速水奏は癒したい 【SS冬祭Pドル21】 (45)


――事務所 朝

速水奏「おはようございます」

モバP(以下P)「……」

P「……ああ、奏か。おはよう」

奏「朝から忙しそうね」

P「うん…… 思ったより企画書がはかどってな」

奏「朝早くにきて仕事を始めたの?」

P「んー…… え?」

奏「……?」

P「ああ、いや、昨日から続けてまとめてる」

奏「……それは、徹夜ってこと?」


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P「いやぁ、徹夜で作業したわけじゃ」

奏「眼にクマこそできてないけど、さっきから受け答えがワンテンポ遅いの、気が付いているかしら?」

P「……はは」

奏「それに、ネクタイは変わっているけど、シャツは昨日のままね」

P「あー……よく見てるな」

P「うん、観察眼は幅を広げるのに役立つ。歌も踊りも演技もな。映画鑑賞の賜物かな」

奏「……ごまかそうとしてない?」

P「別にごまかしてるわけじゃない」

奏「徹夜は身体によくないって、Pさんの口から聞いた言葉だったわ」

P「それは奏が、映画を見るときについって話の時だろ」

奏「それとこれとは違うなんて言わないでしょう?」

P「いや、徹夜はしてないってのは本当なんだ」

奏「そう?」

P「ああ、どうしてもパフォーマンスが落ちるから、2時から5時の間は寝たよ」

奏「……」


P「納得はしてくれないか?」

奏「3時間じゃ、一日もたないわ。集中もできないし」

P「うん……正しい。……その、今日はハードスケジュールじゃないし、外回りの予定もないからさ。これやっておくと後で楽になるんだ」

P「俺だって社会人だ。心配するような体調管理は」コン

P「おっと」

カンッカラカラカラ…

P「いかん、空き缶が……」

奏「……コーヒーとスタドリ」カラン

P「すまん」

奏「拾うくらいいいけれど……」

奏「キスをした時に幻滅、なんてやめてほしいわよ?」

P「いまのところ予定はないよ」コン コン

奏「ふぅん」

P「……これで転がったのは全部か」コン


奏「私の立場から言えたものじゃないでしょうけど…… プロデューサーだって、身体が資本よ?」

P「ああ、わかってる。心配かけてすまない」

奏「……心配してるってわかってくれるなら、いいのかな」

P「それは、どうも……?」

奏「ふぅ…… レッスン行ってくるわ」

P「おう」

――レッスン室

ベテトレ「よし。じゃあ今日はここまで」

アイドル達「「「ありがとうございました」」」

ベテトレ「問題なく順調だな。このまま次のライブ目指すぞ。お疲れさま」

アイドル達「「「お疲れさまでした」」」

奏「ふぅ……」

奏「……」

奏(Pさんは……まだお昼じゃ、たぶん帰っていないでしょうね)


奏(仕事を止めて休んで、なんて簡単に言えるわけないし)

奏(仕事の話なら、私が言う筋じゃないのかもしれない)

奏(そもそも、私たちのために仕事をしてくれているのだから)

奏(……私が踏み込む領分じゃない)

奏(そう、納得するしか無い?)

奏「……」

奏(なんて)

奏「そんなわけない」

奏(映画でもそうでしょう?)

奏(行動した者に権利があるの)

奏(私はそう、あなたに教えられたはず。どんなことも)

奏(役者だって、歌手だって、アイドルだって)

奏(恋だって)


――休憩所

片桐早苗「仕事の疲れを解消させるには?」

奏 「ええ。何かいい方法を聞かせていただけたらって」

荒木比奈「ストレス解消じゃなくて疲れっスか」

奏 「そうね……癒され方、かしら」

早苗「ふぅん? 奏ちゃんも、けっこう疲れてるのねぇ」

三船美優「確かに、高校生とアイドルをやってるだけでも、だいぶ大変でしょうから」

比奈「あれ、奏ちゃん大学生じゃなかったスか?」

早苗「えー、OLから転身したんじゃなかった?」

奏 「分かってやってますよね…… そうじゃなくて」


早苗「大人の癒され方、とな」

奏 「その……私はいまのところ、休みと仕事のバランスは取れてると思います。でも、いずれ忙しくなった時とか……」

早苗「お姉さんたちがどんな癒しを求めているか聞きたい、ってことかしら」

奏 「ええ。大人である皆さんに聞ければと」

比奈「なるほど」

美優「私たちでよければ」

早苗「うふふ、分かったわ。頼りになる大人と見込まれての話だもんね」

奏 「ええ、助かります」

奏 (頼りになるとは言っていないけど……)

比奈「奏ちゃんが『頼りになるとは言ってない』って顔してるっスね」

奏 「!?」


早苗「大人の癒し方っていうとー」

美優「ショッピングは、やはり気分転換にいいですね」

比奈「書店巡り、いいっスよ」

早苗「それは18歳未満に勧められるやつかしら?」

比奈「どうっスかね~、ふふふ」

早苗「でもそっか、未成年となると一番簡単なお酒って選択肢はないわよねー」

比奈「こっそりやるにしてもアイドルはマズイっスね」

奏 「アイドルじゃなくてもダメなような……」

早苗「手近な所なら、マッサージ。効くわよ」

美優「同じ系統で、エステですかね」


比奈「そっちはまだお世話になったことないっスねぇ」

早苗「そりゃそうよ。まだハタチなったばかりでしょ?」

比奈「ス」

早苗「あと5年すればわかるわよ。ねー美優ちゃん」

美優「あ、あはは……」

奏 「美優さんも、分かるようになるの?」

美優「……そうですね。養生しておくに越したことはありません」

奏 「なるほど……」

早苗「そっちは、ってことは、比奈ちゃんマッサージはいったことあるんだ」

比奈「いったというか、やってもらったというか。修羅場にしてもらう裕美ちゃんの肩揉みは、身体に染み渡るっス」

早苗「中学生に何させてんの……」

比奈「いやその、あれで結構びっちりスケジュール管理されてまして……」

奏 (アメとムチだわ……)

早苗「アメとムチね……」


美優「音楽なんかは手が出しやすいでしょうか」

奏 「ああ、確かに。クラシックとか、環境音とか」

比奈「意外と激しいものもいいスよね。トランスとか、EDMとか」

美優「癒しもですし、活力を貰えますよね」

早苗「ちょい待って! 盛り上がるなら、ジュリ扇もってボディコン着て……」

美優「それは早苗さんの本職じゃないですか」

比奈「本職というか持ちネタというか」

奏 「ふふっ」

早苗「芸人みたいに言うなっての。アイドルよ、アイドル」

比奈「まぁ、アイドルソングでも盛り上がるのもいいもんっスよね~」

奏 「それも本職よ……?」


早苗「癒しの定番と言えば」

美優「やっぱりアレでしょうか」

比奈「ああ。そうっスねぇ」

奏 「あれ?」

早苗美優比奈「「「温泉(です)(っス)」」」

奏 「ああ、確かに」

美優「温泉、いいですねぇ。寒い時期になればなるほど」

比奈「ネタに困ったら、とりあえず温泉行かせとけってくらいスから」

早苗「なんか違くない?」

比奈「えへへ」

奏 「あの、温泉は気持ちいいと思うけど、大人になっても同じように感じるのかしら?」

早苗「同じように、ですってぇ?」

奏 「え、ええ」

早苗「よーし美優ちゃん言ってやんなさい」

美優「え、あ、あの」

早苗「この中じゃ年齢上の方だし、あなたも分かるでしょ……?」

美優「……奏ちゃん」

奏 「は、はい……」

美優「それはもう、染みるように……とても気持ち良くなります」

奏 「そ、そうなのね……」

比奈「これもあと5年スねぇ」


早苗「温泉とくりゃお酒よね」

比奈「行きつくところはそうなるっスね」

美優「結局、奏ちゃんには勧められないですね」

早苗「そうだ。なんで大人の、なの?」

奏 「それは、さっき」

早苗「うん、あたし達みたいな大人の癒し方をいずれ参考に、とは聞いたわ」

早苗「でも、奏ちゃん現役JKじゃない。そんなことしなくても、その年齢になれば自分に合った癒し方見つけるでしょ」

奏 「……世間話のひとつじゃダメかしら?」

早苗「ううん、いいわよ。なんで大人のなのかが引っ掛かっただけだから」

比奈「……あ。対象が自分じゃないってことスかね」

奏 「!」

早苗「自分のことじゃなかったら、お父さんかお母さん……あ、奏ちゃんのプロデューサーさんの話ってこと?」

奏 「!?」

美優比奈「あら」「ああ」

奏 「……」

奏 「……間違いではない、です、が…… その……」

早苗「んふふ、何で分かったかって? 女の勘よ」


奏 「あの……」

早苗「まぁ、気にしないでいーわよ。誰かにいうわけじゃなし」

奏 「……比奈さん、早苗さん、鋭いのね」

比奈「いやいや、そんな。なんとなくパターンっていうか」

早苗「うふふ、伊達にいい女やってるわけじゃないのよ」

比奈「またツッコミ待ちみたいな」

奏 「ふふ……でも、素敵だと思うわ」

美優比奈「あら」「おや」

早苗「……こりゃ、一本取られたかな」

美優「うふふ。でも、そういうことでしたか」

早苗「男の人の癒しかぁ。そうなると話が変わってくるわよねー」

美優「そうですね……同じような癒し、みたいなことってされるんでしょうか」

比奈「それ自体はあると思うっスよ。まぁ、いろいろと」


早苗「プロデューサーくんに癒し方をアドバイスしたいって感じ?」

奏 「それは……」

奏 「……ごめんなさい。自分でもどうすればいいのか」

早苗「?」

奏 「違うわ。どうしたいのか、かな。……それで話を聞きたかったの」

比奈「プロデューサーさんとなにかあった、とかっスか?」

奏 「その……大したことじゃないのだけれど……」

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早苗「はは~ん、なるほど」

比奈「じゃあ、そのプロデューサーさんを休ませるようにしたいとか、そういう」

奏 「……ええ、結果的にそうなれば」

奏 「でも、そうじゃなくて、なんて言えばいいのかな」

美優「奏ちゃん。それはたぶん……癒してあげたい、ということですよね」

奏 「え……」


奏 「……そうかもしれない」

比奈「これが乙女……」

美優「健気ですねぇ……」

早苗「あたしにもこんな時期が…… と、そういうのはいいか」

比奈「おっと、新しいパターン」

早苗「となると、何ができるかしらね~」

美優「男性にしてあげられること……」

比奈「こう言う時の定番なら…… デートに誘うとかどうっスか」

早苗「いいと思う。社会人になってから現役女子高生とのデートなんて、お金払わないとできないもんねぇ」

比奈「早苗さん、なんていうかその……」

美優「もうちょっとオブラートに……」


奏 「……デートは私もしたいけれど、いまは難しそうね……」

奏 「平日は私が学校なのと、休日もそれなりに仕事。私もいいだけ忙しくて」

美優「スケジュール合いませんか…… では、何か差し入れするのはどうですか?」

比奈「プレゼントっスね。とはいえ、何を」

早苗「あ、話題に出たけど温泉。行くのは無理だけど、温泉の元でも癒しにはよくない?」

奏 「ああ。入浴剤を入れて、たっぷりつかると気持ちいいわよね」

美優「ドラッグストアでそんなに値段もしませんしね」

比奈「シャワーじゃダメなんスよねぇ。湯船につかるって文化はたまらんスよ」

早苗「そこで奏ちゃんが、お背中流します、何て来たらもう」

奏 「ちょ、ちょっと、早苗さん」

美優「さっきから親父っぽいですよ……」


早苗「あら~? でも、スキンシップは男性の癒しよ」

奏 「え? それは……ハグとか?」

早苗「いやぁ、じゃなくて」ニヘ

早苗「揉むもの揉ませてあげれば一発で癒されるわよね」ぽよん

美優「さ、早苗さんっ!」

比奈「お酒入ってないっスよね?」

奏 「揉む……」

奏 「……あ、肩? 裕美ちゃんみたいに」

早苗「……」

美優「……」

比奈「い、意外と純情なんスね」

早苗「薄汚れたもんね、私らも……」

美優「ええっ、私もですか!?」


早苗「ね、ぶっちゃけどこまで体張れる?」

奏 「え?」

早苗「そのプロデューサーくんのために、どこまでしてあげられる?」

早苗「極端な話、温泉に行くなんてことになっても、一緒にお風呂入って一緒のお布団で……なんてできないでしょ?」

奏 「……え、う……」

比奈「おー、頬より先に耳が赤くなるんスね」

早苗「ま、未成年でそれは大問題だからお姉さんも勧めないけど……」

奏 「それは……その、私」

早苗「別にここまでやれ、って言うつもりないんだけどね。ねぇ、奏ちゃん」

早苗「何をしてあげたい?」

比奈「頼りになるか分からないけど、何かできないか私たちも考えるっス」

奏 「……」

奏 「私は……」


奏 「……」

奏 「すこしだけ、ゆっくりとした時間を過ごしてほしいわ」

奏 「ほんの少し息抜きをして、そこに私がいられたらって」

奏 「少しでも伝わったらいいなって、思うのよ」

奏 「プロデューサーさんがアイドル達を大切にしてくれるのと同じように」

奏 「私たちも、大切にしているんだって」

美優「……」

比奈「……」

早苗「あたしのプロデューサーにも聞かせたいこの話……」

美優「わかります……」

比奈「ここまで想われているとか、男冥利ってやつっスよ……」

早苗「じゃあ、話は簡単ね」

奏 「え?」

早苗「年下の女の子が自分の為に尽してくれようとする。その姿勢だけでも十分、癒されるもの」

美優「そうですね。奏ちゃんの伝えたいことは、ほんのささやかな物でも伝わるものですから」

奏 「……そう、かしら」

早苗「ま、ここはちょっと作戦立てましょ」


美優「お弁当はどうでしょう?」

早苗「ちょっと重すぎない?」

美優「そ、そうですか……?」

比奈「朝起きて作るのも大変そうっスね」

奏 「早起きくらいはいいけれど…… その、実は料理したこと、あまり無くて……」

美優「意外……というわけじゃないですけど、そうなんですね」

奏 「バレンタインのチョコ作り番組とかなら」

早苗「まぁ、学生だもんねぇ」

比奈「ひとり暮らしでも面倒っスからねぇ」

比奈「あ、じゃあお菓子っスよ。女子高生の手作りお菓子とか、そりゃあもう」

早苗「泣いて喜ぶわよね」

奏 「手作りはできなくもないけど……今すぐっていうわけにはいかないでしょう?」

早苗「そりゃあね。あー、目的としては今日の方がいいか」


比奈「じゃあむしろ、市販の方が良さそうっスね。身構えないくらいのお菓子で」

美優「では、コンビニスイーツくらいでどうでしょう」

早苗「あ、いいと思う。種類も多いし」

美優「あと、これは好みなんですが、紅茶はどうですか?」

奏 「お菓子に合わせるなら丁度良さそうね」

美優「お茶はリラックスの定番ですから」

比奈「いいっスよね。森でやったティーパーティー、あの雰囲気は正に癒しだったっス」

早苗「じゃあ、まとめると」

奏 「お茶とお菓子の差し入れして、一緒に味わう」

一同「……」

奏 「平凡かしら」

比奈「現実的というべきっスね」

早苗「なんかこう、+αを加えたいけど……」

美優「アルファ、ですか?」

早苗「奏ちゃんならでは、とまでは言わないけど。もうちょっと思い出に残りそうな役得があってもいいかなって」

比奈「奏ちゃんならでは……」

奏 「……」

早苗美優比奈「「「キス?」」」

奏 「そうなる、わよねぇ……」

比奈「気乗りはしない感じスか?」

奏 「気が乗るというかなんというか……」

早苗「あれ、キャラ付け? そういう方針だったっけ」

奏 「そういうわけではないのだけど……」

比奈「きっと本命にはできないやつっスよ」

奏 「なんでズバズバ当たるのよ!」

早苗「あー……」

美優「奏ちゃんって、本当に乙女なんですね」

早苗「あはは、美優ちゃんに言われたかー」

奏 「うぅ……」

比奈「あ」

比奈「思いついた……というかこれも定番のネタなんスけど」

早苗「ほう?」


奏 「……」

比奈「どうっスかね。奏ちゃんなら高いハードルじゃないと思うっスけど」

奏 「ええ……まぁ、そうね」

早苗「お姉さんとしてもギリセーフかな」

奏 「……けどそれ、私から誘うのかしら……?」

美優「それは、確かに……」

早苗「そこまでのプロセス、お得意の漫画作りでどうにかならない?」

比奈「自分の思い通りに描けるネームとは勝手が違うっスよ……」

美優「一言一句決めなくても、大まかなシナリオを用意できないでしょうか」

比奈「むむ……それなら……」


比奈「なんとか、こんな感じで軟着陸できそうかな、と……」

早苗「そう、ね」

比奈「保証をするものではないっスが……あと、奏ちゃんの演技力も……」

奏 「そこは私が上手くできなかったってことで。大丈夫、ありがとう」

奏 「……」

奏 「……これで、伝わるかしら」

比奈「それは……」

美優「ええ。大丈夫です」

奏 「……美優さん?」

美優「確かに、絶対ではありません。できないかもしれない。空回りして、癒せなかったという結果も、あるかもしれません」

美優「なにかを成し遂げた、は大切かもしれませんが……」

美優「労いとか、感謝とか、愛情とか。そうした想いを伝えたいことが大切であれば……その想いは、伝わります」

奏 「……」


美優「だって、私たちはいままでも、伝えてきたじゃないですか」ニコッ

美優「想いを伝えることは、アイドルの得意分野ですから」

奏 「……!」

比奈「美優さん……」

早苗「美優ちゃん……」

早苗「そうっいうっトコ!」

美優「え?」

比奈「魔性とはこういうことなんスねぇ……」

奏 「ポーズじゃなくこれが出来るのね……」

早苗「それが美優ちゃんの恐ろしいところなのよ……」

美優「え、えぇ……!?」


奏 「早苗さん。美優さん。比奈さん。ありがとうございます」

早苗「改まる必要なんてないって~」

奏 「最初は雑談のなかで、ちょっとでもヒントになるものが有れば、なんて思っていたけど」

奏 「もっと、最初から素直に言っていた方が早かったわね」

美優「その不器用さも、奏ちゃんの魅力ですよ。頑張ってください」

比奈「微力ではありますが、力になれたようならなによりっス」

奏 「いいえ。最初に早苗さんが言った通り」

早苗「ん?」

奏 「みんな、頼りになるわ」

早苗「あははっ」

比奈「へへ」

美優「ふふ。恐れ入ります。……あ、ついでと言ってはなんですが」

奏 「はい?」

美優「よければ成果をお聞かせいただけると……」

早苗「もしもーし、美優ちゃーん?」

比奈「結構したたかになったっスねぇ」


――夕方 事務所前

奏(……)

奏(大丈夫。上手くやれる……)

奏「すぅ……」

コンコンコン

奏「お疲れさま」ガチャ

P「ん。……あ、ああ奏、お疲れ」

奏「やっぱり、まだ帰ってなかった」

P「……ええと、あれだ、俺ももう少しで帰るけど」

奏「いいわよ。さすがに騙されないわ」

P「……」


奏「その代わり、というわけじゃないけど。Pさん、少し休憩しない?」

P「……ああ。そうだな、そうするか」

奏「ありがと。クッキー買ってきたの」

P「へぇ。それじゃ」

奏「あと、紅茶でもいかが? 給湯室借りて……」

P「え」カシュッ

P「……あ……」

奏「缶コーヒー……」

P「すまない。カップで優雅に飲むとまでは考えてなくて……」

奏「……大丈夫。コンビニで買ってきただけのものだから」


奏「ほらPさん、こっち」

P「え、ソファにか?」

奏「そう。休まる物も休まらないでしょう」

P「……あ、ああ。わかった」

ギシ

奏「さて、と」

ガサガサ

奏「はい。じゃあ、どうぞ」

P「いただきます。個包装になってるやつか」

奏「デパ地下とかだとちょっと大げさかなって」

P「そうかもな。……ん、美味い」

P「……これ、俺の為に買ってきてくれたってことか?」

奏「あら、気にしないで。私が食べたくなって、もしPさんがいたら一緒に、ってだけだから」

P「そうか…… とはいえなんか、お礼でもしないといけないかな」

奏「お礼、ね。何かお願いきいてくれたり?」

P「まぁ、そうだなぁ」

奏「ふぅん。なんでも?」

P「なんでもは厳しいだろ。無理のない範囲で」

奏「そう……」


奏「じゃあ、ひとつお願い」

ポンポン

P「?」

奏「どうぞ」

ポンポン

P「それは、その」

奏「私の膝じゃあ、不満かしら?」

P「いや、そんな…… でもな、奏」

奏「……お礼してくれるんでしょ?」

奏「来てくれないと……泣いちゃうかも」

P「はは、おいおい」


奏「冗談だと思ってる?」

P「え……」

奏「Pさんのことを、どれだけ……」

P「…………かな」

奏「……」ポロッ

P「えっ」


奏「う……っく……」グスグス

P「ちょっと、待って…… 奏、わかった。わかったから」

奏「……ぐすっ…… ふぅ……」

奏「じゃあ来て、Pさん」ケロッ

P「なっ……」

奏「いかが? 迫真だったでしょう」

P「……演技レッスンは、これ以上増やさなくていいな」

奏「あら、もっと磨かないと…… でも、悲しかったのは本当よ?」

P「え?」

奏「だってそうじゃない? 用意したものが潰されていくのは辛いでしょう」

P「それは……そうだな」

奏「だから、感情のきっかけにさせてもらったわ」

P「きっかけ……?」

奏「小さな感情を火種に、きちんと体に思い出させるの。泣いているときの強張り方。呼吸の仕方、息のつまり方。涙の流し方」

P「……もう、女優目指してもいいんじゃないか」

奏「ふふ……それもいいわね」


奏「ほら、プロデューサーさん」

P「……ああ」

ゴロ…

奏「……」

P「……」

奏「どうかしら?」

P「……感想を求められたってことでいいのか?」

奏「ええ」

P「うん、まぁ、心地いいよ」

奏「そう…… それ以外には?」

P「……」

P「どうしてこうなったかな、という気持ちがちょっとだけある」

奏「そうね。……実は私も、同じ気持ちがあるの」

P「やってる本人がそれを言うのか」

奏「ふふ。変よね」


P「どうして急に、こんなこと」

奏「……思いついたのは、今朝プロデューサーさんに会ってから、かな」

P「今朝……そうか」

P「じゃあこれは、自分が招いたことなんだな」

奏「そうかも」

P「奏に泣きまねまでさせてるんだから、世話ないか」

P「……誰の入れ知恵だ?」

奏「え」ギク

P「カマなんてかけてないぞ。奏にしては、やり口が強引」

奏「……」

P「はは……まぁ、誰でもいいか」

P(その女の武器を、こんなことで使っているところは、まだ安心できるよ。なんて)

P(言ったら、拗ねるかな)

P「……あー。眠りそうだ」

奏「そんなに心地いいなら、嬉しい」

P「贅沢だよ、これは」

奏「そう?」

P「そう。ファンに見つかったら何されるか分かんないくらい」

奏「……そうね」

P「……」


奏「ねぇ。頭なでさせて?」

P「……あまり髪型崩さないでくれよ」

奏「ええ」

ナデ…

奏「今日でちょっと分かったわ」

P「……何を?」

奏「自分のキャラっていうのかな」

P「へぇ」

奏「結局、癒し系じゃないのよね」

奏「我がままを言って振り回すのも、思いやるのもどっちも不器用」

奏「私があなたにしてあげられることはこれくらい」

P「……」


奏「子どもでいるのも嫌だけど、大人にもなり切れない」

奏「だからこうやって不器用にわがままを通すのかしらね」

P「……」

奏「早く大人になりたいわ」

P「不器用なままでいいよ。いまの、子どもでも大人でもない自分を、楽しんでおくといい」

P「いやでも大人になる前に」

奏「……難しいわ」

P「そうだ。……そうやって、ゆっくり大人になる」

P(……でも)

P(これ以上大人になられると)

P(ちょっと困るんだよなぁ)

奏「Pさん……?」

P(なんて、絶対に……)

P(言わないけど)

P(……)

P「……」スヤ…


P「……ん」

奏「ん。起きた? Pさん」

P「え…… あっ、何時だ!?」ガバッ

奏「きゃっ」ぽよん

P「……」

奏「……」

P(南半球……)

P「たいへんもうしわけありません」ズーン


奏「……ちょっとした事故……なら、許してあげる」

P「すまない」

奏「……寝てたのは、ほんのちょっと。5分くらい」

P「じゃあ、わりと一瞬か……」

P「ははは……いろいろあって、一気に目が覚めたよ」

奏「……」ジト

P「は……」


奏「Pさん」

奏「クッキー、食べてね」

P「あ、ああ。あとで頂くよ」

奏「だーめ。いま、ここで」

P「え」

奏「ひとつだけ」

奏「食べさせてあげる」


奏(……シナリオにはないけど)

奏(それでも……)

P「じゃあ、ひとつだけ」

奏「ふふ。素直で嬉しい」

奏(これくらいの役得は、許されるかな)

奏「……」パク

P「えっ」

奏「ん……」

P「か、奏」

奏「……」

P「……冗談とか、なんてねとか、無しか?」

奏「……」


P「奏」

奏「言わせないで、ね……」

P「……」

奏「……」

P「はぁ…… ……クッキーを貰うだけ、だからな」

奏「……」

P「目、瞑ってくれ」

奏「……」ギュ

P(どうか)

奏(どうか)

P(誰も入ってきませんように)

奏(誰も入ってきませんように)

 「……」

サクッ






おわり


もまけ



奏「ところで早苗さんが、揉むもの揉ませておけば癒されるって言ってたんだけど」

P「は? ……何吹き込んでんだあの人……」

奏「……それで……」

P「……」

奏「……んでみる……?」ムニュ

P「……」

奏「……」

P「いや、見つかったら職なくなるんで……」

奏「……」

P「……」

奏「……」

P「卒業、してからなら……嬉しいけど……」

奏「……ふぅん」

P「……」

奏「ふふ……ふ~ん」

P「すまん、忘れてくれ」

奏「いやよ」

奏「ふふっ」





おわり


お読み頂きありがとうございました。
奏に膝枕されて頭撫でてもらいながら「私にできることってこんなことぐらいなのね」って囁かれたいなーって思ってたらできあがりました。
ちょうど某所でやっている企画があったので便乗させていただきました。


過去の奏SSですよろしければどうぞ。

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このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 00:46:33   ID: S:G5p4am

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

2 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 02:30:44   ID: S:CgVTmE

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3 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 22:47:01   ID: S:Ts0PNz

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