京太郎「修羅場ラヴァーズ」小蒔「あなたしか見えなくなって」 (1000)

牌を握るのが怖い。

相手がどんな手を打ってくるのか、分からなくて怖い。

今まで、頑張ってきたのに。

たったの。

たったの一局で、積み上げてきたものが、全て崩れてしまった。

だったら、もう、俺には何も――


「忘れたら、ええねん」

「あ……」

「嫌なことは、みーんな忘れたらええ」


頬に添えられた手。


「みんなは、京ちゃんのこと、怒るかもしれへん」

「でもな」

「私はちゃーんと、京ちゃんのこと見とるよ」


寄り添って、重なる肌。


「ここには、京ちゃんをいじめる悪い人はおらんから」

「たっぷり、ゆっくり」

「私に、甘えたらええよ?」


折れた彼は、寄る辺を求めて。

彼女は、誰よりも彼を癒して。


互いに互いを求めて、今日も、また――

「これで――どうやっ!」

「ロン」

「んがーっ!?」


姫松高校麻雀部にて。

主将の洋榎が突っかかり、顧問の京太郎が適当にあしらい、何やかんやで麻雀に。

そして最後には、洋榎が狙い打ちされる。


「主将、またやっとるんか」

「おねーちゃん、負けず嫌いだから……」

「今日はいつもより保ったのよー……」


これが姫松高校麻雀部の日常であり、名物である。


そして。


「でも何で……先生はこんなところで、教師なんかやってんやろな?」

「あー……なんか、昔は凄い人だったらしいけど」


雑談に興じていた恭子の肩に、ポンと手が乗せられた。

なんや、と恭子が振り向けば、そこには、


「随分とお喋りやね~」


皆が苦手とする、監督代行の笑顔が。


「私も寂しがりややから~ あっちで一緒にお話せえへん?」

「い、いや……それは、ちょっと」

「遠慮はいらんよ~? 私と末原ちゃんの仲やねんな」


恭子が、昔の京太郎の話をしようとすると、郁乃に連行されていく。

これもまた、姫松高校麻雀部の日常だった。

「なー、おねーちゃん」

「んー?」

「何でそんな、先生に突っかかるん? あの人、普通にええ人やん」

「あー……」


部活を終えて、姉妹揃って一緒の道を歩く帰り道。

絹恵がふと疑問に思ったことを口にすると、洋榎はキョロキョロと辺りを見渡した。


「ん。ここだけの話やで?」

「う、うん」


曰く――現役時代の須賀京太郎は人気あるプロの一人で。

姉もそのファンだったらしい。

だが。


「あの日――小鍛治プロに惨敗してから、めっきり見なくなったんや」

「え……」

「まー、事実上の引退っちゅーやつやな」

「じゃあ、おねーちゃんが先生にちょっかいかけるのは……」

「ああ」



「帰って来て欲しいんや。あの頃の、須賀プロに」

「あの人は、強い。まだ、やれる筈なんや」


「だからな、ウチは何回負けてもへこたれへん」

「いつか先生に勝って、引っ叩いて、表舞台に連れて行く」

「おねーちゃん……」



「あ、コレみんなには内緒で頼むでホンマ。特に代行」

「わ、わかった」

「駄目なんだよ、もう。表舞台には、立てない」

「先輩……」

「貴子も、俺のことなんか、早く忘れて――」


乾いた音が室内に響く。

貴子に平手打ちをされたのだと気が付いたのは、頬が熱を持って痛み始めたからだ。


「舐めないで下さい、私を……そして、あなた自身を」

「……」

「……ごめんなさい、あなたを振った私に……一番、大切な時期にあなたを支えられなかった私に、こんなことを言う資格はないですが」


「忘れられるわけ、ないじゃないですか……!」


「今でも……いや、5年、10年経っても!!」


「私は、誰よりも! あなたを、応援し続けますから! 例え、どんなに情けなくっても!」


「……貴子」








貴子が、この場を去った後も。

京太郎は、ずっと、立ち尽くしていた。

足が鉛になったかのように、一歩を踏み出すことが、出来ない。


「おう、ほっぺに真っ赤な紅葉。随分イケメンになったやんけ」

「……洋榎」

「先生、勝ったで。うち、個人戦で、宮永照に勝った」

「あぁ……おめでとう」


「次、先生の番や」

「……」

「なんや、まだヘタレてんのかいな」



「先生」

「……」


「ウチと」

「ウチと――勝負や!」

「京ちゃん……今、何て?」


聞こえなかった訳じゃない。

ただ。

嘘で、聞き間違えであることを、願いたかった。


「小鍛治プロにリベンジしに行くって。もう一回だけ頑張ってみるって」

「何で?」

「何で、自分から、傷付きに行くん?」


「そっか――行ってまうのね」


「京ちゃん」

「コレ、見て?」


「ううん、ちゃうよ。京ちゃんを刺すとか、私にできるわけないやん」

「ただな」

「このまま出て行くなら――私、死ぬ」


「分かるんよ、京ちゃん。私から離れてったら、色んな女の子に引っ張られるって」

「いやや。そんなの、絶対に」



「そんな京ちゃん見てるくらいなら――私、ここで死ぬ」



「ずるい女って思う?」

「でもなぁ」

「これしかないねん。もう、私には」


「なぁ、京ちゃん」



「どう、するんや?」

いくのんルートでダラダラ腐りつつ教師になり
全国大会でコーチと再会するとこうなるifEND
つまり誰も幸せになれないEND

「お届けものでーす」

「ものってそんな……」

「トイレくらい迷わずに行けるようになってから言え」

「うう……」


インターハイ会場でも、咲の方向音痴っぷりは遺憾なく発揮され。

帰って来ない咲を、京太郎が見付けて帰って来るという、いつも通りの光景が見られた。


「まぁ、こういう場でもいつも通りの自分を――ってポジティブに考えたらどう? 咲が迷子にならずに帰って来たらそっちのが怖いし」

「あ、確かに」

「ひ、ひどい……」


「あ、そうだ。須賀くん、帰って来てばかりで悪いんだけど、風越の先生にこのプリント渡して来てくれる?」

「うっす」


久から一枚のプリントを受け取り、去り際にグリグリと雑に咲の頭を撫でて、京太郎は退室した。

ドアが閉まると同時に、久はにっこりと笑みを浮かべて。


「いい加減、自分の存在そのものが須賀くん迷惑だって、気が付いたらどう?」

「部長こそ――京ちゃんが、自分の奴隷か何かだと勘違いしてるんじゃないですか?」


互いに穏やかな微笑みを浮かべたまま、思うことは同じで。


「あなたなんか」

「いなくなっちゃえば、いいのに」

またもや寝落ち……
とりあえず今夜はここまでで

宮守、白糸台、永水、臨海、松実、先生はそこそこの長さでやってますが
千里山とかその辺りはプロ編くらいのジェットコースター感覚で進めるかもしれません


それでは、お付き合いありがとうございました!

ふと宮守編を読み返したらコンマ61以上が8連続(トシさん除く)からのゾロ目に笑う

すいません、途中送信してしまいました
明日は朝早いので今日は安価更新はないです
明後日も朝早いので明日も安価の更新はないかと思います

あとなんか意見とかあったらお願いしますー

先生京太郎のレジェンドルート
晴絵がヒロインというわけでなく
挫折した後、清澄の教師に

ただ単に、姫松のを見たら、清澄版が見たくなったってだけですww
風越というかコーチの所も良さそうですけど、母校に帰るだとほんとレジェンドっぽいので

――私と一緒に、歩んで下さい

――あなたが、好き



「へぇ、透華と智紀に?」

「はい……」


同時に告白された、と。

二人にどう応えればいいのか分からず、思い悩む京太郎の前に声をかけてきたのは純だった。


「そりゃ、難しいことで……ま、好きなら好きで嫌いなら嫌い。お前の思ってることをそのまま言うしかないんじゃねえの?」

「……ですよね、やっぱり」


中途半端な答えは彼女たちに失礼だ。

しかし、これがきっかけで彼女たちが傷付いたら。


「アイツらがそんな繊細なわけないだろ。だって透華と智紀だぜ?」

「はは……」


酷い軽口だが、お陰で少し胸が軽くなった。

そして、決心も着いた。


「ありがとうございます、純さん」

「いやいいって、そんなん」


礼を言って向く。

向かう先は二人の元。

告白の返事を待つ彼女たちに、答えを告げに行く。


「ああ、そうだ」


「オレも――お前の事が、好きだったんだよ」



――え?

突然の言葉に振り向く前に衝撃を感じ、口に何かを放り込まれ。

すぐに思考が曖昧になり、瞼が意思に反して降りていく。


「心配すんな。目覚めた時には、全部終わってるから」


それが、最後に聞いた純の言葉。

どんな表情をしているのかは、分からなかった。

「きょうちゃんこれひいてー?」

「おー?」


こども麻雀くらぶに訪れた京太郎に、桜子が差し出してきたダンボール製の小箱。

中は不揃いなサイズの紙切れで一杯になっている。


「指令?」

「うん!」


引いた紙に書かれた指令をこなさなければならない。

昔に憧や穏と一緒によくやった遊び。

ちょっぴり懐かしい気持ちになって小箱に手を突っ込み、紙切れを一つ取って広げてみると――


「……ひなのほっぺにチューする?」

「えへへ……」

「むぅっ」


目をゴシゴシと擦っても紙切れの内容が変わることは無い。

内容を読み上げるとゆでダコになってはにかむ女の子が一人。

この指令を誰が書いたのかは最早一目瞭然である。


「……次は二枚引くからこの指令はナシな」

「えー……」


この指令は色々とマズイので破棄。

ふくれっ面のひなには悪いが、それ以上に睨んでくる他の子が怖い。

気を取り直して、続けて箱の中に手を突っ込む。


「りんと一緒にお風呂……あやと……ケッコン……!?」


……まさか。

この箱の中身、全てが。


「またやめるのー?」

「つぎは4まい!」


ジリジリと詰め寄ってくるこども麻雀くらぶの面子。

少しずつ逃げ場がなくなっているような、崖に追い詰められているような、そんな気がした。

明日なんて、来なければいいのに。


愛しい人の胸に抱かれ、その温もりを感じながら目を覚ました白望は、京太郎の頬へ手を伸ばす。


「……起きなくても、いいよ?」


安らかな寝顔。

答えは勿論、帰って来ない。


「……」


帰ったら、この腕であの女を抱き締めるのだろうか。

この唇で、あの女に愛を囁くのだろうか。


「……いやだなぁ、本当に」


立てた爪が、その胸板に小さな傷を残す。

こんなことをしても、何の意味もないけれど。


「……この傷を見る度に、私を思い出してくれたら」



――今は、それでいい。


白望は、小さく微笑んだ。

久と結婚した京太郎を不倫させたい
クールマゾな菫さんを読みたい


今夜こそ先生編更新、したい

「そういえばさー」

「はい?」

「もうセックスは済ませたの?」

「っ!?」


突然の久の言葉に、思わずお茶を吹き出しそうになる。

むせ返りながら睨むと、久はどこ吹く風で髪の先をクルクルと弄くっていた。


「な、なにを……」

「あら? 結構、有名だけど。須賀くんと風越のキャプテンが付き合ってるって」


確かに、京太郎と美穂子はつい先日、男女としての交際を始めた。

しかしそれは、互いに周りには秘密にしていた筈なのだが。

一体、部長はどこでそれを知ったのだろうか。


「で、どうなの?」

「な、なんだっていいでしょう。部長には関係ないですし」

「あ、まだなんだ」

「……」


バレバレのようだ。

そこまで分かりやすい態度だったのだろうか。


「ちょっとだけ、協力してあげようか」

「部長?」

「デートスポットに、ちょうどいいところ」

「教えてくれるんですか?」


ううん、と久は首を横に振って。


「本番前の予行練習。私が付き合ってあげる」


器用に、ウィンクをした。

というわけで始めたい所存

「淡、また先生に迷惑をかけたの?」

「んー?」


白糸台の宿泊先にて。

雑誌を広げて寝っ転がる淡に、照が眉根を寄せて声をかける。

当の淡は知らん顔で、雑誌を無造作に放った。


「んー……」

「淡」


伸びをする淡に照は不快感を隠そうともせず、静かな怒気を含めた声音で再度呼びかける。

照は会うことが出来なかったが、このインターハイの会場に京太郎が来ていることを、菫から聞いて。

彼が白糸台の講師をやっていた時のように、淡が迷惑をかけていたとなれば――それは、照にとって見逃せることではなかった。


「……ん、羨ましい?」

「……」

「そっかー。じゃ、しょーがないね。テルーのとこには、来てくれなかったもんね、せんせー」

「……黙って」


「テルーがずーっと、一人でやってる間にも。私は、せんせーに色々教えてもらってたし」

「……うるさい」


「私ね。頑張って、色々やったよ? せんせーに、認めてほしくて」

「黙って」

「お休みの日も、せんせーにネットで教えてもらってたし。繋がってたんだ、せんせーと……テルと違ってさ」

「うるさいっ!!」



「あはっ♪」

ネット麻雀のIDを知っているということは、学校にいる時に限らず、先生と対局が出来るということ。

それは、時間的な繋がりで言えば、久よりも長いということ。

そして、家に上げたことがあるというのは――


「久……」

「……あ」


気が付いたら、隣にいたまこに、右手を握られていて。

その手の親指の爪が、痛々しい赤色に染まっていた。


「大丈夫……大丈夫、だから」

「しかし……」


次は、絶対に負けない。


「ごめん。心配かけて」

「……」

「絶対……絶対に、清澄を優勝させるから」


唾を飲み込むと、鉄の味がした。

暗いホテルの一室を、液晶の光が、仄かに照らす。


「あー、待ちきれへん……」


「ずっと、ずーっと、我慢しとったからなぁ……」


「……けど」


「もうすぐやね」


「京ちゃん……♪」


夜の、生徒たちが寝入る時間でも。

暫く、明かりは消えなかった。

阿知賀、千里山、白糸台、そして宮守。

以上の4校による準決勝。

白糸台に僅差で敗れたとはいえ、宮守も決勝へと進めることになった。

これまでは順調に進むことが出来たが、決勝戦となれば予想を何度も覆されることが起きるかもしれない。


「さて……」


トシは、宮守の部員たちの表情を見渡す。

シロを除く全員が、決勝に向けて緊張した表情を浮かべている。


「いよいよ次が決勝となるわけだけど」


ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえた。


「やれることは、全てやっておきたい」


「そこで」


「あんたたちも良く知る、頼もしい人を連れて来たよ」


トシの背後のドアが開き、スーツを着た男性が入ってくる。

勿論、その男性は――




「みんな、久しぶり」



直下判定
1~25 胡桃
26~50 シロ
51~75 エイスリン
76~00 豊音

「あっ!」

「センセイ!」

「決勝に向けて、トシさんに頼まれたんだ」

「……」


宮守の部員たちが、一様に驚きの表情を浮かべる中で。

シロはただ一人、無言で立ち上がった。


「シロ?」


京太郎が宮守を去る直前の出来事から、シロとは少し気まずい仲だった塞だが、今のシロの雰囲気にはいつもとは違うものを感じる。

何となく嫌な予感がして声をかけるが、返事はない。


「先生」

「ん? 何だ、小瀬川――」


そっと背伸びをして、京太郎の首に手を回し、京太郎の顔を引き寄せるようにして、耳元に唇を寄せ。


「……全部、終わったら。言いたいことが、ある」


それだけを告げると、シロはさっさと離れていった。



「ナニヲ、オハナシ?」

「……内緒」



耳元に、生暖かい感覚が、残った。

ゾロ目判定挟む気は無かったんですけどね、ここ
とりあえず後のアレに考慮します


宮守キャラ安価下3でー

宮永咲、大星淡、末原恭子。

豊音が決勝で戦う相手。

決勝戦ともなれば、今までとは格が違う相手と戦うことになるだろう。


「――でも」


負けない。

今の豊音は、一人ぼっちじゃない。

みんながいるから、ここまでやって来れた。


「ツモ!」


楽しかったお祭りも、いよいよ最後。

ここまで楽しかったのは、きっと――



豊音判定直下
1~30 絶対、勝つよー!
31~60 ……他にも、いるんだよねー
61~98 ずーっと、一緒だよー
ゾロ目 ???

きっと、先生がいてくれたから。


「ロン!」


お祭りが終わるまで――いや、お祭りが終わっても。

先生と、一緒にいたい。

ずっと一緒に、二人でいたい。


「でもー……」


シロも、エイスリンも、胡桃も、きっと塞も。

豊音と同じように、思っている。


そして、昨夜のトシと京太郎の会話から。

この後も、京太郎はまたどこか他の高校のところに行くのだろう。


「……やだなぁ」


以前に、エイスリンと一緒に、京太郎に頭を撫でられた時と、似たような気持ち。

違いがあるとすれば、あの時よりもずっと大きい、胸の底から込み上げてくる感情が。



「ずーっと、一緒だよー」



豊音の瞳を、大きく揺らした。

今日はここまでで

次で決勝戦までいけたらいいなぁ、と

それでは、お付き合いありがとうございました

「なぁ、京太郎……お前、言ったやろ?」


自分を見下すセーラの右の拳は、痛々しく赤く腫れている。

そして、頬に感じる熱と痛みからも、彼女の拳が一切の手加減がなく振るわれたことが分かる。


「可愛くなくてもいいって――竜華よりも、俺のが好きやって」


胸倉を掴まれ、無理矢理に引き起こされる。

胸元が圧迫されて、喉の奥から呼吸とも咳ともとれない、空気の塊が絞り出された。


「せやのに……何でや! 何で、何で竜華の方ばっか見とんのや! お前の彼女は俺や! 竜華やない!!」


悲痛な叫びと共に、彼女の腕から伝わる力が強くなっていく。

それでも口を開くと、血と唾液の混ざったものが零れて、彼女の手の甲を濡らした。


「……あ」


すると、彼女の表情から、血の気が失せて。

同時に、腕の力も抜けて、だらりと垂れ下がった。


「いや、違……」


「そんな、そんなつもり、は……」


信じられないように、自分の手の平を見詰めて、小さく震えている。

抱き締めてやると、縋り付くように、顔を胸元に埋めた。


「ごめん、ごめんなぁ……!」

「もう駄目なんや、俺……京太郎が、京太郎が、いないと……!」


幼子をあやすように、何度も、何度も彼女の頭を撫でてやる。

彼女が安心出来るまで。彼女の震えが、止まるまで。


「京太郎……京太郎ぉ……」


他には誰もいない、夕日が赤く染める教室の中に、彼女の啜り泣く声だけが響いた。

普段強気な子ほど徹底的に病ませたくなる法則
更新はもう少し後で

がむしゃらに突き進んで来たものが、壁にぶつかってへし折れた。

折れて、弱って、そのまま腐りかけていたところを、支えてくれた人がいた。

そして、再び壁に挑んで、今度は乗り越えることが出来た。


――けれど。



「……燃え尽きた?」


「あー……お前さん、そりゃあ……また、贅沢な悩みだな」


「……そういや、教員免許持ってるとか言ってたな」


「いっそのこと、どうだ」


「今の麻雀を楽しめないなら――」



――後のやつらを、育ててみるってのは。


的なやり取りがあって先生になったのかもしれない


本当は19時まで仮眠をとる予定だったのに……
ボチボチ始めます


>>63
その設定ならヒロインははやりんにしたい

日が暮れるまで宮守の調整に付き合い、彼女たちとの麻雀を終えて。

自分の泊まっている部屋まで戻ってきた京太郎は、上着を脱いで一息吐いた。


「ふぅ……」


京太郎の立場上、決勝戦の4校のうちのどれか一つを、特別に応援することは出来ない。

気持ちの上では、自分の後輩である久たちには頑張って欲しいが、他の3校の生徒たちも全て大事な教え子である。

京太郎に出来ることは、彼女たちが悔いを残さないように、全力でサポートしてやることだけだ。


「さて……」


今日の、この後の予定は――



京太郎選択肢 下3までで多数決
1 そういえば、小鍛治プロに誘われてたな
2 特に無いが……少し、散歩でもしようか
3 えへへ、来ちゃった~♪

「そういえば、小鍛治プロに誘われてたな」


久しぶりに皆で会う、とのことだったか。

教え子たちのやる気に満ち溢れた姿を見て、またこのインターハイの空気に中てられて、胸の奥底で燻っていた気持ちに火が付きつつある。

現役を退いてからは、すっかり顔を合わせることもなかった他のプロたちだが――


「俺も、久しぶりに……!」


鞄から携帯を取り出し、健夜に教えてもらった連絡先を入力する。

数秒のコールの後、すぐに電話が繋がった。


「あの、俺も――」




まとめて判定やっちゃいます


直下判定 のよりん
1~30 何度か対局した人
31~70 昔からの知人
71~98 結婚! したい!!
ゾロ目 ???

下二 はやりん
1~30 何度か対局した人
31~70 昔からのお友達
71~98 じゅるり☆
ゾロ目 ???

下三 レジェンド
1~30 昔からの知人
31~70 個人的に尊敬している
71~98 個人的に崇拝している
ゾロ目 ???

下四 戒能さん
1~30 昔の先生。今でも尊敬している
31~60 昔の先生、だけど実は……
61~98 今でも、私はあなたを……
ゾロ目 ???

東京の、とあるバーにて。


「おー、戒能プロ! いつの間に大人っぽい!」

「ねー」

「どうも」


はやりが提案した、軽い同窓会のような集まり。

良子は、集合時間に遅れることなく、この場所に辿り着いた晴絵に、少しだけ驚いた。


「はやりさんのあのメールで、よくここがわかりましたね」


はやりのメールは、文章ではなく猫やヒヨコといった可愛らしい絵文字で送られてくる。

最早、暗号といってもいいレベルであり、解読するのは中々に難しいのだが。


「まぁ、もう慣れましたよ」


苦笑いする晴絵。

何となく、軽いジェラシーのような気持ちを抱く。


「ほら他にも解読できる人が」


カランカラン、とスイングドアが開く音。


「わかりにくいよ!」

「難解!」


小鍛治健夜に、野依理沙。共に、はやりと同じ世代のプロである。

そして、


「よろしくお願いしますね」


昔から尊敬していて、今でもずっと、心に想い続けている人。


「先、生……?」


須賀京太郎が、二人に続いて、入って来た。

「お久しぶりです、皆さん」

「久しぶり! 元気にしてた?」

「ええ」


はやりたちと挨拶を交わす姿と声は、記憶の中のものと寸分違わない。

自分がプロになった時には、既に現役から引退していた彼が。


「良子も、久しぶりだな」


今、この場所で。

私に、笑顔を向けてくれている――!



「……ッ、お久しぶり、です」


胸の奥底から溢れそうになった感情に、何とか蓋をして。

辛うじて、普段の済ました表情を取り繕い、良子は挨拶を返した。


「ふふふー?……それじゃ、お話は席に着いてからで!」


京太郎に隠し通せたかはわからないけど、隣に座る牌のおねえさんにはお見通しだったようで。

妙に、にこやかなはやりが指揮をとり、懐かしい面子での飲み会が始まった。

「先生をやってるんでしたっけ、須賀プロ」

「ええ、まぁ。最初は大沼さんに勧められて、今はコーチとして色んな場所に」

「インターハイに来たのも、その関係で?」

「そうですね。色々と、昔を思い出して懐かしい気分ですよ」

「まだ若い!」

「はは……」


ビールやサラダ、時に思い出話を交えて飲み会は進んでいく。

そういえば、と良子がテーブルに座る面子の顔を見渡して、思い出すように、話題を切り出した。


「小学校の頃、皆さんの試合をテレビで見ましたよ」


良子と京太郎を除く、この場の4人が鎬を削ったインターハイ準決勝。

京太郎がインターハイ男子の部で活躍したのも、同じ年だ。

両方ともに、良子の記憶に強く残っている。


「ねね」


良子の言葉を受けて、はやりがバーの隅に置いてある自動卓に目を向けた。


「みんなで打ってみない?」


あの準決勝の時のように、この4人で。

声には出していないが、はやりの言葉には、そのような意味が込められていた。

「……いいですね」


突然のはやりの提案に驚きながらも、健夜が頷き、席を立つ。

続けて、理沙も同じように卓へと向かう。


「私は……」


ただ一人、晴絵は立ち上がれないでいる。

かつての自分と同じように、準決勝で敗退した阿知賀女学院。

だが、何度でも立ち向かう姿勢を見せた穏乃たちの姿に、再び頑張る力を貰った。


「……須賀プロ」

「ん?」


しかし。


「……私の代わりに、打ってくれない?」


まだ、トラウマの原因となった健夜と麻雀を通して向き合う自信は、持てないでいた。

「いいんですか?」

「……うん」


彼女たちとの対局は京太郎にとっては願っても無いことだが、それは彼女たちの思い出に水を指すものではないか。


「……私も。私も、先生が打つのを、見たいです」

「良子……だけど……」


そう思うと、京太郎も直ぐには頷けない。


「はるえちゃん、どうしても無理?」

「……ごめんね」

「そっか……すいません、須賀プロ。お願いできますか?」

「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」


躊躇う気持ちはあるが、はやりに頭を下げられては、京太郎に断る選択肢は無い。

晴絵の分の麻雀も打つ心持ちで、京太郎は健夜の隣に着いた。


「……」


専用のライトが、4人が囲む卓を照らす。

はやり、健夜、理沙、そして京太郎。


「先生……」


その一挙一動を、見逃さないように。

良子は、瞬きもせず、京太郎を見詰める。


晴絵と良子。

たった二人だけが見守る中で、対局が始まった。

ここで区切ります

一つ一つのレスに時間かけ過ぎですね。本当に申し訳ない
次こそ本当に団体戦スタートします

明日、というか既に今日ですが、休みなので続けて更新しようかと思ってます


それでは、お付き合いありがとうございました!

「京ちゃん、また部活休むの?」

「ん? あぁ……」


HRを終えて、放課後の始まりを知らせるチャイムが鳴り響くと、さっさと鞄に最低限の荷物を纏める幼馴染。

その行く先が部室ならば、部活に熱心な姿勢として受け取ることが出来るのだが。


「悪い。部長によろしく言っといてくれ」

「今週、ずっと部活に出てないけど……」

「そうか? 悪い、もう時間がないんだ」

「あっ」


鞄を肩に担ぐと、止める間もなく教室から出て行ってしまった。

引きとめようと伸ばした腕も間に合わず、指先は虚しく宙を切った。





「京ちゃん……」


何となく、部活にも身が入らない。

一人で歩く帰り道は珍しいことではないのに、何故だか道の幅がいつもより広く感じる。


「……あれ?」


そんな中で、ふと視界の隅に入った二人。

自動販売機の裏で、抱き合っている男子と女子。


「あれって……?」


一人は、今まさに考えていた男子。

もう一人の、赤い髪の女子は――



「……うそ」


咲の目線に気が付いていない、二人の影が。

ゆっくりと、静かに重なった。

京照は摂理
京淡は真理


先生の更新はもう少し後で
昨日よりは早く始められます

判定多いです
ゆーきがちょっと可哀想なことになるかもしれませんが元気です

全国大会、決勝戦。

ついに団体戦の部での、真の強者が決まる。


王者白糸台が今年も制覇するのか。

姫松が強豪校としてのプライドを見せるのか。

宮守がダークホースとして優勝旗を奪って行くのか。

清澄が伝説の再来を見せてくれるのか。


果たして、頂点の座を奪い取る高校はどこになるのか。


あらゆる意味で注目が離せないインターハイ、決勝戦。

今、その火蓋が、切って落とされた――!!



「ふー……こんなんでいいかな?」

「最後まで真面目にやろうよ、こーこちゃん……」




ってなわけで始めますん


――白糸台。


「照、いけるな?」

「うん」


平然と頷く照の横顔に緊張は見られない。

先鋒を送り出すチームメイトたちの瞳にも、心配はない。

それは油断でも余裕でもなく、先鋒戦で宮永照が遅れを取る筈がないという、自信の表れである。


「……だが」


いくら考えても、拭い去れない違和感。

胸の底で何かがざわめく。


「照……」


気のせいであって欲しいと願いながら、菫は照の後ろ姿を見送った。


――姫松。


「おっしゃ、いってこいや!」

「はい!」


バシン、と強く背中を叩かれて気合を注入される。

まさか、自分がこんな晴れ舞台に立てるなんて、思ってもいなかったけれど。

自分を信じてくれた先輩たちの為にも頑張るしかないと、漫は気合を入れて拳を握った。


例え、無様な姿を晒してでも――



「上重ちゃん? わかっとるよな~?」

「は、はい……」


……訂正。

無様な姿を晒すわけには、いかない。


「い、いってきます!」


何としてでも、点数を稼いで、バトンを繋がなければならない。

気合と、緊張と、若干の怯えを胸に、漫は控え室を後にした。


――清澄。


「ゆーき、わかっていますね? くれぐれも、決勝で浮足立つことのないよう……」

「大丈夫だって、和ちゃん……ね? 優希ちゃん?」

「う、うん……」


同期の二人に念を押されて、控え室を後にする。

負けるわけにはいかない。それは当然のこと。


「……何だか」


全国大会が近付くにつれて、練習でも鬼気迫るような打ち方を見せた咲。

常に上の空のような様子を見せながらも、鋭さを増していった和。

優勝に対して、並々ならない執念と、焦燥感すら感じさせる久。


「……怖い、じぇ」


胸の中を占める感情は、プレッシャーなどという生易しいものではない。

それでも何とか胸を張って、毅然とした足取りで、優希は卓へと向かった。


――宮守。


「今の心境は?」

「ダルい……」

「つまり、よゆーってことね」


言うまでもなく、団体戦での先鋒は非常に重要な役割を持つ。

特に決勝戦ともなれば、失敗は許されないが――当の本人は、どこ吹く風で。


「……」

「ん? もう行くの?」

「トイレを」

「あぁ……行ってらっしゃい」


ここが全国だろうと、部室だろうと、シロのやることは変わらない。

いつも通りに、練習通りに打って、点数を稼ぐ。


「行ってくる……」


ただそれだけだと、シロは控え室を後にして、決勝の舞台に上がる前に、化粧室へと向かった。

「あれ」


御手洗いを済ませ、決勝の卓へと向かう途中の廊下で足が止まる。

つい先日に最終調整に付き合って貰った恩師と、どこかで見たことのある女性が会話をしているのを、遠目に見かけたからだ。


「戒能プロ……だっけ」


普段なら気にせず声をかけに行っただろうが、今は時間がないし面倒くさい。

今度こそ決勝の舞台に向かうために、踵を返し――




「――」



――京太郎が、その女に唇を奪われる瞬間を、見てしまった。

「よろしく、お願いします」

「……あれ?」


気がついたら、卓に着いていた。


「……ああ、そっか」


――先鋒戦に、来てたんだっけ。

シロは、どこか上の空のような、霧の中を彷徨うような心地で、牌に触れた。





「なんやの、コレ……」


不気味だ。

決勝卓の面子と顔を合わせて、何よりも先に、そう思った。

清澄はまだいい。緊張しているようだが、それは自分も同じだ。

問題は白糸台と宮守。

チャンピオンの宮永照。彼女と目を合わせた瞬間に、自分の中の何もかもを見透かされたような気がした。

そして、小瀬川白望。彼女の周りの空気だけ、まるで、どこか別の世界に迷い込んだような――


「いやいや、ありえん……」


ブンブンと首を振り、嫌な予感を振り払う。

胸の奥で、何かに火が付いたような、そんな気がした。





「なんだか、やりにくいじぇ……」


東場は自分の独壇場、の筈だった。

だというのに、思ったように風が吹かない。


「このままじゃ……」


気持ちの上でも、風下に立たされては、本当に勝ちの目が潰れてしまう。

直前に食べたタコスの味を思い返し、勢いよく自らの頬を叩き、優希は気を取り直した。





誰だって、関係ない。

「ツモ」

ただ、潰すだけ。






対局判定
直下判定 シロ コンマ+140
判定下二 漫 コンマ+30
判定下三 優希
判定下四 照 コンマ+140

「……やっぱり」


京太郎が一時的に彼女たち、宮守女子のコーチをしていたことは、照も知っている。

だが。

照は、この対局を通してそれ以上のことを、シロに写し見た。


「……宮守」

「ダルい、なぁ……」


照の敵意の込められた目線も意に介さず、シロの手が虚空を彷徨い、牌を掴む。

他家のことなど眼中にないように、自分の中だけを見ているように。



「……ツモ」




――こうして、先鋒戦は幕を閉じた。

大方の予想を覆し、宮守女子が白糸台を僅差で押さえ付けて1位に。

2位の白糸台に大きく差を付けられて、清澄が3位。

強豪校の姫松は4位。


事前の見立てでは白糸台が圧勝すると予想していたメディアからすれば、この結果は大きく予想を外された形になった。

「ただいま」

「おかえり!」


シロを迎える宮守の部員たちの表情は明るい。

事前のミーティングでは、先鋒戦でどれだけ白糸台に食い付けるかが勝負の分け目であると話していた。

しかし、結果は僅差であるとはいえ1位。

あの、宮永照を打ち破ったのだ。


「……ごめん。ちょっと、疲れた」

「あ、うん……お疲れ様」

「アトハ、マカセテ!」


しかし当の本人は、部員たちの浮かれた様子にも、表情を変えることなく。

ぐったりと、ソファに身を預けると、右手で目を覆った。


「……先生」


さっきのアレが、見間違えではないのなら。

先生は、あの女と――?



「……何、で?」


ポツリと漏れた呟きに、答えは返って来なかった。

「あ、あのぅ……」


姫松の控え室に戻ってきた漫の表情は暗い。

途中で何度か、自分の中で弾けるような感覚はあったが――奮戦虚しく、結果は最下位。

先輩たちに、合わせる顔がなかった。


「ま、しゃーない。トバなかっただけ上等や。宮永照が二人いたようなもんやし」

「末原先輩……!」

「あとはウチらの仕事や。ゆーこ、いけるか?」

「キーウィ対策はバッチリなのよー」


このような状況でも、先輩たちは勝ちを諦めていない。


漫の曇っていた表情が、少しだけ明るくなり、


「上重ちゃん、あっちでお話な~」

「……あ」


郁乃に連れ去られて行く姿に、部員の全員が合掌した。

「……」

「まさか……お前が、な……」


僅差であったが――チャンピオン、宮永照の敗北。

その事実は、チーム虎姫に重くのしかかっていた。


「小瀬川白望、か……」

「アレも……だった……」

「なに?」

「……」


聞き返しても、照の返事はない。

菫は軽く溜息を吐くと、席を立った。


「行ってくる」

「お気を付けて」

「ああ」


絶対に、勝つ。

そして、あの人の教え子として、誰が相応しいかを、見せ付けてやる。


どんな状況でも――菫のやることは、変わらない。

「うぅ……」

「よくやった。仇はとってやるけぇの」


涙ぐんで帰って来た優希の頭を撫でて、まこは次鋒戦の舞台へと向かう。

何としても、次でトップ2校との差を埋めなければならない。


「……」


気付かれないように久に横目を向けると、表面上は満足そうに微笑んでいる。

しかし、右手の親指は――


「……踏ん張って、いくか」


少しでも、後輩と親友の負担を減らす。

そう決意を込めて、まこは一歩を踏み出した。

「ヨロシク、オネガイ、シマス!」


エイスリン・ウィッシュアート。

地区大会和了率全国一位。

この次鋒戦で最も対策が必要とされる選手は彼女であり、菫も由子もまこも、そのつもりで卓に上がってきた。


「……何だ。コレは……」


異質。

一言で述べると、そうなる。

彼女の中に、まるでもう一人、誰かがいるような。

そして、この打ち筋から、脳裏に描かれるのは――


「……くっ」


――やはり、彼女が一番マズイ。



三人の認識は、一致していた。




対局判定
直下判定 エイスリン コンマ+70
判定下二 由子 コンマ+30
判定下三 まこ コンマ+40
判定下四 菫 コンマ+60

「これ、は……」


牌譜にあった打ち方と、まるで違う。

対局が進むにつれて、エイスリンの打ち方が段階的に変わっていく。

それはまるで、真っ白なキャンバスに、少しずつ新しい絵が描かれていくような。

自分の切った牌ですら、彼女の絵の一部として、取り込まれていくような。


そんな錯覚を、菫は感じた。


「ツモ!」

「なに……!」


そして、エイスリンに気を取られ過ぎていたせいか。

清澄の攻撃を、許してしまった。



次鋒戦、終了

1位 宮守
2位 白糸台
3位 清澄
4位 姫松

「ヤリマシタ!」

「ありがとう、エイちゃん」


流石にシロほどの稼ぎはないが、トップを維持した上で、更に白糸台との差を付けて帰って来たエイスリンを労う。

麻雀を始めて半年弱のエイスリンには、十分過ぎる成果である。


「さて、出だしは順調だ。だけど、ここからが本当の勝負だよ」

「はい!」


とはいえ、ここからはそう、上手くもいかない。

姫松からは愛宕洋榎が、清澄からは長野県大会で大きな活躍をした竹井久が。

白糸台の渋谷尭深も、油断していれば足元を掬われるだろう。


「行ってきます!」


胡桃はより一層気を引き締めて、中堅戦に備える。

「ありがとう、まこ」

「あぁ……大丈夫か? それは」

「うん」


清澄の控え室では、指に絆創膏を巻いた久が、まこを迎えた。

順位は変わっていないが、差は縮まっている。

まだ、挽回はできる。


「……絶対に、勝つ」


その言葉は、誰に向けられたものか。


「だから、見ていて。私を」


久の瞳は、この場の誰も、映していなかった。

「ごめんなさい……」


対策はしてきた、つもりだったが。

宮守にも、清澄にも、白糸台にも。

由子の麻雀は、届かなかった。


「このままじゃ……」

「いや――これから、や」

「え?」


点数の差は、絶望的。

だが、洋榎の目に、諦めの二文字は無い。


「あの人だって――小鍛治プロに挑んだ時は、ズタボロやった」

「……」

「ここからや。絶対に、点数ぶんどってきたるわ」


このままではあの人に顔向け出来ない。

だから、このまま終わるつもりはない。


「ウチに、任しとき。清澄も、白糸台も、宮守も――全部、トバしたる」


洋榎の声は、自信で満ち溢れていた。

「すまない……」

「いや、まだここからですよ!」

「行ってくるね」


尭深は、あくまで自然体に中堅戦に挑む。

少し躓いたとはいえ、宮守に追い付けない点数差ではないし、清澄に追い抜かれたわけでもない。

中堅戦、副将戦、大将戦と残っていることを考えれば、まだカバーはできる範囲内だ。



「~♪」


先輩たちの会話を横に、淡は呑気に口笛を口遊む。

状況が見えていないのではない。

むしろ、理解出来ているからこそ――淡は、今を楽しんでいた。


――思いっきり、逆転勝利とか決めたら。

――先生、思いっきり褒めてくれるかな?


ニッコリ、満面の笑みを浮かべて。

淡は、自分の出番を待つ。

卓の上で、久と洋榎の視線が、ほんの一瞬交差する。


――お前は、あの人に、相応しくない。



視線に込める意思は、互いに変わらない。



勿論、残る二校も気圧されることはない。

このまま逃げ切るつもりで守りを固める胡桃と、攻めの手を緩めるつもりの無い尭深。


様々な思惑を乗せて、中堅戦が、幕を開けた。


対局判定
直下判定 胡桃 コンマ+60
判定下二 洋榎 コンマ+150
判定下三 久 コンマ+110
判定下四 尭深 コンマ+40

今夜はここで一旦区切ります

団体戦が終わった後も個人戦があるわけですが……

一旦先生編区切って他の話進めるのと、このまま先生編突っ走るのとどっちがいいですかね?



それでは、今夜はここで

お付き合いありがとうございました!

淡「あっついぃー……」

京太郎「そーだなー……」


淡「ねぇ、きょーたろー……」

京太郎「んー……?」


淡「ケッコンしよーよー……」

京太郎「あー……」


淡「ねーねー……」

京太郎「あついからなー……」


淡「いーじゃんさー……」

京太郎「もうちょい涼しくなったらなー……」


淡「じゃあ、氷で出来た教会でー……」

京太郎「いくらかける気だー……」


淡「冬も似たよーなこと言ってたじゃん……」

京太郎「そうだっけかー……」


淡「きょーたろー……」

京太郎「あっついなー……」




みたいな山も落ちも意味も無い京淡をたまに書きたくなる謎
あ、とりあえず団体戦終わるまではやりますよ

もう少し後で始めますん

始めますん

「……ここは」


淀みなく進んで来た久の手が止まり、長考に入る。

安牌を切るか、逆転に向けて布石を打つか。

順位は最初から変わっていないが、宮守の勢いが大幅に削がれている。

もし、あの人なら、ここで――


「ロン!」

「……え」


悩み抜いた末に、打ち出した一手は。

姫松の逆転に、利用された。


「なんや、清澄……そんなんで、あの人の後輩なんか名乗っとんのかいな」

「っ!」

「はん、格の違い……いや、核の違いっちゅーもんを、見せたるわ」



「いいから点数!」

「あ、ハイ……」



その後も洋榎が全体の場の流れを上手く読み取り、終始有利に対局を進めた。

総合的な順位に変更はなかったが――胡桃も、尭深も、久も。

流れを姫松に持って行かれたと、確かに感じていた。


1位 宮守
2位 白糸台
3位 清澄
4位 姫松

「お姉ちゃん!」

「ごめんなぁ……エラそうなこと言っといて、順位ひっくり返せんかった」

「ううん……後は、私が!」


先鋒戦、次鋒戦と続いて来た宮守の流れが、断ち切られようとしている。

この状況を作ったのは間違いなく、洋榎である。


「行ってくるわ……!」


姉の背中に追い付くのではなく、姉と一緒に戦って、姫松を優勝させる。

決勝戦の緊張は、もう無い。

絹恵の胸の中は、自信で満ち溢れていた。








「ただいま」

「おかえりー」


愛宕洋榎と竹井久。

県大会での牌譜を見る限りでは、二人とも限りなく厄介な相手だった。

その二人が一緒にいる中堅戦だったが、どのような状況でも、尭深は自分のペースを崩さなかった。


「……」


それどころか、常に熱いお茶を啜りながら対局を進めた彼女は――ある意味で、一番大物なのかもしれない。


「次は、私の番か」


この勢いのまま宮守を追い抜いて、1位を奪い取ってから淡に繋ぐ。

気合を入れて、しかし空回りしないよう、誠子は練習の内容を頭の中で反復しながら決勝の舞台へ向かった。

「……」

「胡桃?」

「ごめんなさい……」

「いや、大丈夫だよ。まだ勝ってることには変わらないし――」


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」


「く、胡桃?」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」



「ごめん、なさい」

順位に変動は無いが、白糸台は既に目と鼻の先。

宮守も射程圏内に入っている。

この中堅戦で、確かに流れが変わった。


「……」

「お疲れさん……久?」


稼いだ点数は愛宕洋榎に届かなかったが、それでも全体的な成績で言えば2位。

胸を張ってもいい結果だが――


「負けたの」

「……なに?」

「……負けた」

「じゃが、それでも――」


「負けた。絶対に勝たなきゃ、駄目だったのに」


「私は、負けた」



「久!?」



力なく、その場に崩れる久を抱き止めるまこの隣を。


「……ふふ」


上気した頬を緩めて、和が通り過ぎて行った。

決勝戦も、いよいよ終盤。

中堅戦で失速した宮守が立て直すのか。

他の3校が一気に追い上げるのか。



「よろしく、お願いします」


全中王者、原村和が参加する副将戦。

当然、注目も高くなる。


絶対に逃げ切ってみせると、注意深く面子の顔を見渡す塞。

ここで稼いで後に繋ぐと、張り切る誠子。

姉から受け取ったバトンを無駄にしないと、意思を高める絹恵。


「……」


その三人の目線を受けても、和の胸中に変化はない。

ただ、あの人に捧げる為、に打つ。

和の思考は、全てその一言に集約されている。



対局判定
直下判定 塞 コンマ+60
判定下二 絹恵 コンマ+50
判定下三 和 コンマ+130
判定下四 誠子 コンマ+50

――なんや、コイツ……。


事前の牌譜からも、全中王者という事実からも、原村和がこの副将戦で最も厄介な相手になることは理解していた。

しかし、いざ、本人を目の前にすると。


「ふふ……」


こっちを、対局相手を、見ていない。

全てが、自分の中で、完結している。

そのような印象を、絹恵は抱いた。


「ロンです」

「あ……」


そして、絹恵は失念していた。

この対局では、原村和が目立っているが。

今一番、最も追い抜かなければならない相手は――



「なんとか……トップは維持したかな」



1位は変わらず、宮守女子。

清澄が僅差で白糸台を追い抜き、2位に浮上。

姫松は、他校に大幅に遅れを取る形で4位になった。

みんなのお祭りも、もうすぐお終い。

後に個人戦が控えているが、宮守女子の団体戦として挑む大会は、これが最後になる。


「豊音、後は任せたよ」

「任されたよー」


だが、今の豊音には、それを惜しむ気持ちはない。

胸の中にあるのは、目の前の対局を楽しむ気持ちと、


「先生、見てるよねー?」


ただ、昔から想い続けた人の顔だけ。

今や彼女の執着は、全てが一人の男性に向けられていた。

姉帯豊音。

宮永咲。

大星淡。


「なんや、化け物揃いやんけ……」


牌譜から得られた彼女たちの打ち筋、実際に対局して得た感覚。

知り得た情報の全てが、彼女たちが只者ではないことを示している。


「うちは……」


それに比べて、自分は凡人。

加えて、状況は絶望的。


「けど……」


このまま逃げ出すようでは、対局前から挫けるようでは、誰にも顔を向けられない。

バトンを繋いでくれたチームメイトたちにも、部の強化に尽力してくれた監督代行にも。

そして何より、善野監督も見守ってくれている試合。


「しゃっ!」


自ら両頬を叩き、折れそうな心を奮い立たせ、恭子は最後の舞台へと上がる。

白糸台の控え室へと戻る誠子の足取りは重い。

出来る限り失点は抑えたつもりだが、トップの宮守を引き摺り下ろすには到らず、清澄に追い抜かれてしまった。

浮かない表情で廊下を歩いていると、ちょうど廊下の反対側から、淡が鼻歌交じりに向かって来た。


「淡、すまん。辛い状況だけど――」

「先輩、ありがとー」

「――は?」


淡は誠子の失態を攻めるわけでもなく、これからの意気込みを伝えるわけでもなく。

ただこれから遊びに行くような声音で、誠子に微笑みかけた。


「あ、淡?」

「ピンチからの逆転! せんせー、きっとすっごい褒めてくれるよね」

「何を言って……?」


戸惑う誠子にも構うことなく、淡は軽い足取りで決勝の舞台へ。


「頭撫でてもらったりー……あ、ほっぺにキスとかしちゃおっかな♪」


淡には油断も慢心もない。


ただ、絶対に負けない。それだけである。


淡の心の中は、ただ一人、大好きな先生で、塗り潰されている。

「咲ちゃん……」

「しんどいと思うが、頼む!」

「ええ――大丈夫、です」


インターハイ決勝、大将戦。

咲の表情にはプレッシャーを感じている様子も、力み過ぎている様子もない。


「行ってきます」


頭を下げて、控え室を後にする。


「やっと」


白糸台。

姫松。

宮守。


「やっと、だね」


やっと、この手で。


「私だけの……京ちゃん」



満開の花が、散った。

様々な想いが交差する、決勝戦。

最後の対局が、幕を開ける。



対局判定 ゾロ目の場合、判定数値に1の位×10をプラス

直下判定 豊音 コンマ+210
判定下二 恭子 コンマ+190
判定下三 淡 コンマ+220
判定下四 咲 コンマ+230

「やっぱ、そうだよね」


絶対安全圏。


「ゼッタイ負けないもん、私」


ダブルリーチ。


「だって、私には」



そして――



「ずーっと、せんせーが付いててくれたんだよ?」



トップを走る宮守に、直撃を奪い取り。


「せんせーの後輩だとか、ダークホースだとか、強豪校とか、知らないけどさ」



「私が、負けるわけないじゃん! せんせー以外の相手にさ!!」


白糸台が、1位を勝ち取った。

一旦区切ります
書けば書くほど長くなっていく……

この後、ちょっとイベントを挟んで団体戦パートが終わります
その後に個人戦パートが入って先生編が終わるわけですが、ちょっと見直したい部分があるので、団体戦パートが終わったら一旦先生編を区切ろうかと思ってます

またアンケート方式で次の話決める感じで

シロ可愛い

それでは、お付き合いありがとうございました!

【先生編、姫松パートより】



「寒いねん、京ちゃ――くしゅっ!!」


大きなくしゃみ。

続けてズビズビと鼻を啜る音。

ハァ、と京太郎は大きな溜息を吐いた。


「ほら、ティッシュを」

「ん、おおきに~……」


昼間にスーパーで買った箱のティッシュを開封し、郁乃に手渡す。

ついでにデコに手を当てて熱を計ると、確かに熱を感じた。


「そりゃ、傘も差さずにこの雨の中歩いてたらなぁ……」

「うぅ、だって~」


この人は、昔からそうだった。

出会った時から色々と気にかけてくれたが、何処か抜けたところがあるのだ。

付き合っていた時も、色んな意味で目が離せない彼女だった。


「とりあえず、風呂で温まってください。その間に着替えになりそうなもん探しとくんで」

「え~? 人肌がええのに~」


寝ぼけたことを言うのでデコピンを一つ。

あた、と涙目で額を押さえる郁乃に、京太郎は再び大きな溜息を吐く。


「あんまり寝ぼけたこと言ってると傘持たせて追い出しますよ」

「あ~ん、京ちゃんのいけず~♪」


昼間に出会った洋榎のテンションといい、この人といい。

少なくとも大阪にいる間は多忙な毎日になることを、京太郎は確信した。


「満更でもないクセに~」

「ここで着替えない!」


京太郎の気苦労は、尽きない。



【ポンコツいくのん】

最近はやりんが熱い


最初は姫松に呼ばれたってことにして最終調整で戒能プロもそこで出す予定だったんですけどね
アレがアレになってアレなのでああなりました
どっかの局に男子の部の解説として呼ばれたってことにしとこう(適当)


始めます

序盤の宮守の快進撃に、中盤の姫松と清澄の奮闘、そして最後の白糸台の逆転。

どこも諦めずによく戦ったと、彼女たちの指導を担当した京太郎は、胸が熱くなった。


「しかし……」


教え子の奮闘を誇りに思う気持ちもあれば、惜敗を残念に思う気持ちもある。

決勝進出した4校が全て自分の担当した学校ともなれば、京太郎の胸に抱く気持ちは複雑だ。


「さて……どうしたもんか」


ハタから見れば贅沢な悩みだろうと、京太郎は苦笑し――


「せんせーっ!!」


――背中に不意打ちの衝撃を受けて、大きくつんのめった。

こちらの事などまるでお構いなしな態度。

そして興奮に満ちたこの声となれば、思い当たる生徒は一人しかいない。


「せんせー! やったよ! 私、やったよ!!」

「淡……」


回された腕を解き、振り向く。

キラキラ輝く瞳は喜びを全力で表現していた。


「せんせーっ!!」


まるで犬のようだ、と京太郎は思った。

褒めて褒めてと全身でアピールしている。

もし彼女に尻尾があれば、千切れんばかりに振り回していることだろう。


「よく、やったな」

「えへへっ とーぜんっ!!」


頭を撫でてやると、淡の全身から光輝くオーラが溢れ出した、ような気がした。

白糸台の――というより、決勝全体でのMVPを決めるとすれば間違いなく淡だ。

彼女がいなければ最後の逆転は有り得ず、また何処か他の高校が優勝していた筈だ。

白糸台では特に淡とコミュニケーションを取っていただけに、京太郎も鼻が高い。


「えへへ……」


喜びで感情が振り切れている淡の姿に、目の前の京太郎も嬉しくなる。

画面を通して大将戦を見守っていた彼女のチームメイトも、大きく盛り上がったことだろう。


「……ん?」


と、ここで京太郎は、周りを見てもチーム虎姫の他のメンバーが見当たらないことに気が付いた。


「淡、菫たちは?」



淡の返答 判定直下
1~60 しーらないっ!
61~98 ……どうでもいいじゃん、今は
ゾロ目 ???

大将戦が終われば、真っ先に向かうのは白糸台の控え室の筈。

だというのに、今この場に淡だけがいるのは少し不自然だ。


「……どうでもいいじゃん、今は」

「あ、淡?」


だが、返って来た答えは淡らしくない、突き放したもので。


「私、頑張ったよ」

「あぁ……わかってる。よくやったよ」


淡の様子がおかしい。

そう感じさせるには十分な程に、淡の瞳は冷めていた。


「もっと、褒めて」

「なに?」

「頑張ったもん、私。一番、頑張ったよ」


少しでも突き放せば、崩れてしまうような。


「だから、もっと」


「私を、褒めてよ」


そんな危うさが、今の淡には、あった。

――なんで? どうして?


「勝ったのは、私だもん」


――私は、ずっと先生を、見てたのに。


「私が、一番なのに」



――なんで先生は、私だけを、見ないの?

「私といるのに他の女の子の名前出さないで」


団体戦パート、ここで区切ります
次が個人戦パートなんですけど

・場合によってはキャラが死ぬかもしれません
・原作で個人戦に出てるかわからないキャラもいるけど気にしてはいけない
・キャラによってはEND直行イベント発生します

辺りが注意点です


さて次は、

1 白糸台全国パート
2 臨界日常パート
3 プロ勢編、コンティニューする?
4 永水日常パート
5 宮守全国大会後
6 松実京太郎、都会へ行くの巻


からアンケート取ります

END見えてるのは白糸台、プロ、宮守ですが
先生編も全国ですぐ終わると思ったけど意外と長くなったので……

では次のコンマで決めます

1~25 臨海
26~50 プロ
51~75 永水
76~00 宮守
ゾロ目 お好きにどうぞ

では次は永水でー
はっちゃんと二人っきりになると個別イベント発生します


それでは、短いですが今夜はここで
お付き合いありがとうございました!

代わり映えのない通学路。

いつもと変わらない朝の風景。


「んー……?」


だというのに、京太郎は言葉に出来ない違和感を覚えていた。

何かがいつもと違うと直感が訴えているが、具体的に説明できない。

あくびを噛み殺しながら、何か忘れていることがないか記憶を探っても、思い当たることは何も無い。


「んー……あ、咲?」


違和感の正体が掴めないままに通学路を歩いていると、少し先に幼馴染の背中を発見。

心なしか、元気がないように、ただでさえ小さい背丈が更に小さく見える。


「よっ!」

「わっ!?」


答えが出ないことは頭の片隅に追いやって、駆け足で咲に追い付く。

肩に手を置いて声をかけると、小さな体がビクリと大きく跳ねた。


「え……京、ちゃん……?」

「おう。おはよう」


振り向いた咲は、信じられないものを見る目付きを京太郎に向ける。

それを内心で不思議に思いながらも、京太郎は咲に朝の挨拶をした。

「なんで……?」

「なんでってお前……今日、普通に学校あるし」

「だって京ちゃん……九州に行っちゃったんじゃ……」

「は?」


咲の言葉に、更に疑問が増える。


「何だそりゃ。変な夢でも見たのか?」

「ゆ、夢じゃないよ! だって、あんなにメールとかで――」


咲が足を止めてカバンの中を探る。

恐らくは携帯を探そうとしているのだろうが、そもそも咲は。


「いやお前、携帯持ってないだろ」

「じゃあ、本当に……」


夢、だったの?

半端に口を開いて固まる先の頭をポンポンと軽く叩く。

『お前、本の読み過ぎじゃないか?』


そう、からかおうとして――


「京ちゃんっ……!!」

「うぇっ!?」


思いっ切り泣かれて、抱き着かれた。

――放課後。

京太郎は、頭を抱えて机に突っ伏した。


「はあぁー……」


アレから大変だった。

うわんうわんと泣く咲を宥めるのもそうだが、加えて朝の通学路となれば周りには他の生徒もいる。

噂が広まるのも、あっという間である。


「嫁さん泣かしたんだって?」

「そんなんじゃねーよ」


早速このネタでからかってくる友人にヒラヒラ手を振って否定する。

未だに朝の咲の様子がおかしかった理由はわからないままだが、自分が何かをした覚えは、京太郎には無い。


「お、噂をすれば」

「あー……」


教室の入口に、咲の姿。

キョロキョロと教室の中を伺い、京太郎と目が合うと、花丸笑顔を浮かべて駆け寄って来た。


「ほら、嫁さんが来たぞ」

「だから、そんなんじゃ――」

「いこっ 京ちゃん!」


友人のジョークを否定する前に、咲に手を握られる。

その咲の姿は、まるで人前でも平気でイチャつくバカップルの片割れのようであり。


「おおーっ」

「あの二人、やっぱりそうだったんだ」

「じゃあ、朝のは……」


噂に尾鰭が付いて広まるのも、時間の問題である。

そして、当然。


「咲を泣かしたんだって?」

「部長まで……」


この手のネタに、久が食い付かない筈がなかった。


「それにしても意外。いつから付き合ってたの?」

「だから、俺と咲は付き合ってませんし。カップルでも何でもないですよ」

「ふーん……?」


腕を組んで何やらブツブツと呟いている久に背を向けて、京太郎は部室のPCからネト麻のアカウントにログインする。

こういう時は、マトモに相手をするだけ損であると、京太郎は分かっていた。


「……ん?」


自分のアカウント画面を確認すると、知らない相手からメッセージが届いている。


「洋榎? 先生? なんのこっちゃ……?」


一応念の為に確認してみたが、メッセージの贈り主に心当たりのある人物は、京太郎の記憶にはない。

面倒な事になる前に、京太郎はさっさとブロック設定をした。


「やれやれ……」


ギャラクシークライシスin清澄な小ネタ
何となくで書き始めたけど下手すると哩姫より長くなりそうなのでカットカットカットォ


というわけで永水の方やってきます

記憶にある京太郎に近付け(もしくは遠ざけ)、独占しようと各時間軸の記憶を持った連中の大戦が始まる。

「なぁ、春」

「……」


返事は無く、ポリポリと黒糖を齧りながら顔を向けてくる同級生。

学校の教室においてもマイペースっぷりを崩さないのは京太郎も見習いたいところではあるが――


「永水って、共学化したんだよな?」

「うん」

「なら、他の男子は?」

「ずっと休んでる。そこの空いた席」

「……」

「あ、退学になったんだった」


――今は、それどころじゃなかった。



キャラ安価下3でー

巴先輩、はっちゃん

学校設立から娘が年頃になったら共学化の話を上げて、婿候補の選別をやっていそう。

京太郎の他に婿候補がいるのか、京太郎で婿は決定済みなので他は名義のみで実際には居らず婿の教育がメインかも。

「はぁー……」


元が女子校だった場所が共学化したという話だから、男子生徒の数は少ないだろうとは予想していた。

が、クラスの男子が自分だけとなれば、流石に堪える。


「ぽい」

「んぐっ」


女子生徒の目線やら何やらで気が重く、大きな溜息を吐いた瞬間に口に放り込まれた何か。

反射的に噛み砕き、飲み込むと甘い味がした。


「……黒糖か」

「疲れた時は糖分」

「ん……ありがとな」


いつの間に隣にいたのか、そしてほんの一瞬の隙を突いて黒糖を口に放り込む俊敏な動作はどこで身に付けたのか。

聞きたいことは色々あったが、春の厚意は有難かった。


「お前がいてくれて良かったよ、ホント」


春のマイペースな性格は話していて気楽だ。

これで彼女まで小蒔のような性格をしていたならば、京太郎の心労は倍に増えていただろう。


春判定 直下
1~30 どういたしまして
31~60 やっぱり、美味しそう
61~98 ……カスが、付いてる
ゾロ目 ???

>529
そうだな(マジ)

十曽湧、石戸明星はどうなるのだろう。

「どういたしまして」


可愛らしい微笑みで、黒糖をもう一欠片差し出してくる。

普段は無表情なのに、黒糖の話になると可愛らしい表情を見せてくるのが、この春という少女だ。


「お……おう。ありがとな」


中学時代の友人と話すような感覚で会話をしていると、このように不意打ちでアプローチを仕掛けてくる。

恐らく春は無意識でやっているのだろうが――そのギャップに少しだけ、京太郎はときめいた。


「?」

「何でもない」


赤くなった頬を誤魔化す為にそっぽを向いて黒糖を齧る。

程良く、甘い味がした。

高コンマだと衆目の前で公開ペロリストでした


キャラ安価下3でー

「ふぁー……」


欠伸と共に目の端に溜まる涙を拭い、廊下を歩く。

鹿児島に来てからの京太郎の朝は早い。

この場の空気がそうさせているのか、怠けようという気にならないのだ。


「……む」


耳をすませば彼女が近づいて来る気配。

そういえば、そろそろ初美が攻撃を仕掛けてくる時間でもある。


「京太郎ー!」

「やっぱり……」


廊下の曲がり角から自分を呼ぶ初美の声。

いつものような不意打ちではないが、それが逆に怖い。


「ふふふ……今日という今日は!」

「それは……?」


覚悟を決めた京太郎の前に現れた、初美が手にしているものは――


はっちゃん安価直下
1~30 首輪
31~60 針と糸
61~90 ペンチ
91~98 ???

針と糸。

正確には、糸が通された針。

光を反射する針の先は、見るからに鋭い。


「さ、裁縫?」

「裁縫ですかー? まー、確かに」


初美が針を持った指を乱暴に振る。


「こうやって、聞き分けのない口を塞いでー」


その仕草は、まるで。


「誰のものか――っていうのを、刻むのは」


五月蝿い小蝿を叩き潰すようにも、見えた。


「裁縫って、呼べるかもしれませんねー」



初美が、笑顔で近寄ってくる。

「……っ!」


静かに、ゆっくりと。

針の先が、京太郎の眼前に迫り――


判定直下
1~25 ハッちゃん? なにしてるの?
25~50 んん……zzz
51~75 二人とも、随分遅いと思ったら……
76~00 京太郎は逃げ出した!

逃げ切れるんですかね(疑問)

ヤバイ。

目の前にいる初美は、普通じゃない。

表情は和かだけど――中身は、何か、別のものだ。


「っ!」


そのことを頭で理解した瞬間に、体は駆け出していた。

向かう先は、初美の反対方向。

とにかく、誰か他の人がいる場所に行かなければならない。



「あーあ」

「誰でもいい……!」


霞でも巴でも春でも、この際小蒔でも。

誰か、初美を止められる人を。


「誰か……!」


けれども。

いくら廊下を走っても、すれ違う人はいなくて。


「霞さんっ!!」


片っ端から扉を開けても、部屋の中には、誰もいなかった。


「なんで……」


そして、息を切らして、柱に寄り掛かる京太郎に。


「お困りですかー?」

「あ……」


さっきとまるで変わらない、初美が微笑みかけた。

「駄目ですよー? ここは色々と『違う』場所なんですからー」

「あぁ……」


右手で針を持ち、左手は京太郎の頬へ添えられる。


「そういえば、出会った時もそうでしたねー」

「……やめて、くれ」


そのまま、左手は首に。


「んー、しょーがないですねー。ちゃーんと、 人の言うことを聞けるように」

「やめろ……!」


「おねーさんが、おまじないをかけてあげますよー」


胸の真ん中に、激痛が走った。

京太郎にステータス【おまじない】が付与されたところで今夜はここまででー

永水編はもしかしたら全国行く前にEND行くかもしれません

それでは、お付き合いありがとうございました!

トんだな(物理)

「麻雀部全滅! アラフォーはすこやんだった!」な気分なので永水のこのパート終わったらプロ編コンティニューするかも


もうちょっと後から始めます

シルバーブルーメがすこやんならノーバやブラックエンドは誰になるんですかね(恐怖)

ここの京太郎はおっぱい大きいこあんまり落としてないイメージ

もうちょっとと言いつつ2時間以上かかってしまった
申し訳ない、始めます


>>584
レッドギラスブラックギラス=哩姫に回される京ちゃんを想像したら何かほっこり

>>585
京ちゃんは落とされる側なので……

「……ぅ、あ?」


全身を覆う酷い倦怠感と共に、京太郎は自分の部屋で目を覚ました。

加えて身体の節々が痛む。汗で寝間着が肌に張り付いていて、気持ちが悪い。


「あ、起きた?」


京太郎が状況を確認出来ずに困惑していると、襖を開いて巴が部屋に入ってきた。

手にはタオルや桶を抱えている。

何があったのかを聞こうと口を開くが、口内が乾いていて上手く舌が回らなかった。


「はい、お水」

「……ありがとう、ございます」


巴から水の入ったコップを受け取り、漸く一息つく。


「心配したよ? 急に、高熱出して倒れたって」

「高熱……?」

「うん。三日前だったかな? 初美ちゃんが君を引きずって部屋に飛び込んで来た時は驚いたよ」

「薄墨、先輩が……?」


「無理はしないでね。あ、あと軽く食べられるもの持ってこようか」

「はい……ありがとうございます……」



立ち上がり去っていく巴の背中を見送る。

直前の記憶は霞がかったように曖昧で思い出せないが――胸の奥が、ちくりと痛んだような気がした。

あ、キャラ安価下3でー

巴の話によると高熱で三日間も寝込んでいた、とのこと。

意識を取り直した今では、熱は完全に引いているようだが、代わりに体調が絶不調状態。


「ベタベタして気持ち悪い……」


さらに、汗を吸った寝間着が絶妙に不快感を際立たせている。

どうにかできないかと辺りを見渡すと、巴の置いていった水の入った桶とタオルが目に着いた。

恐らくこれは、風呂に入れなかった京太郎の体を拭く為に持ってきたものだろう。


「使わせてもらおう……っと」

「京太郎くん!? 目が覚めたって――」


だが、タイミングとは悪い時に重なるもので。


「――あ」

「あ」


ちょうど京太郎が寝間着を脱いだ瞬間に、血相を変えた小蒔が、部屋に飛び込んで来た。

「ご、ごめんなさい……」

「い、いえ……」


甲高い悲鳴が響いた後。

見なりを整えた今でも、小蒔は顔を真っ赤にして京太郎の顔を直視できないでいる。

が、たまにチラチラとこちらを伺う目線が何とも気恥ずかしくて居心地が悪い。


「すいません、心配と迷惑を」

「そんな! 迷惑だなんて……でも、無理は絶対にしないで下さいね」


三日間も寝込んでいたのだから、この少女にはさぞかし心配をかけさせたことだろう。

京太郎の胸の中が申し訳なさで一杯になると同時に――少し、疑問になることが出て来た。


「……そういえば、俺の世話は誰がしてくれたんですか?」


さっきの小蒔の反応では、半裸の体をタオルで拭くなどといったことは、とても出来そうにないが――


こまっちゃん判定直下
1~30 霞ちゃんや巴ちゃんが
31~60 その……立派、でした
61~98 無言で頬を赤く染めてモジモジし始めた
ゾロ目 ???

「霞ちゃんや巴ちゃんが、交互にやってくれました」

「成る程」


確かに、あの二人ならそつなくこなしてくれるだろう。

後でしっかりと礼を言っておこうと、京太郎は心に刻んだ。


「霞ちゃんはスゴく熱心にやってましたよ。いつも顔を真っ赤っかにしてフラフラしながら戻ってましたし」

「なんと……」


まるで清盛の医者である。

色々と面倒を見てくれているのに、霞には益々頭が上がらなくなりそうだ。


「勿論! 私も力になりますから!」


ムン、と頼りない力こぶを作る小蒔に苦笑する。

彼女の場合はやる気が空回りしそうなイメージしかない。


「はは……すいません」

「何でも! 言ってくださいね!」


――もっともっと、しっかりしよう。

京太郎の意思は、更に強くなった。

寝てる京太郎に××する姫様なんていなかった


キャラ安価下3でー

その日の深夜。

何かが動く気配を感じて、京太郎は目を開いた。

元々寝付きが浅かったのもあって、すぐに意識は鮮明になった。

一瞬、また小蒔かと思ったが――病み上がりの自分の布団に潜り込むようなことは絶対にあり得ない。

小蒔が実行しようとしても、霞が止める筈だ。


では、一体誰が――



「寝ない子ですかー? 悪い子ですねー」

「あ……」

「そーんな、悪い子はー」


障子の隙間から差し込む月明かりに照らされて。


「私が躾けてあげますよー」


初美の、一糸纏わぬ姿が、露わになった。



判定直下
1~50 抗う
51~00 なすがままにされた

肩に置いた手は、拒む為ではなく受け入れる為。


「ふふふ、いい子ですねー……ん」


開いた口は、彼女の口を塞ぐ。

全ては彼女のなすがままに、彼女の望むままに。

そうしなければならないと、胸の痛みが訴えた。



判定直下
1~50 二人の行為を、月明かりだけが見守った。
51~00 開いた扉の隙間から、覗くのは――

月明かりだけが照らす、仄暗い部屋の中。

重なる肌に、水の音。

開いた扉の隙間から、二人の行為を覗くのは――


キャラ安価下3

「あら、あら」


二人の行為を中断させたのは、霞の声。

続いて間も無く扉が開け放たれ、暗かった部屋の中が廊下の灯りで暴かれる。


「……おかしいと、思ったのよ」


彼女の表情は、いつもと変わらない。

ただ、握りしめた拳から、小さな血の雫が零れ落ちている。


「……」


霞に続いて、小蒔が部屋に押し入ってくる。

怒りでも悲しみでもない、能面のような表情。

その瞳は、京太郎を見詰め続けている。

「がっ!?」


初美の表情が苦悶の形に歪み、京太郎から引き離される。

脇腹を春に蹴飛ばされ、漏れた声は形にならず、開いた口からは唾と胃液の混ざったものが垂れ流しになり、畳を汚した。


「巴ちゃん」

「……はい」


部屋の外で待機していた巴が、霞の一言で入って来る。

無理をして、表情を表に出さないようにしているのだろう。

瞳の震えは隠し切れず、噛み締めた唇の端には血が滲んでいる。


「ごめんね……」

「う……あ……」


巴が、倒れている京太郎の額に手を添える。


「すぐに、終わるから」



判定直下
1~50 俺が、悪いんです……!
51~00 京太郎は、動けない。

わからない。巴の言葉の意味が。

わからない。彼女たちの、敵意が。

ただ。


「やめて、ください……!」


自分が。


「俺が、悪いんです……!」


足を踏み入れてはいけない領域を、穢してしまったのだということは、理解できた、


「薄墨先輩は、何もしてないです!」

「俺が、悪いんです!」

「俺が、俺から、先輩に――!!」



「京太郎くん」


霞の指が、京太郎の瞼に触れて。


「おやすみなさい」


京太郎の意思は、静かに落ちていった。

「おはよう」


寝起きにドアップな春の顔。

驚き過ぎると、逆に人はリアクションが取れなくなるのだと、京太郎は知った。






「はい、あーん♪」


箸に摘ままれたまま差し出される朝食。

最初は恥ずかしさで抵抗感があったこのやり取りも、今ではすっかり慣れてしまった。






「大丈夫? 忘れ物はない?」

「小学生じゃないんですから」


玄関で心配そうな顔をした霞に引き止められる。

苦笑を浮かべながら、京太郎は手を振って通学路に向かった。

「んー?」

「どうしたの? 忘れ物?」

「いや……」


忘れ物、というよりは。

何か、足りないような。


「……思い出せないなら、きっと……大したことじゃ、ないんだよ」

「それも……そう、ですね」

「……」


チクリと、胸の奥が痛んだ気がした。



【崩れた均衡 欠けた何か
永水日常パート 了 】

日常パート終了ですが、次は学校パートというか安価パートがあります
一応いつぞやのハーレムENDも狙えます
END扱いにして巴さんが見てた!なパターンで進めてもいいですけどね




とりあえず今夜はここで締めます
次はプロ編コンティニューでもしましょうか

それでは、お付き合いありがとうございました!

眠い時にライブ感で進めてはいけない(戒め)
とりあえず、いつぞやのIFENDはまだ可能ですとだけ


プロ編コンティニューですが、どういう風にやりましょうか
今は咏さんENDを無かったことにして翌日からスタートにしようかと思ってますが

こっそりプロ勢キャラ安価
下3まで

コーチ、戒能さん、カツ丼さん了解です
この3人でちょっと義姉ネタ的なもの書いてきます


風越女子麻雀部の部室に、怒号が響く。


「池田ァッ!!」

「ひっ!?」


不甲斐ない教え子への叱責は、愛情の裏返し。

厳しい指導は当たり前、時には鉄拳制裁も。

鬼コーチとして有名な風越のOG、それがこの久保貴子という女性であるが――


「コーチ、いつもより機嫌が良いような……?」

「そう、ですか?」


――後輩には決して見せられない、もう一つの顔があった。

鬼コーチの異名を持つ貴子でも、常に険しい表情を浮かべているわけではない。


「ふぅ……ただいま」


帰宅して、玄関で靴を脱げば頭の中身は即座に切り替わる。

外で張り詰めていた気持ちは緩み、鋭い目付きからは力が抜ける。

それは、自宅という素の自分を曝け出せる場であるのに加えて、


「おかえり、姉さ――んぐっ」


出迎えた義弟を抱き締めるには、鬼コーチの顔はあまりにも不適切だからだ。

最愛の義弟。

貴子にとっての京太郎を一言で表現するなら、この言葉以上に適切なものは無い。

両親を亡くした京太郎を貴子の親が引き取ったのが、もう10年以上も前になる。


『……泣いとけ。思いっきり』


自分が、側にいてやらないといけないと思った。

貴子は不器用ながらも良い姉であろうと努め、京太郎はそんな貴子を実の両親以上に慕った。


「ね、姉さん……?」


いつから、だろうか。

昔は貴子が京太郎の手を引いて歩いていたが、


「……頼む。あと、少しだけ」


この手を離したら、生きていけないのは自分の方だということに、気が付いたのは。

肉体的な疲労も溜まったストレスも、京太郎を前にしては全て吹き飛ぶ。

OBや学校にかけられる圧力も、不甲斐ない教え子への苛立ちも、全てを忘れさせてくれる。


「……おかえり」

「ただいま」


ずっと側にいたい。

就職先も自宅から通える範囲に決めた。

出来ることなら、京太郎も風越に通わせたかったが、貴子にもどうしようもないことはある。


「……ふぅ。悪い、ちょっと疲れてた」

「はは……ちょうど、夕飯出来たとこだから」


だからこうして、家にいる時は、思う存分に京太郎の温もりを味わうのだ。

何故、風越は女子高なのか。


「それでさ、咲のヤツが――」


目の前で、義弟が楽しそうに女友達の話をする度に。

貴子の想いは、深く重く、胸の奥で降り積もっていく。


「……清澄、か」

「姉さん?」

「いや、何でもない。続けてくれ」


出来ればずっと、手の届く場所に置いていたい。

けれどそれは、京太郎の意思を踏み躙ることになる。

第一に京太郎の幸せを願う貴子としては、それは出来ない。

……しかし。


「……なぁ」

「ん?」

「話、聞く限りだと……雑用ばっかしてるみたいだが」

「ん、ああ。まぁ、一年だし、男子だからさ」


それはいい。

一年坊が雑用を引き受けるのは部活動においては当然のことだ。

唯一の男子部員であるなら、尚更のこと。



――だが。


「……練習は、出来てるのか? 零歳部らしいが」


それはあくまでも、『きちんと先輩や先生に練習を見てもらえること』という前提条件があって、初めて成り立つものである。

弟がいいように扱われているような状況があるとすれば、決して見逃すことはできない。

場合によっては殴り込みを仕掛けることも辞さないつもりだ。

「ん……うん、まぁ、それなりには」

「成る程……な」


嘘だ。

貴子は、その態度から、一目で京太郎の部活動での状態を見抜いた。


「よし……じゃあ、この後ちょっと見てやるよ。弟がどれだけ成長してるのか、気になるとこだしな」

「えっ」

「何だ、文句あるのか?」

「……いや、無いけど」

「じゃ、決まりだ」


姉の欲目を引いても、京太郎には潜在能力がある。

自分がみっちり付いて、徹底的に鍛えてやれば、長野個人戦くらいは突破出来るだろう。

貴子は、そう確信している。

京太郎が長野男子個人戦で敗退するようなことがあれば。

あまつさえ、一回戦で敗退するようなことがあれば。


――辞めさせるか。


それは、清澄は京太郎には相応しくない環境ということだ。



更に、貴子が危惧していることはもう一つ。


「嫁田のヤツがさ、アイツのこと嫁さんだとか言って――」


京太郎は、男として見ても魅力がある。

貴子とて、姉弟という立場が無ければ押し倒しているだろうと思う。


「お前は、好きなのか? そいつのこと」

「ばっ、いや……アイツは、好きとかそんなんじゃねーし」


世界でたった一人の大事な義弟。

どこぞの馬の骨とも知らない女に、絆されることがあれば。


「ほー……一度、見てみたいもんだな。なんせ、弟の嫁さんだもんな」

「姉さんまで、そんな」

貴子は、拳を握って待つ。

その日が、来るのを。

大義名分が出来る、その時を。


「本当に、楽しみだ」


長野県予選まで、後一ヶ月。

降り積もった想いがどうなるのかは、貴子自身にも、わからなかった。


【義姉】

とりあえずここまで
戒能さんカツ丼さんは次の更新の時に

次のレスからプロ編再開します
場面は咏さんENDを回避したとこら辺からで

――まぁ、三尋木プロに会いに行くって時点でわかってたけどさ。


朝帰りからの部長のジト目にも、すっかり慣れてしまった。

確かに、指導を受けているとはいえ高校生の身で徹夜麻雀はとても褒められたものではない。

しかし、京太郎にとってはまたと無い機会なのだから見逃して欲しい。


――確かに。そうなんだけどさ。


何となく、部長が拗ねているように感じたが、疲労と眠気が溜まっている京太郎からすれば構っている余裕はない。

京太郎はフラフラとした足取りで自室へと向かった。





キャラ安価下3でー

あ、これプロ編だから学生組基本病み判定無いですよ




シャワーを浴びて眠りから覚めれば時刻は14時00分。

健康的な高校生の生活とは大分かけ離れている。


「随分と余裕なのね。準決勝を前に」


そんな皮肉を言われてしまうのも、仕方のないことである。

昨日の咏の言葉の通りなら、余裕があると言えば確かにそうだが。


「いや、そのですね――」


京太郎が弁明の為に口を開いた瞬間。

タイミング悪く、京太郎の携帯の着信音が、鳴り響いた。



電話をかけてきたのは?
下3で

「ようこそ! はやりのお部屋へ☆」

「お、お邪魔します……」


電話の相手は、牌のおねえさんこと瑞原はやりだった。

『先日のお礼がしたいから是非とも来て欲しいな☆』と、要約するとそのような内容の話を聞いたからには、京太郎には断るという選択肢はあり得ない。


「ちょっと待ってて、お茶入れてくるから」

「あ、はい」


はやりの泊まるホテルの一室で二人きり。

ファンとしては胸が高鳴り過ぎて痛い状況である。


「……ゴクリ」


何だか良い匂いがする気がするし、落ち着かない。


「……ん?」


ソワソワはやる気持ちを抑え、部屋中を見渡していると、ある物がクローゼットの側に落ちていることに気が付いた。

アレは……写真、だろうか。


選択肢
1 拾う
2 気にしない

「これは……」


屈んで、クローゼットの側に落ちている写真を拾う。

裏返してみると、京太郎のハンドボール現役時代の活躍の瞬間が写されているものだった。


「……懐かしいな」


チームメイトとの協力プレイで、ゴールを決めた瞬間だ。

目を閉じれば、今でもあの光景を思い出すことができる――が。


「なんで、瑞原さんが……?」


よく見れば、クローゼットが微かに開いていた。


選択肢直下
1 覗く
2 そっとしておこう……

「……これ、は」


微かに開いたクローゼットの隙間。

何気なく広げてみると、とあるファイルが転がり出てきた。

開かれたページは、京太郎の中学時代の活躍を収めた写真で埋め尽くされていた。


「……」


喉がなり、次のページをめくろうと

「……これ、は」


微かに開いたクローゼットの隙間。

何気なく広げてみると、とあるファイルが転がり出てきた。

開かれたページは、京太郎の中学時代の活躍を収めた写真で埋め尽くされていた。


「……」


喉が鳴り、次のページをめくろうと手を添えて――


「おまたせ☆ アイスティーしかなかったけど、いいかな?」

「うわわっ!?」


不意打ち気味に部屋の奥から現れたはやりに驚き、思わず、ファイルを取りこぼしてしまった。


「む? コラ、勝手に女の子の部屋を漁っちゃダメだよ?」

「す、すいません……でも、コレは?」


指差すのは、たった今見付けた写真。

何故はやりがこんな物を持っているのか、という疑問が浮かぶ。

するとはやりは、「キャッ」と可愛らしく両手を寄せて。


「はやりね――すっかり、京太郎くんのファンになっちゃったんだ☆」

「……へ?」

「あの電車の時は、咄嗟にはやりを助けてくれて」

「あれはその、勢いというか……」

「ううん、勢いでもスゴイことだよ。もしかしたら、大怪我してたかもしれないんだから」


まじまじと見詰められては、京太郎もかなり照れる。

完全にその場の勢いに任せた行動で、しかもセクハラ紛いのことまでしてしまったのだが。


「それでね、京太郎くんが個人戦の選手だって知って、色々調べさせて貰ったんだけど――」

「……」

「スゴイね! 中学時代のハンドボールの試合の動画とか、見惚れちゃったよ☆」


だからね、とはやりは間を置いて。


「京太郎くんが、もっともっと、頑張れるように。もっともっと、いい結果を残せるように」


「はやりにも――協力、させてほしいなって」



はやりん直下判定
1~50 お疲れさま☆
51~89 おはよう☆
90~00 ???
ゾロ目 ???

「おはよう☆」

「――え?」


気が付いたら、ベッドの上で、目の前にはネグリジェ姿の牌のおねえさん。

窓の外から差し込む爽やかな朝陽は、現在時刻が実に健康的な起床時間であることを教えてくれる。


「えっと……アレ?」


確か、昨日は。

はやりに、お礼という名の個人レッスンを受けて。

夜も遅くなって、それから――


「あぁっ!?」


――今日が、準決勝の日じゃないか!

慌ててベッドから跳ね起きる京太郎を、はやりがそっと制止した。


「大丈夫だよ。まだまだ時間はあるから」

「え? え、あぁ……」


その後、はやりの部屋でトーストとコーヒーをご馳走され、京太郎は清澄の部員たちが待つ控室へと向かった。

この時、もう少し京太郎が冷静だったなら――身に付けている下着が新しいものに変わっていることに、気が付いたかもしれない。

京太郎が部屋を出て行ったことを確認して、鍵を閉めた後。

はやりは京太郎の温もりが残るベッドに、全身で倒れ込んだ。


「……えへへ♪」


さっきまで、彼が眠っていたシーツ。

彼の残り香を感じれる場所。


「幸せ……♪」


外と、中から感じる彼の熱。

このまま、目が覚めなくてもいい――と、まさに天にも昇る気持ちで、はやりは目を閉じた。

キャラ安価下3でー

「もう言わなくても分かると思うけど――楽しんできなさい!」

「うすっ!!」


準決勝。

ここを越えれば、後に待つのは決勝戦。


「はは……」


意識すると、急に足が震えてきた。

日本で一番麻雀が強い男子高校生。

その看板に、手が届く位置まで、ついに来たのだ。


「――よし!」


咏の言葉を、貴子の指導を、良子のお祓いを、はやりのお礼を。

それぞれのプロに貰ったものを思い出す。

自分にも、皆にも、誇りに思えるような麻雀を――



「待ってたよ」

「酷いなぁ。ずーっと待ってたのに」


「ここで待ってれば、来てくれるって思ってたけど……」


「うん、やっぱりね」


「また、色んなのが付いてる」



「いらないよね――そんなの」


健夜判定
1~60 その手を、拒む
61~00 その手を、受け入れる

「あぁ……」


彼女のことなんて、あまり知らない筈なのに。

もっと大事な人は、いる筈なのに。


「大好き……♪」


迫る手を、彼女の唇を、拒めない。


「だぁいすき♪」


泥が、胸の中を満たしていく。

何もかも、それまでの価値観を――


直下判定
1~70 ???
71~00 須賀ァッ!

「須賀ァッ!!」


何もかもを健夜に委ねて、目を閉じた瞬間に。

現実では久しく聞いていない、あの怒号が、耳を貫いた。


「え……?」


驚いた風に、健夜が振り返る。

廊下の角に、息を切らした貴子が、眉を吊り上げて立っていた。


「もう、準決勝、始まるだろうがッ……!」

「あっ」


そのまま健夜と京太郎の間に割って入り、京太郎の肩を叩く。

出来の悪い教え子を叱責する時と、同じ顔をしていた。


「オラ、はやく行け……こんなんで失格になったら笑えねえ」

「で、でも……」

「いいから! こんなんで手間かけさすんじゃねぇっ!!」

「は、はい!!」


再度、貴子に強く肩を叩かれて。

呆然として立ち尽くす健夜に一瞬だけ目を向けるが――立ち止まることなく、準決勝の舞台に向けて駆け出して行った。

すいません、眠気がマックスなのでここで区切ります
戒能お姉ちゃんもまた次の更新時に


それでは、お付き合いありがとうございました!

京太郎の朝は早い――というより、早くならざるを得ない。


「……」


太陽が昇り、外からキジバトの鳴き声が聞こえてくる時間帯。

窓から差し込む朝陽を遮るように、無防備な寝顔を晒す京太郎の枕元に一つの影。


「……グッモーニン……」


耳元でボソボソと囁く声。

当然のことながら起きる筈もなく、京太郎は依然として安らかな寝息を立てている。

その様子に、やれやれだと肩を竦める影。


「しょうがねーですね、全く」


すぐに起きないのならば仕方が無い。

これは不可抗力。

そう、あくまで出来の悪い弟を起こす為の行為なのである。


「では、さっそく……」


静かにゆっくりと、眠る京太郎の唇に落とされる口付け。

一切の躊躇いがなく、そして遮るものもないそれは、貪るように京太郎の唇と重なった。

「……ッ!、ンッ!」


堪らず、目を覚ました京太郎がもがいても御構い無し。

マウントポジションを取られた上に両手でしっかりと押さえ付けられては抗う術はない。

侵入してきた舌を押し返そうとすれば絡め取られ、逆に良子の口内に引きずり出されてしまう。


「――ッ!」


息苦しくなり、限界だとタップすれば、良子から息を送り込まれる。

唾液と息と、甘い匂いで京太郎の中が満たされていく。


「んー……ご馳走様」


そうしてたっぷり、良子が満足するだけの時間が経った頃。

解放された京太郎はすっかり頬を紅潮させて、肩で息をしながら良子を見詰める。


「……じゃなかった。グッモーニン、京太郎」


爽やかとは言い難いが、眠気など欠片も残さない目覚め。

これが、この姉弟の毎朝の光景だった。

「ほら、ちゃんとここも流して」


しっかりと目が覚めたなら、次は着替え……の前に、シャワーで寝汗を流す。

時間短縮の為、二人で一緒に浴室に入る。

義姉曰く、こうすることで待ち時間を失くせる上に一人では手が届きにくいところも隅々まで手が届くので一石二鳥だという。


「また、少し逞しくなったね」


シャワーで気持ちをリフレッシュさせたら今度こそ着替え。

当然、二人で一緒に着替えをする。

互いに手伝いながら着替えをすることで、体におかしな部分があればすぐに気付くことが出来る。

義姉曰く、呆れるほど有効な時間の使い方だとのこと。

着替えを済ませたら、二人並んで台所に立つ。

朝食の準備と、昼飯のお弁当の準備である。


「唇にご飯粒が……今、手が離せないからとってくれない?」


残念ながら京太郎も両手が塞がっているので、口で取る。

弁当も最初は良子が一人で用意していたのだが、それでは申し訳ないと京太郎も手伝うようになり。

当番制になった時期もあったが、いつの間にかに有耶無耶になってしまった。


「――いただきます」


そして、朝食。

言うまでもないが、互いに食べさせ合う。

好き嫌いなく栄養のバランスが取れる非常に効率的な方法である。

朝食の後、一緒に食器を片付けたら歯磨き。

勿論、互いに互いを磨きあう。これで客観的に汚れが残っていないかを確認できる。

これらの全てを終えたら、ここで初めて一旦別れる。

京太郎は学校の準備で、良子は仕事の支度で。


「怪しいものは……大丈夫かな」


お互いの支度が終わったら、鞄の中身のチェックも怠らない。

万が一、不審な物が入っていたら大変なことになる。

物騒な世の中、用心するに越したことはない。


「それじゃ」

「いってきます」


全てを終えたら手を繋いで一緒に家を出る。

これで鍵の閉め忘れを防げる。

ご近所さんへの挨拶も忘れずに行い、最後に抱き合ってから、京太郎は学校に向かい、良子は職場に出向く。

目覚めた時から余裕が出来るように行動しているからこそ、こうして姉弟愛を確かめる時間が残るのである。

学校に着いたら、無事に着いたことをメール。

休み時間が来たら、その度にメール。

何か特別な事があれば放課後に電話することを義務付けられている。

報告、連絡、相談は社会人になれば必須になるので、今の内に慣れておけという義姉の心遣いだ。


「おかえりなさい」


部活の後に何も無ければ、出来るだけ急いで帰宅。

玄関の前で待つ良子と抱擁を交わし、お互いにボディチェック。

不審な物が見付かれば即座に処分、決して家に入れないようにする。


「これは……何?」


ここでもし、良子のチェックに引っ掛かるような物が発見されれば、それは報告に漏れがあったということ。

京太郎から見れば他愛ない物でも、保護者の観点から見れば見逃せない物かもしれない。


「いい? 下駄箱に入っていた手紙なんてのは、他の人には見せられないような禄でもないような内容だからね。今度からは読まずに捨てるように」


長い追求の後に、しっかりと念を押される。

少し厳しいかもしれないが、これも義弟の将来を思ってである。

それがわかっているだけに、京太郎も感謝することはあっても、煩わしく思うことはない。

夕食の光景は朝と変わらない。


「でさ、その時に咲が――」

「ふむ……成る程」


メールで連絡したことを、口頭で伝えながら食事をする。

京太郎はトッププロである義姉の活躍に尊敬の眼差しを向け、良子は義弟の話を興味深く聞く。

仲睦まじい姉弟の食卓だ。


「しっかり洗うよ。汚れを残さないように」


食事の後は、風呂。

これも朝と大差は無いが、より念を入れて全身を洗われる。

時折、痛いほどに背中を流されるが、それも愛があってのこと。


「ふー……気持ちいいね。本当に」


浴槽は二人で一緒に入るには少し狭く、肌が触れ合うがそれも仕方ないこと。

しっかり身体の芯まで温まるように、義姉と抱き合って百を数える。

風呂から上がったら宿題や仕事を済ませ、寝るまでの間にお勉強会。

部活で麻雀の練習が疎かになりがちな京太郎の為に、義姉が特別に指導してくれるのだ。

義姉曰く、麻雀に関しては京太郎もそれなりに潜在能力があるらしい。


「ふふ……そうそう、いい子だね」


そうして指導が上手くいった時、義姉は嬉しそうに微笑んで、いつものように――











「待った待った。ちょいタンマ」

「はい?」

――戒能プロってイタコだとか傭兵だとか言われてるけど実際どうなの?


「えっと、まだまだ続きますけど」

「いや、もういいわ。お腹いっぱい」


久は、単純な好奇心で質問したことを、後悔していた。

最初だけはドン引きしながらも冗談だろうと笑い飛ばせたが、淡々と事実を語る京太郎に、これ以上は聞いてはいけないと悟った。

咲やまこがこの場にいないのは、幸いと言えるだろうか。


「まさか、あの戒能プロが……」

「私が、何か?」

「……へ?」


思わずベッドから起き上がる。

噂をすれば影、とでも言うのか。


「あ、姉さん」


たった今までの話題の中心人物、戒能良子が、部室の入口に立っていた。

「どうして?」

「いつもより、帰りが15分遅かったからね」


そう言うなり、良子は京太郎の手首を掴む。

有無を言わせぬその姿に、久も何と声をかけていいのかわからない。


「……あなたが、ここの部長ですか」

「は、はい」


ジロリと、頭の天辺から爪先までを睨め付けられる。

蛇に睨まれた蛙。今の久はまさしくその状態だった。


「……今日は大目に見ますが。次に、このような事があれば」


それだけを言い残すと、良子は京太郎を引っ張って、さっさと部室から出て行ってしまった。

一人部室に残された久は、その言葉の続きを想像して、背筋を震わせた。

「久しぶりだな、姉さんの運転する車に乗るの」

「そうだね……今度の休み、ドライブに行こうか」


助手席に京太郎を乗せ、鍵を差し込む。

運転を始める前に、京太郎と口付けを交わすことも忘れない。

教師や生徒に見られるかもしれないが、むしろ望むところである。


「あ、そういえば春から電話あったよ」

「へぇ……なんて?」

「久しぶりにこっちの方に来るって」

「……グッド。それは、楽しみだね」


良子は、少しだけ乱暴に、アクセルを踏み込んだ。

『英語、話せるの?』


最初は、ただの見栄だった。


『イ、イエス!』

『かっけぇ!!』


血は繋がっていないとはいえ、新しく出来た家族。

仲良くしたい。良いところを見せたい。

その一心で、良子は京太郎にとっての『理想の姉』であり続けた。


『姉さん!』


素直な義理の弟は、尊敬の眼差しを向けてくれた。

慕ってくれるのは嬉しい。懐いてくれるのは気持ちが良い。

そうして頑張って、義弟の期待に応える為に色々と新しいことを覚えていたら、いつの間にかにイタコやら傭兵やらソロモン王やら言われるようになったけど――それは、些細なことだ。


『京太郎くん』

『京ちゃん』

『京太郎』


いつからかは、わからない。


『ごめん、姉さん。また後で』


ただ、気が付いたら、義弟の周りは、随分と人が増えていて。


『ね、姉さん?』


京太郎が、自分以外の女に目を向けるのが。


『京太郎。ちょっと、いいかな』


何よりも、許せないと感じるようになった。

『どうして、そんな目を?』

『どうして、何の努力もしていないのに?』

『どうして、私には――』



一つ崩れれば、更に一つ。

一つ縛れば、更に一つ。

流れるように、自分の中が壊れていくのを、止めることが出来ない。


『……そうだね。一つ、私の言うことを聞いてもらおうかな』

『大丈夫』

『京太郎の、ためになることだからね』



素直な義弟は、本当によく、言うことを、聞いて、くれた。

「姉さん? 信号、変わったけど」

「あ……ん、ありがとう」


もう、止まれない。

良子も京太郎も、とっくのとうに、壊れてしまった。


「疲れてる? 夕飯は俺が作ろうか?」

「そうだね……お願い、しようかな」


もう、誰にも止められない。

死が二人を分かつまで。

二人だけの歪な日常は、止まることなく回り続ける。




【義姉】

京淡が足りない……濃厚な京淡が欲しい


後でプロ編再会します

プロ編再会しますん
>>834の続きからでー

貴子は炎のような激情を瞳に宿し、健夜を睨み。

健夜は、泥沼のように濁りきった瞳で、貴子を見上げる。


「おかしいと、思ったんだ」


もう間も無く準決勝が始まるというのに、京太郎が姿を見せない。

嫌な予感がした。あの時のように。


「……」


健夜は答えない。ただ瞳に宿す感情は、許さないというものだけ。


――彼は、私のもの。


交わる二人の視線、想いの底にあるものは、互いに同じ。

絶対に譲ることの出来ない、呪いのような感情が、彼女たちを縛り付けていた。

『準決勝、終了――!!』


「ふぅ……」


男子個人戦、準決勝。

直前の出来事が気掛かりで、序盤は本来の調子が出せず、危うく敗退するところだったが。


「……ありがとう、ございました」


彼女たちを想うなら、それこそ負けるわけにはいかない。

最後に役満を直撃させ、見事にトップを奪い取った京太郎は、決勝戦へと歩を進めることになった。

恩師たちと対局相手への敬意を胸に京太郎は頭を下げて、準決勝の舞台を後にした。




キャラ安価、下3でー

「おめでとう☆」

「おわっ!?」


胸な残る勝利の余韻と、頭から離れない健夜と貴子の確執。

複雑な想いを抱え、控室へ戻る京太郎の前に、廊下の曲がり角から姿を現したのははやりだった。

不意打ち気味に現れた彼女に、京太郎の心臓が跳ねる。


「び、ビックリしたぁ……」

「ごめんね。でも、すぐにお祝いしたかったから」

「いえ……ありがとうございます。お陰で、勝てました」


昨日のはやりの「お礼」という名の指導。

アレがあったからこそ、自分は勝つことが出来た。


「あはっ! それじゃ、さっそくお祝いにいこっか。奢ってあげる☆」

「えっ」


牌のおねえさんの手が、京太郎の手を握る。

温かく、柔らかい感触が伝わってきた。



選択肢直下
1 すいません、折角ですけど……
2 ……わかりました。ご馳走になります

「すいません、折角ですけど……」


はやりの気持ちは大変ありがたいが、今の自分にやるべきことはまだ他にある。

それに、素直にお祝いムードに浸る気にはならなかった。


「そっかー……じゃあ、しょうがないね」

「すいません」

「ううん。京太郎くんにも都合があるもんね」


名残惜しそうに、はやりは京太郎の手を離す。

いつか埋め合わせをすると決めて、京太郎ははやりと別れ、その場を後にした。



「……えへへ」


廊下の曲がり角に消えた、京太郎の後ろ姿を見送った後。

はやりは、未だに彼の熱が残る掌を胸に、その場に座り込んだ。


「ダメ……♪ まだ、我慢しないと……♥」


溢れ出る気持ち。


「あぁ……はやくぅ♪」


とめどなく込み上げてくる衝動を、はやりは辛うじて、胸の奥に押し留めた。

このはやりってバスでTOLOVEるったはやりだっけ

>>935
電車でラキスケったはやりんです
砂糖たっぷり仕様のはやりんは別の世界線です



キャラ安価下3でー

――準決勝、お見事!


控室の扉を開けた瞬間、何かが破裂する音と、パラパラと頭上に降り注ぐ紙の破片。

どうやら、一回戦の時のように部長がくす玉を用意してくれていたらしい。

しかも、紙片が妙にキラキラしていて一回戦の時よりも少し豪華な仕様になっている。


「はは……ありがとうございます!」


大分、気が楽になったというか。

胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。


「……すいません。ちょっと、いいですか」


お祝いの言葉をくれる友人や、さっそく決勝戦に向けて対策会議を始めようとする先輩たち。

一杯のカツ丼から始まった縁に、本当に、助けられたと思う。


「ホント、申し訳ないんですけど」


だけど。

ずっと、目を話していたことに、向き合わないといけない。


「今から会いに行かないと、いけない人がいるんです」


このまま決勝戦に進んで、優勝したとしても――きっと、幸せには、なれないから。

あの日からずっと、彼を想い続けた。

抱き締めて、愛してくれた、あの時みたいに。

他には何もいらなくて、二人だけいればそれで良かった、あの記憶の中の日のように。


「……ここに、いたんですね」


健夜が泊まる、ホテルの屋上。

沈みゆく夕陽を見詰めながら、思い出に浸る健夜の背中に。


「……来て、くれたんだ」

「ええ……随分と、探しましたよ」


切れた息を整えながら、京太郎が声をかけた。


健夜説得判定、直下
1~33 ???
34~66 絶対に、諦めないから
67~00 聞いてくれませんか、俺の話を

勢いで格好付けて飛び出して来たはいいものの、肝心の健夜の場所がわからず。

会場内を隅から隅まで走り回り、彼女の仕事のパートナーである恒子に聞けばいいのではないかと思い付いたのがついさっき。


「でも、来てくれたんだぁ♪」

「はは……」


運命の再会とは到底呼べない、泥臭いものだが。


「聞いてくれますか、俺の話を」


お陰で健夜と、会うことが出来た。

――もういい。君だけが、いてくれたら。

彼の胸に縋り付いて、涙を流した記憶。


「なぁに?」


互いに一目見た時から、健夜も、そして京太郎も、その記憶に縛られている。


「えっと……ですね」


彼女を拒んではいけないと、重く泥のように絡み付いた想い。

全てを捨て去って、彼女を抱き締めたくなる気持ち。


「うん?」


だけど、今の京太郎には、大切な物が多過ぎる。

受け取った想いや、繋いで来た縁。

何もかもを捨て去って、健夜を受け入れても、きっと彼女を幸せなお嫁さんにしてあげることは、出来ない。

だから。


「――お友達から、始めませんかっ!!」


「……え?」


言われたことが理解できない、そんな標準。

けれど見開かれた瞳は。


「な、なにを……?」


京太郎がよく知る、健夜のそれに、よく似ていた。


「えっと……健夜さんは、恒子さんのことは嫌いですか?」

「……私は、君だけがいれば――」

「嫌い、ですか?」

「……そんなことは、ないけど」


京太郎は、俯いて目を逸らす健夜の手をとった。

夕方の屋上の、冷えた風に当たった手は、少し冷たくなっていた。


「……大事な、人だから。このままだと、きっと、幸せにはなれないから」

「……」

「だから、みんなで、幸せになるために」


「お友達から、始めませんか?」

冷たい風が、二人の頬を撫でる。


「……なに、それ」


身を震わせた健夜を、少しでも温めようと、自分の意思で、抱き締める。

胸に、湿った感覚がした。


「……また、抑えられなく、なるよ?」

「何とかなります。何とかします」

「嘘ついたら、酷いよ?」

「大丈夫です。何とかしてくれる人もいます」

「まったく、本当に……君は」


「……うん。でも、だから――」



続く言葉は、風に掻き消されて、京太郎の耳にしか届かない。

だけど、きっと。

あの記憶に縋るのは、これが、最後になるだろう――


判定直下
1~50 ……何か、妙にスッキリした顔で帰ってきたね
51~00 コンクリートに、固い何かを叩き付ける音がした。

コンクリートに、固い何かを叩き付ける音がした。


「……ん?」

「どうした、の?」

「いえ……」


見渡しても、屋上にいるのは京太郎と健夜だけ。

そして、今の音が聞こえたのは京太郎だけのようだ。


「いえ……そろそろ、戻りますか。冷えてきましたし」

「そうだね」


沈む夕陽を反射して、小さなレンズの破片がキラリと光った。

・健夜の病み度が下がりました!
・???の病み度が上がりました!


あと、貼るの忘れてたのでコレ貼っておきます

プロ編で安価判定やる場合

・特定コンマですこやん乱入 (済)
・特定コンマでのよりん乱入 (済)
・すこやん登場時特定コンマでこーこちゃん乱入
・コーチと二人っきりで強制イベント (済)
・咏さんと二人っきりで強制イベント (ENDまで済)
・のよりんと二人っきりで強制イベント
・はやりんと二人っきりで強制イベント (済)
・かいのーさんと二人っきりで強制イベント (済)
・すこやんと二人っきりで強制イベント (済)
・カツ丼サンクチュアリ……?
・監督勢が京太郎に興味を持ったようです (レジェンド接触済)


キャラ安価下3でー

――何か、スゴくいい顔になって帰ってきたわね。


翌日、部長の開口一番の言葉。

確かに、今の自分はとても健やかな気分である。

昨日のあのくす玉には、本当に助けられた。

今思えば、藤田プロに指導してもらえるようになったのも、ある意味で部長のお陰であるし。

そう考えると、彼女には感謝してもしきれない。


――そ、そう? そっかー。


赤くなった頬をポリポリと人差し指でかく部長。

何と言うか、新鮮で可愛らしい。


――な、なに言って……。


「あ、すいません……電話が……」


「――ちょっと、行って来ますね!!」




――あ! ま、待ちなさい!!……もう。



そんな、舞台裏の光景。

貴子に電話で呼び出された先は、先日訪れた雀荘ではなく、彼女の泊まる部屋だった。

部屋の前でノックをしようと右手を胸の辺りに上げたところで、先にドアの方から開いた。


「おう、来たか。入れ」

「お、お邪魔します……」


手持ち無沙汰になった右手をそっと下げて、京太郎は貴子の部屋へと入った。



「座れ」

「は、はい」


年上の女性の泊まる部屋にお邪魔するのはこれで三度目だが、良子やはやりに招かれた時よりも緊張する。

それは相手が鬼コーチというせいだろうか、それとも。


「ほら、お茶」

「は、はい……いただきます」


縮こまりながら、差し出されたお茶を口にする。

砂糖が入っているのだろうか、少し甘い味がした。


「まずは準決勝突破、おめでとう。やるじゃねえか」

「あ、ありがとうございま」

「で、だ」


貴子の目が、細められる。


「昨日、電話に出なかったようだが――お前、何をしていた?」

「それは……」

「……あの人に、会っていたな?」

「……っ」


一見すると、貴子の瞳は冷静だ。

しかし、彼女の握られた拳から、滴る物は。


「……どうしても、行かないと、駄目だったんです」

「……ほお?」

「俺がやらないと、いけないことだったんです」



コーチ判定直下
1~30 ……それで?
31~60 私の知らないところで、勝手なマネすんじゃねえ
61~98 お前は、私のものだ!
ゾロ目 ???

「……私の知らないところで、勝手なマネすんじゃねえ」

「で、でも」


貴子が、拳を机に叩き付ける。

彼女の手の甲の皮が剥けて、血が出ていた。


「……お前にッ!」

「っ!」

「お前にッ! 何かあったら!! 私はッ!!!」


初めて見る、貴子の顔。

鬼コーチの顔でも、優しく褒めてくれる時との顔でもない。


「それを、お前は……ッ!!」

「貴子、さん……」


一滴の透明な雫が、机の上で弾けた。


コーチ判定直下
1~70 その涙を、拭わないといけないと、思った
71~00 ???
ゾロ目 ???

おまかせあれ!

>>993
やりおった


というわけで次スレです
ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410718540/

続きは次スレで
あとは何か小ネタとかあればどうぞー

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