勇者「定食屋はじめました」(181)

勇者「国から任命を受け勇者として旅に出ようとした矢先、他の勇者が戦争を終わらせたとのことでお役御免となった」

勇者「どうせだからちょっとだけ出た報奨金で昔からの夢だった自分の店を持つことにした」

勇者「結局借金まみれだけど今日も元気に行こうと思います」


僧侶「勇者さーん、注文入りましたー」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365500381

勇者「なんだ、客いたのか」

僧侶「いたのか、じゃないですよ。お客さんに聞こえますからそういうこと言うのやめてください」

勇者「人がいること自体珍しいからね、こんな田舎の店」

勇者「で、注文は?」

僧侶「魚介パスタ3つです」

勇者「あいよー」

勇者(こんな場所に出向くなんてどんな客だ?顔くらいは見とくか)チラ


黒髪少女「碌なランチメニュー無いですね」

金髪少女「他のお客さんがいない割にはちょっと汚いですし」

眼帯少女「……自分で作った方がマシなものが出てこないことを祈る」

僧侶「」
勇者「」イラッ

僧侶「さ、さっきの聞こえてたんじゃないですか」ヒソヒソ

勇者「あぁ、何故か3人ともこっちを見ながらニヤニヤしてるから多分聞こえてたんだろう」

勇者「俺はおそらく試されている!あの3人はこんな店の料理の味になんぞ初めから期待はしていない!」

勇者「客席に無関心だったここの店主はどんなものを作るのかと!」

勇者「見せてやるよ、俺の味を!」

僧侶「どうでもいいですけど早く作ってください。そしてあの3人が笑っているのはあなたの後ろにあるテレビのバラエティ見てるからです」

勇者「さて、魚介パスタだったな」

勇者「近場に海があるから魚介類は仕入れやすいんだよなぁ」

――――――
―――


勇者「お待たせいたしました、魚介パスタ3つです」

黒髪少女「思ってたよりは早かったですね」

勇者「そりゃもう作り慣れてますから」

黒髪少女「そうでしょうね、メニューにパスタしかないんですから」

僧侶「……」

勇者「……」

眼帯少女「……味、無難」ズルズル

金髪少女「くどくなくて私は好きですけど」

黒髪少女「いい味なのは魚介だけですね、麺が若干固いです。ひょっとして作り置きですか?」

勇者「いや、そんな」

金髪少女「あー、味付けが薄いんですね。私が好きなわけです」

眼帯少女「」ズルズルズルズル

黒髪少女「すみません、コーヒーお願いします、濃いめの」

金髪少女「あ、私もお願いします」

僧侶「は、はい……」

僧侶「ど、どうぞ」

黒髪少女「どうも」ズズ

黒髪少女「あ、おいしい」

金髪少女「ホントだ、おいしい」

僧侶「本当ですか?ありがとうございます!」

黒髪少女「ブレンドですね、いい豆を使ってちょうどいい配分で出来上がってますね」

僧侶「はい!自信作なんです!おかわりもありますのでどうぞ!」

黒髪少女「ふふ、ありがとうございます」


勇者「畜生……畜生……」

眼帯少女「……元気だせ」ズルズルズルズルズル

――――――
―――

黒髪少女「またコーヒーを飲みに来ますね」

僧侶「はい!ぜひまた!」


金髪少女「パスタ以外もあればよかったんですけどね」

眼帯少女「……無難、また食べてもいい」

勇者「ありがとうございましたぁーーーーーーー!」

勇者「なんだよあの黒髪!ケチばっかりつけやがって」

僧侶「いや、事実だったじゃないですか」

僧侶「あとメニュー増やしましょうよ。パスタだけじゃ無理がありますって」

勇者「わかってるけどさ、俺あんまり料理得意じゃないんだよね」

僧侶「身もふたもないこと言わないでください」

勇者「そりゃ昔から店を持つのは夢だったけど、なかなかうまくいかないもんだよ」

僧侶「まともに料理が作れるようになってからそういうことを言ってください」

勇者「お前はコーヒー褒められてたじゃないか」

僧侶「愛情いっぱい込めて作ってますからね」フフン

勇者「同じ豆使えば誰が作っても同じだろうに」

僧侶「そんなことないですよ!もう……」

僧侶「そういえば……」

勇者「ん?」

僧侶「昔、私に作ってくれましたよね?すごくおいしい卵焼き」

勇者「あぁ……そんなことあったな」

僧侶「作らないんですか?ああいうのを出せばさっきみたいな事は言われないと思うんですけど」

勇者「ん……あれな、死んだ母さんが残したレシピ使ったんだ」

僧侶「……使わせてもらえばいいじゃないですか」

勇者「俺にそんな資格無いよ。さ、食器洗おうか」

僧侶「勇者さん……」

――――――
―――

勇者「洗う食器少なすぎてすぐ終わってしまった」

僧侶「でしょうね、暇です」

カランカラン

仮面男「失礼する、まだ開いているか?」

鎧少女「ギリギリ昼だな、まだランチはやってるか?」

勇者「なんかスゴイの来た」

勇者「え、なに?あの人たちなんで鎧着込んでるの?近場で戦争でもあったの?」

僧侶「勇者さん、やめてください。聞こえてます」

仮面男「あー……すまない、この格好では場違いだな、失礼する」

鎧少女「お、おいちょっと待て!さっき空から見たが飯屋がここくらいしか無かったんだぞ!?」

僧侶(空って……)

鎧少女「またしばらく飯をお預けされるハメになるんだったら無理してでもここで食べさせてもらった方がいいだろ」

仮面男「だけど……あぁすまない、こんな恰好だが食事させてもらってはダメだろうか?」

勇者「あ、いや、ダメとは言ってないよ!ほら座って座って」

仮面男「助かるよ」

鎧少女「あー、戦いの後だったから疲れたー」

僧侶(どこかで戦ってたんだ)

――――――
―――

僧侶「注文はこれですね」スッ

勇者「えぇっとカルボナーラとたらこパスタっと……」

僧侶「……勇者さん勇者さん」ボソボソ

勇者「どしたの?」

僧侶「あの二人明らかに怪しいですよ、空から見たとか戦ってたとか言ってましたし」

勇者「あれを一目見て怪しいと思わない奴なんていないだろう」

勇者「俺は別に客を選ばないから関係ないけど」

僧侶「でも武器持ってる時点で……」

勇者「外には魔物がいるんだ、護身用で持つのは珍しいことじゃないだろ?」

勇者「それに見た目はああだけどさっきの物腰から悪い人ではないって思うけど」

僧侶「ですけど……あ」



仮面男「そういえば、さっき仕留めた奴の遺留品どうしたんだ?ちゃんと持ってきたかい?」

鎧少女「もちろんだ、殺した証拠が必要なんだ。奴の首を持ってきて店の前に置いてある」

仮面男「奴の身に着けていたものでもよかっただろうに……さすがに首はどうかと思うよ」

鎧少女「お前が綺麗に切り落としたからな、持ちやすかったし」

仮面男「ハハ、女神のやることとは思えないね」

鎧少女「戦いの女神はお前が思っているより残忍だよ」


僧侶「」
勇者「」

勇者「前言撤回する、ヤバイ」

僧侶「下手なもの出すと殺されるかもしれません……あぁ神様」

勇者「ちょっと本気出す、俺まだ死にたくないし」

僧侶「コーヒー出してきます、もちろんサービスで」

――――――
―――

勇者「お、おま、おまたせし、しました」

仮面男「ああ、ありがとう」

鎧少女「あー、すきっ腹にコーヒーはまずかったか、腹の調子が」

僧侶「まずっ!?も、ももももうしわけございません!!」

鎧少女「?いや、怒ってるわけじゃないからいいよ、おいしかったしな」ニコ

僧侶「きょ、恐縮です」
僧侶(怖い、この笑顔が怖い)

仮面男「……ふむ」

鎧少女「んー……ん?」

勇者「い、いか、いかかがががでしょうか?」

仮面男「……私はまぁ……キミは?」

鎧少女「不味い」

勇者(即答!?)

僧侶(あぁ神様神様神様)

仮面男「キミは舌が肥えているからだろう。私はこれより酷いものを食べてきたから平気だ」

勇者(やめて!遠まわしに貶さないで!直球も嫌だけど!)

鎧少女「食えないレベルではないが……なんだろうな、"不味い"というよりは"美味しくない"だな」

仮面男「そうか……うん、そうだね。私もそう思うよ」

僧侶「え?」

勇者「……」

鎧少女「お前今はっきり美味しくないって肯定したろ」

仮面男「あ゛」

鎧少女「まぁそれはどうでもいい、出されたものは全部食べきるぞ」

仮面男「どうでもいいって……すみません、私も変な事を言ってしま……」

僧侶「も、おもももも申し訳ございません!この身も心もあなた様方に捧げますので彼の、彼の命だけは!!」ドゲザー

僧侶「どうかどうかお許しを!悪気があったわけじゃないんです!私が、私がしっかりしていればあああ!」


仮面男「なにこれ」

鎧少女「スマン、飯食ってるから黙ってくれないか」

僧侶「はい!」

勇者(美味しくない……か)

――――――
―――


鎧少女「何かおかしいと思ったら、なんだ、さっきの話を聞いてたのか」

僧侶「申し訳ございませんでした」フカブカ

仮面男「いや、私たちも紛らわしい言い方をしていたね」

鎧少女「ああ、近くの村が魔物被害にあっててな。それで魔物狩りの帰り道だったってだけだ」

勇者「話から察するに、あんた達は飛べるみたいだけどどうして空路で行かなかったんだ?」

勇者「飛べばすぐに村まで行けるのに。正直徒歩だとちょっと遠いぞ」

鎧少女「飛べるのは私だけ。軽装の鎧でも重いものは重いし、何よりコイツを置いてく訳にはいかんだろう」

仮面男「そういうことだね」

僧侶「帰り道に二人並んで帰るなんて素敵ですね勇者さん!」

勇者「魔物狩りした後だけどな」

鎧少女「ふふ、いつまでたっても旦那と仲がいいのはいい事だ」

僧侶「え……え?ご夫婦なんですか?」

鎧少女「ああ、もう結婚して18年目になる」

僧侶(年下だと思ってた、この人いくつなんだろう)

鎧少女「お前たちは違うのか?」

僧侶「ち、ちちちち違いますよ!まだ……」

鎧少女「まだ、ねぇ?」ニヤニヤ

ヤンヤヤンヤ……

勇者(ガールズトーク始めちゃったよ)

仮面男「ところで……キミ、あー……勇者君?」

勇者「何か?」

仮面男「勇者と言う名前なのかな?それとも役職かい?」

勇者「役職。もう戦争も終わってるし国の近辺に悪徳魔王もいないから報奨金だけもらってのんびりしてる」

勇者「小さい国だったし、政治的な事もあっただろう。とりあえず代表で選出しておこうってだけのお飾り」

仮面男「悪く言えば戦地へ送り出される人柱……だね」

勇者「そ、名前だけの勇者。実力も無いし経験もない」

仮面男「……」

勇者「それだけ?そろそろ皿片づけるけどいいか?」

仮面男「キミは嫌ではなかったのか?それを引き受ける事は」

勇者「……お国のトップから直々に名指しされたんだ、嫌でも断れるわけないだろ?」

勇者「身寄りのない奴から見た目的に当たり障りのない奴を選んで決められたらしいが……」

勇者「結局、旅立つ前に戦争も終わったんだ、これだけで金が貰えたんだから儲けもんだよ」

仮面男「結果的に得をしたわけか、なるほどね」

勇者「話逸れたな、皿片づけるぞ」

仮面男「ああ、ありがとう。美味しくはなかったが楽しかったよ」

勇者「」

――――――
―――

勇者「黒髪クソ女に続いて普通に酷い客だった」

僧侶「そうですか?コーヒー褒めていただいたんでまったく気になりませんでしたけど」

勇者「また褒められる点がコーヒーだけか……」

僧侶「いっそランチメニュー全部なくしてコーヒー専門店にした方が人気出るんじゃないでしょうか」

勇者「俺の存在意義まったくなくなるよねそれ」

僧侶「美味しくないパスタショップ続けるよりは未来は明るいです」


――――――
―――

鎧少女「"紛らわしい言い方をしていたね"」

鎧少女「ま、誤魔化す言い訳の出始めとしては普通だな」

仮面男「"魔物狩り"キミもその後すぐに話を合わせてくれたのはホッとしたよ」

鎧少女「流石に人間の生首を持ってきているのがバレるのはショッキングだからな」

仮面男「狩ったのは魔物以下に堕ちた人間……山賊共、殺されて当然の事をしてきた連中だ」

鎧少女「住民被害もなくなって私たちは金を貰う、一石二鳥だな」

仮面男「女神の言うことじゃないね」

鎧少女「そんなもん人が勝手に連想した偶像だ、女神は残酷なの」

仮面男「知ってる、いつものキミを見てたら私のイメージした女神とは程遠いからね」

仮面男「それより……なぜ彼の料理が美味しくないと評価したんだい?」

鎧少女「お前、相槌打ってただけなのかよ……一応教えておいてやるが」

鎧少女「あいつの料理はどうもワザと自分の味を出そうとしてないように感じた」

鎧少女「なんというか……無理やり他の誰かの味にしようとしてるというか」

仮面男「慣れ親しんだ味を出すのを拒んでる?」

鎧少女「そうそれ!基本的な作り方でさえもなってないんだろうけど、その味から一歩引いて薄くしてる感じ」

仮面男「味が薄いと思ったらそういうことか……」

鎧少女「ま、しばらく村の方に滞在するし気が向いたらまた行ってみるか」

仮面男「そうだね、コーヒーは美味しかったし」

――――――
―――

勇者「1日で客が二組来ただけでも奇跡なようなものだよなぁ」

僧侶「ホントですね。どうやってここの店、維持費払ってるんでしょうね?」

勇者「まだ生きてる父さん、莫大な仕送りありがとう。この店は今日も立派に構えてるよ」

僧侶「勇者さんホントにクズですね」

勇者「いいんだよ、あの金持ちもう他人だけど搾り取るだけ搾り取るよ」

僧侶「両親の離婚という絶望をバネにし過ぎです」

僧侶「それにお父様は私が勇者さんと巡り合うきっかけを作ってくれた人なんですよ?」

僧侶「奴隷市場で売られるのを待つだけだった私を使用人として雇って頂いて……」

勇者「まぁちょこちょこ感謝はしてる、離婚のことも俺が首を突っ込むべきではないことも理解してる」

勇者「だが金の話は別だ」

僧侶「それは借金なんですからいつかちゃんと返しましょうね」

まだ全然終わってないのよん

勇者「片づけも終わったしそろそろ店閉めようか」

僧侶「そうですね。今度はきちんと店内も綺麗にしましたし」

勇者「スマン、客が来ないと思って怠ってた」

僧侶「私もまったく気にかけてなかったので何も言えませんけどね」

勇者「適当に飯作るからテレビでも見て待っててよ」

勇者「冷蔵庫冷蔵庫……あ、しまったな……いろいろ切らしてるや」

勇者「しゃあない、店の食材使うか。どうせ誰も来ないだろうし」

僧侶「どうしました?困った顔して」

勇者「悪いけど今日パスタな」

僧侶「え」

勇者「パスタな」

僧侶「え」

勇者「露骨に嫌そうな顔しないでくれよ」

僧侶「まぁいつも勇者さんの美味しくない料理食べてるのでそれ以上は文句は言いませんが」

勇者「頼むから美味しくないって言わないでくれ。今日だけでも心に傷ができるくらい言われてるんだから」

僧侶「私は料理できないので作ってくれるのはありがたいですけどね」

僧侶「あー昔食べた勇者さんの卵焼き美味しかったなー」

勇者「はいはい、もう母さんのレシピで作る気はないから諦めてくれ」

僧侶「それですよそれ!」

勇者「ん?」

僧侶「なんでそのレシピとやらを使わないんですか?今の勇者さんの料理よりは絶対美味しいものができるはずですよ」

勇者「うるせー、使わないものは使わないの。理由もいうつもり無し」

僧侶「そーですかそーですか。ま、いいですけど?そのうち話してくれれば」

勇者「聞きたいには聞きたいんだな。いいよ、俺の中で区切りがついたらいくらでも話してやる」

僧侶「ふふ、その日が来るのを期待してます」

勇者「嬉しそうに笑うなよ、ったく……」

――――――
―――

勇者「ふぁぁ、よく寝た」

勇者「開店時間少し過ぎてるな……。あいつも起こしてこなかったし今日も客はいないんだな」

勇者「ま、いっか。買い出し行って来よう」

勇者「おはよう」

僧侶「おはようございます勇者さん」

黒髪少女「おはようございます、開店時間過ぎてるのにまだ寝てたなんて店主にあるまじき行為ですね」

勇者「」

黒髪少女「うん、やっぱりコーヒーは美味しい」

僧侶「えへへ~、おかわりは無料ですので好きなだけ飲んでくださいね!」

黒髪少女「ええ、そうさせてもらいます」

勇者「いや、なんで居るの?え?」

黒髪少女「どう考えても客です。それ以外になにか?」

勇者「また飲みに来るとか言ってたな。次の日にいきなり来るとは」

黒髪少女「社長出勤してなおかつ客にその態度……同業者としては無性に腹が立ちますね」

僧侶「あら?あなたも飲食店を?」

黒髪少女「ええ、青空真下の草原に……綺麗な場所にカフェを」

僧侶「わぁ!素敵ですね!ここらへん見渡すとそこらじゅうに木しか生えてなくて」

黒髪少女「静かでいいじゃないですか。隠れた店という感じが気に入ったんで」

黒髪少女「コーヒーが美味しいですしね」

勇者「あーそう……。食事は?」

黒髪少女「いりません」

勇者「……はい」

勇者「あ、スマン。買い出し言ってくるから店の方頼めるか?」

僧侶「困りますよ、昨日みたいにお客さん来たら私じゃ対応できないですし」

勇者「来やしないって、それに近くで魔物の騒ぎだってあった聞いただろ?」

僧侶「それは解決したって昨日のお客さんが言ってたじゃないですか」

黒髪少女(私たち以外にも客がいたんだ)

僧侶「私が代わりに行ってきますので店番お願いしますね!それじゃあ車お借りします」ダダッ

勇者「おいまてコンチクショウ」


勇者「行っちゃったよ……」

黒髪少女「……」ズズ

勇者「……」

勇者(気まずいな)

黒髪少女「……ちょっといいですか?」

勇者「は、はい!なんでしょう?」

黒髪少女「そこどいてください、邪魔です、テレビが見えません」

勇者「お、おう……」

黒髪少女「……」

勇者(まずいな、キッチンに引っ込んでもいいがそれだと負けた気がする)

勇者(俺の食事のことで関係最悪だしこっちから話題切り出して挽回してみるか)

勇者「あの」

黒髪少女「そういえば」

勇者「あ、はい」(クソガッ)

黒髪少女「テレビも車も持っているなんて相当お金持ちなんですね」

勇者「どっちも魔動型だからそう高くはないよ」

勇者「動かすのに魔翌力が必要だから普通に電力や燃料使うやつよりは維持も安上がりだ」

黒髪少女「あまり進んでない辺境国の割には、といった方がよかったですね」

黒髪少女「どのみち魔動型は魔法を使えない一般家庭が持っててもしょうがないですし」

黒髪少女「そのお金はどこから出てくるんでしょうね?」

勇者(ニヤニヤしやがって、あいつ喋ったな……)

勇者「あいつから何か聞いたのか?」

黒髪少女「さて?聞きたいことを聞いて素直に感想述べただけですよ。気に障ったならごめんなさい」

勇者「それじゃあ俺からもいいか?今日はなんで一人なんだ?」

黒髪少女「顔が怒りで引きつってますよ?まぁ四六時中固まって行動してるわけないじゃないですか」

黒髪少女「それが何か?」

勇者「ふ、フハハ!ボッチか!ボッチになったって事か!」

黒髪少女「言ってて悲しくなってきません?」

勇者「申し訳ない」

――――――
―――

僧侶「やっぱり車の運転はいいなぁ」

僧侶「こういう時のために一応免許取っておいてよかったです」

僧侶「流石に自分で車が買えるほどお金は持ってませんけど」

僧侶(でも勇者さんのお父様からお小遣いを貰っているのは黙っておこう)

僧侶「でもいずれは勇者さんと一緒になって地位も!名誉も!財産も!!……じゃなくて」

僧侶「子供も出来て、みんなでちょっと離れた町までドライブなんて……」

僧侶「キャッ!考えただけでも赤面ものですね……」

ドスン!

僧侶「!」

僧侶「なに!?今のは……?」

山賊「へへ……」

僧侶(……野盗)

山賊1「姉ちゃん可愛いなぁ、ちょっと表に出てきて話でもしないか?」

僧侶(4人か……いきなり車に攻撃を仕掛けてくるなんて友好的では無いですね)

山賊2「おい、黙ってないで出てきてくれよぉ!一緒に遊ぼうぜ?ヘヘ」

僧侶(勇者さんよりは強いつもりですが……正直素直に出て行ったら確実にヤられますね、二重の意味で)

山賊2「おいてめぇ!こっちは集落一つ潰されてイライラしてんだ!どのみち車はもう動かねえんだ、おとなしく出てこい!」

僧侶(実践経験無いですけど……勇者さんごめんない、死ぬ気で突貫します)

山賊3「扉開けてやっとお出ましか」

山賊2「楽しもうぜ!なぁ!グフッ?」

山賊1「仕込み杖!?」

僧侶(しまった、浅い!)

山賊3「手の内すぐにバラしたなガキが!」

山賊2「ガ……グ!!」

僧侶「きゃっ!」

山賊1「捕まえちまえばこっちのもんだな」

山賊4「所詮女の力なんてこんなもんだ」

山賊4「車ン中漁れ、盗るもん盗ったらコイツ連れて帰るぞ」

山賊3「あいよ」

山賊2「ググ……が、ガ!?」

山賊1「まだ痛がってんのかよ……いい加減に……」

ザシュ

騎士「クソ共が居るな」

?少女「妙ちくりんな恰好をしておるのぅ。どこかの行き遅れた蛮族か?」

僧侶「!?」

山賊1「く、首を刎ねやがった!?」

騎士「女性一人に男が寄ってたかって見苦しいんだよ蛮族ども」

山賊4「クソっ、逃げるぞ!」

山賊3「へ、へい!邪魔だどけ!」

僧侶「きゃぁ!」

?少女「チームプレイを心得ておるな、被害が出たら即退散。人員が割けないのが理由だろうがいい引き際じゃ、だが……」

山賊1「てめぇのら顔覚えたからな!いつか報復してやる!!」

騎士「不良みたいな捨て台詞どうも。こっちはプロなんだ、そう容易くはやられるつもりはないぞ」

騎士「あと、お前らもう生きて帰れない……ってもう聞こえないか」

僧侶「あ、あの……」

騎士「あ、大丈夫か?怪我は?一発いい蹴り貰ったみたいだが」

僧侶「大丈夫ですこれでも回復魔法は心得てますから」

僧侶「助けていただき……ありがとうございます」

騎士「いいよ、性分だし」

騎士(震えてる……)

騎士「怖かった……よな?」

僧侶「……はい」

騎士「少し休んでいくといい、落ち着いたら家まで送ってくよ」

騎士「車は……ダメだなこりゃ」

僧侶(偶然のめぐり合わせ……神様、ご加護をありがとうございます)

僧侶「あ、ところで」

騎士「ん?」

僧侶「お連れの方はどちらへ?姿が見当たりませんが」

騎士「あー、火遊びでもしてるんじゃないか?」

騎士「いや、こんな森林でブレスはマズイか……人形遊び?」

僧侶(火遊び?人形?)

――――――
―――

山賊1「やめろ……やめてくれ……」

山賊1「車ぶっ壊しただけじゃねーか!!それ以外にはなんもしてねぇ!なんも盗っちゃあいねぇ!」

山賊1「だから、許してくれ?な?頼むよ!もう……」

山賊1「もう俺一人になっちまったんだからよぉ!!」

?少女「1つ目、車をぶっ壊した」

?少女「十分犯罪じゃ、お前らの価値はその車の代金以下だ」

?少女「2つ目、それ以外なにもしてない」

?少女「した、あの娘を蹴ったではないか」

?少女「3つ目、何も盗ってはいない。が、ここで許しても反省なぞせんじゃろう」

?少女「まぁ、[ピーーー]ば許してやらんこともない」

山賊1「そ、そんな……」

?少女「そして4つ目、単純に気に入らん、さようなら」

ボゥ!!

――――――
―――

あ、引っかかるワードあるのね

勇者「……遅い」

勇者「遅い!心配だ!こんなところに居られるか!俺はこの店から出ていく!」

黒髪少女「どうぞご勝手に、店の金品がなくなっても知りませんよ」

勇者「どうせ大した額は家にはない!さらばだ!」

黒髪少女(この状況から逃げたいだけでしょうに……でも、ほんとに遅いですね、何かあったのでしょうか)

勇者「待ってろ!今迎えに行くあべぶっ!」

騎士「扉が固いな、建付け悪いんじゃねーか?……ここでよかったのか?」

僧侶「はい、ありがとうございます!ん?」

僧侶「勇者さん何寝てるんですか?」

?少女「扉開けた時にスゴイ音したのに気付かんかったのかお主ら……」

勇者「お……おかえり、遅かったじゃないか」

騎士「悪い、フラフラだが立てるか?」

勇者「毎日健康なのが取り柄だから大丈……夫」

?少女「そういうの本気で危ないから気を付けろよ」

僧侶「痛いの痛いのとんでけー」

黒髪少女「あ、それで回復するんですね」

勇者「で、この方々は何者?」

僧侶「あーそれが……」

……

勇者「なるほど、山賊ねぇ」

僧侶「ごめんなさい、車を壊してしまって……」

勇者「いいよそんなの。どうせ親父の金だし」

勇者「それよりごめんな、怖い思いさせちゃって」

勇者「今度から買い出しは二人で行こう。小回りの利くエアバイクでも買ってさ、親父の金で」

僧侶「勇者さん……」ホロリ


騎士「さっきから聞き捨てならんことを言っているがなんなんだ」

?少女「他人の家庭事情に深入りするのはよした方がよかろう」

勇者「家のもんを助けていただいて、本当ににありがとうございます!」

騎士「いいよ、討伐依頼でたまたま来てただけだし」

勇者「何かできる範囲でお礼がしたい、何でも言ってくれ」

騎士「手を握るなよ……でも人の命が助かった、その事実だけで十分だよ」フッ

?少女「腹が減った、ただ飯食わせぃ」

騎士「綺麗に締めくくろうとしてるのに茶々入れるなよ」

?少女「慈善でやっているわけじゃあないんだ、人助けでも報酬を貰わんとやっとれんじゃろ」

?少女「普通なら金持ち相手に金をふんだくるが、まぁ今は腹が減っているからただ飯で勘弁してやる」

?少女「見た感じ飲食店のようじゃが?」

勇者「ああ、それならいくらでも!腕によりをかけて作るからさ!」

勇者「これメニューだから見てくれ」

?少女「うむ!」

?少女「……」ペラ

騎士「……」ペラペラ

?少女「……?」ペラペラペラ

騎士「!?!?」ペラペラペラ

?少女「これで全部か?」

勇者「ああ!当店自慢の料理の数々だ!」

騎士「……パスタ専門店だったか」

僧侶「いえ、どこにでもある普通の定食屋です」

騎士「oh......」

?少女「……麺類の気分じゃないし金をふんだくる方針でいくかのぅ」

勇者「い、今すぐは用意できないぞ……?」

?少女「だったら他の食い物ものを出してくれ。そうじゃな、肉が食いたい、ワイバーンの肉が」

僧侶「ワイ……ありませんよそんな貴重なもの」

勇者「あるにはあるけど……」

騎士「あるの!?」

僧侶「初耳ですよ。いつ仕入れたんですか」

勇者「前の納品で個人的に……つい」

僧侶「個人的な理由でそんなもの仕入れないでください。どうせ自分でこっそり食べるつもりだったんでしょうけど」

僧侶「それなら買い出しの意味がまったくなかったじゃないですか」

勇者「ごめーんね!」

黒髪少女(うぜぇ)

騎士(おい)ヒソヒソ

?少女(ん?なんじゃ?)

騎士(あんまり困らせるようなこと言うなよ)

?少女(からかっておるだけじゃ。本気では言っておらん)

騎士(そりゃ見てたらわかるけど……ってかワイバーンってお前共食いになるんじゃねーか?)

?少女(ワシは翼竜であって飛竜ではない、それに竜の攻撃方法は牙も使う)

竜少女(竜同士で戦ってたら食ってるのと同じじゃろ)

騎士「その理屈はおかしい」

竜少女「で、その肉は出してくれるのかの?」

勇者「え、ああ、まぁパスタの具材としてなら」

竜少女「却下じゃ、ステーキが食いたい」

騎士「そのパスタへの拘りはなんなんだよ」

勇者「でも、メニューには……」

竜少女「メニューにあろうと無かろうと出せ」

竜少女「こっちは命の恩人じゃぞ?ん?」

騎士「何故そんなに前衛的なんだよ。あ、俺はイカ墨パスタで」

勇者「……」

僧侶「勇者さん、私からもお願いします」

僧侶「勇者さんがどうしてお母様のレシピを使わないのかわからないですけど」

僧侶「でも、それでも私はこの方たちにお礼がしたいんです」

僧侶「出来る事なら何でもするって言ったじゃないですか」

勇者「出来る範囲でと言ったんだけどな……」

勇者「わかった、お前がそこまで言うなら仕方ない。少し時間がかかるから待っててくれ」

僧侶「勇者さん……ありがとうございます」



騎士「俺の注文聞こえてたかな」

竜少女「腹減ったのぅ」

――――――
―――

勇者「客にはまだパスタ以外は出さないって決めてたんだけどな」

僧侶「私たちが食べる食事は普段はパスタ以外じゃないですか」

僧侶「あんまり美味しくないですけど」

勇者「自力じゃ昔お前に食べさせたやつみたいな味付けができないんだよ俺は」

勇者「いや、そうしないようにしてるのかな……」

僧侶「まだその理由も含めて話してくれないんですか?」

勇者「まだ。でもちゃんと話すから……あった、母さんのレシピ」

僧侶「うわ、分厚い」

勇者「母さんの夢でもあったんだ、定食屋」

勇者「親父と結婚する前からの。で、これがその夢の前身」

僧侶「スゴイ量……好きだったんですね、お料理」

勇者「ああ、とっても」

僧侶「さっそく見てみましょうよ!ほらステーキ探してください!」

勇者「はいはい……でもワイバーンの肉の調理法なんてあるのか?」


勇者「あった、すぐ見つかったよ」

僧侶「肉別に調理の仕方が分かれてますね」

勇者「どれだけ研究熱心だったんだよ……古代種の悪魔の肉まであるぞおい」

僧侶「お母様何者ですか」

全然理解してなかったんだぜ

sagaも理解できてなかった>>1はまず、↓のスレを熟読するところから始めるべき
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364178825/)

>>65
サンクス

勇者「食には一切妥協しない人だったってのははっきり覚えてるがこれは……」

僧侶「いささかやりすぎのような気もしますが、とりあえずお客さんが待ってますので早く作っちゃいましょう」

勇者「あいよ……じゃあ母さん、今回だけは使わせてもらいます!」ペコ

……

勇者「ワイバーンの肉は固いのでかなり強めに叩いて……」

勇者「素材そのものは臭いが強い……ふむふむ」

勇者「そして切れ目を入れてワインに付け込んで待つこと数時間……っておい!」

勇者「あーこれは無理だな。ワインと一緒に焼くか」

僧侶「なんか製法が怪しいですけど大丈夫ですか?」

勇者「なんとかなるだろ。ソースの方は……よし、いつもみたいに美味しくないわけじゃないな」

僧侶「自覚してるなら味付け変えてください」

勇者「案外うまく焼けるもんだな」

僧侶「フライパンがファイヤーしてますけど大丈夫なんですか?」

勇者「これでいいんだよ。あ、皿持ってきてくれ。あと盛り付けのサラダお願い」

僧侶「はい。それと、イカ墨パスタの方はいいんですか?」

勇者「あ、茹ですぎた」



勇者「まぁいいか、パスタだし」

僧侶「」

竜少女「ちょっと待たせすぎなんじゃないか?」

騎士「テレビも昼前だし面白いもんやってねぇな」

騎士(あのねーちゃんが占領してるってのもあるけど)

黒髪少女「……」

竜少女「雑誌も何もないしの、腹が減ったのと退屈なのでダブルパンチじゃ」

黒髪少女「……お勘定お願いします」


僧侶「はーい、少々お待ちください!」

僧侶「では代金はこちらでございます」

黒髪少女「ありがとう。それじゃあまた来ますね」

僧侶「はい!またいつでもいらしてください!ありがとうございます」

黒髪少女(男女2組居るところに居座り続けるのはちょっと気まずいですしね)

黒髪少女(なんだかんだで2時間くらいコーヒー飲み続けてましたし)

黒髪少女(山賊の討伐……私も請け負っていた仕事でしたけど、まぁいいでしょう)

黒髪少女(では近いうちにまた……)

――――――
―――

勇者(出来たには出来たが……)

勇者(味、やっぱり似てるなぁ)

勇者(今回は母さんのレシピ使わせてもらったけど、俺のと似てるのがなぁ)

僧侶「勇者さん、黒髪の女性の方が帰られましたよ」

勇者「やっと帰ったかあいつ、何時間居座ってんだよ」

僧侶「あ、出来たんですか?」

勇者「ああ、なかなかの力作だな。俺の実力じゃないけど」

僧侶「レシピ通り実行できるのならそれは勇者さんの腕ですよ!運びますね」

勇者「よろしく頼むよ」

僧侶「お待たせしましたー、ワイバーンのステーキとイカ墨パスタです」

騎士「お、来たか」

竜少女「いい匂いじゃぁ~早く早く!」

僧侶「はい、では熱いのでお気を付けくださいね」

騎士「ありがとう、それじゃあ食うか」

竜少女「うむ!いただきまーす!」

騎士「頂きます」ズルズル

竜少女「あむ!」ガブリ



竜少女「うぅんまぁぁい!!」

騎士「」

竜少女「これはいけるぞ!」ガツガツ

僧侶「そんなに急がなくてもお肉は逃げたりはしませんよ」

騎士「」

竜少女「これはワイン漬けかの?ヨーグルトも混ぜたようじゃな」

僧侶「そんなこともわかるんですか?」

竜少女「うむ、ワシの舌はグルメじゃからの!」

僧侶「よろしければコーヒーもいかがですか?こちらもサービスさせていただきますけど」

竜少女「ではそれも頼む、甘いのを所望するぞ!」

僧侶「ふふ、かしこまりました」

騎士「オエ」

勇者(よかった、喜んでもらえたみたいだな)

勇者(美味しいなんて言われたの久しぶりだな……客がほとんどいなかったのも原因だけど)

勇者(お客さんに喜ばれるのがこんなに嬉しいなんて、知らなかったな)

勇者(もう少し自信持ってやるべきなのかな、俺)

勇者(近いうちに話す、なんて言ったけど、もうあいつとも付き合い長いんだし)

勇者(すぐにでも全部打ち明けてもいいかな……なんて)


竜少女「おい、どうした?あまりにも美味しくて言葉を失ったか?」

騎士「ミズクレ、スゴクアマイ」

僧侶「はい、あまーいコーヒーお持ちしましたよ」

竜少女「おお!こっちもいい匂いじゃ」

騎士「」


勇者「あ、やべ、イカ墨になんか混ざってるっぽい」

……

騎士「なにか言うことは」

勇者「申し訳ない」

竜少女「よいではないか、どうせただ飯なんじゃし」

竜少女「それにお主もさっきは"人の命が助かっただけで十分さ フッ"とか言ってたじゃろ」

騎士「それは……そうだけど。でもこの仕打ちは」

竜少女「我慢せい、小さい男じゃの」

騎士(片や美味い料理、方やパスタのような物体)

僧侶(そりゃ文句も言いたくなりますよね)

勇者「ホント申し訳ない、弁明の機会をくれるならまともなパスタ出すから!」

騎士「もうしばらく見たくないよパスタ……」

僧侶「ですよねー」

勇者 ドゲザー

騎士「やめろ、やめて、大人のそういうの見たくない」

竜少女「そうじゃぞ!お主は何も悪くない、むしろ誇ってもいいくらいじゃ!」

騎士「は?」

竜少女「こんな美味いものを作れるんじゃ、たまたま大きく間違いが起こっただけじゃろ」

僧侶(それはどうかな!)

竜少女「料理はの、作り手で大きく味を変えるんじゃ」

竜少女「お主の料理はとても愛情が篭っておった。ただいい食材を使っただけではなく、お主の気持ちがここまで味をよくしたんじゃ」

勇者「俺の……気持ち?」

竜少女「そう。お主、さっきワシが食べているのを見て幸せそうに笑っておったじゃないか」

勇者「見られてたか」

竜少女「誰かに食べさせてやりたいと思う気持ちが一番大事なんじゃよ」

竜少女「ま、そう思えば作り甲斐もあるじゃろ」

勇者「そうか……うん、そうだよな。そんな簡単な事だったんだよな」

勇者「イカ墨にメープルシロップをビンごとぶちまけてたのだって普段やらないようなミスだし」


騎士「いい話になってる所悪いけど、小さい男と言われようが俺は絶対に許さないと思う」

僧侶「お水どうぞ」

騎士「遅いよ」

騎士「さて、そろそろ出よう。依頼所に完了の報告もしなきゃいかん」

竜少女「おっと、そうじゃったの。これで飯を食ってるんじゃから欠かしてはいかんな」

騎士「早い方が報酬も弾んでくれるだろ、それじゃあな」

竜少女「ありがとの!コーヒーも美味かったぞ!」

僧侶「ありがとうございます、またお越しください」

騎士「もうこねーよ」

竜少女「また来るのぅ!」


ガチャ

黒髪少女「よかった、まだ居た!」

勇者「うわ、あんたか。何しに来た」

黒髪少女「あなたに用はありません……事はないですけど」

黒髪少女「近くの森林で火事がありました、山火事です」

竜少女「」

騎士「」

僧侶「え!?大変じゃないですか!」

黒髪少女「ここまで火は燃え移ることはないと思いますが、一応避難の準備だけはしておいてください」

勇者「あ、ああ悪いな。おい、貴重品はすぐに持って行ける状態にするぞ」

僧侶「はいわかりました!」

黒髪少女「そしてそこの二人!!」

黒髪少女「言わなくてもわかりますよね?」ニコ

竜少女 騎士「「はい」」

勇者「あんたたちはどうするんだよ?」

黒髪少女「村の方から消防団と火消しの魔法使いが数名出動してます」

黒髪少女「私もそちらに向かい予定です」

勇者「俺も行こうか?」

黒髪少女「結構です、さすがに一般人が首を突っ込むことではありませんよ?」

黒髪少女「そ こ の 二 人 は ……もちろん一緒に来てくれますよね?冒険者さん?」

騎士「まぁ、仕方ないよな」

竜少女「まったく誰の不始末じゃ」フイ

騎士(お前のブレスだよコンチクショウ)

――――――
―――

竜少女「ふぅ、人を乗せて飛ぶのは慣れんのぅ」

騎士「お前の責任だ、これくらい我慢しろ」

騎士「消防団の連中が来る前に消火して……あと、破棄した車も完全にバラバラにしとくか」

騎士「あいつらの車が出火原因にされちゃ悪いからな」

騎士「ところで」

黒髪少女「何でしょう、こちらを見て」

騎士「あんた、なんで俺たちが原因だなんて思ったんだ?」

黒髪少女「勘ですよ、女の勘」

騎士「はぁ?」

黒髪少女「冗談です、見ればわかりますよ。人ならざる気配」

黒髪少女「職業柄そういう連中ばかり相手にしてきてましたから」

騎士「可愛い見た目して、随分過酷そうなこと語るな」

黒髪少女「お褒め頂きありがとうございます。ま、趣味も兼ねてますから」

騎士「どんな趣味だよ……でも、人間の身ですごいよそりゃ」

竜少女「?」

黒髪少女「?」

騎士「ん?なんか変な事言ったか?」

竜少女「お主、気づいとらんのか」

騎士「何が?」

黒髪少女「くっフフ……」

竜少女「今ワシの背に乗っておる者は人ではないぞ」

騎士「はい!?」

竜少女「悪魔じゃ、それも上位の強い力を持つ」

竜少女「そうじゃろ?」

黒髪少女「上位かどうかは比べる対象と遭遇したことがないのでわかりかねますが」

黒髪少女「そうですね、そんな感じです」

竜少女「これは恥ずかしいのぅ」

黒髪少女「"人の身で"……クフッ"すごいよそりゃ"……ぶっ、アーハッハッハッハ!!」

黒髪少女「なんですか?くくっ、人ではない自分がちょっと特別だと思ってたりしたんですか?」

騎士「わ、笑うなよ!」

竜少女「まぁそう笑ってやらないでくれ。こいつが人間ではなくなったはつい先日なんじゃ」

黒髪少女「あら失礼、フフッ。いえ、あまりにも長年この姿でいますオーラが漂っていたのでつい、くふっ」

竜少女「笑うな、わしもつられて笑ってしまいそうじゃ……ぶふっ」

騎士「やめて、もう恥ずかしくて顔上げられない」

――――――
―――

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「正直ね、凄く驚いた」

僧侶「はい」

勇者「目の前で人間二人がメキメキ音を立てながらドラゴンに変身した」

僧侶「細かく言えば女の子が完全に翼竜になって、男の人が竜人みたいになってましたね」

僧侶「初めてみました、本物のドラゴン」

勇者「一生に一度見られるか見られないかの幻獣だもん、竜人とか聞いたことないし」

僧侶「……」

勇者「……山火事、大丈夫かな。店、閉めようか」

僧侶「……そうですね」

――――――
―――

勇者「片づけ終了!そっちは?」

僧侶「店内の掃除ももう終わりますよ」

勇者「そっか、それじゃあ俺は飯作るよ」

僧侶「はい、お願いします」

勇者「あとさ」

僧侶「?はい」

勇者「話したいことがあるんだ」

僧侶(真剣なまなざし!これはあれですか?結婚しよう的な?あぁ直球で結婚だなんて)

僧侶「そ、そういうのはまだ早いですよ!う、うれしいですけどね私としては!」

勇者「ん?早かったか?そろそろ話そうと思ったんだけどな俺と……」

僧侶「私の未来についてですか!?」

勇者「俺と母さんのレシピについてだよ、何言ってんだお前」

僧侶「oh yeah......」

勇者「昨日も話したと思うけどさ、昔お前に作った卵焼き。あれ母さんのレシピ見て作ったやつなんだ」

勇者「不格好な形だったけど、お前が嬉しそうに食べてくれるのを見てて俺もうれしくなっちゃってさ」

僧侶「そういえば勇者さん、あの時凄くいい笑顔でしたね」

勇者「でもあのレシピはさ、父さんが大切に保管してたものだったんだ。離婚して……母さん死んだ後だって言うのにな」

僧侶「私が使用人として雇われた時はすでにお母様は亡くなられてたんでしたね」

勇者「それで父さん大激怒。勝手に持ち出したのはまずかったみたいでな」

僧侶「あ、初耳です」

勇者「そりゃ食べさせたかった相手にそんな話できるわけないだろ?」

僧侶「食べさせたかった……」

勇者「あー、まぁそこには触れるな、恥ずかしい」

勇者「父さんはいずれは俺にレシピを渡すつもりだったみたいだけど」

勇者「母さんの形見だったし」

僧侶「勇者さんは昔はお料理作るの好きでしたよね、私が食べさせてもらったの卵焼きだけですけど」

勇者「練習ばっかりだったからなぁ。上手にはならなかったけど」

勇者「で、その中でマシだったのをお前に食べさせたわけ」

僧侶「もう、勇者さんってば!」

勇者「話が逸れまくったな」

勇者「レシピ持ち出した罰として、父さんが俺に料理を作れって言ってきたんだよ」

勇者「好き嫌いは無いから何でもいいし、いつでもいい」

勇者「自分が納得できるものができたら持って来いって」

勇者「ただし、母さんのレシピは使わずに自分の腕で作ってみろなんて言われて」

僧侶「絶望的じゃあないですか」

勇者「そこで変な突っ込みいれないで」

勇者「それで言われた通り作ったんだ、俺の腕で、俺の味で」

僧侶「パスタですか」

勇者「今の惨状を見てみろ、パスタなんて絶対に作らねぇよ」

勇者「……卵焼きだよ。結局それしか作れなかった」

勇者「レシピの内容なんて全然覚えてなかったんだけどさ、父さんにハッキリと"母さんの味に似てる"なんて言われちまってさ」

勇者「あの通りに一度作っちまったから無意識のうちに覚えてたのか」

勇者「あるいはもともと俺の作り方や味付けが母さんのものに近かったのか……どちらにせよそれが嫌だったんだ」

勇者「母さんの味の劣化でしかないからな、ひょっとしたら俺の味じゃないかもしれないんだ」

僧侶「だからワザといつもの自分の味付けではなく、そこから一歩引いたようなものに?」

勇者「そういうこと。結局ずっと模索してたんだ、比較的簡単に作れる料理で自分の料理をさ」

僧侶「……そうですか、そんなことを思ってたんですね」

勇者「あぁ、野暮ったい話になっちゃったな」

僧侶「……勇者さん」









僧侶「すっごいしょーも無いです」

勇者「語って損した気分だよ」

僧侶「今までの振りはなんだったんですか?結構私も期待してたんですけど」

勇者「俺の中では葛藤してたんだけどなぁ」

僧侶「亡くなったお母様の言いつけでこのレシピはまだ解き放つ時ではないとか」

僧侶「お父様から圧力かけられていて真の力を発揮できないとかそういうの期待してたんですけど」

勇者「そっちの方がもの凄くしょうもないぞ」

勇者「んで、その数年後に縁を切って家を飛び出してしばらく一人で暮らして」

僧侶「そういえばそんな時期もありましたね。何してたんですか」

勇者「漁業組合とか輸入会社とかにパイプ作ってた」

僧侶「うわ、生々しい」

勇者「その後、まさか国王から直々にお飾り勇者認定されて戦地へ駆り出されそうになって」

僧侶「私もその勇者パーティに志願して」

勇者「そうだったなぁ」

僧侶「勇者さんもうその頃には完全に無気力になってましたしね。私が居なきゃ何もできないんですから」

勇者「出来のいい妹だよ」

僧侶「出来の悪い兄ですね。私はそれ以上の関係を望んでるんですけどね」

勇者「それは追々」

勇者「明日は思い切って新しいメニューを出してみるよ」

僧侶「踏ん切りつきましたね」

勇者「話せば一気に楽になった、こんなもんかって感じで」

僧侶「ホントにそんなもんでしたね」

勇者「お前あの黒髪に触発でもされたのか?」

――――――
―――

[もやし炒め始めました]

僧侶「勇者さん、これは違うと思います」

勇者「立派な料理じゃん、何がいけないの?」

僧侶「ここはどう考えても卵焼きが新メニューで出てくる流れだったでしょ」

僧侶「どうかしてますよ、頭ン中ひん剥いて覗いてみたいくらいですよ」

勇者「そ、そこまで言うことないだろ……ちょっとしたお茶目だよ茶目っ気」


勇者「で、ひょっとしたら朝からあの黒髪が来ると思って早起きしたのに今日に限って来ないし」

僧侶「突っ込んでほしかったんですか?」

勇者「そりゃ期待はするさ、2日間で結構お客さん来てくれたんだからな」

僧侶「期待はしても立地条件が悪すぎます」

僧侶「大体あの方達はどうも討伐以来でこの近辺に来てたみたいですし」

勇者「あー、みんなそんな感じだったなぁ」

僧侶「2日連続で討伐に来てたのでもうここら辺では狩る魔物も山賊もいないんじゃないですか」

勇者「山賊狩りってよく考えると怖いな」

僧侶「ま、期待せずに待ちましょう」

――――――
―――

勇者「もう夜なんだぜ」

僧侶「誰も来ないんだぜ」

勇者「平常運転に戻ったとみるべきなんだろうか」

僧侶「みなさんまた来てくださるとは言っていたので……いつとは言ってなかったですけど」

勇者「せっかくもやしの準備してたのになぁ」

勇者「今日の晩飯はもやしな」

僧侶「ブチギレますよ?」

勇者「料理作れないお前が文句を言うな」


ガチャ

僧侶「あ、誰か来ましたよ勇者さん」

勇者「閉店間際に来てんじゃねーよもう……」

勇者「いらっしゃいませー」

機械男「まだやっているかな?」

僧侶「最近まともな人間見て無いですね」

勇者「お前もとうとう口に出すようになったか」

機械男「聞こえてるよ」

機械男「まだやってるなら食事がしたんだけどいいかな?」

勇者「あー、まだ開いてますのでどうぞ」

機械男(露骨に嫌そうな顔しないでくれよね)

僧侶(勇者さん、自分も大概だということに気が付いてないんでしょうか)

勇者「席はこちらで……と、いうかお客さん。食事できるの?」

機械男「ああ、問題ないよ。それじゃあペペロンチーノ貰おうか」

僧侶「即決ですね」

勇者「もやしとか目もくれなかったよ」

勇者「さて、イカ墨みたいなミスはしないようにしないとな」

僧侶「今度やらかしたら本気でマズイですよ」

勇者「わかってるよ、しかし……」

僧侶「気になりますよね……」

勇者「身長は俺たちの半分くらい、テンガロンハット被って西部劇風なマントまで」

勇者「体は照り返すようなシルバー、そして滑らかな両手足、そこからわざとらしく繋ぐような球体関節」

勇者「深く被せられて帽子の下には薄ら笑いを浮かべる仮面のような顔」

勇者「そしてスタイリッシュに動きそうな可動範囲!まさしくロマン!!」

僧侶「好きなんですか、そういうの」

僧侶「普通に怪しさ全開ですよ!前の仮面の人と同レベルかそれ以上に!」

勇者「新型のゴーレムとかそんなんだろう」

僧侶「精霊が宿った野生のゴーレムも人造ゴーレムも単身でご飯なんて食べに来ませんよ!?」

勇者「居るんじゃない?そういうの」

勇者「もうドラゴン見た後だから基本的に驚かないよ」

僧侶「あ、それは私も同感です」

勇者「あ、茹ですぎた」

僧侶「なんで毎回茹ですぎるんですか」

勇者「前に黒髪のやつに固いとか言われたからゆで時間長めにしたんだよ」

僧侶「両極端すぎますよ、大体昨日踏ん切りついて気持ちを新たにしたんじゃないですか?」

勇者「パスタについては何も言ってなかっただろ俺」

勇者「もうパスタやめようかなぁ」

僧侶「メニュー取り下げる前に一通り違うものに差し替えてからにしてください、もやしだけになってしまいます」

機械男「……」ペラ

僧侶「勇者さん勇者さん」ヒソヒソ

勇者「なに?今忙しいんだけど」

僧侶「どの口が言いますか……」

僧侶「それよりあの人(?)……新聞読んでますけど家に新聞なんて置いてありましたっけ?」

勇者「置いてないよ、それに取ってもいない」

僧侶「ここに移り住んで1年になりますけど初めて新聞取ってないのに気が付きました」

勇者「いろいろと無関心なのなお前」

勇者「まぁこんな場所まで新聞配達してくれるかどうか怪しいし、勧誘とか来たことないし」

僧侶「ですよねー。ってことはあの人自分で新聞持ち歩いてるんでしょうか?」

勇者「わざわざこんな場所にまで持ってきて読むことは無いだろうに」

勇者「大体ここに店がなかったらいつ読むつもりだったんだよ。夕刊の時間とか過ぎてるぞ、その情報若干新しくないぞ」



機械男(聞こえてるんだけどなぁ)

勇者「へい、お待ち。持ってって」

僧侶「了解です!なんか不安ですけど」

勇者「大丈夫だって、文句は言われ慣れてるから」

僧侶「そういうのは大丈夫って言わないんですよ?そして慣れないでくださいそんなこと」


僧侶「お待たせいたしました、ペペロンチーノございます」

機械男「ありがと。あとごめんね、オレンジジュースも頂けるかな?」

僧侶「はい、かしこまりました」

僧侶(そのまま飲めるのかな?やっぱりオイルとか混ぜたほうがいいのかな?)

僧侶(あ、この人の読んでる新聞今日の日付じゃないや)

機械男(目線が気になるよこの店員)

ガチャ、ドン!!

僧侶「!?」

山賊「オラァ!こんなところに居たかクソ野郎!!」

機械男「……おやおや、生き残りが居ましたか」

僧侶「ば、蛮族!?」

機械男(蛮族?)

山賊(蛮族?)

勇者(蛮族?)

山賊「ま、まあいい。そこの機械人形!てめぇ、俺たちの縄張りをよくも荒らしてくれたな!」

機械男「機械呼ばわりしないでくれるかな?これでも人間なんだけど?」

僧侶「え?」

勇者「え?」

機械男「話が進まなくなるから黙っててくれないかな君たち」

機械男「そ・れ・に、初めに手を出してきたのはそっちじゃないかな?」

機械男「僕はただ道を歩いてただけなんだけどねぇ」

山賊「うるせぇ!どうせテメェも俺たちを潰しに来た輩だろう!」

山賊「そうじゃなきゃ集落一つ落とすなんて普通やらねぇだろ!?」

機械男「他の連中にも説明したけど信じてくれなかったから仕方ないじゃないか」

機械男「攻撃してきたそっちが悪いんだよ?僕はそんなもの、普段なら見て見ぬふりをするしね」

山賊「黙れ小童ぁぁぁぁ!!」

機械男「ナリフリ構わず突っ込んでくるか……蛮族以前に文化すら学んでいないんじゃないかい君たち?」

山賊「グエ!?」

勇者「おお!なんか手から球体出してぶつけた」

僧侶「勇者さん!早打ちですよ!早打ち!」

機械男(調子狂うなぁ)

機械男「一応、今の一発は警告」

機械男「仲間が殺されて頭に血が上ってたんだろう。見逃してあげるからとっとと消えなよ」

機械男「せっかくの食事が覚めちゃうじゃないか」

僧侶(麺はすでに少しぐでんぐでんしてますけど)

山賊「う……ぐぐ」

勇者「出て行ったか」

僧侶「あっけなかったですね」

機械男「君たちやけに冷静だね」

機械男「さて、それじゃあ頂こうかな」

僧侶「どうぞ、お召し上がりください」

機械男「ここしばらくはまともな食事にありつけなかったからね」

機械男「こういう人里離れた定食屋で食べる食事も乙なものかな……」

機械男「うん、美味しい」



僧侶「!?!?!?」

勇者「!!?」

機械男「え?」

僧侶「ゆ、勇者さん、作戦会議です」

勇者「何が起こった何が」

僧侶「わかりません、やっぱり機械の体なので味覚が我々と違うのでしょうか」

勇者「いや、ひょっとしたら俺の料理に愛情が加わって最強になったとかじゃないのか?」

僧侶「ありえません、作り方がいつもとそう変わりがありませんでしたので」

勇者「そんな……何がおかしかった?どこで間違えた!?」


機械男「僕が今食べてるのスパゲティだよね?間違いないよね!?」

僧侶「大変失礼いたしました、引き続きお食事をお楽しみください」ニコ

勇者「どうぞごゆっくり」ニコ

機械男「人間不信になりそうだよ」


ブオンブオン

機械男「……バイクのエンジン音」

勇者「こんな時間になんだ?うるさいな」

僧侶「ちょっと勘違いした暴走族が走り出すのにはまだ早い時間ですね。ちょっと見てみましょうか」

機械男「……やれやれ、懲りない奴だね」

勇者「?」

山賊「オラァ!その店ごとペシャンコにしてやるぜ!!」

僧侶「さっきの蛮族以下の人!?」

勇者「で、デカい……対巨人用ヘヴィ級超大型2輪駆動車……ベヘモス!!」

勇者「の、レプリカか。本物はそんなにデカくないし対巨人用でもないしな。カスタムしてるとしか思えん」

僧侶「妙に詳しいですね、そしてその名乗りはどう考えても今思いついただけですよね?」

機械男「それはともかく、二人とも下がっててくれるかな?巻き込まれちゃうよ」

勇者「どのみちあんなのが突っ込んで来たら店が無くなっちまうよ」

僧侶「巻き込まれてしまうのは嫌ですけど、避けても失うものが大きいですので。私たちも戦わせていただきます!」

勇者「実践経験無いけどね」

機械男「腹をくくったところ悪いけど、僕が言いたいのは爆発に巻き込まれるから下がってろって事」

勇者「へ?」

機械男「戦いは、もう始まってるんだよ」

山賊「粋がるなよ!これで終いだぁぁ死んじまえ!」

機械男「さっき君にぶつけた球体、普段なら貫通して君のお腹に大きな穴が開いてるんだけどねェ」

機械男「君の中に球体は潜航している、それは僕の制御下にある」

山賊「ぐ、ぐるじい……」

機械男「球体は回転を初め、そのまま君の体を突き破ってその大きなバイクを削り取り始める」

機械男「最後はエンジンに着火だ」


山賊「ぐぁ……」


機械男「爆発は最小限に抑えるけどね。球体は僕の手元に戻ってくる」パシッ

機械男「そして、君の命と一緒にこの球体も消滅する」


山賊「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」


僧侶「……勇者さん」

勇者「お、おう」

僧侶「ハードボイルドですよ!!」

勇者「結構引っ張っといてその一言!?」

――――――
―――

機械男「ごめんね、一般人を巻き込むつもりはなかったんだけど」

勇者「いいよ、あと俺たち微妙に一般人じゃないけど」

機械男「そうかい。それと、事後処理は僕の方でやらせてもらうから心配しないで」

機械男「はいこれ、食事代。美味しかったよ、もう会うことは無いだろうけどね」

機械男「それじゃ、さよなら……」

僧侶「あ、待ってください!」

僧侶「オレンジジュース、まだでしたよね?これをお持ちください」

機械男「タンブラーまで用意してもらって悪いね。いいのかい?持って行っても」

僧侶「どうぞ!カッコイイものを見せてくれたお礼です!」

機械男「ああ、どうもありがとう」


……

勇者「不思議な奴だったな。風のように消えちまった」

僧侶「えぇ、外にあった大きいバイクもいつの間にか消えちゃってますし」

勇者「夢でも見てたみたいだ……さて、今日は店を閉めるか」

僧侶「そうですね、明日も誰か来るかもしれないですし」

勇者「ところでさ、オレンジジュース用意するのに時間かかってたみたいだけど何してたの?」

僧侶「ああ、それはですね。あの人機械みたいだから普通のオレンジジュースよりもアレを混ぜたほうがいいんじゃないかと思いまして」

勇者「アレ?」

僧侶「はい、味覚も変でしたし多分美味しく飲めるんじゃないでしょうか?」

――――――
―――

機械男「まったく、変なとばっちりを受けたよ」

機械男「山賊潰しなんて僕の知ったことじゃないし、勘違いも甚だしい」

機械男「ま、夕ご飯にありつけたのは助かったよ。中々の味だったけどね」

機械男「体は機械だけど……中身は普通に人間なのに酷い扱い受けたな、今考えると」

機械男「どれ、運動後のオレンジジュースを頂こうかな」ゴクゴク


機械男「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」


[オイル入れときました、味わって飲んでくださいね!]

――――――
―――

勇者「暇だな、今日も客いないし」

僧侶「まぁ、普段はこんな感じのハズなんですけどね」

僧侶「ここ数日いろんなことがありましたしね」

勇者「数日だけなのに凄い冒険したみたいな感覚に陥ってる」

僧侶「私もですよ」

僧侶「あ、そういえばさっき宅配で何か届きましたよ?」

僧侶「大きな箱が二つ」

勇者「おお、届いたか。エアバイク」

僧侶「ホントに買ったんですか、ってかいつ買ったんですか?」

勇者「2日前、お前が帰ってきてすぐに通販でちょちょいと」

僧侶「届くの早いですね」

勇者「なんか空間魔法を得意とする魔王がその身一つで宅配業をしている会社なんだとか」

勇者「電話で頼めば2日以内に届けてくれる」

僧侶「じゃあ届けに来たあの人が魔王だったんですか」

僧侶「魔王とは名ばかりのビジネスマンですね」

勇者「魔王なんてそこらじゅうに居るご時世だからな。名乗ったもん勝ちってやつだろ」

僧侶「お代金は請求されませんでしたけどよかったんですか?」

勇者「親父の口座の引き落としになってるはず」

勇者「ありがとう、父さん」

僧侶「クズ炸裂ですね」

僧侶「家飛び出した癖に結局親の脛かじり続けるのはどうかと」

勇者「いいんだよ、甘えられるうちに甘えるんだ」

僧侶「それは世間一般で言う甘えじゃないです」

僧侶「そして勇者さん、あなた親に甘えるような歳じゃないでしょうに」

僧侶「近いうちに一回実家に帰って貰いますからね。連れ戻してこいと御達しが来たので」

勇者「あ?やだよ、そっちが来いって返事しといてよ」

僧侶「無駄にふてぶてしいですね。会ってはくださるんですね?」

勇者「あっちから来れば好きなだけ会ってやるよ」

父「その言葉にウソ偽りはないな?」ガチャ

勇者「ヒョウ!!」

僧侶「あ、お久しぶりですお父様」

勇者「ウワー、ヒサシブリダネー」

父「久しぶりだな、1年くらい会っていなかった」

僧侶「私はよく電話してたんですけどね」

勇者「はぁ!?聞いてないぞ!?」

僧侶「密に密に」

父「定期報告程度だけどな、よしよし」

僧侶「えへへ、頭撫でてもらっちゃった」

勇者「うっぜぇ」

勇者「で、何の用よ?まさか飯食いに来ただけじゃないだろ?」

父「そりゃそうだ、俺の方がお前よりマシなものが作れそうだしな」

勇者「あぁん?」

父「なんか文句でもあんのか?」

勇者「文句しかねぇよ、今俺は充実してんの!首突っ込むな!」

父「誰の金で充実出来てると思ってんの糞が!」

僧侶(そっくりだなぁ)

父「大体お前、勇者期間終了になった時に報奨金貰ったんだろ?それはどうしたんだよ」

勇者「店開くときに全部使っちまったに決まってんだろ」

父「……お前にもうウチの金は使わせないと言ったら?」

勇者「ゴメンネパパ、僕これから心を入れ替えて働くよ。だからお金頂戴?」

父「ふっっっっっっざけんなクソボケカスアホ!」

父「クズが!人間のクズが!」

勇者「うるせぇぇぇぇぇぇ!俺が勇者なんかに選ばれた時の気持ちわかってんのか!?」

勇者「家を飛び出したのは俺の勝手だ!だけど勇者に選ばれたのは不可抗力だ!」

勇者「その時父さんは何を思ってた!?何を感じてた!?」

勇者「人柱なのは知ってただろ?俺に一回も声をかけることもなかったろ!?」

勇者「俺は心細かった……なのに……!!」

父「……」


僧侶「勇者さん、心苦しいのは分かりますけどお金の問題は全く別ですよそれ」

勇者「チッ、バレたか」

僧侶「勇者さん、お父様は負い目を感じているから今まで何も言わずに勇者さんの事見守ってたんですよ?」

僧侶「現に、あなたが戦地へ送り出される事を知っていたからこそ私が使わされたんですから」

父「……」

勇者「……」

僧侶「国に背いてもいいからこっそり連れて帰ってこいって、そう言ってましたよね?」

父「覚えて無い」

僧侶「匿ってやれるだけの財力はあるって言ってたじゃないですか」

僧侶「勇者さんも、死ぬ前にお父様に謝りたいって……」

勇者「覚えて無い」

僧侶「もう……」

父「今日はもう帰る」

僧侶「あ、お父様……」

父「後日また来る。その時に俺の舌を唸らせるだけの料理を用意しろ」

勇者「!」

父「その料理次第で今後この店の事も考えてやる。母さんのレシピは使うなよ?」

父「それを伝えに来ただけだ……邪魔したな」

僧侶「お父様……」

勇者「……フン」

ガチャ



仮面男「ど、どうも」

鎧少女「凄いところに出くわしてしまったな」

父「oh......」

父「は、話を聞いていたんですか?」

鎧少女「……すまない」

仮面男「……概ね」

父「さ、さらばだ!」ダダダ

仮面男「あ、いや……悪いことをしてしまったな」

鎧少女「ただコーヒーを飲みに来ただけでこれか。なかなかハードだな」

僧侶「い、いらっしゃいませ。お見苦しいところを申し訳ありません」

勇者「……」

僧侶「勇者さん?」

勇者「よし、うやむやに出来て乗り切った」

僧侶「真正のクズがここに居た」

仮面男「……勇者……君?」

勇者「ん?何か?」

仮面男「私も人の親として、言わせてほしい」

僧侶(子供さん居たんだ)

仮面男「彼は、なにも君に無関心だったわけではないと思うんだ」

仮面男「親子なんだ、素直になれない事もあるだろう」

仮面男「わざわざ子と繋がりを持とうと自らここへ出向いたのんじゃないかな?」

仮面男「心配していたとか、不安だったとかは、本人ではないからわからないが」

仮面男「月並みな事しか言えないけれど、子を思わな親なんていないんだ。彼の気持ちを汲んでやってくれないか?」

勇者「……俺は……まぁ、そこまで怒ってる訳じゃないよ。本気で文句言える立場じゃないし」

仮面男「厚かましいことを言ってすまないね。私は、ずっと自分の子と殺し合いをしていたから、余計に深く考えてしまっていてね」

勇者「うん……んん?」

鎧少女「それは語らない約束だろ?もう和解したんだから」

仮面男「そうだったね」

僧侶(うわぁ……)

勇者(なんか、俺の問題よりも数段上のヘヴィな問題抱えてるよこの人たち)

仮面男「すまない、それじゃあコーヒーを貰おうかな」

鎧少女「そうだな、私も同じものをくれ」

僧侶「は、はい只今」

勇者「食事はいいのか?すぐに作れるけど」

仮面男「あー……うん、まぁ」

鎧少女「悪い、いらん」

勇者「さいですか……」

勇者「いや、待て諦めるな俺」

勇者「新メニューも追加してあるからそっちも目を通してくれないか?」

鎧少女「パスタ以外も作るようになったのか?」

仮面男「へぇ、それはいい傾向だね。どれだい?」

[もやし炒め始めました]

鎧少女「貴様、完全に客を舐めてるだろ」

仮面男「チョイスが明らかにおかしいでしょ」

勇者「俺の何がいけないんだ」

僧侶「本気で行けると思ってたんですか?」

勇者「いいよ、わかった、サービスだ!食え!食ってください!お願いします!!」

鎧少女「わかった!注文するから頭を下げるな馬鹿者!」

仮面男「彼、面白いね」

僧侶「よく言われます、それと同時にウザがられます」

――――――
―――

僧侶「お待たせいたしました、コーヒーともやし炒めです」

仮面男「同時に出てくるとは思わなかったよ」

鎧少女「何故私たちはこの組み合わせで頼まなければいけなかったのか」

僧侶「あ、コーヒーは食後の方がよろしいですか?失礼いたしました」ススス

仮面男「持っていかないでくれ!万が一ということもある」

勇者「万が一ってなんだよ心外だな!?」

僧侶「勇者さん、今までその万が一何回起こったと思ってるんですか?」

勇者「何回も起こったかのように言うな!そんなに起こっていない!」

鎧少女「つまり何かが起こるということだな?」

仮面男「それじゃあ……」

鎧少女「頂きます」

僧侶「……」ドキドキ

勇者「……」ドキドキ

仮面男「……杞憂に終わったね、うん、美味しいよ」

鎧少女「コンソメ入れたのか?味が効きすぎているような気もするが……美味しいよ」

勇者「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ほら見ろほら見ろ!俺だってやるときはやるんだよ!ハハハハ!ざまぁないぜ!」

僧侶「ほんっとウルサイですね……でもよかった」

僧侶「お母様のレシピを使わずに、自分の味で初めて勝負。一歩踏み出せましたね」

勇者「嬉しくて嬉しくて言葉にできないくらいだぜ」


仮面男「素直に評価してここまで喜ばれるとは」

鎧少女「あいつらの中でいろいろあったんだろ?」

鎧少女「ウルサイけどまぁ、しばらく放っておいてやるか」

――――――
―――

鎧少女「ご馳走様、今回は美味かったよ」

仮面男「もともとコーヒーが目的だったけどね、いい収穫だ」

勇者「あー、すみません。なんか騒いじゃって」

鎧少女「一つの事に打ち込めて喜べることはいいことだぞ?」

仮面男「あとは君のお父さんを納得させるだけだね」

僧侶「そうですよ勇者さん、それが一大イベントです」

勇者「わかってる、今回で本気で自信がついた」

仮面男「ああ……それじゃあ最後に。先輩勇者として君に一言告げようかな?」

勇者「え?」

僧侶「え?」

鎧少女(絶対その反応すると思ったよ)

勇者「言おうか言うまいか迷ってたんだけど……」

勇者「アンタの風貌、どう見ても」

僧侶「魔王ですよね」

勇者「魔王だよなぁ」

仮面男「私にも色々訳があるんだよ……あぁ、もういい、それは言われ慣れてる」


仮面男「勇者は、どんな困難にも立ち向かえる勇気ある者の事を言う」

仮面男「挫折して何度つまづいても、何度転んでも起き上がり、這い上がっていける者だ」

仮面男「一人で戦い続けることは無理かもしれない、だったら誰かを頼ればいい。勇者は万能じゃあないんだ」

勇者「誰だって万能じゃない。それに、俺は勇者ですらない。偽物の名前だ」

勇者「そんな勇敢なもんじゃないんだ……」

仮面男「常に勇敢である必要はない。きっかけさえあれば誰だって勇者になれるんだ」

鎧少女「そんなもん魔王と同じだよ。名乗ったもん勝ちだ」

仮面男「それにね……私も君と同じ、偽りの勇者だ」

勇者「……?」

仮面男「国の都合に振り回された仲間ってことさ」

勇者「アンタも……?」

仮面男「詳しく語りはしないけどね」

仮面男「君は今、お父さんに立ち向かおうとしてる」

仮面男「今までで逃げることだってできたはずだ。でもそれをしなかった、ここに店を構え続けた」

仮面男「その姿はまさしく勇者だよ」

僧侶「基本的な考えはクズですけどね」

勇者「水を差すなよ……」

仮面男「ほら、こうやって茶々入れて支えてくれる人もいる、だから大丈夫」

僧侶「えへへ」

――――――
―――


鎧少女「あいつらどう思う?」

仮面男「彼らなら上手くやれるさ、そういう目をしている」

仮面男「仮に失敗しても……まぁ、うん、なんだ」

鎧少女「そっちも容易に想像出来てしまうのが何とも言えんが……まぁいい」

鎧少女「約束の女神として、あいつらに勝利の祝福があらんことを」

仮面男「勝ち負けの問題じゃなかった気もするけど?高圧的な女神さん」

鎧少女「女神っていうのは上から目線でものを言う連中が多いんだよ、マネしただけだ」

仮面男「知ってるよ、君を一番知っているのは私だからね」

仮面男「さて、それじゃあ今回の大元凶の親玉を退治しに行きますか」

鎧少女「まさか、山賊のバックに居たのが本物の魔物だったとはな」

仮面男「今は昔とは違う。"魔物"なんて一括りにせず、本来なら種族名で呼び合い共存できるはずの時代なのに」

鎧少女「人を貶めるようなケダモノ共は全員"魔物"で十分だ」

仮面男「もうここへは立ち寄ることが無いのが心残りだが……行こうか」

鎧少女「ああ、私たちの旅路はまだまだ長いぞ」

――――――
―――

勇者「勇者かぁ……あいつは俺の事勇者って言ってくれたけど、俺、勇者になれたのかな」

僧侶「もちろん!誰だって勇者になれるって先輩勇者さんが言ってたんです!間違いありません!」

勇者「そうだな……それじゃあ、父さんを納得させて本物の勇者を名乗らせてもらいますかな!」

僧侶「名乗ったもん勝ちですね!このまま二人そろって勇者です!」

勇者「一応、父さんに食べさせたい料理はもう決まっているから、後は練習あるのみだな」

僧侶「もう変なボケはさせませんよ?……卵焼きですよね?」

勇者「ああ、勿論!あの時のリベンジだ!」

僧侶「もしここで、もやしだのパスタだのと言ってたらぶっ飛ばしてましたよ」

勇者「ふざけないのが俺の本気なのよ。あ、そうだ」

勇者「母さんのレシピはお前が預かっててくれないか?」

僧侶「はい、わかりました……大切な物なのにいいんですか?」

勇者「誘惑に負けて覗き見しそう。それにお前が持っててくれれば絶対に俺に見せるなんてことはしないだろう?」

僧侶「はい、意地でも見せませんね」

あと少しで終わりなのじゃ

僧侶「……勇者さんはどうして私をそこまで信用してくれるんですか?」

勇者「ん?どうしてと言われても、兄妹同然に育ってきて付き合いも……実際母さんより長いな」

僧侶「でも私はもともと家の使用人です。奴隷市で売られてた子供ですよ?」

僧侶「こうやって、あたかも好意があるように勇者さんに近づいて……」

僧侶「そのうち家を乗っ取って財産全部取り上げたりしちゃうかも」

勇者「そういや財産取り上げはお前ちょくちょく口に出してたな」

僧侶「あら?口に出てました?」

勇者「嘘だよ!?少しからかっただけだよ!?ホントにそんなこと考えてたの!?」

僧侶「ええ、それも含めて色々」

勇者「お前への信頼度ガタ落ちだよ」

僧侶「……でも」

勇者「ん?」

僧侶「勇者さんが私の事信頼してくれる理由、本当に思い浮かばないんです」

僧侶「"付き合いが長い"、"兄妹同然に育った"」

僧侶「どれも違いますよね?」

勇者「そうだな、信用する前提条件ではあるけど言われれば違うんだよな」

勇者「理由は……難しいな」

勇者「難しいけど」

僧侶「難しいけど?」



勇者「ま、好きだから……かな?」

勇者「昔からずっと」

僧侶「はい、知ってます。私も好きですから」

僧侶「好きだという理由で大切な物とか財布とか簡単に握らせちゃうんですか?」

勇者「変な言い方をするなよ……」

勇者「そこは惚れた弱みってやつだ、無条件にさ」

勇者「"あ、こいつになら全部委ねてもいいかな"って思えるから」

僧侶「さ、流石に面と向かって言われると恥ずかしいですよ……」

勇者「一生の付き合いになるんだ、これからは考えを少し改めて俺を支えてくれよ」

僧侶「一生の付き合いになるなら尚更、今まで通りに接しさせてもらいます」

勇者「へいへい、厳しい妹だ事で」

僧侶「こんな頼りにならない兄の嫁になるんです。ありがたく思ってください」

勇者「んじゃ、今日はもう店閉めて買い出し行くか」

僧侶「今度は二人で、ですね」

勇者「クソ親父の金で買ったエアバイクだ、さぞ乗り心地がいいだろうなぁ」

僧侶「あぁ……クズが……」

――――――
―――

勇者「ヤバイ、2日経った」

僧侶「2日経ちましたね」

勇者「後日また来るとは言ってたけどいつ来るかわからねぇ」

僧侶「あれからいくら電話しても出てくれないんですよ……もう、お父様も意固地なんですから」

僧侶「昨日遠くから望遠鏡でこっちの様子窺ってたみたいですけど」

勇者「それは言えよ」

僧侶「てっきり気づいているものだと思ってましたが」

勇者「普段から引きこもってるからまず気が付かないのよ」

勇者「で、今日は今日で客が居るしさ」

黒髪少女「何か不都合でも?」

眼帯少女「……飯くわせー」

金髪少女「パスタはもう……いいです」

ガチャ

父「ま、待たせたな。た、たまたま近くを通りかかったから食いに来てやった」

勇者「そしてなんでこんな時に突撃してくるかねぇ」

僧侶「タイミング完全に間違えてますね」

勇者「父さん連絡くらい……」

父「こ、この店はー……オホン、客が来たのに水も出さないのか?え?」

僧侶「あ、すみません。お水はセルフサービスです」

父「あ、はい……」

勇者(なんでアンタが若干緊張してんだよ)

勇者(抜き打ちで来やがって……こっちの心臓がはち切れそうだってのに)

黒髪少女(……ふむ)

黒髪少女「オーダーお願いします」

僧侶「はい、ただいま」

黒髪少女「あら?メニュー増やしたんですね!どれも美味しそう!」ペラ

父「!」

僧侶「あ……はい!どれも当店自慢の料理ですよ!」

僧侶「特にこの……卵焼きが」

父「卵焼き……」

黒髪少女「そう……それじゃあこれを頂けますか?」

僧侶「はい!かしこまりかした!」

金髪少女「お……美味しそう?」

眼帯少女「……一体何を」

黒髪少女「空気読めよ」

父「……」

勇者「……選べよ、何でもいいよ」

父「む、そうか……」

父「では……」






父「このもやし炒めを一つ」

勇者「こんのクソ野郎があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

勇者「ふっざけんな!なんでそうなるんだよ!?流れが見えてなかったの!?」

僧侶「お、落ち着いてください!」

父「まぁ、そりゃ軽い冗談だ。俺もそこまで無神経じゃあないさ」

勇者「怒りで血管ぶ千切れそうだよホントに」

父「ふぅ……お前をからかうといつも落ち着く」

勇者「碌でもないことすんなよ……」

僧侶「でも勇者さんも落ち着きましたよね?」

勇者「癪だが!」


黒髪少女「ふふっ」

金髪少女「何を悟ったような表情を」

眼帯少女「……お腹減った」

父「俺も、そこの御嬢さんと同じで卵焼き、貰おうか」

僧侶「かしこまりました……ご一緒にコーヒーでもいかがですか?」

父「あぁ、貰おう。とびっきり苦いの頼むよ」

僧侶「はい!勇者さん、お願いします!」

勇者「あいよ!」


金髪少女「あ、普通のモーニングセットあるんですね。Aセット下さい」

眼帯少女「……もやし下さい」

黒髪少女「はぁ……マイペースもほどほどにしなさいな、あなたたち」

……

勇者(出来る限りの事はした)

勇者(この結果がどうなろうと悔いはない……が)

勇者(何度コケようが構うもんか、納得させるまで何度だって立ち向かってやるよ)

勇者「卵焼き2つ、モーニングAセット、もやし炒め、全部で来たぞ!持ってってくれ」

僧侶「はい、ただいま!」


僧侶「お待たせいたしました、卵焼きとモーニングAセットともやし炒めですね」

僧侶「ごゆっくりどうぞ」

黒髪少女(初歩的な料理はさすがに出来るようになってますか……)

黒髪少女(あの人にこの料理を食べさせてあげたいみたいですけど、はてさてどうなることやら)


僧侶「お待たせいたしました、卵焼きです……お父様、これがお兄ちゃんの全力です」

父「ああ、頂こう」

父「……」

勇者「……」

父「……母さんの味に……似ているな」

勇者「ああ、でも母さんの料理じゃない。気が付くのが遅かった、俺の味だ」

父「レシピは……」

勇者「一番信用できる奴に……あいつに預けてある。絶対見せてくれないだろ?父さんも知ってのとおり」

父「そうだな……あの子なら間違いない」

父「……」

勇者「……」

僧侶「……」

父「……」

勇者「……なんか言えよ……」

父「……ごちそうさま」

僧侶「!お父様!」

勇者「……また来い、金さえ払ってくれればいつでも、いつだって俺の料理食わせてやるよ」

父「……借金返し終わる分まで食いつぶしてやるよ、こんな店」

僧侶「あ……う、グス」

父「美味しかったよ、ありがとう」

――――――
―――

黒髪少女「……」

勇者「いつまで居るんだよ、そろそろ閉店したいんだけど」

黒髪少女「一度見出すとやめ時が分からないんですよね、テレビって」

勇者「なんだよそりゃ」

勇者「ほら、他の二人も寝ちまってるぞ」

黒髪少女「不思議なものですね、熱中するとその熱は中々冷めないんです、時間も忘れて」

勇者「何のことだよ……」

黒髪少女「お料理、好きですか?」

勇者「……まぁ、ほどほどには」

黒髪少女「それは重畳。この数日間、あなたにとっていい経験になったみたいですね」

勇者「数日そこそこの付き合いなのによく言うよ」

黒髪少女「人間観察ほど面白いことはありません。テレビよりもずっと……」

黒髪少女「直向きに頑張れる人は好きですよ?」

勇者「新手の説教か?前なら嫌味が飛んできたんだけどな」

黒髪少女「世事を言っただけ。楽しませてくれたお礼です」

黒髪少女「ほら、二人とも起きなさい!行きますよ」

金髪少女「んあ?ダメです、危ないですよ……さん……」

眼帯少女「!?もやし……」

勇者「ダメだなこりゃ」

黒髪少女「引きずってでも連れて帰ります」

……
黒髪少女「ありがとうございます、ご迷惑をおかけしました」

勇者「ああ、もう来るなよ」

僧侶「勇者さん!」

黒髪少女「ええ、そのつもりですので」

勇者「え、おい流石に冗談だって」

金髪少女「ごめんなさい、明日には此処を発ってしまうので」

眼帯少女「……生きていればまた会える」

黒髪少女「ま、そういうことです」

勇者「それならしょうがないな……達者でな」

黒髪少女「ええ、あなたも。末永くお幸せに」

金髪少女「天の加護を」

眼帯少女「……ありがと、美味しかったよ」

――――――
―――

勇者「暇だなぁ」

僧侶「暇になっちゃいましたねぇ」

勇者「せっかく料理上手くなったのに客が来ないんじゃ意味ないじゃん」

僧侶「完全に立地条件の問題ですねこれは」

勇者「こんな場所に人は来ないってか?」

僧侶「私ならまずは足を運びません」

勇者「俺もだ」

勇者「もう1か月経つんだよなぁ」

僧侶「奇妙な1週間でしたね」

勇者「妙に濃い1週間だったよ」

勇者「結局あの日を境に誰も来なくなっちまったけど」

僧侶「みなさん元気にしてるんでしょうか」

勇者「そう親しい仲ではなかったけど気にはなるよな……」

僧侶「……!?」

勇者「どうした?」

僧侶「て、テレビ!テレビ見てください!」


『昨夜未明、謎の生物が上空を飛行しているのが目撃されました』

『宙を華麗に舞う2対のその姿はまるで竜のようで、地元では天変地異の前触れとも……』

勇者「これ……あの二人か」

僧侶「ですよね」

勇者「流石伝説の生物、スケールが違うな」

僧侶「私たち、アレの接客してたんですね」

『次のニュースです』

『……国、元国王はその隣国すべての巡回を終えました』

勇者「ん?」

『"この旅路は意味のあるものだ、戦争に巻き込まれたもの、そうでないもの"』

『"戦争の中心に居た私には、そのすべてを知る義務がある"』

僧侶「この戦争って勇者さんが駆り出されそうになったアレですよね」

勇者「アレだな」

『"現勇者として、そして元王として私はまだ知らなければいけないことだらけだ"』

『"私はこれからも旅を続けるだろう……決して自分の国に帰ることも無いだろう"』

『"無責任かな?でも、新しい世代がそれを受け継いでいってくれるだろう"』

勇者(声似てるけど……まさかな)

僧侶「?勇者さん」

僧侶「今、話してる元国王の後ろに何か映りませんでしたか?」

勇者「え?何がだよ」

僧侶「なんか綺麗な女性が……女神さまみたいな」

勇者「おいおい心霊現象かよ、大体女神なんて見たことなんのか?」

僧侶「無いですけど……」

勇者「世間一般の想像が膨張していっただけで、あの人が言ってたみたいに残忍な女神ばっかりだったり」

僧侶「残忍でも綺麗かもしれないじゃないですか」

勇者「残忍の方を否定しようよ」

勇者「黒髪一行はなにしてんのかな」

僧侶「お店が忙しいんじゃないですか?同業者って言ってましたし」

僧侶「こことは大違いです」

勇者「それは悪う御座いました」

勇者「あの機械みたいなのは……」

僧侶「きっとどこかで人助けですね」

勇者「俺には楽しんで殺しをしていたようにしか見えなかったけど」

僧侶「勇者さん」

勇者「あ、気になってたんだけどさ」

僧侶「はい」

勇者「その"勇者さん"ってのはそろそろ……」

僧侶「勇者さんは勇者さんでしょ?」

勇者「まぁこんなのでも勇者を名乗らせてもらってるけどさ」

僧侶「家を出る前みたいにお兄ちゃんって呼びますか?」

勇者「それはそれでいけない臭いが」

僧侶「じゃあどうすればいいんですか?」

勇者「まぁ……できれば本名で」

僧侶「じゃあ私の事も"おい"とか"お前"じゃなくて名前で呼んでくれますか?」

勇者「そりゃもちろん」

ドンドンドン

「おーい、この店開いてないのかー」

僧侶「あ、外の準備忘れてました」

勇者「うお!ふざけんな!……まぁ、久々の客か!」

勇者「へへ、俺のパスタをお見舞いしてやるぜ」

僧侶「それはやめてください、上達してないんですから」

勇者「あいよ、それじゃあ今日も頑張りますか」

僧侶「はい!」


拝啓、天国の母さん、まだ生きている父さんへ
勇者としてお役御免となった俺は、また勇者を名乗らせてもらってます
料理への情熱を冷めさせないために日々努力を積み重ねていきたいと思います
父さんへの借金、実は国からでた報奨金がまだ残っていてそれで返せてしまえるのは内緒です
とりあえず絞りつくします、俺は前と何も変わっていないでしょうけど
いつまでも元気で行こうと思います


勇者「定食屋始めました」 おわり

>>41
黒髪少女「テレビも車も持っているなんて相当お金持ちなんですね」

勇者「どっちも魔動型だからそう高くはないよ」

勇者「動かすのに魔翌力が必要だから普通に電力や燃料使うやつよりは維持も安上がりだ」

誤字はたくさんあれど「魔力」という字を「魔翌力」という謎の固有名詞に変えてしまっているのはなんなんだろうか

何故これに4日近くかけていたのか
とりあえず書いてて楽しかったので自分に乙

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