武内P「絶対にアイドルに手を出したりしませんッ!!」 (71)

注意事項

・武内Pもの

・武内Pもの

・HAPPY END





武内P「惚れ薬……ですか?」

志希「そうそう♪ 男の子から女の子まで、皆の夢のアイテム惚れ薬ができちゃったんだー♪」

武内P(頼みたいことがあるんだー、という一ノ瀬さんの言葉を聞いて部屋に入ってみると、広い机の中央に一つだけ置かれていた物に目が引かれました)

武内P(それはピンク色の小瓶で、不思議に思った私の問いに彼女はあっけらかんに答えたのです)

志希「あれれ~? ひょっとして信じてないのかな?」

武内P「……ええ、正直なところ。私の固い頭ではにわかに信じられません」

志希「いいよいいよ。それが当然の反応だから。まま、とりあえずそっちに座って」

武内P「は、はあ」

志希「よっし、あとはミステリアスな音楽をかけてっと。これで説明準備かんりょーう♪」

武内P「あの……頼みたいこととはもしや」

志希「慌てない慌てない。さて、惚れ薬って聞いてどんなものを連想しちゃう? 飲んでから最初に見た人に胸キュンとか、エッチな気持ちになっちゃうとかかなー?」

武内P「ええ、創作物ではたいていそのような内容ですね」

志希「これはどっちでもないの。言うなれば想いを強くするお薬」

武内P「想いを……?」

志希「飲んでから効果が出るまで……個人差があるけど40分から50分までの間に抱いた感情が増幅されて、それが数年、場合によっては数十年継続するんだ」

志希「キミの年齢を考えると一生かもしんないねー♪」





一ノ瀬志希
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武内P「それは……ぞっとしますね」

志希「んっふっふっふ。じゃあもっと怖いことを話そうかー♪」

志希「感情が増幅されるわけだから、効果が出るまで無感情でいたら効果は無いに等しいんだけど……誰かにイライラしてたらずーっとその人のことが嫌いになっちゃったりするわけ」

武内P「……そうなったら、気が狂いかねません」

志希「そうならないための名前と色。惚れ薬だよ? ピンク色だよ? そんなもの飲んじゃったら、効果が出るまでドキドキのワクワクで、目の前にいるあの娘とか、普段から気になってたあの娘についてあれこれ考えちゃってにゃはーっ! ってなっちゃうよね?」

武内P「なるほど。意識を負の感情ではなく、正の方に向きやすいようにするわけですか」

志希「まあ行き過ぎた愛情だってお互いを傷つけちゃうかもしんないけど、まゆちゃんを見てると結果オーライかなって」

武内P「あの……まゆPは担当アイドル、それも未成年に手を出すまいと必死なんですよ」

志希「にゃははっ。諦めちゃえば楽になれるし幸せなのにねー」

武内P「……一ノ瀬さん」

志希「あ、ごめん怒らせちゃった? ごめんねー。あたしも女の子だから、ついついまゆちゃんを応援しちゃうんだー」

武内P「いえ、悪気が無いようですし」

志希「んー、それは甘いんじゃないかなあ? あたしって悪気無しで酷いこととかしちゃうタイプだよ」

武内P「それは世間の尺度と照らしてのことで、貴女は自身の良心を裏切りはしないでしょう」

志希「……」

武内P「一ノ瀬さん?」

志希「ふーん、そうやって美嘉ちゃん口説き落としたんだー?」

武内P「く、くど!?」

志希「にゃははっ。冗談だって。さて、話をもどそっか」

志希「この薬かなり自信があるんだけど、サンプルデータがまだまだ足んなくてね。キミにも協力してほしいな~」

武内P「……その、申し訳ありませんが」

志希「まだダメ?」

武内P「小日向さんではありません」

志希「そっかー、ダメなんだ」

武内P(妙ですね。あまり気落ちした様子に見えません。駄目元の頼みだったのでしょうか)

志希「あ、ごめんごめん。頼み方を間違えちゃってたよ」

武内P「……?」





志希「協力してもらってるから」





武内P「~~~~~っっっ!!?」ガクッ

武内P(体に……力が、入らな――!?)

志希「これが惚れ薬ってのはウソ。感情をコントロールするために薬を服用したりするのは、トランキライザーや抗鬱薬で知ってるよね? 薬はなんだってそうだけど副作用があって、依存性もあったりする」

志希「例えばSSRIってやつがあるんだけど、アメリカで3000万人以上が服用していて、なんとそのうち30%が性機能障害を経験してるんだよ」

武内P(視界が……ぼやけて)

志希「そこで! 薬を服用することなく感情をコントロールできないかという点に着目してみたんだなー♪」

志希「薬物療法ではなく、催眠療法による脳へのアプローチ手段としてあたしが利用したのは部屋の光彩、キミにだけ向けられた指向性の音、話術、そして匂い」

志希「んっふっふっふ。キミは説明を受けながら、一ノ瀬志希流催眠療法を体験していたのだ!」

志希「あ、催眠療法っていうのは文字通り催眠を用いる心理セラピーの一種で、日本ではほとんど行われていないけどアメリカだとけっこう一般的なんだよ」

武内P(……私の座る場所を指定したのは……一ノ瀬さん。音楽も……ひょっとして私にだけ、聞こえていた?)

志希「ちなみにこの見るからに惚れ薬っぽい、小瓶に水を入れただけのやつはキミの思考をピンク色に誘うための小道具に過ぎないわけだ―♪」

志希「あ、でも効果についての説明はウソじゃないから」

志希「目まいはもう数分もすれば収まるから、それから40~50分までの間に、キミが最も意識した相手を好きになってしまう。既に結婚している人とか、手を出したら犯罪になっちゃうロリロリちゃんを下手に考えないようにしてねー、バイバーイ♪」

武内P(ま……待ってくださ――)

志希「……」ピタッ

武内P(……?)

志希「……さすがにこのまんま去るのは酷過ぎるかなぁ? キミって相手の良心を突くのがうまいかもね」

志希「キミを幸せにできそうな人に連絡しとくから、そこで大人しくしておいてね。まあ、これでも酷過ぎることに変わりはないけどねー。アデュー♪」

武内P(そういって一ノ瀬さんは今度こそ……立ち去って行ったのでした――)

※ ※ ※



武内P「……ッ。とりあえず、なんとか動ける程度には回復しました」

武内P「一ノ瀬さんには大人しくしているように言われましたが……最善なのは誰のことも好きにならないことです。誰も来ない部屋で、極力何も考えずに過ごし――」


タタタタタタタタッ、ガチャバタンッ!!


美嘉「ほ……本当にいた」ゼエハア、ゼエハア

武内P「じょ、城ヶ崎さん!?」

美嘉「志希から連絡来て……冗談だとは思ったんだけど胸騒ぎがして急いで来てみたら……あ、アンタ体の方は大丈夫なの?」

武内P「ええ、なんとか動ける程度には回復しました」

美嘉「まったく、志希のやつ。叱るのは後として、とにかくアンタの安全を確保しなきゃ。さ、立って」

武内P「ありがとうござ――」


ムギュ、ムニュウ


武内P「」

美嘉「///」

武内P「あの……城ヶ崎さん?」

美嘉「あ、アンタまだ体ふらついてるみたいだし、一刻も争うんだから肩を貸すのは当然でしょ!」

武内P「いえ……このままだと、私が城ヶ崎さんのことを――」

美嘉「はいはい! 今はとにかく急いで避難! 話は後で聞くから」

武内P「そ、それもそうですね」

美嘉「し、しっかり体につかまんなさいよ」

武内P「は……はい。ところでどこに向かうかは決めているのですか?」


テクテク、テクテク


美嘉「うん。アタシが思いつく中で一番安全な所」





美嘉「アタシの家よ」





武内P「―――――――はい?」





城ヶ崎美嘉
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美嘉「そ、そんでアタシの部屋に一緒に居れば大丈夫よ。うんうん」

武内P(ひょっとすると、一ノ瀬さんは正しく城ヶ崎さんに状況を伝えていないのでしょうか?)

武内P「待ってください城ヶ崎さん。どうも話に食い違いが見られるようです」

美嘉「は、話は後で聞くって言ってるでしょ! まずは安全な所にいかないと」

武内P「いえ、これは今じゃないと――」





「――ねえ、何してるの?」





武・処『!!?』

凛「そんなに体くっつけて歩いてちゃって。今のプロデューサーの症状じゃ、美嘉のことを好きになっちゃうよ。それとも――」

凛「そうさせるのが目的なの?」

美嘉「そ、そんなわけないじゃない! これはコイツの体がふらついているから、仕方なくアタシが支えていただけ!」

凛「ふーーーーーん。それならいいや」

武内P「あの、もしかして渋谷さんは私の今の状況を把握されているのですか?」

凛「ん、まあだいたいはね」

美嘉(早い……ッ!! もう勘付かれた!!)

凛「美嘉はプロデューサーを心配して来てくれたんだね。ありがとう、あとは私がいるからもういいよ」

美嘉「も、もういいって! 凛だけでどうするつもりなのよ!」

凛「どうするって、決まってるでしょ」

凛「時間が来るまでプロデューサーと二人っきりになるだけ」

美嘉「なっ……」

武内P「し、渋谷さん。それでは私が渋谷さんのことを……」

凛「だってしょうがないでしょ。もしプロデューサーが変な人を好きになったりしたら、私だけじゃなくてプロジェクト全員に迷惑がかかるんだから」

凛「変な人じゃなくても、その人が普段は遠くに住んでる人だったりしたらプロデューサー仕事辞めちゃうかもしれないでしょ。どっちにしろ困るよ。蘭子にいたっては泣くかも」

武内P「そ、それは……」

美嘉「だからって何で凛なのよ!!」

凛「だって私は担当アイドルで、普段からプロデューサーの隣にいるから。適任でしょ」

美嘉「え、いやでも……プロデューサーであるコイツが、まだ十六歳未満の担当しているアイドルに惚れるなんてマズイでしょっ」

凛「……まるで元担当で、結婚できる年齢なら問題が無いみたいな言い方だね」

美嘉「そそ、そんなこと言ってないし」





渋谷凛
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凛「……別に大丈夫だよ。プロデューサーは良識のある人だから、仕事にみだりに私情なんか持ち出さない。パワハラとかセクハラとか、細心の注意を払ってくれるよ」

凛「それとも美嘉はプロデューサーが私のことを好き過ぎるからって、未成年の、それも担当アイドルに手を出すような人だと思うの?」

美嘉「う……そんなこと、思わないけどさ」

武内P「……今の症状が未知である以上、私が相手にどれだけ入れ込むかわかりません。信頼していただけるのは嬉しいのですが、万が一の場合も考えた方がいいかと」

美嘉「そう! それそれそれ!!」

凛「ビンタして終わりでしょ」

武・処『え?』

凛「ありえないけど、もしプロデューサーが血迷って私を襲いかかってきたらビンタして終わるから」

美嘉「いや……そんな簡単な話じゃ」

凛「簡単だよ。力じゃどうしたって勝ち目なんかないけど、プロデューサーだよ? 私に我慢できずに手を出すことすらありえないけど、我慢できずに手を出すほど好きな私に頬を叩かれて目を覚まさないなんて、もっとありえない」

凛「万が一なんて表現はしょせんは比喩だけど、万が一が同時に起きる確率は億が一。そんなちっちゃな可能性について考える時間、今は無いでしょ」

美嘉「う……」

武内P「その……渋谷さんはそれでいいのでしょうか? 私のように倍も歳の離れた男に好かれて、気持ち悪いでしょう。仲間のために自分を犠牲にすることは止めてください」

美嘉「そう! それそれそれ!! 下手したらコイツ、凛のこと何十年も想い続けるんだよ! それについてはどうするの!!」

凛「結婚すれば解決でしょ」

武・処『え?』

凛「数年で効果が解ければそれで終わり。でも私が子どもと呼べない年齢になっても効果が続いたら、その時は結婚するから」

美嘉「ななななななな、何言ってるかわかってんの!?」

武内P「」

凛「別に私は今好きな人はいないから、プロデューサーとの距離が近いことで勘違いされて困ることは無い。プロデューサーのことは尊敬して信頼もしているから、プロデューサーに好かれたからって気持ち悪いだなんてこれっぽっちも思わない」

凛「結婚するのはプロデューサーがかわいそうってのもあるけど、多分その頃には私もプロデューサーのこと好きになってると思うから。私は人よりちょっと冷たいところがあるけど、プロデューサーみたいに誠実な人に何年も想われて好きになれないほど冷徹じゃないよ」

凛「まあそうはいかなくても、愛する人より愛してくれる人と結婚するのが幸せだって聞くし」

美嘉「だ、だったらアタシが! 後輩にそんな重い役目させらんないから!」

凛「美嘉じゃダメ」

美嘉「な、なんでよ! 別にアタシだってコイツに好かれても、気持ち悪いだなんてまったく思わないから!!」

凛「そっちじゃなくて。美嘉はプロデューサーが本気で迫ったら、ビンタするどころか受け入れそうだから」

美嘉「なっ――――――」

武内P「」

凛「プロデューサーに壁まで押し寄せられて、怒るでも叫ぶでもなく、顔を真っ赤にして震えながら目を閉じそう」

美嘉「りぇ、れんりゃい経験ほうちゅなアタシが、しょんなブジャマしゃらしゅわけないでしょ!!」

凛「説得力皆無だね」

美嘉「くっ……」

凛「さ、そんなわけだから。私と一緒に行くよプロデューサー」

武内P「それは……えっ?」


ギュッ


美嘉「……」

武内P「城ヶ崎さん?」

凛「どうしたの美嘉? 時間は無いんだから手を放してほしいんだけど」

美嘉「アンタは……それでいいの?」

武内P「……いい、わけではありません。ですが」

美嘉「あ、アタシは!」

武内P「……はい」

美嘉「アンタが望むなら……望んで、くれるんなら!」

凛「……プロデューサー。わかってるよね?」

武内P(いったい……何を?)

武内P(わかりません。彼女たちが私に何を求めているのかを)

武内P(二人とも私を心配してくれているのはわかるのですが……それだけでは、この胃を締めつける緊迫感は説明できません)

武内P(誰か……誰か助け――――)





「そこまでです!!」





蒼・処『何奴!?』

武内P(いったい誰が!?)

???「まったく。事態を聞いておっとり刀で駆けつけてみれば、さっそくプロデューサーさんを困らせる人が二人もいるとは」

???「しかしそんな横暴はここまでです!!」





幸子「このカワイイボクが来たからには!!!」フフーン





凛「……なんだ、幸子か」

美嘉「お姉ちゃんたち真剣な話をしてるの。さ、帰って」

幸子「なっ……!?」

武内P(私に救いなど無いのか……)





輿水幸子

幸子「帰るわけにはいきませんね。何せ、プロデューサーさんの命がかかっているんですから!」

蒼・武・処『命!!?』

美嘉「ちょ、どういうことよ! まさか志希の実験に危険なことが含まれてたの!?」

凛「……おいたがすぎるね」

武内P「輿水さん、説明してもらえますか」

幸子「ええ、皆さんボクのカワイイ説明をよく聞いてくださいね」

蒼・武・処『ゴクリ』

幸子「まず第一に、プロデューサーさんはカワイイボクを心底愛してしまっています」

蒼・処『ちょっと待て』

武内P「」

幸子「まったく、歳が半分にも満たないボクにぞっこんだなんてダメダメなプロデューサーさんですが、カワイ過ぎるボクにも罪があるのでここは置いておきましょう」

幸子「問題は催眠療法とかいう方法で、寝ても覚めてもボクをカワイがることばかり考えているプロデューサーさんの感情を、無理やり捻じ曲げることです」

幸子「これが普通レベルの愛情でも苦しいことなのに、プロデューサーさんのボクへの入れ込みようは異常ですからね。カワイイボク以外の誰かを愛することに耐え切れず、間違いなく発狂して最悪死に至ります」

凛「なるほど……」

美嘉「理屈としては、なくはないのかな?」

武内P「いえ、あの……輿水さん?」

幸子「プロデューサーさんがこれまで通り日常を過ごすには、今と同じようにカワイイボクのことで頭いっぱいじゃなければいけません。さあ、そういうわけでプロデューサーさん! 二人っきりでボクを存分にカワイがりましょう!」

武内P「」

凛「……幸子、いい加減にしなよ」

幸子「なんですか? ボクの完璧でカワイイ理論を理解できなかったんですか?」

凛「理解はしたよ。うん、プロデューサーが好きな人を変えるのは危険だってことはよくわかった」

幸子「だったら――」

凛「だから、好きな人は私のままでいさせないと」

武内P「…………………………はい?」

幸子「な、何をとぼけたことを!!」

美嘉「……うん、幸子ちゃんの言うとおりだね」

幸子「美嘉さん! もっと言って――」

美嘉「コイツが好きなのは―――――――アタシなんだから」

幸子「なっ……!?」

武内P「………………………じょ……が…さき、さん?」

凛「ふーーーーーん、面白いこと言うね」

幸子「ちっとも面白くありませんよ二人とも!!」

美嘉「そうだね。本当のこと言っただけで、面白いはずないから」

蒼・処・幸『』┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド

武内P「あ……あの、皆さん?」


『プロデューサーさん……逃げるなら、今のうちだよ』


武内P(この声は……!)


『このままじゃ……三人のうち、誰かを好きになっちゃうよ。さあ、ゆっくり……けど急いで』


武内P(三人をこのまま置いていくのは気が引けますが……このまま私がここにいて、誰であっても好きになるのはまずいです)ジリジリ


『そう……その調子。そして、角を左に曲がってから――』


凛「蒼穹の果て、私はここにいる! ヴォルト・オブ・ヘヴン!」

美嘉「うわ、何これ!?」

幸子「ヒイイイイィッ!? ってプロデューサーさん、どこに行くんですか!?」


『――走って!』


武内P「くっ……」


ダダダダダダッ


『次の角も左で――』


ダダダダダダッ


『階段を下りて――』


ハアッ……ハアッ……


『右に走って――』


武内P(うまく……まけた?)


『左の部屋に入って……ゴール』


ピタ


『プロデューサーさん……?』

武内P(なぜでしょう。このままこの声に従って部屋に入るのは、非常にまずい気がします)

武内P(彼女には申し訳ありませんが、ここはこのまま立ち去らせて――)クルッ

小梅「ジー」

武内P「し、白坂さん!? 部屋の中にいたのでは?」

小梅「プロデューサーさんを誘導し終わってから……入ろうと思って」

小梅「ねえ、プロデューサーさん。今の、何?」

小梅「違うよね? 私のおかげで逃げ出せたよね? 私のこと……信じて、くれてるんだよね?」

武内P「も、もちろんです。ですが、今の私は――」

小梅「うん、良かった。プロデューサーさんが私のこと、疑うはず……ないもんね」パアッ

武内P「当然です。しかし、まず聞いてください。今の私は――」

小梅「うん……聞くから、部屋に入ろ。見つかっちゃう」

武内P「………………わかり、ました」


ガチャ、バタン

カチャリ――


小梅「フフ」

武内P「……白坂さん?」

小梅「フフ……フフフフフフ」

武内P「あの……何かおかしなことでも――ッ!?」


ギュウウウウウッ


小梅「二人っきり……プロデューサーさん、プロデューサーさん♪」

武内P「い、いけません白坂さん。このようなことをしては!」

小梅「ねえ、プロデューサーさん」

武内P「なんでしょう。まずはいったん――」





小梅「私にしようよ」





白坂小梅
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武内P「…………………………白坂、さん?」

小梅「私は……イヤだよ。プロデューサーさんが変な人を好きになったり……好きになっちゃいけない人を好きになって、罪を犯したり……叶わない恋をして、苦しむ姿なんて……見たくない」

武内P「それは……」

小梅「好きな人に振り向いてもらえないって……とても苦しいことなんだよ。それを、何年も何年も……自分の意志じゃなくて、変な実験のせいで」

小梅「そして……変な実験のせいで……プロデューサーさんが私に振り向いてくれないなんて……死んでもイヤ」

小梅「叶わない恋なんて……させたくないし、したくもない」

小梅「お願い……私にしてよ、プロデューサーさん」

武内P「……白坂さん」

武内P(まだ子どもの告白――そう流すには、あまりに白坂さんの顔は真剣でした)

武内P(拒絶されるではないかという怯えと、それを克服する願いが叶うのではないかという期待)

武内P(時には心配になるほど透き通った白い肌は淡く紅潮し、濡れた瞳が真っ直ぐに私を見上げる)

武内P(本気……なのでしょう。ですが、私は――)

武内P「白坂さん……私は貴女にそこまで想ってもらえて、とても光栄に思います」

小梅「……やめて、そんな言い方しないで。本当にそう思ってくれるなら……何も言わずに、きつくきつく抱きしめて」

武内P「……許してください白坂さん。私はプロデューサーで、貴女はアイドル。何より、私は大人で貴女は子どもなんです」

小梅「でも……でも……私が大人になるまで……待て、ないんでしょ」

小梅「楓さんや……美嘉さんを好きになって……結ばれるのなら、まだ諦められる。けど、こんな変な形で……こんなんじゃ、将来私が大きくなっても……ダメのまま。納得なんか、できっこない」

武内P「……申し訳、ありません」

小梅「…………わかった。じゃあせめて、最後に一度だけ――抱きしめて」

武内P「…………………………わかりました」

武内P(許されることではありません。ですが、彼女に納得してもらうには、これしかないのでしょう)

武内P「白坂さん……本当に、すみません」ギュウッ

小梅「……ううん。謝らなくていいよプロデューサーさん。謝るのは……プロデューサーさんの立場がわかっているのに、困らせる私の方。ごめんなさい……ごめんなさい……」

武内P「白坂さん……」

小梅「ごめんなさい……許して……問答無用で――」

武内P「……白坂さん?」





小梅「問答無用でプロデューサーさんを幸せにすることを、どうか許して」





武内P「……ッ!!?」ギシィッ

武内P(体が……動かない!? “あの子”が!?)

小梅「プロデューサーさん……このままじゃ、誰を好きになっても……自己嫌悪に陥りそう。私がこの人を好きなのは、実験のせい。そんな私が想いを告げるのは……失礼だ」

小梅「私があの時、この人のことを考えすぎてしまったせいで迷惑をかけてしまっている。……そんな風に、考えちゃう」

小梅「大丈夫だよ、プロデューサーさん。プロデューサーさんは……今でもだいぶ、私のことが好き。心の底から愛するのが……ちょっと早くなるだけ」

小梅「実験の効果が出るまで、私のことを考えすぎちゃうのは……チュ」

武内P「……ッ」ビクッ

小梅「私が……いけない娘だから。プロデューサーさんは……悪くなんて、ないんだから」

小梅「何も……心配いらない。きっとこの後も、プロデューサーさんは……アイドルで、まだ中学生の私を好きになったことに苦しむけど……そんなもの、私が全部吹き飛ばしちゃう」

小梅「自分の幸せについては二の次で……私たちアイドルのことばかり考えるプロデューサーさんを……私が、問答無用で幸せにしちゃうから」

武内P(なんという……ことに。このままでは、私は白坂さんを好きになってしまう。なんとか、なんとか何も考えないようにしなけれ――ッ!?)

小梅「プロデューサーさんの体……とっても大きくって……固くって……でも弾力もあって……暖かい。包まれて、とっても気持ちいいよぉ」サスリサスリ

武内P「」

小梅「ここも……そうなの?」サワッ

武内P「~~~~~っっっ!!?」

小梅「わっ!? ちょ、ちょっとさわっただけなのに……我慢、してたんだね? 一気におっきくなったよ?」

武内P(……遺言状の書き方……調べなければ)

小梅「金縛りなのに、こんな風になるなんて……うん、プロデューサーさんの気持ち、わかったよ。その……下手かもしれないけど」

武内P(い、いけません! 貴女がそんな汚いモノに手を触れては――!!)


――カイサード アルサード


小梅「……え?」


――キ・スク・ハンセ・グロス・シルク


武内P(これは……?)





「灰塵と化せ!!!! 冥界の賢者!!」

「七つの鍵をもて開け 地獄の門!!!!」

「七鍵守護神(ハーロ・イーン)!!!!!」





ガチャ


蘭子「天地を引き裂く友の嘆きを聞き届け――我、参上!」

武内P(神崎さん……ッ)





神崎蘭子
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小梅「……普通にドア、開けるんだ」

蘭子「……カッコよく蹴破ろうとして、くじいたことがあるから」

小梅「あ……ごめんね、訊いちゃって」

蘭子「別に……別に、いいよ」

小梅「ところで……鍵はどうやって――」

まゆP「武内!!」ババッ

小梅「キャッ。……これは、塩!?」

武内P「体が……動く!」ガタッ

小梅「あ――」

あの子<ゴメンネ、力ガ抜ケチャッテ

まゆP「幽霊なんかなあ! まゆに手を出しちまうことに比べたら怖くも何ともねえんだよ!!」

小梅「そっか……まゆPさんが事態を察して、鍵を用意しつつ蘭子ちゃんを呼び出したんだ」

蘭子「冥界の魔術師よ……汝の気持ちもわからんでもない。故に、これまでの所業は見逃そう(小梅ちゃん……気持ちがわかるけど、これ以上はダメだよ)」

蘭子「されど! 我が友の運命を歪めんとするのなら、ここから先は闇を総べる我が相手だ!!(プロデューサーの結婚相手は決まってるんだから、邪魔はさせない!!)」

まゆP「……毒を以て毒を制する。武内、今のうちに逃げるぞ。……両方からな」

武内P「しかし、二人をこのまま置いていくのは――」

蘭子「我が友よ、案ずるな」

武内P「神崎さん……?」





蘭子「ここは我にまかせて先に行け!!」





武内P「……わかりました、あとは任せます」タタタタッ

まゆP「お互いケガだけはするなよ」タタタタッ

小梅「あ……そんな……プロデューサーさん」

蘭子「むふー♪」←前々から言いたかったセリフを言えて満足

小梅「……蘭子ちゃん、どいて。プロデューサーさんを追えない」

蘭子「ならぬ。たとえ汝であってもな(小梅ちゃんでもダメです)」

小梅「……わかった。痛くしたら……ううん、怖くしたらごめんね」

蘭子「ハーハッハッハッ!! 恐怖など闇の一端に過ぎぬ! 見せてくれよう、闇を総べる我の力を!」

蘭子「祝福されし完成をとくと見よ!」


ドドゥン!!


抹消者<ドーモ、小梅=サン。祝福されし完成です


小梅「……四肢切断」


抹消者<アイエエエエエエエェッ


蘭子「ぴいいいいいいいいいぃぃ!?」


祝福されし完成

四肢切断

※ ※ ※



タタタタタタッ


まゆP「武内、時間まであとどれくらいだ!?」

武内P「早ければあと30分です」

まゆP「……時間が無い。アイドルたちにアレコレされたことを考えると、どこかに一人で閉じこもって何も考えないようにしても……思い出しちまうだろ?」

武内P「情けない話ですが……」

まゆP「しょうがないさ。うん、しょうがない。アイドルにアレコレされたら、反応してしまうのは仕方ない仕方ない。仕方ねえんだよ!」

武内P(まゆP……不憫な)

まゆP「だがそれ以上はダメだ。何としても――チッ、もう来たか」



音ガシタシ、キットコノ辺リにプロデューサーガッ!!

チョ、チョット凛落チ着キナッテ

コンナニカワイイボクカラ逃ゲルダナンテ、今日トイウ今日ハ最後マデカワイガラナイト許セマセン!!

オ?

ハ?

フフーン?



まゆP「仲間割れしながら器用に追いかけんじゃねえよ……武内、ここは俺にまかせて先に行け!!」

武内P「しかし……っ」

まゆP「余計なことは考えるな! オマエはアイドルに手を出さないことだけを考えればいい!!」

まゆP「たとえそのために、お前が倫理道徳を踏みにじることになっても……オマエと同じ立場の俺だけは、味方だからな」

まゆP「だから……何があっても、絶対に諦めんなよ!!」

武内P「……わかりました」


タタタタタタッ


武内P「絶対にアイドルに手を出したりしませんッ!!」

序盤終了、今回はここまで
一応全部書き終わってはいるんですが、中盤以降の細部の確認がまだ終わっていないので、確認が終わりしだい投稿します
できれば今日中、遅くとも明日までには終わります

※ ※ ※



武内P「ハァ……ハァ……」

武内P(走って逃げたわけですが……これからどうすべきなのか、まるで見当がついていません)

武内P(何も考えずに実験の効果を最小限に抑える選択肢は、もう無理なのでしょう)

武内P(だとすると、やはり誰かを好きになってしまうことを選ばなければ――)

武内P「ん?」

未央「プロデューサー、こっちこっち!」

武内P(走るのをやめて、廊下を歩きながら今後どうするか考えていると、部屋の中から上半身だけ出した本田さんが手招きをしていました)

未央「どうしたのプロデューサー? ボーッとしてないでこっち来てよ!」

武内P「その……本田さん、今何が起きているかご存じでしょうか?」

未央「へ? さ、さあ何のこと? 未央ちゃん全然わかんないなー」

武内P「………………その、申し訳ありませんが。今私はアイドルの皆さんと接触するわけにはいかないんです。まして二人きりなど。失礼します」

未央「き、来てくれないの!?」

武内P「申し訳……ありません」タタタタタッ

未央「な、泣くよ!!」

武内P「」ピタッ

未央「未央ちゃん実は寂しがり屋なんだよ! プロデューサーに構ってもらえないと、本当に泣くよ!!」

武内P(……振り返るべきではありません。お互いのためにも、ここは心を鬼にするべきです)

武内P(――しかし)クルッ

未央「……プロデューサー」

武内P(……もうこれ以上、本田さんを泣かせるわけには)スタスタ

未央「……え?」

武内P「どのような用件でしょうか?」

未央「……ッ!? ちょ、ちょっと待って」ゴシゴシ

未央「スーハー、スーハー……」

未央「……いやあ、プロデューサーはちょろいですなあ! ちょっと泣きそうなフリするだけで戻ってくるだなんて! 未央ちゃんだから良かったものの、こんな簡単に騙されちゃそのうち女の人に酷い目にあわされちゃうよ? まったく、プロデューサーには未央ちゃんがついていないとダメなんだから♪」

武内P(……本田さん、目が赤いですよ)

未央「さあさあ、部屋に入った。一名様ご案なーい♪」

武内P「は、はあ」





本田未央

武内P(部屋は普段会議室として利用されているところで、スクリーンが既に広げてあることと、段ボールが一箱あるのが目につきました)

未央「ささ、まずは椅子に座って」

武内P「その……何をするんですか?」

未央「いや、変なことなんかしないよ! しきにゃんが座る場所まで調整したって聞いたけど、未央ちゃんにそんな難しいことできないから!」

武内P「確かに……あのようなことができるのは、一ノ瀬さんを除けば池袋さんぐらいでしょう」

未央「そうそう。そういうわけで座って」

武内P「はい」

未央「で、これに目を通して」


つ 本田未央ファースト写真集


武内P「……?」

未央「映像も観ようね♪」ポチッ


<燃やせ友情! パッションは、ミツボシ☆☆★♪


武内P「これは……先日の単独ライブのものですね」

未央「うん。プロデューサーがベタ褒めしてくれたやつだよ」ゴソゴソ

武内P「あの……本田さん」

未央「なーにぃ? 今からポスターを部屋中に貼るんだけど」

武内P「その、このようなことせずとも、今貴女が目の前にいるんです。それだけで十分でしょう」

未央「私で……十分?」ピタッ

武内P「はい」

未央「私だけで……十分?」

武内P「ええ」

未央「私だけで……他はいらない?」

武内P「え?」

未央「なーんちゃって♪」

武内P「はぁ……驚かせないでくださ――ッ!!」


ギュウウウッ


未央「でも……そう言ってくれたら、嬉しいな」

武内P「……本田さん?」

未央「ねえプロデューサー。あと残り時間はわずか……誰にしようと思ってるの?」

武内P「私は……私は誰も考えません。誰のことも、今回のことで好きになるまいと思っています」

未央「そうは言っても何年……下手したら何十年もかかわる大きなことなんだよ。誰のことも考えないようにしようとしたって、どうしても普段から気になる人のこと考えちゃうんじゃない?」

武内P「そ、それは……」

未央「ねえプロデューサー? 誰にしようかって悩んで、何番目でも……最後でもいい。それでも私のことも思い浮かんだんなら」

未央「私にして……後悔なんかさせないように、全力で頑張るから」

武内P(……突然私に抱きついた本田さんの体はかすかに震え、まるで雪の降る夜に寒さに怯える子どものようでした)

武内P(目を合わせようにも、その瞳は固く閉ざされ……自然と私は、慰めようと彼女の頭に手を置いていました)

武内P「本田さん……私は……私は」

未央「……ほら! それに私お買い得なんだよ!」ガバッ

武内P「……」

未央「この写真集見てよ! 15歳にしてこの谷間! うーん、我ながらエッチィですなあ! これを好きにできるんだよ? よ、幸せ者!」

武内P(誤魔化そうとふざけてみせても……)

未央「なんだか美嘉ねぇみたいに逆サバしてるんじゃないかって言われてるらしいけど、調べてみる? キャー!」

武内P(……目じりの涙は消せません)

武内P「本田さん」

未央「え……どうしたのそんなマジなトーンで。ほ、本当に測っちゃう?」

武内P「私は何があっても、貴女たちを見守りたいと思っています」

未央「……プロデューサー?」

武内P「私の言葉が足りず……いえ、勇気が無かったために、貴女には辛い想いをさせました」

未央「あ、あれは私だってっ!!」

武内P「いいえ。貴女があの日のためにどれだけの努力を重ね、意気込んでいたのか私は知っていました。もっと私が貴女たちに歩み寄ってさえいれば、その意気込みの強さに危うさを感じ取ることができたはずなのです」

武内P「これからも思慮が足りず、貴方が助けを必要としている時に、適切なことを行えないかもしれません」

武内P「ですが、そばにいることだけは約束します。時間がかかっても、必ず力になって見せます」

未央「プロデューサー……」

武内P「だから、寂しがらないでください。貴女には私だけでなく、たくさんの仲間もいるのですから」

未央「……」

未央「私……プロデューサーが誰かを好きになるのが嫌なのって……寂しいからなのかな?」

武内P「嫌、なんですか?」

未央「うん。今回の話を聞いて真っ先に思ったのは……プロデューサーが遠くに行っちゃう。嫌だ。引きとめなきゃ……だった」

未央「他の人たちと仲良くしててもそんなこと思わないのに……今日は胸が締め付けられて、体が寒く感じた。いざって時に、プロデューサーが隣で不器用な笑顔を見せてくれないんだって」

武内P「大丈夫です本田さん。私はずっとそばにいます」

未央「それは……サー……として?」

武内P「え?」

未央「ううん、なんでもない」

未央「いやー、まったく。この年になって寂しくって泣いちゃうだなんて! 今回のこと、私とプロデューサーの二人だけの内緒だからね!」

武内P「はい、承知しました」

未央「ごめんね、長々と引き留めちゃって。そろそろ誰か気づくと思うから、ここを離れた方がいいよ」

武内P「そうですね。それでは失礼します」

未央「――あ」

武内P「どうかされましたか?」

未央「その……ね? 時間いっぱいになって……誰にするか決めあぐねたら」





――私にしてくれて、いいから

※ ※ ※



スタスタ、スタスタ


武内P「……」


――私にしてくれて、いいから


武内P「……私は、何を考えているんですか」

武内P「年齢が倍は離れていますし、そもそも本田さんは寂しいだけです。私をそこまで頼りにしてくれているのは意外でしたが……それ以上ではけっして」

武内P「こんな時にまだ15歳の娘のことを考えるなど――」

早苗「確保」ガチャリ

武内P「―――――――え?」


手錠<もう……離さないからね///


早苗「まだ自制できてはいるようだけど時間の問題かもしれないし、ロリコンは早めに矯正しとかないとね。うんうん」

武内P「あの……片桐さん?」

早苗「フ……フフフフフ」

早苗「フハハハハハ、ハーッハッハッハッハッハ!!」

早苗「よっしゃーっ! 高身長・高学歴・高収入、イケメンイケボでさらに性格的に絶対に浮気しない超優良物件とったどー!!」

武内P「」

早苗「いやー、年齢を考えてこれまで何度か妥協しそうになったけど、諦めないでよかったよかった♪」

武内P「あの……冗談、ですよね?」

早苗「……武内君」

武内P「は、はい」

早苗「結婚式の招待状が届く度に感じていた焦りが、少しずつ諦めに変わっていく恐怖……男の君にはわからないか」

武内P(目が……本気です)ゴクリ





片桐早苗
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武内P「……片桐さん。私への評価が過大ですし、そもそも私と結婚しても楽しい日々は送れないと思いますが」

早苗「うーん、そっかなあ? ただ真面目なだけな男じゃそうかもしれないけど、君はけっこういじくりがいがありそうだし、お酒にもまあまあ強いから付き合ってくれるでしょ」

武内P「その……悪くはないかもしれませんが、だいぶ妥協されているのではありませんか?」

早苗「え~、そっかなあ?」

武内P「もちろんです。片桐さんの明るい性格と勢い、美貌」

早苗「それにスタイルと酒量!」

武内P「それらを考えれば、私など足元にも及ばない素敵な男性と巡り合えるに違いありません!」

早苗「……確かに、ちょっと焦ってたかもしれない」

武内P「その通りです! ですから、この手錠を――」

早苗「だからといって、この超優良物件をただ手放すのももったいないわねえ」

武内P「……え?」

早苗「……うん、決めた。25歳で背が高くて見た目はミステリアスなのに、ダジャレ好きな残念美人に引き渡しましょう!」

武内P「~~~~~っっっ!!?」

早苗「さあ連行連行♪」

武内P「まま、待ってください!!」ズザザァ

早苗「うおっ!? 意外と強い抵抗」

武内P「高垣さんは……今の状態で高垣さんと会うのは本当にまずいんです!!」

早苗「え、なーに? どういう意味どういう意味? 未成年の娘たち相手は我慢しなきゃって思えるけど、楓ちゃん相手にはそうはいかないから?」

早苗「それとも――楓ちゃんには普段から我慢が限界だったとか?」

武内P「ちち、違まます!!」

早苗「あらあら~♪ 仕事を第一にして自分の心を押し殺していた男が、ついに胸の想いに素直になり幸せになる――ベタだけどいいじゃない!! ううん、楓ちゃんと武内君っていう最高の素材同士の組み合わせなんだから、ベタなぐらいがいいわ!! 全米が震撼すること間違いなし!!」

武内P「い、一度落ち着きませんか?」

早苗「いやー落ち着くって言ってもね? はなっから君のことは楓ちゃんのところに連れて行くつもりだったわけで。さ、そんなわけだから観念して。君力強いから、手首極めて引きずることになっちゃうよ?」

武内P(お、終わってしまう……何もかも)

武内P(担当しているアイドルの皆さんから軽蔑され……職を失い……そして、よりによって高垣さんに嫌われ――)





「そのFA待ったぁ!!」





武内P「!!?」

???「素直にプロデューサーに甘えたいのになかなか素直になれない」

???「だからプロデューサーのためだからと言い訳する」

???「人、それをカワイイと言う」

早苗「誰だ貴様はッ!?」

???「フッ――」

友紀「球界の盟主キャッツ、公認アイドル、姫川友紀!!」ロム・ストールゥ!!





姫川友紀
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武内P「姫川……さん?」

友紀「CPのプロデューサー! 自分の気持ちに正直になって。今回はそのチャンスなんだよ」

武内P「は、はあ」

友紀「勇気が出せるように、先人の偉業を教えるね」

友紀「元ロッテの小林選手はね、25歳の時に18歳の相手と結婚したんだ」

友紀「――交際期間、6年を経てね」

武内P「」


※デマでした


友紀「だからプロデューサー! 幸子ちゃんが14歳だからって、自分の気持ちを押し[ピーーー]必要なんて――」

早苗「いいわけあるかあああああっ!!!」

武内P「」ビクッ

早苗「ああもう、武内君はここで待ってて!」ガチャリ


手錠<もう離さない

手すり<君がすべてさ

手錠・手すり<BE MY BABY♪


早苗「犯罪を助長するようなこと言うんじゃないっ!!」ガシッ

友紀「想い合ってる二人を応援してるだけだもん!!」ガシッ

武内P(二人が揉めているうちに逃げなければ。しかし手錠が……ん?)

段ボール箱<……

武内P(いつの間にか近くに段ボール箱が……気づいていなかっただけでしょうか?)

段ボール箱<ゴソッ

武内P「!?」

杏「うしっ。今がチャンスだね」

武内P「双葉さん!?」

杏「シー。今から手錠外すから」





双葉杏
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武内P「しかし、どうやって……」

杏「大丈夫大丈夫。クリップで手錠を外す動画を見たことあるから……んん? なんか上手くいかない。んー、じゃあ試しにこっちも……お、こっちは上手くいった」ガチャ

武内P「助かりました双葉さん。……双葉さん?」

杏「……変だなあ」

武内P「どうかされましたか?」

杏「いや、手すりに繋がっている方の手錠は外せたから逃げられるんだけど、どうもこの手錠左右で作り方が違うみたいで……」


<大型補強! なのに13連敗! CS導入後初Bクラス! 山口俊! 村田ヘッドコーチ続投! 

<ゲボハァッ!!


杏「今考えることじゃないね。勝負がつく前に逃げないと。こっちだよ」

武内P「は、はい」


ペタペタペタ、タタタタタタッ

※ ※ ※



杏「あー疲れた。もう一週間分の運動はしちゃったよ。今日は杏と一緒にダラダラしない?」

武内P「……双葉さんは今の私の状況について、ご存じでは?」

杏「ああ、あの与太話ね」

武内P「よ、与太話?」

杏「うーん、ちょっと現状を整理しよっか。面倒くさいけど」」

杏「プロデューサーは40~50分という催眠療法の効果がでるまでの間で、一番意識した女性に惚れてしまう」

武内P「はい」

杏「志希の説明だと愛情以外の感情が増幅される可能性もあるけど……ぶっちゃけプロデューサー。さっきからドキドキさせられまくりでしょ?」

武内P「その……恥ずかしながら」

杏「べっつにぃ? 男として健全だから杏は気にしないよ」

杏「もうすでに20分以上が経過。効果が発動するまで最短で20分弱。誰を数年から数十年の間好きになり続けるかを、あと10分ぐらいで決めて、実行に移さないといけない」

杏「……だけどさ。そんあこと有り得るって思う?」

武内P「どういう意味ですか?」

杏「薬って何で定期的に服用し続けないといけないの? 効果が永続しないからでしょ」

杏「薬物療法じゃなくて催眠療法だから大丈夫? まさか。効果は長いかもしれないけど、だからこそ時間をかけて行う必要があるんだよ」

杏「定期的に何回も、患者のことを理解しつつ信頼も得ながら」

杏「志希がいくら天才だからって、ほんの少しの時間でこんな長期的な効果が生まれること、できるはずがない」

武内P「なるほど……」

武内P(突然の事態に加えて、説明の最中に目まいに襲われるという信じられないこともあって、有り得ないはずのことを全面的に受け入れていました)

杏「そもそもそんな危険な療法を施したのに、被験者の近くで経過を見守らないのもおかしいよ。ちょっとぶっ飛んでるところはあるけど、ここまで非人道的なことをするやつじゃないし、何より化学者としてデータを取りたいはず」

杏(まあプロデューサーが知らないうちに色んな計器を取り付けてるかもしんないけど)

武内P「……だとすると、一ノ瀬さんの目的はなんなのでしょうか?」

杏「手の込んだイタズラなんじゃない? 皆色んな手で今回の事態を知ったみたいだけど、志希から連絡を受けて知ったのは美嘉だけ。あの二人仲良いから、美嘉をからかおうとして事が大きくなったと思うけど」

杏「まあ時間が過ぎれば皆冷静になるから、それまでここで大人しく杏とぐうたらしてようよ」

武内P「……しかし」

杏「理屈では大丈夫とわかっても、万が一のことを考えると不安?」

武内P「ええ。このまま双葉さんとここに一緒にいますと、もしかすると私は双葉さんのことを……」

杏「んー、じゃあこうしよっか」





杏「そうなったら杏と結婚しよう」

武内P「――はい?」

杏「条件は杏を幸せにぐうたらに飼うこと。プロデューサーは好きになった人と結婚できてハッピー。杏は夢のぐうたら生活へと入れてハッピー。ノーバディ キャンストップ グータラ生活」

杏「ひょっとして誰か似たような提案しているかな? まあ打算的な杏が相手ならプロデューサーもそんなに罪悪感を覚えないだろうし、杏にしといた方が無難だよ」

武内P「……双葉さん。私のような頭の固い人間にそのような冗談は止めてください。心臓に悪いですから」

杏「プロデューサー、冗談半分って言葉があるよね」

武内Pえ?」

杏「今の杏の提案、どこからが冗談でどこまでが本気だろうね。フフ」

武内P「ふ、双葉さん?」

杏「別にまったく好きでもない相手と結婚しようだなんて、いくら杏でも考えないよ。それなりに好きで、けっこう信頼してて、経済力がある男性と結婚できる。これってかなりの幸せなんじゃない?」

武内P「その……そう言ってもらえるのはたいへん嬉しいです」

杏「お金のことも重視してても?」

武内P「ここまで面と向かって言われると、かえって評価されているのだと嬉しく思えます」

杏「……そうだね。プロデューサーが運やコネじゃなくて、努力して勝ち取ったわかりやすい評価の一つだもんね。そこだけ見られたら不愉快だろうけどさ」

武内P「ただ、私は双葉さんの冗談交じりの願いを叶えることはできません」

杏「え~、ケチー」

武内P「生涯の伴侶となる方に尽くすのはやぶさかではないのですが……」

杏「打算的な相手じゃその気になれない、と。むむっ、閃いた!!」

武内P「今さら本気だったと言いなおしませんよね?」

杏「……プロデューサー、女の子をおしゃべりを遮るなんて酷くない?」

武内P「も、申し訳ありません」

杏「ま、杏が本気であろうがなかろうが、プロデューサーは担当しているアイドル、それに未成年に手を出せる性格じゃないもんね」

武内P「その……双葉さん」

杏「なーにぃ?」

武内P「そんなはずはないと分かっているのですが……本気で私と結婚したいと考えているアイドルがいるのでしょうか?」

杏「……そう考えるのも無理はないよ。今日だけで何回も求婚まがいなことされてるもんね」

杏「けどその原因は催眠療法の効果が出るまでのタイムリミットがあって、さらにそれがほんの数十分ってこと。さらに効果が下手したら数十年っていう取り返しのつかない事態になること」

杏「事の大きさと考える時間の短さに加えて、皆プロデューサーに懐いているから、焦って妙な判断をしているだけだから気にしないでいいよ」

武内P「……ええ、きっと双葉さんの言うとおりです。私などを恋愛対象として見るわけがないのに、恥ずかしい話をしてしまいました」

杏「ア、ウン。ソダネー」

武内P「それではそろそろ私は行きます。双葉さんが言うとおり一ノ瀬さんのイタズラの可能性もありますが、なるべく二人っきりの状態は避けたいと思います」

杏「うん。気をつけてね」


ガチャ、バタン。タタタタタタタッ


杏「さて……と。杏と二人っきりだった時間は6分と20秒。占めた時間もなかなかだけど、状況を整理できたのが大きい」

杏「これから状況が切迫するに従って、何をすべきか考えるたびに杏との会話を思い出す。杏のことを意識する」

杏「このままいけば杏が勝てるんだけど――」チラッ





「家庭の話をかってーに仮定してます……ふふふ」





杏「……うわぁ。中庭で余裕たっぷりに鼻歌交じりに歩いてるや」

杏「残り時間もあとわずか。いったい何をしでかすつもりなのかな?」

中盤終了
今日中に完結します

※ ※ ※



武内P(双葉さんとの話で落ち着きを取り戻した私ですが、張りつめていた気も同時に緩んでいたのでしょう)

武内P(迫りくる熱気に気づけず、部屋を出てすぐ柔らかい衝撃に襲われました)

茜「ボンバーッ!!!」

武内P(日野さんのタックルです)

茜「プロデューサー!! 大丈夫ですかプロデューサー!? なんだか大変なことになっていると聞きましたが大丈夫ですかプロデューサー!!?」ギュウウウウ

武内P「いえ……今まさに大丈夫ではないのですが」

茜「なんと!? 確認します!!」

武内P「!!?」

茜「本当です!! 心臓がすごくバクバク鳴ってて、なんだかすごいです!!」

武内P「ひ、日野さん。いったん離れましょう」

茜「そんな!? こんな状態のプロデューサーから離れるなんてできませんっ!!」

武内P「……これは突然日野さんに抱きつかれてびっくりしただけです。日野さんも、予想外のタイミングで本田さんに抱きつかれたらビックリしますよね?」

茜「ビックリしますけど、こんなには」

武内P「…………それが異性の相手、たとえば私だったらどうでしょうか」

茜「……ふぇ!!?」バッ

武内P(よ、ようやく離れてくれました)ホッ

茜「ぷ、プロデューサーがいきなり……大きな体で包み込むように……私を抱きしめ?」

武内P「あの……日野さん?」

茜「だ、ダメですよプロデューサー!!」

武内P「は、はあ」

茜「えっと……そうです、心の準備です! ちゃんとこうやって真正面からお互い腕を広げあって、全力で抱きしめ合うべきです!!」ババーン

武内P「は、はい」

茜「スーハー……というわけで今なら大丈夫です!! どうぞ!!」

武内P「いえ、今のは私が日野さんにされたことを、日野さんの立場に置きかえた場合の話でして」

茜「え」

先生・フィオレ『……』

茜「す、すみませんでした!!」

武内P「あ、いえ。わかっていただければ」





日野茜
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茜「と、ところでプロデューサー!! なんだか大変なことになっているそうですね!?」

武内P「日野さんの耳にまで届いていましたか……」

茜「はい! だから私と一緒に走りましょう!!」

武内P「……理由を尋ねてもいいでしょうか?」

茜「志希ちゃんに何だか怪しい実験をされたと聞きました! だから動いて汗をかいて、悪い物を流す! これでプロデューサーに変な事は起きたりしません!!」

武内P「なるほど、日野さんの考えはわかりました。せっかくですが残り時間が少ないので、上手くいくかわからない方法を試すわけには……」

茜「ダメですよプロデューサー!! 上手くいかないなんて考えながらじゃ、上手くいくものも上手くいきませんよ!!」

武内P「……たとえばの話ですが、ある練習をすれば九割の可能性で大きな成果を得られるとします」

茜「素晴らしいですね! ぜひ実行するべきです!」

武内P「しかし一割の確率で選手生命が絶たれるほど危険なものでした」

茜「なっ!?」

武内P「上手くいくと信じることはとても大切なことです。しかし失敗した場合のことをまったく考えないのも問題ではないでしょうか」

茜「むむむ」

茜「……プロデューサーさんの場合、上手くいかずに失敗するとどうなるんでしょうか?」

武内P「そうですね。日野さんと一緒に走っているわけですから、私が日野さんのことを愛してしまうことになるかと」

茜「……ふぇ?」

武内P「なので、万が一にもそのような事態にならないために……日野さん?」

茜(プ、プロデューサーが私を愛して!!? つ、つまり――)

~ザザーン、ザザーン~


茜『うおおおおおおおっ!! プロデューサー、こっちですよおおおおお!!!』

武内P『ハハハハハ』

茜『アハハハハッ! 私を捕まえてください!!』

武内P『ハハハ、ハハハハハハハッ』

茜『ボンバーッ!!!』



茜(浜辺で追いかけっこをしたり――)



~ピヨピヨ、ピヨォ~


茜『プロデューサー! 唐翌揚げに挑戦してみました! 食べてみてください!!』

武内P『ハハハハハ』

茜『も、もうプロデューサーったら!!』

武内P『ハハハ、ハハハハハハハッ』

茜『まだまだあるからたくさん食べてくださいね!!』



茜(公園で小鳥のさえずりを聞きながら、お弁当を食べたり――)



~アハハハハ、フフフフフ~



茜『♪~』

武内P『ハハハハハ』

未央『おーおー、お熱いですなあ。手をつないで散歩だなんて♪』

茜『み、未央ちゃん!? もう、からかわないでください!!』

武内P『ハハハ、ハハハハハハハッ』



茜(手をつないでお散歩なんかも――!!?)


※私の中では茜ちゃんはランランと並んで純粋なので、この程度の妄想しかできません。17歳です。

武内P「日野さん?」

茜「――ハッ!?」

茜「んんっ。わ、わかりました。と、とりあえず体を動かしながら、どうするか考えましょう」

武内P「は、はあ」

茜「いきなり走るのは危ないので、最初はゆっくり歩きましょう」

武内P「その……私にはゆっくりしている時間がなくてですね」

茜「だ、だからこそ二人でゆっくりと――――――――ボンバーッッッ!!!」

武内P「!!?」

茜「私は……私はなんて汚いことをしようと!! 未央ちゃんと文香さんに合わせる顔がありません!!!」

茜「プロデューサー、私を殴ってください! ちからいっぱいに頬を殴ってください! 私は、途中で一度、悪い夢を見ました。プロデューサーがもし私を殴ってくれなかったら、私はプロデューサーの元担当と名乗る資格さえ無いんです。殴って!!!」

武内P「落ち着いて、どうか落ち着いてください!」

茜「う、うう。爆砕点穴(穴掘って)埋まりたいですぅ」

武内P「その……事情はよくわかりませんが、悪いことを考えても自制できたのです。誘惑に駆られずに立派な事だと私は思います」

武内P(考えただけで悪ならば、今日だけで何度も未成年の娘相手に不誠実なことを考えている、私の立場がありません……)

茜「……ありがとうございますプロデューサー。でも、私は少し頭を冷やすことにします」

茜「ところで、未央ちゃんと文香さんとは会いましたか!? 私だけ会っていたら不公平です!!」

武内P「何が不公平なのかわかりませんが……本田さんとは会いましたが、鷺沢さんは見かけていません」

茜「それなら東館に行ってください! 文香さんがそこにいるはずですから!」

武内P「は、はい」

茜「頑張ってくださいね!!!」

武内P(元気よく手を振る日野さんに見送られ、釈然としない気がしながら東館への歩みを進めてしまいました)

武内P(しかしこのまま行くと、鷺沢さんと出会うことに……)

武内P「……ここからなら北館にも行けますね」

※ ※ ※



武内P(北館へと通じる渡り廊下の手前まで来たのですが……)

ありす「……」ドドドドドドド

武内P(……なぜか橘さんが仁王立ちしています)

武内P「あの……橘さん?」

ありす「橘ではありません」

武内P「え……? しかし、名前で呼ばれることを好んでいなかったのでは?」

ありす?「私は、橘ありすではありません」

武内P「???」

ありす?「私は愛の使者――」





「ストロベリー・クール・パスタです」





武内P「」





冷やし苺パスタ
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スクパ「何やら大変なことになっているようですが、仕事はできても女心はちっともわからないCPのプロデューサーさんには事態が理解できず、お困りでしょう」

武内P「」

スクパ「迷える朴念仁を導くのは愛の使者の務め。今貴方が何をすべきか、私が教えてあげます」

武内P「は、はあ……誰もいない部屋で、心を無にすることでしょうか?」

スクパ「これまでたくさんの女性にデレデレしたのにですか? もう手遅れです」

武内P「う」

スクパ「その結果が手錠を片手にぶら下げて、疲労困憊でさまよう今です。貴方が実直な方ということは私も承知していますが、それでも凶悪な逃亡犯に見える有様です」

スクパ「今日だけでも多くの我の強い女性に振り回されてわかったでしょう。貴方は大人しく教養があって、人への思いやりに満ち満ちた、黒く長い豊かな髪をたなびかせた女神のような女性と添い遂げるべきです」

武内P「あの……前半はともかく、後半の理由は?」

スクパ「しかしそんな神話の女神ような女性は……あ、そういえば」

武内P(流されてしまいました……)

スクパ「さきほど東館の方で絵画、いえ神話の中から誤って現世に降臨されたような、美しさと気品をまとった女性を見かけました!」

スクパ「さあCPのプロデューサーさん! 残された時間はわずかです。今すぐ東館へ!」

武内P「できれば……このまま通していただき――」

スクパ「は?」

武内P「……失礼しました」


トボトボ、トボトボ


武内P(……別に鷺沢さんと出会っても、あの方は私に何かしたりはしないでしょう)

武内P(いえ、ひょっとすると私の事を気の毒に思い、親身になってくれるかもしれません。それは非常にまずいです)

武内P(橘さんの表現はさすがにおおげさですが……鷺沢さんは非常に魅力あふれる女性であることは事実。このように精神的に追い詰められている状態で優しくされれば、催眠療法の効果が出た時に鷺沢さんに想いを抱きかねません)

武内P(これまでの他のアイドルの皆さんと違って、私に一方的に想いを寄せられても鷺沢さんはそのことに抗議をしたり、周りの人に相談することもできずに一人で悩みを抱えかねないタイプです)

武内P(危険ですがここは中央館にとどまって――)

スクパ「……」ジー

武内P「あ」

スクパ「何を! 考え込んで! いるんですか! 時間は、無いんですよ!」ゲシゲシ

武内P「痛い、痛いです。脛は止めてくださいっ」

スクパ「私のストロベリー・グランタブレットが火を噴く前に、さっさと東館へと行ってください!!」

武内P「は、はい!」

※ ※ ※



武内P(橘さんに追い立てられ、東館へと来てしまったわけですが……)

文香「……」

武内P(さっそく鷺沢さんがいました。しかし――」

文香「……ッ……~~~///」

武内P(長椅子に腰かけ、本……いえ、薄い冊子のようなものに夢中でこちらに気づいていません)

武内P(鷺沢さんが私に何かされるとは思いませんが、念のためここは静かに通り過ぎさせてもらいましょう)


そろ~


武内P(それにしても鷺沢さんの顔が赤く、ひどく動揺しているようです。いったい何に目を通されているのでしょうか?)

文香「そ、そんな……こんなことをするだなんて。で、でも――」

武内P(……気にはなりますが、今のうちに)

文香「こ、このぐらい大胆なことをしないと……私なんかに、あの人は……」

文香「……一度、落ち着かないと」

文香「スー……スー……スー……ッ!!?」

武内P「!!?」

文香「ゴホッ……ンッ」

武内P「だ、大丈夫ですか鷺沢さん!?」

文香「ケホッ……は、はい。いったい……何が?」

武内P「その……深呼吸をされようとして、誤って吸う動作だけをしていたようです」

文香「え……そ、そんな。お、お恥ずかしいところを」

武内P「いえ、それよりもお体の方は大丈夫でしょうか?」

文香「はい、ご心配をおかけしました」

武内P「―――それでは私は急ぎますので。どうか体には気をつけてください」スタッ

文香「ま、待ってください!」





鷺沢文香
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文香「その……少しだけ、お時間をもらえませんか」

武内P「……申し訳ありません。今私は、その――」

文香「どうか、どうか少しだけでも……」パラパラ

武内P「あの……先ほどから何に目を通されているのですか?」

文香「あり……ストロベリー・クール・パスタという親切な方が用意してくださった手引書です」

武内P(橘さん……)

文香「えっと……もう立ち去る寸前……最終段階に打つべき手は」

文香「こ、これは……!」

武内P(顔が蒼くなったかと思いきや赤く……いったい何が書かれてあるのでしょうか)

武内P「……すみません、私も見せてもらっていいでしょうか」

文香「は、はい。どうぞ」

武内P「失礼します」





≪無理矢理にでも抱きついて、“今日は大丈夫な日なんです”と言いましょう≫





武内P「」

※ ※ ※



ストロベリー・エターナルクール・パスタ『アブソリュート・タチバナ。効果はタブレットの年齢制限を取り払うことです』



※ ※ ※

文香「……そ、そんな……抱きつくだなんて」

武内P「」

文香「それにしても……大丈夫な日とは、いったい何のことなんでしょうか?」

武内P「いえ、あの……鷺沢さん」

文香「でも……どうすればいいかわからない私に、ありすちゃんが頑張って用意してくれたんです。きっと、深い意味があるに違いありません」

武内P「別に、深くは……いえ、説明できるものではないのですが」

文香「かといって……お、男の人に抱きつくなんて、私には」

武内P「そうです。無理をされる必要など一切ありま……鷺沢さん?」

文香「わ、私にはこれが精いっぱいで……」

武内P(風が吹けばほどける様な弱々しさで、彼女はたおやかな指で私の袖をそっとつまんでいました)

武内P(緊張からその吐息は小刻みに荒く、緊張で固くなった体はその両肩をぎこちなく上下させています)

武内P(いますぐその体を支えなければという使命感と、今の私が彼女にうかつに触れるわけにはいかないという恐れで葛藤していると、彼女がなんとか呼気を落ち着け、ゆっくりと私を見上げました)

武内P(濡れた瞳を上目遣いに、頬を赤く染めながら彼女は――)

文香「きょ……今日は、大丈夫な日……です」

武内P「~~~~~っっっ」

武内P(鷺沢さんほどの女性がそれを使えば、男を数十回殺せる威力があるとはつゆほども知らず、例の言葉を口にしてしまったのです)

文香(プロデューサーさん、どうされたのでしょう? 硬直して顔を赤くされて……赤く?)

文香(プロデューサーさんが顔を赤くされたのなら……ストパ指南書⑫にあったことをしないと)

文香「その……し、失礼します」

武内P「!!?」

武内P(鷺沢さんが私の額に手を当て……ヒンヤリとして、とても気持ちが良い)

文香(指南書には額と額を合わせて熱を測るとありましたが……背が高くて無理ですし、何より恥ずかしすぎてそんなことできません)

文香(でも……これだって十分恥ずかしいです。プロデューサーさんは大きいから、近づかないと手が届きませんし……もう一歩踏み込めば、プロデューサーさんの胸の中に)

武内P(こ、これは大変危険な状態です。しかし私の体を心配してくださっている鷺沢さんの手を払って逃げるわけには――)

文香(この距離……まるで奏さんが出演したドラマのワンシーンのようです。そう、こんな風に――)

武内P(……なぜ、私を見上げながら……目を閉じるのですか)

武内P(距離が縮まって……いえ、私がつめている? 体が勝手に……いけない、このままでは、このままでは!)

文香(プロデューサーさんの額に当てたままの手が教えてくれます……距離が、なくなってきてます。これは……私なんかにプロデューサーさんが!?)

武内P(止まれ、止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ――――)

文香(――――プロデューサーさん)

武内P(止ま――――ッ!!)


コツン


武文両道『あ』

武内P(鷺沢さんが私の額に手を当てたままだったおかげで、お互い途中で我に返ることが出来ました)

武内P(呆気にとられた……夢から覚めたばかりのような美しい顔を間近で見て、自分が何をしでかそうとしていたか今度こそ理解することができ――)

武内P「申し訳……ありま、せんでしたっ!!」ガバッ

文香「ぷ、プロデューサーさん!?」

武内P「本当に……何と言ってお詫びすればいいことか」

文香「ど、土下座なんてお願いですから止めてくださいっ」

武内P「どうか、どうか許してください。わ、私は……プロデューサーなのに、未成年のアイドルに……う、うう」

武内P「申し訳、ござい、ませんっ!!」


ゴツンゴツンゴツン!!


文香「だ、ダメですっ。ケガをしますからそんなことは――」

武内P「さわらないでください!!」

文香「」ビクッ

武内P「このままでは……このままでは、私などが貴女を好きに……クッ」

武内P「申し訳ございませんでしたああああああァァ!!!」


ダダダダダダッ、ガタ、ゴロンゴロン、グチャ、ブシュー、ガバァッ、ダダダダダダダッ

キャアアアアアアアアアアッ!!

フランケンシュタインだあああああ!!?


文香「あ、ああ……あんなに豪快に階段を転げ落ちて……すぐに起き上がって走ってしまって」

文香「……」


武内P『このままでは、私などが貴女を好きに……』


文香「貴方だからこそ……好きになってほしいのに」

文香「……追いかけないと」

※ ※ ※


ガシャ、ズル、ズルズルズル――


武内P「……」

武内P(土下座の時に額が割れ、さらに階段から転げ落ちて服も体もボロボロ。極めつけは手首にぶら下がったままの手錠)

武内P(橘さんの言うとおり、まるで凶悪な逃亡犯のようです)

武内P「ですが……全身に奔るこの痛み、何より罪悪感と自己嫌悪。アイドルの皆さんへの煩悩は、さきほどの衝撃で全て吹き飛びました」

武内P「残り時間はあと5分から15分程度。あとはどこかに隠れて過ごせば、最悪の事態だけは防げます」

武内P「なんとか……なって……本当に、良か――」


ギュインッ


武内P「……え?」

武内P「今の音は……それに、手錠が勝手に浮き上がって……」

武内P「引き寄せられる!? まるで磁力!」

武内P「ハッ!」



杏『……変だなあ』

杏『手すりに繋がっている方の手錠は外せたから逃げられるんだけど、どうもこの手錠左右で作り方が違うみたいで……』




武内P(最初から……私が逃げることを想定していた?)

武内P(だとすると、この手錠に引っ張られるがままではようやく避けられたはずの最悪の事態に!?)

武内P「グ……ダメです。もう、力が」


ズザザザザアァ


武内P(手錠に引きずられ、着いた先には――)

楓「待ってましたよプロデュ――――え!?」





高垣楓
http://pbs.twimg.com/media/C-ppxTWUMAAT8Oa.jpg

ガチャンッ


武内P(私と同じ手錠を着けた高垣さん――今日もっとも会ってはいけない方がいて、私の彼女の手錠が強く合わさってしまいました)

楓「プロデューサー!? なぜこんなボロボロに……あ、ああ。貴方の性格を考えれば、こうなる可能性も考えられたはずなのに」

武内P「……大丈夫です高垣さん。見た目こそ派手ですが、そこまでたいした傷ではありませんから」

楓「……こういう時プロデューサーは平気でウソをつくから信用できません。さ、傷を見せてください」

武内P「そ、それはできませんっ!」

楓「やっぱり、ウソをついてるんですね」

武内P「そ、そうではなくてですね。傷を見せるということはつまり、その……服を脱いで、さらに高垣さんに体を触れられることに」

楓「あ――」

武内P「この手錠は高垣さん、もしくは片桐さんの物ですよね。どうか外してください」

楓「……ヤです」

武内P「……え?」

楓「いーやーでーす」

武内P「た、高垣さん」

楓「耳に聞こえましたよね? イヤってイヤーに。ふふふ」

武内P「あの……本当にお願いします。私の事情は高垣さんもご存じなんですよね?」

楓「はい、知ってます」

武内P「でしたら――ッ」

楓「……プロデューサーは私のこと、そんなに好きになりたくないんですか?」

武内P「す、好きになるわけにはいかないことは、高垣さんもわかっていますよね?」

楓「そうですよね……私みたいに子供っぽくて、空気が読めない女なんて……嫌いですよね」

武内P「き、嫌いならここまで悩みませんっ!!」

楓「……え?」

武内P「あ」

楓「……今の、もう一回言ってもらっていいですか」

武内P「ど、どうか忘れてください」

楓「同じ内容を耳元で優しく囁くか、さっきと同じぐらいの勢いで抱きしめながら言ってくれたら忘れますから」

武内P「忘れる気がありませんよね、それ?」

楓「ふふ、ふふふふ。そうですよねぇ。嫌いな相手とこうして一緒にいたって、イライラするだけで志希ちゃんの催眠療法の効果はマイナスの方向に行くだけですもんね♪」

楓「つまりプロデューサーは、こうして私と手錠でつながれているだけで私のことを意識しちゃうんですね」ロンパァ!

武内P「……後生です。どうか手錠を外してください」

楓「どうしてもですか?」

武内P「どうしてもです」

楓「うーん、そうですねえ。あ、じゃあ私をどうしようもない人扱いしてください!」

武内P「……………………え?」

楓「うまく私をどうしようもない人扱いしてくれたら、手錠を外しますから。さあ、さあ!」

武内P「……他の方法はありませんか?」

楓「え、もっとハードルを上げていいんですか?」

武内P「わ、わかりました。わ、私はこれから……貴女を、どうしようもない人扱いします!」

楓「はいっ。ワクワク、ドキドキ」

武内P「ゴホンッ」

武内P「えー……」

武内P「…………そのー」

楓「……プロデューサーはこのままを望んでいるようですね」

武内P「ち、違います。今からしますので」

武内P「その……この前の飲み会のことですが」

楓「私とプロデューサーの他に、川島さんと片桐さんと飲んだ時のことですね」

武内P「男が私がしかいない女性比率の高い飲み会だったとはいえ、潰れるまで飲んで、さらに私の肩にもたれかかるのはちょっと……どうしようもないのでは」

楓「……プロデューサー」

武内P「あ、いえ。決して私は高垣さんのそういったところを悪く思っているわけではなくてですね!」

楓「私をどうしようもない人扱いするのではなくて、自分がどうしようもない人だった時の話をなぜするんですか?」

武内P「……え?」

楓「潰れたフリしてもたれかかって、川島さんたちもアシストしてくれたのに何もしないだなんて。男としてどうしようもないと、忸怩たるものがないんですかもう!」

武内P(……何がなんだかわからない)

楓「そうなどうしようもないプロデューサーには……」

武内P「そ、それは手錠の鍵ですか!?」

楓「こうです!」

武内P「!!?」

武内P(む、胸元に……隠されてしまいました)

楓「さあプロデューサー! 今こそ漢気を見せる時でSHOW!」

武内P(漢気……漢気とはいったい)

楓「その……胸が小さくて、つまらないかもしれませんが」

武内P「そんなことはありま……ッ!!」

楓「……プロデューサー?」

武内P「いえ……なんでもありません」

楓「なんでもなくなくないですよね? 一瞬スゴイ勢いでしたよね?」

武内P(誰か……私を殺してください)

楓「良かった……プロデューサーは私の胸のことで、そこまで食いついてくれるだなんて」

楓「さあ、どうぞプロデューサー」

武内P「た、高垣さん?」

楓「鍵が必要なんですよね。どうぞ存分に探してください」

楓「探すフリをするだけでも、私は一向に構いませんよ」ニコ

武内P「あ――――嗚呼」

武内P(高垣さんのその笑顔を間近で見て……私は力なく悟りました)

武内P(もう、手遅れだと)

武内P(催眠療法の効果はいつ起きてもおかしくない時間となり、今私は高垣さんに心を奪われている)

武内P(もう――――誰のことも好きになることなく終わるという望みは、完膚なきまでに砕かれたのだと)



<プロデューサー、どこ!?

<ど、どうしよう! そろそろ時間じゃん!

<こ、こんなにカワイイボクを不安にさせるだなんて! 今出てきてカワイがるなら許してあげますよ!

<プロデューサーさん……プロデューサーさん……

<我が友ぉ! 我が友ぉ!

<み、皆落ち着こうよ!

<うわぁ。予想はしていたけど阿鼻叫喚だあ

<ウオオオオオ!! ボンバーッ!!!

<これだけのアイドルが相手なら、エターナルフォース・タチバナを使わざるを得ませんね

<あ、あり……じゃなくて、ストロベリー・アブソリュートクール・グランタチバナちゃん、どうか穏便に



武内P(周囲から迫りくる喧騒による死体蹴り。もしここを奇跡的に逃れられても、私は結局アイドルの誰かのことを――)

武内P(もう、私は終わり―――――――)





『諦めんなよ!!』





武内P「!!?」

楓「プロデューサー?」

『余計なことは考えるな! オマエはアイドルに手を出さないことだけを考えればいい!!』

『たとえそのために、お前が倫理道徳を踏みにじることになっても』

『俺だけは、味方だからな』





まゆP『だから……何があっても、絶対に諦めるなよ!!』





武内P(そうでした……私はプロデューサー。何があってもアイドルを好きになるわけにはいきません)

武内P(たとえ何があろうと、何をしようと。倫理道徳を踏みにじってでも)

武内P(屈するわけにはいきません!!)

武内P(私に力と勇気を分けてください、まゆP!!)

武内P(まゆP……まゆP……まゆ……P……)

武内P(―――――――――――ッ)

※ ※ ※



晶葉「ほう、催眠療法と偽ってプラシーボ効果の実験か」

志希「そうそう。人をどこまで強く思い込ませられるか、そしてそれをどの程度続かせられるか、そしてそれを解除する方法は何か。この三つが主要テーマだったんだー♪」

晶葉「プラシーボ効果は引き起こす手段は複数あるが、資料を見る限り君は暗示に重きを置いているようだな」

志希「にゃははっ。晶葉ちゃんは話が早くて助かるような、物足りないような?」

志希「ま、それはさておき。最初に信じられないような目に遭わせて、もっと有り得ないことが起きると信じさせる」

晶葉「音や匂い、光などを駆使して数分ほど気分を酩酊させることはそう難しいことではない。もっとも、突然そんなことをされた人間は冷静ではいられない」

晶葉「まして怪しげな薬の説明を受けている最中で、よりによって目の前にいる相手が君だ。ある程度化学をたしなんでいる人間でなければ信じきってしまうだろう」

志希「晶葉ちゃんが相手ならまず通じないねー」

晶葉「私はバケガクではない方のカガクだが、このぐらいならな」

志希「楓さんや杏ちゃんにも見抜かれてたっぽいね」

晶葉「二人とも効果は深刻なものでないと見抜いたうえで、利用しようとしていたな」

晶葉「さて、強く思い込ませる方法はわかったが、次の効果期間の長さについては?」

志希「これがねー、バランスが難しくって。重要なのは君はこれからどれぐらいの期間だれだれを好きになりますって宣告するところなんだ」

志希「君はこれから一生同じ人に惚れ続けます! って言ったらインパクトはあるけど、本当にそんなこと有り得るのかって疑問に思っちゃう可能性もあるよね?」

晶葉「疑問に思われては効果が薄まる。かといって期間が短すぎると深刻に受け止めてもらえない……か」

志希「今色んなパターンを試していてね。CPのプロデューサーには数年、場合によっては数十年っていうパターンだよ」

晶葉「ちなみに今のところ最も効果的だった期間設定は?」

志希「半年から一年で、プラシーボ効果が続いたのは七日間。けどこれは被験者の受け取り方がモロに出るから、サンプルデータが少ない今現在じゃあんまり参考になんないよ」

晶葉「ふむ。では最後のテーマ、解除する方法について聞きたいんだが」

志希「うん、これは予想していた以上に簡単でね。実験の詳細を一から説明するだけですぐとけちゃう」

晶葉「……催眠療法という耳慣れず、さらにとんでもない実験に巻き込まれたかと思いきや、プラシーボ――ようするに思い込みの実験だからな。理解が追いつけず呆気に取られ、我に返った時には効果が消えるといった具合か?」

志希「うん、まあそんな感じ」

晶葉「解くのが簡単なら――」





武内P『まゆP! まゆP! 私には貴方しかいない、まゆP!!』

まゆP『や、やめろおおおおおぉぉっっ!!! お、俺にそんな趣味はねえええんだよっ!!!』

武内P『ならば無理矢理にでも! 倫理も、道徳も! この愛を遮るというのなら踏みにじってみせます!!』

凛『お、落ち着いてプロデューサー!!』

蘭子『わ、我が友……?』





晶葉「――さっさと解いてやったらどうだ?」

志希「」

晶葉「監視カメラごしでも伝わる阿鼻叫喚の気配。もうじきまゆも来るだろうし、そうなったら血を見ずにはすまないぞ。いやホントに」

志希「い、今あたしが行くと、血を見せるのは私になっちゃうかなーって」

晶葉「自業自得じゃないか」

志希「いやね、こんなことになるなんて予想していなかったんだよ本当! 記録を取りながら、美嘉ちゃんをからかいつつ応援しようとしたら何これ!? CPのプロデューサーの周りは魔境かなにかなの!?」

志希「というわけで私はアメリカにぼうめ――じゃなくて留学に行ってくるから!! 実験の全容と知った晶葉ちゃんが後はなんとかしといて!! お礼に特許をいくつかあげるから!! それじゃアデュー!!」


ガチャ


楓・杏「……」

志希「……」


バタン


晶葉「どうした? 人の返事も聞かずに飛び出たかと思いきや」

志希「失敗した――」

晶葉「は?」

志希「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した 私は失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した 私は――」

晶葉「」

ガチャ、ギギギイィィ――


志希「」ビクッ

晶葉「あー、じゃあ私は君の頼みどおり、CPのプロデューサーのプラシーボを解いてくるとしよう!」

志希「え、ちょっと待っ――」

晶葉「そんなわけで通してもらえるかなお二人さん、いやーありがとうしっかりと治すことを確約するよふっふっふっふっふ」


カツーン、カツーン ペタ、ペタ


志希「お、置いてかないでー!! あ、いや二人は来ないで。ど、どうしたのさっきから無言で? 無言の笑顔って怖いよ? CPのプロデューサーが好きな笑顔じゃ――ごめんなさいごめんなさい! あたしなんかよりお二人の方が詳しいですよね!」

志希「い、いやね? 二人とも怒ってらっしゃるようだけど、彼が男に走るほど追いつめた責任は二人にもあるんじゃない? しかも真相にある程度気づいていたでしょ?」

志希「も、もちろんあたしが一番悪いです! でもお二人がこんな事態になることなんて予想できていなかったように、あたしもこんなくそみそな展開予想できていなかったんです!」

志希「だ、だから――――落ち着いて! そのトイレットペーパーであたしをどう処理する気!?」

志希「や、やめ―――――」





アッー!!!





――こうして事態は収束した。

武内Pがその日の記憶があいまいで、唯一はっきりした記憶が同僚を押し倒すもので自分はそっちの気があるではと思い悩んだり、まゆPがやや男性不信となった結果担当アイドルとさらに親密になったり、あげくの果てに志希にゃんの目からしばらくハイライトが行方不明になりはしたが――





~HAPPY(♂) END~

最後まで読んでいただきありがとうございます。

久しぶりですが、皆さんお元気でしたか?
私は限定ふみふみをご理解するために微課金Pを辞めたり、シンフォギア4期が終わって色々とボロボロです。
限定ふみふみのMVとXDのおかげでかろうじて致命傷ですんでいます。

久しぶりに長めのSSを書きましたが、狂気と絶望、胃にくる重さが足りないのが反省点。
しばらくはまた短めのSSを書こうと思います。
次は年内に小ネタ集を書く予定。

武内P「346プロの平穏な日常」(仮題)



それとシンフォギアのSSも書きました

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デレステだけに限れば3回連続でホモネタやってるけど、シンフォギアを挟んでいるのでセーフ

これまでのおきてがみ(黒歴史)デース!
アリーナでのランクをようやくA1にしたデース!



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