男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」(1000)

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↑の続き

男(俺はどこにでもいる普通の男子高校生だ。顔も悪い、頭も悪い、おまけを付けて運動神経も絶望的)

男(だが、両親は仕事で海外に転勤していて、今は可愛い妹と二人暮らし。さらには毎日のように幼馴染系美少女が俺に世話を焼きに来るのである)

男(自分の長所を上げろなんて言われたら、たぬき寝入り上手、物静か。欠点なんぞ夜空に浮かぶ星の数ほど思いつくに違いないだろう。それ、言いすぎ)

男(良い所が二つしか見つけられないのか? そうだな、しいて言えばこの俺は、モテる。まるで甘い甘い蜜を求めに来た昆虫の如く、この俺目掛けて美少女たちが忙しなく突撃してくる。いや、忙しないのは俺だ)

男(こんな冴えない俺なのだ。彼女なんて生まれてこの方一度も作れたことはない。彼女なんぞ想像上の生き物の類だ安心しろ皆おとぎ話をしている、と無理矢理思い込み、自分を安心させようとしていたのである)

男(問題ない。おそらくだ、この先も俺が彼女なんて作る事はないのだろう。何故なら、俺は美少女ハーレムパラダイスを築くのだから。えぇ? 彼女? 時代遅れじゃないですか、そんなチャチなものは?)

男(しかし、こんな普通で困るぐらいの俺にも悩みがあるのだ。それは……)

男「あれ、鍵がかかってる?」

男「なんてな。合い鍵の場所知ってるし…ほーら、植木鉢の下にちゃんとあったぞ」

男「まさか妹たち、外に出てるんじゃねーだろうな……まぁいいか。ただいまー」ガチャリ

猫「ニャウ~」

男「……あっ」

妹「こらー!マミタス、逃げんなー! ……へっ……あっ、ああ、あぁぁ~~~……っー!///」

男「……裸で、おかえりなさいお兄ちゃん、とは随分なお持て成しじゃないか」

妹「いやぁああああああ~~~~~!!?」

男(玄関扉を開けてすぐ俺を出迎えてくれたのは、湿った猫マミタスと、全裸の我が妹。やはり、美少女である)

男「お、おい!ご近所に何事だと疑われるだろ! 変な声あげるな!」

妹「きゃあああぁぁぁーーーっ!? やだっ、ダメ! こっち見ないでよバカお兄ちゃん!! アホアホ!!」

幼馴染「妹ちゃん!? どうか、し……た…………」

男「……よぉ、ただいま」

幼馴染「っー!……///」

男(さすが俺の美少女系幼馴染である。彼女も妹同様、洗面所からの登場。残念ながら、その黄金比とも喩えよう美しき身体をバスタオルで隠してはいたが、丁度良い恥じらいの仕方ではないか)

幼馴染「あ、えっと、その……男くん……?」

男「待てまて、俺ばかり悪者なんて扱い無いぞ。ていうかどうして二人で風呂に入ったりしてるんだよ(いや、想像すれば最高ではないか、その光景は。きっと天使の戯れが見られただろう)」

男「とりあえず俺にも言い訳をさせてくれ? な!? ……うわっ」

男(から、始まるお約束である。俺は足元を通過した猫を回避する為、無理な態勢を取る。すれば、やはりバランスを崩して、幼馴染へ向かって転倒)

幼馴染「えっ……」ハラリ

男(この俺の手は、幼馴染が纏っていたバスタオルを床へずり下ろしたのだ。そこに現れるは、ミロのビーナスに引けを取らぬ芸術品よ。神よ、感謝いたします)

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーー]……!///」

男「え? 何だって?」

幼馴染「男くん、ほっぺたまだ痛む? すごく腫れ上がっちゃってるね…」

男「そりゃ靴べらで引っ叩かれれば、こうもなる」

妹「お兄ちゃんが悪いんだよ! ふんっ!」

男「だからワザとじゃないって言ってるだろ? いい加減機嫌直してくれよ」

妹「知らない! お兄ちゃんのバーカ」

男「やれやれ……(帰ってきて早々眼福眼福。あんな事があった矢先だ。俺の中のモヤモヤした気分も彼女たちによって、明後日へ吹き飛ばされてしまったのである)」

男(ちなみに、あんな事とは、覚えているだろうか。この俺の携帯電話へかかってきた謎の着信を。実は、つい先程に、俺は電話の相手と会って来たところなのだ。……その相手とは)

妹「…ねぇ、ところでお兄ちゃん。今日 幼馴染ちゃんと何かあった?」ひそ

男「特には無いが。それがどうかしたのか?」

妹「ん~……今日二人で家にいた時、マリカーしてたんだけどおかしいの。滅茶苦茶強かった」

妹「おかしいよね? いつも私たち相手に手抜いてくれるじゃん、幼馴染ちゃんは! なのに、なんか全力だし、目笑ってなかったし、話しかけても返事なかったし…うぅ」

男「夕飯時はかなり恐ろしかっただろうな……」

妹「やっぱり何かあったんでしょ!?」

幼馴染「男くーん……[ピーーーーーーーーーーー]……?」

男「なん……でもないです」

妹「わかった。きっと、いつもの女の子絡みの話でしょ?」

男(大当たりである。しかし、幼馴染、今までずっと引きずっていたというのか。嫉妬に燃える美少女、乙なものかな)

男「お子様が出しゃばるんじゃねーよ。なぁ、幼馴染。こいつの面倒見てくれてありがとな」

幼馴染「ううん。男くんのおじさまたちからも頼まれてたし、それにあたしの趣味みたいなものだし……[ピーーーーーーー]///」

男(そう、俺の唯一の悩み、あるいは厄介としているのは、この難聴スキルだ。難聴のお陰で彼女ら美少女の肝心な台詞が俺には聴きとる事ができない)

男(ハーレムを目指す俺としては、この環境は実に恵まれているのだろう。しかし、難聴がそう上手くは俺をハッピーエンドへの道を外させようと、幾度なく妨害を働いてくるのである)

男(だが、神よ。俺はあなたに感謝の気持ちでいっぱいいっぱいなのだ。俺をこの世界へ導いてくれた、あなたは、まさに神。間違いない)

妹「……あっ、私そろそろ部屋に戻って宿題しなきゃなー」

幼馴染「あたし、一緒に手伝ってあげるよ。妹ちゃん」

妹「いえいえー。せっかくお若いお二人がお揃いですので、邪魔者はこれにて去らせていただこうかなーと」

幼馴染「ちょ、ちょっと……///」

男(そう言わずにこの場に残ってくれ、妹よ。お前がいない空間と変われば、俺はこれから肝を冷やされる思いをするのだから)

男(と、これ以上幼馴染を敬遠するわけにもいかないだろう。彼女はもはや落ちたも同然であるが、放っておく事もできないのだ)

幼馴染「もう、妹ちゃんてば……」

男「あいつも気が効かせられるお年頃になったってことだろ。じゃあ、気兼ねなく二人の時間を過ごそうじゃないか」

幼馴染「えっ!? そ、それって……///」

男「ほら、俺たちクラスは別で、中々会って満足に長話もできないしな。たまにはいいんじゃないか? こういうのもさ」

幼馴染「男くんは[ピーーーーーーーーー]……[ピーーーーーーー]、[ピ---]……!」

男「え?何て言ったんだ?」

幼馴染「それはそうと、男くん! ……先輩さんとの食事は楽しかったかな」

男「は、えっ!? あ、ああ……まぁ……楽しかった……」

幼馴染「そっか。別にあたし怒ってるわけじゃないからね? 男くんと昨日約束したばっかりなんだもん」

幼馴染「……それに男くんは[ピーーーーーーーー]、ね…」

男(やはりまずかっただろうか。重要イベントを起こした後で、他の美少女たちへアクションを起こしたのは。見れば、彼女はとても思い悩んだ表情で下を向いている)

男(妹に感謝だ。ここでフォローの一つしておかなければ、大惨事が発生してしまう、そんな気が、虫の報せがする、なのである)

男「幼馴染。お前は、俺にどうして欲しいんだ?」

幼馴染「え?」

幼馴染「どうして欲しいって……そういわれても……」

男「俺はな、お前にいつも感謝しているんだよ。こうして飽きずに俺たちへ世話も焼いてくれているし」

男「別にギブ&テイクとかそんなつもりじゃないぞ。お前は俺の事が好きなんだろ?」

幼馴染「えっ!? あっ……うぅー……///」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]…」

男(安牌。スルーである)

幼馴染「でも、だからって男くんを無理矢理奪っちゃう形になるのは嫌だから。…それに、男くんは、あたしのこと[ピーーーーーーー]?」

男(「男くんは、あたしのこと好きなの?」だろうか。好きに決まっているだろう。こんなにいじらしい美少女を誰が嫌うものか。いや、嫌ってたまるものか、なのだ)

男(さて、よく考えて返事をしようではないか。これは幼馴染ルートへ進みかかっている状態と考えて良いだろう。ハーレムを目指すならば、回避を)

男(幼馴染と添い遂げるならば、YESの一択となる。……ハーレム。どうも先程の件(電話)が頭の中をグルグル回って、俺を悩ませる。せっかく美少女の裸体に癒されたばかりだというに)

男(この世界は、一体何なのだろうか。それは俺にとってでもあり、彼女たちにとってでもあり、[ピーーーーー]にとってでもあり)

男(夢か、はたまた偽りの世界なのか。神よ、あなたは何を思ってこの俺を選択したのだ。俺に何を求めていた?)

男「……なぁ、脱線してすまんが、一つ尋ねたい。大丈夫か?」

幼馴染「え? う、ううん、大丈夫だよ。何でも聞いて?」

男「幼馴染。お前と俺はいつから、こんな関係になったのか教えてくれ」

幼馴染「こんな関係? えっと、ごめんね。ちょっと聞かれてる意味がわからないです……いつから幼馴染の関係ってこと?」

男「ん……」

男(勿論だとも。俺とて自分で何を聞いているのか意味不明なのだ。それに、よく考えれば失礼極まりない質問だろう)

男(だが、あれから神に接触できない俺としては、この世界の住人から情報を聞き出すしかないのだ。しかし、真実を知れたからといって、戸惑いは抱かないだろう)

男(この俺がモテてモテて仕方がない、ハーレム主人公な世界だぞ。嫌なわけないだろう)

男(だから、これは単なる興味本位からの行動。ここ数日間、自分自身に起きていることは実に奇妙な体験の連続。すれば、やはり解明の一つはしておきたくはなる)

男(そこから真のハッピーエンドへのヒントへ繋がれば、更にもう万々歳ではないか。しかし、知らなくて良かった、なんて話になれば俺の心情はどう変化するだろうか。強気でいられなくなる?)

男(……問題なかろう。それでも俺はこの世界で美少女たちとのパラダイスを築き上げよう。覚悟はとうの昔に決まっていた)

男「じゃあ、聞き方を変えようか。お前、いつこっちに引っ越してきたのか教えてくれ」

幼馴染「えーっと、引っ越してきたのはほんとに最近の話だよ? たしか~……1週間とちょっとぐらいかな?」

男(予想していたよりだいぶ日が浅いではないか。母さんの言う通り、彼女は最近俺の元へやって来た、というわけか)

男(では、彼女も転校生ということになる。そして、一週間空けてすぐに、新たな転校生が登場。別にいい、構わない。そこに問題はない)

男(問題なのは、なぜ俺がそれを覚えていなかったのか、だろう)

男(別世界の俺を仮にBとしよう。Aが元世界の、この俺である。三日前、神によってAとBが入れ変えられた、あるいはBの精神がAの精神へ上書きされてしまった)

男(となれば、だ。それ以上前の日に行動していたのはこの俺、Aではなかった。つまり、Bなのである)

男(意味不明だろう。俺も無い頭をフルに使ってのこれなのだ、もう何がなんだかよく分からない)

男(俺が言いたいのは、ただ一つ。元々この世界では、別の、もう一人の、パラレルな俺が暮らしていたのではないだろうか?)

男(それならば、今までの記憶にない約束やら出来事にも、とりあえずは納得がいく。そうだ。ここは俺がモテる人間というパラレルワールド。一先ず、そういう事だったとしておこう)

男(これ以上自分の頭を苛めても、俺が想定できる説は現れない。そもそも神がしでかした事なのである。凡人の俺の予想を越えるものであっても、理解できなくても、仕方がない)

男(しかし、自分で立てた仮説とはいえ、嬉しいのやら虚しいのやら。俺がモテる世界が存在する、結構)

男(だが、俺は今までモテていた、まるでハーレム主人公のような生活を送っていた、もう一人の俺の、お零れをありがたがっているわけなのだ)

男「……何処にいようが、惨めなのは変わりない、か」

幼馴染「男くん?」

男「いや、何でもないよ。気にしないでくれ……別に良いじゃないか、それでも……!」

男(これからは俺がこの世界の俺なのだから。それで良いじゃないか! 何の不満があるというのだ。これ以上贅沢を言っては、休みなく訪れてきてくれる幸福へ対して、失礼ではないか)

男(もう十分だ。俺は俺で変わりない、いや、モテる俺で良い。この世界は元世界とは、今までとは違い、最高なのだ)

男(作ろう 俺だけの最高の美少女パラダイス、である)

男「質問はそれだけだよ、幼馴染。ありがとな」

幼馴染「うん? ……よく分からなかったけれど、男くんの力になれたのなら」

幼馴染「それで、あのぅ……さっきの返事は? 男くんは[ピーーーーーーーーー]かっ、て話……」

男(好きなのかどうか、と尋ねているとしか考えられないだろう)

男「ああ、好きだよ!」

幼馴染「えっ……ほ、本当に……!?」

男「だって幼馴染だろ? お前のことが嫌いなわけないじゃないか」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーーー]……[ピーーーーーーーーーーーー]……?///」

男「だから、これからもよろしく頼む。仲良くしてくれよ」

幼馴染「…………あれ? …あ、あの 男くん? もしかして、幼馴染として好きかどうかって[ピーーーーーーーーー]……」

男「ふぁあ~……悪い、そろそろシャワー浴びてくる。今日は色々あって疲れちまって」

男(なんと最低な回避方法なのだろうか。しかし、彼女は俺へ病的に惚れている。という設定で考えれば、だ)

幼馴染「……うん、そっか。わかった。あたしもそろそろ家に帰るよ」

幼馴染「じゃあ、また明日ね? ……ばいばい」

男(良いわけがあるものか。俺だってあんな風に話を切りかえされては凹むに違いない。俺は彼女たちが抱く鈍感を利用しすぎている。一度、頭を冷やしてくるべきだろう。すまぬ、幼馴染よ)

男(汗を流し、部屋に戻る途中、妹の部屋の戸が中途半端に開いていたのだ。兄としては覗いておかねばなるまい)

男(まぁ特に気になる様子はなかったわけであるが。妹はベッドに転がって漫画を読み漁っていた。というか、あれは俺の漫画ではないか)

男(いつの間に俺の部屋から、しかも勝手に持ち去って行ったのか、と別に言及するつもりもない。彼女には先程助けられた、というほどでもないが、幼馴染と二人だけの時間を作ってくれたのだ)

男(部屋の戸を静かに閉じてあげ、俺は自室へ戻ると、布団へ倒れ込んで横になったのである)

男(……自分の身へ何が起きたのか理解はできないし、するつもりはない。むしろ、この奇跡的展開は甘んじて受け入れようではないか)

~『もし、神様が本当にいて、自分が望む世界へ変えてくれたと言ったら、あなたは信じてくれますか?』~

男(と、いう開口一番、フツーなら宗教勧誘の類を疑う電話の内容を思い出して欲しい。あれ、否、彼女は驚くべき事に俺がよく知る相手だったのだ)

男(委員長である。あの後の展開を思い出してみるとしようか。彼女は、何を思ってか、そうこの俺へ告げた後、返事を待たずに話を続けた)

委員長『……信じてくれる筈ありませんよね。ごめんなさい、突然変なこと言い出して。私のこと、わかりますか?』

男「その声は、たしか、委員長だろ? 俺の携帯の番号どこで知ったんだ……」

委員長『クラスメイトから聞き出しました。勝手にごめんなさい。……何度もあやまってばかりですね、私』

男「別に構わないが、その、最初の神様がどうたらって……どういう意味だ? どうして俺に話した?」

委員長『男…ううん、男くん。あなたは、私が風紀委員長じゃなかったと言って分かってくれるでしょうか」

男(まさか、いやまさか、そのまさかではなかろうか)

男「……俺の知っていた委員長は、図書委員長だったよ」

委員長『やっぱり……あなたは他の人とはどこか違うと思っていた。男くんだけは、この世界で唯一、私が知ってる男くんだったんだ…!』

男(彼女の話しの意味が分からない、という事は俺にはなかった。思い当たる節があったのだ)

男「お、俺の勝手な予想だけど、委員長。君はもしかして俺の知ってる、図書委員長の方の、委員長で間違いないのか?」

委員長『そ、そうです! それで間違いありません! 私は男くんが知ってる私! 地味で、誰からもまともに相手にされなかった、そんな私……です』

男(やはりである。彼女は他の美少女たちとは違った。元の俺を知っている、元の一人ぼっちな俺を知っている委員長だ)

男(だが、喜びかよく分からない感情と共に、疑問が不意に沸いた。なぜ彼女だけが元の委員長の記憶を持っている?)

男(そして彼女が言った、神が自分の望む世界へ改変してくれた、の内容だ。つまり、これは)

男(委員長はこの俺と同じように、神から誘われた人間の一人ということではないだろうか)

委員長『良かった、ああ、ほんとに……あの、男くん。これから会えませんか? 直接、話しがしたいの。ううん、聞いてほしい』

委員長『学校の近くにある公園のベンチで待ってます……それじゃあ、また後で』

男(OK、と承諾する暇も無く、彼女は一人で話を進めて一方的に通話を断った。声の調子を聞くだけで、とても焦っているというか、恐怖に脅えているというか)

男(この俺にでさえ、容易く彼女の不安が読み取れたのである)

>>9の前がぬけていた

男「俺とお前は先週から、会っていて、会話もしている。間違いないよな?」

幼馴染「……男くん、最近ちょっと変だよ? 一昨日の朝も迎いに行ったら、まるで初めて会ったみたいな態度だったし」

幼馴染「その前の日に、あたしと約束した筈だよね。家の前で待っているから、一緒に登校しようね、って……なのに」

男(その約束をしたのは本当にこの俺なのか? もしかして、彼女は別の人間と俺を勘違いしている、とかではないだろうか?)

男(その真相を突きとめる方法が今の俺には思いつかないのである。確か、この世界で俺が目覚めたのは、3日前の朝)

男(ここで説明しておこう。この世界とかいうのは、今現在、俺がハーレム主人公な世界である。これを別世界とでも呼んでおこうではないか)

男(と、すれば、俺がブサオで誰からも相手にされなかった世界を、元世界とする。では、この別世界と元世界。二つは元々別れて存在する世界だろうか)

男(……自分でも何を考えているのか分からないが、つまりは最近有名な世界線の話である。つまりはパラレルワールド。神のお力によって、俺は別世界へ移動させられてしまったのではないか、という感じだ、言いたいのは)

男(では、そうなると、元々暮らしていた別世界の俺がいたという可能性はなかろうか。仮説であるが)

男(約束の場所へ向かえば、そこには古びた外灯に薄ら照らされた美少女がポツンとベンチへ腰かけていた。こんな日暮れで一人になっている美少女はあまりにも危険すぎるではないか)

男(しかし、この美少女は俺の知る委員長の容姿ではないのだ。では、彼女は一体何者なのか? それを今から確かめるのだろう)

委員長「あっ……来てくれたんですね、男……じゃ、なくて、男くん」ビク

男「どうやら、カラかっていたわけじゃなかったみたいだな。委員長、でいいんだよね?」

委員長「はい、たぶん……」

男「何だ、その詰まった言い方は?」

委員長「私、本当に私ですよね? …そうですよね? …ねぇ!? お願いっ、答えて!?」

男(と、凄い剣幕でこの俺の肩を掴み必死に揺さぶる委員長。俺の知っている彼女は、こんなに激しい女子ではない。もっと、物静かで、それこそ図書室が似合う、そんな子であった)

男「落ち着けって……」

委員長「答えてよぉ……私、私が私だって自信がなくなってきてるの……[ピーーーーーー]……」

男「待って。それ、どういう意味? もう少しきちんと話してくれなきゃ、俺としても答えようがない」

委員長「……わかりました。全部男くんに話します」

男(彼女の話を要約すれば、こうである。委員長は俺と同じように、神が目の前に現れ、今の自分を変えたくはないか、と話しを持ちかけられた)

男(委員長の場合は「地味でクラスの誰からも相手にされない自分から、容姿端麗、頭脳明晰、その上でクラスの誰からも尊敬され、中心人物へなりたい」だそうだ)

男(結果、彼女は神へ頼み込み、この俺同様、朝目覚めたら今までの境遇とは別な、というか別の人間のように周りから認識されていた、という)

委員長「ほんと、バカみたいですよね……だけど、それが現実になっちゃった。もしかしたら夢なのかもしれないけど」

男「どうだろう? 俺も委員長とほとんど同じ状況にあるんだ。まぁ、それでも都合が良い夢って、まだ疑いは残るが」

委員長「男くんも私と同じように神様から、この世界へ連れて来られたんですよね。その願いも、一緒?」

男「大体は(ただし、委員長以上に欲望丸出し、下心有り、な感じである)」

男(それにしても、彼女に対して俺のラッキースケベ力が発動しなかったのは何故だろうか、という疑問にある仮説を立てて頭のモヤを晴らそうと思う)

男(委員長は、攻略対象外だったのだろう。彼女のようなイレギュラーを除いた美少女たちは、例えるならば、ゲームにおけるNPC)

男(俺と委員長の二人は、その中へ紛れ込んだプレイヤー、といったところではないか?)

男(俺としては問題はない。元々で恋愛ゲームかアニメのような夢いっぱいな世界だと思っていたわけなのだから)

男(しかし、委員長はどうなのだろう。彼女はこの世界での、今の自分が手に入れた幸せを、受け入れられていない?)

男「委員長はこの世界で理想の自分を手に入れられたんだろ? 満足してないのか?」

男「ていうか、いつからこの世界にいた?」

委員長「最近です。ほんとに最近の話……丁度、4日か5日前ぐらいに。[ピーーーーーー]」

男(俺よりも先にこの世界に訪れていた、となる。……気になっていたが、攻略不可能な委員長に対しても、彼女の一部台詞が俺の難聴フィルターに引っ掛かっている。学校でもそうだった筈)

男(一体全体どういうことなのだろうか。もしかしたら、他の美少女同様、ある条件を満たした瞬間に攻略可能キャラとしてアンロックされる、とか)

男(バカな。彼女は意思ある人間だ。いや、他の美少女たちだってそうに違いないが。それなら、どうして? 何故?)

男「…俺も、たぶん、同じぐらいの時期にだと思う。確かではないんだ。正直、自信はないよ」

委員長「そうですか……[ピーーーーーーーーーー]……」

男「え? 何だって?」

委員長「え?」

男「あ、ごめん。気にしないで続けてくれないか……?」

委員長「は、はい……さっき、男……ううん!男くんが! あ、あ」ビク

男「委員長? どうした?」

委員長「ううっ……」ポロポロ

委員長「さっき私言ったよね……私が私だって自信がなくなってきたって!」

男「あ、ああ」

委員長「おかしいんです、いまの私は!無意識に私らしくない言動とか行動を取っていたり、まるで自分じゃないみたいに気づいたらなってて!」

委員長「それだけじゃない! 中学時代唯一の友達だった子が私のこと知らないって……それで私、昨日はショックでずっと部屋の中に籠ってて」

男「だから学校にいなかったのか」

男(この世界へいると自分が自分で無くなって行く、委員長はこの俺に涙を目に浮かべて語る。何故だろうか。もしかすれば、神へ頼んだ理想の自分へ徐々に変化させられている、とか)

男(彼女と俺は似た状況に置かれているが、そもそも目的が異なっていたのである。俺は、単純にモテたい。彼女は、誰からも好かれる存在へなりたい、あるいは、変わりたい)

男(ただそれだけで、ここまで違いが現れるのか。俺はどうなんだ? 彼女のように、自分を見失いそうになっただろうか?)

男(……どうだっただろう。自分でもよく分からない。確かに何度か、俺らしくない言葉を吐いたこともある。だが、今のところは、それに恐怖した覚えは一切ないのである)

男(俺は、今の俺を既に受け入れている。むしろ、俺は欲望のまま生きているではないか。美少女たちとハーレムを築くという名の下で)

委員長「勝手だけど、神様にお願いしたのは私だけど……正直とても怖い、です……助けて!」

男「と、言われてもなぁ……」

男「委員長は今の委員長のポジションをずっと望んでいたんだろ? 誰からも頼りにされて、慕われるという、クラスの中心人物的存在に」

委員長「そ、それはそうだけど……でも……」

男「なら、あるがままを受け入れていればいいじゃないか? 望みが叶ったんだ。けして元の世界では実現できなかった夢がさ」

男「それって素晴らしい事じゃないか。何を怖がる必要があるんだよ? 俺にはよく分からない」

委員長「そ、そんな……!」

男「もし、今の状況が嫌になって、元の世界で地味な自分へ戻ったとする。そうなれば、今度はまたこっちの世界が恋しくなるんじゃないか?」

男(この俺から言わせれば、彼女は贅沢すぎる。今がどれだけ恵まれているのか理解できていないのだ)

男(神がせっかく俺たちへ伸ばしてくれた救いの手ではないか。それを拒むなんぞとんでもないだろう。夢でも構わない。現実では、こんなに美味しい思いを味わえないのだから)

男(今の俺にとっては、今が現実なのだ。間違いないだろう)

委員長「わかってくれない、ですか……男……ううん、男くん……!」

男「俺は与えられた幸福を手放す気にも、それから逃げる気にもなれないよ」

男「委員長、これは俺の勝手で言わせてもらうけれどな。その状況を受け入れてしまえば、どんなに楽になれるだろうかな」

男「最高だろ? 君は理想を手に入れてるんだから」

委員長「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]……」

男「え? 何だって?」

委員長「あの……男くんは怖くないんですか? 急に自分を取り巻く環境が変わっちゃったことに」

男「全然怖いなんて思ったことない。むしろ楽しくて仕方がない」

男「委員長、先に話しておくが、悪いけど俺は元の世界への帰り方なんてものも、神への会い方も分からないよ」

男「だから、そういう期待をしていたのなら……」

委員長「う、ううん……もういいの……わかったから……!」

委員長「[ピーーーーーー]、[ピーーーー]……[ピーーーーーーーーーーー]……」

男「は? ごめん、もう一回言ってくれないか」

委員長「それじゃあ また明日。学校で会いましょう、男。遅刻しないように、くれぐれも気を付けてくださいよ?」

委員長「……はっ!? う、うう……ごめんなさいっ!」

男「ああっ!ちょっと! ……行っちゃったよ」

男(と、ここまでが先程、俺が初めて体験した委員長イベント、といったところだろうか)

男(それにしても不思議なものである。以前の俺では委員長とすらまともに会話できなかっただろうに。まるで嘘のようにペラペラ好きに喋る事ができていたではないか)

男(……とにもかくにも、彼女にはああ言って適当にあしらってしまったが、気にならないわけではないのだ)

男(彼女も美少女の一人、攻略できるならば、そうして、俺のハーレムメンバーへ是非招き入れたいところ。では、そうする為にはどう彼女を動かせば良いのか)

男(もし、彼女が元の自分を失って、委員長系美少女キャラとして生まれ変わればどうなる? それはつまり、この俺が知っている委員長が消滅する、と解釈して良いのだろうか)

男(先程の彼女の言動はとても不安定だったことを思い出す。まるで二人の人格があの体の中に入っていたかのような)

男(……完全に委員長がこちらの世界に取り込まれた時、彼女はどうなるだろうか。どうなるとは、元の委員長の人格が何処へ行くとか、そういう話しではない)

男(この俺が、彼女を、攻略できるようになるのか? ラッキースケベ力を発揮させられるのか? というゲスな話しなのだ)

男(完璧なるハーレムを目指すのであれば、俺は委員長をその中へ含めたい。彼女にはその価値がある。まぁなんとも酷い話ではないか、涙を浮かべて助けを請うた相手を、俺はただの美少女キャラとしか見ていなかったわけだ)

男(だから、俺は醜いのだろう。内面は外見に現れるのである。やはり、この世界は俺の抱いた理想そのものか)

男(俺を好いてくれる美少女たちよ、本当の俺を知ったとき、君たちはどう接してくれるのだろうか。それでも、愛してくれるのか)

男(なぁ、このゴミ屑のような男を、愛してくれるのか)

男「ん……んー……」

男(急激な眠気が俺を襲ってくる。滅多に使うことのない脳を酷使するとは、こうも疲労させられてしまうものだったか)

男(次に目が覚めたとき、俺は現実に戻っていて絶望するか、それともまだ夢から覚めずに歓喜させられるか……いや、にしても眠たい)

男(「おやすみ」と思い瞼を落とそうとした瞬間、部屋の戸が2、3ノックされた。その音に一時的に意識をハッと取り戻し、目をそちらへ向ける)

妹「おにいちゃーん? 読みたい漫画あるから、借りたいんだけどー? 入っていーい? ……もしもーし」

男「……」

妹「返事がありませーん……じゃあ、勝手に入っちゃいましょうねぇ~!」

男(妹は、返事すら、中に俺がいることすら確認もせずに、戸を開けて遠慮なしにズカズカと、部屋の中へ侵入してきたのである)

男(実はこの俺、まだ妹とのイベントはほとんど発生させた覚えは無い。そもそも学校で彼女と顔を全く会わせない。こうなると我が家限定美少女といったところ)

男(基本的に美少女たちは俺が行くところ、かならず姿を現せ、イベントとフラグを自ら運んできてくれるのだ。では、この妹はどうだろうか)

男(その為のたぬき寝入りの術である。ただし、気を抜けばすぐに夢の中へ落ちて行きそうだが)

妹「ありゃ、お兄ちゃん寝てたのか……いつも夜更かし大好きな人が、まさかの早寝とは……」

妹「……」

男(瞼を閉じている今の俺にとって、頼れるのは耳のみ。そのせいか、いつも以上に聴覚が研ぎ澄まされているような、いないような)

男(目当ての漫画は見つかったのか、妹よ。音も立てずに部屋を出たか。さすがは俺の妹か。ぼっちの、訂正、忍者の素質がある)

男(と、頭の中で一人言を続けているとである。すぐ傍、俺の右隣に、布団の上に何かが乗った。気配を肌で感じる。違いない、こいつは美少女だろうよ)

妹「おにいちゃーん……おきてるー……?」スゥ

男「!! …………」

男(風呂上がりの髪に残ったリンスの良いかほりが俺の鼻孔を刺激する、そして、細々とした俺の右耳の底に囁かれた妹の声)

男(あどけなさが残る可愛らしい声と共に、微かな息使いが伝わってきたのだ。俺の全神経は、いま、右耳へ集中し始めたのである)

妹「おきてない? ほんとに寝てるのー? ……ふふっ」スゥ

男「…………」

男(この美少女は俺にこれから何をしようというのだ。まさに神のみぞ知る、とまでも行かないが、とにかく右耳から、彼女の声や息が俺の全身へ伝わってきたのだ)

男(妹は離れる様子がない。俺もこうなれば瞼を開けるわけにもいかない。ただただ、傍にいる妹と声を、暗闇の中で感じているのみ)

妹「ふーーーっ……」

男「っー!! …………ぐ、ぐぅ」

男(続けざま、妹は俺の右耳へわざとらしく息を吹きかけてきたのであった。その後、悪戯っぽくクスリと笑い声をあげて)

男(俺の布団へ、俺の隣へ、横になってきたのである。額に汗まで掻いてきてしまった……逃げるか? まさか。これが良いんじゃあないか)

妹「じつは我慢してたりしない? 寝てるフリしてたり……やっぱりねてるのかなぁ」

男「…………」

妹「えへへ、こうしておにいちゃんと同じ布団にはいるのって、いつぶりかなぁ……」

妹「中学にはいったころから、おにいちゃん、わたしにあんまりかまってくれなくなっちゃったよね」

妹「[ピーーーーー]、[ピーーーーーーーーー]……?」

男(くそったれ、くそったれ、くそったれ。大事なところではないか、難聴よ、俺の邪魔をしてくれるな。一生のお願いだ、どうか、どうか)

男(妹は布団の上でモゾモゾと、さらに俺との距離を詰めてきた。ほとんど間近だ。体温が伝わる、俺の鼓動の高鳴りがバレてしまいそうな)

男(彼女は、柔らかで小さな手で俺の手を取ると、何度も確認するように握り返してくる)

男(再度確認しておこう、俺の妹はこんなに可愛い妹ではない。可愛いわけがない。この俺をいつも見下し、家の中だろうと視線すら合わせようとはしなかったのである)

男(そんな妹が、俺の手を握っていて、しかも同じ布団の上で、頭がもうどうにかなってしまう。いや、なってしまえばいい)

男(しかし、下手な欲求は抑え込むのだ。このままでは妹に圧倒され、俺から襲いかかってしまいそうだ。落ち着け、こいつは実の妹ではないか)

妹「いつもいつも、女の子となかよくしてて、わたしのことなんて頭にないのかな……おにいちゃん……」

妹「私はおにいちゃんを見てるのに……ずーっと、昔から、だれよりも見てるのに……」

妹「ちょっぴり、[ピーーーーーーー]……」

男(生唾を飲む。頼むから、もう少し離れてくれ。お前の甘ったるい声で、右耳がイカれてしまいそうになる)

男(突然 寝返りを打って、驚かせてやろうか? それともいきなり目を覚ます形で、全部聞いてました、と)

妹「おにいちゃんの手、あったかい……この手でまた、私のことなでてくれたりしないかな?」

妹「[ピーーーーーーーーーー]……///」

男(ゾクゾクさせられて仕方がない。殺す気か、この妹は実の兄を)

妹「幼馴染ちゃんはもう帰っちゃったから、もうすこしだけ、こうしててもいいよね……ね、おにいちゃん」

男(これが、妹との初イベントなのだろうか。だとすれば恐れ入る。そして、どう発展させたものか、だ)

男(ここで一気に勝負をかけるか、それともされるがままでいるか、である)

男(このイベントはきっとおそらく今後妹ルートへの大きなポイントとなり得ることだろう。そう、俺の中の何かが、隣の妹同様に囁くのだ)

男(どちらが正解なのか、分からない。眠気も相まって、妹の行動に惚けさせられて、冷静に思考させられない俺なのである)

男(……では、もうしばらくだけ、この時を楽しませて頂こうではないか。それが良い。それで良い)

妹「[ピーーーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーー]……」

妹「ううん、きっと[ピーーーーーーーーーーーーー]……だって[ピーーーーーーーーーーーーー]……おにいちゃんもそう思うよね」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーーーー]……えへへ///」

男(一体何を言われているのだろうか。神よ、この難聴プロテクトの外し方を今すぐにでも仰って欲しい。大至急で、でなければ俺は)

男(妹の手によって、爆発させられてしまう事だろう)

妹「おにいちゃん……」

男(スッと、妹の頭が俺の上に行ったのが空気の流れから読み取れる。俺はこれから仙人にでも進化するというのか)

男(続く言葉が、ない。まさかこれで終わりだと? そんな、無慈悲すぎる。ああ、俺は選択を誤ってしまったのだろうか?)

男(あそこで跳び起きて、アクションを起こせば良かった。しかし、そうなると、妹は顔を真っ赤にして何事もなかったかの様に、部屋を立ち去るに違いない)

男(では、何が正しかったというのだ。……妹は、既に部屋からいなくなってしまったのか? 沈黙が長すぎる、と、確認の為に薄目を開けて、状況を確認)

男(しようとした瞬間の事であった。俺の頬へ、柔らかくてそして濡れている、そんな胸高まる青春の風を吹き起こす感触が、伝わったのだ)

男(横目でチラリと見れば、その原因はすぐに分かった。唇である。妹の、唇が、俺の、頬へ、触れていた、のだ)

妹「んっ……」

男「!」

男(キスの為か、彼女も瞳を閉じていたのが幸い。俺が目を開けたことに気づいてはいないようだ)

男(この状況を言葉にして現わせば、してやられた、と言うべきか)

男(唖然とした。この俺へ妹がキスだと。マウス トゥ マウスでなかっただけ助かった。あやうくファーストキスを奪われるどころか、ショックのあまり死にかけていた事だろうよ)

男(別に嫌だったとかいうわけではない、むしろ、口笛吹きすさんで小躍りなんかしたい気分だったり)

男(ただ、素直に喜べない自分がそこにいた。何故か。理由はもはや語るまでもなかろう)

妹「[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーー]……///」

男(これが、余韻を奪い、この俺を萎えさせる)

妹「……それじゃあ、おにいちゃん。おやすみなさい」

妹「……ん、ほんとに起きてなかったんだよね? やだよ、明日の朝になっていろいろ言ってきたら」

妹「おっと、漫画漫画……! じゃ、今度こそおやすみなさい! [ピーーーーーーー]お兄ちゃん!」

男「…………」

男(こんな時はどうしたら良い? 俺は寝る。間違いなく。おやすみ、神様、明日からも幸多き日々であれ、である)

少し休憩。ここならそう簡単には落ちないはず

男(次の朝、俺は幼馴染といつもの様に二人仲良く肩を並べて、という感じではなかった)

幼馴染「……」

男(幼馴染は快晴の空の下に似合わない曇った表情を浮かべ、俺から半歩離れて着いてくる。これはまぁ、やはり昨日のイベント叩き折りが影響しているに違いない)

男(本当に俺はなんて愚かなミスを犯したのか。彼女は俺にベタ惚れなのだ、だからといって、肝心な場面で、告白染みたものだったというに、あんな風に打ち切られてはつらい事だろう。心情お察しする)

男(今度こそ彼女へフォローが必要なのだとは、言うまでもない。放って置けば、彼女は俺から離れて行く……か、は分からないが)

男(美少女にはやはり明るく笑顔でいて貰わねば)

男「幼馴染、風邪でも引いたのか?」

幼馴染「え? ううん……大丈夫、元気いっぱいだよ」

男(そう言うと、俺へ無理して作ったのが丸分かりな笑みを浮かべる、が、それもすぐにまた曇って消える)

男「お前なんだか無理してないか。正直に、つらいなら、そうだと俺に言ってくれよ」

男「俺はお前が大切なんだから」

男(しまった……)

幼馴染「……そっか、大切なんだ。うん、ほんとに大丈夫だから。心配してくれてありがとう、男くん……嬉しいよ」

幼馴染「……[ピーーーーーーーー]」

男(察しが良い人ならば、もうお気づきの事だろう。俺の、今 幼馴染へかけた言葉の選択の誤りを)

男(昨日、彼女は、この俺から「お前は幼馴染として好き」なんて恋愛対象外といわんばかりの台詞を突き付けられたのである)

男(そんな事を言われた後、お次は「大切だ」なんて追い打ちときたもんだ。もはや説明の必要もあるまい)

男(幼馴染としては、その俺の言葉を複雑な心中で受け取った、と予想がつく。俺が今、彼女へしているのは、もはや死体蹴りに近いのだ)

男(一体何度俺はこの美少女の心を踏み躙れば気が済むのだ。何故、気の効いた一言も言えんのだ)

男(落ち着け、自分も下手に追い込むな、平静になれ、静まりたまえ。何かこの状況を打開する策がある筈。そのヒントを、道に落ちてはいないか、俺自身には、幼馴染には)

男「うわぁあ~~~!?」

幼馴染「えっ……きゃっ!!」

男(最初に話しておこう。けして狙っていたわけではないのである。道にバナナの皮が落ちていたから、とか、俺にラッキースケベの力があったから、それが全ていけない)

男(バランスを崩して、俺は幼馴染を、人通りのない裏道へ、そこで幼馴染を押し倒してしまう。驚くぐらい、まるで初めから測られていたのを疑う程、完璧に連れ込んだという)

幼馴染「い、いたた……」

男「大丈夫か!? わ、悪い 幼馴染……怪我は?」

幼馴染「大丈夫だったよ。もう、急にぶつかってくるからビックリしちゃった……」

男「本当だよな、俺ってどうしてこんなによく、ドジ踏むかな」

幼馴染「ふふっ、昔からそうだったよね。男くんは不注意が目立つって小学校の先生からも言われてたよ?」

男「そう? じゃあ、今まで俺がその不注意で危険な目に合ってないのはお前のお陰なのかもな」

幼馴染「えっ、どうして?」

男「しっかり者のお前が、いつも隣で俺を支えて来てくれたからだろ。俺はお前がいないと下手コイてばっかりだ」

幼馴染「えへへ……じゃあもーっと、あたしに感謝してほしいなぁー?」ニッコリ

男「してるよ。だから好きなんだ。いや、そういう事じゃないのかな……」

幼馴染「……それって、どういう意味、かな」

男「(胃がムカついてきた。よくこんな吐きそうな位気持ち悪い台詞を俺が言えるものだ。自分の変化が恐ろしい)い、言いたくない……」

幼馴染「男くん? ふ、ふふっ、どうしたの? 顔真っ赤になってるよ…っ!」

男「うるせーな! 何でもないから気にするなよ! 笑うな!!」

幼馴染「ごめんっ、で、でも……ふふふっ、もう笑わないよぉ~」

男「何なんだよ、朝から調子狂うな……俺はボソボソ幼馴染ボソ、好きボソボソ……?」

幼馴染「えっ……いま、何て言ったの……?」

男「な、何も言ってない!! ほら、急がないと遅刻しちまうぞぉー!?」

幼馴染「……そうだね。じゃあ、もういこっか♪」

男(ヒントは、俺自身、そして彼女に、二つあった。ヒントというか、ありがとう、俺の難聴、美少女たち、一先ずこれで凌げることだろうよ)

男(あれからの道中、幼馴染の様子は嘘の様に変化してくれた。ニコニコと笑顔を振り撒き、俺へ楽しげに、昨日は何があったよ、とか、部活では、なんて、よく喋る喋る)

男(俺の難聴スキル発動の条件、おそらくは美少女たちの感情に作用されているのだろう。主には、恥じらい。彼女たちに対し、俺は常に飄々としており、無気力鈍感男と、そんな感じなイメージを大体抱かれている)

男(では、突然今までとは異なる言動を取り、ギャップを発生させてみたらどうなるか。滅多に見せない恥じらいの表情を見せてはどうなるか)

男(加えて、蚊の鳴くような声で、実は好意抱いてるのでは、という意思をチラリと見せてみる。ベタ惚れ幼馴染はもちろん、他の美少女たちだって、悪い気はしないのではなかろうか)

男(ある意味では逃げであり、そして攻撃である。彼女たちも聞こえていない振りして取り繕うだろう。そして、心中では、だ)

男(掴んだ。もうお前を離すつもりはない、幼馴染よ。絶対に逃がしてなるものかよ)

男(と、そうこうしている内に学校へ到着。二人は途中で惜しくも別れ、それぞれのクラスへ向かうわけだ。しかし、この俺にはそこまでの道のりに、かならずと言って良いほど)

転校生「あら、変態、おはようっ!」トン

男「(美少女との邂逅である)挨拶は良しとしてだ、その前が大問題だな?」

転校生「なーに? 私からの「変態」は認めるって約束でしょう? それにあんた、言われて満更でもなさそうだし……あぁ、やっぱり変態よね」

男「頼むから時と場合を考えて言ってくれないか、お前は!?」

転校生「へんたい、へんたい、へんたーい♪ ふふーんっ…」

男「……あのな、お前これ以上、俺との妙な噂が立っても平気なのか? 周りから、朝からあの2人どんなプレイだ、とか思われてるに違いねーぞ」

転校生「はぁ?」

生徒たち「ざわざわ・・・あの人たち・・・相手は転校生のハーフの子じゃない?・・・くすくす・・・」

男「ご覧の通り、だろ?」

転校生「なぁっ……ちちちち、違うわよぉー!? い、いまのは……///」

転校生「あ、あんたが変態なのが全部悪いのよ! 今すぐみんなに弁解して~!」

男「いーや。俺が変態なのは認めてるからな。言い訳なら自分で考えて、伝えとけ」

転校生「責任転嫁ぁ!?」

男「お前、日本語に慣れてないとか言っておきながら、そういう言葉使えるよな。実は俺より詳しいんじゃないのか」

転校生「ま、毎日家で勉強してるから……でも、これでも全然だし……だから、[ピーーーーーーーーーー]……」

男「何て言ったんだ?」

転校生「うぅ……いじわる……[ピーーーー]///」

男(転校生との距離は、もはや限界まで縮まっていると思われる。これ以上、転校生ルートへ進むのは避けておきたいが、どうしても彼女とは頻繁に接触してしまうことが多いのだ)

男「ところで、転校生。お前まだどの部活に入部するとかは決めてないのか?」

転校生「そうなのよねぇー。イギリスの学校じゃ何にも所属してなかったし、こっちでは何か新しい事始めたいとは思ってるんだけど」

転校生「ねぇ、あんたも部活に入ってなかったのよね? それって問題ないの?」

男「ウチの学校は、まぁ最初だけは入部が絶対とか言われるけどな、特にその後でうるさくは言われない」

男「俺の場合は帰宅部という崇高なる道を行く、孤独の……」

転校生「あー、はいはい。人生の無駄遣いよね!」

男「失礼なことを言うな! 部活動なんぞに囚われて、自分の好きな事ができない方が無駄だろ! なら、俺はさっさと家に帰るべきだと思うね!」

転校生「どうしてそんなにダラしなくいられるのかしら……まっ、変態はスポーツで汗を流すより、別の所で変な汗流す方がお似合いよね~」

男「へっ、勝手言ってろ」

転校生「……あのさ、もし良ければだけどね……[ピーーーーーーーーーーー]……?」

男「ああ、余計な青春の汗を垂らさなくて済む所になら、一緒に入部してやらんでもないぞ(慣れたものか、俺も)」

転校生「ほ、本当? 良かった…ちょっとだけ、一人で今の時期に入るのって緊張しちゃって……と、とりあえず、[ピーーーーー]///」

男「何だって? ……じゃあ、早速部活に入るとしようか、転校生」

転校生「へ?」

男「もう当ては着いてるんでね。俺が入部しても問題なく、気楽に毎日過ごせそうな自由な所が……」

男(そして、丁度良く俺たちは、先輩の姿を見つけたというわけだ。何故か、彼女は壁に隠れて、しゃがみ込んでいる。どうにかすれば、その短いスカートの下に潜む下着が見られそうな)

男(気もするが、したとなれば、隣にいる転校生からの「変態」にブーストが付くだろう。ここは欲を抑えて自重せねば)

男「先輩さん? そんな所で何してるんですか?」

先輩「えっ……お、おぉー! 男くんじゃありませんかぁ~……しーっ」

男「はい?」

転校生「この人は誰? あんたの知り合いなの?」

男「そう。ついでに、お前に紹介しておきたかった上級生だよ。そして、先輩さんにもお前を紹介しておきたかった」

転校生「は、どうして……?」

先輩「だから、二人とも、しーっ!、だよ!! お静かに、お願い!!」

転校生「いやいや、あなたが一番ここでうるさいと思うんですけど……」

なんかさっきからNGワードに引っ掛かる。まいったな

男(先輩は、誰かを物陰から観察していたようだ。その相手は既に察しの事、生徒会長である)

男(元々だったとはいえ、昨日俺から言われた事で、さらに気にかけるようになったのだろうか。こっそり彼女の後を追い、何をするでも無く、黙ってじっと見つめている)

男(だが、それへなぜか、俺と転校生をも巻き込んでいた)

転校生「ね、ねぇ……どうして私たちも付き合わされちゃってるのよ……?」

男「いや、俺にもよく分からん(理由は分かっているが、彼女へそれを説明する必要もない。先輩は不安なのだろう。これから自分が生徒会へ入り、そして生徒会長を自分の部活へ招き入れる。さらには元の関係へ戻れるのかどうか、が)」

男(だから、こんなストーカー紛いな行動に俺たちを巻き込み、その不安を紛らわせようとしているのだろう)

先輩「じーっ……じーっ!……うぅ、やっぱり怖いよ…」

男「今日の放課後に早速始めるんでしょ? 大丈夫ですよ、俺も着いてますからね」

先輩「それは嬉しいけど……でも……[ピーーーーーー]」

転校生「…むぅ~」

男(微かに頬をふくらませながら、可愛らしく唸って、転校生は俺の上着のすそを掴むのである。自分の知らない所で、知らない女子と俺が親しくしていた事に嫉妬していると見た。素晴らしい)

男「おい、何してるんだよ? トイレにでも行きたいか?」

転校生「ち、違うわよ! 別にどうもしてないわっ! ……ふん」

転校生「ただ……その、[ピーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「は?」

転校生「変態っ!!」

男「嫌な誤魔化した方するんじゃねーよ! もっと他に言う言葉があるだろうが!」

男「……先輩さん、とりあえず紹介させてください。こいつがラーメン愛好会へ入部したくてしかたがないという、転校生です」

先輩「えっ、本当に!?」

転校生「はぁ!? ち、ちょっと何勝手なこと言い出してるのよぉー!?」

男「お前、さっき俺と一緒に部活に入ってくれって話してくれただろ。俺もそのラーメン愛好会へ入部するつもりだからな」

転校生「た、たしかにそう話したけれど……!」

男(そんな突然の事に慌てている転校生を掴んだのは、いや、その手を掴んだのは先輩であった)

男(先輩は満面の笑みを浮かべて、転校生の手をぶんぶんと振ると、力強く抱きしめてしまったのである。良きかな、良きかな、美少女の戯れとは)

先輩「あなたのことが大好きだよぉーっ!!」ギュゥゥ…

転校生「ちょーっ!?」

先輩「男くんから紹介されて興味持ってくれたの? ラーメン大好き? わたしは大好きっ! 転校生ちゃんっていうの? 髪の色キレイだし、さらさらロングヘアーで可愛いねぇ! 良い匂いもしてきたっ」

転校生「あっ、いえ、ああ、その……!?」

男(早速先輩のマシンガンに圧倒されている転校生である。この押しには流石に逃れられないだろう。このメンツへ生徒会長が加われば、一先ず俺のハーレムへの道が大きく進む)

男(ラーメン愛好会とは、その為のステージとして用意されたに違いあるまい。この俺と、美少女たちだけの、約束されし空間よ)

男(しかし、その前に俺には生徒会の仕事とやらを努めていかねばならない。おそらく毎日というわけでもないだろうが、それでも自由は奪われるか)

男(となれば、である。他の美少女たち、男の娘、不良女、オカルト研、その他諸々は他の空いた時間で接触していかなければならなくなったわけだ)

男(幼馴染と妹に関しては、帰宅してからイチャつけば良い。……それとも彼女たちも、この愛好会へ引き込んでしまえば良いのか?)

男(とりあえずは様子見から始めて行こう。さて、この調子で手早く、さっさと、済ませてしまおう)

男「先輩さん、喜ぶのはまだ早いですよ(と、俺は先輩さんを物陰から連れ出して、生徒会長の元へ)」

先輩「わっ、わっ、男くん待ってまって!? まだ心のじゅんび……あっ」

生徒会長「あっ……何か、私に用かな」

先輩「……べ、別にー? 生徒会長ちゃんに用なんてあるわけ」

男「あるんでしょう? 生徒会長、彼女と俺が生徒会へ入会するのは問題ないという事で間違いありませんね。こっちも手続きは済ませてありますから」

転校生「はぁー? へ、変態が生徒会へ入るって何の悪い冗談よ?」

男「悪い冗談でも、もう決めた事だぞ。ついでにお前も入らせて貰うか?」

生徒会長「ま、待ってくれ! そうポンポンと簡単に生徒会メンバーを増やすわけにはいかないだろう……」

男(俺は、美少女ハーレムメンバーをポンポン増やしていこうとしているわけだが)

男「それはさておき、生徒会長。構わないんですよね?」

生徒会長「……君との約束だ。それに、彼女が生徒会委員になることに反対する者もいないだろう。問題はない」

生徒会長「だが、しかしだよ? 彼女自身はそれに納得してくれているのかな」

男「してますよ。ねぇ、先輩さん?」

先輩「うっ……したけど……でも[ピーーーーーー]」

生徒会長「どうやら煮え切らない感じだな。この調子で仕事をキチンとこなせられるのかな、私が彼女へ任せても、問題はないか? どうだろう? なぁ、男くん」

男「彼女のことは、俺よりもあなたの方がよく知っている筈ですよ。言うまでもないでしょう」

生徒会長「それとこれとでは別の話だ。……その、彼女が、私と一緒の空間で過ごせるのか、という話さ」

先輩「男くん……やっぱりわたし、む」

男「大丈夫ですよ(どちらでもない、二人へかけた言葉だ)」

男(彼女たちも、そろそろ互いに向き直ればどうなのか。いつまでもその調子でいがみ合っていても仕方があるまい)

男(これからは、この俺だけの為に、争え。美少女たちよ……)

男「後はもう、俺の仲介なんて二人には必要ありませんよね。だって、俺はこれ以上、あなたたちの昔の話なんて聞かされちゃいない」

男「知ってるのは、二人がどっちも、二人のことを好きなままだった、って事だけ」

先輩・生徒会長「なっ……! ///」

先輩「ち、ちちち、ちがうよ!? 男くん誤解してるよっ、[ピーーーーーーー]!? [ピーーーーーガーーーーーーーーーーーーー]っ! ///」

生徒会長「わ、私が彼女をそんな、[ピーーーーーーーーーーーー]! 私は、別に……[ピーーーーーーーーー]……///」

男(もはや笑うしかないのである)

男(彼女たち二人が俺の居ない所で、こっそりイチャつく、結構。問題はない)

男(むしろ、その美しい光景を是非じっくりと観察させて欲しいぐらいじゃないか)

転校生「ねぇ、私 いま完全に蚊帳の外よね? あ、蚊帳の外であってるかしら?」

男「あってるよ、大したもんだな。後は二人に任せようぜ」

転校生「え? え、だって! い、いいの? あの二人、なんだか雰囲気悪く感じたんだけど……」

男「日本ではな、ケンカするほど仲が良い、なんて都合良い言葉があるんだよ。もう俺たちが出る幕じゃない……教室行こうぜ?」

先輩「お、男くん待ってよぉー!? わたし一人残してどうしようってのさぁー!」

生徒会長「そうだとも! こ、この空気をどうしてくれるんだ、君は!?」

男「でも、満更でもないんでしょう?」

生徒会長「あっ、あ……/// ……[ピーーーーー]」

男「え? 何ですって?」

生徒会長「コホン……男くん、それと、えっと……[ピーーーーー]ちゃん。放課後に生徒会室で待っているぞ」

男(てれ隠しのつもりか、生徒会長は顔を俺たちから背けてそう言い残し、早歩きしながら何処かへ逃げて行ってしまったのである)

男(俺たちといえば、というか先輩の様子は、顔から火でも出しそうなぐらい真っ赤に出来上がっていて)

先輩「[ピーーーーーーー]、[ピーーーーーーーー]…[ピッ]、[ピーーーーーーガーーーーーーーーーー]……///」

男(まぁ、ご覧の有り様である。しばらくそっとしておいて上げるべきだろうか)

男(転校生を連れ、その場から音も無く立ち去ろうとしたその時だ。先輩は見逃さなかった。この俺の襟元を鷲掴んで、無理矢理引き寄せてきたではないか)

男「うわっ!?」

先輩「……このやろ~~~」

転校生「な、何してるんですか!? 確かにそいつはド変態のバカでクズな畜生ですけど、暴力は……!」

男「ド変態のバカでクズな畜生で悪かったな!?」

先輩「このっ……!」

男「ううっ!?」

男(てっきり、やりすぎたか、と拳の一発は覚悟を決めていた、が、それは、俺が待っていたものでも、期待していたものでもない)

男(先輩は俺へ抱きついてきたのである。それは、いつもの調子なんかではなく、まるで母親へ引っ付く子どものようになのだ)

男(胸へその小さくて愛らしい顔を埋め、両手でパタパタと叩いてくる。勿論、痛みなんてない。いや、痛くても先輩からならばご褒美に違いないが)

転校生「なぁーっ!? ああ、あわわわわ……!」

男「せ、先輩?」

先輩「……[ピーーーーーーーー]///」

先輩「[ピーーーーー]…[ピーーーーーーガーーーーーーーーーーー]……[ピーーーーーー]」

男「あの、何て……言いましたか?」

先輩「……ばか」

男(顔を上げて俺を見つめた先輩の顔に、俺は心奪われそうになった。この美少女を俺の一生を賭けて守ってやりたい、そんな気分に、俺は、である)

男(そっと、先輩は俺から離れると、またいつもの調子な元気で明るい彼女の表情へ戻っていたのだ)

先輩「あー…なんだかスッキリしたなぁー! しかも新入部員も手に入っちゃったしね! これはもう、今日は帰りにみんなでお祝いラーメンの日だよ!」

転校生「みんなって、私も!?」

先輩「あったりまえ~♪ って、まだ入部届も受け取ってないのに気が早いか。じゃあ、男くんとわたしの二人で、この喜びを分かち合おうじゃないかさ!」

転校生「むぅ……わ、私も行きます! 三人で行きましょう、先輩さん! …いい? あんたも絶対抜け駆けとかしちゃダメよ? …絶対だからねっ!?///」

男「何 お前ムキになってんだよ? 変な奴だな、さすがと言ったところか」

転校生「ちょっと、それどういう意味なのよー!?」

先輩「おやおやおや、これまた可愛い子と知り合えちゃったかね~? そして、男くんも我が愛好会に来てくれるわけだよ!」

先輩「怖いものなしだよねっ! 二人とも、一緒にこれから頑張っていこう!」

男「ラーメン愛好会をどう頑張れってんですか……」

転校生「ていうか、私 その、ラーメン、ってあまり食べたことないんだけれど」

先輩「むふふっ♪ じゃあ、わたしもそろそろ教室へ戻るとするよ。……とりあえず、男くんは後で、放課後にね」

男「分かってますよ。もう心配は要りませんってば」

先輩「うん……大丈夫だよっ! じゃあねぇ~わたしの可愛い後輩ふたりぃ~!」

転校生「……何ていうか、まるで嵐が過ぎた後みたいな感じだわ」

男(全くもって同感である。しかし、先輩の調子も、生徒会長も、どうにかなってくれそうだ。この分ならば、事が順調に運ばれるだろう)

転校生「あんたには色んな、可愛い、知り合いがいるのね。ほんっと、羨ましい限りよ!」

男「他の人から言わせれば、お前もその内の一人として認識されるんじゃないか? お前、顔と身体だけは立派だからな」

転校生「なっ……///」

転校生「ていうか、身体って何よ!? このド変態スケベっ!! そこから飛び降りて今すぐ死ね!!」

男「やれやれ、嵐みたいなところは誰かさんも同じだな。ほら、俺たちもそろそろ行くぞ? HRが始まっちまう」

転校生「え、ええ……そうね……あっ、一緒に教室入るのは嫌よ!? またみんなに誤解されるし!」

男「大丈夫だよ。その時は俺が何とかしてやる。安心して任せておけ、転校生」

転校生「……[ピーーーーーーーーガガガーーーーーーーーー]///」

続きは明日

男の娘「あっ、男! おはよう! 危なかったねー…そろそろ先生が来る時間だったよ」

男(その気持ちが良いぐらい眩しい笑顔に癒される。思わず溜息が漏れてしまうではないか。本当に彼の性別は男で間違いないのか)

男(ゆえに考えさせられる。この世に性別は二つではないのではと。男の娘は、この俺の新境地を開かせてしまったらしい。可愛い過ぎる、とは罪作りなものである)

男の娘「ん? …て、転校生さんもおはよう。朝から大変そうだね」

転校生「お、おはよう……ジロジロ見ないでよ、変態っ……!」

男(転校生はといえば、直前になって俺と共に教室へ入るのを躊躇い、この通り、何処ぞのスパイか忍者のように気配を殺して、自分の席へようやく辿り着いたらしい)

男「毎日こんな調子で現れるつもりか、お前は。難儀なこったな」

転校生「だぁーっ! そもそも、あんたがクラスのみんなに変なこと大声で言い触らしたのが原因でしょ!? バカじゃないの!?」

男「別に言い触らしちゃいねーよ」

男の娘「まぁまぁ…それより男、[ピーーーーーーーーーー]、忘れちゃってないよね……[ピーーーーー]///」

男(勿論忘れている筈がない、あの約束を。それにしても、耳打ちされようと難聴スキルが発動するとは。もはや重い病のレベルではないか。つらいな、主人公とやらは)

男「ああ、明後日だろ。楽しみにしてるよ。俺の家の場所は分かってるよな?」

男の娘「わぁぁ~……うんっ!大丈夫だよ! あああ、あと! 僕もすっごい楽しみにしてる! [ピーーーー]だもん…てへへ…///」

男「子猫を愛でるようにお前の頭を撫でていいだろうか」

男の娘「えぇー…///」

転校生「変態……」

男「いやいや、これは男同士の友情を示すスキンシップだぞ。知らないのか? 帰国子女の転校生さん」

転校生「っ~……変態」

男「どう足掻いてもその呼び方に変わりはないんだな(だがな、それが良いのである)」

男(美少女たちとの何の変哲も無い会話。しかし、今までの俺からすれば、まるで夢か、はたまたお金でもかかっているのか、と疑ってしまいたくなるのだ)

男(問題ない。全てがリアルだ。この喜びをいつまでも噛み締めていたい、神よ。……なんてバカらしい心の声は、ここで打ち止めておこうか)

先生「はーい、騒いでないで席に座るー」ポン

男(俺が男の娘の頭へ手を伸ばすより先に、彼女の手が俺の頭に乗せられた。白く細長い、そして美しい、指と皮膚をした手は、俺の髪をくしゃくしゃにする)

男(心の声が聞こえる? 仕方がなかろう。これは自分への状況説明でもある。先生が、俺へ、その手で、触れているのだ。堪らないだろう)

先生「これは……将来が怖いな、男くん」

男「どこ見て言ってるんですかね!? 可愛い生徒へ朝からどんな仕打ちですか!!」

先生「まぁまぁ、ところでお爺さんの髪の毛は無事?」

男(残酷なことを言ってくれるではないか。まさに、飴と鞭。俺の毛根はまだ無事だ。止せ、やめてくれ)

転校生「先生、おはようございます」

先生「おー、転校生。学校には慣れてくれたかな? まだまだ不安は残るだろうけど、困ったら、すぐに私に相談して」

転校生「え~っと、そこの変態がド変態過ぎて困ってます」

男「やめろ!!」

先生「じゃあ男くんは後で職員室に来てもらう感じになるかなぁー……」

男「先生、誤解ですよ、冤罪! 俺は健全な一男子生徒! 女子高生とのイチャイチャもまだ許されるでしょう!?」

転校生「その言い方からして、やっぱり変態なのよっ! ていうか、イチャイチャって[ピーーーーーー]……///」

先生「健全なのは構わないけど、面倒だけは起こさないでよ? 処理するのは担任の私なんだから……ほら、HR始めるよ」

男(面倒を運んできたのは他ならぬ先生である。俺の頭皮を虐めるばかりか、転校生を使ってきたりして。本当に、ありがとうございました)

男(HRが終わり、俺の、いつものように校内を当てなく徘徊、が始まる。正確に言えば、全くの当てがないわけではないのだが)

男(ご存じ、俺の行く道行く道には)

後輩「先輩? おはようございます」

男(と)

妹「げっ、お兄ちゃん……う~……///」

男(な、美少女が待ち受けているのだ。既に心の中でガッツポーズを取る事を面倒に感じてくる)

男(ところで、そこの我が妹であるが、朝からこの調子。理由は語るまでもないだろう。中々、俺と視線を合わせてくれようとしない)

妹「こ、こっち見ないでよぉー……ていうか、どうして学校にいるの……」

男「なら、お前の兄に相応しい居場所を教えてくれ」

後輩「ふふっ、二人は仲が良いんですね。私にも兄が一人いますけど、そこまで親しくないですよ」

妹「仲なんて良くないよ!? 全然っ全然っ! この私がこんなダラしないお兄ちゃんと仲良いわけ……[ピーーーーー]///」

男「何て言ったんだ? 聴き取れなかったぞ?」

妹「う、うるさぁーいっ!! バカお兄ちゃんめ!」

後輩「なんだか羨ましいぐらいですね。記念に一枚、いただき」カシャ

妹「撮るなぁー! もうっ、後輩ちゃんもいい加減にしてよ!」ブンブンブン

後輩「えへへ……じゃあ、妹ちゃんお兄ちゃんのこと必要なさそうだし、私が代わりに先輩を貰っても良い?」

男(と、後輩は俺を引き寄せて、腕を組んできたのだ。密着しているとはいえ、あまりアレの感触は伝わって来ない。つまり、見ても触れても、彼女はやはり、ぺったんこうはい)

妹「はぁ!?」

後輩「だって仲良くないんでしょ? ふふっ、それじゃあ私が貰っちゃっても問題ないよね」

妹「うっ……そ、そんなお兄ちゃんいても何の役にも立たないからね!?」

後輩「大丈夫。犬の散歩ぐらいは先輩にでもできるでしょ?」

男「お前たち人が黙ってる事を良い事に散々言ってくれるな……」

後輩「妹の悪ふざけぐらい、付き合って下さいよ。 ね、お兄ちゃん?」ギュウ

男(悶絶死にさせるつもりか、この小悪魔は)

妹「あーっ! あーっ! なに鼻の下伸ばしちゃってんの!? ……ひ、ひどいよ…あんまり、だよぉっ…う、うぅ」ポロポロ

後輩「え? えぇ!?」

男「お、おいおい……何も泣くことは……」

妹「[ピーーーーー]……おにいちゃんの、ばかぁ!……ぐすっ……」

男(妹は両手で顔を覆い、嗚咽を交えて俺たち二人の前で泣きじゃくる。その様子に何事かと通りがかる生徒たちもこちらをチラリ。俺と後輩はオロオロ)

後輩「ご、ごめんね? ちょっとふざけすぎちゃったよね…えっと、えと……」

男「み、みんな気にして見てるだろうが! 俺がわる…まぁ、悪かったから許してくれよ……」

妹「しらないよぉ! うぅー……おにいちゃんも、後輩ちゃんも、どっちもばかちんっ……」

後輩「先輩、どうしましょう……私、妹ちゃんに悪いこと言っちゃった……」

男(だからといってお前まで涙目になってくれるな、後輩よ。その顔はいつもの小生意気さと相まって、殺人級ではないか)

後輩「あの、やっぱり、こんなお兄ちゃんじゃ頼りないし……困るし……いいかな、って……なんて」

男「弁解しつつ、さりげなく酷い事言わないでくれないか、お前は!?」

妹「本当……?」

後輩「うん。いらない!」

男「今度は俺が泣きそうなんだが、しっかりフォローしてくれるんだろうな?」

妹「[ピーーーーーーー]……」

男「いま何て言ったんだ?」

妹「っうー! な、何でもないから聞かないで、バカ! ほんとバカ……///」

後輩「……ふふっ、やっぱり妹ちゃんと先輩は良い兄妹だと私思いますよ」

男「それじゃあお前も今日から俺の妹になっておくか? 妹が一人増えるぐらいお安いご用だ」

後輩「結構です」ニッコリ

男(凹まされるではないか。それぐらい、しばらく惜しんでから断りを入れる感じで言ってくれても罰は当たらないだろう)

後輩「私が先輩の妹になったら、妹ちゃんに悪いです。それに私のお兄ちゃんの方がしっかり者でカッコいいし」

妹「あっ、だったら私、今日から後輩ちゃんちの妹になる!」

男「……(二重の意味で、ダメージが大き過ぎたのである)」

妹「なーんて。冗談だから心配しないで、お兄ちゃん。私はしょうがなく、これからもお兄ちゃんの妹やってくよー」

男「最後が余計じゃないか? なぁ?」

妹「いひひ~っ♪ [ピーーーーーー]だもんね……[ピーーーーーーー]///」

男(もどかしすぎて、そこの壁へ自分の頭を打ち付けたくなる。今なら釘でも打てそうだ)

女子「妹ちゃーん、さっき先生呼んでたけど、まだ行かなくていいのー?」

妹「ああっ!! すっかり忘れて話し込んじゃってた……ごめん、二人とも。そろそろ私行かないと」

男「そそっかしい奴だな。一体誰に似たのやら」

妹「お兄ちゃんだけには絶対それ言われたくないから! じゃあ、後輩ちゃん。後輩ちゃんもさっさと教室戻った方が良いよ? 何されるか分かったもんじゃないからねぇー…」

男(目を細めていやらしく俺へ視線を向けてきた、が、昨日人の睡眠時にベタベタ甘えた上、キスまでしてきたのは、何処の誰さんだっただろうか)

後輩「大丈夫だよ。先輩はヘタレだから、いくら変態でも手は出してこないもん」

男(こんな所にまで変態が流行り始めていたとは思わなんだ。しかし、後輩よ。随分と俺を舐めてくれているではないか)

男(一泡吹かせてやろうか……なんて、俺の頭の中では今、後輩は俺の手によって服を無理矢理引ん剥かれている。良いイメージだ、悪くない)

男(そんなしようもない事に専念していると、妹の姿が目の前から消えていた。となれば、俺は後輩と二人っきりなわけである)

後輩「……」

男「どうした? 俺の顔なんかじーっと見つめて」

後輩「あの、昨日私すこし変でしたよね。先輩となかった思い出なんか急に語りだしたりして」

男(それが来るか)

男「単なる勘違いか何かだろ? 気にすることは」

後輩「いいえ、気になりました。それで、先輩。これを見て頂けませんか?」

男(後輩の手の中には数十枚もの写真があった。それらに俺も手を伸ばし、再度後輩の顔を見る。とても真剣な表情をしているではないか)

男「……この写真がどうかしたのか」

後輩「これ、昨日部屋の中を掃除した時に引き出しの中から見つけたんです。割と最近撮られた物かと」

男「お前がそのカメラで撮影した?」

男(コクリ、と小さく頷いて、俺の手へ渡った写真を指で指し示したのだ)

後輩「ほとんど空に浮かんだ雲を撮っていた感じですよね? でもこれ、見て、屋上の柵が映り込んでるんです。あとは……私も」

男(写真を眺め、捲っていけば確かに後輩が映ったものが数枚ほど存在していた。どれも、恥ずかしそうに目線を下に落としていたり、スカートの裾を掴んでいたり、レンズを手で隠したものやらも)

男「自分のカメラで自分を撮影する趣味があるのか? 珍しいな」

後輩「ありません。私は風景ばかり撮ってます、それで満足してますから。……だから、これは私の写真じゃない」

後輩「ていうか、私が撮ったものじゃない。…そうでしょう?」

男「と言われても俺には分からんが……」

>>101
訂正
男(コクリ、と頷きもせずに、俺の手へ渡った写真を指で指し示したのだ)

男「風景ばかりとか言うが、お前結構俺のことも撮ったりしてないか。さっきだって」

後輩「あっ……どうしてだろう」

男「とにかく、この写真たちはお前が撮ったものじゃない。と言うよりは、撮った覚えがない、か?」

後輩「はい。全く記憶に……ないような、あるような……曖昧なんです。私、大丈夫でしょうかね」

男(後輩の言葉へ返事をするのも忘れて、俺は残った写真を見ていく。空に浮かんだ雲、後輩の顔)

男(そして、俺の寝顔である。続いても、俺の顔、俺の顔、俺の顔。最後に、俺の真剣そうな表情を真正面から捉えた一枚。……以上)

男(後輩までの写真は除いて、最後へかけての俺の顔ラッシュである。それを撮影したのは、おそらく、後輩ではないだろうか。何となく、そんな気がしてならない)

後輩「本当に、昨日の私の話って……ただの勘違いか、夢の話なんでしょうか?」

男「……俺も自信なくなってきたよ」

男「なぁ、これ撮影日は分からないのか?」

後輩「えっと、5日前ってなってますね。覚えありますか?」

男(5日前。今日がこの俺がハーレム主人公へ変化してから4日目である。となれば、この写真はその一日前の物ではないか)

男(それならば、この写真へ映っている俺は、もう一人の、パラレルな俺か? ……本当にそうなのか?)

男(写真の中の俺は今と全くと言っていいほど容姿が変わらないじゃないか。いや、それだけが指標になるとは限らないが)

男「(だが、ほとんど俺だ。俺自身ではないか。誰がどう見ようと俺なのだ)……後輩は、これを見てどう思ったんだ」

後輩「変な写真を撮る人もいるんだなーって」

男「そういう意見を聞いたわけじゃねーよ! 真面目な話だ!」

後輩「え、えっと……不思議な気分にさせられちゃいました。それで、これってもしかしたら、私が撮った物なのかも、って」

後輩「記憶には残ってないのに。なんかおかしいですよね。まるで、別の自分が撮影したみたい」

男「本当に、本当の本当に覚えてないんだな?」

後輩「ですから、こんな……ん? ……あれ……覚えが、あるような」

男「よく思い出してくれ。お前だけが頼りなんだよ、後輩!」

後輩「うーん……ごめんなさい、やっぱり少しあやふやです」

後輩「でも、確かにこの光景を映したという証拠と記録はこの写真が証明してますよね。写真は嘘をつかないから」

男(俺の記憶の中には、彼女とこうして過ごした思い出はない。だが、こうした写真が存在した。そして、彼女はその記憶が完全ではないが、残っている、と見る)

男(俺が俺と入れ変わった事による改変だろうか。では写真は? 何故これだけの証拠だけを残し、俺たちの記憶だけが消えているのだ?)

男(一つの可能性が考えられる。だが、言っていい程には自信も根拠もない。不完全な可能性なのだ)

男「なぁ、後輩。一つ頼みがあるんだが……」

男(カシャ、とフラッシュを焚いて映されたものは、俺の幼馴染の横顔である)

幼馴染「きゃあ!? ……って、男くん」

男「よぉ、良い顔してたからつい撮りたくなって」

幼馴染「インスタントカメラ? 急にどうしたの? 写真撮るなんて珍しいかも」

男「俺だってそう思うよ。まぁ、とにかく気にするなって。特に意味はないんだ(しかし、俺にとっては意味を成す、かもしれない)」

男(何故、なんて聞かれて保障できる答えは返せる気がしない。だが、俺はこの手に握られたカメラへ少しでも、何かを、主に美少女を、残しておきたい)

男(何かなかったとしても、あって困る物ではないのだからな。損は無いだろう)

男「それより、今日の昼飯には期待していいのか? はたして65点を越えられるだろうか?」

幼馴染「なぁにそれ! 別に食べられない物詰めてるわけじゃないでしょ? ほんと男くんは失礼なんだから」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーー]? ……[ピーーーーーーガーーーーーーーー]」

男「何だって?」

幼馴染「ううんっ、何でもない! 気にしな……あっ、不良女さん」

男(振り返れば、そこには頭の後ろで口笛を吹いてご機嫌な様子で不良女が登場したのである。……彼女が吹いている曲をよく聴けば、俺は忽ち わさわさ、させられてきた)

不良女「おーっす……って、男もいんのかよ!?」

男「逆に聞いておこうか。いたらまずい事でもあったか? あるなら遠慮して去らせてもらうぞ」

不良女「ねーよ! あっ、別に……いて、問題ねーよっ……つーか、いろ///」

男「そいつはどうも(まるで俺が知る不良女ではないのだ。むしろ、これで不良なんて、制服を着崩し、髪を派手な色に染めている要素だけの判断ではないか)」

男(俺の目の前に立って、両手の人差し指同士をつんつんさせているのは、ただの美少女だぞ。世界よ、意味を履き違えてはいないか)

幼馴染「機嫌良さそうだね。どうかしたの?」

不良女「聞くか? なぁ、聞く? 聞いちゃう? ……しょうがねーなぁ! 幼馴染はぁ!」

不良女「あたしがアニメ見た!」

幼馴染「……うん?」

不良女「やばいよなぁ~、あたしも遂にオタクなんかの仲間入りしちゃうんじゃねーの? なんて、あはははっ」

男「見たのか。アレを……」

不良女「おう、あんたから借りた1巻だけじゃ物足りなかったし、微妙だったからサ、ネットで調べたらアニメがあるっていうじゃねーか」

男「で、俺と話を合わせる為に、わざわざアニメを借りて、夜通しで見たと」

不良女「そうなんだよなぁ~~~……ちちちっ、ちげーよ!? べ、別にお前と話合わせる気なんかねーよっ!!」

不良女「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー]……[ピピーーーーーーーーーーーーーーー]……[ピーーー]///」

男「はぁ?」

不良女「あ、あ……あぅ……」プシュー

男(と、言った感じで頭から煙でも出していそうな不良女。気に入ってくれた所を見るに、途中で飽きはしなかったのか。この手の女に合う漫画とは思わなかったが)

男「どしたのわさわさ?」

不良女「なんでもナー……うるさいっ!!///」

幼馴染「……あ、あのー、一体二人で何の話してるの?」

男「宗教について、ちょっとな」

幼馴染「えぇ?」

また明日。木曜辺りならもっと長く書いてられるんだけど…めんご

>>108
訂正
男(振り返れば、そこには頭の後ろで手を組み、口笛吹いてご機嫌な様子で不良女が。彼女が吹いている曲をよく聴けば、俺は忽ち わさわさ、させられてきた)

男(どうも俺の幼馴染と不良女は知り合いだったらしい。意外と言えば意外なのだが、見ていて違和感を感じる程でもない)

男(彼女たちは俺を一先ず放って、談笑し始めていた。なるほど、悪くは無い組合せではないか。さて、ここで心配事が一つ俺の頭へ浮かぶ)

男(不良女は、幼馴染がこの俺へ恋愛感情を持っているのを分かっているだろうか、である)

男(彼女とは明々後日に妹へのプレゼントを探す題目でデートを行う予定が立っている。普段は自分の事を自慢げに、包み隠さず話す彼女も、その件については誰にも漏らしてはいないだろう)

男(見た目とは裏腹に不良女は純情乙女なのである。言えるわけがあるまい。絶対の自信は俺も持てないが)

男(本題へ戻ろうか。心配事というのは、不良女が幼馴染の気持ちに気付いている上で、抜け駆けて俺へアピールを噛ますつもりではないか、という点なのだ)

男(幼馴染との悪いハプニングを現時点までで、俺はよく発生させてしまっている。もし、もしもである。不良女とのデートイベントによって、何らかの問題が生じ、それによって不良女と幼馴染の今の関係が崩れたらどうなるか)

男(美少女とはいえ、彼女らも一人の女。一旦、仲が縺れれば、そこから元の状態へ戻るまで相当苦労させられる事だろう。女性とは気難しい生き物である)

男(加えて、俺と幼馴染が再び気まずい状況へ陥ってしまう可能性も高い。下手を打てば修羅場一直線、高リスク・高リターンなイベントなのだと、ここになって判明させられた)

男(……どうする。不良女から直接「幼馴染が俺のこと好きって知ってる?」とかバカな訊き方はできないだろう。いくら彼女がアホであるとはいえ、だ)

男(かといって、探り方も俺には分からない。……そもそもこれは、もしものケースで想定した俺の勝手な推論だぞ。深く考える必要もないのでは?)

男(なんて軽く見ていて後でバカを見るのは、他ならぬこの俺。そして気まずくなった彼女たちも見たくはないではないか)

男(では、この可能性をあると想定し、どう対策を練れば良いのだろうか。ハーレムを目指していなければ、どちらか片方を選択する、で片方の美少女には申し訳ないが、ケジメをつける形で修羅場は回避できる)

男(だが、それでも俺は妥協はしない。目指すはハーレムなのだ。平等に、バランスを考えて、美少女たちを愛でねばならない)

男(……と、なればこの問題はいずれは、誰と誰、が相手だろうと、発生が免れない。美少女たちの好感度がガンガン伸びてくるほど、危険性も増してくる)

男(後半へ近づけば、BADENDの確立も一気に上昇し始めてくるというわけか。何てことだろう。俺は低い難易度設定を、ある意味で、自ら望んで上げていたのである)

男(俺は変態だったのか。だがしかし、男であれば、一度は夢見る美少女ハーレムパラダイス。いいじゃないか、萌えるじゃないか。で、結局まだ何ら策が思いつかない。いや、でも待てよ。幼馴染は俺と美少女が親しくするのを容認しているではないか)

男(かと言って、彼女を放置はできないし、不良女とこれまでのように仲良く接する事はできるのか。もしかして問題が発生して、追い込まれてから色々頭を働かせた方が楽なのでは)

男(……ここへ来てようやく感じたのである。ハーレム主人公は卑怯ではないかと)

男(どうして自分へこんなに好意を抱いてくれる美少女がいるのに、それをおざなりにしていられるのか。男としてクズか? 貫き通した信念が、ぐらりと揺らぐ)

幼馴染「男くん、さっきから一人で唸っちゃってどうしたの? ぐ、具合悪い?」

男「えっ……あ、いや、どうってことないぞ。少し難しい事考えててな」

不良女「アホのお前が似合わねーことしてんじゃねーよ。アホなんだから」

男「俺はお前の鏡じゃないぞ?」

不良女「はぁ? ……ん? 何言ってんの? よくわかんねー」

男「気付かない方が良い幸せもある。……あ、そうだ(一発勝負へ出てみようか)」

男「お前、明々後日の俺との約束忘れてないよな? 絶対遅刻してくるなよ?」

不良女「は!? えっ、ああ……お、おう……当たり前だろ……[ピーーーーー]…!」

幼馴染「ん? ……二人で日曜日どこか行ってくるの?」

男「ああ、妹へプレゼントを贈りたいんだが、俺一人だと年頃の子が欲しい物が分からなくてな。悩んでる時に、そいつが選ぶの手伝ってくれるって言ってくれて」

不良女「なにが年頃の子だよ? お前、その言い方だと一気にジジイだぞー」

男「そうだな、婆さんや」

不良女「アホっ!!」

幼馴染「そ、そうだったんだ……プレゼント、そっか、うん、良かったね……」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーー]……」

男(何があっても訊き返したくはない)

不良女「あっ……」

不良女「……な、なぁー? あたしとお前二人だけだと途中でタルくなんねぇ?」

男「は?」

不良女「だから……とにかく二人だとダリィだろ! 分かんねーけど!」

男「何言ってんだお前は……」

不良女「明々後日にさ、えっとー……幼馴染も連れて行けば丁度良いんじゃねーかなって」

幼馴染「え?」

不良女「ほ、ほらさぁ! あたしより幼馴染の方が可愛い小物とか、色々、そういう奴選ぶセンス有りそうだしー……ね?」

幼馴染「ど、どうだろう……ちょっと自信は……」

不良女「大丈夫だって! ていうか、ついでに三人で遊ぼうぜ! カラオケとか行っちゃう!? あたし超歌うめぇーからなっ! 聞かせてあげる!」

不良女「なぁ、お前もそれでいいだろ? こんな可愛い女子二人に挟まれて買い物なんて、滅多に経験できないぜー?」

男「(と、思うじゃん?)自分で可愛いなんて言うかね。まぁ、俺としては問題ないぞ。お前がそれで構わないのなら」

幼馴染「本当に、ほんとにあたしも一緒に行っていいの? 大丈夫なの?」

不良女「じゃあ逆に聞くけど、何が問題あんのさ? ……つーか一々悩む事かよ~! いいから来いっ! なっ!」

幼馴染「う、うん……! わかった、あたしも行くよ! 男くん!」ニッコリ

男「やれやれ、また口うるさい奴が増えたもんだよ(と、冗談交じりで返した俺は、その時、不良女の表情が一瞬だけ、ほんのちょっぴり、変化したのを見逃さなかったのだ)」

不良女「あははは……ははは……[ピーーーーーーー]……」

男(最低だ、俺って。許して貰おうだなんて思う事もできないぐらい。だが、策は上手く通ったのだ。すまぬ、不良女よ)

男(鈍感とは罪である。しかし、その反面、場合によっては非常に便利な武器となる)

男(俺はいまこの場でそれを体現した。もはやハーレム主人公そのものな行動ではないか)

男(しかし、彼らは毎回このような愚策を行い続け、心痛まないのかと疑問に思う。いや、彼らと俺は違うのだろう。彼らは無意識に、俺は、である)

男(不良女のあの時の悲痛を訴える顔、消えてしまいそうな無理な笑い声を、よく胸に刻んでおこう。償いにすらならないだろうが、俺は彼女を大切にしなければ)

男(不良女は犠牲になったのだ)

転校生「ちょっと……ねぇ、聞こえてるの? ねぇってば」

男「……は?」

転校生「は? じゃないわよ。当てられてるから……ほら」

数学教師「コホン……ボーっとしてるなよ」

男「えっ!? ああっ、えーっと……」

男(いくら俺が主人公へ成ろうと、学力自体が向上したわけではなかろう。家では無勉を貫き、授業では教師の話を聞き流すこの俺に、解ける問題はない)

男(そんな俺が完全に立ち尽くしていれば、そこへ助け舟を出してくれたのは、意外、委員長であった)

委員長「答えられない男に変わって、私が。よろしいでしょうか? 先生?」

数学教師「ん……早く」

男(授業を終え、俺は真っ先に委員長の元へ向かう。気になる事があるのだ)

男「委員長、さっきはどうも。助かったよ」

委員長「もう…先生の言う通り、授業中にボーッとしているなんて、言語道断ですよ! 全くあなたって人は!」

男(やはり今は、風紀、委員長だった。キャラ、というか彼女の変化は言動や仕草にすぐ表れるため、分かり易い)

委員長「これからはしっかりしてください。いいですね? 次も助けられるなんて、期待はしないこと」

転校生「うんうん。もっとこいつに言ってあげて? ほんとどうしようもないバカだから」

男「どうして今お前がしゃしゃり出てくるんだよ……」

転校生「別にあんたに用があったわけじゃないわよ。委員長さんが、あまりにも頼もしくて」

転校生「そーだ。あんたじゃなくて、彼女に分からない事色々と訊けば助かるかしらね~……ねぇ?」ニヤニヤ

男「ほう? 色々ねぇ、じゃあ早速訊いておけば良いんじゃないか? その色々とやらを」

転校生「……な、何おかしなこと考えてるのよ!? 変態じゃないのっ!? ///」

男「いや別に? お前が勝手に勘違いしてるだけだろ。俺は、おかしなこと、なんて一切考えちゃいないぞ?」

転校生「うっ!? ……う、うぐぅ……」

男「この俺に口で勝とうなんぞ十年は早いわ。な、委員長もそう思うだろ? ……あれ、委員長?」

男「(見ると、委員長は俺たちへ反応もせず、そそくさと教室を出て行ってしまったではないか。一体何処へ向かったのか) 悪い、急用を思い出したから」

転校生「え? ちょ、ちょっとー? どこ行くのよ、私も着いて……あっ、ち、ちが…///」

男「(自爆した転校生を放って、俺は委員長の後を追ったわけである。彼女が向かった先、そこは) 図書室?」

男(何故、なんて思う前に、まさか、である。委員長に続いて、図書室の中へこっそり入り、彼女の姿を探す。いた、カウンターの中の椅子へ座り、体を抱えて、一人うな垂れていたのだ。理由は問うまでも無かろうよ)

委員長「…………あっ、男くん」

男「やっぱりまだ吹っ切れられてない?」

委員長「最初から、そんな気になれなかったよ……帰りたい」

男(不安げな表情を向け、肩を抱く力が強まる。声も微かに震わせて、まるで見知らぬ土地へ捨てられた子犬ではないか)

男(どうしようもなく背中から抱きしめて安心させてやりたい気持ちに襲われるが、俺に、俺の知る委員長を抱きしめる行動力はない。その時だけは、モテて仕方がない主人公ではなくなってしまった、そんな錯覚すら起こしそうになる)

委員長「男くんみたいに、今の環境を気楽に受け入れられて、楽しく過ごせたら……羨ましい」

男「そんな気持ちには一生なれない? 大丈夫、慣れるから」

委員長「でも、慣れた時には、もう私は私じゃなくなってると思う。日に日に、別の私に変わる頻度が上がってきちゃったよ」

委員長「あと何日間だけ、今の私でいられるかな……」

男(遂には膝へ額を当てて、下を向き、声を殺して泣き出してしまったではないか。そんな状態の彼女を見ても、俺には慰めをかける言葉が見つからずにいた)

男(こんな時、他の美少女へ対してならば、俺はどうしていたのか。何故、彼女ら同様に、委員長へ声をかけられないのか。分かりきっている。俺は力が働かなければ、ただの、元の俺なのだ。いくら強気でいられたとしても、だ)

委員長「男くん、男くんはどうしてそんな風に明るくいられるの? …なんだか、私の知ってる君じゃないよ」

男「これを期に、変わってみよう、なんて思ってて……その」

男(俺には美少女たちが、そして委員長へは全ての生徒たち、クラスメイトが、彼女を慕い、集う)

男(微かな違いはあれど、幸福ではないか。今までを考えれば、どんなに良いことか。何故それを理解できないのだろう)

男(何故、帰りたいだなんて思えるのだろう)

男(委員長は俺のように、能天気に事を考えちゃいない。そもそも別の人格と入れ替わろうとしているのである)

男(そう考えると、俺まで複雑な気持ちに、させられる事なんてなかった。むしろ、さっさと攻略可能美少女へ変成されてしまえば良い、なんて)

男「委員長は元の自分が好きなのか?」

委員長「え?」

男「だってそうだろ? 変化を受け入れられないって。完全に昔の自分を嫌いなわけじゃないんだよ」

男「誰からも相手にされず、惨めな存在としての自分が」

男(心にも思っていない言葉が飛び出した、わけではない。悲しいが事実だ。彼女は俺同様、とまでも行かないだろうが、そんな立場にある)

男(実は可哀想な自分が可愛い、だなんて考えちゃいないだろうな。不幸な少女漫画の主人公を気取っているのではないか? ただの偏見と批判してくれても構わない。だが、この俺はそんな風にしか人を見られない)

男(そうやって他人を見下すことで、笑って、満足感を得ている、そんな捻くれた人間なのである)

委員長「わ、分からないよ、そんなの……!」

男「じゃあ問題ないんじゃないか。俺が委員長なら喜んで今を受け入れたいな」

男「だって、惨めな自分より、いくら自分でなくなるとしても、充実な生活を送れるんだぞ?」

委員長「でも自分じゃなくなるって、つまり死ぬのと同じなんだよ……?」

男「救われるなら、良いんじゃないかな?(いや、良くねぇよ)」

委員長「……じゃあ、男くんは、私が死んでも構わない? いなくても何とも思わない?」

男「え? どうして俺に限定されるんだよ。まさか、みんなに慕われたいの、みんなの中には俺なんかも入れてくれてるのか?」

委員長「そ、それは……何ていうか……」

男「結局はこういうのってエゴの表れだよな。こんな時ばっかり都合良く、俺に声かけてきやがって」

男「自分で望んでおいて、今度はやっぱり無理でした? それって卑怯過ぎないか?」

委員長「えっ……あ、あ……」

男(一度開いた口は、もう閉じられなかった。俺が委員長へかけた言葉は慰めでもなんでもなく、委員長を更に追い詰める辛辣で、突き放すものばかり)

男(実に酷であるとは思う。孤独で、苦しむ一人の女子へ対し、ここまで非情になれている自分が恐ろしい)

男(皮肉な事に、変わり行く自分へ脅える委員長とは裏腹に、俺は元の俺の捻くれた感情へ恐怖したのだ)

男「どうしても君が元の世界へ戻りたいっていうなら、俺も協力するよ。方法は何もまだ分かっちゃいないけど」

男「ただ、俺は絶対に帰らない。帰るなら委員長一人で頼む。俺は惨めな自分を、向こうで変えられる気がしないからな、こっちの世界で暮らすのが一番幸せだし」

委員長「……本当にそう思ってるの?」

男「思ってるよ。楽しくて仕方がないって昨日話しただろ? 嘘じゃないんだ」

男「じゃあ、俺はもう行くから。困ったらまた相談してくれて構わない……後は委員長に任せる」

委員長「うん……ありがとう……」

男(心が籠もっていない「ありがとう」が俺へ適当に投げられたかのように感じられた。別に問題ない。慣れているのだ)

男(これ以上、俺が元の委員長を気にする事はけして無いだろう。彼女自身の問題だ。俺は委員長ではない。何を考えているか、なんてさっぱりきっぱり不明なのである)

男(だからといって、彼女を傷つけて良い理由にはならないのだ。心底、自分が嫌になってくる)

男(都合が良いように考えているのは実は俺自身ではないのだろうか。美少女たちも、委員長も、俺の欲の為の道具に変えようとしている。つまりそれって最低なわけで)

男(自分が気持ち良くなれば、他人がどうなろうと、どうでもいいと考えるような冷めた人間だったのか、この俺は。委員長はどうなっても構わないのか)

男(元の彼女から目を背けて、目の前の美少女化された委員長だけしか頭に無いのか。どうなのだろう?)

男(彼女の元人格を死なせてしまって、完全な美少女委員長キャラと化した委員長を俺は愛せるのだろうか?)

男(……とにもかくにも、委員長自身がこんな俺を頼ってくれたのは事実なのだ。後は彼女の考えに任せようじゃないか)

男(今はそれよりも集中すべき者がある。それが、隣の美少女だ)

オカルト研「今日こそは……!」

男「丁重に断らせてもらうぞ」

オカルト研「あうっ……[ピーーーーーー]///」

男「え? 何だって?」

オカルト研「だから、[ピーーーーーー]……今日は、黒魔術の道具も揃えたの。だから、敵なし、よ!」

男「それ、たぶん悪霊払うどころじゃなくと俺には思えるんだが!」

男(自信満々に語るオカルト研である。今回は黒魔術とな、悪魔を俺へ降臨させるつもりかい)

オカルト研「エコエコアザラク、いあ!いあ!はすたあ!」

男「最初に断った筈だよな!?」

男「……大体、悪霊なんて俺には憑いてない。不幸が降りかかるどころか、ハッピーだぞ?」

オカルト研「そういう問題ではないの……あなたのせいで、私の[ピーーーーーー]」

オカルト研「[ピーーーーーーー]……[ピーーーーーー]、[ピーーーーーーーーーーーーー]……///」

男(彼女に関しては、全く台詞が読めない。というか、俺が想定できる範囲から外れ過ぎているのだ)

男(今までの様子から察するに、俺へ対しての好感度は彼女も異常に高い方だろう。何て言ったって、かなり積極的に引っ付いてくるのだから)

男(大人しいオカルト大好き美少女とは思えないレベルで、である。まさに餓えた肉食獣ではないか。いや、実に堪らんし、けしからん)

男(そうなると、オカルト研に関してはこのまま受け身の方向で問題はないのだろうか。しかし、こういう美少女に限って予測不能に動き出すものだ。この通り)

オカルト研「……///」ピトッ

男「どういう流れから、いきなり俺へ肩を寄せてくる!?」

オカルト研「おかしくなりそうなの……」

男(こちらの台詞なのだがよ)

オカルト研「あなたを見つめていると、私……[ピーーーーーーーーー]。 ドキドキする……ねぇ、あなたも感じて……?」

男(と、俺の手を取って自分の胸へ宛がったのだ。再びこの手に感じる強大で、柔らかな、悪魔的感触。これでは逆に俺がドキドキさせられる、否、させられた)

男「お前は恥ずかしくないのか!? 俺に自分の胸を触らせたりして!!」

オカルト研「[ピーーーーーー]……///」

男(どうやら人並みには恥じらっていたらしい。長い前髪の隙間から除く、澄んだ瞳は、俺を見つめて離さない。この手も離さない)

男(しかし、ここは他の生徒も通行する廊下だ。さすがにこの場で、この状況は如何ほどなものだろうか)

男「分かったから、そろそろ手離せってば……ほら」

オカルト研「どうして?」

男「どうしてって、何で分からないかな……!?」

オカルト研「男くんになら、ずっとこうされたままで……いいえ、このままでいたい……」

男(なるほど。オカルトの皮を被った痴女系美少女か、お前は。なんて変な納得をしている場合ではないのだ。早速、そこの曲がり角から人の声が近付いてきていた)

男「おい、誰か来るぞ!? 一先ずそこの理科室へ入るから来いっ!!(と、そのままの態勢で俺は無理矢理、オカルト研の体を引いて、都合良く開いていた理科室へ走る。が、そこで空気を読み、自動的に発動されるのが)」

オカルト研「ひゃっ……ん、む、っ~~~……!? っー……///」

男「っ~~~……!?(言うまでも無く、お約束であるが、今回は嘗てない奇跡)」

男(オカルト研との口づけ、またの名を、キスであったり)

男(状況を詳しく説明しておこう。事へ至ってしまった経緯はこうだ)

男(まずはこの俺の手が、オカルト研の胸を掴む。OK、ここまでは問題、あるが良い事としようではないか)

男(そんな光景を誰かに見られるわけにはいかない、そんな矢先に、向こうから生徒たちが。慌てた俺とオカルト研は、主に俺が、理科室へ向かって、有無を言わせず飛び込んだ)

男(そこで待っていたのは、ラッキートラップな床に転がっていたボール。そんな物が何故理科室へ落ちているのかという疑問は、まず置いておくとする)

男(俺はボールを力強く、気付かず、踏みつける。すれば、メジャーボール並によく表面が滑り易くなっていたボールで、俺は勿論 転倒を起こした)

男(俺とオカルト研は、俺を下に、オカルト研を上に、という状態で。ここがポイントである。オカルト研は俺へ引き摺られる形で、共に転んだ)

男(勘が良い、というか慣れた俺は、瞬時にオカルト研との衝突を免れようと、床へ打ち付けた後頭部の痛みも気にする暇なく、両手を突き出して彼女を支えようとした)

男(した、が、だ。不安定な状態で支え切れるわけがない。彼女の転倒の勢いをなんとか和らげるが、そのまま腕の支えが崩れ、オカルト研の顔が俺へ迫ってきて)

男(チューである)

男「…………」

オカルト研「はぅ! あわっ……むぅ~……///」

男(切に思う。もう五分間、じっくり、こうして繋がっていようと)

続きは明日か明後日に

ごめんなさい。書けるとか書く予定とかしてたけど、ちょっと無理だった
今日中にはかならず書きに来る

男(いようとは思いたい。誰だってそうする、俺だってそうする。だが、これ以上は危険なのだ)

男(もはや俺の理性は限界点を突破しようと、ギリギリのラインを越えてしまおうと、何度も何度もこの手がオカルト研の上着のボタンへ伸びかけている)

オカルト研「…んあ? あっ……あぅ」

男(とりあえず重なった彼女のふっくら唇から俺は逃れる事に成功。その際、ツプッと小さく、唇との間に溜まった空気が鳴るのが、これまた俺と彼女を様々な意味で火照らせた)

男(無理矢理押し返して、キスを止めた俺の顔を、彼女は切なそうな表情で見つめるのである。そして、右手を自身の唇へ伸ばし、まるで先程の感触を確認するように、全体を二本指で撫で回すのだ)

オカルト研「……[ピーーーーーーーーーーー]///」

男「あわわわわ(と言うしかあるまいて。だが、おどけているわけではないのだ。こんな時、どんな顔をして、どんな言葉を発すればいいのか、俺には分からない)」

男(オカルト研は、目から口で、色気を含んだ笑みを浮かべ、でも漏らす息はとても震えていて、一体いま俺の目の前にいる彼女を何と例えれば良いのか。とりあえずは美少女なのである)

男(非常に醜い俺の顔した小さな天使と悪魔が現れ、この俺を、止め、誘う。全身が俺の欲望で沸騰を起こし、溶けて消えてしまいそうな)

男(天使の囁きへ耳を傾けなければ、ダメだ、天使が悪魔に唆され、今度は二匹掛かりで俺に「ヤレ」と気色の悪い声で誘惑し始めた。良いじゃないか、彼女だってその気ではないか。ここには俺とオカルト研の二人きりなのだ)

男(この機会を逃し、後々になって後悔する羽目になればどうする。今だ、舌でも突っこんでやれ、引っくり返して上から引ん剥いてやれば良い)

オカルト研「[ピーーーーーー]、[ピーーーーーー]? [ピーーーーーーーーガーーーーーーーーー]……///」

男(見てくれ、完全に発情した雌の顔ではないか。何故、公共の場で頭の中をピンク一色に染めているのだ。そんな顔を見せられては、俺の箍が外れ、オカルト研ルートを一直線に行く事になる)

男(そうなれば、後戻りは効かない。いや、よくは分からない。俺はいま世界の主人公なのである。どうにかなれてしまうのでは?)

男(いかん、静まれ。これまでどんな誘惑にも打ち勝ってきたではないか。何故だ、ハーレムだろう。お前が目指すべき場所はコレではない)

男「(そして、俺は俺を、殴ったのである) ぶぅっっっーーー!」

オカルト研「ひっ!?」

男「オ……オカルト研、お前の言う通りだったかもしれない。俺には性質の悪い悪霊が憑いていたみたいだ」

男「すまん。俺としたことが、一瞬だけど変な気になっていた……もう、止めておこう」

オカルト研「[ピーーーーーーーー]」

男「ん、何か言ったか? ほら、立てるか? そろそろ出ようぜ」

オカルト研「うーっ……そ、そうね。男くんもようやく理解してくれてなによりだわ。その危険過ぎる悪霊を」

男(てっきり、再び襲いかかってくるかと警戒していたが、彼女もギリギリで抑え込んでくれたらしい。あえてクールを気取り、場の雰囲気を冷ましたのも手伝ったのだろうか)

男「さ、さっきは俺たち何してたんだろうなー? ほんと周りに誰もいなくて助かったよ」

オカルト研「……」

男(コクリとも頷かないオカルト研である。俺が一人で話を振っている形が続くが、次第に俺も話題が尽き、しばらくの間は沈黙が俺たちを襲ったのだ)

男(目だけを横にいる彼女へ向けて、様子を確かめれば、やはり長い前髪が邪魔をして何も分からず。このまま、お互いどぎまぎしながら、教室へ戻れというのか)

男(その後、俺とオカルト研はどんな顔して向かい合えば良いのだろう。正確には俺が、であるが。だって、彼女の顔はハプニングでも起きなければ、覗けないのだから)

男(なんて事を思っているうちに、騒がしい教室前廊下へ辿り着く。ここで彼女とは一旦のお別れだ。最後に何か言っておくべきか)

オカルト研「男くん。聞いてほしい」

男「えっ……はっ、な、何だろう……!」

オカルト研「さっきの……わたし……[ピーーーーーーーー]……」

男「あっ、えぇ? な、なな、何だって?」

オカルト研「……霊的な何かへ干渉され、これ以上はあなたと過ごしていられないみたいね」

男「は…はぁ?」

オカルト研「……ばいばい///」

男(と、前髪の間からチラリと一瞬覗けた彼女は、舌を出し、ペロリと上唇を、俺へ向けて、いたずらに舐めて見せたのだった)

男(うーむ。俺の選択は、はたして正しかったのだろうか)

男「で、唐突に渡された異系のブツなんだが。こいつはどう使えばいいんだ?」

男の娘「クッキーだよぉ!! 昨日、男がもっと食べてみたいって話てくれたじゃないさ……」

男(頬をまるでハムスターのように膨らませる男の娘はかわいい。どうやら、気に入ったと思い、昨日もまた必死で俺の為にクッキーを焼いて来てくれたらしい)

男(明らかに以前の物より量が増えている。袋がパンパンで、はち切れんばかりではないか。そして、肝心の中身は菓子だとは名状しがたき物である)

男(現実に、この暗黒物質をこの世に存在する物で生み出す闇の錬金術師がいたとは思わなんだ。それが、ドジっ娘ならぬ男の娘)

男「これも店で売っていたものか? それにしては、昨日の奴とは違って見えるんだが」

男の娘「えっ、そ、そんなことは……やっぱり変かな……」

男「いや、幼馴染が弁当を持ってくるまでこいつで食い凌ごうじゃないか。見た目はアレだが、味はいけると、一度この舌で確かめたからな」

男の娘「やった! ……あっ///」

男(では、一枚拝見。味はもはや何が何だか分からない、というか、味覚を狂わせるような、後から異常な甘さがやってきて、お茶で無理に流し込めば、何故だか喉が焼けるように熱くなった)

男(結果、俺から言わせれば、判定Zである)

転校生「なにそれ? ……え、なにそれ?」

男「二度聞いてやるなよ」

男「男の娘が何処かでわざわざこの俺へ買って来てくれた、クッキーらしいぞ?」

男の娘「え、えへへっ [ピーーーーーーーーーーー]……」

転校生「く、クッキー……へぇー……日本のクッキーは独特な形してるのね……」

男「じゃあ食うか? これから日本で暮らしていくんだ、その国の菓子の味に慣れておいた方が良いだろ」

男「と言っても、イギリスから来た奴だ。ろくな味覚してないだろうから、こいつ美味さを理解することはできないだろうがなー?」

転校生「むっ……それって偏見よ! ほんっと相変わらず口開けば最低なことしか言えないんだからっ」

男「年中フィッシュ&チップスを食う連中だからな、どうだかね~?」

転校生「うるさいわよ!! ……いいわ、それを食べて「美味しい」って言えたら、私の味覚が正常ってことよね。なら証明してやるわよ!」

男「だそうだ。男の娘、こいつにも分けてやって構わないか」

男の娘「うん、正直味に自信は……ああっ!? うっ、い、良いんじゃない!? て、転校生さんも食べてみてよ! あ、あははは……っ」

転校生「ありがとう、男の娘くん。じゃあ早速食べるわよ? 見てなさい、イギリスをバカにした罪は重いんだから……うっ」

男「おい、菓子程度になに躊躇ってるんだ。ちゃんと味も詳しく俺たちへ教えろよ? 誤魔化すのは無しだからな、転校生」

転校生「一々言われなくてもわかってるわよ! ……あー……これが、クッキーかぁ……」

転校生「クッキー……そうよ、これはクッキー……食べ物だわ……きっと味はイケるのよ……大丈夫、こわくないもん……」

男(作って持って来た張本人の前で、そこまで言うか。転校生は何度か、口へそれを入れようとし、やっぱり離してみたり、と未だ思い切りがつかずだ)

男の娘「あ、あの、転校生さん? そんな無理して食べようとしなくても」

転校生「無理なんてしてないわよっ!?」

男「声が裏返ったぞ。どれ、仕方がない。俺がお前へ食べさせてやろうか?」

転校生「は?」

男(袋から三枚ほど暗黒物質を摘まみ取り、転校生の顔の前へ突き出してみる。まぁ、恥じらいと不安な表情がごちゃ混ぜになって、面白い、否、かわいい)

転校生「どどど、どうして一気に三枚もくるのよぉー!? ていうか、どうして変態の手から食べさせられなきゃなんないの!? ///」

男「お前がいつまでも踏ん切りつかなそうだからな。ほら、遠慮するなってば」

転校生「ううっ……[ピーーーーーーーー]……///」

男「何て言ったか聞こえなかったなぁー? いい加減観念して口を開けろ、転校生!」

男(そう言うと彼女は、頬を微かに紅潮させ、透き通った青い瞳を潤わせながら、徐々にその小さな口を黙って開けたのだ)

男(こんなハーフ帰国子女な転校生系美少女が愛おしくて。隣で羨ましそうに、釣られて口をパクパクとさせる男の娘が愛おしくて、である)

転校生「はふふっ……///」

男(「間抜けな面してる」なんて悪態を突けば、俺のボディに転校生の拳が埋まった)

男(その一瞬の油断が命取り。俺は一気に暗黒物質たちを、彼女の口内へ放り込んだのだ)

転校生「ふぁふっ!? もぐぐ、むっ! やあっ…み、みひゃいへよぉ~……っ!///」

男「何だって?」

男(さすがに三枚も入れば、彼女の口からクッキーらしきカスがポロポロと零れた。それを必死に、俺へ見られぬよう、両手で隠し、後ろを振り向くのであった)

転校生「んぐんぐ…………ゲホ、かはっ!?」

男の娘「転校生さん!? も、もしかして喉に詰まっちゃったの!? お茶飲んで流しこんで! …もうっ、男が無理矢理入れるからだよ!」

男「ああ、そうかもな。で、転校生? 味の方はどうだったのかな、スゴく美味いだろ?」

転校生「んーっ!! ん~~~っ!?」バタバタ

男(両手で口を抑えたまま、声にもならぬ声を上げながら、壁を叩いたり、蹴ったり、しまいには床に四つん這いになって、吐き気を耐えるような態勢へ)

男(俺へ味を伝える余裕がない程苦しんでいるが、もしかして、俺の味覚の方が音痴ではないだろうかと、彼女の過激な動きに、逆に思わせられてしまったのだ)

男の娘「……お、おいしくなかった? 口に合わない?」

転校生「!!」

男「美味いに決まってるだろ、男の娘? そいつは美味さのあまり興奮してるだけだよ。なぁ、そうだろう?」

転校生「ん、ぐぅぅーっ……!!」

転校生「おいし、かったわ、と、とっても」

男(青い顔でプルプルと全身を震わせながら、引きつった笑みを男の娘へ向ける天使。これが見たかった。いや、ここまでの下りで何度胸をときめかせた事か)

男(何はともあれ、計画は上手く行った。まぁ、今回のはただの息抜きにお遊びみたいなものだろう)

男「(なんて、無駄な事をこの俺がするわけなかろうよ。全ては謎を解く為の行動である。俺は懐から、インスタントカメラを取り出し、具合を悪そうに机に手をついた転校生を撮影したのである) 記念に一枚いただくぞ」カシャ

転校生「は、ちょっとぉー!? 何てところ撮ってくれてんのよ!? バカじゃないのっ、死ねばいいのに!!」

転校生「……ていうか、私の写真をいきなり撮って何のつもりよ…///」

男「とくに意味はないんだ。思い出に残しておきたいというか、な」

男(事実、本当に意味が無い行動となる可能性もある。しかしまぁ、美少女の写真ならば、いくらでも欲しいぐらい)

男の娘「……」サッサ

男(そんな中、隣の男の娘はいつ撮られても問題ないよう、窓ガラスを鏡にして、髪を整えていたのだ。俺の視線へ気付くと)

男の娘「あっ……ね、寝ぐせが! ほら、寝ぐせついてた!///」

男「安心しろ、お前を撮る時はしっかり許可を貰ってからにするよ」

転校生「どうして私だけ無許可でくるのよ!? 変態がカメラなんて持たないでよっ!」

男(変態ド変態と、言われ続け早5分、幼馴染がこの俺へ作ってきた愛妻弁当を持って、現われるのだ。実に気分が良いものである)

幼馴染「お昼一緒に食べよ、3人とも!」

男(上機嫌な彼女だが、その理由は先程の件がやはり原因だろう。今朝の曇り空がウソのように晴天となってくれた)

男(さて、今後の予定をここで思い出して、振り返ってみよう。まずは今日、放課後に俺は先輩と共に生徒会を尋ねる。そして上級生二人をハーレム空間へ一気に引き入れるのである)

男(明後日、俺の家に男の娘が尋ねてくる。この俺と二人きりで妹の為にという題目で、クッキーを焼くのだ)

男(二人きりとなる状況が迎えられるのは、既に確認済みである。その日、妹は友人とともにショッピングへ出かけるのだ。もし、家に帰って来たとしても日暮れだろう。男の娘には申し訳ないが、妹へは、俺の友人として紹介して逃れる事が可能)

男(問題は翌日、不良女とのデートであるが、これに加えて幼馴染が当日参加する事になった。腹は括っている。しかしだ、不良女のあの異常に空気を読む上手さ、気の使いようから)

男(幼馴染と俺をデート中良い感じに茶化して、仲を深めさせようとしてくると思われる。彼女はいわゆる、自らの恋心を犠牲にし、主人公とヒロインをくっ付けようとする悲劇的キャラへ陥る可能性が高い)

男(では、それをどう回避するべきか。容易い。あの手の美少女が望み、好む展開を俺は既に何通りかのパターンに分け、事前に備えているのだ。彼女も確実に落とせる自信が、この俺には、あるのだ)

男(さて、ここまでは問題ない。残る暫定攻略可美少女は、オカルト研、後輩、我が妹、先生といったところか)

男(転校生はもはや完全とはいえまいが、攻略済みと言って過言ではないだろう。問題があるのは、ただ一人、委員長である)

男(放課後、俺と先輩は再会し、生徒会室へ向かったわけなのだ。そして、現在に至るわけだが)

男「先輩さん、大丈夫だって俺しっかり聞きましたよ」

先輩「分かってるよー……で、でもいざ本番!ってなったらさぁ……ねぇ、生徒会長ちゃんほんとに愛好会へ入ってくれるのかな」

先輩「入ったとしてもだよ? 結局ギスギスしたまま同じ部室で過ごしてさ、最悪来なくなっちゃったりしてさ? …それに、わたしなんかが生徒会へ入っても」

男「今さらグダグダ言ったって仕方がないでしょ? 後悔するなら、後にしましょう先輩さん。大体こんなのあなたのキャラじゃないです」

男「俺のよく知ってる先輩さんは、空気読めなくて、でも明るく突き抜けていて、おまけに一度話を始めると中々終わりが見えなくて…」

先輩「ちょーっ!! それじゃあわたし、おばさんみたいじゃんかさ! 先輩をそんな歪んだ象で今まで見ていたのかねっ、君はよぉー!」

男「そうそう、そんな感じが一番先輩さんらしいですよ。緊張解けましたね?(と、止まりそうにない先輩の話を遮り、俺は生徒会室の戸を開いたのである)」

先輩「あっ……あう」

生徒会長「……ようこそ、我が生徒会へ。男くん、そして」

先輩「あぁー! やるかこんにゃろー!?」

男「道場破りでもないんだし、いきなり喧嘩腰はどうかと思いますよ(なんとか彼女を落ち付けなくては。基本先輩の相手はこの俺では毎回苦戦させられるが、空回りした彼女ならば手綱を握り易いのだ)」

生徒会長「二人の申請書は受け取っているよ。先生方もOKと許可を下してくれた。偶然空きがあった、書記へ男くんが。そして会計へ……ん」

男「ん、って何ですか。はっきりと名前を呼んであげてはどうです? 俺と二人きりだった時のように」

生徒会長・先輩「なぁっ……!?」

明日へ続く

先輩「ふふふ、二人きりって、また抜け駆けしてたんだ! 男くんを横取りしようと企んでたんだ!? それってヒキョーじゃない!?」

生徒会長「ひ、卑怯だと!? 君だって私がいない所で、密かに彼へ接触していただろう。以前見かけた時はその、体まで使って!」

先輩「はぁ!? あっ……だ、抱きついただけじゃん……変なこと言わないでー……」

男「生徒会長、あなたは 先輩さんのことをあんなに心配して見せたり、本当は昔みたいに良い関係を取り戻したがっていたじゃないですか」

男「先輩ちゃんは、先輩ちゃんが~~~」

生徒会長「わぁーっ!! わぁーっ!? ///」バタバタ

先輩「えっ、それってどういうこと ?」

生徒会長「……[ピーーーーーーー]」

先輩「え? ご、ごめん…いま何て言ったの……」

男(まさか先輩に俺の難聴スキルが伝染したわけではなかろうな。そして、生徒会長、あなたは既に、この俺へ幾度と無く弱味を晒しているのだ)

男(その、凛として気丈である仮面を剥ぐ方法は、いくらでも思いつく。引ん剥いて、丸裸にして、羞恥を味あわせてくれよう俺を信用し過ぎたのが、生徒会長、あなたの敗因だろう)

男「(このまま素直になるまで、追い詰める) 生徒会長、改めて聞かせてもらえませんか。どうして俺なんかを、この生徒会へ引き入れようとしたんです?」

生徒会長「それは! そ、それは……君が非常に優秀な人材である事を私はよく知っているから、その、機転も効くし」

生徒会長「そんな君が生徒会役員として活躍すれば、これからの我が校も、より良くなると……」

男「そいつはどうでしょうかね。自慢じゃないが、俺は素行も悪い(らしい)」

男「成績も中の下。使い物になるのは、その場凌ぎの言い訳ぐらい。仕事だってまともにこなせる自信ありませんよ」

男「そんな事ぐらい、生徒会長ならもう気付いている筈でしょう?」

生徒会長「……っー!」

男「まさか見誤っていた、なんて事もないだろうし、それなら理由が別にある筈だ」

男「ただ、俺にはそれが皆目見当がつかないんですよねー……?」

生徒会長「あ、ぅ……[ピーーーー]///」

先輩「生徒会長ちゃん……もう、男くんは[ピーーーーーーー]だって……」

男(やれやれ、鈍感主人公も楽ではない。あそこまで積極的にアピールされておきながら、「何も分からない」なんて、お前は感情を持たない機械人間ではないか)

男(それとである。本当に鈍感なのは、生徒会長、そして先輩。あなたたち二人の方だということを)

男「(今からこの俺が教えてやる) す、少し話から脱線しちゃいましたかねー? なんて、あ、あははっ」

生徒会長「全くだよ!!……君って奴はどうして……[ピーーーーーー]」

男「ね? 俺ってどうしようもなくバカ野郎なんですよ、やっぱり。 じゃあ脱線ついでに、もう一つ質問良いですか?」

男「生徒会長。あなたはまだ、先輩さんが、自分を敵のようにしか見ていない、そう思ってますか? ていうか、もう二人に訊きます。どうなんです?」

先輩・生徒会長「ひっ、うぅっ……!?」

生徒会長「急にそう尋ねられても困る! 私は賢人ではないんだぞ!? ただの一女子生徒だ!」

男「その通りですよ、生徒会長。あなたは賢いが、普通の人間だ。人の心全てを読み取れるわけがない」

男「じゃあ、そいつがどうやって他人を知れば良いのか。簡単じゃないですか。歩み寄ればいいんです」

男「まぁ、一度仲違えた相手と簡単に近づける気になれないのは俺でも分かるが……!」

男「次に先輩さん。あなただって生徒会長と同じ心情を抱えているんだ。本当はいがみ合いたくはないって、そうでしょ?」

先輩「そりゃあ……でも」

男「何だ、結局二人とも意地を張り合っていただけじゃないですか」

男「今の関係を何年間続けてきたのかは、俺は知りませんけど、お互い引くに引けなくなっちゃったんでしょう?」

男「だから、どっちも勝手に勘違いを起こして、諦めていたんだろ。こんな簡単にお互いの気持ちなんて理解できた筈なのに」

生徒会長「第三者が知った風に何を……そう簡単な話じゃない!」

男「だから俺が、言いたくもない、臭い綺麗事をさっきから長々と並べてるんですよ」

生徒会長「……お節介焼きめ」

生徒会長「私は、彼女から、まだ良く思われていないと思っている。もう、あの頃には戻れない」

男(なるほど。自負していた通り、彼女はかなり強情である。勿論、ここまで言われて、「はいそうですか」と素直に頷ける人間も中々いまい)

男(だから、これから彼女から歩み寄らせてやろうというのだ)

男「ここまで言われてまだ認めようとしないのか、それとも、卑怯なんですか? まだ逃げるつもりか?」

先輩「生徒会長ちゃん……うぅ」

生徒会長「ふん、[ピーーーーー]……話はもう済んだだろう? そろそろ君たちの仕事についての説明を」

男「先輩さん。これ、入部届けです。家で早速書いてきたんですけど、渡すタイミングが中々なくて……」

先輩「へっ……?」

生徒会長「……は?」

男「ああ、生徒会長は知らなくて当然ですよね。俺、先輩さんの、ラーメン愛好会へも入部するって決めたんですよ」

生徒会長「なあぁああ~~~っ!!?」

男「別にどの部活へ入るのも俺の自由でしょ? 問題はないと思うんですが」

男「部活には入りますがね、生徒会でもしっかり任された仕事を務めてみせます。全然自信ないけど…ははは」

生徒会長「ちょ、ちょっ……ちょっと待ってくれ!? 話が違うじゃないか、いや、私はこんな、こ、こんな……あ、あ」

男「で、入部の方は認められますか、先輩さん?」

先輩「え、ああっ、はい! 顧問の先生へ見せて問題なかったら……ていうか絶対OKかと、うん」

男「なら良かったです。先輩さん、あなたと俺だけのたった二人だけの愛好会だけど、二人で頑張って部を賑わせましょうね! 二人だけ、だけど!」

生徒会長「うぐぅーっ……!?」

男(足をジタバタとさせ、俺と先輩二人を、あたふた眺める生徒会長である。効いてる、効いてる)

先輩「ね、ねぇ、男くん……何も、こんなタイミングで渡してこなくても~……」

男「まぁまぁ、黙って見ていてください。……それで、仕事の説明でしたよね、生徒会長?」

男「待たせちゃってすみません。お願いします」

生徒会長「っ~~~!!」

男(と、呻き声を上げたと思えば、彼女は生徒会室から俺たちを放って、全力疾走で出て行ってしまったのだ)

先輩「ちょーっ!? どこ行くの、生徒会長ちゃーん!?」

男「……3、2、1」

男(バンッ、と戸が勢い良く開かれれば、そこに立っていたのは、ゼーゼーと、肩で息をする生徒会長である)

男(先輩が驚く傍ら、俺たちの間をズカズカと足音をわざとらしく鳴らしながら、机に一枚の紙を叩きつけた。予想通りの、入部届、である)

男(ペン立てからボールペンを雑に掴み取り、彼女はそれへ何かを殴り書く。予想通り、そこには)

生徒会長「んっ!!」グイ

先輩「……はい?」

男(入部届を先輩へ突き出す、生徒会長。彼女はけして、顔を合わせようとはしない。何故なら、そんな、耳まで真っ赤に染まり上がった面を見せたくはないだろうから、だろうよ)

男(急展開へ勿論戸惑う先輩。生徒会長の気迫に押され、一歩、一歩と、壁際まで下がって行き、それを生徒会長が入部届を突き出したまま、追い詰めるのだ)

先輩「あ、あのぉ!?」

生徒会長「んっ!! んっ!! ///」グイグイ

男「生徒会長、それってもしかして部活の……」

生徒会長「っ~~~……///」

生徒会長「わぁ、わたしもっ!! 私も……ラーメン愛好会とやらへ入部する! 受け取れぇ!」

男(ケチをつけたくせに、早速自分から歩み寄れたではないか。そして、先輩。約束通り、俺は二人のかけ橋へなれたというわけだ)

男(全てはこの俺の野望の為なのだから、お安いご用である。全ては俺の思うがままに進んで行く)

男(先輩としても、まさか生徒会長自らが、入部させろと頼み込むとは、予測できなかっただろう。そして、これを断る謂れもあるまい)

男(キッカケは与えた。後の事は二人で展開させると良いさ)

先輩「えええ、えっと!えっと!?」

生徒会長「入るったら入る! は、入るのぉっ!!」

生徒会長「あぁ!? ……うっ、[ピーーーーーーガーーーーーーー]///」

先輩「え? えぇ……?」

男(先輩はいつまでも思い切りがつかず、生徒会長は自分に素直になれず、ならば比較的動かし易い後者を使うのが俺である)

男(利用させてもらったのは、彼女の、俺へ抱く好意そのもの。元々、生徒会へ引き込んで俺を独占しようとしていたのだ。それが、ラーメン愛好会という部で、ライバルの先輩と俺が二人きりになる空間なんて、彼女は許せない事だろう)

男(これを彼女は見逃せず、強情な、彼女ならば、かならず行動へ出るという寸法なのだ。結果、この俺の予想通りにイベントは展開した)

男(恋とは恐ろしい。人をここまで動かすのか。まぁ、そこは人よりけりなのだが)

男(美少女へモテモテで仕方がない、ハーレム主人公でなければ、こうも上手く事を運べなかっただろう。神よ、感謝致します)

転校生「……で、どうして今 私も入部届書かされなきゃいけないのよ」

男「俺がいる所になら、お前も来てくれるんだろ。別に嫌なら断ってくれて構わないんだぜ? 無理強いをするつもりはないし」

転校生「ああっ、入るに決まってるでしょ!? うっ……だ、だって約束しちゃったから、[ピーーーーーー]、[ピッ]」

男「え? 何て言ったんだ?」

転校生「むっ……べ、別にー? 書けば良いんでしょ、書けば!」

転校生「ほんと[ピーーーーーーーー]……[ピーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーー]……?」

男「ん?(疑問に思ったのは、難聴によって隠された台詞に、ではない。彼女が一瞬、考える素振りを見せた事に、だ)」

男(「どうしたら私へ振り向いてくれるの?」、「こいつの鈍感は一生治らないのかしら」といったところだろうか? さて、どうだろうか)

男(彼女たち美少女は、俺の異常な難聴ぷりに対し、何ら思う所はないのだろうか。全てこの俺が鈍感であるから、と済ましているのか)

男(あえて立場を変えて考えてみよう。俺が彼女たちならば、どう思うか。……フィルターへ引っ掛かる台詞のほとんどは、俺への思いを語るものだろう)

男(その思いを伝えるには、鈍感で難聴な男へ、しっかりと伝えるにはどうするか。会話においてはほぼ不可能と見ていい)

男(別の……そうだ。例えば、筆談や、携帯電話やPCでのメールではどうだろう。″台詞″を通さなければ、である)

男(今まで考えもしなかった。何故こんな単純な事に気付けなかったのだ、俺は)

男(神よ、穴を遂に見つけたぞ。……だが、待て。上手く行くとは限らないし、ここで俺が積極的に誰かへ動いてどうなる?)

男(返って現在の状況をややこしくしてしまう可能性もないだろうか。それに、美少女の中の誰かで筆談を試せば、思いが明確になり、ルート固定化の危険性もあり得る。もう少しだけ、その手を試すのは待つべきでは)

男(奥の手としよう。最後に、どうしようも無くなった時の、その賭けに。まだ絶対ではないのだ。……それに無理に今確かめる必要は特にない)

転校生「ん…ほら、書いたわよ。これで良いの?」

先輩「入部おめでと、転校生ちゅわぁ~~~んっ!!」

転校生「きゃあああああぁぁぁ~~~!!?」

男(背後でコソコソと控えていた先輩が、我慢の限界と言わんばかりに、転校生を後ろから抱きしめたのだ。実に良い、溜まらぬ光景である)

転校生「へ、変態っ!! あんた、彼女のこと最初から気付いてたんでしょ!? ちょ、ちょっと~…やぁっ…!///」

先輩「でへへへ、おぬし、ええ匂いがするのぅ……頬擦りしたくなっちゃいますねー! ほーれ、スリスリスリ…」

男「良かったな、転校生。変態の知り合いがまた一人増えたじゃないか?」

転校生「何が「良かった」のよ!? 私がいつ変態の仲間が欲しいって言った、このド変態っ! ……あっ、ちょぉ、いやぁーっ!」

転校生「う、うぅ……私の周りにどんどん変な人が集まってくる……」

男「変だとは心外だな、転校生。でも何だかんだ言ってお前も楽しんでるんだろ?」

転校生「ばっ! そ、そんなないでしょ!? でも……[ピーーーーーーーー]///」

男「え? 何だって?」

転校生「なんでも、ないわよ……別に!」

先輩「おやおや、転校生ちゃんはツンツンデレツンって感じかい?頭撫でていい?」

転校生「答える前に撫でないでくださいよ……! まったく……大体、まだこの入部届は提出したわけじゃないでしょ! だから入部はまだです!」

先輩「でも、入ってくれるつもりなんでしょー? 書いたってことはさぁ」

転校生「そ、それは……!」

先輩「きゃー! この子好きぃ!! ウチに持って帰るよーっ!! 一緒に寝よっ」ギュゥゥ…

転校生「うぅ~、変態っ……///」

男(これではいつになっても先へ話が進みそうにない。そろそろ転校生へ助け舟を出してやらねば)

男「それはそうと、先輩。生徒会長が外で待っているのを忘れてないですか?」

先輩「あっ、あー! えへへ、すっかり忘れてましたぁ……じゃあ、そろそろ行こうか。後輩たちよ!」

転校生「それより、そろそろ離してくださいっ……!」

転校生「どうして私まで一緒にご飯食べに行かなきゃいけないのよ。ママに何て言えばいいか……」

男「友達と食べて来るの一言で済ませられるだろ。それだけで、おまけに両親の不安も無くなるんだぞ」

先輩「転校生ちゃんは転校し立てのホヤホヤだもんねぇー。きっと喜んでくれるよ」

転校生「そ、そうかしら……あはは……じゃあ、問題ない、かな……[ピーーーーーー]///」

男(察しの通り、俺たち、まぁ正確には先輩以外はまだ部員ではないのだが、ラーメン愛好会の4人で、これからの相談と親交を深める意味で、ラーメンを食べに行くのである)

男(それにしても俺の口から「友達」なんて言葉が出てくるとは、今まででは信じられない。いや、彼女らは恋愛対象なんだが、それでも、友達として付き合える)

男「(こんなに嬉しい事はない、と感じさせられたのである) それはそうと、二日連続でですよね。俺たちは」

先輩「ん~細かい事は気にしなーい! 若い内だけだよ、無茶が効くのはさぁ!」

生徒会長「……待て、先日も君たちはラーメンを食べに行ったのか。まさか二人で、というわけではないだろうな」

男「妹も一緒でした(空気を読んでくれたのか、先輩もそこは黙って俺へ合わせて、何度も頷いて見せる)」

先輩「マジです」

生徒会長「そ、そうか……! それなら[ピーー]……あっ、コホン! いや、気にするな!? …な、何でもないから」

生徒会長「それよりだ、君たちには今日だけでなく、明日からも生徒会で頑張って貰いたいな。しっかり気を引き締めること」

先輩「ほーい」

生徒会長「適当な返事では困るぞ……大体、君は生徒会役員へなったという自覚を持って」

男(なんて長ったらしい台詞を遮り、先輩は生徒会長へ抱きつくのであった。それが彼女の答えだというのか。とりあえず)

男「やった……!」

生徒会長「あ、ああわわ…なな、ななな、なぁーっ!?///」

先輩「えへへ……ごめん、なんか急にこうしたくなっちゃって」

男「転校生、お前も急に俺へ抱きつきたくなっても構わないんだぞ」

転校生「ほんっっっとに、バカじゃないの!? [ピーーーーーー]![ピーーーーガーーーーーーーー]~~! …変態っ///」

男(なんて言いつつ、伸びそうになった手を、無理矢理後ろで組んだのを俺は見逃さなかったぞ、転校生よ。そのモジモジが、いじらしくて堪らん)

男(一方で上級生美少女たちは、人目を気にせず、まだ密着し合っていたのである。というか、先輩が気にしていないだけであり、生徒会長は固まっているのだ)

先輩「やっぱり生徒会長ちゃんのここ落ち着くね……男くん、ここだけはわたしのだからねっ! 誰にも譲る気ないよ……っと」ス

生徒会長「あっ……」

先輩「それと、生徒会長ちゃん。こ、これからよろしくっ……でも、負けないんだからね!?」

生徒会長「は? あ、えっ…何を……」

先輩「[ピーーーーーー]…えへへ、とにかく勝負に負ける気はないってことさ。抜け駆け上等、どんな手でもわたしは使うからね!」

生徒会長「…何だと? やはり君と私はまだ相容れないようだな、競うならば正当なルールに乗っ取って行うべきだろうに!」

生徒会長「だが、そっちがその気ならば、私も手段を選ぶつもりはない!」

男(二人の間で電流がバチバチ、そして裏では虎と龍が互いに睨みを利かせている、大体そんな感じである)

男(この俺を、美少女二人が取り合おうとしている、それだけが真実であり事実なのだ。素晴らしい。これぞハーレムではないか)

男(俺は、遂に、ようやくにして、真のハーレム主人公への一歩を踏み出した。栄光を手にする日は近い、俺は全ての美少女を制する)

男(それが、神がこの俺へ与えし使命なのだと受け取った。神よ、問題ない。なぁ、俺は良くやっているだろう?)

生徒会長「……[ピーーーーー]ちゃん」

先輩「えー? いまなんて言ったかなぁー? ん~? どうしたの、生徒会長ちゃん♪」

生徒会長「あっ、ああっ! このっ……うー///」

男(実にいやらしいではないか、いやらしいのは体付きだけではないのか、先輩)

男(食事を終え、帰路につく俺と転校生。上級生たちは? 二人で、ある意味仲良さ気に、帰って行った。しばらくは彼女たちが、周りを賑やかな雰囲気で包んでくれることだろう)

男(さて、帰ったらすぐに幼馴染と妹、そして夕飯が家で待っている。今回は幼馴染への説明もしていないし、出された物を食べないわけにもいかないのである。勿論、それを見越して胃に空きは作って置いた)

男(幼馴染の気持ちを無碍にしたくない。それに無理をするわけでもないのだ。彼女の手作りご飯は、もはや別腹といっても過言ではないのだから)

男(待っていろ、幼馴染よ。そして我が可愛い妹よ。今、お前たちの俺が帰宅する。マミタスが起こしてくれるラッキースケベで、おかえりなさいを期待だ)

男(なんて雑念を頭の中で沸かせていれば、隣の美少女が口を開くのである)

転校生「日本の食べ物って美味しいのね。てっきり、また変な物が来るかなって身構えてたから ビックリしちゃったわ」

男「変な物? それは昼のクッキーのことか? お前、美味いって言っただろ。あれ、まさか?」

転校生「ちっ、違うわ! クッキーも……その、独特な味だったけど、美味しかった……わよ」

男「だろうな。アレは愛情が大量に詰まったもんだ(だからこそ、たとえ暗黒物質だろうと、俺は嫌な顔一つせずに、食せたのだろうよ)」

転校生「ふん、これで私の味覚は正常だったって認めるわね? 汚名挽回よっ! しっかりあやまってよね」

男「それを言うなら、汚名返上。 お前はジェリドか?」

転校生「はぁ? ……ねぇ、ところで話は変わるんだけど。先輩さんたちって、えっと……そのー……」

男「ん、どうした?」

転校生「だから! その……あの二人は、あんたのこと[ピーーーーーー]……」

男「……何だって?(まさか、である。こう来てしまうか)」

また明日

男(転校生は、否、美少女たち全てはこの俺を愛している。だが、俺は彼女たちから一人選び抜いて、イチャラブするつもりはない。公平に、平等に、皆愛でるのだ。しかし、彼女たちは俺ではない。こんな俺のゲスな企みを理解できる筈が、する筈がないという事は猿でも分かる)

男(幼馴染は? 彼女とて口ではああ言い切ったが、本心では自分を最後に選んでくれるのを信じているだろう。それに、今朝の俺の言葉で更に期待が押しあがったに違いあるまい)

男(俺は、ハーレムへ美少女たちを引き込むと同時に、彼女たちを戦場へ招き入れてしまったのだ。ようこそ、修羅の世界へ……)

男(先輩と生徒会長は勿論、転校生だって俺を取り巻く美少女たちの思いには気づいているだろうよ。そして、不良女は、幼馴染の思いにも)

男(下手を打てば、血で血を洗う恐ろしい展開が、俺の知らない場所で、あるいは、目の前で繰り広げられてしまう可能性があるのを否めない)

男(彼女たちが俺を奪い合うのは結構。だが、ドロドロおぞましいのはノーセンキュー。調子が良い話ではないか。火種となる原因はこの俺だというのに)

男(しかし、ハーレムを形成、保つ以上、この問題はかならず着いて回るのだ。もし、彼女たちが話し合った末、互いに良い関係を築いていられるよう、無理な取り合いは止そう、だなんて事があれば話は別だが)

男(ありえない。それではこの俺を都合の良い物としか見ていない、もはや恋愛とは何か?と、問いたくなる)

男(争いによって、せっかく築き上げたハーレムが内側からボロボロと崩れたら? 待て、だが俺は鈍感な主人公。上手く誤魔化せられる。まさか、ここから勢いが落ちて、美少女と顔を合わすたび頭を抱える、なんて展開にはならない)

男(ならない、で欲しい。神よ、お答えください。この世界は俺にとって全てを都合良く進められ、変えられる、そういう認識で間違っていないと、仰ってくれたまえ。おお、神よ……)

男(……とにかく、防ぎようもない。対策しようもない。これだけは彼女たち自身の問題となる。俺では介入しようがないというか、したら、それはそれで図々しい。プラス、今までの象が一気に砕け果てるだろう)

男「(その為には、俺は向き合わなければ。逃げ場なんて必要ない) すまん、今のよく聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」

転校生「ん…ごめん、やっぱり何でもない」

転校生「だけど! き、聞かせてくれないかしら? ……あんた[ピーーーーーーーー]?」

男「え? 何だって?(……ゴクリ)」

転校生「…………」

男(そう、いつものように聞き返された(誤魔化された)転校生は、一瞬表情を曇らせたのである。すぐにそれは呆れ顔に変わり、俺はホッと胸を撫で下ろす)

転校生「私がバカだった。あんたって奴を分かってた筈なのに」

男「どういう意味だよ? 勝手に自己解決するな、気になるだろうが?」

転校生「[ピーーーーーーー]…」

男「はぁ?」

転校生「ううん、もう気にしないで。本当に何でもなかったから……」

男「お前、ラーメン食べて頭おかしくなったわけじゃねーよな? あっ、それはいつもか……はは」

転校生「タンスに足の小指ぶつけて死ねっ!!」ダンッ

男「うっ! い、言ってる事とやってる事が違うだろうが!? さっさとこの足どけろアホ!!」

転校生「アホはあんたよ! 死ねっ、死ねっ!! バカ変態、アホスケベ、ドクズーっ!!」ダンッ、ダンツ

男「最近まで口だけで大人しかったというのに、ここになってまた暴力女の再来か!? ひぐぅっ!?」

男(転校生は、何を言って制止を試みようとしても耳を貸さず、しばらく俺へ暴言と暴力を続けたのである。しかしまぁ、これではご褒美に等しい)

転校生「このっ、このぉっ! [ピーーーーー]…! [ピーーーーガーーーーーーー]…!///」

男「おい、そこまで怒るような事を俺がお前に言ったのか? いい加減しつこいぞっ」

転校生「う、うるさい! 全部あんたが悪い! 全部、全部 全部 ぜーんぶなのよっ! だって、私がこんなに苦しいのは 全部あんたが! ……あっ」

男「苦しい?」

転校生「ああぁ~……っー///」ボンッ

男(一人で自爆を起こした転校生は、この俺の足への踏み付け攻撃を止め、両手を紅潮させた頬へ当てたのである)

男「(硬直した彼女の顔を、わざとらしく覗けば、俺が、顔面が、後ろへ仰け反った。二重の意味で良い右ストレートをありがとう) うぶっっっ!!」

転校生「あーっ!? ご、ごめ……変態の顔がいきなり目の前にあったから、つい///」

男「つい、で殴られる変態の身になってみろ……」

転校生「は、鼻血出てるわっ! ま、待って!? えと、えーっと……!」

男「どうして殴った方が涙目になるんだよ。こんなの鼻摘まんでりゃ、すぐに止まる」

転校生「あ、うぅ……ごめんなさい……」

転校生「……ん? な、何よ。 急にそんな目見開いて」

男「いや、あの転校生が素直に俺へ謝ったのが……夢じゃないのかなって」

転校生「もう一発殴られて、確かめたら良いんじゃない!?」グッ

男「お前実は反省してねーだろ!!」

男(ほとぼりも冷めてきたところで、一旦ベンチに腰かけ、彼女から受け取ったポケットティッシュを使い、止めどなく流れ出る鼻血を俺は抑えているのである)

転校生「まだ止まらないの? 少し仰向けになっていた方が」

男「バカ、それは間違った止め方だ。こうして座ってじっとしているのが一番」

転校生「そ、そう……そうなんだ……」

男「(愛い奴よ。俺へ膝まくりをしてやる魂胆が見え見えではないか。残念そうに俯く転校生を、心行くまで抱きしめてやりたくて堪らん) 落ち付いたか、転校生?」

転校生「え? 落ち付いたって……それはこっちの台詞よ、ほんとに大丈夫なの?」

男「俺は見ての通り心配ないだろ。せっかく気にしてやったんだから、まずはそれを受け取って、ありがたく思え」

転校生「何様のつもりなのよ、気色悪いわね……変態から心配される必要なんてないわ!」

転校生「……もしかして、さっきの事 気にしてるの? だったら本当に何でもなかったから、い、いいのよっ…」

男「それにしては異常な怒りっぷりだったなぁ。理由はよく俺には分からなかったが」

転校生「[ピーーーーーーーーー]…///」

転校生「……ねぇ、変態。休みが明けたら、今度こそ私の勉強に付き合ってよ。……だめ?」

男「ダメなんて言うかよ。前のは俺の勝手で保留になったんだからな。お詫びに次はとことん付き合ってやるさ」

転校生「あ……う、うん……あああ、あ、えっと……[ピーーーー]、[ピッ]///」

男(聞かせてくれ。どうか今の言葉を、聞かせてくれ。俺には今、それが必要だ。違いない。……退け、難聴! ダメか)

男「今さら言うが、別に俺に教わるのに拘る必要は」

転校生「だ、ダメなのっ!! ……あんたじゃなきゃ、ダメ」

転校生「……///」

男「ふーん、そこまで言うのなら仕方がない。頼まれてやるよ、転校生」

転校生「絶対よ!? 今度はほんとの本当に、絶対だからね!? 今ここでキチンと約束して…じゃないと」

男(そう不安がることはない、転校生よ。俺は美少女の頼みならば、どんな汚れ仕事だろうと引き受ける。典型的ハーレム主人公属性・お人好しがあるのだから)

男(ふと、この手を転校生の頭の上に乗せてみる事にしよう。何ということでしょう、あんなに可愛いかった美少女が、更に可愛い美少女へ変貌してしまうのである)

男「ああ、約束する」ポン、ポン

転校生「あっ……///」

転校生「って、なに気安く私の髪に触ってんのよ!? この、ド変態スケベアホぉーっ!!」

男「うわぁあああ~~~!?」

男(なんて、ベンチから突き飛ばされ、地面に落ちれば、ただで済まないのがこの俺。視線に飛び込んで来たのは、満天の星空ではなく)

男「……知らないピンクのパンティーだ」

先生「…………」

男(滑り込んだ先は、偶然この場を通りかかった彼女の足の間である。俺は悪くない。悪いのは全て、神がこの俺へ与えてくださった力なのだ)

男「(だから、俺は神にこう言おうではないか) ありがとござ……」

先生「一つ聞いておこうか。道草食ってたのは構わないけど、どうして地面に転がってくるのかな?」

男「先生、ヒールで踏んだらヤバいです、真面目に骨が折れちゃうから…あ、あっ、やぁあぁぁ~~~っ…!」

転校生「せ、先生ー! どうしてこんなところに」

先生「あれ? 転校生も一緒だったのか。それじゃあ、コレの変態行為を君は黙って眺めていたと?」

転校生「そんなわけないでしょ!? こいつが勝手にそんな事し出しただけで…」

男「どう考えても、こうなった原因はお前にあったような気がしてならないんだが」

先生「……まったく。君は校外でもいつもこんな感じなの? 本当にしょうがない生徒だよ」

男(まさか先生と邂逅するとは思わなんだ。彼女へも、そろそろ接触しておきたかったのだ。これは良い機会ではないか)

男(が、俺にはこれ以上外で時間を費やす暇はない。腕の時計を見れば、直に9時へ差し掛かる頃合いだったのである)

男(転校生とのイベントが想像以上に長引いてしまっていたのか。もう、逃れなくては。俺には家で、俺の帰りを今か今かと待つ二人の美少女がいるのだ)

男「(だから、許せ、先生、転校生)……さて、良い物も見れて目の保養になったことだし、俺は帰るとしますよ」

先生「待って」

男(こちらこそ、待って、止めないで、なのだ)

男「先生、さっきのはただの事故なんです。嘘じゃない。この目を見てください。あなたは生徒の言葉を疑いますか?」

先生「別に小僧に下着見られたぐらい問題ないよ。……君にだけは もっとちゃんとしたヤツ見られたかったけど」

男「ふぎぎっ……」

転校生「ちょっ! あんた、また鼻血出てきてるわよ!?」

先生「鼻血? はぁ、君もしょっちゅうねぇー……いやらしい事でも頭に浮かべてた? この変態め」ニッ

男(その大人の余裕が、逆に俺の何かを刺激してくるのだ。きっと、変態で間違いないのだろうよ)

男「……で、どうして止めるんですか。俺ほんとに早く帰りたいんですけど」

先生「あ、あぁー ごめんごめん。話というのは、君たち二人の部活……いや、愛好会か。それの入部の件について。本当は明日の朝にでも話せばいいけど、まぁ、せっかく偶然会えたことだし」

転校生「えっ、どうして先生がそれを?」

先生「決まってるじゃない? 私がそこの顧問担当してるんだから。まぁ、ついでにだけどね。実は女子卓球部と掛け持ち」

男「愛好会でも顧問が必要だったのか……よく、こんな胡散臭い所引き受けましたね」

先生「君たちは、その胡散臭い所へ入るんでしょう? 入部は勿論認められました、確かに伝えたよー」

先生「はい、帰って良し」ポン

男(これは願っても無い好機、棚から牡丹餅よ、運が俺へ味方したのだろうか。一気にハーレム空間へ先生という元美少女が加わえられるではないか)

男(冷や冷やさせられたり、思わぬ収穫を得たり、全く退屈させないこの帰り道。これこそが真の充実の形である、よく噛み締めておこうか)

男(さておき、無事帰宅することができたが、物音を立てないよう、「ただいま」の一言すら発さず、玄関へ入れば)

幼馴染「おかえり、男くん。ご飯できてるよ」

男(……そりゃあできているだろう、とっくの昔に。まず、確実に待ち構えているだろうと思っていた矢先にコレなのだ)

男(舌でも出してアヘアヘ踊って誤魔化してみようか。罪はそれを越えた罪で塗り変えられるのだ。ただし、それではただの気狂いである。まぁ、それでも幼馴染はこの俺を愛してくれる事だろう)

幼馴染「お風呂の用意もできてるよ」

男(知っている。きっと俺へ一番風呂へ浸かって貰って、一日の疲れを癒してもらおうと考えていたのだろうな。問題ない、彼女の笑顔で全てを忘れられるのだ)

幼馴染「お風呂が先の方が良いかなぁ、男くんなんだか色んな匂いつけてるし」

男「と、いうと」

幼馴染「たとえば、女の子の匂いかな?」

男「(鋭い、というか、気づいて当然だろうか。もはや誤魔化しは無意味と化した。いまの俺は無力な子羊。できることは、ただ一つ)……すまん」

男「お、怒ってるか? 何の連絡も無しにフラフラ遅くまで遊んでて…」

男「怒って……る……」

幼馴染「……ふふっ」クスッ

男「ううっ!?」

幼馴染「どうしてそんなに脅えた顔してるの。変なの~、ふふっ…[ピーーーー]」

幼馴染「別に怒ってなんかないよ。ただ、遅くなるなら先に連絡してください! 次からはご飯用意してあげないんだからね!」

男(天使か彼女は。この俺を、許してくれるというのか。笑って見逃す、と)

男「ごめんな、幼馴染。次はかならず事前に連絡するの忘れないよ」

幼馴染「ほんとだからね~? じゃあさっさとお風呂入っちゃって。それともご飯が先がいいかな? [ピーーーーーー]」

幼馴染「あっ、でもラーメン食べて来たからお腹まだ空いてないよね! もし食べられなかったら遠慮なく言って。明日のお弁当に回すから! [ピーーーーーーー]」

幼馴染「でも少しは入るんじゃない? わざわざあたしのご飯食べる為に、みんなが並盛り頼んでる中、その半分で頼んだんだもんね。ふふっ [ピーーーーーーーーーー]」

男「……そうだな。 なぁ、実は怒ってるんだろ」

幼馴染「怒ってないよ? 何か後ろめたい事でも隠してるの、男くん? [ピーーーーーーーーー]」

男「……先に夕飯、食べるよ。お前がせっかく作って待っててくれたんだから」

男「……全部、食べるよ」

幼馴染「わかった。じゃあすぐにレンジで温めなおしちゃうね。それと、制服寄越して」

男「えっ!?(待て、いくら他の美少女たちの匂いが染みついているとはいえ、処分する事はないだろう。許してくれ、俺の天使よ)」

幼馴染「えっ、じゃないよ。ほら、男くんずっと皺つけたままダラしないんだから。今日はアイロンかけてから帰るの!」

男(妻に迎えるのなら、この天使が一番良さそうな。その代わり、愛し続けなければならないわけだが、である)

男(幼馴染の料理に舌鼓を打っていれば、正面の椅子へ制服を綺麗にならし終えた彼女が腰かけてくる。そして、俺が料理を口へ運ぶさまをニコニコと、機嫌良さそうに眺めるのだ)

男(そんな彼女の前へスープを掬ったスプーンを出し、食えば、と言わんばかりにチラつかせれば、照れ臭そうに口を開く。まぁ、それは意地悪したくなる)

男(パクリと、スープはこの俺の口内へ収められたのである)

幼馴染「あっ……もう、いじわる……///」

男(やぁ、まるで新婚のカップル気分にさせられるではないか。しかも相手は美少女ときた。無意味に気持ちの悪い笑みを浮かべたくなってくる)

男「美味いよ、今日は74点ってところだな」

幼馴染「前のより上がったけど、なんかそれ切り悪いかも」

男「贅沢言うなって」

妹「それ、幼馴染ちゃんがお兄ちゃんに向けて言う台詞だから!」

妹「ご飯作って貰っておいて、採点官気取りってセコくない? セコいよねぇー?」

幼馴染「あ、あたしは、それで男くんが[ピーーーーーーーー]……!///」

男「何だって?」

妹「これだからウチのダメお兄ちゃんはぁー……やれやれ」

男「ふんっ、俺の真似かそれ? お前もだいぶこの俺に似てきたんじゃないか?」

男(と、言われた妹は、仰々しく苦虫を噛み潰したような顔を見せ、舌をベーと出すのであった。なんだかんだで、お前の変化が一番恐ろしいと思わされているぞ、この兄からしては)

男(しかし、先程は幼馴染に恐怖させられたが、ここまでの調子を見るに、アレは彼女なりの俺への愛情表現、だったと受け取っておこう。深くは考えたくはないのだ)

男(ここまで浮気…と呼んでいいか分からないが、されておいて、機嫌を損ねなかったのは、不良女のお陰だと思われる)

男(彼女へは何らかの形で罪滅ぼしをしたい。というか、このままでは不良女とのフラグがバキバキ折れてゆき、最悪の場合も考えられるのだ)

男(いま一番の要注意美少女は不良女ではないだろうか。明々後日のデートで一気に勝負をつけに行くべき、なのだが、傍らには幼馴染がいる)

男(これはけしてミスではない。確かに、他に事の運びようもあっただろう。だが、三人でのデートとなれば、もし町中で偶然他の美少女と出会おうと、まだ嫉妬が和らげられる筈だ)

男(幼馴染と不良女を考慮し、そして美少女たちの気持ちを考慮した結果が、三人デート。問題はその内容だが、これは当日にならなければ、動きようもない。デートイベントともなれば、俺の予想から大きく外れるハプニングが発生する可能性も高いのだ)

男(……さて、幼馴染も無事帰宅し、シャワーを浴び終えたわけである。リビングへ戻れば、妹がポッキーを咥えて、テレビゲームに勤しんでいた)

男「部屋でやれよ。ていうか、夕飯食った後にそんなの食えば確実に太るぞ?」

妹「むっ! 私はお菓子食べても太らない体質なんですー! だから別に大丈夫なんですーっ!」

男「聞いた事ねーよ、そんなの。……ところで、妹。お前に聞きたいことが一つあるんだが」

妹「ん~~~あとにしてよぉ……見ての通りいま私は滅茶苦茶忙しいんでー……」カチカチ

男「お前、好きな奴とかいるのか?」

妹「ぶぅーーーーっっっ!!!」

男(さすが我が妹、良いリアクションを披露してくれたではないか)

男(予想通り顔真っ赤で、俺に聴き取れない台詞が連発される。彼女とは校内では、中々接触できずにいる。今日のようなイベントが、これまでで稀だったのだ)

男(……これまで? 待て、まだ4日程度しか経過していないのに、その言い方は妙では)

男(とにかく、とにかくである。妹とは最近続いて、良さ気な展開が続いている。彼女のキャラからして、俺が眠っているか、気付かない時か、でしかアタックを仕掛けてはこないだろう)

男(その為、こうして妹の心を揺さぶりかける行動を俺から起こさねばならない。幼馴染もいない今、二人だけの空間の今ならば、好機である)

妹「いきなり何てこと妹に聞いちゃってんの!? 思春期真っ盛りなんだよ!?」

男「俺もあいにく同じ時期だと思うぞ(だが、盛り、の違いがある)」

男「兄としては妹のことをよく知っておきたいもんだよ。お前、学校じゃ碌に俺と顔も合わせようとしないしな」

妹「そ、それはぁ……[ピーーーーーーーーーー]だし……[ピーーーーーーー]///」

男「まぁ、詰まるところ興味本位で何となく聞いてる。それで? クラスに気になる男子がいると?」

妹「いるかそんなの!! バカちん!! ……クラスの男子なんて、みんなアホばっかだよ。お兄ちゃんよりはマシかもしんないけど」

男「じゃあそれだけで十分じゃないか。兄を越える男がたんまりいるんだろ? お前、顔は悪くないんだし、その気になれば選び放題だ」

男「まぁ、後輩には劣ってるけどなぁー」

妹「ぐぬぬ……あほぉっ!」

妹「そ、そりゃあ後輩ちゃんは可愛いけどさ……お兄ちゃんはああいう子がタイプなの?」

男(垂らした釣り針に、獲物が食らいついた。垂らした瞬間にである。非常に扱いやすい美少女だが、それが良い)

男「生意気な口利いてくるが、嫌いじゃないな。むしろ好きな部類だと思う」

男「まぁ、生意気なところだけはお前も後輩と変わりないか」

妹「それだけ?」

男「は?」

妹「だから、それだけなの? 他にもっと後輩ちゃんの誉める所あると思うんだけど……」

男「お前は俺の後輩への評価が聞きたくて仕方がないのか? 話してやっても構わんが、自分が惨めになってくると思うぞ」

妹「うう、うるさぁーいっ!! お兄ちゃんなんて嫌いだよっ!!」

男「悪かったって」

妹「う~…………そっか、[ピーーーーー]は後輩ちゃんみたいな子が[ピーーーーーー]だ……[ピーーーーーーー]」

男「自分を卑下することはねーよ。お前はあいつには無い魅了があるんだから(といった感じでフォローへ回って間違いないだろうか)」

妹「じゃあ……私の良いとこ、10個あげてよ!」

男「すまん」

妹「だぁあーっ!! アホ、お兄ちゃんのアホっ!!」

男(後輩を引き合いに出せば、きっと彼女は自分を見て自信を無くすと分かっていた。俺へ相応しい子は、後輩なのでは、と)

男(ただ恥じらわせるだけでは、誤魔化されて、すぐにゲームへ逃げられてしまう。だから、後輩を囮に、餌に利用させて貰ったのである。悪く思わないで欲しい)

男(飴と鞭の使い分けが鍵となるのだ。突き離し、まだ突き離し、そこで弱味を見せた一瞬の隙を突き、引っ張り上げるのだ)

妹「もういいよ! 私はゲームしたいの! お兄ちゃんの話相手する気なんてないの!」

男「なぁ、好きな人ができたら……どうしたら良いのかな」

妹「……えっ」

妹「も、もしかして、お兄ちゃん。まさかだよ? 好きな人ができたの? それって、やっぱり…幼馴染ちゃん?」

男「バカ。お前にそれを話すわけないだろ」

妹「人にはズカズカ訊いて来るくせに、何その態度はぁー! あぁもうっ、お兄ちゃんはでりかしーがないんだよ!」

妹「……[ピーーーーーーー]、[ピーーーーガーーーーーーー]…?」

男(おそらく、兄はけして自分を見てくれる事はない、そう思っているのだろう。何故か、そりゃあ周りにあれだけの多種多様な美少女が豊富にいるのだ。妹が諦めるのは無理もない)

男(そして、一番ネックとなっているのは、血の繋がり、だろうか。だからこそ、俺への好意に対して素直になれず、特殊な状況でもなければ行動を起こせずにいる)

男「(まずはそれをぶち壊す)妹、もしお前に好きな奴ができたら、お前はどうする?」

妹「ど、どうするって……急に聞かれてもこまる、から……うぅ///」

明日どうか分からないけど、とりあえず明日に続きを予定

男「答えづらいなら質問を変えようか。お前なら、好きな男に何されたら喜ぶんだ?」

妹「ちょっと! さっきのより全然答えにくいんですけど……」

男(途端に俺を直視できなくなったようだ。何故なら、その好きな男とやらは、目の前にいるのだから)

男(しかし、兄から珍しく相談されている妹。その内容がなんと恋の相談らしき、である。兄妹という要素がなくとも、女子ならば、食いつくというか、親身になって考えてあげたくもなるだろう。状況は俺の予想通りに展開するのだった)

妹「うーんと……実際こんなの考えたことないし、よく分かんないけど」

妹「……[ピッ]、[ピーーーーー]///」

男「は? 悪い、何て言ったんだ?」

妹「だっ、だから!! [ピーーーーー]って……むぅー……///」

男(今まで妹がこの俺へ向けてきた言葉、思い、そして行動から考察を行ってみるとしよう)

男(しかし、妹との大きなイベントは特にまだいくつも発生していない。俺が覚えている範囲ならば、おそらく、昨日の、寝室での囁き添い寝プレイが、それへ相当されるとして間違いあるまい)

男(思い出すのだ。彼女は耳元でどのような愛を囁いてくれたか。……キスの印象が大き過ぎる。それは一旦置いて、難聴スキルによって妨害されず、聴きとれた台詞をよく思い出せ)

男(俺が睡眠を取ろうとすると、妹が部屋へ入って来た。漫画を借りに、しかし、その時俺は彼女の呼び掛けへ、あえて応答しなかった)

男(目当ての漫画を持ってすぐ立ち去るかと思えば、妹は、横になった俺の隣へ。そして再び数回の呼び掛け、それを、無視である)

男(ここから。ここから緊張のあまり頭の中が真っ白になりかけていた気がする。だが、美少女の言葉は、この俺は一字一句刻み込んでいる筈なのだ。だって美少女だもの)

男(……息を吹き掛けられた。そうだ、それで間違いない。初手、フーッ、だった。そしてそこから、妹が……確か、同じ布団に寝るのは久しぶりだ、とか)

男(それから、彼女が俺の手を何度も握りしめて、俺は、それを握り返したくもなって……ええい、つい最近、しかも昨日の出来事一つ思い出すのに、何故こうも苦労させられなくてはならん)

男(手を握って、そして)

『おにいちゃんの手、あったかい……この手でまた、私のことなでてくれたりしないかな?』

男「こんな感じで?」ス

妹「えっ……わっ!? な、なにコレ!? なんのつもり!?」

男(伸びたこの手は、妹の頭の上に置かれる。撫ぜれば、手の腹を触れる彼女の髪。なんて優しい感触なのだろうか。毛の一本一本がきめ細やか、そして艶やかに思える)

男(そうか、そうだった。彼女は我が妹である。しかし、美少女で、一人の雌。ここで、逆に意識させられるとは、不覚な)

妹「ちょっとー……[ピーーーー]……///」

妹「こんなこと、好きな子にやってよ……うぅ……」

男「へへ、嫌なら手を払えば良いだろ? じゃなきゃずっとこうしてやるからなー!」

男(あくまで、鈍感を装って行動しておくべきだ。ハーレムを目指すのに、このデメリットは、非常に役に立つ。毒は薬となる、が逆も然り。上手く使い分けなければならないのである)

男(妹的には、今この俺は、冗談のつもりで撫でてくれているのだと考えている。だが、好きな男へ「頭を撫でられたい」or「優しくされたい」と先程、彼女は言った筈だ)

男(無神経で鈍感な兄。そう思いつつ、その裏で、かなりの喜びを感じているのではないだろうか)

男「昔はこうしてお前のことよく撫でてあげたっけかな。覚えてるか?…と言っても、前の話だからな」

妹「[ピーーーーーーーー]……」

男「え?」

妹「う、ううん! 何でもないや……えへへっ」

妹「だからっていつまでも乗っけてないでよ! 菌が伝染る!」

男「同じ屋根の下で暮らす家族に対してそういう態度取るか……このやろ!」クシャクシャ

妹「ぎにゃぁああ~~~!? やめてっ、やめろバカ兄!! アホアホぉーっ!! ……///」

男(このやり取りへ辿り着けただけでも大きい。好感度が倍増したと見て良いだろう。さて、ここからどうしようか、である)

男(適当にイチャついた所で切り上げてしまおうか。それとも、もう少しイベントを延長させ、ここからの発生を狙うべきか。俺としては後者で行きたいところなのだ)

男(が、もし行き過ぎた結果、もの凄い展開へ向かって、ルート固定されてしまったら困るところ。やはり、適度なスキンシップ程度で抑えるべきだろう)

男(妹の髪をクシャクシャにしてやったところで、一旦手を彼女の上から除けた。妹は「あっ」と短く声を漏らし、残念そうに萎むのであった。そんな、抱きしめたい、我が美少女)

男「急に変なこと訊いて悪かったな。まぁ、いい暇潰しになったろ? 俺もお前もさ」

妹「……ねぇ、お兄ちゃん」

男「ん?」

妹「別に答えなくてもいいけど、さ……お兄ちゃんの好きな人って誰なの?」

妹「やっぱり幼馴染ちゃんで間違いない? それとも本当は別の子だとか」

妹「……[ピーーーー]、とか///」

男「話すつもりはないってさっき言っただろうが。何だ、興味あんのか? このアホでダメなお兄ちゃんの思い人が?」

妹「そ、そんなわけないじゃん!? 勘違いしないでよー……暇潰しついでに訊いただけだし」

男「ふーん……そうなぁ、もしお前が好きな奴を答えたら、俺のも教えてやるよ」

男(もし、俺が本物の脳無しならば、非常に残酷な質問となる事だろう。だが、この妹だ。すぐに諦めて質問を無しにするに違いない筈)

男「なんて、甘酸っぱさ全快になりそうな話はここで打ち切るとしようか。そろそろ寝…」

妹「……お兄ちゃんは、私の好きな人が知りたい? ほんとに、真面目にだよ。知りたいの?」

妹「きき、たい……?///」

男(少しやり過ぎたというか、ぶち壊し過ぎたのである。雰囲気に乗せられてか、妹がいつも以上に積極的な美少女へ変貌しかけているではないか)

男(まずい、下手なことを言わなければよかった。なんて面倒を引き起こしてしまったのか。これを放って逃げ出すわけにはいかない。何故こういう状況下に置いてのみ、お馴染み難聴スキルが発動せんのだ)

妹「お兄ちゃん……」

男「あああ~っ……あ、兄として妹の事を知っておきたいとか言ったからな。どうでも良いわけではないかな、う、うん…」

妹「妹としては兄の恋愛は別にど、どうでも良いけど……そ、そそ、そこまで知りたいなら……え、えっと、あ、あっ///」

男「む、無理する必要はないんだぞ? もう済んだ話だしな? 妹?」

妹「……ゲーム」

男「え?」

妹「ゲームで勝負しよっか。それでお兄ちゃんが勝ったら、教えてあげる」

男「もし、俺が負けたらどうなる」

妹「……じゃあ、今すぐスーパーカップ、コンビニで買って来て」

男「まだなんか食う気かお前!? ほんとに太るからな!?」

妹「じゃあ!! ……お兄ちゃんが好きな人教えてよ。それでいい」

男「勝手に決めるなよ……それで、その勝負に使うゲームとやらは? レース?格ゲー?それとも」

男(妹が部屋から持ってきた、テーブルに乗せられたゲームのパッケージたちを手に取り、尋ねた傍ら、彼女はそれを無視して、ポッキーを一本、袋から取り出して見せたのである)

妹「これ、使う…やつ……///」

男(思わず絶句した。そして歓喜、否、喜びべきだが、かなり、やばい展開ではないか。ポッキーゲームだと? 都市伝説ではないのか?)

男(それは、どちらが勝利しても敗北しても、どちらへ転んでもである。この俺にとってよろしくない。妹は、まさか、ここで俺へ、一気に)

男(俺も何を今まで流されていたのだ。調子に乗っているからこんな目に合う。何故、すぐに誤魔化して逃げようとしないのだ)

男(これでは、もはや、逃走は許されないではないか)

妹「ルールは説明しなくてもわかるでしょ……」

男(説明しよう。ポッキーゲームとは、二人が向かいあって、一本のポッキーの端を互いに食べ進め、先に口を離したほうが負けとなる、非常に単純かつロマンティックなゲームである)

男(そしてコレは、互いが口を離さずに食べきった場合、その二人はキスをする。頬ではない、口だ、ラッキースケベなどではない、了解の上、自分たち意思で、なのだ)

男(あまりにも、この俺にとっては刺激的すぎる、度が過ぎたゲームではないか。そして、妹ルートへ踏み込むきっかけとして、十分過ぎるほど十分な要素となる)

男(勝っても、負けても、引き分けても、俺の逃げ場は、ない。何故ならば、無理矢理回避を行えば、彼女の気持ちを傷つけてしまうではないか)

男(ここに来て、突き放すわけにはいかない。冷や汗が俺の額へ一筋たらりと流れ、顔を伝う。嬉しい。嬉しいが、絶望が同時に運ばれてきたのである)

男(この俺の前にいるのは確かに美少女。だが、彼女一人へ愛を表せば、今までの苦労は水の泡と消えるのだ。痛い、痛すぎるではないか)

妹「……いやなら、別にいいんだよ? 全然断ってくれて、いいし…ていうか、兄妹でこんな事するのって……なんか[ピーーーー]だし…///」

男「や、やってやろうじゃねーか……(嫌だ、お断りさせてくれ。神よ、ああ、我が主よ)」

妹「後悔しないでよ……ん」

男(妹が、遂にポッキーを口に咥えたのである。そして、じっと、瞳を潤わせて、待っている。何を? 誰をだ。勿論、この俺を)

男(口から伸びたポッキーが微かに震えていた。ポッキーを伝い、妹へ視線を移せば、彼女が、震えていたのだ)

男(こんな美少女を放っておける鬼畜はどこの世界に存在するのか問いたい。同性愛者でもなければ、だ)

男「(美少女が咥えているポッキーの端を、俺も咥えさせていただきます……) ああ、あ、ぐっ!」パクリ

男(折れば助かるのに? 残念ながら、食べ進める途中で折ってしまっても負けと見なされるのだ)

男(もはや、どう足掻こうと、どうにもできない。約束されし俺の敗北が決まった瞬間とでも言っておこう)

男(冷静でいられなくなった頭をフルに回しても、何も思いつかない。だって、妹の顔がすぐ目の前にあるのだ。たとえ、目を背けようが、意識してしまうではないか)

男(カリッ、と小刻み良い音が鳴る。どうやら妹が二、三とかじり、近づいてきたらしい。俺といえば、口内へ溜まった涎を漏らさないように必死だ。そして、この状況にある意味で必死、なのである)

妹「ん~……///」カリ、カリ

男「ふぁふ… (聞こえてしまいそうになる程に、鼓動が大きくなり、そして瞬きもせずにいた瞳が乾く。最初こそ、妹は俺から視線を逸らしていたが、慣れたのか、何なのか、俺を正面に見始めた)

男(積極的すぎるだろう。今までの反動なのか。彼女は端から、確かに食べ進め、ついには4,5cmは距離が縮まっていた)

妹「ふー、ふー……うぅ……///」

男「あふっ……(頼むから、そんな目で俺を見つめないでくれ。浄化されてしまいそうになるのである)」

男(微かな彼女の呼吸音すら、痛いぐらい聴こえて、息がこの俺の顔へ触れれば、失神を起こしそうになる)

男(間違いない。彼女は、勝ち、にきている。いや、それとも直前になって、あえて失敗させ、負けるつもりか、分かるものかそんな事が)

男「……」カリ

妹「っ~~~!? は、ぅ……///」

男(もう、どうにでもなってしまえばいい。どうせ俺の負けは決まったのだ。今の俺に、この最悪な状況を打開する策なんて思いつきはしない)

男(欲望が爆発しかかっている。一口かじった瞬間、吹っ切れてしまった。動揺した妹を放って、今度は俺が、食べ進めたのである)

男(カリッ、カリッ。ポッキーがここまで特別な存在と感じられたのは、彼女のお陰だろう。グリコは恐ろしい菓子を開発していたのだ)

男(ポッキーを伝って、妹の緊張がこちらにも伝わってくる。どうした、我が妹よ。先程までの勢いはどこへ行ったというのだ。このままでは、このままでは)

男「(残り、5.5cm)……」

妹「ふぁ、あっ……はぁ…はぁ……///」

男(さすがにこれ以上は自分で行くのを躊躇してしまう。5cmとはここまで短い長さだったか。もう、妹の顔は目と鼻の先にあるぞ)

男(互いに、もう、目を向けられずにいる状態で硬直している)

男(それは、とても、長く、長く、一分一秒が数時間に感じられる程に、長い間であった。このリビングに響く音は、テレビの画面に映し出されたゲームのBGM、時計の針の音、俺たちの呼吸音のみ、である)

男(興奮がいつになっても止むことはなかった。彼女の肩へ手でも置こうか? そんな度胸、ない。ここまでやっておいてだが)

妹「ふ……っ……」カリ

男「うぐぅ!?」

男(意を決した妹が迫って来る。着実に、一口噛むのに、数分もかけて。俺といえば、なされるがまま。良い、それでこそハーレム主人公ではないか)

男(美少女攻める、ブサ男受ける。誰かへ見られれば、確実に罪を被るのはこの俺。だが、この場には俺たち二人だけなのだ)

男(何をしようと、しようが、誰にもバレやしない。これは同意の上のゲームなのだ。だから、どうしようもなく仕方がないではないか)

妹「…………」カリ、カリ

男(止まった。あと一口進めば、唇へ確実に触れることだろう。あとは、もう、ここから先は俺の仕事というわけなのか)

男「あ、う、う……うぐ」

妹「っー……///」

男(一瞬だけ、妹と目が合う、まるで「来て」と言わんばかりな、そんな目をしていて、だ。理性と理念が俺の中から、消失しかけている)

男(妹だからなんだというのだ、ハーレムがなんだ。目の前に、こんなにも愛おしい美少女がいて、こんなにも好きでいてくれて、何がハーレムか)

男(やる。俺はやってみせるぞ。……今だ、今行け。……早く)

男(と、葛藤の真っ最中であった。テーブルの上に置かれた、携帯電話の着信音が唐突に鳴って響く)

妹「きゃあっ!!?」

男「うわぁぁぁああああああ!! ……あっ」

男(俺たちに咥えられていたポッキーが、絨毯の上に、ぽろり、である)

男「あっ、あっ……電話……鳴ってる! 電話が!」

妹「ううう、うんっ!! 鳴ってるよね、電話!! ……お、お兄ちゃんのが」

男「俺の? (いつまで経ってても鳴り止まないコール。普段は鳴らない俺へのコール。嬉しいが、なんともまぁ、とんでもないタイミングで)」

男(よく鳴らしてくれた)

男「……もしもし?」

後輩『先輩、夜分遅くに電話しちゃってごめんなさい。私です』

男(ここで後輩だと。まさか、女の勘とやらが働いて妨害を。とにかく、妹から離れなくては、良いタイミングであるが、悪いタイミングだ。彼女へ通話相手が誰かバレるわけにはいかない)

男「ちょっと待ってくれ。……少し、席外していいか?」

妹「へっ!? あ、あ~……どうぞ……うん」

男「悪い。…………もしもし、後輩。大丈夫だぞ」

男(リビングを出て階段を上がり、一旦部屋まで退避。無いとは思いたいが、妹が部屋の前で聴き耳を立てている事を恐れ、なるだけ小声で携帯電話のマイクへ話す)

後輩「ごめんなさい。お取り込み中でしたか? 都合悪ければ明日また話しますけど」

男「明日は休日だろ? ゆっくり休みたいし、今で構わん。続けてくれ」

後輩「あ、はい……別に休みの日に会ってくれたっていいのに……」

男(ありがとう、後輩ちゃん)

後輩『それで、話しの方なんですけど。たぶん聞いたら驚く…ていうか、何とも言えなくなると思いますけど』

男「バカ、一々焦らしてんじゃねーよ。いいからさっさと話せ」

後輩『じゃあ話します。信じてくれなくても、もし私が変な事言ってると思ったら、すぐこの電話を切ってください』

後輩『……先輩、あなたは前に私へ……その』

男「お前に? で?」

後輩『えっと、ですね……私へ告白した覚えはありませんか……///』

男「……(目が点になるとはこういう事だろうか)」

後輩『あ、ああ~っ! や、やっぱり何でもなかったです! ごめんなさい! 変な話を振っちゃって! それではまた休み明けに!!』

男「待てまて、お前から切って良いなんて聞いてないぞ。落ちつけ、後輩」

男(と、いうものの、俺がまず、落ち付けていない。まさかである。まさか、俺が推測したアレが、事実なのでは、と)

男「どうして、そんなこと急に訊いたんだ。何かあったのか」

後輩『……そのー……おかしな話ですけれど、思い出したって、言うのは変ですけど……なんて言ったらいいのかな…」

後輩『ふと、頭の中に浮かんだんです。先輩から告白された場景が。それから、あの……私たち二人は付き合い始めて、それで……///」

後輩『あ、あとは分かりませんっ!! ///』

男「俺の方がわかんねーよ……」

男「話を要約すると、俺はお前に告白した。その後、付き合い始めて、イチャついた。……それで間違いないのか?」

後輩『私の妄想かなにかかもしれません……そうだって信じたいです……』

後輩『…ほんとでも、悪くはない、かも…しれないけれど……///」

男「おふっ!!」

後輩『え? 先輩、大丈夫ですか?」

男「ああ……悪くない……良い」

後輩『何変なことを……まぁ、いつもですけど。それに、今回は私も相当ですよね』

後輩『やっぱりただの妄想ですよね。どうも先輩へ話さなきゃモヤモヤが晴れなくて……ごめんなさい』

男「あやまることないだろ? 前にも俺と過ごした記憶を思い出したとか、今日の写真の件とか、気になってたんだ」

男「何でもいい。思い出した事があれば、また教えてくれよ」

後輩『できれば思い出しても、もう言いたくないです……はずかしい』

男(立てた推測は確かではなかった。コレは、もう一人の俺がしでかした事という線の話ではない。別の可能性である)

男(俺自身が、この世界に来た時点で後輩と付き合っていたのだとしたら、である。何と説明したら良いのか。……つまりは、だ。 俺がこの世界で主人公をしているのは、つい最近の話でないのでは、ということ)

男(勿論、そんな事は普通ではありえない。別世界の自分が元々存在したという話もだ。だが、この俺の、今は、全く普通ではない)

男(実は俺は大きな事故に巻き込まれ、植物人間となっており、夢を見ているのではなんて事も考えた。十分ありえる。何故なら、この世界も、今の俺も、全てにおいて理想的すぎるから)

男(そもそも神は実在したのか。なんて色々そんな当ても無く考えを巡らせたところでは、けして答えへは辿り着けない。そもそも辿り着かない方が幸せでいられるのかもしれない)

男(もしかすれば、俺は元々ブサ男などではなかったのでは? 初めからこの世界の住人だったのでは? 恋愛ゲームの主人公で、画面の前にいるプレイヤーから操作される立場なのでは?)

男(それをベースに推測を立てたのが、みんな大好きループである。俺は、前回でハーレムを築かずに後輩を攻略した、なんて風な感じで)

男(……だとしても、イマイチ納得がつかない。残った記憶は? 写真は? セーブデータを途中からやり直せば、そんな物が残るわけないだろう)

男(俺は一体、何者なのだ。神の手の上で、踊らされている人形なのだろうか。そして、委員長の存在は一体何なのか?)

男(確かに俺は、元の世界での彼女を、それどころか美少女化される前の彼女らを知っている。……ダメなのだ。こうしていくつもの仮説を立て、考察しようとすれば、他の要素が現われ、それを崩されてしまう)

男(事はもっと単純なのだろうかな。どうなのだろう? 唯一の手掛かりは、元世界での俺の記憶、写真、委員長、難聴スキルが発動しない二人、そして後輩の記憶…体験した覚えのない美少女たちとの思い出)

後輩『先輩? せんぱーい? 聞いてますかー?』

男「あっ、え? 何か今言ったか?」

後輩『相変わらず耳が遠い人ですね、おじいちゃんですか、先輩は。……今日渡したカメラについてなんですけど、ほんとにあんな物で良かったんですか?」

男「ああ、十分だよ。助かってる (言い忘れていたが、俺が持っているインスタントカメラ。実は彼女から頂いた物である)」

後輩『突然写真が撮りたいなんて言い出すから、ちょっと驚いちゃいましたよ。……もし、良ければ、今度カメラを見にお店へ行きませんか? い、いっしょに……だめ?///』

男「(ダメなんて言いませんとも。オールオッケー) ああ、その内行こう。へへ、これで二度目のデートになるのか?」

後輩『違います! もっといっぱいしま……うっ……ほんと、わけわかりません……それでは、失礼します。おやすみなさい、先輩』

男(驚きの連続だった。これ以上何も頭が痛くなることを考えたくはなかった。通話が切れた携帯電話を布団へ放り投げて、すぐに放置していた妹の元へ向かったのである)

男(妹は、ゲームを完全に放っていて、余韻に浸っているのか、それともただ茫然としているのか、ソファの上で寝転がって大人しくしていたのだ)

妹「…………あっ」

妹「っ~……///」

男(どうやら前者と見て間違いなさそうな)

男「その、悪かったな、変なタイミングで」

妹「う、ううんっ!! 全然平気っ…! そ、それより……さっきは、同時に二人で落としちゃったから、引き分け、だよね。ね?」

男「まぁ、な……(だから、もう一度、なんて事になれば、再び後輩から電話がかかるだろうか。いや、さすがに二度目は期待できないか)」

妹「そう、だよねぇ……引き分け……あははー……いやー、私の勝ちで決まりだったのに、残念だったかなぁ~……な、なんちゃって///」

男「どうだかなぁ? 俺がお前に勝負で負けるなんてありえん」

男(何とも言えない空気が俺たちの周りを漂う。あまりの気まずさで大爆発を起こしてしまいそうである)

男「大体な、俺に勝とうとするなんてお前じゃ百億光年は早いね」

妹「なっ……そんなことないもんっ!! じゃあ、もういっか……な、何でもない。…[ピーーーーーー]……///」

男「何て言ったんだ?」

妹「別に! ……ねぇ、お兄ちゃん。ゲームしよっか」

男「は……」

妹「こ、今度は勝負とか関係なしというか!? あああ、あのっ、テレビゲームの方っ! そっちのゲームだから!」

妹「…たまには妹の遊びに付き合ってよ、お兄ちゃん。ほら、ウイイレやろ、ウイイレ!」

男(そう言って、コントローラーを俺へ投げ渡す妹である。俺も、何も言わずに受け取り、彼女の隣へ腰かけたのだ)

男(今だけは、こいつのお兄ちゃんで努めたいと、攻略対象としてでなく、実の妹として、この時間を過ごそうと決めた。……今だけはな)

男「実際にサッカーするのは苦手だが、ゲームなら余裕だな。負けても泣きごと言うなよ?」

妹「それは私の台詞だし。何年やりこんでると思ってんの? …………[ピーーーーーー]、[ピーーー]」

妹「[ピーーーーーーー]……えへへっ」

男「残ったポッキー全部貰いー」ボリ、ボリ

妹「あぁあ~~~っ!!?」

ここまで。昨日も休んどいて悪いが、明日もちょっと来れない
続きは木曜いつも通り夜に

男(最近は朝の目覚めが怖いぐらい良すぎて困る。それもこれも、全ては美少女たちのお陰といっても過言ではなかろうよ。苦労させられる事も多々あるが、やはり彼女らと過ごす時間は心地よい。疲れなんて吹っ飛んでしまうぐらいに)

男(さて、今日から三連休が始まるわけだ。明日は男の娘と、そして明後日は不良女と幼馴染との天国or地獄のデート。休みともなると、学校で美少女たちと会う事もないし、約束でもなければ、特にイベントが発生することもないだろう。……な、わけないか)

男(今日の予定はあいにく決まっていない。いつもの俺ならば、日暮れ時まで永遠と眠っているか、ゲームや漫画、アニメなどを楽しむインドアな一日を過ごしただろう。が、不思議だ。今は、部屋で一日を終えるなんて、勿体ないと思っている)

男(せっかくなのだ。外出して、何処かを適当にうろついてみようか。俺の予想ならば、高確率で、美少女たちと鉢合わせるに違いない。というか、確実だろう。目に見えているわ)

妹「ふぁあ~……おにーちゃん、おはよー……ていうか、朝早いね? 昨日あんなに一緒に夜更かししたのに」

男(我が妹が眠たそうに目を擦って現われる。寝ぐせがつけ、ピンピンと髪を跳ねらせたそのさまは、彼女らしくて実に可愛らしく思えたのである)

男「起きたのか。朝飯食うか? 昨日、幼馴染が作った夕飯のあまり温めるけど」

妹「昨日の夜の残り? ……それ、朝から食べるもん?」

男「嫌なら食パンでもかじってろよ」

男(そう言われると、彼女は口先を尖らせてぶーぶーさせる。その唇を見ていると、昨日の晩の出来事が頭を過ぎって、顔が熱くなってくるのだ)

妹「ねぇー? 今日って何かあるの? お兄ちゃんてば、やけに朝早かったし」

男「いーや。特に予定はないぞ? ……そうなぁ、暇潰しに誰か誘って遊び行くのもいいかもしれん」

妹「あっ! だ、だったら[ピーーーーーーーーー]……///」

男(「私と出掛けない? たまには良いでしょ」と読んだ。できたら、そうしても良いぐらいだが、どうしても昨日の件が後に残って、その気は起きないのである)

男(妹と二人ならば、もし町中で美少女たちに目撃されようと、痛くもない。安心してイチャつけられるだろう。だからこそ、怖い、のである)

男「(またルート固定の危機に陥ってしまったら? なんて、臆病なぐらいが丁度良い。こちらからがっつけば、痛い目を見させられてしまいかねん) 何だって?」

妹「うぅー……いいですよぉー、可愛い妹ちゃんは一日中家でゴロゴロしてるから」

男(俺も一緒にゴロゴロしてあげたい。くっついて寝ちゃう?)

男「じゃあ、太るな」

妹「それしつこいっ!! アホお兄ちゃんめ……あっ、やっぱり昨日の残り温めて?」

男「訊かれた時にそう答えてやんなきゃ、してやらねーよ。自分でしとけ、自分で」

妹「ケチ~……女の子に冷たいとモテないよ? お兄ちゃん?」

男(俺は女子に冷たい態度なんて取った事は一度たりともないぞ、妹よ。ただし、お前のような美少女限定という最低極まりない話だが)

男「お前こそ、カッコいいお兄ちゃんを顎で使うような奴はモテないからな」

妹「それ、一気に私だけ悪い子みたいな言い方じゃん! わかったよぉ、自分でやるから…ちぇー…」

男「お前も幼馴染並の女子力とやらを身に付けたら? ポイント上がるぞ」

妹「ちゃんと見てくれる人いなきゃダメじゃん……[ピーーーーーーーー]……」

男「はぁ?」

妹「なっ、なんでもない! 別に……///」

男(やれやれ。俺は世界一愛らしい妹に恵まれてしまったのである)

男(朝から我が妹に癒されたところで、適当に身支度を整え、さっそくの外出である。行く当てなき旅が、今、始まった)

男(できる事なら遭遇する美少女は、休日中に会うことがなく、かつ、今のところ接触回数が少ない相手の方が嬉しい。……一番避けるべきは、転校生だろう)

男(嫌いではない、むしろ大好きなのだ。しかし、彼女とは距離があまりにも縮まり過ぎている。俺への好感度も見ている限りではかなり高い)

男(それもその筈だ。あれだけ小さなイベントで留めて置くよう決めていたのに、頻繁にちょっかいを出し過ぎていた。どうしても、クラスも同じ、そして席が隣だと気軽に話しかけたくなってしまう)

男(おまけに、彼女自身がこの俺へ、よく絡んでくるのである。正直なところ、美少女たちの中では、転校生が一番チョロいし、扱い易い。扱い易過ぎて、このザマ)

男(幼馴染、転校生、妹。以上、三名は今のところそっとしておくのがベストだと考えようか。上級生二名は……微妙なところだが、まだセーフラインに立っている筈)

男(男の娘と不良女は、明日明後日のイベントで好感度を大きく上げるとして、だ。……後輩、オカルト研、先生。この三名が現在接触回数が少ないと見て良いだろう)

男(一番恐ろしいのが、オカルト研。何度誘惑に負けてしまいそうになったことか。彼女の言動は非常に読みづらい。そして、よく分からない内に、大胆な行動を起こしてくるのだ)

男(このような理由から、彼女は俺の中で要注意美少女として上位ランクに食い下っているのである)

?「いらっしゃいま……あっ」

男(最近は、脳が糖分を常に欲して仕方がない。結局、外へ出ても入ったのはコンビニ。ああ、これではいつもと変わりないだろう。阿呆だな)

男(雑誌をさっと眺めた後、商品棚から、やはり明治の板チョコを手に取って、レジへ立てばである)

不良女「…………」ニコニコ

男「(そこには、美少女の姿が、あった) ……おい、会計」

不良女「一点で158円になりますぅー♪」

男「その気色悪い感じが客に対してとる態度かね」

不良女「うっせぇ!! ……あっ、158円になりまーす。それから、からあげが今なら一個増量キャンペーン中で、大変お買い得となってるから買いますよね?」

男「買いません」

不良女「わぁ、お買い上げありがとうございまーす。毎度♪」

男「……はぁ。不良女、お前コンビニのバイトなんかしてたのか」

不良女「前に教えたし。ようやく会いに来てくれたなぁ~……へへっ///」

男「(長い髪を後ろで結って、キチンとした制服を着こなしていると、何だか違和感を感じて仕方がない。ピアスなんかも全て外していて) それぐらい質素な方が似合ってるじゃないか?」

不良女「やだ、つーかダサい。朝からチョコなんて湿気てんなぁー。ついでにご飯買ってけよ?」

男「さっき家で食ったばかりだ。ていうか、人が買うもんに一々ケチつけてくるな」

不良女「へいへい……2点で378円になります。あ、お菓子温めるっすか?」

男「ここ二度と来ねーぞ!!」

不良女「[ピーーーーーー]……なんて///」

男「え? 何だって?」

不良女「いやだからっ、その……[ピーーー]だなって……」

男「もしかして明後日の買い物の話か。それなら、頼りにしてるぞ」

不良女「お、おうっ!……わかってる…あたしに全部任しとけ…///」

不良女「…………」

男(なんて強がりは見せても、幼馴染を自分から誘った事を後悔しているのだろう。表情からそれが読み取れてしまうのだ)

男(それでも「楽しみ」と言ってくれたに違いない。テンプレ通りだが、彼女は人を思いやれる、とても良い美少女である。悪ぶらなければ綺麗な顔もしているし、性格も悪くないしで、さぞモテた事だろうよ)

男(そんな美少女を、この俺は苦しめている。胸がチクチクと内側から槍で突かれたように痛んでしようがない)

不良女「あっ、あ! よ、400円お預かりしますー!…22円は恵まれない子供たちへ募金に回しときますね。へへっ♪」チャリン

男「おい……(22円でその笑顔が買えたのならば、安い物よ。まさに一石二鳥)」

男「(突然、俺の背後でわざとらしく咳が出て聴こえた。振り返れば、後ろに列が出来上がっていたのだ。彼女と夢中で会話していた為か、全く気付けなかったらしい。……らしいって何さ) あっ! す、すみません…」

不良女「ほれほれ、用が済んだならさっさと出てけ。いえ、お立ち去りください お客様!」

男「一々勘に触る奴だな……じゃあ、また明後日にな」

不良女「うん! っあ、お、おうっ!! ……じゃあ、ね …男……[ピーーーーーー]///」

男(やはり間違いなかった。休日だろうと、美少女とは何処かでかならず出会う。何故なら、俺は主人公だから、である)

男(そんな主人公は、公園のベンチに腰掛け、先程購入したからあげを食べながら、それとなく雲一つ浮いていない青空を見上げてみるのだ)

男「退屈だな。俺は、毎日こうして平凡に過ごして一生を終えるのだろうか……やれやれ」

男(悪くない。完璧に主人公になりきれているではないか。慣れない台詞に、どうしても顔がニヤけてしまわなければ)

男「空から美少女が降って来たりしないもんかねー……」

男(別に降ってこようが、こまいが、何も困らん。そりゃあ周りに11人もの美少女がいれば満足できるだろう。というか、ただでさえ数が多いのに、これ以上増えてしまったら困るかな。はぁ、素晴らしく嬉しい悩みである)

男(自分が如何に幸福な状況に置かれているか、それを噛み締めているとだ。突然、視界が何かで覆われ、真っ暗になった)

男「あぁ!?」

?「……[ピッ]、[ピーーー]」

男(この感触は、まさしく美少女のスベスベハンドだろう。なんともまぁ、お約束をやってくれた事か。だが、それが良い。密かに憧れていた)

男(さて、喜ぶのは構わないが、このような悪戯を仕掛けてくる美少女に心当たりはあるだろうか。ありまくる。しかし、誰かは、限られてくるのである)

男(声は難聴スキルが発動して全く聴き取れなかった。ヒントとなるのは、この行動と、手の感触。……肌触りが良い手だが、指が硬いな)

男(スポーツか何かをしているのだろうか。いや、コレはペンダコの感触だ)

男(そして、どことなく、この行動に恥じらいを感じてならない。何といえばいいのか、そう、ぎこちない)

男(では、よくこの俺に抱きついてくるような先輩は一先ず除外しておこうか。そして妹も家にいる筈だし、ありえない。二名を除外である)

男(幼馴染はどうだろう。彼女もこの程度の悪戯を俺へ仕掛けるのに、一々恥じらうような子ではない気がする。その点では先生や後輩も、だ)

男(そして、不良女はまだコンビニで仕事を務めている。ここまでで、既に5人へ絞り込めた)

男(残るは男の娘、転校生、生徒会長、オカルト研、委員長か。……委員長はどうだろう。ここまでの事を行ってくる程、好感度は高くないというか、まず攻略キャラとしてカウントしていいのか。とりあえず委員長も除外)

男(生徒会長も、間違いなくこのキャラではない。が、引っ掛かる。「手段は選ぶつもりはない」という例の台詞を覚えているだろうか)

男(何となくだが、今の彼女ならば、俺へ仕掛けてきそうな予感がするのだ。とりあえず、彼女は保留)

男(そうすると、厄介な三人が残る。男の娘は……ありえそうだ。転校生も……いや、彼女はどうだろうか。こんな事をしてくるぐらいなら、すぐに俺へ声をかけるタイプでは)

男(冗談が通じない、というより、冗談が言えない美少女だと思う。時折、積極的に俺へ迫ることもあるが、それはここぞというタイミングで、なのだ。長く付き合っている分、彼女ではないと俺には思える。というわけで、転校生も除外)

男(オカルト研が一番あり得そうで怖い。オカルトなだけに。……いや、絶対ありえるだろう。今までの彼女を知っていれば、一番可能性が高いではないか)

男(大穴で生徒会長、そんな感じがしてたで男の娘、やはりそうかでオカルト研、以上の三名から選択しよう)

男「……えっと」

?「[ピーーーーーー]、[ピーーーーガーーーーーーーーー]……///」

?「[ピッ]、[ピピピーーーーーーーー]……[ピーーーー]……!」

男(さては、宇宙人ではなかろうな)

?「[ピーーーーーーー]……///」

男(分かってしまった。まず、男の娘ではないだろう。彼ならば、そろそろ決まりが悪くなってきて、手を離すに違いない)

男(そして、オカルト研である。彼女は我慢の限界だといわんばかりに、胸の一つや二つ、まぁ二つ、くっつけてくる。一見大人しいが、やる時は一気にやってくる。それがオカルト研である)

男「(と、なれば。ハズレたても許して貰えるだろうかな) ……生徒会長、ですか?」

生徒会長「うっ……///」

男「ほんとに生徒会長? き、急にどうしたんですか?」

生徒会長「[ピーーーーーーーガーーーーーーー]っ! ///」

男(どうやら大当たりらしい。今日も冴えているではないか)

男「とりあえず……手、どけませんか?」

生徒会長「あ、あっ……そ、そうだ、な……」

男(非常に惜しいが彼女の両手が離れ、視界に先程までの光景が現われる。早速、振り返って姿を確認しようとすれば、再び、両手が出てきて、真っ暗に)

生徒会長「いやあぁーっ!! やっぱり見ないでくれっ、恥ずかしすぎた!!」ガバッ

男「なら、最初からこんな事やろうと思わないでくださいよ!?」

生徒会長「だ、だって……その……あの……うぅ///」

男(一先ずは、隣へ座らせてみた。彼女はいつまで経っても顔を真っ赤に染めて、俯いたままである。かなりの勇気を出しての行動だったのだろう。だが、いざ終わってみれば火傷を負わされてしまった、と)

生徒会長「……そんなに見つめないでほしい。服装にも自信がないから…」

男(なるほど。服を誉めて欲しいわけか、素直ではないが、嫌いではない。そういえば、いつも美少女たちの制服姿を見ているが、こうして私服を拝めた事はなかった)

男「(これまたボーイッシュな感じで整えたファッションである。白のハンチング帽が似合う似合う。あえての長髪のまま、ヘアスタイルを崩していないのも嬉しい。露出は少ないが、彼女はこういったラフな恰好の方が似合う) 似合ってますよ、生徒会長。比べたら俺の方がしょうもない」

生徒会長「そんな事はないぞ! 君は……何を着ても[ピーーーーー]……///」

生徒会長「っ~~~……ええっと!? き、今日は…いい天気だな……うん」

男「確かに。でも、そろそろ肌寒くなってきましたよね」

生徒会長「うん……寒いかもしれない……たぶん」

生徒会長「…………///」

男(それにしては随分暑そうに見えるが、色んな意味で。しかし、いきなり二人きりになるとこうなのだ。中々に気まずくなってくるではないか)

男「生徒会長は何か予定あるんですか? 今日は」

生徒会長「わ、私か? 私はこれから親戚の家を尋ねる予定で……だ、だから 君とは偶然会ったわけで、な!? 偶然なんだよ!!」

男「別にそこを強調しなくても……」

生徒会長「ううっ、すまない……」

男「あっ、いえ、こっちこそ……(待て、これではコミュ障同士の会話ではないか。忘れようとしていた記憶が突然思い出されてきたぞ)」

男「チョコレート食べますか?(苦肉の策である)」

生徒会長「頂いて良いのか? でも、私はあいにく今は」

男「まぁまぁ、そんな事言わずに貰ってくださいよ生徒会長。俺一人だと残っちゃいそうだし」

生徒会長「昨日も思ったが、君は意外と少食なんだな。…ふふっ、わかった。ありがたく頂こう」

男(板チョコを半分に割って渡してやると、彼女はそれを舐めも食べずもせず、じーっと眺めている)

男「どうしました? もしかして、やっぱり要らなかった?」

生徒会長「そ、そういうわけでは……ただ、チョコをあげるなら……どうせなら私から君へ…」

生徒会長「はぁぁ…っ、何でもないっ!?」

男「何がですかね!?」

男(照れ隠しにちびちびとチョコレートをかじる生徒会長。バレンタインイベントがもし起こるとすれば、とんでもない事になりそうな)

男「……生徒会長、そんなに余所余所しくしないでくださいよ。今日はいつものあなたじゃないみたいに感じますよ」

生徒会長「別にそんなつもりでは! ただ男くんが隣にいると、どうしても[ピーーーーーーーーー]」

生徒会長「[ピーーーーーーー]……そういえば、愛好会にあと一人ほど部員を入れられないかという話だが」

生徒会長「私もどうにかして数名誘ったのだが、中々難しいようでね……君の方は何かあったかな?」

男(正直それどころではなかった、と言うわけにもいかないのである)

生徒会長「部の存続の為にも私たちが頑張らなければいけないな……といっても、誰があんなどうしようもない所へ入りたがるのやらだが。ふふっ…」クス

男「何だかんだ言っても、先輩さんのことが大切なんですね。生徒会長は(そして、俺がよほど大好きなのだろうよ)」

生徒会長「は?」

男「だって、興味のない部活なのに、それを無くしたくないんでしょ? どういうわけか、突然 部に入るなんて事もしてくれたし」

生徒会長「いやっ、そ、それは! その……///」

生徒会長「……べ、別に先輩ちゃんの為に必死になったわけじゃない」

男(では、俺と一緒にいられる時間を減らしたくはないから? まさか、それならば生徒会だけで十分ではないか。わざわざ余計な因子が混ざる空間を残しておく必要もあるまい)

男「(彼女は、親友の為に、親友の大事な居場所を無くしてしまいたくないのだろう。俺の勝手な推論である。真相は分からないし、知るつもりもない)

男「きっと俺たちでどうにかできますよ。だから、安心してください」

生徒会長「ああ……」

男(なんともいえない表情を見せつけてくれる。やはり、彼女ら切って離せない関係。大体のイベントは二人で一つのセットとして発生する事だし)

男(どうにかして、二人をくっ付けて、この俺の前でイチャつけてやりたくなるではないか。これもまた、一興なのである)

生徒会長「……男くん? 寒いのか?」

男「え? ええ、いや、まぁ……(悪巧みでも企むように両手をすり合わせていれば、である)」

生徒会長「……じゃ、じゃあ」

男(突然だったのだ。この俺の手を、生徒会長が取って、両手で包みこんでくる)

男(ようやく落ち着いてきた彼女の顔が、再び、瞬く間に、真っ赤っかへ早変わり。なんと温かな気持ちへさせられるのだろう)

男(手も、心も、あったかである。……しかし、汗ばんでいるな。緊張で震えているではないか)

生徒会長「[ピーーーーー]…[ピッ]、[ピーーー]……///」

男「あのー……生徒会長?」

生徒会長「はっ。あ、ああぁ~……あのっ、すまなかった!! もう帰るぅ!! ///」

男「えっ、ちょっと!? ……行っちまった」

男(その逃げ足こそ脱兎の如し、だ。この俺が反応できない素早さである。とりあえず、彼女の勇気と優しさに感謝しよう)

男(自爆に自爆を重ね、生徒会長自らがイベントを端折って、終わらせてしまう形となったが、十分良い好感度稼ぎとなったに違いあるまい。別段、大した努力もせずにだったが)

男(微笑ましかった仕草や照れ具合を脳内で再生し、余韻に浸っていればである。俺は完璧に油断していた)

転校生「…………さっきの、生徒会長さんよね」

男(恐怖した)

また明日

男(俺はやはり彼女と出会ってしまった。そして、確実に目撃されたのだろう。悦に浸っている場合ではなかった。周りに注意を払っていなければならなかったのだ)

転校生「…………」

男(頼むから、何でもいい、言ってくれ。無言というのが一番つらい、つらすぎて吐きそうである。……どうしたら良い。まずは落ち着けなければ、この俺自身を)

男(2、3、5、7……心を平静にして考える。こんな時どうするべきなのか? では、状況を冷静に整理する事から始めて行こう)

男(彼女は、転校生は、俺と生徒会長が二人きりでイチャラブしている場面を見た。それが例え偶然であろうと、なかろうと、なんて事は置いてだ)

男(すれば、この俺へ好意を抱く転校生は、勿論、心中穏やかではなくなる。さて、転校生は俺へ恋心を持っているだけであり、未だ特別な関係を築けていない)

男(その為、自分を立てて、文句をつける事ができない。彼女の嫉妬の矛先が俺へ向けば助かる。間違っても、それが、生徒会長へ向かえば、ハーレムにヒビが入る)

男(そしてもし、転校生が奥手で控え目な性格であれば、自ら身を引き、俺へ近寄らなくなるだろう。こうなってしまえば、どうにかして関係を修復しない限り、転校生イベントが発生しなくなり、自然に彼女は攻略不可キャラへ)

男(典型的ツンデレ系美少女。今まで接してきた感触から、彼女は、想定できないハプニングやそれによって受けるショックに対し、弱い。それも俺絡みとなれば、かなり)

男(まぁ、機械か感情を殺した人間でもなければ、誰だろうとショックで心は痛める。だが、その傷をどう埋めようとするかが、問題なのである)

男(この場合では、感情的になって怒り、当事者やその相手を責め出すのか。……転校生では考えられない。彼女は取り乱そうが、冗談か、俺相手でもなければ、他人を傷つけるような真似をする子ではない、筈)

男(可愛らしく、いつものようにムッして見せ、難聴スキルが発動するような胸ときめく台詞が飛び出てくれれば結果オーライ、問題なしだが)

転校生「…………」

男(この通り、今回ばかりは彼女も心に余裕を持てていないのである。いつまでも、切なそうに俯き、左手で右腕を強く握りしめているのだ)

男(明らかに自分を安心させようと必死に見える。昨日、の帰り道の出来事を思い出せ。彼女は、あの時からずっと不安で胸いっぱいになっていただろうに)

男(転校生から見た俺は、自分の気持ちに気付いてくれない超鈍感男。そんな奴へ好意を抱く美少女が、自分の他にもいた)

男(それとなく意思を見せても、お茶を濁され、逃げられてしまう。いつまでも、いつまでも、このような事が続いてしまってはどうなるのか。もしかして、男は自分のことをただの女友達の一人としか思っていないのか)

男(先輩や生徒会長たちに先を越され、取られてしまったらどうしよう。それとも、自分では彼に相応しくないのだろうか。ならば、身を引いてしまえば楽になれる)

男(でも、それはとても悲しいし、悔しい。好きで堪らないのに何故引かなければいけないのだ。自分はこれから、どう、彼と、付き合っていけば良いのだろうか。分からない)

男(胸が苦しくて仕方がない。この気持ちをどうすればいい?……なんて、葛藤を起こしているだろうよ)

男「(つまり、ここで俺が取るべき行動は) 転校生、どうした? 湿気た面なんて見せて?」

転校生「っ……」

男「まずは俺への挨拶が先だろ。ていうか、さっきの見てたのか?」

転校生「ごめん……通りかかったら、二人が見えて……それで偶然」

転校生「覗き見なんて最低よね、私。どうかしてたわ……」

男「(「ああ、俺以上のゲスと化したな」なんていつものように言って返すわけにはいかん) 本当にどうしたんだ。風邪でもひいてんのかよ」ス

転校生「え? ち、ちょっと……!?」

男(至近距離まで近寄り、転校生の額へ手を伸ばしたのである。うーむ、スキンシップ)

男(先生、あなたの技を見よう見真似で発揮させて貰った。いまの転校生のテンションを上げさせるには、ピッタリの技ではないか。見るが良い、ご覧の通り)

転校生「や、やめて……///」

男「うわああぁ、お前マジでおかしいぞ!? 何があった、言ってくれ! 怖すぎる!」

転校生「……[ピーーーーー]」

男「は!? (実に弱々しい彼女に、普段とのギャップに、俺が逆に緊張させられてしまったのである。こんな筈ではなかったが、これで、良いのか? 一先ずは?)」

転校生「訊いていいかしら。別に答えたくなかったら、言わなくていいの」

転校生「生徒会長さんと……[ピーーーーーーー]……?」

男(ぶっちゃけた質問ではないか。もはや少し考えれば、伏せられた台詞は読み取れる)

男「俺が? 生徒会長と? どうしてそう思うんだよ。あの人とは別に何もねーよ」

転校生「だ、だって! あんた、さっき彼女と手を繋いでて……それに仲も良さ気に見えたし……」

転校生「うぅ…っー……」ポロポロ

男「どうして今度は突然泣き出す!?」

転校生「そんなの…分かんないわよぉ…! …たぶん、目にゴミが入って…変態のごみくずっ……ぐすっ」

男「脈絡も無く貶しだすのが、俺の知ってる転校生だ! 良かったな、お前は転校生で間違いない……」

転校生「 しね…っ、うぅ……ばか、ばか、あほ……あぁぅ…ぐぅっ……[ピーーーーーー]…///」

男「はぁ、よく分からんが悪かった。だから、そろそろ泣き止めって。な?」

転校生「……うん」

転校生「…ていうか、そろそろ このイヤらしい手どけなさいよっ!!」

男「いやぁー ほんと、泣いたり怒ったりと見てて飽きない奴だな。やれやれ」

男(さて、ここまでは順調だ、と思いたい。しかし、彼女の悩みが晴れたわけではない)

男(止むを得ない。予定を変更して転校生のフォローへ回らなければ。このまま放置していると、悪化して行き、取り返しのつかない状況へ陥る可能性がある)

男(この先、美少女たちとの距離が縮まれば縮まるほど、このような、危険な、爆弾イベントが発生するのだろう。回避は非常に困難と来たものだ)

男(何も臆するな。動揺すれば、持って行かれる。俺が美少女を傷つける? あり得ない。させるものか、そんな事。許すものか、である)

男(この俺の夢はまさに茨の道だろう。しかし、後戻りするつもりは毛頭無し、ただ前へ進むのみよ。知恵と力、ラッキースケベがあれば、俺は暗闇の荒野すら、明るく照らしてみせよう。覚悟はとうに決まっていたではないか。妥協もしないと)

男(運は、神は、この俺へ味方してくれている。風も吹いているのだ。では、心の赴くままに進めば良い。振り掛かる火の粉は全て払ってやる。美少女たちは全てこの腕の中へ、受け止めてみせる)

男(不屈の精神を持ってすれば、俺はかならずハッピーエンドを迎えられる。……待て、終わりを迎えてどうするのだ。一体何を言い出す、俺は)

男「(とにもかくにも、まずは転校生を) なぁ、ここで立ち話もなんだ。場所変えないか?」

転校生「え? 別にそこのベンチに座ればいいじゃない……?」

男「いいから。どうせお前の事だし、今 暇で仕方ないんだろ。ほら行くぞ (こうして彼女の手を引くのは何度目だろうか。何度だって、気分が高まってくる。これぞ、青春、なのだろう)」

男(転校生も転校生で満更でもなさそうである。繋いだ手があたたかい。後ろで彼女は、どんな顔をしているか、なんて考えなくとも分かっている)

転校生「えへへ……///」

男(この気持ち、まさしく愛か。……さぁ、今度ばかりはヘマを起こせない。辺りを警戒しつつ、慎重に移動しなければ)

転校生「[ピーー]……[ピーーーーーーーー]、[ピーーー]。[ピーーーーーー]」

男「ん? いま何か言ったか、転校生?」

転校生「別にっ。それより、どうしてド変態なんかと手繋がなきゃいけないのよ…[ピーーーー]…」

男「あー……それもそうだな。でも、恋人気分で悪くなかっただろ? へへっ」

転校生「なっ!? あ、あああぁ~っ…あんた、ばっかじゃないのっ!? ///」

転校生「ばか、ばか……し、しねばいいのに……っ~…///」

転校生「ねぇ、どうしてそんな周り睨んでるのよ? 変態というより、不審者よそれ?」

男「変態の上に不審者と来たらもう泣くしかないね (そんなに怪しく見えていたのだろうか。だが、落ち着けない状況なのだ。何と言われようが、警戒は怠れない)」

男(俺たちは公園を後にし、他の美少女との遭遇を避けながら、某ファミリーレストランを目指した。正直安全な場所とも言えないが、外を二人でうろつくよりは屋内へ入った方が安全だと思ったのだ。だがしかし、今は丁度昼時、そして今日休日と来た。あらゆる要因が重なって)

男「人が多すぎて入れそうにないな。見ろよ、席が全部埋まってやがる」

転校生「そりゃそうよ。今の時間帯じゃ仕方ないでしょ? …[ピーーーーーーーーーー]」

男「何だって?」

転校生「うっ……あ、あのさ……お昼食べるなら、えと~……あっ、あんたが良ければなんだけど、ね!?」

転校生「わ、わわ、わっ、私の家に来ない!?」

男(俺の第六感が告げているし、危険信号を上げ出した瞬間であった)

転校生「ほ、ほら! お昼ご飯ご馳走するついでに勉強も見てもらいたいし!? や、約束したでしょ!? 教えてくれるって……両親にも紹介したい、し///」

男「お前は この変態不審者を、親に紹介するつもりか?」

転校生「たぶん笑ってくれるわよっ!」

男「俺が笑えねぇーよっ!!」

男「なぁ……さすがに友人だろうと、男を親へ紹介するのはまずいだろ。女子としては。大体、俺だって緊張する。家に呼ぶならもう少し時間をくれよ」

転校生「……そ、そうよね。やっぱり急すぎたかな…あははっ……[ピーーーーー]」

男(やめてくれ、残念そうな顔を見せないでほしい。誘惑に負けてしまいそうになるではないか。傷つけてしまったフォローはするし、約束も守る)

男(だが、これ以上ギリギリで留まった好感度を上げて、決壊させてしまうわけにはいかないのだ。それだけは非常にまずい、やばい、ブーストがかかってしまう)

男(……では、どうするべきか。俺の家に招いて、妹を混ぜて和気藹々と、なんて事にはならないか。きっと、妹が複雑な気持ちになり、面倒になるに違いない)

男(どうして最近は良かれと思った行動が裏目に出てしまうのか。俺が彼女を連れて来てしまったのではないか、責任はこの俺にあるぞ)

男(何処へ逃げれば良い? 何処ならば、安全地帯で、悩まされず、かつ、転校生へそれとなく俺の好意を伝えられるのだ)

男(全く思いつかない。こういう時、ハーレム主人公はどうするのだろう。……あの手を使うか)

男「ん? おい、転校生。肩に何かゴミが乗って……」

転校生「ねぇ、変態」

男「(なんと、阻止されるとは思わなんだ。二度、同じ手は食わないというのか) …頼むから、外ではその呼び方どうにかしてくれ」

転校生「変態は変態でいいの。それより、私に町中案内してくれないかしら? ほら、引っ越して来てまだ日も浅いし、今日だって散歩がてら色々見て回ろうと思ってたのよ」

男「……つまり、デートか(そして、逃げ場を見つけるどころか、更に追い込まれたのである)」

転校生「ばっ、ち、違うわよっ!! [ピーーーーーー]っ///」

男(家もダメ、外もダメ、じゃあどうしよう。どうしようもない。俺から誘っておいて、断りを入れるのは酷い話だ。頷くしかあるまいて。彼女を、この俺以外の何かへ注意を向けさせる事ができれば、急な用事が来たりしないのか、それが俺へ発生しても構わない)

男(打開策はないのか。先程まで意気揚々としていたのが、まるで嘘のように一気に崩れてしまった。転校生を甘く見ていた俺が悪かったのか)

男(デートを行うか、それとも転校生の家に招かれるか。後者であれば、彼女の両親は偶然揃って家の中にいなくて留守になっていた、家で二人きり、なんて可能性もあり得るだろう)

男(これまでの経験から不要な存在は大体排除されてきていた。もう、狙い澄ましたかのようなタイミングで、俺の両親が海外へ行ったり、という感じで)

男(基本的に、イベントは俺と美少女たちのみの間で進み、第三者の介入が入る事はなかったのである。おそらく、これだけは絶対)

男(いて、ガヤの生徒たちぐらいだ。……話を戻そうか。転校生と二人きりになれば、まず彼女の勉強へ付き合う羽目になる)

男(構わない。が、もし何やかんやがあって、ハプニングが起きればどうなることやらなのだ。例えば、最悪のタイミングでラッキースケベが発動してしまったり、とか)

男(畜生……あらためて目的を思い出せ。俺は、転校生へ「お前が好きかもしれない」と、それとなく匂わせる。そして適当にはぐらかし、逃げる。この二つだ。翻弄され過ぎてごちゃ混ぜになってきていたよ)

男「(マイナスに考えてはいけない。単純に考えろ、恐れる必要はない。全ての状況を味方につけろ。むしろ、このビッグウェーブへ乗ってやろうか) なぁ、やっぱりお前の家に行くか。気が変わった」

転校生「はぁ? 気が変わったって……べ、別にいいけど……どういう風の吹き回しよ?」

男「いやいや、ちょっとお手伝いをね (他でもない、俺が、俺自身へのな)」

転校生「?」

短くて悪いけど、ここまで
土曜は都合がつかんので、日曜に続く。たぶん昼間から書く

男「マンション住まいだったのか。よく建ってすぐの新築に部屋借りる気になれるな」

転校生「失礼ね。かなり快適なのよ? 文句を言うなら、中を見てからにしなさいよ……[ピーーーー]、[ピーーーーーーーーー]」

男(初めてなのかは知らんが、同い歳の、しかも大好きな男を自分の家に上げるのは緊張するものだろうな)

男「(家、というか部屋にか。この俺が女子の部屋に足を踏み入れる。妹の部屋にでさえ、許されなかった、この俺が) 安心しろよ、俺は紳士だから下着漁ったりしねーよ」

転校生「その考えがすぐ思いつく時点でどうなのよ……やったら殺すから!」

男「物騒な。ていうか、まだ開かないのかよ?長く待たされてるんだが」

転校生「ちょ、ちょっと待ってよね……あれ? おかしいわ……もしかして、お母さん家出てる?」

転校生「あー……///」

男「俺の顔見て困ったところでどうしようもないだろ? 合い鍵、持ってないのか」

転校生「持ってる、けど」

男(面白いぐらい予想が当たるというか、もはや必然だったと思われる。彼女の親は、都合良くな、留守であった)

男(躊躇いと喜びが、ごちゃ混ぜになって見える転校生である。ここまで来て場所を再び変えようだなんて提案は、ない)

男「(歓迎しろ、俺を。そしてイベントを。望んでいたように、待ちわびていたように) なら、それ使えば良いだろ? それともやっぱり都合悪かった?」

転校生「そ、そんなことない! むしろ[ピーーーーーー]よ……いきましょ、変態」

男(喜んで)

男(高級だ。見渡せば、何処もかしこも羨ましくなる程に。エレベーターから降りて、大きな窓から見えた景色は実に壮観な眺め、なんて感想は置いておこう)

転校生「マ…お母さん、いつ帰って来るかしら。家に帰って急にあんたと顔会わせたら絶対驚いちゃうわよね、変態だもん…」

男「よぉ、喜んでくれるとかって話は? ていうか、無理して「お母さん」なんて畏まった呼び方に変えなくていいぞ。笑わないから」

転校生「うるさいっ!! ……ほら、着いた。ここが私の家よ。汚さないでよね?」

男「そんな心配するぐらいなら、最初から誘うなって言いたい……凄いな」

男(広い。マンションの一室なんて初めて拝見したが、予想以上に、というか良い匂いがしてならん。なるほど、これならば美少女の住み家と言われても全く疑えん)

転校生「やっぱりいないわ……出かけたみたい。[ピーーーーーー]」

転校生「[ピーーーーー]……[ピーーーーーーーー]、[ピーガッ]……? ///」

男(激しく同意しよう、転校生。最高の状況だ。ここならば、誰からも二人へ干渉できない。俺がいる限り、お前の両親はすぐに帰って来ないだろうよ)

男(金網デスマッチと洒落込もうじゃないか。先にダウンさせられるのは、はたしてお前か? それとも俺か? 今、戦いのゴングが鳴らされたのである)

転校生「ねぇ、突っ立ってられても困るし適当にかけなさいよ? 散らかってるけど」

男「バカには見えないゴミでも散乱してんのかね? 外国暮らしが長かったくせに、変に慎む奴だな」

転校生「むぅー…そこまで無神経じゃないわよ! パパとママだって常識はあるわ!」

転校生「それより、お昼ご飯どうしよう……お腹減ってない?」

男(なに今のかわいい)

男「特に食わなくても問題ない具合だよ。さっき間食取ったし。そういうお前こそ、どうなんだ?」

転校生「えっと、私もかしら」

男(その時だった。静かな空間で小さくグルグルなんて音が鳴るのだが)

男「おい、今の音は…」

転校生「きゃー!! わぁーあ!! あーー聴こえなかったぁーー!! あー! あー!!///」ブンブンブン

男(両手をブンブン振り回して必死に弁解を行おうとしている。恥じらう表情なんて、もう飽きる程見せられたが、さすがに今回は可哀想な)

男「…すまん、朝から腹の調子が悪くて。」

転校生「あぁぁ…お、おならなんかじゃ!! ……えっ」

男「トイレ借りていいか? あとな、出すもん出したら、たぶん腹が減る。終わったら昼飯どうにかしよう、転校生」

転校生「……///」ボンッ

転校生「……トイレ、玄関から二つ目の戸の先。……あと、お昼、私が作る」

転校生「[ピーーーーー]……」

男「何だって?」

転校生「う、ううん。ていうか 私の前で下品な話しないでよっ、ド変態バカ! ……うぅ///」

男「やれやれ (役得なのである)」

男(適当な頃合いを見て、用を足すフリして戻ってくれば、リビングには俺の食欲を促進させる良い匂いが)

男「(だが、冷食の) これを作ると言っていいのか?」

転校生「だ、だって! これならすぐに食べれるしー……悪かったわね、幼馴染さんみたいに料理ができなくて」

男(頬を膨らませ、悔しそうにする転校生。いや、それで良いのだ。家事までこなしてしまえば、彼女は完璧すぎるではないか)

転校生「ほんとに羨ましいわよ、あんたは。近所にあんな優しくて可愛い幼馴染の女の子がいて。それに世話も焼いてくれるし」

男「焼いてんのか? やらんぞ、俺の自慢の幼馴染はな」

男(たとえ何人いようが、全て俺の嫁である。誰であろうが、欠片も渡してなるものか。……大量にいれば、それだけ恐ろしいが)

転校生「[ピーーーーーーーーーーーー]……」

男(「私があんたの幼馴染になりたかった」、という感じだろうか。それはそれで悪くはないけれど)

転校生「…ねぇ、あんたも料理とかが上手い子の方がいい? こんな、[ピーーーーーー]より、さ」

男「は?」

転校生「だ、だからぁ……幼馴染さんみたいな子の方が、好みなのかって……うっ」

男(遂には、いや、ようやくここまで踏み込んでくるようにまでなったのか。ある意味では成長に等しいかな)

男(ただ、俺にとってはその成長が恐ろしく思える。たった数日間の間で、ここまで接近させてしまうとは。俺という人間は実に罪作りな奴なのだ)

男「俺はな、主夫って憧れてたんだよな。昔から」

転校生「え? な、何の話よ…」

男「まぁまぁ。男の専業主夫、ドラマとかの影響かな (単に働きたくないからの、逃げ場である)」

男「バリバリ外で働いてくる嫁さんを、家をピカピカに掃除して、洗濯なんかもキチンとしておいて」

男「美味い夕飯作って出迎えてやるんだ。あと、昼飯に弁当なんか作ってやったりさ」

転校生「ふふっ! それ、絶対あんたなら無理だと思うわよー? あんたなら、一日中家で転がっていそうだし。暇さえあれば奥さん放って、別の女の人に声かけたり……この、変態!」

男「お前の言う変態の定義がさっぱり理解できないかな!」

男「……つまりだよ、転校生。俺としては別に家事ができない奴も嫌いじゃない。そいつができないなら、俺が代わってやれば良い」

男「それだけだろ? ほら、問題なかった」

転校生「あんたって……真性のマゾよ……」

男「なぁ、人が良いって言葉知らないのか? 語彙足らな過ぎるんだよ、お前は」

男「はぁー……ていうか、どうしてそんな質問したんだよ?」

転校生「あっ……うぅ~…///」

転校生「お、おおお、お、教えたくないっ!やだっ!」

男(時折見せる彼女の子どもっぽさに、胸ときめかされる。この気持ちは何だ、母性に似たような、そう、正しく愛だ)

男「で、今の返事に満足して頂けたましたか。転校生さん」

転校生「は!? え、ああー……そ、そうね……良いんじゃない?」

男「(まるで噛み合っていなかった) ようは、俺は誰が相手だろうと、性格さえ問題なければ大歓迎だよ(そして、この俺を一生をかけて大事に養ってくれれば言う事なし、最高)」

転校生「そ、そっか……じゃあ、私は……[ピーーー]かな」

男(まさか、いつも罵り合っているから、俺たちを不仲だと思い込んだわけではなかろうな。それは大間違いだ、転校生)

男(彼女は気の強い美少女だが、けして性格は悪くはない。恥ずかしさからくる暴力だって、全般的に俺に問題があるから飛んでくるのだ)

男(先程認めた通り、彼女は良い美少女である。俺の見立てが間違っていなければ、いや、間違っているものか。確かなのだ。しかし、ここで下手に自信を持たせてやるべきか、となれば、躊躇してしまう。現在の丁度良い距離感をなんとか保てないだろうか)

男「ごちそうさま。美味かったよ、お前が作ってくれた料理はチョー美味い」

転校生「あっ/// ……って、嫌味はやめなさいよっ!! ほんとムカつくわ…」

男「それで、これからどうする。昼飯貰えたんだ。何でも頼みは聞いてやらんでもないぞ?」

転校生「何でも……」

男(あえて、言ってやって、美少女に弱味を握られたい。そんな俺は変態、やれやれ。 まぁ、次の台詞は予想できるが)

男(次にこの美少女は)

転校生「じゃあ、さっそく私の勉強に付き合ってよ……元々そのつもりだったし……[ピーーーー]」

男「(という) そんな事で良ければ、お安いご用だよ」

男(リビングを後にして、俺は彼女の部屋へ案内されたのだ。ここがあの美少女の部屋ね)

男(部屋の中は意外と質素に纏まっている。それでも女子らしさが所々から溢れ、隠せてはいない)

男「すぅーーー……はぁ~~~……」

転校生「きゃぁああ~~~!!? 変態、バカド変態しねっ!! なに人の部屋で息吸ってんのよぉー!?」

男「じゃあこの俺に死ねってか?」

転校生「しねっ!!」

男「やれやれ、冗談も通じないとは……こりゃあ教え甲斐もあるってもんだ」

転校生「そういうのじゃないでしょ今の!? ほんと最っ低……うぅ……///」

転校生「頼むから変な事とか、ジロジロ見ないで。じゃないとすぐに追い出すわよ?」

男「大丈夫、俺を信用しておけって」

転校生「あんただから信用なんないのよ! ……といっても、上げたのは私だから文句言えないけど。ちょっと待ってて? 飲み物とお菓子持ってくるわ」

男(自室に男を一人で残す時点で、だいぶ信頼が置かれているような気がする。これではまるで「さぁ、好きに物色しろ」と言わんばかりだ)

男(では、その御好意に答えてあげるべきだろう。与えられた時間は約2分ていどか。問題ない、二分もあれば、必要な所は確認できるのだ。この俺ならば)

男「タンスの中は……いや、止めておこう。これじゃあ本当に変態へなり下がる」

男「ベッドの上は (動物のぬいぐるみが2、3体転がっている。そして抱き枕を発見。なるほど、毎夜、この枕やぬいぐるみを抱いて、自身の恋に悶々としているのだろう)」

男(ふかふかで良い匂いをさせている布団へ、今すぐダイブしたい気持ちを抑え、次は棚の上にある小物とか)

男(向こうで住んでいた頃の写真だろうか。彼女の周りには沢山の学生の姿。白人美女たちの中にいても、転校生の可愛さは、一際目立っている。さすがは俺の美少女なのだ)

男(しかし、こうして過去の記録を見る限り、俺以外にも、美少女たちにも、俺と関わる以前の暮らしがあったのだろうか)

男(だとすれば、別世界だという線もあり得なくはない。……それか、改変か。そうだ、改変されたとすれば、彼女は、転校生は、元世界では誰だったのだろう)

男(こちらで主人公になる前、俺のクラスに転校生はいたか? いや、俺の知る限りではそのような話は全く聞かされていない)

男(……思えば、転校生の存在だけが、俺にとっては謎であった。他の美少女たちは、かならず、そのモデルが元世界にいたのである)

男(いや、それを言えば後輩の姿も見かけた事はなかった。では、彼女だけが特別ではないのだろうか。……何故、彼女たちにだけ、モデルが存在しない?)

男(俺がその存在に気づいていなかっただけか。それとも、元々存在していなかったのか。だとすれば、彼女らは、神によって世界へ追加された存在では)

男(攻略キャラの追加、などという話はゲームでは珍しくもない。ある程度の条件を満たせば、現われたり、とか。または何週目かで追加される特別なキャラ、とか)

男(……周回によって追加された? ……話はいきなり変わる。ご存じの事だろうが、後輩と先生に対し、俺の難聴スキルが発動しない)

男(そして、その内の一人、後輩とは、過去に俺から告白して、関係を持っていた、なんて確かではないが、後輩がそう昨日俺へ伝えてきたのを思い出してほしい)

男(もし、以前俺と後輩が付き合っていたのが事実だとすれば、それは俺があの日、この世界で目覚める前)

男(または、それ以前の記憶が消失している、というループ説だ。ここで一つ思ったのが、もし、俺が美少女の内誰か一人のルートへ進めば難聴が発動しなくなるのでは、という事である)

男(つまり、俺は過去に後輩と先生を攻略している。どちらが先かは不明だが、どちらも攻略していたから、難聴スキルが効かない。その原理は全く分からん、まるでゲームではないか)

男(……ようは今の俺は[ピーーーーーーー]。俺は[ピーーーーーーーーー]している)

男([ピーーーーーー]は、[ピーーーーーーー]、[ピーーーー]していたのだ。つまり、今抱いているこの俺の目標は[ピーーーーー]……本当だろうか)

男(たんに取り返しがつかなくなり、状況に負け、彼女たちと付き合う結果になったのでは。しかし、そうとも限られない。誰だろうと、周りに問答無用で好意を抱いてくれる美少女がいれば)

男(その中から一人選び抜き、結ばれたって悪くはないだろう。ハーレムを目指さなくとも、俺は十分幸せになれる。ただ、しかし、それがハーレム系主人公として正しいのかは、よく分からないが)

男「ち……違うだろ、俺! 俺は別にこの場所で、こんな事を考える為にいま物色しているんじゃないぞ!」

男(では、何の為だっただろう。転校生の部屋を漁って、それで、俺は何を確かめようとしたのだ。余計なフラグを立てては、更に追い込まれて行くだけなのに)

男(何故、こんな事を、しているのだ。悪戯心? いやらしい欲から? だとすれば、かなり甘くはないか。また油断しているのか? 何度失態を犯せば気が済むのだ、俺は)

男(何かおかしくないか。本当にこれは俺の意思で始めたことなのだろうか。だって、このままでは[ピーーーーーー]、[ピーーーーー]。不意に、俺は、転校生の机に目が行ったのである。ベッドだけでは物足りないではないか。まだ時間に余裕もある、見てみよう)

男(机の上は、部屋の中とは打って変わって、だいぶ散らかって見える。教科書に、参考書、ノート。英語ばかりで書かれた小説なんて物まで置いてあったのだ)

男「これ、俺の持ってるシャーペンと同じじゃないか。それにこれも、これもだ」

男(まるで自分の所持品がそのまま盗まれてしまったのかと思わんばかりに、彼女が持つ文房具は、俺の物と被っていた。しかし、見たところ新品ではないか)

男「まさか、俺と合わせてこっそり買ったとか……なるほど」

男(好きすぎて同じ物を欲しくなる、なんて子どもらしい。だが、学校へ持って来ていない。おそらく、家でこれらを使用して、悦に浸っているという事だろう。かわいらしい)

男(ノートを開けば、そこにはお世辞にも上手いとはいえない、日本語で書かれた文章の羅列。カタカナなんかも。その下には英語で、意味らしきものが記されている)

男(毎日勉強していた、というのも嘘ではないらしい。努力の現われがここにも残っていたのである)

男「……何だこの本」

男(『ラブレターの書こう』なんて、小学生の女子がこっそり購入していそうな、タイトルの本が目に着く)

男(興味本位に手にとって、ページをめくって行けば、間に挟まっていた、栞代わりか何かが、ハラリと、俺の足元へ落ちてきたのであった)

男「便箋? (美少女らしい可愛らしい便箋である。……そういう事か。ああ、何という事だろうか。気づいてしまった)」

男(転校生はいずれ、これを俺に渡すつもりに違いない。今やメールが基本の中、まさか手紙で告白なんて、彼女はやはりどこか抜けている。さて、それどころではないが)

男(もし、このようなラブレターを渡されては、読まないわけにもいかない。そして問題なのが、手紙に、書かれた文字に対して、俺の難聴スキルは発動しない)

男(何かしらの妨害が起こる、なんて事を期待するが、どうだろう。何の問題なしに、この俺へ、愛を伝える文章が、読めてしまったら)

男(まさか、転校生は、俺の難聴対策として、この手をあえて使おうと企んでいるのでは。俺より先に、難聴を、苦と思い、そして……)

男(もし成功してしまえば、誤魔化しようがなくなる。YESかNOだ。正道だが、この俺にとって あまりにも邪道すぎるではないか)

男(便箋には、さっそく覚えた日本語で、転校生が書いた文章が。まだ途中ではある。拙いが、確かに、ラブレターのそれであった)

男(これを彼女が、今まで一生懸命、頭を悩ませ、試行錯誤しながら書いていたのかと思うと、だ。とても嬉しくて、愛らしくて、俺も頭がどうにかなりそう)

男(そう、素直に嬉しい。嬉しいが、反面、苦しい。結ばれるわけにはいかないのに、ハーレムを築きたいのに。ああ、俺は何という屑だろうか)

男(どうしてそこまで頑なにハーレムを目指すのだ。その過程で、美少女を俺は何度傷つけるのか。現に俺は、彼女を苦しめさせているのである。……とりあえず、手紙を本へ戻して、片づけておこうか)

転校生「持ってきたわよー。……ねぇ、どこも漁ってないでしょうね?」

男「おおぉーっ!? あ、ああ……フツーに待ってた……たぶん」

転校生「たぶんって何!? あぁーもうっ、これだから変態は信用なんないのよっ!!」

男「じ、じゃあ部屋に通さなきゃ良かっただろ?」

転校生「開き直らないでよ!! ……どうしたの? 汗なんて掻いちゃって。もしかしてこの部屋暑かったかしら?」

男「……飲み物、貰っていいか。すごくいま、喉が渇いてるんだ」

男(「どうぞ」なんて言われる前に、トレーの上に乗ったグラスを引っ手繰るように取って、中のジュースを一気に呑み乾していたのである)

男(その様子に転校生を目を見開いて驚き、心配そうに俺へ近づくのだ)

転校生「ねぇ、ほんとに大丈夫? なんか変よ…あんた」ス

男「ひぃ!?(と、彼女の急な接近に俺は動揺して、後ろへ下がってしまった。どうしたのだ、俺よ)」

男(転校生は転校生で、事態が飲み込めず、当然だ。勝手に机の上を漁って、緊張していたのは俺なのだから)

男(いつも以上にだ、彼女を意識してしまっているに違いない)

男「…………あ、あ」

転校生「顔赤いんだけど……少し、横になる?」

男「そ、そうだな……ちょっぴりだけ、休ませてくれないか……どうかしてるんだ、俺」

転校生「いつもの事じゃない……私のベッド使って?」

男(アカン)

男(飛び込みたいベッドの上である。俺はそこに、確かに、寝ている。なんと甘い香りがしてくるのだろう。酔っぱらってしまいそうな程に、それが、俺の鼓動を加速させた)

男(転校生もすぐ近く、ベッドの縁に腰を降ろして、心配そうに俺を見つめてくれている。そんな天使が、そこに、あった)

男(天使は俺へとっての悪魔と化す。その存在が重くて、枷となっていて、着実に苦しめに舞い降りた。こんな筈ではなかったというのに)

男(俺の予定では、彼女の勉強に付き合って、イチャつき、そこでラッキースケベを引き起こしていた。俺が下で、転校生が上で、みたいな、ある意味での逆ラッキースケベを)

男(そうすれば、互いに気まずくなれるだろう? このタイミングで親も帰って来るのだ、たぶん。こうして、いたたまれなくなった俺は「じゃあ、また学校でな転校生///」といった感じで、あえて、後腐れを残す形で帰宅するつもりでいた。いた、筈だったのである)

男(完璧ともいえないし、運に身を任せた策だが、俺ならばきっとどうにかなると、自惚れていた。だって、いつも、どうにかなっていたのだから。だのに何故)

男(こんな、見えた罠へ自らかかりに行くような形で、地雷もしっかり踏んでしまって、果てに攻略されかけている。そうなのだ。この俺が、転校生の手によって、落とされかけているのだ)

男(主人公ならばこのような失態は……いや、よくあるだろう。だが、彼らならば全てを鈍感と難聴で逃れる。美少女の気持ちを分かっていても、分からずとも)

男(後ろめたさと、彼女からの好意に悩まされている。そして、沸々とこの俺の中に存在する、とある感情が、強く沸き上がり始めたのだった)

男(言い替えるのならば、胸が苦しい、である)

転校生「少し落ち着けた? なんなら、眠ってもいいわ。 と、特別だからね……っ!」

男「ブツブツ……ブツブツ……」

転校生「え? 何か言った?」

男(立場が、逆転している、だと)

男「いや、別に何も言ってない……あんまりこっち見るな、緊張するだろ」

男(そうではないだろう。これでは完全に彼女のペースへ俺が落とされてしまうではないか)

男(見れば、転校生は照れ臭そうにして、ジュースを飲み、誤魔化していた。両手でグラスを持つその仕草がキュンと来たり……一旦落ち着こう)

男(そう、逃げてしまえば良いではないか。簡単だろう。体調が優れないと言い訳をして、今すぐにでもこの場から逃れられるぞ)

男「転校生、悪いが俺調子悪いみたいだ。ほら、腹も良くないって言ったろ? だから……」

転校生「す、すぐ動いたらダメよ! その……道端で倒れちゃうかもしれないし……そうなったらほんとに変態みたいだし」

男「変態でなくても具合悪くなれば分からんだろうが」

転校生「とにかく……もう少し、ここで寝てた方がいいわよ……うん、絶対」

男「だけど、お前に迷惑かかるだろ? それならさっさと帰って」

転校生「迷惑なんかじゃない!! あっ、うぅ……お願い、ここにいて」

転校生「もう少しだけ……ほんのちょっとでいいのよ……」

男(退路は塞がれた。そして、殺されかけている。誰が? 俺だよ、俺。心臓が突き破って、床をビタンビタン元気よく跳ねまわりそうだ。暴れ出したら止まらない、である)

男「ば、バカじゃないのか……(気の効いた言葉が出る前に、バカがバカと言う。身体を壁に向けて、少しでも彼女を視界から消そう。そうするしか、術はないから)」

転校生「[ピーーーーーー]……[ピーーーーーーー]」クスッ

男(気遣ってくれているのだろう。部屋の中は、家は、非常に静かな状態にある。音といえば、俺がシーツを掏った音か、転校生が出すちょっとした物音ぐらいだ)

男(逆にこれが気まずい。確実に俺を殺しにかかっているだろう。すぐ、すぐ隣に美少女がいる。そして、この俺へ「いてくれ」と)

男(導火線へ火が着火された。爆発までの時間はそう長くはないのだろうか。必死に腕へ爪を立て、唇から血がにじむ程噛みついて、それを堪える。堪えるが、苦しい。死ぬ)

男「なぁ、暇だろ? 別に無理してここにいる事はないんだぞ……」

転校生「そう言ってまた物色されたらこっちも堪ったもんじゃないわよ。いいから大人しく寝てなさい、変態」

転校生「変態……ふふっ」

男「おい、何がおかしかった?」

転校生「ううん、別に。ちょっと思い出し笑いよ……気にしないで、へんたい!」

男(上機嫌な転校生である。そりゃあ嬉しいだろうよ、二人きりで、割と悪くない雰囲気の中にいるのだから)

男「……また喉乾いてきたから、貰うぞ」

男(と、置かれたトレーの上にあるグラスへ、無理な態勢をして手を伸ばす。そうすれば確実に起きるのが)

男「うわぁっ!?(これだ。良し)」

転校生「ちょ、きゃっ……!」

男(俺は転校生を巻き込んで、床へ落ちたのである。彼女は俺の下にあって、俺が上で、予定とは違ったが、問題ない。計画通り、俺は生きてこの場から逃げ延びてみせるのだ。かならず)

男(揺らがせてたまるものか。俺は真っ直ぐハーレム道を突き進む。そう既に決めた。どのような手を使おうが、たとえそれが見苦しくても、望むまま、遂行させてやる。さぁ、掴め、彼女のアレを)

男「す、すまん転校生! すぐに退くから……あっ」

男(いつ味わっても、この感触は素晴らしい。脳内が一瞬でお花畑へ変わり果てそうである)

転校生「やぁっ……! ///」

男(胸を鷲掴んでやったのだ。それも、両手で、両方の山を。見えたぞ、脱出口。長い、長い道のりだった。遂に抜けられる)

男(……拳がこの汚い顔面へ飛んでこない。罵倒の一つもだ。悲鳴だって、あまりにも短すぎる。どうしたのだ、転校生)

転校生「…………[ピーーーーーー]///」

男(何を言っているのかさっぱりだが、もの凄く顔を赤らめているが、まるで、嫌がってはいないような。むしろ、受け入れようとしているような)

男(いつまでも、胸を手が掴んでいようと、無理矢理払おうともせず、わざとらしく顔を横へ背けているのである)

転校生「っー……///」

男(まさか、待て、いくら家に人がいないからと、早まってはならない。落ち着いて考え直してくれ。そして、すぐに俺を殴るか、蹴り飛ばして、いつものように「変態」と呼んでくれ)

男「て、転校生……おい?」

転校生「[ピーーーーーー]……っ」

男「は!?(お前はそんな美少女だったのか。違うだろう。勇気を出す場面ではないぞ。構わないから、殴れ、罵れ。この俺を)」

転校生「[ピーーーーーーー]……[ピーーーーーガーーーーーーーー]……」ギュゥ

男「あっ」

男(それは、頭の中が白一色に染まった瞬間であった)

転校生「[ピーーーーー]……///」ギュゥゥ

男(ようやく、この手を胸から払いのけたと思えば、なのだ。転校生がこの俺へ抱きつく。そして、そのまま俺を、逆に、押し倒してしまった)

男(彼女の台詞はもう理解不能。難聴スキルのせいだけではない、だから頭の中が真っ白。先程まで柔らかな感触を味わっていたこの手が、激しく震える)

男(俺を離さない。がっちりと硬く、ホールドされてしまったのだ)

男(緊張した腕が、ようやく下へダラしなく落ちて、転校生の肩へ触れた。それだけで、彼女は身体をビクンと弾ませ、息使いが荒くなってしまうのである)

転校生「っ~~~!!…はぁ、はぁー……っあ……」

男(呼吸の一回一回が震えていて、熱を帯びている。密着する彼女から、激しく動いている鼓動が俺へ伝う。それは転校生も同じなのだろう。互いが、どうしようもなく、バカになっちゃった)

男(さて、ここまでされて逃げるの男がいるのか。彼女がその気ならば、俺だってそうなのだ。主人公である前に、一人の男なのである)

男「お、おい……どうしたんだよ、転校生……なぁ? なぁってば」

転校生「……///」

男(答えず、ただひたすら俺を抱きしめ続ける転校生。もしかして、既に告白は済んだ後なのか。いや、そういう風には見えない。まだだ、だから、これは、ただの、意思表示みたいなもので、それは告白と変わりなくて、俺は、俺は……じゃあ)

男「……(鈍感的に、そのフラグを叩き折らせてもらうぞ)」

男「…なぁ、転校生聞いてくれ。転校生」

転校生「あっ…………///」

男(遂にその可愛らしく真っ赤に変わった顔を表にあげた転校生。涙目で潤んだ、そして期待を込めた瞳で、上目遣いで、俺をじっと見つめて、次の言葉を待っている)

男(転校生、お前はよく頑張っていたよ。冷や汗流されたがな、素直に感心させられた。まさかお前がこんなにも大胆な行動に出るなんて思いもしなかったのだ)

男(お前はこの屑を愛してくれている、絶対に、間違いなく。そして俺へもその気持ちが、確かに伝わって、いま、強く感じさせられている)

男(ここでYESと答えるのはさぞかし楽で、とても大きな幸福を得られるのだろうな。俺も転校生が愛しくてしようがないよ。彼女と結ばれるのも悪くはない。きっと最高だろう、ありがとう)

男「(だが断る) いつまでもこれだと、そろそろ苦しいんだが」

転校生「あれ…………」

男「だ、だから、いい加減苦しいって」

転校生「っーーー!?///」ボンッボンッ

転校生「うああああぁ~~~……あっ、あーっ! えっ、と!? ……ご、ごめんっ!!」

男「わぁあ!? (どうしようもなく込み上げていた感情は、この俺を突き飛ばすという形で解消された)」

男(俺をここまで追い込んだのは転校生、彼女自身なのだ。そして、俺を脱出路へ導いてくれたのも、転校生、彼女だ)

男(鈍感の烙印を押されてしまった悲劇の主人公を舐めてくれるな。押したのは、他でもない、お前たちだ。美少女よ)

男(ならば俺はその呪いの下、行動させて貰うとする。最初から、最後までな)

男(許せ、転校生。俺も転校生が大好きだ。しかし、この甘い誘惑を乗り越えなくては、俺は向こう側へ到達できない)

男(目的は果たした……予定外なとんでもビッグイベントに戸惑わされたが、計画は事前に考案した通りに遂行されたのだ)

男(冷酷非道、阿修羅のごとく、ゴーイングマイウェイ。これでは怨まれても仕方がないだろう、難聴鈍感系ハーレム主人公)

男(これで良かったのかと聞かれれば、何とも言えない。だが、俺としての正しい選択を取ったまで。転校生という大きな幸福より、俺は、その先で待つ未知数な幸福を手にしようとしたのである)

男(意思は貫く、妥協はしない、俺の理想を邪魔立てしようが、全てを、振り切る。たとえ神から忌み嫌われようが、モテるならハーレム一択だろうが)

転校生「…………」

男「何口開けたままボーッとしてんだよ。今度はお前の方が調子悪そうだな?」

転校生「え? ああ……そうかしら……あ、あはは……ははは……はぁ」

男「ほら、立てよ。約束通り、お前の勉強に付き合ってやる」

転校生「あー……ご、ごめん……今日は、なんだか疲れちゃったわ、私……勝手だけどまた今度にしてもらっていい?」

男「構わんが、そうして先伸ばししてると永遠取り掛かれそうにないぞ?」

転校生「ううん。ちゃんとあの日約束してくれたでしょ? いつまでかかっても、私は待ってるから……あんたを」

転校生「っ、てぇー! 自分で何言ってるかしらっ……ほんとに疲れてるかも……///」

男「やれやれ…一緒に持ってきた菓子でも食おうぜ。何か暇潰しのゲー……何でもない」

転校生「え?」

男「今日は無理言って家に上がらせてもらって、悪かったな。約束も果たせなかったしさ」

転校生「誘ったのは私の方からでしょ。ふん、別にいいわ……[ピーーーーーーー]」

男「え?」

転校生「な、何でもないわよっ! 一々変なタイミングで訊き返さないで……むぅ」

男「はいはい。じゃあ俺はそろそろ帰るぞー。妹も家で待ってるし」

転校生「あっ……ちょっと待って! 変態!!」

男「その呼び止め方はまずいって自分で思わないか!?」

転校生「そんなのどうでもいいのっ!!」

男「はぁー……んで?」

転校生「でって……そのぅ」

男「何か用があるから止めたんだろ。ほら、さっさとしてくれ」

転校生「じゃあ……あの、ね……嫌じゃなかったら……また、ウチに来て、もらえる……?」

男「(この、もどかしいこの気持ちを、壁か床でも殴って解消させたいのである) はいよ」

転校生「わぁぁ~……そ、そこまで言うならまた誘ってあげる! だから、ちゃんと来なさいよ? 絶対なんだから……ふふっ」

男「そこまで普通喜ぶことか? まぁ、次に来たときは、お客様をもっと精一杯持て成してくれよー(今回で十分すぎるお持て成しを受け、否、食らったがな)」

男(壮絶な死闘であった。金網デスマッチなんて二度と挑んでたまるものか。なんて、家に帰っても似た状況へ陥るときもあるが)

幼馴染「男くんおかえりなさーい。えへっ、いよいよ明後日だね! 楽しみだねぇ~!」

男(なんて、ウキウキワクワクさせながら屈託のない笑顔を振り撒く幼馴染。その笑顔に安心させられたのか、一気に緊張の糸が切れ、ソファに思い切り倒れこむであった)

男「あぁー……はぁぁぁ~~~……しんど」

妹「ねぇ、私は超暇だったんですけど!」

男「はぁ? お前も明日は友達と出掛ける用があんだろ? それで良いじゃない」

妹「私的には毎日楽しい予定が入ってる方がいいのー! 充実した毎日送るのがモットーぉ!」

男「あのな、そういうの傍から見れば憧れるが、想像以上に神経削られるぞ (まぁ、この通り)」

妹「なにそれ? お兄ちゃんのくせに生意気なんですけど」

男「じゃあ、妹のくせに兄の日頃の苦労を労う肩揉みもしてくれない。生意気」

妹「ん? 意味不明ー……」

男「それだけ疲れてるんだってば……(なんて他愛のない会話をしていれば、この俺の肩に美少女の手が置かれるのだ)」

幼馴染「あれ~全然凝ってなくない? 怠け者の証だよ、男くん」

男「へー、お前がそう思うんならそうなんだろうな」

妹「マミタスぅ~お兄ちゃんがバカだよぉ~……うりうり」

幼馴染「それって今さらじゃないかな? ……あっ」

男「あっ、じゃねーよ。お前たち揃いも揃って俺をいじめて楽しいか」

妹「楽しいと思う」

男「はぁ、酷な妹で」

幼馴染「ほんとに今日はおつかれな様子だね。お風呂入る? あっ、あたしが背中流してあげよっか!?」

男(喜んで頼みたいところだが、密室で彼女と二人になると大抵碌でもないイベントが待ち受けているのである)

妹「むっ……じゃあ私が幼馴染ちゃんの背中流すよ!?///」

男「張り合うところだったのか。頼むから今は静かにしてくれよ、ていうか少し寝させてくれ」

幼馴染「じゃ、じゃあ……あたしが男くんに膝枕……[ピーーーーーーー]……」

妹「そんなのだめぇー!! 私がやるんだか……お兄ちゃんのバカぁっ///」

男(プチハーレムで華々しいが、さすがに今の俺には堪えてくる)

男「なぁ、ほんとに疲れてるんだって……」

幼馴染「あっ、ちょっと……ねぇ、肩に髪の毛乗ってるよ?」

男(疲れてるんだってば)

男(今朝の目覚めも悪くはなかったと思う。あれほど苦労させられた翌日だというのに、RPGゲームで例えれば、宿屋で一晩休んで全回復、である)

男(肉体的にはさほど苦労はないが、気疲れというか、精神的に参ってきそうな日々を送っている。これが、モテる、なのだろうか。人間とは恐ろしい生き物と再確認させられる)

男「妹? あれ、もう家出たのか……やけに早いな……いや、当然か (今朝と言ったが、そいつは嘘だったようだ。既に昼時なのである。時計の針は両方とも12時を指し示していたのだ)」

男(そうだ、約束の時間ではないか。モタモタしている場合ではないぞ。パンツ一丁で、いつまでも、うろついているわけにはいかない。すぐに男の娘が我が家を訪れる、なんて、動き出そうとすれば、チャイムが一つ鳴るのがお約束であった。それは期待を裏切らない)

?「すみませーん。男…男くーん、いませんかー?」

男「あ、ああっ! いるから少し待っててくれ!……いや、別に上がって待ってて貰っても問題ないか (彼は男の娘、そう男で間違いない。美少女並の容姿をしている為か、つい、彼を女子扱いしてしまう)」

男「やっぱり入ってきていいぞ、男の娘。鍵かかってないから勝手に上がってくれー!」

男の娘「えっ? あー、じゃあ……お邪魔しまーす…………あっ」

男「おお、来たか。実は寝坊して今起きたんだよ…少し着替えてくるから適当にかけて待っててくれ」

男の娘「……[ピーーー]、[ピーー]///」

男「おい、聞いてたか……?」

男の娘「わぁあああ~~~っ!!? や、やめてよっ、そんな恰好で…!」

男「ち、近寄っただけだろ? 別に変な事しねーよ……(と、必死に顔に両手を当て、しかし指の隙間から、こっそり俺の姿を見ている彼へ語りかければ)」

男の娘「僕が恥ずかしいんだもん……は、早く着替えてっ……」

男(ボクっ娘としても全然イケるではないか。本当に彼は、彼、でいいのだろうか。ちゃんと付いている? いや、確認したくはないが)

相変わらずマイペースに進むけど、ここまで
明日は大事な用が控えてるので続きは火曜日の夜に

男の娘「……~♪ ふふっ、男と一緒だと美味しいクッキーが作れそうだよ」

男「やけにご機嫌そうだな、男の娘」

男の娘「そりゃあだって! 男と[ピーーーーーーーー]」

男「んー?(なんて間の抜けた顔して、彼へ近づけば慌てて抱えていたボールを床に落とすドジッ娘男の娘ちゃん、である)」

男の娘「あああぁ~~~!? ご、ごめん。すぐに床拭かないと……」

男「拭かなきゃいけないのはまずお前の方だよ。頭にまで生地跳ねてんぞ」

男(お約束といえばお約束だろう。彼へ付着した生地はまるで、ぶっ掛けられた、ゴニョゴニョ)

男(このままだと俺的にも、彼的にも危険な光景である為、そのR指定で規制されかねない姿を、我が脳内へしっかり焼き付けながら、ハンドタオルで彼を優しく、フキフキ)

男の娘「自分でできるよぉ……もう……」

男「手が届かないところにも付いてるかもしれないんだぞ? とりあえず、エプロン着けてて正解だったな」

男(あざと過ぎるエプロンを身に付けた彼は、まるで性別が雄とは思えなかった。もはや狙っているのだろう。完全にこの俺を意識して持って来たに違いあるまい)

男(ひょっとすれば、彼は幼馴染に次ぐ、美少女たちの中では、かなりの女子力の持ち主。否、ひょっとしなくてもである。彼は、彼女、だった)

男の娘「ねぇ、男。僕のエプロン……[ピッ]、[ピーーーーーー]?」

男(どうだろう。抱きしめてキスしたくなるレベルでは似合っている)

男の娘「全部とれた? もう、生地ついてない? ……はぁ、また一からやり直しかな」

男「いや、まだ顔に付いてるぞ。どーれ、じっとしてろ」

男(額と額が衝突しそうな程、更ににじり寄れば、男の娘は小動物のように脅えた目で、ふるふると体を振るわせ、来るべき時を待ち侘びていたのだ)

男の娘「えっ、えっ! 男の顔が……近く……[ピーーーーーーー]……はぁ///」

男(遂には瞼を強く閉じ出すではないか。そこまで期待されてしまうと、俺もそれに応えてやりたくはなる)

男(が、そこはぐっと湧き出た欲へ蓋を閉じ、彼の頬へ付着した最後の生地を指で撫で取ってやるのだ。……転校生との経験が生きた。俺は確実に成長しているだろう?)

男の娘「……お、男っ!! ……まだ?」

男「いや、もう取れたんだが」

男の娘「へ?」

男(瞼を開けば、キョトン顔である。黙ってこの指へ付け移した生地を、彼の前で、舐め取って見せてやったのだ)

男「ん~……まだちゃんとした味じゃないな。当然か」

男の娘「え、あ、ああっ! そ、そりゃそうだよ~……まだ生地だし……」

男の娘「……[ピーーーーーーーーーーーー]///」

男(モジモジ男の娘すてき、だなって)

男の娘「最近学校はどう? 楽しい?」

男(再び生地作りから始まった俺たち。そんな中、ボールの中身をかき混ぜながら、そう彼は俺へ尋ねたのだ)

男「まるで母親みたいなこと聞くんだな、お前」

男の娘「今は男の両親は留守でしょ。だから、僕が代わりに聞いたげるの……えへへ、なんて」

男「ああ、楽しいよ。男の娘も、転校生も、みんなもいるからな。充実し過ぎて後が怖い(事実、怖い)」

男の娘「そっか……楽しいなら良かった。前に僕が同じ事を聞いたら」

男の娘「毎日、胸が張り裂けそうな気持ちで、正直つらいかも……って言ってたから、安心しちゃった」

男「前にも? おい、それっていつ」

男(隣に立つ彼へ視線を一旦移せば)

男の娘「…………」

男(口元だけが、歪んで見えたのだった。途端に、俺の中を、何か嫌な感覚が巡りだし、先の言葉が喉で詰まる)

男の娘「よーし! そろそろチョコチップいれようよ! ここまで凄く完璧な出来!」

男「そ、そうだな……これなら期待できそうだ……妹も喜ぶ」

男の娘「うん!」

男(先程の様子は、まるで嘘のように、その満天笑顔に掻き消されてしまったのである)

男(焼き上がったクッキーは、半分のが俺の、もう半分が男の娘のもの)

男(オーブンを開ければ、甘く、芳ばしい香り。そして、言葉では例えようもない異臭が解き放たれるのだった。……何故に?)

男「ぐふぅー!!」

男の娘「せ、成功だねぇ~!!」

男「本気かその感想!?」

男の娘「あっ……僕の少し焦げちゃってるかな。えへへ、失敗失敗ぃ~……///」

男(確かに俺たちは同じ材料で、同じ方法で、同じレシピを見て、これらを焼いた。何一つその過程で狂いはなかったのである。なかった筈だ、自信はないかもしれない)

男(まぁ、何はともあれ、彼は喜んでいる。「自分一人で作るより調子良かった」と、嘘か真か分からん事を言ってはしゃいでいるが……その様子からは、欠片も、彼が男、という要素は見られなかったのである)

男の娘「男のお陰だよ、って言うのもおかしいかな。別に僕の特訓に付き合ってもらったわけでもないのにね。ふふっ♪」

男「……なぁ、そのな。男の娘」

男の娘「んー? なーに、男?」

男「正直言えばな、お前が俺に学校で渡してくれたクッキー。店で売ってた物じゃないって気づいてたんだ」

男の娘「あー…………で、ですよねぇ~はは…」

男の娘「……僕ね、男が美味しそうに作ったクッキー食べてくれるの、すごく嬉しかった。ほんとにありがとう」

男「礼を言うなら俺だろ? 変な奴だな (美味いさ。他でもない男の娘の手作りなら、何でも、毒でも。教訓・愛情は最高のスパイス)」

男の娘「気づいてて僕に合わせてくれてたんだね。それと、無理して美味しそうに食べてくれてた」

男「おいおい、無理なんかしちゃいない。勝手な解釈するなよ」

男「こうして今日お前を誘って、手伝って貰ったのも、ほんとにお前のクッキーが美味かったから頼んだんだぞ?」

男の娘「え?」

男「そりゃ見た目は良くないかもしれんけどな……あ、味は……うん」

男の娘「あ、曖昧……」

男「と、とにかく不味くはなかった! 俺は好きだからな、お前が焼いたクッキーは!」

男「だから、また作って食べさせてくれよ。期待してるんだからさ」

男の娘「…………」ボンッ

男「ん? どうした? 急に顔赤くなんかして……」

男の娘「わぁあー!!? なんでもないっ、なんでもないっ! ほんとになんでもないからぁっ!?」

男「そうか? それより試しに焼き上がったやつ一緒に食べようぜ。まだ朝も昼も食べてなかったから、腹減って仕方がないんだよー」

男の娘「う、うん。そうだね、食べよっか!」

男の娘「[ピーーーーーーーー][ピーーーーーー]、[ピーーーーーーーー]…///」

男(計画は滞りなく、気持ちが良くなる程に、通る。まるで、自分が超が付くイケメンではないかと、錯覚を起こしそうになったのは、いつもの話である)

男(まさに、この俺は美少女たちにとって、魔性の男である。その内流し目のみでノックダウンを狙えそうな気もしなくない。しかし、真っ当なハーレム主人公ではない故に、悩みを抱えなければならないのだ。これを打開する方は、もはや感情的になるな、としか言えない)

男(一時の感情で、両手広げて待つ美少女の中へ飛び込めば、目的は果たされない。つまり、これは一つのゲーム。俺が勝つか、美少女が勝つのか、俺が勝利を収め続ければ、その先には男の夢が待つ……いや、どう転ぼうが、嬉しい事に変わりはないのか)

男の娘「あはっ、やっぱり今回は上手く焼けたよ! 今までのよりずっと美味しいもん!」

男「(なるほど。舌がバカだったのは彼なのか) なぁ、どうして俺にわざわざ毎日のようにクッキーなんて焼いて持ってきてたんだ?」

男の娘「……ん?」

男(男の娘としては、既に自分の好意はこの俺へ伝わったものだと考えていただろう。だが、忘れるな。鈍感という設定を)

男の娘「どうしてって、気づいてくれてない?」

男「いや、正直よく分からん。教えてくれないか?」

男の娘「むぅー……」

男「(プクッと膨らませた頬は、針で突けば音を立てて破裂しそうな程、良い形に出来上がっている。そんなに可愛い顔しても、この俺を攻略できないのは、周知である。お前もよく知っている筈なのだ、男の娘よ) 男の娘?」

男の娘「[ピーーーーーーー]」

男「え? 何か言ったか?」

男の娘「男のばーかっ! 知らないよ! ……[ピーーーーー]」

男「はぁー? やれやれ…… (真実に到達することは、決してない。個別ルートへ進むという真実さえ、到達することは決して)」

男(終わりがないのが終わり。それがハーレムルート)

男(ふと、先程彼が口元を歪ませた場面が、浮かぶ。そして、以前、俺が彼へ、悩みを打ち明けていた様な、そんな記憶にない思い出)

男の娘『毎日、胸が張り裂けそうな気持ちで、正直つらいかも……って言ってたから、安心しちゃった』

男(まず以前というのはいつ頃の話なのか。胸が張り裂けそうというのは、俺がどうしようもなく、残念で、悲しい気持ちになっていた?)

男(当時……というか、以前の俺は、何かに悩み、大きな決断をしようとしていた、とか。何に? 勿論、自分のことだ。自分がよく分かっている)

男(美少女たち、ハーレムを築くことだと見て間違いはないだろう。……ここでハッとさせられた)

男(俺は後輩と付き合っていた。それは何故か。あまりにも後輩との距離を縮め過ぎて、イベントも、何もかもが、回避できなくなったのではないか)

男(または、後輩へ接している内にこの俺の気持ちが揺らぎ始め、目的を放棄してでも、彼女一人を愛そうとした)

男(これならば男の娘の話とも辻褄が合う。おそらく精神的に参っていた結果、ぽろっと、彼へ弱気な言葉を吐き出してしまったのだろう)

男(……もし、昨日の転校生イベントで気持ちを抑え込められず、彼女へ一直線に走っていれば、そして前回同様にハーレムを投げ出そうとしたら)

男(俺は同じ過ちを繰り返そうとしていたのである。本当に危なかった。この反省を生かさねば、でなければ、乗り越えた転校生にも申し訳がつかなくなる)

男(見ているがいい、前回の俺よ。この俺に妥協はけしてないのだ。お前のような失敗を犯す事もなく、ハーレムルートをかならず達成してやろうではないか。誓って、そうする)

男の娘「あ、あのさ、男? 良ければ男の部屋を見せてほしい……ってダメに決まってるよね!? 僕ってば変なことを」

男「(そういう風に言われて断る奴も中々いない。この娘、できる) そうだな。クッキー作って帰れってのも酷いし、場所変えて、猥談でも楽しもうか」

男の娘「ちょっと、そういうのはぁ~……///」

男「ほら、着いて来いよ。案内してやるから (下ネタで責め続ければ、きっと、いやほとんどの美少女たちは、気まずさから逃走するだろう。場合によっては上手く働くかもしれない。というか、言って困らせてやりたい俺が、ここにいるのだ)」

男の娘「ここが男の部屋なの? なんか思ってたより可愛いね」

男「その感想は予想してなかったな! この漫画で塗れた部屋が?」

男の娘「うん。あっ! ねぇねぇ! これとか読ませて貰ってもいいかなー」

男「好きなの取って読めよ。見られて困るもんは簡単に見つからんからな」

男の娘「困る物? ……あっ」

男(察した男の娘は二、三度わざとらしく咳払いして本棚へ目をやる。真っ赤にてれってれなのは分かっているぞ、男の娘よ)

男(さて、おそらく、また何の考えもなしに美少女と密室に入って、こいつは反省の無いバカ野郎ではないか、と思っているだろう?)

男(そんなわけがあるか。二度はない。今日も昨日と全く同じ状況下へ置かれているのだ。この俺が考えなしなんて、ありえん)

男(もし彼が、我慢の限界と発情して飛び掛かってきた場合、回避の方法は、転校生以上に思いつく。それもこれも彼女のお陰ではあるが)

男(そもそも、まず今日彼を自宅へ招いた目的は、彼との関係をヒートアップさせることにあるのだ。飛び付いてくるのであれば、それに越したことはない)

男(リビングより狭い、この6畳半の部屋で、彼と俺の距離は更に狭くなる。すれば、男の娘から、あの話を振って来るだろうよ。だって学校でも、外でも聞けない、滅多にないチャンス。それを俺がわざわざ、彼の為に作ってやっているのだから)

男の娘「ごめんね。せっかく遊びに来たのに漫画読んじゃったりして。しつれいだよね」

男「いや、構わないさ (そちらへ集中して貰えれば、それだけ俺が冷静に、ゆっくりと思考できるのだ。……最も、男の娘が俺を意識して、集中なんてできていないだろうが)」

男の娘「こうして友達の家に来るのって久しぶりだなぁ。それも[ピーーーーー]……」

男の娘「あの、また今度も遊びに来てもいい?」

男「悪いなんて言うわけないだろ。いつでも来てくれよ、お前なら大歓迎だ (友達か。確かに部屋へ家族以外の誰かを入れるのは久しぶりだ)」

男(彼は、美少女の一人として見ているが、それでも同じ男なのだ。素直に友達として、こうして接していられていることを、幸福に感じられる。だが)

男「(男の娘、お前は友ではない。俺を愛するホモだ) お前は唯一の男友達だしな、気軽に呼べるんだよ」

男の娘「……そうだね。良かった、僕も嬉しい」

男の娘「…………[ピーーーーー]」

男「どうかしたか?」

男の娘「ううん、何にも。別に、なにも……」

男(非情に徹するのだ。情など今この場では必要ない。心を鬼にして、戦わなければならない)

男(背中は押してやったぞ、男の娘。あとはお前次第で展開は大きく変わる。友達から、恋愛対象として、俺へ意識させてみるがいい。帆を揚げるのだ)

男(それを、俺は叩き折ってやるから)

男の娘「……男、ちょっと話いいかな」

男「ああ、大丈夫だぞ (こちらの迎撃準備は既に整っているからな)」

男(覚悟完了。そして予想しよう。次にお前は「男の子が男の子を好きになるって変かな」という)

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー]……」

男「(予想を裏切らないでくれよ) どうしたんだ急に」

男の娘「えっとね……ちょっぴり思っただけ……」

男(ビンゴ、かどうかは分からんが、上手く張った罠へ掛かってくれたらしい。さて、彼の勇気を無碍にはできない)

男「(ここからは俺の仕事だろうよ) そうだなぁ、同性愛とか最近よく話聞くけど。まぁ、どうでもいいんじゃないか?」

男の娘「どうでもいい?」

男(俺を見据え、両手を組んで頻りなくモゾモゾと動かしている。拒絶されるのを恐れている心理の表れなのか。椅子から男の娘の隣の位置へ移動し、彼の逃げ場を奪ってやった)

男(あえて自分から切り出しづらい状況を、ここで作る) どうでもいいってのは、個人が好きに考えれば良いってこと」

男「感情なんて自分じゃどうしようもない。人に言われて、無理矢理奥底へしまう、なんて俺には難しいと思うぞ」

男の娘「えぇ?」

男「ああ、そこまでは聞いてないよな。とにかく、俺はな、そいつの好きにしたらいいんじゃないか、と思ってるわけだ」

男「だから否定もするつもりはないね。何度も言わせてもらうが、人は人だ。…んー、これがもし俺の立場ならどうなんだろうなぁ? (そう言って困ったように笑いかけてやれば、男の娘も釣られ、口元へ手をやって乙女チックにクスリ)」

男の娘「ふふっ、男はポジティブというか。その前向きな考えは僕も見習いたいなぁ」

男「じゃあ見習えばいいんじゃないの? お前の自由だ、好きにすればいいのさ」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーー]……///」

男(走りだしは最高。このまま俺から攻め続け、彼が反撃にかかったその瞬間、そいつを狙って叩く)

男(やはりまだ、あまりイベントを発生させていないキャラというのは攻略が容易い。予想外に動き回ることがまず無いから。彼の言動からその行動を読むのもわけないだろう)

男(だからといって天狗になれば、痛い目を見せられるのが、この俺。細心の注意を払って、男の娘を、限界まで、ここで落とす)

男の娘「[ピーーーーーーー]……[ピーーーーーーー]……[ピーーーーーーーーーー]…………[ピーーーーガーーーーーーーーー]」

男(スルーで。無理に拾おうとはしない。「え?何だって?」は、ある状況下において、いわゆる諸刃の剣と化すのだ)

男(気軽に訊き返しみれば、思わぬ反撃を受けかねないし、自分を窮地に立たす可能性も存在する。そして、何より、自分で訊き返しておいて、それが腹立たしい。ムカついてしようがないのである)

男「(それは、きっと彼女らも同じだろう。無神経になるのも程々に、ご利用は計画的に) なぁ、男の娘。どうして訊いたのかって質問は野暮か」

男の娘「だから、ふと思ったから……なんて誤魔化しは男には通用しないんだろうね」

男の娘「……お、男ぉー!! じ、じつは」

男「うわあああぁぁぁ~~~~~~!!?」

男の娘「ひっ……な、何!? どうかしたの!?」

男「……いや、何でもないんだ。気にしないでくれ、はは、ははは…」

男の娘「う、うん? そっか」

男(実際本当に何でもない叫びである。俺は主人公。全ての展開と状況は、この俺が掌握する事ができるのである)

男(邪魔をされた男の娘は、せっかく勇気を振り絞って言い出そうとしたのに、と残念そうで、そして決まり悪そうで)

男(だが、そのような後腐れ悪い気持ちで帰らすつもりは毛頭ない。そんな俺は、彼の元気を呼び起こす、ある行動へ出たのである)

男「もし嫌なら言ってくれていいんだけどさ、男の娘ってなんだか可愛いな」

男の娘「……はい?」

男「その、女の子みたいというか……なんて言ったらいいのかな……」

男「もしお前が女子なら、絶対お前に気があったと思うぞ。俺は」

男の娘「もし僕が女の子だったら……?」

男「だからといって、局部を切断して来いと言っているわけではないから勘違いしないでくれ」

男の娘「あっ、ばかー……///」

男(言われて彼も思ったことだろうよ。もし自分の性別が違えば、彼もきっと振り向いてくれる。だからこそ、どうにもならない今が、とても悔しい、と)

男「まぁ、何だかんだ言って、俺はお前だから好きなんだろうな。悪い、変な話振っちまって」

男の娘「ううん、気にしてないよ。あははっ……ねぇ、男」

男の娘「僕、なんだか切ないかも……どうしてだろ……」

男(その原因についてはお前は当の昔に気づいているだろう。そいつを逆手に取って、攻撃を仕掛けてきたのか)

男の娘「つらくて、胸が絞められるように苦しくなって、自分でも自分が分からなくなっちゃうんだ」

男「それって病気じゃねーのか?」

男の娘「病気……うん、一種の病気なのかもしれない。でも、どうやって治していいのか分かんないや」

男の娘「男……男ぉ……///」

男(男なのか女なのか、どうでも良い。もはや性別すら超越した色気を纏った表情、否、全身をこの俺へ向けて、彼は自身の左胸を強く抑えるのだ)

男(見惚れていれば、いつのまにか、男の娘の手が俺の手を取っていたのである。そして、自らの胸へ持って行き、当てた)

男の娘「くるしい、くるしいよぉ……とっても……[ピーーーーー]」

男「お、おう……」

男(何度も言うが、実に彼が艶めかしく見える。胸に置かれた俺の手が、彼の心臓の高鳴る音を聞いていた。というか、この身体の華奢さに、手の小ささ。このまま触っていて良いものだろうか)

男の娘「[ピーーーーー]、[ピーーーーーー]、[ピーーーーーー]……ひかないで、おねがいだから」

男の娘「落ち着くまで、こうさせてて///」

男「あ、ああ。お前がそれで助かるなら別に……?」

男の娘「どうして、どうして[ピーーーーー]くれないの……どうして……[ピーーーーー]……」

男(返す言葉が全く見つからないし、出てこなかった。ああ、俺まで切なさ乱れ打ちになってくるではないか)

男「男の娘、そろそろ落ち着けたか?」

男(そっ、と彼の胸から手を離せば、涙目で、しかし、それを振り切って無理矢理目を細めて笑うのであった)

男の娘「うん……もう大丈夫、だよ」

男の娘「ごめんね、いきなり変なことして困らせちゃって。ビックリしたよね」

男「まぁ、驚いたけど、別に困りはしねーよ。よく分かんなかったがお前が元気になれたなら良かった (突き離すのは簡単だが、それによって尽く心の傷はいつまでも塞がりそうにない。俺も、彼も、である)」

男(淑やかにもう一度微笑んでみせると、男の娘は立ち上がって自分の荷物を手に持ってしまった。今回はこれで終いだろうか)

男の娘「僕、そろそろ帰るね。今日はほんとに楽しかったし、嬉しかった。また……きっと一緒に遊ぼうね、男///」

男「ああ。あっ、途中まで送るよ。この辺慣れてないだろ?」

男の娘「あぁ~! い、いいよっいいよっ! 全然大丈夫だから! こ、ここでいいって…」

男「それは失礼だろ。じゃあせめて外までは見送らせて……うわぁあああー!?」

男の娘「えっ……あうっ!」

男(その場から立ち上がろうとすれば、都合良く足が痺れていたらしく、思わぬラッキースケベの発動だ)

男(勢いで、彼を壁まで押して行き、そのまま追い込み、壁に手をついたのであった。俺というか、彼の逃げ場が、塞がれた)

男の娘「…………あっ、あの」

男「違う!! こ、これは……」

男の娘「うぅ……顔近いよぉ……[ピーーーーー]///」

男(確かに近い、近すぎる。別段狙っていたわけでもない事もあり、流石の俺も動揺を隠せずにいたのだ。硬直し、そのままの体制で動けない)

男(男の娘もなのだ。彼も、突然の嬉しいハプニングに内心歓喜しながらも、恥じらい、けして目を合わせようとしなかったのである)

男(いつまでもこうしていても、どうしようもないではないか。すぐに退いて、彼を帰さねば)

男(孔子曰く、過ぎたるは、なお及ばざるが如し。今回、俺は彼と二人きりになる事に対し、固執し過ぎたのだろう。そして、その場として、我が家を選んでしまったのだ)

男(それどころか自室へまで連れ込む。問題ないと思っていた。まさか、なんて、予想外の展開が待っているとは、思いもしなかった)

男(どうも最近の俺はついていないらしい。なるほど、不幸な主人公、か。原因は、やり過ぎ、なのだろう)

男の娘「男? あの、机から何か落ちたよ……あれって写真」

男「は? (言われて彼から一旦目を離し、机から床へ落ちた、それ、へ向いた。確かに写真。写真でしかないが、俺にとっては、見られて非常にまずい物だったのである)」

男の娘「前に転校生さんのこと撮ってたやつ? あの時の興味あるから、見せてもらっていい?」

男「ダメだっ!! 絶対にみ」

男の娘「……なにこれ」

男(あああああああああああああ)

男(男の娘は、俺の腕から逃れ、落ちた写真たちを既に回収し終えていた。そして、それ等を一枚一枚、疑わしげに確認していく)

男(美少女たちが写し出されている、それを)

男の娘「…………」

男(この場合、上昇した好感度にどう影響を齎すのだろうか。だって美少女たちの写真である。物によれば、ほとんど盗撮のような形で撮影したのもあるのだ)

男(何故このような写真を撮っていたのか? 後輩から受け取ったインスタントカメラで撮影したことは察せられるだろう)

男(手に入れたのは、昨日、転校生の家から帰る途中でだ。そこまではどうでもいいのか。撮影した目的、それは、もしもの時を考えていたから)

男(後輩との思い出は消え去ってしまったが、彼女と撮り合った写真だけは残っていた。ならば、もしまた、この俺の記憶が消失してしまった時、同様に、写真だけは残ると思ったのだ)

男(記憶を失った俺がそれを発見するかは分からないが、もし手にとって確認して貰えれば、現在で攻略可能となっている美少女たちを正確に判断することができる)

男(そして、一つの実験でもあったのだ。美少女たちの写真の裏には、それぞれに対応されたメモと、その実験の確認方法を記しておいた)

男(それで、少しでも俺が俺自身への役に立てるなら、たとえ今の俺がミスを犯そうが、次の俺へバトンを繋げられるように、と。俺からの贈り物である)

男(写真どころか、裏のメモまで見られた時、男の娘は俺を完全な変態か狂人として、見る目が変わってしまうのではないだろうか)

男の娘「男、これ……」

男「あ、あ (何と弁解すれば良いのだろう。神よ、ああ、神よ、迷える子羊はここに在るのです)」

男の娘「僕を撮ったやつもある……それに、僕の妹のも」

男「……何だって?」

男「いま、お前の妹って言ったのか? 俺のじゃなくて? お前のだって?」

男の娘「…………」

男「やましい気持ちで訊いてるんじゃないんだ。教えてくれないか……誰だ……どいつだ!?」ガシッ

男の娘「い、いたいよ……」

男「あ、あぁ……すまん……でも、気になって……ほんとに変なこと考えてるわけじゃ」

男の娘「……これ」

男(彼が指し示した写真の中には、突然撮影されたことに驚いている後輩の姿があった)

男「後輩……あいつが言ってた兄貴ってのは、男の娘……かっこ、いい兄? ……いや、本当に?」

男の娘「ほ、本当だけども……嘘じゃないよ。聞いてなかった? …まぁ、僕も妹とはあまり話しないんだけどさ」

男(ここになって驚愕の事実が判明したのであった。男の娘は後輩の兄であり、そして後輩は男の娘の妹だったのである)

男(まさかの姉妹丼、否、兄妹丼を食おうとしていたとは思いもしなかった。どちらも美少女だが、まるで似ていないのだ)

男(ああ、何故こんな場面で発覚するのか。まさか、俺は兄妹と知っておきながら、男の娘に隠れて、後輩と付き合っていたのか。どうなのだ)

男(脳がめちゃくちゃにシェイクされているような、とにかく混乱だ。写真の中にいる後輩と、目の前に立つ男の娘を、何度も見比べることしかできなかった)

男の娘「ねぇ、あまり聞いて気持ちよさそうな話じゃないけど、教えて」

男の娘「どうしてこんな写真を撮ってるの?」

男「それは……あの…… (避けられまい。やはり逃げ場を失ったのは、この俺の方だったのだ)」

男「……わかった。正直に話すよ、お前だけに (だいぶ濁すがな)」

男「俺、最近の記憶が曖昧になってるんだ。ここ数日間は、その前の記憶が全くなかった状態でさ」

男の娘「えっ」

男「こ、こんなことを急に言われても困るよな。でも、事実なんだ。怖くて、誰にも言えなかったから。そもそも信じて貰えるなんて思えないし…!」

男の娘「信じるよ」

男の娘「僕、男の言う事は全部信じたい。だって[ピーーーーーーー]だから」

男(天使かこやつや)

男の娘「続けて。ううん、全部僕に話して? できる限りなら僕も相談に乗るし、協力したいよ」

男「ありがとう、男の娘……(そして、すまない)」

男の娘「そうだったんだ。転校生さんが転校して来たその日から……つらかったよね」

男(楽しかったです、だ)

男の娘「思い返してみれば、確かにあの日は僕と会っても誰か分かってない様子だったような。び、美少女とか言われたし///」

男の娘「ていうか、悪いこと言うけど……前にもそんなことがあったよね? 少し前、幼馴染さんがこっちに引っ越してきた辺りに」

男「前? (彼の言葉が本当だとすれば、以前の俺も、今の俺のように、記憶を失っていたのだろうか)」

男(先生、後輩。2人。2人だ、難聴スキルが発動しない2人と照らし合わせれば……予想通り、俺はこの世界を、少なくとも三回は繰り返しているではないか)

男(前回は後輩ルートで終わり、前々回は先生ルート。もしかすれば、その前にも何かあるのかもしれないし、やはり無いのかもしれない)

男(つまり、今の俺は[ピーーーー]なのだろうか。……そしてである。俺や先生、後輩の記憶は無くなっても、他の美少女たちの記憶まで消えているわけではないようだ)

男(以前、幼馴染と出会いの話を聞いたが、男の娘同様に、しっかり、まるで本当にそうだったかのように話してくれた。その時は別世界のもう一人の、パラレルな俺の存在、という線を疑っていたが)

男(本当は、この俺自身が、彼女らとのイベントを、体験していたのではないだろうか。記憶が消失しているだけで、最初から、この身で、全てを体験していて……そして)

男(ハーレムを築けなかったのも、この俺自身だったのでは)

男(ループではない。違った、ループしていたのは俺一人だった。この世界は、俺を除いて、そして完全攻略された美少女を除いて、常に回り続けていたのだろう)

男(それも、皮肉にも、この俺を中心にして)

男(言ってみれば、先生と後輩は完全に記憶は失っていなかった。彼女たちの話は全て事実であり、確かに俺とイチャついていたのだろう)

男(考えれば考える程、疑いたくもなってくる。実は世界、神に騙されているのではないかと)

男(それでも、謎は繋がり始めたのである。繋がって、合致した。それが俺にとってどうでも良かろうが、無かろうが)

男(……ここから考察すれば、今回もし俺がハーレムの道を外れたとき、再び記憶を失ってふりだしへ戻るのだろう)

男(だが、心配し過ぎることもない。それまでの努力は全て、彼女たちに刻まれる。だから、美少女たちは、した覚えのない約束を覚えていたり、部に入れようと取り合いをしたり、いつものなんて適当な返事にも応えてみせた)

男(しかし、美少女たちは良いとして、まさか両親の海外出張は今回初めて発生したのだろうか。ゲームを有利に進められるよう、神からの粋な計らい? バカな、そいつは裏目に出て、かなり苦しい思いをさせられた)

男「……ありがとう。お前のお陰で色々分かってきた」

男の娘「思い出せたの?」

男「そういうわけじゃ」

男の娘「そっか……ねぇ、もしかして、最近僕の妹の出掛ける頻度が落ちたのって」

男の娘「その、男に、関係あるかな」

男「は?」

男の娘「僕、妹から話は直接聞いてないけどさ……よく見てたんだ。男と妹が仲良く話していたところ」

男の娘「それどころか、外で一緒に歩いてるのも見たことある。ほんとに仲良さそうにしててさ」

男「……関係があるかは分からないが」

男の娘「そうかな。だって突然だよ。ほんとつい最近なんだよ? 前まであんなに一緒にいたのに、今はあんまり見かけなくなっちゃったんだ」

男の娘「たぶん、それって男の記憶が無くなっちゃった日からじゃないかな……」

男(見られていただと。前回の俺はとんでもないミスを犯してくれたな。見ろ、この有り様ではないか)

男の娘「もしかしたら僕の妹に原因があった……わけじゃないか。その前からなんだよね」

男「ああ、たぶんな。 なぁ、もう少し前の話とかは覚えてないか? 覚えてる範囲で」

男の娘「……僕ね、どうしてだろう。男と妹があまり会わなくなって、[ピーーーーーーーーーー]」

男(「安心した」とかだろうか。気持ちは分かるが、いまそのような話をされると気まずくなるだけではないか。堪えてくれ、男の娘よ)

男の娘「ねぇ、たぶん男は僕の妹と前に付き合っていたんじゃないかな。ううん、きっとそうなんだよね……」

男「……どうだろうな」

男の娘「……記憶が戻ったら、男はまた妹が好きになる?」

男「……ど、どうだろうな」

男(空気が一気に張りつめ始めた瞬間だった。こんな事を誰が予想できる? 予想外すぎた。ありえるものか、こんなの)

男「とにかくだ……最悪の場合、また俺は今の記憶を失うかもしれない(勿論そうなるつもりは無いが)」

男「その事態を恐れた結果、俺と関わりのある人間を写真に収めてたんだよ」

男の娘「じゃあ裏に張ってあるメモは思い出す為のヒント?」

男「(さすがに確認された後だったか。言い逃れはできない) あ、暗号式のな……こういう子ども染みた事するの好きなんだよ……気にするな」

男の娘「そう、信じるよ」

男「(こちらからもそう願いたい) ありがとな」

男の娘「写真については大体わかった。それと、男が抱えてる問題も、ちょっとだけだけど」

男「あのな? 無理に俺の問題に首を突っ込むことはないんだぞ。知って貰えるだけで、こっちは精神的に助かるんだし」

男の娘「でも、結局最後は困るよね。…えっと、僕なんかに何ができるかは分からないけど、手伝わせて。お願い……」

男「(そんな顔して頼まれては、断れない。というか断る選択肢がなかったのだ) 分かった……協力してくれ……でも、もしかしたら病院に行けば治」

男の娘「というわけで、この写真はもう必要ないよね? それに持ってると滅茶苦茶あやしいよ、男っ」

男の娘「男の妹さんにバレちゃったときは言い訳も大変でしょ」

男「まぁ、大変というか変態扱いは間違いないが……おい、まさか」

男の娘「勝手でごめん。だけど……これ、処分しよう? ね?」

男(こういう時の悪い予感ばかりは的中率100%。運命は時に厳しい、である)

すまん。続きは木曜か金曜に

男(心配する気持ちからなのか、嫉妬からなのか、そんな事はどちらでも構わない。それに写真とメモを今処分されようが、思っている程痛くもないとは思う)

男(だってこの俺が今回でハーレムをしっかり築ければ良いのだから。順調とは言えないが、自信はある。これまで以上のヘマは起こすつもりもない)

男(しかし、これは予防線でもあった。転校生のラブレターを覚えているだろうか? もし彼女の策に嵌まり、どうしようも無くなった時のことを考えれば、後へ繋ぐ保険というかバトンが欲しいのだ)

男(……では、写真は諦めるとしてメモぐらいならまた書き直せる。それは同時に男の娘の気持ちを裏切る意味になるのだがな)

男「どうしてもか。どうしても、ダメ?」

男の娘「……普通に考えたらこういうのは良くないかなって思う」

男の娘「もしまた男が自分の記憶を亡くしちゃったら、僕が責任持ってフォローする。支えになるから」

男「気持ちはありがたいが迷惑になるだろ。いくら友達だからって、そこまでのことは」

男の娘「[ピーーーーーーー]……全然迷惑なんかじゃないんだよ。そ、それに僕は男に[ピーーーーー]」

男(必要とされたがっている。安心するのだ、お前はもう俺にとって無くてはならない一人なのだから。心配は要らないのに)

男「……分かった。負けたよ、俺はお前に支えられる事にした」

男の娘「ありがと、男……すごく嬉しいよ……!」

男「こっちの台詞だよ。お前がこんなに俺を思ってくれていたなんて思っても無かったんだしなぁ」

男の娘「ずっと[ピーーーーー]だったよ、ずっと、ずっと……だから[ピーーーーーー]……」

男(結局は彼へ今までの記録を全て渡す羽目になってしまったわけだ。しかし、何故だろうか。それが今となっては不安に感じられた)

男「(バトンを失った心配ではない。……男の娘を信用していないわけではないのに、どうしても彼へ対しての疑心が拭えなかったのである) なぁ、ほんとに写真もメモも処分しちゃうのか?」

男の娘「えっ……あ、ああ、うん。しっかり処分しとく……だ、だって残っていても怪しいだけだし」

男「捨てなくても、お前がこっそり保管して隠し持っていてくれたって」

男の娘「それでもし見つかっちゃったら?」

男「そうだよな、お前が変に思われるよな……最後に一つだけ聞かせてほしい。これが最後の質問だ、正直に答えてくれ」

男の娘「わ、わかった」

男「お前、さっきの俺の記憶喪失の話。本当に、一つの疑いもなく、大真面目に、信じているのか?」

男の娘「言ったでしょ? 男の言葉は全部信じるって」

男「(こんな改めて勘ぐりたくなるような言われ方をされても、彼は「信じる」と躊躇い無く即答したのであった。この気持ち、本物である) わかった。じゃあ俺もお前を信じるよ」

男の娘「うん! えへへっ、二人だけの秘密ができちゃったね……?」

男(分かっている事だが、男の娘は俺が大好きだ。恋愛感情を抱いている。その気持ちは、他の美少女たちにも負けちゃいない)

男(それ故に、実の妹へまで嫉妬心を抱いた形跡があったのだ。そして、今は彼女と俺の付き合いが薄くなったと知って、安堵していたのだ)

男(……俺はこれ以上、美少女を疑うような真似をしたくはない。だから、彼を裏切るような事もしないだろう。メモは、要らない)

男(だから、男の娘よ。お前もこの俺をけして裏切らないでほしい。今日、お前と秘密を共有したという出来事を、絶対に後悔させないでくれ)

男「ああ、俺たちだけの秘密な。誰にも言うなよ? お前以外にバレてないんだから……」

幼馴染「男くん、今日なにか特に食べたい物ある? リクエスト応えるよ~」

男「じゃあ、いつもの奴」

幼馴染「また? あたしもっと色々作れるよう練習したんだけどなぁー……ふふっ、わかった。いつもの作るね」

妹「お鍋食べたかったぁ!」

男「明日でも友達と一緒に食べてきたらいいだろ。遅くなるのか?」

妹「うーん、その時次第! でもお兄ちゃんも明日友達と出掛けるんでしょ?」

幼馴染「えへへぇ~……///」

妹「あれれー、どーしてそっちが反応しちゃう……?」

男「そうだなぁ、俺も場合によっては帰りが遅くなるかもしれん。なるべく夕飯時には戻るようにするけどな、お前たちと夕飯取りたいから」

妹「なんで……別に無理しなくて……[ピーーーーーー]///」

男「やっぱり家族と一緒の方が気が楽だろ? 変に畏まる必要もないしさ」

男(と、隣で転がる妹の頭へ手を置いてやれば、可愛らしいはにかみ笑いを見せてくれたのである。まるで愛玩動物。俺だけの)

男「なぁ、幼馴染。どうして、いつもの、で毎回シチューなんだ? ……この質問おかしい?」

幼馴染「えっ?」

幼馴染「覚えてないの?」

男「すまん」

幼馴染「つい最近の話だったのに……前におじさまとおばさまが家を留守にした時、あたしが初めてご飯作りにきたじゃない」

男「それって長期で俺の父さんたちが家を離れていた?」

幼馴染「ううん、確か結婚記念日だったかで男くんが気を効かせて、たまには二人で食事してきたらどうだー? って急に」

男(なるほど。たぶん、それは幼馴染か妹、もしくは二人のイベントを発生させる為に、前の俺が図った事だったのだろう)

妹「それで幼馴染ちゃんが代わりにご飯作ってくれるってなったんだよねー。お兄ちゃんは物忘れ酷いなぁ、お爺ちゃん以上だよ」

男(そもそもでその記憶事態が抜けているのだ、妹ちゃんよ)

男「で、その時にシチューを振舞ってくれたと?」

幼馴染「うん。一番自信ある料理だったから……[ピーーーー]///」

幼馴染「そしたら、二人がとっても美味しいってくれて。いつもこれ食べたいって言ってくれたんだよ? ふふっ…///」

男(その光景を思い出しているのか、紅潮した頬に両手をあてて満面の笑みを浮かべていた。かなり好感度を上げたイベントだったのだろうか)

男「だから、いつもの? 俺がそう決めたのか?」

幼馴染「そうだよ~! 男くんてば、こういうの憧れてたって満更でもなさそうにしてて……かわいかったなぁ~うふふっ♪」

男(バカ、可愛いのはお前だ、と声を大にして言ってやりたいのである)

男(いつもの、の由来は置いておくとして、やはり彼女たちの記憶は引き継がれたまま、この俺だけがまっさらな状態になると見て間違いはないのだろう)

男(そういえば、同じように神から別世界へ連れて来られた委員長はどうなのか。といっても、彼女の目的自体は俺の物とは異なるし、やり直し、とかがあるとは思えない。代わりに、自分というキャラを徐々に忘れていって、新たな、風紀委員長系美少女へ改変されているのだろう。意識すら残ることがなければ確かに恐怖ではあるかな)

男(この俺はある条件を満たすか、失敗するかで記憶の消滅。ある意味でのループ。そう考えれば、何度も俺は死に続けている。形は違えど委員長と似たような状況だ。不便だし、鬱陶しいとは思うが、それが神が俺へ与えられた役割なのだろう。個別ルートへ入り、一人の美少女とイチャつくだけでは留まらせない)

男(完全にギャルゲーの男主人公と、ゲームを攻略するプレイヤーの融合体。それで構わない。むしろ好都合だと思わなければ、永遠にモテ続けられて、様々な美少女たちと好き合えるのだから。なるほど、モテる、確かにだ。普通ではないが、かなりモテる)

男(委員長も自分が置かれた素晴らしい環境を堪能したらいいのに。……彼女はまだ大丈夫だろうか、彼女のままなのだろうか)

男「そういえば、これ作ったんだ。二人で食べてくれないか?」

幼馴染「これってクッキー? ……男くんが作ったの?ほんとに? お店で買って来たんじゃなくて?」

男「おっ、店で売られてる物に引けを取らないレベルに見えるか? 結構自信あるんだぜ」

妹「うそ。きっと味は最悪なんだよねぇ……だってお兄ちゃんのだし」

男「お前には絶対やらない。幼馴染、一緒に食べようか」

妹「やぁあーっ! 私も食べるもん、一緒食べるもん!! ダメーっ!!」

男「じゃあ素直に美味しそうと言え」

妹「私が作ればもっと美味しくなるけど、まぁまぁ美味しそうだねっ」

男「素直って意味分かるか、お前?」

妹「ふーん!」

幼馴染「あっ、美味しい……男くん! これ本当に美味しいよ! 男くんが作ったって思えないほど!」

男「ありがたい感想だ、皮肉効いてて最高だよ」

男「で、お前はどうなんだ。美味いんだろ? 誉めてくれて構わんぞ~?」

妹「こんひょふぁわひゃひがおなひふっひーふふる」

男「何だって? 飲み込んでから言えよ、汚い (クッキーを口いっぱいに放り込んでモゴモゴとさせる妹。どうやら気に入ってくれたらしい)」

妹「んぐっ……今度は私が同じクッキー作る。絶対お兄ちゃんのより美味しいんだから!」

男「お前、そこまで張り合わなくても」

妹「いいのっ! だ、だって、こんなに美味しかったら私が惨めだもん。……それに[ピーーーーーー]///」

男「はぁ?」

妹「うーっ……! と、とにかくっ、絶対お兄ちゃんより美味しく作るの! だから幼馴染ちゃん教えてください!」

男「結局他人頼りかよ」

幼馴染「うん、全然おっけーだよ。一緒に美味しいの作って男くんを見返してやろっか!」

妹「うんっ! 約束だよ!」

男(まるで姉妹のような二人。普通の姉妹ではない、どちらも見惚れる程な美少女である。ほのぼのとしたこの空気が心地良い。永遠にしたい。だからこそ俺にはハーレムが必要)

男(三人仲良く食事を済ませ、妹が風呂へ向かったタイミングでだった。幼馴染がどこからか取り出した服を自分に重ねて、俺の前に立つのである)

幼馴染「買っちゃった……フリフリのやつ///」

男「いや、買っちゃったとか言われてもなんて反応したら良いのか (きっと似合うから明日のデートに着て行けば?)」

幼馴染「変かなぁ……じゃあこっちのやつは!? またスカートだけど」

男「あー、いいんじゃないか? ていうか俺より妹に聞けよ。女の服とか分からないんだからさ」

幼馴染「分かんなくてもいいの。 お、男くんの好みの服着て行きたいから……[ピーーーーー]」

男「ぐふぅ (随分と強気に出てきてくれたものだ。既に彼女面か? 生意気め、愛い奴よ)」

男「俺に明日着て行く服を選べって? 別に俺に合わせなくても自分の好きな奴着ればいいだろ。俺もそうするし」

幼馴染「だって! す、好きな人と、出かけるんだよ……」

男「え? 何だっ……あ、ああ (そういえば、告白は済んでいるようなものだった。何故妙なところを逃して難聴が働いてくれないのか)」

幼馴染「それにあたし地味だから……不良女ちゃんに笑われない恰好で行きたいし……」

男「笑わねーよ。仲良いんだろ? 一々そんな事気にしてる方が笑っちまう。自然にしてろよ」

幼馴染「そうかな……そうだよね……なんか焦っちゃってたのかも」

男(不良女ばかりに目がいって、自分を見てくれない事を恐れたか)

幼馴染「ほんとに、今回は急にあたしが来てごめんなさい。二人の時間を邪魔しちゃうようで」

男「邪魔じゃない。お前、何か勘違いしてないか? 別に明日は特別な意味がある事を予定してたわけじゃないんだぞ」

幼馴染「でもね男くん。やっぱり男の子が女の子と二人だけでってのは、特別だなってあたし思うよ。……それに[ピーーーーーー]が、なんだもん」

幼馴染「あたし、酷いかな。たぶん、[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]知ってて、二人の間に割って入ろうとしてるの」

幼馴染「今さらそんな風に考えても遅いよね。でも男くんが来るなって言ったら行かない……[ピーーーーーー]」

男「いつまでもウジウジと……せっかくあいつが誘ってくれたのに (ただし、そうするように仕向けたのは俺だが)」

男「勝手にお前があれこれ考えて頭こんがらがせるのは構わないけどな、それ聞かされる俺の身にもなってみろ」

男「お前が俺の事が好きなのは分かってる。保留してる俺が最低だってことも。全部だ!」

男「それが気まずくて、お前のことを嫌いになったのなら、こうして一緒にいないだろ。明日だって、一緒に行く事を拒否できただろ」

幼馴染「う、うん」

男「それと、俺は自分を好きになってくれた奴に嫌がらせるような男か? 幼馴染として今までどう見えてた?」

幼馴染「[ピーーーーーーー]……ごめん、変なこと言って困らせちゃって……自分でもわけ分からなっちゃって」

男「大丈夫。俺も自分でわけ分かんないこと言ったから。つまり、お相子だ!」

幼馴染「あ、あははっ……ふふ……そうだね……!」

男「それから幼馴染! ……俺はそっちの服が良い」

幼馴染「うん、これ着てくねっ……///」

男(さて、同時に二人の美少女相手にデートか。できる限り今までの自分で通して行きたいが、はたして上手くいくだろうか)

男(こうなってしまった原因は俺にある。あるが、これを機に二人の好感度を限界まで上げられれば万々歳なのである)

男(幼馴染も、不良女も、互いが互いの気持ちをおそらく理解していることだろう。どちらも、この俺が、好きなのだという)

男(幼馴染はそれを知って引け目を感じ始めている。というか、最初からだろう。そして不良女はまた別なのだ)

男(たぶん、彼女は自分は身を引いて、俺と幼馴染をくっ付けようと要所で行動を起こしてくるに違いない。これに対して鈍感な俺は、気づかない体で流れるとする)

男(きっと不良女は心痛めるだろう。俺に、そして自分が取った行動に。以上を想定した結果、彼女へ勝負をかけるならば、デート終盤が望ましいと判断した)

男(……さて、約束の場所へ来てみれば、そこには誰もいなかったわけだが)

男「まさか二人して俺を騙したとかじゃないだろうな……!?」

男(とは言ったものの、緊張のあまり予定の時刻より早めに着いていたのだ。まだ二人が現われなくても不思議ではないだろう。と思いきや)

?「両手をあげろ!!」

男「はぁ!?」

?「後ろを振り向くな! 死にたくなければ言う通りにしろ!」

男「……お前、一々ガキ臭い奴だな」

男(気にせず振り向けば、普段より小奇麗で、以外と言えば以外、質素に纏まった服装の彼女が、指で銃の形を作って俺へ突き付けていたのだ)

不良女「あぁ!? くそっ、ばーん!! ほら、お前いま一回死んだからなっ! へへっ……♪」

不良女「な、何だよ……リアクション取ってくれなきゃ恥ずかしいだろ……」

男「てっきり黒ジャージにキティちゃんのサンダル履いて来るかと思ったが、割と真面目な恰好してるな」

不良女「はぁ? 意味不明なんですけど。……て、ていうか、服似合ってるかな? ど、どうよ?」

男「ああ、似合ってる似合ってる」

不良女「適当に言うんじゃねーよ! これでも一生懸命2時間はかけて選びぬいたんだからな!」

男「2時間って、どうしてそんなに張り切ってるんだよ?」

不良女「そりゃだって……お前と……[ピーーーーーーー]だし……[ピーーーーーーー]たし……」

不良女「殴んぞコラっ!? ///」

男「どういう心境からそうなるんだよ!? (よく見ると髪型も少し違っていた。きっとこの日の為に昨日のうちに美容院へでも行って来たのだろう)

不良女「にしてもあんたにしちゃ早く着いたねぇ。てっきり30分は遅刻すると思ってたよ」

男「アホ。俺は時間には厳しいんだよ、自分にも他人にも。そんな初歩的ヘマは起こさん」

男「大体、それ言うならお前の方が以外だな。俺より先に待ってただろ。いつからいた?」

不良女「さ、さっき来たところだよ……別に1時間も待ってなんかいねーし! …たたたっ、楽しみ過ぎてっ、朝からワクワクなんてしてねーし!?」

男「お前嘘つけない性格だよな。悪い、待たせて (ワクワクしている様子を頭に思い浮かべれば、こちらはホッコリさせられた)」

不良女「いい! 許す!」ニコニコ

男「で、今日はどこ回るか決めてあるのか?」

不良女「あんたさぁ、普通そういうのって男の方で考えるんじゃないの……」

男「デートならまだしも、今日は妹へのプレゼント選びだろ。それにお前が色々教えてくれるって言うから」

不良女「あぁ~……そうだった、あんたってそういう奴だったよねぇー……」

男(溜息をすれば、俺へ向けてジト目をしてみせる不良女。なるほど、悪くない。これをおかずに、ご飯三杯はいけそうだった)

不良女「まぁ、いいや。あたしもテキトーに色々行くとこ考えといたからさ。任せとけ~!」

男「なぁ、最初から任せっきりにするつもりだった、って言ったら怒るか?」

不良女「言ってんじゃねーかタコ!! ていうか幼馴染は? あんたと一緒に来ると思ってたんだけど」

不良女「ていうか家が隣なんだよな? い、一緒に来たら良かったのに……」

男「(まさか幼馴染がいないこの状態から攻撃が開始されるとは思わなんだ) 俺も結構今日が楽しみだったからさ、早めに来ちゃったんだよ。だって見ろよ、約束の時間まであと30分はあるぞ?」

不良女「えっ……[ピーーー]、[ピーーーーーーー]……///」

男「ん? すまん、聴こえなかった。いま何て言ったんだ?」

男(わざとらしく訊き返せば、無言で頭を叩かれてしまった。力んでいたのか中々響いたではないか。で、叩いた本人はといえばだ)

不良女「っ~~~……///」

男(思わず鼻血が出そうになっちゃったのである)

男(ギャップに弱い自分を見つけてしまった。とはいっても、先輩の時に似たような経験はしたのだが、不良女の雑な照れ隠しには正直見て胸踊った。躍動するのだ)

男(落ち着こう。デートはまだ始まってすらいない。ペースを握るのはこの俺だけで良い。思わぬカウンターには注意せねば……と、彼女とイチャついていればやってくるのが、大天使幼馴染である)

幼馴染「あれ、時間って……あたし間違ってたかな? あ、あれれ」

男(想像以上に昨日選択した服が素晴らしかった、否、服を着た彼女が素晴らしいのだ。町中を歩いていれば、誰もが目を止めてしまいそうな、俺はなんと恐ろしいものを降臨させてしまったのだろう。ああ、天にまします我らの父よ、乳よ、乳袋が、此処に、あったのだ)

不良女「あっ、あ……うぁあああ……[ピーーーー]……」

男(隣で俺へ倣って幼馴染へ見惚れ、そして落胆する不良女。彼女だって全く劣ってはいない筈なのに)

幼馴染「あの~……時間は……」

不良女「はっ。 ぁあああ、ま、間違ってねーよ! 全然大丈夫! むしろあたしらが早く来すぎてたぐらいだし!? 丁度予定ピッタリだよ!?」

不良女「負けた……絶対負けたぁ……ぐすっ」

不良女「やっぱ帰ろうかな……」

男「何でだよ!?」

幼馴染「そ、そうだよ。まだ始まってもないのに! 一緒にお買い物しようよ! ね?」

不良女「……うん」

男(こうして雲行き怪しげに見えなくもない美少女二人に挟まれデートは開始されたのであった。隣に山あり、壁あり。いや、全くの壁というわけではないが比べると、とにかく嬉しい状況にあることに変わりはない。一日たっぷり堪能させて頂こうか)

不良女「なぁなぁ、これ可愛くないかなぁー! あたし買って帰っちゃうかな!?」

幼馴染「うん!すごく良いと思う! あっ、このマグカップなんかも」

男「妹へのプレゼント選びを手伝ってくれるんじゃなかったのか。そして俺が完全に置いてけぼり食らってるんだが?」

不良女「まだ時間はあるだろ? それにプレゼントも探してるっての」

男「俺はアクセサリーとかって言っただろ?」

不良女「ん、それなんだけど、家族からアクセサリーはなんか重いわー」

男「重いってなんだよ……!」

不良女「どーせあげるにしても安モノだろ? じゃあ安くても可愛くて普通に使える奴のが、絶対嬉しいと思うわけ」

男(言われてみれば確かに一理あるのだろう。というか、このデートの題目は妹への誕生日プレゼント探しとしているが、実際別にそこはどうでも良い。そして俺は妹の誕生日なんぞ全く覚えていないのである)

幼馴染「それもそうかも。だったら雑貨とかで済ますのもありじゃない? 手帳なんかも」

男「あいつに手帳持たせるほど予定ギッシリ詰まってないだろ? いや、待てよ……」

妹『私的には毎日楽しい予定が入ってる方がいいのー! 充実した毎日送るのがモットーぉ!』

男「(なんて台詞がふいに思い出されたのだった) 手帳、良いかもしれんな」

幼馴染「ほんと? じゃあ妹ちゃんに似合いそうな可愛い手帳探そっか」

男(当初は適当にプレゼントらしき物を買って済まそうとしたが、真面目に渡すのはアリかも知れない。妹の好感度を上げるのは確かなのだから。それも程々にしなければ痛い目を見るが)

不良女「ついでにあたしたちにも日頃の感謝の気持ちってことで、なんかプレゼント頂戴ね~♪」

男「幼馴染にはまだしも、お前に日頃の感謝なんぞ……」

不良女「あっ……あ~、そうだよなぁ! じゃ、じゃあ幼馴染に何か買ってやりゃいいんだよ! 良いアイディアだろー!」

男(ミスった、わけではないか。まだ修正できる範囲だ。……と悪い顔して改めて策を練っていれば、不良女がこの俺の肩へ腕を乗せて、絡んできたのである)

男「(ふわっとした髪が頬へ触れ、彼女の顔が近づくたび、甘い匂いが香るたび、俺は前屈みになっていたのだった) な、なんだよ?」

不良女「もしここであの子に何か買っておいてさ、帰りにサプライズつって渡したらかなり喜ぶぞ」

男(この、耳元で囁く感じが、どうにも苦手となってしまった。嫌ではないが、あの時の感覚を思い出して、全身が興奮に震えている)

不良女「あんたならあの子へプレゼントやる口実なんていくらでも思いつくでしょ? やりなって。こういう細かい事でも好感度上がるから」

男「(やらずとも現在進行でガンガン上昇中) はぁ? 何言ってんだよ、お前?」

不良女「いいからあたしの言う通りにしてきなって……ほら、幼馴染滅茶苦茶可愛いぞ? あたしなら絶対彼女にしてる」

男「……そっちの趣味だったのか?」

不良女「違ぇよッ!!! バカ……と、とにかくあの子に内緒でこっそり何か選んどけ。あたしも協力するから」

男「協力するも何も、お前なに変な事企んでんだよ。俺は別に」

不良女「[ピーーーーーーー]……っ」

男「え? いま何て」

不良女「……ほんとにバカだよな、あんたも、あたしもさ」

不良女「[ピーーーーー]。じゃあそろそろ次行こうぜ、さっきの、忘れんなよな?」

男(全くもってそうだ。不良女よ、お前は本当のバカだと思うぞ。もはやお節介が過ぎるとかではない、自分の気持ちを誤魔化してまで、友人の幸せを願うのだから)

男「(だから好きなのだ、そんなバカが) ちょっと幼馴染と一緒に先に行っててくれ。気になる物見つけたからさ」

不良女「おぉ~? さっそくですかぁ~? ふふっ、わかった。あの子はあたしに任せてゆっくり選んでなよ」

男「ああ、そうさせてもらおうじゃないか……」

幼馴染「二人ともー、さっきから何話てるのー? ここ食器しかないんだけど」

不良女「あー! そうだったかもー」

幼馴染「ん? あの、手帳は……」

不良女「そうそう手帳だよね! うん、手帳見てくるか! 男、あたしら先にあっちの方見てるからなー!」

男「ああ、すぐに追いつく」

幼馴染「え? えっ?」

男(不良女と俺のノリに、小首を傾げて困惑する幼馴染の頭を撫でてあやしてやりたい。が、先にやる事があるのだ)

男(俺は黙って彼女たちを見送り、商品棚へ目を向ける。この中に、彼女が、満足してくれる物があるかどうかは分からんが。ここからは、この俺自身のセンスの問題となるのだろう)

また明日

男(しばらくして二人の元へ追い着くのだが、俺抜きでも楽しそうにしているではないか。二人の気持ちと葛藤を知っていただけに、安心させられてしまった。ああ、もしかすれば、俺がいない方が、彼女たちは幸せでいられるのでは……?)

男(なんちゃってヒーローの苦悩みたいで、少し、自分に酔ってしまうのである)

男「どうせまた脱線してたんだろう? 俺が見てないのを良い事に」

幼馴染「ああ、男くん。用事済んだんだ? 手帳もちゃんと見たよ?」

不良女「で、今はカードケース。へへ、これなんか色合いも悪くないし、いいんじゃね?」

男「勝手に予定変更されても困るんだが。……あの、もう買う奴決めたし買って来ても」

不良女「ばっか! そんなすぐ決めたら面白くねーよ!」

男「すぐじゃねーだろ! かれこれ2時間は色々見て回ってんだぞ!? 腰が痛いのっ」

不良女「えぇ~……ほんとダラしねぇヤローだなぁー」

幼馴染「大丈夫? ちょっと何処かで休憩しよっか? 丁度、お昼時だし、ご飯も兼ねて」

男「そうしてくれると嬉しい。お前ら、よく飽きずに長々と立って見てられるな……あーしんど」

不良女「うぇっ、年寄りくさぁー……別にこんなの普通でしょ? 滅多に外出てないからそうなんじゃねーの?」

男(当たらずと雖も遠からず、だ。買い物なんぞ密林で適当に済ますこの俺が、こうして店まで赴いたのは、全て美少女のお陰とも言えよう)

男「(美少女たちが、俺を、変えてくれたのだ。実際問題で、彼女たちは俺にとって救いの天使だろうよ) よーし、お前ら何食べたい? 付き合って貰ってるの俺の方だし、奢るぞ。 好きな物言ってみろよ」

不良女「牛丼?」

男「ブーーーーッ」

不良女「あ、あぁ!? どうして笑ってんだよてめぇーっ!!///」

幼馴染「もう……牛丼、あたしも好きだよ。じゃあ男くん置いて二人で行って来ちゃおっかなぁー?」

男「女子高生二人で牛丼食うさまも、それはそれで見てみたいが、俺を除け者にすんのは勘弁願いたい」

不良女「[ピーーーーー]。じゃあ、何だったら文句ないんだよぉ……ラーメン?」

男「不良女の思考回路というか好みって男寄りなのな……幼馴染は?」

幼馴染「あたしは特に何でも構わないけれど」

男「幼馴染、お前俺に散々「何でも」が一番困るって言ってきただろうが」

幼馴染「ん~、たまにはこっちの気持ちも分かって貰おうかなぁーって。 ふふっ♪」

男「あー…分かった。みんなの意見をまとめた結果、ファミレスで各自好きな物を頼む、で決定」

幼馴染「無難~……?」

不良女「ファミレスぅ~……?」

男「ほんっとにお前らどっちも面倒な奴らだなっ!!」

幼馴染「ほんとに全部奢ってくれるの? たぶん遠慮しないけど」

男「俺はお前たちを信じるからな」

不良女「うるせー♪ 言ったからには満足するまで注文させて貰うからなぁ、ししっ」

男(とは言うものの、結構遠慮して比較的安めの物を注文してくれている。が、安心させておいて、二人は最後のデザートに勝負をかけるつもりだったようだ)

男(女子との付き合いというのも中々苦労させられる。だが、財布が軽くなるぐらいがなんだ。それで美少女たちの微笑ましいやり取りを、見ていられるのなら、である)

男「……あぁ、風俗にハマったオヤジの言い訳だコレ」

幼馴染「あたしちょっとトイレに行ってくるね」

不良女「うい~……なぁ、プレゼント決まった? もう買ったの?」

男「プレゼント選びならさっき一旦中断したばっかりだろうが」

不良女「バカ、ちげーよ。ほら、あの子にあげる奴のこと! 時間稼いだんだからゆっくり見れたでしょ?」

男「まだ言ってんのかよ……大体、どうしてそんなに俺が幼馴染へプレゼント贈るのに拘ってんだ?」

不良女「[ピーーーーーー]……日頃の感謝の気持ち、とか。だってあんたいつもあの子の世話になってんだろ? 少しはお礼の一つしなきゃ」

男「それは俺の勝手だろ。まぁ確かに感謝してるけど……別に今すぐじゃなくたって」

不良女「思い立ったらなんとか!!」

男「が、吉日。お前も転校生見習って日本語勉強し直せ、ア・ホ・め」

男「ていうか、思ってすらなかったよ。今日は妹のだけだ。幼馴染にはまた今度な」

不良女「ダーメっ! それぜったい効率悪いから!」

男「効率気にする系ヤンキー美少女。新ジャンルを見た……」

不良女「はぁ? ……ていうか、転校生ってそっちのクラスにこないだ来た子?」

不良女「話したことあんのか? どんな子だった? 噂によると、初日からクラスの誰かとデキてたって話が!!」

男「ぶふぅーーーーーーっ!!」

不良女「ひゃああぁ~~~っ!!? な、なにジュース噴き出してんだよぉーっ!?」

男「……いや、すまん。たぶんその噂はデマだから気にしてやるな (良かった、俺との噂が彼女の耳にまで届いていなくて。危うく転校生へも被害が及ぶ所だっただろう)」フキフキ

男「って、ほんとにすまん! お前の服にまでジュースかかっちまってる……!」

不良女「へ? あ、あぁー!? うそぉ……買ったばっかのお気に入りだったのに……あーあ」

男「く、クリーニング代出すよ。とりあえず上着ぬいどけって」

不良女「はぁ!? あっ、えぇ……それはちょっと……///」

男「放っておくとシャツにまで染み込んじまうぞ」

不良女「分かってんだよ、そんなの……でも[ピーーーーーー]、[ピーーーーー]……」

男「いいから脱げって! ほら! (ぐふぅ、だんだん、自分がやらしく思えてくるではないか)」

不良女「わかった……でも、[ピーーーーーーー]」

男「はぁ?」

不良女「絶対に笑うなよ!!? 笑ったらあたしここで泣くからなぁ!!」

男「いやー、泣かれたら困るんだけど……と、とりあえず分かったから」

不良女「ちょっと、向こう向いてろ……まだ見るなよぉ……見たら殺す……っ」

男「結局あとで見る羽目になんだろ。まったく……もういいか?」

不良女「[ピーーーーーーーー]」

男「え? 何だっ…………何だと」

男(つい、いつもの癖から訊き返すのに相手へ振り向いてしまうのだった。不良女の制止の声も間に合わず、俺は、それを見た)

男「マジかよ! お前そのTシャツって、キルミーのプリント入ってるじゃねーか! スゲェーッ!」

不良女「はうっ……っぐ~~~……やぁっ、見ないでよぉー……///」

男(思わずいつもの気だるさ纏う無気力系主人公キャラが、崩れてしまったのである。だって俺は、一人の、キルミストなのだから)

男「いやっ、よく見せてくれよ! 公式販売のじゃないな、それ!? まさか不良女が自分で作ったのか!?」

不良女「ジロジロ見んなぁ! ……そ、そうだよ。あたしが作ったんだよ。こういうの、慣れてるから[ピーーーーー]///」

不良女「あ、あんたに[ピーーーーーーーーー]と思って……でも、見せるのは[ピーーーーーーー]から……その、その……///」

男(そういう事だったのか。再度、俺は罪作りな男だと確認させられてしまった。俺は、美少女を、俺色に、染めていたのである)

男(走りだした衝動は、ちょっとやそっとでは、止まらないのだが。俺は身を乗り出して、赤面する不良女が着たTシャツを、鼻息荒げて凝視し続けたのだった)

男「た、頼む。手で隠さないで……よく見せてくれ……すごいな、こんなの見たことがない……あぁ、色合いも良いし、(プリントの)張りも、形も悪くないぞ 不良女……」

不良女「あっ、あっ……恥ずかしいから、そろそろ///」

男「ダメだ。せっかくなんだから、俺にもっと見せてくれよ……何も恥ずかしくなんてねーよ……こんなに可愛いのに!」

不良女「おい……周りも見てるから……[ピーーーーー]……それに、あ、あたしが恥ずかしいし……お願い、やめようよ……」

男「それにしても随分(プリントが)大きいな。でも、これぐらいが丁度良いかもしれない……お前の(Tシャツ)最高だよ、不良女……俺は好きだなぁ……ぐへへへ」

不良女「っー……///」プルプル

幼馴染「男くん、何してるの」

男「えぇー? あぁ、幼馴染戻ってきたのか」

幼馴染「何してたの……」

幼馴染「こんなところで、男くんは、何をしてたの? ねぇ?」

不良女「お、幼馴染ぃー……うぅっ!」ギュゥ

幼馴染「不良女ちゃん……よしよし、恥ずかしかったんだよね。もう大丈夫だよ」

男「え? (え?)」

男「(その後、幼馴染への弁解には一苦労させられたのは言うまでもあるまい。珍しくラッキースケベから、スケベ、が抜けたというのに) お前たちほんとに遠慮しないで色々注文してくれたな……やれやれ」

幼馴染「最初にそう言ったでしょ。もう、変な事してると思って怖かったんだからね?」

男「その話引き摺るの止めにしようぜ (何より、幼馴染の目が笑っていないのが、一々肝を冷やさせるから)」

不良女「さーて、ご馳走になったとこで次はどうすんの? さっきの店戻る?」

幼馴染「そうだね。早めに決めちゃって、その後みんなでどっかで遊ぼっか!」

男「いや、別にプレゼントについては後に回してくれて構わんぞ。どうせ俺の問題だしな」

不良女「え? でもいいのかよ。男のことだし、忘れてたー、とかなるの目に見えてんですけど」

男「ないない。ほら、行くぞ。そうだなぁ……ゲーセンとか?」

幼馴染「ほんとに大丈夫なの、男くん? 無理してあたしたちに合わせなくても」

男「俺は俺が楽しめる事を優先にしか考えない奴だ。無理も遠慮もしてない。ダメか?」

幼馴染「ダメじゃないけど遅くなったら……」

男「(俺には策があるのだ。その為にも、初めから優先順位は決まっていた。だから、そんな彼女の腕を掴んで、無理矢理進むのである) いいから、ほらっ」グイ

幼馴染「わぁ! ……[ピーーーーーー]///」

不良女「あっ……」

男(そんな俺たちの姿を見て、複雑そうな不良女であった。直接見たわけでもないが、きっとそうだと分かる)

男(勿論、ゲームセンターなんて一人で来る機会はあまりない。ゲームなら家ですれば良い、何より周りが騒がしいと落ち着かないから)

男(そんな俺が自ら進んで、美少女連れ回し、こんな所へ訪れた。周りの男どもの視線が、一気に、こちらへ集中したのは実に気分が良かったのである)

幼馴染「ゲーセンなんて久しぶりに来たかなぁ……ちょっと音おっきいね」

不良女「でもこれがなきゃキターって感じしなくね? あっ、なぁなぁ! UFOキャッチャーやれよ!」

男「やろうじゃなくて、やれ、なのな。特に目ぼしい物もないし、見るだけにしとけよ。金の無駄だぞ」

不良女「ゲーセン来といて金の無駄はないだろー。相変わらずつまんない奴だなぁ……ねぇ、幼馴染なんか欲しいのある?」

幼馴染「あ、あたし? え~っと……これかわいいかも」

男(ショーケースに張り着き、大きなぬいぐるみをホワホワした顔で見つめていた。その様子に俺もホワホワしていれば、不良女が俺を引いて、こっそり耳打ち、されれば今度はゾクゾク、だ)

不良女「取れ」

男「はぁ?」

不良女「アピール、アピール! あの子喜ばすチャンスだってば」

男「また……どうして今喜ばせなきゃいけないんだよ。幼馴染も十分楽しんでるだろ」

不良女「かぁーっ、だからアホなんだよ あんたって……ほんと[ピーーーー]」

男「え? すまん、周りの音が大きくてよく聴こえなかった」

不良女「……と、とにかくだよ! 取ってやりなって」

男「だからどうして俺がなんだよ。お前が取って……チィッ! (段々と白々しく演じる自分に嫌悪心というか、腹立たしく思えてきたのだ。思いっ切り殴り飛ばしてやりたいな)」

幼馴染「あっ、もしかして…これ取れちゃった…?」

男・不良女「は?」

幼馴染「やった……やったよぉー! 男くん、不良女ちゃーん! ぬいぐるみ取れた!」ピョンピョン

男「……もうあいつ一人で良いんじゃないかな」

不良女「お、おぉ~!! やるじゃん、普通難しくてできないのにぃ!! ……先越されてんじゃねーよっ」

男「越すも何も本人で勝手に取ったんだろうが!?」

幼馴染「見てみて! すごい柔らかく気持ち良いの! えへへ~っ……♪」

不良女「[ピーーーーーーーー]……」

男「ん? また何か言ったのか、不良女?」

不良女「なっ、何も言ってねーよ! あー……うー……」

男(彼女の視線を辿れば、そこには幼馴染の腕に抱かれたぬいぐるみの姿在り。実は、自分が取って欲しかったのだろう。やはり俺の予想は間違ってなかった、不良女は可愛い物好き設定か)

男「欲しいのか? あのぬいぐるみが」

不良女「うえぇ!? どうしてそうなんだよ! べ、別に欲しくなんかないし!」

男「そうか? にしては、さっきから物欲しそうに眺めてるように見えんだけどな」

不良女「ば、ばかじゃねーのっ……///」

不良女「大体、あたしはぬいぐるみとか卒業したから……似合わないもん……」

男「別に、似合う似合わないなんて気にする事ないと思うけど? 似合わなかったら持ってちゃダメなのか」

不良女「うー……だって[ピーーーーー]」

男「はぁ、やれやれだな。素直じゃないと損するぜ (自分で言って、自分が痺れたのであった。カッコいい、もとい、照れちゃう)」

男「どれ、俺が取って」

幼馴染「不良女ちゃん。これ、不良女ちゃんにあげる」

不良女「えっ」

男(おや?)

幼馴染「ほら、不良女ちゃんにプレゼント。なんならリボンもつけてあげよっか?」

不良女「いや……でも、いいの? せっかくあんたが自分で欲しくて取ったのに」

幼馴染「あたしがいつそんな事言ったかな? 可愛いとは言ったけどね」

幼馴染「いいの。あげるったらあげる! 欲しくないなら、男くんに売っちゃうよ?」

男「どうして俺に限っては売り付けてくるんだよ」

不良女「……あ、ありがとう///」ギュウウ

男(似合わないわけがないではないか。彼女は美少女、それを抱きしめ、顔を埋めれば、ファンシー美少女に早変わりだったのだ)

男(いやしかし、仲良きことは素晴らしきかな。二人も先輩と生徒会長のような、いや、それ以上に存分と仲を深め合ってくれたまえよ)

男(……そんな微笑ましい場景と思いの裏で、俺は嫌なことを考えてしまった。幼馴染、まさかお前は、先手を打ったわけではないだろうな)

男(俺の行動を先読みし、先に不良女へのプレゼントを確保した。そうすれば、少なからず、ここでカッコつけた俺が、彼女の好感度を上げるようなことは無くなる……)

幼馴染「これね、耳のところがフワフワして触り心地良かったよー」

不良女「あっ、ほんとだ……ふわふわする……///」モミモミ

男(待て、俺は少し疑心暗鬼になり過ぎている。何故幼馴染を嫌な風に考えてしまったのだ。屑、クズすぎるだろう)

男(こうして思ってしまっただけで、彼女を悪と立て、自分を正当化しようとするなんて。だから、俺はいつまで経っても俺なのだ)

不良女「おい! ……特別に、あんたにも触らせてやる。[ピーーーーー]///」

男「お前相当嬉しかったんだな」

幼馴染「…………」バン、バン

不良女「あの子ってあんなにゲームするの上手かったの? ていうか、凄い真剣なんですけど……」

男「ああ、俺や妹に毎回付き合わされてたからな。今は俺たちの方が手加減される立場だよ」

不良女「ほえー……完璧人間……やっぱ、あたしじゃ[ピーーーーーーーー]……」

男「ん? 何か言ったか?」

不良女「い、言ってないっ! それよりアレ見ろよ、最高スコア出したんじゃねーの!?」

幼馴染「出しちゃったよー」

不良女「うっそ! ねぇねぇ、マジでだって! もうあの子の独壇場じゃん!!」

男「どくせんじょ……まぁ、いいか。転校生に教えてやれる良い例えが見つかったな」

幼馴染「男くーん、あたしもう腕あげてるの限界だよ~……代わってくれない?」

男(頼みつつも決して、画面から目を離さない彼女と、その気迫は凄まじかった。台詞こそのんびりさせているが、動きと合致していないのである)

男「ああ、分かった。タイミング良いところで銃渡してくれよ」ス

幼馴染「い、いまぁっ!! あっ……」

男「俺のタイミング合わなかったな!? ……えっ」

男(銃型のコントローラーを俺へ即座渡そうとしたが、俺はそれへ反応できず。そして勢い良く動いた幼馴染が、よろけて、さぁ、ラッキースケベ発動なのだ)

男「い、痛っ……ん? この柔らかい感触は」ムニ

幼馴染「ひゃっ……///」

不良女「あああぁぁ~~~!!? ああぁ~~~っ……///」

男(状況説明、俺に倒れかかってきた幼馴染。下敷きになり、潰されるも、幼馴染の体を支えようとして、掴んだものは、やはり彼女の豊満な胸である)

男(オカルト研や先輩には大きさは劣るが、けして悪くはない柔らかもっちり、だ。少なくとも転校生以上はあるであろうそれを、俺はしばらく楽しむ。誰だってそーする)

幼馴染「あっっ……っはー……はぁぅ!///」ピクッ

男(彼女は官能的、熱を帯びた小さな声で、俺の上で喘ぐ。このままでは、俺が、まずいだろう。不良女へ助け舟を出そうとした瞬間)

男「ふ、不良女! たすけ」

不良女「…こんのっ、ドアホぉぉぉ~~~ッ!!」

男(たぶん、力いっぱいで、顔面へ蹴りが入れられたのである。意識が朦朧とした中、最後に目にしたのは、画面に大きく表示されたゲームオーバーの文字と、群がるゾンビたち)

男「…………ん」

男(目覚めれば、頭の下にはほど良い弾力ある柔らかな感触。どうやら、俺は寝かされているらしい。ベンチの上?)

幼馴染「おはよう。起きた?」

男(開幕から早速、俺を見下ろす天使の顔がそこにあったのだ。柔い感触の正体は、彼女の太ももだったようだ。これもある意味ラッキーか)

男「鼻がズキズキ痛む……ここはどこだ。まだゲーセンの中?」

幼馴染「そうだよ。鼻痛むの?」

男「まぁ、いた」

不良女「ごめんっ!! ほんっとに、ごめんなぁっ、男ぉっ!!」

男「寝起きに騒がれると頭に響くんだが……別にいい、気にしてないよ」

不良女「あっ、あっ……あ~……え、えっと! これで冷やせ! まだ凍ったままだから冷たい!」

男(と、俺へ渡されたのは、おそらく、家で凍らせてきたスポーツドリンクの入ったペットボトルである。本当に彼女に不良が付く意味はあったのだろうかな)

男「そんなに心配しなくても大丈夫だって。気絶なんて滅多に経験できないからな。良かったよ」

不良女「よ、よくねーよバカぁ! どうしてそんな能天気やってられんだよ……[ピーーーーーー]」

男(ここで彼女のパニックを宥めなければ、高確率で解散か、家に帰られてしまうと見た。今は下手に煽ってやるより、優しくしてやるのが第一だろう)

不良女「あたしっていつもこうだよ……荒っぽいし、ガサツで……後先考えなくて」

不良女「だから[ピーーーーーー]なのかな……ごめん」

男「気にするなって言ってるだろ? 大体、さっきは俺が幼馴染に変な事したんだし、お前は何も悪くない」

不良女「でも頭蹴ることはなかったろ!? い、痛かったよな!?」

男「ご褒美みたいなもんだね」

不良女「ばっ/// こんな時に何ふざけてんだよぉ!」

幼馴染「男くんって、変態……?」

男「らしいな。 ほら、別に事故にあったわけじゃねーんだからこれ以上心配するなよ。逆に俺が心配させられるぞ」

男「ありがとう、不良女。気持ち良かった」

不良女・幼馴染「…………」

男(軽蔑の眼差しが痛い、自然に距離が遠のいた気もするが、俺一人の犠牲でこの場を持ち直せるのならば、安い)

不良女「ねぇ、あんた頭蹴られておかしくなってないよなぁ……?」

男「それでもお前と学力テストで競ったら負ける気はしないけどなー」

不良女「はぁ!? そ、そういう問題じゃねーだろ!! やっぱバカのままだっ、こいつ」

幼馴染「ふふっ、みたいだねぇ」クスッ

男「これがプリクラ……」

不良女「初めて見ましたみたいな顔してるけど、あんたってもしかして何百年前からタイムスリップしてきた人?」

男「かもな (こんな男にプリント倶楽部なんぞ体験した過去がある筈がなかろう。実際にカーテンをくぐろうとすれば、思わず躊躇ってしまった)」

不良女「良かったなぁ~? こーんなに可愛い女の子二人とプリだぜー? あんたは幸せもんだよって」

幼馴染「か、かわいいって……恥ずかしいなぁ、もう」

男「ふん、お前らだってこの俺と写れることを感謝しろよ? 実際満更でもないんじゃないか?」

不良女・幼馴染「……///」

男(でしょうな)

男「ていうか、写真撮るのにどうしてこんな高い金払わなきゃなんないんだよ! これ、まさか証明写真にもなんのか?」

不良女「ってフツー思うよなぁ? 前バイトの面接で代わりに使ったら、それで怒られた……」

幼馴染「普通は思わないかなぁー……それよりフレームとか背景とかどうしよっか? 適当で良い?」

不良女「ん~、テキトー一番」

男(手慣れた手つきで二人はパネルを次々とタッチしていくのだ。置いてけぼりを食らって暗い俺と、楽しげに笑う彼女たち。完全に、二極化しているのはご覧の通りである)

男(ワケの分からないまま撮影が始まり、二人はまた慣れたようにこなし、俺といえば、「はいポーズ☆」……美少女の背後で霊のように映った直立の俺が、とりあえずピースしていた)

男(昔から写真に写されるのは、あまり得意ではなかった。しかし、そんな俺が喜んで撮られていた。プリクラに? 違う、あの子から)

?『せーんぱいっ。 ふふっ、また変な顔撮れちゃいましたよ』

?『わ、私の顔なんて撮らないでください! いつもみたいに雲ばっかり写せばいいのに……[ピーーーーーー]///』

?『……あまりに真剣な顔だったから、つい撮っちゃいました。……私もあなたのことが[ピーーーーー]です。ううん、[ピーーーー]になっちゃったんです』

?『[ピーーーー]……先輩が、すごく[ピーーーーー]……あなたの隣にいると、[ピーーーーー]で[ピーーーーー]になるんですよ……』

男(あれ、[ピーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

不良女「あぁー? おい、さっきより酷い顔してんぞ、男。いまボーッとしてたでしょ?」

男「えっ、ああ……すまん……ていうか何回撮影あるんだよ!?」

幼馴染「次でラストだよ。よし! 勿体ないから最後ぐらいカッコよく写ろうね、男くん! ……まぁ、そんな事しなくても[ピーーーーーーー]けど///」

不良女「…………」

男(ベタベタに撮れた写真を誉め讃えるアナウンスの、次の言葉を待てば、ついに最後の秒読みが始まるのだった。3、2……ここで、彼女が、動いた)

幼馴染「えっ? ちょ、ちょっと不良女ちゃん? わっ、わ……きゃあっ!」

男「えっ!?」

男(カシャリ、と最後の撮影が済み終えたらしい。そんな事よりも俺が驚いたのは、またまた突然の柔らかな感触に、である)

男(幼馴染の唇が頬へ触れたのだ。嬉しい、嬉しいし、願っても無いラッキーだが、何故こうなっているのか。……やはり原因は、不良女にあったのだ)

男(画面に写し出された写真で確認が取れる。大きく、俺と、キスする幼馴染の二人が写る中、カーテンから飛び出した彼女の後ろ姿が、それに残されていた)

幼馴染「ち、ちちちっ、違うの! い、今のは不良女ちゃんがあたしを押して……それで偶然、[ピーーーーーー][ピーーーーーガーーーーーーー]!?///」

男「落ち着けって、分かったから……おい、不良女!」

不良女「んー? いいプリ撮れましたかぁ~? へへっ、ナイスアシストっしょ」

幼馴染「うぅ……///」

男(徹底的に俺と幼馴染をくっ付けるつもりでいるのか、不良女よ)

男(これでは自己犠牲の塊ではないか。もはや敬意を表したくなる。……だが、最初から最後まで、お前は俺の予想通りに動いたぞ)

男(時間も、丁度良い。全てはこの俺が思うままに、だ)

幼馴染「もうっ! いきなりあんなの酷いよ!」

不良女「悪かったって。でも結構良い感じに撮れてんじゃん! ほら、早く落書きしよーぜ。……[ピーーー]、[ピーー]」

男(安心しろ、俺がお前をすぐに引っ張り上げてやる)

ここまで。明日かな?

男「え、これって携帯にも写真が保存できるのか?」

不良女「あんた真面目にいつの時代の人間やってんの? ほい、これ男の分ね。一生の宝にしろよ」

男(渡されたプリクラ写真の中では、やはり幼馴染との半キスショットが一際輝いていた。というのも、突然なキスの衝撃に、目を見開いた俺の瞳が、仕様によって不気味なほど大きくされていたからである)

幼馴染「男くんとの[ピーーーーーー]……」

不良女「ハートが良い味だしてるっしょ、これー? えへへっ」

幼馴染「か、からかわないでよ……不良女ちゃんは[ピーーーーーー]?」

不良女「ん? 何かいま言ったか?」

男(それはこの俺の台詞。しかし、幼馴染も嬉しさ半分戸惑いを見せているかな。彼女も、不良女の気持ちを知っているのだ。友人としては複雑だろう)

男(出し抜くつもりがなければ、だが)

男「お前らしいといえばらしいが、どうしてこんな事したんだ?」

不良女「ちょっとしたお手伝い。別に良いでしょ、二人とも悪い気してなさそうだしさぁ~」

男(それはそうだろう。だが、肝心のお前はどんな気分なのだと問いたい。しかしまぁ、無理して明るく振る舞うさまから、十分察せられる)

幼馴染「あれ、いつの間にかもうこんな時間っ」

男「すっかり日が沈んじまってるよ。結構長い時間過ごしてたみたいだ。……お前のせいじゃないからな」

不良女「ご、ごめん……」

男「バカ、嫌味のつもりで言ったんじゃねーよ。 さてと、疲れたしそろそろ帰るか?」

不良女「そうだなぁー……ってー! 今日のほんとの目的すっかり忘れてんじゃねーかよっ!」

幼馴染「あーあ、絶対こうなると思ってました。だから最初にあたしたち言ったのに!」

男(そうだとも、注意されたとも。そしてこう言い返してやったのを忘れたか)

男(俺は俺が楽しめる事を優先にしか考えない奴、なんて。 元々、プレゼント選びは真の目的ではない。では何だったのか)

男(不良女と二人きりになって、好感度を上げる、だ。 悪いが幼馴染、お前は、このリングから、降りてもらう)

不良女「どうすんだよ? 今からあの店へ買いに戻るかー?」

幼馴染「だよねぇ……ほら、男くん急ごう。買う物もう決めてあるんでしょ?」

男「それなんだけど、よく考えたらさっきのは少し趣味が悪い色してた。少し見直す必要がありそうだな」

不良女「はぁ!? 好き勝手言って一番優柔不断なのお前じゃねーか! バスの時間もあるし、あんまり遅くなるとキツいぞアホ!」

男「それより夕飯だなぁ……」

不良女「それより、は後回しなのっ!! おら、さっさと店戻るから」

男(そのとき、見計らったように、この俺の携帯電話が鳴った。きっと、鳴ると思っていたのだ。あまりにも、丁度良い時間だったからな)

男(腹も空かせてきた頃合いだったろう、なぁ 我が妹よ)

男「悪い、妹から電話かかってきた。いま出ても大丈夫か?」

不良女「妹って……まさかプレゼントのことバレたんじゃねーの」

男「いいや、たぶん違うな。……もしもし?」

妹『おーにーちゃーん……むぅ、帰って来たのに家の中真っ暗なんですけど……!』

男「思ってたより早いお帰りじゃないか。てっきり夕飯は外で食べてくると思ってたんだけど」

妹『えぇ!? だ、だってお兄ちゃんが家族で一緒に食べたいって言ったんじゃんかぁー!!』

妹『それに夕飯時には帰って来るって……もうその時間なんですけど!』

男「あぁ~…… (俺は素直な妹が大好きだぞ。素直に、俺の言う事を、真に受けてくれる、お前が)」

幼馴染「妹ちゃん、何て? もしかして先に帰ってきちゃったの?」

男「そうらしい。すっかり腹空かせてご立腹の様子」

不良女「あんたのとこ今両親いないんだっけ? じゃあ大変だよなぁ…どうすんの?」

男「帰って一緒に飯を食うと約束したばかりだから、一人で済ませろなんて寂しい事はさせたくない」

男「それに、あいつのプレゼントも今日中には見つけておきたい。……あー、やっちまったな。これじゃあゆっくり品を選ぶ時間もないか?」

男(これじゃあ、な)

幼馴染「んー……わかった。あたし先に帰って晩ご飯の用意しとくよ、男くん!」

男(ああ、そうこなくっちゃ。 俺の正妻ちゃん)

男「えっ、でも良いのか?」

幼馴染「良いも悪いも、妹ちゃんが家でお腹空かせて待ってるんでしょ。その代わり早くご飯冷めないうち早く帰ってきてね?」

男「すまん……すごく助かる、幼馴染……!」

幼馴染「ううん、気にしないで。せっかく妹ちゃんに贈るプレゼント選びに来たんだもん。収穫無しで帰ったらどうしようもないよ」

幼馴染「可愛い手帳買ってきてあげてねっ! それじゃあ不良女ちゃん、今日は楽しかった! また明日、学校でね!」

不良女「う、うん。あたしも楽しかったよ! また明日な、幼馴染ぃー……って早っ!? もういなくなっちまった」

男(幼馴染、彼女には申し訳ないがここで退場して貰った。彼女ならばきっとこう動くと分かっていたのだ。妹の為に、そして俺の為に)

男(妹をネタに策を張ったお詫びは、手帳をプレゼント、という形でかならず償おうか。予定されたもの全ては、無駄なく、使うという魂胆なのだ)

男「あいつの犠牲は無駄にはできん。これからあの店に戻るが、お前も付き合ってくれないか? 選ぶの」

男「って、時間もギリギリなんだよな……悪い、やっぱ一人で」

不良女「べべ、別に問題ねーぞ!! 大事な妹にやるもんだし、それに……一緒に探せって最初に頼まれてたから」

男「別に無理しなくても」

不良女「バカ! 無理してなんかないんだよっ! さっさと行くぞ! ……[ピーーーーー]」

男(幼馴染の勘の鋭さ、そして行動力は、この俺にとってかなり厄介である。しかし、誰が美少女と二人きりになる為だけに、妹の食欲をコントロールできると思うのか)

男(もはや妹に関しては自分の家族同然と感じていると見て間違いない。あの仲の良さからして、である)

男(そんな妹へ兄が贈り物をしたいというのだ。大好きな、男という兄が。 もし彼女が何故いまになってプレゼント?と思っても、不良女とデートする為の口実と怪しんでも、それをこの俺へ問い質しはしないだろう)

男(例え彼女が病んでいようが、だ。 そんな疑いをかければ、妹を想う兄の気持ちを踏み躙ることになる。そして、その行為自体によって、俺の好感度を、自ら下げてしまうことになるのだから)

男(幼馴染は賢い。そして良い美少女なのだ。まず、そんな打算的に動いているとは考えたくない。 だから、悪者は俺一人で構わん)

男(この俺を信じ、進んで退場してくれた彼女の為にも、あまり悠長にしていられないぞ。 与えられた時間内で一気に勝負をかけようか……)

不良女「たくっ、あんたがもっとしっかり計画立ててれば、こんなことになんなかったんだからな?」

男「悪かったって、反省してるよ。それにしても結局二人で選ぶ羽目になっちまったなー」

不良女「お、おう……[ピーーーー]で……///」

男(彼女を煽って、幼馴染を同行させてしまったが、上手く当初の予定通り運べた。 突然三人から、二人になったことで、より、俺の存在を意識する不良女)

不良女「そんなことよりぃ!!」

男「声裏返ってるぞ。お前、なに顔赤くしてんだ?」

不良女「あっ、いや……だって[ピーーーーーー]になったから……[ピーーーー]ちゃってよぉ……っ」

不良女「と、とにかく手帳だコラ! さっさと探すからなっ!///」

男「ああ、時間もないしなぁ!」

不良女「……つーかさ、どうして手帳にしたの?」

男「家族からのアクセサリーは重いんだろ。お前の言う通りだよ、安くて普通に使える物が一番嬉しい」

男「やっぱりお前を選んだ俺に間違いなかったな、不良女。細かい所まで気づいてくれてさ、ほんと助かってるぜ」

不良女「そんなことねーよ……あたしよりあの子の方がきっと役に立つもん」

不良女「幼馴染は、何でもできて、可愛いし、気が効くし……全然あたしなんか[ピーーーーー]」

男「(勝てる要素がない? そいつはとんだ大間違いだ) どうしてあいつと一々自分を比べんだよ? 関係ないだろ」

不良女「ないけど、あるんだよ……男には絶対わかんねぇ……」

男「そりゃわかんねーよ。勝手に悲観になっておいて、自分の中で完結しちまってる奴のことなんか」

男「お前、一日中ずっとそんな感じだったが、俺に言えない悩みか? ほんとは話せるのに、無理矢理我慢してるんじゃないか」

不良女「うっ! どうして[ピーーーーーーーーー]だよ……っ」

男「あのな、無理にそれを話せとは強要するつもりはない。別に俺が困るわけじゃないし」

男「だけど、いつまでも苦しそうにしてる奴が隣にいる俺の気持ちを考えてみろよ……おっ、これ良さ気じゃないか?」

不良女「あっ……うぅ……[ピーーーー]か?」

男「ん?」

不良女「だからっ!! あ、あたしが迷惑になってんのか!? 男の……[ピーーー]に」

男「やれやれ、どうして悪い風にしか考えられないかね。 だからアホなんだよ、お前……」

男「逆だ、逆!」

不良女「えっ」

男「それ以上言わせんな、恥ずかしいんだよ」

不良女「もしかして、男……あたしのことずっと[ピーーーー]くれてたの……?」

男「え? 何だって? それより話はいいが、お前もしっかり選んでくれ。色々あって迷ってきたぞ」

不良女「あっ/// わ、わかった……つーか! あたしだって、こう見えてさっきから真面目に探してんだからなっ!?」

男「どうだかねぇ。……なぁ、こんな俺だって人並みに他人の事は考える」

男「それも大切な人に関してならもっと」

不良女「っ~~~!!」

不良女「あんた……それってつまり、だよ? ……大切って……あたしのことが[ピーーーーー]///」

男「おっ、不良女ぁ~!! この手帳なんかどうだ。安くて可愛らしいだろー? へへっ」

不良女「あ、あぁ…………はぁー、男の[ピーーーーー]……でも……[ピーーーーー]。あはっ…!」

寝落ちしそうなんで短いけど今日はここまで

進み遅いところ申し訳ない。ちょっとした事情で今日から木曜まで休みますん

男(手帳を買う間、不良女には外で待つように言った筈だったのである。 では、何故いないのか)

男(たぶん、悪戯好きな彼女は、近くに隠れて俺を待っている。俺が店から出て、不良女を探していれば背後から)

不良女「わっ!」

男「うおおおぉぉぉ~~~!!? ……だからガキなんだよ、お前」

不良女「へへぇ、もしかして置いて帰ったとか思ったっしょ? ビックリした?」

男「えーえー、驚きましたよ。 ていうか何食ってんだ、それ」

不良女「ひふまぁん……んぐ、肉まん」モグモグ

男「普通、人が腹空かせてる時にそうやって抜け駆けするか!? しかも目の前で見せつけるとは残酷だ」

不良女「あんたは今から家帰って幼馴染のおいし~手作り料理だろ。羨ましいなぁー……ほんと、[ピーーーーーー]」

男(幼馴染の料理を、あわよくば彼女自身を食べられるのが羨ましい? 違う、この俺へ手料理を振舞えるのが羨ましい、だろう)

男「頼む、一口くれ……限界」

不良女「やだ、食べたきゃ自分で買って来いよなー」

男「もし、ここで俺が土下座してでも頼んだら、どうする?」

不良女「ばかっ、冗談じゃねぇからな!?」

男「やらねーよ。この俺がプライドをそんな事で安売りすると思ってんのか?」

男「……なぁ、先っちょだけ。先っちょだけでいいからさ」

不良女「ふーん……ほんとに、先っちょだけでいいんだ?」

男(知る人が聴けばやらしい話にも聴こえなくもないが。大体肉まんの先っちょとはどこを指すのか。……まぁ、それよりも時間が押してきている。詰めに入らなければ)

不良女「ん」グイ

男「お? なんだ、肉まんもう一つ買ってたのかよ? 結構食う奴だなぁ」

不良女「ちげーよ! ……やるから、バス来るまでここで付き合え///」

男(手渡された肉まんを受け取り、柱に寄り掛かれば、不良女も肩を並べるのだ。微妙な距離、というか隙間があるのが実にもどかしい。それとなく密着してやろうか)

男(なんて行動を起こそうにも、だった。隣にいる彼女が、緊張からか、黙って下を向き、肉まんをかじっている様子を見たら、もう少しこのままで良いのではないかと思えたのである)

不良女「[ピーーー]、[ピーーーーーー]? ……[ピーーーーーー]」

男(まだ煮え切らずな自分を責め立てているわけでもなさそう。 いや、もしかすれば、ここで勇気を振り絞り、それとなく自分の好意をアピールしてくるかもしれない)

男(そうすれば、タイミングを見計らい、適当なポイントで俺が割り込み、攻撃を開始するのだ。成功すれば後は知らんぷり、逃走。 これを、カウンター戦法とでも呼ぼうか。積極的な美少女たちが多い中では、これが俺の主なスタイルと定まっている)

男「(だが、攻撃させるにも、この状態では中々手が出し難いことは分かっているのだ。 つまり、ここで俺があえて無防備になるか、彼女の前で餌を垂らす必要があるという。では) なんだかんだ言って二つ買っておいてくれたんだな、これ」

不良女「んっ……あ、ああ……だってあたし一人で食べてんのもアレだし……し、仕方がなくだかんな!…感謝しろ」

男「別に一つで足りたんじゃないか。半分に分ければ良いんだよ」

不良女「一個全部食べなきゃなんかやだ!!」

男「食い意地張ってるよな。……おい、ていうかこれ肉まんじゃなくて、ピザまんじゃねーか」

不良女「どうせなら二つ別の味の方が楽しめるじゃん……[ピーーーー]」

男「だったらお前、どうして俺にあげたんだよ? 意味無いだろ」

不良女「…ばっかだなぁ~~~……あんたって真面目に効率悪すぎ!! ……だから、[ピーーーーーー]///」

男「おい、いま何て言った?」

不良女「……い、一緒に半分ずつ食べたらいいじゃん」

男(そう言うと、不良女は食べかけの俺のピザまんを奪い取り、自分の肉まんを押しつけてきたのだった)

不良女「ほら……半分と半分食べたら一個と同じだし……そ、そそ、それに!! あ、あたしと同じもん食えて嬉しいだろぉー!?///」

男「間接キスになるけど」

不良女「はうっ!! くぅ~~~……っ///」

男(不良系美少女テンプレである奥手な彼女らしい手段である。やはり、この様子だと まだ気持ちを閉じ込め、幼馴染に遠慮しているのだろうか)

男(姑息な手段だと思っているのか。 安心してくれ、そんな所も含め、まるっとお前の魅力なのだ。それを気づけないのが、アホ、だというのだ)

不良女「べ、別にそういうの狙ってねーからな!? 何考えてだバカ野郎……///」

男「じゃあさっさと口付けろよ。意識してないんだろ?」

不良女「言われたら嫌でも意識しちゃうだろ……っ」

不良女「……あの、今日はなんかごめん。あたしあんまり役立てなかったよねぇ」

男「白々しい奴だな。そんなことはない、お陰で早くプレゼント決まっただろ?」

不良女「早くねー! おせーよ、アホ! ……でもさ、あんたが忘れたお陰で こうして[ピーーーーーーーー]」

男(初めからこれを狙っていた、なんて言えばどんな顔を見せてくれるかな。喜ぶか、いや、不良女ならばまず怒るだろう)

男「プレゼント、きっと妹も喜んでくれるよ。今度お前のこと紹介してやろうかな」

不良女「別にいいし……でも、気に入ってくれたら良いな、その手帳。 なんせこのあたしと一緒に選んだ奴なんだから! へへへっ」

不良女「あははは……ねぇ、ちょっぴりだけ、弱音吐いて……いい?」

男「ん? お好きに (迎撃準備は整っているのだ、右からでも、左からでも、ドンと来るがいい)」

不良女「あたしさ、あんたに言われた通りで悩みある……ほんとは話せるけど、我慢してる」

不良女「今ここで! 普通に話せるけど! ……ずーっと我慢してる。[ピーーーーー]、[ピーーーー]、[ピーーーーー]…///」

男「ああ、そう」

不良女「訊かないんだ……って、どうでも良いんだっけな! あははっ」

男「どうでも良いと言った覚えは欠片もないが。困るとは言ったかもな、それに、うやむやにされても逆に困る」

男「でも、話すのはお前の自由だよ。もうすぐバスの時間だし、ゆっくり話せないだろうけど」

不良女「あっ……もうこんな時間になってたんだ……[ピーーーーー]」

男(これ以上俺が身を乗り出すのは野暮というものだろう。いや、正直いい加減無理矢理にでも訊き出してやってもとは思う)

男(だが、キャラを通すことを第一にすれば、俺はここで、葛藤し続ける彼女の言葉を待つべきだろう)

男(友情を裏切って告白するか、蟠りを抱えて苦しい思いをし続けるか。……じゃあ、俺はここでリーサルウェポンを取り出そう)

男「そろそろバス亭向かった方が……あっ」ポロ

不良女「おーい……大切なもんさっそく落っことしてんじゃねーよ……ん?」

不良女「これ手帳じゃない? あっ、もしかしてこれがあの子にあげる……」

男「いや違う、そいつはお前にやる物」

不良女「は?」

男「だから、お前にやる奴だってば。 すまん、渡すタイミング逃してて」

不良女「いやいやいやっ! ちょ、ちょっと待てよ……あたしにって……どうして」

男「帰りにサプライズってこういうの渡したらかなり喜ぶんだろ?」

不良女「あ、あたしなんか喜ばしてどうすんだよぉ!? [ピーーーーーー]!///」

男「いや、今日のお礼とか、Tシャツ見せてもらったし……まぁ、買った後にだったけどなぁ」

男「ていうか、こうして驚いて貰えてるんだしサプライズ成功だろ? まぁ、かなり喜んでくれていないが」

不良女「あっ、あっ! だって! いいい、いきなりすぎて……喜ぶより、驚きの方が強いってか……///」

男「他に理由欲しいのか? お前の言う通り、この俺ならプレゼントやる口実なんていくらでも思いつく」

男「不良女、お前今日一日中ずっと幼馴染や俺のことで必死に見えたんだよ。どうしてか分からないけど」

不良女「うっ……」

男「挙句の果て、悩みを抱えているときた。 なぁ、お前今日をかなり楽しみにしてくれてたんだろ? こんな後腐れ残るまま終わるなんて、気分良くないんじゃないか」

男「だから俺は、せめてお前に、最後ぐらい喜んでもらえて、今日は楽しかったと思って貰えたらと……って、余計なお世話だったな。俺らしくもないか」

不良女「ふぁ…………///」ボンッ

男「おい? どうした、耳まで真っ赤になってるぞ? もしかして、怒った?」

不良女「えっ、う、ううん……ちが……そうじゃ、なく……あの///」

男「俺一人で決めて買った奴だし、気に入らない物かもしれん。必要なければ返品してくる」

不良女「だめぇっ!! あ……だ、だめ……[ピーーーーー]」

男「え? 何だって?」

不良女「も、もらってやらなくも、ないっていうか! えっと」

不良女「……ちょうだい///」

男(それで良い。受け取れば良い。まずお前は、ここまでされて、これを受け取らない筈がないのだ)

男(こういう形で渡されれば、幼馴染に何の気負いもなく、俺からの好意を受け取れるだろう。だって、この行為は裏切りではない)

男「素直じゃないな、相変わらず。自信ないから家で開けてくれ」

不良女「えへへ……あ? 何かいま言ったぁ?///」

男(一気に有頂天というか自分で言った事を見事に体現してくれていたのである。 さて、俺の仕事はここまでで十分だろう。これ以上、こちらから押せば、厄介になるのだ)

男「何にも。それじゃあ、俺もそろそろ帰らせてもらう。家で二人が腹空かせて待ってるだろうしなぁ」

不良女「あっ……そうだな……じゃあ、明日学校で」

男「ああ、じゃあな」

男(あえて急ぐ振りして顔も見ずに走り去る素振りを見せれば、すかさず彼女が俺の手を掴んで引き止めてくれた。 まるで映画のワンシーンである。良い絵が撮れている事だろうよ、脚本通りに)

男「……どうした。まだ何か話すことがあるのか」

不良女「[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

男「え?」

男(予想通りの難聴スキル発動台詞が来れば、訊き返すのが情け。しかし、いつまで経っても返事はなかったのだった)

男(不良女は顔を伏せたまま、俺の手をいつまでも強く握り、離してはくれなかった。 お前の心情が手に取るようにこの俺には分かるぞ、不良女よ)

男(そして、お前がけして告白へ至らずに終えてしまうことも、だ)

不良女「……ありがと、気にすんなよ」

男「引き止めておいて「ありがとう」って何だよ。もう一度訊くけど、どうかしたのか?」

不良女「[ピーーーーー]……あたし、やっぱり[ピーーーーー]よ……だって、こんなに[ピーーーー]だもん……」

男「はぁ、またよく分からんが、悩みの話か? 吹っ切れたのなら良かったな」

男「安心したよ。あんまり人に心配かけさせないでくれ……気になるんだから」

不良女「う、うるせー! 勝手に心配してたのはそっちだろー? えへっ」

男(不良女、今回でどこまで彼女の好感度が上がったかは見当がつかない。だが、他の美少女たちが斑に急上昇させる中で、彼女との距離は程良いのだ)

男(友達以上で恋人未満、一押しすればいつでもコロリと落ちる。生かさず殺さずの状態が見事に築けただろう。 つまり、彼女にはこれまで通り、苦しむ、かは彼女次第である。これ以上のコントロールはさすがの俺でも難しい)

男(だが彼女は既に犠牲から脱せられている。ハーレムメンバーとしてさらに一歩、この俺へ近づいた。……ならば、ここで巻き込むべきか)

男「そういえばお前って部活は所属してなかったよな?」

不良女「んー? まぁ、バイトとかもあるし……ていうかバス来るんですけど!」

男「あ、いやすぐ済む話なんだが。お前さえ良ければ、ラーメン愛好会に入らないか?」

不良女「ラー……メン……はぁ?」

男(頭に?を浮かべて小首を傾げている。当然、何も知らなければ誰だってそんな顔をするだろう)

男(が、俺がそこへ最近入部したと話してやれば、活動内容も聴かず二つ返事で入部を希望してくれたのである。少しは疑いを知ろうか)

不良女「だって放課後バイトなかったら暇だし~……そ、それにあんたと一緒なら[ピーーーーー]だし……///」

不良女「あたしラーメン好きだしっ!!」

男「先輩さんが聞いたらハグしてもらえる、間違いなく」

男(なにはともあれ、一先ず攻略完了、である)

妹「ほんとに信じらんない。自分で昨日話したこと覚えてないとか、サイテーだよ」

男「俺はあと何回謝れば許されるか先に教えてくれると非常に助かる」

妹「お兄ちゃんサイテー」

男「手厳しい妹だよ、ほんと……」

幼馴染「じゃあ、思い切ってこの空気を変えちゃいましょー。ね?」

男(上手にウィンクして「アレを渡して誤魔化せば良い」と幼馴染が合図を送るのだった。機転が効くではないか)

男「おい、これやるよ。ありがたく受け取りなさい」

妹「……何これ? え、何これ!?」

男「遅れた誕生日プレゼント、かな」

妹「遅れすぎなんですけど……ていうかどういう風の吹き回しなの? こ、怖いんだけど」

男「兄からの贈り物に対してそう反応するか……いいよ、じゃあこれは幼馴染にやるから」

妹「やーだっ! 貰えるもんは欲しい奴だけ貰いますっ! 開けていいの? ねぇねぇ?」

男(「どうぞ」と答える前には、包みを乱雑に破いて中身を取り出す我が妹。さて、その反応は如何ほどか? ……如何ほど?)

妹「…………」

男「手帳。別に欲しいか分からなかったけど、あっても困らないかと思って。 要らないなら返せ」

妹「ううん……めちゃめちゃ嬉しい、お兄ちゃんっ! ありがとー!」

男「心では、うわっ、とか思ってないだろうな。嬉しいならここで小躍りして見せろ」

妹「ばか! でもほんとに嬉しいよぉ~♪ どうして手帳欲しかったの知ってたの? すごい可愛いよ、これ」

幼馴染「たぶん、男くんのじゃなくて不良女ちゃんのセンスが良かったんだろうなぁーふふっ」

男「残念ながら最終的にこれに決めたのは俺だ。俺への認識を改めろ」

妹「お兄ちゃん! 私これ大事に使うね、ううん、一生大事にするから! お兄ちゃんが私の為に選んでくれたんだもん! [ピーーーーーー]! えへぇ~♪」ゴロゴロ

男(手帳をまるで子犬でも抱くようにして胸に抱き、満面の笑みで床を転がる妹である。てっきりツンツンした感じで、フィルターに引っ掛かる台詞連発、照れ連発かと思いきやだ。素直に喜んでもらえるとは、まぁ意外)

妹「決めた。これと一緒に今日添い寝しま~す♪ うひゃー」

男「お、おう……喜んでもらえて、何より……」

妹「へへ、[ピーーーーー]、[ピーーーガーーーーー]///」

幼馴染「あー…………」

男「お前だって今日色々買っただろ」

幼馴染「それは違うもん! お、男くんから[ピーーーーーーーーーー]……///」モジ、モジ

男(ならば、キスでも受け取ってもらおうかしら)

また明日

男「ふー……主人公やるってのも案外楽じゃないな。でも、楽しくて仕方がないや」

男(今日も今日とて美少女たちのと日常が繰り返された。しかし、それが俺にとっての幸福であって、元世界へ戻る、なんて気持ちは全く沸き上がってはこないのだ)

男(いつまでもこの時間が永遠に続けば嬉しい。……永遠?)

男「そうだ、どうなんだろう。俺はこの世界にずっと居続けられるのだろうか? 神は、何かそれについて言及していたかな?」

男(してない筈、神との会話は今でもよく覚えている。あやふやだが、自分で色々と気づいていく内に、過去の、元世界での記憶が本物なのかと疑いを持ちたくなる)

男「俺はこの世界で暮らして、学生を終えて、そのまま大人になるのか? それとも非現実的に考えて、永遠のモテモテ学生生活を送り続けるのか」

男「普通に考えて来年になれば、上級生組はいなくなる。そしたら卒業イベントがある? どうなんだろう」

男「永遠……まず、どうして俺の記憶はリセットされてるのか」

男(以前、一人の美少女たちに限らずに、ゲームの主人公のように他キャラも攻略できるよう、神の粋な計らいではと考えた事がある)

男(だが、それならば別に記憶の消去は必要ないだろう。本当に神は俺へゲームをプレイさせているとでもいうのか。では、何故そのゲームプレイヤーにこの俺が選ばれたのだ?)

男「……うーむ、訊かなきゃ分からん事を考えても仕方がない。別の……そうだ、委員長と先生に難聴スキルが発動しないのはどうしてか」

男(理由は既にそれらしい事が判明している。俺が前回、前々回で彼女たちを攻略した影響だと。 だがよく考えてくれ、これは、不自然すぎる、と)

男(元々モテる代わりに神が付けたデメリットではないか。攻略が済めば外してやる、だなんて一度も説明を受けた覚えはない)

男(次週で彼女たち二人、どちらかをもう一度攻略すれば完全攻略という形になるのだろうか。厄介な)

男(記憶が消失しても、難聴が無ければ、まぁ再度攻略し直すのは簡単だろう。わざわざ面倒な真似をしなくとも、こちらから向こうへがっつけば、すぐに落とせる、たぶん)

男(鈍感なんてそもそも美少女たちが、勝手に俺へそう思っているだけで、実際にはそういうわけでもない。つまり、難聴だけが俺への枷となっているのである)

男(……では、もうお気づきだろう。一度、美少女たち全員を攻略してしまえば、もし、それで難聴が外れる仕様ならば、だ)

男(委員長を含めず、10周分使って個別ルートをクリアすれば、強くてニューゲームが可能ということである。 すれば、ハーレムルートへの道のりはだいぶ優しくなるのでは?)

男(だからこそ、ああして今の内から美少女たちの好感度をギリギリまで上げてやっている。始めれば、すぐにでもハーレムが楽しめるように)

男(一度攻略を終えた美少女は、一部記憶を失うが、好感度は一定の状態を保たれたままであった。つまり、最終的に、いや、俺が下手に弄らなければ、彼女たちの好感度は、おそらく均一になる)

男(ハーレム完成の道は既に見えていたのだ。問題は今が大切だということである。今、もし知らない所で修羅場が生まれ、何も気づかないまま、誰かの個別ルートへ進み、次週へ行ったとする)

男(攻略された美少女以外の記憶は前週から引き継がれている。つまり、俺はワケが分からない状態から始まり、ワケが分からないまま修羅場に巻き込まれて、詰む)

男「だからこそ、今を、慎重にならざるを得ない……難聴スキルの謎も、ゲーム仕様の謎も何ら分かっちゃいないが、ここまでの計画と注意は立っているわけだよ」

男「まぁ、ハーレムさえ築く事ができれば、この世界の秘密に近づく必要もない。フフフ……まさか、謎を解いてる内に攻略へ繋がるとは思いもしなかったぞ」

男「捨てたもんじゃないな、俺の頭も!」

男「さて、今のところ気をつける必要があるのは、ハーレムの場として選ばせて頂いたラーメン愛好会そのものだろうか?」

男「転校生、先輩さん、生徒会長、不良女、そして先生。五人も揃えば楽しく嬉しいわけだが、その分、部内で一人へ構えば修羅場が生まれる危険も高まる」

男「放課後は完全に攻略を頭から無くして、平等に、楽しませ、楽しむことを考えるしかないだろう。 と、なれば、この中から個別ルートへ移るキャラを選ぶのは難しいか」

男「部員を除いて、手ごろな所で幼馴染、妹、男の娘、オカルト研……ああ、うっかり後輩と先生を攻略するわけにはいかなかった。何が起きるか分からん」

男「委員長についてはまだよく分からないし、彼女と話合いながらゆっくり考えるとしようじゃないかぁ」

男(しかし、彼女がいつまで元の人格を保っていられるかが問題となるが。最悪……いや、こちらにとっては都合は良いが、彼女の元人格が消えれば、俺は新しく生まれ変わった委員長系美少女を攻略できるかもしれない)

男「委員長は保留……そうだなぁ、さっきの4人の内から決めるのが無難だろうよ。いつ攻略し、次の俺へバトンを回すのか、そいつが重要になるぞ」

男「……妹はその気になれば、今からでも可能だ。俺としては慎重に行きたい。もう少し様子見があっても悪くないよなぁ」

男(さて、悪い顔して企んでいるところであるが、まだ大きな問題が一つ存在している。 次週の俺へどう今の件を伝えるか、である)

男(男の娘から写真とメモは処分されたのだ。俺としても、彼を裏切るような真似はしたくないし、同じ手は使いたくない。 だが、メモでもなければ伝えようがないのだ。だってその相手は、この俺自身なのだから)

男(おそらく、次週の俺も難聴スキルが発動しないキャラが数人いる事から、何かしらは推測を立て、今の俺とまでは行かないだろうが、勘づく、と思いたい)

男(その為のヒントとして、写真はなるべく残しておきたかった。後輩からのこの件について接触された時、疑問に思って、見せて貰えれば良いのだが)

男(ああ、俺はなんと人の良い事を。男の娘に気遣いさえしなければ悩まされないのに。……でも男の娘のためと思えば、苦では、うーん、たぶん、苦ではないかと)

男「不安はできるだけ取り除きたかったが……じゃあ、そいつを逆手に取ってしまえばいいじゃないか」

男(男の娘自身を利用してやれば良い。彼だって俺の助けになりたいと言った、ならば早速その通りにして貰うべきではないか)

男(そして、第二の不安、委員長である。彼女も利用できる。むしろ、少し卑怯なこととなるが、彼女へ疑われずに俺へ協力して貰える方法があるのだ)

男「そうと決まれば早速委員長へ連絡を……ん?」

男(携帯電話を開けば、いつ届いていたのか、男の娘からの着信履歴が残っていたのである。で、かけ直せば)

男の娘『はい、もしもし! 男? 』

男「ああ、すまん。今電話あったのに気づいたんだよ。何か用か?」

男の娘『用っていうか……その様子なら、大丈夫、なのかなぁ』

男「大丈夫? ……もしかして、俺の記憶喪失のことか」

男の娘『そう。いつ記憶が無くなっちゃうか自分でも分からないんでしょ? だから、いつどのタイミングで尋ねていいか分からなくて』

男「俺がまだ、記憶を失っていないか? (タイミングなら、たぶん分かっている。分かっているが、それを彼へ教えるわけには)」

男(だからこそ、彼に協力は頼むが、最低限の事だけで抑えなければならない。そして、美少女たちの記憶がどこから無くなるかハッキリしていないという事から、男の娘の攻略は最後へ回すべきだと、気づかされたのだ)

男の娘『うん、そうだよ。まさか男から僕へ訊くわけないでしょ? だから、こうして僕が訊いた方がいいんじゃないかと思って』

男「その通りだなぁ…… (まず、記憶を失った状態からでは、例え携帯電話の電話帳へ彼の名前があっても、自分からはまずかけないだろう)」

男(むしろ戸惑う筈だ、全く関係のなかった名前が自分の電話帳に存在するなんて。……電話帳から攻略対象を俺自らで、判断……するのは難しいだろうかな)

男(まず携帯電話なんてネットに繋ぐぐらいでしか使用しない。一々、元世界と同じ、自分の携帯電話の中身を確認することもないだろう。 初めの俺がそうだったから、間違いない)

男の娘『だ、だからね! こうやって……電話か、メールで……毎日連絡して、訊いていいかな……///』

男「それも、そうだな……ああ、そいつは名案……だけど、できれば朝で頼めるか? 登校前とか、休日なら十時とか」

男の娘『うん、僕はそれで大丈夫だよ! かならず毎日忘れずに続ける、男のためだもん。えへへ…』

男(これで次週以降、俺へのフォロー役はこなせるだろう。では、そのつてに、男の娘へ何を伝えるか、である。まずは)

男「男の娘、これから言う事を覚えられる自信がないなら、メモを取ってくれて構わん。いいか?」

男の娘『えっ、め、メモ? ちょっと待って……はい、用意したよ』

男「ありがとう。じゃあな、まずお前は毎朝俺へ、さっきと同じように記憶がまだ確かか確認を取ってくれ。その時、何もなければそれでいい」

男「……もし、動揺したり、電話へ出なければ、俺に直接会って今から言う話を伝えて欲しい」

男(今までの推測から得たこと、俺は以前から確かにこの世界で暮らしていたこと、関わりある十一人の美少女たちのこと、その他諸々を男の娘へ、ある程度濁して伝えたのである。……というか、いくら何でも濁し過ぎたかもしれない)

男(話をされた彼は、怪訝そうに唸ってもいたが、すぐに俺を信じて「わかった」と答えてくれた。本当に分かっても貰えても困るが、まぁ良いとする。彼を信じようか)

男「頭がおかしい奴だと思ってくれても構わない。とにかく、これだけ伝えてもらえれば、これまで通りに過ごせられるんだ」

男の娘『……また、男だけしか分からない暗号みたいなのが入ってるの? 今の話?』

男(そういう事にしてもらえたら、こちらも助かる)

男の娘『とりあえず分かったよ。もし、男に何かあったときは今の話をそっくりそのまま伝えるね。あっ! メモも取ったから大丈夫っ!』

男「悪いな、何から何まで世話になって……あと、最後に一つだけ、ほんとに最後でいい。これだけは忘れないで、かならず伝えるんだ」

男「委員長に会って貸してた物を返して貰え、って記憶が無い俺へ言って欲しい」

男の娘『貸してた物?』

男「そう、とっても大切な物なんだよ。今はまだ返して貰う必要はないが、こいつを忘れたままにすれば、かなり俺が困る」

男の娘『そ、そんな大切な物を貸しちゃったの? うーん……まぁ、困るなら仕方ないよね。わかった、絶対にそれも伝えるよ』

男の娘『これだけで十分? 何だか不思議な話だったかも。昔見たタイムマシンの映画みたいな感じかなぁ……』

男(できるだけは伝えられた。聞けば、きっと次週からの俺へ役立つだろう。もし、俺へ全てが伝わなかったとしても、疑問に思って何かしら思考は行うだろうし、これから体験する全てを疑ってかかるに違いない)

男「男の娘、ほんとに感謝するよ。お前という奴がいて、俺は幸せだな」

男の娘『お、大げさだなぁもう……/// じゃあ、僕そろそろお風呂入ってくるから。また明日……あっ、明日も電話するからね!』

男(男の娘との電話を終えれば、すぐに俺は電話帳から委員長の名前を探し、こちらから電話をかけたのだ。この俺が、あの委員長へ、電話)

男(なんて緊張している場合ではないだろう。できる限り、早めに彼女へ協力を仰ぐべきなのだから)

男「頼むぞ、美少女じゃない方……いや、俺の知っている彼女が出て……あっ!」

委員長『はい、もしもし? ……男、くんだよね』

男(スピーカーから聞こえる委員長の声は、細々としていて、よく耳を澄まさなければ聴こえないというか、後ろがやけに騒がしい)

男「もしかして、何処かにいる? タイミング悪かったかな」

委員長『う、ううん大丈夫……今家族とトランプして遊んでて……』

男「は?」

委員長『楽しいんだけど、前じゃ絶対考えられないの。やっぱり変だよ……楽しくないって言ったら嘘になっちゃうけどっ』

委員長『こ、こんなはず絶対ないのに……ありえない……』

男「よく、分からないけど……いま話して大丈夫だったのか」

委員長『あ、あぁ! ちょっと待ってね? ……うん、部屋に来たから大丈夫。うるさくない?』

男「静かになったよ。さっきより声が聴き取り易い。てっきり難聴スキルが発動したのかと」

委員長『え?』

男「いや、何でもないんだ。気にしないで……それより、元の世界へ戻る方法が分かったよ……」

委員長『え、えっ!? 本当!?』

男(今から俺は彼女を騙して、利用させて貰う。全ては真っ赤な嘘、それを彼女の弱味へ付け込んで、信用させるのである)

男(委員長が望むならば、できる限りは俺も協力して、彼女を元世界へ帰してやりたいとは思う。だが、所詮は他人事。自分を優先にさせて頂こう)

男(何とも思わないだけではない、心は痛む。いや、正直言えばそうではないかもしれないが)

男「ああ、本当だよ。その為には委員長の協力が必要になるんだけど、いいかな?」

委員長『……もちろん』

男「ほんとに? 実は帰りたくないって思い始めたんじゃないか? (ちょっと待ってくれ、俺は何を言い始めるのだ。躊躇させる言葉をかける必要はないのに)」

男「さっき、委員長は家族と遊んでたんだっけ。それがありえないとか話してくれたよな」

男「じゃあ、元の世界へ帰れば」

委員長『うん……そうだけど、やっぱり自分が自分じゃなくなるのって、怖いです』

委員長『あ、あっちへ帰れたら、勇気出して今までの自分を変えたいなって、思えてきた……神様の力でじゃなくて、自分の力で』

委員長『だから、私まだ死にたくないよ』

男「死ぬって……まぁ、死ぬのと同じなのか。 わかった、それなら話を続けていい?」

委員長『は、はい! 協力しますっ!』

男「……それは嬉しいけど、せめて俺の話を聞いてからの方が」

委員長『ううん、君が……えっと、男くんがせっかく頑張ってるのに私だけ何もしないなんておかしいから』

委員長『信じて、何でも手伝います。私にできること全部!』

男(ああ、頭痛がしてきた。俺はこれから彼女を騙す。だというに、委員長は疑いもせずに、俺を頼ろうとしてくれていた)

男(罪悪感なんて感じない、なんてことはなかった。自分の邪悪さに吐き気すら催すのである。だって、これから伝える件の中に、微塵も、彼女を救う要素はないのだから、である)

委員長『あの、大丈夫? 私はいつでも、どんな事も、聞く準備は整ってるから』

男「あ、あわわ……ご、ごめん……やっぱり……」

委員長『教えて下さい。お願いします! 絶対に嫌なんて言わないから!』

委員長『お願い、見捨てないで……ううっ……お願い、死にたくないよぉー……っ』

男(発狂一歩寸前で覚悟が決まった。ハーレムを築く、委員長をきっと元世界へ帰す。その為にも、今日までに得た知識は必要となる)

男(どちらもこなすのが主人公のつらいところだ。初めて俺へ声をかけてくれたのは、他でもない彼女だ。それだけで、どれだけ嬉しかった事か。忘れちゃいないのだ)

男(いわば、彼女は俺にとっての恩人である。恩人を見殺しにすれば、完全な人間の屑だろう。これ以上堕ちたくはない、だから、時間はかかろうが、かならず俺はこの世界の謎を全て解き明かし、委員長を帰してみせる)

男(つまり、委員長はやはり俺に攻略されるべきキャラではない。彼女をハーレムメンバーへ加える気はなくなったのである)

男「委員長、俺は何と言われようがこっちで生きるつもりだ。でも、かならず君を絶対に助ける」

委員長『えぇ……?』

男「そのための条件というか……とりあえず、俺にも協力して欲しい、というかですね、はい」

男(戸惑う委員長を放って、俺は一人で男の娘へ伝えた話を濁しはせず、全て包み隠さずに話してやったのだ)

男(そして、俺がどんな願望を抱き、難聴の件も全て教えた。いくら引かれてしまおうが、次々と言葉が飛び出していって、彼女へ俺を喋ったのである)

委員長『…………あー』

男「たぶん、こんな奴だと薄々気づいていた筈だ。男って奴はこんなゲスな人間なのだと」

男「そうだよ! それで間違っちゃいない! だから、この世界に居続けたいし、もっとエンジョイする! 欲望のままに!」

委員長『…………』

男「だけど、こんな俺だけど、委員長を助けたいって思う気持ちに嘘はない。…正直言えばついさっきまでどうでも良いと思ってたけど」

委員長『えっ』

男「ついさっきまでの話だ!! 今は、もう改心したというか……ほんとに助けたいんだよ……」

委員長『そ、そうなんですか……へー……』

男「もう君に隠している事はほとんど無い。やましい企みは今話したので全部だ。そして、君が助けを求めようとした人間がどんな奴かも、よく分かって貰えたと思う」

男「美少女ハーレムを作りたい、それがこの俺の目的で、行動基準です」

委員長『う、うん……そっか……』

男「だけど、今優先順位なんてもんは俺の中から無くなった。ハーレムを築き上げる、委員長を元の世界へ帰す。どっちも同時にこなしてみせる、かならず」

男「……じゃあ、あとはこんな変態をまだ信じてくれるか、委員長が決めるだけだ」

委員長『うっ!?』

男「君が俺をまだ頼ってくれるなら、さっき言った通りだよ。逆にそうでなければ、分からない。俺の気も変わるかもしれない」

委員長『そ、そんなぁ!? ……でも、何もなしで助けて貰おうって虫が良すぎるよね』

男「ああ、だから取引をしよう。俺は君を助ける。その代わり、君は俺を助けてくれ」

男「さっき話した通り、俺が美少女を攻略すれば、たぶん記憶が無くなる。だからその俺へ、伝えたこと全て、伝え返して欲しい」

委員長『でもそれって……男くんにしかメリットないような……ゲフンゲフン』

男「そう取れるかもしれない。だけど、委員長。俺、こっちに来て分かったんだ。自分のポテンシャルの高さに」

男「さっきの話、ほとんどは自分で推測を立てた。そこから、まぁ完璧とは言えないけど筋が通っていたんだよ。 バカだけど、考える力はあると思う」

男「この力を活用して、世界の謎を暴き出し、あわよくば神に会ってやろうじゃないか」

委員長『もし、無理だったら』

男「この世界の俺は今までの俺とは違う。不可能を可能にしてきた男だ。 無理なんてない……大げさだけど」

男「信じてほしい。どんな手を使おうが、例え俺が不利な立場へ陥ろうが、君を絶対に助けるから」

男「……あとはそっち次第だな。正直言えば、今めちゃくちゃ恥ずかしい」

男「じゃあどうして話したか分かるかな? どっちへ転ぼうが、委員長と俺が話すことも、顔を合わせることも、二度とないからだよ」

委員長『そうだね……きっと、ないね……』

男「ふざけた話だと思っただろうけど、結構真剣だぞ。 それでも俺が今最低な話を持ちかけているのに違いないと思うけれど」

男「それと、最初に嘘をついて悪かった。あのときはほんとに君を利用することしか頭になかったんだ」

委員長『でも、今は……違う?』

男「もし取引に応じても、俺がいつまで経っても何も手掛かりを得ずに遊んでいたら、そのときは……えっと、殺してくれて構わないよ」

委員長『はぁ!? しょ、正気で言ってるのそれ!』

男「それだけの覚悟が、この俺にはある。卑怯だけど、どうせ死ぬなら一緒に死んでやるさ。ブサ男とで申し訳ないですけど」

委員長『そ、そんなこと言われても私……殺すなんてできないし』

男「死にたくもないんだろ」

委員長『あっ……うう……!』

委員長『君って、クラスで見てた君じゃないみたいです……もっと大人しい人だと思ってた』

男(でしょうな)

委員長『なのに、実際に話してみたら、こんなに変な人だった。何考えるかわかんないし、意味わかんない』

委員長『でも、今はそんな変な人をすごく信じてみたくなりました』

男「……その言葉は、取引成立と受け取っていいのかな」

委員長『うん、男くんに協力する。きっと帰れると思って信じます』

男(その言葉が聞きたかった。よくぞまぁ、この屑を頼ってくれた。そして、出会ってくれた)

男(俺も勝手に暴走した結果、よく彼女を説得できたと思う。大げさすぎるぐらい自分を大きく語って、その上脅しをかけるような事をしてしまったが)

男(結果オーライである。全ては俺自身のために、そして委員長自身のため、なのだ)

男(……さて、こうなれば男の娘の協力は必要ないのではと思うことだろう。だが、それは大間違いだ)

男(委員長は時々、別の人格と入れ替わってしまう。不安定すぎる今の彼女では、完全な協力者とは呼べないのである)

男(言い方は悪くなるが男の娘は保険なのだ。そして、もし男の娘が……まずありえないが、俺を裏切った場合、例の件を伝えようとしなかった場合は、委員長がその保険となる)

男(この為に必要となる、不審に思われない伝言が「貸した物を返して貰うように」である。嫌になるぐらい念押しはした。これでも絶対ではないが)

男(勿論、委員長へ俺は何も貸しちゃいない。記憶が無い俺を彼女へ会いに行かせるための出鱈目だ)

男「委員長 さっきの、俺が記憶を失ったらの話を覚えてるか」

委員長『え? あー、えっと、もし男くんが記憶喪失になったら、聞かされた話をそのまま伝える、ですよね』

男「それで良い。だけど、たぶん見ただけじゃ記憶が無くなったなんて分からないだろう」

男「だから、そのタイミングを今から教える。 もし、俺が委員長に会いに来て「貸してた物を返してくれ」なんてことを言ってきたら、人の目がつかない場所に連れて行って、そして伝えて欲しい」

委員長『わ、わかった』

男「……これだけじゃ不安か。とりあえず俺が君に話しかけて来ても、来なくても「覚える?」って尋ねてくれよ」

男「それで、俺が「何が?」とか質問の意味が分かってない様子なら、それでも伝えるんだ」

男「えーっと……もし委員長から俺へ接触してくるなら、いや、やっぱり男の娘が近くにいないタイミングで毎日訊きに来てくれ」

委員長『毎日? ていうか、どうして男の娘くんがいないときに』

男「ちょっとワケありでしてねぇー……とりあえず、それで行こう。忘れずに毎日頼む、さっそく明日から」

委員長『うん。でも、どうしてそんなに慎重になってるの?』

男「慎重過ぎるぐらいが何事も丁度いいって学んだ。それだけ」

男「……分かったことがあればまた連絡するか、直接話す。遅くに悪かったよ。 ありがとう」

委員長『ううん、こっちこそありがとうです。私なんかのために……本当に、本当にありがとう……それじゃあ、おやすみなさい』

男(これで、全ての支度が済んだ。さて、ここから先は予測できない。いつ今の俺で無くなってしまうのか、誰にも、分からないのだから)

ここまで。続きは今日ちょっとあやしいかもしれない
来なければ明日と思って

男(翌日、朝。俺は携帯の着信音に起こされたのであった。相手はもちろん)

男の娘『もしもし、僕だけど。覚えてる?』

男「ああ、まだ平気だったよ。ついでに良いモーニングコールになってくれた」

男の娘『…………』

男「男の娘? もしもし?」

男の娘『えっ、あ~! うん! おはよう、男! な、何ともよかったよ』

男の娘『毎朝 こうして[ピーーーーーーーーーーーー]///』

男(お互い様だとも。妹から叩き起こされるのも悪くはないが、彼の声で目覚めると一日が一気に潤い始めた)

男の娘『それじゃあ僕そろそろ着替えたり、支度しちゃわないと……じゃあ、また学校で会おうね』

男(こうして、俺が男の娘からの問い掛けへ、いつまで平然と答えていられるだろうか。明日、明後日、さて分からない……こう考えると記憶を失うという事は恐ろしい)

男(恐ろしいが、なってしまうものは仕方がない。そう割り切らなければ、前に進めやしないのだから)

妹「ん~……お兄ちゃん[ピーーーー]、むふふ……すかー……」

男「寝言にまで発動する難聴とは、さすがに笑えてきた」

男「しかし慣れたもんだな、俺も……ほら、妹 さっさと起きて朝飯食えよー。起きなきゃ抱きつくぞ」

妹「うぇっへへ~…[ピーーーーー]で[ピーーーーーーーー]……[ピーーーー]」ゴロン

男「あー!!俺の妹って世界一かわいいなぁ!! 真面目に抱きついても良いだろうかね!?」

男(いや、待てよ。こういう時、美少女が眠っている横に付いて、起こしてやる素振りを見せれば)

妹「おにーちゃーん……むふふ、[ピーーーーーー]……」グイッ

男「そーら来たぁ! コホン…い、妹 おい、何をするんだ! う、うわぁー!?」

男(目論見通りでご覧の通りである。寝惚けた妹が寝返りを打って、ベッドから俺へ向かって転がり落ちる。すれば、あったか柔らか妹は抱き付き、満足気に擦りつく)

妹「[ピーーーーー][ピーーーーガーーーーー]、おにいちゃーん……むにゃあ」

男「けしからん妹だな、最高だぞ。 もう少し楽しんでいたいところだが……そろそろだ」

妹「ん、んう~っ……ぁれ? またベッド落ちちゃった? ふぁあぁぁ~~~……あっ」

男「お、おはよう、今朝の目覚めは?」

妹「なっ……なぁっ! なんで、えっ…あぁぁぁ~~~~~~……っ///」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]ッ!!」バチーン

男(俺は、最高だったよ)

幼馴染「あー……二人とも何かあったの? ケンカじゃないよね?」

男「仲良い兄妹のスキンシップってところだよな?」

妹「うるさぁい!! やっぱりお兄ちゃんって変態だよ、えっち、スケベ、変態!!」

男「二度言わんでもなんだが。 ところで、本当に手帳と添い寝してるとは思わなかったぞー? よっぽど嬉しかったか?」

妹「う、嬉しかったけど……お兄ちゃんじゃなくて手帳が好きなのっ!」

男「じゃあそれと結婚しろ。父さんたちも悲しまずに済むぜ」

幼馴染「あ、相変わらずだよねぇ。ほら、二人とも。そろそろ急がないと遅刻しちゃうよ? とくに男くん」

男「どうして? お前がいるから遅刻なんてもうあり得んだろうが。そっちの、文字通り物好きは知らないけど」

幼馴染「妹ちゃんならもう走って学校行っちゃったんだけど。 あたしは男くん待ち。つられて遅刻があるかもしれません」

男「おいおい……優等生が悠長に構えてくれちゃってなぁ」

幼馴染「だって、あたしは男くんと一緒に登校したいんだもん……それに男くんに[ピーーーーー]し…///」

男(まさに正妻たるこの風格か。もはやルートへ入らんでも、彼女とはこうして安定したイチャラブが送れるのだ。胸がキュンキュンしてくる)

男「やれやれ、よく分からんがお前がお望みならそろそろ出るとするか」

幼馴染「あっ、待って 男くん! ほっぺたに米粒ついてるよ。じっとして、取ってあげるから」

男「弁当のつもりだったんだがバレちゃ仕方がない。 よく細かいことに気づく奴だよ、幼馴染は」

幼馴染「ふふ、だってマイペースな男くんの幼馴染なんだもん。……ん」

男「へ…………うわぁあああああぁぁ~~~っ!!? バカっ! ど、どうしてわざわざ口で取るんだよ!」

幼馴染「えへへ、ごちそうさま…///」

男(ここ最近どうにも幼馴染が以前より積極的になり出している。先程のは不意打ちにもほどがあるではないか。不覚にも、素で大声を上げてしまった)

幼馴染「そ、それじゃあもう行こうよ! …って、どうしたの急に前屈みになって?」

男「なぁ、あの……もう三分ぐらい待ってくれませんか」

幼馴染「ん?」

男(実は分かっていてあんな行動を取ったのではないだろうな。だとすれば、小悪魔すぎる)

男(今回からこそ、ルートへ突入する美少女を選択する流れになるとはいえ、まだ注意は欠かせない)

男(つまり、ここからは己との勝負でもあるのだ)

男「幼馴染とこうして隣を歩くのも普通に感じられてきたよ。これが本当の俺の日常だったみたいだ」

幼馴染「なーに急に? でも、また男くんと一緒になれたって、とっても嬉しいな……[ピーーーーー]///」

男「え、何か言ったか?」

幼馴染「ああっ!気にしないで、ただの一人言だよ! ……いつまでも、こうやって、ずーっと男くんがいてくれたら」

幼馴染「ううん、ずっといて欲しい。あたしが男くんの一番になれなくても、いて? 隣じゃなくてもいいから、ずっと、ここに」

男「……何だか不思議な言い方をするな。安心しろ、俺は何処にも行きやしない」

男(この世界とおさらばだなんて、こちらから願い下げだ。何が悲しくて、手に入れた幸せを自ら手放さなければならんのか)

男(ずっと、永遠に、こちらで構わ[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー][ピーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。あれ、今何を考えていたのだろう)

幼馴染「[ピーーーー]してくれる…?」

男「え? す、すまん、聴こえなかった。もう一度言って」

?「どいてどいてどいてぇえええ~~~~~~っ!!!」

男(ソレは、初めてここで出会ったときのように、訪れた)

幼馴染「男くん危ないっ!!」

男「は?…………ぐぇえっ!?」ドン

幼馴染「あぁ! お、男くーん! ……あっ」

男「いたい……遺体が、この感じは凄く覚えがあるぞ。目の前が真っ暗だ! 何も見えない、幼馴染!」

男(何かが頭へ被さったというのは理解できた。布である。 さっさと払い除けようにも、両手の上にこれまた何かが乗っかっていて動かせず、だ)

男「俺はどういう態勢して倒れてんだ……手が、ん? 乗ってるものは柔らかいぞ……これは」プニプニ

?「ひあっ!!?」

男「水色の布が闇の中に見える…そしてこのもちっと感触は」むに

?「いやぁあああぁぁぁ~~~~~~~~~っっ!!?///」

?「このぉっ、アホ痴漢ドスケベ変態男ぉ!!」スパァン

男「うぐふぅ!」

幼馴染「て、転校生さん…おはよう……」

転校生「はぁはぁ……あ、ああっ! お、おはよう!幼馴染さん……で…あんたはいつまでこうしてるつもりよ! 変態スケベっ!!」

男「お前が人の手の上から退くまでだろうな!!」

男(この前は大人しく俺から胸を揉まれていた転校生。やはり二人きりではないと、ああはならないか)

転校生「あっ、ごめ……やっぱりあやまらないっ、こんな変態如きに! でも、まぁ…おはよう、バカ」

男「頼むからそろそろ語尾で貶す芸は止めないか」

転校生「本当に信じらんないわ…うぅ、朝からこんな目に合うなんて…[ピーーーー]触られちゃうなんて……」

男「今何か」

転校生「言ってないわよ死ねっ!! あんたなんかドアに指挟まれて死ね!」

男「やれやれって感じだな」

幼馴染「転校生さんと会うのあたし久しぶりかも。どう?学校には慣れたかな?」

転校生「ん、まぁまぁ…なのかしら。周りに親切な人たちもいっぱいいるし、助けて貰ってるわ」

転校生「でも、コイツだけはほんと最悪よ。ダメダメのどうしようもないアホ……」ジロリ

男(ジト目いただきました。そして、良い尻だったぞ、転校生よ)

転校生「よく幼馴染さんは、ずっとコイツと一緒にいて平気ね。私だったらとっくの昔に頭おかしくなっちゃってたかも」

男「それはどういう意味でだよ?」

転校生「な、あっ……こっちこそ、その質問がどういう意味なのよ! また変なこと考えてんじゃないの!? んぅ、[ピーーーーー]…///」

幼馴染「男くんは確かにちょっと頼りない所あるけど、悪い人じゃないよ」

男「そいつは語弊があるな。この俺が頼りないなんて冗談を言っちゃ困る、脳ある鷹は爪隠すってね!」

幼馴染「頼りになるなら、あたしが男くんの家にお手伝いに行かなくても平気かなーって?」

男「なぁ、ちょっとダメなぐらいが丁度良いこともあるよな」

転校生「へー……ふっ」ニヤ

男「何だよ、その小バカにした感じは? そういうのは俺の役目だろうが」

転校生「はいはい、勝手言ってなさいよ~…あ、そうだった。新しい部員が見つかったってほんと?」

幼馴染「例の愛好会の? もしかして不良女ちゃんかな」

男「あ……ああ、新しい部員な。見つかったよ、あとで話そう。……あとでね」

男(このまま幼馴染がいる場で部の話は避けたいのだが、彼女はどうも勘が鋭い。というか、監視でもされているのではと疑いたくなる)

男(そうだ、彼女へ脅えるぐらいなら、幼馴染も呼びこんでしまえば良い。確か既に別の部へ入部していると聞いたが、俺がいる、無理矢理にでも加わろうとするかもしれない)

転校生「……あ、あの幼馴染さん。もし良かったらなんだけど、幼馴染さんも私たちと一緒に」

男(意外。まさか転校生自ら、恋のライバルを戦場へ誘うとは。むしろライバルだから? 意図が読めない。……まぁ、気遣いなのだろうが)

男(もし、誘いに乗って幼馴染が入部を果たせば、さらに自分を不利へ追い込むというに。なるほど、敵へ塩を送るとはアッパレな精神。敬意を表したい)

転校生「別に無理にとは言わないわ。活動内容も正直さっぱりだし、ていうか意味不明だし」

男「まぁ、追い打ちかけてやるなよ」

転校生「それに私も知り合いが多くいてくれた方が楽だから……良かったらもっと仲良くしてもらいたい…な、なんて。 あはははっ…///」

男「そういえばお前に同姓の友達少ないからな、いつも俺と男の娘と一緒にいるし」

転校生「ぜ、全然いないわけじゃないわ!! あああ、あんたとは…そのぅ、し、仕方がなく一緒にいてやってるの! ほんとに仕方なくよ!?」

男「ほーん、そいつはどうもありがたい話だな」

転校生「…………わ、私だって[ピーーーーーー]///」

男「まぁ、それはさて置きで幼馴染の勧誘だろ。どうなんだ?」

幼馴染「あたし? うーん……ごめんね、せっかく誘って貰ったんだけど、あたし他に部活やってて」

転校生「そうだったの? 私の方こそ知らずにごめんなさい……」シュン

幼馴染「ううん、嬉しかったよ。 部活には入れないけど、あたしも転校生さんともっと仲良くなりたいかな」

幼馴染「だからー、今日からは転校生ちゃん、って呼んでもいい?」

転校生「て、転校生ちゃん……あっ///」ポッ

転校生「うんっ!! じゃ、じゃあ私も幼馴染ちゃんって呼ばせて!? ……あんたは変態のまま、何期待してんのよ?」

男「いや、俺もさらに仲良く近づく一歩にと…」

転校生「ダーメ! それにあんたとは元々[ピーーーーー]……とにかく今は私たちの話なの。変態は入ってこないでっ!」

男(珍しくもないように見えて、珍しい転校生が見れてしまった。なんと、かわいいことを考える美少女か)

幼馴染「転校生ちゃんをならって、あたしも今日から男くんを変態くんと呼ぼうかなぁー」

男「それはそれで悪くないかもしれないが、妹に悪影響を及ぼす。やめろ!」

転校生「シスコンってやつなの?」

男「お前は頼むからこれ以上あらぬ濡れ衣を着せてくるのはやめろ!!」

男(幼馴染によって転校生が攻略された瞬間であった。いや、別にこの程度なら構わないレベルだが)

男(二人の仲が良くなるたびに、不良女のような状態を引き起こされるのは勘弁願いたい。でも、美少女同士の慣れ合いをもっと見ていたい)

男(ああ、これがキッカケとなって、修羅場を生まないことをただ祈るのみ、か)

男「……あれ、二人がいない。あいつら俺を置いてさっさと行きやがった」

男「これだから女って生き物は分かんないんだよっ、どこの世界でも共通だな……!」

男「いや、待て。あの程度イベントを起こしたぐらいで美少女たちが勝手に去るなんてありえん…この世界は俺に都合良く動くのだ。ならば、まさか」

男(まさか、その通りだった、のである)

オカルト研「…………じー」

男(今日は朝から忙しい。まるで俺の心中を、否、狙いを察するかの如く、嵐のようにやってくる)

オカルト研「…………じーーー」

オカルト研「じ…………じーーーーーー」

男「……なぁ、まさか俺の反応が来るまでそうしてるつもりじゃないよな」

オカルト研「あっ……[ピーーーーー]/// ……じーーーーーー!」

男「違うのかよ!」

オカルト研「……今のはあなたの中に潜む悪霊たちを観察していただけよ」

男「どこから突っ込んでいいか分からんが、増えてるし、中に入っちゃったわけか。じゃあな、俺は今日も悪霊と仲良く学校へ向かうとする」

オカルト研「あっ! ああ、その……そっちの方角は危険よ、きっと不幸が訪れる」

男「サボれが吉と。分かった、それじゃあ今日は学校へ行くと不運が増すので休むと先生へ伝えてくれ」

オカルト研「だいじょうぶ。私と一緒に向かえば、いいえ……私と一日中一緒にいることであなたは救われるの」

男「クラスが違う時点でそいつは不可能と見た。なぁ、オカルト研。 素直に一緒に登校したいって言えばどうだ? 聞いてやらんことねーぞ」

オカルト研「あなたと一緒に登校したい」

男(素直すぎる返事に、思わずコケたくなる。しかし、彼女と校外で出会うとは思わなんだ。これが初めてだろうか、俺の記憶では)

男「やれやれ…ほら、いつまでも電柱の裏に隠れてないで行こうぜ。HRに遅れちまうだろ、叱られる」

オカルト研「男くんと一緒になら、それも悪くない……///」

男「いや、悪ィよ?」

男「……なぁー! 一緒に行くのは良いとして、どうしてそんな距離離して歩いてんだよ」

男(何故だか俺から数十mは距離を開けて、俯き着いて来る。これでは一緒に仲良く登校というよりは、だ)

男(きっと照れて隣を歩けないとか、そういう雰囲気は感じられるが、いつまでもこのままでは俺も話が続けづらい)

男「……ああ、悪霊の影響か」

オカルト研「[ピーーーーーー]///」

男(そうかそうか、恥ずかしくて間違いないのか。では、こちらから呼ぶまでだ)

男「何だって? 遠すぎて聴こえやしない」

オカルト研「だ、だから……[ピーーーーー]」

男「まだ聴こえないぞ。もう少しこっちに寄ってから言え……もっと、もっと、ほら」

オカルト研「あうぅぅ……[ピーーーーー]///」

男「えー? 何ですかー……よし、捕まえた!!」ガシッ

オカルト研「ひゃあっ!?」

男「ああされると俺が困るんだよ。それに不審だぞ、お前。何をそんなに恥ずかしがって」

グツグツのシチューのように溶ろけてしまいそうだ)

>>645 最後の行はミス、気にしないで

オカルト研「あの時のことを、思い出したの……」

男(言われて、俺の脳内にあの日のオカルト研とのイベントがフラッシュバックする。思い出させられては、彼女を変に意識してしまうではないか)

男「あ、あれは事故だったって言ったろ。もう気にするのも、思い出すのもやめて、さっさと忘れろ!」

オカルト研「忘れるなんて無理よ。だって、[ピーーーーー]…それに[ピーーーーーー]し[ピーーーーーー]だった……[ピーーーガーーーー]」

オカルト研「だから……続き、する?///」

男(なんと魅力的な提案だろうか。全身を流れる血液が沸騰を起こし、グツグツのシチューのように溶ろけてしまいそうだ)

オカルト研「男くんの、いいえ、男くんのためなら私は一肌脱ぐ。服も脱ぐ」

男「脱ぐな……本当に脱ごうとするなっ!! バカかお前は!?」

オカルト研「…きっと、アレの続きをするとあなたの悪霊も取り除かれる、はず!」

男「やれやれ、くだらん事言ってるから、この前のも良い笑い話に変わりそうだよ。どうも……ほら、行こうぜ」

男「今度は後ろの方に下っていくなよ? 何の為に捕まえたか分からん、近くにいろ」

オカルト研「じゃあ、今度は私があなたを掴まえておく……」ギュッ

男(先程まで近づこうとすらしなかったオカルト研が、今は俺の腕を抱いて密着してくる。急接近にも程がある)

男「お前……五の意味込めた話しても一しか伝わらないタイプか。…それとも俺が間違ってるのか」

オカルト研「……///」ギュゥゥ

木曜に続く

男(絶賛引っ付き中のオカルト研は何を言われようと、見られようが気にする様子一つなかったのだ)

男(俺としても彼女を剥がしてやる理由もない。こうして隣に並ぶと彼女の背丈の低さがよく分かる。そのくせ胸に携えた禁断果実のたわわな実り具合のこと、よだれズビッ)

男「悪い気はしないが、もう校門に入るぞ。さすがに連中から目撃されたらお前も俺もまずいだろ?」

オカルト研「むしろ美味しい……」

男「訂正しよう。 俺がまずいんだっ、茶化されるのは勘弁願いたい!」

オカルト研「あなたへイジワルする人はみんな私が呪ってみせるわ。大丈夫」

男「今度はそいつらが大丈夫じゃない。大体お前は発想が極端すぎんだよ! いいから、この辺で一旦離してくれ!」

オカルト研「むぅぅ……[ピーーーーー]」パッ

男「それにしてもまさかお前と朝から会えるとは思わなかったよ。まさか、俺を待ち伏せてたんじゃねーだろうな? …まさかなぁ」

オカルト研「ち、ちがうの……今日は、出会える予感が…予知があったから! だ、だからいつもじゃない……[ピーーーー]///」

男「(真意は分からない。もし事実だとすれば、彼女は俺に磁石のように引き寄せられたわけだ。 ハーレム主人公が持つ特殊能力の一つだろうが、まぁ今さらの話か) 相変わらず胡散臭い奴だな。 だけど、どうして俺に会おうとしたんだ? 何か用事でも?」

オカルト研「用事はないけれど……あ、ああっ、悪霊が呼んでいたの。それを祓おうと思って…」

オカルト研「[ピーーーーーー]……用事でもなければ、あなたに会いに来ちゃダメ……?」

男「いや、お前といると不思議と退屈しないからな。何も問題はない、なんなら今度は俺から会いに行こうか? へへっ」

オカルト研「っ~!……///」コクコク

男(調子良さ気なオカルト研も、別れとなればシュンとなり小さい体を更に縮めた。俺も寂しいぞ、オカルト研よ)

男(さて、教室へ入る前にもはや日課とも呼べる俺の徘徊が始まる。この辺りをウロついていれば……)

生徒会長「~~~」  不良女「~~~!」

男「これまた珍しい二人が並んでやがる。だけど、雰囲気はあまりよく無さそうな……スルーという逃げ道も俺にはあるのだ」

生徒会長「おや、同じ生徒会役員を見かけてもあいさつ無しとは、随分だな、男くん」

男「引き寄せもあれば、引き寄せられもか……俺と会長の間ではもう挨拶いらずの仲でしょう?」

不良女「はぁ!? ちょっ、お前まさかこの女と……ッ」

生徒会長「なななな……なぁっ、何を言い出すんだ君は!? わ、私たちはそんな関係では!!///」

男「ん? ていうか、二人は何を話していたんですか。見た事ない組合せだな。どうした?」

不良女「どうもこうもねーよ! そいつがあたしのカッコにイチャもんつけてきやがったんだ!」

生徒会長「あ、あ……コホン、当然だろう。そのような乱れた制服で校内をうろつくのが許されると思っているのか? 制服の乱れは風紀の乱れ。正さざるを得ない」

不良女「あぁ~? あんたは生徒会長だろーが。そういうのは風紀委員に任せりゃいいだろ!」

生徒会長「生徒会長だからだよ。御託を並べず、いい加減言われた通りにしないか」

男「俺はここにいなくても良いですよね。それじゃあ……」

生徒会長・不良女「待て」ガシッ

男「……やれやれ (いくら美少女相手だろうが、面倒を被りたくないのが本音。誰だってそうだろう?)」

男(どちらへ味方に回っても文句が飛んでくるに違いない。とはいえ、中立になれば、いつまでも彼女たちの論争は止まないか)

不良女「そもそもさぁー、あたし以外にも着崩してる奴いっぱいじゃんか。あたしだけ特別扱いかよ?」

生徒会長「もし君がまともな格好をすれば、彼らも正してくれるかもしれない。何度も言わせてもらうが、私にその手の言い訳は無駄だよ」

不良女「ムカつく……おい、男ぉ! こいつほんとどうにかしてよ、キリねーぞ!!」

男「えっと、生徒会長の言い分は間違ってないんだよ。俺としてはどうにも」

不良女「う、裏切るんのかよテメー!? あたしと男の仲だろ、プレゼントだってくれたのに、[ピーーーーー]…!」

男「バカっ、それとこれとは別だろ!?」

生徒会長「プレ、ゼント……っ?」ピク

不良女「ああそうだよ! あたしはな、会長さんなんかより、男とずっと仲良しなんだよ! フン、だからこいつはあたしの仲間な!」

生徒会長「お、男くん……それは……!」

男「(凛して振舞い続けた生徒会長も、途端にオロオロし出す。ああ、涙目になってしまって。抱きしめて安心させてあげたい) プレゼントはともかく、だ。 どっちの味方をするかは俺の自由だろ?それに一応、俺も生徒会役員の一人だしな」

不良女「えっ、それ卑怯じゃねお前!?」

男「……卑怯って何だっけ? 生徒会長、注意する立場の人間が取り乱してていいんですか。こいつの思う壺ですよ」

生徒会長「はっ! ……うぅ、男くんからプレゼントをだなんて[ピーーーー]…」ウルウル

不良女「お、おい……よく分かんないけど泣くなよぉ……」

生徒会長「あうっ、ひぅ……ぅえっ……ふぐぐ……な、い゛で、な゛い゛っ…!!」ポロポロ

不良女「いや、しっかり堂々と泣いてんじゃねーか……悪かったよ、制服普通に着るから。な? 泣きやもう?」

生徒会長「そういうわけじゃ……うあぁぁぁ~ん……[ピーーーーーー]って[ピーーーーーーー]ぁー……ぐすっ」

男(まさか泣き顔を拝見できる場面とは思いもしなかった。昨日、不良女へプレゼントを渡さなければ、このイベントはどう転んでいたのだろう? とりあえず今は、何かを回避できた気がする)

男「(そして、今俺が彼女たちへできることと言えば) そういえば生徒会長、昨日メールで教えた新入部員の件なんですけど」

不良女「アホ! あんたどうして空気読めねーかなぁ、今はそういう話するとこじゃない!」

男「いや、都合も良いし、これで泣き止んで貰えるかと思ってな。 聞いてました、生徒会長?」

生徒会長「んっ……!」コクコク!

男「かわいい……あああ、それでですね。例の新入部員、実はあなたの目の前にいるんですよ」

生徒会長「へ?」

不良女「ん?」

生徒会長「彼女が? 冗談だろ?」

男(涙は止まるも、次は身体をわなわなと震わせ始めたのである。 さきほどから変化が凄まじい)

男「不良女にも説明しておくか。この生徒会長も我がラーメン愛好会部員の一人なんだぞ」

不良女「こいつが!? マジで……えー……」

生徒会長「な、何だその嫌を全面に出した反応は! 私だって君のような女子と同じ空間は願い下げだ!」

生徒会長「あぁ~……ただでさえ周りに厄介なのが多いのに、どうして[ピーーーーーーー][ピーーーーーーガーーーーーーー]……」

男(心中お察しする、生徒会長。だが、あなたもけして他の美少女たちに後れを取ってはいないのだ)

不良女「ずいぶんとたのしそーなとこ紹介してくれたな、え?」

男「睨むなよ。別に、どっちもこれから親交を深めりゃ問題ないだろ? 生徒会長も子どもみたいに張り合わないでください」

男(しかし、良かれと思って次々愛好会へ引き込んでしまったが、逆効果だっただろうか。と、思いもしたが恐らく杞憂で済むだろう)

男(基本的に元世界、否、現実世界と比べると、女子同士も中々ギスギスさせてはいない。表面だけの仲だった、とかならば身震いを起こしそうだが)

生徒会長「でも、しかし……はぁ」

男「これで廃部は免れたんですよ。そう思えば嬉しい筈でしょう、先輩さんのことを考えたら」

生徒会長「か、彼女はいま関係ないだろう……っ///」

不良女「あー……なんか歓迎されなさそうだし、あたし取り消すよ。なんたらってとこに入部すんの」

男(だからどうしていつもお前は真っ先に身を引こうとするのか。その派手な外見は見せ掛けか? 野獣のように、もっと俺へ喰らい付け。脂肪の乗りは悪くないぞ)

不良女「それで会長も問題ないでしょ?」

生徒会長「それは……いや、問題は大ありだ。頼む、先輩ちゃんのためにも君が必要だ!」

不良女「別にあたし誰かのために入る気ないんですけど……[ピーーーーーー]///」

男(でも、俺がいるから、と。だから好きだよ、お前は)

男「俺は部のこと抜きにお前が入部してくれたら良いと思って誘ったんだけどな」

不良女「は?」

男「そうか。入部取り止めになるのか、残念だな。 生徒会長、仕方がないですし、今日も俺たちだけで活動やりましょうか」

生徒会長「ああ、仕方ないものな……私たちだけで行こう、私たちだけで……ふふ」

不良女「……お、おい。それどういう意味だよ?」

男「どうって、そのままの意味さ。部員が新たに増えないんじゃ、もう廃部への道を辿るしかない。その前に何かはしておきたいし」

男「無理言って悪かったよ。……でも、本当にお前がいたら、俺は嬉しかったかな」

不良女「ええぇ…そ、そんな……だけど」

男「じゃあな、不良女」

不良女「[ピッ]、[ピーーーーーーー]! やだっ、まだ行くな! は、入るから……そこに入部するから、やっぱり」

男(お前が強がって引こうとするならば、こちらも限界まで引いてしまえば良い。俺へ対する諦めが付かなくなった彼女ならば、かならず食いつくのは分かっていた。だから、チョロいのだ)

男「ほんとにか? 無理して言ったのなら止せよ、俺だってお前に楽しんで欲しくて誘ったんだから」

不良女「無理なんかしてねーよ! き、気が変わっただけ……///」

不良女「だから会長、ヨロシク……」

生徒会長「そうか。別に私が部長ではないからな、畏まる必要はないぞ……」

男(生徒会長よ、その性格を治すべきだと言ってやりたいが、これぞ彼女の魅力の一つ。俺からはとても)

男(……ならば、この睨み合いも、これ以上不仲にさせない為にも、少し水を被って頂こうか)

男「先輩さんって人がそこの部長でな? 言っておくが手を出さん方がいいぞ…彼女は生徒会長のお気に入りだからな……」

不良女「手を出す? ……あっ、マジ?」

生徒会長「何だ……おい、何だそのにやついた目は? どうしたんだ、二人して…え、えっ」

不良女「んー? いやいやいやぁ~何でもねーよ、会長さーん! だいじょぶ、だいじょぶ! あたし結構空気読める方だからねっ♪」

男(して、お節介と。だがそのお節介が幸いして、生徒会長と彼女の関係の悪化を止めるストッパーと化す)

男(生徒会長からはけして歩み寄ろうとはしないだろう。しかし、不良女へこういった話をしてやれば、不良女自身が面白がって、そして俺のライバルとして見ずに済んで、積極的に絡んで行こうとする筈。 俺はただ、その手伝いをしたのみ)

男(いわば弄り役と弄られ役に分かれてもらった。これで転校生と不良女を同時に扱う場合でも、生徒会長がいてくれれば、良い塩梅となると思われる。さらにそこへ先輩が加われば、俺を取り巻く空気が綺麗に洗浄されるわけだ)

男「よかったですよ、生徒会長。……ククク」

生徒会長「え、えぇ? 一体どういうことだ……」アタフタ

男(何よりも、転校生と不良女を同時に相手することに不安を持っていたのが、解消されそうなのが嬉しい)

男(彼女らは外見こそ全く異なるが、内面はかなり似ていると接してきた経験から分かる。だからこそ、同時に対処するのは困難。基本的にこの俺はあの手のタイプへの対処法として、カウンターにカウンターを重ねる攻撃を得意としていた為、また、それは二人きりの状況でこそ力を発揮していた為、である)

男(不良女の注意が俺から少しでも逸れれば、集中しやすくなる。……シミュレーションは完璧だ。本当は不良女ではなく、オカルト研がいる方が全体のバランスを上手く取れたと感じるが、特に問題はなくなった)

先輩「とうっ」ツン

男「うひっ!? あ…せ、先輩さん。いつからそこにいたんですか?」

先輩「さっきからず~っと呼んでたんですけど。それより男くんのほっぺプニプニだねぇ~! 触ってビックリだよ、癖になる触感!」

男「呼んでたってことは俺に何か用ですか? 愛好会の件について?」

先輩「ううん、まったく用事ない。 ただ、そこに男くんがいたら構いに行かないわけにゃイカンでしょう!? これはもはや義務なのさぁー……[ピーーーーーーー]///」

男「え? 今何て言いましたか?」

先輩「っ……~♪」ふーふー

男「口笛、誤魔化すにも上手く吹けてませんよ。大体、義務って何ですか、義務って」

先輩「まぁまぁ~細かい事気にしてたらあっというまにハゲるよ!! ……あっ、ごめ」

男「ズバッと言い切ってくれた方がまだ良かったなっ!!」

先輩「あはは……だ、だいじょーぶ! ほら、ハゲてもカッコいいおじさんはいるよ。男くんも歳取ったら需要があるかもねっ!」

男「……頼むから、これ以上遠回しに残酷なこと言わないで」

男(その明るさが眩しすぎて、返って痛い。 まぁ、相変わらずな先輩さんだったのである)

先輩「ごめんごめんっ、ほら元気出そうよぉ~~~うりうりぃっ!」ギュウ

男「(違う所がな、感情よりも先に元気になりそうだ。性根は腐ってひん曲がろうが、身体は正直か) だからその抱きつく癖なんとかしてくださいよ! 恥ずかしいんですってば!」

先輩「んふふっ、恥ずかしくても実は嬉しいくせに強がっちゃって~。 わたしはこうやって毎日男くん分を貰って充電しなきゃ生きてけないのだよっ、連休明けで久々なんだから許せぇ~!」ギュウゥゥ

男「そういう問題じゃ……!」

先輩「……あーむっ」カプ

男「おっ、はうっ!!」

男(数秒でも彼女が大人しくなれば死んでしまったのかと本気で心配そうになる。振り返って、背中へ抱きつく先輩を見ようとした、その時)

男(俺の耳たぶを、先輩がパクリと甘噛みしてきたのであった)

男「ちょっと、ちょぉおおおぉぉぉ~~~……あふ」

先輩「はむはむはむ……ふ、ふっふっふっー///」

先輩「お、男くんの弱点見つけたりぃ! ずばり、耳が弱いと見たっ…!///」

男「はいはい、大当たり……ていうかどうして顔赤くしてるんですか?」

先輩「えっ……あ、あはは、[ピーーーー]……///」

男(その合わせ技はずるいだろう。ときめくを通り越して、心臓が痛いぐらいだ)

先輩「あ~……そ、そういえば明日!明日の話ね!?」

男「明日何かあるんですか?」

先輩「いやぁ、あるっていうかだね。むしろ無しになったといいますかー…明日は愛好会の活動はお休み。三年生でちょっと大事な話聞くことになっててさ、生徒会長ちゃんも無理」

男「そういう事なら仕方がないですよ。別に活動といってもラーメン食い行くぐらいだし……」

先輩「ほんとにごめんね、男くん。この話、転校生ちゃんとー……入部予定の子? にも伝えておいてくれないかなぁ」

男「ええ、任せといてください」

先輩「あっ! ていうかその三人で勝手に活動してても良いし、よければ部室に入って遊んでても大丈夫だからね!」

男(ちょっと待ってくれ。愛好会に部室って普通与えられるものなのだろうか。聞けば、「手に入れた」とだけ先輩は、大きな胸を張って俺へ自慢気にそう語る。うーむ、まるで風船である)

先輩「部室の鍵は先生に言えば貸してもらえるから。うう、明日はきっと男くんも転校生ちゃんも寂しいよねっ…チクショー!わたしもめちゃくちゃ寂しいよぉー!!」

男「その前にめちゃくちゃ静かだな、って思うかな。……とりあえず転校生たちにも伝えておきます。あと、それから、その入部希望の奴なんですけど、今日から連れて行っても?」

先輩「えっ、むしろどうしてダメだと思っちゃってる? 全然OKだよっ、ていうか早く見たいもん! 男の子?女の子? あぁーどっちでも良いや! でも男の子だったら筋肉ムキムキが嬉しいなぁ、あっ、女の子なら太ももムチムチが良いですなぁ…うへへ」

男「女子ですよ。先輩が気に入るタイプか……いや、とりあえず誰でも気に入るか」

先輩「んーそうでもないよー? わたし、結構好みがうるさい方ですからね!! …あっ、男くんはお気に入りだから。すっごぉ~~~く、お気に入りです、うん……[ピーーー]、[ピーーーーー]」

男「え?」

先輩「な、なんでもありませ~ん/// ……えへへ…じゃあ、また放課後にね。今日も生徒会が長引かないといいけど」

男(朝から美少女キャラ総当たりである。思わぬ収穫も得られ、先輩の温もりと柔らかさをこの身に残したまま、俺はようやく教室へ辿り着くのであった)

先生「遅刻扱いになりたくなけりゃ、もちっと早く来れないかなぁー。ねぇ?」

男「先生が俺をもっと必要としてくれれば、是非、朝一に」

先生「必要だよ? 私が困らせられるだけなんだから……早く来てくれたらHR前に色々話せるのに」

男「は、早く行きますとも。これからは先生の為に、何よりも優先にしますとも!!」

先生「そ、そう……変な子……///」

男(難聴さえなければこんなに嬉しいこともない。あとで後輩にも会って満足させてもらうとしようではないか)

男(席に付けば、転校生が脇目で俺を鼻で笑う。男の娘を見れば、彼もこちらへ気づいて笑顔が手を振る。右も左…正確には左、前。 見渡せば天使が微笑んでいるのだ。しかし、彼女ら美少女ばかりに現を抜かしているわけにもいかん)

委員長「…………」

男(一瞬だが、目が合った。合ったが、すぐに逸らされる。照れとはまた別の何だか気まずそうな様子。今の委員長は、どちらだ?)

男(あとで彼女ともこれからを話合わなければ。面と向かって昨日の臭い台詞を吐ける自信はないが。……さて、寝起きから現在までで何か気づいた事はあっただろうか)

男(俺の、ハーレム主人公としての特性はどうでもいい。と、なると新たな発見も推測もまだ立っちゃいないわけだ)

男「あっ……転校生、明日の愛好会に先輩さんたち来れないらしい。伝えろって」

転校生「そうなの? ……ってことは明日は私と男だけなんだ……」

中途半端だけど明日へ続く

転校生「[ピーーーーーーーーーー]…[ピッ]、[ピーーーーー]///」

男(照れってれで嬉しそうにするのは構わんが、残念だな)

男「忘れたのか? 俺たちの他に新入部員もいるんだぞ。昨日メールで教えただろ」

転校生「えっ……わ、分かってるわよ!ちゃんと覚える! ……はぁ、[ピーーーー]」

転校生「ちなみにその人は私たちと同学年なのよね。どこのクラスの人? お、男? 女?」

男「やけに興味深々じゃないか。隣のクラスの不良女って奴だよ、たぶんお前はまだ会ったことないかなぁー」

転校生「女子なんだ……うぅ、ほんとに毎回どうして……でも[ピーーーー]」グッ

男(見られていないと思っているのか。俺から体を逸らして、両手を握り、小さく気合いを入れ込む転校生。がんばれ、かわいい)

転校生「ていうか、その言い方だとあんたの知り合いなの? その人は」

男「知り合いというか、まぁ友達の一人だよ。柄は悪そうに見えるが、根は良い奴だし、面白い奴だぞ。お前もきっと気に入るさ」

転校生「だからどうしてあんたの周りの子ってそういう……きっとまーた可愛い子なんでしょうね」

男「可愛い、言われてみれば綺麗な顔立ちしてるかも。だが、性格と全く見合ってないし、宝の持ち腐れ状態だな」

転校生「最っ低!! よく好き勝手言えるわよねっ、失礼とか思わないの!」

男「だから友達だって。別に気使うような間柄でもないし……何だ、おい、怒ってるのか?」

転校生「むぅぅ~~~っ……!!」

男(紅潮させた頬をぷっくり膨らませ、プルプルさせていた。本格的に嫉妬している。そりゃそうだ、知らない所でまた美少女の知り合いを作っていたのだから)

男「これまた、たこ焼きでも作れそうな膨れ具合だな。よく分からんが機嫌直せって。あやまるよ」

転校生「違うっ、そういう問題じゃない!! ……あー、私 なにムキになっちゃってるかしら…[ピーーーーー]」

男「はぁー…怒ったり萎んだりと見てて飽きない奴だ、お前は。 とりあえず今日から不良女を連れて行くから仲良くしてやってくれ」

転校生「もちろん、仲良くはするわよ。その努力もする。ただ……あんたが誘った女の子って絶対……[ピーーーーーー]」

転校生「[ピッ]、[ピーーー]……もし[ピーーーーーーーー]ったら……」

男「え? 何だって?」

先生「何だって?……じゃないから。君たちねぇ、今何の時間なのか理解してる? もしかして休み時間入ったと思ってた?」

男「…ん? 今何て」

先生「こらこらこら、誤魔化して逃げようたってそうはいかない。楽しいお話なら教室の外で続けなさい」

男子たち「アイツらまた場所選ばずにイチャついてやがるよー!! 俺たちに見せつけてんのかー!?」

女子たち「ちょっと男子うるさい!! 転校生さんがまた困ってるじゃない、男くんもしっかりしなさいよね!!」

転校生「わぁあああああっ、ちがう! ちがうのっ! べ、別にそういうわけじゃなくて…こ、こここっ…これは///」

男「そうだ、俺たちは別にイチャついてるわけじゃない! 変な勘違いしてんじゃねーよ! 大体、誰がこんな暴力女と…」

転校生「はぁ!? こっちこそ、あんたみたいなド変態となんか土下座されたって勘弁よ!!」

男「いい加減その変態呼ばわりはやめろって言ってんだろ!? お前のせいで俺がどれだけ風評被害に合ってると思ってんだ!!」

転校生「何よ、私は事実を言ってるまでじゃない! 今日の朝だって……私のお、お、お……っ~~~!!///」

男「何だよ、言えないなら違うじゃねーか! バーカ!」

転校生「ばぁ!? …ふん、バカって言った方がバカなのを知らないの? バーカ、バカ変態っ!」

男「へっ、ブーメラン投げてるな転校生ー! へいへーい!」

転校生「っぐ、ぬ、ぬぅぅ~~~…こ、このぉー……っ!」ぷるぷる

男子たち「嘘つけ!! いい加減お前ら付き合ってるって俺たちにバレてんだぞ!!」

男「おいおい、こんなしょーもない喧嘩見といて なぜそうなる!?」

先生「ありゃ……それまた意外な」

転校生「ちょっ、先生まで! ど、どうして私と変態が付き合ってなくちゃいけないのよぉー!?///」ブンブンブン

転校生「ねぇ、みんな本当に勘違いしてるわ!私たちはそういう関係じゃ……っー///」

男(胸の前で不安気に手を抑える彼女が、困惑の表情に恥じらいをプラス、さらに期待が込められたごちゃ混ぜの眼差しを俺へ向けてくるのだった)

男(似たようなことは何度でも続くのか。ふむ、ワンパターンな行動でそれへ応えるのは面白味もない)

男子たち「この際もう白状しちまえよ!! 俺たち驚かないから!!」

男「……仕方ないか (椅子から気だるそうに立ち上がれば、クラス中がこの俺へ注目し始める。女子たちも口に手を当ててキャーキャー声を上げるのだ)」

男(男の娘は目を伏せ、耳に手を当て、現実逃避。先生といえば表情こそ平然とさせているが、何度も足を動かして落ち着きがない。皆、俺の次の言葉から訪れる、期待と、絶望を、待ち焦がれていたのである)

男(さて、ただ一人だけ、俺たちへ関心を持たずにいる生徒がこの中に、たった一人、存在する)

男「みんな、俺と転校生は!!」

委員長「いい加減にしてくださいっ!!」

男(ざわつく教室が一変として、ピタリと静かに止む。…彼女のキャラが、予想から外れていなければこう来るだろう、と。肝心の先生まで脇道逸れだしてしまったのだから、クソ真面目で、風紀委員長の彼女ならば、止めに行かざるをえないだろう)

委員長「あなたたち、今はHRの時間でしょう! さっきから黙っていれば好き勝手に騒いだりして…それに先生も!」

先生「あ、あー……ごめんごめん。ちょいと脱線しすぎちゃったねー……ほら、みんな席につくー」

男(クラスの中心人物、それが今の委員長のキャラ。この程度で皆から鬱陶しがられはしないだろう)

男(やはり、教室に入ってすぐに確認できた委員長は、別人格で間違いなかった。いくら何でも、協力関係を結んだ相手にあの態度は素っ気なさ過ぎた……とはいえ、昨日の変態宣言から目を逸らしたくなる気持ちも分かる。だが、あの目は違う。ゴミを見る目でも何でもない、恥じらいもなければ、である)

男「俺ぐらいのレベルまで達すればな、一目見ただけで美少女の変化も感情も読み取れる……主人公だからな」

転校生「……ねぇ、変態。さっき みんなに何て言い訳しようとしたの」

男「ん? また話しかけて来ていいのか。すぐに怒鳴られても知らねーぞ」

転校生「う、うん……ごめん……[ピーーーー]///」

男(教室内は先生の話し声だけ、なわけがなかった。いまだにクラスメイトたちが俺と転校生を見ては、ヒソヒソ声を立てている。そして転校生といえば視線に耐え切れず、机に突っ伏してたぬき寝入り。周りの声が聴こえてくるたび、足をバタつかせていた)

男(しかし、クラスでこう浮き立ってしまうと俺の行動に制限がかけられてしまいそうな。まぁ、今までの傾向から余計な心配は要らずだろうが)

男(分かっていることは一つ、次にここで下手に転校生と騒げば、俺たちの為に再び、周りが膳立てを始めるだろう。いつまでも逃げ切れるとは思えない)

男(いっその事、そこから個別ルートへ入ってしまえばと考える輩もいるだろう。だが、ここには男の娘もいる。それに噂が広がって他の美少女たちの耳に届いてしまえば、確実に詰むと見た)

男(できれば、二人きりの瞬間で、周りに邪魔されずに行きたい。転校生だろうと、誰であろうと、だ。……思ったのだが、個別ルートへ入れば、その後どうなるのだろう? 何もその後を体験できないまま四週目へ入れば、それはそれで悲しい。だが、その後が続くとすれば……いつまでだ? 俺はいつまで、イチャついていられる、もしくは、イチャつかねばならない?)

男(過去の二人の俺が、俺へ無事バトンを渡せたのだ。心配は無用だとは思うが、何故だか、不安が俺の中を巡る)

男(もし、その後が、永遠に続いてしまったら? 前回までが特別だっただけで、今回はそう限らないとすれば? 別に、美少女と一生を過ごすのは構わないし、望むところである)

男(でも……その永遠がとても恐ろしく思えてきたのだ。というか、永遠ではないかもしれない。つまり、俺が死ぬまで、続いたら)

男「いかん、最近思考がマイナスに偏り過ぎてる。明るい未来が待ってるのに、それで全然構わないじゃないか」

男「……もし結婚したりして、お互い歳を取っていけば、美少女は美女へ、そして美女から……うーむ、考えたくはない」

男「そもそも結婚とかそういう事は関係ないだろう! 俺はいわばギャルゲーの主人公そのもの。きっと変にリアルな話でもなければ、このまま一生モテモテ学生生活をエンジョイするに違いない!」

男「俺はそれをずっと待ち望んでいた。だから、神は俺にチャンスを与えてくれたんだ。別に信心深くもないが、日頃の行いが良かったんだな!」

転校生「なに一人でブツブツ言ってんのよ。気持ち悪い」

男「言われてなんだが、お前からだと誉め言葉だな」

転校生「ほ、ほんとに気持ち悪いわ……っ!」

男「それにしてもお前と出会えた俺はほんとに幸運だよ。前回、前々回という犠牲があったからこそだけど」

転校生「何の話してるの? ていうか今話かけないでよ…また注目浴びちゃうじゃない…」

男「すまん。でも今だから、何も起きていない今だからこそ、こうして落ち着いて話ができる」

男「なぁ、転校生。余計な話ついでにさ、余計な、わけの分からん質問させてくれよ」

男(キョトンと、また、訝しそうに伏せたまま目配せる彼女へ、俺は、俺にとって恐ろしい言葉を投げかけていた)

男「俺が消えちゃったらお前は覚えててくれるかな?」

転校生「は!?」

先生「あのー……そろそろ先生も真面目に怒らなきゃなんだけど」

転校生「だ、だってこのバカが……!」

先生「いいから席に座りなさい。男くんもこれ以上騒ぎ起こさない。オッケー?」

男「はい。すみませんでした、先生……知ってるか、転校生」

転校生「……ちょっと、三度めは許されないって聞くわよ」

男「お前がこのクラスに来る前に、今お前が座っている席には他の女子がいたんだ」

男「面白いことになぁ、お前が来た瞬間都合良くパッといなくなって」

男「…………どうして、消えてるんだ?」

転校生「ふ、ふん、またおかしなこと言い出したわね。もう驚かないわよ、これ以上相手してたら切りないわ」

男「何でいなくなったんだ!? つ、都合が良くだと!? 俺はどうしてもっと変だと思わなかった!?」

転校生「ど、どうしたの急に!? ねぇ、ねぇったら!」

男「誰だあの女子は!? 俺はあんな奴知らないし、元の世界にもあいつは存在していなかったじゃないか!! あいつだけ、俺は知らないぞっ!!」

先生「いい加減にしなさいっ!! …ちょっと聞いてるの!?」

男(盲点といえば盲点であった。最初に席へついた時に、俺へ話しかけてきた隣の女子。彼女は誰だ? 名前も、顔すらも分からない。クラスにいる連中はある程度美化されているものの、ほとんどが元世界での俺のクラスメイトたちに間違いなかった)

男(友達も知り合いも一人といないが、クラスメイトは大体覚えている。転校生を除けば、元世界での彼らと数も合っている。ただ、この隣の席が、なかった)

男(俺が知る限りはこんな席は存在していなかったのだ。……だから、転校生、彼女はイレギュラー。もしかしたら俺が知らないうちに、元世界で転校生のモデルが加わっていたという可能性もある。 知らない。いや、その前に……いつ)

男「俺はいつ、どのタイミングで神と出会ったんだ?」

先生「男くんっ!!!」

男「え? あっ……せ、せんせい。どうしましたか」

先生「どうしましたかって……はぁー、わかった。まずは少し落ち着いて」

先生「ちょっと今のは異常に見えたぞ? それともからかってるんじゃないでしょうねぇ?」

男「いや、からかわれてるのは……俺の方かもしれない。俺は、俺に騙されているのかもしれない」

男「あれ……何言ってるんだ?」

男「先生、ちょっとだけ訊きたい事があります。一つだけ、答えてくれ」

先生「あのね、質問とかならいつでも受け付けたいけど、ちょっと今の空気汲んでくれないかな?」

男「そう言わずに聞いて下さい! おかしい奴だと思ったら聞き流してくれていいんだ!」

男「この……転校生の席。先生は言いましたよね。こいつがこの席に着く以前から、ここは誰の物でもなかった。丁度良く空席になっていたって」

男「それは本当ですか? み、みんなもそういう認識で間違いなかったのか? ここは、元々空席だったって」

先生「もしかして君は、ここに転校生が来る前は、誰か別の生徒の席だったのかって聞いてるの?」

先生「丁度良く空いてたよ。男くんだって知ってた筈でしょ? 何を今さら」

男「誰のものでもない席を、転校生が来る以前から置きっ放しにしていたんですか。どうして?」

先生「ど、どうしてって言われてもなぁ~……それが普通だと思ってたし」

男「本当は先生もみんなも不自然に思っていたんじゃないか? そして、実はこの席は一週間前に。いきなり置かれていたんじゃないか?」

男「そうでなければ、俺は確かにこの席にいた誰かと一度会話した。じゃあそれは誰だ? 誰か、あの日、俺に転校生の話題を振って来た奴はいないか? あの後すぐ席を移動したとかじゃ…」

男(見渡せば、皆が皆を見合わせ、そんな者はいなかったと、暗に俺へ伝えていた。……オカルト研よ、俺は悪霊とでも会話していたのかな)

男(隣の女子は、あの時、俺へ転校生は可愛い女の子、そしてハーフだ、なんて他愛のない話を振ってきた。たったそれだけ。気づいたら消えていた)

男(たったそれだけだったのに、何か、奇妙に感じる。だってこの場に誰もが彼女を知らなかったのだ。冗談でもなく、真面目に幽霊ではないか)

男(なるほど、分かったぞ。追加キャラは一人ではなかった。実は二人いたんだ、幽霊系美少女。オカルト研の話はあながち嘘でも適当でもなかったのかもしれないぞ。……マジか)

男(違うとも言い切れないのが恐ろしいところ。もしかしたらオカルト研との、あるイベントをこなせば登場があり得るかもしれない)

男(既に乗り移られていたりしちゃって。……そういえば時々自分が何を考えているか、何故こんな行動を取っているのか、と分からなくなる時があった)

男(最近では頻繁にそうだった。まるで俺を邪魔するように、時には催促するように、導くようにして。今だって本当に俺が、俺の意思で思考しているのかよく分かっていない)

男(待て……最近どころじゃないではないか。あの日から、俺がこの世界で目覚めたときから、ずっとだ。ずっと別の自分と隣り合っていた気がする)

男「委員長、今ちょっと時間大丈夫か。二人で話がしたい」

委員長「あなたが? どうせ大した用ではないと思いますけど……構いませんよ」

男「あー、まだ別人格の方……とりあえず場所を変えて話したい。図書室に行こう」

委員長「……二人きりになって変な事しようと考えているなら、大声で助けを呼びますから」

男「朝っぱらから発情するほど元気でもないし、どうせその相手には困らねーよ」

男(HRは壮絶に終わり、クラスメイトから俺は不審者扱い。当然だ。それは構わないとして、委員長と話をしたいと思った矢先にこれである)

男(彼女も、最近では別人格が主人格より出しゃばって来るようになったのだろうか。やはり、あまり時間は残されていないと見た)

男(もはや俺だけでは限界がある。これ以上深く世界の謎を追求するには、彼女の力が必要とする。だのに、これでは、参った)

委員長「それで話って……って! ど、どうして鍵閉めるんですか!?」

男「二人で話がしたいって言っただろ。ただし、今の委員長とではないが」

委員長「何だか今日はいつも以上に様子がおかしいですよ、男。さっきだって一人で突然騒ぎ出したりして」

男「俺がおかしいとか、おかしくないとかは問題じゃない……と思いたい」

男「なぁ、どうしたら元の君に戻ってくれる? これじゃあ碌に質問できやしない」

委員長「ねぇ……からかってるのなら教室へ戻りたいのですけど」

男(頭でも叩いてショックを与えれば戻ってくれるだろうか。美少女に対してそんな荒治療を働こうという気には起きないが)

男「……委員長、君は元の世界へ帰りたいんだろ。いいのか。そのまま欲に呑まれてしまっても」

男「嫌だというなら、気を確かに持ってくれよ! しっかりしてくれ!」ガシッ

委員長「い、いたっ……ちょっと乱暴しないで!! やめてください!!」

男「ばかっ、デカい声で騒ぐんじゃねーよ!! ほんとに誰か来ちゃうから!!」

男「俺をよく見ろ!! ……見て、どう思う。君の目には今何が映っている?」

委員長「……変態」

委員長「女の子たちを自分勝手にもて遊んで、ハーレムなんてものを作ろうとしてる、変態の……男くんが」

男「ひえぇ……良かったけど、喜べる台詞じゃないな」

委員長「あの……まだ、覚えてますか?」

男「覚えてるよ。昨日の約束まだ忘れてなかったんだな、ありがとう」

委員長「私の方はまた意識がどこかに行ってたみたいだね。ごめんなさい、心配かけちゃって」

男「全くだよ、というより凄い不安にさせられた。このままもう戻ってこないんじゃないかと思って。自分ではどうしようもないのか? 抑えることも? 勝手に入れ替わってる?」

男(コクリと自信なさ気に、申し訳なさ気に頷いて答えただけだった。毎回これでは保険の意味が全くなさないのでは……もう少し、今の俺で頑張らなければならないのか)

男「早速で悪いけど、訊きたいことが何個かある。できるだけ正直に答えて。いいか?」

委員長「何でも、どうぞ……それぐらいしか私にはできないから」

男「じゃあ遠慮なく行かせてもらう。さっき、ふと思ったんだが、俺は神と出会って、今の環境へ変えてやると話を持ち掛けられた。勿論、それは委員長も同じなんだろう」

委員長「お、同じです、たぶん。あの人は確かに自分を神様って話してた。正直嘘っぽいし、夢じゃないかと思ってたけど」

男「それだ」

委員長「え?」

男「神とは出会った。こいつは事実だろう。じゃあどこで? 現実世界で何処かでバッタリ遭遇してしまったのか。偶然でなくとも、神が会いに来たのか」

男「俺の記憶が正しければ俺と神以外に周りは誰もいなかった。…正直言えば、神の存在なんて信じちゃいない。委員長もじゃないか?」

委員長「あ、あのー……何を言いたいの?」

男「夢の中でもなければ、普通に会える存在だとは到底思えないってことさ」

男「だからずっと夢の中で出会ったとばかり思ってんだ、俺は。まぁ、そんな事は正直どうでもいい」

男「肝心なのは、いつ、その夢を見たか。つまりいつ神と俺たちは会ったのか」

委員長「いつ? いつって……あれ」

男「委員長もやっぱり覚えてないんだな。そうなんだよ、前後の記憶がハッキリしていないんだ」

男「そこで委員長に別の質問がある。覚えてる範囲でいい。君が元の世界で学校に通ってる間、俺は学校にいたか?」

委員長「えっと……ごめんなさい。少し事情があって二、三日学校を休んでたの。その前でなら男くんはいた、はず」

男「ハッキリしないのは俺の影が薄すぎるからでしょうね。 …わかった。それじゃあ、もう一つ」

男「俺たちのクラスに転校生が来たとかはなかった?」

委員長「それも、よくは……でも転校生が来るって噂は少し聞いたかも。どんな人とまでかは分からないけれど」

男「そ、それが本当なら転校生のモデルはいたのか! やっぱり外国から来たハーフなのかなぁー!」

委員長「どうだろ……それより男くんに言われて気づいた。私、全然こっちに来る前のこと覚えてない」

男「だろ? 全部曖昧なことしか思い出せないんだ。まるであっちでの暮らしが嘘だったみたいに」

委員長「……何だか、大事なことも、嫌なこともあった気がするのに。ねぇ、どうして私たちは神様にこの世界へ連れて来られちゃったのかな」

男「だから、それは俺たちの願いを叶えてくれる為に決まってるだろ?」

委員長「どうして? そんな事されるほど私たちって哀れ? 救ってくれるなら、もっと他に助けてあげなきゃいけない人たちがいる筈です」

男「選ばれたんだろ……偶然、宝くじの一等を引いたみたいに……!」

委員長「偶然だとしても不思議すぎる。本当はこれ全部夢だったりするんじゃないかな、だから今目の前にいる男くんも私が見てる夢で」

男「それはこっちの台詞だ! だけど、こんなにリアル…じゃないけど、長すぎる夢があるのか? 根拠はないが、これが夢なんてありえないっ!!」

男(きっとこの世界は、神がこの俺へ与えてくれたチャンス。そう疑いもせず、ずっと信じてきた。その通りではないか。それで良いではないか)

男(まさかこれが[ピーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]なはずがない。絶対に、そんなはずは)

委員長「……思い出した。契約って言われなかった? 神様が契約って」

男「契約?」

委員長「私には確かにそう言いました。『契約すれば、あなたの思い通りになれる。この機会を逃せば二度とない』とか、そんな感じに!」

男(言われてみれば、どうだっただろう。俺も似たようなことを話されたような、気もするような、しないような)

男「つまり……神と契約したから今の俺たちがいると。契約、取引……もしかして俺たちは神から無償で力を与えてもらったわけじゃない?」

続きは明日か明後日

委員長「無償じゃないってどういうこと?」

男「そのままの意味だろう。俺たちは神から素晴らしい世界を与えられた、しかし、それ至る過程で何らかの取引を行った」

男「いや、かもしれないだ。でも契約ってことはお互いに利益がなきゃなり立たない物じゃないか?」

委員長「うーん……つまり、私たちは何かを犠牲にしてか、渡したかで今を手に入れちゃったんだよね」

委員長「渡したもの、無くしてしまったもの……男くんと私の共通点」

男「記憶じゃないだろうか」

男(彼女と俺が辿り着いた答えは同じだったらしい。頸に力を入れ、合点する委員長)

男(二人は過去の記憶が曖昧である。それも別世界へ訪れる前、神と出会う前後の記憶がない。不思議なことに神との会話はハッキリと覚えてはいるが)

委員長「あの転校生さんって人も、もしかすれば私たちは知ってたのかもしれない。ただ、忘れているだけで」

男「元世界へ転校生が登場した辺りから俺たちの記憶はスッポリ抜けちまってる。だけど、なぜそこから? 転校生から離れよう……もっと違う、何か別の重要な出来事があったのかもしれない」

委員長「ちょっと待って! …そこを考えても私たちが思い出せることはないんじゃないかな? ううん、私たちにできるのは気づくだけで、思い出す、じゃないと思います」

委員長「他に何か不思議に思った点はない? 見つけたことは? 私は……ごめんなさい、何にも」

男「別にあやまる必要はないよ、今の君じゃ仕方がないだろ。だから俺に任せろって言ったんだ……」

男「委員長。委員長は知らないかもしれないが、俺はあの教室で、知らない誰か、と一度だけ話をした。転校生の席にいたんだ」

男「なのに、転校生が現われた瞬間 姿を消して、それから二度と俺の前に現われることはなかった。…今までは何も不思議に思わなかったんだけど、さっきおかしいかなと」

委員長「おかしい? どうして、ってことはないけれど、教えてください……」

男「えっと…こっちでの俺の両親は今海外へ二人揃って転勤してるんだが、まぁ唐突と言えば唐突だけど、しっかりとした理由があって俺の前からいなくなった」

男「俺が知る中である意味消えたのは父さんと母さんだけ。……しかしどうだ? さっき話した女子はまるで最初から存在していなかったように、皆の記憶へ残らずに消えた」

男「両親のことは俺以外の妹や幼馴染がしっかり覚えていたんだ。ただ、そいつ一人を、誰も覚えてない」

委員長「名前もわからない? ていうか私の知ってる限り、クラスメイトで誰か一人抜けていたなんてことはないと」

男「そうだよな? 俺もだ。 もしかして転校生と同じような存在かもしれない……なんて思ったが、それでもわけが分からないよ」

男「…あの子は確かに教室にいた。あれだけの生徒がいたんだ、誰か一人は気づくよな 普通は…………ていうか美少女以外のモブが俺へ話しかけてくるなんてケースが稀過ぎておかしいと思った! かつてない!」

委員長「……」

男「いや、真面目にそうなんだよ!委員長! 俺から話を振るか、アクションを起こさない限り モブは絶対向こうから接触してこようとはしなかった! それもあんな親しげになんて異常…」

委員長「じゃあもしかしたら、その子は男くんのハーレムに加わる予定のびしょーじょ、だったんじゃないの……」

男「それにしては特徴があまりにも無さ過ぎる! 顔は…よく覚えてないけど、美少女って程でもなかったし、本当にモブ顔って感じの…」

委員長「ごめんなさい。そういうのは、ちょっとよくわかんないかも……それで、その子とどんな話をしたんですか?」

男「どんなって……本当に他愛のない世間話みたいな、いや、噂話か。 転校生がどんな子なのかって。ただ、それだけ」

委員長「もっと詳しく! 何かヒントになるかも!」

男「えぇ? そうだなぁ……転校生は、噂によればすごく可愛い女の子らしい。しかもハーフだ。楽しみだね、男くん……思い出してみると、会話っていうか一方的だったな」

委員長「その話…君に転校生さんがどんな人か教えてるようにも聴こえる、かも」

男「俺に転校生を教える?」

委員長「うん。その子との会話の前に転校生さんとは会ってたんだよね?」

男「会った。会ったが、まだその時は名前も分からなかったし、制服も俺たちの学校のものとは違ったから転校生だなんて知らなかったよ。まず、そんな事を気にしている状態でもなかったし…」

委員長「記憶がなかったから? 確かじゃないけど、男くんは女の子と付き合うとそれまでの記憶がリセットされちゃうんですよね?」

委員長「そして、今の男くんは一、二回はやり直しがあった男くん。……あれ、よ、よく分かんないね…う~ん……」

男(変わらぬ委員長。いや、俺の知る委員長ではあるが、彼女がこんな仕草をする子だとまでは知らなかった。だから、キュン、と)

男(待て、落ち着くのだ。委員長は既に俺の攻略対象外である。そういう目で見るのは良くない……真面目に考えよう)

男「もしかして、隣の女子は、俺へ追加キャラか現状を教えてくれる村人A的ポジションのキャラだったんじゃないか。そう言いたい?」

委員長「ん~……まぁ、大体は……実際は元の世界にも存在してなかったとかじゃないかなって。で、君にだけ認識できるとか」

委員長「まるでゲームみたいな話だけど、実際にそんな感じでしょ?」

男(そういえば、前週の俺はどうやって事態を把握して行動したのだろうか。流されるまま流されて、なのか。 ただ後輩一筋で進めて行ったのか)

男(それにしては、他の美少女たちを見た限り、前週の俺は上手く立ち回れていた気もする。 ハーレムを目指そうとした跡は確かに残っていたのだ。まぁ、これについてはまず置いておこう)

男(委員長の言う通り、隣の女子が説明役だったとすれば……真にイレギュラーたるキャラは彼女)

男「希望が見えてきたかもしれない」

委員長「えっ!?」

男「あの隣の女子と会って話を聞く。これ以上俺たちで謎を解いても、解けるだけで世界から君を脱出させるまでにはいかないかもしれない」

男「だから、あの女子……イレギュラーに会わなければならない。そうだろう?」

委員長「当面の目的はそうなるんですか? でも、どうやって会えばいいのか。その方法は?」

男「校内をうろついて会えるかどうか分からない。だけど方法なら一つあるよ……だから任せとけ」

男(この俺が、さっさと、消えなければならない。 さて、この方法は確実とは呼べない)

男(もし、俺が次週の俺へバトンを渡せなかったら? イレギュラーと出会えなければ? 不安要素はたっぷり残る。だが、それを彼女へ伝えるわけにもいかない)

男(嘘でも、意地でも、委員長にこれ以上心配させてはならないのだ)

委員長「任せとけって……私にも最後まで協力させてください。そうじゃなきゃ申し訳なくて」

男「ここから先は俺一人で十分だ。難しいことをするわけじゃないし、まず委員長は自分の心配をしてくれ」

男「じゃないと俺も君も困る。それは自分だけじゃなくて、俺も助けることに繋がるんだからな。頼むよ」

委員長「わ、わかった……でも無理だけはしないで」

男「無理はしねーよ。最初から最後まで、俺は俺が楽しめることしかしてない」

男(背を向け、委員長を残してクールに立ち去る自分にうっとりとし、きっと彼女も惚れたと確信するのであった。だってカッコいいもの)

男(放課後まで時間は一気にすっ飛ばされる。というか、端折った。今日も長い一日を、主人公は送ったのであった。さて、事態は割とシリアスな展開へ向かう。誰がまさかこのような話へ進むと思えたのだろう。俺だって信じられない。この今の境遇を単純に喜んで、それで終わりと思っていたのだから)

男(初めの頃と比べれば、俺も頼もしく見えるだろう。まるで俺ではない。[ピーーーーー]。本当に主人公として相応しい男へ、俺はなれたに違いない。[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

不良女「……どうも」

男「こいつが例の不良女です。先輩さんと同じでラーメン大好きみたいなんで、どうかよろし」

先輩「あはぁ!既によろしくしちゃってるよぉぉぉ~~~!! きゃはーっ!」スリスリ

不良女「おいっ、何だこいつ!? いきなりどこ触ってやがんだよ!?///」

男「……心配なさそうで何よりかね」

生徒会長「これで廃部の危機は免れたということだな。ひとまずは安心できるだろう」

生徒会長「部活の方はな、部活の方は……[ピーーーーーー]」

転校生「あー、結構派手な人連れて来たのね……も、もしかしてああいう子がタイプ?」

男「はぁ? どうしてそうなる。友達だって話した筈だろ」

先輩「男くんっ!! ……グッジョブっ!」

男「じゃあ、先輩の生贄が一人増えたところで部の方針についてでも話合いましょうか」

不良女「おい、ちょっと待てよ……なぁ……? ひうっ!?」

先輩「ぐへへへ、美味しく食べちゃうぞぉ~……じゅるり」

転校生「部の方針って言っても、放課後にラーメン食べるぐらいでしょ? 他になにかあるの?」

男「ないからこうして決めようとしてんだろ、バカかお前」

転校生「なっ! ま、またバカって言った! あんたから一番言われたくないのよっ…!」

生徒会長「確かに……ただ食べ歩くだけでは部活とは呼べないな。大体、それだけを目的に部活を作った意味が分からない」

先輩「わかれよぅー。退屈せずに、みんなでラーメン通して放課後エンジョイできちゃうんだよ! ふふーん、こんな素晴らしい部活はどこの学校探してもないでしょう」

生徒会長「まぁ、普通は存在するわけがないからな。はぁ……」

不良女「ていうか、部室あるって時点であたしはビックリしてんですけど」

男(切実に、二人へ同意である。あまりにも謎すぎる、ラーメン愛好会。しかし、こういった謎な部活で美少女たちと過ごすのはオツだろう)

男「もう目的無しでグダグダ過ごすってのも有りじゃないかと思えてきたなぁ。ゲームでもして時間潰しますか?」

転校生「私、宿題やってても良いかしら? 早めに片づけたいかなって思ってたところなのよ」

先輩「ちょ~……みんな部長の話を聞きましょうよー……」

先生「話は聞かせてもらった」

男(音もなく唐突に俺たちの前に現われるは、ご存じ先生。腕を組んで得意気にし、うんうんと頷いて見せるのだ)

先輩「おお、せんせーちゃーん!」

先生「こーら。……それより、ようやく部員が揃ったことだ。部長もみんなの意見を取り込んで目的を持とうとしないかね」

先輩「でも、漠然としててハッキリ意見があったわけじゃないし、それにせんせーちゃんだって気楽なのが一番だって言ったじゃんか」

生徒会長「ゆ、緩すぎる……」

男「先生、何か良い案でもあるんですか?」

先生「いやいや、それを先生が言ったら生徒のためにならないでしょう? まずは自分たちで考える所から始めないと、ねぇ…」

男「なるほど、大人ってみんな汚ねェや」

不良女「あたしはまだ今日来たばっかりでよく分かんないけどよー、別にこのままで良いと思うぜ? それともみんなで放課後どっかに遊び行くとか!」

先輩「却下。 ラーメン食べなきゃ!! ラーメン愛好会として!!」

不良女「食うか食わねーかの違いじゃねーかっ!」

転校生「えーっと……あっ、それじゃあラーメンの歴史を調べるとかいいんじゃないですか? それでレポート書くとか」

男「物の数時間で終えそうだな。ネットで調べりゃイチコロだろ、グーグル先生がパパッと教えて下さる」

転校生「え? じゃあネットに頼らないで本とかで調べたらいいじゃない」

男「やだよ、俺は文明の豚だ。わざわざ便利な物を使わないとかバカじゃないか?」

転校生「うぅぅ~~~っ!! な、何なのよっ…変態、異常者! ド変態クズっ!」

男「バカの代わりにしては最悪すぎる言葉のパレードだな…っ!」

先輩「うーん、歴史を調べるのはちょいと普通すぎて面白味が足らないかなぁ。例えるなら、気の抜けたコーラぐらい」

転校生「散々な評価よそれっ……あー、もう! 生徒会長だけが頼りだわ! 何か良い案あるでしょう?」

生徒会長「私か? そうだな、食べ歩くことを活動としているのならば、ここら一帯のラーメン屋へ入る客層などの統計を取ってみると面白いかもしれないね」

先生「そうそう。そういうことを私は言いたかったんだなぁ、うんうん」

転校生「この先生、ずるいわ……っ!」

生徒会長「客層や客の入り、確か情報誌などでそういった物からランキングを作ったりしているだろう? 実際に私たちが調べ、ランキングを作って相違が生まれてもまた面白いかな」

生徒会長「あとはー……実際にその店のものを食べて、部員一人一人が味の感想を書いたりするんだ。で、ここはこうだからオススメできるとか、学生の視点からレビューをつけてみたり。それら内容をまとめてレポート、というか簡単に冊子でも作ってみれば、まともな活動をしてる部に見えなくもないんじゃないか? ……どうした。みんなして私を見て…お、男くんまで、そ、そんなに…はぅっ///」

不良女「まともなぁー……」

転校生「すごく、まとも……一番の常識人だわ……」

男(普通に考えればこういった目的へ辿り着くのが当たり前なのだが、生徒会長が提案すると全て見事な考えに思わされてしまう。 …ところで、何気なく周りと混ざり合っている俺であるが、お気づきだろうか。かつてない、ハーレムが、ここに生まれようとしていた)

先輩「じゃあ生徒会長の提案でけってー! はい、みんなパチパチパチ…ほれ、拍手を!」

生徒会長「ま、待ってくれ!? 本当にそれでいいのか!? 正直まじめに考えて出した案ではないぞっ」

先輩「だいじょーぶ! 真面目にやってるように見せられたら良いんだから! ねっ、せんせーちゃん!?」

先生「まぁ……訊かれて困らない言い訳はできたね。ようやくだけど」

男「今まで何の目的も無しによく活動させてこられましたね……じゃあ部長もそう言ってることだし、さっきの案で決まり…(ふと、視線を落とした時であった。見つけてしまった。何を? 皆の嫌われ者 Gである。 そしてキッカケを見つけた。神は言っている、ラッキースケベを起こせと)」

ここまで

今週は時間なくて、週末にならなきゃ書きに来れないかもしれない
その点だけ知っておいてもらえたら幸い

男(Gと言えばG、アレ以外他でもない。今も俺の視線の先で頭部から伸びる細長いアンテナを揺らしている。それは合図と見た。彼は俺の味方である。ルート固定へ真っ直ぐ向かう道を行くのならば、楽しめる内に楽しんでおかなければ。というか、本当にどの美少女を選ぶか悩む。やはり安牌を取るべきだ。しかし、リスクを伴うが部活メンバーも捨てがたいぞ)

男(どうせここ一度きりの体験になる。本当に自分が好きだと思える美少女が良いな、最後だもの……と、思考が脇道に逸れて行くのは、伝統芸で短所)

男(そら見ろ、気づけばGを見失っていた。奴さん、変なとこで活発になる。さて、ここでまた俺の悪い癖が出てくるのだが)

男(本来のラッキースケベの意味を思い出してほしい。 このイベントは俺もとい主人公が狙って発動させるものではない。ラッキーだ。偶然にして幸運がもたらす、それがラッキースケベ)

男(Gは大切なことを、シンプルに思い出せてくれた。とあるグラップラーが彼をリスペクトしたように、俺もそれへ倣う……師匠……G師匠)

不良女「ん? なぁー、なんか会長の近くで動いてね?」

生徒会長「何か? 動いている? どこに?」

不良女「あたしの見間違いかなぁ。気にすんなよー」

生徒会長「有耶無耶にされるのが一番困るぞ……」

先輩「ああっ! 生徒会長ちゃんの背後に怪しく微笑む黒い影がぁーっ!!」

生徒会長「影は笑わないだろう。 ……ちょっと待て。今のは冗談と捉えて構わないね? なぜ全員 私の後ろを見て顔を引き攣らせてる…っ?」

先輩「わたし、ウソは言ってない」ピク

男「オブラートに包んだんですよね。 大丈夫、落ち着いて、生徒会長。死にはしない」

男(全員が顔を青くして、悲鳴を上げそうな転校生は、両手で口を抑えて目を瞑り、震える。そして、先生はいち早く脱出に成功。可愛い生徒を残し逃走を終えていた。責任あるのか、ないのか、状況によってキャラを変えるのもギャルゲー教師キャラらしい)

男(オドオドする生徒会長を置いて、美少女たちは揃って唾を飲みこみ、師匠の行動に備えるだ。 そしてこの俺も、来るべき展開に備えて位置取りを行えば、師匠、飛翔ス)

転校生「きゃああああああぁぁぁーーー!!!」

男(から始まる阿鼻叫喚。ようやく背後の気配を察知し、振り向く生徒会長も悲鳴をあげて俺たちへ逃げる。しかし、師匠が追ったのは生徒会長。 なるほど、師匠も美少女がお好きなのだ。それも巨乳黒髪と来れば、食いつきも違ったか)

不良女「バカっ!! こっち向かって逃げてんじゃねーよ!!」

先輩「えんがちょ! バーリア! もうわたし無関係だから!」

生徒会長「あああっ、君ら人でなしか!! ひいっ…いやぁあああああ!?」

転校生「変態何とかしなさいよぉ!? アレと仲間でしょ!?」

男「はぁーっ!今までで一番最悪で、むしろ光栄に思えるね そいつは! せ、生徒会長! ストップストップ! 待って、こっちに」

男(来たまえ、俺は待っていたぞ。 両手を広げて。ズバリ、この胸へ飛び込む形となった生徒会長。衝突の勢いを殺せず、偶然にもこの手は彼女を支えずに、滑り、ブラウスを胸元から破いたのであった)

男(ブチブチブチ、とボタンは弾き飛び、露わになる下着に包まれた二つのたわわ。それへ俺の顔は潰され、生徒会長の下敷きとなったのである。……まだ、まだ終わらない)

男「ふぎぎっ……」

生徒会長「いっ!? [ピーーーーーーーーーーーーーーー]///」

不良女「どうして今度はあたしの方に来んだよ!? や、やめろ…やめてえぇー!?」

男(恥じらう生徒会長が俺から退いた時には、師匠は滑空を終えて、不良女へ電光石火の勢いで接近だ。 いやぁ、師匠もスケベな男の子に違いない)

男(よろけつつ起き上がる俺へ向かって、不良女が逃げてくれば、次にこの手が掴んだものは、不良女のスカート。 そしたらもう、やはり脱がした)

男(激しく動く彼女から、どういう原理か、もはや説明もつかないがスカートはスルリと脱げ落ちる)

不良女「あうっっっ!」ビターン

男「だ、大丈夫か 不良女? それから……すまん」

不良女「えっ……あっ、え……う…いやああああああぁぁぁぁ~~~っ!!!///」

先輩「ふ、不良女ちゃん! 男くん一体なにやっちゃってんのさぁー!?」

転校生「あんたって奴はこういう時も、ああっ、ほんっとにバカじゃないの!? さい…っっってい、だわ!」

男「いやぁ不可抗力ですよ、嘘じゃない! (だって神が与えたものだから、仕方がない。だから不幸だったのさ)」

男「とにかくみんな一旦落ち着け、騒げば余計に反応して向かってくるだろ!」

転校生「うぅ…そんな事言われたって無理なのよぉっ! 頼りの先生もいなくなってるし、あの人私たち見捨てて逃げたわねー!?」

男(師匠の活躍ぶりには目を見張る。期待以上の働きである。まさか、このまま残りの二人にまで発生させようというのか、ラッキースケベを。さすがイニシャルG、伊達ではなかった)

男「転校生、騒ぐな。いいか? ほんとに落ち着けよ……今お前のすぐ傍でアレが足を止めた……分かるな?」

転校生「っ~~~……」

男(足元付近で制止した師匠を見下ろし、涙目な彼女だが、その様子に酷く俺は興奮というものを覚えてしまった。…別に師匠とセットのこの状況で、という意味ではないので履き違えないで欲しい)

生徒会長・不良女「[ピーーーーーーー]……[ピーーーーーーー]……」

男「二人はよく分からんが燃焼しきって目が虚ろだ……やれやれか、まだフィーバータイムは終わっていない」

男「残るは俺と転校生、そして先輩さんの三人。つまり、俺たちで打開しなければですよ!」

先輩「あー……もう無視しよう!? 虫だけにっ」

転校生「……! ……!!」パクパク

男(声を出さず口をパクつかせて意思表示する転校生。ご丁寧に先輩の発言へツッコんでくれた、わけでもなさそうな)

男「よし、転校生。そこを動くなよ。今、俺がそっちに行って何とかするからな……先輩さんは待機、OK?」

先輩「い、いいですとも……」

転校生「ぁ……ぁぁ……っ!」

男「バカ、変に脅えるな。黙ってそのままじっとしてろ、じゃなきゃそいつが今にも動き出すぞ」

男(にじり、にじりと転校生の傍へ慎重へ近づくにつれて、師匠も嬉々とし、直角移動を繰り返して彼女との距離を詰め出すのだ。 良い、その調子である。その不確かな行動が俺へプラスに働くのだ)

転校生「ひっ……こ、こないで……いやぁぁー……」

男「今の俺に言ったんじゃないよな?」

男(その瞬間、バッと急な方向転換をし始めた師匠であった。向かった先、そこには先輩が一人。 異様に賢く動くと定評のある彼だが、まさかフェイントだったとは)

先輩「うきゃあぁああああぁぁぁ~~~!!? 助けて、ヘルプ! ヘルプ!」

転校生「先輩さん! …って、だからどうして逃げる時 みんなこっちに向かって来るのよっ!?」

男「たぶん、そうせざる得ないというか。仕組まれてるんだろうよ! (誤りがあったのだ。こっち、ではない、俺へ、皆が向かって来る。引き寄せられるように)」

男(だから避けられなかった。さて、ここでもう一度思い出そう。ラッキースケベとは、偶然が重なり、運が良かったから、言い変えれば運が悪かったから、それは起きた。ラッキースケベのスケベとは、何が起こるか分からない。主人公でさえも。神のみぞ知るのである)

男・先輩「  」ドン

男(ならば、神はあまりにも意地悪すぎた。このような形で、俺は追い込まれるなんて、思いもしなかったぞ)

転校生「…………え」

男(まさかだったのだ。今までずっと、この俺に働くラッキースケベの力は味方だとばかり信じていたのに、まさか、最後の最後で厄介を引き起こすなんて)

先輩「ん、ん……っ~~~!!?///」

男「ぅむぐぐぅ~~~……!」

男(俺は先輩と突然のキスをした。してしまったのだ。 それぐらいハーレム主人公が体験するラッキースケベの一つとして普通だと思う事だろう。だが、状況が、時期がいけなかった)

男(すぐ目の前で紅潮する先輩から視線を逸らし、転校生へ移せば、何が起きたか分からない、今自分が目撃したものを信じられない、そんな唖然とした表情をしていて)

男(たじろぎ、綺麗な瞳を涙で潤わせていた。 同時に気付かされた。俺はあまりにも転校生に近づきすぎた。クラスメイトが俺たちをそう冷やかしたように、俺と転校生は、もはや恋人同士に近かったのかもしれない)

先輩「男く…ん……[ピーーーーー]……そ、そろそろ離して……///」

男「ああ……すみませんでした、先輩さん……偶然だったとしても (そうだ、全て偶然だったのだ。だから避けようもなかった。こういう時、ショックを受けた美少女へなんと言い訳してやったら良いのか。いっその事、罵倒するか殴りかかって貰えれば助かるのに)」

転校生「…………」

男「転校生、今のは別に狙ったわけじゃないぞ。本当に偶然だったんだからな? 勘違いするなよ!?」

転校生「あはは…わ、わかってるわよ……どうしてそんなに必死になって、べ、べつに…[ピーーーーーーー]…っ」ポロポロ

転校生「は、初めての[ピーーーー]、さき越されちゃった……」

男(正確には初めてはオカルト研に奪われた後だが、狙っていたのか 俺のファーストキスを。今はそれどころではないのだ)

男(息を整え、落ち着きを取り戻そう。……転校生には見られた。が、残る二人は消沈しきっていて、それどころではなかったらしい。つまり転校生のみで被害は抑えられたと考えよう)

男(いや、むしろそれで問題を発生させてしまった。二人ならば、まだショックは受けようが、そこまでのダメージはなかった筈と見る)

男(しかし、転校生はご覧のありさまである。原因といえば、もはや決壊寸前にまで高まった俺への好感度だろう。加えて以前、彼女の家で体験したイベントも手伝ってくるのか)

男(場合によっては、時期によっては、今のラッキースケベは笑って飛ばす事も可能だと思う。たとえ胸を揉もうが、股に顔を突っ込もうが、おそらくは)

男(これは気持ちの問題と見た。彼女、否、女子にとって好意を持つ相手とのキスがどれほど深い意味を持つのか俺にはよく分からない。分からないが、きっと重要なのかもしれない)

男(好意の度合いにも左右されているに違いない。これまでが意識的に見ていたレベルだとすれば、今は……かなりだろう)

男(頼むから神よ、ここまで俺の望み通りな世界ならば、下手にリアルな面倒まで再現しないでくれ。 なぜ俺へ気楽な幸せを与えないのか、というのも全て俺に原因がある。ハーレムを目指した俺に、である)

男「転校生……その、Gがいたから、仕方無くて……」

先輩「そ、そうだよ! 今のは別に……そんなじゃなくて、ね?…あの」

転校生「わかってます……大丈夫……」

男(どこぞの聖帝が語った。愛ゆえに人は苦しまねばならぬ、愛ゆえに人は悲しまねばならぬ。真理か)

転校生「あーあ、私どうしていきなり泣いてるんだろ。急で驚いちゃったのかしら……えへへ、気持ち悪いわよね……ごめんなさい」

男「どうしてお前があやまってんだよ。何も悪くないだろ? 悪いのは…… (俺だ、と言ってもその意味は彼女たちに伝わりはしないだろう。ハーレムを夢見た俺が悪いだなんて)」

男(さぁ、一気に空気が重く変わってしまった。もう師匠どころではない。何がラッキースケベか、いつもそうだ。調子に乗ると痛い目を見させられる)

男(先輩にも申し訳が立たない。彼女は本当に何も悪くないのに、巻き込む形になってしまったのだ。この雰囲気の中、持ち前の明るさを無理に出そうと試みているようだが、そう上手くもいかないらしい)

男(もし二人の関係を気まずいものへ変えてしまったのだとすれば、それは俺に原因があった。ただそれ一つである)

先輩「えーと……えーっと……あ、ああっ! そうだ! さっきの話の続きに戻ろう? ほら、部の目的について話合ってたんだよ! それがアレのせいでー! まったくだよっ」

男「そ、そうですね。続き、話しましょうか……ほら、生徒会長も不良女もしっかりしてくれよ」

不良女「へ? は……ぅ、うう、うるせぇ!! 誰のせいでこうなってたと思ってんだよ!? 変態やろー…」

生徒会長「以前から怪しいと思っていたが、まさかドサクサに紛れてとんでもない事をしてくれるとは……それより私はこの恰好でどうしろというのだ///」

先輩「セクシー路線でいこう! 需要、たっぷりあると思いますっ」

生徒会長「慰めでもそういうのは止してくれぇ!! でも、男くんが[ピーーーーー]……///」

男「マジかよ……いや、え? 何だって?」

転校生「ふふっ」

男(笑った、ようやく転校生に笑顔が戻って来た。だがまだ調子良さそうではない。当たり前か、彼女的には相当さきほどの事は堪えた筈なのだから)

男(今後、俺は彼女へどう接して行けば良いのだろうか。危機は去ったばかりだった、だのに、またこんな形で訪れるなんて。 今ならば不幸だと自傷しても許されるのか? 何を言う、これも全て自分が招いた結果だろうに)

男(そんな俺と転校生の心情を写すように、空がどんより曇り、次第に雨粒が部室の窓を叩き始めたのであった)

生徒会長「この大雨だと今日は部の活動も無理がありそうだな。諦めてまっすぐ家に帰るとしようか」

先輩「うえー……明日はわたしたち部活行けないんだよ? なのに?」

生徒会長「なのにも何も、皆 この天気の中無理をすることはないだろう。部長として周りをよく察してくれ。それに風邪でも引いたら困るだろう?」

先輩「なるほど、そりゃそうだ。ワガママでごめんなさい!」

不良女「もう慣れたからいいってのー。あーあ、あたしも明日はバイトあるし、部活無理だわ」

生徒会長「待て、今バイトと言ったのか? 許可は? まさか無断ではないだろうなぁ……んー?」

不良女「んなワケねーだろ!!」

男「嘘つけ、分かってんぞ」

不良女「えへ、バレたぁ? ……会長、待って。今のじょーだん、ほんとだって! 可愛い後輩疑ってんのかよ!」

生徒会長「事と次第によっては私の可愛いという認識から外れるかな。ふふ、途中まで帰りながら詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか?」

先輩「あー! カツ丼とか欲しくなりそうな予感がっ!!」

不良女「じゃあ帰り奢ってよー、ブチョー」

生徒会長「こら、話を逸らすな。……それじゃあ私たちはこれで。二人とも、道草食わずに気を付けて帰るんだよ?」

男「この天気の中、寄り道する気になんて起きませんよ。なぁ?」

転校生「……え? 何か言った?」

男「そいつは俺の台詞だからこれ以上奪わないでくれないか」

転校生「はぁ? ……はぁ」

不良女「じゃーな。結構不安だったけどさ、あたし割とこういう雰囲気ある部活って嫌いじゃないかもしんない。男、誘ってくれてありがと……[ピーーーー]///」

男「え?何だ……って、ってもう行っちまった。転校生、俺たちもさっさと家に帰ろうぜ」

転校生「そうね……帰りましょ……」

男(この時ほど、転校生との帰り道が重いと感じたことはなかっただろう。肩、というか全身に鉛が装備されているかのようだった。しかし、それは彼女も変わりない。さきほど見せた笑顔にほっとしたが、やはりまだ落ち付かずな様子だ。二人きりになってから一度も自分から話をしてくれることもなく、ずっと塞ぎこんでいる)

男(この天使を誰が傷つけたか、しつこいが俺自身だ。ならば責任を取ってやらねば、男ではない。 では、その為には一体どうしてやれば良いのかである。彼女は俺へベタ惚れだ。いきなり抱き付いてキスの一つでも噛ましてやれば……やってみろ、失望させてしまうだけだ)

転校生「雨、強くなってきたわね。この分だと明日も酷いかも」

男「あ、ああ! そうだな! ……じゃなくて、やっと口を開いてくれたな (再び鈍感を武器にしてペースを取り戻すところから始めようか)」

男「さっきから心配してたんだぞ。急にお前らしくなくなっちまってさ。もしかして、部室での」

転校生「や、やめて……思い出させないで…[ピーーーーー]から……」

転校生「ごめん……やっぱり私おかしいわ、どうかしてる……こんな気持ちになるなんて」

男「本当だよ、俺までおかしくなりそうだな。これだからイギリス暴力女は~……なぁ……おい、反応がねーぞ!?」

転校生「う、うるさいわねっ、今はそんな元気起きないのよ……きゃ!?」

男(あまりにも突然だったが、まぁ自然の気まぐれか、はたまた俺の為にか、強風によって転校生の傘が吹き飛ばされたのである。そして、俺の傘は引っくり返って、骨組が折れたわけだ。 ならば、ここから始めるイベントがある)

また明日

男「転校生こっちだ!濡れたくないならさっさと走れ!」

転校生「とっくの昔に濡れてるわよ! ずぶ濡れなんだからぁー!」

男(大雨の中、俺たちは走った。走って現在に至る。それとなく人気の無い場所まで俺が先行し、転校生を誘導したのだ)

男(一先ずは、屋根があってこの雨を凌げそうな場所を見つけて逃げ込む。遅れて転校生が後に続き、ビショ濡れで艶めかしい体を隣に寄せるわけだ。いやぁ、この状況は生唾ゴクリもののチャンス到来だろう)

転校生「はぁ、はぁ……はぁ~……お互いついてないわね。ていうか同時に傘が壊れるなんて変よ」

男「ああ、良い下着のスケ具合だな……」

転校生「はぁ? って、ちょっとどこジロジロ見てんのよ!? この、ド変態スケベ魔王ッ!!」

男「バカっ殴るのは止せ!! …何だよ、そりゃあスケてれば自然と目が行くだろう」

転校生「そういう所が変態だっていつも言ってるの! ……見ないで」

男「水色だったな。合ってるか?」

転校生「だぁあーっ!! 次おかしなこと言ったり、したら殺すわよ!?」

男「物騒な奴。だけど、こっちの方がいつもの転校生らしくてやり易いや。へへっ」

転校生「うっ……なんなのよ……ほんと[ピーーーーーー]///」

男「ん? どうした?」

転校生「何でも、ないわ……別にっ!///」

転校生「ねぇ、変態。覚えてる? 初めてあんたと会った日もこうして肩並べて雨宿りしたの」

男「その時は体育の時間で、男の娘もいたけどな。それがどうかしたのか? 思い出話にするほど大した事じゃないだろ」

転校生「…[ピーー]とっては、あんたと[ピーーー]に過ごした[ピーーーーーーーーーーーー]よ……」

男(ここまで純情乙女だとこの俺の胸までキュンキュンさせられる。さらにブラウスに透けて浮かぶ下着を見れば違う部位まで、だ)

転校生「雨、いつ止むのかしら? 帰りが遅くなったら困るわね」

男「この調子だと夜もずっとだと思うぞ。天気予報だと明日もこんな感じだった」

転校生「あっ、そういえばそうだったかも……やだなぁ……日本だと厄介よね、こういう日は」

転校生「知ってる? イギリスだとみんな傘を差さないのよ」

男「こういう大雨のときでも?」

転校生「さ、さすがに酷ければ持つわよ。日本と向こうじゃ気候が違ったのよね。あっちでも結構雨は降るわ」

転校生「それもしょっちゅうなんだから! ふふ、もう慣れたものだけど……」

男「小雨が多いんだろ? それに濡れてもすぐ乾燥して渇きが早いって聞いた事があったな」

転校生「そうよ、むしろ乾燥しすぎるぐらい。でもここ最近だとだいぶ纏まった雨が降るようになってたわねー……懐かしいなぁ」

男「待て、いきなり親の都合で向こうへ帰国しなきゃいけない重要イベントフラグを立てるつもりか!?」

転校生「は?」

男(テンプレギャルゲーでよくある、主人公とヒロインがくっ付いた後、終盤辺りで二人を裂きにかかるイベントが脳裏に浮かぶ)

男(まさか、あるのか? 神よ、主人公として俺を試す試練が先に待ち受けるというのか……高まるぞ)

転校生「親の都合って……つい1週間前こっちに来たばかりで普通それはないでしょ? ふっ、ばっかじゃないの! ばーか!」ニヤニヤ

男「だよなぁー! お前にしてはまともなことを言うじゃないか、転校生」

転校生「ま゛っ、まとも……ふ、ふん! あんたの相手してると本当に飽きないわ。色んな意味で!」

男「そいつは光栄だな。なら、これからももっと俺の相手を務めさせてやる。ありがたく思えよ」

転校生「何が、ありがたくよっ!! ったく…!」

男「おぉ? てっきり罵倒された後に丁重に断られるかと思ってたが、案外嫌そうじゃないな?」

転校生「…いっ、いやなわけ……[ピーーー]じゃない……///」

男(ここは訊き返さず、次の言葉をじっくり待つのだ。今この場には誰もいない。邪魔者はいない。さぁ、掛かって来るが良い、転校生よ)

転校生「その……だ、大体その台詞は私が言うべきよ!! これからも私の話相手をさせてやってもいいわ!」

転校生「し、仕方がなくなんだから! 別に、あんたじゃ、なくても……うぅ///」

男「言ってることが滅茶苦茶だぞ、日本語の勉強が足りてないようだな」

転校生「じゃあ……何て言ったらよかったのよ……」

転校生「……私と、[ピーーーーーーーーー]…?」

男「は?」

転校生「っ~~~!!? 何でもないっ、何でもないっ、何でもないっ!!!///」ブンブンブン…

転校生「今の聴こえなかったわよね!? 聴こえなかったって言って!! お願いだから!!///」

男(これまでで一番の照れ、茹で具合だろう。必死に手をじたばたさせる転校生である。また、さらに一歩踏み出させてやったわけか)

男「そんなに必死になってどうしたんだよ。悪いのか、よく分からんが雨のせいで聴こえなかったぞ」

転校生「そ、そう……なら良いわ……[ピーーーーーーー]」

男「んー?」

転校生「これ以上はもう気にしないでっ!!」

男(今まで塞ぎこんでいた彼女が嘘のように元気になったと思えば、お次は羞恥の顔を浮かべて座りこんでしまったのだった)

男「変な奴だな、お前って。変態と一緒いるのに相応しいぜ?」

転校生「あんたと一緒にしないで……あ~、もう! あんたの言う通り私って変よ!」

転校生「それもこれも全部あんたと会ったのが! ……でも、出会えて[ピーーーー]。ふふっ」

男(抱きしめるならこのタイミングが丁度良いのだろうか。というか、もうその衝動に耐え切れそうにない)

男(俺はどうしようもなく、隣にいる小生意気な素敵天使が、愛おしく感じて仕方がなかったのである)

転校生「本当に止みそうにないわね」

男「えっ!? あ、ああ…まるでバケツをひっくり返したみたいな感じだもんな…」

男(その小さな肩へ手を伸ばそうとした瞬間、転校生が立ち上がって空を覗き込んだのだ。すぐにこの手を後ろへ引っ込めた俺は、詰まるところチェリーボーイ)

転校生「バケツをひっくり返す? 何よ、その不自然な言葉」

男「表現の一つだよ。それだけ激しい雨が降ってますね、ってこと」

転校生「ふーん、色々あるのねぇー。覚えとくわ。ふふ、ちょっぴりだけ勉強になった♪」

男「別に個人的に勉強へ付き合ってやらんでも、こうした日常会話で簡単に学べるだろ? 難しく考えることないんだよ」

転校生「あっ! ね、ねぇ……そういえば明日って部員のみんなが用事があるじゃない? それで、なんだけど…!」

男「構わないぞ。ようやく約束が果たせそうだな。放課後、時間作っとくさ」

転校生「本当? やった…[ピーーーーー]……えへへっ///」

転校生「コホン……いい? 今回こそは約束通りにしてよ、絶対に忘れないで。忘れたら猫に引っ掻かれて死ねっ!」

男「忘れるも何も前回はお前が逃げたのが悪かったんだろうが (そうするように動かしたのは俺なのだが)」

転校生「あ、あれは! もう済んだことじゃないっ、それにあの時はあんたが私の……」

男「えぇ? 私の? 何だってー?」

転校生「ぐ、ぬっ……しねっ!!バカ変態っ!!」

転校生「…………///」

男(お分かりいただけるか、この雌の顔した美少女を。きっと彼女はこう思っているだろう。「このままずっと雨が止まなきゃ二人きりでいられる」なんて)

男(先程から雨降る空と俺の顔を交互にチラチラと見つめてはを繰り返してくるのだ。タイミングを計って、視線を合わせてやれば、ぼうっと赤面させて固まり、膝に顔を埋める)

男「さっきから人の顔見て何が面白いんだよ?」

転校生「へ、変態の顔だもの! 面白いわ! 見てて飽きない……」

男「変わった趣味をお持ちで。 それでどうする?」

転校生「え? どうするって、何を?」

男「どうやって帰るかだよ。妹に電話してここまで傘持って来てもらうか? どうせならウチに来て服も乾かしてけよ。風呂にも入れるぞ」

転校生「……覗きそうだから、いや」

男「覗かねーよ!! どこまで信用ないんだお前の中の俺はっ」

転校生「もう少しだけ……このままってダメかしら……」

男「風邪引くんじゃないか? ここはイギリスじゃないんだから、濡れた服も体もすぐに乾かんぞ」

転校生「それでも良いの。しばらく、こうしてたい……できれば[ピーーー]///」

男(大当たり、である。この大雨に感謝したいところだが、何故だろう? 雨が降っているとやけに気持ちが悪かった。何か[ピーーーーーーーーー])

男(とにかく、嫌な気持ちになるというか、悪寒がする。隣に転校生という美少女がいて、二人でこうしていられているというのに。本当に、何故なのか?)

男(なんとなく、理解できた気が……この感覚はきっと誰もが抱いた事がある。いわゆるトラウマではないだろうか)

男(生理的に受け付けない。そのような不快感が俺の中でずっと巡っていたのだ)

転校生「雨音って聞いてると落ち着いてこない? あ、今はこんなドシャ降りだけど、もっとしっとりした時の雨とか」

男「そうか? 俺は陰鬱になるけどな。まぁ、マラソン大会やらがあった当日に聞く雨音には歓喜させられたが」

転校生「ふん、あんたらしいわね。私もあんまり天気が良くない日は気が重くなっちゃうけど」

転校生「でも……今だけは……この天気にちょっと感謝してるかも」

男「ぷぷーっ。何言ってんだお前、バカが詩人気取ると痛々しいぞ」

転校生「もうバカって言うなぁーっ!! な、何よ……別にいいじゃない……」

転校生「だって、こうして雨が降ってるおかげで[ピーーーーーーーーー]」

男(はにかみ笑いを浮かべて、落ち着き、ほのかに頬を赤く照らしていた。今か。今しかないのか。この時は永遠ではないのだ……やらねば)

男「転校生、あの、その……」

転校生「私ね、今日あんたが先輩と……えっと偶然だったけど、アレしちゃってるの見て……正直驚きよりも悲しくなったわ」

男(ええい、どうして自ら傷を抉るのだよ)

転校生「胸が苦しくなって、頭がぼーっとしてきたの。それで体が熱くなって……[ピッ]、[ピーーーーーーー]」

男「そ、それを俺に話してどうするんだよ?」

転校生「どうって……ていうか、どうしてこんなことあんたに話してるのかしら」

転校生「ねぇ、どうして? 私、本当におかしくなっちゃったの!?///」

男「おう……わからん……そ、そろそろ帰るか?」

転校生「…うん、そうね。走ってすぐに帰ればきっと大丈夫よね」

男(違う、それじゃない。言葉の選択を誤っているだろう。この雰囲気だ、もっと他にする事がある筈だ。ここで引いてうやむやにするのは、もう終わったのだ)

男(俺は、転校生を、攻略したがっている。そうだろう?)

男「てんこうせ」

男(その時、次に飛び出す俺の台詞を、この唇を、何やら柔らかい感触が塞いだのである)

男(まるで不思議なことが起こってしまったような衝撃を受け、そして鼻孔をほんのり甘い香りが優しくくすぐった。だから、気づいた)

転校生「ん……///」

男(転校生の顔がすぐ目の前にあって、彼女は必死に背伸びしていて、それでいて)

男「んぐぅーーーーーーっ!?」

男(唐突なキスが、俺と転校生との間にあったらしい)

水曜日へ続く

男(あまりにも唐突で不意打ちすぎた。だから、俺はこのまま彼女との触れ合いから思わず逃げ腰になり、慌てて突き放そうとする)

男(するが、制服をガッチリ掴まれ、離すにも引くにもどうにもならなかったのだ)

転校生「っふ……ぁ……」

男(そう長い時間の拘束ではなかった筈だ。なのに、まるで2時間はたっぷり楽しめていた。そんな感覚に陥る。至福の一時を雨音が飾っていた)

男「(キスはこれが初体験ではない。だが、しっかりと、スキルによる物ではなく、偶然でもなく、故意なものは初めて。だからこそ俺は彼女と恋に落ちた)

男(つまり逆攻略が果たされてしまった) ……て、転校生?」

転校生「……[ピーーーーーーーーーーーーー]」

転校生「[ピーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーーー]…[ピーガーーーーーーーーーーーーー]」

男「え……えぇ?何だって?」

転校生「もうわかってるでしょ……私の[ピーーーー]……」

転校生「あんたがすごい鈍くたって、気づいてくれてなくても、変態でも」

男「そこへ無理矢理変態をぶち込む必要性があったのか?」

転校生「う、うるさい…ふふっ、いきなりすぎてさすがの変態でも驚いてるわね! ざまぁみろ!///」

男「そりゃあ普通驚くだろ……勝ち誇った態度取るくせに、やけに恥ずかしそうだな」

男「で、どうして急にキスなんてしてきた? 茶化す為にか?」

転校生「ご、誤魔化さないで!! ……その……[ピーーーーー]から」

男「(俺には読める。いや、見えるぞ、その言葉が) 悔しい? 何が?」

転校生「あーあ、あんたって究極的に[ピーーーーーーーー]だわ……ねぇ、聞いて……それで真剣に答えて」

転校生「あんたってさ、私のこと友達として思ってるの?」

男(それを訊くには順序が間違えていないか、転校生よ。しかし、そんな真剣な眼差しで見つめられると何も言えなくなる。その答えすらも)

男「無礼承知で逆に訊くが、お前は俺を友達だと思っていなかったのか?」

転校生「[ピーーーーー]……思ってたわよ」

男「過去形なのが物凄く気になるんだが」

転校生「……[ピーーーーー]? [ピーーーーーー]、[ピーーーーー]?」

男(つらそうにしているところ、やはり何故ここまでして好意に気づいて貰えないのか悩んでいるのだろう。気づいているさ、勿論)

男(俺は欠陥人間だが、まともな感性はしている。まともどころか、ここ最近では敏感すぎて恐ろしい程に)

男「はぁ、俺は……お前のことを……その」

転校生「わ、私のことを?」

男「何て答えていいかわからん!」

転校生「うん……は? えっ、ちょっと待ってよ!?」

男「だってしょうがないだろう。これが今の正直な気持ちだ、以上も以下もない」

転校生「ふざけないで!! 真剣に答えて欲しいって最初に言ったじゃない!!」

男「ふざけてないから困る。なぁ、それを俺に聞いて何かあるのか? いまいち意図が掴めないんだが」

転校生「あっ、あっ、ああ……はぁ~……」

男(転校生、落胆。当たり前だろう。鈍感すぎるどころか、もはやそれ以上の大問題人間の相手をしていたと気づかされたのだから)

男(一応の言い訳をさせてもらいたい。一時の感情に流されて、このまま転校生と改めて両想いになるのも悪い話ではない。今までのことを考えれば、まるで夢物語である)

男(だが、俺のもう一つの目的を忘れるわけにはいかない。美少女を獲得をする結構。だが、約束した筈だぞ。委員長のための行動も優先すると、かならず)

男(ここで転校生と結ばれた場合、次週へ移行された場合、俺は新しい俺へ変わる。だからこそ、このままでは例のイレギュラーと遭遇しても無意味と変わってしまうのだ)

男(危うく対策も練らずに個人ルートへ突き進もうとしていた。だから、今はまだ、彼女と結ばれるわけにはいかない)

男「すまん、気に触ったなら何度でもあやまってやる。 それから少しだけ時間が欲しい」

転校生「……時間?」

男(肩を落としたまま呆れ顔を向けてくるが、すまない、俺は俺自身の為にも、やらなくてはならないことがあるのだ)

男「ああ、ちょっぴりだけで良い。なんなら明日の放課後にでも答えてやる。勉強に付き合うついでに、な」

男「絶対だ、約束する。嘘じゃない……信じてくれ、転校生」

転校生「……ほんとに絶対? うそついてない?」

男「疑り深い奴だなぁ。そんなに俺が信用できない野郎に見えるか?」

転校生「めちゃくちゃ見えるわよ…っ」

男「やれやれ……覚えとけ、約束はかならず守る。俺はそういう男だ。できなくても、時間がかかっても、かならず有言実行する!」

転校生「明日って言っておきながら時間がかかってもって何よ! …まぁ、いいわ。信じてあげる」

転校生「もしそれで、あんたの答えが[ピーーーーー]だったら……私も[ピーーーーーー]から……」

男(ついに最大で最重要な分岐がやってきた瞬間である。とはいっても、俺が転校生の好意へ甘えてきた結果発生したものであるが。答えは、たった二択、非常にシンプル極まりない。それだけ。それだけが、彼女にとって重い。比べて俺は気楽なものだろう。たとえ転校生を捨てても、他に美少女が選り取り見取り)

男(手放すものか。相手は美少女だ。たとえ多くの美少女の中の一人だとしても、彼女は転校生。他のキャラで変えは利かない。転校生はたった一人しかいない。だから……既に俺の答えは決まっている。偽りなく、迷いなく、言い切れる)

男「帰ろうぜ、転校生! 妹にメールで近くまで来るように連絡しといたんだ。もう着いた頃だと思うぜ」

転校生「ふぅ……じゃあ、そこまで競争ね。負けた方はジュース一本奢りなさい! よーい、どんっ!」

男「まるで俺の負けが最初から決まってるような命令系だな!!」

男(そして俺たちは再びドシャ降りの中、走ったのである。 濡れることも気にせず、ただ夢中で足を動かしていたと思う。だから)

男「やっぱり水色で当たってたじゃねーか!」

転校生「ひっ……!?///」

男(結果、ウンチの俺が運動神経抜群の転校生へ勝利して、ジュースを妹の分と合わせて二本買っていただいた。おまけにビンタの一つが付いて、もうウハウハである)

妹「どーせ無神経なこと言って怒らせたんでしょ、さっきの人のこと」

男「当たらずも遠からず。お前良いセンスしてるぜ、さすが俺の自慢の妹ちゃん」

妹「誰でも察するよ、フツー……あの人が噂の転校してきたハーフの女子? すごい顔整ってた」

妹「ただでさえ幼馴染ちゃんいるのにさぁ……あんな人、私じゃ[ピーーーーーーー]……」ムス

男「ん、何か今言ったか?」

妹「べべ、別にぃー!? そのすぐ何でも訊き返す癖やめて、ムカつくんですけどっ」

男「え?何だって?」

妹「お兄ちゃんのあほぉーっ!!」

男「うぇへぇっ! アホ、水溜り蹴飛ばすなよ! ただでさえこっちはズブ濡れてんだぞ!?」

妹「風邪引いたら幼馴染ちゃんとかに看病してもらえんじゃないの。良かったですねー!」

男「お前、何怒ってんだよ…………はぁ、フフフ」

妹「そっちこそ何。さっきから唇何度も触っちゃってさ……うえぇ、気持ち悪っ!」

男「遅れた反応だな。別に。どうもしてねーよ……いひひ!」

妹「きも……うわぁぁ、きもぉっ!!」

男「うぇっへっへっへ! えー? どうかしたのかね、俺の可愛い妹よーぅ!」すりすり

妹「やだぁー!! すっごい、やだぁーっ!! うあぁぁーんっ!?」ぐいぐい

男(楽しい妹との文字通りな触れ合いはしばらく続く。何だかんだ言っても、妹は俺のスキンシップへ嬉しそうに応えている。きっと、たぶん、いや絶対)

男(お陰で帰宅する頃には妹まで全身に水を被り、兄妹仲良く揃ってビショビショである。考えられないぐらい理想的な兄妹の形だろう? 本当にそう思える)

幼馴染「傘、持ってたんだよね……?」

妹「こいつが悪い!!」

男「兄に向かってこいつとは何だ。まぁ、気にするなよ。先に風呂に入ってこい、俺は後でいいから」

妹「……べ、別に[ピーーーーーーーー]///」

幼馴染「じゃあ一緒にお風呂入っちゃおっか、妹ちゃん」

妹「えっ」

幼馴染「あたしと、一緒に、先に入っちゃおうか。ねぇ?」ニッコリ

男(何かを察した幼馴染が、俺が言い出す前に行動を起こす。彼女に引っ張られ風呂場へ連行される妹の頬のふくらませ具合ときたら、まるで愛玩動物のそれだった)

男「あの二人がいなくなると一気に静かな空間だな、ここ……偶然を装って覗けないだろうか」

男「バカなこと考えてないで今のうちにイレギュラーについての対策を練らなければ」

男「隣の席の女子、正体はわからない。もしかしたら俺と委員長の予想を裏切る存在かもしれないわけだ」

男(もし、思った通りに進むのならば、イレギュラーは神へ通じる何かか、はたまた神自身か、どちらでも構わない。こちらの問いや交渉に付き合ってくれるならば)

男(……例え上手く接触できたとしても、問題解決へ運べないかもしれない。だが、もう彼女にしか頼れない所まで俺たちは辿り着いたのだ。後戻りはない)

男「イレギュラーと遭遇するタイミングはおそらく次週が始まるその日。彼女の役割は記憶のなくなった俺へ、もといプレイヤーへの追加要素情報の提供。その線が一番ありえると思う」

男「じゃあそいつを考えて対策を練る。ハズレても次が……あるのかわからないんだよな」

男「ていうか、どう次の俺へ知らせれば良いんだ。もし委員長がまた別人格に変わっていて、俺へ話しを振らなければ、また難しくなる」

男「これ以上男の娘へ世話になるのも申し訳ない。それに、仮に頼むとしても、その頼み方がいまいち思いつかん! あー!!」

男「くそぅ……そうなれば、後は自分を信じるしかないじゃねーか。……朝、俺はたぶん男の娘の電話で起こされる。そして問題がなければ前週、この俺が伝えた話を聞かされる…はず」

男「半信半疑で聞くだけ聞き、それは記憶には残るだろう。かなり印象深くなる話だからな。……そして、学校について美少女たちと会う。で、教室へ辿り着く」

男「ここまでは想定内だ。ここから、もしイレギュラーが現われなければ? 遭遇しなければ?ということは考えず、唐突に話を振ってくるイレギュラーへ俺が対処できるかどうかが問題となるな」

男「あまりややこしいことを考えて、残しても初日の俺じゃあ行動に中々移らないかな……だって俺だもの」

男「シンプルに、たった一言でまとめられるような……それだけでイレギュラーと俺が関心を示しそうな質問があれば……あるじゃないか。注意を引けて、そこから話を引きだせるシンプルな質問」

男(積極的な人間ではない俺でも、黙っていれば誰からでも積極的に相手をされるこの世界の俺ならば、それを一言ぶつけてやるぐらい容易かった。そして、顔も知らない、記憶にないクラスメイトを相手にかける言葉としても間違いではない質問である。俺自身も、口に出した瞬間、目の前の相手へ疑いをかける、そんな台詞があった)

男「これだ。いや、これしか考えらない……神はけして裏切らない。神は確かに存在して、この俺へ幸福を運んできた。だから俺は疑いもなく、信じざるを得ない」

男(まさか美少女以外に、否、神以外で自分自身へ挑まなければならなくなるとは思いもしなかった。だが、俺は俺。自分のことは誰よりも知っているし、理解している)

男「次週の俺へはこれで心配を抱える必要は、ないのだろうか……あとはなるようになって貰うしかない。祈るのみ」

男「フッ、神との対決で神頼みとは面白いじゃねーか……!」

妹「……なに一人でブツブツ言ってんの?」

男(振り返れば、まるで危ない物を見る目をした妹が、背後に立っていたのである)

男「いや……なぁ、妹。お前から見て俺ってどういう兄ちゃんだった?」

妹「は? え、えっと……フツー……」

男「ありがとう。だからお前は好きだ」

妹「うえぇええぇ~っ!!? な、何言ってんのバカじゃないのぉ!?///」

男「お前がずっと俺の妹だったら、俺はそれだけで幸せなんだろうなぁ……出会えて本当に良かった」

ここまで

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}

誤爆です
すみませんm(_ _)m

誤爆です
すみませんm(_ _)m

え?なんて言った?
のAAコピーして貼ったと思ったら
意味不明な文字がWW

男「95点」

妹「ん~?」

男「今日の夕飯は今まで一番美味く感じた。だから95点 (これが最後の食事となるかもしれないと思えば、感慨深かった。俺が、味わう最後の幼馴染の夕飯。しかしまぁ、明日の昼飯がまだ残っているわけだが)」

妹「その採点官ごっこ、まだ続いてたんだ……幼馴染ちゃん、怒っていいと思うよ。私が許すもん」

幼馴染「えー? ふふっ、じゃあ採点官どの。どうして毎度中途半端な点数がつくの? それから残り5点を獲得するアドバイスをください」

男「甘やかさないためだよ。癖がついたら俺たちが困るからなぁ、厳しく行かないと」

妹「うえぇ、何様気取りなのほんとに。幼馴染ちゃんいなかったら、お兄ちゃんとっくに飢え死にしてるのにね~」

男「それとこれとは別だぞ。ていうか、どうして俺だけ?」

妹「出前取るもん、私だけ。ピザ食べる!」

男「やぁー、一切れでも分けてやろうという優しい妹であって欲しかったね……」

幼馴染「男くん、アドバイスはー? 頼りにしてるんだからっ。明日から美味しい料理食べられなくなってもしらないよ?」

男「あ、ああ……じゃあ」

妹「愛情なし」

男「…さすが、手厳しい。……幼馴染よ、俺が今から言うことはかなり難しいと思う。覚悟してよく聞け」

幼馴染「えぇ!? う、うん…わかった……!」

男「お前が100点へ到達するには……それは」

幼馴染「も、もうっ! 一々変に焦らさないで~!!」アタフタ

男「焦るな!! ……それは、自分で答えを見つけろ」

男(幼馴染は瞬きを連続させると、深く溜息をついて食器を片づけ始め、そして我が妹はジト目を向けて拳でテーブルを何度もバンバン叩くのだ)

男「逃げじゃねーぞ! 言ったろ、甘やかすのは良くないと! 俺は幼馴染自身に気づいてもらおうとだなっ…」

妹「それを逃げって言いますー! いっちばん使っちゃいけない手使ったんだよ、お兄ちゃんは! レッドカード!」バンバンッ

男「はいはい、お兄ちゃんが悪うございましたよー……だけど幼馴染、俺はお前の作る飯が大好きだからな」

幼馴染「んっ……/// い、いきなりどうしたの? 素直に嬉しいけど……[ピーーーーーー]」

男「明日も弁当頼むぞ。それなりに期待してやるからな、それなりに」

幼馴染「それなりって……はぁ、わかりました。じゃあ今度こそは満点取れるように努力してみます」

男「その調子で精進しろよ。 って、どうした? ほっぺた膨らませて?」

妹「お、お茶飲んだからだし!! 別に悔しくなんてないしっ!!」

妹「……今度、一人で[ピーーーーーーーーーー]。[ピーーーーーーーーー]…」

男(俺も慣れたものである。難聴スキルなんぞ恐れるに足らず、隠された台詞は状況と美少女の感情から容易に察せるのだ。楽しみにしたかったな、妹の手料理の味を)

男(うーむ、しかしこうして終わりが近づくことを実感してしまうと寂しい。……違う、終わりではない。むしろ始まりを迎えるのだ。俺も、委員長も)

幼馴染「あたしそろそろ帰るけど、まだして欲しいこととかあるかな?」

男「いや。いつも助かってる、今日はもう家に帰って休め」

幼馴染「あー……」

男「どうした? (尋ねてから気づいた。彼女が先程のような台詞を言うのは初めてである)」

男(そして、単に親切心から来た台詞ではないと見た。おそらく幼馴染は、まだ帰宅したくないのだろう。引き止めろとまではないが、適当な用事を作って、傍にもうしばらくいたい。そんな裏があるのかもしれない)

妹「わぁ、雨すごくなってきた~……これ明日の朝も続いてるんでしょ? 休校なんないかなぁ」

男「台風が来てるわけでもないだろう? 無理無理、少なくとも俺はお前に同意できんな」

男(以前の俺ならまだしも、今では学校へ行くのが待ち遠しい毎日である。休校とは冗談ではない。行かせろ、美少女の園へ)

幼馴染「雨……あっ! うん、雨すごいねー! こ、このまま外に出たらビショビショに!!」

男「お前の家はすぐ横にあるだろうが。大して濡れることないと思うぞ」

幼馴染「そ、そうだよね……余計な心配だったよね……[ピーーー]、[ピーーーーーーー]」

男「だけど、まぁ、どうしても濡れたくないなら、今日は泊まって行ったらどうだ? そうすれば明日俺を迎えに行く手間も省けるってもんだよ」

妹「どーして自分中心に考えちゃうかなぁー…?」

男「そいつは愚問だな、だって世界は俺を中心に回っている。そう考えれば当然だろう」

妹「はい、訊いた私がバカでした!! …それよりお兄ちゃんはさて置きさ、私は泊まって貰っても全然大丈夫だよ。幼馴染ちゃん」

幼馴染「でも本当にいいの? その気になればあたし、すぐ帰れるのに」

妹「その気にならないで、今日は私と夜更かしして遊ぶー! それでいいじゃん。ねっ」

男「やれやれ、お兄ちゃんを放置してかい? ……たまには良いんじゃねーか。こういうのも懐かしいだろ? 昔みたいで」

男(俺の場合はデブスな幼馴染と過去に2、3度ほど家に泊めたり、泊まったりという記憶だが。デブスの。美少女はまだである)

男(今さらだが、この世界の美少女と、元の世界に存在するベースとなった人間。その記憶は受け継がれているのか? 全く新しい関係が築けていたりする所を見るに、やはり違う記憶が植えつけられているのか)

幼馴染「そういえば昔はよく家に遊びに行って、そのまま泊まるってのも珍しくなかったよね。ご飯一緒に食べたり……お、お風呂なんかも///」

男(俺が持つ記憶とほとんど合っている。だが、話を聞いていけば段々とズレが生じていく。やはり、美少女は、俺の都合が良いように記憶を改善されていたり、まったく新しい、覚えがない思い出を持つのだ。考えてみれば当然だろう。本当に今さら…しかし、不良女や生徒会長辺りはベースを考えると、とんでもない変容と改変が行われている。とはいえ、元々容姿が整っていた先輩やオカルト研ですら、さらに別人のように美少女化しているが)

男「それで? どうするんだ。お前次第だぞ、連絡なら俺がつけてやるから」

幼馴染「い、いいよ! 自分でできるから……」

妹「じゃあ泊まりけってー! 何のゲームする? あ、手加減忘れないでね。私、初心者なんだから!」

男「どうして持ってない奴が持ってる奴に手加減ってことになるんだよ。逆だろ逆……ふふ」

男(いつまでもこの時が永遠に続けばいい。……その気持ちには偽りがあった。何故だろう。恐怖心が俺の中へ芽生える)

幼馴染「ごめん、またアガっちゃったよ」

妹「何かズルしてなぁーい!? 絶対におかしいよ! だって全然勝てないもーんっ!」

男「原因は自分にあるといつ気づけるのやら」

妹「そんなこと言って、さっきからお兄ちゃんビリ連発じゃん……ねぇ~、一旦トランプやめて、別のことしない?」

男(おもむろに皿へ並べられたポッキーへ手を伸ばし、齧りながら言われれば、背中へドッと冷たい汗をかき始めたのであった。まさかもう忘れたわけではあるまいな、あの衝撃を)

幼馴染「うん、いいよ。何がしたいの? 別のゲーム? テレビの方?」

妹「ちっちっちー。気が効く私が面白いものを用意しておきました、こんな事もあろーかとねぇ」

男「何だそれ……DVD? 借りてきた奴、まだ見てなかったのか?」

妹「だ、だからこんな時のために残しておいたんじゃん。 いいから見ようよ」

幼馴染「映画? それともドラマなの? 続きものだったらちょっぴり困るかも」

妹「大丈夫、バラエティみたいなもん……」

男(DVDを再生機へセットし終えた妹が、急いでタオルケットに包まって、俺と幼馴染の間へ座り込む。 すれば、おどろおどろしいBGMと共に画面いっぱいへ現われる『呪いのうんたら31』のタイトルだった)

男「(俺も幼馴染も呆れたように画面から妹へ視線を移せば、さっそく彼女は顔をすっぽり覆っていたわけだ) …どうして自分で見れないもんをわざわざレンタルしてきやがる、金の無駄だろうが バカたれ!」

妹「だ、だってその時は見れるって気持ちだったんだもん!!」

幼馴染「まぁまぁ、別にいいじゃん。……じゃあ、今から驚いた回数が多かった人には終わってから罰ゲームだね」

妹「うえ゛っ!?」

男「今ので一回な。完全に自爆じゃねーか。やれやれ、不戦勝は決まったかね」

妹「まだ始まったばっかりだし! 怖くないもん!」

男「じゃあ、俺たちはもっと離れたところから見るとしようか。……電気も消した方が雰囲気でるな」

妹「やだぁあーっ!! ぜったいダメ! 幽霊でる! …ああっ、消すなぁっ!! こわいこわいこわいぃー!?」バタバタ

男「アホみたいに可愛い妹だな、お前。 しかし、幼馴染もこういう類に耐性あるとはな。意外…でもないか」

幼馴染「えっ、怖がったほうがよかった? ……お、男くん。不安だから隣で一緒に見てくれないかなぁー…なんて」

妹「だめぇ!! お兄ちゃんはこっち! いいから何も言わずに隣で見てて! あっ、ああっ…何この動画……あああ、あわわわわ……!」

男「おい、暑いからあまりくっつくな。まったく……で、どうしてお前まで俺に抱き付いてるのか訊いた方がいいのか」

幼馴染「……迷惑?///」

男(いいえ、まったく?)

また明日

火曜日に変更

男(ホラーといえばオカルト研。彼女はこれからも登校時に俺を待つのだろうか。ギャルゲー的に考えれば幼馴染と一緒の場合はイベントの発生はなさそうだが。 厄介なことにこの世界は現実とギャルゲーの狭間にある。いつも決め台詞の言わせてもらっているが、実際のところ全て予想通りに事が進むとは考えられない。ハッキリしているのは、美少女は俺に引かれ現れることだ。つまり、どのような状況にあろうと、美少女との邂逅は避けられない)

幼馴染「男くん、あの顔おっかないねー……?」

男「怖がるより先に窺いが見えるのはどうしてだよ。無理することねーよ、平気なら平気で構わないじゃないか」

幼馴染「でも、こういう場面って怖がった方が良いのかなぁって……男くんも、そういう子の方が[ピーーーーー]…///」

男「個性を大事にしてもらいたいね。別にお前が鋼の心臓持っていようが嫌いもしない。むしろ感心だぜ」

幼馴染「あっ…じゃあ、正直言うと全然怖くない。これって全部作りものじゃないの?」

男「……極端な。 ていうか、さっきからお前やけに静かだが、まさかビビりすぎて失神してるってオチじゃないよなぁ~?」

男(開始からべったりと身を寄せ、時折ビクンと体を撥ねさせては声を上げる妹だったのだが、気づけば大人しい。被ったタオルケットをゆっくり捲ってみれば)

妹「……ふー……すやー……」

男「天使ちゃんが……たぶんこうなるだろうと思ってたが、寝オチか。あったかくなって眠気に耐えられなかったんだな」

幼馴染「仕方ないよ。だってもうこんな時間だし。あたしたちもそろそろ寝よっか、明日も学校あるもん」

男「そうしよう。じゃあ、優しいお兄ちゃんは可愛い妹を部屋まで運んでやるとしましょうか。……お前、どこで寝てもらえばいいかな? 妹の部屋で構わんか?」

幼馴染「ん~……何処でも構わないけど、しいて言うなら……///」

男「(それ以上はいけない。自分殴ってでも理性は留めるが、美少女と同室で、しかも添い寝の可能性が高ければ俺が眠れないのさ。ドーテイを舐めてくれるな) トイレも空いてるし、風呂場も悪くないかもな」

幼馴染「も、もう……いじわるっ!」

男(幼馴染には申し訳なく、俺自身には残念極まりない話だが、彼女には両親の寝室を使ってもらうことにした)

男(今宵は男くんと同じ屋根の下で悶々するがいい。そして可愛い寝息を立てて眠る妹をこれから運ぶわけだが)

男「うひっ、軽くて軟らかいぞ、こいつ! まるでコットンだ!」

男(一般的に言われるお姫様抱っこで持ち上げてやれば、この手に妹ヌクモリティを感じる。このまま頬と頬を擦りつけて楽しむのもOK。しかし、俺はあくまで鈍感で難聴なハーレム主人公を気取るのだ)

男(込み上げる邪な感情は捨て去るのみ。この紳士的ともいえる立ち振舞いに美少女たちはノックダウンである)

妹「おにーちゃーん……[ピーーーーーーーー]……」

男「おい、実はこいつ起きてるんじゃないだろうな!? さすがに寝言ぐらい聞かせてくれよっ…」

男「……さて、無事ベッドまで運び終えたわけだが、おそらく妹は後で起き出して俺の元へやって来るだろう」

男「『怖いからトイレに一緒着いて来て』とな。その程度は分かりきっていること。予測不可能なのが、幼馴染のこれからの行動だ」

男「俺の部屋へ襲撃を噛ましてくるか、はたまた……幼馴染的にはある意味ここで勝負をかけに行けるからな、当然向かってくると考えていい筈」

男(だが、である。今下手に彼女とのイベントを起こし、さらに好感度が上がれば、明日の転校生との決着に支障を来さないとも限らない。つまり、この俺は最低でも明日の朝までは誘惑に耐えるべきなのだ。

男(完全に的は絞られた。皆には悪いが、俺の気持ちは揺るがさない。そしてハーレムという目的も。個別ルートへ進む。進むが、俺は全ての美少女を愛でる。これだけは変わらないのである。だからこそ、今までの努力があるのだろうがよ)

男「……来いよ、美少女。服なんて脱ぎ捨ててかかってこい」

男(その時、自室の戸を誰かがノックするのであった。どちらが先だ? どちらでも構わん、お前たちの攻撃を華麗に避け、ついでに隙あらば刺してくれるわ)

妹『お、お兄ちゃん? まだ起きてる?』

男(我が家にいようが、ハーレム主人公に逃げ場はなかった。常に美少女に追われ、対決する日々がここにあったのだ。忙しいが、窮屈だと感じたことはない)

男(知っているか? これが真のリアルの充実だよ。面倒臭がっていちゃあ何も始まらない。この俺にはきっと初めから素質があったに違いない)

男「せっかく寝ようと思ってたのにタイミング悪い奴だな。朝まで我慢してりゃ良いもんを」

妹「それで[ピーーーーー]たらお兄ちゃんのせいだから……!」

男「やれやれ、これに懲りたら怖いものなんて夜中に見るなよ。俺に迷惑がかかるんだ」

妹「うっ…怖くなんてなかったし……廊下が暗かったから一人が嫌なだけで、別にさっきのDVDのせいじゃないもん」

男「わかったからさっさとトイレ入れ! 俺だって眠いんだぞ。悪いとか思わんのか、お前は?」

妹「思ってるよー……思ってるけど、どうしようもなくって……あ、離れて待ってて。絶対音聞かないでね!?」

男「趣味じゃねーよ、そんなもん。じゃあ部屋で待ってるから終わったら言いに来い」

妹『やぁあー!! それじゃあ全然意味ないじゃん!? ちょっと、ほんとに行かないでね!? こわいこわいこわいっ』バンバンッ

男「行かないから早く済ましてくれないですかね」

妹『……声、近い。もうちょっと離れてとこで待ってて』

男「あー!果てしなく面倒臭い奴だなっ!!」

妹『だ、だって~……[ピーーーーー]///』

男(さて、ここでちょっとした悪戯心が俺の中に芽生えた。憎いからではない、可愛いからこそなのだ)

妹『おにーちゃん……ちゃんとまだいる? いるよね?』

妹『……お兄ちゃん? あ、あれ……お兄ちゃん? お兄ちゃんってば? え、えっ』

男(呼び掛けへ答えることなく、ただひたすら俺は廊下で気持ちの悪い微笑みを浮かべていただけである。ただそれだけ、それだけで妹の恐怖心は倍増する)

男(俺にとって気配を殺すことさえも容易い。元世界で鍛えられたスキルだ。 反応がしばらく無ければ、やはり妹も焦り始める。扉越しにその様子は目に浮かぶのだ)

男(トイレの中からバタバタと床を叩くスリッパの音が連続して鳴れば、再び、今度はもっと大きな声で彼女が俺を呼ぶ)

妹『お兄ちゃん!! お兄ちゃんってばぁ!! いるんでしょ!? 返事してよぉーっ!?』

男(それでも俺は答えない。……思いついた、無事に朝まで下手なイベントを発生させずに済み、誘惑から逃れる策を)

男(即席で完璧ではないが。とりあえず移動である。何処へか? 勿論、トイレのすぐ傍の壁へ。そこまで行って取るべき行動は難しくもない)

男(ただ、壁に寄りかかって目を瞑っていればいい)

妹『お兄ちゃんっ!! おにいちゃぁ……うっ、ぇ……っぐ……お゛に゛い゛ぢゃぁーーー…ん……!』ドン、ドン

妹『へんじ、ぐすっ、してよぉ~~~!! うあーんっ…こわいよぉぉ……っ!』

男(意地でも戸を開けようとしないのは、もし俺がこの場にいなかったことを恐れてだろうか。……さて、まだか。これだけ音を出させているのに)

男(段々と可哀想に思えてきて、こちらが限界に達しそうになってきている。それではダメなのだ。幼馴染との大きなイベントがこれから起きると仮定し、それを回避する為には)

男(幼馴染と妹。彼女たちを今夜中、一緒にさせておけば良いのである)

男(俺の思いついた策、否、愚策はこうだ。一人トイレで騒ぐ妹の元へ気づいて幼馴染が駆けつける。そして妹は悪戯でもなく、眠気に耐え切れず廊下で眠る俺を見つけさせて呆れさせる)

男(すれば、一旦俺へ向いていた妹の注意は逸れて、目の前の幼馴染へ移る、筈。察しの良い幼馴染ならば、なぜ妹が一人でトイレへ行けなかったかぐらいすぐに理由は分かるだろう)

男(そして、優しい彼女ならばきっと妹を連れて寝室へ向かい、「さっきのDVDを見て怖いから今日は一緒に寝てくれないかな?」と下手に出て、頼むだろう。そう言われれば妹は悪い気もせず、快く引き受けてくれるに違いない)

男(そうして妹は安心しきって眠りにつく。これで二人を同じ空間へ閉じ込める。ここが重要である)

男(幼馴染は、一緒に寝ようと言った手前、ベッドから抜け出て、俺と添い寝を試みようとは思わない。これで二人でドキドキ、一緒に布団に入るという展開は回避できる)

男(あって、幼馴染が俺へ話があると呼び出しに来るぐらいだが、その前にこの俺が就寝してしまえば良い。よく気遣う彼女ならば、その状態になった俺を叩き起こすということもしないだろうしな。つまり、これで全てのイベントを回避できる確率が高くなるのだ)

男(隙あらば刺すとも考えていたが、無難に安牌を取ってお茶を濁してしまった方が良い。これ以上厄介を起こせば、転校生へも、イレギュラーへも集中できなくなる)

男(チョロいが、非常に厄介な美少女である幼馴染。彼女を抑えなければ俺の行動が制限される。 幼馴染に対して通用するのは、偶然、という展開のみ……いつ来るのだ、幼馴染よ)

妹「ううっ……うぇ……ひどい、よぉー……ばかおにーちゃん…あほ、あほぉ……!」

男(まさか、実は何も行動を取るつもりもなく、既に眠ってしまった後ではないだろうか。そうだとすれば、相手は妹のみ。手段を変えなければ…いや、その前に声をかけねば)

男(どうする? すぐに別の行動へ移るべきなのか。もう少しだけ幼馴染を待った方がいいか。策は絶対ではない。想定外のことだって、きっと起こり得るのだ。ならば)

男「はっ、す、すまん 妹! うっかり寝て……」

幼馴染「どうかしたの?」

男「…………ちょっと、トイレ待ちだよ」

短くて申し訳ないけどここまで。明日へ続く

ていうか900越えちったよ
深夜って次スレ立てても問題なし?

猫マミタスは何処へ行ったのか…

おお、調べりゃわかることをすまん。ありがとう
ぼちぼち書いてきましょー

>>912
しょこたんのところに帰ったよ

男(何も動揺することはない。というのに、彼女が背後から現われた瞬間、心臓を鷲掴まれた気分がする。そしてこう思った。実は初めから俺たちの様子を陰で見ていて、あえてタイミングをずらして登場したのではと…いやいや、阿呆だな。自分に都合が悪いことが起きると、すぐ人に責任を擦りつける嫌な癖である)

男(…そもそも別に厄介に考える必要もないじゃないか。今までだって唐突に起こったイベントなんぞ、どうにか捌いてこれた。そうだとも、何を言われようが適当に、当たり障りのない返事をしていれば良い。むしろ、主人公としてイベントを楽しんでしまえ)

男「お前も用足しに来たのか。だったら順番待ちだ」

幼馴染「ううん。ベッドで横になってたら、突然こっちから妹ちゃんの大きな声が聞こえたから」

幼馴染「本当にどうかしたの? まさか悪戯とか変なことしてないよね……」

男「俺が? バカだなぁ、俺がそんな幼稚な真似をする奴に見えるか?」

妹「…………おにーちゃん」

男(ようやく俺の声がしたのに気づいたのか、扉をちょっぴり開いて、隙間から顔を覗かせる妹。 かわいい、鼻水垂れてます)

男「終わったのか? ていうか、何一人で騒いでたんだよ」

妹「ちょっ……はぁ!? お、お兄ちゃんがすぐ返事しないのが悪いんじゃんか! 酷いよっ、どこ行ってたの!?」

男「どこって、ずっと自分の部屋にいたんだが……お前ずっとだれと一緒にいたんだ?」

妹「…………えっ!」

男(固まり、一気に顔を真っ青にさせれば、水も流さずにトイレを飛び出して俺に抱き付いてきたのである。何も言わずに俺の胸の中で尋常なく振動…震えた。 ああ、アホ可愛い我が妹よ)

男「あぁー! お前手洗ってからにしろよ!?」

妹「もうやだぁぁぁ~……」ブルブル

男「無理して怖いもの見ようとするから、こんな目に合うんだろ。なぁ、幼馴染?」

幼馴染「そうかもねぇ。悪戯好きの幽霊くん」

男(色々な意味で彼女も意地悪というか、悪戯好きかもしれない。 さて、抱き心地が良い妹をしばらくこの手にしていれば)

妹「おにーちゃん……幽霊こわい、すごく」

男「知ってるか? 本当に怖いのって生きた人間なんだと。もう死んでる奴なんぞ何が恐ろしい」

妹「こわいもん!! こわいったら怖いもんっ!!」

男「そうかそうか。だから良い歳こいてお兄ちゃんに抱き付いて脅えてるわけだな、愛い奴」

妹「うっ……だ、だってほんとに……[ピーーーーーー]///」

男(器用だ、恐れと恥じらいを両立させている。今回ばかりはいくら茶化そうが、くっ付いて離れるつもりは無いらしい。ここまで長く密着されると非常に興奮させられる)

幼馴染「妹ちゃん怖がってるの見てたら、なんだかあたしまで怖くなってきちゃったかな…」

幼馴染「ね、ねぇ……それで提案なんだけど、今日は三人で一緒に寝ない? 同じ部屋で」

男(予想を裏切らない発言である。俺も、幼馴染も、妹を利用するのはお互い長けていたというわけか)

妹「うえっ、そ、それってお兄ちゃんも一緒にってこと!? べ、別に……いいけど……[ピーーーー]」

幼馴染「男くんもそれでいい? ……だ、だめかな。[ピーーーーーーー]、[ピーーー]///」

男(寝巻の二人が赤面で俺へ迫って来る。だから、眠れない夜がやってきたのである)

男「一緒に寝るのは別に構わん……だが、どうして俺の部屋でだ?」

幼馴染「男くんの部屋ってなんだか落ち着くし。それに良い[ピーーー]するから……///」

男(布団をもう一枚持ってきて、漫画やゲームの山を退けて敷いてみた。うーむ、ただでさえ狭い部屋が圧迫される)

男(幼馴染はともかく、妹も二人きりでもないというに満更でもなさそうに見える。てっきり始めは境界線を引かれて、ここから指一本でも入れば殺すとか言われると思っていたのだが)

妹「あいかわず汚い部屋だよねぇー!! え、えへへ…///」

男「気に食わんなら自分の部屋に戻れ。やれやれ、俺一人でも窮屈に感じる広さだってのに」

妹「そこまで悪く言ってないよ。……はぁ~、こうしてみんなで寝るってなると本当に泊まりって感じだよね」

妹「昔は三人でこうやって布団並べて昼寝とかしてたの覚えてる? お兄ちゃんがすっごい寝相悪くてさー…」

幼馴染「あったあった。ふふ、でも妹ちゃん結構酷かったんだよ? いつも二人してすごい恰好で寝てるの」

男(あったなぁ。デブスの幼馴染が目の前で口を開いて、言いようもない口臭を放ち、眠りながら俺を苦しめてきた)

男(しかし、今この空間には美少女の幼馴染。そして小生意気だが愛らしい美少女な妹。美少女が二人も、この俺の部屋で、枕を並べて眠ろうというのだ。そして)

男(二人はどうにかして、俺の布団の中へ潜り込もうかと考えていることだろう。素直にそう頼むわけにもいかない、かといって黙って実行すれば、片方を出し抜くことになる)

男(安心するがいい、俺の腕は一つではないのだ。この時のためと言っても良い。この腕二本は美少女二人の枕になるために、生まれた)

男「お前ら昔話は構わんが、そろそろ電気消すからな (さぁ、奇跡のカーニバルの開幕だ)」

男(部屋が暗闇に染まるのを合図に、隣から美少女たちのキャッキャとした声が漏れ出す。チラリと視線を動かせば、布団がもぞもぞ)

幼馴染「やぁっ、くすぐったいよぉー……あっ、そこは!///」

妹「ひっひっひー! 幼馴染ちゃんのおっきくて柔らかぁーい!」

男「なぁ、俺もそっちに混ざっていいのか」

妹「だめー! そんなことしたら兄妹の縁切る!」

男「なんだよ……怖がって一人で寝れないから俺の部屋使わせてやってるのに」

幼馴染「あぁうっ///」

男「本当に何してんだお前ら!?」

幼馴染「い、妹ちゃんがぁ……あっ! んんーっっ……はぁ」

男(生殺しにもほどがある。手を伸ばせばティッシュケースへ手が届くのだが、まぁ待つのだ。好機は向こうからやって来る)

妹「お兄ちゃん寝た~?」

男「隣でこんなに騒がれて眠れるほど、俺は図太くねーな」

妹「ふん、うそつき。すごい図太いじゃん……いつも[ピーーーーーーーーー]……」

幼馴染「はぁ、はぁー……ね、ねぇ、そろそろ寝ようよ……明日も早いんだから」

妹「まだまだ寝かせませーん!! うりうりっ、いつのまにこんなにでっかくさせちゃって! くぅーっ…!」

幼馴染「そんなこと言われても……っ、ふ…あぅ……///」

男(天国と言ったが、このままでは俺にとって地獄ではないか。唇を噛む力が増し、血が滲み出してきた。頭の中全部ピンク色になってしまう)

男(イベントだ、今後に響くだ、それ以上に俺自身へ毒でしかない。やはり回避すべきだったのだろう。この闇が邪なイメージを広げて行き、下半身がてんてこ舞いよ)

男(……いっそのこと、飛び込んでしまえば? 二人も拒絶はしまい。むしろ喜んでくれるだろう。もう偽りの純情ラブコメなぞ打ち破って、18禁展開へ運ぼう。仲良く3人で和姦、これで決まりだ)

男「(と、心も体も我慢の限界を来した俺が布団から出てズボンを下げようとすれば) お前らいくぞ……ぶっっっ!!」

妹「あ、枕ちゃんと当たった? やりぃ~♪」

男「……修学旅行気分になるのは分からんでもない。だが、まずは部屋主に安眠を提供してくれないか」

幼馴染「さすがに騒ぎすぎちゃったよね、あはは……本当にそろそろ寝よう?」

妹「実はさっきちょっと寝れたから目が冴えまくってたりする!」

男「巻き込むんじゃねぇ!! 大人しくしろ……俺たちは眠い。迷惑だ、わかったな?」

妹「むー……ちぇ、わかったよ……じゃあ話ぐらいはしててもいいでしょ?」

幼馴染「眠れるまでは全然構わないよ。 ふふ、また昔話の続き?」

妹「幼馴染ちゃんの好きな人ってどんな人?」

男(それらしい話が来るだろうとは思っていたが、やはりか。そして「誰?」とストレートに行かず、あえて変化球気味なのがまたニクいところ。 和やかな空気が、一転、静まりかえるのだ。妹の思惑は一体何なのか。彼女とて、幼馴染が好意を向ける人間については既に察している筈)

男(……違う、妹の質問に裏はない。単純にこの場を賑わせる話題を振っただけ。ただ、好みを訊いたまでなのだ。そして返って来る理想に、俺と比較し、「お兄ちゃんじゃ無理だね」的な発言で小馬鹿にするのだろう。 幼馴染も、深く考えずにしばらく閉じていた口を開く)

幼馴染「やっぱり優しい人かな」

妹・男「普通……」

幼馴染「ええっ! で、でも、そういうのって一番大事じゃない!? うぅ……ち、違うかなぁ…///」

妹「優しいって返しが普通すぎます。大体、幼馴染ちゃん可愛いんだから、もっとワガママ言っても通用するよ?」

男「じゃあお前が考える模範解答は?」

妹「金持ち、身長高い、カッコいい、優秀、美味しいご飯が作れる。それから…」

男「こういう奴が売れ残ってヒーヒー言う羽目になるんだろうな。ありがと、良い例が見れた」

妹「いやいや、冗談だしっ! ……んー、私だったらね……ずっと一緒にいても苦しくならない人。…[ピーーーーー]」

男(それは暗に今の俺では妹に相応しくないと解釈してもいいのか。俺は、少なくとも妹を苦しめている。好意を向けても知らん顔され、自分の知らない所で美少女と戯れているのだから)

男(と、勝手な思い込みから変に気分を沈めるのが鈍感主人公である。俺ならば、その考えから更に裏を見る。シンプルに捉えれば良い、妹はこの俺を好きでしようがないらしい)

男(目が慣れた頃合い、妹の方を見れば、布団を鼻まで被ってこちらを窺う姿がそこにあった。彼女も俺に気付くと、慌てて布団へ潜ってゆき、難聴フィルターに引っ掛かる言葉を呟く)

幼馴染「んー? 自分で言って照れてるの? ふふふ、可愛い」

妹「ち、違うもん……べつに…………っ~///」

妹「それよりお兄ちゃんはどうなの? ……どんな女の子がタイプ?」

男(俺にまで振ってくるとは思わなんだ。幼馴染までこちらへ興味深々。とくに焦る必要はない。いつも通りに)

男「俺? 俺なら好きになった奴がタイプになるだろうな。今はとくに好みとかはない」

妹「えー……それ一番面白くないなぉ」

男「なら、お前みたいに理想を高く語ってやった方が受けが取れたかな。胸が大きくて、肉付きもほどよく、そうだなぁ…抱き心地も良くて」

妹「体のことばっかりじゃん! 変態!」

幼馴染「あー……ちょっと、気持ち悪いかも」

男「待てまてまてっ、話させておいてその反応は酷いだろ! 思ったことを言ったまでだぞ!」

妹「こんな本能に忠実でスケベなお兄ちゃん、誰が貰ってくれるのか楽しみだねぇー」

幼馴染「……ん、うん……そうだね///」

男「貰ってくれるならそれに越したことはないね。そして俺はヒモになりたい」

妹「言わなくてもそうだって知ってた。絶対幼馴染ちゃんみたいな子はお兄ちゃんに貰われちゃダメだよ、生活破綻しちゃう」

幼馴染「あっ、あたしの好みちょっと追加…………へたれ?」

男「ダメンズウォーカー……残念だったな、幼馴染。ここにいるのは完璧人間だったぞ」

妹「その変に自信持ててるのがムカつく!! ダメ人間好きになっちゃダメだよ、幼馴染ちゃんっ」

幼馴染「えへへ…でも、[ピーーー]になっちゃった人が、そういう人だったから…///」

男(幼馴染、想像以上に献身的な美少女過ぎた。女がデキ過ぎているのだ。だからこそ、というか代償として歪んでしまったのか。なるほど、実に愛に生きている)

妹「ぐうっ……私だってダメ人間養ってあげられるもん! 何でもするもん!」

男「無理して人に合わせる奴は後々苦労する羽目になるぞ。恋愛だろうが、以外だろうが」

男「お兄ちゃんからアドバイスさせてもらうと、お前は人に甘えた方が受けが良い。自然にだぞ、狙ってじゃねーから」

妹「やだよっ、そんな子どもっぽいの! 真っ先に同姓から嫌われるタイプじゃん」

男「そうそう、そうやって猫みたいにツンケンしてるのが似合ってる。先輩さんが犬なら、お前は猫だな」

妹「もう意味分かんないし……寝る」

幼馴染「目が冴えてたんじゃないの?」

妹「ん~、幼馴染ちゃんあったかいから、くっついてたら眠くなってきた…」

男「面白くないな。次は俺がお前を寝かさんよう色々ちょっかい出してくれるわ!」

幼馴染「こーら」

男「……何だ? まさかもう寝たのか?」

男(幼馴染は優しく笑みを浮かべ、布団をそっと捲って、自分にしがみ付いて眠る妹の姿を見せてくれた。姉妹というか、まるで母と娘である)

男「寝付き良すぎるだろう。これならのび太くんに劣らないぜ」

幼馴染「寝顔すごくかわいいよ。 頭撫でると気持ち良さそうにするの……あたしもこういう妹が欲しかったなぁ」

幼馴染「あー、もし男くんと結婚できれば、妹ちゃんがあたしの妹になるよね。ふふっ」

男「妹欲しさの結婚とかリスクが大き過ぎんだろうが」

幼馴染「大丈夫だよ。だって男くんも[ピーーーーーーーー]……」

男「え?何だって?」

幼馴染「ううん、気にしないで。 ……子どもができたら、妹ちゃんみたいな可愛い子がいいや。そしたらこうやって一緒に寝るの。良いでしょ?」

男「さぞ癒されるだろうよ。できたら女の子がいいな、男ならわからん」

幼馴染「えー? キャッチボールとか、色んなことして外で遊んであげたらいいと思うなぁ」

男「俺が運動全般苦手なこと知ってて言ってるんだよな、それ。 はぁ、やれやれ……」

男(これでは夫婦のピロートークではないか。あまりにも自然すぎて馴染んでいたぞ、恐ろしい)

男(距離は離れているのに、まるで隣に幼馴染がいるような感覚に陥ってしまう。平静を保っているが、これでも内心は緊張で堪らん)

幼馴染「[ピーーーーー]?」

男「え?」

幼馴染「だから……[ピーーーーーー]?///」

男(癖で訊き返しただけで、彼女が言いたいことは分かっている。そして、それが恐れていた事態だということも)

男「……妹がくっ付いてんだろ。そのままでいてやれよ」

幼馴染「でも、もう少し近くで話したくて。眠くなるまで……だめ?」

男(ダメ、と言える男がいるものか。美少女からの頼みで、しかもそんな美少女が体を寄せようとしている)

男「話だけだからな」

幼馴染「うん、わかってる……」

男(目を閉じてその時を待った。向こうでは静かに、布団の擦れる音だけが聴こえて、そして、美少女の気配がこちらへ近づいてくれば、緊張から顔の筋肉がピクピク痙攣しだしたのだ)

男「……床に寝転がってて寒くないのか。こっち入れよ」

幼馴染「[ピッ]、[ピーーーーーーーーガーーーーーーーー]……あ、ありがと///」

男(布団を捲って、幼馴染を受け入れてやれば、すぐ隣に温もりがやって来た。確かに温かい。そして柔らかくて、良い香りがプンプンする)

幼馴染「えへへ、あったかいね……男くんの匂いがする」

男「バカ、嗅ぐな! まったく何考えてんだよ、襲われても知らんぞ」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーーー]///」

男(さいですか。だが幼馴染よ、今お前へ跳びかかって行くわけにもいかない。転校生への思いがギリギリで俺の理性を抑えつけているのだ)

男(この俺の意思は強いと自負している。たとえ、どのような誘惑があろうと妥協はしない)

男(口達者を気取る俺でも、流石に美少女との添い寝展開ならば言葉が詰まって話を上手く始められない)

男(そんないつまでも黙り込んでいる男へ対しても、幼馴染は満足そうにいた、かもしれない。ただ、触れることもなく、隣にいるだけなのに)

幼馴染「明日の朝ご飯は何食べたい? 今日卵いっぱい買ってきちゃったんだ、安かったから」

男「サイドメニューはハムエッグで決定だな。それに食パンと味噌汁でセットだ」

幼馴染「味噌汁だけなんか浮いてない?」

男(後ろで髪を結っている彼女の姿は新鮮だった。うなじ、悪いものではない。綺麗なものに限るけれども)

男(他愛のない会話が俺と彼女の間でぽつぽつと続き、途切れれば沈黙があって、それだけが繰り返されるのみ。恐れた展開は一切起こる気配はなかった、が)

男(それは唐突に始まる。幼馴染が体ごと顔をさらにぐっと寄せれば、直視できずに視線を落とす。すれば、寄せられた谷間がそこに。山あれば谷間ある)

男「イカン……」

幼馴染「ど、どこ見てるの……すけべだなぁ///」

男「俺だって男だ、そんなもん見えれば嫌でも目が行く。だ、だから あんまり意識させるなよ」

幼馴染「何で?」

男「何でって、そりゃあ俺たちは……あっ」

幼馴染「あたしと男くんは昔からの幼馴染だから? 家族みたいな存在だから?」

男(気をつけろ。幼馴染は隙あらば即座に突いて、叩いてくるのだ。一言、一言、しっかりと何を自分で言い出すか、よく考えて発言しなければならない)

男「……ようやく本題に入れるわけだな、随分長い前置きだったよ」

幼馴染「ごめん。でもこういう機会じゃなきゃ、男くんしっかり考えてもらえないかなって」

男「考えてるよ。待ちきれないのか? …いやしんぼめ!」

男(間違いなかった、幼馴染は迫って来ている。王手をかけに。 彼女は、あくまで俺が彼女を『幼馴染』として意識しているからこそ、踏み込めずにいると考えたのだろう)

男(自分を異性として見てもらいたい。以前の告白は冗談ではなかった。だからこそ、奥の手である体を使ってきた、と俺はそう考える)

男(理性ではない、本能へ訴えかけることができれば決断を早められるだろう。手っ取り早いが方法は幼馴染らしくも……あるのだろうか。肉食的な部分はこれまでも少なからず見せていたから)

幼馴染「いやしい……うん、本当だよね。あたし卑怯なことしようと思ってたよ。…[ピーーーーーーー]」

幼馴染「だけど、それで[ピーーーーーーーー]……あたし[ピーーーーーーー]……!」

男「悪い、今何て言ったんだ?」

幼馴染「何て言ったと思う? 当てられたら、ご褒美あげる……」

男(どうしてこう、幼馴染はこちらの裏を突いてくるのだ。今ここで誤魔化しは無意味だというのか。向き合えと? 苦しい、胃が痛む)

男「雨がまだ振ってるね。だけど、それでも授業はあるんだね。あたし憂鬱になっちゃうー」

幼馴染「うん、正解だよ」

男「うそつけ!! ……はっ」

幼馴染「自分で誤魔化してるの分かってて答えたんだよね。また、ごめんなさい。疑うようなことしちゃって」

幼馴染「[ピーーーーー]……本当は、あたしが男くんに何が言いたいのか、したいのか、全部分かってるでしょ?」

男「………… (バカな、この俺が、一杯食わされただと、そんな)」

男(落ち着け、落ち着けば打開できる状況ではある。まず俺は幼馴染に対して有利に立てるではないか)

男(彼女は「一番でなくとも、ただ好きでいてくれたらそれで良い」本心からでないとしても、その言葉を言ってしまった限り、俺が誰を好きになろうが知ったことではないだろう)

男(だが、幼馴染をこれで脅せというのか。お前を横目に他の美少女とイチャついても問題はないだろう?とハッキリ突き放してしまえと。畜生ではないか。見事なゴミ以下である)

男(あの時は危機を回避できたのだと安心しきっていた。だが、あの言葉は今となっては重たい足枷だ。重すぎる)

幼馴染「困らせてちゃってるよね。本当はこれまでみたいに家族みたいな付き合いをしてる方がお互い気楽なのに」

男「お前には、それが耐えられなくなっちまったってことか? つらいのか」

幼馴染「ううん! そんなことないの。楽しいし、ずっと続けば良いのにって思ったこともある……でも」

幼馴染「手を伸ばせば届くところにあるのに、自分じゃどうにもできないって苦しいよ。 わかって、男くん」

男(何も言えなくなってしまった。少なくとも、現状幼馴染を苦しめていたという気持ちは俺にもあった。だが、所詮は他人事のようにしか考えていない)

男(だからこそ、初めてこうした彼女の告白を聞いたら、ショックで声が出なかったのである)

男「困らせてたのはお前じゃなくて、俺の方だったんじゃないか……!」

男「一番じゃなくたって構わない、忘れないでほしい。だけど振り向いて欲しかった。 そ、そうなんだよな?」

幼馴染「本当のこと言ったら、あなたの一番になりたい。あたしは男くんが[ピーーーーーーー]」

幼馴染「あの時、少しでも負担にならなきゃいいなって言った事が逆に男くんを困らせちゃってる。でも、そのお陰で今までの関係を壊さないで済んだ……よね?」

男「た、確かに」

幼馴染「でも、あたしはその今までを壊しちゃおうとしてるよ。それって男くんからしたら迷惑だし、台無しになっちゃうよね」

男「うっ…………うぐぅぅぅ~っ…!?」

幼馴染「これからあたしが男くんに何かをしたら、明日から男くんはあたしを家族だって思えなくなっちゃうんだ」

幼馴染「そうして、あたしが望んだ通りに男くんがあたしをしっかり見てくれる。仲が良い幼馴染としてじゃなくて、別の形で」

男(ここから切り返す気力が沸いてすらこなかった。幼馴染の言葉を黙って聞いて、頷けず固まるしかなかったのだ。もはや神へ縋る気持ちもない)

男(誤魔化しは通用しない、俺が唯一彼女へできる行動は、受けいれる or 拒絶する のみか。その前に全ては彼女次第。行動は、幼馴染へ委ねられた)

男(なにも、壊さずとも意識はしてきたのだ、幼馴染よ。表面だけ、そう見えるように取り繕ってきて、ずっと始めからお前を意識してきたのに。なぜ勘の良いお前がそれだけを気づけない?)

男(決まっている。鈍感と難聴のデメリット、そして逆手を取って散々立ち回っていた俺が悪かった。結果的に彼女も俺自身も追い詰めてしまったのである)

男(せめてもの罪滅ぼし。俺はこのまま黙って幼馴染を受け入れてしまえば良い。そして、幼馴染ルートへ進めば彼女は報われるのだ)

男(俺とて、幼馴染と結ばれることは悪いと思わない。ここまで献身的で、優しい美少女に嫌悪を示すなんてまずあり得ない。相手は心まで美少女ではないか、これ以上の相手は簡単に見つからないだろう)

男(ブサ男で無様なこの俺をめげずに愛し続けてくれた美少女。色々と好条件である。彼女なら俺の言う事を何でも聞いてくれるぞ、何でもだ)

男(どこを取っても素晴らしいの一言。難しいこともない、恐れる必要もない。このまま誰にも知られずに彼女と結ばれようが、なんら問題一つない、最高)

男(だがな、俺は何が起ころうと妥協するつもりはない)

男「……本当にそう思っているのか?」

幼馴染「え?」

男「お前、俺を何か勘違いしていないか。俺はお前が思うほど単純じゃない。むしろ、かなり複雑な部類かもしれん」

男「たとえ今お前が何かしてこようが、俺は俺の日常を崩す気はない。俺だけのな。だって、世界は俺を中心に廻っている…」

幼馴染「……ごめん、本当に誤魔化さないで聞いてほしかった」

男「誤魔化しだぁ~? 今の言葉が誤魔化しに聴こえるのか。随分疑り深い性格になったもんだな、幼馴染」

幼馴染「だっていつもそうやって話題を逸らそうとする…」

男「何言ってるんだ? 悪いが、俺は今までずっと本心でしか語ってなかったぞ。お前の中の俺ってそんなに計算高くてズルい奴なのかよ」

男「いつもドジだとか鈍いだとか散々貶してくれるが、それも全部お前から逃げるためにやってたと……幼馴染はそう考えてるのか?」

幼馴染「……わかんない」

男「俺だって分かんないよ。お前がどうしてそんなに疑ってくるのかも、必死なのかも」

男「ああ、確かに俺はお前をずっと幼馴染として思ってたかもしれない。いや、思わせてきたんだ」

男「今は……久しぶりに会って、綺麗になってて……胸も大きくなってたし、太ももムチムチな女子高生になってたし」

幼馴染「後半部分いらないっ…///」

男「いや、重要だ! だって、そのせいで昔みたいな風に幼馴染が見えなくなったんだぞ。本音を言えば、お前のことは家族とは思えないんだ」

男「俺だっていつまでも子どもじゃない。お前と同じで大きくなっただろ? そしたら意識の一つや二つぐらいする……可愛いから」

幼馴染「か、[ピーーーーーー]……///」

男「それなのに、今こうしていきなりお前は迫ってきた。お前は俺にとっての都合の良い女を脱しようと考えたんだろうがなぁ~~~」

男「お前がやろうとしてたことって、むしろそれを増長させるんじゃないか……」

幼馴染「えっ?」

男「お前が抱いた勝手な認識で、暴走して、それで俺をどうしようってんだ? その後のことは考えてるのか?」

男「やらしいことやって、俺がお前を意識するようになって、それからは? その後も良いことしてくれる? 力尽くで俺を誘惑し続ける?」

男「それでもし、俺の勝手で今後お前を遠ざけても、まだ続けてくれるのか?」

幼馴染「……つ、つづけるよ……だ…だって[ピーーーーー][ピーーーーー]…[ピーーーーーーーー]…」

男「そうか、そうか。じゃあお前は俺の都合の良い女になりたいわけなんだなぁー」

幼馴染「うっ……」

男「俺がもし好きな奴ができたとしても、気分転換に欲求を晴らしてくれる処理をしてくれる。しかも飽きればいつでも捨てて構わない。最高だな」

男「俺が誰かと楽しんでいるのを、お前は陰からひっそり見るだけなんだ。俺はそれを横目でチラっとでも見てやれば」

男「幼馴染は満足するんだろう?」

幼馴染「[ピーーーーーー]……」

男「え?何だって?」

幼馴染「満足、できるわけないじゃないっ……やだよぉ…そんなの…やだぁーっ…」

男(俺は大きな誤解していたのかもしれない。俺の幼馴染は、初めから病んでなんかいなかった)

男(勝手な解釈でそう決めつけて、彼女を恐れていた。そうすることで無理矢理にでも幼馴染へ注意を向け、ハーレム要員から溢してしまわないよう、自分を戒めていた)

男(……と、フォローしても今さら彼女をそういう風には見られない。強すぎた愛情が幼馴染の心を焦らしていた。だから、彼女を変えてしまったのは俺だ)

男(その責任はかならず取る。最終的にハーレムという形で……責任まったく取れてないじゃないか。 よし、ならば、次週へ期待だ)

男(申し訳ないが幼馴染よ、俺も遂に心から好きと思える美少女を見つけた。いつかお前がした質問、結局は答えられそうにない)

男「幼馴染、お前は俺を待っていてほしい。お前の気持ちが変わらない限り、ずっとだ」

幼馴染「えぇ……なん、で……?」

男「今俺がお前に言えることはそれぐらいしかない。最低だと思うだろ? 自分でもそう思う」

男(結局のところ、逃げる、ことしか俺にはできなかったのである。罪悪感もある。胃も痛み続けている)

男(だが、俺はけして後悔はしないだろう。残酷だけれど、ハーレムを築くのが俺の真の目的。そして今現在の目的は、である)

男(幼馴染の目に俺はどう映っているのだろうか? 賢い彼女でもこう取り乱しては俺が悪魔にしか見えなくなってもおかしくはない。それぐらい突き放している)

幼馴染「ずっと待ってたら、どうなるの? 何かあるの?」

男「その時にならなきゃわからないや。俺がお前に対して、本当に心の準備が整うまで。お前のことを見る目が変わるときまで」

男「待ち切れなければ、好きにしたら良い。こんなクズだ。長く見てればお前も正気に戻ってどうでもよくなるかもしれないだろ? 怨みを込めて刺してくれてもいいさ」

幼馴染「ねぇ、それってずるいよ……平気でそんなこと言えたなら、男くんってほんとに[ピーーー]」

男「え?何て言った?」

幼馴染「だから……はぁ、やっぱりずるい……でも、もう少しだけ待ってみようかな。あたし」

幼馴染「諦め切れないから、もう少しだけ……バカみたいだけど、信じてみる……好きでいてみる///」

男「しかしなぁ、お前もとんでもない奴を気に入ってくれたよ。趣味が悪いのなんの」

幼馴染「本当にだよー……[ピーーーーーー]」

男(俺が果たすべき幼馴染との決着はここで終わった。けして気持ちの良い勝利ではない、彼女はこれからも苦しみ続ける。だが、決着は着いてしまったのだ。これで、次週へも幼馴染のフラグを引き継ぐことに成功したと思われる。 神よ、心で懺悔させてほしい…俺は彼女を自分に都合の良い女へ変えてしまった…酷いと思う…あんまりだった…)

男(朝、目が覚めたときには既に幼馴染の姿はなかった。下の階から音がするということは、朝食の支度を行ってくれているのだろうか)

妹「ん~……[ピーーーーーーー]……」ギュウー

男「やっぱりこうなると思ってたが、やっぱりだったな。なんて寝相悪い妹かね。素晴らしすぎる」

男「今日、もし俺の今までの考えが正しければ、俺のハーレム主人公な日常は終わるんだ。終わったらどうなっちゃうんだろうかー……」

男(現在この肉体にある俺という人格が消えて、新たに、あの時のように、違う俺が生まれる。見方を変えれば、俺は今日、死ぬ…のだろうか?)

男(意識が無くなってしまうという感覚はわからない。不安だって恐怖もある。だが、全ては俺自身が最終的にハーレムを築くためには仕方がない。この犠牲はきっと無駄ではないだろう)

男(俺にとっても、委員長にとっても、だ。結局俺は俺である。今の俺がどうなろうが、結果で見ると損はないと思える)

男「それに悪い事ばっかりじゃないじゃねーか! だって俺は今日転校生と! ……しかし、そうなれたらそうで、本当にどうなるかね」

男「前週までの俺から察すれば、記憶を取られてすぐに次週へ回されるのか? そう考えると良い思いもできずに、すぐ終わっちまいそうでかなり嫌なんだが」

男「いや、きっと報われるはずさ……神は俺の味方だ……そもそも神は初めからハーレムを作れとは一言も言ってない。この世界にいる限り、俺は好きにできるんだ! 美少女を! 例えばこうやって……」

妹「すかー……んぐぅ~…おにー…ちゃーん……へへ」

男「おい、もう時間だぞ。そろそろ起きろって、妹。いい加減に……う、うわぁ!?」

男「布団に足が絡まって体勢が崩れ、偶然妹の胸を鷲掴んだぁ!? ……や、やわらかい」

妹「……おにーちゃん? ……あれ///」

男「違うぞ。これは偶然こうなっちまったわけで…けして故意じゃ…!」

男「なぁ、そろそろ機嫌直しても良い頃じゃないか?」

妹「お兄ちゃんは今朝、私にいきなりサイテーなことをしました。それで私はちょー傷つきましたっ!」

男「だから偶然だったと何度も言ってるだろ。これ、お前から殴られたほっぺた見てみろ? 両方とも病気みてぇに真っ赤だぜ。これで十分でしょう?」

妹「ばかお兄ちゃんっ、ドアホぉっ!! ほんとに恥ずかしかったんだよ!? 私の[ピーーーーーー]し…」

男「は? 悪い、最後聴き取れなかった。何て言った?」

妹「っぐー……/// もう、もうしねぇ! バカ、タコ兄っ!! …歯磨いてくる」

幼馴染「あのねー…もう、どうして男くんはいつも素直に謝ろうって思えないのかな。余計にこんがらがっちゃうだけだよ?」

男「悪いと思えば俺だってすぐに謝る。だが、今回は別に!」

幼馴染「偶然だったとしても悪いことしちゃったでしょ? 悪戯だったとしてもごめんなさいしなきゃ。ね?」

男「お前は俺の母親かってんだよ……うっ」

幼馴染「ん、どうかしたの? ……ほら、早く食べて先にあやまってこよう。妹ちゃんも許してくれるから」

男「あ、ああ。そうしようかなぁ……そうするか……」

男(幼馴染にとって昨夜の出来事はあまりにも酷だった。だから、今朝から彼女と顔が合わせづらい)

男(それでも彼女は、いつもの彼女のように俺へ接してくれて、優しかったのである。なんと気持ちの強い美少女か。 きっと、交わした約束を信じて、待ち続けるのだろう)

男(次の俺が誰を攻略するかは見当も着かない。だから祈ろう、幼馴染の幸せを。彼女がきっと報われるように。どうあがいてもブサ男の俺が迎えに行くだけだが、満足してもらえるならば、幼馴染を抱きしめてやって欲しい…という他人、否、自分任せである)

妹「ほんとに今日も雨ザーザーだね。こんなだと気分も滅入ってきちゃうんですけどー…」

幼馴染「最近は良い天気続きだったから仕方がないよ。それにしても、今日はやけに余裕持って登校できるね? 男くん?」

男「毎回俺のせいで忙しいと聞こえたんだが、勘違いだったよな?」

妹「ほら、二人とも止まって喋ってないで早く行こうよー? 濡れるよー?」

男「わかってるって……お前の言う通りだった。あやまったらすぐ機嫌直してくれたよ、ゲーム一本買ってやる条件付きで」

幼馴染「ふふ、安いもんじゃない。良かったね!」

男「俺の財布には良くなかったけれど。 まぁ、えっと、とりあえずありがとう…」

幼馴染「えー? ごめん、いまよく聴こえなかった。もう一回言って?」

男「へへへっ、冗談にしてもそれは止してくれないかねぇ!?」

幼馴染「ん? 何だって? …ふふっ、どうしてそんなに変な顔するの。あははっ」

男「変な顔で悪かった、コレ生まれつきなんだわっ……ていうか、あいついつのまに先進んでるんだ」

幼馴染「あっ、携帯弄りながら歩いて危ないなぁ…妹ちゃーん! ちゃんと前向いて歩かないと」

男(ゾクッ、と悪寒が背中を走った。鳥肌が一気に立って、息が苦しくなったのである。 風邪を引いたわけではない。この感覚は、どこかで一度あったような)

男(説明するのも億劫になる程、この気持ちの悪さへ耐えられなくなった。 何かが、俺の頭の片隅から、思い出されたようにフラッシュバック。それも一瞬すぎて何だか意味不明)

男(視界の片隅から、ふ、と幼馴染がいなくなった、というか俺が彼女を見失った。 探せばすぐ近くに彼女の背中を見つける。ぼぅっと歩く妹の元へ駆け足で幼馴染が近寄っていた。それを追いかけようと足を無理に動かそうとした、その時だった)

男(幼馴染がいる先の脇道から自動車の頭が見えた。その瞬間、自分でも意外なほど体が早く反応し、彼女の肩を強く掴んでいたのである)

幼馴染「ひゃ!? お、男くん……?」

男「車……あああ、危なかっただろ……アホっ、お前こそ余所見してんじゃねーよ!! 轢かれてたぞ!?」

幼馴染「え? だ、大丈夫だよ。車来るの気づいてたし、立ち止まろうとしたとき 男くんが急に」

幼馴染「心配してくれたのは嬉しいけど、どうしたの? 顔色悪いし、息も切らしちゃって…具合悪い?」

男「あ、あぁー……いや…別に……大丈夫なら良かったんだ、気にするなよ……何でもなかったから」

男(心配してくれる幼馴染を他所に、一瞬で沸き上がってきたさきほどの奇妙な感覚に動揺を隠せずにいる。少し、心を落ち着かせれば、すかさず考えを凝らし始めたのは最近の癖からだろうか)

男(今までにあのような吐き気をもよおすほどの感覚へ襲われたことがあるか? 断じて、ない。世界の秘密へ触れたときだろうと、美少女からヒヤッとさせられたときだろうと、である)

男(嫌な感覚、つい最近もあった。昨日のことではないか。雨を眺めていたときに。今感じたのはそれに近かったかもしれない)

男(俺はまだ、神が作ったこの素晴らしき世界の全ての秘密に気づけていない。謎は面白いように、どこからともなく訪れる)

男(最後の最後で、人が終わりを迎えようとしているときに、なんと意地の悪いことか。神はまだ俺を試すのか。それとも)

男(触れなくて良かった秘密へ俺は近づいてしまったのか。開けてはいけない扉に手をかけてしまったと)

妹「お兄ちゃん、何さっきからずっとボーっとしてるの? 置いてっちゃうよー?」

男「手掛かりがなさすぎるぞ……今日で終わりなんて言ってる場合じゃないのか? ……もしかしたら委員長を救うために必要な情報かもしれない」

妹「もしもーし? 聞こえて……ないっぽい?」

男「どうしたらいいのか? 突きとめるべきか、さっき感じた妙な感覚の正体を。だが今までに比べたらあまりにも不確かな物すぎる」

男「しかし、絶対に意味が無いなんてあり得ない。俺自身放っておいたら転校生どころではない…心残りができる」

男「かといって、これをどう調べていけっていうんだ? さすがに美少女たちから得られる情報はもう限られてくる。こいつは俺に残っている秘密、脳味噌でも取り出さなきゃわからない」

男「…一つだけ、方法があるとすれば、最終手段だろうな。神か、あるいはイレギュラーへ直接訊き出すしかない。俺を俺以上に知り尽しているのは神だけだから」

男「つまり、やれやれだ……もう意地になって今自分で解きにかかれる謎は無し。解き方を知らず方程式を解けるものか。なぁ、神よ」

男「…………で、幼馴染と妹はどこへ行ったのかね。また置いてけぼりか? 冗談でしょ?」

男(だが待ってほしい。昨日のオカルト研イベントを思い出そうか。予感がする。これから美少女とのイベントが発生する予感が。そうなれば、あまりにも強引すぎる展開に笑うしかない)

?「先輩?」

男(順番的には妥当だとは思ったが、やはりだったのである。 ご存じ、元彼女であった後輩と出会えた)

男(こうして面と向かうのも久々ではないだろうか。こんな雨の中でも相変わらずカメラを手に持って、持って、いなかった。 どうも困っている様子だが)

男「こんな所で一人突っ立って何してんだ? 真面目な優等生が遅刻上等で道草とはな」

後輩「冗談よりも先に挨拶が初めだと思いますけど。まぁ、おはようございます。先輩」

男「自分が言ったことが矛盾だと思わない? ……で、まさか朝から写真撮影に夢中になってたわけじゃないだろうなー?」

後輩「違います。先輩、私のこと写真バカとか思ってるんですか? はぁ、先輩とこんな所で会うってことは遅刻確定か…」

後輩「……あの、お願いがあるんです。もう、この際 遅刻覚悟で」

男(てっきり茶化しあいながら仲良く学校へ一緒に、なんてちょっとした小イベントが来るとばかり思っていた。後輩は真剣で、それでいてまだ困惑の表情を浮かべ、向ける)

男「すぐに済みそうにない用事か? 手は貸してやらんでもないが」

後輩「よかった…先輩ならきっとそう言ってくれるって信じてました…」

後輩「実はこの家の庭の中に猫が入っちゃったんです。それで私、どうしたらいいか迷ってて」

男「猫? なんでこんな雨の中、猫なんか外にいるんだよ? 野良猫か?」

後輩「はい。 実は……さっきまでその猫を捕まえようとしてたんです。そうしたらこの中へ追い込んじゃって」

男「何個か疑問がある。まず一つ、どうしてその野良を捕まえる必要がある? もう一つ、どうせ雨宿りだ。雨が止めば、自分から勝手に出て行くだろ?」

後輩「それは、そうですけど……でも一人でぽつんと雨宿りしてて可哀想になっちゃって。できるなら今日ぐらいウチに置いてあげたいんです」

後輩「それにここの家の人って動物嫌いで有名で、見つかったら猫がどうなるか…」

男「家、ここから近いのか? 野良猫を家に泊めてやろうとは随分とまぁ変わってる奴だな。家の人はOKって言うのかよ?」

後輩「私の家族、みんな猫好きなんです。今回はちょっとした私の気まぐれなんですけど……んー、やっぱり変ですよね」

男「変だ、めちゃくちゃ変だ。野良なんぞ家に入れてみろ、面倒しかないぞ……しかし、俺も猫は好きだ。酷い目に合ってもらいたくはない」

後輩「先輩……やっぱり先輩は好きです」

男「おぅふ……さ、さっさとここの家の人に話しつけて回収しちまおう! ていうかお前が早くそうしてれば、こんな事には」

後輩「ダメ! ほ、本当にここの人、動物ダメなんですってば!」

男「じゃあボールが庭に入ったから取っていいかぐらいの言い訳をしたらいいだけだろ。焦って頭が回らないのか?」

後輩「あの……正直言うと、怖くて。 ヤが付く人なんです。住んでるの……」

男「……やっぱり、自然に猫が出て行くのを待った方がいいんじゃない?」

後輩「さっきは酷い目に合ってもらいたくないって言ってくれたじゃないですか!? そんなこと言わないで手伝って、お願いしますからっ!」

男「事情が変わったんだよ!! 大体、お前 ここの人にバレないよう忍び込んで猫を拾ってくるってことだろ? リスクがデカすぎるだろうがっ!!」

後輩「先輩! そ、そんなに大きな声を家の前で出してたら、出てきちゃいますよ……」

男「……とにかく、危ない事はなるべくしたくない。悪いがその野良猫はそっとしておけ。殺されはしないだろ」

後輩「そんな! ううっ……わかりました。どうしてもダメなら、私一人でもあの子を助けてきます」

男「早まるなバカ!? もし見つかってお前が酷い目に合ったらどうする? エロ同人みたいに……とにかくやめとけって」

後輩「いいえ、やめません。 だってこの中へ入れちゃったのは私なんですよ。責任がありますから」

後輩「先輩、つまらない事で引き止めてしまってすみません。失礼、します……」

男「待った……行くよ、俺も行くから……死ぬときは一緒だ、後輩。な?」

後輩「あのー…さすがに死ぬ気はないので、そのときは先輩お一人でお願いします」

男「面白いな、その冗談。全然笑えねーよ」

後輩「本当によかったんですか? 無理して私に付き合うことなかったのに」

男「頼んできたのはお前の方だろ。今さら後悔させるようなこと言うな、逃げたくなる」

男(後輩と二人して、なるべくなら彼女は置いて行きたかったが、庭へ侵入することに成功した。とくにライトが付くわけでも、サイレンが鳴るわけでもなく 安心……はできなかったが)

男(美少女と一緒にドキドキできるイベントは待ち望んでいたとも。だがしかし、ドキドキの方向が違いすぎる。誰が喜んでライオンの巣へ跳び込もうとするのか)

男(さすがに俺が例のアレな人らへ拘束され、目の前で後輩が乱暴される中、始末されるという最悪な結末を用意してはいないだろう、神よ。俺は主人公補正によって守られている。違いない、と一言頼む)

後輩「あの子、どこまで入っていっちゃったんだろう。奥まで行ってないといいけれど……」

男「おい、あんまり裾を掴むな。ラッキースケベがはつど…動きづらいだろ……」

後輩「あっ、すみません。やっぱりちょっとだけ、怖いですね……先輩は大丈夫ですか?」

男「大丈夫ならな、最初に止めはしなかったと思うぞ? だけど、お前が怖がる所が見れるのは結構レアだな。それだけでも悪くなかったかねぇ」

後輩「こ、こんな時に変なこと言わないでください! もうっ……いつも子ども扱いして……///」

男(この状況で俺を悶えさせようとさせるな、これは罠か? ああ、今だけは難聴スキルが働いてくれ)

後輩「先輩? あそこ、倉庫の中を見て下さい。見つけましたよ…とりあえずは、良かった、ですよね?」

男「それは終わってから言うことだな。これ以上逃げないでくれよー……ちょっと待て、向こうから誰か来るぞ」

後輩「いい子だからそこでじっとしててねー……あっ! 奥まで逃げちゃった」

男「おい、後輩聞いてんのか!? 誰か来るってば!!」

また明日

>>1はこんなのでいいとしてナイスなスレタイが思いつかないな
埋まるまでに帰って来てくれ


男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/)

男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/)

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このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年10月11日 (金) 03:29:08   ID: gqYu7LB0

前のの続きがきになって来たのにまだ終わってなかったなんて・・・
こっちまで悶えてきた

2 :  SS好きの774さん   2014年01月02日 (木) 00:23:07   ID: SWPppooj

これの続き読みたいわ

3 :  SS好きの774さん   2022年03月14日 (月) 14:53:25   ID: S:MZgfje

思い出して頑張って探して辿り着いた
続き見たいですね~

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