やってんのか分かってるのか!?」
男「妹!! 起きてくれ、すぐに目覚まして逃げろ!! ヤバいッ!!」
妹『 』
名無し「聞こえちゃいないよ、あの通りぐったりしてるんだから」
男「くそ、くそくそっ、どうして開かないんだよ! おい、名無し開けろ! アイツに何かしたらタダじゃおかないんだからなっ!?」
名無し「情けないと自分でも思わないのか? 虚像相手に夢中になって。恋愛の駆け引きだけ楽しんで報われていればこうもならなかったよ」
名無し「全部お前のやり放題の報いなんだぜ、男」
男(報い、報い、報い。無意識の内に膝を着いていた俺は、窓の外へ移動を終えていた名無しを虚ろな目で捉えていたであろう、か)
男(さぞ満足なのだろう、ニンマリとした名無しが俺から離れて妹へ歩み寄って行く。叩けどたたけど窓はビクともせず、強固な牢の役割を果たす)
名fbん『どうしてこうなったんだ? ここまでに至ったお前が悪いのは分かり切ってる』
#n7無/『お前が悪い、お前がだらしないからこんなザマだ。お前が、悪いな』
男「!! (倒れた妹の制服を、見せつけるようゆっくりと上着から脱がしていく名無し。その光景に、反響する罪を認めさせようとする声に引っ張られ、頭の中が白に汚染されていく)」
sあf4#『さぁ、貴様の更生を続けよう……』
男(耐えろよ、俺。ここが踏ん張りどころだ)
男(奴が俺をあざけ笑い、緩やかであったモテモテ学園ライフを破壊しようとする動きは明確だ。ならば、破壊に意味があるとしか思えない)
男(今朝あのオカルト研が、と唆して来たというに、ここでまた二重に“絶望”の罠を仕掛けてくるのが謎である。絶望とは、俺にとっての絶望なり得る要素)
男(では、回避できたからこそ名無しは新たに手を打って来た……そういう見方がある)
男(……名無し、アイツ最初に自分で話していたが、どうなのだ? 『この部屋の中なら完全にオレと男だけの世界』って)
男(あの豹変振りからすべて信じろというのも難しいが、奴はやけに“この俺と二人のみ”を強調して聞かせてきた。何故?)
男(この場で、二人切り、を喜べるのはアイツの演じる名無しだけじゃないか。奴の言う通り、俺は一部例外を除き男色好まず――――)
男「やっぱり、あの子扱いで間違いなかったかもしれないな、名無し」
名無し「ん?」
金曜日に続く
男(スイッチが切り替わった、カチッと受け手に親切でシンプルな転回だ)
名無し「興味深い……」
男(名無しの身勝手な視野の中へ、ようやく俺を収めさせられた。剥ぐ手を止め、ゆっくりとこちらを振り向いた男は気味悪く、満足げである)
男(やはり、恐ろしい。もの怖じしない自信を奴へ見せつけたところで、底を掬われてしまっているような、疎ましい感覚に包まれたままなのだ)
名無し「見捨てるんなら結構。潔さよ、何事もよ、引き際の良さが大切さ」
男(途端に死角から聞かされる意味深らしさを含ませる言葉の連なりだ、窓の外から名無しは中へ戻って来たのだろう。あの少女は未だ体を起こさず、だ)
名無し「男に足りなかったのは、参った、を素直に吐けない心だと思わないか?」
名無し「『向上心のないやつはバカだ』なんて教科書によく載っているだろう。あれは違う、現状を認めてこそ成長だよ」
名無し「惨めじゃないんだ、皆そうやって自分を頷かせて生き様を見出す……大人になる」
男「嫌な奴……」
名無し「所詮合わせても小さいお前の手の中じゃ、あの子らは溢れてすぐに零れるよ。一々掬い取ろうとすれば、また落とすだけ」
男(顎で使うように名無しが首を動かすと、遮断されていた戸が横へスライドしてしまった。好きに、出て行けと?)
名無し「オレを間違わないでくれよ? 本気でお前の更生を願っているんだ、過ちは繰り返すべきじゃあない」
名無し「この祈りが成就されることをただ祈って待つよ、男。今日明日が穏便に、終えられるのを……ね」
男「ね、じゃねーよ、今更カッコついてないねーよ、恥ずかしい」
名無し「その心は……?」
男(一杯食わしてやった。穏やかな自己紹介からの、眉ひそめ謎掛ける名無しにブざまぁと突き付けてやりたい、ブ男だから)
男「改心だどうだじゃない、俺は単純にあそこにいる女子を自分の家族じゃないって否定しただけ」
男「拒絶じゃない。だって、認めるわけにいかないだろう。偽者の妹をお前の見知った顔だ! だ、なんて良い聞かせられても……困る」
男(根拠はある、だが虚が勝る現状を踏まえれば真実と断言するには難しかった。あそこで寝転がった少女は、名無しが俺を惑わす為に用意した人形)
男(奴は俺をどこまでも憎んでいるのだろう。が、目的の裏が読み取れないままだ。俺を困らせて、果てに何を得たい? 個人の優越感? おふざけを抜かすな)
男「……名無し、お前が俺へ向ける執着は異常だ。“更生”なんて額面通りに受け取れば、聴こえは良いが」
男「死にかけの人間にするブラックジョークだろうか?」
名無し「あぁ?」
男「…………死」
名無し「あぁ!?」
男(………………死とな?)
n・1/5無"「「「あB$,%"%s%@!<%P#!! #!<$-K$)JFサ嵂ス$7$^℡$C$!f?〕
男(彼に呼応するよう、室内が大きく揺れ出す。何かに掴まっていなければ危険と思えるぐらい、現象は続き、大きくなっていた。付き合っていられるか)
男(戸は開いたままだ、一時退却も辞さない、というか逃れようとしか――――――また、揺れた。いや、揺れて、床に伏していたのは……俺か)
男(されども男の性・エロスは囁く、瞬きも惜しいのだと)
男(翻ったスカートの中は、あどけない・・・・。大喝采―――――――――)
男「…………」
後輩「あっ……完全に沈黙ですね、打ち所が悪くなければ失神です。いかが致しましょう?」
名無し「掴まえておけ……悪いニュースだ。こんなのって、あぁ、信じられない……」
後輩「あなたの都合次第で対処が変わりますけれど」
名無し「黙っててくれよッ!!」
名無し「コイツは、違う、コイツが異常なんだ。どうかしている……!」
後輩「主様、あの……」
名無し「危害は加えるなよ!! 男は、大切だ。彼には幸せになって貰わなければ救われない」
名無し「夕刻前には離してやってくれ、この部屋からも。完膚無きまで壊すしか後がないと判断した……救いようないな……」
名無し「自我を失わせる他 方法はないと思わないか?」
後輩「たぶん、主の御心のままに」
後輩「…………狸寝入りしなくて平気ですよ、もう行きましたから」
男「お前いつからスパッツ派に寝返ったんだ……」
後輩「これ? 派手に動き回るなら必要不可欠、恥ずかしさ軽減装備じゃないですか?」
男(あえてくるりと一回りして披露する黒き下半身に淫らを抱かん健全男子がおらぬものか。おまけだ、人をコケにする、挑戦的な笑みが彼女を彷彿させた)
後輩「ところで あなたの中にいる “私” 、上手に再現できていましたか?」
男「は?」
後輩「私って、多分あなたから見て三人目ですから」
男(そう言いながら、いつまでも床に座る俺へ差し伸ばされた手、もとい彼女を、疑う前から俺は拒んでしまったのだと思っている。あとを思い返しての話だが)
男「やめてくれ、一人で立てる……訊いても差し支えなさそうだが、あの」
後輩「あれあれ、もしかして助けられたとか思ってるんですか? 私があなた側に付いて、返り咲いてくれるかもと?」
男(一言で、彼女は『お花畑』と微笑み返していた。油断すれば、根っこも詰まれそうなこの状況下でも、俺はあの“後輩”を縋ってしまっていたに違いない)
後輩「私に縋っているんですか? お門違いじゃありません?」
男(腹が膨れたのだろうと言わんばかりの箸休めに、フフッ、とか彼女が妖艶に短く笑う)
男「話ができないわけじゃないとお前に見出せたんだから、情けなくても縋るしかない……」
後輩「情けないですね、先輩。恥ずかしくないんですか?」
男「靴を舐めるぐらいも容易い、いやむしろ……!」
後輩「恥ずかしくないんですか?」
ここまd
男(それにしても気になる。何がと、言わずもがな 後輩殿よ。あなたの中にいる私? 再現だ?)
男(この俺から見て三人目だと? 思い巡らせど心当たりなど欠片も浮かばず、空回りだ。ふむ、これまでの印象から考えられる彼女の正体とは――)
後輩「いつまでこんな何もないところで寛いでるおつもりで? 先輩」
男「まず、台詞と動きが一致してないよね、お前」
男「(出口であろう場所に立ち塞がって後輩は笑う、では、挑発としか受け取ることしか出来ないのが人並みよ。痺れでも切らしたか) ……寝返ってくれないんだろ?」
後輩「どうなんでしょうね」
男「大人しく元いた学校の中に帰してくれとお願いして、こっちの思い通りに話が進むか?」
後輩「でしたら、まずは試してみないと」
男「そ、そうなんスね、ハイ……やってやろうじゃねぇかああああああぁぁぁ!!」
男(アクション映画を見終えて、さもアクションスターのスキルを身に付けた感覚を宿す。ダメで元々、ええいままよ、当たって砕けろ)
男(そして、結果はご想像のまま、砕けた俺が床に前のめっている)
男「絶対素人が打てる蹴りじゃないよな、今の……」
後輩「うーん、とりあえず足引っ掛けただけなんですけど――――何か落としましたよ」
男(情けなく転んだ時に懐から外へ出て宙を舞ったのは紙々、否。そして彼女の様子が)
後輩「あれ……?」
後輩「……これは」
男(床に落ちた一枚、一枚、何度見直そうが 意味のない画である。拾って固まる後輩に俺まで固まった)
男(尋ねた誰もが頭上にクエスチョンマークを浮かばせ、ナンセンスを呟く品々を手に取って、始めて注目させていたのだから)
男「何か、そいつを見て思い当たる節とかありそうか?」
後輩「……」
男(完全に虜というか上の空に変わっているではないか。この隙を突けば楽々脱出することもできる、できるが、悪い癖だ)
男「説明しておくと、俺の物かよく分からん。気づいた時にはポケットに入っててな」
男「気味悪いし、他の奴らにも訊いて回ったが、こんな反応を見せられたのは初めてだよ」
後輩「何も、写ってませんけど……」
男(惹かれたか、と尋ねると首を横に振って後輩が答えた。では何故なのだと)
後輩「私の匂いがしたもので、つい」
男「え゛?」
後輩「どうでも良いですよね。気味悪いなら処分しちゃった方がいいですよ、呪いの写真かも? なーんて」
男「おいおいおい、何をワケのわからんことを……!」
後輩「頃合いですかね」
後輩「どうぞ 先輩通ってくださいよ。今度は邪魔なんてしませんので」
男「通れって言うのは、この変な場所から出てもOKと?」
後輩「他にありますか? 一生この中で暮らしたいと考えているなら止めたりしませんけど」
男(どうやら可愛い通せんぼもここまでらしい。名無しも、夕刻までは、と命じてはいたが 然程時間が経過したとは思えないぞ。体感5~10分ほど。ここが探し求めた精神と時の部屋か)
男「……出るぞ? 本気で出て行くからな、タンマないよね?」
後輩「えいっ!」
男「あ、うぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~!!?」
男(背中を押され、出口の外へ出た瞬間 急激なGの負担を全身に受けていた。落下、そう、俺は今現在どうしてか落ちている)
男(まるで不思議の国へ迷い込んでいた気分で、あるべき世界へ急速潜行だった。……この落ちる感覚、一度目じゃあないのだろうな)
?「――――――ゃん……――――――おにい……―――――ちゃ――――」
妹「お兄ちゃん!!」
男「はっ!? ……はぁ、はぁ……お前か、驚かせるな」
妹「驚いたのはこっちだよ!? たまたま私が通り掛かったら、何か廊下でぶっ倒れてるんだもん!!」
男「何か扱いなのかよ」
男「それより、今何時だ? どれぐらい寝てたのか気になる」
妹「何時って! やれやれだな~、お兄ちゃんだらしなさすぎ……」
男(出迎えてくれたのが偶然にしても妹だったとは、二重の安心である。向こう、仮想空間で見た彼女を偽りと見抜けたこの美少女アイに狂いはなかったやもしれん)
妹「丁度ティータイムだよ。あ、お兄ちゃんにもわかり易いよう言い替えたら、おやつの時間、だね」
男「親切な子が身近にいるとちょっぴり背伸びしたくなっちゃう男心をくすぐるらしい」
妹「ふーん、そうなんだ?」
男「ウザくね今の!?」 妹「あーウザいって言った! かわいい妹にウザいって言ったっ!!」
男「なーにがティータイムだ、野良犬に食わせとけ……特に 騒ぎは、何もなさそうだな」
妹「ちょっとー、私の心配他所に切り替え早くないかな!?」
男(妹の様子からして間違いはなさそうだ。問題が起きるならこの後か、オカルト研か、名無しがか、警戒を保つに越した事はない)
男(さて、高確率で俺はサボり認定を受けるのであろうが、こんな人気ない廊下で妹は何の用事があったのだろうか。答えは問うまでもなく、当人が口を開く)
妹「ていうか、本当にビックリしたんだからねっ! お化けの衣装道具取りに来たら、人倒れてたとか、もう!」
男「衣装? ……ああ、演劇部か」
男(となれば、ここは位置的に部室棟の中なのだろう。いつもラーメン愛好会直行ルートだった為か、新鮮な眺めと思ってはいたが)
男「……後輩とは、一緒じゃなかったのか?」
妹「むっ、どーしてそこで後輩ちゃんが出てくるのさ?」
男「どうしてって、そりゃあ 普段学校の中だと毎度一緒にいたから気になるだけだろ」
妹「残念でしたー、お兄ちゃんベタ惚れの後輩ちゃんは留守でしたー! バーカ、バーカ!」
男「可愛いとは思うけど、そこまでじゃないっての。まぁ、別行動してたと受け取って構わないんだな」
男(後輩の監視役にはなり得なかったわけだ。そもそも二人の役割が異なっており、文化祭準備中は顔を合わせる方が珍しいらしい)
男「アイツにお前から今連絡入れるのって大丈夫かな?」
妹「……やらしー」
男「やらしさ満タンなら実の妹使ったりしてねーよ! 少しばかりアイツに用があっただけだ!」
妹「用って、お兄ちゃんから後輩ちゃんにって時点でアウトだよ。じゃ、私もう行くから」
男「おぉ、妹さまぁ~!!」
妹「知るかアホお兄ちゃん! …………ん」
男(無視を決め込んで前進していった妹が、戸惑い半分で後退って来るのだ。そしてこの俺を盾にするように後ろへ隠れて、縮まっている)
妹「……暗い」
男「は?」
妹「ついでだからお兄ちゃんも付き合ってって言ったの! 文句あるかね!?」
男「怖いのね?」 妹「あ゛ー! あ゛ー!///」
男(顔面に刻まれた引っ掻き跡がやけにヒリヒリ痛むが、たまに頼られる気分は悪くない。あの廃病院を乗り越えた俺にとって暗闇の部室棟など屁でもなし、温し)
妹「お願いだからおっかないこと話すとかしないでよ……」
男「昔、そこの部室辺りで凄惨無碍な生徒惨殺事件が」 妹「ぎゃあああー!?」
男「やれやれ、こんなの一々怯えてる方が馬鹿馬鹿しくないか?」
妹「だ、だって怖いものは怖いよ!! 平気ぶっといて実はお兄ちゃんの方がヤバかった、り、ああぁ~~~~!!!!」
男「いや、衣装が揺れただけだろ……」
男(深刻だな、と微笑しながら、こうしている場合かと葛藤を迫るもう一人の俺がいて、内心落ち着きはなかった)
男「お目当てのお化けは見つかったのか? 早いとこ出ないとお前の悲鳴で心臓マッハだぞ、お兄さん」
妹「知らないよ! 好きなの使えって言われたんだけど、全部好きじゃないし!」
男「嫌悪と恐怖を与えるのがお化けだろうに、例えば……ばぁあああああああああ!!」ガバッ
妹「いやあああああああああぁぁーー!?」
男「と、いうように見た目に頼らずとも意表を突いてやれば十分ビビらせてやれなくも、ありゃ?」
妹「ぶく、ぶく……っ」プクプク
男「泡吹いて倒れる人間ってリアルにいたのか……」
『意表を突く、言い得て妙だわ』
男(咄嗟に、声の方向へ首を動かし 俺は異常を探った。聴き間違いかと思わせる沈黙が数秒続きながらも、倒れた妹へ寄り、逃走経路を確認する)
男(嫌な予感は沸々と留まり知らず、悪寒を帯びて、直にやって来るのであった。説明が遅れたが、ここは大体地下に当たる)
男(衣装の日当たりを避けた結果、演劇部部室の配置は通常とは異質なものとなっている。室内の角に下へ降りる小さな階段が用意されており、即ち)
男「(逃げ場は、強制的に一カ所に限られてしまう) ……誰か、いるのか」
『人が火のゆらぎを眺めると安心するのは、科学的に立証されている』
男(“火”という単語が出て来て浮足立った。妹を抱えて一気に駆け抜けなければならない、さもなければ……冗談ではない。何もかもだ)
『どうかしら? ここは好都合なぐらい火種に溢れているでしょう、男くん』
男「どこだよっ!? いい加減にしてくれ、取り返しがつかなくなるだけだぞ!」
『恐ろしいなら、私を探してみたらどうなの。脅えているあなたには酷な事でしょうけれど』
男(ああ、そいつは認めるしかない。この緊急事態に妹を抱えて“彼女”探しなど悠長にやっていられるかと、冷や汗って本当に冷えるのだな)
男「考え直してくれ! こんな事お前にはして欲しくない!」
男(今朝起こした血潮に掛けた努力のイベントは無駄になってしまうのか? この叫びも虚しく、淡々と彼女の 声 が響いている)
『時間切れ、残念だけれどお別れだわ。あなたさえ良ければ共に燃えて、灰塵と化してしまいましょう』
男「っー!? ――――何だって」
男(……共に燃える? やはり、おかしいぞ)
日曜日に
男(言わずもがな“声”の主は彼女、オカルト研の物としか判断しようがない)
男(しようがない、というのに 先立つ違和感、このたっぷり違和感、私情を挟む。今朝の彼女が矢庭に自殺願望者? しつこく私情を挟むスタイル)
男「……俺たちと当分顔を合わせない志、貫かせてもらいます、だって?」
男「隠れてないで出て来てくれないか、オカルト研。顔も拝めないまま心中じゃあ面白くない」
男「それに、ここには俺やお前と無関係な女子生徒がいるぞ。巻き込めばロマンチックじゃないな」
『…………』
男「お前を何が物騒に追い立てたか知らんが、俺はこの子を命懸けで逃がす。火炙りは、誰だってゴメンだろう」
男(説得という名の拒否と受け取って貰えただろうか。愛の暴走がお前を凶行へ走らせようが、俺は付き合うつもりは一切ないのだと)
男(意が深ければ深いほど、この振舞いは 彼女に不快を与えると信じてみた。意中の相手とのラストダンスに、他の誰かがいるだけで 確実にぶち壊しである)
男(他の誰かを守っているのが……つまり、オカルト研が完全に悪役を担ってしまうだろう。さて、返事が返ってこない)
『…………』
男「どうした? 考え直す気になったなら、恥ずかしがらずに出て来い」
『覚悟が決まったようね、男くん』
男「……何だと?」
『いいわ、あなたならば私を裏切らないと信じていた。炎の匂いが鼻を突き始めたでしょう』
男「お前はさっきから一体誰と会話して……!!」
男(染み付いてむせる前に、辺りを確認し、今頃見抜いた。オカルト研の声が初めから一ヶ所で、鳴って、いる事に)
男(何故俺はすぐに彼女の姿を探さなかったか、向こうから現れるよう煽っていたのか、傍らの妹から一時も離れたくなかった為、言い訳で構わない)
男(迅速に退路へ飛び込むべきだった、いや、逃げた所で……未だ目を回したまま腕の中にいる妹へ視線を落とし)
男「どうしようもない、詰み……」
男(不審に漂う焦げた臭いが、ようやくして俺の鼻孔を通ってきた。目が、やけに乾く。しかも痛い。Q:アレは何だろう?)
男(A:ボヤである)
男「火だよ、火ッ!! おい起きろ! 死ぬぞ! オイッ!!」
妹「むにゃ……」
男「うっ!?」
男(臭いが増して、衣装に火が移ったことを嫌でもこちらに分からせる。こういう時はどうする? 何の為の避難訓練だ、消火器、119!!)
男「あ、あ……く、ぜんぶクソだああああああああああああぁぁぁぁ!!!!」
男(冗談では済まされない、火事場の冗談じみた馬鹿力が発揮するこの主人公である。背負った妹の重さもお構いなしに、階段を駆け上がり部室から脱出していた)
男(え、オカルト研? ……最初からアイツはあそこにはいなかった。後で知る話となるけれども)
男(今はとにかく、やかましくヤベーと吠え続ける火災報知機の音に、茫然とさせられたままでいさせてくれまいか)
妹「――――お兄ちゃん、なにこれ」
男(ノーコメント)
『これは避難訓練ではありません、現実です! 皆さんただちに校庭まで避難を!』
「マジの火事だって」
「部室棟燃えてるとか聞いたけど、燃えてる?」
「点呼しますので騒がないでください!! クラスごとに集まって各自友だちがいるか確かめてください!!」
妹「なななな、何なのさコレぇー!?」
男「……うむ」
妹「わ、私目覚めたらいきなりこんな大騒ぎなってて、あの、そのー! 何っ!?」
男の娘「男っ!!」
男(定まらない精神状態を元へ引き戻すかの如し、駆け寄って来た男の娘が俺に抱き付いて来た。その背後には青冷めた転校生の姿も)
男の娘「無事でよかったよぉ……ほんとうに……」
男「いや、お前たちの方こそ……」
転校生「…………あんた、かなり不味いんじゃない?」
男(誰が? 勿論、転校生は俺を指していた)
男(しばらくして避難を終えた全校生徒たちは、輩は、事件に噂にと引っ切り無しに灯火を消さんとしないばかりに騒ぎ立てていた)
男(その反面 掻き消されそうになっているのが)
「アイツよ、アイツ! 火事の現場に偶然いたとかって子」
妹「ひっ」
「妹ちゃんだけだよね……演劇部に衣装取りに行ってたのって」
妹「ち、違う!! 私が火なんかつけるワケないじゃん!?」
「じゃあ他に誰がやれたの?」 「待って、もう一人傍にいたんだって、ほら」
男「…………確かに不味い」
男(幼き頃、家族で夢の国へ遊びに行った過去がある。心躍らせ、無我夢中にアトラクションを楽しんでいたら、大人へぶつかり、しかめっ面で舌打ちされてしまった)
男(それだけで上々であったテンションは下って、仕舞いには何も楽しくなくなっていた。そんな、幼かった自身の不快な思い出が不意に蘇る)
生徒会長「男くん、無事だったか」
男「! か、会長……それに先輩さん、と 不良女か」
不良女「ついで扱い止めろ。ていうか、結局オカルト研の関与あったのか? 男、どうなんだよ!」
男「ああっ……いや」
先輩「まーまー、ここは穏便にいきましょーや、皆の衆! 火も、何着か衣装燃やしたぐらいで済んだんだからサ」
生徒会長「ああ……しかし、起きてしまったな」
男(気に留めるなと励まされる空気は漂ってはいない。我に帰って「失言だった」と生徒会長が言葉を取り消そうが、取り消さまいが、重圧は覆い被さった)
先生「ごめん 男くん、ちょっと来てくれないかしら」
男「……はい」
男の娘「せ、先生違いますっ! 男は何も悪いことなんかしたりしてません!!」
先生「そうね、でも、疑うどうとかじゃないの。こういう時どうしたらスムーズに解決するかでしょ? 三分ぐらい話を聞きたい人たちがいるの」
先生「行きましょう、男くん」
男(返事も有耶無耶に、美少女たちから見送られつつ手を引かれる俺。ゆったりとした歩みの中、視界に塞ぎ込んだ妹が飛び込む)
男(――――逆境こそ、非現実じゃないか)
「火種に使われたのは乾電池だったよ。インターネットか何かで調べれば誰でも簡単に作れることができる時限発火装置だ」
「音声レコーダーらしき物が焼けて転がっていたんだけれど、君は何か知っている?」
男「……いいえ」
男(オカルト研、と答えるのは簡単だろう。機械の損傷具合も決して酷くはなかったと言われたが、彼女を差し出す真似は俺には出来なかった)
「そう。それじゃあ、一緒にいた女の子、君の妹さんはその時どうだったのかな?」
男「ボクがお化けのフリして驚かして、気絶していました。事実です」
男「ボイスレコーダー、演劇部の友だちが無くしたとか話していました。見つかったんですね」
男「自信がなくて、演技の練習用に保存して繰り返し使っていたらしいんですけれど……良かった」
「ありがとう、だいぶ疲れているみたいだし 向こうで休んでいるといいよ。協力してくれて感謝します」
男「…………」
先生「男くん、本当のこと話した?」
男(待ち伏せとは人が悪いではないか、美人教師。何だ? 無暗に肩に手を乗せるとは、豊満な胸が当たっているぞ、けれども)
男(不幸中の幸いかもしれない)
先生「大丈夫だよ、急な事でビックリしたよね、大丈夫だから。頭上げなさい」
男「……点呼の時に、名無しはいましたか?」
先生「名無しくん? ううん、今日は、欠席扱いだから、特には」
男「……そうですよね、分かっていました。く、クひ、くくく……ハハハ……」
先生「男くん?」
男「アッハハハハハハハハハハハハハハハ!! アァーーーーハッハッハッハッハッ、イヒッ、げほっげほ!!」
先生「ちょっと平気!? ――――――お、おとこくんっ?」
男(上等だコラァ……)
火曜日につづくのよ
男(事故の規模は辛うじて小さく収まったらしいが、そういう問題ではない。当然ながら学校側もこの対処に追われる羽目になる)
男(午後の準備活動も足早に引き上げられ、全校生徒は下校を強制させられてしまったワケだった)
男の娘「男、妹さんの様子どうだったの?」
男「え? まぁ、一応気にするなって声掛けてはおいたけれど、なぁ」
男の娘「う、うーん。あのさ、最近やっぱりおかしいよ……ここのところ嫌な事立て続けだし」
男の娘「いくら皆浮かれてるからって、絶対ヘン! 男と転校生さんも僕と同じこと考えてるよね!?」
男「穏やかじゃないのは、同意」
男の娘「そうだよ! し、しかも今回はボヤ騒ぎだなんて、なんか 不安になってくる……」
転校生「心配しなくても私たちだって同じ気持ちだわ。だけど……ん?」
男(同時に三人の携帯電話が音を鳴らした。送り人も内容も完全一致である、我らが愛好会・部長さま。というか、愛好会で“部長”とはこれ如何に?)
先輩『メール本文:召集っす♪ めっちゃ緊急部内会議どぇーーーーす☆☆☆(≧ω・) 今からウチに集合だよ! いじょ!』
男の娘「うわ、なんか古臭っ!!」 男「こういう迷惑メールまだ届くけどナ」
転校生「ま、部長さんらしさはともかく、せっかくだし何かお菓子でも買って行ってあげましょ。丁度そこにコンビニもあるし」
男「おー、太っ腹だな、転校生」 男の娘「ごちそうさま、転校生さん♪」
転校生「あんたたちもお金出すに決まってるでしょっ!!」
男「――――荷物持ち役、やっぱり俺なのかよ」
転校生「ふふん、ジャンケンで決めたんだから文句言わないでよね~。ていうか、そんなに大荷物でもないんだからしっかりしなさいよ、モヤシ体系」
男「モヤシに労働させる人間様の考えが理解できませんわー……」
男の娘「ふふふっ、良かったぁ。いつもの[ピーーー]」
男「ん? 何嬉しそうにしてるんだよ、お前。敗者を笑うのは勝者の特権だって?」
男の娘「ち、違うちがうよ! 僕はただ、あんな事があっても男が[ピーーー]通りでいてくれてるから、ほっとしちゃったっていうか、[ピーー]い男、すごく[ピーーーー]なって……///」
男(止せやい、惚れ直すなよ。なんて癒しの下校トークも一旦の中断、目的地である中華料理屋へ俺たちは辿り着く)
男(午後の営業前でもあり、客の姿もなく、入口から入るのも躊躇っていたが、ドアガラスの向こうから粋なオヤジが招いている。丸太を軽々担げそうな逞しい腕を振って)
転校生「えへへっ、店長さんていつ見てもカッコイイわよね。誰かさんもあれぐらい鍛えた方が良いんじゃない? ねぇ~?」ニヤニヤ
男「想像してくれ、俺が筋肉モリモリのマッチョマンの変態になっている姿を」
先輩「おーっ! 三人揃って来ちゃったねっ、待ってたよー! 早く早く!」
男の娘「あれ、生徒会長さんと不良女さんもう来てたんですか?」
生徒会長「やぁ、お疲れさま。不良女と共にお先させて貰っていた所だよ」
不良女「っくう~!! オジさんっ! この中華丼かなり美味いねぇ! 気に入った!」
男「約一名は何フツーに飯食ってんだよ」
不良女「いや、マジで冗談抜きの美味だぜ、美味! 早くお前らもあたしと一緒に虜になっちゃおう!?」
先輩「ウチの飯はそんじょそこらの危ないクスリより危険なのだよ~!!」
転校生「売り文句が地上最悪レベルじゃないのよ……」
男(ともかく、営業時間までは自由に使って構わないとお許しを頂いた俺たちは各々自由に席へ着席し、緊急部内会議は始まるのであった)
生徒会長「部室外の活動という事で、店主のご厚意にまずは感謝すべきだな」
先輩「はっはっはー! まぁ、わたしが生徒会長ちゃんたちに色々迷惑掛けちゃったし、お父さんがお詫びにって」
不良女「つーかさ、ここで今話し合うったってそんなにすぐ気分切り替えられるかな? ……ていうか、だからこそ、みたいなヤツ?」
先輩「そうだよ~。だからこそだよ、不良女ちゃん! グダグダ過ごしてたけど、文化祭まで時間ヤバいですしねっ!」
男の娘「その辺りの心配は最もなんだけれど、ほんとに大丈夫かな……?」
不良女「えぇ? 何の心配だよ、暗い顔させんなって。せっかくの中華丼 不味くなっちゃうだろー」
生徒会長「うむ、予定のまま開催されるかどうか気掛かりなんだな。実際 今日のような好ましくない案件が続いている」
男の娘「僕、こんな状態で文化祭なんてあって良いのかよく分かんなくなっちゃって……」
不良女「あー、気分になれない、とかはあたしも同感かもな。それに、片す問題が残ってる……っ!!」
生徒会長「由々しき事態、皆がそう考えているのは当たり前、か」
生徒会長「特に……君は、男くん。男くんはいま非常に危うい立場に追いやられ様としているぞ」
男(この場全員が、心配そうな、あるいは哀れみの視線をこちらへ募らせていた。店主のオヤジ、貴方もか)
男(やれやれ、それもその筈だ。現場にはこの俺と妹の二人のみしか残っていなかった。怪しい音声レコーダーも転がっていたが)
男(妹か俺、犯人の疑いが掛かってくるのは当然である。現実から帰って来ても事件のど真ん中とは、忙しない人生を送らせてくれるではないか)
転校生「変態、あんたが無実だって事は私たち信じてるからそこは心配しないでよね」
先輩「なーんかツンデレ成分が台詞から感じられないんだよなぁ、今のじゃ……」
転校生「ツンデレ? つん、んー……あぁ~!! よく分かんないけどっ、心配いらないの! 良いわね!?」
男「心配なんて、初めから疎まれてるんならココに呼ばれちゃいないだろう? でも、ありがとうな、転校生」
転校生「! う、うんー……///」
男の娘「転校生さんの言う通り大丈夫だよ、男。先生だって男が悪くないってきっと証明してくれる筈だもんね」
男(優しい世界が無限に広がるのだ、いくらトラブルが俺を揺らがせようと味方が付いていてくれる。しかも可愛い。それだけで十分じゃないか)
不良女「部内会議っていうか、これじゃあ男を励ます会じゃんかよ。切り替えてお菓子開けちゃおう」
先輩「――――――んじゃ オカルト研って子のことなんだけど、切り替えよっか」
不良女「は、はぁ!? 部内の、問題を相談する場じゃないのかよ。ブチョー!」
先輩「部員の悩みは部内の問題じゃんよう! つまり、わたしたち三年でも介入する余地があるわけですなっ、ね!」
生徒会長「だいぶナイーブな問題へ首を突っ込みそうではあるがね……その為に設けた場だ、君たち」
男(俺も含め、二年生組が目を丸くさせているのを先輩さんが笑い、生徒会長が腕組で仕切り始める。不良女といえば、いても立ってもられず、というか文字通り椅子から立ち上がった)
不良女「何考えてんだよぉ、あんたら……」
生徒会長「おや? 珍しく君にしては察しが悪いな、たまには先輩風吹かさせてくれたって悪くないだろう」
不良女「悪いよ! 関係無いあんたたちまで変なことに巻き込んじゃったら、もう言い訳も思いつかねーじゃん!!」
男「俺もコイツと同意見です。あなたたち二人まで関わる意味がない、そもそも綺麗に処理できるかも分からないんです」
先輩「だからって後輩の悩みを放っておけるほどわたしたち神経図太くないないよ~? わたし的には、恩返しでもあるんだよねぇ」
先輩「ここにいるみんながいてくれなかったら、部の相続なんて無理だったんだもん……困った時はお互いさま、じゃない?」パチッ
男(お世辞にも上手いと呼べないぎこちないウィンクを俺へ向けた先輩の表情は、有無を言わさせなかった。巡る、めぐるだろうか、こういうのは)
男(巡りめぐって帰って来たのだ、大きな何かが。始まりこそ邪な想いが生んだというに、どうして中々 温かい)
店主「繋がりだよ、アンちゃん。人は人と繋がってこそ恩恵を受けられるのさ」
男「店主!!」
店主「綺麗事語らせてもらうが、絆は手前を裏切らないさ。料理と同じだよ。しっかりした下ごしらえあってこそ奇跡の一品は一丁上がり……」
店主「人も料理も城みてぇなモンよ。土台作りが一番の肝心、手前の道は手前が作るんだぜ」
男「店主、いや、マスター……」
店主「ヒートアップの下準備だ。自慢のオレ炒飯、たんと食べろや」トン
生徒会長「――――――バックグラウンドが読めないな」
男(優雅に口元をハンカチで拭った生徒会長が一言。今朝の事から、果ては俺が受けた仕打ちまで詳細に伝えての簡潔な感想である)
生徒会長「まず、間違いないのが君へ対する恋愛感情だけが彼女を突き動かしたとは考え難いかな」
不良女「だから手っ取り早く会って直接聞き出すしかない、ってのは通用しなかった……」
不良女「何考えてんのか抜きで、アイツらしくないことやってんのはマジ。元々口は汚ないし、人当たり最悪だったけど」
男の娘「ふ、不良女さんが口汚いってどの口が、あっ」
男(しばかれるのはご褒美だ、男の娘。ご褒美なのだ。そんな騒ぎを他所に、先輩が懐からメモ帳を机の上へ乗せる。コイツは?)
先輩「わたし、ちょーっくら聞き込みみたいな事してみたんだよねぇー。そもそもオカルト研ちゃんがどんな子なのか知りたくて」
男(彼女のメモ帳には、何も記されていなかった。多くのモブたちへ尋ねた成果が、オカルト研本来の人となりを痛く訴えて来るのだ)
転校生「ぶ、部活の、研究会の人たちからは何も聞けなかったんですか……?」
先輩「意味わかんないこと教えられたって参考にならないじゃん?」
男「何気なく酷いこと答えてますからね、先輩さん」
生徒会長「私も伝手を当たってはみたものの、詳細を知るには至らなかった。彼女の交友は極めて狭い。他に情報を知り得る人物がいるだろうか?」
男「……いる事には、多分いますけれどね。それもストーカーみたいなのが」
男の娘「あわわわ…」 不良女「よし、ダメ元でぶっつけ行くぞ! 男ぉー!」
こ・こ・ま・で
黒服「――――――フゥ、ぬ…………」
生徒会長「打ち合わせ時間丁度に来たな。この期に及んでだが、男くんあの人物で間違いなかったか?」
男「ええ、まさか素直に俺たちの頼みを承諾してくれるとは思ってませんでしたが」
先輩「わたしも如何にもMIBってふいんきの怪しいのが来るとは思ってませんでした!」
転校生「部長さんってば雰囲気、正しくして雰囲気よ。ていうかあの人今朝の?」
不良女「あ~、見間違えたりしねーよ、あんなオッサンじゃ……なぁ、マジで平気なのかよ男」
男「どうだろう? しかし、複数で会うのは避けた方が好ましいかもしれん。相手側にも失礼だし」
男(あんな嫌な奴でもと、本音付け足してやりたいものだ。日も完全に沈み、街灯に照らされた美少女たちと共に陰からオカルト研信者 もとい黒服を俺は追った)
男の娘「でも、どうして落ち合う場所がラーメン屋なの……? この疑問、変かな」
先輩「そりゃわたしたちラーメン愛好会と言えばラーメンに始まり、ラーメンで締めるから♪」
男の娘「こ、答えになってないようなぁ~」
不良女「あたしは行かない組に分かれとく。あたしじゃあのオッサンから第一印象最悪に持たれてるだろーし」
生徒会長「そうか。ならば初見メンバーで行くか? と言っても最終的に約束を取り付けた張本人を抜きにできないが」
男(俺を筆頭にするという事らしい。それもそうだろう、このイベントまで場面を進めたのはこの俺だ)
男(そう、先程の部内会議で放った思いつきが採用されて現在達していたのである)
男(勝負へ挑む前の回想シーンは不吉な旗を立てると偉人はかく語りき、なんて――――)
転校生『――――結局このお屋敷に逆戻りするだけじゃない! もう!』
生徒会長『成程な、流石は男くんだな。事件の当事者の身辺を洗わずとも、当人に訊けば早いだなんて』
男『んなワケないっスよ……っ!』
男『大体まだ帰って来てるのかも、会ってくれるかも分からないんですよ? 生徒会長』
先輩『ナンデみんな大ゴーテイ前にして驚カナイ? ナンデ?』
生徒会長『ならば、彼女をよく知る人物というのは家族に? 気安く会って貰えるのなら助かる物だが、事件後の昨日今日では中々厳しくも』
男『いいえ。ご覧の通りオカルト研という奴は金持ちのお嬢様です、財閥がとか耳に挟んでますよ』
先輩『ケッコン!! 不肖わたし結婚申し込んで来ちゃいますので!!///』
男の娘『この人自分で不肖言っちゃってるよぉ……』
不良女『アホは放っておくとして、お嬢様は今更なんじゃねーの?』
男『身辺警護のスーツの大人たちにいつも守られてるのも今更だよな』
先輩『そっか、小市民に知らない世界はやっぱりあるんだね、ネ、皆さん』
生徒会長『……にっ、認識を改めさせられたのは良いとして、それが何か?』
男『実は、その中の一人と俺は面識があるんです。親しいとは呼べませんけれどね』
男の娘『えぇ!! そんな人がいたのにどうして早く頼らなかったの、男!?』
男『それなりのワケがあるからに決まってるだろ……』
生徒会長『ともかくその人物を当たってみれば何か掴める可能性があるのか。警護人ならば、彼女の周りを常に見張っているのだからね』
男『はい、ただ……その人一つ、二つ……数え切れない問題が、あって……』
転校生『あのねぇ、正直に自分に合わないって告白しなさいよ? 苦手だから出来れば頼りたくなかったんでしょ?』
男『好き嫌いで済むなら早くに動いてたんですけどねぇ』
不良女『じゃあさっさと会って協力してもらおうぜ。一応あんたの知り合いなんだから、会っては貰えるだろ』
男『いや、連絡先だけ教えてもらって引き返そう。そうしよう』
不良女『バカ肝心なとこで縮こまってんじゃねーよっ! 男だろお前!』
男『男だよ!! ……正直言うと成功する自信がない。確率も0%寄りだと思ってる』
先輩『すみませ~ん、わたしたちオカルト研ちゃんの友達なんスよー、えへへへっ!』
『はぁ……』
男『あー!! なぁ、アレっ、あ゛ーーーー!!』
転校生『ずーっと渋ってたって何も始まらないわよ、変態。丁度良いじゃない! ほら、あんたも来て!』
男『……言い出さなきゃ良かったよな、俺よ』
男の娘『えぇ!! そんな人がいたのにどうして早く頼らなかったの、男!?』
男『それなりのワケがあるからに決まってるだろ……』
生徒会長『ともかくその人物を当たってみれば何か掴める可能性があるのか。警護人ならば、彼女の周りを常に見張っているのだからね』
男『はい、ただ……その人一つ、二つ……数え切れない問題が、あって……』
転校生『あのねぇ、正直に自分に合わないって告白しなさいよ? 苦手だから出来れば頼りたくなかったんでしょ?』
男『好き嫌いで済むなら早くに動いてたんですけどねぇ』
不良女『じゃあさっさと会って協力してもらおうぜ。一応あんたの知り合いなんだから、会っては貰えるだろ』
男『いや、連絡先だけ教えてもらって引き返そう。そうしよう』
不良女『バカ肝心なとこで縮こまってんじゃねーよっ! 男だろお前!』
男『男だよ!! ……正直言うと成功する自信がない。確率も0%寄りだと思ってる』
先輩『すみませ~ん、わたしたちオカルト研ちゃんの友達なんスよー、えへへへっ!』
『はぁ……』
男『あー!! なぁ、アレっ、あ゛ーーーー!!』
転校生『ずーっと渋ってたって何も始まらないわよ、変態。丁度良いじゃない! ほら、あんたも来て!』
男『……言い出さなきゃ良かったよな、俺よ』
先輩『名探偵わたしが聞き込み調査したところ、今外に出てるんだって』
不良女『そもそも誰がコイツの知り合いなのか聞いてないだろ……』
先輩『じゃあじゃあ男くんこちらの素敵メイドさんに一言お願いちょーだいっ、さんはい!』
男『……く、黒服さんに折り入ってご相談がありまして、ご迷惑にならなければ連絡先をお尋ねして構わないでしょうか?』
『大変申し訳ございません。急を要していましても私の判断でお伝えするのは決めかねます』
不良女『えぇー! 減るモンじゃないんだし!』 生徒会長『無理で元々の話だったろう、我儘は止さないか』
『そういう事ですので――――ところで、皆様が着られている制服 お嬢様が通われている学校の……』
男の娘『そ、そうなんです。僕たちオカルト研さんの友だちで、えっと、心配が爆発しちゃって!!』
転校生『お願いします! あの子に何か出来ないか考えているんです、少しでも力になれたら良いなと思って!』
『ご友人! あぁ、でも最近はあのお嬢様がご友人をこちらに招いたとか……』
生徒会長『残念ながらオカルト研さん本人とは連絡がつかないもので。ですが、彼が警護で一人思い当たる方がいると言って聞かないのです。だった、ね?』
男『!! は、はい、そんなんですよ! 俺も子どもの揉め事で頼るのはどうかと思ったんですけど、事態が事態だったものでして……つい』
『いえいえっ! あのお嬢様がご家族以外の方へ心開くなんて、余程では無いのですね。あぁ……少々お待ちになって頂けますか?』
男『チョロ、んむうっ!!』バッ
男の娘『男?』 男『い、いや? 何でもないぞ? 別に?』
『……はぁはぁ、ふー。お、お待たせしましたっ、すみません、ご友人様方へお見苦しいところを……』
不良女『まさかの全力疾走だったもんな。で、例のヤツはお願いできる感じスか?』
『こ、これを……はぁはぁ……どうぞ!』
男(息も絶え絶え突き出されたのが恋文であればと惜しむ前に、メモ用紙に走り書きされた電話番号を確認し、安堵か憂鬱かの溜め息が俺から漏れた)
『お嬢様を、オカルト研お嬢様をよろしくお願いします!』
転校生「なんか託されちゃったけど、本当に大丈夫なの?』
男『無理矢理背中押した奴がかける言葉じゃないよな、それ』
先輩『まぁ、結果オーライ祈って無事完了をあとは祈るだけだよ! どうする? 願掛け行ってから電話しよっか?』
男『神頼みが一番頼りにならないと心の底から思うんですよ、俺。構いません。すぐに連絡を』
生徒会長『待ってくれ、男くん』
不良女『待てないから! 考え事の披露なら全部上手く行ってからにしてくれよな、カイチョー』
生徒会長『そうじゃないんだ。男くん 君と例の人は、いや、あの躊躇い方ではよほど関わり合いになりたくはないと思っていたんじゃないかな?』
男『……予言しましょう、俺が電話掛けて数秒で虚しい沈黙が起こります』
男の娘『……ひょっとして嫌われてたりするの?』
男『すまん、ゴキブリと新聞紙の関係だ』
不良女『……じ、じゃあ早い話男除いたあたしたちの内の誰かが連絡したら良いだけだろ?』
男の娘『こ、こういうの始めの一歩が肝心じゃないの!? 下手なこと言って相手にされなかったら終わりじゃないかなぁ』
生徒会長『かと言って、ここまで来て尻込んでいるワケにもいかないだろう。……私が掛けるで意義はないか?』
男『脅す様で申し訳ないんですけれど、“お嬢様”の話題に触れた途端に豹変しますからね』
転校生『空気読みなさいよ、ばかっ!!』
男『だから俺はあれだけ必死になって止めようと言っただろ!?』
転校生『どのタイミングでよ!?』
先輩『もしもしー、お忙しいところすみません。あっ、わたくし怪しい者ではありませんよ~!』Prrrr!
『っ~~~~!?』
不良女『だ、誰だよ このド変人にケータイ持たせたの!! 詰む、マジで詰むから!!』
生徒会長『……いや、こうなれば信じよう。この子の意外性には昔から私も目を見張るものがあってね』
男の娘「そ、そんな。でも、だけどですよ!?』
生徒会長『ずば抜けた感性が齎すおよそ予想の付かない行動力の持ち主だ。彼女は時に天才と称され、あるいは天災と……」
不良女『ただの台風に変わりないだろ それ!!』
男『……先輩さん、切りの良い所で電話代わってもらえますか』
先輩『……ほいサ!』
男『ありがとうございます。もしもし、この声聴き覚えありませんか?』
黒服『聴き覚えだと……脳にまで刻まれた忌むべき憎たらしい小僧の声だ。畑の肥料の足しにもならないカスを彷彿とさせてくれる』
男『いまは車内ですか? あれから随分時間が経っているのに、まだオカルト研は』
黒服『貴様の腐乱漂う目的などたかが知れている! ネズミの分際が、まだウロチョロと気高きお嬢様の周りを……!』
男『そこにオカルト研はいますか。出来れば彼女には聞かれたくない話をあなたとしたくて、たまりません』
黒服『…………何だ?』
男『すぐに通話を切らないというのは、正直驚いています。ですが確信しました』
男『あなたも 今の“オカルト研”に対して何か思うところがあるんじゃないか、と……』
黒服『薄汚いガキの暇潰しに付き合ってやれる懐の広い大人じゃないか。用件は?』
男『可能なら実際に会って話ができたら嬉しいと思っているんですけれど、今夜じゃ忙しいですか? おニイさん』
黒服『……好きな時間を指定するがいい。で、場所は? さっき話した少女は?』
男『頼もしい限りです。でしたら場所と時間は――――――――』
男「(――――――――こうして現在だ) こんばんは、同伴に一人いますけれど構いませんかね?」
黒服「まずは座れ。……さ、今日はにんにくを多めに入れるとしよう」
日曜日につづく
男(時間帯もマッチして店内は学生や仕事帰りのサラリーマンで溢れていた。賑やかな空気が俺へ場違いを突き付けてくる)
黒服「座れと言っているんだ。それとも私の横では不満か?」
男(黒服は見透かした様に憎たらしい態度を取り、お前の横かよと怯む俺を笑う。そんな険悪なムードを破ってくれることを見越して、彼女を選んだのだ)
先輩「どうもこんばんは! わたしなんかがお隣しちゃってもお兄さん良かったですかね~、えへへ!」
黒服「……ふん、構わない。学生ならばこの店の暖簾をくぐる機会も多かろう。配慮に感謝してもらいたいなぁ、少年」
男「やれやれ、驚きました。あなたの口からラーメンでも食べに行くかなんて聞ける日が来るなんて」
先輩「ラーメンを前にして気難しいお喋りはナンセンスぅ~、お二人~。ラー欲を満たすっ! これ一番大事だから!」
男(先輩が間に入ってくれたことで話のし易さも抜群に変わったのは気のせいではないだろう。彼女持ち前の明るさと気軽さが、俺たちの緊張を適度に解している)
男(見越してなどと偉そうに語ってはみたが、実のところ ラーメン=先輩の計算式から得た短絡的に選択を得たのもあったりしちゃったり、なんて……)
先輩「ていうか男くんがこの店選んだんじゃなかったんだね。お兄さんはここの常連さんだったりするんですか?」
男(質問に、さっと財布からプラチナに輝くポイントカードを指に挟んでチラつかせる黒服。こいつがガチ勢だ)
黒服「ハッ、自慢する程でもないが! ……早く品を決めてしまえ。ロット乱しなど極刑だぞ」
男「は? (食券制だぞ、このお店。もう俺か彼 どちらが動揺しているのか分からん)」
男(しかし、どう話を切り出して良いか悩むな。黒服とは正に犬猿の仲でもあるし、だが意外にも向こうが歩み寄って来てくれた。意味不明に地雷原を歩いている気分である)
「お待たせしましたぁー、あじ玉らーめんカタのギトギト一丁!」 ト ンッ
黒服「私が先か、まぁ当然だろう……君たちはここのラーメンを極上に仕立てあげる味わい方を知っているか?」
男(サングラスの向こうからも分かる怪しく光った瞳を前に先輩さんと顔を合わせていれば、この黒服卓上のおろしニンニク缶を掴み、勢い任せて逆さにしやがった)
黒服「コレが職務を全うする者だけに与えられるご褒美だ!」ボドォ・・・
男「うっわ、やりやがった!!」
先輩「この外道ッ!!」
先輩「いくら常連とはいえ、やって良い事と悪い事があるよニンニクリミットブレイクなんて卑怯技中の卑怯技だ!!」
黒服「何だ? 黙れ! ニンニクは食の楽しみへライブ感を与える優れた調味料の一つ、人の食い方にケチをつけて悦に浸るか!?」
先輩「確かにお兄さんの言う事には一理あるよ。でも、一缶分をラーメン一杯にぶち込むなんて本来の味を損なうし、ニンニク食べに来たのと一緒じゃん!」
黒服「なにを!?」
先輩「ここのラーメンはとんこつベースにマー油を混ぜた動物臭さを加速させた味を楽しめる……美味さとは舌を痺れさせること? 違うね、お兄さん!」
先輩「お兄さんの食べ方じゃ、牛脂にいっぱいのニンニクまぶして食べる方が現実的だよ。もうそれはラーメンじゃない。『ニンニクシチュー ~冷蔵庫の余り物を添えて~』だよ」
黒服「……ニンニク、シチューだと? ……あ、あぁ」
先輩「あなたは何を食べに来たかったのかなっ、麺、よく煮込まれたチャーシュー? 煮卵!? そう、ニンニクはメインじゃない! ニンニクこそ添え物!」
男「すみません。熱い説教遮りますけれど、明日はお仕事休みなんですよね、黒服さん」
黒服「はっ! 何故それを貴様が!!」 男「ニンニク臭漂わせて護衛するのが一流の警護ですかね」
「ら、らーめん二つになります。他のお客様にご迷惑掛からないようお願いします」
男「まずは食べましょうか、先輩さん。俺のチャーシューいりません?」
先輩「ダイエットとかでいらないの!? 是非とも有り難くいただくっす~!!」
黒服「ふー、ふー、ハムッ、ハフハフッ、ハム!! ズビズバッ! ズズーッ! ……お嬢様と一度この店を訪れたことがあってな」
黒服「お嬢様へこんな低俗極まる食事をさせるワケにもと必死に止めてはみたが、最後には熱意に負けてしまった。今では私が週一で通う醜態だ」
黒服「あの時のオカルト研お嬢様の表情の面白さたるや……フフッ、いかん。主に代わるお嬢様を思い返し笑うなど……」
先輩「ラーメンをバカにしちゃいけませんよ~? どれだけ歴史重ねても大衆に好かれるお食事なんですからぁー、だよね男くん?」
男「カップ麺こそ人類が生み出した最高です。黒服さん、今日はオカルト研と一緒にどこを回っていたんですか」
黒服「代表、お嬢様のお父上へ謁見をしてきた。その後の挨拶回りはいわゆる顔見せだろう。財閥令嬢は苦労も耐えないな」
男「挨拶回り……俺、疎いからイマイチなんですがよくある事なんですか?」
黒服「お嬢様の場合ならば、非常に稀だと答えておく。今日の突然の日程もあの人ご自身によるご意向からだ」
男「何ですって?」
男(箸を止め、お冷を飲み干した黒服が俺を真っ直ぐ見つめて止まっていた。彼が上着を脱ぎ、椅子へ掛けると)
黒服「貴様から見ていまのお嬢様は普段とかけ離れてしまった。だからこそ、私へ声をかけてきた、か」
黒服「やはり、お嬢様は変わられてしまったのだな……」
黒服「私が異を唱えようと部下はおろか、周りの人間は聞く耳を持たん……皆、お嬢様の変貌に気付いていないとでもいうのか」
男(名有りキャラクターこそが対応できる異変、この黒服もサブでありながら例外ではなかったのか。今朝のイベント内で兆候は見せていたが)
黒服「貴様に頼るのも不服だが、あの方は、あの子は学校でどんな表情を見せてくれていただろうか」
男「俺の知っているアイツは決まった人間にだけ愛嬌を見せる可愛い女の子です」
男(少しばかり変わっていたが、純情可憐、撤回、良き美少女であると強く主張しよう。その奇行も、決して人を陥れる事も傷つける事もなかった)
男「人に向かって毒も吐くが、それは大金持ちの自分を狙って近寄る不埒な輩を遠ざける為に身につけた術だった」
黒服「心の奥底では誰かへ歩み寄りたいと強く願っているに反し、常に態度が裏目に出てしまう不器用な子だ……」
黒服「難儀な少女だと私は思っていたよ。しかし、ある時下賤なガキを連れていたではないか。あの子の傍に立ってやれるのは私だけだった筈なのに!」
黒服「貴様だ、貴様ァー!! 貴様が私から平穏を奪い去って……このザマだ」
先輩「ち、違いますよ~! 男くんは別にお兄さんに恨まれたかったんじゃなくって、もっと別の」
黒服「恨む? ほう、私の奢りが少年へ牙を剥いた。気に食わないが事実なのだろう……」
黒服「……お嬢様を中心にと一点を見定めることしか出来なかった瞳だ、君らの方が私よりもあの子に詳しかろう」
黒服「フン、謝礼のつもりで受け取ってくれ。学生には寄り道に掛かる金は安くないだろう」
先輩「あー、ちょい待ち願いますか!! おにいさん」
先輩「っあ~~……う~~~~……」
先輩「店員さん、黒いお兄さんに替え玉ひとつっ!!」
黒服「替え玉!?」
先輩「男くん、あともうひと踏ん張りだよ! お兄さんあとちょっぴり押したら味方になってくれそうかも!」
男「先輩さん……黒服さん、俺たち今のオカルト研に手を差し伸ばしてやりたいんです」
男「その為に少しでもアイツの情報を集めたいと思っているんです。あなたでしか気づいてやれない事なんかも全て、貪欲に」
男「お願いします!!」
先輩「え、あっ、え~っと、わたしからもお願いします!!」
男(先輩に捕まった黒服へ斜め45度も大袈裟ではない礼をした俺が気がつけばいた。安売りした覚えのないプライドは震えて握った拳に伝わり、抑えるのがやっとである)
黒服「……気楽だな」
黒服「面を上げろ、こんな所を見られて妙な噂が立っても私が困る! 食事を楽しむ場で無作法だとは思わないのか貴様らは!?」
男・先輩「お願いします!!」
黒服「知るか!! ……そういえば明日の話だ、お嬢様は○×にあるという廃病院に向かわれたいそうだが」
黒服「廃墟となれば、私がお傍に付かぬワケにもいかんな……おぉー、せっかくの麺が伸びてはいかん」
男(恩に着る、美少女へ忠誠を誓う変態騎士)
ここまで
天使「ありゃ、おかえりなさい男くん。自分が思ってたより随分お早い帰宅ですねえ」
男「そうか? まぁ道草もほどほどにするよう念押しされた事もあったし、叱られずに済むからな」
男(玄関に幼馴染の靴はなかった故に今晩の通い妻はお休みなのだろう。また無理に動かれるよりは安心だったが、顔を拝めないのは残念である)
天使「えー そうじゃなくって、サツの世話になってたんじゃなかったんですか?」
男「……はぁ? どうして人畜無害が取り柄の俺が警察にだよ、天使ちゃん」
天使「だってボスが。ただならぬ様相で帰って来たと思いきや、ヤバいとか、お兄ちゃんも巻き込まれた~とか!」
天使「んもー、マジお騒がせ家族ですよねぇ。自分という清涼剤がいなかったらガタガタ崩壊ですよ! 男くん」
男(妹、アイツか。部室棟放火事件のショックはまだ響いていそうな予感はしていたが。本人の自覚なしに発生し、疑われたのだ。気持ち良くはなかろう)
男(天使ちゃん曰く、帰宅後は自室に篭もったまま出て来ようとしないそうだ。畜生ロリ天は心配を他所に、先程までは幼馴染宅で夕飯を頂いていたらしい)
天使「自分そんな冷たくねーんですがっ! 心配してますけど、そっとしておくべきかと思ったのですよ」
男「賢いじゃないか! 天使ちゃんが無理に絡んでいったら逆撫でしかねないしな」
天使「自分が無神経だって言いたいんですか! ケンカ上等ー!」ブンブンブンッ
男「怒るなって。風呂はあっちで入らせてもらったんだろ、歯磨きして寝なさい」
天使「やだっ! 録画したドラマの再放送消化するんです、ヒューヒューだよ!!」
男「強引に詰め込んできたな、お前」
男「……やれやれ、面倒だからシャワーで済ませるかしら」
男(空の湯船の中を覗くだけで幼馴染のありがたみを再確認させられる。不自由なかった生活に揺らぎが生じると、怠惰にいられたのも陰の支えあってこそだったのだな、と)
男(ふと、鏡越しにシャンプーの泡まみれになった自分と目があってしまった。酷い目付きだ。無意識に眉間へ皺を寄せて悪人面を作っている)
男「全っ然気楽なんかじゃねーよ。まったく……」
男(週末の夜を迎える気分は昔から高揚としたものだが、明日は明日でシリアスなイベントがきっと約束されているのだろう。憂鬱とは違った心労が肩にクる)
男「あの頃はもっと明日を楽しみに出来てたはずなんだがな。あの子と会って、別の子が待っていて、トキメキ連発よ……」
男「今の俺は、アレだ……」
男「物語を回す為にある歯車の一つみたいな……」
男(または駒とも呼べる。型に嵌まらない、妥協を許さなかったラブコメ主人公の日々が懐かしい)
男(この俺がいる“創造の世界”は形容しがたい脅威にじわじわ浸食されていき、ゆっくり内側から崩壊を進めているに違いない。神は死んだ、そして――――)
生徒会長『――――廃病院とはまた変わっているな。大体、放棄された建物は立ち入り禁止じゃないか?』
男の娘『じ、じつはちょっと前にみんなで肝試し目的で中に入っちゃってたりするん、ですけど……』
先輩『えー! なにそれ面白そうっ、どうしてわたしも誘ってくれなかったかな~!?』
男「話、早速脱線しそうになってますよ。明日のことをみんなで考えるんじゃなかったんですか」
男(その為のスカイプに備わったグループ通話を活用した作戦会議なのである。PCちゃん、キリキリ唸る)
転校生『あんたは随分真面目なのね?』
男「いつも真面目で、更に真面目だ。黒服さんも悪戯に俺たちに時間を割いてくれたんじゃない。気合い入れて挑まなきゃウソじゃねーか、転校生」
不良女『いきなり熱血キャラかよ、つーか オカルト研がまたあそこに行きたがった理由とか何なのよ?』
先輩『聞けなかったんだよねぇ~、男くん』
男「というか黒服さん自身も何故なのか知らなかったと思いますね。今日だってオカルト研が突然立てた日程に振り回されてたんですから」
不良女『うあぁ~!! ほんと意味分かんないヤツだなっ、アイツ! 何したいのかさっぱりだよ……』
生徒会長『それを本人の口から聞き出すのが当面の目的だったろう。明日の予定時刻も把握していることだ。待ち伏せてやろう』
男の娘『あっ、僕は大人数だと返って話も聞けそうにないって思うけど……あの性格だし』
転校生『私も男の娘くんと同意見かも。問い質すのを目的に近づけば、オカルト研さん、きっとすぐ引っ込んじゃう』
先輩『いっしょに遊びに行こうって誘ってみたら違うんじゃない?』
不良女『それ、男か転校生ぐらいにしかできねーっての……やっぱりアイツ相手はタイマンが一番だと思うな、あたし』
男(オカルト研というキャラを考えればこその結論だろう。多勢で迫るなど以ての外、かといって 俺や転校生が詰め寄ることで上手く事を運べるかも疑問だ)
生徒会長『難しい問題だな……厄介ではあるが、ここは私や先輩ちゃんが出しゃばるより男くんたちに』
不良女『それじゃあ振り出しに戻っただけっしょ、カイチョー。あー、こんなのどうしようもないんじゃ……』
男の娘『えっと、振り回されるぐらいなら、僕たちが振り回す方になれば良いんじゃないかな?』
男(皆が頭を捻らせた中、沈黙を破ったのは意外な人物。モニターの前でどんなキョトン顔をさせているのだろうと胸弾ませたのは、まぁ俺だけだ、恐らく)
先輩『ほー逆転の発想じゃん。具体的には何か案とかあっちゃうのかな、男の娘くんや?』
男の娘『えっ、あ、ありません……だけど、オカルト研さんの興味を引くのが一番なんですよね。そしたらと思って!』
不良女『簡単に言ってくれてるけど方法が思い付かないんじゃ意味ねーの。興味っていうか、その……何つーの?』
転校生『それで合ってる、男の娘くん間違ってないわよ。まずはオカルト研さんの気を引かせてあげないと始まらないのよね』
転校生『だって面と向かって私たち言われちゃったんだから。顔も合わせたくない、関わるつもりなんてないって』
不良女『……へぇ、そうだっけ? あぁ 胸糞悪いナー胸糞悪いナー!』
男の娘『ねぇ、男ならこんな時どうしてみようって思う?』
『…………』
先輩『…………寝落ちかも?』
不良女『便所に行ってるとかのオチもあるから三分ぐらい待っててやろうぜ。別にアイツ抜きじゃ何も話合えないあたしらでもないんだし』
生徒会長『そうだな。彼が懸命に背負う負担を軽減できれば良いと考えた私たち自身の行動でもあるのだから』
先輩『うん! わたしも頑張って知恵絞っちゃうからねっ! おー!』
男(……黙って見守るだけ、無駄に男くん上げされて小っ恥ずかしいだけだとよく分かった美少女連合会話をお送りしている)
男(興味本位にマイクをミュートにしてみればご覧の有様よ)
男(あと少しぐらい。もう少しこの俺抜きの会話を聞いてみたい。美少女たちだって人間同様生きているリアルだ。虚構ではない)
男(どうか当たり前の実感を与えてくれ、俺に――――――)
――――――――
――――――
―――
男「――――――あぁう…………おいマジか」
男(体が急が冷え込みを訴え、寝惚け眼を擦りながら数秒にして悟った。口元が涎で気持ちが悪いし、PCのキーボードを濡らしている)
男(首をパキポキ鳴らしながら前を見ると、画面に残されたままのグループ通話画面は全員のログアウトを報せており、時刻は半端に深夜まで進んでいた。これには苦笑い)
男「シャワー先に浴びてて正解だったかもしれないな。本気で眠りこけてたとか、ネタだぞ」
男(さぁ、愛する布団に潜って夢の続きを。と、洒落込む前に喉の渇きには勝てなかった。部屋を出て台所まで降りてくれば、照明とテレビの電源を付けっぱなしでソファーに沈む天使ちゃんである)
天使「ねむーい……ねーむーいー……」スヤァ
男「いや、既に行動移しちゃってるから」
男「無理に起こすのも可哀想か。おぉ、伊達にロリってないな。ていうか体重リンゴ5個分ぐらいしかないんじゃないか、コイツ?」
マミタス「なーん」
男「出たな猫畜生、さては妹に部屋に入れてもらえなかったんだろ?」
マミタス「にゃん」
男(マミ公が、いくら雌といえど動物と意思疎通を取れる気はしないな。リンと首輪に付いた鈴を鳴らして現れた彼女は、何かウロウロ俺を中心に回っている)
男「落ち着け。お前の主だって一人になりたい時ぐらいあるんだろ」
マミタス「ふーーん」
男(時たまに人恋しさを感じたマミタスは嫌っている分類の俺へも脛を擦って甘えてきた事があった。抱きかかえようとした瞬間痛いしっぺを受けるまでがテンプレだ)
男(とりあえず、そんな一時の不安をここで紛らわせようとしているのかもしれない。着いて歩く彼女を特に相手もせず、天使ちゃんを両親の部屋へ寝かせて自室へ帰ろうとした、が)
マミタス「ふーーーーん」
男「何だよエサ貰ってないのか? いつものカリカリなら皿にまだ残ってたぞ、マミタス……」
マミタス「なーん!」
男「そうかい、猫じゃあ付き合い切れん」
マミタス「なーん!!」
男(すまんな、マミタス。可愛がってやりたい気持ちはあるが気分が乗らない。まずは体に残った疲労を回復するのが最優先なのだよ)
男「散歩なら明日の朝からにしてくれ。いつまでも玄関で待ってたって開けないんだぜ、俺って」
マミタス「んにゃあ~~~~~~……」
男(部屋に入ってしまえば絶えず騒いでいたマミタスも黙りこんでしまった。助かる、これからという時に五月蠅く鳴かれても迷惑だろう、ご近所にも)
男(布団の上に転がりながら吊るされた紐を一、二回ほど引っ張ってしまえば最高のステージが完成してしまう。死ぬほど疲れているんだ……起こさないでくれよ……)
…………ガチャガチャ、ガチャ
男(………………何の音?)
男(静まり返ったあとは嫌に物音へ過敏となってしまいがちだ。聴覚が数倍も冴え渡った気にすらなる。俺は野生動物かよ)
男(されども蓄積した疲労は案ずるなと穏やかな眠りへ誘ってくる。きっと妹か天使ちゃんがトイレへ立ったのだろうと適当な安心を自分の中で納得させて)
ギィ……ギシ、ギシ、ギシッ、ギシ……
男(ほら、心配しなくともトイレだったじゃないか。恐らく妹だったな。誰よりも怖がりのアイツの事だ、恐る恐る脅えながら階段を上っている真っ最中であろう)
男(突然出て行って驚かせてやろうか? なんて、不安を抱えた兄妹へ対する仕打ちではない。近い内時間を作って彼女のケアもしてあげるべきだな。ところで)
男(用足し後に水も流せないほど恐怖なのか? 家の中が)
シ……ギシ……ギシ、ぃ…………ギシギシ、ギシ…………ギシ
男(俺の部屋の前で、音はぴたり止まってしまっていた)
男(音という物は無作為に人の想像を掻き立ててくる。それが見えない正体不明であるとすれば尚更だった)
男(布団を被りながら、戸一つ向こうの気配の行方を俺は見守っている。動けと命じられようが、テコでも動くつもりは無いぞ。何故か? 警戒心からに決まっている)
男(不規則ではあるが音が絶えた、ここで。俺に用があるなら率直にノックから始めてみたらどうなので、ございましょうか)
男「っー…………」
男(この間が嫌だ、酷く嫌だ、不愉快が充満してくる。しっとりとした汗がじんわり額へ吹き、忌々しさの加速に正気度が削れていく)
男(そんな焦りを分かりやすく例えるならばもうコレしかあるまい)
ド ドド ド ドドド ドド ド ド ドド ド ド ド ド ド ド
┣¨┣¨┣¨┣¨・・・
男「誰かそこにいるのかっ!!」
…………ギシ、ギィ
男「フー…………やれやれ面白くない悪ふざけだったんじゃ――――――あっ」
男「部屋の戸が……何でだ…………開いて、る……?」
男「…………」
男(意を決して布団から体を這わせて立ち上がり、おもむろに不可解へ近寄ってみれば 確かに見間違っていない。戸が数cmほど開いている)
男(拳大ぐらいと言うべきか。この時ほど鍵を掛けられない門に苛立ちを覚えたこともなかっただろう、満更でもなさそうに隙間から見える闇はこちらを怪しく誘っていた)
男(……覗いてみなければ真の安心は得られない。好奇心は文字通り俺を危険へ晒す羽目になると考えた上で、気持ちが逸ってしまうのである)
男「何だゴラあぁーん!?」
男(空き巣、幽霊、エトセトラ……本心が求めていた奇怪は何処にも立っておらず、勢い余って空振りな気分のみ留まった)
男(顔だけ覗かせて廊下を警戒したところで静寂が漂うのみ。脳内アドレナリン的な分泌も次第に収まり、安堵の息が自然と漏れた)
男「……ダメだな、きっと疲れてるんだ俺。早く寝ないと」
後輩「夜分遅くですけれどお邪魔してますよ、先輩」
男「うわああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
後輩「おっと……」
男(頭を掴まれたと思いきや、俺の顔面は枕に埋められていた。じたばた手足を動かせば背中に体重が掛かり、上から年端も行かない子をあやすような声で)
後輩「ナイス悲鳴ですが時間帯も悪いのであまり騒がないでもらって構いません?」
男「んー!! んー!?」
後輩「構いませんよね。ねぇ、ちゃんと聞こえてるでしょう? せーんぱい」
男「――――お前分かってるのかよ。まず不法侵入だ」
後輩「大丈夫ですよ。これは夢です。先輩はいま夢の中で私と話しているだけなんですよ、ふふっ!」
男(超高速のリズムを刻む鼓動が聞こえていないかとあくまで平然を装った体で叱責しようにも、彼女は俺の上を行った。斜め気味で)
男「夢、夢ねェ……俺も昔はスポーツ選手に憧れたよ。趣味の延長戦で飯が食えて美人の女子アナと結婚も」
後輩「別に大声あげて助けを呼んでも気にしません。でも、夢ですから先輩が一人でうなされて叫んだ所を誰かが駆け付けて来るだけでしょうね?」
男「……何なんだよ、お前」
後輩「へぇ、人の部屋って兄ぐらいのしか知らなかったんですけど存外小奇麗にしてるんですね……」
男「話題を逸らすな! ていうかそれ、俺にしては清潔を保った部屋だって皮肉かよ?」
後輩「写真」
男「は?」
後輩「写真、まだ持ってますよね。出して?」
男(ぐんと距離を縮ませた後輩の顔は、どう足掻いても美少女と評するしかない出来栄えである。真っ直ぐ向いた大きな瞳はさしずめ欲望を吸い込まんとするブラックホールだろう)
男「…………お、お前キャラ変わってるよな?」
後輩「さっさと出してくれませんか。慌ててください、私は気が短い方なので」
男(でなければ、こうも常識外れした再会を果たすまい)
男「わ、わかったから降りてくれ、背中に乗られたままじゃ渡せないだろ!」
後輩「勿論、逃げないと約束してくれますよね。掴まえるのは簡単だけど荒っぽくなりたくないので」
男「冗談っ……言ってる顔じゃねーよな、それは」
男(代名詞でもあるような定番の冗談笑いもなく、後輩は俺の動作一つ一つを見張った。感情の込もられていない人形の様な瞳で)
男(それはそうとして“写真”だ。俺が所持する数ある中の内のどれを頂戴しに来たかは大体見当つくが、目的が謎である)
男「渡す前に訊いておきたいんだが、何でお前がコイツを欲しがるんだ?」
後輩「あなたもどうして自分が持っているのかわからないんでしょう? 身に覚えがないのに持っていたって気味悪いだけじゃないですか」
後輩「どうせ要らないなら、私にくれてしまった方が後腐れないです……」
男「どこのコミュ症だっ、質問の答えに全然なってないだろ!!」
後輩「……早くして?」
男「っ~~~~! ……お前、自分が有利な立場みたいな振舞いしてるけどな」
男「理由はもう問わん。写真は、くれてやらんでもない。だが交換条件を提示させてもらう! 悪くない取引をしようか、後輩!」
後輩「取引?」
男(ようやく表情を作った後輩。不可解な面持ちで制服のポケットから取り出した物を握った俺の拳から、視線をゆっくりこちらへ合わせてきた)
男「ああ、取引だ。乗ってくれるだろ?」
男(唐突な提案をされて即座に頷いて貰えるとは考えてはいない。だが、せっかくのチャンスを手放すなんて出来るものか)
男(後輩は何らかの形を取って名無しと唯一コネクションを握っている。オカルト研の奇行にしても、ここ最近の崩壊の起因は名無しにあるとしか思えない)
男「(ならば、彼女を頼るのも至極当然) 気兼ねなくいこうぜ、お互い失う物あってこそ得られる物は大きい」
後輩「……しょうがないですね。気は進みませんけど」
男「良いぞ! 話が早い、それでこそ美少女後輩ちゃ――――――」
後輩「…………」するっ
男「はえ…………?」
後輩「下着はご自分で外した方が好みですか? 面倒でしたら全部脱いじゃいますけど」
男(……何がどうして着てる服脱いでますの この子。というか淡々としすぎじゃありませんか。えっ、こわい)
後輩「あの、じろじろ見ていないで早く終わらせてくれると助かります。何分 私も気分じゃないので」
男「ふ、服を着ろっ……ばか!!」
男(思わず見惚れていたのは内緒だが、咄嗟に布団のシーツを剥いで後輩に被せてやった。もごもご蠢く淫乱モンスターに唖然とする。溜め息が止まらん)
男「アホすぎんだろ……どんな頭してたらこういう事やろうって考えに行き着く!? 恥を知れっ!」
後輩「恥とか、そういった人間らしいことは……」
男「はぁ? 何だって?」
後輩「……いえ」
男(着替えるから後ろを向いて欲しいと頼まれて言われるがままにしてみたが、脱ぐ瞬間は特に構わなかったのかコイツ。肩に置かれた手を合図に、背後を振り向き交渉は再開される)
男「コホン、俺が見返りに体を求めるタイプと思われたのは心外だが、取引には応じてくれるんだな?」
後輩「私に何をして欲しいんですか。事と次第にも寄りますよ」
男「頓着してるのかしてないのか分からない奴だな。別に、断られたら他の方法を探すし構わん」
男「いいか? 俺がお前に求めてるのは情報だ。尋ねられたことに一切ウソ偽り交えず正直に答えてくれ、後輩……何だこの手は?」
後輩「前払いをお願いできませんか? 言われた事に答えるだけなら、後でも難しくないでしょう」ス
男(塩対応に渋い顔を見せてやれども、変わりはなかった。やれやれ、人が良いのも美少女相手だからと無理に納得させてみたものの……)
男「……おい、こんな物使って何企んでるのか知らんが、周りの人を困らせないでやってくれよ。くれぐれもだからな?」
後輩「すみませんが、約束しろとまではあなたの出した条件に入ってなかった気がしますけど」
男「関係あると思うか? お前が俺の知ってる後輩なら四の五の言わず聞き届けろ、これは信頼だ」
後輩「えっ? いまいち納得できませ――――――それでは先輩 夜分遅くに失礼しました」
男「ん、え? あっ! ちょ、おいッ!! 何畏まった挨拶して終わらせようとしてるんだよ!?」
男(まだ取引が、と続く言葉を遮り、腹に激痛が走った。な、殴りやがった……平然と、蹲る俺を無視して、帰ろうとしている……!)
後輩「私が迂闊でした。ごめんなさい、続きはまた今度……」
男「ま、待て……」
男(踵を返して部屋を出て行った彼女を芋虫のように床を張って追うも、既に姿を眩ましていた。何事もなかったと広がる闇と静寂が嵐のあとを思わせてくるだけ、無駄であった)
男(遅からず痛みも引いていき、呼吸も楽になってきたが腹の虫は収まりを知らなかった。“信頼”を口にしてすぐに裏切りを味あわされたのだ、当然じゃないか)
男「くそ!! 思い通りに進まない!!」
男「……なんて 苛立つだけじゃ拗れるだけなのがもっと気に食わない。……アイツ、何で話の途中で急に切り上げたんだろうか」
男(腹パンだって考え方を変えてみれば、制止を振り切るよりも自身への追跡を良しとしない事からだったのでは?)
男(何より初めから写真の入手を目的としていたのであれば、話を聞かずに強行し続けていた方が楽だ。別れの台詞といい、振り返るとどうも引っ掛かる部分が多い)
男「あの時、一瞬だけ窓の外気にしてなかったか?」
男(窓の外、肝心の窓はカーテンが閉められ外の様子を確認することなど不可能だ。というか気にしたかどうかすら、俺の視点からなる都合の良い発想)
男(道理に反しようと美少女の敵にはなりたくない心理だろう。無意識に後輩の無実を祈ってしまっているのだ。恐らくこのカーテンの向こうには何も……)
幼馴染『 』
男(カーテンを数センチ開けた先に、彼女が佇んでいた。別段宙に浮いていたとか、窓に張り付いていたとかじゃないにしろ、心臓がキュッと縮まっていた)
男(向こうも覗く俺に気が付いたのか、はっと口元に手をあてその部屋をあとにした。……何だ?)
男(彼女は一体いまの何が面白かったのだ?)
男(咄嗟に隠した口元は、明らかに笑って見えた)
天使「男くん、ボスがお目覚めになったのです……」
男「そりゃあ朝日が昇れば誰でも起きるだろ、不健康な生活送ってなけりゃ」
天使「昨日の今日で間抜けですか、間抜けでしたね!! 部屋から出てきちゃってんですよぉ~!!」
男(休日の朝だろうがお構いなしに我が家を騒々しくさせるのは決まって彼女の役目となった。マミタスと共に朝飯を強請りに来たとでも思いきや)
男「親切なストリッパーが部屋の前で踊ってくれたんだろ、良かったじゃないか」
天使「スリッパじゃねーです! ……何となく、自分だと話しかけづらくて」
男「心配するのも悪い事じゃないけど、余計な親切が大きなお世話になる場合もあるぞ」
天使「はて? と言いますと?」
男「今は放っておいてやればいい。時間が解決してくれるだろ」
天使「な、なんつー無責任な!? それでよく兄貴が務まってましたね! ただの薄情じゃないですか!」
妹「……何の話?」
天使「そんなの決まり切ってましょーがよっ! うちのボスが……ぼ、ボスぅー……」
男「よぉ、おはよう。腹減ったから出て来たんだろう? 何か作ってやるから代わりに子守りしててくれ」
天使「えっ、男くん料理できたんですか……?」
男「うむ、幼馴染にちょっぴり習ってみた事がある。腕の試しどころでしょう? 天使ちゃん」
天使「カリカリ焼きおにぎりって?」
男「元々前日に炊いて余った米をどう美味く仕上げるかから考案されたメニューだ。沢庵が冷蔵庫で眠ってるなら叩き起こせ、合うぞ!」
男「まずは簡単、ご飯を使って大きめのおにぎりを握ります。ポイントは大きく。コンビニで売られてる物の1.5倍ぐらいを想像して欲しい」
男「そして小皿に醤油を垂らす! ……などの作業前に魚焼き用のグリルを温めておくとスムーズに進む。コップ一杯水を入れてから起動。温度はやや高め」ピッ
男「ここでさっき握っておいたおにぎりの表面に醤油を浸そう。今はあまり長く浸けるな! あくまで表面を意識する」
男「醤油が両面に染みたらすかさず加熱されたグリルの中へイン。……目安30秒で開き、おにぎりを返す」ジュー
男「もう片面も焼けたタイミングで一旦取り出すぞ。素手で触るとまぁ熱いが細かいことは気にするな」
男「アツアツになったおにぎり、この時点ではまだカリカリには程遠い……皿にまだ醤油が残っているだろう?」
男「浸せ! 両面に染み渡らせるように浸せ! 押し込むぞ! 親の敵みたいに醤油攻めにしてやれ!」グッグッ
男「余談だが、ここで好みに合わせて七味をかけてやるのも良い。鰹節も相性抜群だけど握る前に入れとけ」
男「コイツはもう醤油の味を知ってしまったおにぎり……焼きましょう。手で触って程良い硬さを感じたら引っくり返し、焼きます」
男「取り出します。海苔は好みで巻くといいんじゃないか? 実際コイツの食感と風味に合うかどうかはその人次第だ」
男「完成。一人あたり二つ作ってみたが、もう一つはお茶漬けにしてワサビを入れても美味しくいただけます……オーブンとかフライパンだと引っ付いて難しいんだぞ」ジュ~
妹「かった!?」ガリッ
男「失敗もご愛嬌」
天使「軟弱なモヤシ体系では程遠く、空腹を満たすだけを目的とされた料理……げぷっ」
男「左様。これこそ男の料理である。……マズかったかな?」
男(一応礼を尽くされて朝食は残さず食べてくれていた。空になった皿は嬉しくもあるが、沈鬱な表情で項垂れる妹を手放しにしては出来ない)
男「すまん、今度はもっと上手に作れるよう努力しよう。幼馴染に頼り切っても情けないしな、へへへ!」
妹「おにいちゃん……いつだったかお兄ちゃん部屋に閉じ籠ったまま学校行かなかった時あったじゃんか」
男「(過去の、一周目時の俺か。弱者にはどんな優しい世界ですら刺激が強すぎたと甘えていた頃。そう、若さゆえの過ちが) うん?」
妹「私もあのお兄ちゃんと同じ気持ち……休み明けに登校してから何言われるかわかんなくてね、おっかないよ……」
男「バカを言うんじゃない。自分が一人だと思っているなら間違いだな」
妹「こんな気分で偉そうな説教とか聞きたくないもん……」
男「杞憂だなぁ、妹? 何たってカッコイイ兄貴がいつだってお前の味方になってやるんだからな、心配ない!」
妹「フツー言い切るか!?」
天使「ぷーっ!! くすくすくすくすくすくす」
男(恥ずかしい台詞は禁止されていない。ならば際限なく補正を発揮しない手はないのだ、気休めでも受け取ってくれたらそれで良い)
妹「あ~あ! お兄ちゃんの方がバカじゃん、一気にアホ臭くなったんですけど!」
妹「…………私のことずっと守ってくれる? 守るって、約束しちゃうんだ?///」ボソ
男(優雅の欠片も見当たらない朝食を終え、食器洗いに徹するお兄さまとはこの俺の事である。妹の回復も早い段階で行えて助かった、応急処置に等しいけれど)
男(ところでアレから部員の皆の連絡は来ていない。話合いの末、俺を除け者に動くともなれば冗談ではないぞ――――ひょん、と現れたロリ天ヘッドが思考を止めさせた)
天使「男くんが物思いにふけるのって別段珍しくもないんですよねぇ」
男「どうした? 構って欲しいなら洗い物の片付け手伝ってくれよ。猫の手も借りたい気分だ」
天使「ねぇねぇ、前と比べて男くんてばまったく自分を頼りにしてくれねーんですが?」
男「だから今必要だと言ってるだろう、聞いてなかったのか? スポンジもう一つあるから洗剤垂らして……」
天使「自分 毎日何不自由なく暮らせるようになって楽しいです。新しい発見もいっぱいだし、男くん以外の人間とも関われるようにもなって……」
天使「でも、でもですよ! ……うーん」
男(ウンウンと唸る天使ちゃんの頭に、水を拭った手を乗せてみた。一時停止した彼女は上目でこれを確認し、まだ何か言いたげに全身で訴えている)
男「今度時間作って思い切り遊んでやろうじゃないか。我慢、できるだろ?」
天使「えぇっ……」
男(申し訳ないが、今は問題が山積みなのだ。些細な悩みもすかさず拾って即解決、なんて呑気なスタイルを気取っている時間すら惜しい)
男「留守番任せたぞ。家の中が暇なら、俺も今から幼馴染の家に顔出すつもりでいたんだ。ついて来るか?」
天使「……まぁ、はい」
男(自分の行いを上手に客観視できれば、どれだけ救われる場面があったのだろう? きっとこの“些細”ですら、爆弾に変わったと気がつけたに違いない)
ママ「やーん♪ 男くんその服どこで買ったの? バッチリ決まってるねっ、グーよ! グー!」グー
男「ふる、奮い立ちます。毎度のことで申し訳ないんですがコイツを遊ばせてもらいたくて」
ママ「ううん、全然気にしなくていいんだからね! 私もあの子の妹ができたみたいで天使ちゃんと会うの楽しみにしてるの。ふふ~」
天使「きょ、今日は! 今日はぁー……ご飯の作り方教えてほしい、です。自分でも簡単に作れそうなヤツがいいです」
ママ「ご飯? ん~、まだあんまり包丁握らせたくないから ほんとに簡単な、あっ!! でもすっごく美味しいの教えてあげるね? よーしよしよしよし♪」ナデナデナデナデ
天使「むぅ……」
男「それじゃあ本当にすみません、ママさん。夕方には迎えに来ますので。お願いしますね」
天使「お、男くんは、今日はどこに行きやがる予定なんですか!?」
男「文化祭が近いのは教えただろ。まだ準備が万全じゃないから休日出勤だよ、無給の」
天使「そうなんですか……」
ママ「天使ちゃんどうしたの? 男くんも忙しそうだし、あんまり無理言ってあげても大変だよ? はい、おウチに入ってー」
天使「はーい。……男くん」
男「まだ何かあるのか?」
天使「別に……[ピーーーーーーーーー]」
男「お、おいっ? 今何て――――何だアイツ? (無情に閉められてしまったドアの向こうで最後にあの子が浮かべた表情は怒りか不満であろうか。構って欲しい年頃であることは重々理解はしているつもりだが、難聴 発動していたか?)」
男(携帯電話を取り出してみても、通知は一件も無し。昨夜の結論をメンバーに尋ねようとしないのは俺のプライドが邪魔したと思ってくれ)
男(つべこべ文句を垂らすより、黒服が零してくれた話を頼りに廃病院へ一足先に移動すべきだ。最悪俺一人でも美少女ならば説得できなくもない)
男「電車を使えば一時間で到着するしな……考え事をまとめるなら、最適じゃないか」
男(考え事といえど、ゴチャゴチャした頭の中の整理である。あまりにも常識はずれした奇奇怪怪な情報、身近な人間の行動に振り回された結果、自分が何かを失いつつある危惧を覚えてしまった)
男(何が起きても前に進むと誓った強い気持ちと精神を削るトラブルを堪える鋼の心は、信じられないほど負担だ。平和な休日の朝すら俺を嘲笑っているかのように錯覚してしまっている)
男(形振り構っていられるものか。俺はただ、内に秘めた折れてはならない一本を折られないよう、呆くほど深淵を覗き続けるしかない)
男(・・k…おれ&8った#何※して≦る\だ????)
?『――――――――かわいそうに』
男「!? ゆ、夢……」
男(ガタガタ揺れる車内だが案外寝心地は悪くないのが罠だと思わないか、電車って。寝過して目的駅を通過していないことだけを祈った)
男(祈った、矢先に 奇妙な光景が広がっていることに一目で気が付く。乗客が見当たらない)
男「……最終痴漢電車か!?」
男(木霊も虚しく、俺だけが取り残された車内を歩き回った。いない。いない。誰一人もいない。不気味)
男「マジで誰もいないのか? ……電車はどこに向かってるんだ? これってまだ夢の中だったりするんだろう?」
男「どこのどいつのスタンド攻撃受けてるんだ、俺は!?」
『ご利用頂き有難うございます。なお、車内では……他のご利用のお客様の……』
男「何だよ!? 次の停車駅は! 停車する駅を言ってくれっていうんだよ、こっちは!!」
『次は“あの世”。あの世でございます』
男「!!」
『……大変申し訳ございません。お客様にはご迷惑をお掛けしておりますが、現在線路の不具合により緊急の復旧作業を余儀なくされている状態であります』
『復旧までもうしばらくお待ちください。繰り返します、大変申し訳ございません。お客様には……』
男(アナウンスは狂ったオーディオの様に同じ言葉を繰り返し、俺へ喚起し続けた。“あの世”。他人事ではないワードに身が竦む)
男(バケツをひっくり返したみたいに突然の雨を背景とした登校の日、頭上から鉢植えが落ちて来た。……事故があった後だったのをよく覚えている)
男(一歩間違えれば、鉢植えより先に 車の犠牲になっていた。あの速度で撥ね飛ばされていたら即死も免れなかった事だろう)
男(俺は、今曖昧な状態にある。三途の川、生死の境を彷徨う悲劇の人だ。脳天を叩いた鉢植えの一撃がよく効いている)
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
[ピッ] [ピッ] [ピッ] [ピッ]
男(無機質な電子音が一定のリズムを刻んだ。いつかそれが間延びして聴こえてくるのを脅えるのだ)
「かわいそうに」
「生きてるのか、もう死んでるのやら。この子ぐらい若い頃なら遊び盛りでしょうね」
「そう、だから事故って怖いものなの。自分と関係無いと思っていても いつ巻き込まれるかわからないところが」
「シーツ取り替えたら次の病室に移るよ。もうすぐいつものお見舞いとか来る時間だし、急ぎね?」
「はーい」
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
「……あら、来てたの? 遠慮せずに声掛けてくれても良かったのに」
妹「あぁ、いえ、仕事の邪魔しちゃマズいと思って。いつもお世話になっています看護師さん」
「お兄さんも優しい兄妹を持てて幸せでしょうね。ほら、男くん! 君の妹さんが会いに来てくれたよー。どうぞ近くに座って?」
妹「すみません、親切にしてもらって……兄は寝たきりですか?」
「ちゃんと起きてるよ。話しかけてあげたらしっかり喜んでくれるからね。あっ、悪口はあまりオススメしないかしら~」
「ところでお父さんとお母さん今日は来ないんだ? あなただけ?」
妹「聞いてません。母は午前に来てたと思いますけど」
「そうねぇ、体も拭いてあったし。お姉さんの方は来るの?」
妹「あとでやって来るんじゃないですかね。お兄ちゃんも一番会いたがってると思います」
「そうなの。じゃあお姉さんがお見舞いに来るまでの間は独占できるね、うふふ」
「じゃあ、お姉さんにもよろしくね。私たちは次の病室あるから」
妹「はい、お疲れ様です。……あんた起きてんの?」
妹「…………ただでさえキモいくせに、もっとキモい顔してるの分かってる?」
妹「わたし別にあんたと話したいとか思ってもないよ。お土産とか要らないよね、寝てるだけなんだもん。無駄じゃん」
妹「あんた見てるとさ、イライラしてくる……ねぇ、殴らせてよ……」
妹「何もかも滅茶苦茶にしておいて自分はずっとベッドで休んでるだけとか……人間の屑でしょ」
妹「……生きろ。生きろ屑、生きろ、生きろ、生きろ、生きろ、絶対生きろ」
妹「早く生き返ってわたしたちにしてきた事 全部償え。生きろよ 最低の――――」
委員長「――――またそんな事言ってるんだ……?」
妹「!! き、来たんだ。よく懲りずに通えるね、意味不明なんですけど」
委員長「いくらでもここに来るよ。意味なんて分かって貰えなくても良い。私がしたいってだけなの」
委員長「それに……最近また来れるようになってから、この人の顔を見るのがすごく新鮮に感じちゃって」クスッ
委員長「……もうすぐあの日から一年近く経つんだね」
委員長「男くん起きた時ビックリしちゃうかもしれないね。浦島太郎みたいな気分になって、きっと騒ぐよ?」
委員長「……痩せちゃったね、男くん」
妹「足なんて木の棒だよ。仮に起きても立って歩くことなんてすぐじゃあ無理だろうね」
妹「よくお見舞いに来てたあのデブいのに肉分けて貰えたら丁度いいんじゃない? ちょーウケる」
委員長「あぁ なるほど、同感。ふふふっ!」
妹「なんかお姉さんさ、最初会った頃より余裕みたいなのあるよね。やっぱり痛い思いした後だと違うの?」
委員長「さぁ、どうなんだろうね……私としては痛いとか辛さよりも、自分の希望が叶ったことでほっとした、みたいな感じかもしれない」
妹「……実はさ、今日お姉さんより先にここに来て待ち伏せしてたの、話がしたかったからなんだよね」
委員長「なに?」
妹「ぶっちゃけ辛いだけでしょ、こうしてこんな奴待ってるだけなんて。責任感じることないと思うよ」
委員長「せ、責任なんて! 違うの。私は本当に」
妹「色々あったけどお姉さんだってまだ若いんだからってお父さんたちもよく言ってるじゃん。コイツに縛られることがお姉さんの」
妹「ほんとうの幸せなの?」
委員長「……それは」
妹「あの子、まだコイツにだけ見せてないのも何か思うところがあるからじゃない? お姉さん」
委員長「…………えっと」
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
委員長「帰り、何か食べて行こっか?何食べたい? あんまり高い物だと苦しいかもだけど、あはは」
妹「私、最初はお姉さんのこと認めたくなかったけど 嫌いじゃなくなったんだよ。だから出来るだけ優しくしたい」
妹「別にさっきの話だってね、コイツやお姉さんを困らせてやろうと思って言ったんじゃないんだ。ごめんね」
委員長「…………やっぱり家に真っ直ぐ帰ろっか。あの子も泣いてるかもしれない」
妹「うん、そうだよ。お姉さんはそっちにキチンと責任持たなくちゃね」
妹「お姉さんは、もう“あの子のママ”なんだから――――――」
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
[ピッ] [ピッ] [ピッ]
男(俺にとっての現実は一体どちらなのか? 放心したように呑み込めず、ただ電車に揺られていた)
「死してなお、自らの周囲の運命に影響を与える。忠告はやはり正しかった事のみ証明されました」
男(……誰か立っている?)
「この、湾曲されし未来の形こそ貴方が望んだ救いなのデスカ。定められた生き死にを捻じ曲げた行く末ハ」
「如何でしたカ? 夢見と勘違いなされる前ニ、アナタのリアルを受け入れて欲シカッタ」
「ワタシの想いはアナタへ届いてイマスカ、男?」
男「だれ、だ………………お前……?」
幼馴染?「こんにちハ、男。アナタとこうして対話できる日ヲ待っていマシタ」
男(また幼馴染が幼馴染ではない! というか例の“神”とも雰囲気が異なっている。霊媒体質でも秘めていたのか、彼女は)
男(完璧に冷静になれというのは酷な注文であるが、虚ろな瞳をした彼女が俺に語りかけている。重要イベントを意識せざるを得なかった)
幼馴染?「紹介が遅れてしまいスミマセン。ワタシ、名乗る名など持ち合わせておりませんガ」
幼馴染?「“テンプラ”と気軽にお呼びクダサイ。美味しそうなネーミングで非常ニ申し訳ナイ……」
男「実はふざけてたりするんだろ?」
テンプラ「滅相もナイ。男、ワタシの存在ニついては既に認識しているのデハ?」
男(思い当たりを確認されずとも、幼馴染の背後で陽炎のように虚ろに浮かぶあのバケモノを見れば問う必要もなかった。奴が、幼馴染の体を通して接触してきてしまった、その事実だけだ)
テンプラ「ビ少女を気にされているのデスね? 不安がらずとも危害はけして加えマセンのでご安心ヲ」
テンプラ「ゴ想像の通りワタシこそアナタ方が“機械仕掛けの神”と呼ぶ者デス。この様ニ何かヲ通さなければ、言葉は愚か意志疎通すら図れマセン」
テンプラ「彼女はワタシに適応してくれマシタ。流石ハ主が保険とした子……男、アナタに会いたかっタ」
男「天ぷらは天ぷららしく油に揚げられててくれないか」
テンプラ「誤解しないデ! ワタシはアナタを惑わすつもりはないのデス」
男「幼馴染を使ってるだけで十分俺には怪しい扱いしてくれってお願いしているのと同じだ、どんぶら粉!!」
テンプラ「ひ、酷イ。拒絶しないデ…………ワタシはアナタが大好きなのデスよ……」
男「人の姿を借りてしかまともに会えない奴を誰がすぐ信用できる? それより」
男「昨日の騒動といい、この電車の中の異常と……まずはお前が犯人と認めてくれるのか?」
テンプラ「もちのロン!!」
男「さっさとこんな所から俺を降ろせェ!! 天ぷらと話してる場合じゃねー!!」
テンプラ「ヒァァァア暴れないで! どうか、どうかワタシの話ヲ聞いてクダサイ!」
男「ふざけるな! あんたなんかと悠長に遊んでる暇ないんだよ、こっちは。何だよ。逆に協力もしてくれるのか!?」
テンプラ「協力? イイエ、既にワタシの望みとアナタの願いは合致してマスよ……男……」
男「……何だって?」
テンプラ「トラブルは芽のうちに摘んでしまうべきなのデス、彼、名無しハ」
男「――――名無しの抹消って言ったのか、あんた……?」
テンプラ「元はワタシの感情の昂りによって生み出されてしまったモノ。彼の者は不必要なバグとなってしまいマシタ」
テンプラ「この世界はアナタ、男によって操作されるベキなのデス! 余計な要因あれど幸福へノ道を閉ざしてしまうばかり」
テンプラ「我が子同然の存在、しかし心苦しくありますが排除されなケレバ真なる救いは齎されないとワタシは判断シマシタ……!」
男「とりあえず納得しておくが、随分と自分勝手な奴だな? 作った矢先に消されるキャラの気持ちも無視とは」
テンプラ「心苦しいと話しマシタ……名無しにはもうワタシの声は届かナイ。暴走を繰り返されるのであれば、いっその事を願いマス……」
テンプラ「どうか、どうか名無しを止めてあげてクダサイ、男」
男(止めろと頼まれようと、難聴鈍感しかない無能にどう動けというのだ、この天ぷらは。遂に俺にも超常の力を与えられてしまうのか?)
男「なぁ、あんたはこれまで穏便に収めようとしてきたんだろう? だが、その心は通じなかった。すると最終手段はどうなる?」
男(抹消などと物騒な発言があった限り、穏やかな方法を提供されるとは考えもしない。ラスボスたる名無しへ対抗しうる勇者のアイテム、それは)
テンプラ「アナタにお任せシマス」
男「考え無しにもほどがあるんじゃないか?」
男「馬鹿馬鹿しい! 頭下げておきながら文字通り人任せって、偽ってても神の字が泣くじゃねーか! アホかお前!?」
テンプラ「し、失礼ナ!! コレでもワタシなりに知恵を絞った末の結論! 間違いではナイのデス! 良いデスカ、男! 名無しハ」
テンプラ「承認欲求の塊と言って過言ではないデショウ……」
男(承認欲求、人間誰しもが持つ人に認められたいと感じる気持ちである。特技、あるいは得意なスポーツ、容姿、幅広い分野を用いて誰かに「YES」と応えられる快感は言い知れず)
テンプラ「彼は非常ニ孤独なのデス。異質なまでにも思える目的を遂行しようとする振舞いは、全てワタシへ褒められたいというキモチが起因デス」
男「だったら今すぐあんたがアイツをヨシヨシ頭撫でてやれば良い事だろ。違うのか?」
テンプラ「エエ、名無しが欲する褒美とは 存在意義にありマス」
テンプラ「何らかの形で彼の欲望を満たさせる事が達成できれバ、納得シ、舞台から自ずと降りるデショウ……確証ハありマス」
男「だからなっ、それをあんたがやってやれば!!」
テンプラ「……ナニかの形を借りねバ、意志疎通も取れないこのワタシが成し遂げられることデ?」
男「……やれやれ、可哀想な奴だな。あんたも名無しも」
テンプラ「くれぐれも名無しの動向に注意してクダサイ、男。名無しはアナタの記憶ヲを奪い、この世界の完全なる住人ヘ染め上げようとしてイマス」
テンプラ「現実へノ懐かしみも何もかもを消し去り、男という名のNPCヲ作り上げようト……」
男(過去の、中身まで美少女化しかけた委員長の再現を狙っているというわけだ。オリジナルとなる俺の人格を消されるとして、その俺は何処へ行くというのか?)
男(テンプラ曰く、未知であると回答を得た。尚更対抗する理由ができたじゃ――――――)
先生「――――あ、起きた! ねぇ、男くん大丈夫!? 返事しなさいっ!!」
男「あ……せ、先生? おかしいな……俺さっきまで電車のな、かに、い…………」
先生「何寝ぼけてるの! 君 道端で倒れてたの! わかる!? しっかりしてよ、もう~!!」
男「テンプラは……?」
先生「えっ、天ぷら食べたい気分なの? まだ午前中……あなた随分朦朧としてるけど」
先生「寝惚けたまま外徘徊しちゃうほど気苦労溜まってたりしないわよね。家まで責任持って先生が送るよ、ほらしっかり!」
男(重大な意識レベルの低下と見受けられているようだ。自分としても、心配いらずと振る舞う気分は起きない。肩を担いでいる人が、先生である事だけ、かろうじて、あぁ 嫌な意味でフワフワする)
男(車の後部座席に寝かされた。ドアが閉まる音がした。何か声をかけられている。そういえば家まで送るとか聴こえたか?)
先生「はぁ~あ、もう私の車って救急車よ……男くん聞こえる? ウチに着くまで目閉じて大人しくしてなさいよ」
男「……先生……。車、うごかさないで……」
先生「ん……どうした? 動くと気持ち悪い? 吐きそうなの?」
男「病院……びょういんに……」
先生「……無理そう? 我慢できないぐらい具合酷いの、男くん?」
男(そうじゃない。伝えたいのに上手く舌が回らない、もどかしさでおかしくなりそうだ。あのテンプラと会った影響だろうか?)
男(神から忠告を、意図したわけではないが、遂に破ってしまったのだ。現在のテンプラは異常である。あの時の説明からじゃ見当違いなイメージだったが)
先生「男くん――――電話、鳴ってるみたいだけど」
男「え、あぁ、黒服……何でまたアイツから…………電話に出なきゃ」
先生「後にしたら良いでしょ? 今は自分の体調を心配しなさいよ……」
男(やっとこさポケットから取り出した携帯電話が手元から滑り落ちる。いや、これが良いんじゃないか。通話ボタンは既に押した)
先生「ちょ……!」
男(スピーカーモード。音量MAXだ)
黒服『小僧聞こえているか!? お嬢様が予定を変更なされて急遽例の建物へ向かう羽目になった!!』キィーン
男「…………ふっ」
黒服『聞こえているのかと言っている! 貴様は返事も碌に学んでこなかったのか!? ウンコか! ウンコ、call me!』
先生「し、しょうがないわねぇ……あの、申し訳ないですけど彼はいま話を出来る状態じゃないんです。あとで掛け直してもらっていいですか!」
黒服『グムッ お、女の声だとぉぉ~~~!! 貴様ッ、お嬢様という方がありながら他所で現を抜かしていたのか! クソガキィ!』
先生「違うわよ!! ていうか 一々叫ばないで! 私はこの子の担任の教師! あなたと彼の関係は知らないけど、今は男くん体調を崩していて」
先生「とにかく変な事に巻き込まないで欲しい、ですっ!! お分かり!?」
黒服『知るか! こっちこそそいつの体調に付き合っている余裕は…………すまないがあなたの名をお聞かせ願いたい』
先生「わ、私の名前? ちょっと男くん変な人と外で関わらないでよねっ!」
黒服『お願いだ。あなたの声に酷く聞き覚えがあってならない。私たちは何処かで会った事はないか?』
先生「ありませんから!! 電話切りますよ。男くんを休ませてあげたいので、ごめんなさい」
黒服『…………もしや 貴女でしょうか?』
先生「……はい?」
黒服『やはりだ。この声聞き間違いなどではない筈、やはり私と貴女は出会っているのです。覚えはありませんか?』
先生「悪いけど人に汚い言葉を吐きまくる怖い人とは知り合った覚えはありません。人違いでしょ? おかしな言いがかりは止めて」
黒服『名前! 貴女の名前は確か……そう、アレだ…………貴女は――――』
男(ズバリ正しく先生の名を黒服は言い当てた。彼と彼女が知り合い? 待て、俺はこうなる事を予期して電話を取ったわけでは、そんな、嘘だろう)
男(元彼の可能性ッ!!!!????)
男「先生、俺目が覚めました! 最高の気分です! 電話代わりますよ!」ガバッ
先生「男くん待って……この人って、まさか」
黒服『私です。“黒服”めをご存じないでしょうか? 一度限りですが貴女の見合いの相手でしたもので……!』
先生「ぐうっ!?」
黒服『教師と聞き、その透き通る可憐な声から過去を思い出したのです。あの日私を振った気丈なお姿、ふつくしさ……脳裏に焼き付いたままでした』
男「振った、って……ああっ、お見合い!!」
男(一周目での重要イベントの一つだったと思われ、『美人先生憂いの悩み』。彼女は両親の判断で自分の意思を無視したお見合いを設定され、困り果てていた過去があったのである)
男(お見合い相手は優良企業社長の息子。次期社長の座を約束された玉の輿もってこい……社長の息子だ? どいつが?)
黒服『私も父からいつまでも跡を継ごうとせず、身勝手に生きるなと言われた故 反発していましたが……あぁ」
先生「私直接あなたを振った記憶なんてありませんけれど!?」
黒服『あれ、そうでしたっけ? いやー、あははははっ、些細な事です。昔のお話なのですから!』
先生「あ、会ったには会いましたよ? 会ったけど、後日父からお断りの連絡受けたはずでしょ……!!」
男「せ、先生?」
先生「……前に相談したことあったわよね、私のお見合いの話。偶然にもこの人が――――したっけ? 相談なんて君に」
先生「あーどうだっていい!! それより私の生徒がいる所で個人的な話やめてもらえますっ!?///」
黒服『教師、ご立派に続けられていたのですね』 先生「えっ……?」
黒服『お父上の力説には屈服させられる想いでした。そして貴女の人柄を感じられた。立派な夢追い人であったのだな、と』
黒服『私も貴女の生き様を見習って今の仕事を継続しています。守るべき方の傍を離れるのはやはり惜しかったのです……お嬢様、彼女を守らねば私は無い』
黒服『貴女との出会いは私が私を貫く選択へ導いてくれたのです! 一言お礼が言いたかった! 良かったッ、ほんとうに、ほんとうに』
先生「ちょ、ちょっと……」
黒服『ありがとう、美しい人。――――――小僧、生意気に大人の会話へ聞き耳立てているな!?』
男「へぇえ!? い、いや、別にそんなつもりとか、こんな展開になるとは……っ!」
黒服『いま何処にいる? 先生、あなたとしても聞き捨てならない問題へそこのガキは首を突っ込もうとしている。興味はないか?』
先生「…………何なのよ、もぅ」
不良女「ン~ン~♪…………って おぉい! マジかよ、もうそれっぽい車一台停まったぞ!」
先輩「うひょー早いねぇ!? ていうか何時に到着とか聞けなかったし、いつ来てもだったんですケドっ!」
不良女「まぁ……とりあえずアイツが中に入って来るまでこっちは下手に出て行かねぇ。良いんだよな、カイチョー?」
生徒会長「無論だ。彼女に無理矢理迫って警戒心を高められてはチャンスをみすみす逃すようなものだろう」
男の娘「でも、ほんとに良かったのかな……?」
先輩「何だね男の娘ちゃん? 男くんにこれ以上負担をかけさせたくないの方針に賛成したっしょーに」
男の娘「だからってこんな男だけ除け者みたいな。きっと男だって心配してここに来ちゃいます……わかり切ってても」
先輩「男くん本気で倒れちゃうでしょ。これ以上踏ん張らせちゃったら」
先輩「本当に壊れちゃう……男の娘くんだってずーっとあんな顔した男くんに無理させてたらヤバいってわかるよね?」
男の娘「うっ……は、はい。こんな時にワガママ言ってごめんなさい……!」
生徒会長「ここにいる皆が彼を頼りにしてしまう気持ちはよく理解しているさ。その上で私たちがやり遂げなければならないんじゃないか」
生徒会長「よし、黒の人の協力を期待して各自待機に務めよう。合図は向こうの動きですぐに判断できる。いいな?」
男の娘「……転校生さん、転校生さん。転校生さんってば」グイッ
転校生「きゃっ! な、何? 男の娘くんどうかしたの……?」
男の娘「そっちこそだよぉ。大丈夫? 顔色あんまり良くなさそうだけど」
転校生「そ、そうかしら!? 多分昨日よく寝れなかったから、寝不足とか? あと朝ご飯抜きで出掛けたから、とかっ?」
男の娘「そうだったの? じゃあ、はい。これ食べてよ。作っておいたんだ、おにぎり……形悪いかもしれないけど」
転校生「ありがとう……男の娘くん、前より料理の腕上達したわよね。とっても美味しそうだもん」
男の娘「ほんと!? じ、実はこれでもちょ~っぴりだけ自信あったりなんかしちゃって、えへへっ……」
転校生「胸張っていいわ、私があとで保証してあげる。アイツにも美味しかったって自慢してやるんだから! 楽しみにしててねっ!」
不良女「車から降りた!!」
「!!」
不良女「あのオッサンと他に二人……いた。オカルト研も出て来たよ、制服かよアイツ。散々身軽な恰好で入らなきゃ死ぬとか脅したくせに……」
男の娘「何しに来たんだろうね、オカルト研さんは。一目見るだけって感じじゃないことはまず確かだろうけど」
不良女「わかんないよ……何考えてるかサッパリ読めない奴のことなんて。カイチョー、動かないのか?」
生徒会長「だから、私たちがいま動いてどうなる? 特に君たちは急く気持ちはあるだろうが、堪えて待つんだ」
先輩「名案ですな。これからわたしたちがやる事、今更後悔する子っているー? いたらお姉さんが力付くで押さえつけとくよ~! ガチで」
転校生(不安が私の胸を強く締め付けて離さない)
転校生(だって、だって私にはわかるの。嫌でもわかってしまう。同じ模造の人形だからなのかしら?)
転校生(この場に絶対いちゃいけない“紛い物”が近くに潜んでいる。何かを企んで)
オカルト研「……到着ね。いつ訪れても穢れた空気に包まれている、宵闇の如しよ」
黒服「お、お嬢様この様な危なっかしい建物にどれほど足を運んだというのですか」
オカルト研「一度しかないと思う」
黒服「そんなっ、不明瞭な! あなた様の身にもしもがあっては、お父上に何とご説明して良いのですか!」
オカルト研「よく覚えてないわ。だいぶ前の話だもの、この廃病院に入ったのは」
黒服「は! 入った、です、とっ……お嬢様、申し訳ありませんがお嬢様がどの様なご用件でこちらに足を運びたがったのかは関係ありません」
黒服「どうか建物へ近寄らぬとこの私にお約束してください。この様な廃墟で怪我でもされて大事に至られては、困るのです……!」
オカルト研「何故? 私がしたいとお願いしたら、あなたたちは望み通りにしてくれるのが正しい役目」
黒服「オカルト研お嬢様!! 私どもの第一の使命はあなた様の身の安全を保障すること! 故に是が非でもッ!」
「「「「お嬢さまが大事!! ナンバーワン!!」」」 オカルト研「……」
黒服「ご理解頂けましたか? 危険ですので遠くから眺める程度でどうかご満足を…………えぇい、奴はまだ来ないか」
オカルト研「お前たちにはここでの待機を命じるわ。黒服、すぐに戻るから心配しなくていい。了解?」クルッ
黒服「くあーッ!! そ、その頑固たるご意思と負けん気の強さ! それでこそ我らがオカルト研お嬢様ァーーーー――――わかりました」
黒服「ですが条件がございます。この黒服め一人をボディガードにお付け下さい。ならば了解致しましょう……!」チラッ
黒服「…………クソはよ来いズボラが」
生徒会長「……よし、黒の人が横に立って彼女を連れて来てくれた。合図だ」
不良女「あの堅物っぽいオッサンがよくあたしらみたいなガキの相手してくれたもんだって思うよ。てか、やる事伝えてなくない?」
先輩「だいじょーぶ! 大人はアドリブに強くてこそ大人だよ! まぁ、荒っぽくなったらどうなるかわかんないけど」
生徒会長「そろそろこの中に入って来るぞ。皆 事前の打ち合わせ通りに動こう。あとはなる様になるだ!!」
不良女「け、結局ぶっつけ本番なのが、あたしたちらしいっつーか……ん? ビビってんのお前」
男の娘「うっ……違うって言ったらウソになっちゃう。けど、覚悟決まってるよ。僕も」
不良女「OK、それでこそ辛うじて性別男だぜ、あんた。やる時はやるって決めてやろうよっ!」ドンッ
男の娘「い、痛いよぉ~!? 転校生さん、ほらみんなに続いて下の階に降りないと」
転校生(みんなが張り切ってる中じゃ言い出したくても、ううん、言い出したところでまともに取り合ってもらえる話題じゃない)
転校生(アイツ、名無しは何処に隠れているの? どうせ私たちの邪魔をしたくてしょうがないんでしょ。だったら、正々堂々と姿を……)
男の娘「転校生さん!」 転校生「わかってる!! 聞いてるから平気! 心配しないで!」
転校生(みんな味方なのに、同じ志で集まった仲間なのにどうして疎外感なんて感じているのよ、私。男に釣られて私までマイナス思考? もう)
転校生(違うわ。私はアイツより先に名無しに一泡吹かせてやりたい……オカルト研さんも救えば、男にも安心してもらえる……)
先輩「んふー! 転校生ちゃ~ん、手繋ごっか」スッ
転校生「は……はい?」
転校生「手を繋ぐって、そんな子どもじゃないのにいきなり……ひっ!」
先輩「まぁまぁ~♪ 遠慮するこたぁないのだよ、女の子はいつだって心細いものでサ」ギュ
転校生(いつも無理矢理なのよね、この人って。それで元気づけられる事もあったけれど。手、思っていたより冷たいんだ)
先輩「だからこーしたらわたしも転校生ちゃんも安心慢心ですよ! はっはっはー」
転校生「慢心は、この状況で選んでいい言葉かしら……あ、あはは」
先輩「気にしなくていいんだよ、転校生ちゃん」
転校生「えっ?」
先輩「えっとね、みんなにはナイショだよ? わたし男くんと約束してんの。約束っていうか契約?」
先輩「だから安心していいのさ。マジ大船に乗った気分で、訂正、泥船に乗り掛かった気持ちでいちゃってよぅ!!」
転校生「……部長さん?」
先輩「おっ? 何かねっ、プリチーJKたるこのわたしのスリーサイズを知りたがるとはお主も中々のオヤジ思考よの――――」
転校生「部長さん随分だるそうに体動かしてるけど、どうかしたの?」
先輩「ありゃあ、スキップして移動した方がいつものわたしな感じ? ほれルンルン~♪」ぴょん
転校生「わ、わっ! そ、そうじゃなくてもしかしたら気分悪いのかなって! ちょっ!? 危ないですっ!」
不良女「…十分平常運転じゃね?」 生徒会長「…ふむ」
生徒会長「どれ、長年君に付き合わされた仲だ。転校生 部長殿を貸してみなさい」
転校生(飛んで跳ねる先輩さんの肩を掴んだ生徒会長は、その肩をがっしり鷲掴んで私たちに強く揉んでみせる。途端に間抜けな声をあげて先輩さんが手足をばたばた動かして)
先輩「いだいいだいいだいいだいぃぃ~~~~!!? あー加減知らなすぎっ!!」
生徒会長「ん? 肩でも凝っていたとばかり考えていたのだが、何だ柔いじゃないか。私の気のせいだったか?」
男の娘「肩が凝るって? ……あっ///」
不良女「うっわ……うわ…………死ね……」
生徒会長「どこの物とは言わないが君が激しく運動すると靱帯に響くぞ。形を悪くしたくないなら気をつけるんだな」
先輩「っ~! も、もう! ばかぁー! ばかばかばか!! エッチ!」
不良女「なぁ、いいからもう行こうぜ……」
男の娘「そういえば生徒会長さん、部長さんと付き合い長かったんですもんね。だからって今のは僕からじゃ何とも言えないけど」
生徒会長「うん、彼女の癖ならば当たり前のように刷り込まれ済みさ。それにお互い持つ物が大きいと苦労が分かり合えるしな」
不良女「もう行こうよ……」
先輩「ほんとですヨ! 作戦はどしたの? のんびりやってる場合? ノンッ、オカルト研ちゃん攻略のタイミングは時間が待ってくれないよ!」
生徒会長「こら走って音を立てるな! ……あの子の手、温かかっただろう? フフ、私もよく励まされた手だよ」
転校生「そうなんですか……?」
男(カーブのたびに左右に強く揺られるこの体、俺が乗っているのはジェットコースターか? 否、荒ぶるペーパードライバーの車の中だ)
先生「道わかんない! 男くん次どっち曲がればいいっ!?」
男「か、カーナビの案内に素直にしたがえば……」
先生「カーナビ!? 前に間違って墓地に案内されてから全く信用してないよ! こんな出来損ないに安心して道案内任せられる人いる!?」
男「先生はナビに親でも殺されたんですか?」
男(世の中には車を運転してはならない人間がいる。判断疎かな者とヨボヨボの老人、そして猪突猛進タイプだ。言わずもがな彼女はアウト)
男(さしずめ戦乱の世を駆け巡る軍馬の如く ニュービートルが唸りを上げる。というかまた道を外れているのだが)
男「だから公道まで出ないって何度も言ったじゃないですか!? ルート間違ってますよホラホラほら!!」
先生「えっ!! やだ、何でインターに向かってんの私……あー 車嫌ぁい!! やだーっ!!」
男「心中相手としちゃあ悪くなかったかもしれません。どうか楽に死なせてください、先生」
先生「冗談でも今はそういうのやめてよねぇっ!?」
黒服『…………と、到着は、だいぶ遅れると想定しておいて間違いなさそうだな』
男「……安全運転心掛けて向かいます。彼女が」
黒服『私の方でも出来る限り引き伸ばしてみるが、何分お嬢様の考えられていることが読めん。急げよ!』
男「頼むからこれ以上先生混乱させないでくれます!?」 先生「あ、煽られてるよぉ…」
男「先生、とにかく広い場所を見つけたらUターンして…… (ポツポツとフロントガラスを小雨が打ち始めた。天気予報を信じるならば、今日は夜まで晴天を貫いた筈だが)」
男(雨粒は次第に大きくなり、勢いを増していく。急く俺たちに立ちはだかるかの様に空は一気に曇天模様である)
先生「土砂降りかっての……こういう時だけなんだよね、車のありがたみに気づくのって」
男「通り雨か何かでしょう。それよりくれぐれも運転気をつけてくださいよ? あ、そこ右に……行けよっ! 何でだよ!?」
先生「な、何でって! わからないわよ! ハンドルが急に」
男「あんた事故車でも買ったのかよ!! 落ち着いてくださいよ、まだ次で曲がる場所があるので今度こそ!」
男「それと、この雨ですしワイパーもう少し上げておいた方が…………えっ」
先生「ど、どうしよう男くん!? 本当にハンドル効かなくなっちゃった!! どうしよう!?」
先生「ほら! 見てっ、私何も触ってないのに右に左に!! あ、あしも上手く動かせないんだけど……!!」
男「……せ、先生。気づいてないんですか?」
先生「もう何がぁ~~~~!!」
男「周りにですよっ!! だってすれ違う車……いずれも停まって動いてません…… (俺たちが乗った車だけが道を進んでいるのだ。そして気が付いた。散々打ち鳴らしていた雨音が止んでいたことに)」
男「――――雨粒が、空中で止まっているだと?」
テンプラ『8%bエf%91%Ik1oe7‰%95%bf%』
男「っ!?」
男(思わず声を上げそうになった。ヤツが後部座席でドッシリ構えているのだ。テンプラの風体は初見の人間にはあまりにも衝撃が強すぎる)
男(神聖さを感受させるより先に嫌悪感を与えてしまうだけだろう。車の運転で半ばパニックを起こした先生に今紹介するべき相手ではないと判断した……)
男「前、前だけ見ていてください 先生。一旦深呼吸してハンドルをしっかり握って」
先生「だけどこんな異常なの……えっ、男くん! 手ぇ!?」
男「何も心配することはありませんよ。俺が傍についています、生憎疫病神ですが」トン
男(ハンドルを掴む強張った彼女の手を優しく包めば俺が齎す相乗効果が、だが待たれよ、実は逆効果になったり? ……OK、杞憂であった)
先生「あ、ありがとう。少しリラックスしたかも……少年はこういうのがズルいって気づかないかな」
男「え? ていうか暖房効かせすぎなんじゃないですか、顔赤いですよ。先生」
先生「……一々うるさいわよね、きみ///」
男(恥じらう教師の可愛らしさに色々放り出したくもあるが、後方のグロ注意よ。テンプラは限りなく存在感を消していた)
男(それどころかバックミラーを覗けば嫌でも目に入るであろうに、先生はあまりにも無反応だ。前にしか集中していないのか? ならば彼女は金輪際車を使うべきではない。あるいは)
男(テンプラの姿を目視できていないか?)
先生「あー、さっきから後ろ気にしてるみたいだけど何かある?」
男「何も。また後方車からぴったりくっ付かれてないかなぁ~と。ところで順調に道進んでますね、軌道修正されてるというか」
男(空中で運動を止めたまま群を作る雨粒が、フロントガラスに当たっては弾けた。ぶつりの ほうそくが みだれていますかね?)
転校生(ちょっと前まで遠足ではしゃぐ子どもみたいに騒ぎ立てていた私たちはもういなかった。オカルト研さんの姿を確認してからは)
転校生(全員が無駄を殺して、彼女の行く先を陰から見張っている。脇のボディガードの人にはこっちの作戦とか何も伝えていなかったけれど、笑っちゃうぐらい察しは良い方だった。職業柄もあるのかしら?)
黒服「お嬢様……どちらへ向かわれようというのです?」 オカルト研「こっち。ついて来て」
黒服「……で、では何故私どもに目的を告げたがらないのでしょうか。お嬢様も気に掛けられている例の馬の糞はここにいませんぞ……」
黒服「差し出がましく申し訳ありませんが、お嬢様の興味はあのイケメン(暗黒微笑)に?っ攫われてしまっているのでしょう? 彼奴もあなたに危険を冒して貰おうなど願っておりません、お嬢様」
オカルト研「男くんが?」ピタ
黒服「! ……え、ええ。気に食わん奴ではありますが 懸命にお嬢様の救いになろうと足掻くガキですッ!」
黒服「ここは彼の顔を立てると思い、私めに無茶のご理由をお聞かせ願いませんでしょうか!?」
黒服「………………あの……お、お嬢様ァ~?」
オカルト研「誰かいるの?」
「!?」
黒服「おおおお、お嬢様っ!! この様な薄気味悪い場所でご冗談は過ぎていますぞ!!」
オカルト研「行かなきゃ」
黒服「あ、あぁ!? 待って! お待ちくださいお嬢様! どうか正気に戻って!!」
黒服「どうして……何故なのですかオカルト研お嬢様っ……!」
不良女「おいおい……いけ好かない大人だと思ってたけどオッサンも本気で」
生徒会長「藁をも縋るとはよく言ったものだ。黒の人の協力を無碍には扱えんぞ。プランを正確に実行して改心させなければな」
生徒会長「オカルト研は階を上がった。君たち三人は以前ここへ潜った試しがあるのだろう? 何がある?」
男の娘「あ、実は僕たち 色々あってあんまり奥には入ってなかったんです……だから男とオカルト研さんしか」
先輩「そうなの? 転校生ちゃん」
転校生「いきなりどうして私に振るのよ!? わ、私だって男の娘が言った通り…………なんだけ、ど」
転校生(無意識に足が動いた。ううん、動いていた。暗いのは怖い、廃墟だなんて死ぬほど嫌! 怖いって人が危険に感じる本能よ。私はそこに関しては狂ってないわ)
転校生(なのに、何が壊れて前に進めてるのかしら。オカルト研さんの為の勇気? アイツに褒められたいが為? どれもしっくりこなかった)
転校生「こっち……」
不良女「お、おい 転校生。あの変人女が行った方向と真逆だよ、そっち! 逆行ってどうすんだよ?」
生徒会長「不良女の言う通りだ。事前に立てた作戦を遂行するならば、このまま彼女のあとを追わなくては――」
転校生「私について来て。こっちよ」
男の娘「…………やっぱり様子おかしいよ、転校生さん」
男の娘「どうしちゃったの!? いつもの転校生さんっぽくないよ、今だって目がこんなに虚ろじゃない!!」ガシッ
転校生「……道……私知ってるから…………来たこと……あるから…………」
先輩「先回りしようって言いたいんだよね、うんうん! わたしは転校生ちゃんについて行きますよー宇宙の果てまでもっ!」
生徒会長「おい……君らしくも、あるが冷静になってくれ。転校生はここで休んでいなさい。男の娘くん頼めるか?」
男の娘「は、はい!!」
転校生(嘘じゃないわ。私は本当に道を知っている。ううん、知り尽くしている。だって歩き回ったのよ)
転校生(思い出してもみんなにこんな事信じてもらえるとは思わないけれど、私はこの廃病院にたった一人でアイツを探しに来た。自分の意思を無視した衝動に駆られて)
転校生(――まるで幽霊に取り憑かれたみたいにおぼつかな気だった感覚がここに帰って来た。あれは自分が“特別”を疑ったすぐの頃だったかもしれない)
転校生(……気味悪い化け物が私の前にいきなり現れてから先の記憶は不鮮明になって、気がつくと私は“日常”の中に違和感なく戻っていた)
≪ _“正が必ヨう&=ッた ≫
転校生「名無しよ……アイツが元凶なんだから。アイツの裏を掻かなきゃどうにもならない」
転校生「みんな聞いて!! このまま考えたことやり遂げようとしてもきっと邪魔が入っちゃうと思う! だから出し抜かなきゃいけないの!」
生徒会長「君も落ち着いてくれ転校生……気合いが十分なのは承知したがね、空回りでは」
転校生「そ、そうじゃないのよっ! 悪い予感がする! お願いっ、信じて!」
不良女「……二手に別れとこう? 二組で動いたら最悪アドリブ利かせられるじゃない。そうだよな?」
生徒会長「一理あるが、しかしだな……」
不良女「いーよ、あたしがこの子について行くケド。とりあえず文句出てないよな?」
生徒会長「おい! 二人とも待ってくれ!! 我々が別行動で動く利点は万に一つも」
不良女「道案内バッチリなんだろ? 行こう 転校生」
転校生「わ、わかったから、急に手引っ張らないで……! ……生徒会長さん ご、ごめんなさいっ」
男の娘「……あぁ、行っちゃいました……けど」
生徒会長「……あの二人はオカルト研の相手をする際、必要不可欠なメンツだったと単純に考えられるのは私だけなのか?」
生徒会長「別に男の娘くんだけで上手く事が運べないとまでは思わない。だけれど、だな」
先輩「まー、決定打とかに欠けちゃった気はしなくもない?」
男の娘「……僕 転校生さんが心配です。あっ、僕まで追いかけるとかはありませんよ!?」
先輩「おっしゃ! そんならみんなで転校生ちゃん組に寝返っちゃえば~!!」
生徒会長「全員仲良く一体何を裏切ろうというんだね? しかし心配なのは確かに同意しよう」
男の娘「よ、様子少し変だなってずっと感じてました。どこかそわそわしてて落ち着きなかったし、最初は怖がりからかなって思ったんだけど」
男の娘「まさか、あんな急に……どうしちゃったんだろう?」
先輩「どうもこうも本人がさっき全部説明してたくないかなぁ。ほれ、『邪魔が入る』とか」
男の娘「邪魔、邪魔って何ですか? ここにいるみんな、黒い人も含めて僕たちの目的って一緒なんですよ?」
生徒会長「胸騒ぎか……取り越し苦労に終わればいいが…………そろそろだ。私たちだけでも“部屋”まで誘導するぞ」
不良女「で、ここから先はどう進んだらいいの? あ~……この階段昇ったりする?」
不良女「灯りとか持ってなきゃマトモに歩ける気しないなぁ。実はあたし持ってるけどサ」カチッ
転校生「ねぇ、その前に一つ訊いていいかしら?」
不良女「良いけど一回につき缶コーヒー一本奢ってもらうからな~、なんちゃって! へへっ!」
転校生「……どうして私の言うことを信じてくれたの?」
不良女「ええっ、そこ? 騙しましたってオチとかあたし絶対聞きたくねーよ!?」
転校生「ううん、そうじゃない! 騙したりなんかしてないわよ。でもあんな簡単に私の味方したりして、わ、わからないわ」
不良女「いや、わかんないのはお前の方だっつーの! 何が言いたいのかハッキリしろよ」
転校生「あっ……ご、ごめん。正直自分でも混乱してて……ただ あのままだと良くないって思ったから……」
転校生(何て伝えたらいいだろう……順を追って説明する? 私が何なのかまでも? 無理よ、というか無駄だ)
不良女「良くないって思ったんだろ? じゃああたし納得させるならそれだけで十分だってば」
転校生「うそ! わ、私の言ったこと覚えてるでしょ? おかしくなったって思わないの? 幽霊に取り憑かれちゃったとか!」
不良女「あっははははは!! え、なにそれ!? 廃墟の中だと幽霊に憑かれるのかよぉ~!!」
転校生「そ、そうじゃなくたって 怖さのあまり変になったとか、もっと色々あるでしょ!?///」
不良女「あたしには あんたのあの『信じて』が変になった奴の言葉とは思えなかったね、転校生」
転校生「……それが、根拠?」
不良女「こういうのカンジョー論?とかになるんだろうけど、あたしは転校生のこと気に入ってるしさ……」
不良女「真面目にオカルト研を心配してるのも分かってるし、優しいのも知ってる。こんな時に自分優先しないこともだ。そうでしょ?」
転校生「そうでしょって言われても、こ、困るん、だけど……っ!?」
不良女「つべこべ言って立ち止まったままいないで、先進もうぜー。正直あたしも暗いの苦手だからお前とお相子だなぁ~、へへへ♪」
転校生「な、なんか……ありがとう。足が軽くなった気がするかも」
不良女「げぇ、マジでおかしいのに憑かれてたんじゃないのそれ!?」
転校生「いやぁ! もうっ! 本当にそういう類の話 嫌なのにっ! ……フロアもう一つあがるわね」
不良女「上がるのは構わないけど、あたしたちどこに向かうんだよ? 今更肝試しの再チャレンジとかは」
転校生「元々何の為にこんな所にまた来たか思い出して。彼女、オカルト研さんを今度こそ話を聞き出して説得する為だったでしょ?」
転校生(説得……率直に言わせてもらうと、今の彼女に対して上手くいくとは思えない。オカルト研さんには名無しの息が掛かってしまっているのだから)
転校生(だからこそ、メンバーへ今回私から提案した方法は強引と無茶を要するやり方。それですら打ち砕かれそうな予感もあった)
不良女「だったら尚更別行動の意味だよ。もしかして、アイツが予定通りに掴まらなかったこと考えてるのかよっ?」
不良女「なぁ……転校生から言い出したんだからさすがに覚えてるよな? その……“オカルト研を密室に閉じ込める”って……」
転校生(その問い掛けには小さく頷いてみせた。閉じ込める。彼女と誰かをと、よくある二人きりというシチュエーションを作ろうとしたいのではなく、作為的にオカルト研さん一人を脱出不可能な状況へ陥れる)
転校生(当然だけど反対の声が多かったわ。彼女を振り回す側になるとしても方法は褒められもしないし、乱暴じゃないかって)
不良女「あたしもドン引きだったけどな。普段活発でドストレートな転校生さまがとんでもない思い付きしたんだから」
不良女「もっと平和に解決するやり方があるんじゃねーかなって。そしたらズバッと言い切るんだから、驚いた……」
転校生「生易しいことやって止まる様な子が他の人を平気で巻き込むの?」
不良女「……そう、それ。かなり面食らった」
転校生「私だって出来るなら普通の話し合いで全部元通りになって欲しいわよ。だけど、彼女はやり過ぎなの」
転校生「いくら何か悩みがあったとしても悪事は許しちゃダメよ。男は今その辺りの判断が正常にできてない……」
転校生「アイツなりに考えて考え抜いたんだろうけど、お陰でボロボロじゃない……だから私たちがやる。不良女ちゃん」
転校生「作戦は打ち合わせ通り決行するわ!! そして、どうして私たちが別ルートからオカルト研さんを追っているのか」
不良女「追ってる!? おい、追ってるわけないだろ。だってあたしら二つも上の階まで昇って来ちゃってんだぞ? 追い越してんぞ!?」
転校生「違うの。最初からオカルト研さんを追いかけるつもりで道を変えたかったのよ、っていうよりは」
転校生「ここまで先回りしておきたかったから…………不良女ちゃん、ここで罠張るわ。手伝って」
不良女「わ、罠ってあんたっ……つーか何でオカルト研がここまで来るんだよ? 上手く行けばもう三人が掴まえてる頃だし!」
不良女「あのオッサンもいて失敗したとして、あの運動音痴の塊が巻いて逃げてこれるとは……」
転校生(……微かにだけれど、この辺り あの“神”ってヤツと会った時と同じ重さがある気がするわ)
転校生(暗い廃病院の中には変わりないのに)チラ
転校生「……埃があまり立ってない? 置物なんかはボロボロだけど変な感じ」
転校生「ねぇ、不良女ちゃん懐中電灯の灯りもう付けてなくても平気なんじゃないかしら?」
不良女「え? バカ言うなよな、いくら日差し込んでるからって……あっ、日の光入って来てるじゃん」
不良女「ふーん……パッと見あれが病院のナースステーションで、ここが休憩スポットみたいな……」
不良女「って、入院棟じゃねーか! 大丈夫かよこんなとこで待ってたりしてさぁ~! 死んだ患者化けて出ないか!?」
転校生「だから!! はぁ…………きゃああぁ!? なな、今度は何! いきなり跳び付いたりして!?」
不良女「ああああ……あれっ…………あれぇ……!」ギュゥ
転校生(突然抱き付いて来たと思えば、小刻みに体を震わせた不良女ちゃんが遠くを指差していた。ゆっくりと従ってその先を確認すると)
転校生「……なーんだ。もう、怖がり過ぎ! ゴミが風で転がっただけよ」
不良女「な、生首に見えたぁ! あたしには生首だった!!」
転校生「病院で生首は中々ないんじゃない? 現実的に考えたら――――!!」
・・・ピンポーン、ピンポーン
転校生「…………ね、ねぇ、不良女ちゃんにも聞こえる?」
不良女「あぁ、南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 ぎゃーてい ぎゃーていっっ……!!」
転校生(音は元ナースステーションの方向から断続的に鳴ってる。ナースコールって判断には困りはしなかったけど、そういう問題じゃないわ!)
不良女「ヤバいってヤバいよマジ!! 前来た時も変なことあったしさ、絶対呪われてんぞこの病院っ!!」
転校生「同感よ!! だ、だけど……待って……」
不良女「おぉい転校生ぇ!? 止せって、今度こそ化けて出てくる! 逃げようよ!?」
転校生(そうしたいのは山々よ。脅すにしても最高のタイミングで鳴ってくれた事だし。でも、でも、この“呼び出し”が嫌に気になる)
転校生(私は背中に不良女ちゃんを引っ付けたまま 恐る恐る中に入ったわ。入ってすぐ 音を鳴らしていた原因らしい電話の親機があった。201号室からの呼び出し)
転校生「(とっくに電気なんて届いてないだろうに、それは誰かが応答するまでとコールを鳴らし続けてる) …………っ!」
不良女「おいおいおいおい、おいっ! まさか出るつもりじゃないよな! 転校生キャラ忘れてんじゃないの!?」
転校生「私だって死ぬほど怖いわよ!! 怖いけど、出なきゃダメって気がする……」
転校生(頬を二、三回も叩いたら気合いも十分、なわけじゃないけれど。そこはもう勢いに任せて受話器を取ってた)
転校生「……はい」
?『…………その声 転校生、ちゃん?』
転校生「……だ、誰なの? いま何処に、あっ……201号室から……?」
?『わたしだよ……ねぇ、外に出れなくて困ってるんだ! 助けて! ヘルプミー!!』
転校生「えっ、部長さん!?」
黒服「――――お嬢様もうお気が済まれたのでは?」
オカルト研「飽きたのなら外で待っているといい。私には果たさなくてはならない役目があるわ」
黒服「この様な薄汚れた場所でお嬢様が為すべきことなどございません!! ……む」
黒服「お、おやー? これは、お嬢様ぁ……奇妙な封筒が落ちていましたが」
オカルト研「封筒?」
生徒会長「…………上手く気が付いてくれたようだな、黒の人が」
男の娘「うぅ、オカルト研さんが興味示しそうな感じで作ったけど、だいじょうぶかな」
黒服「ええ、封筒です。宛名の部分には『深淵を覗かれし君へ』とだけ……これは怪文書ですな」
黒服「お嬢様の御用と何か関係おありで? だとしても悪趣味ですぞ、お嬢様!」
オカルト研「……知らないわ。中身はあるの? できれば私が読みたい」
黒服「あるにはあったのですが、あぁっ!! 力付くだなんて!」バッ
オカルト研「…………」
『 この先 真なる闇在リ。理から外れし力を渇望せし君 孤独になりて進まれよ 』
オカルト研「……こんなの……行くしかないじゃない……!!」
黒服「お、お嬢様?」
黒服「お嬢様聞いておられるのですか? お――――むぐっ!?」
先輩「し~っですヨ♪ おにーさん」
黒服「お前たちっ……するとアレが合図となっていたのか。よくも純粋可憐なオカルト研お嬢様に妙な物を!」
男の娘「えっと、僕たちは始めからオカルト研さんが好きそうな物で釣っただけなんですけど……」
生徒会長「グッジョブ。ご協力感謝する、黒の人。ここから先は私たちの後ろで控えていてください」グッ
黒服「黒の人……? まぁいい。ともかく一体何を始める気だ? あの小僧の到着は遅れるそうだが、策に問題ないのか?」
生徒会長「小僧? っまさか男くんのことを話しているんですか!? 彼が来る!? 何故!」
黒服「フン、私が念には念を入れて奴に連絡を入れたまでだ。この大事な時に寝坊でもかまされては面倒なんでな!」
生徒会長「なっ!?」
先輩「あちゃー……台無しだよぉ……」
黒服「おい待て、その反応は何だ? 素直に感謝を――――それどころではない! お前たちはお嬢様に集中してくれ!」
生徒会長「あ、あぁ、過ぎたことを嘆いても仕方がない。次の封筒を彼女が拾ったら勝負に出るぞ、二人とも!」
男の娘「は、はい! ……黒服さん、これから少し強引なこと 僕たちやると思います。だけどお願いです。静かに見守っててくれませんか……?」
黒服「事と次第で見る。私は常にお嬢様の味方だ、依然揺らがずにだ」
先輩「盲信しまくりだけどカッコいいじゃん、お兄さんも。まぁ 黙ってもらうけどネ……」
オカルト研「……また封筒ね。私の中の血が騒ぐわ、次を欲していたのよ」
『 向かって右に≪ 308号室 ≫深き始まりの闇の床。臆するな、前へ 』
オカルト研「っ~~~~!」ぞくぞくっ
オカルト研「こ、この中に……私が追い求め続けた力……闇を越えた凄まじき力があるというの……!?」
ふら……
生徒会長「――――今だっ!! ドアを閉めてカンヌキを!!」
男の娘「はい!!」
オカルト研「えっ?」
黒服「何だとガキど、もが!?」 先輩「だから静かにしててってお願いしましたよねー。お兄さん?」ガシッ
生徒会長「……彼女には申し訳ないが第一段階は成功した。あまりドアに近寄るなよ、会話が聞かれてしまう」
黒服「んーっ!! ん~~っっ!? んううぅ~~~~ん゛ッ!? ………」
男の娘「やっておいて今更なんだけど、僕たち凄い酷いことしちゃった」
生徒会長「ああ、覚悟は決まっていても実際にではな……おいどうした? 何故黒の人が伸びているんだ?」
生徒会長「まさか君が……な、何をしようとしている、君はそんな所に立って。……どうしたっ?」
先輩「はい? 決まってるじゃん。このつっかえ棒外しちゃうんですよー」
男の娘「は、外しちゃうってそんな事して何か意味あるんですか!?」
先輩「意味は特にないけど二人が困るんじゃないかな。オカルト研ちゃんは無事に外に出られる」
先輩「みんなで考えた更生大作戦はとりあえず台無しになりそうだよねぇ~~!」
生徒会長「冗談も休み休みにしてもらいたい! 君がその場のテンションで生きる奴とは知っているが、悪戯が過ぎるぞ!!」
先輩「ま、どう思われようと勝手だけど……これもお仕事なんで」
生徒会長「何が仕事だっ、トチ狂いでもしたか!?」
生徒会長「ダメだ、男の娘くん! あの子を抑えよう! このままでは出て来たオカルト研によって我々が不利に追い込まれてしまう!」
男の娘「わ、わかりました……! 部長さん、ごめんなさいっ!!」
先輩「謝らなくて良いよ。生徒会長ちゃんも」ガラッ
生徒会長「くっ!! 一歩遅かったか、既にカンヌキを落としてドアを――――――!」
男の娘「あ、あれ? 部長さんどこに消えちゃ………うわっ!?」ドンッ
生徒会長「あうっ!? ま、待て! まさか君は私たちをオカルト研ごと、くっ!? 閉めるな! 待てと言うんだっ!」
先輩「一人ぼっちより三人で仲良くしてる方が心細くなくていいんじゃないかな~、オカルト研ちゃんも。よいしょ、と」
生徒会長『おい!! バカな真似はやめてここを開けろ!! おいっ!!』ガン、ガンガンッ
先輩「…………ふぅ、本当に肩こっちゃって嫌になるよコレ」
黒服「なにを、しているのだ……これがお前たちの立てた、策だとでも……」
先輩「ただの引き立て役のサブキャラが無駄に出しゃばらないでくれませんか。面倒なんですよね、あなたみたいな人は」
黒服「……? お前、本当に昨日会ったあの時のラーメン少女か?」
黒服「そ、その目は何だ。まるで虫を見る様な、その蔑む目は何だと……訊いてい、る……!?」
後輩「――――安心してください。あなたが今見た事、関わったこと全て綺麗さっぱり起きた時に忘れてますから」
黒服「化けた!? い、いや、ラーメン少女が、まったく別の少女に……何だこれは! 私は一体何を見ているんだ!?」
後輩「あなたが見ているのは“天使”です。天使に実体なんてありません」
後輩「この姿だって偽物でしかない。人を惑わす為に、誘惑する為にだけ存在する仮初めの女の子の姿……私には私なんて無いんです」
黒服「私なんて無い……? ぐぬうっ!?」グギィ
後輩「主 “名無し”はあなたを認めていません。本当に住み良い世界の中にとって、あなたの様な人がしゃしゃり出て来られても不要にしかならない」
黒服「わ、私が不要!? 貴様、ガキが何様のつもりで立てついているッ!! そこに直れ! 修正してやるぞーッ!!」
後輩「どんなに屈強な男の人でも、私程度にすら敵わない。そういう世界なんですよ、ここは。……大人しく眠っていてくれませんか?」
黒服「がふっ!! っうぅ……おじょう、さま……わたしは おじょうさま を………………」
後輩「…………やっぱりおかしい、神使いの力が私の中に戻っている。元主、神さまから奪われた力が」
後輩「一人の無力な美少女として彼を見守るしかできなくなった筈だったのに……なんて皮肉でしょうかね、先輩」
男(俺たちを乗せた先生の真っ赤な愛車がスピードを乗せたままこれたま黒光りした一台の車の隣に駐車。ナイスドライブテクも、気に留めず俺は外へ飛び出していた)
男(あとを追って運転席から出て来た先生が隣並んで俺と共に穏やかと呼べぬ状況を目の当たりにし、困惑した)
モブ黒服たち「…………」
先生「この人たちって、オカルト研さんの付き人さん一行だよね? 何よ、これ」
男「何と聞かれても俺にだってよく分かりません、先生……」
男(彼らはそれぞれが自由な格好で気を失っていた。油断しているところに閃光手榴弾でも転がってきたように。外傷は無いが、明らかな異常である)
先生「……こんな薄気味悪い廃墟だし、化け物と交戦してたって言われても信じちゃうかも」
先生「あー、さっきから現実離れしすぎよ! 私を平和な世界に帰して!? 一体全体どうなっちゃってるの!」
男「(ご尤もである) 黒服さんとも連絡が通じない。愛好会のみんなともだ……すごく嫌な予感がする」
男「先生、行きずりで巻き込んじゃって申し訳ないですけど 着いてきてもらえますか? 俺一人で解決できそうにありません」
先生「そういう事じゃないでしょ今!! だけど……こんなの見せられておいて見す見す帰るなんて、ちょっと難しいわ」
先生「行くわよ、男くん! ゲームで鍛えた謎感覚があれば化け物とかお化け相手でも通じそうだわ! たぶんっ!」
男(ある意味頼もしいな。というよりただ傍にいて貰えるだけ格別に心強さを得る事ができていた。やれやれ、また戻って来たぞ、廃病院)
男(すっかり因縁深い場所へと変わってしまったが、すべての謎が凝縮されし重要な背景だ。何より“死”を強く連想させてくるのが肝だろうか)
男「……ええ、行きましょうとも」
先輩「――――うわあぁ~ん!! 心細かった暗かった寂しかったぁー!!」ギュッ
不良女「そんな一気に言わなくたって大体察するってーの……でも何でブチョーが?」
先輩「わたしが説明欲しいくらいだよ! 朝起きてここに向かってたら急にこんな所に閉じ込められてるし、周り誰もいないし~!」
先輩「携帯通じなくなってるし、もう大変!! 助け呼ぶために必死で手探ったねっ、そりゃもう死ぬ気だったと自負する勢いがわたしに宿ってーの」
不良女「わ、分かったから喚くな! あたしらだってチンプンカンプンなの! なぁ、転校生!?」
転校生「……」
不良女「聞いてんのかよ!」
転校生「ここに向かう途中で部長さんがさらわれたのなら、私たちがさっきまで一緒にいた部長って何……?」
不良女「わぁああっ、自分から怖い話振ってくスタイルいい加減やめろって!!」
転校生「だっておかしいわ!? いくらいわくつきの廃病院だからってこんな、ドッペルゲンガーみたいな話ありえない!」
転校生「とすると、向こうの生徒会長さんたちが危ないと思う!! 急いで合流しましょ!!」
不良女「お、おい待ち伏せはどうするつもりなんだよ!?」
転校生「そんな事やってる場合じゃないわよっ、わ、私のせいよ……私のせいでみんなを危険な目に!」
先輩「何だかよくわかんないけど緊急クエスト発生したのは把握だよ! で、他の二人はどこにいる!?」
「やー、生き急ぐと碌な目にあわんぞ? あんたたち」
先輩「男くっ……違う、だれ?」
不良女「いや、あたしだって知らねーよ。見た事ない面っつーか、よく分かんないけど」
不良女「誰だよあんた!! いきなり出て来て何様だ……?」
名無し「そういえば自己紹介がまだだったか。オレは名無し。そこで突っ立ってる転校生のクラスメイトさ」
転校生「……性懲りもなくまた私の前に現れるのね、名無し」
名無し「性懲りもないのはそっちじゃないか? 散々余計な手は回さないように口酸っぱく言ってたつもりなんだが」
名無し「……それにしてもアレの影響も随分薄まったなぁ。オレでさえここに自由に立っていられる。男の悪霊とやらも消える一歩手前か」
転校生「どっちが悪霊なのよ。アイツの足を引っ張ってるのは他でもないあんただわ」
転校生「あんたが存在する限りアイツは苦しむしかないわ! まだそれが分からないの? このだだっ子!!」
名無し「駄々をこねているのはそっちだって。男には導き手が必要なのさ。どうしてそれが分からない?」
名無し「お前も早く本来の自分の役目に戻ってくれよ。重箱の隅を突く暇はないぞ。もっと男を満足させるべきじゃないか……?」
不良女「おい、意味分かんないこと喋ってんじゃねーよ!! 男の何だってんだ、あんたは!!」
名無し「親切な友人だよ、不良女。お前たちからも言ってやってくれないか? 自分たちも男が真の幸福を掴むことこそが幸せなんだ、と」
不良女「あ……?」
転校生「そいつの言う事に耳を貸さないで!!」
転校生「名無しは男を、私たちを騙そうとしているわ! そいつの話は出鱈目ばかりで碌でもない! 信じちゃダメなんだからっ!」
先輩「そ、そこまで言っちゃう? 転校生ちゃんのクラスメイトなんでしょ?」
名無し「転校生からは相変わらず信用がないんだな。お手柔らかにできないか? 誤解は衝突しか生まないぞ?」
転校生「黙ってよ!!」
名無し「嫌うなよなぁ……悲しいじゃないか。オレとお前はもっと上手くやれるはずさ、え?」
転校生「黙ってって言ったのよ……そこを退いて。あんたの時間稼ぎに付き合うつもりなんてないわ、名無し」
転校生「不良女ちゃんと部長さんはみんなのところに行って! 私がコイツの相手をするから!」
先輩「えっ、で、でも別にそこまで凄むような子じゃ……」
不良女「いや、どっちみちあたしら変な事に巻き込まれてるから! 部長先行くぞ!」
先輩「ああっ、待ってってばー!?」
名無し「……正気になろう? お前も男の幸福を望むものであるのなら、BADENDを奴に際限なく突き付けてやるべきだ」
名無し「絶望を繰り返した末に 男は無用な知識を捨て去って、己を省みない完璧な主人公になれるんだから」
転校生「その繰り返しに巻き込まれる私の立場ってある? 冗談じゃないわ……アイツにも、私にとっても」
名無し「お前は観察するのが仕事なんだ、仕方がないじゃないか。オレは裁き、選別しなくちゃあならない。役割分担はしっかりして欲しいな。観察は重要だぞ?」
名無し「見る事をお前が“やめた”その時、世界は……形を保てなくなるのだから」
転校生(名無し、コイツは正気じゃないわ。何処で嗅ぎつけて来たのか知らないけど故意に現れたっていうなら、男を陥れる罠を用意しているに決まってる)
転校生(あの自称神さまに“倒し方”みたいな、物騒でも何でも聞いておけば良かったって後悔してる……)
名無し「やー、怖い顔をしないでくれよ。そう凄まれてちゃフェアな話ができんぞ?」
転校生「これのどこに対等な要素があるって言うの!! あんたは嫌いだわ! もう……大人しく消えて、名無し。みんなに近づかないで」
名無し「酷いな。オレだけ除け者扱いか? お前までオレが輪の中に入るのは相応しくないって否定するのか?」
名無し「悲しいなぁ……お前らばかり男と楽しくやれて、オレにはその権利はない? 見ているだけで触れる事も許されない?」
転校生「あんたがアイツにしてきた事を思い出しなさいよ!! 憐れんであげる余地もないわ!!」
名無し「外堀を埋めようとして何が悪い!? ただ親友であろうとしたオレを何故責めるんだ? オレは努力したっ……努力したのにっ……!」
名無し「お前たちが憎い!! オレが欲しかったもの全部最初から持っていて、アイツの傍にいられるお前らが全員憎い!! 憎いよぉ!!」
転校生「!」
名無し「妬ましいんだよぉ……オレにも、くれよ? 楽しい日常……オレが生まれた意味を改めさせてくれよ……」
転校生「……あんたって――――えっ!?」
転校生(干渉に浸りかけた私を現実に戻す悲鳴が、部屋の外で突然響き渡った。二人、部長さんと不良女ちゃんの声だわ!!)
転校生「な、名無し!!」バッ
名無し「やり直すにはもう遅すぎたんだよな。わかるだろ、転校生?」
転校生「あんたとわかり合える気なんてしない! あの二人に何をしたのよ、言ってっ!」
転校生(胸倉を掴んで怒鳴っても平然と名無しは笑っているばかり。一瞬でも同情を掛けようとした自分がバカらしくなる嘲笑だった)
名無し「その顔が最高に良いwwwwwwww」
転校生「っー! お、男は何があってもここに来ないわよ、あんたの企みなんてお見通しだわ!!」
名無し「やー、ウソは汚いな。オレの目は何処にでもあって、常にアイツを見張れるんだ……そら、もう建物の中に入って来たぞ」
転校生(出鱈目と思えないそいつの目線は、恐らく本当に来てしまった見えない男の姿を追っていた。手の力が抜けて、軽々振り払われると)
名無し「お前には何もするつもりはないよ。大切な観察者なんだから」
転校生「もうやめて……お願いよ」
名無し「お前が“監視”し、オレが“監督”することで全て達成される。何が過程だ? 結果さえ残ればオレたちは解放される……」
名無し「男という一匹の人間が作った呪いから……本望だろう? オレもお前も、煩わしい死神にとっても」
転校生「…… (言い返す気力が沸いてこない。名無しは自らが背負った役目をただ果たそうとしている。その点だけ見れば誰よりも正しいわ)」
転校生(私は、アイツと一緒に横道を逸れて行きすぎた。永遠に続きそうな、ぬるま湯に浸かったままの今に甘えていたいと思った。終わるのが怖くて)
転校生(これは男と私たちの幸せな日常を満喫する物語じゃない。初めから非日常だった。終止符を打たなきゃいけない、“死”って、重い終わりを。男に――)
名無し「…………転校生、何のつもりだ? この手を離してくれよ」
転校生「……自分がこの世界の神さまにでもなった気でいるの、あんた?」
名無し「あー……理解、できないな。どいつもこいつも欠陥ばかりだ。バグってる!!」
名無し「馬鹿馬鹿しい!! 邪魔をするなよ、転校生! お前も死神も手を出すな! このオレが主に代わって使命を全うするんだぞ!?」
転校生「あんたの主って人が何を想って、どんなに苦しんできたか知らないわ。でも、それでも」
転校生「どんなに正しくても、あんたは間違ってる……!」ググッ
名無し「間違いはお前の方だぁぁーーッ!! この世界に不要だ! 消えて無くなれよ無能!!」
転校生「えっ……」
転校生(頭の中が真っ白になるって日本語、アイツに教わったことあったんだけど)
『人って生き物はだな、パニックが頂点まで達すると考えるごとも覚束なくなる。いわゆる思考が追い付かないって状態だろう』
『やっと気が付いた時 自分に降りかかった現象を再確認して、ウソだと思い込む。そして事実と叩きつけられる、数秒あとに』
『お前に関して教える良い例は、パンツを見られた胸を揉まれた!! 等など……ちなみに目の前が真っ白になったという』
転校生「……な、なによこれは」
転校生(名無しの腕が、私の体を貫いていた)
名無し「オレの……オレの忠告を破ったお前が悪い! いつだかにも同じ真似をして見せてやったな、転校生」
転校生(肉体を貫かれた、というよりも 名無しの手が通過したこの体が空間に浮かぶ蜃気楼みたいに、3Dホログラムみたいに虚ろだった)
転校生(名無しの手を中心に私の体は、冗談みたいに 薄くなっていったの)
名無し「もうどうだっていい!! 邪魔は消す、崇高なる主の使命を阻むバグは消去して、排除しなくちゃダメなんだ!!」
転校生「あ、あ……っ?」
名無し「オカルト研たちのようにしてやった様な生易しいものだと思うなよ!? 存在すら許可しないッ! 記憶も体も必要ない!」
名無し「転校生!! お前なんて奴は男の前に“初めからいなかった”!!」
転校生(薄れていく体、透明の浸食を止めることもできずに、ぼんやりと浮かぶアイツやみんなの顔。思い出。あれ、これが噂で聞く走馬灯っていう……!)
転校生(て、抵抗できない……自分が世界そのものから否定されてる気分……)
名無し「安心してくれ、お前の抜けた穴はオレたちが埋める! 先に逝って待ってて欲しい! どうせオレたちも終わりを迎えてすぐに消える!」
名無し「儚いなぁ、オレたちって……なぁ、転校生!! ねぇねぇ!?」
転校生「いやぁ……!!」
「――――――嫌がる美少女に乱暴する輩がいる気がして」
名無し「バカ違うだろ!? 粛清と乱暴じゃ大違いだ。まぁ、清廉とは程遠い男くんには言ってもわから――――――ぶぅっっっ!!」
男「一言でまとめろ! 便所のゲス豚野郎!!」
転校生「…………あ、あんた……なんで、来ちゃったのよ」
男「何で来ちゃったじゃないだろうが。止めてくれないか、ちゃっかり俺の知らん所で危ない目に合ってるとか」
男「迷惑極まりないぞ、お前ら」
名無し「痛ってぇぇ……痛てぇな……痛いよ、酷いじゃないか? どこの世界にクラスメイトを鉄パイプで殴る奴がいるんだよ?」
男「どうせ何で殴っても死なないだろ、お前」
男「(手がまだ震えている。やれやれだ、先生に見られる前に得物を捨てておかねば) それよりも俺がいない間にコイツらへ色々酷い事してくれたみたいだな。黙ってると思うなよ、至上最悪のド屑」
名無し「遅れて登場しておいて何気取りなんだよ」
男「真ヒーロー見参だっ!! 美少女の守り神……別に覚えておかなくていい、恥ずかしいから」
転校生「どうだって、いいわよっ! それより何でここがわかったの? た、助かったけど……」
男「誰だってあんな分かり易いデカい悲鳴聴こえたら、真っ先に走って来るだろ。悲鳴の当人たちは見当たらなかったが」
男「が、どんなゲスが繰り広げられるかぐらいは大体予想ついた。……おい、容赦するつもりないぞ」
名無し「え? オレに言ってるのか、男。気合い入ってるのは構わないけどお前が大切に想っている子たちをまずは第一に考えて欲しいな」
男「何だって?」
名無し「みんなは今どうなっていると思う? オレのさじ加減次第でヤバい事にならんでもないケド……」
男「適当な脅しに屈する俺だと思ってるなら、甘いんじゃないか。最初にヤバい事になるのはまずお前の方なんだぜ、名無し」
男(……先生が言われた通りに他の全員を見つけて介護してくれているなら万々歳である。またオカルト研を使って面倒を起こしてこない限りの話だが)
名無し「お前、オレを追い詰めたとか 思っちゃってたりしないか? えへへへっ!」
男「……おい テンプラ、あんたの出番だろう!」
「…………」
「…………コホン」
転校生「は、はぁっ? あ、あんた」
名無し「……こりゃあ何の真似だい。空回りして呼ぶ相手の名前を間違えたか? 重要な助っ人なんだろ、男?」
男「残念ながら間違えたつもりは一切ないぞ、名無し。俺としてはお前が聴き覚えあるネーミングかと期待していたんだが」
男「どうやら姿を見てもらう必要があるようだ。テンプラの」
名無し「あ~あ、そしたらソイツは何処にいる? オレの後ろに? 天上突き破って第二ヒーロー見参でも見られるのか?」
名無し「笑わせるのも大概にしてくれないか」
男「お前に対して笑わせるジョークはない。精々 青冷めてくれよ!」
テンプラ「雹ッ霓崎ケ$シaa霎ュ髀冶ケゥ驢yア2霓碑ス比=」ズゥン
転校生「ひっ!?」
転校生(『テンプラ』、男が自信満々に呼び上げたその名前と流れには唖然としていた。それでも、初めからそこにいたかのように、瞬間的に現れたソレ)
転校生(情緒が狂って、デリケートな理性に触れさせた姿が、そこにいたの)
転校生「し、正気じゃ……ないわよ、こんなのって…………!!」
転校生(化け物!!)
男(纏わりつく嫌悪の空気は辺りを支配し尽くした。人が考えて忌み嫌う要素を体現せし、もう一対の神)
男(神は死んだ。この神を死なせたのは? 他でも無い俺自身だったという。焦点定まらぬ瞳を落ち着きなく動き続けて、テンプラはこの肩に手を置いてくれた)
男「(上出来ではないか、と) 連れはショッキングな奴と忠告し忘れてた」 テンプレ「$B$"$gqCf$$KhsoQg=&$(B_??」
男「名無し、お前が主と慕った神から止めてやってくれと頼まれた。残念な暴挙だったな」
名無し「……なにを」
男「所詮 お前が企てたより良い世界作りは主様の意にそぐわなかったと言ってるんだ!」
転校生「ちょっと、ウソでしょ……そいつが、わ、私を……」
名無し「真実を、まだ受け止められないか? あの方がオレたちを生んだ張本人……父であり母である」
名無し「“親”なんだ、姉さん……オレたちの……主人だ……」
転校生「っ! そんな気持ち悪い呼び方やめてよ!?」
名無し「主、オレに不満があるとでも? だからその様な男に縋ってしまったというのか」
男「ああ、大有りだぜ 親不幸! 俺がコイツに代わってお前にありがたいお言葉を送ってやる。賜れ!」
男「……よく一人ぼっちで頑張ったな。苦しかっただろう。だが もう不安がらなくていい」
男「安心して舞台から降りるんだ。よくやった。この腕の中でゆっくりお休みなさい、我が子よ」
名無し「……えっ?」
男「このテンプラ、いや、お前の親は言葉を失ったが 想いだけは変わらなかったぞ」
男「名無しには悪い事をした。本当にすまなかったと思っている、だが謝まる術を無くしたテンプラはこの俺を頼りにしてくれた」
男「名無し……もう良いんだよ。どうか無念を抱かず綺麗なお前で去ってくれ (即興にしてはお涙頂戴しているのではなかろうか)」
男(特にテンプラの意思には反ることもなく、無難にトラブルを収める説得である。感動は押し付けるものだと現代っ子は把握している)
名無し「あぁ……あぁ! ずっと、ずっと報われたかった……」
男(ネックとしては よほど拗らせていなければの話だ。コイツの執念深さが文字通り闇のソレでさえいなければ、言霊は通ずる)
男(大人しく佇むテンプラを見た。心なしか涙ぐんでいるように感じるぞ、ドキュメンタリー)
名無し「認めて欲しかった、オレの存在を……オレがオレである意味を……受け止めて欲しかった」
男「確かに。お前は正しい。何も悪くない」
名無し「オレ、もう一人じゃないんだ……あなたは、オレを認めてくれた。それだけでどれほど救いだったか……」
男「おめでとう、おめでとう。めでたい!」パチパチ
男「最高だ、転校生。お前もそう思わな――――――冗談だろ、何なんだよ」
転ヨ#生「……し、知#ない@よ。すっごく今 体がフ%るいンdけど、私pう&ゥンヤ諫メ」
男「転校生!! しっかりしろ、おい、反応あるのか!? 聞いてんのか!?」
B \レ せサ{uる悚ィ%hle・・…耳元でわ!ーwa↓叫ス^のや、め、てくれな 叢ヘ?」
名無し「……姉さんは優しいなぁ。オレを寂しく思ってくれているんだね」
男「ふざけろッ!! なぁ、転校生、転校生、なん、だろ? だ、黙ってないで何か罵倒の一つやってくれよ!?」
#@・イチ・・[ 》
男「面白くないんだよこんなの! 頼むからっ……マジかよ」
男(彼女を抱きかかえようとしたするこの手が、手触りを得ることなく、体を通過した。何度差し伸ばせど 奇跡が起こらない。何故だ?)
男「テンプラ! テンプラ、この女を助けろ! 消えて無くなったら承知しないぞ!」
名無し「その顔が見たかったんだよ、お前の……気分が晴々する」
名無し「気にするなよ、男。お前は何度だってやり直すことが出来る。時と運命の牢獄に捉われたお前だからこそ救いがある」
名無し「何もかも綺麗さっぱり忘れてしまえ、全部投げ出すんだ。その為のセーブポイントじゃないか……」
男「……ちっとも反省していないみたいだな、えぇ?」
名無し「待ってくれよ、こんなのオレも予想外なんだ。こんな形でリセットが起こるなんて」
名無し「むしろ、こう呼ぶべきかもしれない。再誕と。これから新しい男の誕生だ……気にするな、生まれ変わったお前は上手くやってくれる」
名無し「そうしてようやく幕を降ろしてくれるんだ……主のお言葉は賜った。だけどさ、仕事はやり切らないと」
男(転校生が、もはや転校生であったかも不明なモノが消失を辿っている。コレの名前は既に思い出せなくなっていた)
男(食い止めなくては。あってはならないのだ、こんな終わり方を認めてしまうワケには――――)
『 諦 め な い で 』
男「――――こんな時に幻聴とは、ラノベか漫画だ。現実なんだぞ」
『 まだ終わりじゃない。まだ男くんの物語は続けられる。悲観しないで、終わってないよ 』
男「終わらせるつもりは毛頭ないさ…… が消えていいなんてストーリーは無い。何より念願のハーレムにヒビが入る」
男「悲劇を背負うヒーローは御免だろ、幸せは自分の手で掴み取らなくちゃ意味がない。平坦な道より、いばらの道を選んだのは自分だけれど」
男「最後ぐらいは笑ってハッピーを迎えられるトゥルーエンドを迎えなくちゃ…………」
後輩「それでこそ私の知ってる先輩だと思います!!」
男「えっ!? あれ、こんな所で何してるのお前!! 手光らせて、ゴッドハンドしちゃって! ……はぁ!?」
後輩「驚いていないで先輩も手を貸して! この人を延命させるには私だけの力じゃ足りませんよ!」
男(謎の声に激を送られたと思えば、目の前は輝きまばゆい光であった。黄金色に光るその手を俺の手と重ね、危うい彼女の胸へ押しつける後輩)
後輩「手抜きは絶対許しませんからね! あなたのガムシャラな本能を貸してっ、そして彼女へ届けてください!」
男「うおおおおおおぉぉぉぉ!?」
後輩「まだ俺の傍にいて欲しいんだって!! 先輩!!」
男「…………どうもこうも状況はサッパリだ。それでも」スッ
男(神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと)
あけましておめでとうございましゅううう
明日も更新するの
名無し「主、あなたに否定される事がオレにとってこの世の何よりも恐ろしかった。この憎悪を加速させてくれました」
テンプラ「…………縺ョ繝」
名無し「オレの名を呼んでくれたのですか? わからない……言葉も気持ちも読み取れません」
名無し「アイツにわかって、子であるオレが理解に苦しむ。あんまりにも理不尽だ。失望を覚える」
テンプラ「……8熙ヒハリ、タ、テ、ソ、ホ、ヌ、゙、タクォ、ォ、ア、゙、ケ。」
名無し「だから、オレはオレの思うがまま あなたを壊すことに決めました」
テンプラ「薙l縺ァ縺吶_?」
名無し「みんな、消える時は平等だ……男の最後になんて拘らなくていい。アイツもオレも、あなたも、姉さんも」
名無し「一緒に消えましょう? このクソッたれのあなたの世界と共に」
テンプラ「#!」
名無し「ほら、ご覧になって。遂に賽は投げられました、主。世界の“観察者”、主軸である姉さんです」
名無し「姉さんが消えると同時、世界は何者にも観測されることはなくなる。あの人によって紡がれていた時間の流れは断たれる……」
名無し「……姉さんはもう助からない。どんなにもがいても、決して…………束の間の一時だな」
後輩「先輩見てください! 転校生の体に色が戻りましたよっ! 助かったんですよ!」
男「あ、あぁ! そ、そうなのかっ? ハハ、はははっ!! 転校生!」
男(転校生、転校生、うむ 喉から出たがっていた名を今はいくらでも呼ぶ事が出来る。透明がかっていた身体にも色が付き、この手に彼女の感触が)
男「ん?」むにゅ
転校生「……喜び合ってるの良いことに、どこ触ったままでいる気なのよ…………っ」
男「転校生、違う。俺はお前の命を救った張本人であって一切やましい気分で体に触っていたわけじゃない」
男「つまり! これはwin-winの、ぶっっっ!!」
転校生「しねっ!! まずあんたが脳震盪起こしてくたばれ ド変態スケベぇ!!」
男「ぉぉぉおお、いきなりブラックジョーク過ぎんだろっ……!」
後輩「元気になった証拠なんじゃないですか? ふふっ。立てますか、転校生さん」ス
転校生「ありが、とう? ……どうしてあなたが私を助けてくれるの? 意味不明だわ」
男(それに関しては俺も同感である。非行に走ったように様変わりし果てた後輩が、かつての美少女っぷりを取り戻したかのようにここにいるのだ)
男(俺たちが眺める中、口元を緩ませて見せると身を翻して後輩は 名無しと対面する。小さくか細いながらも、頼りになる背中。アイツが、帰ってきた)
名無し「どうしてみんなオレから離れて行くんだ?」
後輩「別に始めからあなたの思想に染まってもなければ、哀れに思ってもいませんでしたけれど」
名無し「だからこそ 従うよう弄ったんだ、神の使い。ここにいる限りお前がオレの支配を免れるなんてあり得ない」
転校生「ふん、その言い草! 自分が神さまにでもなったつもりかしら!?」 男「そーだそーだっ!」
男(背中に隠れていた俺を無言で振り返られては、立つ瀬もなかろう。後輩の更に前に出て名無しを視界に捉え続けた。気分は火曜サスペンスドラマ終盤の刑事だ)
後輩「あり得ないを覆す奇跡があっても罰は当たりませんよね、せーんぱい」
男「お前、それって……」
男(懐から後輩が取り出した写真たち、昨晩俺の部屋から持ち去ったブツだと考えて確かであった。バカな、愛は窮地に勝つ? いやいや)
男「(愛は俺を救った) 最後になる前に名無しには散々迷惑かけてきた謝罪をしてもらいたい。せめてもの報いだろ」
転校生「……頭ぐらい最後に下げなさい。それであんたが仕出かした罰が帳消しされるワケもないし、したくもないけど」
転校生「あんたの生まれの境遇に、せめて免じてあげたい……辛いも哀れも絶対の免罪符じゃないわ」
名無し「わー、いっちょ前に説教垂れんのかよ?」
後輩「あはっ! 拗ねるなんて、まだ可愛いところもあるじゃないですか」
名無し「…………お前、実は裏切ってるとかじゃあないだろ」
男・転校生「え?」
名無し「男ならわかるだろ、この世界そのものの性質ってヤツを。どれだけ時間を分岐させても物質的証拠はかならず残る」
名無し「でも人と人との過去は無しになる。嗅ぐわせる程度のフラッシュバックはリセットの影響をビミョーに掻き消しきれなかった残りカス……」
男「今更なんじゃないかねぇ? 仕組みのネタ明かしなんてどうだっていい、そういう事じゃない! なぁ、名無しっ!」
名無し「オレがこの女にしたのも オカルト研にしてやったのも例外だ、男。お前 お得意のバッドエンドリセットに付き合わされた結果じゃない」
男「……一体何の話だ? ついて行ける人いたら手上げるように、さんはいっ! ほれ、どうした!」
男(少なくとも心の友・俺は両手で挙手した。名無しが後輩やオカルト研にした事? おかしくなった原因はコイツにあると確信はあったが、方法は何も知らない)
男(バッドエンドからのリセットならば軽く心当たりはある。今の俺は過去の俺のバトンタッチによってここに立っている。多くの我が犠牲のなれの果てだという事を)
名無し「今日までの後輩はお前のよく知った彼女だったか? オカルト研は?」
名無し「残念ながら跡形もなく消えた筈だよ、お前と過ごした二人の人格っていうのは……変わりないのは容姿ぐらいじゃないか」
転校生「ハッタリだわ。事実この子は男の為にこっちにいてくれてる、あんたの妄想よ」
名無し「妄想? その単語が相応しいのはオレじゃなくて男の方さ。いつまでも自分の理想に縋り付く死に損ないがぁ」
転校生「あんたは、ねぇ……いい加減にしてよ! まだやり足りないっていうの!? バカげてる!」
名無し「男、お前を楽しませたアイツらは死んでる。そこの女は本当にお前を信じてくれたあの時の一人か? よく見ろよ、鈍いな……そこの人形に面影は、あるか?」
男「変わらない価値は見い出せる!!」
後輩「…………プッ」
転校生「……何よそれ?」
男「もしお前が言う様に過去の記憶を失った彼女だとしても、思い出なんぞいくらでも埋められる。むしろ新鮮な気持ちをまた彼女と一緒に味わえる」
男「本当に面白いゲームをやり込んだ時、ふとこう思うことは? 記憶を消して一からプレイしてみたいなぁ、と……そういえば」
男「0から好感度を上げる苦楽の楽しみを、俺はまだ知らねーんだ。名無しよ」
名無し「……やー、ズレすぎじゃないの? 論点っていうか、もう語るも疲れるわ」
男「難聴スキルが始めから解除された状態からの攻略だともう物足りない体になってる。飢えた獣に縛りをくれ」
名無し「バカかよ。まだその辺の女子とラブコメ楽しめる気でいるのか? おめでたい通り越してイカれてるぞ、お前」
男「ちょっぴり頭おかしいヤツに『イカれてる』じゃ褒め言葉にしかならないぞ、ほら ニヤけてるだろう?」
名無し「……ヤバいんじゃないの コイツ? 話も聞かないし、終始自分勝手だぞ。悦に浸って帰ってくる気配もねーよ」
名無し「とりあえず同意する奴 素直に手上げてー」
転校生・後輩「……!」ビッ
男(一体お前たちはどちらの味方だと小一時間問いただしてみたいと言ってみたいじゃないか。だけれど、名無しくんってばさ)
男(無駄にイキイキしてるじゃありませんか、男くんは神と担ぎ上げていた時よりも顔ツヤッツヤテカテカしてるぞ)
名無し「はい、多数決の結果 男くん生理的に無理でけってーい。みんなでパチパチパチ」
男「爽やかイケメンの親友装うよりはそっちのダウナー系の方が似合ってるんじゃないか?」
名無し「は? うぜぇ、とっとこ死ね」 男「そう、その辛辣な感じのやつっ……!」
名無し「……はぁ~あ、鬱陶しい。ウザったくて堪らないよな お前」
名無し「マジで死ねよ。リア充気取ってオレとの距離詰めようとしてきて? ウンコとキスしろよ、ド変態」
男「ようやくお前に近寄れそうな気がしてきた、ウンコ 却下する」
名無し「ていうかさ、お前らのありがたい説教聞かされてオレが改心するとか 思っちゃってんの?」
名無し「ウケる、それウケる。面白くて涙零れちゃう。腹がよじれて吐血しちゃいそう。おえーっ!」
男「自棄っぱちで大きな子ども演出してる名無しくんは、この後どうするのかな?」
転校生「ちょ! 何であんたまでケンカ腰になってるのよ、どっちも一旦落ち着いて!」
男「あいにく、こっちは至って冷静のつもりだぞ。転校生」
男(煽り合いなら上等である、昔は俺も売られたケンカはよく買っていた。ネットという大海で)
男(だがしかし、転校生や後輩にこれ以上彼のヘイトが飛び火しては困る。正確には、刺激して現在の暴走を上回られると、だった)
男「なぁ、さっきコイツのことを人形とか言ったのを覚えてるか」
名無し「え? どうだったかな……直接その言われた本人に訊いてみた方がてっとり早いんじゃない」
後輩「まぁ、そうですね。仰る通りかと」 名無し「すごい淡々としてるなwwwwww」
男「俺はそんなくだらない確認を取りたかったワケじゃない……名無し」
男「立派な人の意思が宿った人形を、人形扱いするのは間違ってるだろ」
名無し「ヒューッ、カッコイイ~! さすが男さんだ……っ!!」
名無し「でも、根本的な解釈間違ってるのはそっちだわ。オレの好きに踊らされていたからこその“人形”扱いだろ?」
男「なるほど」 転校生「何やりたかったのよ!?」
名無し「だけど……意味合い的にはお前の考えも通じるかも。コイツらはオレの言いなりの、駒だから」
転校生「このクズ、ド屑よ! うちの変態以上のゲスって見た事なかったけど、冗談抜きで使うべき相手が現れるなんて!」
男「お前も大概だわ」
名無し「駒に人権はあるのか? 将棋やチェスみたいに戦略の為の使い捨てが基本だろ。お前の精神論は正義か、男?」
後輩「人権、なんて私も当たり前のように持ってると思ったことありません。所詮 元・神の使いでしたので」
後輩「気遣いも必要ないですね。役目を果たすことが私の生き甲斐というか、生まれた意味ですか? そんな風に納得していました」
男(先程から度々出てくるワード『神の使い』 ……過去の後輩関連の記憶が、不意に思い出される事はなかった。謎めいたミステリアスの正体も)
男(彼女は一体何者なのか? さて、ここは今大事な所じゃない。重要になるのは)
転校生「……バカよ、どいつもこいつも」
男「後輩のヒミツの告白に共感でもしたか? 顔に出てるぞ」
転校生「うるさいわよ……そんな事よりいつまでもあんな奴との会話引き伸ばすことないわ、テンプラって人を交えてさっさと名無しを――えっ?」
男(目の前に気を取られすぎていたせいか 転校生はテンプラの不在に短く声をあげた。何処へと尋ねられるが、その前に)
男「ところで名無し、お前はまだ疑ってるんだよな。後輩がお前の命令に背くお人形になったワケじゃない、と」
男「そこで良い提案がある! 試しにそいつへ好きに指示を出してみたらハッキリするんじゃないか?」
名無し「……」
転校生「ど、どんな提案よ、あんた自分がどれだけアホなこと言ってるかちゃんと分かってる!?」
転校生「その子がアイツに縛られたままだったら、またとんでもない真似されるかもしれないの! わかる!?」
男「この期に及んで諭されたって遅いんじゃないか、転校生。そうだよな、名無し」
名無し「……自分が追い込まれた状況って理解してるんだよな」
男「逆だってば、俺がお前に追い込まれているんじゃない。お前が俺たちにようやく追い込まれたんだ」
男「勘違いするな! やれるものならさっさと動かしてみろ! お前に忠実な人形 兼 駒ってヤツを!!」
後輩「……どうぞ、ご自由に?」
名無し「お前は、男……男くんってさ……ほんと、気が触れてるとしか思えない時あるんだけどさ」
名無し「――――オカルト研に指示するんだよッ!! 今すぐ窓を破って地面に叩き」
男「後輩助けてくれっっ!!」
後輩「イエッサー」
男(まるで始めから決めていたかの様に、合図を受け取った後輩が手を横へ払えば、名無しの体が横へ大きく吹っ飛び ボロボロの壁へ叩きつけられた)
転校生「…………うそ……今の、どういうトリックの……」
後輩「……ごめんなさい。えっと、どうしましょうか? 私としては先輩たちがお灸を据えてあげるべきかな、と」
男「お、おい、名無し完全に伸びてるぞ……」
男(異次元の力にか、倒れた名無しにか、怖々と転校生が近寄って体を突いてみせる。ならば、俺はといえば)
男「……正直驚くしかない」
後輩「やり過ぎだったですかね、でも念には念をという気持ちで……先輩、私が怖いですか?」
男(不安を露わに謙遜した足取りで半歩下がろうとする後輩。そんな彼女へどうこうしようと抑え切れない者など、ここにあらず)
後輩「えっ、わ!! せ、先輩……?」
男(皆まで言うな、様々な気持ちが沸き上がったまま俺は思うがまま彼女を抱きしめていたのだ。この至近距離、角度ならば、顔を見られずに済むのだろう)
男「しばらくこのままでいさせてくれ、後輩」
後輩「あ、あの、それは……すごく困るというか……」
男「頼む。一生一度のお願いだと思って、黙ってこうされていてくれないか」
後輩「いえ、だ、だから! ……あっ」
男「おかえり、後輩ッ……っ、うぅ、あー!! さっきからしつこいなっ、何度肩叩けば気が済むよ!? この感動の対面を」
転校生「空気読めなくて悪いけど話があるのよ。ちょっと顔貸してもらえる?」ニコニコ
男「……ありゃあ」
男(美少女スマイルも場を選ぶ、本日の教訓なのであった)
転校生「よし、野暮用も済んだし話を戻しましょ!」 男「前が見えねェ」
男(気になる事、というか気にしなくてはいけない話ばかり積もりそうな予感は、俺たちの問いへ答えた彼女によって座礁する)
後輩「この私どうしてまた自由を取り戻せたか? 神の使いとしての力を振るうことができたのか?」
後輩「わからない、としか今は答えようがありません……」
転校生「えっと……何だか、あっさりだわ。色々常識越えたことの連続からそう来ちゃう?」
後輩「きっと何度もお二人を、いえ、皆さんを困らせてしまっていたと思っています。まずは……気が済むまで謝らせてくれませんか?」
男(口惜しそうに小さく作った握り拳を震わせて、目を伏せる後輩の姿は 逆にこちらが申し訳なさを感じてしまう程である)
男「(いつもの軽口で笑い飛ばしてやれば、むしろ薄情を印象付けてしまうだろう。沈黙のまま、彼女の肩を抱いた転校生に俺は任せた) 不思議パワーうんぬんは置いておくとして、さっきコイツが自分で“元・神の使い”とやらを自覚していたのが気になった」
転校生「え? どういう意味よ?」
男「名無しは、俺から余計な知識とやらを取り上げたがっていただろ。実際俺自身、後輩のあの説明のつかない力や正体について何も知らない。いや、覚えてない、のが正しいのか?」
男「俺が忘れていて、後輩当人の記憶を放置してしまえば まったく意味がなくなってしまう。だからこそ 思い出させる機会を潰す為にした、リセットだ」
後輩「……はい。彼は先輩を遠ざけたかったんだと思います、異常から」
転校生「異常ってあなたが隠していたこととかの話よね? じゃあ、コイツは知らなくていいことを、今までずっと」
男(シンプルなやり方だったと無理に納得はしてみるが、その遠ざけたかった異常を 自ら俺へ晒していた名無し。何のドジアピールだ)
男「おい、話戻していいか。ていうか戻すけどな!」 転校生「あっ、はいはい、どーぞ?」
男「さて、リセットが上手くいっていたなら、なぜ後輩が失った過去を俺たちへ嗅ぐわせてきた?」
男(普通に考えても不自然に値するではないか。名無し先生がベラベラ丁寧に説明してくれた話が、それだけで覆されてしまうのだから)
男「少しでも可能性があればと良かれ、ああしてみたら……」
男(ビンゴ。されど、に至る)
転校生「ねぇ、今はとりあえず他のみんなと合流しない? 難しいことをややこしくさせても、拗れるだけでしょ。変態」
男(転校生の提案に喉を唸らせはしたが、大人しく頷いてみた。確かに、答えを急いだところで得る物は きっとまたよく分からないものだと思う)
男(完全にしがらみを断ち切れたわけでなくても、名無しへ制裁を加えた後輩を見れば ひとまず肩を撫で下ろしても……良い、だろう)
男(……俺は、どれほど踏み込み過ぎて、深淵を覗きこんでしまったのか。罰が当たったのだな)チラ
名無し「 」
男(――――さぁ、欲が深すぎた男の末路は、といった感じから一転。俺含む一同は 廃病院の外に出たワケだが)
男の娘「ど、どうしてお前がこんなところにいるの!?」
後輩「一々驚き過ぎですよ、兄さん。それより 向こうで黒い恰好した人たちがバタバタしているのは?」
男の娘「それよりって! はぁ~……ほんとにどうなっちゃってるの?」
黒服「貴様ら お嬢様は気を失われている! 普段よりも丁重に扱って車まで運べよッ! お屋敷までお送りを……む」
先生「無事だって、本当にそう思って良いのかしら……」
黒服「安心してくれ、先生。というより まずは礼を言わせて欲しい。貴女が駆け付けてくれなければ こうも簡単に収まらなかったでしょう……」
生徒会長「先生が休日に、しかも男くん同伴でっ、何故こんな場所まで……ふっ!?」
先輩「ダメだって! 今はそっとしておいてあげようよ。とりまお疲れ様の会ってことでラーメンで打ち上げをー……どったの? とりまって古かった?」
生徒会長「……生憎だが、今日はここで解散としよう。私事で悪いが気分も乗らなくてな」
先輩「そ、そっかぁ……うん、そうだね……」
不良女「無理もねーよ。偽ブチョーとかいうのが現れて、おまけに閉じ込められて混乱してんでしょ、あんたの気遣いは伝わってるって」
黒服「…………見た所、互いにお抱えが疲れ切っているようだ。今日の事は一度忘れて休ませてやらねば、な」
先生「ええ、私の方でも一人倒れた生徒がいますし、家まで送ってあげないと――あんたたちこの車最大4人乗りっ!! 全員一回降りろ!!」
男「降りておいた方が身の為だぞ、マジで」
男「先生、名無しはお願いします。というか アイツの自宅を知らないとか前に喋ってましたよね?」
先生「建前だよ。少し休めそうな所まで運んで起きるの待ってるわ、放って置くわけにもいかないし」
転校生「……ねぇ、見張ってなくって平気なの?」
男(そう耳打ちしてきた転校生へ、返事をするまでもなく 俺は先生の愛車の助手席へ入った。危険な車の旅 その道連れは一人で良いのだ)
男「でしたら俺の家で休ませてやりたいと考えてるんですが、問題ありませんか?」
先生「えっ?」
転校生「ぜったいダメに決まってるでしょ!?」
男「じゃ、そういう事で。お疲れ!!」
転校生「だから、ダメに決まってるって言ってるでしょぉぉ~~~!!?」
男(制止を振り切り、助手席の窓を閉めて地獄のジェットコースターは俺と先生、そして今も尚 気を失ったままの王子様を乗せ出発するのであった)
男(そういえば雨、いつのまにか上がっていたのだな。曇り気味だが現在の登場人物たちの心情を表現するにはピッタリの空模様じゃないか)
先生「男くんフリスク食べる? ……あのさ? こういう事、二度とないと嬉しいかもね」
男「すみませんでした」
先生「今回は君のせいばかりじゃないんじゃない? ただの愚痴よ、グチ。言ってみたかっただけ」
男「先生の助けがなかったら、俺 多分発狂してたと思います。閉じ込められた男の娘たちを助けてくださってありがとうございました」
先生「助けたも何も、棒をどけただけでしょ……中開けてビックリしたよ? 一人倒れてるし、二人は泣きっ面で」
先生「で、教えて欲しいんだけれど あんた達は上で何やってたの。後ろで寝てる名無しくんは何?」
男「わかりません」
先生「わかりませんって……そうよねぇ、私も何がなんだかサッパリわかんない。困ったもんだわ」
男(そう答えるしかないだろう。一から十を説明と命令されても俺でさえ理解が追い付いていない。巻き込まれて、あるいは、巻き込んでこのザマよ)
男「あ、そこの角右に曲がったらすぐです」
先生「知ってるよ? 前に送ったことあったでしょ」
男「先生って実はローテンションの方が運転上手になるんじゃないですか?」
先生「バカ言ってないで名無しくん降ろすの手伝いなさいよ。この歳の、男の子ってっ、重い……っ!」
男(というよりは気を失った脱力効果+が大きいと思われ。先生と共に名無しを肩で担いで家まで入れれば、我が家のアイドルマミタスのお迎えである)
マミタス「シャーッ!!」
先生「げっ! 招かれてないっぽいんだけど、いいの? 本当にこのまま彼預かっちゃって」
男「構いません。友人です」
男(両親の寝室まで案内したところでベッドへ投げるように名無しを置くと、ようやく俺たちは揃って息をつく事ができた。張り詰めた緊張なんかも解れて、いけば)
男「ご苦労さまです。お茶淹れるんで休んで行ってください、親もいないし家庭訪問みたいな気分もないでしょう?」
先生「ていうか高校は家庭訪問ないから、君……帰るよ。先生も家でくつろぎたい気分だし」
男「ゲームできない時間が惜しいって言えばいいのに」 先生「黙ってろ」
先生「そうじゃなくって……職場、あっ、学校にも連絡しなきゃいけないし……大人だから色々事情があるの。察してくれる?」
男「俺もいつかは先生みたいに責任に追われなきゃいけない立場になるって思うと、反吐出ますよ」
先生「ふふふっ、違いない! 誰だってそうよ。君の将来がどうなるか分からないけれど、自分が関わった事には終わるまで付き合ってあげなさい?」
先生「因縁っていうの? まぁ、いっか……明日また学校で元気な顔見せてね、男くん」
男「そりゃあもうご心配なく、先生! へへっ!」
男(客人は最大限持て成し、綺麗な別れをと祖父がよく語っていたものだ。親の教えを守り、玄関の外まで先生を見送るのが仮家主の務めである)
男(不意な疑問が頭を過る。美人へ出した呑みかけの茶を、訂正、不意ではなく不埒だった。送り届けた後 再度名無しを寝かせた部屋へ戻ると)
男「ふむ、よほど効いたみたいだな。テンプラの片割れだとしても 耐久性は人並みとな」
男(眠る横顔を見下ろし、廃病院で起こった出来事の余韻に浸ってみる。テンプラや後輩といい、彼への対抗が味方に付いたならば前述した通り、しばらくは騒ぎの心配は要らないだろうか)
男(歪んだこの友人を更生するつもりも、してやれる気もしないが 眺めていると己が罪が沸々と湧いてきて)
男(憂鬱じゃないか)
男「ふぅー、やれやれだよ、妹はともかく天使ちゃんを預けて来たのは正解だったかもしれん」
男「アイツも余計なことに首突っ込みたがりだしなぁ。誰に似たのやら……なんちゃって」
名無し「独り言なら一人でやってくれよ。うるさい」
男「そいつは悪かった――――はあ!? いつから目覚ましてたんだよ! お前っ!?」
名無し「しばらく狸寝入りしてた方が都合良かったんだろ? ……あーあ、まだ体痛てぇ」
男(むくりと起き上がった名無しは俺が親切心から貼ってやった冷えピタを鬱陶しげに剥がして、壁に投げつけやがった。風邪でもあるまいし、と。ええ、まぁ)
男「おい、待てって! どこ行くつもりだ、体が痛むんだろ? 無理しなくても」
名無し「は? 気持ち悪い」
男(そんな率直ドストレートな感想を美少女以外から頂いてもご褒美じゃないのです、お兄さん)
名無し「親切にされたら誰でも恩に着ると思ってるのか? 大間違いだねぇ、偽善者どの」
男「野郎なんかに気を掛けてる奴が、第一に美少女の園なんぞ望むと思うのか?」
名無し「知らんね、お前のグルグルした頭の中なんてオレ程度が分かってやれる気はしない。精々楽しくやってりゃあ良いんじゃね!?」
男(刹那よ、さらば、と別れを告げようとする名無しの前に立っている俺がいた。……これから俺は最も自分が納得し得ない言動を発する羽目となる)
男「泊まって行けよ。友だちだろ?」
名無し「…………どうかしてるってレベルじゃないんだよ、お前!!」
名無し「誰が、どいつの家に、世話になれって!? 頭おかしすぎんだろッ!? 自覚あるかな!?」
男「なんと、まさか! ただいま我が家は現在来るもの拒まずキャンペーン実施中とご存じないと!?」
男「気にするなよ、名無し。人外かどうかよく知らんが ここに居れば美味い飯にも困らないし、人恋しさを解消できる」
男「世界中探し回ったってこんな天国見つからないと思うんだが、絶対に」
名無し「…………」
男(わかる。わかるぞ、その表情。警戒していて、疑っていて、呆れ果てていて、情けなくて、どうしようもなくお手上げを意味しているのだろう。名無し)
男「どうせ帰る家なんてないんだろ。だったら、一晩ぐらい温かい屋根の下も悪くないんじゃないか?」
名無し「……オイ、この部屋じゃ生活感が気に食わない。もっと落ち着けそうなとこ用意しろ」
男「案外潔癖症なんだな、俺と真逆だ お前って」
男(それにしてもこの捻くれ者へ使わせる部屋とな。客間を案内した所で満足してくれそうにもないだろう? 定石狙いで押入れか)
名無し「止まれ。ここでいいよ、十分だ」
男「え?」
男(そう言って名無しが立ち止まった部屋は、最近ご無沙汰である暗室だ。悲しきかな、埃やカビと同居するのが お好みらしい)
名無し「用事があるなら自分から出て来る。お前らは基本 ここに立ち入るな、オレの城だ」
男「どこの家庭にも引き篭もりは一人って世間の流行りなのか?」
名無し「死ね。とにかく、オレは他の奴らと連むつもりはない。終焉の時をこの隔離された牢獄の中で待つだけだし……」
男「カッコつけた言われ方されても実質物置だからな、ここ」
名無し「二度死ね。いいかよ? 忠告はしたからな、間違っても家族とかガキとか寄越すな。出来損ないの脳味噌で記憶したかな?」
男(もう何だコイツ……)
名無し「うっわ! お客さまにお持て成しも出来ないんスかねぇ、この家ェーッ!?」バタバタ
男「悪かった、しけた柿の種がお前に相応しい」
男(うるさいチンパンジーを檻に閉じ込め、ありがたい静けさに感謝しつつここで午後のティータイム。休日だからな)
男「……幼馴染に会いに行くか」
男(言うが先か、体は既に行動へ移していたのである)
ママ「男くんおかえりなさ~い! ていうか随分早めのお帰りになっちゃったけど、ん?」ギュッ
男「(この妻に毎晩迎えられる旦那様の羨ましいこと) まぁ、色々ありまして……それよりウチの問題児を預かっていただいて」
ママ「ううんっ、全然気にしてないんだから! 良かったらウチに上がってく? 男くんの為に用意しておいたクッキーがあるの♪」
男「嬉しいです。お邪魔しても差し支えなければ、是非」
ママ「きゃ~、どうぞ ぜひっ♪」ウキウキ
男(この奥様、豊満なバストの活かし方を理解していらっしゃる。ハグや包容といった優しい表現すら生易しい、抜きん出た歓迎は疲労を消し去ってくれる)
男(ママさんからふわっふわなスリッパを用意され、リビングまで連れ添われる中 天使ちゃんはお昼寝中との情報を得た。これは嬉しい)
ママ「えっと。こほん! ……時々でいいけど、たまにはあの子と遊んであげてほしいなぁ。相手にされてないって思われるって良くないよ、男くん?」
男「アイツそんな風に考えてるんですか!?」
ママ「あっ! もう鈍感さん! 男くんは天使ちゃんにどれだけ好かれてるか知らないの? あの子ってば子犬だよ、こ・い・ぬ 」
男「あっ……わ、わかりません」
ママ「わかんない? 男くんすごく信頼されてるんだよ。私がどれだけ優しくしたって、敵わないもん。あの子にとって一番は男くんなんだから、うふふ」
ママ「ナンバーワンは、やっぱり格別なんだと主婦は思いますっ! 忘れないでね!」
男「は、はぁ……肝に銘じます……」
男(ママさん、クッキーの用意というのは手作りということでしたか。恐れ多い)
ママ「コレね、ふふふっ! 天使ちゃんと一緒に作ってみたの。急に料理教わりたいって言うから」
男「そういえば朝に話してましたね? でも、料理というかお菓子作りじゃ」
ママ「女性を磨くより先に女の子を磨かなきゃ始まらないでしょ? 遠慮しないで座っててねぇ~」
ママ「では、気合いの入ったお紅茶、淹れてまいります!」
男(可愛い奥さんの敬礼ポーズは卑怯ではなかろうか。痛さすら武器にするプリテーには精一杯の愛想笑いで応戦すべし)
男(幼馴染は、自室で大人しくしているのだろうか。今朝テンプラから見せられていたであろう あの時の彼女が頭の中で酷く気掛かりであった)
男(神の憑依といい、幼馴染はイタコの素質を持っているとでも? 嫌々、俺はこう考える。幼馴染というキャラへ重要な役割を担わせていたと)
男(立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花 を地で行くパーフェクト美少女ちゃん、愛が深すぎる点に目を瞑れば)
男(だが、少々言い方が悪くなるが 彼女には『一押し』が足りなかった。確かに二人になればベタベタむふふを体験させてくれるが、どこか一歩引いたところで)
男(“見”られている気が 時々ついて回って――――)
幼馴染「おかあ~さぁ~ん……三時まわる前に起こしてって言ったじゃ――――」
男・幼馴染「あっ」
男「……よ、よう、ずいぶん休日満喫してたって、感じ?」
幼馴染「えっ……うそ、いや、なんで! なんで!? 待ってまってまってまって、待って~~~~!!///」
男(気の抜けた炭酸ジュースの如し、そこに現れた噂のあの子は 寝巻姿で髪もハネまくり、油断の権化なのだった)
幼馴染「だめっ! ほんっとにこっち見ないでぇ男くん!! お願いしますっ、一生のお願いだよぉー!!///」
男(ラッキー、スケベからは遠のくが、ラッキーに違いない。本人的にはかなり恐怖に近かろうが、礼儀を欠こうが、凝視してしまった)
男「まぁ 落ち着いてくれ、俺たちいつぞやに裸の付き合いがあっただろ」
幼馴染「今はそういう問題じゃないから!! とにかくっ、痛!」
男「お、おいっ!?」
男(元気に騒いでいた幼馴染がいきなり足を抱え、苦痛に顔を歪ませたのだ。すぐさま駆け寄って肩を貸してやれば、恥じらって暴れる元気は失われていた)
男「わ、悪かった。つい調子に乗って……座れるか? 体 横にしてた方が楽か?」
幼馴染「えへへ、ひとまず着替えたいかな。もう大丈夫だと思う。一人で立てるから」
ママ「あらあらまたこの子ってば! あれだけ勝手に動き回っちゃダメって言ったのに!」
幼馴染「だ、だって……ていうか男くん来てたなら一声かけてよ……」
ママ「怪我人なんだから大人しくしてなさい! ごめんねぇ、男くん。余計なお世話かけさせちゃって」
男「そんなっ! 元はと言えば俺が原い――――……あ、あぁ、すまん」
男(目配せした幼馴染に諭されるように、その先は閉口してしまった。自分が情けないじゃないか、どこまでも気を利かされてしまうなんて)
ママ「もう、服はとびっきりかわいいの取って来てあげるから、大人しく別の部屋で待ってなさい。ね?」なでなで
幼馴染「……フツーのでいい。あと、男くんいるんだから頭撫でるとかしないで……」
男「(ママさんが階段を上がって行く音を聞き届けると、幼馴染も続いてリビングを後にしようと動いた。が、気にする様に俺を見ているではないか) 思春期の娘か?」
幼馴染「現在進行形で思春期なんですけど……ごめんね、本当に」
男「バカ、謝る立場が逆転してるだろ。頭下げて、いや、地面に頭擦りつけてでも謝罪しなくちゃいけないのは俺の方だ。迷惑じゃなけりゃ」
幼馴染「迷惑だよ、えへへ」
男「だよな、もっと別の良い形考えとかにゃ…………なぁ、幼馴染 聞いてくれ。あと少しでゴタゴタが片付きそうなんだ」
男「きっと終わったら前みたいにみんなが楽しく思える高校生活に戻れるぞ! 文化祭、楽しみにしてただろ?」
男「あんまり乗り気じゃないが、クラス発表も部の出し物とかも張り切ってみる事にした! だ、だから一緒にっ!」
幼馴染「……うん、楽しみ」クスッ
男(心からの笑顔が見たいと思ったのだ。必死感丸出しであろうと、悲壮感を払いのけるぐらい不相応にカラ元気な俺を作ってみた)
男(償いを果たそうとするスタイルを幼馴染は良しとするだろうか。ワガママな失礼を包みこんでくれた女神の背中を見送れば、溜息が漏れる)
男「これってただの自暴自棄じゃねーの?」
男(鼻に付いて嫌われるよりも、皆に好かれるハーレム主人公を目指す立場として 一人反省会を開催する予定が立った瞬間である)
男「正に負の連鎖……疲れてるのかね、俺。更に睡眠時間増やした方が落ち着くかしら」
「たぶんこんな事されといた方が安らぐんじゃないかって思うんですがー?」
男「おふ!?」
男(この貧相な肩に優しく手が置かれれば、艶めかしい所作を含めた摩擦を味わった。その手が実に幼いロリロリしい手をしていなければ、もっと)
天使「うおー! 小遣いもっと増やせぇー!!」ゴリゴリゴリ
男「まったく力が足りてない、肩を揉む相手への労いを感じさせない、あと殴るの止めろ。天使の肩叩きレビュー 10点」
天使「何点満点中のですかねッ!」 男「気が遠くなる道のりを辿りたいのですか?」
天使「ったはぁ~……絞りカスの残骸みてーな男くんがこんな美少女のスキンシップを語るとは」
男「酷評ありがとう、天使ちゃん。昼寝しているとママさんから伺ったんだが」
天使「あんなバカでかい声出されて呑気に寝てられるヤツは異常ですよ。けっ!!」
男「そう腹を立てるなって、誰だって安眠の妨害を好きこのまないのは知ってる。やれやれ もういっぺん寝ろ」
天使「何ですかっ、その適当にあしらう感じは! 大体寝過ぎは夜が大変って男くんよく言ってるじゃねーですか!!」
男「このクッキーめちゃくちゃ美味くね?」もぐもぐ 天使「はっはー! でしょう!? そうでしょうとも、えっへん!」
男「(屈しないロリっ娘。この様子ならば、自作という話を俺がママさんから聞かされていない体でいこうとしているとみた) 天使ちゃんがママさんと一緒に選んで買ってきたのか? センスあるな」
天使「むっふぅ~~~~~~……!」ブンブンッ
天使「と、ところがドッコイなのですよっ!? な、なんとなんとなんとぉ! 実はですねぇ、そのクッキーは――――」
ママ「はーい、男くんおまたせ~!」 幼馴染「や、やっぱりこの服気合い入り過ぎだってば!」
天使「…………むぅ」
ママ「本当に夜ご飯食べて行かなくてよかったの? ぶー、せっかくエンジン掛かってたのにー!」
幼馴染「お母さん」
男「すみません。妹もまだ帰って来てないですし、作り置きしてた冷蔵庫の残り物も気になったもんで」
ママ「そっかぁ、残念……でも、男くんたちなら我が家いつでも大歓迎なんだからね!? この子がわざわざ作りに行かなくても私が~!」
幼馴染「もうお母さんっ!?」
幼馴染「あの、良かったらなんだけどウチで漬けてた大根 持って行って? お米炊いてお味噌汁の付け合わせぐらいには」
男「親子揃って、俺たち死地に向かう兵隊か何かじゃないんだぞ……」
幼馴染「だ、だって男くん あたしが見てないとすぐ不摂生に走るから!」
ママ「あらー、うん! お邪魔だったかも? おほほほほ」ニヤニヤ
幼馴染「お~かぁ~あさ~んっ……!!」
男「へへへ、じゃあ そろそろお暇します。ほれ、お前もありがとうございますを言わんか」
天使「……やだ」
男「はぁ?」
天使「べーっ!! 先に帰ってるですよぉ~!! バーカ、バーカ! くたばれアホ!」
ママ「あらまぁ」
男「おうコラロリ天ゴラァー! 靴はきっちり揃えて中に入れと……は?」
男(だらしない妹に居候の教育はこの俺の務め。散らかし放題が許可されるのは一部のみ、といったところで目の前にあった光景を説明したい)
男(妹と名無しが、数年前の懐かしの家庭用ゲーム機に勤しんでいたのだ)
妹「下手くそだなぁ~。その腕で本気でこのゲームやり込んでたとか言えちゃうの?」
名無し「一々人を煽らないと楽しめないのか、性悪チビ」
妹「はいアウトぉー! それアウトー!! 殺す! 次もギッタンギッタンにぃ――――ありゃ、お兄ちゃんじゃん」
男「……た、ただいま」
名無し「あぁ、鬱陶しいからオレの視界に入るなよ。わかる? 忙しいんだから邪魔するなって意味だぜ」
妹「お兄ちゃんお腹減ったから何か用意できなーい? わ~っ、またコースアウトですなぁ~ぷーっ! くすくす!」
名無し「死ね。所詮ガキのお遊びだぞ、夢中になってるとか脳味噌チンパンジー乙、あっ」カチカチ
妹「やーい 雑魚ぉー! ……ん? どうしたの、ぼーっと突っ立ったまんまで?」
男「少しばかりそっちの奴に話があってな!!」グイッ
男(愕然とした。怒りとも言い切れない勢いに任せ、名無しを持ち去り、問い質したとも。何のつもりなのだと)
名無し「さぁね? そもそもオレを招いたのは誰だったか、よーく思い出してくれたまえ」
男「俺だよ、文句あるか!? ……だが、お前からは“関わるつもりはない”と聞いた筈だぞ」
名無し「さっそく誤解するなよな、用があれば自ずと外に出るって言っただろ?」
男「じゃあ、アレは何のつもりだ……善意を仇にして返すのか」
名無し「おっと善意! それ最っ高に偽善の表れだなぁ! キヒヒッ」
男「だ、大体俺の妹は極度の人見知りだぞ! ついさっき会った人間と仲良く遊べるほど器用なヤツじゃないっ!!」
名無し「やー、お前やその他諸々から収拾した知識をひけらかしたらすぐ食い付いてくれたよー♪」
男(収拾、というよりは 掌握なのだろう。この男のポジションを改めて思い返してみれば 主人公の親友ポジ。すなわち)
名無し「情報通の強味っていうかサ、お前以上にお上品な立ち回りが出来るワケ。……危ういよねぇ、ご自分の立場?」
男「……」
名無し「まぁ、お前がイケないよ。こんなオレをわざわざテリトリーにまで招き入れたのは大間違いだったな」
名無し「なるべくオレを自由にさせるなよ、男くん? ……やー、悪い。お呼ばれされちゃった」
男(扉向こうから名無しを催促する妹の声が、無理矢理意識させてくるのだ。自らの過ちを)
名無し「あっ、そうだ。汗臭いから早く風呂に入ったらどうだ?」
男「……何だと」
名無し「善意だろう? 清潔感は大事だって。モテ男を目指すなら第一じゃないか」
名無し「こうやって、つまんねーお遊びに付き合うのも大事だな。あー、ハイハイ! 今行くから面白い顔して待ってろ、チビ助!」
男(妹と名無しの間に介入し、侵略を阻止する。言葉にすれば楽なものだが気分は上手く体を働かせてくれなかった)
男(明るい笑い声をバックに負け犬の行進は続き、洗面所へ入る。……灯りが? それにシャワーの水音だと?)
男「天使ちゃん?」
天使『っう……!!』
男(足元へ視線を落とせば、脱ぎ散らかした彼女の服や下着が床に落ちたままである。あれほど一人での入浴はまだ早いと念押しされていたというに)
男「聞こえてるのか? まだ上手く頭洗えないだろ、お前。いつものカッパのやつ置き忘れてるぞ」
天使『……』ザー
男(こちらの声が聞こえていないというより、無視を決め込んだ調子だ。浴室ドアのガラスの先に写し出されている小さな姿が、どうにも気になる)
男「……さっきはどうしてママさんたちにあんな暴言吐いたんだ?」
天使『……』ザー
男「それとも俺に当てたのか。あのクッキーお世辞抜きで美味かったよ、初めて作ったとは思えん」
男「ママさんも褒めてたんだからな、あの子は真面目にやってて 呑み込みも早いし、上達も早いって」
天使『…………て……』
男「え? 何だって?」
天使『入って……きて、ください…………』
男(正直 倫理を侵す真似だけはと、もう遅くとも、誓った人生だったが パンツを脱いだあとでは説得力の欠片も無い)
男(せめてもの腰タオルを巻いて、いざ入浴。間髪を入れず光景に目を背けた)
天使「……何で見ねーんですか」
男「見たらみたで罵詈雑言のオンパレードだろうと思いまして!! ていうかヤバい、流石に禁忌に触れちゃいそうで!!」
天使「別に、悲鳴あげて男くんを犯罪者に仕立て上げる気とかないですよ。誘ったのは自分ですし」
男「おれチャンハ、ドしたらいいノ? コれ」
天使「ん」
男「えっ、え?」
天使「とりあえず頭洗えって言ってるんですっ! さっさと顔隠した手どけて、やれ!」
男(何という、なんという背徳感だろうか、幼い美少女とのマッパなお付き合い。実のところ天使ちゃんとのこのシチュエーションは今回が初ではない)
男(だが、あの時はお互い水着を着用していたからであって、とにかく “危険な香り”を回避できていたのだ)
男「……て、天使ちゃん 痒いところはないですかー」
天使「もうちょい気合い入れてゴシゴシできねぇーんですか? チンタラと、つまんねぇ洗い方を!!」
男「ふ、ふざけんじゃねーよ!? こっちはロリの裸必死に目に収めないようにと!! ――――――」
天使「実の娘の裸が、なに!?」
男「!!」
天使「わたしの裸を見たらどうかなるの!? こっちは気持ち悪いの承知で男くん呼んだんですよっ、あぁ!?」
男「く、口調が変わってるぞ、天使ちゃん……!」
天使「鬱陶しい!! 天使なんて呼び方もウゼーじゃないですか、いつまで自分を特別扱いするんですか!?」
天使「いつになったら、自分の中の自分を見てくれるんですか! ねぇ!? わたしはもう天使じゃないよ!!」
男「天使ちゃん……」
天使「だからその呼び名が気に食わないのに!! いいっ? 天でも神の使いでも、もう無いよ! わたしを見てっ、男くん!」
天使「男くんには、どんな姿で わたし が 見えてる!?」
男( )
天使「――――――なんて。ねぇ、どうして何も答えてくれないんですか? ビックリして頭の中 真っ白になっちゃった?」
天使「……じゃ、ねーんですかぁ? ――――うっ」
男(加減なんてどうでも良かった、小さな身体が悲鳴をあげようと独り善がりに この直に伝わってくる温もりを 確認したかったのだ)
男「卑怯なら卑怯だって……罵倒でも何でもしてくれ……」
天使「…………あったかいな」
天使「男くんは、あったかいなぁ……」
男(普段 どれだけこの子を軽視していたのだろうか。気心の知れた仲と思い込み、いつの日かぞんざいに扱ってしまっていた)
男(天使自身は俺との関係性をゆっくりと呑み込んで受け入れようとしてくれていた)
男(ただ、俺だけが折り合いをつけられないままで)
男(なし崩し式にと、事を後ろへ流して優先順位から遅らせていったとして、きっと恐らくそれは、自明だ、拒絶感を拭い切れなかった)
男(生死の境を彷徨う盲人が『今を生きる』など戯言に等しいが、子 とは執着した今からかけ離れ過ぎている。怖い、震える)
男(全部を投げ出してしまえ、と面白がった男には 何よりも重い。あれだけ可愛がって、喜びを分かち合えた子へ、成る程無様)
男(自分可愛さに 目も当てられなくなっていた)
天使「……好きでいてくれる?」
天使「ゼータクは望まないから、いっしょがいい。変化もいらないよ。当たり前みたいな幸せがほしいよ」
男「寂しい思い、二度とさせたくないもんな……本当の俺やお前を知ってるのは この世界で お前と俺だけなんだからな……」
男「傷の舐め合いになんか絶対させないから、約束だ。覚えておいてくれ」
男「俺は、きみだけの俺であり続けると決心する。今後も、好きだが……というよりも 無償の愛を捧げるが」
男「家族として送る愛情でしかない。間違っても、意識させる異性 と見る事はあり得ないと、あらかじめそう言わせて欲しい」
天使「ありゃ、キッパリすぎじゃねーですか!? つーか」
天使「何 感極まって泣いてんですかね、男くんてば もぅ」
妹「あー! 牛乳ラッパ飲みやめろって言ってるでしょ、絶対次の日お腹下すじゃんか! つーか汚い!」
男「自分だってやるくせに何を……風呂上がりの楽しみは存分に湯船の余韻と、くつろぎを味わうことにあるのだ」
天使「お? お、おっ? アイス? アイス来る? 牛乳アイス解禁待ったなしとな!?」
男「承認!」 天使「バンザーイ男くんかっくいー!」 妹「不承認だよ!!」
名無し「つまんねぇ、近所迷惑だから早く各自部屋に篭もれよ。自分の時間を第一に考える事をオススメするね。オレは」
男「それは親愛なる隣人からのアドバイスか」
名無し「嫌味聞いて顔ホッコリさせてんじゃねーよ、冬の海で死ね」
男(部屋には一歩たりとも近寄るなと言い残した名無しは、苦虫を潰したような表情を俺に突き付け 歩み去って行く。どうなっているのだ、奴のキャラ)
妹「お兄ちゃんの男友達って、あのちっこカワイイ人だけって思ってたよ~。他にいるんだね!?」
男「惚れたか?」
妹「ほっ……惚れるワケないでしょ、昨日今日で会ったばったの男子なんかに! ていうか……でしょ」
男「よく分からんが、お兄ちゃんは安心した」
妹「はぁ!? 何なのさ! すっっっっごくウザいんですけどっ!?///」ブンブンッ
天使「ていうか、あの如何にも感じ悪い糞ガキなんですか? どこで拾って来たんですかぁ?」
男(エサやりと散歩は忘れないから、なんて ホームドラマを懸ける価値は果たして)
男(――――起床。久々に枕を抱えて部屋の片隅まで転がったロリ天を見下ろし、朝日を見上げて頬を張る。気合いチャージ ご利用は計画的に)
男「名無し、起きてるか。お日さま拝めないだろうから実感ないと思うが」
名無し『……朝だ、ですネ。何かオレに用かよ。10カウント始まる前に失せろ』
男「お客さまは持て成される立場なんだろうが? 朝食用意してやったから食べに来い」
男「ガラにもなくスクランブルエッグにベーコンとか焼いてみたぞ。ホテルのバイキングみたいで高まらない?」
名無し『適当に皿によそって部屋の前に置いておけばあとで食べてやらなくもないけど、庭の虫が』
男「俺の手料理は人間に味わってもらう前提の調理でしたが」
名無し『失せろって言ってるだろ、鬱陶しい! そうやって気を掛けられること自体が迷惑だって痛いぐらいわかってんだろ』
男「学校は? 文化祭も目前だぞ、だからこんな日曜日潰してでも準備に向かう義務がある。不服だが!」
名無し『ウソつけや』 男(そこはどうして中々察しの良い)
名無し『むしろ、理解に困る。お前やあの雌人形どもとしたら オレなんか居合わせない方が安心するだろ』
名無し『それとも何か? 目の届くところに置いて監視しておきたいとか……次はどんな楽しいことやって、笑わせてもらおうかな』
男「乗り気でないなら、無理に誘うつもりはないんだ。悪かった」
名無し『やー! 目の上のタンコブからランクアップして、今度は腫れ物扱いか! 居心地いいねぇ~!!』
男「朝飯と昼の分は 冷蔵庫にしまっておくぞ。六時ぐらいには家に帰るからな」
男(ラフなシャツを装着した妹をお供に通学路を行く俺。聞けば、テンションに身を任せクラスで共同購入したものだという。青いぞ、というか)
男「ライブのコンサートスタッフみたいな感じ。更に落とせば」
妹「ミーハーなファンでしょ? お兄ちゃんの言いたそうなことって大体わかっちゃうよね!」
妹「それより途中で後輩ちゃんと一緒になる予定なんだけど、絶っ対!! 本気で口説いたりしないでね!!」
男「え?」
妹「わ、私の前でって意味だから。本当にやめてよ、嫌なんだもん……」
男「すまん。鳥のさえずりに耳傾けすぎてよく聞いてなかった」
妹「あっそ!! お兄ちゃんの耳って基本 飾りでしかないよねぇ――――あっ」
男(チョコチョコと小走りで追い抜いた小動物が向かう先へ視線を移せば、後輩だ。はしゃぐ妹を笑いつつ挨拶を交す最中、目が合い 微笑まれてしまった)
後輩「おはようございます、先輩。仲睦まじくしていたところを お邪魔してしまって、ふふっ」
男「その含みのある言い様は何なんだろうな、概ね察知しちゃうけど」
妹「とりあえず合流できたし、ここでお兄ちゃんは解散だね。ダメお兄ちゃんは道中おかしな事やらかさないように!」
男「ダメお兄ちゃんと目的地一緒だったろうが、お前」
後輩「……」つんつん
男(適当な体の部位を突かれるだけで勘違いするニッポン男児の多い中、何の御用でしょう)
後輩「先日はどうしてあの人を連れて帰ったんですか?」
男(唆されるまま腰を低くした俺へ後輩がそっと囁く。彼女にとっても彼は頭痛の種という認識なのであろうか)
後輩「今は大人しいとしても、いつまたおかしな真似をしでかすかわかりませんよ」
男「褒められた振舞いじゃないと否定されるのも承知の上でじゃないか、俺も」
後輩「……えっと、私が聞きたいのはカッコイイ言い訳とかじゃなくて 先輩の持つ真意です」
後輩「誤魔化さないで教えてくれたらと思ってます。哀れみを掛けて救えそうな相手じゃないから」
後輩「というより、あなたが配慮してあげるべき相手じゃないでしょう? 私が間違っていますか?」
男(強気に、直ちに止めるべきだと彼女が腕を引いてくれるのは素直に嬉しい。俺を心配してくれる後輩が帰って来たのだから)
男(ところで『昨日の敵は今日の友』という少年漫画の王道を支えることわざがある。この捻くれ者が、疑念を感じるどころかロマンを得た響きだ)
男(残虐の限りを尽くした凶悪なライバルを撃破し、のちの展開で仲間に加わる……いくら「あれ? 仲間なった途端弱くね?」と思おうが、憧れた)
男(可能性を話そう。昨晩、名無しは俺を浴室へ誘導してくれたのではなかろうか。口振りは最悪だったが)
妹「後輩ちゃーん……おにいちゃーん……」
後輩「えっ、あ! ご、ごめんねっ! 別に無視してたとかじゃなくて! あの、お兄さん!」グイッ
男「おおおぉ、急に何だお前!?」
後輩「じ、実は、妹ちゃんのお兄さんから相談されてたの!」
妹「相談?」 男(えぇ~……)
妹「ねぇ、お兄ちゃん 相談って何のこと? 私の目の前で堂々明かされたってのはよくぞ聞いてくれた的なだよねぇ」
男「そ、相談は相談だろうが。気軽に他の人に話していちゃ裏でコソコソしてた理由にならん、かと……」
男(無茶振りにも程があるというレベルではないだろう、後輩。誤魔化し方が急転直下の下の下である)
妹「コソコソぉ~? じゃあ妹の私には黙ってなくちゃいけないこと 後輩ちゃんに、ねぇ?」
男(青筋を立てる妹から隣の後輩へ視点移動、首が明後日の方向であった。どこまでヘタクソか)
男「(止むを得まい) ……実はだな、幼馴染をどうにか元気にしてやりたくて 色々考えていたんだ」
妹「えっ、幼馴染ちゃん?」
男(散々思考内でこき下ろしておいて 情を使うのはゲスの所業か? 実に笑えない凌ぎ文句であったが、事実に越した事はなかった)
男「そうだ、色々あってアイツも疲れてると思ってな。家族のお前や天使ちゃんに相談しても良かったが」
男「今回は身近な人間以外にも訊いてみて、色々な意見を集めておきたくてさ。方法が偏ってばかりじゃ退屈だろ?」
妹「へー よくわかんないけど、お兄ちゃんなりに考えてるんだね!?」
男(幸いしておバカな美少女の妹で良かった)
後輩「ふふっ! だからまず私が率先して」 男「アメ舐めてようか、後輩は」サッ
男(以後、妹の誤解を解く華麗な話術が続くが 惜しからずカット)
妹「お兄ちゃ~ん、ぐすっ、たまにはカッコイイじゃんか……!」うるうる
男「止せよ、選択肢少なすぎて照れるしかない (詐欺だ、紛うことなきお涙頂戴の詐欺。主よ、我にどこまで十字架を背負わせるのか)」
男の娘「おぅーい、おーいってば~! 男ー!」
男(罪悪感に苛まれる、あるいは蝕まれる汚物へ差す一筋の光が。気が付き、挨拶代わりに 掲げられた手へタッチしてやれば、満面の笑みが ぱぁっ と咲く)
後輩「あ、兄さん おはようございます」
男の娘「なああーっ! だから、どうして男いる所 ウチの妹ありきなの!?」
男「やれやれ、お前ら兄妹は家で顔も合わさずに学校に行くのか」
後輩「いいえ、今日は私の方が早出するつもりだったので……普段は仲良しなんですよ? ふふっ」
男(あわよくば どちらかを刺せたらみたいな淀んだ空気を表に出さないで頂きたいのだが)
男「ところで、お前は何自然に腕組んでる」
妹「……とーぜんじゃん?///」
男「ああ、もう……休日出勤はただでさえ老体に響くっていうのに、見てみろ。どいつもコイツもウキウキさせやがって」
男の娘「そりゃウキウキしちゃうよ~♪ でも部活発表の方は僕たち全然何にも手付いてなか、わっ!?」
不良女「おいっスー、お前ら おはよ」
男(気抜けした声とともに現れた不良女は、男の娘の肩に頭を乗せて 一直線に妹へ)
不良女「へぇ~ お兄ちゃんっ子か。好かれてるねぇ~、お兄さん」ギロリ
妹「! ……じゃ、じゃあ この辺で。後輩ちゃん行こうっ!」グッ
後輩「ちょっと待って! あっ、せ、先輩 またお昼休みにでも話を! ――――――」
男の娘「あはっ! 追っ払い方 参考になったよぉ!」 不良女「はぁ!? 今のそんなんじゃねーだろっ!」
男「どうでもいいだろ、別に校門が目の前にあるわけだし。俺たちもさっさと教室まで行くぞ」
男(欠伸を交えて無関心を装うのはある意味この手の主役の嗜みではなかろうか。眠い手を擦りつつ、不良女と別れ、男の娘とトイレへ入ると)
男の娘「どうかしたの? 男、ま、まさか大きい方がしたかった……!?///」
男「バカ、思っても声デカくして言う事じゃないだろうが!」
男「そうじゃないが、何となく目のやり場を求めて後ろの個室とか気にしてみたくなる時もあるだろ」
男の娘「えっ、ごめん。僕はそういうの全然ないかも……文化祭さ、準備もあと一押しって感じだよね」
男の娘「僕がんばってお姫様役やり切ってみせるよ!! だ、だから、男はそんな僕を陰で[ピーーーーーーーーーーー]」
男「え? 何か言ったか?」
男の娘「う、ううんっ!! さ、先 教室入ってるから、どうぞごゆっくりね!?///」タタタ…
男(……オカルト研は、後輩のように元通りになっているだろうか)
先生「――さてさて、みんな この期に及んでとやかく言われたくない気持ちで一杯だと先生も思います」
先生「優秀賞目指してクラス全員が一致団結、とても素敵なことだと思います……でーもっ!」
先生「羽目を外しすぎないようにっ! はい、散れ!」パンッ
クラスメイトたち「わっっっっ……!!」
男(お決まりである朝のありがたいスピーチも短めに、合図とともに蜘蛛の子は如く散らばる。そんな中、俺は先生の後ろ姿を追い掛けて)
男「先生、転校生がまだ来てないみたいなんですが どうかしたんですか?」
先生「ん、さぁ? 親御さんからは何も連絡受け取ってなかったから遅刻ぐらいとしか認識してなかったけど」
男「でも珍しくありませんか? アイツはそれなりに模範に沿う生徒です。登校途中で何かあったなら、連絡の一つぐらい……」
先生「……転校生の心配は良しとして、君の方はどうなの? 名無しくんもいないわよ?」
男「名無しは――――おぐ」
男(突然ドンっとぶつかる何かによろけ、俺は先生の前で尻もちをつく。ぶつかった、だと?)
男(視界には急ぎ歩くも駆けている人間は一人たりとも存在しない。浮かれた生徒もだ。だが、確かに俺は 何か と衝突したのに)
男「……ん? 何だ、この手に感じるやわらかい感触は」ムニュ
?「ひゃあ!?」
男・先生「えっ!?」
転校生「あ、あっ、あんたって変態はいつでもどこでも~~……!!///」プルプル
男「転校生!?」
転校生「問答無用よ!! このケダモノスケベ職人っ、ド変態!!」
男(目覚めの 『鉄 拳 制 裁』 毎度美味しく頂いています、ノルマですから、ではなく)
男(このお決まりのお色気シーンよろしくラッキースケベ発生は別段珍しくもなく、ここに来て驚きなど俺もしない)
男(驚愕の理由、それは何もない曲がり角でもなく、前方不注意だったわけでもなく、転校生との急激な衝突にあった)
転校生「もう、朝っぱらから冗談じゃないわよ、こんなのって……うっ、人の顔ジロジロ見ないでくれない? ……何よ?///」
男「理不尽に殴られれもすれば誰でもこうなるとか思わないのかよ」
男「転校生、お前いまどこから出て来た? ていうか遅刻なんて珍しいんじゃないか?」
転校生「わ、私だって遅刻の一つや二つある時ぐらいあるわよ。ていうか質問攻めにする気じゃっ」
先生「はいはい! その一つや二つ、教育者の立場からは許容できないから。理由ぐらいは先生に聞かせてくれる?」
男(俺の尋問ターンは早々取り上げられてしまったか。だが、先生も今ほど、転校生の登場に同様の反応を見せていたではないか)
男(アレはまるで透明人間に当たったようだった。触れて、初めて体が実体化したのではないかと疑うぐらい、いや、そうとしか考えられない)
転校生「えっ、と、実は寝惚けて私服で登校しちゃったんです! それで家まで着替えに戻っていたら……ん」チラ
男(俺を見た? 何だ、助けを求めているというのか?)
男「まぁまぁ、コイツのネジが飛んでる乱暴癖はともかく、デマカセをする奴じゃありませんよ 先生。アホだし」
転校生「ちょっ!!」
先生「そうだねぇ、今回は見なかった事にしておくから次は気をつけてよ。男くん」
男「先生、さりげなく責任を押し付けていくの止めてください」
男(ナンセンスなやり取りを交し、去って行く先生を見送ると 傍にいた転校生が俺の腕を掴んできた。というか、引っ張られているじゃないか)
転校生「悪いけどついて来て。ここだとちょっぴり話しづらいのよ。お願い」
男「藪から棒に何だ? 昨日みたいな嫌な出来事ほじくり返したいのか、転校生」
男(得意の嫌味芸だって勿論 時と場合を選ぶだろう。だが、今のは本心である。俺にとっても、彼女にとっても、一息吐く時間が必要だった)
男(俺たちが現在深く共有してしまっているのは、無理矢理にでも遠ざける話題。歪んだ非日常から順風満帆なラブコメへ修正していかなくてはならない)
男(だからこそ、強くこの腕を掴んでいる手へ 苦労知らずの手を添えてみた。しかし、転校生の反応は)
転校生「あ、あんたにだからこそ言っておかなきゃいけないことがあるの! どうしてもよ!」
男(美少女の頼みとあらば、たとえ火の中水の中は然り当然……それに気になることをまだ残したままであった)
男「ふむ、そういえば最近また一つオススメのスポットを発見した。俺のサボりに付き合ってくれるか、転校生」
転校生「行く……ありがとう、変態」
男「(感謝されても変態の呼び名を定着させたがるか、ならば返事は) え? 何だって?」
男(ショートヘアーの毛先を撫ぜ、愁う彼女の横顔は暴力染みた魅力があった。ギャップ萌えというか味のあるキャラブレの良さの真髄をリアルで目の当たりにす)
転校生「……埃っぽくて長居したくないんだけど」
男「やれやれ 何を贅沢な。サボるっていうのは背徳の行為だ、つまりはだな!」
男(場所も相応に低ランクを、と熱弁を語りたがった俺を制止させるそのジト目である。OK、実は俺もこの部屋が何なのか知らないのだ、転校生)
男(適当に『あ、それっぽい』場所を徘徊して探し当てれば、このザマ。至って人の手も行き届いていない珍しいステージを引き当てたまでは良いが)
男「宿直室ってやつだな。昔は警備員を雇って夜間の巡回をしてもらっていたと友人のお兄さんの友人から聞いた」
転校生「えぇっ、あんた友だちって呼べるの私たちの他にいなかったわよね!?」
男「お前日本語ばかりで気遣いの精神は学んでないの? しかし、あながちウソじゃないな (通常なら錠をされるか、別の用途にされていた部屋が偶然使い放題……お楽しみが、いっぱい)」
転校生「悪いけどカビ臭い所で話す気になれって難しいわ、ていうか無理! この空間が無理!」
男「どこのお嬢様だお前は。どうでもいいから、話の続きを聞かせてくれないか?」
男「いや……そうじゃなくても、俺の方から転校生に尋ねたいことがある」
転校生「あっ…………たぶん、あんたが聞きたいことと私が今から話すこと、同じになると思うわ」
男「何? よく分からん、どういう意味――――オッ」
男(どうした、どうかしたのか 美少女よ。その健康的なおみ足を飾るニーソックスへ手を伸ばして、あ、すごいなぁ)
転校生「凝視しないでド変態!!///」 男「だって!!」
男(女子の絶対領域、すなわち禁忌とされたパンドラの箱が今開かれてしまうような物。目を背けていられる方が狂気の沙汰ではないか)
男(何を思って彼女がこんなアメイジングを発起したかは他所に、膝小僧? 膝裏? 脛? 足の指? 指股? 気持ち悪い? 構わん、二の次だ)
男「まさか誰もいない場所を選ばせたのは、俺の前で痴女になり切ろうと……」
転校生「ちがうっ!!」
転校生「あんたに、あんただけには見てもらっておきたかったのよ。怖いけれど、証拠になるんじゃないかと思って」
男「は?」
転校生「引かないでよ。いきなり見せようとしておいて今更だけど、きっと男なら」
転校生「わかってくれると思って、こうしようって決めたんだから――――――」
男「…………転校生?」
男(つい先程まで興奮を露わに荒くさせていた鼻息が、静かに冷めていった。併せて 息が詰まる。あれだけ胸躍った禁忌の先へ、俺は目を伏せていた)
男(だって、彼女の右足が無かったのだから)
転校生「変でしょ? 触っても感触とかないのに上から靴下は履けちゃうんだもん」
転校生「丁度太もものこの辺りまで無くって、上手く隠せてるから……男?」
男「アイツか、名無しのバカがやらかしたんだな、大体想像ついてる。許すなんて生易しい真似止めだな、もう我慢できない」
男(神よ、罪深い小心者へ殺めの許可証を与えたまえ)
転校生「 」
男(頭に血がのぼっていく意味を初めて刻み込まれた気がする。儚げな美少女の声はまったく耳に届かず、だが台詞は綺麗に読み取れていた)
男(明日、また少し身体の一部が消え、明後日、また消え、いつの日か 彼女そのものが世界から失われる。判然としていた)
男(転校生が現象に蝕まれる自らを明かしたのは、決して俺に悔恨を抱き続けろと言いたかったのではない。これで良かったのだと伝えようとしているのだと)
転校生「あんたには何もしないで欲しいの。その上でこんな物見せるなんて残酷かもしれないけど」
転校生「元々無かったものが、こうなるんだもの。全然おかしいことなんかじゃないわ」
男「俺にお前がいなくなった世界で生きろって言うのか!?」
男「じょ、冗談じゃない!! お前や、お前以外の誰かが一人でも欠けたらここでも頑張る意味を失うだけだ! 俺は次に何に縋ったらいい!?」
男「残る選択なんて“死ぬ”以外ないじゃねーかよぉ!?」
転校生「……驚いた。あんた結構 色々思い出して来たんじゃない? それともあの神さまの手回し?」
男「もう過去の記憶なんてどうだっていいだろアホ! 俺は今が欲しいっ、お前らと一緒に過ごせる時間だけが欲しい!!」
男「こんな、こんな安直なバッドエンドルート直行なんて見え透いた罠、辿るなんていやだ……やめてくれよ……」
転校生「良い悪いは考えるあんた次第じゃないのよ。それに」
?μk?生「最モ翫實ノыェn択肢ね、mう一つ娯#いあっても罰はあたrないと思うw@よ。男」
男(透けた手が、俺へ差し伸ばされた)
男(名無しの想定した『終末』を辿る一歩は残酷で堪らない一歩であった。マイナスへマイナスの掛け合わせは僅かもプラスへ変わりはしなかった、現実も虚構でさえも)
男(笑って受け止めきれる甲斐性のなさは、自分の未熟からか? 潔く最後を迎えることが正しいのか? まだ青い感性には尊いイベントである)
男(自分へ降りかかった話とはいえ、随分上から目線じゃないかだって? それもその筈 この未熟な一人語りは――――略)
男「――――完璧じゃないか。ほぼ人前で晒しても恥ずかしくない」
委員長「だってよ、みんな!」
クラスメイトたち「「「優秀賞取ったも同然よね! 俺らの努力が世間を動かす、時は来た! 衣装も完璧だもんねー!」」」
男の娘「はぁはぁ、ど、どう? 男、僕の演技とか……だ、大丈夫だったよね!? そうだと言って! お願いしますから!!」
男「ああ、毒を飲まされて倒れるシーンは迫真すぎて危機迫る感覚になったぞ。立派な役者だな、男の娘」
男の娘「え、えへへっ、男から太鼓判押されちゃった~! みんなみんなぁ~!」
先生「うふふ、無関心な君が言うなら間違いないって思うけど 本番前のお世辞かな?」
男「俺 椅子に縛り付けられてまで見せつけられてたんですよ? 冗長なら気分関係なしに寝てましたから早く縄ほどいて」
先生「そっかぁ~、うん、良いじゃない! コレはこれで……あ、ところであんたたちの部活の出し物は?」
男「気にするの遅過ぎじゃありませんか、顧問の先生」
男「ご心配なら夕方 部室に遊びに来てみたら良いじゃないですか! 来てビックリ 持て成し不十分ですよ!」
先生「ほ、報告ご苦労さま……っ」
男(いつのまにやら皆クラス最優秀賞の座を狙う姿勢なのは文化祭効果というヤツだろう、現実でもカップル誕生のタイミングとして絶好と耳にする。陰の者には関係ないが)
男(俺とて、疎ましかったお祭り騒ぎが楽しくなってくる。その後も何度かの予行練習を経て 仕上げへ近づけて行くワクワク感と来たら……)
男の娘「ねぇ、男。僕たちなんか今を生きてるって感じがするよね!」
男「あんなに戸惑ってたお姫様役をここまでこなすぐらいだからな、お前」
男の娘「んー、そうじゃなくってさ、よく分かんないけど楽しい♪ 色んな辛いこともあったけど」
男の娘「みんなとの気持ちが一体化してるみたいな、こういうのって気持ちいいよねぇ~」
男「そろそろ日陰者同盟解散の危機か?」
男の娘「えっ、あ、あれ? 男はあんまり楽しめてなかったりする!?」
男「違うって、そうじゃないんだが、こんな俺が真っ当に学生生活謳歌して良いのかなぁーと」
転校生「何言ってるのよ?バカ変態が謙虚になってると雨の代わりに隕石落ちて来そうじゃない」
男「そんなに普段ふてぶてしいかよ、俺は」
男の娘「え~っと、とりあえずお昼にしよっか! ごはーんっ!!」
男(というか元よりそのつもりで三人は動いていたと忘れていないか、男の娘よ。今日は珍しく教室を離れ 校内の食堂へ訪れてみた)
男(残念ながら世間は日曜日ということであり、学食のお姉さま方は不在であるが、広々としたスペースを活用することができるのが大きい)
\ガヤガヤガヤ/ 転校生「これのどこが広々なのよ!?」 \ガヤガヤガヤ/ 男「ワチャワチャしてるな」
男の娘「あちゃー、完全に誤算だったよぉ……漫研とアニ研のTCG大会やってるとか」
男「まぁ、席はいくつか残ってるみたいだが」
男(常日頃教室で昼食ばかりだったからと男の娘が提案しての食堂であったが、これでは落ち着いて食事どころの話ではなかろう)
転校生「ここのかき揚げおソバ安くてチープだけど美味しいって聞いてたんだけど、断念か……」
男「だから食堂牛耳るお姉さま方が留守なんだってば。話聞いてんのかお前」
男の娘「うーん、このまま教室に戻ってっていうのも味気ないし……あっ、そうだよ!」
転校生「何なに? まだ気になってたところがあったりするの?」
男の娘「へへ~っ! あるんです、これが! 三人が満足できて落ち着く事ができる場所が!」
男「当ててやろうか? ラーメン愛好会の部室だろ」
男の娘「男ぉ! 空気読まなきゃ[ピーーー]だよぉ!?」
男(俺たちの行く当てなど始めから決まり切っているだろうに。それにしても、難聴スキル。この期に及んでまだ頑張るというのか)
男(一時は放っておいてみたものの、残すは男の娘・不良女・オカルト研、か。やり残しは性分に合わないじゃないか)
男の娘「えへへー、部室のカギ簡単に借りてこられちゃった~♪ フフん!」チャリン
男「やったな、さすが転校生の色仕掛けは一味違う」
転校生「勝手に変なねつ造しないでくれない!?」
男の娘「ん~、たまには静かな部室でお昼ってのも悪くないよね。静かな」
転校生「約一名が聞いてもわかって貰えそうにないわね、それ、ふふっ!」
男(ママさんがこしらえてくれた弁当を広げつつ、両手に花。悪くないじゃないか。さて、肝心の弁当の中身は、顔面が蒼白になるほど愛情たっぷりである)
男の娘「どうしたの、男? 汗なんて掻いちゃって。具合悪い?」
男「時に、便所飯なる行為を俺は未だに味わった事がない。これはチャンスだ。孤独の悲しみを味わいつつ」
転校生「トイレで食べるとか作ってくれた人の気持ちも考えて非常識よ、マジ変態。……ていうか!」
男(途端に声を荒げ、窓際のハンガーへ掛けられたコスプレ衣装なる物を指差す転校生。バニーガールはお気に召さない?)
転校生「どう見たって際どすぎよー!! こんなのを私に着せようっていうんでしょ!?///」
男「良い客寄せパンダになるんじゃないか」 男の娘「女装より良心あると思うんだけど」
転校生「無理無理むりっ!! 特にこことかヤバいじゃない! Vラインとか、更に網タイツ!? いやぁぁ~!///」ブンブンッ
男・男の娘「……」
転校生「無視してお昼食べないでってば!?」
男の娘「えぇ、何も本当に転校生さんが着なくちゃいけないってワケじゃないんだからそこまで……」
転校生「オーダーメイド仕立てたとかメール来ちゃったのっ、ここに! ほら、ほらぁーっ!!」
男「(笑)」 転校生「あ゛?」
男(転校生から肘やら膝で小突き回される俺を見て困り顔で笑う男の娘。この三人だからこそ叶う究極のバランスが昼食の一時を飾る、至高なのだ)
男(そんな中だろうとお構いなく、転校生はきっとアレを着られないのだ、と邪険に愁う自分が心の内に存在する。美少女は騙せても……本当の敵は挙句ホニャララさんである)
男(彼女、転校生は俺に約束させた。「何もしないで」、「黙って時が過ぎるのを待つの」、「”今“を楽しもう」。終末へ備える為の、そうでなければ、供える為の三原則を)
男(やれやれ、参ったじゃないか。この強欲者が抱いた淡い夢と心中し≪不適切な表現が含まれているため 表示できません。≫)
男(≪不適切な表現が含まれているため 表示できません。≫)
不良女「ち~ッス……って、この挨拶なんかデジャヴ感じんな。時間通りだしょ?」
男の娘「あっ、来たきた。待ってたよ~!」
転校生「どういうこと?」
男(前触れなく開いた部室の戸から覗かせたのは、辛うじて素行悪そうに魅せる棒付きアメを口に頬張る不良女。転校生と顔を見合わせ、男の娘へ尋ねれば)
生徒会長「失礼する。おや、既に全員が揃っていたとは感心だな」
先輩「やっほー! ラーメン愛好会放課後部活動の延長みたいなの始めちゃいますんで、各自お座りください。おすわりっ!」
男の娘「実は二人には内緒で部室に連れて来るように頼まれたんだ。ご、ごめんね! 騙す様なことしちゃって!」
転校生「だ、騙すって、そもそも私たちに秘密にする意味ある?」
先輩「ウッフッフーン、騙し打ち的なぁ~?」 生徒会長「抜き打ちと言いたいそうだ」
男「いや、実際何のですか……」
男(呆れた素振りでドッキリ成功をアピールさせるメンバーへ目で訊くも、皆 同じ様に含み笑いであった。一体何の企みだと)
不良女「ま、玉には驚かせる側にあたしらが回っても罰は当たらないんじゃないの?」
男「やれやれ、気味悪いな。ここに全員が集まったってことは文化祭の出し物の相談でしょうか」
先輩「ソダネー。わたしたち何にも準備してないからネー」
生徒会長「コスプレ喫茶まがいの詐欺ラーメン屋……これで金銭を巻き上げようと言うのだから其処らの俗な処より悪質」
生徒会長「というか この私が見逃すとでも思ったのか?」
先輩「な、仲間じゃないですかっ、お上!!」
転校生「変な事やらかす巻き添いなんてマトモなら誰だってごめんよ!」
男の娘「だけど構想段階から仕切り直すにも時間足らないよぉ。我慢してこの路線を上手く利用してあげなきゃ、もう まずくない?」
男「そりゃ十中八九不味いに決まってるだろ。やるって言い出して承認貰った上での話なんだしな」
不良女「ん……要はブラックなのに触れなけりゃ問題ないんだろ?」
男(何故そこで俺を見たのか理解しかねるが、努力してみよう)
男「……ならば、提供するのはカップ麺で誤魔化すとしましょう。しかし無銭飲食にしてはお話にならない。ならば」
男「ここは可愛いコスプレに全て委ねてみるべきではないだろうか!?」バッ
男の娘「[ピッ]、[ピーーー]男のコスプレにっ///」 男「客の目が腐り落ちるわ」
男「ライブハウスのシステムは知ってますか? チケットを購入していてもハコの中へ入るには謎のドリンク代が発生しますよね」
不良女「あ~、飲食店と同じ扱いになってるからとかバイトのオーナーから聞いた事あるかも。つーか まさか」
男「喫茶店、不純の無い響きですが カップ麺提供に重点を置きましょう。入店時に500円でワンカップを」
転校生「どう見ても詐欺の他ないじゃないのよ!?」
男「詐欺? いやいや、断じて違います。我々はお客様へ飲食物を提供しその対価としてお金を得る必要があるのです」
生徒会長「し、しかし 客が500円を支払ってまでコンビニやスーパーで売っている物を欲しがるか?」
男「そこで“コスプレ喫茶”の名前が生きるんじゃありませんか、生徒会長」
男「……客は15分間、好みの店員とのチェキを楽しめるサービスを手に入れられる」
男(はっちゃけた一名を除き、猫も杓子も机に項垂れる。俺とて最悪な策である。誰が好きこのんで半所有物を変態へ接近させたいか)
不良女「まずラーメンへの侮辱じゃん……」
生徒会長「そういう問題ではないと思うのだが……どうしたい、部長」
先輩「そうだね、500円なら切りもいいからレジもスムーズに済みそうだよ! ナイスアイディア!」
転校生「だめ……黙ってたらクズの舞台にしかならないわ……」
先輩「えぇ!? 待ってって、そうでもないよ! これなら準備も大分省けるし、最悪カップ麺に拘る必要もないよ?」
先輩「身体張るのは何のため? ザッツ \マネ~!」 男の娘「ノーノーっ!!」ブンブンッ
後輩「……で、私たちにサクラをお願いする先輩の立場は何なんですか」
男「女子すら虜にする美少女たちが働くコスプレ喫茶に興味を持って頂こうと思ってな」
男「まぁ、俺も如何にもな展開をしてやれば都合良くモブどもが飛び付いて満員御礼も目じゃないと睨んでいるワケだが」
後輩「でしたら最初から無駄な頼みとかする意味ないじゃないですか。私も妹ちゃんも暇じゃありませんので」
男「部活動での出し物は二日目なんだからお手暇じゃないですかー?」
男(説明しよう、我が校の文化祭スケジュールは二日間に渡るのだ。俺たちのクラスが張り切って準備しているクラス発表は一日目に披露される)
後輩「先輩と違ってそこそこ付き合いがありますから! それに誰が喜んで恋敵の巣に突入したが」
後輩「っ~~!!///」ブンブンッ 男「全身で否定しないでくれないか」
男「ところでウチの呑気な妹はどこにいる? 一緒にお化け屋敷の準備じゃなかったのか」
後輩「い、妹ちゃんはお化け役として演技指導を叩きこまれてる最中です……」
男「ちなみにどんな役を」
後輩「聞いてないんですか? 途中お客さんに『疑似コックリさん』をやらせるんですけど、その最中に机ひっくり返す怒り狂ったお狐様ですよ」
男「(そして現れた瞬間を狙って捕獲した後ハグしたくなるのか)お前は?」
後輩「受付ですよ。あとは兼ねて、写真撮影係ですかね」
男(写真だと?)
後輩「どうかしましたか、先輩?」
男「いや、お前が写真なんか撮るんだなと何となく思って」
男(特別変な話でもなかろう。希望した入場者の驚きの一場面を陰から収めて渡す為だとか、何を意外に感じたのだ俺は)
後輩「せーんぱい」パシャ
男「……あのな、お前被写体に許可なく勝手に撮るのはマナー違反だろ」
後輩「えへへ、ごめんなさい。クラスの子から借りたポラロイドカメラなんですけど 案外使い勝手良くってつい」
男「やれやれ、準備が出来てたらもっと決め顔でポーズしてやれたのに」
後輩「ん? 写りは結構悪くないと思いますよ。自然体の先輩が一番なんですから」クスッ
男(狙っていると言わんばかりのあざとさを振り撒く小悪魔っぷり、逆に照れるな。嫌味を感じないのは彼女の涼しげな雰囲気がそうさせるのだろう)
後輩「はい、記念に一枚どうぞ。先輩も良ければ当日私たちのクラスに遊びに来てくださいね?」
後輩「次は ビクビクしてる先輩のことを撮らせて欲しいんですから、ふふっ」
男「(身も心もその悪戯へ委ねてみたい) アホか、性悪めが。それじゃあ妹にサクラバイトの話伝えておいてくれ」
男(というか帰宅してから直接俺が頼み込めば良いだけである。気恥ずかしに負けて早々撤退を余儀されたものか、負け犬の遠吠え的な)
男「……写真か」
男(あの夜、正気に戻る以前と仮定した、後輩が俺の部屋から持ち去った写真たち。彼女が例のアレに関し頑なに話題に出そうとしないというのは、実に気になる)
男(失った記憶が再び降りてくる奇跡、様変わりした後輩の姿を見て切に願った。この世界で成し遂げた過去が何の拍子かで戻りはしないのかと)
男(もはや何を忘れ、何を覚えているのか曖昧な自分が酷く不完全な存在に思えて仕方ない。今を全力で楽しみたくても、過去を辿りたい、贅沢だろうか?)
テンプラ「あ葡キ飼負oイTァ0」
男「う゛、わおおおぉぉ!? あんたっ!! な、何平然と廊下で突っ立って……」
男(惜しかったじゃないか後輩よ、後を漬けていれば難なくシャッターチャンスを、なんて)
男(俺があげた絶叫に周囲のモブが振り向き立ち止まっている。例外を除けば、この怪神を認識する事は不可能なわけだ)
男(とにかく、この様な平凡な背景に佇まれていても心臓に悪いだけである。外へ連れ出すべきだろう。大方コイツもそれを望んでいる)
男「ここじゃ返って息が詰まる……来てくれ」
テンプラ「縺ェ繧薙〒譁・ュ怜喧」
男(了承したのか俺の背中を重たい体を引き摺るようにしてテンプラは追ってくる。どんなホラーだと肝を冷やしつつ、改めて俺の前に現れた理由を予想範囲内で模索してみた)
男(一つ、礼を言いに来た。二つ、名無しを手放しにするなと忠告に。三つ、次の厄介事を運んできた。止そう、胃がキリキリしてくる)
男「この辺なら校舎からも離れているし、誰かに見られる事ないだろう。何の用だ?」
テンプラ「……(喋れない)」パクパク
男「不便だなっ、筆談は!?」
テンプラ「……!」ガッ 男「ミミズ這った後より最悪じゃねーか」
男(携帯電話を手渡しても碌に字も打てず、神々の形骸化に挫けそうになる。これでは日が沈むぞ。埒が明かん)
テンプラ「……」
男「いや、俺だってあんたが伝えたがってる気持ちとか読み取れればと思ってるよ。だけど人間相手と同じにはいかなくて」
男「表情もなければ仕草からも何もわからん、侮辱じゃなくてな。手っ取り早く用事を済ませられないか?」
テンプラ「……」
男「いつぞやに幼馴染へ代弁させたことがあったろう。アレが現実だったのか夢なのか見当つかな――――」
『復旧までもうしばらくお待ちください。繰り返します、大変申し訳ございません。お客様には……』
男「――――い…………この精神世界みたいなヤツ、ありきたりじゃないだろうか」
テンプラ「二度もお招きしてしまい申し訳ありマセン。迅速な対応を求められてしまったものデスカラ」
男(線路の上で立ち往生する電車の中、向かいの席に腰掛けるは瞳からハイライトの失せた幼馴染と思わしき美少女である。やはり)
男「本題へ移る前に訊きたかったんだが、どうして幼馴染なんだ。ここが現実でないなら、直接憑依してるわけじゃないだろ」
テンプラ「イイエ、この子であるからこそワタシを体現させられるのデス。男」
男「は?」
テンプラ「器、いえ、それ以上にコレはワタシの意思を継ぐ者である。深く、深く貴方を愛する隣人としテ」
男(手の中に包んでいた紫色のエゾキクの花を嗅いで、彼女はこちらへ綺麗に微笑んでみせた。ゾッとするぐらいに)
テンプラ「マズは、名無しの件につきまして改めてお礼を言いたく思いマシテ」
男「お、おぉ……だがあんた目線じゃ根本的な解決にまだ結び付いていない筈じゃないか? あんたはあの男を」
テンプラ「その根本を覆さんとする事象がアナタへ降りかかってしまッタ。ワタシの望みは男の真なる幸福デス」
テンプラ「ぶっちゃけ歯痒い思いをされているのでございマショウ!? ネェ!?」ガバッ
男「何だよ何だっ!? いきなり跳び付くんじゃねーよ!!」
テンプラ「アナタ内心穏やかではない筈! 大切な幸福を一つ手放す、ノット! そんな物全然ハッピーじゃないデースッ!」
男(このエセ外国人の様な突然変異した言動は何ぞや、と一歩引いて待てば、テンプラは腰に手を当て世迷言を連ね、俺へ提言してきた)
テンプラ「アナタが、この世界の”神“となれば良いのデス。男!」
男「……何だって?」
テンプラ「ご自身が望む世界の在り方を求めるのでアレバ、それは自身が管理し 時の流れを牛耳るべきではありませんカ!」
テンプラ「ワタシは男の水鏡でアリタイ。どんなに隠し通したいという想いすら、このワタシには留まりなく流れ込んできマス……悲哀デス」
テンプラ「男はコレマデにどれだけの逆境を跳ね返してきましタカ? ピンチこそが強味、背水の陣を味方につける悪運の持ち主ではありませんカ?」
男「……もう、冗談は休みやすみで……頼めないか テンプラ。意味不明なんだが……」
テンプラ「聡明なアナタならば理解し終えているに違いありまセン。かの庭を統べる主となるのデス、男」
テンプラ「ココに生ずる現象を凌駕シ、システムを掌握する万能の存在ヘ。――――あの娘を救う奇跡は、アナタが起こすのデス」
天使「――――じゃん、けん!」
天使・名無し「ぽんっ!! ……あいこでしょ、あいこでしょ! あいこでしょ!!」
天使「お、大人しく自分に譲らねーってんなら酷い目見るだけです。この学生ニートめが」
名無し「縦に裂けて死ね。こっちは昼飯後のデザートが掛かってる、死活問題だ。お子さまの別腹事情と一緒にすんな」
天使「ぐぅぅぅぅわぁ~!! この不浄な巻きグソを楽園に招き入れたのはどこのバカ野郎ですか!? チ○カスがぁ!」
ママ「もうケンカしないの! プリンならもう一つ別のがあるから、ここは年上の君が我慢してほしいなぁ~、ね?」
天使「やーい! やーい、ぶぁあぁあぁか!!」 名無し「脳漿ぶちまけて派手に死ね、糞ガキ」
幼馴染「……ていうか、名無しくんはどうしてウチにご飯食べに来てるの?」
名無し「昼食も用意してあると冷蔵庫開けたらラップに包まれた冷や飯とのりたまが添えられてあった。あんたならどうする?」
幼馴染「厚かましいよ……あたしはよく知らないけど、君って思ってた感じと全然違うかも」
名無し「へぇ、気に食わないと真っ先に否定に走るのか? 貴重なお利口枠かと思いきや、まんまと騙されたよ」
天使「べーっ、だ! お前なんかに誰が優しくしてやるもんですか、早くどっかに消え失せやがれですよ!!」
ママ「こら天使ちゃん! ごめんねぇ、私は名無しくんもい~っぱいお持て成ししたかったんだけれど……名無しくぅーん?」
名無し「…………邪魔した。腹ごしらえに着いて来いよ、ガキんちょ」グイッ
天使「はぁ!? ちょ、何ですか! 今度は自分を誘拐して身代金をっ! お、男くんヘルプミ~!?」
男(間近まで迫られていた顔が離れた。こちらを見下ろす表情は恍惚としており、先程まで鼻息荒くさせていたテンプラは何処へ行ってしまったのかと)
テンプラ「男、アナタには素質がありマス。コレでも控え目にお話させて頂いたつもりデスが」
男「……神? 奇跡だと? ある意味新世界に召喚された俺が神さまか?」
男(聞こえは良いが、非常に臭い。理由はわからないが簡単に首を縦に振ってしまえば 代償に何かを失ってしまいそうな)
男「(危険なオファーが身に降り掛かったと直感が告げている) すまん、そういうのウチ間に合ってるんで」
テンプラ「怪しい宗教か新聞勧誘と同等にされては困りマス!」
テンプラ「アナタを長く見守ってきた者としテ、至高の提案であるとワタシ自負していマス。一から十、百をもコントロール可能となるのデスから」
男「この俺はクリエイター志望じゃなく、常にプレイヤー側でありたい。大前提から勘違いしてるぞ」
男「そんな仰々しいのじゃ、まずお門違いだろうよ。テンプラ?」
テンプラ「はぁ、勉強にナル…」 男「メモんな」
男「胡散臭いネーミングの奴からされる妙ちくりんな話に乗りたがる物好きに俺が見えるかよ。一昨日忘れた頃に聞かせてくれ」
テンプラ「……デスガ、男。実は惹かれてマスよね? ビ少女を救う手立てとシテ」
男(神か天使の名を冠する色者には思考読取能力がデフォで備わっているとでもいうのか?)
男(プライバシーの侵害を他所に背中から浴びせられた甘言である。実際転校生の為にも助言を仰ぎたくあって、テンプラを誘ってみたが)
テンプラ「ただただ起こる悲劇を見送るのが男デスカ? 心を苦痛に蝕まれながラ」
男「て、転校生は、俺から助けられたいだなんて望んでいない……放っておいてくれないか……」
テンプラ「彼女が滅びを受け入れたがっていると思えないノでショウ?」
テンプラ「そして大人しく誤りへ辿る道を歩みたがるアナタではありマセン。お人好しは主人公の専売特許ではありませんカ?」
男「放っておけって言ってるだろっ!!」
テンプラ「失礼しまシタ」
男「俺がそうするって決めたんだ、ぽっと出のモドキに喧しくされる筋合いなんてこっちにはないんだよ!!」
男「テンプラなんてふざけた名前名乗りやがって気が狂ってるとしか思えないな、あんた! 面白い自虐ネタだ!」
『復旧までもうしばらくお待ちください。繰り返します、大変申し訳ございません。お客様には……』
男「うるさい! もう十分だ、帰らせろ! 畜生……俺の中を土足で踏み込んで来たのが間違いだったんだよ、テンプラ」
テンプラ「ほらマタ迷っていマス、男」
男「何!?」
テンプラ「葛藤を胸の奥に隠すことが愚かと一度はあの子ラから気付かされたのデショう。過ちを繰り返してはなりマセン」
テンプラ「ワタシはアナタの良き理解者であり、良き隣人デス。ならば 破滅を回避したく考える男に味方するのが道理であれ、ト……」
テンプラ「覚悟が決まり次第、ワタシへその身を委ねるのデス 男」
テンプラ「我が存在を賭けテ、かの力を託しマス。授けましョウ。アナタの理想たる世界ヲ――――」
男「――――――自己犠牲が美徳とでも語りたいのか、やれやれ」
男(ストレートに受け取って反応すれば、テンプラはこの俺に人間をやめろと言うのだろう? 苦肉の策か最後の手段かも馬鹿らしい方法だ)
男(奴の言う事が正しければ 念願であった美少女ハーレム酒池肉林パーティも難なく叶うやもしれない。煩わしいだけの難聴スキルに振り回される事もなくなる)
男「(望めば、更なる美少女の追加だって) 待てよ、割と良い事尽くめにならんでもないのか?」
男(いやいや、あんな啖呵を切っておいて脛擦りでお願いしますでは恰好がつかない所ではなかろう。ドラマがない。凌駕したカスが誕生するだけである)
男(そういえば テンプラはまた何処かに消えたのか。あの奇妙な電車の中から一転し、小さな公園のベンチに置き去りされた様にして俺は座っていた)
男「何が気に食わなかったんだ、俺」
男(立ち上がって学校へ戻ろうとしたにも関わらず、再び制止した俺が放った独り言である。何って、テンプラの神提案じゃないか)
男(まずどんな異常をきたすかに対する恐怖がないとは勿論言い切れない。だが、神となったところでこうして主人公となり、自身が楽しむスタイルを保つ事も可能ではないかとテンプラの口振りから想像できる)
男(どうせ現実では捨てた生活を送っていた。このまま気持ちの良い毎日を美少女と面白楽しく過ごせるのであれば、多少の変化あれど、悪くないのでは?)
男「……ていうか俺死にかけの状態だった、でいいんだっけ? 確か……うん、そうだったはず」
男「未練も、特になければ……そうだ。俺って死ぬんだぞ。思い出せたじゃないか! つまりあの世みたいなものだ!」
男「死ぬ!?」
先輩「は、早まるなーっ!」ドンッ
男「ぐえ!?」
男「先輩さ、んぐぐぐ……ぐへへ……! (顔面を圧迫するヘビーな武器、質量を持ったたわわの果実も時として凶器である。覚えのある感触から名前を言い当てれば)」
先輩「へ? あ、あぁー! ごめん! 男くん苦しかったよね!?」
男「く、苦しい以前にとりあえず上から退いて貰えたら助かる、か、と」
先輩「えぇ? 何って言ってるの?」 男「ロープ! ロープ!」バンバンッ
男(ラッキースケベに変わりないがこの桃園を堪能すればするほど窒息から逃れられないのだ。幸せ固めここに極まれ)
男「……つまり偶然通りかかったら死に急いだ男子生徒を見掛け、衝動に駆られてしまったと」
先輩「そうなんだよ! ていうかそれが男くんだったなんて思いもしなかったんだから!」
先輩「で、でも男くん。死ぬなんて簡単に考えちゃダメだよ? わたしはまだまだ男くんに生きて貰わないと、こ、困るんだもん……!」
男「だから別に死にたがってたんじゃないと言ってるでしょう。先輩さんの早とちりですよ、まったく」
先輩「そう? 何だぁ~だったら早く言ってよ、もう! ……ムネ///」
男(今 何と仰られたのか尋ねてもよろしいだろうか)
男「はい?」 先輩「わーわー!! 何でもないよ、全っ然!?」
男「何でもない人の誤魔化し方じゃないでしょう? 俺で良ければ勘違いさせた罪滅ぼしに」
先輩「はぁ!? セクハラするつもりなの!?///」バッ
男「そんなの濡れ衣すぎるじゃないですか」
男(何故見計らったタイミングで彼女とのイベントが発生したかを説明すれば、部の出し物に使う備品の買い出しに外へ出ていたらしい)
男(イベントと呼べるほど濃厚な会話をする事なく、荷物持ちとして校内へ戻ってきたわけであるが)
先輩「男くんに会えて助かっちゃったよ。わたし、こう見えて非力な女子なものでして! えへへっ!」
男「箸より重いぐらいで音を上げる先輩さんとは思えませんけどね。この程度ならお安い御用なぐらいです」
男「そんな事より……本当にコレ全部必要になる物ですかね」
先輩「当たり前~♪ 部室の中も適当に華やかに飾りたかったし、備えあれば憂い無し! だしょ?」
男「明らかに不要じゃないかってアイテムが混ざってるのは触れない方が良いんですか。よっこらせ」
先輩「いまのオッサンみたいだネ」 男「真顔で指摘しないでくれません?」
男(授業も無いのに放課後とすれば違和感たっぷりであるが、各々のクラスの準備を終え次第集合を掛けると先輩は言う。余所余所しいぐらい)
男「あれ、もう行っちゃうんですか?」
先輩「わ、わたしも忙しいんだよ~! 男くんだっていつも忙しそうにしてるじゃーん、ここはお互い様ってことで!」
男(何かを隠す素振りであるのは一目瞭然。欺くにしても早々俺から逃れたがるのは常日頃の先輩を知る俺として、矛盾を感じざるを得なかった)
男(先程のラッキースケベの恥じらいの延長であれば可愛らしいものだが、どうにも不穏を秘めた作り笑顔を取り落とせというのは、性分じゃない)
男「待ってください、先輩さん。どうしたんですか?」
先輩「えっ……い、いやぁ~ そ、そこで止めちゃうかなフツー……」
男(捉えた、と言うべきだろう。戸惑う彼女へ接近しながら言葉を投げる。混乱させないよう、掻き乱さないようゆっくりと慎重に)
男「悩みがあるなら伝えて欲しいと言ってくれたのは先輩さんたちじゃありませんか。俺では不十分ですか?」
先輩「よ、世の中には触れないでおいた方がいい事もあると思う、ような……昨日みたいな」
男(確かに不条理から離れた位置にある彼女たちにしては、先日合わせてしまったような目から遠ざけるべきである。非日常とは理不尽に位置する)
男(これ以上振り回したくないと思う気持ちが彼女の心のケアに俺を走らせているのだろうか。残念ながらコレでは真逆の行動じゃないか)
男「……昨日見たものは全部ウソだったんですよ。廃墟に侵入してテンションが振り切れたせいもあったと思えませんか?」
先輩「そうじゃないよ!! そうじゃなくって、男くんまだわたしたちに何か隠してるんでしょ!?」
男(成る程、アレで真髄を目撃した気でいる。クラスメイトは宇宙人的なファンタジーに胸踊らせる気分は誰しも胸弾ませる設定だろう)
男(だが、このまま先輩や他の美少女たちまで引き返せない場所まで引き摺りこむのは得策ではない。巻き込んでしまったとはいえ、どうにか――――)
先輩「――――転校生ちゃんのあの足、何なの!?」
男「え?」
男(ではなかろう、が、頭が一瞬にして真っ白と化す。転校生の足だと。どう考えても例の事象に関する訴えだ)
男(転校生が、俺以外の人間に晒した? バカな、彼女はそこまで軽率な行動を取るタイプではない。な、ならば、何故 先輩が!)
先輩「……わたし 見ちゃった。転校生ちゃんが、男くんに見せてるとこ」
先輩「ご、ごめんなさいっ!! ごめんなさい!!」
男(幾度となく反覆される「ごめんなさい」だけが部室の中を木霊していた、のだろうか。……見られていた?)
先輩「あ、あそこはわたしもよく使ったりする隠れスポットの一つで、今日もコーヒー飲みに入ろうとしたら」
先輩「み……見ちゃった……怖くなって二人の前にも出て行けなくなって、あとで部室に呼んで色々聞き出そうと思ったんだけど……こ、こわくて」
男(俺の、平穏が乱される。グルグルと不穏と共に掻き混ぜられて、そうして世界に、ヒビが)
先輩「さっき男くんが『死ぬ』なんて言ってたのも、本当に怖かった! だ、だからわたし、わたしね……っ!?」
男「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!?」
先輩「ひっ!?」
男(緩やかに悲鳴を上げていた精神がポッキリと折れた音がした。善も悪の区別がつかず、自己を確立できず、揺らぎにただ身を任せて、絶叫していた俺)
男(引き金なんて何であろうと関係なかった。端から脆弱な精神を強靭に見せつけるべく保った易い自己暗示も、大袈裟な自信でも、勝ち目なんてなかったのだ。器が悪かった)
男(気が気ではない。床に崩れて頭を押さえ込んだまま我を失う自分を客観視してみた感想を述べよう。ここに美少女も好感度もありません。ガラスのハートが壊れました)
男(常人でいられる境界線を越えた……鋼の意思は? 妥協を知らないと豪語した過去の自分は何処へ。……未熟すぎる、ついに壊れた)
先輩「 」
男「やめろ! やめろやめろやめろ、もう止めてくれ! 嫌だ! 俺が何したっていうんだ!? 俺は何も悪くないのに!!」
男「どうして、どうして悪い方向ばかりに進むんだ!? お、俺がこんなの望んでるか!? 楽しく生きられたらそれで良いのに! 何で!?」
男(失敬、醜態を晒してしまった。悪いがこっちは建前だ)
男(完璧に怯え切った先輩を放って取り乱していた。無我夢中に声を荒げ、吠えて、周りの物に当たり散らす、これぞ獣の有り様だろうか)
男(通常なら美少女へ即取り繕おうと『男くん』の仮面を被ろうものが、冷静ではいられなかった。いきり立つでは済まされない)
男(ただ一言で表せられるならば、崩壊に等しい)
先輩「あっ! お、男くん待って!! どこ行くの!?」
男(制止を求めた声に応える余裕も無しに、パニックから視界が真っ白に染まりつつある恐怖から部室を逃げる様に飛び出した俺)
男(彼女が伸ばした、差し出した手が救いに見えたらどれほど良かったものか。正気を失った自身の状態に気付きながら、彼は絶望を加速させた)
男「――――――がっ!?」
男(ぶち当たったのは大きな壁でもなければ……床である)
「男くん、急に飛び出してくるなんて危ないわ。怪我はない?」
男(怪我、怪我らしいと言えば鼻の奥から熱い液が垂れて来る感覚があるぐらいだ。転んだ? 足元を確認すれば見覚えある特徴的な杖が、いや、それよりも)
オカルト研「そんなに私の顔を覗こうとされても、困る、わ……」
男「お前……」
オカルト研「大変、鼻血が出ている。そこの一般人 すぐに救急箱を用意して」
先輩「い、一般人ってまさかわたしの事言ってる?」
オカルト研「早くしなさい。男くんの命に関わる一大事よ」
先輩「鼻血止まったかな? ごめんね、わたしが変なこと口走ったりしちゃったから」
男(介抱、というか 渡されたポケットティッシュを使って自分で止血しているだけであったが、血が流れたお陰か幾分頭がスッと黒い靄を払っていた)
男「……オカルト研はしばらく自宅謹慎だったんじゃなかったのか?」
オカルト研「そのつもりだったけれど、眠っている間に揉み消されていたわ。よくあるの」
男(突っ込む元気は、あと少し失せたままでいようか)
オカルト研「冗談よ、安心して欲しい」
先輩「うーん、冗談なら尚更どうしてここにいるのか気になるというか~……これ野暮っぽい?」
男「(野暮ったいだ) とにかく事情はどうあれ教師たちに見つかったら問題だぞ。俺たちは見なかった事にするから、すぐに」
オカルト研「その前にお詫びさせてくれないかしら。男くん、そこのあなたや、他の人にも」
男(反応を待つより先に深々と頭を下げてみせたオカルト研に、虚を突かれる。すぐに先輩が近寄り肩を支えるが、一体何が起きた?)
オカルト研「この程度で許されるとは到底思えないし、私自身も許せない。それだけの迷惑を掛けてしまったわ」
先輩「も、もういいよっ! 事情はよく知らないけど反省してるって気持ちはすごく伝わったから頭あげてさ、ほらっ!」
オカルト研「男くん……ごめんなさい、何と謝っていいか。謝罪がこんな形になるなんてあなたも納得してくれないと思っている」
先輩「男くんもとりあえずいいよね!?」
男「……判らない、もう」
先輩「そうそうっ、全然意味わかんないって――――何でさ!?」
男「……」
オカルト研「ええ、当然の回答だわ。私としても偽られて励まされるよりずっと嬉しい」
先輩「か、換気しよう! そうだ、換気しましょう! 悪い空気を外へ逃がせば二人も落ち着くと思うなぁ~っ!!」
オカルト研「悪いけれど一般人さん、少しばかり男くんと話がしたい。お願い」
先輩「っー! ……いいけど、難しい話はなるべく避けてあげて欲しいかな」
オカルト研「心配要らないわ。シンプルすぎて逆に突拍子もないぐらいだもの」
オカルト研「ありがとう、素敵な部長さん」
男(有り有りと不満を浮かべながらも退出してくれた先輩と目が合うも、俺の方から視線を落とす。最適解なんて最早存在しないのだ)
男「……何だ、その何でも分かった気でいるみたいな雰囲気」
オカルト研「不満かしら?」
男「不満? 気に食わないなら突っ掛からないだろう。このタイミングで都合良く現れたことに関してもだ」
男「名無しのお人形になり下がった自覚はあるかと尋ねたらウケるかね? まぁ、解放されていようがいまいが、俺には元のお前の記憶がない……」
男「まだこんな哀れになった俺を追い込むのか? ……修正が必要だな」
オカルト研「悪霊の仕業ね、男くん」
男(悪い事をすべて悪霊のせいだと責任転嫁してしまえば楽になれるのかと、その不思議言動に唆されてしまいたくもある)
オカルト研「覚醒に伴い男くんの精神が弱まっている。悪霊はそのままあなたの身体を自由に奪うつもりよ」
オカルト研「器として最適という認識が深まってしまったのね、男くんは男くんが思う以上に強大な力の持ち主なのだから」
男「このままじゃダメだ、このまま進んだところで結末なんて知れてる……望まない終わりだ」
男「だから、修正するしかない……やり直すことは罪じゃない。1が0に戻るだけじゃないか」
男「こんな辛い思いと心中するぐらいなら、俺は――――」
男(神を名乗り、完全なる支配をこの手にする道が示された。限りなく立場も現状も大きく変化し、終わりすらも永遠に訪れないルートが)
男(“救い”を縋った先にあったのは、やれやれ、最終的に自己犠牲ではないか。テンプレよ)
『 覚悟が決まり次第、ワタシへその身を委ねるのデス 男 』
男(…………)
オカルト研「抵抗しているのはあなたの本心だわ、男くん」
男「え?」
オカルト研「悪霊の囁きは正に甘い汁。それでも受け入れられないのは、あなたがその先に答えを見出す事ができていないから」
オカルト研「男くんは真の選択に迫られている。それこそ、やり直しが利かない、これが正真正銘の最後よ」
⇒ これより先の選択に よって セーブデータを 失う場合があります。
⇒ 記憶を リセットして カミになりますか ?
⇒ 現状を 維持しますか ?
⇒ 記憶を リセットして カミになりますか ?
快楽を追求するあなたに相応しいENDになるでしょう。
嫌悪という感情から遠い視点から見られる天にも昇る心地良さを獲得し、爽快間違いなし。
ヤキモキとした思いを味わうことなく、快適な カミライフ を お送りできること必至!
深刻な悩みや問題に振り回される心配はもうありません! あなたこそが この世の カミ !
Yes or No
⇒ 現状を 維持しますか ?
警告:実に愚かしい選択項目だと思われます。非常に推奨できません。
どう足掻いても絶望の未来を免れません。あなたは 極度のマゾヒスティックの持ち主でしょうか?
ガソリンの味を知りたい気持ち悪いぐらい変態でどうしようもないあなたに捧げる唯一の選択肢であることに違いありません。
< memento mori >
Yes or No
⇒ 本当に これで よろしいですか ?
『 Yes 』
⇒ 二度と 繰り返されません。あなたの 選択は これで よろしいですか?
『 Yes 』
⇒ 受諾されました。
天使(――――ゴゴ、ゴゴゴゴ、地鳴りにも似た音が全身を震わせました。一度や二度じゃ収まらず、音は唸り続けて、それは まるで悲鳴のような)
名無し「そら、直に限界がくるぞ」
天使「はぁ?」
名無し「分からないのか、と言っても お子様には関係無いかもしれないな。無限は創造できる物じゃない」
名無し「この世界の管理者である主が耐えられなくなったのさ。飽きるぐらい時の流れに逆らい続けてもみろ、神すら狂う」
天使「サッパリ何言いてーのかなんですが! そのカッコつけた言い回し疲れねーんですか、おえっ!」
名無し「無意識だろうが神殺しに近い行いに奴は手を染めていたわけだ。……その神は大層お前のオヤジをお気に召しているぞ」
天使(男くんの事を? コイツの言う『神』とは、元主を? いや、そうじゃないんだとすぐに思い知る)
名無し「やー、お子様を散歩に連れて来た意味 見せてやろうか?」
天使(ここは男くんたちが毎日通っているガッコーなる場所。名無しは自分の頭を鷲掴むと 無理矢理壁から その光景を見せつけた)
天使「……男くんは、どーしてあんなに苦しんでるんですか!?」
名無し「そりゃあ苦しみもするだろう。アイツはここへは何の為に存在する? ただ自分が良い思いをしたかったからだぞ」
名無し「理想が叶う筈であろう場所で、地べた這いずって苦汁を啜るのが望みだと思えるか?」
天使「し、知りませんよ!! 大体悪いのはお前が男くんに変な事をしたのが原因じゃねーですか!!」
名無し「勿論。でも オレは最後まで主の意思に基づいた行動しか取っちゃいないんだぜ、恨むなよ」
天使(この男を恨むのがお門違い? 戯言に頭が割れる程 怒りを覚えた。ならばあの人の痛みは誰が齎したのか)
名無し「簡単だろう。全部アイツが自分で勘違いした道を走り続けたからこその始末じゃないか」
天使「あぁん!?」
名無し「自業自得とでも言えば、納得してもらえるか? そもそもお前と出会った時点で奴は裏側に片足を突っ込んだんだぞ」
名無し「覗く必要もなかった月の裏側だ。常人が知る余地もないブラックボックスを抉じ開けたからこそ……矛盾が生じた」
天使(その意味とは、幸福を追求せざるを得ない状況を蹴ってまで未知を追ったあの人が証明となるのだろう)
天使(男くんは終始色惚けているべきだったのだ。己を取り巻く環境に疑問を感じず、祭り上げられ、理想を胸に死ぬべきであった)
名無し「何の為に施した『難聴』なんて仕掛けだ? アレの過去を反映した産物なんて神の苦しい言い訳に過ぎない」
名無し「あえて 遠ざける為に用いた処置だろうが。……それを、あの女が壊したことで 神を揺らがせてしまった」
天使「違う……そんなの……」
名無し「理想は理想であるからこそ尊くて、夢見がちになれるな。いいか? もう後戻りできないぞ」
名無し「オレも お前も、他の連中だって同じだ。みんな巻き込まれた。……姉さんは奴を排除することで維持を狙ったが」
名無し「どう足掻いても遅すぎる……よく見ろよ、ガキ。お前のオヤジが世界の行く末を決める選択者であることを」
天使「う、あ……」
天使(世界がもう持たない。その限界が訪れた。私の小さな掌に ノイズが走る。世界共々に消去されるのだ、と)
名無し「……オレたちが存在できるのはこの場所だけらしい。奴が次に否定すれば、二度と修復される事なく全員仲良く無になる」
天使「……」
名無し「オレはそれを心から望んでいた、主の意思から男の記憶を際限なく削って復旧を願っていなかったワケでもないが」
名無し「あの時 姉さんがこれ以上奴に余計な事をして、何かしでかしてしまう前に消してやれたら……あんなに感情的になったのは初めてだ……」
名無し「主と決別できた事で、怖いと思えた……感情だ、オレが憎悪の次に覚えた感情は恐怖だった……」
名無し「……なぁ、オレは破滅願望なんてくだらないと考えている。消えたくない」
天使(震える体を自らさすって恐怖を静めようとした名無し。飄々とした態度の化けの皮が剥げれば、やはり人間を模倣した何か)
天使「――――自分は、私は、破滅とか難しいことわかりません。だけど 男くんがこのまま苦しいよ、苦しいよ、と悶え続けるのなら」
天使「二度と、全部無かったことにできないのなら……」
天使「ここから あの人を 追放してやりたいと思うのです!!」
名無し「……ダメだ、話にならない。自分が言った意味を理解しているのか? 糞ガキめ」
名無し「アイツがいない世界に存在意義なんて一片も無くなるぞ。つまり オレたちは用無し、消えるんだ」
天使「消えねーです。ううん、たぶん生き続けられると思うのですよ」
天使「男くんの中で……こんな不確かな箱庭で一日一日を送るより、ずっと有意義に代わるんじゃないかな」
天使(儚いよりも意味のある足跡を残す方法、お父さんを生かして帰すのです)
男(ーーーー閉じた瞼をおもむろに開き、急かす事もしなければ 沈黙を保ったままの彼女へ眼差しを向けた。実直に)
オカルト研「心が決まったみたいね」
オカルト研「こんなに綺麗な瞳をしている。きっと後悔も生まないわ、私が保証する」
男「・・・・・・なぁ、お前は何者なんだ? とか尋ねるのは野暮かもしれないな。それに俺もせっかく決めた覚悟を揺らがせたくないし」
男「チッポケだとからかわれても、アホだと罵倒されようと、この気持ちに嘘はない。俺のやり方は最初からいつだって」
男「妥協しない、なんて」
オカルト研「そう・・・・・・じゃあ諦めない不屈の精神の持ち主くんは、これから何をしてくれる?」
男「文化祭の準備に戻るんだよ。あー、ダルいダルい。どうせまたクラスの奴らか文句言われるんだろうな・・・・・・」
オカルト研「[ピーーーーーー]」
男「おい、何やってるんだ? オカルト研もさっさと後ろ着いてこい」
オカルト研「えっ? ・・・・・・この私を連れて一体どうしようと、まさかエロスをたっぷり醸し出すサバトの儀式的な行為を」
男「相変わらず妄想振り切ってるな、お前」
男「違うだろ。アイツらに謝りたいと申し出たのは誰だった? みんな心配してたんだ、お土産代わりに良い面見せて来い」
オカルト研「男くん、私は・・・・・・」
男「俺の前に無防備で現れたのが運の尽きだったな、大人しく観念してもらおうかね?」
男(待ちに待った文化祭を目前にと浮き足だったモブたち、目に悪い色した手作り感満載の装飾が校内を延々と飾る。そんな中を堂々歩ける)
男(個人が想像する至高の幸せとは何か。今更テーマを立てて悩んでみるのは煩わしいが、俺はいま胸を張って歩いている。『気持ちが良い』じゃないか)
男(楽しいが渦巻く世界の中、こんな小さな喜びを見出だせたことに余裕を感じさせた。最近はノイズでしかなかったモブ生徒が起こす騒音も軽快に思え、ここにいるリアリティを無償で与えてくれている)
男「恵まれてまだ求めるのって貪欲な自分カッケーの演出気取りだったが、所詮 甘えだな」
オカルト研「それ、私に言ったの?」
男「バカめ、俺がいきなり失礼を吹っ掛ける奴か? そうじゃない。自分自身に言い聞かせたくなっただけだ、気分で」
男「・・・・・・なぁ、オカルト研。俺色々悩んだよ。悩んで悩んで、悩みきって、答えも見つけられないまま空気みたいに流されっぱなしだった」
男「どうせ上手く決着つけられるって無理矢理自分に言い聞かせてな、トラブルを先延ばしさせて・・・・・・とりあえずこの場所に執着できていれば、それで良かったんだって」
男「終わりさえ迎えなければ、十分なんじゃないかって」
オカルト研「・・・・・・終わり。生を全うする者 誰しも自らの終わりなんて想像したくないわ」
オカルト研「死って人生のゴールだもの。自分が上手くいってる時には敬遠したくもなる。無に帰るのだから」
男「俺・・・・・・実はまだまだやりたい事あるかもな、って・・・・・・!!」
男「ここでも、ここじゃない別の場所でも、心残りみたいな・・・・・・・・・・・・すまん。もう行こう」
オカルト研「気にしないで欲しい。私はやっと男くんの本音を聞けて嬉しいのだから」
オカルト研「気にすること、全然ないわ」
男「散歩してたら偶然拾ったから連れて来てみた。俺たちが作った芝居に興味あるらしい」
男の娘「ぞ、って何他人事みたいに言っちゃってるのさ 男!?」
男(当然と言えば当然の反応である。男の娘と転校生は俺の背中に隠れるオカルト研を見て目を丸くさせまくりんぐ)
男の娘「オカルト研さんなんだよっ!? どど、どうして・・・・・・!!」
転校生「説明して。適当にはぐらかそうとしたって私たち納得できないわ、男」
男(俺とて、偶然、は間違った事を言ったワケではないというに。あーだ こーだと言い訳を模索していた所、オカルト研が)
オカルト研「退学する前に一目かつてのお供たちを見ておきたかったと何故察しない?」
男「は」
男(思考停止へ追い込みを掛けてくる発言であった。俺が頭を抱える中、他の二人は受け止めきれないと 背後の彼女へ飛び付くのである)
転校生「ま、前々からどうかしてるって思ってたけど、どうかしてる!! バカじゃないの!?」
男の娘「そうだよぉ! 嵐どころのレベルじゃないっ、荒らしだよ オカルト研さん!? どうしたの!」
男「お、おい・・・・・・今のは俺も初耳なんだが」
オカルト研「ごめんなさい。だけれど他に償いの仕方が思い付かなかった」
男「償いだ!? ふざけるな! そもそもの原因はーーーーーー・・・・・・あっ」
男(この場の転校生はともかく、すべて名無しに責任があると謳ったとして 誰が 信じる材料と汲み取れるだろうか)
オカルト研「別に、引き留められたいと考えてわざわざ忌まわしい地に再び訪れたんじゃない」
オカルト研「私はここへ今日決別をしに来ただけ。二度と会う事はないわ、その他大勢さん」
転校生「待ちなさいよ・・・・・・あんた、あんなに大好きだった部活も捨てるの? 逃げるの!? 自分がやらかした事から!?」
男「転校生! 違うよな、オカルト研。照れ隠しのつもりでつい余計に口滑らせちまっただけだよなっ?」
オカルト研「元々、父から財閥の後継に指名されていた。この学舎では学べる範囲が狭すぎる」
オカルト研「色々あなたたちには迷惑をかけたわ。何もかも父への反発心が起こした私の迷い、どうかしていた」
男「どうかしてるのはお前の方だぞ、オカルト研!! (これで良い。不意に交わった彼女の瞳は訴えていた。まるで俺の動揺すら計算尽くで、読み通りなのだと)」
男(・・・・・・オカルト研、彼女が再復帰するには状況が悪化を辿る一方であった。故に身を引く選択)
男の娘「こんなの絶対おかしいよ。変だよ。僕たち分かり合う前にお別れしなくちゃいけないの? 何でだよ・・・・・・」
オカルト研「愚問だわ。なるべくしてなった、勝手に私を友情ごっこの駒の一つにしないで」
転校生「うそよ、寂しいだけじゃない・・・・・・そんなの」
オカルト研「・・・・・・・・・・・・わ、私、は」
オカルト研「これ以上、耐え切れそうにないから」
男の娘「え? ご、ごめん、いま何て言ったの? よく聞こえ」
オカルト研「ーーーーーー男くん あとは任せるわ」
ここまで
ヤケクソでPS4使って書いてみたがどうだろう?何か問題あれば教えてくんさい
男(捨て台詞を最後、オカルト研は走り去るでもなく、二人から隠れるようにこの情けない背中の裏ですっかり小さくなり、額を当て俯くのだ)
男(そうか、ならば『任せる』の意味は。男の仕事の八割は決断であり、残りはおまけみたいな物だと誰かが言っていたのは記憶に新しい・・・・・・一本筋、通させて頂く)
男「少なくとも俺は反対派だからな、オカルト研」
男「俺だけじゃないぜ。他の奴らだってお前がここから去って行くのを黙って見送ったりしない。そうだろ?」
転校生「当たり前よ・・・・・・いつでも人を強引に振り回しておきながら、こんなのってズルいんだから」
転校生「しっかり私たちと向き合ってよ、オカルト研さん。じゃなきゃ一生恨んでやるわ!」
男の娘「うわっ、さ、サラッと怖いこと言わないで! でも僕も男や転校生と同じ意見。僕ら、まったく知らない仲ってわけじゃないんだもん」
男の娘「うーー、あぁ~~じ、実は正直苦手なタイプだと感じてたけどさ!! それでも僕 オカルト研さんとの付き合い方、段々わかってきた気がするんだ! え、えへへ」
転校生「ねぇ、私たちと友達でいるのは不満? オカルト研さん」
男「・・・・・・この質問ばかりは、俺任せにも無理があるんじゃないか?」
オカルト研「・・・・・・怖いわ」
男(震えた息とともに吐き出された短い言葉、どれほどの感情が凝縮されていたのだろう。俺という盾を通し、彼女は囁くように続けるのだ)
オカルト研「昔話よ、つまらないけれど。私に友人と呼べる人は少なかった。少なかったけれど、それでも満足はしていたの」
オカルト研「でも、結局アイツら。愚かしいわね、気づいた時にはもう遅い。私は体良く扱われる便利なATM代わりでしかなくなっていた」
男の娘「そんな・・・・・・」
オカルト研「家が何? お金持ちの生まれだから? 違う、人から肯定されたいと願った私の弱さが唯一の原因」
オカルト研「自分が生まれ持った特別を利用して勝手に孤独に成り果てたのは、この私」
男(タカられた過去があると話には聞いていたが、彼女は他人よりも自己の否定に基づいた思想感に囚われていた。俺が見る美少女の中ではトップクラスの危うさを誇っているだろうか)
オカルト研「寄り添おうとする事こそが、悪。肩を寄せ合おうとすればするほどに、私の中にある穢れは増していってしまう」
転校生「それじゃあ部活にわざわざいる理由がわからないわ。現に交流深めてたじゃない・・・・・・矛盾してる」
オカルト研「ふフ、彼らが持ってる趣味へ対する熱意は純粋で本物よ。利害の一致がもたらしてくれた関係は、こんな私にとって居心地が良い」
オカルト研「・・・・・・だけれど、あなたに。男くんに出会ったわ。男くんは好き、何よりも私自身を見ていてくれる」
男(いつのまにか腰に回された彼女の手が、強く俺を抱きしめていた。何が彼女を惹かせたというのか?ロマン抜きで 主人公補正である)
オカルト研「こんな気持ちは初めてだった。こんなに誰かを[ピーー]おしいと感じたこともなかったもの、夢中に追いかけてた」
オカルト研「追いかければ、追いかけるほど邪魔な小バエが次々沸いて出て・・・・・・あなたたち 私にとって鬱陶しいだけでしかない筈なのに、それなのに」
オカルト研「・・・・・・お、お願い。私にもう優しくしないで」
男の娘「な、何さそれ!?」
オカルト研「っー・・・・・・!」ガタガタ
転校生「・・・・・・怖いのは、私たちとの距離が狭まっていくあなた自身? それとも」
転校生「今を またいつか失ってしまわないか、不安?」
男(背後で震えるオカルト研へ転校生が一歩一歩ゆっくりと歩み寄り、遂には膝をついた彼女を優しく包み込む。赤子をあやす慈愛に満ちた母の如く、さながら女神を彷彿させる絵図がここに)
オカルト研「嫌・・・・・・いや・・・・・・!!」
転校生「一人ぼっちになるのが嫌だったね、人と寄り添うのが悪いなんて寂しいこと言わないで。もう大丈夫よ」
男の娘「・・・・・・男、僕はオカルト研さんみたいな難しい考え方できないよ。何だか平凡に暮らしてた自分が間違ってたかなって」
男(それは己を取り巻く環境や性格次第なのではないかと自問自答だ。転校生の胸の中、床へ点々と涙を溢す彼女を見つめ 打ち明けた物語の真意を 噛み砕き、受け止め、俺だけが解釈していた)
男「オカルト研」
転校生「あー バカ変態、お願いだから今だけは余計な声かけないであげて? 話は後で良いじゃない」
男「うるさい止めるな。オカルト研、孤独が恐ろしいんじゃないんだろ。お前は自分の目に写る、何から何まで、尊い物が消えて無くなるところを見届けたくないんだ」
オカルト研「・・・・・・」
男(好意の対象を除けば虫けらのようにあしらうオカルト研。その心は自ら黒歴史を戒めるべく誓って立てた礎が動かした自動防衛本能。本来誰にでも分け隔てなく優しい美少女であった)
男(彼女は、俺の『選択』を知っている。その『選択』によってこの世界が辿り巡る行く末も。彼女は、なし崩しでここまで俺へ着れて来られたわけではなかったのだろう・・・・・・遠からず、この幸の箱庭は)
男(ーーーー彼女はオカルト研として、隣人たちへの決別を伝えようとしている)
オカルト研「[ピーーーーーーーーーーー]」
男「退学の意思は変わらず、か?」
転校生「えっ!?」
書いた文章が何度も消えると笑うしかねぇ
ここまで
男(女子に対して女々しさを説く気はないが、オカルト研は俺や美少女たちから別れを惜しんで貰うつもりは無いのだろう、か)
男(足らぬ頭で推測を立てよう。こうして直接今生の別れを伝えに現れたのは、何も引き止めて貰うことが目的ではなかった。ならば潔く黙って去ればと? 否)
男(自分を押し殺すことが出来なかったそのワケは、今しがた彼女が語ってくれた昔話のヒロインが答えてくれていた。情に薄いと誤解されがちであった、かの美少女が)
男の娘「か、考え直そう! 一時の迷いで止めちゃっても、後悔した時にはもう遅いんだよっ?」
男の娘「僕や男、転校生さん。そ、それから不良女さんだって! オカルト研さんの力になるって約束するから、ねっ!?」
男「どうした? やけに粘るじゃないか (酷い事を思うようで心痛むが、彼の性格上 恋の競争相手が少しでも減るのを喜ぶ場合がある。これすらあざとい演技である・・・・・・と、簡単に嫌な癖は治ってくれないものだ)
男の娘「あ、当たり前だよ!! だってオカルト研さ・・・・・・う、ううん」
男(何、どうしちゃったの 男の娘きゅん。今の意味深く受け取れた妙な間は。性分で突っ込み入れたいが、場をややこしくさせそうな展開が潜んだ予感しかない。つまり、スルー)
転校生「男の娘くんの言う通り、今すぐ決めないで話し合ってからでも遅くはないんじゃない?」
男(なんて、あくまでも右倣えを貫く転校生も転校生だ。彼女らしい振る舞いであると言われてはそこまでだが、恐らく離脱を望むオカルト研の気持ちを知らないワケでもなかろうに)
男(ーーーー創造の物語で不自由なく暮らしていた美少女キャラたち。ある女子は設定を受け入れ 終着までを『変わらない自分』として生きることを誓った)
男(そしてまた、ある女子は 自らを取り巻くもの、メタに疑念を抱き、ほどなく訪れる オワリ を 恐れ、逃走を選んだ)
男(神すらも是非など問える筈がない、だからこそ 最後として、オカルト研は俺へ自身の辿る選択を委ねた。俺からの注文は 否が応でも 通すつもりか、オカルト研)
オカルト研「・・・・・・[ピーーーーー]、[ピーー]」
男「そうだな、わかったよ。オカルト研」
男(そういえば、オカルト研の難聴フィルターは解いていないままだったのだな、と 今更ながら思い浮かべた。しかし、それにも関わらず彼女の言葉を理解できた俺は何だというのだ)
男(ふむ・・・・・・勘違いというオチよりも、今は気休めで構わない。この奇妙な感覚の正体を正当かするならば、そう)
男「(心で、理解した)本当なら俺とお前二人切りの場面で言うべきじゃないかって、少し照れ臭くもあるが、伝えようと思う」
転校生「・・・・・・」
転校生(私の腕の中にあったオカルト研さんが、ゆっくりと離れていく。小さく咳払いした男は、今だけは、と私たちに釘を刺したかのように思えて仕方なかったわ)
転校生(言い渋るアイツの表情は、これまでのどんな時よりも 真っ直ぐで、大人びてたかもしれない)
男「行かないでくれ。寂しすぎる」
オカルト研「・・・・・・」
転校生(あぁ、やっぱり。その言葉を待っていたんだ、って 疑る前に彼女の様子はあるがままを現していた。それでも口許は決して綻ぶ事はなかったけれども)
男「前々からオカルト研には好かれてた自覚もあったんだが、いつも俺が好意に甘えて楽しんでかもしれん。多分何度もやきもきさせてたんじゃないかと思っている」
男「お前がやけに積極的に攻めてくるものだから、俺も素直になれなくて、毎回誤魔化してたことは謝る。悪かった、オカルト研」
オカルト研「気にしないで。私こそ あなたの迷惑も考えず形振り構わないで馴れ合おうとしたわ。[ピッ]、[ピーー]を隠し切れないあまり、に///」
オカルト研「甘えていたのは私も同じ・・・・・・依存してたの。私の中で[ピーー]の存在は日々[ピーーー]なっていってしまうばかり」
オカルト研「たとえコレが報われない[ピー]でも構わない、私が男くんの日常になれたら良いなと願い続けた。・・・・・・そして、頷くわ。行かないでと[ピーー]が望むのならば」
男(俺の真の目的は? ハーレムだ。すべての美少女を集らせて酒池肉林・この世の楽園・欲望を満たすべく行動してきたのだ)
男(では、すべからくこの俺がやるべき事とは。人よ、本能に忠実であれ。野望とは叶えてなんぼ、男の子に生まれたならば)
男「屈服したな? 遂に服従まで誓ったな、お前」
オカルト研「えっ」
男「お前は俺が望むことを正しいと納得して、頷くんだろう (ここに自我なんて物は無くて 意思は意味を持たない無価値と変換される)」
男(決断を他者へ委ねるという行為は、自分を殺すに等しいと俺は好きに解釈している。すなわち彼女は俺に忠実であろうとする人形に成り下がった)
男(好意ある人間の声ならば意思を曲げるのだ、見方を変えれば健気な薄幸美少女。違う、自称薄幸美少女である。その輝きを一気に鈍らせる)
男「都合の良いように振り回されても、俺になら・・・・・・なんて考えるのか?」
オカルト研「わ、私は男くんに任せたかったっ・・・・・・!」
男「昔と変わらないまま 自分から逃げたいだけだろ?」
オカルト研「っー!!」
転校生「こ、このっーーーーーー・・・・・・大事な言葉ぐらい、選びなさいよ」
男(選んだとも。俺は俺の信念を曲げるつもりはないぞ、転校生。誰にだってゲームの進行で攻略する美少女には好みがあるだろうが)
男(何処までも自分に都合が良いキャラクター、大いに結構。だが 何かを言い聞かせるたび不安の色を纏われてちゃ鬱陶しい限りじゃないか)
男「俺は行くなとハッキリ反対したが、どうだろう オカルト研」
男の娘「・・・・・・オカルト研さん」
男(献身を理由に身勝手を許す度量はこの俺にない。気は長いと自称しようと、取って付けたような後付けに揺らぐ優しさも持ち合わせていない)
男(俺の後ろをついてくるならば、好きにしろ。悪いが俺はお前を見ない。理由なんぞたった一つでシンプルである)
男「(お前は選ばれなかった) 今後の付き合いに関しては一切保証する気はない。これが俺から提示するお前が持ち掛けた提案に対する条件」
オカルト研「[ピーーー]・・・・・・」
男「以上、どう思われようと関係ない。俺の日常は俺が選ぶ。そっちはそっちの好きにしろ、俺は好きにしたんだから」
男(これは熱い説教じゃない。ツンデレ染みた訴えであるつもりも、無い。自分が選び、進む道を振り返ったケジメの押し付けである)
男(ここまで来て媚を売る必要があろうか。好感度を気にしてやる事があろうか。美少女ハーレムなんぞ俺の好みでいつでも左右される)
男(ならば すべてを愛し、すべてを繋ぐのが正解ではない。己の欲望に忠実であろうとするあり方こそが筋だ)
男の娘「やっぱり男は・・・・・・ううん、そうじゃない、おかしいよ! 男を頼ったオカルト研さんがあんまりじゃない!!」
オカルト研「男くん、あなたの言い分はきっと間違いじゃないと私は思っている」
男の娘「間違ってるよ!! 素直になっていい事と悪いことだってあるっ、オカルト研さんは」
オカルト研「結局、優しさに甘えようとしていた私が優しさに跳ね返されてしまっただけだった。非情だなんて感じないわ、だって」
オカルト研「男くんは 最後まで 私の本当の声を聞こうとしてくれたんだもの」
転校生「・・・・・・大丈夫?」ギュ
オカルト研「さよならする勇気をもらった。だから、平気」
男(距離は縮まれど、縮まれど、遠いと感じられた出来事もある。俺にとって今日は様々意味を持した格別を与えてくれた、他ならぬ彼女が)
オカルト研「男くん、聞いてくれる? 私やっぱり逃げるわ、自分の意思で。ここで言うのは憚られるけれど どう足掻いても耐えられそうにない」
オカルト研「責めるつもりはない。男くんが選んだことだもの、世界の行く末は最初からあなたの自由。例の悪霊は・・・・・・」
オカルト研「・・・・・・克服したみたい、男くん自身の手で。もうあなたを陰から見守らなくても大丈夫みたい」
男「やれやれ。陰っていうのは何の冗談だ? オカルト研」
オカルト研「ふふ、何だって良い。私はこれからもあなたの幸福を祈っている。だから、どうか最後まで諦めないで欲しい」
オカルト研「どこまでも追い求めて、男くんだけの・・・・・・・・・・・・!」
男「あいよ」
男の娘「・・・・・・文化祭、一緒に楽しみたかった。僕たちもっと長い時間いられたんだ。なのに、こんなの」
オカルト研「じゃあ どうすればキミが満足したのか教えてくれないかしら」
男の娘「そ、そんなのっーーーーーーーーひぅ!?」
転校生「ちょッ!! えぇぇ~~~~っ!?///」
男の娘「・・・・・・ち、ちゅー・・・・・・され、ちゃった 僕・・・・・・・・・・・・お、男ぉ~///」
オカルト研「・・・・・・友情表現としては過激すぎた。でも」ペロ
男(男の娘ノンケ説)
男(俺はまた一人の美少女を手放した。不穏な空気は丸く収まったように思えても、この事実を受け止めねばならない。泣いても笑っても 彼女の意思を尊重した結果なのだから)
男(オカルト研曰く、これ以上は別れを告げて回るつもりはない、後はこのまま静かに去ろうというのだ。俺たちとの連絡も完全に絶つ、そうだ)
転校生「せめて不良女ちゃんぐらいには最後に顔見せてあげたら? 本気であなたの事心配してたもん。一生懸命探し回ったりしてたわ」
オカルト研「余計なお世、暑苦しい人なのね 彼女」 男の娘「えっ、わざわざ言い直す必要あった!?」
オカルト研「私とはまるで真逆の人よ。不品行であるなら獣らしく動物園でチンパンジーの群れと戯れているのが相応しい」
男「アイツ お前の親の仇か何かかよ」
男「でもな、アイツだって普段から友達だ仲間だと張り切る奴じゃない。どちらかと言えば興味がなければドライな方だと思うんだが?」
オカルト研「・・・・・・そう、そうなの。始めて親近感が沸いたわ」
転校生「ちょっと待ってて! いまここに呼び出すから。すぐに駆け付けてくれると思うわよ」
オカルト研「やめて、頼んでいない」スッ
オカルト研「もう会う必要はないと言った。あとでどう悪く思われようと、お願いだからこのまま行かせて欲しい」
転校生「け、けど、最後のお別れにしたいなら尚更じゃない? 行き過ぎた真似してたとしても私は」
男「別に良いんじゃないか。本人が決めたことだし、俺たちが余計な気を回したところで 何か違うだろう」
男(本音としては、幼馴染にだけは真面目に彼女の前で頭を下げてもらいたかった、が 要らぬことを言うところだったみたいである)
幼馴染『メール本文:さっきオカルト研さんがウチに来てくれたよ。怪我させたこと謝りたかったみたい。高そうなメロン頂いちゃいました~♪』ピロン
男「やれやれ、こういう所ばかりトントン拍子で進む・・・・・・」
男の娘「男 どうしたの?」
男「気にするな、何でもない。おい、学校側にはまだ説明してないんだろ? まさか今日お前だけで済ませようとか考えちゃいないだろうな」
オカルト研「流石にそれは無理。これから家に帰って両親と話し合うわ、決定するまでは相変わらず自宅謹慎で大人しく過ごすつもり」
男の娘「そ、それなら今日をお別れにする事なんてなかったじゃない!? やっぱり気が早すぎるよ!」
男(薄ら目に涙を浮かべて抗議する男の娘を気にかけた、と言うようにオカルト研は寂しげに笑った。順に転校生、そして俺へ視線を写して行き)
オカルト研「名残惜しさに足を掴まれて、最後の瞬間を私は悔やみたくないわ」
転校生「あの、ずっとさっきから言ってる最後が何の事か知らないけど、奇跡とか、起きてくれるかもしれないんじゃない?」
オカルト研「奇跡は何度も起こらないから奇跡。転校生さん、あなたこそ今後の事をよく知ってるはず」
転校生「!! ど、どうしてオカルト研さんが・・・・・・えっ、と」
男の娘「何の話? 転校生さん? 顔、なんだか青くない?」
転校生「気のせいっ!! き、気のせいだからっ、ほら! 私すっごく元気よ! ねっ!?」
オカルト研「彼女の調子も良くないみたいだから、ここまでにしておくべき。貴重な時間を私の為に有り難う」
男の娘「うぅ・・・・・・ほんとうの、本当におしまいなの? またいつか会おうよ。またみんなで一緒に遊びに行こう・・・・・・?」
オカルト研「ええ、そうね」
男(小指をおもむろに差し出す男の娘と契るオカルト研。これが約束以上の約定となれたらと切に想う。ハッピーエンドを望むのは傲慢なのか? 神よ)
オカルト研「男くん 外までエスコートしてもらえないかしら」
男「何だよ? 急にお嬢様気取っちゃって。小っ恥ずかしいな」
男(あえて頬を掻いてみせながら手を取れば、前髪の向こうに隠れた可愛い顔がようやく綻んでくれた。まったくやれやれである。俺の方が気持ちを揺らがしてしまいそうになるではないか)
オカルト研「私は男くんから初めてを奪われた、覚えてる?」
男「ぶっっっ!!」
男「い、一体何の話だよ!? 俺がお前の、何!? ハァ!?」
オカルト研「ここ、ファーストキスされてしまった」クスッ
男(いやいや待て、わざわざプリっとした唇をアピールされてもまったく身に覚えがないぞ。いつだ? 記憶よ 甦れ、起きろ不思議なことよ)
オカルト研「ほとんど偶然に近い形だったけれど。男くんからしたら事故かしら」
男「あ、ラッキースケ、ゲホンコホンッ!! そ、そんな事もあったなー・・・・・・」
オカルト研「ふふ、他にも男くんは私の初めてを何度だって奪ったわ。そうね、諸々の責任 どう取って貰えば」
男「お、おい! このタイミングで何をバカなーーーーーーんぐぅ」
男(一瞬の出来事であった。首元のネクタイを掴まれた俺は為す術なく、引き寄せられ、オカルト研の不意打ちにしてやられた)
オカルト研「ん・・・・・・///」
男(想像を容易く越える唇の感触に触れ、鼻息は荒ぶる一方、この様な人目につく場所で他の美少女に見つかってはと、未だご健在な働くこのいやしい心。やんわりと彼女を押し返そうとすれども、その力は強く、そして)
オカルト研「っむ、ふ・・・・・・ぁ・・・・・・にゅ///」トロ
男(舌ァ!!)
男(にゅるりにゅるりと穏やかさを破壊する暴力的にも感じられる異物の口内侵入。蹂躙されよと俺の中を漁り、粘膜を擦り合わせてくる。い、息、鼻息、が、ふぉおおおお!?)
オカルト研「っはぁ! はぁー、はぁ・・・・・・ここまで、よ・・・・・・///」
男「あ、あっ・・・・・・!!」
オカルト研「責任を取ってもらう代わりに堪能させてもらった」
男(言い返す気力を起こすより先に、壁へ背を付いたまま俺はズルズル床へとへたり込んだ。見上げれば色気を感じさせるほど赤く上気させたオカルト研が、唇を一舐めし 恍惚とさせていたのだ)
オカルト研「ごちそうさま、男くん」
男「じゃ、ねーよ!! するならするって事前に教えてからやれっ! 言われても困ったけれども!!」
オカルト研「ごめんなさい。だけど、これで唯一の心残りをやっと晴らすことができた」
男(言い終えるとオカルト研は俺に近寄り、手の中にリボンの付いた包装紙に包まれた何かを持たせてきた。尋ねてみると)
オカルト研「あの目付きが悪いお節介焼きに渡して。言い残すことは何もない、けれど」
オカルト研「・・・・・・立てる? 男くん」ス
男「誰のせいで腰抜けたと思ってるんだ、っと!」ググッ
オカルト研「さぁ、ここを抜けたら本当のお別れ。見慣れた学校の中も男子トイレも今は狂おしいほど素敵に思えたわ」
男「男子トイレに感動を覚えるのは台無しすぎるだろ」
男「やれやれ、なぁ オカルト研。お前みたいな変わり者はこの先二度と拝めないんだろうな」
オカルト研「当たり前よ、私は唯一無二の存在なのだから。そんな私をあなたは最後まで手中に収めなかった」
男(・・・・・・ダメだ、堪えろ俺)
オカルト研「さっきの気が晴れたって言ったこと、ウソなんかじゃないの。あなたの思い出になれた気がしたから」
男「バカだなぁ、あんな激しい事されなくても簡単に忘れられるようなキャラしてないんだよ。オカルト研って奴は」
男「いつもお前は俺の予想斜め上を行くことばかりやりやがる。だから、本っ当に 特別な、変わり者だ、マジで」
オカルト研「気に入ってもらえてて私も良かった、フフ」
オカルト研「ここを出たら私何があっても振り向くつもりないわ・・・・・・もう男くんの顔を見ない」
男「あ、ああ、そうか。その方がいいぞ! こんなブサイク面はもう御免だろう。それに」
男「振り向いたらもっと酷いブサイクな面してるだろうから、もう 見ない方がお前の為だ! ほら、行け・・・・・・!」
男(この手が繋いでいた時間は、切り離された。躊躇いを気づかせそうな彼女の足取りは、次第に前へ前へと別離の一歩へ変わって行った。これで)
オカルト研「・・・・・・ばいばい、私の[大好きな男くん]」
⇒ 美少女 オカルト研 が 攻略対象から 外れました。
(記録:人間である証明とは何か?)
(感情。他者及び物事等、周囲へ対して抱く意識の動きとする。人の情とは天候のように気まぐれであり、環境や生まれ育ちに左右されるとする)
(犬猫と人間、動物としての彼らを分けるとするならば、感情の有無とする。個体別による思考パターンをここでは考慮しない)
(人間。目下に広がる肥えた下界を我が物顔で闊歩する、その数の多さから生物として非常に成功した部類である。多い、人間は溢れている)
(人間は成長過程において、恋を知る。後世へ彼らの血を残していく為に名付けられた、生殖活動を正当化させた名称とする)
(数多の生物同士の中で、雄と雌が出会い、生殖のパートナーを組む。では、動物である本能に従うことが特定の何者かを選択させるのか?)
【ーー後述:仮説。人間の恋とは、自らが持つ感情に大きく作用される】
(主の命によって再び人間の雄の監視 及び 仮特殊型オトシゴによる業務遂行の手助けを任命された。今回のテーマは“恋愛”である)
(例に従い、偽装世界へ暫時身を置く。両対象への接触行動は回避が望ましいと判断・・・・・・疑問。我々の身体は何故人間に類似しているのか?)
(彼らと寄り添う為にとは想像し難い。この身体を偽りであり私とする器へ選択したのは、他でもない主である)
(模した身体に宿れど、人間では無い。我々は、何者になることを許されない不確かな存在とする。ならば、この器に意味はありえないのか?)
(意味・・・・・・。我々とは・・・・・・)
(人ならざるモノは、永遠に感情を理解することは不可能か?)
(人間に倣い、ここに手記を残す。しかしながら、あえて他媒体へ記録する行為に無駄を思う)
名無し「ーー寂しい背中じゃないか。お前にはあの女を追い掛けて抱きしめる権利があるよ?」
男「・・・・・・人の恋路を盗み見られてたまるものか」
名無し「やー、オレの目はついお前ばっかり追っちゃうんだなぁ。何処にいても」
男(哀愁の余韻も最中、土足で踏み込んできた奴がいる。下駄箱付近なだけに、とか 寒い事考えもしたが)
名無し「オイオイ、嫌な顔しないでくれ! オレは男を慰めに来たんだぜ? 気分どう?」
男「最悪に決まってるだろ。一々訊かないとわからないのか、残念だな」
男(コイツには俺を癒せやしない、否、俺が徹底して癒させないのだ。名無しも俺が挑発に乗って食って掛かるのを想定したような素振りだ)
名無し「じゃあ、あの女がどうして正気に戻ったかの話をしよう。気になってたんだろ? 慰め代わりになる」
男「いや、去った後となればどうでも良い。少なくとも決別しようとしたオカルト研の意思が偽物じゃないって事は」
名無し「黙って聞けよ、死に損ないの屑。死ね」
男(本性を暴いてから発言が辛辣に変動しすぎだろう。が、仮面が剥げた剥げていないの状態の区別がしやすくはある)
男「後輩にやられた時にお前の洗脳能力みたいな不思議パワーが解けたんじゃないか? ありがちだけど」
名無し「だから、静かにオレの話を便所の穴みたいな口塞いで聞けよ。死ね・・・・・・」
男「だから、口悪いって」
名無し「死ね」 男「すまん。条件反射で突っ込みたくなるんだ」
名無し「前にも話したが、アイツらはお前が失った過去同様にその記憶を受け継がないまったく新しい別物だ」
名無し「洗脳、どうこうは置いておくとして、オレの支配下から仮に逃れたとしても」
男(これまで俺たちと築き上げてきた思い出が甦る事はありえない、らしい。これを凄まじい奇跡だと熱く語ろうとすれば、名無しは苦虫を噛み潰したかの如しよ)
名無し「奇跡は低脳な人間様が思い付く都合の良い解釈だな。オレたち側からすれば、一種のバグだ」
男「だったら早急な対処を、とか提案しても無駄だって言い返すのか? 名無し」
名無し「そうだ。いいか? 死神が介入している線は、もうあり得ない。アイツはこことの干渉を完全に拒まれた」
男(誰に? 察することもなく、あのテンプラという機械仕掛けの神によってであろう。やれやれじゃないか)
男(何が、奴は、デウスエクスマキナ様だろうか? テンプラ自身が都合の良い終幕をこの場所から追放したのだから)
名無し「オレが残された時間でやるべき事は対処でも対応でもなく、原因の追求だ」
名無し「この世界がもしシナリオ通り消滅して、オレもお前も跡形もなく消えたとしても、死神は同じ“救済ごっこ”を繰り返す」
名無し「なら、その後に関わりかねない不具合の報告と原因を報告してやらないプロテクトはいないだろう?」
男「プロテクト? どうして自分の主でもないあの神に、何でお前が媚びる必要があるんだ・・・・・・っ?」
名無し「証明」 男「へ?」
名無し「名無しが存在した証明、その爪痕を残すには悪くない仕事を見つけただけだって。わからないのか? 汚物まみれのゾンビ野郎」
男(いきなりブ男からゾンビにランクダウンとは思わなんだ)
名無し「その不細工な顔ぶら下げてりゃ、ある意味生物災害、か」
男「おい!! ひ、人を追い払うにも言葉を選べ、言葉を!!」
名無し「・・・・・・気持ち悪いノリだなぁ~、どうしてオレに着いてくるんだ? まだ話の続きが聞きたいか」
男「急に自分の話を振るだけ振ってサヨナラ噛ます奴が何処にいる? この俺を慰める気分とやらは?」
名無し「始めからお前みたいのに持ち合わせてるワケないだろ。コイツ脳細胞死んでるぜー、ご愁傷さまですにゃあ」
男(人をコケにするのが生き甲斐みたいな嫌味たらしい嘲笑だ。俺とて貴重な時間を美少女以外に割くのは苦痛だというに)
男「待ってくれ、名無し。俺はお前のご主人について話がしたいだけだぞ」
名無し「元っしょ? アレは今も一目惚れしたヒーローに没頭したまま。今度はそいつと一つになりたがって、重症患者だな」
男「知って、たのか?」
男「アレが、テンプラが俺にとんでもない話を持ち掛けてきた事・・・・・・い、いや、見たのか」
名無し「さぁ、ベテラン美少女ハンターの男くんはどんな手を使って神様を攻略してくれるのか、見物ですナ」
男「頼むから最低限人の形したのを用意してくれ」
男(テンプラのあの醜さでは文字通り腐ってもラスボスであり、美とは程遠い。そしてだ、テンプラとの接触こそ名無しが部屋から出た理由ではと睨んでいたが)
男「やっぱり、見てたんだな お前・・・・・・だけどな、俺は!」
名無し「厄介者払いが散々ここで良い思いをしてきた奴がやることか?」
男(名無しの台詞に、某有名死神代行漫画チックに驚愕を込めた一言を、呟くより先に彼は続けた)
名無し「退治するのか? 誰よりもお前を歓迎して迎え入れた、祝福してくれた恩人を?」
男「いや・・・・・・」
名無し「誰のお陰であれだけ醜く朽ちられたと思っている? 他人事だと思い込んだまま自分が被害者だって主張したいんだな、男は?」
男「名無し、落ち着いてくれ。俺は」
名無し「ラスボスだ? 逆上せてるじゃないか、まだ自分を世界の救世主か何かと勘違いしてるのか?」
名無し「気が付いてないなら、オレが親切に教えてやるよ。お前自身が破滅の魔王だ」
男「・・・・・・そんな大それた称号、勘弁してくれ」
名無し「裏事情を知らなかっただなんて今更自己弁護したって遅いよなぁ!? お前、全部知り尽くしたんだから!!」
名無し「知らなくて良いことに頭突っ込んで来て、挙げ句の果てに赤の他人に干渉して滅茶苦茶に弄くり回して、踏みにじって、貪って!!」
名無し「テメェの独り善がりがこの有り様を作った結果だなッ!! あぁ!?」
男「そう・・・・・・すまん、返す言葉もない。認める事で責任を負えるのなら」
名無し「本気で責任取れるのかよ!?」
男「取れ、ません・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
男「・・・・・・ごめんなさい」
男(胸ぐらを掴まれてディープなキッスをされた後は、胸ぐらを掴まれて顔中に唾を飛ばされ 怒鳴られる。どちらにせよ、戸惑う)
男(きっと端から見ても情けない姿だったと認識はありつつも、全ての被害者代表に見立て名無しへ平謝る俺だった。プライドなどここにあってならない)
男「・・・・・・協力、して欲しいんだ」
名無し「何に? オレがお前を心底憎んでいた事を知りながら、それでもすがり付くのか!! 大した度胸だっ、死ね!!」
男「恥知らずで構わない! ここまでやったら我を通す覚悟がこの俺にはある、だから!」
男「俺を■■■■欲しい!」
男「他でもない、この俺を本気で憎んで恨み続けた名無しの手で。・・・・・・■して欲しいんだ」
男「■■■を、奪ってくれ。なぁ 親友、最初で最後に俺からお前へのワガママ、聞いてくれないか」
男「この世界が、全員が“幸福”に救われる正真正銘最後の駄策を!」
名無し「・・・・・・やー、その全員の中にお前は含まれているんだな。とんでもない」
名無し「どう足掻いてもお前の独り善がりだったな、糞虫。救いようない鈍感バカだ、周りの声も届いていない」
男「俺は、妥協だけは絶対しない。破滅の魔王? 上等じゃないか」
男「強欲の限りを尽くす魔王に相応しいハッピーエンド、そいつへ引導を渡すのは」
名無し「おい、美少女のハーレムはどうした?」
男「大事な彼女がいる」
「事故なんだってー」
「わーっ、酷い。車グッチャグチャじゃない?」 「あれじゃあ乗っていた人の方がヤバい」
「誰か引かれたのかな」 「ほら見て あそこ、血の跡とか」
「・・・・・・凄惨ですよね。いつもの通勤通学路があっという間に異次元空間に早変わり、みたいな」
「同じ時間、同じ場所での同時事故ですよ。向こうの車の自損事故はまだ分かるとして、片や・・・・・・まるで狙い澄ました様な物でしょう」
「衝突した衝撃でベランダの縁に置かれた鉢植えが落下、それが、なんかじゃあ報われませんがね。あの子も」
「口を閉じろ、重体患者の前じゃないか。搬送先はどうなってる? やっぱり、損傷具合が芳しくない。ご親族には?」
「はい、全て済ませております」
『大学病院へ向かいます。病院側は直に迎え入れ準備 お願いします、これより到着予定時刻は・・・・・・』
「あぁ、副士長さん。彼って高校生ですよね? 制服何か見覚えあるなと思ったら、甥っ子が通ってる学校のだ」
「もう良いだろう? さっさとその口閉じて黙っていろ、何年目の仕事だ。気が抜けてるぞ」
「あの、お言葉ですが、副士長さん」
「ご具合が悪いのでしたら、私 代わります。いえ、すぐ代わってください。様子が変です」
「・・・・・・娘の、彼氏だ」
「は?」
「娘が、あの子が、初めて誰かを連れて来たんだ。後ろ姿ぐらいしかろくに見ちゃいなかったが」
「私には分かるぞ。・・・・・・あの時の。・・・・・・あー 私情は、持ち込みたくないなぁ」
「副士長さん、他でもない娘さんの為にも、彼自身の為にも我々が出来る事を尽くしましょう。きっと間違いありませんよ」
「娘、私の娘か。恥ずかしい限りだよ。何にせよ私はあの子と」
「・・・・・・君の言う通りだ、せめて責任を果たさなくては。職務を全うする事でしか私は、彼女へ、会わす顔がないのだから」
「サイレン鳴らします。急ぎましょう」
ニュースキャスター『次のニュースです。某日未明、○○県××市内で多発事故が発生しました』
通行人インタビュー『うわ、なんか車(事故者)フラフラしてるなぁ~と思ったら信号無視して。電柱にドーンッ!! って・・・・・・』
通行人インタビュー2『音ですよね。大きい音してビックリして振り返ったら煙上げてる車が、えー、怖くなっちゃって』
通行人インタビュー3『声とか出ませんでしたよ。運転してる人、皆無事なのかって心配してたと思います』
ニュースキャスター『車を運転していた○×高等学校所属教師[ピーー]さん(38歳)は死亡。同○×高等学校の生徒、男さん(17歳)は重体の模様です』
ニュースキャスター『警察は、教師[ピーー]さんに関し、死体解剖による・・・・・・』
ニュースキャスター『さぁ、今日のあなたの運勢は? 占いランキングぅぅ~♪』
不良女「ーーーーな、なぁ、あたしに用事って何だよ? や、やんのかコラぁー!?」
男「どうしてケンカ腰だ。まぁ、こんな所に呼び出して悪かったな」
不良女「別にっ!! ぜ、全然、気にしてたりとか・・・・・・おい、まさか[ピーーーーーー]///」
男(先ほどの詫びには紛らわしい真似をしてしまっての意味を含ませた。彼女が想定する胸キュンとは真逆を今から突き付けねばならないのだ、人気がある場所は選びたくなかったのでな)
不良女「[ピッ]、[ピーーー]! [ピーーーーーーガーーーーー]!? ・・・・・・ふへ? 何だコレ」
男(皆まで言わず不良女へ握らせたのは、言わずもがなオカルト研から託された品である。中身を確認するような真似までは外道を自負する俺としても、兎にも角にも)
男「俺も知らん、オカルト研からお前に渡してくれって頼まれたんだよ。誕生日おめでとう、不良女」
不良女「いや、三ヶ月も前に迎えてるし。マジであの陰気女があたしにだって? んぅ~?」
不良女「ネズミの死体、かなぁ」 男「先に好意を受け取ってやれんのか、お前は」
不良女「だ、だって真面目にアイツからこんな物貰える覚えとかねーしっ。何か言ってたんだろ? 隠してないで教えろー、男ぉー」ブンブン
男(包みを縦横左右に振って、中身の音に耳を傾けながら問う不良女。答えても構わんが、その行為は善意となるか、非情となるか。いかん、ただただ苦しい)
男「と、とりあえず! 開けて、みたら良いんじゃないか・・・・・・きっと悪いようにはならないぞ・・・・・・?」
不良女「あ~もぉ~、あんたの口振りからして怪しさMAXだから!! 絶対お前らグルであたしハメようって考えてるでショ・・・・・・はいはい」
男「それは違う!! ・・・・・・あっ、じゃなくて、だな? いや、あの」
不良女「はぁ? つーかなぁ、あたしも暇じゃないの。ガキの悪戯に構ってられる余裕とかーーーーあ?」
男(プレゼント片手に、おもむろにシャツの内ポケットから携帯電話を取り出すと、通話し始めた。話の様子からアルバイト先とのやり取りだと思われるが)
不良女「あ、ゴメン。何かバイト先で急に病欠出ちゃったから今日代われないか~って、あたし どうしたら良い?」
男「第一に俺に訊いちゃうのかよ」
不良女「ぶっちゃけ放課後辺りのシフト任されそうだからさぁ、そうなっちゃ部活の方の準備に参加できなくなるだろ。ていうか、今日だとダルいし!」
男「結論自分で出したじゃねーか、お断りの一択じゃない? 貴重な時間を『お弁当温めますか?』で割くのもアホらしいだろ」
不良女「そ、それもそうだけど、困ってるみたいだったしっ!」 男「普通に良い子か貴様」
不良女「じゃあ、あんたがあたしにバイト行く気無くさせること言ってくれ! 考えるから、多分!」
男「アホみたいな無茶振りホント好きだな!? ・・・・・・了解、一言で諦めさせてやろうじゃないか」
男(こうしてノリノリになれる俺がここにある。だが、俺の目的は手渡したプレゼントへ彼女が再度注目してくれる事。戯れもその前座と変わってくれれば)
不良女「おーしっ!! ドカンとかかって来ーい!」クイッ
男「当日先輩さんから悲惨なコスプレさせられたくなかったら、マジで来い。俺 助けられねーから」
不良女「・・・・・・あ、もしもしオーナーぁ」
男(別名:破天荒の異端旋風、色々省略、“天災”美少女の名を出すだけで片付く始末か。実際やりかねんのがあの人の怖いところではあるが、チョロすぎる)
男(しかし、目的へ誘導させるとまでは行っていない説得だ。俺にも意地がある。出来る事なら包みの中身を拝んで、涙涙のイベントを乗り越えたCGを拝みたいではないか)
男「ていうか、開けてみないか。それ」
不良女「え? あのなぁ、別にあんたに関係ないんでしょ、だったら後でゆっくり自分の目で」
男(ご明察、とはいえ俺には彼女がアレを開封してからを見届ける権利があると勝手に主張する。そしてオカルト研の別れを告げるのだ、収拾をつける尤も最適なアクションだ)
男「俺はいない者として気にせず中身を確認してくれ。悪ふざけなんかじゃない、大真面目にだ 不良女」
不良女「ななっ、何なんだよ!? 急にやり辛くしやがって・・・・・・あぁ~~、もう!!」
男(と、乱暴な台詞回しと裏腹に彼女は丁寧に包装を解いていく。包みが無くなれば、長方形型の白い箱だった。別段大きくもなければ小さくもなく、それは)
男「・・・・・・何だ?」
不良女「何って、さ? どう見てもコレ」
不良女「ただの小さいノートだよ。これアイツの書いた文字? ね、ね~、『ねこのみころん』!」
男「『ネクロノミコン』じゃないか? ノートというよりメモ帳だぞ。いや、スケジュール帳? 違いが分からんが、とにかくは」
男(どう見ても明らかに新品の物ではない、使い古したオカルト研その者の所有物だったと思われる。不良女がペラペラと中を拝借する隣で俺も同じく内容を目にする)
不良女「日記っぽくね? あぁ? あかしっくれこーど、ってのは意味不明。何かとりあえず書き留めてみたみたいな?」
男「ああ・・・・・・黙示録。悪霊、それとこの俺の関係?」
不良女「なぁ、やっぱり日記だよ! アイツこんなのに一々色んな事書いて残してたんだな、律儀っつーか、マメな性格してるっつーか・・・・・・!」
不良女「ーーーーあんた、転校生といつから付き合ってたの!?」
男「は?」
不良女「だってここに書いてあるんですけど! 『男くん、遂に私へ振り向かず他の泥棒猫へ揺らぐの巻』 ・・・・・・はぁ!?」
男「それはこっちの台詞だっ、何なんだここに書かれてある事!! お、俺は知らない! 一体何だコレ!?」
男(闇の記録一段に重苦しく称された綴りを読み進める。この俺が、転校生との交際を始め、それを公言して回っていた、と)
男(目が離せなかった。教えてくれ、この記録は何なのだ? 手帳へ悲哀の篭る文章が連なる中、唐突に)
男・不良女「日付、飛んだ?」
不良女「ちょ、ちょっと待って! 書き始めとかいつなんだよ!? 適当に捲ったページだぞ今のって・・・・・・!!」
不良女「・・・・・・あ?」
男(怪訝そうに小さく声を漏らした不良女から手帳を奪い、書き記された日付を確認すれば)
不良女「な、なぁ? あたしらが出会ったのって今年に入ってからだよネ? 何か時系列、っていうの、おかしくね?」
男「さ、最後付近のページの内容を読みたい!! どんな事が書かれてある!?」
不良女「えっ・・・・・・わ、『私の証明』?」
不良女「『最初は夢見と思い込んでいた。だが、時空は確かに歪み、異なった過去を繰り返し続けている』」
不良女「『このネクロノミコンを振り返るたびに、私の中へ覚えのない過去が甦ってくる。かつて崩壊したセカイの悲劇をも。降り注ぐ空の破片が街を壊し、白く染め上げた事も』」
不良女「『観測者であると自惚れるつもりはないが、この現象に説明がつかない・・・・・・。起点、男くん。彼が謎を握る鍵とし、現象“悪霊”の発端であると睨んでいる』」
不良女「『・・・・・・ここ数日の記憶がない。残念ながら、私が異常を来したと思われ』」
不良女「ーーーー何つーか、日記、で良いのかな? コレって」
男(改まった質問である。しかし、どう考えても奇をてらった同人誌の内容としか思えない、オカルト研という人間を知った上でなら尚更に)
不良女「おい、今度こそマジに答えて欲しいんだけど 男はあたしにこんなの渡してどうしたいワケ?」
男「何度も返すが、知らない。お、俺は、アイツがお前にコイツを託した意味も、何も・・・・・・」
男(荒唐無稽な妄想が綴られた記録、である筈と片付けるには気が早い。というか 手離してはならないだろう)
男(『過去』だ、この日記の中には今となっては曖昧でしかなかった確かな記憶が記されているのだ。第三者視点であるが故に多少の見落としはあるとしても)
不良女「ていうか、あの野郎も悪趣味っつーか・・・・・・よくもまぁ自分の好きな[ピーーーーーーーーーーーーーー]」
男「何だ?」
不良女「な、何でもないしっ! それよりあんたが説明できないなら、もう本人に訊くしかないだろ。オカルト研に!」
不良女「今回ばっかしはマジで意味不明なんだって!! いや、いつもだけど!!」
男「・・・・・・・・・・・・なぁ、お前はこれを読んで何か感じられるか」
不良女「はぁ? あ、何だそれ? ・・・・・・具体的に、何を?」
男「少しばかり気になってな。読め、ここの『ネクロノミコンを振り返るたびに、私の中へ覚えのない過去が甦ってくる』って」
男「覚えのない過去は、思い返したりしたか、不良女」
不良女「・・・・・・・・・・・・」
不良女「えっ、いや、全然なんだけど・・・・・・」
男(眉間にシワを寄せて美少女から引かれる気持ちをご存じだろうか、俺はたった今覚えた)
不良女「覚えのない事って、つまり自分の知らない事でしょ? フツー知らないは知らないで通すんじゃねーの?」
男「い、いや、それは!! そうかも、しれない・・・・・・がっ!」
男「興味とか出てこないか!? デジャブとも言えない感覚があなたを襲う、その正体とは何ぞや!?」
不良女「男なぁ~、そんなのに構ってるほどあたしら暇かよ? もっと時間大切にしよーぜ、な」ポンポン
男「あー、わかった! お前に欠けているのはロマンだなっ、不良女さぁーん!!」
不良女「わああああぁぁ近いちかいっ、顔近い!!/// 汚ねぇー! 唾飛ばすな!?」
男「だって不良女さんよ!!」
不良女「うるせっ! だってもクソもあるかよ! っあぁ~、もう、あんたのアホは死んでも直んないわ・・・・・・」
不良女「ハァ、とりあえず コイツはあたしが預かっとくから。今度会った時に頭電波子に突っ返しとく」
男「(そうはさせるものか) 実は、さっきのお前の読み聞かせで俺の中にある記憶が思い浮かんだ」
不良女「は?」
男「俺、転校生と付き合っていた気がするんだよ。鮮明とまでいかないが コレに書かれた通りの事をやっていたような」
不良女「あ、あたしをまだからかってるのかよ!?」
男(残念ながら、口から出任せに決まっている。文章を読み上げられようと、日記を手に取ろうが脳みそに電流など走りもせず、記憶が呼び覚まされることもあらず)
男(だが、俺はオカルト研が最後に残した記しを、記録を疑う真似をできない。Q:男くんは転校生と特別な関係にありましたか?)
男「いつも適当に思われていても否定できん、だけどお前にだけは信じてほしい。まだこのプレゼントの意味をわかっちゃいないが・・・・・・」
男「この手帳に書かれた内容は絶対に間違っていたりはしない。不良女、オカルト研もお前にコイツを通して何かを伝えようとしている気がするんだよ、俺は」
不良女「じゃ、じゃあ何なんだよそれ・・・・・・あたしたち今何の話してんだよ?」
男(ーーーー繰り返す。これは実体験による、現在進行における独り善がりでも、一人語りでもない)
男(『 』、彼自身の記録である。)
男「すまん。そいつを貸してくれ、遡ろう」
不良女「な、何でだよ!?」
男「日記だぞ、わざわざくれた意味を俺たちで考えてみよう。こんな物他人に読まれて気持ちがいいワケない」
男「頭から読み直すんだよ、不良女。プレゼントって贈り物だぞ。意味のない贈り物があって堪るか」
不良女「いやっ、もう何か恥ずかしいだろ!? 日記だし!!」
男(日記、彼女の制止を無視して読み進めたページの数々を指でなぞりながら、思念という物を想像してみた。思念って、感情による一種の執着である)
男(執着、欲が、実に欲が現れた読物じゃないか。本当に彼女は俺みたいなのを好いてくれていたのだな、設定通り)
男「あのさ、キルミーベイベー覚えてるだろ?」
男(説明しよう。『キルミーベイベー』それは時として愛であり、憎しみ。我々人類には早すぎたオーパーツに値する『まんがタイムきららキャラット』の産物である)
男(かのキルミーを、成り行きでこの美少女へ布教した過去がある、罪作りにも等しい。謀らずも迷える子羊と化した少女は崇める神を改めたのだった、以上)
不良女「だから何なんだよ、今度はどんなの流れだっての!? キルミー? はぁ?」
男「忘れてはなさそうだな。まぁ、あれほど記憶の中から消すには難しい怪作も中々目にできないだろうし」
男(皮肉にも始めて彼女と親密な関係を築き上げた切っ掛けこそ、キルミーだ。他にも印象深い馴れ初めもあるが、数ある中でも一層異彩を放ちすぎている)
不良女「忘れちゃ、いねーよ別に。あの漫画のお陰であたしは、あ、あんたと[ピーーーーーーーー]・・・・・・!」
不良女「今でも他の漫画と比べ物にならないみたいな、馴染み深さ? 変な安心感みたいなのはあるぞ、へへっ! あたしはいつまでも好きだと思うな~」
男(キルミーベイベーとは、実家のような安心感、だったのか)
男「俺も好きだよ。それに、あれを読み返すたびにお前との色んな思い出も甦ってくるしな」
不良女「ふえぇええぇぇ~~~~っ!?///」
男「何だその勢い良く炭酸抜けたコーラみたいな声は」
不良女「う、うるせーよアホっ!! どうでもいいだろ!! ・・・・・・お、[ピーー]出、かぁ///」
男「んー? まぁ、それぐらい大切に感じられるって事なんだよな。ある意味アルバムみたいな」
不良女「あ、アルバムってあんた・・・・・・あたしもバカにはしないケド・・・・・・」
男「な? キルミーを想うだけで心の琴線に触れるんだ、マジで凄いことじゃないか?」
不良女「あのさぁ、凄いのは分かったつもりになってやれるけど、結局何が言いたいんだよ?」
男「オカルト研の日記の内容なんだが、サクッと読んでみたらやっぱり何処かで不自然に日付が遡ってるんだよ」
男(例えば4月1日から始まり、順当に日付が一日おきに記憶が綴られていたところで、次のページの日付がおかしい)
不良女「・・・・・・マジだ、次のページで日付が一気に一ヶ月ぐらい戻った。あっ!」
不良女「この辺も何かおかしいぞ! あんたが転校生と付き合ったことず~っと妬んでる話続いてたのに、いきなり調子戻ってるよな!?」
男(日記内で、この不可解を言及していたのはラストのページのみである。他は珍妙ではあるが、彼女の淡い恋心と日常の体験のレポートでしかない)
男(では、オカルト研は改変によるリセットへ真に気づいていたのではなかった? 思う所はあったが、単なるデジャブか夢見と片付けていたのではないだろうか)
男(偶然だった。彼女自身はリセットに対応する事も出来ず、何故か『無かったことにされた』記憶だけが愛用していた日記に残され・・・・・・巡り合わせた)
男「ーーーー日記を、媒体にしたセーブポイントみたいだ」
男(常日頃から記録の癖があったとすれば、オカルト研にとってこのアイテムこそ何より馴染みある物だったのだろう。自らの感情を思うがまま書き残した思念の塊、彼女そのもの)
男(そして、この日記は幾度となくこの世界で起きた『ループ』を訴えかけている、俺たちに。決して有能な方が一晩で作れるノートの中身ではないのだ)
男「もし、もしの話だぞ、不良女。俺たちもこの日記みたいな、過去の記録を持っていたとしたら・・・・・・違和感、みたいなのを感じるもんかね」
不良女「い、違和感だぁ~?」
男「詳細を綴った日記みたいな物じゃなくたっていい、写真とかそれこそ漫画とか、その時その時に印象深く残った何かを持っていたとするなら」
男「それに・・・・・・触れて・・・・・・失った過去って、甦るだろうか?」
男(一歩、いや、大きな前進じゃないか。最もオカルト研に感謝すべきなのは、この日記を残した点へではなく、彼女が持つ感受性の高さである)
男(元々が不思議大好きキャラというのも高じてすんなり奇妙な現象を受け入れられたのではないかと推測できる。不良女が示した反応と比べてみれば、それこそ一目瞭然ではないか?)
不良女「わっけわかんね・・・・・・何であたしにこんな物渡すんだよ、あのバカ」
男(同意する。あえて不良女へこのキーアイテムを託す理由は友情を持ってしても理解が追い付かない。まず俺から手渡させる時点で気にしてくださいと言ったようなものだぞ)
男(まさか不良女へ読ませて何かを気づかせるというのは、やはり難しい。彼女はどう足掻いても不良女である。突発的な判断能力は優れていたとして、非現実を受け入れさせるには適任ではないだろう)
男「メッセージカードみたいなのも、入ってないな。お前に向けて書かれた文章も見当たらん」
不良女「アホかっ! こんな自分だけの物みたいなモンあたしなんかに寄越して、恥ずかしいとか思わないの!? アイツ!」
男「それは、やっぱり恥ずかしいだろ。俺がオカルト研の立場だったとしても絶対他の誰かに読まれたいだなんて考えない。ていうか死を選ぶ、読まれたら」
男「まず日記ってどうしようもなくデリケートな物だからな、プレゼントには向かないわ」
不良女「珍しくまともな事言いやがって・・・・・・とにかく、コレはあたしとあんただけの秘密だぞ」
不良女「他のみんなにもこの事だけは言わないでよ?」
男「く、クククッ! 当たり前だろうが、義理堅いをモットーに生きてる俺に隙はない。それに」
不良女「・・・・・・ん? 何だよ、言えって。・・・・・・言わないのかよ!? 大事なとこでしょ今の!」
男「すまん、何でもない。そろそろお互い準備の方に戻ろうぜ。十分サボれたしなー」
男(彼女たちの平穏をこれ以上乱す様な真似を、誰が進んでやりたがろうか)
来週はおやすみですの
男(あれから午後はクラスの舞台練習に付きっ切り、そもそも監督でもその補助でもない舞台裏担当の俺が何故携わらねばならないのか。まぁ、細かい点に目を瞑るのも役目である)
男「ほう、こりゃあ珍しい。遅刻上等の俺如きが一番乗りを飾るとは」
男(基本騒がしいがデフォルトであると、この静けさは非常に不気味なラーメン愛好会の部室に到着。それで持って相手がいないと俺の気取ったトークもただただ脳無しっぽくて)
生徒会長「あー、あー、コホン!! 私はそんなに影が薄いのかな、男くんっ?」
男「多分俺には余裕で勝ってますけどね、生徒会長の存在感の大きさ」
男「早いですね? 実は一番興味ない振りしておきながらやる気満々ってパターンですか」
生徒会長「ど、どう見て取られようが気にするつもりはない・・・・・・」
男「ん? でも、普段常識人役を買って出てくれる生徒会長がと思うとちょっぴり可愛いかもしれませんね」
生徒会長「っー!? む、無責任に女子をかわいい等と呼ぶものじゃないなっ!!///」
男「うへ、歳下の分際で生意気でした。・・・・・・どうかしましたか? こんな顔ジロジロ眺めちゃって」
生徒会長「え? ああ、どう言うべきか・・・・・・そのつもりではなかったのだが、あの、すまない」
男「生意気ついでに因縁つけたいとかじゃないですよ、俺。こちらこそ変に疑って申し訳なかったです。気にしないでください」
生徒会長「なぁ、男くんっ? いいか?」
男「はい。何でしょうか、生徒会長」
生徒会長「そ、そのだな・・・・・・どこぞで悟りでも開いてきたのかっ・・・・・・?」
男「・・・・・・よくぞ聞いてくれました、生徒会長。いえ、よくも聞いてくれましたね」ガタッ
生徒会長「な、何だその謎の気迫は!?」
男「クラス発表の練習を椅子に縛り付けられて繰り返し見せられ続けるのです。同じ台詞、同じ展開、強いられるレビュー、改善点提示・・・・・・」ブツブツブツ
生徒会長「そ、そうか。君が今日難儀した事は重々理解した! だ、だから落ち着」
男「ロジカル・マジカル・ラディカル・インクレディブル・フーッ! ファンタスティ~ック!! 俺はおすぎかピーコですか!? 一端の評論家に見えるのかッ!?」
男「いやぁーっ!! もう何も見せられたくありません、嫌なんです!! コワイッ!!」
生徒会長「あぁ~、本当によく頑張ったんだな、男くん。お疲れさま。今はゆっくり頭を休めるといいじゃないか、な?」
男「ええ、ええですとも! 真面目に休憩という名の安らぎが欲しくてここに逃げて来ました、ここに居たのが生徒会長で良かったぁー!!」
生徒会長「わ、私がか!? そ、そうか、君は私に癒しを感じてくれていたのか・・・・・・それはその・・・・・・・・・・・・ふむ・・・・・・」
男「えぇ? ーーーーもふっ」
生徒会長「・・・・・・誰も見ていない今のうちだ、特別だよ。と、特別に今だけ君にだけ貸してみよう、と、思って・・・・・・!///」
男(赤子が可愛く思える程醜い様で泣きすがる俺の頭を抱え、そう、現在進行中のナウで俺は生徒会長の膝の上に置かれたのである。母性に訴えかける魔性のダメンズ、極めているな)
男「す、すぐに誰か来ちゃうと思うんですけれど!」
生徒会長「だって!! き、君が私なんかを!!///」
男(ムチムチ太もも:ATK 3000 DFE 2500 ☆☆☆☆☆☆☆☆ 特殊効果・触れる者全ての邪を掻き立て、えっちぃ領域へ誘う)
男(性別相反する者の、特に柔い部分に触れれば暴走を来すのはオスの性か? 嫌々、もうすまない、下世話だ、喜びのバーストストリームしてしまいかねない)
生徒会長「こ、こんな時上手く慰めてやる方法は分からないのだが、どうすれば良いものだろうか・・・・・・///」
男(美少女よ、飢えた狼に享受を願うか。頬を紅く染めた生徒会長が手持ち沙汰となった手をぶら下げて俺に助けを求めている。ならば欲望のままにあれ)
男「生徒会長、世間は若者に厳しいです。我々はひたすら社会の荒波に揉まれ、心を強いたげられている。哀れではありませんか?」
生徒会長「男くんも他ではないと言うのか? 確かに哀れ、というべきか、気の毒・・・・・・」
男(浅ましい、ではないのかと)
生徒会長「何度もしつこいと思われるだろうが、こんな私で良ければ君を慰めてやれたら嬉しい。男くんならば、この状況下の中何を望むんだ?」
男「時に生徒会長、シャアは何を思ってララァという少女へ母性を求めたのでしょうか?」
生徒会長「ら、ららぁ? シャア、だとっ?」
男「彼の生い立ちを考えるから察するに、過酷な青春を過ごしてきたシャアには安らぎがあまりに足りていなかった。そう、彼は疲れていたのですよ」
男「疲弊し切った心を癒すのはいつだって母の温かみでした、彼の人生の中唯一甘えを実感したのは実の母親のみだったのですから。必然でしょう・・・・・・故に」
生徒会長「ゆ、故に・・・・・・?」
男「原点回帰なのではないかと思うんですよ、俺は。生徒会長、男はシャアに倣って母に覚えた温もりを親しい女性から与えられたいのではないでしょうか?」
生徒会長「・・・・・・つまりは?」
男「これ以上甘えないでくれませんかねっ! 自分で理解なさい!」 生徒会長「すまないっ、君は頭がどうかしているのか!?」
男(押し問答だろうか、実際片寄り気味なのは否めないが遂に折れた生徒会長がはにかみの表情を浮かべて言うのだ)
生徒会長「全く意味は分からない・・・・・・分からないが、君は両親が今海外へ赴任していたのだったな」
生徒会長「肉親である妹は多感な年頃だろう、苦労がないと言えば嘘になる。男くんは、が、頑張り屋、なの、だな」
男(硬いぞ、ぎこちない、それが貴女か。まだまだ足りていないのではとケチをつけてやろうと思えば、上から優しく髪を撫ぜられていたのである)
生徒会長「い、良い子、良い子・・・・・・っ///」ナデ、ナデ
生徒会長「ぐ! っうああぁああ~!! やっぱりダメだっ、恥ずかしすぎる!!///」
男「問題ありません! 乗り越える壁なんてもうないじゃないですか、あなたは自ら答えを見つけたんですよ! 母性の形を、聲を!」
生徒会長「この茶番はいつまで続くんだ!?///」
男「えっ? あ、いや・・・・・・ご満足頂けましたか?」
生徒会長「初めて君を壊したいと思った」 男「痛っっっ!!」
生徒会長「ふぅ、私をからかうのもここまでにしておけ。君はいざという時は切れ者だがどうにも遊びが過ぎる部分がある」
男「そりゃあ買い被りすぎでしょう? 俺なんて、いつでもくだらない事に全力投球したがる阿呆の化身ですよ。まだ見破れませんか?」
生徒会長「許せないな、相変わらず君はズルい男だ・・・・・・。卑怯も手に余る・・・・・・」
男(額にかかった前髪をそっと払いながら、色めかしい彼女の台詞が続く。それに答えるべく俺はお決まりで答えてやーーーー)
生徒会長「だか#こそ君※私だ≠の$にした?!と常に〓わせられてJnjk;nダ/@}
男(ーーーー歪む)
男(イベント進行中であろうが、彼女たちとの他愛のない時間であろうとも、幸福に満たされていた舞台にノイズが走る。それは遂にこの目で容易に捉えられる程 悪化し始めていたのだ)
男(症状に自覚のあった転校生と打って変わり、生徒会長は歪みに気がつく事もなく、しとやかに表情を綻ばせていたのである。・・・・・・俺は耐え切れず、直視を避けた)
男「みんな本当に遅いですねぇ。あとで俺たちがガチのやる気勢だって知ったらどんな顔してくれますかね?」
生徒会長「到着の早さがやる気に直結するとは、さっきの君の発言からじゃ証明に役立だちそうにないと思うぞ? ふふっ」
男「あー・・・・・・ねぇ、生徒会長」
生徒会長「ああ、何だ? 男くんらしからぬ物言いだな。まだ甘え足りないか?」
男「違うんです、もう良いんです。ただ、俺って楽しかったんだなぁーって」
生徒会長「ん?」
男「生徒会長や他のみんなと仲良くなれて、こんなアホみたいな愛好会も存続させてみたり、ほんとの本当に充実した学生気分でいられた」
男「あなたたちは揃って俺のお陰だって言ってくれましたよ。だけど、一番感謝しなくちゃいけなかったのは他でもない俺なんだと今でも思ってます」
男「こんな、今の俺を作ってくれたのは・・・・・・報われない一人の文学少女を救わせてくれたのは・・・・・・」
j‡徒会長《bjく&?」
男「あっ、すみません! 劇の練習に付き合い過ぎた影響ですかね、嫌に感傷的になってみたりしちゃって! な、何でもないですから!」
男「お、俺 他のみんな呼んできますよ。何もしないでボーッとしてると居眠りしそうです! 行きます、俺!」
男「・・・・・・逃げたのか、俺は」
男(生徒会長を残して部室を後にした途端、意識するようにそんな台詞が口から溢れた。茹だるように重たい体に鞭を打って、首を上げ広がる校内を観察すると)
男「マジか、何だこれ」
男(歪む。目眩とは違った気持ちよろしくない感覚に包まれ、目を白黒させていたであろうか。廊下が、窓が、教室が、ノイズに犯されていた)
男(陽炎じみた揺らぎとも言いがたい刹那的な違和感が視界に写る中すべてに干渉されているのだ。バグったモニターそのものが自分の目になったかのように)
男(不安定とも思わせられたいつもの学舎に、以前名無しから閉じ込められた謎の教室を空目する)
男(それは、ここが模造された街、複製された偽物の営みを送り続けるでしかないただの背景なんだと強調してくる。自と歩みが、早くなった)
男(窓の外の風景までもが、歪む。歪み続ける。人は? 誰かいないのか? 誰でも良い、モブだろうが関係ない。今の俺には安心が必要なのだ。この無機質な空間から引っ張り出してくれ)
男「おい、喋ってないと気が狂いそうだ! 誰か、誰かいないのか! 誰もいないワケないだろう!?」
男「・・・・・・待てよ、少し落ち着けよ俺。最近変な話に流され過ぎて情緒不安定じゃねーか」
男「まずは深呼吸から始めようじゃないか。ギャルゲー感覚でシリアスを迎え入れたってロクでもないぞ」
男(人が持ってして一番鍛えようもない部分は局部だけか? 否、精神ではなかろうか。どんなに屈強な強者だろうと疲弊しているところを弄くり回されてはひと溜まりもない)
男(らしくもなく頬をピシャリと張って、強固な覚悟の意思で歪みに俺は目を向けた。すると、どうだろう・・・・・・残念ながら何も変化はない)
男「ーーーーやっぱり、もう持たない時が来たんだろうか。壊れちゃったんだなぁ」
男「なぁ、神よ。見ているか? ・・・・・・俺の選んだ道だ」
男「何となくあの廃病院みたいな物寂しさがある。異質な感じっていうか、当たり前が覆されると怯えたくなるんだな、人って」
男「(達観した物言いも強がりであろう、それでも堂々たる男くんを貫く事に意義があった。膝を抱えて怯え蹲るのは簡単だ。反逆してこその俺) だからこそ、この不可解な状況を攻略する必要がある。何処に行くかね?」
男(目の前にフワッと選択肢が浮かぶ錯覚、その一 屋上。知る人ぞ知るお助けキャラ後輩が首を長くしてこちらを待っている場合があるだろう)
男(その二 図書室。ピンチの時こそかつて救った者を頼れば活路が開けたりもする、かも。頼りのあの子はモブ委員長になってしまったけれど)
男(その三 このまま当ても無くさ迷ってみる。これまでの経験からしてこの手の現象にイレギュラーが絡む確率は高めである。今回の場合で考えるにあの“テンプラ”が登場してくれるやもしれない)
男「ならば、現状の早期解決と今後の立ち振舞いを計画するに当たり 最も相応しいのは・・・・・・」
?「男、くん」
男「おっ?」
天使「わた、じゃなくって、自分ですよ男くん! つーかその様子だと・・・・・・」
男「天使ちゃんこそ名無しに唆されて学校に来たみたいだな、違うか?」
天使「うえっ、どうしてそれを!? じゃな~~いっ!! お、男くん無事ですか、何ともねーですか!? 頭おかしいままですか!?」
男「(狂人の認識が正常なのか) 俺はこの通りだ。助けてもらえるならマミタスの手も借りたい気分で徘徊してたさ」
天使「そ、そうですか? ・・・・・・あっ」
男(お互いがほっと息を吐いた途端、先程まで影すらなかったモブたちが嘘のように辺りを行き交っていた。まるで俺たちだけが不思議の国に迷い混んでいたみたいに、だったな)
天使「・・・・・・男くん、今日のところはひとまずおウチに帰りませんか?」
先輩「ーーーーわっは~!! テンテンの助よ、しばらく振りの再会だぁ! わたしの心ときめきボンバーを受けよ!」ぎゅううぅぅ
天使「ぐぅぅぅぅーーえぇア!! ド畜生テメェー! 男くん裏切ったんですかッ!?」ギチ、ギチ
男の娘「何の話?」 男「案外満更でもなさそうだしスルーして構わんぞ」
不良女「ていうか、ここはいつから保育所になったんだよ。真面目にあたしら準備不足してんだぞ?」
男「当日面倒な仕事が無くなるなら願ったり叶ったりだと思うけどな。どうするんですか、ボンバー部長」
先輩「えぇ!? せっかく衣装まで用意したのに今更止めるとか勿体ないし! 諸君、我々の船はもう港を出た後だよ!?」
生徒会長「だから、このままだと座礁するから話し合おうと言うんじゃないか・・・・・・」
先輩「うむ、そのとぅ~りなのである!!」ビッ
天使「ねぇねぇ、男くん男くん」
男(相変わらず凸凹さが売りの芝居に舌鼓を打っていた時だ、先輩の可愛がりから解放された天使ちゃんが俺の袖を引っ張る。不満気、ではなさそうに)
男「心配しなくても晩飯までには決着つく筈だぜ。無理に付き合わせちゃって悪いな、退屈か?」
天使「そうじゃなくって、何つーんですかねぇ こういうのは・・・・・・えーっと、う~ん」
男「へへへ、何だろうな? 焦らずにもう一度考えてみろよ。今はちょっとした休憩なんだからさ。ね?」
天使「でもアレ ハーフタイムにしちゃあ随分殺気立ってませんかねぇ~」
先輩「腕相撲で負けた人が語尾にニャン付けで接客しよっか」 男(おい、この間に一体何があった)
男の娘「ーーーーふーっ、ふーっ。ようやくって言うか、僕たちの愛好会も方向性固まった感できてきましたよねぇ」
生徒会長「まぁ、無理矢理感はどうしても拭えないが・・・・・・で」
先輩「お~や~? 何々なんですか、ウィーアーラーメン愛好会、OK? ならば会議の後にはら~めんっ! わたくし、つけ麺頼んじゃいましたけれども、ねっ!」
生徒会長「皆、君の強引な誘いに引っ張られただけだがな。それよりも天使くん、好きなトッピングは? この店は味玉が絶品だ。黒豚足もコラーゲン摂取に最適でな」
天使「あっ、いえ! 自分は男くんとシェアするんで平気なのです」
男「コイツ いつも調子に乗って食べ過ぎるから俺が制限してやるんです。無理して腹壊されても迷惑なんで」
不良女「うぇ、あんたすっかり親気取りじゃん・・・・・・通りでフケた面なったって思わせられたワケな」
天使「ぱ、パパぁあ~!」
男「味玉二つ追加でっ!! スタミナ補充は大切だ、今日は胃が持つ限り豪遊するからな!!」
男(悪趣味なネタを隣でクスクスと笑う天使ちゃんに飲んだレモン水を吹き掛けそうになりつつ、顔が熱くなった。反省会もとい宴の会場はやはり安価なラーメン屋となるのは学生の限界である)
先輩「はーぁ、冗談抜きで文化祭もうすぐまで迫ってるし そろそろ本気出してくよ~みんな~・・・・・・っしょ?」
男(あからさまにも感じられた向けられた視線を受け止めていたら、注文した味噌ラーメンが小分け皿と共に無造作に置かれていたのである)
男(油の膜を通った如何にも体に毒を与えんとする匂いと湯気。黙って小さな器へ分けてやれば天使ちゃんはポツリと呟く)
天使「・・・・・・美味くねっ?」ズズーッ
男「おかわりもあるぞ・・・・・・!」グッッ
不良女「っはぁ~あ、と♪ やっぱ行き慣れてる店の方が安心だよなー。変に冒険するよか金も無駄にしなくて済むよ、ブチョー」
生徒会長「コラ、一応歳頃の女子が爪楊枝でいつまでもはしたないだろう。恥を知れ、恥を」
不良女「うっせー。乙女でも歯に物は詰まるんですー、生き物なんですー!」
先輩「不良女ちゃんや、新た~な店に飛び込む勇気こそが開拓の一歩ですぞ。安心安全のラーメンに浸かっても所詮はトーシロの域なのさ・・・・・・」
先輩「というワケで~、最近気になってたお店に突撃訪問したく思います!! 二次会あっりますよぉお~~!! むふ~っ☆」クルッ
男の娘「うぅ、お腹いっぱいだし帰りましょうよ・・・・・・」
男(微笑ましい。自分がこの環の中にあると知っていながら、第三者視点で彼女たちを追ってしまう自分。面白いことに手を伸ばせば、容易に届いてしまう距離だというのに)
男「いくら育ち盛りとは言え、限度もありますよ 先輩さん。今日は大人しくここいらで解散にしておきませんか?」
先輩「むぅー、お、男くんがそう言うなら。あ、そうっ、潔く引き際を心得るのって大事だぜ。不良女ちゃん!」
不良女「無理矢理責任押し付けてるんじゃねーよっ!?」 先輩「きゃ~んっ!」
生徒会長「ならば、彼の言う通り今日のところはお開きとしておこうか。皆 これ以上寄り道などしないよう気を付けて帰るようにな」
男「腹一杯の状態じゃ道草食おうなんて気にもなりませんって。男の娘、途中まで一緒に行こうぜー」
男の娘「お、[ピーー]から[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]ったぁー!!///」
天使「あん!? な~にあからさまにガッツポーズやってんですかねぇ、この! このっ!」
先輩「まーまぁー、どぅどぅ。で、は! 文化祭むけて張り切ってやってきますよー、みなさん! よしゃ~~っ!!」
男(名残惜しさを感じさせぬスッキリ爽快、フレッシュな解散宣言の後、俺は天使ちゃんを背負って男の娘と他愛のない会話を楽しんでいた。いつでもふんわり笑顔でマジ素敵)
男の娘「にしても二件目はないよ、二件目は! 部長さんてば大食漢すぎるもん!」
男「暴食なりのグルメ舌の持ち主ではあるんだがな、あの人なりの楽しませ方みたいなものだろう。ウチの居候も満足してくれたみたいだし・・・・・・」
男の娘「あは、ぐっすり寝ちゃってる。ね、ねぇ? ぼ、僕も[ピーーーーーーーーー]?」
男「そろそろ分かれ道だな。やれやれ、明日からもっと忙しくなりそうだな 男の娘」
男の娘「むーっ! 知らないよぉ!」
男(その膨らませた頬には一体何が詰まっているのだい、あざとさの塊よ)
男の娘「[ピーーー]は無[ピーーーーー]・・・・・・ さんもそう思わない!? [ピー]のライバルとして!」
男「・・・・・・えっと・・・・・・何か、誰かに喋ったか?」
男の娘「誰にってーーーーーーあれ、あれれ、誰だろう。おかしいな? さん?」
男「は? 誰だよ、もう少しハッキリ言ってくれ。上手く聞き取れなかったんだが」
男の娘「えっ、え? ぼ、僕も、よくわかんない。何だろう・・・・・・? あれ・・・・・・」
男の娘「い、いたじゃない? 僕たち、ずーっといつも・・・・・・お、男もきっと知ってるはず、なんだ、けれど・・・・・・・・・・・・ねっ・・・・・・?」
男「だから・・・・・・何だよ・・・・・・ぅっ? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・だ、だれ・・・・・・を・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
男(“誰”を。俺と男の娘の間でまるで押し付け合うように“誰”を問いていた、喉の奥でつっかえている何かの名を)
男(お互い、動揺していたのは名も無い何者かの存在を共有していた事に対してでは無い。忘却、に怯えていたのだと思う)
男の娘「ぼ、僕たちいつも一緒にいたんだよ!?」
男「だから、誰だよっ?」
男の娘「誰だよって何だよぉ! 僕たちさっきまで部室で喋ってたよねっ、それに朝だって! 劇の練習の時にも!」
男「げ、劇の練習だっ? 喋るって・・・・・・だ、だから誰と喋る・・・・・・・・・・・・」
男の娘「ふざけないでよ、男!! 僕たちーーーーーーーー」
男(そんな俺たち二人の焦燥を遮るように、親しみを覚えた声と手の感触が肌に触れていた。繋ぎ止めたそれの主へ視線を移すと)
転校生「こういうケンカはあんたと私の間だけの専売特許じゃなかったっけ?」
男「・・・・・・て、転校生」
転校生「バカなことやってないで帰るわよ、二人とも! お芝居の稽古でクタクタなんだから!」
男の娘「それも、そうだよねぇ~・・・・・・疲れてたせいかな? ごめんね、男」
男「すまん・・・・・・・・・・・・俺も・・・・・・悪かったと思ってるよ・・・・・・」
転校生「うん、それで良いわ! 大事な時にいざこざとか止めなさいよね、まったくもう」フンッ
男(“転校生”?)
転校生「ていうか、あんたたちが真面目にケンカしてるのって初めてじゃないの? 珍しいかも」
男の娘「そうかなぁ? う~、思い出したら急に胃が痛くなってきちゃった。ごめん! 土下座でも何でもするね!?」
男の娘「お詫びに男の靴を舐めるよ!!///」 男「頬を染めてくれるな、頬を。危険すぎる」
男の娘「え、えへへっ! あー もうこんな所まで。ちぇっ、僕も男の家とご近[ピーーー]だったら良かったのになぁ」
男(ならば男の娘キャラが幼馴染という斬新な展開とな。その筋の方にはウケは良さそうだが、倫理崩壊待ったなしである)
男「無い物ねだりは虚しいだけだと思うぞ。お互い国境を越えてるワケでもなし、明日の朝にすぐ会えるし」
男の娘「やだやだ! 僕はずぅ~~っと[ピーー]と・・・・・・って! わぁーっ、わあーっ!///」ブンブンッ
男(おぉ神よ、彼の存在は世にカワイイ=最強の法則を残酷なまでに知らしめたでしょう。罪深い産物をおかずに今日も飯が美味いです)
男「やれやれ また明日な、男の娘。俺も早く後ろの荷物置きに帰りたいんでな、肩重たくて重たくて、いやマジで」
男の娘「な、何か男の反応が絶妙に寂しいよぉ~!?」
男「ハイハイ、じゃあな 怪しい人に声かけられても着いて行くなよ・・・・・・・・・・・・ふぅー」
男「なぁ、こういう時 どんな顔して振り向けば正解なんだ?」
男(自嘲するのは毎度の事ながら口に出さずにいられなかった。どうしようもないと、無力に圧倒される様が沸々と内側で煮え立っている)
男(ちっぽけでも偽善と疑われても構わないから、どうか、一生のお願いを聞き届けてくれやしないか。きっと悪魔の囁きすら渇望している、俺は、“彼女”を)
男「転校生」
転校生「バーカ、なんて顔してるのよ。私が好きになったいつものあんたの顔見せて? 笑って?」
男(苦しい注文じゃないか、笑顔を見せて欲しいだなんて。ここで偶然突風に吹かれて彼女のスカートが捲れたとしても心の底から明るくなれる気がしない)
男(俺の決意は絶対だ、もう二度と揺らがせたりしない。あの時オカルト研に誓った自分は嘘ではないのだと、妥協を許さなかった自分自身を止めるつもりはない。だからこそ)
転校生「ねぇ、決まった事をくよくよ嘆いたって面白くないわよ。私だって辛い気持ちを隠したくないけれど」
転校生「せめてお別れの時までは楽しくいさせてよ? ワガママ、聞いてくれたら・・・・・・嬉しいの」
男(健気にも、儚さも感じられた彼女の困ったように笑う表情に強く握った拳が震えて仕方がなかった。引き留めるのがベストか? 行かせないと止めるのが主人公であるというのか?)
男(『カミになる』ことで俺が全てを投げ捨てて、救われる命があるとテンプラは言った。この俺は消え、新たな俺がこの夢想たる世界を支え続けられるのだ。人知れず、に)
男(彼女たちを永久に守る。俺の欲望が生み出した理想の箱庭を。転校生、幼馴染も妹も、男の娘も、愛好会のみんなも、アイツもコイツも、ここで出会った全ての人間 を 救える)
男「(そこに、“俺”はいない) 何言ってるんだ、転校生?」
転校生「えっ? な、何って、あんたずっとその事で悩んでたんじゃないの!?」
男「かもな、概ね当たってると思うぜ。だけど今更ただの人間じゃ覆しようもない事に悩んでも時間の無駄じゃないか?」
男「だから俺は如何にしてお前が残された時間を楽しんだまま、満足させられるか考えている! 現在進行系でな!」
転校生「あ、あんたって、バカで変態でどうしようもないヤツだけど、ほんとのほんとに、どうしようもないけれど」
男「ガアーッハッハッハッハァー!! 明日までのお楽しみだ、覚悟しておけよ!? ・・・・・・」グッ
転校生「・・・・・・うんっ!」
『お兄ちゃ~ん ペコペコごはーん』
男「おかしいって、絶対おかしい。処分した覚えとか全く記憶にないんだぞ? きっと丁寧に保管してる筈なんだが」
男(寝る子よ育てと負ぶっていた牛の子を自室のベッドへ背負い投げた後の話、時は進む。とある探し物を求めてゴミの掃き溜めを漁っていれば)
『お腹ペコペコごはんなんですけど~~』ワー
男「すまん! 今日の炊事当番代わってくれー。俺と天使ちゃん外でもう済ませて来ちゃったからぁー!」
男「いやぁ、部屋に無いとしたら下の暗室の方に置いてたか俺? どうにもハッキリしない・・・・・・」
妹「実の妹のこと餓死させる気なわけ、お兄ちゃん!?」
男「うおおおぉぉビビった!? いきなり部屋に飛び込んでくるんじゃねーよアホっ!!」
妹「そっちがアホぉ! ご飯抜きとか生物の死活問題だから! 当番変更は前もって報せるって約束さっそく破ってるし!!」
男(何がといえば、幼馴染のカッコ仮通い妻システムが崩れた時俺たち兄妹は炊事・洗濯・掃除・ゴミ捨て等、生活に関する役割を当番制にし、各々へ課したのである)
男「(もし、その役割が責任不足によって果たせなかった際は罰を処する。すべて俺が決めたことなのである) 悪かったって! ちゃんと約束通り貯金箱に500円二枚、天使ちゃん分あわせて入れておいたから!」
妹「ええっ!? ご、合計1000円が・・・・・・私の貯金箱の中に・・・・・・」
男「ああ。疑っているなら中身をすぐ確認して、リッチな気分を味わうと良い」
妹「・・・・・・お、お兄ちゃん。私は約束破っても私怒らないよ? かわいい妹には寛大な心があるので・・・・・・」
男(父よ母よ、家族の血は争えません)
名無し「回れ右で失せろ。分かっていないなら教えてやるぜ、ここだけがオレの憩いの場だぞ?」
男「よくも胸張って人ン家の一室を私物化したもんだな、居候おい」
男「別に追い出そうとか考えてるんじゃないんだ。ただこの部屋の中に俺が探してる物がないかと」
名無し「何だ? 断られたら権利を主張し始めるってのか、家主代理の分際で! オレのプライベートを暴きたくて仕方がないってか! 死ねよ、気持ち悪い!」
男「いやいや、俺はお前にそんなヒートしてないんだが・・・・・・まったくもう」
男「キリ無さそうだし、名無しの善意に賭けさせてくれ。実はな――――」
妹「お兄ちゃーん、あのチビ助一回起こしてきてもらえるー? お風呂入れときたいからー!」
妹「ってか、こんな所で何してんの? ・・・・・THE・密会、的な?」
男(そんなゲームショップで適当に並べられたシンプルなタイトルを俺は強く拒否したい。今後の為にも)
男「探し物をしたくて部屋に入れてくれって頼んだんだが、コイツが渋ってどうしようもなくてな。お前からも言ってくれないかね?」
妹「けちー」
名無し「ハッ、手前の手腕じゃ敵わないと来たら妹まで使う始末か。情けなくて日の目も浴びれられないんじゃないか、男?」
妹「何よ! 元々はあんたが勝手にウチに居座ってるんでしょ、次ごねたらケーサツ呼ぶからねっ!」
妹「それで? お兄ちゃんは何探してるのさ? 何となく余裕なさ気だし、大事なものなんじゃない?」
男「ああ、きっとアレじゃなくちゃダメだって思えるぐらい・・・・・・だから・・・・・・」
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へ?は?いやいやいやいや、