肇「エイト・デイズ・ア・ウィーク」 (27)



夫婦の、ある日の昼下がり



肇「Pさん、お茶をいれましたよ」


P「お、ありがとう」


肇「はい、どうぞ」


P「いただきます」


肇「…」


P「?」


肇「…」ジー


P「…あ」


肇「!」


P「肇、この湯呑みー」


肇「正解です! この前出来たばかりの新作なんです」


P「だよな?」


肇「やっぱり気づいてくれましたねっ」


P「家にある器は全部覚えてるしな」


肇「ふふ、嬉しいです」


P「いい湯呑みだな」


肇「そう、思いますか?」


P「うん。目利きができるわけじゃないけど、なんとなく、いい湯呑みだなって思う。肇らしいというか」


肇「それ、母にも言われました」


P「お義母さんに?」


肇「私自身、自信作だと思っているんです。私の想いを素直に込められたような気がして」


P「肇の想い?」


肇「使ってくれる人の、喜ぶ顔を見たいなって」


P「…それって、俺のこと?」


肇「他にいると思いますか?」


P「…肇、ありがとう」


肇「ふふ、どういたしまして」


P「お礼に頭を撫でてあげよう」ワシャワシャ


肇「あ、ちょっと、髪が乱れ」


P「ほっぺたもちもち」グニグニ


肇「いふぁいれす、いふぁいれす!」


P「…ふう、満足した」


肇「…私はワンちゃんじゃありませんよ」プクー


P「柴犬かと思った」


肇「人間ですっ」


P「ごめんごめん」


肇「もう」


P「数日ぶりの肇を満喫したかったんだよ。昨日は出張の疲れですぐ寝ちゃったし」


肇「それは…私も、寂しかったですけど」


P「本当に?」


肇「本当ですよ」


P「岡山からひとりで上京してきたメンタルの持ち主なのに?」


肇「それとこれとは別です。ある意味…あの頃より、弱くなったのかも」


P「そうか?」


肇「あの頃は、寂しさ以上に、一人前のアイドルになることでいっぱいでしたから。前を向き続けることこそ、「藤原肇」だと思ってたんです」


P「今は?」


肇「夫のPさんがいて、妻の私がいる。…あなたと、私。ふたりでひとつの器であると、私は思っています。その器の片割れが欠けてしまったのなら、寂しいと思うのは当然じゃないですか?」


P「…」


肇「…そういうPさんは、寂しくなかったのですか? 私がいなくて」


P「…寂しかったに決まってるだろ」


肇「…ふふ、そうですよね」


P「考えてみれば、肇がアイドルだった時の方がずっと一緒にいたんだよな」


肇「…そうですね。同じ景色を、ずっと一緒に、見続けてきました」


P「今でも昨日のことみたいに思い出せるよ。出会った時から、今日に至るまで」


肇「…はい、私もです。ステージから見る美しいペンライトの海と同じくらい…もしかしたらそれ以上に、あなたとの思い出は輝いて見えます」


P「…色々あったな」


肇「はい、本当に…色々と。Pさんにはたくさんのことを教えてもらいましたね」


P「…何か教えたっけ?」


肇「ふふ、教えてもらいましたよ。アイドルの時から数え切れないくらい。何より…人を愛すること。人に愛されることが、こんなに幸せなことなんだって」


P「…」


肇「ずっとずっと好きで、それでも叶わないと思っていた人と結ばれることができて。私は本当に幸せ者です。あの頃の私に伝えたいです。私は今、こんなに幸せだよって。片思いをしていて、胸が張り裂けそうなくらい辛い時もあるけど、その想いは報われるんだよって」


P「肇…」


肇「結婚してから、アイドルの時よりもずっと忙しくなるなんて思ってもいませんでしたよ」


P「え? …家事がってこと?」


肇「それもなくはないですけど、もっともっと大切なことでですよ」


P「陶芸家として器を作ったり、陶芸教室の先生との両立? あと、たまにテレビに出たりとか?」


肇「んーっ、違います。私の軸、という意味では近いかもしれませんけど」


P「肇の軸?」


肇「さっきからたくさん話しているじゃないですか。あなたを、Pさんを愛することが、ですよ」


P「え」


肇「お嫁さんというのは、旦那さんを愛するのにこんなに忙しいものなのかと。それこそ、1日が24時間じゃ足りない、1週間に8日必要なくらいです」


P「…」


肇「一緒にいる時も、いない時も、ずっと私の中にはPさんがいて、いつもいつも、Pさんを愛していますから」


P「…それは、大忙しだな」


肇「Pさんは、違いますか? 私よりもっと若い女の子に囲まれていて、私のことなんか忘れてしまいますか?」


P「そんなわけないだろ。いっつも肇のことを想ってるよ。他の子をプロデュースしてても、肇との思い出が溢れてくるし…俺も、忙しくてしょうがないくらい愛してるよ」


肇「…私が必要なくらい、Pさんも私の愛を必要としてくれてる。やっぱり、私は幸せ者です」


P「肇…」ギュウウウ


肇「…もっと抱きしめて、もっと愛してください、Pさん」


P「…」ギュウウウ


肇「もっと強く、もっと愛して…」



………

……………

…………………


P「ん…あ、寝ちゃったのか…」


肇「すぅ…すぅ…」


P「肇…寝顔、変わらないな」ナデナデ


肇「むにゃ…ごはん…」


P「はは、昔もそんなこと言ってたな。意外と食い意地が張ってるのかな」


肇「…おいしいですか、Pさん…」


P「あ…」


肇「…Pさん…ずっと、いっしょ…」


P「…ああ、ずっと、一緒だよ。肇…」


ー思い出す場所がある。今はもうないところ、これからも変わらず残り続けるところ、全ての場所に大切な思い出がある。


忘れることなんてできない、大切な人たちとの記憶の場所。


もう遠くに行ってしまった人、今でも元気な人、毎日顔を合わせる人、その全ては、大切な宝物なんだと思う。



でも、そんな宝物でも、肇とは比べられないんだよ。



肇と一緒に過ごす時間、離れている時でも、心が繋がっていて、いつでも肇を想っていて、肇も俺を想ってくれて。それより大切なことなんてないんだ。


俺の歩んできた人生で得たどんな愛すべき宝物よりも、俺は肇をこれからも愛していこうと思うんだ。


忙しいくらい俺を愛してくれる肇を、忙しいくらい愛して、幸せにしてあげたいから。



だけど、今はー



P「…おやすみ、肇」


肇「んぅ…」


タイトルと一部セリフはビートルズの『Eight Days A Week』、『In My Life』から。

ペースは落ちますが今年もゆるゆると肇ちゃんやアイドルたちの話を書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

それでは、またの機会に。


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その他、前の酉の時に書いた話やおーぷんで書いた話はすべてPixivに「ハンズ事務所」というシリーズでまとめてありますのでよければそちらも!


ところでいまだにRに飛ばされてしまうバグが直っていないんですね…えっちなのを期待した方申し訳ないです。

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