提督「山城?」 (18)
山城「ああ、不幸だわ」
この言葉を呟くのはもう何度目のことだろうか。
もう数えられないほど、この一月で呟いている。
原因は分かっている。
扶桑姉様と提督が付き合い始めたことだ。
これが原因でまるで心にぽっかりと穴が開いてしまったかのように感じる。
いずれはこうなるであろうと覚悟はしていたはずなのに。
それでもこうまで、耐えきれないものなのだろうか。
山城「......ふふ」
いや、本当は分かっている。
なぜ自分がこうも耐えられないのか。
なぜこんなに、心に開いた穴の大きさが大きいのか。
なぜ心に開いた穴の大きさが、二人分なのか。
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その気持ちに気がついたのは一月前、扶桑姉様から話を聞いたときのこと。
あのときの扶桑姉様はとても幸せで、見ていた私までが幸せな気分になっていた。
だが、そんな幸せのなか、心のどこかで怯えていた。
どうしてこんなにも幸せそうなのか、と。
まさか、と思いつつもそんなわけないと浮かんでくる考えを押さえ込む。
そして、私は聞いてしまった。
『どうしたんですか、扶桑姉様?』、と。
山城「......はぁ」
案の定、返ってきた答は私の危惧していたことだった。
扶桑姉様は頬を染め、恥ずかしそうに『提督と、お付き合いすることになったのよ』、と笑っていた。
いつかはこの時が来ると分かっていたはずだった。
扶桑姉様が、誰かと付き合うことなど。
ましてや扶桑姉様が提督のことを好いていることは分かっていたし、提督と付き合うかもしれないと何度も考えてきたことだった。
そのときが来たら、わがままを言いつつも笑って扶桑姉様を祝福しようと準備してきたはずだった。
だけど、笑えなかった。
おめでとうございますと、祝福し笑うことが出来なかった。
扶桑姉様が誰かと付き合うなんて嫌だと泣くことも出来なかった。
私は何も言うことも出来ず、逃げ出してしまった。
むしろ、何も言わないために逃げ出したのかもしれない。
その時の私の心のなかには、扶桑姉様への黒い感情が沸いていた。
愛している扶桑姉様への、その感情。
一生感じることはないと思っていたその感情。
それを感じ、そして気がついてしまった。
心の奥底、自分でも気付かないようにしてきたはずのもの。
それはまるで、黒い感情が沸き上がるのに釣られるかのように溢れだす。
そしてもう、抑えられなかった。
扶桑姉様と、提督。
二人が幸せになることが許せなかった。
二人の最愛の人を失うのが怖かった。
その両方を奪う二人が許せなかった。
だけどこの感情をどうすればいいというのか。
扶桑姉様にぶつけられるはずもない。
なぜなら扶桑姉様を愛してるから。
ならば提督にぶつけられるかと言えば勿論そんなこともできない。
なぜなら提督も愛してるから。
ではどうすればいいというのか。
答えは簡単。
どうすることもできない。
ただ、心のうちに潜め、気付かれないようにすることしかできない。
ああ、なぜ私はこんなにも不幸なのだろうか。
山城「......本当に、不幸だわ」
この感情は一生遂げることもできなければ誰かに打ち明けることも出来ないだろう。
もしそんなことをしてしまえば、扶桑姉様も提督も傷付けてしまうから。
愛している人を傷付けることなど出来るはずがない。
でももう、耐えられないのだ。
扶桑姉様と提督が幸せそうに笑う姿を見るのは。
二人の幸せな話を聞くのは。
そして、そんな二人を恨んでしまう自分に、耐えられないのだ。
好きな人を恨むのがこんなにも辛いものだとは思わなかった。
二人の幸せを祈りつつも、二人の不幸を祈ってしまう自分がこんなにも許せないものだとは思わなかった。
しかし私にできることなんて、ただもう不幸だといつものように呟くことのみ。
山城「......不幸、だわ」
だから私はまた今日も呟く。
誰にも聞こえないくらい小さな声で。
誰にも気付かれないように震える声で。
全てをあきらめたように、呟く。
でも、まだ大丈夫。
まだ、呟けるから。
いつものように。
山城で、いられるから。
だから、まだ平気。
今は、まだ。
「......しろ?山城?」
山城「......え?」
扶桑「山城、大丈夫?」
提督「ボーッとしてたが具合でも悪いのか?」
山城「え、あ......へ、平気です!」
提督「ならいいんだが......話は聞いてたか?」
山城「......話?」
扶桑「ほら、山城。三人で旅行に行くお話よ」
提督「運がいいことに有名な温泉宿がとれてな。前に扶桑と行ってみたいと話をしてたところでな。凄くいい場所みたいなんだ」
扶桑「ふふ、山城。楽しみね?」
山城「......はい、扶桑姉様」
まだ、平気なはず。
だってほら。
山城「......不幸......だわ」
まだ、呟けるから。
提督「ん?山城、何か言ったか?」
山城「いえ、何も」
提督「......そうか?」
山城「......」
だから、気が付いて。
私の呟きに。
私の不幸に。
そして、どうかお願いします。
扶桑姉様、提督。
私を助けてください。
私が壊れてしまう前に。
山城「......こぅ、だわ......」
もう終わりは、すぐそこまで来てるから。
提督「山城?」
おしまい
アホみたいな短さ+何番煎じか分からないネタ
地の文の練習と思って書いたけど改めて自分の地の文の糞さを思い知った
なのでもう一生地の文と阿武隈は使いません
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あとブーン系いっぱい
酉付け忘れてたので一応
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