緒方智絵里「聖夜の夜に」 (33)

※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS

※キャラ崩壊あり、人によっては不快感を感じる描写もあるかも

※独自設定とかもあります、プロデューサーは複数人いる設定

※今回はあまりタイトルは関係無いです

以上の事が駄目な方はブラウザバック奨励


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「外は賑やかだな」


十二月二十四日の夜。所謂、クリスマス・イブと呼ばれる日。


外部の喧騒を耳にしてか、オフィスビルの一室で男は鬱陶しそうに口ずさむ。


窓越しから聞こえてくるのは、陽気な音楽とそれに合わせた人の声。


誰もが同じ様な言葉をまるで呪文の様に唱え合っているのであった。


「それに比べて、うちの事務所ときたら……」


そして外の騒ぎとは裏腹に、男のいる部屋は静けさで満ちていた。


「まぁ、それも当然か。みんなクリスマス会やら何やらと用事でいなくなってる訳だし」


数時間前までなら騒がしかったが、今は九割方が帰宅してしまってそうでは無くなっている。


中にいる人数が少ないというのもあるが、主な原因は外との温度差が大幅に違うというものである。


この部屋に残っている人物の中に、外にいる人達と同じ様に浮足立っている者は誰一人といなかった。


「きっと、街ではみんなが楽しそうに燥いでいるんだろうな」


「そうね。そうでしょうね」


男としては独り言のつもりであったが、男の言葉に対し、誰かが同意する様にそう言った。


同意してきたのは男が座る机から少し離れた場所にいる少女。


「全く以て、その通り。それ以外には考えられない」


肩口まで伸びる茶髪の先を指で弄りつつ、少女はせせら笑いを浮かべていた。


そんな彼女は彼の同僚の机の上に悠然と腰掛け、退屈そうに足をぷらぷらと振っている。


「それに、誰もが幸せを噛み締めているんでしょ」


「まぁ、概ねはそんな感じだろうね、間違いなく」


少女からの返答に対し、男はそう言って受け答える。


彼女が勝手に会話に入ってきた事を、男は失礼とも何とも思わなかった。


そもそも少女とは良く知った仲であり、偶にではあるが会話もする。こういった事はこれが初めてな訳では無いのである。


「窓から覗いてみれば、そんな表情が見えるのかな」


「見えるんじゃないかな、多分」


「……あぁ、そう」


「何なら、確かめて……」


「見ない」


「えっ?」


『確かめてみればいい』と、口にしようとした男を遮り、少女は強めの口調でそう告げた。


「別にいいよ。興味は無いから」


更に自分から切り出しておきながら、興味が無いからいいと一蹴する少女。


その表情からは笑みは消えており、疎ましそうな感情が張り付いていた。


「……はぁ。本当、憎たらしいな」


続けて口にするのは、吐き捨てる様な呪詛の言葉。


ため息交じりに噤んだ言葉には、恨み辛みといった負の感情がありありと籠っていた。


「憎たらしい、ねぇ……」


「何? 何か文句でもあるの?」


「別に。ただ……君はいつも、そんな感じだよね」


「いいでしょ。これがあたしなんだからさ」


「そんな風に思ってばかりで疲れないかい?」


「疲れる? 全然。それ以上に腹が立って仕方ないの」


男からの問い掛けに対し、違うとばかりに少女は両手を大きく横に広げ、そう答える。


「……あぁ、そうだ」


そして少女は何かを思いついたのか、嬉々とした笑みをその顔に浮かべる。


「ねぇ。今この瞬間、街全体に細菌兵器とかばら撒かれたら面白いと思わない?」


「はぁ……」


『いきなり何を言い出すんだ』と、男は顔を顰めてみせた。


嬉々とした表情で口にするのは、突拍子も無い子供染みた発言。


聞けば誰もが馬鹿馬鹿しいと口にする様な内容であった。


「イメージしてみてよ。凶悪なウィルスに感染して人々が次々と死に絶えていく。幸せそうだった空気が一変して、阿鼻叫喚の渦にへと呑み込まれる。そんな光景をさ」


「うーん、混沌一色の世界にしか思えないな」


「あははっ、素敵でしょ」


「素敵、かなぁ」


少女の意見に同意し兼ねてか、男は首を傾げてそう言った。


少しばかりは愉快には思えるけれども、素敵と言うには程遠い。


それが男としての率直な感想であった。


ただ、その答えを聞いた所で少女は表情を変える事は無かった。


大して期待していた訳でも無く、『ふーん、そう』と淡々とした様子で少女は佇む。


初めから男の回答などどうだっていい、と思っている証拠だった。


「えぇ、素敵よ。素敵に決まってる。だって……」










「そうなればみんな、不幸になってあたしと変わらなくなるから」





「あたしよりも幸せな奴は全員、不幸になってしまえばいいから。あははははっ」


「なるほど。物凄く捻じ曲がった考え方だね。それ以外に表現できないよ、俺には」


狂った様にして少女は笑う。その姿は狂っているというよりも、どこか壊れている様にも思えた。


彼女の狂気を宿したどす黒い瞳を観察しつつ、男はどうしようも無くため息を吐いた。


「相変わらずだけど、君は相当に壊れてるし、歪んでいるね」


「あんたには言われたくないけどね、この変質者でサイコパス」


互いに互いを貶し合い、憐れむ様な、残念な視線を送り合う同類の二人。


とはいえ、二人の仲は悪くは無い。寧ろ、定期的に情報交換をする等、良好な関係を築いている。


しかし男も少女も相手の事情や正体を知っているからこそ、こういった言動が出てしまうのである。


「まぁ、あんたはうちの変態と比べたら大分マシだけど、そろそろ正気に戻ったらどうなの?」


「正気に……って、手の施しようも無い程に壊れてる君がそれを言うのかい?」


「あたし、あんたの為を思って忠告しているんだけど?」


少しイラッとしつつ、眉根を寄せて少女はそう返した。


「それに、あの二人だって可哀想だし。せめて安心でもさせてあげたら?」


「それなら、君に付き合ってる彼だって可哀想だろう。これに関してはお互い様さ」


「……」


「……」


男と少女はそう言い合った後、口を噤んで押し黙った。


これ以上踏み込む事は許されない。相手の事情に深く入り込む事となる。


そう判断した結果、二人は互いに追及する事を避けたのである。


「……まっ、そっちがどうなろうとあたしの知った事じゃないし、好きにでもしたら?」


「そうさせて貰うさ。君の方もせいぜい、後悔しない様に頑張るといいよ」


「あんたに言われなくとも、そうするつもりだから。最後の瞬間まで、絶対にね」


少女は言い終えると、よいしょとばかりに机から腰を下ろした。


それから軽く伸びをした後、部屋の出口のある扉に向かって歩き出した。


「ようやく帰るのかい?」


「うん、そろそろ帰ってくるみたいだし。それに、そっちの迎えも来そうだから」


窓の外を指差し、少女はそう口にした。


適当な事を言っているのではなく、その推測はどちらも的を射ていた。


男が携帯を見てみると、ビルの近くには良く知った反応が二つ。


男が待つ二人に取り付けた発信機の光が、その居場所をしっかりと指し示していた。


「気を付けて帰りなよ。外は寒いし、風も強いだろうから」


「あんたなんかに心配されなくても大丈夫。それじゃあ、また」


「あぁ。また、ね」


二人が別れの挨拶を告げると、少女はさっさと部屋から出ていってしまった。


「……これからどうするんだろうな、彼女」


部屋から少女がいなくなった所で、男はポツリとそう呟いた。


少女の事を心配しての発言では無く、ただ単純に興味本位での発言であった。


「街中にはいけないだろうし、部屋で静かに過ごすのかな」


精神的にかなり歪んだ思考を持つ少女。だが、実は肉体的にも壊れているのである。それもどうしようも無い程に。


だからこそ、少女は長時間外を出歩く事は出来ない。その事を男は知っていた。


外を出歩く人達を憎いと言っていたのは、こういった理由もあるからである。


「外見はああも可憐な少女なのに、勿体無いなぁ」


こればかりは、運命というものを呪うしか無い。


幾ら賽を振っても悪い出目しか出ないからこそ、あんなにまで歪んでしまったのかもしれない。


「幸の薄い彼女の人生に、せめてもの祝福を……っと」


一応の、最低限の祈りを捧げた後、男は再び出入り口の扉にへと目を向ける。


そろそろ少女と入れ違いで男が待つ、待ち人達がやって来るだろうと思って。


そして扉がゆっくりと音を立てて開き、待ち望んでいた二人が男の前にへと現れた。


「お、お疲れ様です、プロデューサーさん」


「お待たせしました、プロデューサーさん。あなたのまゆですよぉ」


「智絵里にまゆ。二人共、お帰り」


部屋―――CGプロダクションの事務室に入ってきた二人を、二人の担当プロデューサーである男―――Pが出迎える。


「遅くなって、すみません。待ちましたか?」


「いや、全然。寧ろ、早いと思うぐらいだな」


不安げな表情の智絵里に対し、Pはそう言ってフォローを入れる。


ついでにその頭を優しく撫でて、彼女に纏わる不安を払拭させた。


「それで、どうだったんだ? クリスマス会は楽しめたか?」


それから話題を変えようとして、Pはそう切り出した。


実はつい数十分前まで、CGプロ主催のクリスマス会が開催されていたのだ。


その為、所属アイドルである智絵里とまゆも(渋々であるが)参加していた。


ちなみにPはそういった催しが嫌いという理由で、仕事が残っている事を口実にサボっていたのであった。


「あっ、はい。とても楽しかったです」


「全員参加……とはいきませんでしたが、みんなと楽しく交流できて良かったです」


「そうか、それは良かった。……ちなみになんだが、来なかったのは誰かって覚えてる?」


「え、えっと、確か……加蓮ちゃんと夕美さん。それから……」


「奈緒ちゃんと……後は仕事のある卯月ちゃんとかでしたね。他にも数人はいましたが」


「ふむ……」


Pはそれを聞くと、顎に手を当ててなるほどと相槌を打つ。


その内の一人とは先程まで会っていたから、会に出席していないのは分かっている。


彼女も出席するのを面倒で時間の無駄だと言って、体調不良を理由に参加する事を拒んでいた。


しかし、それ以外にも参加をしていないアイドルがいるのである。


(彼女みたいに面倒……とかいう理由では無いな。出ても意味が無い……といった所か)


クリスマス会に出る事以外に、もっと大切で意義のあるものが存在するのだろう。


そう考えると何で出席しないのかが良く分かる、とPは一人勝手に納得していた。


「そうだ。二人共、ちょっといいか」


「あっ、はい。プロデューサーさん」


「プロデューサーさん、どうかしましたかぁ?」


「実はだな……二人に渡す物があってだな」


Pはそう言うと自分の机の下に潜り込み、目的の物を引っ張り出す。


「えっと、これなんだ」


取り出したそれらを、Pは智絵里とまゆの二人に手渡した。


「これって……ポインセチア、ですか?」


「もしかして、夕美さんから……?」


「そうだな。夕美ちゃんからのクリスマスプレゼントだ。二人に渡して欲しいって預かってたんだ」


遡る事、数時間前。まだ事務所に何人もの人が残っており、騒がしかった時の事。


『これ、二人に渡してあげてね。忘れちゃ駄目だからね』


Pは夕美から唐突に告げられて、それを受け取っていた。


自分で渡せばいいのでは、とPは思って即座に問い掛けたが……


『今からどうしても外せない用事があるの。ごめんね』


と、そう言って両手を合わせ、笑顔で謝られたのである。


それなら仕方が無いとPは納得し、彼女からのお願いを引き受けたのであった。


余談ではあるが、その後に夕美は彼女のプロデューサーと共に事務所を離れ、どこかに行ってしまったという。


「……ふふっ、嬉しいな。今度会った時、必ずお礼を言わないと」


「そうですねぇ。こんな綺麗な花を頂けるなんて……」


「良かったな、二人共。あぁ、そうそう。実は俺もプレゼントを貰ってな」


「えっ? 夕美さんからですか?」


「いや、違う。俺はあの娘からは何も貰えないし、そのプロデューサーからなんだが……」


そう言ってからPはまたも机の下にへと潜り込むと、両手で大事そうに抱えた物を二人にへと見せた。


「ほら、これだよ。綺麗な花をしてるだろう」


にこやかな笑顔でPは二人にそれを見せつけるが、見せられた智絵里とまゆは引き攣った笑みしか浮かべる事は出来なかった。


「え、えっと……」


「そ、その花は……」


二人としてはそんなものを嬉々として見せられても、どんな反応をしていいか分からないといった思いである。


Pが見せたのは、雪の様に真っ白な花びらを咲かせ、その頭をだらんと下げた花。


ある逸話があるせいか、贈り物としては決して相応しくない、そういった花であった。


「スノードロップだよ。まさかこんな物を送られるだなんて、思わなかったさ」


「す、スノードロップの花言葉って確か……」


「うん、希望だな」


何かを言おうとした智絵里に先んじて、Pはあっさりとした風にそう告げる。


「い、いや、それ以外にも……」


「幸運って意味もあるな」


更に何かを言おうとしたまゆを遮り、先回りしてそう言ったのである。


「はははっ、凄いセンスと良い根性してるよな、そう思わないか?」


「あ、あの……」


「あの腐れ外道、まだこの時期なのにスノードロップの花を探してくるとか、くくくっ、あっはははっ!」


一人で勝手に盛り上がり、Pは額の上に右手を置き、腹を抱えて高笑いをする。


その姿を見て、まゆは二の句を告げる事を断念してしまう。


それと同時に、こう思ってしまうのである。


(いつものプロデューサーさんと、ちょっと違う……)


まゆの知っているPという男は淡々としており、感情を昂らせる様な姿はあまり見せない。


しかし、現実的に目の前ではハイテンションになっているPの姿がある。


(一体、どうしたんだろう……)


考えてみても、その理由はさっぱりと分からない。


どうしようも無くなったまゆは隣にいる智絵里の反応が気になり、そちらにへと視線を送った。


そして智絵里はというと、まるで見慣れた光景の様に、呆れた風にPを見ていたのであった。


「え、えっと……智絵里、ちゃん……?」


「……? どうしたの、まゆちゃん」


「あの……プロデューサーさんの事なんですけど……」


「あっ、まゆちゃんはこのプロデューサーさんを見るのは初めて?」


「そ、そうですねぇ……まゆは見た事が無いです」


「プロデューサーさん、夕美さんのプロデューサーさん相手だと、いつもこんな感じになるの」


「い、いつも……?」


「うん、いつも」


そう言われても、まゆにはそういった姿が全くとイメージできない。


ただの仕事仲間という関係だと思っていたのもあってか、余計に想像がつかなかった。


「プロデューサーさんと夕美さんのプロデューサーさんって、どういう関係なのかしら……」


「うーん、例えるなら……」











「私とまゆちゃんみたいな関係かな」





「まゆと、智絵里ちゃん……? そ、それってどういう……」


「そのままの意味だよ。そのままの、ね」


そう言ってから智絵里はPの傍にへと近寄ると、Pの服の袖をぐいぐいと引っ張り……


「プロデューサーさん、プロデューサーさん」


と、呼び掛けた。


「ん? あぁ、智絵里か。どうしたんだ?」


「どうしたんだ、じゃないです。いつまでもそうしてないで、早く帰りましょう」


「おっと、そうだった。ごめんごめん。ついつい感情的になってしまってな」


「もう、しっかりして下さいね」


ムッとした表情で智絵里はPを注意する。


その様はどこか、手馴れている様な感じがする、とまゆは思ってしまった。


「それじゃあ、帰ろうか。待たせて悪かったな、まゆ」


「い、いえ。まゆは大丈夫ですから」


「そうか。なら、俺は戸締りをしてくるから、二人は先に外に出ていてくれ」


「はい」


「分かりました」


そして三人は誰もいなくなった事務所を後にし、Pの自宅にへと帰る為に真っ直ぐと歩いていく。


先に分かれた少女と同様、三人のクリスマスの夜を愉しむ為に、帰路についていくのであった。






終わり



とりあえず、以上になります

本当はもっと色々と書きたかったですが、時間があまりにも無かったので今回の様な内容となりました

クリスマスを過ごす内容というよりは、今後のフラグ立ての様な感じの話です

智絵里と過ごす甘いクリスマスの話でも良かったのですが……まぁ、来年にでもトライしてみます

今年は中々更新する事ができなかったので、来年はもっと更新できる事を目標に頑張りたいものですね

とりあえずは夕美の話は必ずは書きます

そういう事で、今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございました

現在更新中の作品も随時投下していきますので、どうかよろしくお願いします

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