男「吸血鬼がいる毎日」吸血鬼「血より缶ビールのが美味い!」 (90)

吸血鬼「でーすーかーらー!先輩!私は吸血鬼なんですよー?」

男「知ってる、前に聞いた」

吸血鬼「でもでもでもー、なんだか信じてないみたいじゃないですかー」

男「信じてるよ、怪奇現象とか慣れてるから」

男(コンビニでのバイトの帰り、俺はバイトの後輩の家で飲んでいた)

男(と、言っても俺たちは未成年なのでノンアルコールの缶を開けて雰囲気を楽しんでいるだけだが)

吸血鬼「プハァー!缶ビールうめぇ!」グビグビグビ

男「……吸血鬼って言ったら普通は血だろ、飲むの」

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男(吸血鬼、血を啜り貪る不死の存在)

男(俺の目の前に居る彼女はそういった生き物らしい……が)

吸血鬼「血なんて吸ってる意地汚い奴なんて今時いませんよー」

吸血鬼「今は普通の食品からでも補えちゃいますし、何より血が無きゃ死ぬなんてことはないですからねー」グビグビ

男(俺の目の前で身も蓋もない事を言っている彼女が吸血鬼だ)

男「吸血鬼って言ったら高貴な存在ってイメージあるけど、お前からはそんな感じしないな」

吸血鬼「私はこれでもいい所の出ですよ?まぁちょっと色々あってこんなオンボロアパート暮らしですが」

男「今にも潰れそうなこのアパートか……何か幽霊でも出そうな雰囲気だけど」

吸血鬼「やめてくださいよ!私そういうの苦手なんですから!」

男「強い生物か幽霊ごときを苦手とな?」

吸血鬼「嫌なものは嫌なんです!」グビグビ

男(見た目もまんま外人さん、それにかなり美人)

男(そんな彼女が何故日本の、しかもこんな田舎のアパートに住んでいるのか)

男(俺は知らなかったりする)

吸血鬼「へへっ、おつまみのサラミもなかなかですなぁ」モグモグ

男「オッサンじゃねーか……ところでさ」

吸血鬼「何ですか?スリーサイズでも聞いちゃいます?」

男「いらん。お前って、なんでこんな生活してるの?」

吸血鬼「あー、どストレートに聞いちゃいますかそんなこと。先輩モテないでしょ?」

男「うるさいよ、話したくないならそれでいいけど」グビグビ

男(時を遡って、俺が引っ越してきてからしばらく経った後くらいか)

――――――
―――

座敷童「……」ツンツン

男「何?俺今忙しいんだけど」ピコピコ

座敷童「……」

男「大学休みの日はゴロゴロしてるくらいだったらバイトでもしろって?お前に言われたくねぇよ」

座敷童「……」フンス

男「色々出来るのは学生のうち……って言っても、金に困ってるワケじゃないし、何より俺は金使わないし」

座敷童「……」ゲシゲシッ

男「家の事全部やらせておいてよく言う……おい、今まで俺が何もやらないお前に代わって家の事全部やってたんだぞ」

座敷童「……」ホレ

男「ん?チラシ……ああ、新しくコンビニ出来るんだったな。求人募集してたって?」

男「……電話しておいたって……アホかお前!?本人が了承してないだろ!?」

男(どういうワケか、勝手に連絡された挙句、かなり話が進んでいたようで)

男(同居している座敷童の勧めでバイトをする羽目になってしまった)

男「……それにしても、アイツどうやって電話したんだよ」

男(念で相手に話しかけれるくらいだからそういうことはどうにでもなるのだろうか)

男「んで、ここが新しく出来たコンビニか……」

男(田舎も、それも田んぼだらけの道路端にぽつんと一軒建っているだけの建造物)

男(人……来るのかな)

「お、君。ひょっとして電話くれた家の人?」

男「あ、はい」

「いやぁ、助かるよ。新しくオープンしたばかりだというのに、応募が全然無くてねぇ」

「あ、私はここのコンビニの社員、店長だね」

男(この小太りで少し顔色がおかしい人がここの店長らしい)

「面接……は、いらなさそうだね。とりあえず人手が欲しいからね」

男「はぁ……」

「はい、コレエプロン。早速で悪いけど、今日から入ってもらえるかな?」

男「えぇ!?今日からですか!?」

「一人だと辛いものがあるんだよ。あ、マニュアル渡すから一応目を通しておいてね」

男「そんな無茶な」

「大丈夫、お客さんは全然来ないから」

男「人手が足りないなんて事なさそうじゃないですか……」

「私は商品を出すから、君はレジに立っててくれるだけでいいんだ。んじゃよろしく!」ダダダ

男「あ、ちょ……俺レジ打ちなんてしたこと無いんすけどー……」

男(そんな無茶振りをされて、レジに立たされた)

男(と、言っても)

男「……」



男「……」




男「……ホント人こねぇな」

ウィーン

男「!」

吸血鬼「おお、ここが!あの女のハウスね!」

男「え?……あ、えっと……」

「いらっしゃいませー!!」

「ほら、接客業なんだから君も声出して」

男「あ、い、いらっしゃいませ……」

吸血鬼「フムフム、流石に小奇麗ですね。求人募集もしてるみたいですし」

吸血鬼「あの、すみません。バイトの募集のチラシを見て来たんですけど……」

「採用」

男「ファッ!?」

男「あの、人手不足なのはわかりますけど、流石に二連続で面接なしなのはどうかと」

「いやいや、どうせこの先誰も来てくれないんだからサ。入れちゃおうよ」

吸血鬼「おお、あなたがここの店長ですか!よろしくお願いします!」

「よろしくね、はいコレエプロン」サッ

男「何もかもが早いよ」

男(突然告げられたバイト、突然現れた少女)

男(それを全部受け入れてしまう店長、先が不安だ……)

――――――
―――

男「そういや、ハイスピードで決まったな。俺たちの採用」

吸血鬼「そうでしたねー、店長さんに感謝です」

男「ウチの電話の件といい、お前の事と言い、なんか人が良すぎるんだよ店長」

吸血鬼「多分、私が人外って事に気が付いてすぐ入れてくれたんじゃないですかね?」

男「アレ?店長に吸血鬼って事話したの?」

吸血鬼「いえ、話してませんよ?」

男「じゃあなんでよ」

吸血鬼「なんでって……店長さんがそもそも人間じゃないんですから、気が付きますよ」

男「うぇえ!?店長人間じゃないの!?」

吸血鬼「明らかに小太りで顔色悪くて小柄じゃないですか……あの人は俗にいう小鬼ってやつですよ」

男「お前といい店長といいウチの同居人といい……この田舎に怪異がそんなに蔓延っていたとは」

吸血鬼「カモフラージュはしてるみたいですけどねー。純粋な人間の先輩には分からなかったんですね」フフン

男「誇らしげに言われてもねぇ」

男(俺の知らないところで普通に人間の生活に妖怪が紛れ込んでいる)

男(怖いというイメージは無く、どちらかというとワクワクしてくる)

吸血鬼「でも先輩って物好きですよねー、吸血鬼だってわかってる私の家にホイホイ上り込んじゃうんですから」

男「お前が無害なのは知ってるからな。警戒する必要もないでしょ」

吸血鬼「おやおや?それは遠回しに何か私に期待しちゃってるんですか?」

男「してないよ」

吸血鬼「むぅ、はっきり言われると逆に惨めですね」

吸血鬼「あと、先輩。さっき同居人とか言ってましたけど、彼女さんですか?」

男「どうしてそう思った?」

吸血鬼「その歳で同居とか言ったらそう考えちゃうじゃないですか」

吸血鬼「それとも、男友達と……キャー!」

男「弁明しておくが、同居人と言ってもペットみたいなもんだ、気にするな」

吸血鬼「ほほう、彼女さんではないと?」

男「……違う」

吸血鬼「その間が気になりますが……まぁいいでしょう」

吸血鬼「今度は先輩の家で飲みましょう!それで色々と証明されるハズです!」

男「やけに突っかかるなぁ……別にいいけど」

吸血鬼「ムフフ、ベッドの下とかテレビの裏とか調べちゃいますよー!」

男「別に構わないけど……」

男(そんなこんなでその日はお開きになった)

男(よくよく考えたら、夜に女の子一人暮らしの家に男を入れるなんて、彼女は無防備すぎる)

男(何考えてんだか……)

――――――
―――

男(あくる日、俺は家で家事をしている座敷童に代わって買い物に来ていた)

男(……特に用は無いけど、コンビニ寄ってくかな)

ウィーン

吸血鬼「いらっしゃいませー!あっ」

男「おっす、張り切ってるな」

吸血鬼「そりゃもちろん、稼がないと生きていけないですから!」

男(身よりの無い彼女は両親が残した遺産を切り盛りして生活しているとの事)

男(それを聞かされた時はビックリしたが、横に居た店長のむせび泣く姿の方が印象に残ってしまった)

男(そんな理由で、彼女は学校には行かずにこうしてほぼ毎日バイトに入っている)

男「店長にセクハラとかされてない?されてたら俺に相談しなよ」

吸血鬼「あはは、流石にそんなことはされませんよー」

「人聞きが悪いなぁもう」

男「おっとこりゃ失礼」

「お客さんは全然いないから問題ないけどサ」

「あ、佐藤さん。そろそろ上がる時間だよ」

吸血鬼「あ、はーい。それじゃあ失礼しますね」

男(彼女は臨機応変な時間帯で入れるから重宝されている)

男(幸い、ほかにもバイトを雇えたので。シフトには余裕も出来ている)

男(ちなみに、佐藤というのは彼女の名前だ)

男(見た目が外人さんで佐藤ってどうなのよって思うが)

吸血鬼「先輩、ちょっと待っててくれませんか?」

男「ん、分かった」

吸血鬼「それじゃあとっとと着替えてきますねー」



「モテるねぇ」

男「誰がですか」

「君の事だよ、この天然ジゴロ!」ツンツン

男「そりゃ不名誉な事で」

男(好かれているとは思うが、彼女と俺はそういう関係ではない)

男(もっと単純な、友達のような関係だ)

吸血鬼「お待たせしました!それじゃあ行きましょう!」

男「行くってどこへ?」

吸血鬼「この前約束したじゃないですかー!」

男「……俺ん家?」

吸血鬼「Yes!Yes!」

男「あー……マジか」

――――――
―――

男(結局押し切られる形で彼女を家に招き入れることにした)

吸血鬼「おお、かなり大きなお家ですね」

男「平屋だけどね。元々おじいちゃんの住んでた家だけど、今は俺が使ってる」

吸血鬼「こんな和風なんて思ってなかったです、もっと今時の家に住んでるものかと思ってましたよ」

男「この田んぼと畑だらけの場所に今時の住宅があると思いますか?」

吸血鬼「ですよねー」

吸血鬼「あ、日笠は玄関に置いておきますね」

男「うん、そうしてくれるとありがたい」

男(時々、普通に接していると忘れそうになるが、吸血鬼である彼女は太陽に弱い)

男(私服はなるべく肌が隠れるもの、出歩くときは日傘を常備している)

男(彼女曰く、苦手なだけで弱点ではないらしい)

吸血鬼「肌が弱いのでなるべく避けるようにはしていますが……ま、これは仕方ない事ですけどね」

男「付き合う上では重要なことだからね。俺は理解してるよ」

吸血鬼「あはは、ありがとうございます!」

男「ただいまー、友達連れてきちゃった」

座敷童「……」トットット

吸血鬼「あら、同居人ってこの子の事ですか?」

男「ああ、座敷童……ウチの守り神みたいなもんだ」

座敷童「……」ペコッ

吸血鬼「こんばんわ、吸血鬼の佐藤と申します。いつも先輩にはお世話になってます」ペコッ

吸血鬼「……守り神?ペットって言ってませんでしたか?」

男「……さて、何のことやら」

座敷童「……」ジー

男(突然の訪問者に文句ひとつ言わずに迎え入れてくれる、喋らないけど)

座敷童「……」ジーッ

男「目を合わせなければ何を伝えたいのかはわからなーい」

吸血鬼「こんな時間に突然お邪魔しちゃってごめんなさい、お詫びに私が晩御飯を作りますね!」

座敷童「……!」パァ

吸血鬼「あはは、今日は当番だったんですか?じゃあ一緒に作りましょう!」

座敷童「……」コクン

男「仲良くしてくれて助かるよ」

トントントン

コトコトコト

吸血鬼「おお、見事な包丁さばきですね」

座敷童「……」フフン


男(お互いに妖怪仲間と言ったところか、うまくやっているようだ)

男(逆に俺の居場所が無いワケだが)


ザクッ

座敷童「……ッ!」

吸血鬼「あっ!指が……」

男「どうした!?」バッ

吸血鬼「指を切っちゃったみたいです」

座敷童「……」ナミダメ

男「ああもう何やってんのよ、消毒消毒……」

吸血鬼「あ、それなら大丈夫ですよー」

男「ん?」

座敷童「……?」

なんでトリとsaga消えてるのよ

チュパッ

座敷童「!!」

男「こ、これは……!」

吸血鬼「んー」チュパッチュパ

レロレロレロ

座敷童「……!……ッ!」ビクンビクン

吸血鬼「あむ……チュッ……」


男(エロい)

吸血鬼「ぷはっ……消毒完了です!」

座敷童「……」ハァハァ

男「消毒て……お前、血を吸いたかっただけじゃなかろうな?」

吸血鬼「んな!失礼な!ちゃんと指を見てあげてください!」

座敷童「……」ツルリン

男「おお、なんか輝いてる……って、傷が塞がってる?」

吸血鬼「そうです!ちょいと魔法を使って治させてもらいました!」

男「へぇ、魔法なんて使えるのか。流石吸血鬼」

吸血鬼「吸血鬼だからって魔法が使えるわけじゃないんですけどねー」

吸血鬼「とりあえず小さな怪我ならこんなもんです!褒めて褒めて!」

男「おーよしよし、ありがとな。ウチのが傷物にならなくて済んだ」ナデナデ

座敷童「……」ナデナデ

吸血鬼「お二人でありがとうございます!」

吸血鬼「あ、あと」

座敷童「……?」

吸血鬼「コレステロールがちょっと高いですよ?スナック菓子ばっかり食べてたりすると体に悪いですよー」

座敷童「……」

男「そんなことまで分かるのか、食っちゃ寝を繰り返すなだってさ?」

座敷童「……」ゲシッゲシッ

男「まて!なんで蹴る!?俺を蹴るな!!」

……

吸血鬼「プハァー!一仕事終わった後のビールはやっぱり最高ですね!」グビグビ

座敷童「……」グビグビ

男「あー、ノンアルコールとはいえコイツに味を覚えさせないでくれよ……すぐ飲みたがるから」

吸血鬼「いいじゃないですか、別に法に触れるワケじゃありませんしー!」

座敷童「……」グビグビ

男「ジュース代とかお菓子代とかも馬鹿にならないのにこんなの教えたら……ああもう」

男(やっぱり一人暮らしの女の子)

男(料理は美味しかった……ウチの子のも負けてないよ?)

男「そういやさ、吸血鬼に血を吸われたら眷属にされるっていうけどさ、実際どうなの?」

座敷童「……」ビクッ

吸血鬼「眷属?そんなの出来る訳ないじゃないですか、膨張して伝わっただけじゃないですか?」

男「お、おう……」

座敷童「……」ホッ

吸血鬼「とは言っても、それは私の居た世界の話ですけどねぇ」

男「?」

吸血鬼「私って、別の世界から来たんですよ……って言ったら信じます?」

男「信じるも何も、目の前で座敷童と吸血鬼が座ってるのを見るとねぇ」

座敷童「……」

吸血鬼「あー、先輩からしてみればどちらにせよ非日常的な事ですよねぇ」

吸血鬼「私の居た世界の吸血鬼と、こっちの吸血鬼って少し違いがあるみたいですし」

吸血鬼「ま、大差はないんですけどねー」グビグビ

男「お前がいたっていう世界ってのはどんなところなんだ?」

吸血鬼「ここで言うファンタジックな……剣と魔法の世界ですね」

吸血鬼「私はそこで貴族の娘をやってましてね」

吸血鬼「箱入り娘で育てられてたんですよー」

男「剣と魔法の世界か……それでお前は魔法が使えるワケか」

吸血鬼「簡単な治癒魔法くらいしか使えないですけどねー」

吸血鬼「何年か前に大きな次元の揺らぎがあって、それに巻き込まれて……」

座敷童「……!」

吸血鬼「それでこっちの世界に一人で来ちゃったんですよー」

男「それじゃあ、前に言ってた両親ってのは」

吸血鬼「身も知らぬ私を引き取ってくれたお人よしな二人組がいましてねぇ」

吸血鬼「実の娘のように、可愛がって育ててもらいましたよ」

男「……」

吸血鬼「ああ、そんな顔しないでくださいよ!私は昔の事なんて気にしてないんですから!」

吸血鬼「もう亡くなってしまったんですけど、義理の両親には感謝しています」

吸血鬼「高校まで出してくれて、ここまで育ててくれて」グビッ

吸血鬼「……野暮ったい話ですみません」

男「いいよ、お前の事少しは知れたし」

吸血鬼「おやおや?口説いてるんですか?」

男「そんなワケないでしょうに」

吸血鬼「ありゃりゃ、残念」

男「でも、なんでこんな田舎に?引っ越してきたんだろ?」

吸血鬼「はい、安いアパートでも借りて慎ましく生きて行こうと思いまして」

吸血鬼「そしたら、妖怪が沢山いると噂のこの土地の噂を聞いて移ってきたんです」

男「で、あの今にも潰れそうなボロアパートか」

吸血鬼「あはは……そう言わないでくださいよ」

座敷童「……」

座敷童「……ちょっといいかな」

男「!?」

吸血鬼「喋った!?」

座敷童「……」

男「あ、ああスマン、お前が喋るのは珍しいから驚いただけだ。続けて続けて」

吸血鬼(この子喋れたんだ……)

座敷童「……あなたが次元の穴に落ちた時に、妖怪狐に会ったりしなかった?」

吸血鬼「狐……いえ、残念ながら」

座敷童「……そっか」

吸血鬼「あ、待ってください!10年とちょっと前の事ですし、ひょっとしたら忘れてるだけかも……」

座敷童「……」フルフル

吸血鬼「え?もういいって?どうしたんですか」

男「えっと、その妖怪狐ってのはコイツの姉貴みたいな存在だったみたいなんだ」

吸血鬼「その方も、ひょっとしたら私と同じで……」

男「そう、次元の穴にボッシュート」

座敷童「……」

吸血鬼「だったらなおさら安否が気になるじゃないですか!思い出しますので待っててください!」ウーン

男「あ、いや違うんだ。お前が会ってるハズが無いんだ」

吸血鬼「へ?」

男「その妖怪狐がいなくなったのは20年位前、俺たちが生まれる前の話」

男「もしかしてお前が20超えだったら……って思って聞いたんだよな?」

座敷童「……」コクン

吸血鬼「うう、お役にたてなくて申し訳ないです……」

男(誰のせいでもないのに謝ってしまう彼女、そこがいいのだが)

男「さて、飲んで食ったしそろそろお開きにしよう、いい時間だしな」

吸血鬼「あ、もうこんな時間ですか」

男「送っていくよ、夜道の一人歩きは危険だしね」

吸血鬼「そんな、悪いですよー。これでも私強いんですから!」

男「ここは守らせてくださいよ、後輩さん」

座敷童「……」セッセセッセ

男「ほら、片付けしておくから行って来いってウチのも言ってるし」

吸血鬼「あー、それじゃあお願いしちゃおうかな?」

男「がってん承知!」

……

吸血鬼「ふぅ……夜風が気持ちいいですね」

男「若干寒いくらいだけどね」

吸血鬼「……先輩って、あの座敷童さんと付き合ってるんですか?」

男「突然何を言い出すのやら」

吸血鬼「だってお互いの行動が夫婦っぽかったですし」

男「毎日一緒に居ると結構ああなるのよ」

吸血鬼「へぇ……毎日ですか、いいなぁ」

男「なに?お前も毎日俺と一緒に過ごしたいの?」

吸血鬼「そうですねー」

男「何それトキメいちゃう」

吸血鬼「私って、学生時代も種族の違いから自分である程度線引きしちゃってて」

吸血鬼「こうやって誰かに打ち明けたりすることが無かったんですよ」

吸血鬼「あ、もちろん両親には伝えましたけどね」

男(世間に紛れた妖怪)

男(迫害されているという事は無いにしろ、自分から身を引いている者も中にはいるだろう)

男(それが目の前にいる吸血鬼の彼女)

吸血鬼「ここにきて、私と同じような人たちと出会って、人間であるはずの先輩に打ち明けることが出来て」

吸血鬼「私なりの進歩……かな?」

吸血鬼「だから、お友達として。先輩の近くに居たいですね」

男「お友達……そうねぇ」

吸血鬼「ひょっとしてガッカリしてます?」

男「まさか」

吸血鬼「あはは、いつも適当にはぐらかしますね」

男「難聴で聞き流すよりはマシでしょ」

吸血鬼「どっちもどっちですよ」

男「ま、境遇はどうあれ」

男「ここの人たちは皆いい人ばっかりだよ」

男「今までみたいに線引きする必要もない、後ろ指刺すような人もいない」

男「理解ある人たちばっかりだから、何かあったら頼るといいよ」

吸血鬼「はい、頼らせてもらいます。先輩!」

男「真っ先に俺かい!」

吸血鬼「今のところ一番親しいのが先輩と店長ですから!」

吸血鬼「あ、もう着いちゃいましたね」

男「ウチからそう長い距離じゃなかったわね、んじゃそういう事で」

吸血鬼「また今度誘ってくださいね!」

男「おう、もちろん。おやすみなさい」

吸血鬼「はい、おやすみなさい!」




吸血鬼「彼女さんいるんなら、どれだけアプローチしてもダメな訳か……」

――――――
―――

男(たまたま二人のシフトが被ってた日)

男(彼女にとって人生(?)のターニングポイントを迎えることになった)

男「商品出しも終わってるし、発注も済んでる」

吸血鬼「しかし客がいない」

「おかしいねぇ、こんな田舎にコンビニが出来たらみんなこぞって来るハズなんだけど」

男「ぶっちゃけ近所にスーパーありますから、そこでなんでも手に入りますし」

吸血鬼「そこと比べたらここの商品割高ですし」

「ダメ!言わないで!ちょっと無理してるっての分かってるからサ!」

「むぅ、本部に連絡して趣向を変えてみるか否か……」

男「店長って小鬼なんですよね?よくバレませんよね」

「ああうん、これでも世の中沢山私たち側の味方って居るんだよ」

「ま、昔と比べたら数も減っちゃったけど……」

吸血鬼「お互い助け合って世の中渡ってるんですね」

「そゆこと、妖怪でも野たれ死ぬのは嫌だからサ」

男「んじゃ、そろそろ時間なんで上がりますね」

吸血鬼「私も失礼しまーす」

「はい、お疲れさん。あ、そうだ。ちょっと頼まれごとがあるんだけどいいかな?」

男「どうしたんすか?」

「調べてきてほしい事があるんだ、手間は取らせないからサ」

吸血鬼「?」

……

男「えぇっと、川原の先の……」ガサガサ

吸血鬼「ここに何かあるんですか?」

男「さぁ……店長も詳しくは知らないみたいだし」

男「ここら辺の妖怪のネットワークに何か引っかかるようなことがあったとか無かったとか」

吸血鬼「私たちじゃなくてもいいじゃないですか」

男「皆仕事で忙しいんだとさ」

吸血鬼「妙に所帯じみてますね」

男「まだ日が出ているウチに適当に切り上げよう、暗くなったら危ないからね」

吸血鬼「私は暗い方がよく見えますけどね」

男「ああー、そうだったわね」

男(やっぱり、こうして一緒に行動していると彼女が人外だという事を忘れてしまう)

男(確かにいつも日傘を持っていること自体がどこか煩わしそうだ)

吸血鬼「というより、よく分からない物を調べてこいって話も変ですよね」

男「あの人変にいい加減なんだよなぁ」

ピー ガガガガ


男「……?なに?」

吸血鬼「何か落ちてますね……モニター?」

男「どれどれ」ヒョイッ

男「なんだかやたらとスタイリッシュなデザインだな」

吸血鬼「コレは……ッ!」

男「何か知ってるのか?」

吸血鬼「見覚えがあります……私の家で」

男「え?お前の落し物かよ。なんでこんなところに」

吸血鬼「違います、私の……『元いた家の』物です」

男「それって……元いた世界のって事?」

吸血鬼「はい、よくこれを弄って遊んでいたのを覚えています」

男「こいつも次元を超えて飛んできたって事か……」

『お……さま……』

男「うわなんか映ったぞ!?」

吸血鬼「あ……」

『お嬢様……聞こえますかお嬢様……!』

吸血鬼「爺や!」

男「ウソ、なんか繋がった!?」

『お嬢様……おお、美しく育って……』

吸血鬼「爺や、コレは……どういう事ですか?」

『お嬢様、次元の壁を超えることが出来る方法を見つけたのです!』

『こうしてワタクシの話が出来るのも、その方法のおかげです!』

吸血鬼「それじゃあ……」

『はい!元の世界に帰ることが出来るのです!』

男(衝撃的で唐突で)

男(彼女を混乱させるには十分だっただろう)

男(自分が生まれた世界への帰還、自分が育った世界への別れ)

男(彼女の中で、揺らぎ続ける葛藤があったハズだ)

『変な犬耳の商人から話を持ちかけられて不安でしたが……さぁお嬢様、時間がありません。早く準備を』

吸血鬼「……もう少し、考える時間は無いのですか」

男「おいおい、どうした。元の世界に帰れるかもしれないんだぞ?」

吸血鬼「私は……」

『ぬぅ……1日程度なら時間は取れないことは無いでしょう……しかしお嬢様』

吸血鬼「……わかりました、では明日。また同じ時間に」

『お嬢様?お嬢様!』


プツン


吸血鬼「……」

男「……どうすんだよ」

吸血鬼「どうしましょう……」

……

吸血鬼「今日も送ってもらってありがとうございます」

男「それくらいならいいけど……」

吸血鬼「……どうするんだって顔、してますね?」

男「そりゃそうだろ、お前の今後の人生を決める事だ。就活とか結婚とかよりももっと重要なことだし」

吸血鬼「先輩は……どうして欲しいですか?」

男「俺に聞くのは意地悪が過ぎるぜ?」

吸血鬼「あはは……そうですよね」

男「月並みなことしか言えないよ、好きなようにやるとか、自分の意思とか、後悔しない選択とか」

吸血鬼「ですよねー……」

男「他人に選択を委ねるよりは自分で選んだ方がいいに決まってる」

男「それとも、俺が一声かけたら帰るのをやめてくれたり?」

吸血鬼「はい」

男「へ?」

吸血鬼「先輩が行くなって言ってくれれば、行くのをやめます」

男「……」

吸血鬼「私、先輩の一言が欲しいんです」

吸血鬼「私を……見てくれた、あなたの一言が」

吸血鬼「私、先輩の事が」

男「ゴメン、俺じゃ無理だ」

吸血鬼「……即答ですか」

男「養わなきゃいけないのが一人いるからねぇ」

吸血鬼「……返ってスッキリしました」

男「そっか」

吸血鬼「ホントは……ネタバラしを先にしておくと……私、帰る気は無いんです」

男「!どうして?」

吸血鬼「こっちの世界で過ごした時間の方が、私にとっては大切なんです」

吸血鬼「……両親や爺やには悪いですけど、やっぱり……ね」

吸血鬼「それに、兄弟は沢山いましたから、跡継ぎは困らないでしょうし、相続争いとかに巻き込まれたくないですし」

男「そう決めたんなら俺は何も言えん……」

吸血鬼「養ってもらえれば完璧だったんですけどねー」

男「俺はアイツで手一杯なのよん」

吸血鬼「……先輩」ダキッ

男「お、おい……」

吸血鬼「先輩、優しくて大好きです」

男「……」


ガブッ


男「ふぐぉ!?」

吸血鬼「ジュージュージュージュー」

男「ちょっ!?血吸ってる!?やめて!?やめてえええ!?」

吸血鬼(なんか突然腹が立ってきたので仕返しです)

……

吸血鬼「A型のドロドロの血!」ペッ

男「やめてください死んでしまいます」シオシオ

吸血鬼「これでお相子ですよー」

男「それで済むのなら……」

吸血鬼「……明日、爺やと話してそれで終わりにします」

吸血鬼「私の家はここなんだって、私の世界はここなんだって事、伝えます」

吸血鬼「こんなオンボロアパートでも、私の帰るところですしね」ニコッ

男(彼女の笑顔は眩しかった)

男(フったのが勿体ないくらいの笑顔だった)

――――――
―――

男(あの日から数日経った)

男(彼女はしばらくバイトを休むことになった)

男(心の整理が必要なのだろう。店長も察してくれていたみたいだった)

男「しっかし人来ませんねぇ」

「いっそカラオケ店にでも改装しようか」

男「大改装ですね……ってか個人経営じゃないんですから無理でしょ」

「私の会社は割と何でも手を出しているから、多少の融通は利くのサ」

男「なんじゃあそりゃあ」

「にしても、佐藤さん心配だね」

男「……元の世界に帰るのが、一番いい選択肢だったのかもしれませんからね」

「あの子が自分で選んだ道だから、私たちが何かを言う権利は無いけれど……」

「しっかりアフターケアしてやんなよ!」バシッ

男「痛いッ!俺にそんな権利無いですって」

「なに、フッたとはいえ弱った女の子。声をかければまたイチコロサ」

男「あんたなんか妙に言い回しが古いな」

男(とはいえ、やっぱり心配だ。バイトが終わったら連絡でもしてみよう)

……

座敷童「……」グビグビ

男「……なんで電話に出ないんだよ」

男(何度か電話をかけたはいいが、繋がらない)

男(何かあったのだろうか?まさか、自分たちに内緒で元の世界に……)


ピンポーン


男「ん?誰だこんな時間に?」

座敷童「……」タッタッタ

『うう……せんぱーい……』



座敷童「……!」

男「ぬ……この声は」


吸血鬼「せんぱーい!助けてくださーい……!」ガクッ

男「うお!?どうしたんだ一体!?」

吸血鬼「私の帰る場所が無くなってしまいましたぁ……」

男「はい?」

男(どうやらあのオンボロアパート、大家がいつのまにか夜逃げしたらしく、取り壊しが決定したらしい)

男(あの眩しい笑顔で答えた彼女の表情は絶望のどん底に叩き落されていた)

吸血鬼「うぉオン!!私は人間火力発電所だぁ!!」グビグビガツガツ

男「だからと言ってウチで暴飲暴食はやめてください」

座敷童「……」グビグビ

男「お前もな」

男(その後どうなったかと言うと……まあ簡単な話だ)

吸血鬼「先輩の家って広いですよねぇー」

男「そうね、広いわね」

吸血鬼「……」

吸血鬼「家賃入れますから私を養ってください!!」ドゲザー

男「やめて!見苦しいからやめて!」

座敷童「……」ニヤッ

男「ん……養われるのは私だ、お前はキリキリ働いてウチに金を入れろって……お前悪魔みたいだな」

吸血鬼「そうだ!いっそこの家を妖怪専門のアパートにしちゃうなんてどうですか!」

吸血鬼「広いし部屋も空きまくってるしピッタリだと思いますよ!お金取れますし!」

男「俺の手間が増えるだろう!」

座敷童「……その手があったか!」ピキーン!

男「何声出して納得してるんだよ!?」

吸血鬼「そうと決まれば早速準備です!座敷童さん!明日早速片付けましょう!」

座敷童「……」グッ

男「ああもう、勝手に決めて……」

男(そんなこんなで非日常的な彼女たちと暮らす毎日だ)

吸血鬼「今日は飲みます!とことん飲ませていただきます!」グビグビグビ

座敷童「……!」グビグビグビ

男「ま、仲良くやってくれれば俺はそれでいいけどさ……」

男「……楽しくなってきたし、店長でも呼ぶか」ピッポッパ

吸血鬼「ヒャッハー!焼肉から滴る血が美味いぜー!!」ガツガツ

吸血鬼「でも缶ビールのがやっぱり美味しい!」グビグビ

座敷童「……」グビグビグビ

男「あ、もしもし店長?今俺ん家で楽し事やってるんで来ますか?」

吸血鬼「グェー、もう一杯!」

座敷童「……」グェー

男「おいお前らホドホドにしとけよ!?」


男(こんな寂れた家に住む彼女たちと、俺が織りなす楽しい毎日)

男(いつまで続くか分からないけど、毎日楽しく過ごそうと思う)


男「……な?」

吸血鬼「あはは!」




男「吸血鬼がいる毎日」吸血鬼「血より缶ビールのが美味い!」

終わり

終わった
今回も即興だけど、前作よりもまとまりのない作品になっちゃったのが残念
続き物ってやつだから読みにくいし

あと、ほか作品と繋がりが無きゃ死んじゃう病は治さなきゃいけない



もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作を上に持ってくると増えすぎたら邪魔になるからやっぱりSS終わった後に載せた方がいいのかな
それともいっそ関連作以外削ったほうがいいのか

誤爆失礼

誤爆に答えていただきありがとうございます
分けた方がいいですよね、了解です

失礼しました

アドバイスありがとうございます
まだいろいろ書いていく予定ですのでブログの事はその時にまでに勉強しておきます

失礼しました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年05月18日 (水) 23:22:34   ID: 9f1A5unf

http://youkaidays.web.fc2.com/
何処かで似た話だなーと思ったらこれの小説版っぽくていいね

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