男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」(1000)

続き

1、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/)

2、男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/)

3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385750291/)

天使「大きな声で張り切り宣言は構いませんけど、この子起きちゃいますよ?」

男「カッコよく決めたところで水差すの止めてほしかったな」

男「それにしても参ったよ、天使ちゃん。今回ばかりは俺の慢心が招いた結果だ」

男(そっと体を横にさせておいた妹の頬を指で突っつく天使ちゃんへ、自分に言い聞かせるよう俺は言った)

天使「こんな妹は男くんの現実にいなかったでしょう?」

男「ああ、だから最高だよ。元の世界のアイツもこれだけ良い子ならどれだけ救われたことか」

天使「それじゃあ昔の妹ちゃんに会いたいって気持ちないんですか。この子だけじゃない、他のモデルたちにも」

男「当たり前さ。現実は俺からすればクソゲーってやつだぜ? この理想が広がる世界こそまさに神ゲー」

天使「主が作っただけに?」

天使「ていうか、男くん始めの頃と比べて話し方鬱陶しくなってきましたねぇ。まぁ、その分女の子と話すのにも苦労してないみたいだけど……覚えてませんよね?」

男(始めの頃とは、俺がこの世界へ召喚されたばかりの時だろう。いまの自分では信じられないほどコミュ障だったと彼女は懐かしげに語る)

男「じゃあどうして俺はコミュ障から脱却できてるんだ?」

天使「え? 知りませんよ、そりゃあ男くんが経験重ねた結果なんじゃないですか」

男「経験……記憶はリセットされているんだろう? そしたら1周終えてリスタートするたび、俺はまっさらな状態に戻るはず」

男「ずっと疑問だった。みんな優しくフレンドリーに接してくれたとはいえ、女子と会話慣れしてない俺が調子づいた様子で接することができていたのだ」

男(どうする? ここで記憶の不始末について言い出すべきか。天使ちゃん自身俺の様子に疑問を感じていないのか? バカだからか?)

男「天使ちゃんから見ていまの俺はどうなんだ。正直に前の俺と比べて教えてくれよ」

天使「前の男くんと比べてですか? 大袈裟に言わせてもらえば、別人ですかね」

男「えっ……」

男(委員長の件が頭を過ぎり、背筋に冷たいものが走る)

男「そ、それだけ昔の俺から成長できたってわけなんだろうなー!」

天使「男くん何か自分に隠してることまだあるんじゃないですか?」

男「いや、なーんにも」

天使「あーやーしーい。さっき言いましたよね、疑問だったってー」

男(この世界における過去について考えるたび、頭がパンクしそうになる。どうしたのだ俺は。最初と比べれば強くてニューゲームな状態なのか)

男(ああ、まるで本当にゲームの世[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

男「俺も眠くなってきた。天使ちゃんも一緒に寝るか? 添い寝しよう」

天使「自分眠らなくても平気ですから。つーか、そんなの死んでもお断りです!」

男「死んでもって、天使が死ぬことなんてありえるのかよ」

天使「天使天使言ってますけど、実際は自分そんなもんじゃありませんからね?」

男(そういえば出会った時もイマイチ『天使』という呼び方へ腑に落ちない態度を示していた気がする)

男「本当はお前何者なんだ? 神に使えているのは間違いないんだろう?」

天使「男くんがそれ知ってもどうしようもないです!」

男「うーむ……中々どうして神どもは秘密主義集団でいらっしゃるな」

天使「何でもかんでも分かろうとしない方がいい事もありますよ。男くんはちょっとお客様として立ち入っちゃダメなとこまで来てるんですよ?」

天使「勘違いしてほしくないから言っときますけどねぇ、自分たちはやましい考え持ってこんな慈善活動してるわけじゃないです」

男「その言い方が滅茶苦茶やましいんだよなぁー」

天使「むっ……とにかく要らないとこまで首突っ込まないで! やりすぎです!」

天使「このまま放っておいたら、男くんどうかなっちゃいますよ。マジで脅しじゃなく」

男「ラブコメ的に下手なシリアスは必要ない。つまり、言う通り美少女相手にエンジョイさせていただきます」

天使「……最初からそれでいいんですよ」

男(今日はもうさすがに疲れた。妹を部屋まで運んでゆっくり休むとしよう、そうするべきだ)

男(真面目な顔して睨む天使ちゃんが怖かったがそれ以上に、知らなくていい事は知らないままでいい、俺を煽っているのか? 天邪鬼だからな、余計に逆らいたくなる)

男(理想を反映させた素晴らしきこの世界の裏側に、何か黒いものが隠れているのだろう)

男(大先生ニーチェ曰く、深淵をのぞく時 深淵もまたこちらをのぞいているのだという。さて、どうしたことか)

妹「ん~……むにゃ[ピーーーーーーーー]……」

男「転校生に比べると少し軽めだ、こいつ。おぶっても背中がスカスカしてる」

天使「何故かと理由を口にしないだけ安心しました」

男「胸に栄養がいってないんだろう?」

天使「男くんと自分は一生仲良くなれる気がしません」

男「冗談ぐらい笑って返してくれよ、天使ちゃん」

男(すっかり温かくなった妹をベッドまで運ぶ。寝惚けているのか、起きているのか、何度も顔を擦りつけてくる様はまるで猫だ)

男「なんと先客がいたとはな」

天使「マミタスってばすっかり妹ちゃんの布団独占中です。猫といえば男くん前に痛い目見ましたねぇ」

天使「実はその顔の傷、階段から落ちてできたもんじゃないんですよ?」

男「ふーん、こいつに引っ掻かれでもしたの?」

天使「おっかないヤっちゃんにボコボコにされたんです。ぷぷーっ、あの時の泣き顔と来たら!」

男「どうしてそんなスリリングな体験してるんだよ!?」

男「まったく……ほれ、マミタス少しずれてくれ。妹が寝れないだろ?」

マミタス「にゃー」

天使「ここは俺に任せておけッ!」

男「いきなり何カッコつけた台詞言い出すんだって」

天使「マミタスの言葉を訳してあげたんですよ? 自分に構うな、行けですって」

男「残念ながらうちのマミタスは可愛い女の子なんだが?」

天使「あー、じゃあきっと男勝りなんですねぇ! とにかくここを退くつもりはないらしいです」

マミタス「にゃんにゃん」

天使「ほらぁ~~~! ねーマミタスぅー!」

男「おう、自信満々にバカやってくれてありがとう。可愛いよそういうの」

天使「もしかして自分を疑ってるんですか? この子は気を遣ってここにいるんですよ」

男「ゲットアウト! マミタス!」

マミタス「ふかー!」

男「あ゛ぁぁぁ!? おい、お前飼い主に手出してくるとは何様のつもりだ猫畜生が!!」

天使「やれやれ、鈍い人ですねぇ男くんもー」

男「はぁ!? ……って、まさか」

天使「マミタスの恩返しですよ。男くんにじゃなく普段から構ってくれる妹ちゃんにですけど」

男「冗談じゃないぞ! 俺はマジで疲れてるんだ、これ以上妹イベント起こされては」

妹「ふぁ……おにい、ちゃん?」

男「ゲェーッ!!」

妹「はれぇ……わたしいつのまに眠っちゃってたの? ここまでお兄ちゃんが連れてきた?」

男「あ、ああ、リビングに放っておくわけにはいかないだろ」

男(先ほどまでベッドに腰掛けていた天使ちゃんが都合良く姿を消している。そして不動のマミタス)

妹「ありがとね。うーん、ちょっと頭ぼーっとしてるかも……ねむ……」

男「奇遇な事にお兄ちゃんもすごく眠たくてな、俺もそろそろ部屋に戻らせてもらう!」

妹「えぇ~待って~……んぅ」

男「まだ、何か話が、あるの、かな」

妹「これ」

マミタス「ゴロゴロ、ゴロゴロ」

男「いや、知らん」

妹「お兄ちゃんも知ってるでしょ? この子一度寝ちゃって起こそうとしたら凄く機嫌悪くの」

男「ああ、ついさっき動かそうとしたら爪でやられた。酷いぜ、見ろよこれ」

妹「あちゃーダメだよ……むきになって触ったらもっと大変な事になるからねー?」

妹「ってなわけで、お兄ちゃんの部屋貸して?」

男(怨むぞマミタス。飼い犬、いや猫に手を噛まれるとは思いもしなかった)

男「そのお兄ちゃんは何処で休めばよろしいか?」

妹「別に自分の部屋にいればいいじゃん」

妹「わ、私と一緒の場所で寝るのが不満なわけ?」

男「むしろ逆にお前がそれで平気なのかと訊きたいんだが」

妹「平気じゃないけど、しょうがないじゃん……[ピーーーーーーーーー]///」

男「いいよ、無理しなくても。俺は下で寝るから好きに使えよ」

男(フラグを、少しでも可能性を断つのだ。逃げなければ身が持たん)

男「お客用の布団と毛布引っ張ってくれば問題ないから、それじゃあおやすみ!」

妹「うぅー、じゃあ私が下で寝るよ。ごめん……」

男(たとえ実の妹相手だろうが非情であれ。俺は悪くない、悪くない、気にするんじゃない)

男「仕方ない、俺の部屋行くぞ。今日だけだからな? (美少女には勝てなかったよ)」

男(妹は眠りまなこを擦り、ようやく布団へ辿り着くと力尽きたように倒れ込む。もぞもぞと布団へ潜っていくと、ひょこりと顔を出して)

妹「変な考えは絶対持たないように!」

男「いいからさっさと寝ろよ!」

妹「はーい……ねぇ、そんな薄いの上に一枚で寒くないの。風邪引かなーい?」

男「引かないよ。バカだから (お前が眠ったらすぐにここを脱出し、妹の部屋へ逃げるからな。もしバレても冷えたからと言い訳すれば問題ない)」

男(確実に添い寝を狙っているのはわかる。「仕方ないから一緒に寝てあげてもいい」とかなんとか言って、罠へ嵌めてくるだろう)

男(是非お願いしたいのが本音であるが、明日の朝二人で仲良く横へ並んでいる場面を幼馴染へ見られるわけにはいかない)

男「(いくら俺たちが仲の良い兄妹とはいえ、さすがに高校生同士だ。怪しい関係があると思われる危険がある)……これ以上付け入る隙を与えるものか」

妹「何か言った? 寝ないのお兄ちゃん?」

男「いや、ただの独り言だから気にするなよ。電気消すぞ?」

妹「あっ、豆球残してー真っ暗になると返って寝れなくなっちゃうんだー」

男「細かいところでお前とは反りが合わんな……!」

男(部屋は豆電球の僅かな明かり一つ残して暗闇に包まれる。ここからは何を訊かれても答えない、それがベスト)

妹「もう寝た?」

男「寝た」

妹「これで眠っちゃったらさ、もう兄妹チェンジ終わりになるんだよね?」

男「お兄ちゃんお兄ちゃんってさっきまで言われてたんだが、まさかまだ続いてたとは」

妹「う、うるさいなぁー……もう癖になってるんだから今さら直せないの」

妹「お兄ちゃんも私のことお姉ちゃんって呼ぶの抵抗あったでしょ。ていうか全然呼ばなかったし!」

妹「もし本当に私がお姉ちゃんだったら、どうなってただろうね?」クス

男(こいつ、寝るつもりがないというのか。ここへ来た瞬間急に饒舌になり始めた)

男「いい加減口と目閉じてさっさと寝ないか? 明日休みじゃないぞ」

妹「お兄ちゃんの布団臭いから目覚めちゃったよー」

男「お前、このシーツくれてやるから俺とそこ代われ」

妹「やーだよぉー! えへへ!」

男(ご丁寧に一々会話に付き合っていては妹が調子づいてしまう。「寝る」と話を遮り、シーツへ俺は包まった)

男(おそらく、それでも彼女は来るだろう。妹は虎視眈々と俺が眠る時を待っている)

男(俺たち兄妹の間で、水面下の戦いが始まっていたのである)

妹「ぶー……[ピーーーーーーーーー]」

男(好きにできると思うなよ、妹。ここからは俺のステージだ)

男(妹は耳を澄まして俺が寝息をかいていないか探っている。こちらが落ちた瞬間、すかさず近寄ってくる気か)

男(ここへ潜られ、くっ付いて先ほどのような告白染みたことを話している途中で俺が目を覚ませば、今度こそ、ありえるかもしれない)

男(奇跡がそう何度も起こるとは思えないしな、ここまで積極的になっているのだ。もしもの時の覚悟は妹も決めていると思われる)

男(忘れるなよ、俺は難聴鈍感なハーレム主人公だ。ドキドキさせられるのは俺の方ではない、彼女たちの方である)

男「(この俺によってな) ……妹」

妹「えっ!?」

男「ぐぅー……すかー……」

妹「な、なんだ寝言か……驚かさないでよ……」

男「妹、妹……おれ……おれはお前のこと」

妹「ちょっと本当は起きてるんじゃないの!? わ、私が……なに……?///」

男「ぐぅ……」

妹「っー!! お兄ちゃん起きてるでしょ! ねぇってば!」

男「……」

妹「あ、あ、あうっ……私がどうしたっての、[ピーー]、[ピーーーーーーー]///」

男「妹ぉ……」

男(実にくだらないこの演技も、爆発しそうな恋心を抱える彼女へ悶々させるには十分過ぎた)

男(しんとした静けさの中、傍らで妹の名前を呼ぶ。妹の意識を俺の言葉を聴き取ることだけに向けることへひとまず成功)

男(彼女のペースはそれだけで簡単に崩れた。同時に、兄はひょっとして自分へ恋愛感情を持っているのでは、と思わせる)

男(しかし、中々煮え切らない俺の言葉に行動を起こせずにいるようだ。狙い通りだ、少しでも揺さぶれば妹は自分から殻へこもる傾向があった)

男(すぐに手が届くが、届かせられずにいる。その状態が使える。彼女が俺へ攻撃を仕掛けて来るときは、完全に俺が無防備な時のみ)

男(その無防備な俺から先制を打たれるとは思いもしなかった、違うか?)

妹「お兄ちゃんって[ピーーーーーーーーーーーー]……で、でも[ピーーーーーーーーーーー]」

男「お前のこと……すー」

妹「もうっ、ほんとにさっきから何なのー!?///」

妹「[ピーーーーーーーーーーーー]! [ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]!?」

妹「[ピッ]、[ピーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]っ!?///」

男「ん~……お前さっきから一人で何喋ってんだよぉー?」

妹「ぎゃああぁぁぁ~~~!!?」

男「喧しくて目ぇ覚めたじゃねーか……ん? おい、顔赤くないか?」

妹「ちちち、違うっ!! それきっと照明のせいだからっ!!///」

男「いや、頬っぺた紅くしてるし、変だぞ。まさかお前が風邪引いたとかじゃないだろうな?」

男「ちょっとおデコ触らせてみろ」ピト

妹「ぃひっ!?」

男「熱はなさそうだけど……後から来るかもしれないしな、温かくして寝とけよ」

男「父さんたちがいない間にお前に何かあったら困る。それ関係無しでも心配なんだからな?」

妹「あ、うあああぁぁ、やぁあああぁぁぁ……///」

男「ほら、やっぱり顔真っ赤になってるじゃないか? 完全に風邪だなこりゃ……」

妹「[ピーーーーーーーーー]! へ、平気だからもう手どけてよぉ!? [ピーーーーーーーーー]!!」

男「え? 何だって?」

妹「うう、うるさーいっ!! もう自分の部屋で寝るからいいっ!! ど、[ピーーーー]……///」

男「はぁ? おい、待て……あーあ、もう行っちまったか……」

男「さてと、これでゆっくり美少女の香り付きマイ布団で眠れるわけだ」

男「……やれやれ (妹へご苦労さま、である)」

明日へ続く

男「今朝は現われなかったな、ストーカー。いや、もしかしたら物陰からこっそり盗撮を……」

幼馴染「大袈裟だよ」

男「大袈裟じゃねーよ! 危機感足らなすぎるぞ!」

男「いいか? 俺といる間はお前を絶対に怖がらせたりしない。構わずもっと頼ってくれ」

幼馴染「う、うん……男くん[ピーーーーーーー]……///」

男(やはりこれはイベントの一種なのだろう。見方によれば、幼馴染へ俺が集中せざるを得なくなる罠かもしれない)

男(理解しているが、放っておけるものか。美少女のピンチは俺のピンチ。たとえ地雷原を走る事になろうが、男なら救うしかあるまい)

男(まるでお人好しの主人公だ。難聴に鈍感、これらにそれを加えると……より一層元の自分から離れていくな)

男(このまま過去を忘れていき、ハーレム主人公としての人格が真に確立された時、今そんな事を考えられる俺はどこへ行くのだろう?)

男(自分が新しい自分に浸食されている気がす[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

幼馴染「男くん?」

男「え? ああ、悪い。少しボーっとしてた……ところで週末なんだけど」

男(週末と聞くやいなや、幼馴染の目が光り、期待でいっぱいと言わんばかりに両手を胸の前で組む)

幼馴染「二人でどこに行く!?」

男(部活の合宿があるとは言い出せないだろうが)

男「そ、そうだなぁー……まだ行く場所なんかは決めてないが……」

幼馴染「だったら今日帰ったら一緒に決めようよ!」

男「家だと妹がいるだろ。今回は二人だけで遊ぶ予定じゃなかったのか?」

幼馴染「それなんだけど、どうせなら妹ちゃんも一緒に連れて行ってあげた方がいいのかなって」

男(こいつは予想外である。どういう心境の変化だ?)

幼馴染「えっと、別にその日に妹ちゃんが用事あるなら二人がいいけど……無かったら寂しいんじゃない?」

幼馴染「本当は[ピーーーーーーーー]、大事な妹ちゃんを[ピーーーーーーー]は[ピーーーー]し……」

男(幼馴染は妹を俺に続いて大切に思っているのか? 二人っきりのデートが恥ずかしいという風にも思えない)

男(彼女は俺が他の美少女へ近づくことを仮容認中だ。だが現実は中々我慢が難しいようで、何度か嫉妬じみた態度を取っていた)

男(そんな彼女が唯一俺へ近づく事を許しているのは、妹か。妹本人は幼馴染を姉のように慕っているが、恋愛のライバルとしても見ている)

男(これは……上手く動かしてやれば、少なくとも二人の間で俺を取り合うことのない平等な関係を築かせてやれるのでは?)

幼馴染「男くんはどう? も、もしかしてあたしと[ピーーーーーー]?///」

男「お前がそうしたいならアイツも誘ってみようぜ。そうだな、たまの休日に留守番させるのも可哀想かも」

幼馴染「そこはお世辞でも[ピーーーーーーー]なぁ……」

男(成功すれば、ハーレムへの道へ大きく前進できるぞ! 幼馴染と妹を!)

>>30 
訂正
幼馴染「二人でどこに行く!?」 → 幼馴染「どこ行く!?」

男(難聴を取っ払うのはその後で一切問題はない。二人の関係を立ち上げてから、どちらかのルートへすぐ向かえばいいのだ)

男「とにかく今日夕飯でも食べながら、みんなで考えよう! それがいい!」

幼馴染「急にテンション高くない? ふふ、妹ちゃん予定空いてたらいいねぇ~」

男(空くさ、俺が求めれば全ては思い通りになる。スケジュール操作なんぞ容易である)

男(さて、話が一段落ついたところでもう一つ彼女へ伝えなければならない)

幼馴染「部活の合宿?」

男「そうなんだよ。それが日曜から月曜に掛けて、向こうで一泊予定らしい」

男「その間妹の世話を頼みたいんだが……難しいかな? (すまない我が妹よ。お前を使って話を緩和させてもらった)」

幼馴染「ううん、あたしなら全然大丈夫だよ。任せて」

幼馴染「……ていうか、何の特訓? ラーメン作り?」

男「熱いスープを飲んでも耐えられる強固な舌作り」

幼馴染「……は?」

男「厳しい二日間になると思うが俺の無事を祈っててくれよ、幼馴染! 逞しい姿で帰ってくるから!」

幼馴染「男くん、あたしたちも日曜日二人で美味しい物食べてくるね」

男(俺の美少女幼馴染はどうして異常に鋭いのだろうか)

?「おはようございます」

男・幼馴染「ん?」

男(すぐ後ろで誰かが落ち着いた口調で挨拶をした。反射的に俺と幼馴染が振り返ると、丁度いいのか、悪いのやら)

後輩「もしかして私空気読めてませんでした?」

幼馴染「男くんこの子知り合い? 1年生みたいだけど」

男「妹の友達だよ (俺も仲良くさせてもらっていると付け足しそうになるが、グッと堪える)」

幼馴染「えっ、妹ちゃんのお友達? それにしては落ち着いてる感じの子」

男「お前の中の妹はどんなバカと付き合い持ってるんだっ……」

後輩「成績はあまり良い方じゃありませんけど、それなりのところキープしてると思いますよ」

男「ノリが良い後輩を持てて嬉しいよ、俺は」

男「おはよう、後輩。幼馴染とは初対面だったのか? てっきり前に顔会わせてたとばかり」

幼馴染「初対面だよ。ふーん、男くんは妹ちゃんの友達とも仲良いんだぁ……?」

後輩「先輩は女の子の知り合いやけに多いですもんね。ふふっ」

幼馴染「ねー? 本当だよ」

男(変なところで意気投合しないでいただきたい)

男(二人は俺を置いて俺へ向けた嫌味満々話に花を咲かせている。美少女とはいえ悪趣味がすぎるぞ)

男「こんなところうろついて何してたんだよ。教室にもう妹着いてるだろ?」

後輩「そろそろ先輩が私のこと探しに来るかなーと思って」

男(悪戯な笑みを浮かべて俺を覗く彼女へ純粋に心奪われそうになった。しかし、勘が良いな。察しの通りである)

男(幼馴染と別れた後に、後輩へデートの件で話をしに向かおうと考えていたのだ。できれば部活へ顔を出しておきたかったが、都合上彼女との約束を果たす必要があるからな)

後輩「なんて冗談ですよ。つい後ろ姿が見えたから話しかけちゃいました」

後輩「本当はここから風景撮ってたんです。今日は雲一つないし、綺麗に町並が写ると思って」

幼馴染「っ!」

後輩「……どうかしました? カメラ、気になりますか?」

男(後輩が取り出したカメラに幼馴染の顔が強張り、一歩後ろへ下がった。カメラ……そういうことか)

男「こいつ写真撮られるの苦手なんだよ。顔悪くないくせに贅沢だよなぁ?」

幼馴染「ちょ、ちょっと……そういうわけじゃ……」

後輩「ああっ、大丈夫ですよ。私、勝手に人を撮るような失礼な事しません」

後輩「まぁ、時々例外もあったりしますけど。ね?」

男「ちょっと前に言った言葉取り消してく……俺のことか?」

後輩「私、こうして何気ない風景をカメラに収めるの好きなんです。だからこうして気の向くまま、って感じに」

幼馴染「そうなんだ……ご、ごめんね、変に思わせちゃって」

男「お前が謝ることでもないだろうが?」

幼馴染「男くん、あたし先に教室行ってる。日直なんだ。急がないと」

後輩「もう行っちゃった……あの人、幼馴染さんですか? もしかして私悪いことしてしまったんじゃ」

男「いや、ちょっとカメラとかに神経質になってるだけだよ。後輩が気にする必要ないさ」

男(あの様子だとかなり精神的に来ているのだろう。可哀想に)

男(しかし、幼馴染の退場によって後輩と二人になれたわけだ。素直に喜べないが、早速話をしておこうか)

男「カメラといえば約束してたデートなんだが、今日か明日の放課後空いてる?」

後輩「あの……自分で言っておいてなんですけど、デートデートって恥ずかしくないんですか……?」

後輩「冗談だとしてもちょっと意識しちゃいますよ、私……///」

男「がぁっ!! え、えぇー? 何だってー?」

後輩「そうやってすぐ誤魔化そうとする……もう」

後輩「私ならいつでも。無理言ったんだし、先輩の都合に合わせてくれて構いませんから」

男「ふむ、となると――――――」

後輩「せーんぱいっ、早く来てください!」

男「おい、ゆっくり見てる時間あるんだから慌てるなって!?」

後輩「何言ってるんですか。色々見てたら全然足りないぐらいですよ!」

男(この後輩には、落ち着いている、なんて言葉はお世辞でも出せる気はしない)

男(放課後、俺たちは電気店やカメラ専門店。とにかくカメラ、カメラのデートへ繰り出たわけである)

男「お前いつものテンションはどこに行ったよ……ここに来てから目の色変わったぞ……」

後輩「あはは、ごめんなさい。でも久しぶりにこういう場所へ来るとつい舞い上がっちゃって」

後輩「それより本当に放課後でよかったんですか? 先輩、部活があったはずでは? 生徒会は?」

男「適当に理由つけて休ませてもらったよ (だからこそ、ここで転校生たちに出会わないよう細心の注意を払わねば、だ)」

後輩「はぁ、バックれですか……先輩もそういうの懲りない人ですね」

男「毎度の話じゃねーよ! ていうか、どうしてお前が部活や生徒会のことを知ってる?」

後輩「忘れましたか? 前に教えてくれたじゃないですか、良い暇潰しができたって」

後輩「そんなに楽しそうなとこ放って、私に付き合ってくれてるのはどうしてです? ふふっ」クス

男「えっ……あぁ……いやー……ね?」

後輩「変わってますね、先輩は!」

明日に続くかな?

男(正直カメラを眺めて回るより、それを興味深そうに見ては一々こちらを振り向いて笑顔を向けてくれる後輩を見ている方が楽しいし、幸せである)

男(これは最新の物だ、こっちはセンサーサイズが良いとか、このレンズが気になるなど熱心に喋り続ける。俺には何が良いのかさっぱりさっぱり)

男「後輩がこんなに詳しいとは思ってなかったな」

後輩「えっ……あっ、ど、どうせ良い風景を撮るなら、より綺麗に撮れる物を追求したくなるじゃないですか……!///」

後輩「……ひ、引いちゃいました?」

男「いいや、それだけ夢中になれる趣味があって羨ましいと思ってさ」

男「俺なんか無趣味もいいところでな。暇さえあればネットかゲーム、漫画を読み直してみたり、誇れるもん一つも持ってないねぇー」

後輩「そんなことありませんよ。先輩は色んな女の子と仲良くするのが趣味、じゃないですか?」

男「初対面の相手にそう紹介したら最悪の印象持たれるんだろうなー!! (残念ながら、否定できないのが悔しい)」

後輩「はぁ、先輩? 先輩は趣味を何か勘違いしてますよ」

男「えぇ?」

後輩「趣味って別に誇るものじゃありません。あくまで自分の好きなことです」

男「それはそうだが、人に喜んで話せるもんがないってつらいぞ? 嘘でも第一印象は良くしないと」

男「じゃないと……周りから変に思われるじゃないか……」

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

後輩「そうやって自信なさそうにするのがダメなんですよ。好きなことは好きって胸を張ればいいんです」

男「お前は真っ直ぐな奴だな、感心しちまう」

後輩「受け売りですけどね、さっきの言葉。ふふっ」

男(だとしてもそう思える彼女が俺には眩しく見えた。待て、なぜこんなくだらない事で落ち込まなければならん?)

男(これはデートだぞ。いまを楽しみながら、隙を見て後輩へ攻撃を仕掛ける。彼女に対する難聴スキルの影響はない、俺のハーレムへ引き込むには絶好の機会ではないか)

後輩「先輩はデジカメとかには興味ありません?」

男「え? デジカメ……いや、写真はあまり撮る方じゃなくてだな……」

後輩「前はよく一緒に色んなものを写して遊んでたのに?」

男「俺が? お前と?」

後輩「ええ。といってもその記憶がハッキリしてないんですよね、お互いに」

男(記憶? そうだ、後輩は既に攻略済みだった事をすっかり頭から離して考えていた)

男(転校生も昨日俺との曖昧な記憶に混乱していたが、彼女はどうなのだろう? 覚えのない記憶が残っているのを不審に思っていない?)

後輩「今でも先輩と一緒に過ごした日々が夢だったなんて思えませんよ」

後輩「あの日の写真は確かに残ってる……信じたいです、私///」

男「写真……そうだ、写真!」

後輩「せ、先輩……他の人もいるんだから大声出さないでくださいよ……」

男(彼女と俺は以前こうして過去の記憶について話し合っていたのではないか? だから、当然のようにこの話題へ移れた)

男(後輩は、記憶についてあれから何か思い出せたことはあるか、写真は、と尋ねたのを覚えているだろうか。今ならあの意味が理解できる)

男(薄れた記憶と写真を同時に出したのには意味がある筈。まったくあのメモ、肝心なところが抜けていないか? それとも肝心じゃないとでも?)

男「おい、その写真いま持ってないか?」

後輩「えっ」

男「もう一度そいつを見れば俺も何か思い出せそうな気がするんでな」

後輩「すみません。いつも持ち歩いてるわけじゃないんですよ」

男「なら、何がその中へ写っているのかだけ教えてくれないか? それで十分だ」

後輩「雲とか」

男「雲……?」

後輩「というか、忘れちゃったんですか? 前に二人で見ましたよね?」

男「み、見たけど結構前の話じゃないか!? ド忘れしちゃったんだよぉー!!」

後輩「お望みでしたら明日持ってきますけど……」

男「大丈夫! 大丈夫! やっぱり気にならない!」

後輩「先輩このデー……今日こうして一緒にいる本当の理由忘れてませんか?」

男(理由があるのか? 特別な? それにしては会話を除いて何ら変哲もないデートだが)

後輩「あー、その顔は何だったっけって感じですね。私たちの過去について思い出せる切っ掛けになるようにと言ったじゃないですか」

男(ああ、やはり俺と後輩は記憶の異変に気づいていたのか。おそらく付き合っていた、後輩ルート時の記憶が失われている)

男(そして微かに彼女が思い出しているのはそれ以前の物と。ここまでから、写真にヒントを得たと推測できる)

男(後輩が持っていた写真の中には、記憶を失う前の何かが写し出されていたのでは? 他には日付で気づいたとか)

男(冴えてる……話が繋がり始めた……俺はその写真からここまで[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

男「それにしちゃあ随分デート楽しんでるように見えるけど?」

後輩「なっ……そ、そんなじゃありませんっ! それにまだカメラを見てるだけですからっ!」

後輩「どうしてすぐ意地悪言うかな、この人……///」

男「ぐあばぁーッ!! うっ……そ、それでお前は前のこと何か少しでも思い出せたのかよっ」

後輩「いいえ。先輩に夢中でまったくそんな暇ありませんでしたね」

男「ふっ、お前が夢中なのはここらの玩具にだろうが。や~れやれ」

後輩「えへ、そうかもしれません……本当に鈍感なんだから」

男(楽しすぎて狂っちまいそうだ!!)

男(それにしてもこの美少女と俺が恋人同士だったなんて俄かには信じられない。だが、この世界である。それはきっと事実なのだろう)

男(後輩とこんな風にデートなんてしょっちゅうだったのだろう……手を繋いでみたり、あんな事してみたり……そういえば)

男(次週、というか付き合う以前まで時間が巻き戻る条件は一体? メモにあったか? まさかルートへ入った瞬間にリセットが?)

男(じゃあイチャイチャラブラブ学生生活は実際には送れない? 殺生な……いや、俺は信じよう。希望があると……)

男「なぁ、お前が覚えてる俺といまの俺に変わりあるかな」

男(不意に思ったのだ。彼女と深く交流していた頃の俺は元の上がり症な根暗野郎のままか、美少女相手に皮肉を交えて軽口も叩ける今の俺だったのか)

男「おい……聞いてたか?」

後輩「えっ! あぁー……変わりないと思いますよ。先輩は先輩のままかと」

後輩「エッチでスケベで、どうしようもなく怠け者。いつも女の子を追いかけ回してる」

男「ようは変態と言いたいのかお前っ!!」

後輩「ふふっ! でも、どこか放っておけない不思議な人なんですけどね、私から見た先輩は」

後輩「……そして、大好きな人」

男「あ゛ーっ!! あ゛ぁーっ!!」

後輩「せ、先輩!? 急に暴れてどうしたんですか!?」

男「……熱いパトスを感じただけだよぉ」

後輩「本当に変わりありませんよ。まぁ、しっかり覚えてるわけじゃないから何とも言えませんけど」

男「結局わかってないじゃねーかよ!!」

後輩「そうですね。でも、どうしてそんなこと訊いたんです?」

男(不安があったからとは答えられない。元の自分なんてどうでもいいのに、何故だろう? 委員長のような末路を辿るのが恐ろしいのか)

男(天使ちゃんはその心配は要らないと言っていたが、真実を全て話していたかどうか思うと、信じ難い)

男(委員長、彼女もこの恐怖を同じように感じていただろうか。パラレルワールドで、自分を取り巻く環境の変化に戸惑いながら、それでも幸福を感じて意識は薄れていったわけだ)

男(幸福の定義をあらためて見直したいところである)

男「お前はどうしてそんなにカメラ好きなんだ? というより、撮るのがか?」

後輩「私の質問には答えるつもりないんですか……ある人に影響受けたんですよ」

男「ふーん、それってお前の家族からとか? (男の娘はこの手の趣味には疎そうだったが、まぁ所詮は設定。深い理由はないと思える)」

後輩「いえ、家族とは別に大切な人から」

後輩「実はこの趣味って持ったのは最近なんですよ。このカメラも手に入れてからまだ日も浅いんです」

男「そう言われると、確かにいつも持ってるにしちゃ真新しいデジカメに見えるなソレ……あっ」

男「例の写真もデジカメにならデータが保存されてあるんじゃないか? 見れるだろ?」

後輩「あれはこのカメラで撮ったものじゃありませんよ」

男「別のを使ったのか。でも、まだカメラに興味持ってから日は浅いんだろ?」

後輩「……ええ、あの写真を撮った物は私のじゃありません」

後輩「あれはフィルムカメラです。今はその人の手から離れて、私の元にあります」

男「貰ったのか?」

後輩「はい。でも、何だか使うのが勿体なくて結局自分で新しいのを」

男「へぇ、大切にしてるんだなぁー。でもせっかくだし、使ってやればいいのに」

後輩「使えませんよ」

男「あ……そ、そう? 別に俺には関係ないし構わんが」

男(後輩の反応に先ほどから違和感を感じて仕方ない。どこが、とは上手く説明できそうにないが、雰囲気というのだろうか。普段漂わせている空気が変わった)

男「そういえば例の写真って俺に関連したものだったよな。それを撮ったことは覚えてたのか、お前」

後輩「えっ」

男「だってハッキリこれで撮ってないって言ったじゃないか? 別の、その人のカメラを使ったって」

後輩「……[ピーーーーーーーー]」

男「え? 何だって? ……え?」

男(あれ、いまおかしくなかったか)

男(一通り店内を回った俺たちは、いつのまにか外が暗闇に包まれていることに気付く。美少女との楽しい時間はあっといまに過ぎ去るわけだ)

男「で、雨が降ってるわけと……今日は天気良かったんじゃねーのか」

後輩「こんな時のために折りたたみ傘を鞄に忍ばせておくのが利口ですよ、先輩」

後輩「幸いそんなに強い雨じゃないみたいですし、どうしますか? もう少し中で雨宿りしたら?」

男「そうしたいところだけど、家で俺のこと待ってる奴らもいるんでな。さっさと帰るよ」

後輩「仕方ないですね。私もまっすぐ帰ります。先輩、今日はお付き合いありがとうございました」

後輩「結局何も思い出せずに、ただ私が先輩を振り回しただけでしたけど……あんまり、楽しめなかったですか?」

男「いやいや、カメラも色々奥が深いんだなーと思わせられたさ」

後輩「それらしいこと言って濁そうとしてません? ……あはっ、今日は楽しかったです。また暇があれば、今度は先輩が私を連れてエスコートしてくださいね」

男(なんと可愛らしい笑顔だろう、こいつを一生を掛けて守りたい。しれっとまたデートしたいと伝えるあざとさがまた良い)

男(だが、そんな彼女の先ほどの様子が脳裏に焼き付いて離れない。不審とも言い難いが、あれは一体何だったのだろう)

後輩「せーんぱいっ」

男「は? うおっ!?」

男(一人物思いにふけていれば、後輩の声に反応して頭をあげた瞬間、フラッシュが焚かれる)

後輩「隙ありです、ふふっ!」

男「マジで時々例外なんだな、俺に限って……」

後輩「驚かせちゃいましたか? でも、ほらいい感じに面白い顔が撮れてますよ?」

男「ますよ、じゃねーよ! 俺の顔なんぞいつ撮っても面白いわ!」

後輩「私は好きですけどね」

男「え?」

後輩「うっ!? けほっ、けほ! ん、んんっ……な、何ですか……///」

男「別にぃー? 後輩ちゃんどうしたの顔真っ赤にしちゃってぇー?」

後輩「っ~……さすがにそのいやらしいニヤケ顔を撮る気は起きませんね!」

男「ふーん、じゃあ代わりにいまのお前の顔でも俺が撮ってやるかね。さっきのお返しだと思って観念しろ!」

後輩「あっ、ちょっと!?」

男(後輩の手からデジカメを奪い取り、悪戯にレンズを向けて見せた。本気で仕返しに一枚撮ってやろう、と思ったが撮影モードへ戻すにどこを押すのだ?)

男(適当にこれかと思うボタンを押していけば、内蔵データに保存された画像が映し出される。ついさっき撮れた俺の顔がドン、と)

男「こいつはマジで酷い――――――えっ」

男(次々とスライドさせていき、画面へ写し出されたソレが俺の時間を止めた)

男(そこには俺と幼馴染の後ろ姿があったのだ。撮影日は昨日の夕方。何度見直しても、ソレは俺の目へ確かに写っていたのである)

ここまで

男「天使ちゃん……天使ちゃんってば……」

男(雨はいまだに降り止まず。深く沈んだ俺を追い打つ如く勢いが徐々に増していく)

男(ずぶ濡れになっていく自分の体などお構いなしに、ただただ先ほどの写真と、後輩の顔が頭にチラつく)

男(こんな展開はあり得ない。俺がいつ望んだというのか)

天使「自分は見てないってあの時ちゃんと言いましたよ?」

男「そうじゃない! 俺が訊きたいのはこんな事があっていいのかと!」

男「信じられるかよ、あいつが幼馴染を盗撮してたんだぜ!? ストーカーなのか!?」

天使「事実かどうかはわからないじゃないですか。男くん、あの子を責めもしないで逃げてきちゃったんですし?」

男「そ、それは……」

天使「はいはい、気持ちはわからないでもないです。あんな良い子が幼馴染ちゃんを困らせてる張本人だったなんてこと」

男「やめてくれ……もしかしたら、あの写真は俺を驚かせようとして偶然撮ったのかもしれないだろ」

男「そうだ、まだ犯人と決め付ける段階じゃない。ワケがあるのかもしれん! 後輩は悪い子じゃない!」

天使「あー、ところで男くん気づいてませんでした?」

男「は?」

天使「……気づいてないみたいですねぇ。じゃあ今のは聞かなかったことに」

男「ちょっと待て、そういう風に逃げられるのが一番腹立つってわかんねーか!」

天使「お、怒らなくてもいいじゃないですか! それに男くんだって美少女相手に同じことするでしょーが!」

男「俺の場合は特別なんだよ……何でもないなら一々口に出すな、これでも参ってるんだから」

天使「えぇ~……と……げ、元気だしましょー!? おーっ!!」ブンブン

男「自分から呼んでおいて悪いが、もう引っ込んでくれ」

天使「ちょー! なんと勝手なっ! ……男くんはこの程度で絶望したりしませんよね? 大丈夫ですよね?」

男「俺のメンタルの強さを舐めてもらっちゃあ困る。むしろこの状況を生かせないか、その方法をただ今模索中だよ」

男(珍しく心配してくれているであろう天使ちゃんが、俺の手を取った。なんてふわぷになお手手だ。それだけで受けたショックも和らぐ)

天使「生かすって?」

男「まずは何故後輩は幼馴染をストーキングしているか疑問に思うだろう?」

男「嫌がらせにしては確実じゃない。もちろん、その線もありえないわけではないが……俺は純粋にあいつの愛情表現ではないかと考えた」

天使「あの子が? 女の子同士ですよ?」

男「ああ、しかし俺は別に困らん。むしろ美少女同士がイチャつく姿を見れるのは嬉しい」

男「そこで思ったわけだよ。俺は無自覚にそれを望んだんじゃないかって」

天使「美少女が男くんだけじゃなく、他の美少女にも好意を持つように?」

男「可能性の一つさ。確かとは言えんがな」

男「この世界は俺の理想を、願いを叶えてくれる……大体、俺の目指すハーレムは彼女たちもお互いを認め合う仲でなければ成立しないんだ」

男「認め合う。それは愛を持って作り出せるとは思わんかね?」

天使「よくわかんねーです」

男「とにかくだよ、天使ちゃん! こんな歪んだ形で後輩が幼馴染を追うのは少し残念だが、上手くいけば二人を近づけさせてやれるかもしれん!」

男「そーして二人はラーブラブ! でも男くんも大好き! 結果的にお互い俺を奪い合うことなく、理想的な関係を築けるわけだ!」

天使「結局後輩ちゃんがストーカーって前提で考えてるんですねぇ。まぁ、前向きな考えも大事でしょう」

天使「でも、そしたらいつかはあの子に例の盗撮の話訊かなきゃじゃないですか?」

男「……い、いや、別に写真について問わんでも、それとなく気になる子について話題を出して」

天使「はぁー。何だかんだでも、いつもの男くんで安心しましたよー」

天使「本気で落ち込んだままじゃ傍にいる自分まで重くなっちゃうでしょ……あんま気遣わせないでください!」

男「結構優しいところあるよな、お前。心配してくれてありがとう」

男(と笑顔で感謝してやれば、頬を赤くしてそっぽを向いた。今なら……手を天使ちゃんの頭の上に……置けた。撫でてもすぐに振り払おうとしないだと)

天使「っ~……///」

男(俺を哀れに思う気持ちが彼女をその気にさせたのか、もしくは会話するようになって俺へ心を開くようになったのか)

男(このロリ美少女がいまはとても可愛らしく思えた。サイドで結んだ小さなポニーテルがふるふると揺れているのも、素敵)

天使「と、特別に、いまだけ、頭撫でられて、やってるん、ですよ」

男「あん?」

天使「……何か問題でも?///」

男「すまん悪いが聞こえなかったよ、耳にバナナが入っててな」

天使「うざっ!! あーうざっ!! もう触らないでください!!」

男「ジョークだよ、まったく (少しだけ気分が紛れたかもしれない。なんて自分を誤魔化していたいが、あの後輩が、と心苦しさは完全に晴れなかった)」

男(この先彼女へどう接していいのだろう? ストーカーの真偽を確かめるべきか? いや、後輩をハーレムに加えるなら、この問題をなぁなぁにしてはならない)

男(もう逃げるのは無しだ。今まで通り、美少女へ向き合わなければ)

男「それにしても男の娘に続いて、その妹の後輩。あの兄妹深い闇でも抱えてるんですかね」

天使「問題が山積みですねぇー」

男「ああ、違いない。俺も多忙な身になったもんだよ。こういう時に言ってみたい言葉があるんだ」

男「不幸だ…… (その時、突然泥水を全身に被る。車が近くの水溜りを走行して、俺へ引っ掛けてきたらしい)」

男「紛うことなき……不幸だった」

天使「ぷぷーっ! ずぶ濡れがさらにずぶ濡れですー!」

男「情けなさに箔がついたな。だが、俺にとっては不幸も不幸のままでは終わらないらしい」

男「これは……イベントだ……!!」

男(水を跳ねた車が急停止すると、運転席のドアが勢い良く開いて美しいお姉さんが現われる。やはりこの場では彼女しかいないと思っていた)

先生「ごめんなさい! 暗くて人がいると思わなくて……って、あなた男くん?」

男「先生ですか、俺をこんな目に合わせた酷い人は?」

先生「ごめんごめん、本当に気づかなかったの。それよりきみ傘は? どうして雨の中平然と歩いてんの?」

男「今日雨が降るなんて予報に聞いてなかったんですよ。不意打ちの結果がこれ!」

男「まぁ、結局どう足掻いても水被ってたかもしれないけどー」

先生「悪かったってば……先生も反省してますから……!」

先生「それより早く車の中入って。そのままだと風邪引くよ?」

男「送ってくれるんですか? ていうか、俺がシート座ったら酷いことなりますよ?」

先生「私に責任あるんだから気にしない。すぐそこに先生のアパートあるから服洗濯してあげる」

男「え? でも」

先生「いいから遠慮しないでさっさと乗った乗った! あとで家まで送ってあげるから!」

先生「おまたせ。ほら、傘持ってきたからこれ使って? 駐車場から結構歩くからね」

男「わざわざ戻ってもらってまでどうも……あれですか、アパート?」

先生「そうだよ。何? 意外にボロくないなって安心した? 防犯もしっかりした良いとこなんだから」

男「じゃあ、アパート囲んでるそこの石垣がボロボロに崩れてるのは?」

先生「……先週車ぶつけちゃった、てへ」

男「てへで済む問題でしょうかね」

先生「ひ、久々に車使って運転忘れちゃってー! れ、練習中だったしー!」

先生「今まではバス使ってたんだけど、ほら職業上色々な場所回るようになるでしょ?」

男「ペードラの助手席に座らせられるほどの恐怖ってないですよ!?」

先生「でも、男くん生きてるじゃない……ねぇ?」

男「帰りは自分で歩きますからお気遣いなく……」

先生「だ、大丈夫よ! 先生の腕を信じなさい、殺さないから!」

男「今度は人轢いたりしないでくださいよ、マジで!」

男(意外にドジな一面があるのか、この美人教師。始めのイメージとの落差が凄い)

男(そうこうしている内に彼女の部屋の前まで辿り着いた。中に魔空間が広がっているのでは、と気にする前に思う。俺は今から一人暮らしの女性の部屋へ入るのだと)

短いけど、明日へ続く

先生「上がって。散らかってるけど、この際気にしないでね? こんな事になるなら昨日片づけとけば良かったなぁ」

男「俺もうるさく言うつもりありませんよ。お邪魔しまーす……玄関は、思ったより普通かも」

先生「こーら。ふぅ、とりあえずそこの浴室使いなさい」

男「お風呂まで借りなくても大丈夫ですよ! タオルで拭けば十分」

先生「そうもいかないでしょ。男くんそんなにビショビショなんだから」

先生「どうせ制服も洗うから脱いでもらうし、言う通りにしておきなさい?」

男(ドジっ娘属性持ちだろうと年上に歯向かう気は起きない。この場面で風呂へ入れというのも緊張しつつ高揚してしまう)

男「まさか一線を越えてしまうことに……くっ、念入りに洗った方がいいんだな!」

先生「脱いだ? 開けるよ?」

男「開けてから訊かないでくださいよぉぉぉ!?」

先生「ん? あぁ……大丈夫、別にお子様の裸見たって何とも思わないからっ」

男「それはそれで俺を傷つけると何故わからんのですっ」

先生「というか、きみまだ下着着けたままじゃない。それもこっちに渡して? 下も濡れてるでしょ?」

男「わぁ、待って!? いまの台詞はまずいですよ、あんた教師だろう!?」

先生「え? ……もしかしてきみ、先生の家で如何わしいこと考えてるの」

男(腕を組み、蔑んだ目でこちらを見られるた途端、言いようもないゾクゾクが全身を駆け抜けた気がした。是非、弄んで欲しい)

先生「別に年頃の男の子だから仕方ないとは思うけど、期待しても無駄だからね?」

男「か、勝手に欲情してるって決めつけるなよ!!」

先生「はいはい、いいからさっさと下着も脱ぐ! そこの籠の中に入れて渡してくれればいいから」

男「こんな事なら勝負下着用意するべきだったんでしょうかねぇ……はい、どうぞお願いします」

先生「へー、中々かわいいパンツ穿いてるんだねー?」

男「お願いだから何も言わずに洗ってやってくれませんか」

先生「了解。タオルと、あとサイズ合うかわからないけどジャージ用意しといてあげる。一応ね?」

男「純粋な男子生徒を弄んで楽しいんですか! からかってますよね!」

先生「あはは、きみの反応が一々初々しくて可愛いから、つい。 ごめんね?」

男(ドーテイ丸出しの演技が彼女に受けたようだ。狙い通りお姉さんチックにこちらを責めてきた)

男(自分の手の中で俺を踊らせているつもりだろうが、逆だぞ。踊っているのはあなたの方である)

先生「じゃあ湯船は張ってないけど、ごゆっくりー……ほんとに可愛いんだから困っちゃうんだよなぁ」

男(そういえば先生は攻略済みだった。当然彼女にも俺の難聴スキルは発動しないわけか)

男(いきなり幼馴染たちを抜いて美人女教師へ向かうとは、マニアックなのか、捻くれからそうしたのか……先生とのイチャラブをイメージすると鼻息が荒くなる)

男「うむ……下着無しでどうしろっていうんだあの人 (シャワーを念入りに浴びてさっぱりしたところ、用意されたジャージを見て思うわけだ)」

男「先生ー? 俺替えの下着なんて常備してないんですけどー? ……いないのか? 先生?」

先生「ただいまー、また雨酷くなってきたわねぇ……ってもう上がってたの? 早いね?」

男「え、外に出てたんですか? さすがにこの天気で外に干してもすぐに乾かきませんよ」

先生「その前にこんなに早く洗濯終わらないから。替えの下着コンビニで買ってきたの、ないと困るでしょ?」

男(戸が半端に開かれると新品パンツが差し入れられてきた。さすが大人、後を考えて行動できる部分は見習っておきたい)

先生「シャツは私が持ってるので大きめの探したんだけど、合いそうなの見つからなくて。とりあえず下だけは用意しといたから我慢できる?」

男「上半身ぐらいなら、まぁ……わざわざありがとうございます」

男(パンツを装着、その上から先生のジャージ。ギリギリ入るが、余裕は残らない。それより気になるのが上の方だった)

男(スースーするし、敏感な部分が擦れるのも落ち着かない。そんな状態で浴室から出ると入れ替わりに先生が中へ入ってくる)

先生「ん、似合ってるじゃない。ひとまずそれで我慢ね」

男「……何で中に入ってきたんですか?」

先生「私もさっき外に出た時ちょっと濡れちゃったから、ついでにシャワー浴びとこうと思って」

男「……じ、実は?」

先生「……スケベだぞ、少年?」

男「想像してたより小奇麗に纏まった部屋じゃないか」

男(この手の先生といえば学校ではしっかりしている癖して、生活はだらしないと勝手にキャラを当て嵌めていたが裏切られた)

男「一部除いてだが……何故にPCをトリプルモニターにしている。マウスはレーザー、変態か……」

男(PC周りが部屋の中でかなり浮いている。大量の専用ゲームソフト、ゲームパッド。椅子も長時間座っても疲労が堪りにくいタイプだ)

男(机の上には別のノートPCに、備えられたキーボードの他にスピードパッドの存在まで確認できる。嫌な予感は的中したかもしれない)

先生「男くん体まだ冷えてるだろうし、何かあったかいもの飲む? すぐ作れるよ?」

男「貰っていいですか?」

先生「はーい。ちょっと待ってて……あっ、部屋の中物色したりはやめてよ?」

男「先生の部屋、男の気配皆無ですよね」

先生「それはどうもありがとう。いまのしっかり覚えとくから」

男(これ以上余計な物を見てはいけない気がする。大人しく先生を待とう……さて、そこに彼女の物と思わしき下着が干されているわけだが)

男「先生はさっきから俺を誘ってるんですか!?」

先生「え? あ、ごめんごめん! 洗濯物畳もうと思ってたんだけどコンビニ優先しちゃったから!」

男(彼女が美少女たちと異なるのは恥じらいのポイントである。大人の余裕を見せて俺をからかってくる)

男(しかし、それでも俺へ対する恋愛感情を持っていると。むしろこれは恋愛ではないのか? 単に可愛がられているだけ?)

男(今思えば、先生に関して知っている事は攻略済みという情報のみだ。他はほとんど謎かもしれない)

男(再度思う。なぜ俺は彼女の攻略から向かったのか。後輩か、先生か、どちらが先なのかは俺にはわからないが、理由があるのか?)

男(そもそも先生と接する機会は他と比べればほとんど少ない。毎日顔は見合わせるが、イベントはそのたび発生していない)

男(確かに魅力的なキャラだが、真っ先にルートへ進もうと考えられるか? 思えん。嫌というわけではないが、いきなり心を鷲掴みされでもしなければ……覚えていない事を必死に考えてもしようがないか)

先生「男くんはヘンタイだー、ってよく転校生が話してたけどムッツリの方だったのかもね」

男「は?」

先生「ちょっと思っただけ。良いんじゃない? 歳相応で」

男「言っておきますけど俺はふざけてただけで、本当にアイツが言ってる変態とは程遠いから」

先生「おっと、転校生で思い出した……日曜日からの合宿、先生も着いてくから」

男「……何で?」

先生「な、何でとは酷いなぁ。私も一応ラーメン愛好会の顧問よ? だったら付き添うべきでしょう」

男「あそこに顧問とかいたのかよっ……でも、合宿というよりは遊びですよ? 別に顧問がいなくても」

先生「男くんは私がいたら迷惑?」

男「い、いや迷惑とかじゃないけど! わざわざ子どもの遊びに休日潰してまで付き合うのかって訊いたんです!」

先生「だって部長から誘われちゃったし。私の分のチケットも用意してくれたんだよ? で、部員で泊まるとか言い出すんだし、教師としては放っておけないじゃない」

男「別に俺たち変なことしたり、起こしたりする気ありませんよ!」

先生「若いって怖いから。とにかく私も着いて行きます、決定事項です!」

先生「連休だしネトゲに籠るのもありと思ったけど、タダで美味しいご飯に温泉は捨てがたいしね……」

男「うわっ、そっちだったのか」

先生「……それに男くんもいるって聞いたら黙ってられないしね」

男「え? な、何ですか?」

先生「ううん、別に、気にしないで! 可愛い生徒のためなら体張りますとも!」

男「先生、さっきご飯と温泉って聞こえましたけど」

先生「さぁー! きみの服が乾燥し終えるまで退屈だし、勉強の時間としよう!」

男(先生の家で個人授業だと……一体どんなためになる事を教えてくれるのだ……ノートは俺の体自身、良いだろう。しっかり刻み込んでくれ)

男「俺の教科書全部教室のロッカーに仕舞ってきたんですけど?」

先生「別に私のがあるし。……冗談、その代わりこっちに付き合ってもらおうかな?」

男(突然四つん這いになってテレビデッキへ向かう先生。中から何か引っぱり出しているようだが、そんな物より今はこちらへ振られてる形の良いお尻だ)

男(シャツとタイトスカート、パンストを脱いだ彼女は質素なルームウェアに身を包んでいる。その為か普段より無防備。シャツが上がり、白いお腹が見えるし、屈みこめばブラチラGET)

男「ああ、天国はここにあったのだ……」

先生「男くん、きみには私のストレス解消に付き合ってもらいます。じゃじゃーんっ」

男「セガ……げふんげふん、サターンだと……?」

先生「ふふふっ、古いからと侮るなかれ。格ゲーやるならやっぱりこれが一番なのよね~!!」

先生「やるでしょ? ゲーム?」

男「いや、やりますけど俺セガ産のは触ったことありませんよ……」

先生「じゃあ良い機会じゃない。セガコンは人生一度は弄っといた方がいいと思う」

男(勢いに負け、コントローラーを握らされた俺がいた。ガーディアンヒーローズも捨て難いがと隣で先生が何か呟いているが、結局画面へ写し出されたのは)

先生「バーチャ2でOK? 大丈夫、ちゃんと全部教えるから!」

男「バーチャロンなら知ってるんですけど、無いんですか」

先生「あっ、そっちのが好みだった!?」

男「も……もうこれでいいですわ」

先生「ビシビシ扱いてあげるから覚悟しなさいよ~! もしハマったら貸してあげるから!」

男「間に合ってます!!」

先生「ん……それとも今度ウチに泊まって一晩中やっちゃう?///」

男(R-18の意味で捉えたい台詞だが、先生よ、そこは照れを出すところなのか)

男(KO、KO、KO、誰か教えてくれ。俺はあと何回負ければいい? あと何回倒されれば手加減されるんだ?)

男「初心者相手に一切手抜かないって厳しすぎるだろ……」

先生「また私の勝ちー♪ 必要な事は全部最初に仕込んであげたわよ。あとは男くんのセンス次第」

先生「大体初めてだからって甘えるのは情けない。ガチャプレイでも何でも、もっと勝ちに貪欲になるの。それがいつか上達に繋がるんです!」

男「いつかね、いつか。こうなったらとことんやってやりますよ! もし勝ったら俺の頼み何でも聞きますか!」

先生「それ男くんが勝ったらの話だよね? 先生が勝った場合じゃなくて」

男「……あと3回俺が負けてもと条件変えてあげますよ」

先生「やっぱりそういう魂胆か。きみって中々食えない子だから、こういう時危ないんだよねぇ」

先生「ほんとずる賢い……だからあの時も私、きみに……」

男「あの時? もしかして少し前の話ですか?」

先生「えっ、少し前……あれ、何の事だったっけ……あれ……?」

男(同じだ。転校生や後輩のように彼女も記憶が微かに残留しているのだ)

男(彼女たちは俺に引っ張られ、リセットされた。いや、修正としておこう。なぜ主役であるこの俺が記憶の完全抹消であり、美少女たちは中途半端にされているのだろう?)

男(まぁ、本当に完全抹消されているかは怪しいところだが。ひょっとして俺の行動次第で無くした記憶が返ってきたりはしないか? たとえば、もう一度この先生ルートへ進むとか)

男「……質問いいですか、先生」

先生「うん? 何? まさか恋の相談とかじゃないでしょうね~、いいよ、言ってみて」

男「俺と先生って昔付き合ってませんでしたか」

先生「ぶっっっ!!!」

男(得意気な顔してすっかり冷めきってしまったお茶を飲みながら聞いた先生は、それを吹き出す。激しくむせている彼女の背中をさすりながら)

男「俺の勘違いならそれで良いんです。でも、不思議と妄想ではないんじゃと思えて」

男「先生は時々思い出したりしませんか、覚えのない俺との思い出をとか?」

先生「ちょ、ちょっと……冗談でしょう!?///」

男「先生さっきポツリとこぼしましたよね。あの時って。でもそれは曖昧な記憶だった。自信を持ってあったと言えない話」

先生「た……確かにきみの言う通りよ。一瞬だけど頭の中で男くんと一緒にいた時を思い出した」

先生「でも、あんなことこれまで一度もなかったし、私と男くんって学校でしか会わないじゃない……なのに」

先生「思い出の中のきみは、この部屋にいた」

男「俺はここに今日初めて上がりましたよ。俺が覚えてる限りでは」

先生「でしょ? 私だって男くん家に入れたのは初めてだよ。でもね、実は前にここにきみが来たって気がしなくもないの」

先生「おかしいでしょう。だからデジャブか何かかと思って気にするつもりなかった」

男(俺がこの部屋へ招かれたのは一度ではなかった。付き合いがあったのなら、恋人の家へ上がるのは不思議な話ではないが)

男「なかった、って事は今はどうなんです?」

先生「実はこんな風にいきなり覚えのない出来事思い出すのって初めてじゃないのよ」

先生「ふとした時とか、男くんと話してる時とか……全部きみとありもしなかった思い出ばかり。それだけが曖昧な形で、突然」

先生「もしかして男くんも私と同じ体験してるってこと? だからそんな事訊いたんじゃないの?」

男(今のところ彼女についての記憶を思い出すことはなかったが、ここまで話して「無い」とは答えられないだろう。逆にそれを追求されても困る)

男(俺と比べると頻繁とまではいかないが、彼女たちは頭の中で記憶の断片を多少観察できている)

男(昨日、不良女との会話時に俺が買い物へ付き合ってもらったと無意識に話したが、言葉として出てきただけで、そのイメージは全く再生されなかった)

男(まるで俺は誰かに喋らされているみたいではないか。誰か俺を見ているのか? [ピーーーーーーーーーー]。天使ちゃんか? 俺は本当に俺か?)

先生「男くん? どうしたの急に固まって。生きてる?」

男「あ、あ……え?」

先生「大丈夫?」

男「たぶん大丈夫です……あの、俺も先生と同じです。時たま覚えのない体験を思い出したりして」

先生「私と一緒にいた時のこととか?」

男「ええ、おそらく」

先生「二人揃って、か……少し偶然とは思えないよね……」

先生「本当に私たち前に付き合ってたりして!」

男「先生マジでそれ納得しちゃっていいんですか?」

先生「ふふっ、冗談よ冗談。教師とその生徒がそんな関係になってたら大変じゃない」

先生「ぜ、絶対そんなわけないから……そうであって欲しいけど」

男「んー? ところで先生、約束通り勝ちましたよ俺。ほら、KO」

先生「へっ? あ、あぁ~~~!? きみ、いつのまにゲージ削ってたの!? セコいわよ!」

男「勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあ! 先生言ったじゃないですか、勝ちに貪欲になれって!」

先生「い、いきなり変な質問してきたのはこっちの意識を画面から離すためってこと……ズルいズルいズルいーっ!!」

男「でも、これも立派な作戦じゃないですか? ポーズ画面に変えておかなかった先生のミスだな」

男「とにかく。勝ったら俺の頼み何でも聞くって約束、忘れたとは言わせませんよ」

先生「べ、別に私は約束した覚えありませんっ……」

男「大人ってズルいんだなぁー。これでも先生のこと尊敬してたんですけど、ショックで非行に走りそう」

男「頑張って勝ちに行ったのに、何もないんじゃガッカリだよなぁー……ね?」

先生「……はぁ、おかしなお願いだったら悪いけど断らせてもらうからね?」

男(くだらない願いを叶えてもらうつもりはない。有意義に、俺の為に使うさ)

男(車の中、助手席にゆったり腰掛けて先生を見れば、表情をどんより曇らせブツブツと不満を募らせていた)

男(何がというと、つい先ほど彼女へ頼んだ何でもにである。悪い気もするが先生の大人としての力に頼るしかなかった)

男「先生ってゲームは得意のくせに車の運転はダメなんですか? (ギロリ、なんて擬音が付いていそうな睨みが飛ばされる)」

男「……でも本当にすみません。無理なお願い聞いてもらって」

先生「まったくよぉ……きみのせいで次のお給料まで苦しくなるかもしれないんだから」

男「俺も少ないけど出します。さすがにあんな適当な約束の押し付けで全額出してもらうのも悪い」

先生「子どもが気遣わなくもいいわ。上手くいきすぎてると思ってたのよねぇ、結局自分で負担抱えるはめになる」

男「大人ってつらいですよね、俺にはわかりません」

先生「怒るよ!」

男「こういう時こそ、てへ、で済ますのが良いんじゃないですか」

先生「着いた! さっさと降りろ、問題児! ……ほら、家族でお出迎えみたいよ」

男「(ドアのサイドガラスから外を覗けば、幼馴染と妹が呆れ顔で玄関に立っていた。もうすっかり帰りが遅くなってしまったからな) 制服ありがとうございました、先生。他にも色々と」

先生「ううん、気にしないで。それより遊んでばっかりいないで、たまには授業の予習もしなさいね?」

男「先生もゲームばっかりしてないで、早く彼氏でも作る努力した方がいいですよ~……おやすみなさい」

先生「どうして気づかないかなぁ、鈍感……」ムス

男(家に帰ってからは質問責めが待っているは分かりきっていた事である。こんな時間までどこをうろついていた、なぜ先生に送られてきた、そもそも先生の家になぜいたのか)

男「全部突然の雨が悪い」

妹「そんな言い訳で往なせると思ってんの! バカお兄ちゃん!」

幼馴染「今日は三人で土曜日の予定決めようって約束したじゃん。男くん中々帰って来ないからあたしたちで勝手に決めちゃうとこだったよ?」

男「もうコイツに話してたのか。で、結局三人で決定と?」

妹「だって暇だもん。悪い? ……まぁでも、これでスケジュール帳にそれらしいの書けるもんだ」

男「お前、友達と遊ぶぐらいしか予定持たない奴がそんなの持ってんのかよ。生意気め」

妹「え?」

男「何? どうしたよ?」

妹「自分であげたくせにそんなこと言うフツー!?」

幼馴染「お、男くん……今のはちょっとまずいんじゃない……?」

男(妹へ俺があげた。プレゼントか、俺は妹へスケジュール帳を渡したんだ。つまり、不良女とはそれを選ぶために)

男「事実で間違いなかったんだ……!」

妹「むうぅ~~~……お兄ちゃんのバカちん!! 無神経のアホっ!!」

男「す、すまん。ちょっと考え事してて勘違いしたんだよ。悪かったって」

男「俺ちゃんとすぐ謝ったよな?」

幼馴染「そうだけど……妹ちゃん、男くんも反省してるし、そろそろ許してあげたら?」

幼馴染「一緒にどこ行くかしっかり決めようよ。機嫌直して? ね?」

妹「……お兄ちゃん、本当にプレゼントのこと覚えてる?」

男「ああ、覚えてるとも。お前のために俺が一生懸命探して選んだんだから当たり前だろう?」

妹「じゃあどういう柄してたか言ってみて」

男「そこまでは覚えてないよ。あれからだいぶ時間も経ったしなぁ、仕方がない」

男(明らかに怪しまれている……たかがプレゼント、だが妹的には大好きな兄がくれた物だ。かなり大切なのだろう)

妹「一生懸命探してくれたのに?」

幼馴染「ご、ごめんね妹ちゃん! 男くん今日はもう疲れてるみたいだから、お風呂先にしよっか!」

妹「……お兄ちゃん前にもこんな感じのことあったよね?」

男「えっ」

妹「あの時は私とご飯食べ行くって約束たった一日で忘れたりした。他には、マミタスでお願いしてたこととか」

妹「無神経とか、物忘れがひどいとか、ほんとはそんなレベルじゃないんじゃない……?」

男(前々回辺りの俺の時だろうか。次週への俺へバトンを渡すことなく個別ルートへ進んだ結果、今になって疑心を持たれた)

幼馴染「……あ、あたしもつい最近の話を突然確認されたりした、かな。全然覚えてない感じで」

妹「ねぇ、お兄ちゃん大丈夫なの? 変な病気とかじゃないよね?」

男(二人から真面目に心配されてしまっている。適当に話を濁して回避できる雰囲気ではなさそうな)

男(だからといって一から説明するのも面倒である。一体どうしたものか……待てよ)

男「限界か……実はお前らには隠してたんだけどな、俺はちょっと特殊な病気を持ってるらしいんだ……」

妹・幼馴染「えっ!?」

妹「そ、そんな話お父さんたちからも聞いてないよ!?」

男「心配掛けるからって父さんと母さんには口止めしておいたんだよ。幼馴染にも迷惑かかるからな、同じだ」

幼馴染「迷惑なんかじゃないよ……どうしてそんな大事なことずっと黙ってたの! [ピーーーーーーー]っ」

男「ああ、悪かった。でも、さすがに隠し通すのもしんどくなってきたからさ、話させてくれ」

妹「お、おにいちゃーん……ううっ……」

男(バカげた冗談とも疑わずに、真剣に俺の言葉へ耳を傾けている。こっちはいつ噴き出しそうになるか耐えているというのに)

男(話はこうだ。命に関わる病ではない、どのタイミングか不明だが、俺は俺が大切に感じている人やその出来事を忘れてしまうのだと)

男(嘘でも、真剣に話せばどこぞの映画のような世界へ片足を突っこんだ気分になってくる。似たような設定があった、俺も部屋中から全身に至るまでメモ塗れ生活に)

男「(なんて心配は要らない。タイミングは任意だもの) もし俺の様子がいつもとおかしかったから、机の引き出しを見るように言ってくれないか。不自由ないように日記とメモを残してるんだ!」

男(これで言い訳と保険が同時に叶ってしまったわけだ。今後の心配のために少しでもクッションを敷いておかなければ。前週の俺が残したメモには何かあれば書き足しておくか、新たに作って置けば良い。天使ちゃんもハーレムのためならと見逃してくれるはず)

男(結局は以前の自分の真似ごとである。だが、別の方法にと拘りを持つ必要はないのだ。俺の野望を果たすために、中継は必須)

男(もちろん、まだまだ俺のターンは始まったばかりだし、すぐに終わりを迎えるつもりはないぞ)

男「おいおい……泣くこたないだろう? 少し日常生活送るのに苦労しそうなだけで」

妹「それが大問題なんだよぉー!! ばかばか、ばかぁっ……[ピーーーーー]……」

幼馴染「でも、これからはあたしたちも協力するから。[ピーーーー]な男くんのためだもん、何だってする……!」

男「無闇矢鱈に何だってするなんて言わない方がいいぞ。ありがたいけど、ねぇ」

男「妹、それに幼馴染。俺はお前らがいてくれて嬉しいよ……でも、大切だからこそ忘れちまうのが悔しい」

幼馴染「男くん……」

男「二人とも大好きだ。忘れたら、何度だってお前らがどんなに好きでいたか思い出す! だ、だから」

男「こんな面倒臭い俺だが、飽きないで一緒にいてくれるかな……?」

幼馴染・妹「……うん///」

男(決まった。そしてようこそ、俺の世界へ。お前たちは攻略済みも同然よ。あとは俺のラブコメを毎度邪魔立てしてくる)

幼馴染「あたしも男くん[ピーーーーーーー]。これからは[ピーーーーーーーー]」 妹「お兄ちゃんにはやっぱり私が[ピーーーーーーー]。[ピッ]、[ピーーーーーーー]……///」

男(難聴スキルへさようなら、だ)

男「話はここまでにしてどこに行くか決めようぜ。あと急に余所余所しくなったりするなよ? 傷つくから」

妹「へへっ、お兄ちゃん相手に一々気にしたりしないよ! 心配しなくても、いつもの私でいてあげる!」

幼馴染「あたしも妹ちゃんといっしょだよ、男くん」

幼馴染「忘れても、男くんがすぐ食べたことあるなって思い出してもらえる美味しいご飯作れるように努力もする」

男「ごらん? この子たちこそ正真正銘の天使でしょう……是非本物ちゃんも見習っていただきたい」

天使「のーせんきゅー……!!」

妹「ねぇねぇ、せっかく三人で久しぶりに出掛けるんだし、みんなで遊園地行こうよー! ていうか行きたい!」

男「子どもっぽいなー。いや、有りなのか?」

幼馴染「有りじゃない? どうせ色々決めるの面倒なら、一か所でずっと遊んでられた方がいいと思うな」

男「うむ、異論も無し。他に何か提案もないし、じゃあそこで決定だな」

妹「やたーっ!! えへへ、小学生ぐらいからご無沙汰だったんだよねぇ~」

幼馴染「あたしも行くのは久しぶりかな。楽しみだね、男くん……って、何その紙?」

男「これか? 勝利の証みたいなもんさ」

幼馴染「何の……?」

男(幼馴染の追求を笑って誤魔化し、それを広げて俺は床へ転がった。先生から奪い、いや、授かったもう一枚の招待券を)

また明日

男「これ、昨日渡した奴の続き」

委員長「教室に着いて早々何ですか? そもそもまだ貸して頂いたものを読み終えてないのですが」

男「いいんだよ、気にするなって。それから毎日一巻ずつ渡すのも面倒だから! (ドスン、と大量の漫画が詰められた紙袋を机に乗せると、委員長は溜息を一つついて)」

委員長「そういうわけじゃないのに……これじゃあ[ピーーーーーーーーーー]」

男「え?」

委員長「わざわざこんなに重そうな物を持ってきてくれたのは嬉しいですが、限度があるでしょう」

男「もしかして全巻一気に渡されたら困る? まさか飛ばして後の展開を確認したくなるとか? それは邪道だな、委員長」

委員長「決め付けないでください。後の楽しみは取っておく方です……私が言いたいのはそういう事ではなくて」

男「自分と彼の繋がりは漫画を貸されるというものだけ。だから毎朝彼は自分に会いにやって来てくれる。それが台無しになってしまった」

委員長「えっ……は、はぁ!? なななっ何を意味の分からないことを!!///」

男「心配しなくても俺は委員長と毎日話はするさ。へへ、漫画の感想だってせっかくだし聞きたいもんな」

男「委員長が楽しそうにあのキャラはーとか、この展開はーとか、楽しそうに話してるの見るの結構面白いんだ」

委員長「[ピーーーー]、[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]///」

男(彼女を救うとは、まずは元の委員長人格を蘇らせるところから始める。だが、それだけで終わらないのがつらいところ。しっかりこの世界から現実へ帰してやらねばならん)

男(そこで思った。彼女の件を二つに分けて解決するのではなく、同時に消化できないのかと)

男(もはや滅茶苦茶モテるだけしか撮り得のない人間に、神やら何やらの常識離れした領域へ踏み込める力はないのかもしれない)

男(だから現実的な解決策は捨てた。ありえない話には、ありえない考えで対応するしかない。いまの俺にはその手助けになれるパートナーもいる、頼りになるかは別だけど)

男「なぁ、変な質問するが吹かないで真面目に答えてほしい。委員長は俺が変態だと思ってるか!?」

委員長「はい。不潔です」

男「おぉーげふんげふんっ!! ……その理由は」

委員長「いつも私や転校生さんたちにスケベな話を振ってきたり、それに……とにかく、です///」

男(『彼女は知る、俺は変態』メモにあった言葉の一つだ。委員長に限らず、他のキャラも俺を変態扱いしてくる。だのに、これを書いたのは何故なのか)

男「(意味がない内容なんてそこには一片も記されていないと信じるのなら、どんな些細な事でもスルーして良いとは思えない) 他には何かないのか?」

委員長「他にって……はっ、まさか私から蔑まれて興奮しているんじゃないでしょうね! 男の変態!」

男「あっ、もう結構です……俺もこれ以上どう訊いていいかわからん……」

男(待てよ、もしかすると今の美少女化した委員長に訊いても無意味なのでは? というと、例の言葉が指している彼女とは)

男(本物委員長の方とか。以前の俺は人格が消える前の彼女とおそらく接触していたし、帰るための方法を共に考えたことがあるだろう)

男(その時にどこかで、変態扱いされる行動か話をしたのかもしれん)

男(これは、委員長の中でかなり印象が大きかった思い出だった。メモから考察するに、委員長は美少女人格に頻繁に乗っ取られていたが、その時でも元の人格へどうにか戻れていたのだ)

男(元の彼女へ戻す方法、それが今の質問だったのでは? 攻略済みキャラのように何かを切っ掛けに薄れた記憶をふと思い出す、それが委員長の場合自分を取り戻すことに繋がっていた、とか)

男「こんなの今さら気が付いたって意味ないじゃねーか…… (そう、今となっては全く役に立てられない)」

男(委員長の諦めは考えていなかったのだろう。諦めか、気が変わったか知りようもないけれど)

男(彼女を救うために俺は天使ちゃん捕獲計画と仕掛けを作った。それは上手く嵌まった、でも肝心の委員長がこれでは……もしこの状況を前週俺が予測していたら?)

男「まず、どう救うつもりでいたんだ? わからないからイレギュラーに尋ねようとした……そうではないんじゃ」

委員長「ねぇ……独り言にしては長いし、難しいですね」

男「あっ、今のは別にそういうのじゃなくてだな!?」

委員長「ふーん、やるなら私の席ではなく自分の席でしてくれませんか? 不気味ですよ……救うとか聞こえましたけど、また小説の設定?」

男「……神さまが主人公に何でも望みが叶う世界へ飛ばされたって話なんだけどさ、いまそいつを現実に帰すにはどうするか考えてるんだよな」

委員長「せっかくどんな望みでも叶う場所からわざわざ帰るってしまうんですか? 勿体ない」

男「俺もそう思ってた。でも、そいつはどうしても帰りたくなっちゃったらしい。委員長ならどうする?」

委員長「私なら帰らない思いますけれど……そうですね、まず主人公の叶えようとした願いは? それからその世界には無償で行けたのかとか」

男「そいつは今の自分の環境を変えたかったんだと。ていうか、無償がどうだって、何だよ?」

委員長「いえ、ただ何か代償を払った結果そうなれたとしたら惜しい事をしているのではと。神さまは親切心で主人公へ声をかけたんでしょうか」

男「……それは神のみぞ知るってやつじゃないかね」

委員長「え?」

男「つまり委員長は神がそいつに対して下心持って近づいたと思ってる?」

委員長「そ、そこまでは……でもそれだけの事をしてあげるのにタダというのは胡散臭いのではと思ったんですよ」

委員長「昔から旨い話には裏があるっていうじゃないですか?」

男「(その線は俺も疑っていたさ。だがその裏がいつになっても暴けないのである) 主人公が裏に気付かず好きにその世界で生きてられるのは、損得で考えれば得しか感じないよな」

委員長「ええ、そうでしょうね。そんな主人公がある時秘密に気づいてしまった……だから現実に帰りたがってる?」

男「払った代償とやらにか? だが、払ったものは取り返しようがないだろう。契約を結んでそいつは幸せを手にしたんだから」

委員長「その契約はクーリングオフできないのでしょうかね。この環境を返すから帰してくれと」

男「……もしくは、契約を無かったことに……そうだ! それだよ、委員長!」ガシッ

委員長「きゃああぁぁぁ~~~~~~!?///」

男「おそらく俺はそれが狙いだったんだ!! 相談の為なんかじゃない、始めから全て計算づくなんだよ!!」

委員長「お、落ち着いてくださいっ、男!! そんなに喜んでどうしたんですか!?」

男「ああっ……委員長のお陰でネタを思いついたっ……それだけだ……!」

天使「あのぉっ……な、何遍同じこと言わせれば気が済むんですか、男くんは」

天使「自分の幸せだけ見てればいいって言ってるでしょーがっ!! まだ委員長ちゃんを諦めてないとかドン引きですよぉーっ!!」

男「フフーン……?」

天使「大体っ、委員長の願いは叶って本人は満足したんだし、取り消しなんてもう効くわけねーでしょ!」

男(つまり満足していなければ、契約の途中破棄は可能であったと受け取れる)

男(それができなかったのは、神か天使ちゃんへコンタクトを取れなかった為だ。しかも向こうは呼んでも答えようともしなかった)

男(半ば無理だったのである。だからこそ今回の俺へ全てが託されていた……だが、破棄は叶わないわけだ)

男(ならば、無かったことに変える、というのはどうだろう? その方法は?)

男「委員長ちょっとトイレ行ってくるわ。最近どうも多くて……いやー参ったな」

委員長「やっぱり不潔……///」

男(教室の外へ出て、人気の無い廊下まで移動する。その際も天使ちゃんは隣でギャーギャーと文句を垂れてくるのだ)

天使「何ですか? 自分に何か話ですか? 無駄ですよ、お口にチャックしてます。いーっ!」

男「随分脆いチャックだこと……俺は神との契約と別に、お前と契約を結べるか」

天使「は?」

男「俺がお前に何かを渡す代わりに、お前が俺の望みを叶えてくれるかって意味だよ」

男「たとえば……俺を少しの間だけでいい。元の世界に帰してくれるとか」

天使「は!?」

男「わかってる、神との契約で俺は元の世界に帰れないんだろう。 だが後でかならずここに戻ってくるって条件付きで聞いてるんだぜ」

天使「い、いまの向こうの男くんには戻れませんから無理……」

男「それじゃあ神と契約する前の俺に戻るってのはどうだろう?」

男「一応お前すごい力持ってるんだよな、この世界にちょっぴり手伝って時間を巻き戻すとか」

天使「ふん……だから何だっていうんですか」

男「できないかな? 過去にタイムスリップした状態で元の世界に帰るのって」

男「現在の元世界にいる俺へ戻るのは無理なんでしょう? じゃあ過去の俺に戻るのはどうなのでしょうか?」

男「も、もちろんここでの記憶は保ったままでお願いしたい。無理難題だと自分でも思ってるが、それを叶えられるのが天使ちゃんたちだよ」

男「お前たちの前にありえないなんてありえないんじゃないか……?」

男(さすがに厳しいだろうか。現実へ戻してくれと頼むだけなら良い、だが加えて過去へ今の記憶を持って飛ばしてくれ、である)

男(ダメで元々、少しでも希望があるのなら食いつくしかない)

天使「できたところで、自分は男くんにそんなことしてあげる義理ないです」

男「で……できると考えていいんだな? 本当に信じていいんだな?」

天使「やりませんよ。絶対です」

男「やってくれと俺がいつ頼んだよ……できるのか訊いてたんだぜ (そのNOをYESに変えるのが俺の仕事。美少女を落とすしか能がないから)」

男「用はそれだけ。まだ教室での用が済んじゃいない、さっさと戻るよ天使ちゃん! (希望まで手が届く、そう信じて行動すればいつだって道を開けるのだ。それが主人公だろうよ)」

男の娘「……[ピッ]、[ピーーーーーーーー]」

男(話があると声をかければ、期待でいっぱいな笑顔を見せた男の娘。が、あえて間を置いてやるとそれも引っ込み、冷や汗を垂らす)

男(恋人関係が嘘と知られたか動揺しているのだろう。自分を有利にするための策に溺れているのだ、放っておいても俺はお前を捨てたりしないのに)

男「話っていうより誘いに来たと言った方が正しいかな」

男の娘「さ、誘い?」

男「単刀直入に訊こう。男の娘、お前ラーメン愛好会に入らないか?」

男「確かどこにも部活に所属してなかったよな。だから、どうせなら一緒にと思ってな」

男の娘「[ピーーーーーー]……いきなりすぎて驚いちゃったよ。でも、部員はもう足りてるんでしょ? 僕が入っても」

男「そんなことねーよ。うちの部長は誰でも歓迎するし、何より部員が多い方が賑わう!」

男「俺も男の娘が来てくれたら嬉しいんだよ。周りは女子まみれだからなぁ……中々に肩身が狭い」

男の娘「あはは、そう考えると大変かもね……でも、男は女の子と[ピーーーーーーーー]」

男「(見えたぞ、誤魔化しは不要である。「女の子と仲良くしている方が楽しそう」) 俺はお前とも仲良くやりたいんだよなぁー」

男の娘「そんなこと言っていつも男は転校生さんや他の人とばっかり話してる! 僕だって男ともっとお喋りしたいよぉ!」

男の娘「うぁ……ご、ごめんっ……///」

男「……ふむ、お互い思ってることは一致してるじゃないか?」

男「俺もお前も長い時間一緒にいたいと思っている。それなら放課後も有意義に使えばいい」

男「授業終わっても空いてるんだろ? 俺の傍にいてくれないか、後悔させん」

男(後の台詞のみ切り取れば誤解を招きそうだが、それで良い。言われた男の娘を見てほしい)

男の娘「[ピーーーーーーーーー]、[ピーーーーー]……[ピーーーーーガーーーーーーーーーーーー]!///」

男(こいつは男が浮かべる表情ではない。乙女のそれだった)

男の娘「し……しょうがないなぁーもう! そんなにしつこくお願いされたら断るに断れないってば!」

男「ということは?」

男の娘「うんっ、僕も男と一緒の部活に入る! 男ともっと一緒にいたいんだぁ!///」

男の娘「どういう部活かまだわかんないけど、きっと男や転校生さんがいるなら楽しめるよね。僕がんばるよっ!」

男「頑張れる要素は一つもないところかもしれんが、まぁすぐに親しめる。みんなも男の娘を歓迎してくれるさ……で、なんだが」

男の娘「えっ、何その券? くれるの?」

男「日曜からさっそく合宿があったりするんだな、これが」

男の娘「……い、いきなりなんだね」

転校生「心配しなくても平気よ。どうせ遊びみたいなものだし」

男「お前の登場もこれまたいきなりだな?」

転校生「立ち聞きしちゃったけど、男の娘くんも参加してくれるかもってことでしょ?」

転校生「私も大歓迎よ! 知ってる友達が増えるのも嬉しいし、苦労も割けそうだしっ」

男の娘「いま不吉なこと言ってなかったっ……?」

転校生「あれ? でもチケットは人数分しか用意されてなかったわよね。変態の分をあげるの?」

男の娘「そ、そうなの? ダメだよ自分のを僕に渡すなんて!」

男「心配しなくてもこいつは俺のじゃないんでな、遠慮なく受け取ってくれ (チケットを男の娘へ押し付けてやるが、二人の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだままだ)」

男「なに、俺がお前にもう一枚手に入れてきたのさ……あーっ、今のは言うつもりじゃなかったのになー!!」

男の娘「僕のためにわざわざ!? そこまでして僕のことを……お、男ぉ~……!」ウルウル

転校生「福引二等の景品なのに同じ物が手に入るわけないじゃない。本当は自分のなんでしょ?」

男「いやいや、本当に俺のじゃない。この手に持った券が証拠だ」

転校生「ま、まさか誰かのを盗んだわけじゃないでしょうね! だったら最低だわ!」

男「転校生、お前財布の中一度もあれから確認してなかったりするのか? そこに仕舞ってたよな、アレ」

転校生「ウソでしょ!? ……って、しっかり入ってるじゃない!」

男「けっ、盗んだなんて人聞きの悪いこと言うのは感心せんなぁ?」

男「本当に俺が用意してやったもんだよ」

転校生「それをどうやっていうのが私たちは訊きたいの!」

男「やれやれ、疑いがかかったままはご免だからな……先生に事情を話して譲ってもらった。あの人にも先輩さん渡してたみたいだからさ」

転校生「ああ、先生の分を……じゃあ先生だけ自分でお金払って行くってこと?」

男の娘「そ、それ聞いたらすごく申し訳ない気がするんだけど」

男「いや、先生は喜んで渡してくれたんだぞ。可愛い生徒のためなら惜しくないって! 教師の鏡だな俺たちの先生!」

先生「……ふーん、で続きは?」

男「……いま密かにあなたの株を上げてる最中なんですけど、立派な教え子でしょう?」

先生「捏造すんなっ」

男の娘「せんせぇ、僕そんなこと知らなくてっ! これ、お返ししますっ……ううっ!」

先生「い、いいわよ本当に気にしなくて。それは男の娘くんにあげます。だから泣かないで?」

男「じゃないと自分が泣かせたみたいな場面になるもんなー」

先生「全額きみに負担頼もうかなぁ……っ」

転校生「でもさすが大人よね。結構高いんでしょ? なのに私たちに付き合ってくれるなんて凄いわ」

先生「ぐぅっ……ま、まぁー? あの程度安いもんよ! はっはっはっ……経費で落ちたり、しないか」

天使「どうして男の娘くんを部活に巻き込んだんですか?」

天使「ど・う・し・て! 突然男の娘くんを、部活に巻き込んだぁー! どうしてだぁー!」

男「うおおおおぉぉぉぉっ、耳元でデカい声出すんじゃねーよ!? ちゃんと聴こえてるから!!」

翁教師「聴こえてるなら、なぜすぐに立たないのかね?」

男「へえっ!? い、いや……どうしてでしょう……?」

男(周りからクスクスと笑い声が立つ。こんな目立ち方するなんて、漫画の世界みたい。ちょっと憧れていたが、実際はただただ恥ずかしい)

転校生「バカ……」

男「そう、そんな感じで呆れた反応見せるんだよな。主人公と仲良い女キャラが!」

翁教師「呆れてるのは私の方なんだが。もう別の人に当てるから座りなさい」

男「はい、存じております……頼むから急に話しかけてくるのは止せ。一応授業中だぞ」

転校生「私があんたにいつ話しかけたのよ? 真面目にノート取ってたわ」

男「……と見せかけて実は俺のことでも考えてたんじゃないの。何度も俺の方見てただろ」

転校生「はぁ~!? あ、あんたなんか見て何が楽しいのよっ!! 自惚れてんじゃないの!?」

男「おや、否定はしないのか?」

転校生「見てない見てない見てないっ!! 適当言わないでよっ……ううーっ……///」

男(当てずっぽうで言ったつもりだったが、彼女の動揺っぷりから察するに本当だったらしい。教師が再びこちらを向いた、あと少しだな)

男「へへ、実は図星だったんだろ? 何で顔赤くしてるんだ?」

転校生「し、してないわよぉっ!?」

翁教師「お前たちいい加減にしろ!! 俺の授業がそんなに退屈か!!」

男(ヨボヨボ白髪のおじいちゃん先生だが、怒鳴り声は誰よりも大きい。怒号が響き渡れば教室から笑い声も、俺と転校生のイチャイチャも消え去った)

翁教師「お前だ、お前!! さっきから舐めた態度取りやがって。どうだ!? この距離ならしっかり聴き取れるだろ!?」

男「ひっ……すみません、少し悪ふざけが過ぎました。頭冷やしたいんで一度トイレに立っていいですか」

翁教師「反省するまで教室に戻ってくるなっ」

男(さすがの転校生も悪態をつかず、涙目で俺を見てソワソワさせている。茶番に付き合わせて彼女には申し訳なかった)

男(何にしても、これで一旦教室から出られたわけである)

天使「別に怒らせなくても、素直にトイレに行きたいで済んだんじゃないですかー?」

男「あの人は授業中にトイレなんて許さないよ。どのみち怒られる。毒を食らわば皿までだ」

天使「男くんってバカですねぇ……もしかして自分の話に付き合うためにわざわざ教室出たんですか? 授業終わりまで待てばいいのに」

男「だって天使ちゃん退屈そうにしてただろ。いいよ、これぐらい」

天使「な、何ですかそれ……男くんのくせに……///」

天使「……たまには気が効くって言ってあげなくもないですよ!」

男(退屈そうな天使ちゃんに付き合うために怒鳴れて恥をかいた、わけないに決まっているだろう。そこまで人が良くない)

男(彼女の気を引くためである。予想通り、自分のために動いてくれたと思い込み、嬉しがっている)

男(この世界で俺の監視役として付いた彼女の話相手はいま、それも俺のみ。神とコンタクトが取れるならとっくにあの時の嘘はバレているからな)

男(話相手ができて喜んでいるのか、今まで寂しかったのか、何度も先ほどのように授業中にも関わらず話しかけてくる。実際、この心遣いは彼女にとって嬉しいと思われる)

男「男の娘を愛好会に誘ったのは意味がある。時期も今が最高だったからな」

天使「おっ? 時期ぃ?」

男「そうだよ。合宿という中々遭遇できんイベントが予定されてるのは知ってるだろ? つまり、お泊りだ」

男「学生が夜中に同じ部屋で何を話すと思う?」

天使「自分にはわからんです。学校なんて行ったことないですもん!」

男「恋バナだ……」

男「普段とは違う環境に置かれ、皆の心がオープンになりだす。普段できない話をする絶好の機会なんだよ、泊まりって」

天使「えぇ、どうしてそう言い切れるんですか?」

男「漫画とアニメからそう学んだ。バカにするなよ、娯楽でも人生の教科書代わりになるんだから!」

天使「でも自分にはなんだか情けない気がしてならねーです……」

天使「その恋バナがどうなるんですか。それと男の娘くんに関係あると?」

男「男の娘だけじゃない……他の美少女たちにも確実に大きな反応が起こる、予定」

男「まずはその二つの件をゴッチャにして考えるな。それはそれ、これはこれだ」

天使「はて? もぉー結局何が狙いですかっ、焦らさないで言えー!」

男「俺がする事なんて最初から決まってるだろう。ハーレム作りさ」

男「フフ! 今回の合宿で、男の娘を自責から解放させる。そして全員が俺へ対して抱く好意を表へ出させるのだ!」

天使「表にって……直接好きだってあの子たちに言わせるんですか?」

男「その通りだよ、天使ちゃん。おそらく毎度ながら難聴スキルが妨害してくるだろうが、そこは俺の技量の試されどころ……自信はある」

天使「それって全員に同じタイミングで告白させるわけですよねぇ。できるんですか、そんな無茶?」

男「できる? ……ちょっと違うな」

男「やらせるんだよ」

天使「はぇ……今度のはやけに自信満々ですね、男くん。それでハーレムさっさとできちゃえばいいですけど」

男「急かすなよ、俺の楽しみはまだ始まったばっかりなんだから」

男「それにお前とももう少しこんな関係続けていたいしな。まっ、気楽に行きましょーよ、ロリ美少女」とん

天使「い、一々ムカつかせる天才ですね男くんはっ……むぅ///」

明日もいけるかちょっとわからんかも。一応水曜予定に

男「紹介します。こいつが俺と転校生のクラスメイトで、新入部員の」

先輩「うっは、なにこれ可愛いんですけどぉー!!」

男の娘「お、男ぉぉぉー!? 助けて、この人がー!?」

不良女「予想はしてたけどさ、食い付きスゲーわ……」

男(新鮮かつ上質な餌は先輩のお気に召したらしい。全員を他所に、抱きしめて頬をすりすりさせている)

生徒会長「彼女とは以前に一度だけ顔を合わせたことがあったかな。その時は君も居合わせてたな?」

先輩「へ? そだけっ? じゃあどうしてその時勧誘しなかったかなぁ! こんなに可愛い子放っておくなんてナンセンスっ」

生徒会長「自分が、という事で解釈していいのかな」

男の娘「……あ、あの」

転校生「ついにこのワケの分かんない部活に部員が6人も集まっちゃったのね。どうかしてる」

不良女「同感。マジでどうかしてる……まぁ、みんな目的は[ピーーーーー]あるんだろうけど」

男(さすがに気づいているな、なにより鈍感なのは俺一人で十分である。俺のみが周りの気持ちを察せられない。好意が一点集中されている現状はまさにハーレム、か)

先輩「見なさいこの肌つや!! おまけにくりくりキューティクルなお目目に髪!! あ゛ーっ、どこ行けば買えるのこの子はよぉー!!」

生徒会長「まだ抱きついて……さっそく新入部員を怖がらせてどう…」

男の娘「あのッ!!」

転校生「ど、どうしたのよ? そんな大きな声上げて」

男の娘「僕は……僕は男子なんですっ!!」

男(男の娘の言葉に皆が黙り、目を点にさせた。確かに彼は美少女並み、あるいは以上の容姿だが今さらそんな事を言われなくても)

男(いや、説明しておかなければならない二人がこの場にいたのを忘れていた)

男「生徒会長、さっきこいつのこと『彼女』と呼んでましたか?」

生徒会長「ああ……てっきりまた女子なのかとばかり。男くんが連れて来るのはいつも[ピーーーーーー]だから」

男の娘「ううっ!」

不良女「冗談でしょ、あんたら? だってそいつが着てる制服よく見てみろよ」

先輩「どっひぇえぇ~~~!? な、なぜにスカート穿いてない!? 趣味かっ」

男の娘「趣味じゃありません規則に従ってるだけですぅー!!」

男「そうだな。お前は何一つ悪くないよ、男の娘。フライングした先輩さんが全面的に悪いとしよう」

先輩「だだだ、だってめちゃくちゃ可愛かったから……あっ、可愛いのが罪なんだよ!! そうだそうだぁ!!」

転校生「まずは素直に彼に謝った方がいいんじゃないかしら……」

不良女「呆れるを通りこしたって感じだぜ? 最後に何か言い残すことは?」

先輩「……ノーモアかわいい」

男(あらためて男の娘を紹介し終えるも、未だに性別を疑う上級生組。無理もない。俺も初日は同姓と信じ切れず、何度もボディタッチを試みた)

男の娘「……まだ何か?」

生徒会長「い、いや別に! これで男子が一人増えたなら多少男くんも助かるのでは!?」

男「ですね。俺も男の娘が来てくれて嬉しいですよ (生徒会長よ、あなたの場合は新たな美少女の参加ではなく安堵したことだろう)」

転校生「でもこうして改めて見てると、男の娘くん可愛いわよね? ……ね?」

男「なぜこっちを睨んでそれを訊く……」

男「みんな、あんまり男の娘を苛めてやらないでくれよ? これでも女子に間違えられるの嫌がってんだ」

男の娘「男ぉ~……」

不良女「あーわかったから、お茶買ってきてくれね? 新入りは先輩のパシリって決まりだかんなーっ!」

男「それじゃあお前より先に入部していた俺の使いパシリはお前に頼むとしようか。お茶で構わんぞ?」

先輩「わたしは炭酸の何かでお願いしまぁーすっ!! 3分で帰って来い!!」

不良女「こ、こいつら……!」

男の娘「不良女さんも一緒に行く?」

不良女「行かねーよ! ていうか、真に受けんな!」

男(男の娘もわけなくここに馴染めそうで安心した。また一人、ハーレムの場に引き込んだところで……今日のラーメンは美味かった)

男(バスに揺られ、隣の幼馴染と偶然を装い肩を寄せた。次の揺れでまた隣の妹へ)

男(土曜日。俺たち家族はとある遊園地へ向かっている途中だ。妹は昨日の夜からあれに乗ろう、これに乗ろうと計画を立てていた。その結果が)

妹「むにゃ……たのしかったねぇ、逆さまになるジェットコースタぁー……」

男「どうやらこいつの中ではもう帰りのバスの中にいるらしい」

幼馴染「帰るとか言い出さないよね? 嫌だよ。あたしだって今日楽しみにしてたんだもん」

男「俺だって楽しみにしてるさ。久しぶりに三人で一日過ごせそうだし……こいつ、マジで寝ないで計画立ててたな?」

男(妹の頭が俺の肩に乗り、腕も抱き付かれ少々窮屈に感じる。体勢を直すため腰を浮かせようとすれば、幼馴染までこちらへ体を寄せてきたのである)

男「な、何だコレ!?」

幼馴染「[ピーーー]……ちょっとだけ甘えたいな」

幼馴染「遊園地着くまでだよ、だめ?///」

男(まさに両手に花を体現した状態である。両肩へ幸せな重さが掛かった、二人の肩を抱いてやるべきか? もう……ハーレムじゃないか)

男「え? 何だって?」

幼馴染「もう……[ピーーーーーーー]くせに……いいもん、嫌って言わなきゃ離れないんだから」

男「遊園地とか行かなくても、既に楽しいアトラクションがここにあるんだが!!」

男(ありがとう。感謝してもし切れない。素晴らしい毎日に嬉しい悲鳴をあげ続けています、我らが神よ)

妹「ねぇ、見てみてー!! 遊園地ー!! あれ観覧車ー!!」

男「ありゃあまるで小学生だ。チケット一枚誤魔化せるんじゃない?」

幼馴染「あたしたちの中で一番楽しみにしてたんだから、仕方ないよ。早く来て正解だったね」

男(券売り場には既に列が並んでいたが、さほど待つ心配はなさそうだ。これも都合良くから来た展開だろうか? 俺がそこへ立ったら、モーセの海割りのような現象でも起これば面白いな)

男「……そういえば今朝からあの天使がやけに大人しい」

妹「おにいちゃーん! ボーっとしてないで早く券買おうよ! お化け屋敷が私のこと待ってる!」

男「怖いの苦手そうな癖してどうして入ろうと考えるかねぇー?」

妹「だってお化け役全員遊園地のスタッフじゃん? えぇ、まさかお兄ちゃんびびってる?」

男「バカ野郎、お化けより人間の方が恐ろしい。昔、祭りのお化け屋敷で財布落として、そのまま盗られたからなっ……」

妹「遊園地のは悪いお化けいないよ。みんな良いお化けだと思う!」

男「そいつは割り切って楽しめそうで何よりだろうな」

幼馴染「高校生3人でいいんだよねー? 買っておくよー?」

男「違う! 一人小学生が混じってるでしょ! ここ、この子!」

妹「さっきバスの中でこっそり幼馴染ちゃんの胸元覗こうとしてたの、言っておく……!」

男「……え? なんだって?」

妹「小学生扱いとかいくら何でも酷くない!? 私もう立派な高校生なんですけどっ!」

幼馴染「まーた男くんは人怒らせてる……」

男「またって言うな、またって。それより最初はどれから乗ったらいいんですか? リーダー」

男(と話題を逸らしてやれば、俺のチョロ妹は調子良くなってくれたわけだ。手帳とパンフレットを広げ、彼女なりに効率の良い周り方を誇らしげに説明してくる)

男「締めはやっぱり観覧車なんだろ?」

妹「うん。何で?」

男「いやいや……それで構わんさ…… (大いに結構。文句など一切ない)」

幼馴染「それじゃあ妹ちゃん頼りに色々周ってみよっか!」

妹・天使「おー!」

男(からスタート。始めはゴーカートだったのだが「最下位だった人が一週間食器洗いの刑」とした瞬間、幼馴染の目の色が変わった)

幼馴染「二人とももっとコーナーギリギリ攻めなきゃ! 怖がってちゃ前走れないよー!」

男「……ありえん」   妹「うん……ありえない」

男「じゃあ、約束だから……お前が一週間食器洗いの刑」

妹「それがありえない。私がお兄ちゃんに負けた!? 本気で妹負かす兄がいる!? 何で負けた私~!!」

男「フフ、情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ。そしてなによりも、速さが足りない……かなりスローリーだったなぁ!!」

男「……俺は下で待ってると何百、いや、何遍も断った筈なんだが」

男「お前これ何度目のジェットコースターだ!? 三半規管がイカれてどうにかなるぞ!?」

妹「まだ三回目じゃーん。この程度で根上げてちゃダラしないなぁ~♪ ほら、もうバー下りたから諦めなよっ」

男「吐きそうだから降ろしてもらえないかな。このままだとアクロバティックに汚物を撒き散らす」

男「撒き散らすからな……言ったぞ、俺は……警告したぞッ!!」

男(そして無情にもジェットコースターは動き出す。妹は坂を上がる前からきゃーと楽しそうにし、幼馴染といえば)

幼馴染「男くーん、妹ちゃーん!」

男「なぁ、どうしてアイツだけ下で待ってるんだ……なぜ俺は許されないのだ……おいってば……」

妹「幼馴染ちゃん、こういう絶叫系苦手なんだってー勿体ないよねぇー?」

男「コーナーギリギリを攻めた人間がだと……うぐぅ!?」ガタンッ

男「あっ、そうだぁ……お前、ちょっとお兄ちゃんの手握っててくれないか?」

妹「え? そ、そんな事したら私たち[ピーーー]みたいに思われるかもじゃん……」

男「は、早くしろ! もうてっぺんまで昇ってる! ら、落下する前に早く!」

妹「うううぅ~……し、仕方なくなんだからねっ!?///」ギュ

男(これも策の内、とカッコをつけたいところである。落下に伴う強いGに、俺の首はもう座らなくなっていた)ガクンガクン…

男・妹・天使「ぎもぢわる゛っ……」

幼馴染「大丈夫二人とも? 顔真っ青になってるけれど」

男「これが平気な風に見えるなら、普段の俺はよっぽど顔色悪いんだろうな。それよりお前どうしたぁ? この程度で根を上げるのか?」

妹「はぁはぁ……そ、そんなわけないじゃん……へへ、もう一度乗ってきてあげよっか? ……うっ!」

幼馴染「あぁ、ほらお茶飲んで? もう無理するからこうなっちゃうんだよ。まだ始まったばっかりなんだから」

男「ちょっとトイレ行ってくるからお前たちここで待っててくれないか (千鳥足でトイレまで向かって行くが、中へは入らず、裏へ回った俺。理由は言わずとも、であろう)」

天使「おろおろおろおろおろ……」

男「あぁーバカ! こっち向いて出すんじゃねーよ!」

天使「らってぇ~……うぇ……何ですかあの恐ろしい乗り物は……楽しい楽しいって乗り続けたら、このザマですよぅ……うっぷ!」

天使「は、あはは。中毒症状がもう現われたってんですか……自分は死にたくないのです……」

男「死ぬなんて冗談はさて置き、どうしてお前まで俺たちと一緒にアトラクション楽しんでるんだ?」

天使「どうしてって、どうして自分を除け者にしようとするんですか? 自分だって遊びたいのに!」

男「天使ちゃんお仕事真っ最中だろうが。職務全うせずに遊んでられるご身分なのかな?」

天使「あ、遊んでなんかねーですよっ!! こ、これは男くんを監視するためにしゃーなしに……!」

男「=遊びへ繋がったなら最高のお仕事だな」

GW中は予定あって6日まで難しい
とりあえず明日へ続く

男「それにしても他人に姿が見えないってのも得かもしれん。タダで色々乗り放題じゃないか?」

天使「ふん! 楽しいを共有できないつらさが男くんにはわからないでしょーね!」

天使「男くん以外と関わるのは禁じられてるから、自分はこの世界で孤独も同然ですよ」

天使「だから、好き勝手できても結局自己満足で終わるんです。正直言えば虚しいというか……」

男「俺じゃダメなのかな?」

天使「ほへ?」

男「俺以外と関わるのは無理。だけど、裏を返せば俺とならどう関わろうと自由って話だろう?」

男「天使ちゃんさえ良ければ俺とお友達になろう……お前の楽しさもつらさも、俺が受け止めて共感する……」

天使「なっ!?」

男「そしたら自己満足で終わらないんじゃないか?」

天使「じ、自分は男くんの監視役です! そんな関係許されるわけないでしょー!」

男「あらら、良い案だと思ったんだけどなー……残念だ」

男「実を言うと、俺はもう君とは良い仲になってたと勝手に思い込んでた」

天使「じょ、冗談じゃねーですよっ……誰が男くんなんかと……」

男「義務とか協力とか関係なしに、天使ちゃんと話してるの結構楽しかった」

天使「あ、あっそ……まだ戻らなくていいんですか、自分と話してる暇あるんですか……」

男「友達になってくれだなんて頼むのもおかしいと思ったが、俺 超絶不器用人間なもんで、友達の作り方ってよくわからんのよ」

男「結局返事はNOだったけど、自分の気持ちを口に出せただけでも良かった。ふふ、これも同じ自己満足だな?」

天使「むぅ……」

男「さ、そろそろ戻らないと二人に迷惑かかる頃だろう。行こうぜ」

天使「あのっ!! ……あ、あの」

男「え?」

天使「……別にダメなんて自分は言ってねーです」

男「言ってない? 何が?」

天使「っ~~~! マジじれったい人ですねぇ! 男くんとお友達になってやっても良いってんですよぉー!!」

男「マジか?」

天使「嫌なら嫌でいいんですっ! 男くんが哀れで仕方ないと思ったからなんだからっ……///」

男「嫌ならまず言わねーさ、嬉しいよ! どんな形だろうと天使ちゃんにまた近づけた気がするしな!」

男(そうだとも。着々と距離が縮まりつつある。やれやれ、過去の自分の設定に感謝だよ)

天使「何ですか、そんなニヤニヤさせて!! 面白くもないのに!!///」

男「いやぁ……俺にとって本当の意味で初めて友達ができたからさ、素直に嬉しいんだ」

男「これからもよろしく頼むよ、天使ちゃん!」

天使「き、気持ち悪い人ですねー……まぁ、よろしくしてやるです」

男(素直じゃないな、まだ突き離したがる言動を取るが浮かべた笑みが全く隠れていないではないか)

男(気を良くしたのか天使ちゃんは俺が差し出した手を握ってくれて、一緒に、な・か・よ・く、幼馴染たちの元へ戻るわけである)

天使「自分も……本当の事言えば、男くんが初めてのお友達です」

男「じゃあお互い嬉しいな。ほら、さっそく二人で嬉しくなれてる」

天使「え、えへへへ……はっ!? こっち見てんじゃねーですよぉっ!?」

男(孤独を感じていたのは昨日の時点で確信していた。毎日俺へ付き添うだけで、退屈な彼女にとって遊園地のような場は最高だろう)

男(だが、先ほど彼女が口にした通り、皆が楽しめる場で、誰にも気づかれる事なく遊んでいても、けして楽しめない。より孤独に打ち拉がれる……経験済みだ)

男(そこで唯一自分の存在を捉えられる俺へ声をかけられたら、どうだろう? 隙塗れになった天使ちゃんにとって、俺の存在は大きなものへ昇華される)

男(心強さと安心感を与え、気を良くさせれば、これまで通らなかった言葉も通り易くなる。加えてこちらが弱味を見せ、関心を持たせることにより、後輩の一件の時以上に近づかせられた)

男(甘い言葉に誘われて、まんまと天使ちゃんは俺へ心を開き出した。騙して悪かった、今日のデートイベントはほとんどフェイクに等しいかもしれん)

男「万年ボッチ族を舐めるなよ……」

幼馴染「お弁当美味しい? おにぎり作り過ぎたかなぁ」

妹「全然入るから平気だよー! 普段家で食べるより、外だと数倍うまい!」

男「大袈裟な……」

妹「あー、こういうところで気効かせられないと女の子に嫌われるんだよ?」

男「だってよ?」

妹「ん? ……どこ向かって話してた?」

男「さぁ、幽霊かな? ほら、いまお前の後ろに……」

妹「ぎゃー!? ぎゃー!?」

幼馴染「すぐ妹ちゃんのことカラかおうとするんだから。お昼済んだら、どうする?」

妹「絶叫系マシーンがまだ残ってるんだ! あ、でもまずはコーヒーカップから行こうか?」

男「食ってすぐは勘弁願いたいんだが……幽霊でせっかくだし、ここらでお化け屋敷にしようじゃねーか」

男(俺がそう提案すれば、悩むことなく、二人は同意してくれた。さて、お化け屋敷……少しばかり体を張る羽目になりそうな予感がしてならない)

男「(もちろん、嬉しい方面で) 途中で腰抜かしても置いてくからな。覚悟しとけよ?」

妹「自分だけ余裕みたいなこと言っておいて、あとでビビりまくりだったらどうするのさ~?」

男「どうだろう? 中に入ってからビビる暇があるもんかねぇ、うひひ」

妹「ねぇ、二人は怖くないの……?」

男(先ほどまで強がりを見せてはいたものの、暗闇にヒンヤリとした空気で一気におっかなビックリな妹に)

男「あんまり引っ付くなよ、動きづらいだろうが (無い乳だとばかり思っていたが、こう無理矢理腕に押し付けられると中々。我が妹に未来はある)」

妹「だ、だって~……幼馴染ちゃんは大丈夫? 怖くない?」

幼馴染「暗いのはちょっと不安になってくるけど、まだ大して……あっ」

幼馴染「怖いからあたしも男くんにくっ付いていい!?」ギュッ

男「お、おい! 急に抱き付かれたら倒れ、うおおぉぉ~~~!?」

妹「ちょっ!?」  幼馴染「ひゃんっ!?」

男(訂正しよう。急にそうされては、ラッキースケベを起こさざるを得ない。揃って転倒した俺たちは揉みくちゃに絡まる)

男(何やら柔くて大きな塊が顔面へ押しつけられ、暗闇の中、さらに俺の視界は闇へ染まったわけである)

お化け「バァアアァァァ~~~!! ……あ、あら?」

天使「いぎゃあああぁ~~~!?」

男「ほふ、もが」  幼馴染「や、やぁっ///」  妹「お尻さわってるの誰~!?///」

お化け「お客様……一体なにを……」

天使「ふぇ、もうやだぁー!! お化けやだよぉーっ!? 男くぅーん!?」

幼馴染「……お化けに逆に怖がられてたかも」

男「俺、こんなに楽しいと思えたお化け屋敷初めてだったよ」

天使「楽しくなんかなかったですっ! わざわざ驚かされる為だけにこんな所入る意味がわかりませんよ!」

男「同感だが……悪いもんばかりじゃない、お陰で全身が幸せだった……」

男「もう一回、行っちゃう?」

妹「行くわけないでしょ!! 変態お兄ちゃん!!///」

妹「お尻[ピーーーーーーーーーーーーーーー]、こんな[ピーーーー]……っ///」

男「はい。何か言ったか?」

妹「言ってない! もう……気晴らしに別の、もっと楽しいのに次行こう」

幼馴染「その前にちょっとトイレに行っておきたいんだけど。って、凄い行列できてる……」

妹「えぇー!? 私も行きたかったのに……どうする? 並んでる?」

幼馴染「そうだね、また列長くなられてもあとで困るし。男くん少し待っててもらえるかな?」

男「ああ、構わんが。それじゃあ俺はその辺のベンチに座って……?」

天使「わぁ~……!!」

男「すまん……ちょっと一人で乗ってくるよ。気になるのあったからな、試してくる」

天使「一人で遊ぶんですか? 待っててあげればいいのに」

男「しばらく時間掛かりそうだったし、暇潰しだ。それに一人じゃないぞ?」

天使「え? それって……あっ、タコ! 男くんタコですよ、タコ! でっかいタコ~!」

男(天使ちゃんを連れて俺は大きなタコのアトラクションの前まで赴いた。繋いだ手を振り切ると、柵へしがみ付き、グルグル回るそれへ目を輝かせている)

男「(彼女はどうもこのアトラクションが気になっていたらしいのだ) 見てるだけじゃつまらんだろ。一緒にこれ乗ろうぜ」

天使「タコに!? タコにも乗れるんですか!? ぜひぜひっ!! ていうか、どーして男くんは自分がここに来たいって思ってたの分かったんです?」

男「そりゃあエスパーだからなッ……ふん、アホめ。さっきからずーっと興味深そうに見てただろ。誰でもそう考えるわ」

天使「男くんにしては気が効くじゃないですかぁ~! ね、ねっ、早く乗りたいです!」

男(はしゃいでいる彼女を見ていると、ただのロリ美少女である。ある意味天使で間違いないな)

男(小さな手で服の裾を引っぱり、催促する様が実に微笑ましい……が、そんな場面も他人からすれば俺一人がニヤけているだけなのだろう)

スタッフ「お客様一人でよろしいですか?」

男「いや、二人! あっ、何でもないです…」

天使「えへへっ、男くんまぬけですねー! ばーかばーか!」

男「調子に乗って……他人から見れば俺一人だけど、そうじゃないだろ? 俺とお前でちゃんと二人さ」

天使「あっ……ぅ///」

次回は>>139に書いた通りで

男「俺たち以外だと親子ばっかりな感じだ。もしかして浮いて見える?」

男(周りの客の絶妙な視線に肩身が狭い思いをさせられてしまう。隣のロリ美少女が見えてさえいれば、堂々としているものを)

天使「男くん落ち着きないですねぇ?」

男「ああ、さっさとタコが回ってくれないかなって……知ってるか?」

男「実はあれは深海に生息していた大王ダコを捕獲して、サイボーグ化した奴なんだよ」

天使「まーたそんな出鱈目言って騙そうとする~」

男「はぁ!? マジで知らないの!? 常識だぞ!!」

天使「えっ、えぇ?」

男「こんな事も知らないなんて、お前よっぽど人間界に不慣れしてたんだな……」

天使「た、タコは水中にいなきゃ死んじゃうんでしょう!? サイボーグなんて可哀想です!!」

天使「人間は残酷なのです……あのタコを海に帰してくださいっ……」ウルウル

男「おーよしよし、天使ちゃんはなんて可愛い子なんでしょうねぇ」

「ママー、あいつ一人でしゃべってる!」  「指差しちゃダメよー?」

男「ふ、ふは……リアルロリは糞だな。可愛げの欠片もねぇよ!!」

天使「うぇぇんっ、これ以上タコを無理矢理働かせないでくださいよぉ!」

男(アトラクションが動き出すまで天使ちゃんは人間の醜さとタコの権利を訴え続けるも、始まりのブザーが鳴るとピタリ)

男(俺たちを乗せた籠状の乗り物が、タコの足に振り回される。あちこちから子どもの歓声が上がり、天使ちゃんは興奮で俺を叩いた)

天使「きゃー! きゃー!」ボカボカ

男「もっと優しい喜び方があると思うんだが、どうなんでしょう!?」

天使「だってだって! ぐるぐるして! 上下して! ぐねぐねで~! きゃはははーっ!」

男「……楽しめてそうでなによりだな。さっきまでサイボーグダコを否定してたとは思えんよ」

男(ここまで笑顔に満ちた天使ちゃんは見たことがない。危ないお兄さんのレッテルを貼られてまで乗った価値もあるものだ)

男(次第に、彼女へ釣られてこちらまで楽しくなってきた。二人で万歳してみたり、叫んでみたり、抱きつこうとしてみたり……本気で嫌がられたり)

天使「あはっ、タコのくせに! タコのくせにあいつやりますね! ムカつくぐらい面白い!」

天使「ねぇ、男くんも楽しいですかー!?」

男「そりゃもうスーパー面白いね! タコだから舐めてたのによぉー!」

天使「スーパー面白い~?」

男「超よりスーパーの方が『超』って感じがするらしい! 先輩さんが言ってた!」

天使「じゃあじゃあっ! 自分はハイパー楽しいです! いえ、アルティメット!」

男・天使「アルティメット楽しい!! ……は、ねーな」

天使「オラオラもっと早く回しやがれ~!! こんなんじゃ満足できねーですよ……って、あれれ?」

天使「男くん! た、タコが……タコが足を止めやがりました……!」

男「稼働限界が来たのだろう……アレは既に精一杯やったさ、良い仕事したな」

天使「マジで尊敬しちゃいますねっ。あぁ、でももう終わりだなんて短すぎる……」

天使「あんなに楽しかったの凄く久しぶりだったのに」

男「楽しい時間ってはあっと言うまに過ぎていくもんさ。それも一緒に楽しいと言い合える時間はな」

男「な、二人で良かっただろ?」

天使「はいっ! えへへ、よかったですよ。あー嬉しかったぁ!」

男「嬉しかった、だなんて終わった気でいるなよ。まだ時間はたっぷりあるんだから」

男「でも、そろそろ妹たちと合流しにゃならんか……それでも、俺はお前のこと忘れずにいるから、安心してくれ」

男「だって、友達、なんだからなぁ、俺と天使ちゃんは!」

天使「と、ともだち……」

男「ん? どうした? 何か間違ってること言ったかなぁ、俺ぇ?」

天使「っー……///」ギュゥゥ

男「お、おい? そんなに手強く握られたら痛いだろうが。やれやれ、変な天使ちゃんだ (天使だろうが何だろうが、根っこの部分は美少女たちと同じか)」

男(彼女の中で信頼を得られているかどうかは不明だが、気はこちらへ向けられたと確信できる)

男(自ら進んで手を取ってくるなど、向こうからのボディタッチ回数は明らかに増えたのだ。そして、顔を覗こうものならば赤面して必死に隠そうとする)

男(これは本気で人外キャラ攻略も叶うかもしれない。しかし、その場合ハーレムへ加えられるのか? 彼女は俺以外の人間には認識できない問題があるのに)

男(いやいや、むしろそれが良いんじゃあないか。誰にも知られる事なく、イチャラブだ。俺が天使ちゃんへ現を抜かさなければモーマンタイ)

天使「……あっ! 結局サイボーグ大王ダコを助けられてないじゃないですか!」

男「は?」

天使「自分たちが救いの手を差し伸ばさない限り、あいつは永遠に遊園地で奴隷みたいに働き続けるんでしょ! あんまりです!」

天使「男くん、一緒にタコを海に……!」

男「サイボーグ大王ダコって何ですか?(笑)」

天使「へっ」

男「もしかしてさっき乗ったアトラクションの事言ってる? あんなのただの機械に決まってるでしょ?」

男「ま、まさか信じて……天使ちゃんって純粋な子……!」

天使「……」

男「ぷぷーっ!!」

天使「あ゛ーっ!? あ゛ーっ!?」ボカボカ

天使「男くんは嘘吐きのサイテーな変態で良いとこゼロのゴミです……」

男「天使ちゃんが本当に信じてたと思ってなかったんだよ。でも、割とそう考えて乗ると面白かったろ?」

天使「面白さとは別ですよ! 自分の心を弄んだことがムカつくんですっ!」

男「ちょっとした悪ふざけに怒らんでくれよ……お詫びに、ほら、ソフトクリーム買うから」

天使「そふとくりーむ?」

男(首を傾げる天使ちゃんを置いて、店員へ話しかける俺。すぐに綺麗にとぐろを巻いたそれを一つ持っていってやれば)

天使「白いウン―――」

男「違うから舐めてごらんなさい」

天使「い、いやですよ! どうせまた自分を騙して変な物食べさせるつもりでしょう。大体自分は何も食べなくたって」

男「いいから試しに、それこそ騙されたと思って食べてみろよ。絶対感動する!」

天使「う~……次やったらゼッコーしますからねぇ……ん」

天使「っは、冷たくて甘くてやわくてうまあーっ!!」

男「期待を裏切っちゃったかね? すまんな、ゲロ不味いもんを食わさんで」

天使「何ですかこの美味しいのは! 男くんなんちゅーヤバい物くれやがったんですか!?」

男(一口舐めるたびに喧しく騒ぎ立て、手をばたばたさせるその姿は正しく俺が思い描いたロリそのもの。しかし、この絵を他人が見るとソフトクリームが宙に浮いている感じだろうか? おまけに量も減る……傍にいる俺が怪しまれること間違いなし)

天使「うまうまうま……うますぎですよ、偉大ですソフトクリーム……」

男「そんな急いで食ったらすぐに無くなっちまうよ。あ、でも二人が待ってるし、急いで貰った方が」

男「ん? (突然食べるのを止めた天使ちゃんが俺の顔をじっと見ていたのである。問いかけることなく、黙って見つめ返していると)」

天使「口開けてください、男くん」

男「くれるのか? 残り少ないのに分けたら、もっと減るんだぞ」

天使「いいから口開けて早く食べてくださいよっ、さぁ!」

男(鼻についてしまう程、ソフトクリームを近づけれれば口にせざるを得ない。ペロリと一口舐め取ってやるも、まだ天使ちゃんは俺へ向いたままだった)

天使「美味しいですか!」

男「あ、ああ……美味かったよ?」

天使「でしょう!? 美味しいんです、これ!」

天使「せっかく美味しいのに一人占めなんて勿体ないです。二人で分ければ、も~っと美味しいんです!」

男「しかもロリ美少女と間接キスまでしたから倍にな」

天使「ななな、何ですぐにそういう風に考えるんですか!? 台無しですよぉーっ!!」

男「(思った以上にぐいぐい来るようになってきたではないか) ありがとう、美味かったよ。天使ちゃん」

天使「あうっ……ど、どういたしまして///」

今日中にまた続く

天使「男くんは自分が知らないこといっぱい知ってて羨ましいですよ」

男「その代わり、お前も同じく俺が知らないことをたくさん知っているみたいだけど?」

男「じゃあこういうのはどうだろう……俺は天使ちゃんに人間の世界を教える……だから、天使ちゃんは」

天使「主が男くんに自分を協力者としてつける話、実はウソだったんでしょ?」

男(唐突に割り込んだ彼女の言葉は、とても自然な流れのように感じられた。一呼吸置いてコーンを齧る天使ちゃんに微笑みながら俺はおどけてみせる)

天使「誤魔化さなくたっていいですよ別に。男くんは世界の謎を追求するために、自分に近づいた」

天使「そうでなきゃ今までが不自然すぎです。夢のため? ハーレムのため? 自分が居なくても十分やりこなしてたじゃないですか?」

天使「毎度毎度、訊かれることは都合悪い話ばっかりでした。つまりなのです、男くんは自分を上手く利用してる。便利な辞書みたいに」

男「え? 利用? 俺は天使ちゃんをそんな風に使ってるかなぁ?」

天使「だーかーら、別にもう誤魔化す必要ねーですよ!」

天使「本当はずっと前からそうじゃないかって思ってましたもん。それでも自分は、騙されたまま、男くんに何だって答えてきましたとも」

男「……ほう、それで?」

天使「仕事上、話せる内容に限界はあるし、こういう事は止めろとうるさく言ってきました」

男「ふむ、わかった。騙されたフリをしてまで茶番に付き合ってくれた理由があるみたいだな?」

男(バカだ阿呆だと思っていたが、既に気づいていたとは侮っていたな。ならば、それでも傍に居てくれたのは何故か)

男「エスパーの俺が当ててやろう……いや、当てるまでもない。今日で答えは出てるな?」

男「天使ちゃん。お前、俺が目的を達成できるまで神の元へ帰れないんじゃないか」

男(むすっとした顔でコーンの包みを口から吐き出すと、肯定するように呆れて頷き、溜息を一つ)

天使「男くんが自分を利用するなら、自分も男くんを利用する……ってな感じでしょーか」

男「寂しさを紛らわすためにって利用の内に入るか? まぁ、暇つぶしの道具か」

男「でも、神に叱られたりは? 騙された体でとはいえ、監視対象と仲良くするなんて」

天使「今日まで一度も自分にコンタクトしてこないってことは、黙認されてるんですよきっと」

天使「主はとっても優しいんですっ! きっと孤独な自分を哀れんでお許しを~!」

男(俺にはこう考えられる。当初疑ったように、天使ちゃんを新規追加キャラとして俺へ差し向けたと。つまり、深入りすれば、他のキャラ同様の末路を辿る、かと)

男(手下まで利用し、なにがなんでも俺を落とそうとする神の狙いが読めない)

男「どこまでが演技だったのかは分からんが、気づいてたなら早く言ってくれればいいのに。そしたら割り切って付き合え…」

天使「男くん! 今日、お友達って言われて、マジで自分は嬉しかったです!」

天使「だから秘密は無しにしたいと思っていま打ち明けちゃいましたよ……じゃなきゃ本当の友達になれないと思って、えへへ」

天使「……ずっと、ずーっと寂しかったんですっ。初めてのお仕事で、不安でいっぱいで、でもだぁーれも自分を見てくれなくって」

天使「ざみ゛しかっだよぉー……」ポロポロ

男(嗚咽をあげて白いワンピースを汚す彼女の顔はぐしゃぐしゃになっていた。言葉を掛けずに、ただ頭へ手を置いてやると、涙のダムが決壊してしまった)

男「結果的に俺は天使ちゃんを救えた形になってるのかね……良いじゃないか、これからは俺がいるんだから」

天使「うええぇ~んっ……」

男「寂しい思いなんて二度とさせないさ。だけど、神のところへ帰るのはまだまだ先になりそうだけど」

男「それでも構わないか? ブサ男でゴミな男くんで我慢して頂けるでしょうか」

天使「ぐすんっ……し、しょーがねーから我慢してやるですよ!!」

男「よーし! それじゃあ早速色々訊かせて貰おうかな! もう遠回しに質問する必要もないだろう!」

天使「あっ、お友達ですけど主を裏切るような真似はしたくないんで」

男「社員の鏡だなぁ、天使ちゃん……ケチ」

天使「えへへ~!」

男(頼りになる味方となったとは言い難いが、これからは思い切った話をし易くなったのではなかろうか。中立でもない、神側としての天使ちゃんのままだけれど)

男(腹を割って話をできるぐらいの関係は築けただろう。俺へ対する信頼度、そして好感度もそこそこ。始めから難聴スキルが反映されない攻略キャラ、天使)

男(彼女を落とし切るべきか、友達として留めるべきか、難しいところだ。そうだな、いつか来るべき日の時までよく考えておこう……合法とはいえ、相手はロリだから)

妹「おっそーい! トイレずっと前に済んでたんだけどー!?」

男「……『妹』ってのも、よく考えなくても難しいな」

幼馴染「口元に何かついてるけど? ソフトクリーム?」

男(ハンカチで拭き取られながら、退屈凌ぎにちょっと、と言い訳していると繋いだ手をぶんぶんと振って、嬉しそうに天使ちゃんが歌う)

天使「ふったりだけの~秘密ですよ~♪」

幼馴染「手、どうしたの?」

男「あ、ああ! ちょっと腕が疲れたみたいで! いやぁー、肩こったなぁー!?」

幼馴染「あは、おじいちゃんみたい。でーも! もうちょっとあたしたちに付き合ってもらいますからね?」

妹「二人とも早く早くー! 遅れた分取り返さないと!」

男「で、向かってるのがまたジェットコースターなわけだが……懲りないな、お前も」

妹「今日でぶっ壊れちゃう勢いで遊んじゃうんだよ! お兄ちゃんも一緒にねっ!」

男「ぶっ壊れたらまた来れなくなるだろう?」

妹「また、って……うん……///」

天使「むー……」

男「今度はお前がどうしたよ?」

天使「幼馴染ちゃんたちがいるのは仕方ないですけど、もう少し二人で遊びたかったですよー……」

男(幼女の可能性は無限大である)

男(妹へ連れられ、俺たちは遊園地を歩き回り続けた。その際も天使ちゃんを忘れることなく、俺の隣へ置いている)

男(手を繋ぐのは動きづらいからと、上着を掴んでもらっていたがそれこそ動きづらかった。お陰で幼馴染たち二人よりだいぶ遅れて動く俺である)

妹「お兄ちゃんさっきから歩くの遅くない? 疲れたの?」

男「そりゃあ連続でジェットコースターは疲れるに決まってるだろうが。もっとゆったりしたもんに乗せろ!」

幼馴染「あたしもそろそろ限界かなぁ……日も暮れてきたし、観覧車とかどう?」

妹「観覧車だと終わっちゃうよー? 締めの観覧車なのにぃ。お兄ちゃんと[ピーーーーーーーー]」

男「何か言ったか? ていうか、お前帰りのバスのことも考えろよ。遅くなると混むぜ」

妹「う、ううん! じゃあ二人とも限界みたいだし、最後にしちゃいますか……」

幼馴染「夕日を見ながら観覧車ってロマンあるよねぇ。しかも大好きな[ピーーーーーーーー]にだと、もっと///」

男「……そういえば天使ちゃんは俺が聴き取れない言葉、聴こえてるよな」

天使「教えませんよ? そんな事したらズルです。ズルは良くないと思います!」

男「難聴スキルなんて面倒なおまけ付けなければ苦労しなかったんだけどなぁー! 良い迷惑だよなぁー!」

妹「お兄ちゃんまた一人で何か喋ってる……こわっ、こわぁっ!?」

幼馴染「つかれて、る?」

男「そうだな、憑かれてるかも」

今日も少なくて申し訳ないが、明日に続く

妹「よっ! ほっ! はぁっ!」

男「声だけ勢い付けてないでさっさと乗り込め! 今ので何台見送った!?」

妹「だって上手くタイミングが掴めなくて~……お兄ちゃん抱っこして」

男「お前持ち上げたままというのは軟弱な兄には不可能だ。ほら、次のでいい加減にしろよ」

幼馴染「並んでる内にすっかり真っ暗になっちゃったね。夕日は見れなかったけど」

男(と幼馴染に倣って俺たちも見上げれば、薄暗くなった空の中にチラチラと輝く星々に目を奪われた)

幼馴染「天気良くて本当によかったぁ……今からもっと近くで見れるんだよ」

妹「みんなで、家族一緒にだね。はあぁ~ロマンチック~♪」

男「住む世界が変わっても景色と空だけは変わらないんだよな」

男「俺もよくこうやって空を覗いて撮ったりしたんだっけ……」

天使「男くぅーん!! おとこくぅーん!!」

男(突然の声に、近くで大人しくしていたとばかり思っていた天使ちゃんの姿が消えたことに気付く。呼び声は段々遠くなって……)

天使「ひぃぃ……へるぷ! へるぷですッ!!」

男「いつのまにアイツ一人で先に乗り込んでるだと!?」

天使「さらわれました! 自分はどこへ連れてかれるんです!?」

店員「お客さんボーッとしてないで、そろそろ乗ってくださいよ! 後ろの方に迷惑かかるんです!」

妹「はっ、しまったぁー! で、でもまたタイミングを逃したから後回しに」

男「言ってる場合か、後ろ見ろよ! マジでみんな嫌な顔して迷惑がってる!」

幼馴染「ご、ごめんごめん あたしのせいで!」

男「いいからアレに乗り込むぞっ (あの中には天使ちゃんがいる。次に回ってくる籠を待っているわけには)」

男(スタッフの、危険なので見逃して次を、と掛かる制止を振り切って、俺は幼馴染と妹の腕を引き、中へ転がり込んだ)

男(怒鳴りつつも、スタッフは呆れてガチャリと扉を閉め、鍵をかける。そして、ぜーぜー息を漏らす俺へ構う事なく、天使ちゃんが涙を零しながら飛び付いてきた)

天使「ひぃ~ん……っ!」ポロポロ

男(大方、いつまでも乗ろうとしない俺たちへ煮えを切らしたのだろう。後でお説教してやらねば。そうだな、風呂が良い。そこにしよう)

幼馴染「ちょ、ちょっと今の映画のワンシーンみたいだったかも?」

男「下に降りてからあのスタッフさんに睨まれるんだろうなぁ。まったく、お前がビビってんのが悪いんだからな!?」

妹「見てあれ! もう地面から遠くなっちゃってるよ、お兄ちゃん! 幼馴染ちゃんも、ほらぁ~!」

男「……聞いてねーよ、こいつ」

天使「やれやれ、この程度で騒ぐとかガキですねこの子も~……ぉおおお!? ちょー! めちゃ高くなってますよぉー!」

男「なるほど。俺だけが一人余計にガキ抱えてる状態なわけなのか」

男(ようやく落ち着きを取り戻した、ガキ二名、は窓にべったりくっ付いて景色を楽しんでいるようだ)

男「煙となんとかは高い所が好きと言いますが、さて、なんとかへ入る言葉は?」

妹「可愛い妹ちゃん!」  天使「偉い人!」

男「……大当たりです。この言葉に間違いはなかった」

幼馴染「今日は楽しかったね。こんなに男くんたちと遊んだの、久しぶりだったよ」

男「たまにはこういう息抜きも悪くないかもな。幼馴染、いつも俺たちに世話焼いてくれてありがとうよ」

幼馴染「どうしたの急に改まって……別にあたしは好きでやってるんだし……それに男くんと[ピーーーーーーーーーーーー]だけだし……」

男「ん?」

幼馴染「何でもないっ! そ、それより知ってる!?///」

幼馴染「……ここの観覧車に乗った[ピーーーー]は今よりずっと[ピーーーーーーー]って」

男(怪しんで事前に調べておいて良かった。実はこの観覧車、恋人同士が乗るとより強く結ばれるだとか、適当な噂が流れているのだ。いわゆる縁結び効果があるとか)

男(妹も、幼馴染も、今日ここを選んだ理由はそれだろう。そもそも恋人同士でもなければ、三人なわけだが、やはり恋する乙女としては見逃せなかったわけである)

男「いや、知らなかったな。どうりで列のほとんどが男女ペアなわけだ。納得」

妹「その噂さ……それだけというか、ある事をして初めて叶うんだよねぇ」

男「ほう? 興味深いな」

男(先ほどの喧しさなど、いつのまにか何処かへ失せていた。雰囲気に呑まれた天使ちゃんも、生唾を飲んで見守っている)

男「……おー、もうすぐ頂上まで来るぞ。ここから俺たちの家見えるかな? たぶんあの辺り?」

妹「頂上で[ピーーー]する二人が[ピーーー]をしたらいいんだよ」

男「へぇー、そいつはなんか拍子抜けしちまったな。お約束っていうかさ」

幼馴染「で、でも! これでずっと結ばれなかった人はいないん……だって///」

男「ふーん? じゃあ案外信じていいのかもしれんな」

男(惚け続ける俺に、二人揃ってドギマギし始める。鈍感な男くんはこの意図を全く読めてはいないのでは? なぜここへ連れて来たのかを、と)

男(せっかく話しても他人事のように聞き流されては困るのだろうな。これから俺の言葉一つで空気が変えられると思うと)

男(このまま笑いを堪えていられる自信がない)

男「星が綺麗だなぁー。こんなに近くだと、手を伸ばせば届くんじゃないか? へへっ」

妹「[ピーーーーー]のことはいつになっても[ピーーーーーー]けどね……」

男「なぁ、その噂だけど」

幼馴染・妹「!!」

男「別の形でさ、これからもずっと一緒にいられるようにって。そういう縁は結べないもんかな?」

男「……俺、お前たちのことが大好きなんだ」

男「この前も話したよな、俺の記憶はいつ途切れるかわからないって。そして好きなんだって」

男「忘れたくないんだって」

幼馴染・妹「うん……」

男「いつ今日までの記憶が無くなるか分からないのって結構不安になるんだぜ。朝起きたらお前たちの顔すら覚えてないんだ」

男「こんなに愛してるのにさ、薄情だよ俺は……口ばっかりだなんて……最悪だよ」

幼馴染「そんなことない! 男くんは病気で仕方なくそうなっちゃうんでしょ? 全然悪いわけ、ないよ」

男「全部病気のせいにするのも腹が立つんだよ。結局は自分の責任だ、でもどう足掻いたってその時はかならず来ちまう……っ!」

男「嫌だ、嫌だよ。忘れたくなんかねーよ……なぁ、どうしてこんな酷いことするんだ!? 神さまって奴は!?」

天使「ちょー」

男(しーっ)

妹「お兄ちゃん、お兄ちゃんずっと辛かったんだよね。辛かったのに、私たちにはそう見せないように一人で頑張ってきてさ……」

妹「バカだよっ!! ほんとにバカっ!! バカバカ、ばかぁ~……うっ、うぅ」

男(凄まじい迫真の演技についに幼馴染にしがみ付いて泣きだす妹。それにつられる形で幼馴染まで愛らしい顔を歪めて、大粒の涙を落としている)

幼馴染「もう、もう男くんは一人で悩む必要ないんだよっ……あたしたちも男くんと一緒にいるからっ……」

幼馴染「男くんが……[ピーーーーーーーー]だからっ……!」

男(幼馴染のその言葉で、感極まったように俺は二人へ近づき、力いっぱい抱きしめたのである)

男(遅れて天使ちゃんがついでに自分もと腰辺りにひしっ! と、引っ付いた。抱きしめられた幼馴染と妹は、ついに声をあげてわんわんと泣き声を上げる)

男(傍ら、死角に入れてようやくほくそ笑む事ができた俺である)

男「くはっ……!」

妹「おにいちゃんっ! おにいちゃあんっ! うえぇ~んっ!!」

幼馴染「忘れて嫌がられたても、ずっと離れないんだから……男くんっ……」

男「……あ、外見てみろよ。丁度いまここが頂上みたいだぜ」

男「なぁ、俺ずっとお前たちとこの景色を見れたこと忘れたくない。いや、忘れない」

男「ここの噂が本当で、もし俺たちがこれからも一緒にい続けられるなら……その、どうしたら叶うかね?」

妹「そ、それは……やっぱり[ピーーーー]するとかじゃ、ない……かな」

男(想像して頬を赤らめた二人は、お互い顔を見合わせている。静かな空間の中、微かに熱を帯びた息遣いだけが、とその時だった)

幼馴染・妹「んっ……///」

男(両頬に柔らかく、しっとりした感触が5秒ほどだろうか? 伝わってくるのであった)

男(嬉しさのあまり鼻が鳴ってしまったとも。終始計画通りにいったってな)

幼馴染「……一方的な[ピーーー]だけど、叶ったらいいな///」

妹「か、叶うんじゃないの? だって丁度一番上に来たとこでしたんだもん……///」

男(ささっと何事もなかったように俺から離れ、両端で小さくなった二人の顔は、まさに顔から火が出ているものだった)

男「俺を挟んで二人のキス、か」

幼馴染・妹「っもう……///」

男「へへ、案外効くかもしれんな! ちょ、ちょっと恥ずかしかったりしたが、あははは……」

男(成功した。元々幼馴染と妹の間に垣根などほとんど無かったとしても、これで俺を取り合うことはもうありえない)

男(ハーレム・自宅の陣が真に完成した瞬間としようか。この二人に関しては後は難聴を取り除けばいい、だけではないか)

男(ここから更に輪を広げていく必要がある。慢心はするなよ、勝負はここから始まった、としよう。そして悲惨な過去との決別を)

男「そう、これは試練なのだ……神は俺に過去に打ち勝てという試練を与えられた……」

天使「まーた勝手な解釈で主を変に扱おうとする!」

男「興を覚まそうとしてくれるなよ。少しぐらいカッコつけたって罰は―――!?」

天使「あの……これで自分と男くんは、ずっとお友達ですか///」

妹「お兄ちゃん急に大人しくなってどうしたの?」

男「や……やれやれ、三人目のチューは予定になかったんだがなぁ!」

男(帰りのバスでも妹は行きと同じように俺へもたれ掛かって寝息を上げていた。これに加えて膝の上には天使ちゃん。どちらもはしゃぎ疲れているのだろう)

男(その様子を隣でクスリと優しく微笑んで見守る女神、幼馴染。しかし、明日の話をすると一転して彼女は俺の恐怖へ)

男(病み気質があるとは最近思っていたが、こうして目の当たりにすると……深くは語らないでおこう。楽しい一日はあっというまに過ぎ去ったわけである)

男「こいつ飯食ったら即寝やがった。昼寝って時間でもないだろうに」

幼馴染「あんなにはしゃいでたんだし、仕方ないよね。お風呂もう沸いてると思うけど?」

男「天使ちゃん寝てるし、風呂で説教は惜しくもお流れか……わかった。入ってくるよ」

男(せっかく良い関係が築け、ラブラブしても難聴のお陰で一番聴きたい言葉はさっぱりだった。聴けても悶え苦しむ羽目になりそうだが)

男(幼馴染と妹、どちらのルートから入ろうか、という嬉しな悩みは後回しにさせてもらう。なんたって明日があるからな)

男(明日、俺は一度に六人を相手にしなければならない。分ければいいのに? それでは意味がなくてな)

男(上手く成功させられれば、第二のハーレムが完成する。となれば残るは二人……内一人が後輩か)

男「休日までストーキングすることはなかった……いや、誤解であって欲しいな。後輩は悪い子ではないんだから」

幼馴染『男くん?』

男「えっ、ど、どうした? (丁度頭を泡まみれにさせていると、外から幼馴染の声が。待っても、問い掛けに返事は返ってこない)」

男「……どうしたってば――――――は!?」

幼馴染「お背中、流しましょうか? えへへ……///」

また明日

幼馴染「それじゃあ失礼します……男くん、こっち見て」

男「50分いくらのプレイ内容になるんでしょうか!? 悪いけど金なんてほとんど持ってないんだが!!」

幼馴染「お金? それより振り向いても平気だよ」

男(泡が付くこともお構いなしに両手を目に当て、背後を確認。幼馴染は既に風呂場に入っていた。これから始まるイベントに邪な気持ちが膨れ上がるばかりである)

男「タオル巻いてたのかよ。って、痛いっ! め、目に泡が! あーっ、あわわわーっ!」

幼馴染「大丈夫!? すぐに洗い流して……どうしたの?」

男「いーえ、別にー……むふ、ふっ (布一枚の下にはどんな黄金卿が待っているのやら。山あれば谷間できる。屈ませるとエロヤラシイ)」

幼馴染「鼻の下伸びてるように見えるのは気のせい? ダメだよ、変な想像したら///」

男「お、俺だって男だ。そりゃあ裸と変わらん恰好で来られたら如何わしい事一つ考える!」

男「ていうか、いつも風呂は自宅の使ってただろう。どうして今日に限って……しかも俺と」

幼馴染「ひえっ!? あ、えっと~……これ」

男(ぐいっと温泉の素が突き出され、照れ笑いを浮かべた幼馴染がずり落ちかけたタオルを胸元で抑えた。湯に浸かる前から逆上せたら、介抱して貰えるだろうか。その恰好で)

幼馴染「明日合宿でスパリゾート行くんでしょ。だから、こっちも気分ぐらいは、って。あははは……せこい?」

男「気分は分かったとして、俺と一緒に味わう必要があるかよ」

幼馴染「お、男くんが一緒の方がいいんだもん。って、あ、あたし何[ピーーーーーーーーーーー]!///」

男「え? まぁ、今さら追い出しても悪いし、出て行けとは言わん」

男「だけど、妹が起きてここに入ってきたらどうする? (無論、その時は言い包めて巻き込んでやれば良いだけ。いや、ラブコメ的には怒られて物投げられるべきか)」

幼馴染「男くんに無理矢理誘われて、しょうがなく……えへ、だめっ?」

男(物凄く嫌そうな面をして答えてやる。彼女が湯船へ温泉の素を流している間、シャンプーを流して洗顔へうつる)

男「ちょっと風呂桶持ってバシャバシャかき混ぜるとこ見せてみない?」

幼馴染「ん?」

男「何でもありません。……ところで背中洗ってくれるんじゃなかっ、たぁあああ!?」

男(ぴとり、と背中に小さくて少し冷えた感触が伝わる。指だ。幼馴染の指が悪戯に俺の背を這っているのだ)

男「(洗顔途中で視界が塞がっている分、尋常でなく、なぞられるたびゾクリと来る) おさななじみしゃーん!?」

幼馴染「ふふっ、ごめん。大きな背中だなと思ってつい。ちゃんと洗うよ? ゴシゴシしたげる」

男「ゴシ……ゴシ……ああ、もう好きに弄ってよね。俺ァ知らないよ!」

男(背中だけ、前は……絶対見せられない。というかその勇気がない)

幼馴染「痒いところはありませんかぁ? もう少し強くゴシゴシした方がいい?」

男「丁度良いんじゃないでしょうか、はい」

男(仮にも幼馴染にこのような奉公までさせてしまうのか。もう幼馴染って何だっけ?)

男(体の汚れ、のみ、は綺麗に気持ちよろしく落として頂けたら、幼馴染へ場所を譲ろうとすると)

幼馴染「きゃあ! た、立ち上がるなら言ってよぉ……見えちゃうから……///」

男「最初からそれが嫌なら入ってくるんじゃねーよ! まったく」

幼馴染「お、男くんの[ピーーーーーーー]ったかも……もう」

幼馴染「洗うから、後ろ向いてお風呂入っててもらえる?///」

男(無理と言ってガン見しても構わんが、理性が崩れかねん。黙って壁を向いて彼女が出す音へ耳を傾けた)

男「体洗うときは最初どこから手つける?」

幼馴染「聞かないで……[ピーーーーーーー]///」

男「何だってッッッ!?」ザバァ

幼馴染「きゃあああぁ~!? どうして立ち上がってこっち見るの!?」

男「き、気の迷いです!(振り向いた瞬間、すぐに腕と桶で隠されてしまった。し、しかし全裸だな。紛うこと無くである)」

幼馴染「え[ピーー]……っ///」

男(先ほどから尋常なく口が止まらないが、よほど俺は緊張しているのだろうか。水面に偶然姿が写らないかとか、それでも必死に欲望に忠実でいるけれど)

男「俺もお前の背中流してあげようか? 遠慮要らないぜ」

幼馴染「さっきから男くんいやらしいよ。それに、残念ながらもう終わりました」

幼馴染「……まだこっち見ちゃダメだよっ」

男「見ろとか言ったり、今度は見るなだったり、俺をどれだけ弄べば気が済むんだよ!」

幼馴染「[ピーーー]だけど裸は恥ずかしいよ……ねぇ、あたしも入っていい?」

男「始めから一緒に温泉気分に浸るために入ってきたんだろ。ていうか、これだと混浴じゃねーか」

男(明日の大イベント中に混浴は期待できるだろうか。無くとも俺には男の娘がいる。合法的にグッドなスケベも……同姓相手だけど)

男(男の娘と裸のお付き合い、なんて考えていると幼馴染が身に着けていたタオルが壁に掛けられた。目が向きそうになると「だめ!」と)

男(湯船がチャプンと音を立て、波立つ……入ってきた。興奮で爆発寸前。俺はいま一触即発人間爆弾である―――いいや、限界だ! 見るね!)

幼馴染「ふんっ!」  男「がぼっ!?」

幼馴染「はー、はー! み、見ちゃダメだって! ほんとにっ!!///」

男「わかったから。わかったから、手離せっ……くび、お゛れ゛……!」グググ

幼馴染「……わ、わかれば良いんです」

男「本当に面倒臭い奴だな!」

男(こうなると俺の口も自然に塞がってしまう。美少女と混浴が一日早く叶ってしまったのだ、しかも自宅で)

男(考えてもみろ。あの幼馴染が同じ湯船に浸かっている、それだけでドキドキである。見ようと思えばすぐそこにあるのに! それが叶わないなんて!)

幼馴染「……///」ピト

男「っうふぅ~~~!? (また、また背中に。今度は指じゃない。全体だ。背中全体に柔らかい感触……背中合わせになっているらしい)」

幼馴染「やっぱり、大きいね。男くんの背中」

男「おおお、幼馴染のは随分小さいかもしれない!! ひ、ひひ……スベスベやわやわで、どうしたいんだよお前は!?」

幼馴染「どうもしない。ただ男くんとこうしたかっただけ……ドキドキ、してる?///」

男「するに決まってるだろうが!!」

幼馴染「あたしも同じ……意識しちゃってる……やっぱり」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]んだね///」

男(何だって何だって何だって? ああ、もう幼馴染ルート始めてしまおうか? くそ、平常を取り戻さなくては)

男「き、訊かれるの嫌かもしれんが、最近被害の方は」

幼馴染「被害? あっ……うん、お陰さまで」

男「そうか、何も起きてないならそれで良いんだ。でも油断だけはしないでくれ」

幼馴染「してないよ。それにもし怖い事があっても、男くんが助けに来てくれる……[ピーーーーーーー]」

男「頼ってくれるのは構わないがなぁ。もし明日、俺がいない時に」

幼馴染「それでも電話一本で駆けつけてくれるって信じてる。あたしが知ってる男くんはそういう人だから」

男(それはどこの男くんだ? 悪いがそこまでヒーロー値に極振りした主人公ではないぞ、俺は)

幼馴染「本当はね、こうしてわざわざ一緒に入りに来たのって、その事でちゃんとお礼言っておきたかったからなんだ」

男「お礼言われるほど大したことしちゃいないけれど?」

幼馴染「ううん……男くんがあたしを気にしてくれただけでも嬉しいの。ちゃんと話したかったんだよ」

幼馴染「あたしは男くんが隣にいてくれるだけで救われてる。だから、一緒にいて欲しいって、凄く嬉しい」

幼馴染「大好[ピーーー]よ。何度も何度も言ったっていい、[ピーーーー]き……だから、きっと迎えにきてね///」

男(迎えにだと? そういえば彼女が以前『約束』とか口走っていたが、それと関連が?)

男「約束は無期限か?」

幼馴染「うん……覚えてたの? 本当は忘れてたんじゃないかって思ってたのに」

男「あ、ああ! それだけは何となく頭の片隅に残った感じで……いやー奇跡だな、すごい」

幼馴染「ちょっぴりだけ、確認してもらっていい? ……こっち向いて」

男「はい! よろこんで―――――――んむぅっ!?」

男(顔を思いっきり掴まれると、幼馴染の唇が俺の唇へ触れた。目を白黒させていると、そのまま体の向きまで直され、抱きしめられてしまったという)

男(それを楽しむ暇もなかったと思う。あまりにも唐突すぎて自分へ何が起こったか理解が追い付かないのだ)

幼馴染「っぷは! すき、すき、すきすきすきっっっ……男くんが[ピーーー]っ///」

男「……は?」

幼馴染「あたしが今でも男くんが[ピーーー]って気持ちが変わってないの、これで確認してもらえた、かな」

幼馴染「……な、何か喋って?///」

男(ポカーンと口が開いたまま、目の前で背中を向けて胸を抑える幼馴染を凝視するしかなかった。確認、そう、そういうのも有りなのか)

男「お、俺そろそろ上がるからな!! 頭痛くなってきた、逆上せる前兆かもしれん!!」

幼馴染「ちょっと待って! 怒るとか、何かリアクション取ってくれなきゃ怖い!」ザバァ

男・幼馴染「あっ」

男(今度こそ彼女が願ったようにきちんとリアクションを取ったとも。湯船から飛び出て、壁にドンとぶつかり、そのまま尻餅をついた)

男(幼馴染も一瞬で湯船の中へ潜り、姿を消してしまった。……こういうのは不慣れだが、バストは目測で)

幼馴染「ぶくぶくぶく……///」

男(ようやく鼻元まで顔を出した幼馴染は、赤面して申し訳なさそうにこちらを見ていたのである)

男「すぐ、出て行きます」  幼馴染「ぶく……///」

男「ファーストキス、自分からいったわけじゃなく……美少女から、しかも偶然でもなく、アレは」

男(終わってから頭が悶々としだす。あそこで引いたのは正解だったかもしれない。勇気を出して押し倒そうとすれば止まらなかっただろう)

男(もしここでルートへ入れば、明日の大イベントを台無しにするところだった。計画も全部おじゃんだ)

男「『約束』とやらの実態があらためて掴めてきた……とんでもない物まで後に回してくれたな、俺!」

男「いや、とにかく明日の支度をしておくとしよう。今日は今日! 明日は明日だ!」

天使「なんぞ?」

男「お前……そういえば天使ちゃんは水着要らんのか? プールだぞ、しかも温泉なんかは俺と一緒だ」

男「まぁ、見られていいっていうなら我慢してやらんでもぉ~!!」

天使「ご安心を!」

男(指をパチンと鳴らすと、天使ちゃんの衣服がスク水へ早変わりである。胸元に『1-3 てんし』のワッペン、上出来)

天使「ふふーんっ! こんな事もあろうかと、しっかり自分にピッタリのをトレースしておいたのです! 似合うにあう~?」

男「見事なあざとさ、満点あげちゃうねッ!」

天使「それ誉めてますぅー……? あっ」

男「ん? どうした……よ、よぉ」

幼馴染「あ、あのあたしそろそろ家帰るから。明日、朝寝坊しないように早く寝ようね……っ///」

妹「あれ、お兄ちゃん珍しく早起きー……ていうか、どうしたの。目真っ赤だけど」

男「遊園地楽しかっただろ。興奮が冷めなかったわけだよ」

男(昨夜はからっぽになるまで燃えた。気が付けば外で小鳥がさえずっていて、燃え尽きていた)

男(幼馴染が冷蔵庫にしまった残り物を適当に頂き、リュックを担いでトーストを齧る妹へしばしの別れを)

男「無事帰ってこれたら、俺結婚するんだ。子どもは男女二人作る。名前は」

妹「ひってらっはーい。んぐ、お土産ちゃんと買ってきてよー?」

男「行ってらっしゃいのチューがあっても罰は当たらないと思うが、どう?」

妹「ば、バカじゃないの!? 今日ちょっとテンションおかしいっ……」

男「割と自分でも分かってるから、余計な心配いらん。じゃあ行ってくるよ」

天使「はりきって参りましょ~♪」

男「……楽しみなのはよく分かるけど、着くまではいつもの服でいてくれね?」

男(ある意味そのスク水姿は目に毒である。すっかり遠足気分な天使ちゃんと共に、寝惚け眼の俺は集合場所の駅へ)

男「出てから気づいたけど、かなり時間に余裕持ってきちゃったかもしれん」

天使「遅刻して来るよりマシですよ。意外としっかりしてるって好感度UPのチャンスかもじゃないですか?」

男「これ以上UPするものがあるのかねぇ……おっ?」

不良女「……」

男「どうやら先客がいたみたいだな。アイツが一番乗りってのは予想外だったけれど」

男(ベンチに座って携帯電話を一人寂しそうに弄っているのは不良女。すぐに会いに行ってやらずに、遠目から彼女を観察してみると)

天使「……男くんなんですか、その良からぬことを考えてるって感じの顔は」

男「天使ちゃんよ、今から不良女へ行くが、俺が奴へ挨拶をした後すぐに……近くにお姉さん立ってるだろう? 短いスカート穿いてる」

男「彼女のスカートを捲れ」

天使「はぁ!?」

男「これは重大な任務だよ、天使ちゃんにしかできないぜ。上手くいけば面白いのが見れる!」

男「やってみる価値はあると思わんかね……繰り返す、天使ちゃんにしかできない任務だ……」

天使「……ごくりっ」

男(結託、とまでいかないが相棒をその気にさせ、不良女の元へ。気がついたのか彼女は俺を見て明るい表情を見せる)

不良女「おせーよバカ!」

男「はえーよバカ。……おはよう、不良女」

男(今だ! と目で合図を送ると同時にお姉さんのスカートが突風にでも吹かれた勢いで、捲れ上がった)

男(それをまっさきに反応し、凝視。レースが入った薄黄色。モロよりチラの方がそそられる……は、どうでもいい。重要なのはお姉さんのパンツではない)

男「くっ、よく見えなかった……!」

天使「にゃははっ、やりましたやりましたよぉ~!! 無事任務たっせーでしょう!!」

不良女「うっわお前! サイテー! 真っ先に、つーかガン見してんじゃねーよ!」

男「い、今のは仕方ない男の性が働いただけだろうが。野郎なら誰だって目に焼き付けておきたい!」

不良女「あんな必死なって覗こうとしてさぁ、だっせーな。あは、もしかして欲求不満なんじゃないの?」

男「そりゃあ、まぁ、年頃の男だし? お前には一生分かんないだろうよ、こういう事は」

男「にしてもさっきは惜しかった……あと1秒でも早く気づけたら。悔やまれるな、畜生」

不良女「わぁ、見っともないから言うなっての~!? こっちが恥ずかしい!!」

不良女「……ていうか、パンツ如きにそんな夢中なれるフツー? あんただけじゃねーの?」

男「じゃあ男の娘にもあとで訊いてみろよ。もっとも、答えに期待はできないとは思うが」

男(「ダメじゃん」と吐き捨てるように言われ、引き続き俺は見っとも無くしゃがみ込んで、いじけたフリを)

男「フツーじゃなくて悪かったな……どうせ俺なんか布で喜ぶ変態だよ……さぁ、笑え」

不良女「そ、そこまで落ち込むことないでしょ? 確かにあんた変態だけど」

男「そうだ、変態だ! だから笑えって言ってるんだよ!」

不良女「悪かったってば……別に責めるつもりで言ったんじゃ……なぁ、元気だしてよ?」

男(哀れんだか、機嫌を損ねた俺を必死に励まそうと不良女が声をかけてくる。「変態だって悪くない」、「あたしには分からないけど、そういう奴もいる」……励ましてるか?)

不良女「パンツなんて頑張んなくても見れるから、大丈夫だって!」

男「頑張るとかじゃねーよ、偶然チラッと見えるのが最高だったんだ。二度とお目にかかれんかもしれん」

不良女「あ、あんた変態とは思ってたけど、こんなにオープンだったっけ……!?」

不良女「とにかく元気出せってば。ほら、そろそろ誰か来るかもだよ? あっ、ジュース飲むか!?」

男「いらん……」

不良女「っ~~~! んだよ、お前っ!! ちょっとした事でグダグダして、情けねーなぁ!!」

不良女「パンツぐらいあたしが見せてやるか……ら……あっ///」

男「マジか?」

不良女「な、ななっ、何も言ってないからな!?///」

男「いや、いくらでも見せてやるって聞こえたんだが」

不良女「いくらでもは言ってない!! って、ち、違うちがう!!」

男「は、言ってないというのは、見せるのは許可したわけだな。墓穴を掘ったな、不良女」

不良女「こ、このぉ……っ~! あぁー別に見せてやろうじゃんか! パンツの一枚が何だよ、大したことないっ!」

不良女「大したこと……[ピッ]、[ピーーーーーーガーーーーーーーーーーーーー]///」

男「え? (と訊き返す横で天使ちゃんが不潔なものを見るような目で俺をジロリ。な、面白いだろう?)」

男「やっぱり悪い気がしてきたな……お前だって恥ずかしいだろう?」

不良女「当たり前だろ!?」

男「でも、さっきお前パンツの一枚が何だよって、堂々と宣言していたような」

男「恥ずかしいなら、あの言葉はウソだったというわけか」

不良女「あぁーもぉーっ!!///」

男(この手のキャラの扱いには慣れてきたと自負している。一手読み、また一手先を、と)

男(単純に自分に自信をつけたかった。所詮、お遊び程度のやり取りだが、今日のイベントは失敗するわけにはいかない。かならず成功させたいのだ)

男「(ウォーミングアップを済ませたかったのである) まぁ、無理強いはしないよ。俺だって悪者じゃない」

男「お前の気持ちだけは受け取っておこうじゃないか。どうも」

不良女「……[ピーーーー]かよっ」

男「ん? いま何て言った?」

不良女「だ、だから見ないのかよって言ってんだよバカぁー!!///」

天使「……見ないですよねぇ?」

男「わかった、お前の頑張りに俺も応えよう。……スカートを捲ってくれ」  天使「ドへんたい!!」

天使「変態変態変態っ!! 不潔、キモ過ぎです! 頭沸いてますよ!」

男(今までそれは承知の上で行動してきたのだが。欲望、それが俺の唯一にして頂点にある原動力である)

男(エロスこそがこの身湧き立たせる。揺ぎ無い精神力を与えてくれる。だから、ここまでやって来れたと思うのだ)

男「(委員長、こんな俺が君を救おうと奮闘しているのは滑稽だろうな。だが君に対しては下心なんて一切ないと誓おう) それはさて置きパンツだ。で、どうした?」

不良女「ど、どうしたもクソもあるかよっ……捲れって……!」

男「流石に脱げとは言えんし、俺が手に掛けるわけにもいかないだろう」

不良女ん「そりゃあそうだけどさ……や、やっぱり[ピーーーーーーー]よ///」

男「安心しろ、誰にも見られないように俺が影になる。みんなにも言わないから」

不良女「ち、ちくしょぉー……ちょっとだけだからな!? 本当に一瞬だからな!?」

男(承諾すると、スカートに自分から手を掛け、焦れったいと思わせられるほど少しずつ、上にあげていく)

男(羞恥心で埋め尽くされた不良女は涙目で止めてくれと俺へ訴える。可哀想だが、言いようもない感情が込み上げてくるではないか)

男(だが安心するが良い。これはラッキースケベでもない。あれから時間も経ったからな……そろそろ、来るだろう)

男「暴力が――――――べらっ!!」

転校生「こ、この……バカ変態! 一体こんなとこで何やらせてたのよ!?」

男(派手に蹴り飛ばされた俺を見て天使ちゃんがお腹を抱えて笑っている。彼女的に『面白い』が見られたようで)

明日へ続く

遅れたけど乙

やっぱり話面白いなぁ…よかったら過去作とか教えてくれない?

>>222
ごめん、あんまり教えたくない


ああー、分かるよ>>1
ssは気分が盛り上がるとすぐコピペにされるし。。。
まぁ色々あるよなー

俺がそうだったからな!

>>225は過去に何があったというのだろうか・・・

先輩「うっひゃひゃひゃひゃあ~!! ここで空気を読まずに革命を起こす!!」

男の娘「じゃあ止めます。革命返しです」

先輩「うぎゃー!? み、短かすぎるわたしの時代……」

男(昨日はバスに揺られ、今日は愛好会メンバー+顧問で電車の中である。目的地までそう長くもないが、俺たちは誰かが持参したトランプを楽しむ)

男(向かいの合い席に上級生組と先生が座っているのだが、遊ぶには遠いからと先輩が無理矢理俺の隣へ入ったことでこちらはギチギチ。そして私服でもムチムチな彼女)

転校生「ねぇ……私と取引しない? もしこのまま勝たせてくれたら、次のゲームで」

男「欠落せよ、貪欲に染まりし大富豪ッ!!」

不良女「男の一抜けで転校生都落ち~! さっさとその席退けどけ!」

転校生「せっかくの私の連勝記録ぅ~~~!? あんまりよぉ……うぅ」

男「転校生、勝負の世界はいつだって非情にあると知れ。勝ちか負けか。強請るな、勝ち取りたまえよ?」

男「だ・い・ひ・ん・み・ん クン……先輩さん、胸がみっちり腕に当たってますがコレは」

先輩「がっつり当ててるんだよ?」

男の娘「あああぁぁぁっ! ダメぇ! 男に変な色仕掛けじみたことしないでっ!!」

転校生「もうっ、変態なんかに負けたのが一番悔しいー! 見てなさい、次で1位に舞い戻ってやるんだから!」

生徒会長「みんなばかりズルいじゃないかぁ……むぅ」  先生「バカねぇ、素直に混ぜてって言えばよかったのに」

天使「う~、よく分かんないけど面白そうです。自分もやりたいやりたいやりたいぃ~!!」

天使「男くんばっかり楽しんで卑怯です! お友達契約はどうしたんですか! 裏切りですか!」

男「天使ちゃんとは家に帰ってから神経衰弱やりましょうねぇ……」

先輩「おっ、また男くん独り言喋ってる。わたしカウントしてたよ? 今ので10回目キター」

先生「ちょっとやだー。変なの肩に乗っけてないでしょうね? 合宿でホラーなんてご免だよ?」

男「俺はカードと、いや、トランプ神と話しているんですよ……だから、今回も俺の勝ちはもらったぁぁぁ~~~!!」

男の娘「を止める、っと。えへへ、8切りだよ? 油断大敵だねっ」

不良女「げっ、こいつ顔に似合わずえげつない真似連発してきやがんぞ……」

転校生「一番侮っちゃいけない敵だったなんて。あっ、いまので男の娘くん上がりだから変態落ちたぁ~!」

男の娘「ごちそうさま、男~♪」

男「(落ちた俺を天使ちゃんと転校生が、親の敵でも取ったように煽ってくる。憎たらしさ以上に愛らしさしか感じられん) もうそろそろ到着するんじゃないの? トランプしまって出る準備しようか」

転校生「負けたからって逃げるの情けないわよ~?」

生徒会長「いや、彼の言う通りそろそろ頃合いだろう。各自荷物を忘れないよう注意しておくように」

先輩「待ったぁー!! そういう仕切り役は部長であるわたしの仕事でしょうに! はっ、まさか下剋上を狙っていると!?」

生徒会長「誰が得体の知れん愛好会の頂点に立ちたがるか……」

不良女「駅出てからバス乗り継いで、ちょーっと徒歩で歩くぐらいとか聞いてたんですけどぉ?」

男の娘「ちょっと、じゃないかもね……はぁ」

先生「あ、あんたたちは若いからいいじゃない。先生なんてもう膝笑う手前まで来てるんだからねっ!」

先輩「先生ちゃんそこ張り合うとこ? まぁまぁ、皆さん。もうちょーっと歩けばプールですよ? 温泉ですよ!? 美味しいご飯と宿ですよ!?」

先輩「まさにこの世のパラダイスじゃーん!! わたし死ぬならそこを選ぶねっ」

転校生「それで殺人事件なんて起きて第一犠牲者なら洒落にならないでしょ……って、どうして男のあんたが一番バテてるのよ」

男「い、いやっ……はぁはぁー……さ、さっきの坂……ぜー……転校生、後生だから背負ってくれ!」

転校生「私があんたおんぶできると思う? んっ……ほ、ほら、手なら貸してあげる///」

男(噴き出る汗を拭いながらその手を取ろうとすれば、先頭を歩いていた全員が歩調を緩めて近づいてきた)

生徒会長「よし、転校生は先にみんなと歩いているといい。男くんは私が引き受けよう」

男の娘「女子に引っ張らせるなんてできません! 僕が男に付き添いますから、お先どうぞ!」

男(不良女に先輩と続き、誰もがその役を譲らない。視線がぶつかり火花が舞っているイメージがここにあるわけだ)

男(これで本当に今日中でハーレムを作れるというのか? ……そこは俺の踏ん張りどころ。最後にゲームへ勝利するのはこの俺よ)

男「先生、一緒にタクシーで向かいません? 元気な若者どもは徒歩で余裕らしいんで」

「「「「「んなぁー!?」」」」」

男(結局誰の手を取るでもなく、天使ちゃんのロリハンドを堪能しながら先を行ったわけだが、ようやくだ)

先輩「ほらぁ……道間違ってなかったでしょ? 謝ってくんさいっ!」

不良女「途中でこっちが怪しいよぉ~とか言って、逸れかけた奴の台詞かよソレ!」

先生「あーもう、汗で下着濡れて気持ち悪い……さっさと入って脱ぎたいんだけど」

男の娘「せ、先生……僕たち男子もいるんだから……うぅ///」

男(俺以外の言葉で始めて照れを見せただと? やはり、彼は『彼』で間違いないのか。この生活始まって以来親近感も持てる恥じらいっぷりだ)

男「男の娘、俺たちは唯一の男子だ! そうだろう!」ガシッ

男の娘「う、うん? そうだと思うけれど……急に手握らないでよぉ。[ピーーーーー]しちゃう///」

転校生「やっぱりシュクジツ? で合ってるかしら。休みの日だと他のお客もいっぱいよね。すごくゴチャゴチャって感じだわ」

不良女「でも、あたしらは泊まりでゆっくり温泉は楽しめるからな。そこらの連中と同じにされちゃ困るって」

不良女「なんたって全部タダなんだしよー!」

先生「……うらやま」

男「……マントヒヒ。次ひですよ、ひ」

先生「……干上がるっ!!」

男(恨めしそうにこちらを睨んで財布を握る先生に気付かないフリで、俺たちはついにパラダイスへタダで足を踏み込んだわけである)

転校生「それじゃあ私たちはこっちだから……覗こうと考えてないわよね?」

男「単騎女子更衣室は難易度高くてご免だっての。さー、転校生はどんな水着で登場するか楽しみですなー」

転校生「ちょっ……あ、あんまり変な期待しないでよね。ばか///」

男(適当に彼女らをいなしながら、俺と男の娘は男子更衣室へ。大丈夫か? 本当に男の娘をこちらへ連れて来て平気なのか?)

天使「きゃー///」

男「コレはしょうがないとして……男の娘、知らない人に声掛けられても着いて行くなよ。絶対だぞ」

男の娘「小さな子扱いしないでよぉー!! というか、僕は男から[ピーーーー]気ないから」

男「何だって?」

男の娘「な、何でもないよ!? それより向こうに遅れる前に着替えよっ、ね?///」

男「……着替えたいのは山々だけどね、あんまりジロジロ見ないでね?」

男の娘「わ、わっ! ごめんなさいっ! つ、つい目が……あぅぅ……///」

男(隙あらば彼の着替えシーンを脳裏に焼き付けるつもりでいたが、自分の心配で手一杯かもしれん。年甲斐もなく小学生のような着替え方をした)

男「(その間、目のやり場に困った天使ちゃんはロッカーに頭を突っこみ必死に逃避している。これぞ頭隠してなんとやら、か) 女子の方に着いていけば良かったのにな」

天使「だって自分は男くんといつも一緒じゃなきゃダメなんですもん……ぐすんっ」

男「いつも一緒にいたいと受け取っておきましょうかねぇ。可愛いかわいい」

男「……その、何だ。上半身は隠さなくていいのカ」

男の娘「どうして隠す必要があるの? それより男は水着姿もカッコいいねっ!」

男「ど、ドウイタマシテ (あまりの衝撃に噛んでしまうミス。想像を裏切った彼の体は実に男の娘していたのである)」

男(美少女のような顔に、その体は不釣り合いと言っていい。直視できずにいると何度も男の娘が顔を覗き込んでくる)

男「こっちの方がまだ目に優しい、かな」  天使「海だぁー!!」

男の娘「女子グループはまだ来てないみたいだね。もう少しここで座って待っていようよ、男……って、さっきから何してるの?」

男「ちょっとね!? アホ、まだ飛び込むなっ… (今にもプールへダイブをかまそうとしている天使ちゃんを抑えている姿は、彼から見てパントマイムのそれだろうか)」

天使「やだぁー! 早くバシャバシャさせやがれですよぉー!」

男「バシャバシャまだ! 少しの辛抱だから堪えろって……と、と、うおおぉぉ~~~!?」

男(俺の力はロリ美少女にすら劣るのか。暴れる天使ちゃんに引っ張られるようにして、勢い良くプールへ飛び込んでしまった)

男の娘「男!? 転んだように見えたけど大丈夫!?」

男「ああ……別に。あのガキ、あれほど待てと言っただろう……に?」

「何一人でバカやってるのよ、変態男」

男「……おやおやおや、こいつは」

ポケダンssとは珍しい

頑張ってくれ

男(ビキニの転校生さんではありませんか。仁王立ちで見下ろしてしまって。下からだと突が素晴らしい角度で拝見できます)

男(日英ハーフ系美少女といわんばかりのスタイルの良さを見せつけ、彼女の存在は自然と周りの客に格を付けている。世の中捨てた物ではないと、改めて考えさせられる)

男「(並大抵のレベルではないぞ。感謝の言葉が多過ぎて喉に詰まる) ……あぁ」

転校生「いつまでアホ面してるのよ? ……ってぇ」

転校生「そんな上から下まで舐め回すみたいに見ないでよぉっ!!///」

男「いや、だって……あの」

転校生「……に、似合ってないかしら?///」

男「髪結んでるお前の姿が新鮮だなーと。ほら、いつもストレートにしてるだろ?」

男(誤魔化されたとも知らずに、紅潮させた頬をぷくりと膨らませて見せる転校生。「デリカシー欠けてるんだから」と思われているのだろうか)

男の娘「転校生さん水着似合ってるね。素敵だと思うよ~」

転校生「あ、ありがとう!! はぁ……素直に感想ぐらい聞かせてよ、恥ずかしいんだから」

男「え? お前何か言ったか?」

転校生「言ってないわよ! それよりさっさと上がれば? みんな来てから入りなさいよね」

男「……上がりたいけど、ちょっと足打ったみたいでな。悪いけど手伸ばしてくれないか?」

男(仕方ないと悪態を突きながら転校生が手をこちらへ差し伸ばす。そう易々頼まれるなよ、『発動』するからな)

>>237
違う!こっちこっち!
ボスゴドラ「不思議なダンジョン 鋼の探検隊」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1399729600/)

転校生「えっ、わっ!? ちょっ……!!」

男(別に俺が転校生を引っ張ったわけではない。手を掴んだ瞬間、彼女自身がバランスを崩した)

男の娘「転校生さん!? ……って、あれ」

男(結果、転校生はプールもとい俺へ落下したわけである。潰されながら水中へ沈んでいき、目を開いた時には)

男・転校生「ぼごごっ!?」

男(目と鼻の先にお互いの顔があったという。転校生は目を大きく見開いて驚くも、俺から目線を逸らせずに、そして距離を置こうともしなかった)

転校生「……///」

男(俺も転校生を倣って同じようにしていると、さらに顔と顔の距離が縮まっていた。そう、キスの予感があったのである)

男「(勿論、回避させてもらうが) がぶっ!? がぼぼぼ……」

転校生「っ!?///」

男(息が続かなかった、という形で焦って水面から俺は飛び出す。遅れて転校生も浮き上がってくると)

転校生「ば、ばか変態!! 私まで道連れにしようとしないでよ!?」

男「お前が勝手にバランス崩して飛び込んで来たんじゃねーか! 逆に俺が被害受けたね!」

転校生「何よ! もうっ! ……ほんとばかっ///」

男(幼馴染といい、転校生といい、昨日から嬉しい水難続きで堪らない。プールってかなり最高である)

天使「あのままブチュ~~~つっとけば良かったというものを」

男「一応お仕事は忘れないでいるんだな。ここで変な気を持たせるわけにはいかんのよ」

男「それより天使ちゃんは言う事聞きなさい。人も多いし、離れて迷子になられたら大変だろうが」

天使「でも、男くんはちゃんと自分のこと見つけてくれるでしょ?」

男「忘れてなければ。……転校生、さっき水飲んだよな。大丈夫か」

転校生「見ての通りよ。ていうか、男の娘くん見た? 彼って本当に男子でいいのよね!?」

男「……更衣室でチラッと確認したがしっかり付いてたと思う」

転校生「はぁ!?///」

男の娘「どうしたの、二人でコソコソして? 怪しい」

男・転校生「……そっちもね」

男(その時だった。俺の背後へ近寄る大きな影が一つ、いや二つ……掛け声と共に強く拘束された。そして大きな感触が二つ)

先輩「おっまたせー!!」ガシッ

男「うおおおおおおおッ!!」

転校生「ちょっと!? 水着でそいつに抱き付かないでくださいっ!!」

先輩「ん~……? なぜかね、転校生ちゃん? したら悪いことでも有りありかねぇ~? にひひっ」

男(こちらとしては是非思うがままして頂きたいところである。さて、まず弾力が凄い。小柄な彼女に不相応な爆弾かもしれん)

男(転校生と男の娘の迫力に怯み、しりごんだのか惜しくも先輩は離れてしまった。水着はこの前試着していたものを身に着けているな。スーパー似合ってる)

生徒会長「プールサイドを走るなとあれほど何遍も聞かせただろう! 怪我をしたらどうする!?」

先輩「いやぁー逸る気持ちを抑えられなかったんスよぉー、えへっ!」

生徒会長「まったく……あっ、お、男くっ……[ピッ]、[ピーーーーーーー]……///」

男(おっと、ここで先輩以上の爆弾の登場である。しっかりあの時勧めたものを着用しているではないか)

男(溢れんばかりのたわわの果実が歩行のたびに弾む弾む。クールを装う彼女も、その姿で俺の前に出れば牙を抜かれた虎のようなもの。いや、もうエロ猫だろう)

生徒会長「こ、この水着はだなっ……その……えっと、うん///」

男「何て? ……お? おぉ? おほぉおおおおおおッ!!」

先生「遅くなってごめんねー。タイミング悪く業者から電話掛かって来ちゃって……これ、少年どもどこ見てるか」

男(アダルトな色気を醸し出すお姉さんの登場に俺と男の娘が息を呑む。これを核兵器と言わずして何と例えようか。つまり)

男「ロマンぎっしりダイナマイトボディ!!」

不良女「やっぱ野郎は揃いも揃ってスケベな脳味噌持ってんだなぁー呆れるわ」

男「不良女……むぅ? むむむ……むぅ」

不良女「え? な、何だよ? ……オイ、何と比較してガッカリしてんだコラァ!?///」

ここまで。来れるようなら明日だけど、一応明後日を予定

http://uproda11.2ch-library.com/e/e00042662-1399863025.jpg
一応自分の中の天使ちゃんイメージ描いた。
サイドポニーじゃないし、色々雑だし上手くもないけど

絵の流れと聞いてやってきました
ご自分のイメージを崩したくない方はクリックしないようお願いします
>>1さんこれからも楽しみにしてます!!!11

天使ちゃん
http://motenai.orz.hm/up/orz35524.jpg
http://motenai.orz.hm/up/orz35525.jpg
主要キャラ表をつくってみました
http://motenai.orz.hm/up/orz35526.jpg
http://motenai.orz.hm/up/orz35527.jpg

男「360度どこを見渡しても嬉しいというか、眼福ですな。マジでパラダイスすぎるよ」

男(最高のパラダイスだが、かれこれ数十分は体を動かせられずにいた。なぜか? 健全な男子諸君なら説明要らずだろう)

男の娘「さっきからうつ伏せになったままだけど、昼寝でもするの? 勿体ないよぉー?」

男「少しでも逞しく見せようと日に焼いてるんだ……まぁ、気が向いたら俺も遊ぶって」

男の娘「あの、ここ室内プールなんだけど……というか、男はそんな事しなくても[ピーーーーー]のに」

男「え?」

男の娘「あっ!? そ、そういえばあそこに大きなスライダーあるよね! 後で行ってみない!?」

男「ああ、さっきから先輩さんと不良女が何度も滑ってるヤツ……気が向いたら」

男の娘「も、もぉー! 男さっきからノリ悪い!」

男(昨日の疲れも残っていてか、どうもあの手の物へ近づける気がしない。それに俺は美少女がいつ襲われても対応できるようにここで監視しているのだ)

男(さながら美少女ガーディアン。しかも、天使ちゃんのお守の役目もある。俺としては彼女らの水着姿だけでお腹いっぱいだな)

先生「きみはどこに来てもマイペースよねぇ。本当に十代の少年くん?」

男「肌の張りがそこらのオヤジと違うでしょ、って先生何飲んでるんですか!?」

先生「お酒よん? 別にいいじゃなーい。たまの連休なんだし、少しは羽根伸ばさせてくれても」

男の娘「一応合宿の建前もあるんですから、お昼からお酒は……うぅ」

先生「あは。ねぇ、男の娘くんって結構かわいい顔してるわよねぇー? うっひひ、ちょっと先生の上に乗ってみるぅー?」

男「男の娘には荷が重すぎると思うんで是非俺がッ!!」

先生「えー、男くんはやーだ……私が何かしちゃうかもしれないし……///」

男「ふぎぎっ……」ブッ

男の娘「男っ、鼻血はなぢ!! もう先生飲みすぎたらダメですからね。あと男をカラかわないで!」

男(第一にそうされたのはお前の方ではないか。もうどうしたらいいのやら、特に昼間俺が行うアクションは無いに等しい)

先生「ぶ~っ……それにしても、真昼間からお酒楽しめるこの幸せ~」

男「引き換えにした物が大きい分味わえる物って違うよな」  先生「教えてあげよっか? それを『水を差す』って言うのっ!!」

男(だが、どうせならラッキースケベを楽しむ為に動いても良さそうな気がする。というより、そうしなければ男が廃るだろうさ)

男(男の娘が再び酔っ払いお姉さんへ絡まれている間、トイレへ立つと……生徒会長の姿が見当たる。少し様子がおかしいが)

生徒会長「……そこを通してくれ。悪いが私は連れと一緒でな、あなたたちに付き合うつもりはないよ」

男「な、ナンパだと!? 俺を差し置いて何やってるんだあのモブ男どもは!?」

男(言った通り、あの生徒会長がどこの輩か分からない連中に絡まれている。男たちは典型的遊び人な台詞を吐いて、彼女を囲んでニヤついていた)

男「ああ、まるで主人公くん助けに来てくださいと言わんばかりの展開じゃないか!」

男「あの人一人で口で圧倒してるみたいだけど…… (むしろ俺が出る幕があるのかと思わせられたのである)」

男(いつ颯爽登場して、カッコつけて救いだそうかとタイミングを測っていても、何故かお叱りを受けたモブたちがたじろいでいくばかり)

男「ここか!! いや……もう少し様子見た方がいいのか……今、じゃない!!」

生徒会長「確かにこの様な場所に来て浮かれる気持ちはわかるさ。だが、他のお客へ迷惑をかける行為は感心できないな!」

生徒会長「あなたたちのソレは男を自ら下げている。健全な付き合いを求めるならば、もう少し上手いやり方があるだろう?」

生徒会長「大体、大の男が数人がかりで女子を囲んで恥ずかしいと思わないのか!?」

男「おいっ、俺が言いたかったこと全部喋られてるじゃねーか……!」

男(もはや別の所へ行った方がいいかもしれない。なんて突発的な小イベント。主人公を中心に周っていて欲しいな、こういうのは)

男(と、愚痴も出そうになっていると、丁度生徒会長と目が合った。まだ去らなくて正解だったじゃないか……堂々胸を張って彼女の元へ、そして手を取り)

男「すみません、実はこの人俺の彼女なんスよ」

生徒会長「なぁっ……!?///」

男「そういうわけなんで。ダメですよ、人の彼女にちょっかい出すのは」

男「じゃあ行きましょうか、生徒会長。それともここで見せつけて、証拠突き付けていきます?」

生徒会長「お、男くん!! そういうのは正式に付き合ってから……じゃ、じゃなくて///」

生徒会長「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]///」

男「え? 何ですって? (羨むモブの視線を浴びながら、生徒会長を見事救ったこの俺主人公)」

男「大丈夫でしたか?」

生徒会長「あ、ああ……きみのお陰で助かった……だが、さっきの、その[ピーーーー]って///」

男「やっぱり生徒会長ほどの美人がこんな所に来ると苦労するでしょうね。ほとんどの人から注目受けてますし」

男「すみませんでした! とっさのウソとはいえ、俺なんかが彼氏ぶっちゃいまして~!」

生徒会長「そう謙遜しないでくれ……むしろ、私の方が[ピーーーーーーーーー]かと……」

生徒会長「……それよりいつまで手を繋いでいたら///」

男「え? あっ、ご、ごめんなさい!? もう平気ですよね!? (慌てて手を解くと、口惜しそうに「あっ」と声を漏らす彼女。何度も握った手の感触を思い出すよう閉じては開いてを繰り返している)」

男(美しくも気丈に振る舞い、けして弱気を見せようとしない生徒会長も、俺の前では雌の顔である。恋とは恐ろしい、人を狂わす。これを含めて彼女のキャラだろうが)

生徒会長「男くんは泳がないのか? せっかく苦労して辿り着いたんだ。時間を忘れて存分に遊ぶべきだよ」

生徒会長「合宿、なんだがな……ふふっ」

男「そういう生徒会長こそ変に着飾らないで、たまにはハッチャケてみたらどうです?」

男「さっきも電車の中で俺たちに混じりたいのを我慢してたんじゃないですか。いいんですよ、誰も変に思いません」

生徒会長「べつに私はっ……あはは、きみには何でもお見通しのようだね……」

男(俺が気づいた事だ。彼女はどこか自分を立てようと、遊び心を無理に抑えようとする傾向が見られる。ようはバカになれずにいた)

男(常に一歩引いたところに居たがる生徒会長。それが転じてどうも他と比べればアクションは控え目。その境界をいつかぶち破れないかと考えてきたわけだ)

男「ちょっと差し出がましいですかね。でも俺、生徒会長が楽しんで笑ってくれてる顔大好きなんですよ」

男(臭いのは承知の言葉だが、このぐらいが丁度良いと思われる。好意を抱く相手からどのような形だろうと、誉められた)

男(基本的に『尋常ならぬ好意を抱かれている俺』は対美少女において大きなアドバンテージを握る。この通りだ)

生徒会長「だいすき……///」

男「だから、生徒会長も俺たちと一緒に思い切り遊びましょうよ。ね?」

生徒会長「し、しかしだな。急にそう言われてもどうしていいものか……と、とりあえず楽しそうに泳げば良い?///」

男「手伝いますよ、ほい」  生徒会長「ひゃあっ!?」

男(赤面困惑する生徒会長をプールへ突き落とし、高笑う。浮かび上がった彼女は危ないと怒るも、気にせず傍へ俺は飛び込んでやった)

生徒会長「っう!! こ、この! いくら何でも、じょ、冗談がすぎ」

男「ひゃっほぉうううぅ~~~!! (自分でも違和感を感じざるを得ないほど、はしゃぎ、水をバシャバシャと彼女へかけて喜んで見せれば)」

男(次第にしかめっ面は眩しい笑顔へ変わり、そう、バカになった。普段の彼女とは思えない明るく大きな声で喜び、ボインボインと弾ませている)

生徒会長「あはははっ! どうしたぁー!? その程度か、男くん!? くくっ、その程度かと訊いているぞ~!!」

男「いきなり決壊し過ぎだろこの人っ……ぶうっっっ」

不良女「あ、悪ィ。ボールそっち行ったよなー? 取ってー」

生徒会長「はははははっ、顔面で受け取っただけにウケるなぁ、男くーん!!」   男「そうっスね…」

ちょっと疲れたんでまた明日に続く

>>254>>263
保存したぞ。これでまた何回も見てニヤニヤできるわい
にしても、イメージだけでここまで描くの凄い。絵心皆無の人間には羨ましい限り

男(生徒会長の遊び心をどうにか触発させられた事で、ようやく部員たちがプチバカンスを楽しみ始めた。俺といえばゴムボートに寝転がり、天使ちゃんと共に流れるプールに漂う)

天使「きゃはは! 男くん見てください。こーしてふにゃ~と浮いてるとクラゲみたいでしょ!」

男「天使ちゃんだけにクリオネって感じだけどな。それにしても疲れないか? 昨日もあれだけ遊んだのにさ」

天使「普段憑り付かれたように働くしかない自分にとって、遊びは命なのです。すなわち遊ばなければ死ぬ!」

天使「男くんも一緒にクラゲやりましょー! 実はこれ奥が深いんですよ!」

男「俺はこうやってボーッとしてるのが性に合うんでな……ゆったりクルージング続ける」

天使「えぇー! 男くんも遊んでくれないと楽しくないですっ、もっと構いやがれですよー!」

男「わっ、うおっ! バカ、そんな力いっぱい揺らすな! 落ちる!」

天使「へぇ? 自分別に揺らしてませんけれども」

男「じゃあ誰がぁっ――――――!?」

男(瞬間、我がブラックパール号が転覆。どぼっと水中へ落とされた俺が目撃したものは、伝説のクラーケンでもなければ、河童でもない)

先輩「っ~~~♪」

男(ニヤリダブルピースで楽し気な美少女であった。おかしいぞ、ここはプールなのに人魚が住んでいるんじゃないか? とにかく)

男「いきなり何してくれるんですか!? 小さな子が見て真似したら危ないでしょーが!!」

先輩「すまん! つい魔が差したぁ! ……あ、コレ生徒会長ちゃんの真似。似てた? 似てるよね! 自信あったよ~!」

先輩「そういえば男くんさっきナンパされてた生徒会長ちゃん助けたんだって? カックイー!」

男「ほぼ俺の助け要らずだったけど……それよりプールでシュノーケルですか。浮いてません?」

先輩「どんな状況にも対応できるよう、こんな事もあろうかと謎の七つ装備・漂流編を持ってきたのです! イカすっしょ~!」

男「で、使い道がなかったからとりあえず着けてみましたと。分かり易くて結構、って流石にここでは抱きつかないでー!?」

男(どうも彼女はスライダーで滑り飽きたらしく、丁度俺を見つけてちょっかいを出しに来たらしい。それにしてもスキンシップが好きな人だ、今日は生の感触に近いというのに)

天使「男くんはハレンチです。何ニヤ付いてるんですか……っ」

男(今のは嫉妬か? 天使ちゃんも遊園地でだいぶ柔らかくなってきたではないか。俺を取られたくないあまり、彼女までくっ付いてくる)

男「ビーチボールが二つ、まな板が二枚……なんて贅沢な! 身が持たん!」

先輩「ところで、実はわたしカナヅチなんだよ?」

男「あんたさっき普通にスイスイ泳いでいたでしょうが」

先輩「いやぁ、それはこの謎の装備着けてるからで~……と、とにかく捕まえててよー! 離したら溺れちゃーう!」

男「謎の装備付いてるから平気で、ってどうして投げ捨てた!?」

先輩「捕まえててね……?///」ギュウ

男(そう言ってさらに体を密着させる先輩。なるほど、強引だが上手い。恥じらい上目遣いコンボが際立っている。現に俺はいま先輩の虜だ)

天使「男くんは自分とクラゲごっこするんです! だめー!」ガシッ

男(泳ぎだけには自信がある俺でも、二人の美少女という重りが有れば沈みかける。天国と地獄だな。体が震える)

先輩「このまま一周回っちゃう? もし沈まないで行けたらご褒美あげちゃおっかなー!」

男「ご褒美、ですかっ!? ぐぐぐ……何がもらえ、るんです!!」

先輩「おっ、ノリノリでやる気だねぇー! じゃあじゃあ~!」

先輩「[ピーーーーーー]あげても、いいかな……な、ぬぁんちゃって~!? あは、あははは~っ!!」

男「え? すみません、何て言ったか聞こえなかったんですけど」

先輩「あはは……な、何でもないからー……[ピーーーーーーーー]言ってるんだろ///」

男(一体どんな物凄い頑張ったで賞を授けてくれるつもりだったのか。先輩の底抜けな明るさも相まって、この恥じらいっぷりの破壊力は侮れない)

男「付き合うのは良いですけれど、こんな所転校生たちに見られたらまた怒鳴られますよ」

先輩「えへへ、そん時はそん時よ。みんな男くんのことお気に入りだから、一人占めしてるとすーぐ怒るんだからサっ」

男「そのみんなの中に先輩さんも含まれますか?」

先輩「え゛っ……あっ……そ、その、えっと……」

先輩「……[ピーーー]って言ったら、ど[ピーーー]う?///」

男(ここでお決まりの台詞で逃げるのは宜しくないと判断できる。しかし、虫食い状態の台詞が一番厄介……尋ね返されているという事は理解した)

男(彼女の性格から考えるに、あえて否定から入って様子見だろうか。つまり「そうじゃないって言ったら、どう思う?」とか)

男(確信は持てない。理由は彼女が後に取った行動にある)

男(尋ねてすぐに頬を紅く染め、こちらから逸らした。これは、自身が放った言葉で自爆したとも受け取れないか)

男(もし悪戯に否定的に話したとしたら、ここまで恥じらうのは何か不自然だ。彼女はいまも俺の返事を待つというよりは、抑えきれない胸の高鳴りに困惑しているのである)

男「……やれやれだな、相棒がもっと協力的ならこんな苦労も必要ないんだが」

先輩「え、な、何……?」

男「俺も先輩さんのこと好きですよ」

先輩「ひゃっ!? ちょ、ちょっと……うー……///」

男「へへ、俺も先輩さんのこと結構気に入ってるし、そう言って貰えてなによりって感じですね」

男「いやー、ウチの愛好会も最初はどうなるかと思ったけれど仲良くやれてて良かったですよ。本当に!」

先輩「……あれ?」

男「えっ、どうかしたんですか。みんな仲良くて良いじゃないって話じゃ?」

先輩「そそそそ、そうだねぇ~!! うんうんっ、みんな良い感じだよほんとに! もうサイコー!」

先輩「……[ピーーー]のばーか」

男「先輩さん、そろそろ俺疲れたんですけど上あがりませんか? って、聞いてます? ……怒ってる?」

先輩「いーえ? べっつに怒ってませんよー? ぜーんぜんねっ! ……むぅー///」

男(鈍感というのも中々つらい役回りだとヒシヒシと感じる。昨今流行りの難聴鈍感主人公たちもきっと同じ苦労を背負ったのだろう)

男(意地でも一人のキャラとイチャつくことを避け、平等に愛ずるのが彼らの生き様。そんな彼らを生み出した作者とこの俺は趣旨こそ変わらんが、これは現実だ。客を楽します創作ではない)

男(俺が美少女ハーレムを理想とし、エンジョイすべく、行われる鈍感。許せよ先輩、いつかあなたの行動は報われるから)

不良女「おっ、丁度良いとこにやってきた! おーい!」

男(ビーチボールで遊んでいた彼女たちの元へ行くと、不良女がこちらへ手を振る。先生が彼女たちと居ないのは、まぁ、そういうことだろう)

不良女「あたしもう一回スライダー行ってきたいんだわ。どっちか代わってくれない?」

先輩「へいっ、バトンタッチ!!」

男「お前もよく懲りないな、まるでウチの妹だ……ていうか、何やってるのアレ? ドッヂボール?」

転校生「し、知らないわよ! やけに張り切ってると思ったら、急にこんなことになって、ぎゃあーっ!?」

男(ビュンっと風を切ってボールが横切っていく。男の娘と転校生が逃げ惑う姿に乾いた笑いが出る。申し訳ないが、俺の責任ではないので)

生徒会長「怯えろぉ、竦めぇッ!!」

男の娘「もうやだよぉおおお~~~!?」

先輩「待ったぁー!! ここからはわたしが相手に、げぶらッ」

不良女「しばらくアレで持つだろ。……あんたも良かったら、来る?///」

男「(なんだよ。始めからその気でいたくせに) 平和主義者は静かに去るってね。付き合うぜ」

不良女「コレ結構ハマるんだよなぁ。なんつっても勢いがヤバい! あんたまだ滑ってなかったでしょ、へへっ」

不良女「あれ……おい、聞いてる?」

男(先輩に対処していて気づくのが遅れしまった。天使ちゃんの姿が見当たらないのだ)

男(あれほど傍から離れるなと言っておいた筈なのに。おそらく構わなかったのが原因だとは思うが。嫉妬、これほど面倒な感情もあるまい)

男(すぐに探してケアしてやりたいところだが……既に俺と不良女はスライダーの元まで来てしまった。途中で投げ出すわけにもいかん)

男「ここから探せないか? ダメか、人が多過ぎて何がなんだかよく分からんぞ」

不良女「おいってばー。シカトすんなコラー……」

男「お前その水着にパッド入ってないか。いつもより少し大きく見えるが」

不良女「は、はぁ!? つーか、いつもって何だよ! 見せた覚えないっての!///」

不良女「それに……別に盛ったっていいだろーが……こんぐらいしないと、あたしじゃアイツらに[ピーーーーー]するし」

男(見劣り、だろうか。こうして自分を悪い方へ追い込むのは彼女の悪い癖である。確かに周りと比べて胸は慎ましいが、別に胸だけが武器ではないだろう?)

男「尻とかもろもろ、体だけで評価されると思うなよな。結構似合ってるぞ、水着姿?」

不良女「うっ、うるせーな……でも、まぁ……[ピーーーーー]///」

スタッフ「あのぅ。お客さまお二人でご一緒に滑られるという形でよろしいんですよね? 次どうぞ」

男・不良女「えっ」

スタッフ「カップルの方々だと、よく一緒に滑っているんですよ。彼女さんを前にして彼氏さんが抱く感じで」

不良女「ちょ、ちょっと待てよ!! あたしらは別にそんなんじゃっ……[ピーーーーーーー]」

男(恋人同士と間違われたのがよほど嬉しいのか、顔がニヤけている。優秀なモブだ。俺の望んだ通りの展開へ運んでくれている)

男「順番待たせるのも面倒だろうし、この際二人同時にでいいんじゃないか? お前が嫌なら別にいいけれど」

不良女「嫌なわけないでしょ!? あっ……し、仕方ねーから付き合ってやっても、いいけど……?///」

男「じゃあ決まりだな。ほら、早く座れよ……よし、後ろで肩掴むが変なこと考えるなよ」

不良女「考えるかよバカ! お前こそだっつーの!」

スタッフ「すみません。肩ですと流れが急なところで離れかねませんので、しっかりお腹を掴んでいただけますか?」

不良女「ふぇ!? っあ……は、はやくしろよぉ……っ///」

男「ん、早くって」

不良女「こっちに腕回せって言ってんだよ!!///」

男(すかさず不良女の腹へ手を回し、後ろから抱きしめる形になれば、もはや確認するまでもない。一体どんな表情浮かべているだろうかな、こいつは)

男(悪ふざけにへそ辺りをくすぐると、艶やかな声を小さく上げて体をピクリと跳ねさせる。そんな不良女から怒声が飛ぶより先に、モブが俺の背中をトンと押してスタート)

不良女「くそくそくそっ! やっぱり変態かテメェはぁぁぁ~~~!!///」

男「えー? 水の勢いが凄くてよく聞こえんなぁー!?」

男「絶叫マシーンには乗り飽きてたが、こういうのは! おぉ、結構楽しいもんだな!」

不良女「だろ? 体寝かせるともっとスピード出んだけど、これじゃあ……ま、まぁ、これもこれで」

男(楽しいともさ、美少女から抱きつかれるのには慣れっこだが、自分からとなるとまた違う。素晴らしくきめ細かな肌、何時間、何年触れていても飽きが来るとは思えない!)

男(セクハラボディタッチが叶うのも、ここのスライダーだけ。良いCMになりそうだ。下心を燃え滾らせたければ是非仲の良い女子を連れて……そんな事ができる奴らは、きっと一握りである。そう信じたい)

男「もう水着って最高――――――はっ、天使ちゃん!? 見つけた!!」

不良女「はぁ? 今何て言っ、きゃあああぁぁぁ~~~!!」

男(コースがグルグルと激しくうねり始める。一瞬だが、ここから天使ちゃんの姿が確認できた。壁際にポツンと一人で腰掛けていたのだ)

男(早く滑り終われ、そう願うしかない。完全に拗ねていらっしゃられる。すぐに向かわねばここまで築いた物が台無しになってしまう)

男「まだかっ、ぶぅーーーっっっ!? (水面が見えたと同時、俺たちは勢い良くそこへ投げ出される。良かった、ともかく急いで)

男「不良女すまん! 突然腹が痛くなったんでトイレに……!?」

男(海パンが後ろへ伸びた。いや、掴まれたのだろうか彼女から。呆気に取られ、何だ、と焦れながら振り向けば)

不良女「待って!! ちょっと待ってよぉっ!!」

男「なぁ……一応訊いておくが、どうした」

不良女「水着、上取れたっ……どっかいったぁー……///」

男(やれやれ、ハプニングはいつだって俺を困らせる。だからこそ、である)

また明日

男「流されたのか?」

不良女「う、うん……水に落ちた時脱げてそのままどっかに」

男(水中に身を隠しているとはいえ、手ブラの不良女はいつもとは異なる色気を放っていた。見惚れている場合ではないというに)

男(さておき、辺りを見渡すが水着らしい物は浮いていない。スライダー専用プールと通常泳ぐためのプールが繋がっているとなると、既にあちら側へ流された可能性もあるだろう)

男「(そうだとすれば、プール一杯に詰まった人の数だ。探し出すのは困難かもしれない) 白いビキニで間違いなかったよな。ここで待っていろ」

不良女「あ、あたし一人にするってのか!?」

男「どうしようもないだろう。その状態で一緒に探させるわけにもいかん」

不良女「それは……そうだけど……」

男「まったく、見栄張ってサイズ合ってないのを無理に着るからこうなるんじゃねーのか?」

不良女「ぐっ……うるせーなっ! キツく結べば平気だって思ってたんだよ! それに、着るなら可愛いのがよかったし……」

男「あーそう。別に誰に見せるわけでもないんだし、気にするなよ」

不良女「お前に見せたかったのっ!!」

男「……俺に?」

不良女「はっ……ち、ちが! チッ……何だよ。[ピーーーーー]って言ってもらいたくて何が悪ィんだよ///」

男(冗談抜きで乙女度数高い方から数えると、彼女は上位に食い入ると思われる)

男「とにかく、早く探さなきゃ困るだろうが。先にみんなを呼んで来て代わりになる物持ってきてもらおうぜ」

男(この案が通れば、不良女のフォローは美少女たちへ任せて天使ちゃんへ向かえる。だが、彼女は不安そうに眼を伏せ)

不良女「それまであたしはここで待ってるんだろ……一人で、このカッコで」

不良女「絶対マズいって! だってここ滑り終わった奴が入ってくるんだぞ!? 見られちゃうよおっ///」

男「でも動かなきゃ始まらんって。一旦係の人に止めてもらうように頼むか? それなら」

男(言い終える前に、すぐ傍へモブが跳び込んでくるのであった。水が大きく波打ち、俺と不良女の間を割く)

不良女「!!」

男「(すぐにモブが俺たちへ邪魔だと罵声を浴びせ、去る。やはり、このままでは困る。どうにか動かさないと) 分かっただろ、早くしないと」

不良女「ない……ないっ……!?」

男「……無いって、何が。まさか」

不良女「[ピーー]……[ピーー]が……///」

男(思わず額に手を当てうな垂れそうになった。ラッキースケベも場合によってはアンラッキーではないか?)

男「まだすぐ近くを漂ってるかもしれない! おい、さっさと探すぞ!」

不良女「きゃあああぁ~~~!? ちょ、ちょっと待ってよ!? 潜るのたんまぁ!!///」

男「やかましい!! 黙っていろッ!! (可哀想とは思うが、これ以上黙っているわけにはいかない。問答無用で水中へ入ったのである。見えたら、その時は、仕方あるまいな)」

男(なぜ上のスタッフは俺たちが退いたのを確認してから客を通さない。死角に入ったわけでもないだろうに……恐らくこれも俺の力の影響かもしれんが)

男「ぶぐぐ…… (自然と視線が不良女へ行きそうになるが、紳士たる俺はここでグッと堪えるのだ。流れからしてこの辺りが怪しいが、ビキニなら水の中で目立つだろうに、何故かここまで手間が掛かる)

男「! (ようやく見つけた、排水溝に引っ掛かっている。しかし片方だけ、下の方のみ。とにかく早く不良女へ返さねば、とその時)」

男(突然俺の体が強引に掴まれると、スライダーの方へ体を向けさせられる。確認せずとも不良女だが、一体何を……またモブが滑り落ちてきた。なるほど)

男「ぷはっ! おい、手離せ! 下だけだが見つけたぞ!」

不良女「ご、ごめん……もう少しだけ体隠させて……」ギュ

男「ぐぬぅっ!? (当たった、とだけ説明しておこう。すぐに体を離されたが、確かに今、当たっていたのだ。生か……良かった……じゃなくて)」

男「と、取った。早くコレ着けろっ……俺がおかしくなるッ!!」

不良女「悪い……これで一つ。あとは上だけ……マジで恥ずかしくて死にそうだって……もう、どこだよぉ///」

男「待ってろ、すぐに探し出すから……とは言ってもここから離れられないんじゃ――――む?」

男(パサっと頭の上に何かが乗っかったのが分かる。手を伸ばそうとすると、不良女が俺の顔を見てギョッとしているではないか。ああ、まさか)

男「……流されたんで間違いないんだよな」

男(すぐに天辺へ鎮座したソレを彼女は引っ手繰ると、背後で身に着け始めた。なぜ? 一体どうなっている? なんて疑問はすぐに氷解される)

男「アイツか。良かったな、水着あっさり見つかって」

不良女「はぁ~~~……と、とりあえずサンキューな……あとごめん」

男「(何とか、というより、都合良くアンラッキースケベを突破した俺は再び単独行動へ。恩人へ感謝と謝罪の為に) ……よう、探したよ」

天使「……ふん」

男(彼女の隣へ壁に背を預けて並ぶが、とくに嫌がられもしなかった。ただ黙って不貞腐れ続けている)

男「どうしてスク水じゃないんだ? その恰好だと濡れちゃうだろ」

天使「もう泳がないからいいんです……自分はここでたのしそーな人間どもをあざ笑ってますから」

男「そいつは退屈な遊びだろうな。でも笑ってるというより、怒ってるように見えるのは気のせいかな?」

天使「怒ってませんもん! 男くんはどっか行きやがれですよ、自分の楽しみを邪魔すんなですー!」

男「さっきは水着見つけて持ってきてくれてありがとう、天使ちゃん。一言お礼言いたかったんだわ」

天使「……へっ、見つけたんじゃなくてワザと盗ったのを飽きたから返したって言ったらどう思うです?」

男「そうだったのか? だったら尚更良い思いできたから感謝しなきゃねぇ。ありがとう、天使ちゃ~ん」

天使「ばーか。男くんのうんちばーか!」

男「もし、ワザとだったとしてもちゃんと返してくれたんだから偉いと思うぞ (彼女が犯人でないことは確信している。不良女といる時も、俺は天使ちゃんの姿を視界にとらえ続けていたのだ)」

男(それがあの時、姿を消していた。故に天使ちゃんは偶然でも良い、見つけた水着を何も言わずに返してくれたのだと)

男「友達が困っている時は、どんな時でも助けてくれる。本当に良い友人持てて嬉しいぜ、俺は」

天使「……おともだちなら、もっと自分にかまってくれてもいいじゃないですかっ……ふぇ、う」ジワァ

4レス分しかないが眠気に勝てん、すまんが今日ここまで
明日は昼からだらだら書く予定かと

男(ワガママロリ娘め、心開いた途端一気に甘えん坊と化したか。……ふと思ったが、彼女、いくつだ?)

男「ごめんなぁ、天使ちゃん。俺も本当は天使ちゃんともっと遊んでやりたいんだよ?」

男「ちゃんと約束したのにな。自分の目的の為とはいえ、ほったらかしなんてズルいよな。謝って許してもらえるとは思えん」

天使「えぐっ……ひくっ……」

男「だからお詫びと言っちゃあなんだけどね、天使ちゃんがして欲しいこと何でも一つ叶えてやろうかなーと」

天使「そんなこと、言って! どーせ自分無視して、男くんは……でも、男くんが幸福にさっさとなってくれるなら自分は我慢した方がいいんですよね」

天使「自分……つい横道逸れて与えられたお仕事を忘れちゃってました……ど、どうしてこんな」

男「考えられる要因はたった一つだな。俺に夢中にでもなってるんじゃない?」

天使「わあああぁー!? 冗談でも言って悪いことがありますよぉー!!」

天使「うぅ……な、何で男くん如きに自分が……そんなわけ……な、ないでしょうが……」

男「どうして? 俺は天使ちゃんのこと好きだよ」

天使「好きならどーして放って置きやがったんです!? っ! ……ふぁ///」

男「ん、どうした? そんなに顔赤くしちゃってさ」

天使「一々白々しいんですよ、男くんは!! 何ですか何なんですか、男くん何なんですか!?///」

天使「マジで、どうしちゃったんですか……自分は……///」

男(本のちょっぴり揺さぶるだけで、彼女の俺へ対する気持ちが錯覚していく。天使ちゃんの孤独を埋める存在は俺のみという点が大きく作用させているのだ)

男(詐欺師と大差ないコントロール法だが、単純な相手には通用し易いと見た。いや、ある程度信頼を構築された後だからこそなのだろうか)

男(彼女自身へ恋心を意識させることこそが目的である。天使ちゃんはなぜ嫉妬じみた行動を自身が取っているのか、まだ自覚がない。それが良い。つけ入る隙を生んでいる)

男「(俺はただ、彼女へ理由を与えてやっただけ) まぁ、冗談はさておき。何して欲しい?」

天使「急にそう言われて困るのです……なんでも、ですか?」

男「ああ、何でもだよ。クラゲごっこにも付き合うし、泳ぎで競争しても良い。なんなら一緒にスライダー行くか?」

天使「……じゃ、じゃあ……そふとくりーむ」

天使「また男くんとソフトクリーム一緒に食べたいです。そうですっ、ソフトクリーム買ってください!」

男「昨日食べたばっかりだろうが? それで構わないなら、これ以上言わんが……でもどうして?」

天使「そりゃ美味しかったからですよ! あんなに甘くて美味しいもん今まで味わったことありませんもん!」

天使「たぶん一緒に食べたから……むうっ、とにかく! それが良いんです!///」

男「食べなくても問題ない体してたのに、今まで何食ったことあるっていうんだよ?」

天使「霞とか?」   男「仙人かよ」

男(ソフトクリームで機嫌を直せるなら安いものだが……いつのまにかスク水へ戻った天使ちゃんを肩に担げば、再び笑顔を取り戻せた。チョロかわすぎる)

男(すっかりご機嫌になった彼女へ気になっていた年齢を尋ねてみたのだが、どうも彼女ら天使は年齢の概念は無いに等しいらしい)

天使「気がついたら存在してて、動いてて。それが昨日のことにも感じられるし、ついさっきのようにも感じたことがありました」

天使「でも、一人ぼっちで過ごす時間は苦しくてとっても長く感じたのです。姿形もなく、ただただ男くんを見ているだけ」

男「モブに変身できるなら、同じクラスで日常を過ごす程度わけなかったんじゃ? あ、でも俺以外に姿見えないんだったか」

天使「ですよー。男くん以外の誰にも、たとえ姿を変えたところで見えることは絶対ないんです」

男「案外そうじゃなかったりするかもなぁ。ほら、オカルト研がよく悪霊とか言ってただろ? あれ、天使ちゃん指してるんじゃない?」

天使「まさかぁ、もし自分が見える人間がこの世界にいるとすれば、それは男くんや委員長ちゃんのような人間かー」

男「同僚か。見た目だけなら知り合い全員『天使』なんだが……実はここ天国なんじゃね?」

天使「はいっ! 男くんもソフトクリーム舐めやがれですっ!」

男(ぐい、とまたも差し出されたら舐めて応える。それを見て満足そうにニコニコさせる天使ちゃんが天使ちゃんすぎた。危うくイケナイものへ目覚めそうになる)

天使「この入れ物まで食べられるってとこも優れてますよ、こいつは! 冷たくなった舌にカリカリ食感が嬉しい!」

男「実は天使ちゃんに秘密にしてたけれどな、その食い物は牛の体液で作られているのだよ」

天使「……ま、またまた~!」

男「いや、マジでさ――――――ん?」

男(なにやら視線を感じる、それも多数の。天使ちゃんから目線をそちらへ向けると、置物に隠れて美少女たちが不審な眼差しを送っていたわけである)

転校生「みんな気にしてたけど、最近あんた独り言多いと思うわ」

男の娘「独り言というか一人で誰かと喋ってるように見えたたんだけど……前にも似たようなことあったような」

男(天使ちゃんと二人きりの時間は強制的に幕が閉じられる。して、俺たちは昼食の買いだしへ選抜された組なわけであるが)

男(ああいうところも都合良く流されると思いきや、彼女らはしっかり俺の奇行を指摘するのだ。転校生は『ヘンタイ』と呆れ、男の娘は)

男の娘「……男は心の病とか抱えてたりするんじゃないかな。こ、こう言うのは気が進まないけど」ヒソヒソ

男の娘「心配掛けるからとか、みんなに黙ってるのは良い。でも、やっぱり……病院に……で、でも僕と男だけの[ピーーーー]が」

男(申し訳ないが、既に秘密は明かしてしまった。これを、裏切り、と呼ぶべきか、仕方がないと済ますか……なんて、後ろめたさは微塵も感じない)

男「(騙しているのはお互い様である) そうだ、俺とお前だけの秘密でいい。男の娘よ」

男「自分のことは自分でどうにかするさ……でも、本当に危ないと思ったらお前を頼っていいか?」

男の娘「うぇ!? ぼ、僕が男から……わ、わかった。うんっ、僕 男のことちゃんと見てるから……」

男「見てるじゃないだろう? 一緒にいる時間が増えたんだ、傍にいてくれよ。って、あんまり意味は変わらんか! ハハハ!」

男の娘「男の[ピッ]、[ピーーーーーーー]に……///」

男「え? 何て言ったんだ? すまんが、まったく聞こえなかった」

転校生「はぁ……変態なのは分かってるけど、あんまり変なことしてると、黄色い救急車が迎えにきちゃうんだからねー?」

男「転校生、お前本当にイギリスにいたんだよな?」

天使「男くんはもっと周りの目を気にした方がいいかもですねぇ。このままだと変態不審者……ぷぷーっ!」

男「誰のお陰かよーく見つめ直して……いや、あそこの影に身の丈3m以上はある宇宙人が居たようなぁー……ね?」

転校生「ふーん……それで、お昼に何を買っていったら喜ぶかしら? 全然見たことない食べ物ばっかりあるんだけど」

男「迷った時は端から端まで頼めば良いもんよ。その場合の責任は取るつもりないがな!」

転校生「そうね、あんたに訊いた私がバカだった!! ……じゃあ男の娘くん、どれが良いと思う?」

男の娘「えっと、こういう所だと定食コースってお得なのがあってね」

男の娘「それ一つの注文でどうにかなるどころか、お店の人に『この子わかってる』って印象も付くし……良いかもよ」

転校生「てーしょく? わかったわ。やーっぱりどっかの変態より頼りになるわよねぇ 男の娘くんってー!」

男「……ああ、男の娘は俺より頼りになるな」

男(せめて、彼女の行く末を見届けようと止めはしない。そして、男の娘までも)

転校生「てーしょくコースを一つお願いするわっ!!」

男(きっと玄人ぶれるメニューと信じたのだろう。堂々と胸を張り、転校生はしたり顔を決めてみせた)

転校生「……フッ!」

天使「ドヤ顔でこっち振り向きましたよ、あの子!」  男「ああ! アイツめちゃくちゃ恥ずかしい奴だな!」

男(その後、店員に訊き返されるたびにバカの一つ覚えのように転校生はソレを繰り返す……消えるようにそそくさと、両手で顔を隠した彼女が戻ってきたのは言うまでもない)

転校生「っ~~~!!///」ボカボカ

男「怒りの矛先を向ける相手を間違ってませんかねー、転校生さぁーん」

転校生「ばかぁ!! ばかばかばかっ、あんたたちのせいで恥ずかしかったじゃない!? いやあああぁ~……///」

男の娘「ご、ごめんごめん。僕も本当に信じてくれると思ってなくて!」

男「……実際のところ?」  男の娘「……うん、何が?」

男の娘「とりあえず代わりに僕が買って来ちゃったから、これみんなに持って行こっか!」

転校生「だったら始めから私に行かせないでよぉー!! くぅ、恥ずかしくて死んじゃう…How could it be!? %#&♪*~~~~!!」

男(本格的に慰められるまで転校生は英語をブツブツと呟いていた。難聴スキル無しでも、あんなにしつこく訊き返したのはコレが初だろうか)

先生「お昼買いに行ったのよね? その子どうしたの?」

男「こいつ面白いこと言おうとして滑ったんですよ。さぁ、温かな視線を送ってやってください」

転校生「泣くっ!! もう泣くうっ!!」

男「そういじけるなよ、転校生。そんな事よりこっちしっかり見とけよ、面白い物を見せてやろう」

転校生「ふん! どうせまた私をバカに……何それ、食べ物? お菓子? ていうか何を上にかけてるの?」

男「たこ焼きって言ってな。コイツに今から魔法の粉をかけよう……ドジャ~ン、と」

転校生「えっ、ええっ!? 何これ何これ何これ~!? 何か上で踊ってるっ!! わぁあああ~……♪」

不良女「そっか、そういや転校生一応外国から来たんだもんなぁー。へへ、そのウネウネ実は生きてるんだぜ?」

転校生「生きてるの!? こ、これが日本のオドリグイね……残酷だけど、興味あるわ!!」

先生「というか、イギリス暮らしが長かったならタコなんて食べられるかな。向こうだと食べる習慣ないんでしょ?」

転校生「タコ! オクトパスっ!? ちがう、私の知ってるタコはこんな丸くないわよ! アレはもっと足がいっぱいで、グチャグチャ~ってしてるわ!」

先輩「見た目が違って当然ですヨ! だってそれは日本にしかいない特殊なタコだもん。陸に上がって砂浜を転がって生きてたのさ~!」

男の娘「雪だるま作るみたいに砂を体にくっ付けて大きくするんですよね。あの中からタコを取り出すのが苦労するって話も~……あっ」

転校生「それで!? それでそれで!?」

男(飛ばされてくる全ての冗談を一心に受け止め、瞳をキラキラ輝かせる転校生。その様子があまりにも可愛らしく、俺を含めた全員が法螺を吹き続けた)

天使「マジ話なんですか、男くん!? またタコですか!?」

天使「もうっ、タコって一体何なんですか!?」    男「タコだよ」

生徒会長「……お前たち、あまり転校生をからかうなよ。見ていて可哀想になるだろう」

男「生徒会長、遊び心ですよ。生徒会長もどうですか? 一つ、アイツを面白がせてみては」

生徒会長「むぅ……じゃあ、転校生。このホットドッグだがな……調理に犬が使用されているらしいぞ?」

転校生「……うん?」クイ

生徒会長「おおお、お前たち食べ物で遊ぶなッ!! 食べろッ!!///」

話進まんがここまで

男の娘「はぁ、ずっと冷たい水に浸かってたからお湯が体に染みるよぉ……男?」

男「違う……俺が望んでいた混浴と何か違う……」

天使「スケベな男くんのことだから、裸同士でとか考えてやがったんでしょーね。簡単に想像つきますよ?」

男「当たり前だろうが……ここは混浴OKなんだろう? だが、水着で風呂に入るか普通? 断じてありえんよ」

男(そう、混浴。プールで遊び疲れた俺たちは不良女の提案からここへやって来たわけだ)

男(『混浴』……単語一つで高まる甘美な響き。身に着けた全てをパージし、文字通り裸のお付き合いを楽しめるものである。誰だってそう思う、俺とて)

男「ここは温泉じゃない!! そうだろう!!」

生徒会長「いや、温泉で間違いないよ。露天とか、本格的な作りではないが使用されているお湯はそうさ」

先生「でも、水着着けたままで温泉っていうのも味気ないというか……雰囲気じゃないというか、ねぇ」

男「ああ、分かってるじゃないですか、先生。そうです! こんなの温水プールだ! どこが混浴か!」

先輩「やぁーん 男くんのエッチー。さすがに水着じゃなきゃ恥ずかしくて一緒に入れないよ~……まぁ、別に[ピーーーーーー]」

転校生「まったく、あんたってどうしてそこまでバカなのよ? こんな形でなきゃ喜んで変態とお風呂に入るわけないでしょ」

男「どいつもこいつも、だ……な、なぁ? ホテルの方にある温泉に混浴は」

男の娘「なかったと思うけど。えへへ、だから夜の温泉は僕と男の二人きりだねぇ……[ピーーーーー]……///」

男「何だっ……何でもない。気にしないで (神よ、おぉ、神よ、もし男の娘ルートへ進めば俺は変わってしまうのでしょうか)」

天使「ところで男くん、例の作戦とやらはどうするんですか。本当に今日でこの子たちまるっとゲットできるんですか?」

天使「お昼は遊んでばっかり、おまけにスケベな事考えてて……実はどうでも良くなってるんじゃねーですかぁ」

男「……どうでもいい? 俺がいつハーレムの夢を諦めたっていうんだ。いつも頭の中はそれでギッシリなんだが」

男(それだけを答え、膝の上に乗せた天使ちゃんの頭へ顎を乗せる。重いウザいと罵られるも暴れることなく、されるがままであった)

男(間違いなく天使ちゃんは俺へ好意を持ち始めている。先ほどの小イベント達成により、友情は恋愛感情へ変化されつつあるのだろう)

男(天使ちゃんルートが存在するのなら、ここから一直線でゴールへ持って行くのはおそらく容易い。掌握した、彼女を。未知の存在であった天使をブサ男の俺が補正無しで攻略しつつある)

男(同時に俺自身も天使ちゃんへ心奪われつつあった。この俺と彼女だけの世界が原因かと思う。少なくとも彼女と接している間、割り込まれることは少なかったのだ)

男(ロリ美少女は可愛い、だが恋愛対象として見れる気はしない。それなのに、天使ちゃんを知れば知るほど、泥沼に片足を突っ込んでしまったように、ズブズブと浸かっていく)

男(心地の良さと共にこの状況を危惧した。神の策略へ嵌まっていっているようだと……世界(神)へ対抗する為の天使ちゃん。彼女は神が仕掛けた罠ではないかと)

男(俺はこれからも彼女へ構い、好感度を稼ぐ必要がある。あの契約を結ばせてもらえる、神を裏切り、俺の味方として役立たせなければ。……しかし、アタックすればするほど、落ちていく感覚がついて回って仕方がない)

男(故に思う。この調子でいれば、俺は天使ちゃんルートへかならず突き進んでしまうだろうと。彼女とより深く共にできるならば、それも幸福ではないか?)

天使「男くん、好きってどんな気持ちなんでしょうか」

男「えっ?」

天使「だ、だからぁ……好き、って……///」

天使「あぁ~! もういいですよぉっ! 今のなしですっ!///」

男「どうして天使ちゃんはさっきあんな面白い質問をしたのかな?」

天使「はぁ!? 無しだって取り消しましたよ。聞かなかったことにしやがれです!!」

男「俺は恋愛大先生じゃないけれど、経験なら豊富だ。そんな俺が一つ『好き』についての考察を述べよう」

天使「だから!」

男「これは俺の独り言さ。耳を傾ける必要もないし、気に食わないなら向こうで終わるまで待っていたらいい」

男(天使ちゃんは離れるつもりは毛頭無い、分かっている。顔をむっとさせながらも、俺の独り言に興味有りらしい)

男「『好き』という言葉には様々な捉え方がある。それは、例えば、お気に入りの本やテレビ番組とか……気に入る、というもの」

男「あるいは心引かれてしまうこと。前者後者の意味合いに大きな違いはほとんど無いのだろう」

男「では、『誰かを好きになる』という問題で『好き』を見てみましょう。OK?」

天使「……独り言に了解が欲しいんですか」

男「この場合による『好き』という感情は恋愛か? 友情か? これらを分ける要因とは?」

男「切なさの有無ではないだろうか (言うが早いか、天使ちゃんが小馬鹿にしたように鼻で笑う)」

男「人は物と違ってこれが欲しいからと金では買えない。つまり、手に入れるには自分をそいつへアピール……売らなきゃいけないわけだ」

男「『売り』の形は人によって異なりはするが、家族でもない相手へ自分を簡単に晒すことは難しいな。所詮は他人、隔たりはかならず存在する」

男「その壁を乗り越えるにはどうしたらいいのか? 自分の興味の相手をもっとよく知るには? ……考えると頭がもやもやして、胸が段々おもたーくなってくる」

男「そんな時、第三者が気になる相手と親しそうにしている場面と遭遇した。自分はやきもきしているというに、いとも簡単にそいつは近づけたわけだ。どう思う?」

天使「えぇー」

男「天使ちゃんがずーっと欲しかった玩具を誰かが目の前で買って持っていってしまう。さぁ、玩具は最後の一個だぞ」

天使「そりゃあ悔しいし、ムカつきます! だっていつか自分が買えるかもだし、先に目をつけたのは自分ですもん!」

天使「でも、羨ましいと思っちゃったりもするかもしれねーです」

天使「今の自分に手が届かないソレを、楽々持って行かれちゃうんでしょう? 自分がその子なら良かったのにって」

男「ああ、ネガティブな感情が生まれるわけだな。……じゃあどうしてそんな風に考えてしまう自分がいるのだろう?」

天使「すっごくその玩具が欲しいからです! 欲しくて、欲しくて、堪らないからに決まってますよ!」

男「そうだな。財布の中は空に近いのに。それじゃあ今度は玩具を手に入れるために自分は何をするかな?」

天使「買えるぐらいまでお金を溜めるです! 手段は……構わねーですね! 急がないと他の誰かに取られちまうですよ!」

男「そのお金を溜めている期間は苦しく思えないか? 目当ての玩具が知らぬ間に取られているかもしれないんだ。気が気でない筈だよ」

天使「もちろんですとも!!」

男「これが『好き』あるいは『恋』だと思うわけよ、先生はな」

天使「……ほへ?」

男「もちろん、これが正しいとは言わない。溜める期間を楽しいと感じる奴もいるだろう。恋に恋すると言ったもんかねぇ」

天使「ようするに『好き』っていうのは、苦しい人もいれば楽しいって人もいるワケですねぇ。ふむふむ」

天使「……取られる。誰かに、自分の欲しい玩具が」

男「天使ちゃんには少し難しいお話でしたかなぁー?」

天使「むっ! はいはいっ! 男くん先生、質問ですよ!」

男(独り言はいつのまにか授業へ変わる。これは恋愛心理学と称しておこうか。すねていた生徒は勢い良く挙手して、食らいついた)

天使「人は……というより、何で『恋愛』をするんですかー!」

男「ここまで来ると哲学の枠へ突っ込んでいきそうねぇ……よかろう、これも先生の見解だ」

男「俺たちは、人間は恋愛感情を抱く。人間ばかりではないかもしれない。犬や、猫もひょっとしたら」

男「なぜ彼らは『恋愛』をするのか? 決まっている、子孫繁栄のためだろう。子どもを作るには男女でナニする必要があるのだから、そのパートナー探しよ」

天使「ナニ?」

男「ゴホンッ!! ……どうして人は、花やネズミのように見境無しに子を成そう人としないのだろう」

男「考えられる、いや、理性を持っているため野性の本能を抑えられるわけだ。これが無くなれば山猿と同じだよな」

男「理性が働くからこそ、人は自分たちが最適と感じる数で人口を留める。……ここまでは単なる理屈の話です」

天使「先生! 頭が痛いです!」

男「うむ、だろうと思った。どうして人は人へ『恋愛』という感情を持つのか? 今度は堅苦しい理屈なしだ」

男「人は『恋』をするために生まれて来た!」

天使「……はぁ?」

男「良いんだよ、頭で考えることない問題さ。歩いたり、立ったり、座ったり、そんな当たり前な動作同様に恋をすると思えばいい」

男「いわば元々備わっていた本能が変化したんだろう。恋だ、何だ、ブサ男女には鬱陶しい話題だし、話しているそいつに殺意が沸く時もあろう」

男「それは自分がそこへ辿り着けていない、程遠い存在だからかもしれんなぁ……できて当たり前ができない奴らにとって、できる奴らは妬ましく思えてしまう」

男「そんな俺たち惨めなモテない人間は、早くそいつに追い付きたい! 赤子がハイハイを覚えるように! 当たり前が自分に欲しい!」

男「って……そう思うだけで何から始めていいのか分からない。その方法は教わるものか? 否、自分自身で見つけなければならん」

天使「それも赤ちゃんのハイハイのように、ですか男くん先生!」

男「ああ……だけどその勇気がいつまで経っても沸いてこないわけよ……ハハ」

天使「ていうか、話が脱線してると思いますよ! 男くん先生!」

男(我ながら一人で熱く語ってしまったが、最後は燃え尽きた花火のように寂しく散った)

男(神にキッカケを与えて貰わなければ俺は今までの俺のままだったに違いない。よく自分を分かっているじゃないか、俺って)

男「いや! 俺はもう変わった、あの頃自分は死んだ! 今の俺ならば『恋愛』にも向き合える! 人にも!」

男「……なんだか興が冷めたから授業はこれで終了。学んだことは復習しておくように」

天使「……」

男「またみんなに怪しまれても困るしな、そろそろ合流して会話に参加してこないと……ん?」

男(温泉、ではない、ただの温水プールから上がるが天使ちゃんが後ろを着いてこようとしない。それどころか、まだ湯へ浸かってボーッとしていた)

天使「人が恋するために生まれたなら、自分は何のために生まれたんでしょーか……」

男(声をかけるのを思わず躊躇してしまう一言がポツリと飛び出す。いつにもなくシリアスな雰囲気を放つ彼女の背中は、とても小さかったかもしれない)

男「生まれた時から神の下で働くだけの存在だった……としか想像できない」

男「あの子の存在は俺たちとは全く異質すぎる。常識なんて当て嵌まりそうにないぐらい。そんなの、神にしか分からない」

男(だから、聞こえなかった事にするしかなかった。良かれと思い、冗談半分の話が彼女へ自分の存在意義を意識させてしまう)

男「(ナイーブな問題だ。悪戯に踏み入れるものか) おーい! いつまで入ってるつもりだ、向こう戻ろう?」

天使「は、はい。すぐ行ってやりますから、そこで待ってろです」

男「了解っす……天使ちゃん、今日風呂からあがったら一緒にコーヒー牛乳飲もうぜ」

男「上手い飲み方、教えてやるからな」

天使「何ですか!? また超美味いものですか!? きゃー、自分の舌をこれ以上肥えさせてどうするんですかぁ~!!」

男「また嬉しそうに言ってくれちゃって」

男(ひとまず食べ物で釣って余計なイベントの発生を防ぐことはできた。そう、天使ちゃんルートへ大きく関わりかねない特別なイベントを)

男(ある意味での危機察知能力はここにて向上しているのだろうか、俺)

先輩「男くん!! 一緒にいれない間もわたしのことちゃんと覚えててね!! 忘れちゃやだよぉ!!」

男「あとでそっちの部屋に男の娘と遊びに行くんで、またその時まで」

先輩「いやぁー!! わたしたちを割くこの壁が憎いっ、ぶっ壊してやろうかぁ!?」

生徒会長「止さないか!? やれやれ……たかが部屋が別れる程度のことだろうに大袈裟な」

男の娘「さすがに僕たちと同室というのは落ち着かないだろうし、仕方ないですよー」

先輩「平気っすよ? 同じ布団で一緒に寝ちゃう? 添い寝しちゃう? しちゃいましょう、ねっ!!」

先生「ね? こういうのがいるから私が同伴してるってわけよ」

男「しかも自腹で」   先生「そう、じばっ……チッ」

男(刺さる視線をかわし、すっかり乾いた髪を指で遊ばせている転校生の隣へ立つと、俺を見て彼女は頬を染めだした。まだ何もしちゃいないが)

転校生「……何?///」

男「いや、こっちこそ『何?』なんだが。髪がどうかしたのか? さっきから気にしたりして」

男「……カラスにフンでも落とされた?」

転校生「どうしてそうなるのよ!? ずっと室内にいたじゃない! そうじゃなくって」

男「じゃあどうしたんだよ? (俺に今日髪型のことを言われ、気にしているとでも? コイツは髪を結ってる方が好みかなって?)」

転校生「別にっ。……髪型変えたら、誉めてくれるかな」

天使「男くんタタミですよ、タタミ! これがワビサビですね! 男くんの部屋よりキレイです!」

男「時々転校生みたいな反応するよな、お前って。ていうか、最後の一言は余計――」

男の娘「男? い、いま誰と話してたの?」

男「……みんなには内緒にしてたけどな、男の娘よ。実は俺には並々ならぬ霊感が有るのだよ」

男「そんな俺がお答えしよう!! この部屋は……出る! いや、もう出ている!」

男の娘「うわあああぁぁぁ~~~!?」ガシッ

男(ただならぬ様子で脅してやれば、なぜか俺へ向かって、しまいに抱きつく男の娘。幽霊呼ばわりされた天使ちゃんは座布団を投げて抗議した)

男「見ろ、怒り狂った悪霊が暴れてらっしゃる! でも俺がいれば何も怖くないさ。たとえ悪霊だろうが、宇宙人だろうが、俺がお前を全てから守ってやる……」

男の娘「お、お、男ぉ~~~……///」

天使「自分を舞台装置か何かと勘違いしてねーですかっ!!」

男(男の娘の抱き心地は確かであった。そこで大暴れな悪霊へ感謝して、そろそろ動くとしよう。が、家政婦は見ていた)

不良女「……お前ら二人で何やってんの」

男の娘「ふ、不良女さん!? いつ中に入ってきたの!?」

不良女「あー……だいじょうぶ。あたしもう部屋戻るから……続けてて」

男「バカ、誤解だっ! これは」

男(思い留まり、咄嗟にその先の言葉を呑みこんだ。たとえ言い訳だろうと、男の娘へ変に意識させてしまうためである)

男「これは……相撲だよ。なぁ、男の娘?」

男の娘「えっ!? あぁ……うん、相撲」

不良女「へぇ、あたしに見えない土俵がそこにあるって?」

男「久しぶりの畳に心躍っちゃってね。やっぱり日本人といったら畳! そして相撲だろう!」

男「大和魂が燃えたんだよ。とりあえずお前も四股だけ踏んでおくか?」

不良女「あ、呆れて何もツッコむ気しねぇ……」

男(苦し紛れの言い訳でこの場は収まっていく。引き気味の不良女も調子を取り戻し、俺たちへ話だと言って寄越す)

男の娘「もう温泉に入ってくるの? さっきプールから上がったばっかりなのに」

不良女「だからだよ。飯前にひと風呂入っといた方がいいでしょ? まぁ、ウチらの先生が行きたくて仕方ないからなんだけど」

不良女「てなわけで、あたしら留守にするけどお前らどうするかって訊きに来てやったわけ」

男「夕飯はそっちの部屋に俺たちの分も用意されるんだろう? それまでここでボーッとしてるの退屈だしな」

男の娘「うん、じゃあ僕たちも温泉入ってこよっか! 男!」

不良女「ああ……それと何人かから伝言」

不良女「覗くなよ?」  男「そいつは俺一人に向けての言葉なのか」

男「……当旅館の温泉は時間帯によって男女の入れ替えがございます。ご了承ください」

男の娘「へぇ、だったらしっかりその時間見ておかないとね。はは、うっかり間違えて入る人っていたりするのかなぁ?」

男「いるんじゃないの」

男の娘「まさかぁー……って待ってよ男~! 置いてかないでよ~!」

男(混浴は叶わなかった。しかし、希望は断たれちゃあいなかったわけである)

天使「男くんここお風呂なんですか? どうして服脱いじゃったりしてるんですか? ねぇ!?」

男「天使ちゃんは向こうの女湯に行ったらどうだ。さすがにここからは一緒ってわけにもいかんだろ」

男「俺としては……天使ちゃんと一分一秒も離れたくないが……仕方ないっ、そうだろう!?」

天使「言いながら鼻の下伸ばしてるが滅茶苦茶いただけねぇーですよ……っ!」

男(言われた通り、天使ちゃんは壁をすり抜けて素直に女湯へ行ったようである。幽霊は間違ってないのではないか?)

男(さて、こうなるとここには男の娘と俺のみ。他の客は、なぜか、見当たらない。ということは、今からこの温泉は対男の娘戦のフィールドと化したわけだ)

男「じゃあ行きましょうか、男の娘きゅん (決着をつけに)」

男の娘「あの……体洗わないで、いきなり何してる? 男」

男「決まってるだろ!! どこかに覗き穴が開いてないかなって……ダメ?」

男の娘「覗き禁止! [ピーーーーーーーー]!」

男の娘「色々あったけど、今日は楽しかったよ、男。本当に僕のこと誘ってくれてありがとう」

男「あらたまって言うことねーよ。俺たちもお前が加わって嬉しいんだ、気にするなって」

男(横へ並んで頭をわしゃわしゃ泡塗れにさせる俺たち。幼馴染のように背中を流してくれるわけでもないが、ドキドキ加減は彼に対しても同じだった)

男(あの男の娘が一糸まとわぬ姿ですぐそこにいる。嫌でも意識してしまうし、首が勝手に彼へ向こうと頑張っている)

男の娘「[ピーーーーーー]、[ピーーーーーーーーー]……」

男「ん? 何か言ったか?」

男の娘「ううん、何でもない。僕もう大体洗い終えちゃったから先にお湯に浸かってるね」

男「……そんなこと言って本当は俺と一緒で覗き穴探すつもりだろぉ~?」

男の娘「ちちちっ違うよおぉ!! 僕は男に比べて変態じゃないもん! フツーだもん!」

男「いやいや、男同士に秘密なんて必要ないさ。お前も見てみたいよな? ウチの女子部員はみんなレベル高いしなぁー!」

男「ここはありのまま欲望を解放すべきだっての。お前も野郎なら興味あるだろ? ん?」

男の娘「……本当に僕は[ピーーーーーー]。[ピーーー]しか[ピーーーーーーー]よ」

男(聴き取れない台詞に彼へ振り向けば、一人で露天風呂へ入って行った。探りとまで呼べる話ではなかったが、これで男の娘の興味は変わらず俺のみだと知る)

男(探り、そして同時に牽制を男の娘にとって意味するだろう)

男「結構大きな声をあげさても女湯から反応はなかった。聞こえれば先輩さんあたりがすぐに反応するだろうしな……」

男「まだみんな入って来ていないのか、それとも外にあるくせに、あり得ないが都合良く防音性バッチリか」

男(どちらでも構わない。モブの登場も無さそうだし、下手な心配は無用だろう)

男(聞かれて困る話を始める準備は整っている。美少女たちにバレては実に困るからな、この後も)

男「で、どこにもそれらしい穴は壁にないと。ちょいとばかし期待していたんだが」

男の娘「まだ探してるの? 男も本っ当に懲りないよ。転校生さんにあとで言い付けちゃうからね!」

男「分かった! わかったってば! ……覗けなくても問題はなさそうだけどな、覗かなくても」

男(男の娘の隣へ腰を下ろす。そうだ、こういうのを温泉って言って良いのである。プールですっかり冷えた体が一気に温まる)

男「なぁ、せっかく他に客もいないし、泳いでも」

男の娘「さっきいっぱい泳いだはずだよ? まだ泳ぎ足りないの?」

男「俺たち以外誰もいない温泉。独占してるようなもんだ、開放的にもなる。ね?」

男の娘「温泉はゆったりするところなんです! もぉー、男って結構子どもっぽいとこあるよね」

男「そりゃあ永遠の17歳だからな。童心はいつまでも残ったままってもんよ」

男の娘「永遠って……今が17歳じゃないの、男は……」

男の娘「……ねぇ、男。男にちょっと確認したいことがあるんだけど、訊いていいかな」

男「奇遇だなぁ、男の娘きゅん。実は俺も同じことを考えていたんですヨ」

男(二人の間に唐突な沈黙が生まれる。これを先に切ったのは)

男の娘「もしかしたら、どっちも同じことを思ってるかもしれないね」

男「そうだとしたら何か問題でもあるか? 同じことって?」

男「決まってるよな、俺たちにとって大切な共通する話はたった一つしかない。その真剣そうな顔だ、そうなんだろう」

男の娘「うっ……[ピーーー]」

男「言いづらくなったのなら、俺が先に喋ろうじゃないか、男の娘」

男「俺たちは本当に恋人の付き合いをしているのか?」

男「コイツに重ねて俺からの質問を。俺たちは、そもそも付き合っているのか?」

男の娘「……ごめんなさい」

男の娘「ごめんなさい男ぉっ!! ごめん、ごめんねぇ!! 謝ってもあやまりきれない、許してなんて言えない!!」

男の娘「ごめん……なさいっ……!」

男(今まで堪えていたであろう線がぶち切れた、いやついに切った。男の娘は隠そうともせずにいっぱいの涙をポタポタと湯へ落とす)

男(顔をくしゃくしゃにして嗚咽をあげる哀れな彼を黙って眺めるのみな俺。落ち着くまで一旦触れずにいるべきである。冷静になれるまで)

男(しばらくして比較的落ち着きを取り戻した彼は、俺が睨んだ通りのワケをぽつぽつと語り始める。「自分は男の弱味につけ込んだ」、「チャンスだと思った」)

男の娘「[ピーーー]だったから、自分を抑えられなくて……男に[ピーーーーー]ほしかったんだ」

男(俺は先ほど天使ちゃんへしてやった授業を思い出す。彼は苦しくて、もどかしくて、我慢ならなかったのだろう)

男(自分が愛した人はいつも美少女と仲睦まじそうにしている。永遠に手が届かないのではと不安を覚えた)

男(彼が知っているかは分からないが、俺は後輩と一度恋人の関係にあった。知らなくとも、何か彼女から感じるものがあったのではないか?)

男(心ばかりが焦る。自分からアクションを上手く起こせずにいた。そんなある日、大きなチャンスが転がり込んできてしまった)

男(これはけして手を出すべきではないもの。だが、その時の彼にはそれを判断する余裕すら無かったのである)

男(彼は、男の娘は後先も考えずに掴んでしまった。……結果、偽りの形で自分を相手に結びつけることに成功)

男(だが、自分はあの頃の自分のまま何も変わっていない。劇的に変化するはずの日常は、以前となんら変わりなんてなかった。そして)

男(内に秘めた不安も『罪悪感』が加わったことで更に苛まれてしまう。悪魔の囁きは所詮 悪魔の囁き。願った幸せは、正反対の不幸で跳ね返ってきただけ)

男の娘「……惨めだよね、僕。こうなれば男が勝手に僕の[ピーーーーーーー]だ」

男の娘「これはきっと裏切りの報いなんだと思う。すごく苦しかった……いつまで騙してたらいいんだろうって」

男の娘「おかしいけど、今全部話せたお陰で、僕さ……悲しいのにとてもすっきりしてるよぉ……」

男「言われる前に告白してくれたお前は立派だと思うよ、俺は」

男の娘「男は、たぶんずっと前から気づいてたんだよね? 気づいてて何も言おうとしなかったんだ。本当に人が良いよ」

男の娘「……ね? 僕のことどう思ってたか分からないけど、もう幻滅したでしょ」

男「え? 何だって?」

男の娘「だから僕のこと幻滅したでしょ! 僕は最低だって思ったでしょ!?」

男「何だってー?」

男の娘「僕は最低でどうしようもないバカだよ! もう男に向ける顔なんてない!」

男「何ですかぁーーー?」

男の娘「……男」

男「うむ、どうかしたかね? 男の娘よ?」

男の娘「お願いっ、はっきりそうだと言って!! そうじゃないと僕は、僕は」

男の娘「……男のことを、いつまで経っても……[ピーー]められなくなっちゃうよ」

男「何言ってんだかさっぱり聞こえねーなぁ。どうもお湯が耳の中に入ったらしい」

男「もしかして俺が怒ってるように見えるか? 俺はどうすればいい?」

男の娘「み、見えない……だから僕は!」

男「じゃあ、そういうことなんじゃないの。男の娘」

男の娘「……ああ、どうりでモテるわけだよ。あはは」

男「男の娘、俺はお前を傍に置いておきたかったから愛好会に誘ったんだ。だからな、お前が引け目を感じていようが、いなかろうが」

男「ここにいろよな」   男の娘「……うん」

男(下手な慰めなんて必要ない。ただ「傍にいろ」と答えただけ。彼は俺によく似ている、外がじゃない、中の話である)

男(自分の扱い方は自分が一番心得ているつもりだ。だから、都合が悪い話は笑い飛ばしてやれ)

男「……胸が大きい順から並べるとしよう。おそらく先生が始めに来るよな? その後が困る」

男「先輩と生徒会長、どちらが上か? 俺は先輩じゃないかと思っているんだが」

男の娘「せ、生徒会長さん、だと僕は……///」

男「意見が二つに分かれたんじゃどうしようもねーな。どうにか本人たちから訊き出せんものか……」

男の娘「や、やめなよぉ!? そんな事訊いたら怒られるってばー!」

男「先輩さん辺りなら喜んで……いや、どうだろうな……じゃあ二人を除いて次」

男・男の娘「転校生(さん)……ブービー不良女(さん)!」

男(見事不名誉を与えられた彼女には悪いが、揃って意見が合致した俺たちは大いに笑わせてもらった)

男(暗い顔してただ話へ相槌をつくだけの男の娘はどこへ行った? もうどこかへ飛ばしたさ)

男「はははは……あれ、どうした急に? 次はお尻の大きさか?」

男の娘「男、もう一度ちゃんとあやまるよ。ごめんなさい」

男の娘「そしてもう一つあやまらなきゃいけない事がある……ごめんね」

男の娘「あんな酷い事したあとだけど、僕はまだ男が[ピーー]だよ……そんな資格なんてもう無いのに、[ピーーー]。[ピーーー]」

男の娘「……気持ち悪いよね。でも、気持ちだけは言っておきたかったの」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーー]」

男「知ってたよ。お前が俺をどう思ってたかなんてさ」

男の娘「っ!!///」

男「知らなかったのか? 俺は人の心を簡単に読むことができる特殊能力者だ」

男「だから、誰これが俺をどう見ているのかなんてすぐに分かっちゃうわけよ」

男の娘「冗談?」   

男「冗談だよ?」

男の娘「も、もう! 僕はいま本気で言ったんだよ! からかわないで!」

男「……その本気の言葉に対する俺からの答えはさっき話したと思うけれど?」

男の娘「さっき!? さっきって…………はっ///」

男「ま……まぁ、それも冗談だけどねぇ!? さーてそろそろ上がろうか? 部屋に戻ったらすぐに飯だ! 懐石料理だ!」

男「ん? どうした、まだ出ないのか? なに拗ねてるんだよ?」

男の娘「[ピーー]の……ばかぁ……」

男の娘「っ~~~……///」プイッ

今回も遅くなった。寛大な心で許していただきたい
それからPC環境変わったんで前以上に誤字脱字酷くなるかもしれん

ほんと見直してみるとボロボロ変なの見つかって困る。終わらたら手直し入れてぇぐらい

なんか今日の俺のID良さげ。続きは明日かと

誤字発言に誤字をぶっ込んでくる辺りもナイスだおかいん

>>362
俺「恥ずかしいよぉ・・・///」

というか生存報告だけしてくれればいいぞ
いついつまでに更新する、とかだと>>1のプレッシャーになるだろうし

先輩「わたし思うんだけどね」

不良女「突然何? ……人の皿から飯横取りしながらさ」

先輩「仮にもラーメン愛好会合宿を謳っておいてラーメンらしきもの一口も口にしないってどうなのかなぁーと」

男の娘「あぁ、もう部名変えてみたらどうかな」

男(温泉から戻った俺たちを迎える懐石料理に舌鼓を打ちながら、各々話に花を咲かせ、今日を振り返る)

男(先生はお猪口を片手に浴衣をはだけさせ、先ほどから興奮気味の転校生へデタラメを語っていた。俺といえば)

天使「だはぁ~……!」ダバダバ

男「食い物に目がない天使は、さながら生臭坊主だな (俺が料理を口元へ運ぶたび、動作を目で追って口元から涎を垂らす彼女を笑っていた)」

生徒会長「しかしまぁ、たまには羽目を外すというのも良いものだな。私としたことが今日はよく遊んだよ」

男「……でしょうな」

男の娘「さっきからあんまり箸が進んでないみたいだけど、男は和食苦手なの?」

男「あー、そういうワケじゃないんだ。ただ」

男の娘「ただ?」

不良女「けっ、あの子の手料理がもう恋しくなっちまったって? いいよなぁ、コイツは。毎日なんでしょ?」

男(……俺が一口何かを食べるたび、鬱陶しいほど幼馴染が「美味しい?」と笑顔で訊いてくる。そんなシチュエーションが当たり前すぎて、物足りなく感じてしまう)

先生「あら、高校生のうちから新婚生活気分味わえて羨ましいねぇ。先生も家に帰ったら誰かご飯作って待っててくれないかしら」

先生「ねぇ……男くん、私のために毎日味噌汁作ってぇ~ん? いひひっ」

男「インスタントので構わなければ、お湯だけ沸かしていきますよ。お湯だけ」

先生「えーっ! そんな安っぽいのじゃやだぁー! 作ってよぉー?」

生徒会長「……先生。休日で浮かれる気持ちは理解できますが、少々度が過ぎているのでは?」

男(俺の肩へ頭を乗せ猫なで声で甘え始めた彼女へ生徒会長がギロリと一睨み。どちらかといえば、俺の方が肝を冷やさせられた)

先輩「先生ちゃんばっかズルいよ! わたしだって男くんとくっつきたいんですけど!」

先生「ダメですぅー……うひひっ、今だけ私専用なんだもーん……ねっ?」

男「いや、ねっ、って言われましてもねー……うひひっ!」

転校生「変態」

男「なぜ? 俺がいま何かしたか? してる?」

転校生「知らないっ! それよりこの服まだ着慣れないわねぇ。ちょっとだけ落ち着かないかも」

男(転校生は苦笑いを浮かべて袖余りをヒラヒラさせている。うむ、やはり美少女。髪の色こそ浮いてはいるが、浴衣姿もバッチリである)

男(……しかしこの教師大丈夫か。この後も酔いを引き摺るは良いとして、早々潰れて布団へ入られたら面倒になるぞ)

男「先生、あとでまた温泉に行ったりしないんですか? あんまり飲むと入れるの危ないですよ」

不良女「そうだぞ。さっきあとでまた一緒に入るって言ったばっかじゃねーかよ?」

先生「ん~……んぅ~……じゃあこれで一旦止めとくぅ。お風呂入りたーい! きゃは!」

生徒会長「何の為の顧問付き添いかと言った感じだな……どうした転校生?」

転校生「あっ、次に温泉行ったときは猿がいるかなって!」

男「お前はここを動物園か何かと勘違いしてないか」

転校生「だ、だって! 日本の温泉には猿が一緒に入りに来てくれるってママが言ってたんだもん!」

先輩「さっき転校生ちゃんずーっとそれ気にしてたんだよ。そうじゃなくても、はしゃぎっぱなしでさぁー!」

生徒会長「どの口がそれを。「バタフライできるよぉー!」と高々宣言して飛び込みかけた奴が言えた台詞ではないな」

男の娘「お、男以上だ……ていうか、今の真似すごい似てましたねぇ」

生徒会長「うっ……な、長年この子の幼馴染を務めていたんだ! そ、それぐらい……別に///」

不良女「そういや二人は元々仲悪いって有名だったけどさ、ぶっちゃけそうでもなかったよな。仲直りした?」

生徒会長「……ああ、そういうわけではないが、少しね。[ピーーーーーー]」

男(二人の仲が良くなかった? 照れ臭そうに頬を掻いて、生徒会長がこちらをチラリ。まさか俺が彼女たちの橋渡しを? そう意味が取れる反応が見られる)

先輩「男くんが頑張ってくれなかったら、今こうしてみんなで一緒にいたなんてありえなかったねぇ。うんうん! ……だから[ピーーーーー]」

男「……あ、え? 何て言いました? (自分でやったことを何一つ記憶していない。感謝が素直に受け取れない、というよりも少しだけ寂しく思えた一瞬であった)」

男(俺だって美少女たちとの思い出を一つ一つ共有していたい。ただ彼女たちが欲しいだけではない)

男(何でもないが、価値ある日常も欲しい。結果ばかりじゃなく、そこへ至った過程も丸ごと全て。贅沢だろうか?)

男(記憶がリセットされてしまうなんて面倒としか思っていなかった。ここへ来て微かでもショックを受けた自分が意外だ)

天使「男くん少ししんみり気味じゃありませんか?」

男「そう見えるか? 俺だって大人しくなりたい時もある……なぁ、天使ちゃん」

男「みんなの記憶の中にある『男と過ごした日々』には、今の俺はいないんだろうな」

天使「はぁ? ああ、そういうことですか。でも本当にそう思いますぅ?」

天使「今の男くんも前の男くんも全部同じ男くんじゃないですか? 体験した覚えがなくても、そうである事に違いないですとも!」

男「覚えがないんじゃあ、そいつは別の誰かと変わらないさ。たとえ自分だろうとな」

男「こんなセンチになれる俺がいたとは……本当に変わったな、あの頃の自分から」

天使「自分はいまの男くんの方が好きですよ」

男「は?」

天使「あっ……かかか、勘違いしねぇーで欲しいですよ!? 別に変な意味で言ったわけじゃないんですからね!?」

天使「えーと、えーっと! そのっ! あー!///」

男(止してくれよ、天使ちゃん。こんな哀れぶった俺に優しい言葉をかけないでくれ……踏み止まっていた線を越えたくなってしまうだろうが)

男「しんまり終了! さて、ここからは欲望に忠実な男くんだぜ!」

天使「もうちょい珍しい男くん見てたかったのに残念。そろそろ例のコイバナ作戦ですか?」

男「いいや、それにはまだ時間に余裕がありすぎる! 暇つぶしと洒落込もうじゃないか、天使ちゃん」

男「主に俺の、いや、俺だけの」  天使「自分だって退屈なんですよ!」

男の娘「男ぉー? あ、やっぱり部屋に戻ってた。急にいなくなってたから驚いちゃったよ」

男「結構腹いっぱいになって横になりたく思ってな、悪いわるい。向こうはまだお喋りに夢中か?」

男の娘「ううん、先生も調子取り戻してきたし、そろそろ温泉に行くって。僕もお腹いっぱいでこっち戻ってきちゃった~」

男(本当かどうかは疑いもせず「へぇ」と呟いて、お茶を注ぐ男の娘を他所に新しいタオルを二枚取った)

男の娘「もしかして男も温泉? まだ覗こうって考えてないよねぇ?」

男「ああ、そっちはもう諦めた。お前はどうする。一緒に来るか?」

男の娘「いや、僕はここで少し休憩。お腹いっぱいって言ったでしょ、転がりたい」

男「(本当に呆れるほど俺のための世界だな。彼ならば俺の誘いは二つ返事で乗ってくる筈だろうに) じゃあ一人で行ってくるかね。また他の客と被らず静かに楽しめたら最高だなー」

男の娘「あははっ……あっ、そういえば男女入れ替えの時間ってもう過ぎたかな?」

男の娘「ありえないとは思うけどさ、間違えて女湯の方に入らないよう気をつけてね」

男「……まさか。無いない、そんな事ありえないって」

天使「疑うのもバカらしいけれど、まさか女の子専用の方に入るつもりじゃないですよねぇ……?」

男「それを訊くのもバカらしいだろう? 俺は男だ。女湯に入ると思うか?」

男「女湯は小学生に上がってすぐ卒業したさ……許されるなら今でも憧れの場所だけど」

天使「へー! ふーん!」

男「天使ちゃん、俺は純粋にここの温泉を楽しみに来ただけだよ。一切疚しい考えはないと誓おうじゃないか」

男「……まぁ、トラブルは起こるかもしれないけどね」

天使「トラブルぅ?」

男(トラブルという名のラッキースケベの予感。入れ替え作業はおそらく済んでいるのだろう。時間もしっかり確認もした)

男(だが、暖簾の位置が先ほど来たときと変わりないのは一体どういうことだろう? 不思議だとは思ったが、女湯へ向かうわけにもいかないな)

男(仕方ないと思いながら俺は男湯の暖簾をくぐったわけである。更衣室に入ってから何やら外で「暖簾変えるの忘れてたよ」と聞こえた気がしたが)

男「きっと気のせいなんだろう」

天使「自分はまた向こうのお風呂に入ってきますよー。ではでは、またあとで~!」

男「何!? ちょっと待て、天使ちゃ……ああ、遅かったか」

男「それにしても、一度中に客がいるか確認しないのは大きなミスじゃないか?」

男(まぁ、ご苦労さん。ありがとう)

男「さっきと同じで客は誰一人いない。もしかして俺たち以外の客は宿泊してないんじゃってぐらいだなー」

男「一体全体ここはどうなっているんだ? ……浮かれて痛い目にあったりしないだろうな、俺」

男(おそらく杞憂で終わることだろう。他の客は絶対に来ない。入ってくるのは男の娘を除いたあの五人)

男(全員がここへとは限らない? 来るさ、何よりも俺がそれを望んでいる。それに本人たち自らかならず行くと話していた)

男(ただ俺は、お湯へ浸かり、先ほど見たものと変わりない光景を目で楽しみその時を待でば良いのである)

男「お決まりの展開か、はたまた俺の予想を裏切るものか。何でもござれだ……にしてもやけに湯煙が濃いな、さっきもこんなだったっけ?」

男(ガラララ、と約束されしイベントが幕を開ける音が聞こえた。中にようやく誰かが入って……一人か? 話し声らしきものが聞こえない)

男(『誰か』は体を簡単に洗い流し、こちらへ近づいてくる。まだだ、まだ振り向いてはいけない。足音が、止まった)

男「……こんばんはー、お先入らせてもらっていますよ。良いお湯ですねぇー」

?「ちょ」

男「ん?」

?「ちょおおおおぉぉぉ~~~!?」

男(この声は、間違いない。こういった役割は決まってほとんど彼女だな)

男「……転校生か?」

転校生「きゃああー!? 待って、待ってよ!! こっち見ないでぇ!?」

転校生「何であんたがこっちに入って来てるのよ!? この超ド級変態スケベッ!!」

男「お、お前こそ何で男湯に入って来たんだよ!! そっちが間違えたんじゃないのか!?」

転校生「そんなわけないでしょ! 私はちゃんと確認したわよ!」

転校生「ていうか、入れ替えがあるって説明見てなかったの!?」

男「あんな目立つところに書かれてあるの見たに決まってるだろうが! それらしい事言って本当は男の裸見たかったんじゃねーのか、この変態暴力女!」

転校生「だだだ、誰がそんなの好き好んで見たがるっていうのよっ!? 変態って言うな!!」

転校生「ちょっとこれ変態超えて犯罪並みよ……どうするの? もうすぐみんな来ちゃう!」

男「お前だけじゃなく他の四人もここに来るのか!? つーか、お前何で一人で先に」

転校生「……も、もしかしたら温泉に入った猿が見れるかもと思って。って、そんなこと今はどうでもいいでしょ!?」

男「なぁ、信じられた話じゃないが、まさか……俺が中へ入ってから、旅館の人が暖簾を交換したとかじゃないよな?」

転校生「知らないわよそんなのっ! と、とにかくすぐに出て行って!」

男「出て行けって更衣室にみんなもう来てるんだろう!? お前、俺へ有らぬ濡れ衣着せるつもりか!?」

転校生「あぁーもうっ! 分かったわよ、私が一緒に行って説明すれば少しは何とかなるでしょ。ほら、早く!」

男「言われんでもだって!」ザバァ  

転校生「いやぁああぁぁ~~~ッ!!?///」

転校生「いきなり立ち上がらないでっ! いや、ダメぇ! 早くタオルで隠しなさいよぉーっ!!///」

男「あ、ああ、悪い……それにしても驚くぐらい見えんぞ、どうなってるんだ」

転校生「はぁ!? か、隠したわね? じゃあ行くわよ―――って、待ったぁぁぁ!!」

男「へ? ――――ぶっ」

男(転校生から突き飛ばされた俺は盛大に水しぶきを上げ、沈む。前を隠していたタオルは勢いで流れ、水面をプカプカ漂っていた)

男「ぶく、ぅおい! いきなり酷いじゃ…」

転校生「早くどこかに隠れて!! ……み、みんな入ってきちゃったわ」

男(転校生の言う通り、向こうから四人の声が聞こえてくる。このまま笑顔で迎えてあげたいところだが、そうもいかず、丁度良い大きさの岩の後ろへドロン)

男(これがハーレム主人公にのみ許された真の温泉イベントか。心の準備が整っていたお陰かハラハラさせられはしないが)

男(それよりも気になることが一つ。とても重要な問題だ。……湯煙がまるで俺の視界を奪うように、咽るほど立ち上がっている)

男(楽しみにしていた美少女たちの生まれたままの姿をこれでは拝見できないではないか。先ほども転校生が一方的に俺の醜悪な裸体を目撃しただけである)

転校生「……変態、聞いてる? ……いい? みんなが出て行くのそこで黙って待ってなさいよ」

転校生「もし……最悪の場合は私がどうにかしてあんたを逃がすから、そのつもりでいなさい」

男「ああ、分かった (黙って待っていろ? 逃げる? とんでもない。この俺がこの好機を無碍にできるものか)」

男(如何にしてこの場から逃走するかではない。如何にして彼女たちの体をこの目に収めるか、である。 邪道で結構)

ここまで。次もちょっと間あいて土日のどっちか辺りに

>>375
優しい。あなた大好き

生徒会長「どうだ転校生、猿なんてやはり来てはいなかっただろう?」

転校生「え、ええ……猿はいなかったけど……」

先輩「代わりに物凄い未確認生物を発見しましたぁー!! とかの方が良い土産話ができて最高だけどねぇ」

不良女「そりゃあ合宿の内容全部ぶっ飛んでくぐらいのインパクトだな……さっきからソワソワしてるけど、どうしたわけ?」

転校生「何でもない!! 私は何にも見てないわっ!! 本当よっ!?」

男「……頼りない (実際 彼女たちに俺の存在がバレた時はどうなるのか見当もつかない。できる限り、というよりもお決まりの流れに乗っ取って意地でも身を隠すつもりではいるが)」

男(俺ぐらい好かれているならば、素直に出て行っても許されるのでは? 適当な言い訳で誤魔化して……いや、この後を考えて無意味に場を沸かせる必要などない)

男「今は覗きに徹する時間だ! 時間は無限じゃないぞ、これがラストチャンスと思って全力を尽くす!」

男「この湯煙はチャンスと共に与えられた乗り越えるべき試練なのだろう。そうだ、俺はまた試されている」

男(意を決して、岩から頭を出した瞬間勢い良くお湯が掛かる。転校生が俺の行動にいち早く勘付いていたらしい)

男(彼女は脱出の協力者ではあるが、覗きは協力しない。こちらの目的を考えれば、俺を隠しつつも注意を怠らない彼女は障害である)

男(まずは転校生の監視を振り切ることから始めようか。俺から何かへ注意を向けさせるには? ……珍しいものへ強い興味を持つ性質がある)

男(一度食いつけば中々離れることはなかった。周りも気にせず、ただ目の前にある興味対象へ目を輝かせる。コイツが使えるはず)

先生「あなたたちって結構発育いいわよねー。羨ましがられるでしょ?」

不良女「くっ……!」

先輩「きっとアレですよー。毎朝きちんと牛乳一杯飲む習慣があるお陰ですよん」

生徒会長「それだけでは胸の成長にさほど影響しないだろう? しかし、気づいた時にはこうだったかな」

転校生「二人や先生は大きいし、細いしで羨ましいわ。どうやってそんなスタイル維持できるの?」

先生「んな事言ってあんたも良いモン持ってるじゃないのぉ。ねっ、ちょっと触らせてくれない?」

先輩「いっぱい揉むとボインになれるって話だからね! わたしにも存分に揉ませておくれよぉー!」

転校生「ちょ、やぁ、いやあああぁぁぁ~~~!?///」

男(一瞬だが、今が好機。俺を気にしている場合ではないな、転校生。精々胸を揉まれ喘ぐイヤラシイお前を俺に見せるが良いぞ)

男「……焦るな俺! 見るも何も湯煙が邪魔だと自分でさっき気づいてただろうが! いや、しかしだなっ……」

男(もしかして、と小さな期待を胸に背後の楽園を覗き見る。……いつもそうだ、調子に乗ると痛い目に合う)

男・不良女「あっ……」

男「御免ッ!!」

不良女「きゃ――――――んんぅむぅ、むううぅぅ~~~!?」

男「……さ、騒ぐんじゃない。落ち着け! 何もしないから! (偶然顔が合った不良女。幸いにも位置がここから近くて助かった……と言っていいのだろうか)」

男(手を払おうと必死に涙目で暴れる彼女へ諭すも、パニックは収まらない。だが、こうする他どうしようもない。どうして、毎度、厄介な)

男(強引に拘束したのも手伝って不良女が怖がるのも無理はない。話が耳を通っていないぞ。落ち着かせなければ)

生徒会長「そういえば不良女の姿が先程から見当たらないのだが」

先輩「えー、別のところに行ったんじゃないかなぁ? あんまり煩すぎてとかでさぁー?」

生徒会長「自覚しているのなら何故止めようとしない……まぁ、その内戻ってくるだろうな」

男(早くどうにかしなければ。ここを探されては一貫の終わりどころか、不良女へ報告されかねん)

男「……なぁ、俺は覗きとか疚しい考えからここにいるんじゃない。旅館の人のミスで間違って来たんだ」

男「だから、滅茶苦茶困っている……本当にだ……不良女、助けてくれ……頼む……!」

不良女「……もが?」

男(彼女が人を思いやれる優しい美少女で良かった。トーンを落とし、真面目な態度で囁けば、ようやく力が抜けてくれた)

男(ゆっくり手を離し、あえて不良女を視界から外して事情を説明すると、簡単に疑いを解き、赤面しながらコクリと頷く)

不良女「よく分かんねーけど、マジで困ってたのな……でも、だからってあんな事するフツー?///」

男「勘違いさせたのは謝る。とにかく俺は逸早く女湯から出たいんだよ……どうしたらいいと思う?」

不良女「ど、どうしたらって言われても!」

男「不良女。もうお前だけが頼りだ! このままじゃ本物の変態の烙印を押されちまう……助けてくれ」

不良女「あ、あたしだけが……う、うん。わかったよ……男が[ピーーーーーーーーー]///」

男(人を思いやれるチョロくて優しい美少女で良かった。本当に)

不良女「昼間にあんたに助けられた借りもあるし、どうにかしてやる。とりあえずみんなに説明してやりゃ良いんだろ? それじゃあ…」

男「アホかお前は待てッ!?」ガシッ

不良女「なななな、何だよぉ!?」

男「どうにかにしても方法が雑過ぎるだろうが! みんながみんな俺の話を信じてくれるか分からないんだぞ!」

不良女「えぇ? 大丈夫、か知らないけど話してみなきゃ分かんないだろ……まぁ、うん」

男(不良女からの説明と俺の登場で、始めこそ戸惑いはするが、最終的には皆が納得する。このパターンが一番あり得そうで困る)

男(困る、というのはそのまま退場へ繋がりかねない為である。いくら好かれているとはいえ、流石にそのまま混浴へ持ち込める気はしない)

男(たとえ持ち込めたとしても、裸体を拝むことは無いだろう。何より『覗き』という行為にプライドが生まれてきてしまった)

男(たまには全力で阿呆になって、安いプライドのために張り切るのも一興……不良女を利用できるか? 転校生と変わりない、障害になるだけでは?)

男(頼んでしまったからには、このまま何もさせず還らせるのは不良女も納得しないだろう。何か、役割を与えるのだ。真意に勘付かれてしまわない程度の)

不良女「じゃああたしはどうしたらいいんだ? バレないように出て行かせろって?」

男「ああ、そうだ。『バレない』が一番重要だと知っていてほしい……これ以上パニックにさせたくないんでね」

男「そこでだ、不良女。お前にはみんなの注意を逸らしてもらいたい」

不良女「その隙にあんたが女湯出て行くって魂胆? 上手くいくかなぁ。つーか、どうやってさ?」

男「それは…… (この時、壁の向こうから少女の悲鳴があがる。その声に、いや、声の主の存在に思わず感謝した)」

男「……また向こうの輪に加わって、『あそこに男(俺)がいる』とでも大声で騒いでくれ」

不良女「はぁ!? そんな事したらお前見つかっちまうだろうが!」

男「バカ、本当に俺の居場所を話してこいとは言ってないだろう。ただ、大袈裟なぐらい騒ぎ立ててくれれば良い」

男「気のせいだろう、と思われるまでな (叫び声ぐらいは風呂を分けても届くようだな。そうでなければ向こうへ入った彼女の声は聞こえない)」

男(男の湯の方で何が起きたかは大体想像がつく。事が起こるまではアレは俺の元へ来ることはないからな)

男(不良女は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらも、戻って行った。しばらくして棒読み気味で彼女が大きな声をあげて騒ぎ出す)

転校生「なあーっ!?」

先生「男くん? 何処にもいないじゃないの。見間違えたんじゃないかしら」

先輩「そうだよ。だってここ女湯だもんねー……[ピーー]、[ピーーーーーーーーー]……[ピーーー]よう……」

不良女「マジなんだっての! アイツじゃなかったとしても、絶対女じゃなかった、ようなー!」

生徒会長「随分と曖昧だな……私が知る男くんは[ピーーーー]だが、弁える所は弁える。しっかりしている男子だよ」

生徒会長「だから覗きなんてありえないと思う。なぁ、転校生? さすがの君もそう思わないか?」

転校生「あ、あ……えっ!? あ、は、はいっ! そそ、そう思いません……じゃなくて!?」

男(計算通り、転校生が動揺を隠せず慌て始めた。不良女も転校生も、お互い脱出の協力に付き合わされている関係という事は知らないのだ。こうなるのは当たり前)

男(さて、ここより上にもう一つ風呂がある。この露天風呂と比べれば大した物ではない為、好んでそちらへ向かう者は少ないようだが……)

転校生「ね、ねぇ!? みんなそろそろ別の方のお風呂に入りに行かない!?」

先輩「え? でもまだ入ったばっかりじゃーん。もうちょぴっと満喫してたいよー?」

転校生「お願ぁーいっ!! 私と一緒に向こうに行きましょ!? お、お願いだからっ」

先生「フフ、どうしてそんなに必死になるの? まぁ、そこまで言うなら仕方ないね。付き合ってあげる」

不良女「……これで少しは逃げやすくなったかもな。まだ難しいけど」

先輩「何なに? また男くんがいるって話? あー、もしかして男くんここにいて欲しいからそんな事言ってるんじゃないですかぁ~? このこのっ」

不良女「ばっ、んなワケねーだろ!! オラ、早く出て向こうのに行こうよ……」

男(耳を立て、全員が出たのを確認。しばらくはここで落ち着いて策を練られるだろう。そのお手伝い係も、そろそろ―――飛んできた)

天使「……おぉぉとぉぉこぉぉくうぅぅ~~~んっっっ!!」

男「待ってた、人払いなら済んでるぜ。今なら騒ぐのは無理だが、静かに会話ぐらいは楽しめるだろう」

天使「女湯じゃないじゃないですか!! 自分は小太りオヤジの裸見せられましたよ、見たくもなかったソレを!!」

男「俺は止めようとはしたんだがな。いやぁー、それより、俺がまだ温泉の中だってよく気づいたなー?」

天使「気づいたっていうか、そっちで不良女ちゃんが喋ってたのが聞こえてきて……つーか、どうすんですか!」

男「つーか、この湯煙の酷さは何だよ 天使ちゃん。非常に視界不良で困らせられている。解除方法は?」

天使「……湯煙ぃ?」

男(一瞬のタメの後、天使ちゃんは湯船の縁に腰掛けお湯の中で足をバタつかせる。「おい」と催促すると、意外な言葉が返ってきた)

天使「湯煙がどうかしたんですか?」

男「どうもこうもあるか。足元だけがギリギリ見えるレベルで酷く立ち込めてる」

男「今だって天使ちゃんのスベスベお肌が確認できない程……じゃない?」

男(しっかり目視できている。それどころかである、湯煙なんて全く昇っていないのだ)

天使「確かにお湯から湯気は上がってますけどね、男くんが言うほどひでぇーってもんじゃねーですよ?」

男「て……天使ちゃん、水着に着替えていたのか。ていうか、ここに来た時からずっとそれか?」

天使「そりゃあ男くんに自分のキュート&しぇくしーな体見せたくないですもん!」

天使「ま・さ・か、やっぱり美少女の裸見るために温泉に入りにきたんじゃないですかぁ~……サイテー」

男「いやっ、あ、あぁ……もう否定はしないが……お前は何か知らんのかよ?」

天使「知らんって? その湯煙の話ですか? 逆に、自分が何を知っているってんですか?」

男「知ってるだろう! 天使ちゃんは神が差し向けたお目付け役兼説明係! この世界、いや、今の俺の全てを知っている!」

男「難聴鈍感という枷をかける代わりに美少女にモテモテ、ラッキースケベもほぼ任意で発動可能! ……その他に、何かあるんじゃないか」

天使「『何か』について全部教えるわけにはいかないですけど、少なくとも今回の件は自分には分かりませんよ」

男(嘘を話している風には思えない。では先ほどのは偶然? 自然現象? ……絶対にありえない)

男(それも突然あれほどの湯煙が消えただなんて。この不自然な現象はおそらく神の仕業で間違いない)

男(何故今さらこうした余計な妨害を働いたのか? 美少女たちがこの場から去った瞬間に現象は止んだ。つまり、俺が彼女らの裸体を覗き見るのを良しとしていない、のか?)

男「モテる……モテるが、けして青少年の毒になりかねんアダルティなイベントは無理だというのか!? どうなんだ、そこんとこ!?」

天使「わ、ワケ分かんねーこと訊かないでくださいよ! 別に男くんがあの子たちにして悪い事なんてありません!」

天使「だってここは男くんが幸せになるための世界なんですよ。あんまり余計な規制掛けてたら萎えるってもんでしょう」

男「ああ、よく分かってるじゃねーかよォッ!」

男「……正直に言おう。確かに俺は五人の裸を見たいと思い、ここへ来た。だが、すんなり見れて満足できるだろうという希望は打ち砕かれた!」

男「別に見つかるとか、些細なハプニングは構わない! だが、予想斜め上だッ! 勿論……この程度で折れるつもりはないし、解決したい」

男「だから、本当に何でもいい、それらしい覚えがあるなら教えてください 天使ちゃん!! アイス買ってあげる!! ……ダメ?」

天使「しつこいですねぇ!! 自分はマジで知らないって言ってますよ!!」

男(あの時の感謝の気持ちを取り消したい。彼女を餌で釣れば難なく……とはいかないが、解決への道が見つかるとばかり信じていたのに)

天使「ほんとにサイテーで変態な男くんですよ! ダメだったなら潔く諦めたらいいんですってば!」

男「だって……はぁ、どうして……美少女の裸を見るぐらいなんだっていうんだ? 今まで好き放題胸やら諸々かなりスケベな体験できたじゃないか」

男「どうして今さら風呂なんかで――――風呂?」

男「天使ちゃん……昨日 俺、風呂に入ったんだ」

天使「いつも入ってるじゃないですか、ブサイクな癖に変に潔癖なとこありますもんね 男くん」

男「喧しい!! そして風呂自体は重要じゃない!! 問題は……見たんだ、この目で」

男「幼馴染の裸。形の良いおっぱい。もっと凄いヤツ。見た、俺はしっかり見て記憶した。脳味噌に焼き付けた」

天使「へんたぁーい!!」  男「野郎ならそれがフツーと知れ!!」

男「その時は今日みたいな妨害も一切なかった……もうスムーズに……幼馴染は良くて、生徒会長や不良女たちはダメなんてありえるのか」

男「違う、そんな筈がない。天使ちゃんが言った通り『規制ゆるゆる』ならば……そう、何か特殊な条件があるとか」

天使「もう二度は言わねーです。ありませんよ」

男「じゃあ今回はそっちの手違いとか、悪戯か何かだって言うのか!? 文字通り神の悪戯って!!」

天使「主はそんな低俗なおふざけも遊びもしません。真面目な方なのです! 絶対ないです!」

天使「大体、男くんは主にとって特別でもないし、ほとんど見てないも同然なんですからね?」

男「……勘弁してくれよ。はっ、もしかして天使ちゃんが近くにいれば湯煙は発生しないとか。そうだ、もうお前を連れて試してみよう」

天使「やっ! ていうか、昨日いつ幼馴染ちゃんとお風呂に入ってたんですか。重要なイベントだったろうに、いつのまにか自分の知らない内に」

男「遊園地から帰って来てちょっとしてからだろうか。天使ちゃんが居眠りしてた時だ」

天使「……ああー、あの後すぐ起きて男くん見当たらなかったんですよねぇ。で、妹ちゃんの部屋に入って水着をトレースさせて貰ってたんですよ」

男「で、その後ばったり風呂上がりの俺と会ったわけですか。そんな事はいまどうでもいいだろう?」

天使「そうでもねーんです。男くんの行動を監視するのが自分の使命なんですからねっ!」

男「言う癖に実際のところ適当にやってるんじゃないの? 一日中寝ないで俺のこと見てるなんて無理……いや、本当は睡眠取る必要ないんだっけ?」

天使「でも疲れたらやっぱり寝ます!」

男「じゃあ結局監視なんてずーっとは無理なわけだろうが。今までもそういう風にしてきたのか?」

天使「ち、違いますよ! 別に男くんと話せるようになるまではこんな……とにかく全部見逃すことなく見てましたから」

男「全部ね……なぁ、本当に全部か? 自信持って言えるか?」

天使「はいですとも!!」

男(では、なぜ前回の俺がメモを残したことも、委員長へ接触していたことも知らなかったのだろうか)

男「まぁ……やっぱりサボっていたんだろうよ。横道に逸れちまった、どうにかして覗きを達成しなければ」

天使「それができないから一人でギャーギャー言ってるんでしょうが」

天使「つーか、大丈夫ですかぁ? みんなこっち来ちゃってますよー?」

男「冗談だろう!? って、あれだけ声をデカくして喋っていたら気づくか……それとも単に戻ってきただけか」

男(転校生と不良女は時間を稼いでくれた、十分とは言い難いが。天使ちゃんの言う通り美少女たちが戻ってきている)

男(同時に消えていた湯煙がすぐに立ち込め、視界の自由を奪う。どう足掻けばいい? この試練を乗り越えるには?)

男「何か、ヒントの一つでもないのか? (他でも無い自分へ確認の意を持って呟く。逃走など頭の隅にすら見つからない。ただ美少女の裸体を求めた)」

男(こんな機会でもなければあの五人の裸体を楽しむのは難しい。故に求めよと本能が囁くのである)

男(落ち着こう……俺は当初、転校生の注意を別の物へ向けることから始めようとした。しかし、そこで不良女に発見されるミスを犯す)

男(難なくカバーは成功し、彼女らを一旦向こうへ追い払うことに成功した。そう、天使ちゃんと相談する為に……結果、何も収穫も得られず時間を無駄にしただけ)

男「……注意を向けてから、俺はどう湯煙に阻まれず覗きを達成しようとした? 考えがあった筈だ」

天使「喋ってる場合ですか? もう入ってきちゃいましたよ」

天使「大体、尋常ない量の湯煙を消すなんて人間には無理ですよ。それこそ自分のスーパーパワーか、魔法でもなきゃ」

男「やれるならお願いだから天使ちゃんが助け―――る必要はない、な」

天使「やれやれですねぇ、ようやく諦めましたか! 自分はこんな事には付き合う気ねーですからね!」

男(諦める? 俺は妥協をしない男である。たとえ成功率が低かろうが、無駄だろうが、微塵でも可能性があるのならば、見つけたのならば)

男「……上等」

先生「ふぅー、気持ちいい……やっぱり上より下のお風呂の方が違うね。全身に染みるっていうか、疲れが流れるというか」

先輩「きっとアレだ。マイナスイオンが出てるんだよね! あ、マイナスなのに体に良いって前から疑問だったんだけど、もう少し体良さそうなネーミングに変えたら?」

転校生「それ……私たちに言っても仕方ないでしょ?」

転校生「アイツどうしたのかしら。まだ隠れてて、出るに出れなくなっちゃったんじゃ」

不良女「あのバカ、さっきの隙に出て行けたのかなー……もしかして、まだ裏に隠れてねーよな」

天使「おっ、男くん! あの二人がそれとな~くな感じで近づいて来てますよ! 逃げないんですか!」

天使「―――って、あれ!? 男くんがいねぇです!! 男くんどこ行ったぁー!?」

転校生「……ちょっと。いるの? いるならもう少しだけ我慢して……て?」

不良女「なーんかこっちに誰かいるような気がする~……え?」

不良女「よ、よぉ 転校生~! まだ珍獣探しに懲りてなかったのかよー!」

転校生「ち、珍獣じゃなくて猿よ~! 残念だけどここには来なかったというか、そもそも山じゃないから……いない」

不良女「ああ、何処にもいねーなぁー! ……上手く脱出できた?」

男「…… (気づかれていない。俺が見えている程湯煙で充満しているわけではないが、水面下を上手く誤魔化してくれている)」

男(『湯煙妨害』はけして俺を陥れる為のものではない。俺個人の目的だけを邪魔しているのだ。つまり、全ての状況を都合が良い状態へ変えられる力そのものは効く)

男(俺が心から望まない限り、けして彼女たちには発見されないとしよう。現に二人、おまけに天使ちゃんは俺が見当たらないと戸惑っている様子だ)

男(見つかりはしまい……息が持つ限り……)ボゴボゴ

男(最高1分と42秒! 過去に実践した素潜りでの限界タイム。必死の我慢の末でここまでである)

男(長時間の潜水に耐えられるわけがない……そこで予め桶を近くに浮かべておいた。頭一つは入るであろう丁度良い中継地点だ)

男(さて、察しの良い人ならば俺の狙いが掴めてきたと思う。美少女たちの目から逃れるために水中へ潜ったのではない、ということを)

男(スモーク オン ザ ウォーター。発生した煙が水の下へ落ちることはあり得ない)

男(ただし常識の範囲ではの話である。神が悪戯で俺にのみ発生させている特殊な湯煙であれば、分からない)

男(無駄だった、なら俺はとうにその無駄を詳しく説明しやしない……賭けに、勝った)

男(あの異常な湯煙は水面下まで達しておらず、視界はお湯によってぼやけているだけ。ではこれがモザイクの代わりを果たすのでは? その心配は無さそうだ)

転校生・不良女「――――――」

天使「―――――! ―――――!?」

男(見えた……大事なところはこの位置からは確認できないが、見えている。あれは転校生の尻! こっちは不良女の尻!)

男「が、がぼぼぼ……ッ (よこちち! いかん、息が、呼吸を)」

男「かはっ!! はぁ、はぁ……はぁ……おぇ」

男(命一杯肺を空気で満たし、再び水中へ。ここまでやっているのだ、この程度で満足して堪るものか)

男(接近すれば、もっとよく眺められる。接近すれば……気づかれなければ……自分の力を信じて、試してみるべきだろう)

男(過信ではない。主人公の力とは絶対である。信じれば叶う、何事も。やってみるだけさ)

先輩「―――――~!」

男「!? (突然、近くに先輩さんが移動してきた。残念なことにまた大事な部分が確認できないが……ふと気になるものを岩の上に置いていた)」

男(謎の七つ装備・漂流編『シュノーケル』。彼女のことだ、温泉の中で素潜り遊びでもしようと持ち込んできたのだろうが……アレが手に入れば今よりハッキリ見ることはできないか?)

男(おまけに呼吸のたびに桶へ近づく手間も省ける。アッパーの吸気口は湯煙で誤魔化せるだろう)

男(必要だ。ぜひとも入手して快適かつ満足のいく覗きにさせたい。……岩まで近づくには、まず傍の彼女たちが移動して貰わねば)

男(と、悠長に構えていれば最悪だ。こちらに近づいてきた。急いで隅まで移動して桶の元へ戻る)

「―――――」  「―――――」

男(動く気はないらしい。転校生も不良女もすっかり俺は脱出したと思い込み、会話を楽しみ始めた。そこへ先輩も加わって、嗚呼)

男(残る二人はまだ向こうにいるようだが、時間の問題だろうか。あそこに居られては岩の上のシュノーケルへ手を伸ばせない)

男(―――ならば無茶で抉じ開けよう)

「!?」

男(カコンッ、小刻み良い音が外で鳴り響く。中継地点でしかなかった桶を放り投げたのだ。すぐに美少女たちは音へ驚き、そちらへ体を向けた……すかさずシュノーケルを頂いた)

男(先輩と間接キスも楽しめるだけではない優れたアイテム。装備すれば思った通り、視界良好、呼吸も良し)

男(流石にこの姿の俺を見つかるわけにはいかない。ここまでやれば言い逃れなど不可能だろう。だが、その覚悟を持って実行したまで)

男(見える……かなり見える……クリア……鮮明だ……もう何も怖くない。緊張による興奮か、嬉しいあまりの高まりか。かつてないほど鼓動が激しい)

男(妹にこんな姿は絶対見せられない、が、欲望に忠実な兄だ。許してくれよ。そして俺に天国へ近寄る勇気を与えてくれたまえ)

男(ゆっくり、確実に水を掻きわけ彼女たちへ近づいて行く。温泉へ浸かっているこの間が勝負だ。お湯から出られた瞬間、全てが終わる)

男「ぼご…… (だから、焼き付けろ目の前の光景を。そして、もっと前へ!)」

男(……どうした? 急に息苦しくなってきたぞ。息はできる筈なのに……いや、息が、呼吸ができない)

男(目だけを動かして上を確認するとしかめっ面の天使ちゃんが吸気口の穴を指で塞いでいた。ギョッとさせられたが、ジェスチャーで止せと送る)

天使「何にも言えねーです」

男(言わんでも、その手を退けてくれるだけで嬉しい。あくまで健全なエロスのみしか許さないのか、彼女は)

男(天使ちゃんへこれ以上蔑まれては今日まで築き上げた信頼が……躊躇、したくはないのに、しかし)

男(手を伸ばせばあと少しで届くのだ、あの天国へ。いや、伸ばしはしないけれども)

男(見える、見えるのに、ちょっぴりだけ向こうへ回り込めればそれで達成できるのに。俺の目的、美少女の裸体、スゴイとこ、選ばれし者にしか辿り着けないエルドラド)

男(ここまでやったのに……欲望は萎み、消滅していく。つまり)

生徒会長「お前たち、そろそろ部屋に戻ろう? あまりお湯へ浸かっていても体に良くないぞ」

不良女「んあ? ああ、結構な時間入ってたしなぁ。出ますか」

先輩「はいよぅ……あり? あれれれ? 何で? わたしの謎の七つ装備がないんですけどー!」

先生「何それ? もしかしてコレのことかしら。だったら外に置いてあったけれど」

先輩「外ぉー!? わたしちゃんとここの上に置いたはずだったんだけどー……おっかしいなぁ」

転校生「ま、まさかさっきの風呂桶といい、それといい……!」

不良女「なるほど。猿の仕業かも」

男「……軽蔑してくれって結構。少しバカをやりすぎたと自分でも思っている」

天使「ふぁっきゅー」

男「中指立てられたって結構!! 俺は人として間違ったことを犯そうとしたよ、しようとした!!」

天使「その気があった時点でドン引きですよ……マジ呆れました、男くん」

男「すまん。だが、天使ちゃんが止めてくれたからこそ、大丈夫だ……俺は正気に戻った!」

天使「その台詞を吐くヤツは大概信用ならねーって自分知ってますよ!」

男「本当だ、信じてくれ! この通りだ! だから途中で何もせず、初めてこの俺が諦めた!」

男「諦めなんて、妥協知らずのこの俺が……初めてだ……しかし、屈辱なんて一切感じちゃいない」

男「何よりも天使ちゃんに本当に嫌われるのが怖かったから。目的を達成しても所詮自分の欲が満たされるだけ、得るものはなかった」

男「そんなものより、初めて得ることができた友達を失いたくなかったんだよ……反省している。二度とこんな事はしません」

天使「二度とですか、それは自分にそう誓うってことで間違いないですか」

男「イエスだ。マイフレンド天使ちゃん……誓おう」

天使「でもやっぱ信用なんないんですよねぇ、男くんって奴はー!」

男「……風呂から上がったら何が飲みたい? コーヒー牛乳? それともフルーツ?」

天使「えっ、フルーツ牛乳がいいですっ! ふるーつ、ふるーつぅ!」   男「ああ、許して貰えて何よりだ」

ここまで

天使ちゃんはFF4好きなのかなw

ところで今更だけど、>>426の最後みたいに改行されてないセリフがたまにあるけど、仕様?ミス?
ちょっと気になっただけだけど

>>431
仕様でございます。今まで行数制限の問題で台詞削ったりしてたんだが
最近欲張ってこんな感じで無理にぶち込んでる

見栄え良くはないし、毎回ただのおふざけ会話だからどうするかは迷ってる

男「ある意味湯煙は俺を妨害しようとしたわけじゃなくて、止めようとしてくれていたとも今なら考えられるかもしれん」

男(天使ちゃんへ横並び、腰に手を当てくっとフルーツ牛乳を飲み乾し、自分へ言い聞かせるように俺は言う。勿論、女湯の外だ)

天使「そうだとしたら主に感謝ですよ、男くん。いくらこっちの世界にいようと、やっちゃいけない事は同じなんですから」

男「神の仕業かは定かじゃないって……そうな、犯罪は良くないね……浮かれて暴走してたよ、俺」

男(罪を犯すことを危惧したのではない。天使ちゃんに愛想を尽かされる場合があったのが非常にマズかった)

男(下手に行動力を得た分、酔って慢心、後先考えずな欠点も増えたかと改めて客観的に自分を見つめ直した。目の前だけを追う癖は宜しくない)

男「しかし、あの神が俺のために手助けとは考えれんな。とすると、やっぱりただの性質の悪い悪戯かも」

天使「あのっ、さりげなく主をディスろうとしてませんか……っ?」

男「いやいや。なぁ、天使ちゃん。俺はそっちの思惑通りだとずっと、永遠にこの世界で暮らさなきゃいけないんだろ?」

天使「まぁ、はい。男くんはここの住人になったんですからねぇ」

男「そこでまた疑問がある。この楽しいたのしい学生生活も永遠に繰り返されるのか? 例えるなら、サザエさん時空みたいな」

天使「さざえさん? ……それも男くん次第じゃないですか? 男くんが望めばそれもありかもしれねーです」

男「……言っちゃなんだが、マジで何でもあり過ぎて逆に怖いな。俺はこの世界の神かよ」

男「まぁ、つまり望めば1年をループさせる事もできると。だが流石に俺も永遠の高校生は気味が悪くて、おかしくなっちまいそうだ」

男「その先も、望めばやって来るんだよな? 大学へ行ったり、働いたり、結婚して子どもができたり……最終的にちゃんと死ねるのか?」

天使「男くん。この世界で新しく男くんは第二の人生を始めたわけですよ」

天使「人生の終わりとはすなわち『死』なのです。つまり、男くんがこの人生に満足してやり残すこと一つ見当たらなくなれば」

天使「……まっ、そこんとこは自分も知りませんよ?」

男「珍しく畏まった話始めたくせに半端じゃねーか!」

男「俺の言った死と、天使ちゃんが考えた死って変わるのかね。お前は委員長のような精神の消滅を言ってるんじゃない? 俺は肉体の…」

天使「この世界は男くんのための世界。あの子とは仕様が変わるってもう分かるでしょう?」

天使「男くんの心が体から離れた時、それで全部はいおしまい。ここの人間も、美少女ちゃんどもも、何もかも、綺麗さっぱり消えます」

男「はぁ……俺自身が世界の電源スイッチなわけっすか」

天使「さっき男くん自分で言ってましたけどね、この世界の神って喩え、あながち間違いでもねーかもですよ?」

男(美少女たちは確かに存在している。だが、所詮は俺を楽しませるだけの装置の一つに変わりなかった。幸福が絶頂へ達したとき、俺とともにみんなが消えてしまう)

男「あまり気分良くなる話じゃ……そういえばここで俺が消えても元の世界には戻らないんだな?」

天使「そりゃあ第二の人生ですから」

男「……そう、なるほど ([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。[ピーーーー])」

男(部屋へ戻ると、男の娘の姿が見当たらない。携帯の画面を確認すると『みんなといる』とメッセージが残っているわけだが、報せなくとも大抵気づくっていう)

男(いよいよラーメン愛好会合宿は大詰めに入ったのである。時間も丁度良い……この時を、俺は待っていた)

男の娘「おかえりなさい。みんなより遅かったね、随分ゆっくりしてたんだ?」

男「ああ、まぁ……そ、それより何見てるんだよー……深夜アニメなんか流しちゃってさー」

転校生「……んっ」ギロ

男(偶然転校生と目が合うと、頬を紅潮させながら一睨みされる。近寄れば浴衣の上から体まで隠そうとする始末だ)

男(不良女は特に、という程でもないがそれなりにこちらを意識して深い溜息をつく)

不良女「良い脅しのネタができたってぐらいで済ませてやんよ?」   男「……借りは返すが、仇で返すとは聞いてねぇ」

先輩「『魔法少女殺人事件』」

男「は?」

先生「いまテレビで流してるアニメのこと。偶然チャンネル回してたら部長さんがハマっちゃったみたいで」

男「なんだか随分ショッキングなタイトル……みんなまだ寝ないのか? 早く帰るわけじゃないが、疲れてるだろ?」

男の娘「疲れちゃいるけど、せっかくの合宿なんだし少しぐらいは、ね? なんだったら朝まで起きてよっか! ふふ!」

男「お前が夜通しオール推奨派とは意外だったな。ていうか、先生は良いんですか? 生徒を放っといて」

先生「いや、さすがに行き過ぎた夜更かしは止めるけど少しぐらいでしょ? それに~」

男(缶ビール片手に、魅惑的なウィンクをして「飲むしかない」と半ば自棄になっている先生。今日ぐらいは財布の中身を気にしたくないのかもしれない)

男「……そうですね。学生の泊まりで夜更かしは青春ですもんね、大切なイベントの一つだ (物語は俺の望む通りに進められていく。順調に)」

男(皆、それぞれ好きなことをしてゆったりとした一時を過ごす。これで良い。必要な駒は揃っている)

男「(俺が動き出すのはもう少し遅れてからでOK) 生徒会長は何を読んでいるんです?」

生徒会長「ん、これか? これはただの参考書だよ」

不良女「うえぇ、ガリ勉おつー。ったく、遊びに来てまで勉強とかまさに生徒会長サマって感じだな」

生徒会長「ふん、誉め言葉として受け取っておこう……私も持ってくるつもりはなかったさ。だがいつもの習慣からかな」

生徒会長「大学受験まであっという間だろう。寝る前にはかならず少しでも頭へ入れるようと心掛けているんだ」

転校生「そっか。私たちと違って遊んでばっかりもいられませんよねぇ……大変そう……」

生徒会長「君たちだって他人事ではないだろう? あと少しの間……[ピーーーーーー]か。私はそれまでに[ピーーーーーーーーーーーー]?」

男「え? いま何て言いました、生徒会長?」

生徒会長「い、いや! 別に! ……別に、どうもしないよ」

不良女「もう片方は受験なんて頭になさそうで、アニメに夢中だし、対極的っつーか」

不良女「あっ、これたぶん犯人あの緑の髪の魔法少女じゃない?」

男「その根拠は?」  不良女「一人だけギャラ高そうな声優じゃんか。有名な人だよ、アレ」

男・男の娘・転校生「……声優」

不良女「え……何だよ。な、何だよ? あたしが詳しかったらおかしいのかよ!? あぁ!?///」

生徒会長「結局全員揃ってテレビに夢中になっているじゃないか……大人しいと思えば」

先生「あんたも息抜きにこっちでみてみたらいいじゃない。悪いもんじゃないと思うよ?」

転校生「ジャパーニーズアニメってこんな夜中でもやってるものなのね。私初めて見たわ」

男「ふーん。ところで、さっきから枕抱えてるのは怖いからか? アレ別にホラージャンルじゃないだろうに」

転校生「う、うるさいわね! 別に怖くなんかない!」

男「転校生って結構子どもっぽいところあるよな。普段強がってるくせに変なところで夢中になってみたり、ビクビクしたり。なぁ?」

男の娘「あはは、でも転校生さんらしくて僕は好きだよ。みんなに優しいとこも含めて」

男「いいや、それは大間違いだな 男の娘。あいつ、俺には嫌に厳しい!」

転校生「あんたが一々私怒らせることしてるからでしょ! ……もっと素直になれたらとは思うけど」

男「ん? どうかしたか、厳しい転校生さん?」

転校生「な、何でもないわよっ!? ていうかあんまりこっち近寄らないで!」

男(あの温泉での出来事をまだ引き摺っているのだろう。それもそうか、彼女からすれば俺から全身隈なく見られたのだから)

男(悪戯半分で彼女の傍へ近づいていくと、口をパクパクさせ恥じらい加減が強くなる。枕をぎゅうと抱きしめ、口元を隠し始めた)

転校生「やめてってば……うぅ~……///」

男「別にあの時お前の裸見たわけじゃ、うぶっっっ (枕で思い切り顔面を殴られる、なんて予想済みのこと。可愛いあの子へ悪戯は止められん)」

先輩「だはぁー!! どうして良いトコでこういうのって次回に回すかなぁーっ!?」バンッ

男(テーブルを叩いて早く続きをと一人抗議する先輩を置いて、俺たちは先生の愚痴へ付き合わされていた)

天使「まだ始めないんですか、男くん……あっ、話しかけない約束でしたっけ……」

男(部屋へ入る直前でそう天使ちゃんへ話しておいた。彼女の言葉に受け答えしていては、今から美少女たち同時攻略に苦労させられてしまう)

男(良い子な天使ちゃんは口惜しそうに、口元へ指でジッパーを閉める素振りを取って黙った。しっかり気づいている、と慣れた手つきで彼女の頭を軽く叩いてあやせば、満更でもなさそうに)

天使「ちょー! 子ども扱いすんな……ですよう」

先生「昨今のソーシャルゲーでお金稼げって流れがすごく嫌!! 何でもかんでも課金要素増やして消費者に嫌がらせしたいの!?」

男の娘「わ、わかりません! だからもう離してくださいよぉ~!」

先生「だから私は少し前のゲームで満足しちゃってるわけよ!! 懐古厨と呼ばれようが、今に納得できない限り 先生は声を大にして批判します!!」

先生「そりゃあ今の時代稼げない赤字の連発で苦労してるのはよく分かる。でもこっちが求めている物から逸れるどころか…」

不良女「……センセー、あたしもうちょっと楽しい話したいんですけど。無理?」

先生「むっ、昨今のゲーム業界を風刺するのは楽しくないと?」  生徒会長「私見ですが、喜べる会話には絶対なりません」

先輩「じゃあさーじゃあさー! せっかくこうして夜更かしモード全快なんだし、怖い話で盛り上がるのが定石ってもんっしょ!!」

転校生「そ、そういうのは……ちょっと……」

男「……じゃあ、たまには年頃の学生らしい話題で、花咲かせようじゃありませんか」

ここまで。また続きまで間空く、すまん

1行に複数の台詞置く書き方はこのまま変えずにいくとしよう。使い易い
それこそ漫画みたいな感じでパパッと読んでもらえれば嬉しい

地の文紛いな書き方あって、擬音やら「///」やらで表現させてるし、元々SS書くのに気使っちゃいないのです
便所の落書きだもの、俺が楽しく書ければそれでいい!!・・・と思い、やらせていただいております許せ

先輩「学生らしく? 表向きは健全に見せかけて、裏では腹の探り合いなドロドロ! デッドヒートショー!」

先輩「……汚い花が、咲き乱れるねッ」   不良女「乱れねーよ」

先生「はいはい。それって先生は参加資格無しなわけ? 私だってちょっと前までは学生だったよ?」

男「先生って今いくつ… (即座に机をバンッと叩かれ、こちらへ首切りジェスチャーをして見せられた。20代後半と推定したが、触れるべきでないらしい)」

男「あのっ、青春時代が遠のいても今は大人の色気ムンムンだから! バカにしたわけじゃなくて!」

先生「言い訳がましい下手なフォロー入れるなッ! 自分がもっと惨めになるッ!」

転校生「全く、あんたってどうしてそんなデリカシーに欠けるの? フツー 歳に触れないでその頃の話とか聞こうとするでしょ?」

先生「……転校生、聞こえてるきこえてる」

男の娘「えっと……せ、先生も僕たちと同じぐらいの時には好きな人とかいたんですか?」

不良女「そうそう。こういう可愛げのある話で盛り上がるのが学生らしいっていうの……つーか、お前がいきなりソレ訊く?」

男の娘「ん、何で? 僕が訊いたらおかしいかな」

不良女「いや……そういうの興味ない方かなって勝手にあたしが……でも」

男「どうした不良女、急に俺の顔見たりして? (男の娘から俺へ移る。目を細めて数秒固まると)」

不良女「[ピッ]、[ピーーー]かね……だ、だけど[ピーーーーーーーーー]だし、[ピーーーーーーーーーーーー]かも……っ」

男(今まで気にしていなかった男の娘の恋愛意識について考えた末、勘づいてしまったのか。だとすれば、助かる。流石と言っておこう、美少女よ)

転校生「それでどうなんですか、先生? 付き合ったこととかも?」

先生「ちょ、ちょっと質問は一つずつでお願い。……まぁ、好きな人はいたよ。そりゃあ年頃だったし」

男「付き合ったことないですよね? 今日まで誰とも手も繋いだ経験ないでしょう? そうでしょう!?」

先生「さすがにそれは無いかな……どうして残念そうな顔してるの?」

男「……むしろ安堵の表情ですよコレは。け、経験の一つや二つなきゃちょっと……当たり前っすよね (あの、その、きっと前回までの俺との話を言ってるに違いない。そう、信じたい)」

不良女「へー、先生も若い時はやることやってたんだぁー?」

男「うるせぇ、ヤってねーよッ!!」  不良女「はえっ、何でキレるの!?」

生徒会長「そうですか、先生も私たちぐらいの頃には恋愛の経験が」

先生「いや、それが君たちぐらいの時は全然でして……そういうのはもうちょっとあと」

男「ぐぶっ……大学でですか。サークルの歓迎会とかで酔った勢いでですか。……この話、やめましょう」

転校生「まだ始まったばっかりじゃないのよ?」

男「俺はこれ以上自分の心を虐められたくないんでね!! くそっ、くそぅ!!」

男(いかん。余計な妄想をしてネガティブな感情が爆発しかけている。導火線の火は消えた、たぶん)

男(とにかく良い流れができつつある。皆、普段口にする事のない恋愛話へ興味深々だ)

男「実はキスもまだですよね?」  先生「期待に応えられなくてごめんよ、男くん」

先輩「その人には告っちゃったんですか!? そこんとこどーなんスか!?」

先生「ううん、結局卒業までに思い伝える勇気が持てなくて……お流れ」

先生「みんなぐらいの年頃の子は早く相手作りたいって考えてるみたいだけど、まだ十分機会は残ってるのよ」

先生「だから焦らずじっくり……と言える立場でもないか、はは……まぁ、良い人がいたら仲良くなろうとしてもいいんじゃないの」

男の娘「いきなり投げ槍……良い人かぁ、[ピーーーーーーー]」

男(「何だって?」は必要ない。たとえそう返しても彼は誤魔化しはしないだろう)

男(俺を除いて、美少女たちが各々自身の『良い人』をイメージしているようだ。先ほどまで騒がしかった室内の雰囲気が一変している)

男「今は」

先生「えっ?」

男「今は、気になる人とかいないんですか? 仕事で忙しいとはいえ、誰かしらは良いなって意識はするでしょう」

不良女「お前って急に大胆っていうか、突っ込んだとこまで行くというか……[ピーーーーーー]?」

転校生「……ど、どうなんですか?」

先生「えっ!? あ、いや……今は……とくには……あの」

先生「ちょ、調子に乗って! それを訊くのは卑怯だと先生は思います! ……簡単に言えるわけないじゃない///」

男(素直に答えられたら俺も驚くところだった。まだ場が解れ切っていない。全員が先生へ集中しているわけだ、指標と見て良いだろう)

天使『恋バナでハーレムって意味不明です。それより恋バナってなんぞ?』

男『恋愛全般を話題にしてキャーキャー言わせてみたり、モヤっとしてみたりな』

天使『あんまり面白くなさそうなことだけは理解しましたよ』

男『いや、実は面白いんだよ。人って体験談を話されるだけで語り手の思い出を追体験できるんだ』

男『その時、その人だけが感じた気持ちを自分の立場から見て楽しんでみたり、自分には無い話を聞けるのは新鮮だろう』

天使『えぇ? でもそれって恋愛に限ったわけじゃないでしょー?』

男『ああ、限らない。だが恋愛というのは俺たち学生には近いようで、まだまだ遠い世界の話みたいなもんでな』

男『それも俺も美少女もこれまで恋愛の経験は無いに等しい。かならずその話に対して興味を持つだろう。それこそ、普段とは異なるシチュも手伝って』

天使『ふーん……でも経験してない人たちでどうその手の話を始めるんですか? 無理じゃねーですか』

男『そう思うだろう? 可能性はゼロじゃない。丁度顧問が来てくれるわけだからな……良い歳の大人が』

男『俺個人としてはあって欲しくはないが、先生ならば何かしら語れると俺は信じている。だからコイツを切っ掛けとして動く』

男『今回俺が目指すのは、その場にいる全員から『告白』を受けること。きっと無理だと思っただろ? みんなそんなに積極的なら今頃俺はあっちこっちで付き合えと迫られてるからな』

男『そう、まずは彼女たちの気持ちのセーブを解くのだよ。天使ちゃん!』

天使『どーやって?』

男『さぁ、みんなで勝手にやってくれるさ。勝手に――――――』

男「―――先生がダメなら、不良女。お前は気になる奴とか周りにいないのか?」

不良女「は!? な、何であたしに振って来るんだよ……///」

男「こういう機会でもなけりゃ俺たちが恋愛のついて話すこともないと思って。別に不良女だけに訊くつもりないさ」」

男「俺たちも先生みたいに誰かを好きになった経験の一つあるだろう。まさか、その歳になって興味なしだってか?」

不良女「う、うるせーな! 無い、わけないじゃん……そりゃあたしだって[ピーーーーーー]///」

不良女「だからって今お前らの前で話すわけないでしょ!?」

男「俺は話してもいいと思ってる。絶好のチャンスだから」

男(その言葉一つで美少女たちの目が大きく見開かれた。必死に俺の言った台詞の意味を、これからの意図を探っているのは明らか)

男(一人一人が次の言葉に待ち焦がれている。期待、不安、様々な感情が膨らみ、彼女たちの胸をギュウギュウと締める)

男「……生徒会長、どうですか? 先輩さんも。転校生でも良い。男の娘だって」

男(ここであえて男の娘に訊いたのは彼が起点となればと思ってである。が、答えない。さすがに大っぴらに告白する勇気はまだ持てないか)

転校生「ね、ねぇ……言いだしっぺのあんたから喋ったら良いんじゃないかしら……その、気になる人」

転校生「好きな人のこと……///」

男「ん? まぁ、急かすなよ 転校生。俺だって心の準備が欲しい」

男「……で、先生。本当は気になる人いるんでしょう?」

先生「ちょっとまた君は! だ、だから今はいないって言ったでしょう!?」

男「遠慮する必要ありませんよ。俺たちは誰かに言い触らすような事も絶対しません」

男「いますよね? しつこいようで申し訳ないけれど、分かってるんですからね」

先生「ど、どうしてそんな訊きたいのよ……私のこと///」

男「俺はあなたが誰かのことを気にしているって気づいてます。きっと先生が今イメージした人と一致する筈」

先生「やぁ、や、やめてってば……い、言えないからっ……///」

男「どうしてです? 何か俺たちに、いや」

男「俺に言えない理由があるんですか?」

先生「っ~~~……!?///」

生徒会長「お……男くん。男くんは何故、そこまで彼女に執着するんだ? その、質問を」

男「…………」

生徒会長「おい! どうして答えてくれないんだ!? お、男くん!?」

男「先生、教えてくださいよ。先生が気にしてる人を。俺訊きたいんですよ」

男「どうしても」

生徒会長「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]! [ピーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーー]っ!?」

男(ここまで自分から攻めていこうとした事はあっただろうか。常に受け身とってカウンターを放ち美少女をメロメロにさせていたこの俺が)

男(喰らいつく、どこまでも。目の色を変えて先生のみを視界へ捉え続けた)

男(肌に伝わり感じてくるほどに空気が張り詰めている。彼女たちの頭の中には、おそらく『敗北』の文字が浮かび上がってきただろう)

男(だが、それで諦めがつく者もいれば、そうでない者もこの中には混じっている)

男(やり方こそ間違ってはいえど、お前が俺へ対して抱く気持ちの強さには恐れ入ったぞ……そして)

男の娘「―――僕は男が好き、だよっ!!」

男(全て俺のシナリオ通りじゃないか。なぁ、天使ちゃんよ)

先輩「うえぇえええぇぇぇ~~~!? ちょ、い……いま何か聞こえたぁー!? 何つったぁー!?///」

転校生「あ、あの……さっきの……お、男の娘くん」

男の娘「はぁ、はぁ……あわわ……[ピーーーーーー]。[ピーーーーーーーーガーーーーーー]!!///」

男「…………」

男の娘「お、男……」




男「 え ? 何 だ っ て ? 」

男の娘「なぁーっ!?」

不良女「お、おい! テメー! ……あー、ヤバい展開すぎてよく分かんないけど」

不良女「今のはさすがにどうかしてんだろうが!! サイテーだぞっ!?」

男「……確かに冗談を使う場面じゃなかったよな。すまん、照れ隠しだと思ってスルーしてくれ」

男「男の娘。あの時、二人で温泉入ったときも教えてくれてたよな。ちゃんと気づいてはいたんだよ、俺もさ」

男の娘「じゃ、じゃあどうして」

男「……単純に、少し気恥ずかしかった。というか、分かってはいたんだが驚いちまって」

生徒会長「ま、待ってくれ! 男くんは彼の気持ちに以前から気づいていたというのか! [ピッ]、[ピーーーーー]!」

男「ええ、その通りですよ」

転校生「でも男の娘くんがあんたのこと好きって……大問題じゃ、あっ」

男の娘「う、うん。僕だって本当はこの気持ちが許されるものじゃないって知ってる。知ってる上で、諦め切れなかったよ」

男の娘「前に男の家に僕が遊びに行った時のこと覚えてる? あの時、男は『好きにしたらいい』って言ってくれたんだ」

男(身に覚えのない話だ。だが、俺は彼の好意をそれだけで留めさせてしまったのか。だからこそ今があって、裏切りがあって)

男(それとない一言も、会話もこうして考えると……深くなれるものである)

男の娘「僕、男を好きになる勇気を男から貰った。変だよね……でも、だから気持ちがしっかり伝わってて、僕 うれしいなぁ」

男(実に清々しい表情になった。この前まで自責の念に囚われていた彼とは打って変わって、可愛らしさも倍増)

男(その笑顔は反則級どころかノックアウトものである。なんて惚れぼれとしている暇はない)

男「ところで、どうしてあのタイミングで男の娘はそんな事言い出したんだ?」

男の娘「えっ!? それは……その……男が[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「まぁ、俺も最終的にはどうにかして訊き出してやろうと思っていたから手間は省けたもんだ。へへっ」

先生「あの~……放置されてる先生はどうなるんですか、男くん」

男「だっていくら訊いても答えようとしなかったでしょう、先生?」

先生「で、でも君は私の……好きなひと、知ってる……んでしょ?///」

男「知ってますよ、嘘じゃあない。何なら俺の告白と一緒にその人を言い当てましょうか」

男(男の娘インパクトから思考停止していた美少女たちが、再び焦燥感に苛まれる。あとは芋づる式で全て暴かれていくだろう)

男「全員俺が言い出すのに不満はなさそうだし、いきますか。俺は――――――」

生徒会長「―――私はきみが好きだああぁぁぁ!!」

男「……え?」

先輩「[ピーーーー]……あ、うぁ」

生徒会長「わ、わた、わわわ、わたしは……きみ、お、男くんが……[ピーーーーー]。[ピーーーーーー]///」

生徒会長「[ピーーーーー]、なんだ……あうっ……ほ、ほんとに……///」

男(最初の意気の良さが段々と失われ、足元から崩れると、布団を引っ張って彼女は頭からそれを被る)

不良女「……おいおい、どうなってるんだよ」

男(それは生徒会長を指したのか、はたまたこの状況なのか。不良女はただ呆れたように笑っているだけだった)

男(動揺は残された彼女たちにも現われ始める。それもそうだろう。今まで気持ちを明かすことなどなかったというに、全員の前で、二人も告白が済んでしまったのである)

転校生「男の娘くんも、生徒会長さんもって……あ、あははは」

先輩「と……とりあえずぅー! そんな大事な話の途中で止めにしないで、ちゃんと続き言おうよ! 生徒会長ちゃーん……[ピーーーー]」

生徒会長「うぅ、好きなのっ……///」

男「知ってますよ。いや、知ってましたよ 前から (目元まで頭を出して、瞳を潤ませて赤面した彼女を見下ろし、言ってやった)」

生徒会長「えぇ? 知ってた……? し、知ってたって……あわっ///」

男「実はそうなんじゃないかと少し前から思ってたんです。確信に至らなかったから、何も言えずにいましたけど」

男「俺のことが好きってちょっと信じられなくて。他ならぬ俺自身が」

生徒会長「……ずっと、ずっと好きだった。君が好きで、どうしようもなくて、苦しかった」

生徒会長「苦しかったよぉ……でも、今日言えた……男くん……わたし……[ピーーー]///」

男(いつもの堅苦しい喋り方はどこへ行ってしまったのか。普段の彼女も魅力的だが、このような正に『少女』と変わった彼女も)

男「(実に魅力的でそそられる) 俺の何が気に入ったのかわからないけど、素直に嬉しいです。小躍りしたい気分だ」

先輩「……男くんは、誰が好きなの」

男「え? (と、振り向いた先の先輩は真剣でありながら戸惑いが見え隠れしていた。底抜けな明るさから誤解され易いが、彼女は誰よりも繊細な美少女である)」

先輩「ごめん、生徒会長ちゃん。最後まで話せって自分で言ったのに邪魔しちゃった。でも……[ピーーーーーー]……」

先輩「言って、くれるんだよね、好きな人……男くん?」

男「ええ。今すぐ言ってほしいですか、先輩さん?」

先輩「っ!! あの……えっ……[ピーーーーーーーーーーー]」

男「何か言われて都合悪いことでも?」

先輩「そ、そういうわけじゃ……ううん」

先輩「あははは、ちょっと都合悪いかもしんなーい! だってねぇー! だってさぁー!」

先輩「わたしも……男くん大好きだから! だから……こ、こわいなぁ~……って、えへへ」

男(順調だ。生徒会長が動けば、次にかならず先輩がと分かっていた。必死に笑いに変えようと無理に笑みを浮かべようとしている)

男(だが、それは上手くいかないようで顔が引き攣って、ついには涙が零れてしまったのである)

先輩「[ピーーーーーーーーーーー]~……[ピーーーー]っ……い、いま言わなきゃ、って、思って……ごめんなさい。ごめんねぇ……」

先輩「こ、こんな時に泣くなんて嫌なヤツだよ わたし! あは、あはははっ、ひっく……でも、と、止まんない」

男「生徒会長のことを考えて言い出すのが怖かったというのもあるんじゃないですか?」

男「彼女の気持ちも、周りの気持ちも全部知っていたんでしょう? 俺、先輩さんが嫌なヤツだなんて思ったこと一度もありません」

男「本当は誰よりもしっかり周りを見れて、考えている。でも、それだけに自分を疎かに済ませたり、何も話せなかったり」

男「バカな先輩と来たもんだ」

先輩「バカって言うな、ばか……もしかして前にバカって言ったの怨んでたりする?」

男「前? さー、そいつはよく覚えてませんけど バカには違いないです。ね?」

先輩「っー……なんだよぅ……///」

男「へへ、ん? (突然、肩を軽く小突かれた。先輩からではない。背後から……そこに、不良女が立っていた)」

不良女「いまさっき、お前言ったよな。『周りの気持ちも全部知っていた』って」

不良女「それってあんた、まさか……おい……///」

男「そんなさも俺が気づいていたから言えたような台詞吐いたっけなぁー?」

不良女「[ピーーーーーーーーー]っ……!」

男「何だって?」

不良女「……言わなくても、いいんだろ。気づいてんなら///」

男(素直に白状させてしまうか、自分からその気になるまで放置プレイで苛めてくれようか)

男「(遊びは程々に、ケリは着けられる時にである) お前もあの三人と同じなのかと言ってほしいのか?」

不良女「わああぁぁぁ~~~!? やめろ、やめろっ!! 言うな変態野郎っ!!」

不良女「……ンだよ。そうだったら悪いかよ。あたしが」

不良女「あああ、あたしが! 男のことが好きでおかしいの!? ダメかよ!? [ピーーーーーーー]…」

男「誰が誰を好もうがそいつの勝手じゃねーのか。素直じゃないヤツめ」

不良女「うぐっ!? ……あ~///」プシュー

男「お前も先輩さんと似て周りのことばかり優先したがる傾向があったな。いつも変に気効かせようとしやがって」

男「もっと自分に素直になれば良いんじゃないのか? 俺だったらそうする」

不良女「そこ!」

男「ん?」

不良女「そういう……[ピーーーーーー]が、いい……あんたの///」

不良女「そ、それだけじゃなくて……えっと……よく分からないけど……す、すき」

男「どうも」

不良女「っー……///」

男(余韻に浸る暇もなく、次々と美少女たちがこれまで以上のアタックを仕掛けてくる。不意に天使ちゃんを向けば)

天使「…………」フルフル

男(口をぽかんと間抜けに開いたまま、信じられないと何度も首を横へ振っていた。天使ちゃん、この世界での俺は無敵だ)

男(彼女が同調してくれたように、俺はこの世界で主人公であると同時に神なのだろう。それもハーレム神。誰もが夢見る最高の)

男(だが条件、環境この2つが整っていたからこそ、このイベントが生まれた。その仕度は前周の俺のときから既に始まっていたのかもしれない)

男(散りばめられた全てのピースを集め、ようやくその一部が完成へ近づいたのだろう)

転校生「……もしかして私の気持ちにも?」

男「さて、どうだろうかな。俺って結構抜けてるとこがあるだろ? お前だけは分からないかもしれない」

転校生「鈍感バカ男……便乗するみたいで、あんまり今言いたくなかった。でも」

転校生「分かってないなら、教えるわよ……二度言わないからね! しっかり聞きなさいよねっ!」

男「了解だ。どんっと来いよ、転校生」

転校生「…………」

男「…………」

転校生「あーやっぱり、またの機会に!」   男「今日は二度も来ないぜ、転校生」

転校生「そんなの知って、うっ…………すき///」

男(照れ隠しのつもりだろう。また枕を胸の前で抱いて、俺から目を逸らす転校生。その恥じらい具合がとても愛おしい)

男「髪型も、お前なら色々似合うんじゃないか? たまには結ってみるのも有りかもしれない」

転校生「はぇっ!?///」

男「ツインでもポニーでも、まぁ そのうち気が向いたら見せてくれよ」

転校生「うぅー……どうして……///」

先生「あのさぁ、この流れに逆らったら空気読めないって感じになる? 学生諸君」

先生「……とりあえず私も男くんが好きだって言っておいた方がいいの? ふふっ」

男「言っておいて損はないんじゃないですか」

先生「え、偉い自信あるのねぇ……でも先生からかうなんて良くないんじゃないかなぁ」

男「言いそびれちゃいましたけど、先生、俺のこと好きでしょう? 恋愛対象として」

先生「ぶーーーーっっっ!!? ……い、嫌だなぁ。ストレートに言われてビール零しちゃったじゃないの」

男「ビールじゃなくて、それ缶チューハイですね。もしかして酔ってますか、先生」

先生「……悪い?///」

男「はい?」

先生「教師が生徒のこと好きになっておかしい!? 私はおかしいと思ってるわよ!! 良くない事だって!!」

先生「でも 好きになっちゃったものは、仕方ないじゃない……好きなんだもん……もう自分を誤魔化せないの」

先生「何て言われたって構わない、とまでは言えないけど! とにかく好きになりました! 以上ですっ!」

男「……へー?」

先生「い、以上だってば……あんまり大人を舐めないでよ」

男「そう思わせているなら謝ります。でも俺、先生と冗談交わせながら喋るの大好きで」

男「ちょっと子どもっぽいところ残しながらも、それでも俺たちの前では大人でいようとする先生のこと尊敬しています」

男「カッコいいとこはまだ見てないんですけどね」   先生「どうしてその一言飲み込めなかったかな」

生徒会長「……本当に驚きを隠せずにいたままなのだが、終わったのか」

先輩「めでたく終わっちゃったね~……全員分の愛の告白がよぉ~……」

男の娘「みんながみんな、男のことを……でも、なんだか僕、あり得ないとはちょっと思えないというか」

男(ふむ、主人公へ好意を抱くのは必然であったと言いたいのか。合計6人の美少女と美少年からの一斉告白は、傍から見たら度を超えたギャグかもしれない)

男(それでも充実感というか達成感のようなものを、足早に俺は感じていた。美少女たちも靄が晴れたような気分になったかもしれないな)

不良女「で、まだ一人だけ聞いてない奴がいるんだよな。終わってなんかいねーよ」

転校生「そうよね……あんたの答えだけよ。後は」

男「そろそろみんなも布団へ横になりたいだろうし、終わらせようか……俺の告白で」

また明日

男(息を呑む。一人一人へ目配せをする事で最終確認。愛の告白というよりは、これから戦地へ兵隊を送る司令官みたいな気分である)

男(彼女たちはさながら合格発表を前にした者のような気分だろうか。とにかく、緊張に緊張が重なっていく)

男(これから告げられる言葉で美少女たちの運命が変わる。俺は何度だって時間をやり直せる。だが、それ以外は何も知ることもなく、一度切りの一日を過ごしていくのだ)

男(だから、残酷な運命へ落とすことなく、最高のハッピーエンドへの道へ)

男(華麗に引導を渡してやる)

男「……みんなの気持ちはよく分かった。さっきも話したけど、そんな気はしてたと自分でも思う」

男「俺から訊いておいて、今さら都合が良いかもしれない。言わせなければ」

男「知ってしまう前の、いつも通りの日常をみんなと送れてたんじゃないかって」

男の娘「お、男! それだけは言っちゃダメだよ!」

男の娘「言っちゃったら……僕ら、なおさら[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

先輩「きみはどうしたい? わたしなら、さっきの聞かなかったことにして貰ったって~…」

先輩「ごめん……うそ。もう終わっちゃったったんだもん、わたしの告白。……何度[ピーーー]よ」

転校生「私も先輩さんと同じ。ていうか、ここのみんなもきっと同じよ」

転校生「『絶好の機会』とか言ってたわよね? 私もそうだと思う。あんたに正直になれる、って」

天使「……回りくどーくなっていきそうなんですけど?」

男「それじゃあ俺もそいつに倣って正直に答える義務があるよな」

男「気づいていて訊いたんだ。誤魔化しも要らない、躊躇いも要らない。話すよ」

男「いえ、話させていただきます……!」

生徒会長「私たちはきみがどんな答えを出そうと後悔はしないさ。それだけの覚悟があって」

生徒会長「あ、あったから……[ピーーーーーーーーーーーー]……!」

不良女「そうだよ。何もこの中から選べってわけじゃねーし、あんたはあんたが望んだ通りやったら?」

先生「とか言っちゃって、本当は二人とも内心ドキドキしてるでしょう?」

不良女「当[ピーーーー]ろ……だって///」

先生「さぁ、男くん! もう口出しなんてしないわ。……安心して眠れる結果でありますようにっ」

男「俺はここにいる全員を平等に、好き、です」

転校生「…………ねぇ、私たちを傷つけないようにってつもりなら」

転校生「その気遣いが一番傷つけてるわよ!? そんな答えがあって許されると思ってる!?」

男「これが俺の『正直』だよ、転校生。呆れて貰おうと構わない。俺だって覚悟あっての告白だ」

男「あの言葉に嘘偽りはたったの少しでも入っていたなんて思わないで欲しい!」

男「みんなが……どうしようもなく好きになっちまったんだ……自分が甘いなんてとうに理解してる! だが、これが俺の出した……答えなんですよ」

男の娘「僕は、男が真剣だって分かってるよ。ちゃんと最初に話してくれたもんね、誤魔化しは無いって」

男「男の娘……お、俺は」

不良女「ったくよー。あんたがバカみてぇに優柔不断なとこあるのは、あたしたちもう知ってるんだぜ?」

不良女「どんだけ男のこと、ずっと見てたかまでは、あんたも気づいてなかってみてーだなぁ?」

男「俺のことを? ……どういう意味だ?」

先輩「男くん以上にっ、わたしたちは男くんが分かってるってこったよ! 男くん博士なんさ!」

生徒会長「呆れるを通り越して、実にきみらしい答えだと逆に安心させられてしまったよ」

生徒会長「私たちは……むしろ、気づいてないフリをしていた彼に、これまで甘えていたんだろうな」

先生「で、実際のところ誰が一番なのかな?」

男「だから、一番も何も、順位なんて俺にはつけられない……!」

先生「ふふっ、冗談だよ。さっきのお返しだと思いなさい? どうした少年、いつもの余裕がないぞ~?」

男「みんな俺を責めようとしないのか? 自分でも最悪だって理解した上で答えたんだぞっ、裏切ったようなもんだ!」

男「哀れんでそんな声を掛けているなら止めてくれ……いっその事、俺を忘れて新しい恋に走ったらいい!」

男「こんな変態で屑でどうしようもないバカよりも、もっと好きになって良かったって思える奴は山ほどいる! だから!」

転校生「そういうとこが、ばか、なのよ……鈍感バカ」

転校生「さっきはあんな事言っちゃったけど、私だって少しは安心してたかもしれない」

転校生「あんたが大好きだけど……今の、メンバーとの関係が崩れちゃうのも怖かったから」

先輩「壊れないよぉ~♪ 男くんが誰と付き合ったりしたって、ラーメン愛好会は通常営業のまま何にも変わらない」

先輩「だって、この程度で終わったりしたら! せっかく男くんが頑張って立ち上げ直してくれたここに申し訳ないもん!」

男「俺が……違う、そうしたのはあなただ。俺は何も頑張ってなんか」

生徒会長「どうしてそう思うんだ?」

男「…………」

生徒会長「私はきみのお陰で入部した。そして彼女とも仲を取り戻すことができたんだよ」

生徒会長「男くんがいなければ、私たちの時間は止まったまま、動き出すこともなく、終わっていたと思う」

先輩「うんっ! だからとっても感謝してるんだよ、男くんには! ……だから、好きになって本当に良かった」

男の娘「僕も男を好きになれて凄く幸せ。後悔なんてありえないよ。その価値が男にはあるんだ」

男の娘「どう転んだって、嫌いにもなれないし、無理矢理でも忘れられない! だって好きなんだもん!」

不良女「でもお前も野郎の内だろうが?」

男の娘「愛に性別なんて関係ないんだよ、もう! 吹っ切れちゃった……へへ」

不良女「わぁー、恋って怖いよな。周りが見えなくなっちゃうんだもん。まぁ……そこはあたしもか」

不良女「つーわけです。あたしら全員、あんたを嫌いになるなんて無理な話なワケ」

不良女「だから、何て言ったらいいかな。今より好きになりたいっていうかさぁ……」

先生「もっと好きでいたい、かな?」

不良女「あっ! そうそう、それそれ! って……[ピーーーーーーーーー]///」

男「……何て言ったんだ?」

転校生「……あんたのこと、男のこと……まだ好きでいていい? 私たち」

先輩「でぇ~ 隙あらば猛烈アタック仕掛けて落としちゃおうってわけヨ! 抜け駆け上等ってな感じで!」

男の娘「ぬ、抜け駆け!? ぼ、僕は絶対に負けませんよ! 男の一番になるんだからっ!」

男「バカじゃねーのか……よくこんな俺に」

転校生「す、好きになるのに畏まった理由なんてないの! あんたには一生理解できないだろうけどっ!///」

男「ああ、一生無理だろうなぁ……はは、何か急に糸が切れたというか」

男「猛烈に疲れちゃったよ、俺」

生徒会長「確かにな。合宿……本当に良い思い出になったよ。明日には帰るんだ、寝るとしよう?」

先輩「じゃあ全員でこの部屋で寝るに一票ぉ~!!」

「…………!!」

男(賛成7票。多数決の結果、先輩の提案通りギュウギュウ詰めで全員が就寝)

男(俺の隣をここぞとばかり、虎視眈々と美少女たちが狙う。眠りにつくまでは時間はさほど掛かりはしなかったと思う)

男(だが、目を覚ませばかならず横に誰かが、の繰り返し。先ほどまでいた男の娘が死体のように、向こう側へ放り投げられていた)

不良女「すー……すー……んんっ、[ピーーーーーーーー]。[ピーーーー]、[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「……俺は、俺は」

男(成し遂げたぞ!!)

男(記憶に残る難聴鈍感主人公たちを参考に、イラ立つほどしおらしく務めた甲斐もあったものだ)

男(皆が納得して、俺を取り巻くことにした。自分たちから進んで! 好きなままでいたいと!)

男(感じろ、これが真のハーレムである! 俺が求めていた夢はけして遠くなかった! 今ではこんなにも近い!)

男「手が届いたああぁぁぁ~……いひっ、うひゃひゃひゃ……くはっ!」

男「部屋の端から端まで、あそこに寝そべっている全員俺のものだっ。一人残らず全てだっ……!」

男「ここ、こんなに気分が良いもんはない……あはっ、ハーレム! 美少女のハーレム!」

男(まるで自分がこの世を手中に収めた魔王にでもなった気分である。敵なんて存在しない。欲望を抑え込む生活が、遂に報われた)

天使「マジでやりやがっちゃったんですねぇ」

男「ん? ああ、マジだよ……だがな、天使ちゃん?」

男「まだ足りなぁーい……!」

天使「うっ、ガチで男くんって欲深ですね。これだけやってまだ満足しないんですか?」

男「だって俺の野望はまだ始まったばかりだろう? これはその第一歩だよ」

男「ゲームソフトを店で買って来て、ようやく帰宅して説明書を読み終え、ゲーム機へカセットを挿し込んだってところさ」

天使「長々しい上に自分にはよく分かんない話をご丁寧にどうも」

天使「……まぁ、この調子で上手くやれば男くんの夢も遠くないんじゃないんですか?」

男「かもなぁ……天使ちゃんもどうだ? 俺を囲む美少女ハーレムメンバーの一人になるというのは?」

天使「やですっ! 自分はそんなその他大勢に含まれる気ねーですよ!」

天使「どうせなら一番が……がっ……あ///」

天使「うるせーです、うるせーです、うるせーですっっっ!!///」

男「…何にも言ってないだろうが」  天使「うるさいっ!!」

男「OK。じゃあもう寝るから静かにしてくれよ、喧しいと寝れん性質でな」

天使「寝ろぉーっ!!」

男(天使ちゃん、彼女の心は既に掴めつつある。時間の問題だろうか……本当に彼女と契約を結び、俺は向こうへ帰れるのか)

男(委員長。きみは一体なぜ俺をあ[ピーーーーーーーーーーーーーー])

「今の自分を変えたい、ですか?」


「本当に?」


「今のままでも、十分幸せでいられると思いませんか。私はこうしてあなたと過ごす何気ない時間が楽しい」


「惨めだなんて言わないでくださいよ。言われるこっちの身にもなってみて欲しいものです」


「……満たされないってその気持ちは確かなんですか。私だけでは不十分?」


「ふふっ、冗談です。ちょっと悪戯してみたくなっちゃって。すみません…………ありますよ。自分に自信を持てる方法」


「協力してあげましょうか? あなたが望むならそれを叶えるのも私の[ピーーーー]」


「……何ですか急に。……それ、大切なものでしょう? ダメです。受け取れませんから……」


「[ピーーーーーーーーーー]……いえ、何でもありませんよ? それじゃあ」


「預からせてください、それ」

男(目を覚まして真っ先に飛び込んでくるもの、それは、はだけた浴衣から覗く胸)

男「……エロい!」

先輩「ふぁ……ふああぁぁ~……おとこくぅん、おはひょー」

先輩「ありゃあ、どこ見てるの……え[ピーー]だねぇ……///」

男「す、すみません! でも起きていきなりそんな物が前にあったら誰でもガン見するってもんですよ!」

転校生「変態以外そんなやらしい事しないんじゃないの。ねぇ、男の娘くん?」

男の娘「ハレンチだよっ、男ぉ!!」

男「言われてもなぁ (いつもと少し変わった朝は新鮮だった。あの夜からは考えられない茶番が心地良い)」

男(短くも長くも感じられたラーメン愛好会初合宿は幕を閉じつつある。といっても、朝食も終え、あとは宿を出るだけである)

男(駅までの移動の際、途中どこにでもある店を覗いたり、締めぐらいはとラーメン屋を探してみたり、充実過ぎたほどに充実だった)

男(それが一番良く感じられたのが、やけに美少女たちが俺へ積極的に絡むようになったという点が大きい。些細な変化かもしれないが、告白させた分 好意の表し方が違う)

男(合宿という名の大イベントは成功に終わった。勿論、俺の勝ちで)

男(すっかり日も暮れてしまった。家で幼馴染と妹が俺を待ち侘びているだろう……さぁ、「おかえり」と両手を広げ迎えるがいい)

妹「お土産は……?」

男「やらかした」

切りいいんでここまで

男「お土産の一つや二つでそんなに怒るなよ。今度帰りにアイス買って来てやるからさ……」

妹「せっかくこっちはお兄ちゃんのために、晩ご飯作って待ってたんだよ! それなのに!」

男「晩ご飯? まるでお前がわざわざ作ったみたいな言い方じゃないか」

妹「私が作ってちゃおかしいの!? [ピーーーーーーーーー]…」ムスッ

男(すっかりご立腹な妹と並んでリビングへ戻ると、幼馴染が台所に立って洗い物をしていた。待て我が妹よ、お前がやったのは)

幼馴染「あっ、おかえりなさい! ちょっと太った?」

男「……なぁ、料理したってのは仕度から片づけまで自分でやってこそだと思うんだが?」

妹「あーっ!! 何もしなくていいって最初に言ったのにぃ~!!」

幼馴染「ごめんごめん、なんだか一日一回はここに立たないと落ち着かないの。これぐらいは手伝わせて」

幼馴染「でも、男くん。妹ちゃん本当に一人でご飯作ってくれたんだよ? 男くんに食べさせてあげたいんだって」

妹「ちょお!? [ピッ]、[ピーーーーーー]……///」

男「そうなのか? だがお前が料理できるなんて俺は知らなかったぞ」

妹「その辺は……ほら、幼馴染ちゃんに聞いたりして……つ、作ったんです」

妹「前にお兄ちゃんがクッキー焼いてたじゃん……だ、だから私も何かできること教えてやろうと思って……」

男「ほーう? (俺がクッキーだと。これまで料理もお菓子作りもした試しがなかったのだが。どういう経緯でそうなったのやら)」

男「つまり俺に対抗意識を燃やしてと?」

妹「そうっ!!」

幼馴染「ふふふ、もう素直じゃないなぁ……」

幼馴染「あーんなに お兄ちゃん食べてくれるかな、お兄ちゃん気に入ってくれるかなって心配してたのにー」

妹「ぎゃああぁぁぁ~~~!? 言ってないっ、言ってないからっ!?///」

男(なんと可愛らしい妹だろう。兄は散々遊んでお土産もすっかり頭の中から飛んでいたというに)

妹「……べ、別に食べろとは言わないし、何だったら昨日の残り物冷蔵庫にあるし。[ピーーーーー]」

男「俺が食わなかったら、せっかく作った晩ご飯はどうするつもりだ。捨てるのか?」

妹「ん……」

幼馴染「えぇ、あんなに頑張ったのにそんな事しちゃダメ! 努力も料理も勿体ない!」

妹「だって[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]……///」

男「ゴミ箱に食わせちまうぐらいなら、俺の胃袋に収まった方が食べ物も喜ぶってもんだ」

男「すぐに用意できるんだろ? 俺もう腹ペコでな……お腹と背中がくっついてペーパーマンになりそうだよ」

男「…おい、どうした? 飯はよっ!」  妹「えっ!? わぁぁ、ちょっと待ってて!」

妹「……えへへーっ♪///」

男「あの調子なら詫びのアイスももう必要なくなったか」

天使「じゃあ代わりに自分が!」  男「代わりはない!」

男(それでもしつこく懇願する彼女へ「太った?」と話せば青冷めた顔で部屋の隅へ体育座り。まず天使が人と同じように余分な肉を付けることなどあるのだろうか)

男(椅子に掛け、しばらくすると二人が、さっさっと、食卓へ物を並べていく。よほど張り切ったのだろう。だが)

男「……ちなみにコレは」

妹「……見れば分かると思うんですけど?」

男「……分からんから一言訊いた。コレは?」

妹「ビーフストロガノフ」   男「数ある定番手料理を差し置いて!?」

妹「だって、名前からして強そうだったから。ほら、カレーとかじゃありきたりじゃん! ちょっとチャレンジしたっ!」

男「『強そう』なのがどうしたんだよ……」

男(別に特別おかしなところは見られない。食欲は沸かされたし、口にしても悪くなさそうだ)

幼馴染「圧力鍋とか使って結構本格的に仕上げたんだよ。牛肉とか柔らかくなってて美味しいと思うな」

男「おいおい、マジで妹一人で作ったのか! お前が脇から何度も手出して結局妹は火を見てただけとかじゃ!」

妹「だから本当に私だけだってば! 信じてよっ!」

妹「…まぁ、幼馴染ちゃんもちょーっと手伝ってたけどさ」  男「ちょーっと、が怪しい」

幼馴染「あ、あたしは手出さずに口だけだったから!」

男「妹が作ったとか言ったからもっと簡単なものだと思ってたんだが、意外すぎて面食らってる」

妹「ししっ、意外っしょ~? そういうのも狙っての選択なんだからっ!」

幼馴染「ほら、見てるだけじゃなくて、食べてあげて。味はきっと美味しいって保障できるから」

男(フォーク片手に躊躇する俺。こんな本格煮込み料理、母親も滅多に作ることはなかった)

天使「うまそう……うまそう」ダラー

男(哀れなロリ美少女の口へ運んでやりたいところだが、一口目は俺が頂く。何故なら妹が俺のために頑張ってくれたのだから)

男「…………んむっ」

妹「ど、どう? 美味しい? 食べて平気? 歯欠けたりしてない?」

男「鉛でも混ぜてるのかよ。……美味いよ、上出来だな。ビーフシチューみたいだ」

男(その言葉に不安気な表情を一気に明るくさせ、跳んで喜ぶ妹。隣の幼馴染と手を当て大袈裟すぎるほど、である)

幼馴染「だから大丈夫って言ったでしょ? 何にも心配要らなかったんだから」

妹「うん、うんっ! あはっ! お兄ちゃんに[ピーーーー]た! ねぇねぇ、もっかい食べて感想聞かせてよ!///」

男「う・ま・い。大変美味しゅうございます。……まぁ、お前にしちゃよくやった方なんじゃねーの」

妹「と、当然っ! だって私やる時はやる子だもん! もっと、もーっと誉めてもいいよ! 誉めて!」

妹「むふ~♪ こんなに料理上手な妹がいる事にきっちり感謝しないとね、お兄ちゃん」

男「誉めるとすぐつけ上がるのがお前らしくて良いよ、まったく」

男「しかし、美味いとは言ったがこの俺にはまだまだ遠く及ばないのを忘れるな?」

幼馴染「またそうやってすぐ……兄妹揃って素直じゃないんだから」

妹「むっか、ケチつけんならもう食べるな!」

男「ケチってわけじゃない。俺とお前で一緒に作ればもっと美味いものができると思わないか?」

男「今度、また休日にでも、俺たち二人で作るとしようか」

幼馴染「えっ、二人だけで? それは流石に……それに[ピーーーーーーー]」

男「ん? 勘違いするなよ。別にお前を除け者にしようって話じゃない」

男「今度はお前が俺たちの審査員役ってことさ。たまにはいいだろ? お前の為に頑張っても」

妹「そうだよ! 幼馴染ちゃんより美味しくて凄いの作ってやるんだからね! 勝負っ!」

幼馴染「あ……ありがと……///」

男(どちらか片方とだけイベントをこなすつもりは毛頭ない。すっかり三人家族にも慣れたものだ、なんて居心地の良いのだろう)

男(……だが、そんな時間も程々にして、自分のやるべき事をやらねば)

男(夕食も済み、部屋へ戻った俺は、携帯電話片手にとある美少女へ電話をかけた。顔が見えないからこそ、今勇気を出して彼女へ)

男「あんまり出て欲しいって気にはならないが…」

天使「最近大忙しですねぇ、男くん。ご飯食べて休む間もなく次は何ですか?」

男「少し大人しくしててもらえないか、天使ちゃん。ここからは真面目な俺だ」

男「いや、いつだって俺は真面目だけど――――!」

男(数十秒続いたコール音を切って、よく透き通った耳触りの良い声が応える)

後輩『もしもし? 先輩?』

男「ああ、俺だよ……こんな時間に悪かったな」

後輩『いいえ、全然気にしてませんから。先輩とならいつでも話していたいと思ってますからね』

後輩「なんて 冗談ですよ。それで? 突然電話なんて寄越して、どういったご用件です?』

後輩『もしかして……ふふ、デートのお誘いとか?』

男「残念ながら。今回は」

後輩『ああ、期待してたのにそれは確かに残念ですねぇ』

男(お前はいつだってそうだ、何処か掴み所がないというか、俺を戸惑わせる)

男(アレは間違いであって欲しい。彼女があんなバカな真似をする筈がない。いつもの『冗談』だったと笑ってくれ)

男「あのっ……後輩、訊きたいことが……いや、やっぱり……うっ」

天使・後輩「『どうしましたか?』」

男(二人の声が丁度で重なる。この行動は正しいのか? 下手に例の話を展開させては、後輩を困らせてしまうだけでは?)

男(そして我がハーレムの園から彼女が離れて行ってしまうのでは。考えれば考えるほど、脳がパニックを起こしてしまいそうになる)

男(……ここで問題を放置したところで、気兼ねなくモテモテ生活を堪能できるものか。これだけはハッキリさせるべきだ)

男「(幼馴染の為にも、後輩の為にも) この前のデート、楽しかったか」

後輩『え? ああ、楽しめたからこそまた誘っていただけたらと考えてるんですよ、先輩』

後輩『先輩こそどうでした? 終始私に振り回されて……これでも申し訳ないって気持ちがあるんです、私』

男「申し訳ない、な……俺も良かったよ。また行こう。今度は綺麗な風景でも撮れそうな場所へ」

男「あのな、後輩。あの時別れ際にお前のデジカメ、俺が取っただろう。覚えてるよな?」

男「それで俺さ、あの中に保存されてた―――」

後輩『―――合宿は楽しかったですか、先輩?』

後輩『行ったんでしょう? 兄もさっき帰って来て、お土産渡されちゃいました。すごく喜んでて』

後輩『教えては貰えないだろうけど、きっと何かあったんでしょうね』

男(何故 俺の話を突然遮った……)

男(まるで無視だ。何事も無かったように、俺の言葉を待つこともなく、一方的に彼女はそれを続けている)

男(信じたくはなかった。彼女が疚しいものを抱えていたなんて思いたくもなかった)

男(頼むから誤魔化さずに、俺から逃げようとしないでくれ。疑いが確信に変わってしまう)

男(俺の早合点かもしれない。けれども、認めざるを得なかった。怪しむだけの根拠が揃いすぎている)

男「……本当に、やれやれ……はぁ」

後輩『兄と、いえ、部活の方々と楽しいことでもありました? 先輩?』

男「黙れよ、茶番はもう終わりだ」

後輩『え?』

男「お前がやっちまったことを訊きたかった。楽しい思い出に浸りたかったワケじゃあない」

男「……話を逸らそうとしないでくれ。頼むから、この電話を切らないで真面目に聞いてくれ」

男「冗談じゃないんだよ、後輩。コイツは」

後輩『……ふぅん、そうなんですか』

男「本当は直接会って話すのが一番だと思ってる。だが、俺は自分で思ってるより臆病だ」

男「面と向かって言える勇気がない。それでも、どうにかしてケリをつける必要があるから」

後輩『たとえ私を傷つけるようなことになったとしても?』

男「……参ったな」

後輩『先輩はこれでも優しい人だってよく知ってますから。でも、さっきの私のせいで、少し頭に来ちゃったんでしょう?』

後輩『誰かの為に動こうとするなんて、先輩らしくなくなったんじゃないですか? うふふ』

男「いやぁ、マジで参ったよ……どうしてかな……お前」

男「何がしたいんだよッ!? アイツが本気で怖がっていたの知らないのか!?」

男(調子一つ崩さず、後輩はふざけた返事ばかり寄越すのであった。相手は美少女だ。しかし、流石の俺でも怒りを抑えられなかった)

男(幼馴染へ好意を抱いていたからとか、そんな甘酸っぱい理由なんて彼女の言葉からは考えられない)

男(『悪戯』。それも性質の悪い。勝手なイメージがぐるぐると頭の中で巡り、彼女に失望しつつあった)

男「アイツを、幼馴染へ嫌がらせしてるのはお前なのか! カメラの中にあったあの写真は何だ!?」

男「どうして……理由をしっかり教えてほしい……」

男「怒鳴って、悪かった」

後輩『謝る必要ありますか? 先輩は何一つ悪いと思ったことをしてないでしょう?』

後輩『謝らなければいけないのは、私の方だ。そうじゃないですか?』

男「自覚はあるんだな、その様子だと……ていうか、認めてるのか」

後輩『やっぱり、真面目な話は直接会って話した方がいいですかね』

男「は……?」

後輩『ですから、電話で済ませられる話じゃないって先輩も分かってるんでしょう』

後輩『簡単な話じゃないって、冗談なんかじゃないって……ですよね?』

男(口内が乾いたせいか、彼女に拍子抜けしてしまったのか、返す言葉が見つからない)

後輩『先輩が怒る気持ちも分からないでもないんですよ。大切な人を困らせてしまっているんですし』

後輩『ん、会えばいきなり殴られたりしますか? また怒鳴られちゃうだけ?』

男「お前……」

後輩『あは、すっかり呆れたって感じですかね』

男「……もういい。明日学校で続きをやろう、それで十分だ。切ってくれ」

後輩『ねぇ、先輩? 先輩はいまの自分に満足できていますか?』

後輩『明日……いつもの場所で落ち合いましょう。気楽にして声を掛けてくださいね』

男「おい、気楽にって!? ていうか、いつもの場所って何処を…」

後輩『どんなあなたでも、私は笑って迎えようと思いますから―――それでは、おやすみなさい』

男「待っ…………予想外というか、ワケが分からないというか」

天使「男くん……?」

男「俺の言ってたこと、何か間違ってたかな……天使ちゃんよぉ」

ここまででん

天使「男くん、自分はこんな時なんて励ますか分かりませんけど!」

天使「細かい事は気にしねーで、さっさと寝るのが一番なのですよ!」

男(波のように広がったシーツのしわをせっせと伸ばして、適当な漫画を手に取った天使ちゃんが招く)

男「横でそんな物読み聞かされたら落ち着けないよ、それゾンビとか出てくるヤツだ。夢に出てくるわ」

天使「でもでも、棚の中見ても悪趣味そうな本しか見つからないんですよ!」

天使「じゃあ何ならリラックスできそうですか? 遠慮なく教えてみやがれですっ」

男「…………」

天使「男くん? って、どうして笑ってるんです? ははぁ、自分が文字が読めないとか思ってるんでしょう?」

天使「それなら問題ねーです。これでも人間の言語は数ヶ国ほど把握してます! 所詮、猿の生み出したぁ……聞いてますかー?」

男「聞いてる。ありがとう、天使ちゃん。悪かったよ、下手に気遣わせてしまって」

男「もう平気だ。あの程度で心折れる柔な奴じゃないってお前も知ってるだろう?」

天使「でも さっきは滅多にキレない男くんが怒鳴ったり、ガッカリしてたじゃないですかぁ!!」

天使「そんな男くんといると自分も調子狂っちまうです……いつも通りのクソ変態でいてよぅ……」

男「変態は了解しかねるが、なるべく期待に応えよう。大事な友達のためなら苦じゃないね」

男「いいなぁ、友達は!」   天使「ニヤついててキモッ!」

男(布団へ横になるには少しばかり早い。幼馴染もまだ帰宅していないようだし、二日間相手にできなかった分、彼女たちの美少女っぷりを堪能しようではないか)

男「何してるんだ、二人とも? (リビングへ降りると、ソファに並んで座る二人が膝へ本を広げて談笑を楽しんでいたのである)」

幼馴染「アルバム見てたんだよ。昔の話してたら妹ちゃんが部屋から引っ張り出してきてくれて」

男(アルバム……この世界にもきっちり彼女たちと俺と幼い過去が存在するのか)

男(興味本位で覗き込んで見ると、校門の前で母親の後ろに隠れて頭だけを出して写った、小学生ぐらいだろうか、妹が確認できる)

男「知らんロリ美少女だ」

幼馴染「何言ってるの? でもやっぱり小さな頃から可愛いね。昔はすぐ泣き出しちゃう子だった」

妹「えーっ、そんな事ない! 今も昔も変わりないってば! ねぇ、お兄ちゃん?」

男「いや……お前はかなりの泣き虫だったよ。よく覚えている。寂しがり屋で、一人にされると、すぐ泣き喚いて……」

幼馴染「ほら?」  妹「違うもん!」

男(思い出話に耳を傾けて分かったことがある。この世界においての幼い自分と妹は、俺の知る過去と一致していた。細かな出来事も、家族旅行へ行ったとか、俺が溺れかけたことがあったとか)

男(キャラクターの美化のみが決定的に二つの世界を分けていた。ふと思う。この世界は俺が知る全ての記憶をモデルとして生み出したのだろうと)

男(細かな部分は神が合わせて作りだしたか、改竄してるのだろう。そしてこの俺は、その世界の変化には一切気づけない。だから人間以外の全てに違和感なく、これまで過ごしてこられた)

男(作り物の箱庭には違いないが、たとえ偽りだろうと不気味に感じはしない。元いた場所と比べればここは天国、向こうはゴミの掃き溜め)

男「誰が帰りたいって思うんだろうな……委員長」

幼馴染「これでアルバムおしまい? もっとちっちゃい男くんと妹ちゃんみたかったなぁ」

幼馴染「この頃から男くんって[ピーーーーーーーーーーーーー]///」

男「は? お前いま何か喋ったか?」

妹「探せば色々出てくると思うけど、あの部屋散らかってるからちょっと面倒臭いんだよねぇ」

男「あの部屋? ちょっと待て、いくら家族とはいえ、親の寝室勝手に漁ったんじゃないだろうな?」

妹「そこじゃなくて。そのアルバムも、昨日お兄ちゃんがいない時に幼馴染ちゃんとあそこ掃除して見つけたの」

妹「お父さんってば、使ってないなら使ってないで整理してなきゃダメだよねぇ。滅茶苦茶埃ぽかったんだから!」

幼馴染「あはは……でも、掃除してすっかり綺麗になったからしばらくの間は」

男「お前らさっきから何処の部屋について言ってるんだよ? ウチに使ってなかった部屋なんてないぞ。倉庫らしきものも…」

妹「倉庫? まぁ、倉庫っちゃ倉庫だと思ってたけど……もしかしてそれも忘れちゃってたの、お兄ちゃん?」

男「忘れたというか……自分の家の中ぐらいは流石に……」

幼馴染「どっちにせよ覚えてないのなら、一度見てみたらどうかな。アルバム探しのついでに!」

妹「もうアルバムいいってばー! きっと碌なの残ってないよ!」

男(すっかり俺を置いてけぼり気味で話は進む。『あの部屋』とは二人は何処を指しているのだろう?)

男(まさか、神が新たに作り出していた部屋とか……そんなもの、我が家に増やされる意味があるのか?)

男(二人の後ろを着いて行き、辿り着いた部屋は、両親の部屋から進んだ奥の廊下に存在していた。電気を点けなければ昼間でも明かりは入ってこないだろう)

男(普段ここまで来ることはなかったとはいえ、俺の注意不足だったのだろうか。おそらく初めて見る扉の前で呆然とした)

男(初めて……本当にそうなのか……[ピーーーーー]も思えないか? 俺はこの部屋を[ピーーーーーーーーーーーーーー]?)

妹「ね、しっかりあるでしょ? 別に覚えてなくても大丈夫だと思うけど、自分の家にある場所なんだから一応ね」

男「前は父さんが使っていたのか? 俺やお前、母さんは?」

妹「えぇ? どうだったっけ……あれ、でも確か[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「何? おい、何て言ったんだよ?」

妹「ん~~~……ちょっとよく覚えてないし、気にする必要ないんじゃないの?」

幼馴染「さてさて、お宝発掘だね。三人で入ると少し窮屈かもしれないけど、その方が早く見つかるかもだし」

男「そんなに狭いのかよ。だったら無理して俺まで入るつもりは―――」

妹「うーん! やっぱりどこだろうと綺麗にしてると気分良いもんだねっ、本当に昨日開けた時は凄かったんだから!」

妹「ね、綺麗になってるでしょ? あ、覚えてなかったんだっけ?」

幼馴染「ちょっと寒く感じちゃうよね、ここ。明かりも入らないようにしてるみたいだから一層……男くん?」

男「…………」

男(翌朝、いつものように優しく幼馴染から起こされた俺は、呑気に美少女とじゃれ合うでもなく)

男(『例の部屋』の前に立って、扉も開けもせず、じっと眺めていた)

天使「男くん学校行かないんですか? 幼馴染ちゃんがまた遅刻するって言いに来ちゃいますよ?」

男「なぁ、天使ちゃん。この世界に存在する全ては俺の記憶を頼りに作られたものなのか」

天使「ん? 別に男くんの頭から抜き出した世界じゃないですよ。現実世界の人間とその他諸々をこっちが勝手にモデルにして」

男「人はいい。また質問になるけれど、たとえば建物とか部屋とか、そういう物が新しく増えていたり、逆に減っていたりする事は?」

男「都合良くこの世界が周るように、神がそうしたっていうのは聞いてないか?」

天使「それについては断言して言えます。そんなのねーですよ」

天使「元々存在する物はそのままだし、絶対増えても減ったりもないです。男くんに与えるのは幸せな日常と美少女ですからねぇ!」

男「それを信じたとすると……俺はなぜこの部屋を知らなかった?」

男「ありえない、今まで存在した場所までも忘れちまうなんて。たとえ どうでも良い所だろうと」

男「美少女とその日常について忘れる事には、よく分からんが納得した。でもコレだけは……どう考えたって」

幼馴染「男くーん! どこー? そろそろ家でないと危ないよー?」

男「わっ、ああ! 今行くから! ……考えられるのは俺に関する記憶じゃないのか、天使ちゃん」

天使「えー、考えすぎじゃ?」

幼馴染「それじゃあまた昼休みにね、男くん。男くん?」

男「え? ああ……いや、ううん、最近は誰かに着けられているとかないんだよな? 写真を撮られたりも?」

幼馴染「うん! きっと男くんが傍にいてくれてるから。本当にありがとうね、すごく助かってる」

男「礼なんて要らん。お前が何事もないのなら、それで何よりだ。とにかくまた危ないと感じたら我慢しないで教えてくれ」

幼馴染「わ、わかった……[ピッ]、[ピーーーーーーーーーーー]ぉ……///」

男(あの日からめっきりストーカーに追われる事はなくなったらしい。以前、がよく分からないが、幼馴染は不安を感じさせない笑顔をよく向けてくれるようになった)

男(登校時、『彼女』が現われなかったのはほっとしている。昨日の件で、刺激させてしまい、再び行動を起こすのではと心配があった)

男(それ程までに、俺はあの美少女へ気を置いてしまっている。嫌っているわけではない。ただ、あの子が分からなくなっていたのである)

男(不審を拭おうとする言い訳をするでもなく、悪意など丸っきり無いように、罪を認めたような口振りで彼女は話していた。楽しんででもいるというのか?)

天使「あらためて学校の中一周しなくても、何もおかしなとこありませんってばー?」

男「それでも確認というか、分からなくても見ておきたくてさ。まぁ、黙って座ってるより動いてた方が落ち着くというのもある……」

男「落ち着きたいんだ。俺はとにかく冷静を保つ必要がある。じゃないと、アイツをただの悪者にしてしまいそうで怖くて」

天使「ふーん。でも、落ち着きたいならトイレとかに籠った方がいいんじゃないですか? だって男くんが下手に歩き回りなんかすれば」

男「何? ――――――おい、まだ心の準備も済んでないというに、どうして」

後輩「ああ……おはようございます、先輩」クス

男(今一番見たくなかった美少女が丁度廊下の角を曲がって、目の前に現れてしまった)

男(後輩は何事もないといった、至って普通に、彼女のままで柔かな笑みを浮かべて一礼する。それが返って不気味)

男「おはよう、後輩。調子良さそうだな」

後輩「…………?」キョトン

男「……どうした、不思議そうな顔して。俺の顔に何か足りてないパーツでもあったか」

後輩「いえ、ただ ちゃんと挨拶してくれるんだなって。そうですね、調子は悪くないですよ」

後輩「ふふっ」

男「っー……む、無視されるとでも思ったかよ。殴るなんて乱暴する気はねーぞ、女の子はけして殴らん」

後輩「そもそも殴る勇気なんて先輩にはないんじゃないですか?」

男「おい、お前は俺を怒らせたくて仕方ないのか。え?」

後輩「怒らせるなんてそんな。いつものくだらない冗談です。落ち着いてください、ね?」

男「(落ち着きたかったところを、お前が邪魔したんだがな) ……ここで会えたのは偶然だとしても悪くなかったかもしれないな」

男「お前が昨日話した『いつもの場所』を訊きそびれてた。それに、昼休みなのか、放課後に会うのかも。だから今!」

後輩「本当に覚えてませんか?」

男「覚えてないというより、知るか! だ! お前との、いつも、なんて無かっただろ!?」

後輩「本当の、本当に? 覚えていない?」

男(後輩の顔がぐっとこちらへ近づく。悪戯そうに、俺が戸惑い、一歩下がる様を見て口角を上げる)

男「どうせそれも冗談なんだろ……止せよ、そんな気分じゃないぞ……!」

後輩「私もそんな気分じゃありませんよ、先輩。本気で尋ねてるんですから」

男(後輩が、いまの彼女が、俺には、分からない。理解できそうにない。ワケが分からない)

後輩「……こういうのが苦手なところは変わりありませんよね」

後輩「ふふ、覚えてないのも無理ないと思ってますから大丈夫ですよ。ちょっと試してみただけですから」クルッ

男(? ……? ……頭が……混乱してきた。後輩は踵を返して、日差しさし込む窓から外を眺め、そう口にする。今度は一体どんな顔してだ?)

後輩「今日も天気が良いですね、先輩。以前はこういう日は仰向けに転がって空を眺めたりもしましたね」

後輩「流れる雲を数えてみたりして、本当にどうでもいい時間を過ごした……でも、そのどうでもいい時間も大切なんでしたっけ」

男「……なぁ、何が言いたいんだよ。お前は?」

天使「はっくしょ~~~~~~んっっっ!!!」ブシッ

男・後輩「!?」

天使「う~……スッキリしたぁ……あ、気にせず続けてくださいよ、男くん」

男(良いのか悪いのか、なんというムードブレイカーだろうか。天使ちゃんよ……あれ?)

後輩「たまには、どうです? 私と一緒に雲でも数えてみますか?」

後輩「すごくくだらないけど、落ち着いてゆっくり話ができると思いますよ」

男「……ふむ」

男(天使ちゃんのお陰もあってか、冷静に彼女の言葉の意味を考えられた)

男(冗談混じりなのか、本気なのか、そこのところの判別はつきそうにないが。なんと回りくどい奴だろう)

男「……それは良いな。こんな所じゃ一々お前の冗談に腹を立ててしまいそうで困ってた」

男「放課後、待っててもらえるか? 今日は部活も生徒会も休みなんだ。あったとしてもお前を優先すると約束しておく」

男「かならず行くよ。『いつもの場所』に」

後輩「訊かれなくたって待つつもりでいましたよ。昨日もそう話したじゃないですか、せーんぱい」

後輩「ふふっ、お茶菓子でも用意して待っていますから。先輩とゆっくり話ができることを期待して」

男「……勘違いされても困るから釘刺しておくがな、お前にとって楽しい話ができるとは思うなよ」

後輩「先輩にとっても、でしょう? 分かってますよ。それでもあそこで先輩とまた話ができるって楽しみなんです」

後輩「おかしいですか? 私って」   男「ノーコメント」

男(不思議な時を過ごした気分だった。彼女と別れてからも余韻が続く。刻々と、約束の時まで時間は進んでいくのであった、が)

オカルト研「…………」

ここまで

天使「男くん、あの子こっち見てるんですけど、相手しなくて大丈夫なんですか?」

男(席で先ほど起きた出来事を一人振り返っていると、天使ちゃんが袖を引っ張って、頭を覗かせているアレを報せてくる。当然気付いているとも)

男「そうだな。少し試してみたいこともあるから、放置プレイもこの辺りで止めておこうか……」

オカルト研「! ……ちら、ちらちら……ちらっ」

男「声に出してまでアピールせんでもだ。久しぶり、でもないが、まぁ 久しぶりだな、オカルト研」

男「連休はどうだった? そっちも部活の合宿なんてイベントがあったり?」

オカルト研「……部活はお休みだった」

男(休日は俺から遊びへ誘われるのを今か今かと携帯電話握りしめ、待機していた。そんなイメージが自然に思い浮かぶ)

男「(勝手な想像ではあるが、オカルト研の様子がそう物語っていた。思わせぶりで、彼女には迷惑をかけてしまった) 俺の方は中々自分の時間作れなくてな、忙しかったんだ。一日ぐらい暇ができればお前でも誘って何処かへ出掛けたいと考えてたんだけど」

オカルト研「[ピーーーーーーー]? や[ピーーーーーー]……///」

男「え? 何だって?」

オカルト研「き、気にしないで。そう、男くんは忙しかったの……私には分かる」

オカルト研「きっと あなたの中に潜む悪霊を飼い馴らすために鍛練を行っていた、と」

オカルト研「はたまた、世界へ混沌を齎すべく、自身の奥へ封印された獣を呼び覚ます儀式を、か……大体わかってる!」

男「大体わかってねーよ!」

男「俺が連休どう過ごしたかは話がややこしくなるから置いておくとしてだ。オカルト研、お前暇な日とかある?」

オカルト研「暇な日……?」

男「ああ、言い替えるか。部活の予定がない日だよ。中々お前のスケジュールは把握できんからな、訊いておきたかったんだ」

オカルト研「それは、どうして……?」

男「さっき俺が話しただろう? 暇があったらお前を誘って遊びに行きたかったって」

男「そのうち誘うって前に約束したの忘れちまったのか? そいつは残念だなぁー」

オカルト研「お、覚えてる! 覚えてるわ……! でも、男くんから[ピーーーーーーーーー]って……」

男「ん?」

オカルト研「あっ、あぅ……! あ、あなたの誘いを断れば私はその悪霊に祟られてしまう。拒否権なんて、最初からないわ!」

男「だいぶ他人に厳しい悪霊様なんだろうな、性質悪すぎる。まず、断られそうに無くて安心だが、いつなんだ?」

オカルト研「そ、そうだった。私とした事が瘴気に当てられ平静を保てていないみたいね……っ///」

オカルト研「[ピーーーーーーーーーーー]。[ピーーーーー]……これも、ブツブツ、今朝の呪いの、ブツブツ……///」

男「頼むからこっちに帰って来てくれ! 俺にはお前の世界が遠すぎるっ!」

男(すっかり高揚し、怪しげな独り言を呟く彼女にチョップをかましたことで、ようやく正気へ戻った、かもしれない)

オカルト研「ぐうっ、浄化される///」  男「悪いが俺の右手に神聖な力は宿ってない」

オカルト研「とりあえず……男くんの力で自分を取り戻せた。感謝し切れない」

男「あ、ああ……そいつは、良かった……」

オカルト研「そ、それで私の予定を訊かれたのだったわ。ちょっと待ってて」

男(懐から、立派な辞書並の大きさを誇る『ネクロノミコン(彼女曰く)』メモ帳を取り出し、予定を確認しだす)

男(一応は落ち着いた頃合いだろう。そろそろ試し時である。俺は手の中へある物を握り、潜めて、彼女の言葉を待った)

オカルト「めもっ……ネクロノミコンにはこう示されている。ええと、今週は」

男「……天使ちゃん、天使ちゃん。ちょっと」

天使「はえ? 何ですか?」

男「もうちょっと近くに寄ってもらえるか。良いもん見せるから、こっちの手を見てな」

天使「ん~~~?」

男(ギリギリまで天使ちゃんが寄ったことを確認すると同時に、俺は手の中の輪ゴムを親指、人指しに素早く引っ掛け……顔へ目掛けて発射)

天使「ひぎゃんッ!!?」

男(下手をすれば声を出さず怯んで終わるかもしれないとも思ったが、彼女は大声で見事驚いてくれた。さて)

オカルト研「と、休日なら土曜日なら問題はなさそうよ。あとはあなたが決め……[ピッ]、[ピーーーーーー]?///」

男「え? あ、いや、別にただお前の顔が気になっただけだよ……で、何だって?」

オカルト研「むむむ……次はないと思って聞いていて。予定のない日は」

男「……一人だけでは判断材料として足らんが、一々やってられないか」

男「あー! 土曜日が空いてるんだっけな。OK、それじゃあその日にしようか!」

オカルト研「むっ、しっかり聞いていたのね。さっきの[ピーーーーーー]で全然と思っていたけれど……まぁ、いい」

オカルト研「土曜日っ! その日は私たちにとって、いえ、全ての選ばれし者にとって破滅の日となる! 約束されし日!」

男「破滅、しちゃっていいのか」   オカルト研「訂正。祝福されし日……」

男「今週の土曜日な。行くところも先に決めてしまおうか。美味いラーメン屋でも紹介するか? そのあと買い物にでも」

男(こういうデートの予定を相手任せにするのはよろしくないと聞いた。ちょっぴりだけ、役に立てたな、ラーメン愛好していて)

オカルト研「それは海獣リヴァイアサンの出汁を使った…」

男「魚介出汁だな。好きなのか? ならきっと気に入ってくれると思うぜ。って 俺だけで決めるもの悪いな、お前はどこへ行きたいよ?」

オカルト研「……丁度良い。あなたに付き合って欲しい場所がある。男くんがいてくれたら心強い」

男「……カラオケとか?」

オカルト研「廃墟に」    男「待ってくれ」

オカルト研「……廃墟にぃ」

男「まともな行き先がお前の口から出るとは思わなかった、そんなオチを俺は期待していたのに!!」

男「廃墟にロマンを感じる気持ちは分からないでもない。だが、現実ああいうのは危険塗れだぞ!」

男「浮浪者が住んでるかもしれないし、下手すりゃ族の集合地かもしれない! 一利もなくて百害ありだ!」」

オカルト研「だから男くんと行くの」

男「俺が屈強でたくましい野郎に見えるんでしょうか……?」

オカルト研「大丈夫。あなたの力は無限大よ、何者もその先へは辿り着けない。最強の、可能性を持っている……!」

男(恋は盲目とは言うが、妄想もとは初耳である。これだけは勘弁願う、と断りたいところだが、前髪から覗く瞳が期待に輝きすぎて、うんともすんとも)

オカルト研「きっとあなたの悪霊を鎮める手掛かりが眠っていると思うの。だから……[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

男(実際のところ、本当に廃墟へ興味があるのかはいいとして、おそらく俺と二人きりになる状況を望んでいるのだろう)

男(彼女の異常なアタックぶりからして、何が起こるかは容易に想像できる。危険だ、いや面倒か。誘っておきながら申し訳ないがな)

男(そもそもオカルト研、俺はお前と二人だけとは一言も伝えていない。デートではない、遊びだ。つまり)

不良女「何々? なんか面白い話かー?」

男の娘「あっ、隣のクラスのオカルト研さん……だっけ? 珍しいね」

オカルト研「な、何なの急に……私は男くんと大切な対話をいま……っ」

男「あっ、そうだ! オカルト研! 大人数でならもっと心強いんじゃないか!? 危険には変わりないが」

オカルト研「うなっ!?」

男の娘「大人数? もしかしてどこかに遊びに行くつもりだったの?」

男「ああ、それがこいつ廃墟に行きたいって言うもんだからさぁー……」

男の娘「は、廃墟……さすがに危ないと思うよ。あんまり喜んで行ける場所じゃ」

不良女「おっもしろそーじゃない! 廃墟ってアレだろ? 最近出るとか噂されてた病院」

転校生「……出る? 何が」

オカルト研「無念の末、この世をさまよい歩く霊。そして人をドロドロに溶かす力を持つといわれる謎の未確認生物」

オカルト研「あ、あなたたちがいなくても、男くん一人で全て相手にできるわ!!」

男「地獄先生か仮面ライダーにでも頼んでくれっ……!!」

転校生「霊って、あんまり気の進みそうな話じゃなかったみたい。わ、私は向こう行くから」

不良女「何言ってんのよぉー? たまにはそういうのも悪くないじゃんさ。季節外れの肝だめしってな!」

男の娘「でも、廃墟ならそもそも立ち入り禁止されてる筈だと思うんだけど」

不良女「そりゃそうだろ? 廃墟なんだから。危ないんだから」

男「理解しててその上で乗り気なのは、無謀な勇気と人は呼ぶだろう。何かあってからじゃ遅いんだぞ?」

オカルト研「だから男くんが」   男「あーあーッ! 何だってー!?」

男(さすがに不良女以外に乗り気な人間はいなかった。だが、俺が行くとなれば全員がついて来るのは分かりきっている。いや もう確実に、だ)

不良女「危険を承知で行くのが冒険ってヤツだろ? 準備ぐらいはしっかりして行くっての」

オカルト研「だから、なぜあなたたちも着いて来る話になるのっ……わ、私は男くんと[ピーーーーーーー]」

男「悪いが廃墟行きはちょっと俺も困るぞ、オカルト研」

オカルト研「……[ピーーーーーーー]」シュン…

男「だけどまぁ、お前もどうしても行ってみたいらしいし、行くならやっぱりこいつらも連れて行くと良いと思うわけだ」

男「それなら納得してくれるだろ?」

オカルト研「そういう問題じゃ……むぅ、男くんがそう言うのなら……仕方ないけれど、うん」

オカルト研「……男くんの[ピーーー]」

男(悪いなオカルト研、超鈍感を相手にするのはつらいだろう。心中お察しする)

男(哀れな彼女の気持ちを汲んでやりたい気持ちもあるが、お前をハーレムへ導くためだ、まずはこの三人から慣れてもらおうか)

転校生「ちょっと待って。私は絶対に無理よ? 行かないわよ? ……行かないからねっ!?」

男「いや、その前にまだ誘ったわけじゃないしな」

男「だけど、無理だっていうなら誘うのも躊躇する。ここはノリノリのアホと……男の娘、来るか?」

男の娘「ほ、本当に行くの? うー……でも男が[ピーーーーーー]……わかった、僕も参加!」

男(ありがとう男の娘、知ってた)

不良女「はいっ! はい! あたしも混ぜて!」

オカルト研「うえー……」

不良女「そう嫌な顔するなよ。今まであんたとちゃんと喋る機会もなかったしさ、ちょっと興味あるっていうのもあるワケ」

不良女「あ、別にカツアゲとかパシリなんてさせないから怖がるなってば。純粋に、あんたと話してみたかったの。ね?」

オカルト研「……頼りにならなそうなお供その1とその2、どうなっても知らない」

男の娘「お供って……それで転校生さんはどうする?」

転校生「どうするも何も、私さっき言ったわよね。行く気なし!」

男の娘「そっか、残念だなぁ。でも転校生さんがいないなら一人占めできるチャンス?」

転校生「……」ピクッ

不良女「あー、なるほど。ライバルは少ない方がいいよなぁー? ねぇ、男ぉ? えへ~っ♪」

男(ワザとらしく不良女は俺の腕を抱いて、転校生に見せつけている。……当たってるには当たっているが、これでワースト3の一人は確定した)

転校生「だだだ、誰が行かないって言ったぁ!? 行くに決まってるでしょ!!」

オカルト研「自分ではっきりその気はないと」  転校生「あーあー! 聞こえなーい!」

男「相変わらず素直じゃないよな、お前は。怖いなら無理しなくていいんだぞ? ん?」

転校生「こ、怖いわけないでしょ? ふっ、私を誰だと思ってるのよ? ……ぜーったい、誰にも渡さないんだからっ」

男(ライバルへの対抗心。ハーレム形成の要因としては気の強い転校生を縛り付けるには丁度良い)

男(男の娘も不良女も、あの頃と比べて些細だが変化が見られる。以前は表立ってアクションを取る事もなく、積極性を感じさせる台詞も吐かなかった)

男(さぁ、オカルト研よ。お前もこの美少女ハーレムパーティに参加するが良い。この俺を仲良く奪い合うのだ)

男(ハーレム。やはり良い……達成感が主に占めているのかもしれないが……拘り続けた甲斐もあったものよ)

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。俺は[ピーーーーーーーーーーー]。……なぁ、[ピーーー]?)

男の娘「えぇ!? どうして僕の家になるのさ!?」

不良女「まぁまぁ。色々計画立てたり、準備するのってワクワクするじゃない? その会議的なヤツを~」

男の娘「だからその会議的なヤツを僕の家でする必要があるのかって言ってるんだよ!」

オカルト研「まず計画なんて要らない。そんなものを練らなくても、男くんの悪霊が導いてくれるから」

転校生「こ、こいつの何がアレよ……。私はどっちでもいいけれど、どうしてそんな事するの?」

男「俺が当ててみせようか? どうせなら童心に戻った気分でとかいう魂胆あって、したいだけなんだろ」

不良女「へへへ、そんなところ。いや、でもこういうのって気分も大切だよ。なぁーダメぇー? おねがぁい、男の娘くぅーん?」

男の娘「はぁ……そんなに広いところじゃないから、後で文句言わないでよ?」

不良女「やりぃー♪ でも良いじゃん? こいつもお前の家に来てくれるんだしさ」

男の娘「それとこれとは……で、でも[ピーーーーーーー]///」  男「あの、一応 みんなも一緒だからな?」

男(斯くして土曜日のイベント予定が立ったわけである。気晴らしというか、リラックスするにはありがたい絡みがあった)

男(あまり気を張っていても、どうしようもない。天使ちゃんも気を遣ってくれたか、不意打ち輪ゴムの件を水に流し、和やかなムードを見守ってくれていた)

天使「いや、全然許した覚えないんですけど」

男「天使ちゃんは優しい良い子だなぁー」

天使「調子に乗らないでくださいよ! あんな物を自分に飛ばしていいと思ってるんですか、めちゃめちゃビビったんですからね!?」

男「ああ、そうだな。それで大声出して慌てふためいたお前を誰か見たか?」

天使「はぁ? 見たわけないでしょうが。何度も説明してますけど、自分は男くん以外には目視できませんから」

男「まるで幽霊みたいな存在だよな。でも、そいつは一部の例を除いての話だったと記憶しているんだが?」

男「一部……いや……もし、きみに気づけた人間がいたとすれば……俺のような この世界からズレた存在」

男「あとはもう一つ。そうだろう? 天使ちゃんが嘘でもついてなければ、これで間違いない」

天使「そうです。嘘なんてありません。それで『絶対』なんですからね?」

男「じゃあ……これを最後の質問にして、聞き次第『いつもの場所』に向かおうと思う。天使ちゃんさ」

男「俺と委員長以外に神から連れて来られた人間はいないのは確かか? 見落としはない?」

天使「ふん、自信持って言ってやりますよ! その2人だけですとも! ……ていうか、今さら何ですかソレ」

男「よし、天使ちゃんの言うことを信じるとして……行きましょーか、アイツも待ってる――――」

うわやっちまってた!

>>699の前に

転校生「で、その計画っていうのは今日の話? ていうか土曜日に行くなら今日ぐらいしか無理よね」

不良女「部活も休みだし、別に構わないんじゃないの。そっちはどうさ?」

オカルト研「構わない。だから男くんさえ良ければ今日でも良かった……でも、楽しみは後に取っておくのがいい、そうでしょう 男くん?」

男「……悪いがな、先にみんなで男の娘の家に向かっていてもらえないかな」

転校生「え、どうしてよ? 生徒会もないはずでしょ?」

男の娘「男、僕の家わかるの? まだ来たことないし、道も分からないと思ってたんだけど」

男「場所はメールでも電話でも、あとで教えてくれればかならず行く。今日はちょっと外せない用が放課後に一つあるんでな」

男「とっても大事な話をしなきゃいけないんだ、多忙だよな俺も (彼女との問題は、今日、そこで終わらせる。そのつもりでいる事に変わりはない)」

ここまで。最後すまなかったよぅ・・・
あ、それからしばらくの間はsageて書くんで

天使「そこがあの子と約束してた待ち合わせの場所なんですか?」

男「そう思う。絶対って確信は持てないが、あいつのくれたヒントからしてここしか考えられない」

男(初めて足を運んだ気がしない。階段を一歩踏み込むたびに懐かしさを全身で感じているような)

男([ピーーーー]、時々[ピーーーーーー]。不思議だ、自分の中で様々な感情が入り乱れて、思い出そうとするとふっと頭の中から抜けていく)

男「……まるでラスボス手前の道を進む勇者って気分か」

天使「あの、緊張してるんですか。だったら心配ないです。自分は男くんの隣にいてやります」

天使「ていうか、女の子と会話なんて今さら怖がるこたぁーないですって!」

男「女の子、いや、美少女だな。お前の言う通り変に思い詰めるのもダメ」

男「だけど、美少女でも普通でないとしたら? ……覚悟は決まった」

男(今日彼女と話をするのはその為ではない。二の次だ。俺は、罪をしっかり受け止め、二度と同じ過ちを犯さぬよう言いに来た)

男(が、性分だろうか。謎は謎のまま、見逃すのを良しとできない。後輩、お前は――)

後輩「……」

男「そうやって、床に転がってるのが俺たちの『いつも』だったのかね」

後輩「こうしていると、普段見上げた時よりも空が大きく見える」

後輩「この空の下では自分の悩みも全部がちっぽけな蟻んこ。思い詰めているのが情けなく感じてしまう」

後輩「もし、神さまが実在するとしたら、どの辺りで自分たちを見下ろしているんだろう」

後輩「遥か彼方先だとしたら、どれだけ自分は小さく見られているのか」

後輩「どうして、こんな小さな一人へ手を差し伸ばしたんだろう」

男「おーい……詩人ぶりたい気分は察したが、恥ずかしくないのか?」

後輩「そうですね、自分の言葉だとしたらかなり恥ずかしいと感じると思います」

後輩「でもコレ、私ではない誰かの恥ずかしい言葉ですから」クス

男「そいつはさぞかし気持ちの悪い感性をお持ちになっておられるようだ。顔を拝んでみたい」

後輩「あはっ……ちゃんと来てくれましたね、先輩。私も今来たところです」

男(悲しきかな、その台詞は男が言いたいものよ。不敵な笑みを絶やさずにいる後輩の隣へ腰を降ろし、倣って仰向けになってみる)

男「後輩、知ってるか? 俺はこういう時、空が綺麗だとか思う前に、転がった床はかなり汚かったんじゃないかと思う性質なんだ」

男「よくドラマとか漫画で、屋上に好んで行く奴がいるが、アイツらはきっとバカだろうな。バカは高い所が好きで仕方ない」

男「昼寝をするにしても、こんな硬い床の上じゃてんで寝られたもんじゃねーよ! 神経質な奴にとっちゃ!」

男「……そんな俺が、どうして『いつも』ここだった?」

後輩「さぁ、逃げ場が欲しかったんじゃないですか? 落ち着ける場所が」

後輩「だって先輩、学校の中でも、どこを歩いていても、大忙しなんでしょう?」

男「そうかもしれん。だが、俺はその大忙しは嫌いじゃなくてな。楽しくて楽しくて」

男「……前回から、残された物から考えれば一貫してハーレムを築こうと考えていたんだろう」

男「つまり、以前の俺も大忙しを楽しんでいたとなる。後輩、今の俺には落ち着ける場所なんて無用だよ」

男「どうしてだろうな?」

後輩「訊かなくたって自分で理解してるんじゃないですか? 先輩はあの時の先輩じゃない」

後輩「変わったことで、必要なくなってしまったんでしょ……ここが」

男(彼女を見ると、変わらぬ笑みを浮かべて、ありのままの後輩がそこにいた)

男(先ほどの簡単な推測と後輩の話から、この屋上を利用していたのは最初の俺。つまり1周目の自分である)

男(普段と打って変わってしまった自らを取り巻く環境に戸惑い、素直に楽しもうと思うどころか、この世界でも一人を求めた)

男(なぜ?)

男(その理由が俺には思いつかない。願ってもない夢のハーレム世界、俺こそ主役、敵なんて見当たらない)

男(戸惑い、よりも、喜びをまず先に感じるのが俺だ。だから美少女を弄び、野望を果たそうと決起する)

男(だから、なぜ、である。1周目の俺は本当に『俺』か? そもそも、『俺』とは? 自分自身を定義するものとは何だ?)

男(何が[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

後輩「はい、ストップ」

後輩「先輩は先輩のまま、それで今は良いじゃないですか。そう考えるのはおかしい?」

男「! ……いや、まったく」

後輩「先輩は過去に生きることを望んだわけではないでしょう。振り返って得をするとは思えませんよ、私」

男「お前が俺に過去を意識させることばかり話すからだろうが。今さら勝手な」

男「結論は既に自分の中でついて、終わってる! 俺は俺だ! 男という人間は一人だけ! 俺が否定した俺は!」

男「もう『俺』じゃねーよ、後輩……だからここが好きだった自分はもういない、死んだ。以上」

後輩「だったら、もう昔の自分を出そうとしないでくださいよ。思い出そうとしないでっ」

後輩「今日までの全部、台無しになっちゃうじゃないですか……」

男(普通の美少女。それはもう彼女には当て嵌まらないのだと思う。ここまでの会話があまりにもスムーズ過ぎた。それだけで)

男(一役打ってやったが、熱が出て入り込みかけてしまった。だが、そのお陰で分かったこともある)

男(後輩、お前は俺が頭で考えたことを)

後輩「雑談はそろそろやめて、まだ本題へ移らなくて平気なんですか?」

男「俺のかわいい後輩とこんなくだらん話をするのが堪らなく好きでな、つい」

後輩「早く来てくれたとはいえ、ゆっくりしていると間に合いませんよ。私だけ贔屓ですか」

男「あっ……お前、分かってるんだな」

後輩「先輩は……あなたは不思議な人ですね。どうして誰かのために必死になれるんでしょう?」

後輩「所詮は他人じゃないですか。自分以外の誰かはどうだっていい。自分に都合が悪いものは全部聴こえないフリして」

後輩「気づかないことにしたらいいのに。本当に不思議、ふふっ」

男「確かにどうでもいい奴は放って置くべきだっていう意見には全面同意できる。ていうか、俺はそういう奴さ」

男「でもなぁー……あいつは、幼馴染は俺の大切な人の一人なんだよ」

男「自分にとって大切な人が困っているのを見るのは、楽しいか? 俺は悲しい」

男「だからな、後輩。俺は不思議じゃないんだよ。至って普通のどこにでもいる奴さ」

男「偶然 自分にできる事があったから、それで大切な人を助けられるなら……やるんじゃないか? お前も?」

後輩「……」

男「おい、感動できる良い話だぞ。無言とはリアクションが足りてないんじゃねーか? とりあえず泣いてみ?」

後輩「……だから助けようとするんですか。そうですか」

後輩「変わった、ううん、私が知らなかっただけで何も変わってなかったのかもしれない。それがあなただった」

男「え?」

後輩「先輩。私、やっぱりあなたのことが好きだったみたいです!」

男「はぁ!? (むくりと上半身を上げ、思わず見惚れそうになるぐらい満面の笑みで、俺を見下ろす後輩である)」

男「好き、だった……って何だよ。その言い方じゃまるで」

男(今まで抱いてきた自分の気持ちに、疑いを持っていたみたいではないか)

後輩「なーんだっ、私の思い違いなんかじゃなかった! 大当たり~!」

男「お、おい? 大丈夫かよ、お前!?」

後輩「あはははっ、あはははっ! 好きになるってこういうことだったんだね!」

後輩「あは、ははは……はは……ねぇ、先輩。叶う恋もあれば、その反対があるのも不思議じゃありませんよね」

後輩「叶うことは絶対にありえない。望んだって手に入れられない。そんな切ない感じのが」

男「こ、後輩? いきなりどうしたんだよ。少し冷静になれって……いつものお前らしくないぞ……!?」

後輩「いいえ、これが私なんですよ。ワケが分からないって顔してますね?」

後輩「無理ありませんよ。ずっと押し殺していたみたいですから、自分を」

男「あ、あ……あぁ……?」

後輩「あなたを、先輩のことをこれまでずっと見てきました。でも分からないことがあった。それが今日ハッキリしました」

後輩「あなたのお陰で。……やっぱり直接会って話すって大切なんですね、痛感しちゃいました」

男(話の中身が全く見えない。いや、彼女自身こちらへ理解させる気なんて端からないのではと思わせられる)

男(ただ、一つだけ分かった。今俺の目の前にいる後輩は、俺の知らなかった後輩だ)

男「な、なぁ、俺たちって前に付き合っていた、かもしれないんだよな?」

男「付き合うっていうのは、お互いが好き合ってなけりゃ成立しない。そうだろ!?」

後輩「……ええ、そうかもしれません」

男(明るい笑顔は収まり、今度はどこか物寂しげな雰囲気を漂わせ始めた後輩。立ち上がると手を組み、背を向けた)

後輩「推理が得意な先輩でもこれだけは気付けなかったみたいですね」

後輩「こういうのって何て言うんでしたっけ」

男「こういうのって……相手の気持ちを察することができなかったことを? それは」

男「……鈍感」

後輩「せーかいっ! よくできました!」

後輩「なんて……その言葉は先輩だけに当て嵌まりませんよね、私も同じ」

後輩「先輩、この話はお終いにしましょうか。忘れてくださって結構です。あなたにとってどうでもいい話ですから」

男「ど、どうでもいいのか今のが!? 俺にはそうは思えん!!」

男「だって好き――――――!?」

後輩「忘れましょう……ねっ?」

男(振り返った後輩が、俺の言葉を遮るように口の前に人差し指を立てる。どうでもいい? どうでもいいなら、その顔は一体何なのだ?)

後輩「……屋上に上がると、空がいつもより近く感じられますよね」

後輩「それでもまだ手が届きそうにない。この手が空を掴むのは、どれだけの高さが必要なんでしょうか」

男「また気色悪い誰かが話したものの引用か? 空なんて掴めやしないだろうが。常識的に考えて」

後輩「あー、残念でした。今のは、他でもない私の言葉です。気色悪くて悪かったですね?」

後輩「……ふふ、ですね。どう足掻いても空を掴めるとは思えません」

後輩「だから、せめて私の大好きな空が曇ってしまわないように、これからも手伝おうかなって決めましたよ」

男「曇らないようにお手伝いだ? 何だよそれ、お前いつからそんな不思議系気取りになった?」

男「……それはそうとだ、後輩。どうしてあんなことをしちまったんだ。ほとんど認めてたよな、自分がやった事を」

男「お前が、幼馴染をストーキングして、写真まで撮って。その、嫌がらせを」

後輩「あの人にはあとでキチンとした形で謝るつもりです。これだけの為に利用して、嫌な思いをさせてしまったのだから」

後輩「先輩にも、ごめんなさい。心配しなくても二度と同じ様な真似はしませんから」

男「……ちょっと待て。今『これだけの為』とか言ってた覚えがあるんだが」

男「どんな理由で、お前は」

後輩「あなたと真面目に話して、あなたを知るためにですかね。というより、さっきの話をしたかった」

後輩「用は済みました。ついでで、自分のことをよく知る機会にもなれましたよ……先輩、ありがとうございました」

男(小さく礼をする彼女にかける言葉がなかった。否、見つからなかったのだ)

男(呆れたというわけでもない、失望もない。どのような意図があって『話』をしなければならなかったのか)

男(予想も裏切られ、彼女は俺の想定の上を行く。後輩は、俺と後輩は、どのような付き合いをしていたのだろう?)

男(そして、彼女はこの男へ何を求めたのだろう? 今日までの後輩とのやり取りは全て見直したい。どう接していたのかと)

男(そんな過去を思い出すのは……くだらないだろうか……死んだ過去を、思い出すのは許されないのだろうか)

男「なぁ……お前が他の奴らと違うことはもう分かった。たぶん普通じゃないんだろう?」

男「お前のことをしっかり思い出したい! いや、きっと思い出す必要があるんだ! 思い出せば!」

後輩「あなたにしてきたことを確認するんですか? そうして私が何者なのかハッキリさせたい?」

後輩「先輩、知らなければ良いことってあります。あなたは今までそういった事には近寄ろうとしない人だったんです」

後輩「でも、今は自分から都合の悪い話へ近付くようになった。偽りじゃない、本心を持っていつも探求してたんだって、信じてますよ」

男「そんなカッコ良さ気なもんじゃない。俺は、俺が知りたいから……知ることで、何か変わるかもしれないと」

後輩「自然にそう思えたんですよね。……じゃあ、意地悪はここまでにしておきましょうか」

後輩「答え合わせしましょう、先輩。さぁ、もう行ってください。次に行く場所があるんでしょう?」

男「答え合わせはどこに行った!? って……ああ、なるほど」

後輩「えへっ、またあとで――――先輩、先輩は正しいものと、間違ったもの、どっちがあなたにとって幸せ?」

ここまで

男(正しいもの、間違ったもの。それら意味のみを受けて選べとされたら、誰だろうが前者一択である)

男(彼女が言い残したその言葉は具体性に欠けていた。というより、今回の会話全てが霧に包まれたまま。悪戯好きな美少女はこれだから困る)

男(岐路に立たされた主人公が選択する道はどちらか? 後ろ歩きで引き返すという手も……残っているのだろうか)

男「何を真剣に考えてるんだ? さっぱり意味不明だというに」

男(屋上を後にした俺は、男の娘宅へ向かうべく足早に校舎を出て行く。大体の場所は先に確かめておいたし、ここからそう離れた所でもないという)

男(男の娘の家ならば、そこは後輩の家でもある。彼女は既に自宅へ向かったのだろうか? せっかくなのだから、道案内ついでに俺と共に帰宅してくれたら助かったものを)

男「……アイツ、俺があの後家に行くってこと知ってたんだよな。男の娘から聞いたのか?」

男「まさか。妹とはいえ後輩も恋敵の一人だ。自分に不利になるような行動を取る奴じゃあない」

男「あの時の後輩は、まるで俺の頭の中を覗いてたみたいに、話を切り出してきた……気がしてならん」

男「なぁ、天使ちゃんも傍で聞いていてそう感じたりしなかったか? と、いうより……話の流れが不自然に感じた、とか」

男「……天使ちゃん? おい?」

男(辺りを見渡してもそれらしい影一つない。耳を澄ましても俺を呼ぶ生意気ロリボイスすら聴こえてこない)

男「俺が呼んだらすぐに姿を現すって約束忘れたのか。今さらな話だが」

男「おい、マジでいないのかよ? 天使ちゃんよー? 天使ー?」

男「どこに行った……? 今まで傍にいたはずじゃ……」

男(呼べども呼べども、いつになっても登場する気配はなかった。知り合った頃ならば単独行動があったとしても珍しくはなかったが)

男(現在の彼女の好感度やこれまでのべったりぐあいを考えると、どうしたというのだろう)

男(俺としても天使ちゃんが傍にいてギャーギャー喚いてもらっていないと、少し落ち着かない。そこまでに身近な存在へ彼女は俺の中で昇華されていた)

男「寂しい。寂しいぞ、天使ちゃん。俺を置いて神の元へ急遽帰らなければならなくなった、とかだったら嫌だぞ!?」

男「いかん……これじゃあ道端で独り言を言ってる危ない奴だわ」

男(思わず自分の口へ両手を当て、人目がなかったことを確認してほっと息を吐く。……悪態が飛ばされない不安がある)

男(ただただ 落ち着かない。一人で喋っていた方がマシだったかもしれん。だが、彼女と出会う以前の俺はコレが当たり前だったのだろう?)

男「本当に何処行っちゃったのよ、あのノーパンっ子……で、住所はここで間違いない?」

男(天使ちゃんはきっと家に帰っているか、ひょっこりまた現われてくれるのを信じて、言われた通りの道を辿って彼彼女の住処の前へ立った)

男「表札も、ここで大丈夫そうだな。あまり時間もかからなかったし、みんなに文句を言われはしないだろ」

男(チャイムをポチッ。ものの数秒で中から「あがってー」と男の娘の声が。やれやれ、俺無しの会議は退屈だったろう? 待っていろ、美少女ども。メインがすぐ向かうぞ)

犬「「があぁーッ!!」」   男「あぁー!?」

男(玄関扉を開いて入ったと同時、二匹のワンコが牙を剥き出しのお出迎えである。どちらも小型だが、俺を睨むその顔は人一人殺めていようが不思議ではない極悪っぷり。ああ、さてはこいつら)

男「雌じゃねぇな!!」   

男の娘「ううん、片方は雌だよ。待ってたよ~男ぉ~♪」

男「ああ……嫉妬のあまり俺を敵視していたと思っていたんだが。そ、それはそうとコイツらどうにかしてくれないか!?」

男の娘「大丈夫ー、めったに人は噛まないから。二匹とも人見知りが激しいだけ……他の三人には尻尾ふってたんだけど、おかしいなぁ」

男「どうも生き物に好かれん星の元に生まれてきちまったらしいな……っ!」

男「ていうか、お前犬なんて飼ってたのな。それも凶暴なのを二匹も」

男の娘「だから人見知りするだけなんだってば! せっかくだし、撫でてあげてよ。こっちがペペでそっちのがポポだよ」

男「ペペ……涎でヌルヌルしている方だな。で、ポポ……この黒いのが雄だろ?」

男の娘「すごい! よくわかったねぇ!」   男「鳥山明、好きでしょう?」

男の娘「えへへ、二匹とも可愛いんだよ。小さな頃から飼ってたから家族同然」

男「ん……猫は、好きじゃなかったのか?」

男の娘「猫? ああ、そういえばそっちは猫がいるんだっけ。嫌いではないけれど、家族みんな犬派でさ」

男の娘「お父さんは大の猫嫌いで……とりあえず上がってよ!」

男「あ、ああ」

男の娘「なんだか浮かない顔してるよ、男。もしかしてお腹痛い?」

男「そうじゃないんだ……そういうワケじゃ……ただ、ちょっとだけ」

男「あれ、って思っただけで……特に何も…… (何も、ない。だが彼の話に相槌を打てなかった。何故だろう)」

不良女「遅いんだよ、何分待たせるんだオラァー!!」

男「何分で済ませてきた事をむしろ誉めてもらいたい。仕方がないだろ? 大事な話があるって言ったはずだ」

男「それで? お前ら予定の話は……してないんだろうな」

オカルト研「ああ、男くん。待っていて、いま彼女を闇へ葬り去ってしまうから……あっ」

転校生「またまた私の勝ちぃ~♪ あら、変態来てたの?」

男「お前ら体の良い事言っといて本当は遊びたかっただけだろ」

不良女「まぁ、部活もなけりゃあバイトもないわけですしー? それより犬見た? かわいいね、アレ!」

男「俺は俺のことを好きにならない奴は嫌いなんでね、生憎!」

不良女「はぁ? それより全員揃ったわけだし、何か話し合っとく?」

転校生「あれ? さっきはもうどうでもいいとか話してたじゃない? って、あーっ!?」

オカルト研「一瞬の隙が命取り。これでも私は普段の4分の1程度しか力を発揮していない」

オカルト研「つまり、あなたではお話にならないの……ねっ、男くん!!」

男「なーにが遅いんだよ、だ! 随分お前ら俺抜きで盛り上がってるじゃねーか!」

男の娘「まぁまぁ。それより男も何か飲むよね? 僕、持ってくるよっ」

男「あ、お気になさらず。……それよりトイレ貸してもらっていいか (彼女らには悪いが、『答え合わせ』が気になる)」

男の娘「トイレは一階に降りてすぐ目の前だよ。あっ、何だったら一緒に着いてって案内しようか……[ピーーーー]///」

男「え、なん……でもないから、別にいいです」

男(身の危険を一瞬感じる。きっと今は両親はいないのだろう、展開的に)

男(男の娘の部屋がそこにあるのなら、すぐ近くに彼女の自室があると思われる。しかしもう帰って来ているだろうか)

男(玄関で靴を確認すべきだったが、例の毒チワワどもに気を取られてしまっていた。とにかく早く『答え合わせ』を済ませたい)

男(彼女について何かが明らかになった時、大きく道が変わる、そんな気がしてならない)

男(わざわざ俺の勝手に付き合ってくれると言ったのだ。きっと後輩は待っている、この俺を)

男「あまり遅くなってアイツらが気にし始めたら面倒だ……後輩? ここか?」

男(ノック二回、遠慮なく扉を開く。……ハズレ。どうやら物置きだったようだ)

男(次へ次へと二階の部屋を開けては中を確認して行く。……ハズレ、ハズレ、ハズレ。もう部屋がない)

男「二階じゃなかったのか? だけど兄妹の部屋を離すなんて珍しいというか、普通はあまり考えられないというか」

男(奇妙に思いつつも、階段を降りて行き、犬と目があった、が気にする余裕が俺の中から消え失せた)

男「……トイレ、リビングとキッチン。ここは風呂と洗濯場」

男「……どういうことだ? おかしいぞ」

男(全身にゾクリと寒気を感じる。感情的なストレスが充満し始めた)

男「両親の部屋に男の娘の部屋も二階にあった……他は確認しても、人が使っている気配は全くなかったぞ……」

男「男の娘の部屋にも、両親の部屋にも、扉の前にそれを分からせるようプレートが掛けてあったんだ……」

男「他の部屋にはそれが掛かってなかった……これって、変じゃないか」

男(突発的に焦燥感に駆られた俺は、後先も考えず 家中の『痕跡』を探した、が)

男「……どうして椅子が3つしか見当たらない? ま、マグカップの数まで」

男「ない、ない、ない! おかしいぞ! どうしてないんだ!?」

男(彼女の、後輩の痕跡がこの家の何処にも見つからない。犬にも尋ねたい気分だ、答えてくれるだろうか)

男「お、落ち着け……俺はバカだが賢い……落ち着いて状況を整理するんだよっ……」

男「それに……もしかしたらって、アイツに会う前に覚悟していたじゃないか」

男(頭では分かっていたのかもしれない。だが、まだソレを完全に受け入れる気にはなれていなかった)

男「『答え合わせ』、始まってたんだな。この家に踏み込んだ時から」

?「ご自分の予想は当たってましたか」

男(背後から、透き通った可愛らしい声で投げかけられた言葉に、糸が切れたように体から力が抜け、壁に寄り掛かる)

男(その場でずるずるとへたり込み、近寄る声の主へ頭を上げることもなく、一言)

男「冗談だろう?」

短いけどここまで。土日までないです

後輩「ごめんなさい。私は先輩を今まで騙していた」

男「騙していたって何だよ……簡単に言わないでくれ」

男(優しく接されているのが辛い。面を上げて怒るのもままならず、強い脱力感に包まれて、思考停止)

後輩「悪意は一片もありませんでした。全てはあなたの為に――」

男「なら、騙し続けて俺に夢を見せ続けるべきじゃないのか。今日まで偽ってきたものを明かしたのは、俺の為か?」

男「真実をバラさなきゃいけない理由ができたって? ……聞くよ」

男「ただ、それを聞いてからお前のことを『後輩』として見られなくなるかもしれないってのが唯一、俺の恐怖ってヤツだ」

後輩「そればかりはあなた次第です。何を話そうと、あなたと一緒の時間を過ごしてきた私として、これからもいます」

後輩「いえ、いたい、ですね……気を楽にして聞いてもらいたいとは思いますけど、とにかく」

後輩「話しますよ、どうなろうと。私もあなたも引き返せないところに今立ってますから」

男「いやぁ、シリアスイベントは得意じゃないんだが~」

後輩「もう私との関係がどうこうの話じゃないんです。これからのあなたの、この世界に居続けるかどうか……」

後輩「……先輩、さっき屋上で話してくれましたよね?」

後輩「『偶然 自分にできる事があったから、それで大切な人を助けられるなら、やるんじゃないか?』って」

男(改めて他人の口から聞かされると気恥ずかしくなる台詞である。笑い飛ばそうと後輩へ向けば、見たこともない、シビアな顔付きだった)

後輩「人の、あなたの大切の定義は分かりません。だけどそんな台詞を聞けたから、私は覚悟を決めました」

後輩「陰から支えることは止めて、直接手を貸したいって」

後輩「……あとはもうあなた、先輩がどうしたいかなの。やらないならそれで構わない。何も知らずいつもの日常に戻って」

男「なぁ、どうしてお前はいつも分かりにくい話ばかりなんだ? それで俺の覚悟だと? 何がなんだかだよっ」

男「手伝いたいって気持ちなら、まず理解させてくれ! 話の意味を!」

後輩「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!」

男「は!? 何だって!?」

後輩「[ピーーーーーーーーーーーーー]! [ピーーーーー]、[ピーーーーーーーーーー]!」

男「だから何て喋ってるんだよ! さっぱり聴き取れな……難聴スキル?」

男(違和感。以前にもあったような。よく考えなくともすぐにソレに気づけた)

男(後輩に対してなぜ俺の『難聴スキル』が発動している? 攻略済みの美少女には解除されるのではなかったのか?)

男(彼女が普通の美少女ではないため? これは、メモにも残されていない事例だ)

後輩「……分かっていただけましたか。先輩に掛けられた魔法を」

後輩「[ピーーーー]について思い出してしまうような記憶、思考。この世界に[ピーーーーー]ために知られては困る話」

後輩「全部が全部、あなたの思っていた『難聴鈍感』ではないんです」

男「いやいや……魔法って何だよ、急にファンタジーだぞ」

後輩「単なる物の例えですよ。言い換えれば呪いでもある」

後輩「本来、先輩はこの世界に居続け、自分にとっての幸福を見つけなければならない……それが私たちが望んでいたことです」

後輩「ですから、あなた自身にとって都合の悪い話でなくとも、こちらが知られてはいけないもの、察せられてはいけないことは、全て」

男(俺の両耳を後輩が抑え、何か言葉を発した)

後輩「……これが魔法ということになりますね」

男「美少女たちの恥じらいの言葉やらがフィルターに掛かるとは、別に?」

男「じゃあ あいつらに対するスキルってどんな意味があったんだ!? 神の悪戯か!?」

後輩「悪戯……そんなものじゃありません。現実での先輩を[ピーーー]させられたんです」

男「はぁ?」

後輩「[ピーー]について[ピーー]がどんな考えを持っていたかは理解できませんけど、意味はあったのかと」

後輩「自分から、先輩から誰かへ歩み寄り、その人へ近づきたいと思うことで……そうしたことで」

後輩「女の子の大切な言葉が聴き取れるようになっていた。そうでしょう?」

男「自分から誰かへ歩み寄る……個人ルート……?」

後輩「思い出せないでしょうけど、元の先輩って誰に対しても心開かない、無関心な人だったんですよ」

男「それじゃあなんだ。難聴スキルは元の俺を皮肉った枷だっていうのか? 幸福の世界でどんな嫌がらせだ!?」

後輩「ですから悪戯でも嫌がらせでもないって……先輩は、無意識に自分を変えたいと思っていたんでしょう」

後輩「その気持ちを汲まれて、あえて、私はそう考えています。これは答えではなくて、ただの私見」

後輩「けれど、現に、始めのあなたはそう願っていた。だから、私はあなたへ道を示してきた」

男(自分を変えたかった? その願いはまるであの委員長とソックリではないか。ならば、今のこの俺は)

男「俺は……変わったのか? あの頃から」

男「それなら何故俺はあの子と同じように消滅していない!? 意識もしっかりここにある!! 本物の俺だ!!」

男「委員長とは違うじゃないか!? 死んでなんか……あれ? あれぇ?」

男(ただでさえ混乱寸前だった頭がパンクを起こしかけている。これ以上は容量の限界を超える)

男(俺は一体だれなのだ? どの俺が、俺で、俺でない俺はどいつだ? 男とはどんな人間だ?)

後輩「大丈夫」

男「ッッー!?」

後輩「大丈夫、大丈夫ですよ 先輩。落ち着いてください……」

後輩「何も怖くないから。心配なんていらないから……私はあなたの味方だから……」ギュ

男(年下の女の子からこんなあやされ方をされては恰好がつかない。それでも、心は次第に落ち着きを取り戻し始める)

男(布越しでも彼女の温かさを感じ、頭を撫でるその手から優しさが伝わって来る。思わず泣き喚いて、抱きしめ返したくなるではないか)

男「後輩……」

後輩「今は不安なんて感じなくていいんです。絶対に先輩を助けますから、ね?」

後輩「えへへ……話、いつのまにか脱線気味でしたね。先輩がそうさせたんですからね? 反省してもらわないと!」

男「お、お前だってその気になって話てたじゃねーか! 俺だけが悪いなんてないぞ!」

男「……とにかく話を戻すと、お前が俺に真意を伝えようとすると、フィルターに引っ掛かり、どの道伝えられない。そうなんだろう?」

後輩「ええ、そうです」

男「そいつはまぁ、厄介な魔法だな。これじゃあお前が俺に何をしたいのかサッパリだぜ」

男「だが、さっきの俺の言葉の引用。『誰かを助けたい』的なものをあそこで持ち出したってことは……俺にそうさせるつもりで?」

後輩「はい」

男「そして俺が助けなければならんと思っている奴は多くない。一人はお前とさっき決着をつけて、謝らせることになったワケだ」

男「そうなると残るは 彼女、委員長だろう?」

後輩「せいかーいっ♪」

男「えぇい……調子狂うなっ」

男「その委員長を助けるには、お前の手助けがどうしても必要になると」

男「だから、お前にこうして包み隠さず全て教えてくれている。……でだ、単刀直入に救出方法は?」

後輩「先輩が事前に分かっていた通り、この子を使うんです――――」

天使「   」

男「天使ちゃん!? (いつのまにか現われたのか、床へ猫のように丸まって眠る彼女がそこにあった)」

男「コイツ、今までどこに……しかも寝てるのかコレ? 一体いつから」

男「……そして後輩よ、やっぱりお前この子見えていたんだな」

後輩「ずっと、この子を通してあなたを見てきたんです。傍にいられない時は彼女が私の代わり」

後輩「目でもあり手でもあった。ここまで分かれば、私が誰かなんてハッキリしましたよね、先輩?」

男「……今まで何にも疑問に思わなかった。男の娘の妹となんて顔も会わせたこともないし、存在すら知らなかった筈なのに」

男「だが、俺は当たり前のようにお前の存在を認めていたんだ。盲点だったとも言える」

男「元の俺の世界に、『男の娘の妹』なんて奴はいるのか?」

後輩「ふふ、いいえ……そんな子は最初からいませんよ。この家の住人は三人だけ」

後輩「私はそこへ紛れ込んだ異物。あなたの世界で偽りの生活を過ごす、どこにも存在しない女の子」

後輩「この子と同じなんです。人間でもなければ生物でもない、もっと、概念的な何か……もう、バレちゃいましたね」

男「『天使』……神の使いで、この世界における俺の監視役兼報告役」

後輩「それはこの子の務め。私に与えられた[ピーーー]は、あなたを[ピーーーーー]すること」

後輩「ですから こうして他の人たちに紛れて、身の振り方から何からまで教えてきたつもりです」

後輩「右も左も分からない、周りとどう接していけば分からないあなたをここまで導いたのは私……と、いうのは痴がましいですかねっ」

後輩「今日まで上手く立ち回れていたのは、先輩自身の努力あってだと私思いますよ?」

男(イレギュラーは一人ではなかった、二人だ。確かに天使ちゃんは本来今の役割を全うするよう言われていたワケじゃあない)

男(では、なぜ『追加キャラ報告』を天使ちゃんが行っていた? ……神は俺の策を始めから読んでいたと?)

後輩「全てがお見通しだったとは言えませんけれど、おそらくある程度は」

後輩「先輩をここに居続けさせなければならないんですしね、これ以上余計な動きをされると不都合なんです」

男「……どうして?」

後輩「たとえそれで秘密へ気づくことがなかったとしても、本来全うする『幸福』から離れて行くでしょう?」

後輩「いつになっても、この人は横道へ逸れてばかり。このままだと目的を見失って……」

後輩「ただ、消えてしまう」

男「きえっ……!?」

後輩「……先輩、私たちの誰もがあなたへ悪意なんて持っていません。親切心って言うんでしょうか? 最初から企みも何もない」

後輩「先輩は、少し近づきすぎちゃったんです。知らなければ良いことに」

後輩「そのキッカケとなったのが『彼女』。偶然だったのか、必然だったのか、彼女はこの世界へ訪れてしまった」

男「もしかすれば、委員長が来たのは神のミスだった……とも考えられるのか」

後輩「とにかく、彼女の存在はあなたにとって良くも悪くも大きな刺激を齎してしまった」

後輩「先輩の邪魔をされるのはとても困る。だけど、私たちは人へ常に平等でなくてはいけませんよね?」

後輩「ですから、表面上、彼女にとって最大の幸福を与えるという形によって……」

男「強制的に、世界から追い出した、か?」

後輩「……」

男「後輩、別にそれでお前を責める気は俺にはない。罪悪感を感じていようが、なかろうが」

男「だけどな、それを含めての考えを言おう。なぜ不都合となり得た委員長救出に、お前が手を貸す?」

男「お前にとって助けるメリットは何一つないんだろう? むしろ、せっかく消えた邪魔者が帰って来るんだ。それは――」

後輩「いえ、帰って来させないようにしてもらいます」

男「何だと……?」

後輩「彼女が望んでいた通り、元の、彼女の現実世界へ送還するんです。ここでの出来事なんて、何一つなかった頃に戻して」

後輩「これは……先輩がこれ以上横道へ逸れないための、手段でもあります」

男「ああ……お前たち側の都合でという話なのか」

男「そうなんだろう? 俺のためという題目で、そうさせるんだろう?」

後輩「私たちは合理的な選択を取り続ける。そんな分からず屋と思っていただいて結構です」

男「俺がそうしたかったから、やらせるってワケじゃなかったのな……何が味方だよ、え?」

男「結局は俺個人の味方なんてなってないじゃないか? お前は神に言われた通りに動くだけ……?」

後輩「[ピーーーーーーーーーー]」

男(……どこか、彼女の様子がおかしい。どう言い表わして良いのか、複雑、悲しそう、何だろう?)

男(本当に、あの言葉は後輩の本心から出た言葉だったのだろうか。言葉の表面だけを見て決め付けるには早いのでは)

男(俺は、後輩を信じるべきだ、先ほどまで心からそう思っていただろう。後輩は俺の味方、信じよう)

男「OK。考え直したら別に俺が困らせられる問題はない。その手段を取ろう」

後輩「……先輩?」

男「それで? 天使ちゃんに助けてもらうとして、どうしたら良い? 俺に声を掛けたということは、俺が何かをやらなきゃいけないんだろ?」

男「その『何か』は、俺が自分で考えた方法か? 俺が元の世界へ戻って、契約する前の彼女を止めるって」

男「ていうか、そんな手間掛けずとも、そっちの不思議パワーでどうにかできるんじゃ?」

後輩「難しいです。先輩にだからこそ可能なんです……」

後輩「この子、天使ちゃんと先輩は呼んでましたっけ……じゃあ天使ちゃん」

後輩「今の天使ちゃんなら、あなたの頼みを聞いてくれるとします」

男「待てまて、しますって何だ!? 決定じゃないのか!?」

後輩「この子は機械じゃありませんから。人と同じように、YES or NO を悩む心を持ったんです」

後輩「先輩のお陰で。……そうでなければ、きっとNOの一択だったでしょうね」

男「天使ちゃんも、変わっちまったのか。俺なんかチッポケな阿呆のせいで」

後輩「ふふ、自分を貶して楽しいですか? これ以上この子に先輩のイメージを壊すような行動を見せないでくださいよ」

男「これ以上って、俺がいつそんなことした……まさか」

後輩「これからは自分から進んで女湯へ入ろうとしないでくださいね、変態の先輩?」

男「おい……あの謎湯煙は……お前……っ」

後輩「とにかく、天使ちゃんについては良いとします。問題はここから」

後輩「……ここまで煽っておいて、これを話すのは卑怯と思われるかもですけど」

男「は?」

後輩「あなたは全てを無視して、今だけを楽しむ権利があります。変わらない日常を過ごすという」

後輩「嫌な現実から目を逸らし続ける、その権利が。変わらない自分のままで」

男(後輩は何を考えているのだ? 委員長という俺の心配を完全に取り除き、この世界でエンジョイさせるつもりではなかったのか)

男(変わらない自分のまま? 今を楽しむ権利? ……委員長を救ったあとでも、十分楽しめるのでは?)

男「お前、俺にウソついてたりしていないか? もしくは騙してるとか」

後輩「……」

後輩「あなたは、ご自分の[ピーーーー]変わりました。それが理想のあなたなのかは分かりませんけど」

後輩「それでも 変わるという目的は達成した。きっとこれからもこの世界で、磨き続けられるかもしれません」

後輩「……質問、言い替えましょうか」

男「ああ、どうぞ」

後輩「この偽りの現実とあなたの本当の現実、どっちを送り続けていたい……?」

男「そいつは無意味な質問だったな、後輩! 俺にとっての現実はもうここでしかない! いや、ありえん!」

男「あっちへ戻って暮らそうなんて、生き地獄帰りを喜べるバカがどこにいる? 俺はバカだが、バカじゃあない」

男「それにだよ。お前は、後輩はここにしか存在しないんだろう? 俺はお前のいない世界なんて考えられん……」

後輩「っ! ……ばか///」

男「おっ? へへ、久しぶりにお前が照れてるところ見れた気がするな。やっぱり美少女はこうでなくちゃよーッ!」

後輩「ばか……本当にばか……やめてよ……そんなこと言うの……やめて、ください……」

男「こ、後輩? おい、そんな困らせるようなこと俺言ったか?」

男(小さな肩を微かに震わせ下を向く彼女へ近づくと、胸にトン、とこれまた小さな拳が突かれる)

後輩「なんちゃって。ふふ、ビックリしました?」

男「……ああ、かなり」

後輩「そうですか、先輩はこっちで私とイチャイチャしたいんですか。先輩らしいですねー」

男「その、らしい、は誉めてるのか貶してるのか。まぁ、俺はお前とばかりイチャつくつもりないが!」

後輩「もうっ、それ私の前で話すことですか? 相変わらず最低ですね!」

後輩「あははは……あーあ、楽しい」

男「んー? 何が楽しいって? 俺と一緒にいるのがかー?」

後輩「ええ、楽しいです。楽しくて仕方ないですよっ……先輩って面白いんですもん」

男「今の俺がか、それともお前だけが知ってる以前の俺が?」

後輩「どっちも。どっちもです」

後輩「私といる時のあなたは、あんまり変わってないのかもしれない。ううん、私が勝手に思っているだけかもしれないけれど」

後輩「……先輩、私 あなたに少しだけウソついてます」

男「そいつは良いウソであることを祈っていたいな、両者にとって」

後輩「十分楽しく話もできましたし、さて、そろそろ本題に入りましょうか」

後輩「先輩と話しているとついつい脱線しちゃいますね。巻き込まれる私もダメですけど」

男「おう、自分で分かっているならそれで良い。……何ぞそれ?」

男(いつ取り出したのか、持っていたのか、後輩の両手の中に白い箱が乗っていたのである)

後輩「この中には先輩に掛かった魔法の一部を解いてくれる大切な物が入っています」

男「じゃあどうして早くソレ渡さないんだよお前は!? つーか、もっと早く言ってくれ!!」

後輩「解けたからといって、私の話の真意が分かるようになるワケではないんです」

男「はぁ? ……俺の過去についてか」

後輩「ふふ、察しが良くて助かります。この箱を開けることで、あなたが忘れたこの世界へ来てからの記憶を全て思い出します」

男(この世界での初めから。神との出会い、その前後は無理ということなのか)

男(黙ってその箱へ手を伸ばそうとすると、後輩が一歩後ろへ下がり、再び真剣な眼差しでこちらを向く)

後輩「これを開けるのは、先輩がこれまでして来たことを全部無駄にするかもしれないという覚悟でお願いします」

男「無駄にッ!?」

後輩「……偶然 自分にできる事があったから、それで大切な人を助けられる」

後輩「これはそれを始めるための物。開けることで、彼女を助けに行くことができるんです」

男「助けにって、俺が元の自分を取り戻すことでどうなるんだよ……?」

後輩「一つは、現実世界へ戻ってからの立ち回り方を思い出してもらいます。向こうはあなたに優しい世界じゃないことを覚えておいて」

後輩「そしてもう一つ。あなたにとってコレが必要だからです」

男「最後のは随分適当な感じに聞こえるんだが」

後輩「適当な理由で渡したりしませんよ? ……信じてください」

男「おう、もちろんよ」

後輩「……これを開けることで、あなたは酷く混乱してしまうかもしれない。苦しむかもしれない」

後輩「ですけど、私は今のあなたなら、何もかもを受け止めてくれると信じてます。あなたはもう弱くないです」

後輩「きっと、どんな自分でも好きになれる。どんな人にも、自分から向き直れるようになる」

後輩「約束してください、昔の自分を否定しないって。今も昔もあって今日の自分があると」

男「息を呑むしかない、って感じの台詞が続々……よく言えるなお前」

男「分かった。後輩の言う通りにするよ、かならず」

男(彼女がついた少しのウソが、ぼんやりと見えたかもしれない)

男(後輩は、神側の都合でもう動いているのではない。きっと何もかも俺の為を思って)

男(……だったら良いなという希望的観測)

男「で、コイツはいま開けた方がいい代物か?」

後輩「もうそんな簡単に覚悟が決まったんですか? 随分軽いですね」

男「……やっぱり家に帰ってからでいいかね。脅されまくると心の準備が必要とか思えてきた」

後輩「ええ、それが一番だと思います。別に私急かしているワケじゃありませんから」クス

後輩「だけど、時間がたっぷり残っているとも言い難いです。なにより[ピーーーーーーーーーーーー]」

男「え? 何だって?」

後輩「……とにかく、後は先輩の考えが纏まり次第です。今日私が話したことをよく思い出して、慎重に」

後輩「正直、無責任なことを言わせてもらうと、何が起こるかなんて私にも分かりかねますから」

男「オイ 洒落にならんぞ、今さらそれは」

後輩「私には人の生き方なんて一生理解できませんけどね、先輩。何かを得れば、何かを失うのが人生だと思います」

男「それは逆も然りって? もう意味深な話は止さんか……頭がいっぱいなのよ……」

後輩「……ふふっ、そうですね。ごめんなさい。もうしませんから――――失礼しますね、せーんぱい」

天使「ん、んぅう~~~……ふぁー……はれ、おとこくーん……?」

男「天使ちゃん、涎よだれ。そういえば後輩、お前からコイツに言って聞かせれば――――え?」

男(天使ちゃんの目覚めと同時に、目の前から後輩の姿が消えていた。同僚なら、せめて挨拶の一つしていってやればいいものを)

ここまで。あとで来るかもしれないし、来ないかもしれない

連休中に書こうと思ってたら遊び呆けちゃってたよ。三日間って短い
ちょっとバテたので、続きもう少しだけ待ってくれ

あ、描いて頂いた絵は全部きっちり保存させてもらったかんな!!・・・ふぅ

天使「だ~か~らぁ~……自分は居眠りなんかしてませんってば!」

天使「ずっと男くんの隣にいた筈なんです。ウソじゃねーですよ!」

男「『いた筈』とな。だけど、俺と後輩の会話を聞いてなかったんだろ? しかも気がついたら知らない床に転がっていた」

男「で、目を覚ましたわけだ。顔中を涎まみれにして……天使ちゃん、そこは見栄の張りどころだとは思えんよ、俺」

天使「見栄でもなく事実なんです! もう、信じてくれないなら男くんのエロ河童!」

男「一方的すぎやしないかッ!!」

男(天使ちゃんへあれこれと尋ねてみると「知らない」、「記憶にない」、「何処へも行ってない」、しかし「いつも通り傍にいた(筈)」と不明瞭な話をされる)

男(俺から先ほどの一件を聞かされると、彼女もチンプンカンプンと首を傾げた。自分と、外で確かに起きた事のつじつまの合わなさに混乱寸前)

男(今さら天使ちゃんがこちらへ偽るとも考えられない。その様子からしてもである)

男(待てよ、今回は直接ではないとはいえ、天使ちゃん、神側に関連する会話があった。それも隠された真実へ触れかけていた話が)

男(『天使』。彼女とは随分親しくなれたが、味方ではあるが、仲間ではない。まだ神>男くんの差が残っている)

男(後輩と天使ちゃん。天使ちゃんが後輩は自分の同僚と話したことは一度もない。というより、天使ちゃんは『もう一人』の存在を知らなかったのでは?)

男(アイツは天使ちゃんを『自分の目と手』と言っていた。その『目』が瞑られていたのは? ……湯煙といい、アイツにも何か力があるに違いない)

男(頭脳をフル回転させる。掻き集めた不確かなピースを並べ、導かれた推測――――)

男「ほう……身勝手なウソだな、後輩」

天使「ところでその手にある箱なんです? ……泥棒?」

男「変態って呼んでいいから、これ以上洒落にならない呼び名は止さんか」

男「盗ったんじゃない。貰ったんだよ、お前の仕事仲間から」

天使「は? 仕事?」

男「天使ちゃん以外にも、この世界にはお前と同じような存在がいるだろう。その子から真心込められて渡されたよ」

天使「ちょっと待ちやがれですよ、男くん? 自分の他に主の使いがここに居るわけないし、来るはずもないです」

天使「あー……男くんの方こそ、居眠りしてたんじゃないですかぁー? 妄想ぉー?」ニヤニヤ

男(間違いない。彼女は後輩の正体に気づいていないと見ていいだろう、ビンゴである)

天使「無視かーい、男くーん? 生きてますかー?」

男「ん? ああ、ちゃんと聞いてるよ。……それにしても、結構重量あるな」

男(渡された箱を片手に持ち、軽く振るとしっかりずっしりな重みを感じる。この中身について具体的な説明は聞いていない)

男(いないが、封を開ける事によって俺は記憶を取り戻す。後輩の言葉を事実と受け取り、覚悟を決める必要がある、らしい)

天使「それ中身は何なんですか? も・し・か・し・て……美味しい食べ物がッ!?」

男「分からないんだよ。開けるまでは秘密らしい」

天使「じゃあ、早く開けちまいましょー! 秘密にされると滅茶苦茶気になるんです!」

男「申し訳ないが、これは天使ちゃんへのお土産でもなければ、恐らく食べ物でもなーい!」

天使「そ、それでも見せてくれたっていいじゃないですかー! 見せろぉ~!」

男(頭の上に掲げた箱を奪おうと、ピョンピョン小さく跳ねる彼女の頭を抑えつける。しかし、これを他人が開けたらどうなる?)

男(ちょっとした好奇心の生まれ。上げた手を天使ちゃんの前まで下げて行き……)

男「やっぱりやれないわ」   天使「だぁー!」

男「いいか? コイツは俺が受け取った大切な物だ。悪戯に扱って良いわけがない」

天使「ぶぅ~……意味不明ですっ、自分には見せられないんですか」

男「それも、分からない……でも思うんだ、天使ちゃん」

男「俺はきっとこの中に仕舞われてある物を知っている。自分にとって無くてはならなかった物が」

男(そんな重要キーアイテム、これまでの人生の中に存在しただろうか。だが、親しみというか、懐かしい気持ちが箱から溢れている)

男(同時に、寂しさのような、気が重くなる心地の悪さ的な感情も。パンドラの箱だとでもいうのか、コイツは)

男(そんな絶対に開けてはならない箱が委ねられた。だが信じよう、奥底にはかならず希望が眠っていると)

男「なーんて、真剣に受け止められるほどの覚悟もないわけだが」

男「大体アイツが脅すようなこと言うから中を見たくなくなってるだけだ! やるならさっさと、この場で――――」

オカルト研「きえーっ!!」  男「あああぁぁぁーっ!?」

男(頭部へ唐突な打撃。振り返る間もなく第二撃目が、こめかみを強く打つ。もう一発、また一発……!)

オカルト研「おまけにもう一撃!」

男「要らんなぁッ!! うおおぉぉ、おまけは付けんでいいぞッ!? (大幣を振り上げる手を掴み、壁際へ襲撃者を押しこむ)」

オカルト研「きゃうっ……/// いきなりごめんなさい、男くん。でもあなたが悪霊に乗っ取られかけていたから」

男「ああ、お陰さまで自分を取り戻したアリガトウっ……!」

男(俺たちの声に反応した他3名も「どうした?」と階上から顔を覗かせる。また退屈な時間が来た、と天使ちゃんは落ちた大幣のフサで遊び始める)

男(騒がしくて、落ち着きのない。これが俺の日常、だろう。コレを失う覚悟をしろ? またまた御冗談を)

男(僅かだが、葛藤が心の内で生じた気がする。こんなどうしようもなく楽しくて、嬉しい毎日を無駄にしたいと思えるものか)

不良女「お前ずいぶんトイレ長いのなぁ? ぶっ倒れてるんじゃないかってみんな心配してたんだよ?」

男「実は俺 結構人ん家のトイレにうるさい性質でな。この家のは珍しく我がお眼鏡に敵ったのだ……なんという居心地の良さか」

転校生「……はぁ?」

男「まず入り口から。見よ、この見るからに安息を約束された地と言わんばかりの優しき門を。色、形、プレートに掛かった可愛らしいキャラクターもポイントだな」

男「で、さっそく中を開けて!! 嗚呼……ようこそ、ここが天国だ」

男の娘「……」パチクリ

オカルト研「……[ピーーーーー]」

イメージで不良女描いてみました
服装はお遊びであって、常にこんな服着ているとは思っていません!

転校生もリンク切れ&微妙に修正したので再アップしておきました
セリフのチョイスは必ずしも絵と合ってはいませんすみません……
それにつけても>>1のキャラはキャラ立ちしていて描きやすい…!

男「お前たち……その顔、さてはトイレがどれだけ素晴らしいのか理解していないな?」

男「ただ溜まりモノを排出するだけでなく、穏やかかつ緩やかに、物事を考えることができるプライベート空間。そう、自分の時間に浸れる」

男「外敵のない密室の中! 高まる気持ちを落ち着かせ、下着を降ろすんだ……そうすると、ほぅら、安心感があなたを包み込む」

男「あなたを支え、安息の時を見守ってくれるパートナー便器! 便器くんはけして邪魔をしません。白くて丸いフォルムの便座がお尻を優しくカバー」

男「さっそく座ってみよう。優しくな、優しく。便器に乱暴するのは裏切りだ。便器くんは俺たちのお友達なのだから……」

男「ここで読書をするも良し、歌をうたっても良し、ご飯を食べるも良し。用を足したら綺麗に秘部をペーパーで拭いましょう……ぬぐ……う……」

男「……トイレットペーパー、切れてるぞ。男の娘」

男の娘「……後で変えておくよ。[ピーーー]」

男「いいか? 全てが済み終わったら安心を提供してくれた便器に一礼。お辞儀の角度は深くなくて良い。そしてこう頭の中で思うんだ」

男「きっとまた来るね。彼は声には出さないが答えてくれるだろう。『待ってるから』……別れを惜しみつつ、すぐ外へ出よう。ここは自分だけの物ではない」

男「トイレは誰であろうと受け入れてくれる。ありがとう、だから俺は常日頃から感謝の気持ちを込めて大切にしてあげてるんだ」

不良女「…………」

オカルト研「こういう事をあなたに言うのは躊躇ってしまうけれど」

オカルト研「男くん、あなた疲れてる」

男「そうだな。憑かれてる」

男(若干、いや、ここ最近の俺の奇行から本気で心配されている気もするが、話のインパクトさによって手の中にあった箱へ触れられずに済んだ)

男(時計を見ると確かにあれから時間がかなり経っている。疑われはしないとしても、彼女たちに、先ほどまで手にしていなかったコイツを見られては何か思われるだろう)

男(何事もなかったと言わんばかりに自然を装い、鞄の中へブツを突っ込んで、俺たちは男の娘宅を出た)

ペペ・ポポ「アギャギャギャーッ!!」

転校生「犬かわいい♪」  男「モンスターって例えがしっくり来るぞ、こいつら」

不良女「なんか悪かったな、突然こんなに押しかけちゃったりしてさ。居心地は悪くなかったぜ?」

男の娘「謹むのか遠慮ないのかハッキリしてよ!? でも、男はあんまりゆっくりできなかったんじゃない?」

男「そうでもないよ。男の娘の部屋に入れたってだけで今日は収穫ありかな」

男の娘「そ、そう……えへへ。[ピーーーーーーー]///」

男「……なぁ、お前の家族ってさ。何人構成だ?」

男の娘「え、急にそんなこと訊いて何?」

オカルト研「分からないの? 彼には見えたの。あなたたちが気づけない、存在する筈のない家族の姿が」

男(いつものオカルト研節だとは理解していたが、それでもこのタイミングではギクリとさせられる)

転校生「や、やめてよぉ……!」

男の娘「えっと、別にウチには変なのいないとは思うけれど……4人家族だよ。あの2匹を合わせたら6人かなぁ」

男(『4人家族』。男の娘の口からそう聞けたことに複雑な心境に落ちる)

『そんな子は最初からいませんよ。この家の住人は三人だけ』

『私はそこへ紛れ込んだ異物。あなたの世界で偽りの生活を過ごす、どこにも存在しない女の子』

男(どこにも存在しない、俺が求めなければ、彼女は神の遣いのまま 『後輩』という役割を与えられなかったのだろう)

男(『後輩』の立場を彼女が選んだのは単なる気まぐれか、一番立ち回り易かった為か。もしかしたら、もっと別の形で彼女と知り合っていたかも)

男「俺は、後輩だから好きになれたのかね。それとも役なんて関係なく、彼女自身を好きになっていたとか」

男「偽物じゃあなく、もっと本質的な物に引かれて……その答えも開ければ全部」

男「思い出すってことは、これまで俺が経験してきた、いや 攻略してきた美少女たちとのイチャラブも思い出すんだよなぁ!!」

男「それって1度で美味しい思いができるわけじゃねーかな!?」

天使「男くん大丈夫ですか?」

男「え? 何が?」

天使「いやだって……突然黙り込んだと思えば、次は大声出してみたり、喜んでみたり」

男「怪しい奴なんだろ? 自覚してる。でも、今は自分でもどうにかして頭のモヤを払いたいっていうかさ」

男「ちょっと、疲れてるんだ。マジで。本当に色んなことを一気に知ったから……ね」

天使「人間って面倒臭い生き物なんですね」

男(美少女らと別れたあと、天使ちゃんと手繋ぎで家に帰るのは癒しであった。しかし、今日に限ってはこのロリハンドですら俺を戸惑わせる)

男「てなワケで肩車させてみないか?」   天使「やだ」

男「どうして? 俺を励ますと思って!」  天使「いやですっ」

男「……大丈夫だ。穿いていないからこそ、元気になれるんだから」

天使「だから嫌だって何遍も断ってるんでしょ!?///」

男「じゃあパンツを穿けば良いだけだろう!! そうすれば黙ってやらせてくれるな!? あはっ、今から買いに行くか!?」

天使「変態へんたいへんたいへんたいへんたいっっっ!! 男くんマジ気持ち悪ィです!!」

男「段々とな、変態って響きに親しみみたいなもんを感じてきたよーへへっ」

天使「ありえねェです……ドン引きですっ……」

男「元の俺もこんな感じだったのかな?」

男「スケベなことが大好きで、女の子から罵られて、でもそれも実は悪いように感じてなくて」

男「なぁ、天使ちゃん。自分が自分でなくなるってこんなに気持ち悪いんだなぁー」

天使「えっ……また違う意味で変な男くんに――――あっ」

男「ん? まだ何かケチつける気……どうも」

生徒会長「男くん、こんなところで偶然だな」

生徒会長「待たせたね、ジュースで良かった?」

男「あれ、子ども扱いですか?」

生徒会長「馬鹿な。君に対して下に見た事は1度たりともないよ」

生徒会長「[ピーーーーーーー]であると同時に……何と言うべきか、尊敬もしているんだ」

男「え? 何て言いましたか?」

生徒会長「ううん、気にしないでくれ。それで? 時間も限られた受験生を拘束してどんな相談かな」

男「迷惑なら帰りますんで。失礼」   生徒会長「めめめ、迷惑と一言でも話したか!?」

生徒会長「っ、コホン……/// い、良いだろう。何でも話してくれ。きみの為なら私の時間も惜しくないから」

男(少し突っついてやればすぐにボロを出す。そんな所も愛すべき彼女の一部であるが)

男「相談ってほど真面目な会話をする気分じゃないんですけど、いつから俺を生徒会に入れようとしていたんですか?」

男(入会させようとした理由はハッキリさせている。彼女が俺を独占しようとしていた)

男(だが、いつ誘って、いつから生徒会長と知り合ったのかを知らなかった。元世界でもあの芋くさい生徒会長と接触した記憶はない)

男(つまり、ここへ来てからの話なのだ。俺と彼女は出会い、初めて喋った)

生徒会長「い、いつから? ……確かに相談とは呼べない内容かもしれないな」

生徒会長「そうだな、男くんと出会って、それからすぐだったと思う……」

男「それはつい最近?」

生徒会長「ああ、もう随分前の事のように思えるが、そうあれから時間は流れていないな」

男「……具体的に、覚えてないんですか?」

生徒会長「具体的と言われると、何とも。君と話をする機会ができたのはここ最近だった」

生徒会長「こんなに近くにいたのに、1年も存在を知らなかったなんて勿体ない話だね。ふふっ……///」

男「最近……じゃあ、その『機会』ってのは?」

生徒会長「今となっては良い思い出だが、私が廊下で書類をバラ撒いてしまった時に男くんが手伝ってくれたんじゃないか」

男(それがつい最近で、彼女を知った『機会』なのか。おそらくそれだけで理解できないが惚れられた、と)

男(……やはり何か引っ掛かる。果てしなくどうでもいいかもしれないが、俺の中では重要な何かに)

男(1周目の俺がこの世界で目覚めてから現在まで、そう長い期間が流れてはいないようなのだ)

男(俺は、美少女を一人攻略、ルート固定された後 記憶を失うまでを『1周した』と定義している。つまり、後輩、先生、転校生……今回は4周目となるのだが)

男(本当にそうだろうか?)

男(勝手な推測とメモに書き記された内容から、そう考えているだけで、実は間違いなのでは?)

男(そもそも 個人ルートへ進んでから1周を終えるためにはどうすればいい。俺はそれを知らない。ゲームのようにEDまでのイベントを乗り越えるだけか?)

男(目の前ばかりに囚われるのは愚かである。視点を変えてみよう、『なぜ時間を撒き戻されてしまうか?』)

男(神は基本的に、どのような形であれ この俺が幸福で満足に至ってくれることを望む。だから、ハーレムを達成だとか、俺個人の目的に直接関与してはこないのだ)

男(すると自然にこういう点に辿り着く。幸福とは真逆の不幸が起きてしまったのでは、と)

男(俺が回避しようもない最悪の事態に陥り、放って 時間の流れで解決してくれる問題ではないとみなされた)

男(結果、部下の天使ちゃんへ最悪を無かったことにするように、この世界における時間を撒き戻させる)

男(以前 水着売り場で天使ちゃんから聞かされた。『絶望のどん底なんて状態になれば、何もかもパー』)

男(……記憶を消去されてしまうのは、過去に起きた問題を消すため。そして全てまっさらな状態へ戻されてしまうのは、中途半端に覚えていられて、再び同じ事態へ陥らないため)

男(美少女の記憶まで、の理由もそう考えて行くと、関係を戻し、やり直すことを可能にするためではないか?)

男(待て……関係を、やり直す……?)

男(――――そうか。きっと付き合い始めてから何か縺れがあったに違いない。ここまでの考えと辻褄が合うぞ)

男(俺は相手とトラブってしまった。そして最終的に、バッサリ、と。かなりショックだっただろう。ハーレムを目指した男が、わざわざ個人へ走ってしまうほどだったのだから)

男(『絶望』。俺はきっとその時絶望してしまったのかもしれない。この程度で大袈裟とも思えるが、その時の気持ちはその時の自分にしか理解できない)

男(幸福の世界で、更なる幸福を目指す。が、そこから反対へ向かって進む。コレこそが正解では……?)

男(そして、これが正解だとすればである。『4周目』、今度こそ 本当にそうだろうか? だ)

生徒会長「君との出会い方には不満も残っているが、それでも男くんと知り合えて本当に良かったよ……///」

男「ん……え? 何だって?」

ここまで。また日曜日にでも

>>913
そのうち開店するキルミー屋に置いて欲しいTシャツだな・・・

訂正
>>929
男(神は基本的に、どのような形であれ この俺が幸福で満足に至ってくれることを望む。だから、ハーレムを達成だとか、俺個人の目的に直接関与してはこないのだ)

男(神は、どのような形であれ この俺が幸福で満足に至ってくれることを望む。しかし、基本的にハーレム達成やらに直接手を貸すことはなく、こちらの自由にさせているのだ)

男(最悪を回避する為の緊急処置、自分の中ではかなりしっくり来る推理だ)

男(が、『やり直し(巻き戻し)』については天使ちゃんが一度説明してくれた時があったのだが、覚えているだろうか?)

男(彼女はこう話してくれた。要約するとこんな感じ……『男くんが幸せへ辿り着くよう、男くんの気力に反応した世界が都合のいい時まで時間を遡る作用を起こす』)

男(天使ちゃん自体が一人で力を発揮するわけでなく、力を貸す、という形で時間逆行を行なわさせているらしい。それも超親切心で)

男(この時の代償として俺の1周における記憶が消える。それに対する理由が『記憶を残したままリセットされれば、普通の人間は混乱する』から)

男(胡散臭い話だし、自分には遠い世界のおとぎ話みたいだと冗談半分で聞いてはいたのだが……自分の推理と照らし合わせてみると、何か思う所が多々見つかる)

男(都合良い時間まで遡るとあるが、これは実は、俺、ではなく、神側にとって ではないだろうか。彼らは俺が『真バッドエンド』を迎えることだけは、どうも回避させたくてしようがないらしいのだ)

男(とにかく俺がこの世界をエンジョイしてくれていたら それで良い。……結局は俺にとっても、神にとっても、都合が良い話だということに違いはないとも思える)

男(では次の『記憶リセット』について。コイツの説明がまた実に大雑把だった気がしてならない。一概に普通の人間が過去へ記憶を持ったまま飛ぶタイムリープを体験し、混乱など生じるとは俺には考えられない)

男(とは言ってもである。そんな奇想天外な体験をした人間を現実世界で見たことはないし、確認のしようもない)

男(そうなると単に俺のケチで話を疑っているだけになるのだが……これまでの真実の隠蔽具合を知る身としては、無理矢理こちらを納得させる為に用意した話と見たくもなるのだ)

男(たとえ 天使ちゃんが本当だと語ってくれたモノでも、主である神が「コレはそうなのだ」と言って聞かせられたウソならば、無垢純粋なロリ天使はそれを信じて疑わないだろう)

男(再度、彼女へ同じ話を尋ねたらどう答えてくれるだろうか? 微塵も変わりのない話を同じように聞かせるか、それともあれは事実から俺を遠ざける為の作り話だったと謝る? ……おそらく前者だ。違いない)

男(つまり もう一度天使ちゃんへ確認を取る意味はない。どうせコレは憶測である。ならば、自分の中で答えを作り、納得して終わらせよう)

男(『神は、最悪の事態 あるいは 真バッドエンドなるモノを回避させるべく、俺とその周辺から記憶を奪い、気分一新でハーレム生活を送らせている』)

>>945の長ったるい話は>>929のちょい付け足しみたいなもの
どこからの繋がりとかは気にしないで、あーって感じで見てもらえれば嬉しい

↓から続きます

男(日も暮れ、辺りもすっかり薄闇に包まれた中、電灯に照らされた俺たちは非常にロマンチックな雰囲気に包まれていただろう)

男(一方的な問い掛けから、中身なんて丸っきりない雑談へ移行していき、互いの話に相槌を打って缶ジュースを傾ける)

生徒会長「ふふ! まったく、男くんが隣にいてくれると気を張らずに済むよ」

生徒会長「あっ! 別に他のみんなといるのが嫌と言っているんじゃないぞ。ただ、素のままの私であれるというか……何を言ってるんだ私は」

男(ほう、俺と一緒にいる時だけは生徒会長という堅苦しい自分を捨てられて、女でいられると? なんだか大人な話ではないか)

男「そう言ってもらえると俺も嬉しいですよ。なんだったら、甘えてくれちゃってもいいんですよ~? 子猫みたいに」

生徒会長「に、にゃあ?」

男「…………」

生徒会長「[ピーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーー]ッ!!?///」

男「可愛かったですよ!! すごく、とても可愛かったと思いますから!! いまのちょっと受け狙ってやってみたんでしょう!? ねぇねぇ!?」

生徒会長「きゃああぁぁぁ、やめて!! やめてぇーっ!?///」

生徒会長「ぜーぜー……くっ! 仮にも上級生をからかうなんて、随分な事だなっ……男くんっ……!」

男「でも俺、生徒会長からリスペクト受けちゃってるみたいですしー? そりゃあ調子にも乗っちゃいますって、ハハハ」

生徒会長「[ピーーーーーー]……あははは、ふふふっ……君ってやつは本当に、面白いよ」

男「ねっ、惚れるでしょ?」

生徒会長「もう……///」

男(決め顔ストレートを投げてド直球ド真ん中と言ったところだろうか。言葉を止めた生徒会長は、口元を手で隠して ぎこちなくさせている)

生徒会長「そ、そういえば以前にもこの公園で会ったことがあるのを覚えているかな? あの時はあまり長い時間喋ることもできなかったが」

男「ええ、そういえばそんな事もありましたね (棒読み風に発していないか心配になる。生徒会長よ、申し訳ないがその俺は今の俺ではないのだ)」

生徒会長「あの時と比べて今の私はまた一つ変わったかもしれないね……正直言うと私はあまり会話が得意な方ではなくて」

生徒会長「ずっとただひたすらに、真面目な自分を作ろうとしていたからだろうか。事務的な会話に慣れていき過ぎたのかもしれない……ふふ、こういう時 何を話していいか分からなくなるんだ」

生徒会長「喋り口調だって、年頃の女の子のものとは言い難いだろう? そうやって人を遠ざけていたんだと思う」

男「俺は大好きですけどね、あなたのそういうところ」

生徒会長「どうして平気でそう言[ピーーーーーーーーーー]……///」

男「ん?」

生徒会長「……そんなに私を舐めて良いと思ってるのか? どうなっても知らないんだから///」

男(頬を赤く染めながら、ワザとらしくむっとさせて睨む生徒会長。しばらくソレを眺め堪能していると、睨めっこに負けた子どものように無邪気に声を上げて笑い出した)

生徒会長「ふふふっ……あはは……変な顔っ……!」

男「存じておりますっ……!!」

生徒会長「ふふっ、冗談だよ、冗談っ……でも[ピーーーーーーーーーー]」

男(どうやら気を置かなくていいと言った彼女の言葉にウソはなかったらしい。真面目でクールビューティな美少女生徒会長にもこんな一面があったとは)

生徒会長「本当、君の前でだけだ。こんな私でいられるのは……ふふふっ」

生徒会長「きっと君が私を変えたんだろうな。私だけじゃない、その周りも全て。男くんが全部変えてしまったんだよ」

男「俺が? 俺なんてふざけた奴が何をしたって言うんです。俺はいつも自分が楽しめることだけを追っているだけですよ」

男「もし何かを変えたのだとしても、それはその途中で起きてしまった過程にすぎない。全部自分の無意識でやってることだと思ってます」

生徒会長「ああ、そうだとしてもさ……もう、君の存在は私、いいや、私たちの中ではとても大きい。なくてはならない存在さ」

生徒会長「男くんがいたからこそ、今があると私は思うよ。君がいなければ 私はあの子とも不仲なままで、誰も近寄らせないただの堅物ガリ勉女だった!」

男「おっ、自覚ある分マシですよねぇー!」  

生徒会長「ふーん、そういう君は変態を自覚した方がいいんじゃないか?」

生徒会長「……あはっ……ありがとう、男くん。君のお陰で私は楽しいよ」

男「生徒会長さまからの、ありがとう、なんて俺には勿体ない。何度も言いますけど俺は自分の――」

生徒会長「それと! ……きみはもっと、私に[ピーーーーー]る自覚を持つように……///」

男(難聴生活が続き小慣れたものだな。何を言いたいのか多少なら、手に取るように分かってしまうぞ)

男「生徒会長こそ、俺に好かれてる自覚持ってくださいよね?」

生徒会長「っ~~~……[ピーーーー]///」

男(しかし、俺が周りを変えてしまった、か。なんて罪深い男なのだろう俺という人間は。自分でなければ嫉妬してしまう)

男(一人の美少女を手に入れるだけでは勿体ない、やるなら男の夢たる美少女ハーレムを! と、始まって彼女たちはその被害者だというのに。ふむ、知らなくていい真実はここにあった)

男(こんなダメな奴にでも、何かを変える力があるなんて信じられない。この世界だからこそなのだ。現実では金と能力、おまけに顔が物を言うのである)

男(それでも、誰かに歩み寄ることで、小さなことでも変化は起こせる……臭すぎる。反吐が出てくる。こんなに恥ずかしい奴だったのか 俺は)

男「そ、そろそろ帰りましょうか! もう時間も時間ですし!」

生徒会長「ああ、そうだな。それで? 相談は無事済んだのかな?」

男「ええまぁ、ていうか結局何も……いや」

男「なんだかちょっぴりだけ、勇気もらえましたよ」

男(言われて不思議そうに首を傾げる生徒会長を他所に、空き缶を捨てるべくゴミ箱へ持って行く)

男(つもりだったのだがね、缶が手から滑り落ちてな、上げた足の下へ缶が転がり込んで、グシャッ!! ……狙ったわけではないのだ、赦せ)

男「うお――――――」

生徒会長「えっ――――――」

男(――――――済まぬ) ボイン

生徒会長「ひっ……あっ、あっ、あああぁ~~~……!?///」

男「勇気、たくさん もらえました」むにゅ

男「俺は悪くないのに。俺は悪くない、そうだよな?」

天使「ラッキースケベで全部台無しにしましたね~っ!!」

男「ああ、そうだよ!! あの人もあの人だ……どうして今回に限って……」

男(右頬に赤くなって残る平手の後を、励ますように擦りながら帰宅すれば、今度は妹がぷんすか!と)

妹「いつも帰り遅すぎって自分でも思わないの?」

男「……冷静に言うのやめてくれないか。幼馴染みたいで怖いんだが」

男「俺はこう見えて多忙な人なの。だから、こういう時は優しく笑顔でおかえりって迎えてあげると嬉しいんです。OK?」

妹「バカな妹だから私そういうのわかんなーい」

男「……可愛いぞ、妹。今日は一段と髪艶がいいな。あれ、お前こんなに可愛かったっけ?」

妹「ちょ、変態!! 手つきキモいっ!!///」

男「ゲヘヘヘッ! いつのまにか兄の知らんところで色んなとこ成長しおってからに!」

妹「ぎゃああぁぁ~~~!? わかった、わかったから!! おかえりなさいっ!!」

男「わかりゃいいんだよ、わかりゃ」

妹「バカお兄ちゃん、信じらんない! セクハラその他諸々で訴えても文句言えないんだからねっ」

男「俺の可愛い妹はそんな酷な真似しないから。……珍しいな、幼馴染はもう帰ったのか?」

妹「えー? あー、まだいるよー。漫画読ませたらハマっちゃったらしくて夢中になって読んでたー」

男「漫画? だったら何故リビングにいない? お前の部屋か?」

妹「ううん。お兄ちゃんのやつだったから、そっちじゃないのー? ……ぬおっ、こやつ中々硬い」カチカチッ

男(俺の部屋に幼馴染がか。布団でゴロゴロしながら漫画を読み漁る彼女を想像すると、かわいらしいイメージについ顔が綻ぶ)

男「部屋に入ったら、きっとスカートが捲れてて、パンツがチラリとかしちゃってたりなんかしちゃって……やっぱ良いなぁ、親しい子がいるってさぁ」ムニムニ

妹「ちょー、ほっへはいじらないへほぉー……ひゅうちゅーしへふんだからぁー……」

男(ゲームに夢中な妹の頬っぺたを背後から掴み、むにむにと遊ばせていると、ふと『漫画』のワードが脳内へ急上昇してくる)

男「……漫画って俺のなんだよな。それ何てタイトルの?」

妹「えー? 何だったっけ、よく覚えてない。私そんなに興味ないヤツ?」

男「知るかよっ!! ちょっと待て、漫画ってアレのことじゃねーだろうな!?」

男(アレとはアレである。急いで階段を駆け上がり、中に幼馴染がいることなど気にも留めず、戸を遠慮なく開け放つ)

幼馴染「あっ……お、おかえりなさい」

男「お前……それ……見たのか…………?」

幼馴染「ごめん、見るつもりはなかったんだけど。本当にごめんね……つい」

男(ガクリ、と膝をつき 手をつく。その様子にあたふたとしながら幼馴染は、ソレを俺の前に突き出し頭を下げる)

幼馴染「ごめんなさいっ!! で、でもこれに載ってる女の子みんな可愛かったっていうか、む、胸も大きいし!!」

男「皆まで言うな」

幼馴染「……男くんって、さ。……メイドさんとかも好きなんだね、あはは」

男「やめろこれ以上言うんじゃないッ!!? ていうか、も、って何だ!? 他にも見つけたのか!?」

幼馴染「スク水、婦警さん、女王さま、ナース、バスガイドさん、獣耳、あとは……[ピーーーーーー]///」

男「あぁ!? 何だって!?」

幼馴染「ごめんなさぁーいっ!!」

幼馴染「あ、ラバースーツ? っていうのもあるんだね。あたしこういうの詳しくなくって」

男「死体に鞭打って楽しいのかお前は……っ!!」

男「いつかこうなるんじゃないかって恐れてはいたんだ……近い内にって……幻滅してくれ、幼馴染よ」

幼馴染「し、しないよ! 大丈夫! あたしは男くんの好みに煩く言うつもりなんてないから!」

幼馴染「それに……男くんが[ピーーーーーー]なら、頑張って[ピーーーーーーーーガーーーーーー]……///」

男(そんな目で見つめるなよ。興奮しちゃうじゃないか)

男「とにかく一旦部屋から出ろ。そして、いいか! 男の部屋に入っても怪しい場所はサーチしない! 約束してくれ」

幼馴染「はい、反省します。約束します……[ピーーーーーーーーーー]」

男「ぐっ、お前いま何か企んだよな!? 言ってみろ!!」

幼馴染「なななな、何も企んでなんかないよぉ~!? や、やだなぁ~……///」

男「ったく、オチオチ変なのも買えん。やっぱりアナログはダメだ。もう時代はデジタルでエロか」

幼馴染「……~♪」

男「PC起動させてHDD確認されてたら、真面目に首吊るからな」

男(笑顔が引き攣り始めたぞ、幼馴染よ。どうした笑えよ。笑い飛ばしてやってくれよ、俺の虹[ピーー]画像たちを)

男(なんて冗談は置いておくとしてである。重大な物の発見は免れた)

男(アレを見られるとまた言い訳をする手間が掛かるし、面倒でしかない。そんな物を未だ漫画へ挟み込んでいる俺も俺だが)

男「ところでお前が漫画読むなんて珍しいんじゃないか? 一体アイツに何読まされたんだよ」

幼馴染「えっ! あっ……あの」

男「んー? 読むのは構わないけれど、キッチリ棚に仕舞っとけよ。まぁ、お前はそういう所しっかりしてるし、心配要らんと思うが」

幼馴染「ま、またまたごめん! すぐに片づけるから!」

男「おいっ、バカまだ隠し終わってないんだから入る――――マジか」

男(床の上に置かれた漫画たちへ手を伸ばす幼馴染を止め、1巻を手にとってあるページを開く。……やはり、無い)

男(確認した後、パラパラとページを捲っていくとメモが一枚はらりと床へ落ちる)

男(こう見えて俺はかなり几帳面である。何かを保管する時はかならずそこと決めたら、緊急でもない限りズラすことはない)

男「(それが、何故かズレている。すなわちは) ただのしおり代わりだからな、気にするなよ」

幼馴染「えっ、それがしおり……?」   男「へぇ、やっぱり見ちまってたのか」

幼馴染「っー!! 何度もあやまってるけど、ごめんね……あの、それ大切なメモか何かなの?」

男(おそるおそると、腫れ物に当たるように彼女が下手に出る。あの内容を見られては普通はこうなるだろう)

男(たぶん、こう思われている痛いヤツ。が、俺の幼馴染はそう簡単に人を蔑む子ではない)

男(では こうだろうか。「どうして男くんがこんな物を書いているんだろう?」 字は俺の物だと気づいている筈だ、間違いなく)

幼馴染「言いたくなかったら言わなくていいの。でも、心配だから訊くだけきかせて? それって前に話してくれた……」

男「いや、記憶喪失とは一切関係ない。ただ小説のアイディアが不意に浮かんだから書き留めてただけさ」

男「最終的にコイツを元に作ることもなかったし、痛い思い出だ。でもまぁ、自分でも中々面白いのが浮かんだなと思って捨てられずメモ代わりってワケよ……」

幼馴染「へー……」

男(頼むからこれで納得してくれ。幼馴染はやけに勘が良すぎる傾向がある。まさかメモの内容を鵜呑みにするとは思えないが)

男(それでもである。ハーレム計画だけは、それだけは知られないでくれ! それだけは非常に不味い! 不味すぎる!)

ここまで。そろそろ次スレに移る準備始めようか

とりあえず明日も来るから、その時に動く感じになるな
スレタイも考えときましょうねー・・・

次スレ
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」 - SSまとめ速報
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ちょっと早いけど念のためということで
ギリギリいけるならこっちで少し書いてから、向こうへ移る

男(数分前まで楽しいラブコメ劇が繰り広げられていたと思えないほど、中の空気は張り詰めている)

男(まだだ、まだ俺にアドバンテージがある。当人留守の間 私物を勝手に拝借し、偶然でも隠された物を見た罪の意識が、彼女の追求を塞き止めている)

男(これがもし、幼馴染ルート時で起こってしまった場合は恐怖でしかない)

男(だが今ならば、他の美少女との絡みをひとまず許容されている今ならば。……だが、密かにハーレムを作ろうとしていた、なんて知ったら誰であろうと確実に良い感情を持たないだろう)

男(ラーメン愛好会メンバーとの決着時でも、俺は『目的』を漏らしことはしなかった。ただ、「全員好きだから選べないよ。迷うねぇ」という話で丸く収めた)

幼馴染「……」

男(無言が続くと息が苦しい。……どうする? 疑われているのは確実だ)

男(きっと俺からの言葉を待っているだろう。自分から訊くことはないとみた。だからといって、甘えてスルーさせて良いものか?)

男「コイツを見てどう思った?」

幼馴染「えっ」

男「感想をぜひ聞きたい。それなりの自信を持ってわざわざ書き留めて置いたんだから」

幼馴染「感想って言われても……い、いいんじゃないかな」

男「お前は感想文に面白かったの一言でピリオドを打って終わるのか?」

男「色々思うところがあったんじゃないか? 正直に話してくれていい。その方が助かる」

男「ほら、遠慮するなよ…… (危機こそ嬉々とするのが、この俺である)」

幼馴染「ど、どうしてあたしや転校生ちゃんの名前があったの?」

幼馴染「書かれてる意味がよく分かんないのもあったけど、攻略とか、イベントとか何……?」

幼馴染「あたしの名前の隣にあった要注意って? 攻略なんとかって?」

幼馴染「[ピーーーーーーー]……答えてもらえなきゃ、ちょっと感想言うの難しいよ」

男「質問の何段重ねだ? 一度に色々訊かれたら俺だって混乱するぜ」

幼馴染「あのね……男くん、答える前に聞いてね」

幼馴染「本当はそれを見なかったことにして、忘れた方がお互いの為になる。そうじゃない?」

幼馴染「だから あたし今とっても不安だよ。すごく怖いよ。だから訊こうなんて思わなかったの」

男(幼馴染は、思った以上に聡明な女子だと身を持って知らされる。ゾクゾクしてくるではないか)

男(最も恐るべき美少女は、最も近いところにいた。彼女一人を攻略するなら何よりも容易いだろう)

男(ハーレムを目指すとすれば、彼女は大きな壁となり立ちはだかる。さすが美少女幼馴染、一筋縄ではいかない)

幼馴染「男くん。あたしは男くんの[ピーーー]……じゃ、ないから、男くんを束縛なんてしたくない」

幼馴染「約束したって、それでも男くんの自由を奪うつもりないよ。でもね……[ピーーーーー]……でもねっ」

男「好きだ」

幼馴染「……はい?」

男「お前のそういうところが俺は大好きなんだよ。だから気に入った」

男「いつも自分を二の次にして、俺を優先に考えて動こうとするんだ。真っ先に損するタイプだな?」

男(言うが先か、床に落ちたメモを手に取って、幼馴染の前でそれを原型なく、バラバラに裂いて落として見せた)

幼馴染「男くん……!?」

男「こんな物でお前を勘違いさせちまったことをまず謝りたい。すまん、幼馴染」

幼馴染「あ、あやまらなくていいよ! それより急にそんなことして」

男「コイツはもう要らないんでな、余計な物をいつまでも大事に持っていたってゴミなだけだ」

男「言ったろ? 痛い思い出だって。お前たちの名前を借りてラノベ書こうとか思ってたんだよ、俺は」

幼馴染「ら……のべ……って?」

男「頭の中で物語はできていたんだ。攻略とかイベントとかはそれに出てくる用語みたいなもんで、まだ誰かに読まれただけで理解される物じゃあない」

男「一語一語、詳しく解説していいか? かなり練ってるから2時間以上は掛かるのを覚悟した上で」

幼馴染「えー……練り過ぎ……」

男「だろ? 笑えるだろ? へへっ (それでも、疑い深いお前ならばまだウソと見ているだろう)」

男(幼馴染へ適当な誤魔化しは通用しないことは重々承知である。このままでは彼女は良い思いをしないまま、俺と毎日顔を合わせる羽目になる)

男(俺は、何度 彼女へ謝ることだろうか)

男(幼馴染は好きだ。彼女といると落ち着く。まるで我が家のような、はたまた羽毛布団に包まれるような安心感をいつも与えてくれる)

男(彼女はずっとこんなゲスを待ち続けてくれた。なんと慈悲深い女神な美少女だろうか。さて……俺はこれから勝負に出る。それはきっと無謀かもしれない。もし、俺の例の推理が答えへ掠りもしなければ、アレが何も効果を齎さなければ)

男(今まで積み重ねてきた努力を全て、ぶち壊すだろう――――後輩、俺はお前の言うことを全て信用する)

男「天使ちゃんよ、俺が何もかも忘れた時は、あの箱を、アレを、俺に気づかせてくれ」

幼馴染・天使「は?」

男「いいか。何もかもだ……何も思い出せなくなったその時に……この部屋で始まった時に……信じてるぞ」

幼馴染「男くん? 何を一人で喋ってるの? もしかしてさっきの設定の話始まってたりする?」

男「幼馴染」

幼馴染「え、あ、うん……?」

男「俺は本当に卑怯者だと思うよ。いまの自分が幸せを失うのが何よりも恐ろしくてなぁー」

男「まぁ、結局他人頼みというより自分頼みになるワケだが……それでも、少しでも」

男(野望へ向かう一歩になるのだと、信じようではないか)

幼馴染「あの、さっきから何がなんだかさっぱり――――」

男「――――好きだ、幼馴染。俺の彼女になってくれ!!」

男(悪かったな『俺』、もう限界だよ)

幼馴染「…………」

男(文字通り、キョトンとさせた幼馴染。が、みるみる内に顔を紅く染めていく、プルプルと震えだす)

幼馴染「えっと……よいしょ……」

男「待てまて! なぜ布団の中に潜っていく!?」

幼馴染「夢かと思いまして、はい。きっと漫画読んでる途中で寝落ちしちゃったんだよ、あたし」

幼馴染「だから、これは夢の中で……だって[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「ほう、夢か。夢ならこれからお前の体に俺が何をしても『夢だった』で済むワケだな?」

幼馴染「わっ、え!? ちょ、ちょっとぉ!? いや……あ、やんっ!///」

男(男ならば誰しもが憧れるあのダイブを繰り出し、毛布へ隠れる幼馴染へ迫る。残念ながらパン一で飛び込めなかったのが、惜しくも再現になっていない)

男「これからムフフなことされても文句は言えんぞー!! 俺はもうその気なんだからなぁー!!」

幼馴染「お、おかしいよこんなのいつもの男くんじゃないって!! んっ……男くんはスケベだけど、こんな///」

男「……好きな相手にやらしいことしようとするのは、変か?」

幼馴染「っー……[ピーーーーー]」

男「ん? 何て言ったんだ、幼馴染?」

幼馴染「……すき、だよ……だいすき……///」

男(こんなに目の前の誰かを愛おしいと想ったことがあっただろうか。何度「好き」と口にしても満足に至ることはなかった)

男(何故彼女の気持ちを今日まで蔑ろにして来れたか。近づき、触れ合うたびに甘美な香りが鼻孔をくすぐり、本能が幼馴染を求めた)

男(今ので何度目のキスだ? 何度 俺は幼馴染へ触れた? ……もうどうでもいい。頭の奥から、何からなにまで麻痺し始めてきた)

幼馴染「男くんっ……っあ、ふぁ……おとこ、くんっ……///」

男(呼ばれるたびに彼女の名前を呼び返した。それだけで分かりあえた気がするのだ。それだけで充実感が身を包むのである)

幼馴染「ずっと、ずっとね? こうなりたかった。彼女になりたかったよ。好きって、言い合いたかったっ」

幼馴染「約束……本当に守ってくれてた。男くん、男くん、男くんっ……」

男「そう何度も呼ばれなくたって、俺はずっとお前と一緒にいるから大丈夫だ」

男(幸せ、これ以上の幸せは何処を探せば見つかるのだろう? 俺にはそれが……待て、あるだろうが)

男(俺はそれを知っている。今感じている幸福はその為の……俺には、目的が……あった筈だろう……)

男(別にいいんじゃないか?)

男(忘れてもいいじゃないか。今日ぐらいは、忘れても罰は当たらないでほしい。もうどうでもいいぐらい最高の気分なんだ)

男「幼馴染……」

天使「くだらねぇ美少女ハーレムはもういいんですかぁ!?」

男「ひっ!?」ビクッ

天使「いきなりどうしちゃったんですか、男くん!! 妥協知らずがついに折れたってんですか!?」

男「み、耳元でぇ……うぎぎぎ……やかまし……うおおぉぉ……」

幼馴染「……男くん?」

天使「幼女の目の前で何イヤラシイことおっ始めようと企んでるんです!? マジもんの変態ですか!?」

男(耳を劈く誰かの声。汚い言葉混じりでついには罵倒まで始める始末)

男(だけど、どうしてだろう。煩いのに、聴いていると、心の奥底へ沈んで行った何かが浮き上がって来る)

天使「このっ、ド変態クズ畜生の甲斐性なしウンコッ!!」

男「だああぁー!! 良いとこだったのに一々空気読まない奴だな、お前はッ!?」

幼馴染「きゃ!? ……ど、どうしたの!?」

天使「どうしたもクソもねーですよ! 男くんしっかりしやがれですっ、聞こえてますかー? 聞こえますかああああぁぁぁーーーッ!!」

男「ぎゃああああぁぁぁ~~~ッ!!?」キーン

幼馴染「男くぅーん!? も、もしかして例の病気で発作が起きたとか……ま、待ってて! いま救急車呼ぶから!」

男「ま、待てぇ! ……別に、俺は元気で……み、耳がキーンって……うぁ、頭が割れそう……」

天使「……ふん、目ェ覚めましたか? ド変態野郎」

男「お……お陰さまで、なぁ」

ここまで。次回から5スレ目に移る
あとは適当に埋めるなり放置なり、俺のためにえっちぃ画像を貼るなり、好きにするがよろし

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