渋谷凛「マーキング」 (301)
※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS
※キャラ崩壊あり、人によっては不快感を感じる描写もあるかも
※決して変態的なプレイをする話では無く、健全な純愛物を目指してます
※独自設定とかもあります、プロデューサーは複数人いる設定
以上の事が駄目な方はブラウザバック奨励
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前に書いた作品
智絵里「マーキング」
智絵里「マーキング」 - SSまとめ速報
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智絵里「マーキング」まゆ「2ですよぉ」
智絵里「マーキング」まゆ「2ですよぉ」 - SSまとめ速報
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橘ありす「マーキング」
橘ありす「マーキング」 - SSまとめ速報
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鷺沢文香「マーキング」
鷺沢文香「マーキング」 - SSまとめ速報
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高森藍子「マーキング」
高森藍子「マーキング」 - SSまとめ速報
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「あっ、凛ちゃん。ちょっといいかしら」
レッスン終わりの帰りがけ……事務所内の廊下を一人歩いていると、後ろから声を掛けられたので、私は後ろを振り返ってそれが誰なのかを確認する。
振り向いた先には黄緑色の事務服を着た、事務員の千川ちひろさんがそこに立っていた。
けど……何だか少し、慌ててる気がするけど……何かあったのかな?
「ちひろさん、どうかしたんですか?」
「Rさん……えっと、凛ちゃんのプロデューサーさんをどこかで見てない?」
プロデューサー? 事務所に来た時に会った後は、見てないな。
そういえば、レッスンが終わった後も、見かけなかったな……何やってるんだろう。
「……見てないけど、何かあったんですか?」
「実はね……先月分の領収書の提出がまだみたいで……今日が締め切りだから、早く出して貰いたくて、催促してたんだけど……それでも出してくれて無いのよね……」
ちひろさんは困った様にそう言った後、重々しくため息を吐く。
相当に困り果てているみたいで、それはちひろさんの様子からも感じ取れた。
「それでもう一度催促しようとしたらいつの間にか姿を消しててね……それで困ってるのよ」
「電話はしたんですか?」
プロデューサーの事だから、仕事柄、携帯は持ち歩いているはずだし……よっぽどの事が無い限り、連絡が付かないなんて事は無いはずだけど……。
「したにはしたけど……携帯を机の上に置いてどこかに行ったみたいだから……連絡が付かないのよね」
……あぁ、そうなんだ。本当に、もう……困ったプロデューサーだな。
私には常日頃、『大丈夫か?』とか気に掛けるくせに……自分の事は全然駄目なんだから。
いい大人なんだし……しっかりして貰わないと、困るな。
「それで、凛ちゃんに声を掛けたのよ。何か、知ってるかな……って、思って」
「そうだったんですか。でも、ごめんなさい。私も……レッスン前に会ったきりだから、居場所は分かりません」
「やっぱり、そうよね……はぁ……」
ちひろさんはそう言うと、もう一度ため息を吐いて、がっくりと肩を落とす。
こういうの見ると……私のせいじゃないけど、何だか申し訳無く感じるな。
正直、可哀想だと思う。プロデューサーのせいで、ここまで苦労させられて。
「ごめんね、凛ちゃん。時間取らせちゃって」
「いえ、大丈夫です。私の方こそ、役に立て無くて、ごめんなさい」
「そんな事無いわよ。でも、もしプロデューサーさんを見かけたら……私に連絡する様に伝えてくれるかしら?」
「あっ、はい。その時は、ちゃんと伝えておきますから」
「ありがとう、凛ちゃん。それじゃあ、よろしく頼むわね」
そしてちひろさんはそう言った後、私の下から離れていった。
この後もプロデューサーを探すのだろうけど……ちひろさんじゃあ、見つからないと思うな。
でも……私は何となく、予想はついている。多分、プロデューサーの事だから……あそこにいるだろうな。
私は事務所の出口へと向けていた足を、別方向に向け、そして歩き出す。
向かう先はこの事務所の最上階、屋上。この事務所の人でも、あまり寄り付こうとしない場所。
階段を一段、一段上っていき、それを何度も繰り返して屋上を目指し、そして最上階へと辿り着く。
階段を上りきった私は、屋上へと続く重々しい扉の取っ手を掴み、開く。
扉を開けると、外の冷たい風が真っ先に私を出迎える。そして目の前には殺風景な光景が広がっている。
周りにあるのは落下防止の柵と、室外機や給水タンクといった設備だけ。本当に何も無い様な世界。
そんな世界に、ポツンと一人、佇む人影があった。
柵の目の前に立ち、何か考えている様な、そうで無い様な感じで、ボーっと空を見上げてる男性。
この人こそ、私の担当プロデューサーの……R。ちひろさんが先程探していた人である。
私は近付く為に扉を閉めると、バタンッと大きな音が鳴る。
「ん?」
その音に気付いたのか、プロデューサーは視線を空から私の方にへと移してくる。
「あれ? 凛じゃないか。レッスンは終わったのか?」
呑気そうに言った後、プロデューサーは右手を上げて私を出迎える。
そしてその手には白くて細長い、筒状の嗜好品……煙草を握っている。
愛煙家であるプロデューサーは良くここで……一人で煙草を吸っている事が多い。
事務所内にも喫煙スペースはあるけど……プロデューサーは『何だか、合わない』って言って、使おうとはしない。
だからこそ、私はプロデューサーはここにいるだろうと、何となく目処が付いていたのだ。
「とっくに終わってるよ。というか、やっぱりここにいたんだ」
私はそう言って、プロデューサーの傍にへと寄っていく。
近付くと、煙草独特の匂いが私の鼻腔に届くけど、それを嗅いだ事で、悪い気にはならない。
「あぁ、ちょっと休憩がてらな」
プロデューサーはそう言うと、右手に持つ煙草を口に咥えようと近づける。
「おっと、悪い悪い」
けれども、煙草を咥える前にプロデューサーは手を止める。
そしてまだ紫煙を燻らす煙草を、胸ポケットから取り出した携帯灰皿に押し付けて、消火した。
きっと、私が来たから……遠慮して、そうしたんだろうな。プロデューサーは変な所で気を回す人だからさ。
「別に、そんな気を利かせなくていいよ、プロデューサー」
「でも、女の子の前で吸うのもな……俺は好きだから良いけど、凛に害が及ぶのはな……」
それでもプロデューサーはそう言って遠慮するばかり。もう……何で分からないかな。
私の事を心配してそう言ってくれているんだろうけど……それは大きなお世話。
だって……私、プロデューサーのその匂い……嫌いじゃないから。
文香のプロデューサー……名前は確か、Sさんだったかな。
少し前にだけれど、私のプロデューサーが用事が入って迎えに来られなくなった時、代わりに私を家まで送ってくれた事があったっけ。
如何にも真面目で、誠実そうな感じの人で……雰囲気的にも、文香とお似合いの人と言ってもいいかも。
そういえば、その時に……白いバラを数本、買ってくれたんだったな。
そうすると……文香が今日、花を買いに来たのは……その時のバラを貰って、そのお返しなのかもしれない。
丁度、バレンタインも近づいているし……そう考えると、辻褄が合うかな。
「それじゃあ、贈り物に相応しい様に、見栄え良く……綺麗な物を見繕っておくね」
「は、はい……その、よろしくお願いします……」
「うん、任せて」
私は文香にそう言った後、その場から離れて、頼まれたパンジーとナズナを取りにいく。
そして文香が仕上がった商品を気に入って貰える様にと、細心の注意を払って花を選んでいくのであった。
………………
…………
……
「えっと……こんな感じで、大丈夫かな?」
私は纏め終わり、出来上がった花束を文香に差し出して、その出来を見て貰う。
文香は顔を近付けて、それをしばらく眺めた後、視線を私に移して、
「えぇ、大丈夫です……。ありがとうございました、凛さん」
軽く微笑みながら、私に向けてそう言った。
それを受けて私はホッと一息吐く。
もし、気に入って貰えなかったらどうしよう、と少し不安だったから、そう言って貰えて安心できた。
「……しかし、この花……」
けれども、文香はそう言うとまた花束の方にへと視線を移す。
そしてその表情は、どこか怪訝そうに見えた。
「……? どうかしたの? 何か、不備でもあったかな……?」
「い、いえ、そういう訳ではありません……。この花束の出来栄えは、私からは素晴らしいとしか、言い表せません。ですが、何ででしょう……この花を見ていると、何だか……心が奪われそうな、感じがして……とても、美しい……」
そう言う文香の瞳は、花束に目を奪われていた。
うっとりとした目でそれを見つめ、離さないといった感じだった。
「他の花も綺麗ですが……これはより一層、美しく見えます。何か……特別な花、なんでしょうか……?」
「特別って……そんな事は無いよ」
「いえ、そんなはずはありません……この花には何か、秘密があるはずです」
私が無いと言っても、それでも尚、文香は食い下がる。
その目は、どこか虚ろである。今の文香には、花束以外の事は見えていなかった。
「本当に、何も無いよ。他の花と変わらない、何の変哲も無い花だよ。……けど、強いて言うなら……」
「言うなら……?」
「この花……いつも買う業者から買った物じゃなくて、夕美から買い取ったものなんだ」
「夕美さん……ですか?」
相葉夕美。彼女も私や文香と同じで、事務所に所属するアイドルの一人。
ガーデニングが趣味で、フラワーアイドルとして知られている女の子。
花の事に詳しくて、私も良くその話題で、仲良くして貰っている。
「うん。最近、夕美が自分で育てた花を、うちに持ってくるの。それをお父さんが買い取っているんだけど……他の花と違う所と言えば、それぐらいだよ」
「なるほど……そういう事でしたか」
それを聞いた文香は、どこか納得のいった表情だった。
今の説明のどこで、納得する箇所があったのかは私には分からないけど、分かって貰えたのなら、良かったかな。
「すみません、変な事を聞いてしまって……」
「ううん、いいよ。それじゃあ、これで包装しておくから、もうちょっと待っててね」
「あっ、はい。お願い、します……」
そして花束を散ってしまわない様、そっと化粧箱に収めて、それを包装紙とリボンでラッピングする。
そうして包んだ後、渡井は文香にそれを手渡した。
「今日は、ありがとうございました……」
文香はそう言うと、深々と頭を下げた。
お礼を言ってくれるのはありがたいけど、文香が欲しかった物を用意出来なかったこちらとしては、申し訳無く感じるばかりだった。
「ごめんね。黒いバラ、用意できなくて……」
「いえ、気にしないで下さい。元より、無茶な注文でしたし……これはこれで良いものですし、私としては……上々な結果でした」
「……そう言って貰えると、私も助かるよ」
「それでは……また、事務所で……」
「うん。……文香のプロデューサー、喜んでくれると、いいね」
「……はい」
そうして会話を終えると、文香は店から去っていった。
私も店頭に出て、文香が見えなくなるまで見送った後、店の中に戻っていった。
「それにしても……黒いバラ、か……」
文香が黒いバラを知っているのも意外だったけど、何でそれを欲しがっているのかを、私はすっかり聞き忘れていた。
黒いバラの花言葉には『決して滅びる事のない愛』、『永遠の愛』なんてものがあるけど、それ以外には……
『恨み』、『憎しみ』、そして『貴方は飽く迄、私のもの』というのもある。
文香はどんな思いで、それを渡そうと思ったのだろう。
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というよりも、そんな花言葉を持つ花を渡そうとするという事は、文香とSさんはそういう関係なのかな……?
それに、その代わりの花がパンジーとナズナだったのが決定的に思われた。
その二つの花言葉は、パンジーには『私を思って』、ナズナには『あなたに私の全てを捧げます』となっている。
「花言葉で思いを届けるなんて……ロマンチックだな」
如何にも、文学的な文香らしい想いの伝え方だと思う。
けど、それをSさんは理解できるのかな……?
男の人って、そういうのに関しては疎いと思うし……大丈夫かな?
それと、もう一つ……私には気になっている事があった。
それを確かめるべく、私は先程見繕った内の一つ、パンジーが置いてある所まで足を運ぶ。
色とりどりに咲く花々。それを私は、文香がした様に、ジッと見つめる。
けれども、文香の様に目を奪われる事は無く、どれも綺麗ではあるが、特別な風に見える事は無かった。
「これ……文香の目には、どう映っていたんだろう……」
これを見た時の文香の目は、明らかに変だった。
その反応を思い出すと、本当に何か秘密でもあるんじゃないかって思えてしまう。
「今度、夕美に聞いてみようかな……」
育てた本人なら、何か知っているかもしれない。
けど、聞いても教えてくれるかは微妙な感じがする。
そもそも……花を持ってきた動機も、どこでそれを育てたのかも、夕美は『秘密だよ♪』と、言って教えてくれない。
となると、それを教えてくれるとは到底思えなかった。
「駄目元で聞いてみて……それでも駄目なら、諦めるかな、うん」
そう考えた所で、店内にまた、来店を知らせるベルが鳴り響いた。
「あっ、いらっしゃいませ」
私はそう言った後、気持ちを切り替えて、入ってきたお客さんに接していく。
それから客足がまた戻ってきたのか、私はその対応に追われていくのであった。
今日はここまで
まだ書き溜めた分は残ってますが、それは明日に投稿します
ちなみにこの辺りで今、3分の1ぐらいの進捗です
「えっ……あの、凛……ちゃん? もう一度、言って貰ってもいいかしら……?」
「だから……プロデューサーの実家の住所を、教えてって言ったの、ちひろさん」
屋上から立ち去り、事務室にへと辿り着いた私は、ちひろさんの下を訪れていた。
ちひろさんなら、プロデューサーの実家の住所ぐらい、知ってはいるだろうと思っての行動だった。
「いや、その……まず聞きたいんだけど……何で、凛ちゃんはプロデューサーさんの実家の住所なんて、知りたいのかしら……?」
「別にいいでしょ、そんな事。何か、問題でも……あるの?」
「問題……というよりも、その必要性が、私には分からなくて……」
「分からなくて、いいよ。これはちひろさんには、関係の無い事だから。だから、早く……教えてよ」
私はそう言いつつ、ちひろさんの瞳をジッと見つめる。
すると、ちひろさんは少しだけ、怯えた様な反応をした。
その瞳にはまるで『信じられない』といった、驚愕の色が表れている。
「で、でも……実家の住所は、完全に個人情報だから……」
「それが、何? 個人情報とかそんなの、今はどうでもいいから」
「どうでもいい……って、えぇぇ……」
「ねぇ……さっさと、してくれない? 私……急いでるんだけど?」
「ひ、ひっ?!」
ぐだぐだと埒が明かない態度を見せられ、私はイライラのあまり、ちひろさんに詰め寄った。
そうした事で、ちひろさんは更に怯えた様子となり、助けを求める様に、辺りを見回した。
けど、助けなんて来ない。周りの人達は、私達が何を話しているだなんて、聞いてもいないんだから。
「ねぇ……まだかな、ちひろさん。これで手遅れになったら……ちひろさんのせいだよ……?」
「な、何でそうなるの……」
「当たり前じゃん。教えてくれないんだから、悪くて当然だよ」
「そ、そんな無茶苦茶な……」
「あの……何を、してるんですか?」
そうしてちひろさんを問い詰めていると、横からそう声を掛けられた。
ちひろさんは『助かった……』とばかりに、その表情を和らげるが、
「え゛っ……」
来訪者の顔を見た途端に、今度は表情を強張らせる。
一体、誰が来たのかと、私も声のした方向に、顔を向ける。
「……智絵里?」
「あっ、凛ちゃん……その、お疲れ様……です」
そこに立っていたのは、先日の加蓮との会話にも上がっていた人物、緒方智絵里だった。
私とちひろさんから少し離れた所で、両手を胸の前で組んで、こちらの様子を窺っている。
「それで……何か、あったんですか? 何だか……ちひろさんと揉めている様に見えたんですけど……」
「えっ、いや、あの……違うのよ、智絵里ちゃん。これは、その……」
ちひろさんは慌てた様にそう言って、必死に弁明しようとしている。
その表情は私と話していた時よりも怯えが増していて、青褪めた顔色をしている。
何だか良く分からないけど、畳み掛けるなら、今がチャンスかもしれない。
「聞いてよ、智絵里。ちひろさんが私にね……プロデューサーの居場所を教えてくれないの」
「ちょっと、凛ちゃん?!」
「……そう、なんですか……?」
「いやいや、ちょっと待って!」
私が智絵里にそう言うと、智絵里は無表情となり、瞬時に瞳にあった僅かな光が消え失せる。
それからちひろさんに近づき、その顔に自分の両手を添えると、グッと自分の顔を接近させた。
「ちひろさん……何で、そんな酷い事をするんですか……?」
「ま、まずは落ち着いて! 話を聞いて! 智絵里ちゃん!」
「これじゃ……凛ちゃんが、可哀想です……」
「あぁ、もう……駄目……全然、話を聞いてくれない……」
智絵里に問い詰められて、ちひろさんは涙目といった感じだった。
そして……
「……分かりました、分かりましたから。凛ちゃんには教えるから……ちゃんと話すから……」
観念したちひろさんは諦めた様に、そう言った。
「……分かってくれたんですね、ありがとうございます」
智絵里もそれを受けて、ちひろさんから両手を離し、それから少し距離を置いた。
「凛ちゃん、その……これで、大丈夫かな?」
「うん、助かったよ、智絵里。ありがとう」
首を傾げて問い掛ける智絵里に、私はそう言って感謝を伝えた。
もし、智絵里が現れなかったら……ちひろさんから住所を聞き出すのに、もう少し時間が掛かっていたかもしれない。
この間、加蓮は智絵里の事を変わってしまっただなんて言ってたけど、私を助けてくれた所を見ると、そうとは思えなかった。
「はぁ……何で、私がこんな目に……それよりも、凛ちゃんまであぁなるだなんて……」
ちひろさんが何か言ってるけど、どうでも良かった。
そんな事よりも、早く実家の住所を教えて欲しいというのが、現状として求める事である。
「じゃあ、ちひろさん。よろしくお願いしますね」
「……今から調べるから、ちょっと待っててね。はぁ……」
ちひろさんは重々しくため息を吐いた後、自分のパソコンから事務所のデータベースにアクセスし、プロデューサーの実家の住所を探っていく。
それから数分後。無事に発見する事ができたちひろさんはそれをメモに書き起こすと、
「はい。これが、そうよ」
と言って、メモを私に差し出した。
「うん。ありがとう、ちひろさん」
私はメモを受け取ると、直ぐ様そこに書かれている内容に、目を通す。
書かれていた住所は都内では無く、少し離れた県外のものだった。
だけど、今から事務所を出て、準備をして向かえば夜には着くぐらいの距離である。
それなら、私が取るべき行動は一つ……
「それじゃあ、私……帰ります。それと、後……しばらくは来ないと思いますから」
「えっ?! ちょ、ちょっとっ! そんな事言われても……」
ちひろさんの声を無視しつつ、私は事務室から飛び出して、それから事務所を出て行った。
そして駆け足で自宅に向けて、帰っていくのであった。
とりあえず、ここまで
今日の内にもう少し書き進めておきたい……
それじゃあまた、書き溜めたら投下します
………
……
…
「くくくっ、あははははははっ!!」
「ちょ、ちょっと……笑い過ぎだよ、プロデューサー」
目の前で馬鹿笑いするプロデューサーに、私は抗議する様にそう言った。
「いや、だってな。くくくっ……傑作過ぎて、笑えて……」
「……これ以上笑ったら……私、怒るからね」
「あぁ、悪い悪い。ごめんな、凛」
私が不満だとばかりにそう言ってそっぽを向くと、プロデューサーは両手を合わせて謝罪した。
まぁ、実際は自分の自業自得ともいえるものだから、本当は何も言えないのだけど、ね。
あの玄関での騒動の後……「とりあえず、中に入ろうか」と言って、プロデューサーは家の中……それも、自分の部屋に招き入れてくれた。
そこで私は……ここまでの経緯を、プロデューサーに全てを打ち明けた。
私がどうしてここまで来たのかを、包み隠さず、ありのままに話した。
その結果が、先程の馬鹿笑いに繋がる訳という事だった。
「しかし、まぁ……俺が結婚するかもしれないと思って、ここまで来るなんてな。凄い行動力だと思うぞ、うん」
「で、でも、それは……プロデューサーが、悪いんだからね」
「えぇぇ……また俺のせいかよ」
「そうだよ。だって、プロデューサーがしっかりと伝えてくれてあれば、こんな事には……」
「けど、なぁ……それに関しては、俺はちゃんと伝えてあったぞ?」
まるで愚痴か言い訳をする様な、私の発言。
すると、私の言葉に反論する様に、プロデューサーは指で頬を掻きつつ、そう言った。
「嘘。私はSさんに言われて、初めて知ったんだから」
「待て待て。そんなはずは無いぞ。俺はこの間、直接この事を伝えてるって」
「この間って……いつ?」
「一昨日だよ。凛が屋上で落ち込んでた時にな」
そう言われて、私は一昨日の事を思い返す。
あの時言われてたのは、『しばらくは私につけれない』だった。
けど、その時の私は上の空で、考え事をしていて……正確には、話を聞けてなかった。
もしかすると、その時に……プロデューサーは告げていたのかもしれない。
『明後日に妹の結婚式に参加する為、帰郷する関係で休むから、しばらくは凛についてやれなくなる』
という、感じの事を。
今にして思えば、何で私はその時に、聞き直さなかったんだろう。
そうしておけば、こんな事は未然に防げたというのに……。
「まぁ、こうなったのも……Sくんの誤解を生む様な発言もそうだし、俺も多分、あの時にしっかりと説明できて無かったのかもな」
プロデューサーは後頭部を掻いて、私を擁護する感じにそう言った。
Sさんに関しては、あの発言はミスリードを誘うものでしか無かった。
はっきりと誰の結婚式だと伝えてくれれば良かったのに、それが抜けてたからこそ、大変な事になったのだ。
「あぁ、でも……Sくんには怒らないでやってくれ。悪気があってそう言った訳じゃないだろうからな」
「うん。それは……分かってる」
プロデューサーの言う通り、Sさんに悪気があった訳では無いのは明白である。ただ、言葉が足りなかっただけなのだ。
それに元はと言えば、私が話を聞かなかったというのが悪い。
だから、私はSさんを叱責する立場では無いのだ。
それなのに……散々無礼な振舞いばかりしてしまって……今度会った時にはちゃんと謝っておこうと、私は肝に銘じた。
「それにしても……まだ分からない事が一つだけ、あるんだよなぁ」
「分からない事……って、何?」
「何で凛がそうまでしてしまったのか、という事だな」
「……えっ?」
私に向けて率直に訪ねてくるプロデューサー。
冗談で言ってるのかと思ったけど、その表情から窺えるのは、本気で分かっていない様な感じだった。
「そもそも……俺が結婚したら、何かあるのか? 別に何も無いと思うんだがな……」
腕を組み、首を傾げながら唸りつつ、プロデューサーはそう言った。
「ね、ねぇ、プロデューサー……それ、本気で言ってる?」
「本気も何も、大マジだぞ。だって、俺が妻帯したとしても……凛が不安に思う要素は一つも……」
「……言わなきゃ、分からないんだ……はぁ」
プロデューサーの言葉を遮る様に、私は額に手を当てて、がっくりと肩を落としながらそう言った。
普通なら今までの説明で分かってくれるだろうに、何で分かってくれないのかな。
本当に、女心が分かってないんだから。朴念仁も、いいとこだよ。
……いいよ。そっちがその気なら、こっちにも考えがあるんだから。
「あのさ、プロデューサー。この間の屋上での話……覚えてる?」
「屋上って……あれか? 気持ちの整理がついたら、悩みを打ち明けるってやつ」
「うん、そうだよ。私ね……今回の件で、言う決心がついたんだ」
「おぉ、そうか。それは良かった。で、何なんだ? 凛の悩みってのは」
まるで、何でも受け止めてやるぞとばかりに、プロデューサーは胸を張って私の言葉を待つ。
だから、私は……その言葉に甘えて、私の想いを打ち明けさせて貰う事にする。
きっとプロデューサーは……こんな事を打ち明けられるとは思っていないだろう。
けど、言ったよね? プロデューサーは私が困ってるなら、助けてくれるって。
力になれる事があれば、協力は惜しまないって言ったよね?
だったら……私の期待に、しっかりと応えてくれるはず。
「あのね……実は、私――」
「プロデューサーの事……好き、だよ」
それから数日後。
私はプロデューサーの実家で会った翌日に、こっちに帰ってきたから、その日からプロデューサーとは会えていない。
けど、プロデューサーはちゃんと私の下に帰ってきてくれた。
何も変わらずに、いつも通りの調子で私に接してくれている。
だけど、ちょっとだけ……距離感だけが、前とは違っている。
彼氏彼女の関係になったからか、プロデューサーも少しは意識してくれる様になったのかもしれない。
例えば、私と目が合うと数秒後には、目を逸らしてしまう。
それも恥ずかしそうな感じで、顔を赤らめつつでだ。
ジッと見つめるのが、恥ずかしくなったのかな。
前は何も問題は無かったのだから、そこまで意識しなくてもいいのに。
でも、そんな所が可愛かったりするんだよね。
この前も事務所で会った時に、私が後ろから抱き着くと、もの凄く慌てた反応をしてみせた。
周りに誰もいないのに、『誰かに見られたらやばい』なんて、叫んでね。
私もそうならない様に、確認してからやってるんだから、心配のし過ぎだと思う。
だけど、せっかく付き合えたのに、見られたらアウトだなんてやり辛いなぁ。
私としては、もっと大っぴらに、堂々と触れ合ったりしてみたい。
けれども、私達は良くても、世間は許してくれないだろう。
ファンや関係者、色んな人から追及されて、きっと追い詰められてしまう。
なら、そうならない様にするには、どうすればいいか。
決まっている。人知れず、隠れてこっそりと付き合うしかない。
そして、その為の対抗策は既に考えてある。
ありきたりな案だけれども、私にはこれ以外、思いはつかなかった。
「という訳で、プロデューサー。家の鍵、渡してくれない?」
「……随分と、いきなりだな」
いつもの屋上にて私がそう問い掛けると、プロデューサーは顔を顰めてそう言った。
「だって、私はプロデューサーの彼女なんだよ? だから、合鍵を持ってても良いと思うの」
「いや、その段階はまだ早過ぎやしないか。まだ凛と付き合い始めてから、数日しか経ってないし……」
「日数なんて、関係ないよ。だから、早く出して」
「えぇぇぇ……」
そう言って更に表情を歪ませるプロデューサー。
さっきからの反応を見ていると、どうも乗り気にはなってくれないみたい。
私がプロデューサーの為に考えた案なのに、何で?
あぁ、もしかして……
「それとも……何? プロデューサーは私の事、嫌いになったの?」
「ちょ、ちょっと待て。何で、そうなるんだよ」
「私の事が好きなら、直ぐに理解してくれて、差し出すはずだよ」
「そういうもんじゃないだろ。こういったのはもっと、こう……な?」
「もっと、こう……って、何? 具体的に話してくれないと、分からないよ」
「いや、もう……はぁ……」
プロデューサーは疲れた様に、重々しくため息を吐く。
その後、手馴れた手付きで胸ポケットを漁り、そこからある物を取り出す。
それは愛用の嗜好品、煙草の入った箱である。
取り出したそれを、プロデューサーは叩いて箱から一本出し、口に咥え様として……
「ねぇ、ちょっと待って」
「って、あっ!?」
だけども、咥える前に私が煙草を箱ごと奪い、それを阻止する。
煙草を吸おうとしたのを阻止されたプロデューサーは、唖然とした表情で私を見ている。
「お、おい。何するんだよ、凛。早く返して……」
「駄目だよ、プロデューサー」
「え、えぇっ?」
「吸ったら、駄目。今日からプロデューサーには、禁煙して貰うから」
私はそう言った後、プロデューサーから奪い取った煙草の箱を力を籠めて、握り潰す。
グシャッと箱はひしゃげて潰れ、見るも無惨な姿となった。
「は、はぁっ!? そ、そんな勝手に、お前……」
「勝手? 違うよ。これはプロデューサーの為を思って、言ってるんだよ」
そう。これも全ては、プロデューサーの体の事を考えての事。
プロデューサーは好きなんだろうけど、煙草は害が多くて、決して良いものとは言えない。
私もこの……煙草の匂いは嫌いじゃない。
以前はこの匂いが、プロデューサーの匂いだと思っていたから。
この匂いがあると、プロデューサーが近くにいる様で、安心できた。
……でも、それはもう、必要はない。煙草が無くたって、隣にいてくれる。
それと……キス、した時にヤニ臭いのは、ちょっと嫌だからね。
「『百害あって一利無し』って言うでしょ。肺ガンとかになってからじゃ、遅いんだよ?」
「で、でもなぁ……今まで好んで吸ってたし、いきなり止めろって言われても……鍵にしたって、少し受け入れ難いし……」
「……ふーん。私がこんなに頼み込んでも、駄目なの?」
「……まぁ、な」
後頭部を掻きながら、プロデューサーは面倒そうにそう言った。
その顔からは、『もう、いい加減にしてくれ』といった感じの色が見られる。
これ以上、何を言った所で、プロデューサーは聞き入れてはくれない。
最悪の場合は、嫌われてしまうだろう。それだけは、避けないといけない。
「……分かった。プロデューサーの気持ちは、良く分かったよ」
諦めた様に私がそう言うと、プロデューサーは安堵した表情をして見せた。
きっと、『分かってくれたか』なんて、安心して思っているに違いない。
けど、そうじゃないよ。もう終わりだと思ったら、大間違いだから。
「それなら、これ……プロデューサーにあげる」
私はそう言ってから、持ってきていた鞄の中からある物を取り出して、それをプロデューサーに渡す。
「……えっと、何これ?」
受け取ったプロデューサーは、私に向けて困り果てた様にそう言った。
その言葉には、私の真意が汲み取れない。どういった用途で使えばいいのかが、分からない。
または、『これをどうしろと?』といった感じに、色んな意味が含まれているだろう。
プロデューサーのその反応は、あながち間違いでは無い。
私も例えば……加蓮や奈緒辺りにこれを渡されれば、同じ様な反応を見せるはず。
そう。犬耳、首輪、リードなんて三点セットを渡されもすればね。
「見て分からないかな?」
「……すまんが、分からない。というか、分かり辛い」
「もう、仕方ないなぁ……」
私は「貸して」と言って、プロデューサーに渡した首輪を手に取る。
そして見本を見せる様に、私はプロデューサーの目の前で、首輪を自らの首にへとはめる。
はめた後、今度はリードを手に取って首輪に繋げ、その先をプロデューサーにへと渡す。
最後に、犬耳を頭頂部に付ければ、完成である。
「えっとね、こうするんだよ」
「え、えぇぇ……」
両手を前に少しだけ出し、犬である様に見せる為、私は似せたポーズを取る。
「こうなったからには……その、プロデューサーの好きにしてくれて、いいんだからね?」
そして少し上目遣いで見ながら、私はそう言った。
無償で私の意見が聞き入れないのなら、交換条件として、私がこの恰好でプロデューサーの望みを受け入れてあげる。
プロデューサーが望むのなら、頭を撫でてもいいし、腹を出して擦ってくれても構わない。
私は忠実な僕となって、言う事は何だって従うつもりである。
けれども、プロデューサーは浮かない表情で私を見ている。
まるで『お前は一体、何を言ってるんだ』とでも言いたそうな顔でだ。
「あ、あのな……凛」
「うん、何?」
「はっきり言っておくが、な。俺には、こんな趣味は無い」
そう言った後、プロデューサーは持っていたリードを手から離す。
支えの失ったリードは重力に従い、パサッと床にへと落ちた。
「……駄目、だった?」
「俺は別に、凛には特別な事は求めるつもりは無い。変な事はせずに、今まで通り、普通にしててくれればいいんだ」
「……そっか。プロデューサーはこういうの、好きだと思ったんだけどな」
「そんな素振りは一度も見せた事は無いんだが……」
そう言った後、プロデューサーはズボンのポケットに手を入れる。
「……ほら、これ」
漁って何かを掴んだかと思えば、掴んだそれを私に向けて投げてきた。
私は飛んできた物を両手でしっかりと受け取ると、それが何なのかを確認する。
「これって……」
プロデューサーが私に向けて投げてきた物、それは鍵だった。
一緒にキーホルダーやストラップとかが付いているのを見ると、常に携帯して使っている感じが見受けられる。
つまり、これは……
「それ、うちの鍵だからさ……失くさない様にな」
私の顔は見ずにそっぽを向き、仕方ないとばかりにプロデューサーはそう言った。
「い、いいの……?」
「いいの……って、凛から言い出した事だろ。鍵を渡してくれって」
「だって……話の流れからして、渡してくれなさそうだったし」
「……本当は、渡したくはなかったさ。でもな。渡さなかったとして、次に凛が何をやらか……するか分からないからな」
私としては次にどうするかは全然考えてはいなかったけど、プロデューサーはそう予測していた様だ。
心外だ、と私は思ったが、今までの行動を鑑みると、そう思われてもおかしくも無いのかもしれない。
「だから、今回は俺が折れる事にした。但し、要求を呑むのは一つまでだ。俺もなるべくは控える様にするが、煙草に関しては妥協してくれ」
そう言いながらプロデューサーは右手を差し出し、私が奪った煙草の箱を返せと催促する。
「……うん、分かったよ」
私としては返したくは無かったけど、色々と考えた結果、渋々と返す事にした。
プロデューサーも鍵を渡して誠意を見せてくれたし、『二兎を追う者は一兎をも得ず』という言葉もある。
何事も欲張り過ぎては身を滅ぼしかねないので、禁煙を強いる事に関しては諦めよう。
「しかし、返して貰ったはいいが……吸えそうなのは残ってるのか、これ」
「……えっと、ごめんなさい」
返した煙草の箱の中身を確認しながらそう言うプロデューサーに、私は頭を下げて謝った。
箱を握り潰した事で、中身にも多少なりとも、ダメージが入ってしまった様である。
プロデューサーが取り出した1本も、真ん中辺りが少し折れ曲がっている。
「まぁ、あまり責めるつもりは無いが……こういうのは、程々にしてくれよ」
そしてそう言った後、煙草を口に咥え、その先に火を着けた。
先から紫煙が立ち上り、ゆらゆらと宙に向かって浮かんでいく。
「もし、度が過ぎる様なら最悪、凛を躾けないといけなくなるかもな」
「え? 別にいいけど?」
ニヤリと笑いながら言うプロデューサーに私がそう返すと、表情を硬く強張らせる。
そして口を半開きにし、咥えていた煙草をポロリと落としてしまった。
床にへと落ちた煙草は少しばかりころころと転がった後、止まったその場所で黙々と尚、煙を立ち上らせている。
「……はぁ」
「……? どうかしたの?」
頭を抱えてため息を吐くプロデューサーに、私は首を傾げてそう聞いてみた。
ただ返答しただけなのに、何でため息なんて吐かれたんだろう。
「あのな、凛。まずお前は……『待て』を覚える様にな」
「『待て』……?」
呟く様に私はそう言った後、その言葉の真意を吟味してみる。
何だろう、『待て』って……どういう意味で言ってるのかな?
……あぁ、そうか。そういう事なんだ。
プロデューサーはきっと、事務所でするのはまずいから、後で見られない様にやろうって言ってるんだ。
だから、今は待てって事なんだね。そういう意味だったんだ。
「分かった。プロデューサーがそう言うのなら、私は待つよ」
「……そうか。分かってくれたなら、助かる」
私の言葉に、プロデューサーは安堵してか、表情を和らげる。
大丈夫だよ。今は我慢するから、安心してて。
でも、その代わり……後でたっぷりと、可愛がって……いや、躾けて貰うんだから。
それも、プロデューサーの好みになる様に、ね。
「それじゃあ、凛。頼んだからな?」
「うん、任せて。期待通りにしてみせるからさ」
終わり
以上、蛇足の様な何かでした
2ヶ月掛かってようやく完結しました
こんなに掛かったのも、バレンタインやホワイトデーとかに時間を割いてたせいですね
もっと計画性を持って、作業に当たるべきだとしみじみと実感しました
今回は少し、次回辺りのフラグを混ぜつつ、書いてみたのですが……
まぁ、そのせいで長々となった訳なんですがね……
建てたフラグはしっかりと回収するべく、何とか頑張ろうと思います
ちなみに、次回はまだ誰にするかは決めてませんけどね
ここまで付き合って下さった方々
こんな長過ぎる駄文にお付き合いさせてしまってすみませんでした
ただただ、凛を隷属させたいだけの人生だった……
それでは、ありがとうございました
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