モバP「ブラックホールは避けきれなくて」 (32)
モバマスSS
モバPとアーニャ
日本語成分多め(ロシア語わからん)
宇宙物理を大きく捏造
理不尽END注意
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6月中旬。梅雨入り宣言をしたはずの都内は未だ雨の気配を見せず、太陽は正午に至ろうとしていた都内を灼いている。
半袖、開襟、スーツを脱いでいてもこの暑さを逃すことができず、この外回りの過酷さに拍車をかけていた。
ズボンだけでも丈が短くできればだいぶ変わるのにな、と、俺は現代日本を縛り付けている暗黙のルール──働く男はスーツを着なくてはならない──を恨んだ。
恨んだって仕方ないのだが、そういうふうに何かに対してネガティヴな感情をぶつけていないと暑さでどうにかなってしまいそうだったから。
最寄りに列車が差し掛かる。
この時間帯、この線の電車の中にはこの駅で降りる人間が多い。俺はその駅から降りて、職場にとんぼ返った。
蒸し焼きにされたような熱い体を、ビルのエントランスのよく効いた空調が冷やしてくれる。
本当、外もこれくらい涼しければなとは思うのだが。
実際冬になればこれよりも『涼しく』なるというのに、ヒトはそれに対しても文句を言うのだから勝手なものである。
誰に充てるでもない自嘲めいた冗談を頭の中で笑い飛ばしながら、俺は自身の所属する部署の階のボタンを押す。
耳が突っ張る感覚がするたびに耳抜きをしながら(随分慣れたものだ)エレベータの表示ランプがが目的の階に近づくのをぼんやりと眺めていた。
事務所の階にたどり着いた。そんな俺を出迎えたのは。
「プロデューサー、お帰りなさい」
「あぁ、ただいま、アーニャ」
この事務所のアイドルである、アナスタシアだった。
「外、ひどく暑いですね」
「ああ。うちも早いところ私服通勤オッケーにしてくれねーかなー」
「他の部署では、私服の人、よく見かけます」
「そうなんだよなー。うちの部署がなー」
なんて話をしていたら後ろからぬっと部長が現れた。
「うちの部署がどうかしたのかね」
「うおっとっ、お、お疲れ様です部長」
「お疲れ様です」
「どうも、アナスタシアさん。〇〇君、書類、まとめといたからね」
「ありがとうございます」
「じゃ。外回りご苦労。ゆっくり休みなさい」
「あ、はい……」
「あっ、それと」
「はいっ、なんでしょう!」
「うちの部署は当分私服での通勤はナシだからね」
「……そうですか」
「それじゃ」
部長は奥へ消えていった。
「……ですって、プロデューサー」
「はぁぁ~……」
俺はうなだれた。
~~~~~~
夜。
「おや、アーニャ、まだ居たのか。帰らないとまずいんじゃないか」
「大丈夫です。寮長さん、わかってくれます」
「そう、ならいいんだけど」
「……結構なデカブツだけど、何を見ているんだ?」
「夜空です。これは望遠鏡、私物で持ってきました。
東京の明かり、うるさいですけど、ここまで高いところだと、実はよく見えます」
「見ますか?プロデューサー」
「お、じゃあ失礼して」
「なかなか、綺麗でしょう?」
「うーん、本当だ。東京でもこんなにはっきり夜空を望めるなんて思っても見なかった」
「これは夏の大三角だね」
「そうです。私は、冬の方が好きなんですけど、夏の大三角も好きです」
「そーいやそろそろ世間は七夕かぁ。七夕飾りもあちこちで見るようになったな」
「そう、ですね」
「なんか願い事とか決めたの?」
「それは秘密です」
「はは、そうかい」
「俺は……そうだなぁ。事務所のみんなのファンがもっと増えますように、かなぁ」
「それはプロデューサーの仕事じゃないですか。織姫と彦星に押し付けちゃ、だめです」
「ははっ、返す言葉がないや」
~~~~~~
「冬の大三角かぁ」
「?」
「いや、なんで好きなのかなぁって思ってさ」
「オリオン座が、好きなんです」
「ほー、あの三連星の」
「はい」
「冬になったを空を見上げたらまず目に入る星座だよね」
「本当は夏の今も出ているんですけどね。見られる時間は短いです」
「朝になっちゃうからか」
「そうです」
「そっかぁ」
沈黙が俺らを包む。見おろすと葉脈のように繰り広げられる幹線道路に、白と赤の光がアリのようにぞろぞろと動いているのが見える。
その脇には、大小様々なビルが放つ残業の光が煌々と光っていた。
空に比べると、ここは高さがあるとはいえど、やはりアーニャの言うように東京の光は"うるさい"。
「今年はお盆取れるかなあ」
「夏のイベントで大忙しじゃないですか」
「そうだった……今年もとれねーわ……」
「どこかで埋め合わせできないんですか?」
「お盆の山がいいんだよなぁ。もちろん季節外して行った方が空いてるのは確かなんだけど」
「プロデューサー、山派ですか?」
「アーニャは海派かい?」
「どちらも好きですよ」
「そっかぁ。山は虫とかその辺に目を瞑れば、ゆったりできてそれはそれで楽しいぞ」
「海も、場所を選べば静かに過ごせます」
再度の沈黙。それを再び破ったのは俺。
「オリオン座、なんで好きなの?」
我ながらなんて話の切り出し方だよと心の中で頭を抱える。
「特に理由らしい理由はないですけど……」
「強いて言うなら、リゲルとベテルギウスがあるから、ですかね」
「り、りげ……?」
「リゲルと、ベテルギウス」
「ベテルギウスは、オリオン座の左上の赤い星です。リゲルは反対に、右下にある青い星ですね」
「ほー、そうなのか」
「ベテルギウスは……もしかしたら、今はもうないのかもしれません」
「え、どう言うこと」
「ベテルギウスは、赤色超巨星で、人間でいうとおじいちゃんなんです」
「寿命が近い、ということです」
「星の寿命ってあの、超新星爆発とかするあれか」
「そうです。もしかしたら、もう爆発してるのかもしれないんです」
「まだ見えてるんじゃないのか?」
「600光年も離れてますから、今この時点で、ベテルギウスが存在しているかいないかは、わかりません」
「はー、なるほどな」
「寿命も残り少なくても、全力で輝いてるんです。ベテルギウスは」
「それが、なんとなく好きで」
「たとえ、今は消えてしまっているとしても……」
「……私は、寿命を気にするほどの歳じゃないですけど……」
「なんだか、応援されている気がするんです。ベテルギウスに」
「なるほどなぁ……」
「あ、じゃ、リゲルは?」
「すっごくおっきいんです♪」
「それだけかい!」
星談義をしながら、アーニャが帰るその時までその日は事務所に残っていた。
~~~~~~
翌朝。やたら眩しい光に起こされた。そういや、昨日はアーニャを見送ったあと、そのままここで寝ちまったんだった。
うーん、こりゃまた部長のお説教コースか。
なんて憂いていると、アーニャが事務所に飛び込んできた。
なんだか焦っているように見えた。
「リゲルが爆発しました」
「え、ベテルギウスでなくてか」
「どちらも爆発しました。太陽が3つもあるみたいになっています」
「そうか」
外を見てみると、太陽の他に一際目立って光り輝く青い光点が2つ、確かに認められた。
道理でクソ眩しいわけだ。てかこれ気温どうなってんだ。光量がこんなんだから気温も地獄だろ。
「あれま、こりゃぁ大変だな。外、大騒ぎだろ。テレビつけるか」
『今回の超新星爆発について、国立天文台は……』
「……あんれまぁ大変なことになってんね。どこもかしこもL字の帯が邪魔ったらない」
「大変なことが起きる予感がします……」
「や、星の寿命が終わるのが見れただけじゃないの?」
「ベテルギウスはそうですが……リゲルはまだ爆発する時期の星じゃないはずなんです」
「それに、リゲルはとても大きい……」
.
「ブラックホールが、できてしまうかもしれません」
.
何を言いだすかと思えば、SFでよく聞くアレが飛び出てきて、俺は失笑してしまった。
ブラックホールは、なんだっけ、でかい星が爆発した後に重力で自分自身が崩壊した後にできる星の死体の一種だったはずだ。
それができるだなんて。
「な、何がおかしいんですか」
「ごめん、真面目な顔でブラックホールとかいうもんだから、つい」
「真面目な話だからです」
「そっか、で、ブラックホールができると、どう拙いんだ?リゲルと地球がどれだけ離れてるか知らないけど、遠く彼方の宇宙の出来事なら、騒ぐほどのことでもないんじゃないか」
「リゲルが順当に一生を終えてればそうかもしれません。でも今回は……」
「エネルギーを十分に保ったまま、大きな重力を持ってしまうと……」
「地球もタダでは済まないかもしれません」
「そっか」
「わかっていただけましたか」
「俺には全然シリアスさがわからないけど、アーニャがここまでマジなら、マジなんだろう」
「でも、天文のことは天文台に任せといていいんじゃないか」
「俺たちが心配したったって、始まらないよ」
「それは、そうですが……」
「まぁ、アーニャは星に関する知識があるから不安になるのもわかる。でも今はなんともないだろ?」
「杞憂に終わってくれるさ」
「そうだと、いいのですが……」
「さ、今日も仕事だー。っつってもこの混乱で色々アレしてるかもわからんけど。まあ仕事は仕事だ。アーニャもレッスン、頑張るんだぞー」
「……はい」
~~~~~~
予想に反してこの日は仕事が仕事にならなかった。
電話の回線はななぜか繋がらないし、スマートフォンもずっと圏外で使い物にならない。
挙げ句の果てには無線LANが全部おじゃんになった。うんともすんとも言わなくなってしまった。
有線で繋いでもネットは繋がらないし、こうなるとデータベースにもアクセスができない。
じゃあと社内ネットワークに繋ぐが、これもダメだった。
ただの書類の整理とスケジューリングだけが仕事じゃない俺にとって、このインフラの大壊滅はマジでシャレにならなかった。
結局定規と紙でスケジューリングやDB作りなど思っても見なかった。頭がどうにかなりそうだった。
「だぁ~疲れた……」
「〇〇君、今日、帰ったほうがいいかもしれないよ」
「え、部長……どうしたんですか」
「電車が全部止まった。地下鉄も何もかも。今日はとんでもないことになってるな」
「マジですか」
「こんな下らん嘘を吐いてどうする」
「えぇ……でしたらこれ終わったら帰ります……どうもです」
そういえば今日は部署にいる社員も心なしか少ない気がする。動かない電車に捕まってこれないままになった社員とかもいるのだろうか。
「そしてさらに悲報だ」
「なんですか部長」
「エレベーター、全部止まっとる」
俺はひっくり返った。
~~~~~~~
テレビもラジオもついにダメになった。
数百光年先の超新星爆発は、なにがしかの放射線や電子の掃討射撃を地球に繰り出したのだろう。その影響で電気製品がほとんどすべてダメになっているのかもしれない。
朝のうちにはまだ映っていたテレビも今や真っ青。中には電源すらつかなくなったのもある。
「プロデューサー、まだ帰ってなかったんですか」
「エレベーターが止まっちゃったからな。ここから階段で地上に帰るの、アーニャ、やりたいか?」
「いいえ……」
「だろ。だから今日もここで寝泊りだなぁ」
~~~~~~~
その日の夜は地上の光が全く"静か"だったのを、はっきりと覚えている。
星が見やすくなったと思ったら、まだ微妙にリゲルだかベテルギウスだかの残滓が夜空を昼みたいに照らしている。
「完全に真っ暗だな。空の方は賑やかだけど」
「星、全然見れませんね……月より眩しいです」
「暇を潰せるものっつったら星を見ることくらいしかないってのに、それすらもお預けなんてね……ついてないね全く」
「今日はどうしましょう……」
「一応シャワーとかいろいろあるし、数日は泊まってられるよ。レッスン着の替えはあるでしょ?」
「まあ、ありますけど……」
「エレベーターが復活するか、ここの食料が尽きるかどっちが先かわからないけど、まあやっていこう。慌ててもしゃーない」
「……プロデューサー、お気楽ですね」
「なるようにしかならんでしょ。慌ててもしょうがない」
停電のようになり、非常口の表示すら消灯してしまっているオフィスを背に、俺は眠りに落ちようとしていた。
「あれ、なんだ……!?」
2つある光のうち1つが、急に白く光ったと思ったら、まるでそこだけ何もなくなってしまったかのように黒い点が浮き出してきて、それから───
.
了
昨日は七夕だったので星ネタを。デネブ、アルタイル、ベガは夏なので気に食わなかった。
だからリゲルとベテルギウスに犠牲になってもらいました。リア充じゃなくて星が爆発。
「なんとなく不穏」「気だるげ」「暗い夏」を感じていただけたら喜びです。
今回も読んでくださってありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
参考楽曲
小さきもの/林明日香
http://youtu.be/gg-5hhxt68o
supernova/BUMP OF CHICKEN
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm27084867
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