提督「…………」カキカキカキ
赤城「これは事件ですよ、提督」モグモグモグモグ
提督「…………」カキカキカキ
赤城「私が少し目を離したすきに、誰かが食欲に耐えきれず食べてしまったのだと考えます」モグモグモグモグ
提督「…………ふむ」カキカキカキ
加賀「提督、赤城さんが話しているのです。書類を書く手を止めたらどうですか」
赤城「食べた犯人を、早急に探し出す必要があります」
提督「犯人探しか……なるほど。私は何でも知ってるぞ」
加賀「ほう? 私と赤城さんも一度犯人探しを試みましたが有力な情報は得られませんでした。
それなのに提督は、話もロクに聞かず、犯人が分かるとおっしゃるのですか?」
提督「そうだ」
赤城「その犯人は誰なのか、お聞かせください、提督」
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提督「犯人は…………」
加賀「…………」ゴクリ
赤城「…………」モグモグ
提督「犯人は赤城、君だ!」
赤城「!?」モグモグ
加賀「何をバカなことを。赤城さんは被害者なのですよ?」
提督「いや、こんなの考えるまでもないだろ。食べ物で何か問題があった場合、犯人は決まって赤城だ」
加賀「何を無責任なことを……」ゴゴゴゴ
赤城「待ってください加賀さん」
加賀「赤城さん、ですが……」
赤城「提督の見解は分かりました。では、その理由をお聞かせ願いますか?」
提督「いいだろう。では問おう。赤城、今、君が食べているものはなんだ」
赤城「おにぎりです」モグモグモグ
提督「ほら」
加賀「愚かですね、提督」
赤城「すみません提督。こちらの説明不足でしたね。おにぎりは、全部で10コあったんです」
提督「10コ?」
加賀「はい。全て、赤城さんが丹精込めて作った力作。その様子を私は見守っていました」
提督「お昼 食べたばっかだろうが……」
赤城「スグ食べる用に2つ。3時のおやつ用に3つ。そしてお夜食用に5つ……」
加賀「できれば私の分も作って欲しかったです」
提督「全部赤城が食うのかよ」
赤城「そして午後4時現在……私は既におにぎりを9コ食べてしまいました」
提督「食欲には抗えなかったか……」
加賀「私の演算が正しければ、この時点でおにぎりはひとつ余るはずです」
提督「ただのひき算だろ」
赤城「ですが……最後のひとつだけが、どうしても見当たらないのです」
提督「なるほどな。どうせあれだろ? いつの間にか食べちゃってたってオチなんだろ?」
加賀「提督、赤城さんに対して何てことを。赤城さんはプロです。食べ物のカウントを誤るわけがありません」
提督「なんのプロだよ」
赤城「とにかく、その最後のおにぎり……これはちょっと、特別なんです。
その特別なおにぎりがどこかへ行ってしまったので、こうやって探しているということです」
提督「特別? 珍しい具でも入ってるのか?……まぁいいや。
じゃあ赤城が今食べてるそれが、9コ目のおにぎりということだな?」
赤城「ひぃ、ふぅ、みぃ……えーっと、これは10コ目ですね」
提督「おいっ!」
赤城「いいえ、ご安心ください提督。このおにぎりは、提督専用冷蔵庫の中にあったものです」
提督「何勝手に人の冷蔵庫開けてんだ……」
加賀「ともあれ、これで状況は把握できましたね?
これから鎮守府が総力をあげて、赤城さんのおにぎりの捜索に移行します」
提督「えっ」
加賀「赤城さんおにぎり作戦……AO作戦を発動します!」
提督「何勝手に決めてんだ」
~ 数分後 ~
加賀「容疑者を連れて参りました」グイッ
那珂「いーやー! はーなーしーてぇー!」ズルズルズル
提督「…………」
加賀「そこにお座りください」
那珂「うぅ……那珂ちゃんがいったい何をしたっていうの提督……」
提督「いやぁ実はその……」
赤城「お待ちください提督、これは私の問題です。私にお任せください」
提督「なら別の部屋でやってくれると非常に助かるんだが……」
加賀「単刀直入に言います。軽巡洋艦那珂、あなたは赤城さんのおにぎりを食べましたね?」
那珂「おにぎり?」
赤城「はい。食堂に用意しておいたおにぎりです」
那珂「そんなの知らないよぉ」
加賀「あくまでシラを切るつもりですか」
那珂「ひぃっ! 顔コワイ! 助けてよぉ提督!」
提督「う、う~ん……。那珂が本当に知らないというのなら、アリバイを示せばいいんじゃないか?」
那珂「アリバイ?」
提督「そうだ。赤城、そのおにぎりがなくなったのはいつ頃だ?」
赤城「9コ目を食べ終えたのがちょうど午後3時頃でした」
提督「3時のおやつの時点でもう残り1つだったのかよ」
赤城「最後のひとつを残した状態でお手洗いへ行き、帰って来た時には無くなっていたのです」
提督「なるほどな。じゃあ那珂は、その時間に何をしていた?」
那珂「その時間なら私、中庭でライブしてたよ!」
加賀「それを証明できる者は?」
那珂「ふぁ、ファンの皆だよ……」
加賀「ファンの皆とはどれくらいの人数ですか?」
那珂「川内ちゃんと……神通ちゃん……2人です……」
提督「詳しく聞いてやるなよ……」
赤城「これぞ姉妹愛ですね……。那珂さんは釈放です」
加賀「軽巡洋艦那珂、釈放します」
那珂「…………」トボトボトボ バタン
提督「なんか悪いことをしちゃった気分なんだが」
加賀「仕方のないことです」
提督「そもそもどうして那珂が犯人だと思ったんだ?」
加賀「たまたま目についただけです」
提督「……は?」
加賀「目についた艦娘に片っ端から声をかけ、犯人だと決めつけ、自白させる罠」
赤城「その名も、カマかけ作戦」
提督「ひどい……」
加賀「えぇ。本当にヒドイ話ですよ。赤城さんのおにぎりを食べてしまうなんて」
提督「いやいやいや……」
加賀「容疑者を連れて参りました」ヒョイ
電「はなすのです~! 電は何もしてないのです~! うわぁあああん」ジタバタ
提督「おいやめろ、泣いてるだろ!」
赤城「ですがこれもすべて、彼女たちのため、鎮守府のため……」
提督「いや、ただの食べ物の恨みだろ……」
電「うぅう……ひどいのです……電は本当に、おにぎりなんて知らないのです……」
提督「加賀、とりあえず電をおろしてあげなさい」
加賀「逃げないと約束するなら」スタッ
電「うわぁああん」
提督「おぉヨシヨシ、怖かったな」ナデナデ
電「司令官さん……どさくさに紛れてお尻を触るのやめて欲しいのです……」
提督「ごめんなさいなのです……」
加賀「さて、駆逐艦電。あなたに問います。あなたは赤城さんのおにぎりを食べましたね?」
電「だから電は知らないのです! 食べてないのです!」
加賀「否定するところが怪しいですね」
提督「いや、普通否定するだろ」
赤城「手荒な真似をしてごめんなさい電さん。よろしければ、午後3時頃に何をしていたのか教えていただけますか?」
電「午後3時……たしか電は、暁ちゃん達と一緒に、駆逐艦寮でお弁当の準備をしていたのです」
加賀「お弁当? なぜそんな時間に?」
提督「隊のみんなでお弁当を持ち寄って、外でランチをするのが駆逐艦の子たちの中で流行っているんだ」
電「さすが司令官さん、よくご存じなのです」
赤城「そうだったのですね。それはよいことを聞きました」ジュルリ
電「…………」
提督「あ、ごめん電……」
赤城「電さんは釈放です」
加賀「駆逐艦電、釈放」
電「ははは……明日からのランチはもっと、人目のつかない、日当たりの悪い場所でやらなきゃなのです……」ブツブツ
トボトボトボ バタン
提督「なんか、悪いことをしちゃった気分なんだが」
加賀「犠牲はつきものです」
提督「駆逐艦の子たちがそんなことするわけないだろ?」
加賀「いいえ、最も怪しいのは駆逐艦です。あの獰猛で血の気の多いデストロイヤー……
赤城さんのおにぎりとあらば、狙って当然です」
赤城「罪な艦娘です、私って……」
提督「おお、もう……」
加賀「容疑者を連れてまいりました」ポイ ポイ ポイッ
皐月「えぇ~、ボクたち、何も悪いことなんてしてないのに~」
長月「我々の信頼も地に落ちたものだな」
文月「ふぇええ、お昼寝の途中だったのにぃ」
提督「今度はこの三人か……」
赤城「皐月さん、長月さん、文月さん。すみません、少しお話しできないでしょうか?」
皐月「それはボクたちをここへ引っ張って来る前に言って欲しかったよ……」
長月「何度も言ったはずだ。我々は赤城さんのおにぎりを食べてなどいない」
文月「うんうん、そうだよぉ!」
加賀「ですが、聞くところによるとあなた達は、ギンバイの常習犯のようですね」
皐月&長月&文月「……ッ!?」ビクッ
皐月「や、ヤだなぁ~。そんなことボクたちがするわけないよ~」
長月「ぎ、ギンバイ行為など百害あって一利なし、愚かな行為だ……」
文月「うんうん、そうだよぉ!」
赤城「その噂、私も聞いたことがありますね。提督はご存知でしたか?」
提督「ま、まぁ私もそのことに関しては……―――」
皐月「司令官はボクたちのこと……疑ってるの?」クゥン
長月「我々はその……司令官だけには誤解されたくないんだ……」ウルウル
文月「司令官は、文月たちの味方だよね? ね??」キュウン
提督「あぁもちろんだとも。駆逐艦は最高だ」グッ
皐月「やったぁー、さっすが司令官!」
長月「それでこそ、我々の司令官だ」
文月「文月、司令官のことぉ、だいだいだ~~い好き!」
提督「ぐへへ」
加賀「…………」ジトー
皐月「あっ、あと3時頃ならボクたち、駆逐艦寮でお弁当作ってたよ」
長月「そこにいたのは我々だけではないはずだ。これで十分アリバイになるだろう」
文月「司令官にも、お弁当食べさせてあげるねー?」
提督「ほら分かっただろう。彼女たちはおにぎり泥棒もギンバイもしていない。するわけなかろう」
赤城「なるほど分かりました。釈放です」
加賀「駆逐艦皐月、長月、文月、釈放」
皐月&長月&文月「…………」ニヤリ
加賀「容疑者を連れてまいりました」
ゾロゾロゾロ……
朝潮「司令官、朝潮型駆逐隊、遠征よりただいま帰投しました」
大潮「大潮がドーン!とやって、大活躍してきちゃいました!」
満潮「いやいや、戦闘なんて一度も無かったじゃないの」
荒潮「あらあら、それにしても何だか賑やかねぇ?」
霰「おフロ、入りたい」
霞「ちょっと何なのよこのクズ! 私たちは疲れて帰ってきてるの!」
提督「すまない霞……ちょっとだけ赤城たちの犯人探しに付き合ってくれないか……。
私ならいくらでも踏んでくれても構わないから」
霞「クズ」
加賀「いくら聞き込み調査をしてもおにぎりを食べた犯人が見つからないのは、
その犯人が鎮守府にいないから、という結論に至りました」
赤城「朝潮さんたちは3時30分に遠征に出発し、先ほど帰って来たのですね?」
朝潮「はい、その通りです」
提督「つまり、3時30分から今に至るまで鎮守府にいなかった存在……朝潮たちが犯人である可能性があると」
赤城「はい」
荒潮「あらあら? じゃあもしかして私たち、泥棒の疑いをかけられているのかしら?」
霰「そうらしい。でも私、食べてない」
加賀「犯人はみな、そう言うのです」
提督「いや、今までの子たちも皆そう言ってきたぞ」
満潮「おにぎりがひとつ無くなっただけでしょ? ばかばかしい」
大潮「犯人探しなら、大潮にお任せください! 犯人は、この鎮守府の中にいます!!」ドヤァ
霞「当たり前でしょバカ大潮」
朝潮「では朝潮型駆逐隊にかけられた疑惑を晴らすために、アリバイを申し上げればよろしいのですね?」
提督「すまないが、言ってやってくれるか?」
加賀「アリバイがあるというのなら、聞きましょう」
赤城「すみませんが、お願いいたします」
提督「では霞から」
霞「フン! 仕方ないわね。3時頃でしょ?
もうすぐ遠征なんだから、工廠で艤装の手入れをしてたわ。当然じゃない」
提督「さすが霞、きっちりしてるし可愛いな」
霞「い、いちいち変なこと言わないでよバカ!」
加賀「それで、それを証明できる者は?」
霞「証明できる人はいないけど、工廠の入退室管理簿の時間を見れば分かるはずよ」
赤城「なるほど……アリバイは確かなようですね。釈放です」
加賀「駆逐艦霞、釈放」
提督「では、次は霰」
霰「私は……遠征前、心を落ち着かせるために、広場でテレビを見ていました」
赤城「テレビ? 何を見ていたのですか?」
霰「相撲」
赤城「なかなか良いご趣味をお持ちのようですね……」
提督「霰は相変わらずだな。そして可愛い」
加賀「では、それを証明できる者は?」
霰「いない。でも、その時間帯の対戦カード、勝敗、決まり手は全部覚えてる」
赤城「なるほど。私が食べたおにぎりの数を覚えているのと同じですね。釈放です」
加賀「駆逐艦霰、釈放」
提督「では、次は荒潮」
荒潮「私? うっふふふ、司令官ったら、私がその時なにをしてたのか……聞きたいのかしら?」
提督「お、おう。そうだとも」
荒潮「やぁねぇ司令官。女の子には、殿方に言いにくいことだってあるのよ?」
提督「いやぁ~。 あんまり問い詰めたくはないんだけどなぁ~。赤城たちがどうしてもって言うかさぁ~。
くぅ~、仕方ない、仕方ないことなんだ。 ……だから教えてくれたまえ」
荒潮「あらあらあら」
加賀「提督」
提督「何だね加賀くん」クルッ
バコォ!!
赤城「なるほど、よく分かりました。釈放です。」
加賀「駆逐艦荒潮、釈放」
提督「…………はっ! い、意識を失っていた……荒潮の女の子事情は……!?」
荒潮「うふふ、残念。もう終わりよ?」
提督「あーっ!」
加賀「静かにしてください」
提督「では、次は満潮」
満潮「わ、私は……その……」
加賀「何やら言い淀んでいますね。これは怪しいです」
満潮「ち、違うわよ! わ、私、その時は駆逐艦寮でお弁当を……」
提督「おぉ、意外だな。満潮もあの流行りに乗っかっていたのか」
満潮「べ、別にそんなんじゃ……」
荒潮「違うわよねー? 満潮ちゃん?」
満潮「うっ……」
加賀「ますます怪しいですね」
赤城「満潮さん。あなたが、犯人なのですか?」
大潮「満潮はあれだよねー? 味見役だったんだよねー?」
提督「味見役?」
霞「皐月と長月と文月、彼女たちの面倒を見てたのよ」
提督「あぁなるほど」
満潮「ベ、別に。ちょうどお腹が空いてただけよ」
朝潮「最初は味見役っていう名目で呼ばれたんだけど、その流れで翌日のお昼を一緒に過ごそうって誘われたのよね?」
満潮「うっ……」
霰「満潮、嬉しそうだった」
赤城「そうでしたか。それは完璧なアリバイですね。次は是非私も呼んでください。釈放です」
加賀「駆逐艦満潮、釈放」
満潮「うぅ…………////////」プシュー
提督「では、次は大潮」
大潮「ようやく大潮の出番ですね!」
提督「大潮はその時間、どこで何をしてたんだ?」
大潮「ちょうどその頃、食堂にいましたよ!」
一同「…………!!?」
赤城「そういえば私たちがお手洗いへ行くために食堂を出たとき、大潮さんとすれ違った気が……」
加賀「駆逐艦大潮、あなたですね? 赤城さんのおにぎりを食べたのは」
大潮「えぇーっ!? おにぎりが置いてあったのは知ってるけど、大潮は食べてないよー!」
提督「その場には、他に誰かいなかったか?」
大潮「大潮だけだったかなぁー。いつもは駆逐艦がたくさんいるのに」
霰「殺害現場にたったひとり、アリバイのない人物…………犯人は、大潮……!」
霞「いや、殺人事件じゃないから」
荒潮「あらあら、でもこれじゃあ犯人の最有力候補ねぇ?」
満潮「食い意地も張ってるしね」
朝潮「大潮はそこで、何をしていたの?」
大潮「いやー、なんかみんな忙しそうだったから、自分でおせんべい作ってみようと思って」
提督「そういえば大潮はおせんべいが好きだったな」
大潮「大好き!」
加賀「しかし、それを食堂で作る意味はあったのですか?
調理器具は駆逐艦寮に備わっていると思いますが」
大潮「大潮だって駆逐艦寮で作ろうと思ったんだけど、なんか人がいっぱいで作れなくて」
赤城「翌日のお弁当の仕込みをする子たちですね。たしかにそれなら、やむなく遠くの食堂で調理するのも頷けますね」
霰「満潮も、そこで嬉しそうに味見してたみたいだし」
満潮「いちいち掘り返すな!」
提督「ふむ……とはいえ、大潮の疑惑が晴れるということにはならないか……」
大潮「えぇーっ」
赤城「大潮さんを犯人だと断言できるわけでもないので、とりあえず保留にしておきましょう」
加賀「駆逐艦大潮、保留」
提督「最後は朝潮だな」
朝潮「はい」
赤城「それでは朝潮さん、その時間帯にどこで何をしていたのか、教えてくださいますか?」
朝潮「分かりました。私はその時刻……資料室で調べ物をしていました」
加賀「資料室ですか……」
赤城「たしか資料室は、提督と秘書艦である朝潮さんしか入室を認められていない部屋です。
これでは大潮さんと同じ、証言できる者がいませんね」
提督「そうか資料室か…………あれ?」
加賀「提督、何か?」
提督「あ、いや、何でも」
提督( ちょっと待てよ……たしかその時間帯は、私も資料室にいたはずだ……。
だが朝潮の姿は見なかったし、入退室管理簿にも朝潮の名前は無かったぞ……? )
朝潮「証言者は存在しませんが、霞と同じです。
資料室の中にも入退室管理簿があるので、それが証明となります」
加賀「なるほど……そうでしたか、それは知りませんでした、失礼」
提督( ち、違う……朝潮は、嘘をついている……。あの朝潮が……よい子よい子の朝潮が……。
あんな平然とした顔で、さらっと嘘をついた…………まさか朝潮……君か……君なのか…… )
赤城「それでは朝潮さんも釈放ですね」
加賀「駆逐艦朝潮、釈放」
霞「まったく、大潮ならともかく朝潮がそんなことするわけないじゃないの」
荒潮「となると、残る疑惑は……」
霰「大潮」
大潮「大潮、食べてないのにぃー!」
満潮「いいから吐きなさいよ」
大潮「オエー オロロロロロ」
霞「そういう意味じゃないわよ」
大潮「なんちてー」
朝潮「ふふふっ、もう大潮ったら」
提督( 朝潮……赤城のおにぎり…………君が食べちゃったのか!!!?? )
加賀「これより、鎮守府裁判を開廷します。被告人、前へ」
大潮「うわぁ~、大潮食べてないのにぃー!」
加賀「あなたに判決を言い渡します。駆逐艦大潮、あなたは有罪です」
提督「開廷したばっかでもう判決なのか」
赤城「すみません大潮さん……これもすべて、あなたのためなんです」
大潮「あ、赤城さん……その、手に持っているのは……」
赤城「お水と、お薬です」
加賀「有罪のあなたには、これからこの薬を飲んでもらいます」
大潮「ヤダー! 大潮、改造人間になりたくないー!」ガチャガチャ
荒潮「あらあら、一体なんのお薬なのかしら?」
霰「こわい……」
満潮「まぁでも、自業自得よね」
大潮「ねぇ霞ー! 見てないで助けてー!」
霞「大潮、大人しく罪を償いなさい」
大潮「この薄情者ーっ! 司令官のこと、本当は大好きなクセにーっ!」
霞「……なっ! うるさいわね! ちょっと赤城さん! さっさとそれで大潮を始末して!!」
大潮「うわぁああん! 朝潮ぉおー!」
朝潮「………………」
提督( あの朝潮が……手を差し伸べない。これは間違いない……犯人は……朝潮だ…… )
加賀「さぁ赤城さん、今スグに」
赤城「はい、加賀さん」
大潮「やだぁあああっ!」
朝潮「…………」
提督( いや、朝潮のこの表情……辛そうだ…… )
提督「朝潮」
朝潮「はい」
提督「君は、これでいいのか?」
朝潮「司令官……それは……」
提督「隠しておきたい気持ちは分かる。だが……」
朝潮「司令官には、すべてお見通しなのですね……」
提督「あぁ」
朝潮「ですが……ですが私は……この時のために、ずっと準備をしてきました……。
あと少し……あと少しなんです…………」
提督「朝潮……」
提督( まさか、あの朝潮が、そんなにも前から赤城のおにぎりを狙っていたとは…… )
提督「……分かった」
朝潮「え?」
提督「君の頑張りを、無駄にはしない」
朝潮「司令官……」
提督「そして、大潮も救ってみせる!」
朝潮「…………」
赤城「さぁ大潮さん、お口を開けてください」
大潮「んーっ! んーっ!」ブンブン
提督「ちょっと待ったッ!!」
赤城「提督?」
加賀「今さら何か?」
提督「真実は……いつもひとつ! 大潮はおにぎり泥棒の犯人ではない!!」
大潮「うおぉお……司令官!」
赤城「え? どういうことでしょうか……」
加賀「では、真犯人が他にいるということですか?
ばかばかしい。犯行はアリバイもなく、その時間に食堂にいた駆逐艦大潮以外には不可能です」
提督「それは、大潮が犯行に及んだという証拠にはならない」
加賀「いいえ、なります。当鎮守府に在籍するすべての艦娘に話を聞きましたが、
アリバイのない艦娘はこの駆逐艦だけです。ですよね、赤城さん」
赤城「はい。たしかに、大潮さん以外の全員のアリバイが成立しています」
提督「甘い、甘いぞ一航戦」
加賀「何ですって?」
提督「まだひとり、聞いていない人物がいるんじゃないか?」
赤城「嘘!? そんなハズが……一体誰が残って……」
提督「それは……――――――この私だ!!」
一同「………………」
朝潮「し、司令官……」
提督「この私が、おにぎりを食べちゃった真の犯人だ!!!」ばばーん
満潮「すごい……胸を張って偉そうに言ってるけど……」
霰「ただの大人げない人」
加賀「提督が真犯人? 果たしてそうでしょうか?」
提督「なに!?」
加賀「仮に提督の言っていることが本当だとすると、駆逐艦大潮に関しても嘘をついていないことになります」
提督「そうだ。大潮は嘘をつくような子じゃない」
大潮「うんうん」
霞「いや、つくでしょ普通に、嘘」
加賀「駆逐艦大潮は私たちとすれ違った後、食堂でおにぎりを見たと証言しています。
つまり提督が食堂に忍び込んだとすれば、それは彼女が食堂に入った後ということになります」
提督「そ、そうだとも。大潮は気付いていないだろうが、おせんべいを焼く彼女の後姿を見たぞ」
大潮「…………?」
赤城「ですが変ですね……であれば、提督ともすれ違うと思うのですが……」
提督「…………っ!!」
加賀「そうです。建物の構造上、そして時間的な問題を考慮すると、
司令室から食堂まで行くには、どうやっても我々とすれ違う必要があります」
提督「そ、それは……」
加賀「提督、駆逐艦大潮の罪を庇おうとするその心意気はさすがと言わざるを得ませんが、
我々にとって、そして駆逐艦大潮にとって、それでは意味がないのです」
提督「…………」
朝潮「司令官……もう……」
提督「いいや、違うぞ加賀」
加賀「はい?」
提督「君たちとすれ違うことなく食堂へ行く方法が、ひとつだけある」
加賀「何ですって?」
提督「キーワードは…………トイレだ」
赤城「……はい?」
提督「私は、君たちがトイレに入る少し前からトイレの個室で香りを堪能していた!
そして、君たちが別の個室に入ると同時に抜け出し、食堂へ向かったのだ!
どーだ! これで君たちとすれ違うことなく食堂へ行くことができるだろう、わっはっはっはっ!!」
朝潮「司令官……司令室以外のトイレはすべて……女子トイレです…………」ボソッ
提督「あっ……」
一同「………………」
加賀「撤回するなら、今のうちですが」
提督「おいおい加賀、私を誰だと思っている」
荒潮「あらあら、いけない司令官ねぇ」
提督「食堂付近のトイレはな、絶好のクンカスポットなんだ。あれは至高の時間だ」
霞「く、クズだわ……。前々からクズだとは思ってたけど、まさかここまでとは……」
満潮「あまりの外道さに、もはや神々しささえ感じるわ……」
加賀「では本当にあなたが……赤城さんのおにぎりを食べた犯人ということなのですね……」
提督「あぁ、そうだ」
朝潮「…………」
赤城「分かりました。提督を信じましょう。では……駆逐艦大潮さんは、釈放です」
加賀「駆逐艦大潮、釈放」
大潮「何だかよく分かんないけど、助かった~。あぁ、もう死んじゃうかと思ったよ~」
霰「本当に大潮が食べたのかと思った。ごめん……」
大潮「もぉ、みんなしてヒドイんだからー! ……で、誰が犯人だったの?」
霞「アンタ話きいてなかったの? 犯人はあのクズよ」
大潮「え、司令官?」
提督「そうだ大潮。私があの時、女子トイレに侵入し、食堂へ侵入し、おにぎりを持ち去ったんだ……」
加賀「そのようです。犯人扱いしてしまったことを、お詫びします」
赤城「本当にすみません、大潮さん」
大潮「え、何言ってるの? おにぎりを持って行ったの、司令官じゃないよ??」
一同「………………は?????」
大潮「だってあの置いてあったおにぎり、大潮が持って行ったんだもん」
一同「はぁああああああああっ!!?」
提督「え、いや、ちょっと待て。大潮、さっきから自分じゃないって否定してただろ? どうして急に……」
大潮「うん、大潮、食べてないよ」
加賀「はい?」
大潮「持って行きはしたけど」
提督「……へ?」
加賀「つまり、食べてはいないが、別の場所に移した……ということでしょうか?」
大潮「うん」
霞「アホ大潮ぉ~!! そういうことはもっと早くに言いなさいよぉ!!」グリグリ
大潮「あ痛たたたたっ! だって!
あんなところにポツンとおにぎりが置いてあるんだもん。誰かの食べ残しかと思って!」
提督「……で、どこへ持っていったんだ」
大潮「司令官の冷蔵庫」
提督「は? ……なんで?」
大潮「司令官、最近お仕事で疲れてるみたいでしたから、このおにぎりで、
ドーン!と元気になってもらおうと思ったんです!!」ニコッ
提督「お、大潮……なんて優しい子なんだ…………」ジーン
加賀「なるほど……そういうことでしたか。であれば、彼女を咎めることなど、私にはできません」
赤城「えぇ、提督想いのその気持ち……称賛に値します」
大潮「えへへへ~」
赤城「ではこのお薬も、使わなくて済みそうですね」
提督「それ、何なんだ?」
大潮「テレビで見たことある! それ、飲むと改造人間になっちゃうやつ!!」
加賀「いいえ、解毒剤です」
提督「解毒剤?」
赤城「はい。実はその……少々お恥ずかしい話なのですが……」
提督「ん?」
赤城「ただおにぎりを作るだけではつまらないと思い、
10コのおにぎりに、それぞれ色々な具を入れておいたんです」
加賀「具材をそこら中からかき集めたのは私です。
赤城さんが喜んでくれるのならと色々なものを持ってきたのですが…………その中にひとつ、
害虫駆除用の化学物質が混ざっていました」
大潮「あぁ~、それがおにぎりの中に入っちゃったってことかぁ」
赤城「はい。幸いにも10コ目の、最後のおにぎりの中に入ったという事実はハッキリしていたので、
それだけは食べないでおいたんです」
提督「つまり、夜食まで我慢できず、食べられる分は全部食べてしまったということか……」
赤城「はい、食欲には勝てず……」
加賀「ですが私と赤城さんがお手洗いから帰って来た時、そこにあるハズのおにぎりがありませんでした。
私たちは慌てて捜索し、誤って誰かが食べてしまった時のために薬も用意したのです」
赤城「話によると、このお薬は予防薬。症状が発症する前に服用する必要があるとのことです。
ですから何としても、早急におにぎりの行方を追う必要があったのです」
提督「なるほど……それであんな慌てて、手当たり次第の艦娘に……」
赤城「あれを少しでも口に含んだら最後……この世のものとは思えない腹痛に見舞われるそうです」
提督「なんでそんな危険なものがウチに置いてあるんだよ……」
霞「はぁ……さ、これで一件落着なのよね? 私たち、はやくお風呂に行きたいんだけど」
提督「そういえば遠征帰りでそのままだったな。よし分かった、私も一緒に入ろう」
霞「うるさいクズ」
提督「うむ」
満潮「おにぎりの在り処は、そこの冷蔵庫ってことね。一応確認しておいたら?」
霰「わたし、確認してみる……」
ガパッ
霰「………………ない」
大潮「え!? なんで!?」
荒潮「あらあら、大潮ちゃんの話だと、ここに最後のおにぎりがあるはずなのに……誰か、食べちゃったのかしら?」
提督「いやいや、私は食べてないぞ。第一、私のおにぎりならさっき赤城に食べられたばか……り……あっ」
赤城「………………」タラタラタラ…
加賀「あ、赤城さん……」
提督「もしかして赤城……お前…………自分で…………」
赤城「…………」ギュルルルルルルルルゥ
~ 夜 司令室 ~
朝潮「司令官、本日もお疲れ様でした」
提督「あぁお疲れ、朝潮のおかげで今日は早く仕事が終わったな」
朝潮「今夜は少し用事がありまして……」
提督「……? あ、そういえば」
朝潮「はい?」
提督「結局あのおにぎりを食べたのが赤城なら……朝潮はどうしてあの時、嘘なんてついたんだ?」
朝潮「えぇっと実は……それ、全部今夜のことに関係しているのですが……」
提督「ん?」
朝潮「今日の3時頃……私たちはずっと、大潮のおめでとう会の準備をしていたんです」
提督「あぁ~、第二改装実装のお祝いか」
朝潮「はい。霞の時も、駆逐艦を集めて、司令官もお招きして盛大にやりましたので」
提督「なるほどなぁ。……あれ、じゃあつまり、あの時の皆の証言は……」
朝潮「はい。皆、ほとんど嘘です」
提督「えぇ!? あんな、平然としてたのに!?」
朝潮「大潮はあれでも、割と皆のことをよく気にかけているので、少しでも変だとバレてしまうんです」
提督「じゃあ、霞が工廠にいたってのも、霰がテレビ見てたってのも、荒潮が女の子してたってのも、
満潮がうきうきクッキングしてたってのも……実は全部ウソ!?」
朝潮「はい。あ、いえ、満潮は本当にお料理していましたよ。
ただし、皆が作っていたのはお弁当じゃなくて、今夜のお祝いで大潮にご馳走するお料理ですけど」
提督「そ、そうだったのか……皆……良い子すぎるだろ……大潮、絶対喜ぶだろ……それに比べて私は……」
朝潮「司令官……?」
提督「私は……朝潮が、我慢できずにおにぎりを食べちゃったのだとばかり…………私は、提督失格だ……」
朝潮「いえ、それは……仕方のないことですし……」
提督「いや、でも……」
朝潮「それにあの時、司令官は身を挺して大潮を守ろうとしていたじゃないですか。大潮、とても喜んでいましたよ」
提督「そ、そうか……それは良かった」
朝潮「さぁ元気出してください司令官。そろそろですよ」
提督「え?」
ドタドタドタドタドタドタ!! バタバタバタバタバタバタバタバタ!!
朝潮「司令官も一緒に、元気なあの子をお祝いしましょう」
ドタドタドタドタドタ バァーーーン!!
大潮「司令官! お困りごとですかー? 困った時こそ、大潮を呼んでくださいね!!」
おわり
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
とても遅い大潮改二記念SSでした。(と言いつつ一航戦メインになっていますが……)
過去作
①提督「朝潮型、整列!」
提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28020797】
②提督「朝潮型、出撃!」
提督「朝潮型、出撃!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443970090/)
【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28309364】(1/3)
【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28443518】(2/3)
【MMDドラマ:http://www.nicovideo.jp/watch/sm28592869】(3/3)
③提督「朝潮型、索敵!」
提督「朝潮型、索敵!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445001663/)
④提督「朝潮型、遠征!」
提督「朝潮型、遠征!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445615911/)
⑤提督「朝潮型、編成!」
提督「朝潮型、編成!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446812254/)
⑥提督「朝潮型、解散!」
提督「朝潮型、解散!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447416092/)
⑦提督「朝潮型、結婚!」
提督「朝潮型、結婚!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451124063/)
①提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」
提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454071396/)
②提督「踊れ、ないない駆逐隊!」
提督「踊れ、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457606813/)
③提督「輝け、ないない駆逐隊!」
提督「輝け、ないない駆逐隊!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461932975/)
Вер「勝手におにぎりを食べるなんてひどい話だね」
乙です
乙。
乙
あんただったか
乙です。
おつ
このSSまとめへのコメント
で、誰が犯人だったんだ?
おにぎりは大潮おめでとう会に紛れ込んでるってことか