注意事項
・武内Pもの
・武内Pもの
・アニメ開始前
武内P「」
小梅「い、息が止まっちゃってる……」
――どうしてこんなことになっちゃったのか……それを説明するには、プロデューサーさんとの出会いから説明した方がいい……かな?
白坂小梅
http://i.imgur.com/v7h5Na8.png
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1575794519
※ ※ ※
「うわぁ……」
出会った時、自然と感嘆の息が漏れちゃった。
今日は私たち5人をプロデュースしてくれる人との初顔合わせの日。
もう会ったことがある楓さんを除いたら、みんな緊張したり興奮したり。
だから楓さんにどんな人なのか訊くんだけど――
「おうてからのおうたのしみ。ふふっ」
こんな感じではぐらかしてばかり。
楓さんと初めて会ってから、まだ一週間しかたっていない。
私よりずっと年上で、背だってとても高くて、何より同じ人間とは思えないぐらい綺麗な顔をしてて――こんな別次元の領域に住んでいるような人と一緒にデビューするって聞かされて、最初は怖いと思っちゃった。
だから初めて楓さんがダジャレを言った時は理解が追いつかなくて、幸子ちゃんと一緒に固まっちゃったよ。
見た目は絵画から抜け出たように綺麗なのに、実はダジャレが好きで年少の私たちにも優しい。
そんな凄い人をモデルからアイドルに引き抜いたのが、私たちを今日からプロデュースしてくれる人なんだって。
「ええ~? ちょっとは教えてくださいよ楓さん! ヒント! ヒントだけでもいいから★」
そんな楓さんに不満――というには明るすぎる声で不平を鳴らしたのは美嘉さん。
楓さんと同じモデル出身で、見た目がすごく派手だったから出会った当初は緊張したけど、それも一瞬のことだった。
背が低い私たちに合わせて前かがみになると、優しくゆっくりと話しかけてくれる。
話が弾んでいくうちに、私や幸子ちゃんと歳が近い妹さんがいるってことを教えてくれて、ああ、だからお姉さんみたいで安心できるんだとわかった。
「ん~、それではヒントを出します」
爪先まで整った人差し指をピンと立てると、楓さんは笑いをこらえようとして――
「あの人は――ププッ」
――こらえきれずに吹き出した。
……うん。こんなに綺麗なのにお茶目だなんて、もしかして楓さんは最強なんじゃないかな?
楓さんのような人には、自分勝手で何もかも恨めしく思うタチの悪い幽霊だって敵わない。
多分、とり憑こうとした瞬間に成仏しちゃう。
「あの人は――あの人ってば――ズバリ! 小梅ちゃんが気に入ってしまう人でしょう!」
「……え?」
物思いにふけっていたから、思いもよらぬ名指しにポカンと口を開けちゃう。
私が……気に入る人?
それって……どんな“存在”?
まま、待ってください楓さん! 小梅さんが気に入るって……そ、その人は本当ににんげ――」
ガチャリ
「ヒィッ……!」
幸子ちゃんの言葉の途中で、ドアノブがゆっくりと回る音が、低く、鈍く響きわたった。
油を差していない機械のように、ぎこちなく幸子ちゃんがドアへと視線を向ける。
顔が蒼ざめながら引きつっているのにカワイイだなんて、幸子ちゃんはおいしいなあ。
少しずつ開くドアの向こうから、黒に近い紺色が姿を見せる。
ヒールをはいた楓さんでも大丈夫な決して低くはないドアを、“それ”はドアをくぐるようにして入ってきた。
廊下の照明を後ろに立つその大きな存在は影を伸ばし、小さな幸子ちゃんを暗闇で呑み込んでしまう。
「あわ……あわわわわわゎ!」
「のわっ!?」
生まれたての小鹿のように震えていた幸子ちゃんは、恐怖が限界に達したのか弾かれるようにこの場で一番パワフルな茜さんの背中に飛びついちゃった。
突然のことに体がのけぞった茜さん。
そしてのけぞることで、ちょうど部屋に入ってきた“それ”と目が合った。
「お……おおおおおおおぉ!!?」
「ひ、ヒイィィィィィ!?」
私たちより6センチも身長が高いのに、そこまでしないと目線が合わない巨大な存在に茜さんは驚きの咆哮をあげる。
突然の咆哮に幸子ちゃんはさらに恐怖でおののく。
なんて、カワイイ。
“それ”は茜さんと目を合わせたあと、確認するようにゆっくりと視線を部屋に巡らせ――ついに私と、目が合った。
「うわぁ……」
自然と感嘆の息が漏れちゃった。
“それ”は、プロデューサーという言葉から連想されるイメージと、かけ離れた存在だった。
一九〇に届くかもしれない背丈に、それに見合う肩幅と胸板。
獲物を何日かかってでも追いつめるに違いない、鋭い目つき。
眉間のシワは犠牲者の断末魔を聞くたびにより深く刻まれる。
黒に近い紺色のスーツは、血を浴びることでより黒に近づく。
私の反応が意外だったのかな。
“それ”――その人は不思議そうに首を傾げた。
その些細な動作から、なんとなくこの人の不器用さを感じて、第一印象が正しいんだと確信しちゃって――興奮しすぎて、つい口にしてしまった。
「フランケンシュタインだぁ……!」
今にして思えば、興奮していたとはいえ初対面の人にあんまりな言葉だったね。
プロデューサーさんは驚きで固まって、楓さんは肩を震わせて笑うのをこらえて、美嘉さんは慌てて私をたしなめてくれた。
……ちなみに幸子ちゃんは「やっぱり化け物なんですね!?」と茜さんにますますしがみつき、茜さんは幸子ちゃんにしがみつかれたまま「フランケンシュタインなんですか!? だから大きいんですね! これからよろしくお願いします!」と近づいちゃうもんだから幸子ちゃんがますますパニックになって――私のせいで初顔合わせは混沌としたものになっちゃった。エへへ♪
元担当5人衆(脳内設定)
http://i.imgur.com/zrFm86A.png
※ ※ ※
「プロデューサーさん……何してるの?」
初顔合わせから三週間ぐらいがたった頃。
ソファに座ったプロデューサーさんが、目の前の机に並べたノートPCや書類と睨めっこしてたから、隣に座りながら聞いてみた。
「白坂さん。今後の方針のことで、少し考え事をしていまして……」
「うまく……いってるんだ」
「……わかるのですか?」
「うん。なんとなく」
プロデューサーさんは自分から詳しいことは教えてくれない。
そのことに美嘉さんは不満そうにしているけど……うん、これはプロデューサーさんが悪いかな。
ちゃんと私たちがうまくいくように準備はしてくれるし、こっそり様子を見に来てくれる。
でも口に出して説明するのは最低限だから、こっちから察しないとダメになっちゃう。
……でも私は、私だけがわかるっていうこの状況が、なぜだか楽しく感じちゃう。
「プロデューサーさん……眉間にシワが寄ってたけど、深刻じゃなかったから。嬉しい悩み……って言うのかな?」
「……そうですね。驚きと戸惑いが大きいですが、喜ばしいことなので……嬉しい悩みというやつです」
最初は話すつもりはなかったんだろうけど、プロデューサーさんはパソコンの画面を私から見やすいように動かしてくれた。
プロデューサーさんに寄りそうように近づいてのぞき込むと、画面には見覚えのある写真が表示されている。
「これ……宣材のために撮った、私たちの写真……だよね?」
「はい。貴方たち全員が上手く撮れているのですが……写真を送った出版社から、これを来週の雑誌に載せたいと言われまして」
「宣材の写真を? それも来週の雑誌に?」
予想外の話にビックリする。
芸能界に入ったばかりの私だけど、この前の宣材の撮影はすごく上手くいったことはわかっている。
撮影一番手の幸子ちゃんは、初めてのスタジオだっていうのに自信満々で自分から勝手に色んなポーズをしたりして、最初は困っていたカメラマンさんも次第に「いいよー、その調子その調子。すんごいカワイイよー」と幸子ちゃんに好きなようにやらせて、それがうまくはまった。
続く茜さんは幸子ちゃんの撮影を見たせいで、撮影というものを勘違いしちゃった。その結果、躍動感あふれる実に茜さんらしい写真になったけど――
「これ汗……だよな。霧吹きとか使ったわけじゃない自然の汗……宣材の写真でこれって大丈夫ですかねプロデューサーさん?」
「……良い、笑顔ですので」
……うん。結果オーライ。
最初の二人が自由にしてくれたおかげで、私もリラックスして自然な撮影ができたし。
「ん~、いいよ小梅ちゃん。今みたいに静かに笑って……ン? 何か変な音が――あ、ゴメンゴメン気にしないで。続けよっか」
ラップ音が出てしまったのは、ご愛敬ということで。
私たち三人が撮り終わったら、元モデルの楓さんと美嘉さんの番。
最初はお手本になる二人をどうして最後にするんだろうと不思議に思ったけど、その答えは説明されなくても二人の撮影を見たらわかった。
「オ……オオゥ!」
「ふ、二人ともキレイですね。カワイさではボクの方が上ですけど!」
「…………カッコイイ」
場の空気を支配する力。
よそ見など許さない緊張感をスタジオに駆け巡らせたかと思った次の瞬間には、柔らかな笑顔で自分たちで創った冷たい空気をあっさりと氷解してみせる。
この場の支配者、創造主のような振る舞い。
残酷な正義、暖かな邪悪、純粋なる無知――見ていてどうしてかそんな言葉の羅列が私の脳をノックしていく。
これは、お手本になんかならない。
レベルが違い過ぎて真似しようという気はサラサラ起きないし、萎縮しちゃってカッチカチの撮影になるだけだ。
撮影の順番に気を遣ってくれたプロデューサーさんのおかげで上手くいったけど……まさかそれが雑誌に載るだなんて。
「雑誌で急に埋めないといけない枠ができてしまったそうで、そこで注目の新人アイドルユニットとして扱ってくれるそうです。これは高垣さんと城ヶ崎さんの知名度によるものが大きいですが、白坂さんたちが上手に撮れた結果でもあります」
「……うん。嬉しい」
アイドルとして活動を始めてまだ短いけど、こんなに早くわかりやすい成果が出てくるなんて……嬉しくって、力がこもっちゃう。
「あの……ところで白坂さん」
「ん……なぁに?」
頬をプロデューサーさんの腕にこすりつけながら見上げると、何だか困った顔をしている。
どうしたんだろう?
「こ、小梅ちゃん!?」
「……美嘉さん? どうしたの?」
プロデューサーさんが困った顔で言いあぐねてたら、入口の方で美嘉さんがどうしたのか顔を引きつらせている。
「ど、どうしたのって……と、とりあえず小梅ちゃんこっち来てくれる?」
「でも……今プロデューサーさんとお話中で」
「白坂さん。多分私が言いたかったことは、城ヶ崎さんが話してくれますので」
「……え?」
いったいどういうことなんだろう?
わからなかったけど二人がそう言うから美嘉さんに近づくと、美嘉さんは私の手を握って部屋から私を連れだした。
……部屋から出る時、美嘉さんがプロデューサーさんを睨んだのは気のせいかな。
「……小梅ちゃん。アイツに変な事されなかった?」
「……変な事って?」
別の部屋に入ると、美嘉さんは心配そうに私の眼をのぞき込みながら訊いてきた。
アイツっていうのはプロデューサーさんのことなんだろうけど……変な事って何?
「え……えっと……無意味にベタベタと体を触られたり、変な目でじっとりと見てきたりとか」
「……? ううん、そんなこと無いよ」
「じゃ……じゃあ小梅ちゃん、アイツにもたれかかりながら腕に抱きついてたけど……別に無理矢理じゃなくって、自分からしてたの?」
「うん」
どうやら私がプロデューサーさんにくっついていたせいで、美嘉さんに誤解されちゃったみたい。
プロデューサーさんにまた悪いことしちゃった。
「よ、良かったぁ……」
「ご、ごめんなさい。心配かけちゃって」
「ん、いいのいいの。アタシが勝手に心配しただけだから★ アイツいまいちどんな奴なのかわかんないから、もしかしてってアタシ不安になっちゃって……小梅ちゃん、アイツにくっついて怖くないの?」
「え?」
プロデューサーさんが、怖い?
あんなに体が大きくって、不器用で可愛らしいプロデューサーさんが?
「ううん、まったく」
「そ、そうなんだ。でもホラ! くっつくのは変なんじゃない?」
「変……?」
プロデューサーさんにくっつくのが変?
「美嘉さんは……タイラントやレッドピラミッドシングに、思いっきり体重をかけて甘えたいって思ったことが無いの?」
「……うん、無いから。白くて大きな犬に思いっきり抱きつきたいってなら考えたことあるけど、それは無いから」
「い、意外」
「それは私のほうだよぉ小梅ちゃん」
なんだか泣き出しそうな声と共に抱きしめられる。
深刻なレベルで心配されてたことに、ようやく実感がわいてきた。
「……ごめんなさい、美嘉さん」
「いいの、謝らなくて。誰だって人とちょっと変わったところは一つや二つはあるけど、そのことで謝る必要なんかないんだから★ あ、でもね!」
美嘉さんは抱きしめるのを止めると、私の肩に手を乗せたまま真剣な目を向けてくる。
「小梅ちゃんはもう年頃の女の子なんだから、男の人に抱きつくとかそういうことを気軽にやっちゃダメなんだよ?」
「……もしかして、プロデューサーさんが困ってた理由って」
「ふーん、困ってたんだ。まあ最低限の良識は持ってるわけか」
「あの……美嘉さん。ひょっとしてプロデューサーさんのこと、嫌い?」
私や幸子ちゃんにはすごく優しいのに、プロデューサーさんの話になると妙にトゲがあるような気がする。
部屋を出るときにプロデューサーさんを睨んだのも、気のせいじゃないみたい。
「嫌いっていうか……信用できないというか……もっとしっかりして欲しい? ううん、しっかりしてるんだから堂々として欲しい――かな?」
困ったようなその笑い方は、見とれてしまうぐらい美しくて、他人を慈しむことができる人しかできないものに思えた。
「アイツは……多分小梅ちゃんも気づいていることもあるだろうけど、気づいていないこともたくさんあるぐらい、アタシたちのために入念に準備してて――それを腹立たしいことに、ほとんどアタシたちに説明しないのよ」
「み、美嘉さん……?」
女神のようなほほ笑みから一転。
私の肩に置く手に、思いっきり力が込められるんじゃないかと心配になる不穏な気配を漂わせながら、美嘉さんはこれまでこらえていたんだろうプロデューサーさんへの不満を一気に口に出し始めた。
「別に自分の仕事を一から説明して自慢しろだなんて言わないわよ? でもしっかり裏方の仕事をしているのを見せて、アタシたちに安心させるのも仕事でしょあの口下手男は! 年頃の女の子の扱いが下手すぎるでしょ! 茜ちゃんは思いっきり突っ走るタイプだし幸子ちゃんは自分はカワイイからって自己暗示かけているし小梅ちゃんはアタシが見ているけど、一歩間違えればどうなるのかわかんないのよ年頃の女の子は! アタシたちの事は楓さんと二人で飲んでいる時に聞いているらしいけど――っていうかアイツ楓さんにはしっかり時間割いているじゃん! 無理矢理だけど! 楓さんに居酒屋に引きずられてだけど! 何が腹立たしいって聞いてよ小梅ちゃん! この前のヘレンさんのライブで前座したけど、アタシってばガッチガチに緊張している幸子ちゃんにいつもよりちょっと多く話しかけるだけのアイツに頭にきて文句言ったのよ! でもね……ライブが終わってからヘレンさんが教えてくれたんだけど、アタシと幸子ちゃんが気負っているから、一言二言で結構ですから話しかけて緊張をほぐしてもらえませんかって……あのでっかい体を折り曲げて丁寧にお願いしてたそうなのよ! 実際ヘレンさんの世界パワーで緊張とかどっかいって、ダンスに集中できたよ!? アイツがアタシたちの異常に気づいて、適切な対処をしてくれたおかげでね!? そんなアイツにアタシは文句言ってたの! 謝りたいけどタイミングはわからなくて、でも謝らなきゃって部屋に入ったら今度は小梅ちゃんをはべらせててっ――もう、もうアイツは!! 勘違いさせんな! しっかり仕事してるんだから自信もって堂々としてなさい! 信用していい奴だってのは頭でわかってるんだけど、こんなんじゃ信用できないじゃん! そもそもこっちは信用じゃなくて信頼したいのに~~~っ」
………………………なんて、情念。
まさか出会って三週間で、こんなにもプロデューサーさんへの不満を募らせていただなんて。
でも、これって――
「――ってごめんね小梅ちゃん。急にまくしたてちゃって。それもアイツのこと気に入っている小梅ちゃんに、アイツの悪口言っちゃって」
「ううん、いいよ。それに悪口じゃなかったと思うし」
「……まあ、アタシだって別にアイツのことが嫌いってわけじゃないから」
「うん、よく見てるよね」
「え?」
「え?」
心底不思議そうな美嘉さんの顔に、私もきょとんとしてしまう。
「アタシが……アイツを良く見てる?」
「うん。だってプロデューサーさんを好きな私と同じぐらい……ひょっとしたらそれ以上にプロデューサーさんのこと、よく見てると思うよ」
「イヤ――――――――――違うから、違うから」
「美嘉さん?」
胸に手をあてながら、美嘉さんは小刻みに眼の焦点を揺らし、否定の言葉を繰り返す。
「不器用だけど一生懸命で……頑張っているけどそれを必要以上に見せようとはしなくて……嘘なんかつかなくて、真面目で……自分が悪いわけじゃないのに言い訳しなくて……思ってないから。コイツはアタシがいないとダメだなんて、思ってないから」
「――美嘉さん?」
「ひゃっ!?」
さっきまでとは別の意味で不穏な気配を漂わせ始めた美嘉さんに、つい冷めた眼を向けてしまう。
それに美嘉さんは、ついに汗をかきはじめるほど慌てて反応する。
「美嘉さん、ひょっとして……」
「違うから! 小梅ちゃんは今考えているのは誤解だから、きっと! とにかくアイツと仲が良いのはいいけど、小梅ちゃんは年頃のカワイイ女の子という自覚を持ってね! じゃあね!」
問い詰めようにも美嘉さんは慌てて否定すると、勢いよく部屋を飛び出て――
「キャッ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
誰かと廊下でぶつかったみたい。
聞き覚えのある声にまさかと思って部屋から顔だけのぞかせると、案の定そこにはプロデューサーさんがいた。
――美嘉さんの細い肩をしっかりと抱きしめるプロデューサーさんがいた。
美嘉さんはというと、後ろ姿からでもわかるぐらい顔を真っ赤にしている。
「城ヶ崎さん。お怪我はありませんか?」
「あ……その……」
「どこか痛みでも?」
心配するのはいいけど……肩から手を放せや。
なんだか見ていて、これまでに経験の無い怒りに似た何かが沸々とわいてくる。
「ぼ……」
「ぼ?」
「ボンバーーーッ!!?」
両肩に手を乗せたまま、怪我が無いか心配で目を近づけてくるプロデューサーさん。
そんなプロデューサーさんのせいで美嘉さんは耳も首筋も真っ赤に染め上げ、湯気が出てくるんじゃないかと思った瞬間。
茜さんがよく口にする言葉を叫びながら、元気よく走り去ってしまった。
「怪我は……無いようですね。良かった」
「……良くないよ」
何が起きているのかよくわかっていないプロデューサーさんは、とりあえず美嘉さんが元気なので一安心しているのに、思わず突っ込んじゃう。
もしかして私は、自分の手で最強の敵を生み出してしまったかもしれない――
――その日を境に、美嘉さんのプロデューサーさんへの態度がガラリと代わってしまった。
「ねえ、アンタ。ブログ用の写メチェックしてくんない★」
「はい。それでは失礼しま――」
「なになに~? どうしたの急に固まっちゃって★」
「その……少し過激すぎるように思えます」
「え~どこがー? そんなことないっしょ~」
「……肌を、見せすぎではないかと」
「ウソ~、そう思っちゃうんだー。でもそれってそこばっか見てるからじゃないのぉ~? フフッ★」
「そ、そのようなことは決して!」
「んー、まあアンタがそう言うならこの写真あげるのは止めとこっか」
「そうしていただけると助かります」
「でもせっかくいい具合に撮れたのにもったいない――アッ、そうだ★」♪~
「誰かに送るので――城ケ崎さん?」♪~
「はい、アタシの自撮り★ 変な事に使っちゃダメだからね~」
「城ケ崎さん!?」
プロデューサーさんとの距離が、近い。
美嘉さんはプロデューサーさんに刺々しい時があったから、一緒にいる私としては仲が良くなるのは嬉しいんだけど――距離が、近すぎる。
「……美嘉さん」
「ん、どうしたの小梅ちゃ――って本当にどうしたの小梅ちゃん?」
「し、白坂さん?」
私はいったいどんな顔をしているんだろう?
美嘉さんだけじゃなく、プロデューサーさんまで驚いた顔をしちゃってる。
「何だか最近……プロデューサーさんとの距離が、近すぎない?」
「……あのね、小梅ちゃん。コイツって自分から年頃の女の子との距離を詰められると思う?」
「城ケ崎さん?」
「……ううん」
「白坂さん!?」
プロデューサーさんがショックを受けているけど、今は美嘉さんが相手。
だから待っててねプロデューサーさん。
「これから長い付き合いになるんだから、もうちょっと仲良くしないといけないでしょ? でもコイツには鉄壁の守りがあるから、こっちからちょっと距離を詰めすぎるぐらいでちょうどいいのよ」
美嘉さんの言葉は一理ある。
でも――
「だからってあんな風にプロデューサーさんをからかうのは……」
「い、いいじゃないあれぐらい!」
「だからってエッチな写真見せちゃうのは……」
「え、エッチ!? ちょっとそれは言い過ぎじゃないかな~★」
「眩しい太ももが写っているのに?」
「う、写ってたかな?」
「それに谷間が作れるからって……ずるい」
「あー、そろそろ衣装の打ち合わせの時間かなー? ちょっと早いけど、早目の行動が大事だから行ってきまーす!」
だんだん視線を合わせなくなってきた美嘉さんは、今行くと20分前に着いてしまうのに足をバタバタさせながら去って行ってしまった。
これでここに残っているのは、私とプロデューサーさんだけ。
「あの……白坂さん?」
「……別に」
つい、プロデューサーさんを恨めしい目で見てしまうけど、困った顔をするプロデューサーさんにばつの悪さを感じて、視線を逸らす。
いったい私は何が気に食わないんだろうか。
プロデューサーさんは今、困っている。
そうだ。私が抱き着いたりした時もこんな風に困っていた。
じゃあ美嘉さんにからかわれていた時はというと、その時も困っていたけど――困る以上に、焦ってた。
試しにプロデューサーさんに抱きついてみる。
「どうしたのですか?」
私がなぜこんなことをするのかわからなくて、やっぱり困っているだけだった。
これが美嘉さんだったら、すっごく慌てて止めさせようとするくせに――
「プロデューサーさんの……」
「白坂さん?」
「プロデューサーさんの……おっぱい星人っ」
「――ッ」
八つ当たりだってわかっているけど、当たらずにはいられなかった。
ショックで硬直しているプロデューサーさんを残して、私は部屋を出る。
※ ※ ※
「おっぱい……やっぱり、おっぱいが必要なんだ」
おっぱいさえあれば、プロデューサーさんをドキドキさせることができる。
私におっぱいがあれば、美嘉さんからプロデューサーさんを取り戻すことができる。
そう、敵は美嘉さんだ。
控室の中で静かに一人で、敵との戦力差を考える。
私は65センチ、美嘉さんは80センチ。
70の壁すら突破できない私に対して、相手は80の大台だ。
「いや……待って待って」
単純に考えると15センチ差だけど、私の方が体が細いから15センチより差は小さい。
決して絶望的な差じゃ――
「……本当に15センチ差なのかな?」
疑問をより正確に言うなら――美嘉さんは本当に80センチなのかな?
おっぱいを分類するなら、美嘉さんは多分巨乳という絶望的な位置にカテゴライズされる。
美嘉さんのアンダーが、バスト80センチで巨乳になれるだろうか?
つまり、美嘉さんは――
「おっぱいを――逆サバ、してる……だと?」
導き出してしまった答えで頭に鈍痛がはしり、体がグラリと傾いちゃう。
気づけば肩で息をしていたけど、それも当然だと思う。
だって――70すら超えられない私を80台の頂(いただき)から見下ろしながら、実はまだ本気じゃなかっただなんて……こんなの、フリーザが変身して強くなることを知ったクリリンじゃない!
「だ、大丈夫……私は……まだ12歳……これから、これから大きくなる――」
「あれ、どうしたんですか小梅さん? 顔色が悪いけど、どこか具合がおかしいんですか?」
「……幸子ちゃん」
冷や汗までかきながら必死に自分に言い聞かせていると、控室に入ってきた幸子ちゃんが心配してくれた。
幸子ちゃん――私より一歳年上で、私と同じ目線の高さで――目線を少し下げると、そこには確かな膨らみがある。
身長は同じなのに、そこには10センチ近いどうしようもない裏切りがあった。
「こ……小梅さん。何をするんですか?」
気づけば幸子ちゃんの胸を揉んでいた。
柔らかくはない。その事実に一瞬安心したけど、すぐに気づけた。これはブラジャーの硬さだ。
――幸子ちゃんは、私がまだ着けていないブラジャーを当たり前のように着けている……ッ
まだだ……まだ、幸子ちゃんが本当より大きなブラジャーをつけていて、中身がスカスカな可能性もある。
外して……外して……はず……え?
「あの……本当にどうしたんですか小梅さん? 何をしてるんですか?」
………………………ブラジャーの、外し方がわからない。
今指にかけてる留め具の名称すらわからない。
持つ者と持たざる者の、圧倒的な差がここにあった。
「……ヒック……幸子ちゃん……グス」
「こ、小梅さん!? どど、どうしたんですか小梅さん!? せっかくボクの次にカワイイのに、泣き顔だなんてダメですよ。何があったんですか?」
「幸子ちゃん……幸子ちゃんの」
「……ん? ボクが、どうし――」
「幸子ちゃんの裏切者ぉ――!!」
ブラジャーの外し方なんて、もうどうても良かった。
ブラジャーの中に指を入り込ませる。
ブラジャーの中は空洞ではなく、確かな柔らかさを私の指に伝えてくる。
「ヒャンッ!?」
指が冷たかったからか、こそばゆいからか、幸子ちゃんがカワイイ声をあげた。
その可愛らしさは私の暴走に拍車をかける。
これが――おっぱい。
私に無いもの。プロデューサーさんが求めるもの。
これさえあれば……これさえあれば!
「や、止めてくださアンッ! お、怒りますよ小梅さんンンッ、おこ、怒らないから~~~もう、もう止め――」
「アーッ!!!」
――
――――
――――――――
「――ハッ」
いったいあれからどれだけ揉み続けちゃったんだろう。
我に返った私の前には、グッタリと横たわる幸子ちゃんのカワイイんじゃなくてエロカワイイ姿があった。
「これは……私が?」
何てことをしでかしちゃったんだろう。
時々思い出したかのように痙攣する幸子ちゃんの痛ましい姿は、私が原因なの……?
犯行に使われたかもしれない凶器――私の手を見つめて自問自答する。
――うん、犯人は私だ。
記憶はあいまいだけど、柔らかくて吸い込む気持ちのいい感触がまだ指に残っている。
――これが、おっぱいの力。
幸子ちゃんのおっぱいはまだ美嘉さんには届かないけど……13歳でこの大きさなら、数年もすれば美嘉さんが相手でも勝ち目があるかもしれない。
それに対して私は……ブラジャーを着ける必要すら無い。
なんだか、涙が出てきそう。
「う、ううぅ……汚されました。お嫁にいけません」
いけない。
泣きたいのは私より幸子ちゃんの方だった。
「ご、ごめんね幸子ちゃん。私――」
「これはもう、プロデューサーさんに責任をとってもらわないと……」
……は?
「幸子ちゃん、なんでそこでプロデューサーさんが出てくるの?」
「……へ? そりゃあ決まっているじゃないですか小梅さん」
幸子ちゃんは私に怒った様子を見せることなく立ち上がると、カワイらしく胸を張って――このサイズはカワイくない――自信満々に言ってのけた。
「ボクがお嫁に行けなかったら、ボクに入れ込んでいるプロデューサーさんが可哀想じゃないですか! だから仕方なく、仕方な~くプロデューサーさんのお嫁さんにボクがなってあげるんです! まあもったいないにもほどがあると思いますけど、プロデューサーさんはこのカワイイボクのために頑張ってくれていますしね! 幸運なぐらいがちょうどいいでしょう!」
身近な所に、伏兵がいた。
美嘉さんだけでも強敵なのに、侮ることなどできない新たな強敵がさらに一人。
これ以上敵を増やすわけにはいかないから――今ここで、決着をつけないと!
「私、だから」
「え……?」
「プロデューサーさんと……け、結婚するのは……私だから」
そう――結婚するのは私だ。
さっき美嘉さんに抱いた怒りに似た気持ちが何なのかわかった。
幸子ちゃんの、プロデューサーさんのお嫁になる発言を聞いた時と同じ気持ちだったから。
これは――嫉妬と、独占欲。
プロデューサーさんは――私のものだ!
「フフ―ン? 面白い冗談ですね」
「冗談じゃ……ないよ」
『……』
静かに私たちの間で火花が散る。
もう、衝突は避けられない。
第二ラウンドの……始まり!
※ ※ ※
「こんにちはー! 元気ですかーって!? 何してるんですか二人とも」
「ひゃ、ひゃかねさん?」
激しい……戦いだったよ。
頬をひねり、脇腹をくすぐり、首筋を息を吹きかけ――私たちは全力で争い合った。
でも力が拮抗してるから戦いは膠着状態になっちゃって、お互い頬を引っ張り合っているところに茜さんが来ちゃった。
目の前の血で血を洗うような惨劇に、茜さんは目をつむって考え込むと――
「なるほど……スクラムですか!」
「え……?」
予想のはるか斜め上を行く回答を出しちゃった。
スクラムって……あのラグビーのスクラム?
思い出される日本と南アフリカの試合。
一生懸命抵抗する日本を、グイグイと押し込む南アフリカの人間を止めてしまったかのような力に言葉を失った。
今、あの時の日本と南アフリカ以上のパワー差が――
「うおおおおぉ!! 燃えてきました! 私も加わります!」
――私たちに襲いかかる!
「ま、まずいですよ小梅さん。ああなったら口で言ってもわかってくれません」
「で、でも。流石に二人がかりなら、抵抗ぐらい……」
「――いいですか小梅さん。ボクたちと茜さんには6センチの身長差があります。つまり!」
「……ッ!? 6倍のパワー差が!」
それは絶望的と言っていい差だった。
でも……これぐらいじゃ折れていられない。
私はこれから――美嘉さんとの15センチ以上の差を埋めなければいけないんだから……っ
「幸子ちゃん。私たち二人が力を合わせれば、2×2で4倍の力になるよ!」
「た、確かに!? でもそれじゃ6倍には――」
「ここに“あの子”を加えれば3人。4×3で12倍のパワーに……ッ」
「え? “あの子”? “あの子”って何ですか? どこを見てるんですか小梅さん、ねえ!? 前々から薄々嫌な予感がしてたんですけど、もしかして小梅さんは――」
「そちらのウォーミングアップはもう終わっていますね!? それじゃあ行きますよ!」
「幸子ちゃん、前を見て……っ」
「う、うう……こうなりゃヤケです! ヤケ幸子です!」
今にも泣き出しそうな幸子ちゃんと肩を組み、二人がかり――ううん、三人で茜さんとスクラムを組む。
いくら茜さんが強くても、こっちは12倍のパワーがある。
負けるはずが――
「ボンバーーーッ!!!」
負けるはずが……なかったのに。
宙に舞いながら、どうして負けたのか考える。
あ……そうか。
私と茜さんの身長差は6センチ。幸子ちゃんと茜さんの身長差も6センチ。
つまり――6×6で36倍のパワー差があったんだ……
「無念……」
「ぐふぅ……」
「うおおおおおおおぉ!! のーびーのーびー!!!」
茜さんの勝鬨を聞きながら、私たちは気を失っちゃった……
※ ※ ※
「……よく考えたら、楓さんはおっぱい大きくない」
「気絶から目覚めるや否や、突然どうしたんですか?」
幸子ちゃんに呆れられているのか心配されているのか判断しにくい目を向けられたけど、何もおかしいことはない。
人は眠っているうちに情報を整理するって聞いたことがある。
そして気づけた――プロデューサーさんが一番弱いのは、楓さんだ!
「……確かにプロデューサーさんはボクのプロデューサーさんだっていうのに、楓さんの押しにすごく弱いですねぇ。いくら楓さんが大人っぽくてキレイで相手を絡めとるのが上手くて人間的に魅力にあふれているからって、世界で一番カワイイボクをないがしろにする理由にはならないのに」
「……ねえ、幸子ちゃん。私たちでそんな楓さんのマネができるのって……何かな?」
「え、ええ? お酒はボクたちはダメですし……ダジャレ? いえ、無理ですね。アレは楓さんだから許されている感じがあります」
私と同じダメージを受けたはずなのにもうピンピンしている幸子ちゃんは、私の突然の問いかけに真面目に考えてくれる。
「距離感……? スウッて相手のふところに潜り込む感じがありますけど、これもマネできるものじゃありませんし……」
……楓さん、どれだけ自分だけのモノを持っているんだろう。
あんな女神様みたいな人に立ち向かうなんて、私じゃ無理なのかな……?
「あ、そうです! マネできるものがありました!」
「……ッ!? それは、何?」
「仕草ですよ仕草。色っぽいけど下品さは少しも無い、キレイな仕草。難しいとは思いますけど、なんとかマネできる範囲だと思いますね」
仕草か。
確かに楓さんは動きの一つ一つに気品がある。
美人って得だな――ってところもあるけど、仕草がキレイだからってのも確かにあると思う。
早速試してみよう……ッ
※ ※ ※
「プロデューサーさん……」
「白坂さん? どうしまし――」
http://i.imgur.com/Vokvxxl.png
「……?」
http://i.imgur.com/ka0EzO9.png
「あの……白坂さん?」
http://i.imgur.com/G3xcUlW.png
「……高垣さんの、マネ……ですか?」
「わかった……ッ!?」
「ええ、よく特徴を捉えていると思います。たいへん上手でした」
「だったら……っ。だ……だったら」
「だったら……何でしょうか?」
プロデューサーさんはよくできているって言ってくれた。
けど、ドキドキしてくれた様子は見られない。
私の体じゃ……ドキドキさせられないんだ。
その結果を改めて突きつけられて、胸が痛くなる。
「白坂さん、顔色が……」
「……お願い、一人にして」
「しかし……っ」
「お願いだから……」
「……わかりました。しかしお願いですから、誰か目の届くところ……休憩所などで安静にしてください」
「……うん、わかった」
別に病気というわけじゃないけど、身勝手な理由で落ち込んでいる私を心配してくれるプロデューサーさんに申し訳なかったから、素直にうなずく。
部屋を出てプロデューサーさんから離れても、胸の痛みは残っていた。
「どうして……私は大人じゃないんだろう」
今の私じゃ、勝負にすらならない。
どうしようもない事実を口にすると、ますます胸が痛くなってきた。
胸の痛みが伝わったのか、お腹まで熱くなってくる。
気が落ち込んだせいかな?
本当に体調が悪くなって――
「……え?」
ある考えが脳裏に閃いた。
まさか……うん、そうかもしれない。
大丈夫、必要な物はママに言われていつも持っている。
痛む体に気をつけながら、なるべく急いでお手洗いに向かう。
前はこれが来ることが不安だった。
けど今は――胸とお腹に来るこの痛みに、期待が次々とあふれてくる。
――求めしモノは来たれり
※ ※ ※
白坂さんは大丈夫でしょうか?
一人にして欲しいと言われたので追いかけませんでしたが、こうして一人で事務仕事をしていると不安が次々と押し寄せてきます。
もし白坂さんが、誰の目にも届かないところで倒れていたら……
「……電話をしてみましょう」
声を聞けば安心できるとかけてみたら、聞きなれた着信音が廊下から響き、そして近づいてきます。
「プロデューサーさん……どうしたの?」
ドアが開き、スマートフォンを手にした白坂さんが姿を見せます。
その顔色は先ほどより蒼く、一瞬椅子から立ち上がりそうになりますが――その瞳は先ほどと比べて穏やかで、慌てかけた心を何とか押しとどめます。
大人である私が下手に慌てれば、白坂さんの体調が悪化しかねません。
ここは落ち着いて対処しなければ。
「白坂さんの先ほどの様子が気になってしまったもので。今は少し落ち着いたようですが……タクシーを呼びましょうか? あと30分ほど待っていただけたら、私が寮まで送ることもできるのですが」
「あ……うん、ありがとう。でも、“事情”を話したら、今日は幸子ちゃんと茜さんが一緒に寮まで帰ってくれるって」
「そうでしたか。あのお二人と一緒に帰っていただけるのなら、私も安心できます」
事情というのが何なのか気にはなりましたが、年頃の女の子の事情を詮索するのは野暮でしょう。
「ねえ……プロデューサーさん」
「はい、なんでしょう」
「……えへへ」
白坂さんは照れくさそうに笑うと、私の二の腕に抱きついてきます。
先ほどまでは落ち込んでいたので、それと比べるといいのですが……
「あの……白坂さん。こういったことはしてはいけないと、以前城ヶ崎さんに注意されたではありませんか」
「……わかんない?」
「え……?」
「前との違い……わかんない?」
私の肩に頭を預けながら、至近距離で白坂さんが訊いてきます。
その瞳はなぜでしょうか。これまでとは違う別の色――妖艶な香りを漂わせているように感じ、混乱が深まります。
まだ少女である白坂さんの身に――ほんの数十分の間に、何があったというのでしょうか。
「……わかんないんだ」
「す、すみません」
「フフ。いいよ、謝らなくて」
愛らしく頬を膨らませて不満を示したかと思いきや、クスクスと笑って許してくれる。
この子は本当に白坂さんなのだろうか……?
そんなあり得ない疑問すら浮かび始めた時でした。
「じゃあ、わかってくれないプロデューサーさんのためにね。答えを教えてあげる」
「な……なんでしょうか」
白坂さんの身に何が起きたのか。
プロデューサーとして知っておかなければならないのに、何故か本能が危険だと騒いでいる。
どうするべきか――決断を下す間もなく、白坂さんはそっとその小さな唇で言の葉を紡いだ。
「――初潮が来たの」
耳元のささやき声で、私はハンマーで頭をかち割られたような衝撃に襲われた。
「お……おめでとう、ございます」
かろうじてお祝いの言葉を出せましたが、この言葉が正しいのかわかりません。
子どもの成長は喜ばしいことですが――こういう性的な成長を、肉親でない異性が口にする事は正しいのか。
「プロデューサーさんってば……抱きついてもわかってくれないんだもん」
……どうやって、わかれと言うのですか?
「でも、いいや。大人の魅力は、これから身についていくから」
そういうもの……なのでしょうか。
実際、先ほどまで少しも無かった妖しさを、白坂さんが身にまといつつあります。
女性にとって初潮は当然大きいことなのでしょうが……ここまで明らかに違いが出るものなのでしょうか。
何か他の理由もありそうですが――
「プロデューサーさん、嬉しい?」
「……はい?」
考え事をしていると、あまりにも予想外の問いかけをされて間が抜けた声が漏れてしまった。
今……白坂さんは何と言いましたか?
「プロデューサーさんは……私に初潮がきて……嬉しくないの?」
「う、嬉しいです。白坂さんが成長したのです。もちろん嬉しいです」
嬉しいか嬉しくないかでいえば、嬉しいのですが……それを聞かれては嬉しい以上に困ります。
他の男性に似たような問いかけをしないように注意すべきでしょうか。
「あの……白坂さん」
「良かったぁ……喜んでくれて」
「……」
注意しようという気持ちが、目の前の晴れやかな笑顔を前にたじろんでしまいました。
情けない話ですが、ここは同性の高垣さんか城ヶ崎さんに注意するようにお願いしましょう。
「あのね、プロデューサーさん」
「はい、なんでしょう」
――思えばこの時に注意さえしていれば、未来は変わったのでしょう。
しかし当時の私にそんなことわかるはずもなく――
「プロデューサーさんの子ども……私が産んであげるから、待っててね」
「……」
「プロデューサーさん? プロデューサーさん!?」
――こういった話に耐性が無く、さらに相手が無邪気に懐いてくれた少女ということもあり、先ほど以上のハンマーが頭に襲いかかります。
立て続けの衝撃に私の脳は耐えられず、白坂さんの心配する声を子守唄に、意識を失ってしまいました――
――
――――
――――――――
「――ハッ」
「プロデューサーさん、大丈夫?」
悪夢から目が覚めると、心配そうに私を見つめる白坂さんがいました。
そう――アレは悪夢です。現実ではありません。白坂さんが私にあんなことを言うはずがないのですから。
「良かった……どうすれば目覚めさせられるか……自信がなかったけど、なんとかなったみたい」
「白坂さんが気を失った私に処置をしてくれたのですね? ありがとうございました」
お礼を言うと白坂さんは頬を赤く染めながら視線を逸らし、口元を手で隠します。
「白坂さん……?」
「初めて……だったから」
「え……?」
「ちゃんと……責任、とってね」
恥ずかしそうに口元を隠しながら、白坂さんは走り去ってしまいます。
「責任……責任とはいったい」
気を失った私。
介抱してくれた白坂さん。
介抱してくれた白坂さんは何故か恥ずかしそうにしていた。
隠された口元。
――責任。
「……え?」
「え?」
悪夢は、現実だった。
ドキドキと痛いほど高鳴る心臓が、私の出した結論が正解だと教えてしまうのでした――
~おしまい~
最後まで読んでいただきありがとうございました
ところで今、クリスマスギフトガシャで限定小梅ちゃんが来てますね
ユニゾンなら迷わず回したんですが、クールのライフ回復はご理解までしてお迎えした楓さんがいるから回しません
それに小梅ちゃんはクールのオバロ枠でスタメンですし、全体曲でもダンス値特化でスタメンなので、普段から小梅ちゃんをたくさん見れているから回しません
先月のセブンのググプレで30,000円+3,000ポイントの資金があるけど、これはいつか来るに違いない限定武内Pに備えてなので回しません
http://i.imgur.com/G25oonH.png
http://i.imgur.com/VMzvwNB.png
http://i.imgur.com/jYVttbb.png
担当だから、回します(白目)
10日までだから、まだ回せるよ。皆さんも回しましょうってちひろさんが言ってるよ(ガシャガシャ)
これまでのおきてがみ(黒歴史)デース!
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モバP「輝子が魔王になってしまった」輝子「Welcome to this crazy Time!!!」
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