妖狐「キツネ道具店!」男「どんな道具も売ります買います!」 (324)

妖狐「ほれ、もうじき開店準備じゃ。キリキリ働け若者」

男「もう少しゆっくりさせてくれよ、まだ時間あるんだし」

妖狐「その弛みは客が一番よく見ておる、常連を逃がしたくないのならしっかりせんか」

男「分かってるよ、これで飯食ってるんだからさ」

妖狐「うむ、心構えは学んできたようじゃな」

男「ガキの頃からずっと手伝いしてるんだ、それくらいはな」


ガラガラ


妖狐「おっと……いらっしゃい、妾の店にようこそ」

男「おーい、まだ開店時間じゃないぞー……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381218121

眼帯少女「……お邪魔しまーす」

黒髪少女「あら?まだ開店していませんでしたか?」

妖狐「いいえ、今日は早めに開けようと思っていたところです」

男「誰が決めたそんなこと!?」

妖狐「店の主の妾じゃ、お前さんはとっとと準備してこい!」

男「横暴だなまったく……」

金髪少女「すみません、無理に押し入ってしまって……」

妖狐「構いません、ワタクシ共はお客様第一に考えておりますので」ニコッ

男(客と店員に対しての対応に差があり過ぎだろ……ったく)

黒髪少女「色々なものを取り扱っているのですね」

妖狐「ええ、貴重なものこそございませんが」

妖狐「日用品や小物、それに家具などを中心に」

金髪少女「冒険者向けの物は置いてはいないんですね」

妖狐「客層の違いですね。近所の人に気軽に立ち寄ってもらえる店を目指しているので、冒険者さん用の物はよくて傷薬くらいです」

眼帯少女「……武器が無い、残念」

忘れてた

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妖狐「それで本日はどのような物をお探しで?」

黒髪少女「いえ、今日はコレを売りに……」カタッ

妖狐「……これは?」

黒髪少女「綺麗な石だと思いませんか?いくつか手に入ったのはいいのですけど、貴重な物で処分に困っていまして」

黒髪少女「こんなにも要らないので、せめてお金に変えようとしているワケです」

妖狐「……ふむ」

妖狐「それで、この石は何か効力を持っているのですか?」

黒髪少女「さぁ?私には見当もつかないですね」

男(そんなもん売ろうとしてるのかよ)

妖狐「……不思議な力を感じますね」

黒髪少女「ええ、なんたって貴重な物ですから」

妖狐「効力を調べてから査定いたしますので、時間がかかりますがよろしいですか?」

黒髪少女「そちらの方は貴女に任せます、どんな値段をつけても構いません。貴女の掲示するもので納得しましょう」

黒髪少女「もしただのゴミだと思われるのなら……捨てていただいても結構ですので」

妖狐「分かりました、ではしばらくお待ちを……」

黒髪少女「いえ、今日はこの辺で失礼させていただきます」

男「え?」

黒髪少女「用事のついでに寄ったので……日を改めてお邪魔させていただきますが」

黒髪少女「それで構いませんか?」

妖狐「はい、では時間の都合の取れたときにまたいらしてください」

黒髪少女「フフッ、ではその時までまた……」

眼帯少女「……このツボはいいツボだ」

金髪少女「あ、可愛い髪飾り」

黒髪少女「ほら、何やってるんですか、行きますよ」

眼帯少女「……うあー」ズルズル

金髪少女「オイ勝手すぎるだろ!自分の都合で振り回すな!」ズルズル



男「何なんだ一体」

妖狐「ふむ……なんなんじゃこの石は」

妖狐「淡く赤色に発光しておる……」

妖狐「何らかの魔力を秘めているのは分かるが、もっと詳しく調べなければその力は分からないのう」

男「それ、魔導核ってやつじゃないのか?武器とか防具とかに付けたりして効果発揮するアレ」

妖狐「……となると、鍛冶屋に見てもらう以外分からんな」

男「鍛冶屋以外でも分かる鑑定士でもいればいいんだけどねぇ」

妖狐「雇うのにも金がかかる、慈善でやってくれる者など到底居ない」

妖狐「ふむ……まぁよい。どの道、妾は鍛冶屋に用事がある。その時に一緒に見てもらうとするか」

男「鍛冶屋に用事?どうしたんだ?」

妖狐「この刀じゃ」ガタッ

男「あー……なんか怪しい奴が置いて行ったな」

妖狐「うむ、しばらく預かってくれと言ったっきり戻ってこなかったのう」

男「確かそいつ、盗みを働いてしょっ引かれてたぞ」

妖狐「ああ……通りで来ないワケじゃ」

男「じゃあその刀も盗品か?」

妖狐「さあのう?ま、警察も何も言ってこないから手元に置いていたが……」

男「そのままネコババしちゃう?」

妖狐「人聞きの悪い事を言うな!必要ならば提出するつもりじゃ!」バコッ

男「その刀で殴るなよ……誰か他人のかもしれないのに」

妖狐「その男が盗みで捕まったというのならなおさら、コイツを持って警察に行くとしようかの」

男「えー、勿体ないなぁ」

妖狐「人様のものを勝手に使ったり売るような真似は妾はせぬ」

男「誰も何も咎めたりしないって」

妖狐「お前さんはいつか天罰が下ろうじゃろうな」

男「俺は無宗教だから知ったこっちゃないね」

妖狐「さて、それは置いておいて。ホントのホントに開店じゃ」

男「おっと、完全に忘れてた」

妖狐「コイツの処遇は店仕舞いした後でもいいか……」

男「実際物騒だから奥に仕舞っておけよ」

妖狐「言われなくても分かっておる。それじゃあ、今日も張り切っていくかの!」


――――――
―――


男「んー……」ペラペラ

妖狐「こりゃ、仕事中に何読んでおる」

男「新聞、朝読む時間なかったし」

妖狐「そんなもん後にせんか、仕事仕事!」

男「お客さん少ないって訳じゃないけどさぁ、何もしない時間の方が多いんだよ」

妖狐「品出し発注買い取り査定で妾は大忙しじゃが……会計だけのお前さんは楽そうじゃのう」

男「俺に出来る仕事が少ないんです、はい」

妖狐「お前さんに品出しさせたら変な場所に変な物置くし」

妖狐「発注させたらいらない物取るし」

妖狐「買い取りと査定は簡単なことも出来んし」

妖狐「役立たずじゃのう」

男「力仕事はするよ!?お前よりは力あるからね!?」

妖狐「よっぽど大きい商品でなければお前さんには頼まんよ」

男「あんまりそういう商品って出入りしないからなぁ」

男「役に立たないのは申し訳ない、でも接客はちゃんとしてる」

妖狐「それは当たり前じゃ、気を弛ませたりするなよ?」

男「客が一番見てる……だろ?」

妖狐「まったく、イレギュラーな客でも来て一回痛い目を見ればいいんじゃ」

男「ご近所さんばっかりしか来ないこの店にそんなの来ないって、HAHAHA」


ガラガラ


妖狐「おや、いらっしゃいませ」

仮面男「……」

鎧少女「……」



男「なんか凄まじいの来ちゃった」

妖狐(おー、これはこれは面白い)

男(何がだよ)

妖狐(お前さんの慌てふためく姿が見れそうじゃからな)

妖狐(あの青い鎧の少女を見るに、多分仮面被った奴も外人さんじゃろうなぁ)

男(そ……それがなんだよ)

妖狐(お前さん、よその国の言葉分かるのか?話せるのか?ムフフ)

男「……あ、トイレ言ってくる」ガタッ

妖狐「逃げるな馬鹿者」ガシッ

仮面男「―――」

鎧少女「―――?」



男「あーもう、こっちの分からない言葉話してるよあの二人」

妖狐「仲睦まじく品物を見ておるのう、何を選んでくるか楽しみじゃ」

男「つーかさー、外人さんお断りとかにしようよ。俺じゃ対応できないよ」

妖狐「そんな人種差別のような事出来るか!何事にもグローバル化を目指すのも商売の一歩だ!」

男「うぐう……でもどうするのさ、言葉が通じなくて商売にならなかったらさ」

妖狐「その時はお前さんの給料から直接その分引かせてもらう」

男「なにゆえ……」

仮面男「……」スタスタ


男(あ、やべっ、こっち来た)

妖狐(クッフフ……腹をくくれ腹を)

仮面男「……」コトッ

男(商品置いた!歯ブラシ!!よりによって歯ブラシだけ!なんで凄い恰好した人がこんなもん買うんだよ!)

妖狐「」プルプルプル

男(物凄い笑いこらえてるし!俺を見て笑ってんのか歯ブラシで笑ってるのか!)

仮面男「……」ジロッ

男(……ともあれ、やるしかない!給料の為に!)

男「は、ハロー!エクスキューズミー!アイアムペン!アンジュー?」

妖狐「ブフッ」

仮面男「……すまない、これと同じものを数本くれないか?」

男「こっちの言葉喋れるのかよぉおおおおお!!騙したなああああああ!!」ダンッ

妖狐「ぎゃはははははははははは!!バカめホントにやりおった!」

仮面男「えっと……」

鎧少女「―――」ブチッ



何故か鎧の女の子の逆鱗に触れて二人そろって滅茶苦茶怒られました

――――――
―――



仮面男「すまない、彼女がこっちの言葉が分からなくて今機嫌が悪いんだ」

鎧少女「――――――!」

妖狐「申し訳ありません……ワタクシ共の対応の悪さが原因ですので」ペコッ

男「申し訳ない」ペコッ

仮面男「ほら君も、そこまで怒る事じゃなかっただろう?」

鎧少女「―――」プイッ

妖狐「お詫びの品です、どうかお受け取りください」

仮面男「いや、それは悪いよ。そこまでは……これは」

男「あ!俺のおやつのリンゴ飴!なんでお前が持ってるんだよ!」

妖狐「ウチの目の前の有名な駄菓子屋特製のリンゴ飴です、どうぞ」

鎧少女「……リンゴ?」

仮面男「欲しいのかい?」

鎧少女「……」コクン

仮面男「それじゃあ、折角だし貰おうかな」




妖狐「大変申し訳ありませんでした」ペコッ

男「またのお越しを……うう、俺のおやつ……」ペコッ

……

仮面男『言葉が通じないからってそこまでカリカリする必要ないじゃないか』

鎧少女『違う、そんなことじゃ私は怒らん』ペロペロ

仮面男『もしかして、私が笑われたと思っていたのかい?』

鎧少女『……身内が笑われるというのは気分が悪いからな……勘違いだったし反省もしてる』ペロペロ

鎧少女『……対応が悪いのは事実だが』

仮面男『そうだね、でも賑やかでいいじゃないか、ああいうのも』

鎧少女『そうか?お前は寛大過ぎる気がするが』ペロペロ

鎧少女『にしても、リンゴか……半年前を思い出すな』ペロペロ

……


妖狐「そ れ 見 た 事 か」

男「半分はお前のせいだぞ!?」

妖狐「妾の腹筋が決壊したのはお前さんのせいだ」

妖狐「何はともあれ、外人さんへの対応が出来ないのは事実。仕事はサボらずしっかり勉強しておけ!」

男「ぬぅ……言ったそばからイレギュラー過ぎる人が来るとは……。でも他の国の言葉を今更勉強するのもなぁ」

妖狐「まともな接客も出来なければお前さんをいらない子扱いするぞ」

男「それは嫌だなぁ」

妖狐「そういえば、朝来た3人娘の方も外人さんだったが」

男「そりゃ、いきなりこっちの言葉喋りだしてたから俺も対応出来たんだよ」

妖狐「対応したのは妾じゃ、お前さんはとっとと裏に引っ込んだろう」

男「そういやそうでしたねぇ」

妖狐「まったく、やっぱり役に立たん……お前さんを養ってて妾に何のメリットがあるのやら」

男「育ててもらった上に就職までさせてもらって、感謝してるよお姉ちゃん!」

妖狐「む、むぅ……ま、ゆっくり順応していけばいい」

男(俺がお姉ちゃんっていうと激甘になるんだよなぁ……チョロイ)

妖狐(とか思ってるんじゃろうなぁ……妾は甘いのう)

ガラガラ


男「おっと、いらっしゃい」

妖狐「いらっしゃいませ」

「郵便でーす」

男「郵便屋さんか」

妖狐「おや?何か注文したかな……?」

「手紙です。後、前の駄菓子屋さんにも同じ人から……それでは!」ガラガラ


妖狐「手紙ねぇ……お?」

男「誰から?」


―港から速達で手紙、送ってもらいました
―もうすぐ着くんで帰還パーティーの準備でもしておいてください
―あ、あと友達一人とペット1匹連れてくるんでヨロシク☆
―あなた達の愛しき狼(ここ重要)獣人より


男「あー、アイツか。帰ってくるのか」

妖狐「二年ぶりか。名前くらい書けよ……」

妖狐「ふむ……多分今日中に来そうだな」

男「パーティとか急に言われてもねぇ」

妖狐「奴もそんな豪勢なものは期待していないじゃろ……ちょっと出て行く」

男「迎えに行くのか?」

妖狐「関所は通るだろうしな、そこで待っていれば来るじゃろう」

男「随分嬉しそうだな」

妖狐「まさか!バカな妹分の商売失敗して帰ってくる顔を見に行くだけじゃ」

男「素直じゃないな、まあいいや。店番しておくから行ってきな」

妖狐「ああ、頼むぞ」


――――――
―――


妖狐「ふむ」ソワソワ

妖狐「ふむむ」ソワソワ

妖狐(大丈夫かなぁ、怪我とかしていないだろうか)

妖狐(友達連れてくるなどと書いていたが、いい子なのだろうか)

妖狐(変に影響される子ではないから大丈夫だとは思うけど……まさか男!?)

妖狐(いやいや、確かに可愛いけど男運がそんなにないあの子に彼氏なんて出来るワケ……)

妖狐(……もうあの子も大人なんだし、姉貴分といっても他人の妾が気に掛ける事でもないのか)

妖狐「……はぁ」ソワソワ



商人「いやぁ付きましたよ!我が国我が町!」

剣士「国はさっきから入っているけどな」

子ウサギ「ウキュウ!」

妖狐「!!」


商人「特に何事も無く辿り着けたのには助かりましたね」

剣士「そうそう一悶着あってたまるか」

商人「問題を起こすのはいつもあなたですが。前だって誤って出荷されそうになったじゃないですか」

剣士「お前が旅費を浮かしたいとか言い出したから手ごろなトラックの荷台に乗り込んだんだろう」

商人「ほらやっぱりあなただ」

剣士「お前だろ」

子ウサギ「ウッキュウ……」ヤレヤレ


ドドドドドドドド


子ウサギ「……ウキュ?」

妖狐「林檎ーーーーーーー!!」ダキッ

商人「ドゥグハッ!?」

剣士「!?」


ドッシャンガラガラ

バキッ


妖狐「碌に連絡もせずに今まで心配かけおって!怪我も無く無事に帰ってきて嬉しいぞ!」ナデナデ

商人「あ……アネさん……どいて……たった今アンタのタックルで木箱に突っ込んで怪我したんだけど……」

……

妖狐「まったく、女の子なんだからもっと自分を大切にしないか。傷が残ったらどうする」ヌリヌリ

商人「イテテ……アネさんはもっと私を大事にしてください、運が悪かったら死にます。割とマジで」

妖狐「それより、ここにいる女子は?」

剣士「……」

商人「手紙に書いたでしょ、友達ですよ友達」

妖狐「ほほう、この子が」

剣士「林檎、こいつは誰だ?」

商人「瑪瑙のアネさん、私のお姉さんみたいな人です」

剣士「メノウ?」

妖狐「お前さんが友達か……ふむ、外人さんなのに流暢に喋るな」

剣士「入国前にコイツのワケの分からん道具でスピードラーニングで覚えさせられた。だから簡単な言葉しか喋れん」

商人「ワケ分からんとは何ですか!これもれっきとした商品ですよ!」

商人「その名も『1日で出来る言葉遊び』!!」

妖狐「何の教材なのか理解に苦しむタイトルじゃな」

妖狐「ともかく、妾の名は瑪瑙。そちらは何と言う名だ?」

剣士「……剣士、とでも呼べ。名は名乗れん」

妖狐「むぅ?名乗れぬ名か?よもや犯罪者ではあるまいな?」

商人「あー、そりゃ誤解です。この子の育った場所では名前を名乗る習慣は無いんですよ」

妖狐「ああ、そういう事か。なら仕方がない。すまないな」

剣士「いい、ある意味間違っていない」

妖狐「えっ?」

商人「さて次はこの子!我々のアイドル、ウサギちゃんです!」ババッ

子ウサギ「ウッキュウ!」プラーン

妖狐「名はそのままか。……こやつ、魔物か」

商人「はい、もう密入国させるの大変でしたよ」

妖狐「えっ?」

妖狐「聞き間違いか、最近耳が遠くなっているのか……」

商人「おっと、ナンデモナイデスヨ」

妖狐「お前さんがそんな事するワケないしな」

剣士「おい、そろそろ休みたい。魔力を使い過ぎた」

商人「え?ああ、もう少しでウチに着きますから頑張ってくださいよ」

妖狐「魔力……何に使ったんじゃ?」

剣士「船に乗るとき船体に大穴開けてそこから侵入して、木の板で塞いで凍らせてカモフラージュしたんだ」

剣士「溶けることは無いだろうが、念のために魔力を注ぎ続けていたんだ、だから疲れた」

商人「おいバカ何喋ってんだよ!」

妖狐「……」

商人「あ、あははは……とりあえず家帰りましょ?アネさん?」

妖狐「そこに座れ」

商人「……はい」


――――――
―――


ガラガラ

男「いらっしゃい……あ、お帰り」

妖狐「ああただいま」

剣士「邪魔するぞ」

子ウサギ「ウッキュウ!」

商人「アニさん……お久しぶりでふ……」

男「うお!?林檎か!?なんで両頬腫れてるんだよ……」

妖狐「お天道様が見逃した罪を妾が直々に裁いただけじゃ」

久しぶりの小休止

着物商人の時みたいに完全ノープランだから長引くかもしれないし速終わるかもしれないです

再開

男「おーおー、可哀そうに」

妖狐「自業自得だ……まったく、下らんことをしおって」

商人「バレなきゃいいんですよ」

剣士「ああ、何も人を困らせたワケじゃないからな」


ゴンッ!

ゴンッ!!


商人「ズァア!?殴らなくてもいいじゃないですか!」

剣士「……何故私まで殴られた」

妖狐「当然じゃ馬鹿者ども」

男「で、なんで早速ウチに来たんだ?親御さん今居るだろ?」

商人「ああいえ、先に行ったんですけどね……」

妖狐「コイツの部屋がものの見事に物置きにされていてな」

男「2年も碌に連絡よこさなかったら当然か」

商人「まったく!可愛い一人娘が無事に帰ってきたというのにあんまりですよ!」

妖狐「っつーワケで、あっちが片付くまで妾達が面倒を見ることになった」

商人「片付ける気サラサラなかったっぽいですけどねぇ……そんなわけでお世話になりますアニさん!」ペコッ

男「いいよ、何度も寝泊まりした仲だしな。部屋準備してくるわ」

妖狐「ああ、店番ご苦労だったな」

剣士「……おい」

商人「はい、なんでしょう」

剣士「コイツらとはどういう仲だ?」

妖狐「おいおい、目上のものに向かってコイツとは何だコイツとは」

商人「すみません、この子ちょっと世間知らずな上に言葉覚えたてなもので……」

剣士「気分を害したなら謝る、だが言葉をあまり多くは知らない。勘弁してくれ」

妖狐「ふむ……ま、異国の人がこっちの言葉を覚えるのも辛いものがあるだろう」

妖狐「今回は大目に見てやろう」

剣士「エラソーな態度だな」

商人「テメーの方がよっぽど偉そうだよ」

妖狐(面白い子だなぁ)

商人「さっきの男の人は私の幼馴染のお兄さんです」

剣士「恋人か?」

商人「やめろよマジで……」

妖狐「あんまり拒否反応を示してやるな、可哀そうだ」

商人「まぁ……あんまり語ることが無い人なので、以上です」

剣士「そうか」

妖狐「お前さんにとってどうでもいい人間という事を理解したぞ」

商人「どっちかっていうと世話になってたのはアネさんの方ですしねぇ」

商人「んで、まぁさっき話したばかりですが」

妖狐「姉貴分の瑪瑙じゃ、改めてよろしく」

剣士「メノウ……メノウ……よし、覚えた。よろしく頼む」

妖狐「しばらく滞在するのであろう?不便があるなら妾に言え」

妖狐「出来る範囲でなら何かしてやろう」

商人「ホントは両親がやらなきゃいけない事なんですけどねぇ。お言葉に甘えさせてもらいます!」

男「おーい、部屋の方準備出来たから休んだらどうだ?」

商人「うおー!ありがとうございますアニさん!そういうところ好きですよー!」

男「ヘヘッ、そう褒めるなって」

商人「社交辞令だよバカ」

妖狐「とりあえずゆっくりしていくといい……」



剣士「……なんか蚊帳の外だな」

子ウサギ「キュー」

――――――
―――

男「さて、そろそろ閉めるか」

妖狐「ご苦労さん、片付けは妾がやろう。お前さんは先に上がり」

男「俺が最後までやるよ。お前の方が疲れてるだろ」

妖狐「慣れっこじゃ。お前さんより長くこの店をやっているからな」

男「創業19年……長いもんだな」

妖狐「余所者の妾達を受け入れてくれた町の人たちに感謝しなければな」

商人「アネさーん、お腹すいたー」トボトボ

妖狐「なぬ?だったら手伝わんか」

商人「アネさんの料理が食べたいー」ゴシゴシ

男「コイツ寝ぼけてるのか」

妖狐「長旅から帰ってきて安心したんだろう……まったく、作ってやるから待ってろ」

商人「ぐへへー、タダ飯ー」

妖狐「やっぱ手伝え」

男「はは……俺が店の片付けやっとくよ」

妖狐「ああ、頼んだ……ほれ、寝ぼけてないでシャキッとしないか!」

……

妖狐「妾の特製キツネそばじゃ、さぁ召し上がれ!」

剣士「……なんだこの四角い物体は」チョンチョン

妖狐「油揚げを知らんのか?」

剣士「油を揚げるとこうなるのか!」

商人「ワケねーだろ!?豆腐を薄切りにして油で揚げたものをだな……」

剣士「トウフ……?トウフとは何だ?」

商人「豆腐ってのはだな……ああもう!めんどくせぇ!そういう食べ物なんだよ!」

男「カルチャーショックってやつか?」

妖狐「外人さんはこっちの文化を知らないからの。反応が面白い」

妖狐「お前さんはどうだ?」

子ウサギ「ウギュー」モグモグ

男「ウサギに油揚げって大丈夫なのか?」

商人「その子魔物だし、雑食なんで大丈夫じゃないですか?知らないけど」

剣士「割と何でも食うから大丈夫だろ。知らないけど」

妖狐「これで早死にしたら可哀そうだな」ナデナデ

子ウサギ「キュー……」

男「ほりゃ!追加の油揚げだ!」ポイッ

子ウサギ「ウキュ!!」パシッ

男「おー、上手上手」

妖狐「これ、食べ物で遊ぶのは止めないか」

剣士「そうだメノウ、聞きたいことがあるんだがいいか?」

妖狐「ん?なんじゃ?何でもお姉さんに聞いてみ?」

剣士「お前、林檎と同じようなキモノ?を着ているが」

妖狐「着ているな」

商人「着てますね」

剣士「そんな肌蹴た着方でいいのか?胸元が普通に見えているぞ」

妖狐「こういうファッションじゃ、お客さんの目の保養になるだろう」

商人「ホントはアネさん着物に拘るくせに、窮屈な服装が嫌いなんですよね。だからこんな着方を」

妖狐「ふむ、そうともいう」



男「まったく、普段一緒にいる俺の目の毒だよ」

子ウサギ「ウキュウ」プラーン

剣士「ファッションなら仕方がないな」

妖狐「仕方ないね」

商人「アネさんはその格好もだけど美人だから余計に目立つんですよ。お客さんだってアネさん目当ての人多いでしょうに」

妖狐「そんな不純な理由でウチに来るお客さんはいないぞ。みんな常連さんばっかりじゃ」

商人「その常連さんがアネさん目当てでしょうが」



男「ホレホレー、ウキュウ以外にも何か言ってみろー」コチョコチョ

子ウサギ「ブミャー」

男「!?」

剣士「あと、お前も林檎と同じで獣人なのか?凄い獣臭いぞ」

妖狐「なぬ!?獣臭いとな!?……体臭には気を使っていたつもりじゃが……」

商人「この子は獣人嫌いなだけでちょっと敏感なんですよ」

剣士「ああ、別にお前が特別に臭いワケじゃない。いつも横に居るコイツの方がよっぽど臭い」

商人「待てやコラ」

妖狐「ふむ、鼻の効く娘じゃ。だが、残念ながら妾は獣人とは少し違うな」

剣士「狐の耳に尻尾、獣度の低いエセ獣人の姿をしているじゃないか」

商人「悪かったな耳と尻尾だけで」

剣士「お前じゃない。いや、お前もだが」

紹介無かったけど
商人=林檎です
申し訳ない

妖狐「あやかし、物の怪、魑魅魍魎……」

妖狐「妾の種族、並びに多様な者達を昔の人々はそう呼んでいたな」

商人「つまりは妖怪、あまりお目にかかれない存在ですね」

剣士「どれもこれも聞き覚えのない用語だな」

妖狐「物が勝手に動いたり、山の声を反響させたり、川に子供脅かしたり……」

妖狐「そういった怪現象を引き起こす者が総じて妖怪と呼ばれていた」

剣士「微妙な活躍しかしてないんだな」

商人「それは言わないお約束」

剣士「お前は獣人とどう違うんだ?見た目こそ同じじゃないか」

妖狐「ふむ、コレは直接見てもらった方が早いな」ヌギヌギ

ポワン

狐「……」チョコン

商人「いやぁ、やっぱアネさんは可愛いですねぇ」

剣士「……狐を召喚したのか」

商人「いやこの流れを見てどうしてそう思った!?今目の前でアネさん消えて子ぎつねが出てきたろ!?」

妖狐「と、言う風に。妾はもともとが狐という訳じゃ」ポワン

剣士「ああ、そういう事か。素っ裸で変身するんだな」

男「男の俺もいるんだからやめろよ」

商人「あ、いたんだ」

妖狐「獣人は長い年月をかけてそういった進化をしていった種族、妖怪とはまた違う」

剣士「お前は変身できないのか?」

商人「出来たら妖怪だっての、説明聞いてたのか?」

剣士「ほら、変身しろ、叫ろ」

商人「叫ろぉ!?出来るかボケ!?」



妖狐「賑やかだな」

男「嬉しそうだな、お前」

妖狐「……ま、たまにはな」


――――――
―――


妖狐(泣くな、男の子だろう?)

妖狐(大丈夫、妾がずっと傍にいてやる)

妖狐(いつかお互いに、家に帰れるまでずっと)

妖狐(妾がお前さんの母であり、姉であり続けよう……)

妖狐(だからもう……泣かないで……)

妖狐(妾も……泣かないから……)


――――――
―――

妖狐「ぬ……」

妖狐「……朝か」

妖狐(古い夢を見たな……まだアイツは小さかったな)

妖狐(20年経った今でも、まだ未練があるというのか……)

妖狐(……会いたいな……皆に)


商人「アネさーん!ご飯できましたよー!」


妖狐「ん、ああ!すぐに行くから待っていろ」

妖狐(……でも、今は寂しくは無いな)

……

男「お前、家事全般は得意なんだよなぁ。ウチに嫁がない?」モグモグ

商人「やめろマジで、寒気がする」

剣士「毎日作ってもらって助かる」ガツガツ

子ウサギ「ウキュウ!」モヒモヒ

商人「お前はせめて皿洗いくらいは出来るようになろうな?」

剣士「売り子と金の計算で手一杯だ」ガツガツ

妖狐「おお、なかなか豪勢な朝食じゃな」

商人「あ、アネさんおはようございます。はいお米」

妖狐「ああ、ありがとう」

妖狐「さて、今日は妾は店を空けるぞ」

男「ああ、刀を警察に届けに行くんだったか」

妖狐「それと、鍛冶屋な」

商人「刀?何かあったんですか?」

妖狐「不審人物が刀をウチに置いて行ってな。その男が後に警察に捕まったものだから」

男「証拠品として届けに行こうとしてるんだ」

商人「そんなもん商品にしちゃえばいいじゃないですか」

妖狐「この馬鹿と一緒の事を言うな」

男「へへへ」

商人「うわっ、同レベルにまで落ちちまった」

商人「どんな刀ですか?見せてくださいよ」

妖狐「ん?お前さん、盗りそうだから嫌だ」

商人「信用無いなぁ、流石に人のもの盗りませんよ」

妖狐「ふむ、まぁ信用しよう」ゴソゴソ

妖狐「ほれ、これが噂の刀だ」

商人「へっへっへ、これでも一端の商人!私がちょこっと鑑定してあげようじゃないか!」

剣士「……ッ!」

商人「ん?どした?」

剣士「……なんでもない……たぶん」

商人「変な子ですねぇ……お、どれどれ?」

妖狐「危ないから気を付けな」

商人「ほうほう、コレはコレは」

商人「妙に手にしっくり来ますねぇ、鞘から抜いてみてもいいですか?」

妖狐「ダメだと言っても見るんじゃろ?好きにしろ」

商人「ぐへへ、お前を今からひん剥いてやるぜぇ!」

男「エロ親父かよ」

剣士(……なんだ、私の剣が反応している……?)

商人「それでは御開帳ー!」


"ミツケタ"


商人「え?今何か言いました?」

妖狐「何も言ってはいない、耳がおかしくなったか?」

商人「いえ、でも確かに……」


ガラガラ


「おーい!林檎ー!!」


商人「んげッ!糞親父!」

妖狐「おや、駄菓子屋の親父さん。どうしたんですか?」

「おお、いつも娘が世話になって悪いね」

妖狐「いえいえ、妾も好きでやっていることですから」

「お詫びにこれと……お友達にもコレあげな!」

男「うひょー!俺の好きなリンゴ飴!親父さんあざーっす!」

剣士「む、すまない。貰おう」

商人「何しに来た!ウチに上げさせてもくれなかった糞親父め!」

「部屋用意出来なかったんだから仕方ねぇだろ!」

商人「ええい!一人娘が可愛くないのか!」

「親に向かってそりゃなんだ!!」


ヤンヤヤンヤ


妖狐「ウチの店で喧嘩は止めてくれないかねぇ」

男「いつも通りって感じでいいんじゃないの?」

妖狐「それもそうか……それでは店は頼むぞ?」

男「買い取りとかはしなくていいよな?お前いないし」

妖狐「ふむ……そうだな。おい林檎、お前も店番頼んだぞ」



商人「だあああ菓子屋継ぐのが嫌だからこっちは家出たんだよ!分かるかこの気持ち!」

「知るかンナもん!こっちはおめぇが婿さん捕まえてきてくれればいう事ねえんだよ!親不孝もん!」


妖狐「……ま、後から伝えておけ。アイツなら査定くらい出来るだろうしな」

男「そうだな」

剣士「必要なら私も手伝うから任せておけ」

子ウサギ「ウキュウ!」

――――――
―――


妖狐(さて、先に警察かな)

妖狐(こんな物騒なもの早く手放したいからな)

黒髪少女「あら?奇遇ですね、こんにちは」

妖狐「おや?昨日のお客さん」

黒髪少女「昨日はどうも……あの石について、何か分かりましたか?」

妖狐「すみません、ワタクシの方でまだ査定が出来ていないもので……」

黒髪少女「いえいえ、急かしているわけではありません。ゆっくり、貴女のペースで行ってください」

黒髪少女「あと、私にはそんな畏まらなくたっていいですよ。今はお客じゃないんですから」

妖狐「はぁ……」

黒髪少女「それよりも……素敵な刀をお持ちですね?」

妖狐「ああ、これですか。今から持ち主のところへ返そうとしているのですけど」

黒髪少女「持ち主ねぇ……貴女が行こうとしている場所に、その刀の正しい持ち主は果たして居るのでしょうか?」

妖狐「?」

黒髪少女「とても禍々しいものを感じます、本当に手放したいのならばしかるべき場所へ持って行くことをお勧めします」

妖狐「それは一体……?」

黒髪少女「今、有名な鍛冶屋の人が近くに来ているみたいですよ。その人に見てもらってはいかがでしょうか?それでは失礼します」



妖狐「……ホント、ワケが分からん人じゃ」

……

妖狐「何?預かれない!?どうして……」

「申し訳ありません、規則ですので」

妖狐「規則とは何だ規則とは!こっちはこんなもの早く手放したいと言っているんだ!」

「いえ、受け取れません」

妖狐「証拠品だぞ!とっととそっちで処分してくれ!」

「申し訳ございません……」

妖狐(普通なら銃刀法違反でこっちがお縄じゃぞ、まったくこの世界はおかしいものだ……)

「申し訳ございません」

妖狐「馬鹿の一つ覚えの返事はもういい、後日改めて伺う」スタスタ






「……あれ?今、俺何してたんだ?」


――――――
―――

妖狐(こっちで処分するにも、費用が掛かりそうじゃ)

妖狐(いっそ奴らが言うように店にでも出すか……)

妖狐「いやいやいや、商売人としてそれはダメだろ」

妖狐(……鍛冶屋でついでにコイツも見てもらうか)

妖狐(いっそのことそっちで引き取って貰おう、その方がいいな)

妖狐「さて……工場はこの辺だったな、普段立ち寄らないから分からないな」

妖狐「もし、そこのお方。この辺で有名な鍛冶師が来ていると聞いてきたが、どこにいるか分かりますか?」

鎧少女「―?」

妖狐「あ」

鎧少女「……」

妖狐(昨日の客とよく会うなぁ……)

鎧少女『こっちの言葉、分かるか?』

妖狐『え、ええまぁ』

鎧少女『そうか……刀を持っているところを見るに、鍛冶師を探しているのか?』

妖狐『はい、ちょっと用事で』

鎧少女『なら着いてこい、腕のいい職人を紹介してやる』

妖狐『はぁ……』

ガラガラ


鎧少女『客だ、連れてきたぞ』

仮面男『お客さん?ちょっと待ってて、今君の槍の点検を……』

鎧少女『後でいいだろそんなもの』

妖狐「こ、こんにちは……」

仮面男「ん?……貴女は昨日の」

妖狐「鍛冶師さんだったんですね」

仮面男「ああうん、ちょっと違うけど……そんなようなものかな」

仮面男「それで、今日は何の用ですか?見た感じ、刀の点検か修理かな?」

妖狐「いえ、これではなくて。こっちの魔導核の効力を調べに来たのですが」

仮面男「魔導核の?」

妖狐「はい、コレをお願いします」スッ

仮面男「ああ、少し時間がかかるからそこで座って待っててください」

妖狐「はい、お願いします。あ、お代は……」

仮面男「いいですよ、サービスでやってることですから」

妖狐「ありがとうございます」

鎧少女(私の分かる言葉で喋ってくれないかなぁ……)

妖狐『あの……』

鎧少女『なにか?』

妖狐『冒険者の方ですか?ヤケに凄い装備をしていますが』

鎧少女『ああ、私もアイツも冒険者で食っている。おしどり夫婦と言う奴だ』

妖狐『夫婦……え、夫婦!?誰と誰が!?』

鎧少女『私と、アイツ』

妖狐『えと……』

鎧少女『鎧着てる私と、仮面被ってるアイツ』

妖狐「……うわ、あの人ロリコンか」

鎧少女『私の分からない言葉でサラッと悪口言ってないか?』

妖狐『世の中いろんな趣味趣向の人がいるんですね』

鎧少女『お前が思っていることすべてがその一言に凝縮されているな』


仮面男「鑑定終わりましたよ」

妖狐「おや、随分早かったですね」

仮面男「ええ……まぁ」

妖狐「何かあったのですか?」

仮面男「この石、残念ながら魔導核ではないですよ」

妖狐「なんと!」

仮面男「強い魔力を放ってはいるが、道具に付けて付加価値を与えるものでは無かったです」

仮面男「どちらかと言うと……魔法石ですね」

妖狐「何か違うのですか?」

仮面男「魔導核は別の触媒になるものに付けなくては効果は発揮しません」

仮面男「魔法石はそれ自体が何らかの影響を及ぼす石です」

仮面男「砕いて効果を発揮する物が大半ですね。我々が調べられるものではありません」

妖狐「つまり……鍛冶屋の専門外と?」

仮面男「はい、これの専門は魔法使いですね」

妖狐「うむむ……魔法使いか。余計に金がかかりそうな相手だ」

仮面男「まぁ、彼らも仕事でやってることですしね。趣味で鍛冶をしている私とは違いますので」

妖狐「趣味?」

仮面男「失礼、こっちの話です」

仮面男「お役に立てなくて申し訳ない」

妖狐「いえいえ、こちらも無理を言って頼んだことですので……」

鎧少女『それよりその刀はいいのか?』

妖狐「ああ、すっかり忘れてた」

妖狐「この刀、そちらで引き取ってもらえませんか?」

仮面男「刀を?どういう事情ですか」

妖狐「カクカクジカジカで」

仮面男「なるほど……」

鎧少女『今物凄い省略しなかったか?』

仮面男「一回見せてもらえますか?それから考えさせてもらいます」

妖狐「はいどうぞ」

仮面男「ん……?また珍しいものが出てきたね」

妖狐「珍しい?」

仮面男「一見真剣のように見えるが、鞘から出してみれば両側どちらにも刃の無い刀」

仮面男「これ、模造刀ですね」

妖狐「模造刀!?ああ……なんか心配して損した」

仮面男「模造刀でも十分殺傷能力はあるから危ないですけどね」

仮面男「けれど……そうだ、貴女は刀の知識はありますか?」

妖狐「いえ、そっち方面はさっぱりです」

仮面男「そうか……一応説明はさせてもらいます」

仮面男「この刀の名前は"名刀・打姫"。名のある立派な刀です」

妖狐「名刀ねぇ……価値のあるものですか?」

仮面男「はい、この刀の姉妹刀に突姫と斬姫と言う2本の刀があるのですが」

仮面男「そのうちの1本、斬姫が呪われた魔剣だったりします」

妖狐「つまり?」

仮面男「そうですね、単刀直入に言います。この刀、呪われてます、魔剣です」





妖狐「あ、どうぞ。差し上げます」

仮面男「結構です、お引き取りください」

仮面男「真っ赤なこの刃は、かつての所有者の血から作られたと言われています」

妖狐「もういい、聞きたくない。妾はお家へ帰りたい」

仮面男「貴女が持っている以上あなたが面倒見てあげてください」

妖狐「呪いとかの類は怖くてやっとれんわ!面倒など見れるか!」

仮面男「大丈夫です、呪われるのは所有者に選ばれた人だけですから」

妖狐「選ばれた……?」

仮面男「魔剣と言うのは所有者を探して世に出回ります」

仮面男「所有者となる人物は、コレを持った時に何かを感じるハズです」

妖狐「何かを感じる……」


―――
――――――

商人「妙に手にしっくり来ますねぇ、鞘から抜いてみてもいいですか?」



商人「え?今何か言いました?」

妖狐「何も言ってはいない、耳がおかしくなったか?」

商人「いえ、でも確かに……」

――――――
―――

妖狐「……」

仮面男「心当たりが?」

妖狐「ならば、尚更受け取れん」

妖狐「どうにかして処分する方法は無いか?」

仮面男「処分か……勿体ない気もするけど」

妖狐「……頼む、この通りだ」

仮面男「……大切な人に心当たりがあるんですね」

妖狐「ああ……」

仮面男「分かりました、ではこちらで何とかしましょう」

妖狐「おお!助かる!」

妖狐「あ、お代……」ゴソゴソ

仮面男「本来ならこちらが買い取りたいくらいの代物ですから構いませんよ」

妖狐「……ありがとうございます」ペコッ

仮面男「……呪いがあるってことを普通に信じるんですね」

妖狐「妾に渡されたときにも何かと違和感があったからのう」

仮面男「なるほど……」

妖狐「それじゃあ、後の事をお願いします!」ダダダダダ

仮面男「あ、逃げた」

仮面男『フフッ彼女、心当たりがある話になってから口調が変わっていたね』

鎧少女『……それよりいいのか?呪いの品の処分なんて安請け合いして』

仮面男『破壊してもいいけど……それだと流石に武器に申し訳ないからなぁ』

仮面男『このまま厳重補完しておこう、まあ大丈夫でしょ』

鎧少女『おい、それは何か一悶着ある前振りだぞ!』

仮面男『大丈夫、大丈夫……たぶん』

鎧少女『……信用できるか!』


――――――
―――

小休止

うーんこの

再開

妖狐(まったく、とんでもない代物が妾の手に回ってきたものだ……)

妖狐(……あの子に何もなければいいのじゃが)

ガヤガヤガヤ

妖狐(ほう、店の方が賑わっているな。上手くやっているようじゃ。労ってやらねばな)

妖狐「ただいま、店番すまないな。すぐに妾も……」




商人「さぁ買った買った!今ならこの商品が半額以下だよ!」

商人「普段高くてなかなか手の出せないようなものもこのセール中がお買い得だよー!!」

剣士「今ならこの変わり種のアイテムの数々も安くしておくぞ」

子ウサギ「ウキュウウキュウ!」腰フリフリ


妖狐「……セール?……変わり種?」

商人「あ、やべ、アネさん帰ってきた」

商人「いやいやアネさん!早いお帰りで……」アセアセ

妖狐「お前さんたち、何をしておる?奴は何処へ行った?」

商人「いやぁ、アニさんが突如行方不明になったので私がキツネ道具店店長代理を務めさせていただいてまして……」

妖狐「セールとはなんだ?」

商人「いつまでたっても売れないような商品は在庫抱えて破棄やら送り返すくらいなら捌いてしまった方がいいかと……」

妖狐「ほう、妾の許可なくか?」ビキビキ

妖狐「そして変わり種のアイテムとやらは?」

剣士「こっちがもともと持ってきた商品だ、便乗して売れと言われた」

商人「オイ馬鹿言うな!」

妖狐「うふ、うふふ、うふふふふふふふ」

商人「あー……私はね?アネさんの店の将来が心配で心配で」

商人「商売って言ったらそりゃ一発ドカンと大きく当てたいじゃないですか?」

商人「堅実にコツコツやってても潰れるときは潰れちゃうんですから、ここぞと言うときに行動しなければ……」

妖狐「ふふふ……お前さんは変わっていないな」

商人「アネさん……?」

妖狐「そうだったのう。妾とお前さんはそこら辺の考え方が違ったな」

妖狐「旅商人であるお前さんに常連と言うものは無いし、物珍しいものを売らなければやっていられないだろう」

妖狐「片や妾は店を構えて毎日見知ったお客に堅実な商売……これではやり方が違うのも頷ける」

妖狐「林檎……商人として成長はしているみたいじゃな」

商人「アネさん……それじゃあ、今回の事は……」




妖狐「ゆ゛る゛さ゛ん゛」ゴスッ



剣士「見事な拳だ、顔面にめり込んでいる」

商人「前が見えねぇ」


――――――
―――

男「まさか身内にチマキにされて倉庫に閉じ込められるとは思わなかった」

妖狐「お前さんも散々だな」

商人「いやぁ、邪魔になるかと思って片付けさせてもらいました。ま、アニさんだからやったんですけど」

男「酷い話だ……」

妖狐「勝手に人の出している物を安売りしおって、損失が大きくなったらどうするつもりじゃ」

商人「むー、損はしないようにはしているつもりですよ。お店の品は私が昔手伝ってた時とそう変わってないですし」

妖狐「だまらっしゃい!人の店の商品の状況なぞここ最近の1日2日で分かるわけがないだろう!」

剣士「おい、今日の売り上げの計算終わったぞ」

妖狐「妾に見せい!」パシッ

商人「おお、また計算が速くなりましたねぇ」

剣士「一人でやらせてくれれば邪魔が無い分早く終わる」

商人「まるで私が邪魔みたいな言い方だな」




妖狐「……ふん」

男「結果はどうなった?」

妖狐「ま、安売りした結果じゃろうな……悔しいが大黒字じゃ」

妖狐「入荷から日が経っていた物や見落としていた物は的確に値引きしてある」

男「あー、そういえばこんなものも店にあったなぁ」

商人「どうしようもないモノは流石に原価割っちゃいましたけど……」

妖狐「いい、どうせ買い手もつかずに処分するのを待っているようなものだったからな」

剣士「どうしようもないモノ?」

妖狐「妾が趣味で作ったこの狐の石造じゃ」ドンッ

男「手間暇かけて作った割にはブサイク……いや、なんでもない」

商人「なんでこんなモン売ろうとしてんですか……」

妖狐「守り神的なアレをイメージしたが、自分でも失敗だと思う」

剣士(失敗なら店に出すなよ、そして買い手が付いたな)

ミス
剣士(失敗なら店に出すなよ、そしてよく買い手が付いたな)

商人「はっはっは!しかしこれでお分かりいただけただろうか!私の実力を!」

妖狐「結果が良かっただけで褒められた行動ではないわ馬鹿者」ドスッ

商人「グフッ!ナイスボディーブロー……」

男「でも、たまにはこういうセールを挟んだ方がいいかもな」

妖狐「お前さんまで何を言うか!」

男「今までそういう事が無かったし、店側からも客側からも影響なんじゃないか?」

妖狐「ぬう……」

商人「よっしゃっ!スペシャルアドバイザーとしてこの私を迎え入れ……」

妖狐「それ以前に、お前さんはウチの店で自分の商品を売っていたという馬鹿をやっていたという事を忘れてはいないだろうなぁ?」グリグリ

商人「ぎゃあああああ!やめて!頭掴んで親指で目ん玉グリグリするのやめてえええええ!!」

妖狐「ふん!色々と心配して損したわ!」

商人「心配?何か心配事でもあったんですか?」

妖狐「……お前さんが気に掛けることでもない」

商人「はぁ……」

男「あ、そうだ。例の刀どうしたんだ?届けに行ったのか?」

妖狐「ああ、あの刀な……」

剣士「受け取り拒否……?」

妖狐「うむ、理由は分からんが頑なに拒まれた」

商人「実はその警察の人がなんか関わってるとかそんなんじゃないでしょうね?」

妖狐「そんなような素振りは見せなかったが……その後結局、異国の有名な鍛冶師とやらが引き取ってくれたが」

商人「引き取った?」

妖狐「ああ、いわく付きの物だと言われてな。とっとと手放したかったから妾も渡してすぐに帰ってきたが」

商人「アネさん、それ騙し取られたんじゃないですか?」

妖狐「最終確認はされたから信用して渡した、それで終いだ」

男「なんか勿体ないなぁ」

男「魔導核の方はどうだった?アレ、早いとこ査定しないとお客さんに怒られるぞ」

妖狐「収穫なし……魔導核ではなかったみたいじゃ」

男「うわ……どうするんだ?」

妖狐「持って帰ってもらうしかないな、妾達では価値が分からん」

商人「どんなものですか?ちょっと私に見せてもらえませんか」

妖狐「ふむ、色々なものを見ている旅商人のお前さんの方が案外分かるかもしれないな……これじゃ」スッ

商人「ほほう、コレは純度の高い魔法石ですねぇ」

男「分かるのか?」

商人「冒険者向けのアイテムですからね、それに関してはアネさんよりも一日の長があります」

商人「砕いたり魔力を込めると何かしらの反応があると思いますが……」

妖狐「砕くのはもっての外、買い取り依頼してきたのにそれはダメじゃろう」

商人「魔力を込めるにしても、実際こういう効果不明の魔法石は怖くて使えないですけどね。爆発するかもしれないですし。おい、お前今魔力放出させようとしてたろ、やめろ」

剣士「バレたか……」

妖狐「専門の魔法使いに依頼するのも余計な金がかかるし……」

男「近場に居るかどうかも分からないしな」

商人「フッフッフ……」

剣士「どうした?あからさまに怪しい笑いかたをして」

商人「こんな時に役に立つ!私の所有するレアなアイテムの数々!」

商人「以前魔導核を自力で調べられなかったという悔しさをバネに手に入れてきましたこの道具!」

商人「"鉱石効果判別機(業務用)"!これさえあれば鍛冶師も魔法使いも不要!まさに科学の時代!」

妖狐「妙に胡散臭いものを出しおって」

商人「よしセッティング完了!準備はいいかね助手ウサギ君!」

子ウサギ「ウキュウ!」ステンバーイ

商人「目標をブツの中に入れてスイッチ!」

子ウサギ「ウッキュウ!」ポチットナ

ゴウンゴウンゴウン

妖狐「これで調べられるのか?」

商人「後は魔力込めてレバーを引くだけです」

男「スイッチ入れてからの行動ってテンポ悪いなおい」

商人「では!私が直々に魔力を込めたこの拳でレバーを入れましょう!」ガコン




妖狐「……何も起こらないな」

商人「あるぇ?おかしいな。助手くーん、ちょっと中身見てみてー?」

子ウサギ「ウキュウ」ゴソゴソ

剣士「偽物をつかまされたんじゃないか?」

商人「おいふざけんなよ!大枚叩いて買ったんだ!金額分の働きはしろオラァ!」バンバン

男「そんな機械を乱暴に扱うなって……」

ガゴン

妖狐「お、動き出したぞ」

ドドドドドドドドド

剣士「……いい予感がしないな」

商人「判別機司令官が爆発する!みんな逃げろ!」

男「なんでだよ!?」

子ウサギ「ウキュー!?」


ビシュン!!

男「ば、爆発はしなかったけど……」

妖狐「……おい、機械ごと消えたぞ」

商人「えー……」

剣士「ウサギが巻き込まれたぞ!どこに行った!?」


――――――
―――

子ウサギ「ウーキュー」※腰を打ったみたいです

子ウサギ「ウキュ?」キョロキョロ

子ウサギ「ウキュキュ?」※見知らぬ森に迷い込んでしまったようです


ガサガサ



「ん?何かいるのかな?」

「……?」

「あ、そんな覗き込むと危ないぞ」

ガサガサ


子ウサギ「ウキュ?」ピョン

「ウサギ?こんな場所に?」

「……!」ダキッ

子ウサギ「ギュウ!?」

「ああ、可愛いからってそんな突然抱きしめるのは止めなさい」

「にしても変なウサギだな、模様とか色とか付いてるし」

「……」スリスリ

「お前は本当に自分に正直なまでに行動するなぁ」

ビョン

子ウサギ「キュー」タッタッタ ※流石に怖かったみたいです

「あ、逃げた」

「……」シュン

子ウサギ「キュウ」コワカッタ

キラン

子ウサギ「ウキュ?」※さっきの石を見つけたようです

子ウサギ「キュウ!」バシッ!


ビシュン!!

「もうそろそろ帰るか……」

「……」

「どうした?何か気になるのか?」

「……」コクン

「座敷童のレーダーに何か引っかかった?なんじゃそりゃ」

「……」フフン


――――――
―――

ビシュン!!

子ウサギ「ウッキュウ!!」ドサドサドサ

男「あ、帰ってきた」

剣士「ッ!……よかった……」

商人「うわああああ!良くねぇよ!判別機がスクラップ状態じゃねーかコンチクショウ!!」

妖狐「ぬおおおおお!石が……石が砕けておる!!やらかしてくれたなコンチクショウ!!」

男「良かったな、お前無事で」ナデナデ

剣士「ああ……お前が居なくなったら私でも泣いていたぞ」ナデナデ

子ウサギ「ウーキュー」


――――――
―――

(おねーちゃーん!りんごちゃんがいじめるー!)

妖狐(女の子に叩かれたくらいで泣くな。それに林檎は2つも年下じゃろう?)

(やろう、ぶっころしてやる!)

(うああああああん!)

妖狐(お前さんもやめんか!)

(だっておにーちゃんがわたしのリンゴあめたべたんだもん!)

妖狐(悪いのはこっちかい……)

(みみひっぱっちゃる)

(うわあああああ!やめてよりんごちゃーーん!)

ゴツンッ

ゴツンッ

(なぐられたー……)

(なんでぼくまで……)

妖狐(喧嘩両成敗、どっちもどっちじゃ)

妖狐(ほれ、お互い仲直りの握手じゃ)

(ぶー!)

(ぶーぶー!)

妖狐(また殴られたいか?)

(( ))ガクブル

妖狐(うむ、これで仲良しこよし!)

妖狐(……二人とも、お菓子が欲しいのなら妾が買ってやる)

(でもおねーちゃん、あんまりおかねないんでしょ?)

(うん、おねーちゃんにめーわくかけるなっておかあさんにいわれたからいいよー)

妖狐(構わんよ)ダキッ

(あ……)

(う……)

妖狐(血の繋がりは無くても、お前さんたちは妾の大切な弟と妹……大切な家族じゃ)

妖狐(小さなうちは、目いっぱい大人に迷惑かけても構わん)

妖狐(そう……大切な……)


――――――
―――

妖狐「……ムハッ!」

妖狐「夢か……また懐かしい夢を……」

妖狐(二人とも、あの時は小さくて可愛かったなぁ)

妖狐(……まだあの時は、あの子の代わりとして見てたんだな……)

妖狐(今となってはどちらも妾にとって大切な者達じゃが……)



商人「アネさーん!今日も私がご飯作りましたよー!早く来てくださーい!」


妖狐「……ふふっ、あのじゃじゃ馬娘も今じゃ立派に女の子しておる」

……

男「そう遠慮すんなって!」ギギギ

商人「いやいやいや、アニさんだって遠慮すること無いんですよー?」ギギギ

妖狐「……何をしておる」

剣士「調理に失敗して処理に困った丸焦げの魚をお互いに口の中へ運ぼうとしているみたいだな」ガツガツ

男「ほーら、お前の大好きな焼き魚だぞー?」ギギギ

商人「狼は別段おさかな大好きなワケじゃないんですよー?」ギギギ

妖狐「この馬鹿者どもが……」

男「殴られたー」

商人「横暴だー」

妖狐「食べ物を粗末にするからじゃ」ジャリジャリ

妖狐「む……流石に丸焦げの物を食うのは辛いな……」

男「あ、何も食う事無いのに」

妖狐「折角作ったものを残すのは悪いだろう?」

商人「ごめんなさい……しっかり見てなかったもので」

妖狐「次からは気を付けるんだぞ?」

男「ま、魚焼くのを任されたのは俺なんだけどな」

妖狐「お前さんかい!!」ゴシュッ

子ウサギ「キュー」モグモグ

小休止

再開

妖狐「しかし……まったく、どうしたものか」

商人「石の事ですか?素直にごめんなさいでいいじゃないですか」

妖狐「お客さんはこちらを信用して日を置いて猶予をくれたんだ……はぁ……」

剣士「同じものを用意する……のは、出来たら苦労はしないな」

男「貴重とか言ってたから難しいだろうな……ってかさ」

男「石の処遇自体はこっちに任せるみたいなこと言ってたし、何より捨ててもいいって言ってた気が……」

商人「売りに来といて随分意味の分からない事言う人ですね、どんな人か一回見てみたいですよ」

ガラガラ

「誰かいるか!大丈夫か!?」

「――――――!!」



妖狐「おや?誰だい、今日は店はお休みだよ」

男「朝っぱらから泡立たしいな」

商人「大丈夫って何がでしょうか?」

剣士「……この声は」

妖狐「おや、お前さん達だったか。生憎、今日は店は閉まってるよ」

鎧少女「――――――!」

妖狐「どうしたんだいそんなに慌てて……」

仮面男「昨日ここで強い転移反応があったようだけど、何かあったのか?」

妖狐「転移?転移……」

仮面男「忙しくてすぐには来られなかったが……その様子だと大丈夫みたいだね」

妖狐「まぁ、騒がれるほどの事はありませんでしたよ」

仮面男「それは失礼した……朝早くから申し訳ない」



商人「そ~……」チラッ



鎧少女「……?」

仮面男「ん?どうしたんだい?」

商人「あっ!」

仮面男「あ」

商人「女神様だぁぁぁぁぁ!!お久しぶりです!」ダキッ

鎧少女『林檎!?なんでこんなところに……ええい抱き着くな!!』

商人『えー?そんなこと言わないでくださいよー!私たちの仲じゃないですかー!』スリスリスリ

鎧少女『いつからそんな仲になった!!』

剣士「魔王様……」

仮面男「君たちか……凄い偶然だね、こんなところで会うなんて」

妖狐「こんなところて……」

男「え、なに知り合い?」

商人「ちょっと前にお世話になったん冒険者の方々ですよー」スリスリ

鎧少女『はーなーせー!!』ギギギ

剣士「あの……魔王様、お久しぶり……です」

仮面男「ああ、半年ぶりくらいかな?元気にしてたかい?」

剣士「は、はい!」

男「剣士ちゃん、キャラ変わってるぞ」

子ウサギ「フーッ!フーッ!」

妖狐「そしてお前さんは何故警戒している」

商人「サンプルにされるとかで捕まえられかけたからですよねー?」

子ウサギ「キュウ!」フンス

鎧少女『あのウサギの子供!?全部本国に送ったハズなのになんでここに居るんだ!』

剣士「……あれから着いてきてしまったんだ、渡さないぞ」

仮面男「着いて行ってしまったのなら仕方ないね」

男「仕方ないんだ」

妖狐「それよりお前さんたち、再会を喜ぶのは後にしてくれ。さっき言っていた転移反応とやらはどういう事だ?」

妖狐「勝手に人の食卓の邪魔をしたのだから、それなりの理由なんじゃろうな?」

鎧少女『昨日会った時となんか態度が違うが……』

仮面男『今は客ではないからだろうね』

商人「転移反応?と、言うと、次元を飛び越えたりするアレですか?」

仮面男「そう、アレのことだよ」

仮面男「昨日の夜くらいだね、何かここで変わったことは無かったかい?」

男「夜ねぇ……」

商人「魔法石を鉱石効果判別機(業務用)にぶち込んで消えたと思ったらスクラップになって帰ってきたって事くらいでしょうか」

男「その(業務用)って絶対表記しなきゃいけない決まりでもあるの?」

妖狐「……まさしくそれじゃないのか?」

剣士「ウサギが数分間ほど消えてしまったが……お前は何処に行っていたんだ?」

子ウサギ「ウキュ?」

仮面男「すまないが、その(業務用)ってのを見せてくれないか?」

男「略す箇所おかしくね?」

商人「コイツです」ガラガラ

男「なんですでに準備出来てるんだよ」

商人「ひょっとしたら直せるかもしれないという淡い希望を抱いて捨てずに置いておいたんです!」

仮面男「ふむ」ガサガサ

妖狐「何か、分かったか?」

仮面男「いや……」

仮面男「悲しいかな、ただのスクラップだね。ちなみに、直せる余地も無い」

商人「oh...」

男「多分機械の問題じゃなくて魔法石の方だろ、はいコレ。割れた石残しておいたけど」

仮面男「コレは……昨日見せてもらったものだね」

妖狐「ああ、そいつを機械に入れて作動させたら暴走を起こしたんじゃが」

仮面男「この石が内包していた魔力が大きかったんだろう。こんな玩具で測定出来ないだろうね」

商人「玩具て……」

仮面男「まだ魔力を感じる……ひょっとしたら使えるかもしれないな」

男「使うって……危険じゃないか?昨日はたまたま何も起こらなかっただけで……」

仮面男「確かに何か起こったハズだよ。おそらく、この石を使ってね」

仮面男「前は鍛冶師の管轄外と言ってしまったが、こういう石を見るとどうも子供心がくすぐられてね」

仮面男「と、いう訳で。使ってみてもいいかな?」ウズウズ

男(この人絶対使いたくて仕方ないって顔してるだろうなぁ)

妖狐「どの道お客さんに謝るのは変わりない、いっそ使ってみて効果を確かめた方がいいか……」

仮面男「よし、とりあえずみんな私から離れてくれ」

仮面男「それじゃあ……使うよ」

剣士「魔王様の魔力が注がれていく……」

商人「勇者さーん、気を付けてくださいねー」

男「なんで二人とも呼び方違うの?あの人魔王なの?勇者なの?」

妖狐(……なんじゃ?急に懐かしい匂いがしてきた……)

鎧少女(空間が歪んでいる……?まさか……)


パキンッ

男「うわ!何だ!?」

商人「空中になんかヒビ入ってますよ!?」

鎧少女『向こう何か見えるな……』

妖狐「!!」


ジュゥゥゥン


仮面男「む、ここまでか」

男「何だったんだ?」

仮面男「次元に亀裂が入ったみたいだね」

商人「なんかその向こう側が一瞬見えたんですが……」

仮面男「どこかこことは違う場所か、或いは違う世界に繋がったのかもしれないね」

妖狐「違う世界……」

剣士「石に輝きが完全になくなってしまったな……」

仮面男「この石が元の状態だったら、もしかしたら今繋がった場所に行けたかもしれないね」

剣士「お前はその場所に飛んで行ったって事か?」ヒョイ

子ウサギ「ウキュウ?」

商人「その子に聞いても分かりっこないですよ」

仮面男「ともかく、効果は分かったね。試すだけの価値はあったよ」

男「結局どういう効果なんだ?」

仮面男「空間転移の魔法が発動する、という事だね」

男「なにそれ」

商人「簡単に言うと、好きな場所に飛べるって魔法ですよ」

男「そういう魔法って珍しいモノなの?」

仮面男「珍しいなんてものじゃないよ。似た魔法に転送魔法というのがあるが、コレは指定した場所にしか飛べないものなんだ」

仮面男「空間転移の魔法はありとあらゆる好きな場所に飛べる魔法……」

仮面男「この魔法の使い手は、おそらくこの世には1人しかいないだろう」



剣士「アイツか」

商人「アイツですね」

仮面男「異次元を超える事の出来る力を持つ強力な魔法だ……確かに、この石は貴重だろうね」

商人「でも数回で壊れてしまうなんて正直使い道が無いですね」

男「せいぜい旅行に行って帰ってくる程度の事しか出来なさそうだな」

商人「強力な魔法を旅行程度で済ませるアンタの頭は大丈夫か?」

仮面男「その場所を強くイメージできなければ上手く飛べないらしいしね」

仮面男「今私が使ってみたのはいいけど、明確にどの場所へ行きたいかなんて考えていなかったからね」

男「それじゃああのヒビの中に見えた場所は何だったんだ?」

仮面男「あの景色を心のどこかで強く望んでいた人が近くに居たんだろう」

商人「ほほう……でも珍しいものと分かるとなんか欲しくなってきましたねぇ私も」

剣士「意地汚いなお前」

男「とりあえずお客さんにはその種の事は伝えておくか……怒られそうだけど」

仮面男「そうだ、刀の件だけど……」

妖狐「……」

仮面男「ん?」

男「どうした?さっきから顔色悪いぞ?」

妖狐「何でもない……少し休む……」スタスタ

男「あ、おい!」

仮面男「大丈夫かな?」

商人「ごめんなさい勇者さん、アネさんちょっと調子が悪いみたいなんで……」

仮面男「ああ、本来の目的は達したし出直すとしよう」

剣士「それじゃあまた……」

仮面男「ああ、またね」


――――――
―――

仮面男『……心配だね、彼女』

鎧少女『何がだ?』

仮面男『あの石を使った時、とても驚いた顔をしていたが。きっと見えた景色に何か心当たりがあったんだろう』

鎧少女『……そうか』

仮面男『つまらなさそうだね』

鎧少女『当たり前だ!全員私の分からない言葉で喋りやがって!』

仮面男『あー、そういう……』


――――――
―――

妖狐(あの石が世界の壁を超えることが出来るのだとしたら……)

妖狐(……妾は何を考えている)

妖狐(今の生活で十分満たされているじゃないか)

妖狐(アイツが居て、林檎も帰ってきて)

妖狐(近所付き合いだって良好じゃ、駄菓子屋の親子は本当の家族のように接してくれる……)

妖狐(……家族か……)

男「おい、瑪瑙」ドンドン

妖狐「……なんじゃ、お前さんか。どうした?」

男「どうしたも何も……お前の方がどうしたんだよ。さっきだって顔真っ青にして」

妖狐「……お前さん、自分が小さかった時の事を覚えているか?」

男「え、なんだよ突然」

妖狐「何でもいい、話てみろ」

男「んー……そうだな」

男「瑪瑙がいて、林檎がいて、林檎の父ちゃんと母ちゃんがいて……」

男「近所のアイツらに、おばさん達に……あと、学校の友達も沢山いたなぁ。ほとんど疎遠だけど」

妖狐「……その前じゃ、妾と出会うその前……」

男「その前?覚えてねぇよ。一番古い記憶が、泣いてる俺をなだめてる瑪瑙くらいで……」

男「アレ?なんで俺その時泣いてたんだ?」

妖狐「そうか……覚えていないのか」

男「どうしたんだよ……」

妖狐「いや、なんでもない。覚えていないのならその方がいいだろう」

妖狐「今日はあまり気分が優れん……このままそっとしておいてくれ」

男「それはいいけど……今日は祭りで屋台出すって話あったろ?それはどうするんだ?」

妖狐「……後で責任者に謝りに行こう、妾は今日はもうダメだ……」

男「ドタキャンはよくないぞー」

男「……俺がさ」

妖狐「ん?」

男「俺が代わりに屋台出るからさ、お前の調子がよくなったら来てくれよ」

妖狐「お、おい……」

男「はい決定事項、これでキツネ道具店の名声が地に落ちても文句言うなよー」

妖狐「……」

男「……お前がそんな状態だとさ、俺も林檎も暗くなっちまうから」

男「無理はさせたくないけど、できれば笑顔でいてくれよ」

男「落ち込んでる事情は分からないけど……出来る事ならなんだってするから」

妖狐「お前さん……」

男「いよっしゃー!林檎ー!剣士ちゃーん!今日の屋台の売り上げよかったらその金お小遣いにしてもいいってさー!」

商人「うひょー!!俄然やる気が出てきたー!一旗あげてやるぞー!!」

剣士「騒々しいな……」

子ウサギ「ウキュウ」

妖狐「何をバカなことを!」

男「そんじゃ、準備してくるよ……嫌なら無理してでも止めに来い!ヘヘッ」

ドタドタドタ




妖狐「まったく……何と言う馬鹿兄妹じゃ……」


――――――
―――

ガヤガヤ

商人「おー、祭り始まる前なのにそこそこ賑わってますねぇ」

剣士「何の祭りなんだ?」

男「何かの神様の誕生祭だか何かだった気がするが……」

商人「今はそんなものを祝うのではなく、祭りを開くのを目的とした祭りと言う手段と目的が逆転してしまった祭りですね」

剣士「東洋人は信仰心が薄いと聞いていたが、その通りだったか」

男「そういう考えの人が多いって事だけだけどな……おっと、俺たちの場所はここだな」

商人「ここに出店を構えるんですね」

商人「それで、出し物はなんですか?」

男「輪投げ」

商人「うわド定番」

男「商品は店の売れ残りの子供向け玩具多数」

商人「それなりにしか人が来なさそうですね」

男「仕方ないだろう。それでも瑪瑙目当てに男性客が多く来るけど」

商人「いや、今アネさんいねぇし……そうですね、それだとつまらないですから、いっそ面白いものに変えちゃいましょう!」

男「面白いもの?」

[ウサギ輪投げ]

子ウサギ「ウキュウ!」キメッ

男「なにこれ」

商人「ウサギちゃんにこの輪投げの棒の方を背負ってもらいます」

子ウサギ「ウキュ!」ヨイショ

商人「そして華麗なフットワークで動き回ってもらいます」

子ウサギ「ウッキュウウッキュウ!」シュッシュッ

男「普通に二足歩行で反復横跳びしてるぞ」

商人「可愛いうえに実益も兼ねたこの遊び!流行る事間違いなし!!」

男「お前……」




男「天才だろ!」

商人「いやぁ分かります?あふれ出る才能を隠し切れないんですよHAHAHA☆」

剣士「……」

剣士「すまない、少し他を見て回っていく」

商人「あ、だったら私もついて行きますよ。いいですよねアニさん?」

男「ああ、でももうすぐ始まるから早めにな。後で交代で休憩時間も取るし」

剣士「いや、悪いが一人で回りたい。それに私が手伝えそうなことも無いからな」

商人「大丈夫ですか?迷子になったりしませんか?」

剣士「子供扱いするな。それくらいなら心配する必要もない」スタスタ

商人「ああ、行っちゃった……」

男「いいじゃん、一人になりたい時くらいあるだろ。剣士ちゃんもいい大人なんだし」

商人「あの娘まだ14ですよ」

男「えっ?」


――――――
―――

剣士(つい森の方に来てしまったが……川があるな。少し休むか)

剣士(人ごみは息が詰まりそうだ……)

剣士「……」

剣士(ここに来てからずっと、私は……私だけ置き去りにされている感覚だな)

剣士(……家族とは、こういうものの事を言うんだな。奴を見ているとつくづくそう思える)

剣士(どうあっても私では立ち入れない……寂しいな)


パチャパチャ


剣士「?」

狐「……」パチャパチャ

剣士「狐か、水浴びをしているのか」

剣士「都市とは違い、こう自然あふれる場所には人里が近くにあっても野生の動物は居るものなんだな」

剣士「この国には魔物が少ないと言うのもあるだろうが……」

狐「……」テクテク

剣士「どうした?こちらに近づいてきて」


ポワン


妖狐「妾 だ」

剣士「お 前 だ っ た の か」

妖狐「元の姿で水浴びをしていれば変に見られることも無いからな」イソイソ

剣士「だが戻った直後は裸だ」

妖狐「直ぐに着れば問題も無かろう」

剣士「そういう問題か?」

妖狐「さてしかし……お前さん、こんなところで一人でどうした?辛気臭い顔しおって」

剣士「そんな顔をしていたか?」

妖狐「していた、間違いない」

剣士「ふん……」

剣士「それよりメノウ、お前は気分が悪いんじゃなかったか?」

妖狐「屋台で妾の店に変な汚名を着せられたら大変だからの、水浴びして気分を変えてから向かおうと思っていた」

剣士「そうか、なら早く行くといい。ワケの分からんことを始めようとしていたぞ」

妖狐「まぁあの二人が揃うと碌なことにならないのは昔からよく知っておる。ま、最悪な方面には向かないだろうし今はのんびりとさせてもらうよ」

剣士「水浴びしている余裕があるくらいだからな……まぁ、私からはこれ以上は言わんが」

妖狐「ああ、何も言わなくても大丈夫」

剣士「……」

妖狐「……」

妖狐「これは独り言だが……」

剣士「?」

妖狐「昔、妾には妹が居てな」

妖狐「子供みたいによく笑って泣いて怒って、沢山お喋りをして……かわいい娘だった」

妖狐「血の繋がりこそ無いが、あの愚弟や林檎と同じくらい可愛がった。お互い、本当の姉妹のように接していた」

妖狐「他にも、気前のいい小鬼や変態アカナメ、色々危ない蜘蛛男、自称地獄鳥のニワトリなんかも居たなぁ」

剣士「何だその怪しい集団は」

妖狐「そして、何の取り柄も無いただの人間一人を含めて……どいつもこいつも個性派揃い、そりゃあ毎日楽しく過ごしていた」

妖狐「幸せな日々を送っていた……」

妖狐「……妾達妖怪には明確な寿命が存在しない」

妖狐「動物から昇華した妖怪でも数百、数千年の時を生きると言われている」

剣士「老衰を気にする必要が無いという事か?」

妖狐「老いて死ねるという事は、もっとも偉大な死に方だ……しかし、妾達はそれが無い」

剣士「世の中長生きする種族は沢山いるからな……私も、長生きしている竜に出会ったことがある」

妖狐「じゃが、妖怪は簡単に死んでしまう事がある」

剣士「死はこの地に生きるもの全ての宿命だ、当然だろう」

妖狐「……いや、その場から、その世界からフッと姿を消すんじゃ」

剣士「それはどういう事だ?」

妖狐「……人々から、その存在を忘れられてしまうという事だ」

剣士「お前の家族は……」

妖狐「いや、消えたのは妾の方だ」

剣士「?」

妖狐「妾はその世界から消えた……ただそれだけの事だ」

妖狐「神隠し、人が忽然と消える現象をそう呼んでいた」

妖狐「20年前、小さな男の子が神隠しに会いそうになってな」

妖狐「たまたまそれを目にした妾は、その子を助けようと思って抱きかかえたんじゃ」

妖狐「そうするとたちまち、妾とその子はこの場所に辿り着いていた」

剣士「……」

妖狐「元いた場所とは違う、この剣と魔法のファンタジーの世界に」

妖狐「下らない事で妹とケンカした直後であった……」

妖狐「悟ってしまったな。あの世界で妾は死んでしまったのだと」

妖狐「突然だった、別れの言葉も言えなかった。謝る事さえできなかった」

妖狐「誰もが妾を忘れてしまった……妾は、大切な家族みんなに会えなくなってしまった……」

妖狐「妾もその男の子も、一人ぼっちになってしまった……」

剣士「……辛いな、家族に会えないのは」

妖狐「……すまん、お前さんの知ったことでは無かったな。独り言と言いつつも初めから語り口調になってたわ」

剣士「私も家族にはもう会えない。お前の気持ち、分からんでもない」

妖狐「え……」

剣士「と言っても、お前とは違って死別だが」

妖狐「……」

剣士「私を残して、私を守ってみんな死んでいった」

剣士「お前は……まだ昔の家族は死んでいるかは分からないんだろう?」

剣士「生きていればいつかまた会えるかもしれん、お前はここに居る。お前は死んでいない。お前を覚えている人たちが居るからだ」

剣士「お前の弟と妹は……いや、その周りの連中だってお前の事を思っている」

剣士「一人身の私からしてみれば贅沢な話だ」

妖狐「っ!」

剣士「それとも、お前は今の家族を本当の家族と思えないのか?そんな薄情な奴だったか」

妖狐「そんなワケあるかッ!」

剣士「ならばそんな暗い顔をするな!林檎がずっとお前を心配していた!」

剣士「口にこそ出さなかったが、お前を見る顔は曇っていた。林檎にそんな顔をさせるな!」

妖狐「……お前さん、林檎のことが好きなんじゃな」

剣士「……私にとって、アイツが家族なんだ。私にはアイツしかいない」

剣士「ここに来てから、私はお前たちに嫉妬していた」

剣士「私の知らない昔話に花を咲かせて、何もかもお互いが理解しているように接して」

剣士「……思い出があることが羨ましかった」

剣士「ずっと、私は邪魔な存在なのかとも思えてしまった」

妖狐「だからお前さんはこんなところに一人で居たと?」

剣士「ああ……」

妖狐「邪魔などと思うものか」ギュッ

剣士「ん……」

妖狐「お前さんに怒鳴られてスッキリした。悪かったな、不快な思いをさせて」

剣士「……何故抱きしめる」

妖狐「突然愛おしくなったからだ」

剣士「……前に林檎にも同じ理由で同じことをされたな」

妖狐「奴も本質的には妾と似たようなものじゃ」

妖狐「お前さんは林檎の……姉か?妹か?」

剣士「アイツの方が8つ上だ、私が妹に決まっているだろう」

妖狐「そうか、ならばお前さんは妾の妹でもあるな」

剣士「……獣臭い姉が増えたな」

妖狐「ふふっ……可愛い妹が増えた」


――――――
―――

剣士「悪いな、今戻った」

妖狐「妾も参上だ!」

男「ん、もう大丈夫なのか?」

妖狐「心配かけたな、なんてことは無いただの仮病だ」

男「おい」

商人「もう、突然一人でどこか行っちゃうんで心配したんですよ?」

剣士「だから子ども扱いするな……」

妖狐「それで?妾の輪投げ屋はどうなっておる?」

子ウサギ「ウッキュウキュウ!」ナイスフットワーク

鎧少女『くそっ!何故だ!何故当たらん!!』

仮面男『落ち着きなよ、こういうのは冷静さを欠いたら負けだよ』

男「はい時間切れー、惜しかったねー」

鎧少女『だああああ!ゲームと名のつくものに負けるのはたとえアナログだろうがデジタルだろうが許せん!もう一回!!』

仮面男「あ、もう一回お願いするよ」

男「まいどー」

仮面男『20回目だよ……』




商人「いいカモが釣れました」

剣士「あれでも立派な大人だそうだ」

妖狐「見た目も性格も子供みたいだな」

妖狐「では店番を変わろう、お前さん達は他の店を見てくるといい」

商人「いいんですか?ぶっちゃけこのまま続けてもいいんですけど、絵面が面白いですから」


鎧少女『そこだ!!』ヒュンヒュン

子ウサギ「ウキュウ」ビュン

仮面男『質量のある残像!?』

鎧少女『瞬獄殺的な動きで避けるな!』

男「はい時間切れー」


妖狐「可哀そうになってきたな」

商人「まぁお言葉に甘えさせてもらいましょうかねぇ。アニさん、交代だそうですよー」


――――――
―――

男「こうやって屋台めぐりなんてするの久しぶりだな」

商人「昔を思い出しますねぇ、アネさんに小遣い貰って二人で食べ歩きしてましたし」

男「お前、自分のウチの両親から金もらった挙句瑪瑙からも貰ってたからな」

商人「ハッハッハ、可愛い子は得をするのですよ兄者」

男「そりゃセコイだけだ、後で貯金箱から没収されてたじゃねーか」

商人「アレは私の落ち度でしたね、もっと賢く隠していれば……」

男「……お前、商売上手くいってるの?」

商人「どうしたんですか藪から棒に」

男「2年前、お前が一人で旅に出るとか言い出して家族全員を驚かせたよな」

商人「駄菓子屋に未来を見いだせなかったですからね、一人立ちして一発当ててやろうと思ったんですよ」

商人「ま、不自由なく旅を続けられる程度には設けてますが」

男「その割にはこっちに来るときに密入国したそうじゃねーか」

商人「密入国ではねーよ!入国許可取った後に船乗る代金ケチっただけだよ!?」

男「酷い事には変わりねーだろ」

商人「あの後すぐにアネさんに港まで連れていかれてド頭地面にめり込むまで無理やり土下座させられたなぁ」

男「それで顔面腫れてたのか」

商人「あまりにも悲惨だったみたいで、料金だけ払えば許してくれると言われたのでとりあえず払いましたけど」

男「瑪瑙に感謝だな、お前の事になると何でも一生懸命になるからな」

商人「アネさんには頭が上がりませんよ、ホント」

商人「そういえば……」

商人「アニさんて、いつからアネさんの事名前で呼ぶようになったんでしたっけ?」

商人「いつも姉ちゃん姉ちゃん言ってたのに」

男「……」

商人「沈黙ですか。まぁ何をやったかは察しはつきますけど」

男「ナニをヤったとか言うなよ!?」

商人「マジの反応するなよ恥ずかしい」

男「あー、でもなぁ。やっぱり改めて言われるとねぇ」

商人「そりゃ今まで一緒に居た姉と兄が男女の仲になってたとか突然知ったらショッキングですけど」

商人「お互い子供じゃないんですから、隠すことでもないでしょうに」

男「え、なに、お前ひょっとして経験あるの?お兄ちゃんちょっとショックなんだけど」

商人「一度だってねぇよ22歳であと数年で腐る前だよ悪かったな馬鹿野郎」

男「……変わってないな、お前は」

商人「アニさんもアネさんも、変わってないですね」

男「おかげさまでな」

商人「さて、手持ちの物は食べ尽くしましたし、何かして遊びましょう!」

男「おう、なら……射的なんてどうだ?」

商人「むむむ!私のレアアイテムセンサーに何か引っかかったぞ!あっちの射的をやりましょう!」グイグイ

男「何のセンサーだよそれ」

男「なんだよ、お菓子とかしょぼい玩具ばかりじゃねーか」

商人「ほほう……いや、待ってください!あの真っ赤な刀なんて狙い目じゃないですか?」

男「アレは模造刀か……流石に真剣なんて置けないよな」

商人「おーい、的屋のおっちゃん!この鉄砲であの刀落とせるんでしょうね!?」

「ああ、落とせるよ」

商人「その重量に任せて落ちないとか思ってるんじゃないでしょうね?」

「ああ、落とせるよ」

商人「……?なんかおかしいな?」

男「やるのか?金の無駄だと思うけど」

商人「私の腕前舐めるなよ?こんなモン物の重心さえ理解していれ……」

商人「それドカーン!!」

ピョロン

男「うわ威力しょぼい」

コンッ

ドサッ

「落ちたね」

商人「ホラホラホラ!これでこの刀は私のものだー!」

男「おお、こういうのって絶対取れないと思ってたけどこういう事もあるもんなんだなぁ」



"ああ、ようやく……"


――――――
―――

仮面男『ん、電話だ。もしもし』

鎧少女『電話?そんなもん後にしろ!お前も輪投げ手伝え!』

子ウサギ「フモッフ」シュンシュン

妖狐「おーおー、流石に息が上がってきているな」

剣士「少し休憩を挟むか?」

子ウサギ「ギュウ!」ビシッ

剣士「なに、自分の限界に挑戦したい?何を言っているんだお前は」

妖狐「なんでお前さんはコイツの言っていることが分かるんだ……」




仮面男『……私達の部屋に空き巣?』

鎧少女『空き巣だと!?』

仮面男『何が盗られたか分かるかい?』

妖狐「おやまぁ、物騒な」

仮面男『弁償の話なんて後でいい、刀はあるか?チェックインした時に私が持っていた』

仮面男『……無い?もう一度よく探してくれ……初めから無かっただと!?そちらも確かに見ていたじゃないか!』

鎧少女『前振りが成立したなぁおい』




妖狐「電話しているときは何故こちらにも分かるような説明口調になるのだろうな」

剣士「それ以上いけない」

小休止

早く切り上げたいのに定食屋のレス数超えちまった\(^o^)/

再開

ピッ

仮面男「盗られちゃった」

剣士「軽いですね」

妖狐「それはそれは……妾達の前に現れさえしなければそれでいいのだが」

仮面男「……魔剣の性質上、何が何でも所有者の下へ行こうとするのだけれど……どうなるだろうか」

剣士「魔剣?この斬姫のようなですか?」スッ

仮面男「そうそう、それの姉妹刀だね……あっ」

妖狐「えっ?」

鎧少女『そういえばその刀、今はお前が持っていたんだったな』

剣士『ああ、まだ林檎から貸してもらっている』

妖狐「ちょっと待て!?同じ種類の魔剣が近くにあったというのか!?何故言わなかった!」

剣士「言わないも何も、聞かれなかったしあの剣が魔剣だなんて聞いてもいなかったぞ」

妖狐「いわくつきと言ったであろう……いや、それしか言わなかったが」

仮面男(斬姫と引き合ったとでもいうのか?しかし……)

仮面男「貴女が言っていた心当たりは……彼女のことですか?」

剣士「私?あの剣には何も感じなかったぞ」

妖狐「いや、お前さんではない」

仮面男「まさかとは思うけど……」


カチャン……

カチャン……

商人「……」

カチャン……カチャン……

男「お、おい林檎!どうしたんだよ、刀担いで歩き出して……」

商人「ふふふ……」

可燃男「……来たか」

可燃男「……来たか」

誰 だ お 前

剣士「……様子がおかしいな」

妖狐「いつものアイツではない……何かが憑いているみたいだ」

商人?「ああ……ようやく巡り合えた。私の身体に馴染む娘」

商人?「それに……私の半身!斬姫!!」バッ

剣士(こっちが狙いか……ッ!)バッ

妖狐「あ、コラ!お前さん達どこへ行く!!」

剣士「着いてくるな!おそらく戦いになる!!」ダダッ

商人?「くははは!!逃げても無駄だ小娘!」ババッ


仮面男『追うぞ!』

鎧少女『言われなくても!』バッ

男「何が起こってるんだ!?みんなしていなくなって……」

妖狐「追うなと言われたが、放っておけるワケ無いじゃろう!妾達も行くぞ!」ダダダッ

男「オイ待て!一般人の俺があんな連中に追いつけるか!」ダダダッ

妖狐「妹の一大事だ!死ぬ気で走れ!」


「ちょいと待ちな!そこのお二方!」


男「え!?」

妖狐「この声は……!」


――――――
―――


剣士(ここまで来れば問題ないか……)

商人?「犬の獣人相手に森の中に逃げ込むとは、馬鹿な奴め」

剣士「私が馬鹿なのは認めるが、これでも戦いやすい場に誘い込んだつもりだ」

剣士「あと、その身体の主は犬ではなく狼だ。多分」

商人?「どっちでもいい……さぁ、斬姫を私に返すのだ」

剣士「お前、何者だ。異質な気配がするぞ」

商人?「私?……そうか、私の正体が知りたいか?ならば教えてやろう……私は」

剣士「とー!」バシュッ

商人?「キャーーーーーーッ!!まだ名乗っている途中であろう!!何をするか!!」ギンッ

剣士「前置きが長いお前が悪い、早くその体返せ」

商人?「黙れ!そして聞け!私の名は……」





剣士「うりゃー!」バシュッ

商人?「やめろーー!!語らせろーー!!」ギンッ

商人?「最近の剣士は礼儀と言うものを知らないのか……」ブツブツ

剣士(コイツ、ふざけてはいるが私の剣戟を簡単に往なすだけの実力はある……本当に何者だ)

剣士「分かった、語らせてやる。とっとと話せ」

商人?「また騙し討ちでもするつもりか?その手には乗らないぞ!」

剣士「いいから話せ!時間の無駄だ!」

商人?「はい」

商人?「私の正体はこの刀、打姫に宿った魂……戦姫という者だ」

剣士「イクサメ……?何だ、名のある剣豪とでも言うのか?」

商人?「えっ!?私の名前知らないの!?」

剣士「知らんし興味も無い!」

商人?「美少女剣士でそこそこ戦果も上げて有名だと思ってたのに……」ガクッ

剣士「何なんだお前は……」

剣士「お前の目的は何だ?その身体の主の意識は今どうしている?私の刀の斬姫と何の関係がある?」

商人?「フゥン、質問は一つにしろ小娘!ちゃんと答えてやる!」

商人?「私の目的はどこぞに出回ってしまって行方不明になっていた私の刀を回収すること」

商人?「打姫自体に私の魂が宿っているから、残りはお前が持つその斬姫と博物館行きになっている突姫だ」

剣士「お前の剣……?これがか?」

商人?「そう、私の刀だ!」

剣士「元の意識はどうなっている?」

商人?「なぁに、少し眠ってもらっているだけだ。この身体を借りている間ずっとだけどな!」

剣士「……身体だけでも返してはくれないか?」

商人?「んー?……まぁ、お前の態度次第だな。お前の取るべき行動は一つしかないだろう?さぁ出せ!」チョイチョイ

剣士「その通り、方法は一つしかないな……林檎の身体をなるべく気づ付けず、アイツの意識だけを呼び戻す」

商人?「え?」

剣士「く……クヒッ……クヒヒヒ!面白くなってきた……!」

商人?「何この子怖い」

「ヴェーイ!!」

スパーンッ

剣士「ッ!?誰だ、こんな時に私の頭を叩くやつは!」

商人魂「私だコンチクショウ!!」

剣士「は?」

商人?「えっ?」

商人魂「今の状況見てなんで戦う気満々だったんだよ!?そこは斬姫渡して穏便解決万々歳だろ!?」

剣士「あ、ああ……」

商人?「え?えっ?」

商人魂「オラそこのイカレ刀!とっとと私の身体返しやがれ!お前のせいでこんな姿になっちまってんだよ!」

商人?「えっと……お前、この身体の中で眠ってるんじゃないの?」

商人魂「お前が身体に入ってきたときになぜか魂だけが追い出されたんだよ!!」

商人?「えぇ――――……」

妖狐「ふぅ……ようやく追いついた」

男「あ゛ー、走るのシンドイ……」ゼーハーゼーハー

剣士「おい、コレなんだ?」

男「えっと……見ての通り」

妖狐「魂……かな?」

商人魂「霊魂になるとこんな姿になるみたいですねぇ」フワフワ

商人魂「ほらほら!空中浮遊!」ビューン

剣士「……気張って損した」

商人?「あの……」

妖狐「魂の形が見れるなんて珍しい事があるものじゃな」

男「丸っこいモサモサな後ろ足の無い犬っころだもんな。可愛いぞお前」モサモサ

商人魂「コラ触るな!後私は狼だ!」



商人?「お……お前らー!私を無視する……ムグッ!?」

仮面男「喋るな」

商人?(い、いつの間に後ろに!?)

仮面男「こちらにはお前の魂だけを屠る術がある、妙な動きはするな」

仮面男「早急に身体を彼女に返せ、大人しく刀に魂を戻せ」

商人?「し、しかし……」

仮面男「喋るな、この剣は魂だけを斬れるぞ」チャキン

商人?(ヒィィ!!)

仮面男(魂と意識だけが強くなりすぎてしまった小物か……)

剣士「で、どうするんだ?えっと、名前なんて言ったか……とりあえず、お前の要求通りこの剣は手放してもいい」

剣士「だから、その身体を返してはくれないか?」

商人?「ハッ!?い、いない!?」

商人魂「ん?何が居ないんですか?」

商人?「ええいこっちの話だ!だったらそこの狐!お前がその刀をこっちに持って来い!」

妖狐「妾が?」

商人?「ずっと刀の中から見ていたぞ、お前はこの娘が大切なんだろう?」

妖狐「まぁ構いはしないが……」




仮面男「……」

妖狐「じゃが、いいのか?お前さんの刀なんだろう?」

剣士「元は林檎の物だ、借りているだけだしな。お前の為なら喜んで引き渡そう」

商人魂「おお……成長しましたねぇ」ホロリ

剣士(身体が戻った瞬間速攻取り返す!)

商人?(刀を受け取った瞬間速攻逃げてやる!)

妖狐「ホレ、持ってきてやったぞ」

商人?「おお、おおお!ようやく……ようやく私の手に帰ってきてくれたか斬姫ぇ……」スリスリ

商人魂「つーワケでほら!早く身体返せよ!」プリプリ

男(動物的可愛さがあるなぁ)

商人?「ああゴメン、身体の事だけど。返し方分からない」

妖狐「……は?」

商人?「魂が中に入っていればまだよかったんだが、出てしまっては私の知ったことじゃないな」

商人?「ッつーワケで!さよならー!」ビューン!!

商人魂「あ!おいコラ待て!逃げるな!!」

剣士「クソッ!浅はかだったか!」バッ

妖狐「また走るのか……」ダダダッ

鎧少女『その必要はないぞ』スッ

商人魂「うわいきなり出てきた!?」


商人?(本当に返し方分からないから仕方ないじゃない!このまま逃げ切れば私も完全復活……)

ビュンッ

仮面男「言った傍から言いつけを破るとは思わなかったよ」

商人?「ッ!?」ギンッ

仮面男「防いだか、見事だ」ザッ

商人?「さっきから何なんだお前は!私の邪魔をして!」

仮面男「君を管理できなかったのは私の責任だからね」

商人?「何の話だ……」

仮面男「魔剣打姫、その刀に掛かっている呪いは精神操作」

仮面男「君は刀の中で無意識にその能力を使いながら使い手を探していたんだね」

商人?「……あまり刀の中に居た時の事を覚えていない、完全に目覚めたのはさっきだ」

仮面男「だろうね、まぁどうでもいい話だ」

仮面男「もう甘い事は言わないよ、今度はちゃんと処分させてもらおう」スチャ

商人?「ふん!2刀流か、面白い!ならば私も……ん?」

商人?「お前……その黒い剣は……なんだ?」

仮面男「……これも魔剣だ、製作者は……君もよく知っているハズだよ、剣士戦姫」

商人?「……鍛冶師ヴォーグ!!」

ギィンッ!!

仮面男「ッ!!」

商人?「奴の作った武器!!私を殺した奴の残した兵器!!」ギンッギンッ

仮面男「そんなことを言ったら……君のその刀2本もそうだろうが!!」ガッ

商人?「何だと!?」

仮面男「知らないのか?その刀は奴の作ったレプリカだ」

商人?「それじゃあ……私は何だ?何故私の魂はこの刀に乗り移っている!!」

仮面男「そんなこと!知らないよッ!!」

商人?「ぐぅ!!」バッ

仮面男「距離を取ったところで……!」

商人?「そんなウソ、信じるか!」

仮面男「信じるか信じないかは勝手にしろ、今だ!奪い取れ!!」

商人?「!?」

バッ

剣士「……」チャキン

剣士「魔王様、隙を作っていただいてありがとうございます」

仮面男「構わないよ、君の家族を守るのは君の仕事だ。あと、私の事魔王って言うのそろそろやめてくれ」

商人?「図ったな貴様ら!!」

仮面男「私の言葉に簡単に耳を傾けた君の落ち度だろう?」

剣士「林檎には悪いが、アイツは正面から打ち倒す。解決方法はその後にでも考えよう」

仮面男「気を付けろ、彼女は剣士としての腕前は見事なものだ」

商人?「フッ……流石に隠し切れなかったようだな、私の腕は」

仮面男「立ち回り自体は獣人の身体で君以上だろう」

仮面男「だが、精神面はやや子供っぽい。おだてればいい気になり、貶せば落ち込むだろう」

商人?「おい」

仮面男「少し揺さぶってやっただけでこの有様だ、難しい言葉とか使うと混乱したりするかも」

仮面男「生前チヤホヤされ過ぎて周りから甘やかされて相当天狗になっていたんだろうな」

仮面男「きっと嫌われるような正確になっていたんだろう。あ、ひょっとしたら友達とかも少ないかも」

商人?「やめて」

仮面男「今だ!」

商人?「え?おいちょっとま」

剣士「応えよ斬姫!凍てつけ刃よ!!」

商人?「ぎゃあああああああああ!?」カチンコチン

仮面男「見事だ」

剣士「魔王様、勝った気がしません」

男「おお!決着ついてる」

商人魂「うわああああ!?なんで私の身体氷漬けになってんだ!?」

妖狐「……これ、大丈夫か?」

剣士「ああ、死にはしないだろう。きっと」

鎧少女『さて、魂と身体が完全に分離してしまう前に始めるぞ』

商人魂『何が始まるんです?』

鎧少女『お前の魂を元の場所に戻すだけだ、手間はかからん』

商人魂『流石は女神様、女神らしいことも出来るんですね』

鎧少女『お前は私をなんだと思っているんだ』

"許さん……"

妖狐「……ん?」



商人?「許さんぞ貴様ら!!」ジュー

男「こ、氷が溶けてるぞ!」

鎧少女『なんだお前の身体、火の魔法が使えたのか?』

商人魂『あー、そういえば昔得意属性の検査したら火属性だったな私。じゃなくてそれどころじゃないだろ!!』

妖狐「……さっきから聞いていれば……何の魂だか何だか知らんが!」バッ

商人?「っ!!おい!刀を返せ!!」

妖狐「負けたのなら負けたで……」

妖狐「潔く人の妹の身体をさっさと返さんか大馬鹿者が!!」バキンッ!!

商人魂「!?」

男「!?」

剣士「!!?」

商人?「そ、そんな……ああ、嫌だ……私の意識が……消えて……」カクン

妖狐「……フン!!」

仮面男『……膝も使わずに消耗していない剣一本へし折った人初めて見た……』

鎧少女『……こいつホントに一般人か?』

妖狐「憑きものは本体をどうにかすればいい場合が多い、試す価値はあったみたいじゃな」



剣士「……どうしたお前たち?」

商人魂「ああ、昔の記憶が……」ガタガタ

男「助走をつけながら全力で殴られた記憶が……」ガタガタ


――――――
―――

主人公が誰だかすっかり忘れてて急遽お姉ちゃん活躍

商人「よっしゃー!!蘇生完了!!」シャキーン

妖狐「お帰り、まったく世話かけさせおって」ナデナデ

商人「あ……えへへ、アネさんくすぐったいですよ」

男「魂の時の姿の方が可愛げがあったけどな」

剣士「あの丸っこいモフモフでワサワサ、私も触りたかったな」

商人「ほれほれ、尻尾ならいつでも触っていいですよ?」ピョコピョコ

剣士「遠慮する。糞が付いてそうで嫌だ」

商人「付いてねぇよ!?清潔だからな私は!?」

仮面男「……」カチャカチャ

鎧少女『……直そうだなんて思っていないだろうな?』

仮面男『一度死んだ刀だ、直したところであの魂はもう現れることは無いだろう』

鎧少女『お前、性格悪いな』

仮面男『私の性格が悪いのは君が一番よく知っているだろう?』


ポワワン


仮面男『ん?』

幽霊「う……うう……」シクシク

商人「うわなんか出てきた!?」

剣士「私の後ろに下がれ……」サッ

仮面男「いや待て、何かおかしい」

幽霊「いつも……いつもそうだ、なんで私がこんな目に……」

幽霊「子供のころから剣一筋で生きてきて、他の事を知らずに育ち……」

幽霊「家に育ててくれた恩を返そうと線上に立ち戦いに明け暮れ……」

幽霊「お家の為に戦果を上げて実家に帰ったらウチの一族は没落してるし……」

幽霊「借金のかたに私の刀3本のウチの一本を質に掛けられて……」

幽霊「せめてお金を稼ごうと日夜労働に励み……」

幽霊「ある日働く美少女剣士として取り上げられて有名になって色々オファーが来たと思ったら……」

幽霊「たまたま通りがかった町で刀欲しさに鍛冶師ヴォーグに切り捨てられて一生を終えて……」

幽霊「魂だけは何とか現世に繋ぎとめたが復活目前でその鍛冶師の作った剣を持ってる連中に妨害される始末……」



幽霊「私の人生はなんだったんだよおおおおおおお!!」ダンダンダン!!

商人「うわぁ……」

男「ちょっと……どうしていいか分からないんだけど」

仮面男「剣士戦姫、その哀れな生い立ちと美麗な容姿で話題になった200年前の猫の獣人の剣豪だ」

仮面男「そして通り魔にバッサリ斬られるという非業な最後を遂げて、今もなお語り継がれる伝説の人」

仮面男「彼女の使った3本の刀は、1本は博物館に寄与され、残りの2本は行方知れず……まぁ、ここに2本揃っているけれど」

幽霊「うう……私の事知ってるの?」

仮面男「ある程度知識のある人は知っているだろうね」

商人「猫 て。狼 の 私 の 身 体 に 猫 て」

剣士「私と斬姫のように波長が合ったんだろう、仕方がないな」

妖狐「なんだか可哀そうになってきたのう」

商人「可哀そうも何もそれ以前に私死にかけたんですけどー。殺されかけたんですけどー」

幽霊「私も予期していなかった事故なの!刀全部取り返したら返すつもりでいたの!」

妖狐「それで?コイツの処遇はどうなるんだ?」

仮面男「本体は破壊され、精神に干渉する力は失っているようだ。害は無いと思うから、後は勝手に消滅するのを待つだけだね」

剣士「お前……消えるのか?」

幽霊「嫌だー!!消えたくないー!!まだ未練タラタラなのにー!!」

妖狐「ふむ……害はないんじゃな?」

仮面男「ああ、間違いないよ。まったく力を感じない……よね?」

鎧少女『頼むから私の分かる言葉で喋れ。何か触媒になるものが無ければあとは消えてガラスの海に帰るだけだ』

仮面男「つまり、消えるんだってさ」

幽霊「うわああああん!」

妖狐「……ウチに来るか?」

幽霊「……え?」

妖狐「ま、無事に妹も戻ってきたし、今回の事は水に流してもいいじゃろう」

商人「私は流さねぇよ!?」

妖狐「もう悪さをしないっていうのなら、新しい身体も用意しよう」

妖狐「お前さんが、もう一度本当にやり直したいと言うのなら、妾も協力してやってもいいぞ?」

幽霊「う……うう……うわあああああん!お願いしますーーー!!」ペコペコ

妖狐「ふふ、可愛い奴じゃ」ナデナデ



商人「うわー、なんか納得いかねぇ。アニさん的にどうなの?」

男「アイツが決めた事には口出ししねぇよ。無害なら別にいいし」

商人「はぁ……」


――――――
―――

妖狐「ほら、これがお前さんの新しい身体じゃ!」ドスンッ

幽霊「えっと……」

男「ブサイクな狐の石造の……」

剣士「売れ残りのやつだな」

妖狐「無いよりはマシであろう?ささっ早く魂を定着させるぞ?」ニコニコ

幽霊「……」

商人(ヤバい、悪意が全くない分コレは断り辛い)

妖狐「むぅ、お前さんは猫だから狐は嫌か」

商人「絶対そういう問題じゃないですよ、アネさん」

妖狐「よし!削って猫っぽくしてやるから待っていろ!」タタタ……

幽霊「……あの、私はこれにて失礼する」

剣士「ああ、現世に居る間はもう悪さするなよ」

幽霊「はい、お達者で」ヒューン

男「ホントに行っちまったよ」

商人「ホントに大丈夫なんですかね?」

仮面男「……ああ、何も出来ないだろうね」

剣士「ふぅ……色々あったが、今日はこれで決着だな」

男「お疲れさん、妹助けてくれてありがとな。ゆっくり休んできな」

商人「……何か忘れてません?」

男「何が?」

剣士「……あ」








子ウサギ「ウキュウ……」グデン※ずっと1匹で店を切り盛りしていました


妖狐「おーい、猫やーい!身体が完成したぞー?」


――――――
―――


懐かしい匂いがする

一面が畑ばかりの道路端

先に見えるは一軒家

妾は毎日そこへ通う

妹と、普通の人間が居るその場所へ通う

妖狐(おはよう、今日も遊びに来たぞ)

(おはよう姉さん!)

妖狐(む?今日は国雅はいないのか?)

(うん、裕太くんが結婚するから相手方の親御さんに挨拶だって)

妖狐(ほう、裕坊が結婚か……早いものじゃな)

(あっという間だね)

妖狐(ああ、妾達妖怪にとってはとても短い時間じゃ)

妖狐(お前さんはどうだ?男の一人や二人でも出来たか?)

(姉さん……出来る訳ないよ、出会いが無いもん)

妖狐(ははっ、それもそうだ。座敷童のお主が家から離れて遊び惚ける訳にはいかないからな)

(分かってるくせに意地悪言うんだね)

妖狐(なに、お前さんだから虐めてやりたくなるんじゃ)

(酷いよもう!)

妖狐(……こうやって、変わらない毎日が過ごせたらいいな)

(……姉さん?)

妖狐(妾がいて、お前さんがいて、みんながいて……)

妖狐(時代が移り変わっても、ずっとみんなで過ごして)

(変わらないよ、ずっと)

(私は姉さんの傍にいるから)

(だから、姉さんも……私の傍にいて?)

妖狐(ああ……わかっているさ)

妖狐(だってお前さんは、妾の可愛い……)


――――――
―――


妖狐「……う……」

妖狐「どうして……こんな夢ばかり……」

妖狐「今になってなんで昔の夢を見るんだ……」

妖狐「みんなに……会いたいよ……」

妖狐「グスッ……寂しいよ……麗華……」

小休止
正直刀の幽霊の話は蛇足になってしまった

再開

……

男「おお、おはよう。今日は遅かったな」

妖狐「……悪いね。というより、最近お前さんたちが早いだけじゃ」

男「林檎に叩き起こされるからな。お前はいつも最後に起こすけど」

妖狐「ふむ……それもそうだな」

男「……どうした?」

妖狐「何がじゃ?」

男「いや……まだ気分が悪いのか?」

妖狐「何故そう思う?」


男「さぁ、何となくだよ」

妖狐「別に気分など悪くは無い。人に言われると本当にそう思うようになってしまうから控えろ」

男(気分が悪いと言うより機嫌が悪い、だなコレは)

妖狐「それより、連中はどうした?見当たらないが」

男「それならさっき仮面の人に呼ばれて全員行っちまったよ」

妖狐「あの者に?何かあったのか?」

男「大した用事ではないみたいだったけどな。渡したいものがあるとかなんとか」

妖狐「ふむ……まぁいい、とりあえず店を開けよう」

男「飯はいいのか?食べ終わるまで俺が一人で何とかするけど」

妖狐「いらん、そんな気分ではない……」

男「……なぁ、別に何かあったら俺を頼ってもいいんだぞ?」

妖狐「何もない。強いて言うならお前さんが早く店の仕事を覚えてくれるとありがたいのじゃが?」

男「oh...返す言葉もございません」

妖狐「ならば早く準備するぞ」

男「ほいほい」


――――――
―――


男「はい、コレお釣りね」

妖狐「ありがとうございます」

男「ありがとうございまーす」



男「今日もそこそこだな」

妖狐「……ああ」

男「あのお客さん来ないな、石の事ちゃんと伝えたいのに」

妖狐「ああ」

男「アイツらもなかなか帰ってこないし。もう昼過ぎだぞ」

妖狐「そうだな」

男「お姉ちゃん大好き」

妖狐「うん」

男(反応は変えてくれるんだな)


ガラガラ


黒髪少女「お邪魔します」

男「いらっしゃい!……お、噂をすれば」

妖狐「いらっしゃいませ」

黒髪少女「あら?どこか業務的ですね?私相手には畏まらなくてもいいと前に伝えたハズですよ?」

妖狐「接客業ですので、他のお客様もいらっしゃいますし」

黒髪少女「お客さんの居ない時を見計らって来ましたが、逆に迷惑でしたか?」チラッ

男「なんで俺を見るですか……」

黒髪少女「いえいえ、よろしくやっていたのかと思いまして」

眼帯少女「……何かいい眼帯はないモノか」

金髪少女「シュシュさん、その眼帯しか付けられないでしょ……」



妖狐「それよりも……申し訳ありません。あの石は……」

黒髪少女「使ったんですね?」

妖狐「はい……」

男「すみませんでした!あんなことになるなんて思っても見なくて!」ペコペコ

黒髪少女「構いませんよ、効力を調べろなんて専門家にしかできない事をしろと意地悪を言ったのはこちらですし」

妖狐「しかし、任されて受け取った以上はこちらの落ち度。弁償はいたします」ペコ

黒髪少女「……ところで、石を使ったのはどちらでしょうか?」

黒髪少女「狐さん?それとも店番さんですか?」

男「え?あー……」

黒髪少女「一度行って帰ってきたのでしょう?フフッ、どうでした?時空旅行の感想を聞かせていただければ……」

妖狐「妹のペットが行きました……」

黒髪少女「へ?」

黒髪少女「ちょ、ちょっと待ってください。ペットが行って帰ってきた?」

妖狐「はい、ワタクシ達はその後に残った石の欠片で少し変な物を見ただけですので……」

黒髪少女「あ、あはは……狙いが完全に外れたか」ボソッ

眼帯少女「……物事は、中々うまく行かない」

金髪少女「割と自分に酔うタイプですから、見ていて滑稽ですね」

黒髪少女「黙ってなさい」

男「それより時空旅行って?効力の方は知らなかったんじゃないのか?」

黒髪少女「ギクリッ」

妖狐「……知っていたのですか?」

黒髪少女「ハハハ……悪戯が過ぎましたね」

金髪少女「墓穴掘りー」

眼帯少女「……墓穴掘りー」

黒髪少女「やめてください、恥ずかしくて死にそうです」

妖狐「貴重な物なのに値段はこちらにすべて任せるだの、捨てても構わないだのと怪しいと思ってはいたが……」

男「詐欺か何かか?ウチからは何も搾り取れないぞ」

黒髪少女「ふぅ……この際正直に申し上げます」

黒髪少女「あなた方、元の世界に帰ろうとは思いませんか?」

妖狐「っ!?」

男「ん?どういう事?」

妖狐「そんな事……出来るのか?」

黒髪少女「貴女が石の力で見たという変なものが全てを物語っているのではないですか?」

黒髪少女「少なくとも、貴女の望む世界の景色が見えたハズです」

黒髪少女「この魔法石にはその力があります。どのようにして使うかを見る為に回りくどいやり方で渡しましたが」

黒髪少女「これ以上隠す必要もないですしね、すべてお渡ししましょう」スッ

男「おいおいおい、貴重なもんなんだろ?いいのかよ」

黒髪少女「私たちには必要のないものなので」

妖狐「お前さん達は一体……」

黒髪少女「通りすがりの冒険者兼経営者ですよ」

黒髪少女「もし私の店に立ち寄ることがあれば、その時はまたよろしくお願いします」ペコッ

黒髪少女「行きますよ、いつまでもお店の物を物色しないでください。迷惑かかりますから」

眼帯少女「……また来まーす」

金髪少女「お邪魔しました」ペコッ



男「なんのこっちゃ?」

妖狐「……お前さんにも関係のある話だ」

男「ん?」

妖狐「……今夜すべてを語ろう、今後の事も……」

男「今後ってどういうことだよ。まるで何かするみたいな事言って……」

妖狐「妾の機嫌が悪い事にも関係している、相談くらい乗れ」

男「相談……」

妖狐「お前さんにしか相談出来ない事じゃ」


……

ガラガラ


金髪少女「随分と回りくどい方法を取ったな」

黒髪少女「何か一悶着あれば面白いと思ったのですが……完全に空回りでしたね」

眼帯少女「……どうして最後に全部渡しちゃったの?あれだけあると色々悪用も出来ちゃうのに」

黒髪少女「理由はありませんよ、気まぐれです」

金髪少女「お前の"理由は無い"は大体がお節介だけどな」

黒髪少女「そんなことはありませんよ……あら?」


商人「……」

黒髪少女「こんにちは、お久しぶりですね」

商人「今の話……あの石の話、どういう事ですか?」

黒髪少女「聞いていたのですか」

金髪少女(店の外に居るのは知っていた癖に……)

商人「アネさんが元の世界に帰るとかなんとかって……」

黒髪少女「私は選択肢を与えただけです」

商人「選択肢?」

黒髪少女「はい、この世界に残るか元の世界に帰るかの2択です」

商人「つまり……アネさんは、この世界の人じゃないって事ですか?」

黒髪少女「あ、そこからですか。その答えはズバリ"イエス"です」

黒髪少女「空間の歪みについては知っていますよね?」

商人「何らかの要因で次元にズレが生じ、そこに巻き込まれた物は別の世界に行ってしまう……」

黒髪少女「或いは何もない場所を死ぬまで彷徨いつづけるか」

黒髪少女「魔法と高い機械技術が発展した矛盾したこの世界も、他の世界からもたらされた知識で成り立っています」

黒髪少女「この国はそのどちらも少々遅れているようですが……」

黒髪少女「時の迷い人は見かけたら元の世界には返すようにはしていますが……」

商人「アネさんみたいな人ひとりでも、元に戻さなきゃいけないんですか?」

黒髪少女「生じたズレは小さかろうが大きかろうが、出来るだけ元に戻した方がいいんですよ。争いの火種にしかなりませんから」

黒髪少女「と、言うか。もうこの世界はいろいろ手遅れですけど」ボソッ

商人「……」

黒髪少女「とりあえず、決定権は彼女にあるので。あの石を使うかどうかは全て委ねます」

黒髪少女「では、これにて」

眼帯少女「……またね」

金髪少女「失礼しますね」


商人「……なんだよ、それ」

商人(アネさん、最近ずっと元気なかったり、昔話が増えたと思ってたけど……やっぱり……)

剣士「すまない、少し遅れた……どうした?」ガツガツ

子ウサギ「ウキュウ?」モヒモヒ

商人「……なんでもないですよ。それよりなんですかあなた達は、買い食いなんてして」

剣士「あまり多くないお小遣いを買い食いには使わん。これは道行く老人たちが何故か私たちに食べ物をくれるだけだ」

子ウサギ「ウッキュウ!」モヒモヒ

剣士「私はそんなに貧しく見えるのだろうか?」ガツガツ

商人「アンタが年寄りに好かれるだけだろう」

商人(……ウジウジしてても仕方ないか)

商人(あんな話をされて、アネさんからしたら困っているに違いない!)

商人(せめて私が明るく元気に振る舞ってアネさんと、ついでにアニさんを元気づけるか!)

ガラガラ

商人「あなた達の愛しい林檎ちゃんがただいま帰ってまいりましたー!!媚びろ崇めろ煽て続けろー!!」





妖狐「……」ズーン

男「……」ズーン

商人「あ、無理だコレ」

男「ああ……おかえり……」

商人「アニさんゲッソリし過ぎだよ!?朝見たときと顔の形違うぞ!?」

男「瑪瑙が元気ないからな……俺も影響されちまったよ……」

妖狐「引けぬ……引けぬのだ……」

商人「アネさんはアネさんで虚空を見て呟いてるし!?アンタら豆腐メンタルだなおい!」


――――――
―――


男「店を……閉めよう……」

妖狐「そうだな……」

商人「結局終始そのままだったよ……私が居なかったら絶対今日はクレームの嵐だったぞ」

剣士「会計の計算ミスが酷かったな、全部フォローした私に感謝しろ」ドヤッ

商人「アレ以降の接客の態度も酷いもんだよまったく!」

妖狐「……お前さん」

男「ああ、分かってる」

商人「あ、二人とも。店の片付けは私たちがやっておくんで、少し散歩でもして来たらどうですか?」

妖狐「散歩?」

男「もう日は落ちているけど」

商人「夜の景観はいいものですよ、二人とも普段はお店があって出歩かないからいいじゃないですか」

妖狐「ふむ、確かにこの時間以降は外に出ないからな」

商人「ささっ、行った行った!カップル二人の熱い夜を過ごしてきなさいな!」グイグイ

男「押すなって……」

妖狐「……悪いね」

商人「何の事ですか?正直今の二人が店にいると空気が悪くなるだけですから追い出そうとしてるだけですよ」

妖狐「ああ、ありがとう……」

商人「……アネさんがどっちを選んだとしても、アネさんの後悔しない方を選んでください」

妖狐「……」

……


男「こうして二人で出歩くなんて、いつ振りだろうな」

妖狐「テンプレのような会話から始めるかお前さんは」

男「話しやすい雰囲気を作るのが先だろう?お前さっきから挙動不審だし」

妖狐「……最後に二人で出歩いたのは5年くらい前だな」

男「お、乗ってくれたか!……そうか、俺が成人迎える前かぁ」

男「なんで二人でいたんだっけ?」

妖狐「ただの買い物じゃ。店も休みでお互い暇だったからと言う理由じゃ」

男「あら、それっきり機会が無かったのか」

妖狐「林檎とはよく出歩いていたが、寂しい事だ」

男「男女じゃ出歩くにしても買い物の内容とか違うしな。俺は男友達との付き合いあったし」

妖狐「妾より友人を優先するか」

男「付き合いってのは大変なんだよ。お前の方が分かってるだろ」

妖狐「ふむ、まあな」

男「それに、お前の事を後回しにしてたわけじゃないし」

妖狐「誕生日にクリスマスにその他諸々……祝い事は常に妾と過ごしていたな」

男「そ、むしろ優先してたし」

妖狐「ふふっ、姉を優先するとは。このシスコンめ」

男「何とでも言えよ、俺にとってお前は……」

妖狐「母であり、姉でもあり……」

男「……恋人でもあるんだからさ」

妖狐「うわ寒っ、鳥肌立ったわ」ブルブル

男「そんなこと言うなよ」

妖狐「冗談じゃ、お前さんは妾の大事な恋人じゃ」

男「……和んだ?」

妖狐「まぁな、先ほどよりは」

男「んじゃあ、本題行こう」

妖狐「ああ、妾にとってもお前さんにとっても大事なことじゃ」

男「うん……」

妖狐「妾とお前さんは、元は違う世界に住んでいた」

男「……さっきの話を聞いた感じだと、そうなのかな」

妖狐「その世界は、剣も魔法も飛び交わない。種族は人間、数多くの動物、そして妾のような一握りの妖怪達だけ」

妖狐「この世界のように多様な種族がいる訳ではない場所じゃ」

男「退屈そうな世界だな」

妖狐「なに、こことそう変わらんよ」

妖狐「神隠し……妾達二人は次元の穴に落ちてこんな場所に来てしまった」

妖狐「まだ小さかったお前さんは、あまり覚えていないようだったが……」

男「ああ、本当の両親の事さえ覚えてないからな」

妖狐「妾の力がもっと大きければ、お前さんを一人ぼっちにせずには済んだのにな」

男「俺は一人ぼっちなんかじゃないよ、初めからお前がいた」

妖狐「……妾は……お前さんを一人として数えてなどいなかった」

妖狐「正直、こんな子供を助けようとしなければ、妾も向こうの世界に居られたのではないかと恨んでいたくらいじゃ」

男「はは……笑えないなそれは」

妖狐「帰る方法は粗方探した。次元を超えること自体があり得ない現象だから、実際は諦めていたが」

妖狐「……結局、この地で暮らすほか無かった。しばらくお前さんを施設に預けていた理由はそれだ」

男「でも、お前はちゃんと俺を迎えに来て育ててくれた」

妖狐「一人は寂しかったからな……」

妖狐「お前さんは……いや、お前さんたちは、向こうに残してきてしまった妾の妹の代わりとして見ていた」

男「妹?」

妖狐「明るく気立てのいい、それによく喋るかしましい……けれど、とても可愛い娘だ」

男「代わりとして見られてたのか……なんか複雑だな」

妖狐「……一緒に暮らしていくうちに、そんな感情ではなくなっていたがな」

妖狐「あの娘とはまた違う……お前さんたちが可愛くて可愛くて仕方がなくなっていた」

妖狐「それで、いつの間にかお前さんたちは妾の弟と妹じゃ」

男「光栄だよ、姉さん」

妖狐「……お前さんは、寂しいと感じたことは無いのか?」

妖狐「血の繋がった者は誰一人としていない、他人ばかり」

妖狐「友達は皆両親がいて、家に帰れば迎え入れてくれる」

妖狐「……お前さんは、孤独ではないか?」

男「そんな孤独を感じた事なんて一回も無いっての」

男「血の繋がりは無くったって、家に帰ればお前が居たし。外に出れば正面の駄菓子屋から林檎が突撃してくるし」

男「……俺にとって、それが家族だからな」

妖狐「裏を返せば、本当の家族を知らないという事か」

男「……お前はさ、さっき貰ったその石をどうするつもりだ?」

妖狐「……正直言って迷っている」

妖狐「コレを使って帰ることが出来るのなら……使いたいと思っている」

妖狐「あっちに残してきたものが、とても心配だからな……」

妖狐「けれど、こちらに残してきてしまうものも、また心配だ」

男「俺は行く気は無いぞ。俺はこの世界の人間だ、そう思って生きてきた」

男「向こうに行っても、俺にとっては何もないからな」

妖狐「……だろうな」

妖狐「あっちこっちに大切なものを作ってしまうものではないな」

妖狐「こういう、重大な選択をしなければならない時に迷ってしまう」

妖狐「あわよくば、一緒に行くことをお前さんが了承してくれればいいと思っていたが」

男「一人でも戻るつもりか?」

妖狐「それを迷っておる」

男「……」

妖狐「……」

男「行くな」

妖狐「え?」

男「行って欲しくない」

妖狐「……まぁ、お前さん達からしてみれば止めるであろうな」

男「"達"じゃない、"俺"の意見だ」

妖狐「!」

男「他の誰かと一緒の意見なんて出したくい、俺の気持ちだ」

男「……だから、俺はお前が帰ろうとしても、力ずくで止める……かも」

妖狐「お前さん……」

休憩
今回中に終わるか

再開

妖狐「ぷっ……」

妖狐「ぷははははははは!!」

男「何だよ……」

妖狐「そんな真剣な顔をしていうな、何も向こうに一人で永住する事を考えているワケではない」

男「……話の流れからしてそうとしか取れなかったぞ?」

妖狐「ふむ、そういう話をしていたからな」

男「結局どうなんだよ!」

妖狐「この石が片道切符ではないという事は先の事で分かっている」

妖狐「数もあるし、どうやら割れた直接の原因は林檎の持ってきた機械にあるみたいじゃしな」

妖狐「まぁ、色々な要因があって多用は出来なさそうだが……」

妖狐「……行って帰って来ることくらいは容易だろうな」

男「やっぱり使うのか?」

妖狐「ああ、お前さんに用は無くても、向こうには妾が無事であるという事を伝えたい」

妖狐「そう……妾はまだ死んではいない……。こんなにも妾を思ってくれている者がいる限り……」

男「帰ってきてくれるのなら俺は何も言わない。ってかむしろ着いて行く」

妖狐「ほう、やはり気になるか?」

男「お前が元の世界で暮らしたい、なんて言わないようにするためだよ」

妖狐「ああ、それなら一緒に行こう、必ず……」

男「今からはいかないのか?」

妖狐「準備もせずに行くわけないだろう。もっと安全性の確認もしなければいけないのに」

男「それもそうか」

妖狐「……もしお前さんが、妾の好きにしろなどと口にしていたら、とっとと出て行ってやるつもりだったがの」

男「うお、怖い怖い……」

妖狐「さて、帰るか……くちゅんッ!」

男「可愛いくしゃみで。この時期は中々冷えるな……」ダキ

妖狐「……軽々しく肩を抱くな」ペシッ

男「雰囲気よかったろー?あと、お前そんな肌蹴た着方してるからくしゃみするんだよ」

妖狐「妾のファッションじゃ、客受けもいいし文句言うな」

男「そりゃ随分と誘うようなファッションで」




妖狐「……お前さんの気持ち、確かに聞かせてもらったぞ」ボソッ

男「ん?何か言ったか?……とは言わないぞ、ちゃんと聞こえてる」

妖狐「聞こえるように言ったからな、馬鹿者が」ギュッ


――――――
―――


妖狐「ただいま、帰ったぞ」

男「ただいまー、飯できてるかー?」



山田「いやぁ、やっぱり可愛いね。こう純情派?ってやつかな?ハハハハ!」

幽霊「ふっふっふ、分かるだろう分かるだろう?これでも昔はモテモテだったからな!」

剣士「盛り上がっているところ悪いが山田、お前何勝手に出てきている」

山田「ウサギちゃんがまた笛吹いてくれたから出てきたんだよー、ありがとね!」

子ウサギ「ウッキュウ!」ブイ

商人「……騙された……そして増えた……」プルプル



妖狐「おい、コレはどういう状況じゃ?」

男「賑やかになってるな。そしてサラッと山田とか言う奴が居るな」

……

商人「山田さんは人狼の幽霊で私の心強い味方です」

商人「こっちの幽霊さんは言うまでもなく昨日のです」

山田「こんばんは、いつも林檎ちゃんにお世話になってます」ペコペコ

幽霊「ふっふっふ、昨日はブサイクな石造を前に恐れを為して逃げたが今日はその必要もない!」ドドン

妖狐「こっちの山田とやらはどうでもいい、昨日いなくなった幽霊が何故ここに居る」

幽霊「聞きたいか?そうだな聞かせてやろう!」

男「面倒くさそうだからいいだろ」

商人「つーか居なくなれ」

幽霊「……」ジワッ

妖狐「そう言ってやるな、泣きそうではないか」ナデナデ

幽霊「では失礼!アレは昨日、私が空中散歩を楽しんでいる夜だった……」

商人「消える消える詐欺しておいて呑気に散歩かよ」


―――
――――――

幽霊「あーどうせ消えちゃうんだし、最後くらい好き勝手しようかなぁ」

幽霊「実際打姫の中に閉じ込められてて何も出来なかったワケだしー。と言うか意識とか全然無かったしー」

鎧少女「……」

幽霊「せっかく幽霊なんて形になってるんだから人でも脅かしてみるかー。いい暇つぶしにはなりそうだなー」

鎧少女「―――」

幽霊「うわびっくりした!?……って、さっきあの連中と一緒に居た人?ってかここ空中なんだけど……」ムンズ

鎧少女「―――!」ビューン!!

幽霊「ぎゃああああ!!掴まれたー!!そしてすごい勢いで運送されるうううううう!!」

――――――
―――


幽霊「で、気が付いたらまた刀の中に入れられていたワケで」

妖狐「あの刀は妾が折ったハズでは?」

幽霊「あの仮面の人が一晩で直しちゃいましたよ」

商人「純粋にすげぇなあの人」

妖狐「その刀は今どこに?」

商人「ここに……」スッ

男「なんでお前が持ってるんだよ」

剣士「コイツがレアアイテムとか言う名目に釣られたんだよ」


―――
――――――

鎧少女『ボーナスステージだ!』

仮面男「はい、今日見せるのは大中小の3つのボックス!」

仮面男「この中の全部にハズレなしのレアアイテムが入っているよ!」

仮面男「今回の一件は私の管理不足が原因だからね、そのお詫びにどれか一つをプレゼントだ!」

商人「うっほっほっほ!それじゃあこの一番大きい箱くださいなー!」

仮面男「どうぞー」

鎧少女『ゲームオーバーだ!』

――――――
―――


商人「中身に気づいて文句言おうとしたらもういねぇし……」

剣士「あの女神の不可視能力を使って早急に逃げたんだろうな」

幽霊「もう誰かに取りつくとか出来なくなってるみたいだから……諦めよ?ね?」

商人「テメェーなんざ手元に置いておけるか!粗大ごみで捨ててやる!」

剣士「無駄だ。腐っても魔剣だ、きっとまたお前の手元に戻ってくるだろう」

幽霊「腐ってるなんて言うな!大体斬姫だって私の一部だぞ!お前は私に感謝はすれど文句なんて言えないはず……ムギュ!」

剣士「この球体に猫の耳と顔が付いた変な生き物は可愛いなぁ、変幻自在だ」ブニョンブニョン

幽霊「やーめーてー!」

男「魂って触れるんだな」

妖狐「アレや林檎は例外だとは思うが」

商人「チクショウ……レアなアイテムが欲しいだけなのになんで変なのばかり増えていくんだ……」

山田「俺にメリ……剣士ちゃんにウサギちゃんに戦姫ちゃんか、大人数だね」

剣士「山田、私の名前を言ったらお前の本体を破壊するから覚悟しておけ」スチャ

山田「途中で言うのやめたじゃない……」

幽霊「にゃーん!!」

商人「猫キャラ思い出したかのように突然喋るんじゃねぇコンチクショウ!!」ギュムギュム

妖狐「……悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えてきたわ」

男「コイツら見てると、色んな事がどうでもよくなってくるな」


幽霊「ふーむーなー!」

商人「あっはっは!楽しいなコイツ!」ギュムギュム

子ウサギ「ウキュ!」ゲシゲシ

幽霊「なんでお前が蹴るの!?」

剣士「新入りの癖に調子に乗るな……と言っているみたいだ」

子ウサギ「ウキュウ!」

山田「いやぁ、男の子もいいけど女の子もいいよね!(?)」


妖狐(ああ、お前さん達と出会えてよかった)

妖狐(皆がいたから、妾も一人ではなかった)

妖狐(……これも家族の形か)

男「……へへっ」


――――――
―――


(姉さんは、幸せ?)

妖狐(ああ、幸せだ。お前さんがいて、皆が居るからな)

(私もだよ、今が一番楽しい)

(ううん、これからもずっと楽しくなる!)

妖狐(ああ、楽しくしていこう)


例え一緒に居られなくても……


(私は姉さんの事……)


お前さんの事……


座敷童(大好きだから!)

妖狐(ああ……妾も……)



会いに行こう、いつかきっと……


――――――
―――


妖狐「……」

男「んグ……」

商人「グガーグゴー……」

剣士「ん……スゥ……」

子ウサギ「スヤァ」

妖狐(……夜明け前か)

妖狐(騒ぎに騒いで皆で眠ってしまったな)

妖狐(久々に寝覚めがいいな……)

妖狐「……早朝散歩でもするか」ギュム

幽霊「おぐぅ!?」ガクッ

妖狐「ん?何か踏んだか?」

……


妖狐「……」スタスタ

妖狐「……誰じゃ?」

黒髪少女「こんばんは。いえ、こんにちは?」パサッ

妖狐「角に羽……やはり人間ではなかったか」

黒髪少女「種族が悪魔だからと怯える人も居るので、普段は擬態しています」ストッ

黒髪少女「決めましたか?あなたの取る道を」

妖狐「両方取ることにした、この石はどちらも可能なのであろう?」

黒髪少女「へぇ……」

黒髪少女「私の言った2択の選択肢……の、悪戯。気が付きました?」

妖狐「そもそも、お前さんの言葉を鵜呑みにするべきではなかったな」

黒髪少女「はい、その石は耐久度こそありますが、明確な使用回数の制限はありませんので」

妖狐「壊したりしなければ好きなだけ行き来できる……これが3つ目の選択肢か。世界のバランスが崩れそうな道具だ」

黒髪少女「一応リミッターは設けてあります、最低限悪用はされないように」

黒髪少女「あまり強い魔力を浴びせると破壊が生じますし」

妖狐「ああ……だからあの時壊れたのか」

妖狐「分からんな。妾に何故そこまでしてくれる?」

黒髪少女「人間観察が好きなもので、相手が絶対的な何かを手に入れたときの反応が見たかっただけです」

妖狐「では、妾のこの喜劇を点数にするならどれくらいの点を付ける?」

黒髪少女「及第点、という事だけは伝えておきましょう」

妖狐「殴り飛ばしてやりたいところだが……お節介じゃな、お前さん」

黒髪少女「お節介?何故でしょう?」

妖狐「余分に石を渡している上に、ちゃんとした使い方を今教えたからな」

妖狐「そんなに妾が石を正しく使えるか心配だったか?」

黒髪少女「フフッ、どうでしょうね」

妖狐「む……夜が明けるな」

黒髪少女「あら、もうそんな時間ですか」

妖狐「永く話していたな、そろそろ戻るとしよう」

黒髪少女「不思議ですよね、太陽は。日中は暑くて煩わしいのに、一旦沈めば寒くて寂しささえ感じさせるんですから」

妖狐「……何かの問いかけか?」

黒髪少女「身近な物は、無くなって始めて大切だと気付かされます……そういう経験ありますか?」

妖狐「ああ、嫌と言うほど体験した。だからこそ、妾は全てを大切に生きている」

黒髪少女「大変ではないですか?すべてを維持すること自体が」

妖狐「大変だ……でも、それ以上に保っていきたい事なんだ。この気持ちは」

黒髪少女「フフッ、失礼しました」

黒髪少女「それでは私はこれで失礼しますね。船が出るのは早朝なので」

眼帯少女「……終わったー?」ゴシゴシ

金髪少女「眠い……」

妖狐(居たのか……)

黒髪少女「そうだ、最後に一つ……」

黒髪少女「家族、好きですか?」

妖狐「当たり前だ、手間のかかる連中ばかりだが……皆可愛いものだ」

黒髪少女「それは重畳。この数日間、あなたにとっていい経験になったみたいですね」

妖狐「まったく、最後までワケの分からない人だ」

黒髪少女「私は一人っ子ですから、貴女がちょっと羨ましいですよ」

妖狐「そうかい、でもそっちの二人がお前さんの妹に見えて仕方がないが」

眼帯少女「……スヤァ」

金髪少女「寝ちゃダメです……スヤァ」

黒髪少女「ま、そんなようなものかもしれませんね……ほら起きなさいな!」


――――――
―――


商人「アネさん、わざわざ見送りありがとうございます」

妖狐「構わん、大事な"妹達"の新たな旅立ちだからな」

「ごめんね、いつも突き合わせちゃって……はいこれウチのお菓子食べて!林檎をよろしくね!」

剣士「林檎ママさん、ありがとう。大事に食べさせてもらう」ガツガツ

幽霊「もう食ってるし……」

「はい!幽霊ちゃんにウサギちゃんもね!」

幽霊「わーい!」

子ウサギ「ウキュウ!」

男「親父さんはいないのか?」

商人「今朝私の異次元ポケットにこっそり大量にリンゴ飴入れてくれてましたよ」

妖狐「ふふ、不器用な愛情表現だ」

男「一個くれよ」

商人「ウチの実家で買え馬鹿野郎、アンタのとこの目の前だろ」

剣士「……」

妖狐「剣士殿、林檎を頼むぞ」

剣士「メリア・アート」

妖狐「?」

剣士「それが私の名だ……め、メノウ姉さん……」

妖狐「ふふっ……可愛い奴め」ナデナデ

剣士「むぅ……」

幽霊「そろそろ船が出るぞー!私に続けー!」

商人「仕切るな糞猫」グニャ

幽霊「つーぶーすーなー!!」

妖狐「ところで、山田はどうした?」

剣士「四六時中居ても邪魔だから元の場所に戻ってもらっている」

山田(酷いなぁもう)

子ウサギ「ウキュウ」

商人「皆さんお元気で!お母さん風邪ひくなよー!」

剣士「また、近いうちに来る……じゃあな」

幽霊「色々迷惑をかけた!その分この者達を守るから安心していろ!はっはっは!」

子ウサギ「ウーキューウー」フリフリ


「林檎ー!無理するんじゃないよー!」

男「また帰ってこい!今度はちゃんと店の事出来るようにはなってるからさ!」

妖狐「……元気でな……可愛い妹たち……」


商人「アニさーん!とっととプロポーズしちまえコンチクショー!!」

妖狐「公衆の面前で何恥ずかしい事大声で言っているんだコンチクショー!!」

男「お前が反応するのかよ!」

……


男「お袋さん、親父さんの様子が心配だからって先に行っちゃったな」

妖狐「親父さん、こっそり陰で泣いてそうだな」

妖狐「……それにしてもまったく、騒がしい日常だったな」

男「結局アイツら1か月居座りやがって」

妖狐「親父さん達も部屋を片付ける気が無かったからずっとウチに泊まっていたし」

男「そういや、またお前と二人で散歩出来たな」

妖狐「奴らの見送りの帰り道じゃがな」

男「いいじゃん、それでも」

妖狐「ちょうどいい、お前さんに妾の事をもう少し知ってもらおうかのう」

男「ん?お前の事なら何でも……」

妖狐「妾の尾っぽの数と長さ、分かるか?」

男「えと……複数あるのは知ってるけど、普段隠してるからなぁ」

妖狐「妖怪狐は宿す力が大きくなるごとに尾の数が増えてゆき」

妖狐「そして、長生きするごとに尾は長くなっていく」

妖狐「ちなみに、答えはこれじゃ」スッ

男「尻尾は2本に……微妙な長さだな」

妖狐「普段のこの振る舞いで勘違いされやすいが、妾は妖狐として力も弱いしまだ若い」

男「へぇ、意外だな」

妖怪「それでも100年ばかり生きているがな」

妖狐「そして、妖怪狐と言えば何かと怪異を起こすとも言われておる」

男「たとえば?」

妖狐「たとえばそうじゃな……」


ポツポツ


男「ありゃ、雨だ」

妖狐「このように、お天気雨を起こすことができるかな」

男「お前がやったのか!?」

妖狐「まさか、偶然じゃ」

妖狐「厳密には少し違うが、こういう現象は"狐の嫁入り"と言われているな」

男「嫁入りねぇ……お前、嫁に行くのか?」

妖狐「妾が嫁入り?笑わせるな、妾が迎えるのは婿じゃ」

妖狐「地方によっては狐の婿入りとも言われているな、そういえば」

男「へぇ……そっか」

妖狐「ああ、そうだ」

男「……んじゃあ、本当の家族になってみるか。そろそろ」

妖狐「む!?……ううむ……言うようになったではないか」

男「へへっ、まあね」

×婿入り
○婿入れ

妖狐「それはお前さんがもっとマシな仕事が出来るようになってからじゃがな」

男「痛い、耳が痛い」

妖狐「ふふっ……それに」

男「それに?」

妖狐「あっちの家族にも、お前さんを紹介したいからな!婚姻の話はそのあとじゃ!」

男「前向きに検討してくれてるみたいだし……ま、いっか」



必ず戻るから
あの時喧嘩別れしてしまった大切な妹
何も言えずに離れてしまった皆

妾は、妾の新しい家族を連れて会いに行くから

だから……待ってて欲しい
妾の大切な家族達へ!


妖狐「キツネ道具店!」男「どんな道具も売ります買います!」 おわり

終わった
中盤幽霊が出てきたところが完全に林檎ちゃん第2話になってたのはご了承ください
方向性を決めていなかったからかなり滅茶苦茶な内容になってるけど書いてて楽しかった

近いうちに座敷童の方もまた書くかも

お付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作

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