京太郎「修羅場ラヴァーズ」照「ずっとずっと、愛してる」 (1000)

・京太郎スレ
・短編集的な感じです
・安価もあるかもしれない
・ヤンデレとかあるかもしれない
・話によって京太郎が宮守にいたり臨界にいたりするのは仕様です
・別スレの息抜きでやってたりするので低クオリティは勘弁


前スレ
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400743823/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 健夜「幸せな、お嫁さん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401090438/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402195940

煌さん了解ですー
ちょっと遅くなります

ゆっくりとすばら先輩いきますよー

「やっべ、俺もアイツを笑えねーなコレ……」

「あら、新入生?」


校舎の中で迷子になっている京太郎に煌が声をかけたこと。

これが、二人の出会いの始まりだった。


「では、須賀くんも長野から?」

「ええまぁ、そうですけど」

「すばらっ!」

「すばらっ!?」


同じ長野出身で、根は真面目なもの同士。


「おや、まだ明かりが……誰ですか、もう下校時刻は過ぎていますよ」

「あ、すいません! すぐ片付けますんで……」

「あら、須賀くん?」


ある意味で似たもの同士の二人。


「まぁ、何というか……癖みたいなもんですね。気が付くと雑用やってたりだとか」

「ふむふむ、献身的な精神ですね……大変、すばらです!」

「すばらって……」

「ですが、一人で頑張り過ぎるのも良くありません。きちんと周りにも頼ること!」

「花田先輩……」


話してみれば、打ち解けるのはすぐだった。


「花田先輩、少し教えて欲しいところが」

「お任せあれ!」

「……あれ、何だろう。おかしいところは無いのに違和感が」


共通の話題もあり、会話も尽きることがなかった。

「須賀くんは私の後輩とも面識があったんですね」

「すぐにこっちに転校してきたんで、そこまで仲良くはなれなかったですけどね。まぁ、優希のヤツなんかは――」

「……ふーむ」

「……? 花田先輩?」

「いえ、煌と」

「はい?」

「私も、煌と。名前で呼んでくれませんか?」



そして――


「支えたいんです、あなたを。あなたが俺を、助けてくれたみたいに」

「……」

「一人で頑張り過ぎるのは良くないって、言ったじゃないですか。頼ってくださいよ、俺にも」

「……すみません。少し、胸を借ります」

「……花田、その妙に大きな包みは?」

「お弁当です! 京太郎くんも成長期ですからたくさん食べないと!」

「二人の愛妻弁当ってやつか。そりゃ、その量も――」

「いえ、これは須賀くんの分です! 私のはこっち」

「……成る程、須賀のやつが羨ましか」

「あげませんよ?」

「いらなか。見てるだけで満腹ばい」



「……花田、ちかっと痩せたか? 顔色も悪い」

「そう、ですか?」

「うん。そいけん、今日は早退した方がよか」

「しかし、お弁当を届けなければ……」

「そいくらい私がやる。花田はベッドで――」

「駄目です」

「はぁ?」

「これだけは譲れません。私が、絶対にやります」

「……ばってん、その弁当渡したら」

「……はい」




「……後で、須賀のやつに言っとかんとな」

「誰だろ、こんな時間に……煌さん!?」

「メールの返事が無かったので、もしかしたらと思って……やっぱり、部室に携帯を忘れてましたよ?」

「いや、びしょ濡れじゃないっすか!! どうしてこんな」

「携帯無いと色々と不便ですから……くしゅっ」

「ああもう、今すぐ入ってください! 風邪引いちゃいますよ!?」

「でも、迷惑が……」

「そんなこと言ってる場合ですか!」

「あうっ」



「勢いで風呂にまで入れたはいいけど着替えが……」

「ふふふ……このワイシャツ、中々にすばらです!」

「……まあ、先輩がいいなら」



「……布団が一組しかないから仕方ないとは言え……」

「zzz……」

「ね、眠れん……」

「すばらぁ……zzz……」


「……くしゅっ」

「38度、風邪ですね。今日は一日ゆっくりしないと」

「何故に……普通、逆では……」

「鍛えてますからっ!」

「くしゅっ」



「でも煌さん……学校は?」

「恋人を放って勉学が身に入るものですかっ!!」

「はは……こりゃ、梃子でも動かないな……」

「卒業式、か……煌さんも来年は3年生なんだよなぁ……」

「そう言う京太郎くんには後輩が出来ますね」


「お、ここにいたか」

「部長」

「もう部長じゃなか」

「あ……すいません、哩先輩」

「ん。で、最後に須賀と花田に言うことがあってな」

「はい?」

「何ですか?」



「あー、その……くれぐれも、新入生の前では」

「ああ、節度を守れってことですね」

「大丈夫ですよ。俺も煌さんも締めるとこは締めるべきってのは分かってますし」

「私も、京太郎くんのそういうところが好きになりましたから……」

「煌さん……」

「京太郎くん……」

「まるで出来とらん……」





「しかし、それより心配なのは花田の……」

「花田、ちかっと須賀貸して?」

「ええと、何を?」

「一年に雑用ば教える。須賀が一番上手く説明しーゆっから」



送信ミス……上のはスルーして下さい

「花田、ちかっと須賀貸して?」

「ええと、何を?」

「一年に雑用ば教える。須賀が一番上手く説明しーゆっから」

「ああ、そういうことでしたら」



「そいぎ、また明日ー」

「すいません、お待たしちゃって」

「いえいえ、こうして待つのも楽しいですから……ん?」

「? どうしました?」

「いや……何だか、京太郎くんからいい匂いが……これは、香水? それに……コレは……虫刺されですか?」

「あー……すいません、実はさっき……その、鶴田先輩と転んじゃって……」

「……」

「……それで、その……鶴田先輩を、思いっきり抱き締めたみたいになっちゃって……この首のとこも、その時に……」

「なんとっ!?」

「すいません! でも、決してわざとじゃなくて――」

「怪我は!?」

「――へ?」

「そんなことになってたなんて! 怪我は大丈夫!?」

「あ、ああ……はい、俺も先輩も大丈夫でした」

「ほっ……」

「……」

「まったくもう、そんなことがあったら早く教えて下さい。凄く心配したじゃないですか」

「は、はは……すいません」



「……」

「きょーたろっ♪」

「わっ!? 危ないっすよ、先輩!」

「京太郎がそぎゃんヤワなヤツじゃないのは私がよー知ってる」

「そんなこと言っても……それに、京太郎って」

「もう一年の付き合いばい。京太郎も私のこと名前で呼んで欲しか」

「で、でも……」

「んー? 花田のことなら気にしなくてよか。もう話してある」

「……はぁ、わかりましたよ。姫子先輩」

「花田みたいに呼んでくれんもん?」

「すいません。それは、流石に」

「むー……まぁ、今はそれでよか」



「あ、京太郎くん! 後で明日のお弁当の具材を買いにいきませんか?」

「お! いいですね、荷物持ちなら任せて下さいよ」

「すばらっ! 頼りにしてますよ」




「えへへ……♪」

「んー? 京太郎、どこいくー?」

「どこって……煌さんが熱出したって」

「それで部活サボると?」

「……」

「そぎゃんことしたら花田も悲しむ。花田のこと思うなら」

「……でも煌さんだって、俺が風邪引いた時に」

「……あー、京太郎も頑固もんだったか」

「あの……姫子、先輩?」

「ん。どうしても花田んとこ行きたいなら私ば引きずってけ」

「……はぁ、わかりましたよ。今はメールだけに」

「そいでよか。今は練習!」





「……今は、ね」

「んふふ……♪ 」


「熱か? 痛か? 苦しか?」


「我慢せんでよかよ?」


「おねーさんがまとめて、もらったげるけんね♪」

「あはっ……♪」

「? 随分と、機嫌が良いようで」

「んふふ♪ 貰っちゃったぁ、京太郎の初めて♪」

「まぁ」

「……?」


「あの、どいて貰えます? 明日のお弁当の具材を買わなければ」

「それだけ?」

「はい?」

「自分の彼氏取られたんに、そぎゃんこと言える?」

「むぅ、何と言いますか」

「……京太郎のこと愛しとらんの?」

「それはありえません、が……そうですね。姫子、あなたは哩先輩のことは嫌いですか?」

「ありえん」

「そうです。それですよ」

「……はぁ?」



「好きな人が増えたからって、前から好きな人を嫌いになるわけじゃないでしょう?」

「それに、今だって私は京太郎くんを愛しています。愛されてもいます」


「……ですが別に、愛されなくても良いんです」


「京太郎くんも男の子ですから。私より魅力的な女性を好きになることもあるでしょう」


「むしろ、心配なのは……京太郎くんが私を気にしてその人を心から愛せなくなることですね」


「だって、そうでしょう? 想い人が自分を引きずって幸せになれないなんて……とても、悲しい」


「勿論、その時が来れば私は京太郎くんの前から消えるけど……陰ながら、彼には見えない場所で一生を支え続けます」


「私を踏み台にして彼の幸せが守られるなら……これほど幸せなことはない」


「だって、それが」


「愛するってことでしょう?」





「それでは、私はここで。セールに間に合わなくなっちゃいますから」

「ふふ、今日は彼の大好きなオムライスなんですよ♪」




【きっとそれは、とても幸せな 了】

アカン、佐賀弁難し過ぎる……
変換機みたいなの駆使してましたが、新道時は暫く書けないですわコレ

この手のタイプは書いたことなかったので斬新でした
玄とはまた違った献身系ヤンデレだと思います

あと最後の台詞をオムライスかハンバーグにするかで悩んだのは内緒です
今日はポチポチ小ネタ投稿してこうかとー

【ポンコツ白糸台 プロローグより】



「こんな風にメディアを使って、外堀を埋めるやり方をするなんて」

「……それは、私の京ちゃんに勘違いして近付く奴が多いから」

「私の、か。彼の好みとは随分と遠い位置にいる、お前が?」

「っ!!」


「……だって」

「?」

「だって、全然気付いてくれないんだもん!! ずっと前からアプローチしてるのに!! 」

「!?」

「ぎょうぢゃ゛ん゛のバカ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛っ!!」

「ちょ、照!?」


「あーあー、泣かしちゃった」

「あ、茶柱」



「ほら、ホットチョコレートだ」

「……」ズズッ

「落ち着いたか?」

「……」こくっ

「……ま、まぁ、こうなったら直球でいくしか無いだろう。お前の身体つきは彼の的からは外れてるわけだし」

「……寄せて上げてるくせに」

「……」

「着痩せの逆のくせに」

「……照」

「……菫」


「なぁ、私にも一口くれよ」

「ごめん、今ので品切れ」

「……自分で淹れるか」



「バッカみたい」

「ん? 何か言ったか?」

「んーん? それより早くカラオケいこーよ」

「……お前なぁ」




【チーム虎姫は今日も平和です】

ポンコツ阿知賀を書こうとしたら
そもそもこのスレのレジェンドは最初からわりとポンコツだった

小ネタ安価下3でー

「おはようございます!」


朝、目が覚めたら一面金世界だった。


「……」


確か昨日は宿題を終わらせて、参考書を枕元に置いて寝た筈だ。

それに、こんな目に焼き付くようにギラギラ眩しく光るシャンデリアなんて京太郎の部屋にはない。

枕やベッドもここまで手触りの良い上等なものではなかった筈だ。


「……夢、か」


きっとこれは夢なんだ。

目が覚めたらいつも通りカピバラを撫でて、カバンにテキストを入れて、ダラダラ登校するんだ。

そう結論付けた京太郎は、布団を被り直し――


「起きなさい!!」

「ぐえっ!?」


透華のボディプレスの直撃を受けることになった。

「まったく、いくらなんでもあり得ませんわ。この私を前に二度寝など」

「そう言われましても……」


正直、現実に脳が追い付かない。

気が付けば寝巻きもどこぞの富豪が着るようなバスローブに変えられていた。

それなりに実家が裕福であることを自覚している京太郎でも、この贅沢の限りを尽くした部屋には萎縮してしまう。


「あの、どういうつもりかは分からないけど……そろそろ、家に帰らないと」

「?」

「いや、なぜそこで首を傾げる」

「いや……おかしなことを言うなと思いまして」

「はい?」

「だって、帰るもなにも……ここが、あなたのお家でしょう?」

「……は?」


透華の言葉が、理解できない。


「……どうやら、互いに認識の違いがあるみたいですわ」


透華が腕を組んで溜息を吐く。

それはこちらの台詞だと、京太郎は言いたくなった。

「ハギヨシ」

「はっ」


透華が指を鳴らすと、長身の執事服を着た男性が姿を現した。

扉を開けて入って来たわけでも、物陰に隠れていたわけでもない。

まるで魔法使いのように、急に意識の中に入って来たのだ。

ハギヨシと言われた男がリモコンを操作すると、天井からスクリーンが降りて来た。

その動作に合わせて床の一部が開き、プロジェクターがせり出て来る。


「なんつー……」


この部屋だけで自動卓がいくつ買えるのだろうか。

京太郎は目眩を感じて額を押さえた。


「ふふふ……私の考えた仕掛けに、声も出ないようですね」

「もう……それでいいです」


このお嬢様を理解できる日は来るのだろうか。

京太郎がツッコミを放棄すると、ハギヨシの準備が整ったようだ。


「こちらが、京太郎様の昨日までのお住まいです」

「……え?」


そして、スクリーンに投影された映像に、本当に声を失った。

「正確には、昨日までのお住まいの、現在の様子……ですが」


ハギヨシの声も耳に入らない。

人工衛星によって撮影された、見覚えのある景色。

昨日まで京太郎が通学路として通っていた風景。

違う箇所があるとすれば、ただ一点。


「俺の……家が」

「ですから、あなたのお家はここです!」


昨日まで寝泊まりしていた自分の家が。

まるごと、更地になっていた。


「どうして……」

「面倒ですもの、一々会いに行くのが。だったらこうして同じ家にあなたを連れて来た方が効率的ではありませんこと?」



京太郎は、隣に寄り添う彼女が自分とはまるで違うということを、改めて思い知らされた。

「ご家族やペットについては御心配なく。我が龍門渕によって今まで以上の環境を提供していますわ」

「は、ははは……」


力を抜いて、ベッドに身を預ける。

上質で柔らかいシーツが、京太郎の身体を包み込んだ。


「ふふふ……気に入っていただけようで何より。なにせ、あなたが一生を過ごす部屋ですもの」

「……え?」

「ああ、勘違いなさらぬよう。この屋敷の敷地内、という意味ですわ」

「それは」

「最高の設備に最高の環境。外に行く必要があって?」

「でも、買い物とか」

「この部屋を見てまだ足りないものがあると?」

「……学校、とか」

「それも抜かりなし、ですわ! 我が龍門渕によって最上級の通信教育が揃っています!」

「……」

「そ、それに……その、殿方は……色々とお困りになることがあるとお伺いしましたが……」


急に、乙女のように頬を赤らめ指を組む透華。

しかし、京太郎にはその様子を気にしている余裕はない。


「ハ、ハギヨシ! 席を外しなさい!」

「……」


透華の言葉通り、ハギヨシは無言で頭を下げて部屋から出て行く。

最後に京太郎を一瞥した瞳に哀れみの感情が混ざっていることは、誰も気が付かない。


「……コホン! 私が! 責任を持って処理しますから!」


京太郎の服に手をかける透華。

抵抗する気力は、湧いて来なかった。

「ツいてないよな、お前も……ま、犬に噛まれたものと思って諦めてくれや。相談があれば乗るぜ? オレも、お前のことはけっこー気に入ってるからさ」


「あはは……透華の思い付きは凄いからね、いつも。でも、ボクも君のことは好きだからさ。抜け出そうなんて、思わないでほしいな」


「……息抜きがしたいなら、いつでも来て。ネット環境なら、この部屋な世界でも有数だから」


「キョータローか! 気に入ったぞ! 一緒に遊ぼう!! ずーっとな!!」




「最高の友人たちに、最愛のあなた」

「ああ――きっと、この世にこれ以上の楽園はありませんわね」

「ふふ、あなたも――そう、思うでしょう?」




【きっとずっと、いつまでも 了】

>>118
×「……息抜きがしたいなら、いつでも来て。ネット環境なら、この部屋な世界でも有数だから」

◯「……息抜きがしたいなら、いつでも来て。ネット環境なら、この部屋の設備は世界でも有数だから」


投稿前に見直す癖を付けよう(小並感)

もう龍門渕プロローグこれで良い気がしてきたけど、流石に話の膨らみようがないですね

とりあえず今夜はここで締めますー
次になにやるかは今のところ未定

それでは、お付き合いありがとうございました!

あくまで小ネタなんで龍門渕プロローグやるとしたらまた違う話になりますよ
基本ライブ感で書いてるのでどうなるかはわかりませんが

今日は安価更新ないです

・まとめwiki等は今のところ考えてないです
・今夜も更新はなしですが、他の高校のプロローグもちょっとずつ考えてたりします
・白糸台、永水、臨海の安価パートは宮守の時のような出会い編になります
・あと何故か久保コーチの自分の中でのランキングが急上昇中。そのうち別にスレ建てるかもしれない


以上、業務連絡的なものでした

とりあえずアンケとりますかー


次は

1 白糸台出会い編
2 臨海出会い編
3 プロ勢、コンティニューする?
4 永水出会い編
5 宮守全国大会後
6 松実京太郎、遠征するの巻
7 京咲哩姫NTR短編
8 モンブチーズ出会い編
9 その他 何か希望があれば

のいずれかになります

167が強い感じかな
直下コンマで決めます

1~33 白糸台
34~66 松実
67~99 哩姫
00 お好きにどうぞ

では次は白糸台でー
スレタイまで行けるかはコンマ次第

――4月1日、入学式。

桜の花びらが新しい始まりを告げるように舞い散り、白糸台高校も多くの新入生を迎えていた。

そして、京太郎もその内の一人として、片手のプリントの指示通りに自分のクラスに向かっていた。


「ふぁ……」


込み上げてきた欠伸を噛み殺す。

昔からの知り合いは一人もいない環境だが、不安はない。

なんだかんだ言って上手くやっていける自信はある。

ただ一つ、心配があるとすれば。

長野においてきたアイツは、上手くやっているだろうか――



「京、ちゃん?」

「え?」


直下判定
1~30 やっぱり、京ちゃんだよね?
31~60 久しぶり、だね
61~98 ……
ゾロ目 ???

『京ちゃん』


自分をその名前で呼ぶ女の子は、そう多くはない。

それに、聞き覚えのあるこの声は。


「うん。やっぱり、京ちゃんだ」


振り向けば、クスリと笑う彼女の姿。

見覚えのある特徴的な髪型。

懐かしい記憶が掘り起こされる。

これが間違いでなければ、彼女の名前は――


「……照さん?」

「久しぶり、だね」


宮永照。

長野に置いてきた幼馴染の、姉だ。

「久しぶりですね」

「京ちゃんも白糸台に来てたんだ」

「はい、色々あって……でも、咲のやつが――」


直後、校内に鳴り響く予鈴。

新学期一番最初のホームルームが間も無く始まることを知らせる音に、京太郎の言葉は遮られた。


「……ほら、京ちゃんも行かないと。新入生がいきなり遅刻だなんて、大変だから」


予鈴に掻き消された為か、今の京太郎の台詞がまるで耳に入らなかったかのように。

照は、一年生の教室の方向を指差して、京太郎に先に行くように促した。


「……それじゃあ、また後で」


その態度は腑に落ちないが、急がなくては遅刻してしまうのもまた事実だ。

納得はいかないものの、京太郎は照に頭を下げて、急ぎ足で自分の教室に向った。




「……」


その後姿を見つめながら、照は自分の胸の内に芽吹きつつあるモノを感じた。

頬が緩み、口角が吊り上がる。

チームメイトにも、マスコミにも見せたことのない、花開くような微笑み。


「京、ちゃん」


ホームルームが始まっても尚、教室に来ない来ない照を怪訝に感じた同級生が迎えに来るまで。

照は、その場に立ち尽くしていた。

コンマが普通だったのでスレタイ補正入れても照さんの闇度は低め
次はシャープシューターさん行きます

……あれから、何度問い詰めても。

咲の名前が出る度に、照はまともに答えてくれなくなる。

家族の事情に赤の他人が入るのは野暮だ。

だが、それが分かっていても――京太郎は、照を放っておけなかった。


「……あ、もうこんな時間か」


下校時刻を知らせるチャイムと、暗い空。

白糸台麻雀部の入部テストを辛うじて潜り抜けた京太郎は、新入生の役目である雑用に勤しんでいた。

照を追い掛けて入部したはいいが、麻雀に関してはまるで才能の無い京太郎。

当然ながら、一軍のエースである照と触れ合える機会は無い。

だから、こうして最もヒエラルキーの低いものに与えられる役目をこなしている。


「ハンドボールの経験が麻雀に活かせれば……なーんて、なぁ」


「……ん? 誰か、残っているのか?」


菫判定直下
1~30 1年生か。早く帰りなさい
31~60 君は……照が、話していた?
61~98 何……だと……?
ゾロ目 ???

今日は顧問の不在やメンバーの欠席等、様々な要因が重なって部活動自体は早めに終わった筈。

菫自身、図書室で自習を済ませた後で忘れ物に気が付かなければこうして部室に来ることもなかった。

だと言うのに、部室に灯りが点いている。誰かが居残りをしているようだ。


「感心なことだが……ふむ」


部室からは殆ど音が聞こえてこない。

麻雀をしているわけではないのだろう。

部内のPCでネット麻雀をしているのかもしれないが、その話は聞いていない。

既に下校時刻を知らせるチャイムは鳴っている。

伝統ある白糸台の部長として、この状況を見過ごすわけにはいかない。

意を決して、菫は部室の戸を開き――


「何……だと……?」


――心を、弓矢で撃ち抜かれた。

蛍光灯の灯りを受けて煌めく金髪。目を離せない。

高い身長と引き締まった体躯。あの腕に抱き締められたい。


「あ、部長?」


そして聞き心地の良い声。もしこの口から、愛の囁きを聞くことが出来たのなら――


「あの、どうしました?」

「はっ!?」


気が付けば目の前に彼の顔。

脳内で彼と結ばれる瞬間まで想像していた菫は、一気に現実まで引き戻されて後退った。


「ん、ゴホン! 今日の部活動はもう終わった筈だが?」

「え? でも、一番下手なヤツが最後まで残って雑用をするものだって、先輩が」

「……ほう?」


自分の鬱憤を新入生で晴らすような屑。

しかもそれを、よりによって彼に押し付ける輩がいるらしい。


「……私は3年間この部にいるが、そんな話は始めて聞いたな」

「え」

「ふむ、わかった。次からはそのような話が出たら必ず私の元にまで来るように。分かったな?」

「は、はぁ……はい」


素直に頷く彼に、菫は満足して腕を組む。

そうだ、それでいい。

お前は、私のことだけを見ていればいい――

「だが、気に入った」

「はい?」

「投げ出さずに最後までやり抜くのは立派じゃないか、うん」

「まぁ……そんな、大したもんじゃないっつーか」

「謙遜しなくてもいい。それはきっと、いつか君の為になることだからな」


菫はいったん京太郎から視線を外すと、部室の机に置き忘れていた携帯を手に取った。


「アドレスを交換しないか?」

「え!?」

「同じことがあったらすぐに私に連絡してくれ。顧問の先生にも伝えよう」

「あ、ああ。そういうことでしたら……」


彼もポケットから携帯を取り出し、菫とアドレスを交換する。

須賀京太郎――赤外線通信で送られて来たプロフィールを見て漸く、菫は彼の名前を聞いていないことに気が付いた。


――そうか、彼が『京ちゃん』か。


チームメイトがしきりに口にしていた名前。

あの照が気にかけるのだから相当な人物なのだろうと予想していたが、確かに彼ならば頷ける。


――だが、悪いな照。彼は、私のものだ。

――お前には、勿体無い相手だ。


菫はそっと、カバンのポケットに携帯をしまった。

わりと平和ですね
次は伝説のフィッシャーウーマン亦野先輩です

――ありがとう、君のおかげで不当な扱いを受ける下級生がいなくなった

――コレが私のネット麻雀のIDだ。暇があったら打とう。指導してやる

――なに、遠慮することはない

――で、君は大体どの時間帯が空いている?

――ふむ、なるほど。ところで、君の好きな食べ物を教えてくれないか?

――ふむ、好きな映画は? 本は読むか?

――もし良かったら、私の――



「……これ、途中から部活関係ないような」


この後も何十通と続くメールのやり取り。

お陰で少し寝不足だ。

携帯を閉じて、京太郎は溜息を吐いた。


「……ん?」


爪先が軽く、何かを蹴飛ばした。

陽の光を受けてキラリと光るソレを拾い上げてみると――


「これは……ルアー、だっけ?」


釣りに疑似餌として使う道具。

何故かそれが、廊下に落ちていた。

摘み上げて見てみる。

プラスチック製の魚。銀色に光る針が付いている。

うん、どう見てもルアーだ。


「何故に……?」


まさかこんなところでフィッシング、なんて洒落込む人はいないだろう。

そして白糸台には釣り部なんてものは存在しないし、余計に疑問は深まる。



「あ、それは!」


京太郎がルアーを摘み上げて突っ立っていると、廊下に元気の良い女子の声が響いた。

振り返ると――


亦野先輩判定
1~30 ごめん、多分ソレ私の!
31~60 ありがとう、君が拾ってくれたのか
61~98 ……大物が釣れた、か
ゾロ目 ???

「ありがとう、君が拾ってくれたのか」


女子にしては短い髪。

運動系の部活に所属していそうな印象を受ける容姿だが――確か、彼女も。


「亦野先輩」

「お? どこかで会ったっけ?」


白糸台麻雀部の、一軍だった筈だ。


「いえ、俺も麻雀部なんで」

「あー、成る程! じゃあ私の可愛い後輩ってところか」


ハキハキと元気の良い声。

白糸台の女子では始めて話すタイプの人だ。


「まぁ、何にせよ助かったよ。この前、友達と一緒に釣りに行ったんだけどさ、学校で待ち合わせたのはいいけど、ソレをどっかで失くしちゃってたんだ」

「あー、道理で」


こんな場所にこんな物が落ちているわけだと、京太郎は納得した。


「やっとスッキリした。ありがとな」

「どういたしまして」



ルアーを受け取って去って行く誠子の後姿を見送り、京太郎も自分のクラスに戻った。

どうやら釣り糸が切れていたようです
まぁ、いずれはプロローグみたいになるんですけどね

次はハーヴェストタイム……になるのかな?

「須賀くーん、お茶淹れてよー」

「ハイハイ」


同級生にせがまれて給湯室へ。

初めは雑用の一環としてやっていたことだが、何度も繰り返しているうちに楽しくなってきた。

今では自腹で用意したものをこっそり棚に置いていたりする。

さて、今日はどのお茶を――



「……」


尭深判定直下
1~30 ……。
31~60 それ、違う
61~98 ……ちょっと、見てて
ゾロ目 ???

「……」

「あの、先輩?」

「……」


京太郎の問いかけに、尭深は答えない。

ただ無言で、京太郎から奪い取ったポットと茶葉を使い、本来なら京太郎が淹れる予定だったお茶を淹れている。


「……お茶にも、ちゃんとした淹れ方があるから」

「へ?」


手際良く作業を進めながら、尭深が口を開く。


「自分で買ってくるくらいなら、もっとしっかりやったほうが良いと思う」

「バレてましたか……」


中々に上達してきたと思っていたが、尭深からすればまだまだなようだ。

尭深の淹れたお茶は、京太郎が自画自賛するものよりも、ずっと美味しかった。

同じ茶葉なのにここまで味が違うのか――と、京太郎は自分の未熟を思い知らされた。


「……」


そんな京太郎を眼鏡を通して見つめながら、尭深はマイペースにお茶を啜った。

収穫ならず
次は高校100年生のターンです

「じーっ……」


春の陽気に耐え切れず、転寝していた京太郎が目覚めて一番最初に目にしたものは、自分を見詰める緑の瞳だった。


「……」

「じーっ……」


距離が近い。

少し動けば鼻先が触れ合うだろう。


「……」

「じーっ……」


それでも京太郎が何も言わなかったのは、未だ頭が覚醒しきっていなかったからだ。

そんな京太郎に対して、この緑の瞳の持ち主は――


淡判定直下
1~30 フツーだ!
31~60 金髪だ!
61~98 イケメンだ!
ゾロ目 ???

「金髪だ!」

「……まあ、うん」


何言ってんだコイツ。

それが、京太郎のこの女子に対する第一印象だった。


「うーん、テルが気にするヤツっていうから見てたけど……」

「……」

「うん! 金髪だ!」


それはあんなに詰め寄って見なくても気が付くだろうと突っ込みたくなったが、今の京太郎の中ではそれよりも寝起きの気怠さが優先された。


「まー、しょーがないかー。私と同じ金髪とあらばテルーもほっとけないよね!」

「……」


腕を組みウンウン頷く金髪女子。

「あ、コイツアホだ」と、寝起きで頭が上手く回らない京太郎でも、それだけは強く感じた。


「よし!」

「へ?」


手首を強く握られる。


「打つぞー! どっちが真の金髪を賭けて勝負だ!」

「はぁ!?」


拒む暇もなく、京太郎は金髪の女子に連れられて教室を出て行った。

×「打つぞー! どっちが真の金髪を賭けて勝負だ!」
◯「打つぞー! どっちが真の金髪かを賭けて勝負だ!」

「弱い!」

「うぐぐぐ……」


真っ白に燃え尽きて卓に突っ伏す京太郎と、腕を組んで勝ち誇る淡。

同じ金髪同士でも、二人の様子は対照的だった。


「うーん、あっさり勝っちゃったけど……テルーはこんなヤツのどこがいいんだろ?」


「知りたい?」


「あ、テルー! 私勝ったよ!」

「知ってる。見てたから」

「テル……?」


照の様子が少し変だ。

マスコミに向けたものとも、身内に向けたものとも違う、完全なる無表情。

少なくとも淡は、照のこのような顔を見たことは一度も無い。


「淡、打とうか」

「へ? 良いけど」

「……」

「え? 何か言った?」

「別に」



――数時間後、真っ白に燃え尽きた金髪頭が仲良く二つ並んだそうな。

「京ちゃん」

「なんです?」

「読んでみただけ」

「……」



「な、なぁ須賀くん。君の好みはどれだ?」

「……あの、麻雀の指導では?」

「ああ、君の趣味嗜好を知ることでスムーズに教える事ができるんだ」

「マジかよ……」



「今度、釣りに行かないか? 道具一式は貸すからさ」

「マジすか! 行きます行きます!」

「はは、頼むから釣りの時はもうちょっと抑え目にな」



「紅茶も緑茶もちゃんとした淹れ方があって、ちゃんとした考えがあるの……」

「へぇー」

「須賀くんも、やってみて」

「はい!」



「きょーたろー!! 勝負しろー!」

「おわっ!? 引っ付くな鬱陶しい!」

「なんだとー!!」


「……」

こうして京太郎は、チーム虎姫の5人と出会った。

勢いに任せて始めた麻雀だが、この5人のお陰で何だかんだと上手くやっている。

――だが。


「……」


京太郎は、気が付かない。

自分の周りの変化に。

自分の周りの女子が、自分のことを、どう考えているのか。

自分のことで手一杯な今の京太郎に、気付く余裕は、ない。




【白糸台出会い編 了】

阿知ポなんてなかった、いいね?


みんなコンマ低めなので今後白糸台でイベントを進める場合はギスギス度と病み度を高めていく感じになりますー
宮守は全員高コンマだったのでさっさと全国に行きましたが、こっちでキャラ安価進める場合は最低でも一人は白糸台のキャラがいる必要があります

さて、次は


1 白糸台日常編
2 臨海出会い編
3 プロ勢編、コンティニューする?
4 永水出会い編
5 宮守全国大会後
6 松実京太郎、遠征するの巻
7 京咲哩姫NTR短編
8 モンブチーズ出会い編
9 その他 何か希望があれば


のいずれかになります

147が強いですね
直下コンマ判定で
1~33 白糸台
34~66 永水
67~99 哩姫
00 お好きにどうぞ

では次は哩姫で
安価無しで方言は色々とアレな出来ですが気楽に読んで下さい

ぼちぼち行きます……が、途中で区切るかも

――ああ、まただ。


京太郎は、全身の自由が失われていく感覚に目を閉じた。


首を絞める鋼鉄の輪。

手足を縛る冷たい枷。

自分にしか見えない無機質な鎖。



「京ちゃん、お腹痛いの?」

「いや……何でもない」

「何でもない……って」


幼少時から続くこの感覚は、誰にも共有する事は出来ない。

不安気に顔を覗き込む幼馴染にも理解はされないだろう。


「本当に、大丈夫だから。ちょっと考え事してただけだ」

「ん……なら、いいけど」


この繋がれた鎖の先に、何があるのか。

それを知る日は、来るのだろうか。

「ほら、そんなとこで本読んでたら目ぇ悪くなるぜ」

私には、幼馴染がいる。

「だからって外に出てまで本読むヤツがいるかよ……」

人の気持ちなんか知らないで。

「が暮れてもまだ読んでんのか……スゲぇよお前」

ズケズケと入って来て。



「ほら、コレ。風で飛ばされてたぞ」

放って置けばいいのに。

「やれやれ、本当面倒くさいなお前」

それはこっちの台詞なのに。

「よっと……気持ちいいな、風」

何故か、いつも隣にいて。

「ほら、タオルケットとか。このぐらいはあった方がいいって」

世話を焼いてきて。

「……そろそろ帰るか?」

それが、当たり前になっていた。


そんな男の子が、一人いる。

「ほら、この本だろ?」

「背が低くて届かないって……そりゃ本ばっか読んでるからなぁ」

「ちょっとは外に出て運動くらい――あ、失礼」

「……へいへい。お姫様は人使いが荒いことで」


その男の子は本当に無神経なのに。


「……その、さ」

「俺には……お前がなんでそんな顔してるのかは分からないけど」

「ああ、うん……言わなくてもいい。けど」

「愚痴ぐらいなら、聞くぜ?」


一緒にいても、嫌じゃない。



「お前はダメダメだからなー」

「……え、マジで? 料理できんのお前」

「今度食わせてくれよ」

「……ああハイハイわかったわかった。買い物でも何でも付き合うよ」

「全く、面倒くさいお姫様だこと」


何となく、これからも一緒にいるんだって。

そう、思ってた。

「……今度、引っ越すことになった」

「九州の方だって、一月後に」

「……嘘じゃねえよ。冗談で、こんなこと言わない」



なのに。


「多分、暫く戻って来れない」

「カピーも向こうで設備が整うまで知り合いに預けるってさ」



どうして。


「だから、こうするのも……」



そんなこと、言うの――

「……そんな顔すんなって、今生の別れじゃないだろ」

「でも……」


今にも泣き出しそうな咲の顔。

京太郎にとって、彼女のこの表情は何よりも苦手だった。

だから、京太郎は――


「うりゃっ」

「わっ!?」


両手で咲の頬を包み込む。

そのままこねくり回す様に手を動かす。

モチモチの感触が弄くってて楽しい。


「手紙、書くから。毎日は流石に無理だけど」

「……」

「あと、メールも――ってお前携帯持ってなかったか。まぁ、手紙にアドレス書いとく」

「……」

「それにSkypeとか、ビデオチャットとか、色々あるんだ」

「……京ちゃん」

「……咲?」


手を降ろす。

咲の両肩がプルプルと震えて――


「仕返しっ」

「甘い」

「ひゃんっ」


――飛び掛かって来たので撃墜する。

彼女の行動など既に読み切っているのである。

車の窓から覗ける景色が段々と知らないものに変わっていく。

長野に残した咲のことは心配だけれど、京太郎にも自分の生活がある。

彼女ばかりを気にしてはいられない。


「……やっぱり、か」


新しい環境への不安と期待。

京太郎の胸の内を読み取ったかのように、あの鎖が喉に巻き付く。

獲物を見付けた蛇のようだと、京太郎は思った。


――心なしか、道が進むにつれて、鎖の締め付けが強くなっているような。

そう考えたところで、鎖に身体の自由を奪われた京太郎には何もできない。

拘束に抗うことも考えることも放棄して、京太郎は目を閉じた。

一旦区切りー
続きはまた次回に

お付き合いありがとうございました!

後で投下したい所存……

九州の新居に着き、引っ越し後の荷解きを終えた夜。

新しく買った机を前に、京太郎は唸っていた。


「うーむむ……」


咲に手紙を送るとは言ったものの、いざペンを手に取ると何を書けばいいのかが分からない。

これが携帯のメールならばもっと気安いやり取りが出来るのだが、今手にしているのはシャーペンと便箋。

一言二言で済ませるのは何となく勿体無い気分になる。


「あー……わからん!」


考えるのが面倒になったのでペンを放り投げて背伸びをする。

全身からペキパキと小気味の良い音が響く。

引っ越しの手伝いで重たい荷物の持ち運びを繰り返し行ったことで、身体が疲れていた。

眠気もあり筆も進まない。


「……また明日にするか」


明日に少し、家の周りの散歩をしてみよう。

その方がアレコレと考えるよりも、話のネタが出て来るような気がする。


「……」


布団を被り目を閉じる。

何処からか視線を感じた気がするけれど、今はそれより眠気が勝る。

明日から始まる新生活への期待と不安を胸に、京太郎の意識は落ちて行った。

そして翌日。

よく晴れた青空の下、見知らぬ風景を前に京太郎は立ち尽くしていた。


「やべぇ……」


――迷子になった。

携帯と財布を持って意気揚々と出掛けたものの、帰り道がわからなくなった。

頼みの綱の携帯はバッテリー切れ。昨夜に充電し忘れた。

道を通り過ぎて行く車の音が無情に聞こえる。


「俺もアイツを笑えねえな……」


こんな時に脳裏に浮かぶのは幼馴染の困り顔。

放って置くとよく迷子になる彼女の気持ちが少しだけ理解できた。

ただこの場合、彼女と異なるのは、迷子になっても助けてくれる存在がいないことで――


「なんばしよっと?」

「……はい?」

長い髪を二つに纏めた少女――白水哩に先導されて道を歩く。


「すいません、ホント」

「気にせんでよか」


買い物に出掛けたところ、いつもの道に見知らぬ男が困り顔でウロウロしていたので気になって声をかけてみた、とのこと。

引っ越して来たばかりで道が分からず迷子になったと正直に話すと、哩が道案内をしてくれることになった。


「そいに、私の後輩にも一人長野から来んしゃったのが居る」

「へぇ」


所々に訛りはあるが、余所者の自分にも聞き取れるように配慮して話しているような話し方。

見知らぬ土地でも親切な人はいるものだと、京太郎は胸が温かくなった。


「……そうだ」


帰ったらコレを手紙のネタにしよう。親切な人がいた、と。

もしかしたら長野にもこの人みたいに親切な人がいて、お前が迷子になっても助けてくれる人がいるかもな――なんて。

手紙の文面を頭に思い浮かべながら、色んな意味で出掛けてみて良かったと、京太郎は思った。


「ここばい!」

「ありがとうござ――え?」


そして、少女に先導されて辿り着いた場所。

そこは、自分の家の近所ではなく、これまた見知らぬ建物の前だった。

「ごめん!」

「ああいえ、そんな謝らないで下さいよ!」


テーブルを挟んで頭を下げる哩を慌てて止める。

どうやら道案内をする筈が、いつもの感覚でつい友達を招くように自分の住む寮に連れて来てしまったらしい。


「ぬっか日にこんな連れ回して……」

「いえ、そんなことは」


哩に出された麦茶を啜る。

確かに、春先にしては暑い日の中で必要以上に歩き回ることになったが、こうしてお茶を淹れて貰った上に携帯の充電までさせて貰っているのだ。

これで文句を言おうものなら罰当たりというものである。


「折角張り切ったのに……」


だがしかし、当の本人はそう思ってはいないようで。

出会った時のクールな印象とは打って変わってしょげている哩に、京太郎の頬が緩む。

――意外と抜けたところがある人かもしれない。

美人な人だけあって、その仕草から生まれるギャップは中々のものだ。


「あ! お茶お代わりいる!?」

「ああいえ、大丈夫で――」


そして、どうにかして挽回しようと躍起になっているらしかった。

頭を上げたかと思うと、空になった京太郎のコップを持って、止める間もなく台所に向かう哩の姿に言葉を失う。


「九州の女性って強引な人が多いのかなぁ……?」


手持ち無沙汰になった京太郎は天井を見上げて――急激に訪れた眠気に負けて、意識を失った。

慣れない土地で疲れてるからね、仕方ないね

「……本当に、ありがとうございました」

「そいぎ、また今度ー」


玄関で手を振る哩に頭を下げて、女子寮を後にする。

京太郎の目が覚めた時にはすっかり日も暮れていて、充電の完了した携帯には両親からの留守電とメールが残されていた。


「いい人……だったなぁ」


哩から見れば自分は初対面であるにも関わらず自宅で爆睡した男だ。

それなのに風邪を引かないようにタオルケットまで掛けてくれて、気遣ってくれた。


「綺麗な人は心も綺麗だとか――くしゅっ」


柄にもないことを呟いて、吹いて来た風に身を震わせる。

昼間は少し暑い日だったが、夜は少し肌寒い。

寝汗のせいか首筋も湿っているし、少し窮屈な体勢で眠ったせいか体が締め付けられたような感覚がある。


「……ちょっと速く帰るか」


携帯を開き、自分の家までのルートを検索する。

きっかけさえあれば、自分の通って来た道は思い出せる。

少しだけ歩く速度を早めて、京太郎は家に帰った。



「……」


遠くから自分を見つめる瞳と、鎖の擦れた音。

まだ、気が付かない。

その日の夜。

自分の部屋で机に向かう京太郎の筆の進みは、昨夜よりも速い。

体のダルさはあるが、昨日ほど疲れてはいないし、何よりもネタがある。


「哩さん、また会えるかな……ん?」


咲への手紙をキリのいい所まで書き終えて、椅子に背中を預けるとジーンズのポケットに違和感を覚えた。

財布と携帯以外に、ポケットに何かを入れた覚えはないが――


「……え゛?」


ジーンズのポケットから出て来たものに、絶句する。

黒い下着。女性のもの。絶対に母親のものではないことは断言できる。


「つーことはだよ……コレって……」


今日、哩の部屋に上がった時に偶然紛れ込んだとしか考えられない。

だとすると、コレの持ち主は――


「うわ……」


ずるりと、顔を真っ赤に染めて椅子から滑り落ちる。

心臓がバクバクする。


「……どーすりゃいいんだ、コレ」


親には絶対に言えない。

勿論、咲への手紙にもこんなことは書けない。

持主に返すにしてもどう渡せばいいのか。

母親に「さっさと風呂に入れ」と部屋のドアをノックされるまで、京太郎は床の上で大の字に寝転がっていた。

どうやったらパンツが紛れ込むんですかねぇ…

はい(真顔)

そういえば…洗濯済みのやつなのか否か…

……今度、部屋に行った時にこっそり置いて来よう。


一晩悩んだ末にそう結論付けて、京太郎は再び哩の部屋に行くことに決めた。

お礼ということで菓子折も持っていけば不自然ではない筈だ。

色んな意味で眠れない夜を越えて、哩の住む女子寮を訪れた京太郎だが、


「あ、白水さんいないんですか……」


運悪く、哩は出掛けているらしかった。

菓子折については受付に預ければ渡してくれるらしいが、それでは例の下着が返せない。

まさか菓子折に下着を添えて渡す訳にもいかない。

京太郎が首を傾げて悩んでいると――


「部長に何か用?」


一対のヘアピンで髪を留めた女子に、声を掛けられた。

姫子キター
しよう(ゲス顔)

事情を話した京太郎は――勿論下着の件は伏せたが、鶴田姫子と名乗る少女に連れられて再び哩の部屋に訪れた。

どうやら彼女と哩は同棲しているらしく、いつもは二人一緒にいるとのことだが、今日と昨日は偶然巡り合わせが悪いようだ。


「君が須賀くんね。部長から話は聞いたけん、ゆっつらーとしてて?」

「ああいえ、お構いなく」


菓子折を渡すと、目の前に出される麦茶。

お構いなく、というか構うのを止めて貰わないと下着を返すタイミングがない。

そんな京太郎の心境に構いなく、姫子は京太郎のすぐ隣に座った。

女の子らしい、シャンプーの匂いが鼻を擽る。

肩が僅かに触れ合っている。耳を澄ますとお互いの呼吸の音が聞こえそうだ。


「あの……?」

「んー?」


――近くないですか?

と、言えたら楽だが言いにくい。

ニッコニッコと満面の笑みを浮かべる姫子を前にすると、喉に出かかった言葉が引っ込んでしまう。


「……何でもないです」

「んー♪」


初対面の筈なのに妙に上機嫌だ。

何処となく居心地の悪さを感じて、それを誤魔化すように京太郎は麦茶を飲み干した。

「ところで、部長って?」

「部長は部長――って、ああ。そいね」


間を持たせる為に京太郎が質問をすると、姫子は得意気に腕を組んだ。


「ふっふっふ、聞いて驚くことなかれ! 何と我らが部長こと白水哩は――あの新道寺麻雀部の部長ばい!」

「はぁ……?」

「……アレ?」


力説する姫子だが、京太郎は首を傾げることしか出来ない。

一種の滑った空気が流れ、姫子は怪訝な顔を浮かべた。


「須賀くん、もしかして麻雀は……?」

「さっぱりです、役もわかりません……あ、牌を凄い力で握って白くする技とかは聞いたことありますよ」

「――なんて、こと」


絶句する姫子だが、京太郎にはその理由がわからない。

頭上に浮かべる疑問符が増える。


「――須賀くん!」

「うわっ」


いきなり両手を姫子に掴まれる。

爪が食い込んで少し痛い。


「おねーさんがばっちり教えてあげるけんね! 安心してよかよ!!」

「え? え、え?」


わけも分からないまま、姫子に引き摺られるようにPCの前に座らされる。


「熱血指導ばい!」

「は、はいぃ……?」


そのままネット麻雀のアカウントを作らされて、強制的に「指導」が始まる。

ある意味で病的な姫子の熱気にとり憑かれたようにマウスを操作し続けて――ある対局の途中で、急激な眠気に襲われて、京太郎の意識は沈んでいった。

ナルコレプシーかな?

「ど、どうもでした……」

「そいぎ、またー」


ツヤツヤな笑顔で見送る姫子とは対象的に、京太郎の頬はげっそりとやつれていた。

恐らくネット麻雀の途中で疲れて寝落ちしたのだと思うが、それにしては妙に体が怠い。


「風邪かな……季節の変わり目は体調崩すって言うし」


今日も寝汗を多くかいたのだろう、シャツが肌にベトベトと張り付く。

早く家に帰ってシャワーを浴びて休もう。


「……にしても、意外と楽しかったな。麻雀」


打つ、というよりは打たされた、という感じで基本的なルールも覚えていないが。

役を作って上がれた時は気持ちが良かった。

本格的に始めてみてもいいかもしれない。


「姫子さんのネト麻のアカウントも教えて貰ったし――ん?」


先程、姫子が京太郎のカバンに入れたネト麻のIDを書いた紙。

確認してみようとカバンの中を探ると、覚えの無い感触が指に当たった。


「何だコレ――え゛」


取り出してみて、絶句する。


「え、え? 」


それは、中学の頃に馬鹿話をしている時に存在を知ったもの。

つい好奇心で画像検索してしまった、女性が行為に用いる『玩具』

恐らく、前回の下着のように偶然紛れ込んだのだろうが、つまりコレの持主は――


「うわわっ!?」


慌ててソレをカバンの奥に突っ込み、何が何だか分からなくなって走り出す。

混乱する頭の中でも、ただ一つ分かったことは――また、あの部屋に返すべきものが増えたということだけ。




「くしゅっ」

「風邪?」

「いえ……きっと、須賀くんです♪」

「むぅ」

それから、モノを彼女たちの部屋に返しに行く度に、何故か持ち物が増えて帰って来て。

まさか、無意識のうちにあの部屋の持って帰ってるのか――? だなんて、自分が恐ろしくなっても答えは出ない。

色んな意味で眠れない京太郎の夜は続き――



「ついに、明日……か」

ベッドで横になって天井を見上げながら呟く。

新道寺高校。

京太郎が通うことになる高校の入学式が、明日に迫っていた。


「……咲はどうなってるかなぁ」


手紙でのやり取りからは元気にしていることが伝わってくる。

しかし、長野と福岡での手紙はどうしてもタイムラグが出来る。

咲が携帯を使ってくれれば此方ももっと楽に連絡が取れるのだが。


「……まぁ、どうしようもないか」


――そして、電気を落として目を閉じると同時に、自らを縛り付けるあの鎖の感覚。

重みが増しているように感じたけれど、京太郎には何も出来ない。

京太郎はただ何も考えず、自分が眠りに付くのを待った。

パンツコレクション…

京太郎が新入生として新道寺高校に入学してから一週間が経過した。

初めは浮き足立っていた新入生たちも、そろそろ新しい環境に慣れてきた頃だが――


「やっべ、俺もアイツを笑えねーなコレ……」


――京太郎は、迷子になっていた。

今でこそ共学の新道寺高校だが、かつては女子校だった。

その影響で施設も未だに女子向けのものが多く――平たく言えば、男子トイレの数が少ない。

校内を彷徨い歩き、何とか最悪の事態は免れた京太郎だが、気が付けば見覚えのない廊下を歩いていた。


「あら、新入生?」


だが、そんな京太郎に救いの手を差し伸べる者がいた。

2年生の女子生徒で、真面目そうな雰囲気を漂わせている。

2年生のクラスの前を新入生の男子生徒が歩いていることを不思議に思ったようだ。


「なにか先輩に用事ですか?」

「いえ、そういう訳ではないんですけど……」

「……んん?」


そして、京太郎に話し掛けた女子生徒が首を傾げる。

彼の言葉には訛りが感じられない。


「……失礼ですが、出身は?」

「? 長野ですけど――」

「すばらっ!」

「……すばら?」


急にハイテンションになる先輩に目が点になる京太郎。

学校内で言えば、京太郎にとってコレが始めての上級生との触れ合いだった。

話し掛けてきた2年生、花田煌の後に付いて廊下を歩く。

こうして迷子になったところを先輩に助けてもらうのは、これで2回目だ。


「じゃあ、花田先輩も長野出身なんですか?」

「ええ、中学は高遠原というところに通っていました。が、ふむ……」


煌が京太郎の顔を見つめ、目を細める。


「須賀くんは姫子や、白水部長のことは知っていますか?」

「ええまぁ、二人とも知ってますけど」

「部屋に行ったことは?」

「まぁ、何度か」

「ふーむ、成る程」


歩きながらも、考え込むように顎に手を添える煌。

やがて納得がいったのか、手をポンと打ち付けた。


「成る程! 二人の彼氏とは、須賀くんのことだったんですね!」

「……は、はい? 何ですと?」

「ご存知ないのですか? 2、3年の間では結構噂になってますけど」


初耳である。

驚きに京太郎の足が止まる。

「寮住まいの二人の部屋に足繁く通う金髪の男子がいると。今までそういうことはなかったし、話題になったんですけど」

「いやでも、それだけで」

「ほら、女子って恋バナが好きでしょう? それに生徒の比率も女子の方が多いですから」

「そんなもんですか……」

「そういうものですよ。最初は、どちらの彼氏かで盛り上がっていたのですが、その内あの二人なら共有でもおかしくはない、ということに」

「おかしいですよ白水さん!」

「むー……本人たちも満更ではないようなので、ほぼ公認の事実のようなものだったのですが」

「……」

「その様子では、噂は間違いだと?」

「……ええ。間違いです」


そんな解消が自分にあれば、長野にいた頃に彼女の一人や二人は出来ていた。

……いや、彼女が二人はおかしいけれど、それでも。


「とにかく、俺はあの二人とはそんなんじゃ――」

「すーがくんっ♪」


否定しようとした京太郎の声を遮るように。

廊下の角から姫子が姿を現した。

猫撫で声で京太郎の手を取る姫子に、煌の目が点になる。

姫子がこのような態度を取るのは、今までは部長に対してだけだったからだ。


「部活動紹介、見てくれた?」

「あ、はい。放送されてたヤツですよね」

「部長の勇姿! 素敵しゃったね!?」

「え? ええ、まぁ……」


数日前に放送された部長の哩による麻雀部紹介。

正直、見てる側としては哩のテンパった姿ばかりが印象に残ってロクな紹介になっていなかったが。

この先輩のフィルターを通して見れば、哩の行動は何もかもが素晴らしいものに映るらしい。


「……成る程、成る程」

「はっ」


そして気付けば煌にジト目で睨まれていた。

『何だ、噂は本当なんですね』

口は動かないが、目がそう語っている。

確かに、この懐いた猫のように京太郎に擦り寄る姫子の姿を見れば、そう受け取らざるを得ないだろう。


「それでは、馬に蹴られる前に。私はここで」

「んー? 花田、いつからそこに?」

「いましたよ、ずっと」

「あ、待っ」


踵を返し、自分のクラスに去って行く煌の後ろ姿に、思わず手を伸ばすが、


「ん……♪ ぬっかぁ♪」


その手も、姫子に取られて頬擦りされる。

姫子の体温を肌で感じながらも、京太郎は廊下に一人ぼっちでいるような気分になった。

今回はここで区切ります
次回更新で哩姫短編終わらせられたらいいなぁ

それでは、お付き合いありがとうございました!

末原恭子は恋をしていた――それも、年上の男性に。

ちょっぴり情けなくて、でも頼りになるところもある優しい先生。

生徒と先生の恋なんて御法度だけど……部活の仲間や監督代行に背中を押されて、少しだけ頑張ってみることにした。

綺麗に見える化粧の仕方や可愛いファッションを覚えた。

いつもお昼をコンビニの惣菜で済ませているから、早起きしてお弁当を作ってみた。

当たって砕けろの精神で、しかし最善の努力を尽くすように。

一歩一歩をしっかりと、彼の心に届くように。

そうして今日も、彼女は職員室を訪れて――


「え? 先生が……転勤?」




こんな感じの京太郎教師ifの短編下さい
以前あったネタですけど、このネタで考えてるとやっぱり末原さんが出て来るなぁ。菫か豊音でもいいけど


というわけで、後で哩姫短編再開しますー

――きょーたろっ♪

――すーがくんっ♪


「ハァ……」


京太郎は、自室の机に頭を抱えて突っ伏していた。

理由は言うまでもなく、二人の先輩。

最近では少し校内を歩けば必ず二人のどちらかに遭遇し、姫子なんかは部活中でもベッタリだ。

美人な彼女たちに慕われているのは素直に嬉しい……が。



――京ちゃん?


「……何でかなぁ」


このまま二人に流されて、噂のように付き合い始めるのは。

何故だか、長野に置いて来た幼馴染に悪いような気がして。


「花田先輩辺りに相談してみようかなぁ……」


結構しっかり者みたいだし、哩と姫子がいないところで誤解を解いて相談してみれば上手くいくかもしれない。

机から起き上がり、ポケットから携帯を取り出してアドレス帳を呼び出す。

上手く行くことを願って、京太郎はメールを打ち始めた。

ネタバレはやめてください(棒)

「……では、本当にあの噂は間違いだと?」

「ハイ。確かに、あの二人は俺を好いてくれてますけど……」

「ふーむ……?」


部活が終わった後の部室。

他の部員たちは既に帰宅していて、部室に残っているのは京太郎と煌だけだ。


「確かに……あなたの態度をよく見てると、カップルという感じはしませんが……」

「ええ……ただ、あの二人にどうすればいいのか分からなくて」


哩は福岡に来たばかりの自分を助けてくれた人だし、姫子は好意を向けてくれている。

知り合ったばかりの女性二人にここまでの好意を向けられたことはなく、二人に対してどう接していけばいいのかがわからない。

そして、二人の部屋を訪れる度に、自室の机の引き出しに色々な物が溜まって行くのも悩みの種の一つだが――それは、流石に煌には話せない。


「どうでしょう、いっそのこと本当に付き合ってしまうのは」

「うーん……だけど何だか流されてる感じがするし、それに……」

「それに?」


――長野に住む幼馴染に、何て言えばいいのか。


「……いえ、何でもありません」

「? まぁ、でしたら……もうガツンと言うしかないのでは。あの二人も頑固ですから、今のままでは流されるだけです」

「そうですか……わかりました、ありがとうございます」


心苦しいが、ハッキリと言葉で拒む必要がある。

そう考えた京太郎は、煌に礼を言って帰路に着く事にした。

「待っとったよー」


昇降口で煌と別れ、校門から出るとすぐに姫子が飛び付いて来た。

まるで帰って来た飼い主を見つけた犬のようだと京太郎は思ったが、今回からはそれを放って置く訳にはいかない。

姫子の肩を押して、自分から引き離す。


「え……?」

「ごめんなさい、先輩……でも、困るんです。そういうの」


姫子の顔が固まる。

自分が何を言われているのか分からない、そんな表情だ。


「部活でも面倒を見てくれるのは助かりますし、有り難いんですけど……俺、先輩の彼女じゃないです」

「……」

「だから、その……困ります、こういうの」

「……」


姫子の肩から、バッグがするりと滑り落ちる。


「……すいません、それじゃ」


立ち尽くす姫子に頭を下げて、その場を後にする。

申し訳ない気分で胸がいっぱいだけど――このまま、流されてしまうよりはいい。


「……」


姫子は、その遠ざかっていく背中をひたすら見詰め続けていた。

日が暮れても、携帯に着信があっても、門限の時間が来ても。

哩が心配して迎えに来るまで、ずっとずっと、立ち尽くしていた。

×「部活でも面倒を見てくれるのは助かりますし、有り難いんですけど……俺、先輩の彼女じゃないです」
◯「部活でも面倒を見てくれるのは助かりますし、有り難いんですけど……俺、先輩の彼氏じゃないです」


京ちゃんが京ちゃんになってしまった

一体何が始まるんです?(震え声)

「はあぁ……」


家に帰って来た京太郎は、自室のベッドに寝転がって深々と溜息を吐いた。

肉体的には大した事はしていないのに、どっと疲れた。


「あー……もうちょい、上手く言えただろ、俺」


そして、校門を出た時の姫子の顔を思い出して自己嫌悪する。

明らかに酷くショックを受けていた。

もう少し言い方を気を付ければ良かった。


「……けど、ガツンと言えって花田先輩が言ってたしなぁ」


しかし、哩にもコレと同じ事をしなければならないと考えると気が滅入る。

土壇場でヘタレてしまうような気がする。


「あー、恋愛って難しいんだな――ん?」


頭を抱えてベッドの上でゴロゴロしていると、枕元に置いた携帯から着信音。

着信画面には見知らぬ番号が表示されている。


「……誰だ?」


妙に長く続く呼び出しコール。

京太郎は恐る恐る携帯を手に取り、通話ボタンを押した。

怖いよ…怖いよ…

『……もしもし? 聞こえてますか? 須賀京太郎くんの携帯ですか?』

「……え?」


スピーカーから聞こえてきたのは、そこまで久しぶりと言う程ではないのにも関わらず、とても懐かしく感じる声。

いかにも携帯に不慣れな声音で、緊張している様子が伝わってくる。

聞いていて心配になるけど、どこか安心感のあるこの声は――


「咲っ!?」

『わっ!?』


思わず、叫ぶように大きな声を出してしまった。

電話の相手もかなり驚いたようで、スピーカーを通じて携帯を床に落とした音が響いた。


『だ、大丈夫かな? 壊れてないよね?』

「あ、ああ……大丈夫、聞こえてるよ」


おっかなびっくりといった声で確信する。

間違いない。

この電話をかけてきた相手は。


『もう、耳元で叫ばないでよ』

「だから、悪かったって。まさかお前が電話してくるとは思わなくてさ」

『買ったんだ。私も高校生になるし』


故郷に置いてきた、幼馴染だ。

「へぇー。お前にも扱える携帯があったんだな。あ、らくらくフォンってやつか?」

『違いますー。ちゃんとした最新機種ですー』

「なんか心配だな。詐欺とか大丈夫か?」

『馬鹿にしないでよ。部長だって色々教えてくれるんだから』


久しぶりの気安いやり取りが京太郎の心を軽くする。

今のクラスメイトとも大分打ち解けてはいるが、やはり彼女との会話は別だ。


「ん? 部長?」

『うん。私、部活に入ったんだよ』

「へぇー、帰宅部かと思ってた」

『ふふ……何だと思う?』

「んー……文芸部」

『違いますー……正解は、麻雀部でした!』

「ほー。これまた意外な」

『こっちでも色々あって。京ちゃんも麻雀部だったよね?』

「そうだけど」


正直、意外だ。

京太郎からしてみれば咲は鈍臭いイメージが強く、麻雀でもチョンボしてる姿が浮かぶのだが。


「……まぁ、もしかしたら。全国大会で会ったりしてな」

『えー? 京ちゃんが?』

「へへ、舐めんなよ。これでも先輩に色々と特別指導受けてんだよ」

『……それって、手紙にあったあの先輩たちのこと?』

「ああ、そうだけど」

『ふーん……』

「な、何だよ?」

『べーつーに? 何とも思ってないですけど?』


嘘だ。明らかに拗ねている。こうなった咲は非常に面倒くさい。

前までなら頭をグリグリ撫でたりして無理矢理誤魔化すのだが、生憎とコレは電話である。時間がかかりそうだ。


「はぁ……」

『何、その溜息』


京太郎は、今晩の大半を咲のご機嫌取りに費やすことになった。

果たして仕込まれているのか…盗聴器…!

翌日の放課後。


「ふあ……」


大きな欠伸をしながら部活に向かう。

深夜までの長電話は何気に始めての経験だった。

今頃は咲も同じ様に目の下にクマを作っているに違いない。


「ん……」


大きく背伸びをする。

昨夜の咲との通話のおかげで体は重いが心は軽い。

今なら、哩や姫子ともちゃんと向き合える気がする。


「……よし!」


部室のドアの前で頬を叩いて気合を入れる。

京太郎は、勢い良く戸を開き――



「……え? 部長も鶴田先輩も、今日は休みなんですか?」



――盛大に、肩透かしを食らった。

次の日は、哩は登校したが姫子が休んだ。

その次の日は、姫子が登校したが哩が休んだ。

更にその次の日は、二人とも学校を休んだ。

次の日も、その次の日も、一週間経っても。

そして、暫く二人の姿を見ないまま日付が過ぎていった。

――ピンポーン。



「ん、宅配か?」


両親が共にいない日。

そろそろ夕食の準備をするか、という時間帯に来客を告げるインターホンの音。



「はいはー……い?」

「きょーたろっ」

「えへ、来ちゃった」


ドアを開けた先には。

暫く部活に顔を出していなかった、哩と姫子が立っていた。


「えっと……」


どうして、ここに?

その問いをする前に、姫子が飛びかかってきた。


「うわっ」

「んー……♪ やっぱり、この匂い……よか♪」


腕を回してしがみ付く姫子はちょっとやそっとの力では引き離せそうにない。

かと言って、本気で突き飛ばせば怪我をさせてしまうかもしれない。

どうにかしてくれと哩に視線を向けると、申し訳なさそうに両手を合わせられた。


「話があっけん、上げてくるっばいね?」


とりあえずは、この状況をどうにかしないといけない。

京太郎は、姫子に抱きつかれたままコクコクと頷いた。

哩と姫子を自室に案内し、小さな机を挟んで向かいあう。

哩に窘められて口を閉じているものの、こちらに視線を向けてウズウズしている姫子の姿は『待て』を命じられた子犬を連想させた。


「私らは京太郎に自分の気持ちを押し付けよった」

「……」

「すまん、迷惑かけた」

「いえ……そんな」


深く頭を下げる姫子と哩だが、二人にそんなことをさせる権利は自分にはない。

美人である二人に言い寄られて満更でもない気分になっていた自分がいたのは事実だし、無神経な突き放し方は姫子を傷付けた。

最初にハッキリ言えばこのように引き摺ることもなかった筈だ。


「姫子」

「はいっ!」


哩が顎で差し、姫子が立ち上がって京太郎の隣に座る。

何をするのかと疑問符を頭上に浮かべた京太郎だが――


「んっ♪」

「んぐっ!?」


直後に、姫子に深く口付けをされる。

抵抗する間もなく姫子の舌が口内に入って来る。

何かの塊が姫子の口から押し込まれ、京太郎の喉を通っていく。


「そいけん――京太郎にも、私らと同じ気持ちになってもらうことにした」


哩の言葉は、耳に入らない。

ただ、自分が姫子に襲われているということだけ、理解できた。

「あっ……」

「あはっ♪」


鎖に縛られる手足。

とっくのとうに慣れた筈の感覚。

いつもと違うのは、自分にしか見えない筈の鎖が姫子も一緒に縛っているということと。


「恐がらんでよか。どうせ、すぐに気持ち良くなるばい」


繋がれた鎖の先に、女の人が立っているということ。


「ああ……」


きっと、こうなるのは。

自分が、この鎖の存在を感じたその日から、決まっていたのだ。


「ふふ……おねーさんが全部まとめて貰ったげるけんね♪」


先輩のことも、幼馴染のことも、何もかもを忘れて。

京太郎は、体の奥から突き上げて来た衝動に身を委ねた。








――私には、幼馴染がいる。






「 」

人の気持ちなんか知らないで。

「 」

ズケズケと入って来て。



「 」

放って置けばいいのに。

「 」

それはこっちの台詞なのに。

「 」

何故か、いつも隣にいて。

「 」

世話を焼いてきて。

「 」

それが、当たり前になっていた。


そんな男の子が、一人いる。

その子は、九州に引っ越しちゃったけど。

手紙や、電話での会話は途絶えなくて。

離れていても、繋がってるんだって。

そう、思ってた。


なのに。


どうして。


どうして、そんな顔をしているの?


どうして、私のことを忘れちゃったの――?

携帯を叩き付けて、送られてきた映像を消す。


吐き気が抑えきれない。


口からよく分からない何かが込み上げて、フローリングの床を汚す。


「げほっ……」


わからない。


京ちゃん、どうして。


わからない。


答えてくれる幼馴染は、隣にいない。


わからない、わからない、わからない――

「……ああ、そっか」


シャーペンを手に取る。


「京ちゃん、優しいから」


シャーペンで左の手の平を突き刺す。

血が滲む。


「騙されちゃったん、だね」


抉りこむように深く突き刺す。

血が溢れる。


「だったら……私が」


振り上げて、刺す。


「目を覚まして、あげないと」


何度も、何度も。


「それが」


芯が、肉に食い込んでも。


「幼馴染の、役目だもんね」


止めることなく。


「ねえ?」


何度も、繰り返して。


「京、ちゃん?」


深く、突き刺す。

手の平から溢れる血。

フローリングの溝を染めて、作られた赤い模様は。


「待っててね……京ちゃん」


千切れた鎖のようにも、見えた。




【繋がれた先に 了】

哩姫短編はひとまずここで終了となります


さて、次は


1 白糸台日常編
2 臨海出会い編
3 プロ勢編、コンティニューする?
4 永水出会い編
5 宮守全国大会後
6 松実京太郎、遠征するの巻
7 モンブチーズ出会い編
8 京ちゃんが先生になったよ!の巻。年齢改竄if 安価、コンマメイン
9 その他 何か希望があれば
EX 俺の彼女は鬼コーチ。修羅場、病み度薄め

のいずれかになるか、もしくは小ネタになるかと思います


それでは、今夜はここで

お付き合いありがとうございました!

46EXが多い感じですかね

では直下判定で
1~33 永水
34~66 松実
67~99 コーチ
00 お好きにどうぞ

ついでに小ネタ安価下3

では次はレジェンドと久保コーチで
コーチのお話は安価がメインです

それでは、また後ほどー

――いる、よなぁ。


教員専用の駐車場に車を停めて、ふと見たサイドミラーに映る姿。

本人は物陰に隠れているつもりなのだろうが、その高い身長故に隠れ切れず、トレードマークの帽子がはみ出している。

様子を見る限りだと、こちらのことをチラチラと窺っている。

時間的にも生徒が登校するには早過ぎる。そして部活の朝練でもないとすれば、あの少女が自分を待ち構えていることは間違いない。


「おはよう、早いね」

「あ! お、おはようございます!!」


車から出て挨拶すると、顔を真っ赤に染めて返事をする彼女。

その表情は、かつて大阪で勤めていた頃の教え子を思い出させた。


「それで、どうしたの? こんな時間に」

「は、はい! き、今日……そ、その! バレンタインだから……だから!」


強い勢いで突き出される小箱。

きっと、手の震えは寒さのせいだけではないのだろう。


「ん……ああ、ありがとう。後で、いただくよ」


誰よりも早く渡したかった。

そんな彼女の想いが伝わってきて、拒みきれずに小箱を受け取る。


「……!」


ぱあっと、分りやす過ぎる程に伝わってくる喜びの感情。

何から何までが、大阪にいた頃の『あの子』を連想させて。


「……早く校舎に。寒いだろ?」

「はいっ!」


『その時』が来たら、自分は彼女を拒めるのか。

自分よりも背の高い教え子と並んで、京太郎はそっと鞄に小箱を入れた。




こんな感じで豊音さんにフラグを立てて何も言わずに転勤させたい教師if
『8 京ちゃんが先生になったよ!の巻』とは何の関係もないただの小ネタなのであしからずー


更新はまた後で
レジェンド逆光源氏を考えてると何故かほのぼのになってしまう不思議

なんとなーく投下してる小ネタなので細かい設定は決めてないんですけどね
でも京太郎が28だとアラフォーと同世代かつ良子さんと8才の差で
京太郎が20の時に良子さん12才で家庭教師とか出来そうな美味しい感じに


のんびりレジェンド小ネタいきますー

彼との出会いは、本当に彼が小さかった頃。

少しの間だけ知り合いの赤ちゃんの面倒を見てやって欲しいと頼まれたことが始まりだった。




「ほぇー……」

「あー……?」


無垢な顔。自分にもこんな時期があったのだろうか。

クリっとした丸い目と見つめ合う。

何となく指でほっぺたをつついてみる。柔らかい。


「あはっ♪」

「おおっ」


笑って、指を握られる。

こうもダイレクトに返されると構っているこちらとしても楽しい。

次は何をしてあげようか。


「ふぇっ……あうぅ……」

「えっ」


だが、さっきまで笑顔だったのに急にぐずり始めた。

赤子の相手をするのは初めてな晴絵でも、この次の展開は予測がつく。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

「あぁっ!? ど、どうしよう……お、おーよしよし」


抱きかかえてあやしてみても泣き止まない。

おしめが濡れているわけでもない。

だとすれば、次に晴絵が思い付くのは――


「……ゴクリ」

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」




数十分後、親が駆け付けた頃にはすっかり泣き止んで健やかな寝顔を浮かべる京太郎と、顔を真っ赤にして胸のあたりを押さえる晴絵がいたそうな。


【京ちゃん赤ちゃん、ハルちゃんティーン】

「……なーんてことがあったのも懐かしいなぁ」

「どーしたんだよ、レジェンドー」

「いーや? ただ、前みたいにハルちゃんって呼んでくれないかなーって」

「んなっ」


時は経ち、阿知賀こども麻雀クラブ。

過去を懐かしむように目を細める晴絵に京太郎が声をかけると、晴絵が京太郎に背後から抱きついた。


「いやー、最近はレジェンドレジェンドってばかりだから。あの頃みたいに甘えてくれないし?」

「そ、そりゃ……だって」


京太郎も小学校5年生、性別を意識するようになる年頃。

京太郎にとって晴絵は自分の姉のような相手だが、昔のようにベッタリと甘えるのは恥ずかしい。

かと言って完全に突き放すことも出来ず、わざわざこうして麻雀クラブにまで顔を出しているのだが。

勿論、晴絵はそのことも分かった上で京太郎をからかっている。


「本当、最近は放ってかれてばかりだし。かなしーなー」

「ぐっ……」

「京太郎に嫌われちゃったのかなー、とか思っちゃうんだよなー」

「そ、そんなことないし……レジェンドは……」

「んー?」


グリグリと、胸を押し付けるように、より強く抱きつく。


「聞こえないなー、私の名前はレジェンドじゃないし?」

「うぅ……」


京太郎の顔が茹で上がるが、晴絵は一向に離れる素振りを見せない。

こうなった時の対処法は理解しているが、それをやるのもまた恥ずかしい。

だが、この状態が続くのと、その対処法とを天秤にかけて――京太郎は、口を開いた。


「は、ハルちゃんのことは……今でも、好きだから」

「うむ、素直でよろしい♪」


ガックリと、京太郎が頭を下げる。

せめて、この顔だけはクラブの面子には見られたくなかった。



「飽きないなぁ、あの二人も」

「仲良しさんだね! 」


【京ちゃん小5、ハルちゃん大学生】

「晴絵ー、お母さんが呼んでたけ、ど……」

「zzz……」


ソファで転寝をしている晴絵。

それだけなら京太郎も肩を揺さぶるなりして、起こしただろうが。


「Zzz……」


薄着であり、シャツがはだけている。

色んなことに興味を持ち始める時期の中学生には、やや刺激が強過ぎた。


『――あなたを、愛している』


そして、ソファの前のテレビには恋愛ドラマのワンシーン。

ちょうど今の状況に相応しく――男性、が女性をソファに押し倒していた。

ゴクリと、喉がなる。


「いやいやいや……」


頭を振って浮かんで来たイメージを消す。

それも悪くないだなんて、決して考えてない。

テレビを消して、さっさと起こすように、京太郎は晴絵の肩に手をかけた。



【京ちゃん中学生、ハルちゃん大人】

「みんなよく寝てるなー」

「今日一日で大分打ったからな。疲れてるだろ」


全国大会に向けた遠征の帰り道。

車内の後部座席は、寝息に包まれていた。


「京太郎も寝れば?」

「いや、いいよ。助手席だし、俺はみんな程疲れてないから」

「ん、わかった。けど遠慮しなくていいから」


赤信号で車が停まり、会話が途切れる。

後ろからの皆の寝息が聞こえてくる。

何となく気まずくなった京太郎は、車内ラジオへと手を伸ばし――


「あっ」

「あっ」


同じことを考えていた晴絵と、手が触れ合った。


「……」

「……」


手が触れ合ったまま、何となくお互いに見つめ合う。

気まずさは無い。むしろ、よくわからない胸の鼓動で頭がいっぱいになる。


「京太郎……」

「晴、絵……?」


信号が切り替わり、後ろの車にクラクションを鳴らされるまで。

京太郎と晴絵は、お互いの手の温もりを感じていた。



【京ちゃん高校生、ハルちゃん監督】

「――私と。私と、付き合って」


胸に手を当てて、告白する幼馴染。

震えながらも真っ直ぐに見詰めて来る瞳からは想いの強さが伝わってくる。


「憧……」

「……」


いつからだろうか、この幼馴染が髪を伸ばし始めたのは。

いつからだろうか、この幼馴染が化粧を覚え始めたのは。

いつからだろうか、この幼馴染に――女としての魅力を感じたのは。


「……ごめん」

「え……?」


だけど。

京太郎は、拒絶する。


「本当に、ごめん……だけど、俺。憧とは、付き合えない」

「あっ……」


その場に崩れ落ちる憧に、申し訳なさそうに背を向けて。

京太郎は、自分を待つヒトがいるアパートへと帰った。




「……あはっ」




【京ちゃん大学生、ハルちゃん――】

「いやー、参った。こんな日が来るとはねぇ」

「なんつーか俺は、いつかこんな日が来る気がしてたけどな」

「え、マジで?」

「うん。と言っても高2の辺りからだけど」

「そっかー、筋金入りだったか」

「そー言ってるけど、晴絵だって好きだっただろ。昔から、同じくらいに」

「……面と向かって言われると照れるなぁ」

「あー……あの時の晴絵の気持ちがなんか分かったわ」

「え?」

「好きな人って虐めたくなるもんな」

「ありゃー……こりゃ、本当に参ったなぁ」

「ん……愛しているぜ、晴絵」

「私も……愛しているよ、京太郎」


「――おやすみ」



【ED 京ちゃん、ハルちゃん、いつまでも】

最後の場面の詳細は想像にお任せします


逆光源氏っていうよりおねショタっぽくなってしまった
けどレジェンドだとこんなイメージになっちゃうなあ、どうしても

シノハユ0話の「戒能プロもすっかり大人っぽくなったね」みたいなハルちゃんの台詞から互いに面識あるようなので、
戒能さんに憧れる京太郎と、そんな戒能さんに嫉妬するハルちゃんみたいなのも考えたけど小ネタの枠に収まらなさそうなのでカット
けどいつかリベンジしたい所存


次はEXステージとなります
自由安価でやっていくのでご協力お願いしますー

それでは、お付き合いありがとうございました!

融合召喚!(マスクチェンジを打ちながら)

久保コーチの話やろうと思いますが、人いますかね?

よし、ではやっていきます
が、その前に注意点を

・EXステージです。プロ篇とは関係ないです
・自由安価です。が、安価先があまりにアレな場合は自動的に直下のものが選ばれます
(ス××ロとか)
・病み度、修羅場は薄目です


では次のレスから始めますー

――壁ドン。


壁際に追い詰められて、ドンと腕を押し付けられて迫られること。

その強引さと格好良さから、一部の女子の間では憧れとなっているらしいが――



「あ、あの……」

「黙れよ」


京太郎と貴子の場合では、男女の役割が逆になっていた。


「お前は、誰の彼氏だ?」

「……貴子さん、です」

「ああ、そうだな。それで、今日の部活だが」

「……」

「お前、福路の胸――見てたよな?」

「……はい」

「それで、もう一度聞くけど――お前は、誰の彼氏だ?」



二人きりの部室に、時計の音だけが響いた。

下校時刻を告げるチャイムが鳴り、生徒たちが帰宅し、教員たちも仕事を終えた後。

貴子は、靖子を誘って居酒屋に来ていた。

ぐいっと勢い良く果実酒を煽り、テーブルに突っ伏す。


「……はあぁぁ」


やってしまった。

本当は彼を労い、こっそりとデートに誘う予定だったのに。

つい、嫉妬心が先走って彼を追い詰めてしまった。


「ごめんよぉ、京太郎……」

「その彼氏の前でもこれだけ素直になれたらなぁ……」

「ううぅ……」


とは言え、貴子はこの年齢にも関わらず恋愛初心者だ。

初めての経験に心が戸惑うのも無理はない。


「ふむ……」


このままでは余りにも不憫だ。

ここは一つ、何かアドバイスを送りたい。

だが靖子とて、上手いアイデアを直ぐには思い付かない。

靖子は一つ溜息を吐くと、携帯を開いてそれらしきものがないかを検索し始めた。


「……あー、コレとかどうだろう?」


安価下二で
恋愛初心者のコーチにアドバイスを送ろう!

「男は胃袋で掴め……?」

「女性らしさをアピールしつつ、彼を労う絶好のチャンスにもなるかと。彼も男ですから、カツ丼なんかもお勧めで――」


……そういえば。

彼はよく、池田にレディースランチを奢ってもらっていると聞く。


「……よし!」


萎んでいた気が燃えてきた。

そうと決まれば善は急げ、こんな所で酒に溺れている場合ではない。


「すいません、コレ勘定で!」


財布からお札を引っ掴み、叩き付けるようにして居酒屋を後にする。

その余りの勢いの良さに、靖子はポカンと口を開けた。


「……あ、ジャンボカツサンド一つ」




――放課後。

部活前にレディースランチを食べようとしたら、校内放送で貴子に呼び出された京太郎。

一体なんだろうと出向いてみれば、黙って差し出された弁当箱。

……恐らくは食え、ということなのだろうけど。


「……」


まるで大会前の最後の調整中のような貴子の目付きに観念して、京太郎は橋を手にとった。


貴子ちゃんのお料理、見た目
判定直下
1~30 泥団子
31~60 普通
61~98 美味しそう!
ゾロ目 宝石箱や!

貴子ちゃんのお料理、味
判定下二
1~30 不味い……
31~60 まぁまぁ
61~98 美味過ぎる!
ゾロ目 IT革命や!

――え? 俺コレ食うの? マジで?


蓋を開ければ、目に飛び込んで来たのは泥団子。

懐かしい。幼稚園の頃の砂場を思い出す。

ついでにジャリジャリしたあの食感も。


「……」


チラリと貴子を見ると、握り拳が不安で震えている。

ドッキリや嫌がらせではない。

京太郎は諦めの境地で泥団子を箸で摘み、口に運んだ。


「美味過ぎる!」

「やった!」


だが、食べてみれば食感も味も、何もかもが想像の反対側。

よく炒められた肉と野菜が上手く互いを引き立てて、最高の味を演出している。

もう見た目など気にしない、箸が凄まじいスピードで進む。

その様子を見て、貴子は両手でガッツポーズを取った。



「ふぅ……ご馳走でした」

「ああ……どうだった?」

「めっちゃうまかったっす!」

「……だったらまた作ってやるよ。今度はその、二人で出かけた時に……」

「え、それってデー……」

「っ! おら、さっさと部活行くぞっ!!」


【男は胃袋で掴め! 成功!】

『ほう、それでは大成功だったと』

『ふむふむ成る程……ご馳走様』

『え? 次の手? そんなこと言われてもなぁ……私だって……』

『んんっ、まぁ、それはともかく』

『それじゃあ次は、こんなのはどうでしょうか』


次に靖子が、貴子に送るアドバイスは――



安価下三
恋愛初心者のコーチにアドバイスを送ろう!
今回のようにギャップが好印象を生むパターンもあります

「ひ、膝枕!?」

『ベタな手だけど効果はあるんじゃないかと』

「成る程……」

『あ、今回みたいに校内放送で呼び出して――なんてのはお勧めしませんよ』

「え?」

『あくまで自然な流れでやることに価値があるそうですから。強引に行くのは逆効果かと』

「しかし……」

『じゃ、切りますよ。明日早いんで』

「あ、ちょ、待っ」


「……」

「ど、どうすれば……」


膝枕。

確かに憧れるシチュエーションではあるが、自分と彼は教師と生徒。

自然な流れで二人っきりでしてあげるには――



コーチは悩んでいるようです
安価下二でコーチにアドバイスを送ろう!

「須賀ー、コーチが残れってさー」

「え? 何だろ」

「たっぷり絞られてくるがいいし!」



また壁ドンされるのだろうかと、京太郎は不安と期待を抱いたがそんな事はなく。

単にネット麻雀を使った個人指導だった。

何でも唯一の男子部員である自分の為に時間を作ってくれたらしい。


「くぅー……」


みっちり扱かれて肉体的にも精神的にもクタクタになった頃。

京太郎がグッタリしているのを見た貴子は、ココだ!と直感で感じ取った。


「な、なぁ須賀……こういうのは、どうだ?」

「へ?」


貴子ちゃんの膝枕、判定直下
1~30 緊張し過ぎてガチガチ
31~60 柔らかくて気持ちがいい
61~98 よ き か な
ゾロ目 ???

――膝枕。

これもカップルの定番であり、憧れの一つである……が。


「……」


貴子がソワソワと自分を見下ろしている。

しかし、それ以上に落ち着かないのは京太郎の方である。

貴子の膝は緊張し過ぎてガチガチな上に、震えているので非常に居心地が悪い。

それを正直に口にするのは大変よくない。

だけど、コレをこのまま続けるのは貴子にも自分にも良くない気がする。


(何か、言わないと……)


貴子に対しての、京太郎のフォローは――




安価下二で京太郎の行動・台詞を
やり様によっては判定が大成功に

すいません、途中ですが用事ができちゃったので中断します
今日中に戻れるかは少し怪しい感じです

戻れたので再開しますー

――正直に言うと、この膝枕はあまり気持ちの良い状態ではない。


口に出してはいないが、それが伝わってしまったのだろう。

貴子の膝の震えがドンドン強くなっていき、バイブレーションのようになって。

どうにかしなければ、と感じた京太郎が口に出した言葉が――


「じゃあ、今度は俺が膝枕しますね」






「どうですか?」

「お、おう……わ、悪くはない……な」


先程とは逆の立場であるが、貴子は相変わらずガチガチに緊張している。

頬を紅葉色に染めて視線があっちこっちに泳いでいる。


「……いいですね、こういうのも」

「そ、そうか?……そう、か……」


だが、それでも先程よりは大分気持ちが楽になったようで。

段々とリラックスしてきたのか、目を閉じて力を抜き、体重を預けてきた。


「……」


何となく、頭を撫でてみたりする。


「ひっ!?」

「あ、すいません。駄目でしたか?」

「い、いや……ちょっと驚いただけだ。続けてくれ」


許しを得たので再び頭を撫でる。

鬼コーチのこんな顔を見れるのは、風越でも自分だけだろうと、ちょっとした優越感に浸ってみたりして――



直下判定
1~50 わ、忘れ物だし!
51~00 二人は幸せな時間を過ごして終了

こんな時間が、ずっと続けばいい。

言葉はなかったが、互いに同じ事を思っていることは感じて。

それが無性に嬉しくなって、そっと貴子の髪をかき上げて――



「わ、忘れ物だし!」

「あっ」

「あ゛っ」

「……え?」


何の前触れもなく部室に乱入してきた香菜に、京太郎と貴子がフリーズする。

最初は目が点になっていた香菜も、段々と状況が理解できてきたらしい。

顔色が真っ青になり、汗が溢れ出す。


「あ、あははは……さ、さよなら……」


ギクシャクとした動作で振り返り、何事も無かったかのように部室から出ようとする。

だが、そうは問屋が卸さない。

貴子がゆらりと立ち上がり、底冷えする声で香菜に声をかける。


「なぁ、池田。ちょっと話があるんだが……」

「い、いえっ!? あっ! 早く帰らないとっ!!」

「忘れ物があるんだろう? 手伝ってやるよ、たっぷりとな……」


京太郎の位置からは貴子の背中しか見えないが、香菜の怯えた表情からどれだけ恐ろしい様子なのかは容易に想像出来た。

勿論、この後の展開も。


「ご、ごゆっくりいいいいいいぃぃぃぃっ!!」

「いぃけぇだあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!!!!」


凄まじい速度で廊下の奥へと走って消えて行った二人を見送り、京太郎は溜息を吐いた。



【膝枕 失敗】

『あー……その様子だと、上手くいかなかったようで』

『まぁ……彼女も悪気はなかったんだろうし、そこまで悪く言うのも』

『そしてまぁ、わざわざ電話をかけてきたということは……まぁ、そういうことか』

『一々惚気に付き合わされるこっちの身にも……』

『……ハァ、上手くいったら今度奢って下さいよ?』

『それで、次の作戦ですが――』


次に靖子が貴子へ送るアドバイスは――



安価下三
恋愛初心者のコーチにアドバイスを送ろう!

『もう、さらっと既成事実作っちゃうとか。お茶に一服盛ったりして』

「っ!?」

『いやだって、正直言ってもう面倒くさ……』

「できるわけがないっ!!!」

『おわっ……耳が……』

「だ、大体そういうことはもっと段階を踏んでから……教育者として……」

『生徒と付き合ってるクセに今更そんな……ま、でも色仕掛けは悪くないんじゃ?』

「し、しかし……」

『それじゃ、明日も早いので私はこれで』

「あっ」



「ど、どうしよう……色仕掛けって……」

「そうだ、ネットで参考になるものがあれば……」



下1~3でコーチにアドバイスを送ろう!

四章 純愛 幸せなキス
で検索

サーッ!

エロ下着

「む、胸を押し付ける……!?」

「確かにアイツ、胸が好きだが……そのクセ私にはノータッチだし……」

「……やってみるか」





ネット麻雀を用いての、貴子による京太郎への個人指導中。

椅子に座る京太郎に貴子が後ろから覆い被さるようにして、京太郎の手を取った。


(こうやって指導しつつ、私のことを意識させるのは……どうだ?)


横目で京太郎の顔を覗く。

果たして、彼の反応は――


コンマ判定直下
1~30 どうやら麻雀に夢中みたいです
31~00 た、たたた……

「貴子さん、この場合は……」


――どうやら、自分の教え子は思った以上に麻雀に夢中なようだった。

教師としては誇らしいが、女としては非常に複雑だ。


「あ、ああ……相手の狙いは分かるか?」

「ええと、恐らくは――」


だが、そもそも個人指導という名目で彼を呼んだのは自分だ。

貴子は盛大に吐きたくなった溜息をグッと堪えて、画面を睨み付けた。



【色仕掛けその1 胸を押し付ける 失敗】

二番目の安価どうなるんだ…
服選びでもさせるのか

>>822
この場合は直下のものを採用しようと思ったんですが



ぶっちゃけ>>801>>802が殆ど同じ内容なので>>803まで採用しちゃおうかと思うんですけど駄目ですかね?

800 名無しさん[]:2014/06/21(土) 23:48:00:00 ID:kbtkksgsk
彼ともっと親密になりたいんですけど何か良い方法はありませんか?

801:名無しさん[sage] :2014/06/21(土) 23:48:30.71 ID:41J/cyN8
四章 純愛 幸せなキス
で検索

802 名無しさん[sage] :2014/06/21(土) 23:48:32.61 ID:vI5mNnJN
サーッ!






「おう……?」


物は試しにと書き込んでみた掲示板で即座に帰って来たレスポンス。

純愛、幸せなキスといったキーワードから察するに恐らくは恋愛ものの映画か何かだろう。

そう言えば、最近はそういった作品に触れる機会はなかったと、貴子は検索画面に指示された通りのキーワードを打ち込んだ。

「これは……? お、動画があるのか……」


貴子はそっと、動画の再生ボタンにカーソルを合わせ――


コンマ判定直下
00~30 おや、貴子ちゃんの様子が……?
31~99 いやいやいやいやいやいやいやっ!?

「いやいやいやいやいやいやいやっ!?」


律儀にも全編を見終えた貴子は、ワイヤレスのマウスを床に叩き付けた。

確かに最終的には幸せなキスをして終了かもしれないが――いや、それよりも!


「クッソ汚ねえもん見ちまった……」


椅子に体重を預けてグッタリする。

些か自分には刺激が強過ぎる動画だった。


「……けど」


……参考に、あくまで参考程度に。

貴子はマウスを拾い上げると、そっと動画のリピート再生ボタンにカーソルを合わせた。




【色仕掛けその2 失敗……?】

「エ、エロ下着……」


次に貴子に送られたアドバイスはこれまたハードルの高いもの。

前までの貴子なら、どう考えても出来なかったもの。


「……だが」


胸を押し付けることに失敗した以上は、それよりも強い刺激を与える必要がある。

ならば、このエロ下着を見せるというのも――悪くは、ないのかもしれない。


「やるしか、ないか……?」


直下判定
00~40 いや、でも……
41~99 やってやるよ!

部の買い出しの手伝いということで貴子に車で連れられた京太郎だが、道中で貴子の携帯に着信が入った。

道路の脇に車を停めた貴子に、「悪いが少し待っていてくれ」と言われ、助手席で1人留守番をすることになった。


「ん……? 何だコレ」


手持ち無沙汰になって、何となく辺りを見渡していると足にぶつかった紙袋。

何だろうかと興味を引かれ、中を覗いて見ると――


「うわっ……」


――見事なまでの、エロ下着。

透けたネグリジェやら切れ込みの入った下着やら。

貴子の所有する車に置いてある紙袋に入っているということは、この数々のエロ下着の持ち主は言うまでもなく。

更に、これらの下着が『そういった行為』に用いられることは容易に想像できる。

そして、その行為の相手というのは、勿論彼氏である――


「ま、マジか……」


ボンッと頭の中で何かが爆発した音がして、京太郎の顔は耳元まで真っ赤に染まる。

――もしかして、今日のスーツの下にも……?

一度イメージをしてしまうと、健全な青少年には止められない。


「悪い、待たせたな」

「あ、い、いえ、お構いなく……」


貴子が戻ってきた後も、京太郎は貴子の顔をまともに見る事が出来ず。

思わず目線を下に向けると、組んだ足の隙間から、僅かに『それらしきもの』が見えて。


「~~~っ!!?」


……そんな京太郎の様子を見て、貴子は今回の作戦が上手くいったことを悟り、心の中でガッツポーズを取った。



【色仕掛けその3 エロ下着 成功!】

それから、数日が過ぎて。

いつも通りの、部活動の途中。


「須賀くん、少しお願いがあるのだけど……」

「はい、なんです?」


美穂子に請われて、パソコンに座る京太郎。

機械に疎い美穂子にはパソコンの扱いは難しく、京太郎の隣で教えを受けながら、目を細めて画面を覗き込んでいる。

見ようによっては仲睦まじい男女の二人組にも見える。


「……」


そんな二人を見た、貴子の反応は――


直下判定
1~35 須賀ァッ!!
36~00 あー、その……後で、残ってくれないか?

――壁ドン。

その強引さと格好良さから、一部の女子の間では憧れと以下略――





「京太郎、ごめんよぉ、京太郎ォッ……!」

「やれやれ……」


某居酒屋チェーン店。

酒を煽りながら男泣きする貴子に、靖子は深く溜息を吐いた。

強いデジャヴを感じる。

この様子では、当分の間は貴子に付き合わされることになるだろう。


「う゛う゛う゛う゛う゛っ……」

「……まぁ、今夜だけはとことん付き合うとするか……」


酒で全てを忘れたい、そんな時もあるだろう。

長い夜になりそうだと、靖子は追加の注文をしようと考えて近くを通りかかった店員に呼びかけた。


「……あ、ジャンボカツサンド2つで」




【俺の彼女は鬼コーチ 了】

いつか言ったコーチスレ立てるとしたらこんな感じになるのかなー、と
出来れば出会いから付き合うまでの過程も書きたいんですけどね


さて、次は


1 白糸台日常編
2 臨海出会い編
3 プロ勢編、コンティニューする? その場合はどこから?
4 永水出会い編
5 宮守全国大会後、塞さん大勝利とは限らない
6 松実京太郎、遠征するの巻
7 モンブチーズ出会い編
8 京ちゃんが先生になったよ!の巻。年齢改竄if 安価、コンマメイン
9 千里山プロローグ
10 その他 何か希望があれば
EX ボールを相手のゴールにシュート!



のいずれかになるか、もしくは小ネタになるかとー


それでは、今夜はここで失礼します

お付き合いありがとうございました!

468が多いですね
それでは直下判定で

1~33 永水
34~66 松実
67~99 先生
00 お好きにどうぞ

では次は永水出会い編でー
いつも通りコンマ判定でいきます

中学2年の冬休み。

両親の離婚。

肩を壊してハンドボール部からの引退。

この三つが重なったのは、京太郎にはある意味で幸せだったのかもしれない。

県大会決勝でエースとして活躍し、来年には全国出場まで見えていたハンドボール。

その夢が肩の故障によって断たれてしまった京太郎には、かつての仲間たちがグラウンドで練習をしている姿すら、辛い光景となった。

そして同じタイミングでの両親の離婚。

父は鹿児島に。
母は岩手に。

二つの選択を迫られた京太郎は、父に着いていくことを決めた。

今の場所から離れることが出来れば、どこでも良かった。


――ただ一つ、人見知りな同級生の女の子が気がかりだったけど。

その子を気遣う余裕は、京太郎には無かった。

「ここで待ってれば迎えが来るって言ってたけど……」


鹿児島のとある駅。

父の言葉の通りに駅前で待機する京太郎の胸には不安が渦巻いていた。

どんな人が迎えに来るのか、これから向かうのはどんな場所なのか。

父を問い詰めても、言葉を濁されてばかりでまともな答えは得られなかった。


「というか迎えって……」


キョロキョロと辺りを見渡しても観光客らしき人たちしかいない。

唯一、目を引くのが眼鏡をかけた巫女服の女性くらいだ。


「……ん?」


ちょうど、その女性と目が合って。

重なる視線に対して、その眼鏡の巫女さんは――


巴さん判定直下
1~30 君が須賀京太郎くんかな?
31~60 すいません、お待たせしちゃって……
61~98 え……ウソ?
ゾロ目 ???

すいません、ちょっと遅れます

目が合ったかと思うと、駆け足でこちらに来る眼鏡の巫女さん。


「君が須賀京太郎くんかな?」

「あ、はい」

「良かった……ごめんなさい、少し準備に手間取っちゃって」

「準備ってことは――」


まさかとは思うが。

この巫女さんが、自分の。


「はい。私があなたの案内役を務める狩宿巴です――よろしくね?」


案内役、らしかった。


「親父の実家って一体……」


さっきよりも強くなった不安を胸に抱えながら、京太郎は巴に連れられて行った。

巴さんパート終了ー
彼女の場合はコンマ低いとこんなもんです
次は先鋒さんと大将さんです

「それでは、私たちのお屋敷に案内するので。しっかり着いて来てね?」


そう言われて、巴に案内されて辿り着いたのは、ゴールが見えない長い長い石造りの階段。

駅からここまでの距離もそれなりにあったのだが、更にここから歩くのだと言う。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「あはは……お疲れ様でした。何か飲み物を持って来るね」


それでも何とか階段を登りきったのは、前を歩く巴が平然としていることに対する男子としての意地と。


「何だろうな、この……」


石段を登り屋敷が近付いてくるにつれて、胸の中の不安な気持ちが『懐かしさ』に変わっていったからだ。


「うーん……」


巴に案内された屋敷の客間で胡座をかく。

前にも、ここを訪れたような気がする。

一種のデジャヴのような気持ちが、京太郎の脚を動かした。

だが、そんな不思議な気持ちに浸る京太郎の胸中は――


「あーっ!!」





姫様判定直下
1~30 やっぱり! 京太郎くんだぁ!!
31~60 ど、どうしよう!? もう来てたなんて……
61~98 うう、真っ先にお迎えに行けなかったなんて……
ゾロ目 ???

ドタドタドタと、廊下を慌ただしく駆ける足音。

勢いが全く衰えることなく、段々とこの客間に近付いてきて。

そのまま叩き付けるような勢いで、客間の襖が開かれる。


「あーっ!!」

「っ!?」


弾丸のような勢いで客間に入ってきた巫女服の女の子。

京太郎を見るなり悲鳴に近い叫び声を挙げて、わなわなと震えだす。


「うう、真っ先にお迎えに行けなかったなんて……」


ガックリと肩を下げて落ち込む女の子。

忙しい子だと、京太郎は思った。


「ええっと……」


この場合、どうすればいいのか。

俯いてブツブツと何かを呟くこの子に対して、京太郎はかける言葉が見つからない。

――それは、私がまだ小さかった頃。



『すがきょーたろーです! よろしくなっ!』


初めてできた、男の子のお友達。

引っ込んでいた私の手を取って、色んな場所に連れて行ってくれた男の子。

もの凄く怒られちゃったけど、それでも私を庇ってくれて。

手を繋いで、一緒に遊んで、一緒にお昼寝して。

この子が、ずっと側にいてくれるって。

そう、思ってたのに。


『……え? 帰っちゃった……?』


ある日、目が覚めたらその子はもう、隣にいなくて――



「ううう……」


だから、彼がここに来てくれて、一緒に住むことになるって聞いた時は本当に嬉しかったのに。

誰よりも先に迎えに行くって決めたのに。

その役目が、もう取られていたなんて――




何か、何か言わないと。

そう思っても、京太郎はこの女の子に対する言葉が分からなかった。

下手に触れば一気に崩れてしまいそうな、危うい雰囲気があったからだ。


「あら、これはどういうことかしら……?」


小蒔は自分の世界に入り込んで、京太郎は何をすればいいのか分からなくて、固まっている二人に。

開けっ放しの襖から入ってきた女性が、声をかけた。



霞さん判定直下
1~30 あなた……小蒔ちゃんに、何を?
31~60 小蒔ちゃん、彼が困ってるわよ
61~98 うふふ……全く、もう
ゾロ目 ???

――京太郎は、肩に大きな怪我をしている。

――今まで続けていたハンドボールも、その怪我が響いて引退した。

――そして、鹿児島に来る事になったのは、両親の離婚が原因である。


その事を知って、写真で彼の姿を見てから霞の胸の中に芽吹いた気持ちは、彼を『守りたい』というものだった。

辛いことの連続で、きっと彼は心を痛めている。

だからこそ、せめて、ここは。

彼が休める場所であって欲しいと、思った。





騒々しい足音と、客間の気配を感じてやって来た霞が最初に目にしたものは、俯く小蒔と困り顔で固まる京太郎の姿だった。


「うふふ……全く、もう」


細かい状況は分からない。ただ、『姫様』が彼を困らせていることは理解できた。

俯く小蒔を強引に立たせて、その瞳を覗き込む。


「ひゃっ!? 霞ちゃん!?」

「ほら、小蒔ちゃん。彼が困ってるでしょ?」


彼を傷付けるものは、例え誰であろうとも。

微笑みの裏に決意を込めて、霞は小蒔から手を離した。


「ごめんなさいね、京太郎くん。うちの姫様が」

「は、はぁ……」


何が何だか分からない、京太郎の顔にはそう書いてある。

だが、それで良い。

彼が知る必要は、ない。

「……ほら、小蒔ちゃん? 彼に謝らないと」

「うぅ……ごめんなさい、京太郎くん」


涙目で頭を下げる小蒔。

相変わらず状況はさっぱり分からないが、どうやらこの屋敷ではこの霞という女性に逆らってはいけないらしい、ということは判明した。


「コホン、自己紹介が遅れました……私は石戸霞。永水女子に通っています」

「……え?」

「? 何か?」

「え、あ……いや……」


――正直、その子のお母さまかと思いました。

喉元まで出かかった言葉は、辛うじて飲み込めた。

ダブルおもちパート終了ー
次ははっちゃん先輩です

はっちゃんが健やかに病む(幻視)!?

京太郎がこの屋敷に来てから翌朝。

色々なことがあって肉体的にも精神的にも疲れている筈なのだが、京太郎が目覚めた時間は朝の6時。

この屋敷の独特な空気がそうさせているのか、目が冴えて二度寝も出来そうにない。


「……むぅ」


季節は冬、日の出もまだ先。

外はまだ暗い。

屋敷の周りを散歩することは出来ない

とは言え、暇潰しになるものもまだ送られてきていない。


「……ちょっと、探検してみるか。屋敷の中を」


ちょうど、トイレにも行きたくなってきたし。

寝巻きの上にジャケットを羽織り、京太郎は部屋を後にした。

「……困った」


無事にトイレを済ませたはいいが、迷った。

どうやらこの屋敷、見た目以上に中身が広い。

そして外から見ると似たような作りの部屋が多く、自分がどこをどう歩いてきたのか分からない。

延々と同じところをグルグルと回っているような気さえする。


「どうなってんだ一体……」


かれこれ一時間は歩いたような感覚があるが、一向に日の出が訪れない。

京太郎は、柱に寄り掛かって休憩することにした。


「はぁ……」

「むー? あなたはー?」


はっちゃん判定直下
1~30 迷子の迷子の子猫ちゃんですかー?
31~60 お困りですかー?
61~98 こ、困りましたねー……
ゾロ目 ???

健やかじゃなく、健夜に病んだ(白目)

『異界』

自分たちの日常とは異なる、超常的な現象が潜む世界のこと。

昔の人々にとって異界とは村の外であり、山の奥であり、海の彼方であった。

一切の光が届かない夜の暗闇を異界と呼ぶこともあった。

このように、日常と異界の境目は至る所にある。

だからこそ昔の人々は村の入口に『門』を作り、境目を明確にして、閉ざした。

『異界観』

都市開発が進み、境目が極めて曖昧になった現代日本においてはすっかり廃れた価値観だが。

もしも、例えば。

現代の日本の中に『神』が存在する土地があるとすれば、そこは間違いなく――





妙な胸騒ぎを感じて目覚めて廊下に出た初美が最初に目にしたものは、柱に寄り掛かっている男子の姿。

初めて会う相手だが、その存在は知っていた。

須賀京太郎。昨日に引越してきたという男の子だ。


「……」


するりと、初美の小柄な体躯に対しては大き目の巫女服が肩からずり落ちる。

彼を一目見た瞬間から。

初美は、自分の心の中が切り替わっていくのを感じた。

屈伏させたい。

跪かせたい。

自分のものにしたい。

初めて会う相手に、こんなことを考えるのは異常な筈なのに。

今の初美には、それが当然のことのように思えた。


「お困りですかー?」

「え?」


だけど初美は、それを全く表に出さず京太郎に話しかける。

内面に渦巻く泥の様な激情を、表面の微笑みで隠して。


「駄目ですよー? ここは色々と『違う』場所なんですからー」

「はぁ……」


京太郎の手を取って、初美は歩き出す。

少し歩くと京太郎の泊まる部屋の前まで着いて、日の出の時間になった。

自分を案内してくれた少女――薄墨初美の話によれば、慣れていないのにこの屋敷の中を、この時間帯から一人で出歩くのは危険らしい。


「あー、確かに寝る前に霞さんがそんなこと言ってたような……」

「聞いたことありませんかー? 夜の神社を一人で歩くのは危険だと」

「え? でもそれって足元が悪いとか、泥棒がいるとかそういう理由じゃ」

「まぁ、大半はそうなんですけどねー……」


チラリと、背後を振り向いて話を区切る初美。

その態度に、京太郎の背筋に冷たい感覚が走る。

――まさか、さっきの自分の感じたモノは本当に?

……いやいやそれは有り得ない、そんなオカルトは有り得ない。

京太郎はブンブンと頭を振って、浮かんできた想像を掻き消した。


「……まぁ、何にしても助かったよ。ありがとな」


近所の小さい子を相手にするような感覚で初美の頭を撫でる。

彼女の案内がなければ、自分は未だにあの辺りをグルグル回っていたかもしれない。

ホッと一安心する京太郎だが、頭を撫でられている初美はふくれっ面になっていた。


「むうー……私は、年上なのですがー」

「え? うっそだー」

「むむー! 生意気ですよー!!」


早朝の澄んだ空気の中に、初美の叫び声が響き渡った。

異界云々の話は昔に大学で受けた講義を元にうろ覚えで書いたものなのであしからずー
異界とはパッと見て分からないから怖いのです


次スレ立てました
京太郎「修羅場ラヴァーズ」姫子「運命の、赤い糸」
京太郎「修羅場ラヴァーズ」姫子「運命の、赤い糸」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403418602/)
春の話はこっちでー

このスレは埋めでお願いします

後このレスから下3の小ネタと、>>1000で何かリクエストがあれば永水の次に書いていきますー

1000なら病み久短編ください

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